宇宙のステルヴィアハァハァハァハァ

このエントリーをはてなブックマークに追加
137冬休み 1/4
ここはステルヴィア中央スペースポート1番ロビー。
ドーナツ状回廊の内側からは発着ドックが、外側からは商業区が見渡せる。
今日は12月26日。クリスマスパーティ兼忘年会を終え、帰省する学生達は皆、
午後発のフジヤマに搭乗するとあって、ロビーは大変な混雑だ。

そんな中、栢山晶は一人で窓際に佇んでいた。茶系統のロングパンツとジャケットが、
長身で均整の取れたプロポーションを一層引き立てている。足許には二人分の荷物。
そこはかとなく憂いを含んだ表情で街並を眺めている。

(今のわたしには何かが足りない…成績の伸びもいまひとつだし。プログラミングだけが
取柄の落ちこぼれかと思っていたしーぽんはあんなに頑張って今や首席クラスなのに。
年上のお嬢はともかく、コータや、どうかするとりんなちゃんにもまだ追いつけない。)
(それから、未だに他人と気易く打ち解けることができない。アリサがそれとなく
世話を焼いてくれるお蔭で、何とか仲間に入れてもらっているけれど…)
(そういえば、しーぽんとコータは、インフィに乗ってから一段と親密になったような…)

「よお、栢山じゃないか!」
いきなり声をかけられ、ふと我に返る。
「なんだ、ジョジョか」
「なんだはねーだろ。おいらも今日の便なんだから」
いつになく生真面目な、どこか思いつめたような様子にはっとする。
いつもは滑ったギャグを連発して、笑わせるというより笑われている彼だが、
それも彼なりの気配りなのかもしれない。
138冬休み 2/4:03/06/11 06:36 ID:cNxwvEUl
「やっと冬休みだねぇ。栢山は家でのんびりできそう?」
「ん〜…ウチの親は、娘が帰ってきたら家事をするのが当然と思ってるからな。
炊事、洗濯、掃除…弟は甘えてくるし。」
「そっかー。栢山って意外と家庭的なんだ。」
「それはわたしが家庭的に見えないって意味か!」
ジョジョの頭を軽く拳でぐりぐりする。
「いててて〜。子供扱いはやめてくれよー。」
まるではしゃぐように、大げさに騒ぎ立てる。

「それにしても、栢山って人気あるよなー。」
「わたしが? からかうのもいい加減にしてくれ。」
「だって、さっきから見てると、通りかかる女の子が、みんな栢山のことぼーっとして
見つめてるぜ。」
「…背が伸び出してから、そんなことが多くなったな。あまり嬉しくない。」
口をへの字に結ぶ。
「それよりお前、さっきからその辺にいたのか?」
「えへへへ、ちょっと前からね。」
139冬休み 3/4:03/06/11 06:37 ID:cNxwvEUl
「ところで栢山、これ受け取ってくれないか?」
小さな紙包み。中にはリボンの掛けられた小箱。
「何? わたしに?」
「さっきメインプロムナードでお土産を選んでたらさ、栢山にそっくりの髪の
マネキンがあって…なんかすごく似合いそうだったんで…」
「似合うって…」
「…イヤリングなんだ。俺、こんなの買うの初めてだけど。」

急に動悸が早くなり、頬が上気してくるのがわかる。
とっさに、どう受け答えしてよいやらわからない。
「なんで、わたしなんかに…」
「ちょっと遅いけどさ、クリスマスプレゼントのつもり。迷惑だった?」
「いや、そうじゃないけど、あの…」
自分でも何を言っているのかわからない。

「すまない、ちょっと荷物を見ていてくれ。」
そう言うと、晶は紙包みとポーチを小脇に抱え、不安そうに見送るジョジョを残して
足早にその場を離れていった。
140冬休み 4/4:03/06/11 06:37 ID:cNxwvEUl
15分後。
少し俯きがちに、ゆっくりと晶が戻ってきた。
普段のナチュラルメークの上に、薄く頬紅を乗せている。
眉のラインが描きなおされ、目許が柔らかく見える。
引いたばかりのルージュがちょっと艶かしい。
珊瑚色のイヤリングが両耳に揺れている。

「よかった! 気に入ってくれたみたいで。すっげえ素敵だよ!」
「…あの……ありがとう」
小さく答える。頬の赤みが増していく。
雑踏の中、しばし時が止まったかのような沈黙が続く。

「…じゃあ、また来年な。よい休みを。」
「ああ。」
恥ずかしそうに手を振る晶を何度も何度も振り返りながら、ジョジョが立ち去る。

「あ・き・ら・ちゃん! 何かいいことあったの?」
いきなり声をかけられ、飛び上がる。
「いや、なに、その、何でもない!」
今度こそ顔が真っ赤になる。
「待たせてゴメンね。私が忘れ物なんかするから。」
「…別に。それより、いつ戻った?」
「うふふ。」

「…お嬢は、笑うと目が糸のように細くなるな。」
「そうかしら? ふふふ…。」
「ハハハ…。」
華やかな笑い声が人込みにゆっくりと吸い込まれていく。
冬休みは、始まったばかりだ。
                   −−− fin −−−