あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part311

このエントリーをはてなブックマークに追加
1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。



(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part310
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1335712027/


まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/




     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!




     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。





.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/21(月) 16:19:05.06 ID:qacGoEDC
もうしわけない、残り容量見てなかったorz
改めて最初から
3ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:19:47.59 ID:qacGoEDC
 第八十八話
 わたしが生まれてきた意味
 
 タコ怪獣 ダロン
 宇宙同化獣 ガディバ
 大蟻超獣 アリブンタ
 友好巨鳥 リドリアス
 高原竜 ヒドラ
 磁力怪獣 アントラー
 海獣 サメクジラ
 宇宙海人 バルキー星人
 オイル超獣 オイルドリンカー
 古代超獣 スフィンクス
 さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!
 
 
 ウルトラマンAは、その生涯において五指に入るような激戦を、いままさに始めようとしていた。
 
 エルフの都、アディールを襲うヤプールの超獣軍団。かつてエースやウルトラ兄弟を苦しめた多くの強豪の蘇ったものたちは、
ヤプールの強烈なマイナスエネルギーの波動に当てられて、圧倒的な凶暴さでこの地のエルフを根絶やしにしようとしている。
 
 それに対して、立ち向かうのはエースひとり。
 
 一体でさえ、ウルトラ戦士と互角以上のパワーを持つ悪魔たちに対して、今のエースにはこれまで支えてくれた人間たちもなく、
まさに孤立無援の四面楚歌。だが、それでもエースは完全なる闇の中の太陽となるために戦いに望む。
 まずは、肉食の蟻と宇宙怪獣が合成して誕生させられた大蟻超獣アリブンタが相手だ。エルフの少女の血をすすろうとして
妨害され、怒るアリブンタにエースは立ち向かう。
 
「ヘヤァッ!」
 
 アリブンタと組み合ったエースは、渾身の力でその突進を食い止めた。身長五十七メートル、重量六万二千トンのアリブンタの
突進を止めたことにより、エースの全身のウルトラ筋肉が張りあがり、エースの立つ学校の校庭の土が跳ね上がった。
〔さすが、パワーアップさせられているな!〕
 かつて戦ったアリブンタよりも数段上の力に、エースは前のままのつもりで挑んでは危険だと気を引き締めなおした。これも、
強大化したヤプールのマイナスエネルギーゆえか、力負けするほどではないが空腹でこのパワー、絶対に倒さなくてはいけない。
だがその前に、餓えたアリブンタがエサとして狙うエルフたちを守らなければと、エースはまだ大勢のエルフの子供たちの
残っている学校を見下ろして決意した。
「ジュワァァッ!」
 組み合った姿勢から、渾身のウルトラパワーでアリブンタを頭上高く持ち上げる。
〔とにかく、こいつを学校から遠ざけなくては!〕
 ウルトラリフターでアリブンタを担ぎ上げたエースは、戦場を移すべくアリブンタを放り投げた。巨体が宙を舞い、学校から
数百メートル離れた無人の通りに地響きをあげて背中から落ちる。その衝撃たるや、アディールの基礎となる埋め立てた
大地が沈没するのではないかと思われたくらいだ。
4ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:20:48.03 ID:qacGoEDC
 見事に舗装された、コンクリート敷きのような道路を駆け、エースはアリブンタに突進する。
「トォーッ!」
 助走をいっぱいにとったジャンプキックが炸裂し、起き上がってきたアリブンタが再度吹き飛ばされる。タケノコが二本背中に
生えているような巨体がビルディングに似た建物に突っ込んで粉塵を巻き上げ、起き上がってきたときの逆襲に備えるべく
エースは身構える。
 だが、エースの出現にヤプールは敏感に反応していた。街の一角が崩れて、灰色の砂煙が土中から噴煙のように吹き上がる。
〔こいつはっ!〕
 エースの眼前で、地中から巨大なハサミのアゴを持つ甲虫が浮上してくる。才人は叫んだ。
〔アントラーだ! くそっ、いきなり二対一かよ〕
 リドリアスに押さえられていたはずのアントラーの出現に才人は唇を噛んだ。地底を通って、いきなりエースの目前に
来たのは偶然ではあるまい。恐らくヤプールは、どの超獣のところにエースが現れても複数で対処できるよう狙っていたに違いない。
〔落ち着け、どっちみち多勢に無勢は覚悟の上だ。ほかの超獣もやってくる前に、勝負をかけるぞ!〕
〔おうっ!〕
〔ええっ!〕
 どっちみち、ウルトラ戦士に長期戦は不可能なのだ。この街にいる超獣怪獣は、現在のところだけで七体。そのうち
スフィンクスとサボテンダーはヒドラとリドリアスが押さえてくれているが、同時に相手どれるのはせいぜい二体までが限界だ。
それも、一体はあのアントラーとあってはこの時点ですでに余裕はまったくないと言っていい。
〔いくぞ! お前たちの好きには絶対にさせん〕
 アリブンタとアントラー、二匹の蟻地獄怪獣を相手にエースはひとりで立ち向かっていく。
「ヤアァッ!」
 大アゴで噛み付いてきたアントラーの攻撃を大ジャンプで避け、降下してきて背中にキックを叩き込む。
 次いでアリブンタは口から白色の霧を吹き出してきた。それを浴びた建物が一瞬のうちにボロボロになって溶けていく。
蟻が体内に持ち、外敵などに対して使用する蟻酸という酸の仕業である。ただの蟻なら噛まれたら腫れる程度で済むこの酸も、
アリブンタのものは鉄でも一瞬で溶かし、人間ならばあっというまにガイコツに変えてしまうほどの強烈さを持っているのだ。
〔だが、当たらなければ危険はない!〕
 自分に向かってきた蟻酸の霧を、エースは両手を合わせた先に吸い込んでいく。
『エースバキューム!』
 いかなる毒ガスをも無効化できるエースの技に、一度見せた攻撃は通用しない。
 さらに、エースは蟻酸を吐き切ったアリブンタの顔を目掛けて、伸ばした右手の先から三日月型のエネルギー光弾を発射した。
『ムーン光線!』
 連続発射された三日月の弾丸はアリブンタの顔面に次々と当たり、牙や複眼に少なからぬダメージを与えた。
 一時的に感覚を失ってもだえるアリブンタ、普通ならここで追撃をかけるところなのだが、その隙を埋めるようにアントラーが
大アゴを振りかざして迫ってくる。エースはその牙を受け止めて、真っ向から食い止めた。
〔パワーの勝負なら負けはしないぞ!〕
 挟み切ろうと力を込めるアントラーと、逆に押し返そうとするウルトラマンA。ウルトラマンの骨の強さは人間の五千倍、間接は
三重に強化されているといわれ、超筋肉が生み出すウルトラパワーを十全に引き出して、どんな巨体の怪獣を相手にしても
壊れることはないという。
5ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:21:16.61 ID:qacGoEDC
「ヘアァッ!」
 アゴを受け止めた状態からのキックがアントラーの腹を打った。のけぞるアントラーだが、やられるときにその反動で
エースも反対方向に吹っ飛ばした。
 エースとアントラー、それぞれが背中から石造りの建物に倒れこんで、子供が積み木を組んだもののように崩壊させる。
 だが、街の崩れる様を見て、エルフたちはエースに非難の声を浴びせた。
「ばっかやろーっ! 私たちの街を壊すな。暴れるならよそでやれバケモノども!」
「そうだそうだ! 死んじまえ、この悪魔どもめ!」
 エースは心の中ですまないと詫びた。怪獣を食い止めるためには仕方がないとはいえ、彼らにとっては自分たちの街が
破壊されていることには違いないのだ。気をつけてはいても、狭い街路だけで戦うのは無理がある。無人とはいえ、ウルトラマンと
二匹もの怪獣超獣の対決は、すでに街の一区画を瓦礫の山に変えていた。
 けれど、守るべき人たちから非難を浴びせられることには、特に才人とルイズには堪えた。人のためにやっているのに、
それが通じないむなしさは若い二人にはつらい……けれど、エースはそんなふたりに諭す。
 
”ふたりとも、この世の中には誰にも褒められなくても、大勢の人のために毎日を一生懸命働いている人が大勢いるんだ。
そんな人たちは、名誉や見返りを求めているわけじゃあない。ただ毎日の、普通で平和な日々をみんなが送れるようにと
願って、ときには嫌われたりしながらもがんばっている。そんな人たちを、君たちは見たことがないかい?”
 
 才人は考えた……思い出すのは、父と昔遊園地に車で遊びに行ったときに、その途中父が一時停止違反で白バイに
捕まって違反キップを切られたことがあった。そのおかげで、遊園地に着くのが遅れてしまって、そのときは子供心に警察を
恨んだのをよく覚えている……けれど、今になって思えば、あのときキップを切られて嫌な思いをしたおかげで、父は交通法規に
気を使うようになり、今日まで無事に過ごしてきた。
 もしもあのとき、白バイに会わずに、父がその後も安全を軽視する運転を続けていたらどうなっただろうか。
 ルイズも思う。小さい頃、メイドや執事にさんざん小言を言われて彼らをうとましく思い続けてきたが、それは自分のためを
思ってのことではなかったか。ただ報酬が目当てであれば、貴族の子供のかんしゃくにさわるようなことはしなかっただろう。
 使命感や善意を、無知ゆえに反感を持って迎えてしまったことは自分たちにもあった。まさしく無知の怒り……そして、
彼らエルフのほとんどはウルトラマンの存在そのものを知らないのだ。それを思えば、罵声の百や二百がなんだろう。
けなされたくらいで、別に身が削れるわけではないだろう。
「テヤッ!」
 学校に向かおうとするアリブンタの前に、エースは正面から立ちふさがる。
 今は理解してもらえなくてもいい。けれど、かけがえのない命だけは絶対に守りぬかなくてはならない。それが、
ウルトラ戦士の誇りなのだ。
 
 
 だが、志だけでは人は救えない。
 海に追い出されて漂うエルフたちを救おうと着水した東方号。しかし、エルフたちは人間の船に乗ることを拒絶し、
怒りと憎しみの矛先をそのまま人間たちにぶつけてきた。
6ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:21:47.75 ID:qacGoEDC
「この、汚らわしい蛮人どもめ! アディールの美しい海を汚しおってからに」
「西の地だけでは飽き足らず、とうとうサハラまで侵略に来たか。お前たちの蛮行の数々、忘れると思うか!」
「私の父はお前たちが侵略してきたときに死んだのよ。よくも、シャイターンの信奉者どもめ」
 東方号の甲板で、ビダーシャルたちわずかな穏健派を挟んで、アディールの市民たちの悪罵の数々が人間たちに降り注ぐ。
そのいずれもが、戦士でもないただの市民たちから発せられ、エルフの一般層に自分たち人間がどう思われているのか
知らしめさせられて、人間たちは心を傷つけられた。
(バカ野郎たちめ、せっかく助けに来てやったのに。この船に乗らなきゃお前ら助からないんだぞ)
 心の中でそう叫びたい欲求が強くなっていく。特に、貴族の子弟として誇り高く育ち、この任務にも強い使命感を持って
望んできていた水精霊騎士隊は強い屈辱感を味わっていた。
「こいつら……ぼくらは世界の平和を守るために命がけで戦ってるんだぞ。それなのに、この言い草はどうだ!」
 罵声にかき消されて聞こえないが、誰かがつぶやいた言葉が水精霊騎士隊の胸中を包み隠さず表現していた。
 ギーシュが歯軋りしながら薔薇の杖を握り締め、ギムリが靴のかかとで甲板を蹴った。
 ほかにも、つばを吐き捨てようとして思いとどまる者、杖に『ブレイド』の魔法をかけようとして、その手を自分で押さえる者など
彼らの我慢は限界に近づいていた。
「ちくしょう」
 甲板に立つエルフの誰かが投げた物が人間たちの頭上に落ちる。水精霊騎士隊はわずらわしそうにそれを払いのけ、
銃士隊は身じろぎもせずに無表情のままで体で受け止める。
(あなたたちは何故怒らないんだ?)
 水精霊騎士隊の少年たちは、水筒やペンのインキをぶちまけられても顔色ひとつ変えないミシェルたちを見て思った。
そして、師匠筋に当たる彼女たちとの差を思い知る。いくら普段は大人気ない態度をとっていても、戦場となったときの
悠然さはどうか。感情を押し殺すのが精一杯の自分たちには、とてもできない。
 なにを言われようと、絶対に手を出してはならない。それを自分たちに言い聞かせ、ギーシュたちは我慢する。
 だが、人間たちの無抵抗を、エルフたちは好意的には見なかった。さすがに評議会議員や騎士団のいる前で魔法を
撃つような無謀な者はいなくとも、表だって言い返すことのできない人間たちへの暴言はエスカレートしていく。そして、
人間たちの意向を知って、なんとか彼らを受け入れさせようと説得を続けるビダーシャルやテュリュークの言葉も、
人間を無条件で敵とみなすエスマーイルに邪魔されてしまう。
「市民の皆さん! 悪魔の言葉にだまされてはなりませぬぞ、奴らが我ら砂漠の民にしてきた暴挙と侮辱の数々を
思い出すのです。我らの正義は、シャイターンの信奉者どもをこの世から抹殺し、真の平和をもたらすことにあるのです」
「エスマーイル……貴様の頭には、それ以外の言葉が詰まっておらぬのか。馬鹿が」
 もはや説得する気もうせたとばかりに、ビダーシャルは嘆息とともに吐き捨てた。
 口を開けば、オウムのように蛮人憎しの罵声しか出てこないあの男とは話すだけで気がめいってくる。確かに、言っていることの
一部は正鵠を射ているかもしれない。この数千年の人間とエルフの戦いのほとんどは人間側から仕掛けてきて、エルフは
防衛戦をおこなったのみで、勝者であっても被害者意識のほうが強い。その繰り返しで、エルフ全体に人間への敵意が
熟成されてきて、人間がいなければという考え方が主流になってきたのも事実だ。
 いわば、エスマーイルは数千年にわたるエルフの無意識下に沈殿してきた負の遺産の代弁者なのだ。よって、彼の
指揮する鉄血団結党が大きな支持を受けるのも当然といえば当然、溜め込まれたものは吐き出される先を求めるのが
道理なのだから。
7ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:22:07.51 ID:qacGoEDC
「私が、もう三十ばかり若ければお前の言葉に酔えたかもしれんがな……しかし、何も考えずに怒りと憎しみに身をゆだねる
お前のやり方のどこに、選ばれたる者の資格がある? それでは、蛮人はおろか獣の思考ではないか」
 そもそも、平和のために戦争しようということ自体が矛盾しているではないか。お前は勝てばいい、我々は勝てると
主張するに違いないが、仮に人間を皆殺しにした後で、本当に平和と幸福が来ると思うのか? 得た土地の分配や、
功績の大小をめぐる争いが起きないと言えるか? 戦死者の遺族への保障や、大量の人員を失った商業・工業が
立ち直るのにどれだけかかると思う?
 それらすべてを、お前はまかなえるのかエスマーイル? きっとお前はためらうことなく「できる」と答えるのであろうな。
 
