1945年にエンジェル隊がタイムスリップ4

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7猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/08/17(木) 22:33:17 ID:n4NlrF4w BE:125761267-2BP(103)
昭和20年4月6日横須賀海軍病院 AM08:00
その後、フォルテは決定事項をヴァニラとミルフィーユ、ちひろに報告し3人もこれに了承した。
そして分隊も次のように決まる。
エンジェル隊Aチーム蘭花・フランボワーズ、ミルフィーユ・桜葉、烏丸ちひろ
エンジェル隊Bチームフォルテ・シュトーレン、ミント・ブラマンシュ、ヴァニラ・H、ノーマッド
「と、言うことだ」
「ありがとう、これで烏丸大佐にも報告が出来る。詳しいことは決まり次第報告するよ」
拓人は満足そうに笑うとバケツ2杯分のプリンを土産に一時横須賀を後にした。
「お姉ちゃんも外地にいっちゃうの?」
千晶がちひろの長い軍服を引っ張る。
「そうよ、ミルフィーユさんや蘭花さんをお守りしなきゃだめなのよ」
「お守りしてもらうほど弱くないわよ」
ちひろの頭を蘭花が笑いながらこっつく。
「あはは、そうですね。でもがんばりますよ」
「あ、そういえばちひろさん9時から私とシャープシューターの訓練ですよ。よろしくおねがいしますね」
ミルフィーユが微笑むとちひろも笑顔を見せる。
「はい、お願いしますミルフィーユさん」
「いいなぁ、お姉ちゃんは紋章機っていうのに乗れて。千晶ものりたいよ」
「これ千晶、紋章機は軍事機密ですよ私たちがおいそれと乗れるものではないのよ」
ヴァニラの額のタオルを換えながら幸が注意を促した。
「はぁ〜い」
腑に落ちなさそうに千晶が返事をするとミルフィーユが千晶に耳打ちをする。
「動画カメラの立体映像がありますから、お姉さんの訓練様子をもってきてあげますね」
そういうと千晶はうれしそうに頷いた。
「じゃあ行きましょうか?ちひろさんお散歩しながらいきましょう」
「はい、よろしくお願いします」
ミルフィーユが先に部屋を出ると急いでちひろが後を付けていった。

8ファンの名無し:2006/08/21(月) 22:26:53 ID:7++1Alu1
猛虎☆全勝氏、
前にイラスト描ける人募集していなかった?
同人板によさそうなスレがあったから貼っとく。
ひぐらしVS古畑任三郎共々ガンガレ。
あなたの小説の挿絵を描かせて下さい
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/doujin/1153539926/
9名無しさん@お腹いっぱい。:2006/08/23(水) 19:56:24 ID:eYR8y2a+
猛虎☆全勝さん続編キターage

>>前スレ20
>それに呉の隣の広島は空襲被害が少なくてねアッシュ少尉の治療にも専念できる

ヴァニラタン死亡フラグキター!?
(当時、広島は空襲被害が少ないと言う話で移住して原爆被害に遭われた方が居るそうなので)


…と言うのは冗談で
沖縄編で「サトウキビ畑の唄」の登場人物が出てきたので
広島編ではぜひ「はだしのゲン」の登場人物出演をキボンします
10猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/08/24(木) 01:54:02 ID:2yVxMxv9 BE:26949233-2BP(103)
昭和20年4月6日深浦湾 昭和20年4月6日AM08:45
荒井堀の運河を抜け、貝山が見えると紋章機の係留されている深浦湾に入る。
海軍航空隊の目と鼻の先に移動した紋章機を襲える部隊はもういないだろう。
ミラクルミルクがどこまで広まったのか分からないが基地上空の警戒に当たる航空機の数は多くなっていた。
腹ペコで飛べなかった新米荒鷹達が元気に零戦や雷電の爆音を轟かせている。
ミルフィーユはレシプト機を見上げている。
「あれが零戦ですよ」
ちひろは飛んでいる航空機を指差しミルフィーユに解説する。
そうこうしているうちに船は紋章機の係留場所に到着した。
「ちひろさん操縦にはもうなれましたか?」
「はい、大体のコツはつかんできました」
「やっぱりちひろさんはすごいですぅ!」
ミルフィーユは尊敬な眼差し送る。
「そんな、機体性能がいいからですよ」
ちひろは両手を大きく振って否定する。
船がシャープシューターにゆっくり横付けすると、紋章機によじ登って見張りをしていた兵士が恐る恐る足場を確かめ降りて来る。
「ご苦労様です」
ちひろとミルフィーユが敬礼すると兵士も敬礼を返した。二人はそのままシャープシューターに乗り移ると船はゆっくり離れていく。
「あ、すみませーん!」
見張りの兵士が何か思い出したようにちひろを呼ぶ。
「はーい、何でしょうか?」
「知覧からの荷物がこちらに届いてしまいました!乗せておきましたので」
「ありがとうございますー!!」
ちひろは大きく手を振って答える。そして奥へ走り麻袋に4つの荷物と対面する。
麻袋には天女隊烏丸ちひろ、加藤このみ、天野明日香、川村麻奈と記されている。
1つは忘れ物、3つは遺品・・・・・・沖縄の激戦がちひろの脳裏に蘇る。
撃墜された明日香、共にインディアナポリスに特攻した麻奈、そしてこのみ・・・・
ちひろは麻袋一つ一つを抱きしめシャープシューターの操縦席に向かった。


 
11名無しさん@お腹いっぱい。:2006/08/24(木) 09:21:20 ID:EaxxPpbP
>>9
>広島編ではぜひ「はだしのゲン」の登場人物出演をキボンします

あまり見たくないなー、はっちゃけそうで嫌だ。
12猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/08/25(金) 00:13:44 ID:Ta8OXzil BE:35931762-2BP(103)
昭和20年4月6日深浦湾 昭和20年4月6日AM09:00
「それでは訓練よろしくお願いします」
操縦席に上がるとちひろは元気な表情に戻った。
「ちひろさん・・・・はい、よろしくお願いします!それじゃあシステム立ち上げちゃってください!」
ミルフィーユもちひろの元気に答える。
シャープシューターが機動すると自動的に全ての箇所がチェックされ立体映像としてちひろにシステムオールグリーンを伝えてくれる。
「周囲船舶はなし警戒飛行の機体も待避、機関砲、爆弾異常なし。回転率安定・・・・離陸よろし?」
「は、はい離陸してください」
指差し点呼を行ったちひろがミルフィーユに離陸の許可を尋ねたので慌てて許可を出す。
機体はゆっくりと加速をはじめ夏島が見えるとちひろはさらに加速させる。
「ちひろさん、シャープシューターも垂直上昇できますよぉ」
「ごめんなさい、やっぱり飛行気乗りなんですわたし」
「は、はぁ」
水面や地表を滑走しないと彼女は空に上がるといった気がしないのである。
無論、垂直上昇しないといけない場面では垂直上昇するとしている。
シャープシューターは水面をけるとレシプト機のように上昇する。
大型のボディが朝日をキラキラと照り返し美しい青いブースターの廃棄炎が天女の衣のようであった。
「今日は宇宙まで上がりますからもっともっと上昇してください。まだまだ加速しても大丈夫ですよ」
重力を全く感じない、爆音も振動もないシャープシューターは一気にB−29でも届かない高度までちひろを誘った。
下界はいつも以上に小さくなり関東地方やがて日本列島や朝鮮、満州の方まで見渡せる高度に達した。
やがて空の青さ漆黒に変わりかすかに機体が軽くなったように感じると満点の星達がちひろを迎える。
「はい、宇宙空間ですよちひろさん」
「ここが・・・・・宇宙という場所なんですか?」
「はい」
360度のモニターが足元に地球を照らしている。シャープシューターは地球周回軌道にのったのでブースターを停止させる。
「すごい、ここが日本、ここが朝鮮半島。満州・・・・ソ連の方まで・・・地球儀で見たのと同じです」
「これがちひろさんの住んでいる星ですよ」
「はい・・・・あれどうしたんだろ?涙出てきちゃいました・・・・」
地球はとても青く丸かった。日本はとても小さな島国だった。
「ほら泣かないで宇宙の方も見てください」
ミルフィーユは天上指差すと天の川がちひろを迎える。
「うぁ・・・・・・・きれい、あれが七夕の時に見える天の川ですか・・・・そしてあれがお日様」
見える惑星や星にも喚起の声を上げるちひろ。
この感動を次に地球人が味わうのは16年後のことであると二人には知るよしもなかったのである。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2006/08/29(火) 21:14:25 ID:qCCtmeDQ
猛虎☆全勝さんGJ!!
age
14猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/08/31(木) 00:44:47 ID:5mxGJs06 BE:53898236-2BP(103)
昭和20年4月6日地球周回軌道 昭和20年4月6日AM09:45
2人はその後、海軍病院でもらった握り飯と鯨の缶詰で簡単な朝食をとると再び地球を観察する。
周回軌道を高速で回っているためもう太平洋は見えなくなり、大西洋が姿を現していた。
「あれがアメリカのワシントンですね」
アメリカ大陸の真上に達していたためちひろはここぞとばかりにカメラを望遠し敵国を観察していた。
しかし、戦時体制一色の日本とは大違いで一般人は戦争とはまるで関係のない国のように生活を送っているようであった。
「私たちってアメリカの一部と戦ってたにすぎないんですね・・・・・」
大東亜共栄圏、一億人特攻、本土決戦・・・・・全てがむなしく感じる。
「ちひろさん・・・・大丈夫ですよ、この地球の人たちもいつかは宇宙にやってきます。ほら見てください」
ミルフィーユはちひろの肩にそっと手を置くと再び銀河を指差す。
「宇宙にはこーんなに一杯の星があるんですよ、生き物の住んでいるところもありますが誰もいないところあります
だから早く戦争を終わらせて宇宙に行く準備をしませんか?そうすればもうちょっぴりの領土や物を取り合わなくても、ケンカしなくても大丈夫です!!」
「ミルフィーユさん・・・・・・・・・・・そうですね。がんばります私!」
ミルフィーユの笑顔は人を元気にさせる魔法を持っていた。
「じゃあ千晶ちゃんにメッセージを入れてください!!」
ミルフィーユはポケットから小さなカメラを取り出す。
「それは?」
「千尋ちゃんにお土産を持って帰る約束をしましたんでちひろさんの映像と宇宙の映像を撮影することにしました」
ちひろの顔が真っ赤になる。
「こ、これからトーキーを撮るんですね?そうなんですね?」
「はい、そうですぅ!じゃあちひろさん、ちあきちゃ」
「ちょちょちょ・・・ちょっと待ってください、髪を整えて口も濯いで、あ!顔も洗いますから」
そう言うとちひろはバタバタとコックピットを出て行った。




15猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/08/31(木) 01:47:57 ID:5mxGJs06 BE:146721277-2BP(103)
ー天女隊とは?ー
1945GAの外伝的役割を果たす作品。1945年にエンジェル隊がやって来るまでのお話として
主にコミックマーケットで配布しております。

概要
昭和19年悪化する戦局を打開すべく試験的に創設された女子航空機部隊。
そこに青紙という任意での召集を受けた烏丸ちひろと仲間たちの物語。
紋章機を持たないエンジェル隊。
16猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/03(日) 01:14:15 ID:S+eGOTR1 BE:23954742-2BP(103)
昭和20年4月6日地球周回軌道 昭和20年4月6日AM11:00
訓練は休み無く1時間近く行われた。宇宙空間における訓練はちひろの想定外だったのか少し疲労の表情が見える。
「大丈夫ですかぁ?」
ミルフィーユがジュースを手渡しながらちひろの労をねぎらった。
「あ、ありがとうございます。炭酸ですか?」
「スポーツドリンクですよ」
「そうですか」
胸をなでおろしたように缶に口をつけた。
「ふぅ・・・・今日はありがとうございました」
「まだおわってませんよちひろさん。大気圏突入をしないと横須賀に帰れません」
「大気圏突入?」
ちひろが首をかしげるとミルフィーユが大気圏というものを一応ながら説明する。
「ですからキチンと突入しなければ機体がオーブンの中みたいになっちゃうんですよ」
「そ、それは怖いですね・・・・・私にできるでしょうか」
「大丈夫ですよ・・・・・コマンド入力するだけですから」
「そ、そうですか」
なんとなくちひろは拍子抜けしてしまった。
17猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/06(水) 00:13:49 ID:kC9sYtpH BE:35932234-2BP(103)
昭和20年4月6日海軍省 昭和20年4月6日AM11:00
娘が人類で初めて宇宙に行ってるころ、正光はトリックマスター、ハーベスターを呉まで曳航する
航洋曳船2隻の運用等について頭を痛めていた。
海護総隊に所属している駆逐艦、海防艦は二線級のものが多く不安があった。
加え航洋曳船の足も遅く潜水艦の餌食になりやすい。他にも最近ばら撒かれるようになった機雷も不安である。
横須賀〜呉間を以下に安全かつ確実に輸送できるかが大きな問題である。
「おうやってるな!」
神が堂々と入ってくる。
「海上護衛総隊から巡洋艦鹿島が本作戦旗艦としてくるそうだ」
「鹿島!?練習艦あがりじゃないか」
一瞬正光の表情が曇った。
鹿島は昭和13年に竣工し一時は第四艦隊旗艦としてトラックに進出するもその後は呉練習隊をへて海上護衛総隊にやってきた船である。
7年前の艦とはいえ最大速は18ノットと足が遅い。
「航洋曳船も遅いから輸送船団速度は15ノット位になりそうだな・・・・」
「紋章機輸送船団の編成は午後にも決まるそうだ」
「旗艦が鹿島ならあまり期待できなさそうだな」
正光は苦笑いを浮かべた。
その頃、横須賀航空隊では米軍機奇襲で活躍した紋章機の話で持ちきりとなっていた。
紋章機の係留は極秘扱いとなっているのだが噂というものがすでに隊内に蔓延している。
「6番目の機体に搭乗してる奴は特攻くずれじゃないか!」
ちひろを軽蔑するかのように言い放ったのは横須賀航空隊所属の北村幸一一等航空兵曹である。
彼は仲の良い整備兵達と笑いながら雷電に飛び乗った。これから警戒に上がるのである。
「あまり大っぴら喋ってると憲兵に連れて行かれるぞ」
「ははは、爆音で聞こえねーよ」
風防をバンと閉めると滑走路に機体を走らせる。
そして一気に大空へと舞い上がっていった。
18猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/06(水) 02:49:26 ID:kC9sYtpH BE:83840674-2BP(103)
>>8
ありがとうございます。
亀レスですが公式HPが完成したらお絵かきも付けられればと思っております。
>>9 >>11
えー広島は最大のトラウマであり第二次世界大戦という世界観に興味を持ち始めたきっかけを与えてくれた場所なんですよ。
小学校の時ピカドンというフィルムブックが広島との最初の出会いでした。教室では皆がギャク本のように扱っていましたが
一人トラウマになってしまい修学旅行では原爆資料館をトイレに隠れて見ておりません。
この前でも広島平和公園に降り立った時は浮き足立っていました。
そんな広島を今回は書いていきたい思います。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/07(木) 10:33:21 ID:dFZqLvXw
猛虎☆全勝さん続編GJ!!
広島編、書くの大変そうですが期待してますね

