【リリカルなのは】ヴィータは真紅の花カワイイ8【StS】
誰もいない時間を狙って新年早々長々とSS落としてく。
「航空戦技教導隊に来ない?」
この一言を聞いてからヴィータはずっと考えこんでいた。
(あたしははどうすればいい?)
今後の自分の身の振り方なんて何も考えていなかった。
機動6課がずっとある訳じゃないという事は理解していたのに。
自分のガラじゃないと思っていた教官という立場も悪くない気分だった。
このまま教官をいうのも悪くないと思っていた。
あいつを・・・なのはを守る。あの時からずっと自分に言い聞かせた事だ。
航空戦技教導隊という場所はまさにうってつけの場所だ。
「だけどあたしは・・・・夜天の主を守るヴォルケンリッター、鉄槌の騎士ヴィータだ」
夜天の主を、はやてを守るのが守護騎士の務め。
なのはを守りたい。だけど、はやても守りたい。
「だけど、だけど・・・・あたしはどうすりゃいいんだよ!!」
「おおっ・・・・どないしたん、ヴィータ?急に叫んで」
「うわっ、はやて!?いつからいたんだよ!!?」
「ついさっきやよ。それより、考え事?」
「いや、そんな事ないよ」
言えない。いえる訳がない。守護騎士ともあろう者が主と同じ、もしかしたらそれ以上に守りたいと願う人がいるなんて。
「なんで・・・守りたいものばっか持っちまったんだろうな、あたし・・・」
「?」
「あ、その・・・なんでもねぇ、忘れてくれ!」
それだけ言い残すとあっという間に走り去ってしまった。
「どないしたんやろ、ヴィータ・・・・」
(自分で決めないと。自分の道なんだから)
局内の通路を難しい顔をしたまま歩き続けていた。
「あ、いたいた。ヴィータちゃん〜」
「なのは・・・」
正直、今だけは会いたくなかった。答えは見つからないままなのに。
「あのね、前話した事なんだけど。ただ航空戦技教導隊に来てって言っても判断に困るだろうと思ったの。
それでね、色々資料とか集めてみたんだけど・・・」
世話しなく手に持った資料を色々丁寧に説明を始める。
(好意で自分を誘ってくれているのはすぐに分かる。だけどあたしは・・・)
「それでね、この資料なんだけど・・・」
「なのは。その、悪い・・・」
「どうしたの?」
「誘ってくれるのはすげぇ嬉しいんだ。でもあたしは行けない」
説明をしていたなのはの手がピタリと止まる。
「ヴィータ、ちゃん・・・・?」
「別に航空戦技教導隊が嫌ってわけじゃないんだ。ただその、あたしははやてを守るヴォルケンリッターではやてを守らなくちゃならなくて・・・」
(我ながら酷い言い訳だな。人の好意を踏みにじってるってのに・・・)
ヴィータは自虐の思いにかられ続けていた。
「ううん、いいの。元々私が勝手に言い出した事だから。ゴメンね、無理言って」
「あ、なのは。その・・・」
「考えてくれただけでも十分だから。ありがとうヴィータちゃん」
なのはは広げた資料を強引に纏めると一言だけぽつりとつぶやいた。
「ゴメンね、ヴィータちゃん」
「なのは・・・」
ヴィータが聞き返すより早く、なのははその場から離れていた。
「ヴィータはな〜んか隠してるんやけどな。とはいえ、私がやたら深入りしてもあかんし、どないしよか」
どうしたものかとはやてが悩んでいる時、なのはの姿が目にとまる。
「おお、ええところに。なのはちゃ・・・ん・・・?」
「はやてちゃん・・・?」
はやてが驚くのも無理はなかった。目に涙が浮かんでいるのが分かったからだ。
「ど、どないしたんや?」
「え?やだな、はやてちゃんてば。何でもないよ」
無理に笑顔で答えてるのは手に取るように分かった。しかしそれ以上追及するのは避けた。
「そか。その資料・・・航空戦技教導隊のものかな?色々あるけど、どうしたん?」
「ヴィータちゃんに良かったらと思って・・・」
「じゃあすぐ呼んできたるさかい、ちょい待ってて」
「いいの」
うつむいたまま、なのはが続ける。
「ふられちゃったから・・・・やだな、私。何言い出すんだろ」
全ては分からずとも、おおよその事情ははやてには理解できた。
「なのはちゃん、それでええの?」
「私に強制出来る権利はないもの。ヴィータちゃん自身がそうしたんだから私がどうこう言っちゃダメだよ」
「・・・・・なのはちゃん!」
突然はやてに両肩を抑えられ、驚くなのは。
「うちに任せとき。何とかしたる。部下の悩みに付き合うのも部隊長の役目や。部隊長やからやない。大事な親友なんやから」
「だけどはやてちゃん・・・」
「ええから。あとなのはちゃんはもうちょいワガママ言ってもええと思うで。そういうところは全然あかんからな、なのはちゃんは」
はやてはなのはの肩から手を離して笑顔で応えた。
一方、その頃・・・
「んだよ!あれじゃあたしが悪いみたいじゃねぇか!いや、実際悪いんだけどさ・・・」
誰もいない私室で誰にともなく八つ当たりをしていた。