 ビダーシャルがあいだにいるおかげで、ギリギリ破局だけは迎えずにいるエルフと人間たち。
 だが、貴重な時間を無駄にした取立てを、運命の女神は冷酷に命じてきた。
「超獣だぁーっ!」
 奇策で撃退しただけの超獣たちが、いつまでもおとなしくしているはずはなかった。オイルドリンカーが海中から巨大な
頭を浮き上がらせ、サメクジラの立てる航跡が沖合いを高速で旋回する。
 そして、バルキー星人も東方号に激突された胸を左手で押さえながらも、怒りをあらわに海中から起き上がってきた。
「てめぇらぁぁ! よくも俺さまをコケにしてくれやがったなあ。ぶっ殺してやる!」
 宇宙剣、バルキーリングを振りかざしてバルキー星人が迫り来る。東方号の甲板に上がっていたエルフたちは、悲鳴を
あげて危険な海に飛び込んでいき、水精霊騎士隊と銃士隊は迎え撃つ体勢をとった。
「くそっ! やっぱりくたばってなかったか。エルフたちがおとなしく従ってくれたら、船を動かすくらいはできたのに」
「たわけ! うぬぼれるな。貴様らいつからそんなに偉くなった? 助けに来て、”やっている”つもりになるなど百年早い。
身の程をわきまえろ、使命の重さを勘違いするな」
 ミシェルに怒鳴られて、ギーシュはひっと肩をすくめた。そして、頭を冷やして敬礼した。
「申し訳ありませんでしたぁっ! っと、じゃあ親愛なる水精霊騎士隊の諸君、そのぶんの怒りはあっちにぶつけるとしようか。
なあに、奇策はもうないけれど、人間死ぬ気になればなんとかなるものさ」
「だといいけどねえ。隊長、真っ先に戦死なんてしないでくださいよ。そんなになったら、ぼくら生き残ってもミス・モンモランシに
殺されますからね」
「その点については心配いらないさ。薔薇を散らせる権利があるのは美しい乙女と昔から決まっている。それに、ぼくは
嫉妬深いからね、親友とはいえ女の子を人に譲るなんて我慢できないのさ」
「隊長、あんまり欲深いと天罰が下りますよ」
「それは問題だな。死神が美人だったら交際を申し込むが、もし男だったら殴り飛ばしてしまいそうだ。そうだ君たち、
じいさんの神さまの加護はみんなにくれてやるから、代わりに美人の悪魔と美少女の死神はぼくがもらうよ。いいね?」
 やれやれと、水精霊騎士隊から呆れた声が流れた。この期に及んでもギーシュの根っこはギーシュでしかないらしい。
 けれど、下手に勇ましい文句を聞くよりは安心できる。つまらないジョークの言えるうちは、まだ生きている実感があるというものだ。
 わずかな魔法や飛び道具を使って迎え撃つ水精霊騎士隊と銃士隊。だが、そんな抵抗をあざ笑うように、怒れるオイルドリンカーの
火炎が東方号の甲板をあぶり、バルキーリングが東方号の翼を打ち砕いた。
8ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:22:37.73 ID:qacGoEDC
「う、右舷四番エンジン損傷! せ、先生、このままじゃあ!」
「反撃だっ! 東方号がやられたら全部終わりだぞ! ミス・エレオノール、ここは頼む。私も出る」
「ミスタ・コルベール!? 待ちなさい! あなたなんかが出て行ってなにになるっていうの!」
 迫り来るバルキー星人とオイルドリンカーに対して、コルベールは愛用の杖と身ひとつで飛び出していった。艦橋から
フライの魔法を使って飛び降り、高角砲の丸い防盾の上にひらりと降り立つ。そして、目を細めて、超獣と星人を相手に
必死に防戦を続けるギーシュたちを見つめた。
「ミスタ・グラモン、それにみんな。見事な戦いぶりだ、私は君たちのような勇敢な生徒を持ったことを誇りに思うよ」
 コルベールは戦争が嫌いだ。無益に無意味に人が死んでいき、死んでいった者たちはすぐに忘れ去られてしまう。
貴族はそこに誇りを見出し、美しく死ぬことを美徳としているが、コルベールに言わせれば残される者たちの悲しみを
無視した自分勝手な言い分でしかない。
 けれど、たとえば家に侵入した強盗から我が子を守らなければならないときのように、あえて戦わねばならないことが
あることもコルベールは知っている。しかし、自分の半分も生きていない子供たちが大義のためとはいえ、死んでいくのは
あまりにも惜しすぎる。
「教師が生徒を差し置いて生き残るわけにはいくまい。船長としては責任放棄だが……ま、元々私の柄ではなかった
ということか……やれやれ、何歳になっても主体性を持てないな、私は」
 自嘲して、コルベールは杖を上げた。軍人だった頃に磨いた攻撃の魔法、もう二度と人間に対しては使うまいと封印してきた
この力だが、今は自分にこの力が残っていることを感謝する。
 そのとき、オイルドリンカーの吐いた高熱火炎がギーシュたちを真っ向から襲った。石油化学コンビナートを一瞬で大火災に
包み込んだ真っ赤な悪魔の舌が、少年たちをからめとろうと迫り来る。
 だが、覚悟を決める暇もなく呆然と立ち尽くしたギーシュたちの後ろから、同じくらいすさまじい火炎が飛び、オイルドリンカーの
火炎を押し返した。
「無事かい、君たち?」
「コ、コルベール先生!」
 少年たちは度肝を抜かれた。彼らがいまだかつて見たことがないほどのすさまじい火炎は、コルベールの杖から発せられていた。
呆然と見守る生徒たちの前で、コルベールの火炎はオイルドリンカーの火炎を押し返し、さらに口内にまで逆流して爆発した。
「やった!」
 口の中で爆発を起こされて、オイルドリンカーはよろめいて倒れこんだ。いかに超獣とて体内への攻撃にはもろい。初代の
ベロクロンはエースのパンチレーザーを口内に喰らい、体内の高圧電気胃袋を破壊されて大ダメージを受けたのが敗因となっている。
オイルドリンカーは吸収した石油や石炭などの燃料に着火して吐き出すことで火炎放射をおこなっているから、恐らく体内の
石油袋に火炎が到達したに違いない。人間で言えば胃に穴が空いたようなものだ。その痛みは想像を絶する。
 コルベールは次いで、バルキー星人を見上げて杖を振った。バルキーリングを振りかざし、東方号ごと叩き潰してしまおうとする
星人に対して、コルベールの杖の先で巨大な火球ができあがる。
「あ、あれは『フレイム・ボール』!? し、しかし」
 ギーシュは我が目を疑った。それは、火の系統の一般的な攻撃魔法のフレイム・ボールに違いないが、火球の大きさがまるで
そのレベルの代物ではない。前にトライアングルメイジのキュルケの使ったものを見て、その大きさと炎のうねりの激しさに
驚嘆したことがあるが、コルベールのそれはキュルケのものの二倍はゆうにある。
 無言のままで、コルベールは火球をバルキー星人に向かって投げつけた。星人は一直線に向かって飛んでくる火球を軽く
避けようとしたが、フレイムボールには使い手の意思である程度のホーミングをできる特性がある。外れると思った瞬間を
狙った方向転換は星人の意表を突き、顔の左半分を炎で包み込んだ。
9ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:23:05.10 ID:qacGoEDC
「グオォォォォッ!」
 効果は絶大であった。バルキー星人の金色に輝くマスクは激しく燃え上がり、海水を浴びせて消した後も黒いこげ痕になって
火炎の温度が通常のものを大きく超える高温だったのが読み取れた。
”先生、すげえ……”
 水精霊騎士隊はもちろん、銃士隊や、怪我の治療に当たっていたモンモランシーたち女生徒もコルベールの魔法の威力に
呆然として舌を巻いた。あの、普段変な研究ばかりしていて、そうでなくても抜けているあの先生が、こんなに強かったなんて。
「さあ来い、ヤプールの使い走りども! お前たちなどに、私の生徒は指一本触れさせはせん!」
「うがぁーっ! 許さねえ、ぶっ潰してやる!」
 怒り狂ったバルキー星人の手が伸びるのを、コルベールは小さな火炎弾を連続で飛ばしてしのいだ。さらに、東方号の甲板から
海面に飛び降りると、そのまま海面をフライの魔法で飛びながら『ファイヤーボール』などで攻撃をし始めた。高位のメイジでも
難しいと言われるふたつ以上の魔法の併用をおこなった戦法に、生徒たちはすでに尊敬の念さえコルベールに抱いていた。
 しかし、見た目の華麗さとは裏腹に、コルベールに余裕の色はなかった。
「追ってきたな、単細胞め。やれやれ、また柄にもなく大見得をきらされたが……まあ、最期くらいはかっこうをつけてもいいか」
 平然としたふうにつくろってはいるが、すでにコルベールは自分の持てる魔法を使うための精神力の半分以上をすでに消費していた。
無理もない、超獣の火炎を押し返し、星人に打撃を与えるなどといったこと自体がすでに人間技を超えている。あれはすごいように
見た目だけは見えるが、熟達の技で精神力を過剰に消費して作り出した……いわば、リミッターを意識的に外した力技にすぎない。
 それに、なによりもここは海の上。火の力を強める媒体は一切存在せず、火の存在を許さない水が大量にあふれている、火の
メイジであるコルベールにとっては地理的に最悪の環境である。むろん、フライを常に使い続けなくては海に沈んでしまうことも
絶対的に不利と言わざるを得ない。
「もってあと数分か……地獄へのキップは切ってやれんが、しばらくは私の下手な舞踏につきあってもらうよ」
 願うことは、少しでも星人が東方号から遠ざかること。そうすれば、あの聡明なミス・エレオノールや、機転に優れた生徒たちのこと、
なにかよい方法を見つけ出してくれるかもしれない。なんだかんだ言っておいて押し付けることになるが、ダメ教師のわがままが
悪口でも生徒たちに語り継がれて残るなら、それもよいと思った。
 バルキー星人の額のランプから放たれるバルキービームが海面で爆風を起こし、コルベールに水の砲弾が叩きつけられた。
左腕が、意思に反してだらりと垂れ下がる。
「折れたか……まあいい、杖を振るうには右腕一本あれば上等だ」
 すでに捨てる覚悟を決めた命、痛みなどどうでもよく感じる。コルベールは、バルキー星人を東方号からも海上に漂うエルフたちからも
離れた場所へと誘導していった。途中、まばらに漂っていたエルフの何人かと目が合う。皆、嫌悪や恐怖、よくても好奇心といった
感じの視線で、コルベールを助けようとする者はいない。
 が、それでもいいと思う。命はなににも増してかけがえがない。矛盾するようだが、その信念だけは守って死ねるのだから。
 
「コルベールせんせーい!」
 生徒たちは遠ざかっていくコルベールを見て、彼の悲壮な覚悟を理解していた。あんな足場さえ定めない無茶な戦いを
続けていたら、スクウェアクラスのメイジでさえあっというまに精神力を使い尽くしてしまうことは自明の理だ。先生は船を
守るために自ら囮になろうとしている。
10ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:24:01.72 ID:qacGoEDC
 しかし、叫ぶ以上にできることはなかった。火炎を吐く能力こそ失ったものの、オイルドリンカーが巨体そのものを武器にして
体当たりをかけてくる。また、サメクジラも一頭の鯨竜艦を血祭りにあげ、邪魔な黄色い汁を押し流してしまおうと渦を作り出す。
激しく波打つ海と、オイルドリンカーの攻撃に、東方号は立っていられないほどの激震に襲われた。
「うわぁぁっ!」
「おのれっ! 貴様らの好きにさせてたまるか」
 水精霊騎士隊、銃士隊、さらにビダーシャルたちエルフの騎士団も反撃を試みる。だが、やはり外からの攻撃ではミサイルにも
耐えられる超獣の皮膚は貫けない。それどころか、激しく動揺し、甲板を洗う波から自分を守るために手すりや銃座に掴まるだけで
精一杯なありさまだ。
 超獣オイルドリンカー、ドキュメントZATではヤプール撃滅後に最後に残った超獣であり、宇宙大怪獣アストロモンスに捕食されて
倒された弱い超獣のように言われているが、その破壊力は超獣の名に恥じずにすさまじい。
  
 エルフたちは、攻撃を受ける東方号を「ざまあみろ」とばかりに眺めている。エスマーイルも、最後に残った鯨竜艦の艦橋で、
狂ったような高笑いをあげていた。
 しかし、ヤプールは常に絶望を与えることを忘れていない。お前たちにも悲嘆の声をあげてもらおうと、異次元のすきまから
魔手を放ってきた。
「ククク……いけ、ガディバ」
 海中に進入した黒いもやのような宇宙生命体は、海底をはって一匹の現住生物と同化した。遺伝情報を書き換え、一気に
巨大化させると、海上に閃光と白い波を立ち上げて現れる。全身に数十本の触手を生やし、らんらんと輝く赤い目を不気味に
光らせた、緑色のグロテスクなタコの怪獣が!
〔あいつは……タコ怪獣ダロン!〕
 遠目でその出現を確認した才人はうめいた。
 ダロン、ドキュメントUGMに記録される怪獣の一体である。海に住むタコが突然変異で怪獣化したものと言われ、
あの吸血怪獣ギマイラに操られて80と戦ったことがある。しかし、タコ怪獣というものの、タコの特徴である足の数は
八本どころではなく、少なく見積もっても二十本以上あり、同じタコ怪獣である大ダコ怪獣タガールと比べても原型を
残さない変質はただの突然変異とは考えがたい。これは、はっきりとした証拠はないが人間怪獣ラブラスと同じく
ギマイラの力で強制的に変異させられたのだとする説が有力である。
 その説が正しいのだとすれば、ヤプールは同じことをガディバを使って再現したのだということになる。超獣を次々と
生み出せるヤプールのこと、ガディバの数さえ揃うのであればたやすいであろう。
〔まずいっ! これじゃ、海は陸より危険じゃないか〕
 陸と海でそれぞれ三体ずつ、それでも海は東方号がいる分、わずかなりとて逃げ場があると思っていたのに、海に
四体とはいくらなんでも多すぎる。これでは、逃げ場がどこにもないばかりではなく、街から逃れてきたエルフたちが
ひしめいているだけ危険すぎる。
 やむをえない、ここはアリブンタとアントラーを放置することになっても、海へ向かうべきか。海に漂うエルフたちを狙って
暴れ始めたダロンと、撃沈されそうな東方号を見てエースは苦渋の決断を下した。
 
 だが、飛び立とうとしたエースを、そうはさせじとアントラーが首を上げて虹色磁力光線を放ってきた。
 
「ヌオォォッ!?」
 磁力光線はウルトラマンをも引き寄せ、エースは飛び立つことさえできずに地面に叩きつけられた。
11ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:24:46.89 ID:qacGoEDC
 これでは、この二体をどうにかしない限りこの場から動くことさえできない。まさしく蟻地獄のように、一度捕らえた獲物は
決して逃がすまいと、アントラーは巨大なあごをギチギチと鳴らし、アリブンタは口から蟻酸の混じった唾液を垂らして
石畳の道から白煙をあげさせる。
 そして、それだけならば戦場の常として覚悟の決めようもあったろうが、現実はさらに才人とルイズの心を折ろうとしてくる。
空に残ったエルフの竜騎兵の残存と陸上部隊が狂ったように魔法をぶつけてきた。超獣と怪獣と、ウルトラマンに。
「アディールを、守るんだぁーっ!」
「悪魔どもめ、死ねぇーっ!」
 炎や風の刃が、無差別に降りかかってくる。それはエースに痛痒を与えるようなものではなかったが、彼らの憎しみに
満ちた敵意の視線が、若者たちの心を削った。
”おれたちは敵じゃない”
 そう叫びたかった。しかし叫んでも無駄だということもわかっていた。
 攻撃はがむしゃらに続き、スフィンクスとサボテンダー、さらに二体をおさえているヒドラとリドリアスにも攻撃が加えられる。
生物兵器である二大超獣は攻撃の打撃にも平然と耐えた。しかし、怪獣であるヒドラとリドリアスにはそこまでの防御力はない。
 魔法の炸裂によってヒドラの体から赤い血が滲み出し、リドリアスが悲痛な声をあげる。しかも、エルフたちは彼らにとっては
当然に、しかし自らにとっては最悪の選択をこの場においてくだした。
「あっちの二匹が弱ってるぞ! 先に仕留めてしまえ!」
 馬鹿な! その二匹はお前たちを助けようとしているんだぞと、才人とルイズは悲鳴をあげた。
 確かに、彼らにとっては同じ怪獣に見えるだろう。しかし、少し、ほんの少しでいいから冷静な目で客観的に見れば、
ヒドラとリドリアスは街を守りながら戦っていることに気づけるだろう。それすらも、戦闘で興奮した彼らには贅沢な注文かも
しれないが、彼らは目に見える世界を仲間を落とされ続けたショックで単色に塗り固め、異物をすべて排除しようとしていた。
そう、異物をすべて。
「死ねぇ、仲間たちの仇だぁぁっ!」
〔やめろ、おれたちは敵じゃない!〕
 ウルトラマンAに向けても、少なからぬ攻撃が降り注ぐ。憎しみは彼らを戦士から獣に変えてしまった。
 アントラーとアリブンタ、さらにはエルフたちからも攻撃され、ウルトラマンAは四面楚歌の中で苦しめられる。
 彼らには、悪気はない。けれども、愚行とは決して悪意からのみ発せられるものではなく、正義感や信念、勇気や愛から
どうしようもない過ちが生み出されることもあってしまう。助けに来たはずのウルトラマンAや人間たちを逆に攻撃し、
自らの破滅を加速させているエルフたちの姿を見て、ヤプールは高笑いを続けた。
 
「フハッハッハハ! どこまでも愚かな連中よ。塵あくたに等しい下等生物のくせに、この世の頂点などとうぬぼれたむくいが
このざまよ。貴様らが、我々の家畜として生かされてきたことにまだ気づかないとはな。ウルトラマンAよ、貴様が救おうとした
者どもに殺されるならば本望だろう。今日が貴様の命日だ、フハッハハハハ!」
 
 悲劇こそ最高の喜劇、絶望こそ至高の味と、ヤプールは異次元空間の中で多数の仲間たちと狂気の笑いのフルコーラスをあげる。
 超獣以上に、エルフたちに攻められて苦しむエース。そして、オイルドリンカーとサメクジラによって木の葉のようにもまれる
東方号と、ダロンの触手によって小魚のように逃げ惑うアディールの市民たち。
12ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:25:36.97 ID:qacGoEDC
 絶対的な大兵力を背景に、人間とエルフの不和につけこんで全滅をはかるヤプール。悲鳴と断末魔がいくつもこだまし、
無限の未来をもっていたはずの命が次々と奪われていく。
 
 だが、それでもかけがえのない命をひとつでも救おうと、戦士たちはあきらめない。
 
 ウルトラマンAがアントラーに押さえ込まれているのを見たアリブンタが、逃げ遅れていたエルフたちを餌食にしようと動き出した。
アリブンタは女性の血液、それもO型の血液のみを好んで吸血する。先ほど目に付けていてエースに邪魔された少女を再び
食おうと、建物を押しつぶし、街路樹を踏み潰して、逃げる少女をアリブンタは追い詰めた。
「た、助け、誰か……」
 腰を抜かし、仲間たちからも置いていかれてしまった少女を、アリブンタはよだれを垂らして見下ろした。
 餓えている……ギラギラ光る複眼はそう言っていた。生き物にとって、飢えを満たしたいという欲求はなによりも強い。
 絶対に助からない。少女は本能的にそう悟った。牙をむき出し、超獣が迫る……だが、その瞬間。
「デャアアッ!」
 寸前で、飛び込んできたエースが割り込んだ。両腕を伏して盾となって覆いかぶさり、アリブンタの攻撃を受け止めた。
「グッ! ヌォォッ!」
 だがその代わりに背中にアリブンタの攻撃をもろに受けてしまった。アントラーを振り払い、駆けつけてくるにはこれしかなかったといえ、
防御することもできない直撃の痛みはやはり並ではない。
 手を突いてかばったエルフの少女は、ちょうどエースの胸元の下あたりで腰を抜かしたままでいる。彼女は恐怖に染まりきった顔で、
「バケモノ、バケモノ」と唱え続けているが、エースは彼女に一言だけ語りかけた。
「逃げろ」
「えっ……?」
「逃げろ、早く」
 少女は、耳に響いてきた声が、目の前の巨人が放ったものだとわからず、一瞬困惑した。当然であろう、見たことも聞いたこともない
相手から自分たちと同じ言葉で話しかけられる……想像してみるといい、イエティやサイクロプスに日本語で流暢に「こんにちは」と
あいさつされたら、大抵の人間は驚くであろう。
 少女は、声が巨人の発したものだということは理解した。が、幼い脳の許容量を超える出来事の連続にまともに動くことができず、
そのままへたり込んでいると、巨人は苦しむ声といっしょに優しげな声を彼女に送った。
「……立てるかい? 立てたら、走って早く行きなさい。振り返らず、さあ!」
 少女ははじかれたように立ち上がると、一心不乱に駆け出した。命が助かったことを喜ぶ間もなく、泣きながら走る。
 だが、彼女はひとつだけ禁を犯した。振り返るなと言われていたのに、どうしてか振り返って後ろを見た。そこでは、銀色の巨人が
怪物の前に立ちふさがって、懸命に押しとどめていた。
「ありがとう……」
 
 そして、東方号でも若者たちは絶望の中で必死に希望にしがみついていた。
 オイルドリンカーの怪力で右の翼をもぎとられ、今にも横転転覆させられそうな東方号の上で、人間とエルフはそれでも戦っている。
「うわぁっ! 落ちるぅぅぅ!」
「バカめ! 掴まれ!」
 甲板から転落しそうになった少年を、ひとりのエルフの騎士が受け止めて引き上げた。
「す、すまない」
「フン、勘違いするな。蛮人なんぞどうなってもかまわんが、犬猫でもいっしょにいると多少は情がうつるだろう」
 下手な言い分であったが、助けられたほうも助けたほうも、それ以上の言葉は無用だというふうに共に戦いに戻った。
 オイルドリンカーに攻撃魔法を放ち、サメクジラの接近を少しでも抑えようと周辺の海を凍結させる。焼け石に水でしかないことは
誰もがわかっているが、かといって絶望してどうなるというのか?
13ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:26:06.37 ID:qacGoEDC
 絶望すれば、万に一つの可能性もない。泥まみれになっても生き延びて、喉笛に喰らいついてでも敵を倒せ。はいつくばって
神に助けを請ういくじなしは、この船には誰一人としておらず、彼らの中には自らの身が危険だというのに機銃にしがみついて
ダロンを攻撃し、触手に捕まったエルフを助けようとしている者もいる。
 
 けれども、それらはまさに象に立ち向かう蟷螂の斧……けなげに見えて、まったくの無益……それでも、若者たちには、
戦い続けることをあきらめさせないたったひとつの”武器”があった。
 武器とは、なにも直接敵を傷つけるものだけとは限らない。それは心の中にあるもので、人はそれを勇気と呼ぶ。
 そして、勇気がただの武器と違うのは、それが自分以外の誰かの勇気につながることなのだ。
 
