【俺妹】高坂桐乃『私が17いと兄貴が寂しくて死ぬ』
「よいしょ……お、重…… …… ……いつも…… ……軽くて、すぐどっか…… …… ……くせに……」
…… …… ……
夢うつつに、ぼんやりと天井を見上げる……部屋が薄暗い。いつの間にか自分の部屋に戻ってベッドに……
疲れ……眠いな……。あれ、机のスタンド……消し忘れたのかな?……なんか机の方が明るい……どうでもいいや、
このまま……眠ってしまえ。起き上がるのも億劫なくらいに体重くいし、気力もねーし……。
『……んな……いちゃん……』
どこかからかぼそぼそと、それでいて甲高いアニメ声が漏れ聞こえてくる。
……ああ、そういやあ、さっきまであいつに頼まれたエロゲー買ったり、一緒にプレイしてたんだっけ……
記憶が落ちる前、最後の一瞬の光景が脳裏によみがえる。
確か……喧嘩の挙句、桐乃の渾身の頭突きでノックアウトされたところはなんとなく覚えているのだが……
……なんで、喧嘩になんかなったんだっけな―― ……もう、今更どうでもいい事だけれど。
『…… 行くなって言ってよお兄ちゃん ……』
……けっ、人様をドツキ倒しておいて夜中に自分はゲーム三昧……おまえなんかもうドコへでも行っちまえよ
……悔しくて、泣けてくらぁ。殴られた頬とアゴがズキズキと痛む。脳震盪でも起こしたのか、意識も少しはっきりしない。
溢れた涙が傷にしみてくるが……それを拭う事すら面倒だ。なんだろうな……こんな馬鹿馬鹿しい話。
妹のために夜中自由駆けずり回って、この仕打ちか……笑えねぇ。
『……どこでも……叶えられるけど、お兄ちゃんはここにしか……』
……夜中なんだから、ちっとは音量下げろよな……俺の部屋まで聞こえてるっての。
……何も考えない方が…………そう思えば思うほど、俺の意識はぐちゃぐちゃになって、ぐるぐると回り続ける。
そして、それすらも多い尽くすかのように、疲れと痛みが俺の意識を覆っていく。
――おまえは前に行けよ――俺が邪魔しちゃ、いけないもんな…… ……ああ、悔しいさ、腹立たしいさ、何もかもが。
あいつの本当の悩みも夢も、何も分かってやれなかった俺が――頼りなかったガキの自分が――。
けど、俺にはそんな資格はないんだ。おまえの夢を、邪魔するなんて……。
……カチリ……
『わかったよ……寂しいけど……私は夢を追いかけるよ』
「ああ、そうしろ」
ゲームと会話か、俺もたいがい焼きが回ったな。構うものか、いくら安普請の壁だって、どうせゲームに集中してる
あいつの部屋には聞こえやしねえ。
『……うっ……ひっく……』
……泣き声まで……あいつ、まーたゲームで泣いて……ばっかじゃねーの……聞こえてるっての。どんだけゲームと
分かり合ってるんだよ…… ……こっちの、俺の声はおまえに届かなかったのにな。
「行くな………行かないで…くれ………」
どうせ聞こえないだろうけどな、……寂しいってんだよバカ、聞こえないなら……ここでくらい弱音を吐いてもいいだろう?
――そう自分に言い聞かせながら、さっき言いたくても言えなかった言葉をゆっくりと呟く。
「俺は……おまえの兄貴だからな、強がりだって言うんだよ」
――そんな風に素直に言えたなら、あいつとの関係も変わっていただろうか――?
「……えっ……?」
……桐乃の声?……はは、あいつまたエロゲと会話してるのか……。入れ込むのも、ほどほどにしろよ?
流石にアメリカまでは助けに行ってやれないぜ?
明日からは、もうこの騒音からは開放されるんだと思うと……なぜか……ほんのちょっと、残念な気分だ。
壁越しのコミュニケーションだって、――悪くなかったぜ。
「だから……行くな」
「――っ!」
「……行くな」
「……うん」
……
ピロリロ♪ ピピッ …… …… ……カチ……
『ありがとうお兄ちゃん、これからもずっと一緒だね』
音下げろってーの、クイックリロード音が傷に響くんだよ! ……アメリカ行く前にコンプする気か……まぁ、好きにしろよ。
……ああ…… ……なんだか……やっと、眠 ……