【けいおん!】田井中聡はお寒いのが嫌い 地球3個目
十年後の姉弟
律「ほいさー!・・・・・・・・おおしよしよし。ラッキー、もっかいだ!それ、よいさー!」
晴れた日の午後、まだ空が青さを保っているころ、律は犬と遊んでいた。
律「もう一回いくか?それ!・・・・・・ん?あれ?聡?」
低めのフェンスの向こう側に弟の姿を確認した律は、近くへ歩み寄った。
聡「姉ちゃん、今日もやってるね。」
律「おお、聡!どうしたんだ?こんな時間に。」
一緒についてきた犬を撫でながら、ニッコリと律が言った。
聡「今日は午後が休みでさ。こっちに用事もあったしちょっと寄ってみようかな、って。」
律にフェンスの扉を開けてもらい、中に入る聡。
聡は背広を着て、ネクタイを締め、鞄を手にしている。
しゃがみ込んでラッキーを撫でてやると、聡は再び立ち上がり、フリスビーを投げた。
二人は芝生の上に座り込む。
律「最近の生徒の出来はどうだ?」
尻尾を千切れんばかりに振って走っていくラッキーを眺めながら、律が聞いた。
聡「まあまあかな。この前は硫酸を服にこぼした生徒が居たけど・・・・。」
律「うぇ、大丈夫だったのかよ、その子。」
聡「うん、大丈夫だった。服に穴開いちゃったけどね。」
律「そっか・・・・。」
律「それにしても、聡も立派になっちゃって・・・・。」
聡「何だよ、いきなり。」
律「いやさ、もうあれから十年だな〜って。」
聡「・・・・・そうだね。」
はるか上空で、真っ白な雲が青空の中をゆっくりと滑空する。眩しい。
律「父さんと母さんが死んだときは、本当にどうなることかと思ったぜ。」
律「でも、聡ももう高校化学の教師だもんな。こんなに一人前になっちゃって♪」
律「軽音部の皆もなんかどんどん高いところに行っちゃう感じだしな〜、いやあ〜、私はどう
すっかな〜。」
聡「せっかくだからもっと深刻そうに言えば?」
律「それが私のキャラか?」
聡「違う。」
律「即答かよ、おいw。」
ニヤッと笑ってみせる律。
律「でもまあ、何だかんだ言って、私はこの仕事が気に入ってるしな。」
律「ってあれ、ラッキーは?」
律はキョロキョロと辺りを見回した。
聡「さっき係りの人に誘導されて建物の中に入ってったよ。」
律「ああ、そうか・・・。」
涼しい微風が、二人の髪をなびかせた。
律「ラッキーはな、明日引き取られるんだ。」
律「いつかはこの日が来るって分かっていたはずなのに、やっぱり寂しくってな。」
聡「そっか・・・・・・」
沈黙。そして、
律「なあ聡。お前は・・・・・お前はどこへも行くなよな?」
自分のつま先を見つめながら、振り向かずに律が言った。
聡「行かないよ。」
すぐさま答えた聡に、律は思わず顔を上げる。
聡「どこへも行かないよ。」
微笑みながら聡が繰り返した。
律はキラキラと輝く満面の笑みを浮かべると、力いっぱい聡の背中を叩いた。
律「あったりまえだ!ハハ!お前がどこかへ行くはずがないよなぁ!