「いいんだ、いいんだよこれで。そうだよ、良かったんだよこれで」
自分に無理にそう言い聞かせている時だった。部屋をノックする音が聞こえる。
「ヴィータ、おるか?」
「はやて?あ、うん」
部屋の扉を開けるとそこにはやてはいた。
「ちょっとだけ、ええかな?」
「あたしは構わないけど・・・」
はやては部屋に入るとゆっくりとベッドに腰掛けた。
「さて、と。ところでヴィータ、さっきなのはちゃんに会ったんやけど・・・」
「それがあたしと何の関係が・・・」
「捜査の基本は聞き込みからやで?」
「だから、あたしはなのはとは何もない!」
「まだ”さっきなのはちゃんに会った”としか言ってへんけどな。なるほど、犯人はやっぱりヴィータやった訳か」
あっさりと誘導尋問に引っかかったヴィータはそっぽを向くしかなかった。
「泣いとったで、なのはちゃん」
「・・・・・・・」
「行ったらええやん。航空戦技教導隊、申し分ない就職先やないか。
それに、そこにおればなのはちゃんの事も守る事も出来る。何か不満でもあるんか?」
「不満なんかない。ないけど・・・」
「なら断る理由はないやないか」
「じゃあはやては誰が守るんだよ!」
ヴィータが声を荒げる。
「なのはに起きた事故が今度ははやてに起きるかもしれない。事故じゃなくてもそういう危険にあうかもしれない。
そんな時に側にいなかったから守れませんでしたなんて言えるかよ!
嫌なんだもう・・・あたしがいないところで大切な人が傷ついていって、何も出来ないのは!だからあたしは!」
「・・・なのはちゃんはもう守ってやらんの?」
「いいんだ・・・あいつは強いよ。誰よりも。あたしなんかが守らなくたって一人だって十分に・・・」
はやてはそっとヴィータを後ろから抱きしめた。
「ありがとな。ヴィータは私の事心配してくてるんやろ。だからなのはちゃんの誘いも断って・・・でもな、それじゃあかん」
「はやて・・・・」
「確かになのはちゃんは強い。管理局で1対1で勝てる相手を探すほうが困難なぐらい強い。でもそれだけでええんか?
魔力が強くて戦闘技能が優れてて・・・それで本当に強い魔道師なんか?」
「あたしは・・・・・・」
「ええよ、私には何も言わんで。でもなのはちゃんとはもう一度話すべきやないか?」
「・・・・・ちょっと行ってくる!」
ヴィータははやてから離れると勢いよく部屋を飛び出していった。
「ヴィータもなのはちゃんも不器用やな、ほんま。まぁそこがええところなんやけど」
「なのは!・・・くそっ、どこにいんだよ!」
苛立ちを隠さないままヴィータはなのはを探し続ける。なのはの魔力は遠くない場所から感じる。
「この辺からあっちの角度にだから・・・・・・屋上かよ・・そりゃ飛べるならすぐ行けるけど」
屋上までの道のりを最短距離で突っ切り、屋上に出る。
探していたなのはの姿はそこにあった。
何をするわけでもなく、ぼーっとしている。そんな感じだ。
「ヴィータ、ちゃん?どうしたの?」
「あ、いやその・・・・・・・・」
言いたい事はあるが、何を言うか考えていなかった。
そんな事言いだすわけにもいかない。
「なんでもねぇんだ。あんまり外にいると冷えるから気をつけろよって言いに来たんだ。それだけだ、それだけ」
真っ赤な嘘だ。でも何もいい言葉が出ない。一旦戻ってよく考えてそれから・・・ヴィータがそう考えた時だった。
「・・・・レイジングハート!」
「chain bind」
なのははレイジングハートの待機モードを解除すると同時にヴィータの動きの自由を奪う。
「おい!なのは!なんのつもりだ!離せバカ!」
「嫌。ちゃんと話してくれるまで離さない」
「わかった!分かったからこいつを解け!」
「解いた途端どこかにいっちゃったらスターライトブレイカーじゃ済まさないから・・・」
「(マジだな、ありゃ。おっかねぇ・・・)分かった。観念したよ。だからこれを解けよ」
なのははチェーンバインドを解除し、レイジングハートを待機状態に戻した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なんか話せよ」
「ヴィータちゃんが話したら話す」
「お前が先に話せ」
「ヴィータちゃんが先」
「お前だ」
「ヴィータちゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
少しだけ子供じみた言い争いを続け、また沈黙し続ける。観念したようにヴィータが口を開く。
「・・さっきの話なんだけどよ、なんで・・・あたしを誘ったんだ?」
「ヴィータちゃんに向いてると思ったから。それにヴィータちゃんがいてくれたら心強い。それじゃダメ?」
「あたしの助けなんかいらないだろ・・・お前は誰もが認めるエースオブエースなんだから。1人でもやっていけるって」
(違う、こんな事言いたかったんじゃないのに・・・くそっ!)
