【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その137

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SOS団で迎えるクリスマスパーティも、二年目ともなれば人数も増えようというものだった。
去年の面子はもとより、いつの間にか谷口やら国木田といった呼んだ覚えもない奴らまで押しかけてくることもあって、部室棟でもある旧校舎でパーティを行なうという計画は残念ながら中止となってしまった。
仕方ない。
団員だけならともかく、十人以上の人間が夜遅くまで居残って鍋を突くには、あの部室はあまりにも手狭である。
コンロだって、朝比奈さんがお茶を沸かすために使ってる奴だけじゃ足りんだろう。もう一台調達するぐらい吝かではないが、しかし集まる人数を考えると、教師の目を盗んでこっそり行なうといおうのが最初から不可能だった。
そりゃ朝比奈さんが火の安全に気を遣ってるのは、俺が一番よく知っている。いざとなったら長門や古泉だって協力してくれるし、何よりハルヒ自身がこの部室が灰燼と化すのを望んでいない以上、不始末から最悪の事態が起こり得ないのは明らかだった。
けどそんな理屈は教師相手には通用しない。客観的に見れば、こんな木造の旧校舎で火を使っているのが間違っているんだ。
それに部員だけじゃなく、クラスメートの他に学外の人間も参加者に名を連ねている。
もし内緒で火を使ってるのがバレでもして、文芸部の活動停止を言い渡されたら俺にはどうしようもできん。
ハルヒは最後まで部室での開催を主張していたが、そこは俺がここまでに述べた理由を根気良く粘り強く説得することでなんとか諦めてもらった。
古泉には久々のバイトに励んでもらうつもりだったが、しかしそこは世の中うまく出来たものだ。我が団の名誉顧問こと鶴屋さんの、
「だったらウチの離れを使うといいさっ!いつも大事なお客さんを招いて宴会してるぐらいだから、十人ぐらい訳ないよっ!」
という一声――本当に鶴の一声だな、鶴屋さんだけに――のおかげで、ハルヒの奴はアッサリと機嫌を直しちまいやがった。
ハルヒよ。お前はバカ騒ぎできたらそれでいいのか。
いいんだろうな。俺も別に反対する理由は特に思いつかん。

そんなこんなでクリスマスに至る。
鶴屋家の離れは、撮影やら朝比奈さんの関係で何度か訪問させてもらったが、しかし改めて内部を一望すると新たな発見があるものだ。
離れの大座敷は、一言で言えば坂本龍馬が暗殺された寺田屋の奥座敷の雰囲気にも似ているように思われた。小さな舞台に芸妓さんを呼んで、ちょっとした芸も披露できるらしい。カラオケマシンが置いてあるのも、お約束といったところか。
そして呼びもしないのに押しかけてきやがった谷口が涙を交えて歌う、長年の内にお独り様御用達の定番となったクリスマスソングがBGM。少なくとも独りきりのクリスマスイブじゃないだろう、と心の中で毒突いておく。
去年のお前が送った、俺らをバカにした憐憫の眼差しを俺は一生忘れない。お前例の彼女はどうしたんだ。
クリスマスは彼女と一緒に過ごすんじゃなかったのか。今お前はどんな気持ちなんだ。
などと谷口のアホにいつまでも構っている暇など、俺には与えられていなかった。目の前の鍋汁に沈めた食材が、いい塩梅に茹で上がっていたからな。
俺は独特の旨みと甘味とを絶妙のバランスで兼ね備えた肉を味わおうと、真っ赤に茹で上がった甲殻と格闘していた。