あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part317
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part316
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1348671794/l50 まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2 :
小笠原道大:2012/12/02(日) 22:44:02.52 ID:B8WZ39hA
早ぇよw
保守
4 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/05(水) 21:35:09.05 ID:1oP16KSa
保守
補習
久々にまほらば読んで、青葉梢が召喚されて人格ごとにルーンが変わるっての想像したが…
戦争のあるところに梢ちゃんを送るなんて俺にはできないっっっ!
こんばんは、23:45くらいから投下します。
「王女さま綺麗だったなー」
そこは地上を遥か下に眺めて、限りない大空を仰ぐ場所。
否、空の一部とも言うべき場所――
「もう女王様、でしょ」
「そうだった」
イザベラの訂正に対し、ジョゼットはてへっと片目を瞑りつつ舌をぺろっと出す。
イルククゥはシャルロットを含めた姉妹三人を乗せて、非常に穏やかに空を飛んでいた。
シャルロットは口の中に大量に詰め込んでいたものを、呑み込んでから聞く。
「そういえば二人はいつ来ていたの?」
「丁度今みたいにイルククゥに乗って、上空からちょっとね」
そうイザベラは答えると、三人の中で最も淑やかに料理を口に運ぶ。
「ホント学院も虚無の曜日だからって、その前後も休みにしてくれればいいのに」
ジョゼットは良くも悪くも普通であった。三人とも貴族の作法は皆等しく習っている。
されど事ここに至っては明確な個性が表れていた。
シャルロットは大食家であり常在戦場を心に置く為、量が多い上に食べるのも早い。
イザベラは元王族ということをいつも忘れぬ尊厳高さで、日々の所作全てに貴族らしさを見せる。
ジョゼットはその場の空気を読んで合わせる為に、今は肩肘張ることなく自由に食事を摂っていた。
黒髪のメイドに頼んで特別に食事を作ってもらって楽しむ、三人と一匹の雄大なランチタイム――
「そう、じゃあすぐに戻ったの?」
「ちょっとだけ家に寄ってすぐによ。折角だから皆でディナーでもしたかったけれど」
「姉さまは堅いよね、一日くらいサボっちゃえばよかったのに。シャルロットなんて何日休んだことか」
会話の合間にジョゼットは肉を放り投げると、イルククゥは飛行しながらも器用に口でキャッチして味わう。
「・・・・・・まぁ一時休学扱い。それに祝賀パーティに出席したから、どちらにしても当日夜は無理。父様も参加だし」
残念と言えば残念ではあるが、家族みんなで食事する機会などはいくらでもある。
学院から王都までの距離は近い。虚無の曜日になれば簡単に帰ることも出来る。
ましてジョゼットが召喚した風韻竜がいるのだから、往復は非常に速く快適に済む。
後はシャルルが首都警護任に詰めていない時と、ジョゼフの仕事が山積みになっていなければ揃い踏みだ。
「それにしても凄いわね、結婚式や戴冠式に参列するなんて」
アルビオンの現状も鑑みて、同盟と結婚と女王戴冠が続けて行われた。
現アルビオン王ジェームズ一世は、貴族派への睨みも含めて国に留まった。
また日程の関係上ロマリア教皇を迎えることもなかった。
本来の結婚式や戴冠式に比べれば慎ましやかではあったものの、それでもトリスタニアは大いに賑わった。
限られた人間のみが許される各式典を、出席者として間近で並べたことは貴重な体験であった。
「私の功績の殆どは、姉さんが貸してくれたスキルニルのおかげ」
「ねぇ〜、もう終わったんだから色々教えてくれないの?」
ジョゼットがシャルロットにせがむ。イザベラは察して直接は聞いてこないが魔道具を貸した手前、知りたくなくもない。
シャルロットも一段落したから問題ないだろうと、一応秘密厳守ということで話せる範囲を可能な限り大まかに語り始めた――
「――凄いわねシャルロット、あなた大活躍じゃないの」
「大袈裟、私のしたことなんて大したことない。スキルニルとキッドさん。あとブッチさんと父様が殆ど」
「行き過ぎた謙遜は美徳じゃないよシャルロット、わたし達の前ですることでもないし」
「・・・・・・ジョゼットに窘められるとは・・・・・・」
「ひどいな!!」
軽い漫才を終えて穏やかな表情を浮かべる。しかし僅かに憂いを帯びた表情。
「でも本当に・・・・・・大したことじゃないのよ」
作戦立案はスキルニルとミョズニトニルンあってのもの。存在を知っていれば簡単に思いつく。
『白炎』の首級も、地下水とデルフリンガーがあってのもの。自分は死んだようなものだった。
メンヌヴィルが残した王党派の名とて、残党セレスタンも知っていたからあくまで証拠の一つに留まった。
実際的な働きを為した、キッド、ブッチ、シャルル――そして明かせないがルイズ――に比べれば、さしたるものではない。
「いずれにせよ誇らしいことよ、姉としてね」
「妹としてね」
イザベラとジョゼットの見慣れた笑みに、シャルロットは帰ってきたんだなと実感する。
本当に・・・・・・生きていて良かったと。
「・・・・・・そういえば、ジョゼットにお願いがある」
「なぁに?」
「"始祖の香炉"を貸して欲しい」
「いいよ。なんで?」
食事を頬張りながらジョゼットは二つ返事で承諾するものの、理由は気になる。
「・・・・・・実は私、"虚無の担い手"――かも」
「へぇ〜・・・・・・へっ?」
「えっ・・・・・・?」
「私ばかりにガリアの遺産が集まって申し訳ない・・・・・・」
「そんなのはどうでもいいってば!! あんな使えないもんいくらでもあげるって!!」
「そっ・・・・・・そうよ、『虚無』と言ったの?」
シャルロットは普段から冗談らしい冗談も言わないし、唐突に荒唐無稽なことも言わない。
それゆえにイザベラとジョゼットの驚きは、至極当然なものであった。
ちょっと出張して帰ってきたら「虚無はじめました」みたいなカミングアウトされても困るというもの。
「とりあえずデルフリンガーが説明する――」
「おうよ姉っ子、妹っ子、久し振り」
「えぇ、話すのは久し振りね」
「うん、傍からよく見かけてはいるけどね」
「まあちっと思い出すことがあってな、オレぁ昔ブリミルの使い魔『ガンダールヴ』に使われてたんよ。
んでだな、虚無を使えるメイジの素養ってのが、実は相棒にかな〜り一致するんだな、これが」
ルイズとティファニアのことを言うわけにはいかず、予めデルフリンガーと口裏合わせていたことを二人に言う。
あくまで自分が虚無であるかも知れないという話であれば特に問題はない。
「まったまた〜。ってことは何? デル公は始祖に会ったことあるって?」
「薄っすらと覚えてる程度だ、なにせ大昔の記憶だかんな。またふとした時に思い出すかもわからん」
「でも・・・・・・うん、始祖云々は別として――シャルロットならありえるかも」
イザベラは思いのほかスムーズに受け入れる。
「まーシャルロットが優秀なのは知ってるし、おかしなコト多いけどさ。でもさ、『虚無』は伝説でしょ?
デル公の話以前にそもそも存在するわけ? 昔から一緒に育ってきたし、その・・・・・・言葉を信じたくなるのはわかるけどさ」
ジョゼットははっきりとではなく、濁すように言う。
一心同体とも言うべきデルフリンガーの言葉を無条件に信じて、最終的に落胆するような姿は見たくない。
「もちろん伯父様に確認済み」
「父上に?」
「そう――"虚無の担い手"は過去の歴史の中に、何人も存在していたらしい」
「へぇ〜、ん・・・・・・まぁ伯父さまがそう言うならいるんだ」
シャルロットは最後の一口を胃の中に流し込んでから告げる。
「まぁあくまで可能性に過ぎない。ただ目覚めるにはルビーと秘宝がいるらしい。それで――」
「うん、わかった。後で部屋に持ってく」
そこでジョゼットは何かに気付いたように言う。
「ところでさ、シャルロットに虚無ってことはさ? もしかしてルイズもそうだったりして」
シャルロットはジョゼットの言葉にドキリとする。
本当にこの子は、時たま鋭く核心つくようなことを言ったりする。
「でも始祖ブリミルは一人なわけだから、何人も使い手が現れるものなのかしら?」
イザベラのもっともな疑問。シャルロットも思ったことだ。
言うわけにはいかないが、既にティファニアとルイズの二人がいる。
せめて分かたれた使い魔の数――即ち四人くらいは覚醒すると考えたい。
「わからない。けれ
ど可能性が少しでもあれば賭けたい」
ジョゼットとイザベラは微笑ましく――そして頼もしく見る。
これがいつものシャルロットだといった風に。
さらに三人は優雅に他愛もない話を続ける。
結婚式のあれこれ。戴冠式の様子。ウェールズはどんな人だったか。アルビオン土産はないのかなど。
昼休みが終わるまで・・・・・・ひっきりなしに語らい続けた。
†
――その男は御年42歳のトリステイン魔法学院の教師であり、学院内でも際立った異色を放つ者であった。
男、ジャン・コルベールの研究室は、学院の敷地内にひっそりと設けられている。
ある意味隔離されたその空間で、コルベールは日夜研究に励んでいた。
それはハルケギニアにおけるブリミル教の教義に照らし合わせるならば、異端とされるもの。
生徒達に慕われる教師ではあるが、同時に陰で変人呼ばわりされている所以であった。
今日も今日とて仕事を終えて研究室に籠もっていると、珍しくノックの音が響いた。
「こんばんは」
訪問者は生徒であった。学院内でも割かし有名な少女。
「おお、ミス・シャルロット。わざわざ夜にどうかしたのだね? 勉学のことかな?」
つい先日、ミス・ヴァリエール共々休学から復帰したばかりで、そう推察する。
「勉強の方は大丈夫です、別の話がありまして・・・・・・」
「ははは、確かに君には無用の心配だったか」
オスマン学院長より薄っすらと聞かされた話によれば、王家からの所用によるものらしい。
よって単位については考慮されているものの、彼女が休んでいた間の学業の遅れは自分で取り返すしかない。
補習代わりにでも何か聞きに来たのかと思ったが、相談だろうか。
悩める生徒の言葉に耳を傾けるのも、教師の重要な役目である。
「・・・・・・それにしても――」
シャルロットは話を切り出す前に、改めて研究室内を覗き見渡した。
ジョゼフの研究室よりも相当狭く、乱雑にも見えるが、それでも整理はされているようであった。
そして注目すべきはその端々に窺える研究内容と思しき物の数々。アカデミーであっても敬遠されるようなもの。
「"科学"・・・・・・ですか」
以前ならこの研究室内を見ても、疑問符を浮かべるだけであったろうシャルロットも今は違う。
昔から漂流者と漂流物がもたらしてきた"科学"。ハルケギニアの魔法とは一線を画す学問であり技術体系。
広義的な総称ではあるものの、ニュアンスとしてはそれで充分に伝わる。
特にワイルドバンチが召喚されてこっち、シャルロットは詳細な話を聞くに連れてより興味を大きく持つようになった。
元々魔法使えぬ身として選択の一つとしてはあったが、ハルケギニアでは発展せず入手も困難であった。
それゆえに知識として頭の中に存在していても、実際的には手が出せなかった。
「おぉ、流石にわかるかね!! ミスタ・キャシディやミスタ・キッドに色々聞いてね」
コルベールはテンションを上げる。
彼女ら――ミス・シャルロットととミス・ヴァリエールが召喚した二人の漂流者。
実際に彼らから聞く話は興味深いものであった。
「とかく鉄道というものに感銘を受けたのだ。それはなんと蒸気を使って車輪などを――」
「知っています」
「――う・・・・・・むぅ」
ピシャリと止められてコルベールは詰まる。無意識とはいえ熱が入り過ぎるのは悪い癖だった。
授業中にやらかしてしまうこともある為に、コルベールはその度に自己嫌悪に陥る。
「それで話というのはですね・・・・・・、『炎蛇』のコルベール――」
コルベールの心臓が大きく全身に響くように一度だけ高鳴った。
一度ついた二つ名が変わることなど早々ないし、二つ名自体は学院内でも知られている。
だが正直思い出したくもない二つ名であり、いきなり彼女が言い出したのことが引っ掛かった。
「・・・・・・私の伯父、ジョゼフを知っていますか?」
「・・・・・・いや?」
彼女がガリア王家の血筋ということは知っているし、その伯父ともなれば当然ガリアの血族。
ガリアが滅びていなければ、王冠を被っていた可能性もあるだろう。
いずれにせよそのような人物と面識ある記憶はなかった。
「そうですか、実は伯父はアカデミーに務めていまして・・・・・・」
コルベールは"アカデミー"の名に喉が渇くのを覚える。シャルロットの意図するのはどちらの意味なのかと。
この研究室を見てアカデミーに対し、何かしらのアクションを求めようとしているのか――。
もしくは20年前に、己がアカデミーの実験小隊に所属していたことを聞いているのか――。
「そ・・・・・・それがどうかしたのかね?」
「・・・・・・いえ、すみません」
シャルロットはふと気付いてまず謝った。
最近は高圧的な態度で相手を誘導し、時にその思考を追い詰めるようなやり取りやら駆け引きが少なからずあった。
別に責めるようなことは何一つないというのに、ついついそんな話し方になっていたことに反省する。
「端的に言います。『白炎』のメンヌヴィルを殺しました。――と、言えばわかりますよね」
コルベールの目が見開かれる。よくわかった――少女は20年前のことを知っていると。
先程『炎蛇』とわざわざ二つ名を言ったのもそういうことなのだと。
件の伯父とやらも、恐らくはその当時からいた研究員なのかも知れない。
かつてアカデミーの実践部隊として働いてた頃の・・・・・・決して忘れてはならないこと。
「『白炎』は『炎蛇』を執拗に探していたようですが、もう安心して下さい」
「君が・・・・・・どうやって?」
何よりも優先された疑問。コモン・マジックこそささやかながら使えるようになったばかりの生徒。
学院にいながらも、その残虐極まりない噂には聞いていたプロの歴戦傭兵を殺したなどと――。
「これです」
シャルロットはヒュパッとリボルバーを早抜いた。
実際に今、コルベールに見せたような腰位置での早撃ちなど、標的にはまともに当てられない。
ワイルドバンチの二人ならともかく、己には練度が圧倒的に足らない。
しかしそのアクションを見せるだけで充分だった。本当の技量なんてコルベールにはわからない。
そういうことが出来ると思わせておけば、それだけで説得力になる。
「連発式の銃、かね」
以前にワイルドバンチから見せてもらったことをコルベールは思い出す。
フーケ事件後に回収し、保管し直した『破壊の杖』はさらに凄いものだった。
――それよりもなんと哀しきかな。教え子がその手を血に染めたこと。そしてかくも簡単に命を奪ってしまえる凶器。
純粋にそのことを悲しんだ。一教師として、生徒がしてまった行為のことを。
「正当防衛ですのであしからず。殺人についても私なりに考えていますので・・・・・・――」
コルベールはゆっくりと息を吐く。諭すようなことは必要ない・・・・・・と。彼女は優秀な生徒だ。
彼女が考えていると言えば疑うことはない。それに――教え子の命が奪われるよりは良い。
それこそシャルロットが殺されていれば、悔やんでも悔み切れなかった。
メンヌヴィルを殺し損ねたこと、その後に関わることをしなかったのは、自分の落ち度なのだから。
「そう・・・・・・か、彼が死んだか」
感慨深く、心身に浸透させるかのように呟いた。
副長だった男。己の背を焼いた男。人生の転機のキッカケとなった男。
そして逃がしてしまったメンヌヴィルから逃げ続けた自分自身。思うところはいくらでもある。
「ミスタ・コルベール。貴方は何故アカデミーの部隊を辞めて教師になり、しかもこのような研究を?」
唐突な質問に心中で首を傾げるも、シャルロットの真剣な態度に、コルベールも真剣に答える。
「嫌気が差した。副長・・・・・・メンヌヴィルと正面から相対したことで、奇しくも思い直すことが出来たのだ。
命令変更の指令が少しでも遅れていれば、わたしは村を住む人々ごと焼き尽くしていたかも知れなかったのだ。
結局村を焼き、住民を危険に晒してしまった・・・・・・。殺しかけたのだ、多くの人に怪我をさせてしまった。
それは動かせない事実。わたしはそういう人間だった。・・・・・・ミス・シャルロット――『火』とはなにかね?」
「"情熱と破壊が『火』の本領"――と、友人はよく言いますね」
「・・・・・・ミス・キュルケか。そうだ、破壊と言えば『火』であり、『火』と言えば戦場だ」
コルベールは瞳を閉じる。その目蓋の裏では彼の中にある凄惨な情景が、いくつも浮かんでは消えていく。
汚れ仕事を担う部隊員として、数々の戦場を巡り、時には己が手で何だって燃やしてきた。
「だけどね、それだけが『火』の活用法だろうか? 『火』は破壊を司るだけではない。
確かに効率的に破壊するには『火』が一番かも知れない。しかしどんな"力"も使い方次第なのではと」
シャルロットも双眸を閉じた。そうだ、まさに『虚無』の系統もそうなのだ。
ルイズも言っていた。途方もなく"強力な力"。それをどうするのかは結局それを扱う者に委ねられる。
コルベールとシャルロットはそれぞれゆっくりと噛み締めた後に、目を開ける。
自責を胸に。夢を語るように、訴えかけるようにコルベールは続けた。
「だからわたしは『火』を他に役立てたい。人々の生活の糧となるように――。
その為に研究をしている。これは自分自身に課した償いとも言えるだろう」
「立派です。純粋に尊敬します。聞けて良かったです。私も戦が終結して、平和が戻った時――」
シャルロットは一拍、ゆっくりと溜めてから続いて紡ぐ。
「――その時には先生のように、この力をまた別の方向に・・・・・・より良く使いたいと切に思います」
コルベールの、我が身を省みて決意したその生き様にシャルロットは感動する。
その意志、そんな言葉こそ、シャルロットが心から聞きたかったこと。
「ミス・シャルロット。君は・・・・・・戦うのかね?」
「――大切なものを守る為に戦いますよ。よくあることだとはわかっていますが、だからって安っぽいとは思いません」
シャルロットのこちらの心情を見越した意思に、コルベールは深呼吸する。
未だかつてこれほどの優秀だった生徒はいない。一教師が言えることなど、既に全て承知の上。
もはや何も言うまいと。――そして一つ、コルベールの中で浮かんだ。
「そういえば君は、アンリエッタ女王陛下と知り合い・・・・・・なのかね?」
フーケ事件の折、さらに先だっての休学にもアンリエッタ女王陛下が関わっていたと噂には聞く。
「はい。一応アンリエッタ様にも、ウェールズ様にも、謁見程度であればスムーズに認められるくらいには」
「なんと、両王家ともか」
コルベールは少女が指に嵌めている"それ"を見た。
その上でトリステイン王家とアルビオン王家とも繋がりがある――
(彼女であれば・・・・・・)
そしてコルベールは棚に厳重に掛けた『ロック』の魔法を解いて"指輪"を持ち出した。
その様子に首を傾げて眺めていたシャルロットも、すぐに"それ"が何なのかわかったようで呆然としている。
「"火のルビー"・・・・・・ですよね、どうして貴方が?」
シャルロットが持つ"土のルビー"。テファが持つ"風のルビー"。ルイズが持つ"水のルビー"。
立て続けに見てきたのだから、見間違う筈もなかった。
「20年前のダングルテールの真相を知っているかね?」
コルベールは当時のことを思い出す。火のルビーを語るのであれば避けては通れぬ話。
「真相・・・・・・ですか? 疫病の為に村ごと焼き払うというのが嘘の名目で、新教徒狩りが本当の目的だった。
それを当時裏仕事に長けた実験小隊が――ですよね。伯父と『白炎』のメンヌヴィル本人からも聞いています」
「副長も話したのか・・・・・・。まあいい、だが真相とはさらに深いのだ。
何故ダングルテールが、当時の新教徒狩りの標的となったのかということだ。
トリステインの片田舎であるその地方に、わざわざロマリアが圧力を掛けてまで・・・・・・――」
シャルロットは首を左右に振る。そこまでは聞いていない。
恐らく伯父ジョゼフは知っていたやも知れぬが、敢えて語らなかったことなのかも知れない。
改めて問われると確かに不思議な話だ。そこに何がしかの理由があるのは道理。
コルベールは頷くと話を続け、シャルロットは口を挟まず耳を傾ける。
「とある一人の女性が本当の目的だったのだ。彼女を殺すということが隠された目的。
名をヴィットーリア。その名と姿から察すれば恐らく――現教皇聖下の母君なのだろう。
彼女は"火のルビー"を持ち出した。新教徒として逃げた彼女を抹殺する為の殲滅指令だったのだ」
ロマリア皇国、教皇聖下。聖エイジス32世、ヴィットーリオ・セレヴァレ。
各国の王や女王達に勝るとも劣らずの見目麗しさ。さらにアンリエッタのように分け隔てなく接する人格。
確かな実力と支持をもって、若くして教皇まで昇り詰めた英才。
もしもその母たる人物が異教徒になっていたと言うのであれば、恐らく断崖を背に、逆風を乗り越えたに違いない。
元々ある才能に、血の滲むほどの努力を重ねて勝ち取ったものなのだろう。
新教徒を厳しく弾圧をしていた前教皇と違い、現教皇聖下は温和だとも聞いている。
「――後は知っての通り、事は途中で露見し、当時の関係者も失墜。命令中止の指令は間一髪間に合った。
副長とわたしの所為で村は焼いてしまった・・・・・・が、それでも誰も死ななかったのは奇跡であった。
そして原因となった彼女は己の所為だとして、混乱に乗じて行方を完全に消すことにしたのだ。
その時にわたしが手助けし、そして・・・・・・この"火のルビー"を彼女から受け取ったのだ」
「・・・・・・何故その方はルビーを?」
火のルビーを奪う理由があまりに不明瞭であった。
売り払う為でもなかったようでもある。密かに虚無覚醒の鍵たることを知っていたのだろうか。
コルベールはかぶりを振る。
「真意については語ってくれなかった。だが並々ならぬ決意を確かに感じた。だから預かっていたのだが――」
シャルロットは火のルビーをその手に渡される。
「新たに君の手に。今の話を考えた上で君が判断して欲しい。わたしは結局迷い続け、持ち続けてしまった・・・・・・」
今はどこにいるかわからない、既に亡くなっているやも知れぬ彼女の意思を尊重するのか――
それとも今の新たな教皇。彼女の息子の元へと、本来在るべき形に戻すべきなのか――
「ミス・シャルロット、君には人脈があり、何より元王家の人間だ。君が持ち続けてもいい。
トリステインとアルビオンの両王家、どちらかに預かってもらってもいい。
女王を通じるなどして、ロマリア教皇聖下へと返還するのも良いだろう。
いずれにしてもわたしがずっと隠し持ち続けるよりは相応しく、事情をも知る人間となった。
そして誰よりも・・・・・・最良の判断が出来る生徒だと、わたしは思っているよ」
なるほど理屈はよくわかった。あらゆる点に於いて自由なのが、今の己の立場でもある。
(本当に・・・・・・)
――なんて因果なのだろうか。シャルロットは火のルビーを、土のルビーの隣に嵌めて見つめる。
土の隣に風、次に水、そして火までもがそれぞれ並んだ。
ルビーの所在を知るのも私一人・・・・・・――正確には地下水とデルフリンガーもであるが――
「責任をもってお預かりします」
始祖ブリミルの血から造られ、三人の子と一人の弟子に渡った由緒あるルビー。
6000年もの長きに渡って紛失すること、破壊されることもなく、受け継がれてきた貴重品。
とりあえず火のルビーははずして、一旦ポケットにしまっておく。
「ありがとう。・・・・・・過分な荷を背負わせてしまってすまない」
「いえそんなことは。ただ・・・・・・そこまで信頼なさってくれるとは」
「はは、わたしは教師だよ。生徒を見ていないなんてことはないさ」
軽く言ってのけるが、それもまたコルベールの人柄であり優秀さであった。
『炎蛇』と呼ばれた、何の感情もなく命令を忠実に実行する武人はもういない。
今目の前にいるのは温厚で、お人よしで、暴力の欠片もない人畜無害な教師の鑑だけだ。
ある意味で落ちこぼれな私を見て、評価してくれている先生だ。
「・・・・・・それじゃそろそろ失礼します。研究、応援してますよ」
「んむ、差し当たっては蒸気機関を理想的な形で完成させたいと思う。特に『火』を有効に利用出来ることだからね」
「――何か行き詰まれば言って下さい。伯父に口利きくらいは出来ますから」
「う〜ん、一応心に留めておくよ」
複雑な感情に苦笑いを浮かべたコルベールを残し、シャルロットは研究室を出ていった。
コルベールは知らず緊張して強張っていた体の力を抜いた。
話を聞いてもらったこと。ルビーを預かってもらったこと。
このような心地に身を委ねる資格は自分にはないかも知れないが、重圧から解放された気分を振り払うことは出来なかった。
†
(――言い損ねちゃったかな、一つだけ)
とはいえ、今のコルベールには言える筈もなかった。
あの研究室と研究内容。恐らくアカデミーでやれば相当なものになる。
誰かパトロンがいれば恐ろしい兵器も作れそうな予感すらある。
伯父ジョゼフには立場があるし隠れてやるにも制限がある。
だがほぼ無名のコルベールであれば秘密裏にやっても問題はないだろう。
とはいえコルベールの、破壊に使わないと臨む意志を汚すわけにはいかないし、似つかわしくない。
たとえ出資してくれる者がいたとしても、今はまだ時期ではないのだろうと思う。
シャルロットはポケットの中の火のルビーを握った。
(テファとルイズ・・・・・・他は不明)
二人の"虚無の担い手"。
(キッドさんとブッチさん・・・・・・残るは『ヴィンダールヴ』と"記されぬ何か")
二人の"虚無の使い魔"。
(香炉、祈祷書、オルゴール。・・・・・・後は円鏡だったか)
三つの"始祖の秘宝"
(ルイズの水、テファの風、私の土と、そして火)
四つの"始祖のルビー"。
まるで引き寄せられるように判明し、現出してきた始祖ブリミルゆかりの品々。
(そういう時代なんかもな)
突然デルフリンガーが頭の中に語り掛けてくる。
(時代・・・・・・?)
("四の四"のことさ)
言われてすぐにピンッと来る。使い魔、秘宝、ルビー、そして恐らく担い手の数のことだろう。
(また何か思い出したの?)
(おう。本来バラバラだったものが、一度に集まるってのは"必要な時"なんよ)
(必要って何の?)
(わからん、そこまでは)
(全く・・・・・・ホント都合が良いんだか悪いんだかわからない記憶)
シャルロットは嘆息をつくと、火のルビーを空に掲げて覗き込む。
夜空の黒色を背景に、月明かりに照らされ、誘われ吸い込まれそうなほどの赤色が映える。
(ルイズが読んだ始祖の祈祷書からすると・・・・・・)
"聖地の奪還"――なのだろうか。わからないことだらけで、未だ霧は濃く先が見えない。
されど四の四。始祖の担い手も四人とくればなおのこと自分の可能性が出て来る。
その"必要な時"が来た時に、自分も否応なく関わらざるを得なくなるかも知れない。
――聖地。
始祖ブリミル降誕の地であり、エルフが住まう領域。
(そんなもの・・・・・・――)
もし仮に聖地の奪還が必要なのだとすれば、それは本当に必要なことなのだろうか。
確かにエルフは仇敵であり、サハラと呼ばれる土地は風石などの資源に恵まれている。
しかし人々は6000年もの間、今の土地で暮らしてきたのだ。血で血を洗う必要など、どこにあるというのか。
目下はオルテや黒王軍の方が遥かに問題であるし、そもそも同族間で相争ってきているのにさらにエルフとなど――
(何らかの大きな力で導かれているとしても・・・・・・)
もし今が"必要な時代"とやらで、始祖ブリミルが導いていたのだとしても。
(己の意思は己だけで決める)
もし私が"虚無の担い手"であれば、本当に何が必要かどうかは手前で判断する。
――思いも、力も、振り回されてはいけない。
――自身が責任をもって振るうものなのだと。
以上です、ではまた。
17 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:02:47.59 ID:G6YKm2qT
たいへん遅れて申し訳ありません。予約がないようでしたら
2時10分頃より新作を投稿しようと思います。
18 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:08:38.39 ID:G6YKm2qT
それではそろそろ始めます。
さて、その数日前のことである。
タルブでの侵攻が失敗に終わった、アルビオンのロンディニウム郊外の寺院。その一室。
「…ぐっ……! ここは…」
そこで怪我を負って、今まで寝ていたワルドは目を覚ました。起き上がろうとして、体の節々が痛むことに気付いた。
「そうか…俺は…奴に…」
その瞬間、苦い思い出が頭の中に蘇ってくる。無様な敗北。それも二度目だ。
腕が使えなかったとはいえ、風竜を使っての戦闘だったのに…あの男はそれももろともしなかった。
いや……自分の驕り、油断、それを的確に突かれたからこそああも惨敗したのである。
「――――くそっ!!!」
それを思い出して、ワルドは悔しさと怒りで顔を歪める。今でも鮮明に記憶の中に残っている、奴の憮然とした表情。
自分など、道を阻む敵としてすらも見ていない。それを教え込むかのような眼だった。
何をしても勝てない、越えられない、それをまざまざと見せつけられたようで、ワルドはかなり癪だったのだ。
「どうすれば…俺は奴を倒せるのだ……」
そんな折、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。そちらを振り向けば、フーケがスープの入った皿を持ってやって来た。
「もう起き上がったのかい? まああんまり無理すんじゃないよ。程度は軽いけど全身打撲だってさ」
そう言って、フーケはワルドの隣に腰を下ろす。スープの皿を手渡して、呆れるように言った。
「聞いたよ、アイツ相手に風竜を使っても勝てなかったそうじゃないか。初めて聞いたときは唖然としちゃったさ」
「関係ない、奴に比べればシシオ様の方が遥かに強い。あの方は、本当に別次元だ」
言い訳するかのように、ワルドは口を尖らせた。そしてここはどこかを、フーケに聞いた。
「アルビオンのロンディニウム郊外の寺院さ。覚えてないのかい? 『レキシントン』号含め軍艦は全滅。敗走して大失敗さ」
それを聞いて、ワルドは少しづつ思い出す。そうだ、あの時急に光が包まれたかと思うと、次の瞬間には、全てが焼き払われていた。
段々と記憶が戻ってきたワルドは、そこでハッとしたように、テーブルの上にあるペンダントを指さして言った。
「それ、取ってくれないか?」
「宝物ってわけ?」
「ないと落ち着かぬだけだ」
フーケは、どこか含み笑いをしながらもペンダントをワルドに渡した。その意味に感づいたワルドは、どこかもどかしそうな顔をした。
「見たのか?」
「だって、あんた意識がない間ずっとそれ握り締めているんだもの。気になるじゃない」
「…流石は盗賊だな」
ワルドの皮肉にも、フーケはどこ吹く風で身を乗り出す。すっかり興味津々と行った様子だった。
「ねえねえ、その美人さんは誰よ? 恋人なの?」
フーケが見たペンダントの中には、綺麗な女の人の顔が書かれていた。ワルドは苦々しい顔をしながらも答える。
「……母だ」
「母親ぁ? あんたそんな顔して乳離れをしてなかったの?」
「今はもういない。どちらにしろ、貴様には関係あるまい」
「あのさ、貴様貴様って、何様よ」
丁度その時、ドアが再び開かれた。そこにはクロムウェルと、志々雄が立っていた。
ワルドは、相変わらず謹直な面持ちで頭を下げる。フーケもそれに習いながらも、ワルドと志々雄達を交互に見つめた。
第三十二幕 『動き出す野望 思わぬ事件』
『レキシントン』号の墜落に、大多数の空軍の撃墜。
アルビオンの野望は、初手から躓いたにも関わらず、しかし志々雄はまだまだ悠然とした表情をしており、
ワルドもまた、志々雄の余裕を信じきっているようだった。
ただの楽天家か? そんな考えが一瞬だけ、フーケの頭の中を過ぎった。ほんの、一瞬だけ…。
(それは…ないな…)
志々雄の不敵な笑み、あれは決して油断なんかじゃない。寧ろまだまだ余裕というものをフーケは感じたのだ。
19 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:10:03.20 ID:G6YKm2qT
「申し訳ありませぬ、シシオ様!!」
そんなフーケの隣では、ワルドが志々雄に向かって深く頭をたらしていた。
「汚名を晴らすと公言しておきながら、この体たらく……。今回の失態は全て私の責任です。ルイズ達の接近を許したのも、私の詰めの甘さ故に起こった出来事……」
ワルドは、本当に申し訳なさそうに語っていた。確かに、志々雄はルイズ達を一早く見抜き、砲撃するよう指示していた。
それを未然に防がれる原因を作ったのは、ワルドが剣心を侮っていたから起こったといえた。
しかし、志々雄は特段気にした風でもない。
「別にてめえだけのせいじゃないさ。奴の連れている『虚無』の力を見抜けなかったこの俺、志々雄真実の隙が、あの惨事を招いた、それだけの事だ」
「……『虚無』…ですと?」
『虚無』と聞いて、ワルドは顔を上げた。フーケもまた、驚いたように志々雄を見る。
「シシオ様、まだあれを『虚無』と決めつけるのはどうかと…」
横にいるクロムウェルが、不安げな表情をして呟く。確かに、不明瞭な事柄が多過ぎるあの現象を、あっさりと『虚無』と言い切ってしまうのはどうなのだと…。
それにワルドやフーケからしてみれば、『虚無』とは生き返ったウェールズの様に、生命を操る力の筈だ。あんな爆発を起こす代物もまた、『虚無』だとでも言うのか。
しかし、それに関してクロムウェルは、どこか怯えるような仕草で指輪を弄っていた。
「お前らもまた、『虚無』の事は知らねえんだろ? なのにどうしてそれを否定する? 『虚無』じゃねえってお前らが言うなら、あれはどう説明付ける気だ?」
その言葉に、ワルド達は口篭る。ある意味部外者である志々雄だからこそ、ズケズケと言える意見だった。
「では、僭越ながらシシオ様は、何故そうまでルイズが『虚無』の使い手と…?」
ワルドの疑問に、志々雄はさも当然とばかりに言い切った。
「決まってる、奴は抜刀斎をこの世界に呼び寄せたんだろ? ならそれだけで充分納得がいくじゃねえか」
「そ、それが理由なのですか…?」
困惑な表情を浮かべるクロムウェルだったが、志々雄はもはや絶対だと確信しているようだった。
「俺をこの地に召喚した奴も、『虚無』の使い手だと言ってやがった。今更一人や二人増えたところで、なんの不思議でもねえさ」
「え…? 今なんと…?」
「『虚無』の使い手が……もう既に…?」
衝撃的な事実を、志々雄はさらりと言い切った。あまりにも突飛過ぎて、フーケは若干話がついていけないほどだった。
「ましてや抜刀斎程の男を召喚するとなるなら、奴の実力も推して知るべしだ。それに実際、あの光を起こす前、奴が杖を振ったのを俺は見たんだぜ。
『虚無』かどうかの前に、あの光は最早奴が起こしたものだと考えるのが打倒だろう」
「それでは、これからシシオ様はどうすると…?」
ワルドが再び志々雄に質問した。すると志々雄は一転、獰猛な笑みをワルド等に向けた。
「決まっているだろ。俺の国盗りを遮る最大の障害。これがお前らにもはっきりしたわけだ。緋村抜刀斎とその虚無の担い手。ルイズとかいう小娘の首を、まず獲る」
首を親指で掻っ切る動作をして告げる志々雄に、今度はクロムウェルが進言する。
「でしたら、予てより私が計画した、あの策を起点にするのがよろしいかと」
クロムウェルはそう言って、後ろに控えているウェールズの方を向いた。相変わらず生きてはいるのだろうが、操られているかのように生気が無かった。
「ああ、それはてめえに任せるさ。俺は俺で、既に刺客は差し向けてある…『奴』をな」
「『奴』…、まさかシシオ様、あの男を……」
ワルドがハッとした様子で身を起こした。瞬間、痛みで顔が歪む。フーケが呆れたように手で支えるが、ワルドは気にすることは無かった。
「そういうことさ。ワルド、てめえは取り敢えず養生しな。怪我人動かしても邪魔なだけだ。完全に回復したと俺が判断したら、てめえにも任務をくれてやる」
そう言って、悔しさで顔を俯かせるワルドを尻目に、志々雄はその場を後にしようとした。ドアを閉める間際、最後にこう言い残して。
「悔しかったら這い上がってこい。所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。弱い奴は必要ねえ、俺たちが目指すのはそんな世界だ」
20 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:11:37.18 ID:G6YKm2qT
志々雄が去っていった扉を見つめながら、ワルドは仰向けにベットに転がった。その表情は、やはりというか悔しさで歪んでいた。
「ねえ、何であんたはシシオ様? についていこうと考えているのさ?」
「『聖地』奪還…それもあるが、あの方は…俺の知らない世界を見せてくれた」
そう言って、ワルドはスープを口に運びながら、ポツポツと語り始める。
「まだ俺が真っ当な軍人だった頃…ある過程であの方に俺は出会ってね。最初はメイジでもない相手に遅れを取る訳がないと、タカをくくって挑んだのさ。その結果が…」
「無様に負けた。ってわけかい?」
「それもある。だが、何より俺は焦がれたんだ」
ワルドは、昔を懐かしむような声で言った。
「今でも思い出せる…圧倒的な強さ、全てを薙ぎ払うような力、決して揺らぐことのない信念、弱者には一片の情もかけない容赦のなさ。
分かるか? 俺は惚れたんだ…シシオ様の全てにな。あの人は、力のない今の俺にとって、こうでありたい理想の存在なんだ」
熱弁するワルドを見て、相当入れ込んでるんだな、とフーケは思った。これはもう直ることはないだろう。
ワルドは、志々雄の忠義に命を懸けている様だった。
「けど、タルブでは完敗したそうじゃないの」
「一度の敗北がなんだ!! 現にシシオ様は、原因の究明をすぐに突き止め、行動を移しておられている。
あの男…抜刀斎とルイズさえ殺れば、後はどうにでもなるということなのだろう。
貴様はシシオ様の強さを直に見ていないからそのような口がきけるのだ!」
(こりゃあ重症だな…)
フーケはそう考えを改めた。しかしワルドは、そんな事関係ないように口惜しそうに呟いた。
「くそ! それなのに死人にまで仕事を取られるとは…まだまだ俺は無能なのか? 未熟なのか!? また『聖地』とシシオ様の野望が遠ざかったではないか!!!」
「成程、あんたは弱いなりに強く振舞おうとしていたんだね。それで悉く失敗しているんだろ?」
頭を抱えて項垂れるワルドを見て、フーケはどことなく和かな笑みをした。子供をあやすような、親の目のようだった。
「ま、とにかく今は身体を休めな。あんたが抱えていたものが何なのか、私は知らないけれど、たまにゃ休息も必要だよ」
そう言って、フーケはワルドの唇に向かって口づけしようとして、その瞬間、ワルドに押し戻された。
フーケは、一瞬ポカンとした様子だった。
「何だい、わたしじゃ物足りないってわけかい?」
「そうじゃない、ただ、『そんなこと』に現を抜かす暇があるなら、リハビリの一つでもやったほうが有意義なだけさ……来るべき時に備えてな」
ワルドは右腕の義手を眺めて言った。やがて起き上がって服を着替えると、そのまま体を動かしに外へと向かった。
「……バカ…」
開けられたままの扉の向こうを見ながら、フーケはポツリと呟いた。
21 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:13:09.80 ID:G6YKm2qT
さて、場面は変わり、トリステイン魔法学院。
綺麗な夕焼け空の中、剣心とルイズは一緒に歩いていた。首にはペンダントをつけて、どことなく嬉しそうだった。
丁度授業が終わったその日、いつものように剣心は散歩をするようだったので、ルイズは剣心に付き合うことにしたのだ。
無論ルイズの心の中では、「身体を動かしたいだけであって、決して剣心と一緒に歩きたいわけじゃない」というような事を自分に言い聞かせていた。
「ケンシンさ…『虚無』についてどう思う?」
ふと、ルイズは剣心に向かって聞いた。ルイズの中では、ずっと相談したい事だったからだ。
「まあ、間近で見て確かに凄いとは思うでござるが…あの威力はそう何度も撃てるものではないのでござろう?」
「うん、まあ…ね」
剣心の言うとおりだった。事実ルイズは、あの後何度か『爆発』の呪文を試してみたのだが、それを悉く失敗していた。
どうしても最後まで詠唱しようとすると、その前に気絶してしまうのだ。
一度ルイズが、魔法には精神力が必要なこと、強力な魔法ほど消費する精神力も大きいということ、
精神力は休息を要して回復するということを、前に剣心に説明したことがあったのであるが、
その時剣心はこう言った。
「ならば『虚無』に使われる精神力というのも、それ相応に巨大で莫大なものではないのでござらんか?」
ルイズがあれ程の力を使えたのは、失敗ばかりした為でその分溜まっていたからこそ、つまりあれは、十六年間蓄えていた力が一気に開放されたからこそなのでは、と剣心は推測したのだ。
だから、今すぐにまた同じ威力の『爆発』を使おうとしても、その前に精神力が途切れてしまう。それは一晩二晩寝たぐらいでは容易に回復しないのであろう。ルイズはそれが不安だった。
もしまた、タルブの様な戦いが起こったら、自分はどこまで戦えるのかと…。
「でも…本当に分からないことばかり、詠唱を失敗しても魔法は使えるし…あれからコモンマジックが使えるようになったのはいいことなんだけど…『虚無』って、不思議なことばっかりね」
「まあ、ゆっくり見つけていけば良いでござるよ。あっちもそう簡単に、大軍を寄越したりはしないでござろう」
「うん、ありがと」
剣心のその言葉に、ルイズは頷いた。さて、そんな風に二人で歩いていた時だった。
「おやお二方、ご機嫌麗しゅう」
ふと急に、剣心たちに向かって声がかけられた。
振り向けば、薔薇の花をこれでもかと抱えながら、ギーシュが立っていたのだ。
「ギーシュ? あんた何その花?」
「決まっているじゃないか、これから僕はモンモランシーと仲直りをしに行くところなのさ!!」
「…あんたたち、まだ仲直りしてなかったの…?」
というより、まだ関係が続いていたことに対してルイズは驚きと呆れの入り混じった表情を見せた。
ギーシュも、あはは…と少し苦笑いしながらも、力強く言った。
「まあ…でもこれで見事に元通りの関係に戻ってみせるさ!! ではでは、僕はこれで失礼するよ。楽しい二人のひと時を、邪魔してはあれだからね!」
「なっ…ち…違うわよ!!」
変にどもった声を出しながら、ルイズは叫んだ。それを気にせずギーシュは足早に去っていった。
「何なのよアイツ……」
苦々しい顔をしながら呟くルイズをよそに、剣心は何やら気付いたように足元を見た。
そこには、どうやら落としたらしい、一本の薔薇があった。
「…落としたでござるかな?」
「放っておけばいいじゃん、只の薔薇の一つや二つ…」
しかし、剣心がよくよく見るとそれは、バラを型どった杖だった。一度剣心は直に手にとったことがあるので、すぐにピンと来た。どうやら間違えて杖の方を落としていったらしい。
これは届けないといけないだろうな…と剣心は思った。仕方なく、剣心はギーシュの向かっていった先を辿ろうとする。
それを見たルイズは、咎めるように呟く。
「いいじゃないの、そこまでしなくってもさ」
22 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:14:21.31 ID:G6YKm2qT
「けど放ってはおけないでござろう? 直ぐに届けて帰るだけでござる」
その剣心の言葉に、はぁ…とルイズは小さくため息をつく。こればっかりはルイズでもどうにもならなかった。
そこそこ一緒に暮らしているルイズも、大体彼の性格が分かっていた。だから止めても無駄なんだなというのはすぐ納得してしまったのだ。
「…分かったわ。まったくもう…とっとと片付けて帰りましょ」
「かたじけないでござるよ」
しかし、このいらない親切心が、まさかあのような悲劇を起こす事など、今は誰も思いもしなかった。
「月が綺麗だねえ、モンモランシー」
「そうね」
「でも、君の方がもっと美しいよモンモランシー。君の美貌の前では、月や水の精霊も裸足で逃げ出すんじゃないかな」
月夜の生えるモンモランシーの私室の中、ギーシュはひたすらにモンモランシーを褒め称えていた。
最初はモンモランシーも、ギーシュが乗り込んできたときは、さして取り合わすこともしなかった。ギーシュの浮気癖には、ほとほと愛想が尽きていたからだ。
ただそれでも、何度も「愛している」と連呼されていく内に、まあいいかな…と思ったりもしたのも事実だった。
元々それなりの付き合いで、ギーシュの性格は知っていたというのもあるし、こういう風に褒め称えられるのは、やっぱり悪い気はしなかったからだ。
「どうだい? この見目麗しい月夜を背景に、仲直りの乾杯でもしようじゃないか!」
そう言って、ここぞとばかりに小遣いはたいて買った高級なワインを、持っていた薔薇と一緒にモンモランシーに差し出した。
「あら、気が効くじゃないの」
薔薇の方へは見慣れたせいもあって、見向きもしなかったがそこまでしてくれるギーシュの姿を見て、モンモランシーも表情を和らげた。
「だろう? 僕はいつだって君の永久なる奉仕者なんだよモンモランシー」
そう言って、早速グラスを用意してそこにワインをついだ。二人分注ぎ込んだあと、ギーシュは大仰な身振りでワインを鳴らす。
「二人の永遠の愛に…」
そう言ってギーシュが杯を掲げた瞬間。
「あら、あそこに裸のお姫様が空飛んでる」
モンモランシーは、一旦ギーシュを制止すると、窓の方に指を指しておもむろに叫んだ。
「え、どこ? どこにいるんだい?」
今時子供でも引っ掛からないような冗談なのに、ギーシュはこれでもかと食いついた。
そんな彼を見て、モンモランシーは大きくため息をついた。何が永久の奉仕者よ、何が二人の永遠の愛よ、早速目移りしてるじゃない。
「やっぱりコレ使わなきゃ駄目ね……」
そうぼやいて、モンモランシーは袖から何やら小瓶を取り出した。
彼女はその『香水』の二つ名で呼ばれるとおり、香水や薬などを作るのが趣味だった。だが、段々と製作に熱を入れていく内に、
世間では公に作れない禁制の物にまで手を出すようになっていった。この小瓶もその一つ。
コツコツお金を貯めて、今日やっと完成した噂の秘薬『惚れ薬』。
あくまで効果を試すため…そう自分に言い聞かせながら、モンモランシーはギーシュのワインにそれを一滴垂らした。
「ねえ、どこにいるんだい!? モンモガフッ…!!?」
「ほらっ、とっとと乾杯するわよ!!!」
未だに食い入るように目を剥くギーシュをひっぱたいて、座席に座らせると、改めて二人はグラスを鳴らした。
「…乾杯」
そう言って、まずモンモランシーがワインを口に付ける。それに遅れて、ギーシュもグラスを傾けた。
「………」
ゆっくり、ゆっくりとモンモランシーにとってもどかしいような時間が流れていく。
やがて、グラスはギーシュの口元まで近づいていき、そして惚れ薬の混じったワインが、遂にギーシュの中へと入っていった。
(やった…後は私を見れば…)
しかし、そうは問屋が下ろさなかった。
「ちょっと失礼するでござるよ」
おもむろに扉を開けて、中から剣心とルイズがやってきたのだった。
23 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:15:11.35 ID:G6YKm2qT
「……………え……?」
永い、永い沈黙がこの部屋一室に流れ込んでいた。
モンモランシーは、ゆっくりと冷や汗を流した。嫌な予感で、全身に震えを起こす。
剣心達は、何事か理解できないまま、不思議な表情で立ち尽くしていた。
ギーシュは…というと…。
「ね、ねえ…ギーシュ…」
ギーシュは何故か、後ろにいる剣心の方向を向いたまま動かなかった。それにより、モンモランシーは悪寒がどんどん大きくなるのを感じる。
しばらくそうしたまま時間だけが流れていくと、おもむろにギーシュは立ち上がり…。
「ああ、何ということだ…今気がついたよ…本当の愛というものに…僕はなんて愚か者だったんだ…」
薔薇を取り出し、華麗なステップを踏みながらゆっくりと歩いていき…。
「ああ、始祖ブリミルよ…もし…もしこの愚かな僕に…もう一度チャンスを与えてくれるなら…今度こそ誓おう…ここに永遠の愛を育くもうと…」
そう言って、スッと薔薇を、剣心に向けて差し出した。
「僕の気持ち…受け取って欲しい」
「―――――――――――――!!!!?!!?!?!?!?!?!?!?!??!?」
その言葉を聞いて、剣心は全身の鳥肌がたった。緋色の長髪はこれでもかというほど跳ね上がり、目は思いっきり見開かれる。
その隙を狙って、ギーシュはおもむろに飛びつこうとしたが、直ぐに危険を察知した剣心の方が速かった。
「男に抱きつかれて喜ぶシュミなんてないでござる!!!」
いつしか師匠が言ってた台詞をそのまま流用しながら、ギーシュのダイブを素早く躱し、剣心はこれでもかという程に全力を挙げてその場から逃げ出した。
「ああっ、待ってくれ、僕には君しかいないんだあああああああああ!!!」
直ぐ様、後を追うかのようにギーシュが駆け出した。それに弾かれるように、モンモランシーが叫んで止めようとした。
「ちょっ…待ちなさいよギーシュっ……!!」
しかしその腕を、剛力の様なルイズの手が捕らえた。殺気を隠そうともしない、なにものも写さない。
まさに『虚無』のようなその瞳に、モンモランシーは戦慄を覚える。
「どういうことよ…説明しなさいよ…あんた知ってるんでしょ…何したのよ…」
ミシミシと腕を握る手を締め付けながら、ルイズは尋ねた。口調こそ変わってはいないが、それが逆に恐怖心を煽った。
腕の痛みを必死にこらえながらも、モンモランシーは呻くように叫ぶ。
「あっ…後で話すわよ!! それより追うわよ。このままじゃあんたの使い魔も危ないんじゃなくて…?」
「…絶対聞き出させるからね…逃げるんじゃないわよ」
ルイズの気迫満ち溢れる声に、モンモランシーは観念したように頷くと、二人は急いで剣心達の後を追った。
24 :
るろうに使い魔:2012/12/10(月) 02:17:13.88 ID:G6YKm2qT
以上で、投稿の方を終了いたします。ここまで見て頂きありがとうございました。
それではまた来週に。
あと、遅らせながらドリフターズの人、お疲れ様でした。
ホモォ
投下乙
ってかギーシュ×剣心とか誰得www
野獣と化したギーシュで草が生えちゃう。やばいやばい…
えー、ギーシュが剣心をかばったせいで斬殺される流れ?
ホ、ホモォ・・・!!
┌(┌^o^)┐
木間市に塔が立つな
のあしおのババアがまたなんかやるみたいだな
リア充の祭典を撲滅ってお前結婚してるだろ
すみません、誤爆しました。
誤爆…
爆撃獣グロイザーX10を召喚、出オチでしかねーな
34 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/15(土) 11:38:02.33 ID:0uGol8tD
FF13の召喚獣の 戒律王ゾディアークを召喚してしまったら ハルゲギニア
は即 消滅したかも。
そうかな
36 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 16:27:39.20 ID:Vnw8xpyd
孤独のグルメの井之頭五郎で短編を投下します。
ニレスぐらいになると思います。
キャラクター的には原作に近いと思われます。
37 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 16:28:11.88 ID:Vnw8xpyd
……とにかく腹が減っていた
俺は仕入れた輸入雑貨を置いておく倉庫で南千住に格安の物件があるというので
見に来たが予想を上回るボロさだった
その上隅田川が近いせいか品物に最悪の湿気が強くサビやカビがひどい
全くの無駄足だった
「あんた誰?」
おまけにどうやら俺はまたも路に迷ったらしい
目の前には見知らぬ学校の生徒達がいた
「ルイズったら『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してるわ」
「さすがはゼロのルイズだ!」
みんなマントに杖を持っているのはなぜだろう?
でもある種の美意識が感じられる…
「ミスタ・コルベール!」
「なんだね。ミス・ヴァリエール」
「あの!もう一回召喚させてください!」
「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。今、やってるとおりだ…」
目の前の生徒が先生らしき人物に注意を受けているがこっちはそれどころじゃない
とにかくどこか店をさがさないと……
「ちょっとあんたどこに行くのよ!?」
まいったな…いったいどこに迷い込んでしまったんだ?
さっきから見慣れない景色が広がっている
イヤ…焦るんじゃない、俺は腹が減っているだけなんだ
腹が減って死にそうなんだ
「見つけたわ!あんた儀式の途中で勝手に出歩かないでくれる!?」
くそっ、それにしても腹減ったなぁ
どこでもいいから“めし屋”はないのか?
「コラ!無視するな!!」
38 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 16:29:08.99 ID:Vnw8xpyd
しばらく歩いているとそれっぽい建物が見えてきたぞ
ええい!ここだ、入っちまえ
「どうされましたか?」
「何か腹に溜まる物を…」
「シチューしかないですけどいいですか?」
「じゃあそれで」
注文をしてしまうと少し気が楽になり店内を見回すゆとりが出てきた
しかし…さっきのウエイトレスの格好は凄かった
今流行りのメイドさんというヤツだろうか?
「はい、おまちどうさまです」
「ほー、うまそう……もぐ」
なんとも素朴な味のシチューだ
子供の頃、夏休みに田舎のおばあちゃんちで食べたお昼かな?
しばらく食事を楽しんでいるとさっきの生徒がやってきた
「まったくこんなところにいたのね、さっきから人の話を聞かずに勝手にうろちょろして!
さあ早く儀式を済ませるわよ!!」
生徒のあんまりな物言いに思わずカチンと来る
「人の食べてる前でそんなに怒鳴らなくたっていいでしょう
今日はもの凄くお腹が減っているはずなのに見てください!
これだけしか喉を通らなかった!!」
「ハァ?あんたそれ大方食べてるじゃない?」
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
「それ以上いけない」
ウエイトレスの一言でふと我に返る
あーいかんなぁ…こんな…
いかん、いかん
「……お勘定」
「は、はい…えーと800円です」
「ごちそうさま」
「…ありがとうございます」
俺はゆったりと店をでる
腹ははち切れそうだ…食いすぎた
俺は数メートル歩いたところで店を振り返った
おそらく…俺はあの店には不釣り合いな客だったんだろうな…
ようやく明治通りに出た、タクシーが来れば乗ろう
来なければ歩いて地下鉄日比谷線の三ノ輪駅に出ればいい、そう思った
俺は得体の知れない奇妙な満足感を味わっていた
39 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 16:29:57.89 ID:Vnw8xpyd
とりあえず今回は以上です。
後六話ほどストックはありますが、いずれまた。
投下乙
何故ハルケギニアで800円…?
まあ投下乙です
44 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 22:54:23.15 ID:Vnw8xpyd
今日は土曜日だよ。
だからサタデーナイトフィーバーでもう一話投下しようと思います。
ゴローちゃんは飲めないけど、私は酒酔い運転です。
二話目、2レスほどお付き合いお願いします。
45 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 22:55:04.54 ID:Vnw8xpyd
池袋のデパートに来たついでに飯を食おうかと思ったが凄い人だかりだった
うわぁ、そうか
休日の昼時にあたっちゃったかァ
デパートの中じゃどこも満員で並ぶようだ…
仕方ない、外に出て食べるか
そう考えていたら近くの親子連れの会話が聞こえてきた
「こりゃダメだ、屋上で焼きそばでも食べよう」
「わーい焼きそば、焼きそば」
なるほど、屋上か…
『チン』
なーんだ、気持ちいいじゃないか
目の前には開放感がある景色が広がっている
「なんでまたあんたがいるのよ!?」
「ルイズったらまたあの変なの呼び出してるわ!」
「今日も完璧なゼロだな!」
「うるさいわね!ってあいつったらもういなくなってる!?」
よしよしいいぞいいぞ、ここでなんか食べればいい
さあて、なにがいいかな…
「ん?あれはうどん…」
ふと見るとウエイトレスらしき人がうどんを運んでいた
「あてにはならないけどいい匂いだ、タマラナイ…さぬきうどんか」
うん、これにしよう
「すいません」
「あ、あなたは…」
「?うどんを食べたいんですけど」
「タルブの郷土料理うどんをご存じなんですね!?分かりました!」
「えーと、卵を入れたいから…月見…いや…えーと、月見おろしうどんで」
「はい!」
「うーん、おいしそうだ」
ほどなくしてやってきた月見おろしうどんを外のテラスで食べることにした
「いただきます」
『ズズーッ』
「うー…あったまる、これはいい……はふはふ…うん、うまいうまい」
ふーん…卵とおろしの効果っていうのがイマイチ分からないけど…
『ズル…ズズゥ』
うまいよな
あ……外でうどんなんか食べるのはいつ以来だろう?
『ズルズル…』
46 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 22:55:44.82 ID:Vnw8xpyd
うどんを食い終えた後もしばらくのんびりすることにした
それにしてもデパートの屋上って…変わらないんだなぁ
この雰囲気、下がすぐ駅だなんて信じられないよ
都会のエアポケットみたいだ
そうか…都会のぐしゃぐしゃから逃げたければ
ここに来ればいいんだな
ここでは青空がおかずだ
「ほー、サボテン…」
しばらく散策しているとサボテンが並んでいる一角が見えてきた
そういえばいつだったか、納品しに行った昔の流行作家が言ってたっけ
…………………………………
『シャボテンというのはね、人の来ないそれは淋しい砂漠に生えとるんです』
「やっと見つけた!もうあんたでも仕方ないから使い魔にしてあげるわ!」
『だから夜中にね、一人月の光の下でこいつを眺めとると』
「あんたに逃げられてからみんなに笑われて大変だったんだから!
おまけにあれ以降『サモン・サーヴァント』だって一度も成功しないし…」
『そういう砂漠の淋しさがこぉー伝わってくるんですよ、シャボテンからね……』
「ねえお願いよ!あんたが使い魔になってくれないといつまでたっても進級できないんだから…」
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
『そうすると日中の目の回るような忙しさもなんもかも忘れられるんです』
…………………………………
「すいません…このサボテンください」
「は、はいっ!」
47 :
ゼロのグルメ:2012/12/15(土) 22:57:24.75 ID:Vnw8xpyd
例によってゴローちゃんは池袋のデパートに戻り、帰宅しました。
お付き合いいただきありがとうございました。
残り六話ですが、まあまたいつか。
残り七話じゃなくて?
まとめサイトに登録するとしたら、何話かまとめて……かねえ?
一話ずつでは短すぎる感があるな
ルイズは毎回アームロック決められるのかw
ルイズかわいそすw
これは痛すぎる…。ルイズは耐えられるのか?
53 :
ゼロのグルメ:2012/12/16(日) 16:06:06.78 ID:EHcQjBN3
短いのでもう残り全部投下します。
タイトルに話数を表示します。
全部で12〜15レスほど失礼しますね。
54 :
ゼロのグルメ:2012/12/16(日) 16:06:42.53 ID:EHcQjBN3
久しぶりの朝6時起きだった
赤羽に朝8時に納品とは雑貨の商人には少しキビシイ
海外買い付けに行く朝でもないのに…
しかも3階の店
エレベーターもなし、バイトもなし
腰にきた……というより腹にきた
腹の中がキレイにすっからかんだ
「9時半か…」
よし!車はここに置いといて、駅前で何かサッサッとかき込んでいこう
だけど……こんなに朝早くからやってる店なんかあるのかな?
そう思いながら歩いているとふと一軒の店に目がとまった
「ん?なんだこの店は……」
魅惑の妖精亭…もしかして酒場……?
バカな……今、朝の9時半だぞ
「いらっしゃ〜い」
「あのぉ……食事できますか?」
「もちろん!ウチはなんでも美味しいわよ!」
あ、おすすめメニューが書いてある
「タンシチューか……」
うん!これだ
「いらっしゃいませ〜、お飲み物はなんにされますか?」
「いや飲み物はいらない、えーと……表にあったタンシチューっていうのを」
「タンシチューってもういけますか?ミ・マドモワゼル!」
「んんんん〜〜〜〜!お客様申し訳ありませんけど、それまだなんです〜〜〜〜」
そう言いながら奥から出てきたのは妙にガタイの良い髭面のオカマだった
こんな朝っぱらからオカマバーがやってるなんてこれも赤羽カラーっていうのかな
まったくこの辺りの人は朝から盛んだ
まあそれはいいとしても目当てのメニューがないのは困ったぞ
正直店も雰囲気…というかオヤジがアレだし
ここはサッと食って別の店でドスンとなにか食うか…
「じゃあこの七面鳥ハムのサンドイッチで」
「んふぅ〜〜〜トレビアン!!オーダー!七面鳥ハムをパンで挟んだ料理ぃ〜〜!!」
「「「ミ・マドモワゼル!!」」」
……アレなのはオヤジだけじゃないみたいだ
「あらぁ〜〜?お兄さんいい体してるわね、何かやってたのぉ?」
「いや、そんな…」
いかん、ケツがムズムズしてきた…
「おまちどおさま」
うわ…サイズがデカいし中のハムもぶ厚いぞ
「いただきます」
噛むとハムの肉汁が口の中に広がってくる
一緒に挟んであるのはマスタードと何かの香草かな?
「もぐ……むぐ…」
うまいんだけどこれだけ厚いとアゴが疲れるなぁ
「あっ、またあんたね!」
前に何度か見かけた学生っぽい子が話しかけてきた
留学生かな?それにしても髪の毛がピンクって凄いな
「丁度良いわ、あんたに良い物見せてあげる…ほら、私の使い魔よ!」
留学生っぽい子の横にはパーカーを着たこれまた学生っぽい男の子が…
「あんたに逃げられてから何度も何度も『サモン・サーヴァント』失敗したけど
つい1週間前にやっと成功したんだから!」
何かのごっこ遊びだろうか?最近の子は分からないなぁ
とその時、隣にいた男の子が話しかけてきた
「あの、あなた日本人ですよね?どこから来たんですか!?」
「え?赤羽の駅前に車置いて歩いてきたんだけど?」
「本当ですか!?じゃあ帰る時途中までついて行っていいですか?」
えらく興奮してるがどういうことだろう?
そこにすかさずさっきの女の子が割って入る
「ちょっと、あんたは私の使い魔なのよ!なにご主人様に勝手に話進めてるのよ!」
「だってよぉ、この人について行ったら家に帰れそうなんだぜ?
一度家に帰って母さんとか学校の友達に会いたいよ!」
「ダメよ!離ればなれになっちゃうじゃない!」
「たまに遊びに来てやるから大丈夫だって」
「この犬は何を言ってるのかしら?たまに遊びに来る使い魔がどこにいるのよ!」
友達を家来扱いするのは感心できないな、それに人の食事の邪魔もしてるし
ちょっとお灸を据えてやるか
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
「友達を家来扱いするんじゃない!」
「ぐぉおおおおお!!」
その後、こちらがサンドイッチを平らげる頃には無事2人の折り合いもついたらしく
俺とその男の子は店を後にした
駅前に帰る道すがら、男の子は回りの景色を見ながらやけにテンションが高い様子だが
こっちはさっきの店のオヤジとボリューム満点のサンドイッチの事で頭も腹もいっぱいだ
赤羽の駅で男の子と別れて停めてある車のところへむかう
ああ……腹がいっぱいだ
運転しながら眠くならなきゃいいが
「ふう」
帰ったらシャワーを浴びてひと眠りだ
……あのオヤジが夢の中に出てくるかもしれないな
※その後男の子は一人でハルケギニアに戻ることはできませんでした
今日は浅草の上客のところへ頼まれていた品物を納めにいっていた
「ミスタ・イノガシラは一滴も飲めないんでしたよね?
せっかく素敵なクリスタルグラスを売ったりしてるのに」
「ええ、前世によほど酒で痛い目にあった者がいたとみえて…」
「まぁ…それじゃ甘いものはお好き?」
「ええ、まあどちらかというと」
「そう……ウチの娘も甘いものが好きなのよ」
「娘さん?」
「もうすぐ嫁ぐんですの。家のため、そして本人のためとはいえ
望まない結婚を受け入れる娘が不憫ですわ…」
「ほう……」
個人輸入業者にとって個人の顧客は好みもわかるし
高値で買ってもらえるので大切なのだが
正直いって3時間も話し込まれるとヘキエキする
俺はまたも空腹を抱えて歩いている
しかし…少し気になっていた
といってもさっきの話ではなく、そこにいた鳥の骨のような中年のことがである
一瞥しただけだけだが、あの風貌を見た途端鳥肉が食いたくてたまらなくなった
いつしか俺の目は鳥を食わせる店を物色していた
どうせなら焼鳥や鳥鍋のようなありきたりなものじゃなくて
少し変わったものが食べたい
「ん?鳥づくしの店マザリーニ…?」
鴨、アカイライ、ホロホロ鳥…へぇいろいろあるなぁ
いいじゃないか、ここにしよう
「いらっしゃい」
「色んな鳥を少しずつ食べたいんですけど」
「じゃあおまかせコースでいいです?」
「はい」
「おまちどうさま、ガルーダのフルーツソースです」
ガルーダ?聞いたことない鳥だな…
「いただきます」
うん!うまい、肉に甘いソースが意外と合うぞ
肉の味は……鶏とは微妙に違うのかなぁ
「あの、もし?」
次の料理を待っている時
ほっかむりをした怪しげな人間が話しかけてきた
「ミスタ・イノガシラ、あなたにお願いがあります!
何も言わずにこの手紙をアルビオン王国の皇太子・ウェールズに届けて欲しいのです!」
「いや、あの…」
「仰りたいことはわかります!
本来ならこういう事を赤の他人であるあなた様に頼むべきではありません!
でも、こういうことが頼める私の親友は今使い魔の召喚で手を離せないらしいのです!
それにミスタ・イノガシラは東方の珍しい品も買い付けに行くほど旅慣れしておられる様子!
