【涼宮ハルヒの憂鬱】涼宮ハルヒを語れ その92

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874名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 21:22:52 ID:DQ0ef9tN
なんかハルヒスレなのにハルヒが出てきてないw
やっぱりSOS団のストナーサンシャインでトドメでw
875名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 21:26:11 ID:PcgAgXtS
SS書き上がったが展開納得行かないと凹みながら来てみればなんだこの流れwww
お前らノリ良すぎだ、いいぞもっとやれwww
876名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 21:26:37 ID:iRbOr7bw
やっぱりハルヒは後ろから抱きしめるに限る byキョン
877名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 21:31:08 ID:PHAi9+mg
ファーストガンダムのネタで大いに盛り上がるハルキョン+宇宙人三人娘+みくる

スタゲネタ振って場の空気を冷やしてしまう古泉って電波
878名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 21:35:26 ID:i3HBndM9
ジャンボグレード涼宮ハルヒ
879名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 21:44:23 ID:DQ0ef9tN
ハルヒ「ハルヒ、行くわよー!」
キョン「キョン、行くぞ(って何で俺だけあだ名なんだ)」
長門「……出る」
みくる「え、えー、あれ?これどうするんですかぁ〜?」

古泉「マッガーレ」プシューン
某「何!?ビームが曲がった!?」
880名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 22:18:56 ID:kiAXgccK
まだ朝倉と仲良くしていた頃のキョンにジェラシーなハルヒ
881名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 22:21:11 ID:tN2pN4IR
ハルヒのノマカププチオンリー行った人いる?
行きたかったけど行けなかったよorz
882名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 23:30:30 ID:y5MYdoWG
>>880
嫉妬の対象はキョンなのかw
883名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 23:36:21 ID:P+9t5UkA
仲良くしてたかというと微妙なラインだけどなw
しかし朝倉の社交性と長門の社交性は正反対だよな
884名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 23:41:29 ID:qc7pHq4V
キョンの家庭教師を終えて一息ついていたところ、妹がリコーダーの練習をしているのが聴こえたので
一緒にリコーダーを吹いてコツを教えてあげるハルヒ
885名無しさん@お腹いっぱい。:2008/06/30(月) 23:46:31 ID:HPKRYntj
>>881
ハルキョン本を買ってホクホクの俺が通りますよっと
886ハルキョン SS それから:2008/06/30(月) 23:48:27 ID:QcvGmU7U
「……あのっ!その……す、好きです!付き合ってください!お願いします!」
高揚と羞恥の入り混じった裏返った声。内容からしたらそうなるのも無理はない。なにせ愛の告白なのだから。
「……ごめんなさい」
心底悪いと思っているような声。それでもはっきりとそう答えていた。
「…………ありがとう……ございました」
絞り出す声は儀礼のような潔さと強制力をもっていた。
「……終わったか?」
「うん……」
身を隠していた壁から顔を出し問いかけるでもなく呟く。
「今年に入って何回目だったかな」
俺達が3年になったということは新しく一年が入ってくると言うわけでそんな一年が玉砕する様を見てきたわけだ。
凄い撃墜率だな、なんて茶化してやろうと思ったがハルヒの思いつめた横顔に軽薄な言葉を溜飲とともに嚥下する。
ほっとしている自分が嫌だった。

朝比奈さんが卒業し、SOS団は4人になった。ハルヒは新しい部員を入れようとはしなかった。
言葉にはしなかったが俺も賛成だった。
入学してからの2年間とちょっとでハルヒは随分丸くなった。それが加速したのは朝比奈さんの卒業のように思える。
人と会話するようになったしあの近づきがたいオーラもなくなった。
だからこそ、今の時点で俺の知っている限りで総勢52名(女性含む)もの告白を受けたわけだ。
中学のハルヒならともかく今のハルヒが簡単に告白を受けるわけないと思っていたし知っていた。
それでも誰かのものになってしまうハルヒを想像するだけで苦瓜を丸呑みした気分になった。

だったらお前が告白すればいいだろ、一年からの友人より上、親友以下は簡単に言う。
でも俺達は近すぎる。いまさらそんなことを言えないくらいに近すぎる。
この関係が壊れるのが怖い。チープでループなこの思いは幾千と重ねられた人類の愚考だ。
わかっていても、すぐ傍で、手が触れそうなこの距離が、手放せそうにない。

涼宮さんは待っているんだと思いますよ、超能力者以上親友以下はにこやかに語る。
何をだ、とはぐらかす。それきりそいつは黙る。わかっていることを何度も言う必要はない。

ある日部室に入るとハルヒが一人で窓の外を見ていた。
俺が入ってきたことにも気付いていない。集中ではなく散漫で気付いていないようだ。
何か口ずさんでいる。歌のよう、伴奏なしの独唱、上等なものではなくただの鼻歌。
アップテンポなリズムなのにどこか悲しい失恋の歌だった。Lost My ……。