っていうか私が行かせな・・・・」
聡「・・・・その代わり、」
聡がさえぎった。
聡「姉ちゃんもどこへも行くなよ?約束だからな。」
律「・・・・・・・。」
律「ああ。そうだな。」
律「どこへも行かない。行かないぞ・・・・・・。」
照り輝く太陽が、いつもよりも少しだけ暖かく感じられた。
________
律「今度の週末、仕事仲間と北海道へ・・・・・」
聡「いきなり行っちゃうのかよw。」
終
第二部:それぞれの道
聡「ちょっと!姉ちゃんの所為で遅刻だよ!」
律「わ、わりぃわりぃ・・・・。」
二人は時計をチラチラと確認しながら、早歩きをしていた。
聡「ここかな?」
上品な喫茶店の前で立ち止まると、聡は看板を見上げた。確かにここだ。
律「なかなか高級そうだな。」
聡「だね。」
ドアを開けると、爽やかな鈴の音が店内に鳴り響いた。
店員「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
聡「あ、ええと・・・・待ち合わせを・・・・・・」
店員「はい、田井中様・・・・ですね?皆さんあちらでお待ちです。」
店員が示した奥のほうのテーブルには、懐かしいメンバーが勢ぞろいしていた。
澪「遅いぞ、二人とも!みんなとっくに集まってるっていうのに。」
唯「私より遅れるなんて、ダメだよ〜。」
憂「お姉ちゃん、私が言うまで忘れてたじゃない。」
唯「アッハハ・・・そうだっけ?」
紬「いらっしゃい、二人とも、お久しぶりねー。」
梓「お久しぶりです!」
全員との挨拶を一通り済ませ、二人は席に付いた。
改めてまわりに座っている面々を眺めると、嬉しさと感動で胸が一杯になる。
律「いやあ、ゴメンゴメン。ちょっと準備に手間取ってなー。」
聡「だからもっと早く用意するように言ったのに・・・・、」
唯「りっちゃん相変わらずだね〜。私もだけど、テヘ。」
憂「お姉ちゃんは今のままでいいんだよ。律さんも聡君も変ってませんね〜。」
律「まあなw。」
唯「今も二人で暮らしてるの?」
聡「そうですよー。家事はほとんど僕の担当ですけど・・・・。」
律「失敬な!私だって晩御飯・・・・の後片付けくらいやるやい。」
軽く笑いが起こる。
聡「まあ、実際のところ晩御飯は時々作ってもらってますが。」
律「そうそう。」
聡「いっつもカレーかハンバーグで・・・・。」
律「それを言うなー!」
再び起きる笑い。
一口コーヒーをすすると、澪が向かいに座っている聡に問いかけた。
澪「どうだ、聡?生徒たちとは上手くやってるか?」
聡「まあまあかな。」
律「こいつ人懐っこいからなー。生徒たちの間じゃ人気者らしいぜ」
澪「そうなのか。でも逆に先生としてというより友達として好かれてたりとかw。」
聡「うう・・・・・・図星かも・・・・・・。」
聡「澪姉はどう?最近忙しいみたいだけど。」
澪「ああ、なんか最近裁判続きでな・・・・。」
唯「澪ちゃん弁護士さんだもんね〜。」
横から唯が会話に加わる。
唯「時間がない!っていつも言ってるよね。」
澪「うーん・・・悪いな、唯にばかり愚痴をこぼしてw。でもほんと、時間がないんだよな・・・・。」
憂「私も同じです。最近なかなか時間が取れなくて・・・・。」
律「憂ちゃんは大学病院勤務だっけ?小児科は大変らしいよね・・・・。」
憂「そうなんですよ・・・・。睡眠を削っての重労働です。でも、子供たちの命を
救えることぐらい素晴らしいことはないと思うんですよ!」
唯「そうだよね〜。子供たちってかーわいいよね〜。」
聡「唯さんちょっとレベルが・・・・・・。あ、でも『可愛い』と思うことも大切ですよね!」
唯「そうだよ〜。私もう、毎日子供たちと遊べて幸せだよ〜。」
澪「唯くらい幼稚園教諭が似合うやつも珍しいかもな。」
聡「そうですねw。」
唯「りっちゃんもワンちゃんの学校やってるんだよね?」
律「いや、学校って言うか・・・・。盲導犬の訓練所な。あと、私はトレーナーの
一人ってだけで別に私が経営してるわけじゃないぞ?」
唯「細かいことはいいんだよ。っていうかこれはりっちゃんの台詞でしょー。」
