つかさ「お帰りなさい」
ノ)
(;:.:.__)
(=ω=. ) <
>>1乙
(;;:_:.__゚.:.:⌒)
_(;;;::。:.. :;+;::;;`)_
,. -‐_´:-: : : : : l: : : : : : : : : : :`: .、
/‐/: :,: : : : : :, :l: : : : : : : : : : : : : : :ヽ
/: : /: : : : : /: /l: : : : ハ: l: : : : : : : l: :`、
/: ,//: :/ : : :_LL_l: : : l:l レA、:_: : :、: l : : l
////: : :l : : : ∧/ l: : : リ l: |丶:`: : l: l: : :l <
>>1乙
/ //l: : : l: : : /_V_ヾ: : |l _ヾ__ヽ: : : l:ll: : :l
/│: : ,、: : :lT亦テl ヾ: l T示┬l: : W :、:l
l : ハ: : ハ`、'::,┤ ヾ P:,:::ノ'lヽ: ト`,:x
V ヽ:l: :l `''´ , `''´'.: ヽl_ノ: N
` N: :ゝ、_, ノ)、 ノ: : N : : l
│: : :,‐´(;:.:.__..)-イニ: /: : :ハ: : :l
l : , (≡ω≡.) .`〉/: : : l: l: : :l <
>>1乙
ハキ(;:_:.__゚.:.:⌒)、、/ /: : :/彡l、: l
l//)、::。:.. :;+; ,'、゙、l Y : : /〃彡l l
/l´ l '`,‐ニ┬┤l `,.l l /,´/ |l
1さん、おつです!!
, --―‐--√ ̄` 丶 、
/ ∠--ム ヽ
. / /7:/|l : :\ /
/ /: イ / |ヽ:|、: :\ /: :
, イ /: //:/ | ヽ:|ヽ: : :y: : : : : この感じ、新スレか・・
ピキーン!! /: : レ': : :/ レ' | \ \|: : : : : :
____∧,、_/: : /ィ:/: : :/ `n.〉 : : :/: _ ______
 ̄ ̄ ̄ ̄'`'` ̄/: : /イ/: : :/ヽn. | ||:. : :/: :  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/: :/:レ/|:|: :イ | | | ||: :./: : :
. /: :/|: :∧: :/ } | | `'j: :/: : : :
レ′| /: :|:/: j `′ |:/|: : : :
_
_.. - ──… ' ´ Y⌒ 、
,.'´ , | ヽ \
, ′ / / / ハ │ │ !. \
/ // / / V ハ. | \
,′ / / イ′ | / ゝ、 ヽ \
! V イ /_ , / Vヽ ヽ ヽ
| / / / ,|ィ=、 `X / ィ=i、 ! ! ! |
レ′/ イハ _ ハl 'イ / !._ ハ | | | ′
| ィ / | ゝ_ノ r⌒! ゝフ ハ ! ハ レ′
|/ハ, | |ゝ ノ . l ! / | / 一乙というのはですね・・・・
| ゝ\! !::::  ̄ rォ `::┬イ/ /
| | lゝ..__ l`ヽイ
| ./ | レ ^ヽ.丁 ¨T7<.\ \
| ′ | ', \ / j' ニ.` ',
/ ハ ヽ. / / v'⌒ |
/ / ', V'´ / ゝl ノヽ.
/ レヘ ゝ ',. / ハ ト、 ヽ
. / / |√> \ , /! / ハ / | |
/ /| | く \ V ! / / ∨ ヽ |
まだかな、まなかな?
フリルいっぱい
夢がいっぱい
こなた「今日の弁当はご飯だけなんだ」
みゆき「この沢庵を差し上げます」
こなた「う…漬物」
みゆき「私のことをうつけ者だなんて…うう…」
男子A「泉の奴ひでえ」
女子A「人間の風上にも置けないわ」
こなた「いいよいいよ。風上に置けないなら風下で死んでやるう」
こうしてこなたは自殺しましたが、臭すぎたので風下から臭いが逆流し、皆も死んでしまいました。
めでたしめでたし
>>13 『風上に置けないなら風下で死んでやるう』
このフレーズはもはや名言かと・・・・
こなたは毎日オナニーしてる
16 :
デフォ北:2009/03/20(金) 22:31:58 ID:ykwv/6SQ
やっと規制解除来ました
こなた「ロジンバックが落ちてる。どれどれ、うわすごい煙」
みゆき「それは私が発明した『老人バック』です」
こなた「本当だ。95歳になっちゃった…がくっ…」
こうしてこなたは死んでしまいました。
めでたしめでたし
19 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/22(日) 01:29:58 ID:Bpj3JmsI
20 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/22(日) 04:25:21 ID:I1AeFtXH
愛媛県松山市です 死にたいです
×
痛うございます
早う…
壁に肘鉄
いやっほおおおおおおおおおおおおおおお
アク禁されてる方々のスレ復帰が早急に望まれるるるる
別に望んでないいいいいいい
今回の規制は長いですね……。
晴天の霹靂と言いましょうか、甚だ迷惑な話です。
無理だろうと思って試しに書き込んでみたらいけました。
どうやら僕の方は解除が成ったみたいです。
というわけでスレの保守も兼ねて以前、予定していたSSを投下します。
「――うちからは以上や。ほな号令」
ななこの間延びしたエセ関西弁が教室に響き、生徒たちが椅子を引きずらせて立ち上がる。
礼の合図とともにそれそれが頭を垂れて本日のカリキュラムは終了。
後は直帰しようが部活動に勤しもうが、友人とカラオケやゲーセンに繰り出そうが自由である。
「なんか退屈だな〜」
周りがガヤガヤと賑やかになるのと対照的に、一度は立った椅子に座りなおしたこなたは机に突っ伏した。
顔だけを前に向けていつものように脱力感に満ちた表情で。
「退屈って?」
つかさが訊ねた。
普段からアニメだのゲームだのの話をしておいて、いったい何が退屈なのだろうという問いだ。
「なんていうかさ、刺激が欲しいんだよね。毎日同じことの繰り返しじゃつまんないと思わない?」
つかさに水を向けられてこなたがパッと顔を上げた。
”退屈だ”という発言も結局はつかさかみゆきから声をかけてもらうためのキーワードに過ぎないのだ。
「でも学生ってそんなものだよね」
苦笑いしながらつかさ。
「平凡の中にいては非凡を羨みますが、非凡の中にいては平凡を羨むのが人間だそうですよ」
まるで空気のように会話に溶け込んでくるのはみゆきだ。
この歩く萌え要素は退屈を感じたことはないのだろうか、とこなたは思った。
「何もないのが一番だとか言うけど、やっぱりちょっとは変わったことがあってもいいと思うけどなあ」
相変わらずの眠そうな目でこなたが言う。
決してみゆきに逆らうつもりはなかったが、どうにも平凡は嫌という意見は曲げられないらしい。
「おっす。遅くなってごめん。ホームルームが長引いちゃってさ」
もうB組の生徒なのかC組の生徒なのかよく分からないかがみがやって来た。
この4人でしばらく談笑した後、寄り道するのが恒例となっている。
「あ、お姉ちゃん。こなちゃんが退屈だって言ってるんだけど何かない?」
「あるわよ」
「ほんと?」
つかさの投げた問いにかがみがあっさり答え、こなたは身を乗り出した。
かがみは腰に手を当てて得意そうに、
「この間の実力テストの結果が明日発表されるのよ。どう? 楽しみだろ?」
そう言ってから、したり顔でこなたを見下ろす。
「むぅ〜、そんなの楽しいのかがみとみゆきさんだけじゃん」
口を尖らせるこなたに、
「いえ、今回は私も自信がありませんので、それほど楽しみというわけでも……」
謙遜なのか世辞なのか、みゆきが頬を少し赤く染めた。
(楽しみじゃないけど、別に不安に思ってるわけでもないんだね。ゆきちゃんってすごいなあ)
やりとりを見守りながらつかさが小さく頷いた。
頷きながら密かに自分の点数はどれくらいだろうと計算してみた。
(あうぅ〜大変なことになってるよぉ〜〜)
わずか数秒で悲惨な結果をはじき出し、みるみる萎れていく。
「むっ!」
俄かにこなたの顔つきが変わり、中空の一点に視線を留めた。
3人は何事かとこなたを見つめている。
「そうだ! ねえ、みんな。パラレルワールドって知ってる?」
問いかけられて、つかさはかぶりを振った。
かがみが困ったようにみゆきに視線を向けると、彼女は頬に手を当てて、
「SFなどによくある並行世界のことですね」
さほど考えもせずに知識の一端を披露した。
「へいこうせかい?」
「はい。ある世界から分岐してさらに並行して存在する別の世界のことをパラレルワールドというんですよ」
「なんかよく分かんないわね……」
かがみが腰に手を当てて小さく息を吐く。
こなたの言う事だからどうせオタク系の用語だろうと思っていたが、みゆきが知っているのならそうではないのだろう。
彼女はみゆきの説明に集中した。
「たとえば……そうですね。かがみさんはC組ですよね」
「うん? そうだけど?」
「パラレルワールドというのは可能性の話ですから、かがみさんがB組の生徒である世界もどこかに存在するわけです」
「へぇ…………」
頷いてはいるがかがみは今ひとつ分かっていない。
「他にもつかささんとかがみさんが双子でない世界。私が陵桜に通っていない世界。これらの並行する世界のことを、
パラレルワールドと称しているわけですね」
「私とお姉ちゃんが双子じゃない世界かぁ……なんだか面白そうだね」
そう言うつかさも理解はしていないが、彼女の場合は理解は必要なく、いろいろな世界を想像するだけで楽しむことができる。
(よく分からないわね…………)
かがみは顎に手を当てた。
みゆきの説明が下手なのか、自分に理解力がないのか。
そもそもこの話を持ち出したこなたはちゃんと理解しているのか。
「で、そのパラレルワールドがどうしたっていうのよ?」
わざわざ話を振っているのだから、こなたは分かっているに違いない。
そう思いなおして自分の理解度はひとまず置いておき、こなたに続きを促した。
「あ〜うん。実はさ、私、パラレルワールドのこと知ってるんだ」
当たり前だろ、と突っ込みかけてかがみはやめた。
自分から持ち出しておいて知らないわけがない。
つかさも内心ではそう思っていたが、みゆきだけは怪訝そうに、
「あの……もしかして別の世界を見てきた、という意味ではありませんよね?」
こなたの微妙な言い回しに気付いて訊ねた。
するとこなたにしては珍しく、かがみにしか見せないようなしたり顔で、
「むふふ、その通りなのだよみゆきさん!」
人差し指をビシッと突き立てた。
みゆきはキョトンとしてその指先を見ていた。
自分がたった今した問いに対する答えが、自分の意図に反しすぎていたせいで理解が追い付かない。
彼女が分からないのだから、柊姉妹にはもっと理解が及ばない。
「あんたなあ……また何のアニメの話よ?」
かがみが呆れ顔で言った。
どうせまた”いつもの”話題に決まっている。
やたら難しい単語が出てくる時は決まって”その手”の話なのだ。
そう考えれば身構える必要はない。
「残念だけど今回は違うのだよ、かがみん」
本気なのか冗談なのか、口調だけは相変わらず甘ったるい様子でこなたが言う。
「みゆきさんの言うように、パラレルワールドっていくつもあるんだよ。私がオタクじゃない世界とか、
かがみがツンデレじゃない世界とか、つかさが完璧超人の世界とかね」
「か、完璧超人?」
「そだよ。でも別に珍しいことじゃないんだよね。私たちはたまたま今の世界で今の関係でいられるわけだけどさ。
違う世界では設定っていうか、文字通り世界そのものが違う場合もあるんだよ」
どこで得た知識なのかこなたは得意気に言った。
かがみはいよいよ警戒した。
何故かは分からない。
しかしこの話題が自分にとってあまり好ましくない方向に物事を進めていくような気がするのだ。
「でね、ある時にふっとその違う世界を覗く機会があってさ……」
そこでこなたの表情に翳りが差した。
(………………?)
その変化につかさが訝しげに首を傾げた。
「いろいろ観てきたんだ――」
彼女の性格からして仮に稀有な体験をしたなら嬉々として語るハズなのに、その口調は恐ろしいほどに暗い。
「いろいろ、というのはつまり……いくつもの世界を観たということでしょうか?」
「そうだよ。いろいろと、ね」
口の端に厭な笑みを浮かべる。
そこでようやくかがみは気付く。
なるほど、これは怪談の前振りなのだろう。
ワケの分からない単語を出したのは、聞き手を奇妙な感覚に誘うためだ。
声のトーンが急に落ちたのも、これから語られる内容が怪談だからだろう。
(その手には乗らないわよ)
かがみは気楽に構えた。
「それであんたはどんな世界を観てきたっていうのよ?」
挑戦的な物言いでかがみが迫る。
どんな話でも驚かないわよ、という意味が込められている。
しかし彼女の思惑に反して、こなたは、
「それがさ……どの世界にいっても私はちゃんといるんだけど、最期は必ず自殺しちゃうんだよね」
先ほどまでの陰鬱なトーンから一転、不気味なくらい明るい調子で言う。
内容の暗さと声の調子がまるで噛み合っていない。
「え、えっと……それってどういうこと?」
一瞬、思考が止まったつかさは取り繕うように訊ねる。
みゆきはといえばこなたの言葉がすぐには理解できないのか、首を傾げた姿勢のままだ。
「私だけじゃなくてさ、つかさもみゆきさんもかがみもちゃんといるんだよ? この学校の生徒っていうのも一緒。
クラスだって今のままなんだ。だけどさ、どういうわけか私はいつも自殺する羽目になるんだよね」
昨夜観たアニメの感想を述べるように、淡々と語るこなた。
「………………」
3人は反応に困って互いに顔を見合わせた。
違う世界の自分とはいえ、必ず自殺するという事実に本人は何も感じていないのだろうか。
だとしたらこなたの神経はどうなっているのだろうか。
(いや、そもそもほんとにパラレルワールドなんて観たのか?)
かがみは思った。
だからみゆきにこう訊いてやった。
「ねえ、みゆき。そのパラレルワールドって普通に観たりできるものなの?」
「……へ? いえ……そのような話は聞きませんね。そもそもあくまで概念としての世界ですから。
あくまでそういう可能性があるというだけで、実際に存在するとは…………ましてや直接”観る”など……」
不意に問われ、みゆきにしては珍しく間抜けな受け答えをする。
それを聞いてかがみは、ほらみろ、と思った。
こなたお得意の妄想に違いない、と。
胸を撫でおろすと同時に、かがみはオタクの突飛で底が知れない妄想に奇妙な敬意を抱いた。
「ウソじゃないよ。ほんとに観てきたんだから」
そう釘を刺すこなたの目は明らかに敵意に満ちていた。
「たいていはいじめを苦に自殺してたな――」
「…………」
「クラス全員にいじめられてるのを皆が助けてくれたこともあったし、逆に皆にいじめられてるのもあったよ」
皆、とは言うまでもなくこの3人のことだ。
「お父さんに乱暴されたりとか、ゆーちゃんに陥れられた世界もあったね。
差別に苦しむパティを助けて巻き添えになったり。ほんとにいろいろあったけど、ほとんどはいじめだった」
そこでちらっとみゆきを見やる。
「みゆきさんがいじめられてるのを私が助けたら、いじめっ子側に寝返ったみゆきさんに今度は私がいじめられたり。
事故でつかさを喪ったかがみが逆恨みで皆を殺していく世界なんてのも観てきたよ。すごいよね……。
私はといえば余命僅かなかがみのためにドナーになったりさ、そうかと思えば小さくなってゆーちゃんの中に入ったり。
あ、そうだ。かがみが私とキスするかみさきちと賭けをしたこともあったな。
結局、キスしそうな雰囲気までいったんだけどさ、賭けだと分かって怒ったかがみが学校を出たところで車に撥ねられてね。
もちろんその世界でも私はかがみを追って自殺するんだけどさ。他にもたくさんあるよ。
なぜか親が子供を殺すとかね。つかさもみゆきさんも、自分の親に無残に殺されるんだ。
ビックリだよね。で、その世界の私がどうしたかっていうと――」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」
滔々と述べるこなたにみゆきが歯止めをかけた。
もし彼女がそうしなければ、かがみが制していただろう。
「泉さん、それは何かの冗談ですよね?」
オタク文化に疎い彼女でさえ、これはこなたの度が過ぎた妄想だと思い始めた。
内容もそうだが、これだけのことをまくし立てるというのは尋常ではない。
「やだなあ、みゆきさん。さっきから本当の話だって言ってるじゃん」
こなたはニコリともしない。
「つかさやみゆきさんが特に酷くてさ。よく2人にいじめられてたよ。助けてくれたのはかがみくらいだもん。
そのかがみだって世界によっちゃ私を殴ったり蹴ったりするんだけどね。まぁ、私がウザいっていうもあるけど。
でも私に隠れて交換ノートに悪口三昧っていうのはさすがにショックだったな…………」
文字通り、まるで”観てきた”ように語る。
つかさは思った。
これが妄想でないなら性質の悪い冗談だ。
とてもじゃないが笑えない。
そもそも目の前にいる自分たちを敵に回すような発言に意味があるとは思えなかった。
「それでね、その”他の世界”の私のなかでまだ生きてる何人かが仕返しをしようって話をしたんだ」
こなたの顔が俄かに明るくなる。
「すでに自殺してしまってる世界はどうしようもないけど、私がまだ生きてる世界はいっぱいあるからね。
そういう世界に乗り込んで行って私が死ぬより先に自殺に追い込む人たちに復讐しようとしてるみたいなんだ」
欲しいゲームをようやく手に入れた時のような、邪心の欠片もないこなたの破顔。
一方で取り残された3人は言い知れない不安と恐怖に駆られた。
どうも嘘や冗談ではない気がする。
もちろん現実にあり得ない話をしているし、到底信じられる内容ではない。
しかしこのこなたの表情――。
彼女はパラレルワールドと、”それを観たという自分”を完全に信じきってしまっているのではないか。
妄想癖が極地に達し、現実とそうでない世界との区別がつかなくなったのではないか。
「ね、みゆき…………」
かがみが囁く。
みゆきはすぐにその行動の意味を理解して、
「分かりませんが……そういう、その……病気もあるかもしれません…………」
言葉を選びながら考えを口にする。
表情だけは気の毒そうに、しかし彼女はある種の恐怖を覚える。
最もストレートに、気を遣わない言い方をするなら”頭がおかしくなってしまった”ということになる。
空気の読めないオタクに留まっていたこなたは、いよいよこういう段階にまで来てしまったのだろうか。
という懸念が渦巻くのだが、
「私もビックリしたよ。でも皆、本当にやるって言うんだもん」
当の本人はお構いなしに話を続けた。
「はいはい、分かったわよ。どうせまたゲームか何かの話でしょ? ったく、そんなのばっかり――」
この雰囲気が嫌でかがみはわざと大きな声で言った。
これならいつものやりとりだ。
こなたが暴走してかがみが突っ込み、つかさとみゆきが苦笑混じりに見守るという、いつもの構図だ。
「かがみ、ちょっとしつこいよ?」
今まで見たことのないような表情で。
聞いたことのないような低い声でこなたはそう言い放った。
「…………ッ!!」
瞬間、空気が凍りつく。
みゆきもつかさも取り繕いようのない張りつめた緊張感。
「私もさ、本当は止めようと思ってたんだけどね……。でも観る世界観る世界で自殺してるんだもん。
もしかしたらこの世界の”私”も自殺に追い込まれるんじゃないかなって……。だってさ、そうでしょ?
私はパラレルワールドを観てきたわけだけど、向こうからしたらこの世界だってパラレルワールドなんだよ?
そう考えたらやっぱり私も最期は自殺することになると思うんだ。でも私はそんなの厭だから――」
こなたはそこで態とひと呼吸置いた。
「――見守ることにしたんだ。っていうか自分を守りたいからだと思うんだけどね」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべたその瞬間だった。
キーンと耳障りな音が教室中を駆け巡る。
「わっ! な、なにこれ!?」
つかさは耳を覆った。
不愉快なのは音だけではない。
この場に流れる空気が妙に温かく、湿っぽい。
「なんでしょう……この感覚……」
みゆきはつかさほど不快感を露にしないが、それでもこの場に居たくないという想いは同じらしい。
かがみだけは何も言葉にせず、先ほどから涼しい顔をしているこなたを注視した。
(こなた…………?)
明らかに空気が変わったというのに顔色ひとつ変えない。
全てを見透かしているような表情が今は怖い。
「――来たみたいだね」
こなたが立ち上がった。
「ちょ、どこ行くのよ!?」
かがみがその手を掴もうとするが、するりとそれを躱して教室の入り口で振り返る。
寂しさと憎しみを混ぜたような表情で3人を見つめる。
その時、閉まっているハズの窓から風が吹き込んだ。
振り向いた3人は教室に自分たちしかいないことに気付いたが、次の瞬間には彼女たちの姿は消えていた。
残されたこなたは無人になった教室を見て、小さく息を吐いた。
ここまでです。
早くも先が読めそうな話ではありますが、投下はゆっくり目でいきたいと思います。
ではまた明日。
33 :
デフォ北:2009/03/26(木) 00:25:41 ID:mumob9fX
>>32 いつものことながらお疲れ様です
この手の話は個人的に好みなので
どういった展開に転がされるか凄く楽しみですw
何となく、このSSには
今後のスレッドの運命を賭けたこなたの戦いというイメージを孕んでいる気がしますね
続きが楽しみ過ぎてハロワにも行けない
35 :
名無しさん@お腹いっぱい:2009/03/26(木) 20:02:42 ID:ChLASsG2
らき☆すたがほんわか学園生活だけで進展がないのが飽きるけど(
そこにパラレルワールドというテーマをつなげたのはGJ
皆さん、こんばんは。
本日分の投下です。
〜〜 柊つかさ 〜〜
「あ…れ……?」
寝起きのような顔で辺りを見回すつかさ。
反射的に目を閉じ、次に目を開けると学校の屋上にいた。
「お姉ちゃん…………?」
呼び声に反応がないことから周囲に誰もいないと分かる。
「ゆきちゃん……こなちゃん……」
ふと見上げる。
午後3時を過ぎたにしては暗すぎる空だった。
黒と紺が混ざり損ねたような不気味な雲がすっかり覆ってしまっている。
それだけでも居心地が悪いのに、さらに周りに誰もいないという状況がつかさをより不安にさせた。
何が起こったのか、何が起きているのかまるで理解できない。
つい先ほどまで4人、教室にいたハズなのにこれはどういうことだろう。
「うぅ〜〜、なんか怖いよぅ……」
こういう時、すぐかがみに頼る癖がついてしまっている彼女は今ひとつ行動力に欠ける。
進んで3人を探すより、怖くてもここで3人が来るのを待ち続けるタイプだ。
フェンスを背にして立ちあがった彼女は、状況を理解しようと後ろを見た。
おかしなところは何もない。
屋上には何度か来たことがあるし、当然その時にここから外を眺望した記憶もある。
(………………)
つかさが妙だなと気付いたのは数秒経ってからだった。
風景に異変はないが静かすぎるのだ。
下校する生徒もいなければ、部活動に励む部員の声も聞こえてこない。
車の走る音も鳥の鳴き声も飛行機の飛ぶ音も。
なにも聞こえてこない。
「おねえちゃぁん…………」
いよいよ恐怖を感じたつかさは震える足で一歩踏み出した。
「つかさ」
どこからかかがみの声がした。
求めていたその声と言葉に、つかさの体から一気に緊張が解けた。
「よかった……気がついたらこんな所にいるんだもん。私、ビックリしちゃって――」
怖がっていた自分を隠すように照れ笑いを浮かべ、つかさが声のした方を振り向く。
瞬間、笑みは驚愕に彩られ、そのあと何故か恐怖に引きつった。
「こ……こなちゃん…………?」
いつの間にか視界に入っていたのは、陰鬱な表情をこちらに向けるこなただった。
「かがみんの真似、似てるでしょ?」
ニヤニヤといつものしたり顔を浮かべる。
その見慣れた表情も今のつかさには不吉でしかなかった。
「どうなってるの、これ? なんでこんなところにいるの? お姉ちゃんとゆきちゃんはどこに行ったの?」
恐怖を感じる存在に問いかけるのはおかしな気がしたが、つかさは訊かずにはいられなかった。
こなたは怖い。
早くかがみやみゆきに会いたい。
今のつかさにはそれしかない。
「質問が多いね。とりあえず2つ目の質問に答えてあげるよ」
人差し指をピンと立て、唇をくるんと巻いたこなたが言う。
「私はね、よくつかさとみゆきさんにいじめられてたんだ。酷いこといっぱいされたよ。
お金を巻き上げられたり、家の物を壊されたりした。暴力も振るわれたよ」
「そ、それ……違う世界の話でしょ? 誰もそんなことしないよっ!」
「あれ? つかさ、パラレルワールドのこと分かってるじゃん。あんまり頭良さそうに見えないのにね」
ずいぶんと失礼なことをさらりと言ってのけるこなた。
理不尽な状況に怒りが加わってか、
「私のことはどうでもいいよ! それより違う世界のことなんだから私たちは関係ないでしょ!」
つかさも強気に反発した。
「まあ、”この世界のつかさ”にはあまり関係ないかもしれないね。だって”まだ”だし」
「なにが”まだ”なの!?」
「泉こなたを自殺させることだよ。この世界の泉こなたをね」
そう言ってまた嗤う。
その不気味さに先ほどまでの威勢はどこに行ったのか、つかさが後ずさった。
が、背後はすでにフェンスで塞がっている。
「違う……こなちゃんなの…………?」
姉に比べて頭の回転が速くないつかさも、目の前のこなたの雰囲気から僅かではあるが現実が見えてきた。
こうなる前にこなたが言っていたパラレルワールド。
並行するいくつもの世界と、そのいくつもの世界にいる何人もの自分たち。
さらにその中のこなたたちが仕返しに来るという。
それらが全て真実であるという前提で考えれば、
「違うこなちゃんなんだよね……?」
というつかさの問いもごく自然に出てくるものだ。
「そうだよ」
厭にあっさりとこなたは認めた。
「もう、”この世界のこなた”から話は聞いてるよね? 私がどの世界でも自殺してるって話」
「………………」
「実はさ、私も観たんだよね。パラレルワールド。向こうも私を観たし、こっちも私を観たし。
未遂に終わる例もあるんだけど、ただ死ななかっただけで不幸であることには変わりないんだよ。
だからどんな道を辿っても、私は幸せになれないのかなって思うようになったんだよね」
「………………」
「でもそうじゃない。私みたいにまだ生きてる泉こなたもいる。望みはあるんだよ、つかさ」
「だ、だったら――!!」
「…………?」
「パラレルワールドっていっぱいあるんでしょ!?」
「あるよ。あると思う。私が観たのは3つだけだけど、きっと無数に存在すると思うんだ」
「だったら、こなちゃんが死なない世界だっていっぱいあるハズだよっ! たまたまこなちゃんが死んでしまう世界を観ただけ
かもしれないじゃない! 無数にあるんだったら可能性――」
「私が数えただけでも40人以上の私は死んでるんだよ? これって偶然で片づけられると思う?」
「………………」
「黙っていればきっと私も死ぬことになる。他の世界の私もそう思ったんじゃないかな。考えが同じなのも私だからだろうね」
こなたはゆらりと体を左右に揺すった。
「私が自殺する理由はほとんどが人によるものなんだよ。病気とかっていうのは稀だね」
「……何が言いたいの?」
「分かってるんでしょ?」
問いに問いで返すこなた。
うすら笑いを浮かべた彼女は、恐怖に彩られるつかさを見て心底から愉しんでいるように見える。
「つかさに自殺に追い込まれた私がたくさんいるってことだよ。ほら」
こなたがあさっての方向を指差す。
反射的につかさは視線を向けた。
――こなたがいた。
「…………ッ!!」
視線を戻す。
今まで喋っていたこなたの後ろに、さらに2人のこなたがいた。
「つかさとみゆきさんにはよくいじめられてたね。屋上に追い込まれて飛び降りて…………私って可哀そうでしょ?
死んでしまった世界ではもうどうにもならないけど、この世界の私はまだ生きてるからね。だから仕返ししようと思ってさ」
「な……言ってることが分からないよ!」
「分かってるくせに」
「言い逃れなんてつかさらしくないね。みゆきさんをパシリにしてまで私をいじめてたくせに」
「そうだそうだ」
いつの間にか10人ちかくに膨れ上がったこなたたちが、じわりじわりと包囲網を狭めてくる。
「そんなの私と関係ないよ! 仕返しするんならその世界の私に仕返しすればいいでしょ!!」
泣きながらに訴える。
理不尽なこなたたちの弁に対する怒りよりも、助かりたいと願う気持ちのほうが強い。
この分ではどこにいるか分からないかがみやみゆきも同じ目に遭っているのではないか。
そう考えると早々とこの場を抜け出して2人の元へ急ぎたくなる。
「”その世界の”って言うけど、そこでの私には罪がないんだよ? 罪のない私たちをつかさたちが死に追いやったんだ。
だから同じように罪のないつかさたちに仕返ししないと気が済まないんだ。この世界のつかさたちは”まだ”何もしてないからね」
ゆっくりと歩を進めるこなたの数はどんどん増えていく。
どこからか音もなく現れ、気がつくと30人以上のこなたがフェンスの端につかさを追い詰める。
「何かの映画みたいだよね」
どこかの世界のこなたが周囲を見渡して言った。
「そだね〜。目的がどうこうってやつでしょ?」
くすくすと笑い声。
「や、やだよ! こんなのおかしいよ! 私、何もしてないのにっ!!」
つかさが泣き叫ぶ。
そうするのを待っていたように最前列のこなたたちは、
「これからするかもしんないじゃん。いやいや、するんだよ。他の世界と同じようにさ」
「だから仕返しするんだ」
「自分の身は自分で守らないとね」
「まだこれだけの私が生きてるんだから」
「こういう世界があってもいいよね」
口々に憎悪混じりに呟く。
敵愾心に満ちたこなたたちが一斉に手を伸ばした。
「い…っ……いや…………ッッ!!」
つかさは振り払おうとしたが、その手を別のこなたが掴んだ。
それをキッカケに後ろにいたこなたたちが争うように――。
つかさの腕を、襟を、髪を、リボンを、足を、スカートを。
乱暴に掴もうと身を乗り出した。
「お姉ちゃああぁぁぁぁん…………ッッ!!」
屋上につかさの断末魔の号(さけ)びが木霊した。
〜〜 高良みゆき 〜〜
みゆきは身震いした。
もともと寒い廊下を歩いていたところに、つかさの叫び声が聞こえてきたのだ。
「つかささん……かがみさん……どこですか…………?」
か細い声でみゆきが呼びかける。
大声を上げないのは、こなたに聞こえないようにするためだ。
気がつくと彼女は2階の廊下に放り出されていた。
つい先ほどまで教室にいたハズなのに、と訝ったが賢しい彼女はすぐに理解した。
――こなたが何かしたに違いない。
ほとんど直感に近かったかもしれない。
直前のこなたの様子を考えれば容易に辿り着く結論だ。
パラレルワールドという概念はみゆきにも理解できる。
特にSF好きというわけではなく、あくまで豊富な知識の一端として記憶にあったものだ。
が、今のこの状況は理解も説明もできない。
不愉快な風と音に目を閉じ、その目を再び開けた途端、ありえない場所に立っている。
それどころか一緒にいたかがみたちが消え去っている。
この現象について納得できる説明をするための材料は、残念ながらさすがのみゆきも持ち合わせていない。
超常現象、という一言でとりあえず片付ける他はなかった。
「どこ、ですか…………?」
見慣れた場所にいても今ばかりは不気味だ。
さらに独りであることが不安感を倍加させた。
(泉さんのお話は本当なのでしょうか? 違う世界の自分を観るなど……)
そういう話を知らなかったわけではない。
過去、童話やらその手の読み物で並行世界を扱った作品を何度か見ている。
ただしそれらはあくまでお話の中に留まっているものであり、現実にあるものとは想像もしなかった。
言い知れない恐怖心を懸命に抑えながら、まずは3年B組を目指す。
自分たちははじめ、あそこにいた。
もしかしたらここにはいないかがみやつかさも、自分と同じようにB組に向かっているかもしれない。
(急ぎませんと……)
根拠はないが、ここにいては危険な気がする。
少なくとも孤立している状態が事物に対してプラスに働くハズがない。
「あ、こんなところにいたんだね」
聞き慣れてはいるが、今だけは聞きたくなかった声がした。
さらに不安を煽ったのはそれが前からではなく、後ろから聞こえたことだ。
とはいえ明らかに自分に向けられた言葉に無視するわけにもいかず、みゆきはぎこちない動作で振り返る。
「いい、泉さん!?」
声がうわずってしまったのは、廊下の向こうにこなたが3人いたからだ。
他人の空似などではなく、容姿も挙動もこなたのそれと何も違わない。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん」
厭らしい笑みを浮かべて3人が歩み寄ってくる。
みゆきは愈々パラレルワールドを信じるしかなくなった。
もはやオタクの妄想だと断じることはできない。
現に今、自分の目でハッキリとあり得ない光景を見てしまっている。
少なくともこの中の2人が並行世界のこなた、ということになる。
「な、なんですか!? なんですか、いったい!? これは……これは…………」
知識にはあっても経験にはない現状に、みゆきはひどく混乱した。
「みゆきさんなら分かるでしょ。私たちがここにいる理由」
「っていうかもう聞いてるハズだよね」
さらに詰め寄る。
「みゆきさんには散々いじめられたね。にこやかな笑顔の裏で悪辣な爪を研いでるんだね」
こなたには似つかわしくない、スマートに装飾された言葉で、しかしみゆきを責めるように言う。
「よくつかさとグルになってたよ。ジュース買ってこいとか言ってさ」
「あ〜私も知ってる。私が最近観たのは、みゆきさんに酷い言葉を投げかけられた世界かな。
どうもその世界ではみゆきさんも昔にいじめられてたみたいなんだけどさ。私がこんな性格になったのは甘えだって。
自分は私とは違うんだ、みたいなこと言ってた」
「言いそうだね。みゆきさんは」
3人、秘密を共有したように自分たちにしか分からないような話し方をする。
「そんなこと知りませんッ!」
みゆきは叫んだ。
「泉さんの仰る、その……並行する世界については認めます。現にこうして見ているのですから。
ですがその世界での私の言動は私とは関係ありません。あくまで別世界でのお話でしょう?」
一度は声を荒らげた彼女ではあるが、せめて口調だけは冷静でありたいと思ったか諭すように言った。
余所の自分がどんな人格なのかは知らないが、それを関係ない自分に持って来られては困る。
とんだトバッチリだ。
仕返ししたいなら止めはしないが、当事者同士でやってくれ。
そういう意味の言葉をさらに続けようとしたところに、
「自殺に追い込まれた私もきっと今のみゆきさんと同じ気持ちだったと思うよ?」
静かに威圧するこなたの声。
「だって私たち、何もしてないもん。いろんな世界があるけど、私が悪いっていうのはほとんどなかった」
「つまりさ、周りの所為なんだよね。私が自殺するのって」
抑揚のない責めは後ろからも聞こえる。
それに気付いたみゆきは振り返ったが、目に飛び込む光景にもはや驚きはしなかった。
前に3人、後ろに3人のこなたがいる。
(これは……私は…………)
厭な汗が伝う。
自殺に追い込まれた別の自分のために仕返しにやって来た、とこなたは何度も言っている。
その仕返しの内容がどのようであるかはいちいち考えなくても分かる。
「泉さん、少しお待ちください」
静かに追い詰められ逆に冷静になったみゆきは、涼しい顔をして言った。
こういう時はうろたえても仕方がない。
ウソでも余裕を見せてこなたの恐怖に打ち克つほうがよほど効果的だ。
「仕返しと仰いますが、泉さんは生きていらっしゃいますよね?」
「…………?」
すぐには理解できない問いを投げられ、こなたたちは一様に首をかしげた。
「仕返しをなさるなら、害を受けた泉さん自身が害を与えた人物に対してするべきではありませんか?」
「どゆこと?」
「たとえばAという人がBという人に叩かれたとします。Aは反撃にBを叩き返します。これが仕返しです」
「まあそうだね」
「それって普通じゃん」
「ではこの場合、CがDを叩いたらどうでしょうか? これはAにとっての仕返しとなるでしょうか?」
「…………?」
こなたたちは沈黙を返す。
うまくいった、とみゆきは内心で笑む。
この先の展開次第では切り抜けられるかもしれない。
彼女が知っている泉こなたの知能の程度はそう高くない。
コアな知識こそ蓄えているが論理的にものを考えるのは苦手だと見ている。
「関係ありませんよね。AがBを叩いてはじめて仕返しとなるわけですね。これを現況に置き換えてみましょう。
この例でのAはすでに自殺してしまった泉さんとなり、Bはそれぞれの世界での加害者になります。
一方、Cとはあなたがた……Dはこの私、つかささんやかがみさんがそれぞれ該当します」
ここまで言えば分かるだろう、とみゆきは余裕の表情を見せた。
「つまり皆さんのやっていることは仕返しでも何でもないわけです。AでもBでもない、関係ない者同士ですよ?
私たちにとっても泉さん方にとっても何の得もないお話です」
そこそこ分かりやすい例え話を出せたことと、しかもこなたたちが沈黙を守っていることにみゆきは満足した。
この手の問答ではたとえ内容が伴っていなくても、それらしい雰囲気で相手を圧倒できればいい。
相手の思考に隙を作り、自らそれを瓦解させることができればみゆきの勝ちだ。
つまるところ、この並行世界のこなたたちが自分たちの行動を仕返しではないと思えばそれで済む。
「なんかよく分かんないけど、みゆきさんらしいよね」
「そうだね」
「さっすがみゆきさん」
前から後ろから感嘆の声が漏れる。
「お分かりいただけたようですね。では私はこれで……つかささんとかがみさんを探しに行きますので失礼し――」
踏み出しかけたみゆきの腕を冷たい手が掴んだ。
いつの間にか真後ろに迫っていたこなただ。
すぐさまもう片方の腕も掴まれる。
「な、なんですか! ご理解いただけたでしょう!? あなた方のやっていることは仕返しでも何でもないのですよ!」
振りほどこうとするが3人の力に身動きがとれない。
前からやって来たこなたが口を開いた。
「確かにそだね。なんか一休さんみたいだったね。言い訳としてはすごいと思うよ」
「でしたら離してください!」
「ううん、駄目だよ。それじゃ何しに来たか分かんないじゃん」
気味の悪い笑みを浮かべ、こなたがぐいっと顔を近づけた。
「し、仕返しなら死んだ泉さんがすればいいじゃないですか! なんで生きてるあなた方がこんなことするんですか!」
そう叫ぶみゆきは必死だ。
このままでは本当に殺されかねない。
詭弁でも何でもいいから丸めこみ、どうにか脱する術はないかと彼女は考えた。
が、首筋に固く冷たいものが宛がわれ、いよいよ冷静に思慮する余裕すら奪われてしまう。
いつの間にか濁ったナイフを手にしたこなたが、その刃先を繊細なみゆきの首に添えていた。
「みゆきさんは助かりたいんだよね? さんざん私を酷い目に遭わせておいてさ」
「し、知らないと言っているでしょう!?」
「知ってても知らなくても関係ないよ。現にみゆきさんの所為で自殺に追い込まれた私たちがいるんだからさ」
「ですからそれはその世界での話でしょう!? 私たちは何の関係もないと何度言ったら分かるんですか!?」
声を荒らげるみゆきに比し、その豹変ぶりを楽しむようにこなたたちは目を細めた。
「仕返しなら当事者同士でやればいいじゃないですかっ! バカなんですか!? こんなことして!!」
ついに罵りだした彼女は、優雅なお嬢様の風格をどこにも残していない。
頭で考えるのではなく、助かりたいという本能にのみ突き動かされた結果が見せた醜態だ。
「まあ、みゆきさんからしたら私たちは頭悪いかもしれないよね。でもさ、いろいろ考えたんだよ。
簡単だった。”仕返し”っていう言い方がマズかったんだよね」
「だからさ、こう言い換えればいいんだよ」
5人のこなたが息苦しいほどにその小さな体を密着させた。
「”仇討ち”……これならAとかBとか関係ないでしょ?」
冷たい刃がわずかに滑り、その後を追うように赤い線が首筋に浮かび上がる。
「ひっ……!?」
みゆきがか細い悲鳴をあげた。
痛みは――ない。
極度の恐怖心が痛覚を奪ってしまったようだ。
「これは仕返しじゃないよ? 仇討ちだよ?」
クスクス、クスクスとせせら嗤い。
みゆきが捻り出した起死回生の脱出策は、キーワードを置換されただけで呆気なく瓦解した。
どちらも屁理屈のようなものだが、旗色の悪くなった彼女はすっかり足が竦んでしまっている。
「みゆきさんはけっこう残酷でさ。平気で他人を切り刻んだりするんだよ」
「し、知らないって言ってるじゃないですか!!」
「それになまじ頭がいいからさ、言葉責めもすごくてね。裏でつかさたちを操るなんてしょっちゅうだよ」
「私じゃありません!!」
「いやいや、みゆきさんだよ」
とろんと眠そうな目に憎悪を宿らせ、こなたはナイフを一息にみゆきの腹部に突き刺した。
途中、多少手こずったものの刃は根元まで完全に押し込まれる。
「まだ優しいほうだよ。手足を切断するみゆきさんに比べたらね」
数秒遅れて激痛を味わったみゆきは、その場に崩れ落ちた。
彼女はまだ生きている。
たった一度、刃渡り数センチのナイフを突き立てられたくらいではそうそう即死はしない。
これがこなたの狙いだった。
この容姿端麗で物腰優雅なお嬢様が、見た目からは想像もつかないほどの腹黒さで何度、泉こなたを陥れたか。
彼女によって自殺に追い込まれたこなたの数は計り知れない。
無念の死を遂げた泉こなたたちの怨恨をいま、この眼前のみゆきに注いでいるに過ぎないのだ。
「……い、ずみ…さ…………お医者を……医者を呼ん……こんなに血が…………」
赤い池の中で溺れるようにみゆきがもがく。
それを見下ろし、こなたが嗤う。
「お互い、愛し合った世界もあったのにね」
今夜はここまでです。
一応メモ帳で書き溜めたものをそのまま貼り付けてはいるのですが、
この読み難い改行は如何ともしがたいのでしょうか。
それではまた明日。
44 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/26(木) 22:22:53 ID:IVWoidcZ
かがみはどうなる?
GJ!!
よろしければ番外編でいいので
ゆたかや黒井先生を追い込むのも見てみたいです
>>45 その展開は本編に折り込み済みです。
明日以降をお楽しみに。
すげぇ、マジで総集編
というか刑罰執行
うつ☆すたみたいに害意の無いSSが見事に除外されてる
なんだかんだでこなた達もフェアだなぁと
懐かしいなー。こぉのオンパレード。
多数のこなた達が、書き手に復讐するトコ想像したら寒気した。
test
50 :
グレゴリー:2009/03/27(金) 09:08:20 ID:S6CzV2QR
パラレルワールドの当の創作主である我々に対するこなたの復讐という図柄に不思議な感覚を覚えます。続きが楽しみです。文章もどこか、あっさりと冷涼としており恐怖を増加させまる。
今さらだがJEDIさんの「閻しき貴女よ」ってなんて読むの?
えんしきあなたよ
って読んでた…
こなたスレに自殺スレの宣伝してる方自重してね
皆さん、こんばんは。
本日分の投下です。
〜〜 ゆたか 〜〜
気がつくと彼女は保健室にいた。
ここに至るまでの記憶はない。
たしかホームルームが終わって、みなみとひより、3人で遊ぼうという話をしていたハズだ。
ところがどういうわけか、次の瞬間には寝心地の悪いベッドで横たわっている自分がいる。
「なんで…………?」
ゆたかは思ったことをそのまま口にした。
病弱な彼女ではあるが突然に意識を失ったりすることはない。
たいていは発熱し立ちくらみを起こして、そのまま寝込む……というのがお決まりの症状だった。
「みなみちゃん……田村…さん……?」
それでも自分の体質について分かっている彼女は、急に倒れて誰かに運ばれた可能性も視野に入れた。
となればクラスの誰か――心当たりがあるのはせいぜい3人――にここまで連れてこられたということになる。
みなみの名前が真っ先に出たのは、彼女への信頼の強さの現れだ。
「………………」
意識も視界もハッキリしていることを自覚し、ゆたかはそっと上体を起こした。
部屋の電気は点いているが黄昏時のような薄暗さだ。
おまけにふゆきの姿も見当たらない。
しばらくして自分が独りっきりなのだと、ゆたかは知った。
自分は倒れたのだろうか。
それでここまで運び込まれたのだろうか。
目を覚まさない自分を待ちかねて、みなみやひよりも帰ってしまったのだろうか。
ふゆきは……用事で職員室にでも戻っているのだろうか。
「え〜っと……」
困惑しながらも靴を履いて立ち上がる。
「ああ、寝てなきゃ駄目だよ、ゆーちゃん」
その声を聞いた途端、どこか強張っていたゆたかの表情が緩む。
「お姉ちゃん」
安堵しながら名前を呼ぶ。
ベッドを仕切っていたカーテンを開いた時、つかさやみゆき同様、彼女もまた戦慄した。
居るハズのない人物がドアの前に立っている。
が、居て当然の人間も立っている。
つまり複数のこなただ。
なんら違いのない同一の容姿をした3人のこなたが、いつものように気だるそうな顔でこちらを見ていた。
「な、なに……どういうこと……?」
奇妙な光景にゆたかの鼓動が早くなる。
平素ならこれで高熱を出して倒れるところだが、体はそれすら忘れたように硬直していた。
「やだなあ、ゆーちゃん。ヘンな顔して、どうしたの? 私だよ。泉こなただよ」
揶揄するように笑うこなただが、発する言葉が不気味さを誘う。
「なんで? どうして……?」
「どうしたもこうしたもないよ。私のほうこそ訊きたいくらいなんだもん」
「ねえ」
「そだよ。他と違ってゆーちゃんは身内だから私の味方だと思ってたのにさ」
「まったく酷い話だね」
口々にゆたかを責めるように声を発するこなたたち。
ゆたかは状況をまるで把握できていないが、とりあえず目の前の同一人物を数えてみた。
4人いた。
みなそれぞれにどこかが違うというワケではない。
全くの同一。
偽物が混じっているのではない。
「ゆーちゃんはさ、つかさやみゆきさんとはちょっと違うんだよね」
「どういうこと?」
目の前の異常な状態に慣れたわけではないが、ゆたかは数人のこなたの問いにごく自然に聞き返した。
「なんていうかな、直接どうこうってわけじゃないんだよね」
「そうそう」
「こっそり誰かに電話してるとか、陰で操るみたいな」
「ストレートじゃないんだよね。私とは普通に接してるけど、裏では……って感じで」
ゆたかの疑問に答える気があるのかないのか、こなたたちは代わる代わる言葉を繋いでいく。
「可哀そうなゆーちゃんもいるんだよ、中にはね。私のためにゴミ袋に捨てられるとかさ」
「い、意味が分からないよ。お姉ちゃん、どうしたの……ねえ?」
この”どうしたの?”には様々な意味が含まれているが、さしあたってこなたの人数に対する率直な問いである。
「どうもしないよ。私たちはただ、ゆーちゃんに追い詰められた私のために来てるだけなんだから」
そう言い、互いにしか意思の疎通ができないような視線を交わす。
反射的にゆたかは身を退いた。
誰もがオタクだと思っているこなただが、ゆたかに対してはそういう面をあまり見せたことはない。
かがみやひよりには遠慮なくマニアックな話題を持ちかけるが、ゆたかへは可愛い妹分だからか配慮していた。
だからたまについていけない話もあったが、基本的にこなたとの生活で居心地の悪さを感じたことはなかった。
それが今はまるで違う。
敵か味方かと問われれば明らかに敵に分類されるような、独特の冷たさと威圧感を放っている。
「例としては少ないけどゆーちゃんに自殺に追い込まれた世界もあるんだしね」
「さすがにデスノートが出てきた時はビックリしたけどさ」
「たしかにね〜。あれは反則だと思ったよ」
ゆたかを放ったらかしにして、彼女たちは勝手に盛り上がっている。
こうなると不気味さからくる恐怖はだんだんと理不尽な現状に対する怒りに変わってくる。
「いい加減にしてよ。何が何だか全然分からないよ!」
滅多に声を張り上げないゆたかの怒声。
彼女にしてはよく頑張ったほうではあるが、やはり小学生にも見紛う体躯と見た目に劣らない可愛らしい声質のせいか、
多少の憤りを込めた大声も迫力なく、どちらかというと愛玩動物が飼い主に甘える時に出す声を想起させた。
「分からなくていいよ。ゆーちゃんに自殺に追い込まれた私だって、何も分からないままだったし」
チチチッと小鳥の囀りが保健室に小さく響いた。
それがやけに耳にこびりつき、ゆたかはこなたたちへの注意が逸れない程度に辺りを見回す。
目が慣れてくると起きた時よりも室内の様子がよく分かる。
何人ものこなたがいる事を除けば、ここは彼女もよく知っている保健室だ。
他におかしなところはない。
(………………?)
再び視線を戻した時、ゆたかは囀りの正体に気付いた。
「だからゆーちゃんも殺してあげるんだ。でも心配しないでよ。ゆーちゃんは妹みたいなものだからね。
できるだけ痛くないようにするからさ」
呟くこなたの左手にカッターの刃が鈍く光る。
「や、ヘンな冗談やめてよ! お姉ちゃんたち、おかしいよ!」
「おかしくなんかないよ」
「おかしくなんかないよ」
「おかしくなんかないよ」
薄気味悪い笑みを浮かべながら、4人のこなたがにじり寄る。
その様をゆたかはじっと見ていた。
こなたの顔がどんどん大きくなる。
目の前で一瞬だけ風が吹き、その後に赤色の液体が自分の喉元から迸る。
その様をゆたかはじっと見ていた。
噴水のように飛び散る血液が目に入り、ゆたかの視界は赤に彩られていく。
(み……なみ……ちゃ………………)
最愛の親友の名を心の中で呼ぶ。
真っ赤だった視界はすぐに真っ黒に染まった。
〜〜 日下部みさお 〜〜
「んあ〜〜?」
異常事態に陥っても、この少女だけは緊張感というものを持ち合わせない。
つい先ほどまでグラウンドを走っていた彼女は、その恰好のまま場所だけを体育倉庫に移していた。
もちろん彼女の意思ではない。
「どうなってんだ?」
口ではそう言いながらもそれほどの恐怖や焦りはない。
不可思議な現象ではあるが、みさおはまだ命の危険までは感じていないのだ。
「なんか分からないけど、とりあえず出るか……」
ずっと走っていたために呼吸は荒く、体も火照っている。
この状態で閉め切った倉庫に放り出されるのは気持ちのよいものではない。
扉に手をかける。
「……あれ?」
手ごたえがない。
何度か開けようとするも、数ミリ動いたところで強い力に遮られてしまう。
(鍵かかってんのか?)
みさおの額に別の種類の汗が流れる。
「やばいかも……」
再び扉を開けようと試みるがやはり施錠されているのか、どんなに力を加えても一向に開く気配はない。
倉庫内の湿度が上がり、みさおは途端に不愉快になる。
「おーい!!」
扉をガンガンと叩いてみる。
こうすれば他の部員が気付いてくれるだろう。
「鍵かかってるみたいなんだー! 誰か開けてくれー!」
声を限りに叫ぶ。
日頃から体を鍛えていると大きな声も出せるようになる。
自分の声が跳ね返ってくるのを聞きながら、みさおは拳を何度も何度も扉に叩きつけた。
…………しばらくそうしていたが変化はなかった。
大声を張り上げて、手が赤くなるくらいに扉を打っているのだ。
これで聞こえないわけがない。
(誰もいないとかじゃないよな……?)
恐怖とは無縁のみさおもこうなると愈々焦ってくる。
今頃になって、自分が体育倉庫にいる状況が不気味に思えてきた。
「おーい! 誰かいないのかーー!?」
「いるよ」
「うわっっ!?」
囁くような声が聞こえ、みさおは思わず飛び退いた。
「ん…………?」
すぐに何かがおかしいと気づき、扉を背にして直立する。
外からではなく、声は中から聞こえた。
「誰かいんのか?」
倉庫の照明は薄暗く、そう広くない庫内の隅々までを照らしきれていない。
「やだなあ、私だよ」
光の当たっていない物陰から、ひょいっと小さな体躯が覗く。
「あ、チビッ子じゃねーか」
よく知っている顔が現れ、みさおは胸を撫でおろす。
暗く狭い場所に独りでいるより見知りしている人間が傍にいるほうが気も紛れる。
「チビッ子も閉じ込められちまったのか?」
「まぁそんなとこかな」
こなたが面倒くさそうに答える。
「なんでそんな落ち着いてんだよ。ってか、さっきから私がいろいろやってたのに、なんで出て来なかったんだ?」
普通、閉塞感に苛まれている時、たとえ自分より幼く見えても落ち着き払った者が近くにいれば、ただそれだけで
自身の気分も落ち着くものだ。
うろたえず動じない様を頼もしいと感じるからだ。
この時のこなたも、みさおからすればその頼もしい存在に当てはまるハズなのだが――。
様子が少し違った。
今のこなたからは不気味さしか伝わってこない。
この振る舞い、マイペースなオタクと言えば片は付くのかもしれない。
かがみから見ればみさおとこなたには何かしら似た部分があるという。
物事に対して緊張感を持てない点がそれに当たるなら、こなたの落ち着きぶりは十分に納得のいくものではある。
「なあ、なんかヘンじゃないか?」
みさおの問いは半分には自分にも向けたものだ。
こなたはおかしい。
倉庫に閉じ込められているのは明らかなのだから、どうにかして脱しようと思うのが普通ではないのか。
まるで他人事のような所作に加えて、今の今まで姿を見せなかった行動がさらに不審だ。
「チビッ子…………?」
わざと視線をはずし、口の端に笑みを浮かべるこなたを見てみさおは戦慄した。
やはり何かがおかしい。
「みさきちは何も知らないままのほうがいい気がするよ」
しかし一瞬後、こなたはそう呟いて今度は悲痛な顔をする。
「な、何がだよ?」
「うん、いろいろとね」
「さっぱり分かんねーぞ」
「それでいいんだよ。ねえ、みさきち」
ごく当然のように話しかけてくるこなたに、みさおは反射的に身を退いた。
「みさきちはさ、私のこと嫌いかな?」
なんでこんな時にと、みさおは訝しんだ。
「嫌いなわけないだろ」
「じゃあ好き?」
「…………?」
極端な二択を迫るこなたの質問は幼稚だ。
嫌いじゃないなら好き。
単純だが問われた側に遅疑逡巡させるなかなかの手だ。
「私のこと、嫌いじゃないの? かがみを奪ってるのに?」
みさおが答え倦ねているを見て、こなたはひとつの判断材料を提示してみた。
皮肉にもみさおの回答を促すハズのそれは、先ほどまでの彼女の思考を躊躇わせるものである。
「嫌いって言ってほしいのかよ?」
みさおにしては巧い切り返しだった。
持って回ったこなたの口ぶりはイライラするが、狭い倉庫内で独りでいるよりはまだマシだった。
「ううん、そうじゃないよ。ただどうなのかなって。かがみとは中学からの付き合いなんでしょ?
なのに私たちがかがみ奪ってるみたいになってるじゃん。だから――」
「あ〜、チビッ子の言いたいことはよく分かんねーけど、私もあやのもそんな風に思ってないぜ?
別に柊を無理やり引っ張り回してるわけじゃないんだろ? ってことは柊がそうしたいからってことだよな。
だったら私がどうこう言うワケにもいかないし、そのことでチビッ子を嫌うのも違うんじゃないか?」
「本当に……?」
「そりゃまあ、ちょっとは寂しい感じもするけどさ。私があれこれ言って柊を困らせたくないじゃん。
そうだなあ……じゃあさ、チビッ子が嫌いってわけじゃないけど、ひとつだけ言わせてくれよ」
「…………?」
意外にも饒舌なみさおに、こなたは若干の居心地の悪さを覚えながらも彼女の言葉に耳を傾けることにした。
「あんまり柊のこと、からかわないでやってくれよな。あいつさ、よくうちらの面倒見てくれるだろ?
宿題とか見せてくれるし、勉強だって付き合ってくれるもんな」
「う、うん」
「でもさ、そのお礼ってしたことあるか?」
「………………」
こなたはかぶりを振った。
「私もだ。いっつも世話焼いてくれるけど、考えてみれば”ありがとう”の一言だって言ってないんだよな。
本当なら見捨てられてもおかしくない私たちのこと、ずっと助けてくれてたんだぜ?」
「みさきちの……言いたいこと、分かったよ」
余裕ぶった態度はどこへ行ったか、こなたはバツ悪そうに途切れがちに言った。
「――だろ? 恩返ししなくちゃいけない側なんだよ、うちらはさ。だからからかったりしちゃいけねーんだ」
感謝するどころか反応を楽しむように揶揄するのは不忠義だ、とみさおは言う。
「そうだよね……うん……」
寂しそうに、悲しそうにこなたは俯いた。
「こういう世界も……あるんだね……」
続いて彼女は呟く。
「私さ、みさきちって嫌な子なのかなって思ってた」
「んなっ!? ひでー奴だな!」
言葉とは裏腹にみさおは全く怒ってはいない。
憤るよりも自分が悪く見られていたことに対するショックのほうが大きかったようだ。
「だってさ……私がいじめられてた時、かがみたちは助けてくれたけど、みさきちはそうじゃなかったから――」
搾り出すようなその一言に、みさおは頭を殴られたような衝撃を覚えた。
「いじめって……チビッ子、お前もしかして……」
よく知っているが、しかし現実離れした単語にみさおは硬直する。
身近にいじめという卑劣な事実があることにまず驚き、次いでその犠牲者であるこなたが可哀そうになる。
同時にかがみが陰でそれを支えていたにもかかわらず、それにすら気付けなかった自分が情けなくもなる。
「いじめられる私が悪いって。私のせいでかがみたちが巻き込まれてるのが許せないって――そう言ったんだよ?」
そこまで言われ、たった今まで憐憫の情を催していたみさおが怪訝そうな顔をする。
”私が言ったのか?”
と問わんばかりの表情をこなたに向ける。
うん、とこなたは頷き、
「といっても違う世界のみさきちだから、みさきちじゃないけどね」
みさおには到底理解できない発言をする。
「ん……さっきからヘンだぞ、チビッ子。言ってることとかワケ分かんねーし」
「かもしれないね。私もよく分かんないよ」
こなたはくるりと背を向けた。
「みさきちは違う気がするよ。つかさやみゆきさんみたいだったら、他の私と同じようにしたけど……。
なんていうのかな、仕返しする気になれないんだ――おかしいよね」
自分を嘲るようなこなたの口調からは表情や心理が読み取りにくい。
「きっとあれはたまたまなんだよね。他にみさきちが私に何かした世界ってほとんどないと思うし」
「だから意味が分かんねーって」
「でもかがみを殴るのはさすがにやりすぎだよ? あれはさ、私が悪かったんだから……」
「おーい聞いてるか?」
「お父さんが痴漢してたなんて知らなかったし……かがみが怒るのも無理ないよ。つかさにも悪いことしたね。
あの世界だけはほんとに私が悪かったんだから。あの時のみさきちには感謝してるよ」
「チビッ子〜〜」
「ごめんね、閉じ込めちゃって。いま元に戻すからね」
「さっきから何を――おおっ!?」
目が眩むほどの光が庫内を照らした。
堪らずみさおが目を閉じて手で顔を覆う。
「…………?」
――数秒。
次に彼女が目を開けると、いつの間にか校庭の真ん中にいた。
「おおい、日下部ぇ。あんたそんなとこで何やってんのよ」
後ろから声をかけられ振り向くと、同じ陸上部員の女子が手を振っている。
「あ、ああ…………うん……いま行くよ」
理解できない出来事の連続に、みさおはただ苦笑するほかなかった。
本日分は以上です。
ここまでで約2分の1。
のんびりまったり完結に運びます。
それではまた明日。
支援
もしかしてみさお好きなんですか?
「最後の一振りを少女に」を水に流してもらえたか
良かったなみさお
つーか助かる人も出てくるんですね
ギルティORノットギルティの判断も楽しみだ
痴漢の話なんてあったっけ?
68 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/28(土) 13:35:00 ID:16ckRcCE
黒井先生はどうなるだろう?
みさお以外みんな死にそうな気がしてきた・・・
これまで投下された作品の内容次第で助かるかどうかがが分かれるのか・・・
また斬新な内容だ。
「家庭内暴力」のそうじろうもひどかったな。
他は比較的普通だったけど
遅くなりました。
隔週土曜日の休みがなくなりそうです……。
おまけにその通知の文書を作ってくれだなんて。
社員の反発を受けないような書き方に、などどだい無理な話だというのに。
ともかくも本日分の投下です。
〜〜 峰岸あやの 〜〜
あやのはすでに窮地に立たされていた。
図書室で調べ物をしていた彼女が目の疲れも手伝って、そろそろと席を立った瞬間に世界が変わったのだ。
他の者と違い、彼女だけは図書室に残されたままである。
しかし世界が変わったとあやのが感じたのは、先ほどまであった人の気配が消えたからだ。
利用者は何人かいたハズだ。
それにこの室が開放されている間は常時、受付が2人以上いるものである。
それらの影がなくなっている。
ほんの僅かの間だ。
厳密にはあやのが立ち上がった瞬間。
「峰岸さんはさ、みゆきさんとはまた違った怖さがあるよね」
不意に名前を呼ばれ、そちらに目を向ける。
「あ、泉ちゃん」
親しくはないが知らないわけではない顔にあやのは安堵する。
「泉ちゃんも調べ物?」
「ううん。峰岸さんに会いに来たんだよ」
「私に?」
こくん、とこなたが頷く。
その後ろからひょいっと顔を見せたのは、もう1人のこなただ。
「えっ!? えっ――!?」
あやのが目を瞬かせた。
小さな字を追っていたから目が疲れたのだろうと、目頭を軽く押さえてみる。
そうして数秒、次に目を開けた彼女はこなたが3人になっていることに驚愕した。
「な、なに!? どうなってるの!?」
慌てふためくあやのをよそに、こなたたちは不気味な笑みを浮かべている。
嘲りなのか侮蔑なのか、それとも気が触れたからなのか。
どうにも判断のつかない種類の笑みが、あやのを心底から震え上がらせた。
「峰岸さんは私のことどう思ってる?」
真ん中のこなたが問う。
理解しがたい状況の中でも、雰囲気や趣味嗜好がつかさに似ている彼女は、
「ど、どうって……?」
何とかその問いに答えようとした。
「好きとか嫌いとか。簡単でいいよ」
「どういうこと? え、それよりなんで泉ちゃん…………」
3人もいるの、という言葉が出ない。
「これはね、違う世界の私なんだよ。世界はいっぱいあってさ、生き残ってる私たちがこうして集まったってわけなんだ」
左のこなたが答え、右のこなたが頷いた。
あやのはかぶりを振った。
「よく…分からないけど……?」
「分からなくてもいいよ。どうせやる事に変わりないから」
しずしずと歩み寄ってきたこなたが、ドンと音がするほど強くあやのを突き飛ばした。
足腰にまるで力が入っていなかったあやのは、呆気なく後ろの座椅子に押さえつけられる。
「ちょっ、泉ちゃん!?」
立ち上がろうとしたが、それより早く2人のこなたが後ろに回り込んで双肩をしっかりと掴んだ。
「な、なに!? いったい何なの!?」
狼狽と怒りが混ざり合い、あやのは淑やかさを一転させて怒気を孕んだ眼でこなたを睥睨した。
「峰岸さんはさ、みゆきさんとはまた違った怖さがあるよね」
先ほど言ったことを再び口にする。
もちろん本人にはこの言葉の意味は全く分からない。
「私から全てを奪うなんてさすがにみゆきさんもそこまではしなかったよ」
目を細め、見下すようにこなたが呟いた。
「私も一応は作家の娘なんだよ? それなのにさ、私は落選して峰岸さんは受賞するなんておかしいと思わない?
