【舞-HiME】藤乃静留総合スレ13【嬌嫣の紫水晶】
赴任した風華学園にて、「教員は何らかの部活動・委員会等の顧問に就かねばならない」
という原則から、生徒会臨時顧問に任命されてしまう高村。
初めて向かった生徒会室において、会長・藤乃静留、副会長・神崎黎人に出会った高村は、
風華学園そのものが事実上、この生徒会が全権を担って運営されていること、
教員側にも正顧問は一応居るが、優秀すぎる現生徒会メンバーに全てを一任、ほぼ一切の
顧問としての仕事を放棄していること、などを聞かされる。
持ち前の若さと正義感から、高村は「いくら優秀だからと言って、全てを生徒に任せきってよしとするとは」
と憤りをあげる。
が、生徒会長であり、名家の令嬢でもある静留にとっては、大人連中のそんな態度はなれっこであったし、
高村の義憤にも、内心冷め切った目線を送っていた。
彼女にしてみれば、幼い頃から周囲にはおべっかばかりで無責任な大人や、静留の名声、能力を
利用しようと企む大人などばかり。同世代のものにしたところで、彼女に憧れの視線や好意を寄せは
するものの、己の努力も無しで静留に頼り切る者ばかり。心を開ける者など、唯一の親友──いや、
それ以上の存在である玖珂なつきただ一人だった。
そんな彼女からしてみれば、この高村という新任教師も、奇麗事ばかりで実際には、実務的な学園
最高権力者である静留に擦り寄ることが目的なだけの、他の多数の大人と同じ人間にしか思えなかった。
続く
しかし、いざ始まってみれば、実際に高村は足しげく生徒会に通ってきた。実務能力では静留や黎人に
及ぶわけではないが、それでも自分にやれる事であれば何でも協力しようとし、悪く言えば、ずけずけと
静留の領域に切り込んでくる。
頭は切れるはずであるがどこか少し間の抜けたその性格や、若さゆえではあるがその裏表のなさは、
静留にとってみれば、今までで一度も接したことのないタイプの「大人」であった。
彼女にしてもその思惑の読みきれない黎人と居る時とは違った安らぎを、いつしか徐々に、感じられるように
なっていく。
また、静留の最愛の人であるなつきの、担任教師である高村からもたらされる情報は、静留にとっても
貴重なものでもあった。共に学生である静留には見守りきれない、クラスにおけるなつきの姿を知る
高村は、ある種のより所となった。
そんな中で、静留は幾つかの事実を知る。高村が、なつきの秘密──HiMEである、ということ。
そして、オーファンと呼ばれるものとの戦いのこと、を知っていて、実際にその戦いの場に居合わせていた
ということ。自分の教え子であるなつきのことを、心から心配しているということ。
そしてさらに、教師としての仮面を被ってはいるが…高村の真の目的が、媛伝説だということ。
なつきにすら隠してはいるが、自分自身もHiMEである静留にとって、高村の抱えている悩みは他人事ではない。
いや、むしろ自分こそが、なつきを護るために何より苦心している。
なればこそ、高村は同じ悩みを持ち…さらに、静留でも知りえぬ、HiMEというそのものに対する知識を
持ち得るこの新任教師の存在は、それを利用する、という観点からも、静留にとってのウェイトを増していった。
続く
静留と黎人、高村、そして時折訪れるなつき。4人で過ごす時間は増していく。
なつきもまた、突き放しても突き放しても食い下がる高村に、徐々に心を開いていく。
そんな時間に安らぎを覚えつつも、静留は高村に対する姿勢を軟化させていくなつきに、一抹の不安を感じていた。
そして──運命の時。
日暮あかねが倒れ、星詠みの祭の真の意味…HiME同士が互いの想い人を賭け、戦いあうという事実の判明。
アリッサ・シアーズ、深優・グリーアによる襲撃。疑心暗鬼がHiME達の心を占め、緊張が高まる。
シアーズによる襲撃にて、高村に全てを知っていたことが暴露され、静留は彼から問い詰められる。
が、それは玖珂なつきを影から支えるためであり、彼女の心に重責を掛けぬ様にするため。
静留の言葉に高村は理解を示し、自分もまた、静留と同じ想いである、と語る。
彼は静留に、なつきを、そして他のHiMEを護るためにも、全ての情報を共有し、協力して行こうと提案する。
さすがに逡巡する静留ではあったが、共通の目的──なつきを護るため、彼女は自身もまたHiMEであるという
秘密以外について、高村と語り合った。
そしてとうとう、運命の牙が静留の想い人、なつきに迫った。
結城奈緒になつきが襲撃され、第一のHiMEバトルが始まる。駆けつけた静留は、とっさに出したエレメントによる
一撃で、なつきに気付かれること無く奈緒を退かせることに成功する。
しかしそこには、唯一の目撃者がいた。片手に古めかしい銅剣を掲げた青年──高村だ。
彼に問い詰められた静留は、とうとう自身もHiMEである事実を高村に告げる。
そして、なつきを護るためなら、自分はなんだってしてみせる、ということも…
高村は、静留の想いを受け入れつつも、それでも戦いだけは避けてほしい、と懇願する。
思わず激昂する静留に対し、彼は告げた。「玖珂だけじゃない。俺は…藤乃にも、傷ついてほしくないんだ」と。
その言葉が彼の心からのものであることを感じ取り、静留はどこか心地よいむず痒さを覚える。
一転して微笑み、「分かりました。あんじょう努力させてもらいます」と応えつつも、静留は一つの決心を固めた。