>6番目の機体に搭乗してる奴は特攻くずれじゃないか!」
>ちひろを軽蔑するかのように言い放ったのは横須賀航空隊所属の北村幸一一等航空兵曹である。

何か一悶着起きそうですね。気になります。
20名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/07(木) 21:02:00 ID:dfdfPNHf
4月6日か・・・。
翌7日は大和の命日だ・・・。
21名無し陸戦隊:2006/09/08(金) 09:55:00 ID:aNXylqF8
回想 1944年6月20日 海軍省 航空本部
朝から書き続けてきた2000馬力級発動機の生産に関する計画書の作成を終えて、ようやく仕事が一段落付いた。
万年筆を机の上に置き、時間を確認すると、時計の針は17時を指していた。
窓の外へと目をやると、やや日が傾き始めており、夕方になろうとしている。
航空本部長の木谷中将は、腕を上げ椅子に座りっぱなしで、こわばった背筋を伸ばした。
ここ最近、木谷中将は多忙な日々を過ごしている。
その仕事内容は、搭乗員の養成や、航空機の生産量に品質の向上と言った計画から。
生産工場や研究施設に、実戦部隊の視察。
時には軍令部や連合艦隊、時には陸軍、軍需省、航空機に関わる外部との交渉・・・と
数えればキリがない量の、仕事が、航空本部長に着任してから2年続いている。
先月生産の開始された2000馬力級発動機ハー43の実用化は、今年に入りようやく目処が付いたばかりであった。
三菱重工製ハー43は、一足早く実用化されていた中島2千馬力級発動機、誉に比べると。
安定した稼働率を示しており、多少のオクタン価に左右されず馬力を出していた。
この発動機は、17試艦戦や開発中の局地戦闘機を中心に搭載される予定だ。
これらが配備された暁には、グラマンやシコルスキーと言った米戦闘機とも、互角に渡り合えるはずだ。
それだけにいかなる状況でも、一定数供給出来るようにしたい。
本来ならば今回の決戦に間に合わせたかったが・・・木谷中将は夕暮れ時の日比谷公園を眺めながら思う。
それが画餅に過ぎない事は承知している。だがそれでも旧式になりつつある一線機で、
次々と投入される米軍の新型機と渡り合っている兵達の事を考えると、つくづく自分の力不足を痛感してしまうのだ。
とにかく、今は少しでも多くの者が生きて帰って来る事を祈るしかなかった。
帰ってくれば、また反撃の機会はある・・・
今頃マリアナで戦闘の真っ最中であろう航空隊の無事を、静かな航空本部長室の中で一人祈った。
22名無し陸戦隊:2006/09/08(金) 13:26:11 ID:aNXylqF8
回想 1944年 6月20日 マリアナ沖
今日一日、攻撃に耐え抜いてきた艦隊だが、米艦載機の最後の攻撃により、脱落する艦が現れた。
薄暮攻撃の中、雷撃を受けた空母は動きを止め、ただ浮いていた。
総員退去の号令が流れる艦から脱出した乗組員達が油にまみれながら、
降ろされたカッターや、周囲の艦に救出されていく・・・
「飛鷹沈みます」
見張員の悲痛な声に、外を見ると。
日の沈みゆく海原に辛うじて浮いていた空母飛鷹は、力尽きたかの様に急速に浮力を失い、その船体を海中に沈めていく。
完敗だな・・・やはり甘かった。
艦隊参謀の上田拓人中佐は、空母瑞鶴の艦橋からその光景を目にしていた。
マリアナ諸島に侵攻を開始した、米軍を撃退すべく決戦に臨んだ第1機動艦隊は、
主力の空母翔鶴と飛鷹の2隻と半数以上の搭載機を失った。機動艦隊はこれ以上の攻撃は不可能である。
こちらの攻撃隊も大型空母撃沈を始め、戦果を揚げたとされるが、期待しない方が無難であろう。
航空隊の搭乗員は訓練不足で技量が低く、離着艦もままならない有様である。
しかも米艦隊は電探に誘導された大量の直援機と、輪形陣の中にいる空母は、濃密な対空砲火に守られていた。
おそらく敵艦隊の艦影を見ない内に墜とされた編隊も多かったのではないだろうか・・・
艦隊にとっての救いは、新たに編成された、防空戦隊が敵航空機を多数撃墜破した事であろうか。
その数は、他の艦、航空隊の戦果と合わせて120機近くに昇る。
その内撃墜数は、途中で不時着する物を換算すれば、50機位になると見られている。
しかし、戦いは終わった訳では無かった。
艦橋にいる参謀達は、次の行動をどうするかすでに協議を始めていた。
ある者は一度後退すべきだと言い、またの者はまだ健在である水上部隊を投入して、夜襲を仕掛けようと発言している。
上田中佐は前者に賛成だった。中途半端な戦力で攻撃を続けても、鉄板に生卵をぶつける様な物だ。
ここは座して全滅するよりも、反撃の機会を伺うべきだ。
艦橋の一角へ顔を向けると、今まで黙ったまま参謀達の会話をじっと聞いていた、
小沢冶三郎第1機動艦隊・艦隊司令長官がゆっくりと口を開いた。
「連合艦隊司令部へ打電、第2艦隊は水上戦力を以って、夜間を期して敵艦隊を捕捉すべく突入させる。
第1機動艦隊も同様東へ向かう、航海参謀は艦隊の燃料確認と敵艦隊までの距離の計算を急ぐように」
言葉を聞いた全員が表情を強張らせた。
上田中佐も顔に手を当てた。小沢長官はまだやる気でいる。
前衛部隊の第2艦隊は、第1戦隊の大和・武蔵を始め、水上艦艇群が敵の攻撃を吸収する役目を果たしていた。
攻撃を受けた大和・榛名等に損害が出ているが、未だ大部分の艦艇が健在なので海戦を行うには問題は無い、
だが、米艦隊はそれに勝る数の戦艦・巡洋艦の存在が確認されている。駆逐艦等に至っては問題外だ。
もし我々が海戦に勝利しても空母は、退避済みであろうから、明け方には航空攻撃に曝されてしまう。
機動艦隊に至っては航空機の保有量100機を切っている、まさに無謀と言えよう。
それでも夜戦の知らせに各要員は、それぞれ準備をすべく作業に取り掛かろうとする。
時間はあまり残されていない、だが、それから間もなくして夜戦中止の指令が下された。
豊田副武連合艦隊司令長官が、あまりの損害に見かねて、遠まわしに離脱命令を下したのだ。
流石に小沢長官も無理を通そうとはせず、北西に進路を取る様に指示をだした。
敵潜水艦に警戒しつつ、艦隊は緩やかに艦首を振る。
上田中佐にもやるべき事が残されていた。
途中で脱落したと思われる搭乗員を1人でも多く、助け出すのである。
この戦いが終わっても、艦隊は次なる戦いへ赴くだろう。
その時までに航空隊を再建しなければならない。その為にも戦闘を生き残った搭乗員達の存在は不可欠だった。
捜索用の水偵は手配しており。既に小沢長官の許可も了承済みだ。
こうしてマリアナ防衛の為発動された、あ号作戦は、米空母艦載機の薄暮攻撃によって幕を閉じた。
23名無し陸戦隊:2006/09/08(金) 19:36:01 ID:aNXylqF8
回想 1944年6月20日 グアム
昼間あれだけ喧しかったのが、嘘の様な静けさだった。
時折北方から雷が鳴るような砲声が聞こえて来るが、直接の影響はない。
おそらくサイパン・テニアンに上陸した、米軍が砲撃しているのだろう。
飛行場は、米軍の攻撃を警戒してか、灯火管制が敷かれているため、建物には灯り一つ点いていない。
それでも徐々に夜目に慣れてきたせいか、月明かりだけを頼りに歩く事が出来た。
うっすらと浮かび上がる滑走路は、夕方から大急ぎで進められた整地作業が完了しており、いつでも使用可能な状態になっている。
時間になり地上員が、懐中電灯を手にして誘導を始めた。
それに呼応して、闇の向こう側から何か影が出て来る。
姿を現したのは、大勢の人員によって押し出される飛行機だ。
昼間空襲を避ける為、巧みに艤装されていた掩退壕から、彼らは機体を引き出していたのだ。
滑走路に出てきたのは、数機の零戦と艦爆・艦攻、2式陸偵と、雑多に機種が揃う。
その内の1機、零戦52型が近藤中尉の搭乗機だ。
近藤中尉はヤップから攻撃隊の護衛に付き、帰路はグアムに降りていた。
被弾箇所を塞ぐ継ぎ接ぎみたいな外板が目立つ、愛機に近づくと。
整備員は既に点検を終え、近藤中尉は開かれた風防へと入る。
座席に腰を下ろすと、縛帯を締め、計器を確かめる。
燃料・弾薬共に満タンだ。
何せ硫黄島までの夜間飛行だ、少したりとも異常があってはならない。
背後を伺うと、座席の後ろの隙間にもう一人乗り込んでおり、じっと蹲っている。
何せこれから行う飛行は攻撃などでは無い、脱出なのだ。
他の機も、機内の余分な空間に人が乗せている筈だった。
グアムの飛行隊に脱出命令が出たのは、小沢艦隊が敗退し日本へ進路を取っていた時の事だ。
角田第1航空艦隊司令長官の命令により、米軍の撃退が絶望的となった今。
残存する航空戦力は硫黄島を経由して、内地へ後退する事になった。
勇猛果敢で知られる角田長官にしては意外だが、噂では米艦隊侵攻後に送られてきた電文が原因だと言われている。
既に上陸の始まっているサイパンや、テニアンにも同様の命令が出ており、
数日前飛び立った者は今頃、内地の飛行場にたどり着いている頃だろう・・・
最後の後退組であるグアムの部隊は、乗機を失った搭乗員や整備員・軍属達が、
それぞれの飛行機に乗り込み、今晩夜陰に乗じて硫黄島を目指す。
夜逃げの様で後ろめたいが、今は拘っている場合では無かった。
どの道このままでは、飛ぶ間も無く地上で撃破されるだろう。
生き残っても、最後は上陸して来た兵相手に、陸戦の真似事をするしかない。
空で戦う、飛行機乗りとしては、地上で戦死するのは耐えられなかった。
だったらここは耐えるしかない。
見ると誘導役を兼ねた2式陸偵から、順に次々と滑走を開始した。
やがて中尉の番がやってきた、残務処理を終えたら潜水艦で脱出する予定の、司令達が大きく手を振っている。
どうかご無事で…敬礼を返しながら、スロットルを握る手に力が入る。
中尉の零戦は無事飛び立ち、飛行場を伺うと、最後となる大型機がゆっくり動き出す。
一式陸攻ともう1機は、試製4発陸攻・連山だ。
この2機は特に重要で、大勢の負傷者や病人が中心に乗っている。
いざとなれば、彼らだけでも無事送り届けたい。
闇夜の中、彼らは北へ向けて進路を採った。
24猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/09(土) 00:44:22 ID:HBD7eNkh BE:26949233-2BP(103)
昭和20年4月6日大気圏 昭和20年4月6日AM11:30
大きな地球にシャープシューターが真っ赤になりながら吸い込まれてゆく。
「私たち落下してるんですか?」
「いいえ機体は安定してます」
ちひろには失速して落下してるようにしか見えないがこれでよいとミルフィーユは笑う。
「まだ雲があんなにした方・・・・・・」
思わず息を呑む高度、この世界のどんな優秀な飛行機でもここまでは上がってこれない。
熱圏を抜けると機体が重力を感じ出した。それは操縦桿を握るちひろにも分かった。
「く、帰ってきましたね」
「はい、帰ってきました」
高度がだんだん落ちていき1万メートルに達した時にちひろは降下を中止し安定飛行に入った。
眼下に見下ろす小笠原諸島と青い海が広がっている。
「レーダーマップというものは便利ですね。自分の位置をすぐにみつけられます」
「ちひろさんの飛行機には無かったんですか?」
「方位磁石はありましたが地図は頭に叩き込んでいました」
「やっぱりちひろさんにはかなわないですぅ」
「そんなことないですよ・・・・ミルフィーユさんの方が料理もお上手ですし飛行時間もふふふ・・・」
「えへへへへ」
何となくおかしくなってしまい2人は笑った。
その後しばらく水平飛行を続け観音崎がかすかに見えるとさらに高度を落とす。
「でもあの時は驚いちゃいました。ちひろさんが蘭花さんと戦うんですもん」
「目が覚めたらこの服を着ていて私も慌ててしまい・・・・」
2人はお喋りに花を咲かせている。
その時であった。シャープシューターの警告音が鳴り響く。
「な、なんですか!」
目の前を見るとプロペラ機が一機大きく旋回していた。
「あれは雷電ですね・・・・横須賀から来たのでしょう」
「向こうの方からかなり近くに来てたみたいですぅーはぁ〜びっくりした」
ミルフィーユがホッとした表情をみせる横でちひろの表情が強張った。
昨日の奇襲部隊を迎撃に向かった横須賀航空隊に悪口じみたことを口走ったからである。
別にあれから何も言われてはいないのだが雷電がここまで接近し来た事には少しいやな予感がした。
25名無し陸戦隊:2006/09/11(月) 14:18:44 ID:/n0qDkt1
回想 1944年7月30日 鈴鹿基地
ふと気付き、座席越しに外を確かめた。
窓から基地の一部と思しき建物が見えている。
どうやら、飛び立ってから間も無く居眠りをしてしまったようだ。
ここ連日の訓練の疲れが溜まっていたのだろう。
機上の人となって2・3時間、雲の少ない空を悠々と飛ぶ零式輸送機の傍を、
近頃目にするようになった艦上戦闘機・烈風と思しき機体が、すれ違いざまにバンクをしながら翼を翻して行った。
目の前に滑走路が広がり、難なく着陸する零式輸送機は、滑走路の端まで来ると、発動機の勢いを減らしてゆっくりと停まる。
着いたぞと言う機長の声に、出入り口の近くにいた搭乗員が、機体扉を開けた。
窮屈な座席から重い腰を上げると、前の者に続いて扉を出て地面に降り立った。
長い空の旅が終わり、ようやく三重にある鈴鹿基地にたどり着いた。
部隊再編為、新しい機材を受領すべく派遣された、搭乗員の第一陣に加わっていた近藤中尉は、
機内で強張った体を動かしながら、基地を見回した。
滑走路やエプロンには、戦闘機や他の機種がズラリと並んでいるのが見える。
これらの内のどれかが、自分達の乗機になるのだろうと思うと心が躍った。
廣田一飛曹や他の搭乗員達と、雑談を交えながら眺めていると、担当官らしき士官が近づいて来る。
「木更津から機体受領に来た部隊とは、お前達の事か?」
「はっ、そうであります」
最専任の大尉が敬礼する。
よく見ると担当官の襟には少佐の階級証が付いていた。
「俺は空技廠審査部の水野少佐だ。ふむ・・・どいつもいい面構えしてるな。
では、これからお前達に渡す機体へ案内するから。付いて来い」
水野少佐は全て言い終わらない内に、背を向けて歩き出した。
26猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/14(木) 01:19:20 ID:EubBE4Gq BE:125761076-2BP(234)
昭和20年4月6日横須賀軍港深浦湾 AM11:45
シャープシューターは数回横須賀上空を旋回し周囲に船舶が無い事を確認すると着水の態勢に入った。
「着水します」
機体が水を切って速度を落としていく。防波堤には着水のときできた波がぶつかって水が飛び上がっている。
速力を落としながら紋章機の係留場所に向かうとトリックマスターのボディに乗った兵士が
手旗信号をこちらに送っている。
係留場所にはすでにロープを持った兵士が着々と準備にかかっている。
その誘導に従うようにちひろはシャープシューターを指定の場所でとめる。
「ふぅ」
操縦桿から手を離すと少し方が軽くなる。
「お疲れ様でした。今度はもうちょっと遠い所まで行ってみましょうか?」
「はい、またお願いします」
ミルフィーユに一敬礼送ると2人は外へ出てすぐに迎えのボートに乗り込んで岸へと向かった。
本来ならさっさと帰るところなのだがどうしてもやっておかなくてはならないことがある。
そう、この空を守る横須賀基地航空隊への挨拶であった。
「横須賀航空隊ですか」
「はい、海軍航空隊の総本山とも言われる精鋭航空隊です」
ちひろの顔が引き締まっている。
「すごい航空隊なんですね・・・・あ、ちひろさん私も持ちますよ」
3つの遺品と自分の荷物を抱えるちひろを気遣う。
「ありがとうございます。でも大丈夫ですよこの位は」
「そうですか・・・・」
またちひろがたくましく見えた。


