あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part318
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part317
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1354350154//l50 まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
>>1乙
まどマギからキュゥべえ召喚、しかし召喚者が…
QB「君の魂は第二性徴機の女性に等しい。ぼくと契約して魔法少女になってよ」
マリコルヌ「ぼくの願いはかわいい女の子になることだー!」
疲れてるのかな、俺…
3 :
るろうに使い魔:2013/02/02(土) 23:50:10.73 ID:aeixnEqb
新スレお疲れ様です。
それでは早速となりますが、新作の投稿を、0時丁度から始めようと思います。
4 :
るろうに使い魔:2013/02/03(日) 00:00:19.45 ID:x1HFIVaW
それでは始めます。
「ふうっ…やっと出来た…しっかし苦労したわ…」
トリステイン魔法学校、その女子寮にて、モンモランシーが精根尽き果てたかのように、大きく椅子の背もたれに体をあずけた。
テーブルの上には、今しがた完成した解除薬が置いてある。
「これでこの悪夢もようやく終わるのね…」
隣のルイズと剣心も、やっと一安心したように胸をなでおろす。勿論、油断は最後まで厳禁だ。まだそうなると決まったわけじゃない。
「とにかく、ホラ、飲みなさいよギーシュ」
そう言って、モンモランシーは解除薬の入った壜をギーシュに渡す。しかしギーシュは不思議そうな顔をして尋ねたのだった。
第三十六幕 『翔ぶが如く』
「…何でそんなもの飲まなくちゃいけないんだい? 得体の知れないものは飲みたくないんだが」
それを聞いて、ビシリ、とモンモランシーの額に青筋が立った。壜を持つ手は震え始めている。
何やら嫌な予感がしたルイズは、それとなく解除薬をモンモランシーから掠め取った。
「こんな臭い薬を作って、一体何をしたいのかよく分からないけど、これが君の趣味ということだけは分かった―――ぶるぁ!!!」
「アンタっ…マジっ…ホントっ…後悔するんじゃないわよっ…!!」
解除薬を持っていた手で、躊躇いなくギーシュの顔面目掛け渾身のストレートをぶち込んだモンモランシーは、息も絶え絶えにそうまくし立てた。
もしルイズが取ってなかったら、今頃薬はギーシュの顔面に派手に飛び散っていたことだろう。
やっぱり油断しちゃいけない。飲ませるまでが終わりなのだ。
「いいから飲みなさいよ!! あんたの病気を治す薬よ!!」
ルイズはそう言ってギーシュに薬を突き出した。口から出まかせだったが、そうでも言わないとコイツは飲みそうもない。
しかしそれでもギーシュはまだ渋っている様だった。
「分からないなあ。僕の何処に病気があると言うんだい? 僕はこのとおり至って健康そのものさ。僕は気付いたんだ…真の愛情というものは、分け隔てない、
あのラグドリアン湖のように大きな存在であることを。それを悟った僕の、一体どこがびょうき―――」
「「いいから飲めやぁぁぁあああ!!!!」」
シンクロした叫びを上げたルイズのモンモランシーの、巧みなコンビネーションにより、ギーシュは有無を言わさず解除薬を口の中に放り込まれた。
ゴクン、と確かに薬が喉を通っていく音を聞き届けたルイズ達は、それでも油断なくギーシュの動向を監視していた。
やがて、ひっく…と一つのしゃっくりをした。それから憑き物がとれたかのように、ギーシュはフラフラした表情で辺りを見回した。
「あれ…ここは…僕は…何を…」
そうして見ているうちに、まず視線が剣心へと移り、そして悪魔を見たかのような驚愕の表情をした。
「そっ…そうだ…僕は…」
ヨロヨロと立ち上がり、今度はおぼつかない足取りで少し歩いた後、そしてモンモランシーの方を振り向いた。
すると先程の剣心の時より、恐ろしいものを見たかのように顔が恐怖で歪む。
「あ……あっ…」
『惚れ薬』の効果は確かに消えた。だが、その時にした記憶まで都合良く消してはくれない。ちゃんと、自分のしたこと言ったことはハッキリと覚えているのだ。
剣心に言った痴態ともいえる恥ずべき行為。更には恋人であるモンモランシーに放った罵詈雑言の数々。
遂にギーシュは、その精神が限界へと達した。
5 :
るろうに使い魔:2013/02/03(日) 00:04:07.05 ID:x1HFIVaW
「ぎいいやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
はち切れんばかりの金切り声を上げた後、ギーシュは白目をむいたまま、ぽっくりとそのまま倒れ込んだ。
全くどこまでも騒がしい男である。
「終わったわね…」
色んな意味を含めながら、ルイズはふうっ、と安堵のため息をつく。あの反応を見る限り、まず間違いなく戻ったことだろう。
流石にその後の精神状況までは面倒見切れないが。
「…もういいわ…。わたしも…何か疲れた…」
モンモランシーは遣る瀬無さそうな視線をギーシュに向けながらも、それでも仕方なさそうに杖を振り、ギーシュをベットに運んで寝かせてあげた。
「ホラ、これで終わったからいいでしょ? 少し一人にさせて頂戴」
ぐったりと椅子に寄りかかりながら、疲れたような目でルイズ達にそう言った。特に留まる理由も無かったので、ルイズ達はそそくさとその場を後にするのだった。
「はぁ…わたしも疲れたわぁ…」
部屋を出て早々、ルイズも深いため息をついた。剣心もはは…と乾いた笑いをする。
「まあ、無事元に戻ったようだし、これで一件落着でござるよ」
「でもホント、笑える話よね。ケンシンには悪いけどさ」
そう言ってキュルケは未だに思い出しては面白そうに笑いながら、真っ赤な髪をかき揚げる。
言ったら殺すわよ…。とルイズが殺意の視線を送った。
それを気にする様子はなかったが、キュルケはまだ何か引っかかりがあるのか、うーんと首をかしげた。
「でもまあ、相変わらず綺麗だったなぁ…ラグドリアン湖…」
と、ふと思い出すかのようにルイズが呟いた。
「前に行ったことあるでござるか?」
「うん、十三の頃、姫さまのお供で行ったことあってね。とっても盛大な園遊会が開かれてて…すっごく賑やかで、華やかで、楽しかったなあ」
昔を懐かしむ様子で、ルイズは続けた。
「実はあのラグドリアン湖はね、ウェールズ皇太子と姫さまが初めて出会った場所なんだって。夜中に姫さまに頼まれて、身代わりになって欲しいって言われてさ。今考えると、二人はその時逢引でもしてたのかなぁ…」
切なそうな表情をして語るルイズを他所に、ここで何か思いついたようにキュルケは叫んだ。
「あっ…そうよ!! ウェールズ皇太子よ!!」
「な、なによ急に!」
折角の余韻を邪魔されてルイズは口を尖らせたが、それに構わずキュルケは続ける。
なんでも、ラグドリアン湖に向かう道中、ウェールズそっくりの男を見かけたというのだ。
「そうよそう!! あぁやっと思い出せたわ! あの色男はウェールズ皇太子さまじゃないの!」
「……どういうことでござる?」
剣心が、伺うような視線でキュルケに尋ねた。
「…ウェールズ殿は、確かにあの時亡くなったでござる。それはキュルケ殿も見てたでござろう?」
「ええ、見てたわ。今まで全然思い出せなかったけど…でもあれは確かにウェールズ皇太子よ。わたしがあんな色男、見間違えるわけないわ」
今まで忘れていたのに、断言するかのような口調でキュルケは言い切った。それを聞いて、剣心の中で嫌な予感が膨れ上がる。
(『アンドバリの指輪』…死者に偽りの生命…レコン・キスタ…)
そして、ワルドが言った『ウェールズを亡き者にする』という真相…。
全てが、剣心の脳裏で繋がっていく。まるでパズルのピースをはめ込むかのように…。それはルイズ達も同様だった。
そして、そこから答えを導き出すのに、さして時間は掛からなかった。
「しくった、奴らの狙いは姫殿だ!!」
「…――!!?」
剣心が叫ぶと共に、ルイズ達も弾けるように反応する。剣心達は急いで学院の外に出ると、タバサに向かって剣心は言った。
「タバサ殿、シルフィードを呼んでもらっても―――」
「もう呼んだ」
阿吽の呼吸が如く、既にタバサは口笛を吹いていた。ひと足遅れて、シルフィードがばっさばっさと翼を羽ばたかせて飛んでくる。一行は素早く風竜の背中へ乗り込んだ。
「トリステイン王宮、急いで」
タバサはそれだけをシルフィードに告げた。その声の様子から尋常でないことを察したシルフィードは、急いで飛び上がり全速力で空を駆けた。
6 :
るろうに使い魔:2013/02/03(日) 00:06:19.71 ID:x1HFIVaW
夜の風が静かに吹くトリステイン王国。しかしその王宮は、喧騒や怒号で昼間より騒がしかった。
剣心の読み通り、事はもうすでに起こっている…いや、起こってしまったと表現するのがいいだろう。
王宮の中庭で慌ただしく動いている護衛隊らしき一団は、降り立とうとしているその風竜の姿を見て、再び混乱が巻き起こった。
「こんな夜更けに一体何だ!!」
王宮預かるマンティコア魔法隊の隊長は、大声で怒鳴り込んだ。
「何奴!! 現在王宮は立入禁止だ、下がれ!!」
しかし風竜は下がろうとせず、そのまま着陸して来た。隊長は、その風竜と背中に乗る一団に見覚えがあった。
数日前、白昼堂々と王宮に乗り込んできた一行だ。アンリエッタ女王の友達と言ってはいたが、今は非常事態。
「またお前たちか! 面倒なときに限って姿をあらわしおって!!」
「姫さまは…いえ、女王陛下ご無事ですか!?」
風竜の背中から桃髪の少女――ルイズが飛び降りると、せきを切って隊長に詰め寄った。隊長は、鬱陶しそうな顔を隠そうともせず言った。
「貴様らに話すことではない。ただちに立ち去りなさい」
それを聞いたルイズは、怒りで顔を真っ赤にすると、懐から一枚の羊皮紙を取り出し、それを隊長に見せつけた。
「私は女王陛下直属の女官です!! この通り陛下直筆の許可証もあるわ! わたしには陛下の権利を行使する権利があります! ただちに事情の説明を求めるわ!!」
これには、流石の隊長も目を丸くした。成程、確かにルイズが持っているのは、アンリエッタの執筆による許可証だ。
なぜこんな少女が女王のお墨付きを…そう思ったが、彼も軍人。上司だと分かった以上、無粋な対応をするわけにもいかない。敬礼をして、隊長は経緯を説明した。
「今から二時間程前、女王陛下が何者かによってかどわかされたのです。警護のものを蹴散らし、馬で駆け去りました。
現在ヒポグリフ隊がその行方を追っています。我々は何か証拠がないかと、この辺りを捜索しておりました」
やっぱり…ルイズはそう思った。こうしている内にも、段々と嫌な予感は膨れつつある。
「それで、一体どこへ向かったの?」
「賊は街道を南下しております。どうやらラ・ロシェールの方面に向かっているようです。間違いなくアルビオンの手のものかと…」
不安は嫌な程的中していく。こうしてはいられない。ルイズはそれだけ聞くと、素早くシルフィードの上に乗った。
「夜明けまでが勝負でござる。それまでに追いつけないと…」
剣心の言葉に、一同は緊張感を覚える。彼がそこまで言うということは、それほど事態は重い状態だというのが分かったからだ。
「低く飛んで、敵は馬に跨っているわ!! でも速くお願い。時間は無いわ!! 行動は迅速に。翔ぶが如く!!」
翔ぶが如く。それに反応するようにシルフィードは、翼を羽ばたかせ急加速した。
7 :
るろうに使い魔:2013/02/03(日) 00:07:55.80 ID:x1HFIVaW
森の中、その一つの生い茂る広い草原―――そこは燃えていた。
そこここに飛び散る血と、死体と、ヒポグリフ達幻獣の死骸と一緒に……。
彼らは麗しき女王を取り返そうと躍起になっていたヒポグリフ隊の連中だった。
奸賊を見つけ、その一向に容赦なく制裁を与えるべく魔法を放った彼等だったが、突然の事態により形勢は逆転。
あっという間に全ての隊員達が薙ぎ倒され、鮮血が辺り一面に巻き散っていった。
その中心に立っていたのは、常人なら死んでもおかしくないほどの傷を追ったウェールズと、生気の無い目で立ち上がる奸賊の面々だった。
「う、ん………」
アンリエッタは目を覚ました。ふと起き上がれば、そこは血と煙が燻る世界。周りを見れば、見知ったヒポグリフ隊の死体がいたるとこれで倒れており、
立っている連中も、全員死人のような表情をしていた。
そして目の前には…これほどの事態が起こっているというのに、相変わらず笑っているウェールズがいた。
「ウェールズさま…貴方…一体なんてこと…」
「やあ、驚かせてしまったようだね」
いつもの様な屈託の無い笑顔。それに怖気を感じたアンリエッタは、本能的に杖をウェールズに向ける。
「貴方は…誰なの…?」
震える声で、アンリエッタは問うた。未だに信じられないといった目で。
「何を言っているんだい? 僕はウェールズだよ」
「嘘よ! よくも魔法衛士隊の隊員達を…」
アンリエッタは叫んだ。声だけでなく杖を突きつける腕も震えてくる。容姿は確かにウェールズなのに…まるで別人のようだった。
「仇を取りたいかい? いいとも。君は僕を殺す権利がある。さあ君の魔法で僕をえぐってくれたまえ。君の手で殺されるなら本望さ」
仰々しく手を広げながら、ウェールズは言った。アンリエッタは震える手で杖を突きつけたまま固まっていた。
出来るわけない…あれほど好きだった皇太子を…殺すことなんて…。
アンリエッタは崩れ落ちた。涙を流し、子供のようにただうずくまった。
「何で…こんなことに…」
「今は僕を信じてほしい。それだけさ」
「でも…でも…」
ウェールズの声を、アンリエッタの僅かばかりの理性が押し止める。違う…彼はこんなこと…わたしが望んでいたのは…こんな…。
しかし、今の彼女の心にはウェールズの言葉はよく響く。
「覚えているかい? ラグドリアンの湖畔で交したあの約束を。君が口にしたあの誓約の言葉を」
「…忘れるわけありませんわ。それだけを頼りに、今日まで生きて参りましたもの」
「言ってくれ。アンリエッタ」
まるで悪魔のような甘い囁き。しかし、アンリエッタの精神は、徐々に彼を受け入れつつあった。そうしないと…自分が保てなくなりそうだったから…。
「トリステイン王国王女アンリエッタは、水の精霊の御許で誓約いたします。ウェールズさまを…永久に愛すると…」
一言一句、間違えることなくアンリエッタは誓約の言葉を口にすると、ウェールズは満足そうな笑みを見せた。
「その誓約で以前と変わったことがあるとすればただ一つ。君は今では女王ということさ。でも、ほかの全ては変わらないだろう? 変わるわけがないだろう?」
ウェールズの熱弁に、アンリエッタはうんうんと頷く。もう止まらない、この気持ち。
ずっと今まで、こうやって抱かれたかったと夢見て来た自分だったのだから。
「どんな事があろうとも、水の精霊の前でなされた誓約がたがえられる事はない。君は己のその言葉だけを信じていればいいのさ。後は全部僕に任せてくれ」
優しく思えるウェールズの言葉、その一つ一つがアンリエッタの心を刺激する。今の彼女はただの無垢な少女だった。
アンリエッタは何度も頷いた。まるで自分に言い聞かせるかのように…。
「…非道いわ」
街道を飛んでいく道すがら、ルイズは眼下にある無残な死体の山を見て思わずそう呟いた。
血の臭い、煙の臭い。そして悪臭を放つ人間『だった』モノの数々。その中には最早原型を留めていないものも幾つかあった。
8 :
るろうに使い魔:2013/02/03(日) 00:11:42.58 ID:x1HFIVaW
シルフィードを着陸させ、ルイズ達は地に降り立つ。何か手がかりになるものはないか、探していると、幸運なことに生存者がいた。
「生きてる人がいるわ!!」
キュルケの声に、皆が一斉に反応する。
駆け付けて様子を見れば、腕に深い怪我を負っていながらも、確かに生きながらえている人間がいた。
「大丈夫でござるか?」
「ああ…あんたたちは…?」
「わたしたちも、貴方達と同じ、女王を誘拐した一味を追ってきたのよ。一体何があったの?」
味方だと知って少し安心したのか。その騎士は不可解、といった感じながらも話してくれた。
「分からないんだ…けど、あいつら…確かに致命傷を負わせた筈だったのに…」
「…それは一体?」
しかし、騎士の言葉はそれきりだった。安心感が極限にまで達したのか、そのまま眠るように気絶してしまった。
「どういう意味…?」
疑問符を浮かべて考えるルイズ達だったが、そうさせる暇はもうないようだった。
それに真っ先に気づいたのは剣心だった。彼の反応でピンと来たように、次いでタバサも勘付く。
囲まれている…いや、最初から待ち伏せのつもりだったようだ。剣心は、ゆっくりとデルフの柄を手にかけた。
刹那、魔法が四方八方から飛んでくる。剣心は素早くデルフを抜刀すると、振り向きざまに横一閃。その沿線上に入った全ての魔法をかき消した。
「おお、久しぶりのこの感触!! テンション上がってくるぜ相棒!!」
漸くまともな出番が来て嬉しかったのか、デルフが半狂乱になって叫ぶ。それに構わず剣心は、返すひと振りで遅れて飛んでくる第二波目を完全に防ぎきった。
遅れてタバサが反撃の呪文を唱える。氷の矢や風の槌が、先程飛んできた魔法の場所へと向かっていった。
着弾と同時に、何人かが吹き飛んで行き、氷の矢で串刺しになる。
だが何より驚いたのは、そんな状態になりながらも平然としている彼等の姿だった。
「…『アンドバリの指輪』とやらの効力でござるか」
タバサの攻撃を受ける前から既にボロボロだった彼等を見て、剣心は瞬時にそう考察した。あの様子で生きてるなんて普通じゃ考えられない。
剣心達は油断なく構えた。しかし、何故か敵はそれ以上攻撃をしてはこない。何かを伺っているのだろうか…それとも…。
そう考えていた剣心達の前に、ふとその影は現れた。生気のない人間の群れを押し分けて、悠然とやってくるその人影…。
それは間違いなく、剣心達が知っている、そしてもう会うこともないだろうと思っていた人物だった。
「…ウェールズ…殿…」
「やあ、また会えて嬉しいよ。『ガンダールヴ』…いや、ここは『人斬り抜刀斎』君と呼んだほうがいいのかな?」
ウェールズは、邪悪な笑みを隠そうともせずに、そしてそれを剣心に向けてそう言った。
9 :
るろうに使い魔:2013/02/03(日) 00:15:02.32 ID:x1HFIVaW
今回はここまでとなります。少し短くて申し訳ありません。
来週は前編後編となりますので、出来れば二回投稿できればいいかなあと思います。
それではまた。ここまで見ていただきありがとうございます。
投下乙にて候う
11 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/02/03(日) 16:00:19.60 ID:Lj0voE/Z
パパーダの人へ
仮にパパーダが魔界を決別する前に召喚されてたら
魔法学院の生徒、教師、使用人達はどうなってたんでしょう?
オフィシャルでもやってない描写なんだから誰にも分からんよ
ドラクエのスライムって水の精霊からはどう見えるんだろ?プルルン同士だし、お仲間?
ぷるるん
キャッ党忍伝てやんでえ
懐かしすぎる名前だ
ペルソナから何かいいの召喚できないかなと考えたけどすでに押しも押されぬご立派なモノが召喚されてたの忘れてた
ご立派様召喚はペルソナじゃなかったと思うが
出典はメガテンだな、ペルソナはゲスト参戦
20 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/02/07(木) 17:41:41.31 ID:m5r9D1Op
パパーダの人へ
もしもルイズがスパーダじゃなくて魔帝ムンドゥスか覇王アルゴサクスを
召喚しちゃったらどうなっちゃうんでしょう?
ハルケギニア、少なくとも学院終了のお知らせ。
でもスパーダや半魔兄弟らがテファ辺りに喚ばれて来るかも。と言っても憶測でしか無いがね。
それアレな人じゃね
sageもしない奴に取り合うなよ
地獄のミサワであった電話相談のお兄さんの「知らねえよ」が頭をよぎった
惚れ薬をルイズ以外の誰かに飲ませるというのは鉄板だがおもしろい
アニエスやシルフィードが惚れ薬飲んだSSもあったなあ
ロリもいいけど、フーケとかアニエスとかBBAもいいよね
ウルフウッド召喚の話では、よりにもよってコルベールが・・・
>>25 萌え萌えさんのはそういやそのエピソードまだだったな。
メンヌヴィルとか先に来てるけど、まだタルブ戦前だし。
ふがくが飲んでも面白いけど、あかぎやルーデルが飲んだらすさまじいことになりそうだw
普段真面目なタイプに飲ませたほうが惚れ薬はおもしろいだろうな
コルベールが飲んで学園長に惚れるとか
多分潜在的にはもっと・・・
あの人「ホモが嫌いな女子なんていません」
そしてトリステインに巻き起こる同類誌ブーム
もう仮面ライダーバースか宇宙刑事シャリバンさんを召喚しようぜ。
35 :
マスクドライダー:2013/02/09(土) 23:59:27.84 ID:65KKX85v
カブトゼクターとガタックゼクターを召喚というのはどうでしょう
36 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:22:06.61 ID:gcBCIS5v
皆さんこんばんわです。
先週予告していた通り、今日と明日の二回に分けて前後編を投稿しようと思います。
それでは予約がないようでしたら、0時半頃から始めさせていただきます。
37 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:30:34.64 ID:gcBCIS5v
それでは始めます。
「流石は伝説の人斬り様だ。噂通り…いや、噂以上だ。僕の思考をこうも的確に読んで、追ってくるなんてね」
月夜が照らす森の中、ウェールズは不気味に笑って剣心にそう言った。
人斬り…そう言われた剣心は、ピクリと眉をつり上げる。
「『人斬り』…?」
「そう言えば、ワルドも言ってたわね…人斬りなんとやらって…」
キュルケとタバサが疑問符を浮かべる中、ルイズはハッとしたような表情をした。
刹那蘇るのは…封印したかったあの夢の記憶。ルイズにとってトラウマにもなった彼のもう一つの顔…。
しかし、剣心は気にする風な様子は見せずに、まず一歩前へ出る。
「姫殿は、どうしたでござる?」
その問いに、ウェールズはガウンを着た人影の方を招き入れた。ガウンを脱いで露わになったその影は、確かにアンリエッタその人だった。
ここでルイズは気が戻ったのか、アンリエッタを見るなり叫ぶ。
「姫さま!! こちらにいらしてくださいな! その御方はウェールズさまではありません! 『アンドバリの指輪』で蘇った亡霊なのです!!」
ルイズは悲しみを抑えながらも叫び続ける。こうなった事態を作り出したのは、元はといえば自分の過ち。
それが今、敬愛なる姫を苦しませていることになっているなんて…ルイズにとってこれはこれ以上ない辛さだった。
しかし、アンリエッタはウェールズに寄り添い、ただ首を振るばかり。ここでウェールズがおどけるように言った。
「おかしなこと言うね。彼女がついてくるのは、他ならぬ彼女の意思そのものさ。それ以上でも以下でもない。さて、それが分かったなら早速取引といこうじゃないか」
第三十七幕 『人斬り抜刀斎 前編』
「…取引だと?」
「そうさ。ここで君達とやりあってもいいが、僕たちは馬を失ったからね。明日まで馬を調達しておきたいし、魔法もなるべき温存した――――」
話している途中、不意にタバサの『ウィンディ・アイシクル』が、ウェールズの全身を余すところなく貫いた。
しかし、先程の兵士達と同じくウェールズは倒れない。どころか、みるみる内に傷口まで塞がっていった。
「無駄さ。君たちの攻撃じゃあ、僕には傷一つつけられない」
その様子を見たルイズが、再びアンリエッタに向かって叫んだ。
「見たでしょう! それは最早王子様ではありません! 別の何かですよ、姫さま!」
ただひたすら必死にアンリエッタに訴えかけるルイズだったが、それでもアンリエッタはルイズの言葉に耳を貸さない、貸したくないようだった。
「…お願いよ、ルイズ。杖をおさめて、わたしたちを行かせて頂戴」
「何を仰るのですか! それはもうウェールズ皇太子ではないのですよ! 姫さまは騙されているのよ!!」
しかし、アンリエッタはニッコリと笑うだけだった。その笑みには鬼気迫るものがあった。
「ええ…分かっているわ。唇を合わせた時から、そんな事は百も承知よ。でも、それでもわたしは構わない」
そして、今度は毅然とした表情をしてこう続ける。
「ルイズ、貴方は人を好きになったことがないのね。本気で好きになったら、何もかも捨ててでも、ついて行きたいと思うものよ。
世の中の全てに嘘をついてでも、これだけは…この気持ちにだけは嘘はつけないの」
「姫さま…」
「これは最後の命令よ、ルイズ・フランソワーズ。道を、あけてちょうだい」
アンリエッタの気迫ある声に、ルイズはすっかり萎縮してしまった。もう、彼女は止められない…。
自分の声はもう、届かない。
ただ呆然としているルイズ達を見たアンリエッタは、ウェールズと一緒にゆっくりと先に進もうとした、その時だった。
その目の前を、剣心が立ち塞がったのだ。
「姫殿には悪いとは思う。だが、このまま行かせるわけにはいかないでござるよ」
憮然としてそう言い放つ剣心に、アンリエッタは精一杯の威厳を振り絞るかのように口を開く。
38 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:31:50.25 ID:gcBCIS5v
「どきなさい。これは命令よ」
「済まないが、この国に忠誠を誓ったわけではござらん。拙者はルイズ殿の使い魔ではあるが、その前にただの『流浪人』でござるからな」
なおも淡々と告げる剣心を見て、アンリエッタはわなわなと震え、そして叫んだ。
「どうして…どうして邪魔をするの!! 忠誠を誓わない貴方が、わたしの気持ちを知る由もない貴方が、どうして立ち塞がろうとするの、何で行かせてくれないの!!?」
遣り場のない怒りをぶつけるかのように、アンリエッタはただ叫んでいた。それを見て、剣心は…ルイズ達が初めて見る、どこか物憂げな表情をした。
「わかるでござるよ…大切なものをなくした気持ち。返ってきて欲しいと思う気持ち。それが叶わず絶望する気持ち…けど姫殿、いつまでも過去を振り返っても、それじゃ前には進めない」
「だから…貴方に何が…」
「姫殿は、さっき『自分に嘘はつけない』と言ったでござるな。けど拙者には、無理して自分に言い聞かせているだけにしか見えぬ。
本当に、その言葉に、嘘偽りはないでござるか?」
アンリエッタは、言葉を詰まらせた。彼の一言一言が、アンリエッタの心を貫いていく。
その時、助け舟を出すかのようにウェールズがアンリエッタを抱き寄せた。
「騙されてはいけないよ、アンリエッタ。この男は冷静な態度でもその実、君を拐かそうとしているんだ。君は僕を信じてくれればそれでいい」
「ウェールズ様…」
その言葉に、アンリエッタはうっとりとしてウェールズに寄りかかる。そこでウェールズは、唐突に可笑しそうな声で言った。
「全く…面白いものだね。かつて冷徹、無情、無慈悲で冷酷な殺人鬼で名の通った『人斬り』様が、まさか情を語らうとは。それも作戦の内かい?」
ウェールズのその言葉に、とうとう我慢しきれなくなったのか、今度はルイズが食ってかかった。
「何よ、さっきから聞いてれば人の使い魔を人斬りだの殺人鬼だの…そんな風に言わないでよ!!」
「おや? 君は本当に知らないのかい? 主人であるくせに?」
おどけた様子でウェールズは尋ねた。その顔は邪悪で満ち満ちている。
「あっはっは、これは傑作だ! よもや自分の召喚した使い魔の、本当の素性を知らないとは!!
…と、そう言えばこの国は人の過去をあまり詮索しないんだっけか」
愉快に笑うウェールズを見て、ルイズは怒りより先に不安を覚えた。
あの夢が…また脳裏に蘇ってくる…。
「なら、他国の僕が代わりに話してあげようじゃないか。君の知らない、この男のとんでもない一面というのを…」
その言葉に、ルイズは嫌でも釘付けになってしまう。キュルケも、タバサも、そしてアンリエッタも、興味深そうに耳を傾けていた。
ウェールズは、以前かわらぬ表情をしている剣心を見て、一度ニヤリとすると、大げさな身振りで話し始めた。
「昔々、ここではない『どこか』…我々が『異世界』と呼ぶべき世界では、かつて戦争がありました。二つの勢力が、我こそが正しいと日々争い、殺しあった時代。そこに男は突然現れました。」
「男は、目に入るもの全ての人を斬り殺しました。闇夜に身を預け、獲物に悟らせず、まるで息をするかの如く人を斬る。それは文字通り鬼のようで修羅とも呼ばれる強さだったといわれてきました。
そこには平和を夢見る、ただの心優しい人間だっていたはずです。しかし、男はそんな人々にも躊躇いなく剣を振るい続けました」
「やがて、動乱が終わると男はひっそりと姿を消しました。幾多の斬り殺した人間の怨念から、まるで逃げるかのように…。最終的に斬った数は、百、千…否、それ以上とも云われています。
その、人を斬った事だけで伝説を謳われた男は、後に人々から畏怖と憎悪を込めてこう呼ばれるようになったのです…」
ウェールズは一旦、ここで止めて、そして吐き出すかのように言った。
「『 人 斬 り 抜 刀 斎 』と…それが君の呼び出した使い魔の、本当の正体さ」
話を聞き終えた後、皆一様にして呆然と口を開けていた。その中でルイズは恐る恐る、その視線を剣心へと向けた。
じゃあ、やっぱり…あの夢は……。
39 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:33:02.78 ID:gcBCIS5v
「……ホントなの?」
震える声で、ルイズは言った。
出来れば、否定して欲しかった。あの夢は現実じゃないと、そう言って欲しかった。
けど、剣心はルイズを見ると…悲しそうな表情をして言った。
「否定はしない…。全ては奴が今話した通り、それを否定するには…拙者は余りにも罪を重ねすぎた」
「…どうして、言ってくれなかったの?」
聞かないと決めたのは自分のはずなのに、なぜかルイズの意思に反してそんな言葉が口から出た。
それでも剣心は、なお優しそうな、それでいて切なそうな笑みを浮かべて言った。
「すまなかったでござるな。拙者は隠す気はなかった。でも…できれば語りたくなかった。それだけでござるよ」
その剣心の笑みを見て、ルイズはハッとした。
ただ悲しそうで、それでいて優しい目。
ふとルイズは首にかけたペンダントを見る。そして思い出した。その時のしてくれた彼の表情を…あの時の楽しさを……。
「さて、では戯れもここまでにして、そろそろ本格的にどいてはくれないかな?」
「言ったでござろう…通すわけにはいかぬと」
相変わらず不気味な笑顔で歩み寄るウェールズに振り返り、剣心はどこまでも憮然とした表情で言った。
「なら仕方ないね…力ずくでも退いていただこう」
ウェールズは、サッと杖を引き抜いた。それに反応するかのように、剣心も動き出す。鞘から逆刃刀を抜き、一閃を放つ。
しかし、偶然かタイミングが良かったのか、その前を巨大な水の壁が覆った。
「ウェールズさまには指一本触れさせはしないわ!!」
アンリエッタがそう叫んで、ウェールズの前に水の魔法を放ったのだ。
「くっ…」
剣は水の壁と衝突するが、流石に只の刀に水とは相性が悪い。押し返されそうになるも、剣心は鍔迫り合いに持ち込んで何とか耐える。
ルイズは、それをしばし呆然と見つめていた。…そして決心したのか、杖を抜き剣心の方へと向けた。
「…ルイズ」
それを見たアンリエッタは、やっと味方してくれた、そんな安堵の表情を浮かべていた。
が、しかし、ルイズが吹き飛ばしたのは、水の壁の方だった。
ドゴン!! と爆発を起こした水は、飛沫を上げて飛び散っていく。
それを見たアンリエッタが、表情を一変させて叫んだ。
「どうして、何故貴女まで彼の味方をするの!?」
「…姫さまはご存知ないでしょう…ケンシンに、わたしがどれだけ助けられたか、ケンシンの言葉に、わたしがどれだけ救われたか」
ポツリポツリと呟くようだったが、そこに確固たる強さを持った声で、ルイズは呟く。
「確かに…昔は人を斬ってきたかもしれない。非情だったのかもしれない…でもそれはもう過去のことでしょう?
私の知っているケンシンは、決して、人斬りなんかじゃない」
アンリエッタに顔を向け、そしてさらに続ける。その目は打って変わって強い輝きを灯していた。
「わたしが召喚したのは、人斬り抜刀斎なんかじゃないわ。優しくて強いわたしの使い魔、ヒムラ・ケンシンよ!!」
そして、アンリエッタと同じくらい毅然とした様子で、ルイズは杖を、ウェールズ達に突きつけた。
「そして! いくら姫さまといえども、わたしの使い魔には指一本たりとも触れさせることは許しませんわ!!」
髪の毛を逆立て、ぴりぴりと震える声でルイズは叫ぶ。
「…ルイズ殿……」
それを見た剣心は、どこか、嬉しそうな表情をした。
それに頷くかのように、キュルケやタバサも動き出す。それと同時に、周りを囲んでいた死人の兵隊達も魔法を放ち始める。
戦いが、始まった。
しえん
41 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:35:58.75 ID:gcBCIS5v
直ぐ様ここにいる場所が、戦場へと早変わりした。
飛び交う魔法の呪文、風が唸り、炎が荒れ、水が迸り、土が揺れ動く。
タバサとキュルケは、素早く動いて回避する。反応が間に合わなかったルイズも、剣心に連れられる形でその場を離れた。
相手は不死身の兵隊達、斬ろうが叩こうが死ぬことはない。だがたった一つだけ、弱点とされるものがあった。
それは『炎』。
キュルケの放つ『ファイアー・ボール』が、一人のメイジに当たって燃え上がると、そのまま起き上がることなく倒れ込んだのだ。
「やった! 炎が効くわ! 燃やせばいいのよ!」
それを聞いたタバサは、直ぐ様キュルケの援護に回る。キュルケの放つ火の玉は、それから後三人ほど燃やし尽くした。
しかし、この快進撃も長くは続かなかった。
突如、ポツリポツリと水滴が空から落ちてきたのだ。それは段々多くなり、やがて音を立てて雨が降り出し始めた。
タバサが、珍しく焦ったように空を見上げると、そこにはいつの間にか巨大な雨雲が発生していた。
それを見たアンリエッタは快哉の声を上げる。
「見てご覧なさい! 雨よ、雨! 雨の中で『水』に勝てると思っているの? この雨のおかげで、わたしたちの勝利は動かなくなったわ!!」
嬉々とした表情のアンリエッタを見て、剣心は首をかしげた。
「そんなものでござるか?」
「…まあ、すっごい不利なのは確かね…」
キュルケが苦い顔をして言った。雨が振る以上、キュルケの火も弱まる。それに相手のアンリエッタはこれで水の鎧を敵方に全員はれることだろう。
タバサの風や剣心の刀では相手を傷つけることすら敵わない。
「…どうする、一旦逃げる?」
伺うような表情で、キュルケは尋ねた。だが実をいえば、それほど絶望視しているわけでもなかった。
だって、今自分たちの前にいるのは、そんな窮地から何度も救ってきてくれた、あの緋村剣心がいるからだ。
彼が諦めない限り、自分たちだって全力を尽くす。そう決意しているキュルケ達をよそに、剣心は鋭い目で、ルーンを唱えるアンリエッタを見つめた。
「そうだな…、倒せないのなら無力化するまででござる」
そう言って、剣心は逆刃刀を一度鞘に納めた。何をするか見当がついたタバサは、それに習って剣心の動向を見やった。
アンリエッタは悲しい表情でルイズ達を見つめていた。出来れば、彼女達は殺したくない。杖を捨てて道を開けて欲しかった。
だけど、彼女らはどうやら引くつもりはないようだった。この雨を見れば、誰だって自分たちの勝ちは明白だというのに…。
「……あくまで退くつもりはないようですわね…」
はぁ…とアンリエッタはため息をついた。ならば仕方ない、この状況がどういう意味か分からせてあげるまで。その内に諦めて逃げてくれることを祈ろう。
そう思い、まず全員に水のバリアを貼ろうと杖を高々とあげて、ルーンを唱えた、その時だった。
「―――――えっ…?」
一瞬、本当に一瞬だった。何かがぶつかるような痛みを、高く上げていた手の方から感じた。
そしてぎょっとする。杖が弾き飛ばされていたのだ。本当にいつの間にか。
「っ…しまった!!」
慌てて探索するアンリエッタのすぐ横には、抜身となった逆刃刀が深々と突き刺さっていた。
42 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:37:25.34 ID:gcBCIS5v
(済まない、姫殿…)
飛天御剣流 『飛龍閃』にて、アンリエッタの杖を弾き飛ばした後、剣心は心の中で彼女に謝ると、素早く鞘とデルフの柄を握り、敵の一団へと向かっていった。
遅れてタバサが続く。
すかさず飛んでくる魔法の光を、デルフで全て受けとめると、今度は鞘を使ってメイジの杖のみを的確な動作で弾き飛ばした。
「キュルケ殿、炎!!」
そう叫ぶ剣心の言葉に、キュルケはピンと来ると、急いで呪文を唱えて小さな炎を作り出し、それを宙に舞う杖めがけて放った。
ボン! と小気味よい音を立てて杖は燃えた。
(無力化すればいい…たしかにそうだわ!)
いかな不死身とはいえど、杖をなくしたメイジ相手に自分たちが遅れを取る訳がない。成程理には適っている。
キュルケがそう考えていた頃には、剣心は飛天の剣をもって風の如き速さで一団の隙を縫うように走り、その途中すれ違うメイジたちの杖を全て叩き落としていった。
魔法はデルフで体よく吸収し、杖の持つ手を鞘で弾き、時には自らデルフで叩き割ったりもしていた。
「ホント、どうやったらあんな動きが出来るのかしら…」
相変わらず目で追うことも出来ない剣心の動きを見ながら、飛んでった杖を炎で燃やす中、キュルケはふとタバサの方へと視線を移して…そして目を見張った。
今の彼女の動きは、何ていうか…キュルケの知るタバサの戦い方とは、ちょっと違っていたのだ。
タバサが、一人のメイジ相手に立ち向かっていく。メイジは、彼女めがけて風の魔法を放つ。
いつもの彼女なら、ここは無難に避けて様子を見るだろう。
しかし、あろうことかタバサは身を屈ませて、風の刃を前にして突っ込んでいった。
頬に小さく切り傷をつくるも、魔法を避けたタバサはそのまま接近戦を挑んでいく。
直ぐに相手側は『ブレイド』の呪文を使ってタバサに切り掛ろうとするが、何と今度はそれを絶妙な体捌きと杖の動きだけで逸らした。
「あの子…あんなにアグレッシブだったかしら…?」
普段見るタバサのそれとは、全く違うその戦い方。時折剣心の方を向いては、まるでそこから学び取るように動きを変えていた。
タバサは、そのまま杖を動かしてメイジの杖を持つ手を狙って、思い切り叩いた。宙を舞った杖を振り返らず、タバサは先端の方のみを杖に向けてルーンを詠唱、杖は真っ二つに切り裂かれた。
余韻に浸る間もなく、次に襲ってくる二人のメイジを、タバサは見据えた。そして…あの構えをとる。
腰に杖をあて、屈んで待つ抜刀術の構え。しかしタバサは、待ちに徹さず後ろ足を思い切り踏んで地を蹴った。
呆気にとられている(ように感じる)メイジをよそに、タバサは素早く杖を振る。遅いながらも的確な動作でまず一人の杖が弾き飛ばされる。
その隙を狙って、もう一人のメイジが呪文を唱えようとするが、今度は『ジャベリン』で作った氷の刃が閃き、もう一人のメイジの杖をそのまま二つに切り飛ばした。
「はは…相変わらずブレないわね、あの二人」
相手は何度も蘇る不死身の軍隊だというのに、いつもと変わらず無双を続ける二人を見て、キュルケがニヤリと笑った。
「ホント、この二人が味方な時は、何が来ても負ける気がしないわ」
そう言っている間に、剣心は最後のメイジの杖を叩き潰した。これで全員もれなく弱体化。メイジからただの人間へと成り下がった。
剣心は、一旦鞘を腰に納め、タバサの方を見た。
「タバサ殿、任せても良いでござるか?」
タバサは、頷くような仕草をしたあと、すぐさま呪文を唱える。敵全員を吹き飛ばす『ウィンド・ブレイク』を、『龍巻閃』の様に身体を一回転させながら放った。
ゴウッ!! と暴風が辺りを覆い尽くし、その射程上にいた敵達は、その風の元吹き飛ばされていった。
(あの子の風…また少し強くなったわね…)
タバサが放った『風』の呪文の威力にそう疑問を感じながら、キュルケはタバサを見た。
(何よ、もう…ケンシンもタバサも…)
この光景を見て、ルイズは複雑そうな表情をした。
さっきは大見得切ってあんなこと言ったのに、いつの間にかあるべきポジションをタバサに取られていた事に、不服を感じていたのだった。
本当なら、剣心の隣にいるのは…自分のはずなのに…。
(私だって…戦えるのに…)
そんな悔しい思いをしながら、じゃあ自分には何ができるだろうか、と考えた。『爆発』以外に…。
「他に何かないの!? 伝説の『虚無』の力はこれだけなの…!?」
ルイズは、思わず『始祖の祈祷書』を懐から取り出し、ページを捲っていた。
何かないか、何か…そうして捲っている内に、本来真っ白だったところに、新しい文字が光っているのを見つけた。
43 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:40:41.95 ID:gcBCIS5v
「…嘘…」
やっとのことで杖を拾い上げたアンリエッタは、その光景を見て、そして唖然としていた。
暗かったとはいえ、水晶のように光る杖を見つけるのに、そんなに時間はかけていないはずだ。精々数十秒かそこいらである。
なのに、杖を拾い上げてそれを向け、呪文を唱えようとしてみれば、その唱えるべき対象はもういない。皆吹き飛ばされて視界から消え失せた後だった。
その雨の中、無表情でこちらを見る剣心とタバサは、未だに疲れどころか息切れ一つしていない。まるで何事もなかったかのように、ただアンリエッタを見つめるだけだった。
ふと、アンリエッタの脳裏に、オールド・オスマンの言葉が過ぎる。
『飛天御剣流はご存知ですかな? かつてワイバーンから私を救ってくれた恩人が振るっていた流派の一つでしてな。その強さはメイジの比ではない、あのエルフとも、正面からやりあえると私は思っております』
嘘じゃなかった…本当に目の前の男は、剣一本だけだというのに…この軍勢を相手にもろともしていない。
雨が降って、勝利は完全に揺るがないものだと信じていた。なのに、その全てを悉く打ち崩されてしまった。
緋村剣心という使い魔によって…。
(どうしよう…)
思わず恐怖で身体を震わせるアンリエッタを、ウェールズが優しく包み込む。
「安心しなさい。僕のアンリエッタ。これが終われば、晴れて僕たちの障害を阻むものはいなくなる。――さあ杖をとって、僕と一緒に詠唱してくれ」
今のアンリエッタにとって、ウェールズの声だけが心の支えだった。彼が杖を掲げると、アンリエッタもそれに習って杖を掲げる。
強力な魔力が、二人の間に流れ始めていた。
『水』、『水』、『水』の三乗に、『風』、『風』、『風』の三乗。それが合わさり、巨大な六芒星を作り出し、そこから水を纏った巨大な竜巻が出現する。
『トライアングル』同士でも、こうも互いに息が合うのは珍しい。殆どない、と言っても過言ではないだろう。
王家のみに許された秘術、『へクサゴン・スペル』。
詠唱は干渉しあい、段々と膨れ上がっていく。
城でさえ一撃で葬りそうな、その津波と暴風の合わせ技に、大気は唸り、揺れ動いた。
44 :
るろうに使い魔:2013/02/10(日) 00:46:22.33 ID:gcBCIS5v
今回はここまでです。続きは明日投稿いたします。
この次の後には、いよいよ外伝を挟む予定です。まったりとお待ちくださいませ。
それではここまで見ていただき、ありがとうございました。また明日。
>>30 アニメでは忘却で惚れ薬の効果を打ち消せたけどスカロンがかかったのはキモかった
乙でござる
47 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:04:57.58 ID:i1Uko3d0
>>46さん、ありがとうございます。
さて、それでは予告通りに後編を投稿しようと思います。
予約がないようでしたら0時10分から始めます。
48 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:10:25.64 ID:i1Uko3d0
それでは始めます。
唸るような風をその身に受けながらも、剣心はそれを一瞥しながら考察した。
(さて、どうするか…)
流石にあの竜巻は受けきれそうもない。あれを何とか回避したあと、反撃に移るのが無難か。
そう考えて一旦この場は離れようとルイズ達に告げようとすると、キュルケの困ったような声が聞こえてきた。
「ねえ、この子急に固まったまま動かないんだけど!!」
第三十七幕 『人斬り抜刀斎 後編』
「どうしたでござるか!?」
キュルケ達の目の前にも、あの台風は見えている。早く離れようとする気持ちは一緒だろう。
しかし、ルイズにはまるで何も見えていないかのように、『始祖の祈祷書』を持ってブツブツと呟いていた。
「ルイズ殿?」
剣心が足早でルイズの隣に来ると、デルフが何事か閃いたようだった。
「ああ、『解除』か。確かにこの状況にゃあうってつけかもな」
「…『解除』?」
「あいつらと俺は、根っこは同じ魔法で動いてんのさ。四大系統とは根本的に違う、『先住』の魔法。ブリミルもあれにゃあ苦労したもんだ」
昔を懐かしむような口調で、デルフは言った。
「けどよ、ブリミルだって手をこまねいてた訳じゃねえ。いやはや、対した奴だったぜ。
きちんと対策は取ってあったのさ。今動いている『先住』の魔法を文字通り解除する呪文、それが今唱えてる、『ディスペル・マジック』さ」
成程、ルイズはルイズなりに自分の出来ることを考えているんだろう。剣心は思った。
だが、どうにも詠唱は終わらなさそうな様子である。その前にあっちの呪文の方が先に完成するだろう。
そんな状況なのに、今のルイズには何も届いていない。ただ集中してルーンを紡いでいるだけだった。
「この子、一体どうしたの?」
キュルケが疑問符を浮かべて尋ねる。
「ルイズ殿は自分なりに、どうすればいいのかを考えている。それだけでござるよ」
そう言って、剣心は少し微笑んだ。
何だろう、ルイズのルーンを聞いていると、不思議と力が漲ってくる。高揚感を隠せなくなる。
今目の前に渦巻く台風を、受け止めることも出来るんじゃないかという、可能性で溢れてくるのだ。
「ふーん、そう。でもあれに対抗するには、せめて『伝説』ぐらいもってこないとね…って、そう言えばどっちも伝説なんだっけ」
キュルケはそう茶化したが、同じように不思議と危機感は感じなかった。
案外、この二人ならあれもどうにかしてくれるんじゃないか? と段々大きくなる竜巻を見やりながらも、キュルケやタバサはそう思っていたのだ。
「二人は下がって、ここは拙者達がやるでござる」
剣心はそう言って、ルイズの眼前に、まるで彼女を守る盾のように立ちはだかった。邪魔しちゃ悪いとキュルケ達も素直に頷き、そして被害が及ばない場所へと隠れる。
渦巻く奔流を前にしても、剣心の表情はどこか晴れやかだった。
(何だろう…この感じは…)
こうやってルイズのルーンを聞き続けると、力だけでなく心まで安らかになってくる。遠い記憶、赤ん坊の頃に、まだ生きていた母に聞かせられた子守唄の様だった。
「変なものでござるな」
「そういうもんさ、ガンダールウ。お前さんの仕事は、その飛天御剣流で敵を無双することじゃねえんだ。
『呪文詠唱中の主人を守る』。それだけさ。そうすりゃ『ガンダールヴ』はいくらでもお前さんに力を貸すぜ」
なるほど、今は『ガンダールヴ』の影響を受けているからか、とデルフの話を聞いて剣心は納得した。でも、今回はアルビオンと違い、どこか悪くない心地だった。そして…ふと昔を思い出す。
まだ自分が『心太』だった頃…守れなかった大切な人の墓の前で、強くなろうと決意したあの頃の記憶を…。
49 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:12:14.62 ID:i1Uko3d0
歩む道を間違えて、大きな罪を負ってしまったけれど、本当はこういう風に誰かを……何かを守りたかった。
そう考えると、剣心の顔は思わず綻んだ。結局それに気付くのに十年以上掛かってしまった。でも、まだ自分の力を必要としてくれる人がいる。その人を守るために全力を尽くす。何ともいいものだった。
今なら、大剣で抜刀術にも向かないデルフでも…最高の状態で『あれ』が撃てそうだ。
「お取り込み中悪いが、やはりあちらさんのが速かったみたいだぜ」
詠唱が完成したのだろう、竜巻の唸りに殺意が込められ始めた。そして次の瞬間、それは目にもとまらぬ速さで剣心達に襲いかかってきた。
しかし、剣心は慌てず騒がず、ゆっくりとデルフを鞘に納め、腰に置く。ワルド戦のときと同様、その構えは『抜刀術』だった。
しかし、それを傍から見ていたタバサは、無意識に首を振った。
違う、これから放つ技は、ワルドの時に見せた『双龍閃』とか、そんな次元じゃない…もっと強力な…何か。
タバサは目を凝らした。是非、それを自分も見極めたいと思って。
そんな背景を知ってか知らずか、水の竜巻は剣心を飲み込もうと目前まで迫ってきた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
剣心は叫んだ。それと同時にルーンも、今まで以上に光り輝く。高揚感高らかに、剣心は『左足』を踏み込んだ。
刹那、光の速さでデルフリンガーは抜き放たれる。それがまず『風』の台風に直撃し、激しく拮抗した。魔法は吸い込まれるようにデルフの方へと向かっていく。
途中通り過ぎる風の刃をその身に少し受けながらも、剣心は歯を食いしばってそれを耐えた。髪留めが解け、緋色の髪が流れるように広がる。
時間にして一秒あったかないか、その風の衝突は剣心の振り抜きで全て掻き消えた。しかし、残る『水』の奔流が、躊躇なく剣心へと襲いかかる。
しかし、剣心は素早く一回転、地を踏み砕きながら、更に威力を上げた『最強の二撃目』を繰り出した。
再び、魔力と剣の衝突。辺りを吹き飛ばし、木々は荒れ、木の葉は耐え切れずに舞い上がっていった。
その後ろで、ルイズは遂に呪文を完成させた。無論傷一つ負うことなく。
眼前には巨大な水の塊が迫ってきているというのに、全然怖く感じられなかった。
ただ、剣心が守ってくれている。それだけで不安も、さっきの変な嫉妬も何処かへと吹き飛んでいった。
やっと、自分も戦いの役に立てて、その無防備な身体を、優しい使い魔が守ってくれて。今だけ、剣心と一緒に戦っているという実感が、ルイズにとってはこの上なく心地いいものだった。
そして、この勝敗にもそろそろ決着が決まる運びとなっていった。
拮抗していた水と剣の力も、徐々に力が弱まっていく。だがそれとは裏腹に、ルーンは更に強く光る。
飛天御剣流 『奥義』
生と死の狭間で見出した、比類なき最強の技。それはルーンの力によって更に強く、更に大きなものへと変わっていった。
50 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:14:43.15 ID:i1Uko3d0
「うおおおおおおおおおおああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
勢いを無くし始めた強烈な水流に対し、剣心は思い切りデルフを振るい、水の奔流を横一閃に薙いだ。
― 天 翔 龍 閃 ―
それだけで、水は勢いと力を失い、ただの水滴へと変わっていく。
その瞬間を見たルイズが、ウェールズ達に向けて『ディスペル・マジック』を放つ。
眩い光が辺りを覆ったかと思うと、急に周りにいたメイジたちがバタバタと倒れていく。
その中にはウェールズも例外では無かった。
覆い隠していた雲はゆっくりと晴れていき、空から月の光が流れ込む。
死人が蘇る悪夢は…こうして幕を閉じた。
「……姫様…!!」
誰かに呼ばれる声が聞こえて、アンリエッタはその目を開けた。どうやら詠唱中に気絶してしまったらしい。
「…ルイズ…わたし…は…」
まっさきに飛び込んできたのはルイズの顔だった。そしてアンリエッタは、何が起こったのか、そして自分が何をしたのか、それを思い出した。
急いで起き上がり、隣を見れば、そこには冷たく横たわったウェールズの姿があった。安らかな笑顔で、ずっと動かないまま。
「……ウェールズ…さま…」
アンリエッタは、ポロポロと涙を流した。自分のしてしまった過ち、それは決して許されるものではない。
悪夢だと分かっていた。でも、自分はその悪夢に身をゆだねた。その結果、大事な親友にまで手にかけようとした。その迷惑のせいで、たくさんの人が…死んだ。
「目は…覚めましたか?」
ルイズが、悲哀とも侮蔑とも取れるような声で言った。彼女にも色々思うことはあるのかもしれないが、そこにいるのはいつものルイズだった。
でも、自分には彼女に縋る権利すらない。一度、彼女を殺そうとしたのだ。なんて言ったらいいのか、なんて赦しを乞えばいいのか、それを聞く資格は…ない。
「あの…起きて早々何で申し訳ないのですが、ケンシンを治して欲しいのです」
困ったような口調だったが、そこは有無を言わせないような感じでルイズは告げた。
見れば、隣には髪留めが解け、女のように髪を流しながらデルフを納めている剣心の姿があった。
「いや、拙者には必要ござらん。それよりも、他にもまだ息のある者が何人かいた。そっちの方を頼むでござるよ」
そう言って、この間にキュルケやタバサが探してきた、重傷ながらもまだ生きているヒポグリフ隊の兵隊達の方を剣心は指した。
確かに、あちこち切り傷を覗かせてはいるが、普通に立って歩いている分剣心の傷はさほど深くはないのだろう。―――アンリエッタには信じがたいことではあるが。
あの水と風の竜巻を受けて、ここまでの傷で済む彼は、一体何をしてあの竜巻を突破したのだろう…?
「あれは…何?」
そう思ったのはアンリエッタだけではなかったようだ。タバサもまた、不思議そうな表情で剣心に尋ねた。
「まあ、『奥の手』でござるな」
「しっかしおでれーたぜ相棒。まさかホントに防ぎ切っちまうなんてな。飛天御剣流を生み出した奴ってのは、どんなバケモノなんだ?」
「いやいや、デルフの吸収能力がなかったら、こうまでいかなかったでござるよ」
「そうだろそうだろ!! やっと相棒も俺の価値が分かってくれたみてえじゃねえか!! 感激すぎて涙が…出てくらあ…っ」
カチカチわめきながら急に吃り始めるデルフを見て、ああ、アイツも相当苦労してたんだなあ、とルイズは思った。
そのルイズの横目では、アンリエッタが暗い表情ながらも献身的な姿勢で、自分を探しに来てくれた忠臣達の傷を癒していた。
ある程度大事にはならない程度まで皆を回復させると、今度はアンリエッタは剣心の方を向いた。
「傷を見せてくださいまし。せめて、これだけは役立たせてください」
そう言って呪文を詠唱しようとするが、無理をし続けたのか、急にふらついて剣心の胸に飛び込むような塩梅となった。剣心はアンリエッタの肩を静かに抱くと、優しい口調でこう言った。
「無理をするものではござらんよ。拙者の傷は本当に大丈夫でござる」
あくまで、今の状態のアンリエッタを気遣っての発言なのだろう。しかし、それを聞いたアンリエッタは顔をうつむかた。
(どうして…何で恩義を受けとってくれないの…?)
そんな我侭に似た感情が、アンリエッタの中で沸ふつと湧き上がってくる。
彼に聞く資格なんて無いと思う。でも、それを跳ね除けても今、アンリエッタは聞きたかった。
51 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:17:31.56 ID:i1Uko3d0
「何故…貴方はわたくしに忠誠を誓わない以上、赤の他人の筈なのに…どうして貴方は…そこまでわたくしを…」
遣る瀬無さそうな声で、アンリエッタは尋ねた。何で彼は、こんなにも無欲なのだろう。なのに、何でこんなにも自分を助けようとしたんだろう。
何か欲しいものがある様でもなく、忠誠を誓うわけでもなく、でも本当に危なくなったときは、誰よりも早く駆けつけてくる。
結局のところ、王族として生まれ、王族として育ったアンリエッタは、剣心のその心に住む気持ちが全然分からないのだった。
そんなアンリエッタに、剣心は刺さっている逆刃刀を掴みながら、こう言った。
「…『人斬り抜刀斎』の下りは、聞いたでござろう?」
「ええ…それが…?」
「彼が言ってたことは、何一つ偽りはござらんよ。拙者は、かつてたくさんの人を殺めてきた」
どこか冷たくも悲しそうな表情をしながら、剣心は語り始めた。
「新時代の向こうにある平和を目指して、言われるがまま人を斬った。本当に、誰一人とて例外なく…」
剣心の悲しそうな声で呟く。その声の裏には、恐らくあの青年のことも入っているのかもしれない。ルイズは、なんとなくそう思った。
「そして漸く、激闘の果てに新時代は迎えた。けど、だからといって争いや諍いが無くなるわけではない。ちょっとしたことで人が傷つき、そして悲しむ者が現れる。
拙者は、そういった人々を助けてあげたいからこそ、今この剣を振るっているでござるよ。…それが、人斬りの過去を償う答えだと信じて…」
剣心は、ここで逆刃刀をルイズ達に見せた。
「じゃあ…その剣は…わざとそんな形にしてたのね…」
ナマクラだと思ってた。何でこんなにもこの刀にこだわるのか、ずっと不思議だった。
でも、ようやく分かった。この刀は、彼の『信念』そのものなのだ。殺すことしか出来ない彼にとって、『殺せない刀』というのはそれだけで意味があるのだと…。
「少なくとも、拙者には、姫殿は悲しんでいるように見えた。悪夢に狂っている裏で、その中に眠る良心をずっと抑え続けてきた。そうでござろう?」
アンリエッタは言葉を詰まらせた。自分ですら分からなかったことを、こんなにも自分の気持ちを把握している、剣心のその口ぶりに。
「それにあのまま行かせたら、ルイズ殿だって悲しむ。拙者はもう、だれかが悲しむ顔は見たくない。それを放っておくことなどしたくはない。だからせめて、目の前に移る人々は守っていきたい。そう思っているでござる」
でも…、とここで剣心は、申し訳なさそうな表情をアンリエッタに見せて言った。
「姫殿には本当に済まないと思っている。言い訳にしかならないとはいえ、ウェールズ殿が殺されたのは、拙者の油断のせいだった。あの時、少しでも反応が間に合っていれば…」
それを聞いたルイズが、慌ててアンリエッタに向かって言った。
「そんな、ケンシンのせいじゃないわよ!! わたしが勝手にでしゃばったから…それだから…」
俯くルイズを見て、アンリエッタは首を振った。
違う…そもそもそんな危険な任務を頼んだのは自分なんだ…。
そう言おうとして、不意に誰かの声に遮られた。
「……ここは…どこだ…?」
その声を聞いて、一同は驚いたように一斉にそちらを見やる。
何と、ウェールズが息を吹き返し、虚ろな目で辺りを見回していたのだ。
その顔に、さっきまでの邪悪さは微塵も感じられない。ルイズ達が一度目にした、優しくも誇り高い姿だったウェールズの表情だ。
「ウェールズさま!!」
アンリエッタは、我を忘れて彼を抱き起こした。涙が再び溢れ出す。それは、歓喜の涙だった。
「ウェールズさま…今度こそ…」
「その声は…アンリエッタかい…?」
虚ろな目をアンリエッタに向けて、ウェールズは微笑んだ。
「やっと…会えた…君に…」
アンリエッタは、無我夢中で抱きしめた。その頬から涙が伝う。
奇跡…というほかなかった。『解除』が偽りの命を吹き飛ばしたときに、わずかに残っていたウェールズの生命の息吹に火を灯したのかもしれない。
だけど、それは長くは続きそうには無かった。
じわり…とウェールズの胸から大きな血溜まりが浮き出てくる。ワルドに刺し貫かれた、あの傷だ。
アンリエッタは急いで呪文を唱えようとしても、傷口は徐々に広がってゆき、治るどころか酷くなる一方だった。
「いやだ…どうして…?」
泣きじゃくるアンリエッタを見て、ウェールズは優しく告げる。
52 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:20:05.09 ID:i1Uko3d0
「無駄だよ…この傷はもう塞がりはしない。僕はちょっと帰ってきただけなんだろう…もしかしたら水の精霊が気まぐれを起こしたのかもしれない…」
「ウェールズさま…いや、いやですわ…またわたくしを一人にするの?」
アンリエッタは嗚咽を漏らして、噛み締めるように呟いた。ウェールズは、そんな彼女の隣にいる、懐かしい友の姿の方を見つめた。
「ありがとう…君達のおかげで、僕は彼女に会えた」
「いや…それより、本当に済まなかった…あの時、拙者が助けに入っていれば…」
「いいんだ…君たちに会わなかったら、僕はどの道あの戦争の中で果てていたからね…」
申し訳なさそうに顔をうつむかせる剣心を見て、ウェールズはゆっくりと首を振った。そして、アンリエッタをもう一度見てから、ウェールズは剣心の方を向いてこう言った。
「君に…アンを…任せてもいいかい?」
『え…!?』
「彼女は、優しいだけに危ういからね…君になら…僕も安心出来るんだ…」
ルイズ達は唖然とした。ただの一介の平民に、一国の王子が頼み事をしているのだ。しかも、その内容もまた、『姫を頼む』という大きなものだった。
水の精霊の件といい、やっぱりケンシンは凄い…そうルイズは思う反面、どこか寂しいと思う感情もあった。
「…約束するでござるよ」
「ありがとう…友よ…王としてではなく、一人の男として、礼を言うよ…」
確かな友情が結ばれつつあったが、そうしている間にもウェールズの命は失われつつある。
ウェールズは最後に、ラグドリアン湖へ行きたいと頼み込んだ。何でも、アンリエッタに誓って欲しいことがあるらしい。
一行は、ウェールズの命が消えない内に、風竜を呼んで急いでラグドリアン湖へと向かっていった。
ラグドリアンの湖畔、そこでウェールズは、アンリエッタの肩に身体をあずける格好で浜辺を歩いていた。
うっすらと朝日が登る光を見つめながら、ウェールズは言った。
「…あの時、僕はこう思ったんだ…このまま二人で、全てを捨てられたらと」
ウェールズの一言一言は、話すたびに段々とか細いものになってゆく。それでも、アンリエッタは何度も頷いた。
そして、ずっと聞きたいと思っていた事を、ウェールズに尋ねる。
「…どうして、そんな優しいことを、あの時に仰って下さらなかったの。どうして愛していると、仰ってくれなかったの」
やがて、ゆっくりとウェールズは答える。
「君を不幸にすると知って、その言葉を口にすることは僕にはできなかった」
「何をおっしゃるの…貴方に愛されることが、わたくしの幸せだったのですよ…」
ウェールズは黙ってしまった。愛する気持ちは同じなのに、その想いゆえにすれ違った二人。それは、今この場でも埋められることはなかった。
それでも、『彼女の幸せ』を願って、ウェールズは言った。
「誓ってくれ、アンリエッタ…僕を忘れて、他の男を愛すると…その言葉を、水の精霊の前で言って欲しい」
アンリエッタは首を振った。そんな事、言えるはずがない。
それでも、ウェールズは力を振り絞るかのように言った。
「お願いだ…じゃないと、僕の魂は永劫さ迷うだろう…君は僕を不幸にしたいのかい」
「…ならば、ウェールズさまも誓ってくださいまし。わたくしを愛すると…今なら、誓ってくださいますわね」
それを聞いて、ウェールズは力なくも頷いた。段々と彼に生気が無くなっていくのを、アンリエッタに痛いほど伝えてくる。
悲しげな表情をしつつも、アンリエッタは誓いの言葉を口にする。
「誓います、ウェールズさまを忘れることを、そして、他の誰かを愛することを」
言い終えたアンリエッタは、ウェールズの方を見た。
「さあ、次はあなたの番よ。お願いですわ」
「誓うとも…僕を、水辺まで運んでくれ」
ウェールズの言われるまま、アンリエッタは水辺へと近付いていった。朝日が写って光り輝き、神秘的な美しさを魅せる湖の端に、足を入れる。
「さあ仰って。わたくしを愛すると。この一瞬でいいの。わたくしはこの一瞬を永久に抱くでしょう」
アンリエッタが、期待を込めた目でウェールズを見る。しかし、彼はもう項垂れたまま答えなかった。
「ウェールズ…さま…」
53 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:22:56.60 ID:i1Uko3d0
肩を揺さぶっても、どんなに声をかけても、もう彼には届かない。彼はもう、遠くへと行ってしまったのだ。自分の知らない、何処かへと……。
ふと、アンリエッタの脳裏に蘇るのは、あの時の記憶。彼と初めて会ったとき、何度も遊んだとき、誓いの言葉を水の精霊に告げたとき。
様々な思い出が、泡のように浮かんできては、泡のように弾けて消えていく。淡く、そして儚い記憶の跡だった。
振り返っても、もうあの宝石のような時間は、帰ってこない。
「意地悪な人…最後まで…誓いの言葉を口にしないんだから」
アンリエッタはそう言って、静かにまぶたを閉じた。そこから、一筋の涙が流れていった。
暫くして、アンリエッタはゆっくりとウェールズの亡骸を湖に横たえさせた。そして杖を振り、ルーンを唱える。
水が動き始め。それがウェールズを優しく包み込んだ後、やがて湖の中へと吸い込まれていった。
ウェールズの姿が見えなくなっても、アンリエッタは湖を見ながら佇んでいた。
そしてそれを、木陰の中から剣心達も見続けていた。隣で泣きじゃくるルイズの頭を優しく撫でながら。
その数日後、アルビオンでは――――。
「報告がありました…『アンドバリの指輪』での籠絡計画…失敗とのことです…」
王党派は消え去り、今や完全に新皇帝のものとなったロンディニウムの居城。
その一室にて、オリヴァー・クロムウェルは震えるような声で志々雄に作戦失敗の報を伝えた。
その顔は、いつもしている余裕の表情ではなく、顔は蒼白、そして恐怖で歪んでいた。
「申し訳ございませぬ…まさか…このような結果になろうとは…」
「別にいいさ、特に期待してたワケじゃねえしな」
対する志々雄は、いつもと変わらぬ余裕の笑みでクロムウェルに向けていた。寛ぐようにソファに腰掛け、優雅に煙管を吸っている。
「んで、何で失敗したと?」
「はあ、それが報告によると…皇太子一団を追って一匹の風竜と、その上に何人かが乗っていたと書いておりますが、それが誰かまでとは…」
冷や汗を垂らしながら、クロムウェルは答える。それは仮りにもこの国の皇帝とは程遠い表情だ。
むしろ、『皇帝』という扱いきれぬ重圧に、必死に耐えているようだった。
「まあ、十中八九奴だろ。俺が送った刺客は、どうやら見て間に合わなかったようだな」
「しかし…シシオ様…何故『アンドバリの指輪』を、どうやって退けたのか…」
理解できぬ、といった感じでクロムウェルは呟いた。死んでも蘇るあの不死身軍隊に、死角などなかったはずだ。
「『虚無』にはそういう力もある、ってなだけだろ。イチイチ狼狽えんな」
それに対し、志々雄の答えは淡々としたものだった。未だ正体不明の謎が多い『虚無』なら、そういったことの対処法でも書かれていたのだろう…そう考えをめぐらしていた。
ならば、他にも幾つかの呪文は当然あるはず。
強力な力を持つ『虚無』の担い手…それを守る盾『ガンダールヴ』。
「抜刀斎一人だけでも充分だと思ったが、成程虚無の娘も侮れないな」
「では…どうなさいます…」
もはや志々雄に縋り付くような雰囲気を醸すクロムウェルに対し、志々雄は言った。
支援
55 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:26:20.74 ID:i1Uko3d0
「言ったろ、まず奴等を仕留めることが先決だとな、まあ、生き残ったら生き残ったでそれは俺が楽しめるからいいんだが」
「ご冗談を…」
「今送った刺客が、どれ程の働きをするか、それを見た後からでもいいだろう」
あいつか…クロムウェルはあの男の姿を思い出し、そして身震いをした。
確かに奴は強い。だが、どこか扱いきれぬ危うさも同時に持っている。まさにあれは…人を斬るために生まれてきた存在だと言っても過言ではないだろう。
「シシオ様…あの…あ奴は一体何者…」
そう聞こうとしたとき、一匹の魔法人形『アルヴィー』が急に窓へと飛んできた。アルヴィーは隙間を塗ってこの部屋へと入ってくると、志々雄の前でボンと二つに割れた。
見ると、アルヴィー中身には何やら手紙のようなものが入っている。
「何だ、もう来たのか」
人形の中身にある手紙を取って、それを広げて書いてあることを読んだ。異世界の文字だが、ここに来て長く経つ志々雄には、難なく読めているようだった。
それに書かれている内容を見て、志々雄はニヤリと笑みを浮かべた。
クロムウェルですら思わず背筋が凍りつくような笑み…『剣客』としての獰猛な笑みだった。
「すまねえオリヴァー。少し開けるわ。直ぐに帰ってくるとは思うが、何か進展があったら手紙でも飛ばせ」
「シシオ様…どちらへ…?」
クロムウェルが慌てた様子で、志々雄に尋ねた。彼に手紙が来るたび、こうして何処かへと赴くのはクロムウェルも知ってはいたが、何せ今は状況が状況だった。
しかし志々雄はそれに答えることはなく、まずソファから腰を上げると、火薬の仕込んだ黒手袋を手に深く差し入れ、椅子に掛けていた愛刀『無限刃』を腰に差し、そして同じく机に掛けていたマントのようなものを肩に背負った。
それは、『シュヴァリエ』の称号がついたマント…その書かれている紋章は、杖を二つに交差した模様は…このハルケギニアでも随一を誇る魔法大国、『ガリア』の紋章だった。
それを持って扉を開け、部屋から出ていこうとしたとき、志々雄は言った。
「決まってるだろ? 依頼だ」
56 :
るろうに使い魔:2013/02/11(月) 00:32:47.36 ID:i1Uko3d0
それでは今回はここまで。いよいよアンドバリ編も終了しました。
この次は宣言通り外伝を挟む予定です。
飽き性な自分がここまで続けられているのも、皆さんの応援のおかげです。本当にありがとうございます。
ではまた近いうちに、それではまた。
乙でござる
完走目指して頑張って下さい
るろうにの人乙でした
理想郷鯖落ち中だし最近更新してない作者さん達帰ってこないかな?
