あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part315
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part314
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1343365290/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2げと
仮面ライダーウィザード
この世界にハマりそうな感じ
では改めて代理投下行きます。
第九十六話
あの青空を守るため
友好巨鳥 リドリアス
古代暴獣 ゴルメデ
高原竜 ヒドラ
古代怪獣 ゴモラ
古代怪獣 EXゴモラ 登場!
〔ヤプール! これがおれたちがこの世界でつむいできた絆のすべてだ。受け止められるもんなら、受け止めてみやがれ!〕
長きに渡ったアディールを巡る光と闇の戦いも、ついに終局の時を迎えようとしていた。
この世界を守るウルトラマンたち、人間、エルフ、怪獣たち。生きとし生ける者たちすべての未来への希望を込めた究極の
光の一撃が飛ぶ。その形は、様々な色を抱いて宇宙に浮かぶ惑星のように丸く、その輝きは、様々な色が混在してなお美しい
虹のようにきらめいている。
『スペースQ!』
それが、この必殺技の名前だった。エースがこれを過去に使ったのはたったの一度きり。ヤプールとの最初の戦いも中間点に
入った、時に昭和四十七年七月七日。ヤプールの姦計でゴルゴダ星に閉じ込められたウルトラ兄弟を救い出すための戦いで、
ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブン、ウルトラマンジャックの力を借りて、この超必殺技は放たれた。
この戦いは、地球からは観測できないマイナス宇宙で繰り広げられたために、その存在は才人も知らない。しかし、エースとともに
体験しながら、才人やルイズはこの技の圧倒的な威力だけでなく、技を放つために集められたエネルギーに、ウルトラマンたち
のみではなく、数多くの人々の願いが込められていることを知った。
〔みんなの願いが光になって、わたしたちに力を与えてくれたのね〕
邪悪なマイナスパワーに打ち勝てるのは、同じく人間の持つ正しい心しかない。ヤプールは、この世界にマイナスエネルギーが
溢れていると言っていたが、闇があれば光が照らすように、ハルケギニアの人々にも、正義の魂は脈々と息づいていた。
虹色に輝く光の玉が、断末魔のEXゴモラに炸裂し、その蓄えられた光のパワーで邪悪なマイナスエネルギーを浄化していった。
闇の魔獣を包み込むように虹色の輝きが広がり、闇の帳に包み込まれていたアディールの風景をまばゆく照らし出していく。
「きれい……」
誰かがふとつぶやいた。光の中でEXゴモラは溶けるように崩壊していく。しかし、その様は決して残酷なものではなく、
例えていうのであれば、春の陽気の中で雪だるまが頭のバケツだけを残して消えていくような、理に沿う正しい終わり方である。
闇に染まり、間違った生まれ方と生き方を強要されてきた生き物が、マイナスエネルギーを消し去られて、あるべき自然の
姿へと戻って消えていく。
崩れていくEXゴモラの中から、焚き火から立ち上る煙のように黒いもやとなって怪獣たちの魂が昇天していくのが見えた。
アントラー、ゴーガ、サメクジラが肉体の呪縛から解放されて、一瞬半透明の姿を見せたかと思うと消えていった。ダロンは、
ややユニークなことに、ガディバに寄生される前のただのタコに戻って消えていき、そのシュールさにやや失笑を呼んだものの、
やっと自然の姿に戻って誰にも利用されない世界に旅立つ彼らに、祈りの言葉がつむがれた。
「安らかに……」
死ねば善も悪も関係ない。望まぬ生き方と死に方を強いられたという点では、彼らもまた被害者なのだ。怪獣たちによって
友人や肉親を失った者たちからすれば、憎みても余りある敵であろうが、屍を打つほど醜悪なことはほかにない。彼らは
怒りをぐっと押し殺し、せめて関係ない者は安らかな眠りを、もしくは来世は平和な生を送れるようにと願うべきだ。
アリブンタ、マザリュースなどの超獣たちや、ギロン人も精神体が粒子に分解して消えていく。生まれついての悪として
宿命づけられた彼らは、最後まで怨念を呑んで消えていくのだろうが、せめて無に帰ることで次の生では正しくあってほしい。
そして、最後にEXゴモラを内部から抑えていたバルキー星人も解放された。
”覚えてろよウルトラマンA。いつか蘇ったら、必ずてめえに借りを返しにいってやるからな”
”いつでもこい、そのときは正々堂々相手をしてやる”
”けっ、俺はてめえらのその正義面したところが嫌いなんだよ……”
バルキー星人は、つまらなそうに捨て台詞を残して消えていった。しかし、まさかあいつに助けられることになるとは夢にも
思わなかった。敵の敵は味方と言うが、奴もよほどヤプールには腹を立てていたのだろう。ただ、それはともかくとして、
大嫌いなウルトラ戦士に味方してまで、自分の存在を貫こうとした意地には素直に敬服する。くだらない意地にこだわるのと、
くだらない意地に命をかけるのは同じようでまったく違う。それについては説明するのは事実上不可能なのだが、エースは
もしもそんな機会が来たなら、真っ向から打ち破ってやろうと、改めて心に決めた。
しかし、策謀の果てに自らが捨て駒とした者に逆らわれて勝利を逃したヤプールには、軽蔑の眼差ししか向けることはできない。
スペースQのエネルギーの中で、ガディバも焼き尽くされて消滅し、抜け殻となったEXゴモラは崩れていく。恐ろしい敵だった、
もしもこいつが真にゴモラが進化したものであったならば、勝てたかはまったく自信がない。けれど、これだけの超怪獣を繰り出しながら、
勝利することができなかったヤプールの敗因は、まさにヤプールのその卑劣さ、邪悪さにあると言わざるを得ない。
絆を否定し、すべてを自分本位に考え、他者を蹴落とすための敵か利用するための駒としか思わない。だから、自らの分身とも
いえる超獣はまだしも、心を持った相手にはかつての宇宙人連合などのように洗脳をおこなったり、今回のように相手の欲に
つけこんだりするのだが、それがなんらかの理由で破られた場合は、誰もヤプールに協力する義理などはない。
まさに、人形遣いがからんだマリオネットの糸に指をからめとられる図なのだが、口に出して人間はヤプールを笑えはしない。
そんなヤプールを生み出したのは、ほかでもない人間たちの心なのだから。
使いきれるだけのマイナスエネルギーをEXゴモラに使い切り、敗れたヤプールの暗黒空間も共に崩壊していった。黒雲が
晴れていき、太陽がアディールを今度こそ明るく照らし出していく。そして、光の化身たる太陽の輝きが、ヤプールの異次元
空間への亀裂をも照らしたとき、ヤプールの断末魔にも似た叫びが響き渡った。
「くぁぁーっ! おのれ、おのれぇぇぇ! このわしが、この軍団がぁぁーっ! よくも、よくもやってくれたなぁぁーっ!」
膨大な怒りと憎しみの込められた邪声が人々の背筋を震わせた。もはや、溜め込んだエネルギーを消費しつくし、
現実に悪意をもたらすことは不可能になっているのだが、本能的な恐怖に訴えかけてくる冷たい声に、誰もが喉を
凍らせてしまって動けない。
エースは、次元の裂け目の向こうで怒りに身を焦がしているヤプールに対して告げた。
「ヤプール、お前の負けだ。お前は確かに、力では我々よりも数段上回っていた。しかし、お前は人間やエルフたちの底力を
見くびった。彼らの心に宿る光の強さを理解できなかったお前は、戦う前から己の可能性をつぶしてしまっていたのだ」
「黙れ黙れぇ! わしは絶対認めないぞ。下等生物どもに、このわしが負けるなどと、貴様らさえいなければ」
「ならばお前には永遠に理解できまい。小さな者たちこそ、大きな心と可能性を秘めていることを。その力は、時に我々
ウルトラマンをもしのぐ強さを発揮することを。その力がある限り、お前に永遠に勝利は訪れはしないだろう」
「そうはいかん。暗黒の力は無限だ、永久に絶えることはない。人間どもにエルフども、貴様たちも覚えておくがいい。
今日、お前たちは勝者となった。だが、勝った者は負けた者の怒りと憎しみを背負って生きていかねばならんということを。
勝った者は負けた者のことは忘れても、負けた者は恨みを永遠に忘れることはない。その恨みがある限り、ヤプールは
何度も蘇る。そして必ず、貴様らを一人残らず根絶やしにしてくれるわ、ウワッハッハッハッ!」
負け惜しみというには、あまりにも確信に満ちたヤプールの言葉に、人々は笑うことはできなかった。初めて地球に
現れたときから変わらないヤプールの邪悪な意志は聞く者に不安と恐怖を植えつける。
そして、ヤプールは最後に消えかける次元の裂け目から言い残した。
「これで終わったと思うなよ。我々にはまだ切り札が残っているのだ。この星の者どもが奪い合ってきた究極の宝は、
すでに我が手の内にあるのだからなぁ!」
「っ! 聖地か」
「そのとおり! その周辺は永遠に晴れない荒れ狂う嵐の海と化し、もはや誰も近づけん。フハハハ、この星の者どもは
気づいていないようだが、この地に秘められた力が解放されたときこそ、この星の最期となるだろう。そして、これだけは
忘れるな! この世界には、まだまだ溢れんばかりのマイナスエネルギーが渦巻いている。我々はすぐにも蘇って、
復讐の業火をあげてやる。フハハハハ! 人間を滅ぼすのは人間、エルフを滅ぼすのはエルフなのだ。お前たちがいる限り、
我らは滅びることはない。フハハハハ! グッ、グワォォーーーッ!」
呪詛の言葉を残すと、ヤプールはもだえ苦しみながら次元のかなたへと消えていった。
エースは、ヤプールの言葉がハッタリではないことを知りつつ、心に誓った。
”来るならば来い……そのときこそ、二度とこの世界に手を出せなくなるように、決着をつけてやる”
きっとその時は、今日すら比較にならない想像を絶する激戦となるだろう。さらに、ヤプールが復活してくるのは、そんなに
遠い未来のことではないことも確かだ。かつての究極超獣にも匹敵するなにか、ウルトラ兄弟を抹殺するための恐るべき
なにかを用意して、きっとヤプールはやってくる。
だが、避けようのない戦いが未来にあるとしても、今日のこの日は我々の勝利だ。
黒雲が一欠けらもなく消え去り、太陽の下にアディールは蘇った。空も、砂漠も、海も、自然のありし姿を取り戻した。
ヤプールの悪夢の世界は終わり、光はさんさんと降り注ぐ。その中で、闇の魔獣も最期のときを迎えた。
スペースQの輝きの中で、EXゴモラはマイナスエネルギーを浄化され、その身に宿ったすべての怨霊を昇天された。
あとの肉体に魂はなくとも、蓄えられた膨大なエネルギーだけは残っている。それが、これ以上この街に災厄を与えぬ
ようにと、光の力はEXゴモラの残存エネルギーとともに対消滅を起こし、余剰エネルギーだけを放出して爆発した。
「さらばだ……」
立ち上る赤い炎は、まるで怪獣たちをあの世へと送る道しるべのように輝き、エースは心から彼らの冥福を祈った。
そして、轟音が通り過ぎて、風が煙を流していったとき、長く続いた戦いは、人々の歓声を持って本当の終了を告げた。
「やったぁーっ!」
「勝ったぁーっ! ばんざーい! ばんざーいっ!」
「うわぉーっ!」
割れんばかりの声、声、声。歓喜の大合唱がアディールの隅から隅までを埋め尽くした。
女も、男も、老人も子供も、皆が喜びの中にいた。何度もこの悪夢は終わらないものと思った。何度も、押しつぶされそうな
絶望を味わわされてきた。どう考えても助かりそうもない悪魔との戦いを生き抜けたことは、まさに奇跡としか思えない。
エルフたちは東方号の甲板に飛び出し、中には青さと穏やかさを取り戻した海に飛び込む者もいた。もう波にさらわれる
心配はなく、愉快そうにイルカとたわむれている。闇の力に封じ込められていた精霊たちも解放されて、自然を元に戻していった。
そして特筆すべきは喜びをわかちあう者たちの中で、エルフと人間がまったく同じ舞台で笑い合っていたことだ。
水精霊騎士隊の皆が、エルフたちに胴上げされている。疲れ果てて気を失い、ルクシャナに背負われて艦橋を降りていく
ティファニアに、エルフたちが口々にねぎらいの言葉をかけてくれる。そのふたりを、階下で迎えたのはあのファーティマだった。
彼女は無表情で睨みつけてくるルクシャナの視線を少し受け止めると、自分もまだ動くにはきつい体を折って頭を垂れたのである。
「わたしの負けだ、完敗だよ。すごい奴だな、お前は……いや、お前たちは」
顔を上げたとき、もうファーティマの顔に、人間やハーフエルフを憎んで生まれた影や醜いしわはすっかり消えていた。
ルクシャナは苦笑し、ティファニアを寝かすから、ほらどいてと歩み去ろうとした。だが、両者がすれ違おうとしたとき、
気を失っていたと思っていたティファニアがファーティマのそでを掴んで引き止めた。
「ありがとうファーティマさん……ねえ、わたしたち、これからお友達になれるかな?」
すぐに返事はなかったが、肩越しにルクシャナはファーティマの赤面した照れくさそうな顔を見ていたのだった。
微笑ましい光景はそれだけではなかった。銃士隊に救われたエルフたちが、疲労困憊した彼女たちに、残りわずかな
精神力を使って回復の魔法をかけてくれた。人間に精霊の力を使うことは、エルフたちにとっては大変な屈辱のはず
だったが、ここでは誰もそんなことは忘れていた。
「起きたな、めいっぱい最高の奇跡が。サイト……お前に会ってから、世界が本当に美しいな」
空を見上げ、疲れきった頬を緩ませてミシェルはつぶやいた。人間の運命なんて、簡単に変わるというが、ほんの一年前まで
姑息な小悪党に過ぎなかった自分が、まさか世界の運命を変える仕事をすることになるとは。こんな光景を見るなんて、
レコン・キスタの下っ端だった頃の自分なら夢にも思わなかったことだろう。
「次はいったい、どこに連れて行ってくれるのかな? いや、できれば……いつか、お前の故郷に行きたいな」
それは、彼女以外にもひとりの少女の願いでもあったのだが、ミシェルは自分の体を覆う快いぬくもりに身を任せて眠りについた。
海原は透き通り、風は優しく肌をなでていく。そこに居る人々の顔は明るく、泣いている人もそれを誰かが慰めている。
平和……それの重さと尊さを、これほど誰もが痛感した日はこれまでになかっただろう。
「ありがとう」
「どういたしまして」
そこでかけられた声のやりとりの大部分は、突き詰めればこの二言に集約された。しかし、短くはあるけれど、この二言ほど
人の心の美しさを表す言葉はないだろう。自分のことしか考えない者に、謝意の気持ちなどは決して芽生えない。互いに、
相手のことを認めているからこそ、口からは自然とこの言葉が出るし、言われたほうもうれしいのだ。
まあ中には、早々に女性を口説いて好感度を下げる某隊長どのみたいな例もあるが、そうしたものも笑いを誘って皆をなごませた。
それに、功労者はエルフや人間たちだけではない。ゴモラとゴルメデは勝利の雄たけびをあげて、リドリアスとヒドラも
うれしそうな声で喉を鳴らした。人々は、ヤプールのいなくなった今、怪獣たちが暴れだすのではと冷やりとしたが、彼らは
疲れたように地面に横たわり、特にゴモラなどは大きなあくびをあげると、そのまま高いびきをあげて眠りだして人々を
びっくりさせた。
そう、怪獣とて危険なものとは限らない。人間が余計な手出しをしなければ、無害な怪獣だって数多くいる。見た目で
相手を判断し、決め付けてしまうのは愚かなことだ。色は単色でも美しいが、それは同時に無機質で退屈なのだともいえる。
しかし多色となれば、それを美しくするのは難しいが、無限の可能性と面白さがある。
グヴグウと気持ちよさそうに眠っているゴモラののんきそうな姿に、人々はさっきまでの屈強な大怪獣はどこへやらと
笑うしかなかった。その微笑ましい様を見下ろして、エースとコスモスは満足げにうなずきあった。
「終わったな。これで、ヤプールも当分は表立っては動けまい……ありがとう、ウルトラマンコスモス。君がいなければ、
この戦いに勝つことは出来なかった」
「礼ならば、私からも言わせてほしい。私は昔、この星を襲った災厄から、人々を守りきることができなかった。君たちの
おかげで、私は償いの機会を得ることができた。ありがとう」
エースとコスモスは歩み寄ると、どちらからともなく手を差し伸べあった。望んでいることは確認するまでもない。ふたりは、
互いの手を取り合うと、がっちりと握り締めて握手をかわした。
これで、この世界に来て出会った異世界のウルトラマンは、ジャスティスに次いで二人目。いまだ消息の知れないダイナや、
未確認だがガリアに現れたという巨人は、聞いた特徴がダイナに酷似していたようだ。会ったことはまだないが、彼らも
理由とはどうあれこの世界のために戦ってくれていた。
それに、異空間で出会ったガイア……我夢も、その世界の平和を守るために戦っていた。ウルトラマンは平和の守護神、
心正しい者の味方であり、人々が希望を失わない限り、前に進むことをあきらめない限り、無限の力でどんな敵にも
負けはしない。
言い換えれば、人々は自分たちの希望の力で未来を勝ち取ったのだ。ウルトラマンなくては超獣軍団に勝てなかった。
しかし、人々が応援してくれなければウルトラマンは負けていた。どんなにすごくても完璧な存在などはない。助け合ってこそ、
本当に強い力が生まれる。
曇天が晴れて青空が見えたときと、さらに虹が見えたときでは美しさが違うだろう。色は多く集まってこそ、お互いを
高めあって、単色の限界を超えた美しさを世界に示すことができるのだ。
悪いのは、自分以外の色を認めず、黒をぶちまけてしまうことだ。そんな狭量な輩は、残念ながらどんな世界のどんな
時代にも絶えずにいた。手を取り合うウルトラマンの姿に、人々が澄んだ視線を向けている中で、わずかにでも、濁った目を
した者は残っていた。
アディール対岸の、岸壁付近に半ば乗り上げた形で失神している鯨竜艦。その、大破した船体の崩れたマストや
艦橋構造物のあいまを抜けて、一門だけ無傷で残った砲塔で、ひとりの男が砲弾を込めていた。
「くはははは、俺は騙されないぞ。蛮人どもめ、悪魔どもめ、清浄なるサハラの地を土足で汚す汚物どもめ。サハラは
我々のものだ。今、思い知らせてやるからな」
そこで引きつった笑いを浮かべて、すすだらけになった体をひきずっているのは、あのエスマーイルであった。戦いが
終わってもなお、その身の狂気のおさまらない彼はボロボロの体にも関わらずに、まだ無益な戦いを続けようとしていた。
砲門の狙う先にいるのはふたりのウルトラマン。エルフの純血を神聖視する彼にとっては、なにをおいても自身の信仰こそが
絶対であり、それに合致しないものはすべて敵であった。
世界の中に自分がいると思わずに、自分の世界こそが世界のすべてだと思い込む歪んだ思想。その思想をおびやかす
異物を排除するためならば、その結果がどうなるかなど考えない。
しかし、砲弾を込めて、いままさに引き金に手をかけようとしたときだった。エスマーイルの背後から、冷たい口調で声が響いた。
「待ちたまえ、砂漠の民の誇り高き紳士、エスマーイル殿」
「うぬ!? お前、いやっ! と、統領閣下っ!」
いつの間にか、エスマーイルの後ろにテュリュークが立って、疲れた視線で彼を見上げていた。その後ろにはビダーシャルもいる。
ふたりとも、衣類はエスマーイルと同じようにくたびれきっているが、視線だけは鋭く研ぎ澄ませて睨んでいた。
短い沈黙ののちに、口火を切ったのはテュリュークだった。
「さて、つまらん前置きはなしにしようか。今、なにをしようとしていたのかね? ようやく平和が戻って安堵しておる市民たちを、
また混乱のちまたに引き戻そうというのか」
「お言葉ですが、平和とは誰のものでしょうか? 戦いはまだ終わってなどおりません。この地が蛮人どもの汚らしい足で
汚され続けているこの時に、なぜ安穏としていられるでしょう」
「君は今の今までなにを見てきたのだね。アディールを救ったのは、まさにその蛮人たちがいたからではないか。我々だけでは、
あの悪魔に太刀打ちどころか、今頃一人残らずこの世にはおらんだろうよ。君だってとっくの昔に船と運命をともにしていたかも
しれんだろう。彼らは我々の恩人だよ」
「なんとおぞましい! 統領閣下ともあろう方が、これまで蛮人どもが我々になにをしてきたのかを忘れたとは言わせませんぞ!」
つらつらと、エスマーイルはエルフと人間の戦いの歴史を語り始めた。その中で、蛮人たちが何度サハラに踏み込んできたか、
どれだけ汚い手段を使ってきたか、捕虜になった同胞がどういう目に会ってきたのか、この数千年で何万人の犠牲者が出たのか、
何度も和平がおこなわれようとしたが、その度に人間たちはだまし討ちにしてきたことなどを、まるで自分が体験してきたかのように
饒舌に止まらずに話す彼に、テュリュークとビダーシャルはひどいだるさを感じた。
「それは誰もが知っている歴史じゃの。しかし、そんなことは彼らも当然承知じゃろう。わしは、彼らと直接会って思うたが、
彼らはこれまでやってきた馬鹿者共とは違ったよ。彼らは聖地など求めておらんし、サハラを切り取ろうとも思っておらん。
小ざかしい条約を結ぼうともしておらんし、もっと言うなら外交の正式な手順すら踏んどらん。彼らは、ただわしらにメッセージを
伝えに来ただけじゃった。過去の行き掛かりを捨てて戦をやめようと、それだけをな」
「蛮人が、何度我らを騙したかお忘れではありますまい!」
「そんなことは承知しておる。しかし、今度は彼らも本気じゃと思う。でなければ、敵中にあれだけの人数で乗り込んでくるはずが
あるまいて。蛮人のすべてがとは言わんが、わずかなりとも信用できる者たちが現れ始めてきたとわしは信じたい」
「エスマーイル殿、私が蛮人の世界を見聞してきたことは知っているだろう。確かに蛮人どもは我らに比べればほとんどの
面で劣っているが、貴公の考えているほど愚かではない。貴公は知識とごく浅い部分でしか彼らを知らない。まずは試しと、
彼らに会って、それから答えを出してみてはどうかな」
テュリュークとビダーシャルは、蛮人への偏見に凝り固まっているエスマーイルへ、つとめて理知的に説得を試みようとした。
しかし、ふたりがいかに論理的に説得しても、どんなに妥協案を出してもエスマーイルは聞く耳を持たず、むしろ逆上して
大いなる意志とエルフの優勢さを盾にして、逆にふたりを弾劾してきた。
「砂漠の民の誇りを失って、あなた方は恥ずかしいとは思わないのですかな! 我らサハラに生きる者が大いなる意志より
与えられた使命は、蛮人の脅威を永遠に排除し、大いなる意志の庇護を知らない蛮人の手にある土地を解放し、エルフの
繁栄をもたらすことです。民と国の繁栄を考えずして、なんの指導者ですか!」
いきりたつエスマーイルに対して、テュリュークとビダーシャルはもはや閉口した。完全に自衛の域を超えた侵略戦争の
肯定である。それが彼の鉄血団結党の理念だということは重々承知していたが、狂信とはこういうものだと心底恐ろしく思う。
いまや部下もいなくなり、孤立無援でありながらも自らの妄念にしがみつく、その目には自分の見たくないものは見えず、
聞きたくない声は怒鳴りつけてかき消してしまう。
よくぞ、こんな奴がエルフの最高意思決定機関たる評議会にいたものだ。聞くに堪えない罵声を繰り返すエスマーイルに
対して、ビダーシャルはふつふつと怒りが湧いてきた。
「エスマーイル殿、いやエスマーイル。私はお前を見てようやく得心がいったよ、エルフと人間に差などない。むしろ、優れていると
うぬぼれている分、劣っているかもしれないな」
「なにっ! 貴様、その発言は十分に民族反逆罪に値するぞ!」
「なんとでも言え! 本当の蛮人は貴様だ!」
その言葉を最後に、ビダーシャルは駆け寄るとエスマーイルの顔面に渾身のパンチを叩き込んだ。魔法を使う精神力など
とうの昔に尽きているから、腕力にまかせた盛大な一発だ。まさか、殴られることになるとは想像もしていなかったのであろう奴は、
呆然としたまま一撃を食らうと、ふらふらとよろめいて舷側から足をすべらして海に転落していった。
「うわーぁ……」
間の抜けた声の後で水しぶきの音が聞こえてきた。どうやら奴も、自分が助かるのに魔法を使いきってしまっていたらしい。
水軍司令官だから、まあ溺れはしないと思うが、ビダーシャルは憑き物が落ちたような表情を見せて息をついた。
「ふぅ……どうも、失敬いたしました統領閣下、お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「かまわんよ、わしもいい加減殴ろうとおもっとったところじゃ。今より三十ほど若かったら、先にあやつの鼻っ柱に一発
おみまいしてやったのじゃがのう。残念じゃわい、ほっほっほっほ」
老体で正拳突きの素振りをしてみせたテュリュークのしぐさに、ビダーシャルも声を出して笑った。
「はっはっはっは、それは申し訳ありませんでした。ところで統領閣下、私は人間たちの社会で、ひとつなるほどと思わされる
言葉を聞いてきましたが、知りたくはありませんか?」
「ほう? おぬしほどの者がうなされるほどの名言が人間たちにあったのか。それはぜひとも、ご教授願いたいのう」
するとビダーシャルは、常に冷静沈着さを保っている彼としては珍しく、口元にいたずらっぽげな笑みを浮かべて言った。
「『バカは殴らないと治らない』のだそうですよ」
「ぷっ、はっははははは! それは確かに道理じゃな。奴にはこの上のない薬じゃろうて」
テュリュークは、何十年ぶりになろうかというくらいに腹を抱えて大笑いした。
どうやら、船べりの下からイルカの鳴き声が聞こえてきたところから、エスマーイルの奴もイルカに拾われたらしい。悪運の
強いやつだが、万一溺死でもされたら夢見が悪いのでほっとした。
「エスマーイルは、これからどうするのでしょうね?」
ビダーシャルが聞くと、テュリュークはあごに手を当てて考え込むしぐさをした。
「もう鉄血団結党はほぼ壊滅じゃろうし、評議会にも戻れまい。自分の親派の残党を集めて活動くらいはできるじゃろうが、
これからネフテスも変わっていく。奴の居場所は少なくなっていくじゃろうな」
「彼は優秀な男です。できうるならば、目を覚ましてもらいたいものですが……」
「そうじゃの、だが狂信者に狂信を捨てろということは、すべてを捨てろということと同じなのじゃよ。恐ろしいものじゃ狂信とは、
人を思想の奴隷に変えてしまう……わしらも、一歩間違えればどうなっていたことか」
テュリュークは、エスマーイルは憎むべき狂信者であったが、その一面においては犠牲者であったのだと、わずかに
彼に同情して、ビダーシャルも同意した。
「奴も生まれる時期が違えば、英雄として名を残したかもしれませんな。私は、統領閣下と働けることを誇りに思いますよ」
「なんの、歴史の流れが見えないほどもうろくしてはおらんつもりじゃよ。思えば、わしらと彼らが何千年もくだらない
いさかいを続けてさえいなければ、あんな悪魔どもにつけこまれはしなかったかもしれん」
「ええ……人間とエルフ、その祖は同じであったかもしれないのに、恐らくはいさかいが長引くうちに、いつかいつかと
解決を先送りにしてきたのが今日を招いてしまったのでしょう。そのツケは、清算しなくてはなりません」
ビダーシャルとテュリュークは同じ意味の笑いを浮かべた。ハルケギニアが狙われているのも、ネフテスが危機に
瀕しているのも、元を辿れば自分たちの愚かさが原因といわざるを得ない。確かに、この世界を破壊しようとしているのは
ヤプールだが、そのヤプールに居座られるほど居心地のよさを感じさせ、あまつさえ力を与え続けてきたのは人間と
エルフの生み出してきた歪んだ心にほかならない。
その腐った鎖を断ち切る、そうしなければどんなに軍事力を高めようが、ヤプールには絶対に勝てない。
互いを拒否し合ってきたハルケギニアとネフテスは、実はとてもよく似た世界であった。わずかなりとて相手に触れ合った
東方号の人間たちはそれを実感し、逆に人間世界を長く見てきたルクシャナや、ここにいるビダーシャルも、人間への
偏見を完全に捨てきれなくとも、それしか道はないことを理解していた。
「私も、偉そうなことを言わせてもらえば、我ら全員が子供だったのかもしれませんな。大人ならば、感情ではなく理性で
相手を見なければならないというのに……統領閣下、もしものときは私もお供いたしましょう」
「なにをいう、ビダーシャル君。犠牲がいるとしたら、老い先短いわしだけでじゅうぶんじゃ。君はまだ若い、なにより
蛮人世界に誰よりも通じている君がいなくては、誰が何も知らない同胞たちを導けるというのかね?」
人にはそれぞれ役割というものがある。ほとんどのエルフは人間世界のことはなにも知らない、それを矯正するには
肌で経験してきた者が不可欠、そのためにもビダーシャルは死んではいけない。そしてそれは人間世界にしても同様で、
ブリミル教の教義によって歪められて伝わってきたエルフの印象を変えていくには、東方号の少年少女たちの生の体験が
必要不可欠となるだろう。
この戦いは、どんなに勝ち目がなくとも逃げるわけにはいかない。未来を放り投げることになるから、エルフだけの力でも、
ましてや人間だけの力では到底ヤプールに勝てるはずはないのだから……
決して楽ではない未来を見据え、決意を固めるテュリュークとビダーシャル。ふたりの見上げる前で、希望の象徴たる
ウルトラマンたちは陽光を浴びて力強く輝いていた。
ヤプールの気配が完全に消え、安全を取り戻したアディールを見渡したエースとコスモスは、そこで手を振る人々に
自分たちは役割を果たしたことを確信した。しかし、エースには去る前にどうしてもコスモスに聞いておかねばならないことがあった。
「コスモス、この星をかつて襲った災厄とはいったい? 私たちは、その答えを知りたくてこれまで戦ってきたんだ」
「それは……」
コスモスの口から、才人たちが知りたかった謎の一端が明かされていった。それは、事実の完全な形ではなかったが、
これまで不明瞭なものであったパズルのピースの多くを埋めることが出来た。六千年前にこの世界で起こった争いと、
そこに襲い掛かった恐るべき勢力のことを。
「そうか……そのときの戦いの記録が、伝説となって残っていたんだな。しかし、伝承が不完全だったのは、それだけ
その戦いがすさまじかったということか」
「そうだな。私が、この星にたどりついたときにはすでに手遅れに近い状態になっていた。私は、この星に残った者たちと力を
合わせて戦ったが、勝ちはしたものの星の生態系はもはや手がつけられなかった。私は、守りきることができなかった……」
「いや、君のせいではない。この星は、長い年月をかけたが立派に再生を果たした。君のおかげだよ!」
「ありがとう。だが、この星はまた滅亡の危機に瀕している。私は、あの悲劇を二度と繰り返させはしない」
「ああ、ともに戦おう!」
エースとコスモスは視線を合わせ、互いの意思を確認しあった。
だが、コスモスにはまだエースの誘いを受けるわけにはいかない理由があった。
「君の誘いはうれしいが、私はまだこの星で自由に戦うことはできない」
「そうか……君もウルトラマンだったな。わかった、そのときが来るまでは私たちがこの星を守っていよう」
エースはコスモスからの頼みを受けた。コスモスが、この星を守るために戦うことができるようになるためのある条件が
そろったときにこそ、本当に共に戦おう。そしてそのときは、決して遠くはないことだろう。
カラータイマーの点滅が高鳴り、活動限界が近づく中でエースとコスモスはもう一度アディールを見渡した。
街は無残に破壊されているが、そこにいる人々の顔は決して暗くはない。街は失ったが、代わりに大きなものを手に入れた。
壊れた建物は直せばいい。エルフの建築技術を用いれば、前よりも美しい街をきっと作れるだろう。しかし、失われた命は
返らない……生き残れた喜びをかみ締める人々は、本当に大切なものを確かに胸のうちに刻んだ。
そして、コスモスは最後に東方号でやすらかな寝息を立てているティファニアに思いを寄せた。あの輝石は、コスモスが
この星にまた災厄が訪れたときのため、万一に備えて残していったものだった。しかし、あの輝石は心の清い者が
持たなくては役割を果たすことができない。彼女が強い思いでみんなのために祈ってくれたからこそ、コスモスは銀河の
かなたからこの星の危機を知り、駆けつけてくることができた。
「この星の未来を信じて、それを残していったのは間違いではなかった。君ならば、あるいは……」
思いを残し、コスモスは空を見上げた。
アディールの空は澄み渡り、そこに流れる雲は綿菓子のように白くやわらかそうに見える。この空こそ、自分たちが
命をかけて守るべきもの! エースとコスモス、ふたりのウルトラマンは、大勢の人々の見送りを受けて飛び立った。
「シュワッ!」
「ショワッチ!」
あっというまに銀色と青色の光が空のかなたへと消えていった。
そして、ウルトラマンたちに続いて怪獣たちもアディールに別れを告げていった。
リドリアスとヒドラが翼を広げて空へと舞い上がっていく。彼らの行く空は東か西か、どこを目指しているのかは誰も知らない。
ゴルメデは、地底へと砂煙を立てて潜っていき、みるまに穴だけ残して消えてしまった。
彼らも、戦いが終われば自分たちの存在が邪魔になることは知っている。それは差別ではなく、生き物には住み分けが
あるということだ。だから追ってはいけない、彼らには彼らの安住の地があるのだから。
今度会うのは、またどこかの戦いでか? そのときがやってくることを望みはしないが、恐らくは避けられることはないだろう。
しばしの間、君たちも安息をとってくれ。その日は少なくとも、明日や明後日ではないのだから。
ウルトラマンも怪獣たちも去り、アディールにはエルフと人間たちが残った。
それからのことは、くどくどしく語る必要はない。ただ、エルフたちは自分たちのために命をかけて戦い、多くの仲間の
命を救ってくれた人間たちを、ともに力を合わせて悪魔と戦った人間たちを、正当に迎え入れたということだけなのだから。
東方号はその巨体ゆえに港に接岸することはできないために、洋上に錨を降ろして停泊した。
人々は地上へ戻り、家が残っている者は帰宅し、家がなくなっている者は魔法で仮の住宅を作った。この手際のよさは
さすがに人間の何倍も強力な先住魔法を行使できるエルフならではであった。ほんの数時間の休息で回復した精神力で、
並の土のメイジ顔負けの芸当を誰もがあっさりとこなしてしまった。
そして、人間たちは……テュリュークらに招待され、評議会議場が建っていた場所で、全市民に向けて大々的に
紹介がおこなわれた。彼らが平和の使者であり、人間とエルフの無益な争いを終わらせようとしていることなど、すでに
ティファニアによって語られていたとはいえ、あらためて発表されたそれは歓呼を持って迎え入れられた。
アンリエッタからの親書が正式にテュリュークに渡され、ハルケギニアでの現状が市民たちに説明される。それによって、
市民たちは世界の滅亡が知らないうちに間近にまで迫ってきているという危機感を深くした。
しかし、固い話はそこまでで、以降は人間たちとの交流を深めるためのパーティとなった。幸い、街の災害時の食料庫は
地下にあったために無事であり、市民全員に簡素ながら食事が支給された。すでに周辺の街や村には使いが出されており、
物資は明日にでも届けられるだろう。
明日からは、目が回るほど忙しくなる。だが今日くらいは、歴史に残るであろう記念日の今日くらいははめを外しても
いいのではないか? もう誰も友なのだから。
水精霊騎士隊、銃士隊は大歓迎され、あちこちで酒の席に呼ばれた。そこで、ギーシュをはじめ猛者たちが残した
武勇談の数々は、列挙していたらそれだけで本が一冊できあがるだろう。銃士隊は、男顔負けの勇戦ぶりと、救命を
受けた人たちから褒め称えられ、気を抜く暇もないと皆ため息をついていた。
コルベールやエレオノールは、この機会にエルフの進んだ技術を学んでおきたいと望んだが、せっかく平和の使者として
来たのにそんなことをすればスパイのようなものだと、残念ながら自重した。
ルクシャナは、ハルケギニアでの自分の活躍っぷりを大声で吹聴してまわっている。これまでネフテスでは、自分の
研究が認められてこなかったので本当に楽しそうだ。聞くエルフたちも、これまで間接的な伝聞によって、しかも強い
偏見を混ぜた内容でしか知らなかったハルケギニアの様子を興味深そうに聞いている。
ひとり、ティファニアだけは疲れが限界にきたのか東方号でぐっすりと眠っていた。その傍らでは、ファーティマが
寝顔を眺めながらひとりで杯を傾けていた。不思議なものだ、あれほど殺してやりたいと思っていた相手なのに、
こいつに自分も含めてすべて救われてしまった。
そして……喧騒を離れて人気のない瓦礫の山の傍らで、静かに立つふたりの男女。
この世界の誰もの運命を変えた、原初のふたり。
「ようルイズ、どうした? 外交努力は貴族の責務じゃなかったっけ」
「うっさいわね、サイトあんた最近調子に乗りすぎじゃない? わたしにだって、静かに飲みたいときはあるわよ。
それに……そろそろ、あんたとも一度ゆっくりと話し合いたいと思ってたしね」
青と赤の二つの月は天頂に輝き、肌寒い砂漠の夜はまだ始まったばかりだった。
続く
今週は以上です。
第二部最終決戦、ラスボス戦終了しました。いや、最初にこいつを登場させようと思ったとき、どうやって倒すか試行錯誤しましたが、なんとか無事に終わってよかったです。
そして、人間とエルフの橋渡しも、ようやく第一歩を踏み出せました。コスモスは、第二部の最後に登場させようと前々から決めていましたが、それはコスモスが
異なるものたちの交流をテーマとしていたからです。現実の我々の地球は、ハルケギニアが目じゃないほど愚行を繰り返している世界ですが、それでも少しずつでも
前へ進んでいるという希望が込められていると思います。コスモスの最終回は、平成ウルトラシリーズの中でも特に忘れられません。
さて、バトルパートは終わって、二部の残りは心の交流に移ります。主人公とヒロイン、ふたりの成長もこの作品のテーマのひとつですが、私なりに彼らの
人生をつむいでいこうと思います。
代理ここまで。連続投下ブロックってちょっと狭量すぎるんじゃね?別に荒らしてるわけじゃじゃねーぞ?
ウルトラ代理乙
ウルトラの人、代理の人乙
17 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 22:56:18.05 ID:wVT0/lh3
ウルトラの人も、代理の人も投下お疲れ様です。
さてでは、一週間ほど空けてしまいましたが、予定がなければ11時から投稿の方、
始めさせていただきます。
18 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:01:21.71 ID:wVT0/lh3
それでは、始めます。
「…そうですか…ワルド子爵が…」
トリステインの城の中、王女の一室で報告を聞いていたアンリエッタが、震える声で言った。
アルビオン脱出の後、ルイズ達はその足で、直接城へと向かい、アンリエッタに報告をしに行ったのだ。
突然の来訪なので、城内の警固兵達は騒然としていたが、直ぐにアンリエッタの使いだとわかると、ルイズ達を城内へと招き入れた。
そして、ルイズと使い魔の剣心は、そのままアンリエッタの部屋へと案内され、この旅についての報告を聞かされていた。
第二十三幕 『これから』
「それで…旅のほうはどうでしたか…? 何か起こったりとかは…」
ルイズは、話を聞かせた。この旅で起こったこと全部、包み隠さず。
手紙の奪還の任務は成功したこと、ワルドは反乱軍の一員だったこと、その戦いの中、ウェールズはルイズを庇って…死んでしまったことも。
「姫殿に、ウェールズ殿からの言伝でござる。『悲しまないで…君は幸せに生きて欲しい』…と」
「…そう…です…か」
剣心が、死に際に遺したウェールズの言葉を、しっかりとアンリエッタに伝える。それを聞いた彼女は、只々呆然としているようであった。
「殿下は、わたしを庇って…それで…」
それを見て、ルイズの目には涙が溜まっていった。自分を庇ったりしなければ、彼は死ななかっただろう。
「わたしが…もっとしっかりしていれば…」
その事実が、ルイズを苦しませる。
自分の果たした役目は、手紙を渡したことだけ。この旅自体、ルイズは誰かに助けてもらうばかりで、なんの役にも立てていない。寧ろ足を引っ張ったことぐらいしか思いつかなかった。
「姫さま…わたしは…」
「いいのです。ルイズ」
しかし、アンリエッタはルイズの心境を察すると、悲しげながらも、笑顔をたたえて、ルイズの頬に、優しく手を触れた。
「いいのよ…思えば、貴方にこのような辛い仕事を頼んだのは私なのだから…非があるのは寧ろ私の方…裏切り者の子爵を随伴させたのも…殿下を死に追いやってしまったのも…」
「…姫さま…」
アンリエッタは、泣き出すルイズを抱きしめた。それにより、ルイズも、溢れんばかりの涙を流し出した。
「御免なさい…姫さま…私…」
「もう何も…言わないで…貴方だけでも、無事に…帰ってきてくれたんだから…」
アンリエッタの頬からも、涙が流れ出す。
しばらく、二人は抱きしめ合いながら、子供のように大声を上げて泣き出した。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
剣心は、その様子をやりきれないような表情で見守っていた。
「それで…姫さまに、これを…」
「まあ、それは…」
その後、ルイズはアンリエッタに、この騒ぎの元凶である手紙と、形見の『風のルビー』を手渡した。
「殿下の、その…形見として」
「そう…」
アンリエッタは『風のルビー』を受け取ると、それを指にはめこんだ。
サイズが大きすぎたのか指に合わなかったが、アンリエッタが呪文を唱えると、指輪はすぐピッタリに収まった。
「貴方達の功績のおかげで、このトリステインは救われました。それだけでも、充分すぎる程ですわ」
「しかし…」
「だから私も…彼の言葉を信じて…少し、立派に生きてみようと思います」
逆にアンリエッタは、この度のお礼として、ルイズに渡した『水のルビー』を、そのまま与えることになった。
そしてルイズ達は、王宮を後にして学院へと戻ることとなった。
19 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:02:22.74 ID:wVT0/lh3
「ねえ、ケンシン……」
「…なんでござる?」
帰る途中、シルフィードの背中に乗りながら、ルイズは思った。
自分の誇りだけでなく、もう誰も死なせないように、誰も悲しまないように、守れる力を手に入れたいと。
隣にいる使い魔と同じくらい、頼りにされる貴族に、自分もなりたいと。
「わたし、もっと強くなりたい」
「……………」
「誰ももう、死なせないくらいに、もっと、強くなりたい」
「…そうでござるか…」
剣心はそう言って、ルイズの頭を優しく撫でつけた。ルイズは内心嬉しかったが、その度にいつも思う。
(どうして私は…魔法を使うと爆発するんだろう…)
ルイズは、そう考えながら、遠くに写る懐かしきトリステイン学院を見た。
それを背景にルイズはまた、剣心の隣に寄りかかって、また少し眠りについた。
(これで、本当に終わったのだろうか…?)
同じくシルフィードの上に乗る中、寝ているルイズに寄っかかれながら、剣心はそんなことを考えていた。
キュルケやギーシュも、恐らく疲れが出たのだろう。互いに背もたれになって寝息を立てている。
ただタバサだけは、こういうことに慣れているのか一人本をパラパラとめくっていた。
そんな中ふと思い出すのは…ワルドのあの言葉…。
(人斬り…抜刀斎か…)
このもう一つの名前を知っているということは、確実に自分を知る誰かと接触があったのは間違いなさそうだった。
(しかし、一体誰が…?)
だが自分を知る者にせよ、間接的に知った者にせよ、このままずっと平和でいることは、恐らくできないのだろうとは思った。
いやむしろ、これこそが『始まり』な気がしてならなかったのだ。
「なあ相棒。一つ聞きたいことがあったんだが、良いか?」
そんなことを考える内、今度はデルフが鍔を上げて剣心に言った。
「何でござるか?」
20 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:04:03.79 ID:wVT0/lh3
「相棒、何であの時力を開放しなかったんだ?」
それを聞いて跳ね上がったのはタバサだった。本を落とし、唖然としたような目で剣心を見る。
「まだあれで…本気じゃなかったの…?」
「いや、本気…っつうか、ルーンの力だな。相棒があの時ぶち切れてたのは知っているよな?」
あの時…タバサは刃のように鋭く光る目をした剣心を思い出して、少し身震いをした。
「あれをきっかけに、ルーンが強く輝いたのは確かなはずさ。
けど相棒の奴、それをどうしてかずっと抑えつけてたんだなあ、これが。おかしいだろ?」
それを聞いて、タバサも同じように疑問を持った目を剣心に投げかけた。
「そんな、大したことではござらんよ。ただ………――――」
剣心は、少し困ったように…でも、何処か遠くを見るような目で、口を開いた。
「もしあの時…怒りのままにルーンの力を開放していたら、やっとのことで見出した自分の大切な『答え』が、
そのルーンによってかき消されてしまいそうな…そんな予感がしたのでござるよ」
剣心は、ふと左手に刻まれたルーンに目を落とした。ウェールズを殺された時…怒りと共に沸き上がったあの感情…。
それを思い出し、少し憂鬱そうな表情をした。
「…そのために、力を捨てるの?」
タバサは、どことなく悔しさを滲ませたような口調でそう言った。
「タバサ殿から見れば、確かに理不尽を感じるかもしれぬでござるが、少なくとも拙者には、もうそのような力は必要ないでござるよ」
「分からない。私はもっと強さが…力が欲しい」
そして、懇願するような目でタバサは剣心を見つめた。その目はまだ、「飛天御剣流を教えて欲しい」と、剣心に語りかけてきた。
その目を真正面から見据えながらも、それでも剣心は微笑んでタバサに告げた。
「今はそうでも、分かる時が来るでござるよ。タバサ殿にも、絶対に」
「…あの人と、まるで正反対」
「おろ?」
「…何でもない」
そう言うと、タバサは再び本を取り、静かに読書の続きをはじめる。そんな彼らを他所に、トリステイン魔法学校が刻々と近付いていった。
21 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:06:28.45 ID:wVT0/lh3
さて、所変わって―――場所はアルビオンへ。
「…アルビオンも、遂に終わりか…」
反乱軍『レコン・キスタ』による、アルビオン打倒から、数日が過ぎた。フーケは瓦礫と化し、死臭と煙が漂う城を、それとなく眺めていた。
周りでは、飴に食いつくアリのように、掘り出し物を探し出す兵達の群れがいる。しかしフーケは別段興味がなさそうに、元礼拝堂のあった所まで足を運んだ。
「どうだ? 腕の状態は…はっきり言ってくれ」
そこでワルドは、どうやら水メイジであろう医者に、腕の状態を見てもらっているようだった。
水メイジはう〜ん、と悩むような唸り声をあげて腕を看ていた。
「しかし…複雑な叩き折られかたをされてますな…骨格や筋の神経がこれ程ズタズタでは、直せたとしても今までのように杖を振るうのはもう……」
「そう…か…」
それを聞いたワルドは、がっくりと肩を落とした。深刻そうに顔を伏せるのを見て、フーケは思わずクスリと笑う。
「あんたもそう言う顔するんだねえ。感情が出るタイプ?」
「余計なことは言うな。俺は今、別の物を探しているんだ」
そう言ってワルドは立ち上がると。おもむろに慣れない手つきで杖を振るった。
瓦礫の一枚が宙に舞い、その中に出てきたのは、フーケにとっては久方振りに見る、ウェールズ皇子の死体だった。
「やあやあワルド君、ウェールズ皇太子と件の手紙は見つかったかね?」
すると、そんなことを言いながら、男が一人、ワルド達の元へとやって来た。
一見、聖職者のような格好をしているが、その顔は神に祈る者とは程遠い歪んだ表情をしていた。
(何だ、コイツ?)
フーケは、胡散臭そうな目で男を見ながら、ワルドとのやりとりを静観していた。
「皇太子はこの通り、ですが、件の手紙は残念ながら…」
「良い良い。敵将を討ち取っただけでも、君は素晴らしい働きをしてくれたよ」
営業スマイルの様な笑みを浮かべている男は、ふと気付いたように今度はフーケの方を見た。
「子爵、この麗しい美人は誰なのかね?」
「彼女が、かの有名な『土くれ』のフーケです」
「おお、彼女がそうか。噂は予々、ミス・サウスゴータ」
フーケは思った。どうやら、自分の名前を教えたのは此奴のようだと。
すると男は、今度は恭しい仕草で礼をしながら、こう自己紹介した。
「『レコン・キスタ』の表向きの指揮。及び、十の杖を掲げる者…『十本杖』の一人。
主に軍事の管理と雑務を任されている、オリヴァー・クロムウェルだ。以後お見知りおきを」
「…表向き? 『十本杖』…?」
また新たに増えた言葉に疑問を覚えるが、その前にクロムウェルはおどけた様子で続けた。
「まあ、マチルダ君はまだ新参だから知らんのも無理はない。だが君ほどの有名人なら、いずれはその末席に加わる日も近いことだろう。これは大変名誉なことだぞ!!」
そう言ったあと、今度は愉しそうな表情でクロムウェルはワルドに話す。
「そして聞いたよワルド君。君もいよいよ、その栄えある『十本杖』の一員になることが決まったそうじゃないか!!
君は影で色々手柄を立ててもらったからねえ。いやこれはめでたい事だ!」
「しかし、その昇進は辞退せざるを得ないでしょうな…此度の任務で三つあった目標の内、ウェールズを亡き者にする以外に果たすことはできなかった上に…この怪我では…」
と、ワルドは悔しそうに、無様に巻かれている包帯の腕を見下ろした。
「何、シシオ様はその程度の事、露ほども気にしてはおられないよ。ゲルマニアとの同盟など取るに足らず。我々が今必要なのは何か、君だって知っている筈さ」
「『弱肉強食』、という名の下の力の結束。そうでございましょう?」
「その通り。だが、我々が求めるのは、どこまでも飽くなき『力』という一点のみ。結束など後からついてまわる。何よりも束ねるのは、全てを統べるのは、結局のところ『力』…。
そう、全ては『弱肉強食』なのだよ!! その前には同盟など、矮小で些細なものさ」
熱弁するクロムウェルの表情は、どこか滑稽な印象は拭えなかったが…言う言葉には妙に力が篭っていた。上辺だけを語るにしては…余りにも饒舌すぎる。
そして…この会話で出てきた言葉を、フーケはワルドに尋ねる
「ねえ、シシオ様って?」
話から聞くに、恐らくそいつが『レコン・キスタ』を、本当に束ねる統率者の名前であろうというのは、何となく理解できた。
まあ確かに、クロムウェルにこの軍をまとめるような力は無いことは…というよりそんな器にまず見えなかった。
そんな時だった。
「よう、抜刀斎に派手にやられたそうじゃねえか、ワルド」
22 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:07:37.72 ID:wVT0/lh3
刹那、溢れんばかりの光が、ウェールズを包み込んだかと思うと、その身体に、生気を宿し始めた。
そして、本来二度と自分で開くことのないだろう瞼を、ウェールズはゆっくりと開けた。
「おはよう、司教、そしてシシオ様」
フーケは唖然とした。ワルドも驚いたように口を開く。死者が生き返る魔法なんて、聞いたこともなかったからだ。
「これは…一体…?」
「これが、私の能力…所謂『虚無』の魔法さ」
自慢するように語るクロムウェルの言葉に、フーケは再び愕然とする。伝説の『虚無』の魔法を、この男が…と。
しかし、普通ならばありえないような光景にも関わらず、志々雄だけは、これを本当にどうでもいいかのように見ていた。
まるでこの光景を何度も見てきたかのように…。
「そんな事より、使えるかどうかの問題だ。なあオリヴァー」
「安心してください、これさえあれば、きっとシシオ様のご満足いく結果になろうかと」
「なら任せる。あとてめえには、ここで『皇帝』を名乗る地位をくれてやる。どのみち俺には必要ない」
他のものを求めるかのような口調で、志々雄は言った。
その眼に映るもの、それは野望。大国アルビオンを手に入れたぐらいでは、決して揺らぐことのない欲望の炎を、その男の眼の中に宿していた。
もっともっと大きな野心…それは『統一』。
ハルケギニアを一つに纏め、エルフ達の住まう聖地をも巻き込んでの、自身を頂点に強者のみが生きる修羅の世界を作り出そうとしている、そんな眼。
何より恐ろしいのは、そんな野望を抱いているにも関わらず、初対面のフーケに対しても隠そうとしない堂々さにあった。
「ありがたき幸せ。それでは早速、私は準備に勤しむとしましょう」
そう言って最後に軽くクロムウェルは頭を下げた後、ウェールズを連れてその場を去っていった。
23 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:09:56.06 ID:wVT0/lh3
すみません間違えました。これはレス21と22の間になります。
「ッ!! シシオ様!!! いらしておいででしたか!!?」
不意に聞こえてきたその声に、ワルドは反応すると、弾けた様に片膝をつき、その声のする方へと頭を下げた。
指揮官であるクロムウェルもまた、恭しく礼をする。
「何? どうしたの…?」
フーケはそう思って、声の主をその目で見て……。
「………なっ…!!?」
かつて無い戦慄を、フーケはその身に感じた。
今新しくフーケの前に現れたのは、包帯で全身をくまなく覆っている男だった。
腕、胸、足、そして頭まで、火傷の痕を隠すかのように巻かれた格好に、その上に長すように着る青い着物。
腰には刀、そしてフーケ達を見る目は、ここの誰にも出せない雰囲気を醸し出していた。
桁違いの気迫、想像以上の覇気。本当の地獄を知っている眼。
「……ひっ…」
フーケは小さな悲鳴をあげ、吸い込まれそうなその眼を、直視できずに顔を伏せた。いつの間にか顔には冷や汗が垂れている。
(違う…コイツは…本物だ…)
フーケですら、会って間もない彼に対し、畏怖の心を抱いていた。そうさせるだけの力が、彼にはあった。
「シシオ様、わざわざここまで、お越しになられて」
「んな面倒な挨拶は要らねえよ。とっとと用を済ませるぞ」
志々雄、そう呼ばれた男は、鬱屈そうにクロムウェルを顎でしゃくった。
「かしこまりました。では…」
クロムウェルは、畏まるような態度をとると、ウェールズの死体の前に立ち、手をかざした。
その手には、指輪の様なものが嵌められていた。
しばらく、クロムウェルは聞いたこともないような呪文を唱えると、ウェールズに向かって杖を振った。
24 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:12:29.93 ID:wVT0/lh3
「んで、どうだったワルド。祖国に堂々と見切りをつけたこの旅は、楽しかったか?」
「いえ…それより申し訳ありませぬシシオ様! 果たすべき任を満足にこなせなかったこの罪、処罰はなんなりと受ける所存…」
後に残された志々雄は、そう言って平伏するワルドの、その折れて包帯で保護している腕を見て、どこか含んだ笑みをした。
「別にいいさ。まあお前が言っていた、抜刀斎を呼んだっていうルイズって小娘には興味があったがな…。で、どうだ? お前から見て奴の腕は」
「この通り…シシオ様の仰っていた結果になりました」
立ち上がり、折れた腕を見せながら、ワルドは苦々しげに言った。
「奴は、ここでは『ガンダールヴ』とか呼ぶんだったな。何でもそいつは、一人で千の軍隊相手にやりあったそうだが」
「伝説…と言われておりましたが、少なくとも今はそうは思いません。あの男は、将来我々にとって、とてつもない大きな障害となるでしょう」
それを聞いて、志々雄は獰猛な笑みを浮かべた。国盗りを楽しむ彼が見せる、もう一つの顔。『剣客』としての笑みだった。
「しかし……今は同盟の件をどうなさいましょうか? 私に出来ることであれば、何なりと…」
改めて畏まった態度でワルドは頭を下げる。志々雄は彼の謹直さを、どこか面白そうにしながらも言った。
「安心しな。同盟ったって直ぐには繋がらねえ。こんなこともあろうかと空軍はもうすでに準備を始めさせていたトコだ。だから余計な心配は無用だ」
「しかしそれでも!! 些細なことでも構いませぬ。私に汚名をすすぐ機会を…」
「分かった分かった。後でオリヴァーに仕事でも頼んでおいてやる。まあ、俺が見ているのは、トリステインなんてチンケなものじゃねえがな」
それを聞いたワルドは、どこか緊張した面持ちで志々雄を見上げる。
「では、シシオ様は、あくまであの男との決着の方が、国盗りより大事だと…」
「ま、平和ボケして腕が鈍ってないようなら何よりだ。俺もここで多少なりに『腕』を上げたからな。それに見合うだけの力は得て欲しいもんさ。
そうすりゃ今度こそあの時つけられなかった『決着』をつけられるってもんだ。
フフフ…ハハハハハハ…ハァーーーーーッハッハッハッ!!!!!」
最後にそう言うと、志々雄は高笑いしながら悠然とその場を去っていく。フーケのことなんか、すっかり眼中にないようだった。
「あ…あいつは何者なんだい…」
遠くに写る、志々雄の後ろ姿を見ながら、フーケは興奮冷めやらずといった感じで聞いた。
まだ緊張が抜け出ていないのが、自分でも分かっている。
「シシオ・マコト様だ。あと、シシオ様に向かってそんなに軽々しく口を叩くな。俺の気に障る」
「え、あ、ゴメン…じゃなくて!! 説明してよ! 分からないことだらけでさ!!」
堰を切ったようにまくし立てるフーケを見て、ワルドはやれやれと言わんばかりに口を開いた。
「俺も詳しくは知らん。ただ一つ言えることといえば、シシオ様は…あの抜刀斎と、あとそこにいる奴と同じく『別の世界』から来たこと位だ」
そう言って、ワルドは向こうで優雅に煙草を吸っている黒笠を、顎でしゃくった。
「……『異世界』…抜刀斎…?」
疑問が増える返答に、フーケは首をかしげる。抜刀斎の意味は分からないが、恐らくそいつは、剣心の事を指すんじゃないかというのは分かる。
異世界については…言葉の意味はわかるが常識でついつい否定してしまう。
「俺もシシオ様から聞いたことだから、確信めいたことは言えんがな」
ここでワルドは言葉を切った。フーケが、話について来ているかどうかを確認するためだ。
フーケは、そんな彼を見やりながら、ワルドの言葉を聞いていた。
「あんた…もしかしてそんな話を信じているのかい?」
「シシオ様がそう仰られたんだ。俺は信じるさ。それに…お前だって完全に否定しきっているわけではないだろう?」
…そう言われると、確かにそうだ。
理性の面ではまだまだ、何を馬鹿な…と言いたくなるような内容ではある。しかし、それをどうしても頭ごなしに否定できない。
剣心に志々雄にあの剣客…。彼らからは、皆自分たちとはどこか違う…異質な雰囲気を醸し出している。
それがどういうことかは、具体的には表すことができなかったが、『異世界』から来たと言われると、どうしてか妙に納得してしまうのだった。
25 :
るろうに使い魔:2012/08/26(日) 23:20:00.84 ID:wVT0/lh3
「だが、そんな事はどうでもいい」
ワルドは、おもむろに杖を抜くと、兵士の一人を呼び寄せ、二言三言告げた。
兵士は、それを聞くなり正気を疑うような表情をしたが、ワルドの目を見て本気だと悟った兵士は、
言われたとおりに数人の、医療専門の水使いのメイジを呼んできた。
「…本気で…?」
「ああ。もうこの腕は元通りにはならんのだろ?」
「それは…まあ…ですが……」
この光景に疑問符を浮かべて見ていたフーケだったが、やがてワルドの行動に、今度は呆気にとられた。
「使えぬ腕など、無い方がマシだ」
そう言うと、ワルドは自分の折れた腕に杖を当て、風の魔法を唱えた。ドォンと、轟くような唸りを上げて、故障した右腕は吹っ飛んでいく。
直ぐ様、流れるように溢れ出る血を、メイジたちが呪文で押しとどめた。
「あ…あんた、何してんの!!?」
苦しそうに、痛みで汗を流しながら治療を受けているワルドを見て、理解できないとばかりにフーケは叫んだ。
しかし、ワルドはうわ言のように呟く。
「これは俺への罰さ…。シシオ様のお役に立てなかった自分への…。
それに俺は…立ち止まる訳にはいかない…少しでも…シシオ様の強さに…シシオ様の忠義に…」
「あんた…どうかしてる…わ…」
どうやら、完全にワルドは、志々雄に心酔してしまっているらしかった。
フーケは、改めて恐くなった。『虚無』の件もあるのだが、それ以上に、ワルドですら心酔させてしまう志々雄の底の深さに。
そして、あの時牢屋で聞いた言葉が、本気で実現してしまいそうな悪寒に…。
ハルケギニア統一、『聖地』の奪還、そして修羅の世界の創造。フーケの中ではもう、それを単なる絵空事で片付けることは出来なくなってしまった。
(私…本気で…ヤバい奴等に…ついて来てしまったのかもしれない…)
ふと、フーケの脳裏に蘇ったのは、今このアルビオンにひっそりと住む、とある少女の面影だった。
弱肉強食の世界に生まれ変わる中、あの娘はこれからも、無事に生きていくことは出来るのか…と。
「――――テファ……」
これにて終了です。先週は投下できずに申し訳ありませんでした。
おまけに順番もミスってしまいましたが…ともあれ、ようやく志々雄様を出せました。
彼等がどうハルケギニアを動かしていくのか、楽しめたら幸いです。
ちなみに志々雄の配下十人は、この時点でちゃんと決めています。それもおいおい明かしていけたらなと思います。
それでは今回はこれで、今週は一本だけになりましたが、来週からは普通に二本上げていきます。
本日はどうもありがとうございました。
投下乙!
乙
志々雄きた!
るろうにの人乙
乙でござる
いくら強いといっても剣士がメイジに勝てるとは思えんのだが
デルフがあるならともかく肉壁で二三人犠牲にしてレビテーションかければ詰みでしょ
レビテーションの有効射程も補足性能も分かっていない
杖を向けられたらサッと二、三歩バックステップするだけで目標をロストして失敗するのかもしれない
少なくともゼロ魔本編で戦闘時にレビテーション使って楽勝とか言う戦術をとった奴はいない
一応風系統で浮かせている設定だから、フライにしても目標ロストはないだろう、目視できている限りは
目視できている限り目標をロストしないという根拠は?
射程は目視できる範囲全てだと?
なら数百m離れた目標にも掛けられるのか?
それだったら無敵だと思うが
レジストができない魔法だという根拠もない
スリープクラウドは抵抗できることが分かっている
なんでそう極論に持ってくのかねえ
バックステップ程度で目標ロストについて言及しただけなのに
それと浮かせる魔法であって、抵抗力は関係ない、体重が重いと苦労するだろうけど
あとは設定スレで論じてくれ
>>34 その通り、モノを浮かせる魔法だ
避けようとする人に掛ける魔法じゃない
だから少し動いただけでも失敗してしまう可能性は大いにあると言ってるのだがな
もし動かれても失敗しない、抵抗もできないのなら戦闘で大いに使われているはずじゃないのか?
だが原作では先述の通り、そんな使い方はされてないのだよ?
自分自身を浮かせるのに使う事もあるが、当然自分を浮かせる場合避ける意志なんてないからな
勿論私が言ってるのも推測ではある
しかしそのように考えることもできる以上、
少なくとも「剣士がメイジに勝てるわけがない」などと断定するには至らないということだ
よくわからんけど、相手が剣士だとしても懐に銃とか投げナイフとか持ってないとは限らないよね?
