コメットさん☆…ドキドキ 3rd

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俺はイイ歳したリーマンのヲタでコメットさん☆ファンで、しかもドキドキ
ビトだ。文句あるかゴルァ! すいません言いすぎました。
俺は、コメットさん☆本編とこの間の鎌倉フェスで鎌倉という街の魅力に
取り付かれて、鎌倉に住むことに決めた。今住んでいるところより鎌倉からの
方が、会社にも近いしな。
それで、鎌倉の生活にも慣れはじめ、休日はコメットさん☆の舞台探しに
鎌倉徘徊を続けていたわけだ。で、ある日曜に、コメットさん☆で一通り
涙を流したあと、江ノ電に揺られていると、ものすごく目立つ女の子が
隣に座ってきたんだ。かわいらしい顔立ち、ピンク色の美しいアホ髪(仮称)。
ていうかむしろ、コメットさんじゃねえのか!? 狼狽しつつも、
観察の度合いを深めた。
ちょこんと座る彼女。そこはかとなく優しさと気品が漂っている。
顔には柔らかな微笑を浮かべて、風景をのんきに眺めている。そう
だよ、まさしく俺の知っているコメットさんそのものじゃねえか!?
どどどどうするよオイ!? 本物か!? バカな!! しかし万一という
ことも・・・ 声をかけるのか!? しかし、そんな度胸はオオオオレには・・・
そんなことを思っていると、明らかに不振なオレの様子に気づいた彼女が、
こちらの方を向く。うおっ、彼女と目が合ってしまった!?
444書きビト:01/11/16 03:45 ID:uf5WhYr2
俺は、狼狽していたこともあって、思わず思っていたことを口走ってしまった。
「ひょ、ひょっとして・・・ コメットさんですか・・・?」
彼女は、笑顔で答えた。
「はい」
おおお俺は、コメットさんと会った!?
このような異常事態に突然直面すると、もうドキドキも何もあったものでは
ない。ただ狼狽して、その場をいなすことが精一杯になった俺が、反射的に
言えた事といえば、
「サ、サ、ササササインしてもらえますか?」
だった・・・
彼女はちょっとビックリしていたが、すぐに微笑んで、俺の手からペンと紙を
取り、小さな手で「Comet☆」とサインを書いてくれた。
「う・・・ うおお・・・ ほ、本物・・・・・・!?」
その直後、腹の立つ事に電車が駅についてしまった。
「それじゃあ、私下ります」
コメットさんは颯爽と降りた。後には呆然とする俺だけが残った。
445書きビト:01/11/16 03:45 ID:uf5WhYr2
そのあと、あれは白昼夢ではないかと考えたが、手元にはサインがある。
白昼夢などではない。確かに現実だ! そう考えると、ふつふつと
ドキドキ魂が萌え上がる。
あの時は、完全な奇襲で、ただ狼狽するだけだった。しかし、実在が
わかっているなら、俺も動揺などせぬ! 次こそは準備万端で面会し、
思う存分ドキドキしてやるのだ!!
しかし、どこにいるのだろうか。どうすれば会えるか。また電車に
乗ったとしても、会える確率は相当に低いだろうし、一日中電車で
待ち伏せするような真似も、時間的にできない。俺は考えた。
そして、閃いた。
「コメットさんが実在するのなら、ほんの気持ち屋も実在するのでは
 ないか?」
そして、休日を見計らって、鎌倉一帯の海岸線をしらみつぶしに
踏破する荒行を敢行することにした。
446書きビト:01/11/16 03:45 ID:uf5WhYr2
朝にはじめたのが、いつしか夕方になり、棒のようになった足を引きずり
ながら半分あきらめかけていたとき、不意に星型の車両が目に入った。
あ・・・あれは、ティンクルワゴンじゃねえか!!
その時俺は、アメリカ大陸を発見したコロンブスの気持ちがわかった。
ドキドキやワクワクなどというレベルの衝撃ではない。
「ウ・・・ヒャ・・・ ヒャハハハハハハ!! あった!! あった!!!」
ほんの気持ち屋は、実在していた!! 俺はすぐさま、全力疾走で中に入った。
「いらっしゃいませ☆」
出迎えてくれたのは、店番のコメットさんだった。
「う・・・ あ・・・・・・」
またもや狼狽の極みに達した俺は、思わずその辺にあった、ちっとも欲しくない
陶器の小人を購入して、店を出た。
今思えば、変な行動を起こしてコメットさんに嫌われるよりは数倍マシで、
良い選択ではあった。海岸線沿いに帰る途中、ふと気がつくと、歓喜と緊張に
震える手が、小人をコナゴナに握り潰してしまっていた。
447書きビト:01/11/16 03:45 ID:uf5WhYr2
その後俺は、ほんの気持ち屋の常連になった。
コメットさんに好かれたい一心で、ヲタファッションも止めた。爽やかに
清潔にを徹底して心がけ、社内でも様々な噂が立つほど、華麗に変貌を遂げた。
これほどまでに誠心誠意を込めて自分を磨き、相手を思えば、向こうもなにか
思うところがあるらしく、コメットさんと俺との距離は、みるみるうちに
縮まっていった。
縮まったといっても、恋人未満ではあるが、これもドキドキの執念のなせる業だ。

