剣と楯を投げ捨て、さやかはガッとあんこの首を掴んだ。その体を頭上高く持ち上げていく。
神に生贄を捧げる儀式の始まりのようだった。
さやかはあんこのソウルジェムを抉り出し、粉々に打ち砕いた。
あんこの姿がいつものパーカーに戻っていく。握られている首に激痛が走った。
が、のどが潰れて声が出せない。
――あたしは誰なんだ?――
とあんこは思った。
これはあたしじゃない。こんなあたしが、あたしであるはずがない。
さやかはあんこの右足を引きちぎった。
なんの痛みも感じなかった。
――これはあたしじゃない――
あんこの胸の奥が痙攣を始めた。治ったはずの喘息の発作が再発したのだ。
だが、のどが潰されているせいで、咳をすることもできない。
さやかは、あんこの下顎を引きちぎった。
だらっと、赤いよだれかけのように血が流れる。
あんこは急速に子供時代に戻っていく自分を感じた。
親に虐待されていた頃の自分、ただ一人で泣いてばかりいた自分。
あんこはそんな契約する前の自分に戻っていた。
「杏子ちゃん!」
まどかの声が聞こえてきた。
ほむらとまどか、二台のバイクが到着したのだ。
まどかの肩のキュゥべぇを見て、あんこはほっと胸をなで下した。
もうだいじょうぶだ。きっと、キュゥべぇが助けてくれる。
あのときのように、わたしとけいやくして、たすけてくれる。
あんこはキュゥべぇに向かって手を伸ばした。
さやかは何のためらいもなくその腕を引き抜き、握り潰した。
まどかの悲鳴にギロッとさやかが振り返った。
「あなた……美樹さん!」
ほむらが言う。
ほむらにもまどかにも目の前の光景が信じられない。
さやかは道路の向こうの崖下に、まるで紙屑を投げ捨てるかのようにあんこの
残骸を放り投げた。