おまけにせっかく受賞したっていうのに、別に欲しくもないなんて……何様なのかなって思うよ」
「し、知らない! 何の話をしてるのよっ!」
「私がいじめにあって苦しんでる時も、峰岸さんは素知らぬ顔だったよね。まあ別に助ける義理もないけどさ。
それにしても私を庇ってくれるかがみやつかさに入れ知恵するなんてひどいよ」
「だから何の話なのよ!?」
「かがみもつかさも私がいじめられてるのを見かねて助けてくれたんだ。最初は先生に言うかどうかで揉めたけど、
チクったって余計に酷い目に遭わされるからって、つかさは先生には報告しないって言ってくれたんだよ。
私、すごく嬉しかったな。つかさって優しいなって思った。でもね、みさきちや峰岸さんはそうじゃなかった。
私を庇ったことで今度はつかさやかがみがターゲットになりそうだから、早々と先生に相談しろって。
峰岸さん、つかさにそう吹き込んだんだよ? やっぱり付き合いの長さなのかな。
私はどうなってもいいから、かがみとつかさを助けたかったんでしょ? 仕方ないとも思うけどあんまりじゃない?」
「し、知らない! 知らないわっ!」
理不尽に責め立てるこなたたちにあやのは恐怖半分、怒り半分に叫んだ。
理解の及ばない口撃を受ける理由も、不当に拘束される謂われもない。
「といっても別の世界じゃ峰岸さんは私に自殺させられたこともあるから、そこは同情するけどね」
「そうかな? あの時だってずいぶん厳しいこと言ってたじゃん。スイッチ押されて当然だよ」
「でもあれはノーカウントでもいいんじゃない?」
「甘いよ。地獄でも私をいじめ倒そうとしてたんだよ。つかさが止めてくれたけどさ」
2人のこなたが自分を挟むようにちょっとした口論を始めた。
が、それを呆気にとられて静観するあやのは事態が好転したとは思わない。
まず会話の内容が理解できないのだ。
地獄がどうだの自殺がどうだのと勝手に話が進んでいる。
(なによ……これ、何なのよ…………!!)
断片的に情報をかき集めてみたところ、違う世界があって、そこにも自分やこなたがいるらしい。
世界はいくつもあるのだが、こなたは必ず自殺しており、それに何度か自分も関わっているようだ。
さらにこなたたちはその仕返しにやって来た。
何とかそこまで考えが及んだあやのだが、分かれば分かるほど理不尽な現実に憤りを抱くようになる。
「そんなの私と関係ないわ!」
あやのが叫ぶと、それまで軽い口ゲンカをしていたこなたたちが同時に向きなおる。
「みんなそう言うよ」
声を揃えて嘲る。
目の前のこなたがどこからか鋸を取り出した。
「だから同じやり方で仕返しさせてね」
何をどう承(う)けて”だから”なのか、艶美な笑みをひとつ浮かべて。
死へと誘う互い違いの刃をあやのの真っ白な喉元にあてがう。
「じょ…じょうだん……でしょ…………!?」
ほとんど声にならない声でそれだけ吐く。
そう言う間にもすでに刃は一度往復しており、その軌跡から赤い糸がぽたりぽたりと垂れ落ちた。
「やめ――――ッ!?」
全て言い切らないうちにパックリ開いたもうひとつの口から夥しい血液が噴き出す。
返り血を浴びた3人のこなたは互いに見合い、無表情のまま口の端をわずかに歪ませた。
〜〜 黒井ななこ 〜〜
「どないなっとんや……」
聞く者のいない呟きは狭い空間に詰め込まれた空気を振動させ、すぐに自分の耳に戻ってくる。
先日、抜き打ち同然で実施したテストの採点をしている最中のことである。
肩が凝り、気分転換に大きく背伸びをした一瞬後、黒井ななこは職員室から少し離れた小会議室にいた。
室の奥、ホワイトボードを背にして粗末なパイプ椅子に腰をおろしている。
寝起きのような顔でななこは周囲を見渡す。
どこをどう見ても会議室だ。
折りたたみ式の長テーブルの上には答案用紙も赤ペンも生徒名簿もない。
「あ〜疲れとんやろか……」
彼女はこの異常事態の原因を歳ではなく、単なる疲れの所為にした。
「ここしばらく、遅うまでネトゲしとったからなあ」
自分に対する言い訳めいた言葉の後、ななこは再び伸びをする。
大きく反らした背中にじわりと熱が走る。
腕が真上まで上がらないのは気のせいだと思いこみ、首を後ろに倒した時、
『そのまま』
という逆さ文字が視界に入り、ななこは文字通り硬直した。
ホワイトボードに汚い字でそう書かれてある。
(なんや…………?)
姿勢を起こして上体だけを後ろに向ける。
崩れに崩れた字は、ちょうど自分の頭くらいの高さにある。
「ん……」
意味が分からず目を白黒させ、謎のメッセージを何度も黙読する。
真っ白なボードに小さく、たった一言だけ書かれた文字はどこか不気味だ。
しかもまるで自分に読ませるためだけに残されているようで、ななこは身震いした。
「わけ分からんわ」
喉に何かが閊えたような感じのまま立ち上がる。
採点はまだ半分も終わってないのだ。
さっさと片付けて今日は早めに寝よう。
そう思い立ち、小さく息を吐いた時だった。
「せんせ」
甘えたような声がした。
その一言は黒井ななこを特定する言葉ではないが、この状況では間違いなく自分を呼んでいるのだと分かる。
「私だよ、せんせ」
呆けたようなななこを嗤うように、椅子に座ったこなたがじっと見ている。
「なんや、泉か。いつからおったんや?」
まだ何も知らないななこは見知った顔に似非のイントネーションで問うた。
「ん〜……ちょっと前からですね」
人を食ったような口調。
が、ななこは不思議と立腹しない。
こなたの性質を理解しているななこは、自分を尊敬する素振りこそないものの、といって侮っているわけでもないこなたに、
妙な親近感を覚えている。
夜通し遊ぶネトゲで絆を深めたのかもしれない。
「で、なにしとんや? 自分、部活も委員もやってへんやろ?」
「今日は先生に用があって来たんですよ」
「レアアイテムの場所やったら教えへんで」
「やだなあ、先生。そんなんじゃないですよ」
という声が反対側から聞こえ、驚いたようにななこが顔をそちらに向ける。
――こなただ。
額から血を流したこなたがいる。
「…………は?」
驚くでも嘆くでもなく、ななこは左右に1人ずついるこなたを交互に見た。
出血している点を除けば、全く同じ背恰好のこなたがいる。
「いやいやいや……自分ら、双子やったんか?」
という惚けたツッコミも、引きつった笑みのままでは切れ味が鈍い。
「双子なんかじゃないですよ。こっちは別の世界の私ってだけで」
2人のこなたが同時に互いを指さす。
「なんやよう分からんけど――って近すぎやっ!!」
のそのそと自分を挟むように寄って来たこなたたちにななこが一喝する。
しかし2人は彼女のノリの良さを無視して、ぐいっと眠そうな顔を近づけた。
「黒井先生はいい先生なんだけど、時々ヒドイよね」
「だね。ちょい悪って感じだし」
「いやいや、あれは”ちょい悪”ってレベルじゃないよ。お金欲しさにかがみたちをあんな殺し方してさ」
「でもお金を貰っても7年後には結局、黒井先生も首吊っちゃうんだよね」
右の耳から左の耳から、ひどく陰鬱な調子のこなたの声が木霊する。
「なんやなんや。なんの話や」
それに早くも耐えきれなくなった時、ななこは反射的に立ち上がっていた。
「ポイント欲しさに私にスカトロ趣味を押し付けてきたこともあったよね」
「あったあった。それに私がいじめられてるってメッセージを何度も残したのに、先生は最後の最後で私を見捨てたよね」
惑うななこをよそに、こなたたちは相変わらず話を続けている。
2人の会話の内容はもちろん、ななこにとって与(あずか)り知らないことばかりである。
そもそも複数の泉こなたがいる時点で彼女の中での常識は覆されているのだ。
しかし内容は分からずとも、耳元で囁かれる声に含まれる単語くらいは聞き取れる。
いくつかのキーワードを脳内で正しく解釈したななこは、今になって身震いした。
「じ、自分ら……自分ら一体何なんや? まさかパラレルワールドとか言うんちゃうやろな?」
”パラレルワールド”がすんなり出てきたあたり、ななこもこなたに負けないくらいのオタクかもしれない。
これには2人のこなたも少しだけ驚きを見せた。
が、その驚きもすぐに嘲弄せんとする笑みに成り変わる。
「さすが黒井先生。いろんなこと知ってますね」
「そのとおりです。私たちは別の世界から来たんですよ」
くすくす、と哄笑。
「ほ、ほんまか…………?」
ななこは嗄れた声を喉の奥から搾り出した。
適当に放った言葉が事実を捉えたことに、ななこは勘の良さを誇ろうとはしなかった。
「そら、なあ……泉が2人もおるんやからそういうこともあるかもしれんけど……」
大の大人が心中ビクビクしているのもみっともないと思ってか、ななこは余裕を見せようとゆっくりと喋った。
こうすることで自分は現実を理解している、且つ動じていないとアピールするつもりである。
「2人じゃないよ」
「へっ?」
残念ながら形だけの冷静さはこの一言で吹き飛んだ。
こなたが指し示す空間を、ななこは目で追った。
壁から頭だけを出しているもう1人のこなたと目があった。
彼女の首は罅(ひび)の入った白壁に埋没しているが、その境目は靄がかかったみたいにハッキリしない。
「うにゃああぁぁぁぁっっ…………!!」
情けない声を上げながらななこが尻もちをついた。
「そこまで分かってるんですから、もう分かってますよね」
「な、何がや!?」
「やだなぁ、私たちがここにいる理由ですよ」
顔だけのこなたが言った。
「先生に仕返ししたいんです。だって先生が一番私を救えたハズなんですよ? それなのに……」
「い、意味分からんわ! そんなんウチと関係ないやんかっ!」
「クラスでいじめがあっても知らん顔でしたよね。それだけならまだしも一緒になって私をいじめたり。
そうじゃない先生もいたけど、嗾(けしか)けてた先生もいましたよ?」
「そやからそれはウチとちゃうやんか。別の世界の話やろ?」
「先生はクラスで一番偉いんですから、その先生がいじめを認めたらみんながさらに勢いづくじゃないですか」
「知らんわっ! ってか、ええ加減にせえよ! ウチもいつまでも黙ってへんで!?」
ななこが拳を握るのと、足首に鋭い痛みを感じたのはほとんど同時だった。
「……なにしとんねん……?」
視線を落とすと、いつから机の下に潜んでいたのか、また別のこなたが自分を見上げていた。
痛みの正体はこのこなたが振り下ろした草刈り鎌だ。
錆びた刃先が踝(くるぶし)の辺りに食い込んでいる。
「おい……冗談やろ…………?」
思わず痛みを忘れてしまいそうな現実がそこにある。
壁から這い出たこなたが、左右にいたこなたたちが同じように鎌を大きく振り上げた。
「やめっ……お前…ら――――ッッ!!」
ななこの腹に、首に、頭蓋に容赦なく罐が振り下ろされ、ホワイトボードにどす黒い花が咲いた。
〜〜 泉そうじろう 〜〜
アイデアの神が降臨しないものか。
パソコンの前で腕組みし、そうじろうはぼんやりと天井を眺めた。
何となく思いつきで書き始めた推理小説が、早くも行き詰ってしまったのだ。
いくら人物を立ててもトリックや殺人の動機、アリバイ等で辻褄が合わなければくだらない読み物に成り果てる。
「あ〜あ」
ようやくここから面白くなるという段になって、構成を十分に練らなかったことが仇になった。
仕事として引き受けた作品ではないから、ここで紙屑にしてしまっても誰も困らない。
元々空いた時間を利用して書き溜めていたものだ。
ただそれが上手くいくのなら、担当編集者に見せて評を貰うつもりではいた。
そこから話が進んで仕事になれば、これでまたひとつ、自分が食っていけるジャンルが増えることになる。
「うまくいかないよなあ」
彼の呟きどおり、物事は須く挫折の連続を挑戦者に容赦なく叩きつけてくるのだ。
子供の落書きとは違う。
流れ次第では人にお金を出して読んでもらう作品にまで昇華させなければならない。
それをちょっとした思いつきで書き始めたそうじろうに、些か驕りがあったことは間違いないようである。
如何に天与の才人でも研き努めなければ、その秘めたる才覚を埋もれさせたままに生涯を終えることだってあるのだ。
「ちょっと休憩したら?」
柔らかい声が聞こえ、振り向くと制服姿のこなたがいた。
「お、帰ってたのか。おかえり」
頭を掻きながらそうじろうが立ち上がる。
一人娘に恰好悪い姿は見せたくない。
筆が進まない様すら、こなたには悟られないように彼は気を遣ってきた。
片親としてのプライドがある。
「寒かっただろ。紅茶でも飲むか?」
照れ隠しにそうじろうが言ったが、こなたは、
「ううん、今はいいよ。それよりさ――」
やんわりと断った。
「お父さんに言っておきたいことがあるんだ」
ひどく真摯な態度のこなたに、彼はわずかに訝る。
普段はあまり見せない表情だ。
(”言いたいこと”じゃなくて、”言っておきたいこと”なのか?)
職業柄、常人以上に言い回しに注意を払うそうじろうは、こなたの発言を反芻した。
「なにか困ったことでもあるのか?」
「そうじゃないよ。ただね、その…………」
言いにくそうにこなたは俯いたが、それが後ろめたさからくるものではないと彼にはすぐに分かった。
これはどちらかというと羞恥。
幼子がお小遣いをねだるような仕草だ。
「その……お父さんに、ありがとうって言いたいなって…………」
「えっ…………?」
突然の、意外すぎる言葉にそうじろうは目を白黒させた。
「こなた――いつからツンデレに目覚めたんだ?」
この時はまだ彼にもこうやって軽口を叩く余裕があった。
しかし彼の愛娘はやはり調子を変えずに、
「うん、当たり前に生きてたけど、ずっと言ってなかったなって思ってさ。お父さん、1人で大変だったのに」
そうじろうの言葉を無視して続けた。
「だからさ、ずっと言いたかったんだ。結局、今日まで言えずじまいだったけどね」
「こなた……」
そうじろうには含羞(はにか)む娘の顔が一瞬、かなたに見えた。
未成年とはいっても、すでに表情の端々に大人の女性の麗しさが覗いている。
残念なのは小学生と見紛う体型であるが、親の慾目もあってその程度の特徴はまったく気にならない。
「お父さんはいつも私のこと大切にしてくれるよね?」
こなたが笑った。
「きゅ、急に何を言い出すんだ?」
「嬉しかったな。お父さんと一緒になった夜のこと。見ててドキドキしたもん」
「……何の話だ?」
「他の私と違って、あれは自分が望んだ自殺だったと思うよ。ってか実際そうだったしね」
「おい」
何かに憑依されたように語り出すこなたを、そうじろうは複雑な想いで見つめていた。
やはりこなたとは違う、かなたに似た風貌がそこにある。
(それにしても”自殺”って何のことだ?)
全てを知っているこなたと、何も知らないそうじろうの間には決定的な意識の開きがある。
「かがみとつかさが泊まりに来た日の話だよ。ゆい姉さんとゆーちゃんも来たよ。
お父さん、お母さんがいなくて寂しかったんだよね? それであんな事したんだと思うけど……」
「いや、言ってることがまったく――」
「ギャグっぽい展開だったけどさ、案外、お母さんも同じようにして死んだのかもしれないって思ったよ。
私はお父さんの全てを体内に受け入れて天に昇ったんだよ?」
甘ったるい声がそうじろうの耳朶に触れた。
「あの後、お父さんも死んじゃったけど……でもお父さんは死なないでね。大丈夫だよ、お父さん。
この世界の私は自殺なんてしないから。他のみんなが頑張ってくれてるからね」
「なにを……言ってるんだ……?」
「お父さんが私を狩ろうとした世界は……あれは見なかったことにしておくよ。
だってお父さんは私のたったひとりの味方だもんね」
「お、おい……」
「だからこの世界では幸せにね」
その一言が妙に艶っぽく、そうじろうは思わず目を見開いた。
目の前のこれは本当にこなたなのか。
そう疑わせるほどに艶めかしい。
「こなた、一体どうしたんだ? 急にそんなこと言い出すなんて、なんかヘンだぞ?」
理解のある父親を見せるつもりではなかったが、彼もまた平素ではしない神妙な顔つきになった。
決して笑い飛ばしたりせず真剣に向き合おうとする彼を見て、こなたは落涙した。
同時にこみ上げる幸福感。
「お父さん、ちょっとだけ目を閉じて」
「うん? なんで――」
「いいからいいから」
訝しみが解けたわけではなかったが、そうじろうは娘の言葉に従うことにした。
言われるままに目を閉じる。
長時間モニターを見ていたせいか、こうしているだけでも心地よい。
眠ってしまいそうにもなる。
「もういいか……?」
瞼の裏の真っ暗な世界を泳いでいたそうじろうは、体が温かくなるのを感じた。
このシチュエーションからすると、目の前のこなたはいつの間にかラッピングされた箱を持っていて――。
日頃の感謝のしるしに、とか言いながらそれをそっと差し出してくるのではないか。
「こなた……?」
返事はない。
足音はしなかったから、まだ目の前にいるハズである。
「――こなた」
2度目に名前を呼ぶと同時に目を開けた。
そこにこなたの姿はなかった。
まるで初めからいなかったみたいに、彼の視界には見慣れた内装があるだけだった。
(どういうことだ……俺は夢を見ていたのか?)
狐につままれた思いのまま、そうじろうは立ち上がり、反射的に視線を落とした。
先ほどまでこなたがいた場所には濡れた跡があった。
遅くなりましたが今夜分は以上です。
あと2回くらいで終わりそうです。
それではまた。
>>65 好きかも知れません。
現実世界の体育会系には嫌悪しかありませんが、こういうキャラは好きです。
みさおなら現実にいても付き合えると思います。
が、このSSで彼女が生き延びたのは好きだからではなく、変化をつける為でした。
>>66 実は全部は読んでいないものでして……。
レスがあったので慌てて読みましたが、あの内容なら今回の復讐の直接的原因には
ならない気もします。
>>67 実は伏線で……。
GJ
爆弾が入ってると思った自分は末期…
生還者二人目
泉そうじろう
>>70 非道なそうじろうと聞くと
神奈川作品が真っ先に浮かんだ
乙です。
自分も落とさせていただきます。
「そうか、こなたももう高校卒業か。もう、そんなに経つのか。
そうだよな、こなたとの思い出、多く作ってきたからな。
19年近く、一緒に居たんだよな。なら、それだけの歳月が流れていも不思議じゃないか」
感慨深げに、そうじろうは呟いた。
これまでの18年間を思い出すように、目を細めながら。
高校入学、中学卒業、小学校入学、
とこなたの成長の軌跡が鮮明に思い出されてくる。
だが、ある程度時を遡った時に、そうじろうはふとした違和感を覚えた。
「…いや、不思議だ。だってかなたと一緒に生活していたのが、
つい最近の事のように思えるのに、こなたとの思い出が長く…ある」
実際に不思議だった。こなたが産まれたのは確かに19年近くも前の事だ。
そしてかなたと死別したのも、それと同じくらい昔の事になる。
だが、こなたが産まれたのも、また中学校に入学した事さえ遥か昔に思えてくるのに、
かなたとの想い出は何故か昔のものではなかった。
つい最近までかなたが側に居たような、いや、今も側に居るような感覚に襲われてくる。
「不思議だな。お前と死別したのが、つい最近の事にしか感じられないよ、かなた」
写真立てに向かって、そうじろうは話しかけた。
何も返答がない事など、分かっている。
今まで何度も話しかけてきたのだから。
*
『それはね、そう君。私がずっと側に居るからだよ。
だから、私を遠くに感じないんだよ。良かった、分かってくれるんだ、近くに居るって事』
そうじろうに聞こえるはずもないが、かなたは満足げに呟いた。
本当に満足だった。こなたが健やかに成長した事も、
そうじろうが健康なまま、そして何より貞淑を貫いてここまで来た事も。
だが、一番かなたを幸福な気分にさせたのは、
そうじろうが近くに自分を感じてくれていた事だった。
今も目を閉じれば蘇ってくる、
教会で永遠の愛を誓い合ったあの情景が。
「汝、病める時も健やかなる時も、伴侶を愛すると誓いますか」
神父の問いかけに、そうじろうは力強く答えてくれていた。
「はい、誓います」と。
そして、かなたも自信をもって答えた。
そうじろうと同じく、「はい、誓います」と。
その時、かなたは心の中で付け加えるように呟いていた。
(死する時も、死した後も、永劫愛し、側にいると誓います)
その誓いをそうじろうが受け止めてくれている、
自身を側に居ると感じている事で、
或いは自分との思い出を過去のものにせず、つい最近のことのように感じてくれている──
そう思っただけでかなたは目頭が熱くなった。
『ま、そんなそう君だから、私は好きになったんだけどね』
そうじろうは決して完璧な人間では無かった。
むしろ欠点の方が多い人間かもしれない。
それでも一つだけ、自信を持って言える事がある。
それは、世界中の誰よりも自分を愛してくれていた、という事である。
両親よりも友人よりも、薄命という碌でもない運命をプレゼントした神よりも。
「それは…未練があるからじゃないのかな」
幸福な気分に浸っていたかなただったが、こなたの声で我に返った。
『未練?』
その言葉の意味を理解しかねるように、かなたは呟いた。
「未練…」
そうじろうもまた、こなたの言葉を反復していた。
ただ、理解を放棄しようとしたかなたとは違い、
言葉の意味を咀嚼するような呟き方だった。
「私も高校卒業したしさ、もう、私に遠慮しなくていいんだよ」
『それって…』
かなたは不意に寒気に襲われた。
そしてこの寒気の種類を、かなたは知っていた。
かつて味わったことのある種類の感覚だったから。
かなたの全身を貫く寒気は、冬に感じるそれや発熱時に感じるそれとは全く種類を異にしている。
生前、死を意識したときに、背筋に感じた寒気と同じ種類のものだ。
そう、恐怖や不安からくる寒気だった。
「遠慮…?」
そうじろうは具体的な説明を促すように、
語尾を上げる発音でこなたの言葉を反復していた。
だが、そうじろうもこなたの言わんとしている事は理解しているのだろう。
『こなた、駄目よ、その先を言ったら。
そう君も耳を塞いで、聞かないで、その先…』
かなたは祈るように両手を合わせた。
この動作も祈りも無意味である事は、嫌という程思い知らされている。
生前、病の完治を願って数え切れないほどの祈りを捧げてきた。
だが、その全ては無碍にされていた。
それでもなお、かなたは祈らずにはいられなかった。
物理法則に干渉できない死者に出来ることなど、祈ることくらいしかない。
ただ、この時もかなたの祈りは届かなかった。
「新しい人、見つけてもいいんじゃないかな。
今時、40代で恋愛する人珍しくないんだし」
こなたは無情にも、かなたの不安を的中させる言葉を放っていた。
『こなた?何を言っているのっ?』
かなたは絶叫していた。どれだけ声を張り上げても届かない事は分かっている、
それでも叫ばずにはいられなかった。
死者の語りかける言葉など、祈りのようなものだ。
どうせ届かない、誰も聞き入れない。
実の娘が放った辛辣な言葉に心が耐えかね、
軋み声を上げながら崩壊していくようにすら感じられた。
その軋み声に抗うように、敢えてかなたはおどけたような声音を作って
そうじろうに言葉を投げかけた。
『そう君っ。ビシっと叱ってあげて。
そんな風に生んだ覚えはお母さんありません』
おどけたような物言いだが、ただの虚勢でしかない。
その証拠に、かなたの瞳は潤んでいた。
それでも、かなたはまだ縋っていられた。
そうじろうがこなたの勧めを拒絶するだろうという事に。
『そう君、信じてるからね…』
「…そうか。やっぱりこなた、お母さん居なくて寂しかったか?
新しいお母さん、欲しいか?」
『そう…君?』
信じられないものでも見るような眼差しで、かなたはそうじろうを見つめていた。
実際、今の言葉は信じられなかった。
昔教会で誓い合った永劫の愛、そちらを信じていたいかなたにとって、
今のそうじろうの発言を受け入れる事などできないのだ。
「うーん、新しいお母さんが欲しいとかじゃなくて。
将来的に、さ、私だって就職とか結婚とかでこの家出て行くかもしれないし。
その時お父さん一人じゃん。それも心許ないなー、って気がして」
「何言ってんだ、こなた。俺はまだまだ暫く現役だ。
お父さんの心配はいいから、こなたは自分のやりたいようにやりなさい」
「その”暫く”が終わった時が、心配なんだよ」
『その”暫く”が終わっても、私が側に居るもんっ』
激情に衝き動かされるまま、かなたは激しい剣幕でこなたに向かって反駁していた。
───無意味だと、理解しているのに。
「あと4年は、ここを動く予定はないけどさ。
それにお父さん、このまま昔の人に縛られたままでいいの?
そろそろ、新しい一歩刻むべきなんじゃないの?」
『昔の人?もし叶うことならば、その頬、張っているわ』
かなたは歯軋りした。自分は断じて昔の人などではなく、
今も側に居るという事、伝えてやりたかった。
『それと、こなたには分からないかもしれないけどっ』
かなたは自分に言い聞かせるように続けた。
『そう君だって私の事、まだ…いや、これからもずっと愛してくれる。
あの日誓ったんだから』
その日の誓いがそうじろうを縛っているだけなのだろうか。
言葉を放った直後に、その思いが胸を過ぎった。
かなたは慌てて首を振って、心に擡げたその思考を否定する。
『誓いなんてなくても、そう君は私の事が好きなはずよね。
私、自信をもって言える。私を一番愛してくれるのが、そう君だって事』
かなたは不安を振り払うように、言葉を放った後何度も頷いた。
自分の言葉が誰にも届かない以上、自分の言を肯定できるのは自分だけだ。
『それにしてもこなた、そう君の心配より、自分が恋愛してみればいいのに。
そうすれば、私の気持ちも理解できるはずなんだけどな』
死したとは言え、かなたのそうじろうに対する激しい熱情は未だ健在だった。
自分以外の誰かがそうじろうと男女の縁を結ぶなどと想像しただけで、
胸中滾る嫉妬で狂いそうにさえなる。
もしできるのならば、相手を呪い殺してしまうだろう。
「そうは言ってもな、こなた。
やっぱりかなたの事忘れられないし、お前にとってもかなたは唯一の母親だろ?」
諭すようにこなたに語りかけるそうじろうの言葉に、
かなたは安心したように相槌を何度も打った。
『そうそう、私信じてたよ。
ほらご覧、こなた。私の言う事が正しかったでしょう?』
微かに優越感の入り混じった瞳で、こなたを見つめる。
そうじろうに対する理解度の違いを見せ付けてやった気がして、
かなたは少しだけ気分が良くなった。
『って、ちょっと大人気ないかな。
でもね、やっぱり、そう君にとって一番の理解者でありたいんだよ、私は』
だが、実際にそうじろうをより深く理解していたのは──
そうじろうの事情、或いは情事により深く精通していたのは──
” か な た で は 無 か っ た ”
「でもさ、他に愛してる人が居るのに、いつまでも死者に縛られてるのってどうなのかな?」
心の深淵まで抉るように、脳の奥底まで言葉を浸潤させていくように、
ゆっくりとこなたは言った。
『…えっ?それ、どういう意味?』
信じられない、驚愕に染まったかなたの表情はそう告げていた。
そしてまた、奇しくもそうじろうもかなたと同じく、驚愕に染まった表情で
こなたを見つめていた。
「気付いてない、とでも思ってたの?
有閑階級のマダムとさ、いーい感じの仲になってんじゃん。
私の友人の、母親とさ。
この家に連れ込まなかったのは、私に露見するのを恐れたから?
それとも…」
こなたはそこで言葉を切ると、顎でかなたの遺影を指し示した。
「”アレ”に遠慮してるから?」
『止めてっ、こなたっ』
かなたは耳を塞ぐと、絶叫した。
『否定してよそうくん否定してよ私はそんなデマ信じないからいつだってそう君の事
信じてるからなのにどうしてそんなかおしてるのこなたのいってることはでたら
めならなんでしょだたらもとどうどうとしていてよやましいとこなんてなにもないはずでし
ょねぇそうくんわたしまちがたこといてるかなあのひのちかい
もう一度思い出してよおっ』
息継ぎなど一切せずに、一つも言葉区切らずに、
矢継ぎ早にかなたは喚きたてた。
そして願った。そうじろうがこなたの発言を否定してくれる事を。
加えて、母親である自分を”アレ”などと形容した事に対して叱責する事を。
だが、再びかなたの願いは儚く散った。
何度願っても祈りを捧げても、全てが無碍にされていく。
「こなた…どうしてそれを知ってるんだ?」
恐怖の色すら表情に漂わせながら、震える言葉でそうじろうは
かなたを絶望の底に叩き落していた。
『そう…くぅん…』
消化器官など今のかなたに存在しているはずもないが、
何故か吐き気が込み上げてきた。
勿論、吐瀉するような事はない。死んでいるのだから。
それでも、かなたが今感じている不快感は吐き気と形容するしかない類のものだった。
「友達の母親だからねー。
その人に相談された事もあるし。
ゆか…その人の家で、色々と情事に励んだんでしょ?
そんな事したら、普通勘付くって。
まぁ、向こうも娘にバレてるって事は、気付いてないみたいらしいけど」
親は隠しているつもりでも、子供は鋭い嗅覚でその隠し事を探り当てる。
到底隠し通せるものではない。
「…そうか。だが、これだけは信じて欲しい。
俺は…かなたを愛している。
確かに妻の居ない寂しさから、俺は過ちに走ってしまった。
向こうも、旦那が多忙を理由に相手してくれなくて、
愛情に飢えてもいたんだろう。
でもな、こなた、俺はかなたを裏切ったつもりは」
「だから、”アレ”に縛られてるって言ってるんだよ」
こなたはそうじろうの発言を遮った。
「もう充分”アレ”に対する義理は通したでしょ?
十数年に渡って、貞淑を守ってきたんだから。
もう、解放されてもいいんじゃないかな。
私もね、あの人のお母さんは知ってるよ。
優しくて、大らかで、娘思いの、いい人だよね。
あの人なら、私もお母さんって言ってもいいかな」
かなたは眩暈に襲われた。
もし生きていたのなら、このこなたの衝撃的な言葉によって意識は粉砕され
膝を折って気を失っていただろう。
死んでいるのが、つくづく恨めしかった。
そうじろうを繋ぎとめておく事はおろか、
残酷な現実から、意識のスイッチを切って逃避することさえ出来ないのだから。
「こなた、アレ、なんて言うのは止めないか。
お母さん、だろ?」
「アレ、って言葉が嫌なら、あの人、でもかなたさんでもいいけど。
だってお母さんっていう言葉は、お父さんの次の人の為に取っておきたいし」
「だがな、こなた。かなたは…本当に命がけでお前を産んだんだぞ?」
そうじろうの言うとおりだった。
こなたを宿した時、医者から言われていた。
「今の貴女の身体では、出産の際に命を落とす事にもなりかねない」と。
更に「そこまでリスクを侵してもなお、無事に新生児が誕生するとは限らない」とも。
それでもかなたは産む事を決断した。
どうせ自分は長生きなど出来ないだろう、
その時に一人残されてしまうそうじろうが哀れだった。
それに、そうじろうを一人残してしまうと、
もしかしたら別の女と新たな関係を築いてしまう恐れがあった。
死後もなお、そうじろうを繋ぎとめておきたかった。
だが、子供が居れば、それを軸にそうじろうと繋がっていられる。
そうじろうの再婚リスクを、極力減らす事ができる。
それは命を賭けるに値する事だった。
それほどまでにかなたのそうじろうに対する愛は深く、重いものだったから。
『あはっ、私、本当は信じてなかったんだ。
だから、子供でそう君を繋ぎとめておこうなんて、
欠片とはいえ思っちゃったんだ。これも罰、なのかな。
でもね、こなた…。
貴女に見せてあげたい世界もあった、感じてほしい幸せもあった。
それだって、命を賭けた大きな理由だったんだよ』
そう、かなたは単にこなたをそうじろうを繋ぐ為のツールとして見ていたのではなかった。
愛される事の喜び、こなたには産まれて生きてそれを知ってもらいたかった。
それを知らないまま、流されてしまう事はあまりにも悲しかったから。
だからこそ、かなたは命を賭けてまでこなたを産み落としたのだ。
結果、かなたの病状は悪化せず、こなたも五体満足に生まれた。
それから暫くしての事だ、かなたの病状が悪化したのは。
だから、こなたを出産した事と、かなたの夭逝には因果関係はないはずだ。
『いや、あるのかも。だって私、あの時…』
かなたは震える声で言葉を紡ぎながら、思い出していた。
こなたを産み落とす時、幾度となく心の中で反復させた言葉を。
(私は今後どうなってもいいから、この子だけは無事に生まれてきて下さい。
これが最後のお願いです。これ以上の事なんて、望みも願いも祈りもしません。
ですから、神様っ、どうかこの子だけは、無事に…)
『そういう風に、祈っていたんだよね。
そっか。神様はちゃんと祈りを聞き届けてくれていたんだ』
かなたは自嘲気味に笑った。
何度願っても祈っても通じなかったのは、既に祈りが通じていたからだったのだ。
そしてその時のかなたの言葉どおりに、それ以降のかなたの祈りが聞き届けられる事は無かった。
病状が悪化したときに治癒するよう捧げた祈りも、今さっき幾度も念じた願いも、
全ては聞き流された。
別に意地悪されていたわけではなかったのだ。
既に一生分の、いや死後の分の祈りも捧げていたが故の当然の話だったのだ。
『あはは、本当に私って滑稽だな。
そうやって、一生分の、死後の祈りすら犠牲にしてまで誕生させた我が子に、
今地獄に突き落とされようとしている』
全て犠牲にしてまで誕生させた我が子が、
自分とそうじろうの仲を引き裂く存在となって立ち塞がっている。
そのアイロニカルな展開に、かなたは思わず落涙しそうにまでなった。
ただ、かなたを嬲っているのはこなたではないだろう。
そうじろうの愛人でもない。
『私自身なんだ…。私自身があの時捧げた祈りの文句が、
今に至るまで、そして未来に渡って私を拘束し続けているんだ…』
過去の自分が、今の自分に矢を放っていたのだ。
けれども、まだ縋っていられるものはあった。
そうじろうだ。
こなたの発言を認めはしたものの、他者と関係をもった事を過ちだと断言した。
そして、今もなおかなたを擁護し続けている。
かなたは注意深くこなたに視線を向けた。
そうじろうの言葉に、どんな反応をするのか。
それを見届ける為に。
「感謝はしているよ」
何処か翳りを含ませた表情でこなたは笑うと、続けた。
「でもね、その事に縛られ続けるような事はしないんだ。
だってさ、私達は生きている以上、変わらなきゃいけない。
何時までも同じ場所に留まってられないよ。
同じ思いを抱え続けたまま、過去に拘束されたまま生きていく事なんて、
できやしないんだよ」
──行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず──
人は生きている以上、変化を続けていく。
それは容姿や社会的地位に限った事ではない。
人の想いも、長い時を経て色褪せ綻び、変わってしまう。
生きている以上───
ならば
『死んでいる私は…どうなるの?
変わらずそう君を思い続けているのに。
私は変わっていってしまうそう君を、誰かのものになってしまうそう君を、
見ている事しかできないの?
昔の…生前の想いに縛られ続け、変わることを許されないまま。
昔の…生前に捧げた祈りの文句に拘束され続け、
もう二度とどのような願いも聞き届けられぬまま…』
途方も無い絶望が、孤独な彼女を覆い尽くした。
そしてかなたは理解した。
これが、地獄なのだと。
死後の世界観には諸説あるが、その内の一つに地獄という概念がある。
かなたは今まで気付かなかった。
死後の自分に地獄が用意されていた事に。
そして今まで誤解していた。
地獄とは、場所を指すのだと思っていた。
実際には、地獄とは場所を指すのではなく、状況を指すものだった。
救いのない、苦痛をただひたすらに逃げ道無く受け続ける状況を。
「そう…か。確かに俺は、縛られ続けていたのかもしれないな。
死者にいつまでも。そろそろ、次のステップを刻むべき時に来ているのか」
そうじろうが、遂に落ちた。
自分から離れていくそうじろうを、かなたはただ見ているしかなかった。
「そ、早速だけどさ、再婚しちゃいなよ。
私も新しいお母さん、本音言うと欲しかったし」
娘の吐く残酷な言葉は、かなたの心を容赦なく刻んでいった。
「はは、そう簡単にはいかないんだ。
あちらの娘さんが、医大卒業するまでは離婚するつもりないみたいだし。
子供の事、全て片付いてからだな。新しい家族を作るのは」
そうじろうの悪意のない翻意も、かなたの心を仮借なく苛んでゆく。
「ふーん。じゃ、みゆきさんと姉妹の関係になるのはまだ先の話かー」
「でも、今できる事もあるぞ。新しい道へ進む決意を、形にする事がな」
そうじろうはかなたの写真を手にとった。
「これはもう、仕舞おう。これがあると、いつまでもかなたの事、
吹っ切れそうにもないからな。
今までありがとな、かなた。別にお前の事忘れるってわけじゃないんだ。
ただ、生きている以上俺は前に進まなきゃならない。
何時までも同じところに留まってなんて、いられないんだ。
…分かってくれ、なんて言わない。
恨んでくれても構わない。ごめんな、かなた」
そうじろうはそう言うと、名残惜しそうに写真立てを持ち上げた。
>>83-88 キリは良くないですが、そろそろ連投規制くらいそうなんで撤退します。
では。
皆さん、こんばんは。
いつもどおり本日分の投下です。
〜〜 柊かがみ 〜〜
かがみは腕を組んで仁王立ちになった。
知らない間に彼女はC組に戻ってきている。
みさおやあやのの姿はない。
ここにいるのは勇ましい恰好のかがみと、彼女をぐるりと取り囲む22人のこなただ。
ちょうど教室の中央に立った彼女は、目の前のこなたを複雑な想いで睥睨した。
「なんとなく分かってるわ」
まずはそれだけ言う。
さすがに妹と違って不可解な出来事に対してもうろたえず、状況を判断しようとする姿勢は姉として立派である。
しかしあまりに分が悪い。
どうもこの22人の泉こなたは彼女に対して好意的ではないようだし、包囲されている点もそうなるとマイナス要素だ。
「そのパラなんとかの恨みを晴らそうっていうんでしょ?」
ツリ目をさらにツリ上げたのは、危害を加えられてたまるかという気迫を示すためだ。
話は分からないでもないが、何もしていない自分――違う世界では加害者である――が狙われる謂われはない。
報復なら当事者同士でするべきであって、これでは迷惑極まりない。
「そんな意味のない事やめなさいよ。こんなことしたって何にもならないだろ?」
「私も……私たちもそう思うよ」
「私も…………」
右から左から、こなたが搾り出すように言った。
「でもそうは思ってもそれじゃ納得できないんだよ。私たちはまだ生きてるけど、いつ自殺に追い込まれるか分からない。
だからこの世界のかがみたちを殺してみて、この世界の”私”が死なずに済むか見届けたいんだ」
すまなそうに言っているが、内容はひどいものだ。
この世界の泉こなたが自殺を回避できるかどうか確かめるために、関係のない自分たちを殺そうというのか。
「……で、それでもしあんたたちの思い通りになったら?」
答えが分かっていてかがみは敢えて問うた。
みゆきには及ばなくても聡明な彼女は分かっている。
どうせこなたは落魄しながら、
「他の世界でも同じことをする。少なくとも今いる22人は助けられるんだ」
こう言うに決まっている。
「あんたはそう言うけど、この世界のこなたを私たちがどうこうするとは限らないんじゃない?」
かがみは強気だ。
何人集まろうと、相手はしょせん泉こなた。
理詰めで迫ればこの理不尽な状況を打開できる可能性は十分にある。
「私たちが自殺させるって100%言い切れるのか? これからのことなのに、分かるわけないじゃない。
あんたたちは最初から私たちが原因だって決めつけて、それ以外は考えようとしてないだろ?
前提からして間違ってるのに、こんな無茶苦茶なことが許されると思うか?」
ちょっと前までパラレルワールドという言葉すら知らなかったかがみだが、彼女は知ればすぐに理解する。
みゆきにも劣らない理論を展開してこのつまらない復讐劇をただちにやめさせるつもりだ。
並行世界が本当にあるのかどうなのか、という疑問はもはや吹き飛んでいる。
「言い切れないよ。もしかしたらかがみたちは関係ないかもしれない。そういう世界もあったから。
むしろ自分から死ぬ私もいたよ。臓器移植のためにさ」
「あれは感動的だったよね」
こなたが言い、こなたが相槌を打つ。
「だったら――」
「100%じゃなくて可能性があるんならそれを排除したい。それが私たちの考えなんだよ」
「……よくそんな勝手なことが言えるわね」
呆れているのか怒っているのかよく分からない顔でかがみが吐いた。
「とにかく仕返しならそっちの世界でやりなさいよ。私たちもそうだけど、こっちのこなただって迷惑してるかもよ」
「それはないよ。自分が死ぬのを防げるんだから喜ぶに決まってる」
「――あんたらしくないわね」
大勢を相手にかがみは一歩も退かない。
彼女は左右に群がるこなたに視線をやりながら、
「ワガママでいい加減で他人任せで。ゲームとかアニメばっかりのだらけた奴だけど、それがあんたの個性だったわ」
呟くように言った。
「腹が立つこともあったけど、いい友だちだと思ってた。意外と気がつくところもあったしね。
でもそう思ってたのは私だけだったってわけね?」
これは決別に近い。
数では勝るこなたたちは一斉に俯いた。
今の言葉に心を動かされたか、
「私も……できればこんなことしたくないよ……」
消え入りそうな声で言う。
「だってかがみもつかさもみゆきさんも友だちだもん。しなくて済むならこんなこと……したくない……」
「私も」
「私も」
あちこちで賛同の声があがる。
中には泣いているこなたもいる。
が、復讐劇を取りやめるつもりはないようだ。
「かがみはさ……並行世界のことだけど、最後まで私に味方してくれることが多かったよ」
「…………?」
「私がつかさやみゆきさんにいじめられても庇ってくれたり、家にまで見舞いにきてくれたり……。
そのせいでかがみが狙われることもあったけど私は嬉しかった……!!」
目の前のこなたが拳を握り締めた。
先ほどの言葉にウソはないのではないか、とかがみは思った。
ここにいるこなたたちは本当に仕返しすることを望んでいないのかもしれない。
そう思わせる口調だ。
「それに……それに私がかがみを死に追いやった世界もあったから……」
「…………あんたが?」
「”かみさまタウン”……って言っても分かんないよね。うん。とにかくそういうのがあったんだ。
あれは完全に私のせいだった。何もかもかがみが悪いわけじゃないんだ」
「………………」
「だからさ、私たちもかがみだけは死なせたくないって思ってたんだよ?」
神経を研ぎ澄ませているかがみは、こなたの微妙な言い回しに気付いた。
”死なせたくないと思っていた”
普通の過去形とは少し違う。
複数のこなたたちの間で想いが変遷していることを匂わせる表現だ。
「さっき言ったみたいな世界ばっかりだったら、みんなそうしてたと思う。かがみは私の味方だったから」
「それってどういう…………」
「そうじゃない世界も多いってことだよ、かがみん」
いつもの甘ったるい声で、舐めきったような愛称で呼ばれた彼女は身震いした。
内容の恐ろしさと呼び方とが噛み合っていない。
「かがみはね、私のことも庇ってくれるけど、でもやっぱり妹想いなんだよね。つかさを一番に考えてるんだ。
他人と家族は違うからさ、それは仕方ないとは思うんだけどね」
「………………」
「つかさを可愛がるあまりに私をいじめっ子に仕立てあげたり、洋館でヘンな儀式したり――。
かがみに追い詰められる世界ってほとんどはつかさが絡んでたかな」
こなたは遠い目をして言った。
(つかさを…………?)
妹想い、という点はどの世界でもほぼ共通らしい。
現にこの世界の彼女もつかさをとても大切に想っている。
「それで…………?」
厭な予感がした。
貶された後に褒められるのと、褒められた後に貶されるのとでは受ける印象が異なる。
こなたは最初、かがみを庇うような発言をした。
不毛な復讐劇に光明を見出せるかもしれないと、かがみは期待を抱いた。
しかし後になって続く言葉はその逆のもの。
かがみへの恨みが込められていることがハッキリと分かる。
「皆で考えたんだ。かがみは確かに私を助けてくれるけど、その逆の世界も多いから。他の世界ではどうなんだろうって」
「……どうなのよ?」
裏返った声で先を促す。
「今のところは半分半分ってところかな。善いかがみもいれば悪いかがみもいるって感じでさ」
「つまり泉こなたのうち、2人に1人はかがみんに自殺に追い込まれるってことなんだよ」
「………………」
くだらない確率の話などかがみにはどうでもよい問題だ。
彼女が気にしているのはひとつだけ。
この世界の自分は助かるのかどうなのか。
妹想いの彼女も今だけはつかさの安否は意識の外に置いている。
「だから残念だけど――」
目の前のこなたに集中していたかがみは、背後を固めるこなたたちが自分の両腕を掴んでいることに気付かなかった。
「じょ、冗談でしょ…………?」
視界に光る何かを認め、顔を引き攣らせる。
小学生に見えなくもない少女が持っているのは、どこにでも売っているようなカッターナイフだ。
「あ、謝るからっ! 私が悪いわけじゃないけど謝るからっ!!」
見てとれる凶器にかがみは嘆願した。
理論展開ではこなたの復讐心は砕けそうにない。
可能性の持つ不安定さや危うさを説いても、思考に幾分かの感情を含ませるこなたには届かないのだ。
ならば平謝りに謝ってみるしかない。
感情で迫るこなたには同じく感情で訴えるより他ないのである。
「約束するわっ! 私もつかさもみゆきも、絶対にこなたを死なせたりしない! あんたたちが観た世界みたいにはしない!
だからこんなことやめなさいよっ!! こんなことしたって何もならないでしょっ!?」
謝罪しているのか責めているのか、とにかくかがみらしく口舌を振るう。
両腕を掴まれているために逃れることはできない。
這い蹲って謝ることもできない。
わずかに残された威勢を翳し、プライドを保ちつつ下手に出てこなたのささくれ立った神経を慰撫するしかない。
しかしそれももはや手遅れである。
多少は逡巡を見せたこなたたちも、やはり目的はこの世界の自分を救うことで終始一貫している。
「い、いやっ……ちょ…やめな、やめなさいよッッ!!」
鋭い刃は喉元にピタリと押し当てられている。
反射的にかがみが顔を背けると、意図せず刃が薄桃色の皮膚を裂いた。
「…………ごめんね」
苦痛を与えたくないのか、こなたはひと思いにカッターを滑らせた。
熱い血が飛び散る。
立ち尽くすこなたと崩れ落ちるかがみとの間に、一瞬だけ交わされる視線。
「………………」
達成感はあったハズなのに、こなたの表情にはどこか翳があった。
〜〜 泉こなた 〜〜
泉こなたはいつものあのやる気のなさそうな目で、じっと黒板を見続けている。
3年B組。
少し前までここにいた3人はもういない。
つかさも、かがみも、みゆきも。
それぞれに場所を移され、別の世界の泉こなたによって既にその命を絶たれているのである。
身勝手で残酷に見えるその行動も、全てはこの世界のこなたを救うためである。
”あらゆる世界の泉こなたは自殺する”
この理不尽な法則を捻じ曲げ、逃れられない自殺という軛(くびき)から解放されるための作業に過ぎないのだ。
「………………」
ため息ひとつつかず、こなたは虚ろな目で時計を見やった。
午後4時を少し回っている。
今、この瞬間、彼女は生きている。
秒針が1秒間隔で正しく動いているのを認め、こなたは頬に手を当ててみた。
体温を感じる。生きていると実感できる。
(感謝……したほうがいいのかな……)
こなたは思った。
もし彼女たちが来なかったら、自分は既に自殺していたかもしれない。
1時間足らずで誰がどうやって自分を死に追いやるかは分からないが、その可能性がある世界である。
こなたごときには到底想像もできないような人格がかがみたちにはあって、その残虐性で以って自殺させるか。
あるいは予想もつかない設定があって、予想もつかない事故に遭い自殺に追い込まれるか。
一見すると突飛で飛躍しすぎる妄想でも、泉こなたの自殺に結びつく可能性は決してゼロにはならない。
パラレルワールドを見た時、彼女はその”可能性”の恐怖に取り憑かれてしまった。
たとえばつかさやみゆきが自分をいじめる世界。
ゆたかが悪辣な一面を覗かせたシーン。
クラス中が自分を嘲笑っていた時。
果てには父そうじろうがかなたを食み、自分をも喰らおうとせんとする瞬間。
それらひとつひとつの情景が、今なおこなたを苦しめるのだ。
「終わったよ」
聞き慣れない声にこなたがパッと顔をあげる。
教室の前後の入り口から、ぞろぞろと泉こなたたちが入ってくるところだった。
ああ、自分はこんな声をしているのか、と彼女は思った。
同時に男を誑かすような厭な甘え声だな、とも思う。
「これでこの世界の私は大丈夫だね」
嬉々とした笑顔で得意になるこなたは、前の入り口から歩み寄ってきた。
誰を殺ったのか、衣服は血に塗れている。
「みんな……死んだの……?」
訊ねたのはもちろんこの世界のこなただ。
「決まってるじゃん」
何をいまさらという顔で別の世界の彼女が笑う。
「あ、でもみさきちは助けたよ」
どこかでそんな声があがる。
「なんで?」
「だってみさきちは他とはちょっと違うし。いつも一緒にいる峰岸さんみたいな人じゃないからね」
「あ〜、あれはね。峰岸さんは確かにひどいよね」
「だからって見逃す必要はないと思うけどな。だってこっちの世界はどうなるか分からないし」
「私がいじめられてるのに、私が悪いみたいに言った世界もあったじゃん?」
「でも他に比べたら絶対にレアだって。つかさとかみゆきさんの比じゃないでしょ」
幾人ものこなたたちが聞き分けられない同質の声で言い合う。
一応この場では主役の泉こなたを放ったらかし、どのこなたが誰を始末したかで盛り上がっている。
その光景に彼女は今になって恐ろしくなった。
可能性の域を出ない自殺を止めるために、わざわざ方々から集って来た別世界の自分。
その足労を考えれば素直に感謝すべきかもしれない。
このこなたたちは命の恩人だと言えなくもない。
(………………)
しかし本当にそうなのか?
殺されかけたところを助けられたわけではないし、また命の危険を目前にしたわけでもない。
「うん…………」
口々に武勇を語るこなたたちに、この世界のこなたは適当に相槌を打ちながら考えた。
路を歩いていると、数メートル先に石が落ちている。
このまま進めばその石に躓いてしまうかもしれない。
だから躓く前に手にした金槌で叩き割ってしまう。
こうすれば石は砂礫に変わり、したがって歩行を妨げるものではなくなる。
しかし別の方法もある。
たとえば石を避けて歩けばそれだけで躓く心配はなくなる。
わざわざ金槌を取り出して壊す、という乱暴な手段を取らなくても危険は回避できるのだ。
また、石があると分かっているならそれを摘み上げ、邪魔にならないところに置き直すという手もある。
「………………」
並行世界のこなたたちがやったのは最初の方法だった。
石を避けようとも置き直そうともせず、ただ叩き割っただけなのだ。
(いくらなんでも…………)
という想いがこなたを襲った。
この野蛮な手段には、他の方法にはない利点がある。
再び同じ道を通る場合だ。
あらかじめ砕いておけば他日、そこを通る時に石に躓く心配はない。
しかし1回目に通る際に避ける、置き直すなどした場合には石そのものはなくなっていないからまた危険が生まれる。
可能性というあやふやなものを定まった未来と勝手に決めつけ、容赦なく叩き潰す。
(駄目だ、そんなの……だってかがみたちは何もしてないのに…………!!)
こなたは拳を握り締めた。
近しい者が自殺に追い詰める可能性があるというなら自分はこの先、誰とも接近できなくなるではないか。
(私の所為だッ!)
自分と同じ顔をした彼女たちの会話の中に、小早川ゆたかの名前が聞こえた。
(ゆーちゃんも殺されたんだ……。そうだよね、そういう世界もあったもんね……)
だが、この世界とは違う。
「ねえ、みんな」
意を決し、こなたは大きな声で言った。
途端にいくつもの眼光が注がれる。
「みんなのしてくれたことは嬉しいよ。私を助けようとしてくれたんでしょ?」
「そうだよ、そのために来たんだから」
「感謝しなくてもいいのだよ。その代わり他の私たちも助けてあげてね」
「そうそう」
やはり彼女たちは多くの命を奪ったことに微塵も罪悪感を持っていないようだった。
むしろ自分の分身を守り抜いたと誇っているようにも見える。
「でも、やっぱりよくないよ、こんなの。だって私は生きてるし……かがみもつかさも何もしてないじゃん……」
凛として弱々しい声。
しかしこの泉こなたが一番言いたかったのは、
「――間違ってるよ」
これだ。
その言葉にこなたたちの顔つきが変わった。
「なにそれ? 何が間違ってるのさ?」
自分たちは正しいことをした、と口々に喚くこなた。
その様を見てこの世界のこなたは思う。
”これは自分ではない”
パラレルワールドでのつかさやみゆきの性格が歪んでいるように、このこなたたちもまた歪んでいるのだ。
少なくともここのこなたは平気で人を殺めたりはできない。
(そうだよ…………!!)
気付いたのだ。
こんな暴挙を、いくら数を恃みにしているからといって喜び勇んで行うハズがない。
(最初は仕返しって聞いて、それもありかなと思ったけど……こんな残酷なやり方なんて望んでないっ!)
勝手な思考の変遷だった。
当初はこのこなたも、並行世界の自分たちの到来を待ち侘びていたハズだった。
あちこちで自殺する自分を見た後のことだ。
仕返しに来てくれたことに何の疑問も抱かずに迎え入れた。
それが今になって後悔に結びつく。
かがみも、つかさも、みゆきも、ゆたかもいない。
そういう世界で生きていくことに意味があるとは思えない。
そもそもこれで自殺の種が完全に断ち切れたとは限らないのだ。
「………………」
そう考えれば今回の件は全くの無意味。
親しい者の命を奪っただけの陰惨な事件でしかなくなる。
「ねえ…………」
こなたは泣いていた。
「せっかく来てくれたからさ、ひとつだけ頼みを聞いてほしいんだ」
そう言って各々の顔を順に見渡す。
当たり前だがみな同じ顔だ。
「私を――殺してくれないかな」
「…………ッ!?」
「…………ッ!?」
全員の顔つきが変わった。
先ほどまで誹ってさえいた泉こなたたちが、ぽかんと口を開けて彼女を見ている。
「ほら、かがみたちにやったみたいに私にもさ…………」
ふざけているのではなく。
彼女にしては実に真摯で、静かな口調での依頼だった。
「な、なに言ってんの? 何のために私たちが来たと思ってるの?」
「そうだよ。やっと私が自殺しない世界ができたと思ったのに」
「意味分かんないよ」
当然のごとく、彼女たちは狼狽する。
自殺を防ぐためにやって来たというのに、その危機が去った途端、殺してくれでは筋が通らない。
それこそ意味がなくなってしまう。
「いいんだ。お父さんには悪いけど、みんな死んじゃったのに私だけ生きてなんていられないよ」
しかしこなたは真剣だ。
かがみたちが殺された責任は悉く自分にある。
何ら罪を犯していない彼女たちを死なせておいて、のうのうと生きられるほど厚かましくはない。
「ちょっ、考えなおしなって。それじゃ意味ないじゃん!」
「いいからっ!!」
覚悟を決めたこなたは一切の反論を許さない。
「私はどの世界でも自殺するんだよね? それを止めるために皆が来て、かがみたちを殺したんでしょ?
だからもし私が今、自殺しちゃったら皆がやったことは無駄になる。そうでしょ?」
「………………」
「無駄になるのは皆がやったことだけじゃない。かがみたちが死んだことまで無駄になっちゃう。
私はそれが嫌だから殺してほしいって言ってるんだよ」
複数のこなたたちは何事か囁き合っている。
ちらちらとこちらの世界のこなたを横目で見やりながら、芳しくない相談事をしているようだ。
やがてそのうちの1人が、
「なんでそんなこと言うの? っていうか何が気に入らないの?」
なじるような口調で言った。
「こんな世界で生きていたくないんだ。私は自殺せずに済むかもしれないけど、じゃあかがみたちは?
つかさやみゆきさんはどうなるの? 生きてるだけで他に何も意味がないじゃん」
こなたはため息混じりに小さく怒鳴った。
並行世界の彼女たちは自殺を防ぎに来たのかもしれないが、ただそれだけだ。
他の一切に構わず、ただこの世界の泉こなたを生かすためだけに凶行に及んだに過ぎない。
「いらないよ、こんなの。ゆーちゃんまで巻き込んで……私だけ生きられるわけないじゃんか――」
最後のほうはほとんど悲嘆だった。
もはや怒りよりも嘆きのほうが強い。
「せっかくいろいろ考えてやったのに――」
当てつけがましい息遣いが四方から漏れた。
憤怒ではなく失望の念が教室の中をぐるぐると駆け巡る。
「なんかさ、この子って私たちとちょっと違う感じだよね」
「うんうん」
仲間外れになったこなたを嘲笑うように、彼女たちはひそひそと言葉を交わす。
(一緒にして欲しくないよ)
ようやく異端視されたことにこの世界のこなたは妙な安心感を得る。
人として認められたような気さえする。
こなたは自分の机からカッターナイフを取り出した。
もちろん自殺するためにと用意したものではなく、工具としてしまっておいた物だ。
「ちょっ、何するのさっ!?」
何人かが踏み出した。
「来ないでッ!!」
こなたが叫ぶ。
「私は本気だよ!」
刃先を喉にあてがう。
「自分で死ぬなんて怖いと思ったけど、もうなんともない! みんないなくなって私だけ生きたくない!」
「やめなって!」
「そうだよ! きみに自殺されたら私たちが来た意味がなくなるじゃん!」
「だったら早く殺してよ!!!」
再びこなたの怒声。
頭数だけ揃っているこなたたちはみな一様に立ち竦んでいる。
「殺してくれないなら自分で死ぬよ!! 私を自殺させたくなかったら早く殺してよッ!!」
妙な命令を下す。
自分を殺してくれなければ自殺する。
どちらにしてもこの世界のこなたを待つのは死しかない。
しかしその方法として与えられる2つの両極端な過程には、あまりに大きすぎる差があるのだ。
「………………」
「………………」
「………………」
数名のこなたが頭を交えて相談を始めた。
自棄になったと思われるこの指示を受けるか受けないか。
実行すれば他殺となり、躊躇わば自殺される。
ひそひそと言葉を交わす彼女たちを、こなたは冷やかに見つめていた。
答えは分かっている。
彼女たちがどんなに悩もうがどんなに時間をかけようが、最終的にとる方法はひとつしかない。
それが分かっているからこなたはもうこれ以上、急かしたりはしない。
――結論が出たようだ。
おもむろに顔をあげた並行世界のこなたたちは、果物ナイフやカッターナイフを手にする。
身近にあって殺傷能力があるものといえばこれくらいしかない。
「殺してくれるんだね?」
刃先を喉に突きつけたままこなたが問う。
「嫌だけど……しかたないよ……」
「自殺されたら困るもん」
口々に洩らされる諦めの言葉。
「そうだよね。私に自殺させるわけにはいかないもんね…ハハ……アハハ……アハハハハハッッ!!」
こなたは笑った。
大声で笑った。
喉の奥に焼けるような痛みが走っても、彼女はなお嗤い続けた。
彼女たちが下した決断は必然。
かがみやみゆきには到底及ばないこなたの頭脳でも、これくらいのことは分かる。
並行世界からやって来たこの泉こなたたちは、自分を自殺させないために動いた。
が、最終的な目標はそれではない。
これはあくまで足がかりなのだ。
彼女たちの狙いは、”泉こなたを自殺させないこと”ではなく、”泉こなたが自殺しない世界を作ること”にある。
たとえ1人でもいい。
自殺しないこなたが存在する世界を構築すれば、他のパラレルワールドでも泉こなたが自殺せずに済む可能性が生まれる。
しかしながら彼女たちが認知する世界では泉こなたは必ず自殺する。
仮に死ななくとも”自殺を図った”事実は絶対に残る。
それも多くが成人する前にだ。
となれば今、ここに集った彼女たちも例外ではない。
時間がないのだ。
「ほら、早くしてよっ! 早くしないと自殺するから!!」
急かすようにこなたは殊更に自殺という言葉を強調した。
もしここで自殺されれば、泉こなたを待ち受ける悲惨な末路がまたひとつ完成してしまう。
彼女たちはそれをただ恐れた。
覚悟を決めた1人が腕を振り上げた。
指を少しだけずらしてカッターをしっかりと握り、躊躇うことなく振り下ろす。
斜めに視界を遮った銀光は、眼前の泉こなたの喉笛を綺麗に掻き切った。
数秒遅れて迸る血しぶきに、こなたは満面の笑みを浮かべる。
「………………」
自らの血液が作り出した池に身を横たえ、こなたは小さく息を吐いた。
(これって自殺じゃないよね……殺されたん……だから……自殺じゃない…よね……。
あ、でも殺したのは私なんだったら……やっぱりこれ…も…………自殺になるのか……な…………)
激痛すら感じなくなったこなたは考える。
泉こなたは自分に殺されたのか、それとも泉こなたは自分を殺したのか。
しかし薄れゆく意識の中、この泉こなたが最後に想ったのは――。
(ごめん、ね……みんな……ほん…と…に…………ご……め…………なさい…………)
今は亡きかがみたちへのしてもし足りない謝罪だった。
直後、頭上から数本の刃が何度も何度も突き立てられた。
中途半端に生かさないように。
殺し損ねて自殺されないように。
非情な彼女たちは手にした凶器で無数の風穴を空けた。
鉄錆の臭いが鼻腔にまとわりつく。
何度も嗅いだハズなのに、この臭いだけは彼女たちを不愉快にさせた。
誰あろう、これは彼女たち自身の血液なのだ。
すでに黒く変色をはじめた血糊はべったりと、しがみつくように教室の床に広がり伸びている。
そのちょうど真ん中に沈む少女。
同じように黒く染まる制服はこの床と一体となりたいのか、継ぎ目継ぎ目で凝固が進んでいる。
「ど、どうしよう……?」
一撃を与えたこなたが返り血を浴びた服を見せながら問うた。
「どうしようって、もうやっちゃったことは仕方ないし……」
「放っておいたら自殺されるところだったんだもん。これで良かったんじゃないかな」
励ますように何人かが呟くが、その声も弱々しく頼りない。
相手がつかさやみゆきならこのように罪悪を感じずに済んだ。
彼女らは多くの世界で泉こなたを虐げ、自殺に追い込んできたからだ。
が、このケースだけは違う。
いくら”泉こなたの自殺を防ぐため”とはいえ、その当人を殺害してしまっては後味が悪すぎる。
「………………」
泉こなたの自殺を防ぐ方法が、自殺してしまう前に彼女を殺害する、とはなんという皮肉か。
「――大丈夫だよね?」
誰かが言った。
「これって自殺にならないよね?」
誰かが付け足した。
こなたたちの顔が凍りつく。
「大丈夫……大丈夫だと思う。だってあれ、自殺じゃないし。ねえ?」
「そうだよね。私たちが殺したんだし。自殺じゃなくて他殺だよ」
「うんうん」
「でもさ、殺したって言っても、”私”だよ?」
「あ……うん……それは、ね…………」
「私たちが私を殺したのって自殺? 他殺?」
「………………」
「もしかしたらこれも自――」
「自殺になっちゃうかも……」
「ちょっと、ヘンなこと言うのやめようよ!」
分裂しかけたこなたを止めたのも、もちろんこなただ。
同じ体躯、同じ趣味、同じ思考のために自然、議論もひとつの方向に進みだすと止まらなくなる。
その悪循環は1人のこなたによって何とか食い止められたが、しかし湧き上がる疑念は拭いきれない。
生ぬるい風が吹きこんできた。
それが埃を舞い上げ、同時にまだ乾ききっていない血液の臭いを教室中に遍(あまね)く運ぶ。
これは自殺か他殺か。
無言のままに泉こなたたちは互いに視線だけでやりとりし、この不毛な議論を決着させようと試みる。
しかし発音を伴わない意見の交換は、彼女たちの思考をどんどんと深みに落としていく。
(みゆきさんならなんて答えるかな?)