ディーキンの人やデュープリズムの人、アセルスの人の続きが見たい
乙でござる
乙
外伝か、どうも最近いいイメージないんだよな
だいたいタバ冒からくるけどどいつもこいつもワンパターンで工夫のかけらもないロリ吸血鬼懐柔ものばっかで食傷
>>60 萌え萌えさんみたいにオリジナル展開な外伝もある。
確かにあれも人間時代のラルカスが出てたりしたけど。
まあエルザに関しては特に必要性もないのに話に差し込んできて「ああこいつもかバカのひとつ覚えだな」と思うことはあるが
「必要性」って何さ?
出す意味があるかどうかじゃない?
>>63 その後の話で空気になるのに仲間にするとか
おい投下しにくくなるようなレスはやめろよ
過疎にトドメ刺す気か
タバサの冒険から出せそうなネタといえば、エルザ以外だとギャンブルの話があるね。
ちょっとした息抜き程度で。
ざわ
振り向かないことさ
タバ冒からだと、ほかは翼人編がややあるくらいか
タバサにクロス相手の強さを知らしめたいなら吸血鬼より火竜のほうが何倍もインパクトあると思うけど、
なんでみんな頑なにエルザ出すんだろ? ミノタウロスやコボルトもいるじゃん
可愛いは正義。これにつきるな。
左様
俺はエルザは出だしに子供を惨殺したシーンで、こいつは絶対好きになれないキャラだと思ったがなあ
黒魔とかだとイザベラレンジャーとかで再利用してたよね。
あぁいう使い方もあんのかと感心したわww
エルザはここに限らないけど「実はそんなに悪くない」「生きるためには仕方なく」と好意的解釈されてるの多いよな
実際には
・実年齢30歳以上、それに見合った老獪さと狡猾さを併せ持っている
・人間の命や情をなんとも思っておらず、平然と捨て駒にする
・獲物に恐怖を与えることを喜ぶ、狩りの範疇を超えた残忍な嗜好
メンヌヴィルといい勝負の悪魔だぞ。社長くらい基本設定からいじるならともかく、やすやすと懐柔するのは原作読んでるのかといいたくなる
>>60 アーカードやとらの殲滅やら幻十の隷属化っていうのもあったけどな
紛れも無い悪党キャラだけど、その根幹が種族的なものや生存欲求だから改心の余地有りと見なされたり
ある意味小物だから悪寄りの召喚キャラが手懐けるにはお手頃だったり
善悪問わず人外キャラ同士で絡ませるにも手頃だったりするんだろう
ゼロ魔では希少なシビアな性格、かつロリババァ枠でもあるから話を膨らませやすくもなるし
原作で不遇なキャラを何とか報わせてやりたい、ってのが二次創作の楽しみの一つだからエルザ救済もしゃあない。
まあ確かによくよく考えれば外道なんだけど、置かれてる環境考えれば十分「可哀想」な子なわけだし。
ルイズが凄い使い魔召喚した〜、って流れの二次創作も結局は同じ種類のカタルシスを得たいが為の話だと思う。
でもアンアンだけは何故か助けてやる気になれない。不思議!
ロリババアならリシュがおるで!
種族が違うから善悪問うこと自体がナンセンスというか
皆様御久しぶりです
他にご予定の方がおられなければ22:50ごろから投下させてください
あと今回はいつもにも増して全然話が進んでいませんが、どうぞご容赦を…
そこで問題だ!この状況にどう対応するか?
3択――1つだけ選びなさい
答え@:ナイスガイのディーキンは突如全員の顔を立てる名案を閃く
答えA:真のヒーローのボスが脈絡も伏線もなく突然プレーン・シフトしてきて解決してくれる
答えB:ほっといて成り行きに任せる。テンプレは無情である
・
・
・
意を決して教壇へと一歩一歩下ってゆくルイズと、それを指を咥えて見守る生徒たち。
縋るような必死の眼差しを向けてくるキュルケと、無表情に本を広げながらもちらちらとこちらを見ている蒼い髪の少女。
あと状況をまるで理解していないシュヴルーズ教師。
それらを意識しつつ、ディーキンは手早く考えを整理していく。
(ディーキンがマルをつけたいのは答えAだけど……、ウーン、流石に期待はできそうにないね)
ここでボスがヒーローらしくジャジャーンと登場して『待ってました!』と大活躍すれば実に面白い物語が書けそうなのだが。
しかしこれといった理由もなく彼がやって来るのは流石に無理がありすぎるだろう。
彼は一日友人の姿が見えないだけで異世界まで探しに来るような常軌を逸した心配性ではない。
ちょっと悩んでいるだけの友人に頼まれもしない助けの手を差し伸べるために異世界まで来るほど、常軌を逸した過保護でもない。
自分は別に冒険時以外でも四六時中いつもボスと一緒に行動しているというわけではないのだ。
(答えBは……、意味がよくわからないし。ここは@しかないってことだね)
選択肢は決まった。
では次に、全員の顔を立て事を上手く収めるためにはどう行動するべきか?
一番手っ取り早く確実なのは、ある種の呪文を使ってルイズらの決意を変えることだろうが……。
ディーキンはそれを、真っ先に候補から外した。
大した必要もなく魔法で人の意志を無闇に捻じ曲げる事は、利欲のためではないにもせよ決して善い行いとは言えないものだ。
それに立場上は主人であるルイズに、使い魔の自分が呪文を掛けて操るというのもどうかと思えるし…。
何よりも“未知の亜人”の自分が、人間に“先住の魔法”をかけて言いなりにするところなどを見られたら大問題になるのは目に見えている。
(ウーン、まあ、何も魔法に頼ることはないね…ここは普通にいこうかな)
ディーキンは別の方策を決めると、軽く深呼吸をして心の準備を整える。
そして手をぴんと伸ばして声を上げた。
「先生、ルイズ! ディーキンは話があるの。ちょっと話させてほしいの!」
「「……えっ?」」
今まさに教壇に到着して実演に臨もうとしていたルイズの動きが止まり、シュヴルーズと声が重なった。
振り向いてみると、ディーキンが机の陰からちょこんと顔を出して小さな手をいっぱいに伸ばし、ぶんぶん振っている。
シュヴルーズは一瞬微笑ましげにこれを眺めたが、すぐに取り繕うように顔をしかめると注意の言葉を口にした。
「おや…どうかしたのですか、今は授業中であなたの主人が実演にかかろうとしているのですよ。
お話なら授業の後にしてください、使い魔さん」
彼女は実際には温厚な性格で本気で怒ったりは滅多にしないのだが、経験上大らか過ぎて生徒に舐められては面倒なことになる、と考えている。
ゆえに態度の悪い生徒には、しばしば赤土を口に詰めるなどの過激な罰を与えて黙らせてきた。
今も別に怒ってはいないしこの亜人に対してもむしろ好感を持っている。
が、教師としての立場上生徒でもないものにこうも度々授業を中断されてそれを許しては示しがつかないのだ。
ディーキンの方はそんな教師に、さも申し訳なさそうにおずおずと頭を下げた。
「先生、ディーキンはゴメンするよ。
とっても申し訳ないし今は黙ってるべきだってわかるけど、今すぐに話さないとダメだと思うの。
ディーキンは先生とルイズに、みんな本当に怖がっているみたいだって伝えたかったんだよ」
「………はあ?
怖がるって、一体何を怖がるというので……、」
シュヴルーズは怪訝そうに教室を見回して……、そしてディーキンの言い分が正しいのを知った。
多くの生徒は不安げにしており、特に席が前の方の生徒は怯えてさえいる様子で机の陰に潜り込むなどの奇妙な行動を取っている。
「……?? これは一体……、皆さん、どうしたのです?」
シュヴルーズは状況が理解できず、困ったような顔で首を傾げる。
先程キュルケらが止めた時には、授業開始時にルイズが馬鹿にされていたのもあってよくある劣等生へのからかいの類と思っていたのだ。
だが、指摘されて改めて確認してみると、彼女が教壇に向かってから教室全体が明らかに異様な雰囲気になっている。
とても単なるからかいだけだとは思えない。
一方ルイズは、目を吊り上げてディーキンを睨んだ。
「ちょっとディーキン、余計な事を言って私に恥をかかせないでちょうだい!
一体どういうつもりなのよ?」
「ええと……、ごめんなの。
でもディーキンはルイズの事が心配なんだよ、先生やみんなの事もね。
ルイズは昨日、自分は魔法を成功できなくて失敗すると爆発するって言ってたと思うんだけど……」
それを聞いて、教室のあちこちから同調や嘲りの声が上がりだす。
「そうだ止めろ! また教室を壊す気かよ!」
「先生、聞いての通りなのでヴァリエールにやらせるのは無しの方向で!」
「自分の使い魔にまで言われてるぜ、流石はゼロのルイズだな!」
「!! ……っ、」
ルイズは罵声が飛び交う中、真っ赤な顔で俯いてぷるぷると屈辱に身を震わせた。
ディーキンは……、自分の使い魔だけは、応援してくれるものと思っていた。
他ならぬあの子自身が、昨日自分の初めての魔法で召喚されたのだから。
きっと自分は魔法が使えるようになったんだ、これからは他の魔法も成功するはずだ。
やってみよう、自分の初めての成功の証であるあの子が傍にいる、そう思えば勇気が出てくる。
――――そう、思っていたのに。
(そのあんたまでが、……私を笑うの?
こんなときにそんなことをわざわざ言うなんて、私を馬鹿にしてっ……!)
ルイズはきっと顔を上げると、酷く険しい……半ば殺気じみたものまで篭った目で自分の使い魔を睨んだ。
「……ぐっ! この、あんた……!」
ディーキンはそれに怯えるでもなく、正面から真っ直ぐにルイズを見つめ返した。
それはちょうど今朝、キュルケとの付き合いを禁じる命令に異を唱えたときと同じような目だった。
「………、う………」
その目を見ていると何故か気圧されるようで、それ以上言葉が出てこなかった。
同時に不思議と冷静さが戻り、煮え滾った負の感情が鎮まっていく。
教室のあちこちからはまだ罵倒や嘲りの言葉が続いている。
普段ならそのような言葉を向けられていれば平静ではいられない、暗い怒りと負の感情が沸き起こってきて意固地になる。
なのに、ディーキンを見た途端何故かそれも気にならなくなった。
周囲で軽薄に騒ぐ生徒らよりも、その声と視線の方がずっと強い印象と存在感を持って、ルイズの意識を捕えている。
(……どうして? これが、主人と使い魔の絆というものなの?)
「え……? 爆発って、何を言っているのですか?
錬金の呪文で爆発など……」
そんなルイズと教師の混乱をよそに、ディーキンは一旦ルイズから視線を外して、周囲で罵声を飛ばす生徒らの方に向き直った。
爬虫類の表情など分からない生徒らにも、彼の纏うその雰囲気から、
『おいお前ら。ディーキンはぷんすかしてるの』
といいたげな様子がしっかりと感じ取れる。
「やいこら、ディーキンのルイズにそんな口をきくのは気に入らないの!
黙って聞いてたけど、いい加減にしないとディーキンの堪忍袋の緒が切れるの」
むっつりと不機嫌そうな声でそういうと、腰に両手を当てて胸を反らし、首をゆっくりと傾げて周囲を見回す。
普通に見ればむしろ愛嬌があるくらいの発言と仕草だったが、何故か奇妙な威圧感を感じほとんどの生徒が口を噤んだ。
一部の鈍い生徒らは空気の変化にすぐには気付かずディーキンにも嘲笑を向けたものの、じろりと睨まれると声を詰まらせ、じきに声を落とす。
ディーキンは<交渉>するのに比べれば、あまり<威圧>は得意ではない。
性格的にも向かないし、小柄なので迫力に欠けるという問題もある。
とはいえズバ抜けて印象的な高い魅力を持ち、何でも臨機応変に器用にこなす高レベルのバードである。
その気になれば、多少気位が高いだけの貴族の子弟を一睨みで黙らせる程度はできて当然だ。
「ディーキンはルイズの使い魔で、ルイズはディーキンの友だちなの。
だから誰にもルイズにそんなことは言わせないの。
少なくとも、ディーキンがそばにいない時以外は!」
ディーキンは指をびしっと突き出してそう宣言すると、またルイズの方に向き直る。
「……だけどルイズも、どうして爆発するのなら先生にそう言って断らないの?
教室でそんなことをしたら、みんな迷惑だと思うの。
たまたま失敗してそうなるのは仕方ないけど、分かっててやるっていうのはよくないんじゃないかな?」
ディーキンが見るに、ルイズはプライドが高く頑なな面はあるにせよ根は誠実で筋を通す少女だと思える。
教師の方も多少過激な方法で生徒を黙らせたりはしていたが、恐らく基本的には穏健派で悪意のない人物であろう。
ならばこちらも誠意をもって正面から筋道立てて理を説くのが<交渉>を平和的に纏める最善手だ、とディーキンは判断したのだ。
何よりも、強引に止めるよりルイズも含めて皆が納得できるように事を収める方がいいに決まっている。
「え、その―――――」
ルイズはディーキンの言葉に怒ったり嬉しかったり恥ずかしかったりでかなり微妙な顔をしていたが、また話を振られて困惑した。
そんな質問をストレートにぶつけられたのは初めてだった。
他の生徒が見ている今、この場でそんな話に受け答えするのは極まりが悪い。
………というか授業中に、このまま使い魔と話していていいものだろうか?
ここらで教師が静止してくれてうやむやにならないだろうかと、多少姑息な期待を込めてシュヴルーズの方をちらりと伺ってみた。
しかし、彼女は予想外の事態に何が何だかわからずに口を挟みかねて狼狽えている。
……どうやら、自分で対応するしかないらしい。
ルイズはひとつ息を吐いて覚悟を決めるときっとした顔を作って胸を張り、自分の使い魔と相対した。
「……なによ、やってみなきゃわからないわ。
昨日はあんたの召喚にも成功したし、できるようになってるかもしれないじゃない。
挑戦しなきゃ永遠にできるようにはならないわよ!」
「うん、挑戦してみるのはすごくいい事なの。
ディーキンも挑戦するコボルドだから、ルイズを心から応援するね。
…でも、怖がったり心配してくれてる人がたくさんいる教室でやらなきゃいけないって理由はあるの?」
「……だって、先生にやるようにと言われたのよ?
出来るかわからなくても、やれと言われたことに挑戦するのは生徒として当たり前じゃないの!」
「でも先生は、その、ルイズの呪文が爆発するのを知らないんでしょ?
ンー……、例えば黙ってただ一緒に来てくれって言われて付いて行って、後でドラゴン退治だって言われたら普通は話が違うって怒らない?
まずその事をちゃんと話して、それでもやれって言われるかどうか確かめる方が親切だとディーキンは思うの」
むしろ止めたがっている周囲の生徒らが、何故はっきり教師に爆発すると教えないのかがディーキンには不思議だった。
しかしルイズは無闇に非難すると意固地になりそうな性格だし、迂闊な事を言って癇癪を起こされては自分も危ないと皆率先して発言するのを避けているのかも知れない。
爆発を起こされるのは怖いが、自分からそれを止めに行くのは嫌だという他力を期待する心情か。
逆にキュルケが止めようとした時に爆発の事に触れなかったのは、そのことを恥じているのであろうルイズに対する気遣いから、と言ったところか。
残念ながらルイズにはその真意が伝わらず、裏目に出てしまっているようだが…。
「う……、な、なによ。
それは、その、そうかもしれないけど。
でも…………、私だって、その………」
ディーキンはルイズが言葉に詰まってもごもごと口篭もったのを見ると、更に言葉を続けようとする。
――――が、そこで脇の方から、たまりかねたようにシュヴルーズが声を上げた。
「……ちょ、ちょっと待ってください!
先程から一体何を言っているのですか、錬金は失敗しても爆発などしません。
私とてこの学院で長年教杖を執ってきた土のトライアングル。それは確かだと断言できます!
あなたたちを疑うわけではありませんが…、爆発がどうのというのは何かの間違いではありませんか?」
周囲の生徒らから何を今更といった冷たい、あるいは呆れた視線が向けられるのを感じたが、シュヴルーズは頑張った。
彼女にも、メイジとして今まで積み重ねてきた知識と経験に対する誇り、そして教育者としての義務があるのだ。
学問というのは、断じて多数決や場の雰囲気で真偽が変わるものではないし、変えるべきものでもない。
たとえ頭の固い教師だと思われようが、明らかな誤りを生徒らがそのまま信じ続けるのを見過ごしておくことは矜持にかけてできなかった。
「〜〜! ……いえ、先生、本当に―――その、爆発、するんです。
で、ですから、あの……私、ディーキンの言う通りで、それでもやっていいのかどうか……」
ルイズは真っ赤な顔をして俯き、口篭もりながらもぽつぽつとそう言った。
それを聞いて幾人かの生徒が驚く。
キュルケもその一人だった。
(あ、あのルイズが……、自分でできないと認めるなんて!?
あの負けん気の塊みたいな子が……)
先程のディーキンの威圧が効いたのか、あるいは屈辱に震えながらも自らできないことを認めたルイズの姿に、流石に若者として貴族として感じるところがあったのか。
此度はルイズに対する嘲笑の声はひとつも上がらなかった。
屈辱を感じながらもそれに耐えているルイズと、そのルイズと教師とを見比べながら首を傾げているディーキン。
キュルケはその小さな主従の姿をまじまじと見つめた。
シュヴルーズはしかし、教室の空気には気付いていながらなおもルイズを説き、励まそうとしている。
「ミス・ヴァリエール、これまではきっと、何かの間違いで失敗したのでしょう。
大丈夫ですから、そんなに恐れずに………」
彼女は彼女で、できないという“思い込み”からルイズを立ち直らせ、誤りを正すという教師としての務めを果たそうと頑張っているのだ。
そこには何の悪意もない、教師としての使命感と熱意と善意からの行動。
残念ながらその努力は空回りしており、ルイズの苦しみをかえって深め、引き伸ばす結果となる。
「――――いえ、その。
……お分かりいただけないとは思いますけど、でも、間違いとかではなくて……」
「アー、先生、ルイズ。ディーキンはちょっと意見を言っていいかな?」
そこでまたしても、脇の方からディーキンが声を掛けて注意を引いた。
ルイズや他の教室の生徒らは、すぐにそちらの方に注意を向ける。
「……なんですか、使い魔さん。言ってごらんなさい」
シュヴルーズはまたしても自分の行動を遮られた形になり不服そうではあったが、しかし発言を止めることはせず、続きを促した。
単に授業を遮っているだけなら強行手段で止めてしまうのだが、この使い魔のいままでの行動や指摘には相応の正当性があると認めねばならない。
妥当な理由のある発言を押し潰してしまうわけにはいかない。
厳格な教師であるのはよいが、横暴な教師であるのは彼女の信条に反するのだ。
だが一言、忘れずに釘を刺しておく。
「あなたの指摘には感謝しますけど、これ以上何か言われても実演を差し控えさせるわけにはいきませんよ?
爆発など実際に起こるはずはありません、何かの間違い。
数え切れないほどの錬金を実際に見て行ってきた土のメイジとして、それは私が自信を持って保証します」
実際に幾度となく爆発するのを見てきた生徒たちは頑なな教師の言葉にうんざりした顔をするが、ディーキンはそれを聞いてひとつ頷いた。
「うん、ディーキンも実際にコボルドの洞窟を出て外の世界を見てみるまで、何千人も人が住む天井のない野ざらしの街があるなんて信じられなかったよ。
だから信じられないって先生の気持ちはよく分かるの」
シュヴルーズはこれが初めてのルイズとの授業なのだ。
そのような常識に反する事を使い魔や未熟な生徒たちの言葉だけで受け入れられないのは無理もないし、むしろ受け入れないのが正しい態度だろう。
ディーキン自身はまだ見てもいないうちから爆発するという言葉を信じているが、それはまた事情が違う。
「けど、他の生徒さんたちも爆発するのを信じてるし、怖がってるの。
先生が自分の意見を信じるのは正しいと思うけど、他の人の意見も尊重するのがもっと正しいとディーキンは考えるね。
―――だから、どっちも納得できる方法でやればいいと思うの」
それを聞いたシュヴルーズは、怪訝そうに眉を寄せながらも小さく頷いた。
「はあ、それは……まあ、それに越したことはありませんね。
どっちも納得できる方法、というのは?」
「ええと、まず聞きたいんだけど……、『錬金』っていうのは、離れてても使えるの?
何フィート……いや、何メイルか離れてても大丈夫かな?」
それを脇で聞いていたルイズは、いきなり何を言うのかと怪訝そうな顔になる。
シュヴルーズも首を傾けたが、少し考えて得心が行ったように頷いた。
「ええ……、メイジの腕にもよりますが、数メイル離れた場所に錬金する程度の事はほぼ誰でも可能です。
つまり、あなたが言いたいのは万一爆発が起きた場合に備えて教壇の上ではなく?」
確認を取るようにディーキンの方を見ると、ディーキンは笑みを浮かべて首肯する。
「そうなの、ディーキンがその小石を窓の外に浮かべるから、ルイズにはそれに『錬金』を掛けてもらえばいいの。
たとえ爆発しても、窓の外なら教室はそう酷い事にならないし、みんなも怖がる必要はなくなるってことなの。
それにルイズも、それなら迷惑をかけずにここで挑戦してみる事ができると思う」
ついでにディーキンもその爆発を見て確認できるしね、とは心の中だけで言って、2人と他の生徒たちの様子を伺う。
シュヴルーズは少し考え、それならば特に否定しなくてはならない要素もなさそうだからと承認した。
ルイズはあらためて決意を固めたような顔になると、無言でしかしはっきりと頷く。
他の生徒らも、それなら危険はないと判断したのか概ね安堵の表情を浮かべている。
窓際に近い生徒らは、自分の使い魔に爆発に驚いて騒ぎ出さないように、と事前に注意を促している。
窓の外に大型の使い魔を待機させている生徒らは、一時的に離れた場所に行くように指示して避難させた。
いよいよ準備が整うと、ディーキンはプレスティディジテイションの呪文を唱えてから、教壇に近い窓を細めに開ける。
そして呪文の効果で教壇の小石を運び、窓から何メイルか離れた場所に浮かべた。
机の陰に隠れなかった生徒らと教壇との間の距離から見て、このくらい離れていればまず大丈夫だろうと判断した長さだ。
亜人の“先住魔法”を見たことがない生徒らの多くはその様子をがやがや騒いで見ていたが、教師の注意を待つまでもなく直に静かになる。
所詮はレビテーションと似たような効果で、しかもほんの小さな物体を浮かべるだけなのだから大したことがないと見て興味も失せたようだ。
加えてこれからルイズが爆発を起こすのだから、まず安全とはいえある程度緊張しているのだろう。
ただキュルケの友人である蒼い髪の少女だけは、興味を失うでも、起こるであろう爆発を怖れるでもなく、浮かぶ小石をじっと見続けていたが…。
「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」
緊張気味に窓際からやや離れた位置に立つルイズに、後ろに立ったシュヴルーズは緊張を解すようににっこりと笑いかけた。
ルイズはそれにこくりと頷き、唇をぎゅっと引き結んで窓の外に浮かぶ小石と、窓の傍に佇んでこちらを見つめているディーキンを交互に見る。
それからしばし目を閉じて深呼吸をすると、杖を振り上げた。
ディーキンはルイズが杖を振り上げるのを見ると、窓の外の小石とルイズの両方を視界に収めて精神を集中し、魔力の流れをしっかりと感知しようとする。
ついでに密かにエンセリックをそっと握り鞘を少し押し上げて、一緒に見ておいてくれという合図を送る。
さあいよいよだと、ディーキンは不謹慎ながら少しワクワクしていた。
呪文の失敗で爆発が起こるとは、一体どういう現象なのか?
ルイズは目を瞑ったまま祈るように短くルーンを唱え、小ぶりなワンドを振り下ろす。
小石は呪文の影響を受けて一瞬白く発光し……、
次の瞬間、窓の外で大爆発が起こった。
「「きゃああああ!?」」
細く開いていた窓から入ってきた爆風で、近くに立っていたルイズとシュヴルースは押し倒された。
外傷はないが、顔に浴びた爆風と煤のためにルイズは咽こむ。
涙が滲んでいるのは、果たして咽たためだけか。
「………大丈夫、ルイズ?」
ディーキンはルイズの傍に寄ると、背中をさする。
ルイズは、大丈夫よと力なく答えると、そっとディーキンの手を払った。
それにちょっと首を傾げてから、ディーキンは腰を抜かして事態の成り行きに呆然としている教師に声を掛ける。
「先生、見ての通りみたいなの。
ディーキンには爆発したように見えたけど、どうかな?」
「あ、……え、ええ、そう―――ですね。
すみません、まさか、その、こんな………何故………」
「分からないの、ディーキンも分からないし、先生にも分からないんだね。
それなら、ルイズは今すぐには多分『錬金』は無理だと思うの」
それを聞いて、地面にへたり込んで俯いたルイズの肩がぴくりと震える。
ディーキンはちらりと心配げな視線をそちらに向けるが、そのまま言葉を続けた。
「けど、ディーキンが思うに…、今すぐ錬金ができなくてもいいんじゃないかな?
がんばってゴールまで走れば、一番もビリも走った距離は同じだって、昔の偉い先生は言ったそうなの。
そういうのが、つまり教育の精神だってディーキンは思ってるの、どう?」
前の主人の元でバードの勉強をしていた時、覚えが悪かった自分は短気な主人がいつ愛想を尽かすか、癇癪を起こすかと始終ビクビクしていた。
だが彼は、普段の短期さからは想像もつかないほど長期間にわたって教育を続けてくれたのだ。
勿論、狩りをしたり略奪の算段を立てたり、にやにやと宝の山を眺めたりするのに飽きて気が向いた時だけではあったが。
『人は明日の完璧な答えより今日のマシな答えの方が良いと言うが、ドラゴンはそんなに急がぬものだ。
お前が何者かになるのを見届けることと、その緩やかに上達していく歌物語とが、当面私のいい娯楽になってくれるだろう』
ただ一度、機嫌のいい時にそう言って笑ってくれたことをディーキンは今でもよく覚えている。
ボスも、最初はろくに戦う事も出来ず魔法もほんの数個しか使えなかった自分に足手纏いだとも言わずに同行を認めてくれたのだ。
ディーキンが迷惑をかけても笑って許し、傷つくたびに癒し、死んだときは蘇生までしてくれて、友人として扱ってくれた。
彼らが将来できることを信じて、根気強く手解きを続けてくれたからこそ今の自分があるのだ。
「え? え、ええ、……それは、そうですね」
シュヴルーズが戸惑いながらも同意したのを聞くと、ディーキンは満面に笑みを浮かべて何度もこくこくと頷いた。
そうして、今度はまたルイズの方へ。
「ねえルイズ、練習なら授業が終わってからディーキンと2人でもできると思うの。
頑張って練習して、できるようになったら皆に見せびらかしておおいばりして、グウと言わせるの。
それでいいんじゃないかな、どう?」
ルイズの肩にポンポンと手を置くが、ルイズは俯いたまま。
今度は、その手を払おうともせずにぽつりと呟いた。
「………簡単に言わないで」
「簡単じゃないよ、だから練習するの。ディーキンもやったよ」
「練習なら私もやったわよ! 何度も何度も!
だけど爆発するだけなの、魔法が使えるあんたには分からないでしょうけど!」
きっと顔を上げて、目じりに涙をためて自分の使い魔を睨む。
ディーキンはそれをじっと見つめて瞬きをすると、首を傾げた。
「ウーン……、そうだね、分からないと思う。
誰も人の本当の気持ちは分からないものだけど、分からなくても力にはなれるんだってボスは言ってたよ」
ルイズはまだ何か言おうと顔を上げて…、使い魔のあくまで穏やかな雰囲気に口を噤み、また顔を反らした。
正直なところ、使い魔の召喚に成功しても依然魔法が使えないショックで気持ちが荒れている。
ディーキンがあくまで自分の事を気遣ってくれているのは分かるが、口を開けば恨み言か愚痴しか出てきそうにない。
だがいつまでも黙り込んでいるわけにもいかず、結局また口を開くと、不機嫌そうな声をぼそぼそと紡ぐ。
「……それで……、具体的に、あんたがどう力になれるっていうのよ。
根拠のない気休めはもう、聞き飽きたわ」
「ウーン、そうだね。今すぐ解決っていう事はできないけど、いくつか方針はあるの。
ディーキンはルイズが呪文を唱える時に魔力の流れを見たし…、
それに、『失敗して爆発する』っていう事にも、心当たりはあるからね」
ルイズは思いがけない答えに、顔を上げるとまじまじとディーキンを見つめた。
「心当たりがあるって……、ほ、本当に?」
「もちろん、ディーキンは後で練習するときにそれを話すつもりなの。
今すぐ話せたらいいけど、授業の最中だからね」
ディーキンはそう返事をすると、にこにことルイズを見つめ返す。
…が、実はその表情程にやましさの欠片もないわけではない。
今の発言はまあ嘘ではないが、完全に真実かといわれれば…多少<はったり>をかましている部分もあるにはあった。
失敗すると爆発するというのは例えばフェイルーンのメイジが自分の力に余るスクロールを発動しようとして失敗すると、そういう現象が起きる“場合も”ある。
だが自分の力だけで呪文を唱えようとして爆発するという現象は知らないし、スクロールにせよ使用に失敗すればいつも爆発するというものでもない。
ワイルドメイジと呼ばれる連中はわけのわからない現象を起こしたりすることもあるが、必ず爆発するというような決まりはない。
だからその部分は、ルイズを落ち着かせるためのやや誇大な表現だといえる。
ディーキンは真正直に<交渉>することに比べれば、<はったり>をかけるのはそこまで得意とは言えない。
しかし今の場合、ルイズはこの話を信じたがっているはずだから簡単に言いくるめられるはずだ。
付け込んでいるようでやましいといえばやましいが、ディーキンは厳格な規律よりは自由を愛する方だ。
多少嘘を含んでいようとそれでルイズが立ち直って前向きになれるのなら、それに越したことはないと考えている。
それに心当たりがあるというのは言い過ぎにせよ、方針があるというのは嘘ではない。
先程魔力を見たことで少なくともあの爆発の系統は分かったし、エンセリックが何か意見を出してくれるかもしれない。
もっと詳細に、もう何回か見てみれば、更に何か掴めるかもしれない。
試してみたい案ならば今の段階でも既にいくつも持っている。
まあ、ルイズの爆発については長い間専門家であるハルケギニアのメイジたちが何も掴めなかったことなのだから、容易に解決できるとは流石に思わない。
だが少なくとも、ルイズが諦めない限り自分も全力を尽くすつもりだ。
それには一切、嘘はなかった。
ルイズを見捨てるという事は過去の自分を見捨てるようなもの、それはボスやその他大勢の人から受けた恩を裏切る事に等しい。
「正直言ってディーキンは、一人だと自信がないけど…。
でも、ディーキンは頼もしい友だちが傍にいるとすごく安心できるよ。
だからボスとかルイズが傍にいて一緒に力を貸してくれたら、何も心配はないの。
ルイズは、ディーキンと一緒に頑張ってくれる?」
そういって、ディーキンは握手するように右手を差し伸べる。
ルイズは、じっとその目と、差し出されたウロコと爪に覆われた小さくもごつごつとした手とを見つめた。
じっとルイズを見つめる目はきらきらと輝いていて、全身から嘘偽りなくルイズを信じ、頼る気持ちが滲み出ている。
そこには自分が力になる側なのだという尊大さや押し付けがましさ、内心見下したような態度などは微塵もなかった。
ややあって、ルイズは目をぐっと拭って不敵な表情に戻り、しっかりと差し出された手を掴んで立ち上がった。
ディーキンの背の低さからいってへたりこんでいる状態の方がむしろ握手はしやすかったが、その手を取って立ち上がる事に意味がある。
「――――しょうがないわね、あんたは私のパートナーなんだから。
お互いに協力するのはメイジの務めよ。
だから……、その、一緒に頑張ってあげる、から…、私を放って途中で投げ出したり、私より遅れたりしないでよね!」
D&D3.5版において技能判定は技能値+関係能力値ボーナス(平均的な人間の場合は±0)+1d20の出目(平均10.5)で行われる。
つまり技能がなく能力も平凡な一般人でも平均10前後の数値は出るし、失敗しても再挑戦可能な判定ならば粘れば20は出せるわけである。
<交渉(DIPLOMACY)>:
自分の話に賛成するよう他人を説得したり、情報を引き出したり、改心させたり、群衆を扇動したり、商品を値切ったりする技能。関係能力値は魅力。
判定に成功すればNPCの態度(敵対的、非友好的、中立的、友好的、協力的、熱狂的)をより良い方に変えることもできる。
・敵対的
痛い目に合えばいいとか、合わせてやると思っている。攻撃、妨害、叱責などの害を成す行為をしてくる。
・非友好的
直接手出しこそしないものの、酷い目に会えばいいと思っている。嘘をついたり悪い噂を流したり、単に避けたりする。信用されない。
・中立的
どうでもいいと思っている。挨拶されれば挨拶を返すくらいはする。道行く他人。
・友好的
好意を抱いてくれている。雑談に喜んで応じ、助言したり賛成、擁護してくれる。信用を勝ち得ている。
自分に危険のない範囲なら、多少の不利益や労力を我慢して助けてくれるだろう。
・協力的
積極的に力になろうと思っている。保護や支援、治療、加勢などを行ってくれる。
自分にある程度の危険や不利益があったり、大きな労力を要する事でも助けてくれる。
・熱狂的
心酔し、我が身を投げ打ってでも尽くそうとしてくれる。
怒り狂って突進してくるドラゴンの前に立ち塞がって庇うような、明らかに自殺的な行為でさえ行ってくれるだろう。
判定値が25あれば敵対的な相手を中立的まで持って行くことができ、50もあれば協力的に変える事も可能になる。
バードが最も得意とする技能のひとつであり、ディーキンならレベルから言ってちゃんと伸ばしていれば素でも平均50近くは出るはずである。
魔法等でのブーストも考慮すれば、ほぼ確実に50以上が出せるだろう。
つまり、話が通じてかつ話す暇がある相手でさえあれば大抵は説き伏せられるのだ。
作中でディーキンと対話した登場人物が軒並み好印象を抱き友好的になるのは、この技能の高さによる部分が大きい。
※
実際は大して口が上手いようには見えないかもしれないが、それは筆者自身がそんな超人レベルの口達者などではないからなので許してください。
TRPGで設定上人間を遥かに超えた知能を持つモンスターのロールプレイをするようなもので。
同じこと言っても信用される奴とされない奴がいるし、話の内容だけじゃなくて身に纏う雰囲気とかも違うんだよ多分。
<威圧(INTIMIDATE)>:
脅してNPCの態度を一時的に変えたり、士気を挫いたり、群衆を急き立てたり、スラムを安全に歩いたり、効果的に拷問したりする技能。関係能力値は魅力。
手っ取り早く話を纏めるには<交渉>よりいいかもしれないが、不用意に用いれば以降の関係は当然ながら険悪になるであろう。
使いどころに注意しなくてはならない技能である。
<はったり(BLUFF)>:
嘘をついて相手を騙す技能。関係能力値は魅力。
相手の<真意看破(SENSE MOTIVE)>との対抗判定となるが、下記のように状況に応じて難易度が上下する。
・相手がこちらの言い分を信じたがっている…難易度-5
「愛している、アンリエッタ。だから僕と一緒に来てくれ」
・その嘘は信じられうるもので、信じても特に害はない…難易度±0
「この子は竜じゃない。ガーゴイル」
・その嘘はやや信じがたい、対象にある程度のリスクを求める…難易度+5
「こいつを鍛えたのはかの高名なゲルマニアの錬金魔術師シュペー卿、魔法がかかってるから鉄だって一刀両断でさ。
その分お安かあありませんぜ、お値段はエキュー金貨で二千、新金貨なら三千」
・その嘘は信じがたい、対象に大きなリスクを求める…難易度+10
「いえ、これは確かに学院の宝物庫の品ですが盗品などではありません。
学院長の不始末で現金が大至急入用になったので売らなくてはなりませんの、こちらとしても不本意なのです。
これでも私は学院長秘書です。あなたまで罪に問われかねないような品をお売りする、そんな女ではありませんわ」
・
・
・
「…売れなかったか…、疑われちゃいなかったと思うが、やっぱり使い方が分からない杖じゃあダメだね。
何とかして使い方を調べないとねえ…」
・あまりにブッ飛んだ話で常識的に考えて一考にも値しない…難易度+20
「あんたには信じらんないかも知れないけど、シルフィは実はボロ布体に巻きつけたアホ女とかじゃなくて韻竜なのね!
私たち風韻竜はウソつかない種族なの、だから私の事も信じてくれていいのね。
シルフィ生まれてから一度もウソなんかついたことはありません!
通りすがりの見知らぬ人を見込んでお願いするけど、シルフィは初めて訪れた街で食べ歩きをしてみたいからお金貸してほしいの。
ほら早く貸すのね、後でうちのちびすけの財布からちゃんと返すから!
……あのちびすけが嗅ぎつけてくる前に早くお金出すのね!」
・
・
・
「きゅい〜……、何で貸してくれないのね。
しっかり覗き見してたお姉様には殴られるし散々なのね〜…」
なお戦闘時にフェイントをかけて相手の隙を突いたり、敵の視線を逸らせて<隠れ身>の機会を得るなどの用途にも使用できる。
またさりげない身振りやほのめかしなどを使って、他人に真の意味を理解されることなく特定の人物だけに密かなメッセージを送ることもできる。
今回は以上です
お話ばかりでしたが、続きはなるべく早く書いていきたいと思います
それでは皆様、お付き合いありがとうございました
次の機会にも、またどうぞよろしくお願いします(御辞儀)
乙でした。
爆破させて教室破壊されないSSって初めて読んだ
乙です。
<交渉>40ですか。エピックまで行けばこんなものかもしれないけど、とんでもない数値ですね。
<芸能>はいかばかりになるのやら。
投下乙。
乙でした
ディーキンよく頑張った
一番面白かったのはハッタリの例文だったが
まとめサイトのディーキンの解説部分は、呪文とか属性とか技能とか設定部分とかでページ分けた方がいいかも
現状だとまとまってなくて見にくいし、多分これからも増えそうだからどの道1ページじゃ足りなくなるだろ
>>94 重力制御で爆発をおさえたりとか他でもないわけじゃあない
ギニュー「ついに見つけたぞ。お前は我が隊6人目のメンバーだ!」
ギーシュ「へ?」
そういやギニュー(蛙)を召喚すれば、クロスSSでは珍しい「憑依もの」のSSが書けそうだ
ヤダー
高校生程度がドーピング+恐怖心なしぐらいで善戦できる世界でDBのフリーザ編中ボスとか蹂躙かほのぼのバカンスを楽しむぐらいしかないじゃないですか
憑依ギニューは戦闘力がた落ちするから問題ない
がた落ちしてようが即ミンチ余裕だろ
ってか体パクろうとする動機自体もないけど
まあ、蛙と入れ替わる寸前に召喚門開いて入れ替え光線召喚、さようならマリコルヌとかでいいかもだが
そういや飴玉に姿を変えられてもボスクラスに余裕だった奴らもいたな
あれは規格外だからな
本気すら出さずにそのボスクラスを雑魚扱いレベルだから
つまり、モンモンのロビンが実はギニューだったと
>>104 いや、それはないよ
原作じゃ、チェンジ技いがいはのっとるボディの性能に左右されまくりだし。
それどころか、本当にボディだけで乗っ取り先の経験や知識、記憶は得られないから悟空のボディの力をひきだせなかったし
下手したら魔法使えないギニューじゃハルケギニアの人間のボディのっとってもボコられるだろ
せっかく脳移植までしてミノタウロスのボディにしたのにギニュー隊長(平民ボディ)にチェンジされて涙目のラルカスさん
人間に戻れる上に健康な体なんだから大喜びしそうではあるがw
精神と肉体が一致すれば力は引き出せる、ギニューなら慣れれば大丈夫だろう
あの肉体も誰かとチェンジしたものらしいし
蛙の状態でギニューを召喚しても蛙だから「チェンジ」が言えないんじゃ?
>>112 アニメオリだとカエルの状態でチェンジしてブルマの体を乗っ取ってた。
>>113 ブルマが即興で作った翻訳機みたいなのを体につけてもらった上でだけどな
なにげにブルマって技術チートだよね。
戦闘力ばっかに目が生きやすいけど
ブルマだけじゃなく、ブリーフ博士は300倍の重力室を作り、ドクター・ゲロの技術はその二人が天才と褒めるほど
他にもブロリーの制御装置を作ったタコ科学者、Dr.ウィロー、則巻千兵衞、Dr.ライチーなどなど
ドラゴンボール世界の科学者は皆さんチート級
>>116 >ドラゴンボール世界の科学者は皆さんチート級
一人違うのが混じってるような…
せんべえーさんはあくまでもクロスオーバー的なサービスで厳密には住人じゃないからな
明らかに質量保存の法則を無視したホイポイカプセルがあるくらいだから技術チートとかいうレベルじゃない
それは四次元ポケットとかに質量保存の法則と言い出すぐらいズレた事だぞ
ものすごく高密度に圧縮した状態で安定させてさらに重力を制御しないと実現しないけどな
逆に言えばそうすれば実現できる程度の物なんだけど
重力ルームとかはあの大きさだから部屋の外壁になんか機械がぎっちり詰まってんだろうなと納得できるが
ホイポイカプセルはあのサイズで物質の超圧縮と重力か質量をゼロ近くにしてるから納得できない
納得する必要なんてない。そういうもんだと受け入れればいいだけ
ドラえもんの秘密道具と一緒で、余計なKAGAKU-KOUSATSUは野暮ってもんだ
本当はもっと小さく圧縮されていて重力制御装置も圧縮されていて
元にもどすギミックが付いているからあの大きさになったって考えればいいと思うな
いつまで糞みたいな話し垂れ流してるわけ?
一人用のポッドだって力技で小さく圧縮できるんだ、やってやれないことはないだろーよ
ところでオスマンって亀仙人とキャラ似てるよな
>126
オスマンと亀仙人の件は、既にサイヤの使い魔で指摘されとる
エロ仙人と亀仙人を召喚
亀仙人呼んだら(スケベ方面で)良いコンビになりそうだ。
ディーキンはフーケ戦やワルド戦も交渉で丸め込むんだろうか
2人とも話す時間はある相手だしなあ…
>>126 俺は似てるけどなんか根本が違うと感じるな。
具体的に何処がとは言えないけど。
いざという時に頼れるのが亀仙人
何も役に立たないのがオスマン
おっぱいに目が行くのが亀仙人
尻に目が行くのがオスマン
イグルーからカスペン大佐を召還
7万のアルビオン軍を前に待たせたな、ヒヨッ子共!が聞きたい
ポイポイカプセルは圧縮とか重力制御とか無茶なこと考える必要ないだろ……
四次元ポケットって出てる通り、同じ理屈で質量を全て異次元に収納すりゃいいだけじゃねえか
精神と時の部屋みたいに異次元は存在する事になってる世界なんだから
ホイポイカプセルは物体を粒子に変えて保存しておくアイテムだとブルマが説明してる
ブルー将軍くらいならゼロ魔世界でも多少強いくらいでいけるかな。惚れられた男は大変だろうがww
ブルー将軍と才人を同時召喚して、ルイズを含めた三角関係&修羅場が形成されたらいいなあ
ブルー将軍と阿部さんを同時召喚。ルイズの胃袋がストレスでマッハ
ならば後はビリーの兄貴も呼ばるを得ない
>138
阿部さん「やらないか?」
ブルー「やるって何をよ。よらないでちょうだい汗くさいわ」
夜分遅くになりますが、2:16頃より投下を始めたいと思います。
142 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/02/19(火) 02:18:20.30 ID:zOVGC+2q
Mission 37 <破壊者、降臨> 後編
アルビオンからの宣戦布告、そしてタルブへの侵攻が始まってから数時間が過ぎた午後。
アンリエッタ王女を筆頭とした2000の兵によるトリステイン王軍はアルビオン軍によって占領されたタルブへ向けて進軍していた。
本来ならば婚儀に相応しい純白のウェディングドレスを身に纏い、王族のみに騎乗が許される一角の聖獣ユニコーンに引かれる馬車に乗ってゲルマニアへと向かうはずだった。
だが今となってはそんな晴れやかな状態ではない。
アンリエッタはウェディングドレスを「動きにくい」と吐き棄てることで乱暴に脱ぎ捨て、今は物々しい戦装束に身を包んでいる。
馬車に繋がれていた一頭のユニコーンに跨った彼女は、真っ先に集まった近衛の魔法衛士隊を含めた2000の兵達を率い、戦地へ向けて街道を駆けていたのだ。
そこにはもう、多くの高級貴族達が暗喩し、ゲルマニアとの軍事同盟を結ぶための生贄に過ぎなかった飾りの姫の姿はどこにもない。
「殿下。竜騎士隊からの報告でタルブ領主、アストン伯が戦死されたとのことです」
「そうですか……」
隣を走る馬に乗るマザリーニからの言葉にアンリエッタの顔が僅かに曇った。
タルブへ向けて進軍を続けていく中、偵察に向かっていた竜騎士達から戦地の情報が舞い込んでくるのだ。
アルビオン軍は防衛のために出向いたアストン伯の領軍を蹴散らし、タルブ草原の占領を完了させ、現在は上陸した兵が陣を張っているという。
報告によればその兵力はおよそ3000。戦争の準備が整っておらず急ごしらえでかき集められたトリステイン軍の実に1.5倍の兵力差だ。
おまけに巨艦『レキシントン号』を筆頭にした十数隻もの艦隊がタルブの上空に堂々と留まっているのだ。
トリステインの主力艦隊は既に全滅してしまっているのは相当な痛手である。敵軍の艦隊は空から容赦なく地上を這い回る自分達を砲撃してくるであろう。
明らかにトリステインには不利な状況が揃っていた。地上の部隊には対抗できたとしても、空という地の利を得た艦隊を落とすのはあまりにも困難だ。
トリステインの勝ち目は限りなく薄い。
(それでも、やるしかないのよ)
アンリエッタはこれから生まれて初めて目にすることになるであろう『敵』の姿を思い浮かべ、密かに打ち震えた。
勇気を振り絞り勢い余って出撃したとはいえ、アンリエッタとて何も戦いに全く恐怖を感じないわけではないのである。
だが、その恐怖と震えを周りに悟られるわけにはいかない。
この命に代えても、タルブを奪還してみせる。出陣の際、母と生きているかも分からぬウェールズへと誓ったのだから。
騎乗するユニコーンを走らせながら、アンリエッタはそっと目を伏せて己を落ち着かせる。
「マザリーニ枢機卿。アルビオン軍と交戦したという魔法学院の生徒達については、何か報せは届いておりますか」
「はい。報告によればアルビオンの竜騎士隊と交戦をしたそうですが、戦線を離脱して森の中へと身を隠したそうですな。
その者達が竜騎士を引き付けてくれたおかげで、アストン伯の軍勢も敗れながらもアルビオン軍に対して多少なりとも損害を与えられたようです」
その報せを受け、アンリエッタは安堵の吐息をそっと漏らしていた。
幼き日からの無二の親友が生きてくれていることに心から安心する。彼女の勇気ある行動を知らねば、自分はこうして兵を率いて戦地へ赴くことなどなかったのだ。
アンリエッタに勇気を与えてくれた親友は、誰に頼まれるでも命令されるでもなく、自らの意思で戦地へと赴き行動を起こした。
誰かに命令され、求められたから行動を起こしてからでは全てが遅い。苦しむ民の姿を目にし、すぐに自ら行動を起こせる者こそが真の貴族、そして王族の姿。
(ルイズ。あなたが貴族として勇敢に戦っていたのであれば、わたしもまた王族として勇敢に戦わねばならないわね)
自分に勇気を与えてくれた桃色の髪の幼馴染みへと思いを馳せ、アンリエッタはユニコーンを走らせた。
王女の率いる2000の兵達は、傾いてきた日の光を受けながらタルブへ向けて街道を突き進んでいく。
トリステイン王軍のタルブへの到着は、明朝を予定としていた。
アルビオン軍のほぼ一方的な奇襲によってトリステイン艦隊とタルブ領軍は全滅させられ、タルブの草原は数時間と経たぬ内に占領されていた。
既に夕刻となり、徐々に日が沈みかけていく。タルブ地方の空はオレンジ色に染まり、西の空には見事な夕焼けが広がっている。
広大なタルブの草原から望むことができるであろうその風景は見る者の心を打つであろうが、今となってはそれを楽しもうとする者は誰もいない。
竜騎士によるつゆ払いによって火をかけられたタルブの村は未だに火災が続いており、村人達が住まっていた家々も、タルブの名産として知られ良質なブドウが採れる畑も容赦なく炎に包まれていた。
地上に降下したアルビオン軍は予定よりやや遅れはしたものの、占領した草原に陣を張っていた。
アストン伯率いるタルブ領軍による意外な抗戦によって地上部隊は打撃を被ったものの、その損害は200程度と3000の兵からしてみればかすり傷にしかならない。
100にも満たない兵力であった領軍がその30倍もの戦力である大部隊を相手に一矢報いたのは称賛に値するかもしれないが。
もっとも、いくら地上部隊が損害を受けたとしても、主力である10隻以上もの戦艦は無傷。地の利を押さえているアルビオン軍の優位に変わりはない。
「本当に、腹が立つわ! 堂々と居座っちゃって!」
「しょうがないでしょ。戦争ってのはそういうものなんだから」
南の森の小さな広場に響くルイズの癇癪。それを宥めつつもあっけらかんと答えるキュルケ。
タバサは地に伏せているシルフィードに寄りかかって座りながら、ちらりと空へ視線をやったが、すぐに持っていた本に戻していた。
彼女達が見上げる夕空の中には、無数のアルビオンの軍艦がシルエットとなって浮かび上がっている。それを目にする度にルイズは悔しそうな顔をしながら喚いていた。
あんな条約破りで、ハルケギニアを脅かそうとする悪魔と結託なんかしているレコン・キスタに一泡を吹かせてやりたいというのに何もできないだなんて。
「屈辱だわ……」
せっかくスパーダのおかげで自分だけの新しい力を見出し、それを鍛えてきたというのに、あんな戦艦が相手ではそれはまるで役に立たない。
人間や力の弱い悪魔が相手ならば一以上の結果が出せるのに、相手が悪すぎて自分の力はゼロでしかないのだ。
ゼロ……その単語が浮かんだ途端、ルイズはとてつもない屈辱と歯がゆさに肩を震わせる。
もう自分はゼロではないというのに、相手が悪すぎるというだけでゼロに戻ってしまうなんて……これ以上の悔しさはない。
こうして空に浮かぶ軍艦を見上げていると、軍艦にさえ「お前の力は無力だ」などと言われているように感じられ、彼女の神経を逆撫でる。
「えいっ!」
八つ当たりでそこらに転がっていた小石に『炸裂』の魔法を放つ。ポンッ、微かに花火みたいに弾けて小石を弾き飛ばす。
「無駄撃ちしてると精神力が無くなっちゃうわよ」
「分かってるわ」
キュルケの言葉にルイズは拗ねながら杖をしまうと膝を抱え、顔を埋めていた。
もうじき日没となり、すぐに夜が訪れるだろう。キュルケはそこらから集めてきた焚き木に発火の魔法をかけ、火を点けていた。
一行は焚き火の傍で座り込み、暖を取る。明日の戦いに備え、心身ともに休ませなければならない。
特に精神力はメイジが魔法を発動させるために最も必要な要素なのだ。
「まだ戻ってこないわねぇ。ダーリン」
地獄門が魔界への扉を開き続ける中、ルイズ達はこの広場でスパーダが帰還してくるのを待ち続けていたのだが、未だスパーダが戻ってくる気配がない。
日が落ち、辺りが暗くなることで地獄門に開けられている次元の裂け目の光がより一層際立っており、どこか神秘的に見えなくもなかった。
とは言っても、相変わらずその裂け目からは魔界から瘴気がこちらに流れ込んでくるので近づくことはできないのだが。
「何で戻ってこないのよ? すぐに帰ってくるって約束したのに……」
虚しく開き続けるだけの魔界への入り口。その向こう側からスパーダが姿を現すのを待ち望み、ルイズはやきもきしながらじっと見つめ続ける。
それはまるで、親の帰りを家の入り口の前で待ち続けている寂しがりな子供のようである。
「焦ったってしょうがないわよ。まだ時間は残ってるんだから。その内にひょっこり帰ってくるわ」
楽観的に、常に前向きに物事を考えるキュルケはルイズのように極端に心配したりはしない。
それに対し、時が経つにつれてルイズの心を不安が襲ってくる。本当に、スパーダは戻ってくるのだろうか。
あの裂け目の向こう側に、スパーダの故郷が広がっている。あの裂け目に飛び込んで、彼を迎えに行きたい衝動に駆られたのも一度や二度ではない。
だが、結局ルイズは待ち続けることしかできなかった。ハルケギニア以上に過酷な世界であろう地獄に飛び込んで、人間である自分の力なんて何の役にも立たないだろう。
実に歯がゆい。実にもどかしい。実に虚しい。
たまらなくなって、ルイズは顔を膝に埋めたままいじけていた。
眠っている間に、もしかしたらキュルケの言うようにひょっこり戻ってきてくれているのかもしれない。でも、できれば自分が起きている間に戻ってきて欲しい。
戻ってきた彼と一緒に、伝説の魔剣士のパートナーに恥じないように、悪魔を倒し、レコン・キスタの侵略を食い止めてやりたい。
そんな様々な思いを次々と湧き上がらせていると。
――キャハハハハハ……。
不意に、鐘の音と共に不気味な笑い声が聞こえたような気がした。
がばりと咄嗟に顔を上げ、ルイズは辺りを見回す。杖を取り出し立ち上がると、きょろきょろと宵闇に包まれている広場のあらゆる場所へ視線を向けていた。
「どうしかたの? ルイズ。そんなに慌てて」
「あんた達、今の聞こえなかったの? 悪魔よ! 悪魔!!」
「悪魔達の気配はない。あれを除いては」
タバサが指したのは、地獄門の隅で静かに待機しているスパーダが留守を任せた悪魔達だ。
この宵闇の中でも彼らの姿はよく目立つ。蒼ざめた炎に包まれたゲリュオン、紫電を纏うネヴァンのシルエット。ドッペルゲンガーだけは闇と同化していて見えないが。
「はぁ!? あいつらのことじゃないわよ! あんた達だって今の音が聞こえなかったの!? あれは悪魔に間違いないわ!」
あくまで楽観的なキュルケ、ポーカーフェイスを崩さず否定するタバサにルイズは声を上げる。
ルイズの頭の中では不気味な笑い声が絶えず響いてきているのであるが、それが聞こえているのは当の本人だけであり、キュルケとタバサには何の音も聞こえてこないのだ。
全く状況が分からない二人は突然慌しくなったルイズの姿に首を傾げるのみ。
「あなた、ダーリンの帰りが待ちきれなくなっておかしくなっちゃった? 良い? 悪魔はいないの。音だって聞こえないし、気配も何も無いのよ。もうちょっと落ち着きなさいな」
「おかしいのはあんた達の耳の方でしょ!」
まるで取り合おうとしないキュルケにルイズは憤慨する。今でも絶えず悪魔達の笑い声が聞こえてくるというのに。
――スパーダ。
――スパーダ。
――スパーダ。
突然、頭に響いてきた怨嗟と憎悪に満ちたおぞましい悪魔の声。
ルイズのパートナーにして、伝説の魔剣士スパーダの名前。その名が聞こえると同時に、全く別の声が頭に響いてくる。
「おいおい、全部相手にする気か? ざっと100はいるぜ?」
それは紛れも無く、ここにいるはずの無いスパーダが篭手として所有しているはずであったデルフリンガーのものだった。
「今の内に慣らさねばならん」
「スパーダ?」
さらに、丸一日耳にすることはなかったパートナーであるスパーダの声まで聞こえてくる始末。
戻ってきてもいない彼らの声が聞こえてくることにルイズは狼狽した。
「っ!?」
「どうしたのよ? 本当に大丈夫?」
聞こえもしない悪魔達の声に慌てふためいていたルイズが今度はうずくまり、左目を押さえたり擦りだしたためにさすがのキュルケも心配になった。
「何よこれ? いきなり目がぼやけて……」
ルイズは自分の左目に映りだす光景が突如として真夏の陽炎のように揺らめき、歪みだしたことに困惑する。
やがて右目に映る宵闇に包まれた広場の光景とは別のものが、左目の視界に映り始めていた。
ぼんやりと徐々に変化していくその光景に集中するため、ルイズは右目を手で覆って視界を塞ぐ。
その間にも、頭の中では様々な声や音が響き続けていた。
――アッハハハハッ……。
――キャハハハハハ……。
――キャハハハハハ……。
次々と響き渡る不気味な笑い声、中には言葉で表せない奇妙な雄叫びまで混ざって響き渡る。はっきり言って、やかましい。
揺らめきつつも徐々に明確になってくる左目の視界に映りだしたのは、どことも知れぬ荒れ果てた風景であった。
宵闇で覆われたルイズ達のいる広場よりもやや明るかったが、それでもかなり薄暗い場所である。事実、空には重苦しい暗雲がひしめいていた。
そこはどこかの町の廃墟なのか、至る所に大小様々な瓦礫の山や丘が散在し地面になっているという、殺伐とした場所である。
朽ち果て倒壊した城らしき建物の壁には巨大な十字架が突き刺さっているなど、ハルケギニアではまず見られないであろう異様な光景だった。
(これって、もしかして……魔界なの?)
ルイズはその殺風景なものを目にし、目に映るこの光景が、スパーダの故郷である魔界であることを察していた。
以前に夢で目にした血の湖が広がっていた場所にも劣らない、恐ろしい風景である。やはり、魔界にはこんな殺風景な所しかないのだろうか。
(な、何よ!? 死神!?)
そして、その悪夢の風景の中にいたのは……もちろん悪魔だ。
奇妙な雄叫びや不気味な笑い声を上げ、黒い霧と共に瓦礫の山に次々と姿を現したのは大きな漆黒のローブを身に纏い、禍々しい巨大な鎌を手にするまさに死神と呼べる悪魔であった。
その巨体な死神の他にも、黒のボロ布を纏う痩せこけた背のかなり低い死神や、濁った緑のボロ布にトゲ付きの鉄球が付いた杖(スタッフ)を手にする死神など、種類も様々だ。
その総数は先ほどデルフの声が言ったように100にも上るだろう。
死神達は瓦礫の山から下り、霧散して姿をかき消し別の場所へ現れながら近づいてくる。
――キャハハハハハ……。
――キャハハハハハ……。
――キャハハハハハ……。
数は10にも満たないが、大きな死神達は絶えずよく響く不気味な笑い声を上げ続けている。
「かぁーっ! うるせえな! おい相棒! さっさと片付けちまおうぜ! 耳障りでたまんねえ!」
「一番うるさいのはお前だ。少し黙れ」
肝心のスパーダの姿が見えないと思ったら、ルイズの視界の左端から何かが飛び込んでくる。
「きゃっ!」
いきなり目の前に二体の灰色のボロ布を纏った死神が現れたと思ったら、視界に飛び込んできたそれが死神の鎌を強引に奪い取り、鋭い回し蹴りが放たれて死神達をまとめて吹き飛ばす。
それは紛れも無く篭手のデルフリンガーを装備しているスパーダの左手と、上質な革の靴と紫のスラックスを身に着けたスパーダの右足だった。
鎌を奪い取った左手はそれを今しがた吹き飛ばした死神の一体へと放り投げた。ヒュンヒュンと音を立てながら回転し飛んでいった鎌は死神の顔面に突き刺さる。
茶色い血飛沫を散らし、死神は断末魔を上げながら溶けて消えていく。鎌も死神の消滅と共に砕け散っていた。
この視界と視点……もしかして、スパーダが目にしているものなのか?
