「ビックリクリクリオチンポポン!」
冬を目前にした高い晴れ空の下、森に向かって目線DBは声を上げた。
しかし、もうビックリマーク兄貴は現れない。
もしかしたらビックリマーク兄貴など最初からいなかったのかもしれない。
目線KYNが言っていたように、自分の想像力がもたらした妄想に過ぎなかったのかもしれない。
風にざわめく森の木々は、かつてのあの日、そう、初めてビックリマーク兄貴が現れたあの日と同じように赤や黄色に色付いている。
「ビックリクリクリオチンポポン!」
もう一度呼んでみたがやはりビックリマーク兄貴は現れない。
森の動物たちは何事かと目線DBに目を向けていたが、やがてそれぞれが冬の支度に戻っていった。
クマは冬を過ごす洞穴にのしのしと入り消え、リスはクリの実を抱えて木の洞に潜った。
秋は実りの季節であると同時に死の季節だ。散る命、そして次の春に引き継がれる命がそれぞれに黄金に輝くのだ。
そして冬が来る。
ビックリマーク兄貴と温めあったあの白い日々を思い出し、いつの間にか目線DBは嗚咽を漏らしていた。
頬を伝う涙は落ち葉が敷き詰まった地面へと落ちるが、もうそれに気付く者もいない。
小さな嗚咽はいつしか大きな泣き声へと変わってゆく。
目線DBは膝を折ってうずくまり、思い切り泣いた。
ビックリマーク兄貴はもういない。
あの厚く温かな胸も、不器用な優しさも、思い出になったのだ。
ひとしきり泣くと、目線DBは立ち上がり、吠えた。
「ビックリクリクリクリトリス!」
自分なりの決別の言葉だった。
彼を忘れてしまうのにはまだ時間がかかるだろう。それが正しいとは思わないが、そうでもしなければ耐えられそうにもない。
これまで積み重ねてきた楽しい思い出が物悲しげな寒色へと変わってゆくのを感じながら、目線DBは森に背を向けた。
一歩目を踏み出そうとした、その時。
クリトリスって何だよ、マンコの話はやめろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
懐かしい声が聞こえた気がして、目線DBは振り返る。
そこには先程と変わらぬ森が広がっているだけであった。
ただ、木の洞から顔を出したリスが、あたりをキョロキョロと見渡しているのが見えた。
リスはどうやら慌てた様子で、手に持っていたクリを地面に落としてしまった。
それを見て、急に、くつくつと笑いが込み上げてくる。
秋が過ぎて葉は散って、冬が来て雪が降る。雪が解けたら何になる。
目線DBは今度は目一杯笑って、もう一度吠えた。
「ビックリクリクリオチンポポン!」
吹き抜けた肌寒い風に混じって、柚子胡椒の香りがした。