前から7番目のこなたがふと思う。
今や敵であるみゆきに対してそういう期待を抱くこと自体、驕慢で烏滸(おこ)がましいと彼女は気付かない。
そもそもその高良みゆきを害したのも彼女である。
「もうこんなこと考えてても仕方ないよ」
誰かがパッと顔をあげて言った。
口調は明るく、新しい深夜アニメを目前にした時のような溌溂さがあった。
「とりあえずこれは自殺じゃないって。そういうことにしてさ!」
入口あたりにいたこなたが自分たちを掻き分けて教室の中ほどに躍り出る。
「次に行こうよ! ここには……まだ20人くらいいるじゃん! だから最低でもそれだけの私は助かるんだよ?」
「そ、そうだね……!」
「うんうん」
鼓舞されたか、場の雰囲気に倣うようにこなたたちは次々と頷き合う。
支援
「他にも知らない世界があるかも知れない。その世界での私はまだ生きてるかもしれない。
こんなところで立ち止まっててもしかたないよ!」
自分が関心を持つものに対しては、他を蔑ろにしてでも追求するのが泉こなたの性質だ。
「そうだよ! 次に行こう!」
「だね。ひとりでも多くの私を助けるためだもんね」
拳を突き上げ、泉こなたたちは揃って喚声をあげた。
陰鬱な教室に渦巻くそれは勝ち鬨の如くに鳴り響く。
鼓舞するように声はどんどん大きくなる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
不意にその熱が冷める。
不安があった。
自殺への肯定も否定もできない世界に出会わし、彼女たちが捻り出した理論が崩れるかもしれない恐怖だ。
自分は――。
少なくともここに集った自分を守ってみせると、それぞれのこなたが想う。
そう強く決意した後、視線を落とせばそこには無惨な姿で息を引き取った自分がいる。
これは果たして自殺か他殺か。
永遠に分からない。
自殺を肯定することが他殺を否定することにはならないし、自殺を否定することが他殺を肯定することにもならない。
だから誰にも答えは出せない。
みゆきでさえも散々に逡巡した挙句、名答を避けるだろう。
「――――――ッッ!!」
示し合わせたように血溜まりを俯瞰する。
ほとんど床の一部になりかけている血液はそれ以上広がろうとはせずにゆっくりと浸透し、間もなく凝固する。
生と死の境を肉眼で確認できる瞬間だ。
「ほ、ほら! もうここには用はないんだしそろそろ…………」
明るいが覇気の伴わない声。
「そだね、うん。別のところ行こうよ!」
空回りする明朗な口調。
「今度こそ助けよう!!」
虚しい檄。
それから不安を吹き飛ばすように大声で笑う。
ここで立ち止まってなどいられない。
行動が1秒遅れれば、それだけで助かるハズの命が助からなくなることだってあるのだ。
「さ、モタモタしてないで次、次っ!!」
こなたが口の端をくるんと丸めて叫ぶ。
――湿った教室に乾いた笑みがいつまでもいつまでも木霊した。
終
これで完結です。
最後までお読みくださりありがとうございました。
このSSを書くにあたっては、多くの他作品を引用させていただきました。
英邁なるS作家諸氏にも併せてお礼申し上げます。
支援くださった方、ありがとうございます。
>>102 誤字訂正。
S作家 → SS作家
104 :
デフォ北:2009/03/29(日) 22:34:29 ID:65fSS1wN
>>102 乙です!
一般の刑事ドラマの自殺と他殺を判定するよりも遥かに難しい、
というか読者各々の意見が交錯する解答のない非常に考えさせられるSSでした
こなたがかがみ達を責め立てるシーンは、
間接的に書き手達もじわりじわりと責め立てられているようで、
以前自分の操ったキャラクターに罪悪感すら湧いてしまいました
各キャラクターの性格もきっちり生かせており、
流石JEDIさんと思える程に素晴らしいSSに仕上がっていると思いました
>>104 ありがとうございます。面映い気持ちです。
この種の手法はどう受け取られるのか心配しておりましたが、ほっと安心。
デフォ北さんのSSも拝借しました。
こうしてみると泉こなたが自殺を図った回数のなんと多いことか。
もう出尽くしている感があるのに、今でも思いつく自殺の経緯。
今度は少し文体を変えてみようかなと想います。
>>102 お疲れ様です。
最後は流石でしたね。非常に皮肉の効いた結末でした。
自殺するという悲劇を食い止めはしたものの、
殺害されるという新たな悲劇が生まれてしまった…。
可能性の分岐は拡がったけど、
所詮は自殺しかない世界に惨殺されるという可能性の世界(=パラレルワールド)が
創生されたに過ぎない。
悲劇の種類が違うだけで、悲劇的な最後に見舞われる結末は未だ健在なわけですね。
とても面白く、また懐かしい作品でした。
名作のご提供、有難うございます。
>>104 >こなたがかがみ達を責め立てるシーンは、
>間接的に書き手達もじわりじわりと責め立てられているようで、
>以前自分の操ったキャラクターに罪悪感すら湧いてしまいました
分かる気がしますw
てかですね、俺があの二つ書かなかったら、あのキャラ助かってたんじゃないのかなー、
と思ったり思わなかったり。
死に至る隘路のみさおが免罪されてるから尚更。
さて、自分も続きます。
>>83-88の続きです。
『謝らないでよ、そう君。恨んだりなんて、絶対しないから』
しない、というよりも出来なかった。
それほどそうじろうに対する愛は重く、深い。
どのような仕打ちを受けたとしても、絶対に彼女の愛は揺らぐ事はない。
何があっても彼女だけはそうじろうを許すだろう。
例え他の女と褥を共にしようと、所帯を持とうと、
そうじろうの幸せを思い続けるだろう。
ただ、それはあくまで”そうじろうの幸せ”であって、
”新しい家庭の幸せ”ではない。
『でもね、そう君を誑かした売女だけは、絶対に許せない。
もし呪い殺す事ができるなら、ありったけの怨念を込めて呪い殺すのに』
「殺す」「売女」など、普段の心優しきかなたならば、絶対に口にしないであろう言葉だ。
それだけ嫉妬の炎はかなたの心を焦がしていた。
ただ、それ故に写真立てを仕舞ってくれる事に幾ばくかの安堵を覚えてもいた。
自分が見ている如き外観を呈するような状況下で、
そうじろうと新妻が仲睦まじく寄り添う事など絶対にして欲しくはなかった。
今でさえ気が狂いそうな程の嫉妬が胸中漲っているのに、
その残酷なシチュエーション下では本当に発狂してしまいかねない。
口汚く罵倒の言葉を投げ続ける自分の醜い姿が、容易に脳裏に浮かぶ。
『私だって、これ以上穢れた嫌な女になりたくないし、ね』
かなたは、一抹の寂しさを込めて呟いた。
その独り言を呟き終わるのとほぼ同時に、
「待ってよ、お父さん。それって、本当に新しい道を進む決意とやらなのかな?」
かなたの感傷を切り裂くような鋭い声が、娘の口から飛び出ていた。
『こなた?』
何を言い出すのか、そう言いたげに視線をこなたに流した。
その瞬間、かなたに漠然とした不安が駆け巡った。
何故か、愛する娘の顔が酷く冷たいものとして映ったのだ。
「それって単なる裏切りだと思うな。
疚しいところなんて無いんだからさ、新しい家族、お母さんに見せてあげるべきじゃないかな?」
『こなた…何を言っているの?』
かなたは失望の目で我が娘を見た。
『そんな見せ付けられるような真似、私が望むわけないじゃない…。
そう君が売女を愛するところも、
こなたが私以外の人間を母と呼ぶようなところも、決して見たくないのに。
こんな事も、こなたは分からないの?
親の心子知らず、ってやつね。本当、もどかしいよ』
語調こそ責めるような強気な体裁を取り繕っていたが、声は震えていた。
先ほど瞳に映ったこなたの冷たい表情が、
何故か脳裏に纏わりついて離れないから。
「こなた、しかし…見せてしまうのは失礼じゃないのか?」
頭に焼きついたこなたの表情に震えていたかなたに、
泡沫の希望を与えたのはそうじろうだった。
そう、泡沫の。
『そう君、やっぱり分かってくれるんだ…。
そうだよね、私に対して酷く失礼な行為だよね』
頼もしげな視線をかなたはそうじろうに送った。
自分の事を分かってくれるのはそうじろうしかいないのかもしれない、
だが、一人でも居ればかなたには充分だった。
そうじろうだけでも自分を理解してくれるなら、
それだけで彼女は満足だったし、充分希望も持てた。
ただ、その希望は泡沫でしかない。
水面に浮かび、水流のちょっとした変化で弾け飛んでしまう儚い希望。
実際、
「失礼?」
「そうだ。ゆか…あの人に対して失礼なんだよ。
亡き妻の写真立てを部屋に飾っておいたりなんかしたら、
気分害するだろう。昔の女と私、どっちが大事なの?って感じに」
かなたの満足も希望も、儚く弾けて飛んだ。
『そう君…失礼って、その売女に対してなの?
そもそも失礼なのは、私の伴侶に手を出したその泥棒猫なのに…』
期待とは違う真意が、かなたを失意の底へと誘う。
だが、そうじろうの発言を何度も反芻している内に、かなたはある事に気付いた。
そして気付いたと同時に、かなたを暗く深い絶望が覆い尽くしていった。
『そうか…。もう、”私の肯定者”では居てくれないんだね…。
もう、その売女の味方なんだね…』
そうじろうの発言は、ゆかりの側に立った意見だった。
かなたに対してではなく、ゆかりに対して失礼だと、
ゆかりの心情をより重視した趣旨の発言だったのだから。
そしてそれは、そうじろうの発言の中にあった「昔の女」という言葉にも如実に表れていた。
言うまでも無く、かなたの事である。
『嫌っ。嫌だよ、そう君。私やっぱり、嫌だよ。
そう君にそんな風に扱われるなんて…嫌だよ。
いっその事嫌いになれたら…残酷なそう君の事、いっその事憎むことさできたならっ』
誰にも聞こえる事の無い慟哭をかなたは放った。
その瞳から、絶望を液化させた雫を降らせながら。
それでも、写真立てを仕舞ってくれるのならまだかなたは救われたかもしれない。
ただ、その救済の蜘蛛の糸でさえ、娘の放つ言葉のナイフが切断しようとしていた。
「失礼かなぁ?あの人大らかだから気にしないと思うけど。
むしろ前妻の遺影があったほうが、気張るんじゃないかな。
それにさ、お母さん…元お母さんだね、元お母さんだって、
新しく築かれた幸せな家庭を見たいって思うはずだよ。
見せて安心させてあげようよ、私達は元気にラブラブやってますって」
『貴方に私の何が分かるの?私と大した年月過ごしていない子供がっ。
でも、そう君は違う。そう君なら、分かってくれるはず…』
愛は人に学習させない。
愛は人を盲目的にさせてしまう、だから、
愛によって失敗しても人はそこから学べず、成長できない。
何度も同じ過ちを繰り返してしまう。
次こそはと、期待してしまう。
かなたも例外なくその道を辿っていた。
この1時間にも満たないそうじろうとこなたの会話の中で、
悉く期待が裏切られてきた。
それでも、また期待してしまった。そうじろうなら分かってくれるはず、と。
そして愛に憑かれた盲いた愚者は、
「そっか、そうだよな。こなたの言うとおりかもな。
これ、片付けるの止めるよ」
またしても裏切られた。
『そうくぅん…』
がっくりと、かなたは肩を落とした。
そうじろうは写真立てを元の場所に置くと、
写真の中で笑っているかなたのイドラに向かって語りかけた。
「かなた…聞いたか?こなたは立派に成長しているよ。
俺さえ汲めなかったお前の意図、しっかり汲み取っちゃったりさ。
本当に、良かったよ。お前も安心できただろ?」
そうじろうの顔は、亡き妻に娘の成長を報告する夫の表情だった。
『違うっ。私の意図なんて、汲み取ってくれてないよ…』
「そ、そんな。止めてよ、お父さん。照れるなー」
「謙遜する必要は無いさ。俺も嬉しいし、かなたも天国で喜んでくれているさ」
『天国には居ないし、喜んでもいないよ…』
そうじろうに、何一つとして思いが通じない。
その虚しさに、かなたの精神は崩壊寸前のところまで追い詰められていた。
もし生きていたのなら、確実に発狂していただろう。
それで救われていただろう、だが死者に救済はない。
狂うこともできない、勿論死ぬ事も。
「てかお父さん、そろそろ出かける時間じゃない?
取材旅行、お土産よろしくね」
「お土産っていっても、伊豆に1泊2日で行って来るだけだぞ?
伊豆土産でお前が欲しい物なんて、あるのか?」
「ウナギパイ。夜のお菓子だから、
どちらかと言うとお父さんとゆかりさんの為かなー?」
『ふざけるな…』
「ばっ、こらこなた、大人をからかうんじゃありませんっ。
全く…。あ、そういえばゆーちゃんが岩崎さん家から帰ってくるの、明日だったか?」
「そ。春休みのお泊りでお勉強会とは、まだまだ高校生活が続く人はいいねー。
だから今晩は私一人だね。ま、ゆっくりしてきなよ」
「ああ。あ、そうだ。戸締りには気をつけるんだぞ?」
「分かってるって」
一人娘のこなたを置いて、そうじろうは出かけていった。
かなたはただ茫然自失の体で見送る事しかできなかった。
*
「さってと、お母さん…もとい、元お母さん」
そうじろうが家を出て、20分程も経ってからだろうか。
こなたの語りかける声が聞こえ、かなたは目を向けた。
まさか自分が見えているのだろうか。
死者であり、幽霊と形容すべき今の自分を、認識できているのだろうか。
その疑念が心を過ぎったが、思い過ごしでしかないらしい。
こなたはかなたではなく、写真立てに飾られたかなたに向かって話しかけていたのだから。
『そっちに私は居ないよ…。いや、私が行けばいいのか』
かなたはふわふわと飛んで、写真立てに重なるように身体を移動させた。
物理的存在ではないから、物質と重なる事ができる。
ただ、この家から遠く離れる事はできないが。
それ故に、そうじろうとゆかりの逢瀬を見逃していた。
「ねぇ、元お母さん。今、どんな気持ち?」
『こなた…?』
その質問がこなたの口から飛び出た事に、かなたは驚いていた。
私が嬉しがると思って、そうじろうに写真立てを置いたままにしておくよう
提案したのではないのか、と。
「お父さんがあっさりと昔の女捨てて新しい女性に走っちゃって、
どんな気持ちかって聞いてるんだけど?
…って、答えるわけないよね。いいよ、自己満足だから。
どうせ死んだ後に訪れるのは、無だ。
無でないのなら、聞いてよ」
『無であれば、どれだけ良かったか…』
昔は無を恐れていた。人間ならば誰もが根源的に抱く恐怖だ。
それともう二点、こなたの成長を見ることも叶わず、
そうじろうとの記憶も喪失してしまう、それも恐ろしかった。
ただ、今では無であれば気楽だったと思っている。
何も感じず、考えることもないのならば、ここまでの苦痛を抱く事は無かった。
もう、この先永遠に自分の祈りが通じる事は無い。
自分が認識していく時間軸上の全ての願いを放棄する事によって、
こなたを誕生させたのだから。
それ故に、もう希望は未来永劫訪れる事は無い。
だったらいっそ、死んだ時に無が訪れてくれれば良かった。
そう切にかなたは思った。
「お父さん、あっさりと私の言う事聞いたね。
お父さんは、私には弱いから。元お母さんと私が被るのかな?
それとも、たった一人の子供だから?
どっちでもいいや、何れにしてもこれで、目的は果たせた。
人間に霊魂がなく、死んだ後に訪れるのが無であるのならば、
徒労に終わっちゃうんだけどね」
『何を言っているの?』
こなたの言っている事の意味が、かなたには理解できなかった。
こなたの言う目的、それが何であるのか明らかにならないうちは、
理解しようもない。
「私が何をしたかったか、分かるかな?
元お母さんに、苦痛を与えたかったのだよ」
『えっ…?』
それが目的だというのだろうか。だとしたら、何故苦痛を与えようなどと思ったのだろう。
動機がさっぱり見えてこない。
ただ一つ言える事は、実の娘に陥れられた、という事だけだった。
その事実だけでもかなたを苛むには充分過ぎたが。
「お父さんに捨てられ、そしてその眼前には新しい妻との幸せな日々が展開される。
その苦痛を味あわせる為に、言を弄してお父さんを再婚へと導いたんだ」
『何で…そんな事…。私は貴女を産む為に、どれほどの犠牲を払ったか…。
それなのにどうして、そんな仕打ちを…』
かなたが払った代償など、こなたに分かるはずもないのだが、
言わずには居られなかった。
「お父さんがみゆきさんちの叔母さんと恋仲になっていたのは僥倖だったよ、
それで今回の復讐思いついたんだから。
情報を私に流してしまったみゆきさんにも感謝しないとね」
『復讐?私に何か、恨みでもあるの?』
かなたに思いつくのは、精々母親が居なくて寂しい思いをした、
という程度のものだった。
『その程度で、ここまでの仕打ち、するのかしら…。
あ、まさか母親が居ないという事が原因で、虐めにあっていたとか』
かなたはその可能性に思い至った。
マジョリティから外れてしまった者に対する容赦のない攻撃、
それがこの国では…否、この星の上では行われている。
LuckyStar幸運の星、この地球という名の星で差別を受けない身分として生まれる事に勝る幸運など、
果たしてあるのだろうか。
「私はね、お母さん。小学校の頃、虐めを受けていたんだ。
母親が居ない、という一点でもってね。
虐めというよりは、からかいと言った方が正解かもしれないけど」
『やっぱり…。ごめんね、こなた』
謝罪はしたものの、釈然としない思いはまだ胸に残っていた。
それだけだろうか。それだけが、ここまでかなたの心を追い詰める行為に及んだ理由だろうか。
「その後ね、中学校に入学したよ。でも、中学校ではもう虐められなくなったな」
こなたの話には、続きがあった。
「ただ、腫れ物を触るような扱いを受けたよ。
小学校時代に私を虐めてた人達も、その時になって罪悪感でも覚えたのか、
私には何もしてこなくなった。腫れ物を触るように慎重に、
爆発物を扱うようにおっかなびっくりと、私に接していたよ」
こなたはそこまで言うと、目を細めた。
回想に耽るように。
かなたは注意深く聞いていた。
既に先ほどまでのやり取りで、心はキャパシティを超えた苦痛に責め尽くされていたが、
それでも大切な娘の話だ、じっと堪えていた。
例えその娘の策略によってこの地獄という状況が招来されたものだとしても、
愛すべき娘である事に変わりはない。
それに、根本的な原因はこなたを産むときに捧げた祈りにあるような気もしていたから。
人の好いかなたは、地獄を招来したのは自分自身だと解釈していた。
「だから、かな。結局誰とも打ち解ける事ができずに、
中学時代は過ぎていった。中学時代の友達、ゼロだよ、ゼロ。
高校では中学校時代の話に触れられるのが何よりも苦痛だったな」
こなたは訥々と語っていたが、突如として声を張り上げた。
「そう、高校っ。そこでやっと私は、友達ってものを手に入れられたと思ったよ」
まるで、手に入れたと錯覚していただけだ、とでも言いたげな語調だった。
「でもね、つい最近気付いたんだ。結局かがみ達…友人達の事だけど、
彼女達は私の事を友人と扱ってなんかいなかったって事。
物心つく前に母親と死別した、可哀想な人としてしか私を見ていなかった。
結局、友達っていうのは私の独りよがりに過ぎなかった。
それを知ったのも、高校3年生の2学期も終わりに近づいた頃だったけどね。
果たして私は幸せだったのかな。虚構だったとはいえ、
友情に高校生活のほぼ全てが満たされていた私は、幸せだったのかな?
幸せだと言えるのかもしれない、友達一人もいないまま
高校生活を終える事に比べれば、幸せだと言う人が居るかもしれない。
確かに私もね、騙されている間は幸せだったよ。
優しくて聡明なみゆきさん、抜けてるけど可愛く思いやりのあるつかさ、
ノリが良くて世話好きなかがみ、そういった友人達に囲まれて、
私は産まれて初めて幸福だと思っていたよ。
中学までは貴女の事を恨んでた、勝手に産んで、
勝手にさっさと死んだ貴女の事を恨んでいたけれど、
高校生活で初めて友情ってヤツに触れて、その時初めて…
初めて産んでくれてありがとうって思った。
でも…その分、友情が虚構だって気付いた時には反動が大きかった…」
かなたにはその気持ちがよく分かった。
自分自身、永遠の愛を誓ったと信じていたそうじろうの翻意に、
先ほど深く心を抉られたばかりだ。
「何で気付けたかというと、偶然聞いちゃったんだ。
かがみ達が私に対する不満をぶち撒けてるのをさ。
放課後、誰も居ない教室で私に対する罵言で盛り上がってたよ。
空気が読めないだの、人の都合を無視して振り回すだの、
散々な言いっぷりだったな。初めは辛くて涙が出そうで、
かがみ達の事恨みそうになったけど、
私に取って彼女達が初めての友人付き合いだったから、
きっと思いやれなかった部分が多々あるんだろうなー、って反省しかけたんだよ。
その矢先だった、あの辛辣な言葉が飛び出したのは」
こなたはそこで言葉を切ると、声質を変えながら続けた。
「でもアイツは母親が居ない人間だから、欠陥があるのは仕方ない。
お母様がいらっしゃらないのですから、多少は大目に見て優しく接してあげませんとね。
でもそれももう少しの辛抱だね、卒業しちゃえば関わらなくていいし」
その時の彼女達の声を再現するように、器用に三種類の声質を操っていた。
『こなた…』
その健気な姿に、思わずかなたは声を漏らしていた。
慰める事も、叶わないというのに。
「あはは、酷いよね。結局、お母さんが居ないっていう事を、
かがみ達も偏見の目で見ていたんだ。
友情故の繋がりなんかじゃなくて、同情ゆえの繋がりだったんだ。
それを嫌というほど、思い知ったよ。
…その時なんだけどね、お父さんとゆかりさんの関係を知ったのも」
こなたは深い溜息を吐いた。
瞳は心なしか、赤く潤んでいた。
「その時ね、かがみ達に悩み相談のようにもちかけたんだよ、みゆきさんが。
私の母親と泉さんの父親が男女の縁になってるっぽいって。
どうも見かけたらしいね、学校から帰って家に着く間際、
みゆきさんの家から出て行く私のお父さんの姿を。
その後家の中で見たのは、シャワーを浴びているゆかりさんだった。
みゆきさんも不審に思ったらしいよ、どうして来客応対の直後にシャワーなど浴びるのか。
それ以前に、私のお父さんとゆかりさんは果たして仲が良かっただろうか。
不意に胸騒ぎに襲われたみゆきさんは、
悪い事だと思いつつもゆかりさんの寝室を覗いた。
そこで見たのは、乱れたシーツ…それも、まだ染みが鮮明に残っているシーツだった。
そこまで見てしまえば、みゆきさんも理解せざるを得なかった。
自分の母親が不倫をしているって事を。
その日は偶然ね、みゆきさん体調悪くって、学校早退してたんだよ。
だから、ゆかりさんも安心していたのかもしれないね。
まだ娘は学校の時間のはずだ、って。
それにしたってホテルとか使わずに、家使うなんて大胆だけど。
アレかな?危険な状況下ほど愛し合う二人は燃え上がるってヤツ?」
こなたの生々しい説明を聞いて、かなたは気が重くなった。
そうじろうが自分以外の女性と関係を持っていたのは既に知っている事項ではあるが、
詳細な説明を受けると改めて苦痛が胸を締め付ける。
「でね、みゆきさんはその事をかがみ達に告げた後、
かがみ達に向かってこう言ったんだ。
このまま二人の関係が続いていったら、
私は泉さんと義理とはいえ姉妹になるかもしれない。そんなのは嫌だ、と」
こなたはそこまで言うと、再び大きな溜息を吐く。
「でもさ、そんなみゆきさんの発言、今更どうでも良かったよ。
既に罵詈雑言の嵐を聞いているんだから、今更悪辣な事言われても、ってね。
問題は次の日だよ」
こなたはそう言うと、顔を歪めて話を続けた。
不快を顕わにする為に顔を歪めたというより、
涙を堪えようとして顔が歪んだようにかなたには映った。
「その次の日の帰り道、偶然かがみとつかさが話し合っているのを聞いちゃった。
何の話をしていたと思う?みゆきさんの話なんだよ。
みゆきさんが可哀想だから何とか力になれないだろうか、
って二人して真剣に話し合っていたんだよね。
それを目の当たりにした時、私は分かった。
ああ、これが本当の友情なんだ、って。
本人が目の前に居ないのに、その人の為に真剣に悩み、知恵を絞る。
それこそが、本当の友情なんだって事と…。
本人が目の前に居る時だけ友達ぶって、本人の居ないところでは容赦なく罵る、
そんなのは虚構の友情なんだって事をね。
改めて言うまでも無いけどさ、前者の本当の友情に包まれていたのがみゆきさんで、
後者の虚構の友情に騙されていたのが私だったんだよ」
こなたは不意に顔を埋めた。程なくして、嗚咽が聞こえてきた。
かなたは悔しそうに唇を噛み締める。
死んでいるばかりに、泣いている娘を抱きしめてやる事も慰めてやる事もできない。
死んでしまったばかりに、こなたに辛い思いをさせてしまった。
その事が、堪らなく悔しい。
『私の所為みたいなものだよね…。
私さえ生きていれば、こなたはそんな目に遭わずに済んだよね…。
別の辛い目に遭っていたかもしれないけど、
生きてさえいれば力になる事ができたのに…』
かなたは自分を責めた。
全て自分が悪い、娘は悪くない、そう自分を容赦なく責め立てた。
だが、自分を責める言葉の一つ一つが何故か軽い。
それもそのはず、かなたには後悔が無かった。
いや、後悔の余地がないというべきか。
かなたがどう動こうとも、自らの死という結果の回避は出来なかった。
自分の死に対して、故意も過失もないのだから。
それ故に、過去に対して悔やむ事ができない。
[あの時こうしておけばこの状況は回避できた]という、
具体的な悔いがあるからこそ人は自分を責める事ができる。
どうしようもなかった状況に対して、或いは選択の余地のない過去に対して、
人はもう後悔できない。
運が悪かったと、嘆く事しかできない。
いや、たった一つだけ、たった一つだけかなたに悔やむ事のできる事があった。
たった一つ、選択の余地があった。
この状況を確実に回避できる選択肢が、実はあった。
だがかなたはその事が脳裏を掠めるたび、必死に振り払った。
それだけは考えたくも無かったから。
「全て、お母さんのせいだよっ」
こなたの辛辣な声が、かなたを貫いた。
いつの間にか嗚咽は止んでおり、
こなたは既に顔を上げて写真の中のかなた像を睨みつけている。
「お母さんが生きていれば、私はこんな思いはせずに済んだのに。
だから私は、お母さんを苦しめてやる事にしたんだ。
お父さんとゆかりさんをくっつけて、
お父さんとお母さんの間の愛を断絶させる事によってね。
お母さんにも味わって欲しかった、この、信じていた人から裏切られる苦しみを」
こなたの頬の端が引き攣った。
まるでこれからが本番だ、とでも言いたげに。
そのおぞましい笑顔に
「でもまだ、私の計画は成就していないんだよ。
まだ最後の仕上げが残っている。
お父さんの再婚を確実なものにして、
お父さんの心をゆかりさんに完全に掌握させる為の仕上げがね。
そう、まだお父さんはお母さんの事を思っている。
ゆかりさんを愛しつつも、まだお母さんに対する未練が残っているんだよ。
それを残さず断ち切れば、もうお父さんの中にお母さんの居場所は無くなる」
かなたは心底から恐怖を覚えた。
そして、最後の居場所すら奪い尽くすというこなたの残酷な宣言にも。
「ここに一通の手紙がある。お父さんに向けた、ね。
中身は…ゆかりさんとの幸福を祈っている、という内容が書かれている。
それと…いや、いっその事朗読するよ。
その方が、分かりやすいか」
かなたの背筋に冷たいものが走り抜けた。
今まで、数々の虫の知らせを聞いてきた。
だが、今回感じたそれは、今までの中でも最大級のものだった。
「お父さんへ。泉こなたより。
お父さん、こんな事をしてしまって御免なさい。
私、ずっと考えてきました。
お母さんが死んだのは、私のせいなんじゃないのか、って。
元々病弱だったお母さんが無理して私を産んだばかりに、
死んじゃったんじゃ無いのかって。
お母さんを殺したも同然の私が、のうのうと生きていてもいいのか。
その問いに、もう6年以上とり憑かれています。
もう耐えられそうにもありません。
だから、新しい家庭が楽しみではあるんだけど、もうサヨナラします。
本当は、ゆかりさんやお父さんと幸せな家族生活を楽しみたかった。
だからお願いがあります。私の写真をお母さんの写真と並べて、
家の中にずっと飾っておいて下さい。
そうすれば私も、新しい家族の一員として幸せを分かち合えるような気がするから。
ピーエス、お幸せに」
こなたの朗読が進むにつれ、かなたの表情は次第に強張っていった。
朗読が終わった時には、かなたの表情は驚愕に染め上げられていた。
『それ…まるで…遺書みたい。まるで、今から死ぬかのような、そんな感じの…』
かなたは途切れ途切れに、言葉を紡いだ。
そう、まるで遺書の如き体裁が取られた手紙だ。
かなたの心を、不安と恐怖が駆け巡る。
「どう?この手紙…もとい遺書。
偽りだらけの遺書だけど、私の意図を知らない人間が読めばこれが真実になる。
この遺書を残して私が自殺すれば、
お父さんは再婚後もずっとお母さんの写真を仕舞う事無く、
部屋に置き続けるだろうね。ねぇ、お母さん、
それで漸く私の復讐も仕上がるんだよ。
愛し合うお父さんとゆかりさん、それを指咥えて見てなよ。
そして毎日毎日自覚し続けるといい、自分は捨てられたんだって」
こなたは愉しそうに笑った。
こなたがかなたの写真を部屋に置き続けようとそうじろうに提案したのは、
そのような裏があるからだったのだ。
そう、こなたは分かっていたらしい。写真を置き続ける事が、
かなたを苦しめる結果に繋がるという事を。
「さっき私の提案にお父さん呑まれてたから、
ここまでする必要もないかもしれないけどね。
まぁ、私が死ぬ事によって再婚はより一層確実になるだろうけどねー。
だってさ、お父さん、一人になるから。どうせそれに耐えられやしないさ。
心の拠り所にしている人、つまりゆかりさんが居るなら、尚更ね。
ゆかりさんに依存せざるを得なくなるよ。
それともう一つ私の死には意味がある」
こなたの表情が、尚一層陰惨なものとなった。
「私が死ねば、もうお父さんとお母さんを繋ぐ絆は無くなる。
お父さんはブレーキを無くしてゆかりさんに依存するようになるだろうね。
お母さんは赤の他人になるんだから。
もし私が生きていたら、ゆかりさんと再婚しても、
私を通じてお母さんの事を思い続けるかもしれない。
でも、私が死んだら?もう、お母さんとお父さんを繋げるものはなくなるよね。
精々過去の思い出くらい。それも、新しい夫婦生活によって色褪せてゆくんだろうけどね。
それでお父さんの心の中に、お母さんの居場所は完全に無くなる」
こなたの表情に、不意に嘲りが混じった。
「ふふ、それでもお母さんの写真が部屋から撤去される事はない。
私の遺書が、お父さんを縛り続けるから。
日に日に失われていく自分の存在価値、じっくりと眺めなよ。
その四角いフレームの中からさ」
自分の未来も命も祈りも投げ打って誕生させた娘は、
残虐極まりない仕打ちでもって母を遇しようとしていた。
それでもかなたは、こなたを恨むつもりにはなれなかった。
かなたは結局、こなたの母親だった。
こなたを心底から憎む事など、到底できなかった。
いや、この期に及んでなお、娘の幸せを望んでさえいた。
『こなた…止めてよ。そう君の心が私から完全に離れていくところなんて、
見てられないよ。私以外の誰かにそう君が奪われるなんて、耐えられない。
それに…それに…貴女は何の為に生まれてきたの?
恋はしたの?彼氏は居た事あるの?
さっきまでの話を聞いている限り、無いんでしょ?
だったら駄目よ、まだ死んだら。私は貴女に女として…んーん、人としての幸せ、
味わって欲しかった。誰かに一番愛されるっていう、あの何物にも変えがたい幸福を。
それを味わって欲しいから、危険を冒してまで貴女を産む事を決意したの。
だから、駄目。まだ、死んだら駄目』
諭すように語りかけた。言葉が届かなくても、想いが通じるかもしれないと、
微かな希望を胸に秘めながら。
「さて、長話しすぎて疲れたよ。そろそろ、逝こうかな。
どうせ未練はない。やり残したことも」
『あるのよ…恋をまだ、貴女はしていない…』
かなたの言葉が通じるはずも、また思いが届くはずもなく、
こなたは肉きり包丁をキッチンから持ってきていた。
かなたの写真の眼前で、事を済ませるつもりらしい。
『駄目よ、こなた…。今死んだら、貴女を産んだ意味が──』
かなたははっとして口を噤んだ。
今何を言おうとした?そう自分に問いかけながら。
産んだ意味が無くなる、そう続けようとしていたのだろう。
それはかなたにも分かっている。だが、それを言ってしまえば、
後悔が生まれる事になる。そう、考えたくも無かったあの選択肢、
──初めから産まないという選択──その存在を認める事になる。
その選択肢をかなたは必死の思いで脳裏から振り払おうとした。
”産んだ事が間違いだった”とは、思いたくも無かったし、
その事で自分を責めたくもなかった。
だから今まで、”死んだ私が悪い”と自分を責め続けてきた。
だが、こなたは刃先を首筋に走らせる寸前に、
かなたのそんな心理状態を穿つ言葉を放ってきていた。
「ねぇ、何で私を産んだの?私産んでくれなんて頼んでないのに。
本当は死んだ事が悪いんじゃない、私を産んだ事が悪いんだ。
私を産んだせいで、私は苦しむ羽目になった。
産まなきゃ良かったね、どうせ苦痛だけの人生に終始して死ぬ事になっちゃったんだから。
産まないで、欲しかった。産んだのは間違いだったんだよ」
それは子供の放つ親に対する言葉の中で、最大級に残酷なものだった。
かなたは胸を抑え付けた。涙が滂沱として止まらない。
その霞む視界の中で、赤く飛び散る飛沫を見た。
愛する我が子が、死を選択したのだろう。
こなたは結局、幸福を手に入れられずに散った。
無意味なままの人生で終わった、そうかなたには映った。
こなたを産んだ為に、かなたが失ったものは数知れない。
未来に渡って祈りを犠牲にし、命すら捧げた。拠り所としていたそうじろうすら、
こなたの策略によって失われてしまった。
それでもこなたが幸福になるのなら、まだかなたは救われたかもしれない。
だが、そうはならなかった。愛する娘さえ、不幸なまま生命を散らした。
そう認識した時、こなたの言葉がかなたの胸中に再び蘇った。
──産んだのは間違いだったんだよ──
膝を抱え、かなたは蹲った。
永劫、その言葉に苦しめられる事になる、その恐怖に打ち震えながら。
>>106 ありがとうございます。
自殺という熟語を「自分を殺す」と読み直したところから思いついたお話です。
この言葉を最初に作った人は何故、「自死」(自分で死ぬ)としなかったのか。
そこを考えてみると、「自殺」「他殺」というキーワードが俄然重みを増してくるわけです。
他殺は自殺の一種では……というのがパラレルワールドの着想です。
あのキャラというのは、あやのでしょうか?
*
時を遡ること四十余年前の、石川県。
「産むのは、難しいかもしれませんね」
医者が訥々と告げる。県外出身だろうか、
石川県特有の訛りが、言葉に全く感じられない。
「仮に流産しなかったとしても、障害を持って産まれて来るかもしれません。
そこまでいかずとも、虚弱体質或いは発育不良、
そういった症状が新生児に現れるかもしれません」
「構いません」
妊婦は、医者の宣告に臆する事無く言った。
「生まれてきさえすれば、生きてさえくれれば、それでいいんです。
障害持とうが、虚弱だろうが、私の娘ですから」
「俺達、だろ」
妊婦の夫が、妊婦の肩に手を置きながら賛意を示す。
「そう…ですか」
「はい、産まれて、生きてさえくれればいい、願わくば結婚までしてくれればなおいい。
それ以上は望みません。障害者だろうと、我が子は我が子です」
「妻の意見に賛成です。それにもう、娘の名前も決めてあるんですよ」
「…分かりました。当事者の意見、軽んじるわけにはいきませんからね。
協力、します。あ、すみません、これ好奇心なんですけど、
娘さんの名前、聞いてもいいですか?」
「かなた、そう名づけようと思っています。
遥か彼方の先まで長生きして、幸せになって欲しい。
そういう願いが込められてるんです」
妊婦は何処か幸福そうにそう言うと、赤い舌を出して言葉を続けた。
「まぁ、今となってはそこまで望んでいませんけどね。
何はともあれ、生まれてきてくれればそれでいい。
障害もなければなおいい、その程度でもいいんです。
その程度の願いさえ届いてくれれば、それ以上は何も望みません」
実際、彼女の願いは叶った。
かなたは無事生まれ、障害を抱える事も無かった。
多少体型に発育不良な面が見られ、体質も虚弱なものだったが、
両親の願い通りに生れ落ちる事ができた。
それ以上は望まない、そのライン上で存在を獲得した。
かなたはその後、結婚し一子を授かった。
だが、その出産の際に全ての幸運を使い果たしてしまった。
願いや祈りを聞き届けられる権利も、使い果たしてしまった。
そして若くして死んだ。
死後、愛する夫は別の女性の下へと走った。
命を賭けて産んだ娘は、策を弄してそうじろうとかなたの仲を引き裂き、
呪詛の言葉でかなたを責め立て、
かなたが全てを捧げた出産を無駄にするように自殺した。
つまり出産後は、地獄とも言うべき状況下に置かれ、
永劫の苦痛に苛まれるようにすらなった。
人間が根源的に持っている無への恐怖、
それを凌駕し無を望んでしまう程までに。
だが、それでもかなたの両親の願いは聞き届けられていた。
かなたの両親が、今のかなたの状況を望んでいたはずはない。
それでも、”産まれてさえくれればそれでいい”という願いは聞き届けられていた。
残酷なまでに杓子定規に、意地悪なまでに薄情に、聞き届けられていた。
人の願い叶えしは神なりや?それとも悪魔なりや?
<FIN>
>>107-117 以上で終了です。投稿規制喰らって、遅くなりました。
お読みくださった方、有難うございました。
もうすぐスレにSS落として一年経つという事で、昔の作品引き摺ってみました。
そちらとはストーリー上何の関係もありませんが。
>>116 自死とした方が、正鵠を射た言葉のような気がしますね、確かに。
自ら死を選ぶ事は悪い事だ、という考えが昔あって、
それで自殺という物騒な単語を作ったのかもしれませんね。
自殺には他にも面白い話があります。
自殺未遂は刑法上罰されません、でも同意殺人や自殺幇助は罰されます。
その理由付けとして多数説は、命は自分のものとは言えども、
自由な処分を許されるものではない、としています。
そこにも、「自死」ではなく「自殺」という言葉が作られたバックボーンの存在を
読み取る事ができる様な気がします。
119 :
グレゴリー:2009/03/30(月) 22:00:02 ID:611bW4Rg
>>101 なるほど、自分で自分を殺すというなんら矛盾のない自殺でございます。
黒キャラ作品を作った作者にとっては有罪判決を受けるような感覚でしょう
な。グレゴリーが惨殺されるといいなあーとひそかに期待しておりました。
>>117 確かに..親は勝手な期待と利己的な希望で子供を作ると言ってもいいでしょう。
しかし、こなたが感じたものを現世において別の形で昇華させるものを
見つけていたら、もしくは、こなたをありのままに愛してくれる人が現れた
ら。もしも、グレゴリーが作中に登場していれば、こなたを救えたと思います。
120 :
グレゴリー:2009/03/30(月) 22:05:52 ID:611bW4Rg
いや、グレゴリーが登場してたら食われてたか。どの道、死ぬのにはかわりねえw
>>102 乙
過去作で被害受けたキャラ達が、こなたに復讐するっていうSSも面白そうだなと感じた
過去ログ見てたらみさおとあやのがこなたとみゆきをいじめるのがあった
未完成で良かったが、あれが完成してたらみさおは死んだのだろうか
>>119 キャラに対して一番酷い事やってるのは多分中尉よう;;
グレゴリー様は優しいほうよぅ;;優しい抱擁;;ひんひん;;
>>118 『そして私は無を望んだ オルタナティブ』拝読しました。
偶然か必然か。
かなたを取り巻く惨事の数々が涙を誘います。
こういうお話に触れますと果たして死後、生物はどうなるのかと考えてしまいます。
僕は無だと思っているのですが、そもそも無とは何かすら完全には分かっていませんから、
死後についてあれこれ考えるのは僕の中では不毛だと思っています。
命と名前は自分のものでありながら、自分にはどうこうする権利のない制約でもありますね。
しかし自殺を容認しない刑法での考えがあるなら、なぜ他殺者をもっと厳しく罰しないのか疑問です。
果たして命とは何なのでしょうか?
ところで出産すれば母は間違いなく死亡すると分かっている場合、
敢えて産む行為は母にとって自殺にはならないのでしょうか。
また逆に出産してもその子が例えば1年以内に死ぬ、と分かっている場合に母が出産を強行すれば、
それは生まれた子の自殺を幇助していることにはならないでしょうか。
(子の死を分かっていて産むことになるので)
……ここまでいうと自殺の意味すら根本から考え直す必要が出てきそうです。
>>119 僕も何度もこなたを自殺に追い込んだのですから同罪です。
もはや言い逃れなどできますまい。
>>121 その設定でどなたかに書いてほしいところです。
パラレルものはもう僕には無理です。
>>122 みさおがこなたに辛辣に当たる作品がたくさん出てくれば彼女も毒牙にかかっていたでしょう。
彼女は本当に運が良かったようです。
こなたが福岡まで殺しに来るかな?
>>125 >出産してもその子が例えば1年以内に死ぬ、と分かっている場合に母が出産を強行すれば、
>それは生まれた子の自殺を幇助していることにはならないでしょうか
まず、刑法上の自殺幇助罪には該当しません。
また、法律を離れても自殺幇助とはならないでしょう。
そもそも、生まれた子が自殺しているわけではないからです。
元となる正犯行為がないのに、幇助は成立しえません。
>出産すれば母は間違いなく死亡すると分かっている場合、
>敢えて産む行為は母にとって自殺にはならないのでしょうか。
こっちは自殺と考えていいと思いますよ。
目的が死そのものではなく、出産という行為にあるとはいえ、
自由な意思に基づいて死を選択している以上、自殺といって差し支えないかと。
>>126 こなたのグレゴリー様に対する愛があれば、
距離など問題にもならないだろう
こなた「グレ、待っていてね
私と貴方は食うか食われるかの運命
互いを血肉とすることでしか、愛を分かち合えない」
>>127 縷細に解説くださりありがとうほざいます。
後で考えてみれば前者はむしろ、母が我が子を殺しているような気もしてきました。
それにしても自殺ひとつとっても、尊いものや賤しいもの、讃えられるものや蔑まれるもの、
実に多彩でありますね。
時代が変われば価値観が変わるのも当然。
いずれは自殺が奨励される時が来るのでしょうか。
130 :
グレゴリー:2009/04/01(水) 13:18:50 ID:KjjkxWtO
若年層に関しては労働市場や税収の影響上、ないでしょう。高齢者では黙認か最悪の場合、国家が推奨するかもしれぬ。
損失か利益かの問題。
書き手に復讐するこなた
ガンガン氏は撲殺
赤い悪魔は西鉄のホームから突き落とされる
中尉とか壮絶な目に遭いそうだなw
あれ?そういえばデフォ北さん、G食わせてませんでしたっけ?
いやああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!
赤い悪魔といえば、黎明期の職人達はどうしたんだ?
うつ☆すた大阪とか名無しの人とかあの辺
ROMってはいるのか?
ほしゅ
wikiに上げてくださりありがとうございます。
しかも引用元の列記まで……。
お手数おかけしました。
絵はホント減ったね
まあSSがあるし良いけど
ヤク中大分さんの絵が好きなので、是非とも新しいのが見たいところです。
未だラノベ君の降臨を待ちわびている
140 :
デフォ北:2009/04/04(土) 00:33:53 ID:XuZc8xM3
書き逃げ多すぎよう;;ひんひん;;
うつ☆すた大阪復活するのよう;;
保守兼ネタ
泉こなたのことをどう思っているか紙に書いて投書しなさい
つかさ・キモい
みゆき・空気が読めない人
かがみ・他人
ゆたか・ウザい
みなみ・邪魔
ひより・無能
みさお・敵
あやの・障害物
こなた「ひどっ!みんな、私のことを…あれ?パティは英語で…」
パティ・SHlNE
こなた「…」
数日後、こなたの葬儀会場
パティ「私はコナタが光のような人だと言いたかったのデ〜ス」
>かがみ・他人
ひでぇwww
そういや初期の頃のかがみってこなたに友好的だったよな
何時ごろからかかがみんが黒キャラ化した
>>130 民主制(選挙制度)が崩壊しない限り、無いでしょう。
少子高齢化の時代なので、高年齢になるほど有権者は多くなりますから。
そろそろ保守が必要
デュルケムを読み耽るこなた
「泉こなたを自殺させる方法」を考えるスレ みwiki にある、
アラバマ 新作(無題)
の続きってないんですか?
>>149 その作品、下手すれば1年半くらい前の奴だなw
昔作者のブログで同じ質問してる人いて「気が向けば再開する可能性ある」みたいな事言ってたけど
実際あんま期待できそうに無いな・・・
その人今では無茶苦茶画力上がって今では欝あまり書かないでオリジナルとか書いてるし。
作者気になるならマウンテンプクイチでググるべし。
おお、有難う。
福岡さんかな?ガンガンじゃないほうの
こなた「そうだ、自殺研究サークルでも作ろう!」
みゆき「研究には実験が必要ですね。そのモルモットに泉さん、お願いしますね」
こなた「…」
絵とかどんだけぶりの投稿だよw
まとめサイトに「凶ウニ崩壊の歴史」って作品があるんだけど
あれどう見たって、エロゲー会社ソニアの倒産劇にそっくりだな。
あと、思ったんだけどアニメが大ヒットしてスーパーカー買えるのか
疑問に思った。というかそもそも、こなたがアニメスタジオに就職
できるのがおかしいw
エロゲー通が現れたぞ!
ほしゅ
そろそろ圧縮ですね
保守がてら、たまには小話でも。
さらりと読み流して下さいませ。
こなちゃんなんて嫌い。
1ヶ月くらい前、つかさ、私にそう言ったよね。
あの言葉がずっと胸に突き刺さってたんだよ。
なんであんな事言われなきゃいけないのかなって、いろいろ考えてた。
やっと分かったよ。
私が嫌いになったんじゃなくて、私をずっと嫌ってたんだよね。
何度もつかさのことを馬鹿にしてきた報いだよね。
冗談っていうか、ちょっとした軽口のつもりだったんだ。
友だち同士の会話って事で、さらっと流してくれれば良かったのに。
つかさって意外と根に持つタイプだね。
でも仕方ないか。
言っちゃったのは私だもん。
嫌われるのも当たり前だよね。
最初はちょっと腹が立ったけど、今はちょっと感謝してる。
面と向かってやっと本音を打ち明けてくれたんだって思ったら嬉しかった。
だって内心は私が嫌いなのに、上っ面だけ笑って接してくれても楽しくないもんね。
……ってつかさに言われるまで、私は楽しんでたわけだけどね。
あれから口利いてくれないよね。
私は謝ったけど、もうそれじゃ済まないくらい怒ってたんだよね。
私ってお調子者だから。
いやいや、それを言い訳にするつもりはないよ。
悪いのは私だって自覚してる。
分かってるよ、ほんと。
でもさ、これだけ謝ってるんだからさ。
少しくらい聞く耳持ってくれてもいいじゃん。
そりゃ悪いのは私だけどさ。
ずっと我慢して今の今まで言わなかったつかさにも非はあるんじゃないの。
嫌な想いしてたんなら、その場でハッキリ言ってくれればよかったのに。
そしたら私もすぐに改めたのに。
何もかも私に責任押しつけてさ。
いくらなんでもそれはちょっと酷いよ。
つかさってさ、いつも笑ってるよね。
世間は可愛いって見てくれるかもしれないけど。
私はちょっと嫌だったな。
だって何を言っても苦笑いっていうか、受け流してたじゃん。
時々さ、話通じてるのかなって思うこともあったよ。
オタク話ばかりして申し訳ないっていう気持ちはあるよ。
でもそういう反応されたら、こっちだってどう返せばいいか分からないでしょ。
だから結局は私のペースで喋ってたわけだけど。
つかさからもアプローチが欲しかったよ。
受け身だけじゃつまらないもん。
無難な受け答えばかりに終始して楽しいのかな、つかさは。
私だって退屈だよ。
まあ人それぞれだから、あまり強くは言えないけどさ。
主体性っていうのかな、そういうの、持って欲しいな。
あんまり個性が強いのも考えものだけどね。
私みたいに。
なんか開き直りっぽくなっちゃったね。
つまりさ、今回の件はケンカ両成敗ってことで駄目かな。
私も悪かったけど、つかさもちょっとは悪かったって。
駄目だよね、やっぱり。
図々しいね。
もっと嫌われちゃうね。
今度は気をつけるよ。
うん。
泉さんとは距離を置かせてください。
何週間か前にみゆきさん、ハッキリそう言ったよね。
いつも優雅で遠慮深いみゆきさんの台詞だからびっくりしたよ。
冗談であって欲しかったけど、残念ながらそうじゃなかったみたいだね。
理由はいろいろと思い当たるよ。
きっと私が考えもつかないような原因もあると思う。
だって似たようなこと、つかさにも言われたもん。
だから何となく分かる。
ぶっちゃけさ、私といるのが嫌になったんだよね。
住む世界が違うっていうのかな。
だって陵桜自体が進学校だったわけじゃん。
そこで学年トップのみゆきさんだもん。
私なんかと仲良くできるわけないもんね。
かがみみたいな優秀な子とつるんでる方がよっぽど楽しいんでしょ?
バカでオタクは相手にできないって。
そう言いたいのはよく分かるよ。
だって私バカだし。
ここ受かったのだって半分まぐれだしね。
っていうかご褒美に釣られたってのが正解かな。
どっちでもいいや。
みゆきさんってスゴイよね。
淑女っていうのかな。
私のこと嫌ってたくせに、全然そんな素振り見せなかったね。
それがお嬢様の振る舞いなのかな。
で、そんな事知らずに私はずっとみゆきさんの友だちだって思ってたわけか。
なんかバカバカしいや。
腹が立つっていうより悔しい。
お嬢様の余裕を見せつけられた感じでさ。
嫌ってるならそれはそれでいいからさ。
もっと早く言ってほしかったよ。
それなら私のショックもそんなに大きくなくて済んだのに。
まあみゆきさんなりの気遣いだったとは思うけどね。
滅多にこんなこと言わないだろうし。
もしかして結構勇気が要ったんじゃないの?
私なら普通に言えるけどね。
でもさ、私ってそんなにみゆきさんに嫌われるようなことしたかな?
だってみゆきさん、私の話も結構笑って流してくれてたじゃん?
見た感じよりノリの良さそうな人だなって思ってたのに。
だからあんまり肩肘張らずに喋れたんだよ?
時々セクハラ発言もしたけど……。
あ、もしかしてそれが理由?
そっか、そういうことか。
なら仕方ないね。
もしそれが原因なら私が悪いんだもんね。
ついつい恥ずかしがるみゆきさんの反応を楽しんじゃったけど。
で、いよいよ我慢できなくなってあんな風に言ってきたわけか。
ふーん。
私も悪かったと思うけど、みゆきさんにだって非はあるよね。
嫌なら嫌ってその時に言わなかったんだもん。
すぐに指摘してくれたら私だって改めたよ。
それを今になってさ。
ちょっと卑怯だよね。
私ならその場その場でちゃんと自分の意見は言うけどね。
やっぱ頭の良い人はやることもちょっと違うね。
こなたはウザイ。
何日か前にかがみ、そう言ったよね。
あの時は何のネタかと思ったよ。
ひょっとして私の知らないキャラ? とか考えたけど。
そうじゃなかったんだよね。
かがみって何でもズバズバ言うけど、こういう事はしまい込んでおくタイプだったんだ。
だってさ、私のことウザイってつい最近思ったことじゃないでしょ?
本当はずっと前から。
よく喋るようになった辺りから思ってたんじゃないの?
かがみとはつかさを通して知り合ったけど、全然正反対のタイプだったもんね。
私はズボラでいい加減で適当で。
かがみはしっかり者で真面目で正直者。
眩しすぎるくらいだよ、ほんと。
今にして思えば私のそういう所が気に入らなかったのかな?
だって宿題とか課題とか写させてもらってばかりだったもんね。
努力家からしたらやっぱムカツクよね。
だいぶ前にかがみと同じくらいの点数取ったことあったよね。
なんかあの時からかな、かがみの態度が変わったの。
やたらと私にきつく当たるような感じになったよ。
時々冷たく突き放すようなこと言ったりさ。
聞いた感じは私のこと心配してくれてるような言葉だけどさ。
いちいち癪に障る言い方なんだよね。
暗に私をバカにしてるような気がしてた。
いやいや、気がしたじゃなくて実際そうだったんだよ。
私たち以外にリアルに友だち居るのか、とか。
私の将来が心配だ、とかさ。
普通さ、友だちには言わないよね、そういうの。
って友だちじゃないか、私たち。
かがみはつかさが一番だもんね。
私みたいなのがつかさと一緒にいるのが許せなかったんじゃないの?
私もつかさもバカだけどさ。
同じバカでも他人と妹とじゃ違うもんね。
分かるよ、それは。
分かるんだけどさ、ちょっと露骨過ぎないかって。
嫌ってるならそうだってハッキリ言ってくれればいいのに。
バカで世間知らずでゲームやアニメにだけ詳しい痛々しいオタク。
どうせそう思ってたんでしょ?
かがみだってラノベ読むくせに。
そういや否定してたよね。
自分はラノベ読むけどオタクじゃないって。
私にしてみたら十分オタクだよ。
その方面にいろいろ詳しかったじゃんか。
それなのに今さら否定してさ。
バカみたい。
まあ私と一緒にされたくないって意味なんだろうけど。
そうやってずっとずっと私をバカにしてたんだよね。
かがみ、私に対してだけはいっつも上から目線だったもんね。
勉強できるのがそんなに偉いの?
頭固くて現実的な人間って退屈なだけだと私は思うけどね。
だからちょっとした冗談も流せないで真に受けるんでしょ?
そんな性格じゃ将来きっと苦労するね。
誰とも親しくなれなくてぼっちになっちゃうかもよ?
私はね、かがみの友だちでいてあげたんだよ?
いつかきっとそれが分かるよ。
その時になって泣いて謝っても許してあげないけどね。
お姉ちゃんの顔なんか見たくない。
ゆーちゃん、昨日そう言ったよね。
なんかもう今さら驚かないよ。
友だちだと思ってた人に代わる代わる言われた後じゃね。
ゆーちゃんはあれでしょ。
気を遣ってただけなんでしょ?
だって居候の身だもんね。
ヘタなこと言って追い出されたりしたら堪らないもんね。
学園、うちから近いから。
病弱なゆーちゃんはできるだけ近い所から登校したいだろうし。
だから我慢してたんでしょ。
それ以外にメリットなさそうだし。
あ、タダで衣食住が揃うとか?
それも大きな利点だよね。
自分のお金なんてほとんど使わないで済むし。
それでずっとヘラヘラ笑ってたんでしょ?
居心地良くして寄生したいからだよね、それって。
今にして思えば図々しいね。
まあお父さんが預かるって行っちゃったんだから仕方ないけどさ。
ゆーちゃんが男の子だったら絶対断られてたよ。
良かったね、女の子で。
それも何も知らなさそうな顔でさ。
ゆーちゃん素質あるよ。
何の素質かって決まってるじゃん。
男の人を誑かす才能だよ。
本当はお父さんがロリコンだって知ってたんでしょ?
私の知らないところで迫ったんじゃないの?
そうとしか思えないね。
だってさ、言っちゃ悪いけど普通の女の子だったら、お父さんみたいな人には警戒するよ?
なんかイヤラシそうな顔してんじゃん、お父さん。
そこにニコニコしながら近づいていくって……どう考えてもおかしいって。
なんていうかさ、自分は身の安全が保障されてるって感じ。
うーん、ちょっと違うか。
だってゆーちゃん、どうせお父さんと寝たりしたんでしょ。
分かってるって。
ゆーちゃんと喋ってるときのお父さん、すごく嬉しそうだもん。
私にだってあんな顔しないよ。
ほんっと巧いよね。
ご機嫌とるの。
みなみちゃんやひよりんを連れて来たりしたのも、そういう理由があったからじゃないの?
お父さんの喜ぶこととかよく知ってそうじゃん?
で、なんで私にあんな風に言ったか。
ちゃんと知ってるよ。
もう私に気を遣う必要がなくなったからでしょ?
お父さんを手懐けて、何を言っても自分の身が危うくならないって分かった途端だからね。
ほんと恐いね、ゆーちゃんは。
そういう言葉を大胆にもお父さんがいる前で吐くんだからさ。
ビックリしたね。
しかもお父さんも何も言わないんだもん。
もう私の居場所なんてないんだね。
泉家はお父さんとゆーちゃんの家になっちゃったのか。
可哀想なのはお父さんだよ。
どうせその関係だって卒業するまでの間だもん。
もうちょっとしたら無残に捨てられるわけか。
でもある意味仕方ないよね。
ゆーちゃんの正体も見抜けないうえに、一緒になって私を邪険に扱うんだから。
勝手にしてって感じかな。
せいぜい仲良くしてたらいいよ。
かなたみたいにさっさと逝ってくれないかな。
お父さん、さっきそう言ったよね。
いやいや別に面と向かってそう言われたわけじゃないけどさ。
聞いちゃったんだよね。
ゆーちゃんにそう漏らしてたの。
大したものだよね。
私とは親子だけど、ゆーちゃんとはほとんど他人じゃんか。
大体さ、兄妹だって親を通して繋がってるだけで直接の繋がりはないんだよ?
その兄妹の娘なんて他人同然だと思わない?
……思わないか。
そうだよね。
その他人と寝てすっかり虜になっちゃってるんだから。
じゃあ私はどうなるのさ?
どんなに嫌ってても血は繋がってるんだよ?
そりゃお母さんとは他人かも知れないよ。
でも私は私じゃん。
あ、そっか。
お父さん、別にお母さんのこと好きじゃなかったんだ。
一生愛を貫くみたいなこと、言ってなかったっけ?
最初はカッコイイなって思ったけど、違うんだ。
口が巧いだけなんだね。
お父さんがロリコンなのは知ってるよ。
だからお母さんと付き合って、結婚までしたんでしょ?
写真でしか見たことないけどお母さん、小学生みたいだもんね。
そこに惚れただけなんでしょ。
中身とはどうでもよくて、ただ幼い感じだったから。
で、生まれた私がまたこんなチビだから可愛かったんだよね。
お母さんを亡くした代わりにいい物を手に入れた。
それくらいにしか思ってないんでしょ。
で、転がり込んできたゆーちゃんに心移りしたわけか。
ほんっと節操ないね。
軽蔑したよ。ガッカリした。
そんな男の血が混じってるなんて思うだけで吐き気するよ。
私も死ねばいいって思ってるんだよね。
だったら望みどおりにしてあげるよ。
もう友だちもいないんだ。
つかさも、かがみも、みゆきさんも私から離れていったしね。
今さら生きてようなんて思わないよ。
進学だって怪しいし、どうせ私の頭なんかじゃどこに行ったって務まらないだろうし。
生き恥晒すくらいならいっそ死ぬよ。
死んでお母さんのところに行くよ。
こんな悪魔みたいなのが蔓延ってる世界になんて興味ないし。
そう考えたら若くして死んだお母さんは幸せだったと思うよ。
まさか夫がこんな下衆だなんて想いもしなかっただろうね。
何も知らずに逝けただけマシだと思うよ、ほんと。
私はもう知っちゃったからね。
あ〜憎いよ。
憎いし腹立たしい。
まあでもいいや。
死んだらそれまで。
もう誰の顔も見なくて済むんだ。
恨むよ。絶対に許さない。
私にこんな想いさせたんだから。
いつか天罰が下ることを望むよ。
じゃあね、みんな。
終
以上です。
本命のSSはいつか投下いたします。
それでは。
168 :
グレゴリー:2009/04/09(木) 23:53:14 ID:LuiMxD2+
>>167 私が初めてらき☆すたというアニメを見終わったときの感想は
「なんて暗くて凄惨なアニメだろう」でした。
こんなに暗いアニメはVガンダム以来だと。
まず、こいつらがつるんでいる理由がわからなかったのです。
そして、作中にちりばめられた鬱要素。
製作陣が意図してやったとしか思えませんでした。
「このアニメは一応はゴールデンタイム放映用として表面上は楽園のように
作ってあるけど、おまえら、ちゃんと俺たちの隠れたメッセージを受け取って
くれよ」
と言われているみたいでした。
ここにきて、この場所で、物語の本質をきちんと見抜くことができた
人々が集まっていることに私はなんというか、誇りを感じずにはいられません。
つまり、このスレの住人は最高だということです。
こなた、みなみや白石に復讐しなくていいのかな?
殴られたり殺されたりしてるし
>>169 復讐の事言ってんなら、あれはこなたが自分を殺させたんじゃね?
171 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/11(土) 21:51:47 ID:PPm7Wwj7
一年組でこなたを積極的に追い詰めたのってゆたかくらいか
ひよりとか悲しいくらいに空気だからね…
そういえヴぁ、ゆたかだけでなく小早川家全員が泉家を
嫌っていたからな。親戚なのになんで嫌っているんだろうと
思った。
そりゃ、いい年こいてアニメや漫画にハマってる親父が義理の兄だとリアルに引くだろうし
登場シーン皆無だし
なんか赤い悪魔でゆたかの父親がそうじろうの財産(とくに本の印税)を
狙っているという噂もあったな。
また、財産が手に入りゆたかが用済みになったので父親がホームから
つき落としたという話を聞いたことがある。
懐かしい図だなw
179 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/14(火) 20:31:37 ID:7fsmpPkx
思ったんだけど?もしもでこなたゆたかを殴って自殺するけど、ゆたかを
なぐって最後に自殺するやつあるじゃん、殴っただけで自殺するっておかしくない?
今までのこな自SSで最も多くこなたを自殺に追い込んだのは誰でしょう?
神奈川、中尉あたりか?
キャラって意味か?書き手って意味か?
ああ、キャラって意味です。
神奈川と言えば、彼のSSは皆こなたが酷い死に様ばかりだなw
こなたに個人的な恨みでもあるのか?
黒化&こなたの直接の自殺の原因を作ってない人間はこれくらい?
ゆい、ひより、パティ、桜庭、ふゆき、こう、やまと、ただお、みき
個人的にはみさおの豹変が見たいんだが、そういうキャラじゃないから無理かな
あやのに利用されない限り…
今気付いた。
桜庭って一回も出てきてないよな。
かがみの担任だというのに…かなり可哀想な部類。
>>180 みゆき?
つかさも多そうだけど、大抵はみゆきとグルだからなぁ
単独でも追い込んで見せたみゆき辺りがトップじゃないかと
みゆきはどうしてあんなに黒化されるのか
>>190 現在集計中。やはり3ヒロインが群を抜いているw
つかさは「こなちゃんのくせに」発言がなかったらいじめっ子にはならなかったのかな
頑張って下さい。
てか文献が膨大ですねw
二人以上が関わっている場合は、複数人に一票ずつ入るの?
>>192 「〜のくせに」っていう発言自体がジャイアンを連想させるからだろうね
197 :
集計結果:2009/04/18(土) 16:05:29 ID:QSSAI/wI
1位 柊かがみ39回
2位 柊つかさ37回
3位 高良みゆき33回
4位 泉そうじろう16回
5位 小早川ゆたか7回
黒井ななこ7回
泉かなた7回
意外にもこなたの一番の親友かがみが最も多くこなたを自殺に追いやってたことが判明。
特に最近のSSでは善意悪意含めてかがみが原因の自殺が多かった。
あと母かなたが原因の自殺も意外とあるな。
198 :
集計結果:2009/04/18(土) 16:09:52 ID:QSSAI/wI
>>198 善意悪意問わない集計結果でしょ?
数よりも悪意とか計算に入れてみさお生かしたのでは?
>>197 かなた7回か。多いな。
「かなた、行きまーす」くらいしか覚えてない。
こなた「筏で太平洋を渡るんだ」
かがみ「気を付けてね」
こなた「カナダ行きまーす」
2年後
かがみ「こなた帰ってこないわね。あらボトルレターだわ『方位を誤ってサルガッソ海で藻に絡まれています
食べ物も水もありません。後生ですから助けてください。泉こなたより』……………」
202 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/20(月) 00:02:47 ID:z9iJW9iH
筋肉さん新作まってまーす!
