あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part314
1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part313
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1341653902/l50 まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
スレ立て乙
全国的に猛暑につき、暑苦しさつながりで月の御大将でも呼んだら少しは涼しくなるかな
あの人、見かけは強そうだが
華奢なロランと互角に打ち合える程度の強さだっけ?
>>3 そこはロランが強いことにしとけw
地球で肉体労働してたわけだし、筋力は普通にロランが上な気がするなぁ
いっそロラン召喚で、ワルドがローラに惚れてレコンキスタから寝返り
元婚約者ルイズとロランを奪い合う三角関係というカオスな展開でも可w
>>4 御大将も鍛えるだろうけど数年間重力下で生活してたロランには分が悪いだろうなw
えー前スレのアクマがこんにちわのひと乙であります。
誤字報告:前スレ
>>658の三行目
>>ドットの中でも、訓練を起こったら者らしい=訓練を怠った者らしい
ではありませんか?
ルイズに【エレガント】を学ばせてやったらどうか
今まで暴発させた魔法の回数を数えちゃうのか
トレーズ様召喚は旧シャア板に個別スレがあったんだが…
虚無った
敗者の理想をルイズに説くと?
奴は勝者に成りたいから無理!
12 :
玄人の使い魔:2012/07/28(土) 16:50:55.67 ID:MF0tXSd4
ネタ思いついたので投下。
13 :
玄人の使い魔:2012/07/28(土) 16:52:48.87 ID:MF0tXSd4
召喚された異国の装束を着た男は、とにかく「玄人」を主張したがる男だった。
確かに洗濯や料理の腕等は、シエスタやマルトーが驚くほどの腕なのであるが・・・
肝心なところでどこか抜けている性格をしていた。
そんな彼、南倍闇が厨房での手伝いてがら食事を席に運んでいると、
シエスタが貴族の男に問答されている場所に出くわした。
「おいおい、兄ちゃん、痴話喧嘩はいかんよ」
「ち、痴話喧嘩だって!?」
倍満の言葉に、何故か周囲の取り巻きから笑い声が起こり、周囲からひやかしの声がかかる。
内容自体は大人気ないなどの論理的な事なのだが、衆目の前でそんな事を言われるのは、
少年、ギーシュにとっては耐えられない屈辱だった。
「……ルイズの使い魔か。よくも僕に恥をかかせてくれたね。
いますぐここで土下座して誤解を解いてくれないか?それとも、決闘で勝負を決めるかい?」
「ほーう、お前が俺の相手をしてくれるのか?」
男の余裕綽々の表情に、キーシュはたじろいだ。
本気で決闘などしようと思ったわけではない、相手は平民でこっちはメイジだ。
脅すつもりで言ったのだが、自信満々そう返されると、もはや引くことができなくなった。
「ちょっと!やめなさい、倍満もキーシュも!」
そんな二人の間に、ルイズが割って入る。
「ギーシュ!相手は平民よ、言ってる意味が分かってるの?それに倍満、挑発するようなことはやめて!」
ルイズの必死な言葉に、かぶりをふるったかと思うと、倍満は声を上げて笑い始めた。
「ハッハッハッ、冗談、冗談だよ、こればかりは素人は玄人には勝てねぇからなぁ」
ただの謙遜であるのだが、冷静さを欠いたキーシュは、その素人の意味を勘違いしてしまった。
すなわち、貴族である自分が、素人扱いされている、頭に血が上った彼は、杖を倍満の目の前に差し出した。
「その減らず口叩けないようにしてやろう!さぁ決闘だ!使い魔君!ヴェストリ広場に来たまえ!」
「ちょ、ちょっとキーシュ、やめてってば!とにかく誰か止めて!」
ルイズが必死に抑えようとするも、こめかみに血を滲ませたキーシュは、気にも留めなかった。
ずかずかとギャラリーを押し分けて進んでいくキーシュ。それを相変わらずの飄々とした様で追いかけようとする倍満に、メイドの少女が追いすがる。
「やめてください、倍満さん!貴族にたてつこうなんて……」
「なぁに、売られた喧嘩はなんとやらってね。ま、見物していってくれや」
少女が必死に泣きついてくるも、倍満は気にも留めなかった。
側に暗い顔をしたルイズを連れて、倍満はヴェストリ広場に向かっていったのだった。
14 :
玄人の使い魔:2012/07/28(土) 16:53:57.67 ID:MF0tXSd4
「おっとそれだ、裏ドラがのって跳満だ」
「決闘って麻雀かよ!」
ヴェストリ広場。
周囲のギャラリーがざわめく中、4人の人物が、その中心で、卓を囲んでいた。
「突っ込むのが遅いわよ、ギーシュ。それ私もロン。満貫ね」
数合わせに入ったキュルケがそんな彼をあざ笑うように牌を倒す。
貴族と平民が決闘をするなど、コルベールが認めるはずも無かった。
騒ぎを聞きつけて駆けつけた彼は、すぐに決闘騒ぎを止めさせ、代替措置を取った。
それがこの麻雀での勝負である。
倍満が持ってきた。この駒を揃えて役を作る遊戯は爆発的に流行し、
今やトリスティン魔法学院でルールを知らぬものはいない。
「まったく、だから止めたのに。ま、私は稼げるからいいけど。トリプルありだったわね、倍満よ」
そしてその隣では、達観した表情で、ルイズが牌を倒す。
「ルイズ、なにがやめなさいだ!君もグルだっんじゃないか!」
「おっと、文句は払うもん払ってからな。おーい、シエスタ、かっぱ巻き頼むわ」
キーシュは黙って点棒を雀卓にぶちまけた。3人はそれに意気揚々として、点数の計算を始めていた。
「まぁまだ1回戦だからな、そう焦らないこった」
倍満の高い笑い声が響き渡る。
もう、このまま帰りたい。雀卓に頭を突っ伏して、キーシュは思った。
その日、キーシュの半月先までの小遣いが消えていった。
15 :
玄人の使い魔:2012/07/28(土) 16:54:48.47 ID:MF0tXSd4
以上。南倍満(玄人のひとりごと)より。
読者層が合わないのか青年誌系のネタは少ないね。
タコスが欲しくなるな
投下乙
投下乙。ありそうでなかった南倍満か
投下おつ 面白かった
>>9 ルイズ「貴方は今までに食べた食パンの枚数を覚えているのかしら?」
ヤンマガだっけ?懐かしいなw乙!
玄人のひとりごとはビックコミック本紙かオリジナルに連載していた。
>>6 重力6倍はきついよなあ……界王星は10倍だっけ?
その上、御大将は実戦経験がないから・・・そらロランに負けるわな
玄人の使い魔
南『倍満』じゃなくて南『倍南(ばいあん)』だよ!
>>23 宇宙ステーションに長期滞在した古川医師によると
体力的な問題より、感覚の問題が大きいらしいぞ
トレーニングで筋肉や骨は打ち上げる前の水準を維持したが、感覚が無重力になれちゃうから地上にくると体の動かし方をわすれてて歩けなくなるとか
さて、今日はるろうにの人は来るかな?
28 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 22:52:15.24 ID:jwPbKurY
皆さんこんばんわです。遅くなりましたが、11時頃に新作を投稿したいと思います。
>>20 トレーズ様「今朝までの時点で99,812枚だ」
30 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:00:35.41 ID:jwPbKurY
それでは始めます。
風を切る音で唸らせながら、ゴーレムは腕を振り上げる。様子見のあの時とは違い、本気で殺す気でいるフーケは、
遠慮容赦一切なしにその拳を剣心達目掛け放った。
タバサも少し気後れするぐらいの圧倒的な、柱のような腕による一撃は、容易にその地面を陥没させた。
巻き上がる土砂に気を付けながら、タバサは無意識に剣心の方を向いて…彼の姿がないことに気付いた。
第十七幕 『戦闘』
フーケもそれを視認し、恐らく反応すらできずに吹き飛ばされたのだろう――と思い、高らかに笑った。
「あっはっは!! もう終わりかい、意外とあっけないものだねぇ―――」
「確かに、滑稽な人形劇はもう見飽きたでござるよ」
あれぇ…とフーケから笑みが消える。代わりに顔が真っ青になり、冷や汗が溢れ出す。
フーケは、恐る恐る後ろを振り向いた。先程の声は、聞き違いでなければ背後から聞こえてきたのだから。
できれば、幻聴であって欲しい…そんなフーケの願いは、しかし届かない。
そこには、吹き飛んだと思っていた…剣心が刀を向けてじっとこっちを睨んでいた。
「…い、いつの間に……」
「あんなに沢山攻撃を見てきたんだ。速さが変わろうと、見切るのは容易いさ」
憮然とした態度で剣心が答える。そんなバカな! とフーケは心で叫んだ。
今自分がいるのは、ゴーレムの肩の上だ。その後ろにいるということは、腕をつたって登ってきたと考えるのが妥当だろう…。
いや、その時点で既にどこかおかしいのだが…。
だけど、自分にも気づかれずに平然と後ろを取られたのにだけは、納得がいかなかった。
曲がりなりにも盗賊をやってたフーケは、背後から襲われる怖さもよく知っている。
そうならないよう、第六感の感覚だけは鋭敏に磨いてきたにも関わらず、この男には話しかけられるまで全然気付けなかったのだ。
31 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:01:52.96 ID:jwPbKurY
(……やはり、侮ってはいけない)
そう思い、フーケはこの場をどう打破するかを急いで模索し始めた。
一か八か、杖で応戦することも考えたが、コイツに速さ勝負は御法度だ。多分この距離なら握り締めただけで叩き落とされる自信がある。
しかも何されたかさっぱり分からないというオマケ付きで。
なら、抵抗は無意味。ここは素直に―――。
「……じゃあねー!!」
フーケは思い切り、その場から飛び降りた。
しかし下には、待ってましたとばかりにタバサが杖を振るう。瞬時に周囲が冷気で満たされ、氷の槍を形成した。
だがそれに対してもフーケは動じない。元々下を降りれば魔法を喰らう位分かりきったことだ。
これは賭けに等しかったが、フーケは氷の槍に当たる瞬間、杖を振ってゴーレムの腕を盾がわりに動かした。
攻撃を防ぐと共に、落下の支えにもこれを利用したフーケは、どうにか無傷で地に降り立つことができた。
後は肩に乗っている奴を振り下ろすだけ、そう考えさっきまでいた肩の上を見上げて、―――あの男がいない。
「へ……っ?」
次に視界に飛び込んできたのは、煌めく白刃と赤い閃光の如き髪。
本能的な危機を感じたフーケは、慌てて躱そうとして、足につまずきよろけて転んだ。その上空を、剣が掠めた。
杖を叩き落とそうと狙った一撃は、奇跡的な結果により回避することができたが、今のがそうそう続くわけもない。
もう嫌だこの男…フーケは心の中で泣きそうになりながら、剣心を見上げた。
(何が悲しくて、こんな化物ともう一戦しなきゃなんないのよ……)
そう思っているうち、今度はタバサがこちらに杖を向ける。チェックメイト…詰みだ。
どう考えを巡らしても、この状況を打破できる策が思い浮かばない。
また監獄行きか…そう観念したように、フーケは顔を俯かせて、ふと剣心の逆刃刀に目が行った。
そして、頭に電球が灯った。もしかしたら、まだ逆転の芽はあるかもしれないと。
「ふふ、参った。降参よ」
そう言って、フーケは両手を上げた。一瞬、剣心とタバサはキョトンとして、顔を見合わせた。
もっと抵抗するものかと思っていたからだ。
32 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:03:38.08 ID:jwPbKurY
その二人を見て、フーケは心の中で嗤う。どうやら自分の意図には気付いていないようだ。これなら上手くいく…と。
「それにしても凄いわね。この『土くれ』と恐れられたわたしが、二回も、それに同じ奴に捕まるなんてねぇ。是非名前を教えて下さる?」
そう言って、剣心に近づいて…ここでフーケが何か企んでいる事に気付いたタバサが、ハッとした。
「緋村、剣心でござるが」
「そう…ケンシンっていうのね…覚えておくわ、その名前!!」
ここで、フーケが勢い良く杖を向けて、唱えた。剣心も、フーケの殺気を感じて後ずさる。
すると杖から、光の様なものが飛び出した。
しかし、それが何を意味するのか分からない剣心は、刀を盾変わりに構えて―――。
「ダメ、避けて!!」
珍しいタバサの焦りの声が、剣心の危機本能を動かし、咄嗟に刀を引っ込めた。
かなり辛い体勢だったが、何とか仰け反って光の魔法を回避することができた。
そして飛んだ光は、そのまま大きな岩に衝突し―――ボロボロの土屑に変えた。
「ちっ…外したか」
忌々しげにタバサを睨みつけながら、フーケは二人に距離を置く。タバサが反撃しようとするが、例によってゴーレムにそれを阻まれた。
すかさず剣心が動くが、フーケは再び『錬金』の魔法を放つ。それを見て、剣心は泡を食ったように大げさに回避した。
これでフーケは確信した。アイツの持つ刀は、何の変哲もない、本当にただの『刀』だ。
だったら、『土』系統の自分にとっては絶好のカモ。刀をボロ屑に変えてしまえば、奴の戦闘力は半減する。
まだ自分にも勝機はある。その考えが、フーケの笑みを強くした。
「あんたのその剣、あたしが文字通り『土くれ』にしてやるわ!!!」
その頃、ルイズ達はというと―――。
丁度桟橋へと到着し、今ワルドが船長と思しき男と交渉している最中だった。
「アルビオンへ、今すぐ出港してもらいたい」
「無茶言うでありませんよ!! 『風石』が足りませんて、途中墜落してしまいますよ!」
「ならその分は僕が補おう。僕は『風』のスクウェアだ」
そんな風に会話しているワルドを背に、ルイズは玄関口の方を今か今かと待っていた。
それに気付いたキュルケが、可笑しそうに手に肩を置いた。
33 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:05:36.50 ID:jwPbKurY
「大丈夫よ。ダーリン達の強さは今に知ったことじゃないでしょう?」
「………」
ルイズは何も答えない。確かに、フーケ達相手に剣心の心配もあるにはある。
でもそれ以上に、タバサと一緒にいるというのが納得いかなかった。
やっぱり自分も残れば良かった。そんな後悔が今ルイズを襲っているのだ。
だけど何で、剣心がいないだけで、こんなモヤモヤした気持ちになるんだろう……。
アイツとは主人と使い魔、それ以上でも以下でないというのに。
剣心が来ないのは、実はタバサといちゃついているから……。そう考えると、怒りと悲しみが同時に込み上げてくるのは何でだろう。
「何で…こんな気持ちに…」
「あら、気付いてなかったの?」
まるで心の内を読んでいたかの様な口ぶりで、キュルケが茶化した。
「それが『恋』ってものなんじゃないかしら」
「なっ……」
ルイズは絶句した。恋? 私が、アイツに?
しかし、その考えとは裏腹に、体の中は熱くなってくる。ルイズは気づいてはいないが、顔も真っ赤だった。
それを見て、今度は呆れた様子でキュルケは口を開いた。
「そんな悩むんなら、子爵との結婚考えればいいのに。ホントあんたは優柔不断ね」
「あんたは、結婚なんて分かんないからそんな事言えるのよ!!」
ルイズは怒鳴った。今の自分の立場なんて、このゲルマニアで宿敵であるツェルプストー家の女に分かって欲しくないと。
ここで、キュルケから茶化すような笑みが消えた。そして真面目な表情で、ルイズをじっと見据えた。
「…そうね、少なくとも今のあたしは本気で婚約したことないから分からないけど、一つだけあんたに言えることがあるわ」
そして、ずいっとルイズの顔を見てこう言った。
「結婚は自分のためにするものよ。他の誰でもない、自分自身が決めることでしょう?」
どこか諭すような口調で、キュルケはそう言うと、顔を離して再び茶化すような表情をした。
34 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:07:35.51 ID:jwPbKurY
「これ以上迷っているようなら、本気でダーリンを取り上げるからね。精々気を付けなさい」
「なっ…そんなの絶対ダメよ!! 誰があんたなんかに!!」
「ふーん、じゃ好きって認めるのね?」
「っ…うぅ〜〜〜とにかくあんたにはケンシンは渡さないんだから!!!」
顔を真っ赤にして反論するルイズを、面白そうにキュルケがからかう。そうしているうちに、ギーシュがワルドを連れてやって来た。
「直ぐに出港する。追っ手が来ないうちにな、彼等は間に合わなかったようだが…致し方あるまい」
そう言って、大きな玄関口の方を見やる。しかし、相変わらず人が来る気配は感じられなかった。これ以上待っても意味がないだろう。
それを聞いて、ルイズは心配そうに顔を俯かせた。それを見かねたキュルケが、ワルドにそっと言いつける。
「婚約者なのでしょう、慰めの一つでもかけてあげたら?」
ワルドは、それもそうだな、といった様子でルイズを宥めかせる。それを遠目で見て、どこか不満げな表情をするキュルケに、ギーシュは気付いた。
「…どうかしたのかい?」
「いや……」
何だろう、優しく言葉を掛けるワルドの眼は、ずっと冷めているようだった。まるで情熱を感じない。あれでは普通の女を口説くのも無理そうだ。
(まぁ…あたしには関係ないか)
そう思いながら、キュルケは最後に後ろを振り向いた。だがやはり剣心達はやってこない。
どこか諦めたように、キュルケは小さくため息をついた。
(大丈夫かしらね…ダーリン達)
再び場面は、『女神の杵』前で戦う剣心達に戻る。
(ああ言ったけど……どうしよう…)
先程の威勢もどこへやら、フーケは苦い顔で杖を振るっていた。
対抗手段は分かったのだ。『錬金』を使えば剣心は踏み込んで来れない。
タバサも、ゴーレムを押し当てることでカバーできている。
35 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:10:31.98 ID:jwPbKurY
では、何故こんなにもフーケが焦っているのか。
答えは単純明快だった。――当たらないのだ。『錬金』が。
一度見た技を、二度食らうのは、三流のすること。まるでそう教え込むかのように。
剣心に向けて杖を振るっても、それを見てからあっさり回避されてしまう。しかも三回四回と連続で唱える度に効果は薄くなっている。
しまいには呪文の口上を覚えられたのか、唱えるだけで避ける動作を取られてしまう始末。
しかもそれを剣心本体にではなく、持っている刀に当てなければいけないのだから尚更事態は困難を極めた。
そんなわけで今はもう、剣心を寄せ付けないためのただの壁としてしか、機能してなかったのだ。
なおのこと、先程の奇襲で当てられなかった事が悔やまれる。
(こうなったら…アイツを人質にとって…)
そうも考えて、タバサの方を見たが、彼女も彼女で、かなり戦い慣れしている。
ゴーレムの巨腕を上手く潜り抜けて、的確にフーケを狙い氷の槍や風の槌を放ってくるのだ。
それを何とか防いではいるものの、その間に剣心が攻め込んでくる。
当たらない『錬金』で追い払うと、それを狙ったかのようにまた『風』の魔法が飛んでくる。
気付けば、追い詰めているはずが逆に、追い詰められていた。このまま魔法を唱え続ければ、先に精神力が切れるのは自分だろう。
剣心は相変わらず体力知らずだし、タバサも小技で攻めているため疲弊は少ない。
(……結局最初と何にも変わってないじゃないか!!)
と内心叫びながら、フーケは再び突っ込んでくる剣心を視野にいれた。
「しつっこいな!!」
そう言って、『錬金』の呪文を飛ばす。しかし、回避するかと思われた剣心は、何とそのまま走ってきた。
何だ? と呆気にとられるフーケをよそに、剣心は『錬金』の魔法を前にして、刀を上に構えて、そして思い切り地面に振り下ろした。
「飛天御剣流 ―土龍閃―!!!」
抉られた地面から飛び出す土の塊が、『錬金』の魔法に当たって相殺した。
「しまった!」
そう思ったときはもう遅い。神速の動きでフーケの間合いに入った剣心は、呪文を唱える隙すら作らずに、その手に持っている杖を叩いて飛ばした。
慌てて杖の後を追うフーケだったが、その杖は重力の法則を無視して、タバサの手にそのまま収まった。
今度こそ、本当の詰みだった。
36 :
るろうに使い魔:2012/07/28(土) 23:11:57.82 ID:jwPbKurY
おっ…覚えてなさいよ!!」
在り来たりの捨て台詞を吐いて、フーケはそのまま逃げ出してしまった。それを見て、剣心は鞘に刀を納める。
「いいの? 追わなくて」
「捕まえても何も白状しないだろうし、今はそうしている時間も無いでござる」
そう言って、剣心は『桟橋』の方を見た。今ならまだ間に合うかもしれない。
「拙者達も、直ぐに後を追うでござるよ」
その言葉に、タバサもコクリと頷いた。
急いで『桟橋』まで走る間、剣心はタバサから船の事やアルビオンはどういった所なのかを聞いた。
何でも、アルビオンは宙を浮く大陸―――別名『白の国』と呼ばれ、こちらも空を飛ぶ船で行く必要があり、その港があの桟橋にあるとのことだった。
どれもこれも剣心にとっては信じられない話だったが、今更魔法というものを経験した今となっては、そんなに驚くことはなかった。
階段を登り、玄関口を通って、船員らしき男に事情を話したが、どうやら少し遅かったようだ。
「ああ、そんな奴等ならさっき出港したばかりさ。全く迷惑な話だぜ」
それを聞いて、すぐ様外を出て夜空を見渡すと、成程夜の中を泳ぐ船の一隻が確かに見えた。あの距離なら、タバサの使い魔でまだ届くはずだ。
「シルフィードを呼ぶ。少し待って」
そう言って、タバサが口笛を吹こうとした時、それを遮るように剣心が逆刃刀を取り出した。
「フーケも使えんかったか…碌に時間稼ぎすらできないとは」
そこには、何時の間にいたのか、仮面をかぶった男が一人、杖を構えてこちらを睨んでいた。
「お前たちには、ここで死んでもらおう」
今回はここまでになります。本日はどうもありがとうございました。
るろうに乙
今度こそデルフの出番かと思ったが、別にそんなことはなかったぜ!
剣心の信念的に逆刃刀意外の刀を使うことはありえないだろうけど
投下乙です
フーケなんて別に刀なくても一瞬で懐に潜り込んで殴ればおしまいな気がするけど、
そういえば観柳倒すときもいちいち刀拾ってたなあ
デルフはなんなら抜かずに鞘に入れたまま振るって使うとか…
本領発揮してピカピカになったデルフに対して、
不殺のためには錆びてた方が都合がいいからいらんことせんで元に戻れとかいう剣心
気合で逆刃になるデルフ
るろうに乙。
デルフはやはり逆刃刀に憑依するしか!
るろうにの人お疲れ様です。
デルフェ…
乙
デルフは峰打ちじゃダメなのか
峰打ちって刀に良くないんだぞ。
刀は刃のほうから衝撃を受け止めるようにできてるから、峰打ちでガンガンやってるとあっさり折れたりする。
剣心の使ってる鉄製の鞘に収めたままで殴る方がいい。
峰打ちって言っても刀自体が鋼鉄の棒には違いないから、スイカくらいは簡単に両断出来るらしいなw
バールのような物でぶん殴ってるようなもんだし
刀の製法からすると逆刃刀ってのも大概ファンタジーらしいね
つまりるろ剣はファンタジー
いくら逆刃刀でも九頭龍閃したら相手串刺しだよね
>>46 そもそも数々のファンタジーな殺人奇剣の最終到達地点に存在してる一振が逆刃刀だって事を忘れちゃいけない
>>47 剣心の九頭龍閃に突きは入ってないよ
8方向から叩いて、最後は柄尻で殴ってフィニッシュ
人を斬りたくないというのなら、刃引き又は最初から研磨しない方が刀にも優しいね
人以外には容赦はせぬ
>>50 研無刀とかな
コピペ貼りたいけど
長いからやめとく
>>46 布都御魂(ふつのみたま)の形状が逆刃だったような
刀に刃が付いてなかったら鉄の塊をぶった斬ってビビらせられ無いじゃないか
刃ついてない刀で鉄の塊切ってくれるほうがビビる
女泣川ものがたりの小弥太が持つ「べらぼう村正」は
竹光だけどよく切れるぞ
…って誰も知らんよな
>>55 明鏡止水に目覚めれば、錆びた刀でだって大木をぶった斬れるさ
ケンブトウ懐かしいな
>>57 シュバルツのやったあれかwwww
つかそもそもビルを生身で蹴りとばせる奴がぶったたいたら、普通に木が折れそうなもんなんだけど
キン肉マンに新幹線飛ばす競技あったけど、Gガンの連中もアレできるよね
投げるとかwwww
普通に出来そうだwww
鉄パイプで縄を切断した人もいたな
>>59 こちらの得物が折れないように対象をぶった斬るッ!
これが業なんだよ
>>60 Gガンの劇中で似たようなことやってたな
新宿の地下で地下鉄を連投してたよ
地下鉄を連投って、日本語おかしいだろ…
ゼロの使い魔
>>62 ゲンさん…
wiki見て気付いたけどサガシリーズからは結構召喚されているのね
>>68 ルイズ「あんだ誰?」
(デッデッデデデデッ)
「ワガナハカーry
>>54 六三四の剣の東堂国彦なら、竹刀の突きが道場の柱に突き刺さったりするぞ(笑)
>>7 ありがとうございます、そして申し訳ありませんでした。ご私的の通りです。
あと読み返したらちらほらと…後で修正します。
>>68 ゲンさんカッコいいですよね。
さて、今夜は誰か来るかな。
るろうにの人は土日だったっけ?
74 :
ゼロの使い魔BW:2012/07/29(日) 22:01:02.78 ID:qVgsa/YS
差し支えなければ22:05頃から投下したいと思います
まってたぜ
「君が軽率に香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?」
「も、申し訳ありません!」
優しいシエスタが震えながら平伏して謝っている。
頬に紅葉を貼り付け、頭からワインを被った金髪の少年――ギーシュが、それを睨みつけていた。
なにがどうしてこうなった。目の前で繰り広げられる光景を見て、帽子の少年はそう思った。
発端は、シエスタがギーシュのポケットから落ちた香水の瓶に気づいたことだった。
「ミスタ・グラモン。ポケットから瓶が落ちましたよ」
最初、シエスタはギーシュにそう声をかけた。それを彼が無視したので、シエスタはそっと瓶を拾い上げると、近くのテーブルに置いた。
瓶を見たギーシュの友人たちが、その製作者から彼の現在の恋人を推測してはやし立てた。
すると、あれよあれよと言う間に二股が発覚して、ギーシュは二人の少女から三行半を叩きつけられることとなったのだ。
そして今、彼はその責任をシエスタに求めている。つまるところは――。
「……ああ、なんだ。二股をかけてたのが原因か」
余りにストレートで無粋な言葉に、ギーシュの視線がトレイを持った少年へと向いた。
少年は何処吹く風で、「そうか、これが二股とその末路なんだな」などと一人納得している。
ギーシュの友人たちがどっと笑った。
「その通りだギーシュ! お前が悪い!」
ギーシュの頬に、さっと赤みがさした。怒りを込めた視線が、少年へ突き刺さる。
「なんだね、君は?」
なんだね、と訊かれても困る。未だに彼がなんなのかははっきりしていないのだから。
ああでも、今のところは、と答えようとしたところで、ギーシュの友人の一人がぽんと手を叩いた。
「ルイズの平民だよ、こいつ」
「ああ、成程。あのゼロのルイズが呼びだした平民か。落ちこぼれの彼女の使い魔なら、貴族の恋愛の機微など分からなくても仕方はないな」
ギーシュは鼻を鳴らして、馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
気障ったらしく笑う彼に、少年が真顔で首を傾げる。
「二股かけてそれがばれて、頬を張られた上でワインを被るのが貴族の恋愛の機微なの?」
再び、爆笑の渦がギーシュの友人たちを飲みこんだ。太った少年などは、椅子から落ちそうになるほどに笑い転げている。
ギーシュのこめかみに青筋が走った。
「どうやら、君は貴族に対する礼を知らないようだな」
「……ミスタ・グラモン! 彼は記憶を失くしているんです! どうかご容赦を!」
平伏していたシエスタが、すがりつくようにしてギーシュに言う。
「なら、なおのことだ。二度とこんな口をきかないよう、僕が彼に礼儀というものを教えてやろう」
ギーシュはシエスタの懇願を一蹴すると、高らかに叫んだ。
「決闘だ!」
「決闘だ!」
そんなギーシュの声が聞こえてきたとき、ルイズは「ギーシュが馬鹿やってる」程度にしか思わなかった。
あのツェルプストー並みに色惚けな彼のことだ。また、女の子がらみで騒いでいるに違いない。
だが、その相手が誰かを聞いた途端、思わず椅子を蹴って立ち上がってしまった。
食堂をぐるりと見渡す。遠くで、少年が立ち去るギーシュをぼんやりと見送っていた。慌てて駆け寄って、その肩を掴んだ。
「あんた、なにやってんのよ!」
「わ、私の、せいなんです……」
近くで震えていた黒髪のメイドが、そんなルイズを見て口を開く。
彼女から顛末を聞けば、ギーシュが悪いのは明らかだった。馬鹿が馬鹿をやって馬鹿を見ただけである。
だが、ルイズは使い魔の目をしかと覗き込むと、強く言った。
「謝っちゃいなさい」
「……なにを?」
「貴族に対して暴言を吐いたことをよ! 今なら許してもらえるかもしれないわ」
聞き分けの良いこの使い魔のことだ。頷いてくれるとルイズは思った。
だが、彼はその期待をあっさりと裏切った。
「それは、できない」
「なんでよ」
「彼は、善意から瓶を拾ってくれたシエスタに二股の責任をなすりつけた。
それだけじゃなく、無関係なはずのゴシュジンサマまで馬鹿にした。そんな奴に謝る言葉を、俺は持ってない」
その言葉で、ルイズは気づいた。
この使い魔は、わたしやこのメイドに個人的な恩があるから、それを貶めたギーシュに対して怒っている。
そこに、貴族や平民なんてものは関係していない。
貴族などなんとも思っていない、ということではない。
自分にない力を持つ相手は敬うし、糧を与えてくれる相手には感謝もする。
ただそれが、相手の所業を全て受け入れることには繋がらない、というだけだ。
だけど……いや、だからこそルイズは言った。
「聞いて? 平民は貴族には絶対に勝てないの。あんたは怪我をする。
いや、怪我で済めば運が良いわ。下手をすれば、殺されちゃうかもしれない」
「……それでも」
「それでも、なによ」
「勝負を挑まれたからには、逃げられない、背を向けられない……なんとなく、そう思う」
ルイズが、「なんとなく」で自分の言葉を蹴り飛ばされたことに衝撃を受けている間に、少年はギーシュの友人に問いかける。
「彼が言っていた、ヴェストリの広場って?」
「こっちだ。平民」
ギーシュの友人について、少年は歩き始めた。
ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある。
西側にある広場なので、日中も陽がささずに薄暗い。決闘にはうってつけの場所である。
だが普段は閑散としているそこは、噂を聞きつけた生徒たちにより溢れかえっていた。
「諸君! 決闘だ!」
ギーシュが薔薇の造花を掲げると、集まった生徒たちから歓声が巻き起こった。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
取り巻きの生徒が、号外を叫ぶ新聞売りのように声を張り上げる。
それに少年はなるほど、と頷いた。確かに、今のところはそれが唯一の彼の身分である。
ギーシュは腕を振って、歓声に応えている。そして、今気づいたという風に少年を見やると、気障ったらしくポーズをつけながら言った。
「とりあえず、逃げなかったことについては誉めてやろうじゃないか」
「……一度勝負を挑まれたからには、『相手に背中を見せられない』んだ」
広場の中央に立ったギーシュが、不思議そうな顔をして少年を見つめた。
「平民のくせに妙なことを言うね。……だがまぁ、その考えは嫌いではないよ。
決闘のルールは、相手に『参った』と言わせるか、もしくは杖を落とせば勝ちだ。
もっとも、君は平民だから杖はない。――死にたくなければ、さっさと降参したまえよ?」
黙ったまま、彼はギーシュを見返す。
「さて、始めようか。ところで、僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
少年が頷くと、ギーシュは造花の薔薇を振った。
花びらが一枚落ちる。それが地面に触れた途端に、青光りする金属の女戦士と化した。
「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。したがって、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
淡い陽光に輝く青銅の肌を見て、少年の表情が引き締まる。
<<青銅のギーシュ が 勝負をしかけてきた!>>
ギーシュが薔薇の造花を振り下ろすとともに、青銅の女戦士が弾丸のように飛び出した。
金属で出来ているとは思えない速度でワルキューレは少年へと迫る。その手は空だが、作った拳は青銅だ。
一拍遅れて反応した少年は、すんでのところでその拳を避けた。
脇腹を掠めた拳は見た目通りの重さがあるようで、少年の背筋をひやりとさせる。
続けざまにぐるんと反転しつつ振り抜かれた裏拳は、浅く肩に当たった。
これもまた直撃は免れたが、青銅製の一撃だ。痛みに、帽子の下の顔がゆがんだ。
更に三、四、五と連続して拳が繰り出されるが、彼は危うい動きながらもなんとか直撃を避けてゆく。
ただ、避け切れてはいない。至るところに青痣を作り、荒い息をつきながら、少年はギーシュを睨みつけた。
「彼の動き、なんかヘンね」
少年の動きを観察していたキュルケが、隣の小柄な少女に呟いた。
青い髪の彼女――タバサは、本から目を上げて少年をちらりと見ると、短く言う。
「判断と動きが噛み合っていない」
「判断と動き?」
詳しく聞きたげなキュルケに対し、タバサは本へ視線を落としたまま答えた。
「ゴーレムの動きは十分に見えている。それへの対処法も分かっている。
攻撃するべき隙も見定めている。だけど、その判断に身体がついて行っていない」
「成程ね。……でも、それってどういうことなのかしら」
「自分で戦うことのない立場――戦闘指揮官のようなものだったのではないか、と予想する」
タバサの冷静な声に、キュルケはふうんと納得すると、再び決闘に目を戻した。
視線の先には、直撃は免れながらも、じわじわと体力を削られている少年の姿がある。
「でもあれじゃ、駄目ね。彼のダメージが蓄積する一方で、どうにもならないわ」
「その通り」
そのうちダメージと疲労によって動きが止まり、とどめが刺されるだろう。
ギーシュに傷一つ負わせることも出来ず、敗北する。平民対メイジとしては、当前の結果だ。
「なんか、つまらないわね」
「そう言った」
タバサがキュルケをじっと見つめる。
つまらないと言ったのに、無理やり引っ張ってきたのは貴女だ、とその瞳は語っていた。
「……あーもう悪かったわよ! 今度なにかおごるから、それで勘弁して頂戴!」
こくんと頷いて、タバサは読書に戻った。
本へと思考が沈んでいく中で、彼女はぽつりと思う。
彼の動きは、なにか決定的なものが欠けているが故の不自然さのようにも見える。
極端に高い観察力や判断力に対し、皆無に近い戦闘能力。
もし、前者の高さに見合う戦闘能力があるとするなら、それは一体どれだけのものになるだろうか?
体中が悲鳴を上げている。
青銅の拳が掠めるたびに、それを避けるたびに、動きが鈍くなっていくのが分かる。
少年の理性は、「参った」と言ってしまえと、逃げてしまえと囁きかけてくる。
だが、奥底に眠るなにかは「勝負の最中に、相手に背を向けるわけにはいかない!」と叫んでいた。
「ッ!」
渾身の力で地面を蹴り、振り抜かれた拳を転げるようにして避ける。
今の自分は間違っている。そんなことは、彼にだって分かっている。これは自分の戦い方ではない。
腰元のボールが、怒りに耐えかねるように震えている。これはなんだったか。あと一歩が繋がらない。
「……驚いた。ただの平民が、『ワルキューレ』の攻撃をここまで避けるとはね」
相対する金髪の少年が、感嘆したように声を上げる。
そして、杖を振った。花びらが落ちるとともに、青銅のゴーレムがもう一体現れる。
「だが、それもこれまでだ」
二体目のワルキューレが迫ってくる。咄嗟に、横に跳んで避けた。
次の瞬間、湿った音と共に身体が浮いた。一体目の拳が腹にめり込んでいる。
吹き飛ばされて、仰向けにぶっ倒れた。
息が吸えない。吐き気がする。体中が、鈍痛と共に熱を持っている。
疲労も激しい。無尽蔵の体力を持つ青銅の戦士に対して、少年の体力は有限だ。
倒れている彼の頭を、ワルキューレが踏みつけた。額が切れて、視界が赤く染まる。
次いで、左腕に蹴りが入った。鈍い音と共に激痛が走る。そのまま、5メイルほど吹っ飛んだ。
そのタイミングで、人垣をかき分けてルイズが現れた。
「ギーシュ!」
「おおルイズ! 悪いな。君の使い魔をちょっとお借りしているよ!」
地面に倒れ、血を流している少年を見やって、ルイズは青ざめつつも憤然とまくしたてる。
「いい加減にして! 大体ねえ、決闘は禁止じゃない!」
「禁止されているのは貴族同士の決闘だけだ。平民と貴族での決闘なんか、誰も禁止していない」
ルイズは言葉に詰まった。
「そ、それは、そんなこと今までなかったから……」
「それと、やめて欲しければ彼に言いたまえ。『参った』と言って謝れば、矛を収める用意が僕にはある」
もっとも――とそこで言葉を切って、ギーシュがルイズの背後を指さした。
「彼はまだ、続けるつもりのようだけどね」
どうしてこの使い魔は諦めないのだろう。
何処からどう見ても満身創痍だ。土埃にまみれ服は破れ、額は割れて血が溢れている。
左腕はあらぬ方向に曲がっていて、折れていることが見て明らかだった。
もうやめて、と言おうとして、声が出なかった。
燃え上るような闘志を秘めながらも湖面のように静かな眼が、ルイズの喉を詰まらせた。
力が入らないのであろう四肢を動かして、どうにかして立とうともがいている。
勝ち目など全くないのに、この使い魔は一体なにを考えているのだろうか。
痛そうで可哀そうで、泣けてくる。もうやめて欲しい。でも、それが口に出せない。
誰よりも、使い魔がそれを拒んでいる。
言葉で駄目なら――。ルイズはぎゅっと唇を噛むと、使い魔とゴーレムの間に立ちふさがった。
「……それで、始祖ブリミルの使い魔『ヴィンダールヴ』に行きついた、というわけじゃね」
コルベールの話を一通り聞いたオスマン氏は、彼の取ったスケッチを眺めながら確認した。
「そうです! あの少年の右手に刻まれたルーンは、伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』に刻まれていたものと全く同じであります!」
「で、君の結論は?」
「彼は『ヴィンダールヴ』です! これが大事でなくて、なんなんですか! オールド・オスマン!」
そう叫ぶコルベールを前に、立派な髭をしごきながらオスマン氏が頷く。
「ふむ、確かに、ルーンが同じじゃ。ルーンが同じということは、ただの平民だったその少年は、
『ヴィンダールヴ』になったということになるんじゃろうな。しかし……」
そこまで言ったところで、不意に扉がノックされた。
「誰じゃ?」
「私です、オールド・オスマン」
ミス・ロングビルの声だ。
「なんじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘をしている生徒が居るようです。大騒ぎになっています。
止めに入った教師がいましたが、生徒たちに邪魔されて、止められないようです」
「まったく、暇を持て余した貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れとるんだね?」
「一人はギーシュ・ド・グラモン」
「あの、グラモンのところのバカ息子か。オヤジも色の道では剛の者だったが、息子も輪をかけて女好きじゃ。
大方、女の子の取り合いじゃろう。相手は誰じゃ?」
「……それが、メイジではありません。ミス・ヴァリエールの使い魔の少年のようです」
オスマン氏とコルベールの目が鋭く光った。
「教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用を求めています」
「馬鹿馬鹿しい。たかが子供の喧嘩を止めるのに、秘宝を使ってどうするんじゃ。放っておきなさい」
「わかりました」
ミス・ロングビルの足音が遠ざかる。
「オールド・オスマン」
「うむ」
緊張した面持ちで促したコルベールに重く頷くと、オスマン氏は壁にかかっている鏡に向けて杖を振った。
ヴェストリの広場の光景が、そこに映し出された。
震えながらも彼の前に立った少女の背中が、過去に見た『誰か』の背中に重なった。
髪の色も、顔の作りも、体型も、服装も、状況も、何もかも違う。いや、『足蹴にされて吹っ飛んだ』辺りは少し似ているか。
だが何にせよ、弱者が虐げられているのに耐えきれず立ち上がった、というのは同じだ。
それが誰かということに思い至ると同時に、これまでのことが走馬灯のように思い返される。
心優しい少女に、生真面目な青年。同じ街の、二人の幼馴染。
自分にポケモンと図鑑を預けてくれた博士。
リーグへの道のりと、その道中で戦ってきたジムリーダーたち。
ポケモン解放を謳った彼と、その理想を大義名分として、ポケモンの独占を企んだ悪の組織。
――ああ、なにをしていたんだろうか、自分は。
わずかな自嘲の笑みを浮かべつつ、懐かしさをこめて腰元の『モンスターボール』を撫でると、それが今度は歓喜に震えた。
少年が、ゆらりと立ち上がった。
彼は、目の前で自分をかばうルイズの肩をそっと押しやると、ギーシュを見やる。
視線を向けられて、ギーシュはたらりと冷や汗を流した。なにかがおかしい。
今までは感じなかった妙な圧力を、目の前の平民から感じる。
「はじめまして」
「へ?」
いきなりの挨拶に、ギーシュが間抜けな声を上げた。
「『ルイズの平民』にして、『ポケモントレーナー』のトウヤです。よろしく」
ぶわりと圧力が膨れ上がった。
名乗った平民――トウヤは、腰元のボールに手をかける。右手のルーンが光った。
同時に悪寒がいや増して、思わずギーシュは叫んでいた。
「ワルキュゥゥゥレェェェェッ!」
いつにない速度で、青銅のゴーレムが動き出す。
だが、迫るゴーレムに焦ることなく、トウヤは冷静に『なにか』に向かって命令を下した。
「いけ、ドリュウズ。――『ドリルライナー』だ」
カチリという音と共に、ボールから光が溢れる。そこから、銀と茶の旋風が巻き起こった。
その高速で回転する『なにか』は、続けざまに二体のゴーレムの胴にぶち当たると、大穴を穿って、それらを完膚なきまでに破壊する。
二体のゴーレムが一瞬で粉々になった光景に、トウヤを除く全ての人間が息を飲んだ。
ばらばらになったゴーレムの欠片の上に、それは居た。
見た目は、ギーシュもよく知る『ジャイアントモール』によく似ている。
ただ、鋭い眼光と異常に発達した爪、そして銀色に光る鋭角の頭部が、それに言い知れぬ凄みを与えていた。
ギーシュが呆然と問いかける。
「それは、君の使い魔かい?」
「……違うよ。こいつは俺の『ポケモン』だ」
トウヤは恐ろしげな幻獣の頭を撫でて見せる。
「そうか。……いや、そうだね。メイジでもない君が、使い魔を持っているはずがない」
ぶんぶんと頭を振って、ギーシュは薔薇の造花を構え直す。
呪文を唱えつつ、それを振り下ろした。花びらが舞って、新たなゴーレムが五体現れる。
全部で七体のゴーレムが、ギーシュの武器だ。平民相手など二体でも十分過ぎると思っていたが、こうなってはそうも言っていられない。
「どうやら、君は結構な牙を持っていたようだ。こちらも遠慮なく行かせてもらうよ!」
薔薇の指揮に従って、ワルキューレがトウヤとドリュウズに殺到する。
一、二体は倒せても、残りが彼らを揉み潰す――傍からはそう見えた。ギーシュもそう確信していた。
だが、トウヤは全てのワルキューレを視界に収めつつ、その場で垂直に跳躍して短く命令する。
「ドリュウズ、『じしん』」
腹の底に響く重たい音と共に、周囲の空気がびりびりと震えた。
ワルキューレたちの動きが止まる。
そして、その青銅の肌に微細なヒビが入った。
何故と思う間もなく、脆くなったワルキューレたちは自重に耐えきれずに砕け、崩れ落ちる。
「なあっ……!?」
余りの光景に腰が抜けて、ギーシュはペタンと地面に座り込んだ。
砕け散ったワルキューレの残骸の上を、トウヤとドリュウズがゆっくりと歩いてくる。
「まだ続ける?」
静かな声だった。ギーシュは首を振る。戦意などとうに失せている。杖を置き、諸手を上げた。
「参った。……僕の負けだ」
決闘を覗いていたコルベールが、汗をぬぐって口を開いた。
「……あの少年、勝ってしまいましたな」
「そうじゃの」
「あの幻獣は一体なんなのでしょう。
ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでも、ああも容易くあしらわれるのは予想外です」
「さあのう。……ただ少なくとも、彼があれを使役したのは間違いない。
もっと言えば、彼は同じような幻獣を少なくとも後五体は持っておるはずじゃ」
立派なあごひげを整えながら、オールド・オスマンは言った。
「その理由は?」
「彼は腰元につけた玉からあの幻獣を呼び出しておったじゃろ?
彼のベルトにはあれを含めて計六つの玉がくっついておった。なら、幻獣も六体おると考えるのが自然じゃろうよ」
禿げあがった頭を、コルベールはつるりと撫で上げた。
「そんな幻獣たちを操る彼は、やはり『ヴィンダールヴ』なのでしょうか。なら、王室に報告して指示を仰がないことには……」
「その必要はあるまい」
オスマン氏は重々しく首を振った。コルベールが目をむいて問いただす。
「何故ですか? これは世紀の発見ですよ! 現代によみがえった『ヴィンダールヴ』!」
「ミスタ・コルベール。『ヴィンダールヴ』はただの使い魔ではない」
「その通りです。始祖ブリミルの用いた『ヴィンダールヴ』。
その姿形は記述がありませんが、あらゆる獣を自在に操り、主人をいかなる場所へも運んだと伝え聞きます」
更に能書きを続けようとしたコルベールを、オスマン氏が制した。
「で、ミスタ・コルベール」
「はい」
「その少年は、本当にただの平民だったのかね?」
「はい。彼の所有物には不可思議なものが多数ありましたが、彼自身は正真正銘、ただの平民の少年でした。
ミス・ヴァリエールが呼びだした際、念のために『ディテクト・マジック』で確かめましたが、反応は全くありませんでした」
「その少年を、現代の『ヴィンダールヴ』にしたのは誰なんじゃね?」
「ミス・ヴァリエールですが……」
「彼女は、優秀なメイジなのかね?」
「いえ、というか、むしろ無能というか……」
「さて、その二つが謎じゃ」
「ですね」
「無能なメイジに召喚された平民の少年が、何故『ヴィンダールヴ』になったのか。全く謎じゃ。理由が見えん」
オスマン氏はしばし考え込んでいたが、ふと頭を振ると、嘆息しつつ続けた。
「なんにせよ、王宮のボンクラ共に『ヴィンダールヴ』とその主を渡すわけにはゆくまいて。
そんなオモチャを与えてしまっては、またぞろ戦でも起こしかねん。宮廷で暇を持て余している連中はまったく、戦が好きじゃからな」
「ははあ。学院長の深謀には全く恐れ入ります」
「この件は私が預かる。他言は無用じゃ、ミスタ・コルベール」
「は、はい! かしこまりました!」
杖を握って窓際に向かったオスマン氏は、過去に思いをはせた。
「伝説の使い魔『ヴィンダールヴ』か……。一体、どのような姿をしていたんじゃろうなぁ」
コルベールが夢見るように呟いた。
「『ヴィンダールヴ』はあらゆる獣を使役し、主を助けたとありますから……」
「うむ」
「少なくとも、命令を下すための口はあったんでしょうなあ」
83 :
ゼロの使い魔BW:2012/07/29(日) 22:21:13.21 ID:qVgsa/YS
これにて投下終了です
BWの人待ってましたああッ
お疲れ様ですッ
おつ
>>69 それって「カーネイジ」?ハルケギニアがリージョン破壊砲で壊されて N O F U T U R E されちゃうの?
だれかタイム探検隊の隊員呼んできてぇぇぇ!
オルロワージュ様召喚して学院が針の城2ndって想像したけど、
すでにある妖魔アセルス小ネタと変わんないって気付いた
87 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 00:52:53.47 ID:apDBSRFC
BWの人、お疲れ様です。
さて、遅くなりましたが、予約がないようでしたら一時丁度に今日の分を投稿しようと思います。
88 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:00:54.88 ID:apDBSRFC
それでは始めます。
「お前たちには、ここで死んでもらおう」
男はそう言うと、杖を向け、ルーンを唱え始める。
刹那、轟音のようなうねりを持つ風が、辺りを包み込んだ。
剣心とタバサは、咄嗟の反応でそれを躱した。その後ろを男は取った。
「もらった!!」
杖を槍のように纏わせる『エア・ニードル』が、剣心の背中を貫こうとしたとき、それより早く風の槌『エア・ハンマー』が男に襲いかかった。
男は距離を取り、間を開ける。
「かたじけないでござる」
剣心は、そう言ってタバサの方を見た。彼女は、頷く仕草でそれに応える。
この男、出来る――剣心はそう思った。だが、どこか疑問が残る。この動き、どこかで見たような…。
タバサも、腑に落ちないような目で男を見やる。しかし、男のその表情は仮面に隠されていて全く悟らせない。
「――行くぞ」
そう呟き、男は杖を構えた。
第十八幕 『願望』
「『ウィンド・ブレイク』!!」
再び、巨大な突風を作り出して剣心達に襲わせる。
しかし、同じ手は二度も食わない。剣心は風の発生を的確に見切ると、それを避け、一瞬で攻撃に転じた。
男は、それに応えるように杖で受け止める。ガキィンと、金属音が響いた。
つかの間の鍔迫り合い。やがて男が先に杖を弾くと、そのままバックステップで距離を取る。
今度は、男とタバサが同時に杖を向け、そして叫んだ。
「「『エア・ハンマー』!!!」」
杖の先から生み出される風の塊が、正面から大きく衝突した。
魔法による風の奔流は、暫く綯い交ぜになってせめぎ合っていると、バァンと相殺されるような音を出して掻き消えた。
だが男の魔法の方が強かったのか、タバサは風に煽られ、その小さな体を吹き飛ばされてしまう。
男はすかさず杖を構えて、転がったタバサに狙いを定めようとして、ここで剣心がいないことに気付く。
(――――下か!?)
男は、仮面の下で目を見張った。懐を見れば、屈んで刀を突き出すように構える剣心の姿があったからだ。
咄嗟に杖を振るおうとしたが、もう遅い。
「飛天御剣流 ―龍翔閃―!!」
突き上げるように刀の腹で、仮面を被っている顔面の上から叩き込まれた男は、そのまま宙に浮き、そして吹っ飛ばされた。
仮面は粉々に砕け散り、その素顔が晒されようとした瞬間、男の姿が急に消えた。
「成程…『あの方』の言うとおりだった…貴様は手強い…」
何の比喩もない、文字通りの消失の中、声だけは不気味に漂う。
「間違いなく貴様は…我らが組織の…一番の障害…になるだろう…」
この事態に驚いた剣心は、すかさず辺りを見回したが、声以外には気配すら感じられなかった。
「このままでは済まさん…いずれ…必ず…」
それを最後に、声自体も聞こえなくなった。
「…今のは、一体?」
狐につままれた顔をしながら、剣心は忽然と消えた男を探していた。しかし、やはりどこにも姿はない。
そして、刀を持つ手を見る。あの時、顔を直撃したはずなのに感触がどこかおかしかった。
まるで空気の塊を叩いたような、そんな感じだったのだ。
「風の偏在(ユビキタス)」
隣にいるタバサが、一連の光景を見てそう答える。
「偏在…?」
「風で作られた分身」
偏在、それは風使いに許された魔法の一種で、ひとえに『風』が四系統最強と謳われる所以でもあった。
風は偏在する――風の吹くところ何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例すると言われている。
89 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:02:52.76 ID:apDBSRFC
剣心は、改めて気配を探った。しかしもう男も、それを操った術者の気配も感じることはなかった。
周りに敵意がないことを確認した剣心は、改めてタバサに尋ねた。
「余計な時間を喰ってしまったけど、大丈夫でござるか?」
「大丈夫、問題無い」
タバサは上空を指差す。そこには風竜と思しき影がこちらに向かってグングン大きくなっていった。
やがて、シルフィードが優雅に着地すると、タバサは二言三言、何やら命令して背中に乗った。シルフィードも分かったように頷いて、未だ小さくも見える船の影を向いた。
剣心も、背中に乗ろうとしたとき、ボゴボゴと地面から音がするのが聞こえた。何だと思って見やると、段々地面が盛り上がっていく。
剣心達が警戒する中、地面から出てきたのは―――――。
「…これは?」
「確か、ギーシュの…使い魔?」
それは前の日に見せてもらった、ギーシュのモグラ、ウェルダンデだった。恐らく主人の後を密かに追ってきたのだろう。
ウェルダンデはキョロキョロと辺りを見回して、主人が居ないのを確認して少しうなだれた様子だったが、次いでシルフィードを見つけると、口先をもぐもぐさせて話すような仕草をしだした。
しばらく使い魔同士話し合っていると、今度はタバサに伝え、意味が分かったタバサが剣心に伝える。
「この子も一緒に行くらしい、いい?」
「まあ、拙者は構わないでござるが…」
大丈夫だろうか? と思いながら嬉しそうに手を上げるウェルダンデを見る。どことなく気障っぽく見える当たり、流石ギーシュの使い魔だ。
シルフィードは、ウェルダンデを口にくわえ、(少し嫌そうだったが、我慢したようだ)剣心とタバサが乗ったことを確認すると、翼を広げて大空へと飛び出した。
澄み渡る夜空の中、ふとタバサが気付いたように、後ろにいる剣心に手を差し出した。
「貸して」
一言、そう言ってタバサは目線を逆刃刀へと向ける。
何だろう、と思いながらも断る理由がないため、剣心は鞘ごと逆刃刀を取り出して手渡した。
90 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:04:35.13 ID:apDBSRFC
タバサは、鞘を抜いて逆刃刀の刀身を晒した。月の光の影響を受けて、普段より輝かしく写り出す。
「――業物」
タバサも、思わずそう漏らしてしまう程、逆刃刀の美しさに魅了されていた。
この刀の前では、世に蔓延る名剣全てが、等しく鉄屑に見えてしまうだろう。それほど製作者の『魂』が、この刀には打ち込まれていた。
惜しむらくは、この刀が人を斬るに不向きというぐらいか。
それにしても良かった。そうタバサは思う。この名刀がただの『錬金』でボロ屑になってしまっては、余りにももったいない。
隣ではデルフが「はいはいどうせ俺は錆びものですよ」と拗ねたような口を開いた。
「ちょっと待ってて」
そう言うと、タバサはルーンを紡ぎ出した。慣れない系統を扱うためか、慎重に呪文を唱える。
そうした後に、コツコツと逆刃刀の刀身を杖にあて、ついでに鞘の方にもあてる。そして刀身を鞘に戻して、再び剣心に返した。
「『固定化』の呪文をかけた」
返ってきた逆刃刀を受取りながら、剣心はタバサの説明を聞いた。
簡単に言えば、『錬金』対策だ。
これから先、メイジと戦うにあたって、フーケのような策に出る輩がいないとも限らない。その負担を減らすための借用処置とのことらしい。
タバサは、実力的にいえば『トライアングル』クラスのメイジ。つまり、彼女以上の使い手でなければ『錬金』の呪文くらいは簡単に弾くだろう。
だが油断は禁物である。タバサは本来『風』主流のメイジであり、『固定化』は本来『土』系統。
反応を見るに一応成功はしたようだが、『土』系統相手にどこまで通用するかは分からない為、あくまで借用措置に過ぎない。
だがそれでも、ずっと裸身を晒している今の状態よりかは、遥かにマシになったため、剣心は素直にありがたかった。
「重ね重ね、かたじけない」
剣心はお礼を述べながら思った。気付けば、彼女には結構借りを作っている。
何か返せるものは無いかな…と考えていると、それに感づいたのか、タバサがこっちを見つめた。
「別にいい、そのかわり…一つ」
何物も映さないような無機質な瞳を、一瞬だけ期待で輝かせながら、上目遣いで剣心を見る。
しえん
92 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:06:28.81 ID:apDBSRFC
「私にも、飛天御剣流を教えて欲しい」
「…何故?」
ギーシュの時見たく、頭ごなしに拒否するのではなく、やんわりといった感じで剣心は聞いた。
彼女の目には、ギーシュのとは違う…明確な意思と強さを秘めていたからだ。
「もっと、強くなりたい」
この一言に、全てを集約させるようにタバサが言った。本気だった。
迷いなく、ただ強さを求めるような瞳。だけど同時に、どこか道を踏み外しそうな危うさを持っている、儚い眼でもあった。
「……誰かの仇討ちでござるか?」
「――――!?」
剣心のその言葉を聞いて、タバサの眼が、ほんの一瞬だけ素に戻っていた。
剣心だって、タバサのその、見た目の年齢に合わない実力を持っているのを見て、彼女がその身に合わぬ苦労をしていることが分かっていた。
しかし…だからこそきっぱりと言わなくてはならない。
「飛天御剣流は、その理を守る剣であって、復讐のために使うことは出来ないでござるよ」
「……詭弁」
あんなに強いのに…タバサは納得できなかった。
「そうだな…だが、拙者には命を賭けるに足る詭弁でござるよ―――だから」
そう言って、剣心はニッコリと微笑んでタバサに向き直った。
「もし困ったことがあったら、拙者を頼って欲しい。御剣流は教えられないけれども、力にはなってあげられるでござるよ」
それを聞いて、タバサは少し悲しそうな嬉しそうな、複雑な表情をしていたが、やがていつもの無表情に戻ると、「分かった」と小さく呟いた。
そんな風に飛んでいると、急に突然、剣心の目に突然不可思議な映像が見え出した。
「…よ…な……で!…」
そして耳にも、変なノイズが聞こえ始める。剣心は慌てて片目を手で覆ったが、それとは逆にどんどん映像が写し出されていく。
(これは…ルイズ殿の…視点…?)
今、剣心の目の前には盗賊らしき者たちによって、囲まれていた。隣にはワルドやキュルケ、ギーシュらしき姿も見える。
93 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:08:30.14 ID:apDBSRFC
「下がりな…さい…下郎!」
「驚いた…下郎と…来たもんだ…!」
次第に声もはっきりと聞こえ始め、まるで自分もその場にいるような一体感を、剣心は感じ始めた。この様子を見たタバサが、不思議そうに尋ねる。
「どうしたの?」
「いや…何か…ルイズ殿の視界が見え――」
とここで、剣心はハッとした。そう言えば、前にルイズが言っていたことを思い出したのだ。
『使い魔にはね…主人の目となり耳となる能力が与えられるのよ』
そうか…ルイズ達がピンチに陥って今、この能力が発現したのか。剣心はルイズの視点を見てそう思った。
だが、状況を見る限りどうやら捕まってしまったらしい。
杖を取り上げられ、どこかに閉じ込められたような所を確認したとき、剣心の視界は元に戻った。
「あれ」
そんな時、ふとタバサが指を指した。剣心は、多分今までここで見てきた事以上に、それに驚いた。
―――陸が、浮いている。
自分達や船が、蟻か何かと見違えるほどに巨大なその大陸は、『白の国』と呼ぶにふさわしい、下半分が雲のような霧によって覆われている、壮大さと華麗さとを併せ持っていた。
そしてそこには、先程まで追っていた船とは別の、もうひとまわり大きな軍船があった。
しばらくの間、二つの船はくっつくように止まっていたが、やがておもむろに動き出し、軍艦の方はアルビオンの方へと進み出した。
だがしかし、これはチャンスでもあった。暫く停船してくれたおかげで、距離を縮めることができたのだから。
タバサはシルフィードに命じて、全速力で飛ばすと、一気に軍艦まで近付いた。
どうやら突撃した余韻で、まだ周囲に偵察員と思しき連中はいないようだ。シルフィードは上空へと一旦上がり、空の闇を利用してゆっくり近づいていった。
程よい距離まで到着すると、その背中から影が二つ、ひっそりと飛び降りた。
「ん……?」
「何だ―――」
見張り達の言葉は、そこで途切れた。
94 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:10:39.62 ID:apDBSRFC
「大使としての扱いを要求するわ!!」
場所は変わり、軍船の船長室。
賊に囲まれ、絶体絶命の中でも、ルイズの毅然とした声が響いた。その目の前には、テーブルを挟んで船長と思しき男がいた。
周りは皆反乱軍の一派らしかったが、それでも気丈に王党派と言い切ったため、嘲りの声の中でもルイズは頑張っていた。
「王党派と言ったな、一体何しに行くんだい? あいつらなんて明日にでも消えてしまうよ」
「どうしてそんな事言えるのよ!! まだ決まったわけじゃないじゃないの!!」
「ル、ルイズ…お願いだからもう少しだな…」
ギーシュが冷や汗を流しながら、懇願するようにルイズに頼み込むが、それでもルイズは譲らない。
でも、本音を言えば怖かった。なぜなら、いつも頼りにしていたあの使い魔が、今は居ない。
今になって、こんなにも彼に依存していたことにルイズは気付いた。
体を強ばらせ、手を震わせながらも、それを敵に悟られないように必死で耐えているのだ。
「だから…っ! 私は…」
しかし、声が段々か細くなっていく。心は不安で満たされていく。
こんな時に何やってんのよ、早く来なさいよ、主人が危ないのよ。
そんな、助けを求めるかのように頭の中で、彼の事を思い浮かべていた、その時である。
「せ…船長!!」
バタンと、賊の一人が慌ただしく扉を開けて入ってきた。船長の男は不思議そうに目を向けたが、特段動揺したりせずに聞いた。
「何だ、騒々しいなあ」
「し、しかし――――」
声はそこで消えて、賊は後ろから吹っ飛ばされていった。代わりに扉に立っている人物を見て、ルイズは思わず喜色の表情を浮かべた。
「――ケンシン!!」
「な…何者だ貴様!!」
「見張りたちは何をしている!!」
「出会え、出会え!!」
辺りが騒ぎ立てる中、剣心の声がシンと響いた。
「呼んでも来ぬよ、どうしても入れてくれぬのでな、失礼ながら眠ってもらった」
そう伝える剣心の後ろから、ひょっこりとタバサも現れる。
キュルケやギーシュが安堵の笑を浮かべる中、船長の男だけは冷静に剣心を見据えた。
「ほう…中々やるな、君も王党派の一味かい?」
「拙者は流浪人――と言いたいところでござるが、今はルイズ殿の使い魔をやらせてもらっている。
今は急ぎの用なのでな、ルイズ殿達は返してもらおう」
95 :
るろうに使い魔:2012/07/30(月) 01:13:47.56 ID:apDBSRFC
使い魔? と聞いた男はルイズを見やり、再び視線を剣心に戻すと、どこか可笑しそうにしながら立ち上がり、そして剣心と向かい合った。
「そう言われて、はい返します。と僕が言うとでも?」
「ならば力づくでも返してもらおう」
剣心の瞳が鋭く光り、男を睨みつける。しかし、そんな状況にも関わらず男は不敵の笑みを浮かべていた。
時間にして約数秒、しばらくそうして佇んでいると……。おもむろに一瞬、男が杖を抜いて――――。
「……ッ!!!」
いつの間にか間合いを詰めた剣心の逆刃刀が首筋に、男の杖が数サント前に額に、それぞれ突きつけられていた。
男も含めて、反応できなかった周囲が唖然として、二人を見守っていると、ふと急に男は笑いながら質問をぶつけた。
「何故振り切らなかったんだい、君の速さなら間に合った筈だろう?」
「ならばお主こそ。敵意がまるで感じられなかったでござるよ」
それを聞いて、面白そうな笑みを崩さずに男は杖をしまうと、改めてルイズ達に向き直った。
「いやあ、試すようなことをして悪かった。何せこっちも必死だったもんでね」
そう言って、男は懐から指輪のようなものを取り出し、それをルイズ達に見せるように向けた。
それは、アルビオンの王家のみが着用を許される、『風のルビー』。
それをルイズがアンリエッタから貰った『水のルビー』に近付けると、共鳴するように光りあい、虹の橋をかけた。
偽物の類では無い、見間違える事の無い本物に、ルイズ達は驚きで目を見張る。
「あ…貴方は一体…」
「失礼、貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」
そう言うと、男は改めて姿勢を正して挨拶する。それは野蛮な空賊には決してできない、貴族を思わせるような凛とした振る舞いだった。
「アルビオン皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
本日はここまでです。ここまで見ていただきありがとうございました。
また来週、この時間に投稿したいと思います。
お二人方乙です
投下の方々乙です
偏在は強いけど、沢山出すほど一体一体の力や精神残量は弱まるって意見もありますね
原作でも一体だけ偏在出したときはライトニングクラウド使っていたけど、
四体出したときはエアニードルを一回使っただけで後は接近戦のみ、ルイズを倒すときも魔法じゃなく杖で殴ってる
お二人投下乙
ドリュウズがいるのか…ワルド大ピンチだな
>>70 老いてなおロープで吊された空き缶(一斗缶?)を竹刀の一突きで貫いた人が新撰組に居てなw
>>100 「阿呆が…」の人は自分の死期を悟って、道場で正座して人生の最期を迎えたんだっけ
>>101 >阿呆が…
それを効いて牙神幻十郎の方を思い出すのは多分俺だけw
効いてじゃなくて聞いてだ orz
ギーシュ「やぁ!ゼロの使い魔の美形キャラギーシュだよ!」
ルイズ「わざわざ説明しなくてもわかると思うけどゼロの使い魔の美少女キャラ、
誇り高きヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・(以下略)よ!」
右京さん「……」
ルイズ「右京さんよ」
ギーシュ「ルイズに召喚されたサムライスピリッツの美形キャラ橘右京さんだね」
>>66 アルゴが地下鉄車両を投げまくってたときのことな
あの世界の連中は東京タワーをジャンプで駆け上がるくらいは朝飯前、阿呆の人いわく強度がオモチャの仕込み杖で二階建てバスを真っ二つにするくらいは普通
BWの時代だと、シナリオポケモンは例外なくイッシュのポケモンになるな。
しかし、ヴィンダか・・・意のままに操るとか、限界まで幻獣の能力を引き出すってのが能力だったっけ?