そんなあなた様ならきっとアルビオンへも易々と潜入出来ましょう……」
声からしてどうやら若い女の子らしいが
さっきから一方的に捲し立てて来ておちおち食事も出来ない
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、お…折れるう〜〜〜〜〜〜」
「そんなに大事なことなら家族に相談するんだ!」
「姫殿下、こんな所におられましたか!」
そう言って店に入ってきたのは浅草の上客のところにいた鳥の骨だった
ということは俺は客の娘を締め上げてしまったのか……
うーん、いかんなぁ…
「マ、マザリーニ!?」
「姫様が抜け出されたせいでお城は大騒ぎ!
その手紙の事もあわせてしっかりお話を聞かせてもらいますぞ!」
「…どうして手紙のことを」
「あれだけ声高らかに語られたら店の外まで丸聞こえです
自分に酔う前に回りを気にするべきでしたな」
「うう……焦るあまりに魔法をかけ忘れましたわ…」
その後客の娘さんは鳥ガラに連れられて家に帰っていった
娘さんを締め上げたことも「少しぐらいはお灸を据えないと」と許してくれたからよかった
食事を終えて店を出る
様々な鳥が凝った料理で出てきてうまかったが
やはり自分には熱々のご飯に甘辛いタレで焼いた焼き鳥を乗せてかっこむ方が性に合ってるようだ
俺ってつくづく酒の飲めない日本人だな
今回は新規開拓のために大阪に来ていた
「いやー、イノガシラくんの食べ物に関する話は面白いねぇ〜
時間を忘れてついつい話し込んでしまったよ!」
「いや…そんな……」
「それじゃ最後に今の時期にオススメの食べ物でも聞かせてくれたまえ」
「そうですね……今の時期なら鮟キモかなぁ」
「アンキモ?それは何なのかね?」
「魚の鮟鱇のキモのことです、普通は酒の肴ですが白いご飯とも合うんですよ」
「ほう、アンコウ……いったいどんな魚なんだい?」
「うーん、丸くて水の入った袋みたいな感じかなぁ」
「ほほーう、そりゃおもしろい魚だ!今度是非食べてみないとな!」
「いい天気だなぁ」
まるでジョゼフ氏との取引を象徴しているような天気だ
こんなにあっさり、しかも大口の注文が取れるとは思いもよらなかった
大阪もいいな…
今日はこの辺をブラブラして
なにか大阪らしいもんをちょこっと食べてホテルに戻ろう
道頓堀に沿って繁華街を歩く
過剰だ…この国、いやこの街では何もかもが過剰すぎる
大阪ってこんな街だっけ?
…でもなんかみんな…楽しそうだな
おやここは…
また変な小路に入っちゃったな
一種のミステリーゾーンといったところか…
しばらく歩いていると変な店があった
「はしばみ草専門店?」
はしばみ草ってなんだろう?
こっちの方の野菜かな?
取りあえずおもしろそうだから入ってみるかな
「…いらっしゃい」
何だか懐かしい店だな…
学生の頃にこういう店に入ったことがあるような気がする
ただ表の賑わいの割に客がいないのが気になるが…
「ご注文は?」
「あ…えーと、このはしばみ草のサラダとはしばみ草とベーコンのサンドイッチを…」
「はい」
薄暗い店の中、ここだけが時間の流れが止まっているかのようだ
ふと顔を上げると店の奥のカウンターに座ってる客が目につく
メガネをかけた小柄な女の子だ、制服を着てるから学生かな?
女の子は本を読みながら黙々とサラダを食べている
あんな食べ方して味がわかるのだろうか…
「お待たせしました」
きたきた、はしばみ草とやらは一体どんな味だろうか?
「いただきます」
まずはサラダからだ
「もぐ……うっ…」
……苦い、それも強烈な苦さだ
口の中が苦みで覆われていく
ということはサンドイッチも…
「…苦い」
火を通している分サラダよりは若干マシだが、それでも苦みはかなりのモノだ
とてもじゃないが全部食べられそうにない
このまま残してしまおうか?
でもそれじゃいくら何でももったいないしなぁ…
もう少しだけ食べようかな
「あれ?」
しばらく食べているうちに不思議なことが起こった
あれだけ苦くて苦痛だった味が妙に後を引くように感じてきたのだ
「……うまい?」
癖になる苦さというのだろうか?一口食べて広がった苦さが引くとまた次が食べたくなる
そのうち苦みに慣れてくるとそれ以外の味もしてきてますます後を引く
こうなってくると後は早い
あっという間にサラダとサンドイッチを平らげてしまった
うーん…全然物足りんぞ
よし!
「スイマセ──ンッ」
「ハイ」
「追加ではしばみ草と角羊のシチューください!大盛りでね!!」
※1週間後、ジョゼフ氏は鮟キモと間違えて河豚のキモを食べたため死亡しました
(『丸くて水の入った袋みたいな感じ』の魚を探させたら鮟鱇ではなく河豚が来たため)
仕事で石神井公園の近くまで来ていた
「都内にしちゃ…すごい豪邸だったな」
公園を南に見下ろすように…
ホントいい場所にちゃんといい家が建っているんだな
ついでなので公園の中を散策する
「……そうか、世間は日曜日なんだよなぁ」
こりゃ井之頭公園や代々木公園とはまるで違う雰囲気だ
やっぱりどこの駅からも遠いし、近くに大きな繁華街がないせいかな?
来ている客層が違うよ、年齢層もファッションも
「えーと…たしかこの辺に古い休憩所みたいなのがあった筈なんだが」
……もう15年も前のことだからなあ
「あっ、あんたは!?」
いつぞやあったピンクの髪の女の子だ、こんな偶然もあるもんなんだな
「やっと見つけたわ!えーと…
我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
「え…」
急にどうしたんだろう?
「よし!後はキスだけね、んー…」
急にピンク髪の女の子がキスをしにきた
「ちょっとやめなさい!」
「そっちこそおとなしくしなさいよ!後キスすればコントラクト・サーヴァントの完成なんだから!」
こりゃいかんな…
「フン!」
「がああああ!痛っイイ、き…キスぅ〜〜〜〜〜〜」
「キスはヤケクソでするもんじゃない!」
女の子はそれからしばらくはジタバタしてたが、ようやく落ち着いてきたので手を放す
「うぅ…」
ん?
「グス…ヒック…何よ、あれから何回もサモン・サーヴァントしたのに全然うまくいかないし
たまにタイミング良くミミズとか蟻とかがいてコントラクト・サーヴァントしても失敗するし
あんたのせいで最悪なんだから……ウェ〜〜〜〜〜ン!」
まいったなぁ…
「落ちつけよ、何かあったかいものでも食べながらゆっくり話そう」
「グス…こんな時に落ち着いて食べるなんて……(ぐぅ〜)」
「ほら行こう」
「……うん…」
「どこ行くのよ?」
「この先に休憩所があるはずなんだ」
「?学院の中に休憩所なんてあるはずないわ…」
「大丈夫だよ……あ!あったあった、ここだあ」
「え…ここどこ?」
その休憩所は昔とちっとも変わってなかった
なんだかとぼけた空間が広がっている
「喉が渇いてないかい?お…珍しいな、フルーツ牛乳か……銭湯でよく飲んだやつだ」
「フルーツ牛乳?」
「へぇ〜チェリオか、懐かしいな…まだ売っていたのか」
「何それ?」
「飲んでみるかい?」
『ピッ……ガコン』
「ごく……このワザとらしいメロン味!小学校の時、映画館でよく飲んだなぁ」
「…薬くさいわ」
女の子は顔をしかめてそう言った
今どきの子はこんなの飲まないんだろうな…
「ほら、ここに座ろう」
そのまま飲みかけのメロンソーダを持って休憩室の座敷にすわる
「いい気持ちだろう?いい風が通るし緑もいっぱいだ」
「…………」
座敷に座った女の子は特に話すでもなくジッとしている
「あ!スイマセン、おでん下さい」
「ハイ」
そのやりとりを不思議そうに見つめる女の子
留学生のようだし、もしかしたらおでんを知らないかもしれないな
しばらくしておでんがやってくる
「お待ちどおさま」
「あ、どうも」
「これがおでん?」
「そうだよ、早速食べよう」
「どうやって食べるの?」
そうか…この子は箸が使えないんだ
「適当に切り分けるからこの棒に突き刺して食べればいい」
「変な食べ方ね……ハフ…」
「どうだい?」
「…おいしい」
「よかった、じゃあこっちもいただこうか……はふ……うーん、美味しい
しかし…おでんとメロンソーダってのは色彩的に最悪の組み合わせだな」
「…ごくっ……味もよ」
「いやー、失敗したなぁ」
「……クスッ…」
回りの席では親子連れや老夫婦が思い思いにくつろいでいる
そんな中を外国の少女といるなんて不思議な感じだ
でもなんでだろう…このとろんとした雰囲気
ずっとここにいたいような居心地の良さ
「……はぁ、私ったらなんであんなに焦っていたのかしら…」
よかった、落ち着いたみたいだ
「そろそろ帰ろうか?」
「でも帰り方が分からないわ」
「さっき君がいた公園の入口あたりまで連れて行ってあげるから大丈夫」
「あっ、ルイズったらどこに行ってたのよ?」
「…キュルケ?」
「急にいなくなったからみんなで探してたんだからね!」
「えーと…この前のあいつにたまたま合ってよく分からないところに行ってたんだけど…」
「あいつ?」
「ほら、すぐ後ろにいるでしょ?」
「……誰もいない」
「何言ってるのタバサ……あれ?いない…」
「やだ、あんたサモン・サーヴァントのやりすぎで頭おかしくなったんじゃないの?」
「…でもさっきのビンがあるし、……?」
「相当重傷のようね」
…………………………………
あの子と別れた後、俺はバス停に向かって歩いていた
なんだか少し眠い
このままだとバスの中で寝てしまいそうだ
それぐらいさっきの時間がマッタリとしていたのだろう
今度はあの休憩所に一人で行ってみたいなあ
「16E……16E……と、ここか」
俺は今、新幹線の車内にいる
また大阪での仕事が出来たのだ
「えーと向こうには7時か」
横を見るとまだ発車してないのに弁当を食べている人がいる
どうしてああせっかちなんだろう
せめて列車が動きはじめてから食べればいいのに………
俺は少なくとも新横浜を過ぎてからだな
せこい出張でも少しは旅気分を味わいたいじゃないか
『トルルルルル…』
新幹線が定刻通り動き出す
ほどなくして隣の席に誰かが来たようだ
「え………?」
……………………
今日は虚無の曜日だったのでトリステインに出ていた
朝が早かったので少し眠いが、そのおかげでもう用事は済んだし、どうやら早く帰れそうだ
「この馬車に積んで頂戴」
街入り口付近の駅で荷物を馬車に積んでもらう
いつもは馬を使うのだけど、今回は荷物が多くなる予定だったから馬車で来ていたのだ
準備も終わり馬車に乗り込む、すると…
「え………?」
馬車の中にあいつがいた
「あ…君は……。もしかしてここの席?」
「はぁ………まあいいわ、座るわね」
なんだか馬車の内装がおかしい気もするけど、いい加減こんな状況には慣れてしまった
そして馬車はそのまま動きはじめる
「奇遇だね、君はどこに行くの?」
「私は学院に帰るの、あんたは?」
「出張だよ、大阪で商談があるんだ」
「へぇー、あんた商人だったのね」
しばらくするとあいつが何かを準備し始める
「何それ?」
「弁当だよ、シューマイをジェットで暖めるらしいんだ」
またワケの分からないことをいいながら
あいつはお弁当?の箱からヒモを引っ張った
『シュウウゥ…』
箱から湯気が出ている
火の秘薬でも使っているのかしら?
しかも嗅いだことのないにおいまでしてきた
「うわあ…まいったなぁ、こりゃあ」
「凄いにおいがするわよ?」
「失敗したなあ……匂いのことは考えてなかったよ……」
しばらくして湯気がおさまると、あいつはそれを食べ始めた
「どうなのそれ?」
「うん…うまい、確かにうまいんだけど……これはどこまでいってもシューマイだな」
なんだかよく分からない
「それにしてもあんたってあった時はいつも何か食べてるわね」
「まぁ…仕事であちこち行き来してるから、メシぐらいはうまいもの食べて楽しみたいしなあ」
「楽しみ…?そのわりに失敗してるじゃない」
「その時々で自分が何を食べれば幸せか考えて、それを実行するのが楽しいんだ
たまに失敗もするけどそれも楽しみのうちさ」
ますます分からない、失敗するのが楽しいだなんて…
「変わってるわね…」
「よくそういう風に言われるなあ、
まあ学生時代の同窓会に行っても行商人みたいなのしてるのは俺ぐらいだしね」
「何で行商人なんかしてるの?」
「人には向き不向きがあるからなぁ… 俺にはサラリーマンは無理だよ」
「向き不向き…」
後半はよく分からなかったけど何故かその言葉が印象に残った
「ごく…ごく…ごく……ふう、うまかった」
どうやら食べ終わったみたいだ
「それにしても口の中がシューマイだ……あの、ちょっと通してくれる?」
そう言うとあいつはおもむろに席を立って私の前を横切る
「どうしたの?」
「もうひと缶お茶が欲しいから買ってくるよ」
そして馬車の扉に手をかけて…
「…え?」
そのまま馬車の外に消えてしまった
春の『サモン・サーヴァント』であいつに出会って以来、不思議なことの連続だ
今まではただの失敗だと思っていたけれど…
もしかしたら……これも何か意味があるのかもしれない
一人残された馬車の中で、私はそう思い始めていた
あれから数年がたった
トリステインの魔法学院をどうにか卒業できた私は
父の元でヴァリエール家の領地管理の手伝いをしている
相変わらず魔法はからっきしだけど、領地管理には魔法では解決できない仕事が山ほどあるので
私は結構忙しい毎日を送っていた
今日も領地内の橋の架け替え申請のために朝からトリステインに来ているのだが
役人の手際が悪かったせいですっかり遅くなってしまった
そろそろお昼過ぎだ
お腹が空いた私は昼食を取る店を探していた
市内にあるヴァリエール家の別邸に帰れば昼食ぐらいいくらでも食べられるのだが
トリステインに来た時は街の中で適当に店を見つけて食べるのが私の習慣になっている
毎日家や晩餐会で堅苦しい食事をしているから
たまに食べるざっけない市井の食べ物がとてもおいしいのだ
入る店が決められずにブルドンネ街をウロウロする
通りのあちこちに聖戦のための義勇軍募集の掲示があった
「いつまで続くのかしら…」
聖地奪還のための戦争がもう何年もダラダラと続いている
学院の元同級生も結構な人数が参加していた
持ち前の魔法の才能で大活躍している者もいれば中には戦死した者もいる
当然魔法の使えない私なんかに出る幕は無いけれど
もし私に凄い魔法の才能があったらどうなっていたのだろう?
そんなバカなことを考えながら私は大通りを歩いていた
いい加減お腹が空いてきたから4つ角にある一軒のお店に入る
「……しゃい、おい!」
「あ…イラッシャイマセー」
小さい店だ、2人でやってるみたいだった
店の内装も店員たちも凄く変わってるわね…
「ホラ!石鹸の泡のついたコップで水を出しちゃダメだろ!?」
「ハイ、スイマセン」
「それとお前、50分になったら表の看板引っ込めろって言っただろ?」
「あ…スイマセン」
「ったく、いちいちそこで時計見なくたっていいだろ」
「ハイ、スイマセン」
揉めてるなぁ
「出直した方がいいのかしら?」
「あ、いえ…いいんですよまだ、ハイお水」
「そう?ええとじゃあ」
「大山ハンバーグランチが当店のオススメですが」
「お願いするわ」
「ハイ、ランチワン入ります」
「看板入れてきます」
「おい待てよ、今こっちが上がるから」
「ア、ハ…ハイ、スイマセン」
「2人しかいねえんだから考えろよ、ちょっとは」
「ハイ」
「バカ、それはジャンボ焼きの皿だろ
いつになったら覚えるんだ!?とにもォ…」
「スイマセン」
年配の方が若い人を叱りとばしている
師匠と弟子なのかしら?
「お待たせしました」
しばらくして料理が来た
色々な料理が一つの器にまとめて出されるのが庶民的で良い
目玉焼きとステーキとパスタとニンジン
この棒状の付け合わせはなんだろう?
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今日もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」
習慣となっているお祈りを小声で済ませてさっそく食べることにしよう
「はふ……もぐもぐ…」
ステーキだと思ってた物はどうも肉を細かく切ってから固めて焼いた物のようだ
それに棒状のはポテトらしい、どちらもなかなかいける
「次は……」
このお皿に盛られた白いものはなんだろう?
横の器に入ってる暖かくて茶色いソース?をかけて食べるのかしら?
「うーん、ベチャベチャになったわね…」
でも味は悪くない
庶民の食べ物には時々見たこともない物があるから楽しい
「こういう楽しみを教えてくれたあいつに感謝しなくちゃね…」
とはいうものの、あいつとは学生時代に学院へ向かう馬車の中で合ったのが最後だ
どこにいるのだろう?
「お前どうして言わないんだよ、そう言うことを!注文とれないだろ!?」
「スイマセン、スイマセン」
厨房ではまた若い人が怒られていた
「平賀さんよォ、前はどうやってたか知らないけどさ
ここじゃそんなテンポじゃやっていけねぇんだよ」
「ハイ、スイマセン」
そろそろいい加減にして欲しい
「人の食べてる前でそんなに怒鳴らなくたっていいでしょ
今日はもの凄くお腹が減っているはずなのに見なさい!
これだけしか喉を通らなかったわ!!」
「なんだァ?あんた大方食ってるじゃねえか!?」
『ボム!』
「がああああ!熱っイイ、あ…アフロ〜〜〜〜〜〜」
生意気な男の頭でワザと魔法を失敗させてやる
「もう一発いこうかしら?」
「あ…やめて!それ以上はいけない」
店を出て大通りを歩いていた
「はぁ」
それにしてもさっきの若い店員の顔、どこかで……
私は得体の知れない奇妙な既視感を味わっていた
ゼロのグルメ 完
68 :
ゼロのグルメ:2012/12/16(日) 22:35:02.86 ID:EHcQjBN3
以上で終わりです。
合間にさるさん喰らって中断してすみませんでした。
ドラマもいいけど原作もいいよね、という気持ちを共有していただければありがたいと思います。
それでは今度は、松重「ゴロー」豊で会いましょう。
乙でした。
こういった終わり方もいいなと思った
>>「なんだァ?あんた大方食ってるじゃねえか!?」
ワロタ
乙
転載乙でした
ニンジンいらないよ
なぜかこれが浮かんだ
夜分遅くになりますが、0:30頃より続きの投下を行いたいと思います。
Mission 37 <破壊者、降臨> 前編
かつて、魔界では巨大な戦乱が勃発した。
弱肉強食の世界で生きる悪魔達にとっては力こそが全て。力ある者こそが全てを支配する資格を持つ。
己より力無き者達を跪かせ従わせる闇の王達は、乱世に満ちた闇の世界そのものすら統べようとした。
力ある悪魔達は幾多の勢力に分かれて互いに覇権を争った。より強い力を持つ勢力は他の勢力を打ち破り、己の下へと加え、さらに力を伸ばしていく。
全てを支配する野心を胸に、幾千年にも渡って続けられた熾烈な争乱。
その中心にあったのが、羅王≠ニ呼ばれし魔の支配者が率いる軍勢。
幾万をも超える圧倒的な手勢を放ち、勢力の長でありながら自ら戦線に立ち、全てを破壊し尽す修羅の王。
ある意味、最も悪魔らしい蛮勇さに満ちたその王は、力と力をぶつけ合い、容赦なく敵を討ち滅ぼさんとす。
戦いに策など不要。いかなる小細工を仕掛けようが圧倒的な力を持って策もろとも敵を捻じ伏せるのみ。
それでも羅王≠ヘ惜しくも闇の世界を統べることはできなかった。
手勢を失い、敗北した修羅の王は雪辱を果たさんと長きに渡って力を蓄え続け、新たなる手勢を集め続けた。
1500年以上も昔、かつて肩を並べた魔帝≠フ勢力が人間界を攻め入るのに失敗した後も力が完全になるまでひたすら静かに待ち続けたのだ。
無様に敗北した魔帝≠ノ代わり、人間界を我が物とするために。
そこで思わぬ事態が起きた。
生意気にも悪魔を従えていたという人間の魔術師。その魔術師の手によって羅王≠ヘ強制的に人間界へと呼び出された。
力なき者に従う道理などない。羅王≠ヘ己を従えようとするその魔術師を始末しようとした。
だが、ここでも羅王≠ノとっては予想打にしない出来事があった。
かつて魔帝≠フ勢力に属し、何を血迷ったか人間界侵攻を阻止した逆賊、魔剣士≠ェ挑んできたのだ。
互いに力はかつての戦乱の時より衰えていた。だが、魔剣士≠ヘ剣の力を持って羅王≠フ力を切り離し、魔界へと追い返した。
力を失った羅王≠ヘさらに長き時をかけて新たな力を蓄えることを強いられた。
ところが、今度は羅王≠ノとって嬉しい誤算が起きた。
閉ざされた空間で新たに見出した異世界。人間界とよく似ていたが、その環境は人間界とは明らかに異なる。
だが、その異世界から流れ込んでくる膨大な力の奔流。それは羅王≠フ糧となり、失ったはずの力が僅かな時で蘇りつつあった。
まだ他の勢力が手を出していないその世界を制するため、羅王≠ヘ不本意ではあったが策によって力なき人間達を利用した。
全軍を一気に侵攻させる出口を作るため、争いの火種を撒くことで魔界との境の安定を乱したのだ。
そして、全ての準備は整った。
後は、異世界の自然現象により魔界との境界が極限まで薄らぐのを待つのみ。
修羅の王が率いる幾万もの血に飢えた兵達と共に、今か今かと待ち続ける。
その時こそ、羅王℃ゥら壁を突き破り全軍を侵攻させる。脆弱な人間共を消し去るなど容易い。
暗黒の闇が太陽を喰らう時こそ、羅王≠ヘ現世へと降臨するのだ。
スパーダが地獄門を通り、魔界へと向かってから、丸一日が過ぎようとしている。
魔界から流れ込んでくる瘴気から出来るだけ遠ざかるためにルイズ達は広場の入り口辺りでタバサのシルフィードと共に待機している。
その間、地獄門に開けられた次元の裂け目からは時折下級の悪魔が這い出てきたのでスパーダに留守を任されたネヴァンが容赦なく己の稲妻で仕留めていたのだ。
ルイズも自分のバースト(炸裂)≠フ練習のため一緒になって悪魔達に爆発をぶつけ続けていたのだが、途中でキュルケによって止められてしまった。
「これから戦争が起きるかもしれないんだから、力を温存しておきなさいよ」と諌められて。
レコン・キスタ、そして魔界の侵攻がもうすぐ始まるというのに消耗してしまっては今後の戦いに支障が出てしまう。
キュルケもタバサもスパーダが戻ってくるまでは無駄に魔法を使って精神力を消耗させるわけにはいかないため、ただひたすら大人しく待ち続けるしかなかった。
ルイズとしては、「お前の力など取るに足らない」と言わんばかりに力を見せつけてくるネヴァンに身を震わせる悔しさを感じていたのだ。
そこにタバサが「挑発に乗ったら負け」と、一言を添えたためにようやくルイズも引き下がっていったのである。
以前はその挑発に乗ってしまったがために半殺しにされたことを思い出したのだ。腹立たしいが、これ以上ネヴァンの挑発に乗っても良いことは何もない。
ルイズはスパーダが戻ってくるまでは我慢して、キュルケ達と一緒にじっと待つことに決めた。ネヴァンのことも無視することにする。
地獄門を通り、魔界へと向かったスパーダのことが心配であったが、彼は伝説の魔剣士と呼ばれた屈強な悪魔だ。並大抵の悪魔なんかより故郷を渡り歩くなど容易いものだろう。
たとえ魔界の悪魔達が襲い掛かってきても、スパーダにとっては敵ではないはずだ。
必ず自分達の元へ戻ってきてくれるとルイズは自然に信じていた。故に安心して、スパーダが魔界から帰還するのを待ち続けていたのだが……。
(まだ帰ってこないわ……何やってるのよ、もう……)
膝を抱えながら座り込み、じっと地獄門の穴を睨み続けていたルイズは未だスパーダが戻ってこないためにやきもきしていた。
魔界がどれだけの広さかは分からないが、スパーダにとっては庭みたいなもののはずだ。自分の故郷で迷うなんてことはまずあり得ない。
あの次元の裂け目を覗き込んで様子を窺ってみたいと考えていたが、魔界から流れ込んでくる瘴気をまともに浴びればただでは済まないだろうからそれはやめておいた。
そうしてルイズがスパーダのことを心配し続けていたその時。
「何かしら?」
ふと空を見上げると、遠目に無数の影がゆっくりと飛んでくるのが窺えた。
立ち上がったルイズは額に手を当て、その影が何なのかを確かめるべくじっと凝視する。
影はぐんぐん近づいてくるにつれて大きくなり形もはっきりと判別できるようになり、やがてそれらが七隻ほどの艦隊であると認識することができた。
それもただの船舶ではない。どれもトリステインの紋章を付けた、全長50メイル以上にもなる軍艦だ。
「あれって、トリステインの艦隊でしょ? メルカトール号とかいうのも見えるわね」
退屈凌ぎに化粧をしていたキュルケが差したのは、先頭を飛んでいる他のより一回りは大きい軍艦である。
その艦隊はルイズ達がいる広場の真上、およそ1000メイルの高さを静かに航行していく。
「そういえば今日は、トリステインの艦隊がアルビオンの政府からの親善艦隊を出迎えるって聞いてるけど……」
頭上を通り過ぎていく艦隊を見送りながら、ルイズは顔を顰め憮然としていた。
魔界の悪魔達が裏で手を引いているとはいえ、王殺しという恥知らずな所業を行った連中を賓客として歓迎しなければならないとは……たまったものではない。
いくら公的には不可侵条約を結んでいるとしても狡猾な悪魔達と手を組んでいる以上、汚い手段を用いて条約を破り、戦争を仕掛けてくるに違いないのだ。
「親善訪問ねぇ。まるっきり何かを仕掛けてくる気満々ね」
「ねぇ、キュルケ。あんた達の国とはとりあえず軍事同盟を結んでるんだから、レコン・キスタが宣戦布告をしてきたら当然参戦してくれるんでしょう?」
ルイズからの問いに対し、キュルケは何とも言えない微妙な表情を浮かべて唸りだす。
「うぅ〜ん……まあ、するにはするでしょうけど。正直言って、ゲルマニアも悪魔との戦いなんてまともに経験したことないものね。
レコン・キスタだけならまだ遅れを取ることはなかったでしょうけど、悪魔の軍勢も相手をするとなると厳しいでしょうね。やっぱり、ダーリンの力も借りないと」
ハルケギニアにとっては未知の敵でしかない悪魔と対抗するには、その悪魔達のことを熟知している伝説の魔剣士、スパーダの力が必要なのだ。
人間達の力だけではとてもではないが、勝ち目が無いことをキュルケは察していたのだろう。
「いつになったら戻ってくるのよ……自分の故郷なんだから、パッパと行ってさっさと戻ってきても良いのに……」
地獄門の次元の裂け目を睨みながらルイズは焦燥を募らせる。
「明日の日食までにはまだ時間があるんだし、焦らずに待ちましょうよ。その間に何か起きても、あたし達でできることをやればいい訳だし。
ダーリンが戻ってきたら、彼の力になれるようにがんばらないとね」
「当然じゃない。あたしはスパーダのパートナーなんだから」
「……ふふふっ」
「な、何よ」
突然キュルケがルイズの顔を横目で眺めながら楽しげに笑い出したために戸惑った。
「まさか、いがみ合ってたあたし達がこれから肩を並べて戦うことになるなんてね。ご先祖様が聞いたら、何て言うのかしら」
「こ、今回だけなんだからね! 全部終わったら、またあたしとあんたは敵同士なんだから!」
恥ずかしそうに顔を僅かに紅潮させながら顰めるルイズ。
本来ならばヴァリエール家先祖代々の仇敵であるツェルプストーと肩を並べて戦うなんてご先祖や実家の家族が聞いたら嘆いてしまうことだろうが、
今はハルケギニアそのものが危機に立たされている時なのだ。この世界を生きる者達の力を団結させなければ悪魔達には決して勝てない。
「はいはい。それまでの間はお互い生き残れるようにがんばりましょ。ヴァリエール」
こんな時でも本当に素直になれないルイズを、キュルケは素直に己の気持ちを露にしながら優しく肩を叩いていた。
ルイズはぶすっと剥れたまま、キュルケから顔を背けていた。未だその顔は気恥ずかしさで真っ赤に染まったままだった。
「タバサも絶対に死んだりしちゃ駄目よ?」
そんな二人の横で、黙々と本を読み続けているタバサの頭を撫でつつ真顔でキュルケは言う。
当のタバサもその言葉に、分かっていると言いたげにはっきりと頷いていた。
隣では、いつの間にかタバサの姿を写し取っていたドッペルゲンガーが全く同じ姿勢で、全く同じ動作を行っている。
自分の母親を救うという目的があるタバサにとってはこれから起きるであろうレコン・キスタと悪魔達の侵攻は大量のレッドオーブを集めるまたとない好機なのである。
それに悪魔達との戦いによって己の力をさらに磨き上げることができるため、まさに一石二鳥だ。
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
辺りの空気を震わせてしまうほどのその轟音は、ラ・ロシェールの方角から届いているものだった。
これから正午になろうという昼時。故郷のタルブで休暇を過ごしているシエスタは弟達と共に草原に出てきて、轟音が聞こえてきたラ・ロシェールの方角を眺めていた。
見晴らしの良いこのタルブの草原からだと、すぐ近くのラ・ロシェールの上空に浮かんでいる何隻もの軍艦を目にすることができる。
つい今しがた雲の中から静かに降下し十数隻もの軍艦を引き連れて現れた、一際大きな軍艦が礼砲を放ったのである。
「お姉ちゃん。何の音なの?」
「あれは礼砲といって、アルビオンからのお客様をああして迎えているのよ」
幼い弟や妹達が少々不安そうにしているが、シエスタは姉らしく振る舞いながら肩を抱いて宥めていた。
つい先刻には何隻ものトリステインの軍艦がこのタルブの上空を通り過ぎていったのをシエスタは目にしている。
アンリエッタ姫殿下の婚儀を祝うアルビオンからの親善訪問を歓迎するためにラ・ロシェールに停泊しているのだろうと察することができた。
アルビオンとは不可侵条約を結んだという触れはシエスタはもちろん、この村の人達もタルブの領主を通して聞き及んでいる。
故に戦争が起きることはないだろうと誰もが思っていた。
(……何だろう。この嫌な感じ……)
アルビオンの艦隊が姿を現してからというものの、シエスタは言い知れぬ不安と胸騒ぎが湧き上がっていた。
何か良くないことがこれから起ころうとしている。それが何なのかは分からない。
だが、悪魔の血と本能が目覚めていたシエスタは得体の知れない不穏な雰囲気をその身で感じ取っていたのだ。
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
今度はトリステイン側の艦隊から礼砲が放たれている。
ただの空砲にすぎないとはいえ、ああして軍艦同士が大砲を鳴らしているのを眺めているとまるで本当に戦争をしているのではと思えてしまう。
のどかな農村であるタルブにとっては、そもそも軍艦が近郊を飛んでいるという光景自体が異様なのだ。
礼砲が鳴る度に幼い弟や妹達の不安も大きくなっているのが分かる。
「さあ、家へ戻りましょう」
弟妹達をこれ以上心配させまいとシエスタは己の不安を隠しつつ一行を連れて自分達の生家へと戻ろうと村の中へ入っていく。
他の村人達も礼砲が鳴り響いたことに驚いている様子で、仕事を中断し立ち止まって空を見上げていた。
「お姉ちゃん、見て!」
「お船が……」
村の広場までやってきた所で弟妹達が空を振り返って驚きだし、声を上げていた。
――ボウゥンッ……!!
礼砲とは全く違う爆発音が轟いたのを耳にし、シエスタも思わず振り返る。
そこには思いもしなかった光景が視界に飛び込み、さらにシエスタの目は愕然と大きく見開かれていた。
トリステインの艦隊が出迎えていた十数隻ものアルビオンの軍艦の中の一隻が激しく炎を吹き上げながら墜落していくではないか。
沈むように落ちていった軍艦は地上に激突する前に空中で更に爆発を起こし、四散した。残骸が燃え盛る炎と共に地上へと降り注いでいく。
その光景を見届けた村人達は騒然とし始め、手をつけていた仕事をやめてみんな家の中へと逃げるように戻っていった。
「何が起きているの? お姉ちゃん」
弟妹達がシエスタにしがみついてきたが、当の本人は顔を真っ青にしたまま空を見上げ続けていた。
(来る――。……あの、悪魔達が)
あいつらは、もうすぐ近くにいる。
心臓が激しく高鳴っている。
呼吸が、いつもより速くなり、息苦しくなる。
シエスタの身に宿る悪魔の血と本能が、血に飢えた魔の住人達の気配を、殺気を感じ取っていた。
がくがくと足を、手を、肩を、唇を震わせている姉の姿に弟妹達はさらに不安になる。
「シエスタ。何をやっているんだ」
恐怖と緊張で体を硬直させ、動けないでいるシエスタとその弟妹達の元に、彼女達の父親が駆け寄ってくる。
他の村人が家の中に避難しているのに自分の子供達だけがまだ外をうろついているのを見て、連れ戻しに来たのだ。
「お前達も、外は危ないから家の中に入りなさい。シエスタ、お前も早く……」
父は幼い子供達を促しながら、長女であるシエスタにも声をかけようとしたが……。
――ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ! ドォンッ!
三度響き渡る激しい轟音。そこから一行の目に映っていたのは、恐るべき光景であった。
アルビオンの軍艦がトリステインの艦隊に向けて次々と砲撃を始めたのである。トリステインの艦隊はなすがままに砲弾を受け続け、船体から炎が吹き上がっていた。
中でも雲と見まごうばかりの一際巨大なアルビオンの軍艦から放たれる砲撃は容赦なくトリステインの軍艦を襲っていた。
ほとんど一方的な砲撃は続き、数分と経たぬ内にトリステインの軍艦が次々と撃沈されていく。
あまりにも信じられない光景を見届けていたシエスタ達は、その場から動くことができずに硬直していた。
唖然とする父は我が目を疑い、未だ地上へと落ちていくトリステインの軍艦を凝視している。
「馬鹿な。アルビオンとは不可侵条約を結んでいたはずじゃないか」
だが実際に目の前ではアルビオンの軍艦が砲撃を加え、トリステインの軍艦を撃沈していったのだ。
それにいつの間にか軍艦の周囲を飛び交っている無数の小さな影……あれはドラゴンだろうか? 遠目すぎてよく分からない。
その影がまるで鳥が集団で獲物に襲い掛かるかのように残ったトリステインの軍艦を取り囲んでいく。
「はやく……」
突然、がくんとその場で崩れ落ち蹲りだしたシエスタが己の肩を抱きながらがくがくと震えだした。
全身からどっと冷や汗を溢れ出させ、苦しそうに喘ぐような荒い息を漏らしている。
「みんなを、避難させなきゃ……」
戦慄に震えた声で、シエスタは喉の奥から声を絞り出す。
「シエスタ? どうしたんだ?」
「お姉ちゃん? 大丈夫?」
「しっかりして」
「森に……南の、森に、みんなを……」
家族達が心配する中、途切れ途切れで言葉を紡ぎだし続けるシエスタ。
その森には、先日スパーダ達を案内した聖碑≠フ遺跡がある。
「はやく、しないと……悪魔が……」
シエスタの身に流れる悪魔の血と本能は、曽祖父にして中級悪魔であるブラッドから引き継がれたもの。
人間の血も共に宿しているシエスタにとっては、そのおぞましい感覚はあまりにも刺激が強すぎるのであった。
そうしてシエスタが恐怖と戦慄に震え、家族達が困惑する中、トリステインの艦隊を全滅させたアルビオンの艦隊はラ・ロシェールからこのタルブへと近づいてくる。
空を飛び交う、無数の異形の大群と共に。
ものの数分で、アルビオン艦隊は国賓歓迎のために出向いていたトリステインの艦隊を全滅させていた。
レコン・キスタの更なる侵略の筋書きはこうだ。
本来、数日後に執り行われるはずであったトリステイン王女アンリエッタとゲルマニア皇帝アルブレヒト三世の結婚式の親善訪問と称し、だまし討ちを仕掛ける。
その手段は至って単純で、そしてあまりにも卑劣なものである。
親善艦隊を出迎えてきたトリステインからの礼砲と同時に、自軍艦隊の一隻であるホバート号に火を点けて放棄することで撃沈したように見せかける。
アルビオン艦隊はそれをトリステイン艦隊が砲撃を加えたと見なし、自衛のためと称して応戦を名目にした攻撃を行う。
そうすることでアルビオンはトリステインに対して合法的に宣戦布告ができ、不可侵条約を信じて戦闘の準備が整っていないトリステイン艦隊をなぶり殺しにできるというわけだ。
その奇襲作戦を指揮していたのはレキシントン号の艦長、サー・ヘンリー・ボーウッドであった。
彼としてはこんな汚い手段で他国を蹂躙するなど反吐が出るものであったが、所詮軍人でしかない自分にはその策を実行するしかない。
(あの悪魔め……)
心の中で、ボーウッドは自分にこの破廉恥な策を命じたクロムウェルに対して毒づいていた。
旗艦である『ロイヤル・ソヴリン号』――今では『レキシントン号』の上では、「アルビオン万歳!」「神聖皇帝クロムウェル万歳!」という兵士達の唱和があちこちで上がっている。
その中には神聖アルビオン共和国皇帝、オリバー・クロムウェルの信任厚いことで知られる艦隊司令長官にして貴族議会の議員、サー・ジョンストンの姿もあった。
(戦闘行動中に万歳とは……)
後甲板で、つい今しがた墜落していったトリステインの艦隊を悼むように見つめていたボーウッドは肩越しに冷たい視線を送りながら眉をひそめた。
かつて空軍が王立であった頃はあのようなことをする輩などいなかったというのに。
――ケエエエッ……!
――ブウウウゥゥンッ……。
風に乗って届いてきた不快な奇声や羽音を耳にしたボーウッドは、忌々しそうに左舷から眺めることができる空域を睨んでいた。
一面に広がる大空の中を、拠点制圧のために飛び上がった竜騎士達のドラゴンと共に無数の影が飛び交っている。
奇襲作戦の開始から数分と経たぬうちにどこからともなく姿を現した、異形の怪物達。
赤い体に鳥のように羽ばたく奴らはトリステインの艦隊に容赦なく襲い掛かり、死肉を喰らうハゲタカのごとく群がっていったのだ。
今も奴らは先ほど爆沈させたメルカトール号から吹き飛ばされてきた艦長らしき者の体に群がり、空中でその身を啄ばんでいた。
青い体をしている巨大なハエみたいな怪物に至っては、空中に投げ出された兵達の亡骸を四肢や頭などをわざわざ引き千切ってからムシャムシャと喰らっていく。
あまりに凄惨な光景に、ボーウッドは思わず目を背けたくなる。同じような光景が空域のあちこちで見られた。
……こんな悪魔のような奴らと、これからトリステインに攻撃を仕掛けねばならぬとは。ボーウッドの心中はいつまでも複雑な気分であった。
「艦長。実に見事な指揮であったな。これで私は閣下より預かった兵を無事、トリステインに下ろすことができる」
(クロムウェルの腰ぎんちゃくめ)
近づいてきたジョンストンが心から満足した様子で話しかけてきたが、ボーウッドは心の中で名ばかりの司令官に過ぎない男を吐き捨てていた。
つい先ほどまでは兵の士気が下がる、などと抜かして軍艦を近づけさせることにさえ怯えていた男が一転して有頂天になっている。
この男は空を飛び交う異形の怪物達を何食わぬ顔で見ているだけであった。それがまるで自分達のために動いてくれるガーゴイルなのだと思い込んでいるように。
「私は与えられた命令を実行したまでだ」
冷たく答えたボーウッドはこれから制圧の拠点とするタルブの草原へと降下する命令を冷徹にかつ迅速に命じていく。
礼砲のものではない爆音が轟いた時、ルイズ達はそれが異変が起きた証明であると受け取っていた。
すぐにタバサのシルフィードに乗り込み、空に舞い上がるとそこには恐ろしい光景が広がっていたのだ。
アルビオンの親善艦隊がトリステインの艦隊に砲撃を加え、次々と撃沈していったのである。それはあまりにも一方的すぎる攻撃で、トリステイン側はなす術なく全滅させられてしまった。
ルイズ達はシルフィードの上で虐殺にも等しいその光景をただ見ているだけしかなかった。
「やっぱり、案の定というわけね」
キュルケが呆れたように肩を竦める。予想はしていたとはいえ、こうも堂々とやられると脱帽してしまう。
「どうしてよ! 日食は明日だっていうのに、話が違うじゃない!」
トリステイン艦隊を全滅させたアルビオン艦隊を睨んでルイズは憤慨した。
奴らは裏で糸を引いている悪魔達と同調してトリステインに戦争を仕掛けてこようとしていたはずだった。
それなのに現実は見ての通り、レコン・キスタは全く違うタイミングで攻撃してきたのだ。おまけに見れば、悪魔達の姿もある。
スパーダの日食に攻めてくるという読みは外れた。このままではトリステインは奴らに蹂躙されてしまう。
「違う。あれは主力じゃない」
タバサは空を飛び交う悪魔達を観察して呟いた。
確かに悪魔達の姿はあれどもその数は100にも満たない。竜騎士達より数が多いとはいえ、悪魔の軍勢が攻めてくるにしてはあまりにも少なすぎる。
おまけにどれもが格も高くない下級悪魔達ばかりである。
恐らく、裏で暗躍している悪魔がレコン・キスタに貸し与えている軍勢の一部なのだろう。
「でも、ダーリンが戻ってくる前に仕掛けてくるのはさすがに予想外だったわね……」
「どうするのよ!? このままあいつらを黙って見過ごすって言うの!?」
「落ち着きなさいよ。あたし達じゃあの艦隊をまともに相手になんかできないわ」
「じゃあ、どうするって言うのよ」
困惑するルイズに、キュルケはくいっ顎でタルブの草原を指し示す。
見ればタルブの村から次々と村人達が逃げ出し、地獄門がある南の森の方へ向かおうとしているのが窺えた。
タルブの草原にアルビオンの艦隊が降下してくると、次々に地面に錨を下ろしていく。どうやらここを侵攻の拠点とするようだ。
その艦隊から次々と竜騎士や悪魔達がタルブの村目掛けて飛来していく。本隊上陸の準備としてつゆ払いをするらしい。実に手際の良いことである。
村にはまだ逃げ延びていない者達がいるのだ。このままでは戦う力のない農民でしかない彼らが奴らの餌食になってしまう。
そして、その中には学院のメイドであるシエスタの存在もある……。
「今、あたし達にできるのは彼らが無事に森まで逃げられるのを手伝うことよ」
キュルケが杖を構え、タバサはシルフィードに村の上空へと近づくように命じる。
(あたし達がやること……)
ルイズは草原を必死に逃げ惑うタルブの村人達を見て、己の胸の内を徐々に熱くさせていった。
魔法を使えることが貴族ではない。敵に後を見せず立ち向かう者こそが、真の貴族である。それがルイズの貴族としてのポリシーだ。
だが、ただ戦うだけならば平民の戦士にだってできること。では、貴族の使命とは何か?
既に、その答えはルイズには見えていた。
それは、民をこの手で守りぬくこと。それが貴族の果たすべき使命なのだ。
公爵である実家の父だって、領民の安全を守ることを何より優先していたのだから。
スパーダもフォルトゥナの領主であった時はもちろん、今だって人間達を守るために戦っていたのだ。
きっとアンリエッタ王女も、民の危機を知れば彼らを救い、守るために行動するだろう。
ならば、自分だって……。
杖を引き抜いたルイズは迫り来るレコン・キスタと悪魔達に向かって吠える。
「かかってきなさいよ! レコン・キスタ! あんた達にこれ以上、好き勝手なんかさせないんだからね!!」
その叫びと同時に、竜騎士達と共に飛来してきた血に飢えた悪魔達がシルフィードに向けて一斉に突っ込んできた。
竜に乗り、空を飛び交う三人のメイジ達は、襲い来る敵を迎え撃たんと杖を振るわんとする。
あまりにも張り切りすぎて興奮していた彼女は、指に嵌めている水のルビーが光っていることに気づいていなかった。
王都トリスタニア、トリステインの王宮に国賓歓迎のための艦隊が全滅したという報せが届いたのはそれからすぐのことである。
さらに同時にアルビオンより宣戦布告が届けられたことにより、王宮は騒然となり混乱は熾烈を極めていた。
それまでゲルマニア皇帝との結婚式の準備で忙しかったのが急変し、即座に大臣や将軍達が集められて突然のアルビオンからの宣戦布告に対する会議が開かれた。
会議室には宰相マザリーニ枢機卿、そして上座にはこれからゲルマニアへ行こうとしていた王女アンリエッタとその母である太后マリアンヌの姿もあった。
アンリエッタは本縫いが縫い終わった純白のウェディングドレスに身を包んでいるのだが、この状況でその姿を気に留めるものなど誰もいない。
「まずはアルビオンへ事の次第を問い合わせるべきだ!」
「いや、ゲルマニアより軍を派遣するよう要請すべきだ! 何のために彼らと同盟を結んだのだ!」
「そのように事を荒立てていかん。偶然の事故が生んだ誤解なのですぞ? 今ならまだ誤解を解くことができるかもしれん」
「ええい! 残りの艦を全てかき集めるのだ! 数でかかればアルビオンの艦隊と言えど何とかなる!」
だが、この卓上で続けられているのは会議とは思えぬ不毛な議論による怒号、それによりもたらされる紛糾のみであった。
有力貴族達の意見は一向にまとまる気配を見せない。
アンリエッタは貴族達のあまりに見苦しい姿に呆然としていた。マザリーニもマリアンヌも、卓上で繰り広げられる彼らの不毛な言い争いに頭を痛めるばかり。
とは言っても、彼女達ですら結論を出しかねている状況であった。
マザリーニはできることなら外交による解決を望んでいた。どんなに努力をしようといずれこうなると分かってはいたものの、負ける戦などしたくはないのである。
マリアンヌは心の中でこの現状を憂いていた。
彼らがこうも混乱を極めているのは、彼らを導く指導者がいないからに他ならない。
だが、自分は女王などではない。亡き夫である先王を偲んで王妃としての立場を貫き、即位することはなかった。
故に紛糾する彼らを正す資格も力もない。夫や先々の王であった父・フィリップ三世ならばすぐにでもこの混乱を収拾できたであろう。
マリアンヌは今になって後悔する。国は指導者なくしては決して機能しない。その指導者を長きに渡って失っていたがためにこのような事態に陥ったことに。
そして、何もかもが遅すぎたことに。
「やはりゲルマニアに軍の派遣を要請しましょう!」
「いや、アルビオンに特使を派遣すべきだ! こちらから手を出せばそれこそ全面戦争の口実を与えることになる!」
そうこうしている内に昼が過ぎていたが、未だ会議室では不毛な議論が怒号と共に繰り返されていた。
その間にも様々な報せが会議室へと届けられてくる。
アルビオン艦隊はタルブの草原に降下して占領行動へと移ったこと。
タルブ領主、アストン伯の軍勢が交戦を始めたこと。
……数え切れない報告が次々と舞い込んでくる。そして、その報告が届く度に貴族達の混乱はさらに激しくなっていく。
もはや、会議としての機能さえ果たしていないのではないかと思うくらいに貴族達は卓上で無意味な論争を続けていた。
(ウェールズ様……)
怒号が鳴り止まぬ中、アンリエッタは己の指に嵌められた風のルビーを握り締める。
生きているのか死んでいるのかすら分からない、愛している人が勇敢に戦い続けていたのであれば、自分もまた勇敢に生きてみよう。
ルイズからこの指輪を託された時、そう誓ったのではないのか?
今、自分に何ができるのか。アンリエッタ醜い争いを続ける貴族達を視界に捉えぬようそっと目を伏せ、考える。
「急報です! 所属不明の風竜が戦闘区域に乱入! 敵軍と交戦している模様!」
何度目かも分からぬ急報が届いた時、貴族達は議論を中断してその報せに耳を傾けていた。
だが、彼らは訳が分からないといった様子で顔を顰めだす。
「どこのどいつだ! 余計な真似をしおって!」
急使は戸惑いつつも届けられた報告を淡々と読み上げていく。
「偵察に向かった竜騎士によると風竜に乗っていたのは三人組のメイジで、先日この王宮に参られた魔法学院の生徒だとのことです」
魔法学院の生徒――その単語を聞いた途端、アンリエッタは目を見開いていた。
思わず席から立ち上がりかけるほどの衝動に駆られたが、かろうじて抑えこむ。
魔法学院の生徒……風竜……そして、この王宮へと最近訪れたことのある者達。
たったそれだけで、アンリエッタはその三人組のメイジの詳細を理解することができていた。
(あなたなの? ルイズ……)
自分があまりにも無茶な願いを命じてしまった、幼き日からの友人。
彼女は仲間達と共にアルビオンで任務を果たし、生きて戻ってきてこの風のルビーを託してくれた。
その彼女が、今度はこの国を守るために戦っている?
無二の親友が今起こしている行動に、アンリエッタは心打たれていた。
貴族として、王族として君臨する者が今すべきことは何なのか。
アンリエッタはようやく、今自分が行えることが何であるかを見出すことができた。
(ありがとう。ルイズ……)
そして、心の底より無二の親友に感謝する。それはあまりにも単純なことであり、何も難しいことではなかったのだ。
「だからどうした! そんな者達のことなど、どうでも良いことだ!」
「今はこの事態の収拾をつけることが先決なのだぞ!」
だが、貴族達はルイズ達が懸命に行っている活動に関心すら抱かずに吐き捨てていた。
貴族として、王族としての役目を軽んじ踏みにじるその発言に、ついにアンリエッタは憤慨した。
「いい加減になさい!」
大きく深呼吸して立ち上がり、アンリエッタはあらん限りの声量で威厳に満ちた声を張り上げる。
会議室に響き渡る王女の一喝に、それまで騒然としていた貴族達は面食らったようにアンリエッタへと一斉に視線を注いでいた。
それまでこのトリステイン王国の象徴的存在にして、飾りの姫としてか見えなかった愛らしい姿が一変してしまっていることに貴族達は唖然としていた。
「姫殿下?」
「アンリエッタ……」
同様に、隣に控えているマザリーニやマリアンヌさえ彼女の姿に動揺している。
「あなた方は恥ずかしくないのですか? 先ほどから聞いていれば、世迷い言も甚だしい……。国土が敵に侵されているこの状況で同盟だ、特使がなんだと騒ぐ前にやるべきことがあるでしょう?」
貴族達の一部はひそひそと声を潜めて囁き合う。これからゲルマニアに嫁ぐはずだった飾りの姫が、熱くなっていきなり何を言い出すのかと。
アンリエッタは卓上を叩き、大声で叫ぶ。
「わたくし達がこうしている間にも、民の血が流されているのです! 彼らを守ることが、我ら貴族の……王族の務めではないのですか!」
その言葉に貴族達は黙り込む。マザリーニもマリアンヌもアンリエッタの発した言葉が胸に響いていた。
アンリエッタはつい先ほど、無二の親友の行動を蔑んだ貴族の一人を睨みつけた。
王女の射抜くような視線に、彼はびくりと竦み上がる。
「あなたは言いましたね? 魔法学院の生徒達のことなどどうでも良いことだと。彼らは本来、騎士はおろか軍人でさえありません。
ですがそのような者達でさえ国を、民を守るために戦ってくれているのですよ? その行動が、どうでも良いというのですか?」
「い、いえ……姫様……」
冷め切った視線と声でアンリエッタはそのまま言葉を続ける。それはかつて、ルイズの使い魔を務めている異国の貴族が自分に対して向けたものと同じであった。
「あなた達は怖いのでしょう? 敗戦後に責任を取らされることが。反撃の計画者になりたくない、このまま恭順して命を永らえたい。だから民のことなどどうでも良い。そう言うのですね?
……わたしは決して屈しません! 戦わずして、民を守れずに敵に降伏するなど、貴族の誇りを捨てるようなもの。死も同然です!」
決意に満ちた表情で、アンリエッタはかぶっていたヴェールを払い捨てた。
「そんなに怖いのであれば、いつまでもそこで論議を続けていなさい!」
「姫殿下!」
二人に一礼したアンリエッタはそのまま会議室を飛び出していく。貴族達は慌ててアンリエッタを押し留めようとする。
「お待ちを」
そこにかかる、宰相マザリーニの一声。
貴族達もアンリエッタも、その声に振り返っていた。
「姫様だけを行かせたとあっては末代までの恥。私もお供をしましょうぞ」
アンリエッタに歩み寄ったマザリーニはその前で跪く。
全ては姫の言う通りであった。既に彼が望んでいた外交的解決の努力は水の泡となっている。これ以上、論議を重ねるだけ無駄なこと。
今、やるべきことはただ一つ。それはあまりにも単純であり簡単な行動であることを失念していた。
マザリーニの言葉に、アンリエッタは強く頷く。そして、上座に控えたままの母へ笑顔と共に視線を向けた。
マリアンヌは愛する娘の指導者らしい勇ましい姿に心から満足し、微笑みながら頷きを返していた。
※今回はこれでおしまいです。
空を飛べるルイズ達でも簡単に倒せそうな雑魚悪魔があれくらいしか思いつきませんでした。ご了承ください。
以前ケイン&リンチ召還を埋めネタで書いたんだけど
短いけど新作できたんで投下するで。
第1話 ”Drop the weapon. nice and slow.”
「…ミスタ・コルベール、どうしたらいいのでしょう…。」
「…私に聞かれましても。」
医務室でミス・ヴァリエールと私は二人して頭を抱えていた。
頭痛の種は他でもない、目の前のベッドで横たわる、彼女が召還した2人の中年男性である。
召還された際は、体中に重度の火傷に無数の切り傷を負っていた2人だが、現在はミス・モンモランシーによる治療を受け、
当直医から「命に別状なし」と診断された。それでもなお首から胴体にかけて残る痕が痛々しい。
現在中年2人は鎮静の魔法をかけられ、医務室のベッドで眠っている。
「ミス・ヴァリエール、その、これは儀式の一つですので変更などは認められないのはお分かりですよね?」
「え…ええ、承知しておりますわ。」
「ですので、貴女にはこれから使い魔と”契約”をしていただくことになるのですが…。」
「しょ…承知しておりますわ。」
「そこで…どちらの使い魔と契約なさるのですか?」
「………。」
彼女は頭を抱えて、再び悩み出した。
一度のサモン・サーヴァントで2体の使い魔を召還する…しかもその使い魔は見たところ平民である。
前代未聞。悩むのもムリはないが、早く契約を済ませてくれないと授業単位の認定も出来ないので、
こうやって、5分おきに”契約”を済ませるように急かしているのだ。
…ちなみに、2人がここに運ばれてからというもの、かれこれ50分は経っている。
「…では、彼らが目を覚ましてから、よく相談した上で契約を行ってください。よろしいですね?」
「…はい。」
「時間的にそろそろでしょうし、私もそれまでここで待っていますから。」
「お手数おかけします…。」
鎮静の効果もまもなく切れる頃だと思ったので、今しばらく医務室で待つことにした。
「…う〜む。」
手持ちぶさたな私は、2人が横たわっているベッドの間にある机の上に置かれた荷物を見てみることにした。
といっても大半の物は丸焦げになっているため、無事な物は茶革の手帳と財布、大小様々な黒鉄の箱に収められた金色の棒、
手巻き煙草の入った箱に、画期的な携帯式の発火装置。
さきほどいじり回していた際に間違って火を付けてしまい、指を火傷しそうになった。
「おお!、なるほどこれで煙草に火を…。それにしてもこれは一体…。」
これとは2人が肌身離さず持っていた妙な形をしたメイジ殺しのようなモノ。
この中年2人はいったい何者なのだろうか。
2人が召還された際、持っていた物の中にそのメイジ殺しのようなモノがあることから平民の傭兵ではないかと思ったが、
あのメイジ殺しは近隣諸国で製造されているものとは思えない。
第一、本当にメイジ殺しなのかも疑問である。そうだとしても、どこで手に入れたのか。
そしてあの意匠…とても興味がそそられるフォルムである。
「…ちょっとだけ触ってみよう。」
くれぐれも引き金(とおぼしき部分)には触れないように、彼らの持っていた4つのメイジ殺しのうち1つを手に取ってみた。
その全長は1メイルほどで、重量もなかなかにある。上部には偵察用か、望遠鏡が付いていた。
以前、研究用にトリスティンにおける最新の火打石銃を取り寄せたことがあるが、どうもそれとは構造からして異なっているらしい。
さて、別の物も観察してみるかと、机にメイジ殺しを置いたところでふと気がついた。
「…むむ?」
机には4丁のメイジ殺しが置かれていたはずだが、1つ目の観察を終えて机に向き直ってみたら1丁無くなっているのだ。
落としたかなと思い、下に視線を移すとそれはすぐに見つかった。
寝ていた中年の1人はどうやら起きていたらしく、手にそのメイジ殺しは握られていた。
その銃口の奥には、弾丸の頭の部分がぼんやりと見えた。
「ゆっくり銃を置け。」
その声に私は戦慄した。
やっぱみじけえなコレ
また今度続き書くかもしれないです
乙っす
89 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/19(水) 16:51:01.75 ID:Rsdgy779
ときめきメモリアル・葉鍵SSのキャラクターの名前をメモ帳で
エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、初恋ばれんたいん スペシャル、Canvasのキャラクターの名前で変えながら
SSを読んだがいくつのSSは意外におもしろい
新作乙です
パパーダ乙
ゼロのグルメ乙!
面白かったわw
乙〜
サイヤの人来ないな、、、
ドラゴンボールのキャラはたいてい一発ネタになりそうだけど呼んでおもしろそうなのはブウとか16号とかかな
バーダックはテファのとこに呼べばなんとか、桃白白はジョゼフのとこ
悟空は少年時代なら強いことは強いけどギリギリバランスブレイカーにならなくてすむかも
メルル王女とルイズのコラボなんてどう?
>>97 少年時代でも、亀仙流弟子入り後はダメだと思うが。
亀仙人自体が月を破壊できるチートキャラであっという間にそれ以上に成長してしまう。
まだ亀仙人に出会う前なら如意棒しか持ってないから…と思ったが
その気になれば如意棒だけで戦艦叩き落せるかw
最初期悟空:拳銃の弾が当たってもちょっと痛いだけで済む
亀仙人:頭にアイスラッガーが刺さっても死なない、山や月をふっとばす、マシンガンの弾を素手で全部掴み取れる等
まぁ設定とか考察とか抜きに楽しむ漫画だからなぁ
古き良き少年漫画って感じ
いま話題のDTさん召喚すればええんとちゃう
似たような世界のスレイヤーズとかは?
ガウリイとかなんてサイトの良き兄貴分になってくれそうだけど。
あ、でも一緒に召還されないとだめか・・・。
そもそも論として、ゼロ魔ってハルケギニアのメイジより圧倒的に劣ったキャラを呼ばないと話にならないからねぇ。
多少でも特殊能力があった場合徹底的にデチューンしないと無双されるし。
サイトと同時召喚はざらにあるぞ
ただし途中からサイトが空気になる割合も高いが
?「サイトをセットで召喚しタバサさんにあてがうべき」
>>106 原作シリアス系の非常識系じゃない
特殊な能力なしな特殊な境遇なだけの人間やめてない主人公か
キャラの性格で話が変わるっていうのは面白そう
ルパン三世のルパンとかかなー、五右衛門はなしだな
戯言のいーちゃんみたいなひん曲がった性格もおもしろいかも
まあ勝ってばかりのバトル展開っていうのもつまんないよな。
勝つか負けるかわからないぐらいの危機感みたいなのって重要だし。
よし! アキバレンジャーや仮面ライダーやオカムレンジャーを召喚しよう。
仮面ライダーじゃなくて『ノ』リダーだったw
>>98 ルイズがゴーレムに突っ込むと、無能の働き者ウゼーと思うが
メルルがリザードの群れに突っ込んでも、お転婆だなと思えてしまう
似たような容姿・家柄・向こう見ずな性格なのに何故だろうか
なぜかって、そりゃルイズアンチの頭がおかしいからさ
ルイズに限らずだけど、原作最初の頃はキャラが完全に固まってないせいか、
結構ひどい性格(行動)だからな。
だから原作どおりにしちゃうとイライラ感が半端ないのかも。
とっつぁんと大首領と沖田艦長とユパを召喚か。エースはまあ遠慮するとして。
ブリミルの正体は大鵬かな。
「私のカエル様」のカエルを召喚とか見てみたい
普段は身の回りの手伝いロボで、剣を持ったら強くなるっていう設定だし
結構馴染みそうな感じ
ゼロ魔の戦力的にバランス崩壊キャラだからダメ、みたいな論調はどうなんだろうな
ハンデ無しの強キャラ召喚で、その脅威性をまともにゼロ魔世界とかち合わせるifを練ったり
或いは強さ自体をネタに昇華させたりといったような、安易な蹂躙もの無双ものでない良作は実際に相当数存在するし
そもそも論として、キャラクターじゃなく戦力だけ見てクロスオーバー検討してどうすんだ…バトロワでもあるまいに
理想郷であったテラフォーマーゴキブリ召喚のIF物とか面白かったよ。
けれど力技で問題をクリアできる人ってワルド編辺りで積んじゃう傾向があるからーなー
アルビオン編の時点でレコンキスタを殲滅できる戦力を持つ人って使いづらそうな傾向がー
まあ、召喚する人を限定しちゃうような会話もよくないなうん。
魔法や攻撃力がゼロ魔世界より優れていて自分が空飛べたりすると
さじ加減が難しいよね
なのはの人とか萌え萌えの人とかうまく作ってるなぁと思う
ウルトラマンでさえクロス成立してるのに、何をいまさらな感じがあるけどねえ
作者の心境としての話だろ
デウスエクスマキナ的なキャラ持ってきて、どうやって違和感出さずに物語作ってくかのさじ加減
デウスエクスマキナが、たった一発で…!
>122
《オーディン》したんだな。宇宙が黙って平和になりそうになったんでやむなく。
>>122 どこからエクセリオンを掘り出したんだよw
タルブから掘り出したんだろ(タルブ万能説)
デウス・エクス・マキナか
ダブルクロス小説版の主人公とか、他の"輪廻の獣"食べられないと怪物化するんだっけ
>>117 その通りなんだけどいかんせん数が多すぎて
あ、次こうなるな、みたいになってそれが当たったりしちゃうんだよ
で、言われた通り重要なのはキャラクターなのにそのキャラが
その他のキャラに対する影響がほぼなかったり、せいぜい
虚無発覚が早まるだけだったり、それが活かされることがなかったりして
キャラが違う意味がないって作品が多過ぎる
だから数が少ないそういう方向性のものを読みたくなる
召喚したキャラとやり合わせるために召喚元の世界から
呼び出したりすると蹂躙ものですらなくなって、原作と大して変わらない
何がしたいの?って作品になる
もちろんそれで展開が大きく変わったりしたらむしろ最高なんだが
原作と同じ流れでも読めればそれでいいんだよ
極端な話、まとめサイトで頁数が数十あって時間が潰せればいい
要するにエタるなってこと、どれも連載を半端にするからそこまでの時点での議論しかできない
ギーシュ戦、フーケ戦、ワルド戦までは皆結構勢い良く書くから急に勢い落ちたように見える
作者の技量次第
アホはどんな設定で書いても詰まらんし
上手い人はたいていの食材は扱える
>>117 そうは言うけど、トンデモなキャラクターを出した手合いは途中で更新が止まることが多いからなぁ…。
もしくは、超強力キャラなのに原作通りに進めようとしてコレジャナイになってるか
鰤の一護が最初のギーシュ戦で敗北しかけるとか、流石にバランス以前の問題だよな
まとめwikiで問題のSS見つけた時は、開いた口が塞がらなかったわw
SO2のクロードはいいバランスだった
良作を作る人はゼロ魔と好きな作品のクロスオーバーを楽しみたくて書く
駄作者はルイズに説教して優越感を味わいギーシュ相手に無双したいだけ
だから無理矢理決闘起こしてすぐに止まる
ゼロ魔二次創作の主題はササキさんがどんな人物だったかよ
DQ5主人公のギーシュ戦は目鱗だったな。
ワルキューレが一体ずつだからバギ一発で倒せないって。
玉石混交はクロス系のさだめだからなー・・・
クロスに限らずネットで創作漁ってれば玉石混合であたりまえだろ。
クロスの方が難易度高いってのはあるけど。
玉石混淆…
穴があったら……orz
個人的な視点だが、ここで現在不定期(または定期?)的に続いてる長編系は良い物多いと思うよ。
異論は認める
まあだ誰でもいいからキャラの性格に重きをおいた作品を一つ書いて欲しいです
>>144 イマイチ漠然としててわからんな。具体的にはどんな作品のこと?
>>145 いざ上げろと言われるとなかなか難しいな
わかり易いものだと毒の爪の使い魔とかがそうだと思う
召喚じゃないけど異世界の魔王様とかもそういう系統かな
今更だが言い方が極端だった
召喚されたキャラの力が強くても弱くてもちゃんとそのキャラの
性格によるその他のキャラやそれによる展開への影響もある作品だな
テンプレじゃなくてちゃんと考えて書けや、って意味?
まぁ別にテンプレでも悪くは無いと思うが、書くのならそれなりに味は出してほしいよね
るろうにの使い魔とかはテンプレでもしっかりと剣心の性格とか再現できてると思うし
ここ最近は、クロス側を無理矢理ゼロ魔のテンプレに合わせる…っていう作品は見ないな
うまいテンプレ作品は飛ばし方がうまい
ここは原作通りハイハイ分かってるよね、の仕方が
下手なのはここが下手
だからそういうのはテンプレ作品って言わないっての
ここってテンプレのテンプレって決まってるんだ。
お前らが評論化気取りで定義がどうだ、テンプレがどうだ抜かすと
書き手が怖気づいて、新作が全然こなくなるだろーが
議論するなら別スレいけザ子供
ここって元々特にガキが多いスレだろうに
マグネロボ召喚とな?
