【俺妹】高坂桐乃『私が17いと兄貴が寂しくて死ぬ』
『行くなって言ってよお兄ちゃん……』
『お兄ちゃんが止めてくれたら、私、どこにも行かないよ?』
『夢はどこでも叶えられるけど、お兄ちゃんはここにしかいないから……』
『ありがとうお兄ちゃん、これからもずっと一緒だね。』
アイツがあたしの腕を離す。
なのに、アイツの口から出た言葉は――
「行けよ。せいせいすらあ」
どうして、どうして……!
怒りが込み上げてくる。
ガツンッ!
「バカ! バカバカ! そんなのアンタに言われなくたって――」
アイツの反応がない。それどころか起きあがってもこない。
よく見ると血がたくさん出て……。
サッと血の気が引くのが分かった。
ど、どうしよう。どうしよう……。
急いで止血を、いや部屋に運ぶのが先だろうか?
こんな事になるなんて思ってなかった。
とりあえずアイツの部屋のベッドまで運んで、今は血をティッシュで拭っているところだ。
最初は驚いたけど、もう血は止まりかけているし、大丈夫だと思う。
新しいティッシュを引き出しながら、どうしてもさっきのやりとりが頭に浮かんでくる。
結局、止めてはくれなかった。
やっぱりコイツは、あたしの事なんてなんとも――
『行くなって言ってよお兄ちゃん……』
どうして言ってくれないの。
『お兄ちゃんが止めてくれたら、私、どこにも行かないよ?』
アンタが止めてくれたら、あたしは、あたしは……!
「桐乃……」
はっとして顔を見る。
アイツの目はきつく閉じられていて、起きているような様子はない。
寝言だろうか?
「俺は、お前が……」
お前が、何?
息を呑んで続きを待つ。
もしかしたら……。
でも、いつまで待っても続きは言ってくれなかった。
「はぁ……」
思わず溜息が出る。
寝言くらい最後まで言いなさいよ。
こんなんじゃ、続きが気になってしまう。
気付くと、もう血は止まっていた。
ホッとすると同時に、他の事を二の次にしていたのに気付く。
陸上も、モデルも、趣味も、友達も大事。
でもやっぱり、あたしにとっての一番は――
『夢はどこでも叶えられるけど、お兄ちゃんはここにしかいないから……』
あたしがずっとここに居たら、いつか続きを聞かせてくれる?
そうしたらあたしも、あと一歩踏み出せる気がする。
――決めた。
あたし待ってるから。
どこにも行かないで、待ってるから。
だから早く、続きを聞かせて。
『ありがとうお兄ちゃん、これからもずっと一緒だね。』