だが、同時に深淵も姿を表し始めていた。距離を縮めれば縮める話すほど、
彼女がただの12歳の女の子であると言う現実が、重くなり始めていた。
まず、会話のネタがない。イイ歳したオッサンと、中学一年の女の子に
共通の話題がある方が異常で、当然といえば当然なのだが、これが重い。
俺は、早くも理想と現実とのギャップを感じ始めていた。
だが、俺は諦めなかった。諦められるものか! ここまで来て!!
448書きビト:01/11/16 03:46 ID:uf5WhYr2
ある日の夕方、ほんの気持ち屋に向かうと、店を閉めてどこかに出かけようと
するコメットさんに出くわした。聞くと、鹿島の流木アートを取りにいく
ところだという。またとないチャンスに、俺は協力を申し出た。
コメットさんは俺に悪いからとしぶっていたが、子供を大人が助けるという
大義もあるし、堂々と協力することができる。

実際の鹿島は、なかなかにイイ奴だったが、そんなことはどうでもいい。俺達は
流木アートを持って、ほんの気持ち屋へと向かった。流木アートはかなり重く、
こんなのを女の子が一人で運ぶなんて無理もいいところで、俺は手伝ってよかったと
心から思った。

途中、くたびれたので、海岸で休憩する事にした。
コメットさんに許可を求めたのち、タバコを吸う俺。横で、彼女は貝殻を耳に
当てていた。「ああ・・・ ケースケか・・・」やはり彼女の心は、奴なのか。
絶望的な現実を目の当たりにする俺の横で、彼女は一心に貝殻に耳を当てていた。
449書きビト:01/11/16 04:54 ID:WRCfNXAA
そんなとき、ふと自分たちを客観的に見ると、貝殻に耳を当てる恋する少女と、
その横でタバコを吸う炉梨会社員・・・
・・・あまりに遠い・・・
妄想の中では、彼女と自分との距離はいつでも近かった。手を伸ばせば、すぐに
触れられるところに彼女はいた。だが実際にはどうだ。実在した方が何倍も遠い
ではないか・・・!