27名無し陸戦隊:2006/09/14(木) 10:38:59 ID:8qrbdqU2
回想1944年 7月30日
足早に進む水野少佐に続いて、近藤中尉達も動き始めた。
少しの間進んで行くと、格納庫へと足を踏み入れる。
格納庫の内部は薄暗く、工員達が黙々と作業をしていた。
「着いたぞ、これが貴様達の機体だ」
水野少佐が案内した先に、見た事も無い機影が姿を現した。
「何だこりゃあ!?いつの間にこんな機体が出来てたんだ」
一人が素っ頓狂な声を上げた。
近藤中尉もその戦闘機をじっくりと観察して見る。
どことなく烈風に似ているが、烈風程の大きさ感じられず、どこか精悍な作りになっていた。
スマートに整った機体は、余分な贅肉を削ったと言う印象があった。
主翼はやや短く、武装と思しき銃身が4本突き出していて、零式艦戦32型の様に角ばっている。
「どうだ、4式局戦閃電は」
少佐が嬉しそうに語る。
「この機体はな、17試艦戦の試験との同時期に、
三菱から新型発動機を搭載した烈風の局戦型として提出された物だ。
まあ云わば、烈風の兄弟機の様な物だな」
さらに水野少佐は詳しい説明を始めた。
18年末完成した17試艦戦の試作機は、試験を開始するのだが、誉発動機搭載の同機は、
要求性能を下回る性能しか出なかった。
三菱側は誉に代わり、当時完成した自社製ハー43発動機の換装を要求したが、
空技廠側は誉搭載を頑として譲らず、開発は平行線を辿った。
このままでは埒が明かないと、業を煮やした技師達は、
烈風の機材を流用した、ハー43使用の局地戦闘機の計画案を海軍側へ逆提出した。
当初軍側は難色をしめしたが、ハー43の開発に関わっていた航空本部が積極的に支持した事と、製造中の雷電が思いのほか不評だった為。
急ピッチで製作が進められた。
設計図はすでに完成していたのか、試作初号機の完成は予想以上に早く。
試験飛行を行った実機は、650キロに及ぶ速度と群を抜く上昇性能を発揮して見せた。
この結果に空技廠も、一転してハー43の使用を指示し17試艦戦共々、19年の春制式採用されたのである。
仮称4式局戦と呼ばれた機体は、開発機種整備により削除された17試局戦の名称が転用され、閃電と名付けられたのであった。
28名無し陸戦隊:2006/09/16(土) 22:23:31 ID:pnn9+VQg
回想1944年 7月30日 鈴鹿基地
「要はだ、企業と軍の対立がこの機体を生んだと言う事だ・・・皮肉なもんだが」
少佐の説明を聴き終え、近藤中尉は頭の中で話を纏めていく。
まあどんな理由があるにしろ、優秀な性能の戦闘機に乗れるのならば文句は無い。
結果良ければ全て良しとは、こういう事を言うのだろう。
「話が長くなってしまったが、そろそろ直に機体を見てもらうとしよう」
少佐はその後に、「いい加減飽きてきているだろうしな」と付け加え、呆れ顔で笑った。
どうやら皆表情に出てしまっていた様だ。
そんな少佐の心境に構わず、近藤中尉を含む搭乗員達は我先と機体に近づく。
主翼の上に上がり、操縦席を覗いて見る。
計器板に何箇所か見慣れない物が電源が付いていたり、風防の防弾ガラスの厚さや無線機、
座席後部の装甲版等が大きく目を引く、如何にも重戦らしい作りになっている。
だが重厚な面持ちの中に優雅さを感じる。
技師の解説によると、操縦席等も烈風と同様の物を、必要最低限の改良で済ませているらしい。
その方が、生産効率を上げるのに都合が良いのだそうな。
すぐにでも飛ばしてみたいが、まだ全機の整備が完了していないので、
テスト飛行は明日に回される。
見学が終わり外に出ると見慣れた顔が現れた。
向こうもすぐ近藤中尉に気づいた。
「おっ近藤じゃないか?」
「久しぶりだな、阿部」
前に同じ部隊にいた阿部中尉の姿を見つけ思わず微笑んだ。
「いやぁ、貴様もよく生き残ったな。お互い長生きしてるもんだ。ガハハ」
阿部中尉は大きく笑いながら近藤中尉の肩をバンバン叩く。
「それで、ここから出てきたって事は、貴様も閃電に乗るのか?」
「知っているのか」
近藤中尉は驚き聞き返した。
「俺は九州で閃電に乗ってるんだよ。今日も大村へ空輸する機体を貰いに来たんだ」
「九州と言えば、最近米軍の爆撃があるそうだな。何でも新型の爆撃機とか」
九州と言う言葉にすかさず反応する。
6月16日、米軍は中国奥地の成都に設営した飛行場より飛び立った、
第20爆撃集団所属のB29爆撃機、総数75機が北九州の八幡製鉄所に爆撃を敢行していた。
夜間遠距離飛行の上、陸軍航空隊の迎撃や高射砲部隊の奮戦により、あまりの効果は上がらなかったが、
この出来事は軍にとって衝撃的であった。
今まで比較的安全と思われていた、日本本土にとうとう大規模な空爆が開始されたのだから。
直、それ以降もB29の爆撃は断続的に続いている。
「ああ・・・厄介な相手だ。B29と言うらしいんだが、
高高度を飛んで来るからチョットやそっとじゃ追いつかん」
爆撃の話題に渋い表情となる。
「高高度と言うと8千とか」
阿部中尉は首を振った。
「いやもっとだ。奴ら一万メートル位を飛んで来るよ」
一万と言えば普通の戦闘機では、上昇限度に等しい高度だった。
そんな高さでは空気が薄く、搭乗員は酸素不足に陥るし、発動機は馬力も上がらない。
十分な高度に達するまでに時間が掛かる。迎撃も相当困難な筈だ。
「まあ夜間だけだし、高高度爆撃ではあまり目標に当らん。
大陸の方で早期に発見出切るから、待ち伏せは可能だ。
それに敵に護衛が就いていないのは何よりの救いだよ」
それでも、暫らくすれば昼間の爆撃も開始されるかもしれない・・・
そう思うと、近藤中尉は安心できなかった。
「それとな、何か撃退するいい方法があるらしい」
思わず慰ぶかしげる。
「空技廠だかの奴等が新しい戦術が発案したとかで、次の出撃で試す事になってるんだ。
うまく行けば、いずれは貴様の部隊でもやるんじゃないかな」
この時、阿部中尉の言葉が現実になるとは、近藤中尉は知る由も無かった。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/17(日) 23:31:37 ID:UNHufCI0
猛虎☆全勝さん新作GJ!!