定義がどうだなんて議論してねえし誰か一つそういう作品書いて欲しいとしか言ってない
みんながそういう風に書けなんて言ってないし思ってもない
強大な力持ちを召喚しても短編だとキレイにまとまるよな。
ポケ戦のザクとバーニィ召喚とか。
邪眼は月輪に飛ぶのミネルヴァ召喚ネタ好きだったなぁ。
ゼロ魔キャラだからって面白さとは違う形の面白さだったから好み分かれそうだけど。
>>157 メンテフリーなガンダムといえばターンAとかか
シエスタと並んで洗濯をするホワイトドール
161 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/28(金) 16:16:49.64 ID:RfkNETRT
162 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/28(金) 16:18:33.15 ID:RfkNETRT
メンテフリーつったらラインバレルのマキナもそんな感じか
量産設定もあるしマキナだけ飛ばしてもいけそうだな
メンテナンスフリーじゃなくてもメンテナンス体制が整ってて個人でメンテナンスしながらの運用前提でもいける
ガンダムならGガン関連とかな
タルブにある風車小屋がガンダムとな
いやむしろ風石が埋まってるんじゃなくて大量の風車小屋モドキが埋まってる、と
なんというブラックマウンテン(黒歴史)
だが単機で登場する全ての敵をなぎ払える性能
ブレンパワードみたいな生き物系のロボなら放置してても大丈夫だし、
ライディーンみたいな神秘系なら「ムートロン(まりょくぽいもの)を与えておけば大丈夫さ」
生き物っぽいメカといえば成恵の世界の機族だな
星船喚んだら大当たり
あの作品、パラレルワールドありだしクロスさせるには相性良さそう
ドラゴンボール系統のメカはあまり手入れいらなそう
メタルクウラはやばいが人造人間16号は大丈夫かな
18号とかメンテフリー
逆に考えてメカっぽい生き物・・・・ロム兄さんとか?
174 :
るろうに使い魔:2012/12/29(土) 23:56:03.15 ID:aIHqIS5l
大変遅くなりましてすみません。
ウイルスにやられてここ2週間ほどインターネットが開けなかったのですが、何とか回復しました。
自分にとって年末最後になるであろう新作の投稿を、0時丁度から始めようと思います。
175 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:00:58.85 ID:C+b5eiBe
「ケンシーーーーーン!!」
「ギーシューー!! どこ行ったのよぉーーー!!!」
ルイズ達は必死な形相で、剣心達の後を追った。端から見る生徒からは、何事だと思うことだろう。それを気にせず、ルイズは走る。
しばらくして、月夜の照らす中庭の辺りまで来ると、剣心を見失ったギーシュが一人泣き叫んでいた。
「おーーーーいおいおい、どこ行ってしまったんだよぉ。ケンシィィン。おーーーーーーーーいおいおい―――――」
ギーシュの姿を視認したルイズは、何のためらいもなく杖を抜いて呪文を唱えた。ボガァンと、ギーシュの顔面が爆発し、これでもかという程に吹っ飛んでいった。
第三十三幕 『ヴァストリの決闘 第二幕』
「ちょ…ルイズ! いきなり何すんのよ!!?」
「何、文句あんの?」
遅れてやって来たモンモランシーの叫びに、ルイズはギラッと目を光らせて言った。そして一旦辺りを見渡すが、剣心の姿は何処にもいない。
「ケンシン!! もう大丈夫よ!! 戻ってきなさい!!!」
そうルイズが叫んでも、空虚な響きが辺りを木霊するだけ。剣心は一向に姿を現す気配は無かった。
余程おぞましいものを見たのだろう、どうやら本気で身を隠しているようだった。
飛天御剣流継承者である剣心が全速力で走ったら、それはギーシュといえど追いつけるものではない。
剣心のいない虚しさを覚えながら、ルイズはその怒りのはけ口をギーシュ達に向けた。
「さあて説明してもらいましょうか? 一体どうして何が起こったのか?」
悪魔のような形相をしながら、ルイズは杖をモンモランシーに突き立てた。逃げようとすれば即ギーシュの様に吹っ飛ばすつもりなのだろう。
モンモランシーは大きなため息をつきながら、渋々経緯を話そうとしたが…その前にギーシュがムクリと起き上がった。
「痛ったいなあ、全くなにするんだい?」
「ギーシュ、あんた…」
かなり力をいれたのに…ルイズは少し驚きながら、あっさりと起きてきたギーシュを見つめた。
モンモランシーは、ハッとしたようにギーシュに詰め寄る。
「ちょっとギーシュ!! こっちを…わたしを見なさいよ!!」
どこか慌てた様子でモンモランシーは叫んだ。普通なら、この状態の彼女に対しギーシュはお世辞のようなフォローの一つや二つ入れるのだろうが…。
「何だモンモランシーか…悪いけど気安く触らないでくれるかな? 生憎と僕の心はもう決まってしまったからね」
と、興味のなさそうな視線を隠そうともせずに憮然と言い放った。
「………えっ……」
それを聞いたモンモランシーは、ただ目を見開いて呆然とするしかなかった。
さっきまで彼に何度も褒めちぎられた分だけ、この冷たい反応にはかなり応えた。怒りより先に悲しみの方が込み上げてくる。
しかもこのギーシュを作り出したのは他ならぬ自分の薬だ。
まるでそこだけ時間が止まったかのように、ただへたりこんで固まったモンモランシーに対し、ルイズは容赦なく追い打ちをかけた。
「ホラ、ボケってないでさっさと説明しなさいよ。ギーシュは何してこうなったの!?」
ルイズの怒号にも、暫くの間モンモランシーは反応を示さなかった。
やがてギーシュが立ち上がって再び剣心を探そうとし始めたので、もう一度ルイズは杖を振るった。今度はありったけの力を込めて。
ドゴォン!! と最初の時より大きな爆発音を轟かせて、ギーシュはもう一度気絶という名の眠りへとついた。
この様子に、幾拍か理性が戻ってきたモンモランシーは、今度は怒った様子でルイズに向かっていった。
「そうよ……あんた達さえ来なければこんなことにはあああああ!!!」
「だから分かんないって言ってんのよ!! さっさと説明しなさいよおおおおおお!!!」
そうやって暫く怒鳴り合っていた二人だったが、ようやく落ち着いてきたのか、今度こそモンモランシーは経緯を渋々ながら話した。
176 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:01:50.84 ID:C+b5eiBe
「つまり、ギーシュがあんなのになったのは、あんたが作った『惚れ薬』が原因と」
ルイズの確認に、モンモランシーは軽く頷く。
「で、飲ませたはいいけど最初に目があったのが、丁度やって来たケンシンだったと」
この問いにも、モンモランシーは頷いて答えた。
「だから今のギーシュは、ケンシンに対してあんな風になってると…これでいいのかしら?」
最後の状況確認に、モンモランシーはゆっくりと頷いた。
それを聞いてルイズは、溢れんばかりのため息を吐いた。
「じゃあ何…もしかしてわたしも危なかったってこと…?」
そして同時に身震いした。もし最初に目が会ったのが剣心でなく自分だったら…それは絶対に考えたくなかった。そう言う意味では、剣心に感謝しなくてはいけないかもしれない。
「まあいいわ…いや、良くないけど。とりあえず薬のせいってことは、解除する薬も当然あるんでしょ?」
ルイズの問いかけに、モンモランシーは気まずそうに頬を掻いた。…嫌な予感がルイズを襲う。
「…え…まさか…無いの…?」
「だから、こうなるなんて思ってもみなかったの!!」
モンモランシーは苦しそうに叫んだ。今のご時世にご禁制の薬。特に『惚れ薬』ともなると、材料だけでもべらぼうな値段がかかる。
正直お金が足りなかったモンモランシーは、『惚れ薬』だけで手一杯で解毒薬を作る資金までまわせなかったのである。
「作ろうと思えば作れるわ…でも材料が足りないし、それを買うお金がないし…」
「じゃあ、もしかしてギーシュは、ずっとあのまんま……?」
一瞬の沈黙、そしてルイズとモンモランシーは同時に背筋を凍らせた。
「じょ…冗談じゃないわよ!! 早く戻しなさいよ!! 何であんた達の下らないトラブルにわたしの使い魔を巻き込むのよ!!!」
「分かってるわよ!! 直したいわよ!! でもお金がないのよ!! 分かってよ!!」
「身体を売ってでも稼ぎなさいよ!!」
「ひどい!! 鬼! 悪魔!!」
再びぎゃあぎゃあ騒ぎ始めるルイズ達だったが、それで状況が好転するはずもない。
それから一刻後、息も絶え絶えに騒いだ後に、半ばヤケ気味にルイズが言った。
「分かった…お金ならわたしも少しは工面してあげるから、あんたは家族に言うなりして資金を送ってもらいなさい…それで手を打ってあげる」
姫さまからの宝石があれば…一瞬そんな事が頭を過ったが、直ぐにルイズは頭から振り払った。無いものをねだってもしょうがない。
モンモランシーも、それで少しは納得したのか、さっきより落ち着いた様子で言った。
「そう…なら早速準備を始めなきゃ。少し時間がかかるけど、それまで待って」
「どのくらい?」
「…今から調合に必要なものを調べるとして、大体二、三日位かな…」
「はぁ!? それまでアイツを野放しに…って、アイツはどこ!!?」
ここでルイズ達はようやく、ギーシュの姿が居なくなっていることに気がついた。どうやら話に夢中になっている間にまたもや起き上がっていたらしい。
「ああ!! もう、どうしてこうなるのよおおおおおおおおお!!!!!」
怒りで髪を掻き毟るルイズをよそに、モンモランシーはやるせなさそうにため息をついた。
「ホント…どうしてこうなったのかしら…」
「はぁ……」
その後、ルイズ達は再び剣心やギーシュを探し始めたのだが、結局二人の姿は影も形もなかった。
夜も暗くなってきたので、一旦探索を打ち切ることにしたルイズは、そのまま調合の仕方を調べることにしたモンモランシーと別れ、自分の部屋へと帰ってきた。
扉を開ける時、もしかしているのかな…? と淡い期待を抱いてドアノブに手をかけたのだが…。
「やっぱり、帰ってきてないか…」
部屋を見てもやはり剣心は居なかった。
「もう…主人を放っておくなんてどういうつもりよ…」
そう小さく呟きながら、ルイズはやるせなさそうに服を着替えてベットに潜り込む。顔を上げればいつもそこにいる使い魔の姿が、今はない。
それだけでルイズは、心の中から悲しみというのが段々と込み上げていくのだった。
「せめて…どこ行ったか教えてくれてもいいじゃない…」
分かってる。剣心は只の被害者だ。余計なお節介がこの事態を招いたとはいえ、剣心に罪はない。
でも、こういう感情は理屈じゃない。頭では剣心は悪くないとは思っても、心ではどうしても彼に対して憤りを覚えてしまうのだ。
そんな自分にも軽い怒りと自己嫌悪を感じつつ、もう夜も遅いとルイズは布団を頭まで覆って眠ろうとした。その時―――。
コンコン、と、ドアではなく窓の方から音がルイズの耳に確かに聞こえてきた。
177 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:04:05.69 ID:C+b5eiBe
「ケンシン……!!」
ガバッと跳ねるように起き上がり、ルイズは窓を開けて夜空を見る。
やがてひょっこりと、窓の下から剣心の姿が顕れた。
「いやあ、すまなかったでござるな。ルイズ殿」
彼のいつものニコニコ顔を見ると、不意に抑えていた感情がルイズの中で沸き上がる。それを必死に悟られないようにしながら、ルイズは震える声で言った。
「バカぁ!! どこ行ってたのよ…心配したでしょ…!!」
もっと色々言いたかったが、これ以上言葉を出すと涙も一緒に出てきそうだったから、ルイズはそこで止めた。プライドが高い故にどうしても自分の素直な気持ちを剣心に出せないのであった。
「いやすまぬ。何せあのような出来事はかなり驚いたでござるからな。つい本気で隠れてしまったのでござるよ」と、剣心は申し訳なさそうに頭をかいた。
「…分かったわ、とにかく中に入りなさい」
ルイズも彼の気苦労が伝わったのか、それ以上何も言わずに剣心を部屋に招き入れた。
「『惚れ薬』!?」
「ええ、モンモランシーが自白したわ」
剣心を部屋に入れたあと、早速ルイズは事の真相を剣心に話した。
「それでか…ギーシュがああなっているのは…」
成程と納得する反面、どうしてこうなったとため息をつく剣心に、ルイズは元気づけるように言った。
「今モンモランシーに解毒薬を作らせてる最中だから、だけど肝心のギーシュは見つからなくて…それに完成するのにも二日三日かかるって…」
「…仕方ないでござるな…それまで逃げ隠れることにするでござる」
諦めた様な感じで剣心は呟いた。この部屋にいてもいずれバレるだろうし、ルイズと一緒にいれば彼女にも迷惑がかかる。だから一人で姿をくらますのが一番良いのだろう。
しかし、ルイズは納得出来なさそうに口を尖らせる。
「あんた、私を放っておくつもり?」
「まあ、連絡する場所と時間だけでも明確にしておきたいでござるな」
「あのね…そういうことじゃなくてさ…」
ルイズがそう言おうとして、一旦言葉を口にしまった。「一緒に居て欲しい」。それだけが言いたかったのに、変にプライドにこだわるせいで言えなかった。
だから、どうしても突き放すような態度しかルイズは取れなかった。
「…もういいわよ…勝手にしなさい!!」
そう言って、ルイズは再びベットに潜り込んだ。剣心も何も言わず、そのまま腰を下ろして壁に寄りかかる。
ルイズはそれとなく顔を上げた。隣に剣心がいる。それだけで気持ちはどこか弾んできた。
(どうしてだろ…ケンシンがいてくれるだけで、こんなに安心できる…)
剣心を見て少し微笑みながら、ルイズは今度こそ深い眠りへとついた。
178 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:06:00.80 ID:C+b5eiBe
次の日―――。
ルイズが朝早く目覚めた時には、ちゃんと剣心はまだいた。
目が覚めたときには居なくなっていたらどうしようと不安だったのだが、どうやらそんな心配はないようなので、ルイズは心の中でホッとした。
制服に着替えて準備を整え、ルイズは改めて剣心を見る。
「じゃあ…もう行くの…?」
「ま、適当に彷徨いているでござるよ」
「いい? 一人になったからって、変なマネしちゃダメよ。特にキュルケとあのメイドには――」
そこまで言ったとき、思い切りドアが開かれるような音がした。
「ハァイ皆さんご機嫌麗しゅう!! 今日も変わらずいい天気だねえ!!」
気障な態度をこれでもかと見せつけながら、ギーシュが躍り出た。おそらく扉が開くのをずっと待っていたのだろう。呆気にとられたルイズは叫んだ。
「あっ…あんた!! ここ女子寮よ!! 何勝手に入ってんのよ!!」
「残念、僕は君に会いに来たわけじゃない。僕はもう、男とか女とかそういう次元をはるかに超越している存在なのさ!!」
完全に頭がクルクルパーになっているギーシュはそう言って、ギーシュは薔薇を一つ取り出して、それを呆れた様子の剣心に向けた。
「さあ、僕と一緒に街にでも――――ゴァッ!!!」
間髪入れずにルイズの爆撃が飛んだ。昨夜よりかなり大きな爆発だった。
死んだのでは…? そう思わせるような惨状に剣心は呆気にとられる。
「…やりすぎではござらんか…?」
「いいわよもう、死んだら死んだで」
冗談じゃなく本気でそう思っているルイズは、そのままギーシュを部屋から叩き出した後、ため息混じりに剣心に言った。
「絶対元に戻させるから、アンタもあのメイド達に変なことするんじゃないわよ。いいわね!!」
念を押すように剣心に詰め寄ると、ルイズはそのまま一人部屋を出ていった。
「…やれやれでござるな」
剣心は一度、ボロボロになったギーシュを憐れそうに見下ろした後、一回ため息をつきながらも窓から飛び出ていった。
「まったくもう…どうなってんのよ…」
そうブツブツ呟きながら、ルイズは一人廊下を歩く。その隣にキュルケがやって来た。
「ハァイ、ルイズ。ダーリンはどうしたの?」
ルイズ一人なのを見てとったキュルケは、少しニヤニヤしながらルイズに顔を近づける。
「…あんたには言いたくない」
「つれないわねえ、一緒にあっちこっち冒険した仲じゃない」
暫くキュルケの質問攻めを聞き流すようにルイズは歩いていると、ふと壁に貼ってあった一枚の紙に目が行った。
そこにはこう書かれてあった。
『探しています!! 見つけた人には金一封。 ギーシュ・ド・グラモンより』
その上には、剣心の似顔絵らしきものが描かれていた。
ルイズは最早条件反射のような速度で壁紙を剥すと、怒りのままに紙をビリビリに引きちぎった。
しかし、同じく見ていたであろうキュルケの目は誤魔化せなかった。
「ねえ、あれ何?」
「………聞くんじゃないわよ」
「でも、ホラ。あっち」
そう言ってキュルケは、壁の続く向こうを指す。そこには、先程と同じような壁紙が、これでもかというほどにズラリと並んで貼ってあった。
「キイイエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
ルイズは発狂したような奇声を上げながら、とにかく視界に写るもの全ての壁紙を引き剥がしていった。
余りに無我夢中だったためか、引き剥がす途中、誰かにルイズは思いっきりぶつかった。
痛みで顔を顰めながらそちらの方を見やると、そこにはモンモランシーがいた。
ルイズは、モンモランシーの姿を確認するなり怒鳴った。
「ちょっとどういうつもりよ!!! アンタの犬でしょうが!! ちゃんと繋いでおきなさいよ!!!!」
「うるさいわね!!! いないんだもの!! しょうがないでしょ!!!」
涙ながらに叫ぶモンモランシーの手には、先程ルイズがちぎっていたのと同じ紙が、しわくしゃになって握られていた。
「こうなったのもあんたのせいでしょ!! 責任持ちなさいよ!! 自覚がないんじゃないの!!?」
「何であんたにそこまで言われなきゃならないのよ!!!」
お互い唾を飛ばすような勢いで怒鳴り合う中、キュルケが不思議そうな顔をして尋ねた。
「で、それは何?」
「「アンタには関係ないわよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
ここぞとばかりに息の合ったした二人の叫び声が、学院中に虚しく響き渡った。
179 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:08:05.79 ID:C+b5eiBe
「……おろ?」
そんな叫びが聞こえたのだろうか、剣心はピクリと反応して学院の方を見た。
彷徨く、とは言ったが、具体的に何処へ向かうか考えてなかった剣心は、ただブラブラと学院の庭の外を歩いていた。つまりはいつもと同じ散歩である。
どうせギーシュが来たところで、別段何か出来るわけでもない。ただの人間が飛天御剣流の全てを極めた剣心に追いつくはずもないからだ。
見つけられても軽くあしらってやればいいだけのこと。ならばビクついて隠れる必要もない。
そんなわけで、学院の周りを散策していた剣心だったが。
「…っと、ここは、確か…」
陽光照らす草原の中、何かを思い出したように歩みを止めた。そこは、かつてギーシュと決闘した『ヴァストリ広場』といわれる所だった。
(思えば、色々なことがあったでござるな……)
ここに召喚されて、もう結構な日時が経った。そう言えば、初めて戦ったのもこの場所だった。
昔を懐かしむ様に、剣心は物思いにふけっていると、ザッと誰かの足音が聞こえた。
(……誰だ?)
ギーシュだろうか? もう見つかったのか、とか思いながら剣心はそちらの方を振り向く。
しかしそこ立っていたのは、ギーシュではない。青い髪を揺らし無表情な目でこちらを見つめていたのは、剣心もよく知っている少女、タバサだった。
「おろ、どうしたでござる?」
タバサの、その無表情な視線を気にも止めずに剣心は尋ねた。するとタバサは不意に杖を掲げ、鋭い眼差しで憮然と告げる。
「わたしと、決闘して欲しい」
「…戦いたい、ということでござるか?」
口調こそ剣呑だが、少し眉を潜めたような感じで剣心は聞き返した。その問いに、タバサは頷くことで返す。
剣心はどうしようかと頬を掻きながらも再度尋ねる。理由もなしに剣を抜く気にはなれない。
「飛天御剣流でも極めたいでござるか?」
「それもある…けど、今の自分の力がどれ程のものか、確かめたい」
そう言って、タバサは屈むような体制で杖を構える。彼女の周りに包む空気が、段々と冷気に変わっていくのを感じた。
しかし、そんな空気の中でも剣心は抜刀どころか剣を抜く仕草すら取らない。
「もう…止まることはできないのでござるか?」
剣心は、タバサの目を見据えながら言った。冷徹なまでに暗い彼女の瞳の奥には、何かが渦巻いているのが見えるのだ。
「止まらない。だから貴方に私の力を見てもらいたい」
怒り、悲しみ、そんなモノでは表せないような感情。今の無表情な彼女の顔は、いうなれば、そういう仮面が一枚張り付いているようだった。
その仮面の向こうに、何を隠しているんだろう。そう思いながらも、剣心は続けて言う。
「拙者には、事情がわからぬ故に、口幅ったいことは言えないでござる。だが―――」
その言葉を言う前に、タバサの『ジャベリン』が、剣心目掛けて飛んできた。ドゴンと衝撃音を立てて、もうもうと煙が立ち込める中、タバサは油断なく杖を構える。
案の定、煙がはれたそこには、紙一重で避けた剣心が、突き刺さった氷の槍の上に乗って立っていた。
「それが望みというのなら、まだ諦めきれぬというのなら、せめてお主の全力を、拙者が受け止めるでござるよ」
タバサは、直ぐ様『ウィンディ・アイシクル』を放つ。無数の氷の矢が、数を伴って剣心に殺到する。
剣心は、それを全て最小限の動きで避ける。当たるどころか掠りもしない。目標を失った氷の矢は、壁や地面にこれでもかと突き刺さり、一帯は氷の矢で覆われた。
もし周りにギャラリーがいれば、この一進一退の攻防に目を見張ることだろうが、生憎ここに観客はいない。普段人が寄り付かない場所だからこそ、決闘には申し分ないのであろうが。
しかし、ここでタバサは無表情ながらも少し顔を顰めた。かつてギーシュやワルドがしたように。
彼はまだ、本気にすらなっていない。タバサは剣心の腰についている逆刃刀を見た。未だに柄に手をかけるどころか、その仕草すら見受けられなかった。
180 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:10:30.40 ID:C+b5eiBe
(勝てないまでも、せめて彼に剣を抜かせるまでは行きたい)
タバサはそう決心し、『ジャベリン』を形成し始める。
それを見た剣心が、一旦足を止めてこちらを見た。どうやら出方を伺っているらしい。あくまでも自分からは攻め込んでこない。先程言ってた通り、全ての攻撃を受けきる様子らしかった。
(ならば…私の全力を…ぶつけてみせる!)
タバサは、意を決して再び氷の槍を構える。彼に手加減は無用。そう感じたタバサは本気どころか殺す気で剣心に放った。
剣心は、先程と同じように寸前で回避しようと身構えるが、不意に最初に放った『ジャベリン』とはどこか違和感を感じ、少し大げさながらも横っ飛びに避けた。
刹那、『ジャベリン』全体が弾けるように飛び散り始め、そこから周囲一斉に小さな氷の矢が放たれた。
(やはりか……!!)
剣心は驚き半分予測通り半分といった様子で、無駄のない動作で的確に氷の矢を避けていく。その隙を狙うかのように、視界の外から新たに作られた『ジャベリン』が飛んできた。
恐らく回避に夢中になっていたその瞬間を狙っていたのだろうが、これすらも剣心は読みきると、地面を蹴って跳躍。氷の槍はズドンと地面に突き刺さった。
今度は弾け飛ぶ様な事は起こらなかった。恐らく精神力が尽きかけているんだろう。剣心はそう思ってタバサを見たが、まだ彼女はやる気の様子だった。
(やっぱり…強い…)
タバサは、息も絶え絶えながらも杖を構えながら、改めてそう思った。今までも彼の戦いぶりを隣で見てきたが、実際に戦うとより実感できる。
数々の任務をこなし、その都度生き残ってきたタバサにとって、彼の強さはまさに規格外だった。
何とも不思議な気分だ。今まで吸血鬼や亜人、果てはドラゴンとも対峙しておいて、それでも誰よりも強いと感じた相手が、まさか魔法も使えない平民相手とは…。
しかも相手は、虎の子の飛天の剣すら使う気はさらさら無いらしい。
でも…とタバサは思う。彼の力を見極めれば、それは間違いなく大きな『一歩』になるはずだ、と。本当に、自分の願望を叶えられる、現実のものにできる力になる筈だと。
タバサは、一旦深呼吸をして気分を整えると、改めて剣心を見据え、そして構える。だがその構えは先ほどとは違って独特なものだった。
さっきより更に屈むような体勢を取り、刀を納めるように杖を腰に当て、先端の丸まった部分、その少し手前を右手で添えるように当てる。
流石にその構えは、剣心も目を丸くした。
「抜刀術…でござるか?」
そう、それはまさしく剣心がやる必殺の技『抜刀術』そのものだった。まだ構えが諸々なってはいないが、それでも彼女の気迫と相まって立派に形を成していた。
恐らく、極めるために何度も練習したのだろう。でなければこの土壇場でまず使いはしない筈だ。彼女ほどの手練なら、それはわかっているだろうから。
(なら…只の抜刀術ではないな…)
剣心自体、見せたのはワルドの時一回きりとはいえ、抜刀術は隙の生じぬ二段構えと公言したようなものだ。
ならば当然何かある。剣心はタバサの動向を伺った。
181 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:12:11.74 ID:C+b5eiBe
暫くの間、沈黙が流れる。だが、動いたのは一瞬だった。
タバサが目を見開き、思い切り地を蹴った。
身の丈程もある杖を、風を纏わせながら大きく振りかぶる。当たれば人だろうと真っ二つにする位の威力はあった。
しかし、そんな大振りが剣心に当たるはずも無く、寸前でヒラリとかわされる。しかしそこで剣心は、この一連の戦いの中で一番驚いたような表情をした。
「なっ!!?」
何と、杖の振った直ぐ後に、今度は『ジャベリン』が飛んできた。しかし、これも只の『ジャベリン』ではない。
側面を研ぎ澄まし、更に全体的に細くする代わりに密度と強度を上げている。突くよりも薙ぐことに特化させたようなその氷は、最早『槍』というより『刀』に近かった。
その『氷の刀』が、剣心の前へと殺到する。しかも、大振りで遅かった初撃とは違い、こちらは目を見張るほど速かった。
「――っ!」
気付けば、思わず剣心は地を蹴っていた。一瞬でタバサの視界から消え失せると、そのまま大きく跳躍し、タバサの後ろへと回り込んでいた。
薙ぎ払った氷の刃は、壁に大きな斜めの傷跡を残しながら消えていった。まともに当たれば、最初の杖より強かっただろう。
タバサの背後で、剣心は感心するようにさっきの技を分析した。
「……まるで『双龍閃』のようでござるな」
というより、飛天御剣流の抜刀術そのものだというのが正しいか。隙のない二段攻撃、上手く奇をてらった魔法。タバサ自身の身のこなしも相まってかなり流暢な動きだった。
「…貴方の技を、自分なりに工夫して模倣しただけ」
ゆっくりと後ろを振り向きながら、タバサは答えた。精神力が今ので尽きたのか、もう闘う気は無いらしく、いつもの気のない無表情に戻っていた。
無論、ここまで技として昇華ということは、相当杖を振って練習した筈だ。頭の中で何度もイメージして、自分の理想と現実の動きに近付け、
刹那の感覚で魔法を扱うようにするには、只の努力では決して追い付かない領域だろう。
一体何が彼女をそこまで動かすのだろう? しかしタバサは、相変わらずの無表情の目のままペコリとおじぎした。
「どうもありがとう」
「いやいや、拙者大したことは…」
剣心が困った様子で手を振った。タバサはそれだけ告げると、踵を返して何処かへと行ってしまった。
「タバサ殿……」
(私の力じゃ…まだ彼の足元にも及ばない)
戦いを振り返りながら、タバサは考える。結局、彼に刀を抜かせることはままならなかった。まだ全然彼や『あの人』には程遠い。
けど、絶対に追いつけない距離じゃない。タバサは戦いの中でそう思った。自分も…いつかあそこまで越えてやる。タバサはそう決心した。
「所詮この世は弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ」
誰に言うわけでもないタバサのその言葉は、空にまぎれて消えていった。
「わたしは…強くなりたい…」
182 :
るろうに使い魔:2012/12/30(日) 00:16:55.85 ID:C+b5eiBe
これで投稿の方を終えさせていただきます。
ここで投稿を初めて約半年、最初と比べてすっかりペースが落ちてしまいましたが、
失踪だけはしないようにしますので、これからもどうかよろしくお願いいたします。
それでは皆さん、良いお年を。
投下乙
乙です
るろうに人、投下乙です。良いお年を
さて皆さん、お久しぶりですね。
今までアクセス規制で本スレに書き込めませんでした。
今年最後の投下分は前後編分けての投下をします。
18時45分から、何も無ければ前半部の投下を開始。
できれば支援お願いします
トリスタニアのチクトンネ街にある自然公園から、少し出たところ。
繁華街にある公園として、芝生や植木の整備がちゃんと行き届いている敷地の向こう側と言えば良いか。
公園とは対照的に放置された為にできた小さな雑木林を挟んだ先には、旧市街地が存在している。
半世紀も前に放棄されたそこはすっかり荒れ果て、ちょっとした遺跡と言っても過言ではない。
最も、繁華街との距離が近い為か、人がいたと思われる目新しい痕跡が大量に残っていた。
雑貨店の安物絵具で描かれたであろう建物の落書きは、芸術家を気取る若者の浅ましい欲望が垣間見える。
かつては大流行しているファッションを大衆に見せつけていたであろうブティックのショーウインドウは、内側から破壊されていた。
飛び散ったガラスは道路に四散したまま放置され、もはや過去の栄光すら映し出すことも無いだろう。
そんな退廃的かつ物悲しい雰囲気が漂う廃墟群の路地裏で、霊夢は体を休めていた。
「う〜ん、護符がもうボロボロね…っていうかもう使えないし」
先程までいた公園跡地よりも、人の気配を大分感じられるようになった場所へと身を移した霊夢は一人呟いた。
「全く、護符はいくらでも作れるけど…こんな調子で消費してたらすぐにストックが無くなるわね」
彼女はそう言って自らの着ている服を捲り、その下に巻いているサラシへと手を伸ばす。
無論肌に直接巻きつけている白く細長い布を外すのではなく、その上に貼られている何枚かの護符を剥がす為だ。
弾幕ごっこで被弾しても軽症で済むように張られた長方形のお札のあちこちには、見るも無残な焦げ跡が付いている。
札の端っこや中央に書かれていた゛ありがたい言葉゛は自分の弾幕に被弾した際に消滅しており、もはや護符としての役目は果たせない。
ため息をつきながらも焦げたお札を剥がしていく霊夢は、ついでにと周囲の気配を軽く探ってみる。
少し歩けば人が多すぎる繁華街にたどり着けるとは思えないこここには、隠れる場所など腐る程あった。
それを留意してはいるものの、割れたショーウインドの奥や薄暗い路地裏からは何の気配も感じられない。
博麗の巫女である霊夢がこんな場所で警戒している理由…それは彼女に襲い掛かってきた自身の偽者が原因だった。
何者かに導かれるように訪れた公園で戦い、今の様な非常に面倒くさい状況を作り出した傍迷惑なパチモノの巫女。
そして自分よりも接近戦に長けたアイツに距離を詰められた瞬間、直前に放っていたスペルの光弾が偽レイムの傍で爆発。
偽者と一緒に吹き飛ばされた直後の記憶は曖昧ではあるが、ふと気づけば荒れ果てた雑草の中で気絶していた。
目を覚ました後に慌てて辺りを見回したが、不思議な事に偽者の姿は何処にも見当たらなかった。
一体どこに消えたのであろうか?そう思いつつも彼女は公園跡地を離れ、今いる場所へとその身を移して今に至る。
(今の状態で下手に攻撃喰らっちゃう事を想定すれば…楽観視できる状況じゃないわね)
霊夢は剥がし終えた゛元゛護符を足元に捨てながら、これからどう動こうか考えていた。
今の彼女の脳内は、二つほど浮かんできた考えの内どれか一つを選ぼうと目まぐるしく動いている。
一つ目は微妙に手強かった偽者を捜しだしてしっかりと退治する。ついで、可能ならば事情聴取らしい事もやりたい。
ヤツは何も覚えてないと言ったが、今までの襲い掛かってきた連中とは明らかに違うのだ。詳しく追及してみても損は無いであろう。
二つ目はルイズたちがいるであろう繁華街へこのまま戻り、彼女らと再会して自分が体験したことを話すか。
それを聞いた二人が偽者捜しを手伝うと言い出しそうだが…まぁ捜してくれるだけなら十分にありがたい。
しかし二つ目のそれを考えていたところで、それは無いなと言いたげに首を横に振る。
ルイズはともかく魔理沙まで来られると、十中八九厄介な事になると霊夢は思っていた。
森での戦いでは命を助けてくれたから良いものの、次はあの様なヘマはしないし何より人気の多い場所がすぐ近くにあるのだ。
あの黒白の魔法使いが弾幕の火力を調節するとは思えないし、相当派手な戦いになるのは火を見るより明らかである。
しかも魔理沙の「騒ぐ」はこの世界の常識では「花火」と呼べるほどに騒々しい弾幕のオンパレードだ。
下手に騒いで人が来ればややこしくなるし、うまく偽物を倒したとしても人が来てややこしくなるのは変わりない。
(やっぱり学院で倒した蟲の時みたいに、一人でやるしかないか……って、あれ?)
二つ目の考えをあっさりと放棄して偽者を自分だけで倒すと決めた瞬間、霊夢は気づく。
彼女にしては珍しくハッとした表情を浮かべ、自分の手を懐や服と別離した白い袖の中へと忍ばせる。
布の擦れる音と共に彼女の左手は五秒ほど動き、やがて諦めるかのように引っ込めた。
一つ目の選択肢を選んだ彼女が今になって気づいた事。それは手持ちの武器が殆ど無くなってしまったという事であった。
今日は何も起こらないだろうとお札も針も、そしてスペルカードですら最低限の分しか持ってきていない。
そして、先程の戦いにおいて持ってきていた分が底をついてしまったのに、霊夢自身が今になって気が付いたのである。
(迂闊だったわね…こんな事になるとわかってたら、もうちょっと持ってきた方が良かったかしら?)
朝の自分を軽く恨みつつ、彼女は唯一の武器であり今のところ有効打にならないだろうスペルカードを何枚か取り出す。
今手元にあるコレだけでも充分に戦える自信はあったのだが、相手は自分自身と言っても良い。
少し一戦を交えた程度だが、あの偽物が自分と同じくらいの回避能力を持っていることだけは理解していた。
今手元にあるカードは、今の魔理沙でも十分に避けれるであろう単調なモノばかりである。
最も、スペルカードを知らない者から見れば最大の脅威と言えるが、弾幕ごっこに慣れている人妖ならば今の霊夢に言うだろう。
「そんな弾幕じゃあ、Easyモードが限界だよ」と
スペルカードがダメならば肉弾戦という手もある。しかし、生憎にもそちらの方は偽者に分があるらしい。
別に苦手というワケでも無いし、どちらかと言えば幻想郷の妖怪相手でもそれなりに戦える。
だからといって得意ではなく、魔理沙や紅魔館のメイド長の二人は霊夢よりも上手だ。
星形やレーザー系統の弾幕をよく放つ魔理沙は素手の戦いでも強いし、箒を武器にして殴り掛かってくることもある。
彼女とは何回か戦った事のある霊夢も、黒白の魔法使いが手足のみの喧嘩に強い事は知っていた。
そして紅魔館のメイド長に関しては…何というか、ズルに近いものがある。
正直に言わなくても、あの銀髪メイドが正面から来ることは殆どないだろうから。
というよりも、霊夢自身彼女との接近戦は御免こうむりたいものがある。
彼女が持っている能力は霊夢が知っている中ではかなり厄介で心臓に悪いという、非常に悪質なものだ。
そして接近戦を避けたい理由はズバリ、彼女が一番得意とする獲物のナイフにあった。
霊夢の御幣や魔理沙の箒とは違い、見た目と殺傷能力がストレート過ぎる青い柄の刃物。
一人のメイドが持つには少々危なっかしい凶器を、彼女は体のどこかに何十本か隠し持っている筈だ。
弾幕として大量の刃物を一気に投げつけてくる姿を見れば誰だって不思議に思うだろう。
あのメイド長は一体何処からあれ程の゛キョウキ゛を取り出し、どうやって一斉に投げつけているだろうか?…と。
(まぁ、そのタネは複雑に見えて単純なんだけどね…―――って、アッ…)
いつの間にやら幻想郷にいる顔見知りの事を思い出していた霊夢は、ふと我に返る。
こんな何時襲われても仕方ない時に、あまり親密になりたくない人間二人の事を思い出しているのだろうか。
霊夢は無に等しい反省を覚えつつ体を動かそうとしたとき、ふと自分が地面に座っている事に気が付く。
どうやら自分でも知らぬ内に胡坐をかいて座っていたらしく、それに気づいた彼女の顔に思わず苦笑いが浮かぶ。
「何か…私が思ってる以上に体が疲れてるのかしらね?」
脳内に浮かび上がる言葉をそのまま口に出した霊夢はその場で顔を上げ、空を仰ぎ見る。
気が付くと青かった空に朱色がほんのりと混じり、夕焼けの空を作り上げている。
水彩絵の具で描いたような雲の群れは夕日に照らされ、焼きたてのパンを思わせる色合いだ。
今の霊夢がいる場所周辺は今の時間は陽が入らないせいか、ここへ来た時よりも更に薄暗くなっている。
ここが幻想郷なら、後二時間ほどもすれば陽が完全に落ちて妖怪たちの時間が始まるであろう。
「あぁ、もうそんな時間なのね…どうりで疲れるわけか」
一人呟きながら重くなった腰を上げた霊夢は、その場でゆっくりと欠神する。
両手を天高く掲げ、無垢と言える程に綺麗な腋を晒す彼女の姿を見る者は生憎な事に一人もいない。
ここに来るまで数々の異常事態に見舞われた彼女にとって、今は身体の力を抜くのに丁度いい時だった。
「さて…本当にどうしようかしら」
上げていた両手下ろし、一息ついた霊夢はそう言ってこれからの事を考える。
お札と針が切れ、スペルカードはあまり頼りにならないものばかり。
偽者を捜して倒そうと思えば倒せるがその分苦戦するだろうし、何より無駄に痛い思いをするのは御免だ。
自分のそれとほぼ同じ霊力で包んだ左手に殴られるところを想像して、霊夢はその身を震わせる。
戦っていた時は一度も喰らわなかったが、アレをまともに受けていたら人間と言えど軽傷では済まないだろう。
しかも霊力に包まれている最中は、剣になるどころか盾の役目も務めているらしい。
最初に公園跡地で見つけた霊夢が奇襲代わりにとお札を投げつけたのだが、何とそれを左手一つで防いだのだ。
あの光景を見たのならば誰だって、直接喰らわずとも相当危険な左手だと認識できるだろう。
しかも自分の身を守ってくれる護符すら貼りつけてない今は、殺してくださいと言ってるようなものだ。
つまり、最終的に倒すつもりではあるアイツと戦うのなら、今の状態では非常に苦しいのである。
せめてお札と針を目いっぱい装備して護符も貼り直し、保険として強力なスペルカードも欲しいところだ。
「どっちみち倒すつもりだけど、やっぱりルイズ達のところか、もしくは学院へ一旦帰った方が良いかな?」
心の中でこれからの事を考え終えた霊夢は一人呟き、路地裏からひょっこりとその身を出す。
同じように荒んだ状態のまま放置された通りの真ん中に佇み、改めて周囲を見回した。
旧市街地の大きさはブルドンネ街と比べれば、あまりにも小さい。
ブルドンネ街が三とすれば、ここは三分の二程度しかないのである。
通りを挟むようにして共同住宅が建てられているが、そこから人の気配は感じられない。
目を凝らしてみれば建物の幾つかに大きな罅が入っており、まるで蚯蚓腫れの様に建物全体を蝕んでいる。
「人がいないとこんなに荒むなんて、まるでこの街の人間すべてが座敷童みたいね」
周囲にある他の建物や道路にも小さなひび割れがあり、それに気づいた霊夢はポツリと呟く。
大多数の者たちが新しい街へと移り住み、ここに残されたのは僅かな人々と退廃の空気。
その人々は職を持たぬ浮浪者や犯罪者たちであり、彼らが街の為に何かをする筈もない。
故にこの場所は死んだような気配を醸し出し、ここに住む者たちはそれに慣れてドブネズミのような生活を営む。
移り住んだ者たちは目をそらし続け、新しい住処で人生を謳歌しつつこれからの発展を願い続ける。
古い過去を捨てて、現在から未来を築くのが最善か?
それとも醜い現実から目をそらし、古き良き過去を選んだ方が良いのだろうか?
二つの疑問をまとめて抱いた霊夢は頭を横に振り、それを払いのけた。
彼女はこの街で生まれ育ったわけではないし、何よりここで生きていくという気も無い。
どっちにしろ霊夢にとって、トリスタニアという都はあまり良い場所とは思えなかった。
(ルイズや魔理沙はどうか知らないけど…あたしには人里ぐらいが丁度いいわ)
旧市街地の通りに佇み続ける彼女がそう思った時。――――それは聞こえてきた。
―――――捜せ
それは急な戦いから離れ、一時の休息を堪能していた彼女にとって青天の霹靂であった。
「……ん?」
くたびれきった通りを歩こうとした霊夢の耳に、誰かの声が聞こえてくる。
まるで男性と女性のそれが混じったような声のせいで、相手の性別が何なのかわからない。
それでも霊夢はキョトンとした顔を浮かべて振り向いたが、後ろには誰もいない。
通りの端に生えた雑草が風でフワフワと揺れているだけで、生物の影すらないのだ。
一体何なのか?そう思った時、またしても声が囁いてきた。
―――――戦え
「誰…誰かいるの?」
考える暇もなく聞こえてくる性別不明な声に対し、霊夢は何となく声をかけてみる。
男女混合のせいか酷いノイズになりかけている声と比べ、彼女の声はあまりにも綺麗だ。
気の強さと清楚さが伺える美声は誰もいない旧市街地に響き渡るが、返事は無い。
きっと神の如き天から見下ろせば、誰もいない通りで一人声を上げる巫女の姿は奇妙であろう。
遠くから聞こえてくるアホゥアホゥというカラス達の鳴き声は、そんな彼女をあざ笑っているかのようだ。
何なのだろうか。そう思った時、霊夢はハッとした表情を浮かべる。
思い出したのである。いま体験している出来事がつい一時間ほど前にもあったという事を。
(そういえば、レストランを出る直前に…)
心の中で呟いて思い出そうとしたとき、またも声が聞こえてくる。
―――――殺せ
何処からか聞こえてくる声は、博麗の巫女へ物騒な事を囁いてくる。
通算で三回目となる声はしかし、先に出てきた言葉よりも過激さが増していた。
(はぁ?…殺す?何を殺せばいいのよ)
常人なら怯える筈の声に対し、嫌悪感丸見えの表情を顔に浮かべた霊夢は心の中で突っ込みを入れる。
既によく似た異常事態を体験してきた彼女にとって、これはもう動揺する程の事でもない。
だからこそもしやと思い、ふと自分の視線から外れていた左手に目をやった。
何も持っていない彼女の左手の甲。そこに刻まれているルーンが青白い光を放っている。
左全体ではなくルーンだけが光っているその光景は、誰の目から見ても異常としか認識されないであろう。
事実、ついさっきまでいたレストランでこれを見た霊夢はおろか、その場にいたルイズや魔理沙も驚いていたのだから。
(ホント参るわぁ…どうしてこう、落ち着いてきたって時に厄介事が舞い降りてくるのかしら)
二番煎じに近い謎の声に対し、そろそろ辟易に近い何かを感じ始めた時であった。
―――――殺せ
四度目となる声を聞いた直後、ふと頭に痛みが走るのを感じた。
まるで頭の中を直接指で突かれたような感触を覚えた彼女の右手は、無意識に頭を押さえる。
時間にすれば一瞬であったそれに、思わず怪訝な表情を浮かべた瞬間―――それは始まった。
「……――――…つッ!!」
一瞬だけ感じたあの痛みが先程より何倍も強いモノとなって、彼女の頭の中を巡り始めたのである。
狂った野獣と化した刺激は彼女の頭を走り回りながら、縦横無尽に引っ掻きまわしていく。
突然であり強烈な頭痛に流石の霊夢も声を上げ、頭を抱えてその場に蹲ってしまう。
人気のない旧市街地の通りに人が倒れる音が響きわたるも、それを聞いて駆けつけてくる者など当然いない。
先程までウンザリしたとような表情を浮かべていた彼女の顔には、苦痛の色がハッキリと見えている。
文字通り廃墟の中にいる霊夢はたった一人だけで、痛みに苦しんでいた。
「あぁっ…つぅっ、…イタ…あぁっ…!」
傍から見れば頭を抱えて土下座しているように見える彼女の口から、苦しげな喘ぎ声が漏れている。
彼女の声を聞く者が聞けば、今感じている痛みがどれぐらいのものかある程度分かるかもしれない。
それ程までに、今の霊夢は自身の想像を軽く超えていた強烈な痛みに襲われていた。
唐突な刺激に声も出せず、状況把握すらできない彼女に追い打ちをかけるかのように、再び声が聞こえてくる。
―――――殺せ
「ぁあっ!…あぁあぁっ!!」
五度目となる声は霊夢の頭の中に響き渡り、それが痛みをより激しいものへ変化させる。
喘ぎ声は小さな叫び声となり、蹲っていた彼女の体から力が抜けてその場に倒れ伏した。
それでも尚止むことは無い頭痛に頭を掴む指の力を強め、横になった体が魔意識に丸まっていく。
投げ出された両足の膝が丁度の顎に当たりそうなところで動きが止まる。けれど痛みは止まらない。
頭の中を直接フライパンで叩かれているかのような痛みは彼女の体を蝕み、心さえも汚し始める。
胎児の様に丸まった霊夢の叫び声には涙声が混じり始めたその姿は、痛みに屈しかけているとも言えた。
最も、それに屈したところで痛みが消えるモノならばとっくにそうしているだろうが。
しかしどう屈せばいいのか、そもそも何故こんな事になっているのかさえ彼女には分からなかった。
そして、なぜ自分がこんなに目に遭うのかという理不尽さを抱いた霊夢は…
(何よ…私が一体なにをしたっていうのよ……何を…!)
叫んだ。そう、痛みに潰されそうな心の中で
姿すら見せない正体不明の声の主と、自身の頭を這い回る激痛に対して叫んだのだ。
それが奇跡的にも、六度目となる謎の声は彼女の叫びに応えたのである。
―――――武器を、持て
耳を通して激痛走る頭の中に、再び声が聞こえてくる。
男か女とも知らぬその声はしかし、五度目のそれと違い無駄に頭痛を刺激しなかった。
まるで痛む部分だけを避けるかのように、身体を丸めた霊夢の耳に入ってくる。
そして一呼吸置くかのように数秒ほどの時間を空けて、謎の声は彼女に囁き続ける。
―――――相手を突きさす槍や、切り裂く剣を見つけ出し、その手に持て
(武器を……―――手に、持て…?)
先程のそれとは違う声の言葉に、霊夢がそう呟いた直後であった
「―――――はっ!…――あ―イタ…?―…っぅあ…えぇ…?」
今まで彼女の頭を蝕んでいた激痛が、何の前触れもなくフッと消えたのである。
まるで肩の荷を下ろした時の様な間隔に襲われた彼女は、閉じていた目をカッと見開かせる。
次いであんぐりと開いた口から酸素を取り入れて吐き出すという事を何回か繰り返し、忙しげに深呼吸を行う。
ガッシリと力を入れていた手の指から力を抜きながら自分の頭を擦り、もうあの痛みが過去のモノになった事を理解した。
丸めていた体からも力が抜けたかと思うと、皮膚から一気に滲み出てきた汗が彼女の服に染みこんでゆく。
「消えた…の?」
確認するかのように一人呟いた時、彼女の額から一筋の冷や汗が垂れ落ちる。
常人ならば泣き叫んでいたで痛みを味わいながら、霊夢はその目から何も零してはいない。
その代わりと言うのだろうか?最初に落ちた一粒を始まりにして、何粒もの汗が彼女の顔を伝って地面に落ちていく。
右腕を下にして寝転がっているせいか、顔から滴り落ちる大量の汗が彼女の右肩を濡らし始めていた。
しえん
「一体何だっていうのよ、今のは」
これ以上倒れていても意味はない。そう判断した霊夢は立ち上がる。
季節が夏に近いという事もあってか、既に彼女の体は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。
「あ〜…何だって今日は、こんなにも運が悪いのかしら?」
服まで汗まみれの彼女は嫌悪感が混じるため息をつきつつ、先程の言葉を思い返す。
彼女を一分ほど苦しめた突然の頭痛を消し去ったであろう声は、武器を手に取れと言っていた。
それもわざわざ左手で取れと細かい注文をしていたのも、当然覚えている。
一体なぜあんな事を言った来たのか?そもそも頭痛の原因は何だったのだろうか?
「考えれば考えるほど泥沼に浸かるなんて事は…これが初めてね」
何がどうなっているのだろうか?理解不能な状況に見舞われている霊夢は無意識に頭を掻き毟る。
冷や汗で濡れた髪に触れた途端、冷たさよりも先に不快感が湧きあがってくる。
さっきまで唐突な頭痛に苦しめられた彼女の息は荒く、立っているだけで精一杯という感じだ。
「…何かもう、やる気とか戦意がバカみたいに無くなっちゃったわ」
足がふらつくのを何とか堪えつつ、霊夢は気怠そうに呟く。
本当ならまだ近くにいるかもしれない偽者探しと行きたかったが、生憎そうもいかなくなった。
手持ちの武器は少なく、それに追い打ちをかけるかのごとき強烈な頭痛と武器を探せとかいう変なアドバイス。
そして頭痛が治まった後に出てきた大量の汗で、全身びしょ濡れという悲惨な状態。
色んな事がいっぺんに起きたおかげか、今の霊夢にやる気というモノは無くなっていた。
「とにかく、学院へ帰れたらお風呂に入ってすぐ寝よう。また頭が痛まないうちに…」
心が真っ青になりつつある彼女は一人呟きつつ、未だに光り続ける左手のルーンへと目をやる。
まるで数匹の蛇がのたくって出来たようなソレは、ルイズの使い魔である何よりの証拠。
そしてこれまで出会ってきたこの世界の住人たちの話を聞いて、何て読むのかは聞いていた。
ガンダールヴ。今から約六千年前…゛始祖ブリミル゛というメイジが使役していたらしい使い魔。
ありとあらゆる武器や兵器を使いこなし主人を守ったその姿から、「始祖の盾」やら「神の左手」という異名があるらしい。
しかし今の霊夢には、どうにも鬱陶しい事このうえない呪いのルーンだった。
「ガンダールヴだか何だか知らないけど…いい加減光るのをやめてくれない?」
彼女はそう言って、光る左手を光っていない右手でペシペシと叩いた。
それで光が止まる事もなく、煌々と輝くルーンを相手に苛立たしい気持ちが湧き上がってくる。
人や動物に物が相手ならまだしも、使い魔のルーンに対し怒りを覚える使い魔はきっと彼女が初めてであろう。
最も、霊夢自身は誰が何と言おうとルイズの使い魔になる気は全くないので仕方ないとしか言えない。
「このまま一生…って事はないと思うけど、何時になったら消えるのかしら」
叩いてどうにかなるモノではないと感じた霊夢は忌々しげに呟き、チクトンネ街へ向けて歩き始める。
力を抜けばふらついてしまいそうな両足で地面を踏みしめる彼女は、このルーンをどうしようか悩んでいた。
このままバカみたいに光り続けてくれたら目立つだろうし、今後の生活にも影響してくる。
想像してもらいたい。左手が光り続ける博麗霊夢の一日を。
朝起きて、顔を洗おうとすると光手が光っているのに気付き何かと思い見てみると、目にしたのはガンダールヴのルーン。
服を着てルイズや魔理沙と一緒に食堂へ向かい、朝食を食べている最中にも光り続ける左手。
朝食が終わり部屋に戻ってデルフと暇潰しをしている最中にも、空気を読むことなく光る使い魔の証。
お昼になれば一足先に食堂へと入り、後から入ってきたルイズたちに向けて光りの尾を引く左手を振る霊夢の姿。
午後は軽くお茶を嗜んでから昼寝をしたいというのに、無駄に神々しく光るルーンでベッドに寝転がっても中々寝付けない。
夕食を食べ終え風呂に入ってからの就寝でさえもルーンは光り続け、疲れ切った彼女の顔をいつまでも照らしている。
博麗霊夢にとって何の変哲もない一日は、ルーン一つで異常なモノへと変貌してしまうだろう。
「少なくとも…今夜までにはどうにかしないと」
左手が光り続けるかもれしれないこれからの人生を想像し、身震いした霊夢は小さな決意を胸に秘めた。
とりあえずルーンの事は一応ルイズに聞くとして、どうやって光を止めるのか考えなければいけない。
彼女がそれを知っていれば苦労はしないが、それはないと霊夢自身の勘が告げていた。
今日はとにかく自分の考えている事とは違う方向に動き過ぎているうえに、まだそちらの方へ進み続けている。
本来ならルイズや魔理沙と一緒に学院行きの馬車に乗っていたかもしれないのに、実際には廃墟の中に一人いる始末。
ただの買い物目的で街へ赴いたというのにこんな事になってしまった事自体、運が悪いとしか言いようがないだろう。
つまりルイズの所へ行っても今の状況が良い方向に向くとは限らない。彼女の勘はそう告げているのだ。
だからといって何かしら動かなければ状況は変わらないし、ルーンが光ったままでは鬱陶しいにも程がある。
じゃあどうすればいいのだろうか?それを考えようとした霊夢はしかし、既にその答えとなるヒントを自分で出していたことに気づく。
無論それを覚えていた彼女は暫し顔を俯かせたのち、盛大なため息をついた。
結局のところ、それが今一番考えられる最善の答えかという感想を心中で漏らしつつ、一人呟く。
「やっぱり…見つけちゃったのなら何とかしとかないと、ダメなのかしらねぇ?」
面倒くさい仕事に取り掛かる前の愚痴と言える言葉が出た瞬間…
―――――来る
見計らったかのように、性別すらハッキリしない謎の声が聞こえてきた。
通算七回目となるそれには、六回目までには無かった何かが含まれている。
ここで聞こえた今までの声は淡々と話しかけてくるような感じだったのだが、今の声は違っていた。
まるで誰かに注意するかのような、僅かではあるが焦燥と警戒心に近い何かをその声から感じ取ったのである。
霊夢は何処からか聞こえてくる声に対し何も言わず、ただその場で軽く身構える。
既に彼女は気づいていた。妙な懐かしさが感じられる殺気が背後から近寄ってくる事に。
「わざわざ其方から来てくれるなんて。随分御親切じゃないの」
後ろにいるであろう相手に、霊夢は心のこもっていないお礼を述べた。
その直後、後ろの方から此方へと近づいてくる足音が聞こえてくる事に気づく。
ゆっくりとした歩調で足を進める相手の殺気は、酷いくらいに冷たい何かが含まれている。
そして、殺す意味は知らないがとりあえず殺せばどうにかなるだろうという投げ槍的な適当さも感じられた。
そんな相手が近づいてくるのにも関わらず、身構えたままの霊夢は暢気そうに言葉を続けていく。
「丁度こちらも捜そうと思ってたんだけど、色々と可笑しい事があったから帰ろうとおもってた最中なのよ」
気楽そうに話しかける彼女の姿は、まるで故郷の友人と異国の地で出会ったかのようだ。
しかし、相手から漂ってくる殺気がそれで消えるはずもなく足音は段々と大きくなっていく。
背中を向けているために正確な距離は分からなかったが、そんな事はどうでもよかった。
ただ、後ろの相手がどのタイミングで一気に近づくか、今の霊夢にとってそれが一番の悩み事であった。
そんな時、またしても謎の声が聞こえてくる。
――――武器を、取れ
「で、その可笑しい事ってのがね、何処からか声が聞こえ来るのよ」
しつこいくらいに囁いてくる謎の声を無視するかのように、霊夢は後ろの相手に話しかける。
体が石になったかのようにじっと身構え、自分が捜そうとして向こうから来た相手の出方を待っていた。
その間にも足音は近づいてくるのだが、彼女は振り返ろうともしない。
ただじっと体を動かさず、相手がどうでてくるか背中越しに伺っている。
ひしひしと感じられる殺気をその身に受けながら、霊夢はまたもその口から言葉を出した。
「――もしかして、その声が聞こえる原因は…アンタにあるのかしら?」
霊夢がそう言った瞬間だった、聞こえ初めて一分ほどが経つであうろ足音に変化が起こったのは。
先程までの霊夢が何を言っても止まる事の無かった足音のテンポが…一気に速いモノへと変わったのである。
ゆっくりと歩いていた感じのソレはあっという間に早歩きへと変わり、足音の主は霊夢の方へと近づいてきたのだ。
その時になってようやく霊夢は素早く振り返り、慣れた動作でもって急ごしらえと言える結界を自身の目の前に展開する。
幻想郷にいる人間の中ではトップに入るほど結界のプロであり、尚且つ博麗の巫女である彼女作りだす結界。
見た目は青白い半透明の板であってもその防御力は桁外れであり、ちょっとやそっとの攻撃では壊れない程度の強度はある。
しかし、振り返った先にいた相手はその結界の程度を把握していたのだろう。
霊夢と同じように光る゛左手゛を勢いよく前に出し、それを結界へと突き刺した。
直後、鏡が割れるような耳に良くない音が人気のない通りに響き渡る。
霊夢の結界をいとも簡単に突破した相手の゛左手゛は力強く放たれた矢の如く、その指先でもって霊夢の顔を貫かんと迫ってくる。
だがあと少しというところで゛左手゛が不自然に揺れ動き、眼前で停止した指先を霊夢はジッと凝視していた。
結果的に割れる事は無かった結界だが、相手の先制攻撃を完璧に防ぐ程度の力は無かったらしい。
数秒ともいえぬ短い時間で作られたそれの真ん中に突き刺さった相手の左手があり、そこを中心にして結界に罅が入り始める。
薄い氷を割るような音が微かに聞こえるなか、酷く落ち着いている霊夢は相手に向けてこう言った。
「もしそうなのなら手加減は出来ないけど、それ相応の事をしたんだから恨まないでよね」
「――――面白い事言うじゃないの。…それなら」
彼女の口から放たれたその要求に対し相手―――偽レイムは淡々と返しつつ言葉を続ける。
「私がアンタを殺しても、恨むのは無しってことよね?」
「あら、悪いけど私は恨むわよ。だって何も知らないままで死ぬのは嫌ですから」
不気味なくらいに赤色に光る瞳に睨まれながらも、霊夢は自分の事を棚に上げて宣言した。
互いに左手を光らせ、その身を退かせることなく罅割れていく結界越しに睨み合う二人の霊夢。
どちらかが倒れるまで終わる事のない二度目の戦いが、今まさに始まろうとしている。
そんな時であった。偽レイムの手が突き刺さった結界が、音を立てて盛大に弾け飛んだのは。
少女と少女の戦いの始まりを告げるゴングの音は、あまりにも綺麗で儚い音色だった。
以上で、前半部の投下終了です。支援してくれた方には感謝を
後半部は大晦日に投下する予定です。それではまた
197 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/30(日) 19:33:26.36 ID:obb5cr3x
乙でござる
年末年始暇すぎわろた
投下まだか
無重力巫女さんの人とるろうにの人乙でした( ´ω`)=3
ディーキンの人とデュープリズムの続きはまだかな?アセルスの人もしばらく見てないし(;´ω`)
るろうに&巫女さん乙!
乙〜
どうもみなさん、こんばんはです。2012年も残すところわずかですね
特に何もなければ20時20分から昨日の予告通り後半部の投下を始めます。
できれば支援お願いします
チクトンネ街から少し出ると旧市街地の入り口があるが、そひこから先は殆ど人気が無い。
人々が集う飲食店や酒場も無いここは、既に放棄されて久しいと言っても良いくらいの場所であった。
唯一目につくものと言えば、かつては多くの人を迎えたであろうアーチが立てられた入り口とその真下に作られている一つの台座だ。
旧市街地へ入ろうとするものを拒むかのような古びたアーチにはどんな事が書かれ、台座の上にはどんな像が置かれていたのだろうか。
それを知る者はこの場におらず、知っている者もきっとここへ戻ってくることは無いだろう。
文字通り死した大地とはこの街の事を示すに違いない。今のここは活気を失い、座して滅びを待つ者たちの吹き溜まりだ。
こんな場所へ何の用事も無しに訪れる者は、きっと余程の変わり者ぐらいであろう。
しかし、今日は始祖が気まぐれにも救済の手を差し伸べたのか、二人の少女がこの街へ入ろうとしている。
孤独死を静かに待つ老人の如きそんな場所に、ルイズと魔理沙の二人は佇んでいた。
「レイムの居場所はわかったけど…何でよりにもよって旧市街地に来なきゃいけないのよ」
魔理沙の後ろにいる彼女はそう呟き、旧市街地の入り口を軽く見回す。
ルイズの顔には苦虫を踏んでしまったかのような表情が浮かべており、入りたくないというオーラが身体から漂っている。
ある程度トリスタニアを知っている彼女は、ここがどれ程危険な場所なのか把握していた。
犯罪者や浮浪者の溜まり場であり、尚且つ崩壊寸前の建物が幾つも放置されているという立ち入り禁止の土地。
実際は立ち入り自由なのだが、ルイズは意識してこの旧市街地に近寄る事を今の今まで避けていた。
しかしそんな彼女とは対照的に、ルイズの前にいる魔理沙は楽しげに口を開く。
「へ〜…トリスタニアってこんな場所もあるのか。今の今まで知らなかったよ」
彼女はそう言うと顔を上げ、自分たちよりも十メイル程上にある木造のアーチと、そこに取り付けられている赤錆びた鉄看板を見つめる。
風雨に晒されるばかりか虫に喰われた箇所が痛々しいアーチは、いつ崩れてもおかしくは無い。
そしてアーチの上部にある広いスペースに取り付けられている鉄製の看板には、きっと歓迎の言葉が書かれていたのだろう。
しかし、それもまた数十年の歳月をかけてアーチより更に汚れ、今では屑鉄として処理されるしかないガラクタと化していている。
一見すればお化け屋敷の入り口だと錯覚してしまうそれを魔理沙は興味津々といった目で見つめ、一方のルイズは嫌悪感たっぷりの瞳で睨みつけていた。
「しっかし相当古い所だよな〜。幻想郷にある数多の廃屋が結構まともだと思えてくるぜ」
上げていた顔を下ろし魔理沙がルイズに向かってそう言うと、すぐにルイズは口を開く。
「ふーん…それほどの良い家ばかりなら是非とも見せてくれない?ここより酷かったらタダじゃ済みませんけど」
隣の少女へ嫌味を含めて送ったルイズの言葉はしかし、「おっと、そう言われると自身が無くなってしまうな」と呆気なく返される。
ここで自分の言葉に乗ってくれるかと思っていたルイズは、ムッとした表情を浮かべて魔理沙を見やる。
そんな自分とは対照的にニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる魔法使いを見て、彼女は不満気な顔のままため息をついた。
「ユカリのヤツ…まさか適当な事言って、あたし達から今のレイムを引き離してるんじゃないのかしら?」
ルイズはそう言って、ここへ至るのまでの経緯を軽く思い出そうと脳内で時を巻き戻し始めた。
◆
゛霊夢は今旧市街地にいる。行くというのならできるだけ早く行った方がいいわよ?゛
ついカッとなったルイズに足を踏まれ続けていた八雲紫は、痛みに耐えながらも二人にそう教えていた。
当初はルイズがあまり役に立たないという事で、姿を消した霊夢を追いかけるなと警告した大妖怪。
しかし、戦力外扱いされた本人はそれで見事に憤り、結果自分をけなした妖怪にキツイ一撃を与える事に成功した。
本当は拳骨をお見舞いしたかったが失敗し、半ば自棄的に足を踏みつけたのが功を成したと言える。
両者一歩も引かぬ光景を魔理沙が傍観する中、ルイズはこれからの決意を紫に伝えたのだ。
それを聞いて根負けした…ワケでは無いのかもしれないが、紫は微笑んだのである。
まるで戦場へ赴く事を決意した我が子を見る母親の様に、優しくも何処か遠い場所を見つめているかのような微笑みであった。
「そこまで言うのなら教えない、と言うワケにはいきませんわね」
紫はこちらを凝視するルイズに向けてそう言って、今の霊夢がいる場所を教えてくれたのだ。
いつもと違いやけにあっさり話してくれたことに二人は疑問を持ち、一回だけ魔理沙がその事について尋ねていた。
「珍しいな?いつものお前なら難しい言葉でも出して退散すると思ったんだが」
黒白の質問に、紫は鼻で笑いつつ丁寧に答えてくれた。
「知ってるかしら?貴女達を含めた周りの者たちが思うほど、私は悪質ではありませんの」
無論、仏の様に優しくもありませんけどね。最後にそんな言葉を付け加えた後、紫はその口を閉じた。
その後、彼女は「少し用事があるから」という理由で自ら開いたスキマを使ってその場を去ってしまった。
一体何の用事なのかと一時は訝しんだのだが、それを考えるよりも優先すべき事がありすぐに忘れてしまった。
その優先すべき事を消えたばかりの妖怪から聞いたルイズは魔理沙と一緒に、チクトンネ街からある場所へと向かった。
日が暮れるにつれて人混みがきつくなっていく通りを抜けた彼女らは、ここ旧市街地までやってきたのである。
◆
そして時間は戻り、廃墟群の前にたどり着いたルイズと魔理沙が入り口の前で佇む今に至るのであった。
「…まぁ紫の言う事が本当かどうかは知らないが、すごい所が街中にあるもんだな」
ルイズの言葉にとりあえず肯定の意を示しながらも、魔理沙は旧市街地の入り口周辺を見回している。
とりあえず応えてみたという魔理沙の言葉に目を細めるが、まぁ彼女が驚くのも無理は無いと感じていた。
ブルドンネ街やチクトンネ街と比べやや古い空気を残す街並みは、時代に取り残された証拠と言っても過言ではない。
時と共に増え続ける人口によって不便になる水回りの環境や狭い通りは、人々を新しい街へ移住させるきっかけともなったのだから。
ハルケギニア大陸の主な国々の首都や王都にも旧市街地はあるが、トリスタニアの様に明らかな廃墟化はしていない。
ガリアのリュティスは幾年もの工事で平民たちの不満をある程度取り除き、ゲルマニアのヴィンドボナでは家屋を取り壊して工場を作った。
聖都ロマリアでは最近になって難民たちの生活場所になり、アルビオンのロンディニウムには今も多くの人々が暮らしている。
そんな中であっという間に過疎化が進み、犯罪者や働く気のない浮浪者たちのたまり場となった場所は、ここトリスタニアだけだ。
更に旧市街地自体はいまだ原型を保っている事と多くの人が今も出入りしているという理由で、立ち入り禁止の看板さえ立てられない現状。
碌な整備もされないせいで通りも建物も荒れに荒れた今では、何も知らない異国の人間が見れば驚くのも無理はない。
何せハルケギニアでも有数の観光名所である王都の中に、場違いとも言える廃墟が存在しているのだから。
しかし観光客の中にはこういう場所が好きだという人達がいる事を、ルイズは雑学の一つとして知っていた。
(実際に目にするのは初めてだけど、コイツの性格を知ってると墓荒らしの類かと思えてくるわね)
初めて訪れる旧市街地にワクワクを隠せない魔理沙を見ながら、ルイズはそんな事を思っていた。
魔理沙が旧市街地をこの街の名所(?)の一つとして見ていたが、その一方でルイズはあまり縁起の良くない場所と思っていた。
先程呟いた言葉が示すように、今更ながら紫の情報は本当なのかと疑い始めていたのである。
最初に聞いたときは早く霊夢の所へ行かねばと急いでいたが、ある程度落ち着いた今ではその気持ちも薄らいでいる。
そして、段々と冷静さを取り戻す彼女はぽつぽつと思い出していた。ここ旧市街地に関する噂の数々を。
肝試し気分で深夜にここを訪れた若者たちが浮浪者たちに襲われ、そのまま帰らぬ身になったという話。
地下水道に潜むゴーストや、謎の病原菌が蔓延しているという都市伝説の類。
当時の王家が隠したという財宝が、今もどこかに隠されているという美味すぎる噂。
他にもあるかもしれないが、少なくともルイズが知っている旧市街地の噂はそれ程多くは無い。
だが腰を入れて探そうと思えば…百科辞典一冊分は無いにしても、それなりの情報は手に入れられるだろう。
それ程までにこの場所は怖ろしいくらいに怪しく、暇つぶしのネタにもってこいの土地であった。
しかしルイズからして見れば絶、ここは対に近寄りたくない忌み嫌われた場所なのは違いないのだ。
本当ならば自分の前にいる異世界人にもそれを教えたい所であったが、彼女はそこで悩んでいた。
(どうしよう…コイツに教えたらもうレイムを捜すどころじゃ無くなる気がするわ)
もしも目の前の相手が魔理沙以外の人間なら、ここの噂を聞いて予想通りの反応を見せていただろう。
例えば、若者たちが行方不明とかゴーストの話を聞かせれば多少なりとも自分の気持ちを理解してくれるに違いない。
だが、魔理沙やこの場にいない霊夢の二人にそんな事を話しても、それで怖がるという場面が想像できないのである。
むしろそれで怖がる自分を馬鹿にしたり、予想よりもずっと斜め上の反応を見せてくれるのではないかと危惧していた。
霊夢は鼻で笑ってくるだろうし、魔理沙に至っては話を聞き次第本当かどうか確認しに行くだろう。
実際にそうなるかどうかはわからないが、少なくともルイズはそういう事になるなと予想していた。
自分の話に斜め上の反応を見せてくれるかもしれない二人の姿を想像し、ルイズは無意識に呟いてしまう。
「言えるワケ無いわよね、面倒事になるのなら…」
「お、面倒事ってなんだ?何やら随分と面白そうな話がありそうじゃないか」
あまりにも意味深すぎる彼女の言葉に対し魔理沙が反応するのは、必然としか言いようがなかった。
「えっ?――あ、うぅ…」
まるで子供の様に無邪気な瞳で見つめられるルイズはしまったと後悔しつつ、どう答えようか迷ってしまう。
思い切ってここの噂を話そうか、もしくは何でもないと言って誤魔化すか。
正直言ってどちらの方を選んでも良くない事が起こりそうだと、この時の彼女は薄々感じていた。
仮に噂話を教えてしまうとなると、この黒白が唐突な探検を始める事は碌に考えなくとも予想できる。
かといって何もないと言えばこちらの根が折れるまで問い詰めてくるだろうし、そうなればここで立ち往生してしまう。
旧市街地へ来たのはあくまでも霊夢の捜索をする為で、都市伝説の真相を確かめに来たのではないからだ。
どんな言葉で返そうか迷っている彼女は、ふと先程の出来事を思い返す。
それは霊夢の様子がおかしくなった直後に、ガンダールヴのルーンが光り出したことであった。
(何でルーンが光ったのかわからない…けど、良くない事が起こりそうな気がするわ)
彼女は心の中で呟きつつ、自分の心が不安に包まれていくのを感じてしまう。
契約直後とワルドの魔の手から救ってもらった時以外、あのルーンが光ったところを今まで見たことが無かった。
不思議に思ったが本人曰く、自分の能力に関係していると言っていたのでそれが答えなのかもしれない。
しかし契約直後はともかくとしてアルビオンの時にはそれを光らせ、見事な剣術を見せてくれた。
何であの時にガンダールヴの力が働いたのだろう?あの日から二ヶ月近くも経つが、ルイズは今でも疑問に思っている。
当の本人にそれを聞いてもわからないと言っていたし、幻想郷に帰った時も答えらしい答えは見つからなかった。
ただ…異変解決の為に霊夢と一緒に自分の世界へ戻ろうとした直前、紫はこんな事を言っていた。
「この答えは今出てこないが、後で自ずと出てくるかもしれない」と。
(今回の事…もしかして、それが答えに繋がるのかしら?)