いや〜、大学にもイジメってあったんですね。
つい先日、大学生のイジメを目撃したんで報告します。
二郎行ったんですよ、二郎。
で、ロットメンバーを確認してみると、俺以外全員女性でした。
ツリ目ツインテールの少女、メガネピンクふわ毛の少女、リボンをカチューシャ代わりにしてる少女、
それと青い髪のアホ毛が飛びでている少女の4人でした。
年の頃は大学生くらいでしょうか。
女子大生が二郎なんて食べられるのかな、と心配でした。
んでね、その内のアホ毛だけ二郎初心者らしく、他の3人からレクチャーを受けてました。
そのレクチャーに鳥肌が立ちましたね。
「ここのラーメンは美味しいけど量は少ないから、大豚頼んだ方がいいよ。」
「私たちはさっき食べてきたから小頼むけど。」
「泉さんは初心者ですので、麺をじっくり茹でてもらうといいと思います。」
酷いですね。量で勝負のこの店で、大を頼ませようとするとは………。
ジロキチは他の店でもヤバイのですが、この店は飛びぬけてヤバイのに。
何でも隣の客をボコボコにして、その客のラーメンまで食って帰るマジキチが出没した店らしいですから。
で、その4人のオーダー
ピンク・ツインテ・ボブカット「小ラーメンカタメ麺少な目ヤサイ抜き豚抜き油少な目。」
アホ毛「大豚Wヤサイニンニクチョモランマアブラブラブラカラメマシマシ。」
見事なデスロットです。カタメの方が茹で時間短いので、それだけでも少女は不利です。
どう考えてもロット乱しの汚名をアホ毛が着せられますね。合掌。
完全に罠にかけられてます。大学生のイジメって知能が働く分、恐ろしいですね。
で、案の定アホ毛は1ロット以内には食べ切れませんでした。
他の3人が食べ終わっても、まだ3/4程残ってます。
次のロッターに席が入れ替わると、アホ毛は物凄い目で睨まれまくってます。
3ロット経つと、遂にアホ毛に罵声が飛ぶようになりました。
「食べれないのに大頼んでじゃねーよ、クズ。」
「お前のせいでロットが乱れた。麺がいくつも無駄になってる。ブヒブヒ。」
「7回目のロット狙いで来たのに、テメェのせいで8ロット目になっちまった。死ね。」
容赦なきブーイングが狭い店内を飛び交います。…文字通りブーブー言ってますね、コイツラ。
その内一人の男が、アホ毛に指を突きつけてこう言いました。
「諸君、このスイーツは無罪か?それとも有罪か?」
「ギルティ!」「ギルティ!」「ギルティ!」
店内の………否、外の行列のジロリアンまで大声で唱和しています。
なんかもう、アホ毛が可哀想で見てられませんでしたよ。
ハメられただけだっつーのに。
「分かってるよ。私、ちゃんと責任は取るよ。」
アホ毛はそう言うや否や、器を両手に持つと口の中に無理矢理ブツをぶち込み始めました。
四面楚歌な状況に耐えられなくなったんでしょうね。でもその食い方は自殺行為です。
案の定、40秒ほど経つとアホ毛は卒倒しました。
口から血が垂れていますが、恐らく胃でも破裂したのでしょう。
あの量を一気食いで終わらせようなんて、どだい人間には無理な話です。
「ブヒ、コイツ死んでるぞ。」
「死刑執行完了。同情の余地は無い。」
「あの世でロットを乱した罪を悔いろ。」
怖いですコイツラ。人命よりもロットの方が大切らしいです。
イジメって何処にでもあるんだなー。そんな事を思いながら、帰路に就きました。
204 :
因果☆応報:2009/04/20(月) 20:56:10 ID:/p+Rs3LM
つかさパンツまで見せてかわいいw
乙ー
>>197 乙
あの膨大な量調べ上げたってすげぇ!
>>204 お久しぶりですね。
アクロバティックで個性溢れる貴方の作品、私は好きです。
209 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/22(水) 01:15:51 ID:NC9dB1gB
SS投下します。
長いですが、他の書き手さんが完成されるまでの繋ぎ&暇潰しと思って頂ければ幸いです。
友情は脆いものなのか。それとも、その友情という糸によって
結合している人間が乱暴すぎるのか。
およそ友情というものは、今この瞬間にも何処かで壊れている。
ただ、壊れずに続いていく友情もある。
ならば、呆気なく壊れてしまう脆い人間関係を、
友情という言葉で表現する事が誤謬なのかもしれない。
「どうかな?このリボン、可愛いでしょ」
つかさの手には、藍色のリボンが握られていた。
何処となく歪ではあるものの、その歪さがルーズさを主張していると考えれば、
可愛いと言ってもいいかもしれない。
「うん、可愛いよ」
こなたはそう考えると、取りあえずつかさの言う事に同意しておいた。
「そのリボン、どうされたのですか?」
「えへへ、これはね…」
みゆきの問いに対し、何処か恥らう素振りを見せながら、
つかさはもったいぶる様に言葉を切った。
「好きな男の子から、プレゼントされたのよね」
悪戯っぽく笑いながら、かがみが割り込んできた。
つかさの顔が朱に染まり、拗ねたように姉を睨む。
「え?是非詳しく」
こなたは急に興味をそそられると、身を乗り出してつかさを問い質す。
「私も聞きたいですね」
みゆきも珍しく身を乗り出し、つかさを見つめた。
普段秀才で通っているみゆきとはいえ、色恋沙汰に興味がない類の
人間ではないらしい。
完璧超人ぷりを見せ付けてきたみゆきの意外な一面にも、
こなたは内心僅かではあるが驚いていた。
「好きな男の子、って言っても、小学生時代の話だよ」
「あ、そうでしたか。今付き合っている、という類の話ではないのですね」
「そうだよー。なのにお姉ちゃん誤解招くような言い方しちゃって」
「ごめんごめん、つかさ。謝るわ、だってワザとだし」
「酷いよお姉ちゃん」
「ごめんね」
まるで予め書かれていた台本のように、
滑らかな調子で彼女達の間では会話が成立していた。
(友情のなせる業、だよね)
こなたはその事に特段の違和感を覚えなかった。
友情があるからこそ、台本無しでも滑らかな調子で会話が弾んでいくものだと、
こなたには見えたのだ。
「そういえばつかささん、どうして今更ながら昔好きだった人から
プレゼントされたリボンを持ってきたのですか?」
「ああ、それはね」
つかさはこなたに向き直ると、リボンを差し出した。
「はい、こなちゃん」
「え?」
こなたの口から素っ頓狂な声が漏れる。
いきなりリボンを差し出してきたつかさの意図が掴めなかったのだ。
「今日こなちゃん、皆の前で発表するんでしょ?
確か、漫研にゲストとして招かれていたんだよね」
「うん、そうだけど」
未だこなたの頭の中では、つかさの行為や言葉が断片のまま留まっている。
つかさの意図が分からない限り、断片は繋がらない。
「それでね、緊張してると思うんだ。
だからこれ、お守り代わりに持っててよ。
明日まで貸してあげるから」
「ああ、そういう事か」
こなたは漸く合点がいった。断片でしかなかった
つかさの行為と言葉が繋がりを持ち、
みゆきの問いに対するつかさの答えが提示されたのだ。
「でもつかさ、それ、お守りとしての効果あるの?」
「うん、あるよ。貰った日以来ね、何か大事な事がある時は、
いつもこれ持ち歩いているんだ。
例えばこの高校の受験の時も、このリボンを持ってきていた。
だから頭の悪い私でも、稜桜受かったんだよ。
ご利益は実証済み、だから安心していいよ」
「ふーん」
こなたは半信半疑でつかさの手からリボンを受け取った。
占いや縁起の類を軽視しきっているこなたではあるものの、
わざわざこなたの為に大事なリボンを持ってきてくれた
つかさの健気な想いまで軽視できる程に冷たい人間ではなかった。
(それに、プラシーボ効果ぐらいは期待できるかな…。
緊張しない、とか。
ああ、偽薬だと分かってる時点でプラシーボ効果は発揮されないか)
それでも、つかさがこなたの為にお守りを持ってきてくれた事は素直に嬉しかった。
それだけで心強く感じられる。
「それで、つかささん。その男の子とは今も連絡を取っているのですか?」
そのみゆきの質問に対し、つかさは暗い声で応えた。
心なしか、かがみの表情も曇って見える。
「いや…。死んじゃったんだ、小学校高学年の時に…」
「あ、それは済みません。その、何といってよいのか…」
「いや、気にしないで、ゆきちゃん。
もう昔の話しだし」
みゆきにしては迂闊な質問だと、こなたは思った。
流石に死別までは予想できないにせよ、今付き合っていないのであれば
その恋は今に至るまでの何処かの段階で破れているはずなのだ。
そうであればみゆきの性格上、
過去の傷を抉りかねない質問は回避していたはずではないのだろうか。
(いや、みゆきさん、恋愛に関しては疎そうだからなぁ。
博識を誇るみゆきさんにも、弱点はあるか)
そう思うと、みゆきが余計可愛らしく見えてくる。
しかし、今は完璧超人が見せた抜けた所に萌えている場合ではない。
それよりも、早急にやらなければならない事がある。
手の中で急に重みを増した物体を、どうにかしなければならない。
「ねぇ、つかさ。これやっぱり返すよ。
借りれないよ。だってコレ、つかさにとっては大事なものでしょ?」
こなたは握っていたリボンをつかさに差し出した。
死別したというのであれば、このリボンは代替の効かない遺品であるはずだ。
そのようなもの、一時的とはいえ借りているわけにはいかない。
万が一があれば、弁償のしようがないのだ。
「いや、こなちゃん持っててよ。
これが他の人なら貸さないけど、私こなちゃん信じてるから」
「でも…」
そこまで信頼して貰えるのは正直嬉しいのだが、
なおもこなたは躊躇っていた。
遺品の大切さ、それをこなたは知っているから。
母親を物心付く前に亡くしているこなたにとって、
遺品は特別な重みを持っている。
こなた自身、かなたの形見である櫛を、机の中に大事に仕舞っている。
逡巡しているこなたに対し、かがみが苛立ったように割り込んできた。
「あのね、こなた。何でつかさがそんな大事なものを持って来たのか、
その意味を考えてみなさいよ。
アンタの発表が成功しますように、っていう願いが強いからじゃない。
受け止めなさいよ。ここまでつかさがアンタを信頼している証を立てているのに、
それを無碍に扱うなんて、失礼な話だと思わない?」
「そうだね…。今回は、借りておくよ。
つかさ、ありがとね。絶対発表成功させるよ」
こなたが返却の意思を翻したのは、
かがみの責めるような語勢に屈したからではない。
かがみの言う事も尤もだ、とその言説に説得力を感じたからに他ならない。
(そうだよね、ここまでやってくれたつかさを無碍になんてできないよね)
こなたは考えてみた。果たして自分は、
かなたの形見である櫛を誰かに預ける事などできるだろうか、と。
一瞬で答えは出た。否、と。
それだけ遺品は大切なのだ。それを貸すと言ったつかさの思いを、
大切に受け止めてやりたかった。
「こなちゃん、頑張ってね」
「任せてよ」
つかさに向けて力強い笑みを浮かべると、
受け取ったリボンをポケットに押し込もうとした。
大切な物だからこそ、肌身離さず持っていたかった。
しかし、かがみの咎めるような声がこなたの手を留めた。
「ちょっと、まさかポケットに入れて持ち歩く気?」
「え?だってカバンとか机とかに入れっぱなしにして、
無くしたら困るし」
「あのね、カバンや机に入れておいた物が突然なくなるわけないじゃない。
それよりも、持ち歩く方が危ないわ。落っことしたりしたら、
どうするつもりよ。それに、リボンに皺が寄るかもしれない」
「うーん、それはそうだけど…」
言われてみれば、持ち歩く方が物騒なようにも思える。
「まぁ、絶対に落とさない、っていう自信があるなら、
持ち歩いたっていいと思うけどね」
そのような自信、こなたには無かった。
9割9部9厘、落とさないとは思う。
だが、1厘が実現してしまったら、そう思うとこなたは急に不安になった。
「そうだね、持ち歩かない方がいいね。
大切な物をポケットに入れ続ける、っていうのもつかさに失礼だろうし」
結局こなたは、かがみの意見に耳を傾ける事にした。
ポケットに仕舞おうとしていたリボンを、丁寧に畳むとカバンに仕舞った。
「あ、でもね、こなちゃん。発表する時は、
ポケットに入れたり手の中で握り締めたりしていていいよ。
そっちの方が、ご利益あるだろうから」
つかさの物言いから察するに、
やはり常時ポケットの中に入れておいて欲しくはなかったようである。
でなければ、『発表する時は』などと場面を限定したりはしないだろう。
(良かった、ポケットに入れたりしないで。
気付かせてくれたかがみに感謝、かな)
「うん、そうするよ。
本当にありがとね、つかさ」
「ううん、気にしないで」
つかさの軽やかな笑顔に発表の成功を誓うと、
その後は普段通りの何気ない話をして休み時間を過ごした。
放課後、漫画研究部に向かって歩くこなたの足取りは軽い。
発表の成功を応援する力強い応援がその背を押しているのだから。
リボンの加護に対する期待よりも、
つかさが見せてくれたこなたに対する信頼それ自体が力強い応援となっていた。
こなたは漫画研究部部室前に辿り着くと、
カバンの中をまさぐりはじめた。
リボンを握り締めていれば、つかさが側に居てくれるような
心強さを感じながら発表に臨めるだろう。
(でも、リボン握り締めながら発表する様って、ちょっと滑稽かもね。
まぁいいか、ひよりん変わり者だし、類友の諺通りなら、
漫研も変わり者で埋め尽くされてるだろうし)
リボンを握り締めながら漫画やアニメについて論じる
自分の姿を想像してみると、すこぶる滑稽に映り、
こなたの顔から自然と笑みが溢れた。
しかし、その顔から笑みがなくなり、
代わりに青褪めた表情が姿を覗かせるまでにそう大した時間はかからなかった。
「ない…」
こなたは必死になってカバンの中をまさぐった。
全てのチャックを開け、教科書を掻き分け掻き分けしていく。
それでも
「ない」
こなたはカバンの中のものを、一つずつ取り出していった。
やがてカバンの中の物は全て廊下に並べられ、
カバンの中は空っぽになった。
それでも
「やっぱり、ないっ」
絶望に満ちた眼差しを、虚空に放った。
廊下にしゃがみ込むと、もう一度廊下に並べられている所有物を隈なく調べてゆく。
何処かに挟まっていないだろうか、見落としがあるんじゃないだろうか、
という儚い希望を胸に抱きながら。
その作業を終えると、こなたは空になっているはずのカバンを手に取った。
カバンの中は空なはずだ。入っていた物は全て廊下に並べたのだから。
(でも、でも、もしかしたら…っ)
もしかしたら、の後に続く言葉を見つけられないまま、
悲壮な願いを込めて中を覗き込んだ。
けれども、『もしかしたら』という願いは見事に裏切られた。
『もし』も『或いは』も『奇跡』すらなく、
カバンの中身はやはり空だった。
「どうしよう…」
つかさから借りたリボンが、無くなっていた。
>>210 これ自殺してないけど、オリジナルなん?
ウィキに追加とかしていいのかな?
ふと思ったが、ストーリーに絵を当てるのはあるけど絵からストーリーを考えるのも面白そうだ
>>210です。何も考えないで適当に描きなぐったたやつなので…どうして
もらっても結構です。そういえば自殺スレでしたねwすいません気を
つけます。
「ちょっ、泉先輩、どうしたんすか?」
暫く蹲っていたこなただったが、聞き覚えのある声で我に返った。
「ひよりん…」
そこには、見慣れたひよりの姿があった。
「いや、泉先輩が遅いんで、まだホームルームか何か長引いているのかと思いまして、
ちょっと様子見て来ようかと思ったんすよ。
で、部室の扉開けたら目の前の廊下に泉先輩が居て…」
「そう、ごめんね」
「てか、マジでどうしたんすか?」
廊下に積まれているこなたの私物を見やりながら、
説明を求めるようにひよりは言った。
「ちょっと、今回の発表で使うもの、忘れちゃったみたいで探してたんだよ」
「あー、そうっすかー。そんなに大切なものなんすか?」
「うん、大切なもの」
代替が利かず賠償もできず、何より思い出の詰まったもの。
それを、紛失してしまった。
取り返しのつかなさに、こなたは再び茫然となる。
「それが無いと、今回の発表ができないんすか?
そのぐらい、重要な資料なんすか?」
ひよりは、単に発表で使う資料を忘れた、という意味に解したらしい。
無理もない解釈ではある。
(それだったら、どんなに良かった事か…)
実際には、発表にはさして影響を及ぼさない類の物ではある。
「いや…。無くてもできるけど…」
ただ、つかさが大事にしていた物を
──今は亡き昔好きだった人の遺品を──
紛失してしまった今の精神状態の下で、発表など行えるだろうか。
いや、発表など呑気な事をしていていいのだろうか。
それも、漫画やアニメに関する発表という、
趣味丸出しのお世辞にも高尚とは言えない類の発表の為に。
「あの…具合悪いようでしたら、今回の発表、無期限に延期しときましょうか?」
こなたの絶望に打ちひしがれた様相に尋常ならざる事情を感じ取ったのか、
ひよりが気遣うように声をかけた。
「いいの?もしそうして貰えるのなら、助かるけど」
「いいっすよ。元々私が無理言って、
泉先輩に私の部での発表頼んだんですから」
ひよりはそう言うと、小声で付け加えた。
「何かマジで具合悪そうですけど、大丈夫っすか?
心配事とかあるなら、自分相談乗りますけど」
どうやら、薄々と感じ取ってはいるらしい。
発表に使う資料を忘れた、という次元の話ではなく、
もっと深刻な事態がこなたに襲い掛かっているという事を。
こなたは薄く笑うと、手を振った。
「いや、大丈夫だよ」
「ですけど…」
「大丈夫だって」
尚も心配そうな視線を投げかけるひよりをよそに、
こなたは廊下に積んでおいた私物を再びバッグの中に仕舞い始めた。
その行為に、幾ばくかの罪悪を感じながらも。
(つかさの大切な物を無くしておきながら、
自分の物は全て持ち帰るってのか。
全てここに置いたまま帰っちゃえば?
財布も、筆記用具も、カバンも)
そう呟く自分の声を聞いた気がしたが、こなたは私物を全てカバンに収めた。
ひよりの見ている前で不審な行動を取る訳にはいかないし、
何より自棄になるわけにもいかない。
まだ諦めるわけにはいかないのだから。
(絶対に見つけ出さないと…)
決意を新たにすると、こなたはひよりに別れを告げた。
「じゃね、ひよりん。今回はホントにごめんね」
「いや、私はいいんですけど…。泉先輩が…」
「私は大丈夫だから、ね?じゃ」
こなたはひよりの心配を振り切ると、もと来た道を歩き始めた。
(カバンの中から落としたとは考えづらいけど…。
ここに移動する途中で、落っこちちゃったのかなぁ)
注意深く廊下を見回しながら、ゆっくりと歩を進めて行く。
やがてこなたは、B組の教室へと辿り着いた。
(無かったよ…。いや、もしかしたら生徒サポート課に届けられているかもしれない)
こなたはその可能性に思い当たると、
縋るような思いで生徒サポート課へと急いだ。
「藍色のリボンの落し物ですか?
届けられていないですねぇ」
拾得物のリストを見ながら、年配の用務員が無慈悲に告げた。
本人にその気は無いのだろうが、
抑揚の欠けた声が無慈悲さをいや増しているようにすらこなたには感じられる。
学生サポート課、ここでは拾得物の管理も行っている。
(ここにも届けられていないのか…)
「あの、じゃあ済みません。もし届けられたら、この番号に電話してくれませんか?」
こなたは近くにあったメモ用紙を掴むと、
携帯電話の番号を書きなぐって用務員に渡した。
「あ、はい、分かりま」
用務員の返事を最後まで聞かず、こなたは学生サポート課を飛び出していた。
(他にありそうな所…)
こなたは思いを巡らした。何処か、思いつくところはないだろうか。
(そうだ、机の中。私はカバンの中に入れたつもりでいたけど、
それは記憶違いで、机の中に入れたのかもしれない。
或いは、途中で気が変わって机の中に移していて、
その事を忘れているのかもしれない。
”もしかしたら”机の中にあるかもっ)
あれだけ大事に扱っていた物の保管場所について、
記憶を違えるはずなの無いのだが、
こなたは再び”もしかしたら”という言葉に縋りついた。
今まで散々、裏切られた言葉でもある。
にも関わらず、溺れた者が藁に縋るが如く、こなたはその言葉に縋りついた。
それ以外に、不安定な精神を支える術を見出せなかったのだ。
教室に辿り着いたこなたは、血眼になって机の中を調べ始めた。
教科書を一冊ずつ取り出し、間に挟まっていないか丹念に見ていく。
膨らみ具合を見れば挟まっていない事など一目瞭然ではあるが、
こなたはそうせずには居られなかった。
絶望に憑かれた人間は、それが客観的に見てどれ程虚しく馬鹿馬鹿しい希望であろうとも、
縋りついてしまう。そうしていないと、耐えられないのだ。
だからこなたは、虚しい努力である事を自覚しつつも、その作業を続けた。
ただ、こなたのこの行為は、希望に縋るという面だけではなく、
正反対の一面も内包していた。いや、作業を続ければ続けるほど、
その逆の一面が大きくなっていく。
それは、絶望を確定させるという一面だ。
一冊取り出して調べる毎に、希望が一つ潰され、絶望が一つ増していく。
こなたは落胆を繰り返しながらも、作業を続けた。
希望を一つずつ丁寧に潰し、絶望を地道に一つずつ積み重ねていくという、
逃げ道のない袋小路へと自らを追いやる残酷な作業を。
(これにも無い…。これにも…)
やがてその残酷な作業は、机の中が空になると同時に終わりを告げた。
机の中には、もう何もない。教科書もプリントもノートも、
そして勿論──リボンも。
(どうして…。どうしてないの)
物が一人でに無くなる事などあり得ない。
誰かが盗ったのだろうか。
遂にこなたは、その可能性を考えざるを得なくなっていた。
(今日、5限の体育を除いて、トイレに行く時以外ずっと教室に居た。
カバンの側に居た。もしかしたら、その時に…)
だが、財布も他の財物も、手付かずのままだ。
リボンだけ盗む事など、有り得るのだろうか。
(もしかしたら、誰かが悪戯目的で捨てたのかも)
こなたはふらつく足取りで、ゴミ箱に向かった。
中を探るが、やはりリボンは見当たらない。
ゴミにまみれてもなお、こなたはまた”もしかしたら”という言葉に裏切られていた。
「どうすれば…」
こなたは途方に暮れた瞳で、教室の外を見やった。
既に夜の帳が、外を覆っていた。
家に着いて、就寝の時間になってもこなたは中々寝付けなかった。
明日つかさにどうやって謝ろう、それだけが頭の中をループし続けている。
こなたは部屋に飾ってあるかなたの写真立てに何気なく視線を走らせた。
今日帰宅してから、幾度となく繰り返している動作だ。
そしてその度に、同じ問いに苦しめられる。
『もし、私が持っているお母さんの遺物が紛失したら、
私はどういう気持ちになるだろう』という、問いに。
そしてその問いの答えは、胸を裂かれるような切ない痛みとなってこなたを襲った。
死者と自分を繋ぐ物がなくなるという事は、
ただでさえ遠い自分とかなたを更に遠ざけるように思えてならない。
かなたが使っていた遺品、それを通じてかなたを感じる事ができるが、
それが無くなるという事は、もうかなたを感じる事ができなくなる事と同義だ。
そしてその苦しみを、自分はつかさに、
あれほど己を信頼してくれた親友に対して味あわせようとしている。
(どうすれば…いいんだろう)
答えの出ない問いを、こなたは写真の中で微笑むかなたに向かって放った。
当たり前の話であるが、何の反応も返してはこない。
死んでいるのだから。
だからこそ──
(遺品は大事なんだよ。死んじゃった大切な人と、
残された生きている人を繋ぐ唯一の糸なんだから)
という事が、重くのしかかって胸を押し潰す。
結局こなたが眠りに就けたのは、夜中の4時を回ってからだった。
*
「面白そうな案ね」
「名案だと思います」
「でしょ?」
つかさは得意満面の笑みを、
みゆきとかがみに向けて浮かべた。
秀才で通っている二人に、アイデアを褒められた事が嬉しかったのだ。
つかさがどのようなアイデアを二人に提示したのか。
それは、本来なら決して褒められるようなアイデアではなかった。
人を攻撃するための口実を作る方法の提示、つまりは悪意が込められた発想なのだから。
そしてその悪意は、泉こなたに向けられたものだった。
つかさの提案はこうである。
昔好きだった男の子に貰った、という嘘をついてこなたにリボンを貸し、
後にリボンをこっそりと回収する。当然、返す段になっても
こなたはリボンを返せない。そこで三人がかりで、
こなたを責めるというものだった。
こなたがつかさからリボンを借りる、二日前の出来事である。
「あ、そうだ、つかさ。
この際だから、その男の子死んじゃった事にしない?
事故かなんかでさ。その方が、精神的ダメージ与えられると思うのよね」
「あ、それいいね。流石お姉ちゃん、その方がダメージ大きそうだね。
それだけ重要な物を無くしちゃうんだから、
こなちゃんきっと慌てふためくよー」
「そうですね。この世に一つだけのもの、になるわけですから。
本当にかがみさんには感心させられます」
つかさとみゆきは、素直にかがみを讃えた。
しかし、かがみは顔の前で振っていた。
何も分かってない、と言いたげに。
「それだけじゃなくてさ、アイツ、母親死んでるじゃない。
だから遺品って、それだけ重い意味持つと思うのよね。
感情移入しやすいと思うのよ、大事なものを紛失させられたつかさに。
だから、こっちが多少手荒に責め立てても反撃せずにじっと耐えてくれると思うのよね。
サンドバッグみたいに」
くすり、と最後にかがみは悪戯っぽく笑った。
上目遣いの妖艶な瞳に、底知れぬ残虐性を覗かせながら。
「前々からサディストっぽいな、とは思っていましたが、
まさかここまでとは…。恐れ入ります、かがみさん。
本当にかがみさんには、畏怖させられます」
顔に些かの恐怖の色を浮かべつつ、みゆきが言った。
恐怖は顔だけではなく、震えている声音にも滲んではいるものの、
かがみの提案に反対するような事はしなかった。
つかさも反対するような事はしなかった。
かがみの残虐性に幾ばくかの恐怖を覚えながらも、
口を開かず頬に笑みを浮かべる事で、賛意を示した。
ただ、つかさもみゆき同様、かがみに畏怖の念を抱いてはいた。
こなたが至るであろう心理状態にそこまでの想像力を働かせる事ができながら、
尚もその提案を口にする事を躊躇わない残虐性に。
他人に対する共感能力や想像力が強い人間は、優しい事が多い。
相手の気持ちが分かり感情移入してしまうが故に、傷つける事にブレーキがかかる。
ただ、かがみは違うタイプらしかった。相手の気持ちが分かったところで、
感情移入して相手を慮るような甘さはない。
気持ちが分かれば、弱点を見つけたとばかりに喜び勇んで、
その弱みをひたすら責め抜く。
傷口を見つければ引っ叩き押し広げ抉り出し、
おまけに塩まで塗りこんでしまうタイプの人間らしかった。
「え?驚いてるのはむしろこっちの方なんだけど、みゆき?
アンタってさ、こういうの嫌いだと思ってたわ。
大人しそうな顔して、実はそっちこそサディストの素質秘めてるじゃない」
「いえ、かがみさんの洞察はあってますよ。
私は本来、平和に反するような事は嫌いです。
ですが」
みゆきは一旦言葉を切ると、満面の笑みを浮かべて続けた。
「泉さんはもっと嫌いです」
だから協力するのだ、と言いたげだった。
どうしてこなたがここまで彼女達に嫌われいてるのか。
その理由は、些細なものに過ぎない。
単に、能力がそれほど高いわけでもないこなたが
横柄に振舞っているのが癇に障った、という程度のものだ。
たったそれだけだ。
たったそれだけの事で、今まで親友として扱っていたこなたを
敵対視するようにまでなってしまった。
勿論こなたのそのような態度は今に始まった事ではない。
出会った当初は、いや、一年生二年生の時はつかさ達もそれほど気にも留めていなかった。
ただ、三年生になってこなたにゆたかやひよりといった後輩ができ、
彼女達に先輩然として振舞うこなたの姿を見ているうちに、
つかさ達の心に鬱屈とした怒りがその萌芽を覗かせるようになった。
『大したことない人間のくせに、何を調子に乗っているの』と。
そんな怒りを鬱積させていたある日、こなたが自慢げに話してきた。
漫画研究部から漫画やアニメについての発表を頼まれた、と。
それが、トリガーとなった。
「ああ、そうだ。かがみさん、その案でいくのでしたら、
つかささんがリボンを貰ったのも、その方が亡くなったのも
小学生時代の話にしませんか?」
「どうして?」
「ほら、中学生時代の話にしますと、つかささんやかがみさんと
同じ中学校に居た生徒が稜桜にも来ているではないですか。
ちなみに、同じ小学校出身で稜桜に来ている方はいらっしゃいますか?」
「ああ、言われてみればそうね。
それと、その質問の答えはノーよ。
あの小学校出身者は、私とつかさだけよ」
「ゆきちゃん、流石」
つかさは感心しつつ、みさおとあやのの顔を心に浮かべた。
この二人だけではなく、自分たちと同じ中学出身の生徒は居る。
そして、中学時代に鬼籍に入った生徒は居ない。
そこから嘘が露見する事を恐れての提案なのだろう。
「それと、泉さんを責め立てる時は、なるべく周囲に人が居ない所で行うべきです」
「何で?周囲に生徒が居るところで聞こえよがしに責めた方が、
こなたを孤立させる事ができそうなものなのに。
クラス全体から攻撃された方が、こなたの精神的ダメージを深める事ができるわ」
かがみの言う事の方が一理ある、とつかさは思った。
「それはそうですが、あまり事が大事になっては虐めなどに発展してしまいかねません。
それではこちらの大義名分が崩れてしまいます。
それに、例えば日下部さんや峰岸さんの中学時代の交友範囲を全て把握している
わけではありませんよね?」
みゆきの言わんとしている事を、つかさは理解した。
要するに、みさおやあやのの中学時代の友人にかがみ達と同じ小学校出身の
生徒が居れば、そこから嘘が露見する恐れがある、そう指摘したいらしい。
かがみもみゆきの意図を理解したらしかった。
「慎重になりすぎよ、峰岸や日下部の中学時代の友達から嘘がバレちゃうなんてのは。
でも、大事になると困る事が出てきそうね。
虐めにまで発展して、何か問題が起こったら教師が出張って来るかもしれない。
そうなったら、原因の究明に乗り出すでしょうね。
そして嘘はあっさりとバレる」
クラスメイト達は自己防衛の為にあっさりとこう言うだろう、
泉こなたがつかさの大切なリボンを紛失したのが悪い、と。
その報復措置に加担しただけだ、と。
そしてそのリボンがいかにつかさにとって大切な物であるのか、
力説するに違いない。昔好きだった男の子の遺品である、と。
ただ、そもそもその遺品云々の話が嘘なのだ。
小学校に問い合わせれば簡単に露見してしまう。
そうなってしまうと、窮地に追い込まれるのは逆につかさ達の方となる。
「分かった。呑むわ、その提案。
こなたを責める時は、なるべく周囲に人が居ないところでやろうじゃない。
どうせ遺品を紛失したという事実だけで、
こなたは自責の渦の中に囚われるだろうし。
こなたにだけ通じればいい類の嘘だしね。
つかさもそれでいいわね?」
つかさはかがみの問いに対し、首肯で返した。
ここまでの話に異論は無い。
「で、どうやって実行しようか?
こなちゃんにいきなりリボン貸そうとしても、不自然だよね」
「アンタね…。発案者のくせに、その事考えてなかったのか」
かがみが呆れ気味に肩を竦めた。
「それなら、いい考えがありますよ。
泉さん、漫研で発表を担当する、と仰っていましたよね。
なら、その時に貸せばいいのですよ。
お守りとして持っていて、と。
確か、明後日にその発表があるのでしたよね」
「ああ、それなら自然ね。今までお守り代わりに持っていたら
色々とご利益があった、ってエピソードも挿入すれば、
なお一層自然になるわ」
「うん、それで行こうよ。そのリボンは形見って設定なんだから、
私がお守りとして持っていたとしても不思議な話じゃないしね」
「ええ。それに、死別したという暗い過去が秘められたリボンなのですから、
今までの2年以上に及ぶ付き合いの中でリボンの話題が出てこなかった、
という泉さんの疑いを回避する事もできますしね」
みゆきは息継ぎをするように一旦言葉を切ると、
顎に手を当てて言葉を続けた。
「そういえば、当日って5時間目に体育がありましたね。
私が授業開始よりかなり早い段階で泉さんをグラウンドに連れ出しますので、
その間にかがみさん、リボンの回収頼めますか?」
「任せて。その為には、こなたにリボンを持ち歩かせず、
机かカバンの中に仕舞わせておく必要があるわね」
「台本、作った方が良さそうですね。
いくつか泉さんの発言パターンや行動パターンを想定して、
それにスムーズに対応できるようにしておきましょう。
成功条件である、次の4つを満たす為の台本を。
一つ目は、泉さんがつかささんからリボンを借りる事。
二つ目は、そのリボンが遺品であると認識する事。
三つ目に、泉さんがそのリボンをバッグの中か、机の中に仕舞う事。
そして四つ目が、かなり早い段階で泉さんを体育の授業に連れ出す事」
「四つ目に関しては、最悪私が5時間目に遅れる事を覚悟すれば、
クリアできるわね。こなたが居なかったからといって、盗み出せるわけじゃないし。
教室に他の誰かが居れば、アウトよ。だから、遅刻覚悟しとくわ」
「となると、最初の三つの条件が肝心ですね。
朝のうちに、会話を通じてこれらの条件を成就させなければなりません。
スムーズに行う為には、やはり台本が必要ですね」
「そうね。考えてみましょう」
「うへぇ、私そういう難しいの苦手だよー」
つかさは大仰に頭を抱え込む仕草をして見せた。
その可愛らしい仕草と、この場で展開されている悪意剥きだしの会話が、
あまりにもミスマッチだった。
「全く、アンタってヤツは…」
「まぁまぁ、今回の発案者はつかささんなんですから、
ここは私達が頑張りましょう」
「しょうがないわね」
こなたの与り知らぬところで、害意を込めた会話が展開されてゆく。
ここに居ないこなたは、この時何を思っていたであろうか。
アニメの事を考えているのかもしれない、
宿題にとりかかっているのかもしれない、
或いはつかさ達友人の事に思いを馳せているのかもしれない。
何れにせよ、平和に安穏と過ごしているであろう。
悪意がその華奢な身に襲いかかろうとしている事になど、
思い及ぶ事無く。
>>232 乙です。
大切な物を紛失した時の心理描写が素晴らしい。
まあオチは予想していたが、あえて言わせてもらう。
かがみ氏ね
ほしゅ
みゆき「こなたさんに牛牛牛牛言われて悔しいので、精肉店を始めたら儲かりました」
数日後
こなた「みゆきさんの真似をしてお店を始めたよ」
つかさ「イカ臭い!」
こなた「精液店じゃなかったっけ??」
こうしてこなたは破産し、自殺に追い込まれました。
めでたしめでたし
*
朝の教室は騒々しくも華やかだ。
ホームルームが始まるまでの時間を、
友人同士で語らい笑顔を見せながら過ごしていく生徒達。
その中で泉こなたは一人、沈鬱な表情を浮かべていた。
心なしかその表情は青褪めてさえいる。
それは単に極度の睡眠不足から来るものではなかった。
つかさに言い出さなきゃいけない、その事が気分を酷く鬱屈なものにさせているのだ。
やがて、つかさが登校してきた。
瞳にその姿が映った瞬間、こなたは心臓が縮む思いに襲われた。
「おはよう、こなちゃん」
つかさの無邪気な笑顔と、明るい声が痛かった。
その笑顔を曇らせるような告白をしなければならないのだから。
「あのね、つかさ」
「なぁに、こなちゃん。あ、昨日の発表の話かな」
「いや、そうじゃなくて…」
「おーすっ、遊びに来たぞー」
切り出そうとしたこなただったが、快活なかがみの声に遮られた。
「かがみ…」
「今日は珍しく登校する時会わなかったわね。
昨日の発表、上手くいったの?」
「あ、私も気になりますね」
既に登校していたみゆきも、こなたの机に寄ってきていた。
「その前に…」
つかさに謝らなければいけない事がある、
そう言いかけたこなただったが、かがみによって再び遮られた。
「あ、オタクっぽい話だから、ここで昨日の発表の話するのはナシな。
場所、変えましょ」
「そうだね。このテの話題、嫌悪する人も居るしね」
「それがいいようですね」
かがみ達3人は勝手に話を進めると、先に立って歩き出した。
こなたは仕方なく着いてゆく。
「ここなら、大丈夫かな」
かがみ達が足を止めたのは、屋上へと続く階段の踊り場だった。
朝のこの時間帯には、人は誰も居ない。
「で、どうだったのよ、昨日の発表。
上手くいったの?」
「私が貸してあげたリボンのご利益、本当にあったでしょ?」
リボン、その言葉を聴くだけでこなたの心臓は跳ね上がった。
(言うしかないよ。誠心誠意謝る事しか、今の私にはできないよ…)
意を決すると、こなたは勇気を振り絞って口を開いた。
「あのね、そのリボンの事なんだけど…」
酷く口が渇く。それでも、言わなければならない。
「本当にごめんっ。失くし…ちゃったんだ…」
言葉を発した直後に、こなたは頭を下げた。
謝意を表現する為だけではなく、つかさの顔を見ないようにする為の手段でもあった。
「今…何て…」
こなたの頭の上に、絶望的なつかさの呟きが降り注いだ。
「本当にごめん。失くしちゃったんだ…」
頭を下げたまま、こなたはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「そんな…」
つかさの声は、消え入りそうな程に弱く、そしてか細かった。
「こなた、ちょっと顔上げろ」
怒気を露にしたかがみの声に従い、こなたは恐る恐る顔を上げた。
その瞳に、つかさの姿を映さなければいけない事が堪らなく恐ろしい。
顔を上げたこなたの視界に、3人の姿が飛び込んできた。
こなたの危惧していた通り、つかさは泣いていた。
声こそ出してはいないが、赤くなった目から悲しみの雫が滴っている。
みゆきはそんなつかさを、心配そうな面持ちで見つめていた。
そしてこなたに顔を上げるよう命じた声の主、
柊かがみは唇を噛み締めながらこなたを睨みつけている。
やがてかがみは、低く抑えた声でこなたを糾弾しはじめた。
「言っていい嘘と言っちゃいけない嘘があるって分かってんのか?
あのリボンがつかさにとってどういう意味があるのか、
アンタも知ってるでしょ?
失くした、なんて本来悪ふざけでも言っちゃいけない。
それでも、冗談なら今すぐ冗談と言え。そして謝れ」
「冗談じゃ…ないよ。
本当に、失くしちゃったんだ」
「こなちゃん、お願いだから嘘だと言ってよ。
冗談だとしても、私怒らないから。
だから、お願い。嘘だと言って」
つかさの縋るように懇願する声が、こなたを苛む。
この祈りにも似た悲痛な声に、
あまりにも無慈悲かつ非情な宣告をしなければならない。
その事を思うと、こなたの胃は締め付けられるように痛んだ。
「ごめんね、つかさ。本当に、失くしちゃったんだ。
昨日必死で探したけど、見つからなかった。
学生サポート課にも問い合わせてみたけど、拾得物として届いてはなかったよ」
「そんな…」
「つかささんっ」
倒れそうなつかさを、みゆきが慌てて抱きとめていた。
「こなた、アンタだって知ってるでしょ?
あのリボンがどういう意味を持っているか。
つかさが昔好きだった人から貰った大切なリボン、
今はもう死…」
その先を続けるのを厭うように、かがみは下を向いて数拍の間押し黙った。
やがて上げられたその顔には、怒りが漲っていた。
「それを…よくもっ」
「かがみさんっ」
こなたに掴みかかろうとしたかがみを、みゆきがすんでの所で抱きとめていた。
「離してよ、みゆき。コイツは、コイツは…。
つかさの大切なリボンをっ」
「気持ちは分かります。ですが、落ち着いて下さい。
暴力に訴えたところで、リボンは返って来ません」
こなたは黙って二人のやりとりを見つめていた。
思っていた以上に、話は深刻な方向へと進んでいく。
(でも、私が悪いんだもん。仕方ないよね)
「泉さん、本当によく探されましたか?
何処かにまだ探していないところ、あったりしませんか?」
かがみが落ち着いたのを見計らって、みゆきが言った。
「うん。自分の歩いた道辿ってみたり、
カバンの中や机の中を丁寧に調べてみたり。
でも、無かったんだ。何処にも」
「で、諦めた、と」
かがみが冷たく言い放つ。
「諦めたというか…。見つからなかったんだよ、どうしても」
「それはつまり、諦めたって事じゃない。
アンタが本当にあのリボンの意味理解してたのなら、
見つかるまで探し続けてたハズなんだけどな。
それとも、どうでも良かったのか?
つかさにとっては大切な物でも、
アンタにとってはただの古びたリボンってわけだったのか?」
「そんな訳ないよ。
私にとっても、大切なリボンだったよ。
友達の大切にしてるリボンなん」
「止めてっ、こなちゃん」
こなたを遮るように、つかさが叫んだ。
「私の事を友達なんて、言わないでよ。
こんな仕打ちしときながら、友達面しないでよ」
(友達、失格。私はつかさにとって、友達ではなくなったのか。
そうだよね、大事な物失くしちゃったんだもん。
もう友達として見てくれないよね)
「ごめん…」
「謝ったところで、戻ってこないけどな」
かがみの言うとおり、謝っても戻ってこない。
これがただのリボンであれば、弁償すればいいだけの話だ。
だが、ただのリボンではない。
いや、リボンそのものではなく、好きだった人がくれたという点に価値がある。
そして、その人はもうこの世に居ないという点に、計り知れない重みがある。
つまりは、代替できるリボンなどこの世にはなく、
金銭という単位で図ることさえできない。
「泉さん、もう一度よく思い出してください。
何処かにリボンを持ち出して、そこに置き忘れたという可能性は?」
「あり得ないよ。だって、ずっとカバンの中に仕舞っていたし」
「なら、どうして無くなるのよ?」
「まぁまぁ、かがみさん。では、バッグを持ち歩いた、という事はありましたか?
その時に、バッグからリボンが落ちてしまったのかもしれません」
「カバン持ち歩いたのは、漫画研究部部室へと発表に向かう時の一回きりだよ。
失くした事に気付いた後で、辿った道トレースしてみたけど、
やっぱり無かったよ」
「そうですか。他に、思い当たる所はありませんか?」
「ないよ。カバンの中も隈なく探したし、机の中も探したよ。
それでも無かったんだ」
みゆきは顔を曇らせた。
「そうなると…厳しい事になりましたね。
泉さんが、バッグを持ち歩いたという記憶を持っているのは、
部室へと行った時のみ。それ以外にバッグを持ち歩いた記憶は
お忘れのようですし、見つけ出すのは至難の業になりましたね」
「ちょっと待ってよ。忘れるも何も、その時の一回きりだよ、
カバン持ち歩いたのは」
こなたはその資格が無いことを自覚しつつも、抗議の声を上げた。
だが、みゆきは眼鏡越しの冷たい視線でこなたを射抜きながら、
抗議の声を軽くいなした。
「記憶というものは、不確かなものです」
「いや、でも…」
「ではお聞きしますが、どうして机の中を探されたのですか?」
「え?」
「泉さん、仰っていたではないですか、机の中も探した、と。
カバンの中から出していないのであれば、
机の中など探す必要は無いでしょう?
それでも敢えて探したのは、自身の記憶を疑っていたからではないのですか?
もしかしたら机の中に保管場所を移したのを忘れているのかもしれない、と」
「それは、そうだけど…」
認めざるを得ない。
記憶の不確かさ、その前提があるが故に机の中まで丹念に調べたのだ。
ならば、こなたが忘れているだけで実はカバンを持ち歩いていた、
という先ほどのみゆきの指摘も無視できなくなる。
「泉さん、正直な話、貴方を見損ないました。
もう少し、人の気持ちが分かる方かと思ったのですが。
もし大事に思う気持ちがあれば、リボンを持ち歩いた事を
忘れる事などしないはずです。
つかささんの気持ちを軽んじているから、
彼女の大切なリボンを持ち歩いた記憶さえ喪失しているのでしょう?」
温厚なみゆきにしては珍しく、責めるような口調でこなたを糾弾した。
そのみゆきに同調して、かがみが後を繋ぐ。
「そうね。こなたにとってはどうでも良かったのね。
だから、失くすわ忘れるわやりたい放題なわけだ。
こなた、アンタ何をしたか分かってるの?
つかさの大事なリボンを失くした事だけじゃない、
つかさの信頼さえアンタは裏切ったのよ?
あんなに大切なリボンをアンタに貸した意味、
それを少しは考えてみたら?
ああ、考えても分からないか。人の心さえ持ってないような悪魔だもんね。
教えてあげる。アンタの事がそれだけ大事だからじゃない。
アンタの発表が成功しますように、その願いを込めてあのリボンを渡したんじゃない。
大切なリボンを貸してでも力になってあげたい、
そんな健気な思いを込めてね。
なのにアンタはそのつかさの気持ちを」
かがみは一旦言葉を切ると、射抜くような視線でこなたを見据えてから
「裏切った」
強い語勢で言い切った。
「軽くなんて見てないよ。本当に、私だってリボンの大切さは認識していたし、
つかさの気持ちだって分かっていたよ」
リボン紛失それ自体を責められるなら、こなたはじっと耐えるつもりだった。
だが、つかさの事を軽く見ている、という点に対しては反駁せずにはいられない。
「それが本当なら、リボンを持ち歩いた記憶を忘れたりしないはずです」
「そもそも、持ち歩いてないんだってば。
確かに机の中は探したけど、それは万が一の可能性に賭けたからだよ。
記憶に不確かな所があるのは認めるけど、
それでも私、リボン持ち歩いたりなんかしてないよ」
「では、どうして無くなっているのですか?
持ち歩かずにカバンの中に入ったままなのなら、無くなっているはずがないでしょう?」
「それは…」
こなたは言葉を詰まらせた。
一応、みゆきの問いに対する答えはこなたの頭の中に浮かんではいる。
ただ、それを言ってしまっていいものか迷った。
「それは…」
迷った末、結局こなたはその答えを口にした。
「誰かが、盗ったんだ。それ以外に考えられない。
だって、私はカバンの中に入れて持ち歩いていないし。
一回だけ、放課後に漫研部室に発表行く時はカバンごと持ち歩いたけど、
リボンが中から落ちるっていうのは考えづらいし」
「苦し紛れに何言ってんだ?こなた」
かがみが呆れ気味に声を発した。
「次は人のせいにするわけか。自分の不注意を、誰かのせいにするわけか。
つかさのリボン失くしといて、自分のせいじゃないです、そう言いたいわけか。
ついでに言っとくけどな、誰かが盗んだっていう可能性は限りなく低い。
ゼロと言ってもいいくらいよ。
考えて見なさいよ、こなた」
かがみの瞳に、蔑みの色が浮かんだ。
こんな事にも思い至らないのか、と言いたげに。
「その盗人は、どうしてつかさのリボンを盗んだりしたの?
その盗人にとって、つかさのリボンが盗むだけの価値があるのか?
他に、財布とかの金目の物は紛失していたの?」
「いや、リボン以外の物は盗まれてないけど」
「なら、尚更よ。どうしてリボンだけ盗む?
その行為に何の意味があると?
あのな、言い訳するなら、もっとマシな言い訳考えなさいよ。
そんな苦し紛れの言い逃れじゃなく。
まぁ、本当に悪い事したと思っているなら、
言い訳自体しないはずなんだけどな」
言い訳、その単語が卑しい響きを伴ってこなたの心に直撃する。
自分のミスを認めない、という意味が含まれているからだ。
「別に言い訳のつもりで言ったんじゃ…。
勿論、自分の管理が不十分だった事は認めるよ。
でも、それ以外に」
「泉さん」
こなたはみなまで言い切る前に、みゆきの冷たい声に遮られた。
「かがみさんの言う事に理がありますよ。
盗む側にメリットがありません」
「性格悪い人が、困らせようとして盗んだのかもしれない…」
「それで、何でリボンを盗むんですか?
困らせようと思ったのなら、別に盗むものがありそうですが」
「だって、アレつかさにとって大事なリボンじゃん。
私か…或いはつかさを困らせようとして盗」
「泉さんっ」
冷たい声から一点、怒気を露にした声でみゆきは遮った。
「それは、あの時の会話を聞いていた人間が盗んだ、
という事を前提としていますよね。
つまり、B組の生徒が盗んだ、と言いたいわけですか?
クラスの委員長として、聞き過ごす事はできません。
クラスの皆さんがそんなあくどい事はしない、そう私は信じていますから」
みゆきは声のトーンを落とし、肩を竦めながら一言付け加えた。
「その私の信頼も、誰かさんは見事に裏切ってくれたみたいですが」
「大体ね、あの時の会話はアンタの机の周囲で展開されていた。
それを聞いていたという事は、アンタの机周辺に席がある人が盗んだ、
って事になるわよね。困らせる事が目的ならば。
つまりアンタは、机が近いような人間さえ疑っちゃう人間なんだ?
普段顔つき合わせちゃうような人間でさえ、疑ってかかるんだ?
まぁそれも当然か。親友のように振舞ってたつかさの事さえ、
軽んじてるような人間だもんね」
みゆきとかがみの言葉に、こなたは反論さえできずに俯いた。
瞳から涙が溢れそうになるが、必死に堪える。
(私に泣く資格なんて無いよ。あるのは)
こなたは顔を下に向けたまま、視線を移した。
ハンカチで目元を押さえている、つかさの姿が視界に飛び込んできた。
(私に裏切られ、大切なリボンを失くされたつかさだけだ)
「そうだ、こなた。アンタはつまり、誰かが盗んだと疑っているわけでしょ?
それも、自分の席周辺の人間を。
だったら、その人達に聞いたりはしたの?
リボン盗みましたか?って。
まぁそこまでストレートに訊かずとも、調査くらいはしたんでしょうね?」
「いや、聞いてないし、調べてもいないよ。
別に私の席周辺の人間を、特に疑っているわけでもないし」
「困らせる為に盗んだ、そう泉さんは仰いましたよね?
なら、つかささんがリボンに纏わる話をされた時に近くに居た人を、
疑っているという事になりませんか?」
「そう、なるのかな。そこまで考えてなかったけど…」
「ああ、つまりアンタ、浅はかな考えで責任転嫁を図ったってわけね。
その場しのぎの為に、浅い考えで幽霊に罪を被せた、と。
それとな、こなた」
かがみは瞳を細めると、一歩こなたに近づいた。
「当然、こなたの席周辺の生徒達の机やカバン、調べたりするんでしょうね?
つかさのリボンの大切さや信頼の重要性を認識しているのなら、
リボン取り戻す為に当然そのくらいはやってみせるわよね?
今はもう、彼等彼女等を疑っているんだろ?盗んだ、と。
なら当然、探索の対象には含められるはずね。
やらないってんなら、昨日リボンを必死になって探しまくった、
っていうさっきのアンタの発言の信頼性もなくなるけどな。
面倒だから軽く調べるだけに留めて、あっさりと諦めたとしか思えなくなるけどな」
「なんで…そうなるの?」
「疑わしい所さえ調べないなら、当然そう判断せざるを得ないじゃない」
こなたは唇を噛んだ。かがみの言うとおりだ。
だが、勝手に他人の机やカバンを覗き込むわけにもいかない。
こなたは譲歩するしかなかった。
「ごめん、私、疑ってなんかいないよ。
盗まれたっていうのは、その可能性もなくはない、っていう軽い意味だけだよ。
多分…私は…」
もう、認めざるを得なかった。
「何処かでリボンを持ち出してて、その事忘れちゃってるんだ…」
(そんな事、あるはずないけど…。このままじゃ、他人の机やカバンまで
覗き込む羽目になる。認めるしかない…か)
意思と正反対の事を言わなければならない苦痛が、こなたを苛んだ。
「ふぅん。やっぱりつかさの事、軽んじてたって事ね」
蔑むようなかがみの言葉に、こなたはもう反論する事ができない。
「結局、盗まれた云々というのは、責任転嫁でしかなかったのですね」
呆れたようなみゆきの言葉に、こなたはもう異を唱える事ができない。
「こなちゃん、酷すぎるよ。私の大切なリボン持ち出したことあっさりと
忘れるだけならまだしも、誰かのせいにして逃れようとするなんて」
泣き疲れたのか、つかさの声は枯れていた。
(枯らしたのは、私なんだ…)
「私、同時に二つの物を永遠に失くしちゃったんだ…。
一つが、形見のリボン。もう一つが」
つかさは憎悪に満ちた眼差しでこなたを見据えると、
指を突きつけた。
「こなちゃんに対する信頼だよ」
こなたに途方もない喪失感が襲い掛かった。
足元がふらつき、立っている事さえ辛かった。
いっそのこと重力に身を委ね、冷たい廊下に身を横たえたかった。
それほどまでに、こなたを見舞った喪失感は深刻だった。
(でも、私が今味わっている喪失感はきっと大した事無いんだろうね。
少なくとも、つかさに比べれば…)
その当のつかさは、こなたに向けていた腕を下ろすと、
俯きながら途切れ途切れに嗚咽を漏らした。
「私っ、こなちゃんの事、信じていたのに…
こんなのって無いよ、酷すぎるよ」
「つかささん、そう悲しまないで下さい。
と、言うのも無理かもしれませんが。
ただ、少なくとも私達が居るではないですか。
私達が、泉さんがつかささんの胸に開けた穴、癒すよう努力しますから」
「そうよ、つかさ。私とみゆきが居る。
それにその子だって、つかさの中で永遠に生き続けるわ」
みゆきとかがみの発言は、言外にこなたを疎外する意が込められていた。
こなたは敏感にそれを感じ取る。
「あ、もうこんな時間ですね。とっくにホームルームが始まっています。
そろそろ戻りませんと、一時間目も危ういですね」
みゆきが思い出したように呟いた。
携帯電話で時刻を確認すると、一時間目開始5分前の時刻が表示されている。
「そうね…。まだまだ言い足りないけど、授業始まるし戻るしかないわね。
でも、丁度良かったのかもしれないわ。
だって、これ以上こなたなんかに時間かけるのも馬鹿らしいし」
かがみが同調すると、3人はこなたを置いて歩き出した。
こなたはその3人の後を、少し離れて歩いた。
3人の肩が心なしか震えているように見えたのは、目の錯覚か。
或いは、怒りに打ち震えているのか。若しくは、悲しみに拉がれて震えているのか。
3人の肩の震え方は、笑いを堪えている姿を連想させるものではあるが、
こなたはすぐにその考えを否定した。
(そんな訳無いじゃん。気のせいか、怒りや悲しみで震えてるかのどっちかだよ。
笑えるような話じゃないんだし)
こなたは無理矢理自分を納得させると、やるせない思いで天を仰いだ。
(どうすれば、いいのかな…)
もしも、神奈川が私のお父さんを書いたら、
・そうじろうの親の自殺原因が広まり、みんな、小早川家に同情的でこなたに味方がいない。
・噂が噂でかがみやつかさ、みゆきはこなたに敵意を見せるようになる。
・昏睡状態から目覚めたそうじろうがかなたと勘違いしてこなたをレイプ。その後、大暴れし、屋上から転落死。
・こなたが独断でゆたかを犯人と決め付け、徹底的に痛めつけて、結果ゆたかが死んでしまう。
・その後、みなみ、パティ、ひよりに押さえつけられリンチ。
・ゆいは両親に協力的で最初からこなたが嫌いだったことが判明。
・こなたがゆいをカッターで脅して警察署を脱走。ついでに警察署を全焼させる。
・逃走途中で赤信号なのに走り、つかさを跳ねる、つかさはそのまま死ぬ。
・つかさを跳ねたことがかがみにバレて、フルボッコ。こなたはいい加減な言い逃れをする。
・一度家に帰るものの、みなみたちによって家が燃えていた。
・ゆきは殺される。
・逃走途中みゆきにつかまり、自警団に引き渡され、拷問を受け、自殺。
・みさおとあやの、こなたが死んで大喜び。
・生命保険と遺産が手に入ったことでゆたかの父親大喜び。
・ここでゆいは別の男性とできた子供、ゆたかは養子ということが判明する。ゆたかの父親は無精子病だった。
*
結局、学校が終わり家に着いても答えは出なかった。
どうすれば、償えるのか。
一番いい解決方法は、リボンを見つけ出す事である。
それでも紛失したという事実がある以上、
信頼関係の回復までは望めないが、つかさの傷を癒す事はできる。
だが、最早リボンの発見は望み薄だった。
今日も帰宅前に学生サポート課に寄ってみたが、
やはりリボンは届けられていないという事だった。
もう、見つからないと思った方がいいだろう。
(なら、どうすれば…)
こなたは頭を抱えた。
リボンの紛失が露見してからは、かがみとみゆきの刺すような視線に何度も射竦められた。
軽蔑が込められた視線で、何度射抜かれた事だろう。
聞こえよがしに、当てつけめいた皮肉を何度も聞かされた。
だが、それ以上にこなたを苦しめたのは、つかさの態度だった。
つかさは今日、一度も笑わなかった。
みゆきがかがみが慰めても、暗い顔をしたまま俯いていた。
つかさから笑顔を奪ってしまった、その思いがこなたを間断なく責め立て続けている。
(私じゃ、答えを出せないよ…。でも…)
答えを出せないからといって、思考を放棄してしまってもいいのだろうか。
(駄目だ。それじゃ、ただの開き直りだ。
私じゃ答えを出せなくても、聡明なみゆきさんやかがみなら…)
その二人なら、明晰な頭脳で何らかの答えを導き出すかもしれない。
だが、その二人からは既に見限られている。
(見限られているけど…でも私には二人の力が必要だよ。
まずは二人に謝ろう。そして、一緒に考えてもらおう。
つかさに対する、謝罪の方法を。
つかさが許してくれるとは思えない。でもせめて、
最低限つかさの心を軽くしたいよ…)
こなたは意を決すると、携帯電話を手に取った。
そこで逡巡する。まずはどちらに電話をかけようか、と。
(やっぱりみゆきさんからかな。
かがみはつかさの姉だ。
だから、みゆきさん以上に私に対する怒りや呆れが強いと思う。
相手にすらされない可能性、かなり高いよ)
こなたは短縮ダイヤル機能を用いて、みゆきに向かって発信した。
(そういえば、短縮ダイヤルに登録するほどみゆきさんやかがみとは
仲が良かったんだよなぁ。なのに今や、私の不注意のせいでもう相手にもされない)
こなたは無機質なダイヤル音を聞きながら、ぼんやりと思った。
つかさ、かがみ、みゆきと4人グループを形成していた過去が、
昨日のようにすら思いだされる。
(いや、実際昨日の時点では私たち仲が良かったよ。
なのにどうしてこんな事に…。
ああ、私がそれだけの事をやっちゃったからか)
再びこなたの頭に罪悪感が擡げたが、
その思考は受話に応じる音によって中断された。
「何か御用ですか?」
突き放すような冷たい声。そして、用がなければかけてくるな、
とでも言いたげな口調だった。
「うん、みゆきさんに相談に乗って欲しい事があって…」
「はい?」
「だから、みゆきさんに相談に乗って欲しい事が」
「はぁ…。あのですね、泉さん。
私は色々と忙しいんですよ。漫画やアニメでしたっけ?
そういった物の評論なんかしている貴女とは違うんです。
なのにどうして、友人ではない…むしろ蔑みの対象として捉えている貴女の
悩み相談など受け付けなければならないのですか?」
多少冷たくされる事は覚悟の上だったこなたも、
想像以上に辛辣なみゆきの言葉に面食らった。
(挫けるな、私。元々拒絶されるのも覚悟の上だったはずだよ)
「でも、みゆきさんにとってつかさは友達でしょ?
そのつかさの事で相談があるんだよ」
「確かにつかささんは友人ですね。泉さんと違って」
余計な一言がこなたを刺すが、構ってなどいられない。
今は、みゆきの力がどうしても必要だ。
「で、そのつかさに謝りたいんだ。
いや、償いたいんだ。でも、どうすれば償えるのか、私には分からない」
「簡単です。そのリボン、見つければいいだけでしょう?
それが償いです。見つけたとしても、泉さんは友人の大切な物を無碍に扱う人間だ、
という評価は残りますが」
「いや、見つからないんだよ。だから、それに代わる償いの方法をみゆきさんにも
一緒に考えてもらいたくて」
「失くしたのは貴女でしょう?どうして私が一緒に考えるのですか?」
こなたは言葉に詰まった。確かに、みゆきの言うとおりだ。
「いや、だってつかさを助けてあげたいのは、みゆきさんも同じでしょ?
このままじゃつかさ、あまりにも可哀想だよ。
だから、私を助けるんじゃなくて、つかさを助けると思って」
「ふざけないで下さい」
こなたの言葉を、みゆきの怒声が遮っていた。
「それは単に言葉を言い換えているだけでしょう。
つかさを助けると思って私を助けて、という意味の言葉でしかありません。
第一、リボンが見つからない以上、つかささんの心の傷は完全には癒されません。
代替の償い方法など、ありません」
縋りつくこなたを、みゆきは冷たく突き放していた。
「でもこのままじゃ…私の気が済まないよ。
つかさに少しでもいいから、償いがしたいんだ。
何もできないから何もしない、なんて開き直れないよ」
「貴女の気が済むかどうかなんて、私の知った事ではありません。
私が関心があるのは、つかささんをどうすれば慰める事ができるのか、それだけです」
「だったら、私も慰めたい」
償いが不可能であるならば、
せめて傷心のつかさの心を多少なりとも軽くしてやりたかった。
「泉さん、どの口が仰っているんですか?
つかささんの心を深く痛める原因を作ったのは、貴女なんですよ?」
「だからこそ、私には慰める義務が」
「ふざけているのですか?」
嘲りを声に含ませながら、みゆきはこなたの言葉を遮ってきた。
「貴女は加害者なんですよ?加害者の慰めの言葉が、
つかささんの心の安寧に一役買うとでも?
逆です。神経を逆撫でするだけです。
慰めるのは、私やかがみさんにしかできない事なんですよ」
何処までも冷淡な口調だった。
「じゃあ…私はどうすれば…」
「リボンを見つけて下さい」
「無理だよ…無理だからこうして」
「あっさりと諦められるんですね?
それがつまり、貴女のつかささんに対する態度の表れなんです。
どうでもいい、そんな認識しかつかささんに抱いていないから、
つかささんの大切な物を失くしても平然としていられるんですよ」
こなたは唇をきつく噛み締めた。そうでもしていないと、
「平然となんてしていないっ」と怒鳴りつけてしまいそうだったのだ。
(私が悪いのに、怒鳴るなんて逆ギレもいいトコだ。
ましてや、こっちはお願いしている立場なのに…)
そう自分に言い聞かせ、怒鳴りたくなる衝動を堪える。
「いや、悪いと思ってるよ。でも、一日探して見つからない以上、
他の手段でつかさに償わなきゃならないから…。
ねえ、慰めるのも駄目なら、私はどうすればいいんだろう」
「知りません。ご自分でお考えになって下さい」
それだけ言うと、みゆきは一方的に電話を切った。
最後まで、その敵対的な態度を崩す事無く。
>>250-252 今回は少なめですが、ここまでにしておきます。
漸く半分投下完了、といったところです。では、また。
黒いセンセにでも相談したらいいのでは?
>>248 神奈川なら更に上いくと思うぜ
ヤツの憎悪は半端ないからな
>>255 まさか、こなたがカーチェイスの時に無免許運転の末、警官や一般市民に
死傷者を出すとか、ゆたかの母親が「親の遺産手に入れるのに泉家が邪魔だった」
と発言するとか?