「ハルヒ」
「わっ!な、なによ。もう驚かさないでよ」
「お前、これから先も世界を大いに盛り上げるつもりか?」
「え?あ、うん、当たり前でしょ。何の為にこの団を作ったと思ってるのよ」
「一つ聞いていいか、なんで『世界を大いに盛り上げる』なんて言葉思いついたんだ?」
「えっと、それは……」
ハルヒは歌と同じ顔をした。
「別に、なんでもないわ。宇宙的インスピレーションがこうビビッと来たのよ。っていうか、なによ急に」
ハルヒにそんな顔させるなんて世界で、いや宇宙でたった一人しか出来ないに違いない。
そいつは将来ハルヒがどう思うかなんて深く考えずに言ったに違いない。
鶏が先か卵が先か、そんなもの突然変異の卵が先に違いない。
自分に嫉妬するなんてどうかしてる。でもそれは正しい気持ちだと思う。
あのときの俺と今の俺は違うんだから。
だから、ジョンスミスからハルヒを取り返さなきゃいけない。
「ハルヒ、世界を大いに盛り上げるのはかまわんが一人じゃ無理があるんじゃないのか」
「だからSOS団作ったんでしょ」
「なるほど、しかし朝比奈さんは卒業しちまった。来年には皆バラバラだ。それでも続けられるのか?」
「っ!それは……。出来るに決まってるでしょ、あたしを誰だと思ってるのよ!」
「無茶言うなよ、昔ならともかく今のお前じゃ一人はきついだろ」
言葉に詰まるハルヒ。だから。
「だから俺に手伝わせてくれ。この先もずっと」
「え……そ、それって」
「お前のことが好きだから」
その後は大変だった。泣いたり笑ったりするハルヒを必死でなだめていた。だがまあ返事は言うまでもないだろう。
世界を大いに盛り上げる涼宮ハルヒとキョンの団を、今までもそしてこれからも、よろしく。
887名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 00:04:38 ID:P+9t5UkA
こ、この見事な構成力……ひょっとして帰ってきたのか!? 
うおーGJ!! あれ?目から汗が…
888名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 00:05:48 ID:dRMJ7I3o
シンプルさがまことに良いなGJ。
ジョンかキョンかってみんな思うところは同じなんだね。
889名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 00:13:43 ID:+nrINHUi
>>886
この雰囲気のSSは久しぶりだな、GJ!!
890SS「深夜ラジオ再び」:2008/07/01(火) 00:40:08 ID:/qYl+qH+
さて次のメールは西宮市のカチューシャさんからです。いつもありがとう 

こんばんわ、例の部活の鈍感男なんですが、この前の放送の次の日にいきなり
謝ってくれました。嬉しかったけどDJのリョウコさんがアドバイスしてくれた
あたしの事をどう思ってるのかをまだ聞く事ができません。だって恥ずかしいもの
あいつ優しいから、いろんな女の子が好きになっちゃうかもしれない
どうしたらいいですか?リクエストは「恋のミクル伝説」をお願いします。

すいませんカチューシャさん、実はリョウコさんは先日カナダに留学してこの番組を降板してしまったので
代わりに僕がお答えします。相変わらず鈍感な彼に苦労しているようですね
ひょっとしたら彼を好きになってしまうのは女性だけではないかもそれませんよ
その部活にイケメンの笑顔の似合う男性部員でもいたら要注意です。
早く彼の態度をはっきりさせるために二人で部活の野外活動でもしてみたらいかがですか?
では本日のラストナンバー「恋のミクル伝説」聞いてください。
以上、新DJ イツキがお送りしました。

俺はラジオの電源を切り、押入れにしまったままの金属バットを取り出し
顔面をフルスイングするべく素振りを始めた。
明日場外に叩き込んでやる。
 
891長門 有希:2008/07/01(火) 00:44:16 ID:DuijhdJj
892名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 00:46:46 ID:/qYl+qH+
>866,GJ!あとこのSSは引退した奴が書いたものじゃないと思うが・・・
893名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 00:54:59 ID:+nrINHUi
>>890
最後のキョンの台詞は、ちとNGじゃないか?
ひ〇ら〇を連想してしまう…
894名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 01:00:33 ID:1ghNa5PR
キョン「あれが涼宮ハルヒか・・・乙女座の俺にはセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない」
895名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 01:04:16 ID:9VwCV2JH
>>893
ひいらぎ?
896名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 01:08:37 ID:+nrINHUi
>>895
ひぐらし
897名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 01:14:51 ID:SKGKPQXm
>>895
七夕生まれの双子?
898名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 01:24:55 ID:K5t/7kmH
>>890
GJ!面白いw
899名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 01:48:12 ID:uX9UJZw3
>>886
GJ!この雰囲気が良いな
>>890
ワロタww次は誰だw
900SS「深夜ラジオみたび」:2008/07/01(火) 02:19:08 ID:iB9WJ/Ko
ゲッ、次のメールは、また西宮市のカチューシャさんからです。いい加減にしてくれ