 いまにも撃沈されてもおかしくない東方号。そこで、この激戦の渦中にあって、敵からも味方からも存在をほぼ忘れられていた
少女が、戦う力などまったくなさそうな細腕を震わせながら、東方号最頂部の防空指揮所に立っていた。
「これが、アディール……お母さんの、生まれた街」
 街を、戦場を、戦う仲間たちを見下ろすティファニアの眼には大粒の涙が浮いていた。いつか、訪れられたらと夢見ていたが、
まさかこんな形で訪れることになるとは、運命とはなんと残酷なのだろうかと思う。
「あなた、大丈夫? やっぱり……」
「ありがとうルクシャナさん。わたしは、だいじょうぶ。だいじょうぶ、だから」
 浮遊の魔法で艦の動揺から守り、ここに連れてきてくれたルクシャナが心配そうに声をかけてくるのに、ティファニアは
気力を振り絞って強く答えた。
 そう、ティファニアはもう、戦う覚悟を決めていた。その手には、母の形見の杖と、ルイズが残していってくれた始祖の
祈祷書が握られ、指には水のルビーが輝いている。
「ティファニア、ほんとうにできるの?」
「ルイズさんは、もしわたしに戦う決意があるなら祈祷書は応えてくれると言いました。ほんとうはすごく怖いです……
でも、みんなも怖いはずなのに戦ってるんです。ですからわたしも……わたしだってもう、お母さんがいなくなったときみたいに、
クローゼットの中で震えているだけの自分ではいたくないんです!」
 人はいつまでもゆりかごの中にはいられない。ティファニアは、森の中に隠れ潜んで、おびえ暮らしていただけの自分に決別を誓った。
「お願い、始祖ブリミル。わたしに、ほんとうに世界を動かすほどの大魔法使いの血が流れているなら、今こそ力を貸して。ご先祖さま!」
 ティファニアは、以前ルイズがそうしたように祈祷書を開き、空白のページに目を光らせる。
 すると、水のルビーに呼応するように白紙に光のルーン文字が現れた。
『序文。これより、我が知りし真理をここに記す……』 
 ルイズが受けたものと同じブリミルの遺言と虚無の啓示、続いて祈祷書に今ティファニアがもっとも必要としている魔法の呪文が浮き上がる。
 だが、祈祷書は呪文を授けるのと同時に、意思あるもののように、ひとつの警告をティファニアに与えた。
 
『使い手に警告する。虚無のうちにも、いくつかの系統がある。しかして、この呪文は、君の系統には本来合わないものなり。使えば、
君の蓄えた力は失われ、二度と放つことはできなくなるかもしれない。その覚悟をもちて、選択せよ』
 
 この魔法は生涯一度限り。そう警告する祈祷書の言葉に、ティファニアが見せたのは迷いない笑顔だった。
「ありがとうご先祖さま。でも、惜しくはないよ。だって、今のわたしにはもっと大事なものが、守らなきゃいけないものがあるから。
わたしはきっと、このときのために生まれてきたんだと思うから!」
 浮かんだ魔法の呪文を唱えながら、ティファニアは杖を振り上げた。
 ルーン文字の言葉が躍るごとに、彼女が生まれてから今日まで蓄えてきた魔法力が法則に従って解放され、巨大な渦になっていく。
 最初から、加減などするつもりはない。はじめてできた友を、母の故郷を、これから友達になれるかもしれない人たちを救えるならば、
この命を擦り切れさせてもかまわない。
 いまやティファニアは魔力の太陽にも等しい。その、ひとりの人間が持つには不相応すぎる、まさしく神か悪魔に相当するような
莫大な力の波動にルクシャナは震えた。
「これがシャイターンの……力!」
 あるものは神と呼び、あるものは悪魔と呼ぶ力。伝説にうたわれる最強の魔法が今、無限の光芒とともに解き放たれた。
 
『エクスプロージョン!』
 
 
 続く
14ウルトラ5番目の使い魔 88話 代理:2012/05/21(月) 16:26:28.84 ID:qacGoEDC
今週は以上です。皆様、お楽しみいただけたでしょうか。
そろそろ気温が上がってきましたね。パソコンの熱気が気にならなかったのが、少しわずらわしくなってきました。
異種の者たちによる軋轢の問題はウルトラシリーズでもたびたび取り上げられていますが、今回はそれに対してわたしなりに書いてみました。
恐らく、この種の問題に関しては誰しもが一度は加害者になり被害者になったこともあるでしょう。まさしく、ヤプールの言う愚かな人間の
姿そのものでありますが、難しくてもあきらめずに答えをつむいでいこうと思います。

あと、すみませんがスランプまだ抜けずで、書くペースがいつもの半分くらいに落ちてるので来週もお休みします。
週間ペースを守ってきたのに隔週に落ちてしまって情けない限りですが、書き続けてはいるので再来週には必ず続きを投下します
15名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/21(月) 16:27:15.26 ID:qacGoEDC
以上、gdgdになっちゃったけど代理終了
16デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:32:51.77 ID:O6L/TfXV
代理さん、投下とスレ立てお疲れです。

40分から第二十三話投稿しますね。
17デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:40:10.41 ID:O6L/TfXV
第二十三話『タルブと土鍋と時々カボチャ』

「うわぁぁぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!助っ!助けてくれっ〜!!」

今ギーシュは情けない悲鳴をあげながら全力で木々が生い茂る森の中を走っていた………そう、三匹のオーク鬼を引きつれて。

「何で僕がこんな……目にぃっ!?」

そもそもこんな事になった理由はキュルケがミントを宝探しに誘い、そのミントがギーシュを半ば無理矢理拉致するかのように宝探しに連れ出したのだ。
ギーシュは魔法学園の中でもミントとは付き合いの深い方に入るしルイズとオスマンを除けばミントが異世界の王女だと知る唯一の人物だ。だが、だからこそミントが良い笑顔で自分を誘った時嫌な予感しかしなかった。
無論、拒否と抵抗を行ったがミントに通用する筈も無く問答無用で連れてこられ、今は宝が眠る寺院からオーク鬼を誘い出す為の囮をやらされている…


死にものぐるいで予定地点に辿り着いたギーシュが落とし穴の目印をなんとか飛び越えるとそれを追っていたオーク鬼達は次々とヴェルダンデによって掘られ、タバサの水魔法によって沼と化した落とし穴に下半身を飲まれた。

「お疲れ様です、ミスタ・グラモン大丈夫ですか?」
肩で息をするギーシュにハンカチを差し出し、労いの優しい言葉を掛けるのは身の回りの世話とガイドとして付いて来たシエスタ。
「あ…あぁ、何とかね…後は…」
ヘトヘトになりながらもギーシュは何とか呼吸を整え、自分のやり遂げた仕事の成果を確認する為、沼の落とし穴に填まったオーク鬼に視線を向ける。
藻掻きながら落とし穴を抜けようとするオーク鬼の眼前にミントとキュルケが木の枝の上から飛び降り、ようやくその姿を現した。

「フレイムボール。」「フレア。」

二人の手によってそれぞれ同時に放たれた二つの大火球が身動きが取れないオーク鬼を無慈悲に焼き尽くす。





18デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:44:21.34 ID:O6L/TfXV
___ 寺院内部

「で…結局見つけたお宝は…」

「銀のコイン一枚と古いだけのネックレス…」
批難めいたジト目でキュルケを見つめるミントにタバサが本を手放さぬままポツリと答える。
既に7カ所も巡ったというのにこれといった成果が無い事に露骨に項垂れる一行、因みに今更ながら一行の内訳はミント、キュルケ、タバサ、ギーシュ、シエスタ、後は三人のそれぞれの使い魔である。

「んもうっ、分かってるってば!!次よ次で最後だから。次こそ本命なの!その名も『巨人の土鍋』これに関しては実在が確認されてるのよ!!ね、シエスタ!!」

と成果の上がらない今回の冒険の立案者であるキュルケは些か勢いでバツの悪さを押し切り、夕食の鍋をお玉でゆっくり丁寧にかき回していたシエスタへと話を振る。

「あ、はい。ミス・ツェルプストーの仰る通り巨人の土鍋は私の田舎のタルブ村の祠に祀られています。村のみんなは土鍋様って呼んでますけど…アレはお宝って言うよりは変な石像って感じの物で、価値があるようにはとても…」
言ってシエスタは苦笑いを浮かべる。その言葉にミントとキュルケのテンションがグッと下がった。
「あっ、ですがタルブは上質なワインが名産でとても喉かな良い所なので立ち寄られるならば折角です精一杯お持て成ししますので、ゆっくりしていって下さい。」

屈託無く微笑むシエスタに一同は「まぁ、観光みたいだけどそれも良いか。」と軽い気持ちでタルブ村へと向かう事に決めた。

ちなみにギーシュはこの間疲れ果てて眠っており、寝言で「もう帰りたい。モンモランシーに会いたい、帰りたい…」と魘されるように繰り返していた…




___ タルブ村

「皆さん、こっちでーす。」
向日葵の様な明るい笑顔のシエスタが村の入り口、門の下で大きく手を振って一行を呼ぶ。シエスタの案内を受けてようやく一行はタルブの村へと到着した。

19デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:48:13.73 ID:O6L/TfXV
「まぁ予想はしてたけど、何て言うか牧歌的というか…はっきり言って超が付く田舎ね。」

「…君はそういう事を本当にばっさり言うね。」
「まぁ良いじゃ無い。それに確かに田舎だけど村自体は豊かそうだわ。良い領主に恵まれてるのかしらね…」
シエスタに案内されつつそれぞれ好き勝手な事を良いながら村の中をミント達は歩いて行く。

「はい、領主様の統治の御陰もありますが実はタルブには他には無い名産品があってそれが村の生活を支えているんです。」

「名産ってワインでしょ?何、そんなに珍しいワインなの?」
「僕の舌を唸らせるワインならば是非買って帰りたいね。」
鼻高々自慢げに語るシエスタにワインに目が無いキュルケとギーシュが瞳を輝かせて食いつく。

「いえ、ワインも確かにそうなんですがもっと変わった物ですよ♪あ、ほらあの右手の畑に見える…「ひぃっ!!!!」」
話を続けていたシエスタが右手の民家の畑を指し示した所、ミントの今まで誰もが聞いた事の無い様な情けない悲鳴でシエスタの言葉を遮った。

「カ……カボチャ…」
ミントは完全に忘れていた…
確かに聞いていた…以前シエスタと初めて顔を合わせた時にシエスタ自身から故郷のタルブの名産がミントがこの世で最も嫌いなカボチャであるという事を…
ミントは手で口元を押さえて怖じ気づいたように二、三歩後ずさり必死に思考を巡らせる。

(何で!?何でよりにもよってアレが名産なの?ていうかアレ、間違いなくアレよね…)

目にしたカボチャが唯のカボチャならミントも此処までうろたえる事は無かっただろう。しかし、目の前に見える畑で丸々と実った巨大なカボチャはどう見てもミントには馴染み深いこの世界にあるはずの無いカボチャに見えた。

「あ…あの、ミントさん?」
明らかに様子がおかしいミントを心配そうに見つめるシエスタに対し、キュルケ、ギーシュ、果てはタバサまでが今まで見た事も無い大きさのカボチャに興味を引かれその足を畑へと向ける。

「うわっ、でっかーい!!何これ…手?」
「可愛い…」
20デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:51:13.67 ID:O6L/TfXV
「驚いたね…この大きさなら名産にもなるよ。しかしこのカボチャの模様なんだか顔と口みたいだね。」
ギーシュ達が注目したのはその大きさとカボチャの模様、オレンジの外皮に浮かんでいるその黒い模様はどう見ても口と目にしか見えなかった。おまけに非常に小さい申し訳程度に手の様な形に外皮が両脇に伸びている。

「その子達はお化けカボチャって名前でそういう風に顔がくっきり浮かぶと食べ頃なんですよー。でも、収穫せずに放っておくと畑から逃げていっちゃうんですよ〜。」

「逃げるって…まさかこれ生き物なの?」
シエスタの説明にキュルケが驚いた様子で足下のカボチャを見つめる。

「一応そうでは無いんですが…私は種を遠くへ運ぶ為に頑張ってるんじゃ無いかって父から聞きました。」
「成る程…変なカボチャね。」

「何で…アレがここにあるのよ…」

シエスタ達が色々と会話に花を咲かせていた間、ガックリと四つん這いの姿勢で項垂れていたミントは目の前のカボチャをよ〜く知っていた。
何故ならこのカボチャは間違いなくミントの世界で『パンプキン』と呼ばれる品種だったからである。

「おや、君達は?何故ここに…」

と、そんな一行の背後に突然学園で聞き慣れた、人の良さそうな男性の声が掛けられる。

『ミスタ・コルベール!?』
その声に振り返れば太陽の光を反射する眩しい頭が全員の目を眩ませる。そこに立っていたのは紛れも無く学園の教師コルベールだった。

ミント達は授業をサボっていた件について叱責を受けながらもコルベールとお互い何故タルブに居るのかを聞いてみる。するとコルベールも巨人の土鍋の噂を聞いてこの村を訪れていたのだと言う。

その日ミント達は村中の暖かい歓迎を受け、シエスタの実家に宿泊し翌朝巨人の土鍋こと『土鍋様』が祀られてい祠へと向かう事となった。
シエスタの家は村の中でも大きく、聞けばお化けカボチャを育てだしたのはシエスタの曾祖父らしく土鍋様も一応その家系の所有物に当たるそうでそこそこに裕福な家庭であった。
21デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:54:18.29 ID:O6L/TfXV
ミント以外はそこで名物のワインとカボチャのフルコースに舌鼓を打ち、それでもミントは頑なにそれらを口に運ぶ事を拒み続けた。
折角の料理を食べて貰う事が出来なかった事をシエスタは残念に思ったがミントのカボチャ嫌いっぷりはそれはもう凄まじい物であった。


___ タルブの祠

翌朝、一行はやはりシエスタの案内の元にタルブの祠を訪れていた。それは祠といっても鍵の付いた独特の設計をした唯の木造の倉庫の様だった。
「これが、土鍋様の祠です。何でも私の曾おじいさんがお化けカボチャの種を持って土鍋様に乗って遠くの国からやって来たそうです。」

「ほう、やはり噂で聞いた通り巨人の土鍋は人を乗せて稼働していたのかね?」
コルベールはシエスタの説明に興味深そうに訪ねる。コルベールは趣味の域を超えてそういった動力機関などの研究を行っている。
最も周囲の反応は冷ややかな物であるが…

「はい、今はもう動かす事は出来ないのでそれが本当かどうかは判りません。でも土鍋様は今はこの村の守り神みたいな物ですから大切に祀られていて凄いメイジの方に固定化も掛けて貰っているんですよ。…お待たせして申し訳ありません、開きました。」
誇らしげにそう話しながらシエスタが扉の鍵を外し、その重たい扉を開いていく。
しん、と静まり返った薄暗い祠の中に太陽の光が入り込む。

露わになった安置されていた土鍋様の巨体に男のロマンを感じ取り、コルベールとギーシュはそれに子供の様に瞳を輝かせながらかけだしていく。

土鍋と評されるに相応しいずんぐりとした亀の甲羅の様なボディ、そこから前方に伸びる蛇腹の多節状の一対の腕、
後方にはプロペラに良く似た形状の足が、そして亀っぽい頭部には大きな水晶がモノアイの瞳らしき場所にはめ込まれている。

そして普段ならばコルベール達同様テンションを上げるであろうミントはその姿に色々と考えてしまう事がありすぎて珍しく呆然としてしまい、その場から直ぐには一歩も動く事が出来なかった。


「これは………むむむ………何と!!…素晴らしい…」
「何だ、この材質は!?土?岩?だがこの硬度はなんだ?」

22デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 21:58:33.33 ID:O6L/TfXV
ギーシュとコルベールは早速土鍋様に触れ、その未知の材質や構造に驚嘆し続ける。ただの石像などでは無い事がこの二人には判るのだ。

「何アレ?唯の石像じゃ無いの…いい年したおっさんがはしゃいじゃって。ごめんねミント、タバサ、付き合って貰ったのに結局全部大ハズレだったわね。…ってミントどうしたの??」
そんな二人の少年の心を露わにする二人に呆れながら溜息を溢したキュルケはふと隣に立つミントの様子がおかしい事に気が付いた…よく見ればその身体はワナワナと震えている。

「……大ハズレ?…いいえ…大当たりよ、キュルケ!!」

言ってミントは地面を蹴って飛び上がると華麗に土鍋様の背中に着地する。そしてその足下に刻まれているルーンと何かが以前填め込まれていただろうくぼみを確認して全てを確信した。


オスマンがかつてある村で石像に固定化をかけた際、カノンオーブを渡されたと言っていたがその話の舞台は間違いなくこのタルブ村で、パンプキンをこの村に持ち込んだシエスタの曾祖父は間違いなくミントと同郷なのだ。
そこまで考えてミントは決めた。
「シエスタ。」

「はい、何でしょうミントさん?」

「この巨人の土鍋!いいえ、この『ヘクサゴン』きっと動かせるわよ。あたしに寄越しなさい!!」
ビシリとシエスタを指さしてそう宣告するとミントは不敵に笑う。

『ヘクサゴン?』
同時にその場に居た全員がミントの口から出た謎の名称に首を捻った。


かつてベルとデュークによって使用されミントを苦しめた魔法兵器『ヘクサゴン』。
タルブの物はその二人が使用していた物とは別物の様であったがミントにとってこれはとてつもなく大きな意味を持った代物だ。

(ベル…デューク…)
まさかハルケギニアに来てまでベルとデュークの事を思い出す事になろうとはミントも思っていなかったが不思議と今はそれも悪い気はしなかった。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/21(月) 21:59:49.81 ID:qBNqgSPb
支援
24デュープリズムゼロの人:2012/05/21(月) 22:02:48.60 ID:O6L/TfXV
これで第二十三話終了です。
オリジナルのヘクサゴンはツインアイですがタルブで発見したのはわかりやすい区別の為、モノアイにしました。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/21(月) 22:25:13.04 ID:SqLua3Xl
乙!
26名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/22(火) 00:56:08.14 ID:f4Hj5HzK
亀スレだけどウルトラの人と代理乙
27名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/22(火) 17:34:23.24 ID:NIlGUMQt

ティファニアって原作で忘却以外の魔法使ってたっけ?
28名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/22(火) 21:56:55.57 ID:jHvqH1nY
召喚と契約
29名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/22(火) 22:53:24.69 ID:aSCg94+c
ばっかおめぇ一番大事なの忘れてるだろ


バストレボリューションによる常時発動型魅了の魔法を
30名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/22(火) 23:22:42.84 ID:XTIN4bdd
原作読んでいないんだが、日食で世界がつながるのってアニメオリジナル?
31名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/22(火) 23:25:23.45 ID:ov61uNGb
>>30
うん
32The Legendary Dark Zero:2012/05/22(火) 23:54:27.64 ID:FIil+rgh
日にちが変わるので0:00より投下を開始します。
33The Legendary Dark Zero:2012/05/22(火) 23:59:42.45 ID:FIil+rgh
Mission 27 <因縁のハルケギニア>