ほんの少しだけ過去の出来事を思い出していたルイズは、何回か瞬きをしてから現実へと意識を戻す。
そして後悔する。面白い情報を探り出そうとしている黒白の魔法使いが、すぐ傍にいたことを忘れていたのだ。
「何を黙ってるんだルイズ?黙ってても私は何処へも行かないぜ」
自分の返事に期待しているであろう魔理沙の言葉に、彼女はため息をつきたくなった。
知り合いが大変な目に遭ってかもしれないというのに、この魔法使いはくだらぬオカルト話に浮かれている。
他人との付き合い方も幼少の頃に学ばされたルイズにとって、あまり見過ごしておける人間ではなかった。
(でもここで喰いかかると色々面倒な事になりそうだし…どうしようかしら)
呆れてはいるものの、答えがみつからない事にルイズが頭を悩ませている時―――゛彼女゛は現れた。
まるで突風のようにやってきた゛彼女゛は燃え盛る炎の様な髪を揺らし、ルイズへと近づいていく。
考え事をしているルイズは背後から来る気配に気づかず、ルイズの方へ視線を向けている魔理沙も同様であった。
人々の活気と雑踏が遠くから聞こえるこの場所で靴音を鳴らし、赤い髪の少女はルイズたちへ近づいていく。
ルイズと同じデザインのローファーを履いた足で、ある程度近づいた少女はスッと息を吸い込み…ルイズたちに話しかけた。
「あらあら?何かと思えば…ヴァリエールと怪しげな黒白が肝試しの準備をしてるじゃない」
背後からの声にルイズは驚いた。まるで灼熱の中で踊る炎の女神を連想させる、美しいその声に。
そして何より、どうして声の主である゛彼女゛がこの様な場所へとやってきたのだろうかという疑問を覚えてしまう。
ルイズと同じタイミングで気づいた魔理沙も声の主を見てから、意外だと言いたげにアッと声を上げる。
この世界…というより魔法学院へ来てからというものの、゛彼女゛の赤い髪を忘れたことはなかった。
それ故に他の生徒たちが呟いていた゛彼女゛の名前と、持っている二つ名もしっかりと覚えている。
「それを羨む事は無いけれど、もう学院に帰らなくて大丈夫かしら?」
目の前の二人がそれぞれリアクションを見せた所で゛彼女゛こと、キュルケは尋ねてきた。
浅黒い肌に似合うその美貌、怪しげな微笑を浮かべながら。
「き…キュルケ!」
「ハロローン、今夜も良い双月が見れそうねヴァリエール」
急いで振り返ったルイズがその名を呼ぶと、キュルケは右手を軽く上げて挨拶をする。
驚愕の態度を露わにしている彼女と比べ、余裕綽々といったキュルケの顔には笑みが浮かぶ。
怪しげな雰囲気を放ちながら何処か他人を小馬鹿にしているような嘲笑にも似たソレを見て、ルイズは顔を顰める。
ルイズとキュルケ。この二人の仲が悪いという事は、魔法学院の中では知らない者の方が少ないくらいだ。
何せ先祖代々争ってきたのだ。犬と猿、ウツボとタコの間柄と同じく゛相性の悪い組み合わせ゛なのである。
それでも新しい世代である二人の仲は何も知れない者が見れば、それ程悪いというものではない。
どちらかの機嫌が悪くなければ軽く話し合う事はあるし、同じ席でお茶を飲むこともあった。
少なくとも今の所は、かつてのように恋人を奪い合ったりその果てに殺し合うという事は無くなったのは確かだ。
最も、今の状況では殺し合いといかなくても、両者の間で壮絶な口喧嘩が起こりそうな雰囲気があった。
「何しに来たのよ。派手好きなアンタがこんな所に来るなんて」
「別にぃ〜?ただチクトンネ街で遊んでたら、眼の色変えた知り合いが旧市街地へ走って行ったからついつい…」
自分の質問に肩を竦めながらしれっと答えたキュルケに、ルイズは唇を噛みそうになるがそれを堪える。
ただでさえ厄介な状況に陥っているうえに追い討ちをかけるかの如く現れた今の彼女は、予想外のイレギュラーだ。
そして彼女の言葉から察するに、どうやら自分と魔理沙を追いかけてここまで来たのだとすぐにわかる。
軽く驚いた表情を浮かべたままのルイズは、今回の事に彼女が首を突っ込んでくるのではないかと危惧していた。
魔理沙への返事を一時保留にしつつどう答えようかと思ったその時、後ろから余計な声が聞こえてきた。
「おぉ、誰かと思えばいつもタバサと一緒にいるヤツじゃないか」
「ちょっ…!?あんた!」
よりにもよってこんな時に空気を読まない魔理沙の発言に、ルイズは血相を変える。
いくらなんでも自分とキュルケの間に流れる雰囲気を察せれると思っていたが、全くの期待外れであった。
黒白に「ヤツ」と呼ばれたキュルケは笑みを崩さないものの、その体から発する気配に変化が生じる。
今まで穏やかだったそれに、弱火の如き僅かな怒りが混じり込む。
魔法は使えないが、メイジであるが故に相手の魔力を感じられるルイズは思わず舌打ちしたくなる。無論、魔理沙に向けて。
霊夢が消えたうえにこれから彼女を捜そうという時にキュルケが絡んでしまうと、もはやどうしたら良いか分からなくなってしまう。
それを避けようとしていた矢先に魔理沙の言葉である。舌打ちどころか鞭打ちでもしてやりたい欲望に駆り立てられる。
生憎にも鞭を持っていないのでしたくてもできないが、場違いな発言をした黒白に怒鳴る事はできた。
「アンタ、この場の空気も読めないの!?わざとアイツを怒らせるような事言って!」
今まで堪えていた分も合わせて怒鳴ったルイズであったが、魔理沙は涼しげに対応してくる。
「いやぁー悪い悪い、名前は覚えてたし悪気は無かったんだがなぁ」
「どこが「悪気は無かった」よ?さっき喋った時に嬉しそうな表情浮かべてたじゃない」
キュルケを「ヤツ」と呼んだ時の彼女の顔を思い出しながら、ルイズは言った。
痛い所を突かれたと感じたのか、魔理沙は左手で頭を掻きながらその顔に苦笑いを浮かべてしまう。
しかしそこからは反省の色が全く見えず、ルイズは歯ぎしりしそうになるのを抑えつつ怒鳴り続ける。
「大体ねぇ、今からレイムを捜そうっていう時に何で真面目になろうって思わないの!?」
「それはお前が、ここら辺の面白そうな話を知ってると思ったからさ。実の所霊夢よりも、そっちの方が気になってるんだぜ?」
「…〜っ!アンタってヤツはホント…」
悪びれることもなくそう言い放った魔理沙にキツイ一発でもかましてやろうかという時であった。
突如二人の間に挟まれるようにして、キュルケが話に割り込んできたのである。
「ねぇねぇ、あの紅白ちゃんが消えたってどういう事かしら?何か気になるんですけど?」
その言葉に応えようとした瞬間、相手が誰なのか気づいたルイズは目を見開いてサッと口を止めた。
右手で口を押えたものの直前「あっ…!」と小さな声が漏れてしまい、その様子を見ていたキュルケはニヤニヤと笑う。
まるで相手の言質を取った悪徳商人が浮かべるようなそれを見せながら、彼女はゆっくりとルイズに近づいていく。
意味深な笑みを浮かべて近づいてくる同級生にルイズは後退ろうとするが、相手の足の方が速かった。
後ろへ下がろうとする前にゼロ距離と呼べるほどまでに近づいたキュルケは、ルイズを見下ろすような形で口を開く。
「そういえば…貴女達をチクトンネ街で見た時、あの娘の姿は無かったわね…―――――何かあったの?」
「そ、それをアンタに言う義務が何であるのよ。普通はな、無いでしょうが…!」
いつも詰め寄られる時とは違いあまりにも距離が狭いため、ルイズは言葉を詰まらせながらもそう答える。
それに対しキュルケはただただため息をつくと、今度は魔理沙の方へ視線を向けた。
「お、この私に質問かな?」
「まぁ、そうね。普通の子供なら簡単と思える質問だから…正直に答えてくれる?」
「あぁ良いぜ?何でも言ってみな」
キュルケが質問をする相手を変えた事にルイズは戸惑いを隠しつつ、面倒事にしないで欲しいと心の中で魔理沙に願う。
ここで今の状況を全部知られてしまえば、赤い髪の同級生はなし崩し的に自分から巻き込んでくるだろう。
常に面白い事を探求し一日一日を情熱的に生きる彼女なら、絶対的な興味を示すことは間違いない。
それ程までに自分と霊夢たちが解決するべき゛異変゛は非日常的であり、色んな意味で壮大なのである。
しかしルイズからしてみれば、その゛異変゛はできるだけ誰にも知られたくないものであった。
一部の人間にはある程度話していたが、それでも最低限自分と霊夢たち幻想郷の者たちだけで解決しようと決めていたのである。
もし異変とは無関係な人間にこの事が知られてしまえば、今以上に面倒な事になるのは目に見えていた。
(素直に教えるとは思えないけど、頼むからキュルケが絡んでくるような事言わないで頂戴…!)
そんな事を必死に願う彼女を他所に、魔理沙とキュルケの話は続く。
「じゃあ聞くけど、あの紅白ちゃん…もといハクレイレイムは何処に行ったのかしら?」
「別にどうって事無いぜ?ただ昼食先のレストランでルイズと口論した霊夢が勝手にいなくなっただけさ」
ついに始まったキュルケの質問にしかし、魔理沙はあっさりと嘘をついた。
どうやらあまり面倒事にしたくないのは彼女も同じらしく、薄い笑みを浮かべて疲れたような表情を作っている。
しかし、微妙に勘の鋭いキュルケがそんな嘘を簡単に信じる筈もなく、怪訝な表情を浮かべて口を開く。
「本当にタダの喧嘩なのかしら?チクトンネ街を走っていたこの娘は大分必死な顔してましたけど?」
すぐ傍にいるルイズの頭を指差しながら、尚も質問し続けるキュルケに対し、魔理沙は肩をすくめて言った。
「まぁあの時のコイツも霊夢も相当イラついてたからな、あの後冷静になって怒りすぎたと思って走ってたんだよ」
同居人である私はその後をついていっただけさ。最後にそんな言葉をつけ加えてから、これで良いかと言わんばかりに肩をすくめる。
二度の質問をしたキュルケは三度目を行わず、はぁ…と短いため息をついた。
「そう…じゃあ単なる喧嘩で、貴女達はこんな辺鄙な所へ来たってワケかしら?」
「結果的にはそうなったな。もっとも、こんな所を知らなかった私としては良い勉強になったよ」
口から出る言葉に落胆の色を隠したキュルケに向けて、魔理沙はキッパリと言い切る。
二人に挟まれる形でお互いの様子を見ていたルイズはキュルケの方を睨みつつも、心の中で親指を立ていた。
無論、向ける相手は自分の後ろにいる魔理沙だ。
(ナイスよマリサ!アンタ、やればできるじゃないの)
口に出せはしないが、うまい事誤魔化してくれた黒白にとりあえずの感謝を述べる。
色々と面倒事が片付き、学院に帰ったらしつこく聞かれるかもしれないがそれは後で考えればいい。
今回の異変を解決する霊夢ならどんなに問い詰められようが、真実を教えることはないだろう。
そして霊夢や自分程とも言えないが、自分のたちの秘密を教えたくないのは魔理沙も同じなのは違いない。
例えもう一度聞かれたとしても、今の様に誤魔化してくれるだろう。
先程までならそう思えなかったが、キュルケのやりとりを見た今なら信じられるとルイズは思っていた。
後は突然のゲストを丁重に返して霊夢を見つければ、事態は収束するに違いない。
狸の皮算用とも言える脳内での作戦会議に満足していたルイズはふと魔理沙に肩を叩かれた。
まるで繊細過ぎるガラス細工を扱うかのように叩かれた彼女はどうしたのかと思い、振り返ってみた。
後ろに控えていた魔理沙は薄らとした笑みを浮かべながら、右目だけを忙しく瞬かせている。。
金色の瞳に見つめられているルイズは一体何なのかと疑問を覚えたが、それは一瞬で解消されることとなった。
先程まで魔理沙を見つめていたキュルケは落胆しているせいか、目を瞑ってため息をついている。
その隙を狙った彼女は瞬きを使い、ルイズにある事を伝えているのだ。
最初はそれに気づかなかったルイズだが、魔理沙の笑みを見た途端に彼女の言いたいことが分かったのである。
彼女はある要求をしていたのだ。本人曰く霊夢よりも興味が湧くという゛面白そうな話゛を聞きたいが為に。
うまくいったら、さっき言ってた噂とやらを教えてもらうからな――――
言葉を出せぬ今の状況であっても、魔理沙は自分の興味が向くモノに興味津々のようだ。
無言の眼差しからそれを読み取ったルイズは目を細めながらも、前向きな答えを出してみようかと考えていた。
(まぁ、キュルケを追い払った後で色々と聞かれそうだけど…どうせなら霊夢を捜しながらって条件でも出そうかしら?)
後ろの魔法使いにどんな返事をよこそうかと思っていた時、絶賛がっかり中のキュルケが話しかけてきた。
「あぁ〜あ、期待して損しちゃったわ。アンタらの喧嘩如きでこんな所へ来る羽目になるなんて…」
「…そう思うのなら早く学院に帰ったらどうよ?アタシたちはレイムを見つけたら帰る事にするから」
「アンタとあの紅白の喧嘩は見れるものなら見てみたいですけど…確かに、もう帰らないと夕食を食べ損ねてしまうわね」
これ幸いと言わんばかりに畳みかけるかの如くルイズが囁く、それに従うかのような彼女は言葉を返す。
もしかすると「面白そうだからついていくわ」という言葉が出てくるかと思っていたが、そうならなかった事にルイズは安堵する。
本心はどうなのか知らないが、何かあれば必ずからかってくるいつものキュルケは鳴りを潜めている。
逆にいつもより大人しい分何を考えているのか不安であったが、それは杞憂で終わって欲しいと願っていた。
このまますぐに帰ってくれれば、面倒な事がもっと面倒な事態にならないで済むのだから。
「じゃあ私たち、これからレイムを捜しに行くから…ほら行くわよマリサ」
「出来れば置いて帰りたいが、まぁ今回は探検ついでに付き合ってやるぜ」
いつまでも自分を見続ける同級生にそう言って、ルイズは旧市街地に入ろうとする。
そして、さっきの瞬きで伝えた約束を忘れるなと言いたげな事を呟きながら魔理沙もそれに続く。
一方のキュルケは完全に興味を失ったのか、去りゆく二人に向けてただただ左手を振っていた。
ルイズの考えている通りにいけば、傍迷惑な同級生は真っ直ぐ学院に帰ってくれるだろう。
しかし、良い事が二度も続けば三度目もまた良い事になるという保証は無い。
幸運が連続で訪れた時、それを帳消しにするほどの不幸が降ってくるのだ。
サプライズ的な危機を乗り越え、消えた使い魔を捜しにルイズは旧市街地へと踏み込み―――
知り合い捜しよりもこの場所を調べつくしたい衝動に駆られた魔理沙もまた、快調な足取りでもってルイズに続き――――
自分が想像していたものとは違う現実に、一人ガッカリしていたキュルケがさて帰ろうかと踵を返す―――その時であった。
歩き始めたルイズたちから約五メイル先にある雑貨屋だった建物の入り口である、大きな木造ドア。
雨風に長年晒され、もう取り換えられる事の無いであろう両開きのそれ。
ここへ入り込んだルイズと魔理沙にとって、特に目を見張るものでは無い廃墟の一部。
瞬間――――そのドアが物凄い音を立てて、勢いよく吹き飛んだ。
まるで上空に浮かぶ戦艦から放たれた大砲の弾が、木の小屋に直撃したかのような轟音が辺りを包み込む。
突然の事と音に二人は大きく体を震わせてその場で立ち止まり、背中を見せていたキュルケも何事かと振り返る。
内側から吹き飛んだドアは土煙を上げながら旧市街地の通りを滑り、二メイル程進んだ後にその動きを止めた。
碌な清掃が行われていない分土煙の勢いはすさまじく、ドアのある場所を中心に空高く舞い上がっていく。
夕日の所為で赤く見える土煙を凝視しながらも、体が固まったルイズはぎこちない動作で魔理沙に話しかける。
「何よ…?アレ…」
「……さぁ、何なんだろうな?」
対する魔理沙も驚いているのか、目を丸くしたままじっと佇んでいる。
全く予想していなかった事に二人の体は動かず、まるで石像になったかのように静止していた。
しかしそこから離れたところにいたキュルケだけは驚いただけで済んだのか、ルイズたちの方へゆっくりと近づいていく。
何が起こったのかと言いたげな表情を浮かべて近づく彼女であったが、ふとその足が止まる。
キュルケだけではない、呆然としていたルイズと魔理沙の二人も、何かに気づいたかのような表情を浮かべる
あんなに勢いよく舞い上がった土煙はあっという間に薄くなり、旧市街地に静寂が戻り始めていく。
そんな中、三人は煙越しに人影を見つけたのである。
地面に倒れたドアの上に尻餅をつくかのような姿勢のまま、人影は動かない。
すぐ近くにいるルイズたちの目にもぼんやりとしか映らず、誰なのかすらわからないでいる。
そして二人よりも遠くにいるキュルケの目には単なる黒いシルエットにしか映っていないのだ。
一体何なのだろうかと彼女は訝しむが、それは以外にも早くわかる事となった。
突如ドアが吹き飛び、ルイズたちの視界を遮るかのような煙が舞い上がって十秒が経過しただろうか。
最初は勢いよく舞ったものの、徐々に薄くなっていった砂煙は初夏の風に煽られて一気に消し飛ばされてしまった。
それによって単なるシルエットにしか見えない人影は姿を隠し切れず、三人の前にその正体を曝け出す。
直後、ルイズと魔理沙の二人は目を見開きアッと驚いた。
人影の正体。それは、一人の少女であった。
土にまみれても尚華やかさを失わない、赤く大きなリボン。
汚れてはいるが確かな清々しい白色の袖は、服と別離している。
黄色のリボンに控えめな白のフリルを飾った赤い服は彼女が巫女である事を示す、証拠の一つ。
ハルケギニア大陸では滅多にお目にかかれない黒髪は、土を被ってもその艶やかさを保っていた。
ルイズと魔理沙、そして二人の後ろにいるキュルケは知っていた。
何せ黒髪の少女の名を、三人はすっかり頭の中に刻み込んでいるのだから。
「……レイム!」
そして我慢できないと言わんかのように、ルイズがその名を叫んだ。
少し大きな声であった為か近くにいた魔理沙は勿論、ある程度離れたところにいたキュルケの耳にも入っていた。
「レイム…?じゃあアレって…」
キュルケはその声を聞きながらもまた歩き始め、ゆっくりと二人の背後へ近づいていく。
一応気づいてはいたのか、魔理沙は首を少し後ろへ動かして歩いてくるキュルケの方へ視線を向ける。
自分の方へと目をやった彼女に気づき、少しだけ荒くなった呼吸を整えつつキュルケは話しかけた。
「何だか知らないけど、アンタたちの捜してた紅白ちゃんが見つかったわね」
「私としてはもう少し隠れてもらいたいと思ってたんだがな…?」
キュルケの問いに対して魔理沙は、知り合いが見つかった喜びよりも、楽しみを奪われたかのような落胆の言葉を返した。
さぁこれから捜しに行こう、という時にこの展開だ。さしもの魔理沙もこれにはガッカリせざるを得ない。
そんな二人のやり取りを尻目に、ルイズはもう一度口を開いて声を上げようとした。
だがその前に、゛レイム゛と呼ばれた少女は無表情な顔をゆっくりと、彼女たちの方へと向け始める。
まるで老朽化しつつある歯車のようにゆっくりとした動きに、ルイズは怪訝な表情を浮かべた。
「レイム…?」
訝しむ声に気づいて他の二人もそちらを見やり、何か様子がおかしい事に気が付く。
まさか怪我でもしているのか?゛レイム゛を見つけて最初に声を上げたルイズがそう思った時だ。
゛レイム゛と呼ばれた少女は、五秒もの時間を使って動かした顔を三人の方へと向け終える。
夕焼けに黒髪を照らされ、尻餅をついたままの彼女は、間違いなく三人が知る博麗霊夢そのものだ。
そう、霊夢そのものであった。
鮮血のような、赤色の瞳を爛々と光らせている以外は。
以上で、後半部の投下は終了です。
今年も色々と良い事や良くない事がありましたが、良い一年だと思いました。
自分はこれで退散しますが。また2013年の1月末にでもお会いしましょう。
それでは、皆様にとって来年が良いお年になる事を祈ります。
みなさん乙でした。
本来ならばここで投下予告……できればよかったんですが、
三六協定?なにそれおいしいの?状態で今日も仕事してましたorz
期待されていた方がいらっしゃれば本当に申し訳ありません。
以上、生存報告です。
皆様良いお年をお迎えください(__)
あけおめ
あけおめことよろ
大吉だったら頑張ってみる
明けましておめでとうございます。
前回の投下から一年近く経ってました
よければ、八時頃からまた投下させていただきます
トリステイン魔法学院の図書館は大きい。
食堂のある本塔のなかに位置するその場所は、見る人が見れば宝の山に見えることだろう。
本棚の大きさは三十メイル程もあり、それが壁際に並んでいる。
この時間、この場所に人が来る事は滅多に無い。
図書館常連の人間も、この時間は授業中であり、教員も生徒も教室や職員室でそれぞれすごしている。
そんな中、天窓から降り注ぐ日差しをその頭頂部にて反射。人間ランプと化したその人。
四十二にして独身。メガネをかけた何処か冴えない中年教師。
彼の名前はジャン・コルベール。
今日も彼の脳天は不毛の大地である。
彼は、図書館の開館と同時に入館し、教師だけに閲覧を許されている一区画『フェニアのライブラリー』へ来ていた。
前日の夜に図書館に来ていたが、閲覧制限の掛かっていない一般の本棚には、彼の求めている情報は無かった。
彼が求めている情報というのは、使い魔に刻まれるルーンの意味と効果である。
先日ルイズが呼び出した使い魔に刻まれたルーン。
それに彼は興味を持った。
「気になる…気になる…非常に気になる…」
何故かは判らないが気になる。
他の使い魔に刻まれたルーンとは何かが違う。
そう直感が告げている。
ふと一冊の古書が目に入り、本棚から取り出す。
『固定化』の魔法がかかっているにもかかわらず、薄く変色した一冊の本。
かなり古いものだろう。
その本には、始祖ブリミルが使用していた使い魔について記されていた。
寝不足でクマのできた目元を指で軽く揉むと、目の疲れが少し和らいだ気がする。
そしてページをめくる手が動きを止め彼はその本のある一節に注目する。
目を見開き、その一節とルイズの使い魔に刻まれたルーンの模写と見比べる。
そしてその本を抱え、慌てるように走り出した。
向った先は、同じ塔の最上階、学院長室であった。
彼は余程急いでいるのか、授業中である筈の一人の生徒とすれ違ったのにも気が付かなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この学院の長を務めるオスマン氏は、只今秘書であるミス・ロングビルによって折檻を受けている最中である。
「わしの初登場酷すぎない?」
というのも、オスマン氏がミス・ロングビルのスカートを覗き、あまつさえ白い下着を着けていた彼女に
「黒がいい」とダメだしをして、さらに注意を促した彼女に対して、「そんなだから、婚期を逃すのじゃ」
とのたまった。
ようは自業自得である。
「まって。そこは蹴る所じゃない。蹴ってはいかん。思い直すのじゃ」
彼女は無言のままにオスマン氏の「ソコ」を蹴り上げる。
オスマン氏は下顎が地面に付くのではないかと思うほど開き、見開いた目から大粒の涙を零した。
その5秒ほど後に(オスマン氏。体感にして3分強)、学院長室のドアが勢い良く開けられた。
「オールド・オスマン!。大変です。……どういうプレーかは知りませんが神聖な学び舎で盛らないで下さい」
「盛ってなどおらん。君こそ頭をもうちょっとばかり盛らせた方がいいんじゃないかの」
「ジジイ表に出ろ。…大変ですぞオールド・オスマン!」
オスマン氏は机に座りなおすと、「やれやれ」と首を振った。
「大変なことなど、あるものか。すべては小事じゃ」
あの蹴りに比べたらな。っと呟くオスマン氏に、コルベールは先ほど読んでいた書物を渡した。
「『始祖ブリミルの使い魔たち』とは、また随分古臭いものを持ってきたのぉ。ミスタ…、えーっと…」
「コルベールです」
「それじゃ。それで、これがどうかしたのかね?」
そう問われると、コルベールはルイズの使い魔に記されたルーンのスケッチを、オスマン氏に見せた。
「…ミス・ロングビル。席を」
ミス・ロングビルが部屋から出るのを見届けると、オスマン氏が重々しくコルベールに問いかけた。
「詳しく話すのじゃ。このスケッチと、そしてこの本の関係を」
コルベールは全てを説明した。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「なるほどのう。で、君はどう思う」
オスマンが問うと、コルベールは少し深呼吸をした。
これを言うのは、かなり恐れ多いですね、と言って続けた。
「彼は伝説の使い魔。『ガンダールヴ』でしょう。断定はできませんが。ただそっくりなだけにしては、似すぎて
います」
「うむ。しかし断定出来んのであれば、様子を見るしかなさそうじゃの」
「そうですな」
話の切りがいいところでドアがノックされた。
「誰じゃ」
「私です。オールド・オスマン」
ミス・ロングビルは平坦な口調で答える。
「何かあったのか?」
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるそうです。止めるために、教師達が『眠りの鐘』の使用許可を求
めています。
「何処のどいつじゃ。決闘は禁止にしているはずじゃが」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「あのバカのバカ息子か。おおかた女の子関係じゃろうな」
そう言うとオスマンは、自分の白い髭を撫でつけ、椅子に深く腰掛ける。
「で、相手は?」
「…それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔です」
オスマンの目が鋭く光った。
「子供のケンカに秘宝を使ってどうするのじゃ。放っておきなさい」
「わかりました」
オスマン氏とコルベールは顔を見合わせると、オスマン氏が杖を振る。
すると、壁にかかった大きい鏡に、広場の様子が映し出される。
「では、『様子を見る』とするかのう」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「諸君。決闘だ」
周りから歓声が上がる。
「ギーシュが決闘するぞ!。相手はルイズの使い魔だ!」
ギーシュはひとしきり歓声に答えると、マキシマに造花の薔薇を突きつけた。
「よく逃げなかったな。ほめてやろうじゃないか」
「もっとほめていいぞ。何なら靴も舐めさせてやろうか?」
「フン。安い挑発だな。では、始めよう」
(もっとブチ切れてくれると思ったが、結構冷静だな…)
マキシマはギーシュの体をサーチ・アイでスキャンする。
骨格や筋肉の密度、相手の体温まで、敵の情報を観察する。
(本気で殴ったら即死だな)
「よーく見えるぜ…」
そんなマキシマの様子を見て、ギーシュが眉をひそめる。
「なんだ。怖気づいたのかい?来ないならこっちから行こう」
言うが早いが造花の杖を振る。
すると、杖から花弁が二枚宙に舞う…。
その二枚の花弁は形を変え、鎧を着た女性の姿になる。
全身を金属の光沢で鈍く輝かせる二対の女戦士は、ギーシュの前に並ぶように立つ。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句などあるまいね?」
「文句はないが、お話は終わりか?」
「終わりなのは君の人生さ。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』
が君の相手だ!」
ゴーレムの一体が、マキシマに突進してくる。
右の手を後ろに引き、マキシマの前まで来ると、右手は矢のようにマキシマの顔めがけて突き出される。
しかし、ワルキューレの放った右ストレートがマキシマの顔に届く事はなかった。
「さすがに魔法を数値化することは出来ないか。底は見えたがな」
ワルキューレの右拳を左の掌で受け止めたマキシマは呟くと、空いた手でワルキューレの頭を鷲掴みにする。
そのままワルキューレの頭を、まるで紙コップのように握りつぶした。
美しい青銅の像は頭だけを失い、崩れるように倒れる。
その光景を、ギーシュは口をポカンと開け、見届けることしか出来なかった。
周りの生徒も、その光景を信じられないように見ている。
「おい。終わりなのか?来ないのなら俺からいくぞ?」
マキシマがそう告げ、ギーシュに向かい歩を進めようとする。
するとギーシュは、やっと正気に戻った。
「い、いや!まだ終わりじゃない!だからまだ来るな!!」
「いつからターン制になった。…まぁいいが」
ギーシュが杖を振ると、新たに6体のワルキューレが姿を現す。
合計7体のワルキューレは、最初に出た二体の片割れ以外がそれぞれに剣や槍を持ち武装している。
「ギーシュの奴本気だぞ!」
「本当に殺すつもりだ!」
周りが騒ぎ立てる。
「あの使い魔…。ゴーレムの頭握りつぶさなかったか?」
「そ、そんなわけないだろ!!あれだ!ギーシュの奴、ワザと使い魔の前でゴーレムの頭が潰れるようにしたんだ!」
「なんで!?」
観衆はそれぞれ口にするが、ギーシュの耳に届かない。
目の前の相手を、それほど恐ろしく感じていたのだ。
しかし、後には引けない。
ギーシュは恐怖を押し殺し、気丈に振舞う。
「華は持たせてやった。これからは一方的に君を痛めつける。覚悟はいいか?」
「おしゃべりが好きならしりとりでもしようか?もっとも、そんなものでもお前は俺に勝てないがな」
「ほざけ!」
ワルキューレが一斉にマキシマに踊りかかる。
マキシマの体に剣が突き立ち、槍が胸を貫く。生意気で得意げな顔をズタズタに切り裂く。
そんな想像をし、ある者は顔を背け、ある者は期待と興奮に目を輝かせる。
しかしマキシマは、手ごろなワルキューレを掴むと、剣を振り上げる別のワルキューレに叩き付ける。
二体のワルキューレがバラバラになり地面に散らばる。
そしてまた、近くのワルキューレを片手づつ二体捕まえると、頭と頭をぶつけてクラッシュさせる。
槍を持った二体には、それぞれ打撃をお見舞いする。
首に水平にチョップを食らったゴーレムは、首を無くして崩れ、胸を殴られた青銅の像は、殴られた部分からひしゃげて
吹っ飛び、壁に叩き付けられると動かなくなった。
残るワルキューレは一体。
「お人形遊びは終わりだぞ?まだ続けるのか?」
その陰に隠れていたギーシュに、マキシマは問いかける。
すると、最後のワルキューレは青銅の輝きを失い、土くれとなって崩れ去る。
「いや…。もう逆立ちしても勝てないだろう…。悔しいが、それくらいは判るよ」
花びらの無くなった杖を捨て、ギーシュは「やれやれ…」と首を振る。
「しかし…だ…」
続けながらギーシュは、拳を作り体の前に構える。
その眼はマキシマを捉えたまま、必死で恐怖を抑えこみ、逸らすまいとしている。
「杖が無くとも、僕は貴族だ!貴族であり、一人の男だ!自分から仕掛けた決闘で、自ら退く訳にはいかない!」
マキシマに向かい、全力で駆け出す。
その様子に、マキシマは「ほう…」っと思わず感嘆に声を漏らす。
マキシマの手前、体五つ分の辺りで、急にギーシュの姿勢が低くなった。
そして、マキシマの周りに転がっているワルキューレの残骸から折れ曲がった槍を拾うと、体を起こす反動を付けながら
敵の喉を突こうとする。
それをマキシマは体を横にずらすようにかわし、ギーシュの顔の前に拳を突きつける。
ギーシュはそのままの勢いで、自分の顔ほどもある拳に顔面から突っ込むと、鼻血を噴出して地面に倒れこんだ。
「勝負ありだな」
マキシマが宣言すると、周りから歓声が上がる。
「おたくも負けを認めるかい?」
彼の問いにギーシュはゴロンと仰向けになり、鼻血と土で汚れた顔で苦笑いを浮かべながら答える。
「使い魔君、もう少しカッコよく負かしてくれないものかな」
「贅沢言うなよ。二股をして女の子を泣かしたヤツにはお似合いだろ?」
「言わないでくれ。本当は理解していたさ。僕が悪かったなんてね」
ギーシュは仰向けに寝たまま続けた。
「すまなかったね。僕もムキになっていた。君の主人にまで当たったのはさすがに自分でもどうかと思うよ」
「そう思うなら本人に謝っておくことだ。許してもらえるかは別としてな」
「分かってるさ。僕だって男だ。あぁしかし…」
「どうした?」
ギーシュの煮え切らない返事に、マキシマが問う。
「いや、女の子達にも謝らなければと思ってね。モンモランシーとケティは許してくれるだろうか…。モンモランシーは結構
キツイ所があるから」
「今誰がキツイって言ったのかしら?」
「いやあモンモランシー。いつ見ても君は素敵だね。まるで蝶のようだ」
いつの間にか近くに来ていたモンモランシーの機嫌を取るために、必死で褒めるギーシュ。
「そんなことより、もっと私に言うべきことがあるんじゃないの?」
「すいませんでした!」
フラフラと立ち上がり頭を下げるギーシュ。その様子を見て、モンモランシーは「はぁ…」とため息を吐いた。
「いいわよもう。後であの一年生にも謝っておくこと。いい?」
「そうだね。彼女にもひどい事をしてしまった」
そう言うと、マキシマの方に向き直る。
「改めて自己紹介しよう。僕の名はギーシュ・ド・グラモン。『青銅のギーシュ』だ。君にはとんだ迷惑を掛けてしまった」
「これっきりにしておけよ?二股も八つ当たりもな」
「ハハッ。耳が痛いね」
「普通のことでしょうが」
モンモランシーからのツッコミを受け、頭を掻くギーシュ。
そのやり取りを見て、マキシマは笑いながら右手を差し出す。
「マキシマだ」
その右手を取り、ギーシュとマキシマは握手を交わす。
「所で君の主人はどこに居るんだい?彼女にも謝っておかないと…」
そう言いつつ辺りを見回すと、すぐにルイズの姿を見つける。
「おお!ルイズ!ミス・ヴァリエール!すまなかった!君にも酷いことを言ってしまったね。いやはや、仮にもレディに対して
あんな言い草をしてしまうとは。僕の人生の汚点だ。申し訳ない」
「え、ええ。もう気にしてないわ。それよりマキシマ?」
「なんだ?」
「あんた、あんなに強かったのね。びっくりしたわ」
「そうだよ!僕のワルキューレがまったく相手にならないなんて。一体何者なんだ君は」
「なに、簡単な話だ」
歓声の鳴り止まぬ広場で、二人の問いに、マキシマは平然と答える。
「このお嬢ちゃんはアタリを引いたのさ」
ルイズ、ギーシュ、モンモランシーは顔を見合わせる。
「おい。そんなことより早く食堂に戻るぞ」
「食堂?どうしてまた戻るの?」
「俺はまだケーキを食べてないからだ」
そんなマキシマの言葉を聞いて、三人は笑いながら食堂へとついていった。
以上で今回の投下は終わりです
新年最初の投下が私で申し訳がない気がします
眠いんで寝ます。皆さんよいお年を
おやすみなさい
一発目おつ!
あけおめ
今年一発目乙でした
おつ
投下乙!
んちゃ! 今年もよろしくちょ!
お久しぶりです、あけましておめでとうございます(御辞儀)
よろしければ12:50頃より投下させてください
今回は少し短い上に、またしてもろくに話が進んでないですが…
トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で最も高い中央の本塔の中にあった。
食堂の中には百人は優に座れるような長いテーブルが学年別に三列並んでおり、ルイズは二年生で中央のテーブルで食べるらしい。
左右のテーブルにはマントの色が違う他学年の生徒が座り、一階の上にあるロフトの中階では教師たちが歓談している。
各テーブルには蝋燭や花飾り、瑞々しい果実が山と盛られた籠などが並び、豪奢な雰囲気を醸し出していた。
無論室内の装飾もそれに見合った見事なもので、壁際には意志を持って動きまわるという精巧な小人の彫像がずらりと並べてある。
この食堂は壁に並ぶ魔法の彫像の名にちなんで、「アルヴィーズの食堂」と呼ばれているらしい。
もっとも、ディーキンは昨夜既に食堂を訪れて華美な内装は見たしその話も聞いたので、今更驚いたりメモを取ったりはしない。
学院生に明日の貴族たるべき教育を充分に受けさせるために相応の食卓が用意されているのだとかなんとかルイズは誇らしげに説明してくれたが……。
正直言ってディーキンとしては、あちこちピカピカしてきれいだね、という程度の感想であり、関心は薄かった。
ディーキンはアンダーダークでアヴァリエル(翼を持つエルフの一種)の女王の城を見たことがあるし、ウォーターディープにも城や宮殿は当然ある。
豪奢な建物を見たのが初めてだというわけでもないし、昨夜見た図書館の方が遥かに重要で驚異的な施設だと感じていた。
そうでなくとも野外での食事に慣れている冒険者の身としては、食事をする場所の豪華さなどははっきりいってかなりどうでもいいことだ。
まあ、敵に襲撃されかねないような場所では安全に食事ができないから、場所がまったく関係ないというわけでもないが…。
「ウーン? それにしても、随分量が多いみたいだね。
ねえルイズ、ここの人はみんなこんなにたくさん食べたがるの?」
料理は朝から過剰に豪華で、でかい鳥のローストや上等そうなワイン、鱒の形をしたパイなどが食べきれないほど並んでいる。
体格も華奢でさほど体を動かしているようにも思えないここのメイジが、こんなに食べる必要があるのだろうか?
……まあもっとも、実を言えばディーキンも朝からこれ以上に豪華な食事を食べることはかなり多いのだが。
《英雄達の饗宴(ヒーローズ・フィースト)》という呪文を覚えたクレリック、ないしはバードを含む冒険者グループならばそういったことは珍しくない。
もしかするとこの食事もそれに類似した魔法的な効果のある物なのかとも一瞬考えたが、それらしいオーラは感知できなかった。
「まさか。全部食べるなんてしないわよ。
みんな好みのメニューも違うし、好きなものを食べられるようにいろいろと並べてあるだけなの。
食べたいものを食べて満腹になったらおしまいよ、残ったものは使用人のまかないとか使い魔の、……あ」
椅子を引いて座りながらそこまで話すと、ルイズは何かに気が付いたようにディーキンの方を見た。
ディーキンはといえば、ルイズと並んで席に座ろうなどとはせずにちゃんと立って控えている。
まだ使い魔としての仕事と言えば少々の雑用をこなしただけ、それでこんな豪勢な食卓に当然のように連日座るほど厚かましくはない。
「昨夜はいろいろあったから、あんたの食事を手配しとくのを忘れてたわ……」
ディーキンはそれを聞いて、軽く頷く。
食事の用意をしていないと聞いても、特に不平などは感じなかった。
昨夜の食事と寝床を提供してもらっただけでも十分今までの雑用の対価以上には値する、ゆえに食事が出なくても別段不当な扱いではないと思っているのだ。
「大丈夫なの、ルイズ。ディーキンは食事なら自分でなんとかできるの。
もし用意してもらえるのなら嬉しいけど、それが大変だったらこれからもちゃんと自分で準備するよ?」
特に気分を害した様子もなく笑顔でそう返してくるディーキンを見て、ルイズはむっと顔をしかめる。
確かに使い魔には自給自足させる、という方針のメイジは多くいる。
だが今のところこの風変りな使い魔に対しては他に報いられるものもないのだから、寝食くらいきちんと用意しなくては主人として立場がないとルイズは考えていた。
ましてや、用意して当然のものを忘れるというこちら側の不手際に対して逆に使い魔から気を使われてそれに甘んじるなど、プライドが許さない。
「主人に迷惑をかけない態度は褒めてあげるけど、あんたはそんなことまで気を回さなくていいの。
少し不手際はあったけどちゃんと今日の分も今後も、食事は用意してあげるわよ。
自分の落ち度で使い魔に負担を掛けるなんてメイジの恥だわ。
ええと、昨夜はここで余り物を食べてたし…、あんたの食事は私たちと同じような物でいいのよね?
もし他に何か食べたいものとかがあったら言ってちょうだい。
……あ、でも、まさか人間の肝とか……、そんな事はいわないでしょうね?」
たしかコボルドの神は、供物として生きた人間の肝を好むとか聞いた覚えがある。
まあ、ディーキンはどうも普通のコボルドとは違う種族のようだし、そんなものを捧げる習慣があるとも食べたがるとも思えないが……。
それを聞いたディーキンは、きょとんとした様子でルイズの顔を見上げた。
「えーと…、ルイズには、ディーキンが人間の内臓を食べたそうな感じに見えるの?
ディーキンはケーキが大好きなの、それと、ポテトシチューとかもね。
あと、……アー、まあ、最近はいろいろだね」
おばあちゃんが日光浴のあとでよくくれたおいしい虫も好きだ……、
と続けるのは、一度食事中にその話をしたところボスから少々嫌そうな顔でやめてくれといわれたのを思い出して中止する。
(ウーン……、ディーキンのおばあちゃんがよく鶏に手を突っ込んで内臓占いをやってたことも、きっと言わない方がよさそうだね……)
人間社会の習慣にもかなり慣れて、そのあたりの事は大分わかってきた。
いまだに感覚としては理解できないというかいまひとつ納得がいかないことも多いが…、理解はできなくとも尊重することはできる。
まあ、食料が乏しく虫なども食べる事が当たり前の習慣となっているアンダーダークでは結局、ボスも現地の習慣に従って口に運んだりしていたのだが…。
行儀のいい彼は食事に文句を言うなどという事こそしなかったものの、かなり嫌そうな顔をしていた。
ヒーローズ・フィーストの呪文はそんなボスを喜ばせようとアンダーダークでの冒険中に習得したのだが、心底嬉しそうに感謝してくれたのをよく覚えている。
まともな食事が手に入らない極寒地獄のカニアの野を旅する時にも、あの呪文には何度も世話になったものだ。
冒険者にとって第一に大切なのは十分な量で滋養のある食事ではあるが、美味しさというのも実際精神衛生面ではかなり重要である。
栄養満点の粥を永久に作りだせる魔法のスプーンを飲食の心配を無くすためにと購入した冒険者が、後で後悔して愚痴っているのを酒場で見かけたことがある。
というのも、そのマーリンド・スプーンが作る粥は、まるでボール紙のような風味で酷くマズいからだ。
その点、ヒーローズ・フィーストの呪文が生み出す御馳走は最高に美味である。
食すことによって得られる超常的な恩恵こそが主眼の呪文ではあるが、味の素晴らしさもまた、過酷な冒険生活の最中に荒んだ心を安らがせてくれる。
そういった仲間たちの精神面でのリフレッシュも、バードの担うべき務めなのだ。
「そう、ならとりあえず食事面で問題はなさそうね。
昨夜はここで食べさせたけど…ここは本来貴族の食堂だから、今日からは他の使い魔と一緒に厨房でもらったものをどこか外で食べて。
昼食からあんたに出すように、その辺の使用人に話を通しておくわ。
今日は事前に話してなかったから余り物か何かになっちゃうかもしれないけど…、明日からは好きなメニューを注文すれば用意しておいてもらえるはずよ。
……ま、とりあえず今は、私のをいくらか分けてあげるから床で食べなさい。
本当は外なんだけど、私の落ち度だし今回は特別ね」
「オオ、ただ食べさせてくれるだけじゃなくて、好きな食事まで用意してくれるの?
ディーキンは本当に嬉しいの、すごく感謝するよ」
食うや食わずで餓えた経験が何度もあるディーキンは、食事の味に文句などつけたことはない。
だが、それでもできるなら食事は当然、美味い方がいいとは思う。
そしてここの料理が美味い事は、昨夜食べさせてもらった余り物の味で確信している。
ヒーローズ・フィーストを使えば美食を用意できるが、冒険中でもないのに食事のために毎日貴重な呪文枠を裂きたくはない。
それにもしかすれば、フェイルーンには存在していない珍しい食材や料理が味わえるかもしれない。
さまざまな未知の味を求める事は、多くのドラゴンが持つ娯楽でもある。
ディーキンの以前の“ご主人様”などは、たまに人間に化けて街までミートパイを食べに行っていたほどだ。
竜の血に目覚めて味覚が鋭くなり、また金銭にも余裕ができてきたディーキンには、多種多様な味を試して楽しむことにも関心が芽生えてきている。
そんな贅沢な娯楽はほとんどのコボルドにとって…また少し前までのディーキンにとっても、思いもよらぬことであった。
これまでに行ったアンダーダークやカニアにも、フェイルーンの地上世界にはない珍しい食事が様々にあり、中にはとても美味しい物もあった。
……まあ、基本的には食料の乏しい地だし、単に珍しいというだけで味も何もないような代物も多かったが。
「おおげさね、使い魔の食住の世話を見るくらいはメイジとして当然よ?」
「ディーキンはいつも、小さなことに感謝するの。
いつか、大きな感謝をするためにね。
小さなことがちゃんとできない人に、大きなことはできないってよくいうでしょ?」
「そういうものかしら。まあ、礼儀を弁えた態度は褒めてあげるわ。
ほら、この皿とナイフとフォークを貸してあげるから、好きなものを取り分けて持っていきなさい。
……って、あんたじゃ取るのが大変そうね……」
ディーキンは食器類を受け取ると背を伸ばして食卓のメニューを眺め、うんしょうんしょと手を伸ばして端の方にあるパイを切ろうとしている。
あの分では、食卓の奥の方にある物には手が届くまい。
空を飛べば届くだろうが、まさか食堂で翼をはためかせて飛ばせるわけにもいかない。
机によじ登って取るなどという恥ずかしい真似をさせるのは論外、椅子を踏み台にさせるかとも考えたが、食事前にごたごたして注目を集めたくなかった。
それに、もうすぐ食前のお祈りが始まる時間のはずだ。
「もう……、いいわ、あんたの身長の事を考えてなかったのも私の落ち度だし。
食器を貸して取りたいものを言いなさい、私が取ってあげるわ」
食事を誰かのために取り分けるなど本来給仕のするような事だが、メイジとして使い魔に餌を手ずから与える事は恥にはならない。
「ウーン、いいの? じゃあ、お願いするよ」
先ほど雑用は魔法でやれと言われたことを思い出して、何か魔法で取ろうかと考えていたが……ルイズが取ってくれるというのなら任せていいだろう。
ディーキンは少し考えると、これまで見たことのない珍しい食材を使っていそうなものを中心に選び、皿に盛ってもらう。
ついでに通りがかった給仕にルイズが用意させた追加の食器にシチューをよそい、パンとパイを一切れずつ添えたお盆に載せて受け取ると床に座った。
生徒らの前に並べられた御馳走に比べれば遥かにささやかな量だが、十分に豪勢な朝食といえる。
フェイルーンでは、それなりに上等な部類の宿でなければこのレベルの朝食は出まい。
「偉大なる『始祖』ブリミルと、女王陛下よ。
今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを、感謝いたします」
生徒らが食前の祈りを捧げている様子を見て、ディーキンは首を傾げた。
自分も同じようにするべきだろうか?
とはいえ、自分はここのメイジたちの始祖や女王陛下とやらに対して別に何の感情もないし、そんな輩に祈りを捧げられても仕方あるまい。
「ウーン……、えーと。
コボルドの創造主にして『救い主』である偉大なるカートゥルマクと、竜族の創造主である『一にして九なる竜』イオにかけて。
ディーキンは今日、この食事を授かったことに、心から感謝するよ」
ディーキンの故郷レルムの宇宙観には、数多くの神格が存在している。
そしてレルムに住まうほとんど全ての定命者は、程度の差こそあれ、少なくとも一柱以上の何らかの神を信仰しているのが普通だ。
生前あらゆる信仰を拒絶した不信心者や信じた神を裏切った不誠実者には、恐ろしい運命が待っているのだ。
レルムでは、定命の存在の魂は死ぬと“忘却の次元界”へと引き寄せられ、そこで生前に信仰していた神格の従者が神々の元へ連れて行ってくれるのを待つ。
だが不信心者や不誠実者には、身柄を引き受けてくれる神格がいない。
そのような者たちは、忘却の次元界を治める『死者の王』ケレンヴォーから恐ろしい罰を受ける。
不信心者の魂は分解され、ケレンヴォーの統治する“裁きの都”を囲む生きた城壁の一部に再構成されてしまう。
不誠実者はその罪の程度に応じた刑罰を申し渡され、ケレンヴォーが解放を命じない限り永久に裁きの都で刑に服し続ける。
そしてあらゆる死者を公平に裁く厳格な神であるケレンヴォーは、その生涯に渡って絶対に心変わりすることはない、と言われている。
ディーキンは特に信心深い方でもないが、レルムに住まう住人の常として、何柱かの神格には折々に敬意を払っている。
カートゥルマクは悪の神であり、当然その教義には全く従ってはいないものの、コボルドという種族の守護神格としてはディーキンもそれなりに崇拝している。
イオは何柱も存在する竜の神格の中でも主神とされ、属性に関係なく多元宇宙のすべての竜族を守護する神である。
ドラゴンを畏怖しているコボルドには竜の神々に敬意を払うものが多く、最近竜族の仲間入りを果たしたディーキンもその例に漏れない。
イオは他種族と竜族双方の血を引くハーフドラゴンに対しても寛容で、加えて旅や知識、魔術などの、冒険者のバードにとって縁の深い多くの権能を有している。
ゆえに、ディーキンがもっとも頻繁に祈る神の一柱である。
他にも何柱かの神格には時々、特にその神の権能に応じた状況では祈ることがあるが…、まあ食事の場でいちいち名をあげるほどではない。
――――そうして、祈りを終えた生徒らとディーキンは食事を始めた。
「…………」
蒼い髪の小柄な少女――――タバサは、ルイズから少し離れた席で食事を黙々と口に運びながらも、時折ちらちらとヴァリエールの使い魔の様子をうかがっていた。
昨夜自分の使い魔に約束した手前、あの亜人が彼女の言うように本当に竜なのかを確かめなくてはならない。
ゆえに、何か手がかりはないものかと先程から様子を観察していたのだが…。
(今、確かにあの子は“竜の創造主”とかいうものに祈っていた。
だけど、“コボルドの創造主”とかいうものにも祈っていた……?)
風のメイジであるタバサは耳がよく、特別に注意を向けていたこともあってディーキンの食前の祈りの文句もしっかりと耳に入っていた。
おかげで重要な手がかりらしきものは得られたが…、かえって混乱が増すばかりだ。
コボルドは、先住魔法の使用者が“大いなる意思”と呼んで共通して崇拝している存在に加えて独自の神を祭る……という事は、本で読んで知っている。
生きた人間の肝を供物として好むという以外にはほとんど未知とされていたが、彼は確かカートゥルマク、とかいっていた。
とるすと、それがコボルドの祭る犬頭の神の名なのであろうか。
竜の神については聞いたことがないが…、滅亡したとされていた韻竜が崇拝している存在だとすれば、後で自分の使い魔に聞けば何か分かるかもしれない。
なおイルククゥ(先住の民の名では不自然なので、後で別の名前を与えようかとタバサは考えている)はまだ眠っている。
朝食が済んだら起こして城下町へ本を買いに行かせるつもりだが、その時に聞いてみるとしよう。
だが……、コボルドの神と竜の神の両方を崇拝している亜人など、いるのだろうか。
あの祈りの内容は一体、どう考えたらよいのだろう。
彼はコボルドなのか、ドラゴンなのか、……それとも全く別の何かなのか?
(……それに、翼……)
昨日は確かに、あの亜人にはあんな翼は生えていなかったはずだ。
召喚の場に居合わせた他の生徒たちの中にも、それに気付いて首を傾げているものが何人かいたようだが…、すぐに気にしなくなったらしい。
まあ他人の使い魔に翼があろうがなかろうが別段重要でもなんでもないし、単に記憶違いかそういう亜人か、何にせよどうでもいいと考えるのは無理もないことだ。
自分も昨夜の使い魔の言葉がなかったら、大して気にはしなかっただろうが……。
あの子はドラゴンだと言われ、半信半疑で確認に来てみたらいきなり生えてなかったはずのドラゴンみたいな翼が生えていたのだから、そりゃあ気になる。
自分の使い魔も使う事ができる、姿を変える風の先住魔法の一種だとすれば見た事もない奇妙な容姿の亜人に化けることも可能だろう。
だがしかし、そもそも何故そんな姿を取り、どうして翼を生やしたり消したりしたのか、その理由となると………。
「……タバサ、さっきからどうかしたの?
あなたが食事を半分も食べないうちから手を止めてぼんやりしてるなんて」
隣りの席に座っているキュルケから訝しげに声を掛けられて、ふと思考を中断する。
いつの間にか、考え事に夢中で手が止まっていたらしい。
「いよいよあなたにも春が来た、とか言うわけじゃなさそうね。
ええと………」
先程タバサがちらちらと目をやっていた方を見てみる……。
と、今朝挨拶したヴァリエールの使い魔が座って、にこにこもぐもぐ幸せそうに食事していた。
「あら、あなた、ディーキン君に興味があるのね?
どこで目を付けたのか知らないけど、さすがにあなたは見る目があるわねー。
私も今朝話してみて気付いたんだけど、見た目はトカゲっぽいのに愛嬌があって……、不思議と魅力的な感じなのよね。
それにいい子みたいだし、あのヴァリエールには勿体ないわ」
「………知的好奇心はある。見たことがない」
タバサはそれだけいうと、視線をテーブルに戻して食事を再開する。
本来の目的は伏せたが、別に嘘でもない。
使い魔の要望に応えるためという以上に、自分自身でもあの使い魔の素性は気になり始めている。
キュルケはそれで納得したらしく、肩を竦めて苦笑すると相変わらずあなたは勉強熱心ねと呟いて周囲の男子との談笑に戻っていった。
タバサとしては別にキュルケを信頼してないわけではなく、むしろ全面的に信頼しているが、今のところは詳しく事情を説明する気にはなれなかった。
そもそも今話す必要は別にない事だし、もし本当にあの亜人が韻竜の類なのだとしたら、自分と同じくヴァリエールだって無闇に他人に知られたくはあるまい。
とにかく、今これ以上観察を続けたりあれこれと考えていても仕方がなさそうだ。
(……機会を見て直接聞いてみるのが一番早くて確実)
タバサはそう結論を出した。
キュルケはあの亜人を「いい子だ」と言っていたし、彼女の人間の観察眼は親友としての贔屓目を抜いても充分信頼できる。
自分としても、先程の彼とヴァリエールとのやりとりを聞いてみた限りでは穏やかで善良そうな印象を受けた。
なら、変に策を弄さず本人に正面から聞いてみるのが一番早いのではないか。
どうせ同じ学院の使い魔同士は日常的に交流するのだし、使い魔の間では遅かれ早かれ、韻竜であることは知られるだろう。
なにせ使い魔は主人が望めば感覚を共有されるのだから、韻竜同士だからといって普通に会話させ、自由に振る舞わせていれば主人にもいずれ露見せざるを得ない。
許可するとしてもせいぜい超上空のみでそれ以外では人間の言葉を話さないよう指示しておくこと、他の使い魔に口止めを頼ませることは必須として。
他の使い魔とは普通の使い魔にわかる範囲の事しか話せず、ただの竜との区別はできないだろうから、問題はおきないだろう。
問題はヴァリエールの使い魔が同族だったとして主人である彼女に教えていいものなのかどうかということで、それを早めに見定めておきたい。
自分だって使い魔にあまり不自由な思いをさせるのは本意ではないし、気兼ねなく会話をできる相手を与えられるならばそれに越したことはないのだが……。
「………………」
ヴァリエールは努力家で名誉を重んじ、信頼できない人物とは思わないが、個人的な交流はまったくない。
しかもキュルケを嫌っているようで、その友人であるとなれば自分にも悪印象をもたれるかも知れない。
たとえ韻竜同士だとしても会話は互いに先住言語で行って、主人には伏せておいてくれるよう頼む方が現実的かもしれない。
(まずはヴァリエールがいない時を見計らって、私とあの使い魔だけで話をする。
………とりあえず、今は食事が先)
―――ひとまずそう決めたタバサは、学院のほとんどの生徒が半分も食べずに残す朝食を恐ろしいハイペースで胃袋に収めていった。
ヒーローズ・フィースト
Heroes' Feast /英雄達の饗宴
系統:召喚術(創造); 6レベル呪文
構成要素:音声、動作、信仰
距離:近距離(25フィート+2術者レベル毎に5フィート)
持続時間:1時間(食事)+12時間(効果)
この呪文は詠唱に10分の時間を要し、ヴァルハラの英雄達が食べるような極上の御馳走を術者レベル毎に1人分ずつ作り出す。
飲食物や食器に加えて、豪華なテーブルや椅子、給仕(ワルキューレ?)までもがセットになって出てくる。
アムブロシア(神饌)のような食べ物やネクタル(神酒)のような飲み物もあり、飲食に1時間を費やした者は素晴らしい恩恵を得られる。
あらゆる病が癒えるとともに12時間の間毒や恐怖に対する完全な耐性を得る。
また、1d8+術者レベル毎に1(最大10)ポイントの一時的hpと、攻撃ロールと意志セーヴへの+1士気ボーナスも得る。
バードが使う呪文としては最高レベルの部類に入るもののひとつである。
ローフルイービル(秩序にして悪):
アライメント(属性)がローフルイービルの者は、自らに課せられた規制や行動規範の範囲内で私腹を肥やしたり他人から搾取をする利己主義者である。
彼らは伝統や忠誠、秩序は重視するが、自由や尊厳、人命などは軽んずる。
法や約束を破ることを嫌うのは、それらに従うことで自らの身や立場を守る必要があるというのがその一因である。
あらかじめ交わした契約を破らない範囲内で何通りかの選択が可能なら、彼らはその中で最も自分にとって利益があるものを選択する。
また、規則や契約を自分に都合よく曲解することも厭わない。
悪人ではあっても、「無抵抗な者は(なるべく)殺さない」「女子供に(自分の手では)危害は加えない」などの行動規範らしきものを持っている者も多い。
彼らはそうすることによって、無秩序なごろつきどもと自分達とは別格であると自惚れている。
あの手この手で領民を搾取する無慈悲な領主、上司の命令を盾に殺しを楽しむ兵士などはこのアライメントに属する。
権力中枢がローフルイービルの共同体には往々にして厳格で一握りの権力者に都合のいい法体系があり、殆どの者は厳しい罰を恐れるがゆえにそれに従っている。
秩序にして悪の属性を代表する来訪者はデヴィルである。
また、D&D世界における一般的なコボルドのアライメントでもある。
他作品ではスターウォーズのボバ・フェットや、Xメンのマグニートーが秩序にして悪の例とされている。
ローフルイービルとは秩序立った、計画的な悪行を意味する。圧政者。
今回は以上です
また出来るだけ早いうちに続きを書いていきたいと思います
それでは、皆様が本年もよい年を送られますように…(御辞儀)
ディーキンの人乙です。
ヒーローズ・フィースト覚えたら、毎日食べるようになりますからね。
下手したらカトレアの病気もなおる?
下手したら、って病気治ってほしくないのかね
ジャン・バルジャン召喚したらどうなるの?
ヒーローズフィーストでもうかかってる病気もキャンセルできるんだろうか?
それはそうと、スクロールじゃなくて自前で発動できるレベルかよ。
NWN拡張最後までクリアしてるとすっとメフィストフェレス御大にも勝ってるわけだからね
クリア時のレベルは多分25〜30レベルくらいあるはずだぜ、普通にエピックキャラだよ
ホード・オブ・ジ・アンダーダークはD&Dのお約束
「高レベルキャラが邪神や魔王と因縁が出来て魔界や地獄で大立ち回り」
のインフレバトルをやるゲームだしな
もっとも、あのゲームはラスボスに戦わずして勝つ事も可能なんだが
ジョゼフ王がフジリュー版封神演義から女禍を呼び出して
『失われし殷王家の力』を手に入れちゃいましたwwww
ドクター・ゲロを召喚して人造人間に改造してもらえばどうだ。普通に超サイヤ人より強くなれるぞ
ゲロは人格プログラムはヘタクソみたいだから洗脳されることはまずないだろうし
クロス敵出して舞台をハルケにしただけの作品よりかはゼロ魔の敵強くしたほうがマシか?
ワルドを魔改造しても結局咬ませ犬のままになりそう
>237
ボバフェットとマグニートーは無頼大全の、各属性の無頼の例だから、
その属性の典型例ではないんじゃないかな?