こんばんは、もう嫌になっちゃう、あの鈍感が部室で胸の大きな子といちゃついてたから
頭にきちゃった。もう嫌だ、いっそあいつと二人だけの世界に行きたいなんて考えながらふて寝したら
凄い夢をみたの、真夜中の学校であいつとあたしが二人っきりになって怪獣に追いかけれて
グランドまで逃げたらね、急にあいつがマジな顔していきなりキスされちゃった・・・
キャーあたし何かいてるのかしら!?そのとき「実は俺、ポニーテール萌えなんだ。おまえのポニーテールは反則的ににあってたぞ」
なんて言われちゃった。
ひょっとしたらあいつも同じ夢を見たかと思って次の日ポニーテールにして学校に行ったら
会ってすぐに、「似合ってるぞ」なんて微笑みながら言ってくれたの!
だから今日はこの曲をリクエストします。

うわー!だからこの番組出たくないって言ったんだよ!勝手にやってろこのバカップル!どうぞごゆっくり!
はいはい、ではドリカムの「うれし、たのし、大好き」聞いてやってくれ

俺はベッドの下に隠したエロ本のなかから、お勧めやつを傷心の友人に贈呈する事を決めた。
901名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 03:19:36 ID:eLYowPVm
>>900
谷口wエロ本てww
902名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 05:21:37 ID:2/wpTshv
>>886
GJ! いい話だー!

>>890, >>900
ラジオktkr! 古泉も谷口も何やってるんだwww GJ!

投下ラッシュ何で自重しようかと思ったんだが、季節もの何で投下させてもらいます。3レス予定。
903ハルキョンSS 半夏雨 1/3:2008/07/01(火) 05:22:38 ID:2/wpTshv
 なんてこった。
 今日7月に入ったばかりといえばまだ梅雨最盛期で、当然雨が降ることなんか天気予報を見なくても空を見れば充分予想出来るってのに、よりによって傘を忘れてしまうなんてな。
梅雨も後半になると雨の降り方は激しく、走って帰れば大丈夫なんてとても言えるような状態じゃない。2〜3分もすれば全身濡れ鼠、下手すりゃ鞄の中の携帯も壊れそうな勢いである。
これが夕立だってならしばらく待てばいいのだが、梅雨の雨ともなればいつ止むともしれず、誰もいない昇降口から激しく降ってくる雨を途方に暮れて眺めていることしか出来なかった。
 誰かさんのように職員用の傘をかっぱらってくるか、と思ったとき、後ろから誰かが歩いてくる足音がしたので振り返る。なんだ、お前か。
「やんなっちゃうわね、この雨」
「まったくだ。しかも俺は傘持ってないしな。お前持ってるか?」
「あたしも持ってないわ。職員室に寄ったけどもうなかったもの。みんな同じこと考えてるのかしらね、1本くらい残しておきなさいよ」
 お前のためにわざわざ自ら進んで濡れることを良しとするお人好しなんか蜂蜜好きな黄色い熊くらいしかいないだろ。
 しかしハルヒも傘を持っていないとなるとどうしようもない。持っていれば不本意とはいえ同じ傘に入れてもらうことを考えていたのだが。
「こういう日は傘置きにあるのも壊れた傘くらいなのよねー。どこかで調達出来ないかしら」
 人の物を使うことに良心の呵責を覚えないのかお前は。傘置き場を漁っているハルヒに呆れた視線を投げかけてから再び灰色の空に目を戻す。
ハルヒが本気になりゃ天気くらいどうとでもなりそうだが、もちろんそんなことをさせるわけにはいかない。たかだか1度濡れることを世界の物理的秩序と引き替えにする気はないんでね。
 やれやれ、と溜息をついてなんとなく足下を見やった俺は、そこにさっきまではなかったものを発見した。なんだ?
いや、さすがに最初から足下にあったなら気がついてるさ。絶対さっきまではなかったと言い切れる。何でこれが今ここにあるんだ?
 子供の頃に使ったような黄色い傘。今見ると随分小さく見えるな。しかし、どっから出てきたんだ、これ。
 考えるまでもなくハルヒが何かしたとしか思えない。しかし理由がわからん。もし傘が欲しいと思うなら、何もこんな子供用じゃなくて普通の傘を用意すればいいじゃねえか。何を考えてるんだ、いったい。
 試しに傘を開いてみたが、やはり小さい。1本しかないがこれで2人入るのはちょっと無理だな。雨が激しすぎる。
 俺が首を傾げていると、ハルヒが俺の持つ傘に気がついたらしい。
「あら、傘持ってるじゃないの!」
「いや、持ってたんじゃなくて、今そこにあったんだよ」
 どう説明したものかわからないまま適当に言うが、ハルヒは別に傘がそこにあったことには疑問を持っていないらしい。
「子供用? 何でこんなところに子供用の傘があるの? 誰かの親が弟か妹でも連れて学校に来たのかしら」
 その可能性もあるが、違うと思うな。これが最初からなかったことは間違いなく、途中でその傘の持ち主が来たなら俺たちの目に付かないわけはない。
「わからん」
 それ以外にこたえるべき言葉がみつからない。
「うーん、これじゃ小さすぎて2人じゃ入れないわよね。……ねえ、キョン?」
 最後の呼びかけだけ、がらりと声の調子が変わった。どう説明すればいいのかわからんが、いつものハルヒとは違う。何か企んでいるのか?
「なんだ?」
 警戒しながら返事をする。
「知ってる? 今日はね、天から毒が降ってくるのよ」
「なんだ突然」
 天から毒? 雨ならさっきから鬱陶しいほどに降っているが、これが毒なら人も生き物もとても生きてはいけないだろうが。
 ハルヒは俺の言葉なんか聞いちゃいないように、繰り返す。
「天から毒が降ってくる」
 そして、見たこともないような微笑みを浮かべて俺を見つめた。何だ、何がいいたい。これは何かの謎かけか? 古泉あたりに入れ知恵でもされたのか?
「この傘じゃ、2人は入れない。だから、あたしかあんた、どっちか1人は死ぬの」
 何を言ってるんだ? お前がどんな不思議ごとを探していたって、毒が降ってくるとか誰か死ぬとかそんなことは望んでいないんだろ? さっきまでいつものハルヒだったってのにいったいどうしたって言うんだ。
「ねえ、キョン」
 その声と表情は俺の知らないハルヒ。ハルヒはこんな顔はしない。こんな――――“女”を意識した声は出さない。
「あたしが死ぬかあんたが死ぬか、あんたならどっちを選ぶ?」

