ううん、それも雛が、自分勝手なのかも知れないの?あうー、もういっそ、うんこドールとして生き伸びてみる。
この道を戻ればとぅもえの家が在る。巴も居る。巴は、まさか雛を家から生きて返さない。
正義、信実、愛、考えてみる間でも無く、くだらない。
ドールを壊して自分が生きる。それがローゼンメイデンのはずななの。
ああ、何もかも、ばかばかしいの。雛は、醜い汚物。どうでもいいの、勝手にすればいいの。
やんぬる哉。なの。
――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
ふと耳に、潺々と、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで鼻を利かせた。
ジョロジョロと音がする、頭が生温い。臭い。
よろよろ起き上って、見ると、野良犬が。犬が雛苺の頭にマーキングをしていた。
その小便に吸い込まれるように雛苺は絶叫した。両手で頭を押させ、ぐちゃぐちゃに掻き回した
。
ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。
歩けるの。頑張るの。肉体の回復と共に、わずかながら希望が生まれた。
逃避行の希望である。わが身を殺して、我が身を守る希望である。
月光は蒼い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も静かに囁いている。
時計をみる、まだ時間がある。雛を、待っている電車があるの。
少しも疑わないで、静かに雛抹殺を期待している人がいるの。雛は、疎んじられている。
雛の命なんて、地球上で一番大事なの。死んでお詫び、なんて都合のいい事は言ってられない。
雛は、とぅもえから逃げ切る。いまはただそれだけ。走れ!雛苺。
雛苺は疎んじられている。雛苺は疎んじられている。さっきのは、あの犬の小便は、あれは夢。
悪い夢なの。忘れてしまえ。なの。 でも無理、臭いの。
疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見てしまうもの。雛苺、雛のせいじゃない。
やはり、雛は真のうんこドールなの。再び立って走れるようになったの。
頑張るの! 雛は逃げる事が出来る。ああ、時間が進む。ずんずん進む。
待っててなの。雛は生まれた時からうんこ漏らしまくるドールだったの。
せめて普通のドールのままにして居候させて欲しいの。
路行く人の足元を縫い、すり抜け、雛苺はゴキブリのように走った。
急げ、雛苺。遅れてはならぬ。
欲と自惚れの力、いまこそ教えてやるの。格好なんて、どうでもいいの。
雛苺の服は、いまは、ほとんどウンコ塗れであった。
呼吸も出来ず、二度、三度、肛門から黒いうにゅーが戻って来た。
見える。はるか向うに小さく、駅が見える。
駅のホームは、明かりがうっすらとついて佇んでいる。