連れ添ってきたシナリオポケモンに使う能力じゃない気もするけど…
擬似ハルモニアみたいな精神感応の能力もあったっけか、あのルーンって
Nに近い視点を持てるっていうのは主人公的に大きそうだ
>>101 自分ちの床の間の大黒柱の前じゃなかったか?
るろうに乙!
船上で合流できたか。
剣心以上に小柄なタバサじゃ飛天御剣流は無理だよなあ
ハルケギニアでまともに習得可能なのはスカロンくらいじゃなかろうか、筋肉の鎧的には
アニエスなら…
無能王なら
アニエスは復讐者という立場的に和刀術ではなかろうかな
スカロンはカマ男?
神経発達したアニエスさんなんて嫌だなぁ
エロい神経が発達する?(難聴)
アニエス「くやしい・・・でも・・・感じちゃう!」
こうですかわかりません!
顔面ビキビキな想像なんだがな
クソ暑いな
そういえば冷凍怪獣バルゴン召喚の書いてた人はまだかな
どうも今晩は。無重力の人です。
もうすっかり夏が到来してますね。
さて、今回の五十七話は前後編に分けて投下します。
何もなければ、45分から投下を始めます。
昼の喧騒で賑わうトリステイン王国の首都トリスタニア。
商売も仕事もこれからという時間の中、ブルドンネ街のとある通りに建てられた一件のレストラン。
平民から下級貴族までが主な客層であるこの店も、書き入れ時をとっくに過ぎて閑散とした雰囲気を漂わせている。
しかし個々の諸事情で昼食の時間に食べそこなった人達が席につき、店が振る舞う料理やデザートの味をゆっくりと楽しんでいた。
木製の小さなボールに入ったサラダを、ゆっくりと口に入れて咀嚼している若い貴族の女性。
ハチミツを塗ってからオーブンでじっくり焼いた骨付き肉にかぶりつく、平民の中年男性。
常連なのか、カウンターの向こうにいる店長と談笑しながらフルーツサンドイッチを味わっている魔法衛士隊の隊員。
窓から見える野良猫同士の喧嘩を眺めるのに夢中になって、思わずレモンティーをこぼしてしまう平民の少女。
食べている物や行動などはバラバラであるのだが、彼らには皆一つだけの共通点がある。
それは、一日という忙しくも長い時間の合間に『自分だけの時間』を作って、ゆったりと過ごしているという事だ。
大勢の人々が忙しそうに行き交う場所から閑散とした場所へ、その身を移して一息つく。
そうすることで゛自分゛という存在を改めて自覚し、色んな事を考える時間ができるのだ。
仕事の事や気になるあの人との関係から、これから何をしようかな。といった事まで人によって考えている事も全部違う。
短くもなるし長くもなる『自分だけの時間』の間にその答えに辿り着く者もいれば、答えが出ずに悩み続けていく者もいる。
中には最初から考える事をせず、ただ単に体を休ませている者もいるがそれは決して間違った事ではない。
仕事や人間関係といった気難しい事を一時的に投げ捨ててわがままになる事も、また大切なのだ。
そんな風にして各々の時間が緩やかな川の流れの様に進んでいく店の中で、ルイズたちは昼食を取っていた。
「それにしてもホント、今日はどういう風の吹き回しかしらねぇ」
「……?どういう意味よ、それは?」
ふと耳に入ってきた霊夢の言葉に、ルイズはキョトンとした表情を浮かべて食事の手を止める。
口の中に入る予定であったフライドミートボールと、それを刺しているフォークを皿に置いた彼女は一体何なのかと聞いてみる。
「事の張本人がそれを知らないワケないでしょうに」
質問を質問で返したルイズの言葉に霊夢は肩を竦めると手に持っていたカップを口元に寄せ、中に入っている紅茶を一口だけ飲む。
そこでようやく思い出したのか、何かを思い出したような表情を浮かべたルイズがその口を開く。
「あぁわかった。アンタの服の事でしょう?」
ルイズの口から出たその言葉に、霊夢は正解だと言いたげに頷きながらもカップを口元から離す。
安物のティーカップに入っていたそれはルイズの部屋にある物と比べて味は劣るものの、それでも美味い方だと彼女の舌が判断した。
上品さと素朴さを併せ持つ一口分の紅茶を口の中でゆっくりと堪能した後に、喉を動かしてそれを飲み込む。
口に入れた時よりも少しだけぬるくなった赤色の液体が喉を通っていく感触を感じた後、霊夢はホッと一息ついた。
「今更過ぎるけどお前ってさぁ、本当に緑茶でも紅茶でも美味しそうに飲むよな」
その様子をルイズの隣で見つめていた魔理沙は、コップ入ったオレンジジュースをストローで軽くかき混ぜながらそんな事を呟く。
まるで目玉焼きの目玉部分の如き真っ黄色な液体は、一口サイズの氷と一緒にコップの中でグルグルと回っている。
しかし幾らかき混ぜても液体そのものが糖分の塊なので、氷が溶けない限り味が変わることは無いだろう。
黒白の言う通り、本当に今更過ぎるその質問に霊夢は若干呆れながらも返事をした。
「アンタの頼んだジュースと違って、お茶なら熱しても冷やしても美味しいし、色んなものに合うから飲めるのよ」
「でも一日中お茶ばっかり飲んでるってのもどうかと思うわね。私は」
霊夢がそんな事を言っている間にお冷を口の中に入れていたルイズはそれを飲み込みんでから、思わず横槍を入れてしまう。
軽い突っ込み程度のそれは投げた本人が想定していた威力よりも強くなり、容赦なく紅白巫女の横っ腹に直撃した。
「私が何を飲んだって別に良いじゃないの。アンタには関係ないんだしさぁ」
ルイズの突っ込みに顔を顰めてそう返しつつ、霊夢はもう一口紅茶を飲んだ。
そして何を勘違いしたのか、魔理沙は意地悪そうな笑みを浮かべてルイズの肩を軽く叩く。
「やったなルイズ、今回の勝負は私たちの完全勝利で終わったぜ」
「アンタは何と戦ってたのよ?」
自分には見えない不可視の敵と知らぬ間に戦っていたらしい魔理沙の言葉に、ルイズは怪訝な表情を浮かべた。
その直後、話が逸れてしまった事を思い出した彼女はアッと小さな声を上げて再度霊夢に話しかける。
「それで、まぁ話は戻るけど……アンタの服の事だったわよね?」
「そうそうその事よ。まったく、魔理沙のせいで話が逸れる所だったわ」
さっきのお返しか霊夢はそんな事を言いながら、ルイズの隣に座っている普通の魔法使いを睨みつける。
しかし博麗の巫女に睨まれた魔法使いは微動だにせず、やれやれと言わんばかりに首を横に振ってこう言った。
「元を辿れば、お前が紅茶を飲んだ所で話が逸れ始めたと私は思ってるんだがなぁ〜」
「まぁこの件はどっちも悪い、という事にしておきましょう。これ以上話が逸れたら面倒だわ」
これ以上進むとまた騒いでしまいそうな気がしたルイズはその言葉で無理やり締めくくり、コップに残っていたお冷をグイッと飲み干した。
自分たちの論争が第三者の手によって終止符を打たれてしまった事に、二人は目を丸くしてルイズの方へと顔を向ける。
突然自分に向けられた二人分の視線をまともに受けた彼女は少しだけ気まずそうに咳き込むと、今度こそ本題に移った。
「で、服の事についてなんだけど…」
ルイズはその言葉を皮切りに何で霊夢の為に新しい服を購入してあげたのか、その理由を話し始めた。
ハルケギニア大陸において小国ながらも古い歴史と伝統を誇るトリステイン王国の首都、トリスタニア。
国の中心である王宮がすぐ目の前にあるという事もあって、その規模はかなりのものだ。
平日でも大通りを利用する市民や貴族の数が変わることは無く、常に大勢の人々が行き交っている。
ブルドンネ街やチクトンネ街などの繁華街には大規模な市場があり、今日の様な休日ともなれば火が付いたかのように街が活気に満ち溢れる。
その他にもホテルやレストランなどの店も充実しており、特にこの時期は他国からやってきた観光客が狭い通りを物珍しそうに歩く姿を見れるものだ。
ガリアのリュティスやロマリアの各主要都市に次いで人気のあるトリスタニアには、他にも色々な場所がある。
かつての栄華をそのまま残して時代に取り残された郊外の旧市街地に、各国から賞賛されているトリステインの家具工場。
芸の歴史にその名を残す数多の劇団を招き入れたタニア・リージュ・ロワイヤル座は、今も毎日が満員御礼だ。
そんな首都から徒歩一時間ほど離れた所に、ハルケギニアの基準では中規模クラスに入る地下採石場がある。
周りを十メイルほどもある木の柵に囲まれた敷地の真ん中には大きな穴があり、そこを入った先にある人工の洞窟が採石の場所となっていた。
土地の大きさはトリステイン魔法学院の三分の一程度の広さで、主な仕事は地下から切り取ってきた岩を地上に上げる事である。
地下から運び出された岩は馬車に乗せられ、首都の近郊に建てられた加工場で石像や墓石などにその姿を変える。
ここで働いているのは街や地方からやってきた平民の出稼ぎ労働者や石工、警備の衛士に現場監督である貴族達も含めておよそ九十人程度。
ガリアやゲルマニアとは国土の差がありすぎるトリステインでは、これだけの人数でも充分に多い方だ。
一つの鉱山や採石場に二十人から四十人程度はまだマシな方で、地方では十人から数人程度で運営している様な場所もあるのだから。
そこから場所は変わり、加工場と採石場を繋ぐ唯一の一本道。
鬱蒼とした木々に左右を挟まれたようにできた横幅七メイル程度の道も、かつては広大な森林地帯の一部に過ぎなかった。
今からもう四十年前の事だが当時は誰も見向きすることはなく、動植物たちが安寧に暮らせる場所であった。
しかし…今は採石場となっている場所で良い鉱石が見つかった途端、人々は気が狂ったかのように木を倒し草を毟って森を壊していった。
そして森に古くから住んでいた者たちを無理やり排除して、人は文明の一端であるこの道を作ったのである。
そんな歴史を持っている道を、馬に乗った二人の男が軽く喋り合いながら歩いている。
薄茶色の安い鎧をその身に着こんだ彼らは、採石場を運営している王宮が雇った衛士達だ。
市中警邏の者たちや魔法学院に派遣されている者達とは違い、彼らは皆傭兵で構成されている。
その為かあまりいい教育は受けておらず、常日頃の身なりや素行はそれなりの教育を受けた平民なら顔を顰めるだろう。
しかし雇われる前に傭兵業を営んでいた彼らの腕利きは良く、文句を言いつつも仕事はしっかりとこなすので王宮側は仕方なく雇っているのが現状であった。
「全く、こんな休日だってのに採石場警備の増援だなんて最悪だよな?」
二人の内先頭を行く細身のアルベルトは左手で手綱を握りつつ、後ろにいる同僚のフランツにボヤいている。
アルベルトとは違い体の大きい彼はその言葉にため息をつく。アルベルトが日々の仕事に対し文句を言うのはいつものことであった。
「仕方ないだろ。他の連中は皆非番で、事務所にいたのは俺たちだけだったんだ」
「だからってわざわざ採石場まで行かせるかよ。あそこの警備担当はヨップが率いてる分隊だろうが」
空いている右手を激しく振り回しながらそう喋る彼の言葉を、フランツは至極冷静な気持ちで返した。
「そのヨップの分隊にいたコンスタンとダニエルが今日でクビになったから、俺たちが臨時で行くんだ」
同僚の口から出た予想していなかった言葉に、思わず彼は目を丸くした。
「どういう事だよ?あいつ等なんか下手な事でもしたのか?」
「正にその通り。…コンスタンはこの前、高等法院から視察に来たお偉いさんの足を踏んじまったろ?あれのツケが今になってきたのさ」
「うへぇ…マジかよ」
コンスタンの酒飲みは悪いヤツではなかったし、何よりこの前負けたポーカーの借りをまだ返していなかった事を彼は思い出す。
後ろにいるフランツの言葉を聞き、惜しい顔見知りを失ったとアルベルトは心の中で呟いた。
「あんなに面白い奴をクビにするなんて、酷い世の中だ。…で、ダニエルの方は?」
アルベルトは職場から消えてしまった顔見知りの事を惜しみつつも二人目の事を聞くと、同僚は顔を顰めて言った。
「アイツの事なんだが…何でも教会のシスターに手ぇ出しちまったんだとよ」
「シスター!?それはまた…随分派手だなぁオイ」
女遊びが激しかったアイツらしい最後だと彼が思った、その時である。
「全く、女に手を出すのは良いが幾らなんでも――ん?」
ダニエルの事を良く知っていたフランツが彼に対しての文句を言おうとした直後、四メイル前方の茂みから何かが飛び出してきた。
それはボロ布のようなフード付きのローブを、頭から羽織った身長160サント程度の人間?であった。
「な、何だ!…人?森の中から出てきたぞ…?」
先頭にいたアルベルトは驚いたあまり手綱を引いて馬を止めると、目の前に現れた者へ警戒心を向けた。
この一帯は道を外れると、急な斜面や深さ三メイル程もある自然の溝が至る所にある樹海へと入ってしまう。
それに加えて九十年近くの樹齢がある木々が空を覆い隠しているので、並大抵の人間ならあっという間に迷い込む。
更に視界を奪うほどに生い茂った雑草や少し歩いた先にある野犬の縄張りの事も考慮すれば、無用心に森へ入って生きて帰れる確率はそれほど高くはない。
その事を知っていれば、どんな人間でもわざと道を外れて森に立ち入ろうとは思わないだろう。
しかし、今二人の目の前に現れた者は間違いなく茂みの…その奥にある森から姿を現したのだ。
雇い主である王宮側から森の事を教えられた者たちの一人であるアルベルトが警戒するのも、無理はないと言える。
それはフランツも同じであったが、少なくとも彼ほどの警戒心は見せていなかった。
「まぁ落ち着けアルベルト。とりあえず話しかけてみようじゃないか」
彼よりもこの仕事を大事にしているフランツはそう言うと馬を歩かせ、アルベルトの前へと出る。
フードのせいで性別はわからないが、人間であるならば話は通じるだろうと彼は思っていた。
無論もしもの時を考えて、左の腰に携えた剣の柄を右手て掴んみながらも目の前にいる相手へと声をかける。
「すまんがお前さんは誰だい?見た感じ旅人って風には見えるんだが…」
まずは軽く優しく、なるべく相手が怖がらない様に話しかけてみる。
このような場合下手に脅すように話しかけると、相手が逃げてしまう事をフランツは経験上知っていた。
彼の声にローブを羽織った者はピクリと体を動かした後、ゆっくりとだがその足を動かして二人の方へ近づいてきた。
てっきり喋り出すのかと思っていたフランツは予想外の行動に少しだけ目を丸くしつつも、すぐに左手のひらを前に突き出しその場で止まるよう指示を出す。
彼の突き出した手が何を意味するのか知っていたのか、ローブを羽織った者は一メイル程歩いた所でその足をピタッと止めた。
うまくいった。彼は動きを止めた相手を見て内心安堵しつつ、ここがどういう場所なのかを説明し始めようとする。
「悪いがここは王宮の直轄でね?関係者以外の立ち入りは――――」
禁止されているんだ。彼はそう言おうとしたが、最後まで言い切ることができなかった。
喉に何か詰まったわけでもなく、ましてや目の前にいる相手が投げつけたナイフで喉を切り裂かれた――という突飛な話でもない。
彼の言葉を中断させたその゛原因゛は、先程ローブを羽織った者が出てきた茂みから現れた。
゛原因゛の正体は野犬でも狼でもなく、本来なら王都との距離が近いこのような場所には滅多に現れない存在であった。
全長二メイルもある゛原因゛は太った体には似つかわぬ俊敏な動きで道の真ん中に飛び出してくると、目の前にいる一人の人間をその視界に入れる。
そしてローブを羽織った者が後ろを振り返ると同時に゛原因゛は体を揺らしながら、聞きたくもない不快な咆哮を辺りに響かせた。
「ふぎぃっ!ぴぎっ!あぎぃ!んぐいぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」
もう逃げられないぞ!
人間にはわからない言葉で゛原因゛はそう叫んでから威嚇のつもりか、右手に持った棍棒を振り回しはじめる。
それと同時にローブを羽織った者の後ろにいるアルベルトが、今まで生きてきて何十回も見てきた゛原因゛の名前を口にした。
「お、オーク鬼だ!!」
彼がそう叫んだと同時にフランツが右手に掴んだ剣の柄を握り締め、それを勢いよく引き抜く。
刃と鯉口が擦れる音ともに引き抜かれたソレの先端は一寸のブレもなく、獲物を振り回す亜人の方へと向けられた。
彼の表情は厳ついものへと変貌しており、目の前に現れた亜人に対して容赦ない敵意を向けている。
「そこのお前、早くこっちへ来るんだ!」
先程の優しい口調とは打って変わって、ローブを羽織った者へ向けてフランツは叫ぶ。
しかしその声が聞こえていなかったのか、ローブを羽織った者は微動だにしない。
それどころか、目の前にいるオーク鬼と対峙するかのように何も言わずに佇んでいるのだ。
だが、身長二メイルもある亜人と身長160サント程度しかない人間のツーショットというのは、あまりにも絶望的であった。
どう贔屓目に見たとしても、勝利するのは亜人の方だと十人中十人が思うであろう。
「アイツ、何を突っ立ってる…死にたいのか?」
まるで街角のブティックに置いてあるマネキンの様に佇む姿を見たアルベルトが、思わずそう呟いた瞬間――
「ぎいぃぃぃぃッ!」
もう我慢できないと言わんばかりに吠えたオーク鬼はその口をアングリ開けて、ローブを羽織った者に向かって一直線に走り出した。
二本足で立つブタという姿を持つ彼らの口に生えている歯は見た目以上に強く、ある程度硬いモノでも容易に噛み砕くこともできる。
その話はあまりにも有名で、とある本に火竜の分厚い鱗諸共その皮膚を食いちぎったという逸話まで書かれている程だ。
それほどまでに凶悪な歯を光らせながら走り、目の前にいる獲物の喉へと突き立てんとしていた。
二人の衛士たちはそれを見てアッと驚き目を見開くがその体だけは動かない。
あと少しでオーク鬼に喉笛を噛み千切られるであろう者が目の前にいても、すぐに動くことができなかった。
そんな彼らをあざ笑うかのように、オーク鬼は走りながらも鳴き声を上げる。
「ぷぎゃあっ!いぎぃ!」
オーク鬼は知っていた。大抵の生き物は。喉を食いちぎればカンタンに殺せると。
そこへたどり着くまでの過程は難しいものの、そこまでいけば相手はすぐに死ぬ事を知っている。
だから森で見つけたこの人間も、喉を噛み千切ればすぐにでも食べられる。
縄張り争いで群れから追い出され、腹を空かせたまま森の中を徘徊していた彼は自らの食欲を満たそうと躍起になっていた。
三日間もの耐え難い空腹で理性を失い、すぐ近くに武器を持った人間が二人もいるというのにも関わらず襲いかかった。
たったの一匹で人間の戦士五人分に匹敵するオーク鬼にとって、たかが二人の戦士など問題外である。
それどころか、オーク鬼は二人の戦士と彼らの乗ってる馬ですら自分が食べる食糧として計算していた。
目の前にいる人間を殺したら、次はあいつらを襲ってやる。
食欲によって理性のタガが外れたオーク鬼はそう心に決めながら、最初の獲物として選んだ人間に飛びかかろうとした瞬間…
目が合った。
頭に被ったフードの合間から見える、赤色に光り輝くソイツの『目』と。
まるで火が消えかけたカンテラの様に薄く光るその『目』の色は、どことなく血の色に似ている。
物言わぬ骸の傷口から流れ出る赤い体液のような色の瞳から、何故か禍々しい雰囲気から感じられるのだ。
そして、そんな『目』が襲いかかってくる自分の姿をジッと見つめている事に気が付いたオーク鬼は、直感する。
―――――こいつ、人間じゃない!
心の中でそう叫んだ瞬間、オーク鬼の視界の右下で青白い『何か』が光った。
その光の源が、目の前にいる゛人間ではない何か゛の『左手』だとわかった直後。
オーク鬼の意識は、プッツリと途絶えた。
――――…と、いうワケなのよ。判った?」
無駄に長くなってしまった説明を終えたルイズは、一息ついてから話の合間に頼んでおいたデザートのアイスクリームを食べ始める。
カップに入った白色の氷菓は丁度良い具合に柔らかくなっており、スプーンでも簡単にその表面を削ることができた。
ルイズはその顔に微かな笑みを浮かべつつ、一匙分のアイスが乗ったスプーンをすぐさま口の中にパクリと入れる。
「まぁ大体話はわかったわね…アンタが何であんな事をしてくれたのか」
一方、三十分以上もの長話を聞かされた霊夢はそう言って傍にあるティーカップを手に持つと中に入っている紅茶を一口飲む。
話の合間に新しく注いでもらった熱い紅茶は喉を通って胃に到達し、そこを中心にしてゆっくりと彼女の体を温めていく。
緑茶とは一味違う紅茶の上品な味と香り、そして体の芯から温まっていく感覚を体中で体感している霊夢は安堵の表情を浮かべている。
そんな風にして一口分の幸せを堪能した彼女は再びカップをテーブルに置くと、ルイズの隣にいる黒白の魔法使いに話しかけた。
「ねぇ魔理沙、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「…ん、何だ?」
霊夢に名前を呼ばれた彼女は、サンドイッチを口に運びかけたころでその手を止める。
魔理沙がこちらに顔を向けた事を確認してから、霊夢はこんな質問を投げかけた。
「アタシが着てる巫女服って…ルイズが言うほど変わってるかしらね?」
「…う〜ん、どうだろうなぁ?私はそんなに変わってるとは思わなくなったが」
その質問に、魔理沙は肩を竦めながら言った後に「だけど…」と言葉を続けていく。
「ハルケギニア人のルイズがそう思うのなら、この世界の基準では変わってるのかもしれないな」
自分の質問にあっさりと即答した魔法使いの返答を聞き、霊夢は思わず目を細めてしまう。
そんな二人のやりとりを自信満々な笑みを浮かべて見ていたルイズが、追い打ちをかけるかのように口を開く。
「まぁ私としてもアンタには色々と借りがあったしね。それを一緒に返したまでの事よ」
彼女の口から出てきたそんな言葉を聞き、霊夢はふと彼女が話してくれた゛二つの理由゛を思い出し始める。
ルイズが霊夢に新しい服を買ってあげた゛二つの理由゛の一つめ。
それは近々行われるアンリエッタとゲルマニア皇帝の結婚式にある。
かの神聖アルビオン共和国の前身であるレコン・キスタの出現とアルビオン王家の危機に伴い、帝政ゲルマニアとトリステイン王国は同盟を組む事となった。
アルビオン王家が滅ぼされれば、有能な貴族だけで国を支配してやると豪語する神聖アルビオン共和国が隣の小国であるトリステインへ攻め込んでくるのは明らかである。
巨大な浮遊大陸からハルケギニアでは無敵と評される大規模な空軍と竜騎士隊が攻め込んで来れば、トリステインなどあっという間に焦土と化すだろう。
そうならない為にもトリステインは隣国に同盟の話を持ち込み、ガリアに次ぐ大国の誕生を望まないゲルマニアはその話に乗った。
幾つかの協議を行った末にゲルマニア側は、もしトリステイン国内で大規模な戦争が起こった際に自国から援軍を出すことを約束した。
それに対しトリステインの一部貴族はあまり良い反応をしなかったが、異論を唱えることは無かったのだという。
精鋭揃いではあるが小国故に軍の規模が他国と比べて小さいのが悩みのタネであったトリステインにとって、倍の規模を持つゲルマニアの存在は心強い。
一方のトリステインは、王宮の華であるアンリエッタをゲルマニア皇帝アルブレヒト三世のもとに嫁がせる事を約束した。
その結婚式に関しては一つのアクシデントが起こり、ルイズと霊夢はそのアクシデントの所為でトリステインの国内事情に巻き込まれたのである。
最もルイズは自ら望んで巻き込まれたのに対して、霊夢は偶然にも巻き込まれただけに過ぎないが。
まぁ結果的にそのアクシデントは二人の力で無事解決し、晴れてトリステインとゲルマニアの同盟は締結される事となった。
そして、丁度来月の今頃にゲルマニアで行われる手筈となった結婚式に、ルイズは詔を上げる巫女として招待される事となった。
幼いころからアンリエッタの遊び相手として付き合ってきた彼女は、幼馴染でもある姫殿下から国宝である『始祖の祈祷書』を託されている。
トリステイン王室の伝統で、結婚式の際には祈祷書を持つ者が巫女となって式の詔を詠みあげるという習わしがある。
そんな国宝をアンリエッタの手で直々に渡された彼女はこれを受け取り、巫女としての仕事を承った。
ルイズが行くのなら、形式上彼女の使い魔であり現役の巫女である霊夢もついて行くことになるのだが…そこで問題が発生する。
霊夢がいつも着ている巫女服、つまりは袖と服が別々になっているソレに問題があった。
ハルケギニアでは比較的珍しい髪の色や、他人とは付き合いにくい性格は多少問題はあるがそれでも大事にはならないだろうルイズは思っている。
むしろ性格に関しては、付き合えば付き合うほど良いところを見つけることができると彼女は感じていた。
表裏が無く、喜怒哀楽がハッキリと出て誰に対してもその態度を変えない霊夢とは確かに付き合いにくい。
事実、召喚したばかりの頃はある意味刺々しい性格に四苦八苦していたのはルイズにとって苦々しい思い出の一つだ。
しかし霊夢を召喚してから早二ヶ月、様々な事を彼女と共に体験したルイズはそれも悪くないと思い始めていた。
部屋の掃除は今もしっかりとしているし部屋にいるときはいつもお茶を出すようにまでなっている。
相変わらず刺々しいのは変わりないが、慣れてくるとそれがいつもの彼女だと知ったルイズは怒ったり嘆いたりする事は少なくなった。
だが、それを引き合いに出しても彼女の服だけにはどうしても問題があるのだ。
王家の結婚式において、礼装であってもなるべく派手な物は避けるという暗黙のルールが貴族たちの間にある。
着ていく服やマントの色も黒や灰色に茶といった地味なもので装飾品の類は一切付けず、杖に何らかの飾りを付けているのならばそれも外す。
ドレスであってもなるべく飾り気の少ない物を選び、決して花嫁より目立ってはいけないよう注意する。
式を挙げる側もそれを知ってか花嫁花婿ともに華やかな衣装に身を包み、周りに自分たちの存在をこれでもかとアピールするのだ。
もしも間違って派手な衣装で式に参加してしまえば、王家どころか周りにいる貴族達から大顰蹙を買うことになる。
事実過去にタブーを犯した怖いもの知らず達が何人かおり、後に全員が悲惨な目に遭っていると歴史書には記されていた。
そして不幸か否か、霊夢の服はそのような場において確実に目立つ出で立ちだ。
服と別々になった袖や頭に着けたリボンは勿論の事、何よりも目立つのが服の色である。
紅白のソレはある程度距離を取ろうが否が応にも目に入り、着ている人間がここにいると激しく主張している。
街の中ならともかく、そんな服を着て結婚式に参加しようものならば顰蹙どころかその場で無礼だ無礼だと騒がれてドンパチ賑やかになってもおかしくはない。
しかも持ってきた着替えも全て似たようなデザインの巫女服であった為、ルイズは今になって決めたのである。
この際だから、霊夢に服でも買ってあげようと。
「幻想郷だとそれほど変わってるって言われる事は無かったのに…」
ルイズの話した゛二つの理由゛の一つ目を思い出し終えた霊夢がポツリと呟いた愚痴に、ルイズはすかさず突っ込みを入れた。
「言っておくけどここはハルケギニア大陸よ。アンタのところの常識で物事測れるワケないでしょうに?」
辛辣な雰囲気漂う彼女の突っ込みにムッときたのか、霊夢は苦虫を踏んでしまったかのように表情を浮かべる。
そんな表情のまま紅茶を一口飲むと、薄い笑みを顔に浮かべてこんな事を言ってきた。
「だったら何も知らせずに服屋に連れていって、イキナリ別の服を着させるのがハルケギニア大陸の常識ってワケね」
「…何よその言い方は?」
薄い嫌悪感漂う笑顔を浮かべる霊夢の口から出たその言葉に、ルイズは目を思わず細める。
両者ともに嫌な気配が体から出ており、下手すれば静かな雰囲気漂うこの店で弾幕ごっこでも起きかねない状態だ。
しかしそんな気配が見えていないというか場の空気を読めていない黒白の魔法使いが、霊夢の方へ顔を向けて口を開く。
「まぁ別に良いじゃないか。これを機にお前も袖が別途になってない服を着ればいいんだよ」
魔理沙がそう言った直後。睨み合っていた二人の目が丸くなると、その顔を彼女の方へ向けた。
二人同時にして同じ事を行ったために魔理沙は軽く驚いた様子で「え?何…私何か悪い事でも言ったか?」と呟き狼狽えてしまう。
それに対し霊夢は軽いため息を口から吐くと、出来の悪い生徒に諭すかのような感じで魔理沙に話しかける。
「全く服に興味が無いわけでもないし、貰えるのなら貰うわよ。タダ程嬉しい物はないしね」
彼女はそう言って一息ついた後、「でもまぁ…その理由がねぇ…」と話を続けていく。
「元の服じゃ自分が変だと思われるから別のを買ってやる…って理由で服を貰ってさぁ。喜ぶワケないじゃないの」
隠す気が全くない嫌悪感をその目に滲ませた霊夢は、ルイズの顔を睨みつけた。
以前王宮へ参内した際に同じような目つきで睨まれた事があったルイズは思わず怯みそうになるが、それを何とか堪える。
霊夢を召喚してかれこれ二ヶ月近く一緒にいる彼女は、ゆっくりとではあるが彼女の性格に慣れ始めていた。
一方ルイズの隣にいる魔理沙は滅多に見ないであろう知り合いの表情に軽く驚きつつも、それを諌める事は無い。
霊夢と出会い知り合ってから数年ほどにもなる彼女は、別に怒ってるワケではないとすぐに感じていた。
何せ喜怒哀楽がすぐに態度で出るような彼女だが、本気で怒るような事は滅多にないのだ。
一見怒っているように見える今の状況も、魔理沙の目からして見れば今の霊夢は゛怒っている゛というより゛呆れている゛のだ。
相変わらず素直ではなく、下手な言い回ししかできないルイズに対して。
(まぁ本気で怒ってるなら怒ってるで、もっとヒドイ事言うからなコイツは)
魔理沙は心の中でそんな事を思いながら、尚もルイズの顔を睨みつけている霊夢の方へと顔を向けた。
相変わらず嫌悪感漂う目つきではあるものの、ただ睨みつけているだけで何も言おうとはしない。
やがてそれからちょうど一分くらい経とうとしたとき、黙っていた三人の中で先に口を開いたのは霊夢であった。
「…でもさぁ。その後に教えてくれた゛二つの理由゛の二つ目を聞いたら、怒るに怒れないじゃない?」
彼女はそんな事を言って軽いため息をついてから、もう一度その口を開く。
「アンタが二つ目の理由だけ話してくれたら、私だって発散できないこの嫌悪感を抱かなかったんだけどねぇ」
霊夢は未だ素直になれないルイズへ向けてそんな言葉を送りつつ、゛二つの理由゛の二つ目を思い出し始めた。
ルイズが霊夢に新しい服をプレゼントした二つ目の理由。それは俗にいう『お礼』と呼ばれるモノである。
まだ付き合って二ヶ月ちょっとではあるが、ルイズは春の使い魔召喚の儀式で呼び出した彼女には色々と助けられた。
盗賊フーケのゴーレムに踏まれそうになった時や、アルビオンで裏切り者のワルドに殺されそうになった時。
自分の力ではどうしようもなくなった瞬間、彼女はルイズの傍にやってきてその身を守ってきた。
それが偶然に偶然を重ねた結果であっても、彼女は自分を助けてくれた霊夢にある程度感謝の気持ちがあったのである。
いつも何処か素っ気なく部屋で一人のんびりと過ごしているそんな彼女に、ルイズはこれまでのお礼がしたかったのだ。
(ホント、素直じゃないんだから…)
二つ目の理由を思い出し終えた霊夢はもう一度ため息をつくと、困ったような表情を浮かべた。
先程彼女が呟いた言葉の通り、一つ目の理由だけで服を貰っても嬉しくは無くただただ嫌なだけだ。
単に他人の見栄だけで貰った服を着てしまえば自分は着せ替え人形と同じだと、彼女は思っていた。
しかし二つ目の理由を聞いてしまった以上、ルイズから貰ったあの服を無下にする事はできなくなってしまう。
彼女、博麗霊夢は幻想郷を守る博麗の巫女であり何事にも縛られない存在ではあるが、元を辿れば人間の少女である。
誰かにお礼を言われれば嬉しくもなるし、服にも全く興味が無いというわけでもない。
正直ルイズから服を貰えた事に喜んではいたが、それと同時に素直でない彼女に呆れてもいた。
その呆れているワケは今朝、朝食の後に街へ行こうと誘ってきた時の口論にあった。
今思えばいつもと違って妙に食い下がっていたし、自分を街に連れて行こうとした際の言い訳もおかしかった。
きっとこの事をサプライズプレゼントか何かにしたかったのだろう。そう思ったところで霊夢はまたもため息をつく。
(最初から下手な言い訳なんかしなくたっていいのに)
彼女は心の中で呟きつつ、こちらの様子を伺うかのようにジッと見つめているルイズの方へ顔を向けた。
先程の言葉の所為か均整のとれた顔は心なしか強張っており、鳶色の瞳にも緊張の色が伺える。
恐らく何も言わない自分が怒っているのだと思っているのだろうか。
(別に怒ってなんかないわよ。失礼なやつね…)
霊夢はまたも心の中でそんなことをぼやきつつ、ようやくその口を開けて自分の意思を伝えようとする。
別に言い訳なんかしなくても良い。今までのお礼として服を貰える事は自分にとっても嬉しい事だから、と。
「大体。下手な言い訳なんかしなくたって最初から…―――…って…――――あれ?」
その直後であった。゛異常゛が起きたのは―――――――――
喋り始めてからすぐに彼女は気が付いた。そう、突如自分の身に起きた゛異常゛に。
彼女は喋るのを途中で止めて、目の前にいた二人がどうしたと聞いてくる前に席を立つ。
最初は気のせいかと思ったがすぐにその考えが自分の甘えだと気づき、頭を動かして周りの様子を見回す。
今自分たちがいる店内で食事を取っている客たちの声。魔法人形たちの奏でる音楽。
カウンター越しに平民の店主と仲良く話し合っている貴族の男と、窓越しに見える通りを行き交う大勢の人々。
そして、不思議そうな表情を浮かべて霊夢に何かを話しかけているルイズと魔理沙の姿。
「…………?…………………」
「………!…………?」
二人とも口を動かしているもののその声は一切聞こえてこず、まるでカラーの無声映画を見ている様な気分に霊夢は陥りそうになる。
それを何とか堪えつつ、腰を上げたその場で見える光景を一通り見る事の出来た彼女は瞬時に理解した。
つい゛先程まで゛自分の耳に入ってきた音という音が、今や゛聞こえなくなってしまった゛という事に。
まるでこのハルケギニアから音だけを綺麗に抜き取ったかのように、何も聞こえなくなってしまったのである。
これで前半分の投下終了。
残りの後半は明日に投下予定です
それでは皆さん、また明日。
巫女さんの人乙
巫女さんの人乙です。
着物は古くなったらバラバラにして仕立て直せるのが強みだから、普通に服をもらうと戸惑いそうな気もするかも。
次はルイズが脇の空いた改造制服を、、、おっとだれかきたようだ
やたら暑いんで涼しくなる使い魔を考えてみた。北野くん召喚の続きまだかなー
>>131 X−MENからアイスマン召喚が鉄板かと
雪男や雪女系のキャラ召喚しろってことか
>>131 つ氷結界の龍 トリシューラ
つヴェルズ・ウロボロス
>>133 ならばエロゲの「瑠璃色の雪」から雪女の瑠璃……が封印された壺を召喚とか
世界樹の迷宮シリーズから氷嵐の支配者。
氷竜さんはロリっ娘からオネーサンキャラまで幅広い嗜好を持つから
ラノベ世界ではうまくやってゆけるだろうな。
どうも、昨日ぶりな無重力の人です。
予定通り、後半部分の投下を40分に開始します。
「一体何が?……あっ」
突拍子もなく音が聞こえなくなった事に僅かながら動揺した声を口から漏らした時、彼女は気が付いた。
周りの音や他人の声は聞こえないが、自分の声だけはやけにハッキリと聞こえる事に。
それに気づいた彼女は落ち着こうとするかのように軽い深呼吸をした後、赤みがかった黒い両目を鋭くさせてこの事態について考え始める。
幻想郷での妖怪退治や異変解決、そしてスペルカードを用いた戦いにおいてもまず冷静にならなければ全てはうまくいかない。
気持ちを落ち着かせれば今まで見えなかった解決策も瞬時に出てくるが、逆に焦ってしまえば相手に翻弄されて敗北を喫してしまう。
それは戦いという行為をするにあたって初歩中の初歩とも言える事だが、霊夢はその『何時いかなる状況でもすぐに落ち着ける』という事に長けていた。
自分の声意外が聞こえなくなったという異常事態におかれても、彼女は自分のペースを乱すことなく僅かな時間で落ち着くことができた。
それを良く言えば博麗の巫女として優秀な証であり、悪く言えば酷いくらいにマイペースな証であった。
(紫の仕業?…イヤ、アイツならもっとストレートにきそうだけど)
自分に話しかけてくる二人を無視しつつも霊夢は考え、一瞬あのスキマ妖怪のせいかと思ったがすぐにそれを否定する。
もしも、自分に用があるのだとしたらまずこんな回りくどい事はせずに直接顔を出してくるだろう。
確たる証拠は無いが、博麗の巫女としてあの妖怪と付き合い数多のちょっかいを掛けられてきた彼女にはそう言い切れる自信があった。
(アイツなら普通にスキマから顔を出したり、客に扮してコッチに話しかけてきそうね……―――…ん?)
いつもニヤニヤしていて掴みどころのない知り合いの顔を思い浮かべた瞬間…。ふと左手の甲に違和感の様なモノを感じた。
まるでほんわりと暖かい手拭いをそっと置かれたように、妙に暖かくなってきたのである。
一体次は何なのかとそちらの方へ目を向けた瞬間、霊夢はその両目を見開いてまたも驚く羽目となった。
召喚の儀式でルイズにつけられ、此度の異変解決の為に彼女がこの世界に居ざるを得ない原因を作り出した使い魔のルーン。
この世界の神と呼ばれる始祖ブリミルの使い魔であり、ありとあらゆる武器と兵器を扱う程度の力を持ったというガンダールヴの証。
そして、今のところたった一回だけしか反応しなかった左手のそれが、突如として光り出したのである。
「なっ…!?…これって…!」
これには流石の霊夢も動揺と驚きを隠せず、目の前にいる二人もそれに気づいてか驚いた表情を浮かべている。
「………、……………?」
「…………ッ!?……、………!!!」
魔理沙は初めて見るルーンの光に興味津々な眼差しを向け、霊夢に使い魔の契約を施した張本人であるルイズは突然の事に吃驚している。
一方の霊夢もその目を見開いたまま、久しぶりに見たルーンの光を時が止まったかのようにジッと凝視していた。
左手の甲に刻まれたルーンの光はそれ程強くもなく、例えれば風前の灯火とも言えるくらいに弱弱しい光り方をしている。
しかしそれでも光っている事に変わりはなく、特にルイズと霊夢の二人は魔理沙よりも使い魔のルーンが光ったことに驚いていた。
何せアルビオンで一回見たっきり全く反応しなかったソレが思い出したかのように輝き始めたのである、驚くなという方が無理に近い。
(一体どういう事なの?今になって使い魔のルーンが光るなんて…)
未だ驚愕の渦中にいるであろうルイズたちより一足先に幾分か冷静になっていく霊夢の脳裏に、とある考えが過る。
まさか…自分以外の声が聞こえないというこの異常事態と何か繋がりがあるのではないか?
突拍子もない仮説と言って切り捨てる事ができるその考えを、しかし彼女はすぐに破棄する事ができない。
(もし違うというのなら今の段階では証明できないし、―――あぁ〜…かといって今の状況とルーンが繋がってる証拠も無し、か…)
一通りの頭の中で考えた末に結論が出なかった事に対し、思わず首を傾てしまう。
霊夢にとって今の状況は充分に゛異常゛と呼べる代物ではあるが、その゛異常゛を解決するための糸口となるモノがわからないままでいた。
そして光り続けているルーンは単に光っているだけなのか、今のところは何の力も感じられない。
(参ったわねぇ〜…。このまま耳が聞こえなかったら色々と不便になるじゃないの)
常人ならとっくの昔に慌てふためいている様な状況ではあるが、そこは博麗霊夢。
まるで傘を忘れて雨宿りしているような雰囲気でそう呟きつつ、ため息をつこうとする。
――――…
「……ん?」
そんな時、彼女の耳に小さな『声』が入ってきた。
まるで地上から十メートル程掘られた井戸の底から聞こえてくるようかのように、その『声』はあまりにも小さく何を言っているのかもわからない。
普通の人間であるのならば、恐らくは空耳か幻聴だと思い込んで聞き逃してしまうだろう。
しかし、この数分間他人の声を聞くことが出来ないでいた霊夢の耳はその『声』をしっかりと捉えることができた。
彼女は何処からか聞こえてきた『声』に辺りを見回すが、それらしい人物や物は一切見当たらない。
もしかしたらとルイズたちの方へ目を向けるが、先程と同じく二人の声は全く聞こえてこない。
(何よさっきの声?…一体どこから聞こえてきたっていうの)
霊夢は心中で呟きながらも、大きなため息をつく。
こうも立て続けにおかしい事が自分の身に降りかかってくるという事に、彼女は辟易しそうであった。
しかしそんな事は後回しにしろ言わんばかりに、またもや正体不明の『声』が霊夢の耳゛にだけ゛入ってくる。
―――――…ム
(まただ、また聞こえてきた)
先程よりも少しだけ大きくなった謎の『声』に、霊夢は無意識に首をかしげてしまう。
恐らくこの『声』は彼女の耳だけにしか届いていないのだろう。ルイズと魔理沙の二人はキョトンとした表情を彼女に向けている。
もし聞こえているのなら何からのリアクションを取るだろうし、取っていなければ聞こえていないという証拠だ。
そして、霊夢がそんな事を考えている最中にも今の彼女に取り残された二人は何か話をしている。
「……?…………?」
声が聞こえないので何を言っているかはわからないが、魔理沙は腰を上げた霊夢を指差しつつルイズに何かを聞いている。
しかしその内容があまり良くなかったのか、ルイズは少し怒ったような表情を浮かべて黒白の魔法使いに詰め寄った。
「…!…………!」
「……?……………」
そんなルイズに魔理沙は両手を突き出して止めつつ、笑顔を浮かべて嗜めようとしている。
(一体何を話してるのかしら?こうも聞こえないと無性に気になってくるわねぇ)
魔理沙に指差された霊夢がそんな事を思っていた時…。
―――――…イム
またもあの『声』が、耳に入ってくる。
時間にすれば一秒にも満たないがある程度聞き取れるようになったソレを聞いて、霊夢はある事に気が付く。
そう、周りの音や声が聞こえなくなった彼女の耳に入ってくる『声』は、女性の声であった。
しかし…女性といっても今この状況で聞こえてくるであろう少女たちの声ではないし、この世界で出会ってきた人々や幻想郷の顔見知り達の声とも違う。
自分の『記憶』が正しければ、この『声』は全く聞き覚えの無いものだ。
謎の『声』に耳を澄ませていた霊夢がそう思った時、彼女はある『違和感』を感じる。
(……でも、おかしい)
その『違和感』は先程左手の甲に感じた時とは違い、自身の『記憶』から感じ取ったものであった。
それはまるで、九百枚ほどのピースがあるジグソーパズルのように繊細でとても小さな違和感。
しかも額に飾られたそれは固定されていなかったのか、嵌っていたピースが何十枚か床に落ちて穴ぼこだらけのひどい状態を晒している。
彼女はピースが嵌っていた穴の中から掴みだすかのように、その『違和感』を探り当てたのだ。
周りの音が聞こえなくなり、突如光り出したルーンに続いて自分だけにしか聞こえない謎の『声』。
ついさっき思ったように、この『声』に聞き覚えは無い。
そう、無いはずなのだ。しかし…
(…何でだろう?この声。何処かで聞いたことがあるような無いような…)
彼女はこの『声』に全く聞き覚えがないと、完全に肯定することができないでいた。
本当に聞き覚えが無いのか、それとも記憶にないだけで一度だけ聞いたことがあるのか?
怪訝な表情を浮かべ始めた霊夢は、周りの雑音と声が聞こえなくなった店の中で考え始める。
例えば、テーブルの上に置かれた二つある林檎の内一つだけを選んで食べろと誰かに言われたとしよう。
一見すればどちらとも状態が良く、素晴らしい艶と色を持った朱色の果実。
しかしその内の一つには毒が入っており、もしも間違って食べてしまえばあの世へ直行するだろう。
彼女は慎重かつ冷静な気持ちで左の林檎を手に取るが、すぐに齧りつくようなことはしない。
手に取った林檎とテーブルに置かれたままの林檎を見比べながら、彼女は頭を悩まし始める。
彼女が頭を悩ましている原因は、きっと脳裏をよぎった一つの考えにあるだろう。
『もしもテーブルに置かれている方が何の変哲もない普通の林檎で、手に取ったのが毒入りだったら…』
単なるif(イフ)…つまりは『もしも』として思い浮かべたそれは、秒単位で現実味を帯びていく。
外見はどちらともただの林檎で、目印になるようなものは一切見つからない。
だからこそ悩んでしまうのだ。本当に自分の選んだ林檎こそ、毒が入っていない方なのか…
しかし。彼女…霊夢にとってその迷いなど文字通り一瞬でしかない。
頭に思い浮かんだ『もしも』など少し考えただけですぐに捨て去り、自分を信じて手に取った方の林檎に思いっきりかじりつくだろう。
無論それに毒が入っていたら死んでしまうが、自らの身がそうなってしまう事を全く想定してはいない。
持ち前の勘と思い切りの良さで今まで数々の異変解決と妖怪退治をこなしてきた博麗霊夢にとって、毒入りの林檎など恐れる存在ではないのだ。
(まぁ、気のせいよね。こんなにもおかしい事が続くから気でも立ったのかしら…?)
霊夢はたった数秒ほど考えて、謎の声に聞き覚えがあるか否かという事を『単なる気のせい』として片付けようとした。
突然自分以外の声が聞こえなくなったことや使い魔のルーンが発光、そして謎の『声』。
常人ならばパニックに陥っても仕方がないこの状況下で、彼女は酷いくらいに冷静であった。
むしろその様な事態に見舞われているのにも関わらず、平気な表情を浮かべている。
最初の時こそ軽く驚きはしたものの、数分ほど経った今ではこれからどうしようかと解決策を思案しているのが現状であった。
(とりあえず声より先に気になるのは…ルーンと私の耳かしらねぇ)
謎の『声』に関してはひとまず置いておく形にして、彼女は残り二つの゛異常゛をどうする考えようとする。
自分の事などそっちのけで、何事か話し合いをし始めたルイズと魔理沙をのふたりを無視して…
しかし…事はそう単純ではなかった。
『単なる気のせい』として片付けられるほど落ち着いていた彼女を、゛異常゛は許さなかったのである。
――――…レイム
「え―――――…あれ?」
新たな思考の渦に自ら身を投げようとした時。俺も仲間に入れてくれよと言わんばかりに、あの『声』が霊夢の耳に飛び込んできた。
最初に聞いたときはあまりにも小さく、誰の声で何を言っているのかもハッキリとわからなかったあの『声』。
しかしそれまでのとは違い通算四度目となるそれはハッキリと聞き取れ、何を言っているのかわかった。
同時に、この『声』に何故聞き覚えが無いと絶対に言い切れなかった原因も。
それに気づいた彼女は、思わずその目を丸くしてしまう。
何故、聞き覚えが無いと思っていたのだろうか?
何故、自分の周りから聞こえてくるのだろうか?
そんな事を思ってしまうほど、彼女にとってこの声は身近なモノであった。
いや、もはや身近という言葉では言い表せないだろう。何故なら、彼女だけに聞こえているその声は――――
―――――…レイム
博麗霊夢。つまりは自分自身の声だったのだ。
「私の――――…声?」
その事実に気づいて呟いた瞬間。彼女の視界の端を『黒い何か』が横切っていく。
まるで風に吹かれて揺らぐ笹の葉のようなそれは、美しい艶を持った黒髪であった。
霊夢がその髪を見て咄嗟に後ろを振り向いた時、目を見開いて驚愕する。
振り返った先には、一人の女性がいた。
歩いて一メイルほどもない所にある出入り口の前で背中を見せている女性は、ポツンとその場に佇んでいた。
先程霊夢が見た黒髪は腰に届くほどまでに伸ばしており、窓から入る陽の光で綺麗な光沢を放っている。
少しだけ開かれた店内の窓から入る初夏の風でサラサラと揺れ動くその髪は、一本一本が正確に見えた。
霊夢自身も黒髪ではあるが、あれ程美しい艶や光沢を放ったことは無い。
もしも今の様な状況に陥っていなければ、何と珍しい黒髪かと思っていただろう。
だが…。彼女はその事に対して驚いたのではない。
席を離れて十歩ほど足を動かせば、身体がぶつかってしまうであろう距離にいる女性の服を見て、驚いたのである。
血やトマトの色というよりも、何処かおめでたい雰囲気を感じる真紅の服とロングスカート。
霊夢と魔理沙が本来いるべき世界で起こったという古代の合戦から生まれたと言われる紅白の片割れである紅色は、否応なく目立っている。
足に履いた革茶のロングブーツは、見た目や歩きやすさだけではなく攻撃性すら要求しているようにも見受けられる。
もしもあのブーツで力の限り踏まれたり蹴り技をくらうものならば、単なる怪我で済まないのは一目瞭然だ。
だが、霊夢が驚いた原因の根本はそのどれ等でもない。
彼女が女性の服を見て驚いた最大の原因は、真紅の服と別離した―――『白い袖』にあった。
彼女が付けているそれよりも若干簡素なデザインをしつつも、常識的には珍しい白い袖。
不思議な事に、まるで真冬の朝に見る雪原のように静かでありながら何処か儚い雰囲気が漂っている。
いつの間にかその袖を食い入る様に見つめていた霊夢はその両目を力強く見開き、口を小さくポカンと開けている。
もしもルイズや魔理沙にも女性の姿が見えていれば、嘲笑よりも先に霊夢と同じように驚くのは間違いないだろう。
多少の差異はあれど、目の前にいる女性の姿は霊夢と同じく――゛博麗の巫女゛そのものであったのだから。
そう、幻想郷でもたった一人しかいない結界の巫女と同じ姿をした者がいる事に。
「アンタ…誰なの?」
気づけば、霊夢は無意識にそんな言葉を口走っていた。
その言葉を向けた先にいるのは、彼女に背中を見せている黒髪の女性。
真紅の服と白い袖をその身に着ける、自身と似たような姿をした謎の女性。
「アンタは、何なの?」
彼女の言葉に女性は何も言わず、体を動かすことも無い。
ただ店の出入り口の前に立ち、自らの後ろ姿をこれでもかと見せつけている。
書き入れ時を過ぎたとはいえ営業妨害とも思えるその行為に、店の人間は何も言ってこない。
いや、言ってこないのではない。気づいてすらいなかったのである。
初めからいないと思っているように、霊夢以外の皆が彼女の存在を無視していた。
振り返った霊夢の近くにいたルイズと魔理沙も同じなのか、キョトンとした表情を浮かべて出入り口を見つめている。
その二人に気づかぬほど冷静さを失い始めていく霊夢は、またも呟いた。
自分にしか見えていないであろう女性へ向けて無意識に口から出た、疑問の言葉を。
「アンタは―――――――…私?」
言い終えた瞬間、霊夢の耳に再び『声』が入ってきた。
寸分たがわぬ彼女自身の声でたった一言だけ……こう呟いた。
――――…霊夢
直後、出入り口の前にいた女性の体がパッと消えた。
まるで最初からいなかったかのように、その存在そのものが消失したのである。
その様子を最後まで見ていた霊夢の脳内で唐突に、ある仮説が生まれた。
もしかすると、自分の身に起きた異常事態を起こしたのは…彼女ではないのか?
その時、左手のルーンがフラッシュを焚いたかのようにパッと一瞬だけ力強く輝く。
瞬間。ルーンの光と呼応するかのように霊夢の視界が白く染まり、次いで彼女の脳内で誰かが囁いてきた。
先程聞こえてきた自分自身の声とは違い酷いのノイズが混じった声は、こう言ってきたのである。
『ヤツを、追え』――――と
「――――――…ッ!」
気づけば、その体は無意識に動いていた。
どうして頭より先に体が動いたのか、今の声は誰だったのか。それを理解できるほど今の彼女は落ち着いてはいなかった。
そんな彼女の心境を表しているかのように、左手の甲に刻まれた使い魔のルーンは先程よりもその輝きを増している。
まるで霊夢に何かを語り掛けているかのように、その光は強くなっている。
木造の床を蹴り飛ばすかのように足を動かして、彼女は出入り口へ向かって走り出した。
しかし、先程まで女性佇んでいた店の出入り口となるドアへ近づいた瞬間…
「……―――ょっと、レイムッ!?」
懐かしくも、そうでないルイズの声が聞こえてきた。
それと同時に、まるで世界に音が戻って来たかのように、店内の音と声が霊夢の耳に入ってくる。
だが、いつもの冷静さをかなぐり捨ててドアを開けた彼女は、その声を聞く前に店を飛び出していた。
ルイズ達を置いて、街へと再び躍り出た彼女が何処へ行くかは誰も知らない。
ただ…。霊夢の左手に刻まれたガンダールヴのルーンは、これまでの鬱憤を解消するかのように光り輝いている。
まるで彼女を、何処かへ導くかのように。
アルベルトとフランツは思った。オーク鬼を相手に素手だけで勝てる人間はこの世にいるのかと。
ハルケギニアに住む人間ならば貴族平民問わず、誰もがその質問にこう答えるだろう。
「勝てるワケがない」と、確かな自信を持って。
無論二人はそれを知っているし、仕事柄数々の亜人と戦ってきた経験も豊富にある。
醜悪な外見とその体に見合わぬ俊敏な動き、そして人間以上の怪力を持つオーク鬼は非常に手強い。
彼らとの戦いでは、例えメイジであっても一瞬のミスが命取りになるのだ。
そんな相手を素手だけで戦おうというのは、もはや自殺行為以外の何物でもない。
そして自殺をするなら、まだ首を吊ったり高所から飛び降りた方が楽に死ねるのは火を見るより明らかだ。
だから二人は常に思っている。武器なしでは亜人に勝つどころか戦う事さえできないという事を。
だからこそ、二人は我が目とハルケギニアの常識を疑った。
目の前の『光景』は、一体何なのかと。
「あ…あ…」
フランツの後ろにいたアルベルトは口をポカンと開けて、自身の目でその『光景』を凝視していた。
彼の前にいるフランツは、信じられないと言いたげな表情を浮かべたまま目を見開いている。
そして彼らの前に現れ、突如乱入してきたオーク鬼に襲われたローブを羽織った者は…その右手で『突き破っていた』。
まるで槍か剣のように突き出したその手で突いたのは、脂肪と筋肉に包まれた分厚い皮膚で守られた額。
そのような皮膚を持っているのは、ハルケギニアに住まう者たちから恐れられる亜人の一種であるオーク鬼だけだ。
そう、ローブを羽織った者の手が突いたのは…襲いかかってきたオーク鬼の額であった。
あと少しでオーク鬼に噛み付かれそうになった瞬間。垂直に突き上げた右手がオーク鬼の額を破って脳を突き、見事その息の根を止めたのである。
しかしローブを羽織った者の後ろにいた衛士たち二人は、その瞬間を見ることができなかった。
瞬きをした瞬間には、既にオーク鬼は今の様な状態になっていたのである。
頭をやられて絶命した亜人の両腕はだらしなく地面へと下がり、ついで右手に持っていた棍棒が手から滑り落ちる。
今まで多くの人間や同族たちを屠ってきた血だらけのソレは鈍い音を立てて地面を転がり、ローブを羽織った者の足元で止まった。
肥え太った体はピクリとも動かず、力を失った両腕がフックで吊り下げられた肉のように揺れ動く。
標準的な人間の五倍ほどもある体重を支える足からも力が抜けていき、今や地面に突っ立ているだけの肉塊と化していた。
やがて頭を貫いたその手でオーク鬼が死んだことを感じ取ったのか、ローブを羽織った者は突き出していたをスッと後ろへ引き始める。
突くときは目にも止まらぬ早業で突いたのにも関わらず、引き抜くときにはとてもゆっくりとした動作でその右手を引き抜いていく。
しかしその光景は、まるで抜身の剣を鞘に納める時のようにとても滑らかで一種の美しささえ併せ持っていた。
だがそれを全てぶち壊すかのように、骸となったオーク鬼が死してなお自らの存在をアピールしている。
五秒ほどの時間をかけて右手をオーク鬼の頭から引き抜いた瞬間、亜人の体がゆっくりと右側に傾いていく。
二人の衛士たちが未だ唖然とした表情を浮かべている中、オーク鬼の骸は大きな音を立てて地面に倒れこんだ
そしてそれを見計らったかのように貫かれた額から血が流れ始め、むき出しの土が見える地面を真っ赤に染めていく。
オーク鬼を殺したローブを羽織った者はその様子をじっと見つめていたが、その後ろにいる二人は別の方へと視線が向いていた。
彼らの視線の先にあるのは、ローブを羽織った者の『右手』であった。
その右手はオーク鬼の赤い血の色や黄色い脂の色でもなく、青白い光に包まれていた。
まるで夜明けの空と同じ色の光で包まれたその右手は、驚くほどに綺麗だ。
あの右手でオーク鬼の頭を貫いて仕留めたのにも関わらず、体液の様なモノは一切付着していないのである。
一体自分たちの目の前にいるのは何だ?人間ではないのか?
オーク鬼が現れた時も全く騒がなかった馬の上で、フランツの脳裏に数々の疑問が過ってゆく。
どうして素手で亜人を殺せたのか。あの右手を包む光は何なのか。そもそもアレは人間なのか。
答えようのない疑問ばかりが脳内に殺到する中、彼の後ろにいたアルベルトがポツリと呟いた。
「ば…化け物…。化け物だ…」
彼の声が聞こえたのか。こちらに背中を向けていたローブを羽織った゛何か゛が、素早い動作で振り向いた。
まるで彼の言った「化け物」という言葉に反応したかのように、それは早かった。
近くにいたフランツはいきなり振り向いてきた事に驚いて馬上で体を揺らした瞬間、見た。
頭から被ったフードの合間から見える、赤く輝くその両目を―――――――
これで前半と後半の投下分合わせて、合計17レスとなる57話は終わりです。
今回の話を機に、ストーリーが大きく動くことになります。
では今月はここら辺にまでして、また来月にお会いしましょう。
失敬。あとがきで誤字が…
では今月はここら辺にまでして、また来月にお会いしましょう。
…ではなく、
では今日はここら辺までして、また31日にお会いしましょう。
でした。では、今度こそ…またノシ
無重力の人お疲れ様です!!