とりあえず私が一番最近HotUをクリアしたときは、主人公(と仲間たち)の最終レベルは28でした。
このゲームは基本倒した敵は復活せず経験値稼ぎはできない仕様なので、おそらく他の方がプレイしても大体似たようなレベルになるかと思います。
>>249 はい、無頼の例ですので典型とは言い難いかもですね。
ですが無頼もその属性に違いはないですし、他に例は見当たりませんでしたし、
私が「多分このキャラはこの属性」とか勝手に判断して書くよりは公式のものの方がいいかなと思ったので、一応。
251 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/05(土) 14:58:44.59 ID:02WxjR7T
>>248 ワルドはロリコンマザコンに次いでヒモのニート属性までついちゃったからな
ヒーローズ・フィーストでタバサママンの解毒もできるかも?
ヒーローズフィースト万能説
ただ正気失ってるタバサママンが一時間も食卓についていられるかというと…
バードの呪文リストには精神に働きかける呪文も多いのでどうと言うこともないかと。
ただし直接死を強制する呪文はありません。
あけましておめでとうございます。
19:49頃から続きの投下を行いたいと思います。
Mission 37 <破壊者、降臨> 中編
闇の眷属たる悪魔達の住まう魔界は実に様々な環境で構成された領域が存在する混沌の世界だ。
永久凍土に覆われ、その身を骨の芯まで痛めつけるほどの寒さで支配された極寒の領域。
逆に全てを焼き尽くす灼熱の業火と溶岩が広がる、魔界で最も過酷と言われる炎獄の領域。
魔界の住人でさえ参ってしまう瘴気が広がるだけでなく、彼らを飲み込み、森の一部としてしまう生きた深淵の密林が広がる領域。
どこへ行こうとも、魔界へと迷い込んだ者に待っているのはその過酷な環境に耐えられずに死に絶えるか、領域に住まう血に飢えた悪魔達の餌食となるかのどちらかだ。
昼も夜の区別もなく、時間の感覚さえ失いかねない混沌とした地獄の中を生き抜く方法はただ一つ。――己の力によって襲い来る敵を打ち倒すのみ。
スパーダはそれらの過酷な領域を含め、無限に存在する数多の混沌の世界たる故郷を、デルフリンガーと共に渡り歩いていた。
その間、彼らには『休息』『平穏』などといった二文字は決して許されない。
故に1500年ぶりの故郷を懐かしみ、見物している余裕もスパーダには無かった。
「相棒っ! またあのエセ天使だぞっ!」
左手に装着されている篭手のデルフが焦ったように声を上げる。
だが、スパーダはデルフからの警告にも悠然と歩を進める足を止めはしない。
神々しい白光で満ち溢れた世界。そこには踏みしめるべき大地と呼べるようなものは存在しなかった。
広大な空間の中には、現世で見られるありとあらゆるものがそこかしこに浮かび無秩序に、上下の別もなく漂っている。
無数の岩塊、大理石の石柱や階段、城壁といった瓦礫などはもちろんのこと、中には巨大な彫像や白亜の城塞、塔さえも形を残しつつ存在していた。
それらの物体はこの光で溢れた空間そのものに照らされながら静かに留まっている。
天界と呼んでも差し支えない壮麗で神秘的な光景ではあるものの、頭上を見上げればそこに広がるのは全く別の光景がある。
禍々しい漆黒の暗雲が渦巻き、その中には巨大な朱色の瞳孔のような影が太陽や月のように、しかし不気味にぼんやりと浮かび上がっている異様なものだった。
そして、この光の領域に住まう魔の眷属達は……。
――ハアアアッ!
荘厳な、威勢のある掛け声と共に光が、空間を漂う瓦礫の上を歩くスパーダ目掛けて右方から突っ込んできた。
眩しいほどの光に包まれたそいつは、手にする長大な青光の槍を突き出す。
スパーダは冷然とその槍を篭手のデルフで掴み取ると、そのまま相手ごと無造作に背後へと持ち上げて叩きつけた。
ガシャンッ、と甲高く割れる音が響くがスパーダは振り返りもせずに無数の幻影剣を発生させると背後に向けて一斉に射出する。
――グオアアアッ!
重々しく威厳のある悪魔の断末魔が響き、気配が一つ消えたことを感じ取る。スパーダの横を背後から羽毛状の光が流れてきて、すぐに溶けるように消えていく。
悪魔の気配そのものは全て消えてはおらず、まだ何体もの悪魔達がスパーダの周りにいるのを感じ取っていた。
(しつこい奴らだ)
この領域へ足を踏み入れてから何度も相手にしている悪魔達ばかりであったが、正直いって鬱陶しいこの上ない。
スパーダの正面上方から突如、三つの眩い光が透けるようにして姿を現した。
宙を漂う光の中にいるのはその体を純白の大きな翼に包み込んだ品格と威風に満ちた灰色の男女。翼と一体化している手の片方には青白く光る長大な槍を手にしている。
肩からも翼を生やし、さらには下半身さえも翼で覆われているそれは天使と見まごうごとき美しく神々しい姿であり、とても悪魔とは思えぬものであった。
だが、この姿も所詮は現世の者達を惑わせるための見せ掛けに過ぎない。
堕天使とも呼ばれる、天使の面をかぶったこいつらはフォールンと呼ばれている中級悪魔だ。
いい加減に見飽きているフォールン達にスパーダは思わず溜め息をつきたくなりつつも、背中のリベリオンを手にして無造作に垂らしながら瓦礫の道を進んでいく。
「ったく、あのエセ天使ども……。しつこいったらありゃしねえな」
デルフも何度となく現れたフォールン達の姿に辟易している様子だ。
6000年前も始祖ブリミルはこんな奴らを相手にしていて、当時のガンダールヴと共に手を焼いていた気がする。
確か、あの時ブリミルは……。
――セイヤッ!
女顔のフォールンが手にする槍をスパーダ目掛けて投擲し、それをスパーダは素早く後に身を引いてかわす。
さらに後へとステップを踏んで下がった途端、瓦礫の地面に突き刺さった槍が雷鳴のような轟音と共に大きく爆ぜた。
まるで天の怒りが降り注いだかのような場面を連想する爆発の余波が、スパーダのオールバックの髪へと流れていく。
――ハアッ!
右側面へ流れるように回り込んでいた男顔のフォールンの一体が槍を力強く振り上げる。
さらにもう一体のフォールンは地面の下からすり抜けて槍を突き上げてきた。
半分実体を持たないフォールンにとって今の状態では地形など全く意味を持たない存在なのである。
だからこそこいつらはこのような奇襲戦法を得意とし、そして地形を壁にすることで相手の攻撃を通さないようにするのだ。
スパーダはまずリベリオンを片手で振るい、右側のフォールンの槍を弾き返す。そして、地面から仕掛けてきたフォールンの槍をデルフを盾にして受け止めた。
「おっとぉ! 通しゃあしねえぜ!!」
フォールンの奇襲を防いだデルフが吠える。
リベリオンの反撃で怯んだフォールンに向かって飛び掛ったスパーダはリベリオンを振るってフォールンの体を覆っている翼に斬りつけていく。
さらに背後に出現した八本の幻影剣がスパーダの攻撃に合わせて様々な角度で振り回され、怒涛の連撃が繰り出されていった。
フォールンを包んでいる翼は中々に強固な結界としての役目を果たしており、このままでは本体に傷を付けることは叶わない。
だが、その翼そのものがスパーダの攻撃で傷付けられ、ヒビが入っていく。
――フンッ!
――ハアッ!
だが、当然他の二体のフォールンもスパーダに攻撃を続けてくる。頭上で槍を振り回す、槍を突き出すという方法で突進してきた。
スパーダは空間転移でその攻撃をかわし、背後から槍を突き出してきたフォールンの頭上に現れる。
フォールンの頭を踏みつけ跳躍し、身を翻すとそのまま瓦礫へと戻っていった。
瓦礫の上へと着地するとリベリオンを背に戻し、ルーチェとオンブラを手にしてフォールン達へと銃口を向ける。
既に発現させていた幻影剣を全てフォールン達に射出し、さらに新たな幻影剣を発現させては射出させていく。
そして、左手のオンブラの引き金を何度もの引き絞っては魔力を固めた銃弾を放ち、幻影剣と共にフォールン達の翼に傷をつけていった。
銃弾と飛剣の雨にフォールン達も焦っているようだ。既に一体は体を覆っていた左腕の翼が砕け散り、その隠されていた体が露となる。
その下にあったのは――醜い顔。
比喩でも何でもなく、大きく口の裂けた顔そのものがフォールンの胸から腹にかけて存在しているのだ。それはあまりにも不気味で奇異でしかない。
これが堕天使フォールンの本性。奴らはこの醜悪な顔こそが本体であり、人間の頭のようなものはいわば角や触覚に過ぎない。
スパーダはその醜く怪異な顔面に容赦なく、魔力を蓄積させていたルーチェから放ったより強力な魔力の弾丸を叩き込む。
――グアアアッ!
強烈な銃声は広大な空間に反響し、フォールンの断末魔もまた大きく木霊する。
眩い光に包まれ、無数の羽毛状の光を魔力の残滓として残しながら、堕天使は昇天していった。
「おいおい、逃げちまうぜ。とっとと仕留めた方が良いんじゃねえか?」
「当然だ」
銃弾と幻影剣で同じように翼を砕かれていた二体のフォールンが醜い腹部の顔を晒しながらスパーダの立つ瓦礫より遠ざかっていく。
あれでフォールンは意外に臆病な存在であり、本体である己の醜悪な顔を傷付けられることを何より嫌う。
あの状態では地形をすり抜けることもできない。だからああして空間を漂う瓦礫などに身を隠そうと必死なのだ。
もっとも、悪魔としての再生力で時間が経てば翼も復活する。その前に仕留めるのである。
しえん
259 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/05(土) 20:00:33.97 ID:U4BQTDIF
……魔を切り裂き、喰らい尽くす閻魔刀を用いればフォールンの結界など無視して本体を仕留めることもできたのだが。
事実、ここに来てから今まではそのようにして手っ取り早くフォールン達を仕留めていた。だが、そればかりではつまらないからこうしてリベリオンも使うことにしたのだ。
大きな瓦礫の影にフォールン達が逃げ込んでいくのを見届けていたスパーダはルーチェ、オンブラを収め僅かに腰を落とすと、
背中から引き抜き斜に構えたリベリオンをさらに後へ引き絞るようにして構えた。
ルーチェ、オンブラに注がれるものよりもさらに強大な魔力がリベリオンの刀身に纏わりつき、赤いオーラを帯びていく。
オーラの色は時と共にさらに濃くなり、魔力の唸りの中にバチバチと魔力が弾ける音が混ざっていた。
いつだったか、ラ・ロシェールの町でロングビルのゴーレムを粉砕した時とほぼ同じ膨大な魔力がリベリオンに注がれている。
あの時はロングビルを配慮して三度に分けて放ったが、今度はその必要はない。
「Break Down!(砕けろ!)」
渾身の力を持って一気に振り上げたリベリオンから魔力が溢れ出し、鋭い剣風と絡み合って巨大な衝撃波を形成する。
ロングビルのゴーレムに放ったものよりさらに巨大な衝撃波がフォールンの隠れる瓦礫へと襲い掛かる。
スパーダの魔力が乗せられた衝撃波に触れた途端、瓦礫は砕け散ることもなく塵と化す。無論、それに飲み込まれたフォールンは断末魔を上げる暇もなく文字通り消滅した。
「しかし、本当にキリがねえな。相棒の忘れ物ってのは、一体どこにあるっていうんだい?」
「心配はいらん。もうすぐだ」
リベリオンを背に戻しながら疲れたように言葉を吐くデルフに答えるスパーダは改めて瓦礫の道を進んでいく。
丸一日、魔界中を突き進み、悪魔達を狩り、ようやくここまで辿り着いたのだ。
スパーダの真の力が封じられている領域はもはや目と鼻の先と言っても良い。
(我が主達と鉢合わせなかったのは幸運だな……)
魔界にはスパーダがかつて仕えていた魔帝ムンドゥスの勢力が残っているはずだった。故にその勢力に属する悪魔達と出会ってしまっても不思議ではなかったのだが、
これまでにスパーダが相見えていた悪魔達はどの勢力にも属さない純粋な魔界の住人達だけであった。
……ましてや、間違って魔帝ムンドゥスと遭遇でもしてしまえば今の自分ではとてもではないが勝ち目がない。
(余計に不気味だな……)
スパーダがこうして魔界へ舞い戻ってきた以上、魔帝ムンドゥスやその勢力が自分の存在を察知している可能性が高い。
それならば逆賊である自分に兵が差し向けられてもおかしくないのだが、何故かその兆候さえ感じられないのが不自然だった。
考えていても仕方あるまい。今は先を急ぎ、己の真の力を手にするのが先決だ。
ハルケギニアで日食が起こるまで時間がない。魔帝ムンドゥス以外の勢力が直接侵攻すれば、ハルケギニアの民達だけではそれを迎え撃つことはできない。
故にスパーダが彼らに力を貸してやらねばならないのだ。
空間を漂う瓦礫の上を歩き、時には飛び移り、先へ先へと魔界の深淵に向かっていたその時。
「む?」
瓦礫の上に飛び乗ったスパーダの視界が突如としてぼやけ始めた。
両目を交互に何度か開閉を続けていると、どうやら左目に映る視界が右目とは全く異なるものになっているようだ。別にモノクルに映像が映っているわけではない。
「どうしたんだい、相棒?」
デルフに呼びかけられつつ足を止めたスパーダは左目に朧げながら映りだした光景に意識を集中する。
すると、頭の中で何やらこの空間とは別の音声がざわめき出していた。
「もう、気持ち悪いったらありゃしないわ!」
頭の中にルイズの癇癪が響く。だが、その視界に彼女の姿は映らない。
シルフィードの上にいるのだろうか。蒼穹の大空が広がる光景がそこには映っている。
そして、その光景の中を飛び交う無数の影。
おぞましい奇声を上げながら突っ込んでくる醜悪なハエに酷似したそれは紛れもなく、下級悪魔のベルゼバブであった。
「ウインド・ブレイク」
ベルゼバブ達が前に座っているタバサの放った突風で吹き飛ばされ、バランスを崩して宙を舞った。
「バーストッ!」
そこに杖を握ったルイズの手が視界に入り、ベルゼバブ達のいる空間がピンポイントで小さく爆ぜた。
粉々に砕け散ったベルゼバブは肉片と体液を撒き散らして地上へと落下していく。
(きゅいっ! 気持ち悪いのね!)
シルフィードが四散したベルゼバブの破片を慌ててかわすと、今度はベルゼバブとは別の金切り声のような奇声と共に赤い影が斜め上方から突っ込んできた。
「ファイヤー・ボール!」
視界には映らないが隣に座っているらしいキュルケが放った火球が赤い影達に殺到する。
だが、赤い影は素早く散開することでかわし、多方向から奇声を上げながら一斉に突進してきた。
液状の体で構成され、巨大なコウモリの翼で飛翔する悪魔達。
細長い腕と尾はあるが足は持たない、長いクチバシで獲物を啄ばもうとするそいつらはブラッドゴイルと呼ばれる下級悪魔だ。
本来はただの石像に過ぎなかったものが、魔力を持つ穢れた血を浴びて溶け合うことで命が宿り、血液状の肉体を持つ悪魔が誕生するのである。
「バーストっ!」
ルイズが杖を振り上げたらしく、その途端にシルフィードの周りを花火のような爆風が小刻みに幾度となく発生していた。
その中に突っ込んできたブラッドゴイルは次々と悲鳴を上げながら元の石像の姿へと戻って硬直し、ボトボトと地上へ墜落していく。
まるで巨大な網を用意して、その中にかかっていく虫か鳥のようだ。
ブラッドゴイルは熱などの急激な温度変化に弱く、先ほどのキュルケが放った炎を浴びればそれだけで液状の肉体が固まってしまうのだ。
それ以外の物理的な衝撃を与えると肉体が分裂し増殖してしまうのだが、彼女達はそれが分かっているのかブラッドゴイルが現れると必ずキュルケとルイズが迎え撃っていた。
(やるな)
関心するスパーダであったが、あまり楽観してもいられない。
視界に映る光景であるが、これはどうやらタルブの草原の上空のようだ。
その空にはアルビオンの旗を掲げている巨大な軍艦が十数隻に渡って停泊しており、飛び上がる竜騎士が悪魔達と共に次々とルイズらに襲い掛かり、タルブの村へも火をかけていく。
村人達であるが、森の方へ逃げていく姿がまばらに窺うことができた。その村人達を庇うようにしてルイズ達は戦っているらしい。
さらに軍艦の甲板から吊るされているロープを使って次々と兵達が草原に降り立ち、近隣の領主のものらしい100にも満たない軍勢が向かっていくのが見える。
(もう仕掛けてきたのか……)
レコン・キスタがトリステインへの侵攻を始めた場面であることは明白だ。
裏で糸を引く悪魔の勢力と同調して、日食の日に攻めて来ると踏んでいたのだが自分の予想は外れたのか?
だが、これはあくまでレコン・キスタ単体による侵攻に過ぎないらしい。悪魔達はブラッドゴイルとベルゼバブの姿しか見えない。
……しかし、何故こんな場面が見えるというのだ?
未だ左目にはハルケギニアでの戦闘が映り意識もそちらに集中する中、スパーダの手は腰の閻魔刀へと伸びていた。
瞬時に抜刀すると一陣の鋭い剣閃が飛び、目の前に現れたフォールンの翼の結界もろとも肉体を斜に断ち切った。
「おい、相棒。どうしたっていうんだい?」
意識をこの場に戻し、体は自然に閻魔刀を納刀する中デルフが話しかけていた。
「ルイズ達の光景が見えるな。何だこれは」
「……ああー、そりゃ使い魔の能力だなぁ。使い魔は主人の目となり耳となる、ってな。そういえばルーンがいつの間にか復活してるっぽいな」
「何?」
背後に気配を感じたので幻影剣を出現させて後方に連続で射出させる中、スパーダは篭手のデルフを外してさらに左手の手袋も外す。
途端に険しい表情となり、そこにあったものを睨みつけた。
忌々しいガンダールヴのルーンがまたしても封印から目覚めており、手の甲で淡い光を放っていたのだ。
だが不思議なのは今までのようにスパーダを服従させようと強制力を働きかけてくるのが、今回に限ってそれを行ってこないのだ。
心なしか、ルーンの気力のようなものもこれまでよりかなり低くなっている気がする。
「ずっと封印されっぱなしだったからなぁ。おまけに封印されていなくても相棒はルーンの力を受けつけるようなタマじゃねえし、自信を無くしたか諦めてるんじゃねえのか?」
ルーンがルーンとしての役目を喪失する。ルーンそのものに明確な意思があるかはよく分からないが、そうだとしたらおかしな話だ。
「ならば何故、あのようなものを私に見せる」
悪魔の気配が無くなったので幻影剣の射出を止め、手袋とデルフを付け直しながら尋ねる。
「さあなぁ。最低限、ルーンとしての役目を果たそうとしてるのかもな。ま、俺もよく分かんねえけどよ」
スパーダを使い魔として服従させられないが、使い魔と主との繋がりだけでも保とうとしている。何と律儀な。
だが、スパーダは決してルーンに服従する気などない。自分に命令を下すことができるのは自分自身、もしくはかつての主のみだからだ。
(しばらくこうしておくか)
このまま封印するのも良いが、ルイズ達ハルケギニアの民の様子を窺うことができるのでせめて現世へと戻るまではルーンの封印は後回しにして良いだろう。
「ボヤボヤしてはいられん。急ぐぞ」
気を取り直し、瓦礫の上を駆け出すスパーダ。
レコン・キスタが攻めてきた以上、早急にハルケギニアに戻らなければルイズ達だけでなく罪のないトリステインの民達も危ない。
あの軍勢ではとてもではないが、トリステイン側の力だけではレコン・キスタの侵攻に打ち勝つことはできないだろう。
ましてや、黒幕である悪魔の勢力が攻めてくれば尚更だ。
自分の代わりに勇敢に戦ってくれている者達に報いるためにも、スパーダは全力で光に満ちた混沌の世界を駆け抜けていた。
王都トリスタニアにアルビオンからの宣戦布告の報が届いてすぐ、城下にもこの一大事が知れ渡っていた。
途端に城下町は騒然となり、市民達は恐怖と不安、混乱に陥る。
アルビオンとは不可侵条約を結んでいたのではないのか。国内は戦争の準備など整っていないのにどうするのか。アルビオンはこのトリスタニアにまで攻めてくるのか。
そして、王宮はアルビオンにどのような対応をこれから取るのか。アンリエッタ姫殿下の婚儀が一体どうなったというのか。
小国であるトリステインにとってアルビオンの戦艦がここトリスタニアまで攻めてくるのも時間の問題だ、と誰かが騒ぎ立てることで市民達の不安と恐怖が煽られる。
平和な日常を送っていたはずの市民達は一瞬にしてパニックに直面していた。
だが所詮は平民に過ぎない彼らにできることなどなく、ただ慌てふためき続けるだけである。
「戦争? 戦争が起きたの?」
「テファは心配しなくて良いよ」
市民達が騒然とするブルドンネ街の中、ロングビル=マチルダは不安に狼狽するティファニアの肩を抱いてやった。
数日後にゲルマニアで行われる予定であったアンリエッタ王女の結婚式。その王女がこれから馬車に乗って出発するはずだったので、せっかくだからティファニアと一緒に
見送ってやろうかと思ってマチルダはこのトリスタニアを訪れたのである。
ティファニアも王女がどういう人物なのか期待していたのだが……。この様子では婚儀どころの話ではないだろう。
「とにかく、今日はもう修道院で大人しくしてなさい」
「マチルダ姉さんはどうするの?」
「大丈夫。テファがそんなに心配する必要なんてないよ」
ティファニアの肩を抱きながらチクトンネ街の修道院を目指すマチルダは密かにほくそ笑んでいた。
アルビオンが……レコン・キスタがいよいよ攻めてきた。スパーダは明日の日食の日に攻めてくるかもしれないと言っていたが、一日程度の誤差など何ら問題は無い。
あいつらはマチルダから、ティファニアから大切なものを奪っていった。
レコン・キスタが滅ぼしたアルビオン王家により身分と家族を、そして今度はそのレコン・キスタの手によってこれまでマチルダが守ってきた孤児達の命を奪われたのだ。
彼らの生活費を稼ぐために土くれのフーケ≠ニいう盗賊に身をやつし、貴族達への復讐を兼ねて犯罪行為に手を染めてまで守ってきたものを、奴らは容赦なく奪っていった。
(くそっ……あいつら……)
思い出したくもないのに、マチルダの頭の中では未だ子供達の末路が呼び起こされる。
――魔物や亜人の細胞を組み込むことで、我々は人を超える天使の力を得られるのだ。
――やはり、こんな子供を相手に儀式を行っても体も精神も耐えられないみたいだな。
――見ろ。もう人としての意識も持たない、ただの血に飢えた化け物だ。
――こんな役に立たないガラクタどもはな、こうして処分してしまえば良いのさ。
スパーダが仕留めてくれた(正確には違うが)ワルドの酷薄な笑みと言葉。そして見せしめのように見せ付けられた子供達の変わり果てた姿。
ぎり、とマチルダは唇を噛み締め、苦い表情を浮かべていた。
(奴ら……絶対に許さないよ)
悪魔のような所業に手を染め、自分達を苦しめ大切なものを奪い去っていったレコン・キスタへの復讐。それがマチルダの新たなる杖を振るう理由。
土くれのフーケ≠敵に回せばどうなるか、今こそ奴らに思い知らせてやる。
(そろそろ借りも返さないといけないしね)
そして、自分達に何度も救いの手を差し伸べてくれた、人の心を宿す伝説の悪魔、魔剣士スパーダ。
彼は明日の日食にこの世界に現れるという、悪魔達を迎え撃とうとしているという。
現在、レコン・キスタに侵攻されているタルブへと昨日から赴いているそうなので、そこで剣を振るって戦うであろう彼の力になることができる。
そろそろ自分達を助けてくれた恩に報いなければマチルダ・オブ・サウスゴータとして、そして人間としての名折れだ。
アルビオンからの宣戦布告より数時間後の午後。
アンリエッタ王女による陣頭指揮の元、タルブに陣を張ったアルビオン軍を迎え撃つための王軍が編成されていた。
主な構成は状況を既に把握しアンリエッタの呼びかけで即座に召集した、三種の幻獣を駆る近衛の魔法衛士隊。
さらに彼らからの連絡を受け、竜騎士隊や城下に散らばった王軍の各連隊も直ちに召集されていた。
つまるところ戦う意志を持つ者、そしてトリステイン王家に心から忠誠を誓う者達が此度の戦へと赴くことになったのである。
しかし、如何せん急ごしらえでかき集められた軍隊であるためにその兵力はわずか2000程度にしかならない。
元々、戦争の準備を整えていなかったがためにトリステイン王国が配備できる兵力はこれで精一杯だった。
おまけにメルカトール号を始めとする主力艦隊を失い、制空権をアルビオンに完全に奪われてしまったことも致命的な痛手であった。
軍事同盟の盟約に基づいてゲルマニアへ軍の派遣を要請したものの先陣が到着するのは三週間後などという答えが返ってきた。
彼らはトリステインを見捨てる気なのだろう。いくら軍事同盟を結んだとはいえ小国のトリステインへの加勢のためだけに戦力を失いたくはないということだ。
もっとも、アンリエッタ曰く「ならばそれで結構。ゲルマニア皇帝との結婚は無期延期とします」と強気に返していたのだが。
「姫殿下の輿入れが、まさかこんなことになるとはな……」
竜の意匠が鍔に施された大剣を背負う金髪の女剣士は戦争が始まったことによる混乱が続くトリスタニア城下のチクトンネ街の大通りを進んでいた。
平民出の軍人であるアニエスの今日の仕事は、アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式場の警備のはずであった。
宮廷の貴族達にとって、メイジではない平民でしかないアニエスのような人間は正直邪魔者に過ぎない。
『下賎な平民ごときに何ができる』
『剣しか振れない平民にはちょうど良い似合いの仕事だ』
そうこき下ろされ、嘲笑われる彼女達は必要な時だけ呼び出され、しかもメイジ達にとっては物足りない、もしくは厄介事でしかない仕事を押し付けられてばかりだった。
それはほとんどはした金で雇われ使い捨てられる傭兵のような扱いに等しい。
そして貴族達が与えた仕事で不始末が起きると、彼らは口々にこう吐き捨てる。
『だから平民など役に立たないのだ』
かといってその仕事にメイジ達が割り当てられることはなく、平民である彼女達に任され続ける。
結局は保身が大事である多くの貴族達にとっては些細な失態で不名誉を負いたくないがための矛盾に満ちた意識と行為であった。
まあ、貴族達のそんな考えなど平民のアニエスにとってはどうでも良いことなのだが。
「戦支度くらいはしないとな」
やがてアニエスが辿り着いたのは、一軒の建物。そこは一階が小麦粉などの穀粉を取り扱っている店であった。
店主であるふくよかな中年女性が現れたアニエスの姿に目を丸くする。
「おや、アニエスさんじゃありませんか!? 今日は仕事があるって……」
「ああ。忘れ物を取りに来ただけだ」
そう言いながら、アニエスは店の奥へと入っていき、階段を上がっていく。彼女はこの建物の二階の一部屋を借りているのだ。
部屋に入ると、アニエスは机の上に置いてあったゲルマニアの名工ペリ卿に特注で作ってもらった対魔物・悪魔用の砲銃を手にし、革帯で肩に吊るしていた。
そして同じく机に置かれているベルトを腰に身に着ける。そのベルトの周りには、この放銃に装填される小さな太い筒型の弾が10個、並べられるように固定されている。
婚儀の警備にこのような代物を持っていくことができなかっために今日は使わない予定だったのだが、戦となれば遠慮も配慮も必要あるまい。
準備を整えたアニエスは部屋を後にし、建物の外へと出ていく。店の主人は彼女が完全武装して出てきたのを目にして息を呑んでいた。
(お前も存分に振るえそうだな)
馬に乗るため駅に向けて大通りを歩くアニエスは背負っている大剣・アラストルの柄に手をかける。
この稲妻の魔剣は屈強の剣士であるアニエスに更なる力を与えてくれるだけでなく、その命を守ろうとしてくれる。
力ある強者に大いなる加護を与えるアラストルは、もはやアニエスにとっては無くてはならない相棒といっても過言ではない。
故に今回の戦でもその刃に宿る力を全力で引き出してやろうと闘志を燃やしていた。
「アニエス殿!」
「待たせたな」
ブルドンネ街入り口の駅に到着すると、そこではアニエスと同じく各所が板金で保護されている鎖帷子に身を包んだ20名弱の女戦士達が馬に乗り込んでいた。
全員が腰に剣と短銃を携え、さらにはマスケット銃などを革帯で肩に吊るして武装している。
彼女達は今日、アニエスと共に本来婚儀の警備を行うはずであった同僚達であり、彼女が配属されている平民で構成された一小隊である。
同じ女性ではあるがアニエスと同じく男などには負けない気迫と苛烈さを持ち、熟達した腕前を持つ戦士ばかりだ。
もっとも貴族達にとってはメイジにも劣る弱小集団だと見下されているのであるが。
「既に各連隊はアンリエッタ王女の率いる本隊と共に行軍し、タルブへと向かったそうです」
「よし。我々もすぐに合流する。敵はアルビオンの兵や軍艦だけではない。決して気を抜くなよ!」
『はっ!!』
馬に乗り込んだアニエスから檄を飛ばされ、他の女戦士達もそれに答えて返礼した。
剣と銃を武器にして戦う彼女達は、これからメイジ達でさえ味わったことのない戦いの中に飛び込むことになる。
アンリエッタ王女が率いる2000の軍隊が出陣し始めた頃、タルブの草原では熾烈な戦いが続いている。
タルブの領主、アストン伯が防衛のために出向いた90名弱の兵達は上空に停泊している戦艦から地上に降り立っていくアルビオンの兵達へと突撃していた。
侵攻拠点とするには最適な場所であるタルブの草原ではあったものの、上陸を開始したばかりのアルビオンの地上部隊はまだ戦闘準備そのものが整っていないために
その軍勢をまともに相手をするのは厄介なことである。彼らはタルブ伯の領軍からの突撃に押され気味であった。
本来ならばアルビオン産の火竜に騎乗した竜騎士達が空から地上部隊の援護を行えば良いのだが、彼らにとっては予想外の事態が起きているのだ。
「生意気な小娘どもめ!」
火竜に搭乗している竜騎兵の一人が舌打ちをし、呻いた。
それはタルブ村上空であるこの空域を飛行している他の竜騎士達とて同じである。
「たった一騎だぞ! 我らがあんな子供ごときに……!」
彼らが忌々しそうに睨んでいたのは、空域を飛び回る一匹の風竜。
初めはたった一騎だということで舐めてかかった竜騎兵達であったが、その侮りこそが彼らの誤りだったのだ。
風竜の吐くブレスは攻撃力こそ低いものの火竜よりも速度に優れるために、火竜のブレスも彼らの魔法も中々当てることができない。
作戦開始から姿を現していた自軍勢である異形の魔物達も、ことごとく屠られていっている。
「ファイヤー・ボール!」
「エア・カッター!」
的の大きい竜を狙らい、当たりさえすればそれだけで搭乗者もろとも地上へ墜落する。
火竜の火炎のブレスも当たりさえすれば翼ごと搭乗者を焼いてしまうこともできるのだ。
「何故、効かん!?」
だが、運良く当てることができたとしても風竜の体は一瞬、赤く発光するのみでまるで傷がつかない。
搭乗者の青髪のメイジが杖を振ると、風の障壁によって阻まれて攻撃が届かない。
おまけにその竜に乗っているのは、トリステインの竜騎士などではなかった。
……ただのメイジの学生。それも三人の女だ。
「そろそろ引き上げ時じゃない?」
アルビオンの竜騎士達の攻撃をかわし続けていたシルフィードの上でキュルケが呟く。
横から突っ込んできたブラッドゴイルにファイヤー・ボールによる火球をぶつけて石にし、地上へと落としていた。
「何言ってるのよ! まだいけるわ! このままあの竜騎士達を倒しちゃっても……」
「村人達の避難は済んでいる。これ以上、彼らを引き付ける必要は無い」
杖を振るって自分達を取り囲む三匹のベルゼバブを炸裂≠フ魔法で吹き飛ばしながら意気込むルイズであったが、タバサがちらりと地上へ視線をやって冷静に呟いていた。
竜騎士達が放ってくる魔法や火竜のブレスを避けきれないため、エア・シールドによって攻撃を通さないようにしているのだ。
シルフィードに当たってしまっても、スパーダから託されていたスメルオブフィアーによる結界を先ほど施していたために万が一、何回かは被弾しても大丈夫である。
「で、でも……あたし達が逃げたらこいつらもあっちへ行っちゃうわよ?」
納得できないルイズが指すのは、草原に降り立ったアルビオン軍と戦っているタルブ領主の軍勢である。
タルブの村人達を逃がすために時間稼ぎの陽動を行っていた結果、つゆ払いのために村を焼いていた竜騎士達はそちらへと急行できないでいたのだ。
このまま陽動を続けていれば、抗戦している領主の軍勢が地上部隊を何とかしてくれるとルイズは思っていたのだが……。
「残念だけど、この竜騎士達がいかなくても彼らは全滅しちゃうわ。見なさいよ」
キュルケが空に停泊し続けている無数の軍艦を指し示す。
「100にも満たない軍勢に、その何倍の数の兵達がどんどん降りてきてるのよ? あれじゃあとてもじゃないけど、勝ち目がないわ」
初めは善戦していた領軍であったが、次第に数を増やしていく敵軍に囲まれて劣勢になっていく。
キュルケの言う通り、全滅するのは時間の問題であるのは目に見えていた。
だからといって、自分達が救援に向かえば二の舞になるだろう。おまけに十数隻もの軍艦が空から地上を砲撃してくるのだ。自殺行為もいい所である。
突きつけられた現実に、悔しげに唇を噛み締めるルイズ。
このまま彼らを見殺しにしなければならないだなんて。自分達メイジの力も、何百もの軍勢や巨大な軍艦相手には無力なのだ。
「とにかく、一度離脱して例の門のある広場へ戻りましょう。もしかしたら、ダーリンが戻ってきてるかもしれないし」
「退却」
頷いたタバサが短く呟くと、竜騎士の魔法をかわしたシルフィードが大きく翼をはばたかせ、戦闘空域を離脱するべく反転する。
「逃がしはせんぞ!」
「我らを敵に回して生きて帰れると思うか!」
当然、竜騎士達は自分達の敵である彼女達を易々と帰そうとはしてくれない。
何より、ハルケギニア最強と言われるアルビオン竜騎士隊のプライドもあり、おめおめと敵を討ち漏らすなど屈辱でしかないのである。
幼生とはいえ飛行スピードで勝るシルフィードにはとても追いつけないため、離脱される前に仕留めようと追撃してきた。
「しつっこいわね!」
背後から次々と魔法や火竜のブレスが飛んでくるのをシルフィードは必死にかわしている。
後ろを向いたキュルケは杖から炎の渦を放って竜騎士達を牽制した。左右に避ける竜騎士達の攻撃が一時的に止む。
その間にシルフィードは彼らの攻撃の射程外へと逃げることに成功した。
「バーストっ!」
僅かに残ったベルゼバブやブラッドゴイル達はしぶとく追いかけてくるが、ルイズが放った爆発による爆風の中へと突っ込み、そのまま地上へと墜落していく。
三人を乗せたシルフィードは一度、タルブ近郊の空域から外へと向かった。
追っ手が来ないことを確認すると、そこから40メイルほど低空を飛行しつつ大きく迂回して南側からタルブへと戻っていく。
どうやら竜騎士達は地上部隊の援護に向かったようだ。領軍は……考えるまでもない。
「降下」
広場のある森の上へとやってきて、降下を始めるシルフィード。悪魔達が現れる様子もないようだ。
ルイズはその間、タルブの制圧を推し進めているアルビオン軍を口惜しそうに眺めていた。
(何よ……今に見てなさいよ……)
スパーダが戻ってきたら、彼の力を借りて必ずアルビオンの軍艦を叩き落してやることをルイズは心に固く誓っていた。
悪魔なんかの力を借りてアルビオン王家を滅ぼし、あまつさえこのトリステインを侵略しようとしている恥知らずな輩には鉄槌を下さなければならない。
それを自分の手で果たしてやらねば、ルイズの心から湧き出る怒りは収まりそうもない。
「まだ戻ってきてないのね……」
シルフィードは広場の中央に着陸するが、相変わらず地獄門に開けられた次元の裂け目からは瘴気がこちら側に流れ込んでくるのみだった。
そして、石版の周りではスパーダが従え、留守を任せている悪魔達が静かに佇んでいる。
ゲリュオンは荒々しく息を吐きながら蹄をその場で踏み鳴らし続けている。
無数のコウモリ達を侍らすネヴァンはケルベロスのヌンチャクの輪に腕を通し、くるくると回して弄んでいた。
その隣でネヴァンの姿を写し取っていたドッペルゲンガーはその動きを真似ている。
みんな退屈そうな様子であったが、関わり合いになるのはよそう。
「ま、仕方ないわ。このままここで待ちましょ」
スパーダが帰還していないことを残念がるルイズにキュルケが言う。
明日の日食までもはや時間が無い。それどころかアルビオンが先に攻めてきたという最悪の状況だ。
本当にスパーダが日食の時までに帰ってくるのか、ルイズは少し不安になっていた。
タルブの村人達はアルビオンの戦艦がトリステインの艦隊を全滅させてしまったという光景を陰で目にした時、何か恐ろしいことが起きていると理解はしていた。
戦争が起きたのか? だがしかし、アルビオンとは不可侵条約を結んでいるはずだ。では、今目の前で起きたのは一体なんだ?
不安と困惑が彼らの心に渦巻き、アルビオンの艦隊がこのタルブへと向かっている間もただじっと陰で見ていることしかできなかった。
あまりの異常な事態に、彼らは今すぐすべきことを失念していたのである。
そんな村人達を動かしたのは、一つの叫び。
「 み ん な 逃 げ て え え え ぇ ぇ ぇ っ ! ! 」
村中に突如響き渡った、少女の絶叫。
恐怖と緊張が入り混じりながらも、力をふりしぼって外へと吐き出された声は家の中に引っ込んでいた村人達の耳に届いていた。
――逃げろ。
たったそれだけの言葉が、失念していた村人達を突き動かした。
アルビオンの艦隊が上空に停泊する前に聞き届けられた必死の叫びのおかげで、村が焼き払われる前に全ての者達がその外へと逃げることができたのだった。
「お姉ちゃん、怖いよぉ」
「えぇ〜ん!」
村人達を逃がした叫びを発していたシエスタもまた、泣きじゃくる幼い弟妹達を連れて南の森へと向かって走っていた。
父は家にいる母を連れに戻り、我が子達をいち早く安全な場所に逃げるように命じていたのだ。
「大丈夫……大丈夫だから……」
弟妹達をなだめるシエスタの顔は、真っ青だった。
本当はシエスタ自身も、恐怖と緊張でその身を震わせているままだったのだ。激しく高鳴る心臓も、息苦しさも未だ収まる様子がない。
ちらりと肩越しに空を見上げると、そこには目を背けたくなるほどの恐ろしい光景が広がっていた。
(悪魔……)
タルブ上空に停泊する軍艦から次々と飛び上がる竜。だが、それよりももっと恐ろしいものが目に入る。
竜達と共に空を飛び交う異形の影。それはシエスタが密かに存在を感じ取っていた血に飢えた闇の眷属達だった。
気配を感じるだけで苦しくなるというのに、直視をすれば余計にひどくなる。
……とにかく、今は逃げるしかない。
シエスタはもはや振り返らずに弟妹達を連れ、他の村人達と共に南の森を目指して駆けていった。
紫に妖しく輝く雲海が一面に、どこまでも広がっている。
頭上にあるのは空ではなく闇。ただそれだけだ。星も太陽も、月さえもないこの混沌の世界の空に広がるのは、ほとんどが禍々しい暗雲である。
だが魔界の奈落の底、深淵の奥深くともなるとその暗雲はおろか空さえも存在しない領域もあるのだ。
この領域へと足を運ぶのは、実に1500年ぶりとなる。
雲海の中から突き出るように伸びているのは、切り立った細い断崖絶壁がいくつも集まることで出来上がった禿山である。
その高さは優に1000メイルにも達し、雲海と闇だけが広がる空間を地平線の彼方までどこまでも見渡すことができる。
ここには道などというものが存在せず、岩場を飛び越えることでしか登ることのできない険しい場所だ。
スパーダはその禿山の岩場を何度と無く飛び移っていくことで、難なくその頂へと上がっていた。
「やっと頂上だな! しっかし、とんでもねえ場所だな。火竜山脈なんか目でもねえぜ」
左手につけたデルフが歓声を上げる。光で満ちた空間から一転した闇の空間は、まさしく魔界と呼ぶに相応しい過酷な所だ。
かつて始祖ブリミルが迷い込み、すぐに逃げ帰ってきた所に比べれば天と地以上もの差である。
スパーダは禿山の頂を歩き、前へと進んでいった。この領域に悪魔達の気配はない。
上下が激しく複雑な地形であった頂の上を歩いていると、その先に何かが見えだす。
「何だ、ありゃあ?」
デルフが怪訝そうに声を上げた。
禿山の頂の一角、岩に突き立てられているものがあった。スパーダは真っ直ぐと、そこへ近づいていく。
「これが、相棒の忘れ物なのか?」
「ああ」
目の前に立ち、見下ろすそれは一振りの長剣であった。今背負っているリベリオンより少し短い140サントに近い長さだ。
剣首には三面の髑髏の意匠が施されており、刃幅もリベリオン並に広いのだが剣先に沿るに従って狭くなり鋭くなっている。
その長剣が岩にしっかりと突き立てられていた。それはまるで御伽噺にでも出てきそうな伝説の剣が封印されているような光景であった。
「こりゃあ、ただの剣じゃねえか。こんなもんを取ってくるために里帰りしたっていうのかよ」
デルフが拍子抜けした様子で呟いていた。かつては剣であった彼としてはそこらの店にある品と大して変わらないように見えているようだ。
事実、今≠フこの剣からは何の魔力も感じられない。愛用のリベリオンや閻魔刀でさえ振るわずとも魔力を纏っているというのに。
だがそれは表面上に過ぎない。この剣は現在、完全に封印されいわば仮死状態になっているのだ。
(久しいな……)
スパーダは目の前にある長剣――1500年ぶりに、己の分身を感慨深げに見つめていた。
かつてスパーダが魔界と決別する前に振るっていたのも剣であった。魔剣士スパーダを象徴するものはやはり剣であり、様々な魔界の剣を手にして振るったこともある。
だがスパーダが最も長きに渡って使いこなしていた剣はたった一振りのみ。
それが目の前にあるこの長剣。スパーダの魂から作り出された、彼自身の力が写し取られた化身。
その剣を手に魔界の抗争を生き残り、そして魔帝ムンドゥスの人間界侵攻を食い止めたのだ。
だが、この剣は現世に留まる前、魔界の奥深くの領域であるこの場所へと封印した。
己の強大過ぎる力の大半を、この分身へと移すことで人間界で活動するのに支障が出ないようにしたのだ。
本来ならばそれでもう再び使うことは無いと思っていたのだが……。
(今一度、私と共に。我が魂の化身よ)
スパーダはスカーフからアミュレットを外し、剣の真上でかざしていた。
銀と金、二つの面を持つ縁の中央には血のような真紅に輝く宝玉が淡い光を発し始める。
やがてアミュレット全体が赤い光に包まれると、スパーダの手から離れてひとりでに長剣の中へと吸い込まれていった。
「おおっ!? な、何だぁ!?」
その途端、長剣の全体から夥しいほどの魔力が紫のオーラとなって溢れ出し、炎のように揺らめいていた。
今まで何の魔力も感じられなかった剣から、今度はスパーダもはっきりと分かるほどの強大な魔力が満ち溢れている。
剣の柄を両手でしっかりと握り締める。1500年ぶりに手にする分身の手ざわりはすぐにスパーダの手に馴染んだ。
それを一気に引き抜いた途端、岩場が突如として大きく揺れだした。
幾多に集まって禿山を成している切り立った岩場が突如として崩れだし、遥か下の雲海へと落ち、そしてせり上がりだす。
スパーダが立っている岩場だけは何の影響もない。
「我が魂にして、仮初めの化身よ。今一度、我と共に」
スパーダは己の分身――フォースエッジを天に向かって力強く掲げた。
溢れ出る魔力はその元であるスパーダの全身に浸透していき、彼の全身を紫のオーラが包み込んでいた。
フォースエッジと現在のスパーダの身に宿る魔力が融合し、その力はさらに高まっていく。
「とほほ……何てこった。こんなすげえ魔剣があっただなんて。俺の出る幕じゃねえ。完敗だ……完敗だよ……」
フォースエッジから流れ込んでくる魔力を感じ取り、デルフはさめざめと泣き出していた。
かつては伝説の剣であった彼は、このフォースエッジが自分を軽く凌駕する伝説の剣であると認めざるを得なかった。
これだけ強大な力を宿した魔剣など、ハルケギニアのどこを探しても見つかりはしないだろう。
故に同じ剣としてのプライドはあったものの、今回ばかりは敗北を認めなければならなかったのだ。
スパーダはゆっくりと正面にフォースエッジを構える。未だ溢れ出る魔力が紫のオーラとなって纏わりついている。
「フンッ!!」
掛け声と共に袈裟へと力強く振り上げた。
刃に纏わりつく魔力が剣圧となり、離れた岩場へと直撃する。
フォースエッジの一撃を食らった岩場は、粉々に砕け散ってしまった。
(強すぎるな……)
フォースエッジをゆっくりと前に降ろすスパーダは苦い顔を浮かべていた。
分身であるこのフォースエッジはスパーダの魂そのものであるのだが、この状態はまだ真の力を発揮しているわけではない。
せいぜい全体の5割ほどのものでしかないが、今のスパーダ自身が持つ魔力と合わさることで全盛期だった頃の半分以上のものとなる。
1500年の間に新たに高まったスパーダの力と、この魔剣の力が合わさることでこのままでもかなりの力を発揮することになるのだが、
完全に力を引き出してしまうのはやめておいた方が良さそうだ。
そうなると全盛期のスパーダの力を超えることになってしまい、下手をすると制御し切れない恐れがある。
ましてやハルケギニアでその力を引き出せば安定を崩すどころかハルケギニアそのものを滅ぼしかねないのだ。
(本当の意味での、切り札だな……)
普段はフォースエッジのままで、せいぜい力は6割程度までしか引き出さないように心がけよう。
※今回はこれでおしまいです。
フォールンについてですが、理不尽すぎる原作より弱くしてメフィストらの要素を取り入れてます。
また、フォースエッジですが性能が作品ごとに違うので一応補足。
・リーチは3を基準。ただし、単体での攻撃力はリベリオンの3/4ほど。
・デビルトリガーの発動は可能。攻撃力の補正値は2倍で持続時間は1と同じ。
・なお、魔剣スパーダにはまだしません。それにしてデビルトリガーを引くと真魔人になってしまいます。
投下乙です
原作的にはシルフィードは多分火竜より遅いか最速でも同等くらいかな?
火竜山脈ではしつこく求愛して追っ駆けてくる火竜を撒けなかったみたいだから
成体の風竜は火竜より速いけど、正確にどのくらいのスピードが出るのかはよくわからないんだよね
体が細いらしいから短距離の瞬発力は勝るけど長距離飛ぶ場合はむしろ火竜の方が有利とかかな
なんにせよ、大幅には多分違わない
大幅に違うようなら竜騎士はみんな圧倒的に有利な風竜に乗るだろうし
>>268 風竜は戦闘機(速いけど脆い)で火竜は攻撃機(ちょっと遅いけど硬い)ってとこかな?
爆撃機はどれになるんだろ?
爆撃機は飛行船だろ
パパーダ乙
乙
フォールン死ね
>>270 いやむしろ飛空船は空母のような気がするが
それか重航空巡洋艦
ブレス射程が短く大量の爆弾も詰めない竜では爆撃機にはなりえない
単純にその竜との相性もあるんじゃないの?
火属性のメイジは火竜との相性は良いけどそれ以外は懐かないとか。
あと、竜自体も序列があるかもね。仮の話だけど風竜はスピードは全
種族1だけど、攻撃も防御もすっかすかで全然ダメージ与えられない
とか。
ゼロ魔世界の竜じゃ爆撃機の変わりは無理だろうね。基本スペックが
低すぎる。せめてグラビモス並みのブレスを連発出来るくらいは欲しい。
ジュリオが操った竜はヨルムンガント持ち上げてたな
竜に乗ったメイジが空から魔法をやれば歩兵相手なら爆撃機なみになるんじゃね
メイジがレビテーションで運ぶという手もあるが慣性はどうなるのやら
しかし零戦に無双されるレベル
280 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/06(日) 21:06:49.81 ID:3nuFM4SN
パパーダの人、乙です
後編を楽sみに待ってます。
ゼロ魔世界の魔法ってモノにもよるだろうけどゼロ戦の機銃より何十倍も射程が短いんだろ?
空中から爆撃しようにも届く距離まで降りたら地上からの反撃で撃墜されないか
なんとなくだけどゼロ使の世界って魔法の燃費悪いよな
ほんとなんとなくだな
ゼロ魔は他のファンタジー系に比べると全体的に性能控えめだしね。
その辺は作風が違えど、オーフェンとかと似てるかも。
ゼロ魔のドラゴンは運用は航空機というよりヘリコプターに近くないかな
そもそもゼロ戦機銃の射程ってどのくらいだ、数百mか?
ってことはゼロ魔の魔法やドラゴンのブレスはせいぜい十数mの射程?
>>286 零戦の照準器は200mでちょうど交差するように設定されていた。
ただし、初期型の20mmは弾道が山なり(別名小便弾w)だったりして
エースには不評だったとか。
魔法の射程って、機銃持ち出すまでもなく、2巻の時点で弓にすら負けてるがな
おいおい魔法(笑)じゃなか
魔法があるから恐れられてるんじゃないのかよ
魔法と弓じゃ火力携行性隠密性汎用性全部違うだろ
単純に射程だけ比べてどうすんだよ
貴族vs平民を真面目にやったら貴族に勝ち目ないよね
ということは平民からそれなりの尊敬を集めるぐらいに平民のために働いてるんだよ
大規模な反乱でもおこされたら数の暴力で詰み
まあ勝ち目無いよな、火力っていってもたかが知れてるし
隠密性が必要な場面ならナイフとかのほうが使える
なにげに呪文唱えないといけないしな
やっぱり汎用性、日常生活の細かなところに至るまで
魔法に依存してるからかろうじて保ててるんだろうね
金属の加工すら魔法なしじゃできないらしいし
ゲルマニアじゃ普通に加工してんだろ確か
最近になってきてだろう
6000年で一番危ない時期だった
成り上がりって言われてたもんな
設定談義が長くなるようだったら専用スレにな
とにかく石や弓を投げ続けて息切れした所を槍で突撃していけば勝てる
槍使いか…
しかし氷魔法は空気中の水をあつめてかつ凍らせるなんて離れ業をやってのけるのに
人体を直接凍らせるとかはできないのだろうか
>槍使い
『いっき』からごんべ召喚だな
らんらんランサー、ヤリヤリヤリ?
>>292 メンヌヴィルが巨人を焼いてた横で、平民が炉で武器を作ってなかったか?
>>302 ごめんよく覚えてないww
でもゲルマニアとつながりがあればそういう技術も入ってくるだろうし
あとガリアもなにげにトップがアレだからそっち方面の研究進んでるかも
例えば宝石とかの場合、露天商が「錬金で作った紛い物じゃない」と謳っている
つまり魔法で作った宝石はニセモノで、鉱山から掘り出したのが本物なのだ
…で、掘り出したり研磨したりは多分平民がやるんじゃない?
タバサがガリアの女王になった時風で涼しくさせてやってた職人も平民で魔法で建築なんてしてなかったし
ハルケギニアが何でもかんでも魔法で作る世界ってのは多分違うんじゃないかと
メイジしか産業に関わらないとしたら生産力低すぎて話にならんよね
まあ、そんなに深く考察してないってのが真相なんだろうけどね>平民VS貴族
戦闘がキモの作品じゃないし、あくまでゼロ魔の世界を作る
イチファクターでしかないわけで。
もうエタッたとばかり思ってたSERVANT'S CREED 0がまとめで更新してて
喜びのあまり乙を言いにきたんだけどここで書いてるんじゃないのかな?
なんにせよ復活してくれて嬉しい
アサシンは避難所連載やね
人間最適最善の行動なんてそう取れるもんじゃないだろ
重火器持った少数の部隊なら弓矢ナイフ持って数で押しつぶせるよね、なんて言っても突っ込めるわけがない
30メートルのゴーレムが一体出てきたらもうやる気なくすわ
確かにゴーレムはマジどうしようもねーなw
お台場ガンダム見たことあるなら分かるけど
あれより約1.6倍大きいってのは大きすぎるだろw
土メイジはもっと特権階級でもいいような気はするな
ゴーレムは平民には滅法強く、錬金から建築まで有用度がダンチ
水メイジも治療に関しては欠かせないし、火事とか起こった時も重要
風は精々運搬屋で、火は本当に戦時くらいしか役に立ってねえ不遇
ゴーレムは迂回して術者を叩くしかあるまい
巨大ゴーレムは動き自体はあまり俊敏ではないし
鉄人を倒すなら正太郎君を狙えの論理だな
しかし術者がゴーレムに乗ってたり、術者の護衛に別のメイジがついてたりするとかなりやっかいだ
術者がゴーレムの中に
見えねえwww
コントロールしないといけないからすきなしってのはむりだろ
ゴーレム相手なら術者狙いの弓矢で弾幕が基本だろうな
ゴーレムの中にいる術者といえばマスク・ザ・レッドか
・・・・・十傑集は生身でもホントどうしようもないよねぇ
ギーシュがワルキューレを纏って自分自身を強化すれば青銅聖闘士くらいにはなれるんじゃないだろうか
ただフーケの30m級ゴーレムがロケラン一発で再生不能なまでに破壊されているところを見ると、
剣や弓矢程度ではどうしようもなくても砲台やカタパルト等攻城兵器の類を浴びせれば破壊可能ではないかな
カウンターがないただのゴーレムなら、ヨルムンガンドクラスの大きさでも砲撃を浴びたら壊れるみたいだし
スクウェアメイジの作ったゴーレムとヨルムンガンドが模擬戦闘したシーンでそんなような事を言ってたはず
攻城兵器や砲台を持ってて組織立って部隊を展開できる平民…
やっぱり貴族には勝てそうもないんですが
まあ無理だね
投下があったと思った。
327 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/09(水) 01:10:04.45 ID:9lILZrnp
だから雑談は別のところでやれよばかうんこども
雑談は禁止されてないよ
考察絡んでてもワイワイする分には活気出ていいと思うよ、ミリオタはいらんが
『軍艦越後の生涯』の越後みたいに船魂つきの戦艦召喚したらどうだろ。
エルフにさらわれた才人を救うためにルイズが艦長で出撃、アディール沖でエルフの水軍相手に大海戦なんて。
なんでもいいからそろそろ投下が欲しい
アスカ的には女が男に暴力を振るうのは問題無いらしい
だがその逆はダメらしい、そもそも暴力がいけないことだという意識は無いようだ
恩を覚えることはなく根だけは忘れない、被害妄想が激しく、事実よりも己の感情が優先される
バブル世代のBBAのような価値観である
誤爆スマン
アスカアンチスレ用だ
TRPGのガープスで「ルナルサーガ」の双子たち&1期パーティ全員召喚…ってあった?
TRPGリプレイだとへっぽことあとへっぽこがいたね。PTだとへっぽこだけか
>>319 通常のゴーレムみたいに外殻(鎧)を魔法で動かして人間以上の青銅聖闘士並みの運動性だすと中身のギューシュは普通の人間だから中身が耐えられそうにないな
そんだけの性能だせるものが作れるなら、無人のゴーレムでやったほうがよくないか?
青銅聖闘士って戦車なぞよりも遥かに強いはずだぞ
そんな超性能なゴーレムが作れるかよ
そもそも青銅聖衣って別に青銅製じゃないしな
ギューシュはまずオリハルコンとガマニオン、スターダストサンドを錬金出来るようにならないと
まずはってかエルフでも無理そうなんですが…
そもそも最低音速の時点で人間やめてる
2軍青銅ですら一応マッハ超えてるはずだけど、ここらくらいなら
虚無使いの渾身のエクスプロージョンとかなら効果ありそうな気
もする。
逆に相手の攻撃に耐えられるかってのもあるな。
エルフの反射で聖闘士の攻撃跳ね返せるかな?
聖闘士に同じ技は2度も通用しない理論で反射を破りそうだ。
青銅聖闘士でも黄金聖闘士レベルにまで成長する奴いるし・・・
あれはどう考えてもハッタリ
実行出来るのは一輝やカノンみたいなチート聖闘士だけだし
一輝は3巨頭相手にそれやらかすからな>同じ技は〜
こんばんは、23:45分くらいから投下します。
そこは無数にあるゲルマニア小国家の一つであった。
既にその手で滅し、廃都と化したその街で、軍は身を休めていた。
――そんな中で、一人佇む意志の塊が存在した。
頭から全身にローブを纏い、赤緑青とカラフルなトンボが先端に乗った意匠の杖をつく。
その奥の顔は窺い知れず、されどその心はわかりやすく染められている。
"黒王"――"廃棄物"達の王にして災厄。
エルフの領域たるサハラと、旧ゲルマニアの間に存在している"未開の地"。
そこに住む亜人達を取り込み、オルテによって虐げられた者達を束ね、膨れ上がり、通る道を灰にしてきた意志。
長である黒王に対し一人の男が近付くと、恭しく跪いて確認する。
「よろしかったのですか」
「・・・・・・ラスプーチン」
「はっ」
御心を問い、名を呼ばれた男は毅然と畏まる。
「構わぬ。奴らと人間達の確執はお前も知るところ――」
「・・・・・・・・・・・・」
ラスプーチンと呼ばれた男は、答えぬままに肯定の意を滲み示す。
黒王軍――黒王にとって見方は二つしかない。
それは即ち、我らの側につくか、もしくは敵となるかの単純明快な二択。
されどエルフ種族は、現在このハルケギニアにおいて最強とも言える勢力である。
それを今すぐ敵とするのは穏やかではない。我らが軍勢はまだその域には達していない。
ゆえにこそ保留。エルフ達と人間達の相食む対立を鑑みての判断。
『大いなる意思』を絶対の信仰にしていると聞くし、場合によっては滅ぼす必要も出てくる。
いずれにしても焦る必要はない。目的は確実に達せられなければならないのだから。
土壌は着々と作られつつある。焦らず、されど迅速に――
「――引き続き諸方に伝えよ。されば今まで人間を恐れていた者どもも、人の世が終わる事を信じなかった者どもも我らの軍勢に参ずるだろう」
黒王はラスプーチンに告げて、ローブを翻すように後ろへと振り向く。
夜空に浮かんだ双月に一瞥をくれてから、いつの間にか存在する眼前の者達の名を呼ぶ。
「土方」
ただそこにある影のように、付き従うように立つ廃棄物達――
「ジャンヌ・ダルク」
人類廃滅。彼らはその唯一の理をもちて――
「ジルドレ」
その内に秘めたる激情は、何もかもを呑み込んでいく――
「アナスタシア・ニコラエヴァ・ロマノヴァ」
戦列を率い、一人残さず人なる者を打ち倒す終わり。一人残さず人ならざる者を救う始まり――
「西へ――」
黒王は宣告するように一言。名を呼ばれた者達はそれぞれ陽炎が如くその場を離れる。
休養は充分。また次なる場所を陥とす為に総軍は動き出す。
「御親征! 御親征! 黒王陛下、御親征!!」
「耳アル者は聞ケ! 目ノアル者は見ヨ! 口アル者ハ吼エヨ! 全テヲ伝エヨ!!」
「世界廃滅ノ旅ハ終ワラナイ! 参集セヨ!! 参画セヨ!!」
「全テノ権力ヲ黒王へ!! 全テノ権力ヲ黒王へ!!」
黒王の号令の後もただ一人残り、建物の上に座って薄い笑みを貼り付けている少年を黒王は最後に呼ぶ。
「九郎判官義経、お前は"決まった"か。漂流物か、廃棄物か」
「さあてね、生憎とまださ」
「――ならば未だ好きにせよ」
「うん、僕はずっとそうしてきた。だからここでもそうさせてもらった。そして・・・・・・そろそろ行くよ、見極めたいからね」
少年は音もなく立ち上がると姿を消し、軍勢は一個の生命体のように脈動する。
西征。その圧倒的な力を内に、黒王軍は進撃す――
†
――黒王軍より南。廃都を遠くに眺め、外套にフードで頭を隠す3つの人影があった。
「これからどうするんですか? 叔父さま」
年若い少女の声。フードの下から僅かに漏れる金色の髪が、月光に照らされ輝いている。
「決まっているだろう、ルクシャナ。帰る以外にない」
ルクシャナと呼ばれた少女は唇を尖らせ抗議する。
「アリィーには聞いてないわよ」
あからさまな返しに、アリィーと呼ばれた青年は吐き捨てるように説く。
「他に何をやるって言うんだ。まったく、ビダーシャル様からも言ってやって下さい」
我が婚約者ながら本当に困ったものだとアリィーは毎度憂鬱な気分になる。
"蛮人"の研究をしている所為か、いわゆる"かぶれている"節があった。このまま「観光しよう」とか言い出しかねないほどに。
「・・・・・・そうだな――」
ビダーシャルと呼ばれたその男は、最も年配ではあるものの傍目からは判断がつきにくかった。
ただ彼の持つその落ち着きと雰囲気が、まだ幼さの残るルクシャナとアリィーとは一線を画している。
ハルケギニアの東方、サハラに住む"エルフ"。彼らは人間のおよそ二倍の寿命を持ち、総じて容姿も美しい。
成人が遅い為にそれだけ高度な教育を長期間受けていて、同族で相争うハルケギニアの人間達を蛮人と呼んで蔑んでいた。
「――このまま西へ行こうと思う」
「なっ!?」
「やった」
アリィーは驚愕に顔を歪ませて、ルクシャナは感情を一切の不純物なく表へと曝け出す。
帰らずに西に向かうその意。つまりは蛮人達の国へ入るということ。
「一体何故ですかビダーシャル様!! 我らの任務は――」
「あ〜ら、アリィー。叔父さまが決めたことよ」
「くっ・・・・・・」
苦虫を噛み潰したようなアリイーに対し、ビダーシャルは諭すように語りかける。
「すまない。未だ考えがまとまったわけではない・・・・・・が、しかし我々は知っておかねばならない。"人間"というものを」
「ですがっ!」
「無論、付き合う必要はない。ここからはわたし一人で行く。二人は竜に乗って報告しに戻るのだ」
そんな叔父の言葉にルクシャナはテンションを一転させて訴える。
「イヤです! わたしも叔父さまと一緒に蛮人の国へ行きます!! 帰るのはアリィーだけでいいわ」
ビダーシャルは困った色を浮かべ、アリィーはルクシャナの言葉に葛藤する。
確かに帰りたいし、ビダーシャル様が言う以上は付き従う理由はない。しかし・・・・・・。
「それにほら、一人よりも二人の方が何かと便利よ叔父さま。一人旅なんて色々怪しまれるわ」
「い、いや・・・・・・そうは思わないが」
押しの強い姪っ子にビダーシャルも少し戸惑う。
姪の頼みを聞いてやりたいと思う反面、危険と言えば危険な旅になる。
言うなれば絶対の敵地であり、少なくとも観光気分で行く場所ではない。
「それにわたしの研究に必要ことよ。叔父さまが拒否するならわたしはわたしで行っちゃうかも」
ビダーシャルは肩を竦めて嘆息を吐くと、ルクシャナの頭を撫でる。
「まったく敵わないな」
「ありがと叔父さま、大好きよ」
屈託も悪意の欠片もない純粋な笑みに、我ながら心底甘いなとビダーシャルは苦笑する。
「二人より三人だ。そうですよね、ビダーシャル様」
「ふむ、それはつまり・・・・・・」
「ちょっとアリィー、さっきと言ってることが違うじゃない。あなたは報告しに帰ればいいでしょ」
「ぼくはあくまで護衛であってわざわざ戻って報告する義務はない。黒王軍の連中は案の定、予想通りの答えだったしな。
それにいくらビダーシャル様がついてるからって、君を蛮人の国にやれるわけないだろ!!」
「それって・・・・・・」
ルクシャナは首を傾げる。アリィーがついてこようとする意味とは――
「君は仮にもぼくの婚約者なんだ。ビダーシャル様が甘やかすなら、ぼくが締めるところを締めないと何をしでかすかわかったもんじゃない」
アリィーは表情や声色には微塵にも出さなかったが、わかりやすい照れ隠しにビダーシャルは内心笑っていた。
「ふーん、そう。ねえ、アリィー?」
「・・・・・・なんだ」
「わたしは、あなたも大好きよ」
耳打ちするような距離から吐息混じりの言葉に、アリィーは参ってしまいそうになる。
「ふんっ」とアリィーはそっぽを向いてやるが、ルクシャナはそれを見てもニヤニヤするだけであった。
イチャつく姪とその婚約者を差し置いて、ビダーシャルは歩きながら考えをまとめる。
黒王軍との交渉内容はアリィーも言った通り、
想定の範囲内であった。が、それは同時に失敗を意味する。
黒王の中に在るのはただ人類を滅するという目的のみ。そこに富や名誉など、何がしかの思惑は感じられなかった。
ただただ研ぎ澄まされた刃のような純然たる感情で、人を滅ぼすことそのものを至上としている。
その上で――真意こそ語りはしなかったが、さらに何かを成さんとする心積もりがあるように思えた。
蛮人とそれ以外の種族が争うこと。蛮人の総滅を良しとするような過激な派閥もエルフ内には存在する。
しかし最終的にエルフ側の交渉として、戦争は忌避すべき事態であることを伝えた。
エルフが恐れるのものは二つある。その一つが"悪魔の力"であった。人間達が"虚無"と呼ぶ力。
彼らは、彼らが"聖地"と呼び、こちらで言う"悪魔の門"――"シャイターン"を求めている。
6000年もの昔、かつての"大災厄"が起こった原因。最大の禁忌。それだけは絶対に回避せねばならない。
戦争が激化すれば、それだけ悪魔の力の目覚めを加速させてしまうことになりかねない。
悪魔の力の使い手は仮に死んだとしても、また新たに使い手が現れるだけである。
ゆえにこそ、力が揃う時代であるからこそ、助長する行為は避け得るべきであるという結論。
人類を滅するべきではないこと、刺激しないようぼかしつつ話してはみた。
されど黒王軍――黒王の答えは断固たる拒否。取り付く島もなかった。
そうなれば黒王軍と足並みを揃えても人間達との死力戦にしかならない為に、同盟などは埒外である。
し・え・ん
(黒王軍がいかに強大になろうとも――)
6000年も戦い続けてきた我らは知っている。蛮人達は数が多く、その中には強力な人間も確かに存在している。
まして滅ぼし"尽くす"など非現実的であり、戦が長引くほどに必要に迫られた悪魔の力は覚醒するだろう。
何よりも戦争は悪魔の力だけではなく、"技術"の発展までも促進させる栄養剤ともなる。
蛮人達は蛮人達の魔法を崇高なものだとし、技術を侮ってきた。
しかしそれも追い詰められるほどにどうなるかはわからない。
悪魔の門からも漂流してくる、急激な進化をしつつある道具の数々。
魔法を使わない技術とは、即ち万人が扱えるということである。
もし体系が確立されれば、その威力と単純な物量差による敗北が待っている。
ゆえに悪魔の門の向こう側、異世界は最も恐るべきもの。それらの知識を持つ漂流者も極めて危険な存在である。
そしてそれは、黒王軍に属する廃棄物達とて例外ではない。
それもまたエルフ側として、黒王軍さえも忌避すべきものとして扱う要因であった。
最終的に待つのは――全ての破滅かも知れないのだ。
根源的にはエルフは争いを好まない。精霊力を血生臭いことに使うなど、大いなる意思への冒涜だ。
種族内で紛れもなく確執は存在し、好戦派もいるが、あくまで防衛に留めるべきこと。
そしてオルテとの国境線では数十年の長きに渡る戦争が繰り返されている。
戦の疲弊は確実に国を蝕んでいて、エルフ側としても今の状態で総力戦に当たるのは不確定要素があまりに強過ぎた。
(・・・・・・だからこそ知らねばならないのだ)
世界と――住む者達の全てを。場合によっては蛮人達との交渉さえも必要だろう。
悪魔の力を揃わせない為に、使い手を捕獲することも念頭に入れておかねばならない。
「ッなんだって!? 本気かルクシャナ!!」
アリィーの声が響く。ビダーシャルは思考を止めて、無意識に傾けた耳に蓄えられていた二人の会話を整理する。
「当然でしょ、蛮人の国に行くんだから蛮人の姿にならないと駄目じゃないの」
エルフにとって人間の国は敵地である。その為に念入りな扮装が必要という話。
ルクシャナの案というのが、精霊の力によって耳を人間と同じように丸めるということ。
とはいえルクシャナのような例外を除き、誇り高いエルフは下に見ている人間へ『変化』するのは非常に耐え難いこと。
「し、しかしだな・・・・・・」
「仕方あるまい、万が一にも露見すれば面倒なのは確かだ。フードなどでは隠し切れん」
「ほら、叔父さまも言ってるでしょ。それに耳だけでいいんだから」
のたまうとルクシャナはさっさと先住魔法の『変化』を使って、耳を縮めてみせた。
そうなれば見目麗しい妖精のような少女に過ぎない。ビダーシャルもそれに続く。
「はぁ・・・・・・。"風よ、我が姿を変えよ"」
アリィーも大きな溜め息を吐いてから、口語の呪文を唱える。
やっぱり大人しく自分だけ帰っていれば良かったかなと。
アリィーは蛮人と同じになった耳を触りながら仄かに心中で呟いた。
†
廃都より遥か上空。哨戒網に引っ掛からないほどの空から、一匹の竜と一人の人間が眼下を見下ろしていた。
夜を照らす双月と同じ色をした瞳を持つ少年は、黒王軍に関して分かる範囲で精細に羊皮紙に書き込んでいた。
現在の状況はもとより、侵攻ルートや戦中の大まかな様子。
布陣から戦術まで、竜の眼を通して意思疎通し、高高度からの分析したことを細やかに。
そうした竜とのコミュニケーション。仮に見つかった場合の迎撃から遁走まで。
黒王軍の竜騎兵相手に、全てを通じて実行力を持つのは唯一彼のみであった。
「ようやくか」
そう呟いてから口をつぐむ。実際には黒王軍が動き出さない方が良いに決まっていた。
ハルケギニアの"差し迫った現況"を、さらに掻き乱す黒王軍。
街を滅ぼしたのを観察した後、周辺の一通りを回ってからまた戻って来て幾日。
最後に次なる侵攻ルートを見極めてようやく任務は終わる。
(結局補給だけはわからずじまいか)
行軍においての生命線――補給線という重要な情報だけはついぞ掴めない。
通常守り手側が行う焦土戦術が如く、黒王軍は全てを滅ぼしているというのに。
城砦や街を焼き払うのは連中にとって当たり前で、略奪にも限度がある。
それでいてあれほどの大兵団を存続させているのだから、不可思議の一言であった。
しかしその謎を究明する為に動くにはリスクが高過ぎる。
今後また偵察する時を考えても、一層の警戒を促すわけにはいかない。
強引に近付いたところで確実に情報を得られるという保証なども存在しない。
「まあいい。さあっいこうか、アズーロ」
ある意味エルフ勢よりも厄介かも知れない廃棄物と亜人の軍団。
"最悪"を視野に入れつつ、手袋の下にある右手の甲の輝きに呼応するように、風竜はより高く夜空を飛んだ。
†
上空に浮かんだ空の大陸アルビオン。
ウエストウッドの森の中で、ティファニアはつつがなく、刺激のない日々を過ごしていた。
ロティがトリステインに帰ってから、もうどれほど過ぎただろうか。
今まで持たなかった――持てなかった同世代の友達。
こんなことなら知らなければ良かったともほんの少しだけ思いたくなる一抹の寂しさが去来していた。
慕い懐いてくる子供達や、今までの秘密を告白してくれたマチルダ姉さんはあくまで家族でしかない。
友達はまた別――否、個人個人は結局別物で、違う誰かで埋められるというものではないのだ。
「はぁ・・・・・・」
ティファニアは何度目か数えきれないほどの吐息を室内に響かせる。
風のルビーと母の形見の指輪をその手に、始祖のオルゴールが奏でる旋律に心と体を浸した。
ロティには感謝してもし足りない。
マチルダ姉さんが盗賊をやっていたなんて知らなかった。
捕まえて、それを解放する口添えしてくれたのもロティ。
わたし達が知らなかったマチルダ姉さんを救ってくれたのだ。
手紙では「大したことない」と言っていたけれど、また今度あった時には改めて「ありがとう」と伝えよう。
そう心に決めつつ、ふとティファニアの目の端に、オルゴールと並んで置いてある杖が映り込む。
(虚無・・・・・・)
伝説らしい。未だ信じられないけどそうらしい・・・・・・。
ティファニアは杖を手に取る。系統魔法は使えないけれど、コモン・マジックは使える。
少しだけ気になった――もしわたしが使い魔を召喚したらどうなるんだろうって。
それとなく聞いてみたところ、マチルダ姉さんは「別に構やしないよ」と言った。
王家付きで安定して高給。今は貴族派を探っているらしく、帰れないことも珍しくない。
盗難品などの賠償を含めても、今まで通りの生活ならむしろ余裕も出てくる。
だから使い魔の一匹や二匹を養うくらいは問題ないから、遠慮することはないと。
王家に仕えると最初に打ち明けられた時は、なんとも言えぬ気分になった。
でも母は最後まで争いを選ばなかった。人の悪意によって一方的に殺される最期の瞬間まで――
だからこそわたしも復讐なんて考えたことないし、考えることもない。
王家を恨むこともしないし、折り合いもつけた。
今はとにかく新たな日常に感謝し、ロティとの再会が待ち遠しいだけだった。
(もし・・・・・・――)
わたしが使い魔を召喚したら喜んでくれるだろうか?