ルイズは固唾を飲んで、本来なら目を覆うべき悪夢の光景に食い入っていた。
「一体、どうしたっていうのかしら? ルイズったら」
ルイズがその光景に集中している中、キュルケはルイズの身に何が起きているのか分からず怪訝そうに彼女を見つめていた。
突然悲鳴を上げたり、「危ない!」と叫んだり……一体どうしたというのだろう?
そんな中、ルイズの反応などを観察していたタバサはある結論へと達するに至る。
「たぶん、使い魔に与えられた能力。使い魔は主人の目となり、耳となる……」
実際にシルフィードと感覚の共有を行ったことのあるタバサがルイズの身に何が起きたのかを理解する。
「それじゃあ、ルイズはダーリンの見ているものが見えてるってことなのね」
「恐らくそう」
それを見ることはできるのはスパーダと使い魔の契約をし、パートナーとなったルイズだけ。一体、どのようなものが見えているのか気になる二人であったがこればかりはどうにもならなかった。
「っていうことは……あの様子からして、ダーリンは悪魔達と戦ってるみたいね」
興奮したあのルイズの反応からしてスパーダが今陥っている状況をある程度把握することができる。
間違いなく、彼は今魔界で悪魔達と一戦を交えているのだ。どんな悪魔とどのように戦っているのか、それを見ることができない二人は気になって仕方がない。
「わっわっわっ! 何!?」
死神達の集団を真正面から対面していた光景が突然、その真上から見下ろすものへと切り替わっていた。
空中で逆立ちにでもなっているのか、スパーダの体が視界の中に入らない。
スパーダは赤いオーラを宿したルーチェ、オンブラの二丁拳銃を真下に向けて高速で連射する。射撃の反動のためか、スパーダの体は少し浮き上がっているようだ。
豪雨のように降り注ぐ銃弾の嵐を頭上から受けて死神達は混乱している。
「きゃあ!」
くるん、と身を翻したらしいスパーダが瓦礫の地面に着地し、再び死神の集団を正面から対峙する形となっていた。
スパーダが目まぐるしく動くせいで、思わず吐き気を催すほどに酔ってしまいそうである。正直、スパーダのこの視点からでは何が起きたのかを正確に判断するのは困難だ。
死神達は手傷を負いながらもおぞましい声を上げながら迫ってくる。
不意にゴォン、と低い鐘の音が鳴り響いたと思ったら、いきなり目の前の空間が歪み大きな死神が鎌を正面で交差に振り回しながら突進してきたのだ。
「ひっ!」
本当はその場にいるはずもなく身の危険など無いにも関わらず、思わず恐怖に目を瞑った。
視界が闇に閉ざされた途端、キィン! と鋭い音が響き、死神の断末魔が轟く。
恐る恐るルイズが目を開けて見ると……そこには迫ってきたはずの死神が全身を中心から縦一閃に断ち割られていたのだ。
パックリと左右に分断され、茶色い血飛沫を撒き散らしながら死神は霞のように消滅する。
チャキン、と剣を静かに収める音が響く。どうやら、閻魔刀という刀で斬撃を繰り出したようだ。
スパーダの視点だとどのようなものが見えていたのか気になったが、見れなかった。目を閉じてしまったことを少し後悔する。
「フンッ!!」
スパーダの掛け声と共に、右端から剣が袈裟へと振り上げられる。力強く、豪快に振るわれたためにスパーダの腕と手にする剣がが霞んで見えた。
一振り――たったそれだけで嵐のような旋風が巻き起こり、死神達へと襲い掛かる。
スパーダが対峙していた100の死神達は皆、その剣風によって薙ぎ倒され、ズタボロに傷つけられて地に倒れ伏していた。
中には瓦礫に突き刺さり、下敷きになり、そのまま息絶え消滅するものまでいた。ほとんどの死神達が虫の息で、動くこともできないようである。
「すごい……」
ルイズは思わず息を呑む。剣をたった一振りしただけで敵の軍勢を軽く薙ぎ倒すその光景は痛快であり、同時に畏怖すら感じてしまう。
恐らく、あのリベリオンという剣を振るったのだろう。魔剣士スパーダの剣技ならばそれくらいのことなど容易いはずだ。
一番体の大きな死神達もかなりの傷を負っているが、それでも倒れるには至らず執拗にスパーダに迫ってくる。
――スパーダ……。
――スパーダ……。
――スパーダ……。
呪詛の言葉を呟きながら迫ってくる死神達。スパーダはぐるりと奴らを見回し、一瞥しているようだ。
リベリオンを片手で振り回しているのか、ヒュンヒュンと空を切る音が聞こえてくる。
死神達もスパーダの出方を見ているらしく、すぐに攻撃を仕掛けようとはしてこない。だが、絶えず呪詛と怨嗟の呟きや不気味な笑い声を上げ続けて威嚇してきていた。
次はどのようにして攻めるのかルイズも手に汗を握りハラハラしながら見守っていたが、突然その視界がぼんやりと揺らめきだし、歪みだしていた。
視界に映る魔界の風景が、ルイズ達のいる広場の風景へと徐々に戻っていく。
「ちょっと! ま、待ってよ! まだ終わっちゃ駄目よ!」
まだスパーダの戦いは終わってすらいないのにそれを途中までしか見届けられないなんて冗談じゃない。
慌てて叫んで止めるが、言い始めた途端に左目に映る風景が完全に元に戻ってしまっていた。
「おかえり」
代わりに映りこんだのは、面白そうに自分を眺めていたキュルケとタバサの姿が焚き火の明かりで照らされているものだった。
覆っていた右目を開けると、ルイズはその場で力なくへたり込む。
「一体何が見えたの?」
「……スパーダが戦ってる所よ。彼、悪魔達と戦っていたわ。それもたくさんの……」
興味津々なキュルケの問いかけに息を切らしつつも答えるルイズ。
しかし、ルイズには分からなかった。どうしてこんなものが突然見えたのか。
「それは使い魔に与えられた能力。あなたは彼が今見ているものを共有することで目にすることができた」
困惑するルイズの思いを察したのか、タバサが呟いていた。
その言葉にルイズは息を呑む。確かに、使い魔の契約を行った使い魔とは感覚を共有することができるというが……。
今までまるで感じることのできなかったものが、今になってできたというのか?
それじゃあ、やはりあれは本当に今スパーダの身に起きていることなのか。だとすれば、彼は今も……。
「やめなさいよ、ルイズ」
「な、何よ!」
唐突に諌め始めたキュルケに立ち上がったルイズは噛み付く。
「ダーリンがどこにいるかも分からないのに迎えに行けるわけないでしょ」
ルイズの考えなど何でもお見通しと言わんばかりに答えるキュルケであったが、それですぐ引き下がれるルイズではなかった。
「だ、だからって……! 自分の使い魔を、パートナーをこのまま放っておくなんて……!!」
「ダーリンの強さはよく知ってるでしょ? だったら、ルイズの見たように悪魔達と戦っていても負けるはずなんてないわ。
それともダーリンは死にかけそうなくらいピンチだったわけ?」
「そうじゃないけど……」
「だったらパートナーとして待ってあげなさいよ。さっきも言ったでしょ? そのうちひょっこり帰ってくるって」
一見すると他人事みたいな言い方だが、キュルケはイーヴァルディの勇者に等しい魔剣士スパーダの力が何者にも屈するはずがないだろうと信じていた。
彼の身に何かが起きても、彼は己の力を持ってそれを振り払い、必ず自分達の元へ戻ってきてくれるだろう。
だからキュルケは安心して彼を待つことができるのだ。
キュルケのここまで楽観的な言葉に渋い顔を浮かべるルイズ。タバサの方を見やると、彼女もキュルケに同意しているのか無言のままこくりと頷いていた。
ルイズはやるせない顔で、ちらりと地獄門の方を見つめる。
次元の裂け目からまた悪魔が這い出してきた所を、ネヴァンが稲妻を放って仕留めているのが見える。
「早く……戻ってきなさいよ。帰ってくるって約束したんだから……」
漆黒と紅蓮の乱舞が螺旋を刻みながら一直線に突き進む。
それは瓦礫の山を宙に巻き上げ、薙ぎ倒し、触れるものを容赦なく粉砕していった。
スパーダの全身から溢れる魔力は赤黒いオーラとして具現化する。鋭い衝撃波に閃光の尾を伴ったフォースエッジによる渾身の一突きがヘル・バンガードを貫き、肉体を抉り削っていく。
普段、魔力を用いずに繰り出される高速の突進突きは悪魔の巨躯さえも吹き飛ばすほどの破壊力を持つ。
今放った一撃は、突進そのものにさえ容易に敵を弾き飛ばすほどの力を秘めていた。夥しい魔力を溢れさせ、剣先にその全てを集中させれば強大な悪魔でさえ仕留められるほどの威力を発揮する。
魔剣士スパーダの必殺の一撃をまともに食らったヘル・バンガードは魔力を纏ったフォースエッジに貫かれたまま、その身を跡形もなく粉砕されていた。
――キャハハハハッ……!
背後でヘル・バンガードの笑い声が響き渡る。
たった今仕留めたのが七体目であるため、残るは二体。その一体がすぐ後ろにいる。もう一体は瓦礫の山の上からこちらを窺っていた。
ヘル・バンガードがスパーダの頭上めがけて鎌を振り下ろした瞬間、スパーダは左拳を後頭部へと振り上げ装着している篭手のデルフで受け止め、弾き返していた。
それと同時に魔力を込めたフォースエッジを瓦礫の上にいるヘル・バンガードへと投擲する。
空を切り裂きながら、一直線に飛んでいったフォースエッジをヘル・バンガードは鎌で難なく弾き返す。
弾かれて宙を舞ったフォースエッジだが、勢いは衰えずそのまま回転を激しくすると軌道を自ら反転させ、ヘル・バンガードへと襲い掛かる。
ブーメランのように飛来しては様々な角度からヘル・バンガードの体を切り刻んでいくフォースエッジ。ヘル・バンガードが別の場所へ転移しても、魔力によって探知しているフォースエッジから逃れることはできない。
フォースエッジを投げ放ってすぐにスパーダは左手で背負っていたリベリオンを手にし、体を大きく反転させ、水平に薙ぎ払った。
ヘル・バンガードの胴体を一文字に斬り裂いたのを意識する暇もなく、スパーダは戻ってきたフォースエッジを掴み取る。
左手にリベリオンを、右手でフォースエッジを手にしたまま満身創痍のヘル・バンガードへと一気に詰め掛けていく。
ヘル・バンガードは鎌を正面で構えると、回転させながら開き直ったようにスパーダ目掛けて突貫してきた。それは明らかに苦し紛れと言わんばかりの攻撃であった。
せめて敵に一矢報いねばという悪魔としての殺戮本能より繰り出される攻撃だ。だが、相手が悪すぎた。
スパーダは難なくリベリオンで鎌を捌き弾き飛ばすと、丸腰となったヘル・バンガードの首をそのままフォースエッジで斬り落とした。
「やっと片付いたなぁ。もう、喋っても良いよな?」
初めにうるさいと言われ、今までずっと黙っていたデルフはここでようやく声を上げる。
リベリオンとフォースエッジを交差させるようにして背負うスパーダは特に言葉を返さない。それは肯定していることを意味する。
「どうだい? 久しぶりの愛剣とやらを振るってみた感想は」
「まあまあだな」
フォースエッジの扱いに関しては重さやリーチは違えど今まで使っていたリベリオンとさほど変わらない。
リベリオンは魔界でも最強の硬度と耐久性を誇る金属から作り出された純粋な魔界の武器であり、己の魂の分身であり長年連れ添ったフォースエッジの方が魔力が浸透し易い。
単体での威力そのものはリベリオンに僅かに劣るかもしれないが、取り回しの良さや魔力を上乗せさせた攻撃に関してはフォースエッジの方に分がある。
久しぶりに手にした愛剣の力に改めて馴染むため、現世へ戻るまでは可能な限りフォースエッジを振り回すことに決めていた。
「あ〜あ、俺っちもせめて剣の時にもっと相棒に振るってもらいたかったよ。そいつに出番を取られちまうのが分かっててもよ……。
何だよ……他に剣は必要ないとか言ってたくせに……そんな凄ぇもん隠してたなんてよぉ……。俺だって、初代ガンダールヴが作ってくれた、伝説の魔剣だったってのに……」
フォースエッジだけでなく、スパーダが手にする全ての魔剣に対して恨めしそうにぶつぶつと呟くデルフ。
未だスパーダに剣として振るってもらえなくなったのを根に持っているようである。
「お前の本来の力は私には向かん」
「ちぇっ、せめて動ける体がありゃ自分で暴れられるってのに……」
「ならば戻ったら別の器でも作ってやろうか」
「いいよ、いいよ。器を離れたり移される時ってのは正直、気持ち悪いったらありゃしねえんだ」
デルフと談義を交わしつつも、スパーダは急いでハルケギニアへと続く門がある領域へ戻るべく駆けていた。
後は来た道を逆走すれば良いだけであり、己の魔力を解放させたまま全力で疾走していく。
フォースエッジを手にしたことで力の大半を取り戻し、故郷である魔界の魔力を糧にすることでスパーダは来た時よりも早いペースで進むことができていた。
まだ真の力を解放してはいないとはいえ、今の魔力の状態ならば本来の姿を維持し続けることも可能だが、それは止めておく。
本来の姿に戻るということは、それだけスパーダの膨大な魔力を放出することを意味する。その魔力を嗅ぎつけ、悪魔達と遭遇することになってしまうからだ。
一秒の時間でさえ惜しい今の状況では悪魔達と無駄に戦うことを避けたい。
まあ、本来の姿に戻らずともこれならばハルケギニアで日食が起きる前に現世へ戻れるかもしれない。
むしろ道中、タルブの地獄門に繋がっているあの領域以外にもハルケギニアへと繋がっている出入り口を見つけることができればすぐにでも現世に戻れる。
もっともそれが魔界のどこにあるのか分からない以上、探していても時間の無駄だ。
(約束は果たさねばならぬからな)
ルイズとは必ず戻ると約束をした。形だけではあるが使い魔の契約を、悪魔を側に置く契約も交わした。
彼女の命ある限り、そして人としての心を持ち続ける限りその人生を見守ることを誓った以上、まず自分が現世に戻らねば話にならない。
数時間前、ガンダールヴのルーンが映し出したアルビオンのレコン・キスタが攻めてくる場面を見届けたため、もはや魔界で時間を割いている暇もない。
現在、現世では何が起きているのかは分からない。ルーンはあれからスパーダにルイズの視界を映そうとはしなかった。
一分一秒でも早くハルケギニアへ戻るべく、スパーダは魔界の荒涼とした大地を駆け抜けていった。
深夜になっても、タルブの草原に係留されたレキシントン号を筆頭とするアルビオンの軍艦は夜空の中に不気味なシルエットを浮かばせていた。
夜空の中には同時に赤と青、二つの大きな月が空に浮かび、ハルケギニアの大地を淡く照らしている。
月に一度のスヴェルの日が近づいている今、本来は距離を置いているはずの双月は互いに隣り合うようにして浮かんでいた。
明日の昼、この二つの月が一つに重なるだけでなく、ちょうど重なり合った時に太陽を覆い隠し、大地に闇をもたらす――すなわち皆既日食が起きるのだ。
十年単位で滅多に見られない光景であるが、日食が続く時間はおよそ十数分でしかなく、多くの人間達は普段ならばその日食を平穏な時の中で見ようとしていただろう。
戦争が始まった今となってはそんな余裕はないだろうが。
(その僅かな時間……魔界の勢力がこの異界の地へ攻め入ってくる……)
数時間前に火災が治まり、大半が焼け落ちてしまった民家だけが残されたタルブの村。
そのすぐ外に広がる草原との境で腰を下ろし、双月を静かに見上げる黒ずくめの青年がいた。
本来なら既に戦場となっているにも関わらず青年は堂々と、そして悠々とした様子でただ空を眺め続けている。
(我が師……魔剣士スパーダ。あなたはその時に我らの前に姿を現してくれるのですか?)
モデウスは月を見上げながら己の師への思いを巡らす。
スパーダが魔界を去り、人間界へと降り立ってからの1500年間、モデウスは魔界にいながらも師の人間界での様々な話を悪魔達より耳にしていた。
――曰く、悪魔達が辺境の孤島に築いた魔界へと繋がる巨大な門を剣の力により封印した。
――曰く、人間の魔術師によって召喚され、破壊の限りを尽くそうとした羅王を打ち破った。
他にも様々なスパーダの活躍が挙がっている。多くの悪魔達にとっては逆賊であるスパーダの忌まわしい話、人間達にとってはまさに英雄譚に相応しい活躍。
だが、人間界ではスパーダの英雄譚は時が経つにつれて廃れていっており、一般では半ばおとぎ話のような扱いをされているという。
無論、禁書や重要な記録を残した本が所蔵された大きな図書館などではその活躍が事実であったことは記されてはいるのだが。
(あなたがこの異界の者達を救おうとしているのであれば……明日の侵攻を嗅ぎ付けているはず)
人間界でスパーダが悪魔達の暗躍を察し、どこからでもすぐに飛んできて食い止めていた時のように。
モデウスでさえ魔界勢力の侵攻と暗躍を耳にしているのだ。事実、あのアルビオンとかいう国での紛争もそれが原因だという。
(あなたがこの異界の地に足を踏み入れているのを知った時、私は驚きました)
スパーダがこの異界に足を踏み入れ、活動しているのを知ったのは一ヶ月も前のことだ。彼は魔法学院とかいう場所で滞在しているのだという。
居場所を突き止めたモデウスであったが、自らの足でその学院を訪れ師に会おうとは思わなかった。
(魔剣士スパーダ……我々が目にしたいのは、あなただけではない。あなたの『剣』と『力』も、この目と体で感じたいのです)
一度は剣を捨てた身とはいえ、モデウスも魔界の剣士のはしくれ。
魔剣士スパーダの弟子として、出来ることならばその再会は平穏の時ではなく、戦いの渦中で果たしたかった。
(兄さんも共にいてくれれば良かったのだが……)
同じ魔剣士スパーダの弟子であった兄がこの異界の地に来ていることは分かっているのだが、モデウスは兄の消息を掴むことはできなかった。
兄のことだから、明日の侵攻のことはやはり耳に入っているのだろうが……恐らく姿を現すことはないかもしれない。
強者との戦いを求めている彼は確実に強い敵と戦えると知らねば自ら戦地に赴くことはない。
ましてや自分のように魔剣士スパーダの存在を知り、彼が現れるかもしれないという可能性を察していないなら。
夜具もない中での野宿は正直辛い。それが二日も続けば尚更だ。
ましてや名門ラ・ヴァリエール家の娘として育ってきた身としては、ふかふかなベッドの中でゆったりと心身共に休ませたかった。
だが、こんな状況ではそんな文句も言っていられないのでルイズは我慢して眠ることにしたのである。
キュルケやタバサと同じように、シルフィードの体に身を寄せながら。
ベッドとは違うこんな寝心地の悪い場所では安眠などできなかったが、それでも休息を取れるだけマシだった。
こうして眠っている間にスパーダが戻ってきていることを願い、静かに休むことにした。
「――ズ……イズ……! ……ルイズ!」
まどろみの中でゆったりと夢を見る暇もなく熟睡していたが、そんな中でキュルケが自分を呼ぶ声が聞こえてくる。
「何よ、うるさいわね……。もう少し眠らせてよ……」
だが、寝ぼけている彼女はそのまま寝言を呟くだけであった。
「起きなさいって! ……もう、しょうがないわね!」
いつになく慌てた様子のキュルケの声だったが、どうしたのだろう? 意識がはっきりしないルイズはそれを理解することができない。
その内、何だか自分の体がふわりと宙に浮かび上がったような感覚を覚えていた。
それでもルイズは目を覚ますことはなく、くーくーと寝息を立てている。このままもう一度熟睡してしまうかと思われた時……。
「痛たっ!」
突如として地面に叩きつけられたことで、ようやくルイズは目を覚ます。
胸を強く打ったために一瞬息ができなくり、げほげほと咳き込みながらも体と顔を起こしたルイズは杖を手にしたキュルケが呆れた様子で自分を見下ろしているのが目に入った。
「何をするのよ! 人がせっかく寝てたっていうのに!」
「じゃあここでずっと眠ってなさい! あれが聞こえないっていうならね!」
食って掛かるルイズをキュルケはいつものように余裕を持って軽くあしらおうとはせず、激昂し叱り付けてきたのだ。
あまりに血相を変えた真剣なキュルケの態度にルイズはびくつき、言葉を失った。
(何がどうしたっていうの?)
ここまでキュルケが真剣に怒っているのが理解できないルイズであったが、その目に映る風景、そして耳に届いてくる音で徐々に状況を察していく。
気がつけばもうとっくに夜が明けており、青空の中に太陽が高く登り陽光が燦々と降り注ぐ見事な快晴である。時刻は昼前だろうか?
(何……? 大砲!?)
耳をつんざく重々しい轟音が大気を震わせながら響いている。それも一回や二回ではない上、断続的に発せられているのだ。
これは明らかに、アルビオン軍の戦艦の大砲の音だ。この音が轟いているということは……。
「タバサ! シルフィードで飛んでちょうだい!」
ハッとしたルイズが大声を上げたが、タバサは既にシルフィードに乗り込んでおり、いつでも飛ばせる状態だった。ルイズよりも早く起きていた二人はとっくに準備を済ませていたのである。
寝坊したルイズにキュルケが呆れて肩を竦めるが、今はぼやぼやしている暇はない。
二人が急いでシルフィードに乗り込むと、早速広場の上空、100メイルほどの高さにまで舞い上がる。
「何よ……あれ……」
そこから三人が目にしたのは衝撃的な光景だった。
タルブの草原より1000メイル上空に浮かび上がった十数隻のアルビオンの戦艦。その周囲を飛び交う竜騎士。草原を覆いつくすアルビオン軍。
そして草原の向こう側、小高い丘の上には数千にもなる一軍が見える。数はアルビオン軍よりも少ないようだが、それでも兵力は1000を超えていた。
どこの軍勢なのかと一瞬考えたルイズだったが、あれだけの手勢を即座に用意できるのは……。
「恐らくトリステインの王軍でしょうね。ほら、旗だって掲げてるみたいだし」
ルイズが思っていたことを言葉にしたキュルケ。タバサが遠見の呪文によって空気を遠眼鏡のように屈折させ、その軍勢を拡大させた風景を三人の前に写し取ったのを指差す。
キュルケの言う通り、トリステイン王家の証である白百合を象った紋章の記された旗をその軍は掲げているのだ。
馬に騎乗し、剣状の杖を振るう王軍の兵隊達。マンティコア、ヒポグリフ、グリフォンと三種の幻獣を操る王軍のエリートにして近衛の魔法衛士隊。
そして、その軍の最後尾の一団の中、純白のユニコーンに跨っていたのは……。
「姫様!」
そう。ルイズの無二の親友である王女アンリエッタその人だった。
だがその姿はいつも目にする王女としての清楚な純白のドレスでも、本来明後日にゲルマニアで執り行われるはずだった婚儀のためのウェディングドレスでもなく、
マントに鎧という明らかに戦のための衣装に身を包んでいるのだ。
その手には彼女が愛用している水の魔法の力が蓄えられた王家の杖が握られている。
(これが姫様なの……?)
ルイズは遠見の魔法によって映し出される幼き頃からの親友であるアンリエッタ王女の凛々しく威厳に満ちた姿に息を呑んだ。
今までに見なかった王女の勇ましい姿……たとえ遠見の魔法を介してでも彼女からは王としてのオーラをありありと感じることができる。
「へぇ〜、この様子じゃ陣頭指揮はアンリエッタ王女様みたいね。中々似合ってるじゃない」
キュルケも戦装束を身に纏ったアンリエッタの姿に感嘆としているようだ。
ではやはり、アンリエッタ王女はアルビオン軍と戦うことを決意したのだろう。
何もせずにアルビオンによって国土を蹂躙されるくらいならば彼女は最後まで敵から国を、そして民を守ろうと立ち上がったのだ。
それはまさに王族の人間として相応しい行動。
(姫様。……お傍にいられなかった私をお許しください)
もしも王女が自ら王軍を率いて戦うのだということを知っていれば、ルイズはせめて親友としてその傍で彼女を支えてあげたかった。
だが、今となってはもう何もかもが手遅れだ。ならば自分達にできることはただ一つ。
……だが、それを実行しようと考えが行く前に気づいたことが一つ残っている。
「っていうか、キュルケ! タバサ! スパーダは!?」
そうである。慌てていたので思わず失念していたが、スパーダは魔界から戻ってきたのか?
シルフィードの背中の上でルイズはキュルケに掴みかからん勢いで食って掛かると、彼女は苦い顔を浮かべていた。
「残念だけど、まだ戻ってきてないのよ。ルイズはダーリンの様子が見えたりしないの?」
「……見えないわよ」
ため息交じりに返された言葉にルイズはがっくりと肩を落とす。
何でまだ戻ってこないのだ?
日食までもう本当に残された時間は僅かだというのに、あの地獄門を通って魔界へ行ってから丸二日が経とうとしているというのに、何故彼は未だこのハルケギニアへ帰還してこないのだ。
彼が必死になって悪魔達を退け戻ってこようとしているのは分かる。……だが、戻ってくると約束したではないか。それが果たされない限り、彼は自分との約束を裏切っていることになる。
「仕方がないわね。じゃあ、あたし達で一仕事といきましょうか!」
失望にも似た思いがルイズに襲い掛かろうとしたが、キュルケが威勢がよい声を張り上げて杖を取り出していた。
「タバサ。ダーリンからもらった道具は後は何が残ってる?」
「バイタルスター、デビルスター、アンタッチャブルが三つ。スメルオブフィアーが二つ」
タバサがマントの裏を覗き込んで預かっていた道具を確認する。
「充分ね。じゃあ、早速思いっきり暴れてやるとしましょうか!」
その行動にルイズはキュルケの本意を不思議と受け止めることができていた。
彼女はこう言っているのだ。「スパーダが戻ってくるまで、自分達でできることをやれば良い」と。
先日と全く同じことを再度、ルイズに伝えていたのだ。あの道具をスパーダが託してくれたのも、そういう意味なのである。
……ならば、彼が帰還するのを待つ間、やるしかない。たとえ日食の時が訪れた後であろうが。
「ちょっ! ちょっと待って、タバサ!」
タバサがシルフィードにアルビオン軍に向けて飛んでいくよう命じた途端、ルイズは慌ててそれを引き止めた。
「何よ。あなたのご友人のアンリエッタ王女様も戦ってるのよ?」
「いいから! さっきの広場に一度戻って!」
キュルケの言葉を受け流し、タバサに訴える。
タバサはルイズの真意が分からなかったものの、とても真剣な様子だったのでそれを聞き入れた。
要求通りに広場へとシルフィードを着陸させた途端、ルイズは地面に飛び降りると地獄門の方へと駆けていった。
地獄門の次元の裂け目からは絶えず魔界の瘴気が溢れてきており、一瞬咽たルイズはマントで口と鼻を覆って近づいていく。
その隅で退屈そうにしているスパーダから留守を任された者達へと。
「ちょっと、アンタ!」
ゲリュオンに寄りかかったままハープを奏でているネヴァンに開口一番で詰め寄るルイズ。
「嫌よ。私は人間同士の戦いなんかに興味はないもの。あなた達で勝手にやれば良いんじゃなくて?」
まだ何も言っていないというのにまるで無関心な物言いに思わず頭に来る。だが、今はそれに対して返す暇などない。
「誰もアンタの助けなんていらないわよ! そんなことより、スパーダから預かってる破壊の箱をあたしに寄こしなさい!」
「破壊の箱? もしかして、これのことかしら」
ネヴァンが片手を振ると、コウモリ達がゲリュオンの馬車の上から大きなスーツケースを持ち上げてきていた。
スパーダが所有していたマジックアイテム、破壊の箱――パンドラという魔界の武器である。
「そうよ! さっさとそれをこっちに……きゃっ!」
言うが早いか、コウモリ達はルイズ目掛けてパンドラの箱を落としてきた。慌ててそれを受け止めるものの、意外に大きいこととその重さで下敷きになってしまう。
「あらあら。人間ごときにそれが使いこなせるのかしら? これは見物ねぇ」
「うるっさいわね! アンタはその門を大人しく見張ってなさいよ!」
パンドラを抱えたまま起き上がり立ち上がったルイズは小馬鹿にした態度を取るネヴァンを睨み付けると、すぐにシルフィードに乗ったまま待っている二人の元へと戻っていく。
それにしても重い箱だ。スパーダはこれを片手で軽々と担いだりしているというのに。
「それ、破壊の箱でしょ? ルイズ。あなた、それの使い方知ってるの?」
「何もないよりマシでしょ!」
一応、どうやって使うのかはスパーダが簡単に教えてくれたのだが、ルイズ自身はこれを扱いこなせるとは思っていなかった。
でも箱のままでも使えるということなので、自分達の戦力として使うことにしたのである。せっかくスパーダが残していってくれたのだから。
「さ、タバサ! 準備OKよ! 行きましょう!」
改めてシルフィードに乗り込んだルイズがパンドラを抱えたまま叫ぶと、頷いたタバサがシルフィードを再び空へと飛び上がらせた。
アルビオン軍は戦艦が地上のトリステインの王軍に対して容赦なく砲撃をかけている。制空権を奪われている以上、何とかしなければアンリエッタ王女が危ない。
(すぐに加勢致します……! 姫様!)
戦場へ向けて飛んでいくシルフィードの上でルイズはアンリエッタ王女に宣誓する。
国のため、民を守るために戦う無二の友、アンリエッタを助けること。それがスパーダが戻るまで自分達にできることなのだ。
徐々に戦場へ近づいていこうとしていく中、タバサはちらりと空を見上げた。
今は大地に大いなる光をもたらし続けている太陽。
その太陽に徐々に近づく大きな影がある。
(およそ一時間……)
既に完全に一つに重なり合った月が間もなく太陽に重なり始めることだろう。
そして一時間後には、あの月が完全に太陽を覆い隠す形となり、短時間だが地上に闇をもたらす皆既日食となる。タバサも生まれて初めて目にすることになる光景だ。
その時に、必ず何か恐ろしいことが起こる。
スパーダの言が正しければ、その日食により魔界とハルケギニアの境界が極限にまで薄れる。
そしてその闇がもたらされる間に、悪魔の勢力がこのハルケギニアに侵攻を仕掛けてくる。その予兆が、先日のアルビオン軍と共に現れた下級悪魔達。
一体どんな悪魔が姿を現すのか、タバサにはまるで予想できない。
一つだけ分かるのは、決して有象無象の悪魔達だけが攻めてくるのではないということ。
ハルケギニアの歴史には一切存在しなかった、熾烈な戦いが繰り広げられるということのみだ。
※今回はこれでおしまいです。
ずいぶん長レスとなってしまった……反省します。
次回より本格的にタルブ戦が始まります。ルイズの虚無も覚醒予定です。
乙です
>>140 やりとりがDB絵で脳内再生された件www
てs
のわー、まさかの規制解除!? 失礼しました
失礼ついでにネタ的な短編を。ネタ以下の気もしなくはないw
「終わりのクロニクル」から、佐山・御言で
避難所で投稿したやつにちょこっと加筆したやつです
ふむ、つまり君は私と何らかの契約を交わしたいと、そう言うのかね?」
コントラクト・サーヴァントで呼び出された平民は、契約を交わす直前にそう聞いた。
「し、仕方ないでしょ!? わたしだって嫌なのよ! 何でわたしが平民なんかを使い魔にしないといけないのよ!」
「……言っておくが、私は君のストレス発散のはけ口になるつもりはないよ?」
「しないわよ! た、多分……」
「それに君、今私を平民、と言ったね? なるほど、確かに君は貴族で、そして君から見れば、私に平民ということになる」
「それが何よ!?」
「逆に考えてみないかね? 君は今、平民を――つまりは人間を使い魔召喚の儀式で召喚した唯一の人間だ」
「…………」
「それが仕方ない? 逆だよ。言い換えれば私は人間ゆえに、誰よりも君に近しい思考を持っている。獣ではこうはいかないよ。そして私と君はこうして意思の疎通ができている。それはとても素晴らしいことだよ? それはつまり、互いに理解し合えるということだ」
ルイズは彼の言葉に口を挟めないでいた。
彼は腕を振るうと、なおも言葉を続ける。
「そして私は人間ゆえに、あらゆることを学び、そして知ることができるだろう。
君が悩むなら、的確な助言を与えよう。君が畑を耕せと言うならば、私は鍬を持って土を耕そう。
そして君が命令するなら、私は剣を持って君の敵を討とう。
さて、これが私が考えうる限りの人間の可能性なのだが、君はどう思うかね?」
「……それが、サヤマとわたしの契約のときの話なのよね」
「何かね? 私の主(仮)のルイズ君? 勉強中に独り言とは、集中が途切れている証だよ?」
「(仮)って何よ!? あと、その絵を今すぐ剥がしなさい! 何なのよ、そのなんかお尻が強調されてるそのいやらしい女の人の絵は!?」
「なんということを言うのかね!? 私の新庄君をいやらしい女よばわりとは!?
それにこれは最近ガードが固くなって、その国宝級、否、世界遺産であるまロい尻を撮影することが困難になった新庄君が、ようやくスキを見せて撮ることができたレア度星三つの一枚なのだよ!?
私のサダギリン補給に欠かせない珠玉の逸品なのだ! それを剥がせとは、なんと無慈悲な主人なのだ!?」
「知らないわよそんなことはぁぁぁぁぁぁっ!?」
最近メイドからなんとも言えない温かい視線を向けられつつあるルイズ。
使い魔、佐山・御言が召喚されてから、こんな会話は日常茶飯事と化しつつあった。
そしてさらに悲しくなる話だが、こんな会話が学園の名物となりつつあるのがなお嫌だ。
しかし、ルイズは同時に、佐山のことを評価していないわけではなかった。
思い出すはギーシュとの決闘の際。
臆せずに決闘の場にやってきた彼は、その決闘で、ルイズから見ても凄まじいものを、いきなり披露してくれた。
「さて、ギーシュ君と言ったね? 君は貴族故に、決闘で魔法を使うと言った。ならば、私も私のルールを使わせて欲しいのだが、構わないかね?」
「……? いいだろう。どんなものかは知らんが、好きにしたまえ」
「そうか、言質はとったよ? そしてこの場にいる全員も聞いたね!?」
佐山の声に観戦者が何も答えない。沈黙を持って肯定とみなしたのか、佐山は腕輪のようなものをいじりだす。
「さて、特別サービスだ。ここにいる観衆全員にも聞こえるよう、最大ボリュームで聞かせてあげよう」
・――――名は力を与える。
どこからか聞こえたその声に、不思議がるのも束の間、そこからは佐山の独壇場だった。
佐山はおもむろに観衆の中にいたルイズの手を取り、
「ルイズ君、君の二つ名は何か、もう一度教えてもらいたいのだがね?」
「な、何? そんなことを聞いてどうするのサヤマ!?」
「二度は言わないよ。君の二つ名は何かね?」
「〜〜〜〜っ、ぜ、“ゼロ”よ! “ゼロ”のルイズ! 魔法の使えない“ゼロ”! これでいいの!?」
「そうだね、しかしルイズ君、“ゼロ”という言葉には数字のゼロ、即ち何もない状態も表すが、相違ないかね?」
「はあ? そ、そうよ! それが一体何!?」
「では、これより共同作業といこう。君の二つ名はこれより別の意味を与えてくれることになるだろう」
佐山はルイズの手のひらをワルキューレに掲げさせ、一息で言った。
「ルイズ・ゼロ・ブラスター!」
ルイズの手より真っ黒な何かが迸り、ワルキューレを飲み込んだ。
呆然とする観衆と、力が抜けきった体を支えてくれる佐山の手を、今でもルイズは忘れていない。
あとでからくりを聞けば、あの時には、意味ある名前に力を与えるという“概念”とやらが働いていたという。
その時に言われたときは、バカバカしいと言えばバカバカしいし、信じがたいと思った。
佐山を先住魔法の使い手と疑ったくらいだ。
しかし、その夜に、佐山は更にたたみかけてきた。
次に佐山が見せたのは文字に力を与える“概念”。
佐山は、万年筆とやらで、紙に知らない字で書き込んだ瞬間、紙がひとりでに羽ばたいて窓から空へ飛んでいった。
試しに、ルイズは佐山の万年筆を用いて、紙にルイズたちの文字で“水”と書き込んだ瞬間に、紙は水のように液状化してしまった。
問い詰めても、佐山はただ「そういうものなのだ」としか言ってくれないのが、今でも腹が立つ。
しかし、そんなこともありながら、佐山は確かにルイズの助けとなってくれた。
学園をひと騒動に巻き込んだ怪盗、土くれのフーケの捕獲にもお得意の“概念”を用いて一役買ってくれた。
幼馴染、王女アンリエッタの極秘の任務においても、彼は巧みな交渉術で、彼女の本当の望みまで引き出してきた。
今でも鮮烈にその光景は覚えている。
「さて、アンリエッタ王女。今、君はウェールズ王子の持つ手紙の返還を要求してきたね。……それだけでいいのかね?」
「は、はい? あの、それはどういう……?」
「私はこの任務を引き受けるのに吝かではないが、死地に赴くのだ。相応の報酬を求めたい。そうだね、具体的には、約300人程が安住できる芳醇な領土を要求したいのだがね」
「さ、300!? な、何言ってるのサヤマ! そんなのをもらってどうしようって……まさか!?」
「その代わりに、こちらはアルビオンで死に急ごうとする300人の兵士と、オマケで王子をひとり、こちらに引きずり出してこよう。
何、言う事を聞かないのならば、殴り飛ばしてでも交渉の場につかせるだけだとも。私は常に悪役だからね。相手がわめこうが魔法で脅そうが屈するつもりなどないとも。
互いの事情? 私の範疇外の話だとも。ゆえに私は君が真に望むことを真摯に叶えたいと思うのだが、どうするね? 王女よ」
佐山の言葉に、大粒の涙を流しながら、ただ一言、アンリエッタは「ウェールズ様を……お助けください」とか細くつぶやいた光景が忘れられない。
そして今、このアルビオン城で、王子ウェールズに代わり、300人の兵士を相手取って演説を行おうとしていた。
どよめきを隠そうとしない兵士たちに、佐山は腕を振り上げて、注目を集める。
「諸君!!」
よく通る声が城内に響く。
「今こそ言おう! 佐山の姓は悪役を任ずると!」
ざわめきが、より大きくなる。
「私はここに、アルビオン城王子、ウェールズに代わり、諸君ら新たな命令を与えよう!!」
ざわざわざわ。
「総員……ケツまくって逃げろ!!」
とんでもないことを言う佐山に、城内のどよめきは最高潮に達する。
さすがのルイズも動揺が隠せない。
「鎮まれ! 鎮まるのだ! 彼の言葉は、今は僕の言であると思え!!」
だが、ウェールズの声がそれを鎮圧化する。
それに感謝を述べるように、小さく佐山は頷く。
「諸君らはこの地を守った英傑として、名誉の死を遂げることこそが本懐と思っていることだろう!!
だが、私はあえて言わせてもらう! そんなものはただの自己完結であると!!
確かに、この地を守ろうとする諸君らの精神は尊いものだ!!
だが、考えてみたまえ! 諸君らがこれより戦おうとするレコン・キスタは、諸君らの名誉の死を慮ってくれると思うか!?
答えは否だ!! 彼らはこの地を掌握した暁には、君たちの英断と死後の名誉を、必ずや踏みにじるだろう!!
そして、諸君らは名も忘れられた、ただの一兵士でその人生を終結させられるのだ! それでいいのか!? 答えたまえ!!」
誰も答えない。
佐山はなお畳み掛ける。
「悪役たる私は諸君らから、名誉の死を奪い取る!
そして、泥を食み、卑屈に生きてなお、祖国を取り返さんとする泥臭い未来を与えよう!
いいかね! 諸君らは生きろ! 生きて機会を待つのだ! 生きてさえいれば、いずれ勝機があるのだ!
死ねば諸君らの中で勝手に美談として完結するが、そんなものはつまらん逃げの姿勢だ!!
悔し涙を流しつつ、泥をすすってでも生きて、祖国を奪い返さんという考えこそ、私はより尊いものだと考える!!
ゆえに今は逃げろ! なおもこの地に留まりたいと言うならば、蹴り飛ばしてでもここから追い出してやろう!
死にたいというなら殴り飛ばして、積荷の状態でフネに乗せる! だから言おう!! 諸君らの正しい未来へ進撃せよ(ゴーアヘッド)!! 返事はどうした!?」
アルビオンの兵士が互いに顔を見合わせ合う。
そして、高らかに武器を掲げて、叫んだ。
「「「契約す(テスタメント)!! 我らの新たな未来に!!」」」
「さて、満場一致で私の案が可決されたが、君はどうするね、レコンキスタよ。早めに報告に行けば、私の計略も全ておじゃんになるになるかもしれないよ」
「そうするべきかもしれんが、その前に処理しておきたい案件がある。悪役を名乗るガンダールヴ、その芽は早めに摘ませてもらおう。悪役に対して、正義の味方も必要だとも思うが、どう思う?」
「三流役者には務まらんよ。なので早々に壇上から降りてもらおう」
・――攻撃力は最大となる。
「さて、君にこの概念が理解できるかね?」
不敵に佐山は笑い、ファイティングポーズを取った。
こんなしょっぱいネタでホントに申し訳ない……
半年、いや三年はROMることにします……
>>152 日食の設定は本来アニメオリジナルのものだけど、上手く使えば物語の展開を派手にしたりできるかな
しかし、何だか「悟空、早く来てくれー!」みたいなになってる気が……
>>105 器物召喚系でポタラをよんじゃったらどうだろう
サイルイーズ、キュルロット、マチベール……
おいおい
これはフタナリ娘が新たに生まれるじゃあないか。貴様さては天才だな
>167
ハッタリ仕事しろ。
と言うわけでベルグフントに噛まれてみるか。
こんばんは、23:30から22話投下します。
――オルテ帝国。新帝都『ヴェルリナ』。
「戦局は悪化の一途・・・・・・特に東方戦域は膠着状態も崩れつつあります」
"貴族院"総力戦会議。一人の男が現状を語る。
「なにしろ兵士が足りません。かれこれもう40年近く戦い続けているのですから。占領地の維持兵まで使わざるを得ない始末。
各種物資もまるで足りていない。本土・属領における税収及び収奪ももはや限界です。こうなっては和平をも視野に入れるべきでは?」
「何を言うか!!」
別なる男が一喝する。それはその場にいる者殆どの代弁である。
「国父様のお考えになった万年帝国。それはこの国の"国是"だ、そう簡単にやめられるものか」
今から半世紀ほど前、オルテ国父が突如ガリア領内にて出現。
人々を先導して反乱を起こし、首都まで行進。6000年続いたガリア王家を滅ぼしてオルテ帝国を建国した。
旧体制を一新し、メイジのみならず平民でも貴族となれるのは、今は滅びたゲルマニアに似ている。
根本から変わっていても、旧ガリアの民で大半は構成されていた。
新たに貴族となった元平民だけでなくメイジも少なくはない。
国父亡き後。"人間の視点のみ"で見れば、これも一つの平等に近い共和制国家とも言えた。
「やーもやーも、おくれちゃったわー。ごめんあさーせー」
突然傍若無人に乱入してきたのは、女――否、男であった。
華美な衣装に豪華な装飾品、髪をカールさせて睫毛がピンと伸び、アイシャドウに頬紅と口紅を色濃く。
とにかくゴテゴテと、これでもかと言うほど化粧を施した印象の――端的に言えばオカマ。
「おまたせしましただわさ。おひさー」
「サ・・・・・・サン・ジェルミ伯」
一人の男が驚きと戸惑いと鬱屈と面倒と、様々な思いが名を呼ぶと同時に漏れ出でる。
「いやもう遅くなって遅くなって。出掛けにイロイロとあったもんだわさ」
同じく似たような出で立ちのオカマ従者を二人連れたその貴族。
非常識を詰め込んだような彼女――彼に、文句を言える人間は貴族院の中に誰もいなかった。
オルテ帝国の実に1/4にも及ぶ領土を所有する巨大貴族。
国父がオルテ国を建てるに際して、一番最初に寝返ったとされる人物。
彼が寝返らなければオルテは建国出来なかったとさえ言われるほどで、日々好き勝手に生きている御仁。
旧ガリアの頃から力を持っていた土メイジという話があり、年齢は不詳。
密かに名を継承しているだとか、謎多き漂流者だとか。
長命のエルフや、はては吸血鬼とも密かに疑われ、さらに不老不死なのではとの噂すらある大貴族。
「おくれたおみやげにいい話があるのよ。おどろくだわさにゃ」
サン・ジェルミは巨大なハルケギニア戦略地図の前に立つと、他の者達は静聴する。
従者から口紅を受け取ると、ゴリゴリとオルテからアルビオン大陸へ矢印を書く。
「あたしさぁ、この輸送口すっぱくして言ったわよね。無理臭くね? って。捕捉されて沈んだってばさ」
さらに書いた矢印の途中に大きくバツ印をつけて訴える。周囲から驚愕の声がいくつも漏れ出た。
「風石惜しんで、丸ごと奪われてちゃ本末転倒よね」
「た・・・・・・確かなのですか?」
「当然よ、マジも大本気。産地直送ホヤホヤ情報だわさ」
旧ガリアからそっくりそのままオルテが吸収した"両用艦隊"への補給。
アルビオン大陸侵攻の為の、空と海の両方に対応可能な主力艦船の一角。
元々トリステインの十倍近い土地を誇り、さらに旧ゲルマニアへとその領土を拡げ、圧倒的だった国力。
されど長きに渡って各国へ戦力を分散させて攻め込み続けていては、目減りしていくのは当然であった。
「アルビオンが引き付けて、トリステインが横合いから美事なまでに殴りつけてきた。
ついこの前のアルビオンとトリステインの同盟の効果が目に見えて発揮されたってわけね。
もっともあたしもまさかここまで、早く、スムーズに、やられるとは思わなかったけど」
サン・ジェルミはアルビオンへの侵攻そのものに反対し続けてきた。
しかし頭の堅い貴族院は国是を盾に押し通してきた。
結果、今回重大な資源を損失する事態を招いた。
とはいえ貴族達にも言い分はある。
元を正せばサン・ジェルミがトリステインへの侵攻を妨害していた所為であると。
トリステイン国の軍事力に余剰があればこその失敗になるのではないかと。
だがそれを今まさに本人を目の前にして言える度胸のある者はいない。
誰もが思っていても、自ずから進んで貧乏くじを引きたがる人間はいなかった。
それほどまでにサン・ジェルミの持つ影響力は大きい。
「同盟が必ず成功すると踏んでの行動だったのかもね。
結婚した王子と女王、実は昔から相思相愛だったとか」
「そ・・・・・・そのような情報まで?」
「うんにゃ、女の勘だわさ」
誰もが「おまえは女じゃねーだろ!!」とツッコミたかったが、そんなことを言えばどうなるか。
考えるだけでおぞましく、身震いをせずにはいられない。
(まっ、実際は同盟が締結されなくても問題はなかったとも言えるけどね――)
領土侵犯などではなく、海洋上の襲撃である以上は理由も言い訳もいくらでも出来る。
アルビオン側からすれば、戦力を正面から使って消耗することも免れる。
トリステイン側も収奪物資の一部と共に、新たに同盟の交渉材料にしたことだろう。
「四方八方に戦争吹っかけて周ったツケね。オホホ、愚かなこと」
もしもオルテがトリステインと戦争状態になければ、外交的交渉の余地はあっただろう。
しかしオルテという国は旧ガリアからの国力・軍事力を過信し、あらゆる国と敵対してきた。
全盛期ならばそれでも多少なりと保てていたことだろう。
今は実際的な負担を考えれば、対エルフ東方戦線だけでも手一杯なのが現状である。
「そしていよいよ占領地では反乱――」
「そんなものはどうにでもなるでしょう。たかだか奴隷どもの一揆。それよりも東方の戦況が・・・・・・」
遮ったその言葉を皮切りに各々は話し出す。これ以上サン・ジェルミ伯に、自由に発言させまいと。
現実から目を背けるのではなく、極々単純に現実が見えていない。
(ああやっぱり、だめだこいつら)
そんな状況をサン・ジェルミは冷ややかに眺めた。
オルテは周辺を片っ端に攻めて拡張した。しかし同時に旧ガリアの領土もトリステインやロマリアに削られてもいる。
奪っては奪われてを繰り返し、占領した旧ゲルマニアまで拡がる各戦線は収拾がつかない事態となっている。
ただでさえオルテ南部を東西に伸びる火竜山脈を挟んだロマリアへの侵攻。
ハルケギニアで最も信仰されているブリミル教の総本山がある国を相手にしていて、根源的に全軍の士気が高くない。
侵攻するだけでも大変な労力となる浮遊大陸アルビオンへの侵攻も、結局は思い出したかのように突っつく程度で留まる。
空中艦隊戦に於ける、練兵程度には役に立つものの、所詮それだけだ。
北東の旧ゲルマニアのオルテ支配領では、黒王軍によって壊滅させられている場所も多い。
何よりも最大戦力を投入している東方戦線では、エルフの先住魔法と技術を相手に、常に予断を許さぬ状況。
あくまでエルフ達が防衛に留まってくれているから維持出来ているだけに過ぎない。
もし反転攻勢に出られれば、あっという間に瓦解するだろう。
その上駄目押しの反乱が起きている。それは伝播し――波及して、全占領地で不満が爆発しかねない。
しかもその発端となった漂流者達は、オルテの限界を、資料と檄文を通して言葉巧みに動かしつつある。
それはいずれ本国にも及び、そうなれば各所への兵站まで崩壊しかねない。
そして国家の中枢たる貴族院の連中を見れば、行き着く先は火を見るより明らかであった。
(この国、いよいよもって詰みね)
圧倒的なまでの自明の理。わざわざトリステイン王国への侵攻を、こっちでなるべく押し止めていたというのに。
結局は追い詰めに詰められた状況になってしまった。
豊富な国力にあぐらをかいて、皮算用で戦争を進めてきた結果。
もはや度し難い、腐敗したオルテの中心部。期待することが心底馬鹿らしい。
「アハッウフフオホホ、アタシ急用思い出しちゃったわん。それじゃ帰るわね、みなさん戦争がんばってね。それじゃごめんあそばせ」
さっさと帰ろうとするサン・ジェルミを引き止める者は誰一人としていない。
会議に夢中になっていたし、自由人の権力者がいても目障りにしか思っていなかった。
歪みは・・・・・・ゆっくりと、しかし確実に、オルテを蝕み続ける。
その先に待つものを知るは――極々一握りの人間のみであった。
†
小さな道の上をこれまた小さな箱が乗って動いていた。
道はテーブルの上に作られたもので、箱はその道の上をグルグルと通り、回り続ける。
「名付けて"走るヘビくん"だ」
「ネーミングはいまいちです」
「・・・・・・手厳しいな」
『炎蛇』という本人が忌み嫌う二つ名を持ちながら、蛇にちなんだ名前をつけるよくわからない価値基準。
シャルロットは腑に落ちないながらも、どうでもいいと言えばどうでもいい。
ただ命名はともかく、蒸気を利用した玩具は非常によく出来ていた。
これをスケールアップさせ、様々な難課題をクリアした暁には、きっと"鉄道"が完成するのだろう。
「あっ本当にいた」
何一つの遠慮なく、室内に来訪したのはキュルケであった。
ルイズのは無意識の無遠慮さだが、キュルケのそれはわかっている上での遠慮の無さである。
「おおミス・キュルケ、どうしたのかね?」
「あらミスタ・コルベール、それはこちらのセリフですわ。シャルロットにちょっかいをかけないでくださるかしら?
そもそも教師が生徒に手を出すことを恥ずかしいと思わないなんて、独身男は惨めですわね」
「ちっ・・・・・・ちょっと待ってくれ! わたしは別に――」
「――狼狽えると変に怪しいですよ。・・・・・・キュルケ、別になんでもないから」
シャルロットはキュルケを宥める。誤解されるなんて正直こっちも迷惑極まりない。
一教師として、一研究者として尊敬はするがそれだけだ。
「そっ、ならいいけど」
キュルケとて、本当にシャルロットが篭絡されてるなんてことがあるなどと考えていたわけではない。
ただ男はケダモノの一面があることをよく知っているがゆえの心配である。
「でもあなた、最近通ってるって聞いたわよ」
それは事実であった。『白炎』を殺し、それを『炎蛇』に告げ、火のルビーを受け取って以来。
時折こうして足を運んでいた。傍から見ればおかしく見えるのも無理からぬことであった。
「理由の一つ目」
シャルロットは読んでいた本をキュルケへ手渡す。疑問符を浮かべる親友に説明を付け足した。
「ここにはちょっと他で見られないような本がある」
コルベールが20年の歳月を掛けて集め続けた実用書の数々。それも主に"科学"に類するものに富んでいる。
アンリエッタやウェールズに頼んで、特別に入れてもらったそれぞれの王立図書館。
蔵書数はトリステインもアルビオンもそれぞれ凄まじいが、なにぶん有象無象で探すのも骨だ。
その点この研究室にあるものは、既にコルベールが厳選して、実際的に役立つ物が多く、内容に申し分がない。
「理由その二、私の専攻」
「『土』系統だったわね」
シャルロットは首肯する。使い魔召喚の義の後に呼び出した使い魔の性質から、属性を固定して専門課程へと進む。
火トカゲのフレイムを召喚したキュルケは当然『火』であり、元から『火』が得意だから言うまでもない。
『風』系統に選ばれ、風韻竜イルククゥを召喚したジョゼットは『風』である。
得意な系統もなく、キッドという漂流者を召喚したシャルロットは、結局自分でただ選んだだけとなった。
ルイズは"姉を見習う"とかで『水』を選んでいたが、虚無に目覚めた以上は無駄な専門履修となっている。
「そういえばなんで『土』なのよ?」
「興味があったから。特に『錬金』とか」
「ふ〜ん」
何の面白味もない理由に、キュルケは聞いておいて興味なさそうな相槌。
本当のところは、強いて言えば地下水が最も不得意とする系統だったというのが一番の理由であった。
「で、それがなんで"理由その二"なわけ?
「ミスタ・コルベールが卓抜してるから」
「『火』なのに?」
キュルケはコルベールの方へと向いて会話を振る。
「あぁ、分析などは好きだし、我ながら得意と言えるだろう」
20年前を境の研究者気質。彼が『土』系統に選ばれていたのなら、それこそ史に名を残していた可能性もある。
否――むしろ『土』に選ばれなかったからこそ、ただ純粋な研究者としての今があるのだろうか。
それにしたって身近にこれほどの逸材がいたとはシャルロットも思ってもみなかった。
王立魔法研究所実験小隊長だった頃も含めて、人は見掛けによらず。人に歴史あり・・・・・・だと。
「その三」
そう言ってシャルロットは『走るヘビくん』を指差した。
「なぁにこれ?」
「よくぞ聞いてくれたミス・キュルケ! これは――」
「――私が説明します」
確実に長くなるであろうコルベールに代わって、シャルロットが端的に説明する――
「――ふーん、こんなもんがねぇ・・・・・・」
話半分に聞いて、さらに半分程度の理解にキュルケは走ってる物を見つめる。
キュルケにとっては単に物珍しい程度のもので、キュルケに限らず普通のメイジに真価はわからない。
平民であってもその道に通じた職人でないと理解し難いものだろう。
しかも『火』を使ってこんなチャチなことをやることに、キュルケは冷めた心地すらあった。
「私は"科学"に興味があるからここにいる」
「"カガク"ねぇ・・・・・・」
「どうかね、ミス・キュルケ。『火』とは破壊だけではないのだよ」
「わたくしには到底理解の埒外ですわね。むしろそんな日和った考えは唾棄すべきものと思いますわ」
キュルケは軍人の家系、今は没落したツェルプストーの血を引いている。
『火』とは戦場において最も貴く誉れ高き系統であると思っていたし、そう教えられてきた。
彼女自身も己の『火』をもって功を挙げ、ツェルプストー家の再興をする気でいる。
それゆえにコルベールの主義・主張とは相容れない。
「・・・・・・キュルケ。私はミスタ・コルベールに"も"同感」
「なっ・・・・・・」
やや裏切られたような気持ちにキュルケは詰まる。シャルロットはさっさと二の句を紡いだ。
「彼は彼なりの"果て"を見ている。その上で選択した意志を私は尊敬する」
「果て?」
シャルロットはコルベールへと視線を移すと、炎蛇はゆっくりと頷く。
コルベールは自身の過去と向き合わねばならぬと考えていたし、それが教育に繋がるなら尚のこと。
そして大まかにシャルロットの口からキュルケへと語られる――
「――・・・・・・そうだ、わたしはかつて『火』によってその手を血に染めてきた」
「あなたがねぇ・・・・・・」
嘘っぽいが、嘘を言っているようには見えなかった。
キュルケとて人を見る眼はあるつもりである。授業でのひょうきんな態度や普段の人格はどうあれ・・・・・・。
目の前の教師が、確かにその道を通ってきたということは認識出来た。
「わたしは思い知ったのだよ。だけどそれを君に強要はしない。ただ心の隅にでも留めておいて欲しい」
(まっ・・・・・・私としては――)
両方選べばいい、とシャルロットは考える。どちらも活かす道だ。
戦は早々根絶するものではない。少なくとも今は力が求められる時代。
破壊と同時に創造をも司る"火"。発展のために必要な分だけ注げば良いのだ。
戦はそれ自体が経済にも深く関わり、発展や進化を促す。
近年ではマスケット銃などがそれであり、"異世界の技術"にしてもそうだ。
他国や種族に負けんとする競争意識、危機的状況が閃きを生むのを否定は出来ない。
「・・・・・・まぁ、少し見ていけば?」
キュルケの複雑な表情にシャルロットは提案し、ささやかな一押しをしてみた。
コルベールとしても教師が生徒に道を指し示す折角の機会である。
「そうだ、是非とも見学していってくれ」
「・・・・・・じゃ、少しだけ」
逡巡した後にキュルケは決める。シャルロットがいる間くらいは監視も兼ねて良いだろうと。
「何か質問があったら遠慮無く何でも聞いてくれたまえ」
そう言うとコルベールは別の蒸気カラクリを手にとって作業へ入る。
(・・・・・・ふゥ〜ん)
ひとたび集中して取り組んでいる姿は、あながち研究者という側面も頷ける。
そしてなんともはや、なかなかどうして、一つのことに信念をもって打ち込んでいる男とは――
(なかなかサマになるものね・・・・・・)
などと考えながらキュルケは教師を眺めていた。
†
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは片肘をついて、始祖の祈祷書をめくっていた。
水のルビーを指に嵌め、女王陛下から譲り受けた大切な秘宝を。
詔も無事に終えて、結婚式はつつがなく執り行われた。
姫さまの心底嬉しそうな眩しい笑顔。愛するウェールズに寄り添っていた情景は、目を瞑れば容易に浮かぶ。
自分のことのように嬉しかった。国の為に働けたという実感も含めてだ。
「はぁ・・・・・・」
ルイズは憂いを帯びたように息を吐く。本当に美しかったアンリエッタ姫さま、もとい女王さま。
いずれは自分も・・・・・・などと考える。
今までまともに考えたことのなかった将来のこと。
トリステイン王家の為に、この新たに目覚めた力を使いたいと考えていた。
しかしアンリエッタさまは大きな戦争は今のところないこともあり、虚無を率先して使う気がないようだった。
シャルロットやジョゼットは、世話になっているトリステインの為にその実力を振るおうとしている。
キュルケはツェルプストー家の再興するという大望がある。
(わたしには・・・・・・)
――何もなかった。以前は魔法が使えなかったからガムシャラだった。
そしていざ使えるようになったのが虚無の系統。おいそれと公にも出来ない。
上の姉のように・・・・・・、"下の姉のように"・・・・・・、明確にやりたいことが無いのだ。
何故だか一人取り残されたような気持ち。
始祖の祈祷書はあれから、うんともすんとも言わない。
書にある始祖ブリミル直々の言葉――"聖地の奪還"? なんてことにも実感が湧かない。
ラ・ヴァリエール家の末娘として悠々自適に、何不自由なく過ごす?
(そんなの・・・・・・)
昔ならいざしらず今は――・・・・・・
目覚めた"力"・・・・・・別に何かを傷つけたいわけではない。
されど割り切れない。とめどなく溢れる感情に・・・・・・ルイズは苦悩していた。
以上で終了です。次からは新章となります。
それではまた。
7もリメイクされたことだし、ドラクエ関連からなにかおもしろいのないかな
モンスターズからわたぼうやワルぼうとか。異世界を冒険して使い魔をよりどりみどりとかルイズ歓喜しそう
178 :
マスクドライダー:2013/02/23(土) 19:37:28.03 ID:xdWEMYtr
ゴーゴーファイブのグランドライナーとか。
3の勇者だと何故かトリスタニアにルイーダの酒場があるわけだな
スカロンの酒場で仲間集め
アームターミナル持たせて魔界送りで
>>176 発明が戦争に使われたらコッパゲはどうするのかね
>>181 そりゃあ魔力持ちが絶望したらファントムを生み出しちゃうじゃんか
>>180 ドラクエ3的なイメージだとルイーダの酒場ってより、アッサラームあたりありそうな感じだが。
パフパフにつられていったらスカロンだったみたいな
184 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 21:55:02.64 ID:UiAt/Apv
皆さんお久しぶりです。今回は前回の宣言通り、外伝を投下しようと思います。
もしよろしければ、十時丁度に投降を開始しようかと思います。
185 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:00:33.46 ID:UiAt/Apv
それでは始めます。
春風が吹く季節も佳境に入り、段々と新緑の夏の匂いが色めき始めるこの頃。
ここトリステイン魔法学院も、遂に一週間後には待ちに待った『夏休み』が来ようとしていた。
殆どの学生たちは、皆久しぶりの実家帰りや企画を持ち込んでの大冒険を模索し賑わせる中、一人の少女は変わらない無表情で廊下を歩いていた。
少女の名はタバサ。その昔、大国ガリアの正統なる王女の血筋を引く者だったのだが、『不慮の事故』で父を亡くし、その上謀殺されたように母親も心を奪われ、自身は過酷な環境に身をおかされて日々生き死にをかける人生を送っていた。
幼い頃は明るかったその顔も、今はすっかり人形のようなものへと変貌してしまい、常に突き放すかな様な雰囲気をその身に纏わせていた。
これは、そんな彼女に起こった、ある一つの物語である。
第一幕 『タバサとミノタウロス』
タバサは廊下を抜け、外庭へと出ると、いつもの場所へと向かっていった。
そこはヴァストリ広場。かつてギーシュとルイズの使い魔である彼…緋村剣心が決闘をした場所でもあった。
思えば、これが全ての始まりだった。彼の実力を目の当たりにしたのは…。
タバサは目を閉じ、静かに一人瞑想する。ギーシュの作り出した銅像を、余すことなく回避していた彼を、頭に浮かべて思い出していた。
次に出てくるのは、フーケの時の戦い。彼女とは二度に渡って戦ったことがあったが、その両方において、彼はフーケを圧倒していた。その時の動き、飛天御剣流の動きを正確に思い起こす。
そして、最後のアルビオンでの戦い…スクウェアクラスのワルドが呼び出す『偏在』を、彼は全然ものともしなかった。
そして、ワルドに止めを刺した、あの技…抜刀術の構え。それを鮮明に思い描きながら、タバサは杖を構え…。
「こんな薄暗いところで一人で、一体何やってんのね」
その言葉に、タバサは瞑想を中断する。ふと顔をあげればそこには、彼女の唯一の使い魔、風竜のシルフィードが呆れた様子でタバサを見つめていた。
「お姉さま最近ヘンなのね。前は本ばっかり読んでいたのに、近頃は外に出てそんな寂しいところで一人馬鹿なことして…正直言って見てらんないのね!」
子供のように怒りながら、シルフィードはきゅいきゅい喚いた。当たり前のように人語を話していることから分かるとおり、この使い魔も只の風竜ではなかった。
タバサの使い魔、シルフィードは竜達の中でも高度な能力を持った珍しい『韻竜』の幼生である。
高い知能を持ち、人語を解し先住魔法をも操れる韻竜は、この世界では滅多に見ない幻の存在でもあった。
故に、その正体を知るのは今のところはタバサ一人。もしこの事が明るみに出たら、色んな機関の連中に狙われるかもしれない。だからこそタバサはシルフィードとの会話も徹底していた。
今は誰も周りにいる気配がないので、特に問題はなさそうなのではあるが。
「ねえ聞いてるの? おいこらちびすけ、お前のことなのね。そんな独り遊びをこれ以上続ける気なら、もう思い切って使い魔をやめることも辞さないのね」
そう言ってシルフィードはタバサの頭をカプカプ噛んだ。噛むといっても甘噛み程度なのだが、端から見れば本当に食われているようにも見えた。
「今日はちょっと違う」
シルフィードの甘噛みから逃れたタバサが、そう言いながら懐から何かを取り出す。
それを見たシルフィードは、疑問符を浮かべてタバサに尋ねた。
「それって、『スキルニル』?」
タバサが手に持っているのは、小さな人形を象ったマジックアイテム『スキルニル』だった。
この人形に血を吸わせると、吸わせた人間と瓜二つの姿に変化することができる。その者の能力や特技も正確に、である。
「この前の任務の時に、そのまま持ってきた」
「ああ、あれね。あの時も大変だったのね」
シルフィードはそう言いながら、遠い目で空を見た。
とある引きこもりの坊やを引きずり出して欲しい。そう依頼された時のことを思い出したのだ。
結果的に、この『スキルニル』を使って見事任務達成と相成ったのではあるが、どうやらタバサはそのまま拝借して使っているようだった。
186 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:03:03.24 ID:UiAt/Apv
「アネットさんとわがまま坊や、今頃元気してるのかなぁ…ってお姉さま!! 何してるのね!!?」
ふとタバサの方を見たシルフィードが、慌てて叫んだ。
何とタバサは、小さなナイフで自分の指を傷つけ、溢れた血をスキルニルに一滴垂らしたのだ。
「お馬鹿!! それ使ったらどうなるか、お姉さまだって知ってるはずじゃ…―――」
そう言うシルフィードを他所に、スキルニルは徐々に形を変えていく。
やがて変化が止まると、タバサの前にはもう一人の『人形のタバサ』が向き合うように並んだ。
スキルニルのタバサは、ゆっくりと杖を構える。シルフィードも見慣れた、魔法詠唱に特化したいつものタバサの構えだった。
対する本物のタバサも、杖をスキルニルに向ける。だがこうして見ると本物の方は随分と型が違っていた。
まるで居合を放つかのように、腰をため、一気に襲いかかるような姿勢で構えているのだった。
「お姉さま、一体何を…?」
訳が分からない、そういう目でシルフィードは訴えるが、タバサの視線は既に、目の前の人形以外見えていないようだった。
一瞬の拮抗、動いたのは同時だった。
何度も瞑想して、思い起こした抜刀術を、タバサは人形目掛けて放つ。対する人形のタバサは、それを後ろに飛ぶことで回避し、素早く呪文を唱える。
『ウインディ・アイシクル』。あまねく氷の矢が、タバサに向かって殺到していく。タバサは、素早く杖を返すように振りながら呪文を唱える。
『エア・ハンマー』の呪文が、視界に映る氷の軍勢を全て叩き落とした。
その強力な風は、思わずシルフィードも目をつむってしまう程強かった。
(お姉さま、本当に何がしたいのね…?)