金沢のそうじろうの母校に来たが乞食と思われたたき出されて凍死とかw
むしろ、金沢でもそうじろうを憎悪している同級生が多くて
凶器を持ってこなたを追いかけまわすとか、逃げる途中、ラッセル車に
ひかれて死ぬというのもありそうだなwあと、そうじろうは泉家とは
血が繋がってなく、「あなたの息子」といってかって上がり込んだ
赤の他人というのもありそうだなw
そういやなんで、小早川家はそうじろうを憎悪しているのにゆたかを
泉家に預けたんだろ?そこが分からなかった。
こなたは茫然としていたが、すぐに気を取り直す。
(まだ…まだかがみが居る。
かがみはつかさの姉だから、みゆきさん以上に怒っているかもしれない。
でも、つかさの姉だからこそ、つかさの事はみゆきさん以上に分かっていると思う。
だから、もしかしたら一番有効的なアドバイスを聞けるかもしれない)
みゆきの冷たい態度に心は既に折れかけていたが、
つかさへの償いを放棄する訳にはいかない。
そう自分に言い聞かせながら、かがみの短縮ダイヤルを呼び出した。
(もしかしたら、出ないかもしれないな。
着信拒否まではまだされてないみたいだけど…)
かがみは電話にさえ出ないのではないか、そうこなたは危惧した。
だが、こなたの心配も僅か3コールで霧散した。
「よくもまぁ、のうのうと電話なんてかけてこられたな」
攻撃的な声だったが、電話に出てくれただけでもこなたにとっては有難かった。
(電話に出てくれたっていう事は、少なくとも話を聞くつもりはあるって事だ。
可能性はゼロじゃない)
こなたは自分を奮い起こすと、ゆっくりと言葉を吐き出した。
「ごめんね。でも、つかさの件で、かがみの力が必要だから」
「私の力?」
「うん。つかさに償いたいんだけど、どうすれば償えるのか分からなくって」
「リボン、見つけてきなさいよ」
かがみもまた、みゆきと同じ事を言った。
「どうしても、見つからないんだよ。だから、別のやり方で償いたいんだ。
でも、どうすれば償えるのか分からない。
だから、かがみの知恵を貸して欲しいんだ」
「アンタね、何呑気な事言ってるの?つかさは…」
かがみはそこで言葉を切っていた。
自然、二人の間に沈黙が訪れた。
(つかさが…どうしたの?続けてよ、かがみ)
沈黙が続けば続くほど、こなたは不安になった。
その沈黙に耐え切れず、先を促そうと口を開きかけた時、
悲壮を漂わせたかがみの声が響いてきた。
「今日ずっと、暗い顔してるのよ?学校で、だけじゃない。
家に帰ってきてからもずっとよ。
ご飯もろくに食べないで、部屋に篭ってる。
どうすればいいのか聞きたいのはこっちの方よっ」
こなたは口を噤んだ。何も言う事が出来なかった。
(私、自分の都合ばかり考えてた。それで、かがみなら何とかしてくれるかもしれない、
そう思っちゃった。でも実際には、
かがみもどうすればつかさを助けてやる事が出来るのか分からないんだ…。
なのに私は、自分の事ばっかり考えて、安易にかがみに縋っちゃってた。
誰かに縋りたいのは、かがみだって同じなのに…)
「何とか言いなさいよっ。アンタのせいで、つかさが塞ぎこんじゃってるのよ?
アンタがつかさを追い詰めたんでしょ?
何とかしなさいよっ。悪いのはアンタでしょ?
なのにどうしてのうのうと、知恵を貸して下さい、なんて図々しい事言えるのよ…。
つかさを救う知恵が欲しいのは、私だって同じなのに…。
アンタがつかさを壊したんだから、アンタが何とかしなさいよっ」
ヒステリックなかがみの叫喚が、こなたの鼓膜と心を激しく叩いた。
つかさを救い出す事ができるのなら、どのような犠牲を払う事になっても構わなかった。
だが、どんな犠牲を払えばつかさを救い出せるのか、それすら分からない。
「ごめん、かがみ」
出来るのはただ、謝る事だけだ。
「聞きたくないっ。謝る暇があるなら、つかさをどうにかしてよ…。
ずっと暗い顔で…。アンタが、世界に一つしか無いものを失くしちゃったせいで…。
つかさにとってあのリボンがどれほど大切な物か分かってるのか?
昔好きだった人がくれた思い出の品なのよ?
しかも、その人はもう…死んじゃってるのよ?
かけがえの無い遺品なのよ?」
認識している事ではあるが改めて言葉にされ突きつけられると、
より一層罪悪感が重みを増してこなたに圧し掛かる。
だが、軋んだ悲鳴を上げるこなたの心に構う事無く、
かがみは更に心を抉る言葉を放ってきていた。
「もう二度とつかさはあのリボンを手にする事はないのよ?
取り返しのつかない事を、アンタはやったのよ?分かってるの?」
それは、こなたを苦しめている要因の中で、最も重い事実だった。
『取り返しがつかない』という事に対しては、人は最早どうする事も出来ない。
後悔の海の中に、埋没していくだけだ。
「分かってる…分かってるよ」
喉の奥から声を絞り出すように、何とかそれだけ言った。
「どうしてくれるのよ…。もう、つかさは二度と…うぅっ、うぇっ…」
かがみの声は、次第に小さくなっていき、最後には嗚咽へと変わっていった。
(どうやって、声をかければいいんだろう。
どうすれば、かがみを慰められる?
つかさが苦しんでいるのも、かがみが苦しんでいるのも、
二つとも私のせいだ…。私の…)
必死に慰めの言葉を考えるが、どれもこれも不適当な気がしてくる。
(「今は苦しくても、時間が癒してくれるよ」…駄目だ、これは。
そもそも私が原因なのに、時間が癒してくれるなんて言葉、無責任過ぎる…。
「私が、どうにかしてつかさを救い出すよ」…これも、駄目だ。
その為の方法すら思いつかないのに、一時だけの期待持たせるなんて酷な結果に終わるだけだ。
増してや、かがみに対して私は言っちゃったんだ、
どうすればつかさに償えるのか知恵を貸して欲しい、と。
既に無力だと白状しているのに、こんな事言っても信じてもらえないよ。
一時の慰めすら、かがみは得られないだろうな…)
色々と考えてはみるものの、何もかがみに言う事ができない。
こなたは改めて己の無力さに唇を噛み締めた。
今までかがみから多くの恩を受けてきたのに、
いざという時に何もしてやれない歯痒さに身悶えながら、
こなたはじっとかがみの嗚咽を聞いていた。
「…いや、私が悪いのかもね」
些か枯れた声で、かがみが不意に呟いた。
声に自虐的な響きを漂わせながら。
「確かに、失くしたのは…原因を作ったのはアンタだけど、
妹を慰めてやれない私も、姉として失格よね…。
一番辛い時に、何もしてやれないなんて…。
本当に、駄目で無能な姉よ…。ごめんね、つかさ。不甲斐ない姉で…」
「かがみ…」
こなたは震える声で呟いた。
(私のせいで…かがみまで…)
自責に苛まれているかがみの姿が脳裏に浮かんだ。
自分が原因なのに、全く落ち度の無いかがみが自責の念に駆られている──
そう思うと、こなたは居た堪れない気持ちになった。
自分の行為の結果、害が発生してもそれが自分だけに降りかかってくるのであれば、
まだ耐える事ができる。
だが、落ち度の無い人間にまで累が及ぶとなると、話は別だ。
自分の行為の結果、周囲の人間に迷惑を及ぼしてしまう、
それは真面目な人間にとってこれ以上無い苦痛となる。
そしてこなたは、普段はおどけた態度をとってはいるものの、
根本的には真面目な性格だった。
それ故に、かがみの自責の声は聞くに堪えなかった。
まだ口汚く罵倒してくれた方が、気が楽だ。
「かがみは…何も悪くないよ。悪いのは全て、私だから」
こなたは何とかそれだけ言った。
それ以上、言うべき事が見つからない。何を言えばいいのか、分からない。
「何言ってるのよ…。妹を慰めてもやれないのよ、私。
つかさが苦しんでいるのに、何もしてやれないのよ、私…。
ああ、今思えばつかさがこなたにリボン貸そうとした時、
私は止めるべきだったのよ。私も原因の一端、担っているのね…」
酷く沈鬱な声で、かがみは返してきた。
(駄目だ…。何の慰めの言葉も、見当たらない…。
いや、どんな風に慰めても、神経逆撫でするだけだ…)
今更ながら、みゆきの言葉が説得力を持って響いてくる。
──加害者の慰めの言葉など、被害者の神経を逆撫でするだけだ──
実際、その通りだろう。加害者の慰めの言葉は、加害者自身の免責にも一役買う。
また、加害者の癖に他人事のように振舞っている、という印象すら与える。
それは被害者から見れば、ただ悪行から逃れているようにしか見えない。
だから、こなたは下手な慰めの言葉を考える事を止めた。
代わりに
「かがみ、やっぱりかがみは悪くないよ…。
悪いのは全部私だから、私が必ずつかさを助け出すよ…」
決意を言葉にしてかがみに伝えた。
先ほど口にしようとして躊躇った言葉である。
「だから、力を貸して欲しいんだ。
正直に言って、私一人じゃ力不足だよ。それは、認めざるを得ない。
でも、かがみが手伝ってくれるなら…知恵を貸してくれるなら、
つかさを救えると思う。いや、必ず救ってみせる。
だからお願い、かがみ。一緒に考えて欲しいんだ…」
「そんな事、出来るわけ…」
かがみはそこで言葉を切ると、突然黙りこくった。
再び長い沈黙が二人の間に訪れる。
「ごめんね、こなた。私、考える事放棄してた。
少なくともつかさを救いたいという想いは一致しているんだから、
私も考えるべきだった」
「かがみ…。ありがとう」
長い沈黙の後に訪れたのは、かがみの翻心だった。
だが、何故かこなたの胸はざわついていた。
かがみの翻心が突然過ぎるからだろうか。
「でね、こなた。
つかさを救うには、こなたが償いの姿勢を見せる事が大事だと思う」
「償いの姿勢…」
こなたはかがみの言葉を繰り返した。
「そう、姿勢。償うっていうのは、はっきり言うけど不可能よ。
それこそリボンを見つけ出さない限り、ね。
でも、償おうとする姿勢くらいは見せられるんじゃない?
それで、つかさの心を動かすしかない」
「ありがとう。その為の方法、考えてみるよ。
じゃあね、かがみ。私、頭は悪いけど、それでも一所懸命に考えてみる。
それが、私の義務だから」
(その為の方法についても、色々と考えて欲しいけど、
そこまでかがみに甘える訳にはいかないよ。
取りあえずの道筋はつけてもらったんだから、後は自分で考えないと)
こなたは電話を切ろうとした。
しかし、慌てたようなかがみの声がこなたを押し留めた。
「ちょっと待って、こなた。
方法考えるって言うけど、生半可なやり方じゃ、心は伝わらないわよ。
謝罪の心を伝える、っていうのが一番の肝だって事、分かってる?」
「うん、分かってるよ。誠心誠意、謝罪の心を見せるつもり。
本当に色々とありがとね、そこまで気を回してくれて」
「いいのよ、お礼なんて。
お礼を言いたいのはこっちの方よ。だってアンタ」
かがみの声のトーンが、
「必ずつかさを助け出すって言ってくれたんだから」
恐ろしい程低くなった。
(か、かがみ?)
こなたの背筋が、一瞬にして総毛だった。
「アレって、どんな犠牲を払ってでもつかさを助け出してくれるって事よね。
感謝してるわ」
かがみの声はいつものトーンを取り戻していたが、
こなたの両腕を覆う鳥肌は消えなかった。
「う、うん。そういう意味だけど」
幾分気圧されながら、こなたは呟いた。
気がつけば、握りこんだ掌は汗に塗れている。
「安心したわ。取りあえずね、こなた。
つかさに謝罪の心を伝えるには、つかさの苦しみをこなたも理解する必要があると思うの。
つかさの苦痛を理解していないから、こなたは償いの方法が分からなかったのよ。
具体的には、対価となる犠牲を払う。
そうじゃないと、つかさには言葉一つ通らないと思うわ。
つかさの苦しみに共感の一つも抱けないんじゃ、謝罪したって言葉が空回るだけ」
こなたは生唾を呑み込んだ。
「それって…」
「言ってる意味、分かるわよね?」
「分かるよ…」
こなたは部屋のスタンドミラーに視線を走らせた。
顔面蒼白な少女が、こちらを見返している。
(私の顔、真っ青だね。
かがみの台詞を理解しているって事を、この真っ青な顔が証明しているよ…)
「…そう。じゃ、こなた。私が言えるのはそれだけ。
私がアンタにアドバイスできるのは、ここまでよ」
「うん。後は、私の問題だよ」
こなたは静かに、通話終了のボタンを押した。
静寂が訪れた部屋の中で、こなたは暫く立ち尽くしていた。
(かがみの言うとおりだ。償うっていうからには、こっちも犠牲を覚悟しなくちゃならない。
それも、対価となる犠牲を。劣後していたら、意味がないんだ)
こなたは震える手で、机の抽斗を開けた。
ケースに大切に仕舞われている、かなたの櫛が目に飛び込んでくる。
こなたとかなたを繋ぐ掛け橋となる、大切な櫛が。
(できないよ…。私が持っているお母さんの唯一の形見なんだ。
でも…)
自分の声とかがみの声が、蘇ってくる。
『悪いのは全部私だから、私が必ずつかさを助け出すよ…』
翻る事の無い強い決意で以って、そう言ったはずだ。
『アレって、どんな犠牲を払ってでもつかさを助け出してくれるって事よね』
かがみの言う通りの意味を持っていると、理解して自分は発言したはずだ。
「自分で言ったことなんだ…。
ここで引き返したら、かがみにも自分にも嘘をついたことになるよ…」
もしここで引き返せば、その場凌ぎに都合のいい事を言っていただけだという事になる。
つかさに対する償いは自分に損害の無い範囲で、という事になる。
(許されないよね、そんな都合のいい話。
悪いのは全部私なんだから、私が傷一つ負わずに解決するなんてのは有り得ないんだ)
こなたは櫛の入ったケースを手に取ると、独り言を呟いた。
「ごめんね、お母さん」
別れの言葉と共に、こなたはケースを通学鞄に放り込んだ。
(もう、これっきりなんだね。お母さんの形見は、明日永遠に私の許を離れる…。
辛いよ、苦しいよ…。つかさも、こんな思いしてたんだ。
ここまで酷い苦痛、味わっていたんだ。
私って本当に残虐で無神経な人間だよね。こんな苦痛をつかさに与えておきながら、
かがみに指摘されるまで、私は自分をなるだけ傷つけずに、
つかさを慰めようなんて虫のいい事考えてたんだから。
ごめんね、つかさ。本当にごめんね)
背筋を冷やしていく絶望に打ち震えながら、
こなたは自責の念がいや増していくのを感じていた。
心砕けて精神挫けるこの絶望を、つかさに自分は与えたのだ。
その想いが、こなたを切り刻む罪悪感の刃をより鋭利なものにしていった。
>>260-266 本日は以上です。ゆっくりと、他の方の復活を待ちつつ投下したいと思ってます。
では、また。
>>221 そこでボコられたのが原因で自殺した
という続きを描けばスレ違いじゃなくなるぞ
ともあれ期待大な絵描きだ
269 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/27(月) 01:41:33 ID:N/YSkpJU
*
「つかさ…話があるんだけど」
次の日の朝、こなたは勇を鼓してつかさに話しかけた。
「後にして」
つかさはあからさまな嫌悪を表情に漲らせて、
ぶっきら棒な調子で言葉を返してきた。
だが、そんな態度にも関わらず、こなたは内心ほっとしていた。。
話しかけても何の反応も示さず、自分を居ないものとして扱うかもしれない。
その心配があったのだ。
だから、どれだけぶっきら棒な返答であっても、反応があるだけで有難かった。
「後って、いつかな」
「放課後」
言葉短くつかさはそう言うと、思い出したように付け加えた。
「それと、ゆきちゃんとお姉ちゃんにも同席してもらうよ。
こなちゃ…泉さんと二人っきりでお話するなんて、有り得ないから。
それでよければ」
「いいよ」
正直、他の人には見られたくない。
だが、みゆきとかがみであれば構わないだろう。
(みゆきさんとかがみは、事情を知ってるし。
特にかがみは、私が何をしようとしているかさえ、分かっているはずだ)
「じゃ、放課後で」
つかさは手を振ると、机に顔を突っ伏してしまった。
これ以上話なんてしたくない、という意味が言葉にするより鮮明に伝わってくる態度だ。
「うん、放課後」
無関係な人に聞かれたくない話であるので、
こなた自身放課後の方が都合が良かった。
実際、今この場で用件を果たすつもりは無かった。
昼休みに付き合ってくれないか、そう提案するつもりだった。
(放課後でもいいけど。
別れの時が、伸びたみたいだね)
こなたは鞄の中の”それ”に想いを馳せながら、心中そう呟いた。
「で、話って何?」
放課後、つかさが指定してきたのは、部活に使われていない空き教室だった。
「なるべく手短に終わらせてね。こなちゃ…泉さんなんかと、
あまり長く話していたくないし」
(こなちゃんのままの方が、いいんだけどな)
こなたは柔らかい笑みを浮かべると、鞄の中からクリアケースを取り出した。
中には、かなたの遺品である櫛が飾られている。
(今回は、失くさなかったみたいだ)
つかさの大切な物を失くしておきながら、
自分の大切な物は失くさない。
その自分勝手な物の管理の仕方に、思わず自嘲の声を上げたくなる。
(だから、自分から手放そう。それが、つかさに対する償いの姿勢。
それを見せなきゃ、ならないんだ)
かがみが言っていた償いの姿勢を見せろ、という意味──
それはつまり、自分の大切な物を差し出せ、という事だ。
或いは、永遠に失くせ、という事だ。
こなたは櫛をクリアケースごと、つかさに差し出した。
つかさは訝しげな視線をこなたに投げかけて来ていた。
意味が分からない、その視線はそう語っている。
みゆきもまた、つかさと同じく怪訝な表情で、こなたを見つめていた。
かがみだけが、分かっていると言いたげな表情でこなたを見ている。
(本当に、これでお別れだね。さよなら…)
十数年ずっと大切にしていた櫛と、永遠に離れる事になる。
そう思うと、自然と言葉が震える。
「ごめんね、つかさ。大切にしてるリボン失くしちゃって。
増してや好きだった人の遺品だもん、悲しかったよね。
だから、これ、つかさに受け取って欲しいんだ。
これね、お母さんが生前使っていた櫛なんだ。
私、物心付く前にお母さんとは死別してるって話、前にしてるよね。
そのお母さんの形見だよ。代わりにはならないだろうけど、
これ、上げるね」
「要らない」
差し出された手を、非情にもつかさは振り払っていた。
「あっ」
クリアケースが床に落ちる音が、教室内に反響してゆく。
「まさか話って、その汚らしい櫛を私にプレゼントする、って事なの?
代わりにならない、って分かってるなら、一々差し出さないでよ。
大体、人が使った櫛でしょ?不衛生だよ、使えるわけないよ。
それに、それを受け取った所でリボンはもう帰ってこない。
だから、受け取らないよ、私。
大切なリボンを失くされたって事、帳消しにする心算なんてないんだし」
(分かってる。受け取ってもらえるなんて期待、ほとんどしてなかったよ)
こなたはクリアケースを拾い上げた。
「帳消しにしてもらおうなんて思ってないよ。
ただ、つかさの味わった苦痛、私も味わいたいだけだよ。
私が悪いのに、つかさだけが苦しむなんて、不条理だもん」
こなたはクリアケースから、櫛を取り出した。
(それでも、受け取ってもらえるかもしれないって、半分くらいは期待してたかな。
もし受け取ってくれていれば、永遠に離れる事にはなっても、
永遠に無くなるわけじゃなかった)
こなたは名残惜しそうに櫛を見つめた。
この櫛を使った事など、一回も無かった。
歯が欠けてしまったり、汚れてしまったりするのが嫌だったのだ。
(でも、これで最後だし…。一回くらい、使ってみようかな)
髪を梳かそうと腕を上げかけたが、すぐに下ろした。
(駄目だよね…。つかさは、「最後にリボンかけてみようかな」なんて事すら許されずに、
リボンを紛失させられてしまったんだ…。なのに私だけ、
最後に髪を梳かすなんて事、許されるわけないもんね)
「だから、この櫛とは永遠に別れる事にするよ。
それで、私もつかさと同じ地獄を味わう。
別に許して欲しい、とか思ってるわけじゃないんだ。
ただ、私なりの責任の取り方、見届けて欲しいだけだよ」
こなたは櫛を両手に持った。真っ二つに折るつもりだった。
粉々に粉砕するつもりだった。
(本当にごめんね、お母さん。でもこうでもしないと、
つかさに謝意は伝わらないよ。伝えなきゃ、いけないんだ。
ごめんね、ごめんね…)
こなたの瞼が熱くなった。涙腺が緩み、瞳から涙が零れそうにすらなる。
(泣いちゃ駄目だ…私に泣く資格なんて無いんだから…)
必死に涙を堪えようとするが、意思とは無関係に視界は霞んでゆく。
それでも、せめて零さないようにと、必死に堰き止めた。
(折らなきゃいけないのに、力が入らないよ…)
「こなた」
迫り来る落涙の衝動と闘っているこなたの耳に、かがみの声が届いた。
反射的に、かがみの方へと振り向き、視線を交差させる。
『どんな犠牲でも払うって言ってただろ?アレは嘘だったのか?』
かがみの視線が、そう語っているような気がした。
その音にならない声が、こなたの背中を押した。
「っ」
こなたは絶句と共に、親指に精一杯の力を込めた。
乾いた音が教室内の静寂を切り裂いて、甲高く響き渡る。
折れた櫛を視認するよりも早く、こなたの視界が曇った。
涙を留めていた堰が、決壊したのだ。
「っ。うぅっ」
こなたは嗚咽を漏らすと、袖で顔を拭った。
視界が明瞭さを取り戻したのは一瞬で、溢れてくる涙がすぐにまた視界を曇らせる。
こなたは二つに折れた櫛を重ね合わせると、もう一回折ろうと力を込めた。
再び、甲高く乾いた音が教室内に響く。
「うぇっ、ぅぅ…」
これでもまだ、完全に粉砕したとは言いがたい。
だが、これ以上短く折る事はこなたの腕力では不可能だろう。
こなたは窓に向かって歩を進めた。
涙で視界が遮られているので、途中何度も机にぶつかって、
その度に華奢な身体が右に左によろめいた。
それでも悲壮な執念で自らを鼓舞し、窓にまで辿り着く。
こなたは窓を開け放つと、窓の桟レール部分に、
4つに分割された櫛を置いた。
「えぐっ、ぅぅぅっ、うぇっ」
窓から飛び込んでくる風が髪を靡かせ、涙を室内に撒き散らしてゆく。
それでも、こなたの顔が晴れる事は無かった。
止め処なく涙は次から次に溢れてくるのだから。
「ぅぅぅ…げほっ、ぅぅ…」
こなたは一瞬の躊躇いの後、一気に窓を閉めた。
プラスチックが砕ける甲高い音が教室内に響く。
櫛が完全に破砕された事を伝える、無慈悲な響きだ。
「ぅぅ…おかーさん、ごめんなさい…ぅぇっ」
砕け散ったのは、櫛という有体物だけではない。
こなたの精神もまた、櫛と共に粉砕されていた。
昨夜から頭の中で何度も予行演習を重ねていたのだが、
想像の中で遺品を砕く事と、実際に砕く事の間には大き過ぎる違いがあった。
実際にやってしまえば、もう取り返しはつかないのだ。
木っ端微塵に粉砕されたこなたの精神を象徴しているように、
粉砕された櫛の破片が窓近辺に飛び散っていた。
だが、こなたはその破片と自分の精神を重ね合わせる事はしなかった。
代わりに、つかさと自分を重ね合わせていた。
(つかさもこんな気持ち、味わっていたんだね。
実際に私も失ってみて分かったよ、リボンを失くした事の重大さが。
こんな絶望の中につかさは沈んでいたんだ…)
つかさの苦しみが、身に沁みて分かった。
(かがみの言うとおりだ。つかさと同じ苦しみを共有せずに、
償いの方法なんて見つかるはずないんだよ…。
つかさに謝意が伝わるわけがないんだよ…)
今のこなたなら、絶望の意味を聞かれればこう答えるだろう。
もう取り返しがつかない事だ、と。
もう二度と遺品が手許にある事は無い、その事を自覚する度に、
心に冷えた風が吹き荒び、悲しみを何度も呼び起こす。
その残酷なサイクルにつかさは、昨日からずっと苦しめられてきたのだ。
「ごめんっ、つかさ。ぅっ、本当に、ごめん。
私、失くしちゃ…ぅぇっ…いけない物、失くしちゃったんだね。
私も代替不可能な物失くしてみて、改めて分かったよ。
自分がやってしまった事の重大さが。
本当にごめんっ…ぅぅ…」
こなたは床に這い蹲ってつかさに詫びた。
声はすっかり枯れ、詫びる声にも嗚咽が混じった。
「言いたい事は、それだけ?」
地に這うこなたの耳に、つかさの冷たい声が響く。
「形見を壊す事で、私のリボンを失くした事と相殺するつもりなの?
自己満足に終わるだけの茶番に私を付き合わせないでよ」
「そういうんじゃ、無いよ。赦して欲しいなんて思ってない。
ただ、つかさの苦しみ、それを理解したかっただけなんだよ。
それと、同じ苦しみを味わう事で、自分に罰を与えたかった、っていうのもあるかな」
「でしたらどうして、わざわざつかささんの見ている前で
形見を壊すような真似をしたのですか?」
みゆきが割って入ってきた。
その声の冷たさに、思わずこなたは顔を上げてみゆきを見やった。
蔑むようにこなたを見下ろしているみゆきの姿が視界に収まる。
「それは」
「つかささんに赦してもらう為ですよね?
その為のポーズが、先ほどの乱暴な破壊行為ですよね」
答えようとするこなたの声を遮って、みゆきが言った。
「違うっ、赦してもらえるなんて思ってないよ」
「なら、つかささんを誘わずに、一人っきりでやっても良かったのでは?
一人で先ほどの櫛を破壊しても、泉さんの仰る、
『つかささんの苦しみを理解したい』、『自分に罰を与えたい』
という目的は達する事ができるはずですよね?
にも関わらず、つかささんの目の前で母の遺品を破壊したのは、
赦してもらおうという目的があったからではないのですか?」
「それは…」
つかさと同じ苦しみを味わったという事を示して、
つかさに対する謝罪の気持ちを見せようと思ったからだった。
赦してもらうという事が目的なのではなく、
つかさに償いの姿勢を見せる事が目的である。
故に、つかさの目の前で行う必要があったのだ。
ただ、それをみゆきに対する反論として口にする段になって、
こなたは言いよどんだ。
(でも、そんな事言ったって通じないよね。私の内心の問題なんだから、
他人の目には赦してもらう事が目的に映っちゃうかもしれないし)
こなたが言いあぐねている内に、みゆきは畳み掛けるように次の言葉を放ってきた。
「やり方があざといんです」
大切な物を失ってまでつかさを救おうと試みた行為も、
みゆきの容赦ない追撃によって無碍にされていく。
それが悲しくて、こなたの双眸から再び涙が溢れ出てくる。
それでも、みゆきは容赦なかった。
「加えて言えば…いえ、本来これは泉さんとつかささんの問題。
ですので、私がそこまで言ってしまうのは憚られるのですが…
つかささんの友達ですので、敢えて言わせて頂きます。
本当にその櫛は──」
一瞬、みゆきの頬が卑しく歪んだ。
「──お母様の形見なのですか?」
かがみは糞だがこなたもアホw
こなたにかがみ達以外にも仲が良い子が居たら
あまり追い詰められなくて済むのかな
>>257 乞食wwwwww
神奈川がこなたに付与しそうな属性だ
281 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/28(火) 01:40:42 ID:YtKVuDlF
__ ,、-‐'´:::......`!‐''"~`ヽ、
/;;;;〃;;>'´,、::.、:::::::;、''‐-:、._:::::::::::\、‐:.ii''''';;,
|;;〃//::::_::::`''゛ ヽ:::::::::ヽ;;;;ヾ;;;;l
‐ '''>-:'-/,/''"´..,ゝ ゛`ヽ ヽ:;:::::::\;;|!;|_,.、-
/゛/::::;. '゛,: ./ /::ヾ ,ヽ `ヽ;!::/"'‐-..、
'゛ /::;'/::;;/...: .: , ヽ ',.... :..':,:\:::....ヽヽ \ヽ.
i :/i,;:''::i..::::: .:::; ,' : ::..!;::::::....:::.',:...`,‐::、ヽ ':,:::',ヽ あんた達バカァ?
!/ |'゛l::::l::::/ .:::/::/'i:... i ::. ::::lヽ:ヾ:::::::.':,::::',:ノ`ヽ ',::i
l::::| ::i ::i ..:::/l:/__ ';::::l ::::.i:::|__ヽ!\::: ト;:::l_; l:. ',:|
ヽ:| ∨| :/'"|,、;ッ、ヽ:ト、::i,゛|,、-,、"'ヽ. fヽ!} l:: `l
`! i :ヽ/ヽヾゞ:ソ ヽ |!/!'::ソ`>'ハ:|,.イ', l:: ',
l i ::::::l::|:', ´ ヽ! `゛ /``!::::l:.', l::::. ',
l i ::::::l:::|::ヽ :! ,:':i:::::::i::::';::.',l:::::. ',
',! ::::::l::|:: l`:..、 `'''" /!:::l::::::::i:::::',::.',l::::::. ',
,' .:::i i::l:: l :: ` ;、,,.. '´ i:';::l::i::::::i::::.':;: l:::::::. ::',
,' ::::::i ::i:: ノ/;``! _,、ゝ=ヽi::::::i::::. ';: 'l:::::::: :::',
,' .::::::| ::i:::,、:'゛/- '1_,.、‐'゛ ヽ::::i::::. ', ';::::::: ::::',
,' i::::::::l::/ |、.,、:'´ \l::::. ',::::::: ::::',
,' i:::i:::::/::ヽ、 ,!.:'´ _,.....__ __,.>::. ',:::::: :::::',
呆けたように、こなたはみゆきの顔をまじまじと見つめた。
みゆきが何を言いたいのか、すぐには理解する事が出来なかったのだ。
こなたの理解が追いつかない内に、みゆきの次の言葉が放たれていた。
「適当に調達してきた櫛を、
お母様の遺品であると偽っているという可能性が否定できないんです」
ここまで言われて、こなたは漸くみゆきの言わんとしている事を理解した。
理解すると同時に、血の気が全て抜かれたようにその顔は青褪めた。
「遺品でも何でもないただの櫛を破壊する事によって、
つかささんの機嫌を直そうとした。
その疑いがあるんです。
もしそうであれば泉さんが先ほど仰っていた、
つかささんの苦しみを理解したいだの、自分に罰を与えたいなどの言葉は、
ただの虚言になりますね」
このままでは、断腸の思いで行った形見の破壊が演技だという事にされかねない。
それでは、何の意味も無くなる。
ただこなたが大切な物を失った、それだけの結果に終わる。
(そんな結果に終わらせる訳には、いかないよ)
こなたは必死に反駁を試みた。
「違うよ…。本当に、お母さんの形見の櫛だよ…。
嘘じゃない」
「では、その証拠はありますか?」
「証拠…」
「ありませんよね?勿論こちらにも、形見ではない、という証拠はありません。
ですので、敢えて先ほどの泉さんの行動を演技だと断言まではしません。
演技の可能性がある、という表現に留めておきます。
これ以上は水掛け論になるだけですので、この話はここまでにしましょう」
証拠の提示が出来ない限り、一方的に話を切り上げようとするみゆきを止める術はない。
だが、疑惑が払拭されないままこの話を終わらせれば、
こなたが払った犠牲は全くの無駄でしかなくなる。
こなたにとっては最悪の展開だ。
打ちひしがれるこなたに追い討ちをかけるように、つかさが口を開く。
「こなちゃん、何も分かってないね。
私はね、単にリボンが無くなった事だけが悲しいんじゃないんだよ。
それを見過ごして、単に自分が大切な物を壊しただけじゃ私の気持ちなんて分かりっこないよ…」
こなたは先ほど行った形見の破壊が、完全に無駄だった事を思い知った。
何も分かってない、とまで言われたのだ。
(見落としてた事があったんだね…。でも、何を見落としてたんだろう…。
つかさを悲しませる他の要因って、何なんだろう…)
その事に思いを巡らせようとした時、つかさの言葉がこなたを貫いた。
「私はね、こなちゃんを信頼してリボンを貸したんだよ。
なのに、こなちゃんは私の信頼を裏切った…。
リボンが無くなっちゃったのと同じくらい、私にはそれが悲しくって…。
でもこなちゃん、私の信頼や友情を裏切った事に対しては何とも思ってなかったんだね。
リボン失くした事だけ反省してればいい、そう思ってたんだね。
だから、自分の大切な物壊して…それだけで私の苦痛を理解した気になってたんでしょ?」
木槌で頭を殴られたような衝撃に襲われ、こなたは弾かれたように顔を上げた。
つかさの言う通りだ。リボンを紛失した事にばかり気を取られ、
つかさの信頼を裏切った罪を見落としていた。
にも関わらず、つかさの味わった痛みを理解した気になっていた。
(私、図々しすぎるよね。厚顔無恥もいいトコだ…)
こなたは怒りを込めて己を罵った。
そして
「ごめんね、つかさ」
悔悟の念を込めて、改めて謝罪の言葉を口にした。
勿論その言葉は、つかさの言を肯定する意味を有している。
「つまり私は、その程度の存在だったって事だね。
裏切った事さえ忘れちゃうくらいに、軽い存在だったんだね。
ならさ」
つかさの言葉一つ一つが重い。こなたの感情はつかさの発言を否定している。
けれども
「反省なんて、本当はしてないでしょ。罪悪感すら皆無でしょ。
リボン失くした事も、何も思ってないんだ。
さっきの櫛破壊も、ゆきちゃんの言う通りに単なる演技かもね。
だって」
反論する事が出来ない。ロジックで言えばつかさの言う事に理があるのだから。
「そんなに軽い存在でしかない私の為に、そこまでするワケないもんね」
こなたは身を縮めて、じっと聞いていた。
つかさの論にいいように弄され嬲られるその姿は、
人というよりもサンドバッグの方が近い。
最早こなたは、ただ殴られる為に吊るされている道具と化していた。
違う点があるとすれば、拳ではなく言葉による攻撃である点と、
こなたには感情というものが存在している点くらいだろう。
だが、後者は人と道具を別ける決定的な差異だ。
そして、人間の持つ致命的な弱点でもある。
「行きましょう、つかささん。こんなのとこれ以上話しても、無駄なだけです」
みゆきは既にこなたを物扱いしていた。
だが、こなたに特段怒りは湧かなかった。当然の扱いだ、
そう思い込んでしまうくらいに、罪悪の刃はこなたを切り刻み磨り潰していた。
「そうだね。時間の無駄だったよ。帰る」
冷たい言葉を残し、二つの足音が遠ざかってゆく。
その二つの足音は、扉を閉める音ともに途絶えた。
教室内には、かがみとこなただけが残された。
「見損なった」
満身創痍のこなたに向かって、かがみは容赦ない言葉を浴びせてきた。
「つかさを裏切った事を見落としていたなんて、最低ね。
つかさをより一層傷つけただけじゃない。
アンタの相談に付き合った私も馬鹿をみたわ」
こなたは何も言い返さない。言われっぱなし打たれっぱなしの木偶だ。
さながらサンドバッグ───
尤もこなたはサンドバッグのようだが、サンドバッグではない。
感情があり、心がある。抉るようなかがみの罵声に耐えながら、
心の中である考えを実行に移すかどうか思い悩んでいた。
(もう、手はコレしかない…。でも、怖いよ。未練あるよ…)
感情があるが故に判断が揺れ、心があるが故に逡巡する。
だが、いつまでも揺れてはいられない。
揺れ動き惑う判断は、何かの切欠で傾き、決断へと変わる。
今回揺れていたこなたの判断を傾かせたのは、かがみの放った冷徹な一撃だった。
「つかさだけじゃない。アンタは私も裏切ったのよ。
私のアドバイスを無駄にした。期待してただけに、落胆も大きいわ。
アンタ言ってたわよね?何を犠牲にしてもつかさを助けるって。償うって。
結局、アレも嘘だったワケだ。私もあっさりと裏切るワケだ。
そして、裏切った事に対して何も感じないんでしょ?
アンタにとっては所詮私も、その程度の存在なんだってコトでしょ?」
(…私、かがみに約束したんじゃん。
つかさに償う、って。
これ以上、親友の信頼を裏切る訳にはいかないよ。
それに、ここでまたかがみを裏切ったら、
つかさの信頼を裏切った事に罪悪感なんて抱いてないって事になる。
罪悪感があるのなら、失敗を繰り返そうとは思わないはずだから。
迷う必要なんて無かったんだ。もう、繰り返さない)
「…そうじゃない」
こなたは、遂に決断を下した。もう、迷いは無い。
「かがみ。私、これ以上裏切るつもりはないよ。
かがみを裏切ったりは、絶対にしない。
約束通り、つかさに償うよ」
かがみを見据えながら、力強くこなたは言った。
「具体的にどうやって?もう裏切られたみたいなものじゃない。
チェックメイトでしょ?今回の件はつかさとの間の溝、
余計深めただけの結果に終わってる。ここから引っ繰り返せるワケないわ」
「疑いを挟む余地の無い方法で、反省の態度を示せばいい。
それですら償えないのなら、それ以上私にできる事なんて無いよ。
でもね、私は確信してる。私がつかさに申し訳なく思っているこの気持ちが、
確実に届くって」
それだけ強烈な方法だった。だが、斬新な方法ではない。
少なくとも江戸時代までは日本において行われていた事だ。
命を以って償う、という今や実践する人の少ない時代遅れの方法。
だが、確実に反省を示す事ができる。
「その具体的な方法、言ってみろよ。
どうせまた私を騙そうってつもりなんでしょ?」
「言えないよ。でも、すぐに分かる」
「言えない?どうしてよ?
口から出任せ言って、逃げてるだけでしょ?」
「言ったら…」
──かがみが止めてくれるかもしれないから──
喉元まで出かかった言葉を、こなたは慌てて飲み込んだ。
優しさに期待なんてしてはいけない、私にはその資格はない。
そう強く自分に言い聞かせながら。
「いや、何でもない。今は、信じてくれなくてもいいよ。
でも、明日になれば分かってくれる。そう信じてる。
…かがみ、今までアリガトね」
言葉が淀み、語尾が震えた。
今更ながら恐怖が込み上げ、こなたの滑舌にまで影響を及ぼしたのだ。
「アンタ…まさか…」
その只ならぬこなたの語調に不審を感じたのか、
かがみは訝しげな声を発してきた。
「多分かがみの想像で当たってるよ。
ああ、ちなみにつかさに迷惑が及ぶような事はしない。
アレには…そうだな、受験のストレスとでも書いとこうかな。
でもそれじゃ、つかさに伝わらないっか。
だからかがみ、お願いしていいかな?
私の行為はつかさに償う為のものだって事を、伝えて欲しいんだ」
「…分かったわ」
「でもね、私の行為、逃げだって思うかもしれないね。
実際に、逃げなのかもしれない」
(何を言っているんだろう、私…。
ああ、そうか。本当は期待しているんだ。死は逃げでしかない、そう言って欲しいんだ…。
決断、したはずなのに。まだ図々しく未練があるのか。
これ以上、裏切らないって決めたはずなのに…)
自分を責めながらも、こなたは心の何処かで期待していた。
かがみが厳しく罵ってくれることを。
死は逃げでしかない、生きて正々堂々罪と向き合え。
優しさの欠片も感じられないような厳しい声で、そう言ってくれる事を。
それが、生への逃げ道になるから。
「……こなた」
返ってきたかがみの声は優しかった。厳しさの欠片も感じられない。
「そういう考えの人も居るわね。こなたがやろうとしている事を、
逃げだと断言する人、確かに居るわね。でもね、私はそんな事思わない。
少なくとも、私を裏切らない為にそこまでしようとする決意は伝わってるから。
それと、つかさに償おうとする気持ちもね。
だから私も約束するわ。つかさがもし、こなたの行為を逃げだと言うのなら、
逃げじゃないって説得するわ。つかさにこなたの気持ち、必ず伝えるから。
それはつかさの姉としての役目であるし、こなたの親友としての役目でもある。
こなたが私を裏切らないのなら、私もこなたを裏切ったりはしない」
優しい声で、かがみはこなたを肯定していた。
同時に、優しい声でかがみはこなたの逃げ道を塞いでいた。
こなたは最後の逃げ道が閉ざされた事を、恐怖の中で痛感した。
二つに分かれていた道はかがみの優しさ溢れる声音によって、
一本道へと変えられていた。
死へと繋がる、道のみへと。
「ありがとう、かがみ」
──そしてさようなら。
受けたものが優しさであるのならば、お礼を述べるのが筋だ。
だからこなたは、感謝の言葉だけをかがみに返し、別れの言葉は飲み込んだ。
こなたはふらつく身体を気迫だけで支えると、
よろめきながら教室の出口へと歩を進めた。
否、死へと繋がる一本道を歩き始めた。
残酷な優しさで作られた、短い一本道を。
>>202 筋肉とか半年以上見てないなw
そういや福岡オフに参加した三人はマジで合作作ってんの?
*
次の日、こなたが自殺を図った事が稜桜の生徒に伝えられた。
具体的にどのような方法で自殺を図ったのかまでは生徒に伝えられなかったが、
極めて危険な状態にある事までは伝えられた。
かがみもつかさもみゆきも、他の生徒の手前では表向きは悼む素振りを見せて過ごした。
「ふん、アイツまさか本当にやってのけるとはね。
半信半疑だったけど、意外と根性あるのね」
嘲笑うようなかがみの声。悼む素振りはあくまでポーズで、
3人だけになると本性を剥き出す。
「でも、まだ泉さん生きているんですね」
学校が終わり、柊家へと通じる道を3人は歩いていた。
本来みゆきは別の経路を辿って家路に就くのだが、
こなたの死を祝ってパーティーでもやろうというかがみの提案を呑んで、
この道を柊姉妹と一緒に歩いていた。
「ま、先生方の話聞く限りじゃ、虫の息って感じだし。
早々にくたばるでしょうよ。でもまぁ一応パーティー名は、
泉こなたの死を祝う会にするよりも、泉こなたの死を願う会にしたほうがいいかもね」
この辺りまで来ると、稜桜の生徒もほとんど居なくなる。
だから、無遠慮に忌憚の無い意見が言える。
──否。無警戒に、と言うべきか。
「でも良かったのかなー?あそこまでやっちゃって」
不安を声音に纏わりつかせながら、つかさが言った。
「いいのよ。調子のってたアイツが悪いんだし」
「でも、遺書とかに私のリボン失くしたのを申し訳なく思って自殺します、
とか書かれてたら…。調べられたらすぐにバレるよ?
あのリボン、実は形見でも何でもない、ただのリボンだって事。
小学校時代、誰も死んでなんていないんだし」
不安はそこにあるらしい。
それに対し、かがみは自信に満ちた声をつかさに返した。
「大丈夫よ。アイツ、私達に迷惑がかからないよう、
適当に自殺志願者っぽい事書いとくって言ってたから。
だってアイツ、最後まであのボロいリボンが遺品だって事信じて疑ってなかったし、
自作自演で私たちが盗んで被害者装ってた事にも、気付くことなかったから。
だからま、私たちに迷惑かける事は万に一つもないわ。
というか今回の計画、何気にイジメを露見させない最上の方法よね」
「と、仰いますと?」
「標的に虐められている、という事を気付かせない事よ。
予め標的に罪悪感を植えつけておく。そうすれば、こちらの攻撃が正当化されるでしょ?
イジメとは思ってないんだから、先生や親に相談する事もなければ、
こちらに刃向かう事もない。まぁ、標的が真面目な場合に限るけどね、
今回のこなたみたいに。じゃないと、罪悪感なんてものに囚われず、
堂々と反撃されちゃうわ」
「そう言われると、真面目な人ほど馬鹿を見る、という俗言が正しいもののように思えますね」
「じゃ、私もみゆきも馬鹿を見ちゃうじゃない」
「えー、無いからー」
3人は声を揃えて笑った。話している内容の悪辣さにそぐわない、
無邪気な笑い声が辺り一面に響いてゆく。
「それにしても、かがみさんの追い込みは見事でしたね」
一通り笑った後で、感心したようにみゆきが言葉を放った。
「一昨日、泉さんから電話がかかって来た時、
私はなるだけ冷たく接する事で泉さんを痛めつけようかと思いました。
実際、それで満足してましたね。
ですがかがみさんは、私のような言葉責めだけでは終わりませんでした。
言葉巧みに操って、泉さんが大切にしている物を破壊させましたね。
一昨日、かがみさんから電話でその事を聞いたとき、鳥肌が立ちましたよ」
こなたとの電話が終わった直後に、
かがみはつかさとみゆきにこなたとの電話の内容を話したという事らしい。
「実際凄いよね。知識だけならゆきちゃんの方が上かもしれないけど、
えーと、何ていうの?知恵って言うのかな、それってお姉ちゃんの左に出る者は居ないよね」
「それを言うなら、右に出る者、だろ?」
かがみは照れたような笑いを浮かべながら、つかさの言葉を訂正した。
「でもみゆきもつかさも大したもんよ?特に演技力とかさ。
ああ、後悪知恵も上手く働いたんじゃない?
昨日の件はほとんどアドリブだったけど、つかさもみゆきも上手くこなたを責めてたと思うわ」
「ですが、かがみさんには及びませんよ。自殺にまで追い込んだんですから。
私が出来たことなど、泉さんの論理の穴を見つけてあげつらう事が精々でした。
その点、つかささんは上手かったですね。
友情を裏切った、という線で責めることなど、私には思いつきませんでした」
ぽたり。
「えへへ。そうかな?」
ぽたぽた。
「そ、つかさも上手かったわよ。予め伝えてあった事なんて、
こなたが大切な物を壊して謝ろうとするけど拒絶しろ、って事くらいだったのにね。
それでも、こなたの盲点を衝いた見事な責めだったわ。
それが私の攻撃の布石にもなったんだし」
ぽたり。
「ああ、後ね、みゆき。自殺に追い込んだ、ってのは間違いよ。
アイツが勝手に死を仄めかしてきたんだから。
ああでも、途中で翻意しそうになったから、ちょっと軌道修正してやったけどね」
ぽたぽた。
「軌道修正?」
ぽたり。
「そ、死は逃げなのかも、とか言い出したからね。
顔見りゃ止めて欲しがってたのが分かったわ。
だからね、その事に気付かないフリして、自殺を肯定してやったの。
そうすれば、もう言葉を引っ込める事なんて出来なくなるから」
ぽたぽたぽた。
「お姉ちゃん、それ、追い込んでるよ?
それで勝手に自殺したってどんだけー」
ぽたぽたぽたり。
「ふふ、自殺仄めかしたのはこなたが先じゃない。
それより、昨日のアレ本当にいい見世物だったわよね。
泣きながら櫛破壊しだして、笑い堪えるのに必死だったわ」
ぽたぽたぽたぽた。
「そうだよねー。今思い出すだけで、笑いが込み上げてくるよ。
あはははははははははははははははははははははははは」
ぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽたぽた。
「あの、雨降ってませんよね?
何か水滴が滴り落ちるような音、さっきからしてませんか?」
漸く異変に気付いたかのように、訝しげな声をみゆきは漏らした。
「後ろから、そんな音が聞こえてるんですが」
その言葉と共に振り向いたみゆきは、凍りついた表情を浮かべて絶句した。
信じられない、驚愕に見開かれた双眸が、口にするより雄弁にそう物語っている。
(化け物見るような目で見ないでよ、化け物はそっちなんだからさ)
じっと凝視してくるみゆきを見返しながら、こなたは頬に薄い笑みを浮かべた。
足を引きずりながら、3人に近づいていく。
こなたの歩いてきた道に、赤い道標が出来上がっている。
新たな道標が出来るたび、3人との距離が縮まってゆく。
「どうしたのよ、みゆき」
「ゆきちゃん、固まっちゃってるけど、何かあっ…」
みゆきの異変に気付いたのか、姉妹も振り向いた。
そして振り向いた直後、みゆきと同じような表情を浮かべて絶句した。
「な、何でアンタ…。入院してるはずじゃ…」
真っ先に平常心を取り戻したのは、かがみだった。
「入院、してたよ。見れば分かるでしょ?」
身体の随所に巻かれた、赤く染まった包帯を見せながらこなたは言い放つ。
頸部、手首、腹部…と、昨夜自分で滅多刺しにした箇所に、
包帯が厚く巻かれている。
「で、ではどうして此処に居らっしゃるのですか?
安静にしていないと、大変な事になるのでは…」
こなたは溜息と共に、みゆきに侮蔑の念を込めた眼差しを送った。
「今更取り繕わなくてもいいよ。話は聞いてた」
「いや、さっきのは…」
「だから、いいって。聞く耳なんて持ってない。
ああ、でもね、今の質問には答えてあげるよ。
脱け出してきたんだ、病院」
「何故…」
「そう急かさなくてもさ、全部話して聞かせてあげるよ。
昨夜自殺を図った私は、行為の途中で気を失っちゃったんだ。
人間って、大量の血が自分から流れてるのを見ると駄目だね。
血の気が引いていく感覚と共に、顔が青褪めてくのが自分でも分かるんだよ。
気が遠くなっていく事まで、自覚できちゃうんだ。
それでそのまま、意識はブラックアウト。
初めから、頚動脈切ってれば良かったかな。
後、リストカットするならクエン酸ナトリウムと水用意しとくべきだったよ。
私も女子だから血を見るのは慣れてるつもりだったけど、
あれ程の鮮血見ちゃうともう駄目だったね」
こなたは思い返すように目を細めた。昨夜はまず、左手に持ったナイフで右手首を切り裂いた。
だが、手が震えて思ったように力が入らず、それほど深い傷には至らなかった。
血が迸ってはいたが、死に至る程の勢いは感じられない。
その後も何度か右手首にナイフを走らせたが、痛みが邪魔をして深く切り裂けない。
こなたはリストカットを諦め、標的を頚動脈に移した。
だが、右手が使い物にならない以上、左手のみで切り裂かざるを得ない。
それが思っていた以上に難儀で、加えて頸部の筋肉が想像していたよりも厚く、
またもや思惑通りの致命傷は与えられなかった。
それでも、手首を切ったときよりも激しい勢いで血は噴出してきた。
この吐き気を催させる赤い水飛沫は、自分の血液だ。
そう自覚した途端、こなたの意識は遠のいた。
これだけではまだ、死には至らないかもしれない。
そうじろうかゆたかに発見されて、命拾いしてしまうかもしれない。
それでは、わざと死なない程度に自傷した、そうかがみやつかさに疑われかねない。
だからこなたは、もう一度頸部を切り裂こうと試みた。
だが、脱力しきっている状態ではそれも叶わなかった。
浅い傷しか、付けることはできない。
ならば、突き刺せばどうだろうか。押して引くという作業が必要な、
切るという行為に比べて、力はそれほど必要としない。
ただ押し込むだけで終わる。
こなたは腹部や胸部に向けて、半狂乱にナイフを突き刺した。
薄らいでゆく意識の中、無我夢中に傷を与えていった。
首にナイフを突き刺せばいい、その事に思い至った時、
こなたの意識は闇へと落ちていった。
「っと、逃げないでね、みゆきさん」
こなたの隙を衝いてじりじりと後退していたみゆきに言葉を投げかける。
みゆきは身体を震わせると、後退を止めた。
(回想に浸りすぎてたか。…私に残されてる時間も短そうだっていうのに)
こなたは反省の意を込めて自分の頭を小突くと、
みゆきに向かって言葉を続ける。
「あのね、質問してきたのはみゆきさんなんだよ?
それに答えてあげてるのに、逃げるのはナシなんじゃないかな?
あとさ、話最後まで聞いてくれないようなら、
私が自殺を図った本当の原因、話して回ってやってもいいんだよ?
それで困るのは、どっちかな?」
「あの…それでは…」
みゆきがおずおずと言葉を挟んできた。
「話を最後まで聞けば、今回の件は黙っていてくれるんですね?」
確認するように問いかけてくるみゆきに、こなたは内心呆れ返った。
(みゆきさん、本当に図々しいんだね。私を追い詰めた事、全く悪いと思ってないじゃん)
「それはどうだろうねー。三人の態度次第かな?
まぁ、私の胸の内に留めとく、そう言ってあげてもいいんだけどね。
たださ、私がそう言った所で信用なんてしないでよ?
みゆきさん達は私を騙してたんだから、その報復に嘘をつくかもしれないし」
みゆきは黙り込んだ。イニシアティブを握っているのが誰であるのか、
漸く分かったらしい。
298 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/04/30(木) 01:59:24 ID:U9GtZgGH
__
/ -―‐- 、:丶
〃´ \:ヽ
{{ __ }.::}
_, - ―‐‐┤ \ー‐――'<
/.::_/.::.::.::.::|.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::.::\
______//_/____::/|.::{.::.::.::.::.::.::.::.::.ヽ::.::ヽ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ~|lll|'.::|.::|.::.::.:|.::.::.::.::.::.::.l.::.::. ',
_ |lll「.::j.::l::.::.::l\⌒.::.::.::|.::.::.::l
│ |lll|::ハ.l:.::.:: | ヽ.::.::.: |.::.::.::|
│ |lll| ',.::.::.│ \.::.|.::.::. |
│ |lll|三 ヽ ::.:|三三7:ヽ|.::.::.`ヽ
│ |lll|" \| ""・l.::.::|⌒l:ド、l
│ |lll|、 ‘ー'ー' j.::.::|-イ.:| 僕はエヴァンゲリオン初号機パイロットの碇シンジです!!
│ |lll|:l>ー‐rーt< リ .::|.: l :|
│ |lll|:|_j;斗<_,>/.:: /! ::.: |
│ |lll|:| >、 __/.:: / ヽ.::. |
├‐tュ‐‐┬‐tュ――|lll|:| / /.:: / i.::.|
│ ‖ ‖ ll |lll|:V ,'.::.:/ .|.::.|
│ ‖ ‖ |!____ |lll|.::ヽ i/.:/l |.::.|
_j ̄|! ̄`|! ̄|! /  ̄ l\{ W / |.::.|
こなたのターンw
「そ。そうやって黙ってれば心象は良くなるよ?
さて、話を続けようか。
気絶した後で私が気付いたのは、病院のベッドの上だった。
点滴が腕に繋がれていたから、病院だって分かったんだけどね。
ついさっきの話だよ、私が気がついたのは。
多分、お父さんかゆーちゃんが気付いて、病院に連絡したんだろうね。
さて、ここで問題でも出そうかな?
黙って話し聞いてるだけじゃ退屈でしょ?
では第一問。意識を取り戻した私が、最初に思った事は何でしょう?
この問題をー、つかさっ。いってみようか」
指名されたつかさは、困惑気味にこなたに視線を走らせた。
「えっと、生きていて良かった、かな?」
「ぶーっ」
こなたは憎しみを込めて、つかさを睨みつけた。
「正解はね、つかさに申し訳ない、だよ。
死ぬはずだったのに、生き永らえちゃってたのが許せなかったんだ。
だから私は、病院を脱け出した。容易かったね、
多分担当医や私の手術に関わった看護士以外、私の事なんて知らないんだろうし」
こなたは視線をつかさから外すと、かがみに向けた。
「さて、第二問。今回の回答者は、期待のかがみんです。
その恐るべき知能は実証済みです」
おどけた声音でそこまで言うと、
「私を追い詰める為に見せた悪知恵の数々は、誰の追随も許してないからね」
低い声で皮肉った。
「早く出題しろよ。付き合ってやってんだから」
このような状況にも関わらず、かがみは気丈な声で応じてきた。
知能のみならず、胆力も図抜けているらしい。
「猛らないでよ、かがみん。キレそうなのはこっちなんだからさ。
さて、今回の問題は、病院を抜け出した後に私が何をしようと考えたか、です。
じゃ、いってみようか、かがみん」
「知るか」
「ぶーっ、回答拒否は不正解と見做しまーす。
正解は、今度はつかさの眼前で自殺しよう、でしたー。
つかさの目の前で、憎き私が死ぬところ、見せてあげようと思ったんだ。
だから私は、一旦家に帰って包丁を持ち出してきた。
こんな格好じゃ、お店で包丁買えないしね」
こなたは赤く滲んだ包帯を指差した。
三人の顔が強張ったのは、別に赤く染まっている包帯に驚いたからでも、
こなたの回答に驚いたからでもないだろう。
包丁という単語が出てきた途端に、表情があからさまに変わったのだから。
「まぁ、赤くなったのはここにくる過程で、だけどね。
無理しちゃったから、傷口が開いちゃったんだろうね。
それはそうと、家に誰も居なかったのは僥倖だったよ。
お父さんは病院に居たのかな?親族との連絡の為に、病院の外で待機していたのかもしれないね。
だって院内って、携帯使えないし。まぁ、それはどうでもいいや。
話を戻すよ。それで包丁を持ってきた私は、つかさの家に向かった。
ご家族の前にそんな物騒な物見せる訳にいかないから、
布に包んでバッグの中に隠してあるけどね」
こなたはバッグを持ち上げて見せた。
三人の視線が、バッグに釘付けになる。
「さて、そんなこんなでつかさの家を目指しててくてく歩いてたわけだけど、
大変だったよー。傷口が開いちゃって血が垂れるわ、泣きたいくらいに痛いわで。
辛かったけど、つかさへの申し訳なさや、かがみを裏切る訳にはいかない、
そういう強い決意が私を支えていたね。何度も倒れそうになったけど、
その度に私は自分を叱咤して足を動かし続けたよ。
そしたらさ、三人の姿を見つけたんだ。声をかけようかと思ったけど、
何故か柊家へと続く道にみゆきさんも同行してるから、ちょっと様子を見ることにしたんだ。
みゆきさん、帰り道違うはずだもんね。そしたらさー、信じられない話を聞いちゃったよ。
三人が言葉を発するたびに、私はショックに見舞われまくったね。
酷いよ、みんな」
こなたはそこで言葉を切ると、意地悪い笑みを浮かべてみゆきを見やる。
「さて、ここで第三問目、回答者はみwikiこと、みゆきさんです。
この三問目は、サービス問題です。簡単だからさ、確実に正解してよ?」
「な、なんでしょう?」
警戒を顕わにしているみゆきに対し、こなたは冷たく言葉を放った。
「私はその三人の会話を聞いてショックを受けてしまった訳ですが、
その三人はどんな話をしていたのでしょうか?
簡単でしょ?ついさっきまで、みゆきさん達が話していた事だもんね」
「それは…」
みゆきは押し黙った。沈黙を答えとして提出しているのではなく、
単に思考する為に黙っているに過ぎないという事は、
額に浮かんだ汗の粒が教えてくれている。
「考えるような事?それともあっさり忘れちゃって、思い出しているのかなー?
いやー、みゆきさんは天然だもんねー。いやいや、そうじゃなくって、
私の事なんて至極どうでもいいから、忘れちゃってるのかな?」
皮肉でも差し挟まないと、溢れてくる憎しみを抑え切れそうにもない。
「今っ、答えます」
みゆきが慌ててそう言った。皮肉に対し憤懣の念を抱く事無く、
恐怖の念を抱いたようだ。その姿に最早昨日までの面影は感じられない。
つい昨日までこなたを悪辣に責めていたとは思えないほどの、豹変ぶりである。
「そうですね、下らない与太話です。
ただの悪ふざけ、そう、ただの悪ふざけをその三人は話してただけなんです。
勿論悪ふざけにしては、不謹慎過ぎたかもしれませんし、
度を越していたかもしれません。ですが、決して本心ではなかった。
ただ、戯れていただけなんです。信じて下さい、本心からあのような事を言ったわけではっ
ないんですぅっ」
最後には悲鳴にも似た声が、優雅で通っている彼女から出ていた。
こなたは言い訳に終始したみゆきの回答を、黙って聞いていた。
沸々と怒りが滾ってくるが、
見栄も外聞も忘れて自己弁護に腐心するみゆきを心中嘲る事で、その怒りをどうにか抑え込む。
実際、このみゆきの回答はこなたにとって気分のいいものではなかった。
能天気な回答を返したつかさよりも、反抗的に回答を拒否したかがみよりも、
憎々しいものだった。何の正当性も持たない言い訳は、
単に反省していないという印象を相手に与えるだけの結果に終わる。
「不正解だよ。解答は言わなくていいよね。
三人とも分かってることだし」
こなたは三人の顔を眺め渡した。
「私がさ、どれだけ心を痛めたか、かがみ達は分かってるのかな?
リボンを失くしたと思ったとき、私がどんな想いでリボンを探したか。
それが分かるかな?必死だったよ、泣きそうだったよ。
後ね、私がどれだけつかさに対して罪悪感を抱いていたか、
分かってるのかな?
かがみを裏切らない為に、どれだけ痛い思いしたか分かってるかな?
後ね…」
こなたは言葉を切ると、ありったけの憎悪を込めて言葉を紡いだ。
「私がどんな思いで、お母さんの形見の櫛を破壊したか…。
想像もつかないよね、どれだけ悲しかったかなんて。
本当に、形見だったんだよ。演技じゃなく、ね。
後さ……。三人に騙されて踊らされていた事に気付いたとき、
私がどれだけ悔しい思いをしたか、悲しい思いをしたか…。
分かるわけないよね。裏切られてたのは、私のほうだったんだ…。
私は…ここまでの犠牲を払ったのに」
こなたの瞳が、険しさを増した。
「なのに酷いよ。私の死を願ってパーティーを開くだの、
私が櫛を破壊している時の事思い出すだけで笑えるだの…。
本当に、許せない」
その双眸から、涙が滴り落ちる。
だが、今回は哀しさ故の落涙ではない。
悔しさ故の、落涙だった。
「第四問目。最後の問題だよ。
特別に、三人全員に回答のチャンスをあげる。
私はこれから、何をしようとしているでしょうか?
まず一人目は…」
ゆっくりと、三人に向けて歩を進めながらこなたは一人目を指名した。
「かがみ、いってみようか。今回は、回答拒否しないで付き合ってね」
ぽたぽたと、歩く度に新たな血の道標が出来上がってゆく。
心なしかその道標は、今まで出来上がっていたものに比べ、大きなものとなっていた。
「…自殺、じゃない?もう一回自殺しようと考えてるんでしょ?
さっさと死ね」
あくまでも反抗的にかがみは言い放ったが、
その震えた声を聞けばこなたに畏怖している事は一目瞭然だった。
いや、回答内容こそ敵対的だが回答拒否しなかった時点で、
こなたに気圧されているのかもしれない。
「残念、不正解だよ。まぁ、後で自殺はするかもね。するしかないかもね」
放って置いても死ぬだろうけど。と、こなたは心の中で付け加えた。
足元に視線を走らせれば、
今までとは比較にならないくらいの大きな血痕が次々に出来上がってゆく過程を観察できた。
もう、道標などいう生易しいものではない。真っ赤な、道だ。
血痕で出来上がってゆく赤く染まった道、それはバージンロードを連想させた。
だが、本来のバージンロードが祝福で彩られた幸せへと続く道であるのなら、
このバージンロードは呪詛で塗り潰された死へと繋がる道だ。
こなたとて、結婚に憧憬の念を抱いた事はあった。だが、最早それも叶わないと、
死を決意した昨日は思っていた。
それでも、こなたにバージンロードは用意されていた。
それが幸せではなく死へと繋がるものであっても、
憧れていた真紅の道をこなたは歩く事ができたのだ。
その事に少しだけ、こなたは慰められたような気がした。
祝福される事はなくても、構わなかった。
(真っ白なウェディングドレスの代わりに、白い包帯か。
お誂え向きだね。いや、もうこれ白くないけど。真っ赤になっちゃってるよ。
でも、ま、いっか。何から何まで望みはしないよ)
事実、包帯は今までに比べて赤い領域が拡大していた。
白に侵食し染め上げていく、朱。
朱に染まって赤くなったのは、包帯か、それとも友人か。
「でもね、かがみ。これからしようとしている事は、自殺じゃない。
だから、不正解だよ」
先ほどの言を補足すると、次にみゆきへと目を向けた。
「じゃ、次はみゆきさん。いってみようか。
今までの会話の中に、ヒントはあるんだけどな」
こなたはバッグを持ち上げて見せた。
「分かったかな?じゃ、答えてみて?今度は、がっかりさせないでよ?」
「あっあっ、仲直りっ。私たちと仲直りですよねっ?
そうですよね、泉さん。いやっ、私も悪いことしたと思っていたのですよ。
だから…お願いします…」
懇願するみゆきを、こなたは冷めた瞳で見据えた。
(みゆきさん、この期に及んで尚、そんな寝惚けた事言っちゃうんだ。
卑しいね、図々しいね。仲直りなんて、考えるワケないじゃん。
もうそんな段階、とうに通り過ぎてるよ)
こなたの蔑みの篭った眼差しを受けて不正解である事を悟ったのか、
みゆきは慌てて言い直した。
「あっ、分かりました。病院に戻る、ですよね?
先ほどよりも出血量が増えていらっしゃいます。
ですから、病院に戻って安静にしている、ですよね?
救急車呼んだ方が良いのかもしれ」
「みゆきさんっ」
こなたは聞いていられず、一喝する事で惨めな囀りを遮った。
「回答は一人一つ、だよ。ちなみに、二つとも不正解。
病院に戻るだって?今更」
手遅れだ。それが何となく、こなたには分かった。
あのまま病院で寝ていれば助かっただろう。
だが、傷が開き更なる血液が流出した今となっては、もう生は望めまい。
「あとね、仲直りとか本気で言ってるの?