まるで、彼女の心に芽生えた、ほのかな暖かさを振り払うかのように…
続く
高村にも、そしてなつきにも何も告げず、静留は奔走する。その心を、鬼神へと堕として。
執行部の菊川雪乃、シスター真田紫子、高村を探しに来た天河朔夜、なつきを襲撃した結城奈緒…
なつきを護るため、次々と、会長である己が知りえたHiMEたちのチャイルドをその手に掛けていく。
次の獲物を求めてさまよう静留の前に、美袋命を従えた神崎黎人が現れる。
なつきの敵、一番地の主、黒曜の君として。
幾多のチャイルドを食らい、強大になった静留のチャイルド、清姫の力を奪うために。
しかしもはや、静留の力は彼らにすら歯止めが効かないほどであった。命は清姫の牙に切り裂かれ、
黎人は静留の鞭に引き裂かれる。
なつきの戦う理由…一番地。その頭目の目が自分に向けられたことは、むしろ静留にとっては好都合だった。
残るは、その組織「そのもの」を潰し、消し去るのみ。
炎上する「一番地」。全ては清姫によって叩き潰されていく。
眼前に広がる地獄模様を目にして、静留は安堵していた。もうちょっとで、なつきを下らない運命から
解き放てる、と。あとは、残る最後のHiME…即ち、己を絶つだけ…
「静留…何をしている…!」
そこに、よく知った叫び声が響き渡った。彼女の想い人、玖珂なつきの。
振り返ると、そこに二つの人影があった。
玖珂なつき。
そして、高村恭司。
続く
なつきは激昂していた。他の誰でもない、静留に対して。お前は、私の復讐を奪うのか、と。
愛する少女の憤怒の表情に、静留は思わず動転しつつも言う。全部アンタのためなんや、戦わせたくないんや。
しかし、なつきの怒りは消え去ることがない。私が、私自身の手で復讐しなければ、意味がない。
そしてなつきが言った。「静留…お前まで、私の邪魔をするのか!」
方陣が輝き、デュランが飛び出す。唸り声を上げるその視線は、静留を捕らえていた。
しかし、静留と清姫は身動き一つとらない。なつきに、嫌われた。彼女の心を占めるのは、ただその絶望だけだった。
「邪魔をするなら…誰だって…静留だって…倒す!デュラン!」非情ななつきの声。デュランが雄たけびをあげ、
静留に牙をむいて跳びかかった。迫るデュランを呆然と眺めつつ、しかし静留は安堵した。これで、全てが終わる。
しかし、予想されるべき衝撃が、静留を襲うことはなかった。ふと顔を上げると、目の前に恭司の背中が見えた。
デュランの前脚に胸を切り裂かれつつも、恭司はその牙の一撃を銅剣で受けきっていた。
そしてそのまま、渾身の力で剣を振りぬく。はじき返されたデュランは、体勢を立て直しなつきに寄り添う。
「やめろ、玖珂…!どうしてお前たちが、戦わなきゃならないんだ!」
膝を落とし、胸の傷を血で赤く染めつつも、恭司が叫ぶ。
「高村…?お前まで、私の、邪魔をするのか…?」
なつきが壊れる。阻む恭司に、信じていた最後のものまでもが、失われたことを確信して。
「ああ…あああああああああああぁぁぁぁ…!!!」なつきの絶叫にデュランが応じる。認めたくないものを砕くため。
跳躍したデュランの牙が、今度こそ高村の首筋を正確に狙う。鮮血の華が咲こうとする、その刹那。
「俺は…藤乃にも、傷ついてほしくないんだ」高村の言葉と、そのまっすぐな視線が…静留の心をよぎった。
…失われてしまう。
「──清姫」
思わず、静留は己のチャイルドの名を呼んだ。
続く
翠に輝く光の粉を撒き散らしながら、デュランが宙に溶けていく。膝を落とし、呆然とそれを見つめるなつきの眼は、
光を失いただぼろぼろと涙をこぼしていた。
「なつ…き…」よろよろと彼女に近づき、手を差し伸べようとする静留。しかしなつきは、その手を力なく振り払う。
そして、ふらりと立ち上がると…振り返ることなく、歩み去っていった。
静留は改めて絶望する。とっさのこととはいえ、思わずなつきを、手に掛けてしまった。
一切の弁解もしようのない、決定的なまでの過ちだった。
「ふ…藤乃…」身を起こした高村の声。目を向けると、高村が沈痛な眼差しで、自分を見つめている。
「先生…。ウチ、やってしまいましたわ…。もうおしまいどす。…何もかも」
そして、再び清姫の名を呼ぶ。なつきの仇──自分自身を殺すために。
静留の身体に、衝撃。しかしそれは、己の命を奪うものではなかった。
清姫の牙は、届かなかった。渾身の力で静留を抱えて跳んだ、恭司によって。
恭司に抱き込まれたまま、静留は叫ぶ。なんで助ける。なんで死なせてくれない。もう生きている意味などない、と。
しかし、恭司も叫ぶ。生きてくれ。それでも、生きててくれ、と。
「玖珂は生きてる。俺だって生きてる!藤乃も!これ以上、失わせないでくれ!俺は…お前に、生きててほしいんだ!」
静留の身体に、熱いものが降り落ちてくる。それは、恭司の血と、涙と、どんなに辛くとも…まっすぐな眼差し。
そして、静留は思い出した。
あの瞬間、自分が強く想ったことを。この眼差しを、失いたくなかったということを。
媛星は、最後のHiME──舞姫、静留の手によって還っていった。なつきは学園から姿を消していた。
一年の時が過ぎて、静留は今も、風華の地でなつきを待っていた。高村恭司と寄り添うように。
そしてある日…二人の耳に、聞き慣れたバイクのエンジン音が響き渡った。
了