【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その137

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100受け取れ! これがあたしのプレゼント!!
というわけで、俺はトナカイに牽かれたソリに乗って市内の空を飛んでいる。
やたら寒く、座敷の温かな鍋が恋しくて仕方なかった。だが七十個以上の煙突にプレゼントを投げ込むまで、俺は帰れない。
赤服に袖を通した間抜けな俺は、そこで初めて仕事上での注意事項を聞くのを思い出した。
今時煙突のある家なんてどこにもない。プレゼントは本来子供に届けるものであるにも関わらず、指令では煙突にプレゼントを投入するよう厳命されていた。
窓から侵入して配る、という方法を採っては駄目なのか。結果は駄目だった。
「先ほどから私の話を聞いていなかったのか、愚昧な少年よ。子供たちにプレゼントを配る、とは一言も言っていなかったではないか。私はただ、煙突にプレゼントを投げ込む義務のみを負っている。子供に届ける義務など最初からありはしない」
サンタクロースの存在を全否定するような発言を、ジジイはさらりと言ってのけた。俺の服を着て、酒のお替りを悠々と飲みながら。
やっぱりこいつサンタクロースじゃねえよ。だったらサンタクロースが煙突にプレゼントを投げ込む意味は何だってんだ。この労働には何の意味がある。
ラーゲリで山の土を右から左に移動させる拷問があったと思うが、あれと同質の無意味な仕事か。
質問すると、ジジイはこう言いやがった。
「神聖な儀式のようなものだ。子供たちへプレゼントを配る存在は、何も私とは限るまいに」
神聖な儀式を他人に代行してもらおうとか考えるか普通。サンタクロースがあんなのばっかりだとは信じたくない。
正直言ってあのジジイは中身が腐ってやがる。
あれがサンタの代表例だというのなら、この世は既に終わっている。今すぐハルヒに俺がジョン・スミスだって暴露してやりたいぐらいだ。
すぐに辞退してやろうと、赤服の袖から腕を抜こうとした。脱げない。
「遺憾ながら七十個のプレゼントを煙突に投げ込むまで、君はその服を脱げないぞ。義務を果たさぬ限り、一生その格好で過ごすのだ。入浴の時も就寝の時もその服を着続けるのだ。湯が服に浸み込んで、一晩中乾かないのだぞ。それでは一生安眠できまい」
首に巻きついたアナコンダを引き剥がそうとするかのように無駄な格闘を続けていた俺に、ジジイが憐れむような眼差しを注ぎやがった。
そういう事は早く言いやがれこのクソジジイ。なぜもっと早く言わなかった。
「言えば君は協力する気になったかね? 卑怯だと罵倒したくばそうするがいい。だが覚えておきたまえ、大人とは卑怯な生き物だと」

こうなりゃヤケだ。街中の煙突という煙突にプレゼントを放り投げてやろう。ジジイも言っていた事だ、相手が煙突であればよいと。
住宅の煙突であろうが、化学プラントの煙突であろうが、火力発電所の煙突であろうが、煙突は煙突だ。
絶対に子供には届かぬプレゼントを投げ込むことに、良心の呵責を感じなくもなかった。
小包を一個煙突に投げ込むたびに、おもちゃが欲しくて泣いているだろう子供の姿が脳裏を過る。
このプレゼントを喜んで欲しがる子供だって、世界中を隈なく探せば見つかっただろうに。
投げ込めば灰塵に帰すこと確実な煙突に、それを投下して行かねばならないとは。
とはいえ俺だって、この忌まわしい赤服を脱ぎ去るためにはノルマを果たさなければならない。ノルマを果たすためには煙突にプレゼントを投げ捨てつつ、空を飛び続けねばならない。
当然の事ながら、空というのはトナカイが牽くソリの占有空間というわけでは決してなかった。当然ながら、空には鳥が飛んでやがった。
鳥目、という言葉にもあるように、普通鳥は夜中に空を飛ばないと思っている人もいるだろう。が、現実にはそうとも限らない。
猛禽類の一種であるフクロウを例に挙げるまでもなく、ミミズクやオウルなどの様々な種類の鳥が空を徘徊しており、それらの回避運動にも神経を使わされた。
どうやらトナカイは決まったコースしか飛ばないらしく、俺の言うように進路を取る事はない。せいぜい上下に移動するのが関の山だ。
そのコースにはトンネルも含まれていた。やったね。ハリーポッターも真っ青な空中アクションを実体験できたって凄い事だよな。
トンネルの中で、浮浪者と思しき人間が廃材を集めた家を建てていた。そしてその屋根にあったのは――
煙突。石焼き芋を売る車から流用したと思しき煙突だった。
せっかくだから、ノルマを一つ果たしていくか。工場の煙突もこういった煙突も、煙突には変わらない。
投げ込んだところで子供の手に届く事がない点もよく似ている。小さな穴にうまく入れるのは難しいけどな――