律「wwなんだよそれ!私だって細かいことに気を配ったりもするんだぞ?」
聡「犬の訓練だって地道な作業だもんね。」
律「そうそう、そうなんだよ。分かってるなぁ、弟よ。」
澪「でもこの前見に行ったら遊んでるだけだったぞ?」
律「な!そ、それも重要なプログラムの一環であって・・・・」
テーブルの奥のほうから発言があった。
紬「聡君はその後ピアノやってる?」
聡「あー、ちょっと時間がなくて・・・・。」
紬「そうなのー。実は私もよ。なかなかまとまった時間が取れなくて・・・・。」
律「私は結構ドラム叩いたりしてるけど。」
澪「お前は犬と戯れてるだけで時間余りすぎなんだ。」
唯「ハイハーイ!私も時々ギター弾くよ!」
澪「そうかそうか。いいなあ、お前たち暇で。」
律「ひ、暇って!一応これでも仕事してんだから。人を暇人扱いすんなよw」
澪「でもまあ、ムギや憂ちゃんに比べたら、私なんてまだ暇なほうなのかもな。」
紬「うーん・・・・悪いけど同意せざるを得ないわ・・・・。」
眉を逆さにして微笑みながら紬が言った
律「なんか随分大それたことやってるんだって?」
紬「大それた、って程でもないけど・・・・。琴吹グループの収益の75%を、
発展途上国の人々へ支援として提供しているの。」
律「な、75%!?」
紬「ええ・・・・。それで経営が傾き始めて・・・///」
律「ありゃー・・・・。でもなんかすごいな。世の社長なんて、自分の手にする
利益以外何も見えてないってのに。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ。」
紬「フフ。でもそんなことしたら軒並み倒産しちゃうわよ?」
律「あ、あははは・・・・・。」
聡「それにしても立派ですね。紬さんも勿論ですけど、皆さん本当に立派なこと
されてて・・・・・・尊敬します!」
律「そんなに褒めるなよ〜。」
聡「姉ちゃん以外。」
律「んだとコラァw!」
また笑いが起こる。
梓「フフフ・・・・。あ、でも、私もあんまり立派なことはしてないですよ・・・・?」
全員の目が梓へ向かった。
律「なあに言ってんだよ、梓。」
唯「そうだよ、あずにゃんがある意味一番立派だよ?」
澪「そうだな。梓だけが、私たちの大切な思い出、放課後ティータイムを
存続させてくれてるんだもんな。」
皆が口をそろえる。
梓「うーん、でも私はやっぱり、皆さんと一緒にバンドを組みたかったです。」
紬「そうね。あの頃は本当に楽しかったわね・・・。」
梓「最高でしたよ!そりゃ確かに今は、そこそこ有名に・・・」
律「『メチャクチャ有名に』の間違いだろw?」
梓「はいw。・・・・メチャクチャ有名になりましたけど、やっぱりあの頃のような
楽しさはもう味わえないんですよね・・・・。」
澪「そうなのか・・・・・。なんか悪いな。私たちが引っ張り込んでおいて。」
梓「いえ、そんなことはないですよ!」
両手を振ってみせる。
梓「楽しい思い出をたくさん作れましたし、それがあったからこそ、
私は今でもこうしてバンドを組んでいるんですよ。」
梓「あ、そうだ!」
そう言いながら軽く手を叩くと、梓は手提げ鞄の中から封筒を取り出した。
梓「この前お伝えしたとおり、今度武道館でライブをやるんですが、そのチケットです。」
律「おお!これが。」
紬「まあ、いいのかしら?」
唯「これVIPって書いてあるよ!」
澪「ほんとにいいのか?」
梓「いいんですよ。私にとっては、皆さんは Very Important People どころか
Most Important People なんですから。」
澪「いやあ、それにしても、ついに私たちの願いが叶うんだなぁ。」
唯「だね〜。夢は武道館!って言ってた頃が懐かしいよ。」
律「あん時はまさか本当に叶うとは思ってなかったぜw。」
聡「姉ちゃん、それを言っちゃダメだろw。」
梓「それから、聡君と、憂の分もあるんだけど・・・」
聡「あれ?いいの?」
梓「いいの。約束したでしょ?あの時。」
律「おいおい、何だよ約束って?」
聡「あいやいやいや・・・・別に大したことじゃ・・・・。」
澪「何だ何だ?気になるなw。」