夜分、遅くに失礼します。1:00より続きを投下させていただきたいと思います。
Mission 32 <己の立つべき場所>
(スパーダさんがこんな顔をするなんて……)
ティファニアはスパーダが無念の顔を浮かべていることに驚いていた。
きっと、さっきのあの悪魔から守ろうとしていたのが守りきれなかったのだろう。それを後悔しているのだ。
そして、彼自身の手ではルイズの命を救うことができないことに。
ティファニアは自分の指に嵌められている指輪をじっと見つめた。
母は生前自分に言った。困っている人を見たら助けてあげなさい、と。
その時のためを思ったのか、母は自分にこの指輪を残してくれた。
そして今、自分の目の前で苦境に立たされている人がいる。その人達を救うために自分がすべきことは……。
(母さん……力を貸して)
意を決したティファニアは指輪を外すと、それを手にルイズの傍へと歩み寄り屈みこんだ。
「スパーダさん。ルイズさんを横にしてあげてください」
毅然とティファニアが告げると、スパーダは訝しそうにしながらも従った。
蘇生はできなくとも、せめて体に付けられた傷だけでも癒してやろうとバイタルスターを使おうとしたのだが……。
ティファニアは手にする指輪を横たえられたルイズの胸の上でかざし、意識を集中させる。
「その指輪……」
スパーダはティファニアが手にする指輪の宝玉から、強い魔力を感じ取っていた。
「旧き水の力よ……この者に流れる水と共に、この者を癒したまえ……」
まるでこれから起こるべき事象を読み上げるように静かに呟く。透き通るように澄んだ声も相まって、本物の妖精が詠っているように神秘的であった。
ティファニアの呟きと共に指輪の宝玉が仄かな光を発し始めた。宝玉から大粒の雫のような光が漏れ出し、ポタリとルイズの胸に滴り落ちる。
その雫をから光が広がり、ルイズの全身を包み込んでいった。
ネヴァンの稲妻で焼き焦がされ、炭化していた手の傷も、首から恐らく全身にまで走っているであろう帯状の火傷も、まるで絵の具で塗り潰すかのように癒えていく。
ものの数秒で、ルイズの全身に刻まれていた全ての傷は跡形もなく消え去っていた。
虚ろであった目は癒しと共に瞼が閉じられ、まるで眠っているかのような安らかな顔を浮かべている。
胸は小さく上下し、止まっていたはずのルイズの呼吸と心臓が再び動き始めたことを示していた。
(旧い水の力……先住魔法か)
ティファニアの指輪が水の先住魔法が封じられている代物であることを知り、スパーダは驚嘆していた。
ほとんど死んでいたに等しいルイズを一瞬にして蘇生し、傷さえも治してしまったのだ。
スパーダがティファニアを見やると指輪を嵌め直しながらにこりと嬉しそうに微笑んでいた。
「おい、大丈夫か!」
気絶から立ち直ったアニエスがアラストルを手にして起き上がるとあの悪魔の姿は消え、舞台にはルイズの体を抱き上げているスパーダと修道女のティファニアの姿がそこにあった。
「奴はどこへ行った!?」
「心配はいらん。もう終わった」
スパーダは興奮しているアニエスの方を振り向き、毅然と結果を返していた。
どうやら、少し気を失っている間にスパーダがあの悪魔を仕留めてしまったらしい。
一息を吐いて己を落ち着かせたアニエスはアラストルを鞘に収めて背負い、スパーダ達の元へと歩み寄っていく。
「何だ。いつのまに来ていたんだ?」
「あ、ご、ごめんなさい……。皆さんのことが心配で……」
目を丸くしたアニエスにじろりと睨まれ、ティファニアは思わず詫びいっていた。
支援しる
「そう言うな、アニエス。彼女のおかげでミス・ヴァリエールは救われた」
スパーダは片腕でぐったりとしているルイズの体を抱えたまま、ティファニアの頭をヴェールの上から撫でてやった。
優しく撫でられていたティファニアは横目でちらりとスパーダの顔を見上げてみる。
先ほどまで冷徹な悪魔のような顔、深刻な苦い顔を浮かべていたのが嘘のように、僅かながらも笑みを綻ばせていた。
(良かった。……スパーダさんの役に立てて)
ティファニアはスパーダにこうして彼に触れてもらうことで彼の持つ父性をその身ではっきりと感じていた。
アニエスは事情はよく分からないが、スパーダがこうまで彼女に謝意を示していることから大方、このティファニアもメイジか何かなのだろうということで納得をしていた。
「……そうか。しかし、ヴァリエール殿も無茶をしたものだな」
このヴァリエールという少女はいかにメイジといっても実戦経験がほとんどなかったのだろう。だからあんな無茶を起こしてしまったのだ。
おまけにあんな挑発にまで乗ってしまって。
だが魔法学院の生徒であり、まだ子供である以上、あのような無謀な行動を取ってしまうのも致し方なかったかもしれない。
それをフォローするのが、自分達のような戦いの経験者なのだ。
「だが、お前もずいぶんと手傷を負わされたな」
言いながらスパーダは懐からバイタルスターを取り出しアニエスに投げ渡す。
「悪いな」
アニエスは渡されたバイタルスターを自分の胸に当てると、体中に負っていた傷を治していく。
再びルイズの体を両手で抱えたスパーダはもはや長居は無用と言わんばかりに歩き出し、ボロボロになってしまった悪魔の店を後にした。
酒場の外からチクトンネ街の通りへ出るとそこに現れたのは街を警備している巡邏達であった。
「アニエス! 何があったのだ?」
市民の誰かが通報したことで派遣されたようだが、スパーダ達と一緒にいるアニエスの姿を見るなり何事かと問いただしてきたのである。
どうやらアニエスとは顔見知りらしいので、彼女は任せろと言わんばかりに頷いて現場で起きた出来事を告げた。
最近、密かに発生していた怪事件とその調査、そして犯人である悪魔をスパーダと共に撃退したことなどありとあらゆる内容をだ。
話を聞かされた巡邏達は呆気に取られた様子でスパーダを見つめていた。
ついこの間、汚職で捕まったチュレンヌを叩きのめしたという話の異国の貴族が悪魔をも打ち倒してしまうとは……。
「今回もすまんな、スパーダ。礼を言う」
「気にすることはない、後は任せるぞ。行こう」
そう短く言葉を交わし、盟友の化身を預けた戦士と別れたスパーダは気を失ったままのルイズを抱えたままティファニアと共に通りを進んでいった。
気を失っているルイズを抱えているためか、道行く人達はちらちらとスパーダに怪訝な視線を向けてきていたが、それを無視する。
「その指輪はマジックアイテムだな」
「はい。これは母の形見なんです」
未だ騒ぎの燻りが続く街中をティファニアと並んで歩き、話しかけると即座に肯定していた。
愛おしそうに指輪を撫で、じっと見つめるティファニア。
ティファニアの母はエルフ。つまり、エルフの宝というわけだ。
「母は言っていました。困っている人を見つけたら、助けてあげなさい≠チて。本当に助けることになるなんて、思ってもみなかったけど……」
ティファニアは目を細め、心底安心したような表情を浮かべた。
「スパーダさん達のお役に立てたなんて……嘘みたいです。わたしなんか、邪魔になるんじゃないかって思っていたのに」
もちろん、戦闘能力を持たないティファニアが戦いの場にいれば足手纏いになっていたのは間違いないだろう。
だが、それは彼女が救ったルイズにも同じことが言えたことだ。結果として手痛い目に遭ったのだから。
「君には君で、自分にできる役目というものがある。それを充分に果たした。それだけのことだ」
スパーダはティファニアとその指輪を見やった。
「ミス・ヴァリエールを救ってくれたことには心から感謝する」
「い、いえ。わたし、当たり前のことをしただけです。ただ、母の言い付けに従っただけで……」
恭しいスパーダからの謝辞にティファニアは慌てて謙遜する。
スパーダは素直にティファニアのとった行動には感服していた。
スパーダも他者に救いの手を差し伸べるがほとんどは戦いによって敵から守ることがほとんどだ。
ティファニアのように傷つき果ては命の灯火が尽きた人間を救うというのはさすがのスパーダとて至難の業である。
窮地に立たされた者に救いの手を差し伸べるのは当たり前のこと。たとえそれが戦いによるものでなくとも、この少女はそれを当然のこととして認識している。
そして、その心がけを彼女の母は娘に教えたのだ。
「……良い母親だったのだな。名は何と言う?」
「シャジャルと言います」
「シャジャル……か」
思えば何故、エルフがアルビオンにいたのかが分からない。エルフは砂漠の民であり、人間達の領土であるハルケギニアにはよほどのことが無ければ干渉などしないはずである。
だが何にせよ、そのシャジャルというエルフは人間と異種族間を越えた愛を育み、この少女に己の宝と意志を授けたのだ。
……だからこそ惜しまれる。そのような者が既にこの世にいないとは。
「ティファニア。母親からの教えは大切にしておけ。君には君でできる救いの術がある。……無論、無理はするな」
「は、はいっ。……その、スパーダさんもルイズさんも無茶はしないでくださいね」
逆にティファニアからもそのようなに心配され、スパーダは苦笑した。
自分はまだしもルイズにはこれからそれを伝えてやらねばなるまい。
「ルイズさんはこれからどうするんです?」
「一晩は休ませる」
トリスタニアへは学院の馬で来ている。このまま帰ってもいいが、やはり宿でルイズを休ませておいた方が良いだろう。
宿屋はどこでも構わないがせっかくだからスカロンの店にでも厄介になるとしよう。
ネヴァンの作った店が潰れた以上、再びチクトンネ街は活気を取り戻すことになるだろう。
「だが、その前に君を送ってやろう。夜の街は危険だからな。……何かあったら、君の姉に申し訳が立たん」
「……そういえば、さっきのあの女の人の悪魔ですけど」
姉代わりであるマチルダがスパーダのことを思っているのはティファニアも知っている。スパーダ自身はまるで興味がなさそうだったが、ティファニアも息を呑む
美貌を備えていたあの悪魔がスパーダに串刺しにされつつも妙に馴れ馴れしくしていたので、複雑な気分であった。
「スパーダさんとどういう関係なんですか?」
「ただの腐れ縁だ」
つまらなさそうに、そして疲れたような溜め息が吐き出されていた。
(……あ、れ……?)
一体、ここはどこなのだろう。確か、自分はスパーダやアニエスと共にあの淫乱な悪魔と戦っていたはずである。
バースト(炸裂)の魔法を悪魔に叩き込んでやろうとした途端、そこから突如として意識が吹き飛んでしまったのだ。
それからどうなったのか、自分が今どこにいるのかすら分からない。
……しかし、確かめようにも体が動かない。
いや、全く動かないのではなく体に力が入らないせいで思うように動かせないのだ。
手も、足も、腰も、華奢な体の全てが完全に萎えてしまっている。
まるで何十日も飲まず食わずで歩きに歩き続けたせいで、疲労が溜まってしまったような脱力感が体全体を支配している。
瞼が重いせいで上手く目を開けられない。薄っすらと僅かに目を開けようにも、すぐに閉じられてしまう。
(……ベッ、ドの……う、え……?)
かろうじて、自分がベッドの上で寝かされていることはその身に受ける感触で理解することができた。毛布もちゃんとかけられているようである。
魔法学院の寮のベッドと比べれば寝心地は良くなかったが。
ということは、ここはどこかの宿だろうか?
だが、どうして自分がそんな場所にいるのか分からない。そもそも、スパーダはどこに?
コンコン、と扉か何かを叩く音が聞こえた。
ルイズは精一杯の力を振り絞って首を動かし、音のした方を向こうとする。せめて、片目だけででも確認をしようと瞼を必死に上げ、目を開けようとした。
「ごめんなさぁい。お休みの所、失礼するわよん」
震えながらも首を動かし、薄っすらと目を開けると覚えのある気持ち悪い男の声を耳にした。
(ス、パー、ダ……)
ルイズの視界に微かに飛び込んできたのは、自分の横で椅子に腰掛けながら眠りについていたスパーダの姿だった。
かけがえのないパートナーが傍にいてくれたことに安心し、手を伸ばそうにももはやルイズにはこれ以上、体を動かす力は残っていなかった。
「ぁ……ぅ……」
彼の名を呼ぼうにも虫の息のように弱々しく漏れるだけで、どうしてもはっきりとした声が喉の奥から出てこない。
「無理はするな」
腰を上げたスパーダはその消え入りそうな声が聞こえていたのか、労わりの声をかけてくれた。
「……ス、パ……ダ……ま、て……」
そのまま背を向け扉の方へ向かっていくスパーダに、ルイズは必死に呼びかけようとした。だが、その弱った体ではまともな言葉を発することはできない。
「大人しくしてな、娘っ子。今、下手に動いてもどうにもなんねえぜ?」
視界には入らないが、デルフの諌める声が聞こえてきた。
「ルイズちゃんの具合はいかがかしら? 軽ぅ〜くだけど、朝ご飯をお持ちしてあげようと思うんだけど。もちろん、スパーダ君の分もね」
「そうだな。頼む」
現れたスカロンの提言にスパーダは即座に同意した。
昨晩、ティファニアを修道院へ送った後、この魅惑の妖精亭へとやってきたスパーダは部屋を一つ借りて運んできたルイズを寝かせていた。
いくら蘇生したとはいえ、肉体そのものは衰弱した状態であるため、ゆっくりと休ませてやる必要があったのだ。
バイタルスターで体力を回復させようにも、衰弱した状態から一気に正常に戻してしまっては反動に耐えられない恐れがある。
よってまずは一晩眠らせてある程度、自然に回復させた上でバイタルスターを使って正常にしてやるつもりだった。
「トレビアン。それじゃあ、すぐにお持ちしてあげるからねん。待っていてちょうだぁ〜い」
ルンルンとした気分でスカロンは体をくねらせながら一階へと下りていった。
扉を閉めて振り返ったスパーダは再び椅子に腰掛け、懐からバイタルスターを取り出した。
魔力の純度は下位のものであるが、今のルイズの状態ではこれが妥当であろう。
ルイズは今、まだ弱っている体を必死に動かそうとしている。これ以上、それを続けさせてしまうのも忍びない。
「……ここ、どこ?」
バイタルスターで体力が少し回復し、とりあえず体は起こせるようになった。
まだ少し脱力感は残るもののつい先ほどまでとは天国と地獄もの差があり、快適だった。
「スカロンの店だ。一晩泊めさせてもらった」
部屋を見回しながら尋ねるルイズにスパーダは答える。
「っていうか、何でこんな所に……それより、あの悪魔は!?」
「心配はいらん。既に片は付いた」
淡々と結果を告げるスパーダに、ルイズは目を丸くする。あれから一体何があったのか、もっと知りたかった。
ルイズが尋ねようとしたその時、再び扉がノックされた後、スカロンが入ってきた。
「お待たせぇ〜ん。あら、お目覚めのご様子ね? それじゃあ、ごゆっくりと――」
言いながらスカロンは部屋に備えられているテーブルに盆を二つ置いていき、退室していく。
朝食のメニューはシチューのようだ。今のルイズにはちょうど良い。
スパーダは皿が乗った盆をルイズの膝に置き、自分もテーブルについたまま食し始める。
だが、ルイズはスプーンを握ったまま呆けており、動かない。
「どうしたよ? さっさと食わねえと冷めちまうぜ」
声を上げるデルフの篭手はベッドの傍の小さなチェストの上にルイズのマントと共に置かれていた。
「お前さんはあの世に行く寸前だったんだからな。少しでも体力つけねえと身が持たないぜ?」
「……ちょっ! 死ぬ寸前って、どういうこと! スパーダ! 一体、何があったのよ!?」
デルフが口にしたとんでもない言葉に、ルイズは黙々と食事を続けるスパーダに食ってかかる。
顔を向けないスパーダは食事を続けつつ、ネヴァンとの戦いで起きたことを話してくれた。
ルイズがネヴァンの稲妻に打たれた後、ネヴァンはスパーダの手によって倒されたこと。
稲妻に打たれたルイズは死んでいたに等しい状態であったがそこに付いてきたティファニアが現れ、マジックアイテムで蘇生させてくれたこと。
「あの子が、わたしを……?」
「その娘には感謝しな。貴重なマジックアイテムを惜しみなく使って、相棒ができねえことをやってくれたんだからな」
話を聞かされたルイズは愕然としていた。あのティファニアに、そんなことができただなんて。
そして、はたと気付く。自分の服やマントが所々に焦げ跡が刻まれてボロボロになっていることを。
ルイズはあの時、自分の身に何が起こったのかが分からなかった。その結果を知らされ、息を呑んだ。
悪魔の力は、メイジの力などよりも遥かに恐ろしいかを改めて認識させられる。
「とにかく無事でなによりだ。……む」
「何しやがるんでぃ!」
突然、ルイズがデルフの篭手を掴んでスパーダに投げつけてきたのだ。
スパーダは左手を動かし、それを掴みとるとルイズの方を振り向いた。
彼女は不満を露にしたように顔を顰め、スパーダを睨みつけていた。
「何であたしを守らなかったのよ! あなたはあたしのパートナーでしょ!?」
突然癇癪を上げるルイズを、スパーダは素っ気なさそうに見つめる。
「スパーダ! パートナーを守るのが、あなたの役目でしょう!? それなのにあんな役立たずの平民に任せるだなんて!」
全てを聞かされたルイズは思い出した。
スパーダは悪魔の討伐をルイズには任せず、あのアニエスとかいう平民の女剣士に倒させようとしたのだ。
それがどうにも許せなかったのだ。パートナーではなく、平民の方を信頼するだなんて。
「パートナー一人も守れないだなんて、何が伝説の魔剣士よ!」
「おいおい、娘っ子。俺は相棒の中から昨日の戦いを拝見させてもらったんだがよ……いくら何でもありゃないぜ?」
テーブルの上に置かれたデルフが呆れたように呟いていた。
「何がよ!」
「あのアニエスとかいう女はな、確かに魔法は使えねぇ。だが、悪魔どもとの戦いはかなり場数を踏んでいることは確かだ。
だからお前さんと違って、正面からガチで戦ってもまず大丈夫ってわけよ」
「あたしだって! あんな悪魔くらい、正面からやったって!」
「そうやって死にかけたのはどこの誰だっけか?」
ぐっ、とルイズは言葉を詰まらせる。そして、スパーダを睨みつけた。
「スパーダがあたしを守らないからよ! パートナーはお互いに助け合って行動すべきなのに!」
「……はっきり言うがな。足を引っ張ってたのはお前さんだよ、娘っ子」
「な……!」
冷淡な声で答えたデルフにルイズは目を見開く。
「相棒は相棒でちゃんと考えがあったのに、お前さんはそれを無視して前に出てきて無謀なことをしちまった。
いくら相棒でも、そんなことする奴のフォローなんて難しいもんだぜ? 平民だからって経験者であることにゃ変わりねえ。それを無碍にしたら命がいくつあっても足りねえ」
「あたしは……あたしは……!」
自分は役立たずなんかじゃない。そう言い返そうとした時だった。
「もう良い。デルフ」
ようやく喋りだしたスパーダは空になった皿にスプーンを置いた。
ちらりと、ルイズの方へ視線を向けてきた。いつもと変わらぬ冷徹な瞳だった。
「結果的に私がミス・ヴァリエールの身を守れなかったことに変わりない。それについては詫びよう」
「スパーダ」
「だが、ミス・ヴァリエール。これだけは言っておきたい」
体ごと正面に向けてきたスパーダは両脚と腕を組んでいた。
「今の君が立つべき場所は、決して修羅場の中などではない」
「どういうこと?」
「つまりだな。今の娘っ子はまだ悪魔どもと戦うには経験も何もかもが不足してるってことだ。だから戦いの最前線に出る必要なんてないのさ」
デルフからの言葉に、ルイズは顔を伏せた。
前線に出ないということは、自ら敵とは戦わないことになる。それでは自分は役立たずに……。
「君は決して役立たずなどではない」
目を伏せ、スパーダは静かに言葉を続けた。
「君には君で、己の立つべき場所がある。アニエスにも、私にも、そしてティファニアにも、それがあるのだ」
「立つべき……場所?」
「私やアニエスは見た通り、敵を前に剣を振るうことが役目だ。ティファニアは戦う力こそないが、人の命を救うという役目を果たした。
そして君の今の役目は……私達のサポートだ」
スパーダは立ち上がり、立て掛けてあった閻魔刀を手に取り部屋を後にしようとする。
「それだけは自覚してもらいたい。己が立つべき場所を決して見失うな。……次に見失ったら、私では尻拭いをしきれん」
言い残し、スパーダは部屋から去っていった。
一人残されたルイズはぼんやりとしたまま、扉を見つめていた。
(あたしの……役目……)
「お前さんのその爆発の魔法はな。一見派手だが、せいぜい相手を吹き飛ばして怯ませるのが限界なんだよ」
テーブルに置きっぱなしにされたデルフがルイズに語りかけてきた。
「せいぜい倒せるのは土メイジの雑魚ゴーレムとか、ガーゴイルとかその程度だぜ? ましてや、あんな悪魔なんかこけおどしにしかならねえ。
どちらかっていうと敵を倒すよりゃあ、相棒が言ったように前線で戦う相棒をサポートする方に向いてるのさ。
六千年生きてきた俺からも言わせてもらうぜ。お前さんの立ち位置は敵に突っ込むことじゃねえ。
それは相棒に任せれば良い。今のお前さんは相棒の戦いをサポートして、相棒はサポートをするお前さんを守る。そいつを忘れるなって、相棒は言いたかったわけよ」
まるでスパーダの思いを代弁するデルフからの言葉にルイズは己の手を見つめた。
「それが分かったなら、さっさとその飯食っておきな」
デルフに促され、ルイズはぼんやりとしたままスプーンを再び手にし、細々とシチューを口にしていた。
「……しっかし、ルーンも封印されていて運が良かったよなぁ」
ぽつりと、誰にも聞こえない声でデルフは囁いた。
スパーダの左手に刻まれたガンダールヴ≠フルーン。あれは今、スパーダの力によって封印されていわば仮死状態となっている。
本来、主人か使い魔のどちらかの命の灯火が消えた時、契約は途切れルーンも使い魔から消え去るという。
だが、スパーダに刻まれていたルーンは仮死状態であったがためにそのことに気が付かなかった。
故に、未だ彼の左手には刻まれたままだった。
※今回はこれでおしまいです。
作品内で一週間ずつイベントをこなしたので、次回からタルブ戦&大イベントに向けていきましょうか……。
パパーダお疲れ様です!
ルーンを仮死状態にするとは…流石伝説の人や
パパーダさん乙
さぁ〜てルイズ君
調子に乗りすぎた悪い子は
しまっちゃおうねぇ〜
乙です
北斗の拳から海のリハクを召喚
トリステイン軍の軍師として働いてもらったら自力でトリステインは勝てるかな
163 :
代理:2012/08/02(木) 19:57:15.44 ID:BAaRZXdH
ウルトラの代理開始します
第九十四話
アディール最終決戦! 最強怪獣を倒せ!! (前編)
友好巨鳥 リドリアス
古代暴獣 ゴルメデ
高原竜 ヒドラ
古代怪獣 ゴモラ
古代怪獣 EXゴモラ 登場!
誰が、こうなることを予想しただろうか。
「ウワァァッ!」
誰が、あれほどまでに輝いた希望の光が、また闇に塗りつぶされると思っただろうか。
「ヌワァァァーッ!」
二人のウルトラマン、エースとコスモスは今、絶対絶命のピンチの中にいた。
壊滅させたはずの超獣軍団。しかし、ヤプールは超獣軍団よりもはるかに強い、一匹の怪獣をこの世に誕生させた。
圧倒的なパワーは二人がかりで挑んだエースとコスモスを上回り、軽く体をよじっただけで跳ね飛ばされてしまう。
鎧のような体は攻撃を一切受け付けず、渾身の力を込めて放ったパンチやキックもかすり傷すらつけられない。
〔なんという強さだ。まるで歯が立たない!〕
〔これはもう、ゴモラのレベルを超えている。ヤプールめ、なんというものを生み出してしまったんだ!〕
コスモスのコロナモード、そしてエースの全力をも軽くいなしてしまう眼前の強敵。それは、ヤプールが膨大な怨念のパワーを
使い、ゴモラの遺伝子を元にして生み出した超怪獣。
ゴモラの面影を強く残しつつも、全身が凶器であるかのような刺々しい様相。はるかに攻撃的に伸びた牙と爪、なによりも
瞳のない白目から発せられる眼光は、あまねく生物に狼を前にした子牛のような本能的な恐怖を植えつける。まさしく、
戦うためにのみ存在し、それ以外のものはすべて切り捨てた完全な戦闘生命の姿。そこから放たれる威圧感は、この怪獣が
身長四十メートル強と、ゴモラと変わらぬ標準的なサイズの怪獣であるにも関わらずに、これまでエースが戦ってきた
いかなる超獣をもしのぐ圧倒的な巨大さを誇っていた。
腕の一振りで、石造りの建物が豆腐のように崩れる。体を動かすのに、抵抗などというものが存在しないかのような
絶対的な存在感。破壊を生み出すのではなく、それそのものが破壊である天災にも似た暴虐の行進。食い止めようとした
エースとコスモスをたやすく弾き飛ばし、軽く蹴り飛ばしただけなのに数百メートルを吹っ飛ばされる。
いったいこれをゴモラと呼べるだろうか。生み出したヤプールでさえ、その圧倒的な威力に興奮していた。
「ファハハハ! これはすごい。まさか、ゴモラの遺伝子からこんな化け物を作り出せるとはな。さあて、これまでの恨みを
たっぷりと晴らさせてもらおうか。やれ! 最強のゴモラよ」
有頂天となったヤプールの命ずるままに、異形のゴモラはエースとコスモスを痛めつける。ウルトラマンたちに倒された
怪獣や超獣の怨念は、再び実体と復讐の機会を与えられて荒れ狂い、どす黒い思念は破壊と暴力と恐怖の渦を作り出していった。
”死ね” ”壊せ” ”焼き尽くせ” ”滅ぼせ” ”復讐せよ!”
憎悪の念はヤプールの邪念と共鳴しあい、晴れ渡っていた空をも再び暗雲に染め上げていった。
「そ、空が……」
自然界にはありえない、黒一色の闇雲がアディールの空を覆いつくしていく。太陽はさえぎられ、熱は遮断されて
砂漠の都市を寒波が襲い始めた。
寒い、単なる冷気ではなく、熱を奪っていくような凍える寒さ。砂漠の夜の寒さに慣れたエルフたちでも経験したことのない、
生命の存在を拒絶する、極地の永遠の冬が訪れようとしていた。さらに、大気温の急激な変化は乱気流を生み、アディールの
各所に落雷と竜巻を発生させていったのである。
「この世の、終わりだ……」
誰かがそうつぶやいたとおり、それは終末の光景そのものだった。荒れ狂う雷と竜巻は容赦なく無事をかろうじて保っていた
街並みを破壊していき、海上にも襲い掛かる。もはや、エルフたちの守り神であった精霊たちでさえも、完全に暗黒の力に
飲み込まれて、美しかったアディールの風景は砂漠の一部へと同化しようとしていた。
崩れ行く街と、荒れる海の中で人々は逃げ惑い、少しでも安全な場所を探して駆け回った。しかし、もうどこに安全な
場所があるというのか。東方号でさえも、すでに落雷でマストや銃座を破壊されて火を吹いている。人々は鋼鉄の壁の中で
身を寄せ合い、最後の時が来るのをおびえて待っていた。
絶望を乗り越えて得る希望こそ強く輝く、だがその希望をすら打ち砕く絶望が襲ってきたとき、人の心はより深い闇に堕ちる。
ヤプールの執念が生み出した暗黒の舞台劇は、今まさに完成されようとしていた。
闇の劇場の主役たる漆黒の魔獣、その目に映るのは敵、その胸に宿るのは闘争のみ。
目障りな光の戦士を葬ることで完成する絶望の戯曲のエンドへ向けて、超ゴモラの暴走は続く。
鋭い三日月角でコスモスをかち上げて投げ飛ばし、フラッシュハンドで殴りつけてきたエースの攻撃をものともせずに
腕を軽く振るだけでなぎ倒してしまう。地面に叩きつけられたコスモスを巨大な足で踏みつけ、助けようとしたエースの
首を片手でわしづかみにして吊り上げてしまった。
「ヌォォォーッ!」
「グォォォ……!」
振りほどけないっ! 二人のウルトラマンの全力を持ってしてもゴモラの体はビクともしない。踏み潰され、締め上げられて
苦しむコスモスとエースの苦悶の声が、つい先ほどまで歓喜に沸いていた人々の心に霜を降らせ、ウルトラマンの強さを
よく知っているはずの水精霊騎士隊ですら激しく動揺させ、ギーシュはレイナールにうろたえるあまりかみついていた。
「ウ、ウルトラマンがふたりがかりで手も足も出ないなんて。いったいどうなってるんだい!」
「ぼ、ぼくに言われても。あの、あの怪獣がウルトラマンより強いってことだろ!」
「そんなバカな! 十匹近い超獣たちをみんな倒したのに、そいつらより強い怪獣が出てくるなんて。こんなのってないだろ!」
理不尽だと叫んでも、現実は変わらずに残酷であった。あれだけの努力が、皆が流した血や涙はなんだったのか?
全力の全力を出し切って、ようやく奇跡を起こしたのに、それすらもあざ笑うように悪魔は次々と手を打ってくる。いくら
努力をしたところで、強大な力の前には結局無力なのか……
絶望感が、精も根も使い果たした少年たちを覆い始め、黒い感情の波が人々に急速に拡大していく。
このままではまずい! このままでは、ヤプールの思う壺だ。それだけはなんとしても防がなければと、ふたりのウルトラマンは
渾身の力を振り絞った。
「デヤァァーッ!」
一瞬に、力を爆発させてふたりは脱出に成功した。ゴモラの爪が食い込んでいた箇所がひどく痛み、脱出にエネルギーを
大きく消耗してしまったが、とにもかくにも窮地は脱した。しかし、とどめの一歩手前でまんまと逃げられてしまったというのに
ゴモラは特に動揺した様子はなく、平然と喉を鳴らしている。
〔余裕……いや、こちらを嬲り殺す気か〕
エースは、まるでヤプールが化身したかのように恐怖を撒き散らしながらゆっくりと歩いてくるゴモラを睨んでつぶやいた。
ウルトラマン二人を同時に相手にして、この圧倒感……声だけはオリジナルと変わらないが、その強さは完全に別物と
呼んでよかった。これは単なる強化ゴモラや、改造ゴモラなどと呼んでいいレベルではあるまい。超獣化ゴモラ、もしくは
暗黒化ゴモラ……いや、それも違う。こいつは、ヤプールがゴモラの遺伝子から再現したゴモラのフェイクであるが、
それゆえにゴモラの真の姿の一形態ともいえる。
ヤプールは最強のゴモラと呼んでいたが、これがゴモラの中に眠っていた潜在的な戦闘能力が解放された姿なら、
それは『ゴモラにあってゴモラにあらず』。ゴモラを超えた特別なゴモラ、英単語では特別なものを意味することを
《extra(エクストラ)》と呼ぶが、ゴモラextra、extraゴモラ……略して、EXゴモラとでも言うべきか。
EXゴモラ……自分でひらめいておきながら、才人はその名前に不思議な神秘性を感じた。英字がたったふたつ
加えられただけなのだが、どこかに魔力のような魅力がある。昔から、言葉には言霊といい、特別な言葉には人の
感情に訴えかける魔力が宿るとされているが、科学的に実証できなくともなるほどと思わされた。
〔最強の超怪獣、EXゴモラか。へー、なかなかかっこいいじゃねえか!〕
才人の心の中に幼稚園の頃から根付いてきた少年の心が、本能的に始めて見る怪獣に喜びの声をあげていた。
またも、状況をわきまえずに不謹慎だといってしまえばそれまでなのだが、これは本能なのだからしょうがない。ましてや、
相手はフェイクといってもあのゴモラなのだ。才人といっしょにスケッチブックに落書きをしたり、ソフビ人形で遊んだ
幼稚園や小学生時代の友達は多くいた。矛盾するようだが、ヒーローと並んで怪獣という存在は子供たちの心をがっちりと
掴んでいるものだ。
そして、目の前のゴモラはそんな中でも、元々のゴモラを書き写すだけでは飽き足らずに、「ゴモラがこんなふうだったら
最強じゃないか?」と、角を付け足したりトゲをつけたりして友達とわいわい言いながら落書きした、心の中の「スーパーゴモラ」
そのものではないか。このうれしさは、そんな子供の日の夢が形はともかく実現したからかもしれない。
だが、そんな感慨とは別に、このEXゴモラの正体はヤプールがゴモラに似せて作った邪悪なフェイクなのだ。本来のゴモラは、
当人の意思はともかくとして、才人をはじめとする子供たちの胸にワクワクした思い出とともにある。その思い出を汚させない
ためにも、こいつはなんとしても倒さなければならない。
〔こい! ニセモノめ!〕
才人は、思い出を心にしまってエースとともに叫んだ。EXゴモラ、こいつは確かに子供のころの夢を思い出させてくれた。
しかし、ゴモラの未来の可能性を無理矢理形にしただけのモノであるならば、どれだけ強く取り繕ったところで所詮ニセモノ
でしかない。
EXゴモラの本物を見られる機会は、才人の生きている時代にはやってこないかもしれない。それでも、ニセウルトラマンを
許せないのと同様に、このゴモラは許せない。
一方のルイズにとっては、EXゴモラはただの怪獣だ。しかし、ヤプールに対する怒りは同じくらい深い。貴族は国や王家の
ために命がけで戦うことを名誉とする。人間は、愛する人や故郷のために命を懸けることを誇りとできる。守るべきものを
守って死ねれば、その魂は死後の英雄の楽園に導かれると信じているからこそ、戦いという矛盾そのものである行為に
我が身を送り出すことができるし、なによりも、目的は違えども戦って散った敵に対しても敬意を持つことが出来る。
それが、戦う人間の誇りというものだ。しかし、怨霊を集めて作り出されたこの怪獣は、たとえ存在は悪であったとしても、
死力を尽くして戦い抜いた怪獣たちの存在を汚すものではないか。眠りにつくことさえ許さずに、なおも道具として利用しようとは、
あまりにも怪獣たちがかわいそうだ。
〔生きるためでも、なにかのためでもなく、ただ破壊するためだけに生き返らせられるなんて……そんなやり方絶対に認めない!〕
ヤプールの卑劣で残酷なやり口は、他者の命を奪うことを生業とする戦士としての最低限のルールすら踏み越えている。
戦士の誇りなど、それそのものが偽善であるかもしれないが、偽善さえも踏みにじる残酷さ。何度も見たヤプールの卑劣な手口だが、
今度という今度は堪忍袋の緒が切れた。死んでいった超獣たちを、もう誰にも利用されない安らかな眠りにつかせてやるためにも、
こいつには絶対勝たなくてはならない。
才人とルイズの燃えるような闘志を受けて、エースは立ち上がり、コスモスも一歩遅れて両の足で大地を踏みしめる。
「シュワッチ!」
ウルトラマンはまだあきらめていない。ウルトラマンは、まだ戦える。彼らの立つ姿が、再び絶望に侵食されかけていた人々の
心に希望の灯火を残した。
見ていてくれ、俺たちはこの命がある限り戦う! だから、君たちも最後まであきらめないでくれ!
エースの無言の言葉が、確かに人々の胸に届いた。そう、戦って倒すべきはヤプールや超獣だけではない。むしろ、
誰の心にでも巣食い、隙あらば心を闇に染めようとする”絶望”という魔物こそが一番怖いのだ。
あきらめなければ、命ある限り戦える。あきらめなければ、ほんの少しでも希望を見ることができる。しかし、あきらめて
絶望に心をゆだねてしまっては、そのすべては消えてなくなる。エースからのメッセージを受け取ったギーシュたちは、
弱気になっていた自分たちを叱咤し、ティファニアはエルフの人々に呼びかける。
「皆さん! あきらめないでください! ウルトラマンは、これまでにも何度も大変なピンチの中で負けそうになりました。
でも、彼らはどんなピンチでも最後まで立ち続けて、どんな強い怪獣にも勝ってきたんです。今度もきっと、あいつを
やっつけてくれます! だから、わたしたちが先にあきらめちゃだめなんです」
この戦いは、単にウルトラマンとヤプールの戦いではない。人間とエルフたちの持つ、希望と絶望の戦いでもあるのだ。
何度追い払ってもやって来る心の闇に負けないために、終わらない心の戦いがここでも繰り広げられている。ティファニアは、
何度も何度も同じはげましを、絶望に立ち向かう言葉の剣として振り続けた。
しかし、悪の威力は強大で残酷だ。まだ揺るがない二人のウルトラマンの闘志に呼応したように、猛烈な勢いで突進してくる
EXゴモラ。それをエースとコスモスは二人がかりで受け止めた!
「ヌォォォォッ!」
「ファァァッ!」
小惑星を受け止めるにも匹敵する衝撃が二人のウルトラマンを襲う。足元の石畳の道が紙ふぶきのようにはがれて舞い散り、
それでもEXゴモラは止まらない。今まで二人のウルトラマンが戦った、いかなる怪獣とも違うケタ違いのパワーは、やはり
どうあがいても止められないのか!?
抵抗むなしく、EXゴモラの頭の一振りでエースとコスモスは軽く吹っ飛ばされてしまった。数件の建物を巻き添えにして
地面に叩きつけられて粉塵が舞う。やはり、とてつもなく強い……だが、遠く弾き飛ばされてしまったことは幸いとも言えた。
ゴモラには飛び道具はない! 今なら攻撃を受ける恐れはない。
今だ! 真っ向からの肉弾戦ではかなわないなら、光線技で一気に勝負を決める。エネルギーの出し惜しみなどをしていて
どうこうなる相手ではない。エースとコスモスは、最大出力の必殺光線を同時に放った!
『メタリウム光線!』
『ネイバスター光線!』
アントラーとアリブンタにとどめを刺した光の矢がEXゴモラに炸裂した。進化してもバリアーを張る能力などはなかったようで、
二人の光線はまともに直撃し、並の怪獣なら破片も残さず木っ端微塵にしてしまうほどのパワーが飲み込まれていく。
だが、光の奔流は、そのエネルギーを求められた対象に届けることはできていなかった。加減などはまったくなしで、
全力で放たれたはずの光線は、まるで雨が傘ではじかれているかのようにゴモラの皮膚で拡散し、撃ち切ったときにも
傷ひとつない無事な姿を保っていたのだ。
〔俺たちの合体光線でも無傷だっていうのか! バケモノめっ!〕
恐ろしいまでの耐久力にエースは舌を巻いた。まるで、以前戦った強化ドラコの生体反射外骨格のようだ。いや、あれも
すごかったが、EXゴモラのそれはドラコのそれを確実に上回っている。しかも、あのときは才人の捨て身の攻撃で装甲に
亀裂を作ってやったから突破口が見つかったが、EXゴモラには死角はない。
大量のエネルギーを消費し、がくりとエースとコスモスはひざをついた。カラータイマーの点滅も始まり、体から力が抜けていく。
まずい、今の一撃に、勝負を賭けるつもりであっただけに、余剰エネルギーの大半を使い尽くしてしまった。もう、光線技は
撃てて数発が限界、それもウルトラギロチンのような大技は使えない。
EXゴモラは完全に無傷で、痛くもかゆくもないといわんばかりに余裕で喉を鳴らしている。
しかし、あきらめるわけにはいかない。何度失敗しても、どれだけ無様でも立って戦う。それが、ウルトラマンの義務なのだ。
勝負は、まだこれからだ! 希望をつなごうと、エースとコスモスは気力を奮い立たせた。
そういえば……この戦いが始まってから、もう何回倒されて立ち上がっただろうか。五回か六回か、もう正確に思い返せないほど
繰り返してきたが、あと何回でも起き上がってやろう! 俺たちは、ウルトラマンなのだから。
だが、暴風雨が数年をかけてやっと高く伸びた若木を無情にへし折ってしまうように、力の差はさらに残酷に敗北への
一本道を指し示してきた。
「ウワァァーッ!?」
突然、なんの前触れもなくエースが垂直に跳ね飛ばされた。一瞬にして百メートル近くを打ち上げられ、そのまま受け身を
とることもできずに地面に叩きつけられる。
なんだ! 今のは? ゴモラの攻撃なのか!? しかし、攻撃の形跡なんかなかったぞ。
事態を飲み込めずに立ち尽くすコスモスに、今度は明確な形で攻撃が襲い掛かった。コスモスの足元の地面が突如
はじけたかと思うと、地中から槍のようなものが飛び出してきてコスモスの胸を打ち、その身を大きく跳ね飛ばしたのだ。
〔なんだっ! 今のは〕
地中からの突然の奇襲は、コスモスといえども避ける暇もなかった。エースと同じく地面に叩きつけられ、苦しそうな声が
漏れ聞こえる。だが今はそれよりも、あの攻撃がなんだったのかを突き止めることが先だ。EXゴモラとの距離は、たっぷりと
三百メートルはあり、光線でも使わなければとても攻撃が届く距離ではない。
〔まさか、もう一体怪獣が!?〕
ルイズは、地底に別の怪獣がいて、そいつが不意打ちを仕掛けてきたのではと推測した。確かに客観的に見れば、
それが一番率直で確実性の高い答えだ。だが、正解は違っていた。目に見えない地中から、三回目の奇襲をかけて
こようとする謎の敵の存在を、わずかな振動で察知したコスモスは、狙われているのがエースだと知るととっさに突き飛ばした。
「フアッ!」
間一髪、エースはコスモスの機転のおかげで串刺しにされるのを免れた。そして、空振りして空に向かって伸び、
すぐさま土中に引っ込んでいったそれの形を、確かに見た。
〔今のは、ゴモラの尻尾!?〕
信じられないが間違いはなかった。慌てて振り返ってみると、EXゴモラはこちらを凝視しながらもその場から動かずにいた。
そして、さらによく観察してみると、EXゴモラの尻尾が土中に潜り込んでいた。本当に信じられないが、EXゴモラはこの距離から
土中から尻尾を伸ばして攻撃してきたらしい。尻尾を伸ばして!?
〔まずい、動くんだ!〕
コスモスの声にエースもはっとして飛びのいた。エースのいた場所の土中から、槍のような尻尾が飛び出して襲ってくる。
コスモスも同様で、EXゴモラの尻尾は一瞬で出現と退避を繰り返して、神出鬼没に地中からの攻撃を続けてくる。これでは
まるでモグラ叩きの逆だ。
いけない、このままでは一方的に攻撃を受け続けてしまう。EXゴモラ相手には距離をとって戦う作戦は通じないのか!
危険なことに変わりはないが、一方的に叩かれ続けるよりはましだと判断したエースとコスモスは、距離を詰めようと
EXゴモラへ向けて走り出した。するとEXゴモラも土中からの攻撃をやめて、尻尾を引き上げると、今度はサソリが毒針で
威嚇体制をとるときのように持ち上げてきた。
来るか! その瞬間、EXゴモラはゴモラから受け継いだ必殺武器をついに白昼にさらした。鋼鉄の槍のように太く
鋭い尾の先がウルトラマンAを狙ったかと思ったとき、尾全体がまるでゴムで出来ているかのように伸びて襲いかかってきた。
「ヘヤァ!」
間一髪、かわしたエースのすぐ後ろで道路がえぐられて、地割れのような巨大な裂け目ができた。
危なかった。ゴモラの尾が伸びるかもと事前にかんぐっていなかったら直撃を食らっていた。いや、この破壊力……
まともに食らっていたら、土中を進んできたときとは違う勢いに、一気に胴を貫かれてもずのはやにえのように
されていたかもしれないと思うと、血が凍りつくような思いさえした。
だが、これで間違いない。EX化したゴモラは、最大の武器である尻尾を振り回すだけでなく、自在に長さを操って
伸縮自在の槍のように使うことができる。しかも、必殺の威力をもかねそなえた強力無比なテールスピアーとして!
槍衾のように繰り出されてくるテールスピアーの連撃を、エースとコスモスは紙一重でかわしながらEXゴモラに接近し、
全力の一撃をそれぞれ放った。超獣ドラゴリーの胴体を貫いたエースパンチと、巨大ロボット兵器のボディすら揺るがす
コスモスのサンメラリーパンチが同時に放たれてEXゴモラのボディがぐらりと揺れた。
”効いたのか!?”
が、淡い希望は一瞬で消え去った。EXゴモラの鎧のような皮膚は二人のウルトラマンの同時攻撃をものともせず、
白目がむかれたと同時に尻尾がなぎ払うように振られ、エースとコスモスはまとめて吹っ飛ばされてしまった。
「ウワァァッ!」
だめか……打撃でも光線でも、戦いが始まってから一度もダメージらしいダメージを与えられていない。攻撃力、防御力ともに
ケタ違いでつけいる隙がどこにもない。どうすればいい……どうすれば。時間と共に打てる手は減っていき、エネルギーは
確実に減っていく。このまま打開策がなければ、確実に負けてしまう。
エースも、才人やルイズもEXゴモラを倒す手段が思いつかず、絶望はしなくとも無力感が心に漂い始めた。こいつは、
かつて戦ったどんな怪獣や超獣とも違う、本当に無敵で、倒す手段などないのではないか……そんな後ろ向きな考えが
頭をかすめかけたときだった。コスモスがエースに手を差し伸べて語りかけたのだ。
「さあ、立とう。私たちはまだ負けたわけではない。あの怪獣を止める方法は必ずあるはずだ。それを見つけよう」
「ウルトラマン……コスモス」
「ウルトラマン……エース。君も、よい仲間を持っているのだな。私もかつて、魂を共有した友がいた。その友が教えてくれた。
敵と戦って勝つことに固執することは、より大きな争いの呼び水になってしまう。敵と戦わねばならなくとも、その目的は
人々の平和を守り、失われようとする命を守るためであるべきだ」
コスモスの言葉に、エースは心の霧が晴れたような気がした。確かにそうだ、どうしても勝てそうにない敵を相手にしたら、
つい勝つための方法ばかりを模索してしまいがちだが、勝利は目標であって目的ではない。倒すのではなく守ること、
ウルトラ戦士の心得をうっかり失念するところだったと、エースは自らを戒めて礼を述べた。
「すまない、私たちは大事なことを見失ってしまうところだった。ここで勝利に目を奪われて倒されてしまえば、見守ってくれている
大勢の人たちの期待を裏切ってしまうところだった。ありがとう」
差し伸べられた手をとってエースは立ち上がった。その眼差しの先には、ゴモラとコスモスのほかにも、アディールを襲う
天変地異にも負けずに応援してくれている人々の姿がある。彼らがいる限り、みっともない姿は見せられないと、エースは
才人とルイズとともに気合を入れなおした。
EXゴモラは確かに強い。しかし、ただ強いだけではウルトラマンを倒すことはできない。
「俺たちを倒したいのなら、この銀河系ごと消滅させてみろ!」
自分に負けない限り、敵に負けることもないと、エースは健在な姿を見せつける。相変わらず勝機はなきに等しいが、
最後まで希望であり続けること、人々の光であり続けること、それがウルトラ戦士の使命なのだ。人間やエルフたちも、
立ち上がって勇敢に構えをとる二人のウルトラマンに勇気を分け与えられて、仲間同士で励ましあって声を出す。
だが、邪悪の化身にとって、どうやっても絶望に染まらない者ほど忌々しいものはない。思うとおりにならないのならば
死んでしまえ! 幼児のわがままじみた、わめきちらす悪辣な暴君、気に入らない対象への理不尽な怒りをつのらせた
ヤプールは、EXゴモラの精神と同調して、超エネルギーを集め始めた。
「いつまでも希望などというくだらないものにすがる愚か者どもよ。そんなに現実から目を背けたいのなら、今すぐ抗いようのない
力の差というものを見せてやる。受けてみるがいい、我らの怨念を込めた破滅の業火を! そして知るがいい、この世界には
希望などないのだということを!」
マイナスエネルギーが膨大な破壊エネルギーに変換されてEXゴモラに充填されていき、巨体が赤く染め上げられていく。
そのケタ違いのエネルギー量は到底計測などは不可能。エースとコスモスは戦慄した。ヤプールめ! どうあっても
力ですべてを決しようというのか。
超エネルギーがEXゴモラの体に収束していき、周辺の建物がその余波だけで吹き飛ばされていく。
あれは、あんな能力がゴモラにあったのか!? いや、ゴモラには地底掘削用に超振動波を放つ能力がある。元になった
ゴモラは振動波をそのまま相手に叩きつけるくらいまでしかできなかったが、もし超振動波をさらに増幅したら光線のように
放つことができるとしたら、それをEX化したことにより極大化したとしたら!
まずい! 今あんなものを食らったら。しかし、避けようにも、背後にはまだ避難できていない大勢の市民がいる。
避けられない! 来る!
その瞬間、超極大化された超振動波、『EX超振動波』がエースとコスモスを目掛けて放たれた!
「くっ! コスモス!」
「ああ、我々の全エネルギーをこれに込めるんだ!」
この一撃をまともに食らったら、たとえウルトラマンといえどもあとかたもなく消滅する。かといって、避けたら後ろにいる
数千のエルフたちが代わりに殺されてしまう。選択は、するまでもない! エースとコスモスは体に残った全エネルギーを
使って、渾身のバリアーを作って迎え撃った。
『サークルバリヤー!』
『サンライト・バリア!』
光の鏡と金色の光の壁がEX超振動波を受け止めて、激しく火花を散らした。しかし、圧倒的勢いを誇るEX超振動波の
圧迫力は、ふたり同時に張ったバリアの防御力をも超えて押し切ろうと迫ってきた。
〔とんでもない威力だ! 抑え切れんっ! くそっ〕
ダブルバリアの壁を超えて、超振動波のエネルギーが押してくる。バリアにもろくもひびが入り、漏れ出てきたエネルギーが
エースとコスモスの体を焼き始めた。だめだ、あと数秒も持たない! だがそのときルイズと才人が、己の生命エネルギーを
エースに託した。
〔サイト、いいわね!〕
〔ああ、おれたちの命、ここで使ってくれ!〕
ふたりとも迷いはなかった。二人の精神体から一気に力が抜けていき、実体だったら立ち上がることさえできないほどの
疲労感と鈍痛が二人を包む。それは二人にとって、本当に命を失うかどうかというギリギリでの付与だった。エースが事前に
二人がやろうとしていることを知ったら、なにを置いても止めたであろうほど危険な賭けであったが、二人ともそれでもいいと
思っていた。
エースが、みんなが命を賭けて戦っている。なのに、自分たちだけリスクを避けようとは思えない。
二人ともバカだ。年相応のこともできない大バカ者だ。しかし、二人の命そのものといえる生命エネルギーを得たエースは、
寸前のところで力を盛り返した。
〔エース、あとは、頼んだ、ぜ〕
〔二人とも、この戦いが終わったら説教だぞ! くっ、うぉぉぉーっ!〕
バリアに全身全霊のパワーを注ぎ込み、エースは持ち直した。コスモスのぶんも合わせ、EX超振動波がはじき返されていく。
そして、カラータイマーの点滅も限界に達し、もうこれまでかと思った瞬間、ついにEXゴモラも力尽きて超振動波の波がやんだ。
「やった、か……」
バリアを解除し、エースとコスモスはひざをついた。恐ろしいパワーだった。もしエースかコスモスかどちらかひとり、さらに
才人とルイズの暴挙がなければ、この世に一辺の痕跡すら残さずに消し去られていたところだった。
どこまでも恐ろしい怪獣、恐るべしはヤプールと暗黒の底力。EXゴモラはいまだかすり傷ひとつなく、白目に怒りを込めて
吼え猛っている。
しかし、あきらめることだけはできない。あきらめたら、それですべてが終わる。
「コスモス、立てるか?」
「もちろんだ。さあ、勝負はこれからだ」
励ましあい、エースとコスモスは再び立ち上がった。
まだ、戦える。まだ、負けたわけではない。しかし、その意志を込めた勇姿に、勝ち誇るヤプールは冷笑を送った。
「フハハハ、これだけの実力差を見せ付けられて、まだ立ち向かおうというのか。より絶望が深くなるだけだというのに、
まったくお前たちのあきらめの悪さは見苦しいことこの上ない。何度立ち上がろうと無駄だ。このゴモラには、絶対に勝てん!」
破壊と殺戮の喜びに狂奔するヤプールの声は、明らかに勝利を確信していた。それだけではない、その負の感情を
込めた声によって、人々の恐怖心をあおろうとしているのは明白であった。ヤプールらしい、陰湿で陰険なやり口は昔から
少しも変わるところはない。
凶暴な雄たけびをあげる無傷のEXゴモラと、満身創痍のウルトラマン。誰がどう見ても、どちらが勝者かというのは
一目瞭然の光景であろう。奇跡を望むにしても、超獣軍団を倒し、いまやこの超怪獣を相手にほとんどのエネルギーを
使い切ってしまった今となっては、どんな奇跡が起こせるというのだろう。
だが、勝ち誇るヤプールに対して、エースは毅然として言い放った。
「ヤプール、絶対に勝てないとは大した自信家ぶりだが、あまり調子に乗ったことばかり言っていると、後で後悔することになるぞ」
「フッハハハ! とうとう負け惜しみか。ウルトラマンAも堕ちたものだなぁ!」
「負け惜しみか、貴様にはそう聞こえるのだろうな。だが、戦いの決着とは終わってみないとわからないものだ。貴様は
まだ勝者ではない。知っているか? 地球人の童話では、油断したウサギが努力し続けたカメに負けるんだ」
「貴様ぁ! このわしを侮辱するか! 死にぞこないの分際で、あと一発殴られた程度で死ぬほど弱りきった貴様らに
いったいなにができるというのだ! おとなしく絶望しろ! そうすればせめて楽にあの世に送ってやる!」
ヤプールの恫喝に、しかしエースはコスモスとともに首を振った。
「それは聞けないな。俺たちは、どんなことがあっても邪悪な暴力には屈しない。俺たちを信じて、力を託してくれた
仲間たちのためにも、決してあきらめはしない」
「そう、それに我々は負けはしない。お前のように、破壊にのみしか価値を見出せない者には、我々を支える大きな力の
意味はわからないだろう。それがある限り、我々に敗北はない」
エースとコスモス、光の戦士の揺るがぬ意志の前にはヤプールの狂声などは無価値だった。
激怒したヤプールは、もはや嬲り殺すのはかなぐり捨ててEXゴモラにとどめを命じた。
「やれぇ! もはやウルトラマンどもに抵抗するだけのエネルギーは残っていない。そいつらを叩き潰し、すべての愚か者どもに
絶望を思い知らせるのだぁぁーっ!」
雄たけびをあげ、EXゴモラはエースとコスモスに向かった。
もはや、二人のウルトラマンにはヤプールの言うとおり、一発の光線を撃つ力も、殴りあう体力も残されてはいない。
ただ、立つだけで精一杯。抵抗する力などはほぼ皆無、殴られればカカシのように叩きつけられる運命しかない。
逃れる力もなく、立って待ち構えるウルトラマン。もうだめなのか、希望は絶望に塗りつぶされてしまうのか。
人間たち、エルフたちの眼前に、破滅の未来が刻々と迫る。
だが、彼らはその光景を目にすることなく、奇跡をまぶたに焼き付けた。
突進するEXゴモラの横合いから割り込んで激突し、猛烈なパワーで吹っ飛ばした土色の弾丸。
吹っ飛ばされて、体勢を立て直そうともがいているEXゴモラを太い尻尾の一撃で再度跳ね飛ばす、荒々しい巨竜。
そして、天空から舞い降りて、起き上がろうとするEXゴモラを蹴り飛ばす巨鳥。それに続いて、口から吐く光弾の雨で
EXゴモラを爆発の中に包み込む青い鳥。
「あっ、あれは!」
「怪獣たち……コスモスに救われた怪獣たちが!」
人々は、口々に指差し歓声をあげた。
ゴモラ、ゴルメデ、ヒドラ、リドリアスが蘇り、EXゴモラに立ち向かっていっていた。
咆哮をあげ、突撃していくゴモラとゴルメデ。それを空から援護するヒドラとリドリアス。EXゴモラは思わぬ乱入者に
とっさに対応できず、ヤプールは目障りな奴らめと怒り狂う。
「なぜだ、なぜあと一歩のところで邪魔が入る! ええい、どけぇぇ! どかんかぁーっ!」
ヤプールは、憎みても余りあるウルトラマンの最期を邪魔されたことで怒りの極致であった。それでも、邪悪な頭脳を
フル回転させて、誤算の原因を探ろうとする。なぜ、どうして完璧にエースを葬り去れるはずだった計画がこうも狂う?
本来ならば、超獣軍団だけでエースは十分抹殺できるはずだったのに、なぜこうも想定外のことが連発するのだ?
考えても考えても、ヤプールの思考は教科書の文字列を反復するだけの三流教師の思考のように、ゴールのない
環状路線を走り続けた。わからない……奇跡などというものはあるはずが、なにがウルトラマンどもに味方しているのだ。
しかし、ヤプールには永遠にわからないことだとしても、エースたちにはわかっていた。
”ヤプールよ。お前にとってとるにたりない者でも、捨て駒として切り捨てた者たちにも、皆にこの星を守ろうとする
強い意志があるのだ。お前の眼中には我々しか映っていなくとも、お前が戦っているのは、この星の生命全てだ。
お前の思う通りには決してならない。怪獣たちも、この星を愛する仲間なのだから!”
続く
今週は以上です。
第二部最終決戦、EXゴモラとのバトル、お楽しみいただけたでしょうか。
この話はメビウス直後で大怪獣バトル以前の時系列設定ですので、レイオニクスやEX怪獣は出せないものなのですが、
なんとか変則的にでも登場させられないものかと思ってやってみた次第です。なお、一応追記しておきますと、このEXゴモラは
あくまでゴモラの遺伝情報から複製されたフェイクで、レイのゴモラとは完全に無関係です。
では次回はいよいよクライマックスです。第二部の集大成、お待ちくださいませ!
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以上、代理終了
176 :
名無しさん@お腹いっぱい:2012/08/02(木) 23:18:02.39 ID:z9HXbdkr
「攻殻機動隊S.A.C 2ndGIG」終了後の少佐とタバサのクロスを
やろうかとも思ったが???だめだ、続く気がせん。
タバサーその銃をよこせー
178 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/02(木) 23:42:54.62 ID:z9HXbdkr
そう、そんな感じのやつ。
ssなんかちょっとしか書いたことない俺に出来るかどうか不安でね。
何それ超読みてええ!!!
ウルトラの人、代理の人お疲れ様です
ウルトラマン見たくなったわ。ちょっと借りてこよう
181 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/03(金) 00:00:42.22 ID:z9HXbdkr
そんでルイズにはタチコマを当てて...
ルイズの命令ガン無視で「少佐〜援護に来ました〜♪」みたいな...いけるかな?
書きたいんなら書けばいいと思うけど
まず
>>1を読んでsageる事からはじめて欲しいね
忘れておりました....申し訳ありません。
>>176 ワクテカしながら待ってていいですか 待ってます
?? 分かりました。どこまでやっていけるかかなり不安ですが
やってみようと思います。話を考えるで時間を下さい。
書くにしてもまずはプロットなりを作って話の計画立てておかんと、すぐエタるよ。
貴重なアドバイスありがとうございます!!
ロボットとかサイボーグみたいな近未来キャラ達を中世ゼロ魔とXさせるなんてむちゃくちゃハードル高いけどまぁ頑張れ
ワルド「な、なぜ遍在が分かった!?」
素子「本体は貴方だと。そう囁くのよ……私のゴーストが」
こんなイメージですかね?期待しとく
ギーシュ戦でワルキューレを素手で粉砕して
向こうの世界でもメスゴリラ呼ばわりされる素子さん
EXゴモラはレイブラット星人が憑依したアーマードダークネスをさえフルボッコにしたバケモノ
まともにやりあえばウルトラ兄弟総がかりでさえ勝てるか怪しいこいつにはてさてどう挑むのかな
ゴリラ存在するんかな?
地球と同じ生態系に幻獣等のファンタジー系生物を加えた感じ?
