無事にノルマを果たし、出発地点の鶴屋邸離れの座敷に戻ると、朝比奈さんが温かいお茶を淹れて待ってくれていた。
とりあえず駆けつけ一杯、服を着替えてまた一杯。俺好みの濃い目のお茶を味わっていると、脇を誰かさんの肘で突かれた。
何だよハルヒ。寒い空を飛んでたから、少しでも温まりたいんだよ俺は。
「だったらいい物を持って来たわ。はいこれ、食べなさい」
そう言ってハルヒが俺の目の前に突き出してきたのは、ポン酢に浸したカニの足。きちんと殻も向いてある。
少し茹で過ぎたようにも思われたが、空を飛んで冷え切った身には中々美味である。
先ほど喰いそびれたカニを頬張りながら俺は考えた。俺が煙突に投げ込んだプレゼントの中身って、一体何だったんだろうか。
さっさとノルマを果たす事だけを考えていた時には思いもよらなかったが、中身は何か高価な物だったのだろうか。
それともあれが儀式であった以上、プレゼントもただの象徴であり、そして俺は何も入っていない小包を良心に苛まれつつ投下していたのだろうか。
まるで俺の心の中を見透かしたかのように、ジジイが威厳を湛えた微笑みを俺に送る。
「中を確かめてみるがよい。君はそれと同じ物を配っていたのだ」
その言葉に突き動かされるものを感じて小包を開けた瞬間、KYな俺の背後で空気が凍るのがはっきりと判った。
というか俺自身も、あまりなプレゼントの内容に凍りついていた。
『背肩三四五六 真剣遊戯』
サターン末期に出たせがた三四郎のキャラゲーの、さらにパチモノという酷い代物だった。
こんな物を七十個配るのが儀式だと。誰が欲しがるってんだこんなパチモノソフトを。
俺は無言でディスクを叩き割ったが、今度こそ俺を咎める奴は誰もいなかった。
<<終>>