シルフィードも召喚されてから日が短いとはいえ、それでもタバサがどういった人間なのかは大体分かっていた。
無口で無愛想で根暗で本の虫で時々食事を忘れたりもする薄情者だけど、本当の心は優しくって強くって、それでいて格好いい。シルフィードもタバサの事を本物の姉妹のように親しく、とても気に入っていた。
ただ、時々だけど…それでも彼女の事が一瞬分からなくなる時がある。
その時の彼女の目は、本当に…本当に怖くって、二つ名の『雪風』が可愛くおもえるような、鋭く、深く、恐ろしいものになるのだ。
思わずシルフィードもゾクリと背筋が凍るような、あの視線。
今戦っているタバサは、徐々に、だが確実に、あの目へと変貌していった。
タバサは素早く自身の風の魔法を回避する。だが完全に避けきれなかったのか頬に軽く傷がついた。
それでも構わず、タバサは自身に風の魔法をかける事で疾走し、そこから杖を刀のように振り回しながら、風の魔法を撃っていた。
人形の取っている行動は、あくまでもタバサのそれまでの戦い方だった。隙を見つけて風や氷で牽制しながら、大きく距離を保ち魔法で攻める。
それと比べると、本物のタバサの動きはまるで違っていた。攻め方までは一緒だ。隙を見つけて相手の出方を伺う、暗殺者のような動き。
ただ、距離を保って魔法のみで戦う人形と違い、タバサはひたすら接近戦を挑んでいるのだった。
人形が飛び退いて距離をとったかと思えば、それを機と見てタバサもすかさず距離を詰める。そして追撃するように魔法を放つ。
それは、タバサがずっと頭の中で思い描いた、『彼』の動きそのものだった。
(なあお嬢さん、『北花壇騎士』って知ってるか? お前達花壇騎士とは違って陽の当たらねえ場所を歩く、騎士とは言えねえ騎士さ…。その中で『化物』が現れたそうだぜ)
タバサは冷静に、人形の唱える氷の矢を絶妙な体捌きで回避する。そして冷淡な瞳で、人形の隙を伺った。
(俺も元、その北花壇騎士の一人だったさ。けどよ、俺なんか弱い方だぜ。噂じゃ最近入ったその化物は、俺みたいな炎の使い手でな、阻むもの全て跡形もなく焼き尽くしてきたみたいだったぜ)
吹き荒れる風や舞い散っていく氷の破片をもろともせず、タバサは突っ込んでいく。虚をつかれたことに反応が鈍ったのか、一瞬人形の動きが止まる。
(しかも笑っちまうことによ。噂じゃそいつ…メイジじゃねえらしいんだ。可笑しいだろ? 只の平民が『シュヴァリエ』で化物と来たもんだ。北花壇騎士ってのは、そういう奴らばっかりさ、それに比べればお前なんて…―――)
187 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:05:15.89 ID:UiAt/Apv
(――――…知ってる)
その先をかき消すかのように、タバサは『ウィンド・ブレイク』を唱える。
防御の間に合わなかった人形は、そのまま吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。その隙を逃さず、タバサは畳み掛ける。
腰を落とし、杖を後ろにして座す『抜刀術』の構え。準備が整うと、タバサは素早く地面を蹴って駆けた。
(『所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ…―――)
タバサは杖に『ブレイド』を唱え、そこから一閃を放つ。剣心との決闘からさらに研ぎ澄まされ、洗練された一撃だった。
人形は、後退する場所がないため、やむなく杖で攻撃を受ける。杖で防がれた攻撃は、暫く鍔迫り合いとなって激しく拮抗した。
だが、それを狙うかのようにタバサは第二撃を放つ。
振り抜いた杖に隠れた氷の刃―――『ジャベリン』で創り研ぎ澄ませた鋭い刀を左手で引っ掴み放った一撃は、杖での防御を貫通し人形を横から真っ二つにした。
「――――…死ぬ』」
「お姉さま……」
魔力が尽き、元の人形の姿に戻ったスキルニルを拾い上げるタバサを見て、シルフィードはぽつりとそう呟いた。
本当に…時々お姉さまが分からなくなる。何をそんなに生き急いでいるのか。理由は知っているつもりだけど、最近特にそう思うようになった。
スキルニルを懐にしまいこみながら、タバサはゆっくりとこちらにやって来る。その目は、やっぱりシルフィードにとっても少し怖い目をしていた。
「お姉さま、あのね…」
何か言おうとして、シルフィードは口を開いた……その時。
突然、場違いな腹の音がシルフィードの耳に届いた。タバサは自分のお腹をさすりながら呟いた。
「お腹すいた」
どうやら過度な練習ですっかり空腹になってしまったようだった。
その様子を見たシルフィードは、ぷっと吹き出す。余りにも可笑しくて無意識に体を震わせていた。
「…これから大事なことを言おうとした矢先に…空気読めなのね」
「何か言った?」
「何でもないのね!! シルフィもお腹すいたのね! だから一緒に食べに行こうなのね!!」
怒りとも笑いともつかないような声を上げながら、シルフィードは叫んだ。タバサは杖でそんなシルフィードを軽く小突く。
「痛い、痛いのね」
「うるさい。静かに」
いつもの表情、いつもの無愛想な声で、タバサはそう言った。それだけでシルフィードは少し安心するのだ。やっぱりお姉さまはまだこっちの方がいい。
シルフィードはそのままタバサを乗せると、大空へ向けて飛び出した。心地よい風をその身に受けながら、シルフィードは本を読むタバサに向かって声をかける。
「ねえ、お姉さま」
返事はなく、ただ本をめくる音だけをタバサは返す。別にこれ自体いつものことなのでシルフィードは構わず続けた。
「お姉さまは、これ以上変わったりしないよね?」
「…どう言う意味?」
本に視線をうつしながらも、今度はタバサも口にしてシルフィードに聞き返した。
シルフィードは、しどろもどろな口調ながらもタバサに言った。
「何ていうか…お姉さま、時々怖い目をするのね。自分で気づいてるのか分からないけど、それがシルフィすっごい嫌なのね。本当に、わたしの知ってるお姉さまが、どっか遠くへいなくなっちゃう様で…だから改善して欲しいのね」
ここでタバサは、本から視線を外してシルフィードの方を向いた。
怖い…? いつそんな目をしたのだろう…? タバサは全然覚えがなかった。
でもシルフィードがそう言うのなら、恐らくそんな感じの目をしていたのだろう。タバサはそう思った。
「善処する」
188 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:08:47.10 ID:UiAt/Apv
取り敢えず、シルフィードにはそのように返しておいた。
「そう、ならいいのね!! きゅいきゅいきゅきゅ〜〜!!」
それですっかり安心して上機嫌になったのか、シルフィードは鼻歌交じりで街へと飛んでいった。
しかしそれは、これから始まる戦いの序章に過ぎなかった。
ガリア王国――――。
トリステインから南西に位置する、ハルケギニア一と言われる魔法大国。
その首都リュティスの郊外に築かれたヴェルサルテイル宮殿―――その一角にあるプチ・トロワと呼ばれる宮殿内にて。
この館の主、現ガリア国王の娘である王女イザベラは、随分鬱屈そうな表情で一人玉座に腰掛けていた。
「イザベラ様があんな表情をするなんて…」
「一体何かあったのかしら…?」
普段のイザベラを知る使用人や侍女は、今の彼女の様子に尋常じゃない雰囲気を覚えた。
いつもはこんなものではない。何かにつけて呼び出したかと思うと、酷薄そうな笑みを浮かべては怯える侍女達をいじり倒してきた。
そんな彼女が、今回はどういう訳か大人しい。というより、何かを恐れているかのようなものを感じさせた。
一体何が起こるのだろう……?
尋常じゃないイザベラの様子だからこそ、使用人たちもまた、その尋常じゃない不安を感じたのだった。
伝染するようにその不安が部屋中を満たす中、それを打ち砕くように一人の召使が姿を現した。
「北花壇騎士。シシオ様が、参られました」
「……通しな」
かつて無い真剣な表情…シャルロットには決して見せないような固い顔で、イザベラは言った。
「なっ…」
やがてやってきたのは、一人の男だった。その姿を初めて見た使用人は唖然とする。
その男は、全身にくまなく火傷を負った包帯男だった。…ただそれを、口に出して指摘する者は誰一人としていなかった。
純粋に恐ろしいからであった。包帯から覗くあの視線、それは貴族とかの階級とか関係ない、生物として根源的な恐怖を煽るからだ。
その男……志々雄真実は、『シュヴァリエ』にしか着用できないマントを肩に担ぐように手に持ち、イザベラに対しぞんざいな口調で言った。
「んで、俺を呼ぶ程の依頼ってのは何だ?」
イザベラはギリッと口を噛んだ。王女に対してこの振る舞い…とことん腹が立つ男だ…。
だが、努めて冷静に頭の血圧を下げる。ここで怒ってもどうしようもない。自分の短絡さを露呈するだけだ。
この男に、弱みというものを見せたくない。だからこそイザベラは、すぐ爆発しそうな血圧を下げて、あくまで平然を装うかのような対応を取った。
「…ミノタウロスって奴を、あんたは知っているかい?」
それを聞いた侍女達は、ひっ…と恐れるような声を上げた。
ミノタウロス…それはハルケギニアに数いる亜人の中でも、エルフや竜に次いで厄介だと言われる怪物だった。
首をはねてもしばらく動き回る生命力、巨大ゴーレムに劣らない腕力。剣や弾丸をもろともしない硬い皮膚、そして人の肉を喰らうその凶暴性。
一流のメイジであっても、ミノタウロス討伐を渋る者がいるくらい、この世界では恐ろしい怪物なのであった。
そして、このハルケギニアに来て、結構な時を過ごした志々雄も、その存在くらいは知っていた。
「まぁ、それなりには聞いてるぜ」
「なら話は早い。あんたにはその討伐に出向いて欲しいのよ」
これだけ聞けば、並のメイジは震え上がり、直ぐに辞退を宣言することだろう。
しかし志々雄は、臆した風も怯えた様子すらなく、ただ凶悪な笑みを浮かべてイザベラを見た。
その目がたまらなく気に入らないイザベラは、更に追い討ちをかけるかのように続けた。
「言っとくけど、支援や増援は一切ないわよ。元々この依頼があった場所の村は貧しいところでね、まともな資金一つ用意できないのよ。普通ならこんな依頼は聞き流すところなんだけど、ほら…メンツってのがあるじゃない? わたしにもさ」
嘘だ。単にこの男が気に入らない。だからこそたまたま耳に入ったミノタウロスという餌を使って、こいつがどんな反応をするか見てみたかったのだ。
「てなわけで、あんた一人で行くわけ。報酬はそこの村に言いなさいな」
資金一つ出せない村に対してこの物言い。これが本当なら只の骨折り損である。まともな神経なら、まず断ってくるはずだ。
189 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:14:05.26 ID:UiAt/Apv
これくらい言っとけば、流石にコイツも…とイザベラが、内心ほくそ笑んだ矢先だった。
「…強ぇのかそいつ」
「……はぁ?」
「だから、俺が束の間の『余興』として楽しめるくらいには、そいつは強いのかって聞いてんだ」
凄惨な笑みと強大な剣気を、ここぞとばかりにイザベラに向けて、志々雄は言い放った。
「………っ!!」
イザベラは、一瞬頭の中が真っ白になった。気絶し倒れる一歩手前だ。
「あっ…ああ……」
何とも言えないような声を出して、イザベラは答える。
「そうかい」
そう言うと、もう用はないとばかりに志々雄は身を翻した。
「場所を教えてくれ。俺は何時でもいいぜ。『暇潰し』程度にはなりそうだ」
ミノタウロス討伐を『暇潰し』と称しながら、只々楽しそうに嗤う志々雄を見て、部屋にいる誰一人、言葉にすることは出来なかった。
志々雄が悠然と去ったあと、緊張の糸が切れたかのようにイザベラはぐったりとした。
「で、殿下…具合の方は…」
使用人の一人が恐る恐る聞いたが、イザベラは返事をしなかった。
只々、先程とは違う、恐ろしいものを見るかのような目で、志々雄のいなくなった扉の方を見つめていた。
あの男が、嫌いだった。
イザベラは、ふと最初にあの男に会ったことを思い出した。
あれはどれくらい前だろうか? 父が気まぐれに起こした召喚術で、その男がやって来たのは覚えている。
平民ということで、周りからは失笑をかったこともあったが、何より驚いたのは、男は契約を結ぶことを拒否したのだ。
普通なら、まずありえないことだろうが、男にはそれを押し切るだけの力があった。
そこから先の詳細は分からない。只あの男の発した凄まじい気迫と殺気が、まだ幼かった私の理性を悉く奪っていった。
気が付けば、あの男は『使い魔ではなく、一人の友として』認め合った父と意気投合し、北花壇騎士へ入ることが決まっていた。
190 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:16:04.45 ID:UiAt/Apv
あの男が、嫌いだった。
男は強かった。メイジではないのにそれはもう、とてつもなく。
後の忌まわしい『人形七号』や、金を積めばどんな任務も成功させる『元素の兄弟』が霞んで見える程、男は凄まじく強かった。
実際にその強さを目の当たりにしたわけじゃない。けど、『分かる』。そう言い切れるほど、男は強く、そして恐ろしかった。
しかもその強さは、過酷な任務をこなす度、どんどんと際限なく増していっているようにも思えてきた。
やがて父から、私に北花壇の団長の地位を授けられた。それからというもの、それ以上に奴の凄さを理解した。その時父が楽しげにこういうのを覚えている。
「奴は北花壇創設以来…いや、全花壇騎士を含めても奴以上の手練はいないだろう」
こうして奴は、新米でありながら北花壇騎士…いや、あくまでも『裏』の北花壇だから公にこそなってはいないものの、恐らく全花壇騎士『最強』の称号をその手にした。
ありえない平民から貴族への昇進、『シュヴァリエ』の取得。皆あの男の実力が成せる業だった。
だけど私は、この男が嫌いだった。
北花壇の地位に就き、奴の上司になったからこそ、嫌でもわかる。あの男は、上司である私を見ていない。もっと大きな野望を抱えている。こんな地位に留まるような男じゃないのだ。
男は、与えられた任務を忠実にこなす。誰よりも早く、誰よりも正確に…。失敗なんて言葉は聞いたこともなかった。
だけどそれは、ある種私に対する『見せつけ』にも思えるのだ。自分の実力はこれほどにもあるのだと、私に知らしめているようにしか見えない。奴を任務でかりだす度、そういう強迫観念に囚われた。
何度か、父に進言したこともある。貴族昇進の度、シュヴァリエ授与の度、私は反対した。気に入らないとかじゃない。奴は遠くない未来、自分たちを脅かす存在になる。それが怖いからこその進言だった。
しかし父は、それを無下にしてきた。私の話など聞いてはくれなかった。その時の父の狂ったような表情は、今でも忘れられない。
そして今、奴は良からぬことを企んでいる風でもあった。レコン・キスタ結成、アルビオン崩壊、更にトリステイン進撃と、それら全てがこの男に起因しているのではないのかと勘ぐってさえいた。
父は何か知っている感じではあったが、例によって教えてもらえず、何も分からぬ存ぜぬまま……。
「…父上は、一体何を考えてあの男に……こんな…」
イザベラは、返ることのない言葉を空に投げかけた。父は、あの男をどうしたいのだろう。あの男は、何を企んでいるのだろう。
それが分からない…ただイザベラは、無力な少女の様にそう呟くしかなかった。
しえん
192 :
るろうに使い魔:2013/02/24(日) 22:22:04.35 ID:UiAt/Apv
今回はここまで。少し短くてすいません。
本来はこれと続きで前後編とする予定だったのですが、あまりにも長くなってしまい
四つに分けることにしました。続きはまた近いうちに投下する予定です。
それでは次回まで。ここまで見ていただきありがとうございました。
乙でござる
特に問題なければウル魔の代理投下いきます
第六話
ハルケギニア大陥没! (前編)
核怪獣 ギラドラス 登場!
舞台をエギンハイム村へと戻して、世界の流れはまたひとつのスタートを迎える。
アパテーとの戦いがあって数日、東方号の応急修理はひとまずの完了を経て、ロマリア巡礼団は一度本国へ帰還することとなった。
ただしかし、東方号の帰還には加わらずに、トリステイン帰還を蹴ってロマリアを徒歩で直接目指そうという一団が出来上がっていた。
「すまないわね、わがままを聞いてくださって。姫さまには、ルイズは必ずご期待に添えるからってお伝えお願いするわ」
「ああ、だが無茶はするな。巡礼団代理という名目はあるにせよ、ロマリアはトリステインの勝手は通じない場所だ。特に、聖堂騎士団は
貴族であろうとも異端審問できる特権もあるという、くれぐれも自重して行動しろ。この異変の原因がロマリアにあるというなら、それを
突き止めることを頭に置いて、慎重にな」
発進前の東方号のかたわらで、ルイズとアニエスが別れのあいさつをすませた。
これから、東方号の一行は、船に乗って帰国する者たちと、ルイズをリーダーとして陸路ロマリアへと向かう一団に分かれることになる。
目的は、空を覆った虫の黒雲の正体を突き止めること。また、金属生命体を送り込んできた何者かも、ロマリア方面にいる可能性が
高いので、その正体と目的を突き止めることもある。もっとも、この両者にはなんらかの関係がある可能性が大であるが。
向かうメンバーは、才人とルイズはまず当然。ギーシュ率いる水精霊騎士隊からも、特に八人ほどが選ばれて加わった。
意外だったのは、ティファニアとルクシャナたち、エルフも同行することを希望したことである。
「ロマリアはエルフを悪魔と見なしているブリミル教の総本山ですよ。あなた方が行くのは危険すぎませんか?」
アニエスは当然気遣い、東方号でいっしょに帰還することを薦めた。しかしティファニアは、不安げながら毅然として答えた。
「い、いえ。エルフと人間が仲良くするためには、いつかは行かなくちゃいけないところです。だったら、少しでも早く行って見て聞いて、
考える時間を持ちたいと、そう思いました」
またルクシャナは。
「そうそう、この子の言う通りよ。物事を後回しにしたっていいことなんてないわ。だいたい最初から行くつもりで船に乗ったんだもの。
なによりわたしは退屈なのが大っ嫌いなの。行く先に謎が待っているなら、止めたって無駄なんだから」
考え方は違えども、危険は承知ならばこれ以上止めるのは失礼というものだった。アニエスは納得して、くれぐれもエルフの正体だけは
ばれないように気をつけてくれと念を押して、彼女たちの同行を認めた。後は、銃士隊からロマリア出身者をつのった十名をミシェルが指揮し、
およそ二十人ほどの団体となって南へと向かう。
「頼むぞミシェル、お前にはまた苦労をかけるが、船を動かすためにこれ以上の人数は裂けんのだ。すまん」
「大丈夫ですよ。これ以上の人数がいたところで、やたらと目だって動きにくくなるだけです。それに、騎士ごっこの青二才どもも、
今ではそんじょそこらのでくのぼうよりは役に立ちますからね」
アニエスとミシェルの、水精霊騎士隊への評価も昔とはかなり変わっていた。数々の戦いを潜り抜け、金属生命体との戦いのときに
見せた優秀な働きぶりも、それを裏付けていたからだ。
しかし、アニエスは心配するなと言う義妹に、釘を刺すことを忘れなかった。
「期待しているぞ。だが、本当に気をつけるんだぞ。今回は、本当に最低限の人数しかつけてやれんし、なによりも……これまでとは
違う嫌な予感がするのだ。敵はヤプールではないかもしれん。特にお前はサイトがいると気が抜けやすいから、絶対に油断するな」
「はは、肝に銘じておきます。サイトは、わたしたちが危なくなると助けようと無茶するでしょうから、わたしがしっかりしませんと。
今回は、前と違ってほんとうに仲間も少ないですからね」
前の旅では大勢いたが、今回はその半分もつれていけない。特にコルベールなどは、国外の事情などにも詳しいそうなのでぜひにも
来て欲しかったが、本人もすまなそうに断られた。
「申し訳ない。肝心なときに役に立てずに……私の生徒たちを、くれぐれも頼む」
「仕方ありません。ミスタ・コルベール以外に東方号の面倒をみられる人はおりませんからね。最善を尽くしてまいります」
コルベールの、生徒の無事を思う気持ちには自然と頭が下がった。だが、彼には傷ついた東方号を持ち帰って、次に必要に
なったときのためにしっかり直しておいてもらわないといけない。
名残は尽きぬが、旅立ちの時は来た。
アニエスとコルベールの乗った東方号は、傷ついた船体を浮き上がらせ、生き返らせたふたつのエンジンのプロペラを回転させて動き出した。
虫の黒雲に突っ込むわけにはいかないので、低空でゆっくりと進む東方号の甲板からは、帰国する仲間たちが手を振っていた。
「がんばれよーギーシュ! ロマリアの坊主どもに、トリステイン貴族を見せてやれ」
「ロマリアの美女にたらしこれるんじゃねえぞーっ! 抜け駆けしやがったら一生恨むからなあ!」
「副長、ご無事で! 我ら一同、みな副長を信頼しておりますから!」
小さくなっていく声を聞きながら、エギンハイム村に残った者たちは、自分たちがよい仲間に恵まれたと感じた。
ギーシュや水精霊騎士隊の面々は、悪態をつきながらも邪気のない友人たちに。ミシェルは、一度は裏切りという大罪を犯した自分を
今では信頼してくれていると言う部下たちに、心の絆こそ何にも勝る宝だと確信するのだった。
むろん才人らも、必ず生きて使命を果たし、再会しようと決意する。
ヤプールでもなんでも、この世界の平和を乱そうという者がロマリアにいるなら待っていろ! そんな野望は必ず砕いてやると。
やがて東方号も小さくなって見えなくなり、残った者たちも出発の時間となった。
「ようし諸君、水精霊騎士隊ロマリアに向けて出陣だ! 我らが敬愛する女王陛下のため、また働ける時がやってきた。さらにこの機会に、
我ら水精霊騎士隊の名を国外にも轟かせるのだ。いざゆかん、まだ見ぬ敵とロマリアのご婦人方が待っているぞ!」
「おおーっ!!」
さっき抜け駆けするなと言われたのに、さっそく忘れたギーシュの激に少年たちはいっせいに轟くような声で答えた。
が、浮かれたバカには早速鉄槌が下る。
「お前が仕切るなバカ者! 今回は目立ってはいけない隠密任務だと、もう忘れたか! いいか、今回は行く先に何が待っているか
わからない以上、難易度はネフテスへ行ったときより上だとも言えるんだ。それ以前にこれから山越えをしなきゃならん。今から無駄な
体力を使って、途中でへばったら山から蹴り落とすからな!」
「はっ、はいいっ!」
冒険気分になっていたギーシュたちは、ミシェルの一喝で反射的に気をつけの姿勢にされて、いきなり気合を入れなおされる羽目になった。
まったくほんとに、この連中のすぐ遊び気分になる癖はいつになったら抜けるのか。かっこつけて高く掲げたギーシュの薔薇の杖の
花びらが地面を向いてしおれているように見える。そんな様を見て、わずかな女子のルイズやモンモランシーはため息を漏らすのだった。
「こんなんで、先行き大丈夫なのかしら。ルイズ、何度も言うようだけど、わたしは人生の選択を誤ってる気がするんだけど?」
「しょうがないでしょ。あなたは貴重な『治癒』の使い手なんだもの。それに、人生の選択っていうなら、あなたより多分わたしのほうが
多く後悔してるから安心しなさい。好きだ、なんて言ってもらえたくらいで安心しちゃだめよー。男なんて、まったく信用できない生き物なんだから」
「心から同意するわ。ほんとに、どうしてわたしはギーシュを見限れないのかしら? きっとあいつ、まだロマリア美女を口説くことで
頭がいっぱいよ。わかってるんだから……なのに、ああもう! 将来苦労することなんかわかりきってるのに!」
「わたしたちって、ほんとにバカね」
ルイズとモンモランシー、共通の悩みを持つふたりは、共に頭をがっくり下げてうなだれた。ふたりの桃色の髪と金髪に白髪が
混ざってきたと言っても、この場なら冗談にならないかもしれない。当のギーシュはといえば、叱られていて聞く余裕はなくて、
才人はといえば、やっぱりマジになったときのミシェルさんはかっこいいなと見とれていて、やはりルイズの話なんか聞いてなかった。
まだ出発もしてないのにこの有様。エギンハイム村の村人たちは、本当にこの人たちに世界の運命が託されてるんだろうかと
不安に思うのだった。
とはいえ、いい加減進めないときりがない。ヨシアら村人に見送られて、一行は旅立った。
これから南下し、火竜山脈を越えてロマリアに入る。そこまでの道案内は、アイーシャがしてくれることになった。
「精霊にも認められる心正しき者であるあなた方ならば、これも大いなる意志のお導きでしょう。火竜山脈までの近道を案内します。
この世界の暗雲を、晴らしてきてください」
通常ならば人間の踏破することの不可能な黒い森も、自然と共に暮らす翼人にとっては庭のようなものだった。また、途中に
生息する凶暴な獣や亜人も、翼人の気配を感じると襲ってはこなかった。
しかし、まったく整備などされていない不整地を踏破するのだから楽なはずはない。アイーシャはできる限り歩きやすいルートを
選んでくれたが、それでもしばらく経つと音をあげる者が出だした。
ただし、おかしなことに、それがいずれも危機感を伴わなかったのは笑うべきなのか。
モンモランシーの場合はこうである。
「ああんもう! わたしもう歩けない。足が痛い! 疲れた! こんなジメジメしたところ歩くなんて、もうイヤ!」
「それは大変だモンモランシー。さあ、ぼくの背におぶさりたまえ。君の白樹のような御足が傷ついてしまったら全世界の損失だ。
ぼくは喜んできみのための足となるよ」
「も、もうギーシュったら恥ずかしいじゃないの。で、でも……ちょっとだけ、ほんとうに仕方ないからちょっとだけよ」
なんだかんだ言ってギーシュにおんぶされて喜ぶモンモランシー。ほかの面々は、やってろこのバカタレどもと内心で呆れるばかりだ。
これ以上ないくらいにお似合いだよ。お前ら事前に打ち合わせでもやったんじゃないのかと、見ているこっちが恥ずかしくなる。
ティファニアの場合はこうである。
「いてて、サイトさーん。ごめんなさい、わたしちょっと足をくじいちゃったみたいです」
「ありゃりゃ、無理するなテファ。よし! ルイズお前おぶってやれよ」
「ねぇサイト、なんでわたしなのか説明してもらえるかしら……?」
「そりゃ、ルイズがこの中の誰よりも馬力があるのは、おれがよーく知ってるからさ!」
「サイト……あんた、人をコケにするのもたいがいにしないと殺すわよ」
頭にでかいコブを作らされた才人が、首に縄をかけられて引きずられて行ったのを見て、皆がギーシュとモンモンのときとは
別の意味で呆れたのは言うまでもない。才人は、「ほんのジョークなのに」とか言って場をなごませようとしただけなのだが、
気絶させられた状態では申し開きができるわけもなく、白目をむいたマヌケ面をしばらくみんなに見られるはめになってしまった。
なお、ティファニアは足を魔法で治してもらって、元気よく普通に歩いている。ときおり心配そうに、「あの、サイトさんが
ちょっとかわいそうじゃありませんか?」と言ったが、「バカにはいい薬だ」とみんなに返されてしまった。
こんな様子で、アニエスがいたら百回は怒鳴られるであろうことをこの後も繰り返しながら一行は進んだ。どうやら彼らにとって、
使命感とか危機感とかは緊張感の維持にはあまり役立たないようだった。才人とルイズに水精霊騎士隊は、まるで遠足か
ピクニック気分である。もっとも、彼らは年齢的には地球の高校生程度であるから元気が有り余っているのは仕方ない。
「お前たち、少しは静かにしろ!」
まったくどこにそんな元気があるんだかと、銃士隊の人たちが怒鳴っても、しばらくすると元の木阿弥であった。
どうやら子供にとって、遊ぶために使う体力というのは無尽蔵らしい。ミシェルも最初のうちは怒っていたが、やがては
すっかりとさじを投げてしまってこう言った。
「まあいい、元気が有り余ってるなら今のうちに適当に発散させておくのもいいだろう」
「しかし、最初からこんな調子で、連中には自覚というものが足りません」
「奴らがいざとなれば人並み以上の働きができるのは知っているだろう。好奇心の塊のような連中だし、遊び盛りの子犬に
首輪をつけるようなものだ。いまのうちは大目にみてやれ……その分は我々がしっかりすればいいだろう、な?」
「まったく、副長は甘いんですから」
しかしそうは言ったものの、銃士隊の皆は内心で副長も昔とはだいぶん変わったなと、好意を持って思っていた。
昔のミシェルは、それこそアニエスが二人いるかのように厳格で苛烈で、まるで生き急いでるように隙がなかった。けれども、
リッシュモンを倒したあのときからは皆と打ち解けて、明るさや穏やかな面を見せることが多くなっていた。
ミシェルの取り戻した、そうした穏やかで優しい心は、おそらく軍人としては不適なものだろう。けれども、誰もミシェルを
弱くなったとは思っていない。ふざけながらも明るく楽しく先を進む少年たちを、呆れつつも温かく見守るミシェルを見て、
ひとりの隊員がふといたずらっぽく言った。
「副長、そうしてるとなんだかお母さんみたいですね」
「んなっ!?」
この唐突で意表をついた一言は、姿勢よく歩いていたミシェルが前のめりにこけかけるほどの衝撃を与えた。
「なっ! いきなり何を言い出すんだ! わ、わたしが、お、おか?」
「ええ、ダメな息子たちを見守る優しいお母さんって感じで、いやあ中々さまになってましたよ」
「バ、バカ者! わたしはまだそんな歳じゃないぞ。なんだお前たち、その顔は!」
見回すと、隊員たちはみんな子供を見るような笑いをこっちに向けていた。ミシェル自身は、自分が顔を真っ赤にしていることに
気がついているのか。もっとも、隊員たちはこういう方面では子供そのものの副長に、ダメ押しの一言を遠慮なく加えた。
「ええ、お母さんになるためには、まずはお嫁さんにならないといけませんものね」
「お、およっ! お、お前たち! 上官をからかって遊ぶんじゃない!」
そうは怒っても威厳は台無しである。恋愛に関しては、まったくの素人で初恋街道をやっと進んでいるミシェルでは、
どうあがいたところで隊員たちにすら勝てるはずはなかった。
とはいえ、隊員たちには副長を軽んじるつもりは微塵もなかった。強いて言えば、ちょっとしたスキンシップのようなものである。
銃士隊は軍隊ではあるが殺し屋の集団ではない。悪に立ち向かう者が、心に余裕をなくしてしまったら、敵は排除するだけの
排他的な独善の集団となってしまう。
実は地球人も、何度かこの危うい道に入りかけたことがある。地球の平和のためならばと思うあまりに、ほかの星のことを
思いやることを忘れてしまったとき、人類は自らをも滅ぼしかねない惑星破壊兵器の配備に手を染めてきた。
そのこと自体の是非は結果の好悪両面があるのであえて問わない。だが、正義というのはあくまで概念であって、行使するのは
人間なのだ。平和はきれいごとだけでは守れない、それは真実ではあるが、同時に獣の論理であることを忘れてはいけない。
「おーいサイト! お前、結婚したら子供は何人ほしいんだ?」
「ばっ! お前なんてことを!」
「あれー? 私はサイトに尋ねたのに、なんで副長が怒るんですか?」
しらじらしいことこの上ないが、ミシェルは隊員たちにかっこうのおもちゃにされていた。まるで女子校の一風景のようなもので、
声をかけられて「はい? なんですか」とやってきた才人は「うるさい! お前は向こうに行ってろ」と、訳のわからぬうちに
追い返されてしまったので、いい迷惑としか言いようがない。ただ、思わず怒鳴ったミシェル自身が、サイトになんてことを言って
しまったんだと自己嫌悪に陥ってしまったので、さすがに隊員たちも罪悪感がきて謝った。
「副長、すいませんでした。あんまり副長が初心でかわいかったので、つい」
「いいんだ、どうせわたしなんか剣と魔法しかとりえのない乱暴者さ。普通の女の子らしいことなんて、なにもしてこなかったんだもの」
いじける副長を慰める隊員たち。銃士隊にも、ずいぶんと家族的な雰囲気が出てきたということなのか? もっとも、悪いことではない。
歴代の地球防衛チームでも、真面目一辺なチームよりも、普段穏やかでユーモアのあるチームのほうが実戦成績がいいという
統計結果があるのだ。
まさに、笑う門には福来る。カリカリしていてもなにもいいことはないのである。
こうして、普通の人間ならば心身を削りながら行くような旅路も、一行は愉快に心弾ませながらゆく冒険へと変えた。
道なき道を、最短ルートを通って一行はガリアとロマリアの国境線である火竜山脈へと向かっていく。
そして数日の行程を経て、一行はついに火竜山脈を遠方に見られるところまで来ることができた。
「皆さんよく頑張られましたね。ここまで来たら、山脈のふもとまではあと半日ほどです」
普通なら数週間から一ヶ月はかかる距離を、一行は驚異的な速さで踏破していた。火竜山脈の街道に入れば、あとはロマリアまで
一直線の道のりである。ふもとの村の駅で、馬なり馬車なりを借りられれば一気にロマリアに到着できるだろう。
だが、一行が喜色を浮かべたそのとき、突然の地鳴りとともに信じられないことが起こった。
「うわっ! 地震だ。大きいぞ!」
誰かが叫ぶと同時に、周辺の大地が蛇のようにうねりながら揺れ動き始めた。空を飛んでいるアイーシャ以外はみんな
立っていられないほどで、周りの木々も大きくしなって枝を振り乱し、次々と倒れだした。
「危ない! 草木に宿る精霊たちよ!」
とっさにアイーシャの張ってくれた植物の防壁が、倒れてくる木々から一行を守ってくれた。
しかし、身の安全は守れても、まるでシェイカーの中に入れられたようなすさまじい揺れの中では誰も何もできなかった。
森の木々がメキメキと音を立てて倒れていき、動物たちの悲鳴がこだまする。鳥の群れが飛び立ち、昆虫たちもいっせいに
舞い上がって、パニックに包まれた周辺はまるで地獄のようであった。
ただひたすら、揺れが収まるのを待ち続ける。だが揺れは収まるどころか延々と続き、さらに突然火山が爆発したような
すさまじい轟音が鳴り響き、皆はそちらの方向を見た。
愕然とした表情が、人数分だけ現出するのに半瞬もかからなかった。
「な、なんだこりゃ!」
彼らの視界に飛び込んできた光景、それはまさにこの世ならぬ、ありえないものだった。
才人もルイズも、ギーシュたち水精霊騎士隊、ミシェルたち銃士隊、好奇心の塊のようなルクシャナさえ自分の目を疑った。
轟音と激震、その中でギーシュたちはその方向を指差して恐怖に顔をひきつらせる。
「お、おいギーシュ。あれは、あれはなんなんだ!」
「ぼ、ぼくに聞かれてもわかるわけないだろ! ぼくの目がおかしくなったんじゃなければ、山が、火竜山脈が……」
「ああ、山が、火竜山脈が……沈んでいく」
誰がつぶやいた言葉に、寝ぼけているのか? と突っ込む者はいなかった。
そう、これから一行が向かおうとしていた先、かなたに巨大な峰峰を並べていた火竜山脈が小さくなっていた。いや、正確に
言えば火竜山脈がふもとから地底へと沈んでいっているのだ。まるで、泥沼に落ちた車がみるみる沈んでいっているような、
不気味で悪夢的な光景、しかし夢かといくら目をこすっても、眼前の光景は消えはしない。
「そういや、昔なんかの映画で日本がまるごと海の底に沈むってのがあったなあ……」
才人は、これは夢じゃないんだぜと自分のほっぺたをつねりながら独語した。ルイズやティファニアなどは圧倒されきっていて
完全に言葉も出ない。アイーシャも恐怖のあまりに飛びながら震えて、精霊に祈り続けていた。
火竜山脈は彼らの見ている前で、どんどんとその威容を消していっていた。
はじめは標高数千メートルの、雲を突き抜けて天を突くのでは思われた高さも半分になった。それでも沈降は収まらず、
ふもとの辺りから猛烈な粉塵を吹き上げながら、潜水艦の急速潜航を思わせる速さで沈んでいく。そのころになると、
噴き上がった粉塵もようやくこちらへ届いてきて、周辺は砂嵐で夜中のように暗くなった。
「どうなってるんだあ、この世の終わりなのか!」
少年たちの誰かが叫んだ。彼らの周囲はルクシャナの張ってくれた空気のドームで防護されているが、常識外れの
光景と暗闇が、破滅的な想像を彼らにさせていた。
神に祈る者、ただ震える者、虚勢を張ってじっと耐える者。才人やルイズでさえ、どうすることもできない。
誰にも説明なんかできるわけがなく、地震は続いて唐突に終わった。
やがて砂嵐も収まって視界が開けると、ほんの数分前と景色は一変していた。
「あ、あそこに、山があったはずだよな?」
ギーシュの問いに、自信を持って答えることのできる者はいなかった。皆が、悪夢をたった今まで見ていたかのように
なかば呆けた顔で立ち尽くしている。むしろ、悪夢であってくれたほうがどれだけよかったか、一行の行く先に壁のように
聳え立っていた火竜山脈の峰峰は、まったくの跡形も残さずに消えてなくなってしまっていた。
なにが起こったのか? それはこの場にいる全員が考えていることであったろうが、やはり誰にも答えを出せるわけもなかった。
それでも、時間が経って落ち着きを取り戻してくると、彼らの足の先は自然と山脈のあったほうへと向いた。
「行きましょう、ここでぼっとしてても始まらないわ。なにが起こったかはわからないけど、どっちみちあの山は越えなくちゃ
いけなかったのよ。山登りする手間がはぶけたと思いましょう」
真っ先にそう宣言したのはルイズだった。すでにショックから立ち直り、前のみをまっすぐに見据えた凛々しい姿は、
水精霊騎士隊や銃士隊に残っていたおびえをぬぐいさるのに十分だった。
「ルイズの言うとおりだ。ここで引き返すわけにはいかない。諸君、行こう!」
ギーシュが全員を代表して言った。一度勇気を取り戻せば彼らはみな強い。すると、モンモランシーやティファニアも
気を取り直し、皆に続こうとする。先日までのふざけた雰囲気を一新して、一行は戦士の顔になっていた。
「ミス・アイーシャ、案内ありがとうございました。ここまで来たらもう大丈夫です。あなたはここでお帰りになってください」
ミシェルが、万一のことを考えてアイーシャに言った。もしも彼女になにかあれば、親身に尽くしてくれたエギンハイム村や
翼人の方々に申し訳が立たない。けれどもアイーシャは首を振った。
「いいえ、わたくしにも課せられた責務があります! せめて、すそ野あたりまではご案内を続けましょう」
責任感の強いアイーシャの態度に、それ以上の配慮はかえって失礼というものであった。
が、結果としてアイーシャに最後まで案内を頼んだのは正解だった。地震ですっかり地形が変わってしまった森の中を
走破するには、森のことを知り尽くし、空から見下ろせるアイーシャの存在が非常に大きく、もし彼女がいなければ一日は
余計に森の中をさまよっていたのは疑いようもない。
そしてそのことは、さらに結果として多くの命を助けることになった。
可能な限り急いで、黒い森を突っ切った一行は火竜山脈のふもとへとたどり着いた。そこには、最初の目的地としていた
宿場町があるはずだったが、すでに町の様相は残っていなかった。
「こりゃひでえ、まるで巨人の団体さんが通っていった後みたいだ」
言われなければ、ここに町があったとは気づけないほどに破壊されつくしていた。陥没した山脈に巻き込まれることだけは
避けられていたものの、あの天変地異を間近で受けてしまった影響で、家々はひとつ残らず倒壊し、さらに粉塵が雪のように
がれきに降り積もっていた。
が、呆然としている余裕はなかった。倒壊した家々では、かろうじて助かった人たちが、体中をほこりに染めながらがれきを
どかそうとしている。それを見た一行は、即座に全員駆け出した。
支援
「水精霊騎士隊! 生き埋めになった人たちを助けるんだ」
「銃士隊、全員散って生存者の救助に当たれ」
約二十名の一行は、蜘蛛の子を散らすようにいっせいに町のあちこちに散らばった。まだ倒壊した家屋の中では、下敷きに
なった人たちがうめいている。助かるかどうかは一分一秒の勝負だ。
考えるよりも先に手と足が動き、腕力と魔法で生き埋めになった人たちを助け出していく。救助活動は彼らの基本活動の
ひとつであり、アディールでも経験済みなので慣れた動作である。
町人たちも、思いもよらず現れた救助隊に驚きながらも、彼らの真摯な態度に信頼を置いてくれた。
やがて数時間後、町の広場に作られた仮説救護所には助け出された町人たちが寝かせられていた。
「どうだいモンモランシー? 負傷者たちの様子は」
仕事を終えて休息をとっていたギーシュが、魔法での治癒を終えてきたモンモランシーに尋ねた。ふたりとも、後先を
考えずに動き回った結果ほこりまみれになっている。彼女は、お風呂に入りたいわねと短く愚痴った後で答えた。
「命に関わるような重態患者はルクシャナたちの先住魔法で治してもらったわ。私もやったけど、まあエルフだってことを
バレないようにするためにカモフラージュするのが主だったけどね」
「先住魔法か、ほんとすさまじい効力だよなあ。敵にすると恐ろしいけど、味方にするとなんとも頼もしいものだ」
「悔しいけど、わたしの治癒とは比べ物にならないわ。けど、やっぱり精神力には限りがあるから、治療は重傷に限ったわ。
ねんざや骨折くらいは自力で治してもらいましょう」
「ご苦労様、向こうでパンと飲み物を配っているからゆっくり休んでくれ」
ねぎらって、ギーシュはモンモランシーに宿屋のあったほうを指差した。さすがに、いつもは二言目に口説き文句が出る
ギーシュも疲れて一人になりたかったらしい。モンモランシーは、できれば二人で……と思ったが、こんなときに不謹慎だなと
思いなおして、黙ってギーシュに背を向けようとした。
ところが、立ち去ろうと一歩踏み出したとき、彼女のおでこに軽い痛みが走った。
「痛っ?」
「おや? どうしたんだいモンモランシー」
「いえ、なにかおでこに硬いものが当たったような気がしたんだけど……あら? これは」
石でも飛んできたのかなと、あたりを見回したモンモランシーの目の前に、キラキラと輝く小さな結晶が浮かんでいた。
「これ、風石のかけらだわ」
手にとって調べたモンモランシーは、風の魔法授業で教材に出た結晶とそっくりだと思って言った。
風石とは、飛行船を浮かせるために主に使われているもので、それ自体が浮遊する不思議な特性を持っている鉱物だ。
正確には鉱物ではなく、先住の精霊の力の結晶なのだとも言われるが、正確なことはまだわかっていない。
ギーシュも言われて手に取り、本当に風石だと感心したようにつぶやいた。さっきのは、浮いている風石に気づかずに
モンモランシーが額をぶっつけてしまったらしい。よく見ると、そこかしこに細かな風石のかけらが輝きながら浮いていて、
空に向かってゆっくりと昇っていっていた。
「これはなんとも美しいな。いや、もちろんモンランシー、君の美しさには及ばないがね」
「ま、まあ! 急になにを言い出すのよ。っとに、さっきまで半分死んだみたいな顔してたくせに、んもう。それにしても、
なんでこんなところに風石がこんなに散らばってるのかしら」
「山脈が崩壊するときに地下から吹き出してきたんじゃないのかい?」
「おかしいわね。確か火竜山脈には、そんなに豊富な産出量の鉱山はなかったはずなんだけど……」
モンモランシーは授業の内容を思い出して、腑に落ちないというふうに首をひねった。けれども、優等生だというほど
勉強熱心であったわけでもない彼女は自信もそんなにあったわけではなく、それ以上考えることはできなかった。
「まあいいわ……ところで、動けない人たちに食べ物を持っていこうと思うんだけど、手伝ってくれる?」
「喜んで。しかし、我々人間だけだったら、こんなに早く救助はできなかったろうな」
しみじみと、服のほこりを払いつつギーシュも言った。いくらこちらにメイジが複数いたとはいえ、強力な先住魔法の助けが
なくては町人に死亡者が出ていたかもしれない。アイーシャに道案内をしてもらわなくて遅れていたら、間違いなく町人の
半数以上は死亡していただろう。
もちろん、人間が無力だということでは決してない。
「要するに、持つべきものは友達ってことか」
異なる者同士が助け合うことこそが重要なのだ。今回のことは、そのなによりの実証と確認になったのではないだろうか。
そのアイーシャも、負傷者看護を手伝ってくれている。翼人がいるということに関してはひともんちゃくあったが、ルイズや
ミシェルが口八丁と強引さで押し通したらしい。まあ、大変なときに細かいことは気にするなだ。
こうして、ひとつの町を救った一行だったが、このままゆっくりと休むというわけにもいかなかった。
すべての原因である、山が沈むという大災害。これをただの自然現象として流すほど、彼らは常識的な世界に生きてはいない。
念のために、間近でそれを見ていた町人たちに、才人たちは聞き取り調査をおこなっていた。
「なにか、異変が起こったときに変わったことはありませんでしたか?」
町人たちは、怪訝な表情を浮かべながらもそれぞれ答えてくれた。とはいえ、ほとんどの町人たちはショックで記憶が
あいまいになっていて、異変が起きたときの様子は抜け落ちていたり、覚えている者がいても、仕事中で気がついたら
地震が起きていたと言う者ばかりだった。
ところが、やはりこれは異常だが自然現象なのだろうかと思いかけていたときだった。ひとりの馬飼いが、気になることを言ったのである。
「地震が起きる少し前のことです。山のほうに馬の飼葉を取りにいったとき、なにやら獣の叫び声のような音が聞こえてきたんです。
まるで地の底から響いてくるような、聞いたこともない恐ろしい声で、怖くなってすぐ帰ってきたら山崩れが始まって……」
彼は、それ以上のことは覚えていない、今は思い出したくもないと口をつぐんでしまった。しかし、才人はルイズとともにそれを聞いて
すぐさま『怪獣の仕業か?』と疑念を抱いた。ただし、地底怪獣は数が多く、声が聞こえたという程度では何が現れたのかは
見当がつけられなかった。
仮に怪獣の仕業だとして、山をひとつ陥没させてしまうような奴? 地底人キングボックル? 月の輪怪獣クレッセント?
だめだ、多すぎてとてもじゃないが絞り込むことができない。
せめて、なにかあとひとつヒントがないかと才人は悩んだ。誰か、ほかに何かに気づいた人はいませんかと聞いて回り、
その間に手伝って欲しいところがあれば駆けつけて、地道に聞き込みを続ける。だが、めぼしい情報がなくてあきらめかけていたとき、
ティファニアと遊んでいた町の子供たちが才人に話しかけてきた。
「ねえねえお兄ちゃんたち。お兄ちゃんたちって、悪い怪物をやっつける正義の味方なんでしょ? だったらぼくたち知ってるよ」
「なんだって、君たちそれは本当かい!」
「ほんとだよ。こないだみんなで山に遊びにいったとき、山の奥で、こーんなにでっかいお化けがいたんだよ。そんでね、
あっというまに地面に潜っていっちゃったんだ。ねーアルフ?」
「そうだよなあ。大人たちは大モグラを見間違えたんだって信じてくれないけど、あれは絶対モグラなんかじゃねーぜ。
四十メイル、いや五十メイルはあったんじゃないかなあ」
子供たちは、詳しく教えてくれと頼む才人に絵を描いて教えてくれた。もちろん、子供の書いたうろ覚えの稚拙な絵なので
中途半端なトカゲのようなドラゴンのようなあいまいなものだったが、ひとつの目立った特徴が才人の知識のひとつと合致した。
「君たち、この頭のまわりの赤いコレは、確かにあったんだね?」
「うん、すっごく目だってたから間違いないよ。真っ赤に光ってる角みたいなのが四つ、絶対だよ」
「だとしたら間違いない。こんな特徴を持ったやつは他にいねえ……核怪獣ギラドラスだ!」
才人は断定した。核怪獣ギラドラス、惑星の地殻に自由に入り込む能力を持った宇宙怪獣の一種で、ウルトラセブンが
活躍していた時代にも、地球の核を構成する物質であるウルトニウムを強奪するために暗躍していたことがあった。
もしや、このハルケギニアでもウルトニウムを強奪するつもりなのではないのか! 才人はそう思い至ってぞっとした。
この惑星にも地球同様にウルトニウムがあるかは断言できないが、もし惑星の核を構成するウルトニウムが奪いつくされたら、
星は核を失ってバラバラに砕け散ってしまう。
「やべえ! こりゃ、ロマリアなんかに行ってる場合じゃねえぞ!!」
愕然とした才人は、すぐに事情を皆に説明した。むろん、星が砕けると言っても理解してもらえるのはルイズくらいなのだが、
この近辺に地底怪獣がいて、そいつが地殻変動を引き起こしているということだけでもわかってもらえれば十分であった。
怪獣がいる。その情報は、休息をとっていた水精霊騎士隊と銃士隊を叩き起こした。
「なんだって! 怪獣? 怪獣が山を沈めたっていうのか。ううむ、信じがたいが……」
「いや、真偽はともかく怪獣がいるらしいということが確実なだけでも一大事だ。サイト、お手柄だぞ」
「やれやれ、副長どのはほんとサイトには甘いんだからなあ。ルイズが怖い顔で睨んでますよ? しかしサイト、怪獣が
いるらしいということがわかっても、相手が地の底じゃあこっちには手の出しようがないぞ。まさか、ヴェルダンデに追い出させる
なんて考えているわけじゃあるまい?」
ギーシュとミシェル、ふたりは特に問題なく納得してくれた。しかし、ギーシュの漏らした疑問が才人を困らせた。
「しまった。そこまで考えてなかった」
「おいおい、それじゃあどうしようもあるまい? 第一、怪獣を見つけたって、ぼくらこれっぽっちの戦力で倒すなんてできまい?
サイト、君は勇敢だがもっとよく考えてものを言ったほうがいいと思うよ、うん」
ギーシュ、お前にだけは言われたくないと才人は強く思ったが、無駄にこじれるだけなのでぐっと我慢した。だが、確かに
考えが浅かったのは認めざるを得ない。地底に潜んでいる怪獣を倒すには地上に追い出さないといけないが、ウルトラマンAは
地底に潜れるとはいっても、地底のどこにいるのかがわからなければ地底をウロウロと探し回っただけで三分が過ぎてしまう。
見ると、意気込んでいた水精霊騎士隊と銃士隊もやる気を失いかけている。彼らは、ここはロマリアに急いで、怪獣は余計な
刺激を与えずにそっとしておこうと主張したが、もちろん才人は内心でかなり焦った。
”まいったな。このままギラドラスをほっておいたら取り返しのつかないことになる。かといって、みんなを説得できる材料もないし。
せめて、ギラドラスの居所さえなんとかわかれば……”
そうすれば、さっさと片付けて先を急げるのにと才人は思った。地球の知識をこちらの世界で披露する難しさがここにあった。
ルイズも同様で、唯一才人の危機感を正確にわかっていたが、虚無の魔法でもこれはどうにもならなくて困っていた。
「ううん、優秀な土のメイジがいれば捜せるかもしれないけど、そんなのよほど土の扱いに精通したベテランでないと無理よね」
ただ魔法がうまいだけでなく、土そのものの扱いに慣れたメイジとなると限られていた。ミシェルは土のトライアングルだが、
魔法は攻撃に偏っていて繊細な芸当は難しい。ルイズの知る限りでは、そんな器用なことができるのはひとりいたが、
残念ながらこの場にはいなかった。
ところが、才人とルイズが困り果てていたそのときだった。ひとりの町人が、深刻な面持ちで話しかけてきたのだ。
「あの、貴族の皆様方。あなた方を見込んでお願いがあるのですが……実は、数日前にひとりの貴族のお方が山へ
登られたのですが、わたくしどもではとても捜しにゆけませぬ。もし生きておりましたら難儀しておるでしょう。できることなら、
お助けにいかれていただけませんか?」
才人たちは顔を見合わせた。こんなときに遭難者か、こっちはなにかにつけて時間がないってのにハタ迷惑な……
しかし心配している町人の善意をむげにするわけにもいかないし、何より人命はかえがたい。ルイズは、とりあえず尋ねてみた。
「お聞きしますが、その貴族はどのような人でしたか? ざっと、特徴を教えていただけるとありがたいんですが」
「おお、引き受けてくださいますか! いえ、なんとも高貴そうなお方でして、しかもなんとも見る目うるわしいご婦人でした。
なんでも、トリステインからやってこられた偉い学者さまなのだそうですが、火竜山脈の地質の調査をすると、わたくしどもが
お引止めするのも聞かずに行かれてしまったのです」
「トリステインから来た……学者?」
「ご婦人……」
才人とルイズはもう一度顔を見合わせた。しかし、今回は表情が複雑なものになっており、話を聞いていたギーシュたちも
同じことに気がついたのか、表情がこわばりはじめている。
なんか、嫌な予感がしてきた。頭が、思い出してはいけないことだと警報を出している。ルイズの本能が、ここは何も聞かなかった
ことにして先を急ごうと叫んでくるが、理性でなんとか押し殺して聞いてみた。
「もしかして、そのご婦人って……金髪のブロンドヘアーで、切れ長の眼差しに眼鏡をかけていませんでしたか?」
「おお! なぜそのことをご存知なのです?」
「やっぱり……」
ほぼ全員がげっそりとした。その特徴、知り合いによく知った人がいるよ……しかも、できるならあまり関わりあいになりたくない方向で。
とはいえ、これでは安否を確かめにいかないわけにはいかない。
「まあ、これも運命と思ってあきらめようぜルイズ。それに、地質調査で来てたってことは、もしかしたらギラドラスの居所をつかんでるかもしれねえ」
「帰りたい……」
こうして、一行はなかばしぶしぶ火竜山脈の跡地に踏み込んだ。
「お気をつけて、あなた方に大いなる意思の導きがありますように」
残るアイーシャやティファニアに見送られ、山脈が沈んだ場所は巨大な岩石地帯になっていたが、ところどころ岩盤の固かった部分は道が残っていた。
一行はそれを頼りに水平に山を登っていき、やがて数時間後に元は中腹だったと思わしき場所までやってきたとき、平坦になってしまった
山肌の上に建てられたテントと、その脇に立つ金髪の人影を見つけた。
「やっぱりそうだ。ほんとに、この山崩れの中で思ったとおり無事だったのはさすがね。気はあんまり進まないけど……おーい! お姉さまーっ!」
「っ!? だ、誰!」
「なんです、しばらく会わないうちに妹の声を忘れちゃったんですか? ルイズですよ、エレオノールお姉さま!」
「あ、ああ、なんだルイズだったの。こんなところで会うなんて奇遇だけど、会いたかったわよ。元気そうでなによりだわ」
「? エレオノール……お姉さま?」
こちらに気がついたエレオノールが、ルイズに眼鏡の奥の瞳から優しげな視線を向けて微笑んだ。するとルイズも……数秒の間を
置いて同じように微笑み返した。
姉妹の久しぶりの感動の再会……だがそのころ、彼女たちの足元のはるか下では、ハルケギニアが大地のもくずに変わる瞬間が、
刻一刻と迫りつつあった。
続く
今週はここまでです。
前回、ジルとシルフィードの冒険が始まると期待していた方々にはすいません。そちらのほうも必ずやりますが、まずはこちらを進めさせていただきます。
さて、ロマリア行きを決めた才人たちでしたが、お約束というかすんなり到着というわけにはいきません。
突如才人たちの前に立ちふさがった大災害。はたして彼らは、元凶の怪獣を見つけ出して倒せるのか?
ではまた。本スレのほうでも、またよろしくお願いします。
以上、代理終わります
皆さんお久しぶりです。
一週間くらいインフルエンザでダウンしてました……。
よければ、22:05ごろから投下させてください。
ディーキンに差しだされた手を取って、ルイズは立ち上がった。
そこで、周囲から拍手が起こる。
最初はまばらに、やがて教室中から。
「……え?」
ルイズは困惑して周囲を見渡し…、そこで、やっとここが教室で周囲に級友がいたことを思い出した。
「………〜〜!!」
途端、顔を真っ赤にしてぱっとディーキンの手を放す。
よりにもよって衆人環視の元でわめいたり愚痴ったり、あんな恥ずかしい台詞を交わして使い魔と見つめ合ったり――――――
冷静に考えるともう、恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
伏し目がちにしながらも、ディーキンを恨めしげに軽く睨む。
ただ、決して本当に不快ではなかった。
何よりも先程のディーキンの言葉が嬉しかったし、これまで嫌な注目や罵声を浴びる事はあっても好意的な注目や賞賛を浴びたのは初めてだったからだ。
普段はルイズを馬鹿にしているクラスメートたちだが、トリステインの貴族はこういったある意味芝居がかったような場面が大好きなものらしい。
ディーキンの作り出した空気に飲まれ、素直な感情を吐き出したルイズに感情移入して、何時の間にやら事の成り行きに大勢が拍手喝采を送っていた。
教師のシュヴルーズまでもが一緒になって、にこやかに拍手を送っている。
勿論全員がそうではなく、この展開を面白くなく思っていたり白けている者も多少はいるだろう。
だがそういった連中も周囲の雰囲気に流されているか、そうでなくとも、少なくとも口を噤んで大人しくしている。
ルイズを普段侮蔑していた連中の大半は、弱い立場の者を叩いて喜ぶ幼稚な愉しみに浸る子供か、雰囲気に流されてそれに加担していただけの者だ。
そんな輩がこの場であえて周囲に逆らい、普段通りルイズを貶しにかかれるような強者であろうはずもなかった。
一方でディーキンの方はといえば、困惑するでもなく慣れた風に御辞儀をしてにこにこと周囲からの拍手喝采に答えている。
「オオ〜、どうもありがとう、ありがとう。
ディーキンはみんなにお礼を言うよ。
これからもみんながルイズを応援してくれることを願ってるの〜」
あまり目立たないやり方で事を収めることもできなくは無かったが、ディーキンはあえて非常に目立つ上に少々芝居がかった方法を取った。
その理由としては、周囲の教師や生徒らの気質を読んでこういう展開に狙って誘導したという面も無論あるが、第一の理由はディーキンの好みである。
ディーキンに限らず、バードというのは大抵スポットライトを浴びたがる目立ちたがり屋なのだ。
多くのバードは高い魅力を持っている、つまり個性が強く印象的で、人を惹きつけ纏める力に優れている。
冒険者チームのリーダーになることはあまりないが、情報収集、交渉といった社交関連は大抵バードが第一人者として担い、ムードメーカーとなることも多い。
まあ結果的には狙い通り誘導した空気に上手く教室中が乗ってくれたようだし、特に問題はない。
むしろほぼ全員にとって良い結果が得られ、ルイズや自分が賞賛まで浴びられたのだからいい選択だったといえよう。
ディーキンは御辞儀をしながら、なまじの冒険で強敵を上手く倒した時などよりもずっと大きな満足感を覚えていた。
ディーキンは昨夜の話し合いで、適当に話を切り上げたり力に訴えるような安易な方法を決して取らず、あくまで誠実に対応しようとした。
ルイズやオスマン、コルベールらもそれに答えて真剣に話し合ってくれた。
昨夜の内に心行くまで話し合い、ルイズの魔法が失敗爆発を起こすことを既に聞き出していたのが、今、この場で幸いしたのだ。
そうでなければ何故皆がルイズを静止したがるのかもわからず説得できなかったか、仮に説得できたとしてもルイズには不満を残すような結果になっただろう。
今この場でも、ディーキンが巧妙に話を持っていこうとしてもルイズやシュヴルーズらが使い魔の戯言とまともに取り合わなければそれまでだっただろう。
勿論彼女らに話を聞く気にさせたのはディーキンの技能が優れていたからであり、真摯に筋を通して話をしようと心掛けたからでもある。
しかし、それを自分一人の手柄だと思うほどディーキンは自惚れていないし、周囲の人間を軽んじてもいない。
議論は一人ではなく、誠実に対応してくれる相手がいるからこそ実を結ぶ。
仲間たちと協力した積み重ねが実を結んで良い結果を生んだことが、単に冒険で強い敵を力まかせに打ち倒した程度の事より嬉しいのは当然だ。
(………おっと、まだ安心するのは早かったね)
教室の皆はともかく、自分のやりたいことはまだ終わってはいないのだ。
それはおそらく、キュルケの隣でこちらを見つめながら、親友や周囲にならって無感動な拍手を送っている蒼い髪の少女もだろう。
ディーキンは一通り御辞儀を終えると、教師の方に向き直った。
「先生、随分時間が掛かってディーキンは悪かったよ。
窓の外とかが少し汚れたみたいだからディーキンはそれを掃除するね。
もう邪魔はしないから、どうぞ授業の続きをしてほしいの。
ルイズも席に戻って」
声を掛けられたシュヴルーズははっと我に返って少し頬を染め、小さく咳払いをする。
「あ……、そうですね、すみません。
いえ、汚れでしたら後で誰か使用人をやって綺麗にさせましょう。
あなたの申し出のお陰で助かりましたし、そんな掃除などはしなくて構いません」
しかしディーキンは首を振って、じっとシュヴルーズの顔を見つめた。
「いや、窓の外でっていったのはディーキンなの。
ちゃんと片づけをしないと申し訳ないから、ぜひやらせてくれるようお願いするよ」
シュヴルーズは心底感心したようにほう、と溜息を吐くと、満面の笑みを浮かべて何度もうんうんと頷く。
「ミス・ヴァリエールは本当に良い使い魔に恵まれたようで、嬉しい限りです。
あなたなら必ず将来は立派なメイジになることでしょう、今は分からなくて残念ですが私もあなたの爆発の原因を考えてみます。
―――――では、あなたに掃除をお願いすることにしましょう。
ミス・ヴァリエールは席に戻って……皆さん、お待たせしましたが、授業の続きを始めますよ」
「あ、ありがとうございます。
むう……、じゃあ、悪いけど―――頼むわ」
ルイズは教師に会釈するとディーキンの方を見て少し迷ったが、大人しく席に戻る。
貴族らしく掃除など任せるべきか、それとも自分の爆発で汚したのだから少しは協力するべきかと悩んだものの、授業を放り出して掃除するわけにはいくまい。
おまけにフライもレビテーションも使えない自分では、外の窓や外壁を拭くような作業は面倒だし危ない。
ディーキンは翼を持っているのだし、何となく無責任な気もするがここは任せた方がいいだろう。
しえん
「オーケー、ディーキンはこう見えても実は掃除の達人なの。
ピッカピカにするからルイズも勉強頑張ってね」
ディーキンはひとまず室内に吹き込んできた煤を先程唱えたプレスティディジテイションの効果を使って綺麗にしていく。
それから、授業を再開した教室内の様子を尻目に、窓を開けて外に出た。
「ウーン、さて……、残りも上手くいくといいんだけどね」
窓から外に出て人目を逃れると、ディーキンは一息ついてそうひとりごちた。
別に掃除をする責任を本気で感じていたわけではない。
そもそも自分がいなければ室内がもっと酷い事になっていたはずなのだから、その程度はさすがに免責されてしかるべきだと思う。
かといって人気取りとか、そう言ったことを考えたわけでもない。
自分のやりたかったことの残りを遂行するためには窓の外に出ることが必要だったので、そのための口実として申し出たというのが本当のところだ。
適当に窓枠や壁のでっぱりに手を掛けて、まず窓や外壁に残った爆発の痕跡に目をやってみた。
壁面にはどうにか取りつける程度の手がかりは十分あったが、万一落下しても自前の翼があるのだから気楽なものである。
教室内の様子からも分かっていたことだが、爆風の当たった範囲には煤の汚れが付着している。
ルイズの失敗魔法が火系統(もしくはフェイルーン的に言うならば[火]の副種別)の呪文であるかどうかは分からないが、高熱を発したことは確かだ。
実質的な有効範囲は…ディーキンの見積もりでは、おそらく半径10フィートほどか。
それ以上遠くには、まばらな煤汚れは付着しているものの、おそらく爆音を除けば大した影響はなかったように思える。
まあ事前に心構えができていなければ爆音で仰天はするだろうし、動物などはパニックを起こすかも知れないが。
続いて、爆風が当たった部分の煤汚れを、プレスティディジテイションで落としていってみる。
煤が落ちた後の外壁や窓ガラスを仔細に観察してみるが、爆風の当たった範囲であっても傷はほとんどついていなかった。
爆散した石の微細な破片がぶつかったらしい僅かな傷や痕跡は見られるが、早急に修理や交換をしなくてはならないというほどのことはない。
熱風に晒された痕跡も少々見られるが、石が焼け焦げたり溶けたりするほどではなかったようだ。
傷は微細とはいえ一応修繕はするべきかとも思ったが、メンディングの呪文で直すには、少々傷ついた範囲が広すぎる。
かといって、自力では唱えられないメイク・ホウルの呪文をアイテムを消費してまで使うのは勿体無いにもほどがある。
ここは汚れを落としておくだけで勘弁してもらおう。
爆風で吹き飛ばされたり、不意に受けてショックで昏倒する程度はあるかも知れないが、いずれにせよ明らかに非致傷的なダメージの範疇だろう。
多少距離を置けば爆風には大した殺傷力はないということ。
対象が大きい石で破片が大量に飛び散ったり、高熱を発して弾けた小石に密着していれば多少は違ったかもしれないが…。
一方で、呪文が直接対象とした小石は粉砕されていることから直接狙った対象に対しては少なくとも小さな石を砕ける程度の致傷的なダメージは及ぼすと見える。
とすると、あるいは対象に取った小石を砕いたのが主たる効果で、爆風は副産物的なものなのか?
