私はいまだかつてない焦りを感じていた。それは何故か?理由は単純だ。
今日はこなたの誕生日であり、そして私はいまだにケーキが完成していないということだ。
「バレンタインはうまくいったのに…やっぱりつかさが隣にいてくれないと、無理よ…」
「そんなことないよ!あの時は一人で作れたんだし、それに毎日の夕飯だって少しずつ、
作れる物が増えたり、上達したりしてるんだから、頑張って!!」
「でも、かれこれ3度目よ?3度目の正直って言うのに、何も変わらないんだもの。」
「話を聞いてる限りでは、いい出来になるはずなのに…なんで焦げちゃうんだろ?」
「それが分かったら苦労しないわよ…」
レシピ通りの作り方でやっているのに、なぜかうまくいかない。
どうしても水分が抜けすぎてしまうらしく、パサパサになってしまい、底は焦げてしまう。
少しずつ時間を縮めてはいるものの、最初からあまり変わっていない。
2つ目からはアルミをかぶせてもいるし、敷いてもいる。ある意味、これで焦げるのが奇跡だ。
そして3回目はつかさを頼ってみたのだけど、食べれる程度にはなったものの、まだ焦げが多い。
何気ないみゆきの言葉でわたしは問題集を解く手を止めた。
今日はわたしの部屋で春休み明けテストに向けての勉強会。
勉強机に向かうわたしの後ろでは、会の参加者であるみゆきとつかさ、それにこなたが受験生の名に恥じぬ姿勢でいつもの白いミニテーブルに向かっている。
…はずなのだが、実際にテスト勉強をしているのはわたしとみゆきくらいで、あとの二人は必死に春休みの宿題と戦っている。
まあ学校が始まるのは週明けでまだ一週間ほどあるのだから、以前より少しは成長しているということだろう。
しかし、こなたの場合やっていることは相変わらずわたしのノートの写経なので、成長といってもジャワ原人とネアンデルタール人くらいの差でしかないのかもしれない。
「何か分からないことでもあった?英語だったら何とか答えられると思うけど」
椅子を回転させて勉強机に背を向けると、みゆきは小さく首を降った。
どうやら勉強に詰まったというわけではなさそうだ。
まあみゆきの実力からすれば当然といったところか。とほほ…
「ゆきちゃん何か忘れ物でもしたの?」
そのまま黙り込むみゆきを不思議に思ったのか、つかさが辞書を閉じて首を傾げる。
「何々?何かのドジッ子フラグ?」
意味不明なセリフとともにこなたも漫画から嬉しそうに顔をあげた。
その5秒感――光が地球を35周半回る間、わたしは視界がブラックアウトして平行感覚すらなくなった世界の中にいた。
まずわたしの頭に浮かんだのは(あれ?『好き』ってどういう意味だったっけ?)という疑問だ。
最初の1秒間をフルに使ってわたしはみゆきの言葉の意味を思い出そうとする。
しかし直下型大地震が起きている頭ではその意味を探し出すのに永遠と思える1秒が必要だった。