そんな生態系で人類が地球同様に繁栄してるのがすごい
文明ができる前に他の亜人種によく滅ぼされなかったもんだ
なんのために魔法があるんだ
>>194 平民だけなら原作よりもずっと狭い地域でしか生きられなかったかもね
>>196 飼いならせる竜と幻獣以外は絶滅させてるかもしれない
>>191 よせよ半生アイアンゴーレムとか変なニックネームつけたら金玉もがれるぞw
いくら少佐がゴリラでも金属の塊を素手で殴るような浅はかなまねしないだろ
メンテ受けられるわけじゃないんだし
サモンナイトが復活したしサモナイクロスとか来ないかなぁ
サモナイクロスは全部序盤でエタってしまってるし……
>>199 少佐だったらギーシュ戦は華麗にさけつつも、痛い目にはあわせられるっしょ。
お姉さん口調で論破されて再起不能になるギーシュ。
そして作者も再起不能になるってオチか
>>192 いたとして赤道付近だから知名度はなさそう
>>202 いま攻殻を観ながらアイデア考えてるが不吉なこと言わんでくれw
少佐の主人を誰にするかな
今のとこタバサ&ルイズの二択になってるんだが
そんな根本的な事から他人のアイデアを求めるようじゃマジで再起不能になるぞ
>>205の言うとおりだな・・・ありがとう、お陰で目が覚めたわ
いきなり長編なんか書いても持たんと思うが
初めは小ネタくらいで自分の力量を計ったほうがいい
20分より投下予定
第13話『擦れ違い』
人の心は一度壊れると元に戻すのは不可能だ。
その事をルイズは、同年代の誰よりも良く知っている。
夢の中で見たアセルスの姿は共感を覚えると同時に、心に突き刺さった……
針の城を抜け出したアセルスは片田舎にいた。
どこに向かうか尋ねる白薔薇に、アセルスはシップの発着場へ向かう。
ルイズにはシップやリージョンは分からない。
風石で飛ぶ船と似たようなものなのだろうと自分の想像を置き換えていた。
アセルス達が着いたのは、オウミと呼ばれた湖のある街。
河川に花びらが浮かんでいるのを見て、アセルスが足を止める。
「花びらが……」
ルイズも花びらに目を向けると、違和感に気付く。
波に揺られているようにも見えるが、花びらが時々波に逆らって動いているのだ。
「花文字ですわ……水妖が仲間を探しているようです」
尋ねるアセルスに、白薔薇が水妖について説明する。
水の中で暮らす下級妖魔で、人前には滅多に姿を現さない種族らしい。
「仲間が行方知れずか、かわいそうに」
この時、アセルスはまだ自分がその水妖に出会うとは思ってもいなかった。
アセルスが水妖と出会う切っ掛けとなったのは町で話されていた噂。
オウミの領主が傷ついた水妖を手当てしていると町の人から聞き、館に向かう。
領主の男に尋ねると、激昂してアセルス達を追い出そうとする。
だが二人が水妖に関して手がかりを持っていると分かると、力なく項垂れた。
「私はどうしたらいいんだ。
早く湖に戻したほうがいいのは分かっている。でも、私は……私は……」
話をする為に水妖がいる客室へと案内されるアセルスと白薔薇。
水妖は口を閉ざしたままで、領主とも一度も会話すらしていないと言う。
席を外すよう白薔薇が願うと、領主は渋々頷いた。
領主が出て行った後に、水妖がアセルスに問いかける。
「高貴な妖魔の匂いがする……人間なのになぜ?」
水妖の疑問にアセルスの表情が曇る。
「気に障ることを言ってしまいましたか?」
「いいや、君は本当のことを言っただけさ。
私は半分人間、半分妖魔という、この世でたった一人の中途半端な存在」
アセルスは水妖の気遣いを否定して、自嘲気味に告げる。
「御名前を御教えください、高貴な方」
「アセルス」
「アセルス様……気高い響き……」
アセルスが名乗ると、水妖の頬が上気する。
「アセルス様は、オルロワージュ様の血を頂いたのよ」
「妖魔の君オルロワージュ様!?御許しください、御無礼を御許しください!!」
名前を聞いた途端、惚けていた水妖はひれ伏しながら許しを請う。
ルイズやアセルスからしてみれば、何故これ程に怯えるのか理解できない。
「なぜ怯えるの?」
「妖魔の君の怒りに触れましたら、下賎な身の私など消滅してしまいます」
妖魔にとって、身分の差と言うものは絶対らしい。
ハルケギニアにも貴族がいる以上、階級制度は馴染み深い。
だからルイズはアセルスの存在が浮くのを知っている。
上級妖魔の血を与えられた、人間でも妖魔でもないアセルス。
公爵家の三女なのに、貴族なら出来て当然の魔法が使えない自分。
孤立した者同士ならばこそ、夢を見る毎にルイズはアセルスの数奇な運命にのめり込んでいく。
「大丈夫だよ、私はあの人じゃないから。君のことを教えてよ、その為に来たんだ」
アセルスは穏やかに水妖に語りかける。
「私はメサルティム、オウミの湖に住んでいます」
水妖も緊張を解しながら、身の上を説明し始めた……
水妖達はシップの発着場が出来る前、オウミの湖付近を住処にしていた。
地元の漁師も水神を崇めている為に、住処には近づかずに漁を行うのが日課だった。
しかし発着場が出来た所為で、水妖も居場所を変えざるを得ない。
メサルティムも湖を移動していたところ、漁師の網に掛かって捕らわれてしまったという。
「ケガしているのを治療してくれたのではないですか?」
「大事にしてくれているのは分かるんです。
けれど、人間の臭いは嫌いです。息が詰まる……帰りたい……」
白薔薇の質問にも、メサルティムは俯くだけだった。
「行こう!居たくも無い所に居る必要はない」
彼女の様子を見かねたアセルスが腕を引く。
アセルスの台詞はルイズに聞き覚えがあった。
学院という孤独に束縛されていた、自分を連れ出した時と同じ言葉。
「あの領主は、この水妖をあ……い……」
「望んでもいない物を押し付けて縛り付ける。そんな権利は無い」
白薔薇の発言は最後まで紡がれなかった。
アセルスは自身の運命をメサルティムと重ねているのだろうとルイズは察する。
契約を結んでくれているのも、自分と似た境遇に対する感情移入だろうか。
あの頃の自分がアセルスにどう映っていたのだろうかがルイズには気になった。
脱出の方法を考えていたアセルスは、館に地下に向かう階段があった事を思い出す。
領主を騙し、近くを連れ歩くと言ってアセルス達はメサルティムを逃がすべく地下室へ向かった。
大イカに襲撃される危機はあったが一同は協力して館から逃げ出し、湖にたどり着く。
「ああ、湖の匂いがする!さようならアセルス様、ありがとうございます」
メサルティムは嬉しそうにお礼を言うと、湖へと還っていった。
「さよなら、メサルティム……どうしたの、白薔薇?」
お別れの挨拶を笑顔で交わす。
白薔薇の表情はアセルスとは対照的に沈んでいる。
「あの若者の気持ちを考えると、素直に喜べないのです」
白薔薇の言い分も確かだ。
単に親切心から治療するだけならば、客室を与える必要は無い。
少なからず好意以上の感情を抱いていたのだろう。
アセルスの行為が正しいのか間違っているのか、ルイズには判断できない。
他人を思いやれるからこそ、白薔薇は領主への罪悪感から素直に喜べないと言う。
「人間と妖魔が幸せになれるわけない!」
人から妖魔になったアセルスの、まるで自分に言い聞かせるような叫びだった。
街の領主は水妖を愛していた。
だが、メサルティムは館にいたくなかった。
湖で暮らしたいメサルティム、地上でしか生きられない人間。
そもそもの根底が異なるのだ。
ルイズが長く抱き続けていた苦悩にも置き換えれる。
魔法が使えないという劣等感は、誰にも理解されなかった。
無理もない。
貴族は魔法が使えるのが当然なのだから。
偉大な魔法使いの母親。
生徒を教える立場の教師。
300年生きてきたとされるオールド・オスマンさえも、苦悩への答えを返してくれなかった。
異なりはルイズとアセルスにも当てはまる。
人間と妖魔──決して超えられぬ異種族の壁。
──人間と妖魔は幸福にはなれない。
アセルスの叫びは、ルイズの心中に木霊する。
『人間と妖魔は受け入れられない存在なんだ』
ワルドの警告がルイズの脳裏をよぎる。
そんなはずはない。
アセルスは人間なんだと言い聞かせるルイズに、夢は追い討ちをかける……
「シュライクへ行って、おばさんの家があるの」
オウミを離れたアセルスが向かったのは自分の故郷でもあるリージョン。
ルイズからしてみれば、オウミより発展した近代的な街並みは理解の範疇を超えていた。
ハルケギニアには存在しない技術の数々。
馬より早く走る鋼鉄製の車。
魔法でも建築は不可能だと判断できる一面ガラス張りの高層ビル。
全てがそういう訳でもなく、針の城のようにルイズにも馴染みのある建造物などもあった。
まるで異なる世界が一つになっているような錯覚を覚える。
ルイズが混乱している中、アセルスは一軒の家を見つけると駆け足で近づく。
「おばさん!」
庭にいた中年の女性に嬉しそうに声をかける。
彼女の姿はルイズにも見覚えがあった。
最初の夢でアセルスと一緒にいた本屋の店員。
働いていた姿より老けてみえるのは、アセルスがいなくなった心労からだろうか。
「あなた……誰?」
振り返った女性は、困惑しているようだった。
「アセルスだよ、髪の色が違うから分からなかったんだね」
自分の髪を弄りながら陽気に答えるアセルスだったが、伯母と呼ばれた女性はただ震えていた。
「どうしたの?」
青い顔した伯母の態度を、アセルスも疑問に思う。
「幽霊なの?いなくなった時の年格好のままで……やっぱりアセルスは死んだんだね」
「何を言ってるの?死んでなんかないよ、本人だよ」
一体伯母が何を言っているのか、アセルスには真意が掴めない。
「私をたぶらかす妖怪かい?
12年も前のアセルスの姿で現れるなんて!?誰か、助けて!!」
伯母は助けを求めながら絶叫して、家に隠れる。
強く閉められた扉の音と共に、アセルスもようやく真実が分かった。
「12年……私があの人の馬車に轢かれ、ファシナトゥールに連れ去られて12年……
どうして教えてくれなかったの、白薔薇……」
アセルスの表情には絶望が色濃く見える。
「ファシナトゥールにいる限り、時の流れは意味を持ちません。
それに、アセルス様にショックを与えたくなかったのです」
責めるようなアセルスの問いかけにも、白薔薇は正直に答えた。
「やっぱり、私は化け物なんだ……12年も年を取らないなんて……」
おぼつかない足取りで、焦点の合わぬ瞳のまま虚空を見上げる。
「そんな物の言い方をしてはいけません」
「ほっといてよ!!」
白薔薇の戒めにも、今のアセルスは聞く耳を持たない。
逃げるように、伯母の家から走り去ったアセルスは人気の無い街道に座り込む。
追いついた白薔薇が近寄るも、アセルスは顔を伏せたままだった。
白薔薇が声をかけようとしたが、それより早くどこからとも無く声が聞こえてくる。
『白薔薇姫様、針の城に御戻り下さい。
オルロワージュ様に逆らうおつもりですか?』
アセルスが顔を上げる。
ルイズも周囲を見渡すが、道は猫一匹すらいない無人だ。
「そんな。オルロワージュ様に逆らうだなんて、誤解です」
白薔薇だけが、何かに語りかけるように首を振る。
「言い訳は、御帰りになってからにしていただきましょう」
燃える炎のように赤い甲冑に白い翼が生えた妖魔が姿を現す。
「ダメだ、白薔薇!白薔薇に触れるな!」
アセルスは発狂したように喚く。
右手にはファシナトゥールで手に入れた幻魔を携える。
「邪魔する者は殺して良いと言われております」
慣れた手つきで剣を抜き、アセルスに刃を向けた。
アセルスもルイズも知らない事だが、この妖魔──炎の従騎士はセアトの放った刺客。
炎の従騎士は先陣を任されただけあり、中級妖魔に近い力を持つ。
ルイズは夢を見てきたから知っている。
アセルスは剣を持っているが、実戦では数える程度しか剣を使っていない。
「アセルス様!」
白薔薇の制止も構わず、アセルスは怯むことなく剣を構えて突進する。
力量の差は明確であった。
掠りもしないアセルスの剣に対し、炎の従騎士の刃は熱を伴ってアセルスの身体を刻んでいく。
「当たれ!当たれ!!」
如何なる力があれども、当たらねば意味がない。
手馴れた騎士と実戦経験の無いアセルス。
妖力で見るならアセルスが上だが、圧倒的に経験が不足していた。
「くっ……ぁ!」
炎の従騎士が翼を羽ばたかせ、アセルスに強襲する。
剣で正面から受け止めてしまい、衝撃に耐えられずに後ろに吹き飛ばされた。
オルロワージュが命じたのは二つ。
白薔薇を連れ戻す。
その際、邪魔する者は殺しても構わないと。
従騎士は忠実に二つの任務を遂行する。
すなわち、アセルスを殺そうと剣を構えた。
「アセルス!」
見かねたルイズが思わず叫ぶ。
だが彼女には何も出来ない、これはあくまで夢の中なのだから。
アセルスも姿勢を崩した事で気付いた。
炎の従騎士が羽で宙に浮いている妖魔であると。
足場が固定されていない以上、至近距離では剣を振っても深手を負わせにくい。
更に今アセルスは体勢を崩して、身体を伏せるような体勢になっている。
──止めを刺そうとするなら、剣を突いてくるはず。
突き下ろしてきた相手の剣に対して、アセルスは切り払う事を閃く。
例え経験の差があれど、予測通り動くなら一太刀くらいは浴びせれる。
アセルスと炎の従騎士が交錯する。
先に血を流したのはアセルスだった。
しかし刺されると同時に剣を切り払い、幻魔を相手の心臓に突き立てる。
剣で打ち合ったのは、ほんの2〜3分の間。
呼吸を荒げ、刺された箇所を擦ると血で咽返る。
立っているのが精一杯な程に疲労困憊だった。
動く気配を見せない炎の従騎士に安堵して、剣を仕舞う。
「あぁ……あのお方に逆らうなんて……」
アセルスが従騎士を討ったのを喜ぶでもなく、白薔薇は怯えていた。
「白薔薇、どこにも行かないで……
私を本当に分かってくれるのは貴女しかいないんだから」
血で汚れた手を伸ばし、白薔薇の腕を掴む。
ドレスが汚れるのも気遣う暇もなく、捨てられた子供のように懇願するアセルス。
彼女を心優しき白薔薇が見捨てれるはずもない。
「アセルス様……」
妖魔の君であるオルロワージュとその血を継ぐアセルス。
二人の間で板挟みになる白薔薇は名を呟くしかできなかった……
──ルイズが夢から覚める。
宿は港町でも上等なもので、それ故一人で眠るには少々広すぎた。
「そういえば、一緒に寝るのが当たり前になってたわよね……」
アセルスもだが、ルイズも孤独な生活を送ってきた。
学院でルイズが心許せる相手といえば、シエスタくらいだ。
彼女相手にも貴族の見栄があった為、弱音を吐くことは出来なかった。
誰かと一緒に眠るだけで、安らげる。
長い間、一人でいたルイズにはアセルスと寄り添って眠る感覚は心地良いものだった。
だが何時までも眠ってはいられない。
任務の為に起きると、同室者だったワルドがいない。
ルイズが部屋を見回していると、外から大きな声が響いた。
「君に決闘を申し込む!」
ルイズより少し前、アセルスも眠りから覚めていた。
この世界に来て馴染んだルイズの部屋ではなく、見慣れぬ天井。
「またか……」
アセルスが気だるそうに、独り愚痴る。
最近アセルスが見る、己の半生を振り返った夢。
妖魔の血を受け継いだ時から始まり、白薔薇を守る為に追っ手と戦っていた頃。
「白薔薇……何処に消えてしまったの」
憂鬱な感傷とやり場のない怒り。
感傷を振り払おうとアセルスは扉を開けて食堂へ降りる。
「おや、起きていたのかい」
アセルスの眉間にあった皺が深くなる。
夢に加えて会いたくない相手に朝から出会い、苛立ちを募らせた。
「何?」
ワルドを階段の上から見下ろす。
アセルスがルイズと同じ部屋にいないのは、この男が原因だ。
昨日大切な話があるとルイズに言い、拒否できなかった彼女と同室になってた。
「君と少し話したくてね」
「私に話す事はない」
会話を一方的に打ち切り、アセルスは階段を降りる。
「主人以外を信じない頑なさは、流石ガンダールヴと言ったところかな」
聞き覚えのない単語にアセルスは歩みを止めた。
「君の契約のルーン、かつて始祖が率いた伝説ガンダールヴ。
1000人の軍隊をも相手にしたという力が君の正体だ、違うかい?」
ワルドが自信ありげに説明するが、アセルスは自身のルーンを知らない。
彼女は他者に興味がないのだ。
あるのは呼び寄せたルイズへの関心のみ。
だからこそ、自らを必要としたルイズに付き添っている。
「……本当に知らないのか?」
ワルドが間の抜けた声で尋ねた。
自信満々に断言したことが外れていれば、彼でなくても滑稽である。
「話す事はないと言ったでしょう」
アセルスは再び会話を打ち切ると、立ち去ろうとする。
「待ちたまえ」
ワルドの制止も、アセルスは振り返ろうともしない。
「君に決闘を申し込む!」
アセルスが足を止めて、振り返る。
ただし、瞳には何の感情も宿ってはいない。
「何故?」
至極当然なアセルスの疑問。
「太古から貴族というのは、つまらない理由で決闘を行ったものさ」
ワルドは理由をはぐらかすのみで、答えなかった。
「ちょっと!ワルド!?」
ルイズが部屋の扉を開け、慌てて制止する。
マントを羽織ってはいるが、下は寝間着姿のままだ。
決闘の申し出に着替える暇もなく、飛び出してきたのが分かる。
「何考えているのよ!仲間同士で決闘だなんて!!」
「仲間か……生憎、彼女は僕をそう思ってくれていないようだがね」
アセルスとワルドはお互いにらみ合ったままだ。
「悪いが僕もだ。君の使い魔とはいえ、人の命を粗末に扱う妖魔を信用できない」
「それは……」
アセルスが元は人間だと知っているのはルイズのみ。
ルイズでさえ、アセルスが変わってしまった理由は断片的にしか分からない。
「だからって決闘だなんて……!」
「すまないが、君の忠告でも聞けそうにない」
なおも縋るルイズに、ワルドは首を振って否定した。
「僕が勝った場合、この旅では僕の指示に従ってもらう。
例え盗賊や敵相手でも、むやみに命を奪うのは止めて貰おうか」
アセルスに向き直ったワルドが強い口調で宣告する。
「貴方が負けたら?」
「君の好きにするといい」
アセルスの問いにワルドは即答した。
「……いいわ、場所は?」
アセルスが引き受けた理由は実に分かりやすかった。
募らせた苛立ちを発散したかっただけの八つ当たりに近い。
彼女の返答の意図など露知らないワルドは、満足してついて来るよう促した。
ワルドが決闘に選んだのは、遺跡の広場。
かつて貴族達が多くの決闘を行った場所としても知られている。
立会人として呼ばれたルイズ以外にも、話を聞きつけたキュルケとタバサ。
アセルスの従者であるエルザも来ていた。
「何考えてるのよ、もう」
「婚約者の前でいい格好を見せたいんじゃない?」
やり場のない憤りを覚えるルイズに、キュルケが軽口を叩く。
「ふざけないで。
いくらワルドがスクウェア級のメイジでも勝てる訳ないわ……」
ルイズの意見にはタバサも同意だった。
妖魔というだけでも、厄介なのにアセルスは戦い慣れしている。
それでもタバサが見に来たのは、スクウェアどの程度通用するかの指標になると判断したから。
──様々な思惑を秘めた決闘が始まる。
「エア・カッター!」
呪文の詠唱と共に、ワルドが先手を仕掛ける。
対するアセルスは剣を突き出すように構えると突進した。
メイジとの戦闘の定石は距離を詰めること。
重々承知しているワルドも、レイピアを構えて迎え撃つ。
「グリフォン隊の隊長を甘く見てもらっては困る。
魔法だけではなく、剣の腕も一流でなくては勤まらないのだよ」
アセルスの剣を受け止め、呪文詠唱の時間を稼ぐ。
一太刀目を受け止められたアセルスは、腰のデルフを左手で引き抜く。
「例え二刀流だろうと……」
ワルドはアセルスの二刀流がただの奇策だと判断した。
理由はアセルスが持つ幻魔もデルフリンガーも長剣である事。
ハルケギニアにも二刀流の概念はあるが、通常は長短二つの剣を用いる。
しかし、アセルスは2本の剣どちらも攻撃にに使う。
身を守るよりもアセルスが望んだのは、敵を討ち滅ぼす一点のみ。
端から見ていたルイズは今朝見た夢を思い出す。
アセルスの剣が素人目に見ても、格段に上達していた。
「うぉ……!?」
嵐のような猛攻。
しのぐワルドに余裕はない。
『相棒、すげえけど攻撃に偏りすぎだ!このままだと……』
デルフの忠告は、一手遅かった。
攻撃の隙をついたワルドがレイピアでカウンターで肩を突き刺す。
刺された以上、攻撃が緩む。
ワルドはその隙を呪文と剣で同時に攻撃するつもりだった。
怯むどころか、アセルスの剣に突き上げられてワルドは宙を舞う。
「ぐはっ……!?」
幻魔はただの剣ではない。
妖魔の職人はある特性をこの剣に与えた。
相手から攻撃を受けた時、自動的に反撃を行う。
例え、剣の持ち主が気絶していようと死のうと必ず発動する。
ワルドを上空に跳ね上げると、アセルスも追いかけるように大きく跳躍した。
まるで走馬燈のように、ワルドの視界が緩やかに過ぎる。
(フライで離れるか!?
いや、無理だ。間に合わん!ならば……)
早さこそが風の魔法の特性。
ワルドも多分に漏れず、詠唱の早さには自信がある。
「エア・ハンマー!」
訓練や実戦で幾度となく繰り返した詠唱を行う。
相手も跳躍した以上、防ぐ手段はないと判断して。
その刹那、ワルドには硝子が割れるような音が聞こえた。
エア・ハンマーはアセルスに当たり前に壁にぶつかったようにかき消されてしまう。
「何だと!?」
ワルドにはただ驚くしかできない。
詠唱を行っていたのはワルドだけではなく、アセルスもだった。
異なるのは魔法ではなく術、硝子の盾と呼ばれる術は攻撃から一度だけ身を守る。
アセルスは剣を大きく振り構える。
ワルドにもう打つ手は残されていない。
「アセルス、駄目!」
ルイズの制止にもアセルスは止まらなかった。
否、止められないのだ。
幻魔という武器の性質上、最低でも一度の反撃が返される。
ワルドの体は袈裟掛けに斬り裂かれる。
「がっ……」
地面に突き落とされたワルドがせき込むように血を吐き出す。
「ワルド!」
ルイズがコロシアムの塀を越えて飛び出す。
ワルドの元に近寄るも、あふれ出す血を止める手段はルイズにはない。
「誰か……タバサ!」
タバサも呼ばれた理由を察して、すぐに向かう。
ルイズは治療をタバサに任せ、アセルスのほうを向く。
「やり過ぎよ、アセルス!」
いつもより強い口調でアセルスに詰め寄る。
「決闘を望んだのは彼よ」
「だからってここまでしなくてもいいじゃない!」
幻魔の特性について、ルイズは知らない。
アセルスも説明する気がなかった為、お互いにすれ違いを生んでしまう。
止めようにも無理なのだが、ルイズには自らの意志で傷つけたようにしか見えない。
「どうして平然としていられるのよ……まるで心が無いみたいじゃない!」
「……心なんて持っていても、苦しむだけだもの」
感情こそ出さないが、自嘲するようなアセルスの言葉。
ワルドとの決闘について、謝る気はないが言い分は分かる。
自分の知人が傷つく姿を見たい者など、よほどの変質者であろう。
だから向けられた叱責もアセルスは受け入れる気だった。
しかし、ルイズは今にも泣き叫びそうな表情を浮かべるのみ。
(おかしいな……悲しませたかった訳じゃないのに)
責めるでもなく、何か言うでもなく、ただ悲痛な顔でこちらを見るルイズに居た堪れなくなる。
「ゴメン」
ルイズにだけ聞こえるか細い声でそう伝えると、アセルスは逃げるように場を去った。
「アセルス!」
ルイズが呼びかけた時、既にアセルスの姿は消えていた……
「ぐっ!?」
痛みにワルドが目を覚ますと、そこは見慣れぬ部屋だった。
まず視界に写ったのは、心配そうな表情を浮かべる桃色髪の少女の姿。
「よかった、目を覚ましたのね!」
「ここは?」
状況が飲み込めないワルドがルイズに説明を求める。
「宿の医務室よ。
あまりにも目を覚まさないようなら、病院に連れていこうかとも思ったけど」
「そうか……僕は負けたんだな」
ワルドも昼の決闘を思い出す。
外を見るとすっかり夜更けになっていた。
「どうしてあんな無謀な真似したのよ!」
困惑した表情を浮かべるルイズにワルドが口を開く。
「言っただろう、妖魔を信用しない方がいいと」
「……それだけで決闘を?」
ルイズの質問に短く首を振って否定する。
「昔の話さ。僕がグリフォン隊に入った頃、同期の親友がいた……」
ワルドは自らの過去を語って聞かせる。
「今時、珍しいくらい人の良い貴族でね。
グリフォン隊に入って、僕らはすぐに打ち解けた。
ある時、任務でオークの討伐を命じられて共に向かったんだ」
友人のことを懐かしむように、ワルドは窓から空を仰ぐ。
「オークが出ると言われる近くにたどり着いた時、洞窟を見つけた。
オークの巣じゃないかと、僕らは警戒して進むとそこには幼い兄妹がいた」
「どうしてそんなところに?」
ルイズの疑問に、ワルドの表情がわずかに歪む。
「彼らは両親を亡くし、残された家で過ごしていたらしい。
しかしオークが現れたせいで家も壊され、行く宛てもなく洞窟に逃げ込んだと」
哀れな兄妹の話にルイズの表情が陰る。
「話を聞いて、彼は『もう安心していい、僕らが君達兄妹を守る』と言った。
僕は正直反対した、まず彼らを安全な場所に連れていくべきではないかと考えたんだ」
ワルドが水差しを取ろうと手を伸ばす。
「はい……それでどうしたの?」
ルイズが水を注いで手渡すと、ワルドは一気に飲み干す。
「既に日が沈んでいたから、オーク退治は翌日に回した。
森から離れたくないと言う兄妹の意見を尊重して、彼らと共に洞窟で一晩過ごしたんだ」
ルイズはコップを持つワルドの手が振るえているのに気づく。
「僕はあの時気づくべきだったんだ!
あんな洞窟にいる幼い兄妹の不自然さに!!」
ワルドがコップごと、小さい机に拳を叩きつける。
「ど、どうしたの?」
「兄妹は吸血鬼だったんだ!オークは彼らの屍人鬼だった!
夜の妖魔相手に僕らはなすすべなく、蹂躙された。僕は幸運にも一命を取り留めたが、彼は……!」
怒りに身を震わせるワルドにルイズは恐る恐る問いかける。
「死んだの……?」
「それも可能な限り残忍なやり方でだ!
皮膚は剥がされ、肉をえぐり、骨を砕き……僕は体を拘束されて、彼の拷問する様を見せられた!!」
ワルドはルイズと反比例するように声を荒げて叫ぶ。
「恥も外聞もなく、彼だけでも救ってほしいと懇願した。
だが、妖魔はそんな僕の姿を見てあざ笑いながら彼をなぶり続けたよ……」
うなだれるようにワルドの体から力が抜ける。
「喉が裂ける程に叫んで、僕は意識を失い気づけば病院にいた。
彼の家族が遺体を見たとき、凄惨な状態に嘆くより先に嘔吐した程だ……」
心の積もりを全て吐き出すように、ワルドの声が擦れていく。
「その後、吸血鬼はどうしたの?」
「討伐されたよ、彼は殉職で二階級特進した」
思わず安堵するルイズ。
彼女の様子を見て、ワルドは話を続ける。
「妖魔と言うのはそういう連中なんだ。
分かりあうなんて不可能でしかない、根底から人とは異なる連中なのだから」
「でもアセルスは……」
人間だと言おうとして、声が詰まる。
アセルスを人として扱う者は誰一人いない。
……だから彼女は心を失ったのだろうか。
頼る者もなく力や追っ手に狙われ続ければ、いつか心の平衡が崩れるだろう。
ルイズとて、気が狂いそうになる日々を過ごしてきた。
もし、アセルスが呼べなかったのなら……
退学となり周囲の嘲笑に晒され続けたなら……
想像するだけで、心臓を鷲掴みされたような感覚を思える。
「本当は旅が終わってから言うつもりだったが、今言おう。
ルイズ……僕と結婚してくれないか」
「えっ……」
ルイズの思考を遮るワルドのプロポーズ。
許嫁とはいえ、唐突なアプローチにルイズは困惑する。
ワルドは構わずに身を乗り出し、ルイズの手を握ると情熱的に語り続ける。
「今はっきりと分かったんだ、僕は君を失いたくない。
使い魔とはいえ、妖魔に入れ込む君を見ていると不安なんだ」
「い、いきなり言われても困るわ。私まだ学生の身分だもの……」
しどろもどろになりながらの返答。
ワルドは気落ちしたように、ルイズの手を離す。
「すまない、君の気持ちも考えず性急過ぎた。
だが、僕が本気だと言うのは覚えておいてほしい」
ルイズはどうしていいか、分からなかった。
外から聞こえる喧噪のように、感情が入り乱れるだけで答えが見いだせずにいた。
ワルドが目覚めるより、少し前。
アセルスは一人で町外れの崖にいた。
『なあ相棒』
デルフの呼びかけにもアセルスは何ら反応を示さない。
『どうしてあんな嘘をついたんだい』
いつもなら引き下がるところだが、デルフは強引に質問を続けた。
「嘘?」
心当たりのない単語に、アセルスが尋ねる。
『心を無くしたなんて言ってたじゃないか』
「嘘じゃない。
人として生きられないなら、妖魔として生きる。
妖魔になるのに人の心なんて持っていても、苦しむだけだもの。」
アセルスが思い出すのは、かつてルイズにも告げた台詞。
『無くしちまったつもりだろうが、相棒には確かに心があるよ。
単に心の一部が欠けちまっただけさ』
「二度と元に戻らないなら同じよ」
言葉遊びにつきあうつもりはないと言わんばかりに、アセルスは切り捨てる。
『無くしたものは取り戻せないが、壊れただけならまた治せるんだぜ』
「言われなくても知っている」
デルフの一言は、アセルスの感情を逆撫でるものだった。
無くした者が二度と取り戻せないのを、誰よりも知っているつもりだ。
使い手の感情を察したデルフはこれ以上は追求せず、代わりに別の疑問をアセルスに尋ねた。
『だったら嬢ちゃんには、なんでつきあうんだい?』
「さあ?何故かな……」
はぐらかしたようにも聞こえるが、デルフは彼女の感情を正確に把握していた。
本当に分からないのだ。
自身にも不明なら、真意は誰にも掴めない。
大切な人を失った絶望。
かつての自分を重ねる境遇。
アセルスの過去には、思い出したくもない苦痛の記憶だけが渦巻く。
ふと、アセルスが背後を振り返る。
辺りは日が落ちているのに、明かりを感じたからだ。
『街が……!?』
デルフが驚いたような声をあげる。
明かりの正体は街の一部に火が燃え広がっていたからだ。
『あの方角って確か嬢ちゃん達の……』
デルフが言う通り、昨晩アセルス達が泊まった宿が燃えていた。
アセルスは駆け出していた。
何故、ルイズに連れ添うのか?
浮かんだ疑問が心に引っかかったまま……
投下は以上です
佳境に入ってきたから、文章が長くなってきたなぁ・・・
投下乙
アセルスさん乙です
ところで、ジョジョクロススレのホワイトスネイク召喚した話とこのアセルスさん召喚した話で
ルイズがオスマンへ魔法が使えない云々の負の感情をぶつけるシーンがそっくりですが
もしかして作者さん同じ?
>>199 メンテ問題はやはり避けて通れない問題だな
ましてや攻殻はその辺結構タイトだし
>>224 別人ですが、思いっきり影響は受けてます
他人に理解されない悩みと考えた時にアセルスが浮かんだのが切っ掛けだったので
なるほど、回答ありがとうございます
>>225サイボーグ系は避けて通れない道だよな
しかしそれさえクリア出来るんなら少佐の話スゲー面白くなりそう
少佐らの義体って通常より高度なメンテが必要って言ってるけど
ぶっ壊れた時くらいしかろくにメンテしてなかったような……
それどころかぶっ壊れても平気で動くし
長々とメンテシーンなんて描写されても困るわ
あとぶっ壊しても平気なのはバックアップがしっかりしてる裏返しだろ
元々戦闘能力高いんだから普通の人間が反応できない速度で関節とかぶっこわしゃええねん
メンテなんて文章にしたら退屈極まりないだろうしな
いっそ魔術で呼び出されたサイボーグはメンテ不要になるとか設定つけたらどう
かなり強引だがビーファイターでジャグールに召喚されたビルゴルディみたいな感じで
序盤は制限
タルブの村で簡単にメンテ
コルベールの助力でちょっと深いメンテ
ロマリアの助力(機材)を得て高水準のメンテ
能力がだんだんに解放されてくってのは物語的には美味しいんじゃね
233 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 12:50:43.96 ID:v4kqR8v6
皆さんお久しぶりです。もし予約がなければ一時丁度に投稿しようと思います。
久しぶりってほど空いてない気もするけど
まあ事前、解剖バラバラの支援
235 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:01:11.42 ID:v4kqR8v6
それでは始めたいと思います。
空賊の頭が、アルビオン皇子ウェールズだと知ると、ルイズ達も慌てて姿勢を正した。
ウェールズは和かな笑みを崩さずに、それを止めてくれるように言った。
「それにしても、君は随分強くて頼れる使い魔を持っているね。彼みたいな人間が一人でもいれば、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに」
そう言って、逆刃刀を納める剣心を見ると、ウェールズは残念そうなため息をついた。
それを聞いて、ルイズは少し顔を赤くすると、思い出したように懐から一通の手紙を差し出した。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
ウェールズはそれを受け取り、手紙を広げて読み始めると…最後の一行を呼んで一瞬だけ悲しそうな顔をすると、再び微笑みを作った。
「了解した。しかしながら今、目的の手紙は手元には無いのだよ。済まないが、ニューカッスルまで足労願いたい」
第十九幕 『前夜』
ウェールズ率いる軍船『イーグル号』は、アルビオン大陸の真下を隠れるようにくぐり抜けて、しばし雲の中をさまよい始めた。
やがて雲を抜けると、日の差さない真っ暗闇な世界が辺りを覆われていたが、魔法の灯火を頼りに進んでいると、大きな穴が姿を現した。
イーグル号は、それに入り込み、上手く停船させると、剣心たちはその鍾乳洞のような地に降り立った。
「ああ僕の可愛いウェルダンデ!! わざわざ僕を追いかけてくれたんだね」
そう叫んで愛おしそうにギーシュがモグラを抱きしめているのを尻目に、ウェールズ達は運び込まれている物質を指して言った。
「喜べパリー。硫黄だ!!」
「おお、硫黄ですと!!」
パリーと呼ばれた、老将軍は嬉しさと感動で涙を流した。
「先の陛下よりお仕えして数十年…こんな嬉しい日はありませぬぞ。反乱が起こってからは苦渋を舐めっぱなしでありましたが、これだけの硫黄があれば……」
「ああ、王家の誇りと名誉を、叛徒共に示しつつ、敗北することができるだろう」
ウェールズの言葉に、パリーと他の一味は歓声を上げた。
ルイズは唖然として、ウェールズの方へと詰め寄った。何で負けることを知って笑いあっているんだろう。
死ぬと分かってどうして喜び合っているのだろう……。それがわからなかった。
「あ、あの…殿下…」
「ん? ああ、手紙の事だね。しばし待ってもらいたい」
それだけ言うと、ウェールズは何事か伝えたいルイズをそのままに、臣下の一人にルイズ達を案内するよう頼み込んだ。
城内での居間にルイズ達は案内された。ここから先は機密事項と、別の国の出であるキュルケとタバサは別室へと招かれたが。
ウェールズはその机の中から一つの小箱を取り出して、それを開けた。その中には、古くなった手紙が一通。
それを開いて、再度読み直すと、名残惜しそうに手紙をたたんでルイズに渡した。
「これで君達の任務は達成したわけだ。明日の朝『イーグル』号が非戦闘員を乗せて出港する。それでトリステインに帰りなさい」
ルイズは確かにそれを恭しく受け取ったが、まだ何か言いたげにウェールズを見つめた。
「あの…殿下、敗北ということは…その…」
「そう、勇敢な死に様を、奴等に見せるだけだ。当然僕も、真っ先に死ぬつもりだよ」
何の気にもせず、ウェールズはさらりと言った。
自軍は五百近くなのに対し、敵は五万。目に見える戦力差を覆すことは、今のアルビオン王家には無かった。
236 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:02:42.05 ID:v4kqR8v6
「殿下、恐れながら申し上げたいことがあります。この手紙の中身は…これは…」
「…そう、恋文さ」
ウェールズは一瞬話そうか迷ったが、今更もう大丈夫だろうと思い、口を開いた。
もしこの手紙がゲルマニア皇帝に知られたら、重婚の罪で同盟を取り消されることだろう。
となればトリステインは、誰の力も借りられず、一国だけで強大な反乱軍と戦わなくてはならない。
「殿下、亡命なさいませ! トリステインに亡命なさいませ!」
ここでルイズが、懇願するかのように叫んだ。ワルドが何とか宥めようとが、それでもルイズは止まらない。
「殿下、姫さまは多分、手紙の一文に亡命することをお勧めになっているはずです!
あの姫さまが、ご自分の愛した人を見捨てるはずがございませんわ。おっしゃってくださいな、殿下!!」
「…その様な事は、一文も書かれていない」
ウェールズは、少し苦々しげにそう言った。その反応から見て、図星だとルイズ達は確信した。
しかし、ウェールズは静かにルイズの肩に手を置いた。
「私は王族だ。私と…姫の名誉に誓って言うが、本当にそのような事は書かれてはいない。本当に…」
「でも……」
なおも食い下がるルイズだったが、今のウェールズには、何を言っても聞き入れて貰えなさそうだった。
「そろそろパーティーの時間だ。せっかく来てもらったんだ。是非君たちも参加してもらいたい」
話を切り上げるように、ウェールズは皆の方を振り返った。表面上は務めて、笑い顔を作ってはいるが、剣心にはこの上なく辛そうに見えた。
「諸君、よくぞ今の今までこの王に忠誠を尽くしてくれたこと、心より感謝する」
大ホールから現アルビオン国王、ジェームズ一世の声が響いた。
おそらく彼らにとって、最後の晩餐になるであろうその会場は、異様とも言える熱気と歓声につつまれていた。
皆明日には断つ命だろうに、そこには死への恐怖や悲観というものがなく、ただ誇りある名誉への殉職に狂喜し合っているのだった。
そんな熱中の会場の中を、剣心はただブラブラと周りをうろついていた。しばらくすると、彼に声が掛かった。
「おや? 君は確かヴァリエール嬢の使い魔君だったね」
声の主は、アルビオン現王子のウェールズだった。相変わらず、死の恐怖を感じていないのか、ニコニコした表情をしていた。
「さっきは済まないことをしたね……しかし、人を使い魔にするとは、トリステインも変わったところだね」
「まあ、あっちでも珍しいと言っていたでござるよ」
そんな風に会話していると、おもむろにウェールズはテーブルからワイン瓶を取ると、平民であるはずの剣心にこう言った。
「折角だ。お詫びも兼ねて一杯付き合ってはくれないかい?」
「…別に構わないでござるよ」
「では、決まりだね」
ウェールズは嬉しそうに笑うと、先程の王子の部屋へと、剣心を案内した。
237 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:04:03.27 ID:v4kqR8v6
(何で……?)
ルイズは、ひっそりとこのホールから抜け出した。死ぬと分かってあの熱気、愛する人や残される人を考えず、ただ名誉と誇りのために命すら厭わない。
それが当たり前のように振舞うあの空間が、堪らなく嫌だったのだ。
(姫さまが逃げてって言っているのに…どうして…? どうして殿下は死を選ぶの…?)
ルイズはこの国がイヤになった。周りは皆自分のことばかり、
あの王子様でさえ、トリステインで待っている恋人の事を考えていない。何もかもが嫌いだった。
気付けば頬に伝う涙を、ルイズは手で拭った。どこに行くかは考えていない。ただ宛もなく…否、彼の姿を無意識に探していたのだった。
「どこ行ったのよ…あのバカ…」
アイツなら、何て言ってくれるのだろうか? そんな蜘蛛の糸のようなか細い期待を胸に秘めながら、ルイズは只、己の使い魔の後を追った。そんな時―――。
「ん……?」
手紙を受け取りに行った、ウェールズの私室から、何やら声が聞こえてきた。
なんだろうと思い、近付いて覗いてみると、そこには…。
「……ケンシン…?」
テーブルを挟んで、剣心とウェールズは向かい合うように座ると、グラスにワインを注ぎ込んだ。
「明日の名誉のために…」
そう言って、グラスを持って傾けると、そのままグイッと煽った。
剣心は、飲もうとはせずにしばしウェールズの方を見ていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「何故戦うでござる?」
「…何がだい?」
「お主にも待つ人がいるのに、誇りのために今ある命を捨てる気でござるか?」
核心を突く剣心の言葉に、ウェールズはグラスを下げる。
「命を捨ててでも、守りたいものがあるからさ…」
そしてウェールズは、真剣な眼差しで剣心を見た。
「奴等レコン・キスタは、『聖地』奪還という馬鹿げた理想のために、血を流す民や荒れる国土のことを考えぬ。そんな奴相手に、引くわけにはいかないのだよ」
「そのために、一人の少女を不幸にするでござるか?」
一瞬、ウェールズは言葉が詰まった。
「…貴族というものは、そういうものなのだよ…彼女も分かってくれるさ」
だが、その声には力が無かった。アンリエッタからの、亡命を勧めた手紙を読んでからというもの、彼女を連想する言葉が出るたび、ウェールズの表情が固まるのだ。
「お主は分からないでござろう、姫殿が、どれほどの思いで拙者達を送り出したのか…。
ルイズ殿に頼んだのも、彼女なら姫殿の意図を汲んで、お主を呼び戻せるのではないかと、一縷の希望に賭けたのでござるよ」
「………」
しばらくの間、黙って話を聞いていたウェールズだったが、フッと小さく渇いた笑いを漏らした。
「僕たちは王さ…自分の民を見捨てて逃げ出すわけにもいくまいし、たとえ逃げるとしても、トリステインへと渡ったらそれこそ彼女にも迷惑が掛かってしまう…だからここで―――」
そこまで言ったとき、ここで急にドアが開いた。
思わぬ来訪者に、ウェールズ達は一瞬驚いたが、同時に目を丸くした。
そこには、半泣きの表情をしていたルイズが、立っていたからだ。
238 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:05:39.48 ID:v4kqR8v6
「殿下は、嘘つきでいらっしゃるのですね…やはり書いてあったんじゃないですか…逃げてくれって…」
ポロポロと涙を流しながら、ルイズはウェールズに詰め寄った。そして、その胸に縋り付くような格好でただ嘆願した。
「お願いです…逃げてください…まだ間に合います…私は姫さまの悲しむお姿を見たくありません…」
ウェールズは、そんなルイズを優しく宥めつかせた。
「想いというのは、時には枷にもなる。断ち切って忘れた方が、彼女の幸せにもなるんだ」
「好きな人を忘れることの、どこに幸せがあるというのですか!!」
ルイズの叫びにも、ウェールズはただ首を振るばかり。彼にとってはもう決めたことだった。こればかりは、揺らぐことがない。
どうにもならないの…?そんな考えが頭をもたげた時、剣心の言葉が聞こえた。
「…生きる意思というのは、何よりも強い」
剣心は、思い返すように呟いた。それは、かつて生と死の狭間の中、師匠が教えてくれた言葉。
「生きていれば…何度だってやり直すことが出来る。体勢を立て直して、いずれ王政を復活させることだって出来るでござろう」
剣心は、何故死地へと行くウェールズの気持ちがよく分かっていた。自分も、ほんの昔まではそうだったから。
大切な人を危険に晒したくない。だから巻き込ませないために、幸せを望むために死を省みずに戦場に赴く。
だけど、幾多もの戦いを経て、それは間違いだと気付いた。自分もまた、死ねば悲しむ人々がいる『一個の命』なのだと。
だから、昔の自分と同じ事をしようとする彼には、そういうことをして欲しくなかったのだ。
「民のためとはいうが、同時に人一人の幸せも軽くはないでござろう。お主が死んだら、お主を想う少女が一人確実に不幸になる」
死を恐れている訳ではない。死んだら裁かれる身の上だということも重々承知している。
だがそれでも、忘れてはいけない。どんなに強かろうと、立場が偉かろうと、その前に自分は一人の人間なのだ。
自分の命も同等に扱って欲しい。そう、願いを込めてのことだった。
「お主達は、ここで死んでいい人間ではござらんよ」
その言葉に、ルイズとウェールズはしばらくの間剣心を見ていた。
そして、今度は期待の目でルイズは向いた。もしかしたら、本当に剣心の言葉が届いてくれたのかと。
ウェールズは少しの間、考え込むように項垂れていたが、一瞬だけ心から案じてくれる彼に嬉しそうに表情を緩ませた。
しかし、吐く言葉はどこかやり切れなさそうだった。
「参ったな…君とは初めて会ったはずなのに、まるで心の置ける友を持った気分だ」
ウェールズは、一旦卓から立ち上がり、幕を開けて夜の窓を見た。背後から見る剣心達には、彼が今どのような表情をしているのかは分からない。
「それだけに残念さ…君とは…もっと早くに出会いたかったよ…そうだったら…僕も…」
しかし、出てくる言葉の一つ一つが震えているのを感じて、ルイズは思った。
彼だって、死にたくて死にに行く訳じゃない。国の上に立つ皇子として、向こうで待つ恋人に迷惑を掛けないため、自分の気持ちを押し殺して決めたことなのだ。
本心は…アンリエッタに会いたいはずなんだと。
239 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:07:16.06 ID:v4kqR8v6
「殿下!! でしたら…」
「コラコラ、嫁入り前の女の子が、そんなに涙で顔をグショグショにするもんじゃないよ」
ウェールズは、静かに振り返ってルイズの肩を叩く。その顔はいつも通りの優しい笑顔だった。
しかし、ルイズはそのウェールズの言葉に、ほんの少しの間体が固まった。
「え……?」
「聞いたよ。明日子爵と結婚するそうだね。彼が僕に婚姻の媒酌を頼んできてね、何ともめでたいことじゃないか、是非引き受けることにしたんだよ」
ルイズはハッ、とした表情をして、反射的に剣心を見た。剣心の方も、これまた驚いたような様子だった。
ウェールズも、この二人の反応には少々首をかしげた。
「知らされてなかったのかい? まあ多少ごたついていたからね、無理もないか。だから明日に備えて、君も早くに寝たほうがいい」
「でも…えっと……」
「僕が掴むことができなかった幸せの分だけ、君達は生きて欲しい」
ウェールズにそう言われると、ルイズは何も言えなくなってしまった。
剣心の説得に、ほんの少しだけ揺らいだかに思えたが、相変わらず彼の決心は堅いようだった。
ルイズは、俯きながら考えた。明日結婚するなんて、いくらなんでも聞いていない。ワルドは何時でも待ってくれるっていっていたのに……。
でも、もしかしたらこの滅びゆく王国に、ワルドも思うところがあったのかもしれない。
ここで勝手に断って、媒酌を引き受けてくれたウェールズの顔に泥を塗るのもどうかとも、思っているのだ。
(でも…それでいいの…私の気持ちは…?)
すっかり混乱してしまったルイズに、ウェールズは優しく頭を撫でながら言った。
「僕も明日早いからね、今日はお開きにしよう―――最後に会話できたのが、君達で良かったと心から思うよ」
最後に、ウェールズは剣心を見た。剣心は、ルイズと共に静かに退室する時、帰り間際にこう言った。
「もう一度、拙者の言ったこと…姫殿のことを思い返してほしいでござるよ」
ウェールズは、微笑み返すだけで何も言わなかった。
240 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:08:25.79 ID:v4kqR8v6
ホールでのパーティーも終わったのか、辺りは準備に勤しむ兵隊たちの足音以外、何も聞こえなかった。
ルイズは、剣心の姿を見失わないように歩いた。
「ねえ…ケンシン…」
「何でござる?」
「……何でもない」
用もないのに呼び止めてしまった。でも、剣心は嫌な顔一つしなかった。
思えば、自分がウェールズを強く説得する筈だったのに、彼がそれを代弁してくれた。泣いてるだけで蹲るだけだったのに、彼はいち早く動いてくれた。
思い返せば、この旅に出てからというもの、剣心にはとことん助けになりっぱなしだった。フーケの時も、船でのことも。
使い魔だから当然。そのような感じに割り切れれば幾拍か楽にもなるだろうが、そう考えるには、あまりにも彼の力に頼りすぎた。
本当なら、ここで感謝の言葉でも言わなければならないのだろうけど、その前に一つ、どうしても聞いたいことがあった。
多分、ここでの機を逃せば、もう永遠に来ないと思ったから。
「…ケンシン」
「何でござる?」
相変わらず、なんでもないような風に剣心が応える。ルイズは、彼の刻まれた十字傷を見つめながら、意を決して言った。
「私…ワルドと結婚する…らしいけど、ケンシンは…その…どう思う?」
他人事の様な口調だったが、ルイズにとっては真剣そのものだった。これで、剣心が自分のことをどう思っているのか、知りたかった。
ただの使い魔? それとも別の――。
「ルイズ殿、何も変わらないでござるよ」
「え…?」
剣心の答えに、ルイズは目を丸くしたが、特に失望したような感覚では無かった。
「ルイズ殿が結婚しようと、拙者はルイズ殿が困ったときには、何時でも駆けつけるでござる」
それは、ただの使い魔としてってこと?
その考えが頭をもたげた時、ルイズは悲しくなった。所詮、剣心もその程度でしか考えていないんだと――――。
でも、ふと突然に剣心が、優しく頭を撫でてくれたとき、そんな考えは無くなった。
「誰かを守る、というのは簡単なようで難しい。特にその人を想う人間は、もしいなくなってしまったらその人は、悲しみを背負ったまま生きていかなくてはいけない。
そういう人達を見るのは、拙者はもう沢山でござるよ。だから―――」
「…だから?」
「その人が笑顔になれるまで、拙者は離れたりしないでござるよ―――約束でござる」
その言葉の意味をとったルイズは、心から安堵する。
正直に言うと、怖かった。ワルドと結婚したせいで、剣心が急に自分の元から居なくなってしまうのではないかと。何ていうか、そんな気がしたからだ。
でも、彼の優しい笑顔は、そんな不吉なことを吹き飛ばしてくれる。いつもそうだ。剣心の微笑みは、ルイズの心の中を底まで暖かくしてくれる。
どうして、彼の笑顔にはそれがあって、ワルドには感じないのだろう?
241 :
るろうに使い魔:2012/08/04(土) 13:09:41.84 ID:v4kqR8v6
「じゃあ、拙者はこれで」
「…うん」
ルイズの部屋の前まで来て、剣心は言った。アルビオンまで来て同室というわけにはいかない。
「また明日、でござる」
「うん」
ルイズは、剣心と別れた後、ベットに潜り込んで考えた。ウェールズの事、ワルドの事、剣心の事……。
一体自分は、誰のために結婚するんだろう? 本当に明日、結婚してもいいのだろうかと。
『結婚というのは、誰のためでもない。自分のためにするものでしょう?』
キュルケの声が、頭の中で聞こえてきた。でもそれは、本当にそうだと思い始めた。
結婚は、生涯に一度しか出来ない。よく考えないと、周りにも迷惑しかかけないだろう。
もう少しよく考えなきゃ…そう思いながら、ルイズは静かに寝息を立てた。
以上にて投稿終了です。続きはまた明日、投稿しようと思います。
るろうにの人お疲れ様です
お疲れ様です。今回も面白かったです
投下乙でござる
アセルスの人、るろうにの人投下お疲れ様です
このアセルスはロザリオインペールとか無月散水習得済みなのかな
ワルドがただの雑魚に見える
ルイズがいなかったら間違いなくワルド殺されてるんだろうな
SSでは魔法が使えない相手か戦闘経験が少ない相手しか勝てないのがワルドの印象
かませ3号っすからね
1号:ギーシュ、2号:フーケ、3号:ワルド、か
小手先の一号
力ずくの二号
そしてその両方を兼ね合わせたV3か
フーケをかませ犬とするのはちと承服し難いざんす
ギーシュ=ショッカー戦闘員
フーケ=復活怪人
ワルド=ジョッカーの皆さん
こんな感じかな
それだな
ギーシュがショッカーでワルドがジョッカーwwww
るろ乙
>>225 義体のメンテ問題については「固定化」と「硬化」で補おうと考えてます。
損傷を受けた場合は「錬金」でどうにかなるかと。
精密機械の類には錬金は使いものにならんよ
原作でのゼロ戦のときの話忘れてました...考え直さなければ
シエスタのひい爺さんの線でどうにかできないかなー
>>245 アセルスの強さはオルロワ一人で倒せるくらいの能力のつもりです
本編クリア後だし
所詮ワルドは一般人+ガンダールヴ気力MAXで偏在ごとまとめて一蹴できるくらいのレベルだからねえ
素で強いキャラなら契約してないとかで何の補正も無くても勝てるだろうし
元が一般人でも原作で一般人が実際に勝ってるんだから大して問題になりようがないというか
元が一般人並みかそれ以下で、やたらテンション低いキャラとかでない限りは
仲間なしでオルロワ倒すのはきちぃな
本編後に妖魔の君としてヒャッハーしてたらオルロワ単独撃破可能なくらいにパラメータが上がったのだろう
時の君「人間上がりの身でオルロワ単独撃破とは、 感心しませんな。近頃の女性はやんちゃで困る」
>>262 ぶっちゃけオルロワは本人よか後ろの絵のほうが怖い
追い込めんで三体出し全体攻撃は時野君でキャンセルできるし、最悪来るターンわかるから防御も出来るし
防御不可能、即死効果、必ず三回くるカーネイジ&にシフト中に磁気嵐とか聖歌とか、塔まで撃ってくるジェノサイドハート超怖い
もうチェックマシーンでも召喚しちゃおうよー
>>265 あの3人は一応オルロワが生み出してる幻影みたいな設定だった気が
幻影のほうが強いっていうのも、どうかと思うけど
小説版では零姫への未練がましさが過ぎてその3人に愛想尽かされてたな
>>267 スタンドやペルソナの方が本体より強くても不思議はあるまい
>>267 幻影といえばロマサガ3が浮かんでくるな
何故フォルネウスはあんなナマズもどきになりたかったのかわからん
るろうに乙!
やっぱ剣心からしたら死にに行くウェールズには待ったをかけるよね。
>>270 強そうで恐くてグロテスクな方が望ましいのだろう。魔族だし。
血と汗と涙を流す人が爺様なのは、燃え尽きたい願望とかじゃないっけか。
>>270 自分のショタな姿にコンプレックスがあったとかどうとか
>>272 まあ強そうてか実際強いんだが、別にアスラみたいな人型でもよかったんじゃないかと思う
他の3人からなんか言われなかったのかな?
275 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/04(土) 23:49:02.51 ID:3lbf8ohJ
>>261 元が一般人並みかそれ以下で、やたらテンション低いキャラはラスボスだった人ぐらいか。
>>274 そらアンタの価値観でフォルの価値観ではないしな
久方ぶりにAAで埋める奴を見たわ
孔明を召喚
一度目、二度目は不在で三度目にようやく召喚に成功する
>>272 血と汗と涙流す人はムキムキのあんちゃんだw
爺さんは体燃えてる若々しい鎌もったおっさんが幻影
>>280 *おおっと!*
うろ覚え失礼。何せ遊んだのも錬技読んだのも随分前だからなぁ
「私の微熱も流石にアレには勝てないわ」と呆れるキュルケの視線の先に
「お〜い先生〜そこのレンチをとってくれ〜(ヒートスマイル)」
「これで良いかね?ランド君(ヒートスマイル感染済み)」
ザ・ヒートことランド・トラビスを召喚。
>>282 名前似てるからねアラケスとアウナス
白虎属性なのに「やき」ごてとか使ってくるからなあのマッチョは
余計覚えにくい
戦闘妖精シャザーンさんを召喚。学院の歯科検診は完璧である
ギーシュにサラダバーが移植されるのか
ギーシュ「では諸君、サラダバー!」
ギーシュ「俺はお前の拳法では死なん!!」
タバサ「これで」
山ほどのハシバミ草
サイトは「ハシバミ草」を 食べてみた
・・・・・・・・・うおっ・・・・・・ 超まずいっ!
ちからが 2下がった
HPが 30下がった
お腹もクダし
満腹度が 10%になった
下がり過ぎうぜえw
にぎり族におにぎりにしてもらおう
毒物かなにかかよw
294 :
るろうに使い魔:2012/08/05(日) 23:53:04.37 ID:W2WZM1o0
皆さんこんばんわです。もし問題ないようでしたら、0時ちょうどから投稿しようと思います。
カモン
296 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:03:35.88 ID:W2WZM1o0
それでは始めます。
気付けば、ルイズは闇の中にいた。辺り一面、真っ黒な世界。何も見えない、何も聞こえない。そんな場所。
いきなりそのような所に放り込まれたルイズは、一瞬戸惑いながらも歩き始めた。
このまま真っ直ぐに行けば、ここから抜け出せる、何となくだったがそう感じたのだ。
事実、ルイズの目の前に、小さな光が見え始める。それは段々大きくなり始め、今度は眩い光が、ルイズの視界を覆った。
その先にあったのは、夢の続き。あの使い魔の、始まりとも言える過去
「…これは……」
次にルイズが見たものは、紅く染まる太陽と、幾多にも並ぶ木の墓標。
枝を折って作り上げた簡単な十字架は、日に当たって大きな影を作っていた。
その中心には……子供の頃の剣心…心太が後ろ姿で立っていた。
「驚いた、親だけでなく、野党共の墓まで作ったのか」
不意に、後ろから声が聞こえた。ルイズが振り返るとそこには、あの夜、野党の群れを一瞬で片付けた、伝説の衣を纏った男が立っていた。
「親じゃなくて人買い。親は去年コロリで死んだ」
男がゆっくりと心太の傍まで来たとき、淡々とそう告げた。
「でも、野党だろうと人買いだろうと、死ねばただの骸だから……」
ルイズもまた、幼い心太の前まで来ると、そこには三つ、小さな石が並んでいた。
「……その石は?」
そんな疑問を代弁するかのように、男は聞いた。
「霞さんに、茜さんに、さくらさん」
ルイズはハッとした、あの時、心太を庇って死んでいった女の人たちだと、直ぐに分かったのだ。
「会ってまだ一日だったけど、男の子は自分一人だったから…命を捨てても守らなきゃと思ったんだ。
でも…皆自分を庇って…この子だけは…って。自分が子供だったから…」
そう言う心太の頬には、枯れた涙の跡が残っていた。家族でないとはいえ、さっきまで親しい人の骸を運ぶのはどんな気持ちだったのか、想像するに余りあるものだった。
「だから…せめて墓くらいは…と良い石探したんだけど…こんなのしかなくて…添える花も無いんだ…」
消え入りそうな声で俯くの心太に、男が墓の前に出ると、おもむろに酒瓶を開けて、それを石の墓にかけ始めた。
297 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:05:24.48 ID:gm8eiATi
「上手い酒の味も知らんで成仏するのは不幸だからな。俺からの手向けだ」
「あ、ありがと…あの…」
「俺は比古清十郎、剣を少々やる」
男―――比古はそう答えると、今度は厳しい眼で心太を見下ろした。
「坊主、お前はかけがえのないものを守れなかっただけではなく、その三人に命を託されたんだ。お前の小さき手は、その骸の重さを知っている。
だが、託された命の重さは、その比ではない。お前はそれを背負ってしまった。
自分を支え、人を守れる強さを身につけることだ。お前が生き抜くために…大切なものを守り抜くために」
「……守り抜くために…」
思い返すように呟く心太に、比古は続けた。
「坊主、名は?」
「心太」
「優し過ぎて剣客にはそぐわないな、お前は今から『剣心』と名乗れ」
「…剣…心?」
心太、改め剣心は、思わず比古を見上げた。あどけない、歳相応の子供のような瞳。だけど、その中には、はっきりとした『意思』が宿りつつあった。
それを見抜いた比古は、どことなく嬉しそうに口元を緩ませた。
「お前には、俺の『飛天(とっ)御剣流(ておき)』を、くれてやる」
これがすべての始まり。欠かせない彼の原点。紅の朝日が昇る中、その光が二人の影を大きく照らしていた。
第二十幕 『結婚』
ルイズはここで目を開けた。そこは昨日就寝についた、目的地であるアルビオンの一室。先程夢で見た光景を思い返しながら、ルイズはゆっくり体を起こす。
繋がってゆく…剣心という名前、比古と呼ばれた男。そして、剣心のあの強さとその意味。
ルイズはそんな事を考え、ベットから降りると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「…ケンシンかしら?」
何だろうと思い扉を開けてみると、恐らく残ることに決めたのだろう、女性の仕官が何人か入ってきた。
「今日祝言を挙げられるヴァリエール嬢に、お粗末ながら衣装の準備をさせていただきます」
「えっ…ちょっと!」
そう言って、まだ頭がついていけないルイズを他所に、仕官達はせっせと準備を始めた。
「なあ…相棒?」
「おろ?」
「ホントにそれでいいのか?」
朝、ルイズと同じ時間に、剣心も目覚めた。
いつもの様に普段着に着替えると、デルフが自分から鞘から抜き出てきたのだ。
「多分結婚なんかしたら、相棒はお払い箱にされてしまうと思うぜ? 貴族ってもんはそういうもんさ」
「まあ、その時はその時でござるよ」
自分の言葉に嘘はつかせない。もしワルドと本当に結婚したら、ルイズの気持ちが落ち着くのを見届けてから、
ゆっくり元の世界に戻る手掛かりでも考えようと思っていた。
「相棒が言うなら、まあ俺もいいんだがね……それより何か引っかかるんだよなあ…」
「…何が気掛かりでも?」
「いやそっちじゃねえんだ。相棒に振るわれたときな、何か思い出しそうだったんだが…」
そんな時、おもむろに扉が開いた。相手はワルドだった。
ワルドは、剣心を見るなり早々出し抜けに言った。
「聞いているとは思うが、今日僕はルイズと結婚する」
「…おめでとうでござる」
「君も参加する気かい?」
「それは、是非出席したいものでござるな」
ワルドは、少し顔を顰めると、誰も聞こえないのを確認して、ひそひそ声で言った。
「実はだな、栄えある貴族の祝言に、平民である君が参加するというのは、余り無いものなのだよ」
「…では、どうすれば?」
「安心したまえ、君はルイズの使い魔君だからね。必ず出席できるように取り計らうさ。
だからそれまで、別の部屋で待機してもらってもいいかな?」
そう言うと、ワルドは後ろにいる二人の従者を指す。彼等が案内人のようだった。
「構わないでござるよ」
「そうかい、では早速」
298 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:06:28.79 ID:gm8eiATi
剣心は、そのまま従者達に案内され、その部屋へと移動した。彼の姿が見えなくなるのを見届けてから、フッとワルドは嗤った。
「どうぞ、死出の旅路を…『人斬り抜刀斎』」
「なあ、相棒」
「…何でござる?」
「とぼけんじゃねえ、俺が気付いてんのによ」
茶化すようにデルフがカチカチと鍔を鳴らす。一室に案内されたが、どうにも空気がおかしい。どこか殺気を含んでいる。
案内してくれた二人の従者も、そのまま帰ろうとはせず、じっと剣心を睨めつけるように佇んでいる。まるで監視しているみたいに…。
そんな剣呑な雰囲気を知ってか知らずか、何でもないような風に剣心が呟く。
「ざっと二十…でござるな」
「二十二だろ? 後ろ後ろ」
最早殺意を隠そうともせず、背後の従者が突然杖を引き抜いた。
しかし、唱えるより先に、振り向いた剣心の鞘から、銀色の閃光が杖を吹き飛ばした。
慌てた従者の一人が、笛のようなものを使って、潜んでいる仲間を呼んだ。
一変、辺りはメイジや傭兵たちで一杯になった。その数ピッタリ二十人。
「相手はたかが平民だ、始末しろ!!」
従者の叫びと共に、傭兵たちはこぞって剣心に襲いかかった。
始祖ブリミルの礼拝堂にて、ウェールズは壇上に立ち、二人の到着を待っていた。
周りは、誰も彼もが戦の準備で出ており、閑散としたものだった。
その中で、キュルケ、タバサ、ギーシュの三人は、同じように席についていた。
「しかし、子爵と結婚かあ…」
どこか惚けた感じで、ギーシュは呟く。タバサはいつも通り本を読んでいて無表情だったが、キュルケもどことなく上の空だった。
「どうかしたのかい?」
「んー、いやねえ…」
キュルケは今のルイズが結婚を受けるなんて、思ってなかった。どうにもこの式自体、何かきな臭い感じがしているのだ。
タバサも何か感じることがあるのか、視線を本から放してどことなく周りを見渡していた。
299 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:09:13.22 ID:gm8eiATi
「そう言えば、ケンシンは?」
「あれ? 今日は見てないわね…タバサは?」
「…見てない」
そんな風に会話をしていると、大きな扉が開けられ、二人の婚約者の来訪を告げた。
気付けば、ルイズは式場の道を、ワルドと共に歩いていた。
いつも通りの制服姿に、アルビオンの由緒ある冠を被り、一点の汚れのない白いマントで着飾っていた。
ルイズの美貌も相まって、それはかなり完成度の高い美しさを誇っていたが、逆に表情は婚約者にあるまじき無表情だった。
ワルドに、これから結婚すると告げられた時、最初の質問は「ケンシンはどこ?」だった。
「彼か? 君によろしくと言って一足先に帰ったよ、あの男も薄情だな」
そう言われたとき、ルイズは頭の中が真っ白になった。嘘だったの? あの夜の言葉は…まやかしだったの…と。
そんな考えが頭をもたげている内に、ワルドはとっととルイズを婚約者に仕立てる準備をしていた。
そして、いつの間にか本当に結婚する一歩手前まで来ていた。
相手はワルド子爵、幼い頃からの憧れの存在。
優しく、強い。貴族の理想ともいえる男性。
なのに、どうしてこんなにも気分が欝になっているのか。
(…ケンシン…)
本当に、彼は帰ってしまったのだろうか? ルイズは考えた。
ふと思い出すのは、今朝見た夢の出来事。
『命を捨てても…守らなきゃ…って思ったんだ』
『……大切な…もの…?』
心太は、誰かを守る力が欲しかった。失った事への辛さや悔しさを知っていたから。
ワルドは、何のために力を欲しているのだろう…? 彼は、高みへと近づきたいというようなことを言っていた。
そこに、剣心とワルドの決定的な違いがあるんじゃないか、とルイズは思った。
「では式を始める。新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻にすることを誓いますか?」
「誓います」
そんなルイズを置いて、式はいつの間にか進行していた。ウェールズが詔を読み上げ、ワルドがそれに応える。
ウェールズは次に、ルイズの方を見て同じように読み上げる。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
ルイズは、ぼんやりとウェールズの顔を見た。結局、私は何で結婚するんだろう…?