浮かせたらすかさずナイフ投げられて自分がやられるかもしれないし、かわしても精神集中が解けて呪文切れちゃう
殺傷力の無いレビテーションで不確実な無力化するより、その時間でファイアボール唱えて焼き殺す方を普通は選ぶんじゃないかな
るろうに乙
あと議論は余所でやれ
>>35 シリアスなシーンじゃないけど使ってたような記憶があるが読み返して確かめる気力がない
アニメのほうかもしれんし
9巻でモンモンがギーシュを浮かせて連行してたシーンのことかな
もっともその前の水玉で顔を覆って窒息させるほうが凶悪に見えたが
ID:vQAYhD/mは最高にばかだな
逆に一周まわって尊敬するわ
ゼロ魔好きなのは伝わった
アニエスさんは剣でメイジを倒してますやん。ファイアボールかなんかを水袋で対抗する小細工をしたような気がするけど
せめて前スレでやれ、どうせ埋めるだけだから
ジャック・スパロウ……海賊を陸にあげてもしょうがないな
まあTRPGなんかでテレキネシスとかの宙に浮かせる系の呪文は、
生物とかその所持品に対して掛ける場合は大抵抵抗なり回避なりが可能だね
シエスタって原作とアニメじゃ全然容貌が違うよねえ
そんなにナイズバディじゃないし顔にはそばかすがあるはずなんだが…
まあ原作も文章と挿絵の容姿はなんかあってないような気がするけど
るろうに乙!
タバサは10本に入ってるんだろうか?
続きが気になるぜ
へっぽこのサイト+ガンダールブですら
よほどでたいと不覚を取らないんだから
ほぼ、超人レベルの少年漫画系の剣士なら愚問だろ
剣心って数m先の刀拾うのに10秒かかって、20km/h程度の馬車に追いついて速いって言われる世界だよね
>>50 二重の極みとか疾空刀勢とかやっちゃう世界で野暮な事を
新選組で実力的には4〜5番手だった斎藤一が最強クラスの作品なんだから、
全体のパワーバランスは押して知るべき
>>50 アレ? 刀拾う件に関しては、より明確には『刀を拾う+そこから敵に斬り掛かる』時間が10秒じゃなかったっけか?
馬車は……まぁ、時速20km/hじゃ100m走の選手の方が早い位だわなぁ。(奴等時速30km以上とかザラだし、トップスピードは40超える選手も)
まぁ仮にあの時点で馬車を相当飛ばしてたとしても精々30km/hだろうから、オリンピック選手程度の走力があれば追いつける事になるけど。
そしてふと思ったんだけど、あの時代の草履って、今の靴に比べて歩きは兎も角走り辛そうだよね……。
……って、馬車の最高時速が20km/hだったか。そうなると大した事無い気がしてきた。
結局切り掛かってなかったから、般若が十秒の時間を稼げてないか剣心が立ち止まったかだな
怪我してるとはいえ、数十mの距離を十五秒とか十秒ってのは相当遅いと思う
現実のスポーツ選手でも十秒あれば百m走れる、五十mでも六秒弱
漫画なら刀の元まで一秒、拾って一秒、斬り掛かって一秒の合計三秒くらいでもいいのに
外印がハルケに行ったら相当えげつないものを作る気がする。アンドバリの指輪と組み合わせれば生きた夷腕坊やキメラドラゴンの完全版も作れそう
元々創作意欲旺盛な奴だし、戦乱のハルケは外法者にとって天国だろう
ちょっと失礼
>>23に誤字を見つけたのだが「流すように着る」→「長すように着る」
wikiにあげられた作品に誤字脱字があったら修正してあげるべきかな?
走る事自体が一種の特殊技能だった気がするが江戸時代
草鞋のうえに袴、腰には左側だけに日本刀ぶら下げてるんだから、剣士系の人は相当走りにくいとは思う
でも包帯マキマキ曰く「目にも写らねえ速さ」の縮地使いがいるけど、彼は時速何kmで疾走るんだろう?
動体視力が悪いんだろう
あんまり細かく考えてもなぁ…
目線と銃口を見るだけで射線が完全予測できるほど正確な拳銃とか
鋼鉄鎧ぶっ叩いても土龍閃とか使ってもびくともしないほど頑丈な刀とか
鉄鋼船の装甲ぶちやぶる玩具みたいな手投げ弾とか
少年漫画時空ってことでいいじゃんもう。
きっと物理法則が違うんだよあの世界。
取りあえず完全にならされたトラックを走る現代アスリートの数値で考えるのはナンセンス
短距離走と持久走と瞬間的な加速を一緒に語るからおかしくなってる予感
タングルテールの虐殺でコルベールを目撃したアニエスが狂経脈を得てメンヌヴィル一派を皆殺し
なんてのを夢想した
もしガチでアニエスとコルベールが対決したらアニエスに勝ち目はあるだろうか?
ちょっと聞いた話だけれど、昔の飛脚って左之助みたいにとんでもない距離を走れたらしい。
具体的な距離とかは↓のひとyoro
時代劇だしなぁ。
吉良上野介がメカ戦仕掛けたりジンサンがシリウスB叩き斬ったり上様がライダーと戦ったり師走先生が百万円寄付したりロリペタ義経がウィキで調べないと妻の事を思い出さなかったりした挙げ句、
ホームズが蘭学で言う超常現象を否定すると無かった事になるからそれでいいんだ。
その調子で竜から飛び降りたルイズにレビテーションかけたシーンの解説も頼む
細けえことはいいんだよ
凄みで納得させるのがプロやで
>>66 義経と言われると奇声を上げながら回転するほうを思い出す
まあこれ以上は毒吐きだな
72 :
代理投下 :2012/08/28(火) 21:28:10.92 ID:4EX4tVqv
皆さんこんばんわです。もし予約がなければ30分頃から
The Legendary Dark Zeroさんの33話の代理投下をさせていただこうと思います。
それでは始めます。
Mission 33 <光と影の魔弾>
トリスタニアにおけるネヴァン撃退から魔法学院に戻ってきたルイズはその一件で杖を失ってしまったため、新調をしなければならなくなった。
その間、授業に出ることはできても実技を受けることはできない。無論、スパーダの指導の下にバーストの魔法を特訓することもできないのだ。
もっとも多少のコモン・マジックは使えるようになったとはいえ、未だ系統魔法は使えず爆発しか起こせない以上、実技を行なってもあまり意味のないことなのかもしれないが。
メイジの命とも言える杖を失ったおかげで他の生徒達からまた「ルイズのやつが杖を無くした」「これで正真正銘、ゼロのルイズだ」
などと馬鹿にされてしまうことになってしまい、その度に以前のような悔しさに唇を噛み締めることになった。
新しい杖が出来上がり、ルイズの元に届くまで軽く一週間近くはかかるだろう。それまでルイズはこの屈辱に耐えなければならない。
その間、一体自分に何ができるのだろうとスパーダに相談してみたらこんな答えが返ってきた。
「詔はできたのか?」
……そう。すっかり忘れていた。
親愛なるアンリエッタ姫殿下とゲルマニア皇帝との結婚式までもう時間がない。
巫女に選ばれたルイズはそこで読み上げる詔を未だ完成させてはいなかったのだ。
とんでもない事態に陥ってしまっていることにルイズは慌てた。
何せ、せっかくアンリエッタ王女が自分を信頼して巫女に選んでくれたというのに何も考えていませんでしたなどと言えるわけがない。
いくら最終的に宮廷の貴族達が推敲して手直しをしてしまうとはいえ、昔からのお友達であるアンリエッタの思いを裏切ることになってしまうのだ。
何としてでも自分でも詔を考え作成せねばならない。
スパーダは非協力的……というより、彼自身がそうした分野に一切関心がないために頼りにすることはできない。
結果、食事と入浴を除き授業も休んで寮の自室に閉じこもってしまうことになってしまった。
始祖の祈祷書≠ニアンリエッタ王女から頂いた水のルビー≠手に、詔を作るべくルイズは全神経を集中させていた。
ルイズが詔を考えるためにしばらく一人にして欲しいと言ってきたため、スパーダは就寝以外は女子寮に戻ることはなかった。
よってその間、いつものように男子達に剣術の手解きを行なったり、魔界との繋がりを見つけようと図書館で書物を読み漁るといういつもと大して変わらない時間を過ごしていた。
相変わらず図書館ではハルケギニアと魔界との繋がりに関してあまり進展がない状況であったが。
そして魔法学院に戻ってきてから四日後の夜、学院の人間がほぼ寝静まった頃、スパーダは一人ヴェストリ広場を訪れていた。
他に誰も人間の気配がないことを確認すると、ぽつんと備えられているベンチに腰掛け背凭れに左肘を置く。
(こいつに聞くのは癪だが……)
顔を僅かに顰め、スパーダは正面に右手をかざす。
掌から透けるようにして小さな光球が現れると光が徐々に膨れ上がり、その形を変えていった。
光が晴れると、そこには一振りの大鎌――先日戦利品として手に入れた魔具、電刃ネヴァンが微かに紫電を纏いつつ静かに浮かび上がっていた。
この魔具は見た通り、そのまま鎌として扱う事も可能な武器であるが同時にハープなどのような弦楽器として演奏もできる変わった一面を持つ。
言い換えてみれば、この武器は暗器にもなるということを意味している。
もちろん、スパーダに音才などないし、弾いてみる気もないのでそのまま武器として使わせてもらう。
支援
ネヴァンの大鎌をじっと見つめていたスパーダだったが、突如その本体が影に包まれていく。
やがて周囲には無数のコウモリ達が飛び交いだし、影へと集まりだしていた。
影はさらに形を変え、人の姿へと変わっていく。コウモリ達はその人影を包むようにしてさらに密集していく。
「んん〜……やっと二人きりになれたわねぇ」
感嘆に唸る女の声が妖しく、艶かしく響き渡る。
スパーダの前に現れた赤毛の髪に土気色の肌をした魔女が妖艶の笑みを浮かべていた。
闇夜に浮かぶその姿は深淵の魔女、妖雷婦ネヴァンの魔性の色香をより一層際立たせている。
コウモリ達のドレスを優雅に躍らせながらベンチの裏へ回り込むと背後からスパーダに抱きついてきた。艶かしい吐息が耳や首元に当たる。
「久しぶりに二人だけの時間が手に入ったんだから、一緒に楽しみましょうよ」
「そんなことはどうでも良い。お前に聞きたいことがある」
耳元で囁くネヴァンに対し、スパーダは冷徹に問いかけた。
「焦らないの……。せっかちな男は嫌われるわ……」
どこ吹く風と言わんばかりに甘い囁きをかけ、手を胸元に伸ばしてくるネヴァン。
だが、その手は高く澄んだ音が響いた途端にピタリと止まった。ネヴァンは宙に現れた数本の赤い魔力の刃、幻影剣の切っ先が全て自分を狙っているのを目にする。
『こいつぁおでれーた。こんな淫売女が相棒の元相棒とはなぁ。相棒もよく平気でいられるぜ……』
数本の幻影剣から一斉に響き渡るデルフの声。ネヴァンは嘆息を吐いて幻影剣を見つめていた。
「お褒めに預かり光栄ね。……その通り。私とスパーダは切っても切れない深い関係にあるのよ。
あなたにちゃんと体があれば、お相手をして教えてあげても良かったのだけれど」
『けっ、冗談言うない。てめえみたいな売女なんか相手にしたら身が持たねえだろうが。おととい来やがれってんだ』
「黙れ、デルフ」
スパーダはケンカを吹きかけるデルフとからかうネヴァンの双方を睨みつけた。
今、スパーダの元には三体の同胞が味方についている。
暗像魔<hッペルゲンガー。
妖蒼馬<Qリュオン。
妖雷婦<lヴァン。
この内、ゲリュオンとネヴァンはかつてテメンニグルと共に封じたはずの者達。
この世界にいるということは、彼女達は何かしら特別な手段でやってきたことになる。それが魔界とハルケギニアの繋がりに関わっているかは分からない。
だが、情報が少ない今はどんな些細なものでも欲しいのだ。
ゲリュオンは知性こそ高いものの人語を口にして意思相通ができるほどではないために話を聞くのは無理だった。
だからこそ、腐れ縁のネヴァンを味方に付けられたのはとても助かることだったのである。
早速、スパーダは彼女がどうやってハルケギニアへ姿を現したのかを尋ねてみることにした。
「さあ? 私も知らないうちにこの世界に来ていたものだからね……」
スパーダに覆い被さるように正面から抱きつき寄り添うネヴァン。幻影剣は未だ彼女の背後に浮かんで狙いをつけている。
「何?」
「私が最初に来たのはひと月くらい前かしら。東の砂漠に近い古城だったわねぇ。あそこは暑くて暑くて、たまったものじゃなかったわ。
だからすぐにこっちに来たのよ。それから暇つぶしにあのお店を開いていたわけ」
(ネヴァンでも気付かぬ内にこの世界に来ていただと? どういうことだ)
東の砂漠(サハラ)に近い、ということは恐らく彼女が最初に現れたのはガリア王国のことだろう。
「それに私だけじゃないみたいよ。この世界に来ているのは。スパーダも既にその一体を引き込んでいるはずだわ」
抱きついたまま耳元で囁くネヴァンの言葉にスパーダも唸った。
ゲリュオンやネヴァンがいるということは、他のテメンニグルに封じた上級悪魔達もこの世界に迷い込んでいるかもしれない。
アグニとルドラ、ケルベロス、ベオウルフ……。
いずれもかつてはスパーダと共に三大勢力の覇権争いを共に生き抜いた者達だった。
「そういえばあなたのお弟子さん達……黒い坊やはあの町をうろついているみたいよ」
「それは知っている」
「それにここへ来る途中、白い方のお弟子さんも見かけたわ。出会い頭に斬りかかってきたものだから軽くあしらってあげたけど」
モデウスが来ている以上、その兄であるバアルもこのハルケギニアに足を踏み入れているかもしれないと思っていたが案の定のようだ。
いずれ彼らと会い、話を聞かせてもらうつもりだ。
その時にはかつて交わした誓いを果たすために、剣を交えることにもなるだろう。
「そういうスパーダはどうやってここへ来たというのかしら」
顔を近づけ、スパーダの目を覗き込んでくるネヴァン。
スパーダはぐいとその体を押しやり、自分から引き剥がさせる。ネヴァンはつまらなそうに溜め息を吐いて両手を腰に当てた。
彼女に向けられていた幻影剣が全て地へと突き立てられる。
「あんな人間の小娘なんかと一緒にいちゃって……気に入らないわ」
「この世界の理に準じて呼び出されたまでだ。人間界で人間が我らを呼び出すようにな」
「それであんな小娘なんかの小間使いにされているわけ? ……魔剣士スパーダの名は泣くわね」
「何にせよ、彼女に手出しはさせん。無論、この学院の者達もだ」
腕を組むスパーダはじろりとネヴァンを睨みつけた。その冷たい視線に射抜かれ、ネヴァンはぞくりと震え上がらせる。
恍惚に酔った表情を浮かべると、再びスパーダの体に抱きついてきた。
「ま、いいわ。私はスパーダと一緒に刺激を味わえればそれで良いから。……気があるなら、夜伽のお相手をしてあげても良くってよ」
「さっさと元に戻れ」
誘惑を冷徹に一蹴、無視して命ずる。
まるで昔に戻ってしまった気分で、スパーダは頭が痛くなった。
アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式が執り行われる日より一週間前となるその前日であった。
「いでよ! ワルキューレ!」
その日の昼過ぎ、魔法学院正門前の広場にてギーシュは威勢よく造花の杖を振るっていた。
草地の上に散らばっていた数枚の花びらが彼の得意とする錬金によって次々と青銅のゴーレム、ワルキューレへと姿を変わった。
「こんなもので良いかい?」
「うむ」
頷いたスパーダはじっとギーシュの作り出したワルキューレ達を凝視する。
特にこれといった編成も取られておらず、バラバラに配置された六体の青銅のゴーレム達。スパーダは30メイルほどの距離をとってじっと睨みつけていた。
本塔の前には生徒達がギャラリーを作って集まり、これから始まるであろう余興に心を躍らせて期待していた。
彼は今、愛用の剣は手にしていない。閻魔刀はギャラリー達の先頭で眺めているキュルケに預けられている。
「ミスタ・スパーダが銃を?」
「あんな銃見たことないぜ?」
「いや、何でもゲルマニアから届けてもらった品らしいよ」
「剣の方が似合うのに、わざわざ銃を使うなんて……」
「本当にあれ銃か? 装飾は確かに綺麗だけど……」
生徒達はスパーダの手に握られている黒と白で彩られた鉄の塊を目にし、口々に話し合っていた。
それはほんの数十分前、詔を考えるルイズを邪魔しないように寮を後にしていたスパーダが図書館へと向かっている最中だった。
「今日も退屈のご様子?」
本塔の入り口でスパーダの前に現れたのは、ロングビルであった。
水の精霊の一件からしばらく口を聞いてくれなかった彼女であったが、先日のネヴァンとの一件の翌々日からいつものように接してくれるようになっていた。
ロングビルがその前日にトリスタニアの修道院へ立ち寄った際、ティファニアからネヴァンとの一件を聞かされたそうで、彼女はスパーダの役に立てたことを喜んでいたそうである。
学院に戻ってきたロングビルにスパーダの方から歩み寄り、ティファニアに助けられたことを感謝していた。
ロングビルもまた、正面から素直に大切な妹が世話になったと礼を返した。
ティファニアでさえ彼のために自分ができることを果たそうとしたのだ。そしてそれを果たしたことでスパーダからの信頼を手にすることができたのである。
その話を聞かされてしまっては、もう彼を拒絶する理由などなかったのだ。
こうして二人は以前のように学院で働く同僚のような関係に戻ったのである。
「まだ詔とやらは考えられてないみたいね」
「うむ。手助けをしてやろうにも、私にできることもなくてな」
「まあ、所詮宮廷のお偉方が手直しをしちゃうんだから深く気にしなくても良いでしょう?」
楽観的に答えるロングビルは気にした風もなく、徐に手にしていた杖を振るいだす。
すると、彼女の足元の脇に置かれていた小さな木箱がふわりと浮き上がった。
「退屈なあなたに届け物よ。ゲルマニアからだそうよ」
「……来たか」
スパーダはその届け物の木箱に眉を僅かに顰める。
木箱を受け取ると、表面に貼られている伝票にはゲルマニアの紋章が刻まれていた。
そして、同時に危険物。取り扱いに注意≠ニいう文まで記されている。
「一体何を届けてもらったの?」
「つまらん代物だ。礼を言う」
素っ気無く答えるスパーダは行き先を図書館から人気のないヴェストリ広場へと変更し、そこで中身を検めさせてもらうことにした。
ロングビルはスパーダの届け物が何であったのか興味はあったが、まだ秘書としての仕事が山ほどあるためにそれを一緒に見てやることはできない。
「ま、その内見せてもらうわ」
去っていくスパーダを見届け肩を竦めると、本塔内の次の仕事場へと足を運んでいった。
ヴェストリ広場のベンチに一人腰を下ろすスパーダは木箱を膝に置き、それをじっと眺めていた。
(たかが銃に1000エキューか)
箱に貼られた伝票に記されている金額にスパーダは溜め息を吐いた。
先日、ネヴァンとの一件から学院へ戻ってきたスパーダはすぐにキュルケを見つけて捕まえていた。
その時、キュルケは「あたしの愛に答えてくれる気になったの?」などとほざいていたが、もちろんそんな訳はない。
(やりすぎたからな……その報いか)
ネヴァンを制する際、スパーダは調達した短銃に無理矢理多量の魔力を込めて撃ち出したために反動に耐え切れず、銃身が砕け散ってしまった。
やはり元がこの世界の技術で作られたものであり、それに魔界の錬金術を加えただけでは耐久性にも色々と限界がある。それがはっきりした。
そこでスパーダは以前キュルケが話していたゲルマニアの名工、ペリ卿とやらに連絡を付ける方法を聞きだしていた。
その貴族は腕の良い銃職人であるらしく、ゲルマニアでは……いやハルケギニアではありえない革新的な技術を有しているという触れ込みだった。
特注で武器をあつらえてくれるそうなのでスパーダもそいつに依頼して自分専用の銃を作ってもらうことにしたのである。
その際、スパーダは以下のような注文を付けた。
1.引き金を引くだけでもすぐに発砲が行なえること。火薬への着火は必要なし。
2.短時間で大勢の敵を制するために一分間で数百発以上の連続射撃が行なえること。
3.極少量の魔力を弾丸として放てること。さらにその数倍の魔力も込められるのが望ましい。
4.それに伴い、銃本体がどれだけ撃とうが反動や衝撃で壊れないこと。外部からの障害に対する耐久性もあると尚望ましい。
5.確実に敵を仕留めるために従来の銃よりも確実な精密射撃を行なえること。
6.以上の要項の拳銃を二丁。左手用、右手用と別々にしてもらうのが望ましい。
……普通に考えればあまりにも無茶苦茶な要求であったが、今のスパーダが欲するのはそういった代物であるために駄目元でこのような注文にしたのである。
もしも注文どおりの物が作れない場合はどうなっていたのか分からないが、そのペリ卿とやらはほんの数日で返答を送ってきた。
今、スパーダの前にあるこの箱の中にその答えが入っている。
「どれ……」
スパーダは迷うことなく木箱を開き、中を検めることにした。
(……何だ?)
中に納められていた物を目にし、スパーダは目を丸くする。
そこにあったのは紛れもなく二丁の拳銃であった。
しかし、その造形はスパーダが今まで目にしてきた物とは明らかに異なる。
木製の部品が多い現行の銃と違い、これはほとんど全体が金属で構成されている。しかも冶金技術に優れるゲルマニアであろうと絶対に作ることのできない強靭な合金だ。
一つは黒くもう一つは白く、鈍く光を照り返すほどによく磨き上げられていた。
おまけに火薬に火を点けて弾を飛ばすだけという単純な構造ではなく、ずいぶんと複雑な構造で手が入っているようだ。
口径は恐らく45口径だ。前に使っていたのはおよそ50口径であったために小さくなっている。携行性を重視するのであれば特に問題はない。
大きさは約27サントと現行の銃より一回り小さく、携行性に優れる。その割には重くズシリとするが。
グリップ部分には木製のパーツが付けられているのだが、そこにはそれぞれ異なる美しい女性の肖像画が描かれていた。
造形だけでもスパーダを唸らせるほどの代物であったが、さらに目に付いたのは側面の銃身に刻まれている金色の筆記体である。
Luce & Ombra
人間界のイタリア語で光(Luce)と影(Ombra)を意味する言葉。恐らく、この銃の名前なのだろう。確かにその名を冠するに相応しい造形だ。
それがこの世界の文字ではなく、紛れもなく人間界の文字で刻まれていたのだ。
「ん?」
何故、人間界の文字で刻まれた物がここにあるのか疑問に思っていた時、箱の中にまだ何か入っていることに気付いた。
ぽつんと残っていたのは、小さな封筒であった。スパーダは手にしていた拳銃――ルーチェとオンブラを脇に置くと、その封筒を手にしまじまじと見つめる。
そこには同じく人間界の文字が記されていた。
魔剣士スパーダへ
驚きに目を見開いたスパーダは一瞬凍りつくとすぐに封筒を開け、中を検めることにした。
――そして、時は数十分後へと戻る。
スパーダは授業を終えたギーシュを呼びつけてワルキューレを作ってもらい、届けられたこのルーチェ、オンブラの拳銃の性能を試すことにしたのだった。
生徒達はスパーダがまた何かしでかそうとしていることを聞きつけ、こうして集まったわけである。
「ふぅん。あれがペリ卿の銃ね……」
閻魔刀を預けられていたキュルケはスパーダが手にするルーチェ、オンブラの銃を目にして嘆息した。
噂には聞いていたが造形がとても素晴らしい。ゲルマニアの名高い工芸家でさえあそこまで洗練された造形に仕上げるのは不可能だ。
異国から渡ってきたというペリ卿はあんな素晴らしい代物を仕上げてしまえることに心から感服していた。
スパーダはまず左手用の黒い拳銃、オンブラを一体のワルキューレに向けた。
何でも銃口付近に付けられたフロントサイト、撃鉄付近にあるリアサイトという照準器を合わせることで精密な射撃を行なうそうである。
モノクルを付けた左目でその二つのサイトを合わせ、狙いをワルキューレの頭に定める。
――バウンッ!
火打ち式の銃よりも鋭く威勢のある銃声が鳴り響く。
この銃はそれらの銃とは違ってグリップの中に着脱することができる弾倉というものがあるらしく、そこに無数の弾丸を装填することで一々火薬や弾を入れ直すことなく連発ができるそうだ。
もっとも、スパーダはいつものように魔力を固めて弾丸にしているためにそんなことをする必要もないのだが。
実際、この銃を作った職人曰く弾自体は現行の物が使えない次世代の代物であり、まだ量産をしていないとのことなので遠慮なく魔力を弾代わりにさせてもらう。
放たれた銃弾は正確にワルキューレの頭を撃ち抜き、その胴体から吹き飛ばしていた。
草地の上にワルキューレの頭が無残に転がる。
これが人間であったなら確実にあの世行きであろう。
スパーダは右手用の白い拳銃、ルーチェをオンブラと共に構えて交互に引き金を引いた。
引き金を引くだけで銃声が唸り、次々と無数の銃弾が吐き出されていく。現行の銃では絶対に不可能な動作である。
吐き出された銃弾が次々とワルキューレの全身に風穴を穿っていく。
さらに発砲する度に反動によって銃身がスライドし、従来の銃よりも反動が軽減されている。本来はこの反動を利用することで動作して弾倉の弾が装填され、
前の弾が排莢されるらしいがこれもスパーダが魔力を弾にしているために関係ない。
スパーダはさらに発砲のテンポを徐々に速くしていく。
速くする度に反動も強くなるため、スパーダ自らの手で狙いを調整しなけらばならない。
どれだけ連射をしようがこのルーチェ、オンブラという拳銃はまるで壊れる様子がない。以前の銃であれば決して不可能な連射速度で次々と銃弾を撃ち出していった。
常人であれば数発撃っただけで反動によって肩が外れ、手が痺れ、指も痛めて駄目になってしまいかねないだろうが、スパーダは既に二丁合わせて五十発以上の発砲を行なっていた。
「おいおい、何だよあの銃!?」
「本当にあれ銃なのか? あんなバンバン撃てるなんて聞いたことないぞ?」
生徒達はスパーダの驚異的な連射に唖然とするばかりだった。
彼らの常識では銃という野蛮な代物は火薬と弾を一発撃つ度に装填しなければならないという面倒なことをしなければならないし、
命中精度も弓に比べればとても悪く近距離でしか役立たないために魔法に比べれば大した物ではないと知られていた。
だが、スパーダの銃は彼らの常識を全て覆す超絶的な光景であった。
もしも今の彼に正面から挑もうものならば愛用の剣を使わずとも確実に蜂の巣にされるだろう。たとえ離れていようが同じことだ。
事実、離れているワルキューレ達は次々とスパーダの射撃によって蜂の巣にされているのだから。
「適当に動かせ」
「わ、分かった。――行け、ワルキューレ!」
スパーダからの呼びかけにギーシュが振るうと棒立ちしていたワルキューレ達が行動を開始し、ガチャガチャと金属音を立てながら縦横無尽に散開しだした。
敵は止まっている的だけとは限らない以上、動き回る的に対しても試すのは当然である。
スパーダはギーシュの操作で不規則に動き回るワルキューレ達にルーチェ、オンブラの銃口を向けた。
引き金を引き絞り、弾が吐き出される度に忙しなく狙いと構えを変え、一体たりとも撃ち漏らさぬ勢いと正確さで射撃を続けていた。
その射撃によってワルキューレが粉砕される度に、生徒達から歓声が上がっていた。
「格好付けちゃって……」
スパーダがただ銃を構えて撃つだけでなく、腕を交差させて銃を水平にしたり背中越しに腕を回して曲撃ちをするなどしている。
その姿にロングビルは思わずおかしさがこみ上げていた。
表情はいつものように冷徹で毅然としたままではあるものの、まるで新しいオモチャを与えられた子供みたいである。
実に悪魔らしくない、本当に滑稽な姿に見えていた。
「Too easy.(まあまあだな)」
実に二丁合わせて数百発もの射撃を行なった後、スパーダは満足したように唸り腕を交差させたままルーチェ、オンブラを構えていた。
銃弾の嵐をまともに食らった六体のワルキューレは何百という風穴を開けられたまま、草地の上でバラバラに崩れて転がっている。
「僕のワルキューレが……」
生徒達が歓声を上げる中、ギーシュはがっくりと肩を落とし溜め息を吐いた。
いかに尊敬する師匠の役に立てたとはいえ、自分のワルキューレが練習台にされて無残な姿を晒されてしまうというのは何だか気分が良くなかった。
(さすがに奴の自信作なだけのことはある)
このルーチェ&オンブラを作った銃工の名はこの世界ではペリ卿と呼ばれている。
だが、それはハルケギニアにおける仮初めの名に過ぎない。
故郷の魔界に、名のある悪魔が存在する。そいつは規格外な魔界の技術で数々の魔銃と呼ばれる魔具を作り出しては悪魔も人間も関係なく提供しているアウトローだ。
スパーダが魔界随一の剣豪であるならば、そいつは魔界随一の銃の名手と呼ばれている。
先刻、スパーダが読み上げた手紙。送り主の名はこう記されていた。
我が名はペリ、またの名をマキャベリー
そう。このルーチェ、オンブラを作ったのはあのマキャベリーだったのだ。
人間界はおろかこのハルケギニアでも決してあり得ない時代を先取りし過ぎた規格外の技術で作られた代物。
その銃を生み出すことができるのが、魔界の銃工マキャベリーなのである。
どうやら奴は既にこのハルケギニアに足を踏み入れていたそうで、金さえあれば貴族になれるゲルマニアで活動をしていたらしい。
異国の銃工ペリ卿を名乗り、銃の製造はもちろんのこと技術提供を行なっていたと手紙には記されていた。
手紙にはルーチェ、オンブラの使い方や仕組み、感想などが事細かく記されていたのだが、仕組みはあまりにも規格外すぎてスパーダには理解することができなかった。
ただ、スパーダからの依頼が届いた時にはかなり驚いたという。そして、あまりにも無茶な注文に彼の職人魂に火が点き、精魂込めて作り上げたのがこのルーチェ、オンブラなのだそうだ。
スパーダの注文通りにあれだけ連射しても全く調子が悪くならないほどに頑丈であることはとてもありがたかった。おまけに従来の銃と比べて携行性も良い。
幻影剣は奇襲性があるものの、魔力を剣の形に変えて射出までに時間がかかるので速攻性に欠け、連射も効かないので短時間の制圧力にも劣る。
このルーチェ、オンブラは剣以外で用いる飛び道具としてはとても扱いやすい。マキャベリーの奴にはいずれ銃を特注で作ってもらおうと考えていたのが実現したのは都合が良かった。
それに「大事に使ってくれ」というコメントも同時に記されていたため、スパーダも思わず苦笑した。
もしもペリ卿がマキャベリーだと分かっていれば、奴の作った災厄兵器パンドラを預かっていることも書いてやるつもりだったのだが。
(ありがたく使わせてもらう)
予期せぬことだったにせよマキャベリーがこの銃を自分のために作って送ってくれたことに、スパーダは心から感謝していた。
深刻そうに顔を顰めてスパーダはルーチェ、オンブラをコート内の背中腰に収める。
手紙にはそんな他愛のないコメントと同時にこんなことも記されていた。
むしろそちらの方がスパーダにとっては重要なことだった。
『貴様も気付いているだろうが、この世界は我が同胞達に狙われている。まだ魔界との境界線は厚いままだからすぐに侵攻されることはない。
他の同胞共から耳にした話だが、この世界では数十年ごとに皆既日食が起こるそうだ。
その時、一時的にではあるがその境界線が限りなく薄まり、魔界の扉が開くほどの強大な魔力で溢れるらしい。
……もしかしたら、どこかの勢力が攻めてくるかもしれん。この世界の者達を守りたいのであれば、覚えておけ』
(日食、か……)
以前、図書館で書物を読み漁っていたスパーダはこの世界でも日食が起こることは調べが付いている。
通常、このハルケギニアの二つの月はスヴェルの夜以外では二つに重なることはない。
だが、例外として特定の周期で二つの月が昼間に太陽を覆い隠すように交差するらしく、それで日食が起きるそうである。日食が起こる日時などは事前に調べが付いているそうだ。
最後に日食が起こったのは十数年前となっていた。また六十年前、シエスタの曾祖父であるブラッドがこの世界にやってきた頃にも日食が起きたという。
そして、次に日食が起こる日は……。
来週に執り行われるというアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式の二日前……ウルの月の31日目。
……この日食が起こる時に、レコン・キスタを裏で操っている勢力が攻めてくる可能性が高い。
だとすればスパーダは全力を持ってその勢力を迎え撃たなければならない。
そして、その勢力との戦いは下手をすればかつて魔帝ムンドゥスが人間界を侵略してきた時のような熾烈な戦いになるかもしれない。
(その時が勝負になるな)
今回はこれでおしまいです。
ルーチェ&オンブラの出自についてはスパーダの自作であったり、マキャベリが作ったものであったりと
はっきりしていないのでマキャベリ製の設定を使わせてもらっています。
以上で投下終了です。代理は初めてですので、もしここで変になっている点がありましたら、
ご指摘して頂ければ幸いです。他の方の作品もあるようですので、そちらの方は
どなたかお願いいたします。それでは。
乙乙
>>67 よーしひとつ俺が考えてやろうじゃないか
飛び降りた場合自由落下しかできないので、ルイズの落下予想位置を狙ってレビテーションかければいい
戦闘中にバックステップでもサイドステップでも自由に踏んで回避できる敵を狙うより遥かに位置の補足が容易
勿論まともに抵抗する気が無いか戦闘への心構えが無い相手を浮かせる場合も然り
だから日常シーンでギーシュを浮かべて補足したりなんかはしても戦場では使わない
結局理屈と膏薬なんてどこにでも付くってものだよ
だから説明しろとか言ってないで個々のSS作家が決めればいいんじゃないかね?
パパーダの人乙
代理の人ありがとう
おっとそんなバカな話より先に代理投下乙だった
ごめん
考察スレの方にちょっと書いてみたから後はそっちでやろうよ
そして代理投下乙です
レビテーション掛けられても相手が魔法使えなくなる訳じゃないんだから
そのまま、反撃受けてあの世行きとか、集中切れて無駄になるとかだよな
水球や赤土も大声で詠唱しないと行けない訳でもないからそのまま、以下略で済む話だという
牙突零式で体真っ二つにされるメンヌヴィル
>88
それはもう鉄板がバキュラになるな。
>>88 実はコルベールへの復讐を諦めているとか暴露されるんですか
十時から第32話投稿させて貰います。
第三十二話 『夏期休暇は割と大忙し』
「トレビア〜〜〜ン!!と〜ってもよく似合っていてよミントちゃん!」
「はいはい、どうも…」
心底げんなりとした表情でミントは自分のウェイトレス姿を褒めてくれた酒場『魅惑の妖精亭』のマスタースカロンを軽くあしらうと足早にカウンターに向かい、客の待つテーブルに運ぶべきお酒と料理の乗ったトレーを両手と頭の上に器用に乗せてみせた。
その様子を厨房から見ていたスカロンの娘ジェシカが感心した様子でミントに声をかける。
「ミントほんと、あなたって器用ね〜。それ、全部6番テーブルだから溢さないようにお願いね。」
「オッケー」
今日も返事は朗らかに、足取りも軽くミントは魅惑の妖精亭でウェイトレスとしてのアルバイトに精を出す。全ては自分に会えるのを楽しみにしてお店に足を運んでくれるお客様の為に…
等と言う事は無く、ミントがこんな事をしているのにはきちんとした経緯があったのだった…
____ 数日前 魔法学園
「ミント、姫様から指令が下ったわ。貴女も協力しなさい。」
唐突に一枚の指令書らしき羊皮紙をミントの眼前にルイズが突きつけたのはあのアンリエッタ誘拐の夜から数日が経過し、学園が夏期長期休暇に差し掛かると同時だった。
ミントが得ている風の噂で聞けばアンリエッタはあれから積極的と評するよりは取り憑かれたかのように王女として魔法、政治、兵法あらゆる学問を学びんでいるそうだ。
そんなアンリエッタからの指令書には城下での市井に流れている噂、情報、それら女王という立場からは直接には得がたい物をどうか自分に届けて欲しいという物であった。
溜息混じりにミントはルイズを見やる…ルイズの瞳はまさに今使命に燃えていた。
(駄目だわ…完全にやる気満々ね…仕方ない…)
「ねぇルイズ、この指令書には諸々の費用として400エキューが用意されてるって書いてるけど少なくとも半分はあたしが貰って良いのよね?いっとくけどただじゃあたしは動かないわよ。」
「仕方ないわねー…まぁ、とにかくこれからしばらくは街で身分を隠して情報収集よ!!姫様の期待に応える為に!!」
張り切るルイズの様子にミントは一抹の不安を抱く…
ミントの知る限りルイズはべらぼうにプライドが高くて我が儘だ。それに加えて世間知らずな癖にその事実を認めようとすらしないのだから手に負えない。
(ハァ〜…面倒な事になりそうね…)
案の定、ミントの不安は的中した…
アンリエッタから支給され、ミントと折半した結果の400エキューに対し、ルイズがまず言った一言は
「これじゃあ足りないわ。」
だった。曰く服は絹をふんだんに使った仕立てでは無いと嫌だの、宿泊する宿は最高級じゃないと寝られないだの、挙げ句何に使うつもりかは分からないが馬を買う必要を説いたり…
「だったらあそこで増やせば?」
そう言って、ルイズの様子に呆れ果てたミントが世間の厳しさをルイズに教える為に進めたのは『絶対勝てる』を謳い文句にしているカジノだった。
___ 城下町 噴水広場
黄昏を受けて町並みは美しい緋色に染まる。そこには全ての資金をすり尽くし、酷く憔悴した様子のルイズが両手で顔を覆って項垂れていた…
「絶対勝てるって書いてたのに…」
「最初は勝ってたじゃない、そんな物よ。で、これからどうするの?」
「ねぇ…ミントォ…あなたまだ陛下から頂いた200エキュー持ってるのよね…」
「えぇ、持ってるわよ。でもこのあたしが貸すと思う?まぁそりゃルイズとも長い付き合いだし、考えてあげないでも無いけどあたしからお金を借りると言う事がどういう事かはあんたは分かってるとあたしは思うけど?」
「うぅ…」
ミントをよく知る人物ならばここでルイズがミント金融に手を出そうとしたならば「絶対に止めろっ、破滅したいのか!??!」と全力で止めるだろう…誰だってそうする。ルイズだってそうする。
「まぁ、一回位野宿してみれば?この季節なら死にゃしないわよ。」
そう言って良い笑顔を浮かべるミントに対してルイズは今にも泣きそうな表情を浮かべてただひたすらに恨めしげな視線をミントにぶつける。
「あらん、イヤだ〜そこに居るのはミントちゃんじゃないの!!」
と、そんな二人に妙にねっとりとした男の声がかけられた…声のする方に注目した二人の視界に映ったのはこちらに向かってやたらナヨナヨとしたステップであるいてくる一人の男性…
その者紫のレオタードを纏い、鍛え抜かれたその逞しい身体はレオタードによってより見る物を圧倒する…
トリステインでは珍しい黒色の頭髪はポマードによってガチガチに固められ、香水の香だろうか、その身体からはギーシュと同じく薔薇の体臭が放たれていた…
「お、お久しぶりね…スカロン店長。」
「いや〜ん、スカロンじゃなくてミ・マドモワゼル、よ!!」
「ちょっと、まさかとは思うけどミントの知り合い?」
不意打ち気味の登場によるそのインパクトに軽く引きながらも律儀に挨拶を返したミントに、しばらく呆然としていたルイズが耳打ちするように小声で問い掛ける。
少なくともルイズはミントにこんな妙ちきりんな知り合いが居る事は知らない。
「まぁね…良く遺産とかお宝の色んな情報集めるのに世話になってる酒場のマスターなのよ…こんなだけど色々とやり手なのよ。」
「そういえばあんた、頻繁に私に黙って授業サボってトリスタニアに何かしに行ってたもんね…」
ルイズは言ってミントをジト目で睨む…
「所でミントちゃんと、お隣の子はお友達?見た所何か困ってるみたいだけど?」
いちいち腰をクネクネと振りながらミントに問いかけるスカロンにやはりミントは眉を寄せ、ルイズは込み上げる吐き気のような物を何とか堪えた…
「うーん…まぁ、ね…事情があって何日かこの辺で宿を取ろうと思ってたんだけどこの娘が宿代含む全財産ギャンブルで全部すっちゃってね…」
「ちょっとっ!!?」
ルイズは慌ててミントの言葉を止めようとするがそんな事は知った事では無いとミントはルイズの失態を当然の様にスカロンに暴露する。
「あらあら、それは困ったちゃんね〜…それなら丁度良いわ、二人とも私のお店に来なさいな。ミントちゃんとそのお友達ならお部屋を用意して上げるわよん。」
「本当!?」
スカロンのこの申し出に沈んでいたルイズの表情に光が戻る。そしてミント自身も元々情報収集という目的の為にスカロンの元は訪ねるつもりでいたのだから都合も良い…
そんな訳でルイズは野宿という最悪の事態を避ける為、ミントはまぁカローナの街の時みたいでこれも良いかと言う軽いのりでスカロンことミ・マドモアゼルの提案に乗る事にしたのであった。
____ 魅惑の妖精亭
「で、なんであたし達までこんな恰好をしなきゃならない訳?」
そんな訳でスカロンに招かれて開店準備で忙しそうな店内にホイホイと通された二人はなんやかんや気が付けばホールスタッフである妖精さんの際どい衣装を身に纏っていた。
ひらひらとした極めて短いスカートからはミントの程良い肉付きの健康的な足とルイズの細身の美脚が並び、身体のラインを強調させ露出が多い特製のビスチェの二人はそれはもうトレビアーンの一言に尽きた…
「あらん、何も私もタダで泊めてあげるだなんて一言も言っていないわよ。働かざる者食うべからず。
うちの妖精さんが一人急にお店を辞めちゃって実は今大忙しなのよ〜、勿論お給金だって弾むし忙しい夕方から夜の間だけで構わないから手伝ってよ〜。」
「嫌よ!!何でこの私がこんな下品な恰好でよ、よ、よ、よりにもよって平民に給仕やお酌をしないといけない訳!?」
スカロンの頼みにルイズはにべも無く首を横に振った。最近ミントに散々振り回された影響でルイズの視野は大分広がったし心のあり方にも変化はあった。それでもこんな扇情的な恰好で平民のおっさんの相手などルイズに出来よう筈も無い…
「……………………」
ミントはここでしばらく黙して思案する…
別に少々過激な恰好ではあるがウェイトレスの真似事など大した苦では無いし、この魅惑の妖精亭はミントが持っている情報源でもかなり有益な部類だ。
それより何よりこのまま何も考え無しのルイズの任務の手伝いをする方が間違いなく気苦労等は圧倒的に多いだろう。今更ほっぽり出してしまうのも憚られるし。
しばしの思考を終えてミントが出した結論は…
「…理由は詳しく言えないけどあたしとこのルイズは色々と情報や市井の噂なんかを集めたいの。その辺りも協力してくれるならしばらくお世話になるわ。」
「ちょっとっ!?ミント!!」
まさかあの我が儘なミントがこんなアルバイトの様な真似をするとは思っていなかったルイズは驚愕のあまりヒステリックに声を上げる。
「しょうが無いでしょ、あんたがアンがくれたお金を全部ドブに捨てたんだから。それに、情報を集めるのにこれ程適した仕事も無いもの。」
「でもっ!!」
「それとも今日のあんたの失態をあたしがアンやキュルケに伝えて欲しいのかしら?あたしの口は軽いわよ〜…」
「………………お世話になります。ミ・マドモワゼル。」
ミントから簡潔な理由の説明を受けながらも尚、抗議の声を上げようとしたルイズであったがミントの無慈悲な一言に覚悟を決める。なまじプライドが高いとこういう時に困る物だ。
と、ここで話は纏まったと言わんばかりにスカロンが一度大きく手を叩く…
「お話は決まったわね、う〜ん…実にトレビア〜ン、二人とも色々と複雑な事情があるみたいだけどこれからよろしくね。」
____
「納得いかないわ…」
早速魅惑の妖精亭での仕事を始めて数時間、忙しくホールを走り回るミントに対してルイズはホールでの接客では無く、キッチンの奥で乱暴且つ不器用に皿洗いに勤しみながら早速不満を溢す。
それというのもプライドの高いルイズにはそもそも平民相手の接客等まともに出来るはずも無く、胸が小さいだの言ってきた客にはワインボトルを叩き付け、小ぶりなお尻に手を出してきた客には罵声と平手打ちをetc.…
「そりゃああんだけお店やお客さんに迷惑かけたら迂闊に表には出せないわよ。それよりももっと手を動かすスピード上げて、接客が出来ないならこれ位は完璧にこなして貰うわよ。」
ルイズを叱責するのはルイズへの指導を買って出たジェシカである。そのジェシカの手の動きは凄まじく速く、口を動かしながらでも一瞬で汚れた食器類が綺麗になっていく。その綺麗になった皿をルイズに見せつけてジェシカは悪戯な微笑みを浮かべた。
ジェシカのその露骨な挑発にルイズの表情はますます不機嫌になっていく。
「まっ、お皿洗いなんてやった事すら無いでしょうからこんな事すら出来なくてもしょうが無いんですけどね〜。貴女、かなり良いとこの貴族なんでしょう、ルイズ?」
皮肉たっぷりなジェシカの言葉にルイズの皿を拭く手が停止する。
「なっ…」
「何でこんな事してるのか詮索するつもりは無いけど貴女を見てれば隠してるつもりなんだろうけど色んな仕草でバレバレよ。それにあのミントの友達ならそう考えた方が自然だしね〜。」
ルイズのその分かりやすい動揺する姿にジェシカはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「あんた、私が貴族だって分かっててさっきからそんな態度取ってるだなんて…どういう神経してんのよ?」
「あら、このお店で働いている限りはあなたがどんな人間かだなんて関係ないわ。それにミントが連れてきたならそんな事を気にする人じゃ無いって思ってたんだけど違うかしら?」
悔しいがジェシカの言う通りだ。最近のルイズは色々と型破りなミントの影響なのか以前程身分の差という物に捕らわれなくなっている…相変わらずジェシカの皿洗いの手は止まる事無く動き続けるのでそう考えながらルイズもそれにならって皿を洗う。
「う〜……て言うかあんたもそうだけどスカロン店長もやたらミントに親切だけどさ〜、あいつ一体ここで何した訳?」
ルイズはそもそもミントがやたらとこの店の店員に馴染んでいる事が疑問だった。それどころか接客態度は普段と変わらず不遜な態度でありながら一部の客からは既に指名が入り、何やら仲よさげに談笑している。
どうやら元々顔見知りの客なのだろうか…遠目に見ても話は弾んでいる様子で確かに情報収集という任務と接客をミントは苦も無くこなしているようだった…
「ま、ミントは元々ちょくちょく家のお店には顔を出してたのよ。儲け話やお宝の情報は無いか〜。ってね…他にも人の捜し物を手伝ったり、店の子にブローチをあげたり。
私達も最初はミントをただの凄い性格の平民だと思ってたんだけど、ある日この一帯の徴税官っていう立場を悪用して好き放題してる貴族が来てる所に偶然ミントがやって来てねー、一悶着あってお付きの兵隊共々その貴族を魔法でボコボコにしちゃってさ…」
「はぁっ?!そんな話私聞いてないわよ!!」
ルイズが思わず声を上げる。話を聞く限りその徴税官に非がありそうだがまさか自分のあずかり知らない所でそんな騒動が起きていただなんて…
「いやっ、私達も最初これは不味い事になるなーって青い顔してたんだけど何かミントがそいつ等に書類を見せつけてさ、その途端そいつ等がもう、もの凄い勢いで謝り始めて…あれは傑作だったわ。
それ以来ミントはこのお店じゃ有名人なの。それにミントってば書類一つで徴税官を振るい上がらせるような凄い貴族なのに私達にも他の平民のお客さんにも今までと全然変わらない態度で接してくれてさ…
正直、やっぱり私達平民は貴族の事をあんまり良くは思ってないのよ。それでもミントみたいな素敵な貴族がいつか国を動かしてくれたらきっと今よりも毎日が楽しくなりそうだなって私は正直思うよ。」
先程までの意地悪な笑みでは無く、ジェシカは屈託の無い笑みでミントの事をルイズに語る。貴族としては到底聞き逃せない様な際どい言葉も聞こえた気がするがルイズは気にしない事にした。
まさか自分の知らない所でミントがこんな風に他人に思われていたなんてと気恥ずかしいような誇らしいような何とも言えないが悪くない気持ちとそんなミントに負けたくないという気持ちになる。
「ルイズ、これ、洗い物追加よ!!」
と、両の手にトレーを持って厨房に戻ってきたミントがルイズの脇に設置された水の張られた桶にドチャドチャと皿や器を置いていく。その表情は疲れた様子ながら生き生きとしていた。
「うへ〜…」
それに対してルイズはうんざりとした表情でミントによって運ばれてきた洗い物の山を見つめ、そのまま恨めしそうな視線をミントにぶつけようとしたが既にミントは新たなトレーを手にホールへと向かおうとしていた。
「ちょっと!ミントもこっちを少しは手伝ってくれたっていいでしょっ!!」
「こっちだってあんたと代わりたいわよ!!「ミントちゃ〜ん。」は〜い、今行くわ〜!」
ホールからの呼び声に答えてミントはルイズの相手もそこそこに、短いスカートを翻して厨房を後にする。
(何よ…ミントったら。)
「ほら、ルイズ手を動かさないといつまで経っても終わらないわよ!!ほら、半分こっちに回して。」
そんなルイズにいつの間にか自分の桶を空にしていたジェシカがルイズの洗い物を掠め取る…
「……………………ぁりがと…」
ごく小さな声でルイズはジェシカに礼を言って固く絞った布巾を皿に押し当てた。
(それにしても…姫様が知りたかった情報…街の人達の声…か…)
意外な形ではあったがルイズは平民の声を聞いた…こうして思えば平民の陰口等では無い正直な言葉というのを聞かされたのは初めてかも知れない…
意外な事にミントは愛されていた。思えば学園でも、アルビオンに行った時にも、ミントの周りには気づけば人が集まっていた…
従えるのでは無く、慕われる…そういう人の上への立ち方もあるのだと言う事をルイズは皿の洗い方以上にその日学んだのだった…
以上で終わりです。特に落ち無し、山無し、意味もなしといった無い様でしたね〜
何となくですがミント様は旅の途中で酒場でアルバイトぐらいはしてると思うんですよね〜
待ってた乙
デュープリ乙!
現実の厳しさを知りつつも世界征服を目指すミント様が大好きだ!
名前すら出ない徴税官ワロタwww
思えばミント様ってたとえ相手がどんな存在でも平等に接してる気がする。良くも悪くも
投下お疲れ様です!
ミント様は接客も余裕か
>>102 んで、平等にボコボコにするんですねわかります
平等にボコボコ……『悪・即・斬』の正義とは似てるようで違うか
>104
なるほど、ランスとミントは性別を越えた腐れ縁になりそうだ。
がはは
差別の塊だな
新作が来ていたようなので、予約がなければ30分頃に34話を投稿しようと思います。
それでは始めます。
Mission 34 <冥府の門を守る者> 前編
今やアルビオンの王権は貴族派の反乱によって完全に潰えていた。
歴史の片隅へと追いやられた王族に代わりアルビオン大陸を支配するレコン・キスタはそれだけでは飽き足らず、更なる野望に向けて準備を進めている。
その日、神聖アルビオン共和国の新たな皇帝となったオリバー・クロムウェルは手中に収めた都市の一つ、港町ロサイスに供の者達を引き連れて足を運んでいた。
かつては王立空軍の工廠であったこの場所には製鉄所など様々な建物が並んでいる。
空軍の発令所である赤レンガの建物には誇らしげに革命によって王権を簒奪したレコン・キスタの旗が翻っているのが見えていた。
「ほほう! 何とも大きく頼もしい戦艦だ! まるで世界を自由にできるような気分が湧いてくるよ! そう思わないかね?」
クロムウェルは工廠で一際目立つ巨大な艦を見上げて喜々とした声を上げた。
全長二百メイルにも及ぶその『レキシントン』号と呼ばれる戦艦は旧名を『ロイヤル・ソヴリン』号という。
かつては王党派が所有していた旗艦であったこの戦艦もレコン・キスタによって接収され、彼らが革命戦争と呼ぶ反乱の初の戦勝地の名を付けられていた。
そして今、さらに突貫の工事で改装が行なわれている最中である。
(王権の簒奪者め……)
子供のようにはしゃぐクロムウェルをつまらなそうに見つめるのはレキシントン号の艤装主任であるサー・ヘンリー・ボーウッドであった。
彼は先の革命戦争の際、レコン・キスタに属していた巡洋艦の艦長であったものの別に彼らを支持しているわけではない。
生粋の武人である彼は、軍人は政治には関与するべからず≠ニいう意思を強く持っているが故に、たとえ意に反した戦であるとはいえ上官が命令をすれば従わなければならない身であった。
たとえ反乱軍の側につくことになっても体面はそうせざるをえない。
だが、心情的には滅ぼされた王国を支持する彼にとってこのクロムウェルは忌むべき存在である。
(あの化け物達……こいつが呼び出したものか)
それにこの男、話によれば悪魔に魂を売ったなどという噂があるのだ。
革命戦争の最中、ボーウッドは王党派の軍を悉く屠っていった異形の怪物達の姿を思い起こす。
勝手に戦争に参加して殺戮を楽しむオークやトロール共のような獰猛な亜人達とは違い、奴らは明確な反乱軍の指揮の下に戦闘に参加していたのである。
ハルケギニアに生息するいかなる幻獣や魔物達よりもおぞましく、そして狡猾なこの世のものとも思えぬ異形の存在。それらは全てクロムウェルと契約した悪魔なのだろうか。
四年前までただの平民の司教に過ぎなかった彼がどういった経緯で悪魔に魂を売り渡したのか、一介の軍人に過ぎないボーウッドには想像もつかなかった。
「見たまえ、あの大砲を! アルビオン中の土メイジ達を集めて鋳造された長砲身の大砲だ! 従来のカノン砲の1.5倍ほどの射程があるのだ。そうだったね?」
クロムウェルは傍に控えているフードをかぶった黒い長髪の女性を振り返った。
「さようでございます」
その冷たい雰囲気を漂わせる女性、シェフィールドは胸に手を当てて首肯する。
彼女はこのアルビオンで革命戦争が起きてからほどなくしてクロムウェルの秘書として務めることになった人物である。
東方出身の彼女は故郷で培った技術を提供するなどして反乱軍の数々の活動に貢献しており、今では執政官の任も預かるまでになっていた。
だが、別に彼女はレコン・キスタの反乱や革命とやらには興味がなかった。
彼女の目的はただ一つ。ガリアで待つ主より与えられた命を実行するまで。
四年前、ガリアより密かに派遣されていた彼女はこの空の大陸で起きているあらゆる出来事全てを主に報告を行なっていた。
主は無能などと呼ばれているが実際には違う。ハルケギニアの誰よりも智謀に長けた謀略家。
こんな空の上の辺境の地で起きている些細な戦でさえもその裏を知ろうとし、そのために自分を遣わしてくれたのだ。
信頼する主の望みに応えるためにも、シェフィールドは冷徹に、辛抱強く、与えられた大任を果たすべく力を尽くすのである。
もっとも、主が「顔が見たい」などと言ってくれればすぐにでも彼の元へと戻るのだが。
「しかしながら、たかが結婚式の出席に新型の大砲を積んでいくとは、下品な示威行為と取られますぞ」
「ああ。君には親善訪問の概要を説明していなかったな」
クロムウェルがボーウッドにそっと耳元で何がしかを呟く。
その親善訪問の詳細は秘書として活動するシェフィールドの耳にも及んでいる。
シェフィールドは黙って見届けていたが、突如ボーウッドの顔色が変わり青ざめていた。
「そのような破廉恥な行為、聞いたことも見たこともありませぬ! トリステインとは不可侵条約を結んだばかりではありませんか!」
「それ以上の政治批判は許さぬ。これは議会が決定し、余が承認した事項なのだ。君はいつから政治家になったのだね?」
激昂し、わめくボーウッドにクロムウェルは事もなげに言い放つ。
そのようなことを言われ、ボーウッドは唇を噛み締めたまま何も言えなくなっていた。
所詮、軍人は物言わぬ剣にして盾であり、国のための番犬に過ぎない。……だが。
ボーウッドは苦しげに言葉を吐き出す。
「……ですが、アルビオンはハルケギニア中に恥を晒し、悪名を轟かすことになりますぞ」
「ハルケギニアは我々レコン・キスタの旗の下、一つにまとまるのだ。聖地をエルフどもより取り返した暁にはそんな些細な外交上のいきさつなど誰も気に留めまい」
「些細な外交上のいきさつですと? あなたは祖国をもお裏切るつもりか!」
全く気にした風もなく答えるクロムウェルに、ボーウッドはたまらず詰め寄っていた。
「――がっ……!」
途端、ボーウッドは息ができなくなり、首が押し潰されるような感覚をその身に受けながら低く呻いた。
『Don't speak. a puppy.(黙れ。飼い犬が)』
それまでの快活で澄んだ態度と口調が突如として一変し、クロムウェルはドス黒い濁った声で呟く。
クロムウェルはボーウッドの喉を掴み、腕一本で吊るし上げていた。
かつては一介の平民の聖職者であったにも関わらずそれからあまりにかけ離れた凶暴な行動に、ボーウッドは困惑する。
『力無き飼い犬は黙って我が命に従えば良い。我らに力と兵をお与えくださった始祖をも超えし、偉大なる羅王≠フためにも我らは結集せねばならん。如何なる手段を使おうがな』
表情はいつもと変わらぬものであった。だが、まるで別の邪悪な存在が語りかけてきているような凶悪な言葉にボーウッドは戦慄した。
やはりこの男、悪魔に魂を売り渡したのだと確信する。そして身も心もその悪魔に支配されてしまったのだと。
「――分かったなら、素直に余に従ってくれるね?」
にっこりと笑い、元の態度に戻ったクロムウェルはボーウッドの喉から手を離す。
地に落とされ激しく咳き込むボーウッドからの答えも聞かずに踵を返して立ち去っていった。
(どちらが傀儡かしら)
シェフィールドはクロムウェルの後ろに付きながら密かに溜め息を零した。
この男、革命を起こす前は何度と無くガリアにアルビオンからの一介の使者として遣わされる仕事をこなしていた平凡な人間であった。
それこそ革命を起こし、他国へ侵略を仕掛けるという大胆なことなど自ら起こせないような小心者だったはずである。
だがその男も今となってはこの世ならぬ魔に魅入られ、悪魔に等しい存在へと成り果てていた。
今、あの男が付けているアンドバリの指輪。あれも彼を堕落させた者の力を借りて手に入れたという。
力を手に入れ、魔に魅入られた男はその悪魔に乗せられるがままに戦を仕掛けている。
自分がその悪魔に利用されていることにも気付いていない。
それこそまさに悪魔に飼い慣らされている犬同然の姿だ。
(あの方の睨んだ通りだわ。……愚かな男)
こうして見ているだけでも唾棄したくなるのをシェフィールドは自分に託された任務のためにも必死に堪えていた。
ルーチェ、オンブラという新たな武器を手にしたその翌日、朝早くからスパーダは学院内にある平民用宿舎を訪れていた。
今日はちょうどアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の結婚式が行なわれる一週間前である。
この日から来週の結婚式が終わるまで学院で勤務している平民の給仕達は休暇をもらい、帰郷することでゆっくりすることができる。
もちろん、それはメイドのシエスタとて同じだ。
そして、スパーダはそのシエスタと先日交わした約束を果たすためにここにいるのである。
スパーダは宿舎の入り口の横で腕を組んだまま静かに佇み、シエスタが現れるまで待ち続けていた。
時間が経つにつれて宿舎からはシエスタ以外の平民の給仕達が私服姿で出てくる。
入り口にいるスパーダの存在に気付いて困惑はされるものの、給仕達は素直に挨拶をしてきていた。
異国の貴族の威厳と風格を持つスパーダは給仕達からの評判も良く、傲慢で接しにくい他の多くの貴族達と違って気楽に話しかけることができるのだ。
普段ならば平民に挨拶をされても無視するのがほとんどである他の貴族達と違い、スパーダは「道中は気をつけろ」「ゆっくり休暇を楽しめ」
などと少々素っ気無かったものの穏やかに返事をしていたのだった。
「待っていたぞ」
そうした対応をしばらく続けていると、入り口から荷物を纏めたシエスタが姿を現したことでスパーダは声をかけた。
「あ、ごめんなさい。スパーダさん。お待たせしてしまったようで……」
シエスタの私服は茶色のスカートに木の靴、草色の木綿のシャツという平民らしく質素な身なりである。
「構わん。気にすることはない」
スパーダは頭を下げようとしたシエスタを制し、肩に手を置くとそのまま彼女を引き連れて正門へと向かっていった。
(スパーダさん、ずっと覚えていてくれたんだ)
シエスタはまさか本当にスパーダが自分との約束を覚えていただけでなくこうして待っていてくれたことに驚いていた。
自分みたいな平民からの誘いなんてもしかしたら忘れられてしまうのではと不安を抱いていたというのに、スパーダはこんな自分との約束まで守ってくれていることがとても嬉しかった。
スパーダが傍にいると、彼が本当に自分の主であるように思えてしまうのがとても不思議だ。
それに何故か、とても親近感が湧くのだ。自分は悪魔の血を引いているというのに……。この湧き上がる様々な思いは何なのだろう。
彼は単なる異国の貴族ではない。彼がいた異国のことなど何も知らないというのに、何故か彼に畏敬の念を抱いてしまう。
誰よりも偉大で侵すことのできない存在であると、はっきり感じることができてしまう。
自分のような何の力もない悪魔が……スパーダを力ある主として自然に認めてしまっている。
(あたし……どうしちゃったのかな)
自身でも訳が分からない思いが湧き上がってくることに、シエスタは困惑し続けていた。
「どうした」
「……い、いえ! な、何でもありません!」
ぼんやりとしていた所にスパーダから声をかけられて、シエスタは我に返った。
今日はせっかく主であるスパーダが自分のために時間を取ってくれたのだから、もっとしっかりしなければ
「きゃっ!」
ゲリュオンを呼び出すために正門前へとやってきた途端、突如突風が地に吹き荒れた。
シエスタが荷物を入れたトランクを落として悲鳴を上げる。
スパーダが頭上を見上げると、そこには一頭の風竜が羽ばたき降下してくるのが窺えた。
「何の用だ」
降りてきたその風竜――シルフィードの背に主人のタバサ、そしてその親友キュルケの姿を確認して尋ねる。
「ミ、ミス・タバサにミス・ツェルスプトー!? どうなさったんですか?」
突然の二人の出現にシエスタはさらに困惑した。
「ダーリン、今日もまたどこかへ行くんでしょう? だったらあたし達もご一緒してよろしいかしら?」
シエスタに軽く手を振ったキュルケが髪を掻き揚げながら言うと、スパーダはちらりとタバサの方を見やった。
いつもの無表情なその顔には不満の色が密かに浮かび上がっている。
じろりとスパーダのことを射るように見つめてきていた。
(まだ拗ねてるのか)
先週のネヴァンとの一件から三日ほど経った後、その事件に関する報せが魔法学院にも届いていたのだ。
『トリスタニアで密かに暗躍をしていた異形の魔女が二人の剣士達によって倒された。一人は異国から渡ってきた貴族の剣豪である』
スパーダや共に戦ったアニエスの名前こそ出されてはいなかったが、異国の貴族の剣豪≠ニいう触れ込みだけで学院の人間達はそれがスパーダであると即座に理解していたのである。
生徒達はスパーダが魔女を倒したという事実に驚き更なる尊敬を抱かれていたのだが、タバサだけは違った。
彼女は当日、やはりガリアへ行っていたためにこの件など知る由もなかったが、自分の留守中に悪魔絡みの事件に首を突っ込んでいたことが不服だったという。
互いに連絡がすぐに取れない状況であったために仕方がなかったことは解るが、それでもタバサはせっかくの獲物を狩ることができないのが不満だったそうだ。
だからタバサはそれこそ四六時中、スパーダを監視する気でスパーダが悪魔絡みの事件に首を突っ込むのを待っていたのだ。
「シエスタ。構わんか」
「え? あ、はい。わたしは全然構いませんよ」
困惑する中、シエスタは二人が同伴するのを了承した。
「では、シルフィードに乗っていくとするか」
ゲリュオンを呼び出す手間が省けたと言わんばかりに、スパーダは事も無げに呟いていた。
シエスタとしてはタルブまでの約二日間、スパーダと二人きりで相乗りをしようと思っていたのに突然の展開に少し納得ができなかったのだが。
それにタバサはスパーダ以外に唯一、自分が悪魔であることを知っている人物。
彼女は秘密にしてくれると言ってくれたのだが、どうして自分達について来ようとするのかその意図がシエスタには解らなかった。
スパーダとシエスタがシルフィードへと乗り込もうとしたその時――
「待ちなさいっ! あんた達ぃ!」
突如、喚き上がる少女の怒号に一行は姿を現したその少女へと顔を向ける。
始祖の祈祷書を手に仁王立ちしていたのは、ルイズその人であった。
昨晩は徹夜をしてまで詔を考えとりあえずある程度マシな物が出来上がったのだが、それをスパーダに確認してもらおうかという所で力尽きてしまった。
つい先ほど目を覚まし、スパーダの姿が見えないので外に探しに出てみたら、シエスタを連れている姿を目にしたのでたまらずにそれを追いかけてきたのである。
「ミ、ミス・ヴァリエール……」
突然現れたルイズの気迫にシエスタは唖然と目を見開いて慄く。
「スパーダっ! パートナーのあたしを置いて一体どこに行こうって言うのよ!」
ずんずんと近寄ってスパーダに食ってかかるルイズ。シエスタは思わずスパーダの後ろに隠れていた。
「タルブの村だ。そこに聖碑≠ニいう……遺跡のようなものがあるらしくてな。案内してもらうことになった」
先日、ロングビルにそのことをルイズに伝えてもらうよう頼んでいたのだが、まさか自分から話すことになるとは。
事も無げに答えるスパーダにルイズの眉がさらに吊り上がった。
「何ですってぇ? ……ちょっとあんた! 勝手にあたしに許可なくスパーダを連れ回そうとしないでよ!