もし本気で言ってるのなら、厚顔無恥過ぎるよ」
こなたは、つかさに視線を移した。
もう、こなたは歩かない。つかさと密着するくらい近くまで来ていたのだから。
腹から大量出血して死にかけなのによくしゃべる奴だw
「じゃあ、最後の回答者だね。ここまで幾つもヒントは出てる。
もう答えも三つ潰れてる。なら、そろそろ正解できるんじゃないかな?」
「つかさっ」
只ならぬ気配を感じ取ったのか、かがみが駆け寄ろうとした。
それをこなたは、バッグを投げつける事で遮った。
かがみは投げつけられたバッグを受け止めると、
こなたと距離を取ってバッグを強く抱きしめた。
まるで、凶器さえ封じ込めてしまえばつかさは安全だ、とでも信じているかのように。
だが、狂気までは防げない。
「さ、つかさ。答えてみようか」
つかさの顔を覗きこみながら、こなたは言った。
多分、答えは三人とも分かっているのだろう。
それでも、かがみもみゆきも、確答するのを避けた。
それは未だ半信半疑だからか、それとも恐怖故か。
「もしかして…」
つかさは震える声で、囀った。
「んー?」
こなたはつかさと目を合わせながら、先を促す。
つかさは唇まで紫に染め、恐怖の篭った声で、言葉を紡いだ。
「もしかして…私たちを殺そうとか考えてるの?」
こなたは破顔した。
「ピンポーン。正解でーす」
「あっ」
つかさは情けない声を上げ、くずおれた。
「痛いよ…」
つかさの腹部から、止め処なく血が溢れていく。
「すぐに痛くなくなるよ」
腹部を押さえて蹲るつかさを見下ろしながら、冷たい言葉で慰めた。
左手に赤い汚れを纏わりつかせた包丁を携えながら。
こなたの動作は素早かった。正解を告げる時に、
言葉と共に服の内側から包丁を取り出し鞘を外し、つかさの腹部に一突き入れていたのだ。
「でも、あまり痛いのも可哀想だ。私はかがみ達と違って、
トコトン追い詰めて嬲ろうなんて悪趣味はないからね」
こなたは慈悲深い声でそう言うと刃を横に寝かせ、慈悲を込めた一撃を胸部に向けて放った。
「うぐぇっ」
つかさの口から血が溢れた。
「げほっ、げほっ」
刃が肺にまで達したのだろう。つかさは血の混じった咳を何度も繰り返しながら、
地にその身を横たえた。
「つかさっ」
茫然自失の体で立ち竦んでいたかがみだったが、
ことここに来て漸く状況を理解したらしく、こなたに怯む事無くつかさに飛び込んでいった。
大事に抱えていたバッグは、走り出すときに地面に放り投げていた。
「つかさっ、つかさっ。大丈夫?お願い、しっかりして?
つかさ…お願い…」
涙を流しながらつかさの名を叫ぶかがみを、こなたは不思議な面持ちで見下ろしていた。
妹を慮る優しさがありながら、どうしてそれを他の人に向けようとしなかったのか。
どうして私には向けられなかったのか。それが、不思議だった。
「お姉ちゃん…逃げて…」
「何言ってるのっ。つかさを治すのが先よ…ああでも、どうしたらいいのよっ。
血が…血が…つかさの身体から血が…」
(半狂乱だね。かがみは後回しにしても、まぁ逃げないでしょ。
先に、あっちを片付けるか)
こなたはみゆきに視線を投げた。
「逃げなかったんだ。偉いね。ああ、逃げる勇気もないのか」
震えているみゆきの足を見やりながら、こなたは呆れながらも嘲った。
結局この女は、群れていないと何もできない。
逃げる事すらできない。
朱に手伝ってもらわないと赤くもなれない有象無象。
そんな女に追い詰められていた事が、こなたには腹立たしかった。
「い、泉さんっ。落ち着いて下さい。本当に申し訳ない事をしたと思っています」
「あー、謝らなくてもいいよ。無意味だから」
顔を真っ青にして懇願するみゆきを、こなたは冷たく拒んだ。
「泉さん、私たち友達じゃないですか。友達なら、多少の悪ふざけくらい多めに見て下さいよ…。
泉さん、また、私たちで仲良くやりましょうよ、ね?」
「ふざけるな…。友達なら、初めから私を罠になんて嵌めないよね?」
こなたは苛立ちを含ませた声で、卑しい媚を切って捨てた。
「泉さん、許してください。お願いします。私は…まだ…死にたくないんですっ」
「気が合うね。私もだよ。でも、それはもう叶わない」
こなたはあくまでも無慈悲に、刃を一閃させた。
「あっ」
みゆきは絶句すると、首筋を抑えた。
だが、噴出す血の勢いが弱まる事はなかった。
血飛沫が空を舞い、青く染まっていたみゆきの顔に赤い化粧を施す。
「私はさ、三人の事、誰よりも大切だと思っていたよ。
友達だと思っていたよ。でも、そう思っていたのは私だけだったんだね。
ねぇ、私何かしたかな?何で私、こんな目に遭わなきゃいけなかったのかな?」
地に伏したみゆきに問いかけるが、みゆきは何も言葉を返さない。
断絶的な荒い呼吸が返ってくるだけだ。
こなたは溜息を一つつくと、包丁を逆手に持ち替えた。
「もう喋れないか」
こなたは諦めの篭った呟きと共に、みゆきの胸部に刃を押し込んだ。
「あっ…」
小さな悲鳴を上げた後、みゆきの瞳は色を失った。
「後一人、か」
こなたはかがみに視線を向けた。だがかがみは、こなたに構う事無く、
また死んだみゆきに気付く風も無く、ただただつかさの名を叫んでいた。
「つかさっ。お願い…目を開けて?つかさ…お願い…」
「無駄だよ、もう、死んでる。見れば分かるでしょ?」
こなたは哀れな元親友にそう語りかけた。
「…アンタが、殺したんだろ。返せ、つかさを返せっ」
「無理だね、死んだ人間はもう返せない。
…お母さんの形見の櫛がもう返って来ないようにね」
「そんな物とつかさの命を一緒にするなっ」
憎悪の篭った眼差しを一身に受けながらも、こなたは怯まなかった。
「ねぇ、つかさが死んだ事がそんなに哀しいの?
そんな人間らしい感情、持ち合わせていたんだね。
ならどうして、私にあんな酷い事ができたの?」
「つかさとアンタを一緒にするな」
「後さ、みゆきさんも死んじゃったんだけど…。
その事については、どう思っているの?」
「あんなのとつかさを一緒にするな…」
こなたは溜息を吐いた。
「なるほど、つかさだけ別格扱いね。
私はともかく、みゆきさんはかがみにとって親友だと思っていたよ。
でも、どうでもいいんだね」
こなたはやるせない思いで天を仰いだ。
「そうだ、後一つだけ教えてよ。どうして、私にあんな罠仕掛けたの?」
「アンタが調子に乗ってたからでしょーが。
こなたの分際で一年を侍らせて、アニメの発表がどーのと調子に乗ってたからでしょーが。
分を弁えてなかったアンタが悪いのよっ」
「…思っていた以上に、どうでもいい理由だね。
そんなどうでもいい理由で、私はこんな目に遭ったワケか」
こなたは溜息交じりに呟くと、言葉を続けた。
「でもそれはただの切欠でしかないよね。
その後は三人とも、単に私を追い詰める事を愉しんでただけでしょ、さっきの話を聞く限りじゃ。
酷いよね…」
「酷いのはアンタだっ」
かがみは絶叫で返してきた。
「よくも、よくもつかさを…。返せよ、私のつかさ…」
こなたは冷たくいなした。
「さっきも言ったでしょ?無理だって。
あのね、教えてあげるよ。もうつかさは帰ってこないよ、永遠にね。
それが、失くすっていう事だよ」
改めて事実を突きつけられ、かがみの顔が青褪めた。
「そう、帰ってこないんだ。大事なものを失くす事の辛さ、少しは分かってくれたみたいだね」
「つ…かさ…」
「もう、つかさが明るい笑顔をかがみに向ける事は無い。
つかさの声を聞くこともできない。温もりを感じる事もできない。
もうこの世に存在してないんだからさ。今かがみが腕に抱いてるそれは、ただの抜け殻だよ。
つかさはもう、この世の何処にも居ない」
かがみが本能で拒否しようとしていた事実を、こなたは淡々とした口調で告げた。
噛んで含めるような具体的な説明を添えて。
「つかさ…ぅぅぅ…」
改めて突きつけられた事実の重さに耐え切れなくなったのか、
かがみは頭を垂れて嗚咽を漏らす。
「じゃあ…私はどうしたらいいのよ…。つかさの居ない世界に価値なんて…」
絶望に染まった独り言を聞きながら、こなたは自分の気が変わるのを感じた。
「どうしたらいいのか、教えてあげようか?
かがみは私に色々と教えてくれたからねー、一昨日の電話でさ。
”同じように”、教えてあげてもいいけど?」
かがみは何も答えなかったが、こなたに向けた瞳が物語っている。
優しさを、期待している事を。
その瞳に吐き気を催しながらも、こなたは言った。
優しさを声に靡かせながら。
「狂え壊れろ崩れろ砕けろ挫けろ病んじゃえ、そして」
今度は声に憎悪を込めて、続ける。
「生きろ」
更なる憎悪が言葉に篭る。
「私は狂って壊れて崩れて砕けて挫けて病んだ。
同じものをかがみも味わってよ。
そしてさ、狂ったまま壊れたまま崩れたまま砕けたまま挫けたまま病んだまま、生き続けなよ」
「そんなの…耐えられない…」
縋るようなかがみの声を、こなたは無感情な声で切り捨てた。
「じゃあ、死ね」
こなたは包丁の切っ先を己の喉元に突き立てた。
「勝手に、死ね。言っとくけど、殺してなんてあげないよ。
さっきの私の言葉は嘘じゃない、あのバッグの中にも、包丁は入ってる。
二本、用意してたんだ。自殺する際、一本仕損じた時の為にね。
こんな形で役立つとは思わなかったけど。
だからさ、そのバッグの中に入ってる包丁使って、勝手に自殺でもしなよ」
「死にたくも…ない…」
「知らないよ、じゃあ生きればいいじゃん」
あくまでも冷徹なこなたに対し、かがみが苛立ちを含ませた声で喚きたてた。
「何よ、何がどうしすればいいのか教えてあげる、よ。
何の解決にもなってないじゃない。
私は、つかさが居ない世界で何を生き甲斐にして生きていけばいいのか、
それが知りたかったのよ。なのにアンタがさっきから言ってる事って」
「うん、私に対する償い方を教えてあげたんだよ。
かがみの生き甲斐なんて、知った事じゃない」
それがこなたなりの、報復だった。
この場で殺してしまうよりも、より自分が味わった苦しみを理解させる事ができる方法。
(そうやってさ、思い悩みなよ)
蹲って嗚咽を漏らし続けるかがみを冷たく見やりながら、
自らの喉に突き立てた刃を力強く押し込んだ。
(死ぬか生きるか、悩みなよ。その選択肢だって私が)
こなたの意識が遠くなる。昨夜自殺を図った時と違い、
途方もない喪失感を伴いながら遠のいていく意識。
その相違が教えてくれていた。
これが、死だと。
(思い悩んで苛まれた選択肢なんだからさ。
かがみもそれ、味わってよ)
苦痛の生と、恐怖の死。
敢えて道を二つ提示する事で、こなたはかがみを苦悩の渦中に放り込んだ。
どちらを選んでも、好ましくない結果にしかならない最悪の二択。
どちらにも利が無いので、少なくとも利は伴うヤマアラシのジレンマよりも尚酷い。
そしてこの二択は、選択を回避する事すらできない。
(あはは、かがみんいい顔してるね。私もあんな顔、してたのかな。
あんな顔しながら、死ぬか生きるか考えてたのか。
かがみは死以外の道を私から塞いだよね。私は塞がないよ。
だってその方が)
揺れる判断の秤に迷うかがみを遺して
(苦しみは大きくなるでしょ?)
こなたは逝った。
「第五問目、正真正銘のラストクエスチョンです。
貴女は生きますか?死にますか?
じゃあこれ、かがみん答えてみようか。
ちなみに正解は───
──ありません」
<FIN>
>>313-317 以上で完結です。長々とお付き合い頂き、有難うございました。
次は、短くまとめたいと思います。
それでは、次の機会に。
かがみを苦しめて苦しめて殺して欲しかった。
こなたの復讐を中途半端で終わらせて欲しくなかった。
かがみのつかさへの愛情が信用出来ない。
こういうクズは自分だけが可愛いはず。
>>318 乙なのです
>>319 全てを失って生きるのはそれはそれで辛い。これもまた至高の報復だぜ。
>こういうクズは自分だけが可愛いはず。
きっとこのかがみはつかさを愛する自分に自己陶酔しているんだろう。
>>318 お疲れ様でした。
293での”ぽたり”はかがみたちの落涙の音だったら……と思いつつ読んでいました。
口では残酷な内容を語る3人も、やはりこなたの死までは望んでおらず無意識の内に
涙を流していたのであれば少しは救われたかもしれません。
人間は群れると強くなり勢いに制限をかけられない生き物ですから、3人がかように
エスカレートしていくのも無理からぬ話で、いじめる側の描写にも現実味があります。
欲を言えばラストでここまでこなたがねちっこく迫るなら、敢えて瀕死の重体とはせず、
健体のまま自殺未遂という誤報を流して3人の前に姿を現す…………。
という展開も面白かったかもしれません。
尤も血塗れであったからこそ彼女の面詰も凄みを増していたわけですから、
これはこれで深い展開でした。
今では蚊すら苦手な僕ですが小さい頃、1匹の蟻の体を生きたまま3等分した事があります。
何故そうしたのかは憶えていませんが、子供とはとかく残忍なもの。
他者の痛みを想像できないから残酷になれるという意見があります。
ところが痛みを想像できるくせに残酷な種類もいます。
このお話でのみゆきが特にそうではないかと想います。
ラストの狼狽振りを見る限り、彼女には他者の痛みが理解できる。
理解できるからこそ、より知的により効果的にこなたを嬲る術を心得ている。
3人組という優位な立場にいることで、自分が窮地に陥る局面など決してないだろうと慢心し、
こなたに迫られた事で封印していた可能性を裸出させて無様に振る舞ったのではないかと。
こういうキャラを見るとこなたよりも寧ろ浅ましさを孕むみゆきに同情してしまいます。
>>318 乙でした。
こなたの焦りや葛藤に感情移入してしまった。
かがみは今は悲しんでもその後は妹と友人を殺された悲劇の姉という立場を利用して
うまく生きていきそうだなぁ…
>>318 乙。そしてGJ。
このスレってずっとただのアンチスレだと思ってたけど、
ふらりと寄ったら、この作品が目に入ってびっくりしました。
逆転分岐なんてのも思いついてしまいますが、スレチなので止めておきます。
こなたが最終的に自殺すればいいんじゃね?
326 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/05/02(土) 07:22:58 ID:nxDqNqEI
昔書いて、放置していた話が見つかったので、今晩あたり投稿したいと思ってます。
非常に長い話ですが、最後まで気長に読んでもらえると嬉しいです。
327 :
324:2009/05/02(土) 07:28:47 ID:tTSaVuqe
>>325 こなたが自殺しない、どころか、
かがみが自殺しそう。
328 :
324:2009/05/02(土) 08:34:14 ID:g97FT5Gw
「方法を考える」スレだから、結果的に3人にしっぺ返しがいっても構わないのか?
もし読みたいと言う声があれば書いてみたいと思います。
>>328 面白そうなので、私は読んでみたいです。
読みたいぞw
貴重なSSネタだ
それでは、試しに出だしの部分を投下してみます。
>>287の後(正確には
>>291の冒頭部分)からの分岐になってます。作者さんに失礼いたします。
泉こなたが自殺未遂で入院し、数日が経過した。
一時はかなり危険だったが、現在は再出血や化膿もなく快方に向かっていると、稜桜学
園3年B組の生徒達にも伝えられた。
「意外にしぶといわねアイツ。もう逝くかと思ってたんだけど」
放課後。屋上に続く階段の踊り場で、かがみ、つかさ、みゆきの3人は話し合っていた。
「憎まれっ子世に憚るとも申しますから。泉さんみたいに周囲の迷惑以外のなんでもない
人は、そうそう簡単に死なないのかも知れませんよ」
「えー、でもそれじゃ、ホントに私達がバカ見ちゃうよ」
みゆきがニコニコとしながらも苦笑気味に言うと、つかさが不満げな声を出す。
「まぁ出てきたら出てきたで、いびる楽しみが増えるだけじゃない? アイツ、自殺する
ほど罪悪感感じちゃってるわけだしさ、ちょっとつかさがそれらしいことすれば」
「かがみさんて、本当に容赦ないんですね」
悪びれもせず、笑顔でみゆきは言う。
みゆきとつかさは、前にもあったようにこなたの横柄な態度が癪に障ったというのが本
音だが、かがみにはそれ以上のどす黒いものが感じられた。
「っていうか、最初からウザかったのよ。アイツ」
少し険しい表情で、しかしかがみはさらりと言った。
「あたしがさぁ、アイツと付き合ってていい思いしたことってある?」
「それは……」
みゆきは返答に詰まる。つかさに至っては、首を傾げるばかりだ。
「それどころかいっつもあたしが被害者じゃない? 宿題は写す、その気も無いのにアニメ
ショップに引っ張っていく、挙句周囲からはあたしまでセットでオタ扱いされてさ」
ため息混じりにかがみは言う。
みゆきとつかさは、こなた自身と同級生ということもあったし、担任のななこもこなた
のオタ仲間ということで、同一視されてもそれほどダメージは大きくなかった。
だが、かがみは違う。こなたによって他の3人に一様に押されたレッテルを、クラスに
入れば1人だけで受け止めなければならないのだ。
「まぁはっきりウザいと思ったのは今回の件がきっかけだけど、もううんざり、って気分
よね、正直」
「お姉ちゃん……」
「大変、苦労なさったんですね……」
つかさとみゆきの反応は、むしろかがみに同情する視線を向けた。
「ごめんねお姉ちゃん、私がこなちゃんとなんか知り合ったばかりに」
「あ、ううん、つかさが悪いわけじゃないって」
つかさが本気で申し訳なさそうに言うと、かがみは慌てて苦笑して、それを否定した。
「それに、最後の最後でスッとするような思いできたじゃない? 受験勉強でストレス溜ま
ってる時にさ」
かがみは平然とへらへら笑いながら、そう言った。
「かがみさんて、ホント……サディストなんですね」
「そうかしら?」
「私も……ちょっと、お姉ちゃん怖いな、って思ったよ」
そうは言うみゆきとつかさだったが、その顔は晴々とした笑顔だった。
*
さて当然、こんな会話を誰かに聞かれるわけに行くはずも無く、3人は人気の無い場所
で会話していたのだが、逆にそれが事態をさらに複雑にしていくことになる。
*
翌日。
始業前、かがみが自分の席について、退院してきたこなたに何を仕掛けようか考えてい
ると、
「おーい、柊ー」
と、みさおが声をかけていた。
「なんだ日下部、朝っぱらから」
かがみは、至福の時間を邪魔されたとばかりに、不機嫌そうな声でみさおに返事をする。
「いや、何だって程のことでもないんだけどよ」
いつもの用にニタニタと締りのない表情で、みさおは切り出す。
「今度陸上部で、最後に短距離のレコードとる事になってさ」
「そんで? それとあたしに何の関係があるんだ?」
脈絡のない話を振ってくるところではこいつもこなたと同じだな、と、かがみは鬱陶し
そうに返したのだが、
「いやぁ、柊の妹がすっごい御利益のあるリボン持ってるって言うからさ、ちっと私にも
貸してくんないかなと思ってさ」
と、みさおが言った瞬間、かがみの表情が凍りついた。全身が一瞬、硬直する。
「な、なんでそのことを……」
狼狽しつつも、かがみはぼろを出すまいとしつつ、みさおに問い質す。
「B組の生徒から聞いたんだってば。そんな話してたって。なんでも、柊の妹がここ受か
ったのもそのお守りのおかげらしいじゃん? それなら私もいい記録残せるんじゃないか
と思ってさ」
「はぁー」
かがみは、みさおの言葉を聴きながらなんとか落ち着きを取り戻すと、わざとらしくた
め息をついた。
「あれはつかさの物だし、それに第一、こなたが失くしちゃったんだから、貸せるはずな
いでしょ」
深刻そうな表情を作って、かがみは言い返す。
「あれ? ちびっ子が失くしたのって、確か藍色のリボンだって聞いてたけど?」
「そうよ」
みさおがヘラヘラとした表情のまま、何気なく聞き返したその言葉に、かがみは頬杖を
ついてみさおの顔を見もせずに、短く答えた。
「それっておかしいじゃん? だって、私らここ受験する時に柊も柊妹も一緒だったケド、
柊妹がしてたの、黄色のリボンじゃなかったっけ?」
「!」
ガタッ
かがみは机を揺らして音を立ててしまうほど、動揺を見せた。
「そ、それは……だから、あれは大切なリボンだから、そ、そう、カバンに入れてたのよ」
「そっか、ふーん。私は受験なんて大事な場所で、お守りとして使うぐらいだから、てっ
きり頭につけてるんだと思ってたぜ」
かがみがどもりながら答ると、みさおはヘラヘラとしたまま、若干眉を下げて苦笑気味
になって、そう答えた。
「そっか、それじゃしょうがないな〜」
みさおはそう言うと、かがみの席から離れて、今度はあやのの方へ近づいて行った。
「ふぅ……」
一旦は胸を撫で下ろし、ため息をついたかがみだったが、はっとあることに気がついて、
目を円くし、身体を固くした。
────待て、なんで日下部が、こなたがリボンを失くしたこと知ってる!?
>>319 あるあるwww
かがみは自分だけがかわいいタイプだと思うから、自殺はしないでしょう。
すぐにつかさのことも忘れるのが関の山。
自殺こなたと ぼっちかがみんが出会うのはどうだろう?
鬱×鬱 = 救? 死? 闇?
みさお、かがみに殺されるのかな?
口封じに…
341 :
326:2009/05/02(土) 22:46:09 ID:nxDqNqEI
それでは、昔書いたSSを投稿したいと思います。
非常に長い話ですが、最後まで気長に読んでもらえると嬉しいです。
さわやかな朝の光景の中を、私は全速力でかけぬけていた。
「ヤバいよ。完全に遅刻だよ。」
走りながら、大あくびを一つする。
夕べ、寝たのが3時過ぎだったから、完全に寝不足だ。
でも、寝不足の原因は、深夜アニメを見ていたからでも、ネトゲーでもなかった。
私にしては珍しく、差し迫った問題について、真剣に考えていたからだった。
今日は7月6日。
空は雲ひとつなく、晴れわたっており、今日も暑い1日になりそうだった。
World's End
(明日は、かがみとつかさの誕生日か。何か、プレゼントでも考えないと…)
私は、信号待ちをしながら、ずっとプレゼントのことばかりを考えていた。
去年は、ネタで団長腕章とか、某エロゲーの制服をプレゼントしたんだけど、今年はちゃんとしたものを送りたい。
でも、そう言う時に限って、ネタしか思いつかない私の思考回路に、私自身、本当に困りはてていた。
「うおっ、何だ!?」
突然、大きなサイレンが耳に飛び込んできて、私はハッと頭をあげる。
目の前の道を、救急車が3台、サイレンを鳴らしながら、高速で走り抜けていく。
しばらくして、信号が青に変わるのを見て、全速力で、学校に向けて走り出した。
それにしても、救急車が3台一緒に走ってるところなんて、初めて見たよ。
走りながら、そんなことを考えていたら、またサイレンの音が聞こえてくる。
でも、今度は救急車ではなく、パトカーだった。
「むう、今日は何だか、朝から物騒だね。」
パトカーはサイレンを鳴らしながら、すごいスピードで走り抜けていく。
ちょうどその時、学校の方から、チャイムが聞こえてくる。
「ヤバい、予鈴だ。」
私は、さらにスピードアップすると、そのまま学校の校門へと飛び込んだ。
学校には、間一髪で何とか間に合った。
教室に入ると、つかさとみゆきさんが、私のところにやってくる。
「おはよう、こなちゃん、今日は間に合わないかもって思ってたよ。」
「おはようございます、泉さん。」
「ヤフー!!、つかさにみゆきさん。」
私の挨拶とほぼ同時に、教室にチャイムが鳴り響く。
「おーい、チャイム鳴ったぞ。皆、席に着け!!」
そして、黒井先生が教室に入ってくる。
いつもと全く同じ光景だった。
私は、自分の席につくと、いつもと同じように、居眠りや落書きに興じるのであった。
「コラ、泉、起きんかい!!」
寝ぼけていたところを、黒井先生に教科書で思い切り頭を叩かれる。
これも、いつもと同じ光景だ。
黒井先生に叩き起こされたので、仕方なくぼーっと外を眺めていると、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
(むう、また、救急車だよ。今日は本当にサイレンの音を耳にするなあ。)
一日に、こんなにサイレンを聞くのも珍しい。
何か、大きな事故でもあったのかな?
休み時間には、いつも隣のクラスから、かがみが教室にやってくる。
「あれって、本当に臭いのよね。」
「あの苦味が、何とも言えませんね。」
「私は、あの太いのを何とかしてほしいかなって思うよ。」
「私は、太さよりも、あの硬さがたまらなく好きかな。」
そして、いつもと同じ、どうでもいい会話に花が咲く。
でも、今日の昼休みは、いつもとちょっとだけ違った。
久しぶりに、みんなで屋上で弁当を食べたんだ。
まあ、場所が変わろうと、いつもとあんまり変わんないんだけどね。
でも、見晴らしのいい景色を見ながら食べているうちに、
以前から計画していたことを、みんなに話しておきたかったんだ。
「あっ、そうだ。明日も天気がよかったら、ここで食べようよ。」
さも、今思いついたかのように話すのが、ポイントだよ。
だって、私のキャラって、こんな計画立てるような人じゃないからね。
「えっ、なんで?」
かがみが不思議そうに私に尋ねてくる。
「もうとぼけちゃって、かがみ。明日が何の日か、自分の方がよくわかってるくせに。」
「えっ、まさか、私達の誕生日?」
「そうだよ。だから明日は、私が2人のお弁当を作ってあげようとおもってね。」
「えっ、こなちゃんが? わー、ありがとう。」
つかさはそう言って、素直に喜んでくれた。
「こなた、何か変なものでも食べたのか?それとも、また何かのネタの前振りか?」
それに引き替え、かがみは、半信半疑の様子。
「ひどいよ、かがみ。私の2人へのささやかな気持ちを、どうして疑うかなぁ?」
「ゴ、ゴメン……悪かったわよ。それと、ありがとう、こなた。」
少し照れながらそう言うかがみは、少しかわいい。
「じゃあ、明日も、ここで食べようね。きっとだよ。」
私が大声でそう言うと、かがみもつかさもみゆきさんも、笑顔で頷いてくれた。
じゃあ、明日は2人のために、とびきりおいしい弁当を作らないとね。
あっ、でも、その前に、もう一つやっておかないといけないことがあった。
「みゆきさん、弁当食べ終わったら、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
「えっ、私にですか?」
「うん、みゆきさんに。」
「わかりました。では、あとで泉さんの席にうかがいますね。」
「えー、2人だけで、何のお話かな、かな?」
つかさが、興味津津の様子で、話に割り込んでくる。
「つかさ、少しは空気読んだら、どうなのよ?」
そんなつかさに、かがみがすかさず突っ込む。
「えっ、なんで?」
つかさが、わからないといった表情で、かがみの方を見つめると、かがみはため息を一つつく。
「こなたは、私達のプレゼントのことで、みゆきに相談したいんでしょ。
それくらい、わかりなさいよ。」
「えっ、そうなの?」
つかさが、驚いた表情で、私の方を見る。
そんなに驚くことないと思うんだけどな。
私がみゆきさんに相談したかったのは、かがみの言うとおり、2人のプレゼントのことだったんだけど、
何だか素直に認めるのはくやしいから、あえて否定してみる。
「えっ、違うけど。」
「えっ!!」
「なんで、そんな風に思ったのかな?かな?」
私の予想通り、かがみは必死に何か言い訳を考えている。
いやあ、本当に、かがみって、からかいがいがあるねえ。
「あっ、サイレンだ。」
突然のサイレン音に、私もかがみもつかさもみゆきさんも、音のする方を見ると、遠くの方に救急車が走るのが見えた。
「何か今日さ、やたらと、救急車とかパトカーを見かけない?」
かがみがそう言うと、皆それに頷く。
「かがみもそう思った。本当、何なんだろうね。私なんか今日――――」
そう言いかけて、私は校門に止まっているものを見て固まってしまった。
「どうしたのよ?」
かがみも、私の視線の向いている方を見て、驚いた表情を浮かべていた。
なんと、いつの間にか、校門には、パトカーが止まっていた。
パトカーの中から、刑事っぽい大人が2人出てくると、校舎の方へ向かってくる。
「何かあったのかな?」
つかさが不安そうにつぶやく。
「だ、大丈夫よ。きっと、誰かの落し物を届けに…」
「そんなことで、わざわざパトカーに乗って、刑事が学校に来ると思う?」
「…………思わない。」
「行ってみませんか、職員室に?」
みゆきさんにしては大胆なことを言うねえ。
「面白そうだね。行ってみよっか?」
「そうね、少し気になるしね。」
「私も。」
私達は早々に食事を済ませると、刑事が向かったと思われる職員室へと向かった。
でも、皆考えることは同じみたいで、職員室の前には、他の生徒が既に大勢来ていた。
「うおっ、こんだけたくさんいると、盗み聞きどころじゃないよ。」
「まったくパトカーが来たくらいで、こんなに人が集まることもないでしょうに。」
かがみは、あまりの生徒の多さに、少し呆れていた。
でもね、かがみ、ここに来ている私達だって、人のこと言えないと思うんだけどなあ。
「さすがにこれでは無理ですね。教室に戻りますか。」
みゆきさんがそう言うと、全員頷く。
だって、さすがにこの人ごみじゃ、何も聞き取れないだろうからねえ。
「それにしても―――」
「何だ?」
「うちの学校って、結構平和なんだなって思ったよ。
だって、パトカー1台来ただけで、この騒ぎだからね。」
「まあ、そうかもしれないわね。」
そんなことを話しているうちに、チャイムが鳴り響く。
「じゃあ、また放課後にね。」
かがみはそう言うと、自分の教室へと帰っていく。
私達も急いで教室へと戻る。
「あのさ、みゆきさん。」
「何でしょうか?」
「さっきの件なんだけどね、放課後にしたいんで、ちょっち付き合ってくれる?」
「私は構いませんけど……でも、一体何の用件ですか?
私はてっきりかがみさんとつかささんの誕生日プレゼントの件だとばかり…」
「ウン、そうだよ。」
「でも、さっきは違うって……」
「あれは、かがみをからかうために言っただけだよ。
実はさ、誕生日プレゼントのことで悩んでて、みゆきさんに相談したいなって思ってたんだよ。」
「こなちゃん、私、こなちゃんがくれるものだったら、何でもいいよ。」
突然、横からつかさの声が聞こえてきて、私はハッとなる。
しまったぁ!!!つかさがいること、すっかり忘れてた。
「でも、こなちゃんの気持ち知ったら、きっとお姉ちゃんも…」
「チョ、チョット、タンマ。このことはかがみに内緒にしといて。」
「どうしようかなあ?」
「つかさ〜」
ガラガラガラ
突然、教室の扉が開くと、黒井先生が入ってくる。
あれ、次の授業って世界史だったっけ?
「ほーら、もうチャイム鳴ったんやで。さっさと席につかんかい。」
黒井先生が大声で怒鳴ると、みんな慌てて席に着く。
私も、自分の席につくと、黒井先生の方を見る。
その時、初めて黒井先生の様子が、いつもと少し違うことに気づいた。
それに、世界史の授業でもないのに、どうしてここに来たのか、少し気になった。
「今日の午後の授業は、休講とします。」
黒井先生の言葉に、教室中がざわめく。
私の頭の中に、さっき来たパトカーのことが真っ先に思い浮かぶ。
あれと、何か関連があるのかな?
黒井先生は、どう説明しようか、悩んでいるみたいだったけど、しばらくして口を開いた。
「え、えっと、実は、どうやらこの近くに、凶悪犯が複数潜んでいるそうで、
危険なので、全校生徒をすみやかに帰宅させてほしいとの警察からの要望がありました。」
黒井先生がそう言うと、再び教室はざわめきだす。
複数ってところが、私は気になっていた。
もしかして、犯人は、大勢いるってこと?
朝から救急車やパトカーをやたら見かけたのは、その凶悪犯達と何か関係があるってこと?
でも、警察が捕まえてから、帰宅させた方がいいと思うんだけど、どうしてそうしないんだろう?
すぐには捕まえられそうにないってことなのかな?
「家の人に迎えに来てもらえる方は、電話して迎えに来てもらうようにしてください。
迎えに来てもらえない方は、集団で下校するようにしてください。
では、これで終わりにします。」
黒井先生の話が終わると、そこで今日の授業は終了となった。
それからは、みんな携帯電話で家に電話をかけ始める。
私も、家にかけるために携帯電話を取り出す。
確か、原稿の締め切りが迫っていて、予定では今日は家にいるはずだ。
「お姉ちゃん。」
その時、教室にゆーちゃんとみなみちゃんが入ってくる。
「あれっ、ゆーちゃん、もう終わったの?」
「うん、それで、こなたお姉ちゃんと一緒に帰ろうって思って来たんだよ。」
「ちょっと待ってて。今、お父さんに電話するから。」
私はゆーちゃんにそう言うと、家に電話をかける。
しばらくすると、お父さんが電話に出た。
お父さんに、電話で詳細を説明する。
「そういうことか。じゃあ、今から迎えに行くから、学校で待ってなさい。」
お父さんなら、絶対そう言ってくれると思ってた。
でも、少し気にもなったんだ。
隠れているのが、女子高生を狙った変質者とかだったら、お父さんに迎えを頼んでも、
まず大丈夫(てゆうか、こっちの場合は別の心配が必要だけどね。)だと思うけど、
凶悪犯が潜んでいるってことは、迎えに来るお父さんだって、襲われる危険があるってことだ。
「うん、わかったけど、お父さん―――」
「何だ?」
「―――気をつけてね。」
「大丈夫だって。車ですぐに迎えに行くから、おとなしく待ってなさい。」
「ウン、わかった。」
私はそう言うと電話を切る。
そうは言ってみたものの、一度芽生えた不安な気持ちは、なかなか消えてくれない。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
突然のゆーちゃんの声で我に返る。
「ゆーちゃん、お父さんが迎えに来てくれるから、もう大丈夫だよ。」
「でも、おじさん、大丈夫かな?」
ゆーちゃんが不安そうにつぶやくと、小さな体をガタガタと震わせる。
そんなゆーちゃんを見てたら、何だか胸がキュンとなって、気がついたら、ゆーちゃんを後ろからぎゅっと抱きしめてた。
「お、お姉ちゃん?」
「大丈夫だよ、ゆーちゃん。うちのお父さん、ああ見えても、結構強いんだから。」
「ウン…」
ゆーちゃん、まだ少し震えてたみたいだけど、どうやら落ち着いたみたいだ。
「ア、アンタ達……何やってるわけ?」
いつの間にか、教室に来ていたかがみが、私達に声をかけてくる。
そして、かがみの後ろには、なぜかひよりんの姿も……
私達の方をチラチラ見ながら、何かを一心不乱に書いている。
まあ、何書いてるかは、大体想像つくけどね。
「ひよりんや、何を書いているのかな?」
「えっと、こ、これは……な、何でもないですよ。あはっ、あはははははは……」
教室中に、ひよりんの乾いた笑い声が響き渡る。
こんな時ぐらい、少しは自重できないものかねえ。
「ひよりん、こんなところで油売ってて、イイノデスカ?
明日、原稿締切じゃなかったんですか?」
いつの間にか、パティまで教室に来てるし……
でもこの2人、何しに教室に来たんだろ?
「こ、こなた…」
かがみが気まずそうに声をかけてくる。
「何、かがみ?」
「お取り込み中で悪くなければ、その…お願いがあるんだけど…」
かがみはそう言うと、下を俯いた。
「何、もしかして妬いた?」
「バ、バカ、そんなんじゃないわよ。」
そう言って、あわてて否定するかがみ。その反応、テンプレすぎるよ。
私はゆーちゃんから体を離すと、かがみの方に振り返る。
「で、何?」
「じ、実は、こんなお願い、あつかましいと思うんだけどね。
こなたの所って、おじさんが車で迎えに来てくれるんでしょ?」
「そうだけど?」
「それでね、もしよかったら、私とつかさを、家まで送ってくれないかなあって思って。」
なるほど、そう言うことね。
要は、お父さんが車で来ることを知って、それに便乗しようと思って来たわけだ。
何だか、少し不愉快な気分になった。
そんな私の感情を察したのか、かがみが慌ててフォローを入れてくる。
「む、無理って言うんだったら、いいのよ。
わ、私達2人で帰るから、だ、大丈夫よ。」
力強く言おうとしたつもりみたいだけど、手が震えてるよ、かがみ。
てゆうか、2人ってどういうこと?
「実はね、お姉ちゃん、まつりお姉ちゃんの迎えを断っちゃったんだよ。」
つかさがこっそりと私に事情を話してくれた。
何でも、家にはまつりさんしかいなくて、せっかく迎えに行くって言ってくれたのに、それをかがみが断っちゃったらしい。
まあ、かがみの気持ちは、よくわかるけどね。
凶悪犯が潜んでいる中、まつりさん一人に迎えに来させるのは危険だって、かがみは思ったんだろうね。
でも、凶悪犯が潜む中を、2人だけで帰るのも心細くて、それで私に声をかけてきたってわけだ。
そう言うことなら、そう言えばいいのに。
「いいよ、あと2人くらいなら乗れると思うから。」
「本当に?ありがとう、こなた。」
かがみはそう言うと、私の手をぎゅっと握りしめる。
いや、嬉しいのはわかるけど、少し手が痛いよ、かがみ。
しばらくして、携帯の着信音が鳴る。
お父さんからだ。
「もしもし、お父さん?」
「こなたか。今、校門の前にいるから、早く来なさい。」
「ウン、わかった。今すぐ行くよ。」
私はそう言うと、携帯電話をポケットにしまう。
「お父さん来たって。行こう、かがみ、つかさ、ゆーちゃん。」
「「「ウン」」」
私達4人が教室を出ようとした時だった。
「泉さん。」
突然、みゆきさんに呼び止められた。
「何、みゆきさん?」
みゆきさんの所に行くと、みゆきさんはこっそりと私に何か書いたメモを取りだす。
「このお店に売ってるアクセサリーが、お2人には似合うと思いますよ。」
みゆきさんは、私だけにこっそりそう言うと、私にメモを手渡す。
そっか、みゆきさん、わざわざプレゼント買えるお店、探してくれたんだ。
「ありがとう、みゆきさん。」
「どういたしまして。でも、さすがに今日は買いに行けないと思いますが。」
「大丈夫、お父さんの車で帰りに寄ってもらうよ。
それより、みゆきさんは大丈夫なの?」
「私とみなみさんなら、大丈夫ですよ。
もうすぐ、特別製のリムジンが到着するはずなので…」
今、リムジンって言わなかった?
「と、特別製って?」
「何でも、38口径の弾でもはじき返す特殊ガラスと超合金でできているそうです。」
一体、どういう目的で購入した車なんだろうか?
もう少し聞いてみたかったけど、これ以上聞くと、何だかヤバい話に突っ込みそうなので、
この辺で切り上げることにした。
それに、お父さんも待たせてるしね。
みゆきさんにお礼を言うと、私達はお父さんのいる校門へと向かう。
校門前には、お父さんが車を止めて待っていた。
「やっと来たか、こなた…って、あれ、かがみちゃんとつかさちゃん?」
2人が来たのを見て、いぶかしげな表情をするお父さん。
ああ、そっか。かがみとつかさのこと、まだ話してなかったっけ。
私がお父さんに説明すると、お父さんは喜んで快諾してくれた。
「俺の車に、女子高生4人だなんて…いやあ、本当に俺って勝ち組だなあ。」
まあ、お父さんの考えてることは、そんなことだと思ったよ。
でも、あんまりそういうことは、口に出さない方がいいと思うんだけどな。
かがみとか、かなり引いてるし。
全員、車に乗り込むと、車はゆっくりと発進する。
しばらくすると、前方から見たこともないようなリムジンが通り過ぎる。
「ちょっと今の車見た、こなた?」
かがみが驚いた顔を、私の方に向ける。
「すごい車だったね。」
「もしかして、あの車もウチの学校に行ったのかな?でも、あんな車持ってそうな生徒いたっけ?」
かがみはそう言うと、首をかしげる。
いたんだよね、これが。しかも、私達のすぐ近くに…
しばらくして、車はかがみとつかさの家の前に着く。
「着いたよ、かがみちゃん、つかさちゃん。」
「今日は本当にありがとうございました。おじさん。」
かがみはお父さんにお礼を言うと、車から降りようとする。
そのかがみの後ろ姿を見た時……電流みたいな何かが、私の中に走ったんだ。
何か、とっても嫌な感じだった。
車を降りようとするかがみの背中が、どんどん遠くなって――――
何だか、もう二度と、かがみと会えないような、そんな気がした。
「かがみ!!」
気がつくと、私は、大声でかがみを呼び止めていた。
「ちょっと、何なのよ?いきなり大声出すことないでしょ!!」
かがみだけじゃなく、つかさも驚いた顔で、私の方を見ていた。
「で、何?」
「えっとね………何でもない。とにかく気をつけてね。」
「大丈夫よ。だって家は目の前だし…」
「そういうことじゃなくて、その……」
「わかってるわよ。今日は厳重に戸締りするから、そんな心配そうな顔すんな。」
「本当だよ。」
「こなたって、意外と心配症なんだな。でも、心配してくれて、ありがと。」
かがみはそう言って、私の手をしっかりと握ってくれた。
その横で、お父さんがなにやら悶えているけど…放っておこう。
かがみ達と別れた後、私はお父さんに、みゆきさんから聞いたアクセサリーショップに寄ってとお願いした。
「でもな、こなた、今日はこんな状況だし、また別の日に―――」
「別の日じゃダメなんだよ。今日じゃないとダメなんだよ。」
私が強い口調でそう言うと、お父さんは諦めたように、お店の方に向かってくれた。
この時になって、初めて私は、いつもと同じ明日が来てくれることを祈った。
350 :
326:2009/05/02(土) 23:13:00 ID:nxDqNqEI
今日はここまでにしたいと思います。
期待wktk
なんか、いきなり賑わってきたなw
>>337 gj!
もしかして、シュールな絵描いてた人?
絵柄変わったなぁ
SS多いな
最近どこのらきすたスレでもSSの数はかなり減ってるけど
ここは相変わらずクオリティ高いの多いな……
>>317 苦しむのは一瞬で下手に死ぬより、半端に生き残った方が苦しみは
大きいような気がします。
別作品のパラレルワールドの話で、かがみはつかさには
屈折してるか否かの違いはあるものの、人一倍思い入れあるという法則が
上がってただけにそのシーンが印象に残る作品でした。
>>333 周りも関与する事によってかがみ達の立場が危うくなっていってるみたいですね。
>>317のラストはこなた一人による反撃で、あくまで4人にだけスポットを当ててただけに
似つつもあり対照的でもあるこの流れにwktkしてますw
>>349 今の所、凶悪犯が潜んでるらしいものの
いつもと露骨には変わらない生活をしている4人ですが
読んでて嫌な予感を抱かずにはいられなく、どんな事件が起こるのか
まだ分からないだけに怖いですw
wktk
*
古人曰ク、悪事千里ヲ走ル
*
「まずい……日下部がこなたがリボンを失くした事知ってる」
「えっ……」
昼休み。
かがみはB組からつかさ、みゆきを呼び出して屋上へ続く階段の踊り場に来ていた。
屋上で昼食を採ったり、くつろいだりと言うシチュエーションは学園モノのゲームに良
くある展開だが、実際には安全の問題から普段は閉鎖している学校が多く、そして稜桜は
そのセオリーの方だった。
────閑話休題。
かがみの表情が深刻なものだったので、周りの生徒は連れ立つメンバーからも、こなた
に関する事だとは思ったが、彼らが考えたのは真逆の内容だった。
「それは……かなり深刻な事態なのではないでしょうか?」
「うん……日下部さんは中学一緒だし、私の事も結構知ってるから……」
みゆきが表情を曇らせて言い、つかさは俯くように頷いて肯定する。
「それだけじゃありません」
「えっ?」
みゆきが言うと、つかさは顔を上げて目を円くした。
「かがみさんの話からしますと、日下部さんはお守りのリボンと、泉さんの話とを絡めて
来たということですよね?」
「あっ……」
みゆきの言葉に、つかさが短く声を上げる。
「日下部はバカだけどあいつが知ってるって事は峰岸も知ってる。峰岸は頭も回るし危な
い。日下部が話を振ってきたのも峰岸の差し金かもしれない」
かがみはこくんと頷いてから、険しい表情で言った。
「で、でも、お守りのリボンの件はともかく、こなちゃんがリボン失くした事はどーして
知ったのかな?」
つかさが焦ったような表情を隠さずに言った。
「それは……泉さん、遅くまで残って探していたでしょうし……学生サポート課にも届出
ていますから、知っていても不思議ではないのですが……ただ、お守りのリボンの件と絡
めてきた、と言うのは看過できません」
「もしかして、こなたから経緯を聞いてる?」
かがみがいっそう表情を険しくした。
「ここまでの状況からして、あの2人が泉さんと、今回のことで直接話したとは思えない
のですが……」
「もしあるとしたらあたしとみゆきに電話かけてきた時ぐらいだけど……それなら、自殺
なんてしないし、もっと騒ぎになってるはずよね」
みゆきの言葉に、かがみはそれを検証するように言った。
「とりあえず、日下部さんと峰岸さんに限らず、泉さんが今回の事を相談しそうな相手を
考えてみましょう」
「あいつ交友関係狭そうだし……黒井先生はないわよね、それだったらとっくにバレてる
はずだもん」
「もし私が相談するとしたら……家族! こなちゃんのおじさんは!?」
はっと気がついたように、つかさが声を上げた。
「それはないわよ、だったら櫛を壊したりなんか、おじさんが絶対させないわよ。おじさ
んにとっても形見なんだから」
かがみが反射的に、つかさを睨むようにしてそう言った。
「かがみさん……まずく、ありませんか……?」
みゆきが顔面蒼白になりながら言った。
「え?」
「ゆたかさんに漏らしている可能性がありますよね……?」
「あ!」
みゆきの言葉に、かがみは声を上げた。つかさはうんうんと頷いている。
「で、でも、ゆたかちゃんから日下部や峰岸に伝わる可能性って低いような気がするけど
……」
確かに知り合い以上の付き合いではあるが、こなたやかがみ、つかさ、みゆき程のつな
がりはない。
「とりあえずそれは置いておいて、ですよ。ゆたかさんまで来たら、ゆいさんまで伝わっ
てもおかしくないって事です……」
「ああああっ!?」
「ダメーっ、それ、絶対ヤバいよ!!」
かがみが絶叫のような声を上げ、つかさも慌てふためいた声を出す。
ゆたかの実姉ゆいといえば天下御免の警察官である。交通課だから少年犯罪は管轄外で
はあるが……
「で、でもそれだったら、今頃もっと騒ぎになってるんじゃない? 黒井先生と同じで……」
「そ、そうだよ、か、考えすぎなんじゃないかな」
かがみが自分に言い聞かせるように言い、つかさもそれに乗っかってこくこくと頷いた。
「そ、そうですね……」
みゆきも自らがしてしまった最悪の想定から逃れたいらしく、引きつった顔で2人の言
葉を肯定した。
「でも、一度ゆたかちゃんは当たっておいた方が良いかもしれないわね……」
かがみは深刻そうな表情で言う。
「そうですね、あくまで、それとなく……」
みゆきもそれに同意した。
*
ここでかがみ達が疑問に思っている事態の推移を見るために、時計の針を戻す。
まずは、こなたにつかさのリボンを貸し、それをかがみが抜き取って、こなたに紛失し
たと思い込ませた、その当日の夕方まで遡る。
*
真新しい携帯電話の着信音に、ゆたかはフリップを開いて着信ボタンを押し、耳に当て
てる。
「もしもし、田村さん?」
メモリに登録された番号の名前が表示されていた。その名前を聞き返す。
『私だけど、とりあえず、小早川さんは今、自分ち?』
「うん」
厳密に言えば本来の自宅ではないが、高校生という立場を考えればそう言って構わない
だろうと思い、ゆたかは短く答えた。
『泉先輩は帰ってきてる?』
「お姉ちゃん?」
ゆたかはそう言って、携帯電話で通話したまま、部屋の戸をあけて廊下に出た。
キョロキョロと見回してから、隣のこなたの部屋をノックする。
返事はない。
「まだみたい、かな」
『そうっスか……』
ゆたかの答えに、ひよりが落胆したような声を出した。
「あれ? 田村さん、お姉ちゃんの携帯番号知らなかったっけ?」
最近は同人仲間と言うことで(と言ってもこなたはROM専だが)、ひよりやパティとこな
たが良く付き合っているから、携帯番号の交換ぐらいはしているものだと、ゆたかは思っ
ていた。
『いや……ちょっと泉先輩に気になることがあって』
「気になる……こと?」
『今日、漫研で泉先輩にレクチャーお願いしてたんだけど……』
そう言って、ひよりは放課後の早い時間、漫研の部室の前であった事を話した。
『体調が悪いんじゃないかと思ってたんだけど、それにしてもちょっとおかしかったし、
それで小早川さんに様子を見てもらおうと思ったんだけど……』
「そうなんだ……うん、確かにお姉ちゃんにしては変だね」
『なんかマズイことがあったんじゃないかとも思うんだけど……』
「私達じゃ年下だから、迷惑かけたくないと思ってるのかもしれないね」
ひよりの言外の言葉を、ゆたかは苦笑しながら代弁した。
「でも大丈夫だよ、こなたお姉ちゃんには頼もしい友達がいっぱいいるじゃない」
にこっと笑顔になって、ゆたかは言う。
しっかり者のかがみ、優しくて温和なつかさ、優等生のみゆき。これ以上ないメンバー
かもしれない。ただし3人とこなたが、今もゆたか達が知っている関係であれば、だが。
『そうだね、私達が出る幕じゃないかな』
ひよりも電話口の向こうで、肩の荷が下りたように言った。
「うん。でも、一応気にはしとくね」
『そうしといてあげて』
「あはは、私がお姉ちゃんの心配をするのって、いつもと逆かも」
『そうかもね』
電話越しに苦笑しあう。
それから、2・3、ついでのような談笑をしてから、電話を切った。
通話を切ってから、ゆたかはその時計表示を見る。
「確かに遅いな……今日はバイトの日だったっけ?」
ゆたかは小首をかしげる仕種をしながら、1人で呟いた。
コンコン。
ゆたかの部屋のドアがノックされた。
「はーい」
「ゆーちゃん、こなたの奴遅くなるっていうから、なんか出前でも取ろうと思うんだけど、
何がいい?」
ゆたかが返事をすると、そうじろうの声が、そう訊ねてきた。
「え……」
ゆたかは、あまりのタイミングに一瞬言葉を失う。
「ゆーちゃん?」
ゆたかが黙っていたせいか、そうじろうが心配げに声をかけてくる。
「あ、え、えっと、ピザが良いかな、い、今下行きます」
「ん、解った」
ゆたかが慌てて返事をすると、そうじろうの声が返ってきて、それからそうじろうが階
下に降りていく足音が聞こえた。
「偶然、だよね……」
ゆたかは、先程までひよりとやりとりしていた携帯電話を見て、呟いた。
こなたが帰宅したのは、それから2時間ほども経ってからだった。
バタン、と、隣の部屋の扉が閉まる音で、ゆたかは初めてこなたの帰宅に気がついた。
威勢のいいただいまの挨拶も、勢い良く階段を上がってくる音も、しなかったのだ。
ゆたかはベッドに寝そべっていたが、あわてて起き上がると、自室を出てこなたの部屋
の前に行き、ドアをノックする。
「はーい……」
中から聞こえてくる声も、いつもの覇気がない。
「私、入るね」
ゆたかはこなたの返事を待たず、ドアを開けて1歩踏み入った。
「あ、ゆーちゃん……」
────誰?
自分の名前を呼ぶ人物の姿を見て、ゆたかは一瞬、そう思ってしまった。
姿はこなただと認識できる。だが、朝とはまるで別人のような病人のような表情と、か
すれるような声は、一瞬同一人物と認識するのを、頭が拒否しかけたのだ。
これまでも貫徹などでやつれていることはあったが、それとも異質。
何かが抜けたような有様。
「あ、あのお姉ちゃん? 学校で何かあったの?」
おずおずと、ゆたかは訊ねる。
「!」
一瞬、こなたの表情があからさまに変わった。
「な、なんでも……ないよ、大丈夫、ゆーちゃんが心配するようなことじゃ、ないから」
なんでもないとこなたは言うが、その態度が、口調が、あからさまに何かありましたと
表している。
「そ、それなら良いけど……こ、困った事があったら、誰かに相談したほうが良いよ?」
「う、うん」
「私じゃ頼りにならないかもしれないけど、かがみ先輩とか、高良先輩とか……」
ビクッ
ゆたかがその名前を口に出すと、こなたの身体が緊張した。
「えっと……お姉ちゃん? もしかして先輩達と何かあったの……?」
ゆたかは様子を察して、こなたに問いかける。
「え、あ、だ、大丈夫。ゆーちゃんが心配するようなことじゃないから」
こなたはぎこちなく笑顔を作って、ゆたかにそう答えた。
「それならいいけど……その……無理しないでね? 私が何か出来ることがあったら、いつ
でも言ってね?」
「うん、ありがとゆーちゃん」
こなたは力なく苦笑しながら言ってから、
「ごめんね、ちょっと、1人になりたいんだ」
と、申し訳なさそうに言った。
「う、うん、それじゃ、おやすみ、お姉ちゃん」
「おやすみ」
ゆたかはあまりに弱ったこなたの姿に、それ以上追求することが出来ず、こなたの部屋
を後にした。
しかしゆたかも、この時点でこなたを襲う事態は、まったく予測できなかった。
こなたとかがみ、つかさ、みゆきは親友同士だと信じていたから。
だが、とにかくこなたを傍から観察する存在はできたことは確かだった。
*
昼休みが終わる前に、かがみ達はゆたかの教室を訪れたが、そこにゆたかはいなかった。
こなたが自殺未遂を図った翌日から、ずっと休み続けていると言う。
3人にそう答えたみなみの目は、どこか睨んでいるように見えた。
>>357-362 今回は以上です。
はて、背景コンビを前面に出すつもりで書き始めたのに、今回は完全にゆたかの話になってしまった。何故だ
ひゃあ、乙です。
緊迫感があって面白いですね。こういう風に続編やアナザーストーリーを作って頂けるとは、
作者冥利に尽きます。漫画化して頂いた時や絵を描いて頂いた時同様、
SS書いてて良かったなぁ、と至福を感じられる瞬間です。
有難うございます。
365 :
326:2009/05/04(月) 00:34:23 ID:C6IydMM9
それでは、
>>349の続きを投下します。
あと、言い忘れてましたが、私のお話(World's End)には、一部グロ要素が含まれています。
(それほどきつい描写ではないと思ってますが。)
まあ、このスレの住人なら、大丈夫だと思いますが、もし苦手という方は、注意して読んでください。
アクセサリーショップには、お客さんはほとんどいなかった。
まあ、たくさんの凶悪犯がうろついてる中、買い物に来るなんて、私達くらいだよね。
「お姉ちゃん、私もかがみ先輩とつかさ先輩に送るプレゼント探すよ。」
プレゼント探しには、ゆーちゃんも一緒になって探してくれた。
「お姉ちゃん、これなんかどう?」
ゆーちゃんが、そう言って、私のところに持ってきたのは、お揃いのネックレスだった。
「絵柄もかわいいし、模様が対になってて、先輩方にぴったりだと思うんだけど。」
ゆーちゃんの持ってきてくれたネックレスは、私も店に入った時にいいなって思ってたのだった。
でも…
「ゴメン、ゆーちゃん。それ、却下。」
「えー、どうして? デザインも可愛いし、双子のイメージにぴったりだと思うんだけどな。」
「うん、そうだね。ゆーちゃんの言う通りだよ。
でもね、私は、双子だからって、安易に対になったペンダントとか送りたくないんだよ。
かがみにはかがみの…つかさにはつかさの…似ているけど、2人には、全く違う個性があるから…
だから、2人に合うものをちゃんと選んで、プレゼントしたいって思ってるんだ。」
私が、ゆーちゃんにそう言うと、ゆーちゃんはゴメンねと謝って、別のものを探し始める。
私は、どうして、さっきから、こんなに必死になってるんだろう?
さっきの嫌な予感が、まだ頭の中に残っているからかな。
気にしすぎだよ。私らしくもない。
きっと、プレゼントを選んでいるうちに、そんなこと忘れちゃうよ。
2人のプレゼントを探そう。
可愛くて、2人の個性にピッタリで、そしてちょっとスパイシーなやつを…
それから、いろいろ探して、2人にピッタリなプレゼントを買って店を出た。
店に入ってから、出るまでに2時間以上もかかって、さすがにお父さん、少し怒ってたけどね。
家に着くと、私はとりあえず、今日のプレゼントをカバンの中に閉まった。
買ったのに、学校に持っていくのを忘れたなんてことがないように。
そして、下に降りると、明日の弁当の準備をするために台所へと向かう。
1階のリビングでテレビを見ていたゆーちゃんが、私に声をかけてくる。
ゆーちゃんの表情が、心なしか、少し青ざめているような気がした。
「お、お姉ちゃん、もう夕飯の準備?」
「違うよ。明日、かがみとつかさの弁当作って持ってくから、そのための準備を、今からしておこうと思って――――」
その時、ちらっと視界に入ってきたテレビを見て、私は固まってしまった。
テレビには、報道特別番組が流れており、その映像に、私もゆーちゃんも釘づけになっていた。
『このような小規模な暴動は、現在、世界中で発生していますが、原因は全くの不明です。』
『日本でも各地で無差別に人に襲いかかる暴動が発生しており、政府は組織的な犯行の可能性があると声明を出しました。』
『アメリカ政府は、これがテロの可能性であることを否定しました。
しかし、なおも続く暴動のために、アメリカ政府は、軍隊の出動を命じました。』
『ロシア政府は、いくつかの村が壊滅したとの報告を受け、原因追究のため、現地に調査員を派遣しました。』
『イスラエル政府は、これはアラブ諸国による無差別テロによる犯行と非難声明を発表しました。
しかし、中東諸国のあちこちでも、同様の暴動が発生しており、中東情勢は非常に緊迫した状態となっています。』
なるほど、ひより→ゆたか繋がりかぁ〜
言われて見れば一番自然な繋がりだけど今回の読むまで全然気づかなかった俺バカスw
追い詰められてるのはかがみ達側である意味爽快に感じてもいいはずなんだけど
読んでて自分も追い詰められていくじんわりした畏怖を感じる不思議。
続き楽しみにしてます
368 :
367:2009/05/04(月) 00:38:25 ID:edBUuqSN
更新押してなくて割り込みすいません;;
「…………」
「…………」
「何…これ…?」
テレビに映し出されたのは、世界中の暴動で負傷した人達や、破壊された街並だった。
「お、お姉ちゃん、怖いよ。」
ゆーちゃんが真っ青な顔で、私にしがみついてくる。
「だ、大丈夫だよ。で、でも、戸締りをしっかりしとこうかな。」
私がそう言うと、ゆーちゃんも大きく頷く。
「どうした、こなた? 一体何を――――」
そう言いかけたお父さんも、テレビの映像を見て固まってる。
てゆうか、お父さん、ずっと家にいたはずなのに、今まで知らなかったのかよ。
「こんちわー!!!」
玄関の方から、元気のいい声が聞こえてくる。
ゆい姉さんだ。
「おーい、戸締りをしてないなんて、不用心にもほどがあるぞ。」
そう言うゆい姉さんの表情が、いつもと違って少しだけ険しい。
明るく振舞ってるつもりだけど、何か影があるっていうか、そんな感じ。
「ゴメン。今、戸締りしようと思ってたところだよ。」
とりあえず、まず家の戸締りをすることにした。
玄関のカギをかけ、家中の戸締りをしてまわった。
「何か、飲み物入れますね。」
ゆーちゃんはそう言うと、冷蔵庫に閉まってあったジュースをコップに入れていく。
さっそくお父さんは、ゆい姉さんにニュースのことを聞いていた。
「それで、一体どうなってるんだい? 何か情報は聞いてないのかい?」
お父さんが尋ねると、ゆい姉さんは困った表情を浮かべる。
「そ、それがね…私達には、あんまり情報が来ないんだよ。
でも、今日、この辺一帯だけで、100件以上の傷害事件が発生しててね。
何でもないはずがないんだけど、私達は、ほとんど教えてもらえないのよ。あったま来るでしょ。」
ゆい姉さんはそう言うと、ゆーちゃんから受け取ったジュースを飲み干す。
「そうか…ゆいちゃんに聞けば、何かわかるかと思ったんだけどな。」
お父さんは、そう言うと、ため息をつく。
ただ、何も知らないなんて言う割には、ゆい姉さんの様子が、いつもと少し違うんだよね。
何が違うかって聞かれると、どう言ったらいいかわかんないけど。
「ごめんね。何もわかんなくて。」
「いや、責めてるわけじゃないんだ。
ただ、こんなに大変なことが起きてるのに、ニュース見てても、情報が錯綜してて、状況がよくわからないんだ。」
とその時、ゆい姉さんが、ぽつりと呟く。
「やっぱり、あの話は本当なのかな?」
「えっ、何、あの話って?」
「いや、その、実はね…暴動がらみで、今日、この街だけで40人逮捕されてるんだよ。」
1日40人、無差別に暴動で逮捕ってのは、やっぱり多いんだろうなあ。
「それで、その逮捕された40人は、どう言う奴らなんだ?」
お父さんがいつになく真剣な表情で、ゆい姉さんに尋ねていた。
「それが、聞いた話だと、40人とも全然顔見知りじゃないらしいんだよ。
だから、まず組織的犯行ってやつじゃないと思うんだよね。
それに、全員、普段はとても大人しい人達ばっかりらしいんだよ。」
「えっ、じゃあ、テレビでやってる世界同時テロって?」
「だから、テロ活動とか言われてるけど、全然違うと思う。
ただ40件の傷害事件が、たまたま今日起こったって感じかな。」
ゆい姉さんはそう言って笑ったけど、むしろそっちの方が不気味だと思った。
だって、全く関係のない人達が、同じ日に突然豹変して、無差別に人に襲いかかるなんて、普通あると思う?
しかも、テレビ見る限りじゃ、世界中で起きてるみたいだし…
何だろ、何かとても嫌な予感がした。
「あーそれと――――」
ゆい姉さんは、何か思い出したかのように、話を続ける。
こう言う時に、ゆい姉さんの口が軽いのは、とてもありがたい。
「あとね、逮捕された40人なんだけどね、実は全員何らかの重い病気にかかってるんだって。」
「えっ、そういう人って、普通入院してない?」
「そう、全員どこかの病院に入院してたんだよ。これが。
でも、なぜか、病院を抜け出して、無差別に人に襲いかかったらしいんだよ。
それに、全員、病院を抜け出した時の記憶がないらしいんだよ。」
何これ、宇宙人かなんかの仕業?
もしかして、世界中で暴動を起こしてるのも、もしかして重い病気を患ってる人達?
でも、何で病人なんだろう?