ほんの気持ち屋に到着したのち、俺は帰宅の途についた。一番星を見つめながら、
つきつけられた深淵にうちのめされていた。
コメットさんは、類を見ない純粋さを持っているとは言え、普通の女の子。仮に
ケースケから彼女を奪う事に成功したとしても、俺のような冴えない炉梨ヲタ
リーマンに引き取られて、幸せになるだろうか・・・
彼女の事を思えばこそ、この身を引くべきではないのか・・・
俺はうめいた。
「ブラウン管から、羨望の眼差しを向けるだけだったら、どんなに楽だったか・・・!!」
近づけば近づくほど遠い、あまりに皮肉な現実であった。
450書きビト:01/11/16 04:54 ID:WRCfNXAA
絶望にうちひしがれながらも、心のどこかに一縷の希望を持っていた俺は、
休みのたびにほんの気持ち屋に向かった。だが、店内に入ることはできな
かった。あの深淵に決着がつかない限り、下手に距離をつめることはできない。
かといって、会わなければ距離が遠くなってしまうことも事実である。この
問題で、俺は狼狽の極致となり、すっかり荒れて萎縮してしまっていた。

休日、いつものように海岸線を歩いていると、浜辺に佇む男を発見した。
見知らぬ男だったが、なぜか目線が釘づけになった。しばらく眺めてみて、
気づいた。
「ひょっとして、おけやあきらじゃあ・・・!?」
俺はコメットさん☆の製作スタッフにせめてもの感謝の念を表すため、アニメー
ジュのおけや氏へのインタビュー記事に、まるでイスラム教徒のごとき一日
一回礼拝を行っていたので、ピンときた。そこにいる男は、まぎれもなく、
コメットさん☆のシナリオを一手に握る男、脚本家のおけやあきらであった。
近寄ってたずねた。
「あの・・・ おけやあきらさんですか?」
驚いた様子で、男は答えた。
「そうですが・・・ あなたは?」
俺は、叫んだ。
「俺は・・・ コメットさん☆のファン・・・ いや・・・ ファンなんて
 もんじゃねえ・・・!」
451書きビト:01/11/16 04:55 ID:WRCfNXAA
続けた。
俺「まず、素晴らしい作品を作ってくれたことに礼を言いたい。そして、あんたに
  問い詰めたいことがある・・・!」
おけや氏「な、なんです?」
俺「コメットさんは・・・ 実在するじゃねえか!! どういうことだァ!!」
おけや氏「!!」
俺「き、貴様が・・・ あれほどの脚本を書かなければなァ・・・・・・」
思わず爆発した感情に、思わず俺の声は上ずってしまっていた。
俺「貴様の脚本のせいで、俺はコメットさんにドキドキして・・・死にそうなんだよ!!
  しかもコメットさんは実在するじゃねえか! 俺は・・・ただの女子中学生に恋する
  リーマンだ!! 変態だ!! 救われねえ!! 俺の人生責任取れやおけやァー!!」
おけや氏「落ち着いて下さい。何を言いたいのかよくわかりません」

俺は、一から説明した。泣きながら、全てをぶちまけた。
おけや氏は静かに聞いたのち、口を開いた。
おけや「そうでしたか・・・ でも、それはこちらからすれば不慮の事態でして・・・」
おけや氏は、俺に諭すように、コメットさん☆の真意を語った。
452書きビト:01/11/16 04:55 ID:WRCfNXAA
おけや「あの作品は、見ている子供達の未来のために書いたのです。見ている子供の
    将来に役にたつように・・・ その題材として、彼女、コメットさんは
    うってつけだった。だから主役に起用したんです」
    あなたが苦しんでいる事は、かわいそうだと思いますが、自分にはどう
    する事もできません・・・
    ただ、彼女は彼女で幸せにやっているのですから、できれば身を引いていた
    だきたい・・・ 大人は、子供を見守り、育むべきなのですから・・・」
おけや氏の言う言葉に、俺は一言も反論できなかった。
奴は筋が通っており、また、それを身をもって実行してきた。俺のような一介のドキドキ
ビトが、どうこう言えるものではない・・・
おけや「そのかわりと言ってはなんですが、コメットさん☆は面白くしますよ!」
おけや氏は優しく、力強く言うと、その場を去っていった。
あとには、うちひしがれた惨めな男だけが残った。
453書きビト:01/11/16 04:55 ID:WRCfNXAA
翌週の休日、考えに考えたのち、俺はコメットさんから身を引くことに決めた。
近づけば近づくほど辛くなるし、彼女にも良い影響は及ぼさない・・・
彼女にお別れの挨拶をして、何もかも忘れよう・・・ それが最良だ・・・