スパーダはあたしのパートナーなんだから、あたしに許可をもらうのは当然でしょう!」
「も、申し訳ありません! ミス・ヴァリエール!」
スパーダの後ろに隠れるシエスタに向かって怒鳴ると、彼女は必死に頭を下げて謝罪した。
「良いじゃないの。たかが一緒に同伴してもらうくらい許してあげなさいよ。心が狭いわねぇ」
キュルケが肩を竦めながら言う。タバサは興味がなさそうに本に目を通し、揉め事が終わるのを待ち続けていた。
「黙ってなさい! だいたい、何であんた達まで……!」
「もう良い。……とにかく、私は今日一日タルブへ行ってくる。ミス・ヴァリエールは……」
「だったらあたしも行くわ! パートナーに同伴するのは当然なんだから!」
有無を言わせぬ気迫と勢いでルイズは真っ先にシルフィードに飛び乗っていった。
「ちょっと、ルイズ。あなたまだ新しい杖が届いてないんでしょう? 今のあなたはそれこそ本当にゼロのルイズ≠ネんだから」
キュルケが呆れたように言うが、ルイズはむすっと拗ねた顔をするときっとキュルケを睨みつけた。
その通りである。ルイズの杖がネヴァンに壊され、その代わりの杖は未だ彼女の元に届いていなかったのだった。
今の彼女は丸裸同然。敵に襲われでもすればひとたまりもない。
だが、たとえ戦えずとも、ルイズはパートナーであるスパーダと共にいたいのだ。彼が戦うのであれば、それを自分も見届ける必要がある。
「スパーダがあたしを守ってくれるもん」
「……ならば、何があろうと決して前には出るな。いいな」
ルイズの固い意志にスパーダは溜め息を吐くが、厳しく釘を刺す。
どうしても付いてくるのであれば、その身を守り通す。それがスパーダの役目だ。
だがまたしても以前のように無理をされてしまってはスパーダでもどうしようもないのである。
「きゃっ」
嘆息したスパーダがシエスタの体を抱えて荷物と共にシルフィードに乗せると、自らも乗り込んでいった。
(きゅい……また定員オーバーなのね……)
五人を乗せ、空に高く飛び上がるシルフィードの呻きがスパーダの耳に届いていた。
ラ・ロシェールを超えた先に位置するタルブ地方は空間を超越して移動できるゲリュオンを全速力で走らせようと一日を費やすほどの距離にある。
だが、大空を羽ばたく翼を持つ風竜のシルフィードであれば半日もかからずに辿り着くことができた。
「あ、あそこがわたしの村です」
これから日が傾き始めようという時刻の中、シエスタが地上を指差した。
降り注ぐ午後の陽光が穏やかに照らす広大なタルブの草原。その生気に溢れた大地の中、確かに小さな田舎の村が窺えるのが分かる。
道中のシエスタの話によるとこの辺り一帯を治めているのはアストン伯という名の貴族であり、村では良質のブドウが採れるのだそうだ。
それで作られるワインは有名で、トリステイン一とも言われるほどの村の名産なのだという。
実際、ルイズやキュルケも味わったことがあるそうでとても美味しかったと良いコメントをしてくれていた。
「降下」
タバサからの命令でシルフィードはその村に向かってゆっくりと滑空していった。
近隣に点在する畑はもちろん、村の中にはこの地に住まう人間達の姿を見ることができる。幾人かは降りてくるこちらに気付いて何やら慌しくなり始めているようだった。
「あっ! お姉ちゃんだ!」
「すごぉーい! ドラゴンだ! お姉ちゃんがドラゴンに乗ってきたー!」
シルフィードが広場に着陸し、一行がその背から降りるとそこに幼い子供二人が駆け寄ってくる。
恐れることなく真っ先にシエスタの傍にやってきた幼子達の頭を姉の彼女の手が優しく撫でていた。
シエスタが幼い弟や妹に帰郷を歓迎される中、広場には次々と他の村人達が集まり突然の竜の出現と貴族達の来訪に驚き、困惑していた。
「おお。シエスタではないか。一体どうしたのだね。貴族のお客様をお連れするとは……」
「あ、村長さん。こちらはわたしがお世話になっている魔法学院の方達です」
現れた初老の男性にシエスタがスパーダ達のことを紹介してくれた。
村長以下、村人達は風竜の傍にいる四人の貴族達を見やる。
その中で最も注目していたのは背中と腰に剣を携えているスパーダだった。
貴族なのにマントを身に着けてはいないし、何よりメイジの象徴であるはずの杖ではなく平民の武器である剣を手にしているのが不思議な光景であった。
「スパーダ・フォン・フォルトゥナだ。彼女達は学院の生徒でルイズ、キュルケ、タバサ。シエスタには私達も世話になっている」
腕を組みながら前へ出てきたスパーダが名乗り、ルイズ達も紹介する。
このフルネームは以前、キュルケが勝手に付けた偽名である。このハルケギニアではこれからその名で名乗ることにしていた。
貴族らしい威厳と風格を漂わせながらも屈託のない毅然とした態度で、平民に対して自ら挨拶をしてきたスパーダに村人達は呆気に取られる。
「おお、さようでございますか。こんな田舎へわざわざご足労いただき、光栄でございます。どうぞゆっくりご滞在してくだされ」
村長はにこやかに笑顔を浮かべ、ぺこりとスパーダに一礼をする。
「あら。ダーリンったら、あたしの付けた名前を使ってくれてるんだ」
「なっ! どういうことよ、キュルケ!」
キュルケは嬉しそうに笑ったが、ルイズは不機嫌そうに呻いて詰め寄った。
スパーダのフォルトゥナにおける貴族の名前かと思ったのに、何でキュルケが勝手に名前を?
そしてスパーダはどうして平然とその名を名乗れるのだ?
「ダーリンだって元は貴族なんだから名前があったって不思議じゃないでしょ?」
「だから、何であんたが勝手に名前を付けてるのよ!」
二人の貴族の子女が言い争うのを村人達は呆然としながら見つめていた。
ルイズから一方的に食ってかかるだけだったが、キュルケはいつもの余裕の態度で軽くあしらっていた。
それからスパーダ達はシエスタに招かれ、彼女の生家へと案内された。
彼女の家族は父と母、そして八人兄弟というかなりの大家族でありシエスタはその長女であるという。
幼い弟と妹達を連れて戻ってきたシエスタは父と母より久しぶりの帰郷を喜ばれた。
そして娘がスパーダ達、貴族の客を連れてきたために驚かれたが、先ほどと同じように事情を話すと歓迎された。
「お前、本当に大丈夫かい?」
「この間、モット伯とかいう貴族の所へ奉仕しに行ったって話を聞いたぞ。何もされてないな?」
心配そうに母と父はシエスタの肩や体に触れ、安否を確かめる。
どうやらあの時の話はこの実家にまで届いていたようだ。
「大丈夫よ。こちらのスパーダさんと、ミス・タバサのおかげで」
シエスタが腕を組むスパーダと本を読み続けているタバサの方を振り向き、答える。
「わぁー、おじさんかっこいいー!」
「おっきい剣だ!」
「わるい貴族からお姉ちゃんを助けてくれたんだ!」
話を聞いた幼い子供達がスパーダの足元に纏わりついてくる。スパーダはちらりと足元の子供達を一瞥していた。
「ねぇ、タバサ。どういうこと? あのメイドに何があったの? あなた達、何かしたっていうの?」
「モット伯の屋敷に悪魔が現れた。彼女を助けるついでにそれを狩っただけ」
ルイズがタバサの肩を揺するが、本人は手にする本から視線を外さずに淡々と答えていた。
(何よ。あたしに隠し事なんかしたりして!)
もう隠し事はしないと約束をしたのに、スパーダはパートナーであるルイズに全てを話してくれない。それが許せなかった。
もっとも、その約束はスパーダの素性を知った時に交わしたもの。
モット伯が化け物に襲われて死んだという報せはそれよりもずっと前に起きたことなのだ。
スパーダはそんな過去に起きたことなど一々、話す気はなかったのだろう。
(まだあたしに隠し事をしてるんじゃないでしょうね……?)
ルイズは胡散臭そうに目を細め、スパーダの背をじっと睨んでいた。
「どうも、シエスタがお世話になったようでお詫びのしようがありません。本当にありがとうございます、貴族様」
「気にすることはない」
シエスタの父は深く頭を下げて感謝の言葉を述べるが、スパーダは僅かに一瞥して素っ気なく言葉を返していた。
「シエスタ。聖碑≠ニやらのある場所へ案内してもらいたい」
母に抱かれていたシエスタに声をかけると、シエスタの父が怪訝そうに顔を歪めだした。
「貴族様、あそこに何のご用で……?」
「ただの観光といった所だ」
スパーダが目的を告げるとシエスタの父は要領が悪そうに苦い顔を浮かべだす。
「失礼を承知で仰いますが、やめておいた方がよろしいかと……」
「どうして? ちょっと行って見てくるだけなのに」
シエスタは父からの忠告に訝しんだ。あそこは村のお婆ちゃんでさえ祈りを捧げにいける何の変哲のない場所なのに。
「実はな。半月くらい前からあそこにおっかない化け物が棲みついちまったんだよ。今じゃあそこには誰も近づかないんだ」
「ば、化け物? どういうことなの、父さん」
予想もしなかった話が父より告げられてシエスタは愕然とした。
化け物という言葉にスパーダはもちろん、ルイズ達も敏感に反応していた。
話によれば、その半月前に聖碑を拝みに行ったある村人がいたという。
聖碑がある場所へ訪れた時、そこでは信じられないことが起きていた。
十数匹のオーク鬼達がいつの間にか聖碑のある場所を棲み処にしていたそうだが、さらにそれよりももっと恐ろしいものを目にしたのである。
何でも氷の力を操る巨大な幻獣が聖碑の前に居座り、オーク鬼達を全て氷漬けにして難なく蹴散らしてしまったのだそうだ。
しかもその幻獣、何と人の言葉も堪能でよく喋るらしい。
その話を信じなかった幾人かの村人は聖碑のある場所へ行ったそうだが、その人語を話す幻獣に追い返されてしまったという。
どうやら自ら危害を加えようとはしなかったそうなので、仕方なくそのまま聖碑を拝みに行く人はいなくなったそうだ。
その幻獣もそこに居座るだけで自ら村まで降りてくる様子もないので領主に討伐の依頼も出されずそのまま放置されているという。
「人を襲わないので追い返すだけなんて、その幻獣何なのかしら?」
「言葉を話す以上は、相当な大物」
キュルケの疑問にぽつりとタバサが答えた。心なしか、その口ぶりには力が込められているのが分かる。
どうやらその幻獣と戦って自分の力を更に引き上げたいと考えているのだろう。
シエスタの父も母も聖碑を見に行くのは危険だということをスパーダ達に忠言した。
シエスタ本人も困ってしまった。スパーダがここに来た目的はその聖碑だというのに、とんでもない事態になっているだなんて。
「……その幻獣とやらがどのような奴なのか確かめておこう」
「面白そうね。どんな大物なのかしら」
「ね、行ってみましょうよ。スパーダ!」
スパーダもキュルケもルイズもそんな話を聞かされたくらいで恐れ戦くことなどなかった。むしろさらに意欲が湧いてくる。
タバサに至っては何かに確信を抱いたのか杖を握る手に力がこもっている。
やはり貴族は恐れ知らずなのだなと、シエスタの父母は嘆息していた。
タルブの村より少し離れた森の奥に、その聖碑と呼ばれる遺跡があるのだという。
とりあえずそこに居座っているという幻獣とやらをお目にかけるためにスパーダ達はシエスタの案内で向かうことになった。
「聖碑ってどんな物なのかしらね」
キュルケがわくわくとした様子ではりきる。
「本当に何もないですよ? ただの大きな石版ですから。村の人達は珍しいって言って拝みに来てるだけなんです」
木漏れ日が差し込む森の中を一行が進んでいる中、スパーダは腕を組みながら僅かに顔を顰めていた。
(なるほど。……どうやら当たりのようだ)
森の入り口に差し掛かった辺りから既に感じることのできる気配と魔力。
それは紛れもなく悪魔のものであり、しかもそこらの有象無象などではないことも解っていた。
奥へ進むにつれて感じられる魔力の波動が強くなってくる。相当な実力者たる上級悪魔が居座っていることは確かだろう。
「でも、そんな恐い幻獣が棲みついちゃってるだなんて……思ってもみませんでした。本当に申し訳ありません」
「謝ることはない。棲みついてしまった以上は仕方のないことだ」
シエスタからの謝罪をスパーダは軽く受け流すと、ちらりと背後のルイズを振り向いた。
「絶対に前には出るな。シエスタと共に離れていろ」
「……わ、分かってるわよ」
念を押してきたスパーダにルイズは剥れ上がる。
本当ならば自分も杖を持ってスパーダと共に戦えるはずだというのに、この屈辱は相当なものだ。
……だからといって無力な自分が戦おうとしても邪魔になるだけ。
今の自分がいるべき場所は戦いの中ですらない。それを理解しなければならない。
これ以上、スパーダの足手纏いにはなれない。我慢するしかないのだ。
「……ちょっと寒くなってきたわね」
森に入って歩き続けてからおよそ十分。キュルケが己の体を抱きながら呟く。
今の時季ではあり得ない寒気を一行はその身に感じていた。極端に寒いというわけではないのだが、突然の環境の変化にはさすがに体が反応し肌寒さを感じてしまう。
森の奥へ進むにつれて気温はさらに下がっていき、しかも地面は冷気の霧で覆われていたのだ。
それだけこの一帯の気温が低くなっていることの証である。
「やっぱり、この先の遺跡に棲み着いちゃったっていう幻獣の仕業なのかしら」
「そいつを見てみれば分かることだ」
ルイズの言葉に答えつつ、スパーダはちらりとタバサの方へ視線を向けた。
(ずいぶんと気合いが入っている)
一見するといつもの無表情に過ぎない。しかしその瞳に宿る闘志は強く、いつ敵が襲い掛かってこようとも即座に迎え撃たんとする気迫に満ちていた。
悪魔と戦うことを望んでいる以上、これから行なわれるであろう戦いのために己の内より湧き上がる闘志をさらに燃え上がらせているのだ。
相手次第ではタバサやキュルケに全てを任せても構うまい。彼女らが敗れた時がスパーダの出番となるだろう。
「あ、見えました。あそこです」
シエスタが指を差した先、そこは森の木々が途切れ日が射し込み明るくなっていた。
スパーダ達の前に広がっていたのは、五十メイル四方の面積を有した広場であった。
それまで薄暗かった森の中とは違い、天から降り注ぐ日の光で照らされて明々としている。
「これは……」
広場に出てきてすぐにキュルケが唖然としていた。口から吐き出される息は低い気温によって白い蒸気と化す。
あたり一面、山道以上に濃い冷気の霧で覆われていた。ただ立っているだけで足元が悴んでしまいそうなほどに冷たい。
周囲の森に隣接している木々は完全に凍結され、季節外れの真っ白な樹氷の様相を呈していた。
「きゃあっ!」
シエスタが突然、悲鳴を上げた。
スパーダを除きルイズ達も思わず息を呑む。
彼女達が愕然としていたのは広場の至る所に散在していた氷塊である。
その数はおよそ十四ほど。だが、それが単なる氷塊ではそこまで驚きはしない。
では何故、驚いたのか。理由は簡単である。……その氷塊は紛れもなくオーク鬼が氷像のように氷漬けにされたものであったからだ。
シエスタの父が話していた例の幻獣の餌食になったオーク鬼とやらであろう。
完全に氷結され石像のようにピクリとも動かないオーク鬼達の無残な姿にキュルケは眉を顰めた。
素手で触れただけでこちらも凍りついてしまいそうなほどの冷気が発せられており、少しだけ触ろうとしたのをやめる。
「あれが聖碑っていうやつ?」
「……はい」
ルイズ達の目の前、広場の最奥にそびえ立つのは巨大な板状の物体があった。
およそ十五メイルほどの大きさをした長方形の黒い石版のようなものであり、でんと静かに建つその光景はどっしりとした重みが感じられる。
これがタルブの村人達が崇めているという遺跡、聖碑≠ゥ。
その聖碑とやらをまじまじと見つめていたルイズは、興ざめしたように溜め息を吐いた。
「何よ。ただの大きい石版ってだけじゃない」
聖碑と呼ばれているくらいなのだからきっと何か歴史的価値がある遺跡なのかと少し期待していただけにこの肩透かし感は相当なものだった。
何の変哲もない石版でしかないものを拝みにくるだなんて、タルブの村人達は相当に変わり者だとルイズは思っていた。
「申し訳ありません、スパーダさん。本当にこれだけしかなくて……」
シエスタが苦い顔でスパーダの方を振り向く。
支援
「……スパーダさん?」
この大きな石版を見上げているスパーダは普段は滅多に見せない顰め面を浮かべていた。
「どうしたのよ、スパーダ」
その深刻そうな面持ちを浮かべているスパーダにルイズとシエスタは狼狽する。こんなただの石版に何をここまで驚いているのだろう。
(馬鹿な……これが、ここに?)
スパーダは聖碑と呼ばれている巨大な石版を目にし、驚愕していた。
かつてスパーダが人間界で領主として治めていた土地、フォルトゥナ。
そこを最初に訪れた理由は、悪魔達の暗躍によりその地に魔界と人間界を繋ぐ門を築き、新たな侵略が仕掛けられようとしていたからだ。
悪魔達はその地に文字通り巨大な門を建造し、人間界に魔界の大勢力を一気に導かんとしていた。
スパーダはその門の魔界と人間界を繋ぎとめ、道を作り出す力を魔を喰らい尽くす愛用の閻魔刀によって切り離し、封印したのである。
その魔界と人間界を繋ぐ門は未だフォルトゥナに残っているはずである。もっとも、閻魔刀の力で封印した以上、再び閻魔刀を用いねば解除はできないのだが。
かつて封じたはずのその門が、今スパーダの目の前に堂々とそびえ立っていたのだ。
もっとも、スパーダの記憶に刻まれているものよりはずいぶんと小さいのだが。
「ところで、幻獣っていうのはどこにいるの?」
「そういえばそうよ。幻獣なんてどこにもいないじゃない」
キュルケが広場を見渡しつつ言うと、ルイズも同調して声を上げた。
広場にあるのは無数の氷像に、目の前にそびえ立つ聖碑の石版だけ。村人が見たという幻獣の姿はどこにもない。
「ミス・タバサ?」
タバサが杖を手にしたまま身構えだしたのを見て、シエスタが困惑した。
キュルケは親友のその様子を目にした途端、全てを承知したかのように自然な動作で自らも杖を引き抜く。
「ミス・ヴァリエール、シエスタ。すぐに後ろへ下がれ。決して出てはくるな」
腕を組むスパーダが二人に向けてそう告げた。
「なっ、何よ。どうしたのよ。……シエスタ?」
突然の宣告にルイズは狼狽したが、シエスタの様子が突然おかしくなり始めたことに気付いた。
(何……? これ……。ドキドキする……)
息を荒くするシエスタは唐突に胸が激しく高鳴りだしたことに動揺した。
ここには間違いなく何かが潜んでいる。その得体の知れない何かが殺気を発し、自分達に牙を向こうとしている。
すぐにここから逃げなければ。そう己の魂が警鐘を鳴らしている。
全く訳の分からぬ感覚をその身に感じているこの状況に、シエスタは困惑し続けていた。
「ちょっと、しっかりしなさいよ!」
崩れ落ちそうになったシエスタの体をルイズが支える。一体、何が起ころうとしているのだ。
(今度は奴か)
聖碑と呼ばれる石版の真下にはオーク鬼達のものとは違う大きな氷像が鎮座している。
その像は獣の姿を模したものであったが、オーク鬼達とは異なり完全に全身が分厚い氷で覆われていた。
高さにしておよそ四メイル。三つの頭を持つという異様な姿であるその氷像からスパーダははっきりと強大な魔力を感じ取っていた。
――バキリ、ピシリ。
大地を揺るがしながら獣の氷像はひび割れていき、氷が剥がれていく。
砕け散り剥がれた氷は氷塊となり地面を転がる。その氷塊を巨大な獣の前足が踏みつけていた。
見る見るうちに氷像の氷が剥がれていき、その下から黒い体の獣が姿を現した。全身を覆っていた氷の一部が未だその皮膚に薄くだが残っている。
氷漬けから解放されたその獣は巨大な犬であった。もちろん、犬といってもそんな可愛らしいものではない。
竜の固い皮膚さえも容易に引き裂いてしまいそうな鋭い爪牙、それぞれ異なる猛々しい面をした三つ首を有し、。
その三つ首は巨大な首枷が装着されることによってまとめて拘束されており、繋がれている三つの太い鎖を地に垂らしている。
このハルケギニアでは存在し得ない巨大な幻獣……否、魔獣がスパーダ達の前に姿を現した。
――オオオォォォォンッッッッ!!
一歩を踏み出し、三つ首の魔獣が天に向かって力強く吠える。
森の奥に猛々しい咆哮が轟き、大地に木々、大気さえも揺るがしていた。
※今回はこれでおしまいです。
タルブ戦+αに向けて戦力を補強するため、今回の相手はワンちゃんです。
以上で代理投下終了になります。途中さるさんにひっかかり投稿が遅れてしまいすいませんでした。
乙です
投下、代理お疲れ様!
ワンちゃんキタ
おつ
軍曹「俺は厳しいが公平だ、人種差別は許さん。メイジ豚 エルフ豚 平民豚をおれは見下さん。すべて平等に―――価値がない」
スパーダの人、お疲れ様です
ワンちゃんはワンちゃんでも別格ですね
さてと、みなさん今晩は
何も問題が無ければ22時40分頃に58話の投下を開始します。
トリステイン王国の中心部であるトリスタニアは規模こそ小さいながらも、かなりの人口が密集している場所だ。
大小様々な通りや路地裏といった街の中は勿論、劇場に役所などの公共施設にもうんざりするほどの人がいる。
古めかしい印象漂う旧市街地には浮浪者や貧困層の平民が今も暮らしており、未だ人の住みかとしての役目を続けていた。
街の地下を通る水道なども家を持てない連中の巣窟となっており、逆に人のいない場所を探せというのが困難だろう。
ある程度差はあるが、人という種の生物は生まれた時から他者と寄り添って暮らすものだ。
自分は一人でも大丈夫だと言い切る者も、無意識的に人のいるところへ近づいてしまう。
中には俗世を捨てた坊さんの様に一人寂しく山奥で暮らすような者たちもいるが、それはほんの少数。
人間は他の生物と比べ個々の力は弱いものの、群れるとなればその本領を発揮する。
数多の文明を作り上げてきた手足を使い、敵対する相手を打ちのめす武器を作り上げる。
相手に勝利した後はその頭脳をもって歴史を作り上げ、後世の子孫たちにそれを言い聞かせて生活圏を拡大していく。
そうやって安寧の地を作り上げてきた人々は、互いに寄り添う事は大事なのだと無意識に理解しているのだ。
しかし…。それは決して、お互いを支え合って暮らしているという事ではない。
◆
チクトンネ街にある自然公園。
夜には昼の倍に活気づくこの街の中央から少し離れた場所に、そこはあった。
今から二十年前、街の中にもっと自然を入れようという考えから生まれたこの公園には今日も大勢の人が訪れている。
国中の庭師や建築家達を招集してて作られたここは、正に人工の森と言っても良いだろう。
散歩道に沿って植えられた木々が初夏の日差しを遮り、歩いている人々を僅かながらにも涼ませている。
規模を比べればブルドンネ街にある公園よりも小さいものの、中央には池が作られている。
そこにはカエルやメダカといった小さなものから、タニア鯉やサンショウウオといった大きな水生生物たちが暮らしていた。
池の周りには囲うようにしてベンチを設置しているほか、貴族専用の休憩小屋まで建てられている。
水のあるところには必ず人が来ると予想してか、公園の中にはアイスクリームや軽食などの屋台まである。
少なくとも街中の噴水広場より大きく開放感のある場所の為か、今日はいつにも増して公園を訪れる人が多い。
平民や貴族といった事は抜きにして家族やカップルに従者を連れた者から、一人で来ている者まで様々だ。
そんな池の周りに設置されたベンチの一つに、黒髪の少女が座っていた。シエスタである。
魔法学院で給士として奉公している彼女は、若草色のスカートに半袖のブラウスといったラフな出で立ちをしている。
溜まっていた休暇を使って午前から街へ遊びに来た彼女は、従妹と一緒にこの公園を訪れていた。
最も。シエスタが従妹と出会ったのは偶然であり、彼女の家が何をしているのかも知っていたのでその時に軽く驚いたのだが。
従妹はチクトンネ街の方で叔父と一緒に夜間営業の店を開いているので、朝と昼の時間は寝ている筈なのだ。
寝なければ夜の仕事に影響が出るであろうし、何よりも寝不足というのは女性にとって大敵そのもの。
それを知らない従妹ではなく一体どういう事かとシエスタが聞いたとき、自分も今日は休みだと彼女は教えてくれた。
「ここ最近は忙しかったからね、久しぶりにアンタと会えるなんてこっちも嬉しい所さ」
店の看板娘と誇れる綺麗な顔に微笑を浮かべて、彼女はそんな事を言ってくれた。
そんなこんなでお遅めの昼食をとった後、折角だからとこの公園に来て三十分程が経過して今に至る。
何か飲み物を買ってくると言った従妹と一時別れたシエスタは初夏の暑さを肌で感じつつ、従妹が帰ってくるのを待っていた。
燦々と大地を照らす太陽の光と熱が彼女の身体を炙り、平民にしてはやや綺麗な肌からは玉のような汗が滲み出る。
それをハンカチで拭いつつ一体いつになったら帰ってくるのかと思った時、うなじの部分から何か違和感の様なものを感じ取った。
暑い空気が漂うこの場所で、その違和感が何なのかすぐに分かったシエスタが後ろを振り向いた瞬間…
「きゃっ…冷たっ!」
冷たい結露を滲ませた瓶が頬に当たり、彼女は小さな悲鳴を上げた。
直後、その紙コップを持っていた人物がその顔の筋肉を緩ませて笑い始める。
「ハハッ、ドッキリ大成功だ!」
まるで落とし穴にはまった阿呆を笑い飛ばすかのようにシエスタの従妹、ジェシカは言った。
貴重な休暇の真っ最中である彼女の服装はシエスタと同じく、この季節に合わせて涼しげな印象がある。
白い木綿のシャツは体より少し大きめではあるが、胸が大きいせいかブカブカしてはいない。
それどころか、彼女の長所の内一つであるそれを周りにこれでもかとアピールしていた。
無論路地裏にいるような娼婦ほど下品ではなく、いつも仕事で着ている服と比べればまだまだ控えめ程度なのだが。
「もう…真昼間だからって驚かさないでよ」
「イヤァ〜悪い悪い、ちょっと戻ってくる途中に魔が差しちゃってね?…っあ、はいコレ」
シエスタの苦言を軽い言葉と共に聞き流しながら、ジェシカは右手に持っていたアイスティーが入った瓶を手渡した。
全く反省の色を見せない彼女にシエスタは小さなため息を突きつつ、それを受け取る。
従姉が受け取ったのを確認してからジェシカも彼女の隣に座り、瓶の中に入っている炭酸飲料を飲み始めた。
普通の物よりやや大きい瓶の中に入っているオレンジソーダは小さく波打ちながら、ゆっくりと彼女の喉を通っていく。
一方のシエスタは彼女と違いすぐにアイスティーを飲もうとはせず、申し訳なさそうにその口を開いた。
「…ありがとうジェシカ。お昼ご飯だけじゃなくてわざわざジュースも奢ってくれるなんて」
「う…ひぃって、ひぃって!ふぇつにふぃにひなふてほ」(う…良いって、良いって!別に気にしなくても)
突然従姉からお礼を言われたことに、ジェシカは瓶を口に着けたまま言葉を返す。
しかし何を言っているのかわからないうえ行儀の悪い従妹の素行に、シエスタはついついその表情を曇らせてしまう。
シエスタの顔色を見てすぐに察したのか、ジェシカは少しだけ慌てたように口から瓶を離した。
「もう…貴女って子供の頃からそうよね」
呆れたような従姉の言葉に、ジェシカは「ヘヘへ…」と照れ隠すように笑う。
「自分はお行儀よく生きてるつもりなんだけどねぇ。…何て言うかな、育ちが違うってヤツ?」
先程と同じく反省していない様子の従妹にシエスタはまたもため息をつきつつ、ようやくアイスティーを飲み始める。
つい数分前まで氷水に浸かったおかげでキンキンに冷えた瓶の中身が、彼女の口内を刺激していく。
少し過剰とも思える程度に冷たいアイスティーの味と香りをじっくりと堪能しつつ、それを喉に通らせていく。
それから二口分ほど飲んで口から瓶を離し、シエスタはふぅ…と一息ついた。
彼女の口から出たそれは飲む直前のため息とは違い、生き返ったと言いたげな雰囲気が込められている。
「……美味しいね。冷たくて」
「でしょ?」
従姉の口から出た感想に、従妹は満面の笑みを浮かべた。
それは、二人の大事な休日の一シーン。
細かくすれば、公園の中で起こっている様々なイベントの一つ。
もっと遠くから見れば、チクトンネ街の中で起こった些細とも呼べぬ出来事。
そして空の上から見下ろせば…トリスタニアに住んでいる何万人もの平民たちの内、たった二人の会話。
誰かの目には入るかもしれないが、永遠に記憶されないであろうその会話。
しかし二人にとっては、青春時代の思い出に刻まれるであろう大切な一時なるのだ。
まるで制限時間付きの魔法を掛けられたお姫様のように、二人は残された午後の時間を楽しむだろう。
人という生物は群れる事によって強固な都市を作り、世代を重ねて平和を謳歌する。
ここにいれば安全に生きていけるし、外敵に怯える夜を過ごさなくても良い。
だから忘れてしまった。自分たちを脅かす要素が内側からも発生するであろうことに。
自然公園からもう少し北の方へ進むと、小さな林が広がっている。
かつて旧市街地の遊歩道兼小さな公園として作られたここは、今や誰も訪れぬ場所となっていた。
人の手と自然の力によって作られたここは死んだように静まり返っており、遠くの方からは街の喧騒が聞こえてくる。
まるで墓地のような雰囲気を漂わせるこの場所には、唄を囀る小鳥もいなければ野を駆ける動物たちもいない。
そこから進んだところにある樹海の入り口とここを隔てるように設置された錆びた鉄柵の所為で、外の世界から来る者がいないのだ。
風に吹かれてなびいた木々が自然の音楽を奏でてはいるが、それがかえってこの場所を不気味にしている。
碌に整備されず好き放題に伸びた雑草が荒廃した雰囲気を作り、遠くから聞こえてくる明るい喧騒が空しさを駆り立てる。
まるでここは箱庭。ただ砂の地面に木や芝生の置物だけを設置して構成された空虚な世界。
普通の神経を持った人間ならば、すぐにでもここを離れて人気のある場所へと走るだろう。
それは常識的に最も正しい答えであり、大衆が賛同する模範的解答例に違いない。
しかし――――゛少女゛は好きであった。人気のないこの小さな世界が。
誰もが忘却してしまった朽ちた箱庭のような此処が、なんとなく好きになってしまったのである。
「……………」
一見すればボロ布と勘違いされるであろう黒いローブを羽織った゛少女゛は何も言わず、ただじっと空を見上げていた。
枝と木の葉が擦れる音を耳に入れつつ、゛少女゛は雲が緩やかに流れていく光景を目に焼き付けている。
朝方と比べ幾分か冷たくなった初夏の風が特徴的な少女の黒髪と、後頭部に着けた赤いリボンをフワフワと揺らす。
まるで鱗翅目の中で中々麗しい容姿を持つ蝶のような形をした赤色のリボンは、この場所で最も目立つ色をしていた。
腰ほどまで伸びた黒い髪は陽の陽の光に当たり、艶やかに輝いている。
肌の色はハルケギニアに住む人間と比べると若干黄色が混じってはいるが、近くで見なければまずわからないだろう。
無表情ではあるが顔の方も均整がとれていて文句は無い。正に花すら恥じらうという言葉が似合う程。
ここまで言えば容姿端麗の美少女なのだが。唯一意義を唱えるべき個所が一つだけあった。
゛目゛だ。
゛少女゛の眼窩に嵌っている、二つの球体状のそれ。
赤みがかった黒い両目は確かに美しいものの、どこか虚ろな雰囲気があった。
まるで路地裏に暮らす孤児のように、何かを悟り諦めてしまったかのような絶望感。
生きていく希望や理由すら失い、生ごみでも食んで毎日を無作為に過ごしていくような虚無感。
まともな人生を歩んでいる人間が浮かべる事の出来ないようなそれが、その両目から惜しみなく滲み出ている。
きっと゛少女゛がその両目で睨めば多くの人間が怯み、自ずと消え失せていくであろう。
しかし、゛少女゛はそれでも良いと思っていた。他人の為に気を使うならば、ずっと一人でいる方が気楽だと。
だから好きになれたのかもしれない。自分と同じように、誰からも愛されなくなったこの場所を。
「………」
空を見上げていた゛少女゛は、ふと何かを思い出したかのように頭を下ろす。
青と白の美しい景色から一転して目に映るのは、周りを囲むように生えている雑木林。
十年近くも前から手入れされなくなったこの場所は、夏が訪れようとしているのに薄ら寒い何かが漂っている。
かつて人から名前を貰ったこの土地も、多くの人々の記憶から忘れ去られた今では死に体も同然。
撤去されたベンチの埋め合わせで生えてきた雑草は少女の膝くらいの高さにまで伸びており、お世辞にも歩き易い場所ではない。
少し厚めの靴下を履かずに歩こうものなら、無駄に成長している草たちでその足を切ってしまうだろう。
幸いにも゛少女゛が今いる場所はそれほど成長しておらず、注意して歩けば怪我をすることはない。
しかし、゛少女゛はそんな理由で頭を下げたのではなかった。
頭を下ろした゛少女゛を囲むようにしてできている小さな雑木林。
リスやトカゲといった小動物はいないものの、きっとコガネムシやバッタなど昆虫たちの住処と化しているだろう。
雑木林にその身を囲まれている゛少女゛はその場から動くことなく、ゆっくりと周囲を見回し始めた。
まるで何かを探しているかのように、頭だけを動かして見回している。
顔色一つ変えずそのような事をしている゛少女゛の姿は、何処となく不気味な何かが漂っている。
やがて十秒ほど辺りを見回した時、突如゛少女゛の動きが止まった。
まるでリードを引っ張られた犬の様にその体をビクリと止めた゛少女゛の視線の先にあるのは無論、雑木林。
常人が一見すれば何の変哲もないであろうその林…否、その林の゛向こう゛から、゛少女゛は感じ取っていた。
自分をここまで連れてきた、゛怒り゛の根源であろう゛何か゛の気配を―――――
゛少女゛は目の前をじっと見据えたまま、思い出し始める。
なぜ自分がこんな場所へとやって来たのか、その理由と経緯を。
数時間前、゛少女゛をとある苦痛から助け出した゛怒り゛の感情がこんな事を教えてきた。
『お前は今から、ある場所へ行け』と。 ゛少女゛自身の心が、゛少女゛の体にそう命令したのである。
゛少女゛はその指示に従って森の中を歩き、途中襲いかかってきた豚頭の怪物を葬ってここへ来た。
その時近くにいた二人の人間が襲いかかってきたのだが、その人たちがどうなったのか゛少女゛は良く知らない。
襲われた張本人である゛少女゛自身が覚えていないというのはどう考えてもおかしいが、本当に何も覚えていないのだ。
ただ。二人の内一人が何かを言ってきた時、自分の意識が混濁したことだけはハッキリと覚えていた。
何を言われたのかという事も覚えてはいないが、きっとその言葉は自分にとって一番言われたくない言葉だったのだろう。
もしもそうならば、むしろ思い出す必要は無いと決めて゛少女゛は考える事をやめた。
そうして何も考えずただ゛怒り゛の指示に従って歩き、今に至ってようやく゛少女゛は理解した。
――――――゛怒り゛は、導いてくれたのかもれない。
自分を苛んでいた痛みの根源である、゛何か゛と会わせるために…
その瞬間であった。
目の前の林から二つの小さくて薄い物体が飛び出してきたのは。
少なくとも亜高速の銃弾より遅いであろうそれはしかし、並大抵の人間の目では決して捉える事はできないだろう。
それ程の速度で迫ってくる二つの物体に対し゛少女゛は頭で考えるより先に体を動かし、咄嗟に左手を前に突き出す。
突き出したと同時に二つの物体と左手が見事衝突した瞬間、不思議な事が起こった。
何とその物体は、まるで糊が塗られているかのようにピッタリと゛少女゛の左手に貼りついたのである。
「あっ…――…えっ?」
一体何なのかと軽く驚きそうになった瞬間、そこで゛少女゛は気づく。
自分に目がけて飛び出してきた物体の正体が、二枚の紙であったことに。
長方形の白いそれには、赤い墨を使って文字か記号の様なものが書かれている。
それが目に入った瞬間、今まで無表情であった゛少女゛の目がカッと見開かれた。
゛少女゛は知っていた。この紙に書かれている文字がどういう意味を示しているのか。
そして、これの直撃を喰らう事が非常に危険だという事だと。
直後、゛少女゛の左手に貼りついた二枚の紙がパッと一斉に光り輝く。
まるで信号弾のように青白いその光は、あっという間に彼女の体を包み込み―――――爆発した。
黒色火薬や系統魔法のどれとも違うそれは、本来はこの世界に無い力に包まれている。
それ程強くもない爆発だというのにそこから生まれた風は強く、地面の雑草を吹き飛ばし雑木林を激しく揺れ動かす。
地面の土が煙となって一斉に舞い上がり、爆発の中心にいた゛少女゛ごと周囲を包み込む。
爆発自体は一瞬であったものの、その一撃はあまりにも強かった。
しかも爆弾や魔法でもない、たった二枚の紙がそれを引き起こしたのである。
もしこの事を知らない人間に事情を話しても、すぐに有り得ないの一言でバッサリ切られてしまうだろう。
「――――――成る程。…こりゃまた、とんでもないのがやって来たわね」
辺り一帯が土ぼこれに包み込まれ、爆風の余波で今も揺れ動く林の木々。
先程とは一変してやかましくなったその場所へと、一人近づこうとしている゛彼女゛がいた。
爆発に巻き込まれた゛少女゛と同じ色の髪に同じ色とデザインの赤いリボンを頭に付けた、赤みがかった黒い瞳の゛彼女゛。
紅白の服と黄色のスカーフを身に着け、服とは別になっている白い袖を腕に着けている゛彼女゛の表情は不機嫌なものとなっている。
「まぁ、ここ最近は動きが無かったから充分休ませてもらったけど…」
゛彼女゛は黒いローファーを履いた両足でゆっくりと歩きながらも、一人何かを呟きながら歩いている。
白いフリルがついた赤のセミロングスカートをはためかせ、爆発の中心部へ向かって一歩一歩確実に近づいていく。
右手には先程の爆発を起こした原因である白い紙と同じものを三枚、しっかりと握り締めていた。
もしもあの爆発を見ていた者がいたら、きっと気づく者は気づいていたに違いない。
あの爆発を起こしたのは、もしかすると゛彼女゛かもしれないと。
生憎この場に居合わせているのは゛少女゛と゛彼女゛の二人だけであったが、それは間違っていない。
あの紙を゛少女゛に投げつけ、爆発させたのは゛彼女゛の仕業だった。
「だからって、来ただけで散々人を驚かせるなんて…ちょっと趣味にしては悪質よねぇ?」
尚も濃厚な土煙が漂う爆発の中心部の前で足を止めた゛彼女゛は、まだ呟いている。
もしもこの独り言が他人に聞かれたとしても、きっとその言葉に含まれている事実を知ることは出来ないだろう。
立ち止まった゛彼女゛はその場でジッと土煙を睨み、その中にいるであろう゛何か゛を見据えようとしている。
中心地に何がい今はどういう状況になっているのかという事も知らなかったが、゛彼女゛は感じていた。
わざわざ自分を街の中央から、こんな人気のない場所へと導いたであろう傍迷惑な゛存在゛の気配を。
「メイジとかキメラといい――――…そしてアンタといい。本当、この世界は面白くて厄介だわ」
独り言をつづけながらも、゛彼女゛はジッと睨み続けている。
初夏の風に吹かれて少しずつ薄れていく土煙の中から見える、黒い人型のシルエットを。
奇妙な事に、そのシルエットの正体が突き出したままであろう左手がボンヤリと薄く光っている。
煙越しに見ているせいかもしれないが、まるで空中に浮かぶ火の玉のようだ。
「さてと、痛い目にあわして色々と聞きたい前に一つだけ質問するけど…」
゛彼女゛がそう言った時、段々と薄くなっていく土煙の中からゆっくりと゛少女゛が歩いてきた。
左手を突き出した姿勢のまま、突如攻撃をしてきた゛彼女゛と同じ歩調で足を前に進めて迫ってくる。
段々とその姿がハッキリと見え始めた時、゛彼女゛は静かに身構えた。
まるで飢えた猛虎と対面した獅子のように、いつでも先手を打てるよう左手を懐に伸ばす。
その直後。爆風の中からようやく出てきた゛少女゛が、目の前にいる゛彼女゛と対峙するかのようにその場で足を止めた。
爆発でその身に羽織っていたローブが破け去った今、゛少女゛の着ている服が明らかとなった。
紅白を基調とした服に黄色のスカーフ。そして服とは別々になっている白い袖。
赤いセミロングのスカートには白いフリルがついており、土煙の所為で少しばかり汚れている。
足に履いているのはローファーではなくブーツであったが、それ以外は゛彼女゛と全く同じ容姿をしていた。
そう、全く同じ容姿をしていたのだ。瓜二つや双子という言葉では例えられない程に。
顔の形や肌と目の色も全て、型を取って量産された安い置物のように二人の姿は九割方一致している。
違っている点は履いている靴とその顔に浮かべた表情、そして体から滲み出ている゛怒り゛であった。
゛彼女゛の体からは、段々と熱くなっていくお湯の如く怒りに満ちていく気配と癇癪玉の如き不機嫌さが募った表情。
゛少女゛の体からは、心の芯まで冷えてしまうような氷の如く冷静な怒りの気配と人形の様な無表情。
だが…それ等を別にして何より目立っていた共通項は、双方ともに光り輝く゛左手゛であった。
先制攻撃を仕掛けてきた゛彼女゛の左手にはルーンが刻まれており、それを中心にして薄く輝いている。
一方の゛少女゛の左手には何も刻まれていないものの、夜中の墓地を彷徨う幽霊の様にボンヤリと光っている。
人気失せて久しい森林公園の中。
そこに今、殆ど同じ容姿をした二人の少女が対面している。
見れば誰もが困惑するであろう。段々と現実から離れてゆくその光景に。
「アンタ、一体何なのよ?」
゛彼女゛―――博麗霊夢の口から出た唐突な質問に、
「…それは、こっちが聞きたいくらいよ」
゛少女゛――…博麗霊夢は手短に返した後。戦いが始まった。
方向性はそれぞれ違うものの、二人の心が゛怒り゛のそれへと染まりきった状況の中、
全く同じ姿と声を持ち、互いに左手が光っている二人の霊夢の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
一方、そこから大きく場所は変わってチクトンネ街にある゛魅惑の妖精亭゛。
今はシエスタと休日を楽しんでいるジェシカと、その父スカロンが営んでいる夜間営業の飲み屋だ。
夜になれば大繁盛するこの店も今は出入り口を硬く閉じており、外からの侵入者を拒んでいる。
それは周りにある他の飲み屋も同じで、寂しい空気が通りに吹き荒んでいる。
店の者たちにとって朝と昼は就寝の時間である為、ここでは昼夜逆転が当たり前であった。
最も、今は午後三時。あと二、三時間もすれば彼らの稼ぎ時がチクトンネ街の雑踏や喧騒と共に訪れる。
その為か気の早い者たちから順にベッドからその身を起こし、支度を始めていく。
特に゛魅惑の妖精亭゛では早寝早起きが基本の為か、店の中は既に騒がしくなってきていた。
いよいよ夕方が迫ってくるであろうこの時間、店の者たちはもぞもぞと起きて開店準備を始める。
店で働く女の子たちは寝間着から際どい衣装に素早く着替て、テーブルを拭いたり等店内の掃除をする。
生憎と店の看板娘の一人であるジェシカは休みであったものの、その分チップを稼げると彼女たちは笑い合っていた。
一方厨房で働いてる者たちはというと、ブルドンネ街の方から運ばれてきた今日一日分の食材を倉庫にしまうなどの力仕事をしている。
氷を満載した運送業者の馬車から降ろされる食材やワインはしっかりと鮮度が保たれており、痛んだものは見当たらない。
店の裏口に止められた馬車から食材を運び出す者たちの殆どが男であったが、その中に女性が一人だけいた。
眩しいくらいの金髪をボブカットにしており、髪と同じ色をした切れ長の両目。
遠目からなら美青年と見間違えてもおかしくない美しい顔立ちの彼女は、周りの男性たちと同じ服を身に纏っていた。
市販の物と比べてやや厚めのブラウスに黒い長ズボンと、調理場で動きやすい出で立ちをしている。
本当なら服の上に妖精の刺繍施された薄緑色のエプロンを着けるのだが、今は店のカウンターに置いていた。
今は業者が運んできた食材を厨房の者たち総出で運ぶのが仕事であり、調理場に立つのはまだまだ先の事である。
そしてこの店は料理などの仕事を基本男性に任せている為、彼女の存在は思いのほか目立っていた。
現に、通りから荷物を運ぶ様子を垣間見ていた人たちの内何人かがその場に留まり、遠くからジッと女性を見つめている。
しかし彼らの大半がその仕事ぶりを見たいが為ではなく、彼女の顔をもっと見たいためにその足を止めていた。
どこぞの貴族令嬢と言われれば思わず納得してしまう程の美貌を持った女性が、自分たちと同じ場所で働いている。
女に飢えている男たちはその光景と顔を見るだけで満足であり、その内の何人かが決心した。
今日は絶対この店へ足を運んで、あの素敵な女性にお酌をして貰おうと。
それを心に誓った男たちは軽い足取りでその場を離れ、自宅に置いてある貯金を取りに人ごみの中へと消えていく。
しかし悲しきかな、彼らは知らなかった。
彼女がウエイトレスではなく、滅多に厨房から出てこない皿洗いの仕事をしている事に。
「何だ、お前さん皿洗いなのに随分と人気があるようだぜ?」
「そうか?私としてはあまり気にしてないんだが…」
男たちの視線に気づいていたコックの一人が茶化すように、店内から出てきた女性に話しかける。
彼の言葉に気づいて軽く微笑みながらも、彼女は言葉を返した。
「でもまぁ、それで金持って店に来てくれるのなら悪くはないな。―…だろ?」
麗しい顔からは想像できない冷たさを孕んだ返事に、話しかけたコックは思わず苦笑いをしてしまう。
(そういやぁ…コイツとあの女の子がウチに来てからもう二ヶ月近く経つのか)
彼はふと思い出したかのように心中で呟き、これまでの事を思い出し始めた。
性格自体は生真面目で仕事熱心で、皿洗いの癖に店で出しているメニューのレシピもすぐに覚えてしまったほど料理の腕も良い。
しかし時折、今の様な冷たい言葉を遠慮なく呟くこともある為かあまり人が寄ってくるような人柄ではない。
更にここで働く前は東方から来たという旅人だった所為か、思い出したように三回ほど仕事を休んで姿を消した事があった。
一回目は半日で二回目は一日程度ではあったが、先週の三回目は女の子を店に置いて五日ほど何処かへ行っていた。
本人曰く「ここ一帯の地形や生態系を調べている」と言ってはいるが、真相は全くわからない。
休む時は事前に言ってくれるし、休んでいた分を返すように仕事も頑張ってくれるが、それがかえって怪しさを募らせている。
だがこの店…否、ここチクトンネ街の飲み屋で働いている大抵の人間はそれなりの゛ワケ゛を持っている。
程度の差はあれど殆どの人間はその゛ワケ゛を隠しているし、詮索されることを嫌う。
それほどまでに隠したい゛ワケ゛を、無理矢理聞き出そうというのはあまりにも失礼な事だ。
いつの頃からかは知らないが、ここチクトンネ街にはそのような暗黙のルールが存在する。
無論この店を経営するスカロンもそのルールに従い、彼女の休暇届を笑顔で受け取っている。
もともとは宿を探していた事がここで働くキッカケだったせいか、スカロン自身も無理に働かせようとは思っていないらしい。
置き去りにされる女の子も一人でいるのは慣れているのか、彼女が居ぬ間はその埋め合わせをするかのように働いている。
屋内でも大きな帽子を被った不思議な子であったが、これもまぁ無理に詮索はしなかった。
ただ…やはり気になるのか、ジェシカをはじめとした店の何人かが秘密を探っているとかいないとか。
「…それじゃあ、私は次の荷物を取ってくるからお前もそれを運んでくれよ」
そんな風にして、一人回想に耽っていた時であった。耳元に彼女の声が入ってきたのは。
彼はハッとした表情を浮かべ、思わず落としそうになった食材入りの木箱をグッと持ち上げる。
箱を落として貴重なお給金が減るのを回避できたコックはホッと一息ついてから、頭だけを後ろへ向ける。
視線の先に、新しい木箱を軽々と持ち上げる女性の姿があった。
「ランの奴…力もあるしそれなりに面白いが、人を驚かせるのも上手いよな」
下手すれば減給をくらっていた彼は恨めしそうに女性―…否、八雲藍の背中に向けてそう呟いた。
「よっ――と、…ふぅ」
馬車の荷台から運び上げてから店内の倉庫にまで置き終えた藍はその場で一息つく。
汗一つかいていない額を無意識に右腕で拭いつつも、ふと倉庫の中を一通り見回す。
「それにしても…相変わらずスゴイ量だな」
ゆっくりと頭を動かしながらも彼女はポツリと、感想らしき言葉を口から漏らす。
あと三時間近くに迫った開店から夜明けの閉店まで、店を盛り上げてくれる一日分の食材たちが狭い倉庫に置かれていた。
これ等はすべて営業時間内に使い切り、無理な場合は従業員たちの賄いとして利用される。
゛魅惑の妖精亭゛はここ一帯では非常に有名な店であり、納品される食材の量とそれの消費速度はかなりのものだ。
その為今倉庫に置かれている食材も五分の一だけを残して、全てが客の胃袋に収まってしまう。
だがその日その日で売り上げが変わる様に、食材が余らない時と異常に余ってしまう事もある。
ブルドンネ街にある飲食店等では、マジックアイテムを使って保存させる事が出来るという。
こことは違い上流階級の貴族や成功を収めた商人を相手にする店では、冷凍庫とも言える場所の存在は必要不可欠だ。
しかし、下町であるチクトンネ街にあるような店にはそんな気の利くアイテムが無く、あったとしてもそれを維持する金が無い。
使い切れなかった食材は保存ができず、ここを含めた大半の店では一日に出される生ごみの量も少しばかり多い。
だがこの世界の人々の衛生面は意外とキッチリしており、ちゃんと決められた場所にゴミが捨てられている。
そのゴミを始末するのは役所が雇った清掃業者と飼い主のいない犬猫に、カラスやネズミと言った動物たちだ。
もし両者を天秤に掛ければ、金を要求する業者なんかよりも無償でゴミを処理してくれる動物たちの方が幾らか自然に優しいのは間違いない。
この地に住まう人々もそれを理解しているのか、動物たちにあまり手を出すと言った光景を見たことが無いのだ。
結局のところ、人は何処まで文明が進んでいったとしても、動物との共存は必要不可欠なのだろう。
「貴族や平民を抜きにしても大差ないのだな。人間の生活というのは」
自分以外誰もいない倉庫の中で、藍は呟く。
思っていた以上にこの世界の人々が、しっかりしていることに感心しながら。
そんな時であった、開けっ放しのドアの先から聞きなれた男の声が聞こえてきたのは。
「ホラホラァ〜…貴方たち、ちゃんと腰をキュッ!と引き締めて持ち上げなさい!」
野太い声では非常に気持ち悪いオネェ言葉で話す男に心当たりがあった彼女は、思わずそちらへ振り向く。
開いたドアの先にあるのは、今いる倉庫や厨房に裏口といった場所を繋いでいる従業員専用の廊下だ。
そして、路地裏側に取り付けられている窓から先程の声の主であるスカロンの後ろ姿が見えている。
彼の近くには大きな箱を持っている二人の店員がおり、何やらトラブルを起こしかけてスカロンに叱られているようだ。
スカロンは器用に腰だけをくねくねと動かして喋っており、それを窓越しに見ている藍は思わず苦笑してしまう。
何故だかあれを見ていると、人気のない田んぼや畑に時折出てくる白いアレを思い出してしまうのだ。
「本人には失礼だが…何度見ても、あの動きは不気味だな」
色々と条件付きではあるが、ここに住まわせてくれているスカロンに向けて呟いた時であった。
「ニャア…」
「……?」
ふと足元から、猫の鳴き声か聞こえてきた。
何かと思い後ろへ向けていた頭をそのまま下へ動かしてみると、茶色の猫がチョコンと座っていた。
まるでキチンと躾けられた飼い猫の様にその場から動かず、けれど尻尾だけは左右に軽く振っている。
それに体の汚れと臭いからして、恐らくはチクトンネ街の残飯や生ゴミを餌にする野良猫の一匹だろう。
トリスタニアに住んでいる動物の中ではネズミと人間、そしてカラスや犬に次いで生息数の多い猫が、今自分の足元にいる。
その事実に気づいた藍は一瞬だけ驚いた表情を浮かべるも、それはすぐに暖かい笑みに変わった。
この時間帯は換気の為に窓を開けっぱなしにしているので、こうして野良猫が紛れ込んでくることがある。
ネズミならともかく猫が入ってくると爪で引っ掻かれる事もある為か、見つけ次第軽く叩いて追い出すのが基本であった。
「どうした?今の時間に入ってきても何もやらんぞ?」
しかし、店内に不法侵した猫の目撃者である藍は一人喋りかけつつも、よしよしと猫の頭を撫で始めた。
犬はともかく猫はそれほど嫌いではない彼女にとって、野良猫が一匹店内に紛れ込んでも錯乱することは無い。
何より彼女と一緒にいる゛あの子゛が゛あの子゛だ。猫嫌いになる要素が全くなかった。
だからこうして今の様に、余裕満々といった態度で野良猫を触る事もできる、
しかし規則は規則なので店内から追い出す必要がある、無論暴力を振るわずして。
もしも間違って蹴飛ばしたり殴ったりしてしまえば゛あの子゛は泣くだろうし、自分に怒りもするだろう。
そこまで考えていた時点で、藍はこの野良猫を極めて安全な方法で店内から追い出す事を選んだのである。
「一体どこから入ってきたのか知らないが、今度は夜明けにでも来た方が良いよ?」
頭をなでながらも、藍は゛あの子゛に話しかける時と同じような優しい声と言葉遣いで野良猫に話しかけている。
もしもこの光景を別の誰かが見ていたのなら、怪しいと思われても仕方のない事であろう。
何せ言葉の通じない動物と話し合っているのだ。余程の猫好きでなければ見慣れぬ光景であることには違いない。
遠まわしに寝床へ戻れと言われた野良猫はその言葉に対し、口を開けて一声鳴いた。
「…ミャ〜ォウ…オゥオゥ…ミィ〜ウ」
それは誰が聞いても単なる猫の鳴き声、人の耳では決して解読する事の出来ぬ彼らだけの言語。
「―――――…何?」
しかしそれをすぐ傍で耳にした藍の表情は、穏やかな笑みから瞬時に怪訝なものへと一変した。
もし彼女の豹変を他人が見ていたらこう思うだろう。まるで猫の言わんとしている事がわかっているかのようだと。
だが、それは決して間違ってはいない。
理解しているのだ。目の前の猫が何を伝えようとしているのか。
そしてその内容が、数時間後に迫ってきた店の仕事よりも優先すべき事だというのも。
表情を変えた藍は真剣な眼差しのまま足元の猫を抱きかかえると立ち上がり、そのまま廊下へと出る。
「あの子にこう伝えといてくれないか?゛店に残っておけ゛…と」
全く暴れようともしない野良猫の頭を最後に一回だけ撫でてそう言った後、スッと両腕の力を抜いた。
藍の腕から解放された猫はストッと床に着地したのち、すぐ横にある階段を上り始めた。
彼女からの伝言を、二階にある仮の居室にいるであろう゛あの子゛に伝えるために。
時刻が午後の三時に達し、落陽の時を間近に控えたチクトンネ街の一角。
人々は朝や昼と比べて気温がゆっくりと下がっていくのを肌で感じつつ、狭い通りを行き交っている。
少し歩いけばブルドンネ街の方へ行けるここは人の通りが他と比べて割と多く、当然活気もあって激しい。
平民の中に混じってマントを付けた貴族の姿も見られ、中には従者を連れて通りを歩く者たちもいる。
そんな場所を、魔法学院の制服を着た桃色ブロンドの少女とトンガリ帽子を被った金髪の少女が走っていた。
時折通行人の肩にぶつかりながらも二人は足を止める事は無く走り続けており、その様子から只事ではないと推測できる。
これが劇や小説ならば、少女達は人身売買の商人たちから逃げている。正にその状況がピッタリと当て嵌まる程だ。
肩をぶつけられた通行人たちはギョッした顔で振り向くも、すぐに前を向いて人ごみの中へ消えていく。
現実はフィクションの様に甘くはなく、例え悪いヤツに追われていてもヒーローのように助けてくれる人なんて殆どいないのである。
しかし、通りを走る少女たちは゛逃げている゛のではなく゛追っている゛のだ。
いきなりおかしくな事を口走り、何処かへと走って行ってしまった紅白巫女を見つけるために。
チクトンネ街の一角を走る彼女らは、小さなトンネルの前でその足を止めた。
共同住宅の真下に出来ているこの抜け穴の高さは五メイルで横幅は四メイル、そして長さは十メイル程度。
トンネルの中に照明はなく暗いのだが、そこを抜けた先にある通りから漏れる光がハッキリと視認できる。
彼女ら以外は今は誰もいないそのトンネルの入り口で、桃色ブロンドの少女ルイズは息を整えた。
そこらの貴族よりかは体力に自身があるのだが所詮は人間の女子、男性や男子と比べればその体力は少ない。
気温はゆっくりと下がりつつあるが未だに街中は暑く、ここに来るまで走り続けていた事もあってかなり疲労していた。
そんな彼女の後ろから、その手に箒を持って走ってきた魔理沙がいかにもヘトヘトといった様子でやってくる。
ルイズと同程度かそれ以上に体力への自信がある彼女なのだが、如何せんトリスタニアの空気に慣れていないらしい。
幻想郷の人里ではお目にかかれない程激しい人ごみの中を走ってきたおかげで、今ではルイズより疲労困憊していた。
「走れど走れど出口の見えぬような人ごみの先にあったのは…トンネル、か」
まるで詩人のようにそんな言葉を呟きつつルイズの傍へやってくると足を止め、彼女はその場に箒を置いて座り込んでしまう。
次いで頭に被っている帽子を手に取るとそを団扇代わりにして汗だらけの顔の前で扇ぎ、涼を取ろうとする。
その様子を横目で見つめつつ、ルイズはふと顔を上げると恨めしそうにこんな事を呟いた。
「全く、レイムのヤツは何処に行ったっていうのよ!」
トンネル側の壁に手をつきながら、彼女はついさっきまで一緒にいた霊夢の事を思い浮かべる。
ルイズたちが街中を走る羽目となった原因を作った者が彼女であり、またルイズたちが探している人物も彼女であった。
突然おかしくなって店を出ていった彼女を追いかけていたのだが、チクトンネ街に入ったところでその姿を見失ってしまったのである。
それまでの道中も決して楽なものではなく、この人ごみの中でどれだけ苦労したことか。
しかも二人してまだまだ子供と言える体格なので、ここまで来るのにかなりの体力を消費していた。
「こっちだって色々聞きたいことがあったって言うのに…」
ルイズはまたも呟きつつ、レストランの中で起きた事を軽く思い出す。
昼食を終えて話をしつつデザートを食べていた最中、急に霊夢の様子が豹変した。
気怠そうな表情から目を丸くして驚いたものへと変わり、突然席を立ったのだ。
予想だにしていなかったことに、ルイズと魔理沙は驚いて何なのかと聞いてみたが霊夢は一向に返事をしない。
無視しているというよりまるで耳が聞こえなくなったように、彼女はこちらに見向きもしなかったのである。
一体どうしたのかと思った瞬間、次なる異常事態が霊夢の体に起こった。
何と彼女の左手に刻まれたガンダールヴのルーンが、突如として光り出したのである。
アルビオンへ赴いた時ぶりに目にしたそれに、ルイズは心の底から驚いた。
何せあの時、裏切り者と化したワルドとその遍在たちを相手に一瞬で形勢を逆転してしまったのだ。
もしもあの時彼女が来てくれなかったら、今頃自分はここにいなかっただろう。
それを自覚しているルイズとその彼女を助けた霊夢の二人にとって、あの時の事は忘れられない出来事となった。
故に、あの時は心の底から驚いていた。
そこまで思い出し終えた時、すぐ近くにいた魔理沙が「しかし…奇妙だよなぁ?」と呟いた。
「あのルーンが急に光り出したかと思うと、アイツの様子がますますおかしくなったんだから…」
帽子を団扇代わりにしている彼女の口から出た言葉に、ルイズはハッとした表情を浮かべる。
「そうよ…ルーンが光り出してからだわ。アイツがおかしくなって店を出て行ったのは…」
魔理沙本人も自覚していなかったであろう思わぬ助言に、ルイズは思い出した。
ルーンが光り出してしばらくした後に、霊夢の表情がまたも豹変したのである。
まるで目の前を歩いていた人間が突然、魔法を使わずして空に浮かび上がった瞬間を見たかのような表情。
そう、実際にはあり得ないモノや出来事に遭遇した時のように、眼を見開いたのだ。
次いで「私の…声?」とよくわからない事を呟くと、バッと後ろを振り向いた。
その時は魔理沙と一緒にそちらの方へ目を向けたのだが、そこには誰もいなかった。
しかし霊夢には何かが見えていたのか、その゜口からは「アンタ…誰なの?」とか「アンタは…何なの?」と更に意味不明な言葉を呟いていた。
これには流石の魔理沙もおかしいと感じ始め、霊夢の肩を揺さぶってやろうと立ち上がる瞬間。
「アンタは―――――――…私?」
霊夢はその言葉を呟き、目にも止まらぬ速さで店を飛び出した。
呆然とする魔理沙と驚いた表情を浮かべたルイズを残して、街の中へとその身を投げ込んだのである。
「それにしても、あいつが脇目も振らずに走る姿は生まれてこの方初めて見たぜ…」
ルイズが思い出し終えた時、偶然にも同じことを思い出していた魔理沙がポツリと呟く。
その言葉を聞いたルイズは何かに気づいたのか、無意識に「アッ」という言葉が口から出てしまう。
突然の声に魔理沙はキョトンとした表情を浮かべてどうした?と聞く前に、彼女は「もしかしたら」と話し始める。
「この前怪物と戦った時みたいに、何かの気配を感じて…」
ルイズがそこまで言った直後、二人の背後から小さな拍手の音が聞こえてきた。
まるで誰も見向きしない人形劇に、せめてものお情けを言わんばかりの一人分の寂しい拍手。
手と手が織りなす単調かつシンプルなリズムの音にルイズは身体ごと、魔理沙は首だけを動かして振り返る。
彼女らの背後にあったのは別の通りへと続くトンネルであったが、その中で拍手をしつつこちらへ向かってくる影があった。
ドレスのような服を身にまとっているそのシルエットは一見貴婦人に見えるものの、貴族の象徴であるマントはつけていない。
腰の所まで伸びた長い金髪は入り口からの光で輝き、熟練した美容師でもあれほど綺麗にするのは難しいだろう。
拍手をしているのは彼女だとわかったが、一体どこの誰だろうか?
