「どこへ行くの?」
日曜日の午後、街角で偶然長門に出会った。よそ行きの服を着た俺たち兄妹の姿に、
長門はけげんそうな目を向ける。
「結婚式に行くんだよー!」
どこぞのお嬢様のような格好をした妹が、嬉しそうに言う。
「……あなたたちの?」
「そんなわけ無いだろ。親戚の姉さんだよ」
大安吉日の日曜日。姉さんに限らず、日本中で結婚式が催されているのだろう。
長門は少し首をかしげて俺たちを眺めたあと、
「わたしもいく」
あっさりと爆弾発言をした。
その後の長門の手際は見事なものだった。ドタキャンした出席者の存在を突き止めた長門は、
出席者名簿に情報操作を施し、招待状を偽造してまんまと結婚式にもぐりこんだ。
なんと俺たちと同じテーブルである。ちゃんとご祝儀まで持参していたから、俺には文句の
付けようが無い。世間は狭いのねぇ、などと母は感心していたが。
結婚式が始まった。
司会者は滞りなく式を進めていく。長門は料理を神速で胃に収めつつ、壇上に座る新郎新婦を
見つめていた。
こいつもやっぱり女の子なんだな。こういう場所に興味があるなんて。
そしてクライマックス。新郎新婦が、馬鹿でかいケーキにナイフを入れる。
その姿を、長門は瞬きひとつせず見つめていた。
…………マイフォークとマイスプーンをしっかり握りしめて。
今ならまだ間に合う。長門が心に傷を負う前に、真実を伝えておこう。
「長門。あのでっかいケーキはな、イミテーションなんだよ」
「イミテーション?」
「そう。あれは食べられないんだ」
ちゃりーん。長門のマイフォークが落ちる。
「────う、そ」
「本当」
あ。マイスプーンも落とした。
「気を落とすな長門。おれのデザートをあげるから」
「……………(しゃくしゃくしゃくしゃく)」
デザートのシャーベットをかき込みながら、長門は泣いているように見えた。
「おい長門、そんな急いで食べると……」
……やっぱりこめかみにキーンと来たか。頭を抱える長門に、俺は熱いお茶を手渡した。