夜、俺は自殺するような思いで、久しぶりにほんの気持ち屋に入った。
「あ、いらっしゃいませ!」
中では、コメットさんは心底嬉しそうに、輝く笑顔で出迎えてくれた。
(止めてくれ・・・ 辛くなるからよお・・・)
しばらく取り留めのない雑談をしたのち、俺は覚悟を決めた。俺の雰囲気に、
なにか追い詰められたものがあったのだろうか。口を開こうとすると、
コメットさんは、突然黙ってしまった。
・・・しばしの沈黙ののち、俺は重い口を開いた。
「し・・・ 仕事が忙しくなってきてね・・・ 当分ここには来れそうになくなった・・・」
コメットさんは黙って聞いていた後、突然に泣き出してしまった。
「な、泣かないでくれよ・・・ 一生会えないってわけじゃないし・・・
 それにホラ・・・ プレゼント持ってきたんだ・・・」
俺は、持ってきたプレゼントを差し出した。中には、一生懸命選んだ、それなりに
趣味のいい洋服が入っている。
454書きビト:01/11/16 04:55 ID:WRCfNXAA
彼女は、そっと受け取ったあと、大事にします・・・ また来て下さいと、
そう言った。俺は、身を切られるような思いで、店を出た。

秋の冷たい風が吹く、海岸の道。空には、星がまたたいていた。
「あれで良かったんだ・・・ あとは仕事の・・・苦い輝きを全うする
 だけさ・・・・・・」
空を見上げていたら、不意にとてつもなく寂しくなった。そして、思わず口に
出たのは、あの呪文だった。
「幾千億の星の子たち・・・ 私に力をください・・・ みんながもっている
 力を・・・ ひとつの輝きにして・・・」
祈るような気持ちがあったのかもしれない。血を吐くような声でそうつぶやいた
のち、例の決めゼリフを言おうとすると、不意に後ろから声がかかった。
「エトワール・・・」
だ、誰だ!?
後ろを見ると、なんとコメットさんが立っていた。走ってきたのだろう。
肩で息をしながら・・・
455書きビト:01/11/16 05:06 ID:H/KXyev6
俺「コメットさん・・・ ど・・・どうして・・・!?」
コメット「あの・・・ プレゼントのお礼をしたくって・・・・・・」
コメットさんは、髪飾りを外すと、俺に差し出してくれた。
コメット「私・・・ 何もないから・・・ せめてこれをもらってほし・・・」
コメットさんの言葉が終わらぬうちに、俺は思わずコメットさんを抱きしめていた。
泣きながら力強く抱きしめる俺に、コメットさんは、呆然と立ち尽くして
いたが、やがて彼女は俺の頭の裏に手を伸ばし、頭を優しくなでながら、
そっと、
「良くわからないけど、大丈夫・・・!」
とささやいてくれた。
さらに号泣の度を強めた俺は、コメットさんに感謝の言葉を言ったのち、
涙とヨダレを垂れ流しながら、夜の街へと消えた。

コメットさんはまぶしすぎた。俺の欲望・・・ コメットさんを手に入れる
ためなら手段を選ばぬという、鬼畜の心を押さえてしまうほどに・・・
「これが・・・ ドキドキビトの本来あるべき姿さ・・・!! そうさ・・・
 そうに違いないんだ・・・!!」
全力を尽くした満足感と、埋められない深淵に打ちのめされた俺は、ただ
力の限り夜の街を走った・・・!!

以後、俺はどのアニメを見ても、ドキドキしなくなった。ドキドキの果ての、
萌えつきた灰・・・ それはそれで、楽で良い・・・ カラッと乾いて、
そして果てしのない乾燥・・・
こんな俺はどうよ・・・ なあ、ドキドキビトたちよ・・・・・・