名無し陸戦隊さん復活オメ!!



そしてドラマ「僕たちの戦争」age
30名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/21(木) 18:22:33 ID:DolhgNZE
保守age
31名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/21(木) 20:45:37 ID:G8SEt82d
>>29さんお言葉有難う御座いますm(__)m

最近忙しく投稿が遅くなっています。
大変申し訳ありません。
32猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/22(金) 00:31:27 ID:XZKFFJ33 BE:59886454-BRZ(1011)
昭和20年4月6日横須賀航空隊兵舎 PM00:15
貝山を目標に歩き続けると基地航空隊の兵舎が見えてきた。
同じころ北村幸一一等航空兵曹操る雷電も滑走路に滑り込んで来た所である。
駐機場まで機体が入ってくると北村はすごい形相で雷電から飛び降りた。
「閃電で出ればよかった!」
手袋を外して地面に座り込む。
「また故障でしたか?」
「ああ、実戦にでた機体だったからな。偵察くらいならと思ったがやっぱり不調な所があ・・・なにかあったのか?」
手空きの飛行兵達がバラバラと一箇所に走り出している姿を見て整備兵に尋ねる。
「今表にあの部隊が着てるんですよ」
「なに!?」
北村は一目散に兵舎の方へ走り出した。
「どうしたんだろう北村一曹?」
整備兵はキョトンとして後姿を見送る。
一方入口ではミルフィーユとちひろを見るためにジャグ(新人)を中心に人だかりが出来ていた。
「あの・・・ちひろさんすごい騒ぎになっちゃいましたけど」
「そ、そうですね・・・・」
ちひろは少し不用意過ぎたと後悔する。
「すごい飛行服だな〜あれで乗ってるのか?」
「体力トレーニングしてるのか?あんな細い腕でよく重戦闘機を操れるもんだ」
あちらこちらから聞こえる声に中々口を割ることの出来ないちひろ。
「おいお前ら何を騒いでいるんだ」
人ごみの後ろから声が聞こえた。
「北村一曹!」
気が付いたものから敬礼を始める。


33猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/09/24(日) 00:48:17 ID:zVuMoBTr BE:134744459-BRZ(1111)
昭和20年4月6日横須賀航空隊兵舎 PM00:15
北村は2人の足の下から顔までを首をゆっくり動かして見る。
思わずミルフィーユが後ろに隠れてしまった。
「あんたらが未来から来たエンジェル隊とかいう重戦闘機部隊かい?」
「はい、こちらがミルフィーユ・桜葉少尉と私が烏丸ちひろです」
少し表情を強張らせながらもしっかりと北村の方を向くちひろ。
「ふーん、まぁいいさ。所で横須賀航空隊になんの御用でしょうか?」
北村は少し鼻に付く言い方をする。
「昨日のご無礼を謝罪に参りました」
「ああ、どこかで聞いた声だと思ったらあんただったのか」
「はい・・・・・」
北村は一息抜くとちひろの顎に手を置く。
「この空を守るのは俺たち横須賀航空隊だ。あんたらには頼りないかもしれんが俺たち全員にも誇りがある」
「はい・・・・」
後ろの隊員たちが空気の変化にざわつき始める。
「俺達は生きて帝都を守るんだよ。敵さんに突っ込んではいサヨナラの奴らとも違う」
「それは違うのではありませんか?」
「ほう、女とは言えそれなりの面構えは出来るんだな。まぁ特攻崩れには一人前か・・・」
北村が最後の悪態をついた瞬間彼の体は中にまい地面叩きつけられた。
「な?」
北村はなにが起こったのかわからない。しかし、周りの隊員達はちひろに手をとられ鮮やかに中を舞うのを目撃していた。
「て、てめー!」
一瞬の沈黙をはさみまわりの隊員達も一触即発を空気が流れ北村も飛び上がるように地面から跳ね起きた。
ちひろもミルフィーユを後ろに回したら型を構える。
「さわがしいぞ!」
北村がちひろに飛びかかろうとした瞬間人ごみの中から一喝する声が響き渡る。
「北村、お前まさか女相手にケンカをしようってんじゃ無いだろうな?」
「さ、坂井少尉!」
北村の声が震える。
「坂井少尉・・・・・あの撃墜王のですか?」
ちひろも構えた型を思わず緩めてしまった。
「だ、誰ですかぁ?坂井少尉って」
ちひろの後ろに回されたミルフィーユがひょっこり顔を出す。
34名無し陸戦隊:2006/09/24(日) 22:56:45 ID:bXofxRPz
回想1944年 8月15日 沖縄・中城湾
第3艦隊の上空では、各空母搭載の航空隊が猛訓練に励んでいる最中であった。
目の前を飛ぶ烈風の編隊が一機ずつ間隔を開けると降下を開始した。
先頭を飛ぶ1機が主脚をだしてゆっくりと空母瑞鶴の飛行甲板へ向かって行く。
フラップを降ろし甲板を車輪が掠めた瞬間、機体は速度を上げて大きく上昇した。
次の機体もそれに続いていく。
「大分腕を上げてるじゃないか、何回か実戦を経験させれば使い物になりそうだな」
「ああ、平均飛行時間は大体が500時間を超えてる。
中堅なら1000時間以上の者もいるし、とりあえずは良しと行った所だね。
機種改変も滞り無く進んでいるし、マリアナみたいに一方的に堕とされる事は無いと思う。
後は徹底的に編隊空戦を叩き込んで、艦隊防空の電探指揮訓練が出来れば完璧だけど・・・」
第3艦隊作戦参謀の上田拓人中佐は唸った。
まあ今の状況でもマシな方だけど・・・
横を見ると擬着艦訓練を眺めながら連合艦隊参謀・湖西中佐が腕を組んでいる。
相変わらず硬い奴だな。
湖西中佐の顔を見ながら上田中佐は思わず苦笑する。
女性には何かと人気があるのだが、湖西本人はそれに全く気づいていない。
こんな調子だから未だに独身である。
「何だ?」
湖西中佐は上田中佐を睨んだ。
「いや別に、いい加減湖西も身を固めたらどうかなと思っただけさ。」
「よけいなお世話だ!!そう言う貴様は早々に結婚しておきながら、性格も女癖も全く変わらん。
もう少ししっかりしたらどうだ!!そんな事では部下に笑われるぞ」
まいったな・・・上田中佐は頭を掻きながら、湖西中佐の説教もどこ吹く風の様に視線を反らす。
上田中佐は旗艦大鳳の艦内で、連合艦隊司令部との連絡役として、
連合艦隊旗艦大淀から出張して来ていた湖西中佐と出会い、
今後の事等について話していたのである。
「それで、他の空母はどうなんだい?」
ようやく説教が途切れた所で上田中佐は話を切り替える。
「ああ、大鳳に続いて雲竜がもうすぐ竣工する。
これで空母の数は何とかなる筈だ。年末になれば天城と信濃の艤装も終わるとの事だ。
最近腕のいい工員が戻ってきてるから、急ピッチで進めているらしい」
今年に入り各生産施設の工員や技術者の徴兵解除が始まったと聞いていたが、その効果はすぐに現れてきた模様であった。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2006/09/30(土) 21:14:37 ID:x4LFmERY
保守上げ
36猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/03(火) 00:38:05 ID:e7RrPVhm BE:53898629-BRZ(2300)
昭和20年4月6日横須賀航空隊兵舎 PM00:15
「伝説の撃墜王です・・・数々の戦場を飛び回り。時には昏睡常態で飛行を続け見事帰還なされたんですよ」
「すごいですぅー」
ミルフィーユは思わず驚きの声を上げる。
「坂井少尉、何時松山から・・・・・」
北村が恐る恐る尋ねる。彼は坂井の門下生、坂井には当然頭は上がらなかった。
「さっき単機で帰ってきたんだよ。紫電改の配備が順調にいってな横須賀に戻る余剰機がまわってきたんだ。
ところが出迎えが誰もいねえときたらさびしいね。そう思ったらこの人だかりだろ」
坂井がちひろの方を見る。
「あんたが女性初航空隊隊長さんかい?」
「はい、天女特別攻撃隊隊長烏丸ちひろです!」
「防空で編成された部隊だと聞いたが、その後特攻を志願したらしいな」
「そうです・・・国のためわたしたちはそれを選びました」
ちひろの声のトーンが下がる。
「ところで中々いい機体だったぞ、隼改は」
「え!」
思わずはっとなる。天女隊が特攻隊になる前、そう防空の任についていたときの機体を坂井は口走ったのである。
しかし、坂井と天女隊は縁もゆかりも無かった。
「どうして隼改をご存知なんですか?」
「余剰機となって帰るときに回してもらったのさ」
坂井が駐機場の方を指差すと喧嘩そっちのけでちひろは走っていってしまった。
「機体への思い入れが強いようだな。北村!お前も見習えよ」
「はっ!」
「あーちひろさーんまって〜」
ちひろの後姿を呼び止めようとしたが無駄だった。
「そしてお嬢さんがエンジェル隊の」
「あ、トラスバール皇国軍エンジェル隊のミルフィーユ・桜葉です」