 ぞくり、と背中に何かが走った。
904名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 05:23:38 ID:2/wpTshv


「…………」
 気がつくと俺は天井を眺めていた。あれ? 俺さっきまで学校にいて、ハルヒと……。
 まだはっきりしない頭で何とか現実を把握しようと努力していると、突然けたたましく目覚ましが鳴って俺は飛び上がるほど驚いた。
目覚ましの音は急速に俺を現実に引き戻し、先ほどまでのことは夢であったと告げている。
「夢、か」
 なんとなくホッとして目覚ましを止めた。意識がはっきりするに連れて夢であったとの認識が濃くなってくる。以前に見た現実感がありすぎる夢とは違うな。
しかし何でまたこんな夢を見るんだ、俺の頭はどうなってやがるんだ。
 勢いよくドアを開けて妹が乱入してきた。起きている俺を見てきょとんとした顔をしている。
「あれえ? キョンくん起きてるの? 雨でも降るのかな」
 おい、さりげなくひどいことを言うんじゃない。そんなに俺が起きてるのがめずらしいか。第一梅雨なんだから俺が起きてようが寝ていようが雨が降ってもおかしくないだろうが。
 妹を追い出して支度を始めつつなんとなくカレンダーを見てみる。昨日めくっておいたカレンダーは新しい月を示しており、今日はその最初の日だと教えてくれた。
「1」の数字の脇に小さく「半夏生」と書いてあるのを見て、俺は先ほどの夢の理由に思い当たった。確か昨日の天気予報で、今日は半夏生だと言っていたな。
昔から天から毒気が降ってくると言われており、井戸に蓋をしたりその日には野菜を収穫しないようにしていたそうだ。そんな話が頭の片隅に残っていて、あんな夢を見せたのだろう。
しかしよりによってハルヒかよ。どうせ知り合いが出るなら朝比奈さんがいいに決まってるじゃないか、頼むぜ、俺の頭。
 窓の外を見ると、今にも降り出しそうなどんよりとした灰色の雲が空を覆っていた。なるほど、こんな空なら毒でも降ってきそうって気にもなるな。
 ……今日は傘を忘れないようにしないとな。


 もうすぐ期末テストが始まるということで多少は勉強に身を入れなければならないと思いつつ結局ほとんど授業の内容なんか理解出来ないまま放課後になり、これまたいつも通りの無意味で意義を今更見出すことも放棄している時間を過ごしていた。
「あら、雨が降ってきたわね」
 窓の外を眺めていたハルヒが呟いて、俺は何故かドキッとした。今朝の夢はあらかた頭から抜けているのだが、最後の部分だけはやけにはっきりと覚えていて、まさかという気にさせられる。
だいたい、俺はちゃんと傘を持ってきているんだから正夢になりうるわけもない。
「雨がひどくならないうちに帰った方がいいわね。今日はもう解散!」
 いつもより早い時間で終了宣言を出したハルヒは鞄を引っ掴むとそのままさっさと部室を出て行ってしまった。
 やれやれ、いよいよ正夢にはほど遠い結果となってきたな。どうもハルヒの出てくる夢ってやつは何かあるんじゃないかと言う気になっている自分に気がついて苦笑する。よしてくれ、そう毎回何かあっても大変なだけじゃねえか。