学院の敷地内に見たこともない幻獣が現れた時、教師達は大混乱であった。
これから授業を教えようとしていた者も、授業時間外であった教師達も広場を駆け回る獰猛な幻獣の姿を見るなり、そのほとんどが腰を抜かして動けなくなってしまった。
やはり彼らもいかにメイジであろうと、生徒達と同じで実戦などほとんど経験のない者達ばかり。
普段は生徒達に自分達の魔法の優位性をひけらかしてはいるものの、自分よりも強大な存在に対しては臆することしかできないのだ。
だからこそ、彼らは学院中の教師達を集めたり、学院長のオスマンを頼ったりもした。
多くの生徒達と同じく、誰も一人で戦うタバサを助けようとはしなかったのだ。
「またあの男か……」
「没落貴族が出しゃばりおって」
教師達が学院長室からオスマンとロングビルを、本塔裏の火の塔近くに建てられた小屋からコルベールを連れてきたことでようやく教師全員が集まったのだが、
目の前で起きていた出来事にほとんどの者達が顔を顰めていた。
平民上がりの没落貴族でありながら、下手に出しゃばっては自分達メイジの権威と面目を潰す異国の剣豪、スパーダ。
その男があの巨大な幻獣を相手に恐れることもなく対峙していたのである。
平民らしく大人しくしていればいいものを。ここには自分達メイジがいるというのに。
「奴は剣が無ければ何もできんのだ」
スパーダを敵視するギトーは彼の戦う姿に不快感を露にすると同時に、得物である剣を持っていないことに冷笑していた。
多くの教師達は剣を持たないスパーダが敗北し、自分達の前で無様な姿をさらすことを期待していたが、それは軽く打ち砕かれた。
彼は腕に篭手を付けただけ、後は己の肉体を駆使して獰猛な幻獣を完膚なきまでに叩きのめしてしまったのである。
「くそっ、平民上がりが」
平民のくせに自分達メイジを軽く凌駕する異常なほどの戦闘力を発揮するスパーダに、教師達はつくづく腹立たしく思っていた。
「どうせ奴はマジックアイテムか何かを使っているに違いない」
「そういえば、例の黄金像は彼が持ち主だとな」
「魔法の使えない平民など、マジックアイテムに頼らねば何もできんというわけだ」
より一層、教師達のスパーダに対する敵意と蔑視は強くなる一方だった。
唯一、シュヴルーズだけがスパーダの健闘を楽しげに見届けていた。
34The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:04:43.82 ID:CPhA0ocE
(やれやれ、これだから馬鹿な貴族は嫌だよ……)
教師達がスパーダの活躍を嫉妬し、敵対心を抱く姿にロングビルはほとほと呆れ果てた。
これでは貴族など名ばかり、ただの嫉妬屋ではないか。そんなに彼を見返したいなら、あの悪魔に自分達が立ち向かっていけばいいものを。
所詮、実戦経験などほとんどない臆病者の輩にとっては相応しい姿である。
いつまでもそうして、こそこそとスパーダを陰で見下していればいい。臆病なネズミのように。
(彼の方が、あんた達よりも貴族らしいわね)
ロングビルはギトーらのような心の狭い教師達を見下すと同時に、獰猛な悪魔を相手に堂々と勝利をおさめたスパーダを見て満面の笑みを浮かべていた。

スパーダの意見のおかげで自分の研究が生徒達に少しでも認めてもらえたことを喜ばしく思っていたコルベールが、
研究室として扱っている掘建て小屋で更なる研究に励もうとしていた時にそれは起きた。
(馬鹿な。何故、こんな所に……)
コルベールが教師達に呼ばれ、広場に足を運んだ時に目にしたのはこの世の物とも思えぬ姿をした巨馬であった。
その恐ろしい姿が目に飛び込んだ途端、コルベールは戦慄する。
脳裏に浮かんだのは二十年前に己が手を染めた罪の記憶。そして、思い出すだけでもおぞましい異形の姿。
今でもはっきりと覚えている。……火の使い手である自分が恐れる炎の姿。
この世のものとは思えぬ破壊と殺戮の炎。
人間はおろか、このハルケギニアでは決して生み出すことのできぬ煉獄の炎。
そして、その炎を操る恐るべき悪魔を。

――面白いことをする……。我が訪れた世界に、貴様のような人間はおらなんだ。

ズキリと背中が痛む。
コルベールは決して忘れぬことのできぬ己の罪と悪魔の記憶に、胸が張り裂けそうなほどに苦い顔を浮かべていた。
あの恐ろしい悪魔がミス・タバサに背後から襲い掛かろうとした途端、コルベールは思わず自らに戒めていた炎を放とうとした。
自分は戦いを捨てた。そして、戦いと破壊以外の炎のあり方を見出そうと研究を続けていた。そのために己の炎を戦いに用いることを禁じた。
だが、愛する生徒達が傷つけられようとしているのであれば惜しみなくこの炎を使う。確かに戦いは嫌いだ。だが、それで守るべきものを救わねば自分は後悔することになる。
もっとも、コルベールが呪文を詠唱し終わった直後にはスパーダが出てきたのであるが。
35The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:09:03.38 ID:CPhA0ocE
ルイズは広場に立ち尽くすスパーダの元へと歩み寄る中、まだ少し不安な様子で辺りをキョロキョロと見回していた。
敷地内に広がる草地はあの悪魔が纏っていた炎のおかげですっかり焼け焦げてしまっている。
悪魔は一体、どうなったのだ? またどこかに身を隠しただけではないのか。いきなり後ろから現れるなんてことは……。
「あ、あの悪魔は? どうしたの?」
「心配はいらん。奴ならもうここにはいない」
問いかけてきたルイズに対し、スパーダは左手に装着している篭手のデルフを見つめながら淡々と返していた。
短かったとはいえ、あれだけの戦いを行ったにも関わらずスパーダはまるで息を切らしていない。
まるであの悪魔との戦いが彼にとっては軽い運動のようなものであることに、ルイズは驚嘆していた。
「ちょっと、待ちなさい。どこへ行くのよ」
スパーダは何事もなかったかのように本塔の方へ歩き出したためにルイズは思わず呼び止めた。
「図書館で調べ物があったのでな。私はしばらくそこにいる。君も早く授業に戻れ」
「何でそんなに冷静でいられるのよ。あんなことがあったのに……」」
あれだけの大騒ぎであったにも関わらず、平然とした態度を崩さないスパーダにルイズは複雑であった。
人間として生きることを選んだとはいえ、悪魔の感覚とはどうなっているのかよく分からない。

と、そこへロングビルが歩み寄ってきた。
「ミスタ・スパーダ、オスマン学院長がお呼びです。至急、学院長室へ来て欲しいと」
「何?」
秘書の態度を装う彼女の言葉にスパーダは顔を顰める。
せっかく調べ物があるというのにこう何度も野暮用ができては調べられる物も調べられないではないか。
だが、呼ばれている以上は行かなければならない。
「……そういうわけだ。君も早く戻れ」
スパーダが視線を周囲へやると、生徒達は次々と授業に戻るべく塔へと戻っていくのが窺える。
教師達もまた各自解散し、同じように授業に戻る者達もいた。多くの教師達はスパーダを忌々しそうにちらりと睨んでいた。
「あとで何があったか教えなさいよね!」
ロングビルと共に歩きだすスパーダの背中に向かってルイズが叫んだ。
36名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 00:11:23.37 ID:pzeKYOp+
支援
37The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:17:28.43 ID:CPhA0ocE
その後、スパーダは本日二度目となる学院長室へと訪問していた。篭手のデルフは来る途中に体内にしまっている。
今回は自分を連れてきたロングビルと席につくオスマンしか姿がない。
オスマンはスパーダが現れたのを確認すると、先ほどまでの飄々とした老人ではなくスパーダが彼に与えた賢者≠フ二つ名に相応しい威厳に満ちた表情を浮かべていた。
「今度は何の用だ」
「うむ、時間は取らせんよ。ただ確認したいことがあるだけじゃからな」
言いながら、オスマンは机に立てかけている杖を手にしてスパーダにその先端を向ける。
ロングビルは思いもしなかったオスマンの行動に顔を顰める。
「ディテクトマジックか。初めて会った時もやっていたな」
「おや。やっぱりバレておったか」
と、口調はおどけているがオスマンの賢者としての表情は変わらない。
そう言う間に杖から光の粉が散り、スパーダの胸に降りかかる。
オスマンの表情が難しそうに歪みだす。
「うぅむ……。やはり、恐ろしいの。こんな魔力は」
低く唸るオスマンの言葉にスパーダは僅かに眉を顰めていた。
杖を元の位置に戻したオスマンは正面からスパーダを見据え、じっと見つめる。
「ああ、ミス・ロングビル。席を外してくれんかね?」
「その必要はない。彼女は私の素性を承知している」
スパーダはこれからオスマンが何を聞いてこようとしているのか、既に概ね理解している。
ディティクトマジックを初対面の時にかけていた以上、この老人にいずれ尋ねられるであろうことは察していた。
オスマンはスパーダの発言に対し、ちらりとロングビルを見やるが彼女はそっぽを向きだす。
「では、単刀直入に聞こうかの。……君は何者じゃ?」
予想はしていた質問がオスマンの口より吐き出される。
「君の身から発せられる魔力はあまりにも異常じゃ。例えるならば、君の魔力はどす黒い瘴気のようなものと言って良い。
そんな魔力を人間はおろか亜人でさえ身に宿すことなど不可能じゃて。どんなマジックアイテムを使おうがの。まず間違いなく、耐えられずに自滅してしまうわい」
「よせ、ロングビル」
険しい表情になったロングビルが胸に手を伸ばし杖を抜こうとしたのをスパーダが制した。
構わずにオスマンは続ける。
「君は、人間ではないな。……かといって、亜人というわけでもなかろう」
「……そうだな」
平然と答えるスパーダは背中腰に収めている銃を一丁手にすると、その銃口を自らの側頭部へと押し当てる。
38The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:21:47.43 ID:CPhA0ocE
「ちょっと……!」
ロングビルが思わず声を上げた途端、ズドン、と学院長室に鈍い銃声が一発響き渡った。
スパーダの頭から血が噴き出る。
だが、頭を撃ち抜かれ弾が貫通したのにも関わらずスパーダは全く表情を変えずに銃をしまっていた。
頭に空けられた風穴は僅か数秒で塞がり、後には傷一つ残らない。
その様を目にしたオスマンはずっと顔を顰めたまま無言であった。
「私は、悪魔だ」
「悪魔、か……。それは先ほど君が倒したあの馬も同じじゃな?」
だが、オスマンは大して驚いた様子も見せていなかった。
それどころか、スパーダが悪魔であるということを確認したにも関わらずまるで態度や意識を変えていない。
まるで前にも遭遇したことがあるような口ぶりである。
「安心せい。ワシは悪魔だというだけで掌を返したりはせぬよ。君はこれまでもミス・ヴァリエールや生徒達のために力を尽くしてくれたのじゃからな」
スパーダを心から信頼するオスマンはパチリ、とウインクをしていた。
「このことはヴァリエールも知っておるのかな?」
「ああ。ギーシュ、キュルケ、タバサの三人もな」
「そうかそうか。君がここにいるということは、ミス・ヴァリエールやあの子達は君を受け入れてくれたわけだ」
満足そうに笑い、小さく頷くオスマン。

「さて、スパーダ君。君は図書館をよく利用するが歴史に興味はあるかの?」
「私もこれからそれを調べる予定なのだがな」
「ふむ。では、三十年前の事件もまだ知らないのじゃな」
「事件?」
オスマンは再び杖を手にして軽く振ると、机の隅に置かれていた一冊の分厚い本が机の中央に移動し、ゆっくりと中が開いていく。
パラパラとページがめくれていき、やがてあるページまで来た所でピタリと止まった。
スパーダとロングビルはその本を覗き込んだ。
「ここ百年の間に起きた事件や出来事を記した公文書じゃよ。本来なら余程のことがなければこうして出したりはせんのじゃが……。
今回は特別じゃ。とにかく、そのページの欄を読んでみたまえ。三十年前に起きた事件の記録がある」
言われるがままに、スパーダはその公文書とやらの文面に目を走らせる。
一つ一つ、順番に、過去に起きたという出来事とやらの話を読み進めていった。
39The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:26:01.96 ID:CPhA0ocE
『トリステイン王国国王(当時)フィリップ三世の息女、マリアンヌ姫殿下が旅行に向かわれたドーヴィルの住人が全滅したことが確認される。
住民は未知の魔法によって生ける屍へと変えられ、同時に正体不明の亜人の存在が姫殿下の護衛を勤めていた魔法衛士隊数名によって目撃された。
屍人および亜人は魔法衛士隊によって処分される。
なお、この事件の主犯はノワール∞ネロ≠ネる人物によって実行されたことも魔法衛士隊より報告あり』

『トリスタニア中央広場にてエスターシュ大公主導による二名の吸血鬼、および魔法衛士隊隊員の処刑が執行される。
しかし、この執行と実刑の判決は大公による陰謀と冤罪であることが判明。また、魔法衛士隊を解体させ、私兵のユニコーン隊を親衛隊に据えるべく数々の工作を行っていたことも同時に判明した。
この件により、ジョシュア・エスターシュは大公の任を更迭。官職と財産を剥奪し、縮小された領地にて終身軟禁される。
二名の吸血鬼は害がないものとし、身柄は魔法衛士隊に預けられることとなる』

『軟禁されていたエスターシュの行方が途絶える。トリステイン王国はジョシュア・エスターシュを各国に指名手配の触れを出す。
脱走の手引きにはノワール∞ネロ≠ィよび正体不明の亜人の存在が確認されている』

『ドーヴィルで報告されていた亜人の勢力がトリスタニアへと侵攻、未確認のガーゴイル、巨大な幻獣も同時に出現した。
魔法衛士隊は全軍を持ってこれを迎撃。当時のマンティコア隊隊長、カリン・ド・マイヤール――烈風<Jリンの手により幻獣が撃退される。
この亜人の勢力は手配中のエスターシュの手によって放たれたものであると推測され、魔法衛士隊は調査を続行する』

『エスターシュが火竜山脈にて潜伏している情報を入手。烈風<Jリン率いる魔法衛士マンティコア隊はただちに現地へ向かい、エスターシュを発見する。
しかし、ノワール∞ネロ≠ィよびエスターシュ率いる亜人と幻獣の妨害により逮捕は失敗』

『エスターシュ率いる大勢力がトリスタニアへと侵攻。敵勢力は正体不明の亜人、および幻獣にて構成されている。
トリステイン王国はこの反乱軍を鎮圧するため、王軍および魔法衛士隊は全軍を持ってこれを迎撃する。
烈風<Jリンは単独でカルダン橋にて反乱軍の本隊を全滅させる。
これらの戦闘において反乱軍の首謀者、ジョシュア・エスターシュおよびノワール≠フ死が確認された』
40The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:31:35.26 ID:CPhA0ocE
……スパーダが興味があった事件の記録は以上のものであった。
「ワシはその頃からこの学院の長を勤めておったがな。エスターシュの青二才がトリスタニアに本格侵攻してきた時の話はワシの耳も知っておるよ」
オスマンは何故か不機嫌な顔になって言葉を続けた。
「あの若造、政治の腕は確かじゃし行き詰まっていたトリステインの栄光を取り戻したことは認めるわい。じゃが、かねてからフィリップ三世の王座を狙っておったのは明白じゃ。
それまで行っていた政治も自分の方がフィリップ三世より優れていることを顕示していたようなものじゃ。しかも陛下の親衛隊である魔法衛士隊を裏から壊滅させようとあの手この手で暗躍しておったんじゃい。
おまけに暗躍が全てご破算になったら、今度は力ずくで王座を奪うべく悪魔と結託してまで反乱まで起こしおった。
どうしようもない馬鹿者じゃ。悪魔なんぞに魂を売り渡すとは……」
そこまで言って、はたと気づいたオスマンは気まずそうにスパーダの方を見やった。
見ると、スパーダの隣にいるロングビルが顔を顰めながらオスマンを睨んでいた。
「あ、いや……すまんの」
「気にするな。お前の言うことは正しい。そのように人間を堕落させるのは私達の専売特許だ」
本に目を通したまま、あえてスパーダは否定しなかった。
「じゃが、君はミス・ヴァリエールや生徒達を堕落させてはいまい。むしろあの子達を導いておる。
君はワシらが知る悪魔とは違う。そうじゃろう?」
「どう思うかはお前達の自由だ。しかし、そのエスターシュとやらが組んでいた悪魔とやらは魔法衛士隊の活躍で全滅か」
「うむ。当時の魔法衛士隊は過去の歴史から見ても全盛期であったと言われておった。特に魔法衛士隊三騎士とマンティコア隊隊長の烈風<Jリンの活躍は凄まじかった!
今の魔法衛士隊なんぞその頃に比べれば月とすっぽんも良い所じゃわい」
ため息を吐くオスマンだが、スパーダは冷徹な態度を崩さずに問う。この話の要点を――。
「……それで、ここに記されている記録を私に見せて、お前は何を言いたい」
昔話に飄々とした態度となっていたオスマンの表情が再び、賢者≠ニしての真剣なものへと戻っていた。
「このハルケギニアはずっと昔から、悪魔達によって狙われておる。エスターシュの青二才の暗躍も反乱も、全て悪魔の力を借りておったことが明らかになっている。
その悪魔も決して協力していたのではなく、あの青二才の野心を骨の髄まで利用しておったこともな。結局、それは失敗したようじゃが」
「なるほど」
既に悪魔達はその頃からこのハルケギニアを侵攻しようとしていた訳か。
六十年前にはブラッドがハルケギニアを訪れていたそうだが、それは任務なのか否かは分からない。
だが、三十年前に起きた事件は明らかにどこかの勢力が明白にハルケギニアを侵攻しようとしていたことは明らかだ。
さすがにどの勢力かは分からない。レコン・キスタが誰に利用されているか不明であるのと同じだ。
「それに悪魔達は頻繁にこのハルケギニアに姿を現しておる。ワシも過去に何度か相見えたこともあるし、先ほども然りじゃ」
明確に最上級悪魔の勢力による侵攻がなくても、勢力から独立している悪魔達による出現はほぼ日常の物と化しているようだ。
41The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:36:08.31 ID:CPhA0ocE
「そして、私もその一人か」
「何を言う。君は奴らなんかとはまるで違うわい。それにその悪魔を相手に君は戦ったのじゃ。何かしら事情があるのじゃろう?
ならばワシは君の行動を信じるぞ」
さすがに今、自分が過去にしてきたことを話す気はないので黙っておく。
「じゃが、このハルケギニアはワシらでは想像もつかん悪魔達が姿を現し、人間も亜人も関係なく襲うのじゃ。
そのことだけは君に伝えておきたい」
「それには及ばん。既に私も何度も遭遇している。そして、これからも奴らとは相見えるだろう」
「何じゃと?」
「今、アルビオンで蔓延っているレコン・キスタ。奴らもエスターシュとやらと同じだ」
スパーダの言葉に、オスマンは驚愕の表情を浮かべた。
「本当よ。私もこの目でたっぷりと見せてもらったわ」
ずっと黙って控えていたロングビルもきっぱりと告げていた。
オスマンは気難しい顔になり、俯く。
「……うぅむ。またあの時のような戦乱が起きるのか。エスターシュ個人だけでもかなりの勢力だったが、今度は新政府に成り代わった連中じゃ。相当な規模になるぞい……」