37名無し陸戦隊:2006/10/05(木) 12:58:04 ID:xz+d+wEg
回想1944年8月15日 沖縄 中城湾
あれも中将の仕業だったっけな・・・
ふと、上田中佐の脳裏に過るものがあった。
航空本部長の木谷中将は以前、各工場の生産力について調査をしていた時期があった。
 戦争が長期化すると共に大規模な徴兵が進んでおり、
その範囲は各軍需工場に関わる工員や技術者も例外では無かった。
 召集された工員に代わり勤労奉仕の学生や、徴用された工員により労働力は補われたが、
これによって各軍需工場では品質の低下等が目立ち始めていたのだ。
前線の飛行機は故障が相次ぎ、海軍工廠でも艦船の建造に支障が出てきていた。
折しも戦況は悪化の一途を辿り、航空機の更なる増産をかけねばならないであろう時期に、
この様な事態を看過する事は出来ない。
この状況を知るや、木谷中将はすぐさま動いた。
 まず海軍機の生産に関わっている必要な人員を全て海軍の現地徴用兵にして
陸軍による徴兵の対象になる事を防いだ。
次に召集された人員を復員させる為、陸海軍の各部署と交渉を始めたが。
海軍はともかく、陸軍は難色を示し交渉は難航していった。
 しかし、そう簡単に諦める様な木谷中将では無く、
持ち前の粘り強さと強引な手段を用いて周囲に働き掛け、最終的には海軍のみならず
軍全体を巻き込んでの騒動となった。
 この結果、海軍は航空関係のみならず造船や軍需私設で必要な技術者や熟練工員を戻すことに成功し、
19年には、前年以上の航空機の大増産が掛けられる事になった。
これは陸軍でも同様である。
当時軍需省に勤めていた上田中佐もその時の出来事はよく覚えている。
何せ自分も木谷中将の片棒を担いだのだから・・・
それを考えると少々可笑しくなる。
 「木谷中将も派手にやってくれたものだ。
あの騒動のお蔭で海軍も色々助かってはいるが、もう少し大人しくしていて貰いたいものだ」
湖西中佐は憮然とした表情で述べた。
確かに木谷中将は非凡で有能な人物だが、その一方で強引過ぎる一面があった。
 艦政本部や軍令部を巻き込んで、兵器開発に自分の意見を反映させたり、
一部の開発権限を航空本部主導に変えようとする。
挙句に戦略にまで口を出すようになった。
 その行き過ぎる行動から軍内部の一部からは、ドイツのヘルマン・ゲーリング空軍元帥と重ねて
木谷空軍元帥と別称される程である。
しかし彼の人物の起こす行動が大抵、何らかの成果を収めているのも事実、
海軍にとって必要な人物でもあった。
「今は結果が出せれば良いさ、なりふり構っている場合じゃない。
俺達に残された時間はあまり無いんだ」
上田中佐の視線は遠くを見つめていた。
「肝心な事を聞くが、機動部隊の再建にどれ位掛かる。
今の米艦隊と戦って勝算はあるのか?」
湖西中佐は上田中佐に尋ねた。
「今年一杯、時間を貰えれば、一度や二度暴れまわってみせるよ。
但し、それ以降はどうなるか分からないけどね」
上田中佐の言葉を聞いた湖西中佐は嘆息する。
その台詞は開戦前、山本五十六が近衛首相に言ったものとよく似ている。
ようするに最後は負けるという事だな・・・
湖西中佐へと吹きつける風が、今は酷く寒々しく感じた。
38名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/10(火) 20:28:34 ID:OEbwdcov
続編期待age
39名無し陸戦隊:2006/10/11(水) 23:04:48 ID:O28L/rfG
回想1944年 10月10日未明 太平洋 南西諸島方面上空
 目の前のブラウン管に突如大きな変化が起きたのは、
まだ目的の海域へ到達するにはまだ早い時間であった。
しかも反応しているのは、本来反応しない筈の対空用電探である。
電探を操作していた通信員から、反応があるとの報告あった瞬間、聞き間違いかと思った。
 試作品とは言え、出撃前までに何度も整備を行っており、
最後の点検時も異常は見られず、突然故障するとは思えなかったからだ。
 機載電探全般の指揮を担当している鳥居技術大尉は、
ブラウン管の中で激しく揺れ動く、電波の波長を確かめる。
間違いない、故障では無く航空機の反射波を受信している。
 方角は我々が向かっている方面よりもさらに南方、距離100海里以上、
しかも揺れの大きさからして、ざっと100機以上の大編隊になるかと思える。
こんな海上のど真ん中を航空隊が飛行中だと?
それもおかしな話だ。
現在、陸海軍の航空隊は来たるべき米軍の侵攻に備え、
台湾・沖縄方面の航空戦力を増強している。
その数は1000機以上に達し、各基地では毎日の様に演習が行われていた。
しかし、移動中の編隊が空路から外れたこの辺りを飛んでいるとは思えない。
演習にしても妙だった…
 鳥居大尉は通信員にそのまま電探の操作を続けさせ、様子を見るように伝えると、
機材が所狭しと並んでいる連山の機内を前へ前へと進んだ。
操縦席方へ来ると、機長の笹倉大尉に話しかけた。
先程の出来事を伝え、判断を聞きたかったからだ。
今、鳥居技術大尉達の乗っている新鋭の4発陸攻連山は、本土と南方方面を結ぶ航路帯へと向かっている。
その場所は南西諸島沿いから太平洋の方へ出た海域で、今年の夏頃から米潜水艦の跋扈が続いていた。
今日はその海域を航行する輸送船の護衛を兼ねて、
新型の機内搭載電探を使用しての対潜警戒任務に従事する予定だったのだ。
話を聞き終えた笹倉大尉は少し考えると、鳥居大尉に答えた。
「出撃前基地で聞いた話では、その辺りに多数の友軍がいるなんて聞いていません。
船団護衛の空母艦載機にしてもおかし過ぎる。
すぐさま電探の反応がある方向を調べて見ましょう、嫌な予感がする」
鳥居技術大尉もその言葉に頷いた。
笹倉大尉はまだ若いが、冷静で判断力に優れている。
こう言う事態の際には本領を発揮出来る人間だ。
副操縦員から操縦桿を受け取った笹倉大尉は、機体の高度を上げ始める。
排気タービンを装備した、ハー43ル発動機も馬力を上げた。
40猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/14(土) 00:33:28 ID:j5QT3u5y BE:35932043-BRZ(3334)
昭和20年4月6日横須賀航空隊駐機場 PM00:20
そこには凛とした姿の隼改が整備員の検査を受けていた。
天女隊から離れ遠く松山基地に行っているという事を聞いて塗装が塗りなおされているのではないかと
不安ではあったが天女隊所属のときのままの純白塗装である。
「ちひろさーん・・・・」
遠くからミルフィーユが追いかけてくる声が聞こえる。
「あ、ミルフィーユさーん」
ようやく彼女はミルフィーユを置きっぱなしてしまったことに気が付いた。
「ハァハァ・・・・もぉ〜ひどいですよぉ!」
「すみません、愛機を一目見たくて・・・・」
「あーあれが隼改ですか」
純白の塗装に赤く映える日の丸がとても美しい。
「綺麗な飛行機ですねー」
「ええ、元は陸軍機ですが改はこの世に4機しか存在しません。天女隊のために改装された航空機なんですよ」
2人は隼改へと近づいて行った。
地上に降りたばかりなのでエンジンはまだ熱くストーブのように周りの空気を暖めている。
「まだ熱いから触ると火傷をしてしまいますよ」
ミルフィーユの行動を察知し先に警告を与える。
「あ、ご苦労様です。えーと・・・」
「お気遣いなく」
作業を続ける整備員に配慮する。
「特殊な機体だな、整備には手を焼きそうだぞ」
裏側では別の整備員が愚痴をこぼしていた。
海軍機と陸軍機だけでも厄介だがこの世に4機しかないとなるとなおさらである。
「お手伝いしましょうか?元々は所属機ですし」
反対側からちひろが声かけた。
「そうですか・・・じゃあお願いしますか?」
「はい」
うれしそうにちひろは反対側へまわった。
「ちひろさん・・・」
少し距離を感じたミルフィーユは天女隊の遺品を近くに置いておく事をちひろに伝えると駐機場の探索を始めた。
最新鋭機から旧式機まで多くの機体が翼を休めている。
「これが零戦かぁ・・・・・」
コックピットを覗き込むと紋章機では考えられない粗末な座席が見える。
「おしりとか痛くならないのかな?」
独り言をいいながら閃電や雷電も覗き込んでゆく。
「お!見つけたぞ」
「ほえ?」
散策を続けていると兵舎近くで出会った北村が走ってくる。
「どうしたんですか?」
「ど、どうしたじゃねぇ!まだ話はついていなんだ」
「北村、上官だぞ」
後ろから追ってきた坂井が注意を促す。
「も、もうしわけありませんでした」
渋々ミルフィーユに謝罪した。



41猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/18(水) 00:49:51 ID:RX+3vuZ4 BE:146721277-BRZ(3334)
昭和20年4月6日横須賀航空隊駐機場 PM00:25
「隼改の発動機は特殊ですね・・・・・」
「これは重爆撃機富嶽の試作発動機の部品を転用しているんです」
富嶽は昭和18年に陸海軍共同の計画委員会が発足し、これに軍需省も加わった体制で開発が進められた。
しかしながら中島飛行機がどうしても大型の発動機を開発することが出来なかったことと戦局の悪化で
計画は頓挫してしまう。中島飛行機も試作発動機の部品を大量に抱えることなり頭を悩ませていたのである。
そんな最中、天女隊結成に伴い海軍は女子飛行兵が扱いやすい航空機の開発せよとい依頼がきた。
しかしながら資金は通常の発注に比べ安く中島側も苦心した結果陸軍が採用していた一式戦闘機隼の一型を改装することで合意したのである。
隼の設計主任でもあった小山悌(こやまやすし)主任は当時「女が扱うのなら弾を避けるのも下手だろう防弾を強化しよう」と発案し従来の隼よりも防御を大幅に改善した。
しかし、隼に搭載されていたハ一一五(離昇1,150馬力)ではスピードが出なくなってしまいテスト飛行でも一世代前の97戦に及ぶか及ばないかという性能であった。
そこで小山は頓挫した富嶽の発動機部品を転用に隼用の改造搭載した所性能が大幅に向上し従来の最大速度536`を100`上回る636`を計測した。
武装も12.7mm機関砲を胴体に2門取り付け20mmを翼に1門装備している。
「へぇ・・・・でも量産はされてませんよね」
「試作品の部品量産が間に合わず天女隊の4機のみが採用されたんです」
偶然から生まれた素晴らしい名機の量産がなされないことは少々残念であった。
「あ、ちひろさーん」
向こうからミルフィーユが手を振っている。ちひろはようやくミルフィーユをほったらかしにしていた事に気が付いた。
「ごめんなさーいミルフィーユさーん!すぐに行きますからー!あれ?」
ミルフィーユの後ろから一団がぞろぞろ現れこちらに近づいてくる。北村や坂井の姿もあった。
「な、なに?」
また着たのかっというような表情を浮かべる。
一団はミルフィーユを先頭に隼改の近くまでやってきた。
「決着をつけよう隊長さん」
「・・・・わかりました。女とはいえ売られたけんかです」
ちひろが身構えると坂井が割ってはいる。
「ちがう、ちがうお前らはお互いに飛行兵だ、空で決着を付けようじゃないか。おい!お前ら、零式練習機のペラを回しておけ!」
後ろの整備士に命令が飛ぶ。
「模擬空戦ですか?」
「そういうことだ」




42猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/20(金) 01:51:30 ID:Hdw+so6y BE:104801257-2BP(234)
昭和20年4月6日横須賀航空隊格納庫 PM00:50
暖機運転と昼食をはさんで決戦は1時きっかりに開始されることとなった。
手早く昼食を済ましたちひろはちとせの制服を脱ぎ捨て天女隊の飛行服に着替える。
またこの服に袖を通すことになるとは自分でも思っていなかった。
すると後ろから人の気配がする。
「誰?」
「ちひろさん!わたしも連れて行ってください」
ミルフィーユが決心固そうな表情でちひろをみつめている。
「駄目です!危険です」
「わたしもラッキースターのパイロットです!」
「紋章機と零戦は全然違います。ミルフィーユさんはレシプト機に乗ったことはないんでしょ?」
「そ、それは・・・・・」
ミルフィーユの勢いが弱まる。
「大丈夫です。これでも隊長なんですから、下から天女隊の戦いぶりを見ていてください」
ミルフィーユを慰めて駐機場に向かおうとするちひろ。
「ちひろさん!」
「はい?」
「いま体重いくつですか?」
「ほぇ?」
滑稽な質問にちひろは拍子が抜けてしまう。
「体重はいくつなんですか!」
「え、えーと・・・・その・・・・それは」
今度はちひろがたじろいでしまう。
「北村さんの体重を聞いてきました。きっとちひろさんの方が軽いはずなんですぅ!だから北村さんと同じ重さにしないと
卑怯だと思います」
ミルフィーユがちひろを見据えしばしの沈黙・・・・・・
「・・・・・・・・・・」
「むぅううううううううううう」
「・・・・・はぁ、分かりました。一緒に行きましょう、でもその制服じゃだめですよ」
ちひろはとりあえずこのみ達の遺品袋の口を開いた。
「このみ・・・ミルフィーユさんに飛行服を貸してあげてくね」
そういうとつなぎの飛行服を取り出す。
「じゃあこれ着てください」
「は、はい」
43猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/20(金) 03:11:35 ID:Hdw+so6y BE:62881237-2BP(234)
昭和20年4月6日横須賀航空隊格納庫 PM01:00
「よっしゃ!いつでも飛べるな」
零式練習機の快調な爆音に坂井がうなずく。
「北村さん!頑張ってくださいよ」
「おうよ、航空隊総本山の実力を思い知らせてやる!」
北村は装備万全練習機の横で待機している。
「あ!きました」
兵士の一人が指差すと飛行服に身を包んだちひろとミルフィーユが歩いてきた。
ミルフィーユは予想以上重かった装備に少しつらそうだがちひろは威風堂々とした感じがある。
「決まってるな隊長さん」
坂井が感心したようにちひろの姿を見る。
「桜葉少尉もいくのか」
「は、はい!わたしだってパイロットなんですぅ」
「はっはっは!海軍機を楽しんできてくれ」
坂井に敬礼するとミルフィーユは複座の後部席に座らされた。