 残された俺たちも帰り支度をするか、と思ったが、長門は時間まで本を読んでいたいといい、朝比奈さんは着替え、教室に忘れ物をしたという古泉も去ってしまって結局1人で昇降口へと向かうことになってしまった。まあいいけどな。
905ハルキョンSS 半夏雨 3/3:2008/07/01(火) 05:26:46 ID:2/wpTshv


 靴を履き替えて外に出ようとして、そこに佇む駅前で主人が出てくるのを待っている忠犬のような人影に気付いて俺は足を止めた。先に出て行ったのにまだ残っているってことは、もしかして。
「よう、帰らないのか」
 先ほどより強くなった雨を見ながら隣に立つと、俺に不機嫌そうなまなざしを向ける。いや、雨降ってるのは俺のせいじゃねえぞ。
「傘忘れたのよ。職員室に寄ったけどもうなかったし。みんな同じこと考えてるのかしらね、1本くらい残しておきなさいよ」
 おいそのセリフどっかで聞いたような気がするんだが、気のせいか。
「あんたは傘持ってるの?」
「ああ」
 そう言って傘を広げると、ハルヒに差し出した。
「ほら、入れよ」
 子供用の傘じゃないから、多少濡れるかもしれないがちゃんと2人で入れるぜ。
「な、なによ、あんたにしちゃ気が利くじゃない」
 ふと、また今朝方の夢を思い出す。あれは結局夢でしかなく、この目の前にいるハルヒはいつも通りで反応も予想通りだ。
こいつが俺かハルヒかどっちかが死ぬなんて選択を迫るわけもないが、もしあの夢と同じように今降っている雨に毒が含まれているとしても、どちらかが死ぬなんて選択は絶対にしない。
よく考えなくても死ななくていい選択肢なんかたくさんあるじゃねえか。親に迎えに来させてもいいし、いっそ文化祭のときみたいに部室に泊まりこんじまってもいい。どうせ毒が降るのは今日だけだ、明日になればどうとでもなる。
 そう、死ぬとかそんなことを考えるだけバカバカしい話だ。だいたい、ハルヒが俺やハルヒ自身、それにSOS団の連中もそれ以外のどんなヤツのことだって死んで欲しいなんて思うわけがない。
あの夢は多分「毒」という言葉から連想した俺の妄想でしかないのだろう。

「何ボーッとしてんのよ! 早く帰るわよ!」
 ハルヒに急かされて雨の中を一歩踏み出した。雨脚はどんどん強くなっているようで、確かに早く帰った方がいいな、これは。
 傘を弾く強い音を聞きながら、なんとなく、ハルヒの方に傘を寄せる。俺の肩に雨がかかるがまあこいつが濡れたらそれはそれで文句を言いそうだしな。だったらまだ自分の肩を犠牲にした方がマシだ。
別に今朝の夢が気になったとかそんなことはない、断じてない。だいたいこれで俺が死ぬわけはなく死ぬくらいならハルヒなんか放ってさっさと帰ってるさ、間違いない。
 ハルヒは俺が濡れていることにに気がついたのか、突然傘を持つ俺の腕に抱きつくように身体を寄せた。
「お、おい?」
 突然の行動に戸惑いながら声をあげるが、ハルヒは俺から視線をそらして首だけ明後日の方を向いている。おい、首が痛くならないかその体勢。
「くっついてないと濡れるから仕方ないでしょ! 試験前だし、あんたが濡れて風邪でもひいて赤点なんか取られたらSOS団の活動に支障がでるし! ああもう、いいから早く行く!」
 大昔に流行った人形が乗り移ったかのごとく腕に抱きつかれては少し歩きにくい気がするんだが、無理に振りほどくこともないだろう。だが夢とはまた違った意味でハルヒらしくないような気もする。
「半夏生は毒が降るらしいからな。まあしばらくそうしていてくれ」
 毒に降りかかられてはかなわん、ということにしておこう。俺は俺で俺らしくないとかそういうツッコミは封印しておいてくれ。なんて、俺はいったい誰に頼んでいるんだろうね。
 腕に感じる温もりと押しつけられる柔らかさに戸惑いながら帰路につく。なんとなく半夏生の雨に感謝したい気分にもなるんだが、それが何故かとは考えないことにしよう。