確かロティはわたしが虚無の担い手で、その使い魔がどうなのか気になっていたようだった。
理由は結局よくわからないままだったけれど・・・・・・。
ティファニアは椅子から立ち上がる。
シャルロットの役に立つのなら――そう、ただそんなささやかで軽い気持ちだった。
寂しさを拭うことは出来ないけれど、使い魔がいれば賑やかになるかも知れない。
埋められはしないが、紛らわすことは出来るかも知れない。
理由は色々あったし、しない理由こそ何もなかった。
やり方は既にマチルダ姉さんから教わって知っている。
口語の呪文は系統魔法のルーン呪文のように、定型を必要としない。
魔法の力は意志の力。とかくイメージすること、強く思い願うことが大事である。
「我が名はティファニア。五つの力を司るペンタゴン――我の運命に従いし使い魔を召喚せよ」
杖を振れば――難なく成功し、"光り輝く鏡"のようなものが目の前に現れる。
「なんだか綺麗だな」と見つめながら、一向に現れない使い魔にティファニアは首を傾げる。
もしかしたら失敗したのかも知れないと思ったとその時――
"勢い良く飛び出してきた何か"に驚き、尻餅をついた。
"何か"は半ば覆い被さるようにぶつかってきて、ティファニアは薄っすらと眼を開ける。
やがて"顔を上げた使い魔"と瞳が合うと、少女はただただ呆然とするしかなかったのだった。
以上です、支援ありがとうございました。
ではまた次回。
投下乙
誰が出てきた? 待ち遠しいな畜生!
黒王……某用心棒怪獣?
黒王とか言われると世紀末覇王のでっかい馬しか思い浮かばない
用心棒・・・・
すくいりょういちおくまんえん か
>>353 最初の設定を大きく変えたことに「おおっ」と思い、
気づいたらwikiで一気読みしてたよw
次は誰が来たのか、続き楽しみに待ってます!
最近アセルスの人見ないね、デュープリズムの人もまだかなぁ(´・ω・`)
ところでヴァルキリープロファイルってありそうでないクロスだよな、ゼロ魔世界の神話的に相性は悪く無さ気なんだけど
以前、レナスが召喚されたものがあったけど、削除されとるのよね。
いわゆるファンタジー要素があり、バトルが存在する原作との相性が良いのよね。
TYPE-MOONは辞めとけとか書いてあるが昔なんかあったの?
このスレに限らず月系は儲がうるさいのでもう最初から作品ごと締め出しちめぇという安全策
月姫とか好きだけど、まぁ正直妥当な処置かなと思う。
まとめサイトのお絵かき掲示板て、今新規投稿はできないのかい?
それともできないのは俺の環境だけなのかな
残念な処置だけど暴れる人たちがいるもんね(´・ω・`)
コワイネー(´・ω・)ネー(・ω・`)
367 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/14(月) 02:24:47.77 ID:H8R4lh+k
たまに長いこと止まってた作品が更新されるとすごい嬉しいよな
気が付いたら自分の作品2年以上放置しちゃってた自分の作品も頑張ってみようかなという気になる
楽しみにしとくよ!
test
規制いつの間にか解除されてたー!?
スレ汚し失礼
でも型月も最近は大分落ち着いてきたんとちゃう?
て言うか今どんな層が型月ファンやってるのか良くわからん
ところがどっこい、今度は「スレの平和は俺が守る!」君が
型月ダメ! ゼッタイ!
ってやり始めて荒れることが予想されるわけやな。悲劇やな。
そういう不要な諍い呼ぶようなの止そうよ…
なるほどね。そういう事情か
俺なら自分の好きな作品のクロスとか好んで読むけどなぁ
色々あるもんだ
延々型月の設定考察スレになるよ
お前ら別にどの作品でも勝手に考察始めるから同じことやで
今はかなり寛容だよね
色んな場所でクロスSS見るから丸くなったなーと思うよ
おもしろい作品多いのに未完が大量にあるよね
エタって一年過ぎたら誰かが宣言して続きを書くとかダメなんだろうか。
なのはの人みたくひょっこり帰って来てくれる人もいるしね
完全にやる気がなかったら一言言ってくれれば書く人もいるかも
ストUやベルセルクの人とか待ってる人多いわ
>>378 今まで書いてた人の作品をより面白くできる自信あるなら別にいいんじゃね?
>>378のアイデアはいいと思うがどのようにしてスレの合意を取るかだな
数年経って再開ってパターンもあるしな
まぁそれは三次創作になるし、作者の同意なしでの実行はちょっと発想としてありえない
自分のHPでもつくって誹謗中傷覚悟でやるなら勝手にすればいいと思う
わざわざここに投下しようとするのは、自己顕示欲の他にないよね
面白い作品書ける自信があるなら、召喚されたキャラ同じにして自分で1から書くほうが波が立たない
>>383 まあ言いたいこともわかる。
ならば(ある意味の代案として)まとめWikiの長編の分類に、現在ある「完結」以外に
・最終更新日から半年以上経過
・最終更新日から1年以上経過
・最終更新日から2年以上経過
を追加してはどうだろう?
(「現在、一覧上に記述してる”最終更新日”見りゃいいやん」と言うのは無しね。)
管理の方にとっては手間が増える事になるとは思いますが。
(日次で動かす管理スクリプトに機能を追加と言う線もアリかも。データとして”最終更新日”もあることだし。)
こうしておけば、ある程度は読み手側に
「更新の見込みが無さそうだし、これで完結だね。」
と、気を楽に持たせることも出来るだろうし、作者さん別の更新周期の傾向も判ろうと言う物。
(3次創作の発生(希望)の最大の要因は、この辺りにあると思われるので。)
原作者さんも抗がん剤の副作用で執筆ペースが1/3以下に落ちてることですし、このあたりで手打ちにしては?
>>384 その提案はなんか意味あるのか?
無しね、とか予防線引いてるけどその通り最終更新日見ればいいだけの話だろ
エタってる作品の引き継ぎを勝手にするという話自体が論外で、手打ちもなにもない
完結とそれ以外があるだけで十分だろう
続き書きたいとかはそもそも頭おかしい
そもそも続きが書きたいって奴は自分で一から書けばいい
同じクロス元の同じキャラでもいいからそういう意欲のある人は増えて欲しいね
他人がある程度書いていて評価の高いヤツを横から美味しくパクりたいだけなんだから、最初から書くなんてことするわけない
ユニコーンガンダム&バナージ召喚なら
大体サイフレのせいでどうにでもできるはず
ガンダム主人公の半分はバイタリティー高いからハルケギニアでもとりあえずは生きていけるでしょ
相手がメイジなら人間じゃないんだ!
シャアを召喚したらワルドと仲良くなるかな?(ロリコン、マザコンの同志的意味合いで)
そこで全裸さん召喚ですよ
オリジナルよりネタ的な面白さが無いがネックだが
全裸と聞いて真っ先にウェットマンと太陽全裸落としが出てきた・・・
夜分遅くですが、他に予定が無ければ0:50あたりから投下させてください
朝食を終えたルイズとディーキンは、連れ立って授業に向かう。
魔法学院の教室は石造りで教壇が一番下の方にあり、そこから席が上に向かって階段状に連なっていた。
「オオ〜、何だかエヴァンジェリスト(福音伝道者)とかが演説するのによさそうな部屋だね。
ディーキンはメイジ学校の教室って初めて見るよ」
ディーキンのボスはウィザードであるドワーフの師匠の元で修業していたが、そこは個人の私塾であり普通の家と大差なかった。
フェイルーンにもメイジの学校やウィザード・ギルドなどは存在しているが、ディーキンは生憎とそういった場所に入って見たことはない。
同じ秘術魔法使用者とはいっても、バードは一般的にウィザードからはかなり軽んじられている。
真面目な学究に打ち込みもせずに生来の才能だけで底の浅い手品紛いの魔法を振り回して喜ぶ芸人に過ぎないと思われているのだ。
実際には、そんな微笑ましい優越感に浸っている徒弟ウィザードに真の魔法というものを思い知らせてやれる程度には腕の立つバードも結構いるのだが。
「エヴァンジェリストって何よ?
……まあそりゃ、亜人のあんたははじめてでしょうね。
先生はあの教壇で話して、私たち生徒は周りの席に座って授業を受けるのよ」
「ふんふん……、ええと、いろいろな使い魔がいるみたいだね。
ディーキンは他の人の使い魔にお近づきの挨拶をしてきてもいいかな?」
「あんたって結構礼儀正しいわよね……、なんていうか、コボルドってそんな習慣のない野蛮な亜人だと思ってたけど。
でももうすぐ授業だし、今日は使い魔のお披露目だからあんたは私の近くに座ってないと誰の使い魔かわからなくなっちゃうわ。
挨拶に回るなら、授業が済んで私の用事が無い時にしてちょうだい」
「ンー……、ディーキンも人間に挨拶して回るコボルドはあんまり見たことないね。
たぶん、お互いに挨拶しに行くとよく追っ駆け回されるからだと思う。
ディーキンもよく追っ駆けまわされててなかなか挨拶する間がないからね、できる時にするんだよ。
でもここでは追い回されなくて済むみたいだし、ルイズがそういうなら挨拶は後にするね」
先に教室に来ていた生徒たちの多くは2人が入ってくるとそちらを振り向き、くすくすと忍び笑いを漏らしたり、ひそひそ話を始めたりする。
キュルケも既に教室にやってきており、2人の姿を認めると軽く手を振ってきた。
彼女はまるで女王のように周囲を男子生徒に取り巻かれている。
「……………」
ルイズはそれらをすべて黙殺して他の生徒らからやや離れた席に座ると、教科の魔法書を開いて黙々と読み始めた。
随分と勉強熱心なようだが、周囲と関わりたくないのもあるのだろう。
ディーキンはキュルケとフレイムに挨拶を返し、周囲からの妙な視線には少し首を傾げてルイズの隣の席にちょこんと座る。
そうして椅子が大きすぎるために浮いた足をぷらぷらさせながら、改めて周囲を見回してみた。
数多くの使い魔が主人であるメイジたちの横に控えている。
大型すぎて部屋に入れない使い魔は、窓の外に集まっているようだ。
動物類はまあフェイルーンと同じのようだが…、魔獣や異形の類はフェイルーンにも類似した種は見受けられるものの、やはり少し違うものが多い。
(ウーン……、いろいろ見たことないのがいるね。
昨日読んだ本に書いてあったかな?)
ディーキンは早速荷物袋から昨夜の本を取り出すと、まだ覚えていない生物について調べ始めた。
《ヒューワードの便利な背負い袋(ヒューワーズ・ハンディ・ハヴァサック)》は異次元空間に通じており、外見よりも遥かに多くのものを収納できるのだ。
しかもどんなに物をしまおうと重量は常に5ポンド(2kg強)のまま。
加えて欲しいものを思い浮かべて手を突っ込むと、内部にしまったものはなんであれ即座に取り出すことができると至れり尽くせりだ。
慌てていても確実に目当てのものを取り出せるあたりは、かの名高い耳無し猫のポケットさえ凌駕するだろう。
とにかく便利な、冒険者の定番アイテムである。
さておき様々な局面において知識の有無こそが冒険の成否、時には生死をも大きく分けるという事は冒険者全般にとって常識である。
冒険者なら誰であれ、<説話蒐集家>であって《知識への献身》を重んじていても不思議ではないだろう。
特にバードに関してはその最も大きなウリのひとつが広範な知識であり、優秀なバードは常にあらゆる雑多な知識の収拾を怠らないものだ。
自分が無知であることを自覚しながら学ぼうとしない怠惰なバードには、冒険者の資格はない。
例えば目の前の大きな甲虫はラストモンスター(錆の怪物)といって、力は弱いがたとえ魔法のかかっているものであろうとあらゆる金属を錆びさせて食ってしまう…、
ということを知らないばかりに、迂闊に斬りかかって金貨数万枚もする武具を失った挙句危険なダンジョン深部で途方に暮れた不幸な戦士は数多い。
トロルが火か酸によってしか真のダメージを受けず、どんなに斬り刻んでもそれらで止めを刺さない限り復活する…、
ということを知らないばかりに、敵を倒す手段を持っていながらそれに気付かず、不死身かと思える相手に疲れ果て絶望しながら屠られて逝った冒険者も数知れない。
未知の敵に無策で挑もうとするのは、愚か者か真の勇者だけだ。
そしてそのどちらも絶えた試しがないことを、バードとして数多くの英雄譚を見聞きしたディーキンはよく知っている。
だからバードの話の種もまた、未来永劫尽きる心配はないのである。
「……オオ、あの目玉の名前はバグベア? ウーン……」
フェイルーンでバグベアといえば、身の丈7フィートにも達するゴブリン類で最も大柄な種族だ。
濃い体毛、強靭な外皮、腕力、そして何よりもクマのような鼻を持つことがその名の由来となったらしい。
……どうもフェイルーンと同じ名を持つ別種族がハルケギニアにはやたら多いようだ。
数千年の隔絶の間に、同じ名が別の物を指すようになっていったのだろうか……。
なおディーキンにとって机は高すぎて本を置いて読むのは不便だったので、椅子から机の上に移動し、ちょこんと座って本を抱え込むようにして読んでいる。
「ちょっ、………」
」
行儀の悪い読み方にルイズは一瞬文句を言おうとしたが…、ディーキンが一心に本を読む姿を見て微妙に頬を染めると口を噤んだ。
注意しなかったのは止むを得ない事情あってのことと理解を示したからか、無闇に騒いでまた教室の注目を集めたくなかったためか。
はたまた勉強熱心さを評価したためか、もしくはその仕草が妙に可愛らしいので止めさせたくなかったか。
答えはルイズのみぞ知る。
そうこうしていると眼鏡をかけた蒼い髪の小柄な少女が教室に入ってきて、周囲で騒いでいるキュルケの取り巻きたちを無視して彼女の近くの席に座った。
彼女はディーキンの方へちらりと目を向けたが、すぐに分厚い本に視線を落とすと黙々と読み始める。
ディーキンはそこに他の生徒らかの視線とは異なる微妙な何かを感じたが…、すぐに別の妙なことに気が付いて首を傾げた。
(……あれ? たしかあの女の人は、昨日風竜の傍にいた人だったと思うけど……。
窓の外とかにあのドラゴンがいないね……)
タバサは使い魔のお披露目のしきたりを無視し、朝食後すぐに自分の使い魔を街へ買い物に行かせていた。
別にお披露目などしなくても留学生で使い魔が風竜となれば目立つから教師らは皆すぐに覚えてくれるだろう、それより早く有効利用したい。
………というのもあるが、最大の理由は自分の使い魔であることに不満を感じている様子で会話禁止にも納得していないのが明らかだった上、
ヴァリエールの使い魔と話したがっている彼女をここへ連れてくればボロを出しそうだと懸念したためである。
そのため、意図的に朝から用事を申し付けて学院から遠ざけておいたのだ。
(何か本を読んでる……、図書館から借りた?)
そうだとするとあの使い魔は、召喚されたばかりなのにもう図書館で本を借り出す許可を取ったのだろうか。
自分が同じ立場でもそうするだろうな、と、タバサは少し親近感を覚えた。
古代の叡智を受け継ぐとされる韻竜なのに食べ物にしか興味なさそうな自分の使い魔とは大違いだ。
召喚した使い魔が幼生とはいえ韻竜だったことで、もしや母を救う方法を知っていてくれないかと多少は期待したのだが……。
いざ言葉を交わしてみると、本で読んだ高貴な竜の印象を裏切る全く役に立ちそうもないその幼稚な精神性に軽く失望させられた。
むしろあっちの子の方が自分と合いそうではないか?
「……不本意」
「え、タバサ、何か言った?」
「何でもない」
……まあ、食事は自分も食べられる時は大いに食べるし執着する気持ちもわからないではない。
それに、いくら良い子そうで気が合いそうだとはいっても、あの小さな子では自分の足や力にはなってはくれないだろう。
その点風韻竜ならば、どこへ行くにも便利だしこれから任務の助けになってくれることも期待できるはずだ。
何より他人の使い魔を羨んで自分の使い魔を嫌うなど、あってはならない。
先程話を聞かれる心配のない上空でお使いを申し付けたついでに、食事の際にあの使い魔が名前を上げていた神についても聞いてみた。
カートゥルマクについては、
「コボルドの神様〜? そんなもの、イルククゥが知るわけないのね!」
……との事だったが……。
イオについては少し考えた後、
「私たち風韻竜の祭祀様が、お祭りとかの時に大いなる意思と一緒に名前を上げて崇める古い竜の神様がそんなお名前なのね。
大いなる意思のお導きに従ってすべての竜族をお作りになった、韻竜の知識と力を支え導いてくれる神様。
そんなの知ってるってことはやっぱりあの子はドラゴンに間違いないわ!
ほらほら私のいったとおりなのね、さっさとあの子にご挨拶に行きたいのね!」
……と騒ぎ出したので、杖で殴っておいた。
だが結局、早くあの子と話させろいう事聞いてるんだから食事は優遇しろとわめく使い魔を静めるのに、戻ってくるまでには話をつけておくと約束してしまった。
これ以上不満を持たれて指示を無視されるようなことになれば、互いにとって不幸な結果となろう。
風竜の翼なら戻るまでいくらもかからないだろうし、昼食前までには少々無理にでも機会を作らなくては……。
そうこう思案を巡らしているうちに教師が入ってきたので、タバサはひとまず思考を中断した。
ディーキンも一旦本を閉じて席に座り直すと、授業の内容を書き取るために羊皮紙とペンを用意する。
この時間は『土』系統の魔法に関する講義である。
教師は『赤土』のシュヴルーズという、紫色のローブに身を包みとんがり帽子を被った、いかにも魔女という感じの、しかし優しげな中年の女性だった。
彼女はまず教壇に上って会釈すると、満足そうに微笑んだ。
「皆さん、おはようございます。どうやら春の使い魔召喚は大成功のようですわね。
このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
そしてゆっくりと教室中を見回し、生徒と使い魔の姿を確認していく。
やがてその視線が、ルイズとディーキンの主従に向いた。
「ミス・ヴァリエールはなかなか変わった使い魔を召喚したものですね。
オールド・オスマンから伺いましたよ、何でも亜人で、東方の地に生息するコボルドの一種だとか」
無論でたらめだが、昨夜の相談でそういう設定に決まったのだ。
とりあえず東方のロバ・アル・カリイエに住まうコボルドの変種とでもしておけば、一般の生徒や教師らには深く詮索されまいとオスマンが提案したのである。
というか、ルイズやコルベールはお互い地名や常識などがまったく未知であったことから見て、多分実際にそうなのだろうと考えている。
ディーキンはおそらくそうではないであろうことをその時既に薄々感じてはいたが、特に反対はしなかった。
事実を何が何でも皆に伝える、ウソは容認できないなどというローフルな信条はないし、現地に詳しい人間がそうするのがいいというなら別に異論はない。
さておきそのシュヴルーズの言葉を受けて、クラスのあちらこちらから教師が入ってきたことで一度は中断されたささやき声や忍び笑いが再び聞こえ始めた。
「おおかた召喚できないからって、アカデミーあたりから珍しい亜人を送ってもらったんだろ! ゼロのルイズ!」
小太りの生徒がそうからかうと、笑い声が大きくなる。
「なっ………!」
ルイズはその言葉に憤慨して立ち上がろうとする。
ディーキンは……契約こそしてはいないが、間違いなく自分が召喚した使い魔だ。
初めて自分が成功させた魔法の証であり、大切なパートナーだ。
こんな不当で軽薄な侮辱は看過できない。
が、それよりも早くディーキンが立ち上がり、ひょいと机の上に跳び上がった。
そしていきなりの事で呆気にとられた周囲の生徒らに向かって大仰に御辞儀をする。
「アー……、はじめまして、皆さん。
ディーキンはおチビだから、ちょっとだけ机の上に立たせてもらいたいの。
自己紹介は今朝キュルケお姉さんとフレイムにしただけだから、まだ知らない人が多いみたいだね。
ディーキンはディーキン・スケイルシンガー。バードで、ウロコのある歌い手、物語の著者、そして昨日からはルイズの使い魔もやってるよ」
よく通る声でそう自己紹介をすると、今度はぽかんとした顔のシュヴルーズの方を向いてにこりと微笑んだ。
ルイズもまた、席から腰を浮かせかけたままで先程までの怒りを忘れたきょとんとした顔でディーキンを見つめている。
「先生、ディーキンは挨拶する前から自分の事を知っていてもらえたことを、とても光栄に思ってるの。
ディーキンの今度書く物語には、先生の事もしっかり入れておくからね」
「あ……、え、ええ? まあ……」
シュヴルーズは唐突な言葉に目をぱちぱちさせていたが、直に笑顔になった。
「まあ……、まあまあ、ご丁寧にありがとう。
ミス・ヴァリエールはとても素敵な使い魔を召喚したものですね。
……それに、とても流暢に人間の言葉を話すのですね?」
「先生、ディーキンは元々、こっちの人が話してる言葉は話せなかったの。
ルイズに召喚してもらった時にそういう魔法が掛かったんだと思う。
だからルイズのお陰だよ」
ディーキンはそう言ってルイズに微笑みかけると、もう一度周囲に会釈してからぴょんと机を降りて、ルイズの横の席に戻った。
「へ? え、その……」
「それは素晴らしい、使い魔に適切な能力を与えられるのはメイジの才能です。
メイジの実力をはかるには使い魔を見ればよいとよく言われますが、それは単に強力な使い魔を呼べるメイジが優秀という意味ではありません。
呼び出した使い魔の力をより大きく引き出せてこそ、主人であるメイジは優秀だという意味なのですからね」
ルイズを賞賛するシュヴルーズの言に、ディーキンもウンウンと頷く。
フェイルーンにおいても、優秀なメイジの使い魔であるほどより強く賢く、優れた能力を持っている。
ゆえに使い魔の能力の程度を見れば、主人であるメイジのレベルもおおよそわかる。
特に、使い魔のベースが何ら特別な力を持たない小動物の類などである時ほどそれが顕著に表れてくるものだ。
ルイズの与えてくれた能力はかなり特殊な部類に入るもののようだが、優れた能力であることには疑問の余地はないように思える。
「はあ……、あ、ありがとうございます。
私も、良い使い魔を呼び出せて嬉しく思ってます……」
ルイズは席に腰を落とすとやや赤面した顔を俯き気味にしながら、そう答えた。
赤面は嬉しさ、恥ずかしさ、その他もろもろの感情が混ざり合った複雑な要因からだったが、嬉しさが最も大きい。
なにせ教師から実技の成果について褒められたのは初めての経験なのだ。
加えてその褒められることになった要因が、自分の使い魔の行動から来ているというのがまた嬉しい。
唐突に出しゃばって自己紹介などを始め、教室で目立つ振る舞いをしたことに恥ずかしさや怒りもいくらか感じてはいた。
だが落ち着いて考えてみると…、もしディーキンがあそこで立たなければマリコルヌらと不毛な口論になって余計に恥を晒し、教師にも叱責されただけだったろう。
先程自分を嘲笑してきた生徒たちは、教室の空気が変わってしまったので今は不服そうに口を噤んでいる。
それでもなお侮辱を加えようとした者も数名いたようだが、厳しい顔つきになった教師の杖の一振りによって赤土を口に押し込められていた。
ルイズとしては不当な侮辱をした連中に真っ向から反論してやりたい気持ちはあったが、結果的に自分の名誉は守られたし、賞賛まで受けたのだ。
……もしかすれば、思いのほか賢いこの子の事、主人を庇う意図で話の流れを変えるためにわざとやったのかもしれない。
そうだとすれば、なんと出来た使い魔である事か。
ルイズは俯いた顔を上げて誇らしげに胸を張った。
今回の行動については後で軽く注意するけど、その倍くらい褒めてあげよう、うん。
(べ、別に、使い魔を甘やかしてるとかじゃないんだからね!)
「あはは、本当に面白い、いい使い魔よねえ。
さっきちっちゃい体で本を抱え込んで読んでるところなんか、なんだかあなたみたいで愛らしかったわ。
流石にうちのフレイムやあなたの風竜には負けるでしょうけど―――」
キュルケは面白そうにディーキンとルイズの主従を眺めながら、傍らの使い魔を撫でつつ親友と雑談していた。
もう教師が前に立っているのだから授業が始まるまで静かに待とうとか、そんな優等生な性格ではないのだ。
それでも成績、特に『火』系統の魔法の実技は文句なく優秀で学院でもトップレベルなのだが。
「……………」
タバサは親友の言に軽く頷いて同意を示しつつも、じっとディーキンの方を見つめて考え込んでいた。
(……今いきなり自己紹介をしたのは、ヴァリエールを庇う為?
そこまで展開を読んで……、まさか)
いくらなんでもそんなわけは―――ない、だろう。
唐突に使い魔が出しゃばって権利の無い発言をしたことで怒る性格の教師だっているし、教室の空気を一歩読み間違えばより嘲笑が激しくなる恐れもあった。
この子は教室に入ったのも今初めてなのだし、生徒や教師らの人柄や行動をそうも巧みに誘導するなどできるはずがない。
ましてやこんな小さな子が一瞬でそんな機転を利かしたなどと思うのは、考え過ぎだ。
さっきも本を広げて熱心に読んでたし勉強熱心で賢い子には違いないのだろうけど、でも言動は滑稽というか天然っぽいところもあるし。
きっと純真さから出た行動が結果的に上手く行っただけなのだろう。
が……、理屈でそうは思っても。
タバサは自分の中でこの亜人、もしくは自分の使い魔の判断を信じるなら竜……に対する興味が高まっていくのを自覚していた。
(一体、この子は何者なのだろう?)
何故、他人と関わることを極力避けてきた自分が珍しいとはいえ赤の他人の使い魔などに惹き付けられるのかは、まだよくわからなかったが……。
今や使い魔の頼み事を抜きにしても、自分自身がとても知りたいと感じていることは確かであった。
さてルイズやキュルケ、タバサらがあれこれと考えているうちに。
シュヴルーズは教室の空気を授業に向けて引き締めようと、咳払いして杖を振った。
すると、教卓の上に石ころが数個現れる。
「はいはい、皆さん、こちらに注目してください。少し開始が遅れてしまいましたが授業を始めます。
私の二つ名は『赤土』、赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法をこれから一年の間、皆さんに講義します―――」
それから新年度最初の授業という事で、ハルケギニアの魔法に関する基本事項のおさらいが始まる。
ハルケギニアの系統魔法が『火』『水』『土』『風』の四つに加えて、今は失われた伝説の系統『虚無』を合わせた五系統から成ること。
シュヴルーズの考えでは、彼女の系統である『土』はその中でも最も重要な位置を占めているという主張。
土系統の魔法こそ万物の組成を司るものであり、この魔法がなければ重要な金属の創造や加工は酷く困難を伴うか、物によっては全く不可能となるのがその理由で、
大きな石を切り出して建物を建てるにも、農作物を収穫するのにもこの世界では土系統の魔法が重要な役割を果たし、生活に密着しているというのだ。
この世界の住人にとってはおそらく非常に基本的・常識的な事項なのだろう、生徒の大半は今の話をいちいち書き取ろうともしない。
召喚されたばかりのディーキンでさえ、魔法に関する基礎的な解説書には昨夜目を通しておいたので、その程度の内容は既に把握していた。
しかし確認のためにもしっかりと話を聞き、大事そうな部分は羊皮紙にメモしていく。
ルイズは勉強熱心な性格らしく、自分の隣で分かりきった話でもちゃんと要点をノートに取っているようだ。
使い魔としてはなおさらサボるわけにはいかないと、ディーキンは授業からできる限りの知識を吸収するべく熱心に打ち込んだ。
ルイズの方は逆に、使い魔でさえ熱心に勉強しているのだから、自分は主人として恥ずかしくないよう一層頑張らなければと考えている。
そのため彼女もまた、いつも以上に集中して授業に取り組んでいた。
傍にいるだけでお互いに高め合える、実に良い主従であるといえよう。
さて一通りの基本的な話が終わり、いよいよ授業が本題に入っていく。
この時間はどうやら、一年次の復習も兼ねて土系統の基本である『錬金』をまずは確実に習得してもらう、という事らしい。
(ええと……、『錬金』は確か、物質の材質を別の物に変える魔法……だったね)
ディーキンは昨夜読んだ本の内容を思い返す。
錬金こそ土系統の基本にして奥義であり、メイジの実力によって作り出せる物質の種類もその純度も違ってくるのだ……と、確か書かれていた。
その記憶が確かだったことは、シュヴルーズがルーンを唱えて杖を振り、教卓の上の石を輝く金属に変えたことで確認できた。
キュルケは目の色を変えて身を乗り出し黄金かと聞いていたが、多少ながら鑑定眼のあるディーキンにはそれが真鍮であることはすぐに分かった。
ディーキンは特に、教師が何か魔法を使った際には注意深く観察する。
魔法が使われるたび、教師の口元、杖の動き、魔法の効果、魔力の系統や流れなどを細心の注意を払って観察し、細かくメモを取っていった。
これには永続化したディテクト・マジックが大いに役立ってくれた。
欲を言えばアーケイン・アイが欲しかったが、自力では使えないので致し方ない。
「ウーン……、今石を真鍮に変えたのが《錬金》ってやつだね。
魔法のオーラの系統は……変成術(トランスミューテイション)、と」
冒険者として<呪文学>を学ぶ目的は何かと問われれば、それはひとつには戦闘時に敵の発動した呪文の種類を識別することにある。
敵の発動した呪文の種類やその効力を知らねば対応することは難しい、知識が戦闘の明暗を分けるという良い例だ。
使い魔としてルイズを守ったり冒険者として活動するためにも、魔法を使う敵を相手どることは当然想定しそれに備えておかなくてはならない。
ハルケギニアの魔法とフェイルーンの魔法には<呪文学>の構成に明らかな類似点があるのでかなり応用は効きそうだが、全く同一のものというわけでもない。
可能な限り早くこちらの呪文を確実に識別できるだけの知識を得なくてはならない、そのために実際に呪文を発動しているところを観察する機会は特に重要だ。
本人によればシュヴルーズのランクは『トライアングル』らしい。
この世界のメイジのランクがドット〜スクウェアの4段階に分類され、それに応じた呪文のランク分けがあることは、既にディーキンも本で読んで知っていた。
しかし呪文のレベルが4段階しかないとは、まるでレンジャーやパラディンのようだ。
フェイルーンではウィザードやソーサラーのような専業メイジなら、0〜9までの10段階にレベル分けされた呪文を使いこなすのが普通だ。
バードでさえ、0〜6までの7段階の呪文を扱う。
申し訳程度に呪文が使えるクラスと同じ4段階(プラス、0レベル呪文に相当するコモンマジック)しかないとは、また変わっている。
もっともフェイルーンとハルケギニアではかなり呪文体系が異なっているようだし、別にハルケギニアのメイジのレベルが低いからというわけでもないのだろう。
実際、錬金のように物質を別なものに変化させる魔法というとフェイルーンではおそらく中程度以上の呪文になるだろうが、ハルケギニアでは土系統の基本だという。
その一方で、ディスガイズ・セルフのようなフェイルーンでは初歩の幻術がハルケギニアでは風系統のスクウェアスペルに相当するらしい。
フェイルーンの魔法では、実際に石を黄金に変えるより幻術でそう見せかける方がずっと簡単だ。
どのような仕組みになっているのか実に興味深いが、バードの身ではあまり深く研究するのも難しそうだ。
他力本願なようだが、エンセリックが何かいい見解を述べてくれないだろうか……。
ディーキンがそうこう考えているうちに、シュヴルーズは錬金を誰かに実演させようかと教室の生徒たちを見回し始めた。
「ええと……、そうですね。
では、ミス・ヴァリエールにやってもらいましょう」
「………え? わたし――――ですか?」
「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」
………ルイズはなかなか立ち上がらず、困ったように眉根を寄せている。
その理由は、ディーキンにも分かった。
ルイズが魔法を成功させられないのだということは、昨夜本人から聞いている。
「ミス・ヴァリエール! どうしたのですか?」
シュヴルーズが再び呼びかけると、キュルケが困った声で言った。
「先生、止めておいた方がいいと思いますけど……」
「どうしてですか?」
「危険だからです」
キュルケはきっぱりと言い、教室のほとんど全員がそれに同意して頷いた。
「どうしてです?
彼女が実技が不得手という話は聞いていますが、努力家だとも聞いています。
先程見たように、優秀な使い魔も召喚したではありませんか。
さあミス・ヴァリエール、気にしないでやってごらんなさい。
失敗を恐れていては何もできませんよ?」
(アア、ルイズはたぶんやるっていうね……)
ディーキンはぼんやりとそう考えた。
ルイズがキュルケに対して反発心や対抗意識を持っていることは、今朝のやり取りからも明らかだ。
その相手からこんなことを言われては、ルイズはきっとむきになって、何が何でもやって見せると考えるはず。
おまけに教師にまで背中を押されては、後に引けないだろう。
ちらりとルイズの方を伺ってみる。
案の定、彼女は何か覚悟を決めたような緊張した表情でやりますと答え、席を立とうかとしていた。
(ウーン、キュルケは口が上手そうだと思ったけど、こういう説得は苦手なのかな?)
「ルイズ、止めて………」
キュルケは蒼白な顔で、教壇の方に向かって行くルイズを止めようとした。
だが止まらない、ルイズは自分の呼びかけなど無視している。
その顔には既に何が何でもやってやるぞという決意が浮かんでいた、こうなったルイズの決意はテコでも動かせない。
(マズイ、マズイわ、このままじゃ新年早々また教室が。
いえ、それどころか今度こそあの爆発のせいで取り返しのつかないことになってしまうかも。
……諦めずに考えるのよキュルケ!)
キュルケとしてはルイズの評判がまた悪くなることを案じてもいるのだ。
普段はよくからかって遊んでいるが、別にルイズが嫌いなわけではない、向こうはそうは思ってないだろうが。
その時、ディーキンの姿が目に入った。
(……! そ、そうだわ、ディーキン君ならルイズを止められるかも。
さっきも、結果オーライかもしれないけど怒って立とうとしてたルイズの出鼻を上手く挫いてくれてたし)
儚い希望かも知れないがあの子は何せ使い魔だ、ルイズにとっても特別な存在のはず。
第一他に頼れそうな相手もいない。
そこで早速声を上げてディーキンに頼もうとして……、はたと気付いて思い止まった。
もし自分があからさまにルイズを止めてくれと頼み、ディーキンがそれに従ったら?
ルイズが「私の使い魔の癖にツェルプストーの頼みを聞くなんて!」と立腹して意固地になることは容易に予測できる。
さっきも、自分がうっかり止めさせるよう教師に進言してしまったことで、逆にルイズがやる決意を固めてしまったことは明らかだ。
二度も同じ失敗は繰り返せない。
すぐさま近くの席に座っている親友に顔を寄せた。
「……タバサ、ちょっと風を使ってディーキン君のところに声を送ってくれない?
ヴァリエールを止めさせるのよ、あの子ならできるかも!」
「……………」
タバサはキュルケの頼みを聞くと、押し黙って少し考え込む。
実を言えば自分としては、この展開を好都合と考えていたのだ。
教室がヴァリエールによって爆破されれば授業は中止、彼女と使い魔はおそらく後片付けを命じられて残ることになるだろう。
自分はその手伝いを申し出てここに残りチャンスを伺うか、破損した備品の運び出しなどであの使い魔が教室を出たところを見計らって捕まえればいい。
滅茶苦茶になる教室とあの教師には気の毒だが、一対一での話に持ち込める格好の機会を得たのだ。
……しかし、親友の頼みとあっては無下にもできない。
タバサは渋々頷くとそっと杖を振って風を操り、ディーキンの元へ声を送った。
「――――聞こえる?
あなたに前の席から声を送っている。
ヴァリエールが教壇に着く前に何とか止めてほしい、とキュルケが言っている。
でないと、爆発する」
「……ア……? ええと……、ウーン?」
突然蒼い髪の少女からの声を受け取ったディーキンは一瞬面食らったが、直に状況を把握する。
………どうしたものだろうか?
確かに、ルイズを止めようと思えば止める自信はある。
ディーキンとしては、ルイズの魔法が失敗して爆発するというのならばむしろその奇妙な現象は見て確認しておきたい。
しかしそれは後で頼んでやってもらってもいいし、よくしてくれたキュルケの頼みならばここはそれに応えるべきだろうか。
だが立場上現在の自分の主人であるルイズがやる気になっているのなら、その意思も尊重すべきだろうし。
……にしても、こうやってわざわざ止めるよう頼んで来たという事は、よっぽど危ないのだろうか?
教室の雰囲気からして怯えている者が結構いる様子だ。
特に前の方、教壇の近くの席にいる生徒らは椅子の下に隠れ始めている。
とはいえある程度離れた席の生徒はそこまでしてはいないし、後方の席にはルイズの失敗を期待してにやにやしている生徒も若干いる。
大体本当に凄まじい爆発なら、椅子の下に隠れるのではなく席を立って逃げるだろう。
せいぜい前の方の席に届く程度の規模で、机の陰に隠れた程度で凌げる爆発であるのならそこまで大事とはディーキンには思えなかった。
もっともそれは、常人なら消し炭になって即死するような爆炎に幾度となく巻き込まれた経験がある冒険者の感覚である。
それに今は教室中に使い魔たちがいる状況だし、それらが暴れてえらいことになる可能性は否定できない。
妙な事には、声を送ってきた蒼い髪の少女の方を確認してみたところ、彼女自身は止めてほしくないような雰囲気が見え隠れしている。
さっき妙な視線を送って来ていたことも併せて、気になる人物だ。
ルイズは教壇に向かって既に歩き出しているのだし、あまり長く悩んでいる暇も無いが、さて……。
(ウーン……これはいわゆる、そこで問題だ!ってやつかな?)
ディーキンは昔どこかで、……どこだったかはよく思い出せないが読んだ覚えのある物語の一幕を思い浮かべた。
そこで問題だ!この状況にどう対応するか?
3択――1つだけ選びなさい
答え@:ナイスガイのディーキンは突如全員の顔を立てる名案を閃く
答えA:真のヒーローのボスが脈絡も伏線もなく突然プレーン・シフトしてきて解決してくれる
答えB:ほっといて成り行きに任せる。テンプレは無情である
ディーキンの事を支援するよ
ローフルニュートラル(秩序にして中立):
アライメントがローフルニュートラルの者は、法や伝統、自らの戒律などに従って行動する。
彼らは自律を最上として特定の規範や主義に従って生きるか、法と秩序による万人の統治を至上とし、効率が良く安定した政治を求める。
中にはマニュアル人間に過ぎない者もいるが、真に理想的な秩序にして中立とは、弱者の叫びにも私利私欲の誘惑にも惑わされない鋼の意志の持ち主である。
あらかじめ交わした契約を破らない範囲内で何通りかの選択が可能なら、彼らはその中で最も厳密に字義通りの契約に従っていると思われるものを選択する。
戒律を遵守する修行僧、厳格な裁判官などはこのアライメントに属する。
権力中枢がローフルニュートラルの共同体には往々にして厳格な法体系があり、法は文字通りに守らねばならない。
秩序にして中立の属性を代表する来訪者には、フォーミアン、イネヴァタブル、モドロンなどが挙げられる。
他作品ではジェームズ・ボンド、オデュッセウスなどが秩序にして中立の無頼の完璧な例とされている。
ローフルニュートラルとは信頼でき、名誉を守り、善悪のしがらみによって信念が揺るがされることがないことを意味する。裁定者。
ローフルグッド(秩序にして善):
アライメントがローフルグッドの者は、絶えず邪悪と戦い続けるだけの信念と規律心の持ち主である。
彼らは真実を語り、約束を守り、不正に対しては声高に異を唱え、悪事をはたらいた者が裁きを受けずにのさばっているのを見過ごしておかない。
邪悪な者に対しては容赦無く鉄槌を下し、罪無き者は己の身を犠牲にしてでも守る。
また悪人でも悔悟の意志を示す者には贖罪の機会を与えようとし、降伏した者には私刑を下すことなく法の裁きに委ねる。
あらかじめ交わした契約を破らない範囲内で何通りかの選択が可能なら、彼らはその中で最も契約に関わる全員に対して公平で利他的なものを選ぶ。
慈悲深く賢明な王、清廉潔白なパラディンなどはこのアライメントに属する。
権力中枢がローフルグッドの共同体には往々にして厳格で万民の利益を重んじる法体系があり、殆どの者は進んで法に従っている。
秩序にして善の属性を代表する来訪者はアルコンである。
他作品ではインディアナ・ジョーンズ、ディック・トレイシー、バットマンが秩序にして善の無頼の例とされている。
ローフルグッドとは名誉と慈愛の心の尊重を意味する。求道者。
今回は以上です
この後の展開については色々と考えがあってちょっと迷っているのですが…
またなるべく早く続きを書いていきたいと思います
では、皆様お休みなさいませ…(御辞儀)
投下乙 おやすみなさいまし
乙っした
最近投下が早くて嬉しい。
乙でした
次回も楽しみにしてます
>オオ〜、何だかエヴァンジェリスト(福音伝道者)とかが演説するのによさそうな部屋だね。
アメリカの某宗教団体が作成したパンフ思い出した
>エヴァンジェリスト(福音伝道者)
D&D3.5版にはそういう上級職もあるんだぜ
究極奥義はお説教で洗脳だw
ガイギャックス!
ガイギャックス!
乙です
>>403 アーケイン・アイ(wiz/sor4:術者に視覚的情報を送る、不可視の魔法的感知器官を作り出す)じゃなく
アーケイン・サイト(wiz/sor3:術者は魔法的なオーラが見えるようになる)じゃないですかな、この場合?
うーん、教壇まで遠いから間近で観察するためにアーケイン・アイが欲しい…って意味かな?
でも単純にアーケイン・サイトの間違いっていう方がしくりくるかな
>>392 ワルドをおだてて体よく捨て駒にしそう
ほかも、仮面キャラは死亡フラグ持ちが多いから大変そうじゃ
アルビオンでジオンごっこしてそう
>>420 つまり、ガンダムさん な方のシャアか。
隊長のザクさんかもしれないが
アルビオンといえばガンダム試作3号機デンドロビウム、は大気圏内では使えないんだっけ?
強化パーツのミノフスキークラフトを装備すれば・・・・空Bだが
第4次のミノクラなら、空どころか陸ですら戦えるぞ
地面を這いずり回る巨大な武器庫を思い浮かべてみろ。レコンキスタ7万の兵も裸足で逃げ出すからw
>>417 ご指摘ありがとうございます(御辞儀)
確かにアーケイン・サイトの間違いのようです
>>392 >>419 そういうこと言うから
「ばかな…ニューキャッスルがものけの空だと!?」
「ふふふ…ワルド、聞こえていたらキミの性癖を呪うがいい」
「性癖だと!?」
「そう性癖だ」
「シャア…お前は…」
「ワルド、君はいい友人であったが、マザコンでありながら我が主にまで手を出そうとするのがいけないのだよ…ふふふ…ハハハハハ」
というしょうもない寸劇が頭をよぎった
お久しぶりです。ネタが降りてきたので16:30頃から
トリステイン魔法学院Z 第3話 「穢れなき教師 その名はギトー」
を投下します。
久々なんで断っておきますがクロス元は「超能力学園Z」ですよ〜
その日の朝、バーニーとペイトンの二人が目覚めて真っ先に感じたものは、酷い頭痛であった。その痛みに顔をしかめつつも、
「…おはようバーニー」
「ああ、おはようペイトン。…やっぱ、夢じゃぁないよな」
「あたぼうよ。夢であってたまるかい。それにしても、頭が痛いぜ。飲みすぎた…」
「全くだね、声がガンガン響いてるよ、ペイトン。だけど…」
「ああ、最高の朝だな!」
ペイトンのその言葉と共に、二人は二日酔いの頭痛を感じつつも高らかに笑いあった。こっちの世界…つまり、トリステイン魔法学院で生活するようになって最高の目覚めであった。
なにより、椅子を寝床にし、食事を恵んでもらう生活からやっと解放されたのである。これほど痛快なことは無い。多少の頭痛がなんであろうというのか。
笑い終えたペイトンは、咳払いをし、真面目な顔を作ると気取った声で
「さて、我々はこうして最高の目覚めを迎えたわけだが…残念ながらその気分に水を差す任務が待ち受けている」
「ルイズを起こしに行くミッションですね、分かります」
「その通り!だが、昨日までとは違い、我々にはベッドがある!食事の心配も無い!ここは一つ、寛大な心で相手をしてやろうではないか!」
「Sir Yes Sir!」
芝居がかった調子でバーニーが敬礼を決めると、再び二人は腹の底から笑いあったのであった。
自室に来るまでにそんなやりとりがあったと知るわけも無く、いつもの通り使い魔に起こされたルイズは、二人が妙に上機嫌なのを診て訝しく思った。
「…何か怪しいわね、なんでアンタらそんなに嬉しそうなのよ?…はっ、もしかして寝ている私に何か悪戯を」
「しないしない。するわけない」
ルイズが喋り終わる前に、声を揃えて否定する二人であった。
「…そう全否定されるとそれはそれで何か腹が立つわね…ま、まぁいいわ。着替えを頂戴。」
「…本当、難儀なご主人様だなぁ…ほい、じゃぁ、俺達はいつもどおり外で待ってるよ」
「…怪しい…」
溜息とともに退出した二人を見送ると、ルイズは念入りに自分の姿を鏡でチェックしながら身支度を整えた。
本人たちは否定したが、やはりあの態度はおかしかったからだ。
だが、本当に何もしていない以上、当然異常が見つかることもなく、ルイズは首をひねりつつ、食堂へと向かうことになった。
そこでやっと、二人のあの態度の意味を知る事になったのである。
いつもどおり、使い魔に引かれた椅子に腰掛けたルイズだったが、予想もしなかった言葉に面食らう事になった。
「所でルイズ、僕たちの食事は別に用意してもらう事になったから、これからはもうスープもパンも用意する必要はないよ」
「そうそう、そういうわけで、食事してくるからまた後で」
そう言い残すと芝居がかった調子で恭しく礼をすると二人はすたすたと立ち去ってしまった。
「え?ちょ、それは一体?」
問いただそうとしたルイズだったが、しかしタイミング悪くブリミルへの感謝の祈りが始まってしまった。
自分一人だけしないわけにもいかないので釈然としないまま祈りを捧げている間に、二人の姿は既に消えていた。
「…どゆこと?」
ルイズの呟きに答えるものは、誰もいなかった。
「いやぁ、傑作だったな、あのルイズの呆気に取られた顔!」
「全くだね。これだけで食事が進むってもんさ」
してやったり、と言う表情でルイズのところから立ち去った二人だったが、ここに至って一つの問題にぶつかった。それはつまり
「なぁバーニー、ところでだ…その俺達の食事はどこに用意してあるんだろうな?」
「…どこだろうね?浮かれてないでもっとしっかり聞いておくべきだったな。夕食は部屋に用意してあったからなぁ」
自分たちの食事がどこに用意してあるかわからない、というものだった。本来ならこういう件は(一応)彼らの主人であるルイズに連絡が行っているべきなのだが、どうも先ほどの反応からして知っていた様子はない。
ルイズが知らないのだから、当然キュルケも知らないだろう。彼女には知り合ってから色々と助けられているが、この件に関しては、残念ながら当てに出来なさそうであった。
若干後悔しつつも二人は食堂を歩き回ってみたが、どうにもそれらしい物が見当たらない。やはり、誰か事情を知る物に聞かないとどうにもならないだろう。となると、誰が知っているか、と言う事になるのだが…
「…取り敢えず聞いてみようよ。ああ、ごめんね、そこの君」
バーニーはちょうどそこを通りかかったメイドを捕まえて尋ねた。振り向いた顔を良く見れば中々の美少女である。
こっちでは殆ど見られない黒髪とソバカスが特徴と言えるだろうか。アジアン…それもチャイニーズやジャパニーズっぽい顔立ちだなぁ、まぁどっちもここにはいないだろうけど、などと、どうでもいいことを思った。
「今日から食事を用意してもらえる話になっている筈なんだけど、なにか聞いてないかな?…ああそうだ、言い忘れてたけど僕はバーニー。で、こっちがペイトン」
「あ、はい!ミス・ヴァリエールの使い魔のバーニーさんと、ペイトンさん、ですよね?承ってます。もう用意は出来てますよ、厨房へどうぞ」
「厨房?厨房に入って良いの?ええと…」
「あ、すみません、私はシエスタと申します。えぇ、勿論普段厨房への立ち入りは控えてもらいたいんですけど、私たちが賄いを頂く所ですね。そこに用意してありますんで」
厨房はピークの時間こそ過ぎたものの、昼へ向けた仕込や下げられてきた食器の洗浄などでコックやメイドがあちこちを飛び回っていた。
そんな中をシエスタに先導されて付いていった二人は、厨房の一角にある小ぢんまりとしたテーブルに案内された。
何もかもが豪華なここトリステイン魔法学院ではあったが、さすがにここのテーブルは食堂の意匠をこらされたそれとは違い、あくまで実用本位の素っ気無いものであった。
とはいえ、二人にとってはどんなテーブルかよりもそこにどんな料理が並ぶか、が遥かに重要な問題である。そこには既に、生徒達が食べているのと全く同等の食事が並べられていた。
それを眺めて、二人は昨日自分達の為に用意された部屋に足を踏み入れたときと同じ感激をかみ締めていた。
「ああ、やっぱりいいよなぁ…俺達専用の食事が用意されてるってのはよ」
「ああ、全くだね。キュルケとの食事は悪くないけど、いつも分けてもらってばかりってのは内心男として情けないものがあったからね」
「全くだ。しかしアメリカにいたころは想像もつかなかったぜ。日々の食事がこんなにありがたく感じるなんてよ」
「全くだね。そういう意味じゃぁルイズには感謝するべきなのかもしれないな。したくも無い経験だったけどね。さて、ここでこうして馬鹿みたいに突っ立っていても仕方がない。早速食べようぜ、ペイトン」
「おうよ、お預けプレイは趣味じゃねぇしな」
嬉々として着席し、早速手を伸ばそうとした二人であったが、それは不意にかけられた不審声にさえぎられた。
「なんだあんたら?部外者はここに入ってもらっちゃ困るんだが。おいシエスタ、お前が連れてきたのか?」
「ちょっと待ってくれおっさん。彼女が悪いんじゃないぜ」
「すいませんマルトーさん、この人達が例の…」
「ああ、そういうことか。不躾な事を言っちまって済まなかったな。…ん?あんたらは…」
それだけで話が通じたようで、納得した様子のマルトーと呼ばれたコックであったが、すぐにその表情が怪訝そうなものに変わった。
しかしバーニー達の方には全く面識がなかったのでそんな反応をされる理由がまるで分からなかった。なのでその疑問を恐る恐るそのまま口にした。
「え…?すみません、僕たちが何か不味いことでも…?」
「いやいや、そうじゃねぇよ。驚かせて悪かったな。誰かと思えばお前さん達だったんだな。食堂で寝てたのを見かけたんで気にはなっていたんだが…」
そこまで言うと、マルトーはちょっと黙って、所在無さげに鼻の頭を書きながら、気まずそうに声のトーンを落として続けた。
「…その、何もしてやれなくて悪かったな。情けない話だが、迂闊な事をして貴族様に睨まれると後々面倒なんでな」
「別に良いさ。おっさんにはおっさんの事情があるよ」
「そうそう、変に恨みを買ってもいいことなんてないのは良く分かってるよ。気にしないでいいさ」
二人の返答を聞くと、マルトーは安堵したような表情を浮かべた。
「そう言って貰えると助かるぜ。ま、罪滅ぼし代わりと言っちゃなんだが、食べたいものがあったらいつでも遠慮なく言ってくれ。
腕によりを掛けて作ってやるぜ。自惚れるつもりは無いが味の方は期待してくれて良いぜ。
っと、言い忘れてたな。俺はマルトー。見てのとおりここでコックをやってる。そして俺はここの料理長だ」
「なるほど、あんたがここのボスってわけだ。そりゃ心強いな!なんでも良いのかい?」
「ああ、勿論材料に都合が付けば、だがよ」
「OK!こりゃぁ楽しみが増えたぜ。ま、そうはいっても出てくる物皆文句の付けようがないほど美味いしな。まぁ、今日のところはこれで充分さ。そうだ、バーニーは何かあるのか?」
「僕も特に無いけど…ああそうだ、ハンバーガーが食べたいね。本当はコーラも欲しいところだけど、流石に無いだろうし」
「ハンバーガー!ああ畜生!何で忘れてた!前言撤回だ!そうだよ!俺達アメリカ人はハンバーガーを食わないと死んじまうからな。
そういうわけでマルトーさんよ、俺達の希望はハンバーガーだ。ビッグサイズで頼むぜ」
「ええ!そうなんですか?すみません、気が付きませんで」
素っ頓狂な声を出すシエスタに、ペイトンは気まずそうに
「あー、ごめん。ジョークだからね?」
「シエスタ。そりゃぁアルビオン人がまずい料理を食わないと気が済まないってのと同じ類のジョークだろ。
おいあんたら、この娘は良い娘だが純真なんだ、あんまりからかわないでくんな。…ところでよ、ハンバーガーってなんだ?」
マルトーのその質問は浮かれていた二人を気落ちさせるのに充分だった。
しかし考えてみればこのマクドナルドもウォルマートも無いこのファンタジーな世界で都合よくハンバーガーが存在しているというのも虫の良い話である。
「あー、なんて言ったら良いのかな…僕たちの故郷の料理なんだけど…おいペイトン、詳しい作り方…わかるか?」
「俺がか?言えるわけないだろう!あー、おっさん、要はパンでハンバーガーステーキを…いや、これじゃ通じないんだよな、Hh.…」
そこでしばし言葉を捜していたペイトンは、
「ああそうだ、パティやレタス、トマトにピクルスなんかを挟んで食べるんだが」
「パティといっても色々あるぜ。何を使うんだ?」
「え…色々あるのかよ」
その言葉に二人は顔を見合わせて、ぎこちなく笑った。料理などした事も無い二人である。
詳しく作り方を尋ねられても、100%の牛挽肉を使っている、と答えるのが精々である。
いかにマルトーの腕がよくとも、そしていかにペイトンが楽観的とはいっても、これでは満足のいくものが出来るわけがないのは明白だった。
「ああ、すまない。うん。忘れてくれよ。俺達の故郷の料理だから、知らなくて当然だよな。リクエストは別なものにするよ」
気落ちして答えたペイトンに、しかしマルトーは食い下がった。
「ちょっと待ちな。知らないままに引き下がっちゃ料理人の名折れってもんよ。
それにあんたらの反応からすると、美味いもんなんだろ?