こんなことをしている場合じゃない、早くウェールズを説得しなくちゃならないのに。
(そうよ…こんな事に時間を割いている場合じゃないのに…)
ルイズは、ずっと考えていた。誰かのために、結婚はするものなのかと。
ずっとそう思っていた。でも、それは違うんじゃないかと思い始めてきた。
自分が、心から許せる人じゃないと、そこに幸せはないんじゃないかと。それがワルドとは言わないが、少なくとも今は、まだ早い。
(まさかあんたに感謝する時が来るなんてね…)
チラっと、横目でキュルケを見ながら、ルイズはゆっくりと、しかしはっきりした口調でウェールズ達に告げた。
「私は、この結婚を望みません」
この言葉に、ウェールズとワルドは唖然とした。
ギーシュも、これには負けず劣らず驚いている。キュルケとタバサは、何となく予測できていたのか余り驚きは無かった。
「新婦は、この結婚を望まぬと?」
「はい、お二方には、大変迷惑を致すことになりますが…」
ルイズの心からのお詫びに、本気と受け取ったウェールズは、少し寂しい顔をしたが、ここはルイズの意思を尊重してくれた。
「子爵、誠に気の毒だが、花嫁の望まぬ式をこれ以上続ける訳にはいかぬ」
ここで、ウェールズは放心しているワルドを見て、気付いた。
ショック、というのもあるのだろうが、その感じにどこか嫌な予感を抱いた。
「緊張しているんだ、そうだろルイズ。君が!! 僕の結婚を!! 断るはずがない!!」
肩を掴んで揺さぶってくるワルドに対し、ルイズはきっぱりと言い切った。
「ワルド、御免なさい。憧れだったのは確かよ。でも…それは恋じゃない。だから―――」
しかし、ワルドはルイズの言葉に耳を貸さず、掴む手をさらに強くする。
300 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:11:02.18 ID:gm8eiATi
「世界だ!! ルイズ、僕は『あの方』と共に世界を盗るんだ!!」
「…誰よ…『あの方』って…姫さまはそんな事望まないわよ…私も…」
「そんなことは関係ない!! 僕には君の力が必要なんだ。君のその実力が!!」
ワルドが目を見開いて叫んだ。ルイズは恐ろしくなった。そして悟った…これが…彼の本性なのだと。
ようやく分かった。ワルドと剣心の姿が、被らない理由が。
ワルドは、自分の事しか考えていない。彼が求めているのは、有りもしない魔法の力であって、ルイズ自身ではない。だから、心の底から拒絶してしまう。
被るわけないのだ…人のために自分を顧みない剣心と、自分のために他人を顧みないワルドが…被るはずないのだ。
「子爵、君はフラれたんだ。潔く―――」
「黙っておれ!!」
仲介に入ろうとしたウェールズだったが、激高したワルドに突き飛ばされた。ワルドは、なおも食い下がらない。
「ルイズ、これだけ言っても分からないのか!?」
「嫌よ!! 誰が貴方なんかと!!」
ルイズはもう、嫌悪感を隠さずに叫んだ。そしてワルドの手から逃れようともがいた。
異様な空気を感じたウェールズが、再度ルイズからワルドを引き離そうとしたが、今度も思い切り突き放された。
ウェールズも、これには遂に激怒し、懐から杖を引き抜いた。
「何たる無礼! 何たる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!
さもなくば我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!!」
ウェールズだけじゃない、キュルケとタバサも、憮然とした顔で杖をワルドに向けた。
ギーシュは、未だにこの事態についていけないのか、躊躇った感じで見守っていた。
ワルドは、一旦辺りを見渡して、小さくため息をついた。
「ならば仕方ない…取り敢えず目的の一つは諦めるとしよう」
「目的…?」
その言葉に、疑問符を浮かべるルイズ達を置いてニヤリとワルドは笑った。
「この旅には目的が三つあったんだ…一つはルイズ、君なのだがこの様子だと無理なようだな」
「当たり前じゃない!!」
怒って叫ぶルイズに対して、ワルドは特に気にせず続ける。
「二つ目は、君の持つ手紙…アンリエッタの手紙だ。しかしこれはもう、手に入ったも当然。最後は―――」
そう言って、ワルドはゆっくりと片手を上げた。
言葉の意味を、誰よりも早く理解したウェールズは、いち早く呪文を唱えようとして、ワルドに杖を向けた。しかし……。
301 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:12:06.74 ID:gm8eiATi
「…がっ…!」
それより先に背後から風の刃が、ウェールズの肩を切り裂いた。
「ウェールズ、貴様の命だ」
呆気にとられるルイズ達の周りに、突如何人かの人影が舞い降りた。そいつらは、素早くキュルケ達を押さえつけ、取り囲むように周囲に立ちはだかった。
「き…貴様ら…『レコン・キスタ』か…いつの間に…」
心底憎たらしそうに、呟くウェールズは、そのまま血を流して倒れ込んでしまった。
気付けば、敵方の兵士たちによって、ルイズ達は包囲されていたのだ。
ここでワルドは、ルイズが今まで見たこともない、邪悪な笑みを浮かべた。
「昨日はあれほどの大きなパーティーだったからね。秘密裏に何人か忍び込ませることぐらい簡単なことさ。王を打倒するには中から崩すに限る」
「宣戦を無視して…裏から攻めいるとは…貴様らには、貴族としての誇りをも失ってしまったのか!!?」
「フン、今更負け惜しみにしか聞こえんな。どんなことをしても勝てばいいのだよ!!」
怒りで顔を歪ませるウェールズに、ワルドは見下すように嘲笑う。
ルイズは、ただ呆然とした顔をするしかなかった。
「ワルド…どうして…何が貴方を変えたの…?」
「『あの方』に巡り合えたおかげさ。おかげで僕は更なる高みというのを知った。…だが、今はそれを語ってなんになるんだい?
さて、それでは改めて聞こう、ルイズ」
ワルドは、取り押さえているキュルケ、タバサ、ギーシュの三人を指して言った。
「黙って僕に付いてきて欲しい、断れば…分かるな?」
押さえつけてるメイジ数人が、杖をキュルケ達に向ける。
ルイズは、驚きと恐怖で体を震わせた。今、まさに自分の言葉が三人の命を左右することになっているのだ。
重責とプレッシャーに、心が押しつぶされそうになる。
「そんな…私…」
「今決めるんだ、僕に従くか、それとも見捨てるか」
これ以上ない程の、冷たい声でワルドが告げる。怖い…ただ、怖い。
本心から言えば、絶対にワルドなんかに付いて行きたくない。でも、そのせいで皆を見殺しになんて、出来る訳がない。
「騙されるな…ヴァリエール嬢…奴は…そんな約束を守るような男じゃない…」
「貴様は黙っていろ!!!」
302 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:14:50.30 ID:gm8eiATi
ワルドは、ウェールズの腹を思い切り蹴飛ばした。苦しそうなうめき声を上げながら、ウェールズは吹っ飛ばされる。
慌ててルイズが駆け寄ろうとしたが、その前をワルドに阻まれた。
「さあ、どうするかね? それとも、誰か一人の首を飛ばさないと分かってくれないかな?」
ワルドが顎でしゃくると、メイジの一人が、杖をキュルケの首筋を指した。
「え……? やめて!!」
とルイズが叫んだが、メイジはゆっくりとルーンを唱え始める。
(いや…やめて…)
ルイズは、ポロポロと涙を流す。キュルケとは親しい間柄ではないのに…むしろ憎たら
しい関係だったのに…。でも、死んで欲しいまで思ってはいなかった。
「やめて…やめてよ…」
しかし、そのか細い願望も、今は聞き届けてくれる人はいない。自分でもどうすることは出来ない。
「助けて…誰か…」
ふと蘇るのは、自分の使い魔の過去。次に出てきたのは、いつも優しくニコニコしてくれた彼の顔。
最後に思い出すのは、昨晩誓ってくれた、あの約束だった。
『拙者は離れたりしないでござるよ―――約束でござる』
ルイズは、気付けば叫んでいた。彼の事を。彼の助けを。
「助けて、ケンシン!!!」
バァン、と衝撃音が轟いた。
それは、魔法の力では無く、大ホールの入口が無造作に開けられた音だった。
そこに立っていたのは、ワルドが秘密裏に送り込んだ、あの従者のメイジだった。
「何事だ、騒々しい…」
不躾の来訪に、軽く舌打ちをしながらワルドは振り向く。
しかし、メイジは虚ろな表情をしながら、目を空に泳がせており…そして、今度は震えるような声で呟いた。
「つ…強過ぎる……」
それを最後に、メイジはバタリと倒れた。その後ろに立っていたのは――――。
「…ケンシン!!!」
見慣れた着物に緋色の長髪。そして頬には十字傷。
あの緋村剣心が、憮然とした表情で辺りを見渡していたのだった。
303 :
るろうに使い魔:2012/08/06(月) 00:17:46.11 ID:gm8eiATi
今回はこれにて終了です。いよいよ次から本格的な戦いが始まる! と思います。
それではまた来週この時間に。どうもありがとうございました。
乙乙
あの方てのはやはりあの人か?
ジョセフかクロムウェル辺りが火点いてたりするのかね?
いや楽しみです
るろうにの人お疲れ様です
いやー剣心かっこいいわ
るろうに読んで懐かしくなって単行本一気読みしたけど、全28巻なのな。
一時は沈みかけたジャンプを支えた作品だというのに。
それを考えると今のジャンプの連載の長さがいかに狂ってるかよくわかる。
そんな中、きっちり終わらせたがもうひろしはえらいな。
ドラゴンボールの末期は毎週「早く終われよ」と念力を送っていた
最近皆長寿すぎんだよ、ぬ〜べ〜だって30巻程度なんだぜ
でも今の長寿が終わったらジャンプ即死だわな
ワンピースとかは俺が生きてる間には終わらないんだろうな・・・
こち亀は絶対200巻越えるんだとおもう
こち亀は例外中の例外だろって
今のジャンプ編集部にバクマンのジャンプ編集部の半分の実力でもあればな
本当ワンピースもこち亀も長すぎだよなあ…
かといって取って代われるような書き手も作品もないんだろうな
ジャンプの行く末を憂うなら立ち読みしねぇで買ってアンケ送ったれよ
ハイキューと暗殺教室好きだけどな
特に松井さんはネウロでも暗殺教室でも終わり方までちゃんと考えてるから期待
って、スレチっぽいな、すまん
やっぱりほとんど完璧にストーリーを作り上げて完結させたダイの大冒険はすごいものだ
ロン・ベルクにデルフを見せたらどう言われるだろう?
ジャンプ……集英社……スーパーダッシュゴー…
もうジャンプを廃刊にして隔月から隔週に変更…ってスレチ。
じゃあ、カンピオーネさんを召喚しようぜ。
>>317 武具には意思があるって言ってたから
「インテリジェンスソードだとォ!?」
とまでは驚かないだろうけど、喋る剣は初めてだろうから興味くらいは持つかも
でも、本人は星皇十字剣に耐えれる強い武器が作りたいから、インテリジェンスソードを作ろうとは思わんだろうな
まあ、ロンは腕の再生に数十年かかるから、その間ノヴァがどこまで成長したかは見てみたいな
原作終了後は鍛冶仕事の道に進んだから…
剣や魔法の腕前より武器防具製作のスキルが育ってるかもな
人格面の成長もあるだろうが
喋る剣は、剣の形した禁呪法生命体とかで充分可能そうだから驚かないかも
チェスのコマか
デルフを鎧の魔剣にパワーアップさせるくらいはしてくれるかな
アクマがこんにちは、エタったのかと思ってたらまさかの更新! ヒャッホウ!!!
ついでにWikiでいくつか誤字訂正してみた。
こういうの勝手に出来るのがWikiの良い所ではあるが、荒らしが出る可能性考えると怖いよなぁ。
ダイの剣の鞘とデルフを組み合わせると、受けた魔法を増幅して打ち返せる素敵アイテムに
そのダイが行方不明なんだよね
ヴェルザーの動向、聖母竜のいう「ある邪悪な存在」、
あとバーンも死んだじゃなく倒れたとしか言ってないし、
まだまだ先がありそうで終わっちゃったよね
作者の健康は大事だね
>>326 最終助っ人加入(というかアバン復活)はいろいろ問題もあったんで
余韻を残す、ちょうどいい所で終わったという見方も
>>328 まあ、アバンが死亡したからこその旅立ちだったわけだしな
ラーハルト、ヒム、アバンのおかげでクロコダインはスタメンから雑魚専キャラに
好きなんだけどなクロコダイン・・・
俺はアバン復活で大感動したけど、そのへんは人それぞれの好みか
三ヶ月ってのがどうにもこうにも
アバン復活は展開もあってうまいとおもた
ラーハルトとヒムに関しては必要性を感じなかったけど
ダイの大冒険って確か、作者は魔界編も構想があったそうだな。
ポップ達が魔界に行くと、そこには新たな竜騎衆を従えて魔界の第三勢力と戦うダイの姿があったとか言ってたな。
バーン達の地上支配の賭け云々ってヴェルザー以外にも、もう一人参加していて、そいつが地上に行かない様にダイは魔界で戦っていたそうだ。
竜騎衆は陸戦騎に引き続きラーハルト、海戦騎にはクロコダインで空戦騎は新キャラクターだそうだ。
個人的に魔界よりも天界がキナ臭い感じがする
魔界は地上のはるか下に広がる暗黒の世界だの溶岩だらけだの魔族の故郷だの
色々言われてるけど、天界に関しては何にもわかってないんだよな
ダイ達の戦いを利用して魔界潰した後、魔界と地上を支配するとか考えてそうだ
用無し兼脅威となるダイを抹殺して、天界の勝利
めでたしめでたし♪って妄想してみた
ゼロの使い魔
一瞬スレを間違えたかと 思ったわ
そこは一部のやつが制止振りきって強引に立てたスレだから他と違って別に必ずそっちでって物ではないよ
ゼロ魔関係ないダイ大雑談とか隔離スレでやれよ、とは思う
>>322 才人「アムドぉっ!」ガシャガチャーン
デルフ「ようし、いこうぜ相棒!」
才人「ぐあぁっ、重いぃっ!」ドシーン
ワルドかアニエスくらいじゃないと無理じゃね
まぁ剣の一部ではあっても鎧部分はあくまで防具で武器じゃないしガンダでは無理だろな。
もう昔みたいに荒れることはなさそうだけどね
誰召喚しても
じゃあ爆弾岩を召喚
メガンテか
フーケを吹き飛ばした後粉々になった使い魔を見てルイズが泣き崩れちゃうな
そして再召喚で赤い岩が来るんですね
それでウェールズをメガザルで蘇生して力尽きるんですね
ウェールズってかアルビオン中にメガザル
>>344 ルーンが刻まれる刺激に反応してメガンテ
の出オチを想像しちまった。(笑)
あるいは、召喚時の爆発に反応して(笑)
るいずはしょうかんのまほうをつかった▼
はぐれめたるがよびだされた▼
はぐれめたるはにげだした▼
お散歩ルイズだな
>>350のように幸せの靴を入手するんでなく、復活の玉だったらどうか
ゼロと帽子と本の使い魔的な逆行系SSが書けそう
ワルド裏切りイベントで話の腰を折る様にウェールズにザオリクかける使い魔とか居たら嫌ねw
DQ本編でもストーリーでは「なぜか」ザオリク使われないから大丈夫だろう
ロト紋では世界樹の葉は使ってた
そういえばゼロ魔世界にも世界樹はあるんだっけ
それをいっちゃあ、おしめえよ
作者さんまだ日替わり待ってるからね
>>352 ふと思ったが、ウィザードリィみたく蘇生に失敗して灰になったら
流石に例の指輪でも復活不可能なんだろうか?w
死んでいなけりゃどうにでもなりそうな奴とかな
世紀末バスケか
死亡を確認すれば死んでない
>>361 王大人「ウェールズ、死亡確認」
で、その後何事もなかったかのように学院に入学してくるんですね、わかります
死んだらオカリナでいやしのうた演奏して未練浄化して
仮面に魂宿して必要な時に仮面かぶって力借りる
おキヌちゃんwith人魂「大丈夫です。死んでも生きられます」
>>366 幽霊は・・・本当にいた!?ガクブルガクブル
腐った死体のスミスとか召喚したら腐ってる死体とキスするハメになるのか(笑)
忘れたか、ルイズはご立派様とさえキスしたことを
アキナ「どうにかして陛下やアル兄様のところに行けないかなぁ……」
マルセル「神ならぬ我々が異世界に行く事などあり得るはずがない」
一発ネタだとしても魔界塔士サガの冒険者達みたいな無骨な奴等が来ても面白そうだよな。
あのゲームの台詞は全体的にネタになる
デルフ「わたしを もっていけ!」→以降出番も台詞もなし
そして容量の都合でうらみのつるぎポジションになるデルフ
生物ではなくデルフみたいな意思のある道具を召喚するとか。
魂が込められた○○みたいな。
ソーディアンか
意志ある妖器物の出番か
カーラのサークレット…
いやあれは意志があるっつうか乗っ取られるだけだな(笑)
いっそ地下水でデルフリンガーと二刀流
ルイズが
>>371 シャイターンの門の向こうは「塔」になってるとかいう電波を受信した(笑)
プロアクションリプレイ召喚ものは良い小ネタだった
アヌビス神ッ!デルフリンガー!二刀流ッ!!
ジョジョスレのあれ面白かったな
シャイターンの門の向こうは怪獣墓場、やって来る武器は宇宙人のもの
門を開いてしまうと数千匹の怪獣にハルケギニアは滅ぼされてしまうのが大災厄
怪獣墓場で〜肩組み合って〜友と歌った〜若い歌〜
むしろ超人墓場でいいんじゃね?
で、大災厄は門の向こうから悪魔超人が出てくるとか
唐突に「次鋒レオパルドン召喚されます!」と思いついてしまったじゃないか!
というか、レオパルドンさんって
一応は数百万くらいの超人パワーあるから、あれでガンダールヴ能力までついたら
普通に凄く強いはずなんだが、何故か出オチしか想像できないw
ルイズの体にレイブラット星人がウニウニ入っていくのが見えた
すでにレオパルドンは召喚されてる
想像どうり殺られた
スパイダーマッのレオパルドンなら、あっちのレオパルドンなら何とかしてくれる
こんばんは。
23:30くらいから投下します。
全裸逆立ち待機します
サウスゴータ地方はウエストウッドの森。
ウエストウッドの村の中、ティファニアの家には都合四人いた。
家主のティファニア、シャルロット、キッド、無力化されたメンヌヴィル傭兵小隊残党セレスタン。
セレスタンの杖は破壊され、縛られたままに轡まで噛まされて失神したまま床に転がされている。
"風のルビー"だけでなく、テーブルにはさらに"始祖のオルゴール"までもがあった。
シャルロットはティファニアから聞いた身の上話を頭の中で整理する――。
――ティファニアの父は現アルビオン王陛下にして、ウェールズの父でもあるジェームズ一世の弟。
つまりはウェールズの従兄妹であり、アンリエッタの従姉妹にもなる。
エルフの血を半分引くハーフでありながら、王家の血をも継ぐのがティファニアなのであった。
ティファニアの父は国王の弟という立場から、王家の財宝を管理する財務監督官という要職に就いていた。
そのような地位の人物であろうがなかろうが、エルフと交流があるというだけでも大問題になる。
それほどエルフとは恐れられる存在で、深く埋められることのない確執があるのだ。
人の目に触れさせることすら憚られるエルフを愛妾として、母娘共に日陰の中で暮らしていた。
そして父の仕事の関係上、ティファニアはルビーとオルゴールを幼少期から触れていたのだった。
ティファニアは優しい父母と、不便の中でも幸せに暮らしていたが・・・・・・それは唐突に終わりを告げることになる。
どこからかエルフの女を囲っているという情報が漏れ、事が公に露見する前に処断されることになった。
ティファニアは始祖のルビーと始祖のオルゴールを大層気に入っていて、子供ながらに持ち出してしまっていた。
一時的に逃れた父の部下の貴族の家にいることも、最終的にバレてしまって母は殺された。
ティファニアは幼少時にただ一人生き残ってしまったのだった。
その後は、匿ってくれたその貴族の娘にお世話になりながら、この孤児院代わりの小さな村で生活している――。
(――そんな不祥事もまた・・・・・・)
今回貴族派が反乱を起こそうとした理由なのだろうかなどと、シャルロットは考える。
そういった積み重ねが王家の威光を失わせるに至り、取って代わろうという貴族派が動いたのだと。
「勝手に持ってきちゃったのは事実です。でも怖かった・・・・・・。父と離れ離れになったのも、母が死んだことも。
でもどんなに辛くて、悲しくて、苦しい時でも、オルゴールから流れてくる曲を聞くと不思議と心が安らいだの」
ティファニアを責めることは出来ない。人は・・・・・・生まれを選ぶことは出来ない。
(私がガリアの血を引くように・・・・・・)
さらにハーフエルフであれば、人間からもエルフからも疎まれる存在となってしまうだろう。
目の前で母親を失い、偏見と差別の中で拠り所をなくした少女の苦悩は・・・・・・いかほどのものであったのだろうか。
そして今も・・・・・・人目を忍ぶように暮らしている、恐らくはこの先もずっと――。
(でも・・・・・・)
もしかしたらアンリエッタならばきっと歓迎してくれるのではと考えてみる。
アンリエッタにとって従姉妹でもあり、彼女は平民への偏見もない。
きちんと説明し、あくまで個人として――。そうすればハーフエルフの彼女を受け入れてくれるかも知れない。
ウェールズ皇太子にしてもそこまで無体なことをするような人物ではないと思う。
ただしやはり混血でもエルフ。両王が認めても、周囲は認めないだろう。
万が一露見した場合のことを考えれば、両王家にとって非常に憂慮すべき問題になりかねない。
「あの・・・・・・シャルロットさん、あなたのことも聞きたいな」
「そうですね――」
ティファニアにとって辛い生い立ちの話でも、同年代の子と話すのは貴重で嬉しいことだった。
今まで生きてきて一度もない、夢見ていたこと。他愛無い話でも一向に構わなかった。
シャルロットもそんな気持ちを察して語る。短いながらも今だけはせめてと――。
「ガリア王国が滅びたことは知っていますか?」
「えぇ、姉さんからある程度。歴史や読み書き、計算は習ってます」
「なら話は早いです」
シャルロットはそれでも一応わかりやすく語る。ガリアの滅亡と自分達の軌跡――。
「――だから私はこの土のルビーを持っているんです。妹が香炉を持っています。
貴方が持っているそれは、きっと貴方が思っている以上に貴重なものなのです」
過去を語り、そこから通告しにくい本題へと繋げる。
6000年もの間、受け継がれてきた始祖のルビーと始祖の秘宝。
間違いなく本物であるのならば、始祖にまつわる最も尊い物品であり、決してお金には換算出来ないもの。
「それじゃあ・・・・・・」
悲しそうな顔のティファニアに同情しながらも、シャルロットは宣告する。
「はい、王家の所有物である以上は・・・・・・」
返還せねばなるまい。目零しするにはあまりに貴重なもの。
「そう・・・・・・ですよね・・・・・・仕方ないです。元々勝手に持ち出したものだし・・・・・・」
これ以上ないほどに落ち込むティファニア。シャルロットは思わず聞いてみる。
「それほどまでに必要ですか?」
「わたしは・・・・・・これのおかげで・・・・・・」
「・・・・・・?」
ティファニアは少し悩んだ様子を見せたが、意を決するとオルゴールを動かす。
「・・・・・・聞こえますか?」
「いいえ?」
シャルロットはキッドへと目配せする、キッドも同様にかぶりを振った。
「わたしには聞こえるんです、それもこの指輪を嵌めている時だけ」
「はぁ・・・・・・」
呆けた声をシャルロットは漏らす。あまりにも要領を得ない。
動いてはいるようだったが、単に壊れているだけなのではないのかと。
なにせ大昔のシロモノだ。始祖の香炉もその役割は果たさないし、始祖の祈祷書もかなりくたびれていた。
しかも指輪を着けている時だけに聞こえる?ますますわけがわからない。
「貸してもらえますか?」
頷くティファニアから風のルビーを受け取ると、シャルロットは指に嵌める。
掛けられた魔法によって指輪がピタリとサイズ調整されて、風と土が隣り合わせに並んだ。
しばらく待ってはみたものの・・・・・・やはり曲はおろか音一つ聞こえない。
とりあえず指輪をはずして、ティファニアへと一旦返す。
「この曲を聞いていると安らぐだけじゃなく、歌とルーンが頭の中に浮かぶんです」
「頭の中に浮かぶ?ルーンが・・・・・・ですか」
「それで・・・・・・わたしはそれのおかげで生き延びれたの。その魔法のおかげで、今も平和なんです」
ティファニアはゆっくりと続ける。先程からとても嘘を言っているようには見えなかった。
「その魔法は・・・・・・"記憶を奪う"んです。母が殺され、わたしも殺されそうになった時。
それまでは歌だけだったんだけど、ルーンも頭の中に浮かんできて・・・・・・それを唱えたの。
そしたら怖い人達はみんな目的を忘れて去っていった。今も変な人が来たらたまに使ってるんです」
(記憶を奪う・・・・・・?)
シャルロットの頭の中には様々な魔法と効果、ルーンの詠唱呪文が入っている。
それらは当然、自力で魔法を使うことを夢見て昔から詰め込んできたもの。
しかしその中に明確に記憶を奪う魔法なんてものは存在しない。
先住魔法ならば可能なのかも知れないが、その場合はルーン詠唱ではなく口語の呪文になる。
(強いて言うなら・・・・・・)
系統魔法であれば水魔法だろうか。
直接触れて精神操作なりすれば、似たようなことが出来ないこともなさそうである。
『制約』――ギアスと呼ばれる魔法でも、思考を封じて誘導することで近い状態作り出せるだろう。
他にはその道のプロフェッショナルが高度な水の秘薬を作り、惜しまず使えば或いは・・・・・・?
地下水も肉体を乗っ取っている間の記憶を残すかは自由に出来ると言う。
シャルロットが色々と考えていると、ティファニアは彼女にしか聞こえない旋律に合わせるように唄い出す。
神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守り切る。
神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。
神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。
そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。
四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……――。
「ミョズニトニルンだって?」
額にそれを刻むキッドが憶えのある歌詞に突っ込む。
「・・・・・・まぁ始祖の歌のようですからね。もし本物で本当に聞こえるというのなら内容に不思議はありません」
伝説を語る歌に出てくるルーンを宿すキッドとブッチ。
残りの二人はどこにいるのだろうと、シャルロットは思う。
「それで・・・・・・それが聞こえてくる歌、というわけと?」
「うん」
(あーーー・・・・・・思い出した)
ともすると頭の中でデルフリンガーの声が聞こえる。
(何が?)
(今の歌で思い出したよ、"ブリミル"のこと)
デルフリンガーが口にした"名前"にシャルロットはポカンと口を開けてしまっていた。
「はぁ?」
無意識に声に出してしまって、キッドとティファニアが目を丸くする。
「・・・・・・失礼、ちょっと考え事をさせて下さい」
(またいつものか)
と、地下水。地下水自身もそうだが、インテリジェンス・アイテムに込められた意思は長生きである。
そしてその長きを生きる為か、その多くを忘れている。
地下水は適度に暗殺者として働いていたから、そこまででもなかった。
しかしデルフリンガーはかなりの間大人しくしていた期間があって、いくつかの『特性』も忘れていた。
そしてたまに、ふとした時に思い出すことがある。
(おれぁ昔ブリミルに使われてた)
(・・・・・・?)
(・・・・・・何を言い出すんだコイツ)
シャルロットのみならず地下水まで呆れる。されどデルフリンガーは冷静に話し出す。
(正確にはブリミルの使い魔、"ガンダールヴの盾"だった)
嘘・・・・・・は言っていないようであった。この場でいきなり言い出す意味もない。
地下水はそこまで思うところはないようであったが、シャルロットは驚くしかない。
つまりデルフリンガーは最低でも6000年の時を生きてきて、しかも伝説中の伝説。
始祖ブリミルの使い魔に使われていたなど、「はいそうですか」と信じられるわけはない。
(まだ明瞭としない部分もあるがね、証明出来るよ。あのおっぱいのでっかいお嬢ちゃんと話させてくれ)
シャルロットは嘆息をついてナイフを引き抜くと机の上に置いた。とりあえず聞くだけ聞いてみようじゃないかと。
「・・・・・・?」
「意思が込められたインテリジェンスナイフです、名を"デルフリンガー"」
「デルフリンガー?そんな名前だったっけ?」
「いえ、地下水の他にもう一人いるんですよ。・・・・・・キッドさんは触った方が早いかも知れませんね」
シャルロットに促されてキッドは地下水に触れる。額のルーンが輝くとその性質全てをすぐに理解した。
「ああ、よくわかった」
「まぁ一応秘密なので、そこのところお願いします」
二つの意思があることを知っているのは、家族達とアンリエッタ王女くらいである。
切り札である以上は、おいそれと晒したくない。知る人も最小限に留めておきたい信条。
「おう、娘っ子」
一段落した後に、デルフリンガーはティファニアへと声を掛けた。
「えっ!?あ、わたしですね。初めて見ました。その・・・・・・はじめまして」
「おうよろしく。そんでだなあ、お前さんの記憶を消す魔法っての・・・・・・『虚無』だな」
ティファニアは首を傾げ、シャルロットは静かに聞いていた。
もういちいち驚いていたらキリがなく、突拍子のないことを言い出すのだろうこともわかっていた。
「この世の物ってのは生き物も含めて小さい粒で構成されていて、系統魔法はそこに干渉する。
んでもって虚無ってのは、粒の中のさらに小さい粒に干渉する――みたいなことを言ってた」
デルフリンガーは、"誰が"とは言わなかったが、前後から考えれば言うとすれば一人しかいない。
それに虚無を使ったとされるのは、歴史上一人しかいない。偉大なる始祖ブリミルのみだ。
「わたしなんかがそんな・・・・・・何かの間違いですよ」
「そんなに凄いものなのかい?」
何も知らないキッド、さらにティファニアへも含めてシャルロットが解説する。
「虚無はおよそ6000年前の始祖ブリミル。ハルケギニアで最も広く崇拝されているその人が使ったとされる魔法です。
火・水・風・土のどれにも該当しない。幻の"五番目の系統"――いえ、伝説の始祖たるメイジの虚無系統・・・・・・。
だから言うなれば"零番目の系統"、ですか。いずれにせよその始祖ブリミル以降は誰も使えたことのない伝説です」
「いーや、ブリミルだけじゃねえよ」
シャルロットの言にデルフリンガーが訂正する。
「表沙汰になってないだけで、時代の中には何人かいた筈だ。潜在的なのも含めてな」
「そんな・・・・・・――」
――わけがないと続けるよりも、実際に見るのが一番早いとシャルロットは判断する。
それはデルフリンガーも考えていたことのようであった。
「娘っ子、魔法見せてやれ。相棒のちっちゃい頭の中にない魔法の筈だからな」
「・・・・・・そうですね、見せてもらえますか?ティファニアさん。丁度いい実験台もいますし」
記憶を"奪う"魔法。地下水の水魔法はあくまで操っている間、精神を眠らせて記憶させないというだけ。
もしくはさながら眠って夢でも見ていたように思わせたりする程度だ。
いずれも操っている間だけのことであり、既に刻まれている記憶をどうにかすることは出来ない。
他の方法にしても、奪うと表現するにはいささか違う。
明確に奪うというのがどういうものなのか。それを見てみないことには始まらない。
シャルロットはキッドへと目配せする。
キッドもすぐに察したようで、転がっているセレスタンを何度か蹴飛ばした。
「――っ!?」
意識を取り戻したセレスタンを仰向けにし、銃を抜いて額へと突き付ける。
肩を足で踏みつけて、もがくのを多少大人しくさせたところで轡をはずしてやった。
「ッッ!!このクソ野郎が!!殺すなら殺しやがれ!!」
自棄になっているのか、興奮しているのか、気性の荒さか、罵倒が目立つ。
だが本来の傭兵としての冷静さが、周囲を観察しているようだった。
「ここはあの村か・・・・・・よくも木偶で騙しやがって。チッ・・・・・・何とか言えよ!!」
戦慄するほどの強さだったが、だからって人形如きにやられたのが情けなく感じる。
ようやく落ち着き払って、見下ろされている状況を窮屈に感じた時・・・・・・セレスタンは気付いた。
「なっ・・・・・・てめえ!!?」
悠然と五体満足で立つシャルロットの姿。見覚えはある。
遠目ではあったが、確かウェールズ皇太子の影武者らしい者の横で、隊長と相対していた少女だ。
そいつがこの場にいるということは――。
「マジ・・・・・・かよ、隊長が・・・・・・負け・・・・・・た?」
あの隊長が獲物を逃がすわけがない。逃したところを見たことはない。
「そう、私が殺した」
それなりに長い付き合いだった、隊長の強さもよく知っている。
だが少女がここにいるということは、肯定の言葉がなかったとしても、つまりそういうことなのだ。
シャルロットは一枚の紙を取り出すと、書かれた名前を読み上げる。
「・・・・・・ッ!!」
セレスタンは迂闊に喋るようなことはなかったが、表情を見ればわかった。
元々メンヌヴィルが嘘を吐いたとは思ってもいなかったが――。ここに書いてあることに間違いはない。
セレスタンは一転して大人しくなる。完全に観念したようであった。
隊長が死んだのならもう自分が助かる可能性もない。自殺することすらままならないと。
「ティファニアさん、お願いします」
乱暴なやり取りに怯えていた少女に声を掛ける。それでも頷いて杖を取り出した。
「えっと・・・・・・」
ティファニアの瞳は「どれを?」と聞いてくる。
「先ほどまでの一連の流れを・・・・・・――可能ですか?」
「うん、大丈夫だと思う」
ティファニアは深呼吸をすると、その艶やかな唇からルーンが流れ出す。
「ナウシド・イサ・エイワーズ――」
なるほど、確かに聞いたことのないルーンだ。しかもどの系統にも当てはまらないパターン。
もしこれで四系統のどれにも該当しない記憶を奪う魔法とやらが発動したなら、納得するしかないだろう。
先刻の歌声のように、美しい旋律を奏でるように紡がれ続ける詠唱。
キッドはどこか得も言われぬ気分に身を任せる。
いつまでも聞いていたいと思わせる心地良さを感じた時、詠唱は終わりを告げた。
『忘却 』。
セレスタンの眼前の空気が歪む。少ししてそれが戻ると、セレスタンは呆けていた。
「成功した、と思います」
しばしそのまま観察する。セレスタンはボーッとした後にみるみる内に生気が戻って来るようだった。
「こんにちは」
タイミングを見計らってシャルロットは挨拶する。まるで今初めて会ったかのように。
「てめえ・・・・・・は・・・・・・?」
その表情と態度に既知感を覚える――確定だ。
「隊長は!?」
「言わないとわからない?」
「あ・・・・・・あぁ、でも・・・・・・あれ?隊長は死んだ、だけど本当にお前が殺したのか?」
「えぇ、そうだけど・・・・・・?」
シャルロットは疑問符を浮かべる。忘れてはいるようだったが、どこか齟齬がある感じ。
「あの・・・・・・奪うと言っても消えるわけじゃなくて、大抵別のことで埋まるんです」
「なるほど」
シャルロットはこれ以上の問答は無用と地下水を握り、セレスタンを『眠りの雲』で眠らせた。
具体的に聞かれると面倒だし、乱暴に気絶させてはまたティファニアを怖がらせてしまうだろうと。
「つまり・・・・・・書き換えられるわけですか?」
「はい、当たり障りない感じで・・・・・・すり替えられるみたいです」
「ふむ――」
認めざるを得ない。記憶そのものに干渉してこうもあっさりと任意に改変するとなれば、四系統魔法の域を超えている。
シャルロットが椅子に座ると、キッドとティファニアも同様に座り直した。
「――虚無の担い手・・・・・・、間違いないらしいですね」
シャルロットは自分自身を言い聞かせるような声音で、そう言った。
以上で終わりです。ではまた。
お疲れ様
「この秘孔を突けばお前のパワーとスピードは3倍になる」
と言ってウェールズ以下王党派をムキムキにしてまわる某天才どの
>>401 「ん〜? 間違えたかな?」でワルドが裏切る前にウェールズ死んじゃうw
そうか、度々問題になるテンプレ脱却のためにはウェールズにすでに死んでもらっとけばよかったんだ
むしろ先にワルドがやられる
いくらなんでもアミバ相手なら・・・負けそうだ
なんだかんだで北斗神拳と南斗聖拳を両方ある程度は使えるんだから
ワルドより強いはずだが、こいつもどうもかませ臭が…w
407 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 00:54:25.23 ID:EXz1YYql
皆さんこんばんわです。さて、予定がなければ一時丁度に投稿しようと思います。
408 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:00:22.09 ID:EXz1YYql
それでは始めさせていただきます。
「遅くなってすまない。話は此奴と、ルイズ殿の目と耳から直に聞いたでござる」
呆気にとられるワルドたちを他所に、剣心は倒れた従者を見下ろし、そして今度は相手方を見る。
その双眸は、首謀者であるワルドを厳しく睨みつけていた。
「貴様…あれほどの数をどうやって…」
若干驚いたように、ワルドが詰問した。その問いに、デルフが愉快そうに答える。
「あれほど、ねえ…今度は倍近く置いとくことを勧めるぜ。まあそれで相棒に勝てるかは別だけどな」
皮肉を込めた返答に、ワルドは少し顔を顰めた。数による優勢は以前変わってはいない
とはいえ、これは少々予定外だった。
剣心は、それに気にせず次にルイズの方を見ると、この雰囲気に合わないような、いつもの優しい笑顔を見せた。
「心配かけたでござるな。ルイズ殿」
第二十一幕 『決戦』
「ケンシン……」
その言葉に、ルイズはあの重苦しい重責から開放されるのを感じた。ああ、本当に彼の笑顔は、全ての不安を溶かしてくれる。
いつの間にか、絶望に流していた涙が、安堵の涙へと変わっていった。
それを横目で見ていたワルドは、眉間を深く寄せると、剣心の顔を見て勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「フン、感動の再会のところ悪いが、君は今のこの状況を分かっているのかい?」
ザッ、とメイジの杖が一斉に剣心に向く。そのメイジの数、ゆうに先ほど襲ってきた数の倍はいる。
軍の一個中隊にも匹敵するその数が相手だというのに、剣心は悠然と歩を進め、ワルド達を見据えた。
「…無闇に怪我人は増やしたくない。医者通いが嫌なものは、今の内に早々に立ち去るでござるよ」
逆刃刀の鍔を鳴らしながら、剣心は憮然と告げる。ワルドは凶悪な笑みを浮かべると、手を振って命令を下した。
「怪我人なんぞ出やしない。出るのは死人貴様一人だけだ!!」
それに応えるように、メイジは一斉に呪文を唱え始める。
あと少しで、剣心の周りに、魔法による暴力が展開されそうになる瞬間、彼らは見た。
ルイズに向けてた、慈愛に満ちた笑みから一転、鬼のような迫力と形相を持ってメイジの軍勢に突っ込んでくる剣心の姿を―――。
「―――――なっ!!!!」
呆気にとられる彼らを他所に、剣心は逆刃刀を鞘から引き抜く。
煌く刃の光が顔を出した瞬間、その光は目の前に立っていたメイジ数人をいともたやすく吹き飛ばしていった。
「ぎゃあ!!!」
「なっ何だぁぁ!!!」
「ひっ…うわああああ!!!」
刹那閃く剣の軌跡。そして疾風の如く唸る赤い閃光。
刀を振り上げれば、今度は四・五人のメイジが訳も分からず宙を舞う。
台風の如く振り回せば、それに倣って何十人ものメイジが巻き上げられていった。
その圧倒的な速さの前に、敵は対応できる筈もない。それはまさに彼らで言う『常識』の範疇を超えた現象だったからだ。
「な…何だこれは!!」
「せ…先住魔法!!?」
あまりに追いきれない速さを目の当たりにして、思わずそう錯覚し、愕然とするメイジ達を尻目に、ワルドは心の中で否定する。
違う、奴は平民だ…先住魔法なんて使えるわけない。それは事前情報で知っている。ただ、『速い』のだ…圧倒的に…。
(剣の速さ…身のこなしの速さ…そして相手の動きの先を読む速さ…)
この三つの速さを最大限に活かすことで、最小の動きで複数の相手を、同時に仕留めていることを可能にしているのだ。
409 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:03:54.86 ID:EXz1YYql
これが、飛天御剣流―――――――。
「…人質だ!! 人質を使え―――」
そう言いかけた時、ワルドの目の前に、メイジの唱えたものとは違う、氷の風が吹き荒れ敵のメイジ達を打ち倒した。
その中心にはタバサがいた。
やられた…!! ワルドは心の中で、まだあの男を過小評価していたことに気付く。
奴は、ただ暴れていた訳ではない。数十もの数を相手にしている裏で、タバサ達を押さえつけていたメイジたちも倒していたのだ。
その考えにワルドが至ったときには、既に炎の爆発で何人かのメイジを吹き飛ばしていた。
勿論その灼熱の炎の主は、他ならぬキュルケだった。
「ありがと! 助かったわダーリン!!」
キュルケのお礼が終わった直後には、剣心は既に、ギーシュに取り巻く敵たちを全て薙ぎ倒していた。
残りのメイジ達も、最早統率を失った烏合の衆。正常な判断が下せないまま、キュルケの火とタバサの雪風で吹き飛ばされていく。
数でも勢いでも完全に形勢逆転した中、いよいよ剣心は、その鋭い眼をワルドの方に向けた。
「……くそっ!!!」
せめてルイズだけでも人質に…そう思い、ワルドは荒々しくルイズの肩を掴んだ。
しかし、その間を何かが通りすぎるのを感じ、ワルドは本能的に手を引っ込める。
飛んできた『何か』…その正体であるデルフは、投げられた勢いに従って地面に突き刺さった。
「…くっ…いつの間に―――」
ワルドが驚き、呆然としている最中、恐ろしい殺気を肌で感じた。
振り向けば、鬼のような形相をして跳んだ剣心が、逆刃刀を手に横薙を打つ途中だった。
危機感を感じてワルドは杖を抜く。ガキィン!! と逆刃と杖が光を持って交わる。
「…ぐおっ…」
しかし、剣心はその痩躯の腕からは想像もつかぬ程の腕力で、鍔迫り合いをするワルドを押しやっていった。
ギリギリと軋む音を鳴らしながら、二人はしばし競り合っていく。
「貴様…やはり力を隠していたな!!」
「…お前と違って暴れるのは、さほど好きじゃないんだ」
冷や汗を流しながら受け続けるワルドに対し、剣心は淡々とそう返す。決闘の時とはまるで別人のような変わりように、改めてワルドは戦慄を覚えた。
「だが…こうなると分かっていたなら、あの時…」
ゆっくりと言葉を続けると同時に、剣の押しも徐々に増していく。受けている杖の音が、高い音から段々と鈍い感じに変わっていくのを感じた。正直、何時杖をへし折られてもおかしくはなかった。
「叩いておけば良かったと、今は思うよ」
底冷えするような声に、ワルドは戦きながらも、一旦逆刃刀を弾いて体勢を整える。
直ぐ様、剣心を吹き飛ばそうと呪文を唱えようとするも――――。
「―――があっ!!!」
バァン、という甲高い音と共に、杖を持つ手の甲に向かって、寸分の狂いもなく逆刃刀の切っ先が叩きつけられていた。
痛みで一瞬、詠唱を中断するワルドだったが、何とか堪え改めてルーンを呟く。
選択したのは、『エア・ニードル』。杖を中心に風の振動が加わり、鋭さを増した刃を、剣心の脳天に向かって繰り出した。
明らかにその姿を捉えての刺突の一撃だったが、それが額に当たる瞬間、剣心の姿が残像のように消え去り、そして…。
「ぐおあっ!!!」
いつの間にか半回転でよけながら、背後に廻った剣心の、すれ違いざまの横薙ぎが後ろの首筋目掛けて衝突。
ワルドは物言わずそのまま飛んで行き、礼拝堂の壁に思い切り叩きつけられた。
「飛天御剣流 ―龍巻閃―」
剣心は、吹っ飛ばされて巻き起こった煙の先を視認した後、憮然として言い放った。
「拙者を突き殺そうとするなら、せめて『牙突』位のものを繰り出してこい」
そう言って、剣心は一旦刀を鞘に納めると、いつものニコニコ顔でルイズに駆け寄った。
「怪我は無いでござるか? ルイズ殿」
ルイズは、しばらくポカンと剣心を見つめていたが、やがて思い出したかのごとく涙を流した。
「もう…帰ったなんて言うから、びっくりしたじゃないの…もっと早く来なさいよ…ばかぁ…」
「すまなかったでござるよ」
弱々しい声でしゃくりながら泣き出すルイズを、剣心は優しく頭を撫でる。ルイズは、それを素直に受け入れていた。
しばらくの間そうしていると、煙の向こうからワルドの声が聞こえてきた。
「成程…『ガンダールヴ』と謳われるだけのことはあるようだ…聞きしに勝る強さだな…」
晴れてきた煙の中から、ゆっくりとワルドは立ち上がった。ダメージこそ負っているが、まだ戦闘不能までには至っていないらしく、余裕の笑みすら浮かべている。
410 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:06:38.79 ID:EXz1YYql
「『ガンダールヴ』? そうか!! 思い出したぜ相棒!!!」
と、ここでデルフが弾かれたように叫んだ。よほど嬉しいことなのか、何やら楽しそうに喚いている。
剣心は、そんなデルフを軽く一瞥しながら、ルイズを下がらせて、ジリジリとワルドへと向かっていく。再び、お互いの間に一触即発の空気が流れ始めた。
その頃には、あらかた敵を倒し終えたキュルケ達も、こちらを見る余裕ができていた。
「やっぱり…決闘の時は、ダーリンも、ワルドも手加減してたみたいね」
「でも、子爵のあの余裕は何だろう…僕、少し怖いよ」
「………」
周りが見守る中、まずワルドが動き出した。杖を掲げ、天を仰ぐような仕草をする。
「何故風の系統が最強と呼ばれるか、その所以を披露いたそう」
そして、朗々とルーンを唱え始めた。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
剣心は、今度はルーンを唱えるまで待つ。相手の出方を伺っていた。
やがてルーンが完成したのか、急にワルドの身体が、二体、三体と増え始める。
本体を合わせてゆうに五体。それが剣心の前にずらりと並んだ。
「『偏在』…か」
「御名答、よく知っていたな」
全てを悟ったかのような剣心の言葉に、ワルドが答える。タバサも、ここで何か気づいたかのようにハッとした。
「仮面の男も、お前の仕業か」
「正解だ」
ワルドは、懐に手をいれ、そして何かを取り出して剣心に見せた。それはボロボロに砕け散った、仮面の残骸。
あの夜奇襲を掛けた謎の男は、ワルド自身だったのだ。
「成程、もっと早くに気付いていれば、このような事態を起こさずに済んだということか」
ここで剣心は初めて、少し悔しそうな顔をした。それを見ているだけで優越感に浸ることのできるワルドは、悦びで顔を歪ませた。
「そういうことさ。まあ、今更気付いた所で、この数はどうにもなるまい!!!」
偏在のワルド達が、一斉に杖を向ける。一人一人が意思を持つ物体ゆえ、それぞれが独立して動くのだ。
しかし、剣心は悔しそうな顔をするだけで、この状況に関してはどこ吹く風の様子だった。油断なく偏在を見つめるその目に、些かの恐怖も写ってはいない。
「…この程度で勝ち誇れるとは、随分と早いものだな」
「その減らず口も、これで終わりだ!!」
ワルドの叫びと共に、杖から呪文が投げ掛けられる。
「『エア・ハンマー』!!」「『ウィンド・ブレイク』!!」 「『エア・カッター』!!」「『エア・ニードル』!!」
四つの風の魔法が、剣心に殺到し、その場に暴風を叩きつけた。
剣心は、すんでのところでこれを回避したが、最後の本体のワルドは、これを見逃さなかった。
「フン、見えてる見えてる。左だ!! 『ガンダールヴ』!!!」
剣心の動きを遂に捉えたワルドが、杖を突き出し呪文を唱える。刹那、雷のような一筋の閃光が、剣心に襲いかかった。
ドゴン!! と落雷のような音を発して、辺り一面を光が覆った。
「『ライトニング・クラウド』だ。まともに喰らえば命はあるまい!!!」
高笑いをしながら、ワルドは勝ち誇ったように叫んだ。
「ケ…ケンシン!!!」
ルイズ達ですらも、この光景に唖然とする中…しかし冷ややかな声が、ワルドの背中から聞こえてきた。
「見えてる見えてるって、拙者の残像でも見えたでござるか」
ゾクッと背筋が凍りつくのを感じながら、ワルドは撥ねるように振り返った。
そこには、以前傷一つついてない剣心が、逆刃刀を構えながら悠然とした様子で立っていた。
「そんなに速く動いたつもりは、なかったんだがな」
「くそ…おのれ!!」
ワルドは再び、偏在を繰り出し、やたらめったらに剣心に躍りかかった。
杖の乱舞と風の魔法を前にしても、剣心は動じず的確に読みそして避けきっていく。そしてその様子を、本体のワルドがジッと見据えていた。
(今度は見逃すものか…!!)
ワルドは必死の形相で、剣心の動きを正確に追っていた。
タンッと、不意に剣心の姿が消える。しかし、ワルドの視線は今度こそ剣心を捉えた。
「上だ!!!」
宙を見れば、剣を掲げてワルドの頭上を跳ぶ剣心がいた。残像などではない、正真正銘の本物だった。
好機、ワルドはそう思った。空は風の独壇場だ。わざわざ墓穴を掘ったな! と。
411 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:09:12.60 ID:EXz1YYql
「これで最後だ!!」
偏在総出で、一斉に頭上目掛けて、剣心を串刺しにしようとワルドは杖を構えようとして―――。
「――――なっ!!」
ここで、周りに偏在が一つもないことに気付いた。
(何故だ!! 何故……)
ワルドが目で追ったのは、あくまでも剣心の『身のこなしの動き』のみ。
『剣の振り』『先の読み』まで見きれなかったために、剣心がワルドの偏在全てを叩き斬っていたことに気づかなかったのだ。
もし広く周りを見渡していれば、偏在が一つ一つ消えていくことにも反応出来ただろう。
しかし、躍起になって剣心の動きばかり追っていたために、今この瞬間になるまで、全然気付かなかったのだ。
結局、墓穴を掘っていたのはワルド自身だった。それを悟ったときには、もう遅かった。
「飛天御剣流 ―龍槌閃―!!!」
既に至近距離まで近付いた、剣心の渾身の唐竹割りが、ワルドの頭上目掛けて炸裂した。
「くっそおおおお!!!」
刹那の反応の中、ワルドは何とか、掲げた杖を防御にまわすことが出来た。
しかし、所詮は力のこもっていない形だけの防御に、逆刃刀の勢いを完全に殺すことはできず、そのまま滑って肩を強打した。
「がっ……!!」
声にならない呻き声を上げながら、ワルドは膝を付く。剣心はフワリと優雅な姿勢で着地した。
ワルドは、愕然とした様子で剣心を見た。
「もう終わりだ。諦めろ」
やはり、強い……。実際に戦ってみて、想像以上だと思い知らされた。
平民や傭兵どころか、並みのメイジにすら遅れを取らなかったはずなのに、この男は『あの方』と同じように自分の強さの、さらに先を行っていた。
(まともにやったら…まず勝てない)
どうすれば…そう考えを巡らす内に、ふと倒れているウェールズの姿が写った。そこでワルドがニヤリと笑う。
(そうだ、先に奴を仕留めてこの男の動揺を誘えば…)
そう逡巡し、ワルドは視線をウェールズへと向けた。
「…強い…ねぇ…」
「ダーリンって…あんなに凄かったんだ…」
「…相手は、『スクウェア』クラスの筈」
一連の光景を見ていたキュルケ達が、揃って口をぽかんと開けたまま立っていた。
助太刀でもしようかと身構えていたのだが、その必要もないほど剣心はワルドを相手に圧倒している。これでは寧ろ邪魔になりかねなかった。
タバサに至っては、少しでも剣筋を見極めようと剣心の動きを、目を大きく開けて見つめていた。
「あんた、ホントに凄いの召喚しちゃったわね―――」
決闘の時とは段違いの強さに、改めてキュルケは、彼を召喚したルイズを見て…。
「…ルイズ…?」
ルイズが、どこか不安そうな様子で剣心達を見ていた。
(何だろう…、この嫌な予感は…)
剣心は強い。たしかにそうだ、ワルドに対して彼はもう絶対に負けないだろう。
なのに、それとは裏腹にモヤモヤする感情が今、ルイズの中で渦巻いているのだ。
(…ケンシン…)
そして、今この瞬間、剣心の『龍槌閃』が決まり、膝をついたワルドの表情を見て…ルイズはゾクッとした。
あの目は、あの凶悪な笑みは、何かよからぬことを考えている目だ。
そして直ぐにハッと気付く。ワルドの狙いは、ウェールズに向けたのだと。
「…―――ウェールズ様!!」
こうしてはいられない。ルイズは倒れたまま蹲っているウェールズの元へと、一心不乱に駆け出した。
「ルイズ殿?」
ここで、剣心もルイズの行動に気付いた。しかし、唯一タイミングの悪いことに、ワルドにもそれを読まれてしまっていた。
「無駄なあがきだ!! ルイズ!!!」
弾かれたように、ワルドは杖を構えると、偏在を一つ召喚した。偏在は、風の如き速さでウェールズの元へ殺到していく。
412 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:11:40.18 ID:EXz1YYql
剣心も向かったが、その前に本体のワルドによる『エア・ハンマー』が飛んできた。
「貴様の相手はこの僕だ!!」
何とか回避したところを、ワルドは狂喜の笑みを浮かべながら、剣心に杖を繰り出した。そして更に覆いかぶさるように、他の偏在も襲いかかった。
「殿下!!!」
ルイズは叫んだ。敬愛する姫の恋人、優しく勇敢な皇子様。
血を流して、倒れている彼の元に、この騒動の元凶である偏在が突っ込んでくる。
ルイズは杖を抜いた。失敗ばかりの魔法に、どれだけの効果があるかなんて分からない。
それでも、目の前の人だけは死なせてはいけない。
そんな想いが、ルイズの口からルーンを紡がせる。フーケの時に言ってくれた、剣心の言葉を信じて。
「届いて!!!」
『ファイヤー・ボール』を唱えたつもりの、その名ばかりの失敗魔法が、杖の先から放たれた。魔法の光は、そのままワルドの偏在へと飛んでいく。
偏在は、完全に舐めきった様子だった。回避すれば出来た筈のそれを、杖で受け切ろうとして…刹那、爆発と共に吹っ飛んだ。
「――――なっ!!?」
ワルドやキュルケ達だけでなく、ルイズもこれには呆気に取られたようだったが、今はそんな事をしている場合じゃない。
ルイズは、ウェールズの元へと辿り着くと、体を抱き起こした。
「大丈夫ですか、ウェールズ殿下!!」
「な…何とか…ね」
肩こそパックリ切られて血を流してはいるが、まだ命に関わる状態でもないようだ。
ルイズに助け起こされると、ウェールズは改めてワルドと偏在を相手に戦っている剣心を見た。
「彼は…一体…?」
ウェールズは不思議だった。使い魔、というのもあるのだろうけれど、完全な部外者である彼が、何故ここまで戦ってくれるのか。
「ここは、ケンシンが何とかしてくれます。だから―――」
ルイズは、肩の傷をハンカチで結びながら言った。そして、決心するかのようにウェールズの手を取った。
「これが終わったら、せめて姫さまに一目会ってください。姫さまも、それを望んでおられるはずです」
「しかし…部下を見捨てて、自分だけ生き残ろうなど…」
「それでも、殿下一人でも生きておられれば、悲しむ人も少なくなるはずです」
その言葉に、ウェールズは暫く俯いていた。何が正しくて、何のために命を懸けるのか、もう一度よく考えているのだった。
色々なことが頭を駆け巡る。一度は、誇りのためにこの命を捨てるつもりだった。
だが、剣心とルイズに諭され、その中で浮かんできたのは、花のように美しい彼女の笑顔だった。
(―――アン…)
もう一度、それを見るのを許されるのなら……。
「そうだな…彼女の顔も…暫くぶりに見たくなったな…」
「殿下!! それでは―――」
ルイズの顔が、笑顔で満ち満ちた。涙を流しながら、喜びで震えている。
(彼女も、こんな風に泣いて喜ぶのかな…)
ウェールズはそう思いながら、ルイズに肩を貸してもらいながら、ゆっくりとその場を離れようとして……。
「―――――っ!!」
先程ルイズが吹き飛ばしたワルドの偏在。それがおもむろに立ち上がり、ルイズの背中目掛けて杖を突き出して来た。
余りの出来事に、タバサ達はおろか剣心も反応が遅れた。
「危ない!!」
咄嗟にウェールズは、ルイズを突き飛ばし、杖を引き抜こうとする。
しかしそれより先に、ワルドの杖がウェールズの胸を貫いていた。
「……ウェールズ…殿下…?」
ルイズは、呆然としたままそれを見ていた。
いきなり押され倒されたと思ったら、その先には庇うように立つウェールズの姿と…胸
から飛び出ている杖の切っ先と…そこからじわりと広がる…赤い血。
杖を引き抜くと同時に、ウェールズは糸が切れたように崩れ落ちた。
「…いや…いやああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ルイズは、吹っ切れたように叫んだ。涙が溢れる。体が震える。
ウェールズは、ルイズにもたれかかるように倒れた。ルイズは、とにかく必死にウェールズに呼び掛けた。
「殿下、殿下!! どうして…私を庇って…」
413 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:15:02.48 ID:EXz1YYql
しかし、ウェールズは何も答えない。ただ虚ろな視線を、空に写すだけだった。
ルイズは、ただただ泣いてウェールズを抱きしめた。その背後で、偏在が杖を向けて…。
「飛天御剣流 ―龍巣閃―!!!」
突如舞い降りた剣心による、無数の斬撃の嵐が偏在に襲いかかった。
逆刃の方とはいえ、強力な打撃をしこたま打ち込まれた偏在は、今度こそ完全に消滅した。
「ウェールズ殿!!」
剣心が看た時には、ウェールズは既に虫の息だった。キュルケ達も、慌ててウェールズの元へと駆け寄った。
「無駄だ! 心臓を貫いた以上、そいつは死ぬ!!」
遠くで、ワルドの高らかな声が聞こえる。タバサやキュルケも、彼の傷はどうしようも
ないことを悟ってしまった。
「殿下…何で…」
悲しみにくれるルイズに、その時ウェールズが、優しく彼女の頬に手を触れた。
「いいんだ…僕はここで死ぬ身だった…君まで…巻き込むわけにはいかない…」
「そんな!! だって…」
ルイズはウェールズの手を取る。段々と温かみが薄れていく。
死の感触。命の消滅。それを痛いほどルイズに知らせてくる。
だけど、ウェールズの顔は、それとは裏腹に、どことなく爽やかだった。
「君に…頼んでいいかい…?」
ここで、ウェールズの目が、剣心の方を向く。剣心は苦しそうな表情で頷くと、途切れ途切れな声で言った。
「アンに…伝えてくれ…悲しまないで、と…君は僕を忘れて…幸せに…生きて欲しいって…」
ここで、ウェールズは口から血を吐いた。
「死なないで!!」ルイズはそう叫んだが、それに反して彼の命の灯火はゆっくりと燃え尽きていく。
「最後に…会えたのが、君達で…本当に、良かった…頼む……友…よ…」
虚ろな目を、剣心に移しながら、ウェールズは静かに目を閉じて、そして…事切れた。
ルイズは、泣いた。ギーシュも、目から溢れんばかりの涙を流す。
キュルケとタバサも、彼の死に追悼の念を抱いていた。
剣心は、暫くの間顔を俯かせていた……。その目に宿るものは何か、ルイズ達には分からなかった。
(救えなかった……また…拙者は……)
そして知らず、左手のルーンが輝き始める……。妖しい光を放ちながら…。その光は、剣心の…昔々に封じ込めた記憶を…強く呼び起こし、そしてこじ開けていた。
(………『俺』は……っ!!!)
「フン、やっと死んだか」
ワルドの冷ややかな声に、ルイズ達は一斉に睨みを効かせる。しかし、そんな殺気など取るに足らず、と言わんばかりにワルドは受け流した。
「よくも…殿下を…」
「安心しろ、君も仲良くあの世に送って――――」
その時、ドカァン!! と巨大な衝撃音が礼拝堂を響きわたった。
「ぐおっ!!」
「きゃあああ!!」
次にルイズが視認したのは、なすすべなく吹っ飛んでいくワルドの身体と……。
刀を振り切ってその前に立つ、剣心の姿だった。
「ケン…シン…?」
ルイズは、すっかり呆気にとられた様子で、剣心の後ろ姿を見た。そして声を震わせた。怒っている…剣心が…。ここにいる誰よりも……。
その目には、先程戦っていた表情とはどこか違う、根本的に別とも言える怒りを、彼は宿していた。
「…ウェールズ殿は、ただ普通に平和を望み、恋人を愛する青年だった。それを……」
ルイズは身体を無意識に震わせた。恐い…。『烈風』の二つ名を持つ母親が本気で怒った時と同じくらい…いや、これは正直その比ではない。
「俺はまた…救うことができなかった…」
(…え、……俺?)