オスマンは面を上げ、スパーダの顔を見た。
「スパーダ君。できることならば君を戦なんぞに駆り出したくはない。何せ君はガンダールヴ≠カゃ。そのことが公になれば君は宮廷の馬鹿者共に利用されるに決まっている。
じゃが、悪魔達の力はワシらの想像を遥かに超えておる。先ほど現れた巨馬を見ても明らかじゃ。
生徒達が奴らと相見えれば確実に殺される。ワシらでは力不足かもしれん。じゃから、君にもあの子達を守ることに協力して欲しいのじゃ!」
そこには一教育者として、賢者≠フ名に相応しい男の姿があった。
ロングビルはいつも飄々としたスケベ親父としての側面ばかり見ていたため、ここまで真剣なオスマンの態度に呆気に取られていた。
スパーダは冷徹な表情を変えぬまま、じっとオスマンの顔を見つめていたが、やがて小さく息を吐いた。
「いいだろう。人間同士の戦争になど興味はないが、それくらいなら引き受けても良い」
その言葉にオスマンの表情が輝く。
「だが、この際一つ言っておく。……ガンダールヴ≠フ力には期待しない方がいい。こんな足枷は何の役にも立たん」
「足枷じゃと?」
スパーダが発した意外な言葉にオスマンは面食らった。
「正直言って、こいつは私にとっては足手纏いだ。出来ることなら、すぐにでもこのルーンを剥ぎ取ってやりたい」
左手を上げ、手袋をはずすと忌々しそうにスパーダは手の甲のルーンを睨みつけた。
封印により力を失っているルーンは僅かな光も発さない。
「だが、それはミス・ヴァリエールとの契約を解除することにもなる。それでは都合が悪いのだろう」
「うむ……。まあ、確かにそうじゃ……」
「私はパートナーとして、自分の意思で彼女の手助けをしてやるだけだ。余計な力も関係も必要ない」
そう言うと、スパーダは踵を返して歩き出し、退室しようとしていく。
「情報の提供には感謝する。賢者<Iスマン」
言い残し、スパーダは学院長室を後にした。
長とその秘書だけとなった学院長室の中、ロングビルはオスマンに話しかける。
「彼にはガンダールヴ≠フ力なんて必要ないわ。そんなものが無くたって、充分強いわよ」
スパーダの真の力を知るロングビルはしたり顔でそう言い、彼の後を追うように退室していった。
一人残されたオスマンは、机に向かい座したまま複雑な表情を浮かべる。
「かの伝説の力も、悪魔の前では足枷同然か……。何だか始祖ブリミルが哀れになってきたわい」
42The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:40:49.93 ID:CPhA0ocE
その後、スパーダは図書館に入り浸りであった。
ハルケギニアのあらゆる歴史を調べ、魔界との繋がりを見つけなければならない。その繋がりを見出さなければたとえ悪魔達を屠ったとしても侵攻され続ける。
しかし、夜になるまで読み漁っても未だそうした本は見つからなかった。
三十年前に起きたという事件で悪魔達が暗躍していたことは知ることができたものの、どういった悪魔が現れたのかはさすがに分からないのだ。
時空神像の記憶から探ろうにもオスマンは直接その場にはいなかったようであるために無理である。
これは相当に時間がかかりそうだ。
「まだここにいたのね」
本棚に一冊の歴史書を戻した途端、声をかけられた。
見ると、そこにはいつの間にかルイズが立っていたのだ。
「夕食にも来ないでずっとこんな所にいたりして。ほどほどにしなさいよね」
「……そうだな」
別に今日中に調べなければならないことでもないので、切り上げるとしよう。
スパーダはルイズと共に寮へと戻ると、コートを脱いで椅子に腰掛けた。思えばアルビオンから戻ってまだ一睡もしていないことにスパーダは気がついた。
といっても、死ぬほど眠いというわけではない。だが、それなりに疲れてはいる。
(何をしている)
見ると、クローゼットからネグリジェを取り出すなりルイズはそそくさとベッドに移動し、シーツをベッドの天蓋から吊り下げてカーテンを作り、その裏で着替えだした。
今まではスパーダのことは気にせずに着替えていたルイズだったが、スパーダの真実を知ってしまったことで、何故か妙に恥ずかしくなってしまったのだ。
「ね、ねぇスパーダ。あなたいつも椅子の上で寝てるみたいだけど……」
着替え終わりシーツを外したルイズは何故かモジモジとしながら話しかけてきた。
「……気にするな。私は横になって眠ったことなどないからな」
「へ?」
とんでもない発言に、ルイズは間の抜けた声を漏らした。
「いつ寝込みを襲われるかも分からんからな。魔界でも人間界でも。特に魔界と決別してからは、油断はできん」
フォルトゥナ城の私室にはベッドがあったが、そこでも閻魔刀を手に腰をかけるだけで横にはならなかった。
「それって何かあんまりじゃない? せめてここにいる時くらいは……」
「構わん。それにベッドは君のしかないだろう」

「一緒に寝ても良い」と、言うつもりだったのだがそのようにスパーダが言ってしまうと口に出し難くなる。
別にスパーダは寝てる時に変なことなどすることはまずないのだが……。
(何よ。せっかく一緒に寝てあげようってのに……)
パートナーなのだから、ちゃんと相手をして欲しいというのに。
もっとも、スパーダは悪魔なのだ。もしかしたら人間の女性には興味がないのかもしれない。
それだったら誘っても意味はないだろう。
……でも、それが何だか同じパートナーであるルイズに興味はない、と思われているようで嫌な気分になる。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 00:45:09.47 ID:48P5IKFi
しえん
44The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:46:04.61 ID:CPhA0ocE
「ねぇ、オスマン学院長に何を言われたの? あたしにも教えなさいよ」
腕を組んで眠ろうとしているスパーダにルイズは問いかけた。
「昔話だ。かつて、このトリステインで起きたという大公とやらの反乱の話を聞かされた」
「それって、エスターシュ大公の反乱ね? あたしも聞いたことがあるわ」
何故かルイズの声の調子が少し固くなる。彼女のような子供でもその事件は知られているようだ。
「そして、その反乱に魔界の悪魔達が加担していたらしい」
「あ、悪魔が? そんな話、初耳だわ」
「その悪魔達は烈風<Jリンというメイジの活躍によって撃退されたそうだ」

その名が出た途端、ルイズは引き攣った表情でごくりと息を呑んでいたがスパーダは気がつかなかった。
「……だが、今回のレコン・キスタもまた悪魔達が裏で暗躍しているのは間違いない。
私が図書館で調べていたのも、この世界と魔界との繋がりを見つけるためだ。……このハルケギニアは魔界に狙われている」
「……魔界。そういえば、レコン・キスタも悪魔を従えていたみたいだけど……」
ルイズの脳裏に、あの時礼拝堂で目にした悪魔達の姿が浮かぶ。
あのようなおぞましい異形の怪物達が今もレコン・キスタの勢力にいるのだ。
もしも攻めてきたりすれば、きっとまたあの悪魔達が姿を現すのだろう。
そうなった時、トリステインは立ち向かうことができるのだろうか。……ゲルマニアとの同盟が結ばれるとはいえ、相手は悪魔なのだ。
「ねぇ、スパーダ。もしも、レコン・キスタが攻めてきたら……」
「断る」
まるで刃を抜刀するかのごとき速さで返されてきた言葉にルイズは驚いた。
「まだ何も言ってないじゃない!」
「私は人間同士の戦いに興味はない。暗躍している悪魔達を葬るのであれば別だが。私は決して、人間同士の純粋な争いには介入しない」
「……うぅ」
スパーダさえいてくれれば、きっとレコン・キスタが攻めてきても撃退できるに違いない。何しろ彼は伝説の悪魔なのだから。
だが、彼ができるのは人間達を害する悪魔達を倒すことだけ。それ以外のことには一切、関心が無いらしい。
スパーダは魔界と決別し、人間達を見守ることを誓った。そんな彼が自ら人間同士の争い事に介入することなど絶対にしないだろう。

「お、思ったんだけど……あなた、どうしてあたしの使い魔に、パートナーになることを選んだの?」
「何だ、突然」
「だって、あなたは始祖ブリミルにも並ぶほどの偉業を残したのよ? それなのに、あたしみたいな一介のメイジに……しかも人間のパートナーになるだなんて……。
悪魔にもプライドとかはあるでしょう? 自分よりも弱い者に従うなんて、屈辱じゃないの」
スパーダは目を瞑ったまま黙していたがすぐに冷徹な答えが返ってきた。
「この際だから言う。私は君に従属にした覚えは無い」
「何ですって?」
その言葉にルイズの表情が驚くと同時に険しくなった。
「前にも言ったが、私は君をパートナー……いわば相棒として見ている。つまりは対等な関係という訳だ」
予想していなかったスパーダの言葉にルイズはショックを受けていた。主人として自分を見ていないということは、信頼していないということではないか。
思わずルイズの目元にじわりと涙が滲む。
45The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 00:50:15.10 ID:CPhA0ocE
スパーダは目を開くと自らの左手にあるルーンをルイズに見せ付けた。
「普通、メイジが使い魔にルーンを刻むと使い魔を洗脳する力を発揮するそうだ。私の時もそうだった。……私には通じないがな」
「洗脳?」
「使い魔はメイジにとって都合の良い存在へと作り変えられるそうだ。忠誠心や信頼の刷り込み、それらを使い魔として呼び出した生き物に対して植え付ける。
そうすることで決して反逆されることもないだろう。表面上はどんなに反感を抱いていようが、意識化では決して主には逆らえない。それがこのルーンを刻んだ時に起きる」
「……つまり、スパーダにはその洗脳が効いていないということ?」
「もっとも、しつこく私を君に従属させようとしてくるのだがな。私としては不愉快だ。
だが、私は自らの意思で君と共にいることを選んだ。君はそんなまやかしの信頼を強制して使い魔と共にいたいか?」
「うぅ……」
それを聞き、ぐしぐしと目元を腕で拭うルイズは安心すると同時に微妙に複雑な表情を浮かべていた。
スパーダは自分を信頼していないわけではない。だが、彼に刻んでいるルーンはまるでルーンとしての機能を果たしていない。
……彼はハルケギニアの亜人でも幻獣でもない。悪魔なのだ。もしかしたら根本的に仕組みが違うのかもしれない。
それではまるで自分が使い魔にルーンを刻んだコントラクト・サーヴァントが失敗したように思えてしまうのが屈辱だった。

(でも……スパーダは自分の意思で決めたのよね……)
もしもスパーダがルイズを信頼していなかったら、初めて会ったあの時に自分を見捨てて去ってしまったかもしれない。
だが、彼はここに残ってくれた。自分の意思で、ルイズのパートナーとして。
決して、ルーンの洗脳によって決められたわけではない。
「私の仕事は人間達の人生を見届け、見守ることにもある。たとえ一個人であろうが、それは変わらん」
つまり彼はルイズという一人の人間の人生を見届けようとしているのだろう。
それだけではない。きっと、ルイズの周りにいる多くの人間達の人生さえも。
彼は悪魔だ。自分達人間よりも遥かに命は長い。きっと、エルフなどよりも長いことだろう。
だから、たとえこれからルイズが百年以上生きていようとも、スパーダにとっては短い時間に過ぎないのかもしれない。

「……話はこれで終わりだ」
手袋を付け直し、再び腕を組むとスパーダは閻魔刀を抱えながら目を閉じた。
……寝つきは良いのか、すぐに深い眠りに落ちていた。
「あたしの人生を、見守る……」
ルイズはシーツをかぶりながら、自分の手を見つめた。
ルイズの夢は、立派なメイジになること。魔法を使いこなし、家族や学院の生徒達や教師達など多くの人達に認めてもらうことにある。
「スパーダにも認めてもらわないとね……」
異世界を魔界の侵攻から守った伝説の悪魔が、こんな小さな存在である自分の人生さえも見届けようとしている。
どんなに小さな存在でも、スパーダはその行く末を期待しているのだろう。
ならばその思いを裏切らないように、自分もまた前に進まなければならない。
決して洗脳などではなく、スパーダ自身の本当の意思と思いで認めてもらうのだ。
46名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 00:58:34.94 ID:pzeKYOp+
しえn
47The Legendary Dark Zero:2012/05/23(水) 01:26:43.16 ID:CPhA0ocE
その日の夜、トリスタニアのチクトンネ街の通りに、三人の男女の姿があった。
もっとも、一人は完全に酔い潰れて眠ってしまっており、同僚の女に体を支えられている見っともない姿を晒していたが。
「本当にしょうがないわね……」
酒を少し飲んで顔をほんのり染めているヴァレリーはエレオノールの体を肩で支えながら呆れていた。
「何だか申し訳ないことをしたな……」
共に通りを歩く黒ずくめの長身の青年、モデウスはエレオノールの酔って赤く染まりきった顔を見ながら苦笑していた。
「気にしなくていいのよ。いつものことなんだから。それより悪いわね、わざわざ付き合ってもらっちゃって」
相手は平民でありながら、ヴァレリーは対等の態度を取っていた。
昼間、エレオノールとヴァレリーが彼を見つけて捕まえた後、アカデミーへ連れ込んで様々な話を彼から聞きだした。
ホーリースターという秘薬のことはもちろん、学院で会ったスパーダという貴族との関係などだ。
そのスパーダの話をした時、彼はやけに驚いた様子であったがすぐに落ち着いて話を続けた。やはり彼はスパーダの弟子だという。
「モデウスぅ……もっと飲みなさいよぉ……」
そして、エレオノールは彼を酒場へと連れていくなり、そこで彼にどんどん酒を勧めていたのである。
表向きは自分に世話をしてくれた例だということだが、実際は彼を酔わせて恥をかかせてやろうというつもりだったのだろう。
何だか彼女らしくない仕返しである。
もっとも、モデウスはかなり酒に強く全く酔わない上に、そのエレオノール自身も十杯もの酒を飲んでしまい、このような状況となっているのだが。
「では、僕はここで。一応、これも渡しておきますね」
モデウスは再びホーリースターを取り出し、渡してきた。
製造法はモデウスから聞き出したのだが、材料がかなり希少なものばかりなので今は作ることができない。
「良かったら、今夜はアカデミーに来たら? 本当は平民を簡単に入れちゃいけないんだけど、エレオノールが世話になっていることだし。お茶くらいは出してあげるわよ」
「いえ。僕はもう宿を取っていますので」
「……それじゃあ、一応明日また寄ってちょうだい。……放っておくとエレオノールがうるさいから」
そう告げて、ヴァレリーは酔い潰れたエレオノールを担いでアカデミーを目指していった。

モデウスはその背を見届けた後、夜空に浮かぶ月を見上げた。その表情は妙に嬉しそうであった。
千五百年以上もの間、待ち続けた邂逅。兄はただひたすら待ちながら、己の力をさらに磨き上げていた。
やがて、兄はいずこかへと消え、モデウスもまた彼を追ってこの地に降り立った。
そこで思いもせぬ者が訪れていることを彼女達より耳にした。
……自分達の師、魔剣士スパーダの名を。
「我が師よ。……ようやく会えるのですね」
一度は剣を捨てようかと考えた。何も生み出さず、兄の生き甲斐さえも奪いかねない自らに嫌気が差して。
……だが、やはりモデウスも剣士の一人。同じ剣を振るう者の存在があれば思わず体の底から疼いてしまう。
まだ、剣を捨てるわけにはいかないようだ。


※今回はこれでおしまいです。
今後、実力のあるメイジとゲーム中に登場するボス悪魔との因縁、ライバル関係も出していくつもりです。
配役も既に決まっています。
烈風の騎士姫からも引っ張っていくつもりです。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 04:18:33.99 ID:gLsokUW5
乙です
49名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 17:00:57.35 ID:ndT/IHpN
タルブ村が廃棄された戦闘用アンドロイドの村で、飼育されているのがヘラクレス座歩行性肉食ブドウ
そして保管されている竜の羽衣が宇宙零戦というネタを思いついたが、さすがに元ネタを知ってる人はいないとあきらめた
50デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 21:47:04.10 ID:Qqsq+iuG
今日もこれから五分後に第二十四話投下します。

51デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 21:52:03.78 ID:Qqsq+iuG
第二十四話 『開戦』

タルブ村からミント達がヘキサゴンを接収して戻ってきて数日が過ぎた。
今日はトリステインとゲルマニアの同盟調印式の日である。つまりはアンリエッタとアルブレヒト3世の結婚式の日でもある。

それは取り敢えず置いておいて…

やはりミントが予想していた通り、オスマンが保管していたカノンオーブはタルブのヘキサゴンに合致していた為、ミントの交渉術によってカノンオーブは何事も無く無事オスマンから譲り受ける事に成功した。
問題のヘキサゴン自体はオスマンが施していた固定化の御陰で劣化も少なくコルベールとギーシュを筆頭に大勢の人間がガンダールブの能力を発揮したミントの指示によって整備と改修を行っていた。

そして…


___魔法学園 早朝


「やぁ、おはようギーシュ。…今、君はそれは一体何をしているんだい?」
魔法学園の敷地の隅にあるコルベールの研究室の前に広がる広場を訪れたマルコリヌは安置されたヘキサゴンの下に潜り込んでゴソゴソと作業を行うギーシュに声をかける。

「おや、おはようマルコリヌ、見ての通りさ。外装に痛みや歪みが無いか調べているのさ。
知っての通りこいつも昨夜ようやく起動実験に成功したんだよ。僕が個人で出来る事と言えばこれ位だからね。」
額に浮かんだ汗を拭って爽やかな笑顔でギーシュは友人であるマルコリヌに語る。

「所でマルコリヌ、君は王女殿下の式典に参加するんだろう?こんな所でゆっくりしていていいのかい?殆どの生徒が昨日には魔法学園を発っているというのに…」

「それは僕の台詞だよギーシュ。僕は父上と母上が王都に向かう途中馬車でここに立ち寄る予定だから乗り合わせていくんだ。だからまだまだ平気なんだよ。」

「成る程ね…僕は、フフフ…トリスタニアには完成したばかりのこいつでミント君と向かうんだよ。」
ギーシュは誇らしげな笑みを浮かべて朝露に濡れたヘクサゴンの黄土色のボディを見上げる。
52デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 21:54:19.55 ID:Qqsq+iuG
「へぇ〜そいつは凄いね!!僕は最初君がこんな怪しげな物に夢中になっていた事に驚いたけど今じゃ心から羨ましく思えて仕方が無いよ。」

「ハハハ…ヘクサゴンならきっと君もいつか乗せて貰えるさ。何なら僕からミント君に頼んで上げるよ。」
ギーシュと共にヘクサゴンを見上げるマルコリヌはそのギーシュの提案に微妙に表情を曇らせる。

「ありがとう、でも僕が君を羨んでいるのはそれだけじゃ無いんだよ。」
「と言うと?」

「君はモンモランシーと付き合っているだろう?それなのにミス・ミントとアルビオンに向かったと思えば今度は宝探しの冒険、それにここ最近はずっと一緒にヘキサゴンをいじっていたじゃないか。
そして君は多分学園の誰よりもミス・ミントと親しい。」

「マルコリヌ、まさか君はミント君に…」

「いやっ、そうじゃないんだ!そうじゃない、ただ毎日が充実しているようで君が羨ましいなと…僕もヘキサゴンの修復作業に参加しておけば良かったと今更ながらに思うよ…」
慌てて否定しながらも顔を赤くしたマルコリヌの言葉の語尾はどんどん小さくなっていく。

「ふむ、ミント君は確かに魅力的な女性だからね…ところでマルコリヌ、こいつを見てくれ。 どう思う?」
ギーシュは友の悩みに無粋に踏み込む事をせずただ視線をヘキサゴンへと向けた。次いでマルコリヌもヘキサゴンを改めて見上げる。

「すごく…大きいです。」
言ってマルコリヌは無意味に頬をほんのり朱に染める…

「いや………大きさの話じゃ無くてね……少々、この色では彼女が搭乗するには無粋というか…地味だとは思わないかね?」

「う〜ん、確かにそうだね。」

「今からでも遅くは無いさマルコリヌ、僕一人ではこいつを彩るには些か苦労するかも知れない。
だが、君が一緒なら心強いんだがね。」

53デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 21:57:08.88 ID:Qqsq+iuG
ギーシュは言って近くの資材小屋に目配せした。そこには本来使用人達が使用する塗装用品が保管されていた。

「ギーシュ………うん!素晴らしいアイデアだよ。色は彼女の緋色の髪をイメージして赤色が良いんじゃ無いかな?」
マルコリヌはギーシュの提案に笑顔で答えると用具倉庫へと我先にと駆けだした。

「あぁ、素晴らしいよマルコリヌ!!そうだ、考えたらヘキサゴンという名前も少々無骨ではないか?彼女の為にもっとエレガントでスペシャルな名前をこいつに付けてあげようじゃ無いか!!」

「ギーーーーシュッ!!それ、最高にCOOOOOOLLLだよっ!!!」


こうして昨晩も遅くまで作業を行って疲れ果てていたミントがルイズの部屋で爆睡している間に暴走した二人の少年の魔の手がヘクサゴンへと伸びていたのだった。


でっ!!