 いつの間にか普段の調子に戻っているハルヒの笑顔に一足早い夏空を思い浮かべながら、俺は梅雨はいつ頃あけるのかねなんて考えていた。
 まあそれでも、たまにはこんな雨の日も悪くはないか。


  おしまい。

---
ゴメン、前レスまた名前欄忘れたorz
・ 半夏生(はんげしょう)の頃に降る梅雨後半の強い雨のことを半夏雨と言うらしいです。
・ 半夏雨と「半夏生に毒が降る」ということに直接的な関係はないはずですがw
・ 今年の半夏生は7月1日ですが、例年だと2日のことの方が多いみたいです。
906名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 05:27:26 ID:CGrEjn9A

改行しろよって誰かツッコめよこれはいくらなんでもww
907名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 05:57:18 ID:oBUr9S05
>905
面白かったよGJ
908名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 06:02:40 ID:2/wpTshv
>>906
ごめん、つい面倒で最低限しかしてなかったw
レス数を減らしたかったというのもあるが。
>>907
GJありがとう。
909名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 06:41:20 ID:ecZf5iII
いいねえ。乙ってなもんだねえ。
改行についてはうちの専ブラでは気にならなかったわ。
設定次第かもね。
910名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 06:51:02 ID:vnQRCeJK
みんなGJなんだよおハルにゃん。

>>905
ハルヒが朝倉さんになるのかと思ったぜw
911名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 09:08:20 ID:K+48chrp
GJ! 半夏生か。知らなかったぜw 電波はこういうところから受信するんだな。
あとケータイの俺は改行が無い方が読みやすかったりするが、環境が違うとまた変わってくるんだろうな。


心機一転するために部室を模様替えするハルにゃんという電波が。
912名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 09:12:10 ID:eLYowPVm
GJ!!

>>910
俺もそう思ってかなりドキドキしたww
913SS「深夜ラジオ、オールナイト北高」:2008/07/01(火) 12:16:32 ID:k4CXN6U0
はい、リクエストのコーナー最後の1曲になりました。
今日はお手紙ですね、ありがとうございます。PN・カチューシャさんからのお手紙です。

こんばんは、いつもこの番組を楽しく聴いてます。
絶対あたしの気持ちをわかっているのに、あの鈍感男がなかなかはっきりしてくれません
あたしの片思いなのかな・・・、今日なんか同じクラスのバカにエロ本を渡してました。
しかも巨乳もの、同じ部活に巨乳で萌キャラの子がいるんだけど、そっちのほうが好きなのかな・・・
その子はあたしの大切な友達だけど、絶対に負けたくない!
どうやったら勝てるでしょうか?リクエストは「オッパイがいっぱい」をお願いします。
 
カチューシャさんに大変なライバルがいるみたいですね、こんな方法はいかがですか?
彼とふたりになった時に、おもいきって禁則事項して、更に禁足事項して二人の関係を規定事項にしてしまったら
いいんじゃないかな?それしか方法はないと思うよ
あと鈍感な彼!この放送を聴いていたら早く素直になりなさい!下駄箱に不幸を呼ぶ手紙が入ってるかもよ
ではカチューシャさんのリクエストで「オッパイがいっぱい」を聞いてください