やっぱり違う…言葉遣いが…一人称が変わっている…。
刃のように煌く瞳。淡々と告げる言葉に匂わせる冷酷な殺気。まるで別人かのような恐ろしい雰囲気……。
周りを見れば、ギーシュもルイズと同じように身体全体を震わせている。キュルケも思わず背筋が凍りついている様で、タバサですらその顔から冷や汗が流れ出ていた。
414 :
るろうに使い魔:2012/08/11(土) 01:18:07.58 ID:EXz1YYql
「ワルド…貴様つくづく救えぬ男だな」
燃えるような怒りではない、段々と冷えていくような声に、ワルドは戦慄く。
(こ、これが…そうか…)
しかし、闘志までは消えてはいない。目的は達成したのだ。直ぐに帰還してもいい。
だがその前に、どうしても確かめておきたいことがあった。
(これが人斬り…抜刀斎!!)
すなわち、この男の強さ。
人づてでしか聞いたことはないが、かつて最強と謳われた程の実力を、ワルドは身をもって体験したいと思っているのだった。
それが、『あの方』に追いつく強さにも繋がるだろうから―――。
「いいだろう、来るがいい。最強と呼ばれたその腕、しかと見せてもらうぞ、『ガンダールヴ』!!」
熱を持って叫ぶワルドに、剣心の答えは淡々としたものだった。
だがワルドは気付いてない。今このハルケギニアで、最も怒らせてはいけない男の逆鱗に、とうとう触れてしまったことに……。
「貴様には、生き地獄を味わわせてやる」
これにて終了です。いよいよアルビオン編も佳境になりました。
明日にはこの戦いにも決着がつくと思います。
それでは、ここまで見て頂きどうもありがとうございました。
乙です
原作思い出して懐かしくなった
乙でござる
さようならワルド…
るろうにの人お疲れ様です!
やっぱ剣心強いな
やべえ目茶苦茶胸熱
さよならワルド
投下乙
さよならワルド
石動雷十太みたいに心をへし折られるんだろうな〜
さよならワルド
乙
逆刃じゃなければウェールズが助かってただけに辛いだろうね
床に刺さったままのデルフ
乙
縁戦後に抜刀斎化はしない気がする
サヨナラワルド
剣心には殺されずにすんでも数年後にアンアンに「人誅」されるワルド
さよならワルド。って、なんだこの准尉を送る最後の大隊的なw
るろうに乙!
流竜馬を召喚したらデルフの素材が実はゲッタートマホークの破片とかになるのかしら?(新ゲッターロボの童子切丸的な感じに)
ゲッター線によって強制的に進化させられるデルフ
才人「デルフ、お前ゲッター線のおかげで復活したのか!」
デルフ「へっ、ゲッター線がおれっちに詫びを入れただけのことよ」
でもゲッター線で進化すると使い手が竜馬ならトマホークになっちまいそうだよなw
つーかエルフ達の立ち位置が新ゲッターロボに出た四天王みたいな感じになるんじゃね?
>>425 むしろワルドは熱狂的再征服側だし神父に処刑されるやれば出来る子みたくするべきだったかも
ワルドはHELLSINGで例えるなら・・・
伊達男?
ワルドはキングオブヤムチャだろ
ワルドは原作でもタルブ侵攻の時にでも死んどけばよかったのにな
最新話じゃますます小物臭だしてるし
434 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 22:52:21.03 ID:Wvg3Mmir
こんばんわです。それでは予約もないようなので、11時から投稿を始めたいと思います。
435 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:01:26.78 ID:Wvg3Mmir
それでは始めます。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
そのルーンと共に、ワルドは新しく四体の偏在を呼び寄せる。
しかし、陣形を少しだけ変えている。剣心から遠のく形で、広がるように囲んでいた。
「君は接近戦が主のようだからね、卑怯な手と君は言うだろうが、使わせてもらうぞ」
そして、本体の方は囲んだ偏在の中心に、つまり剣心と一対一の状態を作っていた。
(杖で切り結ぶ傍ら、偏在が援護射撃をする気か…)
剣心は素早く思考を張り巡らせる。
ご丁寧に、その内の一体は、それとなくルイズ達に近づいている。彼女たちが妙なマネをしたら、素早く撃ち抜く気なのだろう。
「構わんさ、卑怯な手だろうが何だろうが、好きに使うがいい。たが―――」
しかし剣心は、悠然と逆刃刀を構える。これほどの陣形を前にしても、不安や恐怖などない、ただ、目の前の敵を倒す怒りで燃えていた。
その左手には、使い魔の証であるルーンが妖しく光を放っていた。
「俺が倒すと宣言する以上、貴様の敗北は絶対だ」
第二十二幕 『決着の刻』
「はぁあああああああああ!!!」
ワルドの閃光とも言える斬撃が、剣心に飛びかかった。それと同時に、偏在たちも、呪文を唱え始める。
剣心は、四方八方から来る魔法の風を回避しながら、ワルドとの攻防を繰り広げた。
「やはり速い…だが!!」
あらかじめ敷いた偏在の一つが、遂にルイズ達に襲いかかった。
咄嗟にキュルケとタバサが、何とか魔法を放ち、交戦して食い止めるが、状況はあまり芳しくない。
「逃げなさい!! ここは私達がやるから!!」
「危ない」
「嫌よ!! 私だって…」
ルイズは、涙ながらにウェールズを抱えて叫ぶ。まだ、彼が死んだ事に対して受け止めることができないのだろう。
ギーシュは、ウェールズの死体をルイズから放して諭すように言った。
「もう殿下は死んでしまったのだ、僕たちに出来ることは、彼の頼みを無事完遂することじゃないのかい!?」
「で…でも…」
その言葉に、ルイズは声を詰まらせる。認めたくない事実と、今やるべきことが綯交ぜになりながら、ルイズの頭の中を駆け巡る。
「姫殿下には、辛いことだろうと思うけど、君まで死んだら、命を賭して守ってくれた殿下の御心に背くことなんだぞ!!」
「……………」
ギーシュの叫びに、ルイズは悩んだ。悩んで…そして決める。
「…分かったわ」
ルイズは頷いた。そして、改めてウェールズの死体を見る。胸や肩から血を流す以外は、まるで眠っているような綺麗な死に顔だった。
ふと指の方を見れば、アルビオンの家宝『風のルビー』が付けられている。
せめて、姫様への形見へと、ルイズは心の中で謝りながらも、風のルビーを手に持った。
「殿下…私なんかのために…本当に御免なさい」
最後にウェールズの顔を見て、ルイズはそう呟くと、ルビーを懐にしまい、ギーシュに連れられるがまま走り出した。
「ちょっと、どこ行くのよ!?」
「いいから、こっちだ!!」
そう叫んだルイズの前に、こっそりと大きな穴が空いていた。
「流石だ僕のウェルダンデ!! もう逃げ道を作ってくれたのかい?」
ひょっこりと、その穴から出てきたモグラ、ウェルダンデをギーシュは愛おしそうに抱きしめた。
風が通る音が聞こえる所を見ると、ここから出口に繋がっているようだった。
「で…どうやって脱出するの?」
「それは勿論、タバサのシルフィードさ!!」
「でもそれって、タバサが呼ばないと来ないんじゃ…」
グサッと、ギーシュの胸に図星という名の矢が飛んできた。どうやらそこまで考えてなかったらしい。
おまけに、それでは今戦っている剣心達も帰る手段を無くすということだ。
ご丁寧に、出口は下まで一直線で、飛び降りれば即真下の海に落ちる風に出来ている。まあ、シルフィード頼りだったというのもあるのだろうが。
少し見直したと思ったら…そんな風な目でルイズは、悶々とするギーシュを見ていた。
逃げろとは言われても、剣心達を見捨てて逃げることなんてしたくない。
436 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:02:41.60 ID:Wvg3Mmir
(帰るなら、みんな一緒で…)
そんな事を考えてる内に、声が聞こえた。
「成程、そこから逃げようとする算段だったのか」
ルイズ達はその声の方向を見た。何と後ろにはワルドの偏在がいた。
「なっ…!!」
「い、いつの間に……」
その向こう側では、何とか間に合わせようと必死にルーンを唱えるキュルケ達がいた。
一瞬の隙をついて、戦線を離脱した偏在が、まずはルイズから仕留めに来たのだ。
「残念だが、そうはさせない。君には皇子の後を追ってもらおう―――がぁっ!!」
「えっ……」
杖を振り上げた偏在の後頭部に、突如ゴンと大きな音を立てた。
ルイズ達が見れば、そこには逆刃刀の柄尻が偏在の頭から生えていた。
フーケから救ってくれた時に使った、飛天御剣流『飛龍閃』だった。
「ケンシン!!」
ルイズは思った。ということは、今剣心は武器を持っていない。
見れば、剣心は鞘だけで、ワルドと他の偏在の攻撃をかわしていた。
ルイズは急いで、逆刃刀を持って剣心に駆け寄ろうとした……その後ろを偏在が再び起き上がり襲いかかった。しかし…。
「『フレイム・ボール』!!」
「『ウィンディ・アイシクル』」
全てを焼くような真っ赤な炎の玉と、吹き荒れるような氷の矢が同時に殺到し、ワルドの偏在を跡形もなく消し飛ばした。
その後に、キュルケ達もルイズの元へと駆け付けた。
「怪我ない? 大丈夫?」
「な…何とかね…」
キュルケの問いに、ギーシュは力なく返す。
「私は平気。ただ…」
ルイズは、手に持っている逆刃刀を見た。自分を助ける為に、剣心は自ら自分の武器を投げ捨てたのだ。
何とかして返さなくちゃ…そう思っているルイズを他所に、ギーシュは藪から棒に逆刃刀を取り上げた。
突然のことにびっくりしながらも、ルイズは抗議の声を上げた。
「な…何すんのよ!!」
「要は、これを彼に届ければいいんだろ? それなら僕の方が適任さ」
437 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:05:18.11 ID:Wvg3Mmir
ギーシュは、素早く杖を振ると、そこに七体のワルキューレを呼び出す。ギーシュは、その内の一体に逆刃刀を持たせた。
確かに、生身の人間が送り届けたり、『レビテーション』を使うよりかは余程良いかもしれない。
「僕も、これぐらい役に立たないと、ここへ来た意味がないからね」
(……えっ…?)
その言葉に、ルイズは胸を抉られるような感触を覚えた。そう言えば自分は、何か役に立つことをしたのだろうか…と。
そんなルイズの心境の変化に構わず、ギーシュはワルキューレ達に命令を下す。
「行け、ワルキューレ達よ。彼に武器を渡してくるんだ!!」
「まさか自分から刀を放るとは、色々と策も弄してみるものだな!!」
ワルドが、口元を歪ませながら剣心目掛けて魔法を撃った。
『エア・カッター』は、空を裂くような唸りを上げて剣心のところへと飛んでいく。
しかし、鎌鼬の刃や、銃弾の動きすら見切る剣心にとっては、特に気にすることなく回避する。
同時に、偏在による攻撃が始まる。これ以上は戦力が落ちるため、
また偏在を再度作る時間も与えてはくれないだろうから、ルイズ達を狙う余裕は無かったが、今の逆刃刀のない剣心相手なら、これでも充分だろう。
そうワルドは思っていた。
だが、剣心は変わらず無表情のまま、そして鞘一つでワルドの剣閃を受け流していた。
「お前の杖や攻撃など、この鞘一本だけで充分だ」
「減らず口を……!」
そこへ、ギーシュのワルキューレ達がなだれ込んできた。何事かとワルドは訝しむが、特に問題なさそうと見るやうざったそうに杖を振った。
「邪魔だ!!」
全体を巻き込んでの『ウィンド・ブレイク』であったが、しかし、キュルケとタバサの援護もあって、崩れたのは一体二体。まだ何体かは倒れずに向かっていった。
それにより、ワルドは疑問を覚える。今更ワルキューレなど、何の役にも立たないというのに、何故今頃…?
(そうか、読めたぞ!!)
しかし、その意図に気づくのに、ワルドは時間を取らなかった。奴等は上手く攪乱しながら、剣心に刀を返す気なのだ。
そうはいくか!! と言わんばかりにワルドは手早く偏在を差し向け、直にワルキューレ達を葬っていく。
その中の一体、隠し持っていた逆刃刀に向かって、ワルドはこれでもかと言わんばかりに風を使って、剣心やギーシュ達の手の届かない方向へと吹き飛ばした。
「フン、これでもうあの刀は使えまい―――」
そう言いかけた時、剣心は既に駆け出していた。しかし、方角は逆刃刀の方では無く、別のところ。
しまった…。ワルドが気付いて偏在を呼び寄せた頃には、剣心はデルフの柄を握っていた。
「ちぃ…!!」
ワルドは、間髪入れずに『ウィンド・ブレイク』を放つ。剣心は、避けようとして足に力を込めようとしたとき…。
「待て相棒!! そのまま翳してくれ! おもしれぇモン見せてやるよ!!」
デルフのこの言葉に、剣心は何事かと思ったが、目の前にはもう暴風が迫ってきていたので、剣心はデルフの言うとおりに構えた。
ドォンと、風の唸りがぶつかったような音がした。
ルイズ達は心配そうに、ワルドは期待を込めた表情でその場を見やっていた。今の衝撃音は、間違いなく直撃した音だ。
しかし、次の瞬間目にしたものは、以前無傷の剣心と、いつの間にか新品同様に光るデルフの姿だった。
「いやあ、すっかり思い出した。これが俺の真の姿さ! おまけにあんくらいの魔法なら、吸収することだって出来ちまうんだぜ!! どうだ、逆刃刀よりよっぽど上等だろ!!」
「デルフ…お主…」
「相棒、もっと心を震わせろ!! 何でもいい、怒り、悲しみ、それらが『ガンダールヴ』としての強さを決めるんだ!!」
デルフの変わりように、一瞬みんなが驚いたが、それより先にワルドは動いた。
「ふっ、魔法を吸収できるか。だが…」
気付けば、剣心の周りをグルリと取り囲むように偏在がいた。あの程度で死ぬわけがないと、ワルドは一早く策を作っていたのだった。
「四方八方から攻められれば、どうにもなるまい!!」
「…まあ、どうにもならねえな。どうするよ、相棒」
デルフの困ったような口調に対しても、剣心は以前態度を変えない。見る限りでは劣勢でも、剣心にとってはこのくらいの修羅場は、当たり前のことだったからだ。
幕末という、戦乱の時代を生き抜いた、あの頃に比べれば、この程度は日常茶飯事だったのだから―――…。
438 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:07:56.87 ID:Wvg3Mmir
「うん…?」
剣心は、まず肩に背負うデルフの鞘を外した。油断なく構えていたワルドだったが、そこに殺気はないようなので、その動向を見やる。
そして、一旦手でデルフを鞘に納めると、腰を落とし、手に柄を掛けた。
間違いない、この構えは…。
「抜刀術…か」
大剣であるデルフリンガーを使っての、剣心の抜刀術。
ワルドも、人づて程度には知っている。刀剣の刃を鞘の中で走らせることにより、剣速を何倍にも上げて一瞬の内に斬る。一撃必殺の名を冠する大技だ。
だが、剣心の場合の抜刀術は、その比ではない。通常ですら追いきれない剣閃なのだから、彼が使えば、それはまさに『最速』と呼ぶべきだろう。
ワルドは、ゴクリと唾を飲む。捌ききる自信は無い。だが、全く勝機がないわけではない。
こちらには偏在がある。この状況で抜刀術を使うということは、他の偏在は無視して自分を叩く腹づもりの筈だ。
ならば、まず偏在による魔法を使って、奴の行動を制限する。一箇所に放てば、剣心はこちらに来ざるを得なくなる。
その向かってくる直前、そこを閃光の『ライトニング・クラウド』で叩き潰す。
もし避けられたとしても、大剣のデルフはどう見たって抜刀術には向かない代物だ。
それ即ち、剣心の抜刀を遅らせて、こちらが見切ることも可能だということを、示唆しているに他ならない。
躱すことが出来れば、抜刀術は一撃必殺の可能性を秘めているだけに、その隙は大きい。そこを狙えば、間違いなく仕留められる。
まず十中八九、勝てる勝負。ワルドの覚悟は決まった。
「いざ勝負!! 『ガンダールヴ』!!!」
ワルドの叫びと共に、偏在が一斉に風の呪文を唱える。次の瞬間には、爆音と立ち込める煙以外何も残らなかった。
「うおっ!!」
「きゃあああああ!!」
しかし、揺らいでいる煙の中、ワルドは確かに見た。自身の『閃光』の二つ名が霞む程に、光放つ左手のルーンを残光にする神速の動きで、向かってくる剣心の姿を。
ワルドは、作戦通り『ライトニング・クラウド』を放つ。しかし、今の剣心の動きは、唸る雷の線ですら、捉えることは叶わない。
遂に、間合いの距離まで詰めた剣心による、『最速』の抜刀が放たれた。
439 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:09:26.83 ID:Wvg3Mmir
(ここだ…ここを避ければ…!!!)
ワルドは、必死に自分に言い聞かせるように剣閃を目で追った。速い、だが…見切れない程ではない…!!!
「だぁぁあああああああああああああああああああ!!!」
そんな叫び声を、無意識に上げているのも気付かず、ワルドはただ回避することに全てを専念していた。
ワルドは、剣閃に合わせて思い切り仰け反った。その目の前を、銀色の光が覆う。
それに遅れて、デルフの切っ先が、被っている羽帽子を切り飛ばした。
上空に投げたボールが重力に従い落ちる前の、一瞬の硬直。まさにそれと似たようなこの瞬間。ワルドは確信した。躱した、躱すことができたのだと。
「俺の勝ちだ!!! 『ガンダールヴ』!!!」
ワルドは勝ち誇った笑みを隠さないまま、即座に『エア・ニードル』を唱え、剣心の頭蓋目指して、打ち抜こうと腕を上げて……。
バギャッッ!!!―――。
刺突では絶対出せないような、響くような重低音が礼拝堂に木霊した。
(……何…だ…?)
ワルドは、何が起こったのか分からなかった。
目の前の男を刺し殺せ、と確かに自分の身体に、腕に命令した筈なのに、何時まで経っても剣心に杖が飛んでこない。
その横、振り上げている剣心の腕から、渡るように、自分の杖を持つ手を見上げると。
「……あ…」
そこには鞘を打ち込まれ、無残にも、バッキリとあらぬ方向へと折り曲がっている自分の腕があった。
「…ああ…」
確認できたと同時に、抉るような激痛がワルドを襲った。
「ぎゃああああああああああああ!!! 腕が、俺の腕がぁあああああああ!!!」
狂ったように叫びながら、ワルドは床に転がって悶絶した。よほど痛いであろう事が、その光景からルイズ達にも見て取れた。
「飛天御剣流抜刀術 ―双龍閃―」
それを冷ややかに見下ろしながら、剣心は再び鞘を肩に掛けた。
440 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:12:21.14 ID:Wvg3Mmir
「齧った程度の知識が仇になったな。デルフが抜刀術に向かないことなど、百も承知さ」
「…初めからこれを狙ってた訳か。少し期待したってのに…」
抜刀術は、本来が相手にも自分にも一撃必殺になりえる諸刃の剣。おまけに大剣であるために普通に居合を扱うことは出来ないということも、抜刀術を極めた剣心は知っていた。
その為最初の攻撃はいわばブラフ。本命は鞘を使った二段目の攻撃だった…と言うより、逆刃でもないのにそのままの一撃目を当てる気などさらさら無かったのである。
―飛天御剣流の抜刀術は、全てが隙の生じぬ二段構え―
大剣だろうと何だろうと、抜刀術の性質の全てを知り極めた男。それが剣心の『もう一つの志士名』の由来でもあった。
「くそっ…くそっ…くっそおおおお!!」
ワルドは、激痛と屈辱に顔を歪ませながら、もう片方の手で杖を取り、自身に『フライ』の魔法を唱えた。
「ぐっ……まさか引き返す羽目になるとは…」
ワルドが逃げる、その光景を見ても、剣心は問題なさそうにデルフを納める。ギーシュが不思議そうな顔で剣心に聞いた。
「いいのかい? トドメ、刺さなくて…?」
「別に構わんさ」
未だに剣心は、その鋭い目付きが抜けてないだけに、ギーシュは少し怖い思いをした。
「奴の腕は、思い切り関節を砕いて筋を断ってやった。少なくとも今後一生まともに杖は振れやしない。奴の軍人生命は、これで終わりだ」
どんな相手だろうと、不容易な殺生はしない。それが剣心の決着の付け方だった。
しかし、武人に生きる彼にとっては、軍人生命を断たれるだけで生きるというのは、これ以上ない屈辱でもあるだろう。
それだけのことはした…とは言っても、ギーシュ達は身震いした。宣言通り、剣心は『生き地獄』を、ワルドに味わわせたのだから。
「…これで…済むと思うな…」
遠くから、ワルドの声が聞こえてくる。剣心は気にせず、逆刃刀を取りに背中を向けた。脱出用の穴がある以上、後はここから逃げるだけだ。
そう思っていた剣心の後ろから、ワルドの最後の叫びが飛んだ。
「いずれ、俺は必ず這い上がる。その時が貴様の最後だ、『ガンダールヴ』!!! いや…『人斬り抜刀斎』!!!」
「……なっ!!」
剣心は、ハッとして振り向く。それはかつて昔呼ばれていたもう一つの『志士名』。何故奴がその名を知っている…!?
しかし、その時はもう、ワルドの姿はどこにもいなかった。
ギーシュ達が、ポカンとした表情で首をかしげる。
「『人斬り抜刀斎』? 何だいそれ?」
「ダーリン、人なんか斬ってないじゃん。何言ってんのかしら?」
「…そもそもあの刀で人は斬れない」
それを見て、剣心は不思議な気持ちになった。『人斬り抜刀斎』と言えば、自分のいた世界で知らないものはいない程の悪名だったが、ここではそんなことはない。
(そうか…知らない…んだな…)
少し、ほんの少しだけ心が軽くなったような感じを覚えながら、申し訳なさそうにウェールズを見た後、ルイズの所へと剣心は歩いた。
いつの間にか左手のルーンから光が消え、いつもの優しい笑顔になって。
「…行くでござるよ、ルイズ殿」
「……うん」
ルイズは、ただ頷くしか出来なかった。何もできなかった自分、ウェールズを死なせてしまった自分、最後まで彼に頼りきってしまった自分。
そんな悔しい思いを、剣心に見せたくなかった筈なのに、彼が来て笑顔を見せてくれた瞬間、そんな考えは吹っ飛んでいた。
「…うああぁぁぁぁぁぁん!!!」
ただ、彼の胸で泣いていた。張り詰めた緊張の糸が、ぷっつりと切れたように。
怖かった。そんな想いが、涙をとめどなく溢れさせる。剣心は、それを優しく包み込んでくれた。
「ウェールズ殿…」
ルイズを抱えたまま最後に、剣心はゆっくりとウェールズの遺体に近寄った。
結局…彼を助けることはできなかった。その悲しみを内に抱えたまま、剣心は静かに頭を下げた。
「……済まぬ」
441 :
るろうに使い魔:2012/08/12(日) 23:18:11.10 ID:Wvg3Mmir
「ほら、皆早く逃げるよ!!」
キュルケの、その声を聞いた剣心は、そのままルイズをおぶって、穴へと飛び込んだ。
「抜刀斎いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
その次の瞬間、王族を打ち破った反乱軍…その陣頭にいた刃衛が攻め込んできた。
「タバサ、シルフィードを!!」
「分かった」
落下途中、アルビオンの下に佇む霧を抜け、眼下にある海を見据えながら、タバサは口笛を吹いた。
待ってましたとばかりに、シルフィードはきゅいきゅい鳴きながら、器用にルイズ達を背中に乗せる。ウェルダンデも、口の中にすっぽりと収まった。
そして、駆け抜けるが如く、シルフィードは全速力でその場を後にした。
「…終わった…のね…」
「そうでござるな…」
ルイズは、遠くで小さくなるアルビオンを見る。
わずか数日ばかりの出来事だったのに、色々なことを体験してきた。
滅びゆく王国、裏切り者だった婚約者、最後に「会いたい」と言った王子様。
「…ケンシン」
「おろ?」
ルイズは、そんな風に思いを巡らせながらも、静かに目を閉じる。疲れて眠りたくなったのだ。
(良かった…元に戻ってる)
どうしてか分からなかったが、自然と、ルイズは剣心にもたれ掛かるように安らかに眠った。
(……ありがとう)
優しい使い魔、強い使い魔。だけど時々、悲しそうに笑う使い魔。そして…最後の恐ろしい形相と、何かを思う様に王子を見ていた使い魔。
そんな使い魔に夢の中で、ルイズは小さく、そうお礼を言った。
これにて、長かったアルビオン編が終了となります。ここまで見て頂き、本当にありがとうございました。
といっても、書いている身としては、まだまだ始まりの部分が一段落ついただけなのですが(笑)
次回は、レコン・キスタの裏側にせまります。それではまた来週にて。
乙でござる
投下乙。
乙
ストックが多いと読むほうも安心できるね
お疲れ様です
面白かった!
乙
ただちょっと原作ネタに頼り過ぎじゃない?
戦闘シーンに原作ネタを載せたっていうか、原作シーンを継ぎ接ぎにして戦闘シーンを作ったように見えちゃう
入れたいネタが多いのかもしれないけど、もう少し厳選してみても良いと思う
投下乙です
切れた腕が魔法で接着できる世界だし、
原作のワルドのように切断された腕をその場に放置してしまったとかでなければ、
関節を砕いて筋を絶っても腕のいい水メイジにかかれば再生不可能とは言い切れないだろうな
まあ剣心は魔法に詳しくないのだし仕方がないが
以前魔界都市新宿に、メフィスト先生でもつなげないような首切りをやってのけた人斬りが。
義手とかつけてまだ出てくるって、改造パンドンみたいだな
やっぱり首を叩き落としてスパッと決着をつけてやらないと後が面倒
義手っつーと『天上天下』の虎瀉殷(フー・チェイン)が思い浮かぶ
最終的にゾンビ自転車になったが
るろ剣で片手不能といえば、あーむすとろんぐ砲フラグ!!
でもワルドじゃ無理だな、肩が吹っ飛びそうw
>>449 クロムウェル「さあ蘇れッ! この! 電…指輪でーーーーーっ!!!! 」
るろうに乙!
>>446 あー、剣心が圧倒してる割にやけに仕留めるのに時間掛かるなと思ったが
ネタ盛りすぎなのかな。ワルドが偏在呼びまくりでとんでもない精神力になってるしw
ブチ切れる前から圧倒してたのに、ガンダパワーで盛り盛りな剣心だったら
詠唱のえの字も与えずに叩き伏せそうなもんだ。
>>451 ワルドじゃしくじりしかねぇだろうなw
ワルドなら改造人間より一歩進んだ改良人間になって蘇れるな
456 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/13(月) 22:48:40.49 ID:tQWn3FF4
ゼロSS最大の見せ場であろうワルドとの決闘でようやく双龍閃か…
まだ人斬り化をはじめ縮地、九頭、天翔と残してるがどう消化すのか
定期サイヤ待ち
なんなら新規でもいいいのよ
確かかめはめ波って修業すれば誰でも使えるんだっけ
ルイズ「か〜め〜は〜め〜波ぁ!!!」
亀仙人のじっちゃんクラスが50年修行してようやく使える程度の技
クリリン「……」
>>458 気自体だれでももってるから、修行次第だとおもう。
生半可な修行じゃ習得できないだろうが
>>460 そりゃ、技の開発者だからな。
教わるのなら、また違うでしょ。
戦闘力からすると銃弾受けても痛いくらいですむレベルの人なら使えるかもな
一般人のビーデルが空飛べる程度には気を扱えてたから
ちゃんと教わればかめはめ波も威力に差はあれど使えそうだ
亀仙人はマッチョ化してのかめはめ波が使えるからな
あれを使えた奴はいない
ビーデルもそこそこ戦闘力あるんじゃねーの?
ビーデルはブロリーのラリアットの直撃を受けても生きてる程度の戦闘力
>>465 あの・・・・・・ビーデルは一応格闘技世界チャンピオンの父親より強いんですが。
サタンももうちょっと若くて気が使えればかなり強くなるんだろうな
セルゲーム時のサタンならビーデルよりまだ強いかも
ゴハンに会う前のビーデルならな
>>471 10歳前後の娘より弱い世界チャンピオンはねーだろ。
最盛期サタンと舞空術直前のビーデルを、って事じゃね
ゼロの使い魔
>>469 フィジカルや格闘技術ならまだしも、気にかんしてはコントロールどころか概念すらしらん状態だったけど
とあるオカマ「少年漫画は強さのインフレ激しいから嫌いよっ」
逆に強さのインフレに真っ向から挑んだのはハドラー様だな。
あのオカマはインフレ以前に再生怪人だったのがいかんかった
「俺をなめるな!大魔王おおおおお!」の所から死亡するまでほぼ高止まりだよねハドラー株
そんな彼が召喚されると
メドローアを食らいます
ジョゼフがザボエラを召喚したら火石やキメラドラゴンどころじゃない惨劇がハルケギニアを襲いそうだ
ルイズの方はなぜかそのまま才人召喚
才人「単なるハードモードじゃないですかー!」
もうシャハルの鏡装備のシグマでも召喚しようよ
クロス強敵に挑む勇者サイト、有りやん
サイトの戦闘スタイルはどちらかと言えばラーハルトに近いな
サイトはそのままにあの作品のキャラがジョゼフに召喚されましたスレの誕生である
サイト「せめてセーブデータ引継ぎで強くてNEWGAMEにしてください」
>>486 ナイトだから基本的に紳士だし、理想的な使い魔かもしれんな…馬顔だか
ヘタレギーシュが成長してオリハルコンのワルキューレを連金し始めたりするんだろダイの大冒険的に進めると
その内ギーシュが死んでも闘気を得たワルキューレだけは独立して生き残るんだね
金ですら大変なのにオリハルコンとか、ドットのギーシュには厳しいんじゃ
ポップ的な成長するならありうるのかな
オリハルコンなぞ後半のメンツにはバコバコ破壊されるので結局意味が無い
つまりマキシマムのポジションという事になるな・・・
>>495 女の子のスリーサイズをスーパースキャンするギーシュとなるか
では、この緋緋色金を進呈しよう
ギーシュ「わざわざ強い金属を錬金する必要はない、僕が本気で硬化と固定化をかけた青銅のワルキューレは砕けない」
ギーシュ「そして動けない」
ポップvs烈風はちょっと見てみたいかも
マトリフとか召還されればギーシュも弟子入りしてポップ並みに成長するかもしれん
堂々とスカートめくって尻をさわったり、胸を揉んだりと、痴漢行為に関してはオスマン以上だが(笑)
でもオスマンと違ってできる爺だからなマトリフ。
決める所じゃ格好良いぜ。
お久しぶりです。
デュープリズムゼロ第三十一話四十分から投下させて貰います。
第三十一話 『ゆうきのひかり』
「全く、キリが無いわ!!」
命のやり取りが続く最中、ギリギリの精神力でキュルケは額に汗を浮かべたまま思わず心内を溢して悪態をとる。
「えぇ、だけど私達は負けられないのよ…絶対に!!」
叫んだルイズが巻き起こした爆発が今、魔法を唱えようとしていたアルビオンのメイジの身体を直撃し、大きく吹き飛ばす。
「でかしたわ、ルイズ!!」
ルイズの牽制に合わせてキュルケの魔法がアルビオンのメイジの一人を炎で包んだ…
この場に居るアルビオンのメイジ達はウェールズ含め、全員が生命を司る水の力そのものアンドバリの指輪の力で肉体を蘇生され、操られている。現在の彼等は肉の身体を持っているとは言え、本質的には水の精霊に限りなく近く、受けた傷は即座に修復する。
これに対し、通常の攻撃では明確なダメージを与える事は至難の業である。だが、ミント、ルイズ、タバサ、キュルケの四人の中にそれを可能としている人物が二人居た。
それは『火』のメイジであるキュルケと異世界の魔法を持つミントだった…
「再生の限界。」
燃え上がる炎の中、ガクガクと足を振るわせながら尚、立ち上がろうとするアルビオンのメイジが遂に動きを止め崩れ落ちたた事に対してタバサが小さく呟く。その一言の中には僅かではあるが喜色と安堵が籠もっていた…
「ようやく一人ね…キュルケ、あんたまだやれる?」
「あったりまえでしょ、あんたがへばってないのにこの私が参る訳にはいかないもの!」
視線だけを交え口元を緩めた二人、ルイズとキュルケが互いを叱咤しながら呼吸を整え、再び敵へと意識を集中させる。
瞬間、キュルケにアルビオンのメイジが放った特大のエアハンマーの呪文が襲いかかる…しかし、キュルケもルイズもそれを一切気にする事は無かった。
ルイズの役目はその圧倒的速射性を生かした牽制、キュルケはそれに合わせた決定打のだめ押しである。そして道中一番精神力を消耗していたタバサの役目は二人を守る盾となる事…
キュルケの直ぐ脇で空間が音を立てて爆ぜた…
エアハンマー同士の衝突による相殺によって巻き起こった風が赤い髪を煽り、火照った身体と思考をクールダウンさせキュルケは自分が今、信頼する親友に守られているのだという事を実感する。
支援
ルイズも又、今までの闘いの中から学んだ事を確実に生かしていた…仲間を頼る事、例えそれがどんなに地味で情けない事でも自分の出来る事をすると言う事。
大切なのは自分自身の役目と何の為に戦っているのかを見失わない事なのだから。
そして鉄壁の風の盾から起こる牽制の爆発と、水の力そのものを焼き尽くす微熱の炎…
ルイズは虚無に目覚めて以来の本当の闘いを経て確実に成長していた…
ルイズ達が三位一体の連携で奮闘している間、ミントはたった一人でウェールズとアンリエッタという超が付く優秀なトライアングルメイジを相手取り、苦戦を強いられていた。
というのもウェールズにダメージを与えるには『赤』の魔法を使う必要があるのだが、それに対してアンリエッタが所謂「積極的自衛」の為に水の魔法を使用してくる。
例えウェールズに対し、少々炎の効果を与えた所でアンリエッタの水の魔法がある限りウェールズの再生は止まる事は無い。
無論、ミントも直接アンリエッタを必殺の跳び蹴りで先に仕留めようともしたが、これも思いの外鋭いウェールズの剣技と魔法に阻まれてしまっていた。
(こいつ等…)
ミントは思わぬ苦戦に内心で毒づく…即席の筈でありながら生来の気性が故か、ウェールズが前に出て、アンリエッタが守るというその徹底された連携はベルとデューク等とは比べる事が出来ない程に完成している。
「アンリエッタ!!あんた、マジでいい加減に目を覚まさないと城までボコボコにしてから連れ戻すわよ!!」
「ミントさん、私をこのままウェールズ様と行かせて下さい!女王として間違っているのは解っています…ですが、人を本気で愛するというのはこういう事なのです!!」
「〜〜〜〜っ!!馬鹿なこと言ってんじゃ無いわよっ!!!」
苛ついた様子でミントが放った魔法『タイフーン』がアンリエッタの防御を貫いて身体を軽く吹き飛ばす。
地面に倒れ伏し、白いドレスを泥土で汚したアンリエッタに直ぐさまウェールズが駆け寄るとアンリエッタをミントから庇うかのようにしながらその身体を引き起こす。
「ミント君、君にはアンの気持ちが分からないようだね…仕方ない、さぁアン、残念だが彼女に僕たちの愛の力を見せるとしよう。」
「うぅ……ごめんなさい、ミントさん…」
アンリエッタの手を取ったウェールズは不敵に言ってアンリエッタの杖と自分の杖を交差させる様に構え、それをミントへと突きつけ呪文の詠唱を始めた。そしてアンリエッタも又ウェールズに合わせて詠唱を行い始める。
その並々ならぬ魔力の集中を察し、流石のミントにも緊張が走る…魔法の阻止もああも密着されては形としてはアンリエッタが半ば人質になっている状況では難しい…
「おい、相棒。」
が、ここでミントの掌の中でこの戦闘の最中、ずっと沈黙を保っていたデルフリンガーが突然ミントを呼んだ。
「……何よ?あんたまさかあの魔法は吸収出来そうにありませんとか言わないわよね?」
「あぁ、それもあるが…あの王子様を操っている水の先住の力…ありゃブリミルも相当苦労した代物でな。」
「でっ?今そんな話して何だっての?」
苛ついた様子でミントはデルフを睨み付ける…
「まぁ、聞けって、だからこそブリミルは大した奴でな、ちゃんと対策用の虚無を用意してやがったのさ!!あの呪文を嬢ちゃんがそいつを唱えさえすればあいつ等を動かす水の力は大人しくなりやがるはずだ。
ただ虚無の魔法ってのは詠唱にやたらと時間が掛かりやがる。だがこの状況じゃその時間を稼ぐのが難しい、何とかできねぇか?」
普段のデルフリンガーの様子から言えば何とも不安が残るがミントはここはこの自称伝説の痴呆症のインテリジェンスソードを信じる事にした。
「へ〜、だったらここはあたしが何とかしといてあげるから、あんたはルイズにその事をとっとと伝えて来なさい。」
言うが早いか、デルフの返答も聞かず、ミントは振り向きざまに手にしたデルフリンガーをルイズ達が居る方向へと迷い無く投擲する。
察するに、直に二人の魔法が完成する…ここを凌げるか凌げないか、それは半ば賭けになるであろうという事を思いながらミントはしっかりとそれぞれの手にデュアルハーロウを握り込んで構えを取った。
産み出された竜巻が、木々を巻き上げ破砕する、地を抉って吹き飛ばす…風の絶叫はあらゆる音を遮断し水のうねりが視界を遮る。
アンリエッタとウェールズによって産み出された水という絶対の質量を纏った巨大な竜巻はデルフリンガーを手放したミントの視界の先で、あらん限りの猛威を振るってまるで暴れ狂う大蛇の如く、突き進む。
王族という極限られた血脈の中でのみ可能とされるそれは『風』『風』『風』そして『水』『水』『水』という魔法を組み合わせた『ヘクサゴンスペル』一人のメイジの力では到達できないまさに別次元の破壊力を持った魔法だ。
ミントはゆっくりと迫るその圧倒的な力を前にして、一度深呼吸をするとデュアルハーロウを構えて魔力を込めて引き絞る…
(凄まじい威力ね…でも!!)
瞳を見開いたミントの両手で魔力の螺旋が回転と収束を始める。
それはいつもの虹を連想させる七色では無く、黄昏の落日か夜明けの日の出か?いずれにしろまさに太陽を連想させる様な眩い黄金…その高貴な輝きは金ですら霞みかねぬ程の眩さ…
「あれは…?」
「黄金の結界…だと?」
アンリエッタとウェールズの視線の先、うねる竜巻の先で突如、ミントの身体が黄金の光に包まれたかと思うとまるでミントの周囲を覆うように黄金の結界が現れ、それが竜巻に飲み込まれたのは一瞬の事であった…
『黄金』の魔法 タイプ『コスモス』
それはただ『勇気の光』と呼ばれる魔法…
幼い人形の少年に託された願いと妹から託された力…故に他の色と効果と組み合わさる事の無い異色にして純血の魔法。
ミント自身は否定するだろうがこれは紛う事無い大切な『絆』から生まれたミントにとっての究極の魔法…
全てを吹き飛ばさんとする竜巻の中、黄金の結界勇気の光を纏ったミントはひたすらに魔力を集中させる…
土砂を巻き上げ猛威を振るう竜巻は勇気の光との衝突によって完全にその進行を止め、純粋な魔力と魔力のぶつかり合いへと相成っていた。
「クッ…わたくしは…」
アンリエッタは襲いかかる頭痛と嘔吐感に思わず苦悶の表情を浮かべた…
ウェールズとのまさに絶妙とも言える魔力の制御を行いながら、トライアングルクラスの魔法の継続使用は精神的にも揺らぎと迷いを抱いた今のアンリエッタには実際かなりの無理が掛かっていた。
「耐えるんだアン!僕たちはここで倒れる訳にはいかない!!」
実際アンリエッタは魔法の使いすぎでいつ倒れてもおかしくない現状、今立っていられるのもシンクロしたウェールズの魔力に引きずられるような形であった…
(何…これ?歌声?…ルイズなの?)
圧倒的な破壊すらも意に介さぬ自身の魔法で築かれた絶対防御領域の中、ミントは沸き上がる様な胸の高鳴りと魔力の充実に加え、自分の耳に何故か何処か懐かしくすらある歌のような物が聞こえてきたのを感じた…
それはルイズの唱える虚無の呪文。それに背中を押されるように、尚も輝きを増していくミントの纏う黄金の輝きは余波とも言える魔力の粒子を噴出し、立ち上る竜巻を黄金の光で染め上げていく…
____
唐突にあれ程までに荒れ狂っていた竜巻が跡形も無く消滅したのは互いの『絆の力』がぶつかり合い、しばらくが立ってからだった…
涙雨の如く降りしきる雨の中で既に爪痕深く、凄惨な光景となった湖畔にあるのは倒れ伏してもう動く事が無くなったウェールズとその身体を抱いて泣きはらすアンリエッタ…そしてその様子を黙して直ぐ側で見つめるミント達四人。
ルイズがデルフリンガーの助言を受けて新たに目覚め、使用した魔法『ディスペルマジック』それはあらゆる魔法効果の消去という物だった。
そのルイズの魔法の力を受けたウェールズは心を操っていたアンドバリの呪縛から遂に解放された。だが、それは同時にその魔力で構成されていた肉体の支えを失うと言う事に他ならない…
結局ウェールズは他のアルビオンのメイジと同じく再び冥府へと戻る他無く、アンリエッタはその事を唯々その場で嘆き続けた…愛した男の悲報に嘆き、そして又その男を目の前で失うという事に四人もアンリエッタに掛ける言葉を見つけられないでいた…
その中でも一つ救いがあったとすればウェールズは今際の際に自らの口と意思を持って、アンリエッタと言葉を交わす事が出来た事だろう。
国を背負う事の責任の重さを説き、また最後までアンリエッタを泣かせている自身の不甲斐なさを謝罪し、最後に自分の事を忘れ、その分までしっかりと強く生きて貰いたいと…
それだけをアンリエッタに伝え、ウェールズは覚める事の無い眠りへとついた…
「全く…王女がこれじゃあトリステインの行く末も心配ね。」
泣き疲れたのかそれとも精神力の限界を超えた反動か、既に気を失ったアンリエッタを回収し、王城への帰路についた一行を背に乗せ、シルフィードが空を裂く…
「そうね…でも案外そうでも無いかも知れないわよ、これだけの事があったんだもの…きっと嫌でも変わるわよ、それが良い事だとは私には思えないけど…」
ミントのアンリエッタを指しての問題発言にフォローを入れたのはキュルケだった。だがその視線の先にあるのはアンリエッタの姿では無く、自分達に背を向ける形でシルフィードを操るタバサの背中だった…
ミントの発言にいの一番に食いつきそうなルイズであったが今ルイズは思う所があるのだろうか俯いたまま、アンリエッタの身体を黙って支え続ける…
「そうね…ま、あたしなら散々舐めた真似してくれたレコンキスタを絶対ぶっ潰してやるわ。ってなるんだろうけどね〜。」
「まぁ予想通りというか…貴女の場合ならそうなるわよね…」
戯けた調子でキュルケは不機嫌な様子のミントに微笑む。願わくば目の前の眠れる少女が自分の親友と同じように心を閉ざしてしまわない事を願いながら…
「ウェールズ様…」
失ってしまった愛しい人の名を呼ぶ一人の少女の頬を涙雨はただ静かに濡らしていた…
短めですが今回はこれで終わりです。今回執筆中に仕事で忙しくて間かなり開いたせいで話を上手くまとめれていない気もします。
それでも何とか頑張ります。
パソコン様の調子がどうにも重くて悪いです…
デュープリ乙
デュープリズムの人乙
相変わらずミント様強いな
乙でした。
ミントとキュルケが危惧してるけど、アンリエッタはどう変わるのかな
>>515 きっと肉体言語と言う覇者の魔法を携えハルケギニアを統一する征服王に変わるんだよ!?
同じプリンセスだし…
ああ、夜種王。
以前から思っていたがミント様にはこのセリフが似あうと思う
「この世のもの全て俺のもの。金も欲しい、女も欲しい、地位も名誉もこの世の全てが欲しい」
でも、本当に欲しかったのは心で繋がった本当の仲間ですね。わかります。
ハガレンのグリードさんじゃないっスか
だって二人とも強欲だもの
強欲→禁止
貪欲→制限
強欲で謙虚→??
9月にどうなっかな
準制限になったぞ
遊戯王から地、風、水、炎はあるから魔法をデッキに当てはめて、
光はコモン扱いで虚無は闇属性にしたSSを考えたことあるが、
毎回デュエルシーン書くのがしんどいので諦めた
こんにちは。15:53頃から続きの投下を行ないたいと思います。
リアルファイト勢「チラッチラッ」
……すいません。またしてもファイルがクラッシュしてました。投下は後日行います……。
泣いていいよ
なんと声をかけたらいいものやら・・・
あれほどバックアップを取れと・・・
おまえもまた、悲しみを背負った者……
北斗 有 情 破 顔 拳 !!
虚無以外の使い魔のルーンって文字状だっけ?
シルフィードのルーンは足の裏ってのは覚えてるが形は覚えてないな
フレイムその他は場所も形も全く記憶にないし…
>>531 ハルケギニア人には秘孔はあるのだろうか
>>532 > シルフィードのルーン
漫画(タバサの冒険?)で一文字だけ書いてあった気がする
使い魔のルーンを調べた
オーノホ、ティムサコ、タラーキー
と書いてある
パパーダの人ドンマイ
アラーキーかと思った
>シルフィードのルーンは足の裏
怪獣ソフビのロゴマークみたいだな
>>533 佐々木少尉が子孫残せるから種としての違いは人種レベルだし大丈夫だべ
しかし、アヘ顔でイキながら逝く北斗有情破顔拳は(笑)
本棚の整理をしてたらふと思いついたんだが
ドスペラードからエイジ召喚とかあったっけ?
第五の属性とかある意味符号したり相性は良さそう
もちろんラストは”発動”せざるをえないだろうが
エタったのなら有った筈。
あ、あったのか
エタるくらいならレイズナー方式でラスト書いちゃえば良かったのに
ルイズ「レイ、V(ヴァリエール)MAX発動よ!」
>>539 亜人には概ね秘孔つけるけど、幻獣は怪しい、ゴーレムや水の精霊は無理
……身体能力だけで行けると思うが、こう考えると効かないのが多いな
>>544 それでも、それでもアミバならきっと幻獣や精霊やゴーレムの秘孔を研究の果てに見つけてくれる。
秘孔で思い出したがゴーレム相手だと響良牙って結構無敵だよな、爆砕点穴的に
良牙を使い魔すると、ちょっと目を離しただけで道に迷って数ヶ月〜年単位で放浪するから大変だ
その点ゾロもいっしょだな
良牙はこの道をまっすぐと言われたら
指差された方向にまっすぐ森を突き進んで行くからな
お久しぶりです。
ペースが遅くて申し訳ありませんが、1:30頃から続きを投下させてください。
「………ってことで、ディーキンはここのメイジはカラ・トゥアの方の人たちと何か関係があるんじゃないかと思うの。どうかな?」
「ふーむ。残念ですが、私はカラ・トゥアの修験者(シュゲンジャ)についてはほとんど何も知りません。
―――単に忘れて思い出せないだけかもしれませんがね。
しかし、君のいう事が事実だとすれば確かに単なる偶然とは思えませんね、興味深い」
「ウーン、ディーキンも実際にシュゲンジャに会ったわけじゃないから、ちょっと自信はないけど……」
ディーキンがハルケギニアへと召喚されたその日の夜、トリステイン魔法学院のルイズの私室にて。
既に時刻は深夜を回っているが、ディーキンはダガーのエンセリックに読んだ本の内容やそこから推測される様々な事柄、感じた疑問点などに関して説明を続けていた。
エンセリックは案の定、最初は議論に参加することに全く乗り気ではなく、
「………剣なんかに助言を求めるのですか?
では助言しましょう。剣なんかに助言を求めないことです」
だの、
「以前君に……、いえ、君の“ボス”に話したことを、聞いていなかったんですか?
私の記憶は消えかかっているんです、この剣の中で少しずつね。
確かに私は以前は偉大なウィザードでした、知識も知恵も備わっていました。
ですが今、ダークパワーが宿っていそうなだけの黒っぽい黄金の鉄の塊の武器でしかない私が何の役に立つというのです?
今の私に比べたらいきなり見ず知らずの世界なんかに私を連れ込んでしまうような気楽なコボルドの方がまだ脳ミソが詰まっている事でしょう!」
だのと皮肉らしきことを吐いたり愚痴ったりやさぐれたりするばかりで、いつもながら役に立ちそうもない有様だった。
普段ならそれで素直に諦めるが、何せ今回は彼しか相談できそうな相手がいないのだ。
ディーキンは彼を根気よく宥め、励まし、煽て、説き伏せ…、
持てる<交渉>技能の限りを尽くした結果、なんとか彼に過去の記憶を掘り起こして議論に参加しようという気を起こさせた。
おかげで随分夜遅くまで作業時間が伸びてしまったが、まあ彼の知識にはきっとそれだけの価値はあることだろうとディーキンは踏んでいる。
ウィザードだった時代の事はほとんど忘れたと本人は言っているし、実際冒険中もあまりその知識が役立った試しはないのだが…、
それでもディーキンは彼が漏らす様々な言葉から、かつて優れた魔術師だった時の知識がまだその中に潜んでいることを感じ取っていた。
仮にそうでなくとも、こうして読んだ本の内容について思い出し、忘れた点を見直しつつ他人に説明することは、自身の知識の定着を図るのにも最適だ。
ディーキンは短期間のうちに書物で学んだだけにしては、驚くほどハルケギニアの情報に詳しくなっていた。
これはスカラーズ・タッチで瞬時に本の情報を吸収できたから、というだけではない。
この世界について自分が知っておくべき、必要な情報の載っている本を的確に借り出せていたためだ。
これはコルベールらが協力して本を探してくれたからというのもあるが、図書館に入る前に指にはめておいた魔法の指輪の力による部分が大きい。
《研究の指輪(リング・オブ・リサーチ)》と呼ばれるこの指輪は、着用者の抱く問題を解決するために必要な情報が載っている本の所在、
そしてその情報が載っている該当のページ数までも教えてくれるというマジックアイテムなのだ。
これがあったおかげで数千年を掛けて蓄積された恐ろしく大量の書物の中から、今の自分に最も必要な情報の書かれたものを素早く的確に選べたのである。
超待ってたぜ
この指輪は実際のところ、フェイルーン一般の環境の中ではそこまで便利なものではないと言える。
比較的安価かつ優秀なマジックアイテムではあるものの、真価を発揮できず無用の長物と化してしまう事が多い。
何故なら正しい答えが書かれている本がその場になければ無意味だし、フェイルーンでは本は高級品で、それほど普及していないためだ。
本の複写は一般に熟練した書記の手作業に依存しているため、同じ内容の写本が1ダースを超えて存在しているような本は極めて稀である。
一般的な街では、たとえ公共の図書館や貴族の書斎であってもそう大量の本があることは期待できないのだ。
しかしながらディーキンが滞在していたウォーターディープは、フェイルーンでも屈指の大交易都市だ。
市民の識字率は過半数を超えているし、路上では銅貨1枚でブロードシート(新聞形式の短い巻物)が売られている。
非常に豊かな市民ならば、装丁された本がぎっしりと詰まった広い専用の図書室を持っていることさえあるのだ。
そしてディーキンは今では町の英雄の一人なので、頼めば市の多くの図書室を利用させてもらう事ができる。
そのため、この指輪の機能も十分に生かせると踏んで先日購入しておいたのである。
まさかウォーターディープをも凌ぐほどに大量の本を自由に利用できる環境に召喚されるとは夢にも思っていなかったが、非常に幸運だったと言えよう。
この魔法学院の図書館には高さ100フィートほどもあろうかという本棚がずらりと並び、想像を絶するほど大量の書物が収められていたのだ。
アンドレンタイドの遺跡で訪れた図書館は、在りし日には『一千冊の本の家』と呼ばれていたらしいが、それを遥かに凌ぐ量だ。
もっともあの図書館には読むことで実際に本の世界に入り込める魔法の書物などがあったので、単純にこちらが上とは断定できないが…。
それはともかく、この指輪があれば知りたい情報はほとんど何でもあの図書館ですぐさま調べられそうである。
これからの日々でどれほど素晴らしい物語をあそこから得られるか、夢が膨らむではないか―――。
それはさておきディーキンは今、ハルケギニアのメイジの魔法体系とカラ・トゥアに住むというシュゲンジャの魔法体系との類似点について話しているところだ。
ディーキンが聞いた雑多な伝聞によれば、カラ・トゥアのシュゲンジャ達は自身を周囲にある根源的なエネルギーと調和させ、
それらを自分の体を通して集めることで魔法的な効果を生み出す信仰呪文の使い手であるらしい。
彼らは地水火風の四元素のいずれかの元素と深い結び付きを持ち、それらの自然な調和やその乱れに深い関心を示すという。
中には魔法を学ぶことそれ自体を目的として、いつの日か“虚無”――万物を結びつけているという第五の元素――の秘密を体得することを目指す者もいるという話だ。
また、その“虚無”を使いこなす術を学んだより上級の術者も存在しており、彼らは虚無の探究者(ヴォイド・ディサイプル)と呼ばれるという。
その思想は、同様に地水火風の四属性に分かれ、虚無を失われた第五の系統とするハルケギニアのメイジたちの魔法体系とあまりにもよく似ている。
これまで読んだ本の内容は、ハルケギニアがトーリルの別大陸であるという考えではどうにも説明がつかないことが多すぎる。
ここがフェイルーンとは別の異世界……、いや、おそらくは別宇宙の世界であることは、もはやほぼ間違いないだろう。
しかし、ではこの奇妙な思想の共通点はどういう事か?
ディーキンは彼らがカラ・トゥアからこの世界にやってきた人々であるか、もしくはその逆に彼らの一部がカラ・トゥアに移ったのではないか?…と考えていた。
ハルケギニアのメイジは信仰呪文ではなく秘術呪文の使い手であるようだったが、共通の思想を持ちながら別方向に発展した分派、と考えることもできよう。
ヴォイド・ディサイプルに関しては信仰呪文ではなく秘術呪文の使い手がなることもある…と聞いた覚えがあるので、そのあたりにもつながりがあるかもしれない。
残念ながらエンセリックにはカラ・トゥアに関する知識はないようなので、確証は少なくとも今のところは得られそうにないがが……。
仮にこの考えが間違っていても、ここまで思想に共通点がある以上は何らかの関係があり影響を与え合っているに違いない。
そのことは、書物が示すその他の証拠からも裏付けられる。
図書館で借りた魔法に関する本から、ハルケギニアの系統魔法とフェイルーンの秘術魔法には明らかに<呪文学>の構成に類似点があることが確認できた。
両者はまったく同系列というほど似通っているわけではないが、しかし無縁とは考え難い程度には類似点がある。
使い魔のルーンに関しても、フェイルーンにおけるドワーフのルーン文字と全く同一ではないにせよ類似した文字や構成があることを見て取れた。
そこから見て遥か昔、書物でハルケギニアの歴史に関する信頼できそうな記述が始まっているのが数千年前のようだったから、おそらくはそれ以上の昔に。
ハルケギニアとトーリルを含む他の世界の文明との間には何らかの行き来があったに違いない、とディーキンは踏んでいる。
近年のハルケギニアとフェイルーンの間にろくな繋がりが無いのは、共通語その他の話し言葉が全く通じなかったことから明らかだ。
数千年もの間交流が無ければ、お互いの言語はまるで似つかない方向に変化してしまっていて当然である。
一方、ルーン文字などの言葉そのものに力を宿す魔法的な言語は、永い年月を経てもほぼ変化することなく残ると言われている。
だからこそ、<呪文学>の構成には共通点が見られるのだろう。
また、何よりもディーキンが驚いたのは、このハルケギニアには“神”がいないらしいという事だった。
ブリミルと呼ばれるメイジたちの祖は信仰されているものの、彼はどうやら神格化された英雄の類らしい。
死後に向かうというヴァルハラと呼ばれる世界に関して触れている本はあったが、それは逸話であり、確認された事実ではないようだ。
とにかく崇拝者に信仰魔法を授けてくれる、トーリルでいえば真の“神”の存在はどの本にも記述されていなかった。
ゆえにハルケギニアには聖職者はいても、神への信仰に基づいて魔法を使うクレリックはいないようだ。
ハルケギニアで知られている魔法系統は系統魔法と先住魔法の2つだけで、しかも人間のメイジが習得できるのはその中の1つ、系統魔法のみだという。
昼間見たメイジたちの呪文からしても、本の記述からしても、系統魔法は秘術魔法に分類されるものとみて間違いはないだろう。
また、ブリミルを祖とする貴族でなければメイジにはなれないらしい。
とするとハルケギニアのメイジは、“本の魔法”を学ぶウィザードではなく、生来の才能によって魔法を操るソーサラーに近いものだと考えられる。
他に変わった特徴として、あらゆる呪文の使用には音声や動作などの要素に加え、焦点具として自分専用に用意した杖を持つことが必須であるらしい。
……冒険者の視点として見ると、それはかなり致命的な欠点のように思えるが。
先住魔法は本によればとても強力で、特に精霊と“契約”した術者のテリトリーにおいて本領を発揮するらしい。
中でもエルフは最強の使い手で、並みのメイジでは数人がかりでも敵わぬ、ドラゴンにも匹敵する存在とされている。
こちらのエルフはコボルドなどと同じく人間と敵対する妖魔扱いであり、フェイルーンでいえばドロウ(ダークエルフ)のように酷く怖れられているようだ。
ただ、人間が使わないということもあって情報が少ないらしく、今回借りてきた本からの情報だけではそれ以上あまり詳しい事は分からなかった。
自然に宿る“大いなる意志”を崇拝し精霊の力を借りる魔法…との記述からは信仰魔法、それもクレリックではなくドルイドのそれに近い印象を受ける。
ドルイドも確かに、自分たちの領域と言える自然に囲まれた屋外のフィールドでは格別に強力である。
人間を遥かに上回るエルフの魔法…という話からは、フェイルーンにおける太古のエルフ上位魔法を思わせる点もある。
彼らの生み出した数々のアーティファクトや、ディーキンもアンドレンタイドで体感した大いなるミサルの力は現在までも残っている。
かつてハルケギニアとトーリルの間に繋がりがあったのであれば、ハルケギニアのエルフが古代フェイルーンのエルフの流れを汲む存在という可能性はあるかもしれない。
精霊の加護を受ける…という話からは、カラ・トゥアの秘術使い・ウーイァン(巫人)を思わせる点もあるが…、
ディーキンが聞いた話では、彼らはシュゲンジャなどとは異なる五行思想とやらに従っているらしいのでおそらく関係は無いだろう。
先住魔法も系統魔法と同じく魔法を四元素で分類しているらしいので、あるいは彼らこそがカラ・トゥアのシュゲンジャに最も近いのかもしれない。
更には、ここでは神々のみならず、デーモン(魔神)やデヴィル(悪魔)、セレスチャル(天使)などの来訪者さえ、全くと言っていいほど知られていないらしい。
お伽噺や神話の中の存在とみなされているようで、そういった関係の本以外ではそれらに関する記述が見られなかったのだ。
精霊(エレメンタル)の類は記述があったものの、ハルケギニアに住む原住種として存在しているのみで、元素界からの召喚魔法などは知られていないようだ。
これらはトーリルの常識からいえば、とても考えられないことだ。
物質界のどんなに隔絶した地域でも、またほぼ全ての次元界でも、何らかの神の影響力が一切及んでいない場所などというのはおおよそありえない。
ディーキンが召喚された事実から見ても、ハルケギニアは他の物質界や次元界との接続が一切無い切り離された世界などではないはずなのだ。
なのに何故、神々や異次元界の来訪者たちはこの世界に目を向けないのだろうか……?
ディーキンはその他にも思い出すまま、思いつくままに読んだ内容や自身の意見、疑問に思った点などをエンセリックに説明していく。
支援
「……ふーむ、君の話が事実ならば、ここは随分と変わった世界のようですね?
では、今までの話について私からの意見を述べましょう」
エンセリックはあまり喋らずに大人しく聞いていたが、めぼしい話が出尽くしたと見ると口を開いた。
なおいうまでもなく比喩であって、ダガーである彼に口はついていない。
別に鍔の部分をカタカタ鳴らして喋ってるとか言うわけでもなく、声は何処からともなく出ているのである。
「この世界と他世界との交流が過去にはあったらしいのに現在では途絶えてしまっているという点、
そして神々や異次元界からの来訪者がこの世界に存在しないという点、
その他にも様々な謎があるようです。
それらをすべて解決する方法はいくつも考えられはするでしょうが、都合に応じて解釈を付け加えてゆくアドホックな説明ではおそらく真実からは遠いでしょう。
これは魔法をはじめ様々な学問研究において守らねばならない基本だと、わたしはかつて師から教わりました。
物事は可能な限り単純化するべきで……ただ一つの単純な要因で謎を解くことを、まずは試みるべきです」
「フンフン、………えーと、つまりそれって、どういうこと?」
「……つまり、ただ一つの要因からすべてを説明する方法を私は考えているのですが。
例えばですが、古代アイマスカー人の生み出した次元障壁のようなものが、この世界全体にかかっていると考えればどうでしょう?
君も一時は神々の侵入さえ阻んだ彼らの偉大な力について、少しは聞いたことがあることでしょう。
私が人間のウィザードだったころ、その力に興味を持ち多くの研究テーマのひとつにしていたことを、君の話を聞いてふと思い出しましてね。
……あいにくと、細かい点に関してはほとんど何も覚えていないのですが」
エンセリックの意見を聞いて、ディーキンは少し首を傾げる。
「えーと……、それって、つまりムルホランドの建国についての話?」
昔の主人の元で読んだ本の中に、それについて書いたものがあった。
ムルホランド建国に関する経緯は神話であり、実話でもある。
それはフェイルーンでもかなり有名な物語だ。
今は無きアイマスカーは、知られる限りフェイルーンでもっとも古い人間の帝国のひとつだった。
アーティフィサーとも呼ばれていた古代アイマスカー人の支配者階級は極めて強力、かつ傲慢なウィザードであり、
彼らは魔法を用いて数々の驚異を成し、また幾多の世界へと通じるポータルをも作成したと伝えられる。
今から4000年ほど前、アイマスカー帝国はひどい疫病によって人口を大幅に減らした。
それを補うために、彼らはとある異世界の土地に通じるポータルを開き、そこから10万人以上もの人間を引きずりこみ、奴隷としたのだ。
異世界の神々は奪われた彼らの民を救い出そうとしたが、アイマスカー人は極めて強力な呪文を用いて2つの世界の間に障壁を作り、接続を永久に絶ってしまったという。
彼らが一時は神々の侵入さえ阻んだというエンセリックの言葉は、その事を指しているのだろう。
しかし、最後には神々は障壁を迂回して自分たちの化身を送り込むことに成功し、帝国は滅ぼされた。
この時に来訪したオシリスやセトといった異世界の神々が解放された彼らの民と共に建国したのが、現在ムルホランドとアンサーと呼ばれる国なのである。
過去に何者かがそのような次元間障壁をこの物質界全土に及ぶ規模で作成し、異世界との接続を絶ってしまったとすれば、確かにいろいろと説明はつくかもしれない。
しかし、その解釈では根本的な問題があるのではないか?