先程ルイズが呪文を唱える際に感知できた魔力のオーラは、錬金と同じ変成術だった。
他の種類の呪文を唱える場合でも同様だろうか?
「うーん……」
まあ、ルイズの爆発がいつもこの程度の規模であるのかは分からない。
しかし教室の生徒らの様子を見るに、規模が多少違うことがあるとしても何倍も違うとは思えない。
もしも場合によっては遥かに大規模な、あるいは致命的な爆発が起きるのなら、教室中の生徒がディーキンが進み出る前に逃げ出していたはずだ。
大きな違いはないものと見なし、ひとまずこの爆発を参考に推論を立てても構うまい。
ディーキンはひとまず自分だけでそこまで考えをまとめると、他の意見を拝聴するためにエンセリックを鞘から引き出した。
「ねえエンセリック、見ててくれた? あんたはこの爆発についてどう思う?」
「――――ええ、見ていましたとも。
今の段階では何とも断定できかねますが、当て推量でよければ多少は」
エンセリックは、珍しくあまり嫌そうな様子もなく話に応じる。
普段は、剣としての仕事以外の話を振っても投げやりな答えしか返ってこない場合が多いのだが…。
昨夜の説得が功を奏したのか、それともルイズの爆発に彼の元魔術師としての関心を引く何かがあったのだろうか。
「ですがその前に、君自身の見解は何か無いのですか?
彼女は君の―――“主人”なのでしょう、お先に意見をどうぞ、コボルド君」
「ディーキンの? ウーン……そうだね」
ディーキンは聞き返されると、少し首を傾けて考え込む。
なおディーキンは会話しつつちゃんと汚れを落とす作業も継続し、加えて教室内の授業の様子にもしっかりと注意を向けている。
メモを取りたい内容はプレスティディジテイションの着色効果を応用し、ひとまず壁面に書き込んでおく。
一通り作業が済んだら羊皮紙にまとめ直せばいいし、どうせ呪文の効果は1時間で切れるため後で消す必要もないのが便利だ。
「ディーキンが思うに……、この爆発はパイロテクニクスの呪文とかにいくらか似てるかなって思うよ。
呪文の系統も同じ変成術みたいだしね」
《火炎使い(パイロテクニクス)》は変成術の一種であり、火を眩い閃光もしくは濃密な煙幕に変化させる呪文だ。
その際、対象に取った火は消えてしまう……つまり火を破壊し、継続して燃え続けるはずのそのエネルギーを一瞬の閃光や煙に変える効果だといえる。
一見してあまり共通点が無さそうな呪文だが、ディーキンは変成術でルイズの爆発と類似した魔法はこれだと直感的に感じたのだ。
そして一体何が似ていたのかと考えた結果、ルイズの爆発はパイロテクニクスが火を変化させるのと同様に石など呪文の対象となった物体を変化させる……、
つまり対象に取った小さな物体、ないしは大きな物体の一部分を破壊して、物体の形から高熱を伴う爆発のエネルギーに変える呪文ではないか?と推測したのである。
「――――ほう、なるほど? その発想は無かった、面白い着眼点です。
種別としては類似点もあるかもしれませんね」
エンセリックの方は流石に元魔術師というべきか、何故そう考えたのか細かく説明しなくともじきに理解したようだ。
「では私の推測を述べますが、君とは少し別方面の内容になります。
確かに種別としてはパイロテクニクスと類似した効果であるかも知れませんが…、あの御嬢さんの爆発は、そもそも呪文ではないと見ました」
「………? ンー、それって、どういうことなの?」
ディーキンは首を傾げた。
確かに望んだ効果ではなかっただろうが、ルイズは焦点具となる杖を持ち、呪文の動作と詠唱を行い、明らかに魔法的な爆発が起こった。
なのにそれが呪文ではないとは、一体どういう意味なのか?
「ふむ、では順を追って説明しましょう。
まずあの御嬢さんは、どんな呪文を使っても成功しない、爆発するといっていたと。
……昨夜そう聞いたと思いますが、合っていますね?」
「うん、ディーキンはそう聞いてるよ。実際に見たのは今初めてだけどね」
「ということは、あの爆発を起こすのに動作要素も音声要素も関係ないという事です。
どんな呪文に対応した身振りでも詠唱でも、同じように爆発が起こる。
もしあれが呪文であればそのようなことは有り得ない、そう思いませんか?」
「ア………」
確かに、言われてみればその通りだ。
呪文の様々な構成要素を省略したり別の物に偽装したりする技術は存在するが、ルイズがそのような高度な技術を使っているわけもない。
「ここのメイジがあらゆる呪文の詠唱に必要とするという焦点具……杖は持っていましたが、私はおそらくそれも無くてよいと睨んでいます。
杖が無くては呪文が発動しないという思い込みがそうさせているだけです。
実際には、あの御嬢さんの爆発には“呪文”を唱えようという意思さえあればおそらく音声・動作・焦点具、そのすべてが不要でしょう」
エンセリックの推論を聞いて、ディーキンは考え込む。
呪文ではない……、確かに先入観を捨てて状況から判断すれば、そうとしか思えない。
しかし、では一体あの爆発は何であるというのか?
「ンンン……、そうなると、あの爆発はなんなの?
ディーキンが口から火を噴くみたいなものなのかな、それとももしかしてサイオニックとか?」
思いつくままに意見を述べながらも、どうもそうではなさそうだとディーキン自身感じていた。
生まれつき、もしくは努力によって多少の超常能力ないしは疑似呪文能力を持ち合わせた人間はフェイルーンにも時折見られる。
ディーキン自身、訓練によって竜の血を覚醒させることで、ブレス攻撃を行う超常能力を得た身である。
だが、どうもルイズの爆発は……超常能力の一種であることは間違いないのだろうが……なんというか、そういうものとはやや違うような感じがする。
マインド・フレイヤーとも呼ばれるイリシッドを始めとする恐ろしい種族や、超能力者と呼ばれる人々が使う精神の力、サイオニック能力ともおそらく違う。
そもそもサイオニックは、普通はサイオンなどが使うものであってメイジが使うものではない。
「あの御嬢さんが特異な才能の持ち主であることは間違いありませんしいずれも無いとは言い切れませんが、私の勘ではそうではない。
私の意見としてはあの爆発は一種の温存魔力特技(リザーブ・マジック)か、もしくはそれに類似したもの、と推測します」
それを聞いたディーキンは、きょとんとして首を傾げる。
「……温存魔力特技? っていうと、《炎の爆発》とかの事…だよね?」
「そうです、君の言う《炎の爆発》はもっとも普及した温存魔力特技のひとつですね。
まあ私は覚えていませんでしたが……」
温存魔力特技とは、術者の体内に内在する呪文のエネルギーを活用して、その呪文自体を消費することなく超常的な効果を発生させるという技術である。
超常能力の一種だが、呪文を力の源としている点でブレスなどとは少し違っている。
ただし、呪文そのものというわけでもない。
例えば、ある術者がファイアーボール(ハルケギニアのドットスペルではなく、より強力なフェイルーンの)を使えるとする。
この呪文は多数の敵を一気に薙ぎ払える強力なものだが、しかし当然ながら使えば呪文は消費されて無くなってしまう。
より強力な敵に出会った時のために呪文を温存しておくべきか、それとも今使うべきかという選択はメイジにとって常に悩ましいものだ。
そこで第三の選択肢となるのが、《炎の爆発》である。
この温存魔力特技によって術者は呪文自体を消費せず、ファイアーボールよりも小規模な爆炎を起こして敵を攻撃することが可能になるのだ。
エンセリックも言うように《炎の爆発》はその優秀さからおそらく最も広く普及した温存魔力特技だが、他にも多くの種類がある。
長距離の瞬間移動呪文を温存することでごく短距離の瞬間移動をできたり、強力な召喚術を温存することで短時間の間より弱い精霊を召喚したりといった具合だ。
これらによってウィザードなど術者の多くはリソースが切れれば何もできないという難点を、ある程度克服することができる。
加えて温存魔力特技には他にも呪文に勝る利点がある。
その最たるものは、呪文ではないために発動に一切の構成要素を必要としない事だ。
動作も詠唱も焦点具も物質構成要素も必要なく、猿轡をかまされていようと杖を取り上げられていようと精神を集中させるだけで起動できるのだ。
しかも呪文のように相殺や解呪をされることもなく、多くの強力な怪物が備えている呪文抵抗に阻まれることもない。
「ウーン……、でもルイズは魔法が使えないっていうよ?」
温存魔力特技を使うには、その特技に対応したある程度高レベルの呪文、ないしは呪文を扱える力が自分の中に存在していなくてはならない。
駆け出しの、まだ呪文を唱えることすらできないメイジに習得できる物ではないはずだが……。
「あくまで仮説ですが、あの御嬢さんの中には何か強力な呪文の器が既に発動可能な状態で存在しているのです。
しかし彼女は今のところそれを解放できない―――単純に詠唱を知らないとか、あるいは他の何らかの条件がそろっていないとかでね。
そしてそのような特異な才能を持つ代わりに、通常のメイジの扱うような呪文の素養は備わっていないため、他の魔法も使えないのでしょう」
ハルケギニアのメイジは、全員が専門家ウィザード(スペシャリスト・メイジ)のようにひとつの専門系統を持っている。
彼らは後天的にそれを定めるのではなく、生まれつき地水火風の属性が決まっているのだという。
専門系統に特化する度合いは、メイジの才能や現在のランク、努力の度合いなどによって変わるが、自系統以外ほとんど使えないというメイジも多いらしい。
ディーキンはそれらの情報を昨夜本で知り、エンセリックにも伝えていた。
エンセリックはそこからルイズは非常に特殊でおそらく優秀な素質を生まれ持ち、それがゆえにその特化した何か以外の系統呪文が扱えないと推測したのだ。
フェイルーンにも、先天的・後天的の違いはあれど通常の専門家ウィザードよりも遥かにひとつの専門系統に特化したメイジが存在している。
彼らは真の専門家ウィザード(マスター・スペシャリスト)と呼ばれており、専門系統の驚異的な奥義を使いこなす。
ルイズは彼らと同様、いやそれ以上にひとつの特異な“何か”に専門化した存在であるのかもしれない。
何せそれ以外の全ての系統を犠牲にしているのだから。
ぶつぶつ文句を言いつつもしっかりと話を覚え、頭の中で仮説を立てていたあたり流石にウィザードだとディーキンは感心した。
彼の考えが正しいかどうかはまだ分からないが、少なくとも自分にはそんな事は思いつけなかったであろう。
「ウーン、あんたの意見はすごく参考になったよ、ディーキンは感謝するね。
あんたの事をあとでルイズに紹介してもいいかな?」
ディーキンに礼を言われると、エンセリックはかたかたと笑うように身を震わせた。
「ハッハッ、どういたしまして!
感謝してくれるなら私をもっと磨いて、戦いでたくさん使うようにしてください。
……ええ勿論、若い女性に紹介されるのは大好きですからね。
ああそうだ、今度一緒にどこかの街に行くというのはどうですか?
見てないのですよ、身にほとんど何もまとってない美しい女性を……、んんー…、随分長い間……」
ディーキンはそれを聞いてまた首を傾げると、エンセリックをそっと鞘に戻す。
「えーと、つまり、ディーキンにそういうのを見せてくれる店とかに入れってこと?
まあ、あんたがそうして欲しいっていうならディーキンは善処するよ。
ディーキンも、綺麗なウロコのコボルドの女の子が踊りを見せてくれる店とか、もしもあったら多分行きたいだろうからね。
……でもそういうことなら、これからはルイズが着替えてる時にはあんたを鞘から抜かないようにするの。
そうでないと、きっと彼女に失礼だと思うからね」
それを聞くと、エンセリックはまたかたかたと身を震わせて鞘を鳴らす。
「フン、別に構いませんよ。
私はああいう……、起伏が足りない感じの幼い娘は好みじゃないのでね!
まあ、君のような爬虫類に女性の胸部装甲や腰つきの引き起こす感情が理解されるとは思いませんが」
そうして最後にひとつ鼻を鳴らすような音を立てると、それきり静かになった。
もうこれ以上は話が無さそうなのを確認すると、ディーキンはエンセリックを懐にしまい込んで今後の方針を立てる。
ルイズの爆発が本当に温存魔力特技かどうか、確認するのはさほど難しくないだろう。
まず温存魔力特技ならば呪文と違い使用回数に制限が無いので、いくら爆発を起こしても精神力が枯渇しないはずだ。
杖が無くても爆発を起こせるかどうか試させてみてもいい。
通常ならできるわけがないと決めつけて試してみようとせず、仮にやってみてもできないという思い込みから精神の集中が弱まって失敗するだろう。
だが、<交渉>してその気にさせることはディーキンにとっては何でもない。
「ええと、ウーン、後は」
「……つまり、固定化を用いれば錬金を始め、より力に劣るメイジからの魔法による影響の多くを遮断できるのです。
加えて自然な経年による劣化なども防げます。
錬金と同じく、土系統を建築や生活になくてはならない素晴らしいものとしている呪文のひとつですね。
例外となるのが強い物理的な打撃で、つまりやはり土系統のゴーレムなどによるものが有効といえますが―――」
ディーキンが色々と案を練って頭をひねっていると、教室内のシュヴルーズの講義内容が聞こえてきた。
「……オオ、そうだ。固定化っていうのもあったね」
固定化は呪文の影響を遮断するというが、ルイズの爆発がもし温存魔力特技であれば呪文ではないのだから、遮断できないかもしれない。
となれば固定化で守られた物体をその影響を受けずに変質させたりできるかどうか試してみる価値はあるだろう。
しかし固定化はより力のあるメイジの呪文には無効ということなので、より確実な実験のためにはなるべく高位の土メイジが固定化した物体が欲しいところだが……。
まあ、そこまでは今考えなくてもいいだろう。
機会があり次第調達するなり、場合によってはオスマンらに相談してみてもいい。
それにシュヴルーズも協力してくれると言っていたし、トライアングルクラスの土メイジが固定化した物体なら現状でも入手するアテはあるわけだ。
「――――よし、ひとまずはこんなところだね。
じゃあ、後は……」
ルイズの爆発について今分かることは大体調べたし考えもまとまった、方針も立てた。
これで大方の仕事は済んだが、まだあと最後のひとつが残っている。
ディーキンは窓枠に手を掛けてそっと教室内を覗き込み、視線を落として黙々と本を隠れ読んでいる蒼い髪の少女の方を見つめた……。
パイロテクニクス
Pyrotechnics /火炎使い
系統:変成術; 2レベル呪文
構成要素:音声、動作、物質(火元1つ)
距離:遠距離(400フィート+1術者レベル毎に40フィート)
持続時間:本文参照
この呪文は火を眩い多彩の火花や濃密な煙雲など、術者が選んだものに変化させる。
この呪文は火元1つを対象とし、それはすぐに消える。
その火が一辺20フィート以上の大きなものだった場合、その一部だけが消える。
魔法的な火は消えないが、火に基づくクリーチャーが源として使われた場合、その対象は術者レベル毎に1ポイントのダメージを受ける。
火花を選ぶと華々しい多彩の閃光が炸裂して、火元から120フィート以内のクリーチャーを1d4+1ラウンドの間、盲目状態にする(意志・無効)。
煙雲を選ぶと火元から20フィート以内に視覚を遮り息を詰まらせる濃密な煙が立ち上り、その中にいる者の筋力・敏捷力に−4のペナルティを与える(頑健・無効)。
煙は術者レベル毎に1ラウンド残留し、ペナルティは煙の外に出てからも1d4+1ラウンドの間残り続ける。
呪文抵抗は火花の効果に対しては有効だが、煙雲の効果に対しては無効である。
《炎の爆発(Fiery Burst)》
[温存魔力特技]
前提条件:2レベル以上の呪文を発動する能力
習得者は呪文レベル2以上の[火]の呪文を発動可能な状態である限り、半径5フィートの範囲に広がる炎の爆発を回数無制限で作り出すことができる。
射程距離は最大30フィートまでで、発動可能な最高レベルの[火]の呪文のレベル毎に1d6ポイントのダメージを及ぼす(反応・半減)。
加えてこの特技を習得しているものは、[火]の呪文を発動する際の術者レベルに+1の技量ボーナスを得る。
今回は以上です。
次回はタバサ関係の話を片付けて、ようやくシュヴルーズの授業編が終わる予定。
…シュヴルーズの授業なぞにこんなに話数を使ってるのはきっと私くらいだw
相変わらず進行は遅いですが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
では、なるべく早く続きを書いていきたいと思いますので、次回もまたどうぞよろしく…(御辞儀)
おつでした
いよいよタバサ関連の話か
唐突に投下ラッシュか
ルイズが男装してモット伯と秘薬屋にいるところに
アニエスがでてくるSSを探してるんだが全く見つからない
ゼロいぬっ!じゃないかな
ここではなくジョジョとのクロススレの作品だが
ザーボンさんを召喚、フリーザさま仕えも疲れてきてて、ルイズもイケメン召喚できてラッキーと思われたが…
あの世界にザーボンさんを追い詰める奴がいないような
ザーボンさん変身するの嫌がってたし
どうも皆さん、今晩はです。
特に何もなければ22時50分から投下を始めます
初夏の陽が暮れるまで後もう少しという時間帯のトリスタニア。
その王都にある旧市街地で、霊夢とルイズたちの戦いが始まっていた。
得体の知れぬ怒りだけで自分を殺そうとする薄気味悪い自分の偽者との、通算三回目となる戦いが…
「クッ…!」
振り下ろしたナイフを結界で弾かれたもう一人の゛レイム゛―――偽レイムは、その体を大きく怯ませる。
一度跳び上がってからの攻撃だったおかげか二メイル程吹き飛び、背中から地面に倒れてしまう。
「悪いけどそろそろ夕食時だし疲れてるから、速攻で片付けるわよ」
当然それを見逃す彼女ではなく、右手に持つ二本あるナイフの内一本を、左手で握り締めながら呟く。
錆が目立つソレを持った左手の甲には、ルイズとの契約で刻まれた使い魔のルーンが懸命に光り続けている。
そのルーンは、始祖ブリミルという偉大なるメイジが使役していたガンダールヴという名を持つ使い魔の証。
ありとあらゆる武器と兵器を使いこなして主を守る矛となり、盾となった伝説の存在だ。
(今まで滅多に光った事なんか無かったけど…今ならどうかしら?)
昼頃から光り続けるそれに一途の願いを込め、霊夢はナイフを握る左手に力を入れる。
瞬間、ゆっくりと光り続けていたソレに命が入り込むかのように、一瞬だけ眩く輝いた。
それに気づいた霊夢が目を見開かせると同時に、地面に倒れていた偽レイムがゆっくりと立ち上がる。
右手のナイフを逆手に持ち替え、じっと佇む霊夢へと再度突撃を仕掛けようとする。
結界のせいで距離を取らされたが、本物以上の身体能力を持つ偽レイムにとって大した影響はない。
すぐに腰を低くし、錆びに塗れた刀身を霊夢のわき腹に刺そうと考えた瞬間――――――
「レビテレーション!!」
突如、右の方から鈴の様な声を持つ少女の叫びが耳に飛び込んできた。
その声に動き出そうとしていた足が止まり、一体何なのかと振り向こうとした直後、足元の地面が爆発する。
あまり大きくも無い爆発音とともに地面の土煙が舞い上がり、偽レイムの視界を一時的に遮断した。
何の前触れもなく起こったアクシデントに何も見えなくなった彼女は突撃も行えず、その体制を大きく崩してしまう。
偽レイムは自分の攻撃を一方的に阻止された事に対し、何の躊躇いも無く舌打すると、煙の向こうから少女の怒鳴り声が聞こえてきた。
「わ、私だって戦えるの!ただ…ぼ、傍観してるだけじゃな…ないわよっ!?」
多少噛みながらも何とか言い切った少女の声は不幸か否か、敵に居場所を教える事となる。
優先的に排除しようと決めたのか、整備されていない道路をブーツで擦りつつも、彼女は右の方へと目を向けた。
ほんの十秒ほどで消え去った土煙の向こうにいたのは、偽レイムへと杖を向けるルイズであった。
細い体を小刻みに震わせながらも、彼女は自分が召喚した巫女と同じ姿をした存在に攻撃を加えたのである。
「ヒッ…」
そして攻撃の際に舞い上がった煙が消えた時、相手の視線が自分の方を向いたのに気付き、その口から小さな悲鳴を上げてしまう。
鳶色の瞳を丸くさせたルイズは端正な顔に恐怖の色を浮かべ、ナイフを手にした偽レイムと対峙する。
彼女の目は今もなお赤く光り続けており、それを見続けているだけで足が震えてくるような錯覚に襲われてしまう。
そんな相手に首を絞められ、死の淵に立たされた彼女であったが、それでも逃げるという選択肢は頭の中に無い。
恐怖のあまり流しかけた涙をと堪えるように目を無理に細め、杖を持つ手には更なる握力と精神力を注ぎ込む。
体中から掻き集めた精神力は右手を通して杖に入り込ませると同時に、口を動かし呪文の詠唱を行う。
ヴァリエールというこの国の名門貴族の末女としての生を授かり杖を持たされてから、何百回と行ってきた事だ。
既にその顔からは恐怖が拭い取られ、目の前の相手に断固負けはしないという気合が籠っている。
その呪文を聞いてまたあの爆発が来ると察したか、偽レイムが攻撃態勢に入る。
獲物に跳びかかる直前の猫の様に腰を低くし、逆手に握るナイフを後ろへと隠す。
そうしていづても動けるようになった直後、短い詠唱を終えたルイズが杖を振り上げた。
オーケストラの指揮者が持つタクトと酷似したソレを振り下ろせば、またあの爆発が来る。
ならば下ろす前にトドメをさす。今が好機と判断してか、身構えていた偽レイムが地面を蹴って接近しようとした。
――――――しかし。
「アタシって、そんなに人の話を聞かない人間だって思われてるのかしらねぇ?」
そのブーツで地面を蹴り飛ばし、一気にルイズへと近づこうとしたその直前。
気怠さを隠す気配も無い言葉を放った霊夢が、偽レイムの左肩に遠慮も無く一本のナイフを突き刺した。
「ガッ!?」
気づいたときにはもう遅く、熱いとも言える激痛に偽レイムはカッと目を見開き、その場で大きくよろめく。
それでも戦えるのか、接近を許してしまった霊夢にせめてもの一撃をお見舞いしようと左手に持つナイフを大きく横に振った。
しかしそれは読まれていたのだろう。まるでスキップするかように小さく跳躍した霊夢は、その一撃を難なく回避する。
茶色の靴が地面を三回叩いた時には、霊夢は先程まで佇んでいた場所に戻っていた。
「レイム!」
時間にして五秒の間に助けられたルイズは、恩人の名前を呼ぶ。
しかしそれに応える素振りを見せない霊夢は面倒くさそうな表情のまま、空いた左手でポリポリと頭を掻いている。
「流石に二回も刺したら動きが鈍るかと思ったけど…痛みに鈍いんじゃ酷いくらいに面倒だわ」
右手に持つ最後の一本を左手に持ち替つつも、彼女は敵が健在であることに多少の辟易を感じ始めてしまう。
彼女の視線の先にいるのは、自分と同じ姿を持ちながらも、自分以上に凶暴な戦士だ。
肩に刺さったナイフをそのまま放置している偽レイムは、息を荒げつつも既に攻撃体勢を取り直していた。
加勢として失敗魔法を放ったルイズも、この位置にいたらまずいと察したのか、霊夢の方へ近づこうとする。
「ウ…グッ…!」
やや早歩きで移動する間、偽レイムは肩に刺さったナイフをそのまま呻き声を上げていた。
呼吸も乱れているのか、体全体が上下に動くかのように揺れてもいる。
しかしまだまだ戦えると宣言したいのか、その目でもって霊夢をジッと見つめている。
睨まれている彼女は特に身構えてはいないが、体から漂う気配からは緊張感が混じっていた。
何時相手が動き出すのか分からぬ状況の中で慎重に移動したルイズは、ようやく霊夢の傍へとたどり着く。
多少なりとも身構えたままのルイズは、相手を射抜くような視線を逸らさず、そっと口を開いて喋る。
「一体何が起こってるのよ…全然理解できないんだけど」
まるで誰かに質問するかのような喋り方に、隣にいる自分が話しかけられているのだ霊夢は気づく。
いつ攻撃を再開してくるかも知れぬ敵を見据えたままの彼女は、肩を竦めながらもそれに答える。
「それは私の方が聞きたいところよ。もうこっちは疲労困憊まであと一歩っていうのにさぁ」
「本当かどうかは分からないけど今のアンタの顔見ると、はいそうですか…って言いたくなるわね」
連続して降りかかる厄介ごとに辟易してしまった気分を隠さぬ返事に対し、ルイズは肯定的な言葉を送る。
それどころか、気怠そうな彼女に同意するかのごとく小さく頷いてみたりもした。
思えば霊夢と出会ってから今に至るまで、確実に五本指に入るくらいの異常な日であるのは間違いない。
今まで光る所を一回だけしか見なかったルーンの発光や、彼女のそっくりさんに殺されかけたりもした。
自分と魔理沙が見いぬところで同等…もしくはそれ以上の体験をしているであろう霊夢の苦労は、その顔を見ればある程度わかる。
夜遅くまで王宮で働き、朝早くに領地の視察を命じられてしまう哀れな下級貴族。
繊細すぎる彼の心は盛大な音を立てて壊れていくのを感じ取り、叫ぶ。始祖よ!この私に休息をお与えください――――と
疲労の色が濃ゆく滲む彼女の顔を見ながら、ルイズは脳内で小さすぎる寸劇を鑑賞していた。
もはや過労死まで五秒前という寸前の状態に苦笑いを浮かべつつも、思い出すかのようにハッとした表情を浮かべる。
今は妄想を思い浮かべるのではなく、もう一人のレイムをどうにかする時間なのだ。
そうして現実へと戻ってきたルイズは霊夢の横に立ちつつ、杖の先端をゆっくりと偽レイムに向ける
(とりあえず目の前の敵…を片付けたらお疲れ様とでも言ってあげようかしら)
自分以上の苦労を背負背負っている同居人へ、ルイズはとりあえず程度の同情心を抱いた。
「まぁまぁこれは、随分とごちゃごちゃとした展開になってきたじゃないの?」
一方そこから少し離れた場所で、イレギュラーのキュルケは能天気そうに二人の霊夢を見つめている。
ルイズよりも前に首を絞められていた魔理沙は彼女の後ろで蹲り、未だに元気を取り戻せない。
最初と比べ多少なりとも回復はしたが、苦しそうに咳き込み続ける姿は何処か痛々しいものがある。
そんな彼女の前で平和そうに佇むキュルケであるのだが、これから先どうしようかと内心悩んでいた。
当初の予定としては、こんな廃墟へと足を踏み入れようとしたルイズを問い詰め、何があったのか聞く筈だった。
しかし今の状況を見れば、すぐに只事ではないと゛何か゛が起こっているのだと察せる。それも現在進行中で。
(どうしようかしらねぇ…飛び入り参加した私はどう動けば良いのか分からないわ)
魔理沙と交代するようにルイズが首を絞められた時に持った自分の杖は、未だ手中にある。
傷一つ無く、かといって新品でもない使い慣れたソレは、まだこの場で一度たりとも魔法を放ってはいない。
メイジにとって己の半身とも言える杖を手に、キュルケは自身の体に力を込めていく。
それと同時に、今の自分がどう行動するべきなのかも決めていた。
とりあえずルイズと左手が光ってる゛レイム゛に味方をし、血だらけの゛レイム゛と戦うか。
逃げる事はしないが、とりあえず手出しするのは危険だという事で様子見と洒落込むか。
二つの内一つしか決められぬ選択だが、キュルケはもう答えを決めていた。
否、彼女の性格を考えればどれが答えなのかはすぐに分かるであろう。
(色々とややこしい事になりそうですけど、知れそうなことを知らないまま過ごすのは不快ですわ)
もう後戻りはできない。自分へ向けてそう言い聞かせるような決意をした、後ろから声が聞こえてきた。
声の主が自分の後ろにいる魔理沙だとすぐに気づいたキュルケは、軽い動作で振り返る。
「ゴホッ…よぉ、何だか騒がしいなぁ?…ゲホッ!」
そこにいたのは、地面にうつ伏せた姿勢から右手だけで体を支えつつ、上半身を軽く起こした魔理沙であった。
一、二回ほど小さな咳を混ぜつつも聞こえてくる快活な声は、ほんの少しだけ苦しそうに見える。
「あら、無理しなくても良いですのよ?何か本物かもしれないレイムが来てますし」
「かもれしれないって、曖昧…過ぎるだろ。もうちょっと…見極めてから、言ってくれよな…?」
無理をしているのではないかと思ったキュルケは、今の状況を手短かに伝えつつまだ休んでろと遠まわしに言う。
だが気遣いは無用と返したいのか、彼女の言葉に魔理沙はニっとその顔に笑みを浮かべながらも返事をする。
元気そうな笑顔を浮かべたいのだろうがまだ完全に回復してないのか、何処か苦々しい。
痩せ我慢しているという事が見え見えな彼女の姿を見て、キュルケはヤレヤレと言わんばかりに肩を竦める。
(類は友を呼ぶというモノかしら?あれじゃあ何時死んでもおかしくないわね)
物騒な言葉を心の中で呟いたとき、霊夢達の様子を見つめていた魔理沙がアッと声を上げる。
何かと思い振り返っていた頭を前に戻した直後、二対一の戦いが再び激しくなったのだ。
暫しのにらみ合いは、偽レイムが体を動かした事によって終わりを告げる。
先程の様に地面を蹴飛ばした彼女は、何とか視認出来る速度もって突撃を仕掛けてきたのだ。
右手に握る武器の先端をの真っ直ぐと、目前にいる二人へと向けて。
その内の一人であるルイズがハッとした表情を浮かべて杖を構えるよりも先に、彼女の隣にいた霊夢の動く。
相手が突き出してくる錆が目立つ刃先は、自分の胸を目指してくる。
「よっ…と」
それに気づいた霊夢は結界を張ることはせず、左手に持ったナイフをスッと構えた。
まるで自分の宝物だと言って他人に見せるかのように、錆びついたソレを軽い感じで目の前まで持ち上げる。
ルイズはその事に気づいてか、目を丸くして驚いたが…その口を開いて問いただすことは出来なかった。
「どうし――きゃ…っ!」
彼女が喋ろうとした瞬間、それなりの速度で突っ込んできた偽レイムの攻撃を、霊夢はナイフ一本で防いだのである。
金属同士が勢いよく衝突することで僅かな火花が散り、ついでノイズ混じりの甲高い音が周囲に響く。
二人の傍にいたルイズはその音に驚き、悲鳴を上げて耳を防ぐ。
それで両者の争いが止む筈が無いことは当然であり、それどころか益々酷くなっていく。
両者共にゼロ距離ともいえるくらいに近づいており、互いに押し合う錆びた刀身が、嫌な音を奏でる。
武器を握る手が小刻みに震えるたびに刀身すら揺れる光景は、正に死霊が踊っているかのようだ。
しかしこの鍔迫り合い、以外にも短い時間で終わりを迎えそうであった。
一見すれば互角に見えるが、受け止めた直後と比べ霊夢の足がゆっくりと後ろへ下がり始めている。
対して偽レイムの方は慎重に前へ前へと進んでおり、どちらが有利なのかは火を見るより明らかだ。
(やっぱ腕力は向こうが上ってところか、段々キツクなってきたわね)
下手すれば即死していたであろう攻撃を防いだ霊夢であったが、内心では愚痴を漏らしている。
さっきから頭の中に呟いている声に従い武器を拾ったものの、何も変わったような気がしない。
ルーンが伝承通りのモノならばありとあらゆる武器を使いこなせるらしいと聞いたというのにだ。
「無理せず結界でも張った方が良かったかしらね?」
「そんな事を言う暇があったら、相手を押し返しなさいよっ!」
無意識の内に口から出たであろう彼女の言葉に突っ込みを入れたルイズが、杖を振り下ろす。
両者がナイフ越しに睨み合っていた隙をついて詠唱を終えいたようだ。
「レビテレーション!」
先程と同じ呪文を力強くハッキリと叫んだ瞬間、偽レイムの足元に鋭い閃光が走る。
だが相手は本物と同じで、何度も引っ掛かるような人間ではないらしい。
ルイズの魔法が来ると察したか、傷だらけの体の重心を右へと傾け、ついで足もそちらの方へ動かす。
地面に食い込まんばかりに力を入れていた両足はあっさりと動き、流れるような動作で偽レイムは移動した。
結果、足元で発動し彼女を吹き飛ばす筈だった失敗魔法は、ルイズと霊夢に牙を向ける。
「ちょっと、わ…っ!」
「あぁっ…!」
威力こそ小さいが、爆発で舞い上がる土煙のせいで、霊夢は反射的に目を瞑ってしまう。
彼女の隣にいたルイズも同様であり、二人仲良く寂れた道路に蓄積していた煙を浴びる事となった。
両者共に目を瞑って咳き込む姿はマヌケにも見えてしまうが、今の状況では酷いくらいに場違いである。
何故なら、土煙をやり過ごした偽レイムにとって、この煙は予期せぬ好機を運んでくれたのだから。
爆発が来ると読んで先に目を瞑っていた彼女は、閉じていた瞼をサッと開ける。
灰色の絵具を三、白色の絵具を二で割ってできあがったような色の煙幕が、辺りを包んでいる。
爆発自体はさほど大したものではなかったが、爆風だけが強かったせいだろう。
まるで山間部に出る濃霧の如く濃ゆいソレは、彼女の視界を際限なく殺していた。
このままじっとしていれば土煙は自然に晴れるだろうが、生憎そんな悠長にしている暇は無い。
煙が消え去る事は即ち自分と同じ姿を持つ相手と、その隣にいた少女の視界も戻る。
そうなってしまう前に、今の状況を利用するのだ。怪我を負ってしまった自分が二人の相手に勝つために。
「この馬鹿っ…ゲホ……ッ何人の…邪魔してんのよ」
全てを一時の間隠す煙の中から、声が聞こえる。
何故か知らないが私と同じ姿を持ち、私自身が倒さなければいけない黒髪の少女、霊夢。
咳き込みながらもハッキリとした声で怒鳴る彼女に、鈴のように繊細でありながらも激しい声の主が反論する。
「コホッ…コホッ…うるさいわね!アンタが変な事して…ケホッ、危機に陥ったから助けただけじゃないの!?」
まだ会ってから数分も経たないであろう桃色のブロンドが眩しい少女。
一目見ただけでも彼女はどこか名家の生まれなのだと思ったが、それが勘違いだと思わせるくらいに性格が激しい。
今みたいに怒鳴る事もあれば、いきなり攻撃してきたうえに武器らしい杖を向けてきたのだ。
挙句の果てに自分を霊夢と勘違いしてか、彼女の名前を連呼してきて一人で泣きそうになっていたのは覚えている。
このままではヤバいと思い最初に近づいてきた魔法使い同様に首を絞めたのだが、流石にアレはやり過ぎた。
軽く投げ飛ばしていれば霊夢にナイフを投げつけられる事も無かったし、文字通り手痛い傷も受け――――――あれ?
――――――霊夢って、誰だっけ?
数分前の事を思い出した私は、霊夢という名前に対しそんな疑問を抱いてしまう。
以前にも、そうずっと前に何処かで聞いたことのあるのだ。変わっていると思ってしまうその名を。
霊夢。神仏との関わりが深い言葉を名前に使うような人間は、おそらく一人しかいないであろう。
その一人しかいないであろう名前を持つ少女が、今自分の目の前にいる。
―――じゃあ、彼女が霊夢ならば…私は誰なのか?
何故霊夢を倒さなければならず、それどころか自身の体に渦巻く゛怒りの感情゛の原因となっているのか。
それよりも優先的に知りたいのは、記憶喪失と言われても仕方のない事であった。
自分の思いを他人に話して頭を打ったかと心配されても仕方ないし、別に話す必要もない。
他者の力を頼りにしなくとも、私は生きていけるのだから。今も、これられも…
それなら、何で霊夢という他人の名前にこうも引っ掛かってしまうのだろうか?
無意識の内に脳裏を過る自身の疑問に自答している最中、私は過ちを犯したことに気が付く。
傾き始めていた頭を急いで上げると、辺りを覆っていた土煙が薄くなっており、すぐ近くにいるであろう敵の影が見える。
くだらない事に貴重な時間を使ったた。思っている以上にボケている自分に苛立ちつつ、身を構える。
しえん
本当なら煙が濃い間に決着を決めたかったが、今ならまだ間に合うかもしれない。
いつ折れても仕方がない程刀身が錆びたナイフを持つ手に力を入れ、腰を低くして突撃の体勢に入る。
攻撃への手順を踏んでいく間にも煙は晴れていくが、向こう側にいる相手は未だ口論を続けている。
そのまま続けていて欲しい。せめて、自分が貴女たちを殺せる距離に接近できるまで。
若干血なまぐさい願いを頭の中でぼやきつつ、いざ参らんと足を動かそうとした瞬間―――風が吹いた。
陽が暮れつつも未だ街中に残る熱気を吹き飛ばすかのような、一陣の突風。
背後から吹いてきた自然の息吹きは彼女の体を怯ませはしなかったものの、土煙には効果があった。
周囲の光景を隠していた煙は、まるでその役目を終えたかのように初夏の空気と共に舞い上がる。
その結果、つい一分ほど前に考え付いた偽レイムの作戦は呆気なく瓦解した。
「ちょ…っ、アイツまた攻撃を…ルイズ!!」
煙の外にいた二人の内一人であるキュルケが、目を丸くして叫ぶ。
ルイズの起こした爆発の生で状況を把握できなかった彼女は、口論を続けるルイズたちへ注意する。
しかし、こんな所で始まった言い合いに夢中になっているのか全く気付いていない。
「はぁ、私の妨害に来るのなら大人しく学院に帰ってくれれば良かったのに」
「うるさい、このお茶巫女!アンタこの私にどれだけ心配させたら気が済むのよ?」
熱を帯びたルイズとは対照的に冷たい霊夢も、今は相手との会話にご執心のようだ。
まだ戦いは終わっていないというのに、もう全てが片付いたと言わんばかりに腕を組んでルイズと向かい合っている。
一応左手にナイフを握っているが、相手はすぐに動けるよう腰を低くしている。
今の二人は、狼の目の前で血の滴る生肉を振り回す愚者そのものだ。
これでどちらかが致命傷を喰らったとしても、油断していたお前が悪いと言えるだろう。
「おいおい…あんなときに口喧嘩とか、ルイズも霊夢も暢気な奴らだなぁ」
地面に座り込み、少し荒い呼吸を繰り返す魔理沙がその顔に苦笑いを浮かべつつ、そう言った。
そして、彼女の言葉にキュルケは多少の同意はしたのか、顔を前に向けたまま「さぁ」と言って肩を竦める。
あぁお前もか。魔理沙はそう言いたげな笑顔を浮かべると、偽レイムの方へ目を向ける。
場違いな争いを行う二人とは反対に、自分の知り合いとよく似た姿をした敵の動きは止まっていた。
腰は低くしたままではあるが、もはや煙とも呼べない土の粒子が舞う空間の中で、ルイズと霊夢を凝視している。
これは流石に不味いなと思った魔理沙であったが、同時に相手の様子に異変が出始めたのに気が付く。
「なぁおい…、あいつ、何かおかしくないか?」
魔理沙の口から出た言葉にキュルケはキョトンとした表情を浮かべ、彼女と同じ方向へ目を向けようとする。
口論を続ける二人へと向けていた瞳がゆっくり左へと動いていく―――その最中であった。
錆びついたナイフの刀身を、砕かんばかりに地面へと叩きつける激しい音。
不気味だと思えるくらい青白く発光する、痛々しい切創が残る左手。
まるで獲物を跳びかかる狼の様に、地面を蹴り飛ばす右足。
キュルケと魔理沙の目では、赤い影だと見えてしまったほどの瞬発力。
「ッ…!?」
そして、自分とルイズに急接近する嫌な気配に、霊夢がハッとした表情を浮かべるよりも早く、
接近を許してしまった偽レイムが、勢いよく殴り掛かってきた。
先程まで無表情だったとは思えない程、憎悪に満ちた表情を浮かべて。
これで今回の投下は終了です。ちょいと短めだったかな?
明日から三月ですが、この分だと寒い日はまだ続きそうですね
それでは、また来月の末にお会いしましょう
乙
みなさんこの調子で帰ってきてくれい
横島を召喚はざらにあるけど、ほかのGS美神キャラを召喚はどうなるかな
六道冥子が来た場合にはルイズだけでなく学院全体が毎日恐怖におびえることになりかねんな
>>237 冥子は契約のルーンが刻まれた瞬間の痛みでプッツンしそう
美神の場合は……どうだろう
単純に契約拒否するか法外な金銭を要求するかのどっちかだとは思うけど
偽レイムのショウタイハイッタイダニェナンダー!?
ドクターカオスが召喚されたらコルベールと変な化学反応を起こしそう
あの人、この世界のレベルで理解できる程度の基礎は全部忘れてそうだからなぁ……
242 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 22:51:26.85 ID:kgboFFTz
遅くなって済みませんです。もし予約がないのなら、11時から新作の投稿を開始しようと思います。
243 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:00:27.34 ID:kgboFFTz
それでは始めます。
「……ねえ、お姉さま」
「…何?」
「わたしたち、今何しているのね?」
シルフィードはため息を吐いた。そしてやり切れなさそうな顔でタバサを睨みつける。
さっきまで自分達は料亭でご飯にありついていたはずである。なのに……。
「もう、ミノタウロス討伐とか、無茶もいいとこなのね!!!」
シルフィードの遣る瀬無い叫びが、周辺に響いた。
その料亭で、一人の老婆とタバサ達は出会ったのだ。どうやらタバサを騎士と見込んで頼みごとを持ってきたようだった。
その内容は…あろうことかミノタウロス討伐任務。村を荒らし、生贄という名の人質を要求する。今の惨状に困った老婆は、なけなしの金で必死にお願いしてきたのだ。
普通なら、単独でミノタウロスを討つなんて自殺行為もいいところである。だがタバサは、あろうことかこれを了承したのだ。
今日の昼頃まで、楽しげに肉料理を頬張っていたシルフィードは、この現状を憂いた。
その鬱憤をタバサにぶつける。
「そしてこの格好はなんなのね!!」
今タバサとシルフィードは、薄暗くなる月夜の中、早速討伐に乗り出した訳なのだが…。
引きつけ役に(勝手に)選ばれたシルフィードは、何故か本来生贄にされるはずだった少女の成りをさせられ、おまけに縄でグルグル巻きにされて連行されていた。
主人と同じ自慢の青髪は今、その少女に似せるため茶色に染められており、服もそれみたいなものを着せられている。
こんな囮まがいの行為ですら許せないというのに、自分の鱗を象徴する色まで替えられた事に、シルフィードは大変ご立腹だった。
「おいちびすけ、わたしを何だと思っているのね。この誇り高き古代種シルフィードに向かってこんなこと…、種に対する敬意ってものを少しはみせてほしいのね」
縛られ連行されながらきゅいきゅい喚くシルフィードを無視しながら、タバサは連れ歩く。
やがて見えてきたのは、広々とした空間に切り立った崖、そこにポッカリと空いた空洞だった。あそこがミノタウロスが潜むという噂の洞窟だ。
「じゃあ、わたしはこれで」
「ちょ…おねえさま! ……おいこらちびすけ!! まだ話は―――」
シルフィードはその洞窟の前で転がされると、タバサはいそいそと茂みの奥に隠れていった。
「いつか噛み付いてやる……」
取り敢えず呪詛の言葉をタバサの方へ投げつけたシルフィードは、改めて洞窟の中を覗き込んだ。
(うぅ…やっぱり怖いのね…)
曲がりなりにも竜族であるため、それなりに夜目が効くシルフィードでも、暗い洞窟の奥では中がどうなっているのか分からない。
腕を縛る縄は、いつでも抜けるように出来てるとは言え、それでもこの光景はシルフィードの恐怖を煽った。
そして、こうやってずっと佇んでいると、様々な不安がシルフィードを襲ってくる。
(おねえさま、本当に勝算があるのね?)
シルフィードは疑問だった。何度か躍起になって説得を試みたが、流石にミノタウロスを知らないなんてことはないだろうし、タバサだって勝目のない戦いはしないはず。それは短くも長い付き合いの中で分かっている。
けど…とシルフィードは思う。魔法にも相性がある。タバサの扱う『風』系統は、刃を使った攻撃が多い。そのため頑丈な皮膚が刃を通さないミノタウロスには、とことん不利な相手なのだ。
そんな相手に囮だけで何とかなるものだろうか…と思案した矢先、ズシン…、ズシン…と響くような音が洞窟から聞こえた。
(き、来たのね……)
その瞬間、周りの森に住んでいた鳥や動物はは群れをなして逃げていく。その中シルフィードだけは縛られたまま、ただぽつんと一人座っていた。
244 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:04:16.81 ID:kgboFFTz
「…きゅい……、きゅい!」
伝説の古代種の割には、何とも情けないような声をシルフィードは上げた。
真っ暗闇だった洞窟から、二つの小さな光が現れる。それが月夜に照らし出され、目の形を作り出した。
それと共に、その全貌が徐々に明らかになる。腕、足、体格と順々に……。
シルフィードは、体を震わしながら『それ』を見上げた。
筋骨隆々の体躯に、二メイル近くはある巨大な背丈。
体こそ人間のそれと同じだが、首から上は雄牛そのもの。突き出た角が禍々しくねじれ、口からは獣のような臭いを発散させている。そして右腕には巨大な大斧が握られていた。
凄まじい圧迫感を醸し出すそれは、間違いなく凶悪な怪物、ミノタウロスのそれだった。
「お…おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「きゅいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
怪物の咆哮と共に、シルフィードもはち切れんばかりの悲鳴を上げる。
慌てて逃げ出そうとするが、縄で縛られていた事を思い出し、ズテンとすっ転ぶ。
縄を解こうにも、ミノタウロスのひと睨みがシルフィードの身体を金縛りにした。
「お、…おねえさま……」
涙目になってタバサの方を振り向くシルフィードに構わず、ミノタウロスはその大斧を思い切り彼女めがけて振り上げ―――――。
―――――そして、シルフィードの目の前にズドンと突き刺さった。
「………?」
目を瞑って天命を待ったシルフィードは、何事も起こらない今の状況にゆっくりと目を開けると……。
何故かはらりと、腕を縛っていた縄が解けた。
「? ? ?」
何が何だか分からないシルフィードは、恐る恐るミノタウロスの方を見上げた。
「怪我はないかい、お嬢ちゃん」
牛の形相をした口から、はっきりとした人間の声が聞こえてきた。シルフィードはますます混乱した。何で? 何で助けたの?
いやそれより…何で喋ってんの?
「お、おねえさま……?」
訳が分からないシルフィードは、思わずまたタバサの方を振り返った。見ると、タバサも茂みから姿を現し、不思議そうな表情でミノタウロスを見ている。
「貴方は、ミノタウロス…?」
「いかにも。まあこの姿を見ればそうだな」
そう言って、ミノタウロスは親密そうな声でラルカスと、そう名乗った。
ラルカス…? と聞いてシルフィードはピンと来た。
「あ、そう言えば村の人が言ってたのね! 昔いたミノタウロスを倒した英雄だって!」
それを聞いたラルカスは、少し困った様な表情をした。
「そういう風に広まっているのか…まあ今の村の民がこの姿を見たら驚くことだろうな」
きょとんとしたシルフィードが、再びまくし立てるように尋ねる。
「何で英雄が怪物になっているのね? それに最近の人攫いはあなたの仕業じゃないのね?」
「おいおい、人攫いとは失敬な。それを言うなら君たちこそこんな所で何をやっていたんだい?」
それぞれの疑問をぶつけ合うシルフィードとラルカスを置いて、タバサは一人考え込む。
こんなフレンドリーなミノタウロスに会ったことにも驚いたが、何より自分の予想していた事が外れたことに疑問を持っていたのだ。
元々ミノタウロスは選り好みなんかしない。若い娘なら何でもいいはずだ。わざわざ指定なんかしてこない。
そこに引っかかったタバサは出かける前、予め怪物が書いたと思われる、生贄についての書体をその目で見たのだが……、あれは間違いなく『人間』が書いたものだった。
あのミノタウロスも、完全な白とは言い切れないが…、少なくともあの大きな手で筆を握るのは難しいはず。
そう思ったタバサは、生贄についてのあらましをラルカスに話した。
「ふむ…そんなことが起こってるのか…」
事情を聞いたラルカスは、暫くタバサと同じように考えを巡らしていたが、すぐに答えは帰ってきた。
「そう言えば…近頃子供が誘拐される事件というのを聞いたな。それに最近、ここいらを縄張りにして彷徨く連中が現れ始めたのだが…もしかしてそっちを追っていたのか?」
ラルカスの問いに、タバサはコクリと頷いた。タバサにとっての本命は、寧ろそっちだったからだ。
ミノタウロスの存在の噂も、自分のような貴族を寄せ付けないためのカモフラージュとして活用していたと考えれば、噂ありきのこの場所は絶景の隠れ家と言えた。
まさかそこで本物のミノタウロスに出会うとは思っても見なかったのではあるが…。
ラルカスからの話を聞く限り、まずこの推理に間違いはないだろう。タバサはそう確信した。その時―――――――。
245 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:08:17.81 ID:kgboFFTz
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
悲鳴が、森の方から聞こえて来た。タバサ達は素早くその方角を振り向く。
「え…何なのね…?」
「噂の人攫いか、だが……?」
ラルカスも森の茂みを見てそう推測する。だが流石にこの距離では何が起こっているのか、完璧には分からなかった。
そうこうしている間に、タバサは走り出す。
「あっ、待ってなのね!! おねえさま!!」
タバサの後ろ姿を追うように、シルフィードとラルカスも後に続いた。
それは、タバサ達がラルカスに出会う、少し前のことだった。
巷で噂の連中、俗に言う人攫いの連中はこの時、鬱蒼とした森の中を馬車で走らせていた。
馬車の荷台には屈強な男たちが数人、剣やら銃やら槍やらをチラつかせながら、『商品』を愛でるように眺めていた。
その『商品』…。人さらいにあった若い女性達は、皆一様にして縄で縛られ、叫べないよう猿轡を噛ませられた状態で、只々泣いて震えていた。
「今日は大量だな。ジェイク」
「ああ、まあ最後のひと仕上げが残ってるけどな」
ジェイク、と呼ばれた大男は、ミノタウロスの被り物を手で触りながら、そう言った。
最後の仕上げ。それは紛れもなくあの貧しい村の娘のことだった。
ハルケギニアでもこういう光景は珍しくない。誰かに攫われ、何処かに売り飛ばされる。このような不安定な世情では、それが平然とまかり通るのも致し方のないことだった。
「ま、どうせ直ぐ終わるさ。あっちはこの嘘っぱちなミノタウロスを信じきってんだからな!!」
被り物を叩いてジェイクは大声で笑うと、その後ろから諌めるような声が飛んだ。
「気を抜くな、任務というのは金をもらうまでが仕事だ。いつ、どこで、何が起こるか分からんからな…」
そういうのは、この人攫いのリーダー格とも思しき男。杖を持つところからメイジのようだが、貴族とは思えないような垢抜けた容姿をしていた。
男に名は無かった。否、捨てたと言ったほうが正しいか。勢力争いに負け、傭兵に身をやつす元貴族もまた、この世界では当たり前のことだった。
「おいおい、生贄として差し出された娘を頂くだけの仕事だぜ! どこに不安材料があるってんだよ!」
メイジを見て他の男が笑う。皆はもう、すっかり楽な仕事だとタカをくくっていた。
だが、不幸というものは時として何の前触れもなく襲い来るものである。
彼等の不幸は、道中あの男に出会ってしまったことだった。
「うぉっ!! 何だ!?」
ジェイクが慌ててそう叫ぶ。目的地にはまだ着いてもいないのに、急に馬車が止まったのだ。
「おいテメェ!! 一体何やって……」
ジェイクは馬乗りに文句を言おうとして、荷台から身を乗り出し……、そして何故急に馬が止まったのか、その理由を理解した。
馬の進行方向を、道行く一人の男に塞がれてしまっていたのだ。
今度はジェイクは、その男を怒鳴り込んだ。
「おいそこの!! さっさとどきやがれ!! 轢き殺されてぇのか……」
暗闇に目が慣れたことで、男の容姿を視認できたジェイクは、そこで一瞬言葉を失った。
目の前にいるのは、全身包帯で巻かれた木乃伊のような男だった。肩に担いでいるマントを見て、どうやら貴族であるらしかった。
ジェイクは、男が貴族だということよりも、その焼け爛れた姿を見て驚いていた。
対する男は、呑気そうな声でこう言うと、その馬車をまじまじと見つめた。
「んあ? ああ悪かったな。馬の蹄が聞こえたんでな、何かと思ったまでだ」
「いいから早くどきやがれ! 邪魔だって言ってんだよ!!」
ジェイクはイライラしながら怒鳴り込んだ。時間がないというのもあるが、正直この男と余り関わりたくなかったのである。
その時、荷台の方からバタバタと音がした。
「こら!! 暴れんな…てめえ!」
そんな声が聞こえたかと思うと、今度は縛られ猿轡をされた女性が数人、荷台の方から落っこちてきたのだ。
貴族が助けに来てくれた。そう思い込んだ女性達が、ここぞとばかりに気力を振り絞って外へとはい出てきたのである。
246 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:14:09.99 ID:kgboFFTz
「んむぅぅ…んんんん!!」
女性は、男の尋常じゃない容姿を見て、驚きとも恐怖ともつかぬ声を上げたが、肩に持っているマントを見て、貴族だと安心して助けを求めた。
困ったのは人攫いの方である。まさか人に見られる失敗を犯すなんて、考えもしなかったのだろう。
対する男は、こんな状況にも関わらず平然とした様子で、薄らと笑みまで浮かべて言った。
「人攫いも結構だが、次はもっとバレねえようにやんな」
これで、人攫い達は覚悟を決めた。
剣、銃、槍で完全に武装しながら、男を囲むように荷台から降り立った。ジェイクもまた、怪物用の大斧を取り出し立ちはだかった。
「わりぃが…見られたからには生かしておけねえ」
「恨むんならさっさと退かなかったテメェの愚かさを恨みな」
そう言いながら、殺気を放って男に滲みよる。何時でも討ってでる準備が整った。しかし、我先にと斬りかかる奴は居なかった。
皆少し怯えていたのだ。貴族であるからには魔法を使うはず。なのに杖らしきものが見当たらない。
一応あの腰に獲物は差しているようではあるが…。
そんな人攫いたちの不安を嗅ぎ取ったのか、薄らと酷薄な笑みを浮かべながら男は一歩進み出る。
「どうした? 来ねえのか?」
「…舐めるなよ、騎士風情が」
一人が銃を構え、先手を打つ。この距離ならば杖より銃の方が早い。メイジとの戦いを知っている人間ならば誰もが知っている常識だった。
ただ、彼らは一つ間違いを犯していた。そんな常識は…この男には通じない事だった。
「死ね!!」
そう叫んで一人が銃を男目掛けてブッ放つ。鉛の放つ音が空に響く。
それと同時に、男の視界が両断された。
「遅ぇよ」
「……へっ……?」
それが銃を撃った男の、最後の言葉となった。
銃声と同時に至近距離まで詰めた包帯男による、頭から股にかけるまで一刀両断に斬り裂かれた一撃を、彼が気付くことは永久に無かった。
「て…てめぇ…!」
この異様な光景に改めて男達は戦慄を覚える。ここで一人が再び包帯男に向かって襲撃をかけた。
しかし男は、あろうことか剣筋を空いた素手であっさりと止め、さらに一閃。血に塗れた胴体が上下綺麗に分離されていった。
胴体を真っ二つにした二人目を蹴散らした男は、背後からくる槍の一撃を振り向きもせず脇に避け、刀をそのまま後ろに突き立てた。
ごぼっ、と槍を持って突貫した男は血を吐いて倒れ、そして動かなくなった。
「きさまあああああああああああああああああああ!!!」
ジェイクが叫んで、怒りのままに大斧を振り上げようとした。それを迎え撃つように男も刀を突き出すように構えた。しかし――――。
「ぬっ――――」
「ほう…!」
その直前を、刃のような風が飛んできため二人は距離を置いた。いつの間にか二人の前に、この人攫いのリーダー格らしきメイジが杖を構えていたのだった。
風の魔法を飛ばしたメイジは、この惨状を見てやれやれと首を振った。
「全く、何事かと思ったら―――」
「チッ…出るのが遅えんだよ!! 見ろ、この惨状をよ!!」
「だから言ったのだ。任務は金がもらうまでが仕事だと。油断するからこうなるのだ」
と、仲間が殺された状況にも関わらず、冷静にジェイクを諌めるそのメイジは、その冷たい目を男に向けた。
「その紋章…ガリア国の貴族様だとお見受けするが…?」
「お前が頭か?」
「その通り。だが残念なことに名乗る名は捨ててしまってね。まあ『オルレアン公』とでも呼んでくれたまえ」
ガリアの元『王族』だった男の名を口にしながら、メイジはゆっくりと杖を構え、そして男の眼を見た。
成程自惚れるだけの力はあるようだ。だが―――。
「所詮は平民の剣。悪いがガリアには浅からぬ因縁があるのでな。その首、ここに置いていってもらおう」
どうやらメイジも、この男の力はまだ魔法の力には遠く及ばないと推測していたようだった。それもそうだ。剣と魔法、どちらが強いかと問われれば十人が十人、同じ答えを出すことだろう。
だからこそ、他の人攫い達がやられていても、メイジである自分なら与し易い。油断こそしていないが、極度に緊張もしてなかった。
「―――いくぞ!!」
そう叫び、メイジは呪文を唱える。直ぐ様柱のような氷の槍が形成され、それが回転を始めて男に殺到する。
しえん
248 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:16:20.34 ID:kgboFFTz
しかし男は、それを平然とした目で見据えながら――――何もせずに佇んでいた。
「…―――!!?」
その光景には、一瞬メイジも唖然とした。しかし氷の槍はそのままドゴォン!! と大きな音を立てて男の顔面に、確かに直撃した。
「ふん!! 反応できずに死んだか!!」
ジェイクはそう思ったのか、口の端を釣り上げて歪んだ笑みをした。しかしメイジはどことなく嫌な予感を覚える。
(何故だ? 確かに当たった筈なのに、この悪寒は―――)
そして、改めて直撃を受けた男を見て、驚愕の表情をした。
「なっ―――!!」
それに気づいたジェイクも口を只々開ける。そこにいたのは―――。
「どうした? それで終いか?」
まだ回転しきっている氷の槍の先端を、再び素手で…しかも片手で受け止めながら、不敵な笑みを浮かべる男が立っていたのだった。
「生温いにも程があるぜ。この程度の『氷の槍』なら、アイツの方がまだ強ぇ」
(……バカな!! 何だコイツは!!?)