そのハンバーガーとやらをもうちょっと教えてくんな。俺の意地にかけて美味いものに仕上げて出してやるぜ」
「いや、俺達も詳しい作り方を知ってるわけじゃないんだが…。まぁいいか。パティには牛挽肉を使うよ」
「ふぅん?で、それをパンに他の具と挟むんだから…えぇと、こんな感じか?」
二人の話を聞いて、暫く考えを巡らせていたマルトーだったが、どうやらハンバーガーのイメージが纏まったらしく、
「よし、昼を楽しみにしていてくれや。そのハンバーガーとやらを作ってみせるからよ」
そう言い切ったのであった。
「では授業を始める。知っての通り私の二つ名は疾風。疾風のギトーだ」
さて、その日の最初の授業は、ギトーが受け持ちだった。黒い長髪や漆黒のマントから漂う陰気な雰囲気と、
どうにも隠せない陰険さから生徒からは総スカンを食らっているが、本人はまるで気にしていない。
「最強の系統とは何かね、ミス・ツェルプストー」
「虚無じゃないんですか?」
「伝説の話ではない、現実的な答えを言いたまえ」
回りくどく尊大な言い方にキュルケは不快を覚えたが、質問自体には素直に答えた。
「…火ですわ」
「違うな。論より証拠だ。私に君の得意な火の魔法をぶつけてきたまえ。なに、遠慮はいらん。大した事にならんのは分かりきっているからな。
それとも、その有名なツエルプストー家の赤毛は飾りかね?」
あからさまな挑発である。
キュルケは優雅に溜息をつくと、むしろ笑顔で髪をかき上げた。
「仕方ありませんわね。治療費ぐらいは出して差し上げますわ。治療できれば、ですけれど」
言い終わるが早いか、キュルケが詠唱を始めた。直径1mはある炎の玉が完成し、正確にギトーをめがけ直進する。
だが、ギトーは避けるそぶりも見せず、腰に差した杖で剣を振るようになぎ払った。烈風が巻き起こる。
それは炎の玉をかき消し、そしてその向こうにいたキュルケを吹き飛ばした。
「いけない!」
咄嗟にそれを見たバーニーが超能力を発動させた。目的は、勿論キュルケを助ける事だ。かなりの勢いで壁へと吹き飛ばされたキュルケであったが、
バーニーの狙い通り、超能力によって急減速し、何事もなく着地することができた。
…いや、何事もなく、ではなかった。何分咄嗟の事で美味く加減が出来ず、スカートがマリリン・モンローの如く見事に捲れあがり、下着が見えてしまったのである。
とはいえ、流石にバーニーもペイトンもその眼福を楽しむだけの余裕はなく、ただキュルケの無事を安堵した。
ほっとしたように、バーニーの肩を叩きながら、ペイトンが呟いた。
「流石だ。でかしたバーニー」
そして、同時にギトーへの怒りが湧き上がった。
二人とも基本的に脳天気な馬鹿であるが、女に手を上げるとは最低、という典型的なアメリカンである。
ましてやキュルケはこっちに来てから何かと世話になった恩人でもある。それだけに、怒りを買うには充分であった。
「…おい、見ろよバーニー。かわいそうに、女の子には優しくしろって小学校で習わなかった奴がいるぜ」
「言ってやるなよペイトン。我がアメリカじゃぁただのクズだが…ここじゃぁ違うかもしれないだろ?」
茶化した調子ではあるが、声には怒気がみなぎっている。無論、ギトーがそれに反応しないはずも無い。
「…ふん、平民の使い魔風情が良く吼える。ヴァリエールの躾がなってないようだな。まぁいい。そんなに意見があるなら貴様等が答えてみろ。さぁ、最強の属性とは何だ」
指名こそしたが、ギトーはまともな返答を期待していたわけではない。よりにもよって自分の授業に使い魔だからとはいえ、平民が紛れ込んでいるのが気に入らなかったのである。
精々的外れな返答を罵倒してやろう、そういう魂胆だった。
だが、彼は間違っていた。彼らを侮ってはならなかったのだ。
バーニーは素早くギトーの腹を読んだ。…恐らく、コイツは自分の属性…つまり風こそが最強だと言わせたいのだろう。
今の態度からしてそれ以外は聞く耳持つまい。だが、わざわざこんな奴をおだててやるのも癪に障る。
そう思っていたところに、ペイトンが口を開いた。勿論、答えを知っていたわけではない。勝算などない。
だが、ペイトンはそこで黙っているような殊勝な性格では決してない。
ほんの僅かな時間考えてから思いつきのままにその言葉を継いだ。こういうものは、詰まったら負けなのだ。
そして、彼の答えは誰一人として予想していないものだった。
「さて先生、そいつぁ簡単だ。何時だって、愛が最強さ」
「あ、あんた、なんて馬鹿な事を言うのよ!少しは私の体裁という物を考えてくれない?」
悲鳴のようなルイズの叫びであった。…まぁ、ルイズならそういうよなぁ…と内心溜息をつきつつ、ペイトンはギトーの出方を伺った。
「…愛だと?馬鹿馬鹿しい」
まともな解答など最初から期待していなかったギトーではあったが、この答えは完全に馬鹿にしたように聞こえたので、立腹するには充分な理由となった。
しかもそれだけではない。
「さすが我らが英雄!」
「そうだ!愛だ!」
「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ!」
何故かこのふざけた答えが男子から猛烈に支持されている。それがますます気に入らず、
「…下らんな。愛など所詮欺瞞に過ぎぬわ」
ギトーは吐き捨てるように言ったのだった。皆が辟易した表情を浮かべる中、ペイトンは肩をすくめると、
「ああそうですか?まぁ、人それぞれですからどう思おうが別に構いませんがね。ところで俺の故郷での体験から言わせて貰えば、
その台詞はモテない童貞が良く使う負け惜しみなんですがね。まさか先生に限ってそんな事はないとは思いますが実際どうなんですかね?」
「どっ…」
ギトーは絶句した。予想外の返しと、いきなりの下品な展開に呆気に取られ、咄嗟に返す言葉がなかったのである。
まともな会話は不可能と判断し、ギトーは授業に戻ることにした。
「…話にならんな。まぁ、貴様ごときに回答させた私が愚かだったか。まぁいい。授業を続ける」
吐き捨てるように会話を打ち切ったギトーであったが…彼は気づいていなかった。既に彼は致命的なミスを犯していた事に。
絶句したのは余りにまずかった。
「お前、童貞だろ」
この質問に絶句した男がどういう目で見られるか、多くを語る必要はないだろう。
僅かなうちに教室の雰囲気は一変していた。冷ややかな目、同情するような目。忍び笑いを漏らすものも少なくない。
最初、教室の雰囲気の変化に怪訝な顔をした彼だったが、その意味を悟ると流石に表情が変わった。
ギトーは普段生徒の反感など微塵も気にしないのだが、そんな彼にもこの生暖かい反応は堪えた。
「な、何を馬鹿な事を!私は童貞などではない!言い掛かりは止せ!」
思わぬ侮辱に喋らずにはいられなかった彼だが…こんな反論は火に油を注ぐようなもので黙っていた方が遥かにマシだとは諸君は良く知っているだろう。
ご多分にもれず、教室の雰囲気は「ああやっぱりね」といったものであった。
焦ったギトーはますます墓穴を掘るような発言を繰り返し…
そこへ芝居がかった調子でペイトンは立ち上がり、両手を広げつつ優しい調子で言った。
「まぁ皆落ち着きたまえ。童貞は罪ではない。それにメイジとしての実力にはなんら関わりのないことだ。そうでしょう先生?」
「そ、そう。そうな…うん?」
パニックになりかけていたギトーは助け舟と見てこれに飛びついたのだが…これでは私は童貞です、と自白したも同然である。
ギトーがそれに気づいたときにはもう手遅れであった。
勿論、童貞である事は人間としての価値を些かも貶めるものではない。だが、それが何よりも重大な関心となる時期がある事も事実である。
それはバーニーたちの故郷アメリカでも、我等が日本でも、そして魔法が実在するここハルキゲニアでも同じであった。
さて、そういう者達にとって普段尊大な態度で自分達にあたるものが実は童貞でした、となったらどうなるか。
言うまでも無くそれはもう地の底までも評価は落ちる。
先ほどとは比較にならないほどの遠慮ない野次や、哀れみや生暖かい同情を込めた視線がギトーを襲った。
生徒の反感など微塵も気にしないギトーであったがこれは非常に堪えた。
「僕は青銅のギーシュだが…先生はなるほど清童でしたか」
この野次が止めであった。「後は自習!」と言い残し、逃げるようにギトーは去っていった。
それを見届けるとバーニーはニヤリと笑ってサムズアップした。ペイトンも満面の笑みでそれを返す。
だが、その笑みが困惑顔に変わった。キュルケがやって来たのだ。その表情はいつものような余裕あるものではなく、不自然に無表情であった。
「…貴方達の仕業ね?」
言われて、二人は言葉も無かった。あの場合仕方が無かったとはいえ、下着が丸出しになったと言うのはやはりまずかった。
「…その通りだ」
「初めて握手した日のこと、覚えてるかしら?調子に乗るなと言っておいたはずよね?」
「勿論覚えてるさ。言い訳はしないよ」
「そう?潔いわね」
そういうが早いか、キュルケはバーニーの顔を思い切り張った。そして、打たれた頬を押えるバーニーの手の上から両手で包み込むようにバーニーの顔を押えた。
と、キュルケは悪戯っぽい笑みを浮かべ、熱烈なキスをした。
「!?」
突然の事に呆然とするバーニーであった。たっぷり30秒ぐらいはそうしていただろうか。ようやく離れると、
「ふふ、助けてくれてありがとう。言い訳しないなんて、格好いいじゃないの。本気で惚れそうよ?」
熱っぽい視線で礼を言うキュルケに、
「ふっ、いい男は手柄を誇らないもんだぜ。所で…なぁキュルケ、俺は?そりゃあ直接助けたのはバーニーだが、俺だって同じくらい心配したんだぜ?」
「分かってるわよ。貴方にも感謝してるわ。両方熱烈なのと、両方軽く済ませるのとどっちが良いかしら?」
「…そうきたか。勿論、一番アツイ奴で頼むよ」
「あら?良い事言うわね。良くってよ?」
言うが早いか、バーニー以上の閃光の様な平手打ちがペイトンに炸裂した。そして、これまたバーニー以上の熱烈なキスが交わされたのだった。
違ったのは目を白黒させていたバーニーに対し、こちらは始終至福の表情を浮かべていた事であろうか。
ここが教室である事など全く気にしないようなその様子に周囲は大いに盛り上がり、ルイズなどは怒りで顔を真っ赤にしていたが、三人にはそんな事はまるで目に入っていなかった。
しえn
ようやく離れると、
「それにしても貴方達、本当に面白いわね。あのギトーを涙目にするなんて貴方が始めてだわ」
感嘆した調子でキュルケが言った。キュルケにとっても今のは相当に痛快だったようである。
「そりゃあどうも。けど、半分以上あいつが自爆しただけさ。大した事じゃない。しかしあいつも人望無ぇなぁ。そこだけは同情してやるぜ」
全く同情しているようには聞こえない口調で言ったペイトンであったが、実際教室を見渡してみても、ギトーのことを気遣うような生徒はまるで見当たらなかった。
振り返ってみれば一応止めに入ろうとした生徒も皆無であっし、これには自分のした事とはいえ、ちょっとやりすぎたかと思わないでもなかった。
だが、キュルケはもはや哀れなギトーの事などどうでも良かったようで、
「そういえば…貴方達今朝はどうしたの?朝食の時会わなかったけど…」
と、まるで別のことを言った。
「実はついに昨日から念願の寝床と食事を手に入れてね。もう食事を分けてもらいに皆を回る必要は無くなったんだ」
「あらおめでとう。でもどうやって?あのルイズがそこまで態度を変えるなんて、一体何をやったのか興味があるわ」
「ははは、ルイズに頼んだんじゃないんだなぁ。これが。学院長に直訴してね」
「…?ねぇペイトン、貴方一体何をやったの?確かに貴方はユニークな人だけど、それだけでオールド・オスマンがそこまでの待遇を与えるとは思えないし…」
「ははは、まぁ、それは…」
と、言いかけてペイトンはこの件は出来るだけ伏せておいた方がいいと判断した。
見た目はセクハラ爺とはいえ、学院長に一杯食わせたというのがどう思われるか判断できなかったからだ。
「秘密って事で。ま、学院長か、コルベール先生に聞けば教えてくれるかもよ?まぁ、バーニーの力と」
そこでペイトンは、人差し指でバーニーを指してから、親指で自らの頭を指しつつ
「俺のココの勝利、ってとこかな。さてそれより、今まで食事を分けてくれたお礼をしたいんだ。
もし良かったら昼食を一緒にとらないか?マルトーの親父が俺達の郷土料理を作ってくれることになっているんだ。
まぁ、どこまで再現できているかはちょっと不安だけどさ。勿論タバサも一緒で良いよ」
乙。
>清童
誰うま。
おひさしぶり相変わらず面白い
ポーキーズも夜中の再放送で見てたな
次が色々な意味で楽しみだ
2話がまとめられてないのが残念ではあるが
投下乙!
Zキター!
443 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 22:52:44.87 ID:Gfyl5RSd
Zさん投下乙です。そして皆さんお久しぶりです。
本当はもっと早く投下するハズだったのに申し訳ないです。
もし大丈夫であれば、新作の方を、11時丁度から始めようと思います。
444 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 23:00:32.08 ID:Gfyl5RSd
それでは始めます。
ヴァストリ広場にてタバサと別れた後、剣心はそのまま暫くの間あてもなく彷徨いていたが、やがて日も暮れ夕焼けに差し掛かると、一旦散歩をやめて部屋に戻ることにした。
部屋には、一足先にいたルイズが、膨れっ面をして待っていた。
「…遅かったじゃない」
「ちょっと用があった故、すまないでござる」
とはいっても、元々予定には入れてなかったので、遅いも何もあったものではないが。まあいいわ。とルイズは一人頷くと、今の進行状況を説明した。
「取り敢えず今日モンモランシーに買い物に行かせて、大方の材料は揃ったらしいの。…でもあと一つだけ足りないものがあるのよ」
「どんなものでござる?」
「…『水の精霊の涙』」
それは、この世界に住む『精霊』から取れる身体の一部であり、『惚れ薬』を作るにあたっての重大な要素の一つらしく、これが無ければ解除薬は作れないらしい。
「アイツ、最初は闇市場で入手したらしいんだけど、今は丁度売り切れらしくてさ…手に入れるには水の精霊に直談判しに行く必要があるらしいのよ…」
はぁ…とルイズはため息をつく。この世界で精霊は大いなる存在である。もし怒らせでもしたら、その恐ろしさは計り知れない。
「モンモランシーも最初はイヤイヤだったんだけどさ…やっと折れてくれたわ。明日には早速ラグドリアン湖へ向かうつもりだから」
と、一通りルイズの話を聞いた剣心は、ギーシュはどうしたのかと尋ねた。
「アイツも連れてくってさ。野放しにしてたら何仕出かすか分かったもんじゃないし…不本意だけど、監視の目は必要よ」
忌々しげにルイズが呟く。考えると、本当に奇妙な事件に巻き込まれたものだ。だがいつまでもボヤいてたって始まるものではない。
ルイズ達はそう考え、明日朝早くに備えて寝る準備をした。
第三十四幕 『精霊の約束』
そして翌朝―――。ラグドリアン湖道中にて。
元々ラグドリアン湖というのは、ガリアとの国境の近くに存在する、大きな湖である。その広さ六百平方キロメイル。
ハルケギニア随一の名勝ともいわれ、緑鮮やかな森と、澄んだ湖水が織り成すコントラストは、
神がざっくりと斧を振って世界を形作ったものとは思えない程の芸術品でもあった。
無論、これほどの美しさを誇る湖が、只の湖な訳がない。古くから住むハルケギニアの先住民、水の精霊が住まう由緒ある楽園でもあった。
馬車に揺られて数時間、剣心達の目にはやっとその美しき湖畔の全貌が見え始めていた。
「綺麗でござるなぁ……」
何故か馬車の中ではなく、屋根の上で一人胡座座りをしていた剣心は、その美しい湖を見て感嘆の声を上げた。
勿論こうしているのは、中にいる彼のせいである。
そしてその剣心の感想に呼応するかのごとく、馬車の中から奴の声が聞こえた。
「そうだろう!! 見たまえこの美しさ。ああ、心の全てが洗い流されるようだ…この湖の前では、善と悪、貴族と平民、そして男と女の区別などちっぽけに見える…そう思わないかい!!」
「ちょ…暴れんじゃないわよ!!」
馬車の扉を開けて、ギーシュが身を乗り出した。すっかりこの湖の虜になっているようだ。遅れてモンモランシーが慌てて同じように身を乗り出す。
二人の手と手には、ルイズが片時も離れさせないようにと、手錠のようなもので繋がれていた。だから、ギーシュが身を乗り出せば、モンモランシーもつられて出てきてしまうのだ。
445 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 23:01:39.28 ID:Gfyl5RSd
しかし、そんな事はお構いなしにギーシュは一人ラグドリアン湖で叫ぶ。ちなみに彼には、面倒なので「観光旅行で精霊に会いに行く」位のことしか伝えてなかった。
……端から見ればツッコミ所満載だが、そこはまあギーシュである。特に何も考えていないようだった。
「精霊さぁぁん、おいでなさぁぁい、いぃぃィィィヤッホォォォォォォォォォォォ!!!」
「だからっ…暴れるんじゃ…」
しかし、余りにも身を乗り出しすぎたせいか、ギーシュは激しくバランスを崩してしまい、そのまま湖に向けて大きくダイブしていった。
当然繋がれているモンモランシーも、ギーシュの後を追う形で水の中へと吸い込まれていった。
「うおわああああああああああああああああああ!!!」
「きゃあああああああああああああああああああ!!!」
ドボン!! と派手な水飛沫が二つその湖に現れた。
「あっ…背がっ…背が立たなぁぁぁぁぁぁい!!!」
「お願っ…静かにっ…ブクブク……」
まるで漫才のように溺れる二人を見て、ルイズは冷ややかな視線を送った。
「お似合いじゃないの、お二人とも」
「………助けなくていいでござるか?」
「ほっときましょ。邪魔しちゃ悪いわ」
目的はギーシュを元に戻すことだというのに、心底どうでもよさそうにルイズは首を振ると、構わず馬車を走らせるよう馭者に告げた。
しかし、溺れている二人は結構本気で助けを求めているようだったので、結局見かねた剣心が屋根から降りて助けに行くことになった。
「やっぱり付き合い考えようかしら…クシュン!!!」
剣心により救出された後、大きなタオルで身をくるむようにしていたモンモランシーが、同じような格好をしたギーシュを見てくしゃみをした後、次にどこか不思議そうな表情を浮かべた。
「それより変ね…前より水位が上がってないかしら?」
「…どういうこと?」
「確か昔は、岸辺はずっと向こうだったはずよ?」
そう言って、モンモランシーは遠くの方を指差す。その位置を見れば、丁度屋根と思しき部分が少し出ているのがみつかった。
それだけでも確かに大分水位が上がっているのがルイズ達にも分かる。
「お怒りなのかしら…ああ嫌だわ…逆鱗に触れなきゃいいけど…」
「けどよく分かったわね…ってそう言えばアンタ達モンモランシ家は確か…」
「ええ、このラグドリアン湖に住む水の精霊と、トリステイン王家は旧い盟約で結ばれててね、その際の交渉役を代々私達『水』のモンモランシ家が務めてきたわ」
そう言って、どこか遠い過去を思い出したのか、モンモランシーは苦い顔をしてため息をついた。
「今はもうやってないけどね…小さい頃に一度、領地の干拓を行うときに、水の精霊の協力を仰いだのよ。
水の精霊って凄いプライド高くてさ、機嫌損ねたら大変だっていうのに、父上ってば『床が濡れるから歩くな』なんて言うからさ…」
「じゃあアンタは精霊を見たことがあるのね?」
まるでモンモランシーの話はどうでもいいかのようにルイズは、聞きたいことだけを尋ねた。
話を無視されたことに、モンモランシーがムッとして何か言おうとしたとき、通りすがりの農夫が姿を表した。
「おお、もしかして貴族様でいらっしゃいますか?」
「………?」
突如現れたその農夫から話を聞くと、どうやら彼は沈没した村の一人らしい。
二年ほど前から突如増水が始まり、ゆっくりながらも確実に水かさは増えていき、ついにはこの様相を呈したとのことだった。
446 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 23:02:59.49 ID:Gfyl5RSd
農夫は、ルイズ達のマントを見て貴族だと分かり、水の精霊の交渉役に派遣された一行だと勘違いしたようだった。
「一体水の精霊は何を怒っておられるのか…わしらみたいな農民には到底確認することがままなりませんて……」
言うだけ言って農夫は去ったあと、ルイズ達はそこから更に進んだ、比較的広い場所で馬車から降りることにした。
「ここいらがいいかしら」
辺り見渡しながらモンモランシーそう呟く。そして腰に下げた袋を取り出して紐を開けた。中から出てきたのは、色鮮やかな黄色に黒い斑点がついたカエルだった。
「ひっ、カエル!!」
それを見たルイズが、悲鳴を上げて剣心に寄り添う。どうやらカエルは苦手なようだった。
「おいおい、たかがカエルにビクつきすぎじゃないか。そんなことのために彼に寄り添うなど笑止千万…ぶほぉ!!!」
気障ったらしく皮肉を込めるギーシュを、ルイズとモンモランシーは思い切り蹴飛ばした。
目を回して倒れたギーシュを尻目に、モンモランシーはこのカエルの使い魔を手に置いて命令した。
「いいことロビン? わたしは貴方達の古いおともだちと、連絡を取りたいの」
そしてポケットから針を取り出すと、モンモランシーはそれで自分の指を小さくついた。直ぐに血が膨れ上がり、それをカエルの背中に一滴垂らすと、更に二言三言話して手を離した。
「じゃあお願いね。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主が話をしたいと告げて頂戴」
カエルは頷くような仕草をとると、ぴょこんと跳ねて湖へと飛び降りた。
「今水の精霊を呼びに行かせたわ。覚えてれば…だけど、まあ大丈夫でしょう」
剣心達は、精霊が呼ばれるまでの間、素直に待つことになった。
「確か、『精霊の涙』でござったな…てことは、その精霊殿に頼んで泣いてもらうということでござるか?」
「いいえ違うわ。涙…とは言うけど、あくまでそれは通称よ。本当はね―――」
その時、離れた水面が光りだし、そこから何かが姿を表し始めた。
「な、何なの…?」
水面から出てきたのは、文字通りに大きな水の塊だった。ぐにゃぐにゃと蠢きながら宙に浮くそれは、気味悪いながらもキラキラと眩い光を放っていた。
ふと足元を見やれば、モンモランシーの使い魔のカエルがぴょんこぴょんこと主人のもとへと帰ってきた。
「ありがとう。きちんと連れてきてくれたのね」
モンモランシーは使い魔のカエルを拾い上げると、未だに蠢く水の塊に向かってこう言った。
「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で、旧き盟約の一員の家系よ。
カエルにつけた血に覚えはおありかしら? 覚えていたら、わたしたちに分かるやり方と言葉で返事をして頂戴」
すると、精霊らしき水の塊が、ぐにゃぐにゃと姿を変え始めた。やがて一通り蠢いていくと、やがて一糸纏わぬ透明の、モンモランシーそっくりの形をとった。
次に顔の表情を何度か入れ替わる。笑顔、怒り、悲しみ、それを何回か繰り返した後、再び無表情…いや。
「………?」
剣心の姿を見て、ほんの一瞬だけ憎々しげな表情を作った後、(この視線に気づいたのは剣心だけだった)元に戻るようにモンモランシーの問いに答えた。
「覚えている…単なる者よ。貴様の流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後に会ってから、月が五十二回交差した」
朗々と響くような声で、水の精霊は話す。確かにその姿は噂にたがわぬ美しさだった。
「良かった…水の精霊よ、頼みがあるの。厚かましいとは思うけど、あなたの一部を分けて欲しいの」
成程、一部が涙になるのか、と剣心は思った。確かにあの容姿では、どれをとっても水ではある。涙とはあくまで比喩らしい。
一瞬の間沈黙が流れ…そして水の精霊はにこっとした表情をとって…こう言った。
「断る、単なる者よ」
「で、ですよねー……」
普通だったら、ここでモンモランシーは踵を返して帰ろうとしただろう。水の精霊は怒らせるとどうなるか、一番良く分かっているからだ。
しかし『惚れ薬』にかかった相手がギーシュであるため、むざむざと引き返す訳にもいかない。何とか頼み込むように、もう一度お願いした。
「あの…でもわたしたちには貴方の一部が必要でして…その、何とかなりませんか…?」
しかし、水の精霊は笑顔のまま固まった態度を取っていた。ダメ、という意思表示なのだろう。
沈黙する空気の中、時だけが刻一刻と流れていく。モンモランシーは、改めてギーシュを見た。
447 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 23:06:29.41 ID:Gfyl5RSd
「知っているかい? 水の精霊で誓うと永遠に結ばれるという話。そこに男女の境はない永遠の契になるらしいよ」
「コラあんた、ケンシンから離れなさいよ!!」
その言葉を自分にではなく、剣心に向けて言っている。彼は相手にしていないようだが、少なくともギーシュは、それを自分に向けて言うことはもうないのだろう。
「………」
そう思うと怒りより悲しみが大きく込み上げてくる。あんなギーシュは嫌だ。いつものように気障ったらしい語句を並べて、女を見境なく追っていた彼の姿が、今はすごく恋しく思えてきた。
「………っ!!」
モンモランシーは、無意識に拳を震わせていた。暫くそうしたまま佇んでいると、おもむろにギーシュのとの手錠の鎖を引っ張り、彼を引き寄せたかと思うと、思い切り彼の頭を殴りつけた。
「えっ―――ぐわあっ!!!!」
ゴツン!! とドデカイ音とタンコブを残して気絶したギーシュを再度見つめた後、モンモランシーは決心したように叫んだ。
「お願いします!! 厚かましいことは重々承知です。けど私には貴方の一部が必要なんです!! 何でもします、何でも致します!! ですから…」
「モンモランシー……あんた…」
土下座をしてまで何度も頭を下げるモンモランシーを見て、剣心やルイズも驚いたように目を見張った。
暫くの間モンモランシーは懇願し続けていると、その声を聞き入れてくれたのか、不意に水の精霊は言った。
「…よかろう。ただし条件がある。世の理を知らぬ者よ、貴様は何でもすると申したな?」
「…はい」
少し身を竦めたモンモランシーだったが、何とか気を持ち直して尋ねた。
「ならば、我に仇なす貴様らの同胞を退治してみせよ」
「……退治?」
と聞いてルイズ達は顔を見合わせたが、とにかく水の精霊の話を要約するとこうだった。
どうやら最近、水の精霊を倒そうと夜な夜な襲撃する輩が出てきたという。
水の精霊は今、増水のためにそちらまで気が回らないらしく。そこで交換条件としてルイズ達に頼みこむとのことだった。
「そ、それは…」
撃退、と聞いてモンモランシーは顔を青くした。戦いなんてしたことない。ギーシュは今あんな状態だし…と言っても普通だとしても役に立つかは分からないが。
ルイズは魔法も使えない劣等生。爆発は使えるかもしれないけど…それ以上に相手がどのくらいの手練れなのかが分からない。
水の精霊を襲う輩なのだ。あちらだって相当の腕が立つはずだ。一介の生徒が立ち向かうなんて無理がありすぎる。
「どうだ? 世の理を知らぬ者よ。この条件…呑むのか?」
「そんな…え…っ…と…」
どうしよう…と蹲って考えるモンモランシーを他所に、ルイズはずいっと一歩前へ出ると、確認するように水の精霊に聞いた。
「では、その輩を退治すれば、『精霊の涙』を頂けるということでよろしいですね?」
「単なる者よ、我は人と違って約束は破らぬ。成功した暁には望み通り我の一部を進呈しよう」
それを聞いたルイズは、安心したように胸をなでおろすと、自信満々に精霊に言った。
「分かりました、ではその任、わたしたちが確かにお引き受け致しましょう」
「ちょ…いきなり何言い出すのよ!!?」
泡を食って叫ぶモンモランシーだったが、水の精霊は確かに聞き届けたのか、微笑んだ表情のままこう言った。
「そうか…ならば任せるぞ。勇気ある者よ」
そう残した後、水の精霊は再び水の塊に戻りつつも、ゆっくりと湖の中へと姿を消した。
その夜、ルイズ達は侵入者を待ち伏せるため、木陰の奥で身を隠すことにした。
「全く…何で安請け合いしたのよ…」
膝を抱えて蹲ってたモンモランシーが、ため息まじりにそう言った。不安でしょうがないのだ。
何でもするとは言ったが、まだ心の準備は出来ていない。単純に相手の実力が分からぬ不安。自分達で勝てるのか、生き残れるのかという不安。
よしんば生き残れたとしても、失敗してそれで水の精霊に怒りをかわれないかと思う不安。
とにかく今、モンモランシーは色々な不安に押しつぶされそうになっていた。
「だって、早く決めないと見限られる可能性だってあったじゃないの。ちゃっちゃと終わらせたほうがいいでしょ?」
対するルイズは、不安などどこ吹く風の様子で、まるで観光に来たかの様子で木陰から写る湖を見ていた。どこにそんな余裕があるのか、モンモランシーは不思議でたまらなかった。
「それにしても、あんたがあそこまで言うなんてね、まあ少しは見直したかしら」
と、ルイズは昼間の事を思い出し、ニヤニヤ顔でそう言った。すかさずモンモランシーは顔を真っ赤にする。
448 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 23:08:01.34 ID:Gfyl5RSd
「か、勘違いしないでよ!! アイツがあのまま学院に帰って変な噂でも立てられたら、遊びといえ付き合ってたわたしの名誉にも傷がつくからよ。それだけのことよ!!」
プイッとそっぽを向くようにモンモランシーは叫んだ。ルイズに限らず、トリステインの女貴族というものは、妙にプライドが高い反面、素直になれない傾向が多いのだ。
だけど…今はそんな事言っている場合ではない。
「大体あんたねぇ、何でそんな能天気なのよ。これからすること分かってる?」
襲撃者の退治。これから起こるだろう激闘に、モンモランシーは身を竦ませる。
ギーシュは、一人酒を煽って寝ていた。観光旅行としか教えていないため、襲撃については全く知らされてなかった。全くどこまでも能天気である。
つまり、実質戦えるのはルイズと自分とあの平民位だ。
「わたし戦いなんてしたことないわよ。ちゃんと作戦とか考えてあるんでしょうね?」
「策? そんなのある訳ないじゃん」
モンモランシーはあんぐりと口を開けた。全くもって理解できない。今の状況を分かっているのか?
「あ…あんたが言い出したんじゃないの!! 本当に大丈夫? 最悪殺されるかもしれないのよ?」
それを聞いたルイズは、ああそうか…知らないのか、と含み笑いを浮かべた。
「ま、ケンシンなら大丈夫でしょ。それに…」
自分は伝説の虚無だから、とルイズは言おうとして止めた。これは姫様との秘密の約束だ。まあ剣心なら万に一つもないだろう。
それを聞いて、モンモランシーは首をかしげる。
「あの使い魔そんなに強いの? フーケを捕まえた位の事はキュルケから聞いてはいたけど…」
どうせ誇張だろう、とあまりあてにしてなかったというのが現状だ。それに相手の素性が分からぬ以上、敵はフーケより手強いかもしれないというのに…。
そうして話している内に、ついにその時はやって来た。
「…来たでござる」
森の上から観察していた剣心が、下にいるルイズ達に呼びかける。ひっ、とモンモランシーは小さな悲鳴を上げる。ルイズも一瞬固まった。
音を立てずに剣心は下まで降りると、周りに聞こえないような声で言った。
「ルイズ殿はモンモランシー殿達を頼むでござる。拙者一人で行ってくる」
「手助けは? 相手は何人なの?」
「二人。暗いうえにフードを被っているから誰かは分からぬが、他に人影はいないようでござる」
なら大丈夫だろう。下手に援護して邪魔しても悪いだろうし。そうルイズは考えると、任せてもいい? と剣心に聞いた。
「大丈夫、直ぐ戻ってくるでござるよ」
いつもの爽やか笑顔で剣心は言うと、一人その場を離れていった。
本当に作戦もなしに突っ込んでいった彼を見て、遂に耐え切れなかったのかモンモランシーがまくし立てる。
「ねえ本当にいいの? 彼一人で大丈夫なの!?」
「うるさいわねぇ、黙って見てなさいよ」
ルイズはそう言うと、高みの見物とばかりに木陰から剣心の姿を見た。杖を構えているとはいえ、その表情は完全に剣心を信じきっているようだった。
どうなっても知らないからね、モンモランシーは最後にそう呟くと、ルイズと同じように木陰から覗いた。
剣心は、ゆったりとした動きで二人の襲撃者に歩み寄る。フーケの家を奇襲したのと同じ、気配を悟らせないような動きで。
早く切り込みなさいよ、とモンモランシーはハラハラしたように呟いていたが、幾度となく彼を見てきたルイズには分かる。あんなの、気づくはずない。まるで幽霊か何かだ。
一人が杖を掲げてルーンを唱え始める。恐らく水の精霊を引きずり出す手筈を整えているのだろう。それを見かねた剣心は、後ろから声を変えた。
「そこまでにするでござるよ」
「なっ……!!!」
ここで二人は、ようやく背後を取られていたことに気付いた。余りの出来事のためか、声をかけたのが剣心だとは気づかず…また暗闇のせいでお互いの姿が上手く認知出来なかった為、
片割れの一人が撥ねるように飛び退き、杖を詠唱して反撃に移る。
隙のない動きで、氷の矢『ウインディ・アイシクル』を唱えると、それを剣心に向けて撃ち放った。
(速いな…)
そう思いながらも、その氷の矢を難なく回避した剣心は、弾切れの頃合を見計らってそのまま突っ込んでいった。残りの矢を的確な動きで躱し、相手に接近していく。
あと少しで間合いに入る瞬間―――
「…っと!!?」
不意に剣心の横から火の玉が飛んできた。もう一人が接近するタイミングを見計らって、炎を飛ばしたのだった。
449 :
るろうに使い魔:2013/01/20(日) 23:15:50.74 ID:Gfyl5RSd
剣心は素早く回避しようとしたが、その火の玉は剣心の後を追うように飛んでくる。
火の玉はそのまま着弾、ドゴンと爆発し炎上するが、そこに剣心の姿は無かった。
(成程、強いな…)
隙のない連携攻撃。うまく息も合っている上に個々の実力もかなり高い部類だろう。本来なら手加減する相手ではないということが分かるのだが…しかし何故か剣心は刀を抜こうとはしなかった。
なんというか、強い以前に違和感が剣心に纏わりついていたのだ。
(何だろう…どこかで見たような…)
そしてそれは、相手の二人組にも同じだった。
(―――速い)
(うん、それに隙がないね)
すっぽりと顔を隠しているフードの中、謎の二人組は小さな声で会話をする。
真っ暗闇の中で目で追うこともままならぬそのスピードに、二人も多少なりとも驚いているようだった。
(けどさ…何か見覚えがあるのよねぇ…)
(………)
小さな相方は答えない。けど違和感は同じように感じているはずだ。……けどまさか「彼」がこんなところにいるなんて思えない。
(でも…『まさか』…ねえ)
しかし本当に彼なら、彼なのだとしたら…? そう思い、警戒を緩めてそのフードを取ろうとした…その時だった。
相手が、ここぞとばかりに間合いを詰めてきたのだ。
「…っ!!」
小さな片割れの一人が、その先を見切って素早く杖を振る。『エア・ハンマー』だ。しかし相手は、逆に身を小さく屈めて空気の槌を躱しながら突進していく。
(もし本当に彼なら…)
すかさず一人が『フレイム・ボール』を唱える。しかし今度は火球ではなく、周囲を照らすような形で炎を纏わせ放つ。
何処かの御庭番衆が得意とした『極大火炎』のような炎に対し、相手は……。
「なっ……!?」
何と、得物の剣を扇風機のように振り回すことでそれを避けたのだ。まるで大道芸のような力業である。
相手からはフードのせいで、まだこちらを認識できてはいないようであるが、少なくともこちら側は相手の正体が分かった。こんな芸当をするのは、自分たちの知る中では一人しかいないからだ。
相手はこれを機に大きく跳躍する。しかし二人は…彼女たちはもう、闘う気はもうなかった。
「ケンシン!!」
杖を下げ、代わりにフードを取って素顔を晒す。それを見た剣心…と木陰に隠れていたルイズとモンモランシーが目を丸くした。
フードの中身は、真っ赤な髪を蓄えた、あのキュルケだったのだ。それに続いて相方もフードを取る。そこにはあいも変わらず無表情なタバサの顔があった。
「キュルケ殿、それにタバサ殿も!!」
とここで漸く違和感の正体に気付いた剣心は…攻撃するために既に高く跳躍していたのをすっかり忘れていた。
「…おろっ!! しまった!!」
何とか方向を変えようとして、必死に格闘すること数秒。キュルケ達に衝突しない位置まで剣心は移動することはできた。しかし…。
「おろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
その代わり湖へと大きくダイブする羽目になってしまったのであった。
「ああ、やっぱりダーリンだ!! 道理で強いと思ったわ!!」
プッカリと水面に浮かぶ剣心を見て、キュルケが可笑しそうに手を差し伸べ、剣心を引き上げる。その様子を見ていたルイズ達も、慌てて駆け寄った。
「ちょっとアンタ達! 何でこんなとこにいるのよ!!」
「ルイズ!!? あんた達もいたんだ…というか、それはこっちのセリフよ、こんなとこで何してんのよ?」
月の明かりが闇を照らす中、突然の出来事に、しばし皆は呆然としていた。
今回はここまでです。今度から少しは投稿スピードを上げるよう努力してみます。
それではまた、ここまで見ていただきありがとうございます。
投下乙
乙でござる
∀のリリ嬢を召喚してアンアンをチクチクいじめて欲しい
453 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/01/23(水) 12:11:32.82 ID:xZmmrAOw
るろうに乙!
やっぱり『何処か抜けて』こその剣心だよなw
例:アニメ第1話の早合点からの覗き行為、島原からの帰路で財布落とす、他多数
いまさらまとめサイトの古い作品を見直していたわけだが、
スレが一桁か二桁か頃の「マップスの伝承族を召喚した」という
小ネタがなくなってるのな。
纏められて無い意外にも無くなってるのは結構あるからな
過去のグタグタ事件で抜けた人が沢山いるから
ポーカーに似たハルケギニア独自のカードゲームでサンクとかいうやつがあるけど、
あれは作品内で出てきても役名の詳細が無いから、あまり詳しくは書かれないね。
今のところ判明しているのは、
フォー・ファイア ⇒ フォーカード?
ロワイヤル・ラファル・アヴェニュー ⇒ ロイヤル・ストレート・フラッシュ
くらいだし。
後はラファルがストレート、アヴェニューがフラッシュか
そういえばババのワイルドカードはありなのかね?
使い魔物語 クックベリーの詩
458 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:16:34.78 ID:ypV8pTGD
皆さんこんばんわです。
もし予約がないようでしたら、0時半頃に投稿を開始しようと思います。
459 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:31:09.17 ID:ypV8pTGD
それでは始めます。
「いやあ、それにしてもまさかあんた達とこんなとこで出会うなんてねぇ、思ってもみなかったわ!」
「笑い事じゃないでしょ! あんなにバンバン撃ち合っててさ!」
その夜、一行は事情をそれぞれ聞こうと、焚き火を付けて周りで話し合うことにした。そこで可笑しいとばかりにキュルケが大笑いしていたのだ。
「…ひどい目にあったでござる…」
剣心は毛布にくるまりながら、焚き火で暖をとっている。それを見て、またキュルケは可笑しそうにクスクスと笑う。
「いやあ、しっかし改めて戦うと強いわね。本当に危なかったわ」
「呑気ねアンタ…てか只の平民に二人がかりで挑んでおいて、よくそんなまともな神経をしてられるわね」
襲撃者が知り合いだということで幾許か落ち着いたモンモランシーは、そんなキュルケを見て呆れたような声で言った。
キュルケとタバサは、学院でも一、ニを争うほどの実力者として有名だ。それが只の平民、しかもたった一人と互角という戦いをしておきながら、悔しそうにするでもなく愉快そうな態度をしているのが不思議でしょうがなかったのだ。
それを聞いたキュルケは、モンモランシーをまじまじと見て、そしてプッと馬鹿にするように笑った。
「そりゃそうよ。ケンシンの強さはこの目で見てきた私たちが一番よく知っているもの。あれだってどうせ本気じゃなかったんでしょ?」
と、聞くのも馬鹿馬鹿しそうにキュルケは剣心に尋ねた。剣心はぼーっとして顔をうつむかせるタバサを見て、当たり障りのないように答える。
「いや、二人とも充分強かったでござるよ。特にあの連携は息もあっていたし、中々のものでござったよ」
「まあ、アンタに言われても説得力全然無いと思うわよ」
ルイズの言葉に、キュルケはおろかタバサも顔を上げてウンウンと頷く。会う敵会う敵を余裕そうに撃破してきた剣心をルイズ達から見れば、どれを比較にすればいいのか全然分からないのだ。
「そうそう。あたしの特大の『フレイム・ボール』を、あんな大道芸で防がれるとは思わなかったわ」
「……やっぱりあれはキュルケ殿から見ても大道芸でござったか?」
「え、違うの?」
剣心はおろろ…と苦い笑いを浮かべた。モンモランシーは、ただポカンとしているだけだった。
「さて…それでは本題に戻るでござるが」
ここで、剣心が話題を切り替えキュルケ達を見つめる。
「お主らは、何故このような襲撃まがいの行為を?」
「この子の実家に頼まれたのよ。わたしはその付き添い」
隠してもしょうがないだろうと、一度タバサと顔を見合わせて確認したキュルケがそう言った。
「何でも水かさがこの所増えてきてるそうじゃない? これ以上被害が出る前に何とか止めさせる方法を考えてくれないか、みたいなことを言われたらしくてね。どうしようか、って話してたところに貴方達とばったり会ったわけよ」
と、ここまでキュルケは話すと、今度は同じような疑問の目を剣心達に向けた。
「それで、貴方達は何故ここに?」
「…話すのもバカみたいだけど…この際しょうがないわよね?」
ルイズは、鋭い視線を一度モンモランシーに向け、渋々納得したような顔を確認すると、ため息混じりに事の顛末を話し始めた。
「――あははは!! 成程やっと話が繋がったわ! あの壁紙はそういう意味だったのね!!」
一通り聞いたキュルケは、未だに眠りこけているギーシュを見つめて、また一段と可笑しそうな声で笑った。
「も、もういいじゃない!! そんなに笑うんじゃないわよ!!」
モンモランシーは顔を真っ赤にさせた。ある意味で一番知られたくない人間に知られてしまったからだ。
それでも一通り笑ったあと、キュルケは顎に手を当ててうーんと考えた。
「それじゃあ貴方達も必死なわけね、さてどうしようかしら…」
460 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:33:34.95 ID:ypV8pTGD
『精霊の涙』を欲しているルイズ達の気持ちも分かるが、かといって親友の任務をおざなりにするわけにはいかない。
皆しばらくどうしたものかと考えていたが、ふと剣心がタバサに尋ねるようにこう言った。
「つまり、タバサ殿達はその増水を止めて欲しいのでござろう? ならどうして水を増やそうとしているのか、一度精霊殿に聞いてみてはいいのでは?」
道中で出会った農夫が頭の中に浮かんできた剣心は、そう言えば何故水を増やすのかまだ聞いては無かった事を思い出した。
その原因さえ突き止めれば、そして止められるよう説得できれば、襲撃もしなくて済むだろうし、一応精霊からの任は果たしたことになるので『精霊の涙』も貰えるはずだ、と剣心は考えたのだ。
「まあ、確かにそうね。うん、そうしましょ!」
現状、それしかないなと思った一行は、翌日水の精霊に事情を聞くことにした。
そして翌日。
モンモランシーは早速使い魔を使って水の精霊を呼び出した。
暫くして水の精霊は、昨日と同じように水の塊のまま姿を表し、やがてその形をモンモランシーへと変えた。
「水の精霊よ、もう貴方を襲うものはいなくなったわ。約束通り、貴方の一部を頂戴」
モンモランシーがそう言うと、水の精霊は身体を細かく震わせ、一雫をルイズ達に渡してきた。
それをモンモランシーが壜で受け止めると、再び水の精霊はごぼごぼと姿を変えながら湖へと戻ろうとした。
それを剣心が止めた。
「ああ、帰る前に一つ聞かせて欲しいでござる。何故水かさを増やそうとしているのでござるか? 何か原因があるなら拙者たちも協力するでござるよ」
その声に、再び水の精霊はぐにぐにと姿を変えてモンモランシーへと形作る。改めて見ると恥ずかしいわね、とモンモランシーは呟いた。
水の精霊は、何度か表情を変えるような仕草を取ると、やがて無表情な顔になってこう言った。
「お前たちに任せてもよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用して話してもよいことと思う」
そして、水の精霊は事の発端を話し始めた。
「数えるほども愚かしい程月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「秘宝…でござるか?」
「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底からその秘宝を盗んで…いや…」
ここで水の精霊は言葉を切った。思い出すも忌々しい。そんな感情が漂っていた。
「月が三十程交差する前の晩、それは起こった」
「おおよそ二年前ね」
隣でモンモランシーが補足した。
「では、その秘宝を取り返すために水を…?」
「察しがいいな、その通りだ。ゆっくり水が侵食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。水が全てを覆い尽くすその暁には、我が体が秘宝のありかをしるだろう」
流石にそれを聞いて、一行は呆れた様子を隠せなかった。何とも遠大な計画である。一体何百…いや、何千年かかるか分かったものではなかった。
「では、拙者達がそれを取り返せれば、増水は止めてくれるでござるか?」
「そうしても良いのだが…果たしてお前たちに出来るかどうか」
そう言って、水の精霊はどこか遠くを見るような感じで、『あの頃』を語った。
461 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:36:18.19 ID:ypV8pTGD
「あの夜、それは突然だった。何個体かが風の力を行使して、我を強引に引きずり出すよう誘導してきたのだ。我はその挑発に乗った。
愚かしい無知なる者共に、永久の制裁でも与えてやろうと…それが全ての始まりだった」
重々しく語るような声に、ルイズ達は緊張感を覚える。
「地上へと姿を表した我に待っていたものは…地獄の業火と灼熱の焔。それを操る一個の個体」
そして、水の精霊は剣心を指差した。最初に一瞬だけ見せた、あの憎々しげな表情をして。
「そう、丁度貴様の様な『異国の』雰囲気を纏う者だった」
それを聞いて、剣心は驚きで目を見開かせた。ルイズ達も、剣心を見てポカンとした表情をしている。
「只の単なる者と、奴を侮ったのが最大の失態。奴は…その業火を操り、我の身を焼き、消滅へと追いやろうとした。そしてその隙に秘宝を奪われたのだ」
「ほ…本当ですか…それ…?」
モンモランシーが、顔を真っ青にして声を震わせた。水の精霊に喧嘩を売ること自体恐ろしいことなのに…あまつさえ消滅に追い込んだ?
確かに水の精霊は動きは鈍いし、地上に引きずり出されれば、普通の水との区別も関係ない。強力な炎の前では、手も足も出ないだろう。
だがそれを補ってあまりある恐ろしさ…水の精霊は、人の精神を自由に干渉することが出来る。どんな屈強なメイジであろうと、ひと度触れられれば、たちまち操り人形へと変えてしまうことだって可能なのだ。
他の生命を操ること位、水の精霊にしてみれば呼吸をするのと同じでなんてことはないのだ。
だから普通正面きって喧嘩を売るなんて自殺行為もいいとこだ。それが地上とはいえ、水の精霊が追い詰められるなんて、まず考えられなかった。
「奴は単なる者では留まらない…地獄から蘇った正真正銘の『悪鬼』なのかも知れぬな…」
もしそれが本当なら…そんな奴を相手に束にかかっても敵うはずがない。モンモランシーは動揺を隠せなかった。
「その…奴等の名前は、聞いてはいないでござるか?」
検討はついてはいたが、剣心は確認するように尋ねた。しかし、水の精霊は首を振る。
「残念ながら、その個体の名は聞いてはいない。だがそいつは他の個体をこう呼んでいた。『クロムウェル』と…」
クロムウェル? と聞かない名を耳にした剣心に、今度はキュルケが補足する。
「確か、現アルビオンの新皇帝の名前のはずよ」
それを聞いた剣心は、暫く何事かを思案していると、再び水の精霊に尋ねた。
「その、秘宝というのはどんなものでござるか?」
「『アンドバリの指輪』。我が共に時を過ごした指輪」
今度はモンモランシーが、何か思いついたように口を開いた。
「ええと、それって確か『水』系統のマジックアイテムじゃないかしら? 偽りの生命を与えるとか何とか…」
「その通り。誰が作ったものかは分からぬが、単なる者よ。お前の仲間かもしれぬ」
「その指輪で、命を与えられるとどうなるの?」
今度はルイズが、水の精霊にそう尋ねる。
「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは、不便なものだな」
(では、あの男も…?)
と剣心は頭を働かせたが、タルブで対峙したとき、奴は自身の『野望』を語っていた。身も心も只の操り人形になったのなら、まずあんな大言口にしないだろう。
それに奪ったのが奴なのだとしたら、指輪の前にはもうこの世界に来ていたということになる。
(奴がきたのは、もっと別の何かか…)
剣心はそう考えた。その隣でキュルケが同じように何やら考え事をしていたが、皆は特に気にしなかった。
462 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:42:06.00 ID:ypV8pTGD
「ねえケンシン、アンタ何か知ってるんじゃ――――…」
剣心の態度に何か感じ取ったルイズは、そう言って剣心に詰め寄ろうとしたが、直前で止まった。そして驚いたように目を見開く。
同じ目―――あの刃のように冷たく鋭い瞳。あの夢で見た剣心と同じ目…。思わず背筋がゾクッと凍りつくような目だ。
「水の精霊殿、約束するでござる」
剣心は、水の精霊の一歩前へと出て憮然と言い放った。
「必ずや、連中を倒してその盗まれた指輪を取り戻してみせる。だからもう、増水は止めて欲しいでござるよ」
真剣そのもの、一切の冗談がない瞳で、剣心はそう告げる。それを聞いた水の精霊は、しばし考えるように身体をぐにぐにとさせていると、やがてこう返した。
「勇気ある者よ、先程言ったな。貴様と奴は同じ雰囲気を纏っていると。貴様は我との約束を守った。ならば、我も貴様を信用するとしよう…奴を止められるのは、恐らく貴様だけだ」
その言葉に、ルイズ達はほっと胸をなでおろす。そして同時に驚いてもいた。かの水の精霊が、ここまで一人の人間に入れ込むことなんて聞いたことなかったからだ。
「我はいつでも待とう。お前たちの寿命が尽きるまでで構わぬ。我にとっては明日も未来も大して変わりはしない」
「かたじけないでござるよ」
そう言葉を交わした後、水の精霊は姿を変えて湖へと戻ろうとしていく。その寸前を再び呼び止めたのは、何とタバサだった。
「待って。水の精霊、最後に貴方に一つ聞きたい」
「…何だ?」
「貴方は私達の間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
誰もが、タバサがこのような質問をすることに驚いていた。水の精霊は暫く沈黙したあと、こう答えた。
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。ゆえにお前たちの考えは我には深く理解できぬ。しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由だと思う。
我に決まった形は無い。しかし我は変わらぬ。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった。――――変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
精霊の言葉を深く聞いていたタバサは、コクリと頷くと、目を瞑って手を合わせた。
彼女ほどの人間が、一体何を望んで誓約したのだろう? そうルイズ達は思う中、キュルケだけは彼女に倣うように一緒に祈った。
ここでギーシュは、気障ったらしい態度を取りながら剣心に向かって言った。
「さあ、ケンシン君。僕たちも一緒に祈ろうじゃ――ぼあっ!!!」
皆まで言わせず、モンモランシーがギーシュを殴りつける。
「アンタね、ホント後悔しても知らないわよ!!?」
「嫌だなあ、一体何を後悔するというんだい? 正直君みたいなうるさいだけの癇癪持ちに好かれても僕は全然嬉しくないんだが―――ぐぼあっ!!!」
すかさずモンモランシーの昇竜拳がギーシュの顎を打ち砕く。本当に漫才のようなやり取りをする二人を尻目に、ルイズは剣心を見つめていた。
彼は周辺の事など、まるで聞こえていないかのように一人険しい顔で佇んでいる。何事かに思いを馳せるかのように…。
今の剣心には、きっと何を言っても声は届かないだろう…ルイズはそう思った。
(何よ…一人でずっと考え込んでさ…)
ルイズは、口にはしなくともその顔はすこぶる不機嫌そうだった。折角水の精霊の前なのに…永遠の契なのに…私に何かしら言ってくれてもいいじゃない…。
そんな無関心な彼に対してその思いを抱かずにはいられなかった。
そりゃあ、いきなり「一緒に誓おう」とか言われても、心の準備が出来てないし…
第一私たちは貴族と平民の前に主人と使い魔の関係であるからしてそんなこといやでも向こうから言ってくれれば私だって主人だし貴族だしで
その想いを無下にしようだなんて少しは考えてもあげるしで…。
つまり、何が言いたいのかというと。
(一人で背負い込まないで、わたしにも話しなさいよ…主人じゃないの…)
そんな遣る瀬無い思いが、ルイズの中に渦巻いていた。
結局、ルイズは剣心に『永遠の契』を切り出すことなくラグドリアン湖を去ることとなった。
あの時…もし剣心に『永遠の契』を切り出せていれば…どうなっていたのかな…?
そんな風にルイズが思うのは、当分先の話のことだった。
463 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:43:17.27 ID:ypV8pTGD
その夜―――トリステインの王宮にて。
アンリエッタは裸に近い格好でベットに横たわっていた。身に付けているのは薄い肌着のみ。そんな女王とは思えないあられのない姿になっていた。
亡き父が居室として使っていたこの部屋で、アンリエッタはおぼつかない手でワインの壜を取ってグラスに注いで、そして一気に飲み干した。
「………不味い…」
誰に言うわけでもなく、アンリエッタは呟いた。最近はいつもそうだ、何を飲んでも食べても、味というのを感じない。
昔は酒など食事のときに軽く飲むくらいだったが…女王になってから量が増えた。飲み方も、周りに教わるわけもなく自然と我流になってしまった。
その昔、どこかで聞いて印象に残った言葉を思い出す。酒が不味いと思うのは、自分の何かが病んでいる証だと……。
(病んでいる…確かに…そうかも…)
女王になり、最早ただのお飾りでは無くなったアンリエッタにとって、決断を求められる、というのはかなりの心労だった。
小康状態とはいえ今は戦時中。飾りの王でも飾りなりの責任は既にどこでも発生しており、その重圧を未だに扱いかねているアンリエッタは、もう酒に頼らねば満足にも寝られない身体になっていた。
勿論、こんな姿を女官や従者に見られるわけにはいかない。アンリエッタは、こっそりワインをくすねては隠して、こうして夜中に一人飲んでいるのだった。
アンリエッタは再びワインを注いでそれを口にする。
(やっぱり…不味い…)
銘柄は決して悪いものではない。寧ろ平民が必死で稼いでも手に届くかわからないような高級品だ。
でも、感想は変わらない。本当に何を飲んでも美味しく感じなかった。しかし、飲まないと眠れない。
杖を取り出し、それをグラスに向けて振ると、杯の中に水が溢れ出した。空気中の水蒸気を液体に戻す『水』系統初歩の呪文である。
しかし酔っているのか、少し加減が効かずに水がグラスを伝って溢れた。まるで自分の代わりに泣いているかのように……。
それを飲み干したアンリエッタは、いい加減に身体をベットに横にあずけて、天井を見上げた。
酔うと決まって思い出すのは、楽しかったあの日々…輝いていたあの頃。
ほんのわずかの、生きていると実感出来た昔の時間。
そして十四歳の夏……彼とのひと時。一度でいいから聞きたかったあの言葉。
「どうして……」
口に出ると同時に目頭が熱くなる。そしてほろりと一筋の水が流れ落ちた。それはもう、一度溢れると止まらなかった。
「どうして貴方は…あの時仰ってくれなかったの…?」
しかしもう、その答えを出してくれる人物はいない。遠い、本当に遠い所へと旅立ってしまったのだから―――。
思えば…あの報せを聞いたとき、それが全ての始まりだったのかもしれない。酒を不味いと思うようになったのも…こうして夜な夜な昔の頃を思い出すのも…。
タルブへの勝利が、悲しみを癒してくれるのかと思った。女王の激務が、忘れさせてくれるかとも思った。
でもやっぱり……忘れられない…彼の声が…また聞きたい…。
そんな、叶わぬ想いを涙にかえて横になっていた、その時だった。
コンコン、と扉をノックする音が聞こえてきた。
アンリエッタは、酒で鈍くなった頭で考えた。誰だろう? こんな夜更けに…。
「ラ・ポルト? それとも枢機卿かしら? こんな夜中にどうしたの?」
しばらくの沈黙の後、扉の向こうに居る人物はこう言った。
「…僕だよ」
464 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:46:42.83 ID:ypV8pTGD
……ああ、とうとう飲みすぎで頭がおかしくなったらしい。でなければ幻聴か何かだろう。アンリエッタはそう思った。
だってその声は…今はもうこの世にはいない人の声だったのだから…。
「僕だよアンリエッタ。この扉を開けておくれ」
また幻聴が聞こえる。アンリエッタはそう思い込もうとした。でも身体が段々と熱くなっていく。激しい動悸は収まりを知らない。
「ウェールズ…さま…なの…?」
「そう言っているじゃないか。僕の愛しい恋人よ」
「嘘よ…嘘。…だって風のルビーも…貴方は…」
死んだ筈。そう言う前に、扉の向こうの声がその言葉を遮った。
「敵を欺くためには、まず味方からというだろう? まあ、信じられないのも無理はない。では僕が僕だという証拠を聞かせよう」
暫く流れる沈黙の後、声の主は朗々と告げた。
「…風吹く夜に」
アンリエッタはもう、返事をするのも忘れて飛び出した。急いでドアを開け、その声の主を見る。
そこには、何度も夢見た彼の笑顔があった。
「ウェールズさま…よくぞ…ご無事で…」
アンリエッタは、ウェールズの胸へと顔を埋めて、そしてむせび泣いた。ウェールズはそんな彼女の頭を優しく撫でる。
「相変わらずだねアンリエッタ。なんて泣き虫なんだ」
「だって…てっきり貴方は死んだものだと…どうしてもっと早くにいらしてくださらなかったの?」
「仕方がなかったんだ。敗戦の後、それはもう必死だったからね。こうやって君に会える余裕が出来るまで、僕だって随分と苦労したんだ」
「そうでしたの…でも、その間どんなに私が悲しんだか、貴方には分からないのでしょうね」
口を尖らせるアンリエッタだったが、その顔は涙でグショグショになりながらも嬉しくて幸せそうな表情だった。
それを見たウェールズは、アンリエッタに見えない角度で冷たい笑みを浮かべていた。
「分かるとも。だからこうして迎えに来たんじゃないか」
そう言って、しばらく二人は抱き合った。そしてここに居着くだろうと思い、安心させるようにアンリエッタは告げる。
「遠慮なさらずに、この城にいらして下さいな。今のアルビオンに、トリステインを攻め込む力はありません。何せ頼みの艦隊がなくなってしまったのですから。
この城はハルケギニアのどこよりも安全です。敵はウェールズさまに指一本触れることは出来ませんわ」
しかしウェールズはそれを聞いて静かに首を振る。
「残念だが、僕はアルビオンに帰らなくちゃいけない」
「何を仰るのですか!? せっかく拾ったお命を、むざむざ捨てに行くようなものですわ!!」
アンリエッタは叫んだ。彼女の不安につけ込むかのように、ウェールズは続ける。
「それでも…僕はレコン・キスタの手からアルビオンを救わなくてはならない。そのために、今日は君を迎えに来たんだ」
「…わたしを?」
「そうだ。もっと信頼できる人物が僕には欲しい。一緒に来てくれるね」
アンリエッタは、困った様子で顔を俯かせた。昔の只の姫であった時代なら、そのような冒険はできたかもしれない。
だけど今はもう、自分はこの国の女王なのだ。自分の我侭一つで、国を放り出す真似は出来ない。
「後生ですわ…ウェールズさま…わたくしはもう女王なのです。好むと好まざるとに関わらず、国と民がこの肩の上にのっております。無理を仰らないで下さいまし」
だが、ウェールズは諦めるどころか、更に熱心な言葉でアンリエッタを説き伏せにかかる。イヤイヤと小さく首を振っていたアンリエッタだったが、彼の言葉一つ一つが彼女を堕としていく。
「無理は分かっているさ。でも僕には必要なんだ!! アルビオンと僕達に勝利をもたらしてくれる『聖女』が!!」
「…これ以上わたくしを困らせないで下さいまし。今人を遣わせますわ。この話はまた明日…」
「それじゃ駄目なんだ。今じゃなきゃ間に合わない」
そしてとうとう、ウェールズはアンリエッタの肩に手を置き、そして言った。ずっと聞きたかった、あの言葉を……。
「愛している。アンリエッタ。だから僕と一緒に来てくれ」
その一言が、アンリエッタの身体を金縛りにした。鼓動がどんどんと高鳴っていく。目から何か熱いものが込み上げてくるのを、押し止める事は出来なかった。
ウェールズは、ゆっくりとアンリエッタの唇に自分の口を重ねる。アンリエッタは迷ったが、その誘いに抗うことは遂に出来なかった。
脳裏に蘇るのは、甘い記憶。アンリエッタは自分と彼との過去にゆっくり浸ったまま、その身体をウェールズへあずけた。
そして、そのまま深い眠りについたアンリエッタを、ウェールズは邪悪な笑みを浮かべながら支えていた。
465 :
るろうに使い魔:2013/01/27(日) 00:48:47.39 ID:ypV8pTGD
それではここで終わります。
これからは何とか週一投稿に持っていけたらなあ、と思います。
それではこれにて。ここまで見ていただきありがとうございました。
乙でござる
乙でした。
乙
トリステイン魔法学院Zの代理が残っていたのでこれから投下します
果たして、昼、期待と不安の入り混じった表情で再び厨房を訪れた彼らを待っていたのは。
「どうだい、初めてにしちゃちょっとしたもんだろう!これらの具に合うソースを作るのはなかなか苦労したんだぜ!」
「あ、ああとても美味しいよ」
「そうだろそうだろ。しかしこりゃなかなかいけるなぁ。改良すれば食堂のメニューにも加えられそうだなぁ」
褒められてご満悦なマルトーとは裏腹に二人の表情は微妙だった。
出てきたものは、確かに彼らが説明したとおりのものだったし、文句なく美味であった。
だが、それはどう見てもハンバーガーではなかった。
手づかみで喰らい付くハンバーガーとは違い、ナイフとフォークで切り分けて頂く…敢えて言うなら、ミートボールサンドであった。
「中々美味しかったわよ。ご馳走様、お二人さん。でも、余り嬉しそうじゃないわね?」
「あーそれは…期待していた物と違っていたと言うか…まぁ、俺達も作り方を良く知らないものを再現してもらおうって言うんだから、間違っていても仕方ないんだけどさ」
「あら、これでも間違ってるの?じゃぁ、本当はもっと美味しいってことなのかしら?」
「!…完成した暁には、是非。助力が必要なら協力もする」
キュルケの言葉にタバサは余程心動かされたようで、バーニーの手を取り、真剣な表情でまたの同席を要望してきた。
勿論、彼らに断る理由も無いので多少気圧されつつも快くOKする。
「…凄いわね貴方達。タバサにここまでさせるなんて」
それを見て愉快そうに笑うキュルケにタバサは少し頬を染めながら
「…美味しいのが悪い」
とだけ言うのだった。その表情は、彼女のような幼女体型は守備範囲外のペイトンもどぎまぎさせるような可愛らしさを持っていて、
ああなるほどキュルケが可愛がるわけだなぁ、と妙に納得したのだった。
と、そこでペイトンの頭に閃くものがあった。指を鳴らすと、
「良い事を思いついたぜ。ここでQOH団の旗揚げと行こうじゃないか」
「QOH?」
キュルケやタバサは当然のこと、バーニーも何の事か分からなかったので一斉に聞き返すと、
「Quest of Hamburger。つまり、我ら一丸となってここで始めてのハンバーガーを誕生させようってわけだ。」
「いいね、乗ったよ」
美味いハンバーガーはバーニーも大いに望むところである。一も二もなく頷いた。
「協力する、とさっき言った。だから乗る」
「あら?じゃぁタバサが乗るなら私も乗るわ。ふふ、面白い事になりそうね。…けど、貴方達のご主人様はどうするの?多分…いえ、間違いなく嘴を突っ込んでくるわよ?」
悪戯っぽくキュルケは笑った。
「ふむ。まぁハンバーガーを作ろうってだけだから妨害はされないと思うが…もし妨害しようとしたらどうするかね?」
「その時は実力行使も辞さない」
真剣なタバサの即答だった。
「ち、ちょっと待てって。まだそう決まったわけでなし。まぁ、俺達に任せておいてよ」
「勿論そのつもりよ。貴方達のご主人様だものね」
「やれやれ、気楽に言ってくれるぜ」
苦笑いしながらさて、どうやってルイズを言いくるめるか…と思案するペイトンであった。
こうして、厨房の一角での昼食会は過ぎていったのである。
はい、そんなわけで3話はここまでです。しかし相当間が開きました。覚えている人、どのくらいいるんでしょうか。
それにしても随分と長くなってしまいました。本当はこれは風呂覗きイベントのちょっとした前フリぐらいのつもりだったんですが…
普段の言動のせいか、余り良い役が回ってこないギトーですが、何故かある意味一番悲惨な役回りに。
我ながら可愛そうなことをしてしまいました(棒 まぁちかたないね。
というかこのノリは「超能力学園Z」というよりは「ポーキーズ」のような気がしてきた。まぁ別にいいですけど。
しかしこれじゃぁ前回同様キュルケがヒロインですね。別にルイズ嫌いじゃないんだけど。
次回予告
同僚の中で未体験者は私だけ?偶然知った事実に愕然としたエレオノール。
焦った彼女はなんとか体験しようと行動を始める。最初結婚でもあるまいし、なぁに体験するだけなら私の魅力ですぐに…
と高をくくっていた彼女だったが、世間知らずさとプライドの高さから次々珍騒動を引き起こし…
次回「初体験 エレオノール・ハイ」
なお、エロス的な意味ではタイトル詐欺です
…嘘です。では続きがあったらまたお会いしましょう
以上、代理終了します
こんばんは、45分頃より投下します。
その少年は一言で言うならば、"普通"であった。今年の誕生日は既に迎えた17歳の高校二年生。
黒髪に黒瞳。青を基調としたパーカーに、群青色のジーンズ。片手にはノートパソコンが入った鞄を提げていた。
学業の成績は中の中。運動能力は優れてはいないが劣ってもいない。
体格も特筆することなく平均的。成長もぼちぼち止まってきたかも知れない172cmの中肉中背。
性格は良くも悪くも抜けている。アクシデントにも早々動じない。割かし何でもかんでも受け入れる。
良い言い方をすれば柔軟であり、悪い言い方をすれば鈍感だ。物事を深く考えない、ある種の楽観主義的性格。
変なところで負けず嫌いで、好奇心が旺盛だが、それくらいはよくある個性の内。
彼女は今まで一度もつくったことがなく、総じてよくいる平々凡々な男子である。
彼――平賀才人は、秋葉原からの帰りであった。
以前に修理したノートパソコンはすこぶる調子が良く、不具合らしい不具合は今のところない。
ただしあれやこれやと手を出している内に、メモリ不足を感じて増設に走ったのであった。
いずれはデスクトップパソコンを自作するのもいいな、などと思いながら帰路を歩む。
才人は携帯電話を開いて時刻を確認する。少し夕食には遅れてしまうだろうか。
今朝方は寒くパーカーを着ていったが、「そろそろ本格的に衣替えの季節かな」などと考える。
明確な不満こそない平凡な生活だが、何かこう劇的な刺激が欲しくもある毎日。
彼女の一人でもいれば高校生らしい青春をエンジョイ出来るのだろうが今一つ・・・・・・。
「・・・・・・なんだこれ?」
声に出てしまっていた。携帯を閉じて歩を早めようとした矢先。
歩き慣れている道。今までに、"こんなもの"は見たことがなかった。
夕暮れ時に"光り輝く鏡"。目の前にあって、しかし"それ"に自分の姿は映らない。
ということは鏡ではないのだろうか? とはいえ、巨大な電灯にしては・・・・・・。
才人は空いている左手でそっと触れてみる。
熱かったらすぐにでも引っ込めるつもりだが、表面に近付けても特に熱気は感じない。
そのまま止めずに突っ込むと、なんと指が沈み込んでいった。
「うわっ!?」
反射的に手を離す。左手を見つめて握ったり開いたりするも、特になんともないようであった。
「・・・・・・?」
首を傾げる。自分の背丈よりも大きく、薄っぺらい。幅は人一人が軽く通れるくらいの余裕がある。
目を疑ったのは僅かに浮遊していたこと。だがワイヤーかなにかで吊られてるようにも見えない。
「・・・・・・蜃気楼? オーロラ? なわけないよな」
休日の住宅街。こんな直近の地面スレスレに光る自然現象など聞いたことがない。
むしろ人工的なもの。例えば3Dを空間に立体投影するような、SF的な機器が頭に浮かぶ。
もしくは幻覚でも見ているか、眼に異常でもあるかだが、そういうのはあまり考えたくはない。
誰かに尋ねてみようと辺りを見回してみるが誰も見当たらない。
わざわざ他人の家のインターホンを押して、呼んでくるのも憚られる。
本当になんの気なしだった。ただ本能的な好奇心に才人は従った。
もしも虹の根元が目の前に見えたとしたら、誰もが触ってみたり、くぐってみたりしたくなるだろう。
そんな程度の・・・・・・ささやかで軽い心持ち。
「よっ」と軽やかにステップを踏んで飛び込んで見る――と、視界全てが純白に染め上げられたのだった。
†
才人は予想外の眩さに目を瞑りつつ、多分向こう側の地面につくんだろうなと普通に思っていた。
されど着地のタイミングがズレて、一瞬戸惑ってしまう。
例えるなら、階段を登っていて、もう一段あると思っていたのになかったような感じ。
あると思っていたものがなく、空転する足。それでもすぐに足裏が引っ付く地面は存在した。
されど視界が閉じられている上に、勢い良く飛んだこと。
さらにノートパソコンという荷物によって体のバランスが崩れ、前のめりに倒れ込む。
次の瞬間に襲い掛かるだろう痛みを予感するが――別段そんなことはなかった。
それどころか何故だか天国のような気持ち良さ。卸したての最高級寝具でもこうはいかないだろう。
未知の感触がクッションになって、五体無事にいられたのだった。
「う・・・・・・ぶ・・・・・・」
声を発せない息苦しさに気付いて、頭を上げる。ふわりと芳香が鼻腔を伝う。眼前――
――ほんの目と鼻の先には"女の子"がいた。さらに地べたは道路ではなく、木目の床になっていた。
外にいた筈だったが、視界の端に映るのはどこかの室内であった。
頭で理解するのには十数秒とかかったものの、心の中では素直に感じたことを信じようとしていた。
――ここは紛れもなく"天国"だと。少なくとも現実ではない。
事故にでも遭って既に俺は死んでいるのか、あるいは夢でも見ているのかも知れない。
絡み合う互いの瞳。一切合切が吸い込まれるほどに美しい翠眼。
少女もキョトンと見つめるばかりだが、それがとにかくこの世のものとは思えない美しさ。
テレビや雑誌で見てきたどんな有名人、女優やアイドルすらも比較対象にするのも失礼なくらいに。
才人自身そんなに詳しくはないが、きっとどのような名画や彫刻だって及ばぬ境地。
女神がいるとすれば、きっとこんな感じなんだろうと・・・・・・才人は呆けていた。
†
ティファニアは突然のことに尻餅をつき、その上に何かが覆い被さってきた。
目を開けるとそこにいたのは・・・・・・人間のようだった。
顔が上がって目が合うと"男の子"。それも同じくらいの年の頃ではないかと思う。
いや――そんなことよりも今の状況であった。
(人・・・・・・?)