44名無し陸戦隊:2006/10/23(月) 13:25:12 ID:0D+4DJG7
回想1944年 10月10日未明 太平洋、南西諸島沖
上昇を始めた連山は、ぐんぐんと高度を揚げていく。
排気タービンの効果は覿面で、高高度でも馬力を損なう事無く機体は1万メートルに達した。
機体は水平に戻り、進路を変える。
笹倉大尉は基地へ事態を連絡させ、見張りを強化する様に命じた。
鳥居技術大尉も座席に戻ろうとすると、一瞬笹倉大尉の顔が緊張しているのが見えた。
すぐさま機材の置かれた自分の座席へ戻ると、すぐさまブラウン管へと取りついた。
そらから間も無く所属不明の編隊の正体もほぼ判明した。
きっかけは電探が捉え始めた一定の波長の電波だった。
それは米軍が使用している機体識別用の電波(IFF)に酷似していたのだ。
まさか米艦隊がここまで来ているというのか…
鳥居技術大尉にはまだ俄かに信じられない気持ちがあった。
もしこれが米艦隊なら、我が軍は米艦隊を途中で一度も捕捉出来ずに本土近海への来航を許してしまった事になるのだ。
無理も無かった、普通に考えるなら米軍は、フィリピンか硫黄島にやってくると思う筈だ。
そんな考えの裏をかいて直接本土近海にやって来たとすれば。
もし我々が発見出来なかったら完全な奇襲になっただろう、そう思うとゾッとする。
ブラウン管に移る波長は大きく揺れ、距離が縮まっていくのを実感させる。
傍で同じく電探機材を操作している通信員の顔もどこかしら強張っているようだ。
既に臨戦態勢に入っている機内は全体が緊張感に包まれていた。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/23(月) 13:41:29 ID:9YJ9dz0M
何ここ…
とりあえず戦争マニアのオナニー小説スレということでFAしちゃうけどいい?
46名無し陸戦隊:2006/10/23(月) 14:22:20 ID:0D+4DJG7
突然声が響いた。
「前方に機影、数100以上!!」
声は前方の爆撃員席からだった。
鳥居技術大尉も身近の窓から外を確認する。
前下方、雲の切れ目の向こう側に無数の黒い胡麻粒のような物が見えた。
やはり敵機だ、しかも艦載機。
「基地へ打電、敵艦載機100以上、南西諸島方面へ進行中」
笹倉大尉の指示を受け、通信員はすばやく電鍵を叩き始める。
「後方に機影」
偵察員の声に反応し後ろを見ると、2機の太い機体が連山に向かって飛んで来るのがわかった。
おそらく連山の機影を捉えた艦隊から、指示を受けて飛んできたのだろう。
おっとり刀でやってきた2機の戦闘機の動きは、いかにも緩慢に見えた。
迎撃しようと勇んで飛んできたは良いが、高高度を飛ぶ連山に追い付けずにいる。
流石に1万メートルを超える高度では発動機にも余力が無いみたいだ。
高度を維持して飛行を続けるだけでも精一杯ではないか?
各機銃座も戦闘機目掛けて撃ち始めている影響もあって、
敵戦闘機も積極的に攻撃して来る様子は無かった。
「敵機は無視しろ、このまま敵艦隊を探すぞ」
笹倉大尉は操縦桿を曲げ旋回させた。
敵戦闘機が発砲しているが、距離はまだ遠く機銃弾の束は機体の手前で弾道を下げて行った。
連山は何とか敵戦闘機を振り切ると、敵艦隊へと向かった。
鳥居技術大尉は対水上電探と逆探で捉えた座標を笹倉大尉へ伝えていく、
幸い、雲は少なく海上は見渡せるので、艦影を目視で発見するにも探しやすくなっている。
敵も電探でこちらの動きを把握しているだけに、迎撃機がいつまたやって来るかもしれないが。
今は連山の高高度性能を信じるしかなかない。
この後鳥居技術大尉の乗る連山は、無事空母17隻以上を含む4群の艦隊、
マーク・A・ミッチャー提督指揮の第38任務部隊を発見する事に成功した。
この報により日本陸海軍各基地航空隊はは米機動艦隊撃滅に動くことになる。
台湾沖航空戦と呼ばれる戦いの始まりであった。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/23(月) 14:44:18 ID:8a1Uonfc
>>45過去ログから読んでこい
48猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/24(火) 23:03:40 ID:cerkuQZm BE:59886454-BRZ(1760)
昭和20年4月6日横須賀航空隊駐機場 PM01:00
先に上がるのは北村であった。零式練習機が独特の爆音を響かせ滑走路に向かってゆく。
すぐ後ろにはちひろとミルフィーユののる零式練習機が追随している。
「せ、狭いですぅ・・・」
独り言のようにつぶやく。
零戦11型を改装し複座を装備した練習機の後部は狭い。普段ラッキースターに乗り足を伸ばしているのがありがたく感じられた。
オマケに座席も硬いのでお尻が痛い。
ちひろの方は懐かしいコックピットであった。ここ数日シャープシューターに搭乗しているため勘がにぶっているかもと不安だったが
体はしっかり覚えている。
発動機の振動がしっかり手に伝わる。計器類を確認しつつ滑走路をめざす。
風坊をあけているため気持ちいい風が入ってくる。
「ミルフィーユさん、離陸しますよ!」
一応身振り手振りも交えて離陸を伝えたがミルフィーユは分かったわからなかったような顔をしている。
ちひろはすぐに信号手の手旗信号に視線を送り先行して上がる北村機の様子も無守った。
北村機が速度を上げ車輪が大地を蹴って大空へと上がるとちひろ機に手旗信号が振られる。
発動機の回転率を上げ機体を滑らせていく。
「なになに?」
零式練習機の数百倍の速度で基地を発進する紋章機を乗りこなしているものの体感する速度はこちらの方が上であった。
体がふわりと浮く感じがするとゆっくりと空に吸い込まれていく。
49猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/25(水) 03:25:51 ID:0+u9+9eX BE:53897663-BRZ(2000)
昭和20年4月6日横須賀海軍病院 PM01:00
「はぁ〜のどかね〜」
蘭花がミルフィーユのココアを勝手に開封し優雅な食後を愉しんでいた。
「ミルフィーユさん怒るかもしれませんよ?」
横で申し訳なさそうに千晶がココアをすすっている。
「あっはっは!大丈夫よあの馬鹿が怒るわけないじゃない!」
「それにヴァニラちゃんの看病も・・・・」
「フォルテさんとミントもいるし幸さんだって・・・だからね!」
軽くウインクしてココアタイムを続行する。
しかし、すぐに軍靴の音が近づいてくる。
「ハァハァハァ・・・・エンジェル隊の方ですね?」
「は、はい・・・・蘭花・フランボワーズですが・・・・・・・」
「すぐに来てください!」
「はぇ?ちょ、ちょとぉぉぉ!」
蘭花は兵士たちが半ば強引に連れ出していった。
「蘭花さーん!」
千晶の声届かず、蘭花は階段を下りていった。そしてそれを確認するかのように病室の扉が開く。
「あ!ミントさん、蘭花さんが!」
「大丈夫ですわ、蘭花さんを廊下においておいて正解でしたわね」
何事もなくにっこり笑うと千晶の頭をなでマイカップを取り出しココアを注ぎはじめた。


50名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/28(土) 16:25:12 ID:+Rf80fep
GA5期シリアス路線でやるならゲームのじゃ皆知っててつまんないだろうから
この話で4クールくらい土日のゴールデンタイムにやってくれないかなぁ・・。
51名無しさん@お腹いっぱい。:2006/10/29(日) 00:21:24 ID:LxOFBiVT
>>50サヨとかがうるさく言いそうだね
52猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/10/30(月) 01:32:51 ID:46oA9cPC BE:59886454-BRZ(3032)
昭和20年4月6日 東京湾上空 PM01:30
高度6000メートルまで上昇した零式練習機2機はいよいよ模擬空戦を開始しようとしていた。
まさにその時、後方から艦上偵察機彩雲が飛んできている。どうやら横須賀からこの模擬空戦を見ようと飛ばしてきたようである。
北村機とちひろ機は互いにバンクを振って模擬空戦に入った。
「ミルフィーユさん!戦闘に入りますから!!」
後ろを振り返りミルフィーユに一応の説明を行うと北村機の後ろを取るため動きが一変する。
しかし、ミルフィーユを気遣う行為で出遅れてしまったのかちひろ機は逆に後ろを取られてしまった。
「ち!」
軽くしたうちしながらもちひろは距離を詰められてないぶん焦ってはいない。
零戦から引き継いでいるエレベーター運動を利用してうまく北村機の後方にまわりこみたいと思っているのである。
だが北村もそうはされまじとちひろ機との距離を埋めていく。
本物の空戦であれば40mないし30mまで接近すれば20ミリ機関砲をお見舞いできるのだ。
「女2人とはいえ多少は重くなってるみたいだな」
ミルフィーユの搭乗を若干感謝しつつも更に距離を詰めていく北村機、しかし70を切った所でちひろ機がうす雲に入り忽然と姿をけした。
「な!?急降下で逃げたか」
戦闘機乗りにとって一番怖いのは胴体下と翼の後ろである。この部分はどうしても死角になり空戦真っ最中などは気にしないと
まずは命はないと言っても過言ではない場所であったのだ。北村もすぐに機体をひっくり返し下方、後方を確認する。
しかしちひろ機は遥か下方へと逃げ延びていった。
「うーん、下がりすぎました」
上方の北村機をにらみつつもまた上昇体制に入る。
しかし北村機も急降下してくる、斜め上からひねりこまれては一気に差を詰められるため。
ちひろ機は大きく旋回する。
まだ後ろにつけない、流石は横須賀航空隊である。
53猛虎☆全勝 ◆Aur0rKhDNQ :2006/11/01(水) 00:26:03 ID:enb7S6Si BE:44915235-2BP(3032)
昭和20年4月6日 東京湾上空 PM02:00
30分近いドッグファイトが続いている。
彩雲から戦況を見つめる坂井は両者の腕のよさ、特にちひろが零式練習機を完全に使いこなしていると感じていた。
古いパイロットには自分流の狩手法がある。北村にもその素質はあった。
坂井は横須賀教官就任以来磨きをかけていた者の一人である。
北村のアタックを的確に振り解き立場を逆転させようと必死に戦っている。
「これが天女隊か・・・・流石は精鋭部隊だ」
思わず言葉が漏れる。

一方、ちひろ機は坂井がそんな関心を示しているとは知らず必死に北村機の追撃をかわしている。
「もう少し、距離を取れればトンボでなんとか挽回できるのに」
上下左右と零式練習機の持てる機動力をフル活用して一気に引き離しにかかるもピッタリとくっつく北村機。
「ちひろふぁ〜ん・・・・・気持ち割りでふ〜」
ミルフィーユは後ろですっかりやられている。

54名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/01(水) 01:03:37 ID:PA8ZwwjJ
わからない
55名無しさん@お腹いっぱい。:2006/11/01(水) 02:47:30 ID:nQUFXrwS
>>54一体何が解らないんだ?
56名無しさん@お腹いっぱい。
る〜んがあまりにつまらないのでこのスレをGA5期の代わりに楽しみに・・。