二人がそう思った時…―――――
「中々良い推察ね。ルイズ・フランソワーズ」
こちらへ向かってくる影自身が、その答えを声にして教えてくれた。
まるでガラス細工の様に繊細で綺麗な女性の声が、ルイズたちの耳に入ってくる。
その声に聞き覚えがあったルイズは目を丸くし、魔理沙は「何だ、お前か」と呟き一息ついた。
「久しぶりにこちらへ来てみたら、なんとまぁ…私の考えていた通りになっているじゃないの」
少なくとも二人が知っているであろうその人物は一人呟きながら、とうとうルイズたちの前へとその姿を現した。
ドレスと思っていた服は教会の司祭が着ているような導師服で、その上に青い前掛けを付けている。
頭にかぶっている白い帽子についている赤いリボンは、一見すると「∞」の形をしている。
このハルケギニアでは珍しい服装をした女性は、世界中の花々が恥じらうほどの美貌を持っていた。
名家の令嬢としての清楚さを持ったルイズや子どもらしい清々しさを秘めた魔理沙とはまた違う美しさを秘めている。
ルイズは知っていた。それ程までに麗しい女性の名前を。
彼女の隣にいる魔理沙、そして今この場にいない霊夢に何をするべきか指示した、人の形をした人外。
そして、ヴァリエール家の末女であり魔法学院区の生徒であったルイズを、非日常の世界へと招いた境界のモノ。
「ヤクモ…ユカリ?」
ルイズの口から出たその名前に目の前の存在、八雲紫は微笑んだ。
まるで絵画の中の貴婦人が浮かべるような優しいそれは、何処か人間味に薄れている。
暖かさよりも何処か薄ら寒さを感じさせる笑みに、ルイズと魔理沙は動じることなく見つめていた。
二人が何も言ってこない事に満足してか、紫はウンウンと小さく頷いてからその口を開く。
「言ったでしょう?…あのルーンが、今回の異変を早期解決するための手がかりだって」
そう言って彼女は、今の今まで閉じていたその目をゆっくりと開ける。
数百数万数億もの人々を惑わし操って来たであろう金色の瞳は、顔の笑みとは対照的な怪しさを孕んでいる。
まるでこれから起こりうるであろう事態を予測し、そしてそれを待ち望んでいるかのように笑っていた。
人ならざる美しさとこの世のモノとは思えぬ怪しさを、そこから溢れんばかりに滲ませて。
これは支援せねば
メトロイドのサムス召喚した話が読みたい
「おぉ市民よ平等とは如何なる物ですか?(zap!!zap!!zap!!)」
すいません、最後の最後でさるさんに引っかかってしまいました。
申し訳ありませんがどなたか、最後のあとがきの代理投下お願いします。
↓以下、代理投下のあとがき
以上で、58話の投下は終了です。今年の八月は暑すぎて大変でした。
夏バテと頭痛で執筆が進まず、思うように書けない日々…
まあこれから涼しくなると思えばまたペースが戻るかも。さようなら、夏。
途中見たことも無い連投規制に引っ掛かり時間が伸びてしまいました。申し訳ありません。
では今日はこれにて、それではまた月末に!
最後に一言。おおかみこどもが予想よりずっと面白かった。
以上代理投下しました
巫女さんの人投下乙です
巫女さんの人と代理の人乙
お疲れ様
>139
SFC版は一応クリアしました。
あれだね、ベビーメトロイドを連れた状態で召喚されたり。
サムスは我が子同然のベビーを守るため契約に同意するとか、スーツを脱いだらオールド・オスマンが(げしっ)
「我輩は泥棒の神様ドクロベエだべぇ。世界中に散らばる5つのドクロリングを集めてきたら、どんな願いもかなえてやるべぇ〜」
エレオノール「それって、素敵なお嫁さんになることも?」
ギーシュ「トリステインで1番の名誉ある騎士になることも?」
マリコルヌ「世界中の女の子にモテモテになることも?」
>>145 神龍「その願いは摂理を超えている」
QB「残念だけど君の祈りはエントロピーを凌駕できていない」
ルイズ「私のおっぱいを大きくしなさい!」
>>147 ドラえもん「しかたないなぁ、はい『虚乳パッド』」
なぜか一週間近く放置されてるウル魔の代理投下行きたいと思います。
第九十七話
少年時代、少女時代
古代怪獣 ゴモラ 登場
「そうか、奇遇だな。おれも、お前とふたりっきりで話したいと思ってたとこなんだ」
戦いが終わって、エルフと人間たちが宴をかわす賑わいを離れ、才人とルイズはふたりだけでワイングラスを傾けていた。
「とりあえず乾杯しましょ、パーティの席からいただいてきたわ。エルフの酒で銘柄はわからないけど、どうせあんたに酒の味の
良し悪しなんてわからないでしょ」
「人をバカ舌みたいに言うな。ったく、おれの世界じゃほんとは二十歳未満はお酒は飲めないんだぞ。アル中で地球に帰ったら
母ちゃんになんて言われることやら」
愚痴りながらも、ルイズの注いでくれる酒をグラスで才人は受けた。それからボトルを受け取ると、今度はルイズのグラスに
白ワインに似た名も知らない酒を注いでやった。
「じゃあ乾杯ね」
「何に?」
「そうね、こういうときは始祖ブリミルとか女王陛下にとかいろいろあるけど……それじゃ、勝利にってのはどう?」
「殺伐としてないか? おれたちは戦争やってんじゃないんだ。それに、勝利ってんなら一番こだわってんのはヤプールだろ」
才人の突っ込みに、ルイズはむすっとしながらもなるほどと思った。勝利、それ自体は大事だが、勝つことだけに執着すると
ヤプールのように執念と怨念の化け物になってしまう。なら、ほかになにが……ヤプールになくて、自分たちにある大事なもの。
ルイズは考えた末に、最近好きになったひとつの言葉を口にした。
「なら、”希望”に乾杯なんてのはどう?」
「大賛成だ。それじゃ、おれたちが信じ続けた希望に」
「信じられないような奇跡を見せてくれた希望に」
ふたりは微笑み合うと、グラスを軽いガラスの音を立てて鳴らして掲げた。
「乾杯っ!」
ぐっと、才人とルイズはグラスの中身を飲み干した。冷たいけど熱い液体が舌を焼いて喉をくぐりぬけ、胃の中から一瞬で
全身をポカポカと暖めてくれる。
「くーーーっ! こりゃ、けっこうきついな」
「く、くるわね、けっこう。さ、さすがエルフは酒の味も進んでるってことかしら」
エルフの酒は、いつも飲んでいる度数軽めのワインと違って相当アルコールがきつかった。才人は正月の宴会の席で
酔っ払った父から飲まされた焼酎の、ルイズはいつも父がひとりで飲んでいた秘蔵の六一八〇年産のワインを盗み飲み
したときのことを思い出し、これが大人の味かと妙な感心を覚えたりした。
「こりゃ、水割りにしたほうがよさそうだ。おれたちにはきつすぎるぜ」
「そ、そうね……五倍くらいなら……うん、これならおいしいわ!」
てんやわんやの末、ようやくふたりはまともに飲めるようになった酒をあらためて酌み交わした。度数の落とされた
酒は、元になった果実のほのかな香りが口内に満ちてきて、トリステインのワインとはまた違った美味を与えてくれた。
ワイングラスの中に透き通った液体がたゆとい、少しずつ口に運ぶと不思議な心地よさが満ちてくる。
「うまい。こっちに来てよかったと思えることのひとつは、日本よりちょっとだけ早く大人を先取りできることかな」
向こうだったら不良学生として御用だけども、日本の法律はこっちには通用しないと才人は冗談めかして言った。けれども、
軽い気持ちで言ったその言葉に、ルイズは視線をグラスの水面に向けたままでつぶやくように言った。
「ねえサイト……あんた、やっぱり故郷に……チキュウのニッポンに帰りたいと思ってる?」
「なんだよやぶから棒に……ああ、そうか。悪りい、そういうつもりじゃなかったんだが……そりゃ、父さんも母さんも心配
してるだろうし、帰らなきゃと思ってる。GUYSに正式に入隊して、地球とこっちを守れるように強くなりたいとも思ってる」
「そうよね、ごめん。わかりきってることを聞いちゃったりして……わたしだって、まだたった数日なのに、もうトリステインに
戻りたいって思い始めてる。けど、あんたはずっとその気持ちを押し殺してやってきたんだよね」
才人は片手で髪の毛をかくと、ばつが悪そうに言った。
「あのなあ、そのことにはずっと前に決着出したはずだろ。おれは今、ここに自分の考えでいるんだ。それに、不満なんてなら
一年三百六十五日……いや、こっちじゃちょっと違うんだっけか? ともかく不満なんて年がら年中どっかでくすぶってるさ。
我慢するなり忘れるなり、その程度の解消ができないほど、もうガキじゃねえつもりだよ」
言ってみて才人は、これはちょっと自己を過大評価だったかなと苦笑した。けど、ルイズの八つ当たりに我慢できるように
なれたりと、昔よりは我慢強くなれているとは思う。うん。
ルイズは、才人の背伸びしているような発言に、内心でこのバカと笑ったものの、その気遣いにうれしくも思った。
「そうね、聞いたわたしが野暮だったわ。だったら、代わりにご苦労様と言っておきましょうか。お互い、今回はよく頑張ったわね」
「ああ、お疲れ様。いろいろ回り道もしたけど、これで姫さまからの依頼は完了だな。帰るころには向こうでのことも一段落
してるだろうし、久しぶりに学院に帰れるかな」
「学院かあ……そういえば、いろいろあってしばらく戻ってないわねえ。コルベール先生の珍妙な授業も、なんだか懐かしく
感じるから不思議ね。わたしの部屋、ほこりまみれになってないかしら……サイト、掃除に手を抜いたら許さないわよ」
「あいあい、どーせわたしは専業主夫ですよっと。三食昼寝つきの居候生活、それくらいは働かせてもらわないとねえ」
キュッキュッと、片手で雑巾がけをするしぐさをした才人を、ルイズは楽しそうに見て笑った。
ほんとうに、こんなにのんびりと語り明かすなんていつぶりだろう。エルフの国に行くなんて、とんでもない事態になってから
今日まで、ひたすら前に進んできて、立ち止まって気を抜く暇なんてなかった。
平和って、ほんとうに大切なんだなと、ふたりはグラスの中身を少し飲んで、幸福感を高めて息をついた。けれど才人は、
グラスの中身を揺らして、まだ酔いがまわっていないことを確認すると、なかば独り言のようにルイズに言った。
「なあルイズ、戦いが始まる前に……お前に、あとで聞いてもらいたいことがあるって言ったの覚えてるか?」
「……もちろん。あんたの話って、やっぱりそのことだったのね。もったいぶらずにさっさと言いなさいよ。酒は口を饒舌に
するけど、機会を逃せば心にもないことをしゃべるようになるわよ」
ルイズは、唇を濡らすだけグラスに口をつけると、そのまま才人を見つめた。彼女の目は、おそらくこれから才人が
言いにくいことを話そうとしているのだなと見抜いていた。伊達に付き合いが長いわけではない。いらないことでも
よくしゃべる才人が、こうしてもったいつけるときは十中八九深刻な話のときだ。
才人は、話すべきかをまだ悩んでいたようだが、ルイズに視線でうながされると口を開いた。
「なあルイズ……その、怒らないで答えてほしいんだけどさ。まだ、おれのこと……好きか?」
「はぁ!? な、なによ藪から棒に! う、そりゃあ……前にも言ったじゃない。あのときから変わってないわ。す……好きよ」
ルイズはそっぽを向いて、すねるように言った。以前に恋人宣言をきっちり出したとはいっても、やっぱりそういうことを
口に出して言うのは恥ずかしかった。
それは才人も同じだったようで、すぐにほっとした様子で胸をなでおろした。
「は、ふぅ……よ、よかった」
「なにがよかったよ。まさか、そんなことを尋ねたかっただけなんてことはないよね。さっさと本題に入りなさいよ!」
じろりととび色の瞳で睨みつけてくるルイズに、才人はほんとこいつは鋭いなと観念した。
「ごめん。そのことなんだけどさ……と、その前にルイズにだけ言わせるのはフェアじゃねえよな。おれもルイズが好きだ!
うん、これですっきりしたぜ」
「野外でなに恥ずかしいこと叫んでるのよ! こっちが恥ずかしいでしょ、このバカ!」
「あいてっ!」
腹を立てたルイズのげんこを食らって、才人はちょっと調子に乗っていたことを反省しつつ頭をかいた。
「またごめん、どうしておれってこう、よかれと思ったことが裏目に出っかな……反省はしてるつもりなんだが」
「しょうがないわね。でもまあ、それがあんたという人間なんでしょ? どんだけ体を鍛えて、勉強しても変わらない
ヒラガサイトの本質なんでしょ?」
そう言って指差したルイズに、才人はこいつは今じゃおれのことをおれよりもわかってるんじゃないかと思った。思えば、
けんかしたりしながらも、いつでもルイズはおれのことを見ていた。それは、メイジと使い魔という関係が切れても少しも
変わることなく今日まで続いてきた。
でも、だからこそ才人はこれからのことを話しづらい。けれど、そんな才人の迷いを見透かしたのか、ルイズは鋭い
目つきになって才人に言った。
「さあて、前置きは今度こそ本当にいいでしょう? 言いたいことがあるならはっきり言いなさい。今度引き伸ばそうとしたら、
その口ごと吹っ飛ばすわよ」
杖の先を才人に向けたルイズの目は本気だった。才人は、やっぱりこいつは厳しいな、ちっとも甘えさせてくれやしないと
心の中で苦笑いすると、今度こそ覚悟を決めた。
「じゃあ言うぞ。おれ……お前以外の人を好きになっちゃったかもしれねえ!」
一世一代、才人は思い切って告白とは真逆のかたちで告白した。しかし、それに対するルイズの返事は。
「へー……」
という、投げやり極まりない一言だったので、真剣に言ったつもりであった才人は気が抜けてしまった。
「お、お前、へーってなんだよ、へーって! こっちは爆殺されるの覚悟で言ったんだぞ」
「あのね、だからあんたはアホだっていうのよ。わたしが今までどんだけあんたを見てきたかわかってんの? キュルケに
はじまって今日この日まで、あんたと関わってきた女の子だけでも何人いると思うの。そのどれにも気をとられずに、わたしだけを
あんたが見続けているなんて無条件に思うほど、わたしはお花畑じゃないつもり。人をなめるのもたいがいにしなさいよ」
「う……ごめん」
ルイズが意外にも冷静だったので、本当に言った瞬間にエクスプロージョンで消し炭にされるのを覚悟していた才人は
完全にルイズに頭を押さえられてしまった。が、それにしても解せないと思っていたら、ルイズのほうから才人の頭の中を
先取りしてきた。
「なんで平気な顔してるんだって顔してるわね。バーカ、わたしがどれだけあんたの隣にいたのか、もう少し自覚しなさい。
少なくともわたしは、ギーシュみたいに誰彼かまわず『好き』をふりまくような軽薄な男を好きになったつもりはないわ。
だったら、あんたがそれほどまでに悩むようになるほどあんたの近くにいて、かつあんたの心を動かすほどあんたのことを
好きになる人……そんなの、ひとりしかいないじゃないの」
「……」
グゥの音も出ないとは、まさにこのことであった。同時に、穴があったら入りたいとも心底思う。知らぬは本人ばかりなり、
心中に隠してきたつもりであったが、ルイズはとっくの昔にお見通しであったとは、とんだ間抜け野郎だ。才人はこのときほど
自分を小さく感じたことはなかった。
「ごめん……」
「バカ、謝る場面じゃないでしょ。それよりも、あんたも本気でこの場で問題を解決したいなら、その好きな人の名前、それを
わたしに伝えなさいよ。どうするも、こうするも、それからじゃないと始まらないわ」
正論だった。まったくどこまでいっても、これ以上ないくらいに正論なのに、才人は自分の器の小ささを自覚するしかなかった。
けれども、ルイズに軽蔑されるのだけはどうしても避けたい。それに、ここで引き下がったら、そちらの相手にも失礼だと、
才人はずっと自分の胸のうちで隠していた名前を口にした。
「ミシェル……さん」
「やっぱりね」
「……いつから気づいてた?」
才人が尋ねると、ルイズは少し遠い目をしてから答えた。
「けっこう前からよ。邪魔してやろうかと思ったことも何度かあるわ。でも、止められるわけないじゃない。絶望のどん底で、
あんたにだけは「助けて」って手を伸ばしながら泣いてる人を蹴落とすような真似、わたしにできるわけないでしょ」
「悪い、おれはお前にそんな気を使わせてることさえ気づかなかった……」
「バカ、それこそ謝る必要なんかないわ。あんたが彼女の境遇を知って、黙って見ていられないことくらい先刻承知。それに、
女の子の涙をぬぐえないようなだらしない男は、このわたしにはふさわしくないからね!」
フフンと胸をはって言ったルイズの言外には、「だからわたしがサイトのことを嫌いになんてなってないわよ」と、才人への
メッセージが込められていた。しかし、それはそのまま才人に自分のちっぽけさを思い知らせることにもなって、彼は自嘲げに
足元にあった石を蹴飛ばした。
「情けねえな、おれって。やっぱりおれなんて……いててっ!」
「はいはい、自己嫌悪タイムはストップ。あんたがうだうだ悩んでもいいことなんてないんだから、自分のバカさだけ理解してればいいの」
「みっ、耳はやめろっ! ってー……ほんと、容赦ってもんを知らないなお前は」
「あんたがあさっての方向に思考をずらすからいけないのよ。そんなことよりも、あんたが話すべきことはほかにあるでしょうに。
ほら、聞いてあげるからさっさと続きを言う」
容赦もなければ気も短かった。才人は、当初の予定と大幅に違うルイズの反応に困惑しつつも、話を続けた。
「最初はさ、姉さんができたみたいな感覚だったんだよ。前にも言ったかもしれないけど、おれは一人っ子だから兄貴や姉貴に
昔っからあこがれてたんだ。ほら、アニエスさんや銃士隊のみんなもだけど、けっこう面倒見がいい人ばっかりじゃん」
「それはあんたが、ほっておいたらすぐに戦死しそうなくらい危なっかしいからじゃないの?」
「ははは、手厳しいことで……けど、そのころは特別な感情はなかったんだ。意識し始めるようになったのはアルビオンのときかな。
ミシェルさんの過去を聞いて、あとはもういてもたってもいられなくなって、あとのことはお前も見てのとおりさ。でも、そのときはまだ
単純に”助けてあげたい”って気持ちのほうが強かった……本気で、気持ちに気づき始めたのは……」
「あの、雨の日」
ご名答、と、才人はもはや苦笑するしかなかった。まったく、お見通しもいいところだ。そりゃああのとき、ルイズもいっしょにいた
のだけれども、そこまで見抜かれるほど観察されていたとは、まるで自分はお釈迦様の手のひらの孫悟空だ。ルイズの洞察力と
記憶力のよさを、正直見くびっていた。
いや、そんなことは副次的なことで、ルイズはずっと自分のことを見続けてくれていただけのことなのだろう。だから、そんな
ルイズの気持ちに背を向けてしまうような、今の自分がとてつもなく腹立たしくて、かつわびしいのだ。
「あの日、リッシュモンとかいう悪党をやっつけに行く前、ミシェルさんはおれを尋ねてきてくれた。そこで、おれははじめて
あの人がおれのことを心から頼ってきてくれたのを知った。間抜けな話さ、おれはおれのできることをひたすらやってきたけど、
それで周りのみんながどう思うかなんて、ろくに考えちゃいなかった」
「……」
「でも、そのときのおれには、あの人の気持ちに答えてあげられる方法がなかった。だから、飛び出した……世界で誰よりも、
おれなんかを信じてくれた。その気持ちだけは裏切ることは、できなかったから」
才人の心に、あの雨の日の記憶が蘇ってきた。小さな小屋の中にふたりっきりで、誰にも言えないふたりだけの秘密の時。
体の傷も、心の傷もさらけだして、子供のように泣いたミシェルの体の冷たさはよく覚えている。
「うぬぼれた言い方をしたら、この人はおれが守ってあげなきゃいけないって、そう思ったんだ」
「へー、じゃあわたしは?」
「お前が男に守ってもらうようなタマか?」
今度は才人が辛辣になる番だった。もちろん返答はやたらと痛い蹴り一発だったのだが、口で言い返すのがまったく
ないところを見ると、ルイズのほうもけっこう自覚はしていたようだ。
「ったく、あんたはあんたでわたしのことよく見てるわね。で! 続きを言いなさいよ」
「いててて、お前な、そういうところが問題だって言ってんのに。わかったよ! ……その後は、トリスタニアでの戦いだったな。
あのときはひたすら、頭の中は「なんとかしなきゃ」って思いでいっぱいだったよ。後のことなんか、一切考えちゃいなかったな」
「後先考えないのはいつものことでしょうが」
「返す言葉もねえよ。でも、あのときはお前もなにも言わずに力を貸してくれたよな……本当に、ありがたく思ってる」
「人の命より大事なものはない。それがあんたの持論でしょ……わたしだって、目の前で人が死なれていい気はしないわよ。
ちょっと我慢することで誰かの泣き顔を笑顔にできるなら、それを選ばない手がどこにあるの」
ルイズはそこまで言うと、残ったグラスの中身のうちの半分を喉に流し込んだ。顔の赤さは照れくささか、酒精ゆえか。
才人は、ルイズの男勝りでわがままな顔の裏に隠れたぶっきらぼうだが深い優しさを感じた。この優しさがあったからこそ、
おれはこの異世界で今日まで笑顔でやってこれた。何回ケンカして、何回嫌になってもルイズのことを嫌いにだけはならなかった。
「あとはお前もいっしょに見たから知ってるよな。姫さまの”粋”なはからいがあって、おれにふたりの姉さんができた。そのへんは
あたふたしすぎて、記憶があいまいなところもあるんだけど……正直に言うとうれしかった。名前だけだとしても、家族ってものが
あんなに安心できるもんなのかって、思ったよ」
ルイズは答えなかったが、なんとなくわかった。家族がいるという安心感は、離れてみてはじめてよくわかる。自分も、
魔法学院に慣れないうちは帰りたくてしかたがなく、寂しくて泣き疲れるまで眠れない日を送ったものだ。けれど、だからこそ
ルイズは才人が気づかないところまで気づいていた。家族というものを取り戻せて、一番うれしかったのは誰なのかを。
「その後は……いろいろあってしばらく会えなかったけど、ラ・ロシュールで久しぶりに会ったときはうれしかった。それからかな、
なんでもなくとも意識し始めるようになってきたのは」
「そう……なるほどね」
ルイズはそこまでで、もういいわというふうに手を振った。
実際、これ以上を聞かされるのはのろけ話に近いからごめんこうむりたかった。特にデートのところなどは冗談ではなく
胃袋に光速で穴が空く自信がある。が、そういうところにまで気が回らないのが才人の才人たるゆえんであろうか……
才人は実際のところビクビクしていた。彼もこんな話をルイズにして、何事もなく終わると考えるほど愚鈍ではない。
むしろ、いつ火山に火が入るかと戦々恐々としていた。詰まる所なく話し続けたのはひとえに、彼の正直さと単純な
性格によるところが大きい。
「あの、ルイズ……ほんとに、怒ってない……のですか?」
「怒ってないわよ。このくらいで怒って縁を切るようなら、ギーシュとモンモランシーは何百回離婚すればいいか数えられない
じゃないの。もし怒るとしたら、話の中につまらない脚色を入れてごまかそうとした場合だけど、最後まで正直に話したから
文句はないわ。今はそれでじゅうぶんよ」
すると、才人はほっとしたように続けた。
「そうか……でも、おれは最近自分のことがわからなくなってきてるんだ。なんていうか……頭の中がグラグラして、
なにが正しいのか正しくないのか……」
「なんだ、普通に正常じゃないのよ」
「えっ?」
自信無げな才人の弱音を一蹴したルイズの一言、それは才人の意表を確かについてきた。
「自分の道を見失うなんて、人間当たり前のことよ。わたしなんて、何度魔法をあきらめようと思ったことか覚えてないわ。
とりあえず聞いておくけど、あんたはわたしのことが嫌いになった? わたしといても、ドキドキもワクワクもしない?」
「いっいや、そんなことはない!」
才人の一瞬で赤面した顔がなによりの証拠であった。
「ありがと、わたしもサイトのこと、好きよ。でもね、わたしも最近ようやくわかりはじめてきたことなんだけど、人間の心って
とんでもなくめんどうな作りになってるの……今、あんたの中ではわたしへの好きとは別に、もうひとつの好きが生まれてる。
それがせめぎあってあんたは苦しんでるのね」
「ルイズ、お前どうしてそんなことを……?」
「わたしも昔のわたしじゃないってことよ。あんただって、わたしがほかの男に心をひかれることがあったとしても、別に
わたしを憎んだりはしないでしょ。例えよ、例え……そりゃね、あんたが色香に惑わされてデレデレと浮気に走れば
生きて朝日を拝めなくしてやるけど、あんたがこれほど葛藤するほど本気なら、力づくじゃどうにもならない。なによりも、
わたしへの想いが変わってないなら、問題ないわ」
ルイズの穏やかな言葉に、才人はルイズもずいぶん変わったんだなと思った。ただの嫉妬深い怒りんぼうから、
どこか達観したような、大人びた感じが漂っていた。
けれど、やはり才人は罪悪感がぬぐえない。ルイズがこれほど大きくなっているのに、劣化しているような自分が許せなかった。
しぇえん
「おれは、最低だな。お前には、絶交されることもあると思ってたのに」
「ええ、最低ね。けど、どうしてわたしがいつもみたいにキレないのか、本当の理由がわからない?」
「ごめん……」
「ふぅ、昔キュルケに『男に女心を理解してもらおうなんて、レディは最初からそんな無駄なことはしないものよ』なんて
言われたけどそのとおりね。教えてあげる、それはあんたが正直にわたしに相談に来たからよ。もしもあんたが隠れて
わたしとあの女の両方と付き合うようなことがあれば、半殺しにした上で絶交してたわ。けど、あんたは大バカ極まりない
ことに浮気を報告に来た。それは、あんたの真剣さの証」
誠実さが命を救ったと、ルイズは言っていた。やり方を大いに迷っても、ルイズを裏切れなかった思いの強さが、
一見愚行に見える告白をさせて、結果危うかった絆をつないだ。
「サイト、これだけは聞かせなさい。あんたにとってわたしは何? あの女はあんたにとってどんな存在?」
ルイズの目は、その答えによってこれからのふたりの関係そのものも大きく変わるかもしれないということを表していた。
下手な答えは絶対にできない。才人は考えたが、結局は自分の正直な気持ちを話した。
「おれにとって……ルイズは『いっしょに歩んでいきたい人』。ミシェルさんは『そばにいて守ってあげたい人』かな」
「ふっ、見事に両極端になったわね。そーね、わたしは守るに値なんかしないわよねえ。どうも強い女で悪かったわね」
「い、いやその」
じろりと睨んできたルイズに、才人は冷や汗を流してあたふたした。けれど、そんな才人にルイズは表情を緩めて言った。
「わかってるわよ。ギーシュみたいにかっこつけて、『ふたりとも同じくらい愛してるんだ』とか言わなかっただけマシ。
あんたに愛人なんて百万年早いわ……そうね。サイト、前にわたしたちは恋人になったって宣言したわよね。でもね……
恋っていうのはしょせん誰に対してもできるわ。わたしたちは、まだ互いに相手を深く理解するほど”愛”しあえては
いなかったってことでしょう」
「お、おい! おれはお前のことをそんな簡単には」
「知った風な口を利かないの。わたしたちの歳で、愛だの恋だのを全部知ったつもりになってるほうがおこがましいと思わない?
素直に認めましょうよ。わたしたちは一応互いに両思いになれたつもりだったけど、それは子供の恋愛ごっこのレベルでしか
なかったってことを」
「ルイズ……そうかもしれねえな。でも、信じてくれよ、おれはルイズのことをいいかげんに考えたことなんてねえからな!」
それは才人の魂の叫びだった。ルイズに対しての思いに嘘偽りなんてひとかけらもない。でなければ、かつてのグリッターの
奇跡も嘘になってしまう。
ルイズは、もちろんそんなことはわかっているわよと、優しく微笑んだ。
「そうね。あんたのそのまっすぐさ、それに混じり物があったなんて思わないわ。その強い想いが奇跡を起こしたのは
間違いないけど、それは同時に未熟で幼稚でもあったってこと。もういいかしら……サイト、しばらくひとりにしてちょうだい」
「えっ」
「勘違いしないで、わたしも自分で自分を見つめてみる時間がほしいってことよ。それに、あんたは自分の気持ちを
わたしに隠し続けてるのが後ろめたくて話したんでしょ。なら大丈夫、決めたのよ、なにがあろうとあんたを信じぬこうって。
だからあんたも、わたしに気を使って守るべきものを守るのに躊躇するなんてことはやめなさい。弱っちくてバカですけべで、
けど天下一のお人よし……わたしが好きになったヒラガサイトはそんな男なんだから!」
「ルイズ……ありがとう! おれもお前のこと大好きだ」
「っ! と、とーぜんのことじゃない。さ、さっさと遊んできなさいよ。明日から、そんな暇ないんだからね」
「ああ、じゃあまた後でな!」
支援。
なにかが吹っ切れた感じの才人は、瓦礫のあいだを走っていった。ルイズはその背中をじっと見つめていたが、突然
呼び止めると、才人に向かって叫んだ。
「サイト! 今日のことのわたしの答えは保留にしておくわ。ただし、ひとつだけよーく覚えておきなさい。あんたは、
わたしとあの女のどちらかを選ぶつもりかもしれないけど、頭に乗るんじゃないわよ。むしろわたしと彼女が、どっちに
あんたを譲るかで争うの! 景品はせいぜい、両方から愛想をつかされないよう気をつけなさい!」
なんともルイズらしい、視点を豪快にひっくりかえした宣戦布告の言葉に才人はぶるっと身を震わせた。
やっぱり、ルイズにはかなわない。とてもじゃないが、天秤なんぞにかけてはかれるような器じゃなかった。
才人は、迷ったけどルイズに打ち明けてよかったと思った。ルイズも今では、人間として昔とは比べ物にならないほど
大きくなっている。恋人であると同時に最高のパートナー、走りながら才人は胸を熱くしていた。
そしてルイズは、才人が見えなくなるまで見送ると、そばにある大きな瓦礫の山に向かって話しかけた。
「さて、そこにいるんでしょ。そろそろ出てきなさいよ」
「……驚いたな。気配はだいたい消していたつもりだったんだが」
瓦礫の影から、短く刈り上げた青い色の髪の女性が現れた。
「覗き見とはいい趣味をしてるわね。あなたもサイトが目当て? あいつなら悪いけど行っちゃったわよ」
「人聞きの悪いことを言うな。サイトと話したかったのは当たりだが、取り込み中らしかったからやめたのさ。空気を
読んだぶんだけ感謝されてもいいと思うんだが……なぜわたしが隠れているのに気づいた? サイトはまったく気づいて
なかったのに……?」
ミシェルが、ほぼ素人のルイズがなぜプロの自分が隠れていたのに気づいたのかと問うと、ルイズはふっと息をついて答えた。
「匂いよ、さっきから風に乗ってかすかだけど香水の匂いが漂ってきてた。香水なんかに興味のない才人は覚えてないでしょうけど、
あんたの部下にその種類の香水を使ってる人がいたのを思い出してね」
「なるほど、さっきサイトとふたりで会うなら身なりを整えて行けと、部下たちに無理矢理髪を切らされたときにつけられたんだな。
わたしとしたことがうかつだった。まったくうちの連中は善意でろくなことをせん」
苦笑して、ミシェルは短くきれいに整えられた髪の毛を軽くいじった。月の光が青い髪の色に反射して、なんともいえない
幻想的な輝きを放つ。ルイズの桃色の髪に映える赤い月と、ミシェルを輝かせる青い月……その二色の輝きの中に立つ
ふたりの美少女の姿は、誰かが見たなら月の女神がふたり揃ったかのように思ったことだろう。
「どこあたりから聞いてたの?」
「最初からだ」
「そう、なら話は早いわ。そういえば、あなたとはまだふたりだけで話し合ったことはなかったわね。ちょうどいい機会かしら。
とりあえず、飲む?」
「遠慮はしないよ」
才人が残していったグラスを差し出すといろいろと問題なので、ルイズはボトルごと酒をミシェルに手渡した。そのまま、
ルイズのグラスに残っていた半分をつぐと、ボトルの口とグラスを合わせて乾杯をし、ふたりいっしょに口をつけた。
「ふぅ、うまいな」
「これを割らずに飲めるとは、さすが大人は違うものね」
「大人か、その言葉をあまり自覚したことはないな。わたしの時間は十年前に止まって、動き出したのはごく最近さ。
わたしの人生の半分は空白で、体だけは大きくなったが大人になったと思うようなことはなにもしていない。かといって
子供のままでもありはしない。中途半端な存在だよ」
独白して、空になったボトルをもてあそぶミシェルの横顔はどこか寂しそうだった。ルイズには、身寄りもなくひとりぼっちで
さすらい暮らしたり、自由を奪われて鞭の下で生き続けることを強いられる苦しさはわからない。けれど、軽く想像するだけでも
身の毛もよだつような絶望と、そこに手を差し伸べてくれた才人への強い思いは理解できた。
「あなたが大人でないなら、いったい大人ってどういうものなのかしらね……?」
「さあな、成人すれば大人とか、そんな簡単なものじゃないと思うが……しかし、子供はいつか大人になっている。その境界が
どこなのか、それがわかったときがそうなんじゃないかな」
「だったら、わたしたちはまだ子供ね。酒の味はわかっても、それは外面だけの話だし。恋はできても愛することの意味はわからない」
空になったワイングラスの内側に、自嘲するルイズの顔が映って揺れていた。ミシェルも答えず、じっと目を伏せて手だけを動かしている。
恋と愛、その違いはなんなのだろうかとふたりは思う。わたしは才人に恋をした……けれど、それはいったいどういう意味を持つのか。
辞書を引けば、単語としてふたつの文字の意味は載っている。しかしそんなお題目としてではなく、人生の意味として知りたい。
ルイズは思う……サイトは、わたしが魔法で召喚した使い魔だった。だが才人は使い魔という枠から飛び出して、わたしが
どんなときにもいっしょにいてくれた。また、時にはひとりで飛び出して、貴族という枠に挟まっていたわたしに見たこともない
世界と生き様を見せてくれた。そして、いつの日かわたしはサイトがいっしょにいることが、たまらなくうれしくなっていた。
ミシェルも思う……地獄そのものだった人生。薄汚れて、救いがたい悪党に身を落とし、もはや死ぬことでしか救いを
願えない闇の中で、冷え切った手を握って引き上げてくれた暖かい手。この世界に、温もりと優しさがあることを思い出させてくれた。
いままで見てきたどんな大人とも違う、欲のない無邪気な笑顔と、不条理に立ち向かう強さを持った彼……彼のことを
思うだけで、胸が張り裂けそうなくらい痛くなる。
けれどふたりは、同時に自分が才人に強く依存してしまっていることも自覚しはじめていた。
「サイトはこれまで、多くのものをわたしにくれた。あいつにそのつもりはなくても、わたしはあいつのおかげで変わることができた。
なのにわたしは、あいつに頼るばかりで、あいつのためになにかしてやれたのかしら」
「わたしだってそうさ。サイトに助けてもらわなかったら、わたしなんて生きてる価値すらなかった。なのにわたしは、サイトに
受けた恩のひとかけらさえ返せてない……こんなわたしに、あいつを好きになる資格なんてあるのか……」
才人が聞いたら、過大評価もはなはだしいと怒り出すような持ち上げようであるが、ルイズとミシェルは本気であった。
つまりは、人を好きになるということは、それだけその人に自分がふさわしいのかどうかということを気にするようになると
いうことなのである。
ただ単純に、惚れたからその人のためになにかしたい。その人に自分のすべてを捧げたいと願うのも、それはそれで愛だ。
しかしそれは盲目の愛、相手に自分を押し付ける愛で、極論すれば自分の欲を満たすための愛だ。それは無償のように
見えて、実のところは自己のための未熟で危険な愛なのである。
本当に人のための愛とは、相手のために自分の思いを殺して捧げる。好きだという想いを相手に押し付けて、その対価を
相手に求めたり、一方的に送りつけて自己満足するのではなく、自分が傷つくことを承知で相手に想いだけを届ける。その上で、
相手が想いを送り返してくれた場合にはじめてふたりの想いを重ねて幸せになる。
愛とは、自分と相手、両方ともが幸せになれてこそはじめて価値がある。一方だけしか幸せになれない愛など、そんなものは
まやかしでしかない。
だからこそ、ミシェルはルイズにひとつの問いかけをして、ルイズは平常心のままでそれに答えた。
「なあ、ミス・ヴァリエール。わたしのことを憎むか……わたしがいなければ、お前はサイトを独占できたのに」
「バカ、あんたもそういうことを言うのね。確かにあんたが出てきたことで、サイトの気持ちが揺らいでるのは事実よ。でもね、
あんたがいなければわたしはサイトを独り占めしてハッピーエンド、なんて考えるほど楽天家じゃないわ。ヴァリエールの
ご先祖様たちは、ツェルプストーに男を取られまくってさんざん恨みつらみを書き残してるけど、そんな後ろ向きな考え方じゃあ
愛想もつかされて当然だってようやくわかってきたわ」
「ほお、それはどういうふうにかな?」
「結局、どのご先祖さまも男を自分のものにしたいと願うばかりで、本当に相手のことを思ってなんかいなかったってこと。
そんな失敗談を延々と何百年も……子は親に嫌なところばっかり似るってほんとよね。まあそんなわけだから、自分の
魅力不足をライバルに責任転嫁しても無駄だってことよ……ま、色香で迫ればあのアホのことだからデレデレするでしょうから
張り倒してやるけど、あんたはそんな姑息な手は使わないでしょう」
「強いて言えば、使う必要がないからともいえるがな。互いに、ほしいのはサイトの心だからか……確かにそれなら、誰が
ライバルになろうと、結局は自分自身の問題だからな。しかし、世の女のほとんどはそうは思わんだろうな。わたしたちは、
けっこうな変わり者かもしれん」
ミシェルが苦笑しながら言うと、ルイズも笑いながらうなづいた。
「確かにね。あと、一応言っとくと、先に惚れたからわたしのほうがサイトを好きになる権利があるなんて、しょうもないことは
考えてないわよ。そんなルール、魅力に自信のないやつの言い訳でしかないもの」
「立派だな。しかし、無理はしてないだろうな?」
「誰が? 正論を他人に押し付けて、自分は詭弁に逃げることのほうがよほど虫唾が走るわよ……はぁ、それにしても
わたしたちも難儀な男を好きになっちゃったものねえ。あいつのバカが移っちゃったかしら」
「かもしれん。が、わたしは今とても幸せな気持ちだよ」
「ええ、人を好きになることに罪なんてないはず。それだけは真実だと断言できるわ……けど、いつまでも恋するだけの
子供のままじゃいられない」
「そう、子供はいつか大人にならなければいけないものだ……わたしたちも、それにサイトもそうやって悩んでいる。
あいつは優しすぎるから、わたしたちのどちらも傷つけたくないと思ってるんだろうな。でも、それはたぶん無理なことだ」
ミシェルが言うと、ルイズもこくりとうなづいた。
「人間、どこかで痛みを味わわなければ前へ進めないことがある。お母さまの受け売りだけど、人間って不便にできてるものね。
あんなふうに、のんびりと生きれればどんなにいいでしょうかね……」
ルイズの指差した先には、瓦礫の中にごろ寝して高いびきをかいているゴモラの姿があった。
リドリアスら怪獣たちが去っていった後も、ゴモラだけは寝たままで動かなかった。当初は、起こしてどかそうかと意見も
あったが、うかつに怒らせて暴れさせては大変だとはばかられた。それに、まるで昼寝する子供か、日光浴する年寄りのように
あまりにも気持ちよさそうなゴモラに、エルフたちも警戒心が緩んでしまった。それに、ゴモラには周辺の精霊たちも穏やかな
気で覆っていた。精霊が許すのなら、それ以上はない。
この夜になっても、ゴモラはときおり寝返りを打つ程度でちっとも起きる様子がない。基本的にゴモラザウルスはおとなしい
性質の恐竜で、ジョンスン島に現れた初代ゴモラも地上に出てきてからはほとんど眠ってばかりいた。いかつい見た目と
常識外れのパワーとは裏腹に、普段の姿は無邪気そのまま……そのかわいらしい寝顔に、ルイズとミシェルは顔の筋肉を
緩めざるを得なかった。
「ねえ、ミス・ミシェル」
「ミシェルだけでいい。ここまで腹を割って話して、まだ他人行儀にされたらむずがゆい」
「なら、ミシェル……ひとつ、わたしと誓いを立てない?」
「誓い?」
ルイズは空になったグラスを掲げると、自分とミシェルの顔を交互に映しながら言った。
「これから先、どんな苦難や辛いことがあっても、どちらかがどちらかのために犠牲になろうなんてことはしない。どちらも
必ず生き残って、どんな形であろうと幸せになる。不幸になったら負け、そういう誓い」
「なるほど、おもしろそうだな」
ミシェルは同意すると、自分も空になったボトルをあらためて握った。
ふたりだけの誓いの儀式。だが、誓う対象を何にしようかということで迷ったところで、ミシェルが空を指してルイズに提案した。
「ウルトラの星?」
「ああ、サイトが教えてくれたことさ。空を見上げたとき、消えずに瞬き続けている不思議な星が見えることがある。それは、
どんなときでもあきらめずに「負けるもんか」と頑張ってる奴にだけ見える、『ウルトラの星』なんだそうだ」
「サイトらしいわね……けど、悪くない。じゃあ、ウルトラの星が見えなくなったときが、そいつが誓いを破ったときってことね」
ふたりはグラスとボトルを掲げて、空に向かって唱和した。
「我ら、ここにひとつの誓いを立てる!」
「我らふたり、その魂の形は違えども、その想いの先はひとつ」
「この魂にかけて、胸の奥に宿る熱い想いを真実だと宣言し、さらに命をかけて貫き通すものとする」
「しかして、この想いの成就のために、いかなるものをも犠牲にすることを認めない」
「ひとりの幸福のためにひとりの不幸はあってはならず、また自己の犠牲によって他方に悲しみを残すことをよしとせず」
「我らの望むはただひとつ、サイト・ヒラガとの魂の……か、重なり合い」
「そのために、我らはいかなる苦難も努力もいとわない。いざ!」
「我が人生唯一にして最大のライバル、ミシェル・シュヴァリエ・ド・ミランに」
「我が友人にして究極の宿敵、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに」
「そして、空に輝くウルトラの星よ。我らの誓約が永遠のものであることを照覧あれ!」
ガラスが触れ合う軽い音がして、グラスとボトルが空に掲げられた。
双月はふたりの想いを象徴するかのように重なり合い、幻想的な光を地上に降らせ続けている。
グラスとボトルに、月と星の光がきらめき、宝石のように輝く。
しかし、ルイズとミシェルの瞳には、それらのどれとも違う美しくて力強い輝きが確かに息づき、瞬き続けていた。
続く
今週は以上です。
ドラマパート、本編の主人公とヒロインの交流のお話、いかがでしたでしょうか。
今回は、これまで才人が辿ってきた道のりの集大成ともいえるストーリーになりました。でも、私は才人やルイズを原作とは違う形で
成長はさせても、完全無欠のスーパーマンにするつもりはないので、今後ともふたりとも大いに葛藤してもらうつもりです。
それにしても、ルイズに対抗してミシェルがここまで重要な立ち位置になってくるとは本当に書いている身としても想定外でした。
最初は、ルイズの当て馬的ポジションを予定していたのに、今では完全な対抗馬。もはや最終的にどちらが勝つのか、私にもわかりません。
では、次回がいよいよ第二部のラストですね。がんばってまとめるので、待っていてください。
代理ここまで。支援感謝です。しかしこの作品なんで長期間スルーされてる事が多いんだろ?
終わりかな?支援。
名前の知られてる人のだから誰かがやると思ってそのまま放置されるんじゃない?
傍観者効果だっけ
まとめウィキに提督が復活してるんだが…
復活っていうか元々消えてないのでは?
更新履歴にも別に最近変更があった様子はないし
消されたのは「あの世界にルイズが招聘されました」な続編だろ
本編は元から消されてないはず
代理お疲れ様
ゼロな提督、幻のアフターストーリー
銀英世界に帰還したヤンについて時空を渡ったルイズのその後
イゼルローンを舞台に、イゼルローン爆破を企む地球教にヤンとラインハルト、さらにゼロ魔勢が加わっての頭脳戦
SSとしての質は高かった。しかし作者の投下さえできれば人の迷惑顧みずな態度が顰蹙を買い
本編は残されたもののまとめに集録禁止の措置をとられたいわくつきの作品
当時のスレはとってるが、ほんとよくも悪くもゼロ魔SS最盛期を象徴する作品だよ
代理も乙
すでにサイトハーレムは跡形もねーな
つーか、今回読みづらかったな
台詞が何時もより多かったせいかもしれないが
ポケモンの人が楽しみで仕方ない
定期サイヤー
はて、るろうにの人を見なかったな
先週は土日に来ると言っていたが…何か問題でもあったのか心配だ
わかるわ
オレもるろうにの人が来ないと心配になる
頭大丈夫か?
大丈夫だ、もんd(ry
遅ればせながら無重力のひと乙です
藍が男前過ぎて惚れそうw
>>181 たとえ『虚無だから』補正でさえ無理なものは無理
青猫狸「もしもボックス〜〜!」
エレオノール「お母様もおちびもまともに会話が成立しないし、世の女性みんなから知性がなくなってるんだけど!どういうことなの!?」
ギーシュ「周りの貴族みんな風車に喧嘩売ってるんだけど……」
マリコルヌ「皆の姿がオーガにっ?ばかなっ!!美人が一人も居ない世界だとっ!?」
なんかシュールなの見たくなってきた。誰か喪黒福造召喚してくれ。
マリコルヌに「脂肪にドーン!」ってするのか
萌えゼロ戦は
オリジナルの鋼の乙女だしてもいいじゃね?
更新こいやあああああ
>>185 二次創作のオリジナルキャラなんてのはよほどうまく作らないと地雷だろう
ペルソナ系は全部失踪したんかなー
残念だ…
完結したのも一つくらいあるだろ
ご立派様ことマーラ様って言おうと思ったけど、あれメガテンだったね
>>188はまとめwikiの長編(完結)を御存じでない様子
>>188はゼロのペルソナでも読んどけ、とか言っとく
>>187 原作のキャラの名前と設定借りたオリキャラよりはまだマシだと思うな
サガフロンティアからリュートを、と考えたことがあるが技がオリジナルになりかねないのでやめた。
既にあるブルーやゲンさんのようなある程度技能が決まってるキャラ以外は半オリジナルになるから難しい。
ペルソナ系ねえ
携帯電話がないから存在価値のないジョーカー
携帯電話の替わりに鏡とか。鏡の前に立ち目を瞑りながら、
「JOKER様、JOKER様、お出で下さい」
「汝が後ろに」
※うろ覚え
罰の方の電波なのはどうしよう? 場違いな工芸品に携帯電話混ぜるとか?
>>185 過去編で皇宇先生んとこの少女兵器がゲストで出てたよ。
設定は萌え大戦世界に整合性持たせるようにオリジナルですりあわせてあったけど。
中国の鋼の乙女って、萌え現代以外だと燕しかいないからねぇ……
ペルソナ系と言えば不条理に幸が薄いTSの主人公とか誰か救ってやってくれってLVだったな
影が薄過ぎて知名度が壊滅的なダンテとかも居るけど
やっぱ下手に作品から二人以上だすとクソになるな
せっかく面白そうだと思って読んでいったら次から次へと出してきて意味わかんね
東方といいペルソナといい何を思って書いたんだかクソ
それに世界観とキャラ設定だけかりた伝説の剣士とかもうぼくのかんがえたさいきょーきゃら!じゃん
馬鹿じゃねーの
ヴィオラートとビビくらいしか完結した面白いはなしねえじゃん
なんという頭の悪い文章
煩雑になるのはその通りだとは思う
東方なんてそもそも二次イメージ先行だから、三次創作みたくなってる
そんな事よりマテパの三人で一人を召喚の話をしようぜ
>>203 素の身体能力で「加速」に対抗できそうなプリセラがジ―ル・ボーイのようにブッ飛ばすのは
ビダーシャルかそれともジョゼフか…
え?ワルド?あの人はいいとこアビャクさんかガシャロさんだろ
205 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/07(金) 13:41:31.37 ID:FG+2x6WK
>>199 マビノギからオールスキルカンストしたミレシアンを召喚させようとしてる俺にいってんのかあー!!11
下げ忘れたし…
>>196 背中側を断崖絶壁にして呼び出したらどうなるかってネタがあったな
『神曲』からカッチャグイダ・アリギエリを召喚とか俺得以外の何物でもない。
>>208 ああ、落っこちかけたり、壁の中に埋まったりか。4コマで見たな。
なんか空は飛べそうだけど埋まるのは、ブルジョワ共の家とかだと大抵固定化掛けているから出られないよな……
211 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/07(金) 19:57:20.41 ID:ycd6du3j
目が三つの某引きこもりを召喚。
∴<めつじんめっそ〜
エルフの集落が穢土みたいな扱いになるのか
投下まだー?
「天さんはおいてきた。これからの戦いにはついてこれない」
「妖怪食っちゃ寝」
「天まで好奇心グングンググン」
217 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 01:52:55.47 ID:uNUJCD9p
皆さん大変お待たせいたしました。急な事情により先週は開けてしまいましたが
これから2時頃に、新作の方、投下しようと思います。
218 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:00:54.64 ID:uNUJCD9p
それでは始めます。
ルイズは、部屋のベットで目を覚ました。
見慣れた部屋…トリステイン学院の、女子寮の一室。
横を見れば、既に起きていた剣心が、今まさにルイズを起こそうとしている所だった。
「おはようでござる、ルイズ殿」
「…うん…おはよう…」
急に目が覚めたものだから、どこか頭の回転がボンヤリだったのかもしれない。ルイズは、どこか寝ぼけたようにそう言うと、剣心が予め畳んでくれた制服に手をやった。
そして着替えようとして…ルイズは剣心を見て、ハッとするように叫んだ。
「ちょ…見ないでよ!!! どっか行ってて!!!」
「お、おろろ!!?」
その声に、慌てて剣心は部屋を出る。どうせまた着替えを手伝わされると軽く準備をしていたため、少しびっくりしたのだ。
部屋を出ても、余りの出来事に驚きを隠せない剣心であったが…。
「ルイズ殿も、ようやく女子としての恥じらいを持ってくれたのでござるな」
とまあ、こんな風に解釈していた。
第二十四幕 『癒えぬ傷心』
しかし、アルビオンからの旅が終わってからというもの、ルイズはかなり変わった。
前みたいに、剣心に負担を強いるようなことは、しなくなったのである。
身の回りに関しては、大体給仕か自分で片付けるようになった。
食事についても剣心が、ちゃんとテーブルにつけるようにルイズは取り計らった。
寝床についても、ルイズは剣心を思ってか、「隣で寝ていい」と言ったこともあった。無論そこは断ったが。
「今更、大丈夫でござる」
「でも…」
「それに、ベットはどうにも寝付けないのでござるよ」
そこまで言われると、ルイズも納得せざるを得ず、ただ「そう…」と呟いて、少し寂しそうにベットに潜り込んでいった。
これらについては、剣心も思うところがあった。
アルビオンでの、最後の戦い。そこで、良かれとして移した行動が、結果的に大事な人の死に繋がってしまった。そして、最も敬愛する姫の、悲しみを招いてしまった。
それは、ルイズの中では決して消えないだろう傷跡でもあった。
219 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:02:30.83 ID:uNUJCD9p
「ねえ、あんた達一体全体どこ行ってたワケ?」
いつも通りの、授業を受ける教室の光景。そこでモンモランシーが、まくし立てるようにギーシュ達に詰問していた。
「ああ、いや! 何でもないさ。ハハ…」
「へ〜え、そうなの。私には言えないんだ」
ルイズ達がお忍びでどこかへ行っていたというのは、結構知れ渡っていたものだったらしい。
タバサやキュルケは、黙して語らない。ギーシュは、時々浮ついたように口を開きかけるが、慌てて自制心を利かせることで、それを防いでいる。
そんなわけで、今度はモンモランシーは、ルイズのとこまでやって来た。
「そんで、何してたの?」
「別に、なんでもないわよ」
巻き毛を揺らして聞くモンモランシーに対し、ルイズはそっぽ向くように返した。
「ま、どうせ大したことじゃないんでしょ? ゼロのルイズに何か出来るとは思えないし、むしろ足しか引っ張って無かったんじゃ……」
そこまで言いかけて、ギーシュは泡を食ってモンモランシーの口をふさいだ。
「ちょ…ちょっと待ってくれ、モンモランシー。それ以上は駄目だ!!」
「ぷはっ…!! 何がどう駄目なのよ…!」
ギーシュの手をどけて、訝しげに睨んだモンモランシーは、そこで初めて異変に気づく。
ルイズが、肩を震わせて俯いていることに。そこから不気味なオーラを漂わせていることに。
「これって…ヤバい…かな」
もはや手遅れ…。そう悟ったギーシュは、剣心の方に向き直った。
キュルケはいそいそと机を盾にし始め、タバサは何時でも大丈夫なように杖を構える。
剣心はそれでも、なおも食い止めようと、今や何時爆発してもおかしくない、不発弾状態のルイズに近付いた。
「あ、あの…ルイズ殿…?」
…そして気付いた。彼女が、誰にも分からぬ所で、涙を零していた事に……。
(ルイズ殿…)
どうしたものか…と考える内に、教師のコルベールが入ってきたので、この騒ぎも終わった。
220 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:05:18.73 ID:uNUJCD9p
「はい、それでは皆さんに、今回は『火』について、別の視点で授業を見てもらいたいと思います!!」
そう言って、コルベールは、生徒達には見慣れない装置を取り出して、自慢気な顔をした。
「見てください、この仕掛け!」
熱を上げた声で、コルベールは『ふいご』を踏んで、円筒に発火の呪文を唱える。
すると、円筒のクランクが動き出し、箱の扉が開いてヘビの人形がぴょこぴょこ表れ出した。
「どうです、この完成度!! この愉快なヘビくん。すごく面白いでしょう!!」
しかし、剣心以外の生徒たちはそう思わなかったのか、冷えきった目でコルベールを見ていた。
中でも、特に興味なさそうに見るキュルケは、気だるさを隠そうともせずに尋ねた。
「それが、どう凄いのですか?」
「これを使えば、馬を使わずとも車輪を動かすことも、帆もなく船を動かすとこも可能だと、私は確信しているのですぞ!!」
「そんなの、魔法を使えばいいじゃないですか」
一人の生徒の言葉に、そうだそうだと言わんばかりの視線を、コルベールに送る。
「いや…だからこれはだね…」
コルベールが、何とかこの装置の素晴らしさを教えようとしたとき、不意に剣心が教壇へと近づいて、その『愉快なヘビくん』に手を触れた。
すると左手のルーンが急に輝き出す。今まで何となく察してはいたが、どうやらこのルーンは、手に触れた武器に関するものの情報も、頭に流れてくるようにできているらしい。
最初はもしかして…と思い、手を触れてみたが、この左手から教えてくれた情報は、やはり剣心の予想通りだった。
「驚いたでござるな…それは動力でござるか?」
剣心は、何となくではあるが理解したのだ。これは、元いた自分の世界では、盛んに使われ始めている『蒸気機関』の一種だと。
そう言えば、ここには技術に特化した文明が、あまり発達していないことに気付いた。
魔法という便利な代物が発達したこの時代では、そういった科学が進歩していないのだろう。
221 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:06:44.98 ID:uNUJCD9p
「これは凄いでござるな。コルベール殿、これは大発見でござるよ」
「そうだろうそうだろう!! 君だけさ、そう言ってくれたのは!!」
自分の研究を素直に評価してくれたのがよほど嬉しかったのだろう。コルベールは嬉々として叫んだ。
「…そんなに凄いものなの? あたしにはそんな風には見えないけど…」
それでもキュルケを始め、未だに納得いかなさそうに首をかしげる者もいるが、それでも剣心は力強く言った。
「これは、『火』という魔法を、どう人に活かそうと考えた結果、生まれたものでござろう? 拙者も、ただ破壊に火を使うよりも、そう言った使い道の方が有意義だと思うでござるよ」
(……………)
その剣心の答えに、コルベールは嬉しく思いながらも、しかし彼の言葉の裏を、それとなくだが気付いた。
何でだろう…彼とはシンパシーを感じるのだ。同じ地獄を知った眼。それに苦しんできた眼。そして、その末に答えを見つけてきた眼。
だからこそ、馬鹿にしかされない自分の研究を、彼は素直に評価してくれているのかもしれない。
彼も私と、同じ境遇なのだろう…そう思って、しかしコルベールは余計なことを言わずにお礼を言った。
「ありがとう、素直な感想をしてくれたのは君だけさ。君は確か…」
「剣心でござる。ああ、えっと…『東方』の出でござるよ」
ルイズが言うには異世界から来た。って言うのは抵抗があるらしかったので、今は『東方(ロバ・アル・カリイエ)』出身を名乗ることにしていた。
コルベールも、それを聞いて納得したようだった。そして更に目をキラキラ輝かせて言った。
「成程、通りで私の技術も分かってくれるわけだ。なあきみ、後でその『動力』について詳しく教えてはくれぬかい?」
「構わないでござるよ。拙者の知っている範囲でいいのなら、喜んで」
何故か異様に意気投合を始めた二人だったが、ここでようやく授業中だということに気付き、コルベールはコホン、と咳をした。
「で、ではまあ、これを誰か体験してくれる人はおらんかね? ミス・ヴァリエール、どうかね?」
ここで、コルベールはさっきから俯いたままのルイズを指名した。
剣心はギョッとした。まさかいきなり地雷を踏むとは思わなかったのだ。
「あ、あ〜〜、ルイズ殿?」
222 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:10:20.07 ID:uNUJCD9p
しかし、それとは裏腹に、周りの生徒たちはここぞとばかりにはやし始めた。
「やってごらんなさいよ。ルイズ」
モンモランシーの言葉に、とうとうルイズは立ち上がった。
顔を覗かせず、つかつかと教壇の上まで行くと、『発火』の呪文を唱え始める。
その瞬間、教室に爆発の音が轟いた。
「………」
装置ごと吹き飛ばされたコルベールは、地雷を踏んだことを軽く後悔しながらも、いつもの様に黒こげに立つルイズに優しく言った。
「ま、まあミス・ヴァリエール…こんな事もあるさ、もしかしたら、装置の不具合もあったかも知れない。だから気に病むことは―――」
言いかけて、気付いた。いつものルイズなら、どんなに悔しくてもそれを他人に見せまいとするために、強がりの一つや二つ言ったものだ。でも、今回は違う。
「…何で………」
杖を持つ手を震わせて…剣心やコルベールからの視点でしか見えなかったが、ルイズは泣いていたのだ。
「何で私は失敗ばかりなのよ!!!」
今まで見せなかった、ルイズの悲痛の叫びが、さっきの爆発以上に、教室に響きわたった。
一瞬、教室はシーンと静まり返った。ルイズの本音に誰もが圧倒されていたからだ。
そのまま人目をはばからず、泣き出してしまったルイズに手を差し伸べたのは、やはり剣心だった。
「コルベール殿、今日はちょっと、いいでござるか?」
「ああ、構わないさ。学院長には私から言っておくよ」
コルベールからの許可を貰った剣心は、ルイズと一緒にそそくさと教室を去った。その間、生徒たちは何も言うことができなかった。
その日、ルイズは自室のベットで、ずっと泣いていた。
今でも思う。あの時のこと。
力がなかったせいで、ウェールズを死なせてしまった。あの時のことを…。
もし、自分にもっと魔法の力があったなら、誰も悲しまずに済んだかもしれないと。
今でも頭から離れない。ウェールズの安らかな死に顔。アンリエッタの悲しい表情。
「わたしを、守ったせいで……」
そんな風に泣いていた時、不意にドアをノックする音が聞こえた。
ルイズは、気だるそうにドアの方を見た。剣心だろうか? と思ったが、それならノックせずに普通に入ってくるだろう。
「誰…?」
と思いながら、ルイズはドアを開けた。そこにいたのは、学院長のオールド・オスマンだった。
「おお、急な訪問に、スマンの」
ここで、ルイズはハッとした。泣いてたせいで制服にかなりシワが寄っていたため、人に会える格好ではなかったのだ。
しかし、オスマンは、特に気にせずに続ける。
「話は聞いておるよ。ミス・ヴァリエール。お主には、かなり辛いものだったであろう。
しかし、少なくともこれで、同盟は無事に相成り、トリステインの危機は去ったのじゃ。それだけでも充分な働きじゃよ」
オスマンなりの慰め言葉だったが、ルイズは静かに首を振った。
「それを成したのは、私の使い魔と、他の人達で、私ではありません…私は…」
「旅に、役に立たぬ人などおらぬよ。お主はお主で、これが正しいと決めてきた筈じゃ。ただ、それをお主が気付いておらぬだけじゃよ」
オスマンの言葉に、ルイズは顔を上げた。そこには一切の茶化すような感じはない、オスマンの真剣な顔つきがあった。
「それで…この私に一体何用で…」
「おおう、それじゃそれじゃ」
オスマンは、いつもの茶目っ気たっぷりの笑みをすると、懐から一冊の本を取り出した。
特に何も書かれていない。ボロボロで色褪せた古本だ。
「これは『始祖の祈祷書』じゃ。君も名前くらいは、知っておろう」
それを聞いて、ルイズは改めてその本を、まじまじと見つめた。
『始祖の祈祷書』といえば、かの始祖ブリミルが、祈りを捧げたときに使われたと言われる、由緒ある伝説の品だ。
勿論『本物』であればだが……。
有名であるために、また主な具体性が無いために、これこそが本物だと言い張る国や貴族は少なくない。偽物の品も普通に出回るほどだ。
そして今オスマンが持っているものも、その可能性は否定できない。何せ呪文どころか文字の一つも書かれていないのだから…。
223 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:13:01.10 ID:uNUJCD9p
「まあ、この際紛い物かはどうでもいいわい。頼みというのはな、君に王女と皇帝の結婚式で、読み上げる詔を、考えて欲しいのじゃ」
「ええっ!?」
突然の重要な指名に、ルイズは驚きの声を上げた。
「で、でも私に…そんな大役…」
「もちろん、草案は向こうが考えるそうじゃが、この指名は姫直々のものじゃ。これは大変な名誉じゃぞ」
姫さまが…そう聞いて、ルイズはアンリエッタの事を思い出した。
ウェールズが死んだ。それを聞いた時の彼女の表情。現実を受け入れられず、只ショックで何も言えなくなったあの表情は、今でもルイズの胸を痛ませていた。
(わたしが…詔を…?)