梓「私たちがまだ高校生だった頃、約束したんですよ。もしいつか、
私がステージに立つ日が来たら、必ず最前列で見ててねって。」
律「そんな約束してたのかよー!幸せモンだなぁ、おいw。」
聡「む、昔の話だってば・・・・。」
梓「そうですね。昔の話です。でも約束は約束だから。」
梓「ところで憂は・・・・・」
梓は、チケットを眺めながら残念そうな表情をしている憂を振り返った。
憂「ごめんなさい!私この日は当直があって・・・・。」
梓「やっぱりダメか・・・・。まあそれじゃ仕方ないよね。」
憂「じゃあ私の分はさわ子先生にでも・・・。」
梓「あ、さわ子先生の分はもうあるよ。」
そういうと梓はもう一つ封筒を取り出した。
梓「郵送しようかと思って。まだ桜高に居るんですよね?」
律「だと思うぜ。未だに独身だし。」
梓「そうなんですか。まあ、そうじゃないかとは思いましたけど。」
憂「でもじゃあ、どうしようか。私の分のチケット。」
唯「和ちゃんはどうかな〜?誘ったらきっと来てくれると思うよ?」
澪「和か・・・・。声かけてみる価値はあるかもな。」
律「確か検事やってるんだったよな?」
澪「そうだぞ。ある意味私の敵だなw。」
聡「対決したこととかは?」
澪「ないな、幸いなことにw。まあ、私は刑事裁判にはあまり出ないってのもあるけど。」
聡「そっか。」
律「もし対決したら澪が負けそうだなw。」
澪「な、なんだよそれ?」
聡「澪姉がお人よしだってことだよ。」
澪「うう・・・・聡に言われたらオシマイだな。」
聡「ちょっと!」
その後も賑やかな会話は途絶えることなく続いた。
そうしてあっという間に時間は過ぎて行き、解散の時間となった。
帰り支度を終えた一行は店から出ようとしていた。
唯「今日はたーのしかったぁ!」
律「こうして集まるのなんて何年ぶりだったろうな。」
澪「そうだよな。連絡取ったり時々個別に会ったりはしてたけど、
全員集まったのは高校のとき以来じゃないか?」
紬「でも、また近いうちに集まれるわね。梓ちゃんのコンサートで。」
梓「そうですね。今から楽しみです!」
憂「私は行けないけど、みなさん楽しんできてくださいね。」
梓「残念だな〜、憂も行けたら良かったのに・・・。」
憂「そうだね。でも、今回が最後じゃないよね?またライブやってね。
今度はきっと行くから。」
梓「勿論!また武道館でやってやるです!よ。」
そういうと、梓はガッツポーズをしてみせる。この日最後の笑いが起きた。
聡「それじゃ皆さん、またライブのときに。」
澪「じゃあな。」
唯「まったね〜。」
紬「ライブ、頑張ってね。」
律「『夢の武道館』、楽しみにしてっぞ?」
憂「なんか私だけちょっと寂しいな・・・。次は絶対行くからね。」
梓「ありがと。それじゃあね。」
少し歩いて、梓が振り返る。
梓「武道館ライブ、きっと成功させて見せますから!」
一同「オウ!」
それぞれの帰路につき、律と聡は電車に揺られていた。
律「みんな、変ってなかったな。」
聡「そうだね。」
律「でも、それぞれの道をしっかり進んでた。」
聡「だね。」
律「私たちも・・・・・ちゃんと進んでるんだよな?」
聡「・・・・・」
聡「もっちろん!」
ニッコリと笑いなら聡が答えた。
これから十年後、そしてそのさらに十年後も、皆が変らず平和に暮らし続けていられますように・・・・・。
律は夕空に輝き始めた一番星を見上げながら、小さく囁いた。
________
その日の夜。
律「新メニューに挑戦した!」
聡「へえ!すごい!」
律「ジャーン!」
聡「・・・・・・・・・・ハンバーグカレー?」
律「そう。どうだ?」
聡「・・・・・・・・・・美味しそう・・・・」
律「だろ?」
聡「・・・けどこれは新メニューじゃない。」
律「やっぱし。」
終
長々とありがとうございました。23レスも使っちった、テヘペロ
設定に関する補足が一つだけ。
以前あったVIPスレで、ゲームセンターで告白を叫びあっちゃう聡梓の話が
あまりに可愛かったのでw取り込んでみました。ただし、梓が高校卒業すると
同時に「恋人」ではなく「親友」になった設定です。やっぱ聡には律しか(ry