† マリア様がみてる soeur.97 †

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141風の谷の名無しさん@実況は実況板で
「――ならいいか。祐巳ちゃんと帰る。駅まで入れてって」
 小さくうなずいて、一緒に歩き出す。志摩子さんに悪いけれど、聖さまを少しだけ貸してもらうことにした。聖さまがそこにいてくれるだけで、祐巳はいつもの「祐巳ちゃん」でいられるような気がした。
 いつだったか、やはり聖さまに助けてもらった時があった。あれはバレンタインデーの直前、祥子さまと些細なことでうまくいかなくなって、古い温室でいじけていたら迎えにきてくれたのが聖さまだった。
 あの時、聖さまは何と言ってくれたのだったか。自分はどうやって浮上できたのか。祐巳には思い出せなかった。それはもう、遠い昔の記憶のように。
「――何?」校門の側まで来ると、聖さまが言った。
「は?」
 何、って。その直前に祐巳は何も言っていなかったから、逆に聞き返した。すると、聖さまは思いがけないことを言ったのだった。
「心の中のもの、ぶちまけていいよ。傘に入れてもらったお礼に聞いてあげる」
 会ってからこっち、祐巳は百面相した覚えはなかった。けれど、きっとわかってしまうんだこの人には。祥子さまには通じないことでも、難なく察してしまえるのだ。
 どう反応していいのかわからず、祐巳は無言で聖さまの顔を見上げた。

142風の谷の名無しさん@実況は実況板で:04/09/13 00:43:59 ID:ONcQo6So
「さしずめ、悩みの原因は縦ロール?」「……何で知っているんですか」
「さっき、祥子がこの道を通った。私には気づかなかったけどね」
 やはり、瞳子ちゃんと一緒だったというわけだ。聖さまに気づかなかったのなら、きっと楽しくおしゃべりでもしていたのだろう。
「相合い傘じゃなかったよ」「そんなこと――」「うん。そんなこと、だったね」
 それでも、相合い傘じゃなかったと聞いてホッとしている。自分は、聖さまと相合い傘をしているのに。かなり現金な話だった。
 停留所でバスを待つ間も、祐巳は「ぶちまける」ことができなかった。聖さまに話せばすっきりするかもしれない。だが、話すことで、自己嫌悪に陥るような気がした。
 これは自力で解決するべきことなのだ。卒業した人に、いつまでも頼っていてはいけない。
 聖さまも、何があったのかは聞かなかった。ただ、マリア様のような慈悲深いほほえみを浮かべて、一言いっただけだ。
「祐巳ちゃん。祥子を見捨てないでやってよ」見捨てられそうなのは私の方です、――そんな言葉を飲み込んだその時。
 雨の中、バスがライトを光らせながらこちらに走ってくるのが見えた。