>>128 そのネタ貰うよ
「あ、あの・・・これ・・・・・・受け取ってくださいっっ!!」
「あ、ありがとう・・・」
決してチョコレートは好きではない。このイベントもむしろ嫌いな方だ。
しかし、まともに顔を見ないまま走り去る少女の背中を見て、自分が嫌われていないことは悪い気はしない。
――これで13個目・・・
毎年のことだが、今年は例年以上の数だ。
静馬がエトワール選であんなことをしたために、深雪の方にシワ寄せが来たのだろう。
「六条様、宅配便でございます。」
長いため息が漏れる。
「・・・あいてるわよ。」
気心の知れた仲間の声。
ドアを開けた主が扉の向こうから顔を出す。
「まったく、前エトワールを伝書鳩代わりにして・・・どういう神経してるんだか・・・」
「去年は生徒会長が伝書鳩代わりでしたからね・・・」
「まぁ、私は一人からのチョコレートで十分ですから。」
「ご馳走様でございます・・・」
「いえいえ」
彼女への皮肉も今は誉め言葉にしか聞こえないようだ。
机の上にある、深雪が直接貰ったチョコレート13個に、振り掛けるようにチョコレートと思われる箱を乗せていく。
「・・・いくつ預かってきたの?」
「16個。」
――うわ・・・
「知ってる人からも来てる?」
「えーっと・・・"六条様のベッドはとても暖かったです。また遊びに行ってもいいですか?" by月館千代・・・なにこれ?」
――あっ・・・
「あ・・・いや・・・あの・・・・・・」
静馬の目が細くなる。
「深雪も普通に慕われているだけじゃないみたいね・・・」
「そ、そんなんじゃないわよ!あのときは玉青さんに怪談話聞かされて眠れなくなった、って言ってたからつい・・・」
「だったらそんなに必死になる必要ないんじゃない?」
「うっ・・・」
「なんでそういうことは優しいのかなぁ?深雪姐さんは・・・」
「し、静馬も知ってるでしょ?私もそのようなことがあったの・・・」
俯きながら、静馬の顔を見る。
今、自分の顔を見たら火が出るくらい真っ赤だろう。
幸い顔は見られていない・・・
しかし・・・
「ふ〜ん・・・じゃあ"生徒会室のことは一生忘れません。エトワールにはなれませんでしたが、あの思い出だけで十分です。"by涼水玉青・・・これは??」
――あっ・・・
一瞬、深雪の顔から血の気が引いた。
「どういうこと??」
「しししし静馬が渚砂さんをさらったりしなかったら、あんなことにならなかったのよっ!!」
「だから"あんなこと"ってどんなこと?」
「いや・・・だから・・・」
「さぁおねえさんにその一部始終を言ってみなさい。ん?」
一瞬、静馬の後ろに黒い三角の尻尾が見えた気がした。
「べ、別にいいじゃない・・・人に聞かれたくない事だってあるわよ。」
「まさか玉青さんも渚砂辺りに怪談話聞かされたから、眠れなくなって生徒会室にでも行ったとか?」
また静馬の後ろに黒い三角の尻尾が見えた。
しかも今回ははっきり見えた。
――落ち着くのよ、深雪・・・
呼吸を整える。
「・・・守秘義務に当たりますのでノーコメントで。」
「え〜つまんない・・・」
静馬が鼻からため息を吐く。
自分が恋愛の真っ只中にいても、他人の、しかも親友の色恋沙汰に関しては、少なからず興味があるようだ。
「えっと・・・他には・・・」
静馬が山になっているチョコレートの箱の中から、興味深そうなカードを掘り起こしていく。
「静馬、もういい加減にしなさい。」
「旧年中はお世話になりました。残り短いお付き合いになるとは思いますが、今後ともよろしくお願いします。」
−−年賀状?
「・・・誰??」
「此花光莉・・・お歳暮感覚で持ってきたんじゃない?」
「確かに彼女は律儀なところもあるから・・・もう一人の方は?」
「んっっ・・・」
その言葉を無視して静馬が伸びをする。
「そろそろ帰るわ。甘〜い匂いと言葉でおなか一杯だし・・・」
「そう・・・手間取らせたわね。」
気の抜けたような表情の深雪に気付いた静馬が部屋を出る直前、おもいだしたように深雪に顔を向ける。
「あ、もう一人のエトワール様は"今度の土曜日は光莉が実家に帰るので、これを着て温室に来てください"って・・・」
その手には天音から静馬経由で送られた黒いレースの三角の布が・・・