内心で舌打ちが止まらない。
「皆そう言うんだ・・・なのはさんは強いからって。なのはさんなら大丈夫だって。皆で私を過大評価しすぎだよ」
「でも結果的に今回の事件を含めて3つの大きい事件を解決したんだ。それは事実だろ」
「私だけじゃない。皆がいたからだよ。今回の事件だってヴィータちゃんが動力炉を破壊してくれて、
スバル達が救助に来てくれて、フェイトちゃんやはやてちゃんが力になってくれて・・・それで始めて解決したのに。
それなのに皆は”高町なのはがまたやってくれた”、”さすがエースオブエースだ”って。おかしいよね。
まるで私一人で全部やったみたいに思われて」
「なのは・・・・」
「ゴメンね、こんな話しちゃって。つまんないよね」
「・・・・・・・・」
「でも私も甘えてばかりいられないよね。ちゃんと1人でもやれるんだって頑張らないと皆に心配かけちゃうし」
「それでまた、同じ事を繰り返すのかよ・・・」
ヴィータが重い口を開く。
「1人で全部背負い込んで、1人で何でも解決しようとして・・・なんでお前はいつもそうなんだ!
あたしはお前ほど強くないけど、それでも・・それでも少しぐらいは力になれるつもりだ!それなのになんだよお前は!
そんなにあたしは頼りねぇのかよ!人に頼るのがそんなに嫌なのかよ!」
「でも私のワガママに皆を付き合わせる訳にいかないよ・・・」
「だったらあたしが付き合ってやる!お前の気が済むまでお前のワガママに付き合ってやる!」
「ヴィータ、ちゃん・・・・?」
「いつか言っただろ。お前の事はあたしが守るって。8年前の事故の時、お前も守れなかった。
傍にいたのに何も出来なかった。もうあんな事は絶対に繰りかえさせねぇ。いつだって、どこでだってお前を守る!
だから少しぐらいあたしを頼れよ・・・」
「うん・・・ありがとう、ヴィータちゃん」
なのはがゆっくりとヴィータを抱き寄せる。
「うわっ!お、おいなのは・・・」
「少しだけ、このままでいさせて。あと、私の顔見ちゃダメだから・・・」
「・・わあったよ・・・・・」
多くは言わず、なのはの言うとおり抱かれたままでいた。
「ホント、ダメだね私。自分のことを想ってくれてる人が沢山いるのに全然気づかないで・・・」
「やっと気付いたのかよ。お前はダメダメだ、最低だ、問題外だ」
「そんなに言わなくてもいいじゃない」
「事実だろ。・・・なのは、教導隊の話だけどさ、行くよ。お前と一緒に」
「・・本当に?」
「嘘言ってどうすんだ。お前が泣きたい時に泣けないんじゃ困るだろ。お前が泣く時に胸を貸すぐらいはしてやるからさ。
・・・・・ヴォルケンリッター失格だな、あたしは・・」
自虐的にヴィータがつぶやく。
「だったら、私がヴィータちゃんの新しい主になるよ!」
真顔でヴィータの顔を見つめるなのはから出た発言に固まるしかなかった。
「はぁ!?」
「だからその、再就職先というか・・」
「ヴォルケンリッターは職じゃねぇ・・・それにあたしの主ははやてだけだ。お前に主になってもらう必要なんかねぇよ。
主である必要なんかないんだからな」
「どういう事?」
「その・・・言わないとダメか?」
「ダメ」
なのはは笑顔でヴィータの断りをやんわりと拒否する。
「・・・・どっちが上とか下とかじゃなくて、同じでいたい。お前と肩を並べていたい。それだけだ。言ったからな!
これ以上何も言わないからな!」
「うん。ヴィータちゃん、私はヴィータちゃんが大好きだよ」
なのはの発言にヴィータの顔が真っ赤に染まる。
「な、な・・・・その、あたしは嫌いじゃない、ぞ。うん」
「嫌いじゃないっていう事は、私の事好き?」
「その・・・・・・・・・・・・・好き、だ・・・」
ヴィータが俯き加減に小さな声でつぶやく。
「ちゃんと聞きたいな」
「・・お前が・・・その・・・・好きだ・・・ああ、好きだよ!文句あんのかよ!」
「ううん、何もないよ」
なのははヴィータを抱きしめる腕に少しだけ力を入れる。
「ところで、いつまでこうしてればいいんだ?」
「私の気が済むまでかな。ヴィータちゃんがワガママ言っていいって言ったよ?」
「言ったけどよ・・・いいよ、お前の好きにしろ。約束したしな。けど、今だけだからな」
ヴィータはなのはに自分の全体重を預ける。
「うん。好きにする」
膝の上のヴィータをなのはは優しく抱きしめ続けた。
2人だけの時間はこっそりと様子を見に来たはやてが見つかるまで続く。