「何よこれ…」

ヘキサゴンの変わり果てた姿を目にして思わずミントはそう言葉を漏らす…

「どうだい?君の髪の色をイメージして鮮やかな赤で仕上げてみたんだよ。おっと、これはマルコリヌのアイデアでね、彼はこいつを仕上げる為にとても頑張ってくれたんだよ。」

爽やかに髪を掻き上げるギーシュと照れたように頭を掻くマルコリヌ…

「あ…そう。ありがと…」
ミントは未だ呆然と赤く染まったヘキサゴンを見上げたまま気の抜けた礼を二人に返す。別に塗装をしてくれるのは構わない、しかし流石に驚いた…

「そして、こいつにはヘキサゴン改め、新しい名前を付けさせて貰ったんだ!」

「えっ??(嫌な予感しかしないんだけど…)」
『その名も!!』
さらにギーシュとマルコリヌの暴走は止まらない。二人して無駄に格好いいポーズを取ると高らかに新たなヘキサゴンの名を叫んだ。

54デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 21:58:53.77 ID:Qqsq+iuG
「スカーレット!!」

「タイフーン!!」

「エクセレント!!」

『ガンマさ!!』




「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………却下。」

ミントは二人の少年を一言でバッサリと切り捨てた…

(ハァ…何でこうも男ってのは訳の分からない名前をつけんのよ…)
そのミントの一言に命名者の二人はガックリと肩を落とすが本当に肩を落として項垂れたいのはミントだ…二人は知らないが『スカーレットタイフーンエクセレントガンマ』という乗り物は既にミントの世界にあるのだ…


「おい相棒、いそがねぇと不味いのにこんなにのんびりしてて良いのかよ?」
っと、突然ミントの背でデルフリンガーが鍔を鳴らし、ミントは今はこんなにのんびりしている場合では無い事を思い出した。

「あ、そうだった。あのさ、詳しい事は分からないけど結婚式に参列する予定だったアルビオンの艦が攻撃されてトリステインとアルビオンが交戦始めたらしいから結婚式中止らしいわよ。
あたしはこれからヘキサゴンでアンリエッタの所に行くわ。きっとルイズも一緒にいるだろうからね。」

『なっ……なんだって〜〜〜〜!!!!??』






55デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 22:03:53.37 ID:Qqsq+iuG
現在トリステイン城は蜂の巣を突いたような騒動に陥っていた…

トリステインとの不可侵条約を結んでいたアルビオンの艦隊が今回の結婚式典に参列する為に新皇帝『オリヴァー・クロムウェル』を乗せた旗艦『レキシントン』の一団がラ・ロシェールの上空に現れたのは数刻前…
その際、レキシントンから放たれた礼砲に対する返礼の砲をトリステインの艦が撃った時に事件は起きた…実弾を伴わない空砲に会わせ、アルビオン側の戦艦が何故か一隻爆発、炎上したのだ。

これに対し、アルビオン側はそれをトリステインからの宣戦布告と見なし、レキシントンの誇る長射程大砲で旗艦『メルカトール号』を含むトリステイン艦隊を壊滅させた。
無論、この一連の出来事はアルビオン側のトリステインのゲルマニアとの同盟阻止の為の卑劣な陰謀であったが最早事実などは関係なく、
アルビオンの軍は驚異的な進軍速度でタルブ村とラ・ロシェールの上空を制圧し、既に開戦は避けられぬ状態に陥っていた。


___トリステイン城 軍議室

トリステイン王宮に、国賓歓迎のためにラ・ロシェール上空に停泊していた旗艦『メルカトール』号を含むトリステイン艦隊が全滅したとの報と共にアルビオン政府から宣戦布告文が王宮に届けられた。
『貴国ハ不可侵条約ヲ無視シ、理由モ無ク我艦ヲ攻撃シタ事ニ、神聖アルビオン共和国政府ハ憤慨ノ意ヲ表ス。自衛ノ為神聖アルビオン共和国政府ハ、トリステイン王国政府二対シ宣戦ヲ布告ス』

結婚式の為にゲルマニアへのアンリエッタの出発でおおわらわだった王宮はその突然の事に騒然となり、すぐさま大臣や将軍達が集められ会議が開かれた。
しかし、会議は紛糾するばかりで少しも進展しない。
口々にアルビオンに急使を送りトリステインの先制攻撃が誤解である事を正すべきであるとか、ゲルマニアに使いを派遣し軍事同盟に基づいて軍の派遣を要請すべきだ。等無難な意見は出ても誰もが結論を出せぬまま悪戯に時間ばかりが流れてゆく。
その会議室の女王マリアンヌの隣にはウェディングドレス姿のアンリエッタの姿もあった。
既に不毛な緊急会議が開始され三時間近くが経過している。

「我が方は礼砲を発射しただけだと言うではないか!偶然による事故であると言う事を早急にアルビオンに打診すべきだ!」
「そうだな、全面戦争へと発展する前に、アルビオンに特使を派遣し、双方の誤解が生んだ遺憾なる交戦であったと言う事を明らかにして置くべきだ。」
56名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 22:06:28.15 ID:Qqsq+iuG
現在トリステインの政務を取り仕切っているマザリーニ枢機卿も、このアルビオンに特使を送る案が最も妥当であろうと結論付けると早急に特使の手配を決定した。

「お待ちなさいマザリーニ!!」

しかし、これに異を唱えたのはこれまで黙して会議の成り行きを見守っていたアンリエッタだった。会議に参加していた貴族達はやおらアンリエッタへと視線を集中させる。
一喝と共に立ち上がったアンリエッタの瞳は今強い決意と意思を秘めていた。迷走する会議の間その指先に填められた風のルビーを見つめてずっと考えていたのだ…

「あなた方は恥ずかしくないのですか?国土が敵に侵されていると言うのに、同盟だの、特使だのと騒ぐ前にする事があるでしょう?」
「しかし、姫殿下、我らは不可侵条約を結んでおったのだ、これは偶然の事故が生んだ誤解から発生した小競り合いですぞ…」
恰幅の良い貴族がアンリエッタを宥めるように進言する。するとアンリエッタはキッと強い視線でその貴族を睨み付けた。

「チェレンヌ殿、偶然の事故とは随分と都合の良い物なのですね、アルビオンに味方する傭兵が偶然集結していたと仰るのですか?
もとより条約を守るつもりもなかったのでしょう。時を稼ぎ、条約など我々の虚を突くための口実に過ぎません。アルビオンは明確に戦争をする意思を持って、全てを行っていたのです!!」
「しかし、姫殿下……」
「我らは何のために王族、貴族と名乗っているのですか?こうしている間にも民の血は流され、大切なものを奪われていくのです!その力無き彼らを守るために我ら貴族の務めではありませぬか?」
そのお飾りの姫と暗喩されていたアンリエッタの口から出たとは思えぬ勇ましい言葉にもはや誰も、言葉を返せなかった。
「あなた方は怖いのでしょう?アルビオンに敗れる事が。そして敗戦後、反撃を率いた者として責任を取らされたくないと。ですが、そうしてアルビオンに恭順して生きながらえ、傷ついた民の前に立ち、尚も貴族と名乗るつもりですか?」

「アンリエッタ…」
母マリアンヌは娘のその剣幕に圧倒されながら娘へとおずおずと手を伸ばす。だがアンリエッタはそんな母の手を振り払うように言葉を続けた。
「よろしい、ならば軍をわたくしが率いましょう。あなた方は好きなだけこの会議室で踊っていればよろしいですわ!わたくしの馬車を!近衛!参りなさい!」」

マザリーニや数名の貴族が会議室を飛び出そうとする王女を押しとどめようと立ちはだかる。
57デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 22:08:23.07 ID:Qqsq+iuG
「なりませぬ!姫殿下!お輿入れ前の大事なお体ですぞ!」
「退きなさい!!結婚一つで今ある危機を救う事ができますか?今この国を!民を守れるのは杖を手にする貴族だけです!!!」
アンリエッタは叫んだ。
そのアンリエッタの言葉に賛同するかのように魔法衛士隊の面々が集まり、一斉に杖を掲げて敬礼して会議室の扉を開いた。

そして…

扉の先にてアンリエッタを待ち受けるようにかしずいていたルイズはゆっくりとその顔を持ち上げる。

「姫様…この不祥ヴァリエール家が三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエール、是非とも姫様のお供をさせて頂きたく存じます。よろしいでしょうか?」

「ルイズ…えぇ、頼りにさせて貰います。」

___


「ルイズ…わたくしは将軍達が特使だの交渉だのと話している間、ずっと考えていました。」
アンリエッタは純白のドレスの裾を乱暴に裂いて自分専用の幻獣ユニコーンに跨がる…
「何を…でございますか?」

「彼女…わたくしと同じ王女であるミントさんならばどうするかをです…彼女ならばきっと…」
アンリエッタは視線を空へと向ける…その先には小さくではあるがレキシントンの巨体が映っていた。
「…決まっています。」
ルイズは確信の言葉を持って頬を少しだけ緩めると自慢の使い魔の顔を思い浮かべる…

「始祖よ、我等に加護を。ウェールズ様わたくしに一時の勇気を……これより全軍の指揮をわたくしが執ります!各連隊進めっ!」
アンリエッタは風のルビーに祈りを捧げると水晶の杖を振りかざした…ユニコーンの嘶きと兵士の怒号が城門を揺らす。


トリステイン対神聖アルビオン共和国       【開戦】
58デュープリズムゼロの人:2012/05/23(水) 22:12:54.88 ID:Qqsq+iuG
以上で終わりです。
今回前半と後半で凄い温度差があるきがしますww

それとしばらくはドラゴンズドグマを買っちゃうので更新滞るかもです。
59名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/23(水) 22:53:05.60 ID:CXjLe1Dm
デュープリの人乙
さあ!スカタン号の発進だ!
60名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:08:54.14 ID:JXjVLOuO
スカタン号キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
いや、来なかったw

どうでもいいけどもうマルコリヌで固定なのかw
61名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:24:21.08 ID:IrN2vrOx
正直誤字脱字とかじゃなく、ガチで固有名詞間違ってるって馬鹿の類だな
まともに原作読んでない上に、確認もしていないという
62名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:30:35.73 ID:zDFNXXN8
乙です、デュープリズムの方。

で。で。で。ところで。

マジで申し訳ない。

『ゼロと魔砲使い』を執筆された方に謝罪をいたします。

Spacebattles という海外のフォーラムにて、あなたの書いた『ゼロと魔砲使い』の(ごくごく簡単な)概要を伝えたところ…

「今すぐ翻訳部隊を招聘しろ!」
「何、なのは様がルイズを指導するだと!興奮するぞハァハァ」
「ヒャッハァ、むしろご褒美だ!」
「おい、何でこの二次創作が知られていないんだ!」

と大興奮する諸兄を召喚してしまい、マジで迷惑をかけそうです。
そしてこのスレにも海外連中の迷惑をかけそうです。

先に謝ります。

この場を用いて、全力を持って謝罪します。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:32:47.46 ID:NXsqwQIp
外人もお前らみたいなのいるんだな
64名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:34:23.50 ID:DneRUf6A
いや、間違ったままずっと信じ込んでしまうってこともあるだろ。
俺の実例だけど、前にナデシコのSSを書こうとしてVHSを全巻借りて見切った。
けど聞き間違いで「ディストーションフィールド」を「ディストンションフィールド」とずっとして読者に指摘されてやっと気づいた。
今考えると間抜けでしかないが、一度固定して覚えると自力ではなかなか気づきにくいもんだよ。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:36:53.82 ID:SKNCWpq0
それでも最低限SS書くならしっかり推敲するのが普通だがな
66名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:42:52.52 ID:zDFNXXN8
あの、その…

一応私の犯した大罪(2chに関係ない諸兄を召喚してしまった可能性)をおいておくとして…

私がSpacebattlesのフォーラムで気を緩んでしまった原因は、彼らは(英語圏で)真っ当な二次創作を量産しているということがあるのが理由でして…
67名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:43:57.45 ID:0N5A3/df
本人は正しいと思い込んでたら、推敲しても意味なくね?
他人に推敲してもらう人はまずいないだろうから指摘して、直してもらえば良いじゃない
68名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:51:32.01 ID:JXjVLOuO
ID:zDFNXXN8
日本語と一緒に空気も読みましょう
69名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:53:03.11 ID:iT2MhAo9
>>66
何かよくわからんが、そのヒャッハーの内の誰かががここに海外作品との
クロス作品書いてくかもしれんし、そうなったらむしろ面白いだろ
70名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 00:55:10.38 ID:zDFNXXN8
スンマセン、黙ります。
このスレで書かれるスレを推薦するつもりで書いたつもりが、異常な事態に…
ID:JXjVLOuOさん、もう金輪際これで黙ります。申し訳ございません。
71名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 04:15:04.52 ID:AmfuD+zD
お前はいい奴だな
でもそれは謝る事かじゃないと思う
勝手に紹介したのが悪かった!
とか思ってるならそもそもSSなんかネットには載せんよ
このスレに限ってはwikiとこのスレが現状荒れてなければどうでもいい
72名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 05:53:47.70 ID:vpU+3pQF
内容はどうでもいい
本当に謝るつもりならで。で。で。とか無駄な改行とか無駄な言い回しは普通書かない
73名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 08:11:46.88 ID:sgHDgQZV
ででで
74名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 08:38:02.51 ID:atlbCP8m
んでんでんでwww
75名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 09:52:39.12 ID:J6vFAvpK
よかれと思ってやったんだろうな。

で。で。で。それが空回りしちゃったわけだ
76名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 12:49:37.82 ID:GL7Z6GWA
>>61 >>65
お前、同一人物だろ
何、上から目線で言ってんだよ
名前違うよ?って普通に言えばいいだけだろ
だがなじゃねーんだよ タコ
77名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 12:58:21.73 ID:DneRUf6A
タコですみません。
ん?かわいい女の子、わいの好みや。ぽっ
わいはただのタコじゃないよ。カッパ、ともだち。かっぱっぱーっ
78名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 15:54:47.30 ID:sgHDgQZV
「河童の飼い方」の河童を召喚すれば、普通に喜ばれるんだろうね
79名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 18:21:06.18 ID:krs5gPWy
>>47
「ネロ」って時代が違うから烈風の騎士姫にいるのはおかしくない?
それとも別のキャラクターの偽名?
ノワールも別名だったし。
80名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 20:54:59.28 ID:WPaEA2sH
なんか荒し沸いてね?

上から目線で批評()してる>>61 >>65 >>79
とりあえず何か面白いSS作品書いて投稿してから書き込め

どうせ口だけで出来ないのだろうが()
81名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 20:59:53.01 ID:2PNKwfXU
めくそはn
82名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 21:13:58.14 ID:iT2MhAo9
ゼロ魔スレは何故かどこも荒れやすいよな

ドン・キホーテとかナタ太子とかデ○ズニーのクロスなんか読んでみたいわ
83名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 21:29:57.22 ID:nMMZfuhX
海外にはX−MENのエグゼビア教授×マグニートーのカップリングに萌えるって人達も居るし、それに比べたらゼロ魔二次創作なんて健全だよねー
84名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 22:06:34.87 ID:0N5A3/df
>>83
どこにでもいるのか・・・
85名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/24(木) 23:04:23.89 ID:U+I6lFWl
映画X−MENのマグニートー役の人も「エグゼビア教授とのラブシーンが欲しかったね」と言ってたはずw
まぁ、この人は同性愛者で有名な人なんだけどさ。
86名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 07:51:40.43 ID:ltYc/Ww4
今のマーベルユニヴァースでは、男性のゲイカップルの結婚で盛り上がってるぜ。
87名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 11:15:59.51 ID:4VGtMbsi
契約のキスを性的指向の問題で拒否する使い魔か
88名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 11:29:03.39 ID:p99MbvoI
ルーンが刻まれる肉体的苦痛より、ルイズに唇を奪われた事による精神的苦痛で苦しむ使い魔か…
ネタとしてはアリじゃね?と思うのは心が穢れておるかな?
89名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 16:42:55.27 ID:vKpbDi90
むしろおっさん共に召喚された男が味わう精神的苦痛の方が甚大だろう
90名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 17:12:46.25 ID:VCqgYNAe
>>89

教皇とか無能王に召喚されたパターンですねわかります。
それで地獄みたサイトとか居たな
91名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 17:25:51.57 ID:RZg+IdHT
おっさんといえば、銀魂から近藤勲を呼んだ場合だと、ギーシュに香水瓶拾ったことを責められたら
「それはすまなかった。俺があやまってすむならいくらでもあやまろう」と、全裸で****
沖田総悟を召喚しちゃったら、ギーシュが香水落としたときにはすでにモンモンもケティもメス豚に調教されていましたとさ
92名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 18:04:02.38 ID:CtUrJCW7
ジュエルペットやマイメロなんかどうだろうか
とても可愛らしくて使い魔にぴったり
93名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 18:41:29.05 ID:Bth1O1lr
>>91
>沖田総悟を召喚しちゃったら、ギーシュが香水落としたときにはすでにモンモンもケティもメス豚に調教されていましたとさ
んで覚醒されて逆に調教されるのか

いっそアレだ
銀さんの洞爺湖を召喚して「ただの棒っきれを召喚したゼロのルイズ」として泣き崩れた夜から
洞爺湖仙人一家による修行が始まり
最終的に宇宙の地上げ屋になるルイズ
94名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 19:05:35.02 ID:QEhxsjix
レイナールの本体が眼鏡になるのか
95名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 21:37:15.30 ID:4KgU6uDW
ところで代理投下依頼が残されてるのはどうすんの?
96名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 21:39:40.38 ID:SiDPt+KM
気づいた人が代理する
97名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 21:55:41.90 ID:4KgU6uDW
携帯だから無理
98ゼロのドリフターズ ◆IxJB3NtNzY :2012/05/25(金) 22:55:47.31 ID:lzG5W/dS
こんばんは、23:00くらいから投下します。
99ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:00:44.47 ID:lzG5W/dS
 "白の国"アルビオン首都ロンディニウム、ハヴィランド宮殿のホール。
そこの中心には巨大な円卓があり、上座の椅子に年老いたアルビオン王陛下ジェームズ一世が座る。
周囲をウェールズや信の置ける重臣達が囲んであれやこれやと意見を出し合い議論をしていた。

 実際に国を動かす場所、その渦中に通されたルイズ達は雰囲気に圧倒される。
ふとシャルロットはよくよく見知った顔に気付いた。
少し離れて立って控えている正式なトリステインの使者達、その中に見える馴染みのある人物。
「父様?」
「・・・・・・え?シャルロット?何故ここに・・・・・・?」

 シャルロットとジョゼットの実の父親にして、元ガリア王家第二位継承者シャルル。
ウェールズに負けず劣らずの美男であり、未だ若々しさを保ちつつも、大人の渋みが加わっている。
現在はトリステインの竜騎士として働いていて、監視下に置かれていると同時にその優秀な実力を遺憾なく発揮していた。
昔は前線を結構暴れ回っていたものの、今は首都警護を担当している――。
――筈なのであるが、使者として派遣されているのを不思議に思う。

(そうか、やはり・・・・・・)
シャルロットとシャルルのやり取りを横目で見ながら、ウェールズは心の中で思っていたことに確信を得る。
やはりシャルルは元ガリアの王族なのだ――と。

 先だってシャルロットが元ガリア王族であることを知った。
よって青い髪色やその顔立ちからも、もしかして親族なのではと思っていた。
されどそのようなことを公然と聞けるわけもなく、彼の立場も察して言及したり質問することはしなかった。
改めて挨拶をしたいところであったが、ややこしいことになりかねないので黙ったままでいる。