正直にいえば、自分は巫女なんて器じゃない。そう思っている。
でも、アンリエッタが直接自分を指名してくれたのであれば、少なくともそれには応えてあげなくてはならない。
暫くルイズは悩んで…そして決めた。
「……かしこまりました。謹んで拝命いたします」
ルイズは、そう言って『始祖の祈祷書』を受け取った。
その頃、アルビオンでは、今やすっかり『レコン・キスタ』の軍勢と相成っていた。
その中で、表向きの新皇帝オリヴァー・クロムウェルは、巨大戦艦『レキシントン』号を見上げていた。
「何とも雄大な船ではないかね、艤装主任」
「そうですな、この『ロイヤル・ソヴリン』に適う船は。世界中どこを探しても見当たりませぬ」
艤装主任、サー・ヘンリ・ボーウッドは、わざと名前を間違えてそう進言した。彼は、略奪同然に王政を奪い取ったこの男に対し、反感に近い感情を持っているのだ。
しかし、クロムウェルはそれをあっさりと聞き流した。
「ミスタ・ボーウッド。アルビオンにはもう『王権(ロイヤル・ソヴリン)』は存在しないのだよ」
「……。それより、何故結婚式に大砲を…それを新型のを積み込む必要が?」
「おお、そう言えば君には『親善訪問』の意味を説明してなかったね」
クロムウェルが来る前に、その命を受けてた時から何やら嫌な予感がしていたボーウッドだったが、
今クロムウェルの説明を改めて聞いて、その予感は的中したのだと悟った。
「馬鹿な!! そのような破廉恥な行為が、許されるとでも!?」
激高するボーウッドに対し、クロムウェルはどこまでも飄々としていた。
「許されないなら、どうするとでも? 言っとくが、これは盟主直々の命令だぞ」
盟主? それを聞いたボーウッドは、ここで何者かがこちらへと向かってくるのを感じた。
振り向けば、そこには志々雄と…死んだとされたウェールズがそこにはいた。
「やあ、ボーウッド、久しぶりだね」
この言葉、この態度、間違いない、ウェールズ殿下そのものだった。ボーウッドは、慌てて膝をついて、忠臣の仕草をとった。
(何故…殿下がこんなところに…?)
224 :
るろうに使い魔:2012/09/08(土) 02:17:10.84 ID:uNUJCD9p
ボーウッドの頭の中は、激しく混乱していた。
その隣で、志々雄は『レキシントン』号を眺めていた。その後ろには、義手をつけたワルドが従いている。
「ほう、中々にでけえ船だな」
「『レキシントン』号…このハルケギニアでこれに勝る船はいないと聞き及びます」
ボーウッドは、ここで改めて志々雄の方を向いた。
ウェールズがいたために今まで忘れていたが、軍人としての本能が、この男はクロルウェルなんかより余程危険だということを知らせていた。
「どうでございましょう、シシオ様。これなら派手に宣戦布告ができるというもの」
このクロムウェルの態度からして、この男こそが、真の黒幕なのだろうとボーウッドは思った。
あの男は、一体…。見かけからしてメイジではなさそうだが、纏う雰囲気は、ここの人間達にはとても出せないようなものを醸し出していた。
正直、自分もこの男の雰囲気に呑まれかかっていた。
およそ常人には理解し得ない功名心、支配欲、野心。それを一手に抱えているような目。
「あの…彼は一体…?」
「ああ、君にはまだ言ってはいなかったね」
そう言うと、クロムウェルは畏まった仕草を取りながら、志々雄に向かってこう説明した。
「彼がこの『革命軍』本当の盟主、シシオ・マコト様だ。シシオ様、彼が名うての指揮官、ヘンリ・ボーウッドです」
では、この男が…此度の戦の原因か。
しかし、ボーウッドは志々雄への視線を無意識にそらしていた。
何ていうか…恐ろしかったのだ。目を合わせたら、地獄に引き込まれそうな引力が、その目にはあった。
「そうかい。ま、よろしく頼むぜ」
そんなボーウッドに対して、志々雄軽くそう言うと、ワルドとクロムウェルを連れて悠々と船に乗った。
「今度はこっちから人斬りの先輩様に、ご挨拶に行くとするか。俺も先輩思いだな」
そんな事を平然と言い放ちながら、志々雄は口元を笑いで歪めた。それを受けてクロムウェルが口を開く。
「それよりシシオ様、予ての件ですが…」
「ああ、『始祖の祈祷書』とやらか?」
クロムウェルが確認するように聞き、志々雄は思い返すように呟く。
「ええ。もしかしたら本物の『虚無』の使い手が、現れるとも限りませぬ。手は早めに打ったほうが……」
自身も『虚無』の使い手であるにも拘らず、どこか怯えた様子で進言するクロムウェルだったが、志々雄は、ただ愉しそうに口元を歪ませるだけだった。
「いいじゃねえか、現れたら現れたで。俺もその伝説の虚無の使い手とやらを、この手でぶった斬ってみてえもんさ」
「しかし…」
「まあ、指揮はお前に任せるから好きにしな。だが忘れるな、俺はどっちに転んでも楽しめるんだぜ」
志々雄は、ここぞとばかりに狂気に満ちた笑みをワルド達に見せながら、大声で高笑いをした。
彼は楽しんでいるのだ。国盗りと、あの男との決着をつけられる機会を、もう一度与えられたのだから。
(やはり…この御方は計り知れない…)
心底愉快そうに笑う志々雄を見ながら、ワルドとクロムウェルは同時に、そんな感想を抱いた。
これにて終了です。先週はどうもすいません。
急な用事にばたついてしまい、投下することができませんでした。
今週は大丈夫なので、明日か明後日にはちゃんともう一本投稿します。
それではここまで見て頂き、どうもありがとうございました。
乙ー
>蒸気機関
惜しいぞ抜刀斎ィィ
乙でござる
>215
つまり、戦士ベーテと魔術師三輪清宗、仕事人みかきみかこか。
乙でござる
目が三つというと大魔王バーン様か。そこらの雑魚とは器の違うお方だからルイズに召喚されても笑ってそうだ。
特にルイズやアニエスはヒュンケル同様 いい目をしてると気に入られそう。
るろうにの人乙です!
原作でコルベールがキュルケに『火』が司るものが破壊だけでは寂しいって言った場面って、ここだったっけ?
対メンヌヴィル戦でのあれと合わせてたぶんゼロ使で一番好きなセリフだから、カットされたのがちょっと残念
もし誰も予約がないようでしたら、11時から新作の代理投下を始めようと思います。
それでは時間になりましたので、始めたいと思います。
Mission 34 <冥府の門を守る者> 後編
「「きゃあっ!」」
魔獣の咆哮にルイズとシエスタが大きく腰を抜かしていた。
竜などとは比べ物にならないその凄まじい迫力と威圧感にタバサとキュルケも思わず怯んでしまう。
スパーダだけは腕を組んだまま吠える魔獣をじっと見上げていた。
咆哮を終えた三つ首の魔獣がズシン、ズシンとゆっくり前へ進み出てくる。体を動かす度に首枷に繋がれた鎖がジャラジャラと音を立てている。
スパーダ達の前で足を止めた魔獣は鋭い目付きでこちらを見下ろしてくる。顔の長い三つの犬の顔は赤、青、緑とそれぞれ異なる色の目で睨みつけていた。
「立ち去れ! 人間ども!」
荒々しいながらも知性に溢れた人語を、魔獣ははっきりと口にした。
こんな恐ろしい魔獣が明確に人間の言葉を口にしたことに平民のシエスタはもちろんのこと、ルイズとキュルケも驚いていた。
人語を話す幻獣は既に絶滅したとされる韻竜が有名であるが、それ以外にここまで知性を持つ幻獣は滅多に存在しない。
タバサだけは魔獣が人語を話すことに何も感じず、身構えたままだった。
「ここは魔の領域へと続く冥府の門! 人間ごときが立ち入る場所ではない!」
一体どの首が喋っているのかは分からない。だが、魔獣は三つ首を突き出し、スパーダ達を威嚇してきていた。
裂けた巨大な口から覗ける鋭い牙に、ルイズ達は息を呑む。
あんなのに噛み砕かれればただではすまない。一噛みされただけで人間などただの肉塊と化すことだろう。
「貴様こそこんな所で何をしている」
スパーダは面と向かって魔獣に語りかけていた。
唸り声を上げる魔獣が、六つの鋭い目をスパーダへと向けてきた。
こんなに威圧感溢れる目で睨まれただけでメイジはおろか獰猛な亜人でさえ萎縮してしまいそうだというのに、スパーダは涼しい顔のまま逆に睨み返している。
伝説の悪魔であるスパーダにとって、この悪魔でさえ大したことはないのだろうか。
「……貴様は! 魔剣士スパーダ……!」
魔獣はスパーダの姿を目にし、驚愕と困惑に呻いた。
冥氷牙<Pルベロスはかつてスパーダと共に魔帝の勢力に属していた上級悪魔だった。
本来は魔界へと堕ちてきた人間の魂を喰らっていたり、魔界の領域の一つである極寒の地の入り口近辺で番人の役目を果たしている。
魔界の三大勢力による覇権争いにおいては主に拠点防衛の任を与えられ、攻め入ってくる他勢力の悪魔達を絶対零度に達する凍てつく冷気の力で迎え撃っていた。
番人の役目を果たすだけあってその実力はかなりのものであり、並の上級悪魔でさえケルベロスの鉄壁の防御を超えるのは難しかったのである。
後衛をケルベロスに任せ、スパーダは前衛に赴いて敵の勢力を打ち倒すというのがセオリーであった。
人間界を魔帝が侵攻した際にはテメンニグルの門番の任を預かり、攻め込もうとする人間側の勢力を入り口でことごとく返り討ちにしていた。
当然、スパーダもテメンニグルを封じる際に一戦を交えたことがあった。
「何故、貴様がここにいる!」
「質問をしているのは私だ。ケルベロスよ。テメンニグルと共に封じた貴様こそどうしてこの世界にいる」
スパーダは腕を組んだまま冷然とケルベロスに語りかける。
ルイズ達はスパーダの言葉を聞き、この魔獣が悪魔であると把握していた。
事情の分からないシエスタだけは呆気に取られたままスパーダとケルベロスを交互に見つめる。
「我は封ぜられし禁断の地より、知らぬ間にこの異界の地へと召致された。かの地で我に与えられし任はこの地では果たせぬ。
よって、我自ら我らが魔の領域へ続くこの冥府の門の番の任を果たすこととしたまでのこと」
どうやらネヴァンと同じ状況のようだ。何らかの理由によってケルベロスもいつの間にかこのハルケギニアに降臨されたようである。そして、初めに現れたのがこの場所だったのだろう。
(冥府の門の番人……か)
少々事実とは異なるが、人間界の伝承どおりの行動をしていることに嘆息する。
「ちょっと、スパーダ。こいつ知り合いなの?」
腰が抜けて立つことができないルイズが尋ねる。
「立ち去れと言ったはずだ。人間風情が!」
突然、ケルベロスが牙を剥き出しにルイズに向かって傲然と吠えかかってきた。
「ひっ!」
ルイズはもちろんのこと、同じように腰を抜かすシエスタもケルベロスの怒気に縮み上がっていた。
スパーダのような冷徹な悪魔、ネヴァンのような妖艶な悪魔と違ってケルベロスはとても荒々しい悪魔だ。
確かに悪魔は恐ろしい。……だが、こちらには如何なる悪魔よりも強く、頼りになる悪魔がいてくれているのだ。
その悪魔のパートナーである自分が恐れ戦くわけにはいかない。
「何よっ! 誰が逃げるもんですか!」
立ち上がったルイズはケルベロスに向かって強気に叫んだ。
「駄目です! ミス・ヴァリエール! 逆らっちゃいけません!」
力なき者がより強い悪魔に楯突いてはならない。それは人間でも同じこと。
ケルベロスの気配を感じ取っていた時から、シエスタは自然とこの恐怖に得体の知れない本能で従っていた。
だが、ルイズはシエスタの手を振り払ってさらにケルベロスに噛み付いた。
「あんたみたいな野良犬なんか、スパーダがいてくれれば怖くないんだから!」
「……愚弄する気か! 魔剣士に庇護されし人間め!」
たかが人間風情に上級悪魔である己を侮辱されたことにケルベロスは激昂した。
悪魔は基本的に非常に高いプライドを持つ者が多い。特にケルベロスのような武人気質を持ち合わせている者は挑戦や挑発的行為には敏感なのだ。
力なき人間のくせに、力ある虎の威を借る狐のような真似をするなど尚更である。
(こ、怖くないんだから……。スパーダが守ってくれるんだから……)
足ががくがくと竦み、全身から冷や汗が滲み出てくる。
牙を剥くケルベロスに面と向かっていたルイズは表面上は強がってはいたものの、内心は恐怖でいっぱいだった。
スパーダやネヴァンは人間の姿をしていたが、このケルベロスはまるっきり竜よりも恐ろしい魔獣の姿なのである。
これだけ近くにいるだけで恐怖を感じないわけがないのだ。
怒りに燃えるケルベロスが前足を大きく振り上げ、叩きつけようとしてきた。
皮膚に張り付いた薄い氷が日の光に照らされ、まるで宝石のように光り輝いている。
「「きゃっ!」」
ケルベロスの爪が振り下ろされた途端、スパーダはルイズとシエスタの体を抱えて大きく後ろへ跳んだ。
叩きつけられた前足を基点に地面から無数の鋭く巨大な氷の柱が発生し、地を這いながら一直線に突き進んでくる。
タバサは左に、キュルケは右にそれぞれ動いて氷柱の波をかわした。
大地を凍てつかせながら突き進む氷の波はオーク鬼の氷像をいくつか巻き込んでいき、広場の入り口の手前でピタリと止まり、砕け散った。
「あまり奴を刺激してくれるな」
「だって……」
冷気に覆われた地面に着地したスパーダが抱えたままのルイズを嗜める。
ルイズはムスッと拗ねた顔でむくれていた。
「まあいい。ひとまず奴から離れるぞ」
「待ってください、スパーダさん! ミス・タバサとミス・ツェルプストーが!」
同じように抱えられているシエスタが必死に声を上げた。
ケルベロスの先制攻撃をかわした二人はそのまま二手に分かれて攻撃に移っている。
「食らいなさい!」
まずキュルケが杖の先からトライアングルのメイジに相応しい、太く渦巻く炎の帯を放った。
だが、ケルベロスはその巨体には似合わぬ俊敏さで攻撃をかわし、体を素早く反転させながら広場の中央へと飛び退く。
オーク鬼達の氷像と己の力によって作られた氷柱が巨体によって薙ぎ倒され、砕け散っていく。
本来、ケルベロスを拘束しているはずの鎖が解けているためにあそこまで素早いのである。ああ見えてケルベロスはかなり身のこなしが鋭いのだ。
「我に挑むか。力なき人間よ」
「あら。人間だからって、弱いとは限らないのよ!」
傲然と言い放つケルベロスに対し、キュルケは余裕の態度で答え杖を突きつけた。
「まずは氷を剥がす」
杖を構えながらぽつりと呟くタバサは既にエア・ストームの詠唱を終えていた。
得意とするウインディ・アイシクルやジャベリンなど、水のスペルを足した魔法は氷を操るケルベロスには効かないだろう。
おまけに身に纏う氷が鎧となっており、普通に攻撃しただけでは本体そのものにダメージを与えられない。
ならばその鎧からひっぺがしてやるのみ。
「後悔するぞ! 小娘が!」
ケルベロスの三つ首が一斉に二人の少女に牙を剥き出しに威嚇してくる。
二人のメイジと、三つの首を持つ魔獣。それはある意味では三対二に等しい状況であった。
「くどいようだが、絶対にここを動くな」
スパーダはケルベロスから遠ざかるように広場の隅へと非戦闘者である二人を運ぶと念押しに釘を刺す。
ケルベロスに恐怖するシエスタは震えながらもこくりと頷いた。
「分かってるわよ! もう!」
いくら何でもしつこい忠告にルイズも気を悪くし、声を荒げてしまう。
それぞれの返答に頷き返したスパーダは自らも戦場へ赴くべく踵を返す。
相手がケルベロスと分かった以上、タバサとキュルケでは力不足だ。ゲリュオンの時とは違いケルベロスの力はスパーダが一番よく分かっている。
予定を変更し、スパーダも二人に加勢をすることにした。
リベリオンに手をかけようとしたが、柄に触れる寸前で思い立ったようにピタリとその手を止める。
(……ちょうど良いな)
せっかくここで悪魔が、しかも力のある上級悪魔と対面したのだ。
先日、手に入れたばかりの新たな品を試すのにちょうど良い。
「持っていろ」
「ス、スパーダさん!?」
スパーダが取り始めた行為にシエスタは我が目を疑った。
彼は愛用のリベリオンを地に突きたてただけでなく、腰の閻魔刀までも外すと振り向かぬままシエスタに押し付けてきたのだ。
閻魔刀を渡されたシエスタはそれを抱えながら、どうすれば良いのか分からずにおろおろとする。
「ちょっ! ちょっと! どうして置いてっちゃうのよ!」
ルイズもまた、自ら剣を捨て去ろうとしているスパーダの行動が理解できずに食って掛かった。
剣はスパーダの命とも言うべきもの。それを自ら捨てようだなんて、一体何を考えているのだ。
篭手のデルフでも使う気なのか? だからといって剣まで捨てることなんてないのに。
「待ちなさいよ! スパーダ!」
ルイズは必死に呼び止めようとするも、スパーダは無視して手ぶらのままケルベロスと交戦している二人の元へ堂々とした振る舞いで歩き進んでいった。
「何よ、あれ?」
道中、スパーダはコートの内の腰に両手を回して何かを取り出していた。
「じゅ、銃……ですかね?」
スパーダの手に握られた白と黒の大柄な二丁の拳銃。
先日彼がそれを初めて使う所を二人は目にしておらず、詳細を何も知り得てはいなかった。
「あんな銃……いつの間に持ってたのよ……」
ルイズの記憶では確か、スパーダの銃はゲルマニア最新式の火打ち式の銃だったはず。
もっとも、弾は彼の魔力から作られているそうなので残弾を心配することはないのだとか。
――オオオォォォォンッッッッ!!
緑の目を光らせるケルベロスの首が天に向かって恐ろしい咆哮を上げる。
大気中の水分が一気に凝縮、極低温にまで氷結されることで大小様々な無数の氷塊が雨のように降り注いできた。
――オオオォォォォンッッッッ!!
青の目を光らせるケルベロスの首が口を大きく開くと、その大きな口の奥から次々と岩のように巨大な氷塊が吐き出された。
戦艦の砲弾のごとき勢いで、しかも戦艦とは違って速いペースで次々と放たれる。
――オオオォォォォンッッッッ!!
赤の目を光らせるケルベロスの首も同じように口を開けると大きく息を吸い込み始めた。
喉の奥から青白い光が収束し冷気までもが湧き出したかと思うと、猛烈な氷のブレスが一直線に放出された。
三つの首はそれぞれ異なる手段でタバサとキュルケに容赦ない攻撃を仕掛けてきた。
しかもそれぞれが独立した動作を取るために時間差はもちろんのこと、三つ同時に繰り出すというとんでもない手数で攻めてくるのである。
「くっ!」
呻くキュルケは吐き出された氷の砲弾をフレイム・ボールで迎撃しようとしたが、相手の方が勢いが強すぎて力負けしてしまう。
慌てて避けようにも頭上からは氷の雨が降り注いでくる。避けきるのは極めて難しい。
炎の魔法で迎撃しようものなら、絶えず吐き出されている氷弾を食らうことになってしまう。
「アイス・ウォール!」
氷のブレスを飛び退きかわしたタバサがそのままキュルケの傍までくると、瞬時に呪文を完成させて杖を地面に突き立てた。
二人の正面に地面から現れた分厚い氷の壁がケルベロスの氷弾を阻む。氷と氷が衝突し、強烈な衝撃音と共に氷の壁が砕け散った。
「炎よ!」
キュルケが頭上に杖を振り上げ、杖の先から紅蓮の炎が放射される。
降り注いできた氷の雨は次々と溶かされ、ただの水と化していた。二人の体にボタボタと水が降り注ぐ。
もちろん、この程度で安心などできない。敵の攻撃を凌いだだけで、こちらからはまともに反撃ができないのだ。
「所詮、その程度か。やはり人間の力などこの程度よ」
鋭く唸りを上げながらケルベロスが傲然と呟く。
未だケルベロスの体は氷の鎧で覆われている。これを剥がさなければそもそも肉体を傷つけることは叶わない。
かといってキュルケが炎の魔法をぶつけて溶かそうとしてみてもケルベロスの魔力から生み出された氷の鎧は想像以上の頑強さであり、
渾身の力で作り出した炎の魔法を叩き込まなければビクともしないのだ。
(硬すぎる……)
タバサもまた、ケルベロスの氷の鎧を剥がすのに悪戦苦闘していた。
先ほどから回避の合間にエア・カッターを何度も放っており岩のように固い氷を削り取ろうとしているのだが、こんな小技ではいくらやってもかすり傷程度にしかならない。
タバサが得意とする風の魔法は硬い皮膚を持つ幻獣や亜人に対して相性がとても悪い。それこそ岩のように硬い氷の鎧をまとうケルベロスは尚更だ。
駄目元で特大のジャベリンもぶつけてみた。本気を出せば鉄の鎧をも容易く貫く巨大な氷槍はエア・カッターより多少は大きな傷を付ける程度の効果しかなかった。
死角を見つけてそこを突こうと思案してみたが、結局は表面を覆う氷から剥がさなければ話にならない。
己の力がまるで歯が立たない事実に、思わずタバサはぎりと唇を噛み締める。
自分は誰にも負けることはできない。母を救い、仇をこの手で討ち取るためにも、たとえ敵が恐ろしい悪魔であろうが負けるわけにはいかないのだ。
だが、己の力がこうも役に立たず、太刀打ちができない現実にタバサは痛烈な悔しさを感じていた。
「我に牙を剥いた報い、その身を持って思い知れ!!」
赤、青、緑――三つ首の六つの目が鋭い眼光を放ち、ケルベロスの巨体は二人目掛けて飛び掛かってきた。
タバサはキュルケを抱えてフライで急速に宙へ飛び上がり、ケルベロスの突進をかわす。
「ダ、ダーリン?」
そのまま前に向かって降下するタバサに抱えられるキュルケが驚き、声を上げた。
見ればスパーダがルーチェ、オンブラとかいう二丁の拳銃を手に歩み出てきているのだ。
これから戦う敵が何者であろうと全く動じず、悠然と歩いてくるその姿は歴戦の武人に相応しい風格を漂わせている。
彼がこうも早く出てきたということは、自分達がこれ以上戦っても意味がないということに他ならない。
「案ずるな。まだ出番はある」
口惜しそうに無念の表情を浮かべるタバサの傍で立ち止まったスパーダは一声をかけていた。
「ようやく貴様が出るか。魔剣士スパーダ」
聖碑の石版の手前でその身を反転させたケルベロスは、スパーダが出てきたことに唸りだす。
以前、テメンニグルの入り口で一戦を交えた時は軽くあしらわれるだけあしらわれて侵入を許してしまった。
あの時のスパーダは魔界とテメンニグルを封じることを最優先に行動していた。故にケルベロスに付き合う暇などなかったかもしれない。
だが、まともに戦わず相手にされないことは上級悪魔であり、純然たる武人であるケルベロスにとっては屈辱でしかなかった。
片目を潰され復讐を企てていたというベオウルフまでとはいかずとも、いずれはその雪辱を晴らさんとしていただけあってこの異世界でスパーダと遭遇したことは不幸中の幸いであった。
人間ごとき力なき者を相手にした所で何も面白くはない。やはり力ある強者同士がぶつかり合うことこそ、悪魔の戦いだ。
「かつては不覚を取ったが……今一度、決着を果たさん!」
三つ首の牙を剥き出しに威圧すると前足を高く振り上げ、大地を叩きつける。再び巨大な氷柱が波となり、スパーダ達目掛けて直進してくる。
横へ避けたタバサとキュルケに対し、スパーダは地面を蹴り付け真上へと跳躍していた。
そこへ狙いをすましていた青の目のケルベロスの首が連続で巨大な氷弾を吐き出してくる。
「危ないっ!」
広場の隅でルイズと共にスパーダ達を見守っていたシエスタが悲鳴を上げる。
ルイズもハラハラしながら見届けていたが、あの程度の攻撃、スパーダならば必ずどうにかすると信じていた。
(あんな犬ころなんか、スパーダの敵じゃないんだから!)
案の定、スパーダは放たれてきた氷弾の上に難なく飛び乗り、次々と飛来する氷弾に飛び移っていく。
一歩間違えば直撃してしまう危険があるのに、スパーダは恐れることなくそれを実行し、ケルベロスとの距離を詰めていく。
その間、銃を握るスパーダの両手には徐々に赤いオーラが纏わりついていくのが分かる。
ケルベロスの赤い目の首が収束させた氷のブレスを薙ぎ払うようにして吐き出し、さらに青い目の首は絶えず氷弾をスパーダ目掛けて撃ち出してきていた。
スパーダは氷弾を足場にしつつケルベロスの怒涛の攻撃を次々とかわしていく。
(相変わらずの手数だな)
氷弾が確実に直撃してしまいそうな状況になった時、スパーダは宙を舞ったまま素早くルーチェとオンブラを交差させて構えていた。
既に充分過ぎるほどの魔力が彼の両手へと集められていた。
二つの銃口が交互に鋭い銃声と共に、赤い閃光と火を噴きだす。
次々とあり得ない速度による射撃で、光≠ニ影≠フ名を冠する拳銃はスパーダの魔力を銃弾として放っていた。
放たれた銃弾は目の前まで迫っていた巨大な氷弾の表面を砕き、削っていく。さらに着弾の衝撃によって徐々に勢いを失っていった。
普段のケシ粒ほどの魔力を固めて放つ銃弾より三倍もの魔力が込められており、当然ながらその威力は段違いだ。射撃の反動によってスパーダの体も宙に浮かぶほどである。
以前使っていたゲルマニアの短銃では不可能であった超連射、そして集められた魔力に、ルーチェとオンブラの銃は難なく耐え切っていた。
当然、その引き金を短時間で休みなく、何十回も引き絞れるのは悪魔であるスパーダだからこそ成せる技である。
「Well done.(上出来だ)」
さすがに魔界の銃工、マキャベリの入魂の作品なだけはある。その出来栄えに満足し、思わず笑みをこぼしてしまった。
ルーチェ、オンブラによる超連射によってケルベロスが吐き出した氷弾は完全に勢いを失い、地上へと落ちていく。
スパーダはそれを足場にし、さらに宙へと飛び上がり、ケルベロスの頭上へと舞い上がった。
身を翻し体を逆さの体勢にさせると腕を交差させたまま真下に向かって更なる連射を行なう。
(ん? あれは……)
ケルベロスの氷の鎧を頭上から削っていたスパーダは高所から聖碑の石版を目にし、怪訝に眉を顰めた。
先ほどまでは凍り付いていたケルベロスが鎮座していたおかげで分からなかったが、どうやら石版の真下には祭壇のようなものがあったらしい。
その台座も完全に凍り付いてしまっていたが、その氷の中に閉じ込められていた物にスパーダは目が付いていた。
「我らの修羅なる一時に水を差すな! 人間風情が!」
横合いより飛んでくる巨大な火炎球がケルベロスに直撃し、激昂する。
赤と青の目の首は続けて地上に着地したスパーダに怒涛の攻撃を繰り出していたのだが、緑の目の首はというと……先ほどからタバサとキュルケの攻撃によって顔と左腕の氷がほとんど剥がされていた。
戦法を変更したタバサはキュルケの放つフレイムボールを自分の風の魔法で包み込むことで火力を増強させることにしたのだ。
火は空気があるからこそ燃焼する。そしてその空気に含まれる酸素が濃ければさらに炎の力は増す。
キュルケが単体でかつ全力でフレイムボールをぶつけることでようやく氷の鎧に明確な効果的なダメージを与えることができたのだが、
そこにタバサの風魔法を混ぜることによって威力がさらに増し、氷の鎧の下の黒い皮膚を露とさせたのである。
「……身の程知らずめ!」
だが、スパーダとの対決を邪魔されたケルベロスにとってはそんな二人は邪魔者に過ぎなかった。
怒りに燃えた緑の目が鋭く光る。大気中の水分が一瞬にして無数の小さな鋭い氷の刃と化し、二人に向けて飛ばされる。
「アイス・ウォール!」
己の得意とするウィンディ・アイシクルと全く同じ技だっただけにタバサの反応は速かった。
何十という氷の刃が現れた瞬間に氷の壁を作り出し、二人はそれを盾とする。
飛来する無数の氷の刃がぶつかり、パキンパキンという氷が砕ける音を弾けさせていた。
「な、何よ!」
攻撃が治まり、いざ反撃をしようとした二人であったがケルベロスは間髪入れずに左腕を叩きつけ氷の波を繰り出していた。
突き進む波が氷の壁にぶつかった途端、その流れが二手へと分かれる。そして、そのままタバサとキュルケを
「キュルケ! タバサ!」
広場の隅で見届けることしかできないルイズは何かが起きる度にそうして叫ぶことしかできなかった。
シエスタに至ってはスパーダから預けられた閻魔刀を抱えつつ恐ろしい悪魔の姿に怯え、震え上がるだけである。
「そこで控えていろ!」
鋭く唸るケルベロスが憤怒の叫びを上げると、氷の檻の真上に次々と無数の氷塊が現れ、落下させてきた。
追い討ちと言わんばかりの攻撃で檻タバサとキュルケは氷塊の山に埋められてしまった。
氷の山を睨んでいたケルベロスの緑の目の首も、他の首からの攻撃を凌ぎ続けているスパーダへと向けだす。
「これで我らのみとなった……これ以上、人間どもに邪魔はさせぬ!」
スパーダはルーチェ、オンブラの銃撃で氷弾を砕きつつ氷のブレスをかわし続けていたが、そこに氷の雨という更なる攻撃が加わり、より素早く回避に専念することとなった。
更には振り上げた腕を叩きつけ、氷の波まで放ってくる始末。怒涛の連撃だった。普通の人間では全てをかわしきるのは至難の業だろう。
事実、スパーダはその氷の雨を何発か体に受けてしまっている。ダメージこそ小さいものであったが。
(さすがに凄まじいな)
以前はケルベロスとまともに相手をせずにテメンニグルに侵入したスパーダであったが、いざ正面から立ち向かおうとするとその手数の多さには脱帽してしまう。
故に本気を出さねばならぬとスパーダは感じた。ルーチェ、オンブラの性能をもう少し試すためにも、スパーダも全力を出さなければならない。
ここまでケルベロスが本気を出し、全力を尽くしている以上、それに応えるのが礼儀である。
「Show down.(ケリを着けようか)」
呟いた途端、スパーダは己の内に取り込んだ悪魔の力の一つを解放させる。
頭上と正面からはケルベロスの氷が迫っていた。立ち止まっていたスパーダに衝突し吹き飛ばし、押し潰すのは時間の問題である。
だがスパーダは腕を組んだまま立ち尽くし、それを避けようともしない。手にしたままのルーチェ、オンブラを構える様子もなかった。
「スパーダ! 避け――」
どういうわけか余裕の態度で堂々と佇んでいるスパーダに思わずルイズは叫ぼうとした。
だが、途中で声が途切れてしまう。表情に愕然とした色を浮かべ、ルイズは面食らう。
何故なら、スパーダが異様な残像を残しつつあり得ない速度で動き回っていたからだ。当然、あっさりとケルベロスの攻撃を避けてしまった。
しかも、走っているのではなく……あれは歩いている。全くの余裕の動作だ。
「貴様! その力は!」
スパーダが解放した力、そして発せられる魔力の波動に困惑と驚愕に呻くケルベロス。
一見するとスパーダはあり得ない速さで移動しているだけにしか見えない。
だが、ケルベロスはスパーダの立つ空間だけが切り取られ、自分達の存在する空間よりも流れが速くなっていることを見抜いていた。
明らかにスパーダは空間に干渉し、その流れを自分の思うように変化させている。だが、それは彼自身の力ではない。
スパーダが制御する力と魔力、それはかつてテメンニグルに共に封じられた上級悪魔ゲリュオンのものに間違いなかった。
どうしてスパーダがその力を操っているのかと狼狽するケルベロスだったがスパーダが残像を残したまま姿を掻き消したため、即座に魔力の波動を辿る。
「ぬっ?」
突如、甲高い澄んだ音色と共に無数の赤い何かが周囲から飛来し、ケルベロスを覆う残った氷の鎧に次々と突き刺さっては砕け散る。
見ればそれらは魔力によって作られた長剣だった。赤黒いオーラに包まれたその剣からはスパーダの魔力をはっきりと感じ取ることができる。
かつてスパーダはこのような技を使っていた覚えがないケルベロスであったが、大した威力もない。これではケルベロスの皮膚に突き刺さっても針が刺す程度でしかない。
だが同時に銃弾の嵐も飛んできており、魔力の剣と共に確実に氷の鎧を削っていった。
「こしゃくなっ!」
三つ首が一斉に咆哮を上げ、ケルベロスは上体を高く持ち上げると一気に大地へと叩き付けた。
ケルベロスの巨体から充填された魔力が一気に解放され、それは極寒の冷気と化して周囲へ広がっていく。
既に周囲はかなり凍り付いていたが、この絶対零度にも達しかねない冷気によってさらに容赦なく凍結されていった。
さすがのスパーダもこれでは攻撃を中断して後ろへ退くはずである。
だが、その予想は大いに外れる事になる。
「こいつぁまた、大物とやり合っているじゃねえか。大したもんだぜ」
「何?」
三つ首の真下から妙な声が響き、ケルベロスは呻いた。
スパーダは取り込んでいるゲリュオンの空間干渉能力で自分の空間を切り取り流れを速くしていた。
その間、スパーダにとってはケルベロスはもちろんその攻撃もとてもゆっくりと見えていたため、走って避けることもなかった。
ルーチェ、オンブラの射撃に幻影剣も追加し、一気に氷を剥がしていったのである。
ケルベロスはスパーダを退かせるために全力で放った冷気を拡散させたが、スパーダは退いてなどいなかった。
(さすがに全ては防げんか)
篭手のデルフを装備したスパーダはケルベロスの放った冷気の魔力を吸収しつつ、一気に懐へと飛び込んでいたのだ。
コートが少し凍りついてしまったものの、デルフに吸収された分スパーダ自身には大したダメージになってはいない。
スパーダは落ち着いて、ルーチェを氷が剥がれたケルベロスの胸元に突きつける。
今度はいつもの十倍もの魔力を注ぎ込んでみることにする。
銃全体に赤黒いオーラが炎のように纏わりつき、バチバチと雷光が激しく散りだしていた。
「貴様!」
スパーダに気付いたケルベロスが声を上げるが、スパーダは容赦なく引き金を引き絞る。
「グガアァ!!」
雷鳴が轟くかのような轟音と共に、至近距離から強烈な赤い閃光を伴い放たれた銃弾がケルベロスの胸に炸裂する。
あまりの強烈な衝撃に耐えられず、ケルベロスは苦悶の雄叫びを上げながら体を大きく仰け反らせながら吹き飛ぶ。
「ひええっ! すげえなあ! その玩具はよ!」
装備したままのデルフも興奮したように叫びだす。
スパーダは銃口から硝煙の棚引くルーチェを構えたまま踏みとどまっていた。
さすがに今度ばかりは反動が強かった。後頭部まで跳ね上がってしまったほどである。
まるで巨大な大砲を手にして撃ってみたようなものであり、さすがのスパーダも地上で踏みとどまらなければ反動に負けていたかもしれない。
だが、これだけの強力な魔力の弾を放ってもこの銃はやはりビクともしない。
スパーダは満足げに笑い、手の中でクルクルと回して弄ぶとそれを腰へ収めた。
聖碑の真下まで吹き飛ばされ、倒れ伏したまま呻き続けるケルベロスは堂々と腕を組み佇むスパーダを睨み続けている。
ふと、スパーダはゆっくり右手を横へと伸ばしだした。
「「きゃあっ!」」
広場の隅で観戦し続けていたルイズ達は悲鳴を上げた。
彼女達の前に突き立てられていたリベリオンがひとりでに地面から抜け出し、勢いよく回転しながらスパーダの元へと放物線を描きながら飛んでいったのだ。
主の手元へと飛来してきたリベリオンを、スパーダは振り向くことなく難なく掴み取る。
「……それが貴様の新たな剣か」
呻きつつも起き上がろうとするケルベロスはスパーダが手にしたリベリオンを目にし、感嘆の呟きを漏らした。
以前、彼が振るっていた愛剣とはずいぶん異なるが、それでも強い魔力を感じることができる。
「お前が望むのであれば、今度はこちらで相手をしよう」
リベリオンを肩に担ぎながらスパーダは静かに告げる。
剣を手にしてこそスパーダは完全に本気になる。ケルベロスは剣を手にしたスパーダの力が如何に絶大であるかを知っていた。
そして、剣を手にせずともその力は凄まじいということをケルベロスは身を持って思い知らされた。
力は衰えても、魔剣士<Xパーダの実力そのものはまるで衰えていない。むしろ以前よりさらに磨き上げられている。
「……いや。貴様の力、我が身にしかと刻まれた。さすがは……魔剣士スパーダ」
故にケルベロスはその力を認めるしかなかった。
いくらケルベロスが力ある悪魔であり、純然たる武人とはいえ相手の力を見極められるだけの融通と柔軟はある。
力ある者に従うは世の理。今回は同じ悪魔であるスパーダの力を改めて認めたが、それが人間であっても認めたことだろう。
スパーダはリベリオンを背に収め腕を組むと、表情を一切変化させずにケルベロスを睨み続けていた。
「貴様がこの世界でどのように生きるか……我も見届けさせてもらう。我が牙の加護と共に!」
起き上がったケルベロスは粛然とした態度でスパーダへの忠誠を示す。
かつては同志として共に戦い、戦乱を生き残った。魔帝の人間界侵攻にケルベロス自身は侵略などはあまり積極的に意識しておらず、どちらかと言えば己に与えられた任務を果たすために行動していた。
敵意さえ示さなければ人間だろうと無闇に襲わず、人間に対して傲然とするのも力がないくせに強がって挑もうとする愚かな行為が、力ある強者として許せないからだ。それが悪魔であっても同じことである。
血に飢えた有象無象の悪魔共とは違い、ケルベロスも自分なりに義を重んじているのだ。
(変わらんな。相変わらず)
スパーダもケルベロスの性分が分かっていたからこそ、こうして素直に従ってくれたことに満足していた。
――オオオォォォォンッッッッ!!
真正面から正当な力を示した魔剣士に己の全て捧げることを決意した氷の魔獣は天に向かって雄叫びを上げ、その巨体を光へと弾けさせていた。
スパーダの目の前に、もはやケルベロスの姿はどこにもない。
あるのは青白い光球が静かに浮かび上がっているのみである。
スパーダがその光求をゆっくりと掴み取ると、掌の中に吸い込まれるようにして消えていった。
魂を捧げた以上、魔具として展開するのも良かったかもしれないが、今はまだ魂そのものを取り込むまでに留めることにする。
(これで四体か……)
ドッペルゲンガー、ゲリュオン、ネヴァン、そしてケルベロス。上級悪魔を四体も従えることになった。
これだけの数が集まれば中々に戦力は補強されることだろう。全員が実力のある悪魔である以上は。
近いうちに起こる日食の日、どこかの勢力が攻めてくるかもしれない。そのための戦力がこうして手に入ったのはありがたかった。
(後は、我が分身か……)
スパーダは目の前にそびえ立つ聖碑の石版をじっと睨むように見上げていた。
魔界の大勢力との戦いに備え、いずれは故郷の深奥に封じてきた己の分身を再び手にすることをスパーダは決意していた。
そのためにも魔法学院で魔界と人間界の繋がりに関して調べ、魔界に繋がる道を見つけることで故郷へ舞い戻ろうとしていたのである。
今まではその成果がまるでなかった。……だが、それが今ここで覆された。
目の前にあるこの石版こそが、故郷へと通じる道であり、門だからだ。
※こちらの無線LANの調子がおかしくて遅れました。申し訳ありません。
今回はこれでおしまいです。
最近、規制が強くなっている様子でまともに直接投下ができないし、他の方も同じのようですので
しばらくの間、投下をお休みしたいと思います。生存報告などはまとめの誤字脱字などの更新で行ないます。
以上で、代理投下を終了します。
乙です
乙です
どうでもいいが、スパーダはタバサとキュルケが殺されてもいいと思っているのか?
戦いなんてどんな間違いが起こるか分からないし、敵はいきなり本気を出せば2人を瞬殺しかねないほど強い悪魔なんだろ…
2人を当て馬にした上で上級悪魔も新作の銃の実験台位に扱い自分を引き立てるその余裕ぶった構えに最近誠意を感じられなくなってきた
るろうに乙!
しかし愉快なヘビ君は武器ではなかろう・・・
文章が拙すぎて書くのがつらいのぅ…
だれか俺に文才を
245 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/09(日) 07:52:51.77 ID:iiB6qcoX
>>242 パパーダ乙
ケルベロスみたいに強い奴は格下と考えてる相手に本気は出しても最初から全力はそうそう出さない。獅子の兔狩りの例えもあるが脆弱な人間(実際作中でも有効打を打ててなかった)に全力なんて出せば自分の格を自ら下げ、プライドに傷をつけるという強者故の傲慢さがある。
それに2人は自ら進んでケルベロスに挑んだのであって当て馬にされた訳ではない(事実完全に足手纏いのルイズとシエスタを遠ざけるのに援護として行った感もある)
最初から相手にならないと判断して相手をしに行ったし。
ルーチェ・オンブラの実験も上級悪魔に対して銃撃がどの程度通用するかの重要な参考になるし、流石に手の内を幾つか切らなきゃならなかったから余裕なんて余りなかった様子。
寧ろ俺はルイズの態度が嫌だったね。パートナーだからって自らの事のように語って、完全にスパーダに依存しきってるし、また馬鹿な真似して壮大な死亡フラグ建てそう。虚無に目覚めたら絶対増長しきるから特に。
武器を目的として作られた物
おーれの武器を知ってるかーい?
モップ!!柱時計!!胡椒!!
デルフ「俺は?」
変態仮面召喚で変態補正によりルイズのパンツが武器認定されたのはワロタ
どこまでを武器と認定するかも考えると面白そうだね
ルイズ「こんなの剣じゃないわ!ただの鉄くずよ!」
メイトリックス「だったら投げればいいだろう!」
デルフ「ひでえ」
そういう問題じゃなくね
ガンダールヴの発動条件は明確なんだし
>>247 MASS BLADE
建築資材?聞こえんなぁ
パルテノン神殿に使われているような石柱などををぶん回すんですね
石柱を鎖で繋いだのは武器としてカウントされるのか……
元の得物にルーンが反応せず,本来の効果が分からんとかもあっていいんじゃないか
くだらない考察はいらないから投下はよ
言い出しっぺの
アノアロの杖のことかー!
才人「そんなにタワーを守りたいかあーーっ!!」
昔サムスピに王虎というキャラが居てだな…
>>244 避難所の構想は練れるけれど文才がない人のためのスレ使えばええやん
263 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:22:17.93 ID:4dV1h0hF
皆さんこんばんわです。予約がないようでしたら10時半から投稿を始めようと思います。
264 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:30:43.45 ID:4dV1h0hF
それでは始めます。
その日、トリステイン魔法学院は快晴だった。
シエスタは、貴族達の服の洗濯をする傍ら、この晴れやかな日差しを心地よく浴びていた。
「今日もいい天気ねぇ」
そんな事を言いながら、シエスタは小鳥たちと戯れつつ、どこかウキウキした様子で洗濯物を干していた。すると…。
「あれ、ケンシンさん?」
シエスタの遠くで、例の気になる男性、あの緋村剣心が、どこか森の中へと入っていくのをその目で見た。
何だろう? シエスタは持ち前の好奇心で、剣心の後を追った。
しばらくして、剣心はおもむろに草木が生い茂る林の中心に立つと、どこか神妙な顔つきで目を閉じていた。
ひっそりと隠れながらも、シエスタはこの気になる行動に疑問符を浮かべていた。
しばらくして…彼の周りから、ただならぬ雰囲気が立ち込めるのを感じた。
そして次の瞬間――――。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
剣心は、それを一気に開放するかのように、急に唸り声を上げた。
それに伴い、パン!! パン!! と周囲に舞う木の葉が弾け飛び、木々は悲鳴を上げる。
シエスタは、この出来事に大層驚き、腰を抜かしてしまった。
「きゃああ!!」
シエスタの悲鳴が聞こえると同時に、剣心はハッとしてそちらの方をむいた。
「シエスタ殿?」
「あ、御免なさい…えと、あの」
シエスタは、しどろもどろになりながらも、これまでの経緯を剣心に話した。
「そうか、それは済まない事をしたでござるな」
「あ、別に大丈夫です。でも…」
聞こうか聞くまいか、悩む仕草をしたシエスタだったが、やっぱり知りたい好奇心が勝ったのか、剣心に質問した。
「さっきのは、一体何だったんです?」
265 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:31:22.54 ID:4dV1h0hF
「まあ、気を引き締めてただけでござる」
シエスタは、さらに疑問が増えた。気を締めてた? あれはそんなレベルじゃないような気が…。
シエスタは、吐き出すように気迫を飛ばしていた剣心を思い出し、首をかしげた。
「拙者は、ああして時々気を締めないと、心の具合が黒くなる。だからさっきのようにやって、それを発散させているのでござるよ」
思うところがあるのだろうか、時々左手を見つめながら剣心はそう言った。
「へえ、そうなんですか」
正直、言っている意味はさっぱり分からないが、剣心が言うことなら、余程重要なことなのだろう。シエスタはそう思った。
(ってあれ? これって今、ケンシンさんと二人きり…?)
そして、丁度二人っきりだということにシエスタは気付き、顔を赤らめた。
対する剣心は、ルイズの事を思っているのか、どこか考え込むような表情をしていた。
今のルイズに必要なのは、リラックス出来る環境だろう。
何かないものか…そんな事を思案しているうちに、シエスタから声が掛かった。
「そ、そう言えば、ミス・ヴァリエール達と、どこかへ行っていたようですが、一体どこへ…」
単なる話題を作るために、シエスタは質問したが、剣心は困ったような表情をした。
「う〜ん、まあ、お忍びでござるな」
頬を指でかきながら、剣心はそう返す。
「へぇ〜…そうなんですか…」
少し何とも言えなさそうな顔をして、シエスタはそう相槌を打った。
その後、しばらくの間沈黙が流れたが……やがて意を決したのか、勇気を振り絞ってシエスタは顔を上げた。
「あ、あの、実はですね、今度お姫様の結婚式のときに、特別にお休みがいただけたんですけど…それで…ケンシンさんも、私の故郷をどうかなって…。
とっても綺麗な草原もありますし、気も休まると思いますよ」
シエスタはシエスタなりに、彼の顔を見て思うところがあったのだろう。気を遣うような風で聞いてみた。
剣心は、少しポカンとした感じで、それを聞いて、そして叫んだ。
「それだ!!」
「へっ?」
第二十五幕 『宝探しと冒険』
「う〜〜〜〜〜ん…」
266 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:33:06.53 ID:4dV1h0hF
同時刻、ルイズは学院の中庭のベンチに座り、一人考え事をしていた。
膝の上には、ボロボロの本『始祖の祈祷書』が乗っけられている。
あれから、ルイズは悶々として詔を考えていたのだが、いかんせん良い詩が思いつかない。まだ時間はあるとはいえ、そろそろ何か思い浮かんでもいい頃なのであるが…。
「…どうしよう…」
どれだけ声を唸らせて考えてみても、やっぱり何も出てこない。
ちなみにこの事は、剣心には言ってなかった。何というか、これ以上、彼に頼りっぱなしも良くないと思うし、何よりこれは自分自身の問題だ。
剣心も、その空気を察してくれているのか、必要以上には介入してこない。勿論困ったことがあれば、何時でも駆けつけてきてくれるだろうが。
「はーい、ルイズ」
気付けば、いつの間にか隣にはキュルケがいた。
面倒なのに見つかった。そんな雰囲気を隠そうともせずにルイズは目を細めた。
「…何しに来たわけ?」
「やあね、折角面白いものを見つけてきてあげたのに」
剣呑な雰囲気を受け流しながら、キュルケは胸の、その大きい谷間から何やら取り出し始めた。
それは、幾つかに分けられた羊皮紙の束だった。
「…で、これ何?」
「宝の地図よ」
怪訝な顔つきで見るルイズに、キュルケはしれっと答えた。成程確かに、それらしいことがその紙には書かれている。
しかし、ルイズは怪訝な顔つきを崩そうともしなかった。
「それを私に見せてどうする気よ?」
「連れないわねえ、誘ってるんじゃないの。宝探しに行こうって」
キュルケの言葉に、ルイズはハァ? って顔をした。いきなり何を言い出すのだろうかこの変態巨乳は。
しかし、キュルケの表情は、至って真剣そのものだった。
「あんた、この頃張り詰めてるでしょ」
「えっ…?」
267 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:35:21.53 ID:4dV1h0hF
「隠したって無駄よ。昨日の事件を見れば、誰だってそう思うわよ」
ルイズは、昨日の出来事を思い出した。
確かに、あの時自分の感情も爆発して、泣いてしまったことは覚えている。でも…。
「分かるわよ、王子様の事よね。普段強がりばっか言ってるあんたが、人目を気にせずに泣くんだもの。相当辛かったんでしょ?」
「そんな…私…」
「こういう時はね、何か気を紛らわすものが、必要なものなのよ」
キュルケの押しに、ルイズはグイグイ押される。こうなると、彼女は本当に強かった。
「でも、今私は…」
「でももさっちもない! 私が行くと決めたんだから、あんたも行くの!!」
ほぼジャイアニズムのような言動だったが、ルイズは妙に心打たれた。そう言えば、ワルドの結婚を吹っ切らせてくれたのも、彼女の言葉のおかげだった。
家系が家系故に、憎らしさが前面に出てるため、表立って言うことはないが…こういうところは素直に感心するなぁ、とルイズは思った。
確かに、環境を変えれば、まだ何か思いつくかもしれないし、それに、行くのを断れば、またキュルケが剣心をたぶらかそうとするかもしれなかった。それはやだ。
という訳で、ルイズは覚悟を決めた。
「……分かった、付き合うわよ。それで、いつ行くの?」
「勿論今からよ。後タバサと、ついでにギーシュの奴も誘ってあるから」
「ちょっと待って、授業中よ!?」
「いいじゃん、サボれば」
そんな風なやり取りをしていたところへ、上手い具合に剣心とシエスタが通り掛かった。
「おお、ルイズ殿。ちょうど良かったでござる」
「あら、ダーリン。いいとこに来たわね」
ナイスタイミング、と言わんばかりに、二人は同時に口を開いた。
「一緒に宝探しに行かない?」
「少し休養をとってはどうでござるか?」
「…え?」
「おろ?」
しばしの間、同時に放られた言葉の意味を、片側が理解するのに数秒かかった。
そして、剣心はキュルケの持っている地図の方を見て聞いた。
「宝探し?」
「そ、たまにはパァーッとさ。いいでしょ?」
「ってか、休養って何よ?」
268 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:36:57.18 ID:4dV1h0hF
ルイズは、隣にいるシエスタを怪訝な表情で見つめながら、剣心に聞いた。
そう言えばこのメイド、最近やたら剣心と一緒にいる気がする。
自分のことで精一杯だったから、そこまで回す気は無かったけど……なんだろう。何か嫌な予感がしたのだ。
女の勘で、何となくシエスタの心情を察したルイズは、無意識に彼女を睨んでいた。
ここで普通なら、貴族に睨まれただけで、シエスタは怯えただろう。しかし、表立っては出さないが、そこだけは譲れないという強い意志を宿して、シエスタも睨み返していた。
二人の間にバチバチと花火を散らす中、剣心がおもむろに言った。
「ルイズ殿、最近思い詰めてたでござろう? あんなことがあったんだし、ここは少し休みでもとったほうが良いと思うでござるよ」
この言葉に、ルイズは内心勝った! と叫んでいた。
いいでしょ? 心配されてるのよ、ワタクシ。アンタなんかにワタクシの相手が務まると思って?