メイジは思わず心の中で驚きの呻き声を上げる。魔法を使い続けて数十年。同じ魔法でなら兎も角、素手で…しかも片手で受け止められたのは初めてであった。
対する男は、氷の槍の回転が止まったのを見届けると、詰まらなさそうに地面に投げ捨てた。
「終わりか、じゃあ行くぜ」
そう言い放ち、男は急速にメイジ達に接近してきた。
「―――ひっ!!」
その光景に異常な危機感を覚えたメイジは、今度はあらん限りに氷の矢を打ち出す。しかし緊張からか狙いが定まらず、大半が外れ、その半分も紙一重で避けられていった。
「う…うわあああああああああ!!!!!」
しかし、メイジも必死だった。本能的にはち切れんばかりの悲鳴を上げ、矢を放つ。
その、とにかくなんでも当てなくては、という気概が功を奏したのか、矢の一撃が男の顔面を捉え、衝突した。
「やった―――!?」
思わずメイジも手に力を込めた。間違いなく死んだ筈だ。何せ完全に額に刺さっ―――。
そう思い込んだ彼の視界に、まず最初に飛び込んできたのは、歯で氷の矢を受け止め噛み砕く男の姿。
「なっ――――」
次にメイジが見たのは、そのまま大口を開けて迫る男の姿。
「―――えっ……」
その次に見えたのは、獣の如く喉元を、まさに文字通り食いちぎられ、その肉と血を咀嚼している男の姿だった。
「…っ…ぁ…!!?」
喉笛をやられたせいで、魔法どころかまともな呻き声すら上げられない。
肉を食いちぎられるという、初めて味わう地獄の痛みに歯を食いしばって見上げると、そこには既に頭に向かって振り下ろされた刀の姿が…。
(ああ、そうか―――)
そして最後に見えたのは…自分の生涯。生まれてから貴族として仕え、そして道を踏み外して今に至る光景…所謂走馬灯だった。
(俺はここで死ぬのか…つまらん人生だったなぁ…)
そんなことをぼんやり考えながら…メイジの視界は、闇に覆われていった。
「ひっ…」
ジェイクはただ腰を抜かしてしまった。体を動かそうにも動いてくれない。
ただ、少しは信頼していたリーダー格のメイジの喉笛をかっ喰らい、そしてゴミのように吐き捨てた…この突然現れた死神に、絶望するしかなかったのだ。
「不味いな。毒にも薬にもなりゃしねえ」
そして、ゆっくりとジェイクの方を向いて、その血に濡れた刀を持ちやって来る。
「ま、待ってくれ!! い、命だけは…―――」
斧を捨て、必死に命乞いをするジェイクだったが…。
「お前さんは、そう言ったら素直に聞き入れてくれた連中を、今まで見たことがあったのか?」
「あああ……」
次に見たのは、高々と振り上げた刀だった。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
月夜が照らす灯りのもと、ゆっくりと刀を納めた男は…ふいにこちらにやって来る足音を耳にした。
やがて姿を現したのは、二メイルはあろうかという怪物だった。成程、その仰々しさを見れば、こいつが標的だということがひと目で分かった。
249 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:26:31.99 ID:kgboFFTz
(ほう…まさかこっちから出向いてくれるとはな。探す手間が省けたってもんだ)
男は、ニヤリと薄ら笑いを浮かべると、先ほど納めた刀の柄に手をやり…そしてその怪物の足元にいる、二人の少女に気付いた。
「―――ん?」
一人は知らん女だ。身なりからして恐らくどっかの村娘だろう。
だが、もう一人の少女には……、あの綺麗な青髪には、見覚えがあった。
「これは……?」
悲鳴が聞こえてから僅かにして数分。
やっとの思いで現場に来たタバサ達は、驚きで目を見張った。
目の前で繰り広げられていたのは、血だまりを作った傭兵達の死体と…馬車の荷台から覗く縛られた若い女性達。
恐らくタバサが追っていた、人攫いであろう彼らの死体に立つのは、一人の男。
全身を包帯で巻かれ、見る者を本能的に恐れさせるような目をした男だった。
「…きゅ……いっ…!!」
シルフィードはガクガクと震えた。人どころか竜も食い物にしていそうな男の表情に、恐怖を感じたのだ。
(な、何なのねアイツ……怖いのね……)
見上げれば、ミノタウロスであるラルカスも少し気後れしたような表情を見せた。
勝てるわけない…シルフィードはタバサに言った。
「おねえさま、ここは逃げるのね。シルフィ、食べられるの嫌なのね」
しかし、タバサは返事をしない。
「……おねえさま…?」
もしかしてタバサも腰を抜かしたのだろうか? そんな考えが頭をよぎったが、顔を覗き込んでそうではないと確信した。
いや…と言うより、タバサのこんな表情は初めてであった。召喚されて幾数日。こんな歳相応の『少女』らしい顔は…しかもこの恐ろしそうな男に対して…。
「シシオ…さん?」
「おお、その声はやっぱりお前だったか」
「え………………ぇ………えぇえ!!!!?」
シルフィードは今、世界七不思議に出会ったかのような体験を覚えた。あのタバサが、あのぶっきらぼうで無愛想で返事すら一言二言で済ますタバサが・・・『人の名前を呼んだ』のだ…しかも親しみを込めるような声で…。
男…志々雄もまた、そんなタバサを見て懐かしむような口調で言った。
「暫く見ねえ内に随分と逞しくなったな。なあシャルロット」
志々雄にそう言われ、タバサは少し頬を赤くした。
(はあ? ちょ…どういうことなのね!!?)
再びシルフィードは絶句した。何故あの男は隠された主人の本当の名前を知っている? 何でウチの主人はまるで女の子のような反応をこの男にする? 最早訳がわからなくなった。
度重なる疑問に遂に耐え切れなくなったのか、シルフィードが叫んだ。
「待って待って!! おねえさま、誰なのねアイツ!! あんな人どころか竜も食ってそうなミイラ男の名前を、なんでそう親しげに呼ぶのね!?」
シルフィードはそうまくし立て、今度は志々雄の方を指差した。
「そしてお前はだれなのね!? まさかおねえさまの恋人とか!? だったらこのシルフィード、全力でそれを否定せざるをえないのね!!! おねえさまは―――」
ここでタバサが、ゴンゴンと杖でシルフィードの頭を叩きまくった。思わず頭を抱えて蹲るシルフィードに対し、「違う」とそっけなく言った。
「じゃあ、どんなカンケイなのね…?」
「…シシオさんは……」
ふと昔を思い出すような目…あどけない少女のような表情で空を見上げながら、タバサはポツリといった。
「私の…命の恩人」
250 :
るろうに使い魔:2013/03/03(日) 23:30:09.61 ID:kgboFFTz
今回はここまでとなります。実は前回とこれは繋がって一話になっております。
もっと早くに上げようと思ったのに、どうもまだ身の周りでゴタゴタしてしまって済みませんです。
次は来週中には上げようと思います。それではここまで見ていただき、ありがとうございました。
乙でござる
投下・即・乙
タバサが宗化するのか…?
マギのアラジン
ランプの魔精ラ・ジーンを召喚
ゆるゆりから赤座あかり召喚
召喚したルイズにさえも気付いて貰えないがそのステルス能力で意外に戦闘を有利に運べる
リングにかけろの剣崎召喚
ギャラクティカマグナムとファントムは青銅製のゴーレムごとき敵ではない。
マグナムをつくった時の修業場所は変電所の高電圧エリアだからワルドの電撃にも耐えれそう
まとめから「ゼロのアトリエ」読んでみたけど、清々しいくらい原作文のコピペしてるな。
初めの10話くらいは自分で書いてるみたいだけど、後半になるにつれて台詞も地の文も原作のままになってくる
特に17話とかヴィオラートが才人口調になってる部分もあってもう見てられない
当時はこんな作風でもアリだったの?
そんな当時からの住民残ってるかも怪しいくらい昔だからなぁ……。
気になるなら過去ログ覗いてきたら?
>>255 スルーされるってことでトランクス召喚とか思ったが……ブロリー動画の見すぎだな
ブロリーを召喚しちゃったらどうなるんだろう
ルイズ「あんた誰?」 ブロリー「ブロリーです……」
ギーシュ「決闘だ!」 →岩盤 ブロリー「もう終わりかぁ?」
フーケ「あたしはテファのところに……」 ブロリー「帰れるといいなぁ」 デデーン
ワルド「が、ガンダールヴ?」 ブロリー「ワルド、まずお前から血祭りにあげてやる」
ブロリー「お前たちが戦う意思を見せなければ、俺はこの星を破壊しつくすだけだぁ!」 七万「もうダメだ、おしまいだぁ」
地獄へ行ってもこーんな素晴らしい殺戮ショーは見られんぞ
桃白白がハルケギニアで殺し屋さん稼業を開始、けど同業者から目をつけられたとしたら?
メンヌヴィルや元素兄弟に桃白白さん勝てるかな?
>>261 余裕でしょ
少なくとも正面切って戦うなんてシチュエーションだったら桃白白が負ける道理はないな
確実に魔法を発動させようとした途端に速攻で潰されるのがオチ
石柱投げまくるだけで空船落とせそうw
空船を風船に空目した件
>>263 むしろ投げた石柱に飛び乗ってアルビオンまで飛んでいくとか……
さすがにそれは無理か
>>265 いや、割と普通にできそうだけどな。
描写見る限り相当な飛距離飛んでたし。
桃白白は劇場版では
「北東に2300キロか、30分ほどで帰ってくるぞ」
とか言って石柱移動してたな。
もっともその後よりにもよってペンギン村の上空を通過したがために散々な目に会うんだが。
トリプルクロスとか有りじゃね?
桃白白やべえな
30分程で帰ってくるということは往復で4600キロを30分で移動するということだ。
約マッハ4 本気でヤバイ
間違えた 約マッハ8
>>256 アルビオンの高度が3000メイル(メートル)魔法学院〜ラ・ロシェールまでは、たしか馬で二日で乗り換えながら飛ばせば1日の距離だから、最接近するスヴェルタイミングなら確実にいけるな
往復4600kmを30分なら
桃白白の投げた石柱→2555m/s以上
90式 120mm L44 → 1600m/s
タイガーII 88mm L71 → 1000m/s
空中の船どころか、投げる物次第で反射突破もいけるスペックだな(笑)
>>269 時速で9200kmだからマッハ数ならその倍くらい
そんなスピードで飛んでる桃白白に岩石投げして命中させられるアラレちゃんもチートスペック……なのは当たり前か
平均速度をそのまま当てはめたけど、単に投げてるだけだから、初速度なら2555m/sよりはるかに速いのは間違いない
桃白白でも、とんでもない化け物なんだが291歳だし
桃白白は格闘のみならず剣術も得意だから、デルフの活躍の場的にも問題無さげ
剣といえばヤジロベーを忘れてやるなよ
ヤジロベーは初登場時、悟空と同じぐらい強かったんだよな確か
まあその後、超神水飲んだ悟空にさっそく引き離されてたがw
トランクスが超サイヤ人で振り回したらデルフリンガーは耐えられるかな?
ルイズが老界王神様に潜在能力のすべてを引き出してもらえたら、とんでもない大魔導師になるんじゃないか?
ポタラで合体するとしたら、誰と誰だ!
>>279 ルイズ「テファね。テファしか考えられないわ。同じ虚無の一翼なんだしね」
テファ「……あの、ルイズ……なんで私の胸見て言うのかしら……?」
ルイズちゃん別にジョゼフや教皇でも良いよね!
ブルマとかクリリンの例で思ったけどゼロ魔で筋斗雲乗れそうなのって少なそう
ティファニアとカトレアは乗れそうだけどシエスタはサイトを巡ってからは腹黒くなるし・・・
>>282 ルイズ:言わずもがな。使い魔を鞭で叩いたり、まともな食事を出さなかったり。
キュルケ:二股、三股は当たり前。
タバサ:ジョゼフへの復讐心。
ギーシュ:自身の二股の責任を他人に擦り付ける。
アンリエッタ:ウェールズの仇と称して戦争を起こす。
こんな感じかな?
スカロンとか乗れるんちゃう
まあ悟空一家みたいな底抜けの善人たちのほうがめずらしいんだけどな
しかしハルケの月は2700万ゼノ以上のプルーツ波を出してるのかな
>>282 勝手なイメージだけど、カトレアも駄目そうじゃない?
絶対腹に一物ありそうなんだよねああいう人って。
デルフはもしも生命体に宿ったらわりと乗れそう。
月が複数あろうが巨大だろうが満月にならないと2700万ゼノ以上のプルーツ波を出さないとベジータが言ってたから
満月ならどんな月でも出してるんじゃない
つまりハルケギニアでも悟空は超サイヤ人4になれるってことでいいのか
月がなくてもポンポン変身してたやん
ベジータと違って
290 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 22:51:37.21 ID:VqIIAWh2
皆さんお待たせいたしました。もし予約がないようでしたら、
11時頃から新作の投稿を始めさせていただきます。
291 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:00:14.18 ID:VqIIAWh2
それでは始めます。
「い…命の恩人? あれが?」
シルフィードは人差し指を志々雄に突き立て、そして叫んだ。
「だ…だって、見るのねおねえさま、アイツの周り!! 平然と人殺しているのね!! ……そりゃあ相手も悪い奴だろうからって言われたらそれまでだけど…でも何だか納得が…っておねえさま!!」
タバサは、そんなシルフィードを置いて、足早に縛られた女性たちの元へと向かい、そして縄の戒めから解放させる。
「…あ…ありがとうございます!!」
「別にいい。そのかわり―――」
縄を解き終えたタバサは、深々と頭を下げて礼をする彼女たちに、「ここで起きたことは内緒にして欲しい」と頼み込み、その代わりあとで送り届ける事を約束した。
それでやっとのこと安堵の表情を浮かべている女性達を尻目に、今度は死んでいった人達の方へ振り返り、手を合わせて小さく頭を下げた。
「この人達は……」
「あっちが勝手に逆上して襲ってきたから、返り討ちにしてやったまでのことだ」
「……そう」
悲しそうな表情でそう呟くと、タバサは風の魔法で穴を掘り、そこに彼等の遺体を埋めることにした。
それを行うタバサは、どこか切なげで、まるで少女の様に儚げだった。
(おねえさま、あんな顔シルフィにだって見せたことないのに…――)
普段ルイズ達や親友のキュルケ、そしていつも一緒にいるシルフィードですら見せたことのない表情。
今のタバサは恐らく、志々雄が隣にいるからこそ、そういう弱さを見せているのかもしれない…。
そう感じたシルフィードは、少し遣る瀬無さそうにしながらタバサの手伝いをしていた。
第三幕 『タバサと志々雄』
「おい、こっちに生存者がいたぞ」
そう言って、ラルカスは一人逃げ損なった傭兵を引っ張り上げてきた。
傭兵はもう、戦意といったものがないのだろう。ただ必死に命乞いをしていた。
「お願いだ…頼む…命だけは…命だけは…命だけは…」
先の戦闘の凄惨さに、すっかり壊れたように何度も呟く傭兵を見たタバサは、確認するように志々雄を見たあと、ゆっくりとこう言った。
「何もしない。だから貴方は今度こそ真っ当に生きて」
慈しむかのような声で、タバサはそう語りかける。まるで自分を見るかのように…。
それを聞いた傭兵は、今度は嬉しさで涙を流しながら、何度も頭を下げた。
「ありがとうございます。騎士様…騎士様…」
そして、傭兵は一人走ってこの場を去っていった。
ここでタバサは、志々雄の方を向いた。
「シシオさんは、どうしてここに?」
「まあ、事の成り行きってとこだ。それより…」
傭兵の去っていく方を、タバサ共々見届けた志々雄は、ここで再びミノタウロスの方を見上げた。
「あんた、そんなナリで人の言葉がわかるのか」
「元は人間なんだ。それくらいは分かるさ」
これには、タバサもシルフィードも驚いた。いやまさかとは思ったが…。
それに志々雄は、俄然興味がひかれた様子で続けた。
「面白そうだな、その話。詳しく聞かせてもらえねえか?」
只討伐するだけでは何だか楽しみがない。そう考えていた志々雄は、このミノタウロスの身の上話に大きな関心を示したのだ。
志々雄程ではないが、同じように興味を引いたタバサ達も、同じようにラルカスを見る。
「…分かった。ならば話そう。私もお前たちに聞きたいことがある。この近くに洞窟があるのは知っているだろう。そこでよければな」
「俺は構わねえぜ」
タバサ達も同じように首を振る。ラルカスは皆の意見を確認すると、一旦女性達に村まで預け、洞窟の方へと向かった。
「うわぁ…暗いのね…」
「大丈夫か、足元に気をつけろ」
さて、洞窟の中は真っ暗闇であった。
差し出されたカンテラに火を灯し、それを持ちながらタバサ達は、どんどんと深くなってゆく洞窟の更に闇へと突き進んでいった。
途中、石英のような綺麗な結晶があり、それが集まって輝いている場所があった。
292 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:03:19.41 ID:VqIIAWh2
「あっ。これ綺麗なのね――――」
「触るな!!!」
そう言って思わず触ろうとした時、ラルカスの怒号が響いた。
「ひっ!!」
びっくりしたシルフィードを見て、ラルカスは言い繕うように謝辞をのべる。
「ああ…すまん。だがその辺りは滑っていて危ない。近づかない方がいい」
「そ…そうなのね…」
それを聞いたシルフィードは、石英を避けるように移動した。
しかし志々雄は、何か腑に落ちなさそうな表情で石英を見つめるのだった。
「危ない…ねぇ…」
「ここが私の住処だ。雑多だが勘弁して欲しい」
暫く歩いたあと、部屋らしき空けた場所にたどり着いた。何とも雑多ではあるが、机に本に椅子にかまど…。どれも大きいが人の住むような感じには仕上がっていた。
その中で一際大きい椅子に座り込むと、改めてラルカスはタバサ達と向き合った。
「さて、私の事について、聞きたいことは山ほどあるだろうが…まずはそちらの正体を明かしてはくれないか。知ってどうこうする気はないが、まあ、お互い様ということでな」
ここでタバサは、ラルカスに任務の内容のこと、ここに至った経緯を改めて話した。大体の話を聞き終え、あらかたあった疑問を解消させたあと、改めてタバサは興味を持った視線をラルカスに投げかけた。
「…さて、では私も話すとするか」
それを察したラルカスもまた、ゆっくりと己の身の上を語り始めた。
十年前…まだ人間だった頃のラルカスは、タバサと同じように村人に頼まれ、ミノタウロス討伐に乗り出した。
外から火を放つことで、何とか怪物を瀕死にまで負いやったラルカスは、そこでミノタウロスの尋常じゃない生命力の強さに惹かれたようであった。
実は、この頃のラルカスは不知の病に侵されていた。余命を使っての旅の末、出会ったのがミノタウロスという怪物だというわけだった。
「私は自分の体を捨てることにした。禁忌だと分かっていても、それに触れずにはいられなかったのだ」
ラルカスは自分の脳をそのままミノタウロスの体に移し替えたのだった。そのおかげで病はなくなり、代わりに強大な筋力と生命力を得て、更に呪文まで強くなったとのことである。
それから今も、研究を続けてこの洞窟に一人こもっているようである。
「寂しくないのね?」
「もともと独り身さ。洞窟も、住み慣れれば我が家と大して変わら……ぐっ」
そこで、不意にラルカスは言葉を切った。そして突然頭を押さえつけ、苦しそうに悶えだした。
「だっ、大丈夫なのね……?」
「ぐっ…来るな!!!」
「きゅい!!?」
再び出される怒号に、シルフィードはへたりこむ。
「うっ…済まない。発作のようなものだ…なに、直ぐに治るさ」
暫くの間苦しそうにしていたタルカスは、やがて治まったのかゆっくりと身体を椅子にあずけた。
「……とまあ、ここまでが私の身の上だ。だからあえて言おう。わたしは誓って、人を食ったことがないとな。ミノタウロスの食欲を抑えることにも、ちゃんと成功している」
そう言って、ラルカスはかまどで煮えたぎる薬の方を指でさす。
まあ、確かに身も心も完全な化物になっていたら、あの時シルフィードを助けたりしないだろう。すぐ連れ去られて食われている筈だった。
「おねえさま、この人は嘘をついてないのね。だって嘘なら今頃シルフィは食べられているのね」
説得するようにシルフィードはそう言った。タバサも取り敢えず頷く。
それに元々、この村の生贄騒動の真相はあの人攫い達なのだ。彼とは根本的に関係がない。
ラルカスは、これで話は切り上げとばかりに口を開いた。
「済まないな。だがこれで疑惑の方は晴れただろう? 今日はもう帰ってくれ。…それとこの場所は村の者達には言わないで欲しい。終わったことを蒸し返しても仕方があるまい」
「…分かった」
それにタバサ達は頷いて、再び出口目指して帰ることにした。
ただその帰り際、ラルカスがいなかったためか、志々雄は最後に結晶のある場所で不意に立ち止まった。
「…どうしたの?」
「先に行ってろ。俺は少し用事がある」
志々雄のその様子に疑問を持ったタバサだったが、とりあえず彼の言うとおりに先に洞窟に出ることにした。
293 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:05:03.29 ID:VqIIAWh2
「何はともあれ、一件落着!! なのね!!」
洞窟から出たシルフィードは、開口一番そう叫んだ。
本物のミノタウロスが現れた時はどうしようかと考えていたが…何はともあれ人攫い騒動に決着がつき、やっと家に帰れるのだ。そう思うとウキウキした気分を隠せずにはいられない。
しかし、タバサの方は未だ躊躇った様子で時折洞窟の入口を見る。それが気になったシルフィードは彼女に顔を近付けた。
「あの包帯男が気になっているのね? 隠さなくても分かるのね」
じーっとタバサを見つめるシルフィードだったが、例によってタバサは答えを返さない。ただ洞窟を視線に捉えながらも、壁に背をあずけてそこから動こうとはしなかった。
「ねえおねえさま。あいつ何者なのね? さっき命の恩人って言っていたけど…」
自分はタバサの使い魔なのだから、隠し事はしないで欲しい。そんな心情を吐露するかのように質問をぶつけたシルフィードだったが、やはりタバサにとってはどこ吹く風の様子で全く耳に入ってないようだった。
ただ…その普段見ている無表情とは、明らかに違う(あくまで一緒にいるシルフィードからの視点ではあるが)顔をしているタバサを見ると、余程自分にとって大事な人なんだろうなというのは何となく理解できた。
(でも、だったらアイツは何者なのね? まさか本当におねえさまの…いやいやそれはない筈なのね!! でも〜〜…)
こうやって考えるとどういう関係なのか、どうしても問い詰めたくなる。好奇心を抑えきれなくなったシルフィードは、再びタバサに問いただそうと口を開こうとした、その時だった。
ドゴォン!! という派手な音が洞窟の中から聞こえてきたのだ。
「え、な…何事なのね!!」
呆気にとられるシルフィードだったが、タバサはすぐに行動を移していた。杖に『ライト』を灯し、直ぐ様洞窟の中へと入っていく。
「ああ、待ってなのね!! おねえさま!!」
慌ててシルフィードもタバサの後を追おうとして…そこで彼女が何かに気づいたかのように立ち止まっている姿を目撃した。
そこは、先ほどラルカスに注意を食らったあの結晶のあった場所。しかし今その場所には―――。
「何なのね…それ…?」
タバサが拾い上げたそれを見て、恐る恐るシルフィードが尋ねる。
掘り返された結晶の壁には、なんと骨のようなものがぎっしりと詰まっていたのだった。
「恐らく…人間の骨」
さて、その出来事が起こる少し前…洞窟内でのこと。
ラルカスは、先程の研究場所にて、薬の精製を行っていた。
自分の『もう一つの人格』を抑える、己にとって必要不可欠な薬効。
しかし、今の今までそれが効いた試しがない。タバサ達には嘘を言っていたのだった。
「はぁ…ぐっ…」
荒い息をつきながら、ラルカスは作り上げた薬を一気に飲み干す。ミノタウロスにとって苦手な原料が含まれているせいか、飲んでいて辛い。だが飲まなければ…――。
「はぁっ!! はぁっ…」
薬を全部飲み、やっと一息ついた、その時だった。
「よう。随分苦しそうじゃねえか」
その声を聞き、ラルカスは直ぐ様グルリと振り向く。そこには今しがた帰ったはずの志々雄が、壁に寄りかかる立ち方でラルカスを見ていたのだった。
「何の用だ…? 忘れ物でもしたか?」
「その様子じゃ、あんまり効いてはなさそうだな。その薬とやらは」
ラルカスの話を遮りながら、志々雄は一歩前へと進み、その手に持つ空の瓶を見やる。ラルカスは努めて平静を保ちながらも、志々雄に歩み寄る。
「なあ君。私は今忙しいのだ。用がないなら帰ってくれるか―――」
ゴトリと、ラルカスの足元に変なものが転がってきた。それを見下ろしてラルカスは目を見開く。
それは…自分が埋めたはずの人間の死体―――その頭蓋骨だったからだ。
「どうした? その仏に見覚えでもあるのか?」
もはや確信的な笑みを隠そうともしない。志々雄はただ、その笑みをラルカスに向けるだけだった。
それでも…ラルカスは声を震わしながら…志々雄に言うのだった。
「はは…どこで拾ってきたのか知らないが…これはサルの死体ではないのかね…こんなものを私に見せてどういう――――」
「隠さなくてもいいぜ。なあ、本当の誘拐犯さんよ。大体話が出来過ぎだとは思ったんだ。―――お前に最初に会った頃からな」
志々雄が笑って更に一歩踏み出たその瞬間、風を唸らせるような轟音と共に斧の一閃が飛び込んできた。
294 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:08:15.67 ID:VqIIAWh2
志々雄はまるで予定調和とばかりに、その一閃を紙一重の体術で避ける。
「無駄にあがくな。全ての利はわたしにある」
「ほう、例えば?」
心底冷えるような声を発して見下ろすラルカスだったが、それをまるで楽しむかのように志々雄が聞き返す。
ラルカスはその問いに、強烈な風の魔法を持って答える。
「一つはこの暗闇だ。お前達にとっては黒々とした世界が映っているだろうが、わたしはお前たちの姿が手に取るように分かる」
「宇水みてえなこと言うな、お前」
そう言って風の奔流を跳んで避けた志々雄は、視界が効かないにも関わらず、悠然とラルカスに向かっていく。
「何のつもりだ。無駄だ―――」
その瞬間、眩い光が一瞬だけラルカスの視界を覆う。それは『火花』だった。
刀を地面に擦りながら、摩擦音と共に刀が発火。それが暗闇の世界を照らしていた。
(何だ!? これは…―――)
この光景を見て、奴もメイジなのか? と一瞬だけ頭をもたげたが、この炎に魔力は感じない。自然と起こした炎のようだった。
志々雄はその炎で、周りにある器具や本を燃やしていく。器具や本は火とかみ合って光を作り、たちまち辺りを明かりで覆い尽くしていた。
「暗闇が利とか何とか言ってたな。俺にはお前がよく見えるが?」
皮肉たっぷりの笑みを浮かべながら、志々雄は刀を肩に置く。
しかし、ラルカスもまた、余裕の表情で志々雄に対峙する。
「だから何だ。確かに不思議な魔法…を使うようだが、この程度の光、私の水で消してやれば済むだけのこと―――」
杖を構え、ルーンを紡ぎながらラルカスは志々雄を見下ろす。志々雄もまた、この隙を逃すまいと凶悪な笑みを作ってラルカスに突撃しようとして…。
「シシオさん!?」
その途中で、『ライト』の呪文で光る杖を掲げながら、タバサとシルフィードがやって来たのだった。
タバサはこの光景を見て、直ぐに状況を把握した。
洞窟で掘り起こされた骸骨…見かけからして大体少女くらいの白骨死体…そこから学び取ればピンと来る。
「ラルカスさん、一体どうしたのね!?」
しかし、まだ状況を掴めていないシルフィードが、思わずそんな事を叫んでしまう。
ラルカスは、また面倒なものに見つかった、というような視線を送るばかりで何も返そうとはしない。
「あなたが…本当の誘拐犯」
「いかにも、そうだ」
そしてラルカスは刹那、気合を込めるかのように獣のような大声を張り上げた。
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「きゅ…きゅいいいいいい!!!?」
それにすっかりシルフィードは萎縮する。見られたからには殺す。その圧倒的な『気』が嫌でも伝わってきたのだ。
同じようにそれを受けた志々雄は、口の端を釣り上げてラルカスを見る。
「……上等だ」
直ぐ様それに応えるように志々雄が前に出るが、タバサが更にその一歩前へと踏み出た。
「…何だ?」
「私も、彼と戦いたい」
タバサはそう言うと、斧を掲げ再び振り下ろそうと力を貯めるラルカスを見据えた。
「俺を差し置いて一人で戦うってか? 随分偉くなったもんだな、お前も」
「もっと…強くなりたい」
タバサはそう言って、まるでそらんじるようにあの言葉を口にした。
「『所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ』。そう教えてくれたのは貴方」
「………」
「だから、もっと、もっと強くなりたい」
タバサのその後ろ姿を、シルフィードは呆然として見つめていた。
悲壮な決意、その為に力を求める。今の彼女の行動原理にして唯一の原動力が、その言葉にはあった。
「………ったく」
一方の志々雄は、暫く面倒そうな表情で頭をかいていたが、やがて仕方なさそうに言った。
「しゃあねえ。少し位なら遊ばせてやる」
そう口にすると、志々雄は手頃そうな石壁に腰掛け、戦いの行く末を見届けることにした。
タバサの決意や想いは、あの時その場に居合わせた志々雄もよく知っていたからだ。
「……ありがとう」
素直に引いてくれた志々雄にタバサは感謝すると、改めてラルカスを見つめ、杖を構えた。
「はぁああああああああああああっ!!!」
295 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:10:53.32 ID:VqIIAWh2
ミノタウロス特有の豪腕を活かした、斧による攻撃。まず受け止めることは皆無に近い。タバサは避けた。一瞬遅れた斧の一撃は、地面を粉々にし、その威力を物語らせる。
「これが二つ目の利点だ!! 私の斧は、豪腕は、お前達人間など軽くバラバラに出来る!!」
「お…おねえさま!!」
タバサは、豪速で迫り来る攻撃を横っ飛びで躱し、反撃に移る。
幸い、地の利はまだこちらにも部がある。完全な暗闇の洞窟ならまだしも、周りはまだ志々雄が点けた火の光で、比較的明るい。
ただ、それでもこちら側の圧倒的不利は変わらなかった。依然として、自分の風では傷一つ付けられないし、体力も精神力も全てにおいて大きな隔たりがある。
「無駄だ! これが三つ目の利点、このミノタウロスの身体は、お前の風や氷の槍は受け付けぬ!!」
ラルカスの言う通りであった。試しに『ウィンディ・アイシクル』や『ジャベリン』、果ては『アイス・ストーム』まで唱えてみたが、皆傷らしい傷をつけることは出来ない。
その上相手側はスクウェアクラスの魔法をバンバン使ってくるおかげで、そもそも反撃らしい反撃すらできない状態にあった。
おまけに…その風や水の魔法が、徐々に灯していった明かりを消していく始末。
「そして最後の利点だ。わたしの魔法は…この身体によってスクウェアクラスにまで昇華された。お前の魔法など、その灯りと共にかき消してくれるわ!」
依然として絶望的な状況は変わっていない。ラルカスの言う通り全ての利がタバサを極地まで追い込んでいた。
「おねえさま、やっぱり無理なのね!! 逃げて!!」
シルフィードが叫ぶ。この洞窟では狭すぎて本来の姿に戻れないため、助太刀ができないのだ。いや…例えできたとしても、このミノタウロス相手に敵うかどうか…。
そして志々雄の方は、そんな苦戦するタバサをただ観戦しているだけだった。
それを見たシルフィードは、早速志々雄に食ってかかる。
「ちょっと!! おねえさまが危ないのに、どうしてそんな悠長にしているのね!!?」
「あいつがやりてえ、って言ったんだ。だからやらせてるだけだろ」
きっぱりと志々雄はそう返してきた。明かりを付ける手助けすらしない。本当にただの傍観者として徹しているだけだった。
まるで助ける気がない志々雄の姿は、タバサにもはっきりと伝わっていた。
(…ありがとう)
だけど、タバサは逆に、そんな志々雄に対して、感謝すらしていた。
生と死、そのギリギリの境界線をくぐり抜けているこの感触。今タバサが最も欲しいと思っていたものだった。
例え圧倒的不利でも、実力に大きな壁があろうとも、決して諦めない。
これから自分がしようとしている事は、幾度となく死線をくぐり抜けて初めて実を結ぶものなのだから……。
だから、タバサは志々雄に心の中でお礼を言った。そんな大事な貴重な機会をくれた、彼に対して―――。
「――――っ!!!」
そうこうする内に、斧の轟音が隣を掠める。当たったら最後、体中の骨が粉微塵になってしまうだろう一撃だ。
タバサは風のうねりを感じながら、それを的確に避けていく。
しかし、何発目かの斧が振り下ろされ、その衝撃でタバサは少し怯んでしまった。
「貰った!!」
その隙を的確に捉えたラルカスは、まだあどけなさが残る少女に向かって容赦のない風の魔法を吹き付けた。
「――――っが…あ…!」
「おねえさま!!」
その風に煽られ、なされるがままにタバサは吹っ飛んでいく。それを平然とラルカスは見下ろした。
「このミノタウロス相手によく頑張った…だが、これで終わりだ」
吹き飛ばされ、地面に叩きつけられたタバサを見て、ラルカスは憮然と言い放った。今のをまともに喰らっては、もう起き上がることも不可能であろう。
そう思ったラルカスは、次の標的を志々雄に変えた。そんな時だった。
「…しょ…せん…このよ…は…じゃくにく…きょう…しょ…く」
「………?」
背後から微かな音を聞いたラルカスは、ゆっくりと視線を先ほどの方へと戻した。
そこにはボロボロになりながらも立ち上がり、鋭い視線でこちらを睨むタバサの姿があった。
肩で大きく呼吸をしながらも、怜悧な印象を浮かべるその目には微塵の揺らぎもない。その姿にラルカスは只々驚くばかりであった。
「強けれ……ば、生き…弱ければ…」
296 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:12:11.04 ID:VqIIAWh2
「バカな…立っていられるはずは…」
「―――死ぬ…」
少し信じられないように呻くラルカスだったが、それでも強く構えるタバサを見て、フゴゴゴと鼻を鳴らした。どうやら笑っているようだ。
「成程…成りはそれでも中身は立派な貴族なようだ。わたしも、慢心を捨てて相手をしよう」
ラルカスはそう言うと、斧を杖のように構えてタバサと対峙した。
「………」
タバサは何も言わない。ただこの戦いに命を懸けていた。
攻略法はある程度考えついている。後は自分のイメージ通りに行くかどうか。
体力的にも精神的にも、これが最後のチャンスだ。
成功すれば御の字だが、もし失敗したらその時は……。
否、タバサはその後のことを、頭の中から追い払う。失敗した時なんて、そんなことを
考えたって仕方がない。
今はただ、この策の成功に全てを賭ける。それだけだ。
タバサはボロボロな身体のままでも、強い眼でミノタウロスを見つめながら、ゆっくりと抜刀術の構えに移行する。
ラルカスもまた、斧を上段に構えて力をため始めた。
一瞬の静の瞬間。そして両者は動き出す。
「ウォオオオオオオオォォォォォォ!!!!」
先に仕掛けたのはラルカスだった。まず先に斧を振り下ろし、逃げた先に向かって魔法を打ち込む算段だった。
(さあ、何処へ逃げる!!)
未だ覚束ない様子のタバサを見据えながら、ラルカスはその動向を伺う。
しかし、斧が眼前に迫っても、タバサは一向に動こうとはしなかった。
「――――!!?」
ドゴォン!! と、先程の比ではない地響きが巻き起こった。
「おねえさま!!」
シルフィードの叫び声が辺りに響く。しかしラルカスは疑問に思っていた。
何故避けなかった? もうそんな気力すらなかったのか。
しかし…それならどうして手応えを感じない? 何故地面を打ったような感覚しか残らない!?
その疑問は、すぐに解決された。斧が振りあがらない。まるでそこに打ち据えたかのように……。
「――――なっ、何だと!!?」
よく見ると、斧から数サント…本当にギリギリの距離で、タバサは回避していた。身体を逸らすだけで。
そして、斧は凍り付いていた。タバサの杖から先に氷の魔法が放たれていたのだ。
(最初からこれが狙いか!!?)
ラルカスは唖然として口を開いた。
タバサはもう、身体を大きく動かすだけの体力がなかった。だから腹をくくって、わざとすれすれを狙って回避したのだ。
一歩間違えばまず命はないというのに…それでも勝つために編み出した算段。命を天秤にかけた、まさに執念が生み出した結果だった。
ラルカスは素早く斧を氷ごと抜き取ろうする。その隙こそタバサにとって絶好の機会だった。
(今だ……!!)
タバサは最後の気力を振り絞った。固まった斧を踏み台に、そして『フライ』を唱え大きく跳躍する。
ラルカスが思わず見上げるほどに上空へと跳んだタバサは、そのまま杖を下に突き立てるように構えた。その先端は氷の槍で鋭く凍り付いている。
「はあぁぁああああああああああああああああああ!!!!!」
それをラルカスの口の中目掛けて、一気に打ち抜いた。
『ジャベリン』+―龍槌閃・『惨』―
龍槌閃の派生型であり、剣を突き下ろす事でより威力を増した発展形。
無論タバサはそのことは知らない。だが剣心の戦い方を見ていたタバサが、密かにアレンジを加えて独自で練り上げ、技として昇華させていたのだった。
そしてその狙いは、比較的柔らかい内部。その入口である『口元』。さらに空からの加重と鋭く砥がれたことにより突き立てた氷の槍は、確かにミノタウロスの喉を深々と抉っていた。
「グア…ああああああああああああああああああああああ!!!」
「ぐっ…っ…」
タバサを振り落とそうと、ラルカスは手を翳してもがき苦しむが、後がないタバサもまた、必死にしがみつきながら思いきり、突き立てた杖をさらに深く差し込む。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!」
しかしそれでも、ミノタウロスの腕力に屈したのか、あるいは精神力が尽きてしまったのか…タバサは杖から振り落とされてしまう。
「―――あぐっ!!」
ドゴン!! と壁に思い切り叩きつけられ、意識が朧になる。シルフィードが自分の名前を叫ぶ声が聞こえた。
しかし…体はもう動かない。
杖を抜き取ろうと必死になって足掻くラルカスを…ただ虚ろな目で見つめながら…タバサの意識はなくなっていった。
しえん
298 :
るろうに使い魔:2013/03/10(日) 23:18:04.67 ID:VqIIAWh2
今日はここまでとなります。いよいよ次で番外編も終了ですとなります。
ここまで見ていただき、どうもありがとうございました。
それではまた来週。この時間にて。
おぉタバサよ、死んでしまうとは何事か
>>272 アラレちゃんは惑星の軌道を変更できるんだぞ
惑星を破壊できるスーパーサイヤ人やフリーザやセルやブゥより実は凄い
ただ破壊するより必要な運動エネルギーは圧倒的な上に、エネルギー伝達もインパクトの瞬間破壊しない程度に調整する必要があるからな
惑星を半分に割ることもできる事を考えれば、調整をしっかり出来てるのはよくわかる
破壊できるかどうかが基準で作ってる例のリストに騙されること無かれ
御久しぶりです、夜分遅くに失礼します。
よろしければ、0:35頃から続きを投下させてください。
「ではミスタ・グランドプレ、前へ。
私が固定化をかけた石を錬金できないということを確かめてみてください。
それから……ミスタ・グラモン、あなたはこちらの石に固定化を。
それに対して、私が同じように錬金を―――――」
「…………………」
キュルケの親友であるところの蒼い髪の少女、『雪風』のタバサは、机の下で本を開いて読み耽っていた。
ちょっと見ると下を向いて熱心に勉強しているようだが、実は開いているのは教科書ではなく、授業とは関係のない本である。
この程度の基礎的な講義の内容はとうの昔に全て知っており、教科書を開いているよりも新しい知識を仕入れる方がよほど勉強になると思っているのだ。
それゆえ時折顔を上げて授業の進行具合や実演の様子を観察する以外、講義は聞き流している。
タバサは本を読みつつ、授業内容ではなく別の考え事に注意を払っていた。
言うまでもなく、ルイズの使い魔であるところの亜人、もしくは竜に関してである。
先程自分の主人も含め教室中の意見を上手く誘導して大事なく事を収めた手並み、あれはもはや偶然とは思えない。
間違いなくあの使い魔は只者ではない。
外見や話し方からして小さな子どもだとばかり思っていたが……、あの手練手管を見るとそうではないのかもしれない。
だがそれが分かったからと言って、こちらの目的に何か進展があったかと言われると結局何も進展はしていないと言わざるを得ない。
只者ではないからといって竜だと決まるわけでもないし、むしろ騒ぎに乗じて目立たずに接触しようという当てが外れてしまったのが痛い。
……まあ親友の頼みでもあり、結果として教室の皆のためにもなったのだからよかったと思おう、今更ぼやいても仕方ない。
目立ちたくはなかったが、こうなれば授業後に張り付いてヴァリエールのいない隙にあの使い魔を捕まえて話をすることにしよう。
幼生とはいえ自分の使い魔は風韻竜、その翼で用事を終えて戻って来るまでにそう掛かるはずもないのだし、のんびりと好機を待ってもいられない。
(……おそらくもう街にはついた筈)
今自分の使い魔がどのあたりにいるのか気になったタバサは、感覚の共有を試みた。
もし早々に買い物を終えて戻って来そうなら、なお急がなくてはならない。
(……――――――)
そっと目を閉じて意識を集中すると、脳裏に現在イルククゥの見ている光景と聞いている音がぼんやりと浮かんできた。
………トリステインの街の雑踏が聞こえている。
通りゆく人々の談笑、店の呼び込み、聖歌隊のパレードの笛の音色……。
イルククゥは人間の街が珍しいのかあちこちをきょろきょろと眺めており、光景が頻繁に切り替わる。
あちこちの店の陳列品、大道芸人の行うジャグリング、聖歌隊の行進………。
ふらふらとさ迷い歩いていて、目的の店とはまるで違う方向に移動していく。
そのうちに、イルククゥ自身のつぶやきが聞こえてきた。
『………ここどこなのね?』
タバサは誰にも気づかれないほど小さく溜息を吐くと、感覚共有を打ち切った。
どうやらあの子は油を売っているようだ、おまけに道に迷ったらしい。
仮にも伝説の韻竜だというのに、まったく子どもっぽいにもほどがある。
呆れたものだが、まあ今は好都合だ。
もしスムーズに買い物が済んでしまっていたならこの授業を理由をつけて抜け出し、窓の外にいるヴァリエールの使い魔と接触しようかとも考えていたが…。
この分ならまだ余裕がありそうだし、そこまで強引に急がなくともいいだろう。
タバサがそう考えてひとまず思案を打ち切り、本の内容に戻ろうとした時。
耳元に囁くような声が聞こえてきた。
『――――アー、アー、ええと……、聞こえる?』
「……?」
今の声は、一体誰だろう。
タバサは怪訝に思ってあまり顔を上げずにそっと周囲を見渡してみたが、それらしい者は見当たらない。
感覚共有は切ったしイルククゥの聞いた声という事もないはずだが……空耳だろうか?
『ええと、聞こえたかな……。
こちらはルイズの使い魔のディーキンなの。
授業の邪魔をして申し訳ないけど、聞こえてたら囁き返してくれる?』
「! ………聞こえる」
タバサは驚きにやや目を見開きつつも、周囲の生徒に不審がられないよう顔を伏せながら指示通り小声で囁き返した。
これだけ小さな声で、まして授業中ならば誰にも聞こえる心配はあるまい。
『アア、ちゃんと通じてるみたいだね。良かったの』
囁き返すと、ディーキンの安心したような返事がまた耳元に聞こえてきた。
タバサは困惑しながら、ちらりとディーキンがいるはずの窓の向こうに目をやる。
今は窓の下の方で掃除をしているらしく、小さな角の生えた頭が見え隠れしていた。
どう考えても、普通なら囁き声でやりとりができる距離ではない。
(………これは………何?)
彼女が困惑した理由は、唐突にディーキンが自分に声を掛けて来た理由を測り兼ねたからではない。
いや勿論それもあるが、それ以上に不思議なことがあった。
タバサはトライアングルクラスの風メイジである。
風のメイジは基本的に自分の周囲で起こる風の動きに敏感であり、優秀な使い手なら目を閉じていても周囲で動く者の様子をある程度察知できるほどだ。
たとえ先住の魔法であろうと、周囲で風の自然ならざる動きがあれば見逃すはずがないという自信が彼女にはあった。
そしてタバサの知る限り、声を遠くへ届かせるのは風の呪文である。
先程ディーキンに声を送った自分の呪文もそうだ。
なのに、ディーキンが声を掛けてきた時には風の動きを全く感じなかった。
注意深く気を配っている今でさえ、何ら不自然なものは感じ取れない。
どんな呪文かは分からないが、明らかに魔法によって声を届けているはずなのに……。
僅かに眉根を寄せて考え込むタバサをよそに、ディーキンは話を続ける。
『ええと、ディーキンは今、少しあんたと話しても大丈夫かな?』
「………大丈夫。でも、何故」
『ウーン、なんていうか、ディーキンの勝手な勘違いかも知れないけど……。
さっきあんたが声を掛けてくれた時、もしかしてディーキンに何か話があるのかなって思ったの』
「! ……………どうして、そう思った?」
『いや……、その、そんな顔っていうか、感じっていうか。そう見えたの。
けど、普通に話しかけてこないから、何か他の人に聞かれたら困る事かなって思ったんだけど……』
「………、そう……」
タバサは表情にこそほとんど出さなかったが、その言葉にひどく驚かされた。
自分は感情を態度や顔に出さない。
それは今までに経験してきたことからそうならざるを得なかったためであり、そのように訓練してきたためでもある。
この学院で自分の表情や態度から感情の変化を読めるのは、親友のキュルケくらいのものだと思っていた。
なのにあの使い魔はほとんど初対面で何も知らない間柄の自分の感情を見抜き、その理由まで洞察していた。
そしてわざわざ気を使って知られないように声を掛けてきてくれた、というのか。
一方ディーキンの側からすれば、タバサの内心を察知して気を利かせた対応をできたのはなんら不思議な事ではない。
なにせ幼少期から気まぐれで暴力的なドラゴンを主人として傍に仕えていた身である。
相手が表情の変化に乏しかろうと異種族であろうと、機嫌や思惑を的確に読んで不機嫌な時は傍に寄らない、もしくは上手く機嫌を取る術を学ばねば命に関わったのだ。
その後も陰謀の達人である数々のアンダーダーク種族や、多元宇宙でも最も策略に長けた種族であろうデヴィルどもなどと渡り合って、更に技量は高まっている。
連中とやり合うのに比べれば、ほんの2、3年ばかり感情を隠す術を磨いた程度の少女の悩んだ様子に気が付く事など難しくもなんともない。
先程周囲の意見を誘導して、自分の望む方向に上手く持って行ったことも然りだ。
『……アア、でももし違ってたら、勝手な思い込みで迷惑を掛けてゴメンなの。
もしそうなら、お詫びして話は止めるよ』
「………違わない、あなたの考えは正しい」
『オオ、それならよかったよ。
ウーン、じゃあ、今ならその事を話してもらって大丈夫かな?
けど、授業の最中だから……終わってからどこかで話してくれる?』
「今話す。あなたが大丈夫なら。
わざわざ気を使ってくれて、感謝する」
まさか向こうから接触を図ってきてくれるとは、タバサにとっては実際願ってもない話で感謝したくもなる。
『ンー……、ディーキンは自分が気になったから話しただけで、感謝されるような事じゃないの』
ディーキンは窓の縁に掴まりながら、少し首を傾げて返事を返す。
実際、わざわざ授業中に呪文まで使って声を掛けた理由としては、面識もない少女が何故自分と話をしたいのかが単純に気になったからだ。
ついでに言えば、その少女が勉強中の学生メイジにしては戦い慣れしているような気配を纏っているのも関心を強めるのに一役買っていた。
『ところで、ディーキンはディーキン・スケイルシンガー、コボルドのバードで冒険者、鱗を持つ歌い手だけど、あんたはなんていう名前なの?
ディーキンはまだ、それを聞いてないよ』
「タバサ。『雪風』のタバサ」
『ウーン……、雪風のタバサ……だね、ディーキンは覚えたよ。
よろしくなの、タバサ』
「こちらこそ」
ディーキンはタバサと挨拶を交わしつつも、他の学生とはなんだか名前の感じが違うなあと首を捻った。
タバサというと、どこだかの古い言葉で何か、草原に棲む動物を指すのだったような気がする。
もしかして偽名とかだろうか?
あるいはその事も、自分と密かに接触したがった理由に関係しているのかも知れない。
だが、まあ、今は深く考えても仕方がないだろう。
『……それで、ええと……、タバサは、ディーキンにどんな用事があるの?』
タバサはそこで、少し逡巡する。
果たして、この得体の知れない使い魔に、自分の使い魔の事をどこまで伝えてよいものか……。
「…………私の使い魔はドラゴン、それが昨夜からあなたに関心を持っている。
あなたは自分と同じドラゴンだと思っているらしい、それは本当?」
タバサは結局、ひとまず韻竜であるという事は伏せて端的に用件を告げることにした。
『……え? ドラゴンが、ディーキンにそんなことを言ったの?』
ディーキンは窓の外でやや驚いたような声を上げる。
フェイルーンではコボルドはドラゴンを敬い、忠実に仕えようとするが、ドラゴンの方は惨めで脆弱な遠い親類に興味を持つことは稀だ。
昔の主人もコボルドは同族と認めるには弱すぎると言って歯牙にもかけず、機嫌が悪い時には平気で殺していた。
まあ、自分だけは少し特別扱いしてくれたが。
『ええと……、うーん、それは……、多分本当だよ。
コボルドはドラゴンの血を引いてるからね、きっとそのせいだと思うの』
「コボルドがドラゴンの血を引いているなんて、聞いたことがない。
それに、あなたはコボルドには見えない」
『アア、それは昨日ルイズ達にも説明したけど……』
ディーキンはそれから自分はハルケギニアとは遠く離れた地から来た亜人で、その地ではハルケギニアとは名称が同じでも別、というものが多いらしいと説明していく。
『ディーキンが昨日ちょっと本を読んで調べた感じではコボルドもそうだし、ここで見た感じだとサラマンダーやバグベア―なんかも違ってるね。
それから、ええと………』
ディーキンは“ルイズと正規の契約をしていない”と言う部分だけは伏せたが、これまで分かった事の多くを正直に伝えていった。
彼女は教室の他の生徒達と比べて段違いに鋭そうな雰囲気を纏っており、深い意味もなく無闇に多くの事を伏せても勘ぐられるだけで逆効果だと思える。
それに彼女はキュルケの親友という事だし、それを抜きにしても『隠し事はありそうだが信頼できる人、かなりの大物かも』というのがディーキンの判断であった。
ごく直観的な判断ではあるが、駆け出し時代のボスを一目で“偉大な英雄”だと見抜いた自分の目、特に大物を見抜く目はそれなりに確かなものだと自負している。
「……………」
それに興味深く耳を傾けていたタバサは、話が一区切りつくとじっと考え込む。
まるで聞いた事もないような話ばかりで普通なら非常に疑わしい……、まず信じられないような内容ではあった。
だがタバサは、それらはみな本当の話であろうと判断した。
彼女とて数々の困難な任務を潜り抜け、裏切りや策謀にも常に注意を払ってきた身。
信頼できる相手かどうかを見抜く目、嘘を見抜く力は相応に身に付けているという自信がある。
彼には嘘をついているようなそぶりは全く感じられなかったし、間違いなく只者ではないにせよ悪意のある人物とは思えない。
全ての話が非常に興味深かったが、特にタバサの注意を引いたのは……。
(…彼の故郷、フェイルーンと呼ばれる地では今も韻竜が当たり前に存在している。
その地では稀に韻竜が他種族の姿に身を変えてその種族との間に子を成すことがあり、竜の血を引く者が時折見受けられる。
特にフェイルーンのコボルドは種族全体が竜の血を引いていて、竜に奉仕している。
彼は以前に韻竜の主人に詩人として仕えていて、竜の力を引き出すための訓練も積んでいる…)
その話が本当であるなら、彼は韻竜である自分の使い魔の話し相手として、これ以上ないほどに相応しいだろう。
おそらくこちらの立場を理解して、秘密を守ってくれそうな人物にも思える。
しかし………。
『……それで、タバサの使い魔がディーキンに興味を持ってるのは分かったけど。
それで、あんたはディーキンに一体何をして欲しいの?』
「その前に、お願いがある。
これからする話は、あなたの主人には伝えないでほしい。
……ルイズの害になるような話でないことは、誓う」
タバサは窓の向こうの話し相手には見えないことを承知で、小さく頭を下げた。
他人の使い魔に対して主人に隠し事をしてくれなどと要求するのは非常識な事だが、こればかりはどうしようもない。
『――――つまり、タバサはディーキンが約束すれば、それを信じて大事な秘密を話してくれるってことなの?
オオ……、ディーキンはすごく嬉しいの、あんたの期待を裏切らないようにするよ』
「……? 頼んでいるのは、私の方。どうして、あなたが感謝するの」
『ンー……? だって、ちっぽけなコボルドを信じて大事な秘密を話してくれるなんて、滅多に無い事だよ。
そんな風に扱ってもらえることに感謝するのは、当然だと思うの。
信頼されるって、コボルドには滅多に無い事だし、そうでなくても誰にとっても大事な事じゃない?』
「………。そうかもしれない」
タバサはなんとなく、キュルケがこの使い魔を高く評価していたことに得心がいった。
色々と行きがかりはあったが、彼女もまた、無口で愛想の欠片もない自分の事を最後には信頼できる親友として認めてくれた人だったのだから。
同時に、この使い魔の事は全面的に信頼してよい、と結論を出した。
「―――じゃあ、話す。
まず、私の使い魔は風韻竜で……」
「ただいまなの、ルイズ」
ちょうど授業が終了したあたりで、ディーキンは窓の外から戻ってきた。
教室を出ていくシュヴルーズに軽く挨拶して、ルイズの元へと戻る。
「お帰り……随分時間が掛かってたわね、その……そんなに汚れてた?」
「アア、いや、それほどでもなかったの。
けど、始めたら色々細かいところが気になって、関係ないとこまで片付けてたら時間が掛かったの」
ディーキンはにこやかにそう答えて、詫びるように軽く頭を下げた。
まあ、嘘ではない。
タバサとの話というルイズとは関係のない事で、細かいところをしっかりと詰めていたら時間が掛かってしまったのだから。
「ふうん。……そういえば、随分機嫌良さそうな感じね。
そんなに掃除が好きなの? 掃除の達人とか言ってただけあるわね……」
ルイズは勝手に勘違いしてひとり納得する。
ディーキンがにこにこしているのは、言うまでもなく授業時間中目いっぱい頑張って万事上手くやりおおせた達成感からである。
あの後ディーキンはタバサと話を続け、彼女の使い魔である風韻竜の話し相手となる事、その正体をルイズを含め他の者には伏せることを承諾した。
正直に言えばドラゴンは未だに少し怖い相手だが、タバサが言うには子どもっぽい竜で、怖れることはないらしい。
自分が“正当な自信と勇敢さ”を持つことをボスも望んでくれていたし、何より初対面の自分に全面的な信頼を寄せてくれたタバサの願いなら是非もなかった。
ルイズに使い魔の正体がばれないかという事に関してはタバサがかなり心配していたので慎重に話し合った。
彼女はディーキンが話さないという事は疑っていないようだったが、使い魔の感覚共有で露見する事を危惧していたのだ。
ディーキンとしてはまず、ルイズも信頼できる人物であり知らせても秘密を守ってくれると請け負ったのだが、タバサはそれでも当面は伏せたいと主張した。
曰く、
『あなたの主人は名誉を守る人物で、信頼はできると思う。
けど、未熟なところがあるし、感情的になりすぎるから何かのはずみで誤って漏らしてしまうかもしれない。
それに私はキュルケの友人、彼女はキュルケと不仲』
ということらしい。
ディーキンとしても確かにそう言う面はあるかもしれないと思ったので、それ以上無理に説得しようとはしなかった。
実際のところ、正規の契約は行っていないので感覚共有で露見する心配は一切ないのだが……。
ディーキンとしてはタバサは信頼できる人物で話しても問題ないと信じているが、だからといって勝手に話せばルイズや学院長らの信頼を裏切ることになる。
したがってなるべく人のいないところで話すとか、会話には竜語を使うとか……。
仮に感覚共有があったとしてもまず問題ないようなやり方を詰めておく必要があり、それに余計な時間が掛かってしまったのだ。
また、密談に使った《伝言(メッセージ)》の呪文についても色々と聞かれた。
どうやらタバサは風のメイジであり、この呪文がハルケギニアの類似の呪文と違って風を使っていないことに気付いたらしい。
そのような事に鋭敏に気付くあたり、やはり彼女は相当優秀な人物なのだろう。
ディーキンは自分の魔法はバードという職業の者が使う歌の魔法であってハルケギニアの亜人が使う先住魔法とは別物である事、
どちらかと言えば系統魔法の仲間であり、他の存在に頼るのではなく自分の内にある力を用いる魔法である事などを簡単に説明してやった。
タバサはそれを聞くとより関心を深めたようで機会があればより詳しく聞かせて欲しいと言って来たので、
代わりにこちらも系統魔法について本では分からないあたりを教えてほしいと求めると、お互いに同意が得られた。
その後壁面に書き取った授業のメモを羊皮紙にまとめ直したり色々と後片付けを済ませると、ちょうど授業の終了時間だったのだ。
「じゃあ、また私の横に座りなさい。次の授業があるからね。
……その、さっきはありがとう。
でも今度は、あんな目立つことはしないでちょうだい……恥ずかしいから」
顔を赤くして俯きつつ、周囲の視線を気にしながらもごもごとそういうルイズを見て。
ディーキンは少し首を傾げると、素直に隣に座った。
「ンー……、バードは目立つのも仕事の内なの。
でもルイズがそういうなら、ディーキンは……ええと、善処するよ」
それからルイズとディーキンは、そろって午前中の残りの授業を受けた。
ディーキンは一時間目のように派手に名乗りを上げたり演説をしたりと目立つようなことはせず、大人しく熱心に授業を聞いてメモを取っていた。
シュヴルーズと違っていずれの授業の教師もルイズの事を既に知っており、指名しようとしなかったし使い魔に言及するのも避けたので、その必要が無かったのだが。
ルイズもまたそんな使い魔に恥じないように熱心に集中し、とても誇らしく充実した気分で午前の授業を過ごした。
「ねえタバサ、あなたどうかしたの?
何だか機嫌が悪そうじゃない、さっきまではむしろ良さそうな感じだったのに」
「別に、何でもない」
一方、タバサの機嫌はよろしくなかった。
2時間目まではディーキンとの実りある会話の一件もあって、キュルケが言うように機嫌はかなりよかったのだが。
3時間目の途中でイルククゥはそろそろ戻って来るかと再度感覚を共有してみたところ、本代を使い込んで買い食いをしていることが判明したのである。
こっちは大切な使い魔のためにあれこれ便宜を図り、先住の名前では目立つだろうと人間向けの偽名まで考えてやったりしているのに……。
ちらりとディーキンの方を見れば、彼は主と並んで仲良く熱心に勉強していた。
やっぱりあの子みたいな使い魔がよかったと内心で軽く溜息を吐いて、ぽつりと呟く。
「……帰ってきたら、ただじゃおかない」
メッセージ
Message /伝言
系統:変成術[言語依存]; 0レベル呪文
構成要素:音声、動作、焦点具(短い銅線1本)
距離:中距離(100フィート+1術者レベル毎に10フィート)
持続時間:術者レベル毎に10分
術者は伝言を囁いて伝え、相手が囁き返した返答を受け取ることができる。
最大で術者レベル毎に1体までの距離内のクリーチャーを目標にすることができ、全員に同時に同じ伝言が伝わる(返答を受け取れるのは術者のみ)。
この呪文は風に音を運ばせるわけではないため、多少の障壁があっても声が伝わる。
分厚い壁やフェイルーンのサイレンス呪文はこの伝言を遮るが、木製の扉や普通の土壁、薄い鉄板程度であれば障害にはならない。
またこの呪文による伝言は直線を通る必要はなく、分厚い障壁があっても迂回するルートが存在しており、かつ経路全体が呪文の有効距離内ならば伝言は伝わる。
<真意看破(SENSE MOTIVE)>:
相手の嘘や真意を見抜く技能。関係能力値は判断力。
直感的にその場の状況を判断する能力でもあり、何かが間違っている場合(例えば相手が偽物であるなど)に違和感を感じ取ることができる。
また、そもそも相手が信頼できそうな人物かどうか直感的に見抜くこともできる(難易度20)。
密かなメッセージの意味に気付いたり、敵の強さがどの程度であるかを大まかに看破することにも使える。
更に、魅惑や支配などの何らかの精神作用の影響を受けている者をそれと識別することもできる(難易度25)。
今回は以上です。
さて、次は召喚翌日の昼食時間となると恒例のイベントがありますが…。
正直どうしたものかちょっと迷っております。
考えがまとまり次第、なるべく早く続きを投下したいと思っております。
それでは、お付き合いいただきありがとうございました。
次回もどうぞよろしく…(御辞儀)。
up乙、就寝前にいい物見せてもらいました。
312 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/14(木) 04:19:57.15 ID:aE4DriXn
>>286 勝手なイメージというかもはや妄想の域だろ。原作にそんな描写の欠片もないのに。
カトレアみたいなほんわかキャラは腹に一物があるとか、二次創作を原作設定だと勘違いするタイプか?
えーっと、妹を贔屓する腹黒
妹を猫可愛がりするのって腹黒い描写か?
そもそも登場シーンが限られてるキャラだし設定通りの優しくて病弱なお姉さんとしか言いようがない
あるとしたら才人がルイズに気絶するほどボコられてるのに止めもせずに静観してたとこかな
それはともかく乙
乙
相手がギーシュだろうがジョゼフだろうが、説得で片付けてしまいそうな
ディーキンの姿が見える気がする
ジョゼフ「ああ?」[威圧]
ディーキンが15話入ったからまとめの長編区分を移そうかと思ったら…
なんか15〜19話の区分が見当たらないんだが、どうなってるんだ?
319 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/15(金) 13:13:40.76 ID:dHE3e+B9
リリカルなのはクロス作品のパロロワがあるんだから、どうしてゼロ魔クロスの
パロロワはないんだろう?・・・などとふと思った今日この頃。
逆に考えるんだ、ある方がおかしいと考えるんだ。
マジレスするとゼロ魔の方だと基本ゼロ魔ベースで話作ってるからクロスさせても面白みが薄いからじゃね?
リリカルな方だとクロス先のストーリー軸の絡みがこっちより強い印象あるし。
ルイズだけ集めてパロロワすればいいんじゃない
そもそもかなり人選ぶジャンルなんだから触れない方が無難
え?ルイスだけ集めてパワプロ?
やきうのお兄ちゃんは僕らの秘密基地から出ていってよ!(`・ω・´)
ドラッキーの草やきう
食べられたはずのラッキーが草野球をば
ポケモンのラッキーを召喚なら卵をおいしくいただけるな
エッグモンスター“たまごキャリー”でも呼んでろよ。
予定なければ、10分後から投下始めます
第16話『偽り(前編)』
アルビオン王国最期の夜。
一人きりとなったベッドでルイズは夢を見る。
「アセルス……」
浮かんだアセルスの姿にルイズが名前を呟く。
彼女がハルケギニアに呼ばれる前に至る、最後の夢……
最愛の人だった白薔薇を失ったアセルス。
ゾズマに誘われるまま、街を歩く。
最初に訪れたのは街の外れにある建物。
真っ白い壁に覆われており、窓ガラスは最上階付近にしかない。
故に中を伺う事は出来なかった。
「こんなところにも妖魔が?」
町はずれの研究所は暮らしていたアセルスも知っている。
アカデミーにも似た雰囲気から、ルイズも同様の施設だろうと理解する。
「ここは普通の研究所に見えるだろう?でもね、実は妖魔の研究をしてるんだ。
勿論、人間に捕まるのは弱い下級妖魔だけどね」
ゾズマはそれだけ言い残すと、姿を消す。
後を追って、アセルスは建物の中を探索しだした。
研究所は一体何を調べているのか。
異常な植物や魔物で覆い尽くされている。
(エレオノール姉様もこんな研究してるのかしら?)