「――そうか、特使か。いつの間にやら子供というものは立派になっているものだね」
「父様は・・・・・・――」
耳打ちで会話しながら、言いかけてシャルロットは口をつぐむ。
あまり深く突っ込んで話している状況でもないし、勘繰られて自分達が元ガリア王族の父子と露見しても困る。
そして恐らくは・・・・・・アンリエッタ王女の計らいなのだろうかと推察した。

 ルイズとキッドとブッチの紹介もしたいところではあったが、それは後に回される。
今は議論の真っ最中であり、悠長に自己紹介をしている暇などない。
その議題とは――今の段になって、貴族派の中に焦燥が見出されたということであった。
下手をすると何かしらのアクションに出る可能性があり、危険なのがトリステインまでの道筋。
特にアルビオン大陸から出るまでの間である。そのことについて話し合っている最中なのであった。

 現在アルビオン国内は熱気に満ち満ちている。
発表されたウェールズとアンリエッタの結婚を大いに喜び、アルビオンとトリステインの同盟を歓迎している。
王族が未だ国民に受け入れらているという喜ばしさと共に・・・・・・。
反面、予想以上に追い詰められた貴族派が何をしでかすかわからない現況。
されど水面下である以上は軍を動かすわけにもいかない。
よって密かに竜籠でもって運ぶという案などが持ち上がっている。
100ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:01:08.56 ID:lzG5W/dS
 ウェールズとしては今後の支持や盛り上がりの為にも、大手振って港まで行こうという気であった。
しかし特にウェールズの側近が反対している。当然危険が伴うからだ。

 貴族派をより抑え込むことを考えれば、堂々と往く方が良い。
しかし誘拐――最悪の場合、暗殺などがされようものなら本末転倒である。
どれだけ護衛をつけようとも安心は出来ない。それほどまでに貴族派は・・・・・・力を持つ貴族達は危険なのだ。
されど敢えて身を晒すことで、ほんの少しでも隠れた貴族派が動きを見せれば、情報を得る絶好の機会にもなる。

 様々なメリット・デメリットを考え、アルビオンの首脳達で腐心しているのだ。
それほどまでに、反発する貴族派の危うさが鑑みられるというものであった。
同様に今の王党派の立っている場所も、非常に予断を許さない状況であるとも知れる。
しばし会議を見聞きしながら、シャルロットは前提や状況をまとめつつ一つの答えを導き出した。

「・・・・・・考えがあります」
シャルロットが手を上げて提案する。周囲の注目を集めたところで二の句を紡ぐ。
「ウェールズ様の意思を尊重しつつ、安全を確保出来る。そんな・・・・・・両立させる方法がございます」

 予想通りにホール内がざわつきだす。
誰にも思いつかぬそんな方法をたかが少女が考えつくなどと。
あまつさえ不躾気味に意見をするなどと。

「どのようにだい?」
ウェールズが聞く。聡明な少女シャルロットのことは既に知っている。それに聞くだけなら損もない。
「ここにいらっしゃる皆々様を疑うわけではありません、が・・・・・・万が一を考えますればご内密に」
周囲から侮辱だなんだと声が飛ぶが、ウェールズが自ら諌める。
つまるところ最終的な判断と決断を下すのは、ウェールズの意志次第であった。

「いいだろう、では少しだけこの場を外すとしよう」
「キッドさん、一緒に来て下さい」
「ん・・・・・・?あぁ、わかった」

 他の者達を残し、ウェールズに連れ立ってシャルロットとキッドはホールから出て行った。
101ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:01:30.42 ID:lzG5W/dS


 ウェールズの私室へと通されると、確かに三人しかいないことを調べる。
『探知』魔法でしっかりと確認した後に、周囲に『サイレント』を掛けて情報の漏れない万全の状態にする。
その上でシャルロットは考えた策の概要を、順を追って丁寧に説明した――。


「なるほど、確かにそれが可能であれば一石二鳥だな。しかしそれでは君達が・・・・・・」
「大局的に見ればこれが一番かと。それに私は問題ないです、後はキッドさん次第ですが・・・・・・」
「全然構わないよ」
チラリと窺うように目を向けるシャルロットに、キッドは快く承諾する。

 危険と言えば危険だがその程度は慣れっこだ。
それに次期アルビオン王に恩を売っておくことも悪いことじゃない。
「ありがとう、父様がいればキッドさんの安全も確保出来ると思うので」

 身内贔屓ではなく、掛け値なしに父シャルルは凄腕のメイジだ。
伯父の話によれば、自分達の年の頃にはそれはもう華麗に空を舞って、火を完全に操った。
銀を容易に錬金して、水の根本すらも理解するほどの術者で、頭も良かったという。

 四系統全てをそつなく使いこなし、竜騎兵として経験も積んでいる父。
幼き頃から、かくあるべしと目標にしてきた偉大な父親だった。
――その才能こそ妹のジョゼットにしか受け継がれなかったものの・・・・・・。

「すまない二人とも、危難を乗り越えた暁には必ず報いると約束しよう」
ウェールズは何の躊躇いもなく頭を下げる。くだらないプライドは説得された夜に捨ててきた。
自分の為に、アンリエッタの為に、アルビオン・トリステイン両国と、両国民の為に協力してもらう。

「別に襲撃されると決まったわけではありません。殿下の方も油断はなりませんよ?」
次いでシャルロットは一応確認の意味も込めて、付け加える。

「それにウェールズ様にも少々血を流して頂くことにはなりますし・・・・・・――」
102ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:01:47.18 ID:lzG5W/dS


 婚約と同盟を祝うパレードは派手に行われた。
首都ロンディニウムだけでなく、行く街、訪れる先々で沸きに沸き立つ。
民を味方につけ、しっかりとした基盤を築き直す。貴族派に付け入る隙を与えぬ為に――。


 そして――ウェールズの乗る馬車と護衛団の行程を知り、その道中で待つ集団があった。
ウェールズ達の目的地である港町ロサイスから近い街道沿い。道程も後少しとなり最も油断する頃合。
兵を適度に隠すことが出来る地形でもあり、恐らくここ以上の場所は望めない。

 集団の中にあって最も異質なその男は音もなくあくびをした。
顔に大きく残る痛々しく残る火傷痕、筋骨隆々な肉体に、大きな鉄杖を手に持つメイジ。

 "『白炎』のメンヌヴィル"。
戦場に身を置く者であれば、誰もがその名を聞いたことがあるだろう傭兵。
二つ名の通り火の系統を容赦無く戦場で振るい、その残虐性と悪名を轟かせてきた。
彼に付き従う者達も全員がメイジであり、修羅場を荒らし回ってきた歴戦の傭兵達である。

「どれくらいだ?」
メンヌヴィルは誰にともなく問うた。
「聞くところによるとこっちの3倍くらいですかね。さらにはトリステインの凄腕もついてるって話とか」
「ほう・・・・・・」
虚空を見つめながら舌舐めずりをする。
歯応えのある敵と闘り合えないのならば、わざわざこの依頼を受けた甲斐が少ない。

「王子も武人らしいですよ隊長」
そう言って、頭目たるメンヌヴィルを腹心の部下はさりげなく誘導する。
標的に逃げられでもしたら、前金だけでは到底割りに合わない
王党派を敵に回す以上はしっかりと今回の仕事をこなさねばなるまい。

 メンヌヴィルは戦闘狂だが、構成面子の大半は金を稼ぐことも大事だ。
凶暴な表情を浮かべたメンヌヴィルに、部下のセレスタンは味方ながらゾクリと怖気を感じた。
最初から誘導の意図まで察していたのか、それとも"読まれた"のか。

 『白炎』は独りごちる。
狂おしいほどの飢え。忘れられない20年前のあの日から己は獣となった。
また"あの男"に会いたいと願いながら戦場を巡っている。

 汚れ仕事も受けながら探している。あれほどの男がその業を――秘めたるを抑えられるなど思えない。
焦がれる炎が、身も心も焼き続けている。命尽きるその日まで、その渇き満たされるまで。世界を燃やしてやる。
そうしていればいつか辿り着くだろう、あの"20年前の隊長"に。
103ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:02:15.98 ID:lzG5W/dS
「来たようですぜ」
使い魔を通じて哨戒を行なっていた部下が戻ってくるのを見て、セレスタンが言った。
「・・・・・・ようやくか」
メンヌヴィルは立ち上がりゴキゴキと首を鳴らす。
「問題ないだろうな?」
戻ってきた部下は淡々と報告する。
「はい、道中すり替わってはいないと情報では聞いています。ウェールズの姿も確認済みです。
 それなりに規模がある一団ですし、途中で入れ替わったりでもすればすぐに察知されるでしょうね」

 そうなればすぐに貴族派の方から連絡が来る筈だ。
メンヌヴィルは唸る獣が如く大きく息を吐く。ウェールズの一団は・・・・・・そう多くない。
50人前後くらいか。王子を守る護衛としては少ない。最低でもその倍はあってもおかしくない。

(囮・・・・・・か)
自分自身を餌に、貴族派を誘き出そうとでもしているのだろう。
一度はトリステイン国との同盟と婚姻を断ったと聞く。勇猛果敢と噂に聞く皇太子なら十分考えられる。
それに――腹心中の腹心で固めれば、その程度の規模になっても不思議ではない。
それほどまでに貴族派は潜伏し、情報網を持っている。

「まあいい、予定通り包囲後に殲滅だ」
メンヌヴィルの言葉に傭兵達は無言で頷くと、すぐに配置へとつき始める。
百戦錬磨の傭兵隊。個々の技量も、集団戦闘にも長けた生粋のメイジ達。


 しばらくしてウェールズと護衛団が現れる。隙らしい隙はなかった。
こちらもこの街道沿いのおあつらえ向きな地形を戦場に選んだ。
逆に王党派もよく調べていれば、道すがらこの一帯が最も危険だと理解しているのだろう。
何よりも自分自身が撒き餌だと自覚しているからこそ、警戒は怠っていないようであった。

 全員が騎乗している。先行する六騎、左右にも六騎ずつ。
ウェールズが乗っているであろう馬車を守るように配置されていた。
そして馬車の後方には、整然と並んだ重装騎兵。少ない人数でも相当な迫力を持っている。
104ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:02:31.99 ID:lzG5W/dS
 正面に位置するメンヌヴィルは、ウェールズ一行を眺めながら気付いた。
――"希薄"であった。メンヌヴィルだけが気付く明らかな違和感。
(ガーゴイル・・・・・・か)
魔法人形――形状は様々で翼の生えた異形から、純粋な人型まで豊富な種類である。
製作者・術者が一定の命令で動かす魔法人形が・・・・・・一団の内のざっと8割以上を占めているように"感じた"。

(なめてんのか、それとも・・・・・・罠か?)
餌として犠牲者を少なくする為に、精鋭だけで対応しようとしているのか。
それともこれほどまでに王党派は信頼に足る人材が不足しているのか。

 どちらにしても現実問題として恐れるには足らない。
重装騎兵に偽装した選りすぐりのメイジを期待していたのだが肩透かしを喰らった。

 されど思考とは裏腹に、歴戦の戦場人特有の嗅覚が何かを捉える。迂闊に手を出すべきではない、と。
どうしても拭い切れない違和感を覚えたその時、ウェールズ一行の背後から魔法が飛んだ。
観察している最中に、既に絶好の位置にまで進んで来ている。伏せた隊員達が攻撃を加えるのは当然だった。


「まあいい・・・・・・」
メンヌヴィルは己に言い聞かせるように口に出す。今更悠長にごちゃごちゃ考えても意味はない。
初撃で出鼻を挫いた後に、次いで両脇からも魔法が乱れ飛ぶ。
一団の一角は崩れ、対応を見せる一瞬の間隙にメンヌヴィルは『フレイム・ボール』を挿し込んだ。
ホーミングする炎球は豪奢な馬車の車輪部付近で爆発し、馬車は音を立てて崩れる。

 護衛はすぐに馬車の周囲を固めて、怒号を喚き散らしている。
何頭か襲撃に驚いた馬を宥めつつ、奇襲の混乱と対応にも追われて、陣形も相当乱れてしまっていた。
メンヌヴィルは魔法で作った矢――『マジックアロー』を打ち上げると、散っている部下に指示を与えた。

「セレスタン、お前は残れ」
「了解」
直接指示された部下は伏兵として残る。残る三方にもそれぞれ一人ずつ残っている手筈だ。
ウェールズ一行が落ち着くまでに、メンヌヴィル含む傭兵隊は姿を見せて完全に取り囲んだ。
105ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:02:56.56 ID:lzG5W/dS
「誰の差金か!?」
老いた護衛の一人が剣幕を剥き出しに叫ぶ。流石にいきなり攻撃してくるような馬鹿な真似はしてこなかった。
そうなればたちまち包囲された状態からの混戦。王子を守り切るなど不可能だ。

(だが・・・・・・それは不正解だ)
メンヌヴィルは心の中で呟く。ここは危険を顧みずに死中に活を見出すべきなのだ。
こちらはまともな対話をする気など一切なく、殲滅する気なのだから。

「お前達の置かれた状況はな、俺達を楽しませて死ぬだけだ」
「ふざけるなッ!!!」
メンヌヴィルは煽りにあっさり乗せられて一際感情的に老護衛兵が叫ぶが、一転してメンヌヴィルは冷静に返す。
「どの口が言う、反抗勢力を釣りたいならもっとマシな陣容にしておけ」

「どうすれば・・・・・・見逃してもらえるのかな?」
馬車の中――からではなかった。先頭の一騎の内の一人が言った。
「・・・・・・ウェールズか」
メンヌヴィルの言葉に、馬から降りると目深に被ったフードを取る。

「あぁ、ぼくがアルビオン皇太子ウェールズ・テューダーだ」
死地にあっても威風堂々とし、王族でありながら武人らしい雰囲気を纏っていた。
「ウェールズ様、危険です!!」
側近らしい者達が盾となるように立つが、ウェールズは押しのけて前へと進んでメンヌヴィルと向かい合った。
「もう危険じゃない場所なんてない。それに彼らが本気ならとっくに死んでいるさ」

「その通りだ。お前らは袋の鼠、飛んで逃げれば蜂の巣だ。生き残りたいなら唯一ツ、俺達を殺すことだ」
「なに・・・・・・?交渉をする為に、わざわざ姿を晒したのではないのか」
「いいや、違う。一応敬意を払っているのさ、あっという間に暗殺されたんじゃつまらんだろう?」
 
「・・・・・・一応聞くが、裏切る気はないかい?"君達を雇った者の名前"を込みで、最低でも3倍は出そうじゃないか」
ウェールズの言葉に一瞬だけ隊員達の感情がザワつくが、それはすぐに収まる。
そんな色気を表に出した者はどうなるのか、骨身に染みるようにわかっているからだ。
 
106ゼロのドリフターズ-08:2012/05/25(金) 23:03:18.98 ID:lzG5W/dS
「生憎だが傭兵ってのは信用で成り立つ稼業だ。そんなことをいちいち言わなくてもわかるだろう?王子様よ」
当然である。より多い金を積まれ、容易く裏切る傭兵を雇う人間などいやしない。
そのような連中はどこからも疎まれ、下手をすれば同業者や雇い主によって殺される。

「無論だ、だから君たちの今後の生活も保障しよう。僕と部下の命と、国と民のことを思えば高い買物とは思わない」
「残念。俺達――いや少なくとも俺は、金の為に傭兵やってるわけじゃない。闘いが好きで戦場を愛してやまぬからだ」
「なるほど。傭兵の中では珍しいことじゃない・・・・・・が、今ここに至っては誠に残念だ」
「決裂だな・・・・・・いや、最初から交渉のテーブルなど用意されていない。武人なのだろう?ウェールズ皇太子。
 この俺が素晴らしい死に様を与えてやる。だから安心して逝くがいい。俺は貴様の匂いを忘れないと約束しよう」

 メンヌヴィルに呼応するかのように、周囲の傭兵達も下卑た笑みを浮かべる。
非効率でわざわざリスクを呼び込む首領。それでも隊員たちは実感している。隊長といれば分け前は大きい。
『白炎』のメンヌヴィルの絶対的な強さと実績を信頼しているのだ。

 場に緊張が走り一触即発となるその時、メンヌヴィルが思い出したかのように言った。
「おっとその前に、さっきから気になっているんだが・・・・・・。後ろにワラワラいる"人形ども"は全部自動か?」
包囲された状況での反応の今一つさが特に顕著だ。そうでなくてもメンヌヴィルだからわかる理由がある。

「そんなことを聞いてなんとする?」
「いいや、誰かがどこかで操っているなら、そいつらを呼んでもらおうと思っただけだ」
"魔法人形"程度では話にならない。しかし逆に遠隔で操作しているメイジがいたなら、人数或いは実力が相当なものだ。
自律型は珍しくないものの、万が一があると思い一応確認する。ウェールズも相手が戦闘狂だと察した上で答える。

「ご期待に添えぬようだが、"ここにいる"のが全員だ」
「そうか――」
メンヌヴィルは疑うこともなくあっさりと納得する。
もし自分でもわからぬほど遠間にいればすぐに増援を呼ぶかも知れない。
だがウェールズは"嘘をついていない"。仮に嘘だったとしても、敵が増えるのは望むところだが・・・・・・。


「――それじゃあ・・・・・・始めるか」
メンヌヴィルの殺意が場を支配する。
言葉と同時に、数多の戦場を蹂躙し続けてきた炎熱が開放され舞い上がった――。
107名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 23:04:33.70 ID:lzG5W/dS
以上で終了です。
ぼちぼちテンプレからは、はずれていきます。

それではまた再来週に。
108名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 23:13:38.87 ID:7Ft2o+XS
乙です
109名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/25(金) 23:21:30.07 ID:QL6ZEcgg
そろそろディーキンの人にも来てほしい
110るろうに使い魔:2012/05/26(土) 17:51:24.41 ID:Hzz2Tknd
乙です。皆さんお久しぶりです。
昨日は忙しくて投稿が間に合わず、申し訳ありませんでした。
もし空いているなら、6時丁度に始めようと思います
111るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:00:18.51 ID:Hzz2Tknd
それでは、始めようと思います。



「諸君、決闘だ!」
 ギーシュの宣言と同時に、周りの貴族たちが歓声を上げる。
場所はヴァストリ広場。そこにはギーシュ達を取り囲むように貴族で満たされていた。
「ギーシュが決闘するぞ! 相手はルイズの平民だ!」
 その歓声な中に剣心はいた。この様子に少し驚いたようだが、まだ呑気な表情だ。
「とりあえず、逃げずに来たことは褒めてやろうじゃないか」
 薔薇の杖をかざすと、ギーシュは気障ったらしくそれを剣心に向けた。
「では早速始めようか?」
「あー、いやいや、拙者闘いに来たのではござらんよ」
 この言葉に、周囲は一瞬、時間が止まったかのように空気が固まった。それに遅れて、ギーシュが口を開いた。

「ほう、怖気付いて今更、自分の愚かさを認める気になったかい?」
「まあ、あれは拙者にも非がある、そこでこうはどうでござる?」
 と、剣心は人差し指を指してギーシュにこう提案した。



第四幕 『ヴァストリでの決闘』



「拙者がそれについて詫びるから、お主も先程の女子二人に二股のことで謝る。これなら万事解決でござろう?」
 再び、空気が凍りつく。
しかし次の瞬間、今度は周囲がどっと笑いで歓声を上げた。キュルケは涙を流して大笑いしており、モンモランシーは恥ずかしさに顔をそらした。
ルイズは顔を耳まで真っ赤にする。あの平民、やっぱりおかしい、根本的にズレてる。結局、今の状況を全然理解していないのだ。