しかし、シエスタの方も、あくまでも営業スマイルを崩さずに、ルイズに対抗した。
「いいのですか? 行き先は私の村ですよ? 私の村には何にもない、つまらない所ですよ? 貴族の皆様が満足していただけるかは、保証しかねるのですが」
「へえ、いいじゃない。どんなつまらないところなのか、逆に興味が湧いてきたわ」
笑顔で睨み合う二人を見て、ようやくらしくなってきたなあ、と思ったキュルケは、ルイズたちの間に入って折衷案を出した。
「それじゃ、まず最初の何日かは宝探しで、その後にそこのメイドの故郷に行くって事で、いいかしら?」
「ちょっと待ってください。宝探しなら私も行きます!!」
さも当然だと主張するかのように、シエスタは手を挙げてそう言った。
無論ルイズは即座に反対する。
「はぁ? 魔法もないアンタに何ができるっていうのよ?」
「料理ができます!!」
「それが何の役に立つのよ!?」
「美味しい食事を提供できますわ!!」
相手は貴族だというのに、シエスタはルイズに対し、一歩も引かなかった。
それにより、ルイズは何か内側から燃えるようなものを感じていった。
しかし、これには思うこともあったのか、今度はキュルケが口を挟んだ。
「まあでも、そういう意味合いじゃ、確かにうってつけかもね。マズイ料理なんて私やだし、いいじゃないルイズ。連れてってあげましょ」
「あ、あんたは横からしゃしゃり出て来ないでよ!!」
「ねえ、ダーリンはどう思う?」
269 :
るろうに使い魔:2012/09/09(日) 22:40:20.10 ID:4dV1h0hF
ここぞとばかりに、キュルケは決定権を剣心に渡した。
ルイズはグッとした目で剣心を見る。シエスタも、ルイズと同じような目で剣心を見つめた。
そんな二人の雰囲気に若干気圧されながらも、剣心は確認するかのようにシエスタに聞いた。
「休暇の方は、大丈夫なのでござるか?」
「はい、早くに取るつもりですから!!」
「危険もあるかも、でござるよ」
「平気です!! だってケンシンさんが守ってくれますから!!」
即答するシエスタを、剣心は改めてまじまじと見た。意地でも従いていく。目がそう語っていた。
まあ、それなら…と、ついに剣心も折れた。
「シエスタ殿が良いなら、拙者は構わないでござるよ」
「やったあああ!! ありがとうございます!!!」
「ちょ…ケンシンまで何言ってんのよ!!」
一人わぁわぁ喚くルイズとは裏腹に、シエスタはここぞとばかりにガッツポーズをした。
「という訳で、宜しくお願いしますね。ミス・ヴァリエール」
深々と頭を下げながらも、若干皮肉がこもった言い分に、ルイズは思いっきり髪をかきむしって、空に向かって叫んだ。
「もう、何なのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
そんなルイズの様子を見て、剣心も、やっと少し調子を取り戻したか。と思った。
あの魔法の失敗以来、どこか俯いた感じで、人を寄せ付けないオーラを放っていたが、今のルイズを見ると大丈夫なようだ。
「そんじゃ、今日はもう遅いし、出発は明日から。皆ちゃんと準備してきなさいよ」
キュルケの言葉を最後に、剣心達は一度解散した。
ここで終了となります。今回はちょっと少ないですが、まあ前座回ということでお願いします。
それではまた来週、この時間に。どうもありがとうございました。
乙でござる
乙ござ
絶対に乙でござる
乙でござる
毎回楽しみにしてます
>>252 「みんな!!丸太は持ったか!?」
『応っ!!』
召喚された使い魔の影響で丸太をメイジの杖にして戦場を駆ける水精霊騎士隊の皆さん。
275 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/10(月) 14:07:35.08 ID:i5P4YEiA
武器として作られたものはルーンが反応するから、吸血鬼攻撃用丸太にするために日本刀で切られた木にもルーンは反応するんだろうな
ハアハア
シャドウハーツシリーズからプロレスラーや忍者を呼ぶと道端に置いてあるだけの物に反応してしまうことに
ごく普通の瓶も、武器にする人(酒場の酔っぱらい)とアクセサリにする人(ポゴ)と飲んだら捨てる人(くにお)と売り払う人(スリム・ブラウン)が。
ファントム・ブレイブならその辺に落ちてるものはおろか味方キャラまで武器扱いに
ひとくいサーベルがガンダールヴになったら、ってこの話題もいいかげん大概だな
それにしてもリーヴスラシルは呼ばれたキャラによってはすごく読みづらい形になるだろな
こんばんは、これより五分後にデュープリズムゼロ第三十三話投下します
第三十三話『ミントとルイズの家族』
「はぁ〜…」
「あの…溜息なんて吐かれてどうかなされたんですかミス・ヴァリエール?」
多くの生徒及び関係者がそれぞれ故郷や実家に帰る魔法学院の夏期休暇も半分が過ぎた。もう二週間もすれば再び学生として勉学と友人関係に奔走する日々が溜息を漏らしたルイズにとっても始まる事になる。
そんなルイズを心配そうな目で見るのは学園に残って仕事に勤しむシエスタだった。夏期休暇が始まると同時にミントと共に何処かに行っていたと思えばつい先日、何やら酷く疲れた様子で戻ってきたルイズ。
中庭で何やら重要そうな羊皮紙の束を手にしたままシエスタが煎れた紅茶を口に運んだと思えばルイズはしばらくその味と香りを吟味した後で眉をしかめたままティーカップを空にした。
「シエスタ。」
「は、はい。」
唐突に呼ばれ、シエスタはドキリとした…傍目から見てルイズのご機嫌は悪いと言える。具体的に言えばそれは何かに悩んでいながらその解決策も分かっているのに現状どうしようも無い状況に置かれて居る様な…
「紅茶、おいしかったわごちそうさま。」
「いえ、そんな…お粗末様です。」
ルイズから掛けられた意外な言葉にシエスタは目を丸くする。学院に勤めて居る以上貴族の子息の世話を長い事しているが紅茶一杯にこんなはっきりとした感想を与えられた事など初めてかも知れない。
そんな事を考えるシエスタを他所にルイズは再び難しそうな表情で書類をめくる…いけない事だと思いながらもついつい視線を向けたシエスタの視界の隅、その書類には王家の刻印が映されていた。
それを見て動揺しているシエスタに気づきながらもそれを気にした様子も無く、ルイズは書類をめくりながら独白気味に呟く…
「つい最近ね、色々あって初めて自分でも紅茶を煎れてみたわ。知識としては正しい紅茶の煎れ方は知ってたけどいざ自分でやってみると全然駄目ね。香りは飛ぶわ味はしないわ…改めて思うけど私達はいつもあんた達に助けられてるのね。感謝してる…」
「そんな…ミス・ヴァリエール…勿体無いお言葉です!」
果たしてこの言葉を聞いたのがマルトーだったらどうなっていた事か…ルイズのそこらの傲慢な貴族ならば絶対にしないであろう発言にシエスタは感激の余り、両手で口元を押さえて両の目を涙で潤ませた。
「シエスタ、ここだけの話、近くトリステインはゲルマニアとの連合軍でアルビオンに攻め入ることになるわ…戦争が始まるの。私が今読んでるこれはね、私とミント…だけじゃ無いでしょうけど私達が調べ上げて姫様が捕らえた裏切り者の売国奴のリストなの。」
と、まるで何でも無い様に言うルイズの言葉にさっきまで感動でむせび泣いていたシエスタが硬直する。とてもじゃないが一平民のメイド風情が耳にしていい話では無い。
「いくらメイジとしての才に恵まれようと、いくら名門の家柄に生まれようと貴族にもどうしようも無い屑がいるものね。そうそう、今言った話はまだ秘密だから誰にも言っちゃあ駄目よ。」
「解りました。あ、あの…ミス・ヴァリエール…この数日にあなたに一体何があったのですか?」
ルイズの発言に戸惑いながらもシエスタは問い掛ける。明らかにここ数日でルイズの身に何か価値観すらひっくり返る様な出来事があったはずなのだ…
そのシエスタの問いにルイズはまさかこんな質問をされるとはと、一瞬驚きはしたが余裕を持った微笑を浮かべて答えるのだった…
「別に、何も無いわ。ただミントと一緒にね、平民のおっさんにセクハラされながらお酌して、お皿を洗って、失敗して、怒って、笑って、寝て、食べて、そんな誰でもやってる当たり前の事をちょっとだけ経験してきただけよ…」
ルイズはそう言って思い出し笑いなのか屈託無く笑う…シエスタは困惑気味に首を傾げたがルイズが皮肉気味に「これ以上は平民が知ろうとする様な事じゃないわ。」と言うとハッとした様に慌てて姿勢を正したのだった。
____
魅惑の妖精亭を中心とした諜報活動の結果、大勢の貴族の不正の実体やアンリエッタへの評判、戦争への平民視点での意見等々非常に多くの有益な情報をルイズはアンリエッタへと届ける事が出来た。
徴税官の一件でミントには不正を行う貴族を懲らしめてくれる貴族というイメージが定着しているのかその手の情報が勝手に向こうから寄ってくる上、スカロンの情報網は平民関連に関してはこのまま国の機関としてもやっていけるのではと思える程の物だった。
結果として、あくまで知識としてしか知らなかった平民の暮らしを実体験した事はルイズにとっては貴重な経験となっていた。
また、ルイズとミントがそんな事をしている間にアンリエッタは銃士隊を効果的に指揮を執り、また自身を囮にする事で高等法院長リッシュモンという大物の逆賊を捕らえる事に成功していた。
結果として二人の諜報活動とアンリエッタのネズミ狩り作戦の成功から得られた様々な情報を吟味したアンリエッタはアルビオンへの侵攻作戦を行う事を決定した。
____ 魔法学園
ルイズが丁度午後のティータイムを楽しんでいる時間、魔法学園の正門前に2台の馬車が到着していた。
平民とは思えぬ程、何処に出しても恥ずかしくない立派な身なりをした御者が引く馬車に刻まれているのはヴァリエールの家紋。必然、その馬車に乗っている人物の素性は極限られた物となる。
「…全く…おチビったら夏期休暇になっても帰って来ないどころか連絡も寄越さないだなんて良い度胸してるわ…これはきつ〜いお仕置きが必要ね。」
馬車から降り立った女はそう愚痴りながらも長くウェーブの掛かった金髪を掻き上げると久しぶりに訪れた懐かしき学舎を見上げながら不機嫌に厳しく吊り上がった目を細める。
「御者、ルイズを連れて戻りしだい直ぐに真っ直ぐヴァリエール領に向かうわ。出発準備をしておきなさい。」
「は!畏まりました、エレオノール様。」
毅然とした口調での命令を受けて御者は女、ルイズの実の姉であるエレオノールに姿勢を正して答えたのだった。
人が極端に少ない魔法学園の中、しばらくルイズを探してエレオノールがツカツカと石畳の上を歩いているとふとエレオノールは視線の先に一人の少女の姿を発見した。
服装はメイドでは無く中々仕立ての良さそうな、かといってマントを羽織っている訳では無く杖も持っていない。その姿にエレオノールは学園関係の私服の平民なのだろうと当たりを付けて声をかける事にした。
「ちょっと、そこの平民。ルイズ・フランソワーズを探しているんだけど、どこに居るか知らないかしら?」
エレオノールとしてはいつも通り、他人からすれば高圧的な物言いに声を掛けられた少女はキョロキョロと周囲を見回して誰も居ない事を確認するとようやくエレオノールの言う『平民』が自分を指しているのだと認識して少女ミントはエレオノールに向き直る。
「何?ルイズに何か用?あいつならさっきから中庭でお茶してたわよ。あたしも今からルイズの所に行くつもりだったから何なら案内してあげるけど?」
ミントはいつもと変わらぬ態度でエレオノールに数歩歩み寄る。ハルケギニアに来てから平民に間違われた事等もはや数えてすらいないいつものなので今更気になどしない。
エレオノールはミントの気安い態度に露骨に眉を寄せて厳しい視線を無言でぶつける。
まぁ常識的に考えてこの態度、やはり目の前の少女は私服に着替えた学園の生徒だったのだろうとそうエレオノールは結論づけた。平民呼ばわりされた事で怒っているのだろうか、でなければ目上の貴族に対するこの不遜な態度は説明がつかない。
「あなた…ルイズの友達?…まぁ良いわ、折角だから案内して頂戴。」
「オッケ〜、じゃあ付いて来て。」
「あ、こらっ待ちなさい!!」
貴族として余りに態度の悪いミントの様子に魔法学園の品位の失墜を感じたエレオノールが額に手を当てていると、そんな事は構う物かとミントが踵を返して走り出した。
エレオノールはしょうが無いので慌ててミントを見失わない様に追いかけるのだった…
____ 魔法学園 中庭
「お〜いルイズ〜、あんたにお客さんよ〜。シエスタ、あたしにも紅茶煎れて頂戴。」
程なくして学園の中庭に辿り着き、ルイズ達を発見してミントはその傍に駆け寄ってシエスタに紅茶を要求する。シエスタもそれを了承し、慣れた手つきで紅茶を煎れるとついでにミントの言うお客さん用にもう一杯を直ぐに注げる様に支度する。
「客?いったい誰なの…げげっ!!!」
ミントの言葉に手にした書簡から視線を起こしたルイズはミントから遅れてこちらに向かってくる人物、エレオノールの姿をみとめて思わず上擦った声を上げる。
エレオノールも同時にルイズの姿を発見したらしく、歩くスピードを一気に上げるとドシドシという効果音が付く様な力強い歩調でルイズ達の元に歩み寄った。
「お久しぶりね、ちびルイズ。実家にも帰って来ずに随分と夏期休暇を堪能しているようね〜。」
「エ、エレオノールお姉様……い、痛い痛いれふぅ!!ごめんなしゃいっ!」
久方ぶりの姉妹の再会はエレオノールがルイズの頬を抓り上げ、ルイズがそれに涙目で許しを請うという形で果たされた。
ミントはその二人のやり取りをみてエレオノールが以前ルイズから聞いていた自分の苦手な姉なのだと察し、シエスタは自体が飲み込めずオロオロとしていた。
頬を赤く染め、涙を両目に浮かべるルイズの姿に威厳は既に無く、ついさっきまで名家の有能な貴族然としたカリスマを放っていた筈のルイズの姿が途端に幼い少女の物となる。
そうしてエレオノールはようやくルイズを解放すると相変わらず涙目のルイズに二言三言小言を言うと直ぐに自分がここを訪れた訳を説明したのだった。
エレオノールの話を要約すればルイズはミントを召喚してから一度も実家に顔を見せて居らず、アカデミー勤めのエレオノールが実家に戻るついでにルイズを回収に来たのである。
「さて、それじゃあ正門に馬車を待たせているから早速行くわよ。それとそこのメイド、あなた道中のルイズの身の回りの世話係りとして一緒に来なさい。」
「えぇ!?わたくしがですか?」
突然のエレオノールの命令にシエスタは目を丸くする…
「何かしら?何か文句がおあり?」
「い…いえ、とても光栄です。」
「そう、良い心がけだわ。」
エレオノールの有無を言わせぬ迫力にシエスタは唯納得するしか無い。まぁルイズの身の回りの世話は自身としても願い出たい所ではあったが。
「さて、後は…ルイズ、貴女が春に召喚した使い魔を連れてきなさい。話位には聞いているわ、何でも随分変わった使い魔だそうね。」
終始エレオノールのペースで進められるやり取りの中、遂に使い魔に関する話題が飛び出した事でルイズの身体が緊張でビクリと跳ね上がりそうになる。ルイズが実家に送った手紙では使い魔についてはまさか異国の王女とも言えずあくまで異国のメイジだとしか伝えていない…
家を離れているエレオノールの耳に届いている情報がどんな物かはルイズには分からないが先程の言いぐさからは本当に珍しい使い魔だと言うぐらいしか聞いてはいないのだろう。
「あ、それあたしの事よエレオノール。」
と、ここで黙って一連のやり取りを見つめていたミントは話題がルイズの使い魔の事に移行したので早速エレオノールに名乗り出たのであった。
「なっ!!??」
____ 街道
「それにしても…突然でしたね。」
「全くよね…それにしてもあのルイズのお姉さん、ルイズに輪を掛けてきつい性格してるわね〜、あれは絶対行き遅れるタイプよ。」
ヴァリエール領への街道を行く揺れる馬車の中、肩を竦ませて言ったエレオノールを表するミントの一言にシエスタは吹き出しそうになるがそれを何とか堪えて肩を震わせ顔を赤くする。
結局あの後、自分を呼び捨てにしたミントに対して烈火の如く怒り、怒鳴り散らしたエレオノールは結局そのままの勢いでメイジが召喚される訳は無いという根拠の無い確信からミントを平民だと思い込んだまま学園を発っていた。
エレオノールとルイズ、ミントとシエスタという組み合わせで乗り込む事になった馬車の中でルイズは非常に気まずい心持ちのまま苦手な姉エレオノールの対面で小さくなっていた。
「全く、使い魔への礼儀作法すら仕込めていないだなんてあんたはそれでもヴァリエールの家名を背負う者なの?」
「申し訳ありません。」
最早本能的にエレオノールに逆らえないルイズは項垂れる様にエレオノールに頭を下げる。
(あぁ…今更言える訳が無いわ…ミントが異国の王女で凄腕のメイジだなんて…それにあのお母様は何と仰るか…)
「聞いているのおチビっ!!!」
「ひゃいっ!!申し訳ありません!!」
目の前に迫る切実な大問題にエレオノールの説教を聞き流していたルイズの耳にエレオノールの怒鳴り声が響き、結局ルイズの中で渦巻く問題は一切解決の目処を見せぬまま、馬車はヴァリエール領へと辿り着いたのであった。
ルイズの実家であるヴァリエール領は隣国ゲルマニアとの国境沿いにあり、またヴァリエール家は王家と祖を同じくするトリステインの中でも最高位の名家である。
その本邸ともなればそれは最早立派な屋敷と言うよりは城と言った方が正しい程であった。
「「お帰りなさいませ。エレオノール様、ルイズ様。」」
一行が玄関をくぐりホールへと足を踏み入れるとそこには無数の従者が一切の乱れなく整列し、一斉に頭を垂れてエレオノールとルイズを出迎える。無論、その直ぐ後ろにいたミントとシエスタもそれぞれ客人として長旅の労をねぎらう様に声をかけられたのであるが。
と、そんな使用人の花道の先にある階段から一人の女性がゆっくりとルイズ達の元に近寄ってきているのにミントは気づき自然と視線はその女性へと向く。
支援
「久しぶりですねエレオノール、ルイズ。」
鋭い眼光、厳しく威厳に満ちた中に見え隠れする優しげな声色。この女性こそルイズ達の母親であるカリーヌであった。
「お久しぶりでございます母様。戻るのが遅くなって申し訳ありません。」
言ってルイズは完璧な所作で傅いて母親へと挨拶を返す。ミントからすれば何とも堅苦しい母親との挨拶に久しぶりにここが流石に異世界であると言う事を強く感じる。
「えぇ。長旅で疲れたでしょう?晩餐の時間までゆっくりと休みなさい。…所で後ろのお二方はどなたなのかしら?一人はメイドのようですが?」
カリーヌの視線を受けてルイズが一瞬たじろぎ、シエスタはあまりの緊張に完全に固まってしまっている…
かたや、はっきりと視線を交差させたミントはルイズの母カリーヌから凄まじい力の様な物を感じながらも怯むのは癪なので戸惑う事はせずむしろ堂々とした態度をとり続ける。
「紹介致します。このメイドは学園のメイドで普段私の身の回りの世話をよくしてくれているシエスタです。道中の連れ添いの為に連れてきました。」
ルイズはまずシエスタを簡単に紹介した。それに合わせてシエスタも多少ぎこちないながらもスカートの裾をつまみ淑女として恥ずかしくない態度で頭を下げる。
「そして、彼女が私が春の使い魔召喚の儀式で呼び出しました…遙か異国のメイジのミントです。」
緊張でカラカラになった喉から絞り出す様にルイズは母に事実を伝える…
母は昔からルイズへのお仕置きにはその強大な魔力から放たれる圧倒的な風の魔法を使用してきたのだがそれは最早ルイズにとってのトラウマでしかなかった…
一方母カリーヌはそのルイズの言葉に対して驚愕で目を僅かに見開くともう一度堂々とした態度で自分を見上げているミントを見つめ返す。
(成る程…彼女があの噂の…)
「はぁっ!?あなたメイジだったの?杖も持っていない上にマントも纏っていないじゃない!!」
詰め寄るエレオノールの驚愕の声と共に当然ヴァリエールの使用人達の間にも響めきがあがり驚いた様子が覗えた…
「お止めなさいエレオノール、それがヴァリエールの家の人間の振る舞いですか。ミス・ミント、あなたの複雑な事情はわたくしも陛下から公爵を通じ聞き賜っております。」
カリーヌの言葉にルイズとミントは驚いた表情を浮かべた。カリーヌの言い方であればどうやらミントの素性は既に伝え聞いている上でここでは無闇な拡散を防ぐ意図があるようだとミントは判断する。
「えぇ、事情を察してくれているのなら助かるわカリーヌさん。」
ミントは軽くおどけるように言って肩を窄めると微笑んだ。
「ちょっ!?」
同時にルイズはミントの母カリーヌに対しての「さん」付け呼称に肝を冷やす…
「あの、母様ミントは遠い国から来たもので少々礼節がなってないと言うか…何というか…」
「………うっさいわね…」
「ルイズ、それは文化の違い故でしょう?問題ありません…」
カリーヌはミントの砕けた態度に一瞬驚いた様子を見せたが意外にも寛容な反応を示す…が、それは気のせいだった。
「…折角ですからミス・ミントにはこれから数日、わたくしの指導の下、トリステインの貴族としてのマナーを学んで頂きますから。」
微笑んだカリーヌの言葉にミントは純粋な面倒を感じ、ルイズは幼き日々のスパルタ教育のトラウマを想起してしまうのであった…
以上で三十三話終わりです。
最近愛機PS3が死にました。勿論極限まで鍛え上げたミント様のデータ諸共に…
それと最近ジャイアントロボOVAを見て十傑集に惚れました。コ・エンシャクかアルベルト召喚見てみたい。
乙です
デュープリ乙です!
データ消え、ご愁傷様です…
おつかれさまです。
23:30くらいから15話投下します。
「――空賊船・・・・・・のように見えますが、偽装の可能性は高そうです」
シャルルは『遠見』の呪文によって、使途不明船を観察する。
ただし相手からもこちらを同じように『遠見』によってを見られていれば、訝しがられる可能性もある。
あくまで自然体でいながら覗くような形で詳しい状況の把握に努めていた。
(面倒なことになってきたな、キッド達が失敗したか・・・・・・?)
ブッチはそう思うものの、少なくともあの周到なシャルロットが問題ないと報告してきた以上ヘマはないのではとも考える。
もし下手を打ったならそのことを言うだろうし、可能性が少しでも残れば通告してくる性格だろう。
「――ちょっとした中型軍船並、積んでいる風石もこちらより確実に上ですね。振り切るのは難しいかと」
船は刻一刻と近付いてきているようであった。時間の猶予はそれほどない。
(チッ・・・・・・まあどっかから漏れても当然か)
徹底して窮屈ではあったものの、おかしな集団が寝泊まりしてれば漏れても不思議はない。
ブッチは視界の端に見えた"それ"に落胆と諦観の混じった溜息を吐き、シャルルは平静な表情を保ちながら言う。
「あ〜あ・・・・・・」
「まずいですね――」
高所にある船の、甲板付近に僅かばかりにはみ出た――。
「――"竜"騎兵もいるようです」
全員に緊張が走る。あまり詳しくないブッチでも、空で竜に襲われればどうなるか――。
ジョゼットが駆る竜の姿を品評会で見ていたので想像はつく。
地上ならともかく、狭い船であれを躱し続けるのはまず不可能だろう。反撃も困難を極める。
何より乗っている足場を崩されようものなら、為す術なく落下するしかなくなる。
「貴族派か」
「間違いないでしょうな。ここ最近、竜騎兵を擁する空賊団など聞いておりませぬ」
ウェールズとパリーの確信によって、いよいよもってキナ臭い雰囲気に包まれた。
(ったく、どうせ襲うなら街で来いっての)
暇していたしフラストレーションが溜まっていたのは事実だが、何も今来ることはないだろと。
遮蔽物の多い街中なら、ガンダールヴの独壇場だ。空から来たって迎撃して見せるというもの。
「ウェールズ皇太子、我が竜で速やかに御身を運ぶことを進言致します」
シャルルが苦渋に満ちた表情のウェールズへと提案する。
「なっ・・・・・・おい! 一人だけかよ!?」
「全員乗せられないこともないが、そうなれば重量の分だけ飛行速度は格段に落ちてしまう。
相手は恐らくプロだろう、それもアルビオン竜騎士。確実に逃げるならば二人が限度だ。
乗せるのが皇太子だけで速度差が最小限に抑えられるなら、多勢相手でも逃げ切ることは可能だ」
風魔法で竜を補助すれば速度はさらに出る、それで逃げ切れることが出来れば御の字。
追撃されても速度差がない前提の複数騎が相手程度なら、逆に倒すこともやれないことはない。
「行って下され、殿下」
腹心の老メイジであるパリーが言う。
「・・・・・・しかし」
ウェールズは躊躇する。下手すれば船もろとも――。
「ウェールズさま。姫さまが・・・・・・アンリエッタさまが待っています」
ルイズの強い言葉がウェールズの背中を押した。最もかよわく、最もアンリエッタに近い少女の言葉。
「・・・・・・それに我々はトリステインの特使です。それは相手方も知るところでしょう。
名乗った上でウェールズさまがいないと知れば、無理に危害を加えることはないかと思います」
そんなことをすれば、トリステインと全面戦争にもなりかねない。
むしろ礼を払い、特使には穏便に帰国してもらうのが筋であろう。
今はまだ同盟と婚姻の発表のみで、実際に結んでいるわけではないのだ。
万が一にも単なる空賊であれば身代金を約束してやれば良い。
遭遇した以上支援せねば
「・・・・・・わかった。くれぐれも無事に」
ウェールズの言葉に側近とルイズは力強く頷いた。
トリステイン側の正式な特使である文官達は顔色が悪かったが、それが最善であることはわかっている。
ゆえにそれを受け入れるしかなかった。そもそも全員で逃げればそれこそ全滅である。
「おいおいマジかよ」
「アンタも残るのよ、ブッチ」
「すまない、貴公らには必ず報いよう。だから絶対に生き延びてくれ」
そう言われてブッチは渋々納得する。ここでゴネても無駄だ、報酬を約束してくれるなら快く引き受けるよう見せておく。
「皇太子、急ぎましょう。指笛で竜を呼べばすぐに気付かれるでしょうから、最初は『飛行』で船を死角に――」
シャルルは願う――非情な決断だった。シャルロットの友達、あのラ・ヴァリエール家の御息女もここにはいる。
風の『遍在』も、竜であっという間に離れていく距離で維持し続けるのは不可能。ゴーレムにしても同じだ。
感情によって優先事項を違えてはいけない。去りゆくこの場で出来ることは、精々が祈り願うことだけである。
こういう時にこそ、昔何度か共に戦ったことがある――先代マンティコア隊隊長が羨ましい。
あの『烈風』のような、持て余すほどの膨大で圧倒的な魔力による大火砲。
メイジのメイジたる強さを、トリステイン史上に残した伝説。
己の魔力も決して少なくはないが、遠間の竜騎兵ごと船を薙ぎ払うには到底足りない。
されどもはや賽は投げられる。己のすべきことはウェールズ皇太子を無事にトリステインまで送ること。
必ず任務を遂行すると心に深く刻んだ後、空を飛びつつ頃合を見てシャルルは指笛を吹いた。
†
とあるアルビオン貴族は焦っていた。貴族派の中に属していて、相応に裏で色々なことをやってきた。
大貴族の指示に従って、到底隠し切れぬことを――その手を汚してきた。
今のまま同盟が締結されれば真っ先に切られ、糾弾され、没落する立場である。
衰えたとはいっても未だ力は残っている王家。同盟で地盤を固めた後に逆らうのは愚の骨頂だ。
ゆえに何人かいる有力な大貴族達とは別に、私的に作り上げた網を張って備えていた。
私設部隊を空賊に扮し、ウェールズ一行が乗ると思しき船は全て落とすようにとも命令していた。
幸いにも荒事に関しては、今までその身を削ってきた分だけ迅速に準備を整えることが出来た。
他の貴族派から見てもあまりに杜撰でトチ狂った行動ではあった。
しかしそれも結果的に見れば、シャルロットとキッドの活躍によって証拠が掴まれた状況において正解と言えた。
ウェールズを殺し、その勢いのままに他の貴族派を扇動。そこまですれば腰の重い連中も動かざるを得なくなる。
半世紀ほど前にハルケギニア一の大国だったガリアが滅んだことで、我々も続くべしという気運は高まっている。
そして一気呵成に王党派を潰す。電光石火で王都を陥とし、かねてからの議会制の共和国を建国する。
トリステインと戦争になったとしても構わない。そもそもアルビオンは浮遊大陸という天然の要害である。
保有している空中艦隊とその練度、兵站を含めて地の利も何もかも違い過ぎる。
さらにオルテと黒王軍の両方に予断を許さない小国トリステインなど、何一つ恐れることはないと――。
逆に攻め滅ぼして属国にしてやるのも悪くないとすら考えていた。
私設部隊はただ命令に従い、全てを事故に見せかける。航路上で連絡を絶つのは多くはないものの、なくもない。
さらに空賊を隠れ蓑にしていれば、いざという時に体面上の言い訳にもなる。
その時は私設部隊を切り捨てる形にはなるが、最初からそういうことも含めた連中である。
――そして私設部隊は、部隊員のそれではない指笛の音を聞くと、迅速に行動を開始したのであった。
†
「結局こっちも貧乏クジか」
空に薄く響いた笛の音を聞き、少し後に動きを見せた敵船を遠く見つめながらブッチは独り言を吐く。
「――アンタよく残ったわね」
ルイズのイメージとしては、無理にでも乗り込みそうな気もしないでもなかったのだった。
「たっぷり報酬をふんだくってやるさ」
即物的でわかりやすい奴だとルイズは改めて呆れる。
しかしそうやって割り切れるのなら、どんなに楽なことだろう。
王子殿下の手前、ああは言ったものの保障なんてあるわけもなく、正直足が震えるくらいに怖い。
貴族としてのプライドを前面に強がっただけに過ぎない。
ブッチはルイズを他所に歩き出す。使用しても問題なさそうな索を一本探して、それを適当に縛って固定した。
「何してるの?」
「前準備くらいはしとかねえとな」
「ふ〜ん・・・・・・ねぇ、これからどうなるのかしら・・・・・・」
「そりゃなるようにしかならねえだろ」
いつだってそうだった。生まれも、育ちも、牧場買って潰したのも。
女と恋に落ちたのも、獄中で過ごしたのも、強盗団を結成したのも、無法を尽くしたのも。
延々追われたのも、逃げたボリビアでも詰められ、こっちの世界にやってきて生き延びていることも。
全てそうだ。いつだって明日はなかった。
「ただまあ・・・・・・俺の勘だが、覚悟だけはしときな。またピーピー泣かれるとウゼェからな」
ルイズは言い返しては来なかった。先のフーケ戦でで、少女なりに学び思うことがあったのかも知れない。
それはそれで調子が狂う心地を噛み潰しながら、ブッチは右手で銃を抜いた。
遠く見えるは船から飛び出した三体の竜騎兵。それが二騎と一騎に分かれた。
内二騎セットの方――色からすれば確か風竜――は、こちらに見向きもせずに別方向へ竜を駆る。
既にシャルルとウェールズが竜に乗って逃げているのが捕捉されているのだろう。
障害物ないだだっ広い大空、あっさり見つかるのも無理はない。
あらゆる場面で最大戦力となり得る航空兵力、竜騎兵。
残った一騎――色からすれば恐らく火竜――は交差ざまに『マジック・アロー』を何本も撃ってくる。
敵の魔法は、予め想定していた他6人のメイジ達によって防がれた。
その問答無用さに、闘争以外の選択肢は消え失せる。『飛行』で逃げても竜相手には"兎狩られ"にしかならない。
パリーから怒号が喚き散らされる。
わざわざ言われなくても、戦場と化しているのは誰もが理解していた。
そして「トリステイン特使である」と大声で主張するも、敵はまるで聞く耳を持っていない。
貴重な資源の風石でもついでに狙っているのか、船をいきなり破壊してこないことは幸運とでも言えようか。
とはいえたった一体の竜騎兵に翻弄される。その機動力は無類。船の周囲を旋回しながら攻撃を加え続けられる。
こちらは三人が守り、三人が応戦する。トリステインとアルビオンの共同戦線。付け焼刃ながらも形にはなっていた。
しかし迎え撃ったところで、縦横無尽に空を飛ぶ竜騎士に命中させることなど不可能であった。
「火竜の"ブレス"を見逃すな!!」
魔法であればある程度は防げるが、火竜が吐く炎は危険過ぎる。その威力はたったの一撃で乗っている船が燃えて墜ちるほど。
その予兆・前兆、予備動作を見逃して対応に遅れれば、確実に全滅に追い込まれてしまう。
パリーの声を聞きながらブッチは考える。
(牽制くらいにはなってるが――)
いつ敵が標的を船そのものへと変更しないとも限らない。ブッチは予め用意しておいた索を右手でしっかりと握る。
ガンダールヴでも生身で空を舞う竜騎兵を相手取るのはきつい。
リロード時間を考えれば無駄弾は撃てない。こんな時に"ガトリング銃"でもあれば――。
「――ないものねだりしても仕方ねえな」
自嘲的に呟く。命中・威力・射程全て申し分なしの武器などここにはない。
だが・・・・・・"来る場所がわかるなら"――やってやれないことはない。
速度や旋回性では風竜に劣るらしい火竜だが、それでも空中では圧倒的。
ブッチは火竜騎兵の挙動を見定め、その動きを予測する。
空に浮かぶ船の上という限定的な状況のおかげで、逆にある程度のパターンが見出だせた。
船に乗る自分達にとっての死角。死角があるからこそ、そこを竜騎兵は当然利用する。
呪文を詠唱する時間の為。姿を眩ますことで狙いをはずさせる為。さらに様々な方向から奇襲する為。
安全を確保出来る"その場所"を使わない理由はないのだ。
だから敵の姿が消えた時には、必ずその"死角"にいることになる。
ブッチは勢いよく船底真下位置へとロープアクションで飛び降りた。
ガンダールヴで強化された握力でブレーキを掛けて速度を調節する。
摩擦によって焦げた手袋の匂いが鼻をつく前に一気に空中へ踊りだす。
そして眼前に見えた竜騎士は――まさに絶好の位置であった。
ブッチは流れるように銃口を定めると同時にトリガーを引いた。
シャルロットに『固定化』と『硬化』を掛けてもらったパーカッションリボルバー。
そのおかげで圧倒的な耐久力を実現し、結果として諸々の威力強化をも可能とした。
威力と共に反動が上がった銃もガンダールヴならば問題なく扱え、強化された鉛弾は竜騎士の装甲を容易に貫いた。
「ヒャッハァ!」
確かな手応えと共に、コントロールを失った竜は既に死している主人へと追従して落ちていく。
ブッチは竜が戦闘域から離脱するのを見届けた後に、片手の膂力だけで跳ねるように縄を使って甲板へと登った。
「後はあの船だけだ」
「なに!? どういうことだ!!」
パリーが驚愕の声を上げ、敵火竜騎兵に警戒し続けていたメイジ達も呆気にとられる。
「つい今しがた、下に行って忌々しい竜を殺したってことだよ」
「なんと・・・・・・真<まこと>か!?」
こうして会話する時間があることが証明であった。そんなことをしている暇すらないほどの猛攻だった。
「おぬしという男を見誤っていたようだな」
「まだ終わったわけじゃねえ」
「はっはっは! だが希望は見えたぞ。・・・・・・それにしてもどうやって倒したのだ?」
ブッチは受け答えるのも面倒だったが、無視すると余計面倒なことになりそうだったので説明する。
「この"銃"で撃った」
「ほお・・・・・・見たことのない形だ。しかしなかなかのものだな、銃というのも」
「ふ〜ん、てめえはおかしな目で見ないのか」
"銃"とは平民が使う無粋な道具として、貴族達からは嫌われている。
学院でも漂流者というだけでなく、そういう"野蛮な物"を扱う輩として一線引かれた目で見られていた。
「老いたとはいえこれでも武人ぞ。戦場で使えるものは信頼する、おぬし自身もな」
「あーそうかい」
「んむ、竜騎士を的確に狙う実力を認めぬわけにはいくまい」
「・・・・・・あ? なんで竜騎士を撃ったと? そこまで言ってなかったろ」
「当然だ、銃はおろか魔法ですら単発では竜そのものを倒すのは難しい。だから乗り手を狙うのが常套。
竜を倒す場合には喉元付近の油袋に引火して諸共吹き飛ぶゆえ、距離をとるなどして注意せねばならん」
そんなパリーの説明にブッチは密かに肝を冷やした。
たまたま竜騎士が絶好の位置にいただけであって、そこに竜の口があったなら銃弾をぶち込んだに違いなかったと。
(まあその程度の幸運はあって然るべき、か)
最悪の不運に今まさに見舞われているのだから――。
と、思った瞬間である。ブッチが戻した視線に飛竜がもう一体覗いていた。
「もう一匹かよ・・・・・・」
「ぬぅ、ここからが正念場だ!!」
同じく悟ったパリーは全員に檄を飛ばす。
されど予備戦力――後詰めとなる風竜騎兵は敵艦の周囲を飛ぶばかり。
出撃してきたものの、すぐに攻撃してくる様子はなかった。
「同じ手は、通用しねえか」
先ほどの様子を魔法かなにかで把握されていたのかも知れない。
(あの二人がいればな・・・・・・)
ガトリング同様、ブッチは心中でまたも"ないものねだり"をする。
まずキッドが隣にいないのが落ち着かない。ミョズニトニルンがあれば単純な戦力も増える。
シャルロットがいれば強力な魔法で、遠間の竜騎兵を丸ごと撃墜してくれるだろう。
しかし今更連絡しても間に合う筈もなく、通信人形も言わば向こうからの一方通行だ。
相互会話は出来るが、遠い距離を繋ぐにはミョズニトニルンの力が必要であった。
敵船が確実に近付いてくる時間、集中し続ける時間は酷くゆっくりと感じられた。
双月が照らす夜空でもはっきりと見えるくらいにまで距離が詰まると、敵船は風に沿うかのように向きを変える。
四つもの砲門を目の前に晒され、圧倒的な死の予感が体中を駆け巡る。
「根競べだ」
ブッチは周りに聞こえない程度の声音で、意識せず口から言葉に出していた。
鷲の眼のように鋭くなったブッチの瞳と、躰と、銃が同調を開始する。
砲弾が放たれたその一瞬を、見て、動き、撃つ。全て同時が如くの早撃ち。
砲撃音の後に空気が揺さぶられる。それは船に炸裂したわけではなく、空間で爆発した音に留まる。
ブッチは妙技とも言えるタイミングで、放たれた砲弾をコルトリボルバーで撃って命中させた。
(一発か・・・・・・)
撃ち終えてから、その頭で理解する。自分が反射的に撃ったのは一発。討たれた砲弾も一発。
もし倍の二発であれば二発、四発全てであれば四発、ガンダールヴならば確実に撃ち抜いていた確信。
腰撃ち100ヤードショットですらまるで苦にしないルーンの力。
静止状態でまともに構えてしっかり照準をつけてやれば、600ヤードでも当てられる自信がある。
しかし僅かに敵船の一門しか火を吹いていない。
単なる様子見なのか、根本的に大砲をフル稼働させる人数が足りていないのか。
わからない以上は油断は出来ない。
二発――。三発――。四発――。その時点で動いてる砲門は二門であった。
交互に撃ってくるも、そのことごとくブッチが撃ち砕く。
五発――。六発――。七発――。八発――。九発――。十発目――。
時に同時に撃ってくるが、一切届くことはない。
僅かな時間の間に空薬莢を一発ずつ捨て、弾薬を装填する作業。
最速で限界六発まで撃つ『ファニングショット』で対応不可能な、七門以上の数であれば問題であった。
しかし敵にも限りがあるのか対抗出来うる。後は弾薬の数と砲弾の数。どちらが尽きるかの勝負。
本当なら砲口にぶち込んで爆発炎上でもさせたかった。
しかし互いに空中を泳いでいる上に、距離と高度差もあってはガンダールヴでも届かない。
遮蔽物の存在しない空では、跳弾を使って角度を調節することも無理である。
だが敵の砲弾は万が一を考えれば一発とて撃ち漏らしてはならない。
空中間で撃ち落とすのが精一杯な現状にブッチはストレスを溜めていた。
――十一発目はやや遅かった。そして爆発することもなかった。
反射的にブッチはその場から飛び退くと、眼前で"鉄球"が小気味良い破砕音を残す。
同時に六度ほど船を貫く音が響いてから理解し、パリーがいち早く命じる。
「ぶどう弾か!? 迎撃態勢!! なんとしても逸らせ!」
「チィッ」
ブッチは心の中で「クソ」と毒づきつつ舌打った。
火薬が詰まった炸裂砲弾でなければ、銃では抗しようがない。
散弾とて人が喰らえば容易に死に至り、数を喰らえば船も墜ちる。
敵船の切り替えにより、一転して今度はメイジ達の出番となる。
球の一つ一つは通常の通常の鉄砲弾より小さめの葡萄弾とはいえ、まともには防げない。
ひたすらに軌道をずらして致命損害を避けることしか出来なかった。
――同時に敵船から指令が飛んだのか、はたまた痺れを切らしたのか、敵風竜騎兵も動き出す。
そうなれば常に大砲の方に注意を向ける必要は薄い。味方が射線上にいて撃つ砲手はいない。
さりとて今度ばかりは容赦なく"ブレス"を吐き、それをメイジ達がなんとか防ぐ形になっている。
風竜のブレスは火竜に比べればかなり劣るものの、空中機動能力は段違い。
さらには、一定間隔毎に竜騎兵は一瞬にして距離を開き、その瞬間に大砲が撃たれる。
竜騎兵へ牽制をいれつつ、炸裂砲弾にも注意を払いながら、対応に追われつつブッチは歯噛みする。
「粘れ!! この段階で竜が出て来たということは、向こうも消耗しているに他ならん!」
パリーの言葉は希望的観測であった。敵が葡萄弾を撃ち続ければ精神力が切れた時点でこちらの負け。
船の性能も操船技術も遅れをとる以上、敵はこちらを蹂躙出来る。
しかし元いた竜騎兵の積載を考えれば砲弾の数は多くないと見積もった。
それゆえの敵船の砲門の少なさであり、今になって竜騎士が連携をかけてきたのだと。
shien
結論から言えば、パリーの予測は間違いではあった。
私兵団の船には未だ余裕はあった。少なくとも特使一行の臨時便を墜とし切る程度には。
しかし竜騎兵が一騎撃墜されたことと、炸裂砲弾が謎の空中爆発することと。
不可解が重なる焦燥感が、苛烈窮まる猛攻を選ばせたのだった。
ふと焦げ臭さに船が燃えていることに気付く。
防ぎ切れなかったブレスの炎か、はたまた竜騎士の魔法が命中したのか――。
パリーはやむを得ず、トリステイン特使達3人に消火の指示を出す。
ウェールズ護衛の武人組3人だけでなく、特使達の魔力も既に限界近かった
しかしそれでも捻り出さねば、既に傾きつつある船は燃えて尽きる。
(クソッ考えろ・・・・・・)
どうすればこの場を乗り切ることが出来るのか。完全なジリ貧。
弾薬にはまだ余裕はあるものの、先にメイジ達の精神力が枯渇すれば死が待つ。
ここにきて、ようやくシャルロットが保有するらしい膨大な魔力というものの特異さをブッチは実感した。
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――」
絶望が頭をよぎったその時だった。耳に届く何故だか心地良い言葉の羅列。
今の今まで何一つとしてリアクションを見せなかった少女のルーン呪文詠唱。
ドクンッと堰を切って溢れ出す濁流のように、ブッチの血液が躰の隅々まで巡る。
鼓動が繰り返される音で全身が震え、力が漲ってくる。
(なん・・・・・・だ?)
肉体に応えるように、精神までもさらなる高揚を見せる。同時に確信する。
今までのガンダールヴの効果ですら、不完全燃焼に過ぎなかったのだと。
続くルイズの詠唱の波に乗るように、ブッチは駆け出していた。
その鋭い眼光が視界内の全てを推し量る。己の速度と左方にいる敵風竜騎兵の速度。
縮んでいく相対距離に見誤りはない。両脚に全力を込めて船がさらに傾かんばかりに踏み切る。
つま先から頭――髪の毛の先まで、全身をバネのようにしてブッチは空へ向かって飛び出していた。
まるで夜風を味方につけて飛行でもするかのように、ブッチは竜へと跳び移った――。
――中空でコルトリボルバーをしまい、竜の翼の付け根付近に何とか右手を掛けて掴まる。
千切れてバラバラになりそうな重力負荷を強引に抑え込みつつ、全身を一気に引っこ抜いた。
突然のことにギャーギャー暴れる竜の背に何とか足をつけて、竜騎士に銃を突きつけて恫喝した。
「お前らの船まで運べ」
並々ならぬ増幅された殺意、混乱していた竜はすぐさま大人しくなる。
騎乗していた兵は考えることさえ封殺され、ただ命令に従い手綱を動かした。
竜は空中で身を反転させて、一直線に敵船へ乗り込もうとした寸前、一帯が明るく"照らされた"。
まるで二つ浮かぶ月のように、太陽までもこっちの世界には二つあったのかと思わせるほどの"閃光"。
敵味方全てを、空間ごと包み込み膨れ上った"光の球"。その光球の中でブッチはどこか悟る。
長かったのか短かったのかわからない時間の後に、光は収束して消失する。
すると敵船は見た目にはゆっくりと傾き、そのまま墜落していった。
「わけが・・・・・・わからねえ」
ついそう口に出すも、頭のどこかでは理解していた。あの光球を放ったのが一体誰だったのか――。
あの土壇場とも言える状況で、敵勢力をただの一発で潰す。
そんな状況を、根底から覆す魔法を使ったのは――あの場で詠唱をしていたのは――。
たった一人しかいない。今まで何の役にも立たなかった・・・・・・あの主人である少女しか――。
さしすせしえん
以上です。支援ありがとうございました。ようやくアルビオン編は次回で終わりです。
ただゼロの使い魔原作と、ドリフターズ本編が進んでくれないと、
全体の見通しが全然作ることができず、いよいよもって書き悩む時期に……。
う〜ん、頑張りたい。それではまた。
乙です
空を自在に飛ぶ敵を迎撃するのは燃えるなぁ
二人とも乙です
デュープリ、なんか話が飛んでるなぁと思ったら前回の投下を見逃してたのねorz
06:15から3時間目を投下します。
「つかいまのじかん 3時間目」
マチルダが担任になって2週間。
「手本をよく見てください」
2年1組教室では、東方風の書道の授業が行われていた。
「できた!」
半紙に流麗な文字で『希望』と書き上げたりんは、早速マチルダに見せに行く。
「上手ではありませんか、ミス・ココノエ!」
「えへへー♪」
マチルダに褒められてりんは満面の笑顔になり、
「では次は好きな言葉を書いてみてください」
「はーい♪」
そう答えて嬉しそうに自分の席へ戻っていく。
(だいぶ馴染んできましたね)
「ミス・サウスゴータ」
後方からの呼び声に振り返ったマチルダの前には、たどたどしく『希望』と書かれた半紙を手にしたルイズが立っていた。
「ミス・ヴァリエール……」
マチルダはルイズを席に戻らせると、彼女の手を取り指導する。
「貸してみてください。こう……」
その様子を見ていたりんは、黒板に貼り出そうとしていた半紙を破り捨てる。
「リン!?」
驚愕したキュルケの声にも構わず、りんは改めて半紙に文字を書いてマチルダの元に駆け寄る。
「せんせー、できたー」
「あら」
りんの声に再度振り返ったマチルダは硬直した。
「はい♪」
とりんが見せた半紙に書かれていた言葉は……、
『中出し希望』
「ミス・ココノエーっ!! 何を書いているのですか、何を!!」
叫び声を上げつつ、マチルダは教育上不適切な言葉が大書された半紙を破り捨てた。
「だって好きな言葉をかけって言ったもーん」
そう笑みを浮かべてりんは立てた指をその場でくるりと回し、
「何なら先生の『初めて』貰ってあげようか?」
と悪戯っぽく舌を出したりんの言葉に、無言で赤面するマチルダ。
「ん?」
「まさかミス・サウスゴータって、ほんとにまだ処--」
「きゃーっ! きゃーっ!」
ルイズの爆弾発言を大声を上げて遮ったマチルダ。
一方、意味がわからず首をかしげていたキュルケはルイズに質問する。
「ルイズ、何? 『初めて』って?」
「あのね……」
笑みを浮かべてキュルケの耳元に口を接近させるルイズ。
放置すれば実にあけすけな「初めて」に関する説明がされるのは明確なので、再度マチルダはルイズを制止する。
「言わないでくださいーっ!!」
マチルダが慌てて振り返った拍子に体が当たり、机上に置かれていた水入れがひっくり返ってしまった。
「きゃーっ! 服が!」
「紙が……」
「あああ、すいません!!」
「もうっ! 先生の馬鹿ーっ!!」
と、教室内は大騒ぎになってしまったのだった。
「じゃーなー」
「おー、またなー」
「合コンなー」
そんな別れの挨拶で酒宴はお開きになり、歓楽街を後にしたマチルダは教員寮の自室に帰宅した。
照明を点けると早速机に向かい、翌日の授業の準備を行う。
(ええと明日は、トリステイン語と算術と……)
ティーカップ片手に教科書・帳面をめくる。
(忙しいですね)
それはマチルダの偽らざる本音だった。
魔法学院をはじめ教育機関の大半を監督する役所からは学習指導要領が送られてくるものの、その通りに進む事など皆無と言っていい。理解度も各生徒で違うため、遅れている生徒には遅れの度合いに応じた後押しの必要がある。
作成する時間を捻出してその生徒に合った印刷物をやらせたり、多忙な時間の合間を縫って個別指導の時間を作ったり……。
しかしやらなければ授業についてこれない生徒が出るために、睡眠時間を犠牲にこなしているのだ。
すいません、順番を間違えました。
「かんぱーい」
「ちーっす」
トリスタニアの歓楽街にある酒場では、マチルダとその旧友達が集合し酒宴を開催していた。
「どーよ、ワーウルフ隊は?」
「あー、もー最悪。毎日終馬車」
「うちなんか研修担当がすげーやな奴でさあ」
「まだいいじゃん。俺んとこ新卒1人だぜー」
「いーよな、サウスゴータは。魔法学院って休みが多そうで」
「なー」
愚痴を吐き出し合ううちにマチルダへ羨望の視線を向ける友人達だったが、
「馬鹿言わないで!! 教師ってめちゃくちゃ忙しいのよ!?」
「そーかあ?」
「まず初任者研修が済んだら、今度は週10時間・年間300時間以上の校内研修、さらに校外研修教育総合センターでの研修、教育学会への参加。
授業のやり方もわからないままいきなり40人任されて! 昼は生徒に振り回され、夜は明日の授業の予習に教材の準備! 毎日6時起きで、夜中遅く帰ってきたら何もできずに寝るだけよ!!」
力説……と言うより一気にまくしたてたマチルダに友人達は、
「何つーか……、自転車操業?」
「学校の先生が呑むと荒れるって、わかるな……」
と少々同情が入った視線でマチルダを眺めていたが、
「なあなあ、美人教師とかいねーの?」
「いないわ、そんなの。可愛いけど生意気でエッチな子ばっかりよ!」
「可愛くて生意気でエロい女教師って、お前それ最高じゃん!」
「合コンやろーぜ、合コン!!」
「いや、そうじゃなくて……」
「サウスゴータ」
口々に言い出した友人達の誤解を解こうとマチルダが言いかけた時、その中の1人・メンヌヴィルが彼女の肩を叩いた。
「押し倒せ! そーゆータイプの女は1度やっちまえばめろめろだ」
「流石メンヌヴィル! 2年で童貞喪失した狼男!」
とサムズアップしたメンヌヴィルや友人達に対し、マチルダは内心こう呟いていた。
(人生喪失するから!)
「じゃーなー」
「おー、またなー」
「合コンなー」
そんな別れの挨拶で酒宴はお開きになり、歓楽街を後にしたマチルダは教員寮の自室に帰宅した。
照明を点けると早速机に向かい、翌日の授業の準備を行う。
(ええと明日は、トリステイン語と算術と……)
ティーカップ片手に教科書・帳面をめくる。
(忙しいですね)
それはマチルダの偽らざる本音だった。
魔法学院をはじめ教育機関の大半を監督する役所からは学習指導要領が送られてくるものの、その通りに進む事など皆無と言っていい。理解度も各生徒で違うため、遅れている生徒には遅れの度合いに応じた後押しの必要がある。
作成する時間を捻出してその生徒に合った印刷物をやらせたり、多忙な時間の合間を縫って個別指導の時間を作ったり……。
しかしやらなければ授業についてこれない生徒が出るために、睡眠時間を犠牲にこなしているのだ。
翌朝、職員室で机に向かっていたマチルダは大欠伸と共に体を伸ばした。
「大丈夫ですか、ミス・サウスゴータ」
「あ、大丈夫です」
眠そうな表情で紅茶をティーカップに注ぐマチルダに、コルベールが心配そうな様子で尋ねた。
マチルダは笑みを浮かべて答えたものの、
「熱っ!」
と服の上に盛大にこぼしてしまった。
「本当に大丈夫ですか?」
「あっ、すいません、すいません!!」
コルベールに服を拭いてもらうと、マチルダは溜め息を吐きつつ自分の席に戻っていった。
そんなマチルダのために自分の机から本を取り出そうとしたコルベールだったが、
「ミスタ・コルベール」
シュブルーズがそう声をかけて制した。
「駄目ですよ、手を出しちゃ」
「ですが……」
「苦労して経験しないと身に付きませんよ。彼女のため、ここは黙って見守りましょう」
と優しげな笑みをマチルダに向けていたコルベール・シュブルーズだったが、次の瞬間2人の笑顔は悪意あるものになる。
「……と言うよりも、『我々の苦労を思い知れ』ですね」
「ようこそ、教員(こっち)の世界へ」
マチルダは背中を向けていて2人の表情を伺う事は不可能だったが、それでもうすら寒いものを感じ悪寒に襲われたのだった。
(面白い授業で時間内に理解させれば、後押しする必要は無いのですが……)
そう考えて努力しているマチルダではあるが、まだそれが可能なほどの技術を持っていないため、結局授業は教科書通りの退屈なものになりがちだった。
そして数日後、
「えー、どうしたの、リン?」
りんの悲惨な点数の算術テスト答案を手に、キュルケは心配そうな表情で首を傾げた。
「いつも算術はいいのに……」
困った様子も見せず笑うりんを、ルイズは呆れた表情で指差す。
「笑ってる場合じゃないでしょ」
「ミス・サウスゴータになってから下がった?」
キュルケの言葉に、3人に背を向け黒板を消していたマチルダがぴくりと反応する。
(何とかしなくては……)
その日の放課後、
「リーン、帰ろー」
とルイズがりんを誘ったものの、
「あー、あたし駄目。サウスゴータ先生が個人授業するから残りなさいってさー」
「………!」
りんの返事にルイズの表情が険しくなった。
一方キュルケもりんの笑顔の意味に気付いて、
「もしかして、わざと悪い点を!?」
「何の事〜?」
「信じられない!」
声を荒げたルイズは、凄まじい勢いでりんに対しまくし立てる。
「あんな処女、どこがいいの!? 今日の授業も空回って痛々しい! 先生なんか好きになっても報われないわよ!」
そんなルイズをりんは、
「はいはい、お姫様。また今度遊んであげるから」
とルイズを抱きしめて額にキスをした。
……が、ルイズに頭部を殴打され、机に突っ伏す羽目になったのだった。
「行くわよ、キュルケ! もうリンなんか誘ってあげない!」
そう言い残し教室を出ていったルイズを、キュルケは慌てて追いかける。
「待って……、ルイズ! どうしたの?」
「……リンが男の子だったらよかったのに」
「……ルイズも報われないねえ……」
「うっ、うるさいわねーっ!」
そんな会話を交わしつつ、2人は学院を後にした。
「……ですから、答えは『2』と」
一方、教室ではマチルダによるりんへの個人授業が行われていた。
「わかりましたか? 算術は積み重ねですからね。ここで理解しておかないと先に進めませんよ」
「はーい♪」
ひと通り終わったところで、りんは座る場所を椅子から机に移し、脚を投げ出すような姿勢を取った。
「ねー、せんせー、今度のテスト100点取ったらご褒美くれる?」
「ええ、いいですよ。ケーキでも何でも」
「えーと、じゃあ……」
少し考えた後でりんが口にした要求は、またもマチルダの予想の斜め上を行っていた。
「ご褒美にエッチして♪」
「またあなたは! 意味もわからないのにそういう……」
赤面しつつ視線を逸らしたマチルダだが、りんは見透かすような目で、
「『わからない』? わかってると思いたくないだけじゃない?」
と問いかけた。
(――『そーゆータイプの女は、1度やっちまえばメロメロだ』)
メンヌヴィルの言葉が脳裏をよぎった。
「ミス・ココノエ……、下着が見えていますよ」
「『見せてる』の♪」
悪戯っぽい笑みを浮かべたりんに、マチルダは出席簿による一撃で返答する。
「いったーい!」
「わかっているのなら、なお言うものではありません! ほらもう帰って帰って!!」
そう言って下校を促したマチルダにりんは、
「何よ! 先生の馬ー鹿馬ー鹿処ー女ー!!」
と悪口雑言を口にして帰っていったのだった。
(ミス・ココノエ!!)
一方その頃、職員室で机に向かっていたコルベールの耳に、遠見の鏡に映っていたニュースの音声が届いた。
『――今日、ラ・ロシェールの魔法学院で、新任の教師が首を吊って死んでいるのが見つかりました。仕事の事で悩んでいたとみられ――』
そんなニュースを、コルベールは心配そうに眺めていたのだった。
(楽しい授業、それができれば苦労はしません。私だって努力しています)
マチルダが教室に入っても、雑談に興じる生徒達のざわめきは治まらない。
「静かにー。ほら、鐘が鳴っていますよ。席に着いてください」
そう声を上げたマチルダだが、生徒達の騒ぎは一向に静まる気配が無かった。
(それなのに……。誰のためにやっていると思っているのですか)
かすかに表情が険しくなったマチルダにりんがちらりと視線を向けたが、マチルダは気付かなかった。
「(いいかげんに――)あ……」
マチルダが声を荒げかけた瞬間、何者かが机を激しく殴打する音が教室内に響いた。
1人を除いて、教室にいた全員が音のした方向を見る。
その先ではりんが拳を机に振り下ろしたまま他の生徒達に冷ややかな視線を送っていたが、すぐマチルダに対し笑顔でウインクした。
「……え……、あー、では始めます。教科書18ページ……」
マチルダがそう気を取り直して開始した授業は、その後滞り無く進んでいった。
「ミス・サウスゴータ」
職員室に帰ったマチルダに、紙束を抱えたコルベールが声をかけてきた。
「あの……、よろしければこれを使ってください。段階ごとの学習テストのプリント集です」
「えっ?」
コルベールから渡された紙束の濃密な内容に、マチルダは目を丸くする。
「いいのですか!? 助かります! 私今まで全部自分で作っていましたよ!!」
喜びを露わにしてそういったマチルダに、コルベールは微笑を浮かべつつ心中、
(死なないでくださいね……)
と考えていた。
それから数日後。
「ミスタ・グラモン、80点。ミスタ・グランドプレ、84点……」
教室では、マチルダが前日に行われた試験の答案用紙を返却していた。
「ミス・ココノエ、100点!」
マチルダの言葉に教室内の生徒達の大半が歓声を上げ、りんもそれにVサインで応える。
「頑張ればできるではありませんか!!」
「はいっ、サウスゴータ先生が教えてくれたおかげです!!」
そんなりん・マチルダの会話に、ルイズは歯が浮くと言わんばかりの表情になって顔を背けていた。
一方りんは立てた指の先を一舐めして、
「じゃあ先生、約束のご褒美ちょうだい♪」
と上目遣いで要求してきた。
「(ここでですか……)はい、わかりましたよ」
赤面しつつもそう言うとりんの前に屈み込む。
「……ミス・ココノエ、いい子ですね。大好きですよ……」
マチルダにそう耳元で囁かれたりんは、赤面して顔を隠してしまう。
「何あれ、馬鹿じゃない!? ねえ、キュルケ……キュルケ?」
そう言いつつキュルケに視線を向けたルイズは、彼女が答案用紙を手に沈んだ表情になっている事に気付いて首を傾げたが、
「あ」
名前の横に書かれた点数を表す数字が「100」である事に気付き、納得の表情になる。
直後、教室内に紙を引き裂く音が響いた。
「先生ー、キュルケちゃんがぐれたー」
「あーあ、ミス・ロングビルのせいだー」
「ええっ、ミス・ツェルプシュトー? なぜですかー?」
りん・ルイズの声にマチルダが慌てて視線を向けた先では、答案用紙を破り捨てたキュルケが窓枠に両肘を突いて涙目で頬を膨らませていた。
以上投下終了です。
乙です
乙!おもしろかった
>>199 煽りは置いといて複数キャラを出すと煩雑になるのは同意
無重力巫女はもう東方二次創作に片足突っ込んでる
他作品のキャラが増えるごとに何の二次創作かわからなくはなるな
複数キャラ出してもいいよ
ただしゼロ魔キャラが空気にならない範囲で
かみ「わたしが つくった そうだいなストーリーの にじそうさくです!
戦隊ヒーローやドラえもんズみたいにチームで一人前のキャラはまとめて呼ばないとおもしろくないと思うけどね
ドラえもんズはそれぞれでキャラ立ってるから単独でもいいんじゃないか
でもやっぱり見せ場では全員そろってこそのドラえもんズだと思う
単独だったらドラパンがかっこよさそうだ
ちなみに、友情テレカはテレホンカードじゃなくてテレパシーカード。
やっぱ揃って出すのが一番の見せ場だよね
・・・親友テレカだった
ちょっと空気砲食らってくる
親友トレカだったら嫌だな、とかふと思った
親友ローンカード
俗にいう親友代ですね。酷い世の中だ…
これが友情パワーだ。
友情といえばラッキーマンの友情マンは
ジャンプでこんな偽りの友情野郎出していいのかwwと思ってたが、
ヒーロートーナメントで男見せて格上げたよなぁ
逆に言うとそれ以外活躍してると言えるシーンがないのだがwwww
有情破顔拳
クロス物の二次である以上どちらかの比率が多くなるのは仕方が無い事だと思う
問題なのは風呂敷を広げたは良いが仕舞い忘れる事だ
つまり突っ走ったは良いが終わりませんってのもダメな事だな
友情が大事といえばコズミックステイツ。
最強フォームだけど序盤使えない理由が明確で何故使わないとは言われないよね
まぁ、弦ちゃんだと間違い無く無能王とも友達になる気がする
友情の名の下に仲間を武器にするボーボボ
某祇園仮面「友達になっておくれやすぅぅぅぅぅ!」
某覆面「ダニエル…お前はいい友人だ。わかっている。すまん…苦労をかけるな」
某2世「いや、その…すまない、忘れてくれ。良いんだ、君のやり方で行こう」
>>339 友情パワー。あいつが言うとこれほど空しく響く言葉もねぇべ
翼「ボールは友達!」
翼「この怒りはボールにぶつけるんだ!!」
友達に八つ当たりする脅威の十頭身漫画w
過去に広げた風呂敷を畳むと見せ掛けて引きちぎると称された漫画家が居てだな…
ダイ大のポップ召喚もの
誰か書いてくれないかな…
面白いのはあるけどどれもが中断して未完なんだよね。
友情パワーと発言したら、たぶんアラシヤマがくるだろうとおもったが、そのものズバリだ。
キン肉マンとか今旬なのになあ・・・・・・
アラシヤマだと、パプワ世界に女性キャラが殆ど出てこなかったから
どういう感じになるか想像できんな
一度友人扱いすればウザイくらいに忠義尽くしてくれそうだがw
ギーシュと友誼を結ぼうとしてモンモランシーと骨肉の争いを繰り広げてくれるよ。
ちょうど火と水で良いライバルになれると思う。
「ギーシュはんとわいのバーニングラブ!」
「…ふふふ、用事が済んだら、きみなんてポイだよ。」
「…割とやることが汚いわね、まあ気持ちは分かるけど。」
大魔導師じゃ蹂躙系にしかならんから青髭に誰を召喚させるかがポイントだよな
アベンジャーズを見たら映画のマイティソーでソーが
オーディンに追放された先がハルケギニアだったという電波を受信した
ハルケなら車に轢かれたり尻に鎮静剤を注射されることもないしね
>>350 関西弁とグラブの一言で海の守銭奴バブリー・クラブロス召喚なんて思いついた
ラグドリアン湖の底に潜んでゼニ勘定、レプリロイドだから水の精霊も怖くない、というか水の精霊のかけらを売りさばいて大もうけ
>>352 ソー「美味い!お代わり!」\ガシャーン/
>>352 無能王「俺がこのゲームを思いついたのはそいつが大暴れしてたからだ」
ほとんど全員「あー」
ソー「?」
ポップは最終的には勇者パーティの中で唯一ダイと最後まで立ち続けた猛者になってるからなあ…
ぶっちゃけルーラとベホマだけで十分バランスブレイカー
それに並の作者ではアバン以上の切れ者のキャラ性を再現できない
新しい冒険が始まったらレベルが1に戻るのは定番
アバンは常に切れ者だが、ポップは普段は結構抜けてる
いざという時だけ切れるって感じ
キレてないっすよ
勇者アバンの時点で、既にドラゴンをエルボー一発で殴り殺す魔王ハドラーのパンチを食らいまくっても倒れないバケモノ
自分の身体よりでかい岩を軽々と運んだりそれをバターのように斬ったり
ゼロ魔世界の住人とは住んでいる世界が違う
ジョゼフに黒の結晶を与えたらためらいもなく使うだろうな
ハルケの地下に埋蔵されてるのが黒魔晶だって設定にしたらそれを中心にストーリー組めそう
それにハルケのガーゴイル技術ならリアルキルバーンを制作できね?
ガーゴイルはどんなに精巧でも魔法は使えないみたいだからねえ
キルバーンはキルトラップのような超魔力の罠を発動できる
それに必勝の気迫が無い云々を差っ引いてもワルドごときよりは断然動きはいいだろうし
そんな高性能なガーゴイル作れるかなあ?
363 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/15(土) 01:28:08.73 ID:2P3fVQrj
しかも血液はよくわからんレベルの腐食性を持って、絶対に消えない火も生み出せるというチートっぷり
チートだからなんなんだ
話が面白いか否かだろ
チートに過ぎると面白い話を作るのが難しくなるって事やろ
ポップやアバンの知略ならエルフの反射も何とか・・・・・・できないかな?
>>358 そのいざというときも外す人だよポップ君
>>366 知略なり秘術なりで何とかするかもしれないが、
ヨルムンの反射は戦車砲で抜けてるし単に力づくでも突破できるのではないかしらん?
鬼岩城戦のダイレベルで全長145mの鬼岩城を大地斬で両断してしまうのだから…
ポップのメドローアくらいしかないぞあの威力出せるの
>>370 確かに鬼岩城両断クラスは難しいね
だが最初期のダイでも自分の身体よりでかい岩を両断するという、
ガンダールヴでもできるかどうかわからんようなことをいとも簡単にやっている
そしてその攻撃はハドラー司令に指一本で止められている
軍団長時代のクロコダインは通常攻撃で地面に亀裂を作っている
戦車砲如きの比ではないくらいの威力は後半のメインキャラ勢にはいとも簡単に出せるだろう
あとゼロ魔世界のドラゴンは機銃で死ぬが、ダイ世界のドラゴンは大地斬でも切れないくらい硬い
そのドラゴンが前半のポップのベタン程度で数匹まとめて死ぬザコ扱い
ベタンはボラホーンには全然効いてなかった程度の呪文
いや、20mm機銃って人間に当たると胴体が丸ごとなくなるレベルだぞ。
それが複数当たるんだから、連載初期のファンタジーな必殺技レベルの威力は十分ある。
>>372 じゃあ20mm機銃は海を割ったり、大地に亀裂を生じさせたりできるか?
いつまでスレチを続けるんだ
てか、破壊方向の種類が違うのに何を言ってるんだかって話だしなw
彼の頭の中では、核爆弾と戦車砲と日本刀で全部同じ効果範囲を持ってるとかになってるのかね
全部、威力○○だとか思っちゃってる所謂、一種のゲーム脳?
簡単なことだ要は相手が死ねばいい
ピンポイントで殺せるなら海も山も壊す必要がどこにある
つうわけでほれデスノート
夜神月召喚は結構面白そうだけどな
ゼロ魔の世界がガチの陰謀劇になって
月VSジョゼフの陰謀合戦とかは面白いと思う
写真が存在しないハルケでは月もそれなりにハンデをおうことになるな
遠見の鏡は便利だけど足はつきやすいから多用はできないだろうし
長い名前も少なくないから、書くのも一苦労だな
「強い!絶対に強い!」さん出ないかなぁ(チラッチラッ
>>361 ためらいなく使われても困るな(笑)
地上破壊しようと設置したサイズの核晶だと、へたすりゃあれ一個でハルケギニアの大半が更地になるぞ。
>>377 オスマンくらい長生き出来れば死に神の目を取り引きするのも有り?(笑
>>369 単純に、戦車砲とか関係なく反射を上回る力で攻撃すりゃ抜けるんだろ
ブラッディースクライドとか闘気技なら抜けるんじゃないの。たんに原作じゃ戦車砲だったってだけだし
なにげにラーハルトと戦ったときのブラッディースクライドは近くの岩を貫通して背景の山抉ってるしな
ベンガーナ戦車部隊の大砲は鬼岩城に傷ひとつつけられなかったけど、ポップのイオラでは城壁を抉ってる。
あの世界の個人戦力って人間の上位クラスになるとおかしいくらいになってるよ。
そもそもアバンだって、各国の軍隊が押されまくってた魔王軍に少数PTで突っ込んで殲滅してるんだし。
クロコダイン戦のダイのメラで床が吹き飛んだこと考えると、レオナ王女ですら並のスクウェアメイジより上位にいるんじゃないかな。
>>376 ライトは割と詰めが甘いからな・・・
序盤からしてポテチのときにごみまで調べられていたらアウトだったし
なんだかんだ語るんだったらまず作品を書けと…
ゼロ戦やタイガー戦車の代わりにキラーマシンかな。存外ニセ勇者とかが乗って似合うかも
モンスター物語に登場するキラーマシーンなら宝物庫にしまわれてるかも
元々ゾーマが異世界(英語が使用されてる)から召喚したものだがね
もし学院の宝物庫にキラーマジンガさんが番人についてたらおマチさんはどーしたのかな?
そろそろ長期放置常連のウル魔の代理行きたいと思います。
第九十八話
日常、それは大切な日々
古代怪獣 ゴモラ 登場!
才人たち、東方号の一行がエルフの国ネフテスへとやってきて、早くも一週間の時が流れた。
瓦礫の山だったアディールには、一日目から道が引かれ、二日目には区画整理がなされ、三日目には仮設住宅が建てられ始めた。
そして、七日が過ぎた今日には、洋上に停泊する東方号から望むアディールの光景は一週間前と激変していた。元には及ばないにしても、
すでに立派な街並みが並び始め、街は街としての機能を完全に取り戻している。その復興のスピードとエルフの驚異的な土木技術には、
見学していたコルベールやエレオノールもただただ驚嘆するばかりであった。
「はぁー、たった一週間でこれだけの街を作り上げるとは、エルフの力とは、ほとほととてつもないものですねえ。このレベルでいけば、
トリスタニア程度の街ならば、半月もあれば完全にコピーしてしまうでしょうね」
「あまり自信をなくすようなこと言わないでよね、ミスタ・コルベール……まあ、何百回も戦争やっても勝てないのも当然よねえ。
軍事力うんぬん以前に、基礎技術力が違いすぎるわ」
トリステイン屈指の奇想科学者と、魔法アカデミーの英才が揃ってため息をつかねばならないほど、現実に見るエルフの力は
人間のそれと隔絶していた。百聞は一見にしかず、井の中の蛙大海を知らずとはよく言ったもので、たとえばかつてのレコン・キスタの
エルフ討つべしと気勢をあげていた貴族などがこれを見たら、一瞬で信念が折れるのは間違いないであろう。
が、そうした差を見せ付けられながらも、洋上の東方号はさすが別格の存在感を持って、巨体を悠然と浮かべていた。
「そういえばミスタ・コルベール、船体の修復工事のほうはどうなったの?」
「ああ、もうほとんど終了している。あとは両翼の水蒸気機関のテスト運転しだいだが、それが終われば飛びたてるだろう」
コルベールは自信たっぷりに、現在ではほぼ修復が完了し、外見からでは見分けがつかないくらいに直された東方号を見渡して笑った。
超獣軍団との激戦で損傷した東方号。船体の半分が黒焦げになるくらいに火災を起こし、ハルケギニアの船の常識ではもうだめかと
思われたこの船の修復が、これほど短期間で完了した訳は東方号の元となった船の絶大な頑丈さによるものであった。
戦闘後の調査の結果、コルベールたちは見た目の損傷の激しさとは裏腹に、東方号そのもののダメージが極めて軽微であったことに驚いた。
戦闘中、落雷などによって激しい火災を起こしはしたものの、燃えたのは木製甲板やトリステインの工房で塗られた塗料に
よるものが大半で、船体を覆う分厚い鉄の鎧は大部分が健在だった。
壊れたのも、主翼をはじめとするトリステインでの工事で取り付けられた部分が大半。それも、トリステインの最高の冶金技術が
つぎ込まれ、さらに固定化の魔法で保護されていたのにである。城郭のような主砲塔は完全に無傷。船底も調べたが、浸水箇所は
皆無であった。元々の装備で壊れたのは、機関砲やマストなどのもろい部分ばかりだったという始末である。
「サイトくんの世界には、空を飛ぶ船はないというが、東方号のベースになったヤマトという船はとてつもない技術の結晶だ。ああ、
できることなら作った人に会ってみたい! 教えを乞いたい! この世にはまだまだ勉強することが山のようにあるんだなあ」
東方号の修理の際、コルベールは興奮してそう叫んだ。彼にとっては、未知に触れて知れるという『勉強』がなによりも楽しいものなのだろう。
「修理にはエルフの船舶技師たちも手伝ってくれたが、彼らの技術もすごいものだ。水蒸気機関はともかく、大破した主翼の
修繕は彼らの手がなければ無理だったろう。まったく、学びたいことが多すぎる。決めたぞ、わたしはいつかネフテスにも留学する!