確かに。紛れもなく人間である。小動物や幻獣ではない。耳も短くエルフでもない。
どうしようもなく人間で、間違いなく召喚のゲートから出て来たのだ。
(どうして?)
わけがわからない。何故"人間が召喚された"のか。
ティファニアの胸の内には様々な思いが、自分ではどうにもならぬほどに渦巻いていた。
†
金髪のツインテールにメガネをかけて、標準よりも大きな胸を機関の制服で包んでいる女。
『十月機関』の導師――『石棺』のオルミーヌは素直に感じた思いに魅かれていた。
"大師匠"に命じられて遠間から監視していた筈だったのだが、彼らにいつの間にか引き入れられてしまっていた。
廃棄物に対抗する為に漂流者を集結させる目的を持つ組織の一員が、逆に取り込まれてしまった感。
血液が染み込んだような真っ赤な甲冑。大刀を豪快に振るう、日本は戦国薩摩の剛将――島津豊久。
眼帯に着物。日本は戦国の世で培った頭脳を惜しみなく使い、異世界にてまた新たに夢を描く――織田信長。
二人の時代より遡ること400年。日本の平安は源平の時代より、女と見紛う容姿を持つ弓の名手――那須与一。
ハルケギニアとは違う異世界、日本の武士達。彼らは彼らの理で、ひた疾走る。
オルテによって弾圧されていた者達を率いて、国を"奪る"と言い放った。
漂流者が漂流者として戦う為に、彼らは彼らの国を作ると行動を開始した。
既にオルテの占領代官を倒し、帝国に小さくも確実に楔を打ち込んだ。
彼らの武器は何よりもその意志。彼らならばあの強大な黒王軍にも――と思わせられる。
「おい、オルミー乳」
「はぁ・・・・・・なんですか」
名前をわざと間違えてセクハラをしてくる自称魔王をあしらうように、オルミーヌは返事をする。
「さっき言うたのは間違いないな?」
「えぇ・・・・・・まぁ、魔導妨害があるまでは確かにここで捕捉していたらしいです」
そう言うとオルミーヌは、信長達が眺めている大きめの地図に描かれた街を指差す。
占領代官の館から奪った地図には、信長たちの手によって事細かに書き込まれ、戦略図としての機能を果たしていた。
「まずいにゃあ〜、これはヤバイ」
「そんなにまずかか?」
豊久が近付いてきて、地図を覗き込みながら話に入ってくる。
「おーおー、読めるのかのー? 島津の猪武者がのー」
「馬鹿にすっどな、こんぐらいわかる」
鬼島津。豊久自身、英才教育さながらに、数多の戦場経験に裏打ちされた経験と兵法を会得している。
「じゃっどん、黒王とやらを討てば崩壊するんではなかか?」
既に見聞き及んでいる情報を統合した上での豊久の発言。
黒王軍は、軍団の長である黒王自身によるところが大きいと。
猪武者らしい結論に信長は呆れ、問われたオルミーヌが答える。
「確かに可能性はあると思いますが・・・・・・でも・・・・・・」
大将を潰して軍を瓦解させることは往々にして有り得る話。
しかし問題は件の総大将の首級を如何にして殺るかである。
「ぼくが狙撃しましょうかー?」
そう言って与一が割り込んでくる。弓の達人たる彼ならば、条件さえ揃えられれば不可能ではないだろう。
「無理だな、今のところ聞く限りじゃ根本的な戦力が違いすぎ。磨り潰されんのがオチよ」
現状では到底戦えない。単純な兵力差ばかりでなく、兵站も軍備も何もかも。まだまだ烏合の衆に過ぎない。
直接討つどころか、狙い撃つ為の前提すらも至難。
まともな軍勢を相手にするなら、こちらもまともな軍勢を用意するのが基本である。
されど王制国家には期待出来ない。とどのつまり十月機関が言うような、他国の君主頼みなんてことはありえない。
「少数には少数の利があるど」
「んなこたぁ百も承知よ。だが今はそこまで焦る必要はない」
織田信長――かつて戦国の世を支配せんとし、成し得ずとも、頂を仰ぐには至った男。
何もかもを失った異世界においても、彼の中には既に確固たる計画が生まれている。
ハルケギニアにおいても朽ちぬ夢――天下布武。
戦争をするには、軍事力を手にするには、己が上に立つしかない。
その上でしっかりと戦略を立て、戦術を練って挑むべきである。
合戦そのものはそれまで"積んだ"事の帰結。合戦に"至るまで何をするか"が戦。
その本質を理解している信長は、言い聞かせるように豊久達に断言する。
「まずは兵を集め、武器を揃え、調練せねばな」
魔法というものには驚かされたが、やはり必要な物は"誰にでも扱える武器"だ。
特定少数にしか使えないものでは、補充も効かず不確定要素も増える。
強軍を作るには兵器の開発と量産、練兵体制の確立が不可欠であると。
こっちの世界にも鉄砲は存在する。しかも火縄ではなく火打石を使ったもの。
まずはこれを大量の揃える。同時に火薬も必要になってくる。
魔法使い達が『錬金』で作れこそするものの、生成量には限度がある。
さらにオルミーヌの話では、"漂流物"の中には使い方のわからない"槍"とやらが存在するらしい。
何でも未来から漂流してくるらしい物品だとかで、"ろまりあ"に保管されていると。
今ある鉄砲よりもさらに進んだ武器。己が知る火薬よりも遥かに凄い威力の物質。
もし仮にそんなものがあったとしたら。それを解き明かすことが可能なのであれば――
大幅な戦力上昇に繋がるやも知れない。ゆくゆくの文明の発展に寄与するやも知れない。
武器に限らず――数寄もあるといいなあなどと思いつつ――さぞ心が踊るというものである。
「――そいじゃ、今はとりあえず逃げるしかなかか」
「おう。しかし問題なのが"どこへ"かってことなんだが」
補給の為に略奪でも行おうものなら、さながら賊軍と変わりなく。
かと言って強行軍でもすれば、日干しにもなりかねない。
オルミーヌが手配している補給も、妨害の所為で明確にいつ届くかわからない。
「・・・・・・押し付けっが」
「おっ、珍しく意見が合ったにゃー」
豊久の案に信長はグニャリと顔を歪めて笑う。一方で豊久自身は、地図を眺めて二の句を紡ぐ。
「こっちの"とりすていん"ってのを利用させてもらう」
「んむ、いずれは組むことがあるとしても、今は仕方ないのう。少し面倒を見てもらおうかの」
「なれば当面の拠点は・・・・・・ここじゃな」
ドンッと音が鳴らんばかりにトリステインの国境線、森の中の一つの廃城を豊久は指で突きつける。
(おうおう、ほんに時折鋭いのォ〜)
「そこからどうするんですかー?」
背後霊のように張り付いて覗き込んで聞いてくる与一に信長は答える。
「基本は頃合を見て迂回じゃな」
「んむ、そうと決まれば行くが」
「はっ?」
信長は間の抜けた声を上げて、すぐにその言葉の意味を理解する。
そうだった、こういう奴だった。こまごまとしたことを決めるべきなのに、この電光石火が如き動き。
薩人マッスィーンたる、それが彼らしく"彼の家"の個性で由縁であるのだが――
確かに豊久の言うことは一理ないこともない。用兵において神速は基本。
早々に拠点を構築出来れば、それだけ長く兵を休めて鋭気を養うことも可能となる。
西にあるトリステイン国を、少勢ながらも既に軍となっている一団が通るには面倒が多過ぎる。
されどこのまま南下すれば東南に位置する黒王軍とかち合ってしまう可能性が高い。
黒王軍の予測進路を考えれば、いつでもトリステインになすりつけられる位置で様子を見るが上策。
戦略的にも早めに移動すべきなのは信長とて理解しているが、いくらなんでも限度がある。
妨害があるまで連絡をとっていた、補給係との合流も考えなくてはならない。
ぎゃーぎゃー言い合いながらもどこか楽しそうに軍議に興じる信長と豊久。
それらを微笑ましく眺めつつ、時折横槍を入れる与一を他所にオルミーヌは独りごちる。
(大師匠さま・・・・・・)
オルミーヌは天井を仰ぐ。なんだかんだでここまで付き合わされている。
彼らは、我ら十月機関の言うことなんてまるで聞こうとしません。
知識が違う。技術が違う。考え方が違い、生き方が違う。何よりも死生観が決定的に違う。
言動も行動も、全てにおいて常軌を逸しているとしか思えない"ニッポン"の"ブシ"。
彼らはそういうものなのだと納得は出来るが、ついぞ理解することは出来ないかも知れない。
けれどどうあっても魅かれてしまいます。言い知れぬ魔力のようなものに。
さながら火蛾のように、焼かれるとわかっていても吸い寄せられてしまう。
付き合っていくのは心身共に、冗談抜きできついです。すぐにでも逃げ出したいくらいです。
でも――それでも――今は・・・・・・わたしオルミーヌは、彼らについていこうと思います。
†
「はぁ〜あ・・・・・・」
もう何度目になるのかは数えていない。
ここずっと――月光浴を楽しみながらも――いつも頭に残るモヤモヤ。
年の頃は五歳を数えるくらいに見えるその少女は、夜空を見上げて歩きながら、またも大きな溜め息。
どうしてこうなったんだろう。最初は単純な好奇心だった。
漂流者は"どんな味"がするのだろうと、そんな些細な出来心であった。
それに漂流者であれば"いなくなっても騒がれない"という打算もあった。
寝静まる夜半を見計らって廃屋に忍び込むと、四人ほど寝息を立てていた。
漂流者が複数集まっているとは聞いていたが、いっぺんに獲物にありつけるのはありがたい。
まずは一番屈強そうな男を狙う。ついでに"屍人鬼"にしてやれば、他の者に気付かれた時に対応し易い。
物音一つ立てることなく近付いていき、首筋まで顔を寄せると、わたしは引っ込めていた"牙"を出す。
いざ噛み付いて"血を吸う"ところで、男と眼が合った――瞬間、天井を見つめていた。
「なんじゃお前<おまあ>、女子<おなご>じゃなかか」
すぐさま明かりが灯されて、一瞬だけ目が眩む。
そして自分がようやく躰ごと半回転して組み伏せられていること。
さらに首筋に冷たい何かが当てられているということを認識する。
"獣"。わたしを組み敷いている男の飛び込んできた第一印象は"それ"だった。
状況把握の為に視線だけ動かせば、眼帯の男は観察するようにこちらを眺めている。
さらに女のような――恐らく――男もこちらを見て薄く笑みを浮べていた。
そしてかなり遅れてから騒ぎに気付いた女は、眼鏡をかけると「ギャー」と叫び声を上げて、部屋の隅まで逃げる。
獣が如き屈強な男はすぐにでも、わたしを解放して立ち上がると、刃を鞘へと納めた。
「貴様<きさん>はなんぞ」
「ぇ・・・・・・あっ・・・・・・」
「随分と可愛い刺客だにゃー」
「ははっ、でもなんか不穏でしたねぇ」
後に知ったことだが、獣男の名を"トヨヒサ"。眼帯は"ノブナガ"。女男は"ヨイチ"。眼鏡が"オルミーヌ"と言った。
「くっ・・・・・・」
わたしは『先住魔法』を唱えようとするも、ほんの僅かな一瞬の間に、ヨイチが弓を手に矢をつがえていた。
毛ほどにもない気配の変化に鋭敏に対応した早業の前に、躊躇せざるを得ない。
そしてトヨヒサに鋭く見つめられただけで、完全に行動に詰まってしまった。
「・・・・・・あれ? もしかして吸血鬼!?」
オルミーヌが叫ぶ。牙を出しっ放しにしていたのが迂闊であった。
無知な漂流者と思っていたが、存外こちらの知識を有しているとは、甘く見ていたとしか言えない。
もっとも慎重だとしてもあの瞬間、咄嗟にそこまでの思考に至れたかは別であるが。
「"きゅうけつき"? なんじゃそれ<そい>は」
「妖魔です!! 化物ですよ! それはもうすっごく恐ろしい"らしい"――」
「落ち着けいオッパイーヌ」
「あーもう! わたしはオルミーヌだと何度も!!」
「わかったわかった、とにかくそう興奮されちゃ困る。というわけでオルミーオッパイは置いといて本人に聞こうじゃないか」
「わかってないー! 名前覚える気ないだろさては!!」
考えていることを見透かされるようなそのノブナガの片瞳に、わたしは生唾を飲み込む。
「嘘は吐かんでくれよ、与一の矢が飛ぶでの」
「百発百中ですよ」
冗談には微塵にも聞こえない圧力と、実際に矢を突きつけられた状況。
もはや真実を語る選択しかなかった。生半な嘘は通じまい。
当然そのまま殺されることすら覚悟をして・・・・・・――
――そうしてわたしはいつの間にか、何故だか引きずり込まれてしまっていた。
連中はわたしが吸血鬼であることも無視して・・・・・・というよりは危機感がなく。
十月機関とかいう組織に属するオルミーヌ以上に、ハルケギニアに詳しいわたしを迎え入れた。
恐ろしい力があることすら気にも留めずに、都合良くわたしを使っている気でいる。
わたしは見た目よりもずっと長く生きている。
人間社会に潜む吸血鬼ゆえに、確かに生きていく為の知識はそれなりにあるつもりだ。
しかしだからと言って、エルフともまた違う――単一の人間にとって最大の敵性種族。
上手く事を運べば、町一つすら滅ぼせる吸血鬼を知恵袋代わりにするなんて――
(狂気の沙汰よ・・・・・・)
と、吸血鬼でありながら人間の立場で見て素直な感想を心中で呟く。
わたしと十月機関の情報によって、ハルケギニアの情勢を把握したトヨヒサ達。
時機を見ると、なんとオルテに虐げられていた有翼人をまずは解放した。
続いてオルテの占領土政庁である執政代官の城館を襲撃。
そのまま周辺を平定して、元ゲルマニアの平民、貴族であったメイジまでも傘下に入れた。
最初こそ強固に存在した差別意識も今は薄れつつあり、連中は種族差を取り払った国を作るつもりであった。
続いてオルテ執政代官を殺して奪った資料の情報をノブナガは統合した。
元が大きい方が奪った時の見返りも大きい上に、亀裂を確信した参謀役のノブナガ曰く――
オルテの支配を解放し、他国とも同盟。オルテを内部から蚕食し「国を奪る」と言い放った。
一人の漂流者らしい者が作り上げたオルテを地上から消し去る。
その上に諸族を合して他部族連合国家を成さしめると。
トヨヒサを統領として兵権を持ち、内治には各族に自治権を与え、『武士』という制度を作ると。
そこで初めて軍権を掌握し、黒王軍に対抗出来る勢力足り得ると――そう言った。
人間も、吸血鬼も、有翼人も、他の亜人達も、東のエルフすらも引き込もうと考えている。
およそハルケギニアでは考えも及びつかない。夢想としか言いようがない。
しかし未だ小勢ではあるものの、ここは既に"移動する小さな国"に・・・・・・確かになりつつある。
黒王軍と近い性質を持ちながら、我々は我々の道を進んでいるのだ。
これにはオルミーヌも頭を痛めているようであった。
されどこれこそが漂流者の本質であると思い知らされる。
古くから流れてきていた"漂流物"の存在意義――
「おう、"えるざ"」
"名前"を呼ばれて"わたし"は振り向いてトヨヒサの姿を確認する。身長差の為に見上げる形で。
「なあに?」
「また夜中の散歩がい」
「わたしの勝手でしょ。それで・・・・・・何の用?」
「んむ。明日以降、強行軍になる可能性がある」
「ふーん、あらそう。・・・・・・大丈夫よ、足を引っ張る気はないから」
吸血鬼にとって太陽の光は肌を焼く天敵だ。とはいえ素肌を晒さなければいいだけではある。
ローブをまとって日傘でも差しておけばとりあえずはなんとかなる。
そもそも付き合う義理はないのだから、適当に離脱したっていいのだ。
今までだっていくらでも機会はあったが、気まぐれで付き合ってただけだ、うん。
「そうか、んでは――」
納得するとトヨヒサは屈んで膝をつき、腕をまくって素肌を晒した。
「・・・・・・どういうこと?」
「場合によっちゃ俺<おい>も暇じゃなくなるかも知れん」
つまり今の内に"血を吸え"ということであった。吸血鬼という種族は人間の血液を主食とする。
最初に出会った夜。エルザを利用する代わりに、血を豊久が提供する。
そんな持ちつ持たれつの契約関係が成り立っていた。
信長が「血の気の多い島津武者はちょっとくらい減らした方がいい」と言ったことに端を発した理由。
豊久も最初は渋い顔をしたものの、明確に拒絶することもなく、既に三度ほど少しずつ血を貰っている。
腹が十二分に満たされているなら半年以上吸わなくても軽く保つ。
それに執政代官の城館襲撃に際しては、オルテ人の血液を摂取してもいる。
現状では飢えて切迫している状況どころか、小腹が空いたとも言えない状態だ。
とはいえ定期的に血を吸わないと死ぬと、トヨヒサ達には後々説明していたのだが――
豊久としては次がいつになるかわからないから、ということなのだろう。
しかし根本的な"問題"はそこではなかった。
「今、わたしと二人っきりよ?」
「それ<そい>がなんじゃ」
「・・・・・・そう」
呟いてエルザはゆっくりと口を近付けて、牙を突き立てる。生きた人間の血を味わう。
じわりじわりと味が広がり、空いていない胃を満たしていく。
そして頃合いと見るや口を僅かに浮かせて問い掛ける。
今までは豊久の他にも"誰かしら近くにいた"のだ。
最初に吸う時に至っては、与一に弓矢で狙いをつけられていたくらいだ。
それも当然、人間一人分の血液を飲み干すくらいわけないのだから。
「わたしが、このままあなたの血を吸い尽くしたらどうする?」
「好きにすれば良か」
「なっ・・・・・・!?」
思わずエルザは、中腰になっている豊久を睨みつける。
血を吸い尽くせばもちろん豊久は死んで、意のままに操る"屍人鬼"にすることも出来る。
「俺<おい>の見る目はそこまで曇っちょらん」
言葉通り、真っ直ぐで迷いのないその双眸にエルザは奥歯を噛んだ。
生意気だ。本っ当に生意気だ。わたしよりも年下のくせに。
わたしを怖がらない、わたしを責めることをしない、わたしを・・・・・・認めてくれる。
そうだ・・・・・・トヨヒサも、ノブナガも、ヨイチも――"ここ"は居心地がいい。
気まぐれ、そう・・・・・・気紛れ。文字通り気が紛れていたのだ。
両親を失い、孤独に転々としてきたわたしの・・・・・・"帰ることが出来る場所"。
だから離れようなんて思えない、考えられない。まだ会ってそこまで月日も経ってないというのに・・・・・・。
信頼しているのだ、彼らの作る未来に、わたしの居場所に期待を抱いてる・・・・・・。
わかっていたが、ただ単に認めたくなかっただけだ・・・・・・これまでは。
「ば〜か」
「なっ!? なんじゃいきなり<いぎなし>!! 俺<おい>が馬鹿じゃど!?」
「そうよ、ばか、おおばか! お人好し!!」
エルザは「べっ」と舌を出した。呆けた豊久を尻目に背を向けて走り出す。
――もう決めた。今決めてやった。わたしはトヨヒサの血"だけ"吸ってやる。
他の誰かの血なんて自ら望んで吸ってやるもんか。
吸血鬼のわたしを信用するなら相応の代償を支払わせてやる。
ざまあみろ。貧血になっても吸ってやる。回復したらまた吸ってやる。
何度も、何度でも、何度だって、嫌だって言っても吸ってやるんだから。
エルザは立ち止まると夜空の双月を見つめ直して、もう悩むことをやめた――
両親が死んでから長く、ようやく灯った・・・・・・心の小さな暖かさを胸に抱いて――
以上です。
一番最初のプロットでは登場予定のなかった彼ですが、色々考えていく内に諸々都合良さそうで召喚。
次回で概ね各キャラスポットは終わり、次々回から新章突入となります。
それではまた。
>>355,360
本当に励みになります、ありがとうございます。
乙です。
続きが楽しみですね。
サイトが北か
お二人とも乙でした!
次はディーキンの人来ないかな〜まだかな〜
日帰りの人テイルズの人いつでも帰ってきてくださいよ〜
人修羅の人アプトムの人待ってますよ
新規の方随時募集中です。
魔人ブウ(純粋)を召喚
ルイズを吸収してツンデレになったブウ、タバサを吸収して物静かになるブウ、アンアンを吸収したらどうなるかな?
色っぽくなるんだろ
色っぽくなっても元がピンク色の変な奴だぜ。
同じ異世界召喚モノで問題児シリーズ一瞬考えたけど
絶対無双展開になるな
じゃあ某風雲児でも呼べば?
一説によれば「風雲児は男の子ぉっ!」とか叫びながら、落ちてきたアルビオンを指先一つで受け止め、投げ返すんだぜ。
そしてアルビオンに渡った風雲児はコロシアムを設立するも消息を絶ち、双子の娘たちがまたもや尻拭いをするんだ。
wiki以外にゼロ魔クロスがあるサイト知らない?
ハーメルンとか結婚多くて楽しめたわ
好み的に結婚しないとアウトなんだ?
どうも皆さん、今晩は。2013年の一月ももう終わりですね。
何も無ければ40分から62話の投下を始めます。
少し離れた所から人々の喧騒が聞こえてくる、旧市街地へと続く入り口周辺。
閉館時間を過ぎた劇場のように静かで陽の当たらぬ場所で、ルイズと魔理沙は行方不明になっていた゛レイム゛と再会していた。
だが、1時間ぶりにその姿を間近で見たルイズは、彼女の身体に何か異変が起こったのだとすぐに察知する。
姿形こそ彼女らが見知っている゛レイム゛そのままの姿であるが、不思議な事に彼女の両目は不気味に光り輝いていた。
それに気づいたルイズは目を丸くし、再会できたのにも関わらず一向にその足を動かせなくなってしまう。
お化け屋敷の飾りでつけるようなカンテラみたいにおぼろげで、血の如き赤色の光。
今いる場所が暗ければ、間違いなくその身を震わせていただろうと思えるくらいに、゛レイム゛の目は不気味だった。
目の光に気づく前は名前を呼ぶ為に二回ほど口を開いたが、気づいた今ではそれをする事すらできない。
今の彼女にどう接すればいいのか分からないルイズが狼狽え始めた時、魔理沙がその口を開いた。
「おいおい霊夢、お前その目はどうしたんだよ。何か良くないモノでも食ったのか?」
そんな事を言ってカラカラと笑いながらも、彼女はいつもの調子でこちらへと近づいていく。
魔理沙の言葉にハッとしたルイズは咄嗟に後ろへと下がったことで、゛レイム゛との距離を取った。
何故かは知らないが、そうしなければいけないと無意識に頭が動いたのだ。
それを不思議に思う間もなく後ろへ下がった彼女と交代するように、今度は魔理沙が近づいていく。
ルイズよりも付き合いが深い彼女が歩いてくるのにも関わらず、゛レイム゛は何も言わない。
首が回らなくなった人形の様に、ジッと此方の方へ顔を向けたまま動きもしない。
ドアの上に尻餅をついた姿勢の彼女は、ただ魔理沙を見つめていた。
「どうしたのよあの子…っていうか、なんで目が光ってるのかしら?」
それなりの距離へ下がった時、ふと自分の横から聞き慣れた声が聞こえてくるのにルイズは気が付く。
自分と魔理沙の後ろをついてきて、先程追い払ったばかり彼女の声が聞こえる事に驚き、急いで視線を動かす。
案の定自分の横にいたのは、赤い髪と豊満の女神と思える程富んだ肉体を持ったキュルケであった。
いつものように澄ました笑顔の彼女は、赤い髪を左手の指で弄りながらも自分に気づいたルイズを見下ろしている。
抗えぬ身長の差と笑顔で見下ろされる事に歯がゆい屈辱を感じたルイズの口は、咄嗟に動いてしまう。
「キュルケ…アンタ、もうどっかに行ったんじゃないの?」
「お生憎様、私はあの紅白ちゃんみたいに便利な瞬間移動は体得していませんのよ」
嫌悪感を隠さぬルイズの言葉を冷やかに返しつつも、キュルケは゛レイム゛がいる方へと視線を向ける。
彼女の目が自分以外の人物に向けられた事に対し、ルイズもそちらへ目を動かす。
先程ルイズ達がいた場所から五メイル先にある建物から出てきた゛レイム゛は、微動だにしていない。
一緒に吹き飛んだ大きなドアの上に腰を下ろしたまま、じっとこちらの方へと顔を向けている。
特に怪我をしているとは思えないし、彼女への方へと寄って行く魔理沙も変な反応を見せてはいなかった。
ただ変わっている事は一つだけ。赤みがかった彼女の黒い瞳が、赤く光り輝いているということだ。
「レイム…一体、何が起こったていうの?」
キュルケと肩を並べたルイズは一人、何も言わない゛レイム゛へ向けて呟く。
もしも目の前にいる彼女がいつもの゛レイム゛であったならば、今頃軽く説教しつつ頭でも叩いていただろう。
自分や魔理沙に何の報告も無しに姿を消して心配させるとは何事か、と。
しかし今目の前にいる゛レイム゛の姿には、何か不気味なモノが見え隠れしている気がした。
あの目だけではなく、無表情の顔や身体から発せられる雰囲気までもいつもの彼女とは違っている。
いつもの゛レイム゛ならば、目の前の自分たちへ向けて何かしら一言放ってもおかしくない。
例えば『何でいるのよ?』とか『あら、呼びもしないのに来てくれたのね』など、少なくともこの場の空気を読めないような言葉は吐いてたはずだ。
実際にそうするかはわからないが召喚してからの二ヶ月間、彼女と共に過ごしたルイズはそう思っていた。
無論今の様にシカトと思えるような態度は見せるかもしれないが、それでも可笑しいのである。
まるで人形の様に一言も発さず、無表情でこちらを見つめているだけなどいつもの彼女ではない。
「やっぱり…何かあったんだ…」
只ならぬ゛レイム゛の様子にまたも呟いたルイズを見ながら、キュルケはその顔に薄い笑みを浮かべる。
彼女は確信していた。自分の鼻に狂いは無く、知らない゛何か゛が現在進行中で起こっているのだと。
最初こそルイズたちの言葉を聞いて何もないかと思っていたが、この状況を見ればあれが単なる誤魔化しだったのだとわかる。
何が原因で事が始まり今に至るかはさておき、今のキュルケは正に好奇心の塊と言ってもいいであろう。
(あの黒白が現れる前から色々とおかしいとは思ってたけど…こりゃどうにも面白そうじゃないの?)
喜びを何とか隠そうとするキュルケを尻目に、゛レイム゛へと近づいた魔理沙は彼女に話しかけていた。
「どうした霊夢ー?まさか、この期に及んで無視…ってことは無いよな」
一メイルあるがないかの距離で喋る彼女は、いつもと比べ静かすぎる知り合いを前に頭を抱えそうになる。
いつもならば嫌味の一つでもぼやいてくるとは思っていたが、中々口を開こうとしない。
そりゃ何かしら冷たい所はあれど、こうまで話しかけて話しかけてくる相手を無視した事はなかった。
怪我一つしていないし、どこからどう見ても博麗の巫女である゛レイム゛そのものだ。
じゃあ一体何で口を開こうとせず、不気味に光る目でこちらを見つめてくるのかと言えば、それもわからない。
さすがの魔理沙も、今の゛レイム゛にはお手上げと言いたいところであった。
(やっぱり変なモノでも口に入れたのか?目が光る毒キノコとか聞いたことも無いが…)
仕方なく゛レイム゛の赤色に光る目と自分の目を合わせつつ、どうしようかと迷っていた時だった。
「………………ム」
ふと゛レイム゛の口が微かに動き、何かを呟いたのである。
蚊の羽音と同じ程度の声で何を言っているのか分からなかったが、喋ったことに違いは無い。
「ん?何だ、言いたいことでもあるのか?」
一体何を喋っているのか気になった魔理沙は耳を傾け、その言葉を聞き取ろうとした。
髪を掻き分けながら右の耳を゛レイム゛の顔へと近づけた彼女は、スッと目を瞑る。
その直後、見計らっていたかのように二度目の言葉が聞こえてきた。
「…………レイム」
゛レイム゛が呟いていた言葉。それは彼女自身の名前であった。
一度目はうまくいかなかったが、二度目に耳を傾けたおかげでうまく聞き取ることができた。
しかし、魔理沙にとってそれは、今の状況を好転させるどころか更なる疑問を抱くことになってしまう。
(コイツ…なんで目を光らせながら自分の名前なんかをボソボソ呟いているんだ?)
聞いてしまったことで謎は深まっていく今の状況に、さすがの魔理沙も笑えなくなっていく。
近づけていた耳を離した彼女は怪訝な表情を浮かべながら、自分を見つめる゛レイム゛に話しかけた。
「本当にどうしたんだお前は?自分の名前なんか呟いて楽しいのか…?」
飲み過ぎた友人に話しかけるような魔理沙の声は、後ろにいたルイズたちの耳にも入ってくる。
「自分の名前…?アイツ、何言ってるのかしら」
一体何が起こっているのかはよくわからないが、少なくとも良い事ではないようだ。
おかしくなってしまった゛レイム゛に四苦八苦する魔理沙を見ればすぐにわかる。これは本当にまずい。
森の中で怪物に襲われた時よりも不明瞭すぎる彼女の異常に、ルイズは一つの決断を下す。
(一度安全なところまでアイツを連れていくか、運んだ方がいいわね)
未だに目が光り続ける彼女は不気味だが、このまま放置しておくわけにもいかない。
ここから一生動かない…という事はなさそうだが、後一時間半もすれば日が沈んで夜になるだろう。
今の季節なら日が沈んだばかりの頃はまだ明るいものの、夜になればここの治安は悪くなる。
特にこんな廃墟群なら、浮浪者や犯罪者などの「社会不適合者」が潜んでいてもおかしくはない。
つまり、こんなところで動かない彼女と一緒にいるだけでもマリサや自分の身が危ないのだ。
隣にいるキュルケの安全を敢えて考慮しない事にしたルイズは、次にどう動こうか悩みはじめる。
(とりあえず…どうやって霊夢を動かそうかしら)
既にここから逃げる算段を付けている彼女は、ふと゛レイム゛の方へ視線を移す。
こちらが言ってすぐに立って歩いてくれれば問題は無いが、最悪それすらしない可能性の方が高いかもしれない。
そうなれば、誰かが彼女を担いで移動するしかないのだがそれをするのは魔理沙の役目だ。
自分は彼女の箒を持てば良い。そこまで思いついた彼女であったが、厄介なイレギュラーが一人いる。
(ここまで見られたら…絶対ついてくるわよねコイツ)
魔理沙たちの動きを見つめているキュルケを一瞥したルイズは、心中で毒づく。
遥々ゲルマニアからやってきた留学生の彼女は、不幸な事に変わった事が大好きだ。
変な噂があればそれを徹底的に調べるのだ。骨の髄までしゃぶりつくす…という言葉が似合うほどに。
サスペンス系の劇ならば間違いなく頭脳明晰な探偵役か、事件の真相を知りすぎて殺される被害者の役をやらされるに違いない。
そんな彼女が、今の自分たちを見て先程みたいに手を振って立ち去るだろうか?答えは否だ。
気になるモノは徹底的に調べつくす彼女の事だ。あと一歩で真実を知れるならば、地の果てまで追いかけてくるだろう。
そしてそれを知り次第、機会があれば色んな所で話しそうなのがキュルケという少女―――ルイズはそう思っていた。
あぁ、どうして今日という日はこんなにも面倒くさくなったのだろうか?
頭を抱えたい気持ちになったルイズの脳内に、ふと冗談めいた提案が浮かび上がる。
(……いっそのこと、ここでご先祖様の仇をとってもいいかな?)
ヴァリエール家を繁栄、維持してきた先祖たちの中には無念にも当時のツェルプストー家の者たちにやられた者が多い。
ある時は戦場で首を取られたり、またある時は想い人を寝取られたり奪われたりと…色々「やられて」きた。
ならば今ここで、油断しきっている彼女を色んな意味で゛黙らせた゛方がヴァリエール家の将来が良くなるのではないか?
そんな事を考えていた彼女の邪な気配に気づいたのだろうか。
今まで魔理沙たちを見ていたキュルケはハッとした表情を浮かべ、ふとルイズの方へ視線を向けた。
彼女が目にしたのは、どす黒い何かを考えているルイズの姿であった。
まるで今から殺人事件を起こそうかという様子に、さすがのキュルケも目を丸くしてしまう。
一体、自分が見ぬ間に何を企んでいたのだろうか?そんな疑問を感じてしまった彼女は、その口を開けて話しかける事にした。
「…何やら顔が恐いですわよ、ヴァリエール」
「いっ……!?」
言った本人としては単なる忠告のつもりであったが、それでもルイズは驚いたらしい。
自分以上に目を丸くした彼女を見たキュルケは肩を竦め、先祖からのライバルに話し続ける。
「何を考えていたかは知らないけど。そんな顔してたら、まともなお婿さんが来ませんわよ」
「なっ…!あ、アンタ何言ってるのよこんな時に!」
突拍子もなくそんな事を言われ、ルイズは顔を赤くしつつ怒鳴った。
だが獅子の咆哮とも例えられる彼女の叫びに怯むことなく、キュルケはニマニマと笑う。
場の空気を読めぬキュルケの笑みを見たルイズが、更に怒鳴ろうと深呼吸しようとした―――その時であった。
「うっ…ぁっ…!」
突如、魔理沙のいる方から苦しげな呻き声が聞こえてきたのである。
首を絞められて息ができず、それでも本能に従って何とか呼吸をしようとする者の小さな悲鳴。
そして、青春を謳歌している自分たちと同じ年代の子が出すとは思えぬ断末魔。
人の生死にかかわる声を聞いたキュルケはハッとした表情を浮かべ、魔理沙たちがいる方へ顔を動かした。
深呼吸していたルイズも咄嗟に同じ方向へ顔を向け、何があったのかを確かめる。
直後、二人の脳内にたった一つだけ、小さな疑問が浮かび上がる。
『どうして、こうなっている』―――――『何が、起こったのだ』――――――と。
それ程までに二人が見た光景はあまりにも不可解であり、まことに信じ難いものだったのだ。
唐突な呻き声を耳にし、振り向いた二人が目にしたもの。それは…
「あっ…!あぁあ………」
いつの間にか立ち上がっていた゛レイム゛に、首を締めつけられる魔理沙の姿であった。
手にしていた箒を足元に落としていた彼女は、空いた両手で゛レイム゛の右腕を掴んでいる。
再会した時から無表情な巫女は、何と右手の力だけでもって魔法使いの首を絞めていた。
首を絞められている方ももこんな事になるとは思いもしなかったのか、その顔が驚愕に染まりきっている。
「…ぐっ…あっがっ…」
言葉にならぬ声をかろうじて口から出しつつ、力の入らぬ左手で゛レイム゛の右腕を必死に叩く。
それでも゛レイム゛は、右手の力を緩める事は無く、それどころか益々力を入れて締め付ける。
せめてもの抵抗が更なる苦痛をもたらし、とうとう声すら上げられなくなってしまう。
「――……っっ!?……!!」
締め付けが強くなった事で魔理沙はその目を見開き、自然と顔が上を向く。
身体が酸素を取り入れられず意識が遠のいていくたびに、目の端から涙が零れ落ちていく。
もはや体に力も入らず、緩やかだが苦しい「死」が、彼女の体を包み込もうとしている。
それでも゛レイム゛は、酷いくらいに無表情であった。
まるで目の前にいる知り合いが、ただの人形として見えているかのように。
そんな光景を前にしていたからこそ、ルイズとキュルケの二人は動けずにいた。
ルイズはただただ鳶色の瞳を丸くさせ、怖い者知らずであるキュルケの体は無意識に後退っている。
恐怖していたのだ。学院でもそれなりに仲の良かった二人の内一人の、思いもよらぬ凶行に。
同じ席で二人食事を取り、暇さえあればお喋りもしていたルイズの使い魔である自称巫女と自称魔法使いの少女たち。
その二人を知っている者ならば、目の前で繰り広げられる絞殺を見て驚かない者はいないであろう。
「ねぇ…あれってさぁ…ケンカ…じゃないわよね?」
「っ!そ、そんなワケないじゃないの!?」
体も心も引き始めたキュルケがそう呟いた直後、目を見開いたままのルイズが叫んだ。
その叫びが功を成したか、驚きのあまり硬直していたルイズの体に自由が戻ってくる。
緊張という名の拘束具に縛られていた小さな筋肉が開放されるのを直に感じつつ、彼女は腰に差した杖を手に取った。
幼少の頃、ブルドンネ街で母と一緒に購入したそれは貴族の証であり、自分に勇気を与えてくれる小さな誇り。
手に馴染んだそれを指揮棒の様に軽く振った後、その足に力を入れて゛レイム゛たちの方へ走り出した。
「ちょっ…ルイズッ!」
いきなり走り出した同級生を制止しようとしたキュルケであったが、時すでに遅し。
褐色の手で掴もうとした黒いマントが風に揺らす今のルイズは、弓から放たれた一本の矢だ。
罅だらけの地面を一級品のローファーで蹴りつけながらも、彼女は口を動かし呪文の詠唱を始めている。
杖を持つ右手に力を入れて手放さぬよう用心しつつ、五メイルという距離の先にいる゛レイム゛へとその先端を向ける。
風を切る音と共に杖を上げた今の彼女は正に、自身が思い描く貴族らしい貴族だ。
おとぎ話に出てくる公爵や伯爵の様に、いかなる困難にも決して背を向けず勇猛果敢に立ち向かう魔法の戦士。
現実では怯える事しかできなかった過去の彼女が夢見る、いつか自分もこうなりたいという願望。
そして、異世界の問題に改めて身を投じる事を決意した彼女の―――今のルイズの姿であった。
キュルケの制止を振り切ったルイズは呪文を詠唱しつつ、知り合いの首を絞める゛レイム゛を睨みつける。
あと少しで天国への階段を上ってしまうであろう魔理沙を助ける為には、゛レイム゛に自分の魔法を放つしかあるまい。
まだ色々と借りがある゛レイム゛を攻撃することに躊躇いはある。けれど、そんな彼女に殺されかけている魔理沙を見殺す事もできない。
魔理沙にもまた大きな借りがあるのだ。それを返さぬまま見殺しにしてしまえば、自分は一生分の後悔を背負う事になる。
故にルイズは、今の自分が何をするべきなのかを決めていた。
常軌を逸した゛レイム゛が魔理沙を絞め殺す前に、何としてでも自分が止める事。
それが今の彼女が自らに課した、この状況で最善だと思える行動であった。
(何でこうなったのかは知らない。けど、何もしなきゃマリサが…!)
口に出さずともその表情でもって必死だという事を示すルイズは、二人まであと二メイルという所で足を止めた。
トリステイン魔法学院に在学する生徒のみが履けるローファーの底が地面をこすり、彼女の体をその場に押しとどめる。
少量の砂埃を足元にまき散らしもそれに構わず、呪文の詠唱を終えたルイズは右手に持った杖を振り上げ、唱える。
「レビテレーション!」
彼女が唱えた魔法は、本来人や物体を浮かす初歩中の初歩であり、攻撃用の魔法ではない。
それで゛レイム゛だけを浮かせても今の彼女なら動揺しそうにもないし、逆に縛り首の要領で魔理沙を殺しかねないのだ。
無論そのスペルを詠唱していたルイズ自身も理解しており、何も無意識に唱えていたワケでは無い。
彼女が魔法を唱えた直後、苦しむ魔理沙を見つめていた゛レイム゛の顔が、ルイズの方へと向く。
未だに赤く光り続ける瞳でもって睨みつけようとした時、その足元から一筋の閃光が迸る。
直射日光を思わせる程の眩しい光を直視した゛レイム゛が思わずその目を瞑ろうとした瞬間、光が爆発へと変化した。
チクトンネ街で八雲紫に放ったものとは段違いに低いそれは、爆竹十本程度の威力しかない。
゛レイム゛の足を吹き飛ばす事は無かったが、突然の閃光から爆発というアクシデントに怯まざるを得なかった。
そしてルイズとしては、その゛レイム゛が僅かながらに隙を見せてくれたことに多少なりとも感謝していた。
何せ彼女が足元を一瞥してくれただけで、自分が一気に近づけるのだから。
「レイム!!」
目の前で殺人を犯そうとする巫女の名を叫ぶよりも前に、ルイズは走り出していた。
まるで興奮した闘牛の如く一直線に、自分の部屋に住みついた少女たちの方へ突撃する。
その足でもって地面を蹴飛ばして近づいてくるルイズに゛レイム゛は気がつくも、既に手遅れであった。
回避しようにも魔理沙の首を掴んでいるためにできず、目の前には物凄い勢いで掴みかかろうとするルイズの姿。
再会してから全く動く事が無かった彼女の目は見開かれ、無表情を保っていた顔に驚愕の色が入り込む。
一体、いつの間に――――
゛レイム゛がそう思った瞬間。両腕を横に広げたルイズが、彼女の腰を力強く抱きしめた。
まるでお祭りで手に入れた巨大な熊のぬいぐるみに抱き着くかのように、彼女は遠慮も無く゛レイム゛に抱き着いたのだ。
それだけならまだ良かったかも知れないが、ルイズの攻撃はまだまだ終わりを見せていない。
勢いよく゛レイム゛に抱き着いたルイズはそのまま足を止めることなく、何と自らの両足を地面から離す。
まるでその場で跳び上がるかのように左足の靴先で地面を蹴り、ほんの数サント程宙に浮く。゛レイム゛を抱きしめたままの状態で。
その結果、ルイズは自らの全体重を゛レイム゛の方へ寄らせる事に成功した。
「なっ…!」
これには流石の゛レイム゛も動揺せずにはいられず、その体から一時的に力が抜けてしまう。
無意識のうちに両足が下手に動いてもつれ、ルイズの体重により身体が後ろへと傾き、不用意に手の力が緩む。
そして右手の力も抜けたおかげか、首を絞められていた魔理沙の体は死の束縛から解放される事となった。
呼吸を止められ、あと少しであの世へ入りかけたであろう黒白の魔法使いの体が、どうと地面に倒れる。
それと同時にルイズと゛レイム゛の体が勢いよく地面に倒れこみ、辺り一帯に砂塵をまき散らした。
「ルイズ…!………アンタ、無茶すぎるわよ」
ライバルの取った無茶な行動に対して毒づきつつ、キュルケは゛レイム゛の手から解放された魔理沙の姿を目に入れる。
自由を取り戻した彼女は早速口を大きく開けて、物凄い勢いでもって深呼吸をし始めている。
「―――――はぁ、はぁ、はぁ……うぇっ…ウグ…ゲホッ!!」
何回か咳き込みつつも、旧市街地の空気を取り込もうとする魔理沙は、間違いなく生きていた。
目の端に涙を溜め、落ちた衝撃で被っていた帽子が頭から取れても、彼女はただ咳き込んでいる。
だが五分もすれば先程会話した時の様に、飄々とした彼女の姿を見れるであろう。
逆にあの時、ルイズが突撃していなければ、その会話が最初で最後となっていたかもしれない。
そう考えると多少無茶だと思っていたルイズの行動も、今となっては多少の賛成くらいできる。
(あまり良い印象は持ってないけど…初めて会話した人が目の前で死ぬなんて見たくもないわ)
まだまだ聞きたい事もあるし。付け加えるように心中で呟いた直後、ルイズの怒鳴り声が聞こえてきた。
「どういう事なのよレイム!?」
地面に倒れた゛レイム゛の上に跨ったルイズは、杖を突きつけ問い詰める。
ピンクのブロンドを揺らし、怒りに震える表情でもって怒る彼女ではあったが、その手は震えていた。
まるで麻痺毒の植物を食べた時のように小刻みに震えており、それに合わせて杖も揺れている。
ルイズは恐れていた。豹変した゛レイム゛に襲われる可能性と、不本意だが恩人である彼女に杖を向けているこの状況に。
本当なら、こんな事にならなかった筈だ。
いつもの彼女ならば、面倒くさがりつつもある程度の事は教えてくれただろう。
なのに今の状況はどうだろうか?ワケもわからずに恐ろしい事をしでかし、自分が手荒なマネをしてまで止めに入る。
本当なら一回ぐらい言葉で止めるべきだったと思うが、その時のルイズはそこまで冷静になれなかった。
あの時の彼女はキュルケと一緒に、魔理沙の命をその手に掛けようとする゛レイム゛の目を見ていた。
虚ろに光り輝く赤い瞳からは、何の感情も窺えない。
自分の手で死んでゆく知り合いの顔を見ても、そこから喜怒哀楽の感情は見えなかったのである。
まるでゴミ捨て場で拾った古い人形を乱暴に弄る子供の様に、ただただ無意識に締め付けていた。
その目に、ルイズは恐怖した。あれは自分たちが良く知るいつもの゛レイム゛ではない。
このまま彼女を放置すれば、何の遠慮も無く魔理沙を殺すだろうと。
―――――――ねぇ…あれってさぁ…ケンカ…じゃないわよね?
――――ーっ!そ、そんなワケないじゃないの!?
だからこそ、キュルケの叫び対しルイズはそう返し、動いたのである。
今の彼女は言葉ではなく、その体でもって止めるべきだと。
「何でマリサの首なんか締めて…本当にどうしちゃったのよ?」
怒りの表情を保ったままのルイズは何も喋らぬ゛レイム゛に震える杖を突き付けながら、ただ語り掛ける。
魔理沙の死を何とか食い止め、人殺しの罪を背負いかけた彼女を押し倒したルイズは知りたかった。
どうしてああいう事をしたのか、自分たちの前から姿を消した間に何があったのかを。
一方で、色んな方向に動く杖の先を仰向けの態勢で見つめている゛レイム゛は、これといった動揺を見せていない。
鈍く光る赤い目でもって何も言わず、眼前に突きつけられた棒状をただジッと見つめている。
゛レイム゛の顔に浮かぶ表情は魔理沙の首を絞めていた時と同じく無色であり、何を考えているのかもわからないのだ。
「何でもいいから、一言くらい喋ってみな……あっ」
そう言って空いた左手で彼女の袖を掴もうとした瞬間、ルイズは気づく。
手の甲を見せるようにして地面に置かれた゛レイム゛の左手。
本来ならそこにある、ルイズとの契約で刻まれたガンダールヴのルーン。
だが、今ルイズが目にしているその手には、ガンダールヴどころか何も刻まれてはいなかった。
土と煙で汚れてはいるが、黄色みがかった白い手には傷一つついていない。
まるで最初からそうだったかのように、゛レイム゛の左手はあまりにも綺麗過ぎた。
ルーンが無い事に今更気づいたルイズはその目を見開き、驚く。
ついさっきまで付いていたばかりか、魔理沙と自分の目の前で光る所をみせてくれた使い魔の証。
古今東西、主人や使い魔以外が死ぬこと意外にルーンが消えるという話など聞いたことも無い。
それなのに、自分の下にいる゛レイム゛のルーンは、嘘みたいに消えてしまっている。
ルイズは悟った。もうワケがわからない、これは自分の予想範囲を超えた事態になってしまったのだと。
「一体…何が…どうなってるのよ?」
今日何度目になるかも知れないその言葉を、口から漏らした瞬間であった。
「ちょっと、アンタ達。そんなところで何してんの?」
呆然せざるを得ないルイズの頭上から懐かしいとさえ思えてしまう、゛彼女゛の声が聞こえてきたのは。
その声を聞いた直後、その顔にハッとした表情を浮かばせたルイズは、その顔を上げる。
未だに咳き込む魔理沙の方へ近づこうとしたキュルケもそちらの方へ視線を向け、気づく。
ここから二メイル先にある元洋裁店の青い屋根の上に、一人の゛少女゛が佇んでいた。
建物自体は一階建てなので屋根も低く、夕日に照らされたその姿をハッキリと見ることができる。
紅い服に別離した白い袖、赤いリボンをはためかせたその姿をしている者は―――二人が知る限りたった一人だけだ。
「レイム…アンタもレイムなの…!?」
最初に゛少女゛を見つけたルイズは口を大きく開け、その名を叫ぶ。
春の訪れとともに出会い、自分を未知の世界へと招き入れた彼女の名を。
「一々大声で怒鳴らなくっても…ちゃんと聞こえてるわよ」
ルイズの呼びかけに対し゛少女゛―――…否、もうひとりの゛レイム゛は左手を上げ、気だるげに言葉を返した。
そして、何気なく上げたであろうその手の甲に刻まれたルーンを見て、ルイズは一つの確信を抱く。
もしこの場で二人の゛レイム゛の内、どちらが本物の゛霊夢゛かと問われれば…まちがいなくルーンのついた方を選ぶ―――と。
使い魔のルーンはそう簡単に消えるモノではないし、何より光っているところを魔理沙と一緒に見たのだ。
何がどうなっているのか何もわからないままだが、少なくとも状況が変化していくのは分かった。
(もしも私の知識が正しいのならば…ルーンのついてる方が本物のレイム…って事で良いわよね?)
そんな事を思っていたルイズはしかし、ふとこんな疑問を抱く。
―――――ルーンのついている方が本物だとするのならば、今自分の下にいるのは誰だろうか?
「―アァッ!」
脳内に浮かび上がった謎の答えを探ろと顔を下げたルイズは、突如何者かに首を絞められた。
一体何が起こったのか。急いでその目を動かしたところで、彼女は油断していたと後悔する。
襲い掛かってきた者の正体。それはルイズに飛び掛かられ、地面に倒れていた筈の゛レイム゛であった。
ルイズの首に手を掛けた時に腰を上げた巫女は、赤く光るその目で睨みつけながら、ルーンの付いていない左手で彼女の首を力強く絞めていく。
既にルイズの足は地面から離れ、まるで乗り捨てられたブランコの様に揺れ動いている。
「かは……っ!あぁっ!」
本物と同じ体格とは思えた力で息を止められたルイズはその目を見開き、体は無意識にビクンと跳ね上がる。
魔理沙もこんな風に絞められていたのだろうか。そんな疑問が脳裏をよぎる間にも、どんどん締め付けが強くなっていく。
「ルイズッ!」
本物の霊夢の登場に驚いていたキュルケがそれに気づき、腰に差した杖を手に持つ。
あのまま放っておけば、先程同じことをされていた魔理沙よりもっとヒドイ事をされるのは間違いない。
先祖代々からのライバルであり多少煩いところはあったが、それでも目の前で死なれては目覚めが悪くなってしまう。
それに、いつもの生活では味わえないような体験をしているのだ。どっちにしろ逃げるという選択肢は今のキュルケに無かった。
(何か色々と分からない事が多すぎるけど、アイツが死んだら真相は闇の中…ってところかしら?)
言い訳の様な苦言を心の中で発しつつも、彼女は杖の先端を゛レイム゛の方へ向け、詠唱を開始する。
一方、屋根の上から見下ろしていた霊夢もこれはヤバいと悟ったのか、すぐさま動き出した。
別にルイズの事が心配だとか一応は主人だから助けようという事を、彼女は考えていない。
ただ、今も幻想郷で起こっている異変を解決するにあたり一応の協力す関係にあるだけのこと。
故に彼女はルイズを主人としてみる事は無く、ノコノコとついてきた魔理沙と同じように接していた。
それでも、異変のキッカケとなった召喚の儀式で出会ってからは、色々と世話になったのは事実である。
現に今日は服も買ってもらったのだ。そこまでしてくれた人間を、みすみす殺させる理由などない。
「そいつを殺されたら、色々と不味いのよねっ…と!」
霊夢は軽い感じでそう呟き、青い屋根の上からヒョイっと勢いよく飛び降りた。
一階建てなので高さもそれほどでもなく、難なく着地し終えた彼女はルーンが刻まれた左手を懐へ伸ばす。
しかしその直前、使い魔の証であるソレを目にして何か思いついたのか、ハッとした表情を浮かべて周囲を見回す。
彼女の周りにはルイズ達や、先程゛レイム゛が飛び出してきた雑貨屋などを含む幾つかの廃屋しかない。
それでも霊夢は辺りを見回し、今自分が゛思いついた事゛を実行できる゛物゛がないか探している。
「参ったわね…ちょっと試したい事があるのに限っていつもこんなんだから―――――…あ」
軽く愚痴をこぼしながら足元を見つめていた時、ふと近くにある廃屋の入り口の方へと目が向いた。
そこは先程、彼女の偽物が扉と一緒に出てきた元雑貨店であり、霊夢の目から見ても相当荒れているとわかる。
その出入り口の近くには、霊夢が両手で抱えられる大きさの箱が放置されている。
恐らく中に置かれていたであろうソレは半壊しており、中に入っていたフォークやスプーン等の食器が周囲に散乱していた。
長い事放置されていた食器は大半が錆びており、無事なモノでも迂闊に触りたくない雰囲気を漂わしている。
しかし彼女が目を向けた物は、人の手に触られる事無く朽ちた食器たちの中でも一際目立つ存在であった。
(まぁ、どうかは知らないけど…あれなら一応は使えるわよね?)
自身の左手の甲に刻まれたルーンを再度一瞥した彼女は、心の中で質問に近い言葉を浮かべる。
この廃墟で偽者と再会して以降光り続けるソレは、ある程度弱々しくなったものの未だにその輝きを失っていない。
そして今も尚、彼女の耳には聞こえていた。誰のモノかも知れない謎の声が――――
――――武器を取れ、ヤツを倒せ
(まぁ不本意と言えば不本意だけど…状況が状況だし、モノは試しということでやってみようかしら?)
鬱陶しいルーンの光と謎の声へ向けて嫌味に近い感じの言葉を送り、彼女は決意する。
それは自分にしか聞こえない迷惑すぎる声に従う事であり、何処か腹立たしい気持ちを覚えてしまう。
しかし今の様にルイズが殺されそうになっている状況で、声に従わないという事など彼女は考えてもいない。
針も無しお札も無し、頼りになるのは弱いスペルカードだけという今なら、謎の声の方が正しいと理解せざるを得ないのだ。
(使えるモノは思い切って使う。とにかく…これから長い付き合いになりそうだしね)
一度決まれば行動するのは早く、霊夢はスッとその足を動かして走り出す。
雑貨屋に置いてある食器にしては不釣り合いすぎる、鈍く光る身を持つ゛武器たち゛を求めて。
一方、そんな事をしている間にも、息を止められたルイズの心臓は刻一刻とその鼓動を弱くさせていた。
ルーンの付いてない゛レイム゛に殺されようとしている彼女は身じろぎ一つできない。
(息――できな……このままじゃコイツに…)
死ぬのは勿論嫌なのでどうにかしたい所だか、今の彼女に碌な抵抗はできない。
首を絞める゛レイム゛の左腕の力が思った以上に強く、自分の両手で彼女の腕を掴むことだけで精一杯であった。
それ以外にできる事は無く八方塞がりな状況に陥った時、ルイズはその目を動かす。
幸いか否か視界は良好であり、目を光らせながら自身の首を締め付ける゛レイム゛の顔をハッキリと見る事が出来た。
廃屋の中から出てきた彼女はこちらへ顔を向けた時と同じく、無表情を保ち続けている。
ただ変わった事と言えば、その時からずっと輝き続けている赤い目の光が強くなっていることだ。
まるで切創から溢れ出る血の様な色をしたソレは、不気味さを通り越した何かを孕んでいる。
それと目と自分の目を合わせながら死へと近づくルイズは、明確な恐怖を感じてしまう。
(誰…か、助けて…だれでも…イイカラ…)
心の中で彼女がそう願った時、暗くなっていく視界の左端に細長い銀色の光が入り込んできた。
夜空を一瞬で過る流れ星のような速度でもって現れ、゛レイム゛の左手の甲へ吸い込まれるようにして…突き刺さった。
「なっ…―――!?」
直後、突然の事にまたも驚いた゛レイム゛の左手から力が抜け、絞首の魔の手から解放されたルイズが地面へと倒れる。
「…!―――ルイズッ!」
突然の事に軽く驚き詠唱を中断してしまったキュルケが、死から逃れた好敵手の名を叫ぶ。
それに応えてか否か、体の自由を取り戻せたルイズは早速呼吸をしようとして苦しそうに咳き込み始める。
「コホッ、ゲホ……!な――何があったのよ…?」
汚れた地面へとその身を横たえたルイズもキュルケ同様に驚くが、口から出た疑問はすぐに解決した。
鈍い音を立てて彼女の手に甲に刺さった細長い銀色の光。その正体は、一本の古びたナイフだった。
長い間放置されて薄汚れてしまった柄に多少の錆が目立つ刀身は、どう見ても街で売れるような代物ではない。
仮に低価格で売ろうとしても、銀貨一、二枚で売らなければ買い手など見つからないだろう。
それでも武器としてはまだまだ使える方なのか、刺された゛レイム゛は充分に痛がっている。
「くっ…うっ…」
苦痛に耐えるかのようなうめき声を上げながらも、彼女はそれを抜こうと残った右手でナイフの柄を握る。
左手を貫くかのような形で突き刺さるナイフの刃先から少量の血が流れ、滴となって地面に落ちていく。
ポタポタと耳に心地よいリズムに、刀身に絡みつく血が、ルイズの心に不安定な気持ちを植え付ける。
そんな彼女の事などお構いなしにと言いたいのか、゛レイム゛は一呼吸置いてから、勢いよくナイフを引き抜いた。
直後、吐き気を催す音と共にルイズの方に幾つもの血が飛び散り、彼女の顔を遠慮なく汚す。
少し遠くから見ればニキビと勘違いしてしまう液体は、近くに寄れば錆びた鉄と良く似た匂いをイヤと言うほど嗅げるだろう。
そんな液体顔に浴びたルイズは、最初それが何なのかわからなずキョトンとした表情を浮かべるも、それは一瞬であった。
「あっ……うぐっ…」
自分の顔に何が掛かったのか。それを知った瞬間、喉元から良くないモノが込み上がってきた。
咄嗟に両手で口を押さえ、名家の令嬢にふさわしくないそれを口から出すまいと我慢する。
今まで顔に血を浴びるという経験が無かった故、吐き気を覚えてしまうのは致し方ないだろう。
だからといって、今ここで出してしまうというのは彼女のプライドが許しはしなかった。
この場で吐き気を堪えられないという事は即ち、その程度の事で腰を抜かすのが自分だという事を認めてしまう。
それでは、ここへ来る前に八雲紫の前で誓った自分の決意など、見せかけの言葉にしかならない。
(駄目よルイズ…!まだ戦ってもいないのに弱気になるなんて事…絶対に駄目)
何とかして吐き気を抑え込んだルイズは自らを戒めつつ、ナイフを抜いた゛レイム゛の方へと顔を向ける。
鳶色の瞳が向いた先、そこにいた巫女の目はこちらを見つめてはいなかった。
光り続けるその目を細め、先程自分が出てきた元雑貨屋をキッと睨みつけている。
左手の中心部と甲から血を流しているにも関わらず、その傷を作ったナイフを右手に握り締める姿は正に狂戦士だ。
先程痛がっていた姿が嘘の様に見えてしまい、ルイズは無意識のうちに身震いをしてしまう。
痛みを無視してまで、誰を睨みつけているのか。
吐き気が失せた彼女はそんな事を思いながら振り向き、目を丸くする。
「聞こえなかったかしら、ソイツを殺されると色々不味いって?」
゛レイム゛が睨み、ルイズがアッと思ったその視線の先にある一軒の廃屋。
先程まで誰もいなかった元雑貨店の出入り口のすぐ傍に、゛レイム゛と対峙している霊夢がいた。
これからどうしようかと考えているのか、面倒くさそうな表情を浮かべる彼女の右手には、二本のナイフが握られている。
本来は果物を切るために使われるであろうそれらは、軽く見ただけでも錆びているのがわかる。
それを目にしたルイズは察した。いつの間にかナイフを手にした霊夢が、自分を助けてくれたのだと。
今もそうだが、面倒だと言いたげな表情を浮かべているにも関わらず、事ある度に色々と助けてくれた。
そうして助けてくれる分、ルイズは彼女へ幾つもの借りを作ってきた。増えすぎたがために、大きくなった借りを。
しかし。ルイズとしてはこれ以上霊夢への借りは極力作りたくないと思っていた。
無論命を助けてくれた借りは返すつもりではあるし、下賤な輩みたいに遠慮も無く踏み倒す気は無い。
彼女は決意したのだ。自分は守られる側ではなく、幻想郷から来た者たちと共に戦う側になると。
未だ正体すらわからぬ黒幕と戦いを交え、霊夢の召喚から今も続く彼女の世界での異変を止める為に。
だからこそわかっていた。今この状況で、自分が何をすべきすという事を。
(そうよ…怯えたら駄目なのよルイズ・フランソワーズ!)
赤い斑点を顔につけたまま自らを鼓舞するルイズが、杖を持つ手に力を入れる。
その姿は正に、世界を混沌に陥れるであろう魔王と対峙する騎士の様であった。
そして、誰の耳にも入らぬ心中の叫びが合図となったのだろうか。
左手を自らの血で染めた゛レイム゛が右手のナイフを構え、目の前にいる霊夢へと跳びかかった。
飛蝗のように地を蹴り上げ、ナイフを振り上げたその手は蟷螂の手を彷彿とさせる。
霊夢と似すぎるその顔と、未だ輝き続ける目からは、怒りの感情が沸々と込み上げてきていた。
突然の事にルイズと遠くにいたキュルケが驚く一方で、霊夢は苦虫を踏んだかのような表情を浮かべた。
「戦闘再開…ってところかしら!?もうちょっと休ませてほしいんだけどねぇ」
心底嫌そうな感じで喋った彼女は、ルーンが刻まれた左手を突き出して結界を展開する。
そして振り下ろされたナイフと結界が接触した瞬間、本日三度目となる戦いが始まった。
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以上、62話の投下は終了です。
今年も色々あるでしょうが、ゆっくりマイペースで月一投下を続けていきます。
それでは改めまして。今年もよろしくお願いします。それでは
乙 & 新スレありがとう
てす
聖剣伝説3ってゼロ魔と相性よさげな気がするけど意外と見当たらないよな
魔法の使えないお姫様とかモロだしハーフエルフなでち子もいれば亡国の惨めさを知ってる王女様
強大な魔法使いに剣で挑む戦士まで揃ってるのに(´・ω・`)
聖剣伝説3は幽霊船のイベントが印象的だったなあ。
しかしハードがSFCで今じゃプレイできなくて内容が半分は思い出せない。
リメイクされないかなあ。
そういえばナイトブレードにクラスチェンジしたホークアイが召喚された話があったな
思いっきりホークアイに使い魔拒否されたけど
死を食らう男からすればハルケはいごこちのいい世界だろうな
なにかないかなぁ
では、銀河卍丸と銀河横綱アンタレスと鈴吹マユリ(仮名)の四択だ。
ニンジャバーガーとご一緒にポテトはいかがですか?
我が前に敵無し?
>>514 すまん、3択にしか見えないんだが。とりあえず4卓目のピアニィ様を召喚してハルケギニアをTRPGをプレイしないものには人権が認められない世界にするのに一票。
国民総ディスコード計画再発か・・・
518 :
ドイツ語は適当:2013/02/05(火) 07:49:28.27 ID:dAPI6Ili
「Freeden in were hant !」
「Freeden in were hant !」
機械神を仰ぐ、フェリタニア新帝国の野望を打ち砕くため、ルイズと仲間たちの冒険が始まる。
>>509 半角二次元住民から言わせてもらえばリースは18禁
召還するともれなく触手が付いてくる
>>519 >半角二次元住民から言わせてもらえば(キリッ
…………言ってて恥ずかしくない?