姉の仕事をよく知らないルイズにふとそんな考えが浮かぶ。
アセルスが魔物を避けつつ、扉に向かうとそこには一人の女性がいた。
「誰?」
アセルスが部屋の一つに足を踏み入れると、
ルイズと同じようなピンクブロンドのショートヘアーの女性が装置を弄っていた。
扉が開いた様子に気づき、振り返る。
「見学者の方かしら?」
「ええ、まあ」
尋ねてきた女性にアセルスが誤魔化す。
「良くいらしたわね、私はナシーラ。ここの主任研究員よ」
研究所の主任を名乗るナシーラ。
年は一番上の姉と同じくらいだろうとルイズは判断する。
「妖魔の研究をしているんですか?」
「え、まさか?ここでは植物を中心に生命力の謎を解こうとしているの」
アセルスの直球な質問に少し驚いたようにナシーラが答えを返す。
「あなたの生命力を測定してみない?」
少し戸惑いながら、アセルスは装置に手を触れる。
すると、コンソールに映る数値が目まぐるしく跳ね上がっていく。
「この数値……あなた妖魔なのね!しかも、最上級の」
「私は人間です」
「ありえないわ、これだけの妖力値が出る人間はいない」
アセルスの否定に、ナシーラは根拠を示す。
「それにしても凄い値だわ。あなたいったい何者?」
測定された数値に驚愕から釘付けになったまま、ナシーラが尋ねる。
ナシーラの問いにアセルスは答えを迷う。
脳裏をよぎるのは、叔母に拒絶された時の事。
しかし、自分が妖魔だと気づいている。
やや躊躇いながらも、アセルスは自身に起きた出来事を話した。
自らが妖魔の血を分け与えられた事から、城からの脱走までを。
「…すごい話ね、この数値を見てなかったら信じられない所だわ」
話を聞きながら、再び数値に目を向ける。
「いらっしゃい、あなたにだけ見せたいものがあるの。
ちょっと刺激が強いと思うけど、大丈夫?」
「……多分」
忠告にアセルスが躊躇しながら頷く。
ナシーラと共に、奥の研究施設へ向かう。
目の当たりにしたのは、ルイズにもアセルスにも衝撃的な光景だった。
「何これ……」
ルイズが思わず言葉を漏らす。
妖魔らしき生物が当たり一面に埋め尽くされている異様な空間。
彼らは一様に檻に入れられており、また体の一部がない者が大半だった。
「じゃあこっちへ来て。ここは妖魔の檻。妖魔の容器を抽出しているの」
ナシーラが案内した先は薄暗い部屋だった。
檻にはルイズが見たこともないような獣やオークに似た下級妖魔が閉じ込められている。
「大丈夫よ、対妖魔フィールドを張ってあるから。
ここはさっきの妖魔に 生気を供給している生き物の檻」
ナシーラが観光のツアーコンダクターのように示した先を見た瞬間、アセルスもルイズも唖然とした。
「生き物って人間じゃないですか!」
そこにいるのは紛れもない人間だった。
アセルスが思わず非難の声をあげるが、ナシーラは何処吹く風といった様子で説明を続ける。
「そうとも言うわね。高額の報酬に目がくらんで、自分の命を切り売りしているのよ。
それが、魂を売り渡す行為だって気づかずに。そんな連中を人間とは呼びたくないわ」
ナシーラの檻にいる人間を見る目線は酷く冷たい。
まるで汚らわしいモノを見るように。
「あなたがやらせてるんでしょう!」
「仕事の内容を説明して報酬を提示したのよ。
やるかやらないかは本人の意思次第でしょう」
なおも反論しようとするアセルスをナシーラは遮る。
「実際、説明を受けた人のほとんどが引き受けないわ。
大丈夫、彼らの不純な献身も無駄にはしない」
そこまでして達したい研究とは一体何かルイズには理解できない。
アセルスも納得していない表情を見れば、抱いている感情は同じだろう。
「この研究の目的は人間の不老不死。 そのために妖魔の生命力に着目したの」
「妖魔が、そんな研究に協力するとは思えない。
あの妖魔たちは無理やり捕まえたんでしょう?」
告げられた目的に、アセルスが再び反論する。
「ええ。でも、妖魔の支配者の了解は得たわ。
下級妖魔なら、いくら捕まえてもよろしいそうよ」
ナシーラの答えにルイズは悪寒を覚えた。
そこにあるやり取りは貴族社会の負の面そのものであった。
平民が蹂躙されようとも、貴族の誰もが気にしない姿が目の前の光景と重なる。
「酷い、よくこんな事が出来ますね。
やっていいことと悪いことがあるわ」
アセルスの罵倒は無論、夢の住人であるルイズに向けたものではない。
それでも、ルイズの心を抉る。
「私は、研究のために全てを捧げているわ。
もし、この研究が間違いだというのなら、私の存在自体を否定されているのと同じ。
それより、あなた自身、協力しない?」
意に介する様子もなく、ナシーラはアセルスに尋ねる。
「なんで私が!」
「あなたの妖力、それだけ強い妖力があれば、あんなザコ妖魔を飼っておく必要も無い。
あなたがその気になるだけで、あの妖魔も人間も救うことが出来るのよ」
ナシーラの言葉は冷淡さに満ちていた。
魔法が使えない落ちこぼれと呼ばれたルイズはよく知っている。
ナシーラは檻にいる人間達を見下してすらいなかった。
道端に落ちている石ころにいちいち感想を抱く人間はいない。
ナシーラの瞳はアセルスしか見ていない。
もはや彼女にとって、檻にいる者は研究道具にすらならない塵同然だった。
「そんな……」
「あなたには、彼らを救う力がある。それでも見捨てるのね」
外から見ている分にはナシーラの必死さが見て伝わる。
アセルスを宥めすかし、次は良心に訴えかける様子は詐欺のやり口そのもの。
それでもアセルスが断らないだろうとはルイズも察していた。
「あなたは本当に人間ですか? 妖魔よりもずっと魔性を感じる」
「悪魔に魂を売ってでも、この研究は成し遂げるわ。
ついて来て、あなた用の特別室に案内するわ」
アセルスの質問を肯定と受け取ったナシーラは更に奥の部屋へと手招いた。
「ここは?」
奥に置かれていたのは人どころか飛竜すら入れそうなガラスケース。
その周りに大量のボタンやレバーが配置されている。
「上級妖魔用の特別室よ。 実際に使う機会が来るとは思わなかったわ」
レバーを下げると、ガラスケースの扉が開く。
入れという事だろうと察したアセルスが入口に向かう。
「逃げようとしなければ、フィールドでダメージを受けることは無いわ」
入る間際にナシーラが忠告する。
彼女の言葉を裏返せば、出ようとすれば怪我を負うということだ。
「私は逃げたりしません。こんなことしなくても」
「そうかしら?」
装置の中に入ると、ナシーラがスイッチを押して機械を動作させる。
「うや…やめて……」
「人間は平気なんだけど、妖魔だと苦しいらしいわ。やっぱり苦しい?やめる?」
悲鳴を小さくあげるアセルスにナシーラが尋ねる。
「よくもそんな言葉を…!!!」
ルイズが思わず叫んだ。
自身も幾度となく周囲から受け続けたからこそ気づいている。
アセルスは人間で居続ける事に執着している。
ルイズが貴族に固執していたように。
ナシーラが妖魔である事を刺激したのは、アセルスの逃げ道を防ぐ行為。
その言葉は人の心を容易に踏み躙る。
「平気……私は人間だから……」
耐えようとするが、アセルスの表情から苦悶は消えない。
「やっぱり、あなた凄いわ。これを見て。
この青い薔薇、容器を吸わせることで生み出したのよ。
いままでのカス妖魔どもの何倍も輝いているわ。ありがとう」
ナシーラの顔に狂気の笑みが浮かぶ。
青い薔薇、存在してはならないはずの異形の色。
青色が濃くなっていく度に、ナシーラが歓喜の笑みを浮かべる。
「大丈夫?すこし、弱めましょうか?」
ナシーラの言葉は気遣いに満ちている。
それはアセルスの身ではなく青い薔薇が実現できなくなるからだろう。
「さっきの話は……その薔薇のために……」
掠れた声でアセルスが呟く。
「薔薇だって私たちと同じ生き物よ。永遠に生きる価値があるわ」
本音を告げるナシーラ。
当人はとっくに不老不死の研究が暗礁に乗り上げていると理解していた。
今の技術では永遠に到達し得ない領域。
研究当初に花を使った実験中、偶然妖魔の血に染まった青い薔薇。
今思えば酷く不出来な色合いだったが、ナシーラは心惹かれた。
そこからナシーラの目的は永遠の命ではなく、美しい青い薔薇を作る事となっていた。
上級妖魔の血を使う事で遂に辿り着いたのだ。
青い薔薇を手に取ろうと腕を伸ばした瞬間──
「なんてこと!!!どうしてこんな色に!!!?」
発狂したようにナシーラが頭を抱える。
青い薔薇が見る見るうちに白く染まり、残されたのは元の白い薔薇だった。
「私の中には人の赤い血も流れているのよ……」
アセルスの言葉にナシーラは放心したように、虚空を見つめる。
「所詮、半妖というわけね。 半妖の血では青い薔薇は咲かせられないのね」
失望したように装置にいるアセルスを見つめる。
アセルスを見る瞳には、ガラス玉のように感情は一切残されていない。
「本音は、それか。あんたの観賞用の薔薇を作りたいだけなんだな。
自分の楽しみのために他人をもてあそぶな!!」
アセルスが装置の入口を力づくで打ち破ると叫ぶ。
「そうね。 こんな連中のために、あなたがその身をささげる理由は無いわね。
あなた、自分で思っているよりもずっと妖魔的よ」
「私は人間です!」
挑発するナシーラにアセルスは自分が人だと宣告する。
アセルスが扉を開けて出て行く。
ナシーラはアセルスの後ろ姿を憎々しげに睨んでいた。
ナシーラが装置の一つを押すと、施設が轟音を立てて揺らぐ。
初めは地震かと思ったが、ルイズはすぐに違うと気がついた。
床の一部が左右に分かれて、開いていく。
その下に巨大な竜と思わしき影が浮かんでいるのを目撃した。
最も、せり上がって来た竜の姿はルイズの知識にあるものと大分異なる。
竜に羽はなく、代わりに不釣り合いな大砲を背負っている。
大砲は屈強な竜の体躯をもってしても、自重で姿勢が保てない程に巨大。
更に竜は継ぎ接ぎだらけで、普通の生き物ではないとすぐに察する事ができた。
ナシーラが呼び出したのは地竜。
彼女が作り出した生物であり、この研究施設においても最大戦力を誇る魔物だった。
地竜がアセルスに向けて、大砲を放つ。
無論、直撃をむざむざ受けるアセルスではない。
大きく横に跳躍して砲弾を回避する。
避けた砲弾は檻の一つを破壊し、中にいた人間を肉塊へと巻き込んだ。
「何を!?」
「もうこんなカス共の血は必要ないわ」
叫ぶアセルスに対して、ナシーラは呟くように答える。
「そこまでして血が欲しいか」
「貴女にはわからないでしょうね。
永遠にも等しい上級妖魔の血を受けておきながら、その価値に気づけない貴女には」
地竜を呼び寄せたナシーラの形相は憤怒に歪んでいた。
アセルスは気付いてしまった。
身勝手な感情を自分に向けるのは、妖魔だけではないと。
下級妖魔がアセルスに向ける畏怖。
中級以上の妖魔が自分の力を付け狙う欲望。
親代わりだった伯母には恐れられ、化け物呼ばわりされた。
欲望の為に自分の力を利用しようとするナシーラ。
両者の反応は何ら変わりない。
自分自身など見もしない失意と絶望。
生まれ持った立場への周囲の羨望と嫉妬。
自分を受け入れてくれた存在は白薔薇とジーナの二人だけ。
人からも妖魔からも拒絶された世界でたった一人の中途半端な存在。
アセルスの中で何かが弾けた。
「血さえあれば十分……殺しなさい」
アセルスの心中など気づかないナシーラが地竜に命じる。
この場でアセルスの異変に気づいたのはルイズのみ。
周囲からの悪意に蝕まれ続けた人間がどうなるかはルイズは良く知っていた。
初めは無力な自分を呪う、次に境遇。
それでも悪意を受け続けたなら──他者の悪意に自らも悪意で返すようになる。
ルイズも何度となく抱いた孤独と絶望。
ただし、二人の立場には一つだけ相違点があった。
「妖魔の剣」
それは、力の有無。
腰に携える幻魔とは別に、右手に異形の剣が現れる。
アセルスは竜の首を跳ね飛ばすと同時に、大地に叩き伏せた。
「ちっ……砲撃を!」
舌打ちしながらも、ナシーラが次の命令を下す。
首がないまま竜は背につけられた大砲をアセルスに向ける。
しかし砲撃するより早く、アセルスの振るった妖魔の剣が竜を吸収する。
妖魔の剣自体は『妖魔』であれば誰にでも扱える。
他者の命を吸収する事で自らの力を強化する妖魔の業。
だから、アセルスは今まで決して使おうとしなかった。
吸血行為すら忌むべきものとしか捉え、極力控えていたくらいだ。
渇きをジーナが送ってくれた血の混ざった赤ワインで誤魔化し続けていた。
そんなアセルスが、妖魔の剣を使う。
どういう意味を成すかルイズは知ってしまう。
自ら下した人間との決別。
今まで単なる少女にすぎなかったアセルスはこの瞬間、妖魔となったのだ。
「アセルス……」
彼女の瞳はルイズがよく見ていたものだ。
自らに刃向かう者へ向ける、無慈悲で冷徹な視線。
最大の切り札を失ったナシーラに打つ手立てはない。
「くっ!」
壁のコンソールに手を当てると、非常口への扉を開く。
逃げるナシーラを追いかけるでもなく、アセルスは地竜の残骸から何かを取り出した。
取り出した筒状の物体はルイズにも見覚えのあるものだった。
「ハイペリオン……」
そう、学院にある破壊の杖と呼ばれていた武器。
アセルスは安全装置をはずすと、ナシーラが逃げた方角に狙いを向ける。
──結果、研究所は大爆発を起こした。
炎に包まれ、悲鳴を上げる研究員達の地獄絵図。
アセルスは湧き上がる火を踏み締めて、ナシーラへと歩み寄る。
「嫌……死にたくない……」
足掻く彼女に、アセルスは何も告げない。
ただ剣の刃を向ける事がアセルスの返答だった。
今まで、アセルスは『人』を殺した事はない。
それでも何の躊躇いもなく、剣を振り下ろした。
返り血を拭うとアセルスは立ち去る。
初めての殺人にも動揺した様子は見られなかった。
首を跳ねられた死体と燃え盛る研究室だけが跡には残されていた。
脱出する途中、妖魔達が捕らわれていた檻を解放する。
助けてやるのかとルイズは思ったが、彼らの望みは異なっていた。
「コロ……シテ……」
微かに囁いた願いは自滅。
下級とは言え妖魔である以上、力を奪われた者の末路は知っている。
邪妖に落ちるしかないのだ。
かつて白薔薇がアセルスに話した水妖の話。
邪妖になった存在は、上級妖魔の手によって消される掟。
アセルスは幻魔ではなく、妖魔の剣を携えると檻の妖魔達に剣先を向ける。
表情は影となって見えないままだった。
全ての妖魔を消滅させ、アセルスは研究所を出ようとする。
「おいおい、僕まで巻き込むなよ」
出口ではゾズマが先回りして待っていた。
どうやら先ほどの爆発の近くにいたらしく、衣装の裾が多少焦げている。
「決めたわ」
ゾズマがアセルスの言葉に怪訝そうに眉をしかめる。
「私はオルロワージュを討つ。そのための仲間を集めましょう」
それだけ告げると、ゾズマを置いて先に行く。
アセルスの様子を見たゾズマは楽しそうに笑みを浮かべた。
次に向かったのは、神社の一角。
ルイズから見れば未知の文明にしか見えないが。
アセルス達の前に現れたのは、民族衣装を羽織った一人の少女。
「嫌な臭いのする娘じゃな」
その姿はルイズより遥かに下だろうと予測する。
年齢に見合わない口調は大人びているというより、どこか浮世離れしていた。
「いきなり何よ。変な子ね」
面食らうアセルスに、少女は構わず言葉を続けた。
「白薔薇は去ったか。あれも、オルロワージュなどに忠義立てせずとも良かろうに」
思わぬ名前を聞いて、アセルスが足を止める。
「あなた誰?どうして白薔薇やあの人のことを知ってるの?!」
アセルスの脳裏に、白薔薇と話した会話がフラッシュバックする。
転生により自らの命を絶つ事でオルロワージュの探索を逃れていた者がいると。
「もしかして、そんな……あなたが零姫様……?」
オルロワージュの元から逃げ出した唯一の存在、零姫。
「わらわの事も一応は知っておったか。
お前がこのような運命に巻き込まれたのには、わらわにも少しばかり責任がある。
お前がどのような形で決着をつけるのかはお前の問題だが、わらわも手を貸そう」
-------
次に出会ったのはルイズやアセルスも知った顔だった。
「メサルティム!」
湖を泳ぐおとぎ話のような人魚の姿。
かつてオウミで出会った水妖だった。
「アセルス様!」
恩人との再会に嬉しそうに近寄る。
「メサルティム、力を貸してくれないか?」
「何なりとお命じ下さい、私は貴女様の僕でございます。」
恭しく頭を下げる彼女を見て、アセルスは満足そうに頷く。
ルイズにはアセルスの態度から、違和感が浮かぶも原因が分からない。
疑問が解消されぬまま、アセルスは自らの因縁に終止符を打つ為の場所へ向かう。
-------
アセルスが次に訪れたのは妖魔の元ではなく、とある店だった。
飛ばし屋という、リージョン移動を請け負う運び屋に依頼を行っている。
「本当にいいのかい、このリージョンへの道のりは文字通り片道切符だぜ?」
運転手が地図を指し示す。
ルイズには文字は読めなかったが、描かれた形状から場所を把握する。
「構わない」
彼女が向かおうとしたのは……否、彼女が戻ろうとしたのは針の城だった。
リージョンシップに乗り込もうとすると、既に先客がいた。
「イルドゥン」
アセルスが名前を呼ぶ。
「これからどうするかはお前が決めろ、もう少し付き合ってやる」
わずか5人を乗せた船は針の城へと飛び立った……
辿り着いた針の城は相変わらず陰鬱とした空気に包まれている。
城下町から城に向かおうとした時、アセルスを罵倒するものがいた。
「何故ジーナを、何故連れていった!!
どこという取り柄も無い、普通の娘だ。
なぜ、そんな娘まで毒牙に掛ける!もう、こんな所にはいたくない!」
彼の姿は見覚えがあった。
ジーナがいた裁縫店の親方。
久方の出会いより、彼の言葉にアセルスは愕然とする。
「ジーナが連れて行かれた!オルロワージュめ!!」
怒りを露わにするアセルスは城へと駆けつける。
オルロワージュの妨害はこれが始めてではない。
以前にも一度、婉曲な脅迫にあっていた。
「あのお針子に御熱心なようだな?」
オルロワージュの思惑は、アセルスに人としての未練を捨てさせるもの。
ジーナが彼女の心の支えだと知り、彼女を遠ざけようとした。
オルロワージュの試みは半分成功した。
ジーナに会えば、危害を加えるだろうと思ったアセルスはジーナを城から遠ざけた。
もう半分の失敗はそれにより、アセルスが脱走の決心をした事。
もっとも、オルロワージュは思い通りにならない存在に楽しんですらいたが。
「私はアセルス、道を開けよ!」
扉を防ごうとした妖魔達にアセルスが一喝する。
その姿は雄々しく、ルイズが呼び出したアセルスの姿だった。
「棺が開いている……」
針の城へ突入したアセルスの目に映ったのは、開けられた棺。
書かれているのは44番という数字とアセルスと以前に対峙した者の名前。
「獅子姫はあの方を護ろうとするだろうね。
そんな健気な獅子姫を君は打ち倒す覚悟があるのかい?」
「金獅子姫様とは一度手合わせをしたそうだな。
その時は、おそらく手加減をしていたのだ。今度は違うぞ」
ゾズマとイルドゥンからの忠告。
アセルスは何も語らず、階段を駆け上る。
途中、中身が空の棺が目に入った──番号は0。
「いつまでもこの棺を取っておく辺りがオルロワージュの弱さ、並の男と変わらぬ」
零姫が独り言のように漏らす。
もう一つの棺に、アセルスがよく知る姿が浮かぶ。
「…白薔薇……まだ闇の迷宮にいるんだね」
棺に写るのは闇の迷宮で苦しむ彼女の姿だった。
オルロワージュへの憤慨から、アセルスは再び階段を駆け上がった。
途中たどり着いた広場。
道を塞ぐ妖魔を一瞬で討ち滅ぼす。
切り裂いた妖魔の中から出てきた人影に、アセルスは思わず足を止めた。
「ジーナ!!君だったのか。大丈夫かい?」
「アセルス様?本当にアセルス様だ!!」
思い馳せ続けていたアセルスの姿に思わず抱きつくジーナ。
「怪物の姿の中に閉じ込められていました。ありがとうございます、アセルス様」
「すまない……私に関わった所為で、怖い思いをさせてしまった」
語るジーナにアセルスの表情に悔恨の色が浮かぶ。
「私は全ての決着をつけてくる、ここで待っていてくれるかい?」
「はい、私はここで待ちます」
差し出されたアセルスの手をそっと包みながらジーナは答えた。
名残惜しさを感じながらも、アセルスは階段を見上げる。
最上階で待っているだろう、オルロワージュへの敵愾心を胸に。
行く手を立ち塞いだのは金獅子ではなく、予想外の相手だった。
(吸わせろ…………貴様を吸えば……復活……)
アセルスの手により消されたはずのセアト。
ただ怨みにも似た執念だけが、彼を存在させていた。
アセルスは亡霊となったセアトに向かって駆け出す。
もはや消えかけの存在に過ぎないセアトはアセルスの敵にはなり得ない。
剣を一閃させると、セアトの影が崩れていく。
「全く見苦しい妖魔だったね」
ゾズマが今度こそ消えたセアトの跡を眺める。
アセルスは振り返る事すらなく、先へ進んでいた。
「この先はオルロワージュ様の玉座。何人たりとて立ち寄らせるなと命じられています」
金色の長い鬣に似た影が照らし出される。
「獅子姫、どうして貴方と戦わなければならないのか分からない。
私の目指すところは一つ。貴方ではないわ」
金獅子の淡々とした物言いに、アセルスは退くよう懇願する。
「互いに言葉を交わす時は過ぎました。
今は戦いで決着をつけるときです。今度は全力であなたを倒す!!」
金獅子は吼えるように、剣を向ける。
「獅子姫……」
アセルスが目を瞑る。
目を開いた時、彼女の瞳に決意が込められる。
「……一騎打ちだ」
それだけ告げると、剣を抜く。
かつて、アセルスと白薔薇二人掛かりでも敵わなかった相手。
金獅子はルイズが前見た時より、遙かに早く獰猛に襲い掛かる。
対するアセルス も前回のように迎え撃つのではなく、剣を引き抜いて跳躍する。
お互いが交錯するのはほんの一瞬。
刹那の間に金属の打ち付け合う音が幾度も響く。
アセルスの頬の切り傷から一滴の血が流れる。
同時に、金獅子の肩からも青い血が流れ落ちた。
「強くなってる……」
傍目に見ていたルイズが驚く。
以前、二人掛かりで歯が立たなかった相手に一歩も引けを取っていない。
「はあぁぁぁぁーーーーー!!!」
金獅子は叫び声と共に、再びアセルス目掛けて突進する。
アセルスは幻魔を左手に持ち替えると、右手から妖魔の剣を浮かび上がる。
先にしかけたのはアセルスだった。
金獅子の突進に合わせて、カウンター気味に妖魔の剣を突き出す。
突きを金獅子は身体を捻って避けると、勢いそのままに剣を薙ぎ払う。
これをアセルスは上に飛んで逃れながら、幻魔を叩きつけるように振り下ろす。
金獅子が剣を受け止めるとアセルスを蹴り、間合いを外そうとする。
同時にアセルスも妖魔の剣を再度突き出して、金獅子の心臓を狙う。
「ぐっ!」
「かはっ!?」
お互いに短い呻き声をあげて、後方に吹き飛ぶ。
アセルスは踏み込んだ所に蹴りを受け、肋骨が何本か折れる。
金獅子の傷も浅いものではない、
心臓を貫かれなかったとはいえ、アセルスの放った剣は突き刺さっていた。
傷を治しながら起き上がるアセルスを見て、金獅子は悟ってしまう。
──自分ではアセルスを止められない。
剣の力量に決定差はない。
同等の力を持つ者同士が対峙した時、手数が多い方が優位になる。
金獅子は戦士過ぎた。
故に自身が持つ技量は全て攻撃に特化したものだ。
アセルスは異なる。
彼女が求めたのは一人で生き残れる強さ。
自身の強化や回復なども含め、身につけて来た。
致命傷を一撃で与えない限り、金獅子に勝ち目がないのだ。
「獅子姫、引いて頂戴」
傷を完治させたアセルスが、金獅子の胸中を把握したように降伏勧告を出す。
「さりとて引けぬ!」
金獅子が怒号のような声をあげる。
今までより強く、金獅子が床を蹴り両手で剣を構え直した。
しえん
アセルスも剣を向けて迎撃しようとした時、金獅子の狙いに気づく。
金獅子はアセルスの剣を避けようともしていない。
「おぉぉぉぉぉーーーーー!!!」
相打ち覚悟。
心臓に刃が食い込みながら、、金獅子が両手に持った剣を振り払う。
アセルスの首を目掛けて。
妖魔の剣で止めようとするが、片手では塞ぎきれない。
態勢を維持できなくなったアセルス。
首から大量の血を流しながら床に崩れ落ちる。
金獅子も口から血を吐いて倒れた。
そして彼女の身体が砂のように消えていく。
「アセルス様!」
メサルティムが近寄るとアセルスが身体を起こす。
金獅子の剣は、アセルスの首を刎ねるまであと一歩届かなかった。
まともに呼吸ができないほどに傷は深いが、アセルスは立ち上がろうとする。
「怪我の手当を!」
メサルティムが治癒の術を唱えると、傷跡は消え失せた。
「もう大丈夫」
金獅子を打ち倒したアセルス。
消えて行く彼女を一瞥しただけで、彼女が持っていた剣を手にする。
──残す敵はオルロワージュのみ。
針の城、最上階へ向かうための最後の一間。
そこで深々と礼をしたまま、アセルスを出迎える存在があった。
「御帰りを御待ちしておりました、アセルス様。
今こそオルロワージュ様を倒し、この城の主となるときです」
ルイズが彼の姿を思い出す。
イルドゥンがセアトにやられたと言っていた人物、ラスタバン。
「私にその力があるかな?」
「自信を御持ち下さい。
妖魔の誓いにより、私が直接、手を貸すことは出来ません。
そのかわり、この冥帝の鎧を御持ち下さい」
送られた鎧を受け取る。
見るからに禍々しい力に満ち溢れる鎧だったが、今のアセルスは迷いもなく受け入れた。
「この先はオルロワージュ様の領域、よく考えろ」
イルドゥンの忠告にも、アセルスは躊躇う事なく歩みを進める。
城のバルコニー。
外はまるで黄昏のような混沌とした薄暗闇に覆われている。
「我にひれ伏すために舞い戻ったか、娘よ」
アセルスの方を向くことなく、オルロワージュが語りかける。
「悟ったわ。私はもう人間としては生きられないならば、妖魔として生きるだけ。
そのために、あなたと決着をつける」
外は暗く時々瞬く稲光以外に明かりもない。
アセルスの表情は影で見えないはずなのに、その瞳だけが妖しく輝く。
「私に取って代わるというのか?」
振り返ったオルロワージュ。
怒りを覚えたのかと思いきや、声に喜色が混じる。
「私に挑む者が現れようとは!
お前に血を与えた甲斐があったというものだ。来るが良い、娘よ。手加減は無しだぞ」
マントを翻し、オルロワージュは笑いながらアセルスを最上階へと招く。
その姿は心の底から楽しんでいるように見えた。
「どこまでも救えぬ男め」
零姫の囁くような苛立ち混ざりの声。
最上階に着くと同時にアセルスは剣を抜いた。
上級妖魔、妖魔の君とその血を受け継いだ最上級同士の闘いが始まる…
最後に猿来ましたが、投下は以上です。
多忙につき、前回から間が空きすぎました
今後はもう少しマシになる…といいなと思ってます
乙です
待ってました
うひゃあああああああああ
原作知らないけれど緊迫した空気が伝わってきたぜい!!
SS投下の時は予約必要みたいだけど最初はどんな感じに予約すればいいのかしらん
前のレスを見て、何時から投下するってなけりゃ、自分が何時に投下するって言うだけ
今はもう投下もまばらだし、空いても精々30分未満だから大して気にすることもない
あら簡単だこと。(´・ω・`)サンクス。
掲示板の仕様も】含めて
>>1に注意書きがあるから一通り目を通しておくのを推奨。
乙
アセルス帰ってきてよかったー
そろそろポケモンBWの人帰って来いよ!
あとマテパも…
遅れたがディーキン乙!
早い内からタバサが絡んでくるのは嬉しい。
354 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 22:54:31.11 ID:h629nPHT
アセルスの人さん乙です。実は何気に楽しみにしていたので、帰ってきてくれて嬉しいです。
この調子でどんどん他の作者さんも帰ってきてくれると嬉しいなぁ。
と、それはともかくとして、もし予約が無いようであれば、11時頃から新作を投稿しようと思います。
今日で外伝も終わりになりますので、良ければお付き合いくださいませ。
355 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:01:16.50 ID:h629nPHT
それでは始めます。
あれは…いつだったっけ…。
「ファンガスの森へ行って『キメラドラゴン』を退治してきな」
私が…大きく変わったと思えたあの日は…。
「只死にたいなんて、結局あんたは逃げてるだけさ。どうせ死ぬならやるだけやってから死んでみなよ。あんたには私よりも何倍も強い『矢』があるじゃないの」
「貴族だの何だの関係無ぇ。ただ、『お前が弱いから悪いんだ』」
いつかははっきりしなくても、あの日に交わした数々の会話は、今でもはっきりと覚えていた。
それが頭の中で何度も何度も反響しては、あの日にあった記憶をさらに鮮明にさせていく。
やがて、あの時…大きな激闘を経て、そして彼から貰ったあの『真実』へと辿り着く。
あの言葉だけは…今でも、私の脳裏に焼き付いていた。
『所詮この世は弱肉強食』
「シャルロット…あんたはもう…立派な狩人だよ…」
『強ければ生きられ―――』
「…泣いているのか?」
『弱ければ……弱ければ―――』
「―――…いいえ」
『シ』
「おねえさま!!!」
その言葉とともに、タバサの意識は現在へ戻ってきたのだった。
第四幕 『タバサと自分』
「ここは…――」
激痛をその身に感じながら、タバサはゆっくりと身体を起こす。
隣を見れば、目に涙を貯めたシルフィードが、感極まった表情でタバサに抱きつく。
「おねえさまぁあああああああああ!! 無事で…よかったのね…!」
我慢できずに涙をポロポロと流しながら、シルフィードは何度もそう呟いた。
それと同時に、ここで何があったか、その記憶が光の速さで蘇ってきた。
「っ―――そうだ…」
慌てた様子で、タバサは振り向き…そして少し驚愕する。
彼女の前には、先程まで猛威を振るっていたミノタウロスが、大往生のような形で倒れ込んでいたのだ。
「―――これは?」
タバサは、横のシルフィードにそう尋ねる。
「おねえさま、気づかなかったのね? あの後、ラルカスさんが口から血がどばぁ! って出て、そのまま倒れたのね!」
356 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:03:13.48 ID:h629nPHT
まだ少し涙ぐんだ声で、シルフィードは説明した。ラルカスの隣には血に塗れた節榑の愛杖が落ちている。杖を引き抜くと同時に絶命したようだった。
「じゃ…あ…私…」
ここでタバサは、ようやく一つの結果に至る。あれほどの悪条件下で…私は…。
「…勝った…の…?」
そして無意識に、タバサは志々雄の方を向いたのだった。
(成程、顔つきも様変わりしたが…ここまで腕を上げたとはな)
キセルに火を燻らせながら、志々雄は先程の戦闘を見てそう考え、そして改めて戦い終わって呆然としているタバサを見た。
最初に会った頃は、どうしようもない泣き虫でワガママで甘ったれだったというのに…。そう思うと中々どうして、感慨深いものがある。
そんな彼女は今、体中に受けた傷跡が目立ち、杖に寄りかかることで何とか立てる状態なほどボロボロであった。
(正直、いつ殺されたっておかしくは無かった。それほど奴とあいつとの実力差は大きかった)
だがそれを、とっさの機転とあの状態でも狂いのない体捌き、それに何より「勝つ」という執念と生への執着を最大限に生かして勝利をもぎ取ったのだ。
これなら、今に強大な戦士へと成長することだろう。かつての「天剣」に変わる新たな修羅の誕生だった。
『あいつ』には悪いが、この逸材を捨てるには余りにも惜しい。
無意識に口元を悦びで歪めながら…志々雄はゆっくりと腰を上げた。
「……………」
うつ伏せで倒れたまま、動こうとしないミノタウロスを見ながら、タバサは自分が勝利したこと…それに気づき安堵の表情を浮かべた。
まだドクン、ドクンと心臓の鼓動している音が聞こえる。頭の中は今は真っ白で、体中から来る痛みを一時的に遮断していた。
(倒した…。ミノタウロスを一人で…?)
勝ちに悦ぶより、優越感に浸るより…今はただ生きていることを強く実感していた。
命を懸けた戦いは、幾度となくこなしてはきたが、ここまでギリギリの戦いは久しぶりだった。
だから今は、生への実感でぼーっとしていたタバサだったが、その背中から声が聞こえた。
「満身創痍ってとこだな。まあお前にしちゃよく頑張ったほうだ」
志々雄はそうとだけ言うと、改めてふらついた状態のタバサを見やった。
「シシオ…さん。でも…まだ…」
貴方や彼に追いついてない…そう言おうとするが、痛みで思わず顔をしかめる。
志々雄の方は、彼女の言いたいことが何となく分かったのか、フッと笑った。
「なあに、くたばってねえだけ上出来だ。ほれ、とっとと立ちな」
そう言って志々雄はタバサ達を下がらせると、倒れたまま動かないラルカスに近付いていった。
暫くそうして時間が流れた…その瞬間、ラルカスはいきなり上体を起こした。
「―――――――!!?」
余りに一瞬だったので、タバサとシルフィードは同時に唖然とした状態になった。
ただ一人、志々雄だけが獰猛な笑みをしてラルカスを見上げる。
「成程、ミノタウロスはタフだと聞いていたが、喉抉られてまだ生きているとはな」
「うぐ…うがああああ…」
しかし、ラルカスの様子はどうにもおかしい。そのまま立ち上がったかと思うと、急に頭を抱えて唸り始めたのだ。
それはまるで、人のそれじゃない、獣のような叫び声だった。
「お…オマエ…うマそゥ…タベル…オデ…」
獣が必死に人語を喋るかのような感じで、ラルカスはタバサ達の方を向いた。今のラルカスは食欲でしかタバサを見てはいなかった。
「お、おおおねえさま、逃げるのね!!」
食べられる危機に気付いたシルフィードが、一早くタバサを抱き上げて必死に逃げようとする。余りに恐ろしかったので、変化を解くことも忘れていた。
人の状態で、ただ引っ張るだけで逃げきれるはずもなく、大股で寄ってきたラルカスが涎を垂らして襲いかかってきた。
「グオああああああああああああぁぁァァァァァァァァァ!!!!!!」
「いやあああああああああああああああ!!!」
大声で悲鳴を上げるシルフィードの前に、突如誰かがラルカスの前を阻んだ。
それでもラルカスは拾ってきた斧を振り上げ、それをタバサ達目掛けて打ち下ろす。
しえん
358 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:06:59.81 ID:h629nPHT
再び土を巻き上げるような轟音に、一瞬目を瞑ったシルフィードは、恐る恐る目を開けて…、そして愕然とした。
そこには…刀で斧を隣に逸したかのような格好で、志々雄が立っていたからだ。
「オイオイ、俺はお前を討伐しに来たんだぜ。こっから先は俺が相手だ」
まるでこれを楽しみにしていたかのような様子で、志々雄は憮然と言い放った。
既に強力な『固定化』に『硬化』までかかった志々雄の愛刀は、斧を横に逸らしただけでは傷一つついてはいなかった。
志々雄のその言葉に反応したのか、野獣となったラルカスははち切れんばかりの大声を上げて叫んだ。
「ジャマヲ…スルナァァァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
再び斧を振り上げ、今度は志々雄目掛けて打ちはなった。
今度は志々雄はそれを避ける。どうやら狙いを完全に志々雄に定めたらしい。
今の内に、と安全なところまで避難したシルフィードとタバサは、その戦いの様子を見守ることにした。
「ウグァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そう唸り声を上げながら、ラルカスは力任せに斧を振り回す。その勢いは、いつの間にか洞窟の外へと戦いの場が移す程凄惨なものだった。
ひらりひらりと、紙一重で回避する志々雄の体捌きは、シルフィードが見ても凄い、と思うような動きだった。
対するラルカスは喉をえぐられたせいか、魔法を使っては来れなかった。
その代わり、怒りと覚醒により力任せに振るうようになった斧の速さは、先程の比ではないくらいに上がっていた。
周りの木々は、触れるだけでなぎ倒され、音を立てて崩れていく。
どうやら死の淵に瀕したことで、今まで抑えていた野獣の本能が、完全に蘇ってしまったようである。
今戦っているのは、もはやラルカスという人間ではない。身も心も獣になったただの「ミノタウロス」であった。
「ねえ、おねえさま…アイツどうするのね?」
一方的な攻勢を見ながら、シルフィードは不安げな声でそうタバサに尋ねる。
あの攻撃をくぐり抜けて反撃を入れるのは、一流のメイジでも至難の業だろう。よしんば出来たとしても、鋼のような皮膚にあの刀で傷をつけられるのだろうか。
あれだけ自信満々な様子だからつい任せっきりだが、これは加勢した方がいいのでは? もしあのミイラ男がやられたら、今度はこちらを狙ってくるのは明白だったからだ。
しかし、タバサはあの頃…彼に出会った頃を思い出しながら、心配など無用と言わんばかりの口調で言った。
「シシオさんは…絶対に負けない」
「いやでも…あの武器でミノタウロスの皮膚は相性が悪いって…」
そうこうする内に、ミノタウロスがさらに仕掛けてきた。斧を回避した先を狙って、志々雄を掴まえようと、もう片方の手を振りかざした。
巨大な手が逃げ道を塞ぐ、それすらかわした志々雄だったが、次の瞬間飛んできた斧のひと振りが辺りの土砂を大きく巻き上げていった。
「うわっ!!」
思わずシルフィード達が目を覆うような砂嵐の中、二人は対峙する。そして次の瞬間…二人のすれ違いざまの剣閃が飛び交った。方や巨大な大斧。方や細身の日本刀で…。
「ルオォアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ドゴォォン!!と、轟音が辺り一帯に鳴り響く。シルフィードとタバサは思わず目を瞑ってしまった。
そして再び、辺りに静寂が漂う瞬間、タバサ達はゆっくりと目を開ける。
そこには、交差したまま静止する二人の姿があった。
「…? どうなったのね…」
何があったのか、分からずに思わず首をかしげたシルフィードは…そこで志々雄ら二人の間に『焼け焦げた』何かが唐突に落ちてきたのに気付く。
それは…真っ黒焦げな『爪』の一部だった。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
痛みでひたすらミノタウロスは呻き声を上げる。爪が剥がれた指をかばい、ひたすら抑えた。
「え、何? 何したのね!?」
「…指」
「え?」
シルフィードが、訳が分からずに疑問符を浮かべる、その傍らでタバサは冷静に一連の動きを分析した。
「指の間…それを狙ったんだと思う」
ミノタウロスの肌が、刃そのものを通さないように、爪そのものだって鉄のように硬い。だが、その『間』ならば話は別である。
359 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:11:36.24 ID:h629nPHT
志々雄は、指と爪の間を綺麗に切り裂いたのだ。あの木々を薙ぎ倒すような腕の速度の中を、難なく見切って…。
「そ、そんなことって…―――?」
そして更に、シルフィードが呆気にとられる、驚くべきことが起こった。
剥がした指から、急に炎が燃え広がりだしたのだ。
「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
まるで意思があるように、指は炎によって埋め尽くされる。それを振り払おうとするも、それに抗うかのように傷口から炎熱が湧き出ていた。
そして志々雄はこの機を逃さない。
「ッシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
再び接近してくる志々雄を見て、ミノタウロスは慌てたように斧を振り回す。
それを躱し、いなし、地面に突き刺さった斧をタバサと同じように踏み台にして駆け上がると、そこから志々雄は容赦なくタバサがつけた傷口…口の中を狙い、そして突き刺した。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
最早断末魔に等しい悲鳴を上げて、ミノタウロスは暴れもがく。突き刺した刀の周りからは、炎がチロチロと飛び交っている。
やがて機を見ると、志々雄は刀を抜いて地面へと降り立った。その眼前では苦しみもがいているミノタウロスの姿があった。
今頃口の中は炎で焼け上がっているのだろう…それを想像すると思わず吐き気が出そうになった。
周囲に炎を纏わせ、未だに悠然とした様子でミノタウロスを見上げる志々雄は、まるでこの世の者とは思えない…悪鬼と呼ばう雰囲気を醸し出していた。
そしてその光景を、口を手で押さえながら、シルフィードは唖然とした様子で口を開いく。
「あ…あれなんなのね…あの武器からどうして炎が…」
そしてシルフィードは気付いた。あの刀から放つ、強烈な異臭に…。
そう、血の匂い…。それも人間だけじゃない。亜人、怪物、果ては自分と同じ竜の血の匂いまで…。
そして気付いた。あの炎は…その血にこびり着いた『脂』で巻き起こっていることにも。
恐らく、いま対峙しているミノタウロスと同じような怪物たち…吸血鬼やコボルト、そんな奴等を相手にあの刀で切り伏せてきたのだろう。
でも、それをどれだけ斬ってきたのか? どれだけその刀に血を染み込ませてきたのか…? それはシルフィードですら想像がつくことはなかった。
(また…炎が強くなってる…)
同じく、シルフィードとは別の形で呆然としていたタバサは、彼の纏う炎の威力が、最初に会った時とはまるで比べ物にならない程に強くなっているのを感じていた。
初めての頃はまだ、相手に火傷を負わせるくらいの力が精々のような気がした。でも、今使っている炎は、相手を骨まで焼き尽くすこともできそうな強大で、そして規模の大きい焔へと成長している。
それこそ水の精霊ですら焼き滅ぼしそうな、見るも禍々しい地獄の焔。猛る勢いの音は、まるで斬られた者達の怨嗟の声が聞こえてきそうだ。
それ程までに、彼の力が上がっている。『弱肉強食』の下、そういった連中を糧にし、さらに昇華させていく。その強さは未だ限界を知らないようだった。
そして今、こびり着いたミノタウロスの血が、志々雄に…最終殺人奇剣『無限刃』に、また更なる進化を与えようとしていた。
「…む、来たか」
志々雄の持つ無限刃から、振ってもいないのに突如炎が栄え始めたのだ。まるで刀を包み込むように、火柱となって舞い上がる。
志々雄は再びニヤリとした笑みを浮かべた。ミノタウロスの血に限らず、亜人や竜等の怪物は、人間の血の作りとは違うのか、より強力な『脂』を提供してくれる。
それが更に強大な焔を呼び起こす一因になっているのだ。
「やはりな、どうやらコイツの血も相性が良かったようだ」
そして今、ミノタウロスの血に流れる特別な成分が、無限刃にこびりついた脂に反応したのだろう。今までこの世界で斬ってきた怪物たちの血と結合し、より高い焔を呼び起こす「脂」へと昇華したようだった。
弱者の肉を糧に、より強くなっていく焔。ミノタウロスと言う怪物を斬ったことで、その力が更に上がったのである。
「何にせよ、ここに来たのも満更無駄ではなかったようだ」
志々雄は無限刃を眺めながらそう思った。
そしてその荒れ狂う焔のうねりを、志々雄は目にもとまらぬ速さでひと振りした。それだけでまとわりついた焔は掻き消え、ただの抜き身の刀へと戻った。
360 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:12:47.00 ID:h629nPHT
「さて、めでたくてめえも俺の糧になったとこで…」
そうして志々雄は、改めてミノタウロスの方を向く。涎を垂らし、ただひたすらに苦しんでいる怪物を見て、容赦なく言い放つ。
「そろそろくたばれ。いい加減苦しいだろ?」
「ウゴぉあぁぁああ……」
本能と殺意からか、ミノタウロスは斧を構える。もう意識もないだろうに、それでもやるつもりのようだった。
「うがぁあああああああああああああああ!!!」
志々雄のいる方向めがけて、斧を振り上げる。生まれたての小鹿のように震える足でもなお構えるその姿は、志々雄にとってこれ以上なく滑稽に映った。
「やれやれ…惨めだな。てめえも」
どこか虚しそうにそう呟きながら、無限刃を一旦納めて腰をためる。
「うっごぁああああああああああああああ!!!」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
怪物に負けないくらいの怒号を放ちながら、志々雄は壱の秘剣、『焔霊』で抜刀術を仕掛けた。
それまではミノタウロスにとって、只の目くらまし程度だった火が、怪物の血を吸い更に強大と化したためか、大斧を軽々と「溶かし斬る」焔へと昇華し、真っ二つに断ち割った。
志々雄はすかさず動き出す。まず高々と跳び上がりミノタウロスの眼前まで来ると、右手の黒手袋を外して牛の形をした口にそれを押し込んだ。
喉元まで詰めると息が出来なくなったのか、慌てて吐き出そうとするところを、今度は両の目を斬りつけることで注意を逸らした。
「ぎゃあああああああああ!!」
と叫び声を上げて、ミノタウロスは両手で目を覆う。ジュウウと眼球が焼き焦げるような音を立てている。実際どれだけの痛みなのか想像もつかなかった。
その隙に志々雄は、息を確保するために大口を開けたミノタウロスに向かって、その中の大きな牙の一つをもう片方の左手で引っ掴み、ぶら下がる形をとった。
志々雄が今掴んでいる手には、まだ黒手袋がはめられている。そして口の中には先ほど押し入れた同じ黒手袋が詰まっていた。
これが何を意味するのか…それは志々雄のみが知る。
「…あばよ」
志々雄は最後にそう言い放つと、無限刃を掴んでいる手袋に押し当て、そして摩擦を起こすかのように引き上げた。
刹那巻き上がる火花は、黒手袋の中に仕込まれた『火薬』に反応して、強大な爆発を引き起こす。
「弐の秘剣 『紅蓮腕』!!!」
ドゴォォォン!!!………と。
ルイズの普段使う『爆発』にも引けを取らぬ大爆発が、ミノタウロスの顔面一帯に巻き起こった。
「ぐぉおおおあぁ…!!」
モロに食らったミノタウロスは、そのあまりの衝撃にグラリと身体を傾かせ、膝をつかせる。
だが事態はそれだけでは収まらない。爆発による炎の息を吸い込んでしまったミノタウロスは、当然中の内臓を焼く結果にもなった。
そして、その中には予め志々雄が押し込んだ「もう一つの火薬手袋」が……。
……ドゴォオン!!!!!
「ぐぅあああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
あらゆる臓腑を粉微塵に吹き飛ばすような轟音を、腹の辺りで響かせながら、ミノタウロスは遂に力尽きた。
タバサの時と同じように、音を立てて崩れ落ちるが、今度はもう、起き上がってくることはなかった。
「シシオさん!!」
決着がつき、改めて無限刃を鞘に納めると同時に、タバサ達も姿を現した。
「…怪我は…?」
「それを俺に言うか?」
志々雄は皮肉そうな笑みを浮かべて言った。確かに全身火傷だらけの身体じゃ、どこに傷を負ったかなんて分からない。
361 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:15:54.51 ID:h629nPHT
それに、志々雄が手傷を負うタマでは無いだろう。それは見ていた自分がよく知っている筈なのに…と、少しタバサは俯いて顔を赤くした。その時…。
「あ……う…」
死んだと思われたミノタウロスの身体が、ピクリと動き出した。
慌てて警戒態勢を取るタバサだったが、その虚ろな視線はもう命の消える一歩手前の状態のようだった。
「ゴホッ…見事だ…まさかこの身体で…こうも清々しく敗北するなんてな…」
潰れた目をこちらに向けながら、人間に戻ったラルカスは呟いた。
「お前もタフだな。『紅蓮腕』二発食らってまだ死なねえか」
志々雄も流石に呆れた様子でラルカスを見下ろした。それを聞いたラルカスはフゴゴゴ、と苦笑しながらゆっくりと語り始めた。
「三年程前だ…子供を襲う夢を見た。獣のように…私は子供に食らいついていた…それから何度もそんな夢を見るようになった…。
最初は…夢だと思ったさ…だが意識が戻ってきて…それは現実の事なんだなと打ちのめされた」
誰に言うわけでもなく、ラルカスは話す。弱々しい声で…それでも話を続けた。
「…それから段々と…自分の精神が、ミノタウロスに近付いていくのがわかった…。人間を食べたいという衝動に駆られたのも…一度や二度じゃない…。
理性で抗っても…薬で抑えつけても…湧き上がるように獣の本能が私である部分を食い荒らしていった…」
そこでラルカスは大きく吐血した。シルフィードが慌てた様子を見せるが、それでもラルカスは話を止めなかった。
「…死のうとも考えた。だが…私にはその勇気がなかった…。日に日に私が「わたし」で無くなっていくのに…もう耐えられなかった…。だから…これで良かったんだ」
「………」
彼の苦悩を聞いたタバサやシルフィードは、何ともいたたまれない気持ちになった。
ただ一人、志々雄だけが彼を見て憮然と言い放った。
「…惨めだな」
「…何?」
「アンタは「ミノタウロス」という化け物を倒したとき、取って代わろうと思わず素直に身を引くべきだった。それを惰弱な野心と好奇心で無様に生きながらえたのが、そもそもの間違いだ」
その余りに無茶苦茶な言動に、シルフィードは思わず反論した。
「な……何言ってんのね! それが今のラルカスさんに向かっていう言葉なのね!?」
「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。弱い奴は自然と淘汰されていくこの世界に、怪物でありながら人の心を持とうとしたのが失敗だったんだよ」
それでも志々雄は全く容赦の無い言葉を吐きながら、最後につまらなさそうな視線をラルカスに向けて、何かを思うような風で呟く。
「虚しいものだぜ。テメェの生き様一つ決められねぇ人生なんてのは、死んでも生きてても惨めなものだ」
「お前は…本当にどこまでも…容赦を知らん男だな…」
どこか可笑しそうにラルカスは言った。志々雄も同じような笑みを浮かべる。
「悪いが、慰めの言葉というのを知らんものでな」
「そうか……期待は…してないがな…フゴゴ…」
どこか他人事のような口調でそう呟くと、恐らくタバサの方を向いているのだろう。そんな感じの声でラルカスは尋ねた。
「私を…倒したお前達の…名を教えてはくれぬか…」
タバサは思わず、自分の本当の名前を告げた。
「…シャルロット」
「志々雄真実だ」
「シャルロットにシシオか…良い名だ…」
ラルカスはそう言うと、その顔を空へと向けた。弱々しくなる声で、それでも何か言いたそうに言葉を続ける。
「ああ…自分が…自分でなくなるのは…嫌なものだな…。本当に嫌なものだ…」
そして最後に…まるで問いかけるような言葉でラルカスは言った。
「お前達は…この世界で…一辺の淀みなく…どこまで自分の生き様を…信念を…見失わずに…貫ける…こと…か…な…」
次の瞬間、ゴボッ、とラルカスは大きな血の塊を吐いた。そして大口を開けたまま、動かなくなっていった。
「…決まっているだろう」
完全に事切れたラルカスに向かって、それでも志々雄は悠然と言い放った。
「無論、死ぬまで。だ」
362 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:18:32.67 ID:h629nPHT
長い長い夜が明け、空は微かな日の光が映し出され始めていた。
ラルカスの遺体は、研究所と一緒に朝方、火葬することにした。その後は一旦攫われた娘達を元に返すために、一旦村へと寄る運びとなった。
その途中、タバサと志々雄は別れることになった。
「もう行くの…?」
少し名残惜しそうにタバサは志々雄を見上げる。出来ればもうちょっとでいいから居て欲しい。そんな事を伺わせるような表情だった。
「別に今生の別れってわけじゃねえんだ。そんな悲しい顔すんな」
志々雄はそう言ってタバサの頭を軽く手で叩くと、そのまま翻して道を歩き始めた。
元々志々雄は、ミノタウロスの討伐に来ただけなのだ。それが済んだ今、もうここには用はない。
分かっている筈だった。志々雄は終わったことにはとことん興味を持たない。でも…それでももう少し位…。
でも、それも我侭だっていうのは分かっている。だからタバサは何も言わずにただ見送っていた。志々雄の背中が…見えなくなるまで…。
その見えなくなった帰り道の途中、志々雄の隣に突如風が舞い降りた。風は人の形を作り始め、やがて一人の男性へと変貌する。
その男は誰でもない…ワルドその者だった。
「…シシオ様」
「ようワルド。たった今終わったところだ」
まるで朝帰りを楽しむかのような口調で、志々雄はワルドにそう言った。
しかしワルドは、少し困ったかのような感じで志々雄に告げた。
「実は、クロムウェル新皇帝がそろそろ帰ってきて欲しいと泣き言を申されまして…」
「んだよ。留守一つロクにできねえのか」
「それが、先遣からどうやら「刺客」がトリステインに無事侵入したとの報せが入り、その後の判断をシシオ様に仰ぎたいとのこと」
はぁ…と志々雄はため息をついた。この様子だとこの先とても生き残れそうもないだろう。主にクロムウェルが。
何だかんだ言ってあいつが一番付き合いが長いのだ。こう頼りないのでは困るというものである。
「やっぱりあいつにも『洗礼』が必要か? お前の時にやったようにな」
それを聞いたワルドは、フッと笑った。そして二つの影は唐突に姿を消した。
その後、人攫いにあった娘達の身の振り方もまとまった所で、ようやくタバサ達も帰路につくことが出来た。
「ふうっ。やっと帰れるのね…」
風竜の姿で大空を飛びながら、シルフィードはため息を漏らす。その背中では相変わらずタバサが本を読んでいた。
「自分が自分でなくなる…かぁ。まさにその通りなのね。おねえさま」
シルフィードは何かを思うような感じでタバサに言った。
「そりゃあ、変わらなきゃならない時だってあるかもしれないのね。主に恋人的な意味で。でも最近のおねえさまは、変わって欲しくないところまで変わってしまうようで怖いのね」
「…それで?」
最初に言っていたことを思い出したタバサは、本を閉じてシルフィードの言葉に耳を傾けた。
363 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:20:04.81 ID:h629nPHT
シルフィードは最初、あのミイラ男とは付き合わないで欲しい。と言おうと思っていた。でも、少なくともタバサにとってあの男とは切っても切り離せない関係だということも、同時に思い出し、どう言おうか迷いながら口を開いた。
「だから、おねえさまはずっとおねえさまで居て欲しいのね。これから怖い顔は禁止。わかったのね?」
「…わかった」
「わかればよろしいのね! きゅいきゅい!!」
シルフィードは、子供のように無邪気な声で言った。取り敢えず、あいつのことはあまり考えないことにしよう。その時にすればいい。そう思うことにして、不意に口笛を吹き始める。
「る〜るるるる〜る〜〜きょう〜も〜いいてんき〜〜〜」
タバサは、シルフィードの背もたれに身体を預けて空を見上げた。歌のとおり綺麗な空が隅々にわたっている。
(変わらないことか…)
タバサは今、さっきまで起こっていたことを思い返していた。怪物になって自分を見失ったラルカス。死ぬまで信念を貫くと言った志々雄。自分は…果たしてどうなのだろう。
復讐をする自分と、今の自分にブレは無いと思っているが…シルフィードの言葉から変な違和感が付き始めた。
自分が自分じゃなくなる…それは一体何なのだろうか…今のタバサには分かることは無かった。
けど、今はそんなことを考えても仕方がない。今は貫くだけだ。自分の、決めた信念を…。
タバサはそう思って、ゆっくりと目を瞑った。
「まあでも、おねえさまがどんなになっても、シルフィはおねえさまの味方なことに変わりはないから安心して欲しいのね。それよりお腹すいてのね〜〜〜。きゅいきゅい」
甘えるような声でシルフィードは言ったが、やはり聞き届けてはくれなかった。それに怒ったシルフィードはきゅいきゅい喚く。
いつも通りの会話、いつも通りの日常。これがずっと変わらなければいいな…。とシルフィードは思った。
364 :
るろうに使い魔:2013/03/17(日) 23:25:24.58 ID:h629nPHT
これで以上となります。次からは本編へと戻ります。
次章では、いよいよ序盤で登場したままだった「あいつ」が、本格的に関わってくる回でもあります。
ルイズ達とどう絡んでくるのか、まったりしながらお待ちくださいませ。
それでは今回はここまで。また来週お会いしましょう。では。
乙さん
アセルスの人とるろうにの人乙です
デュープリズムの人も帰ってきてほしいなぁ、アサシンクリードの続きもみたい(´ω`)
367 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/18(月) 20:59:24.76 ID:JcKod8aQ
真剣で私に恋しなさい!のロリコンハゲ……井上準が召喚されたら……。
ルイズとタバサは彼の好みドストライクだろうから、彼の忠臣ぶりが発揮される。
境ホラの点蔵がテファに召喚されたら、嫁と主人の金髪巨乳の間で心揺れるのだろうかw
じゃあキュルケは私がもらってきますね
370 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/18(月) 23:18:49.12 ID:10zNKkhz
お知らせ
市原警察署の生活安全課の帰化人創価警官の指導の元、
入学式から2週間ほど、在日の創価学会員を主体とした自称防犯パトロールが、
2週間ほど行われることになりました
生活安全課の指導であることと、パトロールであることは、
絶対に公言してはいけないとの指導も、帰化人創価警官より出ています
期間中は2人組の在日の創価学会員が、頻繁に創価批判者の自宅周辺を、
うろつき回ると思われます
日本人の方は、充分に注意してください
ベアトリスはロリに入りますか?
“悪運(バッドラック)”ベッキーを召喚か。
タイトルは『蓬莱学園の使い魔』だな。
魔王伝とラスボスと二闘流……
ひそかに竜王のひまごを待っている
>>375 同志よ
ドラクエ系作者さん全員帰還オナシャス!
更新速度の速いSS作者の人はどれぐらいのペースで1話書き終わるのだろうか
たぶんある程度書き溜めてるんだろうけど
>>377 2009年の時は一日で四話作れたけど今じゃ一ヶ月に一話しか作れません
1日で4話は速いにも程があるなw
そもそも人によって容量違う
10KBも満たない人間もいれば、コンスタントに20KB以上あげる人もいるし
VIP板の1レスSSくらいなら10分くらい
長編だとひとつにワードパッドで130KBほどかけるから半月ほどかな
>>377 今は一か月に一話かな…昔は二週間に一話程度書けたけど
ほぼ一週間くらい手を付けない事もあるから、月末になるとちょっと焦るわ
DIO「ザ・ワルド!!」
時よ止まれ(年齢的な意味で)
一話に一年かけるとかざらよ
最近まとめwikiでここの存在知ったけど、自分が気に入った作品のほとんどがエタってて辛い
戻ってきて欲しい作品多いんだがな
人も少ない感想も少ないスレに戻ってくる価値があるのか、ないね
ないな
原作がオワコンエターナル作品だしモチベもあがらないし
今でもゼロ魔好きだけど、昔の作品読んだら文章力がゼロすぎて今続きの創作するにも恥ずかしくて出来ない\(^o^)/
いいからやるんだ
リメイクから始めてもいいのよ?
もうおまえらリレーで書けよw
ところで、原作者の病状はどうなんだろう?
執筆復帰できそうな状況なんだろうか
ほとんど偶然に運良く助かった
今はストレスが掛からないような生活をしていないといつ悪化の方向に突き進むか判らない
なんて状態じゃないの
別の病気で腹開いて発見されてなかったら今頃死んでたレベルだからな…
回復したのはどこ情報?
この前退院したとかニュースになってたような
ヤマグチノボルのエロ画像ください
本人のとは酔狂な
ツイッタ―見ると結構頻繁に更新しているよな
そりゃリラックスするのが病気療養のためになるからな
適当に呟いてストレス抜かなきゃいかんだろ
被らなければ、21:10から投下予定
第17話『偽り(後編)』
針の城。
妖魔の君、そこはオルロワージュが生み出したリージョン。
上級妖魔である彼に刃向かう存在などいるはずもなかった。
彼が気まぐれに一人の少女に血を分け与えるまでは。
アセルスとオルロワージュの因縁。
その光景を夢の中で見続けてきたルイズ。
その夢は今宵決着を迎える。
アセルスの剣技。
ゾズマの邪術。
零姫の幻術。
イルドゥン、メサルティムの妖術。
彼らに対し妖魔の君オルロワージュがとった行動は、何もない。
焦る様子を見せる事すらなく、彼が合図すると背後の肖像画が笑い出した。
「来るぞ!」
イルドゥンの忠告と同時に、衝撃波が巻き怒る。
一流のメイジを何人集めたところで、これ程の破壊力は起こり得ないだろう。
頑丈に幾重も補強された壁に罅が走る。
「やはり耐えれんか」
亀裂をみると、オルロワージュが呟く。
全ての者を魅了し、相手に絶対的恐怖を与える。
それこそが妖魔の君として君臨するオルロワージュの力。
再び、肖像画が笑い声をあげると電撃が放射状に広がる。
同時に粉塵が巻き起こり、アセルス達の姿が見えなくなる。
オルロワージュから見て右方向より、獣が襲いかかる。
妖魔ならば誰でも使える幻夢の一撃による、幻獣の呼び出し。
だが、通常の妖魔であれば何が呼び出されるかは使ってみないと分からないが、零姫はこれを自在に呼び出せる。
術の中で最も攻撃に長けているのが、彼女が呼び出したジャッカル。
そんな獣すら肖像画から放たれた竜巻で阻止される。
「ふむ……自分から姿を現すとは思わなかったぞ、零姫」
「相変わらず全てが思い通り行くと思っておるのか、戯けが」
戒めるような、零姫の言葉。
「私が望むものは全て手に入れ続けてきたのは知っているだろう」
対するオルロワージュに敵意はない。
むしろ愛しい者を見つめるような眼差しだとすら、ルイズは感じていた。
「どうだ?昔みたいに城に戻ってこないか」
「お断りじゃな」
オルロワージュの提案に、零姫は即答する。
「戦いの最中にも関わらず、余裕を見せようとするのもお主の悪癖じゃ」
煙がわずかに揺らぎ、アセルスが姿を見せる。
途轍もない速度のまま、すれ違い様に剣閃が瞬く。
青の血飛沫が吹き出す自分の腕を見て、オルロワージュは満足そうに笑みを浮かべる。
「金獅子の剣か」
アセルスへと振り返るが、彼女は冷たい目で見返すだけだ。
「その娘はお主を滅ぼす事ができる数少ない存在。
手を抜かずに本気を出したらどうじゃ?オルロワージュ」
零姫の言葉にルイズは衝撃を受ける。
これほどの力を見せながら、まだ本気ではなかったというのか?
そして、ルイズは気が付く。
オルロワージュが攻撃を命じたとき、一人ずつにしか命じていなかった事実に。
「いいだろう」
彼の背後にある肖像の全てが笑い出す。
アセルスは構わすに、斬撃を繰り出すが片腕で止められてしまう。
「これは……!?」
驚くアセルスだが、自分の体から力が抜けていくような感覚に気づく。
背後の肖像画が嘲るように笑い声をあげていた。
この肖像画はいずれもオルロワージュの精神によって生み出された通称『三人の寵姫』
その一つ、野生。
彼女によって、アセルスは力を抑圧されてしまう。
アセルスを囮にして、イルドゥンとゾズマが煙の陰から挟撃を仕掛ける。
彼らを邪魔するように飛び交う肖像がオルロワージュにふれる直前の剣と邪霊を阻止した。
「チッ!」
舌打ちすると、肖像画にイルドゥンとアセルスが弾き飛ばされた。
零姫とゾズマはかろうじて後方に回避するも、またオルロワージュとの距離を詰めねばならない。
「アセルス様!」
後方支援に徹していたメサルティムは術でアセルスの傷を治そうとする。
アセルス達の再三の攻撃。
戦いの光景を上から見ていたルイズは気づく。
オルロワージュはまだ一歩も動いてすらいない。
「強すぎる……」
ルイズはアセルスが勝った結果を知っている。
これはどちらかが滅ぶ戦い。
負けたのならば、アセルスが自分の前に現れたはずはないのだから。
一体、どうやってこの相手に勝てたのかがルイズには見当もつかない。
「傷はいい、力が入らないのを治してくれ」
アセルスの身体から流れる紫の血。
徐々に青に色濃く変化していく。
「来るがよい」
オルロワージュが手招く。
アセルスは無言で跳躍すると共に、間合いを詰めようとする。
その前に立ち塞がるのは、3人の寵姫。
肖像画が舞うように宙を踊り、アセルスの攻撃を阻止した。
肖像画を鬱陶しく振り払おうとするが、その様子を背後で見ていたイルドゥンが忠告する。
「肖像画を狙っても無駄だ、あれはオルロワージュが生み出した幻影に過ぎない!」
忠告に気を取られたアセルスが弾き飛ばされる。
体制を立て直すと、肖像画はオルロワージュを加護するように周囲から離れない。
「チッ」
ゾズマが軽く舌打ちする。
アセルスを追撃したなら背後より仕掛けるつもりだったが、気づかれていたらしい。
最大の問題は三人の寵姫。
三体を乗り越えない限り、オルロワージュを倒すどころか傷一つ与えられない。
ゾズマは妖魔としては軽薄な性格だが、決して愚鈍ではない。
自身の力が通用するかは一か八かの賭けとなる。
だからこそ、オルロワージュを滅ぼせる確実な力を持つアセルスを連れてきたのだ。
「ちぇっ、トドメは譲るか」
自分の手で仕留めたい希望はあるが、贅沢を言える相手ではない。
アセルスの方に近づいて、耳打ちをする。
会話の内容はルイズには聞こえなかったが、アセルスは頷くと二つの剣を構え直した。
(来る……!)
