「泉こなたを自殺させる方法」を考える33

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97噬い裂け肉叢25









 肉を引き千切る感触と軟骨を噛み砕く音に、こなたは我に返った。
視界が真っ赤に染まっている。
鼻腔を容赦なく貫く血液の臭い。
舌の上に僅かに残る食感。
それら全てが一時的に彼女の意識を支配していた。
ふと視線を下におろす。
両腕をもぎ取られたゆたかがあった。
たおやかな白い肌は醜く傷口を露にしており、そこから溢れ出る血液は既に凝固が始まっている。
彼女の手には指が1本も無かった。
切断面にはくっきりと歯型が残っている。
さらに視線をずらし、その胴体を見たこなたは卒倒しそうになった。
乱暴に引き裂かれた腹部から腸が飛び出している。
ぽっかり空いた穴の中に臓器はほとんど見当たらない。
ただ腥(なまぐさ)い体液で満たされているのみである。
「うっ…………」
その下には首のないそうじろうがある。
こなたの記憶の中の彼はかろうじて原形を保っていたが、今は5つに分かれた肉塊でしかない。
「はは…………」
こなたは口の端を歪めて笑った。
その拍子に歯の隙間から毛髪が滑り落ちた。
「わたしが……わたしがやったんだ…………」
聞く者のいない呟きは空気を通して自分に返ってくる。
長く息を吐きながら、こなたは自分の腹をさすった。
大きく膨れている。
こうなった理由は分かっている。
「お父さん……」
返事はない。
「ゆーちゃん…………」
返事は――ない。
「うああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッッ!!」
こなたは突然立ち上がった。
「いやだああぁぁぁぁあぁッッッ!!」
喚き散らしながら廊下を駆ける。
飛び散った血液に足をとられて翻筋斗(もんどり)打って倒れる。
「ううぅぅ…………」
痛みはなかった。
左肩に受けた傷が疼くこともない。
ただ彼女は錯乱していた。
あのままゆたかの牙を受け容れて死ぬ覚悟を決めた自分が、よもや最後の最後で人肉が引き起こす発作に負け、
反対に彼女を噬(く)い裂いてしまうとは思わなかったのだ。
こなたに生きたいという意思はない。
辛辣な現実の連続に未来への希望を持てなくなっているのだ。
最愛の母の肉を喰らってしまったこともある。
人として、してはならない行為に及んでしまった後悔。
恐らく一生抜け切ることはないであろう依存性。
「いやだ……ゆーちゃんみたいになりたくないよ…………」
決してゆたかを貶しているのではない。
だがあの姿にだけはなりたくはなかった。
人を喰った時点で人は人ではなくなるのだ。
それを間近で見てしまったこなたに、生への希望が生まれるハズがない。