何を勝手な事言ってやがるんだこの自称サンタクロースは。言ってる事が支離滅裂だし、人間を見下してやがる。
だんだん腹が立ってきた。
だいたい急いでいるというのなら、なぜ墜落した時すぐに戻らなかった。そうせずにピストルごっこなどという意味不明な遊びを仕出かしたこのジジイが。
もう訳が解らん。悪夢なら目が覚めて欲しい。そうだこれは夢だ、夢に違いない。本当の俺は今頃ベッドの中に、
「あたしを引きずり込んで何してるつもりなの!!そういう事は結婚してからっていつも話してるでしょうがこのエロキョンが!!」
いきなり後頭部を叩かれた。何すんねんハルヒ。お前今まで寝ていたんじゃなかったのか。
「あんたがサンタさんと話してる間に起きてたわよ。ほらみんなも起きなさい、サンタさんが来たわよ」
ハルヒの指が差す方向を見れば、死屍累々を築いていたそれぞれのパーツが、ゾンビのようにむっくりと起き上がってくる。
死体ごっこはもう終わりですかお前ら。否サンタの遊びはまだ続いていた。起き上がった面々の瞳に宿っていたのは、この闖入者に奇異のまなざしではない。
まるで旧知の友を迎えるかのような、懐かしさと温かさが入り混じった感情だったように俺には思われた。
お前らこいつと初対面じゃなかったのか。
「これが教化の効果だ。蒼い銃は人間の感情をコントロールする。赤の銃は狂気を。そして黄色の銃はカルマを」
得意げに話すジジイ。言っている事はさっぱり理解できないが、要するにお前はその蒼い銃でこの場にいた人間を洗脳したと言いたいのだな。
そんなアホな話があるものか。
人間では太刀打ちできない知性と能力を持った存在が、ここには二人もいるんだぞ。たとえサンタクロースが人智を超えた存在であろうとも、所詮は地球レベルでのローカルな話だ。
仮に異星人がこの広い宇宙に存在したとして、そいつらにサンタクロースを見せた所で、一体彼らはサンタクロースにどんな価値を見出すというのか。
そこへ行くと長門と朝倉は、本人いわくこの宇宙を統括する親玉に作られた存在だ。こいつらが地球ローカルのサンタクロース程度に操られるはずがない。
ここまで考えたところで、急速に心が落ち着いてくるのがわかった。そうだ、皆グルになって俺を担ごうとしていたんだ。このサンタもグルなんだ。
首謀者は誰か。考えるまでもない。
つくづくハルヒも人が悪い奴だ。マヌケな俺が突然降って湧いたサンタクロースに右往左往上往下往する様子を皆で笑ってやろうという企画なんだろう。
おいハルヒ、人を担ぐのもいい加減にしろよ。そろそろネタバレの時間だ。
「ネタバレって?え、じゃああのサンタクロースは本物じゃないの?もしかしてあんたの友達か何かが化けてんの?」
予想外のリアクションだった。それを言うならお前の友達か何かじゃないのか。お前学校以外での人脈がハンパなく広いもんな。
「古泉くんほどじゃないけどね。でもサンタの知り合いなんて誰もいないわよ。今度の不思議探索で見つけてやろうと思ってたぐらいなのに」
マジか。
「マジよ。それがサンタの方から飛び込んできてくれたんだもの。これはいよいよあたしの人生が上向きになってきたってサインなのよ!」
どうやったらこの闖入者が本物のサンタクロースだと思えるのだろうか。サンタさんはいないんだぞハルヒ。
「うっさい!サンタクロースはいるのよ!」
まるで疑いを持たぬ無垢な眼差しを直視できず俺は顔を背けた。