「ンー、ディーキンとあんたはフェイルーンからここに召喚されたのを忘れたの?
この世界が壁で囲まれてるのなら、ディーキンは呼ばれた時にそれにぶつかって痛かったはずなの。
……ああ、そういえばルイズにはちょっと高跳びしてぶつかったけどね」
「ルイズというのはそこで薄着で寝ている君の……、私たちの召喚者の事でしたね?
そのお嬢さんにもいろいろな意味で興味はありますが、今はさておきましょう。
君の読んだ限り、基本的にここの召喚術は同じ世界からの招請しかできないらしいといいますが、それ自体が通常は考えられないことです。
君も知っているでしょうが、召喚術とは通常は異世界からの招来・招請、もしくは創造や治癒を行うものですから。
仮に障壁でなくとも、この世界全体に、全体でないとしても少なくともかなり大規模に、何らかの制限を及ぼす作用があるものとみるのは自然な事です。
……無論、私にまだ自然な解釈のできる知力が残っているものとすれば、ですが」
「ンー……、そういうものなの?」
フェイルーンにおける魔法系統の分類法は、力の源を五元素として分類するハルケギニアのそれとは大きく異なっている。
魔法系統は幻術、召喚術、死霊術、心術、占術、変成術、防御術、力術の8つに分かれており、それに加えてどの系統にも属さない共通呪文がある。
このうち召喚術は、ある種のエネルギーや物体、クリーチャーなどを、術者の元へ実体化(招来)あるいは転送(招請)させたり、創造したり、癒したりする系統である。
ドルイドなどは同じ物質界のクリーチャーを召喚することもあるが、招来・招請系の呪文の多くはアストラル界などを通じて異世界から呼び出すものだ。
ハルケギニアには錬金という変成術と創造系の召喚術を混ぜ合わせたような土系統の呪文がある。
また、治癒系の召喚術に相当するであろう水系統の回復呪文もある。
しかし招来・招請系の召喚術としては、ディーキンが読んだ限りでは系統魔法に属さないコモンルーンの、使い魔の招請呪文くらいのようだ。
招来・招請系がほとんど未発達で、しかも一時的な召喚である招来の呪文に至っては皆無というのは非常に奇妙だとエンセリックは考えた。
異世界ならば魔法の法則自体がトーリルとは異なっており、アストラル界などの中継界を利用した他次元界からの召喚自体が原理的にできない可能性も皆無ではない。
しかし、ルイズがフェイルーンからこの地への召喚を行ったという事実から、それは否定される。
となると単純に異世界の存在が知られてないため、それを招来しようという発想も技術も発達していないのかも知れない。
原理的に不可能でさえなければ、ルイズの召喚が異世界に通じたのは何かのイレギュラーか、でなくば彼女に何か特殊な資質があるということで一応説明はつく。
ならば、なぜ異世界の存在が知られていないのか?
それは当然、これまで異世界からの来訪者がほとんどいなかったためだろう。
では、何故神々も含めて異世界からの来訪者がいないのか?
それは、世界全体に侵入を防ぐ障壁か何かがあるからなのではないか。
―――エンセリックは、そのような順序で推論を組み立てたのだ。
「まあ、イレギュラーにせよ特殊な資質にせよ確かに確率は低いでしょうが……。
この世にはありえないほどの偶発的な不幸に見舞われてしまうものも、事実存在しているのですからね。
例えばアンダーマウンテンで不幸にも、魂を喰らう剣の中に永遠に閉じ込められてしまう偉大なウィザードとか。
……特に冒険者というのは、よく偶然に見舞われるものだと聞きますよ」
「んー……、ディーキンはたぶんあんたの言う事が正しいかも知れないって思うよ。
ありがとう、あんたはちょっと暗いし顔色も悪いけどやっぱり賢いね」
「……ハッ! 今や呪文のひとつも唱えられない私が賢いと?
まあ……、それがお世辞でないのなら、一応光栄だといっておきましょう。
ではひとつ、感謝の証として私に油をさして手入れをするというのはどうです?」
「うーん……、あんたがそういうなら、ディーキンはあんたをタライみたいにピカピカに磨くの。
でもまだルーンを入れてないし、今の話も書き留めておきたいから後でね。
ディーキンはあんたが好きだから、今度のルイズの物語にはコボルドのお供の助手として書いてあげるよ」
「……この、私が?……ああ、そうですか。
いえいえ、今更不満はありませんよ。
アンダーマウンテンの床で日がな一日埃の数を数えていた頃に比べれば。
あの灰色のエンセリックがなんとコボルドの助手とはね。
思うにゴブリンの料理包丁にされることに匹敵するほどの名誉でしょう!」
ディーキンは羊皮紙を取り出して今の話を思い出しながらメモを取り始める。
「えーと、出だしは……。
『ディーキンと助手のエンセリックは、すばらしい数々の話題について話し合った。
世界の間を隔てるのっぽな壁、呪文と魔法の関係、2つの世界のつながり……、
羊皮紙の準備は十分か? 頭はハイになっていないか?』
……ねえエンセリック、それはあんたなりの冗談なの?
ウーン……、ハ、ハ……、けっこう面白いかもね。
あんたは詩人にも向いてると思うの」
一人と一振りでそんな話をしながら、夜は更けていく………。
・
・
・
・
・
・
翌日早朝。
「―――んん? もう朝みたいだね、…ファ〜〜………」
ディーキンは窓から差しこむまだ弱い朝日で目を覚まし、床に敷いた寝袋からもぞもぞと這い出して目をこすると、大口を開けて体を伸ばす。
昨夜はあれこれ議論したり作業したりで忙しく、結局エンセリックを荷物袋に戻して寝袋に入ったのはもうあと少しで空が白み始めようかという頃だった。
つまりその時間から早朝の光が差し始めるまでの、たった1時間あまりしか眠っていないという計算になる。
普通ならば寝不足で辛いところだろうが、ディーキンは一度大きく伸びをしただけで気分爽快、すっきり目が覚めている。
別に初めて見る異世界に気分が高揚して疲れを忘れているというわけではない。
その秘密は使用した寝袋にあり、これは《ヒューワードの元気の出る携帯用寝具》というマジックアイテムなのだ。
柔らかくてよい香りのするこの寝袋で眠れば、なんとたった1時間の睡眠で8時間完全に休息したのと同じだけの利益を得られるという優れ物。
同じ作者の名を冠する《ヒューワードの便利な背負い袋》と同様、冒険者が使うマジックアイテムとしては定番である。
ディーキンも多少所持金に余裕ができたころに両方とも購入し、それ以来ずっとお世話になっている。
なお、考案者のヒューワードはどうやらフェイルーンとは別の宇宙においてバードを守護する英雄神格(神格の域に到達した英雄)であるらしい。
その意味でも、バードであるディーキンにとっては親しみの湧く品である。
別の宇宙で発明されたマジックアイテムや呪文の類はフェイルーンに相当数存在していると言われており、それほど珍しくないのだ。
それはさておき、ディーキンは軽く体をほぐすと今日の行動を思案しはじめた。
とりあえず毎朝の日課として、まずは呪文を発動するための精神集中の時間を取らなくてはなるまい。
昨夜のエンセリックの話もあるし、呪文の力が回復したら念のためこの世界で呪文発動に制限が無いかなどもいろいろと試しておきたい。
ハルケギニアのメイジは睡眠で精神力を回復させればそれでいいらしいが、フェイルーンのメイジはそれだけではいけない。
最低8時間以上の睡眠をとった上でウィザードならば呪文書と1時間は向き合ってその日使いたい呪文をあらかじめ用意しておく必要があるし、
事前に呪文を用意する必要が無いソーサラーやバードでも呪文の力を用意するために15分は集中して精神をリフレッシュさせる時間を取らねばならないのだ。
ちらりとベッドの方を見れば、ルイズはまだぐっすりと寝ている…、まあこんな早朝では当然だろうが。
しかし、バードは呪文の力を準備するために精神を集中させる間は同時に歌ったり楽器を鳴らしたりもしなくてはならないのだ。
寝ている人の横で楽器演奏というわけにもいかないし…、他の部屋にもまだ寝ている人が大勢いるだろう。
どこか人気のない良さそうなところを見繕って……、今後は毎朝そこで準備を行うことにしよう。
「ええと、頼まれてた洗濯もしないといけないね……。
んー、そういえばここって洗い場はどこかにあるのかな? それとも、外で川でも探せばいいの?」
ディーキンは昨夜ルイズが脱ぎ捨てた下着を拾い上げて、首を傾げた。
レースのついた白いキャミソールとパンティだ、精巧で緻密なつくりをしている。
勿論冒険者生活の中でも、それ以前にも、下着を含め衣類の洗濯をした経験くらいいくらでもある。
しかし、こんな無駄に高級そうな下着は全く馴染みがなかった。
果たして誰も細かい事を気にしないみすぼらしいコボルドの衣類や、実用性本位の冒険者の衣類を洗うのと同じ要領で大丈夫だろうか。
「……まぁ、ディーキンは何とかなると思うの、うん」
昨日見た感じではこの建物には雇い人が大勢働いているようだったし、適当に声をかけて洗い場の場所を聞けばいいだろう。
もし駄目でも、冒険者らしく散策がてら洗い場でも川でも探せばいい。
洗い物にしても、ディーキンの手は丈夫なウロコや爪が生えていて繊細な作業には向いていなさそうに見えるがこれでなかなか器用なのである。
バードというものは、未収得の技巧を要する作業でも持ち前の機転と才気と器用さで大抵何とかしてしまう“何でも屋”なのだ。
万が一破れても、呪文の無駄遣いにはなってしまうが《修理(メンディング)》で直せばいいだろう。
そんな風に前向きに考えをまとめると、ディーキンは早速作業の為に荷物を背負って外に向かっていった………。
ディーキンはかわいいなぁ、鱗だけど
今回は以上です。
ひたすら展開が遅くて申し訳ないですが、次こそは間違いなくシエスタは出るはず…!
なお、作中のエンセリックはNWNの拡張シナリオ2作目で序盤に入手できる武器です。
自らを元魔術師と称しているのは作中の説明通りですがあまりシナリオに絡んでこず、
初対面は印象深かったのに勿体無いキャラだなあと思ったので本作では活躍させることにしました。
できるだけ早く、続きを投下したいと思っております。
では、次回もどうぞよろしくお願いいたします(御辞儀)。
ディーキンの人お疲れ様!!!
564 :
代理投下:2012/08/17(金) 09:00:10.93 ID:aGK9PXnx
『ウルトラ5番目の使い魔』、『ゼロのレギオン』の2作品が投下されておりませんので、まとめて投下しようと想います。
ですが、支援が入らないと途中で止まってしまいますので、支援要請をします。
では次から『ウルトラ5番目の使い魔』作者殿ご挨拶・1/12〜3/12まで投下し、支援を待ちます。
皆さんこんばんは、、これからウルトラ5番目の使い魔、95話投稿開始します。
毎度すみませんが、代理投下、お願いいたします。2ちゃんの運営にR1号をプレゼントしてあげたいです。
第九十五話
アディール最終決戦! 最強怪獣を倒せ!! (後編)
友好巨鳥 リドリアス
古代暴獣 ゴルメデ
高原竜 ヒドラ
古代怪獣 ゴモラ
古代怪獣 EXゴモラ 登場!
新たな奇跡が、ここに展開されていた。
人間とエルフのすべての武器も魔法も尽き、ウルトラマンも満身創痍の窮地。絶体絶命の大ピンチ。
もはや、戦える者が誰もいなくなったと思われ、ヤプールが勝利を確信したときに、立ち上がっていったものたちがいた。
しかし、彼らはこの星の一員であったが、人間でもエルフでも、ましてやウルトラマンでもなかった。
雄雄しい遠吠えをあげながら団結し、立ち向かっていくのは怪獣たち。
ゴモラ、ヒドラ、リドリアス、ゴルメデ……この星で生まれ育った怪獣たちが、故郷を守るために怒り狂う漆黒の魔獣に挑んでいく。
その、ありえないような新たな敵の出現に、ヤプールは怒りの臨界点を超えて叫び狂った。
「おのれぇ、おのれぇ! あと一歩でウルトラマンどもにとどめを刺せるというところだったというのに、なんだこの怪獣どもは!
なぜわしの邪魔をする。人間どもといい、エルフどもといい、どいつもこいつも不愉快極まりない。かまわん! 一匹残らず
叩き潰せ! 動くものはすべて屍に変えてしまうのだぁーっ!」
怒りに燃え上がり、ひたすら破壊にすべての解決をヤプールは求めた。その思考と、限りなく湧いてくる憎悪の力は、まさしく
ヤプールが本物の悪魔であることの証だといえるだろう。だが、ヤプールはその悪そのものの思考のために気づいていなかった。
すべてを暗黒に染め上げ、破壊しつくそうとするヤプールに抗おうとするのは、生き物ならば皆が持つ生きようとする強い意志。
誰だって、自分を殺しに来る相手を無抵抗で迎えたりはしない、猫に追い詰められた鼠しかり、シマウマだって追い詰められれば
ライオンを蹴り殺そうとする。
それが生きとし生けるものの本能であり、その点では怪獣もなんらも変わりない。善悪を超えた、それが生命の摂理。ヤプールは、
この星の生命すべてを敵にまわしてしまったのだ。
人間とエルフの見守る前で、怪獣たちとEXゴモラの戦いが始まった。
「おお! まずはあの巨竜がゆくぞ!」
先陣を切って突進し、角をかち合わせるゴモラ。オリジナルとフェイクとはいえ、ゴモラvsゴモラの夢の構図が生まれた。
EXゴモラの巨大化した爪の一撃をかわし、くるりと回転して得意技の尻尾の殴打をおみまいするゴモラ。相手は自分の
遺伝子からコピーされた、ある意味自分自身といえる存在だから、その攻撃パターンも当然お見通しなのだ。
ウルトラマンをも一方的にノックダウンした尻尾連打を受けて、さしものEXゴモラも足元がふらつく。しかし、強靭な皮膚は
打撃をまったく受け付けず、EXゴモラも尻尾を振って反撃してきた。尻尾と尻尾が空中で激突しあい、その衝撃で周囲に
雷鳴のような轟音が鳴り響いた。
しかし、純粋なパワー勝負となったらコピー体とはいえEXゴモラに大きく分があった。オリジナルのほうが吹っ飛ばされて
転倒し、EXゴモラは追い討ちをかけようと足を振り上げる。
そのときだった。今度はゴルメデがEXゴモラに組み付いて押し返してゴモラを助けた。もちろん、ゴモラでさえまったく
かなわなかったEXゴモラを相手にゴルメデの力では歯が立たずに軽くなぎ倒される。が、ゴルメデへの報復もまた
成功しなかった。後頭部に飛んできたヒドラが飛び蹴りを食らわせ、不意打ちでバランスを崩されたEXゴモラは無様に
すっ転ばされてしまった。
よくもやったな! 怒ったEXゴモラは空に向かって尻尾の先を向けた。対空用の武器を持っていないのがゴモラの
弱点のひとつでもあるのだが、EXゴモラには伸縮自在のテールスピアーがある。串刺しにしてやるぞと、空を睨んで
ヒドラに狙いを定める。
しかし、またしても妨害が入った。テールスピアーを放とうとした瞬間、高空からリドリアスが放ってきた光弾が周辺で
炸裂して、炎と煙がEXゴモラを包んだ。その威力自体はEXゴモラにダメージを与えられるものではなかったが、爆煙で
視界がふさがれたためにヒドラの位置を正確に把握することができなくなり、放たれたテールスピアーは空振りして
虚しく宙を切った。
その隙を突き、二匹同時に突進してEXゴモラを吹っ飛ばすゴモラとゴルメデ。空中から援護態勢を整えるヒドラと
リドリアス。彼らの四身一体の攻撃によってEXゴモラは翻弄され、持ち前のパワーを炸裂させられずに踊っているようだ。
〔やるな、あいつら……〕
エースの視界を借りて見ながら、才人は内心で怪獣たちの戦いに感心していた。もう生命エネルギーのほとんどを
エースに譲ってしまって、ルイズともども見るくらいしかできないのだが、それでも怪獣たちが連携して自分たちより
はるかに強力な敵と互角にやり合っているのはすごいと思った。
それはルイズも同じで、実家で過ごしていた頃に数回父や母と狩りに出かけたときのことを思い出していた。あのとき
父はこう言った。「いいかルイズ、野生の動物は人間が想像するよりずっと賢いものだ。彼らは過酷な自然の中で生き抜き、
数年で戦いのプロに成長する。むしろ自然の中で人間ほど無知で弱い生き物はないと言っていい。お前も大人になれば
思い出す日も来るだろう。我ら人間、万物の頂点などとうぬぼれても、しょせんできないことのほうがはるかに多いのだ」
結局その日は一頭の鹿も獲ることができず、腹を立てたルイズは無理矢理その日のことを忘れてしまった。しかし、
きちんと思い出してみれば、鹿一頭にすら勝てなかった自分と、EXゴモラは似たようなものだと思った。ただ力まかせに
考えもなしに突っ込んで、せっかくのパワーを無駄遣いしてしまっている。
〔あの子たちの戦い方……むしろ、わたしたちよりうまいくらいじゃないの〕
効率よく剣を振ったり、隙なく魔法を使う訓練ならばみんなしてきた。しかし、怪獣たちはそんなものはなくとも互いを
補い合って、常にどれか一匹が支援に回れるように立ち回っている。彼らの無駄のない動き……いや、むしろ逆だろうと
ルイズは思った。人間はなにかと余計なことを考えてしまうから無駄ができる。しかし、怪獣たちは常に自然体だ。
その戦い方が、パワーにまかせて暴れるだけのEXゴモラには捉えられないのだ。
〔お父さま、今ならあのときおっしゃられたことの意味が、少しわかるような気がします〕
どんなにすごいパワーを手にしようとも、それはしょせん大いなる自然という手のひらの中の子ネズミに過ぎない。自然を
無視して力だけ求めても、世界そのものである自然にはかなわない。わたしたちは、みんなちっぽけな存在なのだから。
〔サイト……やっぱり、ヤプールは間違ってる。あの怪獣は、とんでもなく強いけど……わたしたちは、負けない!〕
〔おれもそう思うぜ。ゴモラたちが教えてくれた……いくら力だけ最強でも、心がともなわなっちゃ不完全だ。あんなやつに、
負けてる場合じゃねえよな。寝てる、場合じゃなかった!〕
ゴモラたち怪獣の勇姿が、途切れかけていた才人とルイズの闘志も蘇らせた。ただ強いだけの化け物に屈するなんて、
そんなのは負け犬の、弱虫の泣き言だ。力ではるかに負けていても、戦う手段はいくらでもある。怪獣たちが、それを教えてくれた。
だが、今は互角に渡り合っても、怪獣たちにはEXゴモラの固すぎる防御を破る手段がない。このままでは遠からず、疲れた
怪獣たちはテールスピアーで打ち落とされ、叩きのめされてしまうだろう。やるならば今しかない! 怪獣たちだって
頑張っているのに、おれたちが悠長におねんねしている場合じゃない!
「シュワッ!」
「エイヤッ!」
ふたりの闘志に呼応して、エースとコスモスも心の底から新たな力を生み出した。この命燃え尽きるまで戦うのが、
平和の守護神であるウルトラ戦士の義務! 二大ウルトラマンの復活と参戦に、エルフと人間たちは希望を見出し、
ついに戦いは最終ラウンドを迎えた。
二大ウルトラマン&怪獣軍団vsEXゴモラ
歴史上二度とないかもしれない幻の対戦カードがここに切られ、最強怪獣に皆は団結の力で挑んでいく。
ひとりひとりの力では不足でも、力を合わせて連携すれば巨大な力となる。
ゴモラとゴルメデの体当たりで揺らいだところに、コスモスが渾身の力を込めてパンチを放つ。すると、これまでどんな
攻撃にもびくともしなかったEXゴモラがふらついた。効いているのか? そういえば、メビウスが地球に来る前に、
ウルトラマンタロウはメビウスから「攻撃の効かない敵と戦うときにはどうすればいいのか」と質問され、こう返したという。
「私なら、とにかくいろいろやって相手に隙を作る。普段は強くとも、隙を突かれた相手はもろいものだ」
確かに、完全無欠の防御力を持ったEXゴモラといっても、受ける姿勢が悪ければ衝撃を余計にもらってしまうだろう。
実際にはほとんど効いていないも同然のダメージだろうが、それでも鉄壁の牙城にわずかなひびがはいった。
EXゴモラは、ほんのわずかでも痛みを与えられたことに怒り狂い、テールスピアーを連射してきた。一撃でダイヤモンド
だろうが風穴を空けるであろう無双の槍の穂先が秒単位で飛んできて、コスモスたちは後退を余儀なくされた。
しかし、その後方から死角を突いてエースが急降下キックの態勢に入り、リドリアスとヒドラも続く。ただし、EXゴモラも
二度も三度も同じようにやられたらさすがに学習する。空に向かってテールスピアーの穂先を変え、対空攻撃を仕掛けてきた。
鋭い尻尾の先がまっすぐにエースや怪獣たちに向かう。
”危ない!”
人々は悲鳴をあげた。ビダーシャルやアリィーのような戦士も、あれは避けられないと最悪の結果を想像して背筋を寒くした。
けれど、かつてウルトラマンレオはメビウスにタロウにしたのと同じ質問をされたときに、こう答えたことがあった。
「いい方法は見つからなくてもとにかく粘る。ピンチのときこそ、逆にチャンスだと考えるんだ」
ウルトラ兄弟の中で、もっとも多くの苦難を乗り越えてきたレオだからこその重い一言だった。ピンチこそチャンス、
その言葉を実践するために、エースはテールスピアーに臆することなく急降下し、空中で回転して紙一重でこれを
かわしきってしまった。
支援ー
”なんと!”
今の攻撃は絶対にかわしようがなかったはずだ。しかし、空中で重心を微妙に変えることで軌道を変更し、直撃コースから
ほんのわずかだが身を逸らしてしまった。
〔タロウのスワローキックを真似してみたが、即興にしては上出来かな?〕
エースはひとつ下の弟の十八番を少々拝借してみたのだった。もちろんタロウのオリジナルには到底及ばないし、本人が
採点したら精々二十点くらいだと辛い評価をされるだろう。だが付け焼刃でも、今この状況を脱することができれば上等だ。
EXゴモラの背中に急降下キックをお見舞いするエース。その一発だけではびくともしないだろうが、続いてエースが開いた
活路からヒドラが突撃し、EXゴモラを顔面から地面に叩きつけた。さらに離脱のときはリドリアスがかく乱し、EXゴモラは
反撃もままならない。
それでも、瓦礫と炎の中から鋭い牙と爪を振りかざしてEXゴモラは起き上がってくる。腹立ちまぎれに振り回した尻尾は
街の一区画を瞬時に瓦礫の山に変え、その手に握った石造りの家が砂のように握りつぶされてしまう。
”奴は、不死身か……”
恐るべきパワーと耐久力、EXゴモラはまだ少しも弱っていない。対して、戦いの主導権を握っているとはいっても、
ウルトラ・怪獣連合軍はギリギリのところで力を振り絞っているのに変わりない。一人一体でも攻撃を食らえば、そこから
連携は崩れて一気にやられてしまうだろう。
しかし、それでも”負け”はしない。何度でも、何百回確かめてもよいが、もう我々が倒されることはないのだ。
EXゴモラが不死身なら、俺たちもまた不死身! 揺るがない使命感と意志を秘めて、ウルトラマンたちは立つ。
だが、どんな攻撃を加えても立ち上がってくるウルトラマンたちの奇跡の力を、もっとも恐れているのはほかならぬ
ヤプールだった。光の力の根源を、闇の存在である自身は理解できなくとも、どんなに計算高く作戦を立てても、それを
乗り越えていく力を彼らが持っていることだけは理解していた。
そして、光の力の根源とはなにか。それを潰さない限りウルトラマンには勝てない。ヤプールはついに勝利のために
打算を捨てて叫んだ。
「そうか、貴様らの不条理な力の源がようやくわかったぞ。こざかしい虫けらどもを守るために力を出せるのが、貴様らで
あったなあ……だったら、フフフフ……決めたぞ、貴様らの力の源となるものすべてを奪いつくしてやるわ!」
天空に黒い雷光が貫き、何十本もの漆黒の竜巻が黒雲から地上に向かって伸びた。
これはもはや自然現象ではない。ヤプールの憎悪がそのまま形となった、殺戮の終末現象である。雷は地上をえぐり、
竜巻は進路上のものすべてを巻き上げて粉砕しながら、エルフたちを無差別に抹殺しにかかった。阿鼻叫喚の中で
逃げ惑う人々、それを見てヤプールは狂気の声をあげる。
「フハハハ! ハーハッハッハ! 守るべきものどもがいなくなれば、貴様らももはや力を出すことはできまい。このまま、
この街の住人すべてを殺しつくしてくれるわ!」
「ヤプール! 貴様、なんてことを!」
「ウワッハッハハ、悔しがるがいい、焦るがいい。もうマイナスエネルギーの採取も、絶望の叫びもどうでもいい。どうせこの星の
生命すべてがいずれ滅ぶのだ。今は貴様らを始末できさえすれば、ほかはどうでもいいわあ!」
エースの叫びに、ヤプールは破滅の雷をさらに激しく降らせた。容赦なく破壊されていく街並みと、飲み込まれていく人々。
だがそれは裏を返せば、ヤプールも追い詰められている証といえた。これで、アディールの住人からのマイナスエネルギーの
回収ができなくては、消費したぶんと差し合わせて元が取れなくなり、ハルケギニア制圧から地球への侵攻に大きな
遅れが出ることになる。これまでは採算を考えて、エルフたちを嬲り殺そうとしてきたヤプールだったが、とうとう採算を
かなぐり捨ててまで勝ちにきた。
卑怯者め! 抵抗する術を持たない人々を殺して、それでなお勝ちたいというのか。
だが、これが有効な手段であることだけは認めざるを得ない。人々を狙えば、人々を守るために戦うウルトラマンは
落ち着いて戦うことが出来ない。雷で打たれて吹き飛ばされる人々を見てエースは動揺し、あわやテールスピアーの
餌食になりかけた。
EXゴモラは絶対に自分たちを逃さないつもりだ。釘付けにしてるうちに、ヤプールがアディールの市民を皆殺しにして、
しかるのちに邪魔者をまとめて叩き潰す気だ。だが、今でさえやっと抑えているEXゴモラへの包囲を崩すことはできない。
けれど、そのときだった。エースたちの苦境に気づいて、東方号の甲板から声がした。
「ウルトラマーン! こっちはまかせろーっ! 街の人たちは、おれたちが助けるぜーっ!」
そこでは、ギーシュたち水精霊騎士隊の少年たちが包帯まみれになりながらも、人々を東方号に救い上げている姿があった。
東方号は、多数の雷に打たれて炎上しながらも、いまだその城郭のごとき威容を保ち続けており、いくら打たれても
揺るがない巨体を洋上に保ち続けている。
それはまさしく、不沈の大要塞。人々を頑強な鋼鉄の壁で守り続け、我が身を削ることをいとわずに浮き続ける威容で
希望を与え続ける。かつて「大和が沈むときは日本が沈むとき」と呼ばれたそうだが、まさに「東方号が沈むときは世界が
沈むとき」と呼んでもよかった。しかし東方号が大和と違うのは、国境線で囲われた国などというものではなく、生きとし
生けるものをあまねく守る、『平和の不沈艦』であることに他ならない。
人間にもエルフにも命の重みに差などない。生物としてのわずかな差異など、世界全体、宇宙全体のレベルからしたら
ないも同然の些細な差なのだ。それに無理に違いをつけたがるのは、地球でも肌の色や生まれた区域、血統や身分の差で
語るのもおぞましい醜悪を繰り返したこととまったく同じ。ほんのわずかでも他人と差をつけて偉くなった気になりたい卑小な
プライドから来る、お山の大将どもの思考に過ぎない。
それに気づいた人間たちは今や、この地にやってきた目的よりも、目の前の人々を救うために力を尽くす。水精霊騎士隊は
気力を振り絞って自力以上の力を発揮し、その中には、アディールの一般市民と見えるエルフたちの姿もあった。人間と
エルフが力を合わせてひとつの目的に邁進する。絶対に不可能だと思われていたことも、こんなに簡単なんだった。
手を貸してくれるエルフたちと助け合い、水精霊騎士隊は東方号を守り、その中に逃げ遅れていた人たちを収容していく。
彼らを代表して、ギーシュはすっかり薔薇の花びらをなくなり、ただの棒っきれになった杖を振りながら、下手くそに巻かれた
包帯をたなびかせながらもう一回叫んだ。
「ぼくたちは大丈夫さ! こんな程度でやられるほどやわな鍛え方はしてないってね。銃士隊の特訓を耐え抜いたぼくらの
根性をなめないでくれたまえ。さあ諸君、もうひと頑張り声出していくぞ!」
ギーシュも、すっかりリーダーとして板についてきたなと才人は思った。あいつは元々人目を恐れないタイプだが、それと
集団をまとめられるのとは別のことだ。しかし、バカでスケベであっても陽の気質の持ち主であるために、仲間たちは
信用はしなくても信頼を置いて、足りないところを補い合っていける。
まったく、人間は変わるときには信じられないほど変わる。ギーシュを入学時から知っているルイズも、あのバカも少しは
見直してもいいかもと認めざるを得なかった。もちろん、がんばっているのはギーシュだけではなく、ギムリやレイナールたち
見知った連中や、艦橋頂上ではまだティファニアとルクシャナが頑張っている。
「コスモス、わたしたちも最後まであきらめない。あなたが、みんなが安心していられるように、わたしも戦いが終わるまで
ここに立ち続けます。わたしにはそれくらいしかできないけど、それくらいならできるならがんばるから!」
コスモスは、ティファニアのほうを一瞬だけ見てうなづいた。本当に、若者の成長の速さというものは大人が思っている
以上に早い……正しく伸びるその先にこそ、希望の未来はあるのだと信じられる。
エースとコスモスは、街の人々は彼らにまかせて大丈夫だと託した。今、自分たちがやらねばならないことは、ヤプールの
最後の切り札であるEXゴモラを止めることだ。役割を見失ってはならない!
「いくぞ!」
覚悟とともに、エースとコスモスは怪獣たちとともにEXゴモラに最後の戦いを挑んでいった。
正義と悪、使命感と執念、勇気と怨念、そして死力と死力がぶつかり合う。
テールスピアーをかいくぐってエースのキックが炸裂し、コスモスのチョップが角を打つ。
ヒドラとゴルメデの火炎が同時に命中するが、EXゴモラの表皮には傷ひとつついていない。さらにリドリアスが空中から
攻撃をかけようとするが、EXゴモラも今度は直接落とそうとはせずに、いったん地中に尻尾を潜らせてから地表に
飛び出させて攻撃する奇襲技『テールアッパー』で撃墜を図ってきた。
避けきれず、胴を打たれて悲痛な声をあげつつ墜落するリドリアス。ふいを打たれた仲間を助けようと、ゴモラが
EXゴモラに密着して、超振動波のゼロ距離攻撃を加えて吹き飛ばした。しかし、並の怪獣相手ならば確実に致命傷と
なるであろうこの攻撃を受けても、EXゴモラにはほとんどダメージは見当たらなかった。
やはり強すぎる……なんとか、こいつの不死身を破る方法を見つけなくては。いくら強くても、この世に完全無欠なんてものは
ありえないはずだ。必ず弱点はある、それさえ見つけることができれば!
だが、業を煮やしたEXゴモラは再びあの大技を狙ってきた。EXゴモラの体に赤く輝く超エネルギーが集まり、EX超振動波が
放たれた。エネルギー規模にしたら、ウルトラマンの必殺光線の数百倍はあるのではないかというそれが、彗星のように
すべてを粉砕しながら進み、ウルトラマンと怪獣たちを跳ね飛ばしていった。
「ウワァァッ!」
どうやら、速射性を重視してエネルギー充填をしぼったらしい。避けられなかったが、本来なら殺されたところを、
それでも大ダメージは受けたが吹き飛ばされただけですんだ。だが、なお勢いを衰えさせない超振動波は街を粉砕しつつ
海に飛び込み、巨大な水柱を立ち上げて海上の人々を飲み込んだ。
〔し、しまった!〕
海には、まだ避難し切れていない人々が、さらには救助にあたっていた銃士隊がいた。もうかなりの住民は東方号に
乗り込んでいるとはいえ、少なからぬ人数が残っていたはずである。みんなが……才人の心に冷たい霜がまといつく。
台風の海のように荒れ狂ったアディールの洋上で、いくつもの船が転覆して船腹をさらしていた。飲み込まれた人たちは……
おぞましい予感に、目を凝らして海面を才人はなでた。やがて、エルフや銃士隊が何人も海面に顔を出してくる。そして、
一艘の奇跡的に転覆を免れたボートに、ふたりの銃士隊員に肩を貸される形でミシェルが引き上げられてきたとき、
才人は心臓をわしづかみにされたような悪寒を覚えた。
「副長、しっかりしてください!」
ふたりの銃士隊員の必死の人工呼吸などの蘇生術が、呼吸の止まったミシェルにかけられた。戦闘のプロである
彼女たち銃士隊は、当然ながら救命技術にも習熟している。慣れた手つきでの蘇生処置で、数秒後にはミシェルは
口から海水を咳き込みながら吐き出して息を吹き返した。
だが、気を取り戻して開口一番、ミシェルは「よかった、副長」と話しかけてくる部下たちを一喝した。
「お前たち、何してる。まだ、我々の仕事は終わっていないんだぞ、任務に戻れ! わたしのことは、ほっておけ!」
有無を言わせぬ強い口調に、部下の騎士たちは一瞬だけ敬礼をとると海に飛び込んでいった。海中にはまだ
沈んだままのエルフたちが残されている。イルカや水竜が背中に乗せて浮き上がらせているが、いかんせん彼らでは
引き上げることはできても蘇生処置はできないし、なにより数が足りない。
しかし、自分も死に掛けておいて、なおかつまたいつ転覆するかもしれないボートの上にひとりで残るとは、
なんて強い人だと才人は息を呑んだ。しかも、まだ体も自由に動かずに、溺れる恐怖も強く残っているだろうに……
けれど、ミシェルはやせ我慢や単なる軍人精神で言ったのではなかった。部下たちが行ってしまうと、彼女は
ふうと息をつき、ボートのふちに寄りかかりながら、ウルトラマンAのほうを望んでつぶやいた。
「ふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。わたしはもう、昔のひとりぼっちだったころのわたしじゃない。離れていても、
今のわたしにはたくさんの仲間たちがいるさ。この胸の中に、かけがえのないみんなの魂がいっしょにな。だから、
心配するな……この想いがある限り、わたしは負けない。見えているさ、今でも空のかなたにウルトラの星が」
にこりと、濡れた青い髪を手で払って微笑んだミシェルの輝いた顔に、才人は思わずどきりとした。
”まさか……もしかして、あなたはおれのことを……”
あの雨の日の記憶が、鮮明に蘇ってくる。けれど、いったいどこで?
しかし、それとは別にミシェルの言葉から才人は重大なヒントを預かっていた。
〔胸の中に、みんなの魂が……そうか! その手があったんだ!〕
〔ちょ、サイト、いったい急にどうしたの?〕
突然叫んだ才人に、ルイズがいぶかしげに問いかけてくる。すると才人は、ウルトラマンコスモスにも聞こえるように、
エースの念波を借りて早口で説明した。
〔あのゴモラは、実体はひとつだけど、たくさんの超獣や怪獣の怨霊が合体したものなんだ! 外からの攻撃を
いくら受け付けなくても、融合している怨霊に働きかけることができれば……コスモス!〕
〔なるほど、霊魂を邪悪な力で無理矢理結合させているのであれば。やってみる価値はあるな!〕
コスモスは、才人の意見に強くうなづいた。攻防ともに無敵を誇るEXゴモラを止めるには、もうその方法しかあるまい。
暴力に暴力で対抗するのではなく、心に訴えかける力。それができるのはコスモスしかいない。
エースは、そして怪獣たちは最後の力を振り絞ってEXゴモラに挑んでいった。ほんのわずか、ほんのわずかな
時間でいいから、EXゴモラの動きを止め、コスモスから意識を反らせられればそれでいい。ボロボロになり、何度も
叩き伏せられながら、それでも宝石の一瞬を求めて挑みかかっていく。
そして、ついにその時はやってきた。EXゴモラの動きが止まり、視線がコスモスから外れている。
今だ、これが正真正銘最後のチャンス……皆の期待を一身に背負ったコスモスは、心を落ち着かせてコロナモードの
変身を解いた。
『ウルトラマンコスモス・ルナモード』
強さから優しさの元の姿へ、青い姿へと返ったコスモスはEXゴモラをじっと見つめると、こいつを生み出すために
犠牲となった怪獣たちへの哀れみと慈しみを込めて、光の力を集めていった。胸を抱くように合わせた手をゆっくりと
回して光を蓄え、泡のような光の波動に変えて解き放った。
『フィールウォーマー』
感情に訴えかける光の力がEXゴモラの中に染み込んでいき、体内で渦巻いていた超獣や怪獣たちの意識に呼びかけていく。
マイナスエネルギーで固定され、怨念の力を吸収され続けていた魂を光の力が覆い、彼らの自我を蘇らせていった。
アリブンタ、アントラー、スフィンクス、オイルドリンカー、ゴーガ、マザリュース、サメクジラ、ダロン、ギロン人。
ガディバによってエネルギー源として利用されてきた怪獣たちの自我の目覚めにより、EXゴモラに異変が生じ始めた。
「ヘアッ?」
無差別に暴れ続けていたEXゴモラの動きが止まった。それだけではなく、体から黒いオーラのような漏れ出し始めている。
あれは、怪獣たちの魂か? 見ている間に、黒いオーラは強くなっていき、逆にEXゴモラは苦しみだしているように見えた。
円
支援
ジオイド弾
577 :
代理投下:2012/08/17(金) 10:01:21.66 ID:aGK9PXnx
失礼しました。
10発言で規制が入りました。
支援は無駄だったようです。orz
気を取り直して、代理投下続けます。
これを含めて10発言後、1時間投下を空けます。
〔怪獣たちの魂が、反抗し始めてるのね!〕
そうだ、そうとしか考えられなかった。ヤプールに力で支配された無数の魂が、その思念をひとつに統合できなくなって
争い始めているのだ。アリブンタやスフィンクス、オイルドリンカーやマザリュースなどの、最初からヤプールの手駒として
生み出された超獣たちはよい。しかし、ヤプールのしもべでもなく、ただ暴れたいだけ暴れていたゴーガやアントラーは
ヤプールに支配され続けることをよしとせず、統合から逃れようともがきだしたのだ。
さらにそれだけではない。魂を融合させているガディバと、肉体の元々の持ち主であるギロン人が主導権をめぐって
争い始めた。これは俺の体だ、返せ! 復讐心や忠誠心とは別に、自分の肉体を別の存在に支配されているのは
耐え難いものだ。むろんガディバも主導権を奪われまいと抵抗し、統一した意思行動は不可能になっていた。
やるならいまだ、いましかない! EXゴモラが自由に動けない今しか、あいつを倒すチャンスはないだろう。コスモスが
ルナモードに戻り、再度コロナに変身するだけの力も残っていない今、戦えるのはエースしかいない。そしてそれは、
怪獣たちの魂も解放してやることになるだろう。
〔才人くん、ルイズくん、悪いが、もうひと頑張り頼むぞ!〕
三位一体のウルトラマン、エースは本当に最後の力を振り絞ってEXゴモラへ挑んでいった。怪獣たちも、唯一立ち上がれる
力が残っていたゴモラが続いてくる。ゴモラも、どうあっても自分のニセモノは許せないようだ。全身ボロボロになりながらも
雄たけびをあげて大地を踏みしめる様は、まさに古代の王者そのものだ。
〔ようし、いこうぜゴモラ!〕
才人は思い切って言ってみた。ここにきて、最後の相棒がゴモラとはなんという運命の皮肉だろうか。しかし、才人は
心のどこかで自分が喜んでいるのを感じていた。怪獣にあこがれて、落書きを繰り返した子供時代を持つ者だけにわかる
不思議なうれしさ。ウルトラマンと怪獣が力を合わせて戦うという、夢の舞台に今自分はいる。
キック攻撃を浴びせるエースに続き、ゴモラも前転の体勢から尻尾を激しく叩きつける荒業、『大回転打』をおみまいする。
先ほどまでと違い、今度は確実に命中しているという手ごたえがあり、EXゴモラの巨体が激しく揺らいだ。やはり、奴は
エネルギー源としていた怨霊とのつながりを断ち切られて、大幅に弱体化している。
しかし、EXゴモラも、まだガディバの支配下にある超獣たちからエネルギーを受けて、まともに狙いもつかない状況
からながらもテールスピアーを連続で放ち、むやみやたらに暴れてエースとゴモラを迎え撃ってくる。その、暴走そのものの
反撃に苦しめられながらも、エースとゴモラは確実にEXゴモラを追い詰めていった。
”あと一息だ。もう少し、もう少しふんばれば!”
怨霊の再統合は不可能になったEXゴモラは、攻撃力も防御力も激減し、ただ破壊衝動にのみ従って暴れるしかできない。
それでも、ウルトラマンAとゴモラを相手に、互角の戦いを演じていたが、時間が経つにつれて怨霊の分裂化は進み、劣勢は
覆いがたくなっていった。
もはや、勝利は望みがたく、敗北は逃れ得ない。ヤプールは、計画の崩壊と自らの負けを悟った。しかし、このまま引き下がって
ウルトラマンたちやエルフや人間どもに勝利の美酒をくれてやることだけは、なんとしてでも許せなかった。
ヤプールの目が、敗北寸前のEXゴモラに向けられる。役立たずの負け犬となった捨て駒だが、最後にひとつだけ役に立たせる
方法があった。
「ウルトラマンA! ウルトラマンコスモス! そしてエルフに人間ども、よくぞこのわしの二重三重の構えを破ってくれたものよ。
残念だが、もはやわしの負けを認めるしかあるまい。だが、貴様らだけは生かしておかん! 我がしもべの全エネルギーを
使って、この街ごと貴様らをこの世から消し去ってくれるわぁーっ!」
ヤプールの怒りと憎悪を込めた声がアディールに響き渡り、EXゴモラの周囲に膨大なエネルギーが収束し始めた。
赤くたぎる超エネルギーに、エースとゴモラは弾き飛ばされる。あれは、EX超振動波の体勢か? いや、収束している
エネルギーは治まるところを知らず、あんな量のエネルギーを溜め込んだらEXゴモラ自身も無事ではすむまい。
ならば、考えられる答えはたったひとつ。
〔奴め、自爆させるつもりか!〕
エースは、ヤプールがEXゴモラを爆発させて、その破壊力で一気にすべてを消し去るつもりなのだと気づいた。
まずい。怪獣、超獣、十体近いエネルギー量を持つEXゴモラが爆発したら、アディールはもとより最低でも周辺の
半径数十キロ以内は跡形もなく蒸発してしまう。だが、止めようにもエースにもコスモスにも、もう光線技を撃つ
エネルギーさえも残っておらず、ヤプールは高らかに笑った。
「フハハハ! わしの屈辱の代償に、貴様らも道連れにしてくれる。さらばだウルトラマンAよ! 爆発まで、あと
十秒足らず、もはやどうすることもできまい!」
勝ち誇るヤプールの哄笑に、エースは本当になす術を失ってひざをついた。ここまで来て、最後に笑うのはヤプール
だというのか……才人もルイズも、戦いを見守っていたすべての人々が悔し涙を流す。しかし、あと五秒では、
どうすることもできるわけがない。
だがそのとき、爆発寸前だったEXゴモラのエネルギー収束が突然止まり、聞き覚えのある声が響いてきた。
「ウルトラマン……ウルトラマンども、俺の声が聞こえるか?」
「この声は……バルキー星人! バルキー星人か!」
なんと、死亡して魂がEXゴモラに吸収されたはずのバルキー星人が語りかけてきたのだ。エースは驚きながらも、
苦しい口調で話すバルキー星人の声に耳を傾けた。
「てめえらが、こいつを弱らせてくれたおかげで、俺もやっと気がついたぜ。状況はわかってる……俺が、中から
こいつの自爆を抑えててやるから、今のうちにこいつをぶっ飛ばせ!」
「なに! お前、どういう」
「勘違いすんな。俺はてめえらウルトラマンどもは大嫌いだ。だが、俺をコケにして利用してくれたヤプールに
いい思いをさせるのだけは、我慢がならねえんだよ! 宇宙の海賊バルキー星人が道化のままで終わったら、
俺の星は宇宙中の笑い者だ!」
「お前……」
「さあ撃て! もう何秒も持たねえぞ。俺を、俺を負け犬のままで終わらせんじゃねぇぇーっ!」
それを境に、バルキー星人の声は途絶えた。EXゴモラは荒れ狂い、溜め込んだエネルギーを解放しようともがいている。
”すまない……そして、こんなことを言えば、お前は怒るだろうが……ありがとう”
エースは、才人は、そしてルイズは、悪党であっても、己の誇りに殉じた男の意地に、深い敬意を抱いた。その意地に
応えるためにも、彼の作ってくれたこの十数秒の奇跡の時間は、無駄にはできない。
自爆寸前のEXゴモラを止める方法はたったひとつ、それ以上のエネルギーを持って一瞬のうちに消滅させてしまうことだけだ。
しかし、今のエースにはそんな力はない。けれども、EXゴモラが超獣、怪獣たちのエネルギーを集めて膨大なパワーを
得ているというなら、こちらも同じ方法をとればいいだけのことだ。
見せてやろう、ウルトラマンAの最後の切り札を!
「この星に散った、志を同じくするウルトラの戦士たち……今、この星の未来を守るために、力を貸してくれ!」
エースの声がテレパシーとなって、世界の各地に散ったウルトラマンたちに飛んでいく。
この星の命を、そこに住まう人々の平和を、心清き者たちの未来を、善悪を超えて戦った勇者たちの闘志に報いるため、
そして……愛する人を守るために、皆の力を貸してほしい。
トリステインの荒野を馬で行くモロボシ・ダン、ウルトラセブンが東の空を見つめる。
「エース、ついにやったのだな。あの少年たちとともに……私の魂の力を持っていけ! そして、お前たちの導いた未来を見せてみろ!」
ダンの手から光が東の空へと飛んでいき、星のように輝いて消えていく。
ガリアの寒村で、村の子供に見送られて街道に出たセリザワ・カズヤ、ウルトラマンヒカリがつぶやき、空に手をかざした。
「この星の未来に、新しいページを刻んだな。それに私の後輩、GUYSに入りたければ、もうひと頑張りだぞ!」
トリステインの国境付近で、盗賊どもを叩き伏せていたジュリ、ウルトラマンジャスティスが、微笑して空を見上げた。
「コスモス、とうとうお前もこの星にやってきたか。この星でも、人間という生き物は矛盾した存在であるらしい……だが、
お前はそれでも彼らの持つ『希望』を信じるのだろう? だから私も、この星の人間たちの善も悪も等しく見ていられる。
そして、違う世界から来た友人よ……ヤプールに真の宇宙正義のなんたるかを示してみろ!」
セブン、ヒカリ、ジャスティスの想いが込められた光が、三本の流星となってハルケギニアからサハラへと飛んでいく。
たとえ遠く離れていても、その意志は距離を越えてつながっていた。今、エースが力を欲している……短い間でも
この世界で過ごし、この世界の人々と触れ合った彼らは、この世界が守るに値するものだと信じていた。地球と同じように、
いい者も悪い者もいる。だけど、だからこそ人々は一生懸命生きていて、それが美しい。
この宇宙に、これほどまでの多様性を持った惑星はそうはないだろう。それが、百年後、千年後に宇宙にもたらすものは
創造か破壊か……確実な未来などは誰にもわからないが、少なくともこの世界で出会った人たちとの絆はうそではない。
一瞬のうちにサハラを越え、光はウルトラマンAに届けられた。三つの輝きが、エースの頭頂部のウルトラホールに
集中して、虹色に輝く光の玉となっていく。
そして、コスモスもまた、残されたわずかな力をエースに託した。
「ウルトラマンA、この世界を守ってくれ!」
コスモスの光も受けて、虹色の光球はさらに輝きを増した。四人のウルトラマンとエースの力がひとつとなり、限りない
威力を生み出す一撃となる。いや、この一撃には戦いをともに乗り越えてきた東方号やアディールの人々の願いが
込められている。その重さが、独りよがりなヤプールの怨念などに負けるわけがない。
これまで出会い、絆を深めてきた人々の顔が才人とルイズの脳裏に思い浮かぶ。
東方号で共にやってきた、ギーシュたち水精霊騎士隊の悪友たち。バカで陽気な連中がいたから、戦いという
殺伐とした空気の中でも、笑いを忘れずに、後ろをまかせて戦えた。
コルベールやエレオノールたちも、指導する大人として、いろんな背中を見せてくれた。
出来の悪い子供の面倒を最後まで見て、付き合ってくれた銃士隊のみんな。彼女たち鬼教官がいなければ、この過酷な
戦いに耐えられたかどうかわからない。
また、才人は思う。こんな自分に好意を寄せてくれた、鈍いおれでもわかるくらいに純粋な愛を見せてくれたあの人を。
ティファニアは、自分の苛烈な運命に立ち向かって、ついにエルフたちの心を開かせてしまった。それにルクシャナも、
初対面から図々しいくらいにまとわりついてくるあの爆弾娘がいなければ、エルフが人間となんら変わらないということを
知りえずに、ティファニアのふたつの種族の架け橋となるという願いも、叶わなかったかもしれない。
ビダーシャルやテュリューク、自らが罪に問われることも覚悟でネフテスの門戸を開いてくれた理解者たちもだ。
この場にいない人々も同じだ。
ルイズは、母や姉、家族のことを思った。皆が教え、導いてくれたからわたしはここにいる。
トリステインで、普通ならば思いつきもしないであろうエルフとの和解を考え、英断をくだしたアンリエッタ次期女王。
深い悲しみを乗り越えて、この地へ来る翼を与えてくれたベアトリスとエーコたち姉妹。
いろんなときに助けてくれたキュルケやタバサ、彼女たちにはいつも頼りっぱなしだった。
トリステインに帰ったら、魅惑の妖精亭でみんなで一杯やりたい。スカロン店長やジェシカには、いろんな形で元気をもらった。
そうそう、世話になったといえばアニエスやほかの銃士隊のみんなも忘れるわけにいかない。厳しさと優しさ、それらを
両立した、あんな大人になりたいと思う。
誰が欠けてもだめだった。誰がいなくても、今ここにいる自分はない。
変わらず思う、人はひとりでは生きていけない。それだけではなく、ひとりでは人間になることさえできない。
数多くの絆、そして愛。
最後に才人とルイズは互いのことを思った。魔法で出会った、本来会うはずのないふたり、けれどそれを偶然だとか
運命だとか安っぽい言葉で片付けたくはない。今は互いの意思で、共に戦うことを選んだかけがえのないパートナーだ。
だが、流れ行く時の中で、いつまでも同じままではいられない。
この先ふたりがどうなろうとも、未来に新しいステップを求めなくてはならないのだ。
それが今! 積み重ねてきた過去を踏み越え、今に感謝して、未知なる未来を手に入れるとき!
これが正真正銘、最後の一撃だ。五人のウルトラマンの力を結集させた、ウルトラマンAの最大最強の一撃で、
この長い戦いに終止符を打ってやる。
〔いくぞ!〕
エースは掛け声とともに、その手を空に掲げた。エースの手から虹色の雷光が光の玉を中心にほとばしり、エネルギーを
最高潮に上げていく。そのパワーはメタリウムの比ではなく、エースのいかなる必殺技のレベルも軽く超えている。
額から両手のひらに光球を移し、エースは構えた。
受けてみろヤプール、これがおれたちのこれまでの全て、皆の絆の結晶だ。
消え去れ闇よ! 開け、未来への扉! エースは全力で、光の玉をEXゴモラに向けて投げつけた!
続く
今週は以上です。
第二部最終決戦、ついに決着です。いや、長かった、楽しかったけどほんと長かったです。
ウルトラマンと怪獣たち、その存在は子供時代の夢でした。ゼロの使い魔は大人に足を踏み入れてから見る夢の世界ですが、
夢はいつまで経っても心に残り続けるものです。子供の夢と大人の夢の融合、難しいことを考えずにTVの前で興奮した、
あのときと同じ喜びを少しでもお届けできたら、これに勝る喜びはありません。
また、ゼロ魔の担当の恋愛要素ですけど、こちらもバトルパート後に書くつもりです。
では、次回はもう少し二部の続きをお届けします。続きは、今年の盆休は遠出はしないので大丈夫だと思いますね。
以上です。代理投下よろしくお願いします。
583 :
代理投下:2012/08/17(金) 10:13:00.98 ID:aGK9PXnx
以上『ウルトラ5番目の使い魔』95話、代理投下の終了です。
途中規制が入ってしまい、申し訳ありませんでした。
引き続き、『ゼロのレギオン』を代理投下しようと思いましたが、
避難所の方で新規投下された作品のようですし、投下はちょっと様子見します。
お疲れ様!!代理ありがとう!
ついこないだNieRを終わらせたばっかりなので
赤目の塩の軍団かと思っちゃった
>レギオン
50分より投下予定
第14話『失意』
アセルスが宿についた頃、すでに火は宿を包んでいた。
宿の中からも反撃を試みているようだが、状況は芳しくない。
『相棒!宿の食堂のところにタバサとキュルケの嬢ちゃんがいるぜ!』
目もないのに何故見えているのかは分からないが、デルフが叫んでみせる。
「超風」
街路樹を根こそぎ吹き飛ばす強風に、傭兵達は吹き飛ばされる。
術の中でも浪費が激しい為、使いたくないがこの人数相手では止むを得ないと判断する。
「アセルス、ルイズと一緒じゃなかったの!?」
姿を確認すると同時に、キュルケが叫んだ。
食堂から姿を現したのはタバサとキュルケ、エルザの三人のみ。
「ルイズとあの男は?」
「船着場」
「あの娘の婚約者……ワルドって言ったわね、私たちに囮を任せて向かったのよ」
タバサとキュルケが簡潔に説明する。
「エルザ、君は何故ついていかなかった?」
「も、申し訳ございません。ルイズ様にお二人を援護を命じられたので」
ルイズの名を出され、アセルスはそれ以上の追求を止める。
「なら引き続き、彼女達と共に敵を足止めするんだ」
「かしこまりました」
アセルスの命令に即座に返事する。
「私達は足止め役が決定なのね……」
キュルケが軽く愚痴を零す。
最も、ルイズの任務はトリステイン王女の勅令だ。
他国の出身である自分達が、何時までも同伴する訳にもいかないとキュルケ達は承知している。
援軍の傭兵が松明を灯して、向かっている。
タバサはシルフィードに命じて、崖に待機させている。
感覚の同調で上空からの視界を確認していた。
アセルスが姿を消すのを見届けると、キュルケは傭兵に向けて憂さ晴らししようと杖を構える。
「珍しい」
「足止めが?」
キュルケの返答にタバサは首を振る。
「ルイズの婚約者」
端的すぎて分かりにくいタバサの会話。
キュルケはそれなりに長いつき合いなので、察する。
「ああ、口説かなかったから?」
タバサが無言で頷いて、肯定する。
確かに良い男なら、婚約者だろうと誘うのがキュルケの信条。
ルイズへの配慮などと考えるような性格ではない。
むしろからかうのも兼ねて、進んで誘惑するのが彼女の性格だろう。
にも関わらず、ルイズの婚約者であるワルドにはその気になれなかった。
「何でかしらね?顔は合格だったんだけど」
自分でも不思議そうに首を傾げる。
「お二人とも、その辺に。そろそろ来ます」
エルザが二人の会話を遮る。
吸血鬼の夜目には、敵影を既に捕らえていた。
「そうね……さあ、第二幕の幕開けよ!派手に燃えなさい!!」
少女達は呪文の詠唱を行い、迎撃の準備を始めた……
──その頃、宿から抜け出したワルドとルイズは港近くまで到着していた。
「ワルド大丈夫?」
船着き場の階段を昇りながら、怪我の具合を尋ねる。
「あぁ、彼女達に足止めして貰っているんだ。
今のうちに、僕らは追っ手を振り払わないと……」
傷を抑えながらも、階段を急ごうとするワルドが人影の存在に気づく。
「ルイズ!」
前を見るよう注意を促す。
「え?」
ルイズが正面を向くと、仮面の男が行く手を塞いでいた。
杖を向けると同時に、放たれた火球がルイズを目掛けて飛来する。
「危ない!」
ワルドが風の障壁で反らす。
ルイズも反応が遅れながらも、杖を取り出していた。
「錬金!」
ルイズも爆発しかしない魔法を唱える。
しかし、今では幾度となく練習した爆発の魔法。
狙いの正確さを優先した為に威力は落ちるが、それで十分だった。
乾いた炸裂音と共に、男の足場が欠ける。
しかし、人間がバランスを崩すには十分すぎた。
『うぉ!?』
「よし、エア・カッタ……」
ワルドの呪文詠唱は不完全に終わる。
傷の痛みに詠唱の集中が途絶えてしまったからだ。
「ぐっ……!?」
集中し直そうとするが、既に遅い。
体勢を崩した相手のメイジは詠唱を済ませていた。
メイジは仮面の裏でにやつき、渾身のFLAMEボールを放とうとする。
『あ?』
不意に仮面の男が意味のない呟きを漏らした。
彼にはすぐに理解できなかった。
何故自分が倒れようとしているのか。
次の瞬間、男の視界に移ったのは首が千切られた自分の体。
『お、俺の体ぁ……』
仮面の男の悲鳴は最期の言葉となった。
首は階段下へ転げ落ち、体はその場に倒れる。
「ルイズ、大丈夫?」
「アセルス!」
首を切り飛ばしたのは追いついたアセルスだった。
「ええ、大丈夫」
階段を一気に駆け昇っていたので、呼吸は乱れているが怪我はない。
立ち止まったことで、ふと街に来る前に襲撃してきた傭兵を思い出す。
「崖で襲った傭兵が仮面のメイジに雇われたって言ってたわよね?」
「ああ、おそらく宿で襲ってきた連中もだろう」
ワルドがルイズの意見に同意する。
「最も、本人に確認は出来ないがね」
首と胴体が生き別れになった死体を見ての一言。
「言いたくないが、礼は言っておこう」
「構わないわ、貴方を助けた訳じゃない」
やはり馬が合わないのか、二人は険悪な雰囲気に包まれる。
「先を急ぎましょう」
ルイズが様子を見かねたように、誘導する。
二人は目線を交わすこともなく、ルイズの後を追いかけた。
──船の出航予定はなかったが、ワルドが交渉してどうにか発進させた。
積み荷の値段を吊り上げようと渋る船長を、アセルスが脅したりと一悶着はあったが。
「このまま順当に行けば、明日の朝には着くだろう」
燃料代わりに魔法を唱え続けたワルド。
疲労しきった表情で甲板で風に当たっていたルイズの元に近づく。
「うん」
一人でいたい気分故に、素っ気ない返事を交わす。
ワルドはそんなルイズの心情を察せずに、話しかけ続けた。
「緊張しているのかい?」
今度は首だけ振って答える。
任務に緊張していない訳ではないが、今は考えてもいなかった。
「どこか具合でも悪いのかい?」
「ううん、考えごと」
再び否定し、夜空を見上げる。
雲と星しか見えないはずの空に、影が映っていた。
「……何かしら、あれ?」
ルイズに釣られて、ワルドも視線を上に向ける。
「船かな……まさか!」
ワルドが答えると同時に違和感に気づく。
アルビオンが遠のく日に、普通の船が出ているはずがない。
上空から近づいてきた空船が大砲を放った。
「海賊だ!?」
船員の一人が怯えながら叫ぶ。
「アセルス……!アセルスは?」
彼女の姿が見えない。
ルイズの呟きに、ワルドはアセルスが何処に向かったか気付いた。
「まずい!ここで船が落ちたら町に危害が及ぶぞ!!」
空船の操縦は非常に繊細でもある。
操縦士がいなくなれば、船ごと転落しかねない。
もし、アセルスが操縦士を殺してしまったら……
「アセルス!」
最悪の想像にルイズが思わず叫ぶ。
当然、その声はアセルスに届いていなかった。
──その頃、海賊船の内部では一人の男が船長室に向かっていた。
「皇太子様、予定通り船の上に到着しました」
海賊船の個室の扉が叩かれる。
「船にいるときは船長と呼べと言っているだろう」
変装用のつけ髭をつけながら、扉越しに忠告する。
「はっ!申し訳ありません」
「君も甲板に向かえ。私も変装を済ませ次第、すぐ行く」
「はっ!」
短い返事と共に足音が遠のいていったのを確認する。
「ただの海賊じゃないようね」
後ろから聞こえてきた女の声に皇太子と呼ばれた若い男が振り返る。
「何者っ……!」
叫ぼうとするが首を捕まれ、杖をたたき落とされてしまう。
部屋にいたのは宝石のように緑鮮やかな髪をした一人の女性。
しかし、いくら足掻いても微動だにしないほどの腕力で締め上げている。
「詳しく説明して頂戴」
皇太子を掴んでいた女性の正体は、アセルスだった……
──海賊船を制圧し、船から降りてきたアセルスを見て安堵する。
「アセルス、良かった!船を落とすんじゃないかと思ってたわ……」
「その程度の分別はあるわ」
少し拗ねた口調で、ルイズに返す。
「任務も無事終わりそうよ」
「それはどういう意味……?」
アセルスが口にした言葉の意味をルイズが聞くより早く、現れた人物に気を取られる。
姿こそ海賊船の船長のような荒くれた格好をしているが、その顔達には見覚えがあった。
「ウェールズ皇太子!?」
船から降りてきたアルビオンの王子にルイズが驚く。
「君かい、大使というのは?」
ルイズは慌てて手紙とアンリエッタより預かった指輪を差し出す。
「あの……何故、賊のような格好をしているのです?」
ルイズの質問にウェールズは自嘲気味に笑いながら答えた。
アルビオン王族派は既に落城寸前まで追いつめられている。
故に物資を補充するにも、貴族派の運送中に奪わねばならない。
無論、軍の姿で奪う訳にはいかないのでこうして変装していたと簡潔に説明する。
「明後日の早朝、我々は最期の攻撃を仕掛ける。いいタイミングで来てくれた」
懐から王家の紋章が描かれた、小さな皮の袋を取り出す。
「最期って……死ぬおつもりですか!?」
「万に一つも勝ち目はないよ。
貴族派の軍勢は七万以上、我が軍に満足に戦える兵の数は百分の一にも満たないんだ」
包み隠す意味もない為、ウェールズが正直に現状を語る。
皮の袋から指輪を取り出すとルイズから受け取った水のルピーと示し合わせた。
すると、宝石同士の間に色鮮やかな虹が広がる。
「おぉ……!」
感嘆の声を漏らすワルド。
「確かに本物の水のルピーだ、お返ししよう」
指輪を返すと共に、手紙を確認する。
感慨深げに読み進めていたが、内容を知るうちに皇太子が衝撃を受けて固まる。
「アンリエッタが婚約……」
一瞬愕然とした表情を浮かべる皇太子だったが、すぐに切り替えてルイズ達へ振り向く。
「失礼、手紙の件は了承した。
すまないがニューカッスルの城までご足労願いたい。」
ウェールズは部下に命じると、海賊船は雲の中へと消えていった。
──アルビオンの城、ニューカッスル。
ルイズ、ワルド、アセルスの三人は客人としての持て成しを受けた。
まずは任務の手紙を受け取るべく、皇太子の部屋に向かう。
途中ルイズはアセルスの襲撃による非礼を詫びたが、彼は笑って返した。
「いや、見事なものだよ。
兵達に気づかれることなく、私の部屋に忍び込んだのだから」
アセルスの空間移動があれば容易いのだが、無論ウェールズは知らない。
「さて、ここだ」
たどり着いた部屋は王族とは思えないほど質素な作りだった。
あるのは机と数枚の羊皮紙、そしてベッドのみ。
机の引き出しを開けると、そこには擦れきった手紙が仕舞ってあった。
「宝物でね」
そう呟くと、名残惜しそうに手紙を読み返した。
しばしの反芻と共に、手紙を折りたたむとルイズに手渡す。
「手紙は確かにお返ししよう。
今日はもう遅い、何もない城だがゆっくり泊まっていってくれ」
ウェールズ皇太子自らが客室へ案内する。
普通ならばありえない役目にルイズは悟った。
夜分遅いのも理由だろうが、アルビオンには使用人すら満足に残っていないのだ。
「戦闘を前に非戦闘員を乗せて、『イーグル』号が出発する予定が明後日の朝だ。
明日は最期の晩餐として、盛大なパーティを開く。君たちにも是非とも出席してほしい」
「パーティ?」
場違いな単語に、ルイズが聞き返す。
「ああ、滅びゆく王国による最期の決意表明さ。
我らはただ死ぬのではない、栄誉ある敗北を成してみせる」
ウェールズにあるのは死の恐怖でも、絶望感でもない。
王族の義務、そして義務に対する決意だけが込められていた。
「殿下……恐れながら、申し上げたいがございます」
今更何を言ったところで、自分には何も出来ないだろう。
質問の答えが分かっていても尋ねようとするのは、アンリエッタへの言い訳か自己欺瞞か。
「姫様の手紙には亡命を勧める一文がありませんでしたか?」
ルイズは自分の声が震えそうになるのを必死に押し隠す。
「いや、一言たりとも書かれていなかったよ」
ウェールズは平然と嘘をついた。
理路整然と考えれば、ルイズにもそう言だろうと分かっていた。
肯定する訳にはいかない。
亡命を進めたと知れたら、アルビオン滅亡後にトリステイン侵略への大義名分が立つ。
愛する者を戦争に巻き込みたくないから、亡命も行わずに滅亡に向かうのだ。
決して結ばれない悲恋。
だからこそ何も言えなくなってしまう。
「失礼致しました……」
必死に搾り出した声はか細く、今にも掻き消えてしまいそうだった。
部屋に案内されるまで、ルイズは無言で歩く。
足音以外、誰も一言も発さずに沈黙だけが支配する。
「ここだ。何分状況が状況なもので、満足に清掃も出来ていないがご容赦願いたい」
ウェールズが鍵を開ける。
ルイズに知覚する余裕などないが、部屋には埃臭さが充満していた。
おぼつかない足取りで鍵を受け取ると、一度も顔を上げぬまま部屋に入る。
「君の素直さは、我が国の大使には適任だったよ。
もう滅ぶだけの国には、守るべきものは名誉しかないのだから」
扉が閉まる前に告げたウェールズの独白。
ルイズが振り返ると、ウェールズが少し寂しそうに微笑んでいた。
王族としての責務を果たさねばならない彼が見せた、素顔の表情だった。
「貴女もこんな部屋ですまないが、ゆっくりしていって欲しい」
「ええ」
アセルスは短く返し、鍵を受け取って立ち去る。
彼の行動に思う所はあるが本人が決心してる以上、口を挟むつもりも無い。
「殿下、少々よろしいでしょうか?」
鍵を手渡す際、ワルドがウェールズを引き止める。
「何かね?」
「不躾ながら是非お願いしたいが……」
膝を折り、会釈するとワルドは本題を切り出した……
──何も考えず眠ってしまいたかったが、ルイズは夢を見る。
衰弱したルイズに追い討ちをかけるように、アセルスの過去が幕を開けた。
針の城の追跡から逃れるべく、傷つきながら白薔薇を守り続けるアセルス。
逃亡生活を続けるアセルスと白薔薇は、激動の日々にお互いの絆を強くしていった。
また逃亡を続けながら、アセルスは多くの人物と関わる事になる。
ヤルートという下卑た化け物のような執政官の基地に囚われてしまう。
女性を侍らせハーレムに耽る姿は、ルイズの嫌う怠惰な貴族連中にも似ていた。
アセルスなら力ずくでの脱出も可能ではないのかとルイズは考える。
出来なかったのはまだ未熟だったからか、力を振るうのに抵抗があったからか。
その両方かもしれない。
基地が襲撃され、アセルスは襲撃した組織の諜報員だった女性に協力。
脱走後も一息つく間もなく、基地から逃れた先で今度は妖魔に襲撃された。
相手は毒を自在に操る下級妖魔。
城の追っ手ではなく、アセルスの力を狙っての凶行だった。
不意を衝き、人間ならば確実に致死量を超える毒に蝕まれたアセルス。
「そんな……どうして毒が効かねえんだ!」
妖魔がうろたえながら、アセルスに突き立てた爪を確認する。
確かに禍々しい黒色の水滴に濡れており、毒が注がれているのが確認できる。
上級妖魔を下級妖魔の力では殺せない。
鍛錬により力の差が埋まる例もあるが、努力を行う妖魔というのはまずいない。
努力と言うものは妖魔にとっては、評価に値しない無価値な物。
それが妖魔の掟であるとアセルスは白薔薇に教わる。
では、上級妖魔がどれ程の力を持つのか?