俺はラジオの電源を切り、


どうしたらいいんだ?・・・・
914名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 12:41:31 ID:gKH4t+Zz
>その子はあたしの大切な友達だけど
友達という割りには結構おもちゃのように使ってるのは気のせいか?
915名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 13:20:15 ID:K+48chrp
初めそう思ってたみたいだけどね。
今は違うよ。
みくるもいつの間にやら楽しんでるようになってるしw
916名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 15:20:53 ID:ksdyn24i
いじめられてるように見えるけど普通に仲いいしな
長門と胸の大きさを比べるハルヒとかも見てみたい気はするが・・・
917名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 15:22:55 ID:c/GniMPe
休日に一緒に買い物に行く三人娘も見てみたいな
918名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 15:55:17 ID:H8rpgGE2
落語ネタで一本書いたんだが、明らかに新作落語になってしまった上に
ハルキョンとは微妙に言い切れない感じになってしまった……。
投下先に悩むぜ。VIPはまだ規制中だし、ユビレスの時みたいに
また避難所投下かなあ……。
919名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 16:04:16 ID:vnQRCeJK
ユビレスは十分ハルキョンだったぞ?w
920名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 16:09:06 ID:LCZCqdSo
いやあんたの作品だったらまったく問題ないと思うぜ?
さあ投下だ!
921名無しさん@お腹いっぱい。:2008/07/01(火) 16:13:08 ID:Yj//o+uH
ネタバレ・ハルヒのキョンの本名は清野大地
922SS 『新説・おみくの皿』 01:2008/07/01(火) 16:13:54 ID:H8rpgGE2
>>919-920
そんじゃ御言葉に甘えて……。
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「まーた一杯食わされちゃったわ! まったくなにがのっぺらぼうよ! ハゲ親父の後ろ頭じゃないの!」
 俺の前をツッタカツッタカと歩いている女は、肩をいからせ頭から湯気を立てんばかりに激怒している。
 まぁ、暗がりでみたらそう見えないこともないだろうさ。それにあそこの蕎麦はなかなか美味かったじゃないか。それでよしとしとこうぜ。
 愚にも付かない慰めを幼馴染みに投げてみるが、まぁ火に油だろうね。
「バカいってんじゃないわよ! 確かにお蕎麦は美味しかったけどね! あたしは美味い物巡りの紀行文を書きたいわけじゃないのっ!」
 やれやれ、案の定だ。
 まぁまぁ落ち着けって。大体そんじょそこいらにそんな不可思議なもんが落っこってるわけがねえだろうよ。
 見世物のオオイタチだってデカイ杉板に鶏の血がぶちまけてあるだけ。目が動くっていう幽霊画は目の塗料に砕いた石が混ぜてあっただけ。首が伸びるっていう長屋のおかみさんはムチウチになってただけじゃねえか。
 世の中そんなもんなんだって。
「うー……でも、絶対どこかにあるはずなのよ! 混じりっけのないホンモノの不思議がっ! あたしはね! それを絶対見つけて江戸で一番売れっ子の戯作者になるんだから!」
 へいへいっとね。まぁ夢追いするのは構わんが、いくら寺子屋の幼馴染みとはいえ、いつまでも引っ張り回さねぇで欲しいもんだがねえ。
 さっきからプリプリしてるのは俺の幼馴染みのお春だ。頭は良いし器量も好い、竹刀を持たせりゃ町道場じゃ男顔負けの強さだ。現に俺も勝ったことがないしな。
 そんなお春が目指してるのは、夢はでっかく江戸一番の戯作者ときたもんだ。ガキの頃から天狗だ河童だ人魂だの話を聞きつけちゃ駆けつける物見高い女だったが、それに付き合わされ続けたまんま今にいたってる。
「キョン! 明日は大川の二本柳に行くわよ! なんでも身投げした人の幽霊が出るって話だからね!」
 全く……世を儚んで石を抱いたんだろ? 恨み辛みもあろうが、そっとしといてやれよ。ご供養するってんなら話は別だが、物見に行くのは感心しねえぞ。
「そりゃ出たら出たで供養もするわよ。でもその前に真偽を確かめなきゃいけないでしょ? そういうわけだから提灯忘れないでよね! それじゃおやすみ!」
 はぁ……全くやれやれだ。ガキの頃からのあだ名で人のことを呼びつけちゃ付き合わせて、挙げ句に送り迎えだ。甘味を奢らされたり今日だって蕎麦を三杯も食いやがった。
 あんなんで嫁の貰い手があったもんかね。
 大きく溜め息を吐きながら、俺は自分の家へと向かい始めた。陽はとっぷりと暮れてすっかり暗くなっている。やれやれ提灯が必要なのは明日じゃなくて今なんじゃないかねえ。