「それで、犯人は全員捕まったのかい?」
お父さんがゆい姉さんに尋ねると、ゆい姉さんは首を横に振る。
「それが…まだ、何人か、行方不明なんだよねえ。
しかも、行方不明になってるのは、全員、もう余命1か月以内の人達ばかりなんだよ。
とりあえず、今日の事件で、警察は、全ての病院の監視をするみたいだけど、人手足りるのかな?」
ゆい姉さんは、あはははと力なく笑う。
「じゃあ、まだ突然キレそうな人達が、この辺にうろついてるの?」
私がそう尋ねると、ゆい姉さんは、うんと頷く。
そのゆい姉さんが頷いた瞬間、頭の中に、なぜか昼間のかがみのことがよぎる。
「だからね、今日、この家に泊まりに来たんだよ。
ほら、私、一応警官だし、一人でも多い方がこんな時はいいかなって思ってさ。
それに、きよたかさんが家にいないから、私も不安だし…」
「それは助かるなあ。俺だけで―――」
途中から、お父さん達の会話は、私の耳には入ってこなくなっていた。
何だろう?ものすごい胸騒ぎがする。こんなの初めてだ。
かがみが、車から降りようとした時に感じたあの嫌な感じ。
もう二度と、かがみに会えなくなるような、嫌な予感。
「かがみ!!」
私は立ち上がると、2階へと駆け上がる。
「おい、どうした、こなた!?」
私が突然立ち上がったから、お父さんびっくりしたみたいだけど、今はそれどころじゃない。
この世界中の異常な暴動と、さっきのゆい姉さんの話が、やけに頭の中でぐるぐる駆け巡る。
あの時、かがみに感じたもの…あれって、もしかして…
そう思ったら、もういてもたってもいられなかった。
私は部屋に置いてあった携帯電話を乱暴に手に取ると、かがみの携帯に電話を入れる。
1回…2回…3回…
おかしい、いつものかがみなら、そんなにコールしなくても、すぐに出てくれる。
それなのに、10回コールしても、電話に出ない。
まさか、かがみが…もしかして、つかさも…
私の頭の中が、真っ白になっていく。
とその時、
「オッス、こなた。こんな時間に一体何の用?」
元気なかがみの声が、携帯の向こうから聞こえてくる。
かがみが生きてて、ホッとしたと同時に、その反動からか、すぐに電話に出なかったかがみへの怒りが湧き上がる。
「出るのが遅いよ、かがみ。どんだけ心配したと思ってるの。」
気がついたら、私は大声で携帯に向かって、怒鳴っていた。
「ゴ、ゴメン、こなた。実は、家族皆でニュース見てて…」
かがみの謝る声を聞いて、私はいつもの冷静さを取り戻す。
かがみが無事なことを確認したくて電話したはずなのに、何やってんだろ?
「こなた、もしかして怒ってる?」
「あっ、こっちこそ、いきなり怒鳴ってゴメン。
そんなことより、ちゃんと戸締りしてる?武器とかちゃんと持ってる?」
「おいおい、武器とかって、少し大袈裟じゃないか?
もちろん、戸締りはちゃんとしてるわよ。玄関も鍵をかけて…」
「ダメだよ。奴らは、そんな程度じゃ防げないよ。」
「どうしたのよ、一体?何か、さっきから変だぞ?」
「いいから、包丁でもバットでも、何でも身近に用意しといて。
それで、奴らが襲いかかってきたら、それで身を守るんだよ。」
「何それ? もしかして、こなた、何か知ってるの?」
私は、かがみにゆい姉さんから聞いた話を全部話した。
私の話を聞いたかがみは、信じられないといった感じなんだろう。
受話器の向こうの、かがみの言葉数が、すっかり少なくなってしまった。
「かがみ!!!」
「だ、大丈夫よ、私の家は、家族多いから、何とかなるわよ。
でも、心配してくれて、ありがと。」
「ウン、じゃあ、そろそろ切るよ。もう、時間遅いし…」
「そうね、じゃあ、こなた。また、明日ね。」
「ウン、じゃあ、また明日。」
かがみの元気な声を聞いたら、さっきまで不吉なことを考えてた自分が馬鹿みたいに思えてきた。
かがみに2度と会えないなんて、何でそんなくだらないこと考えてたんだろう?
明日の今頃は、かがみとつかさの誕生パーティで、楽しい時間を過ごしてるに違いない。
安心したら、何だかお腹がすいてきた。
そういえば、まだ夕飯食べてないや。
それに、明日持ってく弁当の仕込みもしないと。
私が1階に降りると、何だかカレーの匂いがしてくる。
もしかして、ゆーちゃんが作ったのかな?
台所に行くと、ゆーちゃんとゆい姉さんがカレーを作っていた。
「ゴメン、ゆーちゃん。夕飯作るの、すっかり忘れてたよ。」
「いいよ、お姉ちゃん、大変そうだったし。それで、かがみ先輩は大丈夫だったの?」
「ウン、何か私の気のせいだったみたい。」
「そう、よかったね、お姉ちゃん。」
「ウン、じゃあ、私は、明日のお弁当の仕込みでもしようかな。」
それから、私とゆーちゃんとゆい姉さんの3人で、夕飯の準備や弁当に入れるおかずとか、色々作った。
考えたら、3人で台所に立つのって、初めてじゃないかな。
とても楽しい、夕食前のひと時だった。
夕飯を作り終わると、私は明日のお弁当に持っていくおかずの確認をして、2階の自分の部屋に戻った。
「むふふ、明日、かがみとつかさの驚く顔が楽しみだな。」
明日のことを思い、机に向かって、一人ほくそ笑む私って、何だかキモい。
でも、それくらいの自信作だった。
この日のために、あらかじめ準備していたし、予想通りのものが仕上がりそうだし、それくらい自信があった。
そんなことを考えてたら、何だか眠たくなってきた。
ふわぁ…明日は朝早いし、今日は少し早いけど、もう寝よう。
いつもは、寝るなんて考えられない時間だったけど、私はベッドにもぐりこむ。
明日の弁当のことや昼休みのことを考えながら、私はやがて眠りに落ちた。
そして、最期の夜が更けていく。
翌朝、私はいつもより2時間以上も早く目を覚ました。
これも、昨日早く寝たおかげかな。
私が1階に下りていくと、リビングには、まだ誰もいなかった。
私は、早速、弁当の準備に取りかかる。
かがみとつかさの驚く顔が、今から楽しみだよ。
私が3人分のお弁当を作り終えた頃に、ようやくお父さんとゆーちゃんが起きてくる。
「おはよう、お姉ちゃん、今日はずいぶん早いね。」
「そりゃ、弁当つくらないといけないしね。」
「おお、これは、なかなかの――――」
「ちょっと、お父さん。つまみ食いしないでよ。」
私は、慌てて弁当のふたを閉める。
お父さんにつまみ食いさせるために、作ったんじゃないよ。まったく。
私は、完成した弁当を持って2階へとあがる。
「じゃあ、私、新聞取ってきますね。」
「おっ、じゃあ、ゆーちゃん、頼む。」
下から、ゆーちゃんとお父さんの会話が聞こえてくる。
私は、できたばかりの弁当をカバンに入れる。
その時、昨日買ったネックレスとイヤリングが目に入る。
「今日は、かがみのツンデレを、存分に味わえそうだ。」
それにしても、ゆい姉さんは、まだ寝てるのかな?
私達より起きるのが遅いなんて、本当に社会人なのかねえ。
「きゃあああああああああああああ!!!!」
突然のゆーちゃんの悲鳴が、いつもの日常を一変させた。
「どうした、ゆーちゃん!!」
ドタドタドタ
どうやらお父さんが、慌てて玄関に向かって駆け寄っているらしい。
でも、しばらくして、
「な、何だ、アンタらは…う、うわああああああああああ!!!!」
お父さんの悲鳴が聞こえて、私は慌てて部屋を出ると、下に行こうとしたけど、ゆい姉さんに止められる。
「こ、こなた…し、下に来るな…に、逃げろ…がはあっ!!」
それっきり、お父さんの声は聞こえてこない。
一体、何があったの?
「お父さん!!」
でも、私の前をゆい姉さんが阻む。
「どいてよ、ゆい姉さん。お父さんが…ゆーちゃんが…」
とその時、階段の下に、見たこともない人が、血まみれで立っていた。
その目は、どう見ても尋常のものではない。というか、まるで生きている感じがしない。
「ま、まさか、本当にこんなことになるなんて…
しかも、こんなに早く広まるなんて……ゴメンね、ゆたか……
そこのあなた、おとなしくしなさい。」
ゆい姉さんはそう言うと、なんといきなり拳銃を構えた。
私は、驚かずにはいられなかった。
ゆい姉さんは、交通課の府警で、拳銃を使うところなんて、想像できなかった。
てゆうか、非番で拳銃持つのってダメなんじゃ。
下にいた男は、ひどい怪我をしていた。
首やあちこちを、えぐられていて、立っているのが信じられないくらいの重傷だった。
てゆうか、首をえぐられてる時点で、普通は死んでるよ。
それが、私達に気づくと、凄まじい勢いで階段を上ってくる。
まるで、獲物を見つけた豹のように、すさまじいスピードで駆け上がっていく。
このままじゃ、殺られる。そう思った次の瞬間――――
バーーン!!
乾いた発砲音と共に、拳銃から放たれた弾が、その男に命中すると、男は階段を転げ落ちていく。
銃を放ったのは、もちろんゆい姉さんだった。
「ハハハ…人を…撃っちゃったよ。」
ゆい姉さんも震えていた。
どうやら、人を撃ったのは、これが初めてらしい。
男は下に転がり落ちるが、すぐに起き上がると、再び、こっちに向かって突進してくる。
「こ、この!!!」
バンバンバン!!!
今度は、3発連続で頭、胸、肩に命中すると、男は再び転げ落ちる。
今度は、ピクリとも動かなかった。
だが、すぐに別の影が現れる。
ゆい姉さんは、それを見て、慌てて拳銃に弾を装填する。
「こなた、アンタの部屋に靴置いてあるから、それ履いて、2階から逃げて。」
「で、でも、お父さんとゆーちゃんが…」
その時、ゆい姉さんの表情が変わる。
下に現れたのが、ゆーちゃんだったからだ。
でも、ゆーちゃんは首や体中をえぐられていて、その瞳に輝きは全くなく…
さっきのアイツと全く同じ死んだ目つきで、私達の方を見上げていた。
「ゆたか…」
ゆい姉さんは、ショックのあまり、その場に座り込んでしまった。
「ゆーちゃん…嘘でしょ!?」
ほんの数分前までの、愛らしいゆーちゃんの姿は、もうどこにもなく…
下にいるゆーちゃんは、私達を見つけると、さっきの男と同様に、奇声を発しながら突進してきた。
「こなた…これを持って行って。」
ゆい姉さんが、拳銃と何かを入れた紙袋を私に手渡す。
「何、これ? 無理だよ。私、拳銃なんて撃ったことないよ。」
「安全装置のはずし方、この紙に書いておいたから、それを持って、早く逃げて…
あと、袋の中のものは、ピンチになった時だけ、使うんだよ。」
「いやだ、ゆい姉さんも…」
「早く逃げて、こなた!!!」
ゆい姉さんの大声に、私はビクッと体を震わせる。
その時、ゆい姉さんにゆーちゃんが飛びかかると、ゆい姉さんの首筋に思い切り噛みつく。
「ゴホッ!!」
ゆい姉さんの首からも、口からも、凄まじい出血が起こる。
「こ…な…た…に…げ…て…」
その言葉を最期に、ゆい姉さんはピクリとも動かなくなる。
私は、無我夢中でゆい姉さんのピストルを構えると、ゆーちゃんに向けて一発放った。
バーン!!!
見事なまでに、ゆーちゃんの肩に命中すると、ゆーちゃんは、その衝撃で吹っ飛ばされ、階段を転げ落ちる。
今のうちだ。
私は自分の部屋に駆け込むと、ゆい姉さんがいつの間にか部屋に置いた靴を履いて、鞄に拳銃をしまう。
きっと、ゆい姉さんは、こうなることがわかってたんだ。
ゆい姉さんの誤算は、それが予想以上に早く来てしまったことなんだろう。
私が窓を開けたちょうどその時、部屋の扉が凄まじい勢いで開くと、部屋の中にゆーちゃんと、ゆい姉さんが一緒に入ってくる。
そんな……ゆい姉さんまで……
私は慌てて窓から飛び出すと、屋根を伝って、地上へと降りる。
屋上に降りながら、外の凄惨な状況が目に入ってきた。
逃げ惑う人と、それを追いかける血まみれの化け物達。
それは、まるで地獄の光景だった。
壮絶だ・・
支援
バイオ☆ハザードか
地上に降りた私は、茫然と目の前の光景を見ていた。
でも、しばらくして、家の中から、奴らが出てきた。
家から出てきた奴らの中には、お父さんもいた。
お父さんは、右手がなく、お腹を裂かれて、内臓がほとんど残っていない姿で、私の方へと向かってきた。
早くここから逃げなきゃ!!
私が走って逃げだすと、お父さんも、周りにいた化け物達も、一斉に私を追いかけてくる。
捕まったら、間違いなく殺される。
私は、全速力で、逃げた。
走りには自信があったけど、こんな状況は全く考えたことがなかった。
それから私は、とにかく走った。
途中、十字路に出くわすけど、どの道行こうなんて、考える余裕もなかったし、考える必要もなかった。
だって、左右の道から、同じような人達が、私に向かって走ってきたから、前に突き進むしかなかった。
どんだけ走っただろう?
でも、まだアイツラは私を追いかけてくる。
そのアイツラの中に、お父さんやゆーちゃんやゆい姉さんが含まれていることが、今は何よりも悲しい。
さすがの私も、もう限界だった。
でも、その時、これ以上ないタイミングで、前方に警官隊の姿が見えてくる。
「た、助けてーーーっ!!!」
息も絶え絶えになりながら、私が必死に叫ぶと、向こうから大声が聞こえてきた。
「私達のいるところまで、頑張って走ってきてください。
大丈夫、あともう少しですよ、んっふっふっふ。」
なんか、嫌な感じの刑事だなって思った。
こっちは、生死がかかっているというのに、それを助けに来ようともせずに鼻で笑うなんて、本当に刑事なんだろうか?
でも、相手がどんな奴だろうが、とりあえず、生き延びたい。
私は、全力で走り抜けると、何とか、警官隊のいるところまで逃げ切った。
「大丈夫ですか、お嬢さん。我々がいる限り、もう大丈夫ですよ、んっふっふっふ。」
私を出迎えてくれた刑事は、そう言うと、またあの不快な笑みを浮かべる。
「そ、そんなことより…アイツラが大群で…」
「んっふっふっふっふ…わかってますよ。」
刑事はそう言うと、その場にいた警官隊全員が銃を構える。
「ちょ、ちょっと待って。アイツラの中にはお父さんやゆーちゃんやゆい姉さんが――――」
「おやぁ、お嬢さんの知り合いが、あの中にいるんですか?
でも、残念ながら、もう手遅れですよ、んっふっふっふっふ。」
次の瞬間、警官隊が一斉砲撃すると、あの化け物達の大群に、次々と命中していく。
「んっふっふっふっふ、どうです。わが警官隊の勇ましさは。
これさえあれば、ゾンビなんぞ、恐るるに足らずですよ、んっふっふっふ。」
男はそう言うと、再び不快な笑い声をあげる。
私は、その刑事が発した「ゾンビ」という言葉を、かみしめていた。
そうか、やっぱり、あれはゾンビだったんだ。
まさか、自分の住んでる世界が、バイオハザードと同じ世界になるなんて、予想もしなかったよ。
だが、
「だ、ダメです。ゾンビの数が多すぎて、もちません。うわああああああ…」
警官隊の一人がそう言うのと、ほぼ同時に、ゾンビの大群が、警官隊に襲いかかる。
ダメだ。警察でも、もう止められないんだ。
それを見て、私は再びそこから逃げ出す。
後ろを振り返ると、そこは既に、悲鳴とゾンビ達の血まみれの宴の場と化していた。
そして、私に気づいた何匹かのゾンビが、私を追いかけてくる。
再び、全力疾走で逃げる。
でも、もう、さすがに限界だった。
「も、もうダメかも……」
諦めかけたその時、踏切の音が聞こえてくる。
こんな時にも、まだ電車が走ってるのかなと少し驚いたけど、おかげでいいことを思いついた。
もしかしたら、これは奴らを振り切るチャンスかもしんない。
そう思った私は、一か八かの行動に出ることにした。
向こうから、電車がやってくるのが見える。
電車が来る前に、向こうに駆け抜けよう。
それが出来なければ、私はアイツラに捕まるしかない。
私は、最後の力を振り絞って、全力で駆け抜けると、踏切を一気に駆け抜けた。
そして、私が渡ったその直後に、電車が踏切に入ってくる。
本当に間一髪だった。
でも、そのおかげで、ゾンビの追跡を何とかまくことができた。
何体かのゾンビが、電車にひかれたからか、グシャっという嫌な音が聞こえてきたけど、私はそっちの方を見ないで、再び走り出した。
しばらく走って、見晴らしのいい所に出て、ようやく私は足を止める。
私は周りを見渡すと、奴らがいないことを確認する。
背後を見ても、アイツラは追いかけて来ていなかった。
やっと、アイツラをまくことができた。
ホッとしたと同時に、どっと疲れが出てくる。
とりあえず休もう。
私は、どこか隠れられそうな場所を探すことにした。
大石w
今日はここまでにしたいと思います。
続きはまた明日にでも。
パネェwwwwwww
ライブだ祭りだ支援だ
支援のタイミング損ねてカッコワルス
乙
乙でした。
これからどんな事件が起こるのかとヒヤヒヤしていたが
これは予想外だったw
385 :
326:2009/05/04(月) 21:11:20 ID:C6IydMM9
その時、遠くから学校のチャイムが聞こえてくる。
このチャイムは…もしかして…
よく周りを見渡すと、学校のすぐ近くまで来ていたらしい。
しかも、よく見たら、私、学校のカバン持ってるし。
全力で逃げてたから、わかんなかったけど、こんな時まで学校に来るなんて、私も結構真面目だね。
そう思ったら、何かおかしくなって、大声で笑った。
でも、すぐに、笑い声は、泣き声に変わってしまった。
「お父さん…ゆーちゃん…ゆい姉さん…」
一瞬の出来事だった。
私は、何もできなかった。
どうしていいかもわからず、ただ逃げることしかできなかった。
でも、本当に何もできなかったのだろうか?
そんなことを考えてた時だった。
近くの草むらから、人の気配を感じた。
誰? もしかして、ゾンビ?
でも、それだったら、私を見つけたら、すぐに襲いかかってくるはず。
てことは、もしかして人間?
「おびえなくていいよ。私、人間だから、姿見せてよ。」
私は、その気配のする方に声をかけた。
人見知りする私だったけど、今はもう人間だったら誰でも会いたい気分だった。
すると、草むらから、意外な声が返ってきた。
「えっ、もしかして、こなちゃん?」
その声を聞いて、私は声のする方へと走っていく。
「もしかして、つかさなの?」
すると、草むらから、つかさが姿を現す。
「つかさ。」
「こなちゃん…こ、怖かったよ〜うわああああん!!!」
つかさは、私に抱きついてくると、子どものように号泣しだす。
「えっ、本当にチビッ子なのか?」
その時、草むらから、もう一人、日下部みさおが姿を現す。
「えっ、みさきちもいたの?」
「いて悪かったな。」
みさきちはそう言うと、ムスッとした表情を浮かべる。
いや、別にそういう意味で言ったわけじゃないんだけどな。
つかさとみさきちに会えたおかげで、逆に少し元気が出てきたくらいなのに。
でも、一つ気になることがあった。
それは、つかさが学校の制服を着ているということ。
だとすれば、かがみと一緒に登校途中に襲われたってこと?
そう言えば、かがみは…かがみはどこにいるの?
私は、泣き続けているつかさに尋ねた。
「つかさ、かがみはどうしたの?」
私がかがみの名前を出すと、つかさは再び号泣しだす。
「つかさ、泣いてちゃわかんないよ。かがみは無事なの?ねえ、つかさ!?」
「逃げる途中で…柊ちゃんとはぐれちゃったらしいの…」
草むらの中から、弱々しい声が聞こえてくる。
草むらから姿を現したのは、峰岸さんだった。
でも、肩を負傷していて、制服は血に染まっていた。
「あやの、寝てないとダメだよ。」
みさきちが慌てて、峰岸さんに声をかける。
誰が見ても、峰岸さんの調子が悪いことは、一目でわかる。
「私なら、もう大丈夫よ。それより、泉ちゃん、さっきの話なんだけどね。」
峰岸さんは、つかさの代わりに、私にかがみのことを話してくれた。
かがみとつかさが、家を出てすぐのところで、ゾンビの大群に襲われたこと。
かがみが囮になって、ゾンビの大半を引きつけたため、つかさが無事であること。
そのため、つかさは、かがみとはぐれてしまったこと。
みさきちと峰岸さんは、逃げる途中で、つかさと、たまたま出会ったこと。
かがみと連絡しようと携帯やメールを送っても、音信不通なこと。
私は今、どんな表情をしているのだろう?
きっと、今にも泣きそうな顔をしてるに違いない。
かがみが…ゾンビに追われて…行方不明…そんな…そんな…
「泉ちゃんの辛い気持ちはわかるけど、今は妹ちゃんを守ってあげて。
多分、柊ちゃんも同じこと言うと思う。」
峰岸さんは、そう言うと、その場に倒れそうになる。
それを見たみさきちが、慌てて峰岸さんの体を支える。
「あやの、大丈夫か?」
みさきちの目には、涙が浮かんでいた。
そう言えば、この2人は、中学の時からの親友だって言ってたっけ。
「峰岸さん、その怪我、どうしたの?」
私が尋ねると、峰岸さんの代わりに、みさきちが答えてくれた。
「あやの、うちの兄貴に噛まれたんだよ。
実は、兄貴、昨日、変な奴に襲われて、怪我して、病院に入院してたんだよ。
それで、朝お見舞いに寄ったら、兄貴はもう人じゃなくなってて…」
みさきちの目から涙がこぼれる。
「どうして、すぐに医者に見せなかったの?病院にいたんでしょ?」
「病院は、それどころじゃなかったよ。
あちこちで、兄貴みたいなのがたくさん現れて、私の両親も…みんなアイツラが食っちまった。」
「そう……ゴメン……」
「こなちゃんは、どうしてここに?」
少し落ち着いたつかさが、私に声をかけてきた。
「私の家に、ゾンビが入ってきてね。
私は逃げられたけど、お父さんも、ゆーちゃんも、ゆい姉さんも…」
「そ、そんな…ゆたかちゃんまで…」
つかさの目から再び涙がこぼれる。
精神的にも肉体的にも、もうボロボロだった。
でも、ここでいつまでもゆっくりしているわけにもいかなかった。
あのゾンビ達が、ここに来ない保証なんてないんだから。
それに、峰岸さんの傷の手当てもしないといけないし。
「とりあえず、峰岸さんを病院に連れてかないと…」
私がそう言うと、みさきちが首を横に振った。
「ついさっき、別の病院から、命からがら逃げてきたとこだぜ。
きっと、どこの病院も、あのゾンビ達で一杯だってヴぁ。」
「こなちゃん、私も病院には行かない方がいいと思うよ。」
つかさも、病院に行くのを怖がっていた。
よっぽど怖い目にあったんだろう。
でも、なぜ病院にそんなにゾンビが?
「何でも、死体安置所から、大量にゾンビが出てきたらしくてさ。」
「あーなるほど。」
でも、それなら診療所とかでいいじゃん。
それなら、死体安置所なんてないだろうからさ。」
私がそう言うと、みさきちは首を横に振る。
「それがさ…どこの診療所もなぜか、ゾンビに襲われててさ。
朝から、けが人が大勢待合室に待ってたみたいだけど…皆、奴らに…」
とその時、私とつかさの携帯が、突然振動しだした。
最近、つかさもマナーモードの設定を覚えたって言ってたっけ。
どうやらメールが届いたみたいだった。
でも、こんな時に、誰から?
そう思って、携帯のディスプレイに目をやった瞬間、私もつかさも驚く。
「つかさ、かがみからの…メールだ…」
「私の所にも、お姉ちゃんのメールが…」
「あっ、私のことにも来た。」
「私にも…」
どうやら、全員にかがみからのメールが来たらしい。
慌てて、メールを開くと、メールには、かがみの悲痛な思いが記されていた。
『どうして、誰も電話に出てくれないのよ。メール送っても返事くれないのよ。
まさか、みんな、死んじゃったなんてこと、ないよね?
私は、学校の屋上に、何とか逃げ込んだけど、アイツらが、私のことを狙ってて、ここから動けない。
お願い、誰でもいいから、私を助けに来てよ。
無茶なこと言ってるのはわかってる。
でも、このまま、一人ぼっちで死ぬなんて嫌だ。
寂しいよ。怖いよ。皆に会いたいよ。』
本当は、メールの悲痛な叫びの方を、気にするべきだったかもしれないけど、
私もつかさも、かがみがまだ無事だとわかったことの方が嬉しかった。
「つかさ、かがみは屋上に逃げたんだよ。まだ、かがみは無事なんだ。」
「うん、お姉ちゃんが無事でよかった…」
そう言って、私とつかさは、手を取り合って喜ぶ。
屋上の扉は頑丈だから、ゾンビ達だってそう簡単に入ってこれないはず。
だが、喜んでいる私達に、みさきちが声をかけてくる。
「喜んでる場合じゃねえぜ。柊、かなり追いつめられてるみたいだぜ。」
「確かに、そうだね。」
メールの文章は、いつものかがみからは想像もできない、悲痛な叫びだった。
しかも、電話もメールも何度も送ってたみたい。
でも、私達には、電話もかかってきてないし、メールだって、これが初めてだった。
「きっと、混線してるのよ。
仕方がないわよ。
だって、多分、日本中の人が、メールや電話で、知り合いの安否を確認しようとして――――」
と突然、峰岸さんが苦しみだす。
「ちょ、ちょっと、峰岸さん、大丈夫?」
峰岸さんは、真っ青な表情で苦しんでた。
傷口を見ると、何とも言えない不気味な色に変色し始めていた。
「このままじゃ、あやのがヤバいよ。何とかしないと…」
みさきちはパニックになっていた。
つかさも、涙目でオロオロするばかりだった。
こう言う時にこそ、誰かが冷静にならないといけない。
私は冷静に考え始める。
病院は全滅。だったら…
「薬局に行こう。」
薬局だったら、どこか無事なところがあるかも…
それに薬扱ってる人だったら、手当てぐらいはできるだろうし。」
「でも、最近の薬局は、ほとんど病院のそばにあるもんだぜ。」
「じゃあ、ドラッグストアでも何でもいいよ。
とにかく、応急手当でも何でもいいからしないと、このままじゃ峰岸さんが危ないよ。」
私がそう言うと、みさきちは驚いた顔で私の方を見ていた。
「チビッ子って、強いんだな。私なんか、あやののことでパニックになっちまってた。」
「それに、ドラッグストアだったら、他にも色んなものが手に入るよ。」
つかさも少し元気が出てきたみたい。
「そうだね。じゃあ、行こう。」
私達は、茂みの中をゆっくりと歩きながら、ここから一番近くにあるドラッグストアへと向かう。
ドラッグストアに向かう道中、私とつかさは、かがみにメールを書いていた。
あれから、かがみに何回も電話をかけてみたけど、全く通じなかったから、仕方なくメールを書くことにした。
もっとも、このメールだって、かがみの元に届く保障なんてないんだけど…
『かがみ、大丈夫?こなただよ。
つかさとみさきちと峰岸さんと一緒にいる。
今から学校に向かうから、それまでゾンビに見つからないように、そこでじっと隠れていてね。
絶対だよ。』
私は、メールがかがみに届くことを祈りながら、メールを送信した。
私の隣で、つかさも同じように、祈りながらメールを送信していた。
ドラッグストアは、開いているにも関わらず、中には誰もいなかった。
けど、店内は、散々荒らされており、あちこちに血がついているところを見る限り、この店も襲われたのは間違いなかった。
私達は、慎重に店内へと入っていく。
それで、店内に誰もいないことを確認すると、全員ホッとした表情を浮かべる。
「とりあえず、消毒薬と包帯あたりが必要かな。
でも、持っていけるものは、とりあえず全部―――」
「チビッ子、隠れろ!!!」
突然のみさきちの声に、私もつかさも峰岸さんもとっさに身をかがめる。
「どうしたの、みさきち?」
私が小声でみさきちに尋ねると、みさきちは無言で外の方を指さす。
こっそりと外の方を見ると、そこには数匹のゾンビが、いつの間にかうろついていた。
もし、みさきちが気づいていなかったら、大変なことになっていた。
だって、このドラッグストア、外から中が丸見えだからね。
「みさきち、Good Job!!」
「でも、アイツラが、こっちに来る可能性だってあるぜ。」
その時だった。
外にいたゾンビ達が、一斉に走り出す。
そして、しばらくすると、外から無数の悲鳴が聞こえてくる。
誰かが襲われてるんだ。
「どうしよう、こなちゃん?」
つかさがどうしようかって私に聞いてくるけど、私達にはどうしようもなかった。
「アイツラがこない今のうちに、できるだけ多くのものを袋につめて、ここから逃げよう。」
「こなちゃん、あの人達、助けてあげないの!?」
「私達が出て行って、何ができるんだよ。
あいつ等の餌が、4人分増えるだけじゃんかよ。
チビッ子の判断は正しいぜ。」
みさきちがそう言うと、つかさは何も言えずに黙りこくってしまった。
「行こう、つかさ。」
私が手を差し出すと、つかさは渋々と私の手を握ってくれた。
それから、私達は、懸命に袋に品物を詰めていった。
薬や包帯や食べ物やその他役立ちそうなものを、片っ端から袋に詰め込んでいった。
「おい、チビッ子。」
みさきちの声に、またしても全員が身をかがめる。
「また、アイツラが?」
「違うって。いいもん、見つけたんだってヴぁ。」
みさきちがそう言うと、私達を従業員室へと連れていく。
従業員室にはテレビとラジオとなぜかトランシーバがあった。
「何でトランシーバなんてあるんだろう?」
「テレビは、どのチャンネルも映らねえぜ。」
「それって、まさか、テレビの放送局も全滅ってこと?」
つかさがさらりとショッキングなことを言ってくれる。
でも、もし、放送局が全滅なんて、そんなとんでもないことになってたら、どうしよう?
その時、みさきちが小さな声で話しかけてくる。
「でも、ラジオは、まだいくつか放送されてるみたいだぜ。」
みさきちはそう言うと、ラジオのチューナーを回す。
突然、店の方から、窓ガラスが割れる音がした。
アイツラが、店内に入ってきたんだ。
「怖いよ、こなちゃん。」
つかさが、私にしがみついてくる。
私は、とっさに従業員室の部屋の鍵をかけた。
もっとも、この程度の扉だったら、アイツラだったら、力づくで破ってしまいそうだけど…
「みさきち、ラジオは後。とりあえず、峰岸さんの様子を見てあげて。」
さっきから、峰岸さんの顔色が悪い。
さっき、応急手当はしたつもりだったけど、やっぱり私達じゃダメみたいだ。
どこか落ち着けるところで、安静にしないと、本当にマズイかもしれない。
「みんな、窓から、外に出るよ。」
私がそう言うと、つかさもみさきちも驚いた顔を浮かべる。
「正気かよ。外にはアイツラがうじゃうじゃいるぜ。」
「こなちゃん、私怖いよ。」
その時、従業員室の扉を乱暴にたたく音が聞こえてくる。
「ひっ!!」
その音を聞いて、つかさは思わず悲鳴をあげてしまう。
すると、中に人間がいることがわかったからか、扉を叩く音がさらに強くなる。
「ここが破られるのは、時間の問題だよ。
大丈夫、つかさは、私が絶対に守るから、私のこと信じて。」
私はそう言うと、拳銃を取り出すと、ゆい姉さんのメモ通りに、安全装置をはずす。
「チビッ子、それってまさか、拳銃か!?」
みさきちが驚いた表情でそう言うと、つかさも目を丸くする。
「話は後。今は、早く、ここから逃げるよ。」
私がそう言うと、つかさもみさきちも峰岸さんも黙って頷く。
私は、窓をゆっくり開けると、外の様子をうかがう。
幸い、外は、ゾンビの姿は見当たらなかった。
外の安全を確認すると、まず、みさきち、峰岸さん、つかさ、私の順に外に出ることにした。
だが、つかさが出ようとした時、扉が破られると、部屋の中に1体のゾンビが入ってくる。
ゾンビは、悲鳴を上げているつかさの方に突進していく。
「いやああああ、怖いよ、助けてこなちゃん!!!」
「つかさにさわんな。」
私が大声でそう言うと、ゾンビの動きが一瞬だけ止まった。
今だ。
バーン!!!
素人にしては、見事なまでに、ゾンビの頭を吹き飛ばすと、ゾンビはそのまま倒れて動かなくなった。
でも、店の方にいたゾンビが、今の音を聞きつけて、こっちにやってくるに違いない。
「つかさ、今のうちに逃げるよ。」
「ウ、ウン。」
でも、さっきから、つかさの動きが鈍い。
窓から外に出たけど、うまく走れないって感じだ。
「大丈夫、つかさ?」
「ゴメンね、こなちゃん。さっきので、腰がぬけちゃって…うまく走れないよぉ。
こなちゃん達だけで、先に逃げて。」
「そんなこと、できるわけないじゃん。」
私はそう言うと、つかさの前にしゃがみこむ。
「ほら、つかさ、私がおぶさってあげるから。」
「ありがとう、ゴメンね、こなちゃん。」
私は、つかさをおぶさると、みさきちと峰岸さんのいる所へと向かう。
「早く、こっから逃げよう。」
「でも、どこに?」
「学校の体育館だよ。あそこなら、扉も分厚いし、頑丈だから安全だよ。」
「でも、学校にも、ゾンビがたくさんいたら、どうするんだよ?」
「でも、このままだと、峰岸さん、本当にヤバいよ。」
私がそう言うと、みさきちは峰岸さんの方を見る。
「ゴメン、そうだよな、あやのの手当を早くしないといけないよな。」
私達は、草むらの中に身をひそめながら、ゆっくりと学校の方へ歩き出した。
今日はここまでにしたいと思います。
あと、2回ぐらいで終わると思います。
かがみんのメールは孔明の罠だ!!
バイ☆ハザ
続きが楽しみだ。最後は拳銃自殺かな?
396 :
326:2009/05/05(火) 18:25:42 ID:Kt2CTUaR
幸いにも、私達は、ゾンビ達につけられることなく、学校の前までたどり着くことができた。
でも、予想していた以上に、学校には、大勢のゾンビ達がいた。
しかも、そのうちの半分以上が、うちの学校の制服を着ていた。
ゾンビ達は、獲物を探しているのか、あちこちうろついていた。
私は学校の屋上の方に視線を向ける。
もしかしたら、かがみの無事が確認できるかもしれない。
そう思って屋上を見たけど、下からでは、屋上の様子はよくわからなかった。
「お姉ちゃん…」
隣でつかさが、小さくそう呟く。
つかさも、屋上の方を見ていたみたいだ。
「大丈夫だよ。かがみはきっと無事だよ。
でも、かがみは寂しがりやのうさちゃんだから、早く迎えに行ってあげないとね、つかさ。」
私がそう言うと、つかさは目に涙を浮かべてウンと頷いた。
「あやの、おい、しっかりしろ、あやの。」
とその時、みさきちの声が聞こえてくる。
「みさきち、大声出さないでよ。」
「あやのが…あやのが…」
みさきちは、泣きながら峰岸さんの名前を呼んでいた。
「み、みさちゃん…泣かないで…」
「嫌だよ、あやの。死んじゃ、ヤダよお。」
峰岸さんの症状がひどくなっているのは、誰の目から見ても明らかだった。
恐らく、もう峰岸さんは…
そして、峰岸さんも、自分の命があまり長くないことに気づいているみたいだった。
「泉ちゃん…みさちゃんのこと…頼むね。」
「峰岸さん…ウン…わかったよ。」
私の目から、涙がこぼれた。
また、友達が、死んでしまう。
でも、私には、どうすることもできなかった。
「あやの、そんなこと言わないでくれ。」
みさきちは、峰岸さんにすがりついて、ずっと泣いていた。
「みさちゃん…私の分まで…生きて…ね。」
そこで、峰岸さんの意識は、途切れた。
「嫌だぁー!!!あやの、目を開けてくれよ。あやのー!!!」
みさきちは、必死に峰岸さんにすがりついて号泣していた。
でも、もう峰岸さんの目が開かれることはなく…
私達の声に気づいたのか、数匹のゾンビが、こっちに近づいてくるのが見えた。
「ヤバい、アイツラ、私達に気づいたみたい。つかさ、みさきち、逃げるよ。」
「うん。」
つかさは、涙をぬぐって、頷いてくれた。
でも、みさきちは、峰岸さんにすがりついたまま、ずっと泣いていた。
「みさきち…早く、逃げるよ。」
「嫌だ、あやのも一緒に連れていくんだ。
あやの、死んじゃやだよ。」
みさきちは、泣きながら、必死に峰岸さんの体を揺さぶっていた。
でも、そんなことしたって、峰岸さんはもう…
でも、その時、峰岸さんの上半身が、ゆっくりと起き上がったんだ。
「あやの。」
みさきちは、峰岸さんが起き上がったのを見て、生き返ったと思い、喜んでいた。
でも、私は、嫌な予感がした。
峰岸さんのあの目は、お父さんやゆーちゃんや、ゆい姉さんと同じ目をしていた。
「みさきち、離れて!!!」
私は、大声をあげると、みさきちを突き飛ばした。
そのすぐ後だった。
峰岸さんは、立ち上がると、奇声を発しながら、私達の方へ襲いかかってきた。
「そ、そんな……あやのが……あやのが……」
「みさきち、早く、にげるよ。」
私がそう言うと、みさきちは、素早く立ち上がる。
だが、峰岸さんの方が、動きが早かった。
このままだと、みさきちが危ない。
そう思った私は、とっさに、近くにあった棒で、峰岸さんの頭を思いっきり殴った。
私に殴り飛ばされて、峰岸さんは、大きく後ろへ倒れる。
みさきちが、慌てて峰岸さんから離れるのを見て、私は峰岸さん目がけて銃を一発放った。
峰岸さんの頭に命中すると、それっきり峰岸さんは動かなくなった。
やっぱり、そうだ。
アイツラの弱点は、頭だ。
「チビッ子、ゾンビどもがこっちに来るぜ。」
みさきちが、私に声をかけてくる。
どうやら、みさきちも、少しは落ち着いたみたいだ。
「裏門から、学校に入ろう。裏門からだと、体育館はすぐそこだし。」
「わあった。」
私達は、裏門に向かって走り出す。
その私達を見つけたゾンビ達も、私達を追いかけてくる。
だが、学校の方から、車の音が聞こえてくると、ゾンビ達は、車の音のする方へと走って行った。
あれは、昨日の特製リムジン!!!
「こなちゃん、あの車、こないだ見かけた車だよね?」
つかさも、車のことを覚えていたみたいだ。
もっとも、あの車が、誰の車かは知らないと思うけど…
「あの車には、多分、みゆきさんが乗ってるはず。」
「ええ、ゆきちゃんが?」
「でも、あんな車持ってるくらいだから、家にも核シェルターみたいな部屋持ってそうなのに、何で学校なんかに?」
「とにかく、行ってみようぜ。」
私達は、ゾンビ達に気づかれないように、しかし、できるだけ早く、裏門の方へと移動する。
幸いにも、裏門の方には、ゾンビの姿は見当たらなかった。
なぜなら、ゾンビの大半は、みゆきさんの車の方に走って行ってたから…
だから、私達は、あっさりと体育館にたどり着けることができた。
体育館は、建物そのものの入口と、体育館の中への入口の二つがあって、どちらも内から鍵をかけることができた。
おまけに、どちらの扉も分厚いので、ゾンビと言えども、そう簡単には突破できないはず。
だから、体育館を逃げ場所に選んだんだけどね。
体育館の中の窓が弱点と言えば弱点だけど、ここは内部から補強すれば何とかなるだろう。
「体育館、開いててくれるといいけどな。」
私は、体育館の扉に手をかけると、扉はゆっくりと開いた。
「よかった。体育館開いてたよ。」
つかさがホッとしたようにそう呟く。
でも、開いてたら開いてたで、これはまたやっかいだったりなんだよね。
だって、開いてるってことは、アイツラが中にいる可能性だってあるってことだから。
とその時、
「何だ、ありゃ…」
みさきちがすっとんきょうな声をあげる。
体育館の建物に入ったはいいけど、肝心の体育館の入口の前には、何やらいろんなものが積み上げられていた。
「これ…バリケードだよ。」
「ってことは…中に人がいるってことか?」
「そうだよ、みさきち。」
そうとなったら、することは一つだ。
「ねえ、私達、アイツらから逃げて来たんだ。お願いだから、中に入れてよ。」
私達は、アイツラに気づかれないように、小声で呼びかける。
「ん、その声は、もしかして…」
扉の向こうから、聞きなれた声が聞こえてきたその時…
キュルルルルルルル!!!
突然、凄まじい車のブレーキ音が聞こえてくる。
何があったんだろうと思って、外の方を見てみると、なんと車が止まっていた。
そして、車の中から、みゆきさんとみなみちゃんの2人が飛び出してきた。
「みゆきさん、みなみちゃん、外に出たら危ない――――」
そう言いかけて、私は事態を呑みこむ。
車の中から、みゆきさんのお母さんも飛び出してきた。
でも、みゆきさんのお母さんは、体中血まみれで、アイツらと同じ目をしていた。
そして、しばらくして、リムジンの運転手も、血まみれで車から降りてきた。
あれ、きっと、みゆきさんのお母さんが、殺したんだよね。多分…
必死に逃げるみゆきさん達の後を、ゾンビが追いかけてくる。
「どうしよう…このままだとゆきちゃんが…」
つかさは、泣きながらオロオロするが、どうしたらいいかわからない様子だった。
声をかけたら、アイツラも一緒に、こっちに来てしまう。
それでは、私達まで危険に巻き込まれてしまう。
「私、みゆきさんとみなみちゃんを助けにいくよ。」
「オイ、チビッ子、それはいくら何でも無茶だぜ。」
みさきちが、私の手を掴むと、私を引きとめようとする。
「わかってるよ。でも、みゆきさんもみなみちゃんも、私の大事な親友なんだよ。」
私はみさきちの手を振り払うと、建物の外に飛び出した。
勢いよく飛び出したものの、どうしたらいいか、私は必死に考えていた。
足の速い私がおとりになって、アイツラを攪乱しようか。
でも、それをするにしても、ゾンビの数があまりにも多すぎる。
2人は必死に逃げ惑っていたけど、このままだと時間の問題だ。
こうなったらやるしかない。
私がそう思って飛びだそうとしたその時だった。
「きゃっ!!」
地面の石か何かにつまづいて、みゆきさんが、地面に倒れる。
「みゆきさん!!!」
「みなみさん、私のことはいいですから、早く逃げて。」
「でも…」
「早く!!!」
みゆきさんが強くそう言うと、みなみちゃんは、ゴメンなさいと一言謝って、その場から駆け出した。
みゆきさんは、すばやく起き上がろうとしたけど、その前に奴らがみゆきさんに飛びかかると、みゆきさんの肩や手に思い切り噛みついた。
「あああああああっ、がはぁっ!!!」
みゆきさんの悲鳴が、あたりにこだまする。
それからは、もう悲惨だった。
みゆきさんが、苦痛のあまり地面に倒れると、その上に大勢のゾンビ達がのしかかって…
みゆきさんのお母さんが、みゆきさんの喉を食い破ると、みゆきさんは口から血を吐いて、コポコポと声にならない悲鳴を上げ続けた。
その後、ゾンビ達は、みゆきさんの服を強引に引き裂くと、その力で、みゆきさんのお腹までも強引に引き裂いた。
みゆきさんの目が大きく見開く。
そして、みゆきさんのお腹を引き裂くと、中から内臓を引き出して、その場で貪り食い始めた。
この頃には、みゆきさんは、もうピクリとも動かなくなっていた。
そして、みゆきさんの姿は、ゾンビの群れの中に消えていった。
「みなみちゃん、こっちだよ。」
私は、必死に逃げてきたみなみちゃんに声をかける。
みなみちゃんは、私がいることに驚いたみたいだけど、私が無事なことに気づいて、私の方に走ってきた。
「泉先輩……みゆきさんが……みゆきさんが……」
「助けられなくてゴメンね、みゆきさん。」
しばらくして、ゾンビの群れの中から、みゆきさんの首だけが転がってくる。
その表情は、いつもの優しいみゆきさんの顔ではなく、苦痛と恐怖で歪んでいた。
「みゆきさん……」
せめて首だけでもと思い、私はみゆきさんの首を手に入れようと思ったけど、結局それも叶わなかった。
なぜなら、みゆきさんの表情が、突然動いたから…
みゆきさんはもう、アイツラの仲間になってしまったんだ。
「行こう、みなみちゃん。みんな、体育館に逃げてるんだ。」
私は泣きそうになるのを、必死にこらえて、みなみちゃんの手を引っ張った。
「泉先輩……ゆたかも、そこにいるんですか。」
みなみちゃんが、私にゆーちゃんの無事を聞いてくると、私は静かに首を横に振った。
「ゆーちゃんも、私のお父さんも、ゆい姉さんも…みんな、アイツラにやられた。」
私がそう言うと、みなみちゃんは、その場に崩れ落ちる。
「みなみちゃんの気持ちはわかるけど、今はここから逃げよう。」
泣いているみなみちゃんを連れて、私は何とか体育館まで逃げてきた。
そして、周りにアイツラがいないことを確認して、私は建物の中に入った。
「帰ってきた―――」
そう言いかけて、つかさとみさきちがいないことに気がつく。
「つかさ!?みさきち!?」
私は慌てて周りを見渡す。
でも、2人の気配はどこにもなかった。
嘘…もしかして、つかさとみさきちまで…
あまりのショックに、泣きだしそうになったその時だった。
「お前ら、はようこっちに来い。」
バリケードの一部が開いてて、中から見覚えのある人が姿を現した。
「黒井先生。」
「アイツらに見つからんうちに、はよう入れ。」
黒井先生にせかされ、私達は、あわてて体育館の中へと入る。
私達が入ると、黒井先生はバリケードを積み上げて、体育館の扉に鍵をかけた。
「先生、つかさとみさきちは?」
「心配せんでも、あの2人ならそこに…」
先生が指さす方を見ると、そこにはつかさとみさきちがいた。
「こなちゃん!!」
私の姿を見つけたつかさが、私に抱きついてくる。
「わっ、つかさ。」
「こなちゃんが無事でよかった。」
つかさはそう言うと、私にしがみついて号泣しだす。
「つかさ、私なら大丈夫だよ。」
でも、つかさは私にしがみついたまま、ずっと泣いていた。
私をつかむ手が、小刻みに震えていた。
「実は、見ちまったんだよ。高良がその……」
みさきちが、言いづらそうに私にそう言う。
「こなちゃん、ゆきちゃんが……ゆきちゃんが……」
自分の目の前で、親友が体中引き裂かれて殺されることが、つかさにとって、どれだけショックだったかよくわかる。
しばらくして泣きやんだ後も、つかさの震えが止まることはなかった。
体育館には、私達以外にも、5人の生徒が逃げてきていた。
扉は全て、鍵をかけた上、バリケードが貼られていた。
体育館の窓も、全部板でふさがれていた。
あれ、きっと、跳び箱をばらして、板にしたんだろうね。
あれなら、そう簡単にアイツラでも入って来れないだろう。
「泉、ホンマに無事でよかった。」
黒井先生が、私に声をかけてくる。
その表情には、いつもの陽気さは全くなく、心なしか、少し疲れているようだった。
「先生も無事だったんですね。」
「まあな、でも間一髪やった。
部活で朝早くに来てた生徒らと一緒に、この体育館に逃げてきて、ここを塞いだんや。
他の生徒が逃げてこれるようにと思って、入口の鍵は閉めないようにしてたんやけど、
あれから逃げてきたのは、お前達だけやった。」
「先生、多分、もう……」
「わかっとる。今は、ここにいる皆の無事が最優先やからな。
さっき、玄関の鍵も閉めてきた。
それにしても、食べ物とか一切持たずに逃げてきたから、お腹がすいててな。」
黒井先生のお腹が鳴る。
時計を見ると、いつの間にか、1時になろうとしていた。
「そうだ、先生、私達、ドラッグストアから食べ物持ってきたんですけど、食べます?」
「おお、すまんな、泉。」
私達は、皆にドラッグストアで手に入れた食べ物を、皆に分けて回る。
皆は、よっぽどお腹がすいてたようで、無言で食べ物を食べ始めた。
「私は、今はいらない。」
みさきちは、さっきのみゆきさんの最期を見たショックで、食事が喉を通りそうにないと話した。
「それより、あの2人のことを、何とかした方がいいぜ。」
みさきちはそう言うと、つかさとみなみちゃんの方を指差した。
「ゆたか……」
みなみちゃんは、ゆーちゃんの名前を呼んでは、ずっと泣き続けていた。
こんなに号泣しているみなみちゃんを見るのは、初めてだった。
「みなみちゃん、何か食べないと、体がもたないよ。」
私が声をかけても、みなみちゃんは無言で首を横に振るだけだった。
でも、私は、どうしてもみなみちゃんに聞いておきたかったことが一つだけあった。
「みなみちゃん、どうして学校なんかに来たの?
みゆきさんの家とか、核シェルターみたいな部屋持ってそうじゃん。
そこに隠れていたら、みゆきさんだって、死ななくて済んだのに……」
言ってから、いつの間にか、みなみちゃんを責めるような口調になっていることに気付いた。
みなみちゃんが、悪いわけじゃないのに……
「ゴメン、みなみちゃん。」
私が謝ると、みなみちゃんは静かに首を横に振った。
「ウウン、いいんです。
実は、泉先輩の言うように、みゆきさん家のシェルターに、私や近所の人達、みんな隠れてたんです。
でも、怪我してた人達が突然暴れ出して、みゆきさんのお母さんが大怪我したから、車に乗って病院に行ったけど、どこの病院も近づくことさえできなくて……」
「そう…だったんだ。」
「あと、みゆきさんは、先輩方のことをとても心配してました。
だから、皆さんの家に車で行こうとしたんですけど、道が塞がってたりしてて、皆さんの家までたどり着けないうちに、みゆきさんのお母さんの具合が悪くなって…
病院がダメなら、どこか応急手当できる場所を探そうとしてた時に、近くの学校や公民館に避難してくださいってラジオから流れてきたんです。
もしかしたら、学校に行けば、応急手当をしてもらえるかもしれない。
それに、みんなにも会えるかもしれない。
だから、学校まで行こうってことになって……
でも、まさか、こんなことになるなんて……
私のお父さんもお母さんも、みゆきさんも死んだ。それに、ゆたかまで……」
みなみちゃんの目から、再び涙がこぼれ出す。
私は、みなみちゃんの話を聞いて、そんなデタラメな放送を流していたラジオ局に無性に腹が立った。
何が学校や公民館に避難だよ。
私達が来た時には、ここはもうゾンビだらけだったつーの。
これだから、テレビもラジオも信用できないんだ。
思わず、ドラッグストアから持ってきたラジオを、叩き壊したい衝動にかられた。
「おい、チビッ子、ラジオにあたっても、仕方がねえぜ。」
みさきちが止めてくれなかったら、今頃、ラジオを叩き壊していたに違いない。
みなみちゃんは、ゆーちゃんとみゆきさんの名前を呟いては、ずっと泣いていた。
私は、みなみちゃんに何もかける言葉が思いつかなかった。
今はそっとしておいてあげた方が、いいのかもしれない。
だから、みなみちゃんのそばに食べ物だけ置いて、ひとまず私はつかさの方へと向かった。
つかさの方も、かなり重症だったからね。
「つかさ…何か食べないと…」
「こなちゃん、こなちゃんはいなくなったりしないよね?」
つかさが泣きながら、私の手を掴む。
「あ、あったり前ジャン。こう見えても、私は逃げ足だけは早いんだよ。」
「そうだったね。こなちゃん、すごい走るの速かったもんね。」
つかさはそう言うと、ようやく少しだけ微笑んでくれた。
「あっ、そうだ!!」
その時、朝作った弁当のことを思い出した。
私は、鞄の中から、今朝作った弁当を取り出すと、つかさに差し出した。
「ハイ、これ、お弁当。約束してたもんね。」
「ありがとう、こなちゃん。」
つかさは、嬉しそうに弁当をうけとると、包みを開いていく。
でも、さんざん走りまわったせいか、弁当の中は、おかずが乱雑に入り混じってしまっていた。
「ゴメン……」
「仕方がないよ。でも、とっても嬉しいよ。ありがとう、こなちゃん。」
つかさはそう言うと、弁当を食べ始める。
みゆきさんの最期を見た後なので、箸の進みはかなり遅かったけど、でもつかさが食べて、おいしいって言ってくれたことが、とても嬉しかった。
「あと、これ、つかさへのプレゼント。」
私は、昨日買ったプレゼントを、つかさに渡す。
「ありがとう、こなちゃん。開けてみてもいい?」
「ウン、いいよ。」
つかさは嬉しそうに、プレゼントの包装をはがしていく。
箱の中には、イヤリングが入っていた。
穴を開けなくても、簡単につけられるタイプで、つかさのリボンに合うかなと思って買ったやつだ。
「ありがとう、こなちゃん。」
「つけてあげるね、つかさ。」
私は、つかさの耳に、イヤリングをつけてあげた。
私のイメージ通りだ。
このイヤリングは、つかさにとても似合ってる。
つかさは、イヤリングを外すと、手の平に置いて、ずっと見つめていた。
どうやら、気に入ってくれたみたいで、よかった。
その時、カバンの中にある、もう一つのプレゼントの包みが目に入る。
それは、かがみに買ったプレゼント。
そうだ、早くかがみを迎えにいかないと…
私はカバンを手に持って、体育館の出口の方へ向かおうとした時…
「こなちゃん、どこに行くの?」
つかさに呼び止められる。
そのつかさの声で、皆の視線が一斉に私の方へと向く。
「私は、今から、かがみのところに行くよ。」
「ダメだよ、こなちゃん。」
つかさが私の手をつかむ。
つかさの手は、とても震えていた。
「今、外に出たら、こなちゃんも絶対に襲われちゃうよ。」
「つかさは、かがみのこと、心配じゃないの?」
「もちろん、心配してるよ。
でも、こなちゃんのことも、すっごく心配なんだよ。」
つかさが目に涙をためて、私の方を見つめる。
「ありがとう、つかさ。
でも、私の足の速さは、つかさだって知ってるでしょ。
大丈夫だって。あんな奴らに捕まったりしないよ。」
「でも…」
「それに…かがみを迎えに行くって約束しちゃったから。
かがみ、きっと今頃、屋上で一人寂しく、私が来るのを待ってると思うんだよ。
だから、早く行ってあげないとね。
何てったって、かがみは、寂しがりやのウサちゃんだからね。」
私がジョーク混じりにそう言うと、少しだけつかさの表情が和らいだ。
「こなちゃん、私も行きたいけど、多分、こなちゃんの足手まといになっちゃうね。」
「つかさはここで待ってて。絶対にかがみを連れて、ここに戻ってくるから。」
「ウ…ウン、わかった。」
つかさは手で涙を拭いながら、頷いてくれた。
つかさのためにも、絶対にかがみを連れて戻ってくるんだ。
私は、拳を力強く握り締めると、体育館の出口の方へと向かった。
でも、
「泉、ちょっと待て。」
黒井先生に呼び止められた。
「えっ、何、先生?」
「いくらなんでも、今、お前を外に出すわけにはいかへん。
外は、化け物で一杯やぞ。」
黒井先生は、私が外に出るのを止めようとしていた。
まあ、普通はそう考えるよね。
「先生、でも、私は、かがみを迎えにいかないといけないんだよ。
かがみは私の親友だよ。ほっとけないよ。」
「柊姉がいるっちゅうても、今、屋上まで行こうなんて無茶や。
校舎の中にだって、アイツら、うじゃうじゃおるんやで。
死にに行くようなもんや。」
「ヤダ。絶対に助けに行く。」
私は黒井先生の手を思い切り振りはらうと、玄関の方へと向かう。
「わーった。そこまで言うんやったら、もうウチは止めへん。」
黒井先生は、ため息一つついた後、そう言ってくれた。
「ありがと、先生。」
「ただし、教師として、生徒一人だけ、危険な場所に行くことを見過ごすことはでけへん。
先生も一緒に行くで。」
「ダ、ダメだよ、先生まで危険な目に会う必要は…」
「なら、外に出るの、やめるか?」
「………それは嫌だ。」
「なら、ウチもついてくで。」
黒井先生の説得は無理そうだ。
「先生……わかりましたよ。」
「んじゃ、行く準備をせんとな。」
黒井先生はそう言うと、何やら自分のカバンから荷物をあさり始める。
「何やってるんですか、先生?」
「何って、泉、お前の方こそ、準備せんでええんか?」
先生が何を言いたいのかよくわからない。
準備って言ったって、私に今必要なものは、かがみに渡すお弁当とプレゼントだけだし……
後は、自分の身を守るための拳銃くらいだ。
「泉…お前、まさか、ホンマにそれだけで行くつもりやったんか?」
黒井先生が呆れた表情でそう呟く。
「えっ、そうですけど?」
「お前な…ええか、柊は屋上に逃げ込んでるんやろ。
てことは、屋上の入口に鍵掛けとるってことやろ。
せやったら、屋上の鍵、持ってく必要があるやろ。」
「そ、そう言われれば…」
黒井先生はそう言うと、カバンから鍵束を取り出す。
wktk支援
「先生、それは?」
「学校の主要な箇所の鍵の束や。
体育館に逃げようって思って、とっさに職員室から持ち出して来たんや。
ええっと、屋上の鍵は…これやな。」
そう言って、黒井先生は鍵を見つけ出すが、鍵を束ねている輪が恐ろしく頑丈で、とてもじゃないけど
すぐに外せそうにはなかった。
「さすが、マスターキーやな。そう簡単には外されへんな。」
黒井先生はしばらく格闘してたけど、どうやら鍵をはずすのを諦めたようだ。
「しゃあない。こうなったら、束ごと持ってくしかあらへんな。」
「先生…屋上の鍵だってわかるように、何かマークしときましょうよ。」
「おお、そうやな。ついでに、体育館の入口の鍵もな。」
それから黒井先生は、持っていたシールを鍵に貼り付けて、屋上のカギと体育館の玄関の鍵に、目印をつけた。
「おーい、チビッ子、大変だってヴぁ。」
突然、みさきちが、私の方に駆け寄ってくる。
「何、今、忙しいんだけど…」
「それどころじゃないってヴぁ…
さ、さっき、ラジオで聞いた話なんだけどさ…」
みさきち、さっきからずっとラジオを聞いてたんだ。
「大変なことって何?」
それからみさきちは、ラジオで話していた内容を、私達に話してくれた。
話の内容をまとめると、こんな感じ。
・死んだ人間および瀕死だった人達が、突然ゾンビとなり、人に襲いかかっていること。
・東京を中心とした都市圏はすべて壊滅状態で、日本は事実上無政府状態になっていること。
・日本だけでなく、世界中でこの現象が発生していること。
・ゾンビに噛まれると、毒が体にまわって死んでしまい、ゾンビとして再び蘇ること。
・ゾンビの弱点は、頭であること。(これは、知ってたけどね。)
・ゾンビは知性はそれほどないが、恐ろしく凶暴であること。
・そして、ゾンビは生前の習慣に従った行動を取ることが多いこと。
『地獄が死者であふれかえった時、この世に、死者が蘇ります。』
おまけに、ラジオからは、黙示録だの世界の終末だの、不気味な話ばかり流れてくる。
「どうしよう、チビッ子?」
「いや、どうしようって言われても……」
「そうだな。まずは、柊を助け出すことが最優先だな。」
「そう言うこと。」
私はそう言うと、カバンを持って、黒井先生のいる出口の方へと向かう。
「どうです。外の様子は?」
こっそりと外の様子を伺っていた黒井先生に声をかける。
「あかん。校舎の中まではわからんけど、運動場とかゾンビだらけやで。
校舎にたどり着くぐらいなら、何とかなるかもしれんけど、きっと校舎の中もいっぱいおるんやろうな。」
黒井先生はハァッとため息を一つつく。
「でも、早く行かないと、かがみが待ってる。」
私が力強くそう言うと、先生はため息をもう一度ついて、それから苦笑して私の方を見た。
そろそろ規制入るだろうから、支援
外壁の水道管とかのパイプよじのぼった方が早そうな気もするが・・・。
途中でパイプ折れたらその時点であぼんだけどなw
409 :
326:2009/05/05(火) 19:02:31 ID:sVUeSv9T
規制されてしまったので、今日はここまでにしたいと思います。
てゆうか、続き、投稿できるのだろうか?
連投規制ならすぐにとけんぜ
てーかこんだけレス入ってると、もう解除されてっかもな
はやく続きよみてぇw
413 :
326:2009/05/06(水) 13:31:55 ID:agLy6ZAj
それでは、
>>406の続きを投稿したいと思います。
今日で完結する予定ですが、話が長いので、時間を分けて投稿します。
「わかった。じゃあ、行くで。覚悟はいいか、泉?」
先生はそう言うと、持っている鍵の束から、体育館の鍵を取り出し、体育館の入口の鍵をあける。
私が大きく頷いて見せると、黒井先生は私のそばにいたつかさとみさきちの方を見る。
「ええか、お前ら。うちらが出たら、すぐに内から鍵掛けて、バリケード戻すんやで。」
「うん、でも、こなちゃん達が戻ってきた時、どうしたらいいの?」
「大丈夫だよ。これ、使うから。」
私はそう言って、心配するつかさに元気よくトランシーバーを取り出す。
「こなちゃん、これ…」
「そう、ドラッグストアでみさきちが見つけたやつ。
本当は携帯がいいんだけど、さっきからずっと圏外だしね。
ゾンビ達に気づかれるとマズイから、これでハレ晴レユカイのリズムでも送るね。」
「そんなの送ってきて、わかるのか?」
横で話を聞いていたみさきちが、話に割って入ってくる。
「こんだけゾンビがいると、声出すのも難しいかなって思ってさ。
あの曲、出だしのリズムが独特だから、わかりやすいかなって思って。
先生も知ってますよね、この曲?」
「もちろんや。ほな、念のため、何回か試そうか。」
それから私達は、トランシーバを使って、何度か試してみた。
最初はなかなかうまくいかなかったけど、トランシーバに直接リズムを叩けば、うまく伝わることがわかった。
「じゃあ、行ってくるね。」
今にも泣きそうな顔のつかさに、私は笑顔で手を振る。
つかさのためにも、絶対に生きて、かがみを連れて帰ってくるんだ。
私は強い心を胸に秘めて、黒井先生と一緒に、体育館の外へと出た。
体育館のそばには、あまりゾンビはいなかったけど、さっき、みゆきさんを食べた連中が、近くにはまだうろついていた。
私達は、木や建物の影に隠れながら、何とか校舎の入口までたどり着けた。
でも、校舎の中をそっとのぞくと、そこには無数にうろつくゾンビの人影があった。
「この群れの中を、どうやって屋上まで行こうかな?」
「アホウ、こんなん無理に決まっとるやろ。他の入口を探すしかあらへん。」
黒井先生はそう言うと、別の入口を探そうと校舎の裏側の方へ歩き出す。
「ちょっ、待ってよ先生。」
だが、その時だった。
校舎の曲がり角を曲がると、そこにはゾンビが群がり、何やら食べていた。
「あそこにおるんは、うちのクラスの生徒やないか。」
自分のクラスの生徒の見るも無残な変わり果てた姿に、黒井先生は拳を力強く握り締める。
「ウチがもっとしっかりしとったら…助けられたかもしれへんのに…」
とその時、それまで食べるのに夢中だったゾンビの一匹が、私達に気づいたのか、こちらを振り返ると、唸り声をあげる。
その一匹の唸り声で、他のゾンビ達も、私達の存在に気づいたらしい。
「先生、やばいよ。気づかれた。」
「走るで、泉!!!」
それから、私達は全力で走りだした。
その私達の後を、ゾンビ達が追ってくる。
捕まったら、体をバラバラに引き裂かれる、死の鬼ごっこだ。
私も先生も必死で逃げたけど、死人と違って、私達の体力には限界がある。
「泉!!!」
その時、先生の声が聞こえてくる。
「あそこの1階の教室の窓が開いとるやろ。あの窓の中に飛び込むんや。」
「でも、先生、あの教室はカーテンがあって、中の様子が…」
「このまま走ってても、どのみち捕まって殺されるだけや。
だったら、一か八か、賭けてみるんや。」
「ウン、わかった。」
その教室の窓は、カーテンがなびいていた。
恐らく外からの風によるものだろうけど、ひどく不気味に感じた。
でも、もうそこに賭けるしかなかった。
1階の教室の窓は、それほど高さはないけど、それでも飛びこむとなったら少し怖い。
多分、中の机とかにぶつかって、痛いんだろうなあ。
それでも、体中引き裂かれるよりかは、はるかにマシだけど。
目の前に、1階の教室の窓が近づいてくる。
「飛び込め、泉ーーーっ!!!!」
「わーーーーーーーっ!!!」
先生の大声と同時に、私は1階の教室に向かって、思い切り飛び込んだ。
幸い、高さがそれほどなかったから、何とか教室に飛び込めたけど、それでもその後は、予想した通りだった。
窓側に並んでいる机にぶつかり、体を強く打ちつける。
でも、不幸中の幸いだったのは、その教室は、いくつかの机をグループごとに、くっつけて並べており、私が飛び込んだのは、そのグループの一つだったことだ。
だから、机の角に打ちつけることもなければ、椅子の角に体を打ちつけることもなかった。
「イタタ…でも、私って、もしかしてかなりついてるのかな。」
教室の中には、ゾンビの姿はなく、とりあえず一安心だ。
ホッと胸を撫で下ろしたその時だった。
教室の中に、何かが飛び込んでくる。
よく見ると、それは鍵の束だった。
たしか、これって、黒井先生が持ってたんじゃ…
とその時、遠くから黒井先生の声が聞こえてきた。
「泉、お前ならできる。絶対に柊姉を助けだすんやで!!!」
その声で、私はハッとなり、窓の外を見ると、黒井先生の姿は、既に遠くになっていた。
黒井先生の後を、無数のゾンビが追いかけていく。
「先生、まさか、最初からこうなることがわかってて……」
この時、私は初めて自分のしたことに、強く後悔した。
黒井先生の命を危険に晒してまで、私のしようとしたことは、本当に正しかったんだろうか?