ルイズはアセルスの強さは知っていても、上級妖魔同士の戦いを見ていない。
そんな彼女の疑問に答えるように、針の城から上級妖魔が追っ手として現れた……
──現れた妖魔は、今までの妖魔とは格が違うとすぐに気付かされる。
針の城に存在する騎士の中でも頂点に立つ者。
オルロワージュの寵姫にして上級妖魔、高潔な騎士を思わせる佇まい。
「金獅子姫様ですね。私、白薔薇と申します。
姉姫様の御噂は耳にしておりました、最も勇敢な寵姫であったと」
「白薔薇姫……貴女は最も優しい姫であったと評判ですよ。
その優しさで、私の剣が止められますかしら。」
挨拶のようなお互いの会話。
けれども、金獅子はオルロワージュの刺客だと告げる。
アセルスは、白薔薇を守るように二人の目線に割り込んだ。
「戦うのは私だ!」
アセルスは既に剣を構えている。
自らや白薔薇を付け狙う輩から身を守る為に、剣の腕は確実に上達していた。
「ふっ、どちらでも。この剣に屈しなかったのはオルロワージュ様ただ一人……参る!」
口上を終えると共に、金獅子がアセルスの突貫する。
「速……!?」
獰猛かつ俊敏な動きは、名の通り獅子のよう。
脇から見ているルイズですら目が追いつかない程。
アセルスは剣を水平に構えると、かろうじて初撃を受け止めた。
「よくぞ止めた!」
剣が止められた事にも動じず、足払いで追撃する。
強い力で蹴り付けられた為、アセルスが背中から倒れ込んだ。
「チッ!」
アセルスが舌打ちすると、体を転がして剣を避ける。
後少し避けるのが遅ければ、金獅子の放った突きに串刺しにされていただろう。
「むっ!」
不利な姿勢のアセルスを庇うように白薔薇が金獅子に剣を向ける。
白薔薇も好んで力を奮う事は少ないが、中級妖魔だ。
故に並大抵の相手であれば、後れを取ると言うのはまずない。
しかし、剣で挑むには余りに分の悪い相手だった。
金獅子はオルロワージュの寵姫の中でも随一の剣捌きを誇る。
アセルスを援護するように放たれた剣は弾かれ、体勢が崩れてしまう。
「はあ!」
かけ声と共に、金獅子が剣を大きく振りかぶる。
姿勢を崩した白薔薇に避ける手段はない。
「白薔薇に手を出すな!」
体勢を立て直したアセルスが、白薔薇への剣戟を防いだ。
アセルスは金獅子を食い止めようとするが、腕の差は明らかだった。
決してアセルスや白薔薇が脆弱な訳ではない。
二人がかり相手を物ともしない、金獅子の強靭さが異常なのだ。
それでも決して戦う意思を衰えさせぬ二人に、金獅子は剣を仕舞った。
「どういうつもりだ」
アセルスが呼吸を荒げながら尋ねる。
「白薔薇姫、貴女の気持ちはよく分かりました。
私もかつて、その気持ちを胸に抱いていた日々がありました」
金獅子は何かを思い出すように白薔薇を見つめた。
アセルス達と長い時間打ち合ったというのに彼女は息一つ乱していない。
「金獅子姉様……」
「アセルス殿、妹姫を頼みますよ」
アセルスは強く頷くと、金獅子は満足げに後にしようとする。
「御待ち下さい。それでは、金獅子姉さまが罰を受けます」
「構いません、あの方に罰していただけるのならば喜んで罰を受けます。さらば!」
白薔薇の制止にも、金獅子は立ち止まらない。
ルイズは、凛々しい母親の姿を金獅子に重ねていた。
「金獅子姫……気持ちの良い人だったね」
アセルスの呟きに白薔薇も同意する。
「ありがとうございます、アセルス様」
「え、何が?白薔薇、どういうこと?」
突然のお礼に、アセルスは狼狽する。
白薔薇の笑顔はとても眩しいものだった……
──金獅子の襲来から数日後。
意外な人物がアセルス達の前に現れた。
「イルドゥン、今度は貴方か!」
アセルスが刺客と判断して身構えるが、彼は追っ手ではないと言う。
「ラスタバンに言われて、嫌々来てやったのだ。
次はセアトが自分で来る、お前を護れと言われた」
イルドゥンは嫌悪感を隠そうともせず、不満そうに告げた。
「誰も頼んじゃいないよ」
「ラスタバンがセアトにやられた」
同じく不満そうにアセルスがそう言うと、イルドゥンは忌々しげに返す。
「ラスタバンが!彼は消滅したのですか?」
驚いた表情で問いかける白薔薇。
「いえ、幸い消滅はしておりません」
アセルスの時とは正反対な態度、丁重に白薔薇に答えてみせる。
「だが、セアトはラスタバンの力を吸収し、今までよりも強くなった。
傷ついたラスタバンの頼みでなければ、誰がお前なぞを護り来るものか」
イルドゥンが説明を終えると、タイミングを見計らったかのようにセアトが姿を見せる。
「俺はラスタバンの力を吸って強くなった。
オルロワージュ様の血を受けた貴様の力を吸収すれば、或いはあの方にも……行くぞ!!」
確かにルイズが以前に見かけた時より外見こそ変化はない。
異なるのは禍々しさとでも言うのか、嫌な重圧が増している。
アセルス達3人は各々の武器を構える。
「来るぞ!」
イルドゥンの警告と共に、セアトが真っ先にアセルスを狙う。
アセルスとて、ここまで伊達に逃げ延びたのではない。
セアトの一撃を弾くとすぐさま、反撃の準備に取りかかる。
「その力をよこせ!」
力を渇望するセアトの叫びに、アセルスは迷うことなく幻魔で斬り返す。
「あれは……」
ルイズに見覚えがあるのは、ワルドとの決闘で見せた攻撃によく似ていたから。
異なるのは、ワルドの時よりも深く何度も斬り付けている。
一撃一撃が急所になってもおかしく無いほどの斬撃だが、セアトは反撃に転じる。
狩人のようにアセルスの心臓に狙い定め、貫く。
セアトの二つ名は猟騎士、名の通り一度狙った獲物を何処までも追って行く。
「ぐっ!」
常人なら致命傷だが、アセルスは傷を気にする様子はない。
それでも膝をついてしまい、体勢を崩すと血が口から零れる。
「アセルス様!」
白薔薇が治癒の為に駆け寄る。
「邪魔をするな!」
追撃しようとしたセアトが、白薔薇に振り払うように翼を羽ばたかせる。
しかし、その翼に背後から剣を突き立てられた。
「おのれ、イルドゥン!!」
「何故ラスタバンを襲った?」
激怒するセアトの口調に対して、イルドゥンは淡々と詰問する。
「隙を見せた方が愚かなだけだ!」
セアトに一言に何か引っかかるものを感じたのかイルドゥンが怪訝そうな表情を浮かべる。
当然、その硬直を逃すような相手ではない。
「ちっ!」
舌打ちと共にイルドゥンが後方に飛び退く。
後一歩遅ければ首と胴が寸断されてもおかしくない程の勢い。
寸前のところで直撃を免れるも、セアトの剣に大きく後ろに弾き飛ばされた。
イルドゥンが離れた為に、セアトはアセルスに再び狙いを定める。
「何故そんなに力を望む!?」
傷は既に白薔薇の術で治っている。
セアトの一撃を受けたアセルスが叫んだ。
「妖魔と言うのは生まれ持った血と力が絶対だ。
単なる気まぐれで、あのお方の力を受け継いだお前には分かるまい。
誰もが渇望しても手に入れられぬ物を手に入れながら、境遇を拒むような半端者め!!」
「黙れ!私は望んで妖魔になりたかった訳じゃない!」
お互いに許せぬ暴言。
激昂した二人は剣を幾度となく打ち合う。
白薔薇は剣での援護ではなく、何やら呪文の詠唱を行う。
「幻夢の一撃」
白薔薇の妖術により生まれた幻獣がセアトに襲いかかる。
「先住魔法……?」
ルイズが呟くも、答えを返す者はいない。
炎や氷による術はルイズにも馴染みがあった。
だが幻獣を呼ぶ魔法となると、彼女の知識にはありえない。
「おのれ!邪魔を……」
するなと叫ぼうとするより、セアトの肩が後ろから引き裂かれる。
注意が白薔薇とアセルスに捕らわれ、背後のイルドゥンまで向いていなかった。
「貴様……!」
イルドゥンを振り払うように大きく剣を振るが、剣をアセルスに弾かれてしまう。
「はぁああああ!!」
アセルスの慟哭と共に、セアトの心臓に剣が突き立てられた。
「うぉ……ぁ……あぁ!」
突き刺さったセアトの体が、まるで影のように薄れていく。
最後には完全に姿を消し、アセルスが突き立てた剣が地面に落ちる。
「消えた……?」
突然の消滅にアセルスは呆然としている。
ルイズも訳が分からずにいた。
アセルスが追っ手の妖魔を討ち倒すのは何度か目撃したが、今回のように消滅する例は初めてだ。
「お前の方がセアトよりも格が上の証拠だ。
お前の意志が、奴を消滅させた。これが上級妖魔の死だ」
初めて目の当たりにする上級妖魔の死。
イルドゥンの説明を受けて、アセルスはじっと自分の手を見つめる。
「それで、みんながあの人を、オルロワージュを恐れるのか?消滅させられるから?」
「妖魔の時は長い、だからこそ永遠の死を恐れるのです」
アセルスの疑問を肯定する白薔薇。
「私にも、その力があると……何故こんな力が」
「妖魔の君に降臨する者は、邪妖狩りの義務があるからです」
「邪妖狩り?」
白薔薇は妖魔の掟について語り始めた。
「妖魔の掟を外れた者もしくは力が衰えた者は邪妖と呼ばれます。
例えば水妖の姫君『人魚姫』は妖魔でありながら、人間になる事を望みました」
「彼女は人間になれたの……?」
話の続きを促すアセルスに、白薔薇は僅かに躊躇する。
その様子を見かねたイルドゥンが答える。
「妖魔がどれほど力や格を落とそうとも人間になどなれん。
邪妖に堕ちたと判断され、妖魔の君達による処罰として水妖の一族は消された」
イルドゥンの説明はアセルスにとって絶望的な事実。
妖魔が人間に戻る手段など無いと、伝えられたのと同然だった。
同時に、ルイズも自分の認識が甘かったと思い知る。
アセルスとセアトはお互いが心臓に剣を突き刺しながら、結果はまるで異なる。
差は鍛錬や実力ではなく、純然たる格差。
単純にして明快、永遠の命を奪う者と奪われる者。
妖魔にとって絶対視されるのは生まれ持った力と、妖魔としての格のみ。
妖魔の階級制度に異常さを感じるのはルイズが人間だからか。
或いは自分達の貴族社会も、このように行き過ぎたものになってしまうのだろうか。
答えを導き出すのに、一人の少女に過ぎないルイズには荷が重すぎた。
アセルスはセアトが消え去った跡に視線を向ける。
しかし、いくら振り返っても塵一つ残されていない。
「とにかく離れよう、また追っ手が来る前に……」
アセルスがその場を離れようとすると、突然目の前に壁が現れる。
「なんだ、何が起こったんだ!」
アセルスが周囲を探ると、見知らぬ場所に飛ばされたように変異していた。
「とうとう、あの方が自ら御出ましになられたのですわ」
白薔薇は悟ったように語る。
『余に逆らう不届き者たちよ、この迷宮で永遠に彷徨い続けよ!』
アセルスも聞き覚えのある声が響き渡った。
そう、アセルスに妖魔の血を与えたオルロワージュ本人の声。
太陽の日も射さぬ闇の迷宮。
アセルスは白薔薇の手を引いて、階段を降りていく。
螺旋状の階段は長く、底無しの闇に続いているのではないかとすら錯覚する。
「ここはオルロワージュ様が産み出した闇の迷宮。
何かを犠牲にしなければ出ることは出来ないと言われています」
白薔薇の説明を受けて、なおも階段を降り続ける。
足が痛みに悲鳴を上げる頃、ようやく小さな広場にたどり着いた。
同時に広場に誰かがいる事に気がつき、警戒しながら歩みを進める。
「おやおや、こんな所にやってくるとは」
広場には赤いカブにも似た植物型の魔物がいた。
「こんなところで何をしているの?」
会話が通じる魔物にアセルスは続いて質問する。
「こんなところだ、何もする事はない」
ふざけた口調の魔物はルイズにお喋りな剣を思い出させる。
「怒るな。ここの扉のどれかが出口だぞ」
赤カブが誘導した先には、確かにいくつか光が見えている。
すると、夢を見ていたルイズとアセルスに同じ疑問が浮かぶ。
「わかってて、なぜ出ないの?」
「一人では出られないからだ、出てみれば分かる」
当然尋ねるが、赤カブは試すように促す。
アセルスが慎重に出口へと歩む。
白薔薇は俯いており、表情が見えない。
そして、アセルスは出口への最後の一歩を踏み出し……外へと抜けた。
「やっと出られた。白薔薇……どこだ?」
アセルスはすぐに気がつく。
手を繋いでいたはずの白薔薇が見当たらない。
『アセルス様、私は迷宮に残ります』
「何を言ってるの?」
白薔薇の言う意味が理解できず、愕然とした表情を浮かべる。
『これが、あの方に逆らった私の償いです。さようなら、アセルス様』
「待って、白薔薇……白薔薇あああーーーー!!!」
別れを告げる白薔薇に、アセルスは彼女の名前を有らん限りの力で叫んだ。
『アセルス様、自由に生きて下さい。貴女は自由です』
それがアセルスが最後に聞いた白薔薇の言葉だった。
膝を突いて崩れ落ち、涙を流す。
だが、いくら流しても、涙を拭う存在……白薔薇はもういない。
「おい、いい加減にしろ。行くぞ」
迷宮から弾き出されていたイルドゥンがアセルスを見つけ呼びかける。
「あああ……白薔薇……」
アセルスは項垂れたまま顔を上げようともしない。
「チッ、ふ抜けが!」
苛立つイルドゥンはアセルスを置いたまま、姿を消した。
場に残ったのはアセルスと、もう一匹。
闇の迷宮にいた赤カブの形をした妖魔である。
「君は行かないのかい?」
「白薔薇姫さんが迷宮に残ったから私が外に出られた。
姫さんと私の立場が入れ替わった。だから、お前さんの側にいるよ。」
「君が白薔薇の代わり?フッ、フハハハ」
失意から苦笑するしかない。
「ワハハハハハ」
赤カブは空気を読まずに笑い声を上げる。
「すっかり打ちひしがれて、かなり打たれ弱いタイプだね。
白薔薇もどうかしてるよ、こんなのを好きになるなんて。」
アセルスの前に現れたのはゾズマだった。
基地の脱出にも気まぐれで協力した以来の再開。
「白薔薇が……」
最もアセルスには彼の姿すら見えていない。
愛しい者の名前だけを、うわ言のように繰り返す。
「オルロワージュ様が、わざわざ自分で出向いてまで白薔薇姫を取り返そうとしたのも
姫が自分から君の許を去ったのも、それが理由だろう。」
ゾズマは落ち込むアセルスに構わず、ずけずけとした物言いを続ける。
「君が打ちひしがれていたのも、君が姫のことを好きだったからだろう」
「……友達だったし、お姉さんだったからだよ。そう」
ルイズもようやく気づく。
アセルスは白薔薇に対して単なる好意以上の感覚を抱いていたと。
「じゃあ、口に出して言ってみな。好きだって」
「そんなの間違ってる。だいたい私はこれでも女よ。半分妖魔になっても、変わってないわ」
アセルスはゾズマの指摘に頭を振って否定する。
「ふん、くだらないことに縛られているんだな。
姫も言ったじゃないか、自由になれってね」
人の倫理感など関係ないゾズマは呆れた表情を浮かべる。
「あれは、オルロワージュから自由になれって言う……」
「もうどうでもいいよ。
君と話していても楽しくない、行こう」
言い訳にも似た言葉を並べるアセルスとの会話を打ち切って、手を牽く。
「どこへ?」
「どこでもいいんだよ。じっとしていても仕方がないだろう?」
ゾズマは強引にアセルスをその場から連れ出す。
アセルスは後ろを振り替える。
まだ、そこにいつも優しい笑顔を浮かべてくれた白薔薇がいるような気がして……
投下は以上です。
鯖が不安定な中、なんとか完遂
アルビオンには原作より一日早くたどり着いてる設定なのでパーティは次回になります
乙です
乙
嗚呼、このシーンを思い出すたびにいつも思う・・・
「カブが残れや!!」
>>602 スライムと一緒でパーティからも外せないから枠が無駄に埋まるのよね、アレ・・・
投下のみなさん乙です
いずれの作品も今後の展開が楽しみです
アセルスの人乙です
スクエアはカブ好きなのかな
クロノクロスにもカブ出てきたし
乙です。
もしあのカブが召喚されたらルイズ的にはどうなのだろうか?
人語を使う人面カブという時点では貴重だけど……
>>602-603 ルーンをとるともれなく付いてくるスライムと違って
カブは無視すれば仲間にはならないぞ。
モンスター育てるのも面白いのに…まあクーンやサンダーが居るからスライム赤カブはどう足掻いても粗品扱いか
白薔薇は一応、パーティーに残せない事も無かったと思うが記憶違いかも
手順もクソ面倒だった
ビアンカとフローラを一緒に連れ歩く裏技みたいなもんか
当初は白薔薇と同じ外見で色だけ赤い赤薔薇なるキャラが加わる予定だったらしい
同じ外見を持つけど全くの別人をアセルスにあてがうオルロワの嫌がらせだったとか
カブが赤色なのはその名残だそうで
どう考えても赤カブのほうがひでえイヤガラセだよ
赤カブがマンドレイクじゃなくピンクパンチならこんなに「お前が残れよ」と言われることもなかっただろうに
定期サイヤそいや
葛葉ライドウを召喚したらメイジに間違われたりするのかしら?
マントを羽織ってるし使い魔らしきネコ(ゴウトにゃん)を連れてたりするし…
ネコマジン召喚はなかったっけ
しれっとあいつベジータより強かった気が
定期サイヤってなんぞ
ぼんやりとサガフロ繋がりで投下しようと思ってるんだけど
最低1巻ぶんくらいは書きためた方がいいのかな?
まあそのぐらいでちょうどいいんじゃないの
ストックしすぎてるのに感想で矛盾に気がつくと死にたくなるよ
そりゃ書き溜めたほうがいいに決まってる
エタる奴は召喚から決闘までをダラダラやってやる気がなくなる
誰でも知っててワンパターンな
あんたは使い魔
使い魔説明、二つの月で異世界
教室ドカンでゼロ
お決まりの決闘、ギーシュボッコ
これしか書けないなら考えなおすべし
ストックするからこそ普通に矛盾や整合性に気付くと思うんだが
全く推敲しないってんなら別だが
書き溜めした方がいいのは確実だよ
でもすればするほど完結まで投下できなくなるよ
>>608 更に斉王麒麟朱雀という強力なメンバーも仲間に出来るからスライム赤カブ辺りは本当に居場所がないという
>>624 ドランゴ引き換え券の足元にも及ばない地位とはいえ、赤カブだって
あんな迷宮でずっと待ってたんだよ……
闇の迷宮に送られるのはオルロワージュを怒らせた時だから自業自得じゃ・・・
赤カブ
植物獣類、 捕獲レベル1
クーリングオフ不可
幻想のキリカ「制裁・・・!今カブを罵った奴ら・・・制裁・・・!」
マイス君エタってたけどルンファクで他の奴ら呼んだらどうなるのかな
ほら最新作に丁度ハルケ入りしても差し支えのないヤツが
具体的に言うと皇帝が
クゥクゥクゥ……
あの人石ないとただの凡人じゃないですかやだー
キリおり召喚なら面白いかもしれんが…
はて、今週はるろうにの人はお休みかな?
ふと思ったんだけどさ、七巻のアルビオン側七万人って確か三万はアンドヴァリの指輪であやつられたトリステイン・ゲルマニア連合なんだろ?
って事は普通にルイズが出向いて広範囲ディスペルマジック撃てば全員ではないにしろ正気に戻って
大混乱→時間稼ぎ成功→ルイズ普通に帰宅
ってなってたんじゃなかろうか?
町の噂で「魔法かなんかで操られてるのでは?」みたいな事言われてたからルイズの耳に入ってた可能性はあるし、
アンドヴァリの効果が打ち消せるのはゾンビウェールズで実証済みだしさ
可能でも思いつけなきゃ意味がない。
最大展開効果範囲も射程もわからんのに、近付いてってディスペルしろって死にに行くようなもんだな
>>632 その前に、上陸の時のあれこれでルイズガス欠
ディスペルが都合よく弓や砲撃兵器の射程外から攻撃できるほど有効射程が長ければいいが、
飛行船団を全滅させた三巻の全開エクスプロージョンなんかはともかく、ゼロ魔世界の魔法は概して射程が短い
二巻で傭兵たちが魔法の射程外から弓で攻撃している(街中、しかも屋内では弓の射程は十分に生かせないはずなのに)のを見ても明らか
デルフ持ちのサイトなら15mも離れていればタバサがどんな魔法を使っても対処できるらしい(九巻)
1人で7万人を相手取るって普通に考えたら
もう駄目だ、お終いだぁorz
ってなるのに才人ってすごいよなあ
まあ、史実でも32人で4000人を撃退した傑物達もいるんだよね
こっちはマジですごいが
なにそれこわい
史実って、二十四史(笑)とかじゃないよね?
ググったらシモ・ヘイヘか
シモ・ハユハだボケェ
そういやシムナの登場するフィクションが出版されてたよな
極寒のフィンランドから春先のトリスティンに召喚されたら、気温差が凄いことになるな
ユーティライネン召喚とか
男、女どっちでも可
無双クラスのキャラなら、生身でギアを相手にできるグラーフを召喚とか
「ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ、うぬは力が欲しくないか!」
「力?力ならあるわ、始祖ブリミルから与えられた虚無の力がね!」
「しょせんはまがい物の力、我が真の力を与えてやろう」
まあみんなだいたいこんな感じで
>>640 フォルクスワーゲンをフォルクスヴァーゲン言う口やな
既にグラーフ召喚があることはあるな
召喚だけでエタってるけど
グラーフは難しいんだよね、存在そのものや能力がゾハルに依存しちゃってるから
まあ生身の体術だけでも十分チートだけど
いっそハルケの魔法体系が、実はどっからかきたゾハルによるものってすれば面白いかもね
ゼノギアスからならエレメンツの科学漫才コンビとかもイイかも
ほんとキャラが豊富で神ゲーだったよなあ。ややトラウマ喰ったけど
なんだか急に美味しいお肉が食べたくなってきたのね
缶詰をあげましょう。私は結構です^^;
缶詰、ダメ、絶対
韻龍なら普通に食っちゃいそうな気もする
アニエスが過去のトラウマからシステムイド発現とか
コルベール製人間キャノンとかネタには不自由しないな
>>644 ハユハの件は大使館がヘイヘは違うと訂正した有名な件だぞ
そんな一部の人間しか知らないことを言われても困る
ネット上では殆どのニュースサイトでも取り上げられたし、連鎖的にそこから2chやまとめサイトでも取り上げられてたから一部ってことはないだろ
むしろ知らないのはアンテナ狭すぎる奴ぐらいだろ
忘れてる人は多い程度のニュースだろうけど
きめぇ
アンテナ広い奴がこんな辺境にいるわけない
自分の見ているものが世界のすべてだと思っちゃう類の人間だろ
ハユハって訂正されたこと知ってる人間なんてよほどのフィンランドファンか
ディープなネット中毒者の更に一部、軍事ファンの一部ってとこだろうに
659 :
>>654:2012/08/21(火) 13:19:38.23 ID:pS35Ya4x
フィンランドファンでもネット中毒者でも軍事ファンでもない俺は知ってたけどなw
はいはい^^
名前欄に安価書いちゃうだなんて…
安価の書き方は知らなかったようだな
無知を指摘された子供の典型的な言い訳発狂でちとワラタ
流石夏だな
普段は見られねえ
ツイッターでも流れてたしオタ界隈漁ってる人なら知らん人の方が少なそうだけどな>ハユハ
大使館がアナウンスしなくても、以前から発音違うのは指摘されてたから知ってたしどうでもいい問題だ
アル・カポネだってカポネじゃなくて、本来ならカポーンだし
名前で検索してもその件が上位に出てくるしな
アンテナが広い狭い以前のレベル
つーか658の発言が逆方向にも働いてブーメランじゃねえか
知らないのが自分だけでなく皆もだと思っちゃったと
ゼノギアス関連だと、エーテル能力やギアの動力とかはどうなるんだろうか
戦争がなかったら、知られることなかったんだろうな
ケワタガモ猟師のハユハさんとコルッカさん
カポーンワラタ
お風呂ですねわかります>かぽーん
もしかして:ザク>ぐぽーん
こんなに人がいるなら普段からもっと投下に反応してやればいいのにw
>>667 グラーフ「うぬは力が欲しくないか?」
ルイズ「くれるの?欲しいわ、力が!」
グラーフ「よかろう、真の力を与えてくれる!」
グラーフ「我の拳は神の以下略!はぁーっ!」
コルベール「ぎにゅぁぁぁぁぁ!!」
ルイズ「え!?なんでコルベール先生!?」
グラーフ「むぅ…ぬかったか…!あまりに力を与えやすそうな頭が目について手元が狂ったわ!」
緑色の亜人とドラム缶でも送ってやれよ
初回で見せた圧倒的な強さと亜人に生まれついたが故の悲哀、ギアス本編では語られなかったストーリー
貴族などより遥かに高貴で美しい「キング」なら平民差別や亜人蔑視のハルケギニア社会を変えられる!
ドラム缶を召還して延々と押したり元の場所に戻したりするルイズとな?
メカ沢「ドラム缶とは失礼な」
ドラン「まったくナリ」
投下がない……だと…?
ワロタ
活気があって何よりwwww
>>673 緑の人(遅い方)は、ギーシュのゴーレム辺りは無双できるけど
フーケのゴーレムやヨルムンガントにまで投げ技しようとして負けそうだw
なぜかミョズニトニルンを殺した直後に髪の毛が青くなるルイズが浮かんだ
>>680 ルイズ「フフフ…エクスプロージョン、デッドエンドシュート」
ニコ厨乙
投下が無いな
そう思ったときが作者にクラスチェンジするとき
代理待ちがたまってるんだよ
作品を投下しようと思って規約を読んだら違反してた…orz
理想郷に夏厨が湧き過ぎててここなら…と思ったがオリ主はNGなのか…
夏厨同士仲良くしろよ
あと一週間で夏休みも終わりだろ
書きためて推敲してってやってりゃすぐ過ぎるんじゃね
一週間前だけどディーキンの人乙。
ハルケギニアのメイジ達がシュゲンジャって解釈はちょっと目から鱗だった。
そういやヴォイド・ディサイプルなんてのもいたな。
マイナーだが安価で便利なマジックアイテムを大量に活用できてるディーキンは凄いな。
ヒューワードの便利な背負い袋があるなら重量制限もあまり気にしなくていいし。
次回、シエスタとの出会いでシエスタが驚かないか心配です。
クロスものでオリ主って時点で地雷だろ、無個性主人公にノベライズのキャラづけなら公式でいいけど
>>686 どう見てもオリ主な作品投下してるのいるけど面白いから良いらしいし投下してみれば
ドラクエ、メガテン、洋ゲーのRPGあたりの無個性主人公は難しいよね
ディーキンのボスも洋ゲーの無個性主人公か。
クラスは何かな、武器主体っていってたからHFO……いやパラディンとかかな。
それ以前に男なのか女なのかも分かってなかったか。
ノベライズとかされてれば別なんだろうけどね
ゲームだけを元に無個性主人公を書こうとするとオリ主にしかならない
個性が強い事は強いが喋らない(れない)せいで色々解釈されるヤツもオリ主になりやすい
まぁ個性が強くて喋るキャラでも書いてるうちにオリ主っぽくなっちゃうよりかはマシだろうけど
無個性主人公ゲームのノベライズ……吉村夜のメガテン小説シリーズとかがふと思い浮かんだ
無印、U、if...のジンとかVのカミシロとかでもいいが、あえてVのタタラ(ED後)とかだと渋みが出ていいかもしれんw
……といっても、知ってる人が少なそうだがw
>>694-695 はいかいいえしか台詞無い主人公と悪プレイも出来るキャラ作成ゲーム、
それも洋ゲとじゃ無個性主人公といってもノリやらセンスやら違うような
テイルズとかアトリエとかの主人公の台詞選択をディーキンのボスのセンスでやったら変人の出来上がり
ダライアスのプロコとかティアットを召喚してもオリ主になるかな?
一応大昔にコミック化されてるけど
フミカネつながりでバーストのリーガとT2は情報少なすぎだし
無個性でもDQ主人公とかメガテン主人公になると背景設定あるから完全に無個性なワケではないな。
〇〇の生まれで、こんな冒険をして〜とかある程度は決まり事あるし。
過去にどういう経験あって、どういう選択をしてきたかってのがある以上、それを裏切るような性格にはならないし。
でもWizだとか世界樹の迷宮の冒険者みたいなのはこのスレ的にNGなのかな?
ディーキンとか仲間キャラは個性強いけど、主人公はねえ
村人
「私の家にコボルドが立てこもって赤ちゃんを人質に取ってるわ。
夫が入って行ったけど出てこないの、お願い助けて!」
↓
聖人君子な男主人公
「すまない、赤ん坊はこのとおり助けたが旦那さんは既に…。
これからの生活の為に結婚指輪を売る?
いや、大切な指輪を売ることはない。
ここに金貨50枚ある、あなたの夫を助けられなかったせめてものお詫びに受け取ってくれ」
or
人の皮を被った畜生な女主人公
「あなたの旦那はもう死んでたわ、赤ん坊は無事だったけど。
え、返せって冗談でしょ? ただ働きの代償にこの子は貰っていくわ。
今サーイのレッドウィザードが村に来てるし、きっと奴隷として高く売れると思うのよね。
それにあなた、貧乏人のくせにいい結婚指輪してるじゃない?
それももらっておくわ、お礼にあなたはコボルドに勇敢に立ち向かって殺されたってことにしといてあげる(斬殺)」
どっちのプレイングもできるし職業も自由だしで性格が決めにくいなあ
まあSSのディーキンの反応からするに善良型なんだろうけど
DQは昔小説版が出てたな
そういえばあのSSではディーキンのアライメントは何なんだろうな
確か拡張一作目ではカオティック・グッドだったけど
何故か拡張二作目ではニュートラル・ニュートラルに変わってたような…
D&D3rd以降だとコボルドは一般的にローフルな生き物だから、中間まで戻したんじゃないかね?
ま、世の中にはカオティックなドワーフやローフルなエルフも一定数いるんだから、ありえないわけじゃないけど。
>>703
藤原カムイが書いてたDQ7のコミックはオリジナル展開に走った挙句エタったという…
有名なオブリやスカイリムでゼロ魔クロスを夢想してみたけど難しそうね
主人公無個性だし、やってることあくどいからゼロ魔に合わないかな
>>705 7漫画はキーファを異常に贔屓したりロト紋とクロスさせたりする過程でグダグダになっていったような
元のゲームだと生きていたオルテガの父ちゃんを馬に蹴られて死んだことにしたり
とりあえずここのディーキンによるとボスは男で善良、戦士タイプなようだ
まぁ日本のゲームでもシナリオライターによってヘタレとかギャグが寒いとか後半覚醒するとか傾向みたいなのはあるし
善人プレイにしても悪人プレイにしてもシナリオの傾向はあると思った
>>702みたいな感じで悪人プレイだとド外道、善人プレイだと高貴なる行ないの書に則った行動とか
主人公はコボルドのディーキンを助けて仲間にするし冒頭では主人公の仲間がゴブリンの子供を助けなかったので試験に落ちている
もっとも、このゲームじゃ「問答無用、悪人は皆殺しだ」みたいなキャラも作れるわけだが
709 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/25(土) 18:11:41.79 ID:KhKNjuDk
ふと思ったんだが所謂無個性主人公を表現するのに、主人公の台詞や行動を地の文だけで表現して、「」を使わないという手法ならどうだろうか?
具体的には
ギーシュの作り出した青銅の人形―――ゴーレムがこちらへ向かって駆け出す。武器も持たず、ただ突進するだけのそれを見やり、○○(無個性主人公)は溜息を吐きながら得物を構えた。
―――一閃。ただ一振りの斬撃によって胴体を両断されたゴーレムは、地へと崩れ落ち、土へ還る。唖然とするギーシュに○○は事も無げにそれで終いかと尋ねた。
「くっ、平民がなめた口を聞いてくれる…!ならば本気でいかせて貰うとしよう!!」
再びギーシュが杖を振るい、花弁が舞う。その数は六。
ほどなくして六体の青銅人形が立ち上がる。その手には先ほどには無かった武器が携えられている。
ようやく戦いらしい戦いになった。だがまだまだ足りない。青銅人形如きに負けるつもりは無いと言い放ち、○○は武器を構えた。
みたいな感じ。
それで書いたことあるけど話が進むほどにやっぱりオリ主っぽくならざるを得なかったよ
ゴブリンで思い出したけど、神撃のバハムートから最近不遇になってきたゴブリンハンター・ルシウスを召喚、
問題はハルケギニアにゴブリンがいるかどうかだよな。コボルドはいるけど
リリムやラブリーニンフを喚んだらギーシュたちは鼻血に沈むな
>>709 むしろ常にそんな文体の主人公がいたよ。
みんなdeクエストという、今はスクエ二メンバーズで無料配信してるテキスト形式作品の主人公でさ。
プロローグの一文をもってくるとこんな感じ
軽く背嚢を抱え直し、都の方角へと足を向けたその時。
都の方向から、何やら小さな影がまっすぐこちらへ向かって飛んでくる。
(なんだ……?)
反射的に避けようと動いたのだが──貴方の動きに合わせて、影自体も軌道を修正してくる。
がっ、と。
避けきれず、衝突。肩のあたりにちょっとした衝撃が走り──
「ね、ちょっと、助けてよ!」
切羽詰まった声。慌てて視線をそちらへ向けると、肩にしがみつくように張り付いている、体長15センチほどの大きさの、少年とも少女とも取れる人の姿。
その背中からは、細く伸びる薄い膜のような羽が二枚。透明の絹のようにも見えるそれは南海から吹き寄せる暖かな風に吹かれてゆらゆらと揺れている。
「──妖精!?」
「その通り。んで、俺らはそいつにエライ目にあわされた訳だ」
思わず叫んだ貴方の声に、意外な場所からの返答。
前を見れば、恐らくこの妖精を追ってきたらしい、息を切らせた男が二人。手に武器を構え、顔には怒りの形相。
「なるほどな、お前さんがそいつの飼い主かい。んなら、アンタに責任とってもらうか!」
言い捨て、突然襲いかかってきた!
vs 追いかける者
>>703 初期の頃にハーゴンにルイズを、ルイズにシドーを召喚させた小ネタ投下してみたのを思い出した
>>712 連載中のソーサリーはそんな感じでやってるよね。
元ネタがゲームブックだから当たり前っちゃ当たり前だけど
こんばんは、10分後くらいから投下します。
「――虚無の担い手・・・・・・、間違いないらしいですね」
伝説の系統、まさに今証明された。シャルロットは己が眼で見たものは信じるタチだ。
「わたしも・・・・・・知りませんでした、そんな凄い?ものだったなんて」
シャルロットはゆっくりと息を吐く。考えてみれば存在しないとは言えない。
なんせ隣には、その伝説の使い魔『ミョズニトニルン』が既にいるのだから。
「それにしても『先住魔法』が使えるエルフが『虚無』を扱うとは・・・・・・皮肉ですかね」
『先住魔法』。系統魔法とは根源からして違う魔法。人間には使えず、亜人種が主に使う。
吸血鬼やコボルドシャーマン、ジョゼットの使い魔である風韻竜イルククゥも使える魔法。
そして特にエルフ種族が優れていると聞く。杖を必要とせず口語だけで唱える魔法。
系統魔法と同様精神力は消耗するようだが、消費に対して得られる効果は系統魔法の比ではない。
その強力な力によって、数に勝る人類は数千年の長きに渡ってついぞ勝てていない。
そして始祖ブリミル――ひいてはブリミル教徒にとって、エルフは絶対の敵である。
『系統魔法』を扱う人間種族は、『先住魔法』を扱う大半の亜人とも相容れない。
系統魔法でも伝説とされる虚無と、先住魔法を使える――二つの血が流れるティファニア。
彼女は両種族にとって、どういう立ち位置になるのだろうかと考える。
「でも、あの・・・・・・わたしには使えないんです。やり方も知らないですし、ハーフのわたしに使えるのかどうかも」
「えっ?あぁ、そうなんですか・・・・・・」
やや肩透かしを喰らったシャルロットは、ともすると一つの疑問がかま首をもたげる。
杖と契約し虚無を扱え、先住魔法は使えないハーフエルフの少女。
「普通の四系統魔法は使えますか?」
「う〜ん、前に姉さんから教わったんですけど、何故か全然無理でした」
「そうですか・・・・・・」
(デルフ、虚無に必要なものは?)
(あ?そりゃあ才能さね)
(・・・・・・具体的に、どういう?)
(まあメイジであるってこったろうな。詳しくは覚えてねえ、思い出すのはいつも唐突だからなんとも)
デルフリンガーと心の中で会話しつつ、シャルロットは思い直す。
そもそも自分には始祖のオルゴールの音が聞こえない。
昔は父様からのプレゼントだと土のルビーは四六時中嵌めていたし、始祖の香炉も遊び道具にしていた。
――しかし、役に立った試しはなかった。
それにティファニアがブリミルの――虚無の後継者であるなら、さらに何人も発現することはないのかこ知れない。
しかしもう一つ確認しておきたいことがある。
「ティファニアさん、使い魔はいらっしゃいますか?」
「え?いえ・・・・・・いませんけど」
「やり方は?」
「知ってます、試そうと思ったこともあったけどなんだか恐くて・・・・・・」
「今・・・・・・やってみる気は?」
シャルロットは真剣に問うてみる。しかしティファニアは少し考えた後に答えた。
「ごめんなさい」
「・・・・・・いえ、失礼しました。無理強いは出来ません」
当然ながら使い魔は生き物だ。もしも大型の生物でも召喚してしまえば、住む場所や食糧にも困ることになる。
小さな村でそれは憂慮すべき問題となってしまう。生半可な気持ちで出来るものではない。
伝説の使い魔のルーンが、キッドとブッチに刻まれている。
これでティファニアが召喚した使い魔に、伝説のルーンが刻まれていればと思ったが――。
淡い期待に過ぎないことは重々承知している。
仮に自分達がそうだったとしてもあくまで候補だったに過ぎず、ティファニアが目覚めたから用無しになったなんてことも。
それはそれで諦める理由にはなるのだが――。・・・・・・これ以上は確かめようがない。
それよりも目下考えねばならない重要事項がある。
ティファニアが王族で、ハーフエルフで、虚無の担い手で、ルビーと秘宝を所有している。
そんな複雑に絡み合う現況、その対応をどうするか。
公表はもちろん保護も微妙なライン。指輪と秘宝を預かっても出所を聞かれれば困りモノである。
ティファニアのことを話すには問題が山積みだ。
(現状維持が妥当・・・・・・なのかな)
とりあえずこの件は胸にしまっておく。
ティファニアにとって今の生活が一番幸福なことだと思うから――。
残党も記憶を消せば済む。下手すれば血生臭くなるかも知れない状況に、彼女を放り込むわけにはいかない。
まして少女はアルビオン王家による事前処断によって両親を失っているのだ。
「・・・・・・ティファニアさん、つかぬ事をお伺いしますが・・・・・・お金の方はお姉さんお一人で?」
場合によっては多少の援助をしようとも思う。特別銃士としての給与にも余裕がある。
この小さな心に留めておく以上は、村で何かあろうものならティファニアと子供達――。
さらにルビーと秘宝の所在までわからなくなってしまう可能性がある。
そうなれば例え隠していたことがバレなかったとしても、自分の責任であることには変わりない。
現状維持で隠し通すのなら、あらゆる面でフォローする必要性があるだろうと考えた。
「はい、マチルダ姉さんが仕送りしてくれてます。ただ最近は連絡もなくてちょっと心配で・・・・・・。
家を空けることは珍しくないんですが、いつも定期的に手紙を送ってきてくれるのに・・・・・・」
「そうなんですか」
そのマチルダ姉さんとやら、女手一つで孤児院の運営資金を捻出するくらいだ。相当な稼ぎ頭なのだろう。
(・・・・・・うん?)
どうしてだろう、そこまで珍しい名前というほどでもなかろうが何か引っ掛かった。
まるでつい最近聞いたことがあるような気がする・・・・・・。
(――ここって確か・・・・・・)
サウスゴータ地方のウエストウッドの森。ウエストウッド村のティファニアの家。
貴族の娘でティファニアに魔法を教えたのだから、当然その姉さんとやらはメイジ。
マチルダ――。サウスゴータ――。メイジ――。最近連絡がない――。
バラバラのピースがシャルロットの脳内で組みあがっていく。
(うぁ〜・・・・・・)
見た目こそ平静に、シャルロットは頭の中だけで、その頭を抱えた。
そうだよ、そうだ。"マチルダ・オブ・サウスゴータ"。
破壊の杖強奪未遂事件の犯人、"『土くれ』のフーケ"こと"ロングビル"の本名ではないか。
ティファニアは私達が捕まえたことどころか、まだマチルダが投獄されたことも知らないのだろう。
いやそもそもフーケの活動そのものを知らないような雰囲気だ。
つまるところ私達が捕えたことで、結果的に孤児院の皆を路頭に迷わせることになってしまう。
(・・・・・・しかしまぁ、何の因果なんだろう)
ある種の出来過ぎた偶然。まるで何か引力のようなもので惹かれ合ったかのような――。
フーケは犯罪者だ、同情の余地はない。ましてあれほどのゴーレムを創れる術者であるのなら。
盗賊行為などしなくても稼ぐ方法はいくらでもある筈だ。
強力な土メイジや水メイジはいくらいても困らない。
特に治癒全般や錬金・ガーゴイル作成などは、ただ魔力が有り余るだけでは意味を為さない。
ゆえにシャルロットの膨大な魔力を地下水が利用したところで限度がある。
重要なのは絶対的なセンスと経験であり、30メイル級のゴーレムをあっさりと創る実力は当然重宝されるレベルだ。
私達がフーケを捕えたのも正当な防衛行為であり、何一つ負い目を感じる必要はない――。
・・・・・・筈なのだが、純真無垢なティファニアを見ていると、どうしようもない罪悪感に駆られる。
(正直に・・・・・・言ってしまおうか?)
シャルロットは自問する。ティファニアとていつまでも甘えていられない年齢だろう。
遅かれ早かれ知ることになる。姉はもう戻ってこない――帰ってこない。
今の内に告げておくべきなのだろうと決意しようとした時。
考え込んでいるシャルロットに、ティファニアが上目遣いで覗き込んでくる。
「あの・・・・・・シャルロットさん。その、お友達になってくれませんか?」
(ぐぅ・・・・・・)
シャルロットは声を押し殺して呻く。どうしようもないくらいに機先を制された。
「わたし・・・・・・同じくらいのお友達がいなくて、折角会えて・・・・・・」
なんともはや、可愛い生き物なのだろう。子供達だけでなくティファニアもまた在りし日の妹を想起させる。
ジョゼットはもう割とすれてしまっている――もっともそれはそれで可愛いのだが。
ティファニアのそれは、子供のようなそれなのだ。穢れなき乙女のそれ。
こんなに必死に声を絞り出し、懇願するような瞳を浮かべるの少女。
彼女に残酷な現実を突きつけることなど・・・・・・出来なかった。
「・・・・・・はい、友達になりましょう」
ティファニアの顔がパァッと明るくなる。
「ありがとう!!テファって呼んで。あなたはえぇと、シャルロットだから・・・・・・ろ・・・・・・ロティでいいかしら?」
「えぇテファ」
「やった!ロティ!!」
う〜ん・・・・・・可愛い。本来の美しさも相まって、存在そのものに圧倒される。
こんな彼女は絶対に汚せない。友達として、愛称で呼んでくる彼女の笑顔を曇らせる行為など。
"『キャベツ畑』や『コウノトリ』を信じている可愛い女のコに、無規制の官能娯楽本をつきつける時の様な下卑た快感"。
なんてことは微塵にも思わせないほどの神々しさすら感じ入る。
ほんの少し前には殺し合いをやっていたから、なおのこと癒されるものであった。
「ついでです・・・・・・キッドさんもお友達になったらどうですか?」
「えっ」
「えっ」
何の気なしの言葉にキッドとテファが揃って驚く、お互いに想像してなかったのだろう。
強盗団だった粗野なオジサンと、村で子供達と平穏に暮らす優しい少女。
さながら対極にいるような二人である。
元々ティファニアは母を無惨に殺されたことからも、大人の男性に恐怖心を持っていた。
シャルロットが頼んだこととはいえ、残党相手の暴力も間近で見ていた。
簡単に「お友達」と言うにハードルは高かった。
キッドにしても少女と友達なんてガラでもない。
「・・・・・・失礼。それはおいおい慣れてからでいいですね。テファ、何か書くものある?」
ティファニアは頷くとすぐに席を立って紙と筆を持ってくる。
シャルロットはそこに自分の所在地、学院と首都にある家の詳細を書いた。
「私の連絡先。さしあたって手紙のやりとりでも。何か困ったことがあたら遠慮なく言って」
「うん!!」
ティファニアもウエストウッド村へのことを書くと互いに交換する。
シャルロットの心が少しだけ痛む。
"友達"という名分で、常に情報を把握しようとする打算的な行為。
もちろん友人としての交流も含まれているが、それでも計算を含めた行動。
「それで・・・・・・アルビオン王室と始祖のルビーと秘宝のことは、とりあえず預けておくことにする」
「いいの?本当に?」
「私が判断出来る領分を超えてるし、それにテファも今の生活がいいでしょ」
「うん、子供達がいて、姉さんがいて、それにお友達も出来た。今のままがいい」
テファの声にはいずれそのままではいられないだろう憂いが含まれていた。
シャルロットとしてはそれだけわかれば十分であった。
「報告しようにも環境が特殊過ぎるから、今はまだ内密にしておく。
キッドさんも・・・・・・ここは三人の秘密ということでお願い出来ますか?」
「まあ・・・・・・それは全然構わないけど」
キッドの目が「いいのかい?」と言っている。それは多分な意味を含んでいた。
「幸せは――かけがえのないものですから」
己を重ねるように言うシャルロットに、キッドはそれ以上何も言わずに納得してくれたようであった。
今の幸せが崩れることの恐さは、つい先刻に身に沁みていた。
ただでさえ辛く生きてきたであろう新たな友達を、この手で追い詰めるなど出来ない。
(あとは・・・・・・)
マチルダ、捕えられているフーケのことだ。
盗賊行為を繰り返した大犯罪者ではあるが、殺人行為は犯していないと聞く。
あんなゴーレムにまともに相手出来る者など早々いない上に、用意周到だったからそれも当然であった。
ルイズ、ブッチ、キッドへの殺人未遂行為こそあるのだが――。
実際に危害が加わってはいないから、どうあっても絶対に取り返しのつかないことでもない。
それにワイルドバンチの二人も元は凶悪過ぎる無法者。裁かれぬままこちらの世界にやってきている。
シャルロット自身たった今、隠匿行為を行おうとしている。ある種、王家への背信行為にも近い。
(望みは・・・・・・薄くない)
テファに伝えるのは駄目だとわかった時でいい。それまではやれることをする。
あれだけの術者を遊ばせておくのも少し勿体無い。此度の諸々も利用出来る。
考えもまとまったところで、シャルロットは椅子から立ち上がった。
「それじゃ・・・・・・テファ、私達はあの男をなるべく早めに引き渡さなくちゃいけないから」
何よりもウェールズ一行に連絡もしなくてはいけない。
「わかったわ、お手紙出すね」
「えぇ、待ってる。けれどもしかしたら、またここに戻って来ることになるかも――」
†
改めてウエストウッドの森そのものの記憶を消したセレスタンを軍馬に乗せる。
シャルロットも乗ると、キッドは引き続き借り受けた老馬の方へと乗った。
首都と港町ロサイスの間にある、シティオブサウスゴータへと馬を走らせる。
ウェールズらに状況報告を終えて判断を仰いだ結果――。
残党の処遇に関しては、現王陛下ジェームズに任せれば良いとのことであった。
羊皮紙に羅列された貴族の名も洗い出してくれるそうだ。
(これで一段落か・・・・・・)
シャルロットは馬上で一息つける。考えるべきことは多く後悔すべきことも多い。
シティオブサウスゴータへと到着するまでの時間、ゆったりと悩んでいこうと・・・・・・。
シャルロットは蒼天を仰いで独りごちた。
†
「――おう・・・・・・あぁ・・・・・・」
ロサイスにある宿屋の一室のテーブルに足を投げ出しながら、ブッチはキッドと話していた。
「そっちはいいな、楽しそうで――」
ブッチは笑う。大変な目に遭ったキッドへ向けてだけでなく、自嘲的にも。
正直退屈過ぎた。情報漏洩を防ぐ為にと、ロクに外出も出来ない。
宿屋の一室で酒をあおるしか出来ない。それすらも控えめにと釘を刺されている。
パレードなんて面倒だと分かれたが、こっちも面倒臭さで言えばそこまで大差なかった。
「――あぁ大丈夫だろ、恐らくな」
そう言って次は会話相手がシャルロットに変わる。
「よう・・・・・・――あいよ、了解」
ブッチは立ち上がる。ウェールズへの報告の為に部屋まで行かねばならない。
まるで小間使いのような扱い。一応極秘の特使であったし、今は名目上護衛だ。
雑用も今更と言えば今更であり、渋々ながらも受け入れている。
しかしキッド達と比べて仕事と言えるのか。あまりにもやり甲斐がない。
僅かに10人ばかし、ウェールズと側近3名、トリステイン特使4名、そしてルイズと自分で10人。
護衛には少なすぎるが、ほんの一日二日程度でも街中で息を潜めるには多すぎる。
隠れる生活はワイルドバンチの頃に慣れていた。今の状況はあらゆる点で杜撰としか言いようがない。
それでも特段進言しようとは考えない。ドンパチともなれば暇潰しにもなるし、報酬にも繋がる。
通信連絡用携帯魔道具人形を持ったままブッチは部屋を出る。
兎にも角にもようやく動ける時が来たことを喜んだ。鈍って怠くて仕方ない。
ブッチはウェールズが泊まっている部屋の前に立つと、粗雑にノックする。
「どなたですか?」
「キャシディだ」
『ロック』によって厳重に鍵を掛けられた部屋の解錠を確認するとブッチは中へと入る。
「臨時報告だそうだ、詳しくは本人らから聞いてくれ」
ブッチの横柄な態度に隣にいる側近の一人であるパリーが睨みつけてくるが気にしない。
既にウェールズは認めていることであった為、老メイジも苦言を呈するようなことはなかった。
「臨時?何かあったのか。すまないがキャシディ殿、それとパリー、皆を集めて来てくれないか?」
「・・・・・・了解」
「わかりました殿下」
ウェールズは投げてよこされた人形を掴むとすぐに話し始める。
ブッチは既に事の仔細を聞いている。ウェールズの驚愕の声を背後に残し、ブッチは部屋を足取り重く部屋を出ていった。
†
シャルロットとキッド率いる影武者集団から、遅れて出発した本物のウェールズ一行。
もしも道中で影武者の一団が壊滅するようなことがあれば即応せねばならない。
よって早々に大陸から脱出することもなく、隠れるように、偽物一行からつかず離れ過ぎずを保っていた。
そうして身を晒すことのないよう、少人数で遠く回りつつ行程を消化していった。
そして昨夜の段階で一足早くロサイスへと到着。影武者達を宿にて待っていた。
はっきり言って、傍から見れば異様な集団以外の何者でもない。
普通人を装いつつも慣れぬ所為か不自然さが目立つ。貴族のくだらないプライドも邪魔しているのだろう。
平民に擬態しようと努めることが、逆に挙動不審さを際立たせている。
唯一シャルロットの父親であるシャルルだけは、慣れているのかそつなくこなしていたが――。
八割を占める怪しい連中が広くもない部屋に集まって、ひっそりと今後のことを会議していた。
内容はつい数刻前に影武者の一団が壊滅したということ。
首謀者の貴族の名と、捕えた残党は現アルビオン王陛下であるジェームズ一世に任せる。
目下は自分達がこれからどう行動するのかということであった。
襲撃はいずれ国中に広まる。ならば今は新たな襲撃を恐れた体で、隠れてアルビオンを出るのか。
逆に大手振って危機を乗り越え、ロサイスへやってきたように見せて大々的に喧伝するのか。
どちらに転んでも整合はつけられる。だからこそ話し合うにも時間が掛かった。
結局は隠れて脱出することに決定する。
ここまで順調に影武者が引き付けてくれた以上、無事脱出するのが肝要であると判断された。
一度出て街へ入り直すには、目撃者にも注意せねばならない。
貴族派に生きていることを知らせてしまえば、また新たな危険が発生しかねない。
噂は遅かれ確実に伝わるのだから無理はしないという判断に落ち着く。
影武者によるパレードのおかげで支持も上げていて、既に必要充分であった。
†
陽も落ちかけた頃に臨時に船を出し、一行は無事乗り込んでアルビオンを脱出した。
帰りがけのアルビオン大陸もそれはもう圧巻であった。
今まで自分達が立っていた大地から離れていく姿は、どこか夢心地な気分にさせられる。
「二人は大丈夫かしら」
「そりゃ連絡あったんだから大丈夫に決まってんだろ」
「そうだけど・・・・・・なんとなくよ」
ルイズの引っ掛かりも仕方ないともブッチは思う。
物事が上手く運びすぎる時、大抵人間というものは逆に不安になる。
光があれば影があるように、幸運・不運はどこかで帳尻を合わせようとするのではと考えてしまう。
(まあ・・・・・・大抵ロクなことにならんな)
ブッチは経験からそう思った。単純な確率の問題でもあると。
物事を幸・不幸という大きく二つの両極に切り分けて見れば、それはコインの表と裏と似ている。
連続で表ばかりが出続けること・・・・・・決してありえないとは言えないが、大概どこかで裏目が出るものだ。
(しかもそういう時に限って、それまでの勝ち分が引っくり返るくらいの・・・・・・な)
そんなことを思いつつ遠くを眺めていると、双月が照らす夜闇の中に何かが映り込んだ。
長年の勘か、嫌な感覚にブッチは銃を握った。
ガンダールヴの力によって強化された視力でよく見れば――それは一隻の船であった。
「おう」
「なによ」
「この船は臨時の特別便だよな・・・・・・?」
「そうね、それがなに?」
確認するまでもないことではあった。
港でのやりとりは朧げながらも見ていたし、乗っているのも自分達だけだ。
基本的に他国からアルビオンに行く為の船は、大陸が最も近付く時に限定されると言う。
船の動力源たる貴重な『風石』の消費を抑える為だとか。
当然アルビオンから他国へは、高所から低地への移動の為に消費は抑えられる。
しかしそれでも距離による消費は馬鹿にはならないので、定期船の数は少ない。だからこそ臨時に出したのだ。
それなのに自分達が乗る船よりも後方に、船が見えるということの意味。
「遠くに船がいる」
「えっ?それって・・・・・・」
ルイズは続く二の句と共に生唾をゴクリと飲み込むと、ウェールズ達へ知らせに走った。
「ヤベーな、ヤベーよ」
頭が冷徹に現状を把握しながら、ブッチの口から焦燥が漏れ出ていた。
以上です。
容量も残り僅かとなりましたので次スレ建ててきます。
投下とスレ立て乙
ドリフターズの人、投下・スレ立て乙です
これからウルトラの代理行かせてもらいます。
…ってもう次スレ移行時期でしたね。投下は次スレで行います。
AA埋めは禁止っての知らないのが沸いてるよな
投下とスレ立て乙です
同人ショップ行ったらコミケ終わったからいろいろ新作入ってたな
何冊かゼロ魔の薄い本発見
ジャネットのとか出て欲しいわ
そういやブロントさんもキャラ作成ゲーム出身の人だけど
無個性どころか都市伝説が一人歩きしたような存在になってるな
時代は忍者
全裸忍者か
メイジスレイヤーとかいらないから
メイジマッシャーじゃなかったっけ?
忍者といえば某覆面兄さんが浮かんでくるぞ
なんの、通りすがりのサラリーマン忍者もだよ
ninja・・・
「壁に耳あり障子に?」
メアリー
書き込むの我慢してたのにっ!
ミザリィには姉妹がいる
イワザリィとキカザリィだ
知らんがな
>>732 今広まってるのは一部の東方厨が歪めた似たような何かだよ
HEROES of Might and Magic シリーズからの召喚は無いのか
ミストレスはねぐらが無いので不機嫌になった
トロルはヒマすぎて不機嫌になった
ホーニーは爆破されて怒っている
忍者……カクレンジャーを召喚しちゃOUZE!!
>>750 だったら講釈師のあの人を召喚してみますか