 そんなことを考えながら荒れ屋敷の土塀脇を小走りに歩く。川風が吹いたもんか、どうにも肌寒い。さっき蕎麦を流し込んだ身体も冷え始めてきた。
 こんな日は途中で熱いのでも一本入れたいところだね……なんて考えていると、突然ゾクっと全身に悪寒が走った。
 荒れ屋敷の壁はまだまだ続いているが、どうも今し方通りがかった崩れ塀の向こうから冷たい風が吹き込んできているらしい。
 ふと耳を澄ますと、冷たい風に乗せて女のすすり泣きのような声が聞こえてくる。
 よせばいいのに俺は二歩三歩と後戻りして、崩れ塀の内側を覗き込んでみた。
 すると月明かりに照らされた草もぼうぼうとした荒れ庭に、ぽつりと古井戸がある。
 ここは確か随分前に潰れた旗本屋敷だったはずだ。誰がここにいるわけもなし。夜鷹が客を引いて事に及んでるんじゃなかろうかとも思ったが、そんな気配もない。
 それでもなにやら女のすすり泣く声は聞こえてくる。
 よもや持病で苦しむ娘がいるんじゃなかろうか、辻斬りにでもあって助けを求めているんじゃなかろうか。
 そんなことを考えて、俺は崩れ塀から荒れ庭に足を踏み入れた。
「もし! どなたかいらっしゃるんですか?」
 返事はない。ただすすり泣く声がするばかりだ。
「具合が悪いんだったら、夜でも診てくれるお医者を知ってますから、いるなら返事してください!」
 荒れ庭を足下に注意しながら歩く。薄暗い月明かりだけでは細かい様子はわからないが、それでも相当荒れているようだ。
「なんだってんだ全く……井戸を吹き抜ける風音と聞き違えたもんかね」
 そう独りごちて踵を返そうとすると、突然身体が動かなくなった。参ったね、これが世に言う金縛りってヤツか。するってぇと次に来るのは……。
923SS 『新説・おみくの皿』 02
「ううっ……ひっく……あのぅ……いますぅ……」
 ひゅーどろどろなんていう音や人魂と共にうらめしや〜ってのが出てくると思いきや、随分と可愛らしい声が聞こえてきた。
 目だけを動かして声の主を捜してみれば、蓋の開いた井戸の上に、淡い色をした髪の娘が立って小さく手を挙げていた。やれやれ、どうせならお春と一緒にいるときに出てくれりゃいいものを。
 確認するまでもなく足はない。オマケに人魂も浮いてるし、そもそも『蓋のない井戸の上にいる』んだから、混じりっけなしの幽霊なんだが……。
――うん、怖くない。
 なんというか、まぁ声に違わぬ愛らしい娘さんだ。幽霊なんだけどな。それになんというかこう、全体的に弱々しすぎる。
 門前の小僧の経でも三文字詠んだら悲鳴を上げそうな弱々しさだ。人魂なんて桃色だぜ? 触っても火傷もしなけりゃ煙管に火もつけられそうにないね。
「あのぅ……えっと……うらめしやぁ〜……」
 はいはい。えーと、どんなご用件で?
 俺は緊張が解けたせいか金縛りもなくなったので、袂の内で腕組みして娘幽霊さんに向き合った。
「えっと、そのぅ。お皿を数えるので、聞いていって下さいぃ〜……」
 はいはい、お皿ね。見れば娘幽霊さんは、井戸の中から木箱を取りだし、丁寧に蓋を開けている。
「いきまぁ〜す……いちまぁ〜い……にまぁ〜い……」
 随分とごゆっくりだね。ちなみに娘さん、お名前は?
「あ、はい。おみくっていいますぅ〜」
 ほうほう、おみくさんね。で、なんでまた井戸なんかに化けて出てきたんで? おまけに皿を数えるなんて、そんなんで恨み辛みが晴らせるんですかね?
「あのぅ、えっと……それがよくわかんないんですぅ〜」
 へぁ? よくわかんないって……。
 俺は方眉を上げて思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

 ◇ ◆ ◇

「えっとですねぇ……」
 そういうと、おみくさん(幽霊、歳は数えで十八だそうだ)は、身の上話を始めた。
 なんでも奉公に来たこの旗本屋敷で働いていたそうだが、いかんせん生来の……まぁ言葉は悪いが粗忽者だったもんで、随分と失敗をしたらしい。
 それでも器量好しな上に人柄もいいもんだから、奉公人仲間にも主人にも可愛がられてたんだそうだ。
 ところがある日、この旗本屋敷の家宝の十枚組の皿を手入れしていたところ、なにをどうしたもんだか九枚しかなくって大慌て、失くしたもんだと思って家中探し回ったが出てこない。
 最後は神頼みということで、井戸で水垢離をして失せ物探しのお参りに行こうとしたらしいんだが、足を滑らせて井戸にどっぽん――ってなことらしい。
 やれやれ、随分な粗忽加減だねえ。
「で、それで皿を探して恨めしやってことなんですかね?」
「いいえぇ……そのう、それが違うんですぅ〜」
 は?
「えっとですね、その、お皿は実は一枚、旦那様が持ち出してらっしゃったんですよぅ。お友達に見せるとか、そういうご用事だったそうで〜……」
 ほうほう。
「でも、わたしが井戸に落っこちちゃったもんですから、責任を感じたらしくって……心労で倒れてしまったんですぅ」
 なるほどなるほど。随分可愛がられてたんですねえ。
「はいぃ。でも、その、そうしたらこう……わたしの祟りだって話になって……」
 ほー。まぁそういう考え方もできますね。
「わたし、違うんですって何回も夢枕に立って説明したんですけどもぉ……」
 ま、幽霊になっちゃそれくらいしかできませんよね。
「そしたらますます祟りだって事になっちゃって……お家もこんなになっちゃって……ひっく……ぅう……旦那様、悪く、ないのにぃ〜……」
 やれやれ、幽霊に泣き出されちゃ手拭いも渡せないね。
 まぁまぁ事情はわかりましたけどね、じゃあ別にあなたに咎があるわけでなし、成仏したらいいじゃないですか。
「わたしもそうしたいんですけど……心残りになっちゃったもんですから……なかなか成仏できなくって……」
 それで今も皿を数えてる、と。
「はいぃ。でも、お皿はちゃんと十枚全部あるんですよぅ。何回数えても……だから別に恨みもなにもないんですけどぉ〜……」
 そりゃそうだ。
 そう相槌を打ってから、俺ははたと気がついた。