私は机に突っ伏したまま、しばらくの間泣き続けていた。
でも、しばらくすると、外から別のゾンビの足音が聞こえてくる。
ここもいつまでも安全とは言えない。
私は黒井先生の投げ込んだ鍵を手に取ると、ゆっくりと教室の扉を少し開け、廊下を覗き込んだ。
幸いにも廊下には、ゾンビの姿は全くなかった。
ここら一帯はどうやら空き教室だったらしく、元々人があまり来ないせいか、そのためゾンビも全くいなかった。
とはいえ、油断はできなかった。
この廊下を折れ曲がった先は、確か1年の教室だったはず。
ゆーちゃんの教室も、確かそこにあったはずだ。
(と言うことは、アイツらもきっといるはずだ。)
私は鍵をポケットにしまい、カバンから拳銃を取り出す。
ゆい姉さんの残してくれた拳銃を、しっかりと手に握りしめて、そっと廊下に出てみる。
廊下は、誰もいないせいか、ひっそりとしていた。
私は、廊下を歩きながら、屋上までの最短ルートを考えていた。
そして、最短ルートを通るためには、どこかの階で、教室前の廊下を通る必要があることに気づく。
どの階で渡っても同じなんだけど、1年生と2年生と3年生、どの廊下を選ぶかと言えば、やっぱ1年生の廊下かな。
私は早歩きで曲がり角まで歩くと、そーっと1年生の教室のある方を覗き込んで見る。
すると、意外と、ゾンビの姿がないことに気づいた。
でも、どうしてあんなにいたゾンビ達の姿が、いなくなったんだろう?
もしかして、ゾンビ達は、外に出て行ったのかな?
そう思った時、真っ先に黒井先生のことが頭によぎる。
「先生、まさか、先生がここにいるゾンビ達を、おびき寄せてくれたんですか?」
私の目から、また涙がこぼれそうになる。
でも、今は泣いてる暇なんてない。
今のうちに向こう側まで渡ってしまおう。
そうすれば、あとは屋上まで一直線だ。
そう思い、覚悟を決めて、1年の廊下に出ようとしたその時だった。
「こなちゃん!!!」
突然のつかさの声に、私は心臓が止まりそうになる。
つかさの声が、トランシーバーから聞こえてきたのだ。
「つかさ、脅かさないでよ。」
「よかった、こなちゃんは、無事だったんだ。」
トランシーバーの向こう側で、つかさが安堵している姿が目に浮かぶ。
「つかさ、どうしたの?何かあったの?」
「な、何でもないよ。心配になったからつい、ね…」
つかさはそう言うと、笑いながら答える。
いや、笑っていても、きっと泣いていたに違いない。
だって、つかさの声は、最初から涙声だったから…
「私なら大丈夫だって。そんなことより、もうトランシーバー切るね。
奴らに気づかれるとマズイから。」
「ゴメンね、こなちゃん。絶対に生きて帰ってきてね。」
「わかってるって。じゃあ。」
私はそう言うと、トランシーバーの電源を切る。
トランシーバーの電源を入れっぱなしにしてたのはヤバかった。
とその時、教室の方から、唸り声が聞こえてくる。
「あの声は、ゾンビの唸り声だ。」
私は拳銃を構えると、一歩ずつ廊下を歩いていく。
一歩ずつ、ゆっくりと、教室の様子を確認しては、廊下を通り過ぎる。
1年の教室は、本当に誰もいなかった。
しばらくして、ゆーちゃんの教室が見えてくる。
「ゆーちゃん…」
ゆーちゃんのことを思い出し、再び泣きそうになったけど、ぐっとこらえて、私はゆーちゃんの教室前を通り過ぎる。
でも、その時、教室の中から、がさごそと物音が聞こえてきた。
もしかしたら、誰かが教室に隠れてるのかな?
いや、それはありえないか。
だって、さっきまで、ここの廊下は、ゾンビだらけだったんだから。
じゃあ、やっぱり、中にいるのもゾンビと考えるのが自然だ。
そう思ったけど、万が一のことも考えて、私は教室の中を覗き込んだ。
教室の中は、机や椅子が散乱しており、襲われた形跡がうかがえた。
その中を、見たことのある女子高生2人の姿があることに気づく
「あれは、ひよりんとパティだ。」
私は思わず声をかけそうになるが、中の2人の姿に気づいて、慌てて口をおさえる。
教室の中で、パティは血まみれになりながら、倒れている同級生の男子を貪り食っていた。
そして、その様子を見ていたひよりんは、自分の血で地面に何やら書いていた。
2人とも、もうゾンビになってしまったんだ。
私は急いでその場を離れようとしたが、その時、教室の扉に体が当たり、カタンと音を立ててしまう。
「あっ、しまった。」
私の立てた物音に気づいた2人が、一瞬扉の方を睨む。
私はとっさに身を隠すと、中の様子がわかるよう、いつも持ち歩いていた手鏡をそっと置く。
ひよりんとパティは、しばらく扉の方を睨んでいたが、しばらくすると、パティは再び死体をむさぼり食い初め、ひよりんは自分の血で地面に絵を書き始める。
私は2人に気づかれないように、そっと教室を離れた。
1年の廊下を渡り、しばらくすると、ようやく階段が見えてくる。
「あとは、この階段を、屋上まで駆け上がるだけだ。」
私は、ポケットにしまっていた屋上の鍵に手を伸ばす。
大丈夫。鍵もしっかりと持ってる。
上を見る限りでは、階段の途中にゾンビがいる気配もない。
「大丈夫、行ける。」
そう思い、全力で階段を駆け上がろうとしたその時だった。
職員室の方から、突然、大量のゾンビが姿を現す。
その中には、何人か見覚えのある先生達の姿も見えた。
私に気づいたらしく、こっちに向かって走ってくる。
「逃げなきゃ!!!」
私は全力で階段を駆け上がった。
その私の後を、ゾンビが全力で追いかけてくる。
2階に上がると、そこには大勢のゾンビがさまよっていた。
彼らも、私の姿に気づいたのか、私の後を追いかけてくる。
私を追いかけてくるゾンビの数が、2倍には増えたかも?
「ダメだ、このままじゃ、上がっても、鍵を開けらんないよ。」
とその時、ゆい姉さんからもらった紙袋を思い出す。
(ピンチの時には、これを使うんだよ。)
死ぬ間際、ゆい姉さんがそんなことを言ってたのを思い出した。
私は走りながらカバンから、袋を取り出すと、袋の中身を取り出す。
それを見た瞬間、私は驚いた。
「嘘っ!!これ、手榴弾!!?」
ゆい姉さん、こんなものを一体どうやって?
でも、今は、そんな疑問を考えている場合じゃない。
3階に上がり、3年生が加わったことで、ゾンビの数がさらに増していたからだ。
「えーい、これでも食らえ。」
私は手榴弾のピンを抜くと、ゾンビ達のいる後方ではなく、足元に転がした。
後は、全力で走り抜けるだけだ。
私は全力で階段を駆け上がる。
その私の後を、ゾンビが追いかけてくる。
とその時、目の前に屋上の扉が見えてくる。
あと、もう少しだ。
とその時…
ズドォオオオオーーーーン!!!
凄まじい爆発と共に、熱風が吹き荒れ、私は壁に叩きつけられてしまう。
手榴弾を足元に置いたのは、どうやら正解だったみたい。
私を追いかけてきたゾンビ達が、ちょうどそこを通った時に爆発したみたいだったから。
私は体を起こすと、下の方を見る。
ゾンビ達は、すべて吹き飛んだみたいだったけど、階段も一緒に吹き飛んでしまったようだ。
どうやって下に降りよう?
ウウン、そんなことは、かがみを助け出してから考えればいいや。
私は階段を駆け上がると、ようやく屋上の扉の前までたどり着いた。
「すぐに行くから、待っててね、かがみ。」
私はポケットの中の鍵の束を取り出すと、屋上の鍵で扉を開けた。
「かがみ!!!」
屋上の扉を開けると、すぐに私はかがみの名前を呼んだ。
でも、屋上にかがみの姿はなかった。
「かがみ、どこ?どこにいるの?」
屋上と言っても、全く何もないわけではない。
私は、拳銃を手に持って、ゆっくりと歩き出す。
とその時、見覚えのある携帯が、地面に落ちていることに気づいた。
「あれは、かがみの携帯だ。」
私はかがみの携帯を手に取ると、携帯の裏側ところどころに、血がついていた。
私の視界が、一瞬、真っ黒になる。
まさか、かがみまで……
ダメだよ、弱気になっちゃ。
携帯の画面には、入力途中のメールが表示されていた。
宛先は、私になっていた。
でも、そのメールは、まだ書いてる途中だった。
メールを書いてる途中で、携帯をほったらかしにして、姿を消すなんてことがあるだろうか?
とその時、屋上の入口の建物の裏側から、何やらうめき声が聞こえてくる。
私は恐る恐る声のする方へ、歩いていく。
一歩その音に近づくたびに、心臓がドクンドクンと凄まじい音をあげる。
なぜなら、この時、私の頭の中には、二つの予感しか、頭によぎらなくなっていったから。
それは、
@かがみが、ゾンビに食われている。
Aかがみが、ゾンビになって、他の人間を食っている。
どっちも、最悪の予感だった。
大丈夫。能天気な私の予感なんて、きっと的中率0だって…
自分にそう言い聞かせようとするんだけど、一歩歩くごとに、その予感ばかりが、どんどん強くなっていく。
建物の曲がり角までやってくる頃には、心臓が爆発するんじゃないかってくらい、鼓動が激しくなっていた。
私は大きく深呼吸をする。
かがみは、私なんかより、ずっとしっかりしてるんだし、きっと大丈夫。
自分に強く言い聞かせながら、私は一気に、物音のする方を覗き込んだ。
とりあえず、ここまでです。
続きはまた、夕方にでも投稿します。
いいところで切るなぁw
続きかなり気になる
何となくこなちゃんの自殺の方法が読めてきたw
スクールオブザデッドみたいだな
支援
423 :
326:2009/05/06(水) 17:49:25 ID:agLy6ZAj
それでは、
>>418の続きを書きたいと思います。
これでラストになります。
どれくらい、私は放心してただろうか?
その光景が飛び込んできてから、時間的には1分ぐらいしか経っていなかった。
でも、その1分が、永遠の時間のように思えた。
私の目の前には、かがみがいた。
かがみは、私に気づいていないようで、目の前の白石の死体を、一心不乱にむさぼり食っていた。
かがみの肩には、ゾンビに噛まれた傷跡があった。
きっと、かがみは、傷つきながらも、必死に屋上まで逃げてきたんだ。
でも、メールを書いている途中で、力尽きて……
目の前の光景を見た瞬間、私の中で、何もかもがガラガラと音を崩れて落ちていくような気がした。
世界が終わろうとしている中、お父さんもゆい姉さんもゆーちゃんもいない。
黒井先生も、きっともういないだろう。
そして、親友だったかがみもみゆきさんも、もういない。
こんな世界で、これ以上生きていく意味なんて、あるんだろうか?
一瞬、つかさのことが脳裏に浮かんだけど、それよりも絶望感の方があまりにも大きすぎた。
「つかさ、ゴメン。私、もうダメかもしんない。」
白石を貪り食うかがみの姿を見て、私はこの世の全てに絶望していた。
私は銃を構えると、銃口をかがみの方に向ける。
かがみは、目の前の白石を食べるのに夢中で、まだ私のことに全然気づいていない。
今なら、あっさりと頭を打ちぬける。
私はかがみの頭に銃口を合わせると、引き金に指をかけた。
あとは、引き金を引けば、あっさりとかがみは倒れるだろう。
でも、その時、生前のかがみやつかさやみゆきさんとの楽しい思い出がよみがえってくると、目の前が涙でぼやけてくる。
どうして、こんな時に、楽しい思い出なんか、思い出したりするんだよ?
卑怯だよ。これじゃ、絶対にかがみを殺せないじゃんか。
気がつくと、私はいつの間にか銃をおろしていた。
「かがみ……」
私が声をかけると、かがみはようやく私に気づいたのか、顔をあげて、私の方を見る。
私を見るかがみの目には生気がなく、かがみの口の周りは、血まみれだった。
だが、この時、普通ではありえないことが起こった。
かがみが、私の姿を見た瞬間、うろたえたように見えた。
まるで、今の自分の姿を見られたくないと言わんばかりに……
「かがみ、待たせてゴメンね。約束通り、かがみのために、お弁当作って来たよ。
いろいろあって、おかずとか、ぐちゃぐちゃになっちゃったけどね。」
私はカバンから弁当を取り出すと、かがみの前に差し出す。
でも、かがみは唸るだけで、どうしていいのかわからないようだった。
「そうだよね。今のかがみには、弁当じゃ物足りないよね。」
私は地面に弁当を置くと、両手を思い切り広げる。
私には、どう頑張っても、かがみを撃ち殺すなんて、できそうにもなかった。
それに、どうせこれ以上、こんな世界を生き延びたって、いいことなんて何もない。
生きてる間、ずっとゾンビの恐怖に、おびえ続けないといけない。
家族や親友が死んでしまった悲しみに、心を痛め続けないといけない。
「つかさ、生きて帰るって約束したのにゴメン……
黒井先生、命がけで助けてくれたのに、ゴメンなさい。
でも、私、もう生きる気力がなくなっちゃったよ。」
目の前のかがみは、私のことを欲していた。
どうせ短い命なら、せめて親友のために死にたいと思った。
「お腹がすいてるんだよね、かがみ。
待たせたお詫びに、私を食べていいから。」
私がそう言っても、かがみはまだ、うろたえているようだった。
もしかして、私のことを、まだ覚えてくれているのかな?
そう思ったら、涙があふれて、止まらなくなった。
「かがみ、苦しいんでしょ? いいから早く食べて。」
私は両手を広げたまま、かがみの方に歩いていく。
その時だった。
「ゴメン、こなた。」
一瞬、かがみの声が聞こえたような気がした。
それと同時に、かがみが、私の方に向かって走ってくる。
途中、地面に置いてあった弁当が、かがみの足に当たり、弁当がひっくり返ると、中身が地面に散らばった。
そして、かがみは私の前までやってくると、肩に思い切りかみつく。
体中に、今まで味わったことのない強烈な激痛が走った。
かがみは、私の体を食べるのに夢中になっていた。
私は激痛に耐えながら、かがみの首にそっと手をまわすと、かがみの首に誕生日プレゼントのネックレスをかけた。
かわいいうさぎの絵が書いてあるネックレス。
寂しがりやのうさちゃんのかがみに、やっぱりよく似合ってる。
でも、できれば、生きているかがみにつけたかった。
私は、体中に走る激痛に耐えながら、そんなことを考えていた。
体中に走る苦痛も意識が薄らいでいくとともに、次第になくなっていく。
ああ、もうすぐ、私は死ぬんだな。
そう思ったその時だった。
「こなた…」
かがみの声が聞こえてくる。
自分の体を食べているかがみからじゃない。
どこか別の場所から、かがみの声が聞こえてくる。
「かがみ、どこ?どこにいるの?」
周りを見渡すと、少し離れた場所に、かがみが姿を現した。
そのかがみは、私のよく知っているかがみの姿だった。
「ゴメン、こなた。私のせいで……」
そのかがみは、申し訳なさそうに、私にそう言うと、頭を下げる。
「いいよ、かがみ。そんなことより、私のプレゼント、気に入ってくれた?
寂しがりやのうさちゃんのかがみに、ピッタリだと思うんだけどな。」
「バカ、誰が寂しがりやのうさちゃんだ?
でも、ありがとう。初めてこなたから、まともなプレゼントもらったね。」
かがみはそう言うと、ニコッと笑みを浮かべる。
いつの間にか、私は、体から離れた状態になっていた。
下では私の体を、かがみがまだむさぼっていたけど、もう痛みを感じることもなくなっていた。
いつの間にか、私のすぐ傍に、かがみが来ていた。
「行こう、こなた。」
そして、私に手を差し伸べる。
どこに行くつもりなのか、聞くまでもなかった。
きっと、私達があの世と呼んでいた場所だろう。
あの世に行ったら、お父さんとお母さん、死んでいった皆に会えるのかな?
そう思ったら、あの世に行くのも悪くはないと思った。
「ウン、行こう。かがみ。」
私がかがみの手をつかむと、目の前が次第に真っ白になっていく。
できれば、天国に行けますように……
そう思いながら、私は真っ白な世界の中に、かがみと一緒に飛び込んで行った。
………なた…
どれくらい経ったのだろうか?
誰かが、私を呼ぶ声が聞こえてくる。
…こなた……
この声には、聞き覚えがある。
かがみの声だ。
でも、意識がもやっとしているせいか、かがみがどこにいるのかわからない。
もう、あの世とやらについたのかな?
そんなことを、考えていた時だった。
「いい加減に起きろ、こなたーーーっ!!!」
突然のかがみの大声に、私の意識ははっきりと目覚める。
目を覚ますと、そこは屋上だった。
どうやら、屋上で、私はずっと眠っていたらしい。
「そっか、あれは、夢だったんだ。」
そう思い、夢で良かったと安堵し、胸に手を当てた時だった。
自分の体に手を当てて、自分の身体が血まみれであることに気づく。
「あれっ、私、血まみれだ。」
しかも、お腹は引き裂かれ、辺りには内臓が飛び散っていた。
でも、痛くない。
これは、一体?
とその時、生前、ラジオで聞いたフレーズを思い出す。
『地獄が死者であふれかえる時、この世に死者が蘇ります。』
「嘘っ、これってまさか!?」
とその時、
「ようやく目を覚ましたわね、こなた。」
声のする方を見ると、そこには血まみれのかがみが立っていた。
「これは、一体どういうこと?」
私はわけがわからず、思わずかがみに尋ねる。
「驚いたみたいね。私もビックリしてるとこよ。
まさか、こんなことになるなんて…」
目の前のかがみは、まともにしゃべっているようには見えなかった。
にも関わらず、かがみの声が聞こえてくる。
「一種のテレパシーみたいなものですね。」
とその時、どこからかみゆきさんの声が聞こえてくる。
「えっ、みゆきさん?どこにいるの?」
私は周りを見渡すけど、どこにもみゆきさんの姿が見えない。
「ここだよ、お姉ちゃん。」
とその時、建物の影から、ゆーちゃんが姿を現す。
ゆーちゃんは、みゆきさんの首を手に抱えて、こっちにやってきた。
「そっか、みゆきさん、ゾンビ達にやられて…」
「お恥ずかしながら、首だけになってしまいました。
自分では動けなかったので、ゆたかちゃんにここまで連れて来てもらいました。」
みゆきさんはそう言うと、ニコリと微笑んだ。(ような気がした。)
「ゆーちゃんは、どうして学校にいるの?
確か、家でゾンビに襲われて死んだはず…」
「お姉ちゃん、私もこの学校の生徒だよ。」
ゆーちゃんがそう言うと、私は納得する。
あー、これが生前の習慣ってやつですか。
そう思いながら、私は思わず吹き出しそうになった。
生前の習慣って、私も死んでるじゃん。
なんか予想してなかった方向に
「でも、よくこの場所がわかったね。」
「だって、お姉ちゃん、かがみ先輩とつかさ先輩のために、お弁当作ってたでしょ。
だから、多分、また屋上で食べるのかなって思って。」
ゆーちゃんはそう言うと、テヘヘと笑みを浮かべた(ような気がした。)
「でも、階段は爆発で壊れてたはずだよ。どうやって、ここまで上ってきたの?」
「倒れてたゾンビの服を集めて、ロープにしてここまで上ってきたんだよ。
これって、みゆき先輩のアイデアなんです。」
おお、ゾンビになっても、さすがは、みWikiさんだ。
私は起き上がろうとしたけど、その時、お腹から、腸がこぼれおちてくる。
「あーあ、かがみががっつくから、お腹からこぼれて大変だよ。」
「だ、だって、こなたがおいしすぎるのが、いけないのよ。」
おー、ゾンビになっても、かがみのツンデレは健在ですか。
「ヘイヘイ、でも、そんなに私っておいしかったの?」
「そりゃあ、もう〜♪」
それから、かがみはまるでスイーツでも食べたかのように、しゃべりだす。
かがみの話を、みゆきさんもゆーちゃんも、ずっと笑顔で聞いていた。
いや、実際には笑顔のような気がするだけだけど…
「でも、かがみにそこまで喜んでもらえて、嬉しいよ。
それでこそ、体を差し出した甲斐があったというものだよ。」
私がそう言うと、かがみの表情が曇った気がした。
「ゴメン、こなた。本当は、こなたには生きていてほしかった。
でも、どうしても我慢できなかった。だって…」
「ウン、今ならわかるよ。だって、私も今同じこと考えてたから…」
私がそう言うと、全員無言になる。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「何、この底なしの空腹感は!?」
私がそう言うと、全員が一斉に反応する。
「でしょ?この空腹感で、目の前にこなたがいたら、誰だって我慢できないわよ。」
「お恥ずかしながら、私もお腹がすいてきました。」
「いや、みゆきさん、首だけなのに、どうしてお腹がすくのさ?」
私がそう尋ねると、みゆきさんは困った表情をする。
「さあ、どうしてでしょうね? すみません。私にもわかりません。」
「そう言うお前も、内臓空っぽなのに、どうやって消化するつもりだ?」
「私の内臓を食べたのは、かがみでしょ。」
「うっ…ゴ、ゴメン。」
「もういいよ。それに理由なんて、誰にもわかんないんだから。
でも、一つだけ確実なのは、私達が空腹であること。そんだけ。」
私がそう言うと、みんなウンと頷く。
「で、これからどうする?何か食べ物でも探しにいかない?」
かがみがそう言った時、私の脳裏に、突然、生前の記憶が蘇ってくる。
「あっ、そうだ。かがみ、つかさとみさきちは無事だよ。」
「そう、つかさ、無事なのね。よかった。」
かがみはそう言うと、ホッと胸をなでおろす。
やっぱり、こんな姿になっても、かがみはつかさの姉なんだね。
私なんか、つかさが生きてることを思い出して、別のことを考えてたっていうのに。
「つかささんですか…おいしそうですね。」
みゆきさんが、ポツリとそうつぶやく。
やっぱ、みゆきさんも私と同じこと、考えてたんだ。
つかさのすこしふっくらとした頬とか、太ももとか、想像しただけでよだれが出てくるよ。
「ダメよ、つかさはダメ。」
かがみが大声で反論する。
「どうしてさ。かがみだってお腹すいてるでしょ?」
「だって、つかさは、私の双子の妹よ。だから、つかさは私が食べるの。」
あーそう言うことね。
少しでも、かがみのことを見なおした私がバカだったよ。
「アンタ達は、日下部でも食べてればいいのよ。」
「ヒドイよ、かがみ。
私の体、こんなにしておいて、私にはつかさを食べさせてくれないわけ?
それに、つかさも、私にとっては親友なんだよ。
私だって、つかさを食べたいよ。」
私が懇願した表情でそう言うと、かがみは下を俯く。
「わ、わかったわよ。でも、食べていいのは、手足だけだからね。
お腹はダメよ。つかさのお腹は、私が食べるんだから。」
かがみが、こんなに内臓好きだとは思わなかったよ。
「じゃあ、みさきちは皆で仲良く分けて食べようよ。
あーでも、みさきちって、スジっぽくて、あんまり食べるところなさそうな感じだよね。」
「こなた、さすがにそれは日下部に悪いだろ。」
「あっ、そうだ。ゆーちゃん、みなみちゃんも一緒にいるよ。」
「えっ、みなみちゃんも一緒にいるの?」
みなみちゃんの名前を聞いて、ゆーちゃんの口から血のよだれがこぼれてくる。
ゆーちゃんも、かなりお腹すいてたんだね。
「他にも、確か5人ぐらいいたから、当分、食べるものに困ることはないと思うよ。」
「でも、3人とも体育館に籠ってるんですよね。どうやって入るつもりですか?」
「あーそれなら、私の生前の記憶が確かなら、これを使えば大丈夫なはず。」
私はニヤリと笑みを浮かべながら、鍵の束とトランシーバーを3人に見せた。
「遅いね、こなちゃん。」
こなちゃんが体育館を飛び出してから、これで何度目のつぶやきだろう?
こなちゃんからもらったイヤリングを眺めては、ずっと同じことばかり呟いてた。
「大丈夫だぜ、柊妹。きっと、チビッ子が柊を助けてくれるさ。
そんなことより、せっかくチビッ子が作ってくれた弁当、全部食べてやらないと、チビッ子に悪いぜ。」
「そうだね…」
私は日下部さんにそう返すのが、精一杯だった。
日下部さんの言いたいことは、私にもわかるよ。
こなちゃんがつくってくれた弁当だもん。
私だって、全部食べたいよ。
でも、ゆきちゃんの最期を思い出すと、どうしても吐き気を催してしまう。
それに、黒井先生の最期も、ここから見ちゃったし。
黒井先生を追いかけて、学校からすごい数のゾンビが飛び出してきて、そのゾンビが黒井先生を、あっという間にバラバラに……
あまりにも怖かったから、思わずトランシーバで、こなちゃんに呼びかけたくらいだったよ。
あの時、こなちゃんの声が、トランシーバから聞こえてこなかったら、きっと私、ショックからもう立ち直れなかったと思うよ。
しばらくして、気分が悪いのは収まって来たけど、気分がよくなると、今度はこなちゃんのことで、頭の中が一杯になった。
「こなちゃん、大丈夫かな?」
そして、また同じことをつぶやく。
どうして、もっと強く、こなちゃんを引き止めなかったんだろう?
黒井先生の最期を見てからは、後悔ばかりしていた。
お姉ちゃんには、もちろん生きていてほしい。
でも、そのために、こなちゃんまで、危険な目にあってほしくなかった。
だって、もしこなちゃんまで死んでしまったら、私一人だけになっちゃう。
姉や親友がみんな死んでしまった世界で、一人だけで生きてくなんて嫌だった。
だから、こなちゃんがお姉ちゃんを助けに行くのを、もっと強く止めるべきだったんだ。
たとえ、お姉ちゃんを見殺しにすることになっても……
「私って、ひどい妹だね、お姉ちゃん。」
「そんなこと、ないってヴぁ。」
私の独り言が、日下部さんにも聞こえたらしい。
「わ、私のことなら、大丈夫だよ。それよりも…」
私はみなみちゃんの方を指さす。
「みなみちゃん、ゆたかちゃんが死んじゃったことがショックで、一口も食べてないんだよ。」
「それに、高良も目の前で殺されちゃったからな。私が何とか慰めてみるよ。」
日下部さんはそう言うと、みなみちゃんの方に歩いていった。
日下部さんには悪いけど、今は一人になりたかった。
一人になって、いろんなことを考えたかったから……
私はバカだけど、でも、こんな私にもわかることがあった。
それは、この世界が、終わろうとしていること。
どう抗っても、私もみんなも、もうすぐ死んじゃうってこと。
だったら、最期くらい、お姉ちゃんとこなちゃんと一緒に迎えたかった。
3人一緒なら、きっと死ですら素直に受け入れられるって思った。
「だから、こなちゃん……お願いだから、早く帰ってきてよ。」
こなちゃんの笑顔を思い出すと、自然と涙がこぼれてくる。
とその時だった。
トントントン…
つけっぱなしにしていたトランシーバーから、突然、軽快なリズム音が聞こえてくる。
少したどたどしいリズムではあったけど、このリズムが、何の曲かはすぐに理解できた。
こなちゃんの好きな曲、ハレ晴れユカイだ。
「こなちゃん!!!無事だったの、こなちゃん!!!」
嬉しさのあまり、トランシーバーに向かって思わず叫んでしまい、叫んでからあわてて口に手をあてた。
私の声で、こなちゃんの居場所が、ゾンビにバレてしまうかもしれないのに、私、本当にこなちゃんの足をひっぱってばかりだ。
「何だ、どうした?柊妹?」
「聞いて、このリズム。」
私は、日下部さんにトランシーバーを渡す。
「おお、これは、チビッ子の合図じゃんか。チビッ子、生きてたじゃんかよ。
よかったな、柊妹。」
「ウン。」
これで、最期の時まで、こなちゃんとお姉ちゃんと一緒にいられる。
そう思ったら、嬉しくて涙が止まらなかった。
「じゃあ、体育館の鍵を開けないとな。
玄関の扉が開いた音がしたら、こっちの鍵もあけようぜ。」
「ウン!!!」
さっきから、ずっとトランシーバーから、こなちゃんのリズムが聞こえてきた。
「おっ、体育館の玄関の鍵を開けてるみてえだぞ。」
「早く、入ってきて。こなちゃん。」
とその時、入口の扉が開く音がした。
「入口が開いたみたいだぜ。」
「ウン」
私は体育館の鍵で扉を開けようとするが、気ばかり焦って、なかなか鍵が回ってくれない。
「柊妹、焦りすぎだってヴぁ。」
「だって、だって、この向こうにこなちゃんとお姉ちゃんがいると思ったら……」
一刻も早く無事な姿を見たい気持ちを抑えて、私はゆっくりと鍵を回す。
カチャリ
「やった、開いたよ。」
そして、私は満面の笑みで、勢いよく、体育館の扉を開けた。
「お帰り、こなちゃん、お姉ちゃん。」
−World's End 完−
支援
>>431 乙です。でも・・・
ヴァ早く逃げろ!!!
というわけで、このお話はこれで終わりです。
非常に長い長文を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
頭を潰されたあやのはゾンビとして歩き回ることもできないのだろうか
乙
ゾンビ化した後の描写は一見ブレインデッドのようなギャググロに見えてちっとも救いの無い最悪なシーンだったw
いややっぱギャグか・・・
救いの有無の判断に困るw
ところでゾンビが世界中に大量出現した原因って結局なんだったんだ?
>>431 拝読しました。
かがみに身を捧げるか、拳銃自殺を図って終わり……と思っていましたが、
その後に蘇生させるというのはお見事でした。
ラストのつかさ達の「おかえり」はその後の悲劇を想像させるキーワードですが、
なぜかあまり残酷さや悲惨さを感じさせないものでした。
ある意味ではハッピーエンドかもしれませんね。
死んで終わり……ではないので、この後さらにこなたに自殺させるという
分岐展開を作ることも可能な幅の広いお話でした。
生前の行動を繰り返す。
本人達にとっては居心地の悪くない世界。
これ見てるとゾンビというよりSIRENの屍人を連想するなw
乙でした
こなた「さって、今年は何処のくらすかなー。」
こなた「Z組か。ってこのクラスメイト……。登校拒否したい……;;;;;;」
出
席
番
号
1. アラバマ
2. 泉こなた
3. うつ☆すた大阪
4 SF655
5. オナ禁沖縄
6. お漏らし中尉
7. 顔芸
8. 神奈川( =ω=.)
9. ガンガン福岡
10. 筋肉
11. グエムル少佐
12. グレゴリー
13. JEDI_tkms1984
14. デフォ北大阪
15〜36 .名無し
37. みゆキチ=ハンニバル=アラバマ
38. ヤク中大分
39. ヤケクソ
40. ラノベ君
担任=千葉県(初代1)
こなた「人生オワタ\( =ω=.)/」
お待たせしております。
>>357-362の続きです。
このスレは他の職人さんの仕事が速くて感服させられます。
自分は元々&現在椎間板ヘルニアで遅筆に拍車がかかってます。
待っている方には申し訳ありません。
*
友達の友達は皆友達だ、世界に広げよう友達の輪
*
気がついたときには、カーテンで区切られた白一色の無機質な部屋の中、やたらと高い
ベッドの上に寝かされていた。
────ここ、は…………
夜の闇が辺りを包んではいるものの、足元の方でところどころ、蛍光灯の白い光が見え
る。それとは別に、赤やら青やら緑やらの、LEDや液晶ディスプレィの表示がチカチカと
している。
自分の身体の自由が利かない。あまりにも気だるくて動くのすら億劫だったのだが、そ
れに加えて両腕の肘の裏に何かが接続され、その上から厚ぼったく包帯を巻かれて自由を
奪われていた。
────病院、か…………
それだけが認識できた。
大量の失血により意識が朦朧とし、それ以上の状況判断は無理だった。
総合病院のICUのベッドの上で、こなたは再び意識を手放し、眠りについた。
*
再びこなたが意識を取り戻した時、前よりは明瞭に状況を判断することが出来た。
────私……結局、死に損なったんだ……死ねなかったんだ…………
ICUから病室に移されてはいたが、相変わらず腕には点滴、全身に計測機器が取り付け
られ、小型の心拍測定装置が取り付けられている。
────ダメだよ……これじゃ……私……つかさに償ったことにならないよ……
こなたは強迫観念に取り憑かれたようにそのことを考える。
途端に、目頭が熱くなってきたような気がした。
────最初に頚動脈いっとけば、こんなことにならなかったかね……
自嘲気味に、そんなことまで考える。
────そうだ、今度は、ちゃんと、つかさの、見てる前、で…………
すぐにそう考え付くと、身を起こした。
腕と首の傷口に、激しい痛みが走ったが、それにも構わない。
周囲を見渡す。幸いにして誰もいない。父親の姿もなかった。
致命的な罪悪感に苛まれるこなたは、常人離れした精神力、というより精神状態で以っ
て、ベッドを降りると、自らの足で歩き、病室を出た。
ばたん、と扉が閉まり、
「お姉ちゃん?」
と、その直後に、声がかけられた。
びくん、と身体が硬直するように反応する。
「ゆ、ゆー、ちゃん?」
声の主を振り返った。そこにはこなたの想定通り、ゆたかが立っていた。
「だ、ダメだよまだ動いちゃ!」
私服姿のゆたかはこなたに駆け寄ると、慌てふためいた表情で、強い調子で言う。
「い、いやちょこーっと、トイレに行こうかと……」
「それでもダメなの! まだ絶対安静なんだから! 傷口開いちゃったらどうするんだ
よ!」
こなたは咄嗟の思いつきで、いつもの軽さを装って誤魔化そうとしたが、ゆたかはそれ
でも引かず、たった今出てきたばかりの病室の扉に追い詰められた。
「う……ご、ごめん、ゆーちゃん!」
こなたは表情をゆがめると、点滴と計測器の吊るされた点滴台を掴み、ゆたかがきたほ
うとは逆にするりと抜けて逃げ出そうとする。
「あっ! お姉ちゃん」
ゆたかは一瞬遅れて、こなたを追った。
普段なら、あっという間にこなたはゆたかを引き離してしまっただろうが、今はまった
く逆だった。こなたの身体はまったく思い通りに動かず、数mも進まないうちにゆたかに
追いつかれ、背後から拘束される。振りほどくことも出来ない。
「ゆ、ゆーちゃん、お願いだよ、離して……」
「ダメ!」
はぁはぁと荒い息をしながら、こなたは懇願するように言うが、ゆたかは頑として譲ら
ない。
「お姉ちゃん、一体何があったの? どうしてここまでするの?」
こなたに後ろから抱きついた姿勢のまま、ゆたかは必死そうな声で問いかける。
「そ、それは……所謂受験勉強のストレスって奴で……」
「嘘」
間髪入れずに否定された。
「お姉ちゃん、そんな事で悩むような人じゃないもん」
「さ、さり気に酷い事言われてるっ!?」
こんな時でも、ゆたかの言葉にこなたは場違い気味に少しショックを受けて、反射的に
言葉を返してしまう。
「…………かがみ先輩や高良先輩達となにか……あったんだよね?」
声を絞りつつ、ゆたかは柔らかい口調で問い質す。
「う……そ、そんなんじゃ……ないよ」
「それじゃあどうしてここまでするの? 理由があるんでしょ? 私やおじさんにも言えな
い様な事なの?」
「そ、それは……」
「ねぇ、お姉ちゃん」
ゆたかは表情に悲壮感を漂わせる。
「お姉ちゃんは私の事妹みたいって言ってたけど、私もこなたお姉ちゃんの事は実のお姉
ちゃんの様に思ってるよ? そりゃ、私はこなたお姉ちゃんみたく1人っ子じゃなくて、本
当のお姉ちゃんが要るけどさ」
「…………」
「でも、やだよ。こなたお姉ちゃんがいなくなっちゃったらやだ。おじさんの前の言葉じ
ゃないけど、家族がいなくなるなんて考えたくないよ」
「…………」
「お姉ちゃんは、私からこなたお姉ちゃんを取っちゃうの?」
「え…………」
それまで、荒い息を立てながらも、気まずそうに沈黙していたこなただったが、瞳を潤
ませながらそう問いかけてくるゆたかの言葉に、動揺を覚えた。
「家族には取替なんか無いんだよ? たとえゆいお姉ちゃんがいても、お父さんやお母さ
んがいても、おじさんがいても、こなたお姉ちゃんの替わりにはならないんだよ?」
「で、でも私は……つかさから取替の利かないものを……」
「やっぱり、なんかあったんだね!?」
苦し紛れに出たこなたの呻くような言葉に、ゆたかは跳ねるかのように反応して、問い
詰める。
「う…………」
「何があったの? 話してくれないの?」
「それは……ごめん……」
こなたは俯き、低い声でくぐもったように言う。だが、すぐに顔を上げた。
「でも、ゆーちゃんの言葉は解ったから……理解したから……」
「ホント? ホントに?」
念を押すように、ゆたかは聞き返す。
「大丈夫……もう、こんなことしない、から……」
こなたは力なく苦笑して、そう言った。
「じゃあ……戻ってくれるよね」
「うん」
こなたの返事を聞いてから、ゆたかはこなたを離す。
こなたはゆらゆらと立ち上がった。
「車椅子、持って来ようか?」
「ううん、大丈夫……傷口も開いてないみたいだし……」
言いつつも、力なく歩き、ゆたかに付き添われて病室に戻り、ベッドに横になった。
────馬鹿だ、私…………
こなたはベッドに横になり、ゆたかに向かって穏やかな表情を作って見せつつ、自分の
愚かさを嘆く。
────私の命でつかさに償ったって、同じことをお父さんやゆーちゃんに対して繰り
返すことになるじゃんか。それじゃ何の解決にもなってないんだ…………
やがて、ゆたかが呼んだのか、医師が来て軽く診察した後、鎮痛剤の注射を受けた。
────あは……大体、お母さんの櫛、お父さんに黙って壊しちゃって……なんで、そ
こで……気付かなかったんだ……ろ、馬鹿……だ、私…………
鎮痛剤の影響で身体の緊張が緩む。身体が疲弊しているところへ急激な動きをしたせい
か、やがて痛みが消えると急にまどろみ始め、眠りについた。
*
「ゆたか」
「みなみちゃん!」
夕方になって、ゆたかの友人である1年D組の3人が、こなたの入院している病棟にや
ってきた。
談話室で腰掛けながら、それまで重苦しい表情をしていたゆたかだったが、その姿を見
ると、顔を明るくして立ち上がった。
「田村さんにパティちゃんも……」
「えへへ……一応、私達もただの先輩後輩よりは深い付き合いだし」
「コナタは Good friend で同志デス。心配するのはトーゼンダヨ?」
ひよりは苦笑気味に、パトリシアはいつも通りネアカな表情でそう言った。
「これ、お見舞いと、ゆたかに差し入れ」
みなみは、菓子折りと思しき四角い包みと、お菓子類とソフトドリンクの入ったコンビ
ニ袋をゆたかに手渡した。
「あ、ありがとう」
まだ幾分弱々しくながらも、ゆたかは笑顔で礼を言った。
「デモ、コナタのDadはトモカク、ユタカまで泊り込んでるのはナニカ理由があるんデス
カ?」
一転、表情を怪訝そうにして、パティが訊ねる。
「うん……おじさんもお姉ちゃんもいなくなっちゃうと、家が私1人になっちゃうから、
って言うのもあるんだけど……」
ゆたかは困ったような表情で、言い澱む。
「ひょっとして、やっぱりあの日、なんかあったとか?」
困惑げな表情でひよりが訊ねる。すると、ゆたかはこくん、と俯きがちに頷いた。
「あの日?」
みなみがひよりに向かって訊ねる。パティもひよりに視線を向けた。
「あ、私は詳しいところまでは知らないんだけど……」
ひよりは苦笑して、軽く手を振りながらそう言った。
するとみなみとパティは、視線をゆたかに戻す。
「なんか、つかさ先輩と何かあったみたいなんだけど、それ以上は私にも話してくれない
の」
しゅんと落ち込んだように、俯きがちのままでゆたかは言った。
「つかさ先輩とか……」
「ソレではカガミにも相談し辛いデスネ」
ひよりとパティも、困惑気に軽く俯いてそう言った。
「私達だと、年下だから、困らせたくないと思ってるのかもしれない」
みなみは、いつもの様に静かだがはっきりした言葉で、そう言った。
「でも、おじさんにも何も言ってないみたいだから……言えない様な事なのかも」
ゆたかも困惑しきった様子のまま言う。
「ソンナ事気にする必要ないんですケドネ〜」
腕組みをしてう〜んと唸りながら、合衆国的価値観でパティは言う。
「それなら、2人の事良く知ってる、3年の先輩に来てもらったらどうかな」
みなみが提案した。
「それって、3-Cの日下部先輩と峰岸先輩のこと?」
ひよりが聞き返す。みなみは一旦ひよりの方を向いて、頷いた。
「確かに、かがみ先輩達とは中学から一緒だから、良く知ってるとは思うけど……」
ひよりは俯きがちの姿勢で、難しそうな表情をした。
「日下部先輩は、お姉ちゃんとはいっしょにいることも多いけど、高良先輩達ほど仲良く
はないんじゃないかな……」
ひよりの言外の言葉を、ゆたかが口にした。
「デモ、他にコナタの悩み解決できそうなヒトがいないなら、やってみるデス」
パティが力強くそう言った。
「うん、一応、頼むだけ頼んで見て良いと思うよ、日下部先輩はそう言うトコ、情強そう
だし」
ひよりも顔を上げて言う。
「田村さんも、日下部先輩と付き合いあるの?」
「うん、ゲーセンでたまに会うよ。知らない顔じゃないし、話ぐらいはするよ」
「そうなんだ」
意外そうに言ったゆたかに、ひよりは苦笑しながら答えた。
「それじゃあ、明日……学校で、私達から2人に頼んでみよう」
「決まりデスネ」
みなみとパティが言い、ひよりも頷いた。
「ごめんね、みんな、ありがとう」
ゆたかは目を潤ませながら、3人に礼を言う。
「そんな、大げさな事じゃないっから」
ひよりが、むしろシリアス感に堪えられないといったように、苦笑しながら言った。
「ソウデス。アタシ達もコナタとはタダの先輩後輩じゃなくて、Good friend デショウ?」
「私達も、泉先輩の事は心配だから……」
パティに、みなみも付け加える。
「ありがとう……みんな、ホントにありがとう」
しかしゆたかの涙腺はさらに緩んでしまい、悲しみではない涙がぽろぽろと零れだして
しまっていた。
乙〜
最終的に完結してくれるなら投下スピードはそこまでは気にしなくて良い思います。
つじつまあわせがお見事ですね。
かがみ達の態度からしてこなたはそこまで嫌われるほどのウザキャラ仕様なのかと思ったら
後輩達にかなり慕われててそうでもないもよう・・・
続き楽しみにしてますけどお体もお大事に。
>>442 盛大に吹いたwww
>>442 自分は、つかさをビッチもしくは腹黒に仕立てたいだけで、
こなた個人に恨みはないw
このクラスだったら他の絵師に絵を教わりたいな〜
*
袖振り合うも、他生の縁
*
「あやの、どう見えた?」
先程、かがみと話していたときの、いつものようなヘラヘラとした表情から一転、みさ
おは険しい表情で、かがみをちらちらと振り返りつつ、目の前にいるあやのに訊ねた。
「嘘ついてるかどうかまでは判らないけど、やましいことがあるのは間違いなさそうね」
手に持っていた携帯電話のフリップをたたみつつ、あやのは重そうな表情でそう言い、
軽くため息をついた。
「で、どうする? 柊と同じ小学校のやつに聞いてみっか?」
みさおは険しい表情のまま、あやのと向かい合って、訊ねるように言った。
「それも考えたんだけど、でも、同じ学校の子とは限らないでしょ? 確かに、小学校で
他の小学校の子と付き合ってる、っていうのは考えにくいけど」
「そっか……」
「それに、高学年とは言ってたけど、何年か言ってないじゃない? 4年、5年、6年、どの
時に誰が柊ちゃんや妹ちゃんと同級生だったかまで、解らないでしょ?」
眉を下げた表情で、あやのは説明する。
「そんじゃ、どうすんだよ。もっとはっきりした証拠がないと、ちびっ子納得しねーぞ」
みさおは不機嫌そうに表情をゆがめて、言った。
「一気に本丸を攻めるのよ」
「おいおい、柊自身に問い質したって、すっとぼけるに決まってんじゃん。妹の方はわか
んねーけどな」
あやのの言葉に、みさおは半ば驚き、半ば呆れたように言った。
「だから、柊ちゃんと妹ちゃんの、極近いところを攻めるのよ。上手くいくかは賭けだけ
ど……失敗しても、柊ちゃん達に警告は与えられるから」
あやのはそう言って、口元で笑った。
*
こなたの容態が快方に向かっていると3年B組の生徒に伝えられ、かがみ達が放課後の階
段の踊り場で極悪な会話をしていた頃。
「んぁー?」
みさおは、すでに陸上部も現役からは引退し、教室で帰り支度をしていた。すると、良
く知っているというほどでもないが見覚えのある顔の下級生が2人、自分の教室の入り口
でキョロキョロしていることに気がついた。
「えっと、篠崎と田中だっけか」
「すみません、岩崎です……」
「田村っス……」
みさおが声をかけると、みなみとひよりはむしろ自分の方が申し訳なさそうに、上目遣
いでそう言った。
「ごめんごめん、記憶違いだったんだってば」
対するみさおの方は、本当に申し訳ないと思っているのか微妙な苦笑で、頭を掻きなが
らそう言った。
「でー、柊に用ならもういないぜー。なんかそそくさと帰っちゃったぜ」
みさおはいつもの様に緩んだ表情で、そう言った。
「いえ、今日は日下部先輩にお願いがあって……」
「え? 私に?」
みなみが静かに言うと、みさおは軽く驚いてキョトン、として、聞き返した。
「それと……峰岸先輩も」
「え、私も、なの?」
やはりのんびりと帰り支度をしていたあやのは、みなみに視線を向けられ名前を呼ばれ
て、同じように軽く驚いて聞き返した。
「はい、その……実は、泉先輩のことで」
人目を憚るようにしながら、ひよりがそう切り出した。
「ああ、ちびっ子? なんか自殺とかしたらしいじゃん? ばかだよなー。いくら受験が厳
しいったってさ、死んじゃったら何にもならないじゃん」
「…………、!」
みなみとひよりは、一瞬慌てて周囲を見回した。
しかし、みなみはふっと、みさおの言葉にある事実を気付き、円い目でみさおを見た。
「みさちゃん、大声で言っちゃダメでしょ!」
あやのが、脇でみさおをたしなめるが、
「いえ……助かりました」
と、みなみは言った。
「助かった……?」
あやのは軽く驚いたようにしてみなみを見る。みさおも同じようにみなみに視線を向け
た。隣にいるひよりも、どこかぽかんとしたような表情でみなみを見る。
「あの、私の同級生で……泉先輩の従妹で、今、泉先輩の家に下宿してる子がいるんです
けど」
「ああ、小田川とかいうやつだったっけ?」
「小早川よ、みさちゃん」
みなみが切り出すと、みさおが聞き返すように言い、それにあやのがツッ込んだ。
「ちょっとした記憶違いだってば」
「その小早川さんから聞いたんですけど、泉先輩の自殺の理由、本当は受験のことじゃな
いらしくて」
みなみに代わって、ひよりが説明を続ける。
「んぁ?」
「なにか、あったの?」
みさおはキョトン、としつつ2人の顔をまじまじと見、あやのは少しだけ表情を険しく
して、聞き返した。
「詳しくは知らないんですが、つかさ先輩となにかあったみたいなんです」
「妹ちゃんと……」
「ほへ」
「それで、そのせいでかがみ先輩や高良先輩とも上手くいってないらしくて」
「ふーん」
みさおが間延びした返事をしながら、かがみの席の方に視線を向け、すぐに元に戻した。
「でも、そんくらいで自殺なんかすっかなぁ」
「私達もそう思うんですけど、とにかくゆたか……小早川さんにも詳しいことを話してく
れないのそうなので……」
「私達だと、年下だから気を使っちゃってるんじゃないかと思うんですよ」
みなみが困惑気な表情で言い、ひよりが同じようにそれに続いた。
「それで、あたし達の出番ってわけだな」
みさおがニカッと笑い、そう言った。
「良いんですか?」
みなみとひよりは軽く驚いたように目を円くし、みなみが聞き返した。
「おう、柊や柊妹とは中学から知ってるしな。ちびっ子が柊達と何があったんか知らない
けど、困ってるんなら話ぐらい聞けると思うぜ」
「それに、一度お見舞いに行っておいても良いしね」
あやのも穏やかに笑って言う。
「ありがとうございます」
みなみとひよりはそろって言い、頭を下げた。
「止せって。これぐらいで、なんだか照れちゃうんだってば」
みさおは擽ったそうに苦笑した。
「そんじゃ、早速これから行ってみっか?」
みさおが思いついたように、あやのに向かってそう言った。
「え、今から……?」
あやのは少し困惑したような表情で言い、
「面会謝絶とかじゃ、ないの?」
と、みなみ達に向かって訊ねた。
「あ、大丈夫です。出血も止まってますし、意識も安定してますから」
みなみがそう、説明した。
「よっし、それなら善は急げなんだぜ」
「そうね、泉ちゃんもゆっくりと休めないだろうし」
みさおとあやのは顔を見合わせて、頷いた。
*
「ちーっす、お邪魔するぜー」
ちょっと病室にあるまじき声の大きさで挨拶しながら、みさおはあやのと共に、こなた
の病室に入ってきた。
「あ、みさきち、それに峰岸さんも」
その姿を確認するや、ベッドの上で相変わらず点滴を受けているこなたは、驚いたよう
にその名前を呼んだ。
「お見舞いに来たぜー」
「どう、今は落ち着いてる?」
みさおがニカニカと笑いながら言い、あやのは穏やかに笑いながらそう聞いた。
「うん、もう大丈夫。なんか発作的みたいな感じだったから、今は落ち着いてる」
こなたは気弱そうに苦笑しつつ、そう答えてから、
「でも、どうしてみさきちと峰岸さんが?」
と、まじまじとした表情で訊ねた。
「あ、なんだよ、友達が入院してるのに、お見舞いに来ちゃまずいのかよ」
「友達……」
みさおは何気なく言ったが、その単語に、急にこなたの表情が曇る。
「柊ちゃん達と、何かあったんだってね?」
その様子の変化に、あやのが気遣うような、優しい口調で言った。
「え……どうしてそれを」
こなたはあやの達を力なく見上げて、訊き返した。
「もしかして、ゆーちゃんから?」
困惑気な表情で、こなたが言う。
「頼まれたのは確かだけどね、私達も泉ちゃんの事が心配だから来たのよ」
「水くせーぜー、ちびっ子ー」
あやのが穏やかに笑いながら言い、みさおはニカッと笑って言った。
「でも……2人にも、そんな迷惑は……」
こなたは躊躇うように、視線を2人から外して、俯いてしまう。
「あー、なに言ってんだよ、友達が困ってんだから助けるのは当然だろ?」
「みさきち……」
みさおの、少し怒り混じりの言葉に、こなたは顔を上げ、みさおを見た。
「ねえ、泉ちゃん」
すると、今度はあやのが、やはり穏やかな言葉で言う。
「『袖振れ合うも他生の縁』、って言うじゃない? 確かにお互い、柊ちゃんほど長くは
付き合ってないけど……少なくとも、袖が触れ合う以上の関係ではあるよね?」
「峰岸さん……」
「柊の事なら良く知ってるし、柊妹もそれなりには知ってるからよ、たぶん力になれると
思うんだぜ」
みさおは得意げに胸を張って、そう言った。
「2人とも……」
感激に声を上げてしまいかけたこなただったが、ふっと急に表情を曇らせると、再び俯
いてしまう。
「でも……だめだよ、私はつかさの友情を裏切ったんだから……多分2人にも、迷惑かけ
ちゃうよ……」
押し殺したような声で、言う。
「だぁから、それが何なのか話してくれなきゃ、私達はワケわかんねっつの!」
「そうよ」
みさおに続いて、あやのは少し語気を強くして言った。
「泉ちゃん、人間同士の付き合いなんて、迷惑のかけあいなのよ。そんなこと気にしてた
ら、友達なんて作れないじゃない」
「みさきち……峰岸さん……」
こなたは顔を上げ、2人の顔を見た。
「さすが、彼氏持ちはいうことがちげーなー」
「こらみさちゃん、こんな場面で茶化さないの」
みさおがあやのに向かってからかうような表情で言うと、あやのは苦笑して返した。
「…………」
こなたは、言葉もなく2人を見る。
「大丈夫、どんなことだったとしても、私達はこれ以上泉ちゃんを責めたりしないって、
約束するから」
穏やかな表情と口調に戻って、あやのは言う。
「そうだぜ、気にしないでバーンと話して良いんだってば」
みさおはドン、と胸を叩いてそう言った。
こなたは不安げな表情になりつつ、言う。
「う、うん……それじゃあ、話す、ね?」
そして、こなたは事の一部始終を2人に話した。
「はぁ!? 何だよそれ、ふざけんなっつの!」
それを訊いたみさおの第一声は、それだった。
「や、やっぱりそうだよね、私、取り返しのつかないこと……」
こなたはびくっ、と怯えたように身構え、半分泣き声で言う。
「ちげーって! 私が言ってんのは、柊達の方だってば!」
「え…………?」
こなたはキョトン、として、みさおを見る。みさおは憤りの感情を露わにしていた。
「確かに柊妹にとって、命と同じくらい大事なものだったのかもしんねーけどよ、だから
ってホントにちびっ子に自殺させてどーすんだっつの!」
むしろみさおの気迫に、こなたの方が押されかける。
「あ、でも、それは私が言い出したことだから……」
「同じことよ、泉ちゃん」
あやのが言う。
「さんざん泉ちゃんを批判した挙句、自殺するって言った泉ちゃんを止めなかったんでし
ょ?」
あやのはみさおのそれとは対照的に、静かながらも重々しく圧し掛かるような怒りの気
を纏っている。
「え……う、うん、そういうことになるかもしれないけど……」
あやののオーラのようなものにじり、と圧されながら、こなたは濁すようにそう言った。
「おお、あやのが怒った。こうなるとこえーぜー」
みさおは一瞬、おどけたように言ったが、すぐに表情を険しくした。
「でも、当然だよな、普段友達ヅラしてたくせによ。高良だって、自分のことでもないの
に、一緒になってちびっ子虐めやがって」
「え、虐めるって、でも、それは、私のせいなんだし……」
みさおの言葉に、こなたはおずおずと声を出す。
「でも、柊ちゃんはともかく、高良さんは直接の利害関係にはないわよね? だったら、友
達だって言うんなら、その場でお互いの調停役になるべきなんじゃないの?」
あやのは険しい表情で、問い質すように言う。
「それは…………」
こなたは軽く混乱する。
「確かに最初の原因は泉ちゃんにあったのかもしれない。でも、その後は寄ってたかって
なんて、これはもう制裁の域を超えてる。立派な虐めよ」
「そ……う……なの、かな?」
こなたはまだ、躊躇うような、半信半疑の声で言う。
「そうなの。泉ちゃんがそう認識してないだけでね」
あやのはそう断言した。
「大体、ちびっ子もちびっ子だぜ。そんなに困ってるんなら、私達にだって相談してくれ
たっていいのによー」
みさおは険しい表情のまま、こなたにそう言った。
「何度も言ってるかもしんねーけど、柊や柊妹との付き合いはちびっ子より長いんだぜ?」
「う、うん……でも……」
こなたは俯きがちになって、躊躇うような声を出す。
「だからそれが水くせーんだって、友達だろ、私達」
みさおはいい加減焦れたように、そう声を上げた。
「友達……みさきちは、友達でいてくれるんだ」
「ったりめーだろ。すくなくとも私にはちびっ子と友達止める理由はないぜ」
「峰岸さん、も?」
こなたが訊ねると、あやのは穏やかな表情に戻って、微笑む。
「うん、もちろんよ」
「みさきち……峰岸さん……」
じわり、こなたの目に涙が浮かぶ。
「お、おいちびっ子」
その様子に、みさおが慌てた声を出すが、もう止まらない。
「えぐっ……ありがとう、えぐっ……うっ……ぇ……っ、ありがとう、2人とも……えぐ
っ……あ、ありがとう」
「ちびっ子……」
さすがのみさおも、表情を困惑させて見守る。
「泉ちゃん、もう大丈夫だから、安心して。学校にも戻ってきても大丈夫。柊ちゃん達が
何か言ってきても、相手にしなくて良いから。私達がいるから……ね?」
「おうっ! 柊達が何かしようとしたら、私たちが守ってやるぜ」
あやのが手を伸ばしてこなたの頭を優しく撫でつつ、宥めるように穏やかに言う。みさ
おが威勢良くそれに続いた。
「ありがとう、ありがとう、2人とも、うっ、ぁ、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
後は堰が切れたように、こなたはしばらく、泣き声を上げ続けた。
*
「本当に、ありがとうございます!」
ゆたかが言い、深々と頭を下げた。
「い、良いって。そんなにされたらかえって照れちゃうんだぜ」
みさおは慌てて手を振りながらそう言った。
「そうよ、私達だって泉ちゃんの友達なんだし」
あやのの言葉に、ゆたかはその表情を明るくした。
「それで、小早川さん、もし泉ちゃんになにかあったら、私にもすぐ知らせてくれる?」
自分の携帯電話を取り出しながら、あやのは言った。
「おっ、そうだな、私も頼むぜ」
みさおもいい、ポケットから携帯電話を取り出す。
「あっ、は、はい」
ゆたかはあわてて、自分も携帯電話を取り出した。
3人とも、切っていた電源を入れなおす。
「今日は本当に、ありがとうございました」
番号とメールアドレスを交換してから、ゆたかが改めて礼を言う。
「だから、そんなに気にしなくって良いってば」
みさおが照れくさそうに言ってから、
「それじゃあ、またお見舞いに来るから」
「そだな」
「はい、よろしくお願いします」
そう言って、2人はゆたかと別れ、帰途に着くためエレベーターホールに向かって歩き
出す。
「ねえみさちゃん、どう思う?」
歩きながら、あやのが切り出した。
「どう思うって、んなん、柊達がやりすぎに決まってんだろ」
みさおは憤りの表情になって、不機嫌そうに言う。
「柊っていじめっ子っぽいよなーとは思ってたけど、まさかホントにやるとは思わなかっ
たぜ」
みさおはばしっ、と、胸の前で、左手で右手の拳を受け止める仕種をした。
「それもあるけど……そうじゃなくて」
あやのは険しい表情で言う。
「へ?」
みさおはキョトン、として、あやのに訊き返した。
「柊ちゃんの妹の話……小学校の時の男の子からもらったリボンで、その相手の子が亡く
なったって……みさちゃん、そんな話聞いた覚えある?」
「…………ない」
「でしょ? おかしくない? 中学の時は私達、柊ちゃん達と同じ小学校の子とも一緒だっ
たんだから、そんな話があるんだったら、誰かから一度くらい聞いててもいいはずでし
ょ?」
あやのの説明に、みさおの表情が劇的に変わった。
「まさか、柊のやつ!」
「断定は出来ないけど……調べてみても、いいかもしれないわね、泉ちゃんの為にも……」
あやのも深刻そうな表情で、病室の方を振り返りつつ、言った。
「みさちゃん、協力してくれる?」
「あったりまえだぜ。ちびっ子だって、今のままじゃ辛いだろーからよ」
みさおはガッツポーズをして、即答した。
「決まりね……」
支援
時系列がよく分からなくなってきたが、流れはこれでいいのか?
かがみの罠にはまってこなたがつかさの偽形見りぼんを紛失。
↓
当日、漫研の発表でこなたの様子が変なのに気付いてひよりがゆたかに相談。
↓
心配したゆたかがこなたに聞き出し、ががみ達が何か原因なのだけ知る。
↓
こなたが自殺未遂で入院。
↓
ゆたかがひより等を介してヴァとデコに相談。
↓
こなたから真相を聞いたデコがつかさのリボンに不信感を抱きかがみにカマかけてみる。
↓
ヴァやデコに感づかれたのに気付き、ゆたかが何か漏らしたのではと疑う。←話の冒頭部分
,-‐==:ュ、 .
):.;);
_ /;ノ
. _,.-‐:─:-‐:‐/:.:ヽー:-:‐'::"‐-.、_
; '´ ̄>'´:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:::.:.:.:.::;ノi::.:.:.:.`ヽ、 .
/:.:.:.:.:.:.:.:.;ィ|:.:.:.:.::|:::.:.:.(_,ノ::.:.:.:\:::.:ヘ ;
; /:.:.:/:.::/:.:/' |:.:.:.::.:|:::.:|ヽ、::..:.:.:.:.:.:ヘ::.:.:ハ
./:.::;イ:.:.:.:/:.::/ |::.:i:.:.:|::.:| u ∨:::.:.:.:.:.::ハ::.::}
j;//:.:.:.:.::{::_/_,ノ |:.::|:.:.:.|:.:|ヽ、__V::.:.:..:ト、::|::.:|
j:.:/:.:..:ハ:/ u |:.::|:.:.:.|/ ∨:.:.::|:::`::|:| ;
|;/:.:::/::ハ ____ヽ:|\:| ____ |:ヽ、:|、::.:.リ .
.|:.:.∨:::::ハ ≡≡" ......` ゛≡≡' |::::::.|,ノ:.:.:|
;|:.::/|:.:i:.:::j:::::... ' ...:::::’:|::::.:|::::.:.:.|
|:/ |:.:|:.:.::|:ヽ、 r-‐、 u,.ィ'::|:::.::|::::.:.:| .
´ |:.:|.:.:.::|::::::>‐ァ`ニ´r‐<:::|:.:|::.:.:l::::.:.:| ;
.|:.:|:.:.:.:|:/´ ゝ____,ノ ハ:|;ノ::.:/:::.:..:|
;|::ハ:.:.:.| /´:.:./::::.:.:.::| .
,-‐==:ュ、 .
):.;);
_ /;ノ
. _,.-‐:─:-‐:‐/:.:ヽー:-:‐'::"‐-.、_
; '´ ̄>'´:.:.:.:.:.|:.:.:.:.:.:::.:.:.:.::;ノi::.:.:.:.`ヽ、 .
/:.:.:.:.:.:.:.:.;ィ|:.:.:.:.:|:::.:.:.(_,ノ::.:.:.:\::::.:ヘ ;
; /:.:.:/:.::/:.:/' |:.:.:.::.:|:::.:|ヽ、::..:.:.:.:.:.:ヘ::.:.:ハ
./:.::;イ:.:.:.:/:.::/ |::.:i:.:.:|::.:| u ∨:::.:.:.:.:.::ハ::.::}
j;//:.:.:.:.::{::_/_,ノ |:.::|:.:.:.|:.:|ヽ、__V:.:.:..:ト、::|:: :|
j:.:/:.:..:ハ:/____|:.::|:.:.:.|/____ ∨:.:.::|:::`::|:| ;
|;/:.:::/:ハ マ:::::Tヽ:|\:|下::::マ 7|:ヽ、:|、::.:.リ .
.|:.:.∨:::::ハ、V::;j u.......` V:::;ノ ,' |::::::.|,ノ:.:.:|
;|:.::/|:.:i:.:::j::. ̄.:::. ' .:::. ̄".:’:|:::::.:|:::.:.:.|
|:/ |:.:|:.:.::|:ヽ、 r:-‐、 u,.ィ':|:::.:.:|::::.:.:| .
´ |:.:|.:.:.::|::::::>‐ァ`ニ´r‐<:::|:.:|::.:.:l::::.:.:| ;
.|:.:|:.:.:.:|:/´ ゝ____,ノ ハ:|:;ノ::.:/:::.:.:.:|
;|::ハ:.:.:.| /´:.:./::::.:.:.:.:| .