ルイズが固唾を飲んで見守る中、肖像画が幾度目か分からない笑い声をあげる。
力を持った妖魔というものは良く言えば自由な、悪く言えば身勝手な者が多い。
つまり連携を取って戦うという事がほぼない。
オルロワージュは妖魔の君である為、当然承知している。
故に、敵が何人集まろうとも問題ないと判断していた。
下級妖魔の水妖以外、いくら強くとも個々としてしか戦わないのだから。
だからこそ、ゾズマが狙ったのは連携。
零姫とイルドゥンの三人で三人の寵姫を抑える。
イルドゥンが言ったように、三人の寵姫はオルロワージュの生み出した幻影。
彼の象徴ともなる力は絶大な反面、オルロワージュ自身は攻撃手段を殆ど持たない。
自分達が抑えている間に、アセルスがオルロワージュに一太刀浴びせる。
倒せないまでも、無傷で済まなければそれでいい。
メサルティムは後方から補助。
ゾズマ達は三人の寵姫を狙う。
そして、アセルスはオルロワージュに向けて跳んだ。
ゾズマの誤算はただ一つ。
アセルスがオルロワージュに攻撃を仕掛けなかった事。
何を思ったのか、彼女は金獅子の剣をオルロワージュの背後へと投げつけた。
「何!?」
全員がアセルスの行動に意表を突かれた。
アセルスはオルロワージュの首を掴むと金獅子の剣が突き刺さった壁へと叩きつける。
.
脆くなった壁は衝撃に耐えられず、あっさりと砕けた。
アセルスとオルロワージュが共に針の城を落下していく。
アセルスが幻魔を振りかざす。
寵姫から離れた以上、オルロワージュに防ぐ手段はないと思われた。
アセルスの右腕が、肩ごと吹き飛ばされるまでは。
「っ……!」
寵姫の一人に放たせた衝撃派がアセルスの右肩を抉り取る。
「今のは危うかったぞ、娘」
形成は逆転した。
アセルスに残された武器はない。
更にアセルス達が落下する上空からはオルロワージュが三人の寵姫を追わせていた。
「アセルス!」
このままではアセルスは挟撃を受けてしまう。
傍観者であるが故、絶望的な状況に気づいたルイズ。
「オルロワージュ!」
アセルスが叫ぶ。
右腕が再生されると共に、手には剣が握られていた。
アセルスに残された最後の武器──妖魔の剣がオルロワージュの心臓に突き立てられた。
「がっ……!」
短い悲鳴と共に、オルロワージュの口から青い血が吐き出される。
肖像画の姿が崩れ出す。
オルロワージュが三人の寵姫の維持すら困難になりつつある証明。
「私が死ぬのか……!?」
消えゆく身体を見つめながら、オルロワージュが理解できないといった表情を浮かべる。
その光景にルイズはかつて見た夢の言葉を思い出していた。
『オルロワージュめ……自分の血で滅ぶかもしれん』
指輪の君がアセルス達を見送った後に呟いた言葉。
彼の予想通り、気紛れに与えた自らの血が死の原因となった。
こうして、アセルスはオルロワージュを討ち滅ぼした。
それが更なる悲劇を巻き起こすとも知らずに。
「アセルス様!今日はお出にならないかと……」
ドレスを着たジーナがアセルスを迎える。
「何を言うんだジーナ、君は私にとって特別な人だ。私の最初の姫だからな」
王族のような衣装に身を包んだアセルス。
悪魔の角にも似た黄金のクラウン、血で出来たような真紅のドレスが彼女の魅力を妖しく引き立てる。
「アセルス様……」
ジーナが言葉を発するより早く後ろから姿を表したラスタバンが呼び止める。
「アセルス様!それではオルロワージュ様と変わりありません。あなた様は……」
「うるさいぞ、ラスタバン。私はあの人を越えた」
ラスタバンの忠告を遮って、アセルスが振り返る。
「そう、すべての面であの人を越えるのだ。
姫も100人でも200人でも集めてやる。
それから、他の妖魔の君を屈服させる。人間も機械も私の足元にひれ伏させるのだ。」
アセルスの宣告は暴君のような物言い。
「だからいったろう、こんな奴に期待するなと」
柱の影からイルドゥンが姿を表す。
侮蔑の態度を隠す事なく、アセルスを見下していた。
「イルドゥン、もうお前の指導なぞいらん。立ち去れ」
「ふん、 ファシナトゥールも終わりだな。」
世話役の解雇だけを告げるアセルスに、イルドゥンは捨て台詞だけ残して姿を消した。
「お前はどうするんだ、ラスタバン」
アセルスの瞳は酷く冷たい。
ガラス玉のほうがまだ温かみを感じるほどに。
「私はアセルス様について行きます。それが、私の願いでありました。」
首を垂れ、ラスタバンは跪く。
「よし、ではゾズマを捕えてこい。
あいつ、自分であの人を倒した気でいる。だれが妖魔の君か、じっくり教えてやらねば。」
当然だとばかりに命令を下すアセルスの姿に淀みはない。
「棺の姫たちは、いかが致しましょう?」
「棺など永遠に閉じておけ。あの人の食いカスなど興味無い」
路傍の石でも見るように、アセルスには心底どうでもいい話だった。
「アセルス様…………怖い……」
アセルスの変貌にジーナが思わず震える。
ジーナに微笑む姿は確かにルイズが知るアセルスのもう一つの姿。
親愛に満ちた少女の笑顔。
「大丈夫だよ、ジーナ。二人で永遠の宴を楽しもう。私にはその力がある」
ジーナの頬に手を当てながら、アセルスは笑った。
「フフフ……ハハハ……アハハハハハ!!」
アセルスの狂ったような高笑いだけが針の城に響いた。
かくして妖魔の君と成り代わったアセルスだが、近頃は酷く不機嫌だった。
理由は、ジーナの存在。
彼女が以前のように微笑んでくれなくなったのが悩み。
アセルスからの吸血行為を拒んでいる訳ではない。
虜化された筈だがジーナが寵姫となって以来、一度も笑顔を見ていない。
高貴な贈り物を与えようとも自らの愛情をどれだけ伝えても、彼女は寂しそうに微笑むだけだった。
その姿に憤りを覚えるより、何故なのか理解出来ない。
だからこそ、アセルスは二人の間にある致命的な溝を深めてしまう。
「ジーナ……」
夜寝る前にジーナの部屋に訪れるのが、アセルスの日課。
しかし、今日のアセルスはどこか様子が異なる。
「アセルス様?」
心境な面持ちをしたアセルスに対して、ジーナが問いかけた。
「今日は君にお願いがある」
「はい……?」
首を傾げるジーナの手を取って、アセルスが言葉を続ける。
「私と共に永遠を歩んで欲しい」
「それは……どの様な意味でしょうか?」
「私の血を君に与えたいと思う。そうすれば、二人は永遠に離れる事はないから」
オルロワージュの事を忘れた訳ではない。
ただアセルスは自分とジーナは違うと何の根拠もなく信じていた。
「アセルス様……」
告げられたジーナの反応はアセルスが望むものではなかった。
愕然とした表情を浮かべる彼女を見て、人でなくなる事を恐れているのだと身勝手な解釈をする。
「私と共に永遠を歩んで欲しいんだ。
心配はいらない、私はいつでもジーナの傍にいる」
ジーナを抱きとめるが、彼女は震えたままだった。
その恐怖が誰に向けられたものか、悟ったのは傍観者のルイズのみ。
「違うわ、アセルス……ジーナが怯えているのは……」
独り言のような忠告も届く筈もない。
これはあくまでも夢の中の光景に過ぎないのだから。
「アセルス様……代わりに一つお願いが御座います」
ジーナが永遠を受け入れてくれたと、アセルスは思い込む。
「君の願いなら何でも叶えよう」
「ありがとうございます。
以前に務めていた裁縫店に残してある品物を取りに行きたいのです」
二人が始めて出会った裁縫店。
店主がファシナトゥールから出て行った為に、そのまま残っている。
配下の者に取りに行かせようとしたが、ジーナは思い出に浸りたいと一人で向かう事を希望した。
ゾズマやイルドゥンがアセルスに対して反乱を企てているのは、知っていた。
ジーナを一人で城の外に送るのは躊躇したが、周囲の妖魔に近づかないよう命令を出した。
そうしておけば、ジーナに近づく者が現れてもすぐに気配を察する事をができるだろうと判断して。
「アセルス様」
ジーナが城を出る前に、アセルスに呼びかける。
「二人で永遠を手に入れたら、何を望みますか?」
「私はジーナが傍にいてくれるなら、他に何もいらないわ」
アセルスは即答してみせた。
同時に、気になった質問をジーナに投げかける。
「私もアセルス様と同じです、アセルス様さえいてくれたのなら何も……」
寂寥を感じさせる笑顔で返しただけだった。
かつてのアセルスならば、ジーナが浮かべた表情の意味を察しただろう。
しかし、今の彼女には気づく事が出来ない。
彼女が心中で何を思い、何を考えているのかを。
──約束の時間を過ぎてもジーナは戻らなかった。
帰りを待ちかねたアセルスが、自ら裁縫店に向かう。
ジーナに不慮の事態があったのかと不安に押し潰されそうになりながら、店に辿り着く。
「ジーナ」
店内に入ると、呼びかけるも反応はない。
明かりが灯っている、2階の部屋に向かう。
ジーナにとって屋根裏が、唯一の安息の地だったと以前に聞いたのを思い出す。
部屋の扉を開くと、ジーナの後姿が見えて安堵する。
疲れていたのか、机に突っ伏して眠ったように見えた。
しかし、それが間違いだったとすぐに悟る。
床に滴り落ちた血痕、青褪めていた彼女の顔を目の当たりにして。
「ジーナ!?」
アセルスが抱え起こすも返事はない。
左手首の傷口と反対側の手に握られた鋏が凶器だと理解する。
「どうして……ジーナ!?ジーナ!!」
部屋に争った形跡はない。
右手にも血が付着しているから自殺だろう。
原因は分かったが、彼女が死のうとした動機が分からない。
机の上に手紙が置いてあると気付く。
宛先人にはアセルスの名前が書かれていた。
動揺からか手の動きが定まらないまま手紙を読み進めた。
『アセルス様へ
このような形でしか言葉を残せない私は卑怯者だと思います。
ですが、他に伝える術を思いつかなかったのです。
きっとアセルス様を前にすれば、告げる事は出来なくなるでしょうから』
手紙をいくら読み返しても、現実感に乏しかった。
何が彼女を自殺へと駆り立てたのかがまるで理解できない。
ジーナが手紙に残したのは思い出の内容が大半だ。
最後の締め括りには、こう記されていた。
『私もアセルス様を愛しておりました。
変わりゆく貴女に何も手助けできなかった無力な私を御許しください』
412 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/23(土) 22:40:11.20 ID:FAlqtLXP
,
「ジーナ……」
いくら呼び掛けても、彼女が答える事はなかった。
それからの出来事は覚えていない。
ただ彼女の遺体を硝子の棺に入れたのだけは何となく覚えている。
自分の血を分け与えるというのも考えた。
そうすれば自分と同じように、生き返るだろう。
行わなかったのは、脳裏を過る彼女の笑顔。
哀しんでいるような微笑みに、ジーナの心は自分から離れてしまったのだと気付いた。
結果はわかっても、原因がまるで分からない。
ジーナを愛していたのは間違いない。
そして、彼女も自分を愛してくれていたのは手紙に書かれていた。
なら、彼女の心が離れたのはいつか?
思い出を振り返っても、自分が何の失態を犯したのかが思い当たらない。
わだかまりだけがいつまでもアセルス心に残り続ける。
彼女が自ら死んだと言う事実だけが、アセルスの思考力を奪った。
また孤独になってしまった喪失感。
周囲に雨が降っていた事にすら、今のアセルスには気づかない。
針の城から少し離れた墓場。
アセルスが数えきれない人妖を処罰した者が埋められている。
そんな墓場でアセルスを呼ぶ声が小さく響く。
声にはルイズも聞き覚えがあった。
何故なら、それは自分が進級試験で叫んだ呪文。
「宇宙の果てのどこかに居る私の僕よ!神聖で美しくそして強力な使い魔よ!!
私は心より求め、訴えるわ!!!我が導きに、答えなさいっ!!!!」
何よりも求めた使い魔。
しかしルイズが本当に欲したのは使い魔ではなく、自分の苦しみを分かち合える存在だった。
414 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/23(土) 23:00:47.32 ID:LQSATDor
あれ、
>>412って壊れてる?
なぜか『,』の一文字しか表示されてない
ちなみにageられてる
「アセルス!」
ルイズが飛び起きるも、そこに彼女の姿はない。
夢の中でジーナが命を絶った理由をルイズは推察していた。
アセルスは妖魔となったのではない。
妖魔となった事を苦悩する一人の少女のはずだった。
人に絶望し、妖魔となってアセルスは苦悩を撒き散らそうとしてしまった。
事もあろうに自らが愛していると告げた相手に同じ苦しみを与えようとしていた。
だからジーナは怖れたのだ。
身も心も妖魔となってしまった少女の存在を。
彼女が見ていたアセルスの姿は妖魔となった事を苦悩しながらも、妖魔となる事に抵抗する少女。
噂話でアセルスが針の城を抜け出したとジーナが知った時、
二度と会えない事に落胆しながらも、心の何処かで納得していた。
きっとアセルスは針の城に囚われる事を拒むだろうと。
ルイズにとっても、共感できる感情。
アセルスの心を変えてしまった原因はいくつかある。
叔母からの拒絶。
慕っていた白薔薇の喪失。
他者の醜さを目の当たりにした事実。
最大の切っ掛けは、自らが孤独だと悟ってしまった事。
『人として生きれないのだから妖魔として生きる』
決意したのではない。
アセルスの放った言葉にあるのは虚無感だけだった。
ただオルロワージュを超える事に固執し、ジーナとやがてくる死別を恐れた。
妖魔となってしまったアセルスでは、ジーナの望みは叶えられないとも知らずに。
ジーナは『人として』アセルスのそばにいたかった。
アセルスはそんなジーナをも虜化しようとした。
妖魔と人間。
アセルス自身がかつて叫んだように相入れぬ存在。
『私は人間よ』
昨夜、無責任にアセルスに放ったのは存在の拒絶。
ジーナが決して告げようとしなかった台詞をルイズは発してしまった。
ならば、どちらにもなれない半妖のアセルスは一体何の為に生まれた存在なのか?
──魔法が使えないメイジ。
生まれた境遇と言う如何とも出来ない忌まわしさ。
いや、自分にはまだ理解者がいるとルイズは頭を振る。
アセルスには誰一人いないのだ。
取り返しのつかない失言でアセルスを傷つけたと今更気いた。
言葉一つで人の心がどれだけ傷つくかは、良く知っているはずなのに。
「アセルス!どこにいるの!?」
謝りたくて、ルイズはアセルスを会いに部屋を飛び出す。
だが、城内にも外にもアセルスの姿を見つける事が出来ない。
失意から部屋に戻ると、机の上に手紙が置いてあるのに気付いた。
差出人は──アセルス。
手紙の内容はルイズにとって激しく衝撃を受けるものだった。
「……もう戻らないって……?」
手紙を読み進める手が震える。
ルイズへ残されたのは、二つの伝言。
……私の事は忘れて欲しい。
もう一つ、期待させてごめんなさい。
……私は貴方の希望になり得ないのに期待させてしまった。
全て読み終えたルイズの手から、手紙が零れ落ちる。
残されたルイズは呆然と立ち尽くすしか出来なかった……
「汝ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。新郎は始祖ブリミルの名において……」
ルイズは自分がなぜこんなところにいるのか、把握できずにいた。
自分の結婚式のはずだというのに、心ここにあらずと言った表情を浮かべている。
「誓います」
「新婦は……」
まるでいつも見ていたアセルスの夢のように他人事のような光景だった。
「……新婦?」
ウェールズ皇太子の呼びかけにハッとして顔を挙げる。
「私は……」
たった一言で済むはずの宣誓。
それがルイズの喉につっかえて出てこない。
好きな人との婚約なのに何をしているのか?
好き……誰を?
ワルドを……それとも……
ルイズの脳裏に浮かんだのは、アセルスだった。
彼女との思い出が走馬燈のようによぎる。
フーケの討伐やギーシュとの決闘で自分を守ってくれた姿。
『いいよ、君を守ればいいんだね?』
使い魔の説明をした時のアセルスの台詞。
彼女は約束通り、自分を守ってくれていた。
周囲の悪意、巨大なゴーレム、盗賊やならず者のメイジから。
それに比べて、自分は何だ。
主人としての役目も果たせず、アセルスが望んだ僅かな要求すら満たせていない。
「私は……」
「新婦?」
ウェールズ皇太子が不思議そうに尋ねる。
「私はこの結婚を望みません」
「ルイズ?」
思いがけない言葉にワルドが名前を呼ぶ。
「ごめんなさい、ワルド。
私、自分の寂しさを紛らわす為だけに結婚しようとしてた」
ルイズが、ブーケを取り外すと頭を下げる。
「それでもいいじゃないか、人は一人でいられるほど強くできてないんだ」
ワルドの言葉には優しい。
それだけでは人は生きていけないとルイズは自覚する。
「私は甘えてたわ。このままだとずっと貴方に頼り続けてしまう」
「存分に頼ってくれればいいさ」
短く首を振って否定する。
「それじゃいけないのよ。
私は子どもの頃から何も成長できないままになってしまうもの」
ルイズの説明にも、ワルドは耳を貸さずなおも食い下がる。
「それでも、僕には君が必要なんだ!」
「……どうして?私は所詮まだ半人前、心も自制できず、魔法もまともに使えないのよ?」
自虐ではなく、客観的な自分への評価。
ルイズには自分が必要とされる意義が判らない。
「君は気づいていないだけで、素晴らしい力を秘めているんだ!」
ルイズの琴線を揺さぶるにはあまりに粗末な台詞だった。
「何を言ってるのワルド……」
「世界だ、僕は世界を手に入れる!その為には君が必要なんだルイズ!!」
ワルドがルイズの肩を掴んで力説するが、対照的にルイズの心は冷えきっている。
同時に、ワルドの目が自分を見ていないと気づいた。
自分が上級妖魔であろうとするアセルスの上っ面だけを見て、内面を見ていなかったように。
「離して!悩んだ私が馬鹿みたいだわ……
貴方が求めているのはありもしない力だけじゃない!!」
静観していたウェールズも事が穏やかでなくなる様子を見かね、仲裁に入る。
「新郎、落ち着きたまえ。
君がどうあれ彼女はこの結婚を望んでいない。
私は望んでもいない婚約を結ばせる事はできない」
ウェールズの諫めにワルドは力なく項垂れた。
「仕方ない、この旅での目的の一つは諦めよう……」
「目的?」
ルイズが聞き返す。
「ああ、一つは君を手に入れる事」
顔を上げたワルドの形相はルイズが見た事もない歪んだ表情だった。
「ワルド?」
「二つ目は手紙、これはもっとも三つ目のおまけだが……」
ルイズの呼びかけも聞こえていないように淡々と話を続ける。
「貴様……」
ウェールズが警戒して、杖を構えようとするが一歩遅かった。
心臓に穴が開くと同時に、大量の血を口から吐き出して倒れ込む。
「三つ目は貴方の命だ、ウェールズ皇太子」
ワルドの目つきが変わる。
「皇太子!?」
「さては……レコン・キスタか……」
ウェールズが忌々しげにワルドを睨む。
必死に杖を取ろうと手を伸ばすが、ワルドは足で彼の杖を蹴り飛ばした。
「こんな……ところ……で……アン…………」
無念そうにウェールズが呟く。
最期に愛しい人の名前を呼ぶと、弱々しい痙攣を繰り返して地面に力尽きた。
「ルイズ、君を手に入れられなかったのは残念だ。
だが、厄介な妖魔を追い払ってくれただけでも良しとしよう」
ワルドの言葉に耳を疑った。
「何を……」
「君は随分あの妖魔にご熱心だったようだからね、苦労したよ」
ルイズも徐々に理解しつつあった。
ワルドはアセルスが暗殺の邪魔になると感じていた。
妖魔と人間が相入れない存在だと嘯き、仲違いを狙ったのだと。
ワルドの思惑通り、アセルスはこの場にいない。
自分の不用意な失言が原因で……
「あの話は……」
信じられない表情を浮かべるルイズ。
ワルドが首をひねる。
「親友が妖魔に殺されたって話よ!」
ルイズの叫びに、合点がいった様子で笑いだした。
「あんな嘘を信じるなんて純真だな、君は」
人間の最も原始的な悪意、嘘。
ルイズは自分の愚かさを呪い、同時に許せなかった。
目の前で嘲笑う婚約者だった男。
言いように踊らされ、アセルスを傷つけた自分。
「さて……僕がどうして、こうも簡単に白状すると思う?」
ワルドが嫌らしい笑みを浮かべる。
ルイズにはもう、彼の全てが醜悪な物にしか見えない。
「私を消すつもりなんでしょう!」
杖を取り出そうとするが、ルイズの反応は後手だった。
杖を向けると同時に、風の魔法で手首ごとを切り飛ばされる。
「うあああ……あああぁ!」
悲鳴を上げて、蹲る。
傷口を必死に抑えようとするが、痛みも出血も止まらない。
「さて、ルイズ。無駄な抵抗はやめて、僕に着いてきてもらおう。
そうすれば君の命までは奪わない」
見下すワルドの目は硝子のように酷く冷たい。
「…………!」
「何だって?」
倒れたルイズが何かを呟くが、ワルドは聞き取れず顔を近づける。
ルイズは既に杖を失っている。
魔法が使えない以上、ただの小娘でしかないとワルドは警戒を解いていた。
「ファイアー・ボール!」
耳を傾けた隙に、ルイズが渾身の力を込めて呪文を唱える。
メイジの弱点は杖だ。
あらゆる魔法を使うには杖が必要となる。
アセルスは以前に、ルイズへ予備の杖を持たせておいた。
倒れ込んだ時、残った方の手で懐にある杖を握りしめたルイズはワルドの不意を突く。
人間は無意識に力を抑えようとする。
魔法であれば尚更だ、失敗で魔力の逆流が身に振り懸からないよう制御する。
だがルイズは自らの身に及ぶ危険も省みず、ありったけの力を込めて魔法を唱えた。
結果、いつもより遙かに大きい爆発が起きる。
自身も巻き込まれるが、かろうじて意識をつなぎ止めた。
(やった……!)
声を出すのすら、もはやままならない。
それでも協会の残骸に寄りかかるようにして、爆発の中心地に目を向ける。
爆発により舞い上がった粉塵が晴れる。
残されていたのは砕けた仮面とメイジのマントのみ。
(え……)
疑問に思うより早く、ルイズの心臓が貫かれた。
ルイズの微かな体力をも根こそぎ奪う致命傷となって。
「まさか自滅覚悟で爆発させてくるとはね」
教会の扉から陰が差し込む。
人影の顔は逆光で見えないが、紛れもないワルドの姿だった。
(遍在……)
風の魔法の特徴とも言える遍在。
魔法による実体の存在する分身を生み出す。
気づいたところで、ルイズの意識が薄れていく。
ルイズが思い出したのは、フーケ討伐の時。
無謀にもゴーレムに立ちはだかり、死を覚悟した。
アセルスの姿を思い起こす。
自分を守ってくれた彼女の姿。
(……ごめんなさい……アセルス……)
誰にも聞こえない懺悔。
ルイズの身体から力が抜け、崩れ落ちる。
「やれやれ、思ったより厄介な状態になったな」
動かなくなったルイズを見て、ワルドが独り言を漏らす。
爆発によって、異変を気づいた兵士がまもなく来るだろう。
ワルドは手紙を奪うべく、倒れたルイズに近寄る。
懐に触れようと手を伸ばした時、扉から差し込んだ影に気付いた。
とっさにルイズから離れ、扉へと振り返る。
扉に立っていたのはワルドも知っている人物。
血のように赤いドレス。
女性にしては短いが、翡翠のような麗しい緑色の髪。
極上の紅玉を溶かしたような色鮮やかに映える紅の瞳。
「よくも……」
両手に持つ2本の剣に強い力を込めて、握り締める。
アセルスが最初に受けた直感は正しかった。
この男、ワルドは己の欲望にルイズを利用していた。
しかし、対処を行わなかった。
また答えを先延ばしにした結果、ルイズは傷つき倒れている。
『おお、おっかねえ。
相棒相当怒ってるぜ、覚悟しな』
デルフの減らず口すら今のアセルスには気にならない。
ただ一点を睨み、見下ろすように剣先をワルドに突きつける。
今のアセルスを突き動かすのは、オルロワージュにかつて向けた感情と同じ。
「ワルド、決着をつける」
──殺意だった。
途中、鯖落ちで長くなりましたが投下は以上です
アセルスが感覚共有する件は抜け落ちてる訳ではなく、
意図的にカットしてます
お疲れ様です。
特に予約がなければ50分からウル魔の代理いきます
第七話
ハルケギニア大陥没! (後編)
暗黒星人 シャプレー星人
核怪獣 ギラドラス 登場!
エレオノールのキャンプで、一行はささやかなもてなしを受けていた。
「まさか、こんなところまで私のためなんかに来てくれるとは思わなかったわ。さあさ、なんにもないところだけどくつろいでちょうだい」
「あ、はいどうもです」
才人やギーシュがなかば唖然とした顔をして、まだ熱い紅茶を音を立ててすする。ほこりっぽい空気の中に芳醇な香りが流れ、
一行が、出された茶菓子に口をつけると、甘く気品のある味が口内に広がった。
それは、まるで昼下がりの貴族の休日のような優雅な雰囲気……だが、一行は誰一人としてそれを楽しむでもなく、拍子抜けしたように
テントを囲んでいた。
いや、実際かなり拍子抜けしていた。まるごと地面の底に沈んでしまった火竜山脈に登ったという、エレオノールらしき女性の安否を
確かめるためにやってきたのだが、実際ほとんど岩石砂漠になってしまったここにいたのでは、いくら彼女が優秀なメイジでも無事で
いるのは難しかろうとある程度覚悟をしていた。
それなのに、いざ苦労して見つけ出してみると、エレオノールはまったくの無傷であった。しかも、機嫌がいいのか妙に態度が優しくて、
いつもの男勝りで厳しい姿を見慣れていたギーシュたちは、小声でヒソヒソと話し合っていた。
「おい、ミス・エレオノールどうしたんだ? やっぱり岩で頭でも打ったのかね」
「うーん、学院に最初にやってきたときはあんなもんだったが、結局素を隠せなかったしなあ。もしかして、ついに婚約が決まったとか」
「いや、百歩譲ってもソレはないと思うが」
失礼を通り越して叩き殺されても文句を言えないようなことをギーシュたちはささやきあっていたが、ある意味では無理からぬ話である。
エレオノールの猫かむり、というか貴族が対外的に態度を使い分けるのは当然のことだとしても、なぜそれを今さら自分たちに見せる
必要があるのだろうか? エレオノールと仲がいいルクシャナなどは露骨に不快な顔をしている。からかっているのか? しかし怖くて
誰も言い出せなかったところで、妹のルイズが思い切って言い出した。
「お姉さま、もてなしはこれくらいでいいですから教えてくださいませんか? なぜこんなところにいらしていたんですか? お姉さまほどの
人物が、単なる地質調査のためなんかに派遣されるわけがないでしょう」
皆は心中でルイズに礼を言った。この異様な空気から逃れられるのはなによりありがたい。
エレオノールは、紅茶のカップを置くとおもむろに話し始めた。
「みんな、ここ最近ハルケギニアの各地で起こっている異変を知っているかしら?」
「異変、ですか? まさか、ここ以外でも!」
「そうよ。今、ここだけじゃなくトリステインを含むあちこちで異常な地震や陥没が頻発しているの。最初は辺境の山岳地帯や、
無人の森林地帯が一夜にして消えてなくなって、鈍い領主はそれでも気に止めてなかったんだけど、とうとう村や城まで沈み始めて
慌ててアカデミーに調査依頼が来たというわけなの」
そうだったのか……一行は、知らないところですでにそんな大事件が起こっていたのかと、のんきに旅行気分で東方号に乗ってる
場合じゃなかったと思った。思い出してみれば、東方号がトリステインを出発する時にエレオノールがいなかったのは、このためであったのか。
つまり、火竜山脈にやってきたのも偶然ではないのかと尋ねると、エレオノールは首を縦に振った。
「無闇に発表するとパニックが起こるから王政府の意思で伏せられているけど、今、魔法アカデミーの総力をあげて原因究明が
おこなわれているわ。国外にも多くの学者やメイジが派遣されて、私は火竜山脈担当だったというわけ。まさか、調査中に自分が
被害に会うとは思わなかったけどね」
「それは、大変でございましたね。それで、山が沈む原因は解明できたのですか?」
核心への質問がおこなわれると、エレオノールは一呼吸をおいて指で足元を指して言った。
「ええ、一応の仮説は立てていたけど、ここに来て確信が持てたわ。原因は、地下深くに埋蔵されている風石が一気に消失
したことによる地盤沈下よ」
「風石ですって!? ですが、火竜山脈にはそれほど規模の大きい風石鉱山はないのが常識ではなかったですか?」
「人間が通常に採掘できる鉱脈はごく浅いところだけよ。知られていないけど、さらに地下数百メイル下には膨大な量の鉱脈が
眠っているわ。それこそ、ハルケギニアの地面を埋め尽くすくらいにね」
まさか……と、ルイズは足元を見た。そんなこと、どんな授業でも習わなかったが、それが本当だとすれば、自分たちの住んでいる
ハルケギニアは巨大な風石の海の上に浮いている浮き島のようなものだということになる。地下水の汲み上げすぎでも、時には
地上が歪むほどの地盤沈下をもたらすことがあるんだから、それほどの鉱脈が消失したとしたら。
「つまり、地下の風石がなくなったから、上の岩盤も支えを失って……」
「そう、まずは重量のある山岳地帯が陥没を始めたという事よ。
一行は呆然として、ふだんなにげなく踏みしめている地面を見つめた。よく見ると、石や砂に混ざって風石の欠片がキラキラと
光っている。それこそ説明されるまでもなく、この山脈の地底にあった大量の風石の残骸に違いなかった。
そして恐ろしい真相は、さらに恐ろしい未来図を連想させた。
「ちょ! その風石の鉱脈はハルケギニア全体に広がっていると言いましたよね。じゃ、いずれは」
「ええ、遠くない将来に……ハルケギニアは丸ごと陥没して、地の底に沈んでしまうでしょうね」
音のない激震が全員の中を駆け巡った。ハルケギニアが沈む? そんなバカなと否定したいが、今日自分たちがその目で
見てきた事実がそれを動かしようもなく肯定していた。火竜山脈が平地と化してしまうような変動が人里を襲ったとしたら、
そこにあるのはもはや災害というレベルではすまされない。
ハルケギニアが沈む。つまり、自分たちの故郷トリステインにあるトリスタニアの街並みも、魔法学院やひとりひとりの家々も
何もかも残さず大地に飲み込まれて消滅する。むろん、ガリアやゲルマニアも同じように壊滅し、アルビオンを除いてハルケギニアは
人の存在した痕跡すらない岩石ばかりの荒野と化してしまうのだ。
ルイズはここにティファニアを連れてこないでよかったと思った。こんなとんでもない話を聞かせたら、あの子なら卒倒していたかも
しれない。というよりも、こんな事実が公になったらハルケギニアは破滅的なパニックに包まれてしまうに違いない。
だが、なぜその風石の鉱脈が消失したかと尋ねると、エレオノールは「それは私にもまだわからないのよ」と、言葉を濁した。
けれども、才人はここで事件のピースが組みあがっていくのを感じた。
「そうか、町の子供たちが見かけたギラ、いや怪獣は地下の風石鉱脈を食べていたんだ」
「なんですって! 今、なんと言ったの」
才人はエレオノールに、怪獣が地下に潜るのが目撃されていたことを伝えた。すると、エレオノールは明らかに動揺した
様子を見せて言った。
「そ、そう、怪獣を見た人がねえ。でも、子供が見た事だっていうし、見間違いじゃないの?」
「何人もが目撃してますし、その後に恐ろしい叫び声を聞いたという話もありました。なにより、こんなとんでもない事件を
引き起こせるのは怪獣でもなければ無理だと思います」
才人はぴしゃりと言ってのけた。ほかの面々も、これまでに何度も怪獣の起こす怪事件と向き合ってきただけに、才人の
言うことが妥当だろうとうなづいている。
「そ、そう……」
なのに、同等の経験を持つはずのエレオノールだけが納得していない様子で、才人ら一部はどことなく違和感を感じた。
アカデミーでデスクワークをしているうちに勘が鈍ったのか? いや、男性がついていけないくらいに何事にも積極的な
エレオノールに限ってそれはない。ならば、なにが……?
どことなく居心地の悪い沈黙が場を包んだ。喉に魚の骨が刺さったままのような、吐き出したいけどできない不快な感触。
しかしルイズはそんな悪い空気を吹き払うように陽気な様子で言った。
「もうみんな、なにをそんなに疑った顔をしてるの? エレオノール姉さまはトリステイン一高名な学者でわたしの自慢の
姉さまなのよ。変な目で見たりしたら、このわたしが許さないんだから」
「お、おいルイズ?」
これには才人たち、ほとんどの者が面食らった。エレオノールもだが、ルイズも変になったのか? が、ルイズが凄い目で
睨んでくるため言い出すことができないでいると、エレオノールがルイズに話しかけた。
「まあルイズ、あなたはなんて素晴らしい妹なのかしら。私はあなたを誇りに思うわ!」
「妹が姉の誇りを守るのは当然のことですわ。それよりも、わたしたちもお手伝いいたします。これだけの人数がいるのですわ、
お姉さまの下で手分けして捜せば、たとえ相手が地の底に潜んでいても兆候は見つけられるでしょう。相手も、いずれは
地上に出てこなければいけなくなるでしょうから、正体を見極めて通報すれば軍が討伐隊を出してくれますわ」
「そ、そうね。さすがは私の妹だわ。そうしましょう」
「はい、お姉さま。あら、しゃべったら喉が渇いてしまいました。すみませんが、お茶をもう一杯いただけませんか?」
「ええ、もちろんいいわよ」
エレオノールがティーポッドを持ち、ルイズのカップに紅茶を注いだ。湯気があがり、カップに口をつけたルイズの顔が
白く隠れる。その湯気の影から、薄く開いたとび色の瞳が才人に向けられて、彼ははっとした。
そうか、なるほどルイズそういうことか。ついていけずに呆然としている一行の中で唯一才人だけがなにかを理解した目で、
それを悟られないように伏せていた。他の者は、多かれ少なかれ何かを腹の内に持っていても、はばかってそれを口にすることを
ためらって、じっとルイズたちの動向を見守っていた。
結果、一行は数人ずつに分かれて火竜山脈跡を探索することになった。
「よし、各員散って周辺の探索に当たれ。ただし、三時間後に何もなくてもここに戻っていろ。暗くなる前に山を下りないと危ない」
「なにかを見つけた場合の合図はどうしますか?」
「信号用の煙玉を各自持ってるだろう? 扱いは火をつけるだけの簡単な奴だからこれを使えばいい。では、全員散れ!」
ミシェルの号令で、一行はそれぞれバラバラの方向へとクモの子を散らすように飛び出していった。
編成は、基本は銃士隊と水精霊騎士隊がひとりずつ組んで、どの組にも必ずメイジが一人はいるようになっていた。ただし、
才人とルイズは例外で、エレオノールと組んで三人で探索に出ることになった。
散り散りになって岩の荒野の底に潜む怪獣を求めていく戦士たち。先日の金属生命体のときと違い、仲間も武器もない
追い詰められた状態ながらも、自分たちの故郷がこの荒野と同じになるかという瀬戸際なのだ。手段が限られていても
気合の入りようが違う。
「くっそお、人の足の下でこそこそしてるシロアリ野郎め。頭を出したらぶっ叩いてやる」
ハルケギニアの屋台骨をこれ以上食い荒らされてはたまったものではない。しかし、相手がそれほど深い地底を自由に
動けるというのなら先住魔法でも探知はまず不可能で、砂漠で蟻の巣を探すような無謀な行為でしかないと誰もが思うだろう。
しかも、彼らにはそれとは別に心の内に引っかかっていることがあった。
”まさか、まさかだが、あの人はひょっとしたら……? 万一そうだとしたら、自分たちはとんでもないミスを犯したのではないだろうか”
誰もが胸の奥から鳴り響いてくる警鐘に、多かれ少なかれ悩まされていた。しかし、思ってはいても口に出せない事柄というものは
存在する。裸の王様がいい例ではあるが、言い出しそこねたという後悔の念は時間が過ぎていくにつれて強くなっていった。
火竜山脈跡は平坦になったとはいえ、家ほどもある岩石がゴロゴロしていて、少し離れると別の組の姿はすぐに見えなくなった。
岩の間には風が流れて反響しあい、声を出しても遠くに響く前にかき消されてしまう。これでは、もしなにか起きたとしても誰にも
気づかれないのではないだろうか? 本能的にそんな不安が胸中をよぎり、ミシェルと同行していたルクシャナがぽつりと言った。
「ねえ、あなた。わたしたち、こんなことしてていいのかしらね?」
「どういう意味だ?」
「とぼけないでよ。あなただって当に感ずいてるんでしょう? わたしだって、言えるものならさっき言い出したかったんだけど、
確証もなしにそんなことを言ったら不和と疑心暗鬼を招くことくらいわたしだって承知してるわ。なにより、言い出して外れてたとき、
大恥をかくのはわたしなのよ!」
一気にまくしたてたルクシャナの顔には、不満といらだちが満ち溢れていた。学者の彼女にとって、言いたいことを飲み込まなくては
ならない我慢がどれだけ耐え難いものかは、短からず彼女と付き合ってきたミシェルには十分理解できた。
「気持ちはわかる。わたしとて、途中から少なからぬ疑惑を抱いてはいた。しかし、確たる証拠もなしに友人を侮辱するような
真似はできない。あるいは、それを計算していたとしたら相当悪質ではあるな」
「わかってる割には落ち着いてるじゃない。もしかしたら、袋のネズミにされてるのはこっちかもしれないのよ? よくまあ
平然とした顔でいられるわね。ほんとにわかってるの? 今、一番危ないのは、あんたの惚れた男なのよ」
「恥ずかしいことを大声で言うな。わかっているさ、そしてわたしやお前にわかっていることなら、大方あのふたりもとっくに
わかっているはずだ。必ずやってくれるさ、あいつらならな」
ミシェルはそれで話を打ち切った。ルクシャナは呆れた顔で、「あんなとぼけた顔のぼうやのどこがいいのかしらねえ?
まあアリィーもそんなに差があるわけじゃないかな」と、あきらめたようにつぶやいていた。
彼女たちの胸中を悩ます不安要素。それは放置すれば、ガン細胞のように取り返しのつかないことになるのは
わかっていたが、誰にも手術に踏み切る物的証拠がなかった。
ただし、一方でそうは思っていない者たちもいた。エレオノールに着いていった、才人とルイズのふたりがそれである。
三人は、ほかの一行と分かれた後で、特に当てもなく前へ進んでいた。ギラドラスがどこに出現するかは予知できないので、
エレオノールの土メイジとしての直感と、目と耳だけが頼りのあてずっぽうである。と、表向きはなっていた。
歩くこと数十分、もう他の組とは大きく距離を離れ、なにかがあったとしても他の組が駆けつけてくるには十分以上は
かかってしまうであろう。そこを、エレオノールを先頭に三人は歩いていたが、ふいにルイズが話し掛けた。
「ねえ、エレオノールおねえさま、どうしてさっきから黙ってらっしゃるんですか? いつもなら、貴族としてのありさまがどうとか、
歩きながらでもお説教なさるくせに」
「そ、それは、あなたも立ち振る舞いが優雅になってきたから必要ないと思ったからよ。う、うん! 立派になったわね」
明らかに動揺していた。ルイズは、口だけは「ありがとうございます。お姉さまにお褒めいただけるなんてうれしいですわ」
などと陽気に言っているが、目だけはまったく笑っていなかった。
「ところで、この間のお手紙に書いてあった、新しいご婚約者の方とはうまくいってますの?」
「え、ええ! それはもちろんよ。待っててね、結婚式には必ず招待するからね」
にこやかにエレオノールは言い、ルイズと才人は笑い返した。
しかしこの瞬間、ふたりは最後の決意を固めていた。エレオノールの視線が外れると、ふたりは目配せしあって懐に手を入れた。
やがて、もうしばらく進むと、ひときわ大きな岩が壁のように聳え立っている場所に出た。
「これはまた、でかい岩だな」
高さはざっと十メートルほど、それが垂直にそびえ立っていて、少しくらい運動ができる程度で乗り越えられるものではなかった。
魔法が使えれば楽に飛び越えられるが、虚無一辺倒でコモンマジックも十全に扱えないルイズにはフライも使えないし、
テレポートをこんなことのために乱用するのはもったいなさすぎた。
すると、エレオノールが岩の上にひらりと飛び乗った。
「あなたたちは飛べないのよね。さあ、引っ張り上げてあげるからロープを掴みなさい」
岩の上から下ろされたロープが才人とルイズの前でゆらゆらと揺れる。その頂上ではエレオノールがにこやかな顔をしながら
二人がロープを掴むのを待っていた。
しかし、ふたりはどちらもロープに手を伸ばすことはせずにエレオノールを見上げると、ルイズは強い口調で言い放った。
「そして、引き上げかけたところでロープを離せば、まずは邪魔者ふたりを始末できるというわけかしら? ニセモノさん!」
「なっ、なに!」
エレオノールの顔が驚愕に歪んだ。そしてふたりは追い討ちをかけるように言い放つ。
「バーカ、とっくの昔にバレてるんだよ。まんまと騙せてると思って、演技してるお前の姿はお笑いだったぜ!」
「エレオノールおねえさまに婚約者なんてできるわけないのよ。ボロが出るのを恐れて話を合わせたのが運のつきだったわね」
「おっ、おのれえっ。騙したなあっ!」
逆上した顔だけは本物にそっくりだなとルイズは笑った。が、猿芝居に付き合ってやるのもここまでだ。
「さあ、とっとと正体を現したらどう? 地下の怪獣を操ってるのもあんたなんでしょう!」
「人間の分際で、バカにしやがって! いいだろう。こんな窮屈な姿はこれまでだ!」
そう吐き捨てると、エレオノールのニセモノは懐から銀色をした金属製のプレートのようなものを取り出して左胸に当てた。
瞬間、白煙が足元から吹き上がって姿を隠す。そして煙の中から全身が金と銀色の怪人が現れた。
「俺様は、暗黒星雲の使者、シャプレー星人だ!」
ついに本性を表したニセエレオノール。その正体は、本物とは似ても似つかない銀のマスクののっぺらぼうであった。
暗黒星人シャプレー星人。その記録は才人の知るドキュメントUGにもあり、当時は地質学者の助手に化けて暗躍し、
地球のウルトニウムを強奪しようとしていた、宇宙の姑息なこそ泥だ。
「やっぱりお前だったかシャプレー星人! ハルケギニア中の風石を奪ってどうするつもりだ!」
才人が怒鳴ると、シャプレー星人は肩を揺らしながら答えた。
「フハハハハ! 貴様ら人間どもはそんなこともわからんのか。貴様らが風石と呼ぶ、この鉱石は宇宙でも極めて珍しいくらいに、
反重力エネルギーを大量に蓄積した代物だ。人間どもはおろかにも、これほどの資源を風船のようにしか使えておらんが、
効率よく加工精錬すれば強大なエネルギー資源になりうるのだ。それこそ、兵器利用のために欲しがる宇宙人はいくらでもいるわ!」
「風石を、侵略兵器に悪用しようっていうのか。ゆるさねぇ! それもヤプールの差し金か?」
「フン! ヤプールはいまごろボロボロになった自分の戦力のことで手一杯だろうよ。俺は最初から、あんなやつの下っ端で
働くなんてまっぴらだったんだ。風石をいただくだけいただいて残りカスになったら、こーんな最低な星にはなんの未練もないわ」
なるほど、つまりヤプールの支配力が衰えた隙を狙って動き出した雇われ星人ということかと才人は察した。ヤプールは、
独自の配下として複数の宇宙人を従えているが、それだけでは限りがあるので、直接的に隷属させてはいないがかなりの
宇宙人に声をかけ、誘惑して利用しているのは前からわかっていた。
しかし、いったんヤプールの支配が弱まってしまえば、無法者たちは一気に好き勝手に暴れだす。
「どうりで、前に地球に現れた奴に比べたら頭が悪いと思ったぜ」
「なに!? そうか、お前がヤプールの言っていた地球から来た小僧か。これはちょうどいい、一番の邪魔者がのこのこ自分から
やってきてくれるとはな。まずはお前から血祭りにあげてやる」
開き直ったかと才人は思った。やはり同族の宇宙人といえども、性格はメフィラス星人の例にもあるとおり差はあるようだ。
地球に現れた個体は計算高く、偶然が味方してくれなければ正体を突き止めることすら難しかったくらい周到に暗躍していたが、
こいつはヤプールの口車に乗るだけあって浅慮で詰めの甘いところが目立った。
こんなやつがエレオノールお姉さまに化けてたなんて。決して仲がいいとは言える姉ではなくとも、ルイズも忌々しそうに言った。
「ハイエナのくせに偉そうにしてくれるじゃない。よくもエレオノールお姉さまの顔を騙ってくれたわね。本物のお姉さまはどうしたの?」
「別にどうもしないさ。トリステインで、学者どもが飛び回っているといったろう? あれは嘘でもなんでもない。当然、本物も
毎日のようにあちらこちらを飛び回ってどこにいるかわからん。つまり、同じ人間がふたりいても、まず気づかれはしないということさ」
「お姉さまの多忙さを利用したってわけね。確かに、それなら本物が忙しく飛び回ってくれてたほうがニセモノも大手を振って
歩き回れるわけ。なるほど、本物のエレオノールお姉さまが聞いたら激怒するでしょうけど、そうやって人々の目を欺きながら
自由に怪獣を操っていたのね。ハルケギニアから盗み出した風石は返してもらうわよ!」
するとシャプレー星人は愉快そうに笑った。
「ハハハ! 残念だったなあ。すでに地下の風石の半分以上はこの星の外に運び出しているのだ。いまごろ気づいたところで
取り返せやしないんだよ。ざまあみろ!」
「なんですって! それじゃあ、ハルケギニアの地殻は!」
「今のところはかろうじて安定しているが、それも時間の問題だな。あと少し採掘すれば、地殻は一気に崩壊し、少なくとも
大陸全土がこの山のように沈んでしまうのは間違いないなあ」
才人とルイズは戦慄した。ハルケギニアが根こそぎ地の底へと沈んでしまう? 絶対に、これ以上の採掘は阻止しなくてはならない。
ルイズは杖をシャプレー星人に向けて言い放った。
「エレオノールお姉さまを侮辱してくれた報いは妹の私がくれてやるわ。悪いけど、優しくしてもらえると思わないでね」
「チィ、まさか妹がやってくるとは想定外だったぜ。しかし、俺の変身は完璧だったはず、どこで気づいた?」
「ふっ、確かに姿だけは完璧だったわ。でもね、あんたは内面のリサーチが足りてないのよ。おしとやかなエレオノール
お姉さまなんて菜食主義のドラゴンみたいなものよ。そして、あんたは決定的なミスを犯したわ。それは……」
そこでルイズは一呼吸起き、思いっきり胸をそらして得意げに言った。
「本物のエレオノールお姉さまはねぇ、絶対わたしにお茶なんか出してくれないのよ! あっはっはっはっは! ん? サイト、
なんでコケてんのよ?」
「虐待されとることを自慢すな、アホッ!」
まさにあの姉にしてこの妹ありだった。神経の太さは並ではないと、才人はずっコケながらほとほと思うのである。
よりにもよってエレオノールに化けたのが本当に運のつき、この規格外れの姉妹にそう簡単に入り込めるはずがない。
シャプレー星人は唖然とし、次いで激怒して叫んだ。
「貴様ふざけやがって! 覚悟しろ!」
「覚悟するのはあんたのほうよ! あんたを倒して大陥没を止める」
「ここで死ぬ貴様らには無理だ!」
シャプレー星人は光線銃を取り出して、才人たちも迎え撃つべく武器をとる。
交差するシャプレーガンとガッツブラスターの光弾。しかし双方とも発射と同時にその場を飛びのき、外れた弾が岩に
当たって火花を散らした。
「外れた!?」
「避けおったか、しゃらくさい!」
どちらも銃撃を連射するが、十メートルもある岩盤の上と下なので当たりずらい。だが、ならば互角かといえば、才人の
ほうはエネルギーの関係で実弾練習がほとんどできなかっただけ分が悪い。
しえん
しかも、シャプレー星人は光線銃だけでなく、草食昆虫のような口を開いて、そこからも光弾を放ってきたのだ。
「ちくしょう! 手数が違いすぎる」
雨あられと降り注ぐ光弾に、才人は避けるだけで精一杯だった。シャプレー星人はさらに調子に乗り、池のカエルに
石を投げるように銃撃を加えた。
「ウワッハッハッハ、逃げろ逃げろ、虫けらめ! ヌ? ヌワァッ!」
突如、爆発が起こってシャプレー星人を吹き飛ばした。半身を焦がした星人の目に映ったのは、杖の先をまっすぐに
向けて睨みつけてくるルイズだった。
「サイトにばかり気をとられてるからよ。まだエクスプロージョンを撃てるほど回復してないけど、あんたに町や村を
壊された人たちの痛みを少しは知りなさい」
不完全版エクスプロージョンの威力は必殺とはいかなかったが、不意をつくには十分だった。なにせ、なにもない
ところが突然爆発するのだから回避は大変難しい。シャプレー星人は、この星のメイジが使う魔法は系統はどうあれ、
おおむね飛んでくるものとばかり思い込んでいたから、銃を持っている才人を先に狙ってルイズを後回しにと判断したのが
見事に裏目に出た。
才人も体勢を立て直して、ガッツブラスターからエネルギー切れのパックを取り出して新品を装填した。
「ナイスだぜルイズ! よーし、あいつの弱点は目だ。目を狙え」
「目ってどこよ!?」
とのやり取りがありながらも、星人の鎧を着込んでいるような体はよく打撃に耐えた。しかし、体は耐えられても
ダメージを受けたシャプレー星人は逃げられない。
「お、おのれぇ。ならば、また貴様の姉の姿になってやる。これで攻撃できまい」
「あんたバカぁ? むしろ日ごろの恨み!」
ニセモノだとわかっているから、遠慮会釈のない爆裂の嵐が吹き荒れる。そのときのルイズの気持ちよさそうな顔ときたら、
いったいどれだけ恨みつらみが重なってるんだよと才人が心配するほどであった。
変身を維持できなくなってボロボロのシャプレー星人に、才人は介錯とばかりに銃口を向けた。
「これでとどめだ!」
「まっ、待て。お前の、影を見……」
「その手品は種が割れてんだよ! くたばりやがれ!」
悪あがきも通じず、銃撃と爆発が同時に叩き込まれた。その複合攻撃の威力には、さしものシャプレー星人の頑丈な体も
耐えられず、星人は炎上しながら岸壁を墜落していった。
「くっそぉぉーっ! 俺がこんなやつらに。ギラドラース! 俺の恨みぉぉぉ!」
地面にぶつかり、シャプレー星人は四散した。
だが、星人の断末魔と共に大地が激震し、地底から凶暴な叫び声が響いてくる。
「出てきやがるぞ。あとは、こいつさえ倒せばハルケギニアは沈まずに助かる! ルイズ」
「ええ、仕上げにいきましょう」
「ウルトラ・ターッチ!!」
岩の嵐を吹き飛ばし、ウルトラマンAが大地に降り立った。
続いて、猛烈な地震を伴いながら、赤く輝く角を振りかざして核怪獣ギラドラスが地底から現れた。
来たな! エースは前方百メートルほどに出現したギラドラスへ向かって構えをとった。四足獣型の体格でありながら
前足のない独特のスタイル。黒色のヤスリのようなザラザラした肌、背中にも明滅する赤い結晶体。間違いなく奴だ。
睨みあうエースとギラドラス。両者の巨体とギラドラスの叫び声が、遠方にいる仲間たちも呼んだ。
「ウルトラマンだ! 怪獣と戦ってるぞ」
「あっちはサイトたちが行った方向じゃないか。よし、助けにいこう」
全員がいっせいに同じ方向へと急いだ。全部のペアにメイジが含まれているので、フライの魔法を使って飛ぶ速さは
岩だらけの中を走るより断然速い。
しかし、彼らが才人たちのもとへ急ごうと飛び立って間もなく、ギラドラスが空に向かって大きく吼えた。次いで角と
背中の結晶体が強く発光すると、突如として暴風が吹き荒れて、降るはずのない雪が猛烈な吹雪となって荒れ狂いはじめた。
「うわあっ! なんだ急に天気が!」
「吹き飛ばされる! みんな、下りて岩陰に避難するんだ」
ブリザードが周囲を覆い、エースとギラドラス以外は身動きがとれない状況になってしまった。
この異常気象、もちろん自然のものではない。才人はすでに、ギラドラスの仕業に気づいていた。
〔あいつは天候を自由に操る能力があるんだ。くそ、あんなのをほっておいたら沈まなくてもハルケギニアはめちゃめちゃに
されてしまうぞ!〕
聞きしに勝る強烈さ、ギラドラスは地底に潜れば地震に陥没、地上に出てくれば大嵐を引き起こす、災害の塊のような
奴なのだ。こんなぶっそうな怪獣をほっておいたら、寒波、豪雪、干ばつ、台風、人間の住める世界ではなくなる。なんとしても、
こいつはここで倒さなくてはいけない。
「シュワッ!」
吹雪の中で、エースはギラドラスに挑みかかっていく。キックがギラドラスのあごを打ち、噛み付いてきたところをかわして
脳天にチョップからの連続攻撃を当てていく。
〔こないだのときと違って、体力はいっぱいよ。ぜったい負けやしないんだから〕
〔だけど、この寒さじゃ長くはもたないぞ。それに、下のみんなが凍死しちまう!〕
〔ええ、不利になる前に一気に決めたほうがよさそうね〕
ウルトラ戦士は強靭な肉体を持つが寒さには弱い。猛吹雪の中、太陽光もさえぎられたここは最悪のフィールドだといえる。
過去、エースも雪男超獣フブギララや雪だるま超獣スノギランとの戦いでは寒さに苦しめられている。いくらエネルギー満タンの
状態でも、長期戦には耐えられないのはエースも当然承知していた。
〔悪いが、一気に勝負を決めさせてもらうぞ!〕
苦い経験を何回も繰り返すつもりはない。エースはギラドラスの背中に馬乗りになり、パンチを連打してダメージを蓄積させていった。
が、ギラドラスも黙ってやられるつもりはむろんない。太く長い尻尾を振るってエースを振り落とし、雄たけびをあげて頭から
体当たりを仕掛けてきた。
「ヘヤアッ!」
エースはギラドラスの突進に対して、とっさに敵の頭の角を掴むと、突進の勢いをそのまま利用して投げを打った。
巨体が一瞬浮き上がり、次の瞬間ギラドラスは背中から雪をかむった岩の中に叩きつけられる。
〔どうだっ!〕
こいつは効いたはずだ。才人も混じって受けた水精霊騎士隊の格闘訓練での、銃士隊員のひとりから投げ技を
受けたときには、呼吸ができなくなって本当に死ぬかと思った。ルイズも昔、いたずらしたおしおきでカリーヌに竜巻で空に
舞い上げられて落とされた痛みが、寒気といっしょに蘇ってきた。
案の定、ギラドラスは大きなダメージを受けてもだえている。しかし、なおも角を光らせて天候を荒れ狂わせて攻めてきた。
吹雪がさらに強烈になり、エースの体が霜に染まって凍りつき始めた。
〔ぐううっ! なんて寒さだ〕
すでに気温は氷点下数十度と下がっているだろう。それに加えて台風並の強風が、あらゆるものから熱を奪っていく。
エースはまだ耐えられる。しかし、ろくな防寒装備もない下の人間たちはとても耐えられない。
「ギ、ギーシュ、ま、まぶたが凍って開か、な……」
「レイナール! 目を開けろ。寝たら死ぬぞぉ!」
「ミ、ミス・ルクシャナ、もっと風を防げないのか?」
「無茶言わないでよ副長さん! わたしたちだって必死にやってるのよ。今、この大気の防壁の外に出たら、あっという間に
氷の彫像になっちゃうわよ」
もうほとんどの者が手足の感覚がなかった。あと数分もすれば凍傷が始まって、やがては低体温症で死にいたる。
もはや、一刻の猶予もない! エースは自身も白く染まっていく身に残った力を振り絞り、ギラドラスへ最後の攻撃を仕掛けていった。
「ヌオオオオォォォォッ!!」
体当たりと噛み付きを仕掛けてくるギラドラスの攻撃をいなし、首元に一撃を加えて動きを止める。
〔いまだ!〕
チャンスはこの一瞬! エースはギラドラスの腹の下から巨体を持ち上げる。高々と頭上に掲げ、全力で空へと投げ捨てた。
「テヤァァァッ!」
放り投げられ、空高く昇っていくギラドラス。エースはありったけのエネルギーを光に変えて、L字に組んだ腕から解き放った。
『メタリウム光線!』
光芒が直撃し、膨大な熱量はギラドラスの肉体そのものをも蒸発させ、瞬時に千の破片へと爆砕させた。
閃光と、それに続いて真っ赤な炎が天を焦がす。爆音にギラドラスの断末魔が混じっていたか、それもわからないほどの
衝撃波が大地をなでて積雪を吹き飛ばしていくと、次の瞬間、空一面を青い幻想的な輝きが覆った。
「おおっ」
「すごい、きれい……」
空一面に、星のように小さな無数の光が舞っていた。皆は、寒さに凍えていたことも忘れてその光景に心を奪われた。
青と銀色のコントラストはどこまでも美しく透き通っていて、まるでオーロラを砕いて散りばめたようである。
いったい、この空を覆う星雲のような輝きはなんなのか? エースにもわからないが、邪悪な気は感じないので見つめていると、
ルクシャナがはっとしたように叫んだ。
「これ、風石だわ! 風石のかけらなのよ!」
そう、ギラドラスが体内に蓄えていた大量の風石が、爆発のショックで細かな破片となって飛散したのが、この光景の正体だった。
風石は精霊の力が形となったといわれているだけあって、いつまでも舞い降りてくることなく空にあり続け、やがて自然界の
秩序を守る精霊の意思を受け継いでいるかのように次なる奇跡を起こした。ギラドラスの巻き起こした嵐の雲に、風石の破片雲が
接触すると、まるで悪の力を相殺するかのように黒雲を消し去ってしまったのである。
「おお! 嵐がやんでいくぜ」
「あったかくなってきたわ。これで凍死しないですむわよ。やったあ!」
天候が急速に回復していき、皆から喜びの声があふれた。いまだ空は虫の群れに覆われており、本物の空は見えないが
一応の平穏が戻った。
風石の見せてくれた神秘の力。しかしこれも、元を辿ればハルケギニアの自然が長い年月をかけて作り出したものなのだ。
決して宇宙人のいいようにされていいものではない。資源を欲にまかせて掘り返し続けて、大地を枯らせてしまった後には
何も残りはしないのだ。
シャプレー星人の邪悪な陰謀は打ち砕かれた。エースは空へと飛び立ち、風と共に戦いは終結を告げる。
「ショワッチ!」
これで、ハルケギニアの土地がこれ以上沈降することはないはずだ。火竜山脈はもう元には戻らないが、ギリギリ被害を
最小限に抑えられたと思っていいだろう。
才人とルイズは皆と合流すると、事の顛末をまとめて報告した。
「なるほど、やっぱりあのミス・エレオノールはニセモノだったのか。しかし、我々も怪しいとは思ったが、あまりにも怪しすぎて
手を出せなかった。まんまと罠にはめるとは、さすがだなルイズは」
「うふふ、まあねえ」
ほめられて、鼻高々なルイズであった。才人は、まあ少し呆れながらも、今回はルイズの功績が大だったので、文句も
言わずに見守っている。
「まったく、褒められるとすーぐ頭に乗るんだからなあ。けど、今回はルイズを敵に回すと恐ろしいってのがよくわかったよ。
シャプレー星人も化けた相手が悪かったとはいえ、ちょっと同情するぜ」
「聞こえてるわよサイト。でもま、今日は気分がいいから大目にみてあげるわ。でも、ヤプールが眠っていても安心できる
わけじゃないってのもわかったわね」
「ああ、これから先もなにが起こるか、油断は禁物だな」
ヤプールの統率を離れて勝手に動く宇宙人もいる。災いの芽は、どこに隠れているかわからない。
そう、地球に勝るとも劣らない美しいこの星は、常に狙われているのだ。
いかなる理由があろうとも、侵略は絶対に許されない。しかし、平和は黙っていても守れるものではない。強い意志で、
痛みに耐えてでも悪と戦いぬいてやっと維持できる危うく儚いものだということを忘れたとき、人々の幸せは簡単に
踏みにじられてしまう。
今回の事件は、そのことを思い出すいい機会だった。なにせ、誰もあって当たり前と思っていた地面をなくそうとしていた
敵まで現れたのだ。侵略者は、人間のありとあらゆる油断をついて攻めてくる。絶対に安全なんてものはないんだということを、
みんながあらためて思い知った。
そして、今この世界は何者かの手によって闇に閉ざされ、滅びの道を歩んでいる。ハルケギニアに住む者として、
この脅威を見過ごすことは断じてできない。
「さあ、これでこの事件は片付いたわ。町に帰りましょう、きっとテファが心配してるわよ」
「おおーっ!」
思わぬ足止めを食ったが、もう大丈夫だ。町の人たちも、早く帰って安心させてあげないといけない。
一行は、意気揚々と町への帰路についた。
が、彼らの心はすでにここにはない。前途をふさいでいた難題が解消した今、行くべき道はひとつしかないのだ。
「今日はゆっくり休んで、明日には国境を越えましょう。幸い、山越えはしないですむみたいだしね」
異変の元凶がある南の地。そこになにが待ち受けているとしても、引き返すという選択肢は誰の心にもない。
目指すロマリアは、もはや目前へと迫っている。
そこで待つ運命の指針は、まだ正義にも悪にも、振れることを決めかねているようであった。
続く
今週はここまでです。
前回から一ヶ月、大変に遅れてしまって申し訳ありません。
実は引越しをすることになってしまい、仕事外でも大半の時間が忙殺されている状態なので…
プロットはほぼ組んであるので詰まることはありませんが、書く時間がとれないのでしばらくはペースダウンすることになろうと思います。
さて、物語のほうはお楽しみいただけたでしょうか。この話は、原作で当の話が出てからしばらくしてから思いついたものですが、
はさめるタイミングの関係でここに持ってまいりました。
書き終わってみたら、シリアスなのかどうなのか微妙な出来かなあと自分でも思うのですが、まあありきたりにはならなかったかな。
次回はいよいよロマリアに入って、最終部も本格的にスタートします。
以上代理終了します
ps、支援助かりました
お疲れ様です。
代理もいいけど、容量480超えたら次スレも立てろよ
441 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/25(月) 00:29:47.71 ID:+anYFJv3
るろうには今日ないのか
久しぶりに見てるがDBやっぱも面白いな
DBSSきてくれえええ
DBやっぱ…だと…!?
ドラゴンボール ヤクルトvsナッパ
ヤクルト……ギニュー特戦隊にいそうな名前だ
そんでウル魔は大隆起キエタ
うめ
うめ
うめ
ちんこ
削ジェンヌのおっぱい揉みたい
うめ
はい
うめ
うめ
ひとしれず埋めていく
\
 ̄ヽ、 _ノ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
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/ l と思うチンポコポンであった
(( ◯ .l l
.ヽヽ、l i .l
\ヽ l l ))
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.,' .,' ◯ニ.ンl
i i .i
ヽ、 丶 .ノ
`'ー-.'´`'ー- ''´i .|
凵 .凵
何やってんですかご立派様
ご立派じゃない様じゃね?
ご立派度が足りない、とても足りない
若かりし頃のご立派様なのか、それともなり損ないなのか。
おとなチンポコポン
__,,,,、 .,、
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: ./ i./ ,,..、 ヽ
. / /. l, ,! `,
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(´゛ ,/ llヽ |
ヽ -./ ., lliヽ .|
/'",i" ゙;、 l'ii,''く .ヽ
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.|-゙ノ/ : ゝ .、 ` .`''←┬゛
l゙ /.r ゛ .゙ヒ, .ヽ,  ゙̄|
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l / ヽ .`' `、、 .,i゛
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/ l と思うチンポコポンであった
(( ◯ .l l
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……あと10kゴミみたいなAAで埋めるのか?
>>464 ____
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/ ⌒ ⌒ \ 何言ってんだこいつ
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| 、" ゙)(__人__)" ) ___________
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 ̄ \__、("二) ̄ ̄ ̄ ̄ ̄l二二l二二 _|_|__|_
……あと10kゴミみたいなSSで埋めるのか?
くぅ〜疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ
まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」
さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」
マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」
京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」
ほむら「・・・ありがと」ファサ
では、
まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」
終
まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」
本当の本当に終わり
うめうめ
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