そしてこのすばらしい技術をハルケギニアに広めるのだ」
子供のように夢をはせるコルベールを、エレオノールは呆れながら見ていた。
しかし実際、正しい目的で使用すれば技術はすばらしいものだ。物は分ければ少なくなるが、技術はいくら分けても減ることはない。
ある意味では技術や知識は無限の資源なのである。何度でも繰り返すが、要はその使い道次第、活用するか悪用するかの違いだけなのだ。
東方号の甲板では、今日も多くのエルフたちが散策している。超獣軍団との戦いの後、東方号の船室は負傷者や地上に
仮設住居を作れない人々のために解放された。そして今日まで、東方号は修復工事を妨害しない範囲でエルフたちが制限なく
出入りしていた。
砲塔の上は子供たちのいい遊び場になっていて、現在では排煙の用がなくなっている煙突の上では物好きなカップルが
地獄の穴のような底を物珍しげに見下ろしている。その後方の大和型戦艦特有の三本マストは戦闘中に倒壊したが、これは
単純に折れただけだったので『錬金』の魔法を使って溶接のようにすぐに立て直された。
そのてっぺんにはトリステインとネフテスの旗が仲良く揺らめいている。
大和ホテル、武蔵旅館、この船がかつてそんな蔑称をつけられていたことをむろん知る者はいない。しかし今は、その名前が
よい意味に働いていた。住めばこれほど安心できる客船はほかにないだろう。
ただし、それも今日までである。コルベールとエレオノールのいる艦橋に、息せき切って飛び込んできたギムリの言葉がそれを決定した。
「コルベール先生、第一から第四までの水蒸気機関。すべて動作正常です。テストは至極良好に完了しました!」
「ご苦労様、よくやってくれたね。さて、これで帰れるね……我々の故郷、トリステインに」
東方号の発進準備完了、それは彼らがこのエルフの国に別れを告げる時がやってきたのだということを示すものであった。
ようやく慣れ始めてきたアディールの生活も、今日で終わり。名残は惜しいが、彼らはいつまでもここにいるわけにはいかない。
東方号のネフテスに来た目的である『エルフとの停戦』は、当初の予想をはるかに超えたレベルで成功した。最悪、ルクシャナに
親書を渡して逃げ帰るくらいになるのが現実的だと考えていたのに比べたら、現在のこの状況は奇跡に近い。ならば、機を逃す
ことなくトリステインへ戻り、人間世界側を変えていくことに尽力しなくてはならない。
ヤプールの戦力は、超獣軍団が全滅したことで大幅にダウンしているはずだ。今ならば、現状を維持するだけでハルケギニアや
ネフテスへ侵攻する余裕はないはずだ。回復を図るにしても、一朝一夕にというわけにはいかない……まして、地球側でも
この次元への救援をあきらめてはいないだろうから、今無闇に行動を起こす余裕はないはずである。
が、ヤプールは姦計をなによりも得意としている。またどんな汚い手を仕掛けてくるか想像はするが、奴はいつもその上を
いってきた。しかも奴は人間側が聖地、エルフ側がシャイターンの門と呼ぶ龍の巣を占領している。それがどういう意味を
持つのか、研究中ではあるが、ヤプールが無意味なことをするとは考えられないので、その対策を練る必要もある。
まったく、考えれば考えるほど難題が次々と際限なく湧いてくる。だが、ヤプールが体勢を立て直す前に、人間とエルフが
過去のしがらみを捨てて共同戦線を張れれば、この世界に充満する異種族への憎悪を食い物にしてきたヤプールにとって
大きな痛手となる。
そうなれば、あと一回、あと一回の決戦でヤプールの脅威をこの世界から拭い去ることができるかもしれない。そうすれば、
この世界の人々が数千年のあいだ願い続けてきた真の平和が訪れる。人間もエルフも、ほかのどんな種族も、支配したり
支配されたりすることもなく、互いを恐れあったり奪い合ったりしなくてもすむ、そんな世界を作るための一歩を踏み出せる。
そのために、時間を無駄にするわけにはいかないのだ。トリステインに帰ってからも難題は山積みだが、帰らなければ
難題に取り組むこともできない。自分たちが行っているあいだに向こうがどうなっているかもわからないのだし、後のことは、
帰ってから考えればそれでいい。
「出港準備! 関係者以外は全員を退船させたまえ。さて、この景色ももうすぐ見納めだね」
感慨深くコルベールは指示を出した後につぶやいた。出港準備、とは言っても各種の準備があるために、始めてから
実際に発進することができるようになるまでには数時間が必要になる。増して、東方号は空中戦艦なのだから、飛び上がってから
異常が発生しても停船して修理と簡単にはいかない。トラブルの元を徹底的に排除するために、飛びたてるのはまだ何時間も
必要なのはわかっていた。
「さて、ミス・エレオノール、ここは私が預かろう。埠頭にテュリューク統領が見送りに来ているそうだ。皆をまとめて最後のあいさつを
してきてもらえるかな」
「当然のことね。あなたでは一国を預かる大使というには風格がなさすぎるもの、窓から外交大使というもののありさまを
見学してなさいな。ヴァリエール家長女の名が伊達ではないこと、見せてあげるわ」
胸を張って艦橋を出て行ったエレオノールを、コルベールは微笑しながら見送った。相変わらずの高飛車加減だが、
怒ってはいない。自分の容貌が人並み以下というのはいまさら変えようがないし、人柄は自画自賛して誠実なほうだと
思いたいが、外交手腕などというものがあるとはどう自分を過大評価しても出てくるとは思えない。いいところ研究費用を
捻出させるのに口八丁をめぐらせる貧乏教授がせいぜいであろう。
そこへいくと、エレオノールは申し分はなかった。彼女の美貌に文句をつけられる者はそうはいないだろうし、ヴァリエール家の
長女としてふさわしい教育を受けてきたので、振舞い方も知っている。ルイズがそうであったように、公私の切り替え方も
きちんとわきまえているので、ドレスに身を包めば別人のように変わるだろう。
コルベールは、魔法学院に講師としてやってきた当初のエレオノールを思い出した。あのときの彼女は、あまりにも縁談が
運ばないことに業を煮やした母親の命令によって、通常の性格とは百八十度変わった猫をかむらされていた。結局、性格を
変えることはできなかったが、あのままだったらほんとうに生徒か教師の誰かと交際をはじめられていたかもしれない。
ともかく、東方号に彼女が乗り込んでいたことは僥倖だったというしかない。この計画自体、軍にも王政府にも秘密の
極秘指令だったのだから専門家を乗せる余裕などなかった。ともかく、来ることだけでさえ精一杯で、交渉の席が成立する
確率さえも極めて低かった。
「さて、わたしは水蒸気機関の調整にはいるか。しかし、せめて私にもう少し髪の毛が残っていればなあ……若い頃は
気にもしなかったが、失ってわかる長い友よ、か」
コルベールは、私に嫁が来るのはいつの日かと深々とため息をついた。
その頃、エレオノールは艦橋のラッタルをタンタンと鉄の足音を響かせながら降りていた。見渡せば、東方号の巨大で
雄大な姿と、復興途上のアディールが見える。街のあちこちで立ち上っている煙は炊飯のものか、不要になった資材を
焚き火で焼いているのかわからないけれど、ほんの一週間前に街の燃え尽きる光景を目に焼き付けた者としては、
エルフの国にもこんな牧歌的な光景もあるのだなと、不思議な感心を覚えたりした。
「こんな光景、どんな書物を読んでも知ることはできないでしょう。図書館にこもるのではなくて、実際に目の当たりにしないと
わからない知識もある。この光景ひとつだけでも、ルイズには感謝するべきかもしれないわね」
もちろん本人に向かっては絶対に言わないが、エレオノールは自身がハルケギニアで一番恵まれた環境にいる学者なの
ではないかと思った。
今なら、危険を承知でハルケギニアにやってきたルクシャナの気持ちもよくわかる。つかみどころがなく、手に余る行動力の
持ち主ではあるけれど、彼女は象牙の塔にこもりきりの自分たちにはない研究者としての非常な貪欲さを持っていた。
後輩から先輩が学ぶこともある。たいしたものだ、いまでは正直にすごいと認めている。
思えば、この一週間もあっという間だったが、いろいろなことがあった。エレオノールはラッタルを下りながら、その記憶を
ひとつひとつ思い出していった。
超獣軍団との死闘ののち、一夜を明かしてからの人間たちの日々は多忙を極めた。
一躍、蛮人扱いから英雄になってしまった東方号のクルーたち。彼らはアディール中から引く手あまたとなり、ハルケギニアの
ことを知りたいというエルフたちのあいだを駆け回って、親善に全力を尽くすことになった。
中心人物であるティファニアはもちろんのこと、奮闘した水精霊騎士隊を称えたいと申し込んできたり、海中から救出してくれた
銃士隊に礼をしたいと述べてくる人たちなど、一部の例をあげるだけでも人間たちと直接話したいというエルフは絶えることはなかった。
「私、蛮人ってちっさいオーク鬼みたいなのと思ってたけど、ほんとはすっごくかっこよかったのね。お願い、蛮人の世界って……
ごめんなさい。ハルケギニアってどんなとこ? 教えておしえて!」
とあるエルフの少女の言葉の抜粋である。なにせ、国境付近で空賊と戦う軍属や、その近辺で交易する商人を除けば
内陸地のエルフには一生人間と会わずに過ごす者も少なくはない。当然、伝えられる情報も曲解されたものが多く、彼女の
偏見に満ちた言葉も無理からぬところであった。
それが一気に逆転した。逆転するだけのことをしてしまった。案ずるより生むがやすしということわざがあるが、その百倍くらいが実現した。
三日後にはアディール外からも話を聞きつけた、外部の街や村からのエルフも集まってきて、お祭り騒ぎとなっていった。
そうなると最初はいい気分だったギーシュなども、休む間もない過密スケジュールに悲鳴をあげていったのは当然であろう。
「おれたちは動物園のパンダかよ」
才人がぼやいた台詞である。ブームが到来して動物園に見物客が押し寄せすぎると、あまりのストレスに動物も体調を
崩すというが、それがよく実感できた。
ただ、要望の多かった人間たちがネフテスのほかの町や村に行くという案は、安全が確保しきれないということで却下された。
まだ鉄血団結党の残党がいないとも限らないし、そうでなくとも人間への恨みや偏見を根強く持っているエルフもまだ多い。
のこのこと出かけていって袋のネズミとされることだけは絶対避けるべきであった。
その後、さすがに四日後にはテュリューク統領が規制をかけてくれたので人心地つけたのだが、一堂は親善訪問も楽じゃないと心底思った。
しかし、大変だった中にも心からよかったと思える出来事もいくつかあった。
才人たち数人が、アディール市内でかろうじて戦火を逃れていた学校を訪れたときのことである。まだ舗装が元通りに
なりきっていない道路を通り、トリステイン魔法学院よりも壮麗なつくりの校舎に一行は息を呑んだ。
講堂に集められた生徒たちは数百名、しかしエルフの例に漏れずに全員が美少年・美少女だったために、才人たちは
のっけから圧倒されて萎縮してしまっていた。もとより、人前で演説や講演などできる性質ではなく、才人といっしょに来た
数人の少年たちも、来たはいいがなにを言っていいかわからず、別の場所に行ったギーシュたちを恨んでいた。
緊張しすぎて凍り付いてしまう才人たち、仕方なく才人についてきたルイズが代わりに口を開こうとしたときである。ひとりの
エルフの少女が思いもかけないことを尋ねてきたのだ。
「トリステインの皆さん、えっと……ウルトラマンさんに会えませんか!」
えっ? と、才人とルイズを含む全員が固まった。数秒たち、思考が再稼動してきた才人が動悸を抑えながら恐る恐る
尋ね返すと、彼女ははじめて話す人間にやはり緊張しながらも目を輝かせて答えた。
「わたし、このあいだの戦いで危ないところをウルトラマンさんに助けていただいて……それで、ぜひお礼を言いたいんですけど、
お願いできませんか?」
才人はやっと合点がいった。そして思い出した、彼女は超獣軍団との戦いのときにアリブンタに捕食されかけていた
あの少女だった。
そういえば、ガチガチに緊張していて気づかなかったが、ここはゼロ戦で空から見たあの学校だ。あのとき、校庭に
蟻地獄を作って生徒たちを狙ったアリブンタを、とっさにウルトラマンAに変身して助けたのはよく覚えている。しかし貪欲な
アリブンタに追い立てられ、逃げ遅れた彼女を救い出した後で、その行方は混戦に紛れてわからなかった。
”そうか、無事でいてくれたのか”
もちろん自分たちがそのウルトラマンだと明かすことはできないが、才人とルイズは自分たちがひとつの命を確かに
守り通すことができていたのだと実感できて、胸を熱くした。
しかし、ウルトラマンに会いたいとは大胆な……いや、人間と違って大いなる意志を解してエルフは他の種族とも
差別なく交流することができる。同種族としか交流を持たない人間のほうが異常で、エルフたちにとっては、人間を除く
他の種族とのコンタクトなどなんでもないことなのかもしれない。
が、とはいってもこれは少々無理難題である。
「えーっと、残念だけどそれは無理なんだ」
「なんで? ウルトラマンさんはあなたたちが呼んだんじゃないの?」
「いや、ウルトラマンがどこから来た何者なのかは誰も知らないんだ。ただ、彼らは怪獣が現れて平和が乱されたとき、
どこからともなくやってきて助けてくれる不思議な存在なんだ」
「へえ、そうなんだ。それって、あなたたちの世界で言う神様みたいなものなの?」
エルフの少女は首をかしげながら問いかけてきた。しかし才人は首を横に振り。
「いいや、ウルトラマンは神様じゃないよ。ハルケギニアにもこれまでいろんな怪獣や超獣が現れたけど、その全部に
ウルトラマンがやってきたわけじゃない。ウルトラマンは、おれたちが全力で戦って、それでもどうしようもなかったときに
はじめて手を貸してくれるんだ」
「なんか……気難しいんですね。ウルトラマンさんって」
才人は、見た目では十歳くらいの少女の大人びた口調に少々気圧されながらも答えようとした。
「うーん、そう見えるかもしれないな。けど、ウルトラマンは自分がいるからみんなが努力しなくならないように
気を使ってるんだよ。だから、気難しいようにも思えるけど、ほんとうに危ないときには必ず来てくれるんだ!」
「厳しいけど……優しいんですねウルトラマンさんって!」
少女の脳裏には、アリブンタから身を張って助けてくれたエースの姿がありありと蘇っていた。その、理解してくれた笑顔が、
才人にうれしさと勇気を与えてくれた。
「ああ! 本当にすげえさ。誰よりも強いのに、自分のためには戦わない。自分を必要としてもらうんじゃなくて、逆に
誰にも自分を必要とされないようにするために戦う……だからこそ、おれたちはウルトラマンを……ヒーローって呼ぶのさ!」
「ヒーロー……」
少女だけでなく、講堂にいたエルフたち全員に才人の大声が行き渡った。
ヒーロー、それはエルフたちにとっては未知の概念であり、新鮮な衝撃であった。
自然そのものである大いなる意志を至高の存在とするエルフたちにとっては、世界は完成されたものであって、自分たちは
その中の一部でしかないという意識が強い。そのため、エルフたちの書物は記録が中心であり、人間のフィクションを中心にした
英雄譚などの娯楽ものはない。
が、ウルトラマンはまさに現実を超えた現実の英雄譚であった。それは自分たちの想像をはるかに超えた次元の存在で
あるが、決して理解不能な神ではない。なぜならウルトラマンは完全無欠ではなく、傷つき苦しみ、負けそうになる。しかし
それでもなお立ち上がる姿が人々の心を打つ。
言葉を語りかけてくることは少なくとも、命をかけて戦う様がすべてを語る。ウルトラマンを見た者は、ウルトラマンが
内面は自分たちにとても近いことを感じる。なによりも、とほうもなく強いが、それを私利には使わずに弱きを助け強きをくじく!
その勇姿に人はあこがれを抱き、英雄を超えた存在……ヒーローと呼ぶのだ。
「ヒーロー……なんかそれって、すっごくかっこいい響き……ねえ! 教えてよ。あなたたちの国で、ウルトラマンがどんな
活躍したのかを!」
かつて地球でも、ウルトラマンがはじめて姿を現したときには大人たちは驚き、子供たちはそのかっこよさに夢中に
なったという。実際、ウルトラマンの活躍をテレビで見て将来の仕事を決めた人も数多い、むろん才人もそのひとりである。
メビウスの活躍を目の当たりにした中学生の頃、彼の人生は大きな転換点を迎えた。
”ウルトラマンみたいに、どんなときにも、どんな敵にも負けない強い男になりたい!”
その憧れが、ハルケギニアに来ても強く才人を支えていた。ウルトラマンたちが身を持って教えてくれた、勇気、優しさ、
あきらめないことで生まれる希望……それはどんな超科学よりも強く、どんな魔法よりもすばらしい。
そして、そのすばらしさを誰かに伝えたいという願いも切にあった。
「よおっし! じゃあお前らにハルケギニアでのウルトラマンたちの活躍を、たっぷり聞かせてやるぜ! 止まらないから
よおっく聞いておけよ!」
才人の叫び声が講堂にこだまし、続いて生徒たちの喜びに満ちた大合唱がこだました。
新鮮な刺激に飢えているのはどこの子供たちも同じだった。誰でも、幼い頃に布団の中で父親や母親に聞かされた
昔話に胸をときめかせたことがあるだろう。ましてテレビもインターネットもないこの世界。昭和の昔には、紙芝居の親父が
やってくるたびに子供たちが我先にと集まった。
ウルトラマンから才人へ、次に才人からエルフの少年少女たちへと、物語は受け継がれていき、魂のリレーがつながっていく。
バトンは夢とロマンと愛と勇気。人が人としてあるための大切なものを込めて、ウルトラマンの戦いはこうして語り継がれていくのだ。
エルフの知らなかったものを人間が教える。それは互いに憎しみあっていてはできないことだ。
もちろん、その逆もしかりである。時間を見て、人間たちはエルフからこれだけは知っていてほしいということを教わった。
その最たるものは、大いなる意志とはなんたるかである。
「お前たちが我らと対等に付き合いたいというのはわかった。しかし、我らは大いなる意志をないがしろにする者たちを
認めることはできない。これは我々の譲れない条件だ」
エルフを含め、亜人種(これも人間側から見た蔑称であるが)が人間を蛮人と呼ぶ理由の大なるものは、彼らが信奉する
大いなる意志と表現される自然界の力を感じられないことにある。オークなどの知能薄弱なモンスターを除き、彼ら亜人種は
この意志を尊重し、自然界の精霊と語り合うことによって自然と調和し、時に精霊の力を借りることによって、人間が先住魔法と
呼ぶ超常的な力をも行使する。
そのため、亜人たちの多くは自分たちが当たり前に聞くことの出来る精霊の声を無視して、自分勝手にふるまう人間を
よく思わずに見下している。
だが、人間たちからすれば聞こえないものは聞こえない。そのように生まれつきできているのだからしょうがない。例えば、
元より色盲で目ができている牛に色を理解させようとしてもできないのと同じようなものだ。
ただ、人間は動物と違って、自分の知覚を超えたものを感じることはできなくとも『想像』することはできる。時間を見ての、
ビダーシャルなどによる人間たちへの大いなる意志、精霊の講義はみっちりとおこなわれた。その結果、基本の基本と
いうレベルでの話であるが、コルベールとエレオノールを中心に、人間たちはある程度の知識を得ることができた。特に、
エルフの前でしてはいけないこと……精霊への禁忌については徹底的に学ばされた。
その最後の講義の後で、ビダーシャルは彼らに言った。
「これで、おおまかなことは終わりだ。本来なら、説明して理解できることではないのだが、お前たちが精霊の声を聞けない
以上はやむをえん」
「いえ、ハルケギニアではこうした講義すら聴くことができないでしょうから、それだけでも十分価値はありました。これで少なくとも、
なにが精霊への侮辱行為となるのかはわかりました。それだけでも、じゅうぶんすぎるほどの成果です」
コルベールの返答に、ビダーシャルは表情を変えないままうなづいた。
異種族間で対立が生じるとき、その原因には大きく無知がからんでくる。片方にとっての常識が片方にとっての非常識、
それを意識しないで交流しようとすると当たり前のように軋轢が生まれる。日本の小学校でも、ヒンズー教徒は牛を食べては
いけないなどを早期に学ばせるのはそのためだ。
むろん、エルフにもそうしたタブーはある。こうしたことを知っているのは、平時ではサハラ境界部で取引をおこなう商人たちなど
少数に限られて、一般の人間はほとんど知ることはない。それを知っているだけでも、無用な誤解を避けることができるので、
交流はずっと穏やかなものになるだろう。
その他にも、東方号のクルーたちは軍事などエルフたちの神経に触れない範囲で、学べるだけの知識を詰め込んだ。
「まさか、こんなところにまで来て勉強する羽目になるとは……せっかく国に残った奴らより楽できると思ったのに……」
水精霊騎士隊の少年のひとりの愚痴である。もとより、こんなことに首を進んで突っ込んでくる彼らのことだから、頭よりも
体を動かすほうが性分に合っているという者が多い。コルベールの頭の痛いところであるが、子供というものは大抵が
勉強が嫌いである。
ちなみに、銃士隊は王族親衛隊であるために平民出身ばかりの印象に反して学がある。ここでも水精霊騎士隊は
一人前の騎士になるためには様々な苦労が必要なんだなと、ため息を吐きつつサボれない授業にいそしんだ。
だが、一見すると地味に見えるこの積み重ねが、後々に大きな意味を持ってくるのである。
ハルケギニアの多くの民にとって、まったく未知であるネフテスの姿。たとえたわいもないものでも、それは謎という恐怖の
カーテンをおろして、エルフは怪物ではないということを人々に教えることが出来る。むしろ、他愛もないもののほうがいい。
ありったけの時間を利用して、学べるだけのことを学び取る。一週間という時間はあまりにも短く、あっというまに過ぎていった。
一方で、物理的な面でも帰り支度はおこなわれている。
六日目には、東方号の貨物室にはハルケギニアに持ち帰る荷物が山積みになっていた。見渡せば、工芸品、美術品、生活雑貨と
よくもこれだけ手当たり次第に集めたなといわんばかりである。
まあ、実際には倒壊した建物から掘り起こされた粗大ゴミを、この際だからネフテスの文化を伝えるために有効活用しようと
いう用途の、みやげ物の山である。武器、および書物の類の積み込みは認められなかったが、普通なら希少品のエルフの
品々をタダでもらえるのは大いなる得である。
しかし、積み込まれていく様々な品物を検分していたコルベールやエレオノールは、見れば見るほど、子供用の玩具や
部屋の飾りの花瓶ひとつにさえトリステインでは到底不可能なほどの細工を施すエルフの技術力に感服し、彼らを敵としてきた
事実に寒気を覚えていた。
「よくも、これほどの力を持っていながら六千年ものあいだハルケギニアに攻め込んできてくれなかったものね。あの鉄血団結党
みたいなのがもっと早くできてたら、人間は一年も持たずに全滅してたかもと思うとぞっとするわ」
「結局は、我々は獅子の慈悲によって生かされていただけのことだったのさ。が、それも過去のことにせねばならん。先人たちの
負の遺産は、我々の代で帳消しにしなくてはな」
しみじみと感じ入るようにコルベールは言った。自分たちが、どれだけ狭い世界の中にいたのかということが、ハルケギニアという
卵の殻から出てみてやっと実感できた。しかし、コルベールは劣等感を感じたのはもちろんだが、この過ちをハルケギニアの人々にも
わかってもらいたいと、漠然とではなく真剣に思い始めていた。
むろん、難しいというよりは不可能に近いことはわかっている。ハルケギニアに染み付いたエルフへの偏見は簡単に拭い去れる
ものではないだろうし、自分たち全員が敵として追われる事態のほうがはるかに現実味が高いだろう。が、知ってしまった以上は
口を封じて安全を決め込むのは罪だ。
聞いてもらえるかどうかは関係ない。まずは、固定観念という分厚い氷に覆われたハルケギニアの人々の心にくさびを打ち込む。
例えわずかなひびでも、その上から何度も叩けば、湖全体を覆う氷も叩き割ることができるかもしれない。いや、しなければ
いつの日か、今度こそエルフと人間は破滅的な最終戦争を起こしてしまうだろう。
自分たちは、歴史上最大の異端者として悪名を残すかもしれない。いや、そうなればハルケギニアの歴史そのものが終わる
だろうからどっちみち同じことだ。
滅亡か、前進か、この星の歴史が閉じるか開くかは、この星の人々にかかっている。恐竜は環境に安穏としすぎ、変化を
忘れたがために運命を閉じた。極端な例と笑うのは勝手だが、歩まずに眠り続けたら先にあるのは化石となることだけだ。
たった一週間であったが、これらの例のほかにもいろいろなことがあった。それらは皆の心に記憶として刻まれ、時が経って
必要になったときに思い出されることになるだろう。
時間を現代に戻し、東方号からボートの人になったエレオノールは、港で大量の荷物を抱えたルクシャナと鉢合わせした。
「おおー、先輩ご苦労様です」
「あなたはどんなときでもペースが変わらないわねえ。で、その大荷物ってことは、やっぱりあなたもまたトリステインに
来るわけね?」
「もちろん! まだまだ研究途上なのに現場を離れるなんてできるわけないでしょ。それに、私ほど蛮人に友好的なエルフが
ほかにいるでしょうか?」
どやっと、胸を張らせるルクシャナにエレオノールは含み笑いを見せた。
「私のエルフに対する警戒心というか偏見というか価値観を、ものの見事にぶち壊してくれたものねえ、あなたは……
まあ、止めても来るでしょう。せいぜい、忘れ物しないようにね」
「大丈夫! そんなことがないように、うちのものをまとめてかき集めてきましたから。ちょうどアカデミーの研究室も狭いなーと
思ってたんですよね。今度はスペースも有り余ってるし……ほらアリィー、ひとつでも落っことしたら婚約解消よ」
ルクシャナが、後ろでうごめていてる荷物の塊に声をかけると、その中から若い男性の声が響いた。
「ま、待ってくれ。そんなこと言って、今度という今度は逃がさないぞ。蛮人の世界なんかのなにがいいか、君の目を覚まさせてやる」
息も絶え絶えですれ違っていった荷物の塊を、エレオノールは無表情で見送った。どうやらすでにルクシャナの頭はハルケギニアに
飛んでしまってるらしい。あんな性格で、よく男があきらめずついてくるものだ。私も、あれくらい根性のある男がほしいとエレオノールは
ため息をつきながら思った。
「それにしても、あの子は東方号を移動研究所にするつもりなのかしら? いや、案外それもいいかもしれないわね。うるっさい
古参教授どもはいないで、好きなように研究できてどこにでも行ける……ヴァレリーを誘って本気で考えてみましょうか」
無意識に、エレオノールもルクシャナに影響されてきているのかもしれない。実際、東方号の中身はからっぽと言っていい
状態でスペースは余りに余っているので、やろうと思えばできないものはない。これは意外と妙案かもと、トリステインに
戻ってからのことに期待をはせた。
そして、数々の未練と置き土産を残して、人間たちとエルフたちの別れのときはやってきた。
「もう行きなさるか、名残惜しいが仕方がないのう。短いあいだじゃったが、君たちとは昔からの友人だったような気がするよ。
気をつけて行きなさい。次に来る日を、楽しみにしているよ」
見送りに来てくれたテュリューク統領と、エレオノールは握手をかわした。
見渡せば、テュリュークの後ろには見えるだけでも数千人のエルフが埠頭を埋め尽くしていた。別れを告げに来たエレオノールと、
水精霊騎士隊、銃士隊の面々はその中に、見覚えのある顔が気づけば数え切れないほどあるのに気づいた。
皆、自分たちとの別れを惜しんでくれている。見世物の動物や、安いアイドルのコンサートなどとは違う、直に語り合って
触れ合ったからこそ生まれる魂の結びつきがそこにあった。
>>388 マジンガさん元々機械だし、オスマンが固定化かけてたりしたら隙がないな。
タイガー戦車の代わりに怒りの日のマッキー大尉が…とか。
ウルトラ乙
>>400 このタイミングでマッキー言われたらMACのあれしか思い浮かばん
「この光景を、今回限りのものにしちゃいけないな」
整列した水精霊騎士隊の中で、レイナールがぽつりとつぶやいた言葉に、聞いていた数人の仲間がうなづいた。
見送りの式典は、華美さや仰々しさをはぶいた簡素な形で進み、代表者数人によるあいさつを中心にしたほかはめだった
イベントなどもなかった。テュリュークとエレオノールの元で、式典は儀礼に完璧に乗っ取った形で進行し、最後にビダーシャルが
いつもどおりの真面目一辺倒な顔で、人間たちの前に立った。
「この一週間、ご苦労だった。言うべきことは、すでに皆によって言い尽くされているから私からは特にない。強いて言うとすれば、
努力を怠るな。我々の今いる状況は安定したものではなく、非常にもろいガラス細工だということを忘れるな。本来ならば、
使者として私も同行したいが、ネフテスの再建と安定も楽ではないからな」
そこで口を閉じたビダーシャルの言いたい事はわかった。
壊滅したアディールの街の形だけは直ったが、内部組織はテュリュークの手でかろうじて支えられている状態だ。超獣軍団の
猛攻で軍が壊滅し、勝利は収めたものの人心はどんな小さなきっかけでも崩壊するかわからない。評議会はその象徴であった
塔もろとも威厳を崩れ落ちさせ、役立たずを露呈した議員たちの代わりはまだ見つかっていない。
それに、鉄血団結党の残党や、まだ人間に憎しみを燃やすエルフを抑えるために、その他の些事も含めるとビダーシャルが
ネフテスを離れるわけにはいかなかった。
「ただ、ひとつだけ願っておこう。我が姪と、勇敢な馬鹿者たちを頼む」
「わかりました。こちらこそ彼らには世話になるでしょうしね」
東方号にはルクシャナのほか、数名のエルフが乗り込むことになっていた。ネフテスのことを、直接トリステインに伝えるための
使者としてと、留学生としてである。また、反対に、こちらからも銃士隊員数名が残ることになっている。王家親衛隊である
彼女たちならば、その資格はじゅうぶんにあるといえた。
もっとも去り際に、「副長、今度来るときには花嫁衣裳見せてくださいよ」とか、「私たちもこっちで頑張りますから、いっしょに
砂漠で合同結婚式なんてどうですか?」などと公私混同もはなはだしいことを平気で言っていたから先が思いやられる。
トリステインの男にはろくなのがいないとかねてから言っていたが、ハーフエルフを量産するつもりなのだろうか?
まだお互いに名残は尽きない。しかし、終わりは迎えなくてはいけない。
最後に、ルイズとティファニアが前に出てテュリュークと向かい合った。
「お世話になりました。統領閣下、わたしたち人間を……そして虚無の担い手を、友として認めてくれてありがとうございました」
「わたしも、最初は怖かったですけど、ここに来て本当によかったです。ハーフエルフは中途半端なものじゃなくて、ふたつの
種族の架け橋になれる大切なもの。今なら、自信を持ってそう言うことができます!」
ルイズと、特にティファニアは見違えるほどたくましくなっていた。この地に来てから、彼女が自分の母についてなにを聞いたのか、
それは誰にも語らないし、誰も聞こうとはしていないが、明らかに彼女のなにかが変わった。そんな雰囲気を漂わせていた。
集まったエルフたちの視線は、ルイズと、多くはティファニアに集中していた。彼らも皆、ふたりがシャイターンの末裔だと
いうことを知っているが、そのまなざしは優しい。伝説などではなく、身を張って自分たちを救ってくれたティファニアの姿が、
彼らの理解を得たというなによりの証拠であった。
だが、使い手のうちふたりがエルフに敵対する意思がなくとも、シャイターンがエルフにとって潜在的な脅威であり恐怖であるのは
変えようがない。そこで交わされたひとつの約束を、テュリュークは皆に聞こえるようにして言った。
「では、そなたたちの始祖の祈祷書と、水のルビーはわしが確かに預かっておく。しかと見届けよ、よいな?」
あの日の約束どおり、虚無の秘宝はエルフの手に渡った。これで、ほかの虚無の担い手が悪意を持ったとしても虚無魔法が
完成することはない。代わりにルイズたちも新たな虚無魔法を得ることはできなくなったが、安い代償だとふたりとも思っていた。
「よろしくお願いします。もし、わたしたちを疑うようならば約束どおりに処分していただいてかまいません。けど、正直そんなもので
友情のあかしになるなら、いくらでも持っていってくださいという気分ですよ」
それは偽らざる本心だった。虚無魔法は惜しくないと言えば嘘になるが、それでエルフとの和解がかなうというのであれば
答えは最初から決まっている。それに、始祖ブリミルが虚無魔法を残したのは、聖地を『取り戻すため』であり、『奪い返すため』ではない。
虚無魔法と引き換えに平和が手に入るなら、それで役割は十分に果たせる。その点、誰にも一辺の後悔もなかった。
「シャイターンの……いや、もう小難しい感想を述べてもなにも変わらんの。そなたらのような者が、この時代に生まれておったことを
大いなる意志の導きに感謝しよう。そして、またの出会いがあることを、ネフテスすべてを代表して願わせてもらおう。さらばじゃ、
遠い国から来た友人たちよ!」
「皆さんも、お元気で」
友人としてのあいさつを経て、別れの式は終わった。
今こそ、旅立ちの時。涙ではなく笑顔で別れ、必ずここにまた来ると、誓いを込めて船は飛び立つ。
「反重力装置、動作正常。船体重量軽減に問題なし」
「水蒸気機関、一番から四番始動。各プロペラに動力伝達……いくぞ、東方号……発進!」
轟音とともに水しぶきをあげて、東方号は再び大空にその巨体を浮かび上がらせた。
全長四百五十メートルの巨体が、四基のプロペラを持った翼に風を受けて舞い上がり、アディールに巨大な影を投げかける。
見下ろせば、手を振ってくる大勢のエルフたちがいる。東方号は一回アディールの上空をくるりと旋回しながら、眼下に
色とりどりの紙ふぶきを降らせた。
まるで春の桜吹雪にも似た美しい光景が、別れの置き土産。これを最後に、東方号は一転して西へと舵をきった。
さようならエルフの国、目指すは皆の故郷ハルケギニア。
そのとき、アディールの市内でいまだに眠っていた土色の巨竜が目を開いた。
立ち上がり、空に向かって吼えるとゆっくりと歩き出す。しかし驚くエルフたちを尻目に、街には一切の破壊をおこなわずに
郊外に出ると、西の空を仰いでから、あっというまに地底へと潜って消えた。
その目の見ていた先は、ハルケギニア? それとも?
ゴモラも立ち去り、アディールは一見すると一週間前と何一つ変わらない、何事もなかったかのような姿になった。
しかし、街の形は同じでも、そこに生きる人々の心は大きく変わった。
六千年の因習を超えて、新たな道を歩もうとしているネフテスの未来は光か闇か。大いなる意志さえも、なにも答えてはくれない。
だが、自らの運命を力強く乗り越えていく船と、それに乗る人間たちの姿は、確かにエルフたちの胸に刻まれていた。
続く
今週は以上です。
ここまでのまとめになる話で、ちょっとくどかったかもしれませんがお楽しみいただけたでしょうか。
本来はこの話で完結、といきたかったんですけど書きたいことが多かったものでもう一話追加することにしました。
次回、99話で本当に二部完結です。偶然にもきりのいいところになりましたが、あと少しお待ちください。
では、また。
代理ここまで。さるさんっていったい何分経てば解除されるんだ。30分じゃ駄目で結局1時間以上待たされたぞ。
さるさんの解除は毎時00分
11:55にさるさん食えば12:00には解除、5分で済む
11:01に食らえばほぼ1時間待たされる
誤差考えれば確実に1時間以上
11:01にさるは食らわないんじゃね
00分にカウントもリセットだと聞いた
代理乙です
乙
ゴモラはってことはレイオニクスフラグ?
409 :
るろうに使い魔:2012/09/16(日) 23:58:01.05 ID:GO3oQgJU
ウルトラの人も、代理の人もお疲れ様です。
さて、最近忙しいせいですっかり投稿出来なくなりかけていますが、
とりあえず0時10分から新作の投下としたいと思います。
やったー
411 :
るろうに使い魔:2012/09/17(月) 00:12:11.21 ID:tMB9GSE5
それでは始めます。
トリステインのどこか、生い茂る森が立ち並び、その中にひっそりと隠れる廃墟の近く。ここには、オーク鬼なる生物が、廃墟を根城にして住みついていた。
人間のように立った豚。その言葉がしっくりと来るその怪物は、今、一人の人間を前に大勢で取り囲んでいた。
人間の肉が大好物な、野生の本能のままに動くオーク鬼共は、もしこれが『普通』の人間だったら、即座に襲いかかり、その血肉を喰らっていたことだろう。
こんな堂々と人と対峙する機会は、滅多にないからである。
では、何故襲いかからず、様子を見守っているのか。その理由は簡単だった。
その人間は『普通』じゃないからだ。
「ウグ…ウグルル…」
周りを数十ものオーク鬼が、取り囲んだこの状況。
例えメイジであろうと、この数相手に立ち向かえるほどではない。それはオーク鬼も経験から知っている。
少し犠牲が出るが、やってやれないことはない。
だが、同時に野生の本能が、この男と戦うな。と警鐘を鳴らしてくるのだ。
その証拠に、他のオーク鬼も、囲んではいるが遠巻きに、その手に持つ棍棒を威嚇がわりに振り回すだけで、我こそは、と先手を切って立ち向かう者はいなかった。
少しの間、そんな風に時間だけが流れていた。
しかし、遂にしびれを切らしたのか、何体のオーク鬼は、棍棒を振り上げて、人間に襲いかかった。だが…。
「グッ…グルル…」
その人間に睨まれただけで、腕は硬直し、足は止まり、戦意は容易く吹っ飛んでしまう。かわりに頭をもたげるのは、『その後』の事。
脳天を割られるのか、首を飛ばされるのか、それとも心臓を貫かれるのか。
『死』という強いイメージを抱かせる程に、その目は刃のように鋭く、そして冷たかった。
こんな相手は、オーク鬼が生きてきた中で初めてのことだった。
そんな中、遂に人間は動き出す。
足を止めたオーク鬼が、襲うためではなく、防衛の為に棍棒を構える中、人間は、ゆっくり目を瞑り、そして…。
412 :
るろうに使い魔:2012/09/17(月) 00:14:00.50 ID:tMB9GSE5
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
人間の叫び声と共に、溢れんばかりの気迫が、オーク鬼を襲った。
木の葉は弾け、周りの木々はそれにざわつく。オーク鬼は、ただただこの見たこともない現象に驚くばかりだった。
「グッ…グルアアアア!!?」
もう、オーク鬼に戦う意思など残ってはいない。
人肉よりも命が大事。欲求より本能の方を取ったオーク鬼は、そう決断すると行動はすごく早かった。
まるで脱兎の如く、オーク鬼は蜘蛛の子を散らすかの如く逃げ出していった。
第二十六幕 『タルブと謎の秘宝』
「オーク鬼が逃げてったよ…」
「ここは任せて、なんて言うから見てみれば…ねえ」
草木の後ろから、万が一を備えていたキュルケとギーシュは、ただポカンと口を開けていた。
「今のも飛天御剣流か何かかしら?」
「いえ…あれは、確か『気を引き締める』だったと思います」
「はぁ? 何よそれ」
「さあ…?」
そう話しているのは、さらにその後ろから見守っていたルイズとシエスタ。
シエスタの返答に、ルイズ達は疑問符を浮かべるが、シエスタ自身、何を言っているのかさっぱり分かっていないようだった。
「まあ、正確に言えば、あれは『剣気』でござるよ」
先程までオーク鬼と対峙していた人間、剣心は、不思議そうな顔を並べているシエスタ達に向かって言った。
「……ケンキ?」
「気合の一種でござる」
益々ギーシュ達は首をかしげた。気合でオーク鬼が逃げ出すなんて、聞いたことなかったからだ。
413 :
るろうに使い魔:2012/09/17(月) 00:15:49.14 ID:tMB9GSE5
「ってことは…あれは僕にも出来るってことかい?」
「頑張れば、そうでござるな」
冗談で言ったつもりだったのに…あっさり答える剣心を見て、ギーシュは余計混乱した。
いっその事、あれは『先住魔法』の一種。とか『実は虚無の力』とか言ってくれれば、まだ納得のしがいがあるというものだった。
というよりギーシュ達は、まだ剣心を「この世界」での常識で当てはめようとしていたのだった。
だって…魔法が絶対のこの世界。それなのにも関わらず、その魔法も無しにあんなに速く動く人間なんて、この世界の常識に考えて、いるはずないのだから。
「それより、早速彼等に退いてもらったのだから、今の内に早く探索を済ませるでござるよ」
こうして、お宝探索に出てから、それなりの日数が経った。
キュルケの持つ、宝の地図を頼りに捜索を進めてはいるが、大体は偽物や古い情報ばかりで、何もなかったり既に発掘されたあとだったりした。
ちなみに、この冒険には剣心が、あれ以来どこか仲良くなったコルベールを介して、オスマンにちゃんと許可をとっていた。任務をこなした褒美として、これぐらいは目を瞑ると、オスマンはそう言ったのだ。
しかし、未だに収穫はゼロ。まだ宝の「た」の字も見てはなかった。
「いい加減にしなさいよ。これで七件目じゃないの!!」
「だから、ある『かも』って言ったじゃない!!」
「まあまあ、二人とも」
その夜、またもやハズレを引いた一行は、皆消沈の意気を隠せなかった。
ぶつかり合うルイズとキュルケを嗜めながら、剣心は宝専用にとキュルケ達が持ってきた大きめな袋を見る。
理想だったら、中身は今頃金銀財宝で満帆になっていただろうが、悲しいかな、現実にそんなことが起こり得るわけが無く、入っているのは少ない銀貨銅貨ばかり。
ルイズ達貴族からしてみれば、端金と言っても過言でもないような額に、一行はガックリと項垂れているのだった。
「まあ、でも大体こんなものでござるよ」
勿論剣心は、そんな簡単に財宝が見つかるわけないと分かっていた。まず地図からして胡散臭いものばっかりだ。
414 :
るろうに使い魔:2012/09/17(月) 00:18:34.42 ID:tMB9GSE5
それに、これは最近塞ぎ込んでいたルイズの気晴らしにと始めた企画だったので、別に見つからないなら無いで、特に期待もなければ失望もなかった。
その内に、作っていた夕食が出来上がったのか、シエスタが元気な声でルイズ達に呼び掛けた。
「はい皆さん、お待たせしました!!」
そう言って持ってきたのは、大きな鍋。中身はシチューの様な感じではあるが、ルイズ達が普段食べているものとはちょっと違っていた。
「故郷名物の『ヨシェナベ』です。たくさんありますからどうぞ!」
シエスタは満面の笑みで、皆にシチューの入れた皿を手渡していく。
怪訝に見つめていたルイズ達だったが、口にしてみると、なるほど美味しい。今までルイズ達が食べたことのないような、さっぱりとして独特の味わいだった。
「へえ、美味しいじゃない」
「ありがとうございます。私も作ったかいがあります」
と、シエスタはここで、おずおずと剣心の方を見た。
美味しく食べてくれるルイズ達とは裏腹に、剣心はさっきから不思議そうな顔をしていたのだ。
「あの…ケンシンさんはどうです…か?」
何か粗相があったのだろうか、少し不安な表情で、剣心に聞いてみた。
剣心は、その言葉で我に帰ったようだった。
「え、ああ。ちょっと懐かしい味だなって、思っただけでござるよ」
「懐かしい、ですか?」
「う〜ん、そうでござるなあ……」
説明しづらそうに、剣心は空を見上げた。夜空は相変わらず綺麗で、二つの月が美しく
光っていた。
懐かしい…確かにそうだ。
何ていうか、シエスタの雰囲気は、このハルケギニアとはどこか違う感じがする。
仕草や容姿。作る料理も、どこか自分の故郷を思い出してしまうのだ。
剣心は、改めてシエスタをまじまじと見つめる。シエスタの方は、逆に見られている視線に耐えられず、思わず顔を赤面した。
それを見かねたルイズが、おっほんと咳を一つして、これみよがしに懐から、『始祖の祈祷書』を取り出した。
「突然ですが、ここで私が考えた詔を発表するわ。皆聞きなさい。拒否権はナシよ。そこのメイドとバカ犬も」
あくまで、剣心達の気を引きたいがために『始祖の祈祷書』を出したのだが、正直何も浮かんでない。だが、ここで引っ込むわけにはいかない。
「え、と。この麗しき日に、始祖の調べの降臨を願いつつ…えーと」
多少しどろもどろになりながらも、何とか前置きを語ったルイズは、さあこれからどうしようかと本格的に悩んだ。
「それで? 続けなさいよ」
「その次は何だい?」
キュルケやギーシュにせがまれると、もうどうにでもなれ、とルイズは逆に開き直った。
どうせ試作段階だ。これを発表するわけじゃない。
「…これから、四大系統に対する感謝を、詩的な言葉で韻を踏ませつつ読むんだけど…」
これを聞いて、俄然キュルケ達は興味がわいたようだった。燃えるような真っ赤な髪を掻き上げて、ルイズを見つめる。
「へえ、面白いじゃない。この私の『火』を、貴方はどういう風に解釈するのかしら?」
「…炎は、熱いので気をつけること」
瞬間、キュルケはガクっと肩を落とした。まさかここまで酷いとは思わなかったようだ。
「…それ詩じゃないし…てか、燃え上がるのが本領の『火』を、気を付けてどうするのよ?」
「うるさいわねえ…次は、風が吹いたら、樽屋が儲かる」
「それ諺」
今度はタバサが、目線を本から上げてルイズに突っ込んだ。
ここまで来ると、ルイズは頬を紅くして、ぷいっとそっぽを向いた。
「もういいわよ!! もう終わり。はいおしまい」
自分で始めたにも拘らず、ルイズはそう言って一方的に打ち切った。
「ちょ…僕の土は? モンモランシーの水は?」
特に期待はしてなかったが、いざシカトされると悲しくなったギーシュの声が、森に響きわたって溶けていった。
415 :
るろうに使い魔:2012/09/17(月) 00:20:33.86 ID:tMB9GSE5
それから暫くして、ルイズはため息をつきながらキュルケに言った。
「もうやめない? 収穫無いし…」
「あと一件、これで最後にしましょ!!」
そう言って、キュルケはまだたくさんある地図の中から、これはと思う物を取り上げた。
「これよ! 『竜の羽衣』。これにしましょう!」
その瞬間ぶほっ! とシエスタは食べていたシチューを、盛大に吹き出した。
「え、『竜の羽衣』ですか!?」
「? 知ってるの?」
「知ってるも何も、それは私の村に今も祀ってあります」
その言葉に、今度は全員が目を丸くした。
それからシエスタは、その『竜の羽衣』について語り始めた。
何でも、シエスタの曽祖父は、それに乗ってタルブへ来たらしいとのことだった。
しかし、飛んでいる姿を見たものは、村の中にも無く、その曽祖父も、わけあって飛ばすことは出来ないと言っていたので、半ば語り草のような形になったとのことだった。
その後、曽祖父はタルブに住み着き、一生懸命資金を稼いで、『固定化』までかけて大事にとっていたようだった。
しかし、ついぞその『竜の羽衣』が飛ぶ姿を、見る者はいなかった様だ。
「ふーん、そうなの…」
話を聞き終わった一同は、それぞれ何とも言えなさそうな反応をした。実物を見てない以上、どう対応していいか分からなかったのだ。
だがそれ故に、皆はどこか興味を示した様だった。
「でもまあ、どんなものなのか、見てみるのもいいわね」
「そうでござるな。それにこれでシエスタ殿の村へ行くのと、目的が一致した訳でござるしな」
剣心のその言葉に、シエスタは嬉しそうに微笑んだ。
「わ、本当に来てくれるんですか? どうしよう…皆に何て言ったら…」
少し体をクネクネさせながら、剣心を見るシエスタだった。勿論、ルイズにとっては面白くないことこの上ない。
しかし、タルブへ行くのは最初から決まっていたことだし、ここで反対するのも変だ。
仕方なく、といった感じで、だが鋭く目を光らせながら、ルイズは剣心達を見つめた。
416 :
るろうに使い魔:2012/09/17(月) 00:26:52.33 ID:tMB9GSE5
一行が、タルブへと到着したのは、その次の日の朝早くだった。シルフィードで一気に飛ばしてきた、というのもあったが。
早速剣心達は、シエスタの家へとお邪魔して、軽い挨拶を交した。そして次に、おずおずしくシエスタはルイズ達を紹介する。
「貴族の皆様方と、その…私の…だんなさ―――」
そこまで来たとき、言わせないよと言わんばかりにルイズのハイキックが飛んできた。
しかしシエスタは、まるで飛天御剣流を会得したかのような的確な読みと動作で、これを避けた。
空を切った蹴りの先には、ギーシュの顔面があった。
「何で僕が…」そう呟きながら、ギーシュは身体も意識も同時に飛んでいった。
「えと、ヒムラ・ケンシンさんです」
シエスタは、そこから何事も無かったかのように、剣心を紹介した。
その後、シエスタの家族に『竜の羽衣』のことを話し、剣心達はそこへと向かった。
やがて目に写ったのは、神社の社のような場所。
そこから中に入ると、そこには無骨な格好をした、ルイズ達にしてみれば変な物体が置かれていた。
「これが、『竜の羽衣』?」
シエスタの言ったとおりだ。とルイズ達も思った。どう見ても、こんなモノが空を飛ぶ訳がない。
無駄足だったかな…そんなことを考えながら、ルイズはふと剣心の方を見た。
「どう? ケンシン」
剣心も、この物体を不思議そうに眺めていたが、やがてその物体に貼られているマークを見て、驚きに目を見張った。
それは紛れもない、祖国『日の丸』の模様。しかし、剣心もこんな物体は見たことがない。
その時、突然に左手のルーンが光り始め、同時に剣心の頭の中に、この物体に関する情報が流れ込んでいく。これの名前、使い方、そして用途などが……。
「あの…大丈夫ですか?」
シエスタが、心配そうに剣心の顔を、覗き込んだ。端から見れば、具合でも悪くしたように見えたのだろう。
剣心は、何も言わずにもう一度、よく『竜の羽衣』を見渡した。そして、昨夜シエスタが言ってた事をもう一度照らし合わせてみた。
確かに…これなら合点がいく。どうやって空を飛んだか、今は何故動かないのか。
「ねえ、どうしたのよ。ケンシン!」
今度はルイズが、そう言って詰め寄った。ここで剣心は、気付いたように我に帰ると、改めてルイズ達の方へ向き直った。
「これ、知ってるの? ケンシン」
「ああ…そうでござるな…」
驚く面々を尻目に、剣心は視線を『竜の羽衣』へと戻す。
剣心は分かったのだ。これをどう使うのか、何のために作られたのか。それを知ったその顔は、どこか寂しく、そして切なそうだった。
「『ゼロ戦』…拙者の国で、そう呼ばれて作られたモノでござるよ」
今回はこれで終了です。ここの秘宝は普通にゼロ戦にしました。
ここのところ、時間が取れずに投下が遅れてしまい、申し訳ありません。
もしかしたらこんな風に投稿が遅れることがあるかもしれませんが、まだストックは書きためてありますので、
失踪はせずに続けていこうと思います。
それではここまで見て頂き、ありがとうございました。
ケンシンが戦闘機とかちょっとシュールやな
乙でござる
乙です
年代的に剣心とゼロ戦が交わる時期が無い気が…
乙で御座る
見たことがないものでもそれを武器として認識できるんだっけか?
最新刊でそういう力の描写があったな
朽ち果ててなんなのか分からなかった原潜の中の核ミサイルに反応してた
ストーンウォールジャクソンが埋まっててもおかしいしね。
見たこと無いものでも大丈夫だけど
地球と時間がリンクしてるから未来の武器は届かないけどな
るろうにの方乙
てっきり竜の羽衣は十本刀の爆撃かます人の装備かと思ってたw
剣心じゃ重すぎて飛べない上にワルドに打ち落とされるか…
るろうに乙!
羽衣どうするのかと思っていたが、時空を越えてきたか。
剣心が帰ったら既にみんな死んでるんだな
虚無に時間軸まで越える能力は…
才人がブリミルに会ったときの現象はタイムスリップしたんだっけ、それとも幻覚なんだっけ?
敵国語がどうたら言ってたご時世に「ゼロ」って読んでたのかなぁ?
とか全くもってどうでもよいことをふと思った
原作では時間リンクしてるけど、「何故か時間がずれてる」SSってのはいくつかあるよ
例えば、ルイズの使い魔とシエスタの祖母が、使い魔の元いた世界では同時代でパーティ組んでたとか
きちんと理由があれば、時間がずれてようが滅茶苦茶になってようが構わないかな
別にずれてるのは別にいいけど、ずれてると帰る時に支障が出るよね
骨埋める気なら問題ないけど
>>429 当時は「れいせん」と呼んでいたそうだ。
>>432 アニメでルイズが扉開いた時、サイトに地球を強く思い浮かべてくれとか頼んでたから
その方法で対象の行きたい場所時間に扉を開けるんじゃないかな。
>>433 鈴仙とな
時間はまったく関係ないです
>>433 現場では両方だった、と昔の新聞記者の記事で読んだことがある。
ゼロは日本語でもあるし。
公式には零式艦上戦闘機(れいしきかんじょうせんとうき)だから
「零戦(れいせん)」だけどね。
その辺の言論統制、庶民にゃあんま行き届いてなかったらしいね
斎藤一も牙突・零式(がとつぜろしき)と言ってたし
あまりどっちが正しいかなんてこたわる事ないと思うよ
時間越えるマジックアイテムあったから虚無で時間越えることはできるかも
そんなもんあったか?なに?
騎士姫とのコラボで出てきた箪笥
コラボってなんだ
ちょっと探したいからどんな場面だったか教えて
ゼロの使い魔 番外編 過去への箪笥
で調べれば少しは情報出てくるかも
まあ題名通り魔法の箪笥で過去にって話
thx
手に入れて読んでみよう、今後のネタになったらいいな
ふと思い出したが公式アンソロに侍の子孫と才人が会うのがあった
オリキャラがいい味出してた。意外とハルケには地球人の血も相当混じってるのかも
ある意味、一種のタイムカプセルやな
シエスタがサイヤ人の子孫やモンスターハンターの子孫という作品もあるんやで
神(作者)によって翻弄される佐々木一族
いつだったかシエスタの曾祖父が北斗の拳のハート様って話題が出て、それに閃いた人が描いた絵を投下してなかった?
たぶんアレが一番酷い被害だったと思うw
美心シエスタと坂崎のおっちゃんマルトーも負けてないと思う
シエスタの髪の色も当然先祖に応じて変わるだろうな。青や緑ならともかく、赤やピンク色の髪したシエスタはなんか不気味だ
赤やピンク色の髪した人が
>>451を魔法の的にしようとしてるぞ
ゼロの魔王伝のタルブ村は『バルバロイ』かもしれない
>>453 「誰の手も借りずにお前だけの力でお前の悪夢に立ち向かって見せろ!!」
>>443 毎晩毎晩箪笥の上にあがって、夜が明けるまで座っている話じゃないのか…
そういえばキノコの島にオスマンみたいなジジイがいたな。
ニーナとリンプーが召喚された場合……ニーナに詰め寄ってババルを食らうギーシュ
リンプーにセクハラしてにゃんにゃん棒で半殺しになるまでしばきまわされるオスマンが軽く浮かぶ
ブレスシリーズ女の子のかわいさとエロさは異常
ルイズ「私は貴族よ!」
朽木白哉「私も貴族だが?」
貴族としての矜持は兄様の方が上っぽい
済まぬとかいってやられるのはわかる
隊長勢で使い魔やってくれそうなのは
7、8、10、13番隊隊長くらいかな
ワンピースの世界貴族とか出てきたらルイズ激怒間違いなしだな。腐敗のレベルじゃゼロ魔貴族の比ではない
パタリロがいたら、「所詮貴族なんてそんなもんだ。」と言い切りそうだ
自分のとこの親戚をそういう風に見てる人だし
ジョゼフのとこにパタリロが召喚されたら親友になれそうな気がするw
>>463 数少ないジョゼフ改心ルートだな
ただしジョゼフが壊れる
んじゃ、ジョゼフが改心してきれいになるには、どんな使い魔がお奨めかね?
>>465 ドラちゃん呼んで泉に落とせばイイんじゃね
>>465 星雲仮面マシンマンだな。
カタルシスウェーブで一発w
>>465 不屈闘志くんと野球でもやったらいいんじゃな……いや真っ当な野郎キャラだと契約がアウト過ぎるなw
>>465 ガリア王国科学班統括(自称)トカ&ゲー
ハルケギニアの科学の躍進に貢献できてジョゼちゃんの心にも熱いものが灯るトカ灯らないトカ
>>469 そしてイザベラの容赦ないツッコミが炸裂するんですね、わかります
>>466 「あなたが落としのは、この綺麗なジョゼフですか?」
タバサ&イザベラ「「いえ!もっと汚いの!汚いの!!」」
>>471 「正直な方々ですね。ならばあなた達にはこの光り輝く黄金のジョセフを」
綺麗なジョセフか
ほとんどの事件が起こらなくなるな
むしろ善意からの行動で結果大騒動に
キラキラ瞳のジョゼフかwww
しかし綺麗になったら今度はシャルルがジョゼフ化しそうで怖くもあるw
もしジョゼフが暗殺されたらどうなるんだろ?
シャルルが人気取りに金ばら撒くとかしてたから汚職が横行する腐敗政治になりそうだが
>>476 X−MENから禿教授を呼んでみんな纏めて洗脳してしまえばよろしいw
世界規模で出来るぞあいつ。
>>476 そしたらシャルルも落とせ
兎に角汚いのは落とせ
元素の兄弟も落とせ
教皇も落とせ
綺麗なモット伯
綺麗なメンヌヴィル
綺麗なリッシュモン
綺麗なクロムウェル
シェフィールドはいいけどジャネットは落とすなよー
綺麗なルイズを求めて落としたら性格其の侭に乳が膨れたルイズが
「あなたが落としたのはこの”心の綺麗なルイズ”ですか。それともこの”スタイルの綺麗なルイズ”ですか。それともこの”ボリュームたっぷりのルイズ”ですか」
「心の綺麗なルイズ」は原作そのままの気がしないでもない
>>480 「来いよジャネット、銃なんか捨ててかかってこい!」
>>483 ルイズは元々心は綺麗だよ。ただツンデレなだけさ
心が汚ない人にはルイズの心も汚く見えるんだよ
>>485 今度コマンドーネタを言うとその指をキーボードに縫い合わすぞ
「来いよワルド!怖いのか?」
「ブッ殺してやる!ルイズなんて知らねぇ!イッヒッヒッヒ。ルイズにはもう用はねぇ!
アハハハハ・・・魔法も必要ねぇやぁハハハ・・・誰がテメェなんか!テメェなんかこわかネェェェ!野郎ぶっ殺してやああぁぁる!」
こうですかわかりません!
モンスターワールドからメカドラゴンを召喚。
ルイズにアピールしたいワルドが颯爽とやってきて倒すが、しっかりと呪われてしまう。
小ネタにあったはず>コマンドー
ワルドのはまり役だった>ベネット
死んだと思わせておいて再登場したら
「ワルド?死んだんじゃ?」
「トリックだよ!」
「いくらもらった?」
「100万エキュー、ポンッとくれたぜ」
てな展開なのか。
ワルドの小物感が凄いんだがw
小ネタのコマンドーはジャネットが蒸気抜きされることはないぞ
要注意だ
メイトリクス「お前は最後に殺すと約束したな。あれは嘘だ」
盗賊「うわああああ!!」
ルイズ「アイツはどうしたの?」
メイトリクス「離してやった」
こうですか?
シエスタ「マルトーさんマルトーさん、スモークチーズはあるかい?」
涼宮ハルヒ関連も召喚すると面白そうなキャラはいるな
既存のSSで完結してるのは長門召喚の奴のみだが
最近頻繁に更新してくれてた作者さんがたで何人か停滞してるけどせめて生存状況が知りたい
そうあせらすなよ
急かすようにして変に重圧になったら迷惑でしょ
>>497 その唯一完結してる長門のやつが文句なしに面白かったからなー
キングコングを召喚!
ゼロ魔はグラマー美女が多いから大変だな
>>486 まあ、根が単純だから猪突猛進だったり公爵家の生まれが影響したりするだけだな。
そこで疑問
ルイズは(というかゼロ魔メインキャラ)はDBの筋斗雲に乗れるのか?オスマンが無理なのは確定だけど
初期ルイズは無理じゃないの?原作ではかなり性格キツかったよね、後半は大分成長したけど
ティファニアなら筋斗雲乗れそう
クリリンも最初は落ちてたしな
ルクシャナは大丈夫そう
筋斗雲に乗れる要件って、「悪の心がない」だっけ? 「心が清らか」だっけ?
前者なら、例えば斎藤一@るろ剣に乗れるんだろうか?
当たり前の性欲すら拒否るっぽいから無理じゃね
公式ではアラレちゃんは乗れてたっけ
ルイズ 乗れる
タバサ 乗れない
アンリエッタ 乗れる
テファ 乗れる
シエスタ 乗れない
乗れんのテファだけだろ
アン様は絶対乗れない、絶対にだ
イルククゥも乗れるっちゃあ乗れるな
自力で飛べるから無意味だが
アン様は乗れるだろ
お花畑なだけでピュアだからね
淫乱だけど清純だからね
キュルケ、ジョゼフ、エレオノール、マチルダ、イザベラ、エルザあたりは案外乗れそう・・・・・・か?
案外垂れそうに見えた orz
つまりジョゼフにもおっぱ(ry
>>507 拒否られるのは過剰な性欲じゃね?
体を使って男を落とそうとするシエスタとキュルケはNGだろうな。
ちー姉さまは乗れる
ルイズ「そんな…純粋で穏やかな心でなければなれないはず」
キュルケ「私は、純粋に、穏やかに…男を求めた。そして、なったのよ、SuperBitchにね!」
>>516 意外とダメそう
ルイズもダメだろうな、ブルマほどじゃないけどまあ同じような方向性だし
ランチ(くしゃみ前)が乗れたことからすると、序盤のシエスタも乗れたと思われる
でも今は…
お前ら、スカロン店長を忘れるな。あの人はきっと乗れる
あの人は世間知に長けすぎてて無理だと思う
暴力で他人を脅したりするアラレが乗れるってことは割と制限緩いかもしれん
大人の悟飯も乗れてたしな
神龍だって悪人でない人間だけ生き返らせてくれってアバウトな願い叶えてるし、存外適当なんだろうな
アニエスやミシェルはため息をついてすさんだ自分を自嘲するかも
525 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/23(日) 16:44:39.22 ID:tFmJAhDX
巴マミと高町なのはと霧雨魔理沙を召喚。
タルブ戦にて
マミ「ティロ・フィナーレ!」
乗組員「砲撃!?いったいどこからだ!?」
なのは「スターライト・ブレイカ―ッ!!」
乗組員「うわぁああ!?先住魔法!?」
魔理沙「マスタースパーク!!」
乗組員「弾薬庫に火が、もう駄目だああア」
ルイズ「えくすp」
3人「ルイズ(さん)もう結構です(だぜ)」
マミさん召喚は素直に見たいなぁ
マミさんもいいがさやかも見たいなあ
そういえば多重クロスってアリなんだっけ?
アリだよ
タイトルからしてそのものズバリの、三重の異界の使い魔とかあるし
但し、書く難易度が高い(=途中で打ち切りになる危険性が高い)から敬遠される傾向ありだけどな
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説10巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック1巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスタ!!タバサぁああああああ!!!ティファニアぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
偏在を使って分身したワルドが見た物は視界を埋め尽くすほどに展開されたマスケット銃の弾幕でした>マミさん召喚。
冗談抜きでアレをやられたら避ける手立てが無いと思うのw
まどマギの魔法少女召喚でネックなのがGSの問題をうまく解決する方法がなかなかないことなんだよなあ
>>533 時効だからぶっちゃけるけど、
女神まどか召還→概念持ち込みでハルケ世界改変:1周目
改変された「魔法少女」が存在するハルケ世界でほむら召還:2周目
というネタに走った短編なら考えたことがある
魔獣がいるハルケギニアだからこれならソウルジェムもなんとかなるかなと
魔法少女が召喚された拍子に世界律が混ざって、ハルケギニアに魔獣が発生し始めるとかありそう
それではゼロ魔が踏み台だ
十分後にデュープリ第三十五話投稿したいと思います。
間が開いて申し訳ない。
魔獣は、魔法使いのいるハルケならそんなに困った存在でもないって事にすりゃいい
ようは、ソウルジェムの曇りを取るための存在でいいんだから
いるって事だけわかれば、メインストーリーから外してしまっても困らない
元々亜人のいる世界なんだし
第三十四話『戦う理由』
「ねぇ…まだ食べちゃ駄目なの〜?早かろうが遅かろうが結局はあたしの胃袋に入るのは変わらないじゃん…」
ミントは目の前に並ぶ豪華な料理を前にうんざりとした様子でルイズに問う。
「我慢なさい…それともあんた、あのお母様のお叱りをまた受けたいの?」
ルイズも又小声でミントにそう注意をするとチラリと母カリーヌを見やった…厳しい視線はバッチリとミントを捕らえている。
その様子に同じく厳しい視線を送るのはミントをまだ唯の異国のメイジとしか認識していないエレオノールで柔らかくニコニコと見つめるのは一つ下の姉カトレア。
ミントがルイズの実家を訪れて既に一夜が明け、ミントは朝食を摂る為に既に豪華な料理が並んだダイニングルームに招かれルイズと並んで席へと着いている。と、扉が開かれ一人の男性が堂々とした態度で現れた。
端正な髭を蓄え、モノクルを付けたまさに上流貴族、公爵としての威厳に満ちた風格。
ミントは一目でその男性がルイズの父ヴァリエール公爵である事を理解した。
「おぉ、久しぶりだねルイズよ。」
「お久しぶりですわ、お父様。」
何故ならルイズの姿をその目にした瞬間、公爵はその威厳が吹き飛ぶ程にデレデレと頬を緩めたからだ。
「さて…」
キリッと音を立て、公爵の鋭い視線が蘇りミントの姿を値踏みする様に見つめる。それを受けてミントも腰掛けていた椅子から立ち上がると公爵へと澄ました笑顔を向けた。
「初めまして、公爵さん。アンからはどういう風に聞いてるかは知らないけどあたしがミントよ。一応ルイズに召喚された使い魔のね。東方のメイジって事になってるわ。」
「あぁ、初めまして、ミス・ミント。君の事は陛下からは既に三度のトリステインの危機を内々に救った『救国の英雄』でありルイズと共に『大切な親友』だと聞いているよ。
一応ルイズの使い魔と言う事からヴァリエール家預かりの国賓として扱って欲しいとは伺っている。君には迷惑を掛ける形にはなるがこれからも陛下とルイズを頼む。」
「えぇそのつもりよ。一応帰る方法の目処が付くまではね。」
公爵はミントの堂々としたその物言いにアンとマザリーニから聞いて以来半信半疑であったミントが王族であるという話に真実味を感じ取っていた。
「待たせてすまなかった、それでは食事にしよう。」
厳かな雰囲気での食事が一段落付いた頃、唐突に口を開いたのはヴァリエール公爵だった。
「ルイズ、学園での生活はどうだ?」
極普通にありふれた質問、しかしそれは子を持つ親としては当然の心配であった。
「はい、相変わらず系統魔法に関しては失敗続きですが貴族としての何たるかはミントと共に学園で精一杯学ばせて貰っております。」
ルイズはナプキンで口元をそっと拭いながら父親の問い掛けに当たり障り無く答える。内心嘘を吐く事の後ろめたさと自分の系統が伝説の虚無である事を声を大にして自慢したかったがそれは出来ないのでグッと堪える。
「なーにが貴族としての何たるかを学んでるよ…ついこないだ覚えたのは皿の洗い方でしょうが…」
そんなルイズの内心を知らずミントは隣に座っているルイズにしか聞こえない程の声で意地悪く呟いてクククと笑う。ルイズは引き攣った微笑みは崩さない…
「ふむ、そうか…陛下はお前を高く評価していたがお前のそう言った所を評価して下さっていたのだな…しかしそんな陛下を唆しおって…全くあの鳥の骨め。」
ヴァリエール公爵が苛立たしげに口にしたのはマザリーニ枢機卿の所謂詐称であった。
「何かありまして?」
「先日、ゲルマニアとの共同でのアルビオンへの侵攻が決行される事が正式に決まったのだ。まだ年若い陛下をあの鳥の骨が唆したに決まっておる!!そもそもアルビオンを屈服させるのにこちらから攻め入る必要など無いのだ。
包囲線を密にしいてしまえば浮遊大陸であるアルビオンは直に音を上げるはずだ。今開戦しては兵力も国財をも悪戯に消耗するだけなのだ。」
ヴァリエール公爵はトリステイン国内でも良識ある貴族であるし国境を守り受ける立場にある、故に戦においては必勝を得る為に慎重な意見を持つ。それは決して悪い事では無い。
それでも…
「お父様は開戦には反対なのですか?」
ルイズの意外な問い掛けに一瞬公爵は目を丸くする。
「当然だ、わざわざ攻め入らんでも戦は幾らでもやりようがある。…………ルイズ、お前はまさか戦場に行きたいなどとは考えておるまいな?」
「…私は姫様に忠誠を誓いました。故に姫様が戦場に赴かれるならば共に行きます。」
公爵の言葉にルイズはそうはっきりと答える。予てより既にアンリエッタと共に闘いに赴く事はルイズは心に誓っているのだから…
これがルイズにとっての父親への初めての明確な反抗だった…
「駄目よっ!!戦場なんて男の行く所よ、魔法も使えない貴女が戦場に行って何になるというの?」
「ルイズ…私も貴女の意思を尊重したいけどやっぱり心配よ…」
二人の姉からも同様に厳しくと優しくとそれぞれルイズを心配する声が上がる…
そして母カリーヌはじっと厳しい視線でルイズを見つめ続けた。
「…ミス・ミント貴女もルイズが戦場に向かおうとしている事を止めないのですか?使い魔であるならば当然貴女もルイズと共に行く事になると思いますが?」
そして以外にもカリーヌが次に声をかけたのはこれまで我関せずといった様子をとっていたミントであった。
当然突然ミントにお鉢が回ってきた事で全員の視線がミントに集中する。
「ミント…」
ミントならば自分を肯定してくれる…そう思うと同時にルイズの脳裏には不安がよぎる。
「そうね…あたしも今アルビオンに攻め入るのは正直どうかと思うわ。」
「ほう?」
「あたしなら…そうね、ここから三年よ。三年あればゲルマニアとの同盟を利用した軍事改革で一気にトリステインの戦力を5倍…いいえ、10倍には出来るわ。勿論やるからにはアルビオンの連中は徹底的にボコボコよ。」
「「……………………」」
軽い調子で語られるミントの馬鹿げた構想にダイニングルームからは一瞬言葉が消え、ルイズは頭痛を抑える様に目頭を押さえて天を仰ぐ…
それでもミントはそこで一度切り替えるかの様に表情を引き締めるとその視線をそのままヴァリエール夫妻へと向けた。
「…とは言っても、それはあくまで真っ当な戦争だったらの話よ。あたし達が本当にやっつけなきゃいけない奴は他にいるわ。それには残念だけどやっぱりアルビオンには今攻め込まないといけないと思うわ。
勿論あたしもルイズも前線で戦う訳じゃ無い、狙うのはこの戦争の裏でコソコソと卑怯な真似をしてる黒幕よ。」
ミントのその物言いに先程まで呆れていた夫妻が些かに興味を抱いたらしく崩れた姿勢を正す様に椅子に座り直し視線で続きを促すと静聴の姿勢をとった。
「あいつ等が水の精霊からちょろまかしたアンドバリの指輪を持ってる限りいつ誰がいきなり操られるか何て分かった物じゃないし、死人だって無理矢理操られて戦わされる事になるわ…あのウェールズみたいな事はもうあっちゃいけないの。
あんなふざけた悪趣味な真似をしてくる様な奴らを野放しに出来る?あたしには無理よ。だからアンも戦うって決めたんだろうし、ルイズだってそうでしょ?
ルイズやアンが行くからじゃない、まして他の誰かの為なんかじゃ無い、結局あたし達はあいつ等のやり方が気に入らないから自分の意思で戦うのよ。」
「むぅ……アンドバリの指輪とな…」
公爵の表情が一気に曇る。先日のウェールズによるアンリエッタ誘拐未遂事件の顛末は聞いていたが成る程確かにミントの話を信じるとしてアレの存在を失念してはどの様な策も内から崩されるだろう。
「お父様…」
ルイズの思いを勇ましく代弁してくれたミントと同じように、ルイズは決意の籠もった視線を父に向ける。
しかし公爵はしばし唸る様に思案を続けた後に頭を大きく横に振ったのだった。
「ならんっ!!ルイズよ確かにアンドバリの指輪は驚異だ。ならばこそそれを鑑みた戦を我々が考え、トリステインを守るのが務め。
思う所もあるであろう…しかし!!わざわざお前達が進んで危険に飛び込む必要は何処にも無い。
ルイズ、お前はあのワルドの件で少しばかり荒れているのだ…戦が終わるまで屋敷に残れ、そして良い機会だ。婿を取れ、そうなれば自然と落ち着きもするだろう。」
「お父様っ!?」
「この話は以上だ!!わしはお前が戦に向かうのを何があろうと許す気は無い!!」
にべも無く強い口調で言い切って公爵は足早にダイニングから退室していく。ルイズは横暴とも言える父の態度に尚も抗議の声を上げたが二人の姉からそれぞれ嗜める声を受けて結局顔を伏せてしまった。
(…全く…)
ミントもヴァリエール公爵の去って行く背を冷ややかに見送る。ルイズもそうだがその父親も不器用極まりないものだ…娘が心配なのは解るがあれを自分の親父がやったらと思うと段々と腹が立ってくる。
結局朝食はそのままお開きになり、ルイズは沈み込んだ気持ちのまま屋敷の自室で無為に一日の時間を過ごし、ミントは殆どその日一日カトレアにせがまれて身体の弱い彼女の話し相手になってやっていた。
自分の見聞きした話、学園でのルイズの話を面白おかしく語り、カトレアからは幼かった頃のルイズの話を聞く。
ついでにお世辞にも良好とは言えない自分のクソ生意気な妹マヤの事を語った際にはカトレアは「それはあなたに良く似てとても素敵な妹さんね。」等と随分的外れな事を言っていた。
ベッドの上から儚げな微笑むカトレアは髪の色と言い、纏っている天然でふんわりとした雰囲気と言い何となくだがエレナに良く似ているなとミントは感じた。
(親父やマヤ…ルウにクラウスさん達元気にしてるかな?………………ベル達やロッドは間違いなく元気ね…)
___ ヴァリエール邸 深夜
「起きなさい…起きなさいルイズ。…いい加減起きろ、このッ!!」
「ゲフッ!!」
双月が天上に輝く深夜、突然に自室で寝ていた所をミントに無理矢理に叩き起こされたルイズがベッドから蹴落とされた状態からノロノロと立ち上がり、寝ぼけ眼でミントを睨む。
「何なのよミント…こんな時間に人を叩き起こして…」
そう不平を言うルイズだったがそれも当然だろう。しかし、ミントは腰に手を当てたまま呆れた様にルイズを見下ろしたままだった。
「今からここを出て魔法学園に帰るわよ。シエスタにはもう昼間の内にあたしがこっそり用意した馬の所で待たせてるから、あんたも早く出発準備済ませてよね。」
「はい?」
何が何だか解らないと言いたいルイズを尻目にミントがルイズの荷物をさっさと鞄へと詰め始める…
「このままじゃあたし達マジでここに軟禁されるわよ。要するに家出よ。それとも何?あんたここに残って誰とも知らない男と結婚する?何もしないまま。」
「そんなの嫌よ!!」
ここでようやく起き抜けのルイズの思考の靄も晴れてくる…意地悪く言いながらミントはいつの間にか自分の出発準備を整えてくれていた。
ミントに放り投げる様に渡された自分の制服と杖が「ボスッ」と音を立ててルイズの手の内に収まる…
「そう、だったらさっさと行くわよ。」
言ってミントはルイズの返答に対して満足そうに笑った…
____ ヴァリエール邸 大正門
ルイズとミントはこっそりと屋敷を脱して何とか三頭の馬を連れたシエスタと合流を果たした。
道中何名もの遭遇するであろうヴァリエール家の衛士達についてはどうするのかというルイズシエスタ両名の疑問にミントは「眠っててもらうわ。」
と答えていたが結局正門前までそれらしき人物には遭遇する事も無く辿り着いてしまった。
「これは幾ら何でもおかしいわ…ここにはいつだって見張りの人間が居るはずよ。それなのに誰もいないだなんて…」
「でもお陰で誰も傷付けずに済んで良かったじゃないですか〜。」
支援
首を捻るルイズに対してシエスタは心底安心した様な表情を浮かべる…幾らミントとルイズの為とはいえヴァリエール家の人間に危害を加えるなど考えただけでも恐ろしい話だからだ。
「……残念ながら、そうでも無いみたいよ…」
「えっ?」
と、ミントは風に流された雲の隙間から覗く月明かりに照らされた暗がりの正門の向こうに立ちふさがる一人の人影を発見して手綱をグイと引くと馬の足を止めさせた。それにならってシエスタとルイズも己の馬の足を止める。
「恐らくはこの様な事だろうと思いました…見張りの者達は今晩は引き上げさせています……彼等ではいざという時に邪魔にしかなりませんからね。」
その静かな物言い、聞き慣れた声ににルイズの心臓はまるで鷲掴みにでもされているかの様な錯覚を覚え、顔中から脂汗が吹き出しそうになる…
「か…母様…」
そして、思わずミントの背中にも冷や汗が伝う…それほどの威圧感が目の前に立ちはだかる人物からは放たれていた。
「己の意思を貫くは尊き事…ですがそれには伴った力が必要なのです。貴女達が行く道は厳しき茨の道、それを思えばこの『烈風』という障害程度…見事乗り越えてみせなさい。」
『烈風』といえば生きた伝説のメイジ、一度その名が戦場に響けば敵は恐れおののき竦み上がり、味方は高揚するどころか巻き添えを恐れてその場から撤退を始めるという…
その正体はルイズの母親カリーヌ・デジレであり、引退したとはいえ未だハルケギニア全土でも並ぶ者のいない無双の勇士。それを己を程度と評し今ミント達の前に立っている…
烈風が杖を振るい、風が夜を裂く様に踊る…
ミントはいつの間にかすっかり乾いていた自分の唇をペロリと舐めるとデュアルハーロウを構えて馬から飛び降り、背に背負ったデルフリンガーの鯉口を切る…
「起きなさいデルフ、あんたの出番よ。」
「…起きてるよ、相棒。あんだけやばい相手を前にして寝てられるかよ。」
そうして遂に鉄仮面で口元を隠しているルイズの母親と対峙するのだった…
「…上等よ…………出し抜いてやろうじゃない…」
これで今回は終わりです。
更新遅れがちですが俺は生きてる内はしょぼしょぼ頑張るよ。
投下お疲れさまです
デュープリズムの人、乙です!
今回のミントはいつもみたいに「ボコボコにしてあげるわ!」って言いませんでしたね……
それだけ余裕の無い相手ってことなんでしょうが。
>>534 ほむらほどガンダールヴが似合うキャラもそうはいないな。
ヴィンダはまどかでミョズはマミさん、リーヴスラシルはさやかのためにあるようなもんだ。
上の筋斗雲の話題で思ったんだがソーのムニョムニョを持ち上げることのできるゼロ魔キャラはいるのだろうか
高潔な魂の持ち主が絶対条件だけど
ん〜〜、ジョセフ?
キュルケなら可能
イタチェあたりが召喚されたらワルドの偏在なんか見せ場もなくおわってしまうな…
遍在は犠牲になったのだ…古くから続く誤字の伝統…その犠牲にな…
投稿乙です
ちょっと小ネタで暴走気味だが投稿いいかな?
558 :
557:2012/09/26(水) 01:01:56.20 ID:cRUvwHFv
他に投稿予定の方もいらっしゃらないようなので小ネタですが投稿します。
この作品には特定の国家指導者に対する侮蔑と受け取られかねない表現が多数含まれていますが
それらは決して人種や文化に基づく差別を助長するものではなく、歴史上の如何なる文明・人物・団体をも
平等に貶める意図を持ち作成されたものです。
桃色の少女が呪文の詠唱を終えると同時に閃光が走り、爆発音が炸裂した。
おや?長距離砲の真下で砲撃を見学していたかな?などとでも一瞬思っちゃうような衝撃が
その場にいた教師・生徒合計40名あまりに襲い掛かる。
「ごほっ!ごほっ!げーっほ!ごほっ!」
むせ返る音がそこら中から発せられている。徐々に砂煙は収まり、ピンクブロンドの可愛らしい少女が姿を現した。
「ミス・ヴァリエール!無事ですか!?」
教師と思わしき頭の薄い男性が、口元を袖口で覆いながら、薄桃色の髪の少女に呼びかける。
「ごほっ!…だ、大丈夫です!だいじょ…」
少女が応えて振り返り、頭の毛の薄い教師―コルベールを見る。だが途中でその言葉は詰まることとなる。
コルベールという教師が目を丸くし、訝しげな表情となり、首をひねったからである。
ヴァリエール、すなわちルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールはコルベールの視線を追って、
正面に向きかえった。そしてそこで見たのである。
『会えて嬉しいぞ、ルイズ! 余と貴公でそれぞれ5万人ずつの奴隷を生け贄とし、この出会いを祝おうではないか。』
なんというか実に奇妙な風体の男が天を仰いで祈りを捧げるように、そこにいたのだ。
なぜかウィンドウの中に、上半身のみの姿で。
色とりどりの羽と人間のどくろで飾られた冠を身に付け、上半身はほぼ裸。浅く日焼けした肌、そして狂気に満ちた瞳。
なぜ自分の名を知っているのか?などという疑問が浮かぶ余裕もなく、ルイズは呆然とその男を見ていた。
いつもならば「ゼロのルイズ」と囃し立てる同級生たちが一言も発しない。完全にこの奇妙な男に飲まれていた。
「み、ミス…ミス・ヴァリエール…け、けいや…契約の儀式を…」
コルベールがようやくそれだけの言葉を吐き出す。教師としての職務を果たそうとする姿勢は立派だがそんな空気ではない。
だが異常な状況でいつもの行動を取ろうとするのは仕方がないことなので責めてはいけないのだが。
「け、契約って…え?これ…と?」
思わず後ずさりするルイズ。コルベールの指示はこんなものにファーストキスをささげろという命令に等しい。
よく見ると上のほうにはこんな風に書かれている。
−モンテスマ(いらだっている)−
ああ、モンテスマって名前なのね。なんでいきなりいらだってるのかしら?だなどとよく考えると異常なことを冷静に受け止める。
(ちなみにいらだっているのは異宗教ペナルティと主敵交易ペナルティが原因である。)
「な、なんでいらだってるのかわからないけど、とりあえず落ち着いて…」
ウィンドウの先のモンテスマに声をかけるルイズ。『平和が何よりなのだ。』と答えてモンテスマの姿が消える。
…え?
そう、消えてしまったのだ。あっさりと
「き、消えた?」
「消えたぞ?」
「な、なーんだ。やっぱりゼロのルイズだ。召喚したやつをあっさり逃がしてやがんの。だっせー!」
息を吹き返した同級生の軽口が飛び交う。ただ全員まだ血の気は引いたままで顔色は悪い。
「先生…あの、消えちゃったんですけど…?」
どうしていいかわからず絶望的な表情でコルベールを見る。コルベールも放心していたがすぐに気を取り直し
「み、ミス・ヴァリエール。し、仕方がありません。再度召喚を…」
『仏教に改宗することを強く勧めるぞ、ルイズ。宗教戦争というものは酷なものだからな。』
再びウィンドウが現れ、またもやモンテズマが登場する。驚き慌てたコルベールが足を滑らせ、腰をしたたかに打ちつけた。
「ぶ、ぶぶぶぶ、仏教!?なにそれ??」
いったいこれは何を言ってるのだろうか?突然現れては消え、勝手に苛立ち、何かを要求してくる。かなりいらっときたが、
どう考えてもまともではない格好の男が相手である。ルイズはできるだけ相手を刺激しないようにと気を使いながら
「も、もうしわけないけどその仏教ってのがよくわからないので…改宗って言われても…」
するとモンテズマは首を掻っ切るようなジェスチャーをしながら
『この報いはかならず受けることになるぞ』
と捨て台詞を吐いて消えた。
「…な、なによあれ…」
怒涛の展開でへなへなと腰が砕け、地面に尻餅をつくルイズ。だがしばらく経つとムカムカしてきた。
いきなり改宗しろだの生贄だの言われた挙句、なんだあのジェスチャーは!と思い、立ち上がった次の瞬間
パ パ パ パ ウ ア ー ド ド ン
「な、な、な?なんの音??」
再び尻餅をついてしまう。突如ラッパの音が高らかに響き渡ってきたのだ。そして三度現れるモンテスマ。
『なかよしごっこもここまでだ!(宣戦布告)』
なにがなかよしごっこだったのか不明なまま、突如宣戦布告を食らう。
次の瞬間、すさまじい音が後方でなりひびく。
後方へ振り返ったルイズの目に映ったのは、カタパルトとジャガー戦士で構成されたデススタックが学園に横付けされた姿であった。
→ メニューにもどる
もう1ターンだけ…
561 :
557:2012/09/26(水) 01:05:16.89 ID:cRUvwHFv
以上です。知らない人にはさっぱりわからぬ駄作で申し訳ない
それでは
乙。システム的に4かな
ハルケギニアの技術って他作品じゃ中世、場合によっては古典時代な扱いだけど
テクノロジーツリーに当てはめると、銃士隊や大砲・艦隊技術があることから考えて
何気にルネッサンスの初めなんだよな
前提技術の大部分が魔法で補われちゃってるけど
せめて原作名を書いてくれよ
悪名高き廃人ゲームの一角を知らんとな
多分civ
ハルケギニアでは武器や防具は錬金で作ってるという誤解は多いようだが、
メンヌヴィルが巨人焼いたシーンとか見ると明らかに戦争に必要な武器兵器の製鉄は職人が鎔鉱炉で行ってる
造船所に煙突が立ち並んでいる(魔法で製作するならいらんはずだ)という描写もある
>>561 乙です。
まとめの小ネタには様々な出会いがあるね
こんばんは40分頃から投下します。
ウェールズを乗せたシャルルとその風竜は全速で飛び続ける。
しかし魔法による補助を加味しても、重量の分だけ距離は確実に狭まりつつあった。
アルビオン皇太子という、ある種の枷と重圧こそあれ、シャルルにとっては恐れるほどではなかった。
追撃は二騎ぽっち。引き離せないのであれば殺すという選択になるだけである。
それが例え精強なアルビオン竜騎士であったとて――。
「殿下、迎撃に入りますので振り落とされぬようお願いします」
「・・・・・・わかった、よろしく頼む」
ウェールズは素直に従う。シャルルの表情に焦りなどが見出だせなかったからだった。
竜の上での戦闘において、ウェールズは殆ど門外漢に近い。
高速で飛行する中での攻防は、相応の修練を必要とする。
俄かな連携は邪魔にしかならず、精神力の無駄遣いだけに留まらなくなる。
「ユビキタス・デル・ウィンデ」
シャルルは『遍在』の魔法を唱えた。
――その意思によって自らの分身を複数創り出す、風のスクウェアスペル。
シャルルがもう一人増えて、竜の上は三人となる。速度差が命取りになる空中戦において、遍在は一体が限度であった。
しかしメイジが一人とメイジが二人とでは雲泥の差が生じる。
本体のシャルルは巧みに竜を操り、防御と回避に専念する。
遍在のシャルルは『ファイアー・ボール』をいくつも放つ。
攻撃と防御を完全分担することが出来るのが『遍在』の最大の強みであった。
基本的に魔法は一つの詠唱、一つの魔法が原則である。
"掛け捨て"は種類が限られるし、そうでない魔法の同時行使には多大な集中力を必要とする。
魔法による攻撃と防御を切り分ける。二つの魔法を同時に扱える。
人の動きを超える動きが出来て、単純な数を作るにも効率が良い『クリエイト・ゴーレム』とも違う。
遍在もまた本人であるゆえに、完璧な連携でもってあらゆる状況に応じた戦闘の展開を可能とする。
それこそが風の『遍在』であり、単一メイジながら複数メイジを擁せられる数の優位性である。
――十数発目の『火球』が放たれる。
撃たれた数だけ回避行動をとり続けた敵竜騎兵達の歪んだ動きの瞬間。
シャルル達の乗る竜が突如として急上昇した。
急激に落ちる速度、敵との間合、そしてタイミング、全てが符号する。
その僅かな機を、さも予定通りと言わんばかりにシャルルは『ウィンディ・アイシクル』を形成出来た分だけ全てを叩き込んだ。
ウェールズは無数に串刺しにされた騎士と竜の墜落を見つめながら、その美事な戦い方に感嘆した。
『遍在』というスクウェアスペルを使える、メイジとしての確かな実力。
乱れなき空中機動を難なくこなして見せる熟練の竜捌き。
そして夜空でもはっきり目立つ、追尾性能と爆発性能を備える『火球』でもって、敵を誘導しまんまと嵌めた。
敵の二騎陣形を崩し、孤立させたところを待ち構え、『氷矢』の弾幕で仕留める。
それら一連の流れが漏れ一つなくシャルルの計算通りであり、掌の上の出来事だったのだ。
これほど完璧にこなすには、力量・頭脳・経験、三拍子全てが揃ってなければ不可能な芸当。
しかも平然とこなしてみせる絶対の自信と揺るがぬ胆力。
元とはいえ同じ四王家に連なる一族として。単純に一人の武人として。
嫉妬を抱かずにはいられないほどの、才能と努力の両輪あってのことだろう英傑――。
――シャルルが駆る風竜は、次いで分断された残る敵竜騎兵へ向け、一転して翻るように急降下した。
『風盾』による障壁をいくつか張ることで、不可視の誘導路を作り出す。
高度差と速度差を利用して、シャルルは正確無比な一撃を相手に見舞うと即座に離脱した。
二騎を確実に墜としたのを確認し、遍在を消したシャルルはすぐさま速度を戻して竜を操る。
増援なども考えれば、早急にトリステイン領内まで向かわねばならない。
味方でありながらも、ウェールズはその身を震わせた。
多数であれば一対一の状況を作り出し、そうなればかくも容易く打ち倒す。
確実を期してかつ消耗を抑えた戦い振り。元ガリア王族にして、トリステイン首都警護にあたる雄。
正規軍ではないとはいえ、我がアルビオン国の竜騎士を赤子の手を捻るかの如く屠り去った。
精鋭中の精鋭でも、太刀打ち出来るのかと疑問視してしまうほどの実力者。
「少々荒れましたが、大丈夫でしたか?」
「大丈夫だ、何も問題はない」
あの程度で気分を悪くなろうものなら、武人の名折れというものである。
それにあれでなお同乗している自分に気遣った竜機動であったことくらいは、ウェールズとて気付けた。
たった今見せつけられたシャルルの強さを鑑みてれば、我々に危険が及ぶことはもはやないだろう。
後は船に残った皆の無事を"祈る"ことしか、ウェールズに出来ることはなかった・・・・・・。
†
――ルイズは目を必死に瞑って"祈る"ことしか出来なかった。
魔法も使えない、銃器も扱えない。自分は足手まといでしかない。
だから何にでも縋るように思い続けるしかなかった。
始祖の祈祷書を胸に、神に祈る――始祖ブリミルに祈る――。
祖国に――姫さまに――家族に――友人に――そして使い魔に。とにかくなんだって良かった。
(お願い・・・・・・)
修羅場の音に畏怖し、足が竦んで動かないながら・・・・・・ルイズは導かれるように目を開く。
瞳に映ったのは戦場の光景ではなく、指に嵌めた水のルビーと始祖の祈祷書であった。
どうしてか惹き付けられる。今にも死ぬかも知れないのに、引き寄せられるように祈祷書を開く。
すると水のルビーが輝き、始祖の祈祷書のページまでもが光りだしたのだった。
わけがわからない・・・・・・わからないけれど、何か意味がある確信だけは脳髄を打つ。
古代のルーン文字を読み進める。周囲の状況など遮断されるほどに終始する。
そこに書かれていたことは、ルイズの半生の中で最も驚愕し衝撃を受けたことだった。
――この世の全ての物質は小さな粒で構成され、火水風土の四系統はその粒に干渉する。
――『その力』は小さな粒を構成するさらに小さな粒に影響を与えて変化させる。
――それは"四"ではなく"零"。『虚無の系統』と名付けられた。
(嘘・・・・・・?)
でなければ夢としか思えない。いや実はもう自分は死んでいるのかともすら思う。けれど心のどこかでは理解していた。
つまるところ始祖ブリミルが使ったとされる伝説の系統『虚無』について、序文として記されてあること。
しかし――もしこれが"本物の始祖の祈祷書"であれば、書かれている内容そのものへの疑問は不要であった。
6000年も前に始祖ブリミル本人が、その手で書いたものと思うと感動を通り越して絶句する。
ルイズはただひたすらに、考えるのは後にして、無心でさらに読み進める。
(わたしが・・・・・・)
――始祖の祈祷書を読む者は、始祖ブリミルの行動・理想・目標を受け継ぐ者であること。
――伝説の『虚無』の系統を扱い、"聖地"を奪還すべくこと。
――『虚無』は膨大な精神力を消費し、時に命を削ることがあるということ。
――ゆえにこそ才ある者が指輪を嵌め、始祖の秘宝をその手に持つことで授かるということ。
(わたしなんかが・・・・・・選ばれた?)
始祖の祈祷書に書かれていた内容を見ればルイズは虚無魔法の行使者として選ばれたということになる。
四系統の魔法が今まで使えなかったのも、召喚されたブッチが『ガンダールヴ』を刻んだのも――。
全て自分が"虚無の担い手"だからなのだと認識する。
そして続く文面に、今まで欲してやまなかったことが記されていた。
(――『エクスプロージョン』)
初歩の初歩の初歩の虚無の呪文『爆発』。
コモン・マジックはほんの少しだけではあるが使えるようになった、しかして四系統魔法は使えなかった。
だが今は火・水・風・土の四系統を飛び越えて、伝説の虚無を扱えるかも知れない。
(もしかして・・・・・・魔法を使うたびに爆発してたのも、言ってみれば――)
それもまたヒントだったのかも知れない。火系統が使う爆発とも違う性質。
学院の教師だけでなく、色々と詳しいシャルロットもついぞ説明出来なかった。
支援
(つまりシャルロットも・・・・・・)
虚無の担い手なのだろうか。キッドが『ミョズニトニルン』を刻んだ。
四系統魔法を使えず――わたしのように乱発するようなことはなかったが――爆発していた。
『虚無』は伝説だ。シャルロットですら、自分達が虚無なのではという大それた予想はしなかった。
ブリミルが聖地に降誕して6000年。以降使う者がいなかったとされる伝説。
『虚無』そのものが荒唐無稽とさえ密かに噂されるほどであり、同時に畏れ多いものでしかない。
しかし今――ここにその伝説が具現したのだ。いや・・・・・・これから証明される。
詠唱のルーンを眺めるだけで自然と頭に入る。否、既にあった記憶を掘り起こすかのように馴染んだ。
ルイズの唇の端が上がる。劣等感に苛まれ続けてきた人生とは、もう御然らばだと。
もうわたしは足手まといじゃない。みんなを――今まで馬鹿にしてきた連中を見返せると。
心の中の何かが溶けていくような感覚の後に、ルイズは確固たる瞳を空へと移す。
一丸となって戦っている皆の姿。見ているだけだったこれまでを、変える。
(・・・・・・大丈夫)
ガンダールヴ――ブッチ――が守ってくれている。だからわたしは気兼ねなく詠唱出来る。
ルイズは杖を取り出し視界を閉じた。あとはその口が詠ってくれる。
「エオルー・スーヌ・フィル・ヤルンサクサ――」
ゆっくりと、確実に、溢れ出るほどの魔力が体中を駆け巡る。
これがいわゆる――自身に合致した系統を使うと感じるらしい――うねる感覚だろうか。
詠唱を紡ぐほどに加速していき、もはや己に不可能などないといった気分になっていく。
始祖の祈祷書を読んでいた時のような集中力で、周囲の音が完全に消える。
長く続く詠唱の途中でルイズは気付く。何故だか頭の中で、"これで充分"とわかったのだ。
暗く無音の世界から、感覚を解放し周囲を把握する。
仮に長い呪文を完全に詠唱を終えていたなら、たった一人で戦術兵器足り得るその威力。
その気になればあらゆる物質を消滅可能な、文字通り『虚無』の魔法。
初歩の初歩の初歩で、これほどのものなのかとルイズは戦慄する。
だが幸いにも『虚無』は言わば"武器"であった。『虚無』そのものに意志はない。
要は使い手次第ということ。"武器"を手に持つ者の意思次第なのだ。
一度放てば全てを無慈悲に飲み込むわけではない。生殺与奪はわたしが握っている。
ルイズは杖を振り下ろし、『エクスプロージョン』を開放した。
杖の先の虚空で、夜を照らす小さな光球が一瞬だけ停滞した後に急激に膨張する。
目が眩まんばかりの光の中で、ルイズは母胎の内にいるような安らかな心地を覚えていた。
そしてルイズは選択する――。――敵は殺さず。――敵船の風石を消す。――大砲を消す。
――味方は殺さず。――ブッチも乗っている竜騎兵は殺さず。――船の燃えている部分を消す。
数瞬の内に光球は収束し・・・・・・全てが終わっていた。
風石という推進力を失った敵船は墜落する。下は海であり、当然この高度から落ちれば粉々になるだろう。
願わくば乗員が『浮遊』なり『飛行』なりで脱出してくれることをルイズは思う。
「すぅ・・・・・・はぁ・・・・・・」
ルイズはじんわりと呼吸を繰り返す。未だ残滓があるような夢見心地。
落ち着いてきて周囲へと耳を向ければ、無事生き延びた皆が動揺で叫んでいた。
自分達のことだけで手一杯だったのか、わたしがやったこととはバレていないようである。
唯一人を除いては――。
「やるじゃねえかよ」
ブッチは敵竜騎兵を脅して甲板へと降ろす。
その重量だけで船は傾き、この船も長くないようであった。
「さっさと全員乗れ。ギリギリ行けんだろ」
船の火事は止めたものの既に損傷酷く墜ちかけ。ウェールズ達の安否も心配である。
さらなる敵の新たな追撃なども危惧すれば、ここはさっさと退避するのが良い。
トリステイン特使達も早々に合流し、次々と『浮遊』で乗って行く。
しかし虚無に目覚めど系統魔法は使えないルイズには、ブッチが手を差し伸べた。
二人は互いに不敵な笑みを浮かべ合う。ガシッとルイズはその手を掴むと、一気に引っ張り上げられた。
「もうちょっと優しくしてよ」
「はっ、もうそんなタマじゃねえだろうが」
絶体絶命の状況下で戦果を示した少女に、ブッチは相応の評価をしていた。
ただ一度の実戦が少女を目覚めさせ、戦士としての成長を促したのだ。
全員が乗ったのを確認すると、風竜はゆっくりと落ちていく船を下に眺めつつ、大空を窮屈そうに舞った。
晴れやかな表情を浮かべるルイズの胸の内は、今いる夜空のように澄み渡っていた――。
†
シャルロットとキッドは証拠品の羊皮紙とメンヌヴィル小隊のセレスタンをシティ・オブ・サウスゴータにて引き渡した。
その後、然るべき日にトリステインへ戻って来たのは――結婚式予定日のおよそ四日前であった。
アルビオンのロサイスから、港町ラ・ロシェールへ。
さらに首都トリスタニアへ到着する頃にはかなり日にちが経っていた。
通信連絡用の魔道具人形で、ある程度の情報を相互交換して警戒していた。
が、道中の襲撃もなく、特に何事もなく、極々普通に、無事戻って来れた。
さらに事の仔細は、アルビオン側からトリステインに伝わっている為、改めて報告の必要もなかった。
歓待の為にパーティを催してくれているというので、間を置かずに城へと向かう。
急ぎ正装に着替えて会場へ向かうと、慎ましいがそれでも豪華なパーティが始まった。
わざわざシャルロット達の到着を待っていたことに恐縮しつつも、心遣いを素直に受ける。
キッドとブッチは普段お目にかかれないほどの料理と酒を存分に楽しむ。
シャルロットはひとまず王女と王子に挨拶し、報酬の件について後々話す約束を取り付けた。
次に父シャルルと話した後に、最後にルイズの元へと向かった。
二人は無言でワイングラスを鳴らして乾杯する。
「おかえり」
「ただいま。お互い大変だった」
「うん・・・・・・」
シャルロットはルイズの煮え切らない――浮かない顔に首を傾げる。
「どうしたの?」
「ちょっと待って」
そう言うとルイズはグラスの中身を一気に飲み干す。その勢いのままにルイズは言った。
「後で部屋に行くわ、話したいことがあるの」
「・・・・・・? わかった。ただ先にアンリエッタ様と話すことがあるから、私がルイズの部屋に行く」
†
"交渉"を終わらせた後、シャルロットはルイズが泊まっている客室へと招かれる。
「ごめん、遅くなって――。それで、どうかしたの?」
ベッドに座るルイズの横に、シャルロットは腰掛ける。
下を向いていたルイズはゆっくりと顔を上げると、シャルロットを見つめて言った。
「・・・・・・虚無――」
シャルロットは心臓が一度だけ大きく高鳴る。ルイズは開口一番何を言うのかと。
先の交渉の中でも、アンリエッタにすらテファのことは話していない絶対の秘密だ。
"虚無"という単語が出たことに、シャルロットは必死に声色を保つ。
「――が、どうかしたの?」
「使えるようになっちゃった」
「ッ・・・・・・えっ」
一瞬呆ける。聞き間違いかと思って確認するが、ルイズは確かに虚無を使ったことを肯定した。
「そうなんだ」
「うん、・・・・・・あまり驚かないのね?」
既にテファがいたからなどとは言えない。彼女のことは例え半身のジョゼット相手であっても言わない。
「ブッチさんにも秘密に」とキッドにも言い含めてある。信用していないわけではないが、秘密とはそういうものだ。
「これでも驚いてる。・・・・・・おめでとう」
「ありがとう。でも・・・・・・その、なんか裏切りみたくなっちゃってごめん」
「何を言ってるんだか――」
シャルロットはルイズのおデコをコツンと軽く小突く。
確かに互いに同じ境遇で一蓮托生みたいな節はあったがそれは全くの別問題だ。
「うぐ・・・・・・だけど・・・・・・」
(あぁ、きっと――)
ルイズはこちらに驚きこそなく、微妙だった私の表情を読んだのだろう。
伝説の虚無なんてものに先んじて覚醒したということに、私の不可解な態度を勘違いした。
だからこそ何か居心地の悪さのようなものを感じたのかもと。
もちろん嫉妬や劣等感は全く無いとは言わないが、そんなことは些末なことであった。
シャルロットが微妙な表情だったのは、単純に立て続けに判明した虚無を扱う者の存在そのもの。
ティファニアだけに留まらず、ルイズまでも――。
「確かに羨ましくはあるけど、気にすることない。私はルイズの成長に素直に嬉しいと感じるから。
それに裏切ったと言うのなら・・・・・・地下水でまがりなりにも魔法を使えてた私の方が先」
ルイズはコクリと頷く。気にするなと言われれば気にしない。
言われてまで余所余所しいほうが、かえって失礼にもなる。
そして虚無が発現した流れを、ルイズはザックリと語った。
帰国の船で襲われたこと、その中で始祖の祈祷書に書かれていた大まかなこと。
その上で虚無系統に覚醒し、実際に虚無の魔法を使って撃退に至ったということ。
「なるほど、そっか・・・・・・ルイズが――」
改めてシャルロットは意識する。二人目の『虚無』。二人目の伝説。
「そうなの、だからシャルロットもきっとそうなんじゃないかって」
ルイズは始祖の祈祷書を取り出すと、シャルロットに渡す。
「ルビーもいい?」
「構わないわ」
土のルビーが贋物である可能性も考えて水のルビーを借りる。
少し前には土と風が並び、今は土と水が美しく並んでいた。
そしてシャルロットは書を開いて集中して見るものの、目に映ることはついぞ何もなかった。
「・・・・・・ルイズには読めるのね」
シャルロットは目を閉じると、半ば諦めたように祈祷書と水のルビーを返す。
幼き頃の香炉の時も、ついこの前のオルゴールの時も一緒であった。ルビーも祈祷書も、何も起こる気配すらなかった。
「その・・・・・・さ、シャルロットもその内目覚めるわよ。わたしも襲われて初めて目覚めたんだし!!」
妙な言い回しで、姫さまから下賜された始祖の祈祷書を押し付けるように渡そうとしてくるルイズ。
何やらおかしな感じになっていることにシャルロットは苦笑する。
「いやいや、それは結婚式で使うでしょ」
「あっそうね」
シャルロットは丁重にお断る。考えなしのルイズのその気持ちは嬉しい。
しかしアンリエッタ姫殿下から親愛なるルイズへと、渡された秘宝を受け取るなんて出来るわけもない。
「それに私のところにも、始祖の香炉があるし」
正確にはジョゼットの持ち物だが、言えば貸してくれる。
とはいえ6000年前の物だから偽物という可能性も無いとは言えないが――。
「ルイズの読める内容――詳しく聞いてもいい?」
ルイズは頷いて書を開く。夜も更けて既に三日後に控えた結婚式。
その際に読み上げる詔のように悠然と朗読する。
オルゴールの歌と違って直接的な文言。
その語られる言葉が、6000年前もの偉大な始祖ブリミルのものだと思うと不思議な感覚だった。
メイジの礎を築いた伝説の人が書いたことを、実際に耳の当たりにしていることが感慨深い。
ルイズが読み上げた内容を聞きながら頭で整理しつつ、シャルロットはナイフの中の意思へと心の中で語り掛けた。
(どうなの? デルフリンガー)
(あ〜・・・・・・まぁあのエルフの娘っ子だけじゃなく、こっちの嬢ちゃんも目覚めるとはね)
(つまり複数人いる可能性はあったと)
(そうだね、相棒ももしかしたら覚醒する可能性あるかもね。あくまで可能性だけど)
そう――可能性はあるのだ。と、シャルロットは自分に言い聞かせる。
なければないで不便はない、嫌なことだが既に慣れてしまっていた。
(内容については?)
(んー、とりあえず必要に迫られた時に目覚めるってことかな)
(つまり?)
(おっぱい大きい娘っ子も、ちっちゃい娘っ子も――)
(・・・・・・・・・・・・)
(――本当に欲しい時に使えた。そういうこった)
(・・・・・・今の私には必要ないから、秘宝はうんともすんとも言わないと)
(かもね、本当に相棒が"虚無の担い手"なら・・・・・・だけど)
(歯切れが悪い)
(そりゃあ変に期待持たせて、ガッカリするのなんて見たくないかんね)
シャルロットはデルフリンガーとの会話を閉じて黙想――しようとする。
(いや・・・・・・考えるのは後にしよう)
今はルイズがいるし、"もう一つ考えておくこと"もある。
すぐに考え込もうとするのは悪い癖であった。過ぎたるは猶及ばざるが如し。
考え続けるのは大事だし、思考を止めるのは駄目だが、"込む"のは良くない。
少なくとも今は、ゆっくりじっくり悩むのを後に回す。
「『爆発』・・・・・・」
始祖の祈祷書の内容では初歩の初歩の初歩らしいが、テファの『忘却』と比べれば攻撃的だ。
必要に応じて必要なものが示されるというのは、まさにこういうことなのか。
ティファニアも絶体絶命の状況だったからこそ、『忘却』に目覚めて危機を脱した。
『爆発』でなかったことは、使い手の気性でも反映でもされているのか。
秘宝が一体どういう情報を、どのように受け取って、どう判断しているのかは謎であるが――。
「そうよ、光が一切合切包み込んでわたしは選んだの。その気になれば全てを消せたけど、風石だけを消すって」
「便利・・・・・・と同時に恐ろしくもある」
「確かに恐いけど、使い方を間違えなければ大丈夫よ」
さらにルイズは詳しく状況を語ってくれた。
ルイズ自身はあまり覚えてないそうだが、ブッチ達が報告した統合情報を伝え聞く。
(・・・・・・んん?)
シャルロットはふと気付く。全てを包み込んだという光球を生み出した『爆発』。
そんなものを一体どこから捻り出したというのか。そもそも虚無に"クラス"があるのかと。
系統一つのドット、二つのライン、三つのトライアングル、四つのスクウェア。
それぞれ一度に掛け合わせる系統の数に応じて、メイジのクラスは決定される。
"ランク"が上がるごとに、概ね使える精神力の総量や消費量も変化する。
個人差はあれど、一般的にラインよりはトライアングルの方が魔力も多く、より効率的に魔法を扱える。
「ルイズは今も四系統は使えない?」
「そうね、でもコモン・マジックは何故か完璧に出来るようになったわよ」
そう言うとルイズは唱えてみせる。確かに未だに半端なシャルロットのコモン・マジックとは別物であった。
虚無の覚醒が完全なスイッチだったのか。ルイズは自信に満ち満ちていた。
そしてテファ同様、ルイズも系統魔法に関しては一切使えない。
つまりは虚無と火水風土を掛け合わせるようなことはないということだろうか。
であれば、虚無のみを掛け合わせる・・・・・・ということになるのか。
「ルイズは虚無のドット――ということになる?」
「・・・・・・? どうかしら、そもそもラインとかトライアングルがあるのかすらよくわからないわ」
一つの疑念が湧き上がる。どうして今まで調べようとしなかったとも思う。
「ルイズ」
「なあに?」
シャルロットは地下水を抜くと刃の方を持って、柄をルイズへと向けた。
ルイズは疑問符を浮かべながら、差し出されたナイフを反射的に持ってみる。
「どう? 地下水」
「・・・・・・そういうことか。少なくとも今のシャルロットよりは多いな」
ルイズは地下水がいきなり喋ったことに少しだけ驚く。
インテリジェンスアイテム自体は珍しくもないし、フーケの時に話は聞いていた。
そしてシャルロットはやっぱりと、得心したように頷く。
さらに"もう一つの共通点"。
地下水は持ち手のそれを自分に上乗せすることによって、魔法をより強力に使える。だから大まかに測ることも出来る。
続く闘争で大分目減りしていても、私のそれはまだまだ他のメイジの追随を許さぬほど膨大で余裕がある。
――にも拘わらず、ルイズは今の私よりも多いと地下水は言った。
「どういうこと?何が多いの?」
「ルイズも私同様、精神力の底が見えないってこと――いえ、私がルイズ同様と言ったほうがいいのかも」
シャルロットは地下水をしまいながら、もうちょっと早く思いついていればと悔やむ。
テファにも触れてもらっていればより確実な共通点になったかも知れないのにと。
「それじゃあ・・・・・・」
「まぁ状況証拠に過ぎないけど――」
「間違いないわ!!」
ルイズの満面の喜色にシャルロットも楽観的に嬉しくなる。
――『ミョズニトニルン』という使い魔。――系統魔法が使えないこと。
――魔法を使えば失敗し爆発すること。――膨大な魔力を蓄える器。
これほど合致していて違っていたらむしろおかしいとさえ思う。
あとは恐らく"必要に迫られる"という条件だけだ。
(必ず習得して見せる)
新たな決意と同時にシャルロットの気がどこかで一本抜けた。
召喚の儀の前までは絶望しかなかった・・・・・・今は揃った前提が違い過ぎる。
「でもこのことは誰にも言わないで。姫様であっても」
「へ? あぁうん、でもどうしてよ?」
ルイズは疑問符を浮かべる。アンリエッタさまにすら言わないで欲しいとはどういう了見なのだろうか。
「実際に使えるようになったら全然構わない。でも変に期待されるのだけは・・・・・・ね」
ルイズはハッと気付く。それは自分も持ち続けてきた悩みだ。
ラ・ヴァリエールの娘として幼き頃から期待をされていた。
なまじ姉二人が優秀だった為になおのことである。
学院に入学してもしばらくは続いた。傍から勝手に期待されて落胆される辛さ。
幻滅されるくらいなら最初から期待されない方がマシであった日々のこと。
双子のジョゼットがいるシャルロットも同じなのだ。
「わかったわ」
ルイズははっきりと約束する。やむを得ない事情でもない限りは言うことはない。
それがたとえ姫さまであったとしてもだ。
そんなルイズの固い瞳にシャルロットは「ありがとう」と小さく告げた。
「それにしても・・・・・・『虚無』、か。図らずも『ゼロ』のルイズの二つ名がピッタリになるなんて」
シャルロットはフフッと笑う。成功率"ゼロ"のルイズが"虚無"のルイズと重なる。
「ぐっ・・・・・・いい思い出はないけど、確かに今となってはむしろ相応しいのかしら」
「誰が最初に言い出したかは知らないけど、ある意味先見の明があった」
二人でクスクスと笑い合う。あれほど馬鹿にされたルイズが伝説に目覚めた。
あまつさえ揶揄の為の二つ名が、まさにお誂え向きなものになるとは痛烈な皮肉だ。
今まで馬鹿にしてきた連中に、丁寧な感謝の言葉でもって言い返してやりたいところであったが――。
虚無は伝説であり、同時に戦術兵器であることがわかった。
ゆえにアンリエッタ達の判断で、公にすることは禁じると厳命された。
とはいえシャルロットやキッドなど、事情を知り秘密を守れる近しい人ならば問題ない。
シャルロットの可能性を考えて、今宵は話すことに決めたのだ。
(私の――)
二つ名は何になるのだろうとシャルロットはふと考える。
自分はルイズと同じような立場であり、成功率も"ゼロ"だった。
しかし周囲を黙らせる程に、魔法以外の修練に励んできた。
意地っ張りで良くも悪くも向こう見ずなルイズと違い、失敗するとわかっていて魔法を使うことはなかった。
地下水の存在もあって、精神力の無駄にもなると、結果が同じことを繰り返すような真似はしなかった。
ただそれだけの違い。だがそれゆえに未だに二つ名がついていない。
ジョゼットが無理やり名付けて、流行らせようと画策したこともあったが当然拒否した。
(いつの間にか浸透しているもの・・・・・・か)
出来るならば――本人を象徴するようなものは勘弁願いたいと思う。
二つ名とはそのメイジたる由縁。『雪風』然り『微熱』然り、その特性によって付けられるのが慣例だ。
術者の名を知らしめるものであると同時に、その性質を聞く者に暗に伝えてしまうことにもなる。
ゆえに用心深いシャルロットにとって手の内を知られるような二つ名は好ましくない。
今の内に適当な魔法を大仰に使って二つ名を――なんてどうでもいいことを考えていると、ルイズが口を開く。
「ねぇ、シャルロットの方の話も詳しく聞かせなさいよ」
「・・・・・・ん。でもどこから話したものか」
あぁ、今はこの時間を楽しむことにしよう。
夜も更けに更け、酒も入っている体。
揃って意識が落ちるその瞬間まで、二人は語らい続けたのだった――。
すみません、連投規制に引っかかりました。
以前は10回は余裕でしたが、運営のほうで忍法帖が消えたトラブルの所為で最初から上げ直し……。
しかもタイミング悪く投下量が多い回、さらに容量が480KBを超えたので、
次スレも立てようと計画してたのですが、規制範囲の見通しが甘かった……。
投下自体は以上です。支援どうもありがとうございました。
アルビオン編はこれにて終了。次回以降はまぁ、色々と。ではまた。
次スレは一応試してきます。何一つ音沙汰なかった場合は規制だと思いますので、その際は申し訳ありませんがどなたかお願いします。
579 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/27(木) 01:08:22.66 ID:rn6KcujM
ドリフターズの人、投下、スレ立てお疲れ様
ドリフ乙です
スレ立て早くね?
・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
>>565 背景を詳しく書いてないけど、なんか描写が安定してないと言うか魔法があってもいびつな発展で、どう書けばいいのかさっぱり
一部には技術的に近代に片足突っ込んだものもあるのは確実なんだが
第零遊撃部隊を召喚
タルブの空をフェニックスならぬアヒルが駆け抜けていく
>>565 高価な武器はデルフの店にでてたなんたら卿の剣みたいにメイジの手作りみたいなイメージかな
もしくは工程の一部にメイジの手が入るとか
レキシントン号の大砲は腕利きメイジを集めまくって作ってるし、需要によって普通に両方あるというだけの話
587 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/09/28(金) 20:31:25.07 ID:ntcfc14d
ま、メイジ(貴族)使って量産なんてとてもじゃないが出来ないだろうな
少数限定品ならともかく量産とか無理だろ。精神力的にも根性的にも。
>585
シュペー卿だっけか。
……WW1のドイツ東洋艦隊のマクシミリアンならまだいいが、虚無の翼のだったら目も当てられん。
メイジだけで作ってたら非効率だろうしねえ
埋め?
サガフロ2のがいいところで止まってる…畜生
ギュス様のやつはパワーバランスとかもいい感じだよね
エターナル
>>564 論説部かアンチ魔法少女か銀龍か、それが問題ですね
なんもなければ12:45くらいからウルトラ代理いくよー
あ。ごめんなさいよくみてなかった
つーかいい加減埋めようぜ。
埋め
600 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/02(火) 00:41:45.86 ID:y3qMTaog
ヒアー
ポヨポヨ観察日記のポヨ召喚とな
アクマの人はプライベートが忙しいだけでプロットもモチベーションも満タンに100ペリカ
ディーキン?
次スレで“無能王×教皇”と言うのが浮かんだが『ゼロの腐女子』を書く人に任せた。
>601
『丸の使い魔』ですね分かります。
それとも『○の使い魔』かな?
しかし、樹るうの描くルイズがすごく目に浮かんで満足なので自分は書かなくてもいいや。
ポヨと言われ、何故か余の名はズシオを思い出した……何故だ。
あのメンバーの誰を呼んでも蹂躙される光景しか浮かばないのに。
瑠璃家さん……アンジュ・ズシオ姉弟に比べりゃルイズはかなりマシだよな。契約時のキスが凄くトラウマ刺激しそうだけれど
契約の瞬間、謎の呪文が思い浮かび喜んで唱えたら使い魔がヅカキャラに!?
埋めついでにミーディアム復活希望
ミーディアムと聞いてワイルドアームズを思い出した。
そんなのあったっけか、と思って調べたらローゼンメイデンだった……何故忘れていたのだろう。
原作だとマスターって呼ぶからじゃね?
マスターといえば武装神姫で主人公がそう呼ばれていたな。
アレが召喚された場合、どう思われるんだろう?
呂布だって“Master at Arms”だぜ。
埋め
マスターチーフ…
マスター・シャーフーたちなら亜人で片付く上に獣拳を学べるな。
『ウォーハンマーFRP』の『魔術の書』に収録された“上級ルーン鍛冶 ; Master Runesmith”ならマジックアイテムを作って貰える。
だからと言って基本ルールの“上級魔術師 ; Master Wizard”や“盗賊頭 ; Master Thief”はいかんだろう。
『救済の書』の“聖堂騎士団長 ; Grandmaster”も異端扱いされそうだ。
同じドワーフに見えても『堕落の書』のケイオスドワーフがなれる“上級妖焔術師 ; Master Sorcerer”は危険すぎる石像だな。
ギーシュ「た〜か〜の〜つ〜め〜」
>>616 ウォーハンマーFRP、というかオールド・ワールドから召喚してくると
もうバッドエンドしか見えないw
ハルケギニアの世界観には凄いマッチしそうだけどさ
ウォーハンマーならノベルズからデトレフとか呼んでほしい
中年小太り親父の伊達男に惚れるルイズとかさ
ジュネは完璧超人すぎるよなあ
霧亥さんを待ち続けている
そういえば一話ウィキに登録がしてないのがあったな
ケインとリンチを召還とか
ニッチすぎるか
最近ルイズの男性名がルイージだと知った
ならマリオはエレ姉とカトレアのどっちだw
真っ先に思いついたことは何故かマリオカートinハルケギニアが存在したらワルドがヨッシーポジションだということだった
カート担当:各者の使い魔
最速を証明せよ!!
マリオカート的に当然魔法によるブーストやら妨害やらはありだよねぇ・・・
使ってイイ魔法はランダム決定か
>>624 タバサ→イルククゥ
ワルド→グリフォン
カリンちゃん→マンティコア
ルイズ→サイトの肩車
さあ最速は誰だw
マンティコアが使い魔かどうかは謎でしょ
アテナイスを夫婦で譲り受けたのかも知れんし
中国、上海にて。
ハイジャック犯に占拠され、行き先の不明のまま離陸した輸送機が中国人民解放空軍の戦闘機によって撃墜された。
中国当局はこの件に関して、「国防上やむを得ないこととして、旅客機の撃墜に踏み切った」とのコメントを残している。
ハイジャックしたと見られる2人のアメリカ人は上海で複数の殺人罪で指名手配中であった、「ジェームズ・リンチ」と「アダム・マーカス」
2人はアメリカ国内で死刑判決を受けた死刑囚で、刑務所に向かう護送途中の車両が襲撃された際に脱走したとみられている。
中国政府によると、輸送機は中国の領海上に墜落し、乗組員12名と共に両名も死亡したとの見解を露わにしている。
しかし、犯人2名の遺体が未だに発見できていないことに関しては、言及を避けている。
トリステイン魔法学園の広場で行われている召還の儀式、ルイズは5回目の召還魔法を失敗した頃の話。
周りから沸き上がるからかいの声に耳も貸さず、ルイズは冷静に振る舞う。
しかし、度重なる召還の失敗に、心は少し弱気になってきていた。使い魔を呼び出せないとなれば留年してしまうのではという焦り。
しかし貴族としてのプライドが高い彼女は、それを表に出すことはない。
何よりもここで誰のよりも強く、高潔で、神聖な使い魔を召還し、同級生達を見返してやりたかった。
「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 神聖で、美しく、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ! わが導きに応えなさい!」
再び呪文を唱え、ルイズが勢いよく杖を振り下ろす。すると鼓膜が破れんばかりの轟音と共に、杖の向けた先の地面が大きく爆発する。
さっきまでのとは比べものにならないほどの爆風に、広場にいた生徒達とその使い魔は吹き飛びそうになる。
爆発で生じた黒煙が晴れた瞬間、辺りの空気は一変し、周りにいた人間は息をのんだ。
クレーターの中心にあったのは、幻獣でも、翼竜でもなく、ただ2人の人間がそこにいた。
血だらけの男性2人がぴくりとも動かず、倒れていた。
Kane&Lynch: New Life
ていうのをはじめたい。
怖いわ
始めてすぐ終わってないかそれww
「し…死んでる…のか?」 「ていうか…平民を召還したのか…?」 「あ、アレ…全部血よね?……うぅ」
周りを囲む人垣の中から話し声が聞こえはじめた。数人の生徒は顔を真っ青にしていたり、手で口を覆っていたりしていた。
普段であれば、「ゼロのルイズが〜したぞ!」というルイズのからかうテンプレを誰かが言い出すのだが、
今回ばかりはさすがにシャレにならない、と判断したのか誰も声をあげない。広場は火が消えたように静かになってしまった。
いくらゼロのルイズとは言え、やっと成功した召還魔法で死んだ平民を喚びだしたのだ。
「「「………。」」」
なんとも気の毒だ。周りにいた生徒は全員そう思ったに違いない。
あのキュルケとタバサでさえ普段からは想像も出来ないほどの、悲哀に満ちた表情でルイズの背中の見つめていた。
キュルケの目は若干涙をためているようにも見える。タバサに至っては本を手から取り落としていた。
「そんな…せっかく…。」
ルイズは倒れている2人のそばにフラフラと歩み寄り、がっくりと膝をついた。
「せっかく…成功…したのに…っ!」
そして、肩を震わせて、嗚咽もなく、泣き始めた。
その姿を見たコルベールが、ルイズの元に。
「ミス・ヴァリエール…その…なんと言ったらいいのか…。」
「………。」
コルベールが話しかけても、ルイズは何も言わない。ただ2人の亡骸を、静かに見つめる。
「…お二人に関しては、学園で手厚く葬ります…。」
「…fuck…」
「ええ…貴女の心中もお察ししm…えっ。」
「……えっ。」
ルイズとコルベールの2人は聞き慣れぬ言葉に耳を疑う。顔をあわせるもお互いに言った憶えはないという様子。
まさかと思い、倒れている2人に視線を向けると、その顔には苦悶の表情が浮かんでいた。
「Argh…shit lynch……are you okay…?…」
「uh…no…where the hell are we…?.」
死んでいたはずの男2人がなにかを呟いた。
それ以前に2人が死んでいるかなんて誰も確認すらしていない、おそらく気絶していただけだったのだろう。
近くに立っていたコルベールと周りを囲んでいた生徒達も、それに気付く。
「おいルイズ!生きてるぞ!」 「誰か水のメイジを!…モンモランシー!」 「皆さん!彼らを医務室へ運ぶのを手伝って!」
普段とはうってかわって同級生達がやけにルイズに協力的である。
使い魔の召還儀式の日に召還したのが人の死体なんてあんまりだ、と彼らなりに気遣っているのかもしれない。
水のメイジで金髪の生徒が駆け寄ってきて、持っていた秘薬と一緒に2人に急いで治療魔法を施す。
それ以外の生徒が2人にレビテーションをかけ、コルベールの指示の下、医務室へ慎重にそして速やかに運んで行く。
「ちょっとルイズ!しっかりしなさい!」
駆け寄ってきたキュルケの叱責に、ルイズは我に返った。
それでも何が起こったかわからないと言った様子のルイズに、キュルケが声を張り上げる。
「ルイズ!医務室にいくわよ!もしかしたらあの2人、助かるかもしれないわ!」
続いたwww
書き忘れたけど乙
続き楽しみにしてるよ
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埋めェッ!!!
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埋めにAA使えないのがつらい
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埋めにAA使えないのが本当につらい
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強引に埋める必要は無いんだが
2chとしては勝手に落ちるの放置が一番推奨されてるんだぞ
628は何のクロスなの?
でもやっぱ落ちるよりも埋めて終わらせたいよなあ。
じゃあ雑談すればいい