当のギーシュはというと、これまたルイズと負けず劣らずの真っ赤な顔をして引きつった笑いを浮かべていた。
無理もない。これで周りの貴族皆に、自分の二股やその失態を知られてしまったのだ。今はまさに、穴があったら入りたい心境だ。

「そうかい……だが残念なことにギャラリーは望んでいるんだよ…君と僕との決闘をね…」
 震える声でギーシュは剣心を睨みつける。今にも杖を捨てて殴りかかってきそうな雰囲気だ。だが貴族としてのプライドがそんなマネしてなるものかと必死に押さえ付けていた。

あくまで、この平民を倒すのは魔法だ。魔法で、堂々と叩きのめす。
歯を食いしばってそう自分に言い聞かせ、冷静になるとスッと剣心を見据えた。
「要件は却下。彼女達には忘れずに後で謝罪するとして……それでは決闘を始めさせてもらおう!!」
 と、フォローも忘れずギーシュは、見てもいないモンモランシーに対しウインクをすると、改めて声高に宣言して、周囲を歓声で包ませた。
112るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:01:12.48 ID:Hzz2Tknd
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句は言うまいね?」
「……おろ?」
 そう言って、ギーシュは薔薇を一振りした。剣心は目を丸くした。なんとそこから一枚の花弁が落ち、それが見る見る内に女性の甲冑へと変貌したのだ。
「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
 ギーシュはその言葉と共に鋭く杖を振った。
指令を受けたワルキューレは、まだ驚いている剣心をよそに、青銅とは思えぬ速さで間合いを詰めた。
(まずはそのマヌケ顔に一発――!)
 と、ギーシュのワルキューレは銅の硬さにものを言わせた拳での一撃を、剣心の腹目がけて打ち放ち――

―――そして思いきり空を切った。

「……どうしてもやるでござるか?」
 対する剣心は、未だに闘いを躊躇った感じで、いつの間にかワルキューレの突き出した拳を横で躱して見つめていた。
「無論……だ!」
 ギーシュが杖を振ると同時に、ワルキューレは再び動き出して剣心を襲う。しかし、繰り出す攻撃は悉く外れ、空振りの音が虚しく響くだけ。
しまいには、拳の打つ瞬間を見切られ、それとなく足をかけられてしまう。バランスを崩されたワルキューレは、盛大にすっ転び周囲の笑いを誘った。

「おいギーシュ! いつまで平民に華持たせてるつもりだよ!?」
「流石ギーシュ、決闘にそんな遊び心を入れるなんて余裕だなぁ!」
 笑い飛ばす観衆を見て、ギーシュは引きつった笑みでそれに応える。歓声がうざったいと思ったのは生まれて初めてだ。
しかし、それらを忘れるように振り切ると、剣心の方に杖を向けた。

「ふふん、少しはやるようだね。なら僕もちょっと本気を出そうかな」
 今度は、杖から二枚の花弁が舞い落ち、二体のワルキューレを精製する。
その二体が同時に、剣心に飛び掛る。
しかし剣心は動じない。むしろ最初のワルキューレを見た時より反応が薄かった。
四つになった拳を特に気にせず、剣心は捌き続ける。

 それを見て、ギーシュはニヤリと笑った。
どうやら気づいていないようだ。このワルキューレ達の攻撃は、いわば本命のための布石。上手く攻撃をかわさせて、背後から重い一撃を与えるための―――。
そう、ギーシュはワルキューレを操って、剣心を避けさせながら実は誘導させていた。
背後には、先ほど足をかけられ、倒れたワルキューレ。それがムクリと起き上がり、前方の回避に集中している剣心に向かって殴りかかった。
「あっ!! 危な―――」
 ルイズの叫びも虚しく、ワルキューレの拳は剣心の後頭部目がけ―――


……ドゴォン!!


 と、間違いなく何かに当たったような音が、観衆に響きわたった。
あの平民は、大丈夫なのか……ルイズが恐る恐る目を開けると、そこには予想外のことが起こっていた。
 当たっていたのは、剣心の頭ではなく気を引きつけていたワルキューレの一体だった。
これでもかというくらいにひしゃげたワルキューレの頭は、そのまま崩れ落ちピクリとも動かなくなった。
113るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:01:47.39 ID:Hzz2Tknd
「――分かりきった仕掛けでござるな」
 剣心は、初めて受けた『土』系統の授業を思い返していた。
『錬金』から始まる、形質変化や形状変化。恐らくギーシュも、『土』系統とあたりをつけた剣心は、そこで授業で学んだ事から、様々な憶測をしていた。
加えて、ギーシュの性格や今の状況から見て、そこから一番してきそうなことについて、大まかな予測を立てていたのだ。
 まあ、こんな『読み』を使わずとも、転ばしただけで動かなくなるワルキューレを見た時点で、大概怪しいものがあったのだが。

「……くそっ!!」
 策を看破され、またもや恥の上塗りをしてしまったギーシュは、苦い顔で杖を振るう。
今度は挟み撃ちの形で、剣心の眼前と背後、両方から拳が飛んできた。
しかし、剣心は変わらず動揺一つ見せず、何とそのまま拳の間へと割って入った。
当然、拳の行き先は、互いのワルキューレの頭部。自分で自分の銅像をぶっ飛ばすと、最初のものと同じく動かなくなった。
 結局、最後まで立っているのは、避ける以外何もしていない剣心だけだった。


「まだ続ける気でござるか?」
 剣心が、呆れた口調でギーシュに聞いた。
ギーシュは最早、気障な格好を取ることすら忘れている。最初から最後まで遊ばれていることに、怒りで肩を震わせながら言った。
「さっきから癪に障るんだが…君は本気で僕に勝てると思っているのかい? メイジであるこの僕に! 平民が!!」
「言ったはずでござるよ、拙者『闘う』つもりなどないと」
「………ッ!!!」

 とうとうギーシュはキレた。あらん限りの勢いで杖を振り回すと、今度は七枚、花弁が舞い落ち、七体のワルキューレを精製する。
……だけでなく、それぞれのワルキューレ達は、その手に武器を持っていた。剣、槍、斧、棍といった得物を抜き放ち、剣心の周囲をグルリと取り囲んだ。

「さあ、訂正するなら今のうちだぞ! 素直に実力の差を認め、土下座して詫びるなら許してやろう!!」
 声高にして叫ぶギーシュに対し、剣心は相変わらずの無表情で周りを見る。ジリジリとこちらへと、にじり寄って来る形で恐怖心を煽る演出をしているようだ。

この様子を、ルイズはただ気が気でない表情で見つめていた。
ああ…いよいよギーシュが本気になってしまう。ルイズは胸の中がモヤモヤし始めた。
止めるべきだろうか…うん、止めるべきだ。このままでは間違いなく半殺しに…いや、今のギーシュの状態からしてそれ以上だろう…に、されてしまう。

これから始まるのは、決闘という名の公開処刑。
 確かに平民だし、どこか抜けてるけど、全く使えない訳じゃない。不平を言ったことはないし、片付けの時だって、自分から率先して手伝ってくれて――私を……慰めてくれた。
 
本当は、あの時『ありがとう』って、言いたかった。この学院に来て、初めてかけてくれた優しい言葉……ありきたりだったけど、嬉しかった。
でも、代わりに出たのは拒絶の叫び。それが今の今まで、ルイズの胸の中でグルグルと渦巻いていたのだ。
 せめて『ごめんね』だけでも言いたい。もし言えずに彼が死んでしまったら、多分一生後悔してしまうだろう。
114るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:02:56.23 ID:Hzz2Tknd
「ケンシン! もうやめなさい!! 本当に殺されちゃうわよ!!」
 気づいたら、剣心に向かって叫んでいた。でも剣心は、いつもどおりの優しい笑みでルイズを見た。
「おお、やっと名前で読んでくれたでござるな、ルイズ殿」
「そうじゃなくって! お願いだがら私の話を――」
 必死になるルイズに、剣心は微笑みながら手を前に出して制止した。まるで、それだけで言いたいことが伝わったかのように……。
そしてギーシュを見る。いままでとはうって違い、厳しい眼光で―――。

「……一つ聞きたかった。何故お主らは、ルイズ殿をそう邪険に扱うでござるか?」
「君も見ただろう? あの授業での爆発を。それと君みたいな使い魔を召喚したという事実だけで、充分説明はできると思うけどね」
「お主は女子にあれほど優しく接するのに、ルイズ殿にはそれができないと?」

 雰囲気が変わった。剣心の言葉の一つ一つが、空気を重くし緊張感を作り出す。
皆気づいてはいないようだが、いつの間にか歓声が静まり返り、咳一つ聞こえなかった。
「本当に女子に対して優しいなら、困っているルイズ殿に、助けの手の一つでも差し伸べてあげても良いでござろう?」
「フン、言いたいことはそれだけかい? だが今の君にはそんなことを言う余裕はどこにもないのだぞ!!」
 気づけば、ワルキューレ達が、剣心の間近へと迫っていた。もう武器でなら一足飛びで充分届く射程距離だ。逃げ道はどこにもない。
ギーシュは、ついに勝ちを確信したのか、ほくそ笑んで剣心を見た。
「今際の際だ、何か他に言い残すことがあれば聞いてあげよう」

 一瞬の沈黙。そして剣心が口を開く。
「なら、拙者がこの『決闘』に勝ったら、ルイズ殿にも優しく接するでござるよ」
「それが最後の言葉か…いいだろう! 行け、ワルキューレ!!」
 合図と共に杖を切る。
様々な武器を持つワルキューレ達が、剣心に向かって得物を振り上げた。剣が空を切り、槍が閃き、斧が重量を持ってのしかかる。
 ルイズは、思わず目をつぶった。貴族はおおっ、と歓声を上げる。
ルイズも周りの貴族達も、何かしら言いながらも誰もギーシュの勝ちを疑っていなかった。
メイジが平民に勝てるはずないと。あのゴーレムの壁の向こう側には、ボロ雑巾になった平民が倒れているだけだろうと、誰しもがそう思っていた。


 だから、次の瞬間起こった出来事に、観衆はただただ唖然として見るしかなかった。


「……おい!! 当たってねえぞ!?」
「ありえねえ……全部避けてやがる!!」
「まさか!! あの数でだぞ!!」
 その声が、ルイズの耳にも届いた。そしてゆっくりと目を開いた。
そして目撃した。剣心は、未だにワルキューレの猛攻から紙一重で回避している所を。
驚いた……傷どころか、服に切れ目すら入っていない事に。
ワルキューレの振り上げたハルバートが、剣心がわずかに身体をそらしただけで虚しく空を切る。
頭を下げれば、そこには申し合せでもしたかの如く背後から剣が横に飛んでいく。
足を上げれば、目標を見失った槍が、そこに向かって地面に突き刺した。

「おいギーシュ、まだ本気じゃないんだろ? さっさと本気出せよ!!」
「いつまで遊んでいるつもりだ!? なあギーシュ!!」
115るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:03:42.86 ID:Hzz2Tknd
 しかし、そんな野次はもう、ギーシュの耳には届いていなかった。本気かどうか、操っている本人がそれを一番わかっているからだった。
(くそっ…何故だ……何故当たらない…!?)
 ギーシュは心中で毒づく。今操っているワルキューレの操作、これがギーシュの本気であり、出せる実力の限界だった。
なのにあの平民は……息もつかせぬ連続攻撃のつもりなのに、今もさっきと大して変わらず、憮然とした感じで躱し続けている。おまけに息切れどころか汗一つ掻いてない。
さっきと避ける手間暇が増えただけ、そんな態度がありありと出ていた。

「当たりさえ……当たりさえすれば…!」
 しかし、そんなギーシュの心境とは裏腹に、未だ剣心には掠り傷一つ負わせられないでいた。
やがて、ギーシュの中にゆっくりと、しかし知らぬ内に『焦り』という感情が芽生え始め、正常な判断力を奪っていく。それがワルキューレの精密な動作に、少しずつ支障を来
し始めていた。
剣の振りが鈍くなり、斧を持ち上げるのに時間がかかる。
そして剣心は、この隙を見逃さなかった。

(……頃合、だな)
 斧を振り上げる目の前のワルキューレを見据えながら、剣心は横から突っ込むもう一体のワルキューレに足をかけた。
再びワルキューレは盛大に転倒するが、今度はその上から斧が飛んできた。
ズガン!! と大きな音を立てて、真っ二つになった人形もどきに脇目も振らず、背後から来る槍の突きを、速さを殺さず手に添えて逸らした。
その先は、さっき斧を振り下ろしたワルキューレの胴体。それが深々と突き刺さり、そしてガラガラと崩れ落ちていった。

「「―――――えっ……!!」」

 ギーシュと観衆、それが同時に声を上げた。
それを気にせず、剣心は前からやって来る、剣を持ったワルキューレの方を向いた。
そしてひっそりと後ろから狙う二体のワルキューレにわざと近付きつつ、剣の横薙に合わせてしゃがみこんだ。
代わりに飛んだのは、真っ二つになったその二体のワルキューレの上半身。

 続いて、棍棒を持ったワルキューレが、腕を振り上げて迫ってくる。
剣心はそちらを振り向かずに察知すると、先程斧を持った奴を串刺しにした、槍を携え
るワルキューレに近づいた。
結果、背後から飛んでくるハルバートでの唐竹割りを、剣心は寸前にゆらりと回避して、
それを槍を持つ青銅の脳天にブチ当てる形となった。
首から上が無くなるほど潰れたワルキューレから、剣心は槍をひったくると、その尾の
部分を、後ろにいる棍棒持ちのワルキューレに押し当てた。
それと同時に、ワルキューレの背中から、ズガンと大きな音を立てる。
さっきの一体による、二体の上半身を飛ばした大剣持ちが、剣心に向けての特攻をかけたのだが、押しのけられたハルバート持ちに盾がわりにされたせいで、失敗に終わってし
まったのだ。
116るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:04:29.53 ID:Hzz2Tknd
残るは、あと一体。
横薙で二体の首を吹っ飛ばした、大剣を持つワルキューレ。対する剣心は、槍を手放し、すっと刀の柄に手を添えて腰を落とした。
一瞬の沈黙……、やがて、緊張に耐え切れずワルキューレの方から斬り掛ってきた。
その、大きな剣がまさに剣心の脳天目掛けて振りおろされそうになった時。

「―――こっちだ」

 いつの間にか、高々と跳んだ剣心の唐竹割りが、大剣を掲げたまま固まっているワルキューレに向かって殺到した。
 ドゴンと、大きな衝撃音を残して、ワルキューレの身体はバラバラに砕け散った。
何事!? そう観衆が思ったときには、剣心はもう得物を鞘に納めていた後だった。
そして再び、この場に立つのは剣心ただ一人になった。


 永遠とも思えるような沈黙が、ヴェストリ広場の間に流れていた。
誰がこの結末を想像しただろう、誰がこのような事態を予測しただろう。
皆ただ一様にして驚き、口をポカンとして開けている。
止まったままの時間は、剣心の言葉によって動き始めた。
「もう一度言う……まだ続ける気でござるか?」
口調こそ同じだが、さっきとは比べ物にならない程の、凄まじい圧迫感。それを直に向けられているギーシュが、飛び跳ねるように驚いて剣心を見た。
もう怒りとか、勝ち誇った余裕な笑みはとうの昔に消え失ていた。ただただ、ゆっくりとやって来るこの男に対し、得体の知れぬ恐怖心を抱いていた。

「ま…まだだ…まだ僕には…」
 その恐怖を一心に振り払って、ギーシュは再び杖を振るう。地面からワルキューレが精製されるが、今度はギーシュを守るかのようにずらりと並んだ。
もう、攻める意欲はとっくに失せている。なんとかこの場を凌いでその内に策を考えようと、ギーシュは杖を振るおうとして…。

 その手に、杖がいつの間にか消えていることに気づいた。

サッとギーシュの顔が真っ青になる。メイジにとって杖は命だ。もし無くなったら勝機は完全に断たれてしまう。必死になってあれこれ探っていると、声が聞こえた。
「探しているのは、これでござるか?」
 剣心が、薔薇型の杖を手に持ちながら、ギーシュの目の前に立っていた。

「……なっ……えっ!!!!?」
今度はギーシュと、周りの観衆達は目を丸くした。さっきまでギーシュと剣心の間にワルキューレの壁を敷いていたはずなのだ。
なのに何故? 何でこんな至近距離まで近づいたのに気付かなかったんだ? あまつさ
え、杖を取られたことに何で反応できなかったんだ?
ギーシュは敗北の危険より、その事実に対しての疑問で頭がいっぱいだった。



「うっそぉ……」
 それは、ルイズも同様だった。
初めて見せる、使い魔の実力の片鱗。しかもまだまだ余裕が見え隠れしている。あれほど危険だと騒ぎ立てていた自分が、何だか急に恥ずかしくなった。
「勝っちゃったわね…あんたの使い魔…」
 隣では、キュルケがルイズに劣らず唖然とした表情で言った。
その言葉を読み込むのに、少し時間を置いたが、やがてルイズの体の中に滲みこんできた。
(勝った……? 私の使い魔が…ギーシュに…?)
胸がバクバクと音を立てる。鼓動が速くなるのを感じる。
ちょっと前まで予想もしなかった展開。ルイズの中には『もしかして』という希望で一杯だった。
(私……ホントはすごい奴を喚んじゃったのかも……)
 そう思いながら、ルイズはこの決闘の成り行きを見守っていた。
117るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:05:18.38 ID:Hzz2Tknd
「これで最後にしよう……まだ続ける気でござるか?」
この言葉に、ギーシュは我に帰った。そして、ゆっくりと敗北感と恐怖心が同時に体を支配し始めた。
殺されるのか…? 一瞬そう思わせるほどの気迫と殺気を醸し出す剣心に対して、最早ギーシュは刃向かう気など起こせるはずがなかった。
「ま……参った……」
 震える声でそう呟くと、後ずさろうとして慌てて尻餅を付いた。格好とか屈辱とか、もうどうでもいい。この恐ろしい男から離れたい。ただそれだけを一心に―――。

「なら、これは返すでござるよ」
 剣心が、薔薇の杖をギーシュに差し出した。
いつの間にか厳つい表情が消えて、いつも通りのニコニコ顔に戻っていた。
ポカンとするギーシュをよそに、剣心は小さく頭を下げた。

「さっきは済まなかったでござるな、変に話の腰を折ってしまって」
 何のことか、一瞬本気でわからなかったが、そう言えば事の発端はそうだったなと、ギーシュは思い出した。そしてずいぶん昔の事のようだったなとも思った。
「ならば、この決闘もおしまい。お主はちゃんと女子二人に謝っておくでござるよ」
 そう言って、剣心は踵を返すと、そのまま興奮冷めやらずの観客を置いてその場を後にした。
「それとさっきの『約束』も忘れないで欲しいでござるよ」
いつもの優しい微笑みで、 最後にそう言い残して。


 ルイズはハッとして、慌てて剣心の後を追った。
言いたいことは色々あった。そんなに強かったのかとか、教室の件で怒鳴ったことを謝りたいとか、様々な想いがグルグル巡りながらも、とにかく何か言いたかった。
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
 ルイズに呼び止められて、剣心は足を止めてルイズの方を見た。
相変わらず、飄々とした態度で何を考えているかよくわからない。でも……もしかしたら、もしかするかもしれない。
しばらく何を言おうか迷って、やがて意を決したように剣心を見つめた。

「あんたって……ホントは凄いの…?」
 結局、口から出たのはそんな言葉。それを聞いて剣心はふっと笑った。
「さあ……どうでござるかな」
 そして唖然とした調子のルイズを背に、再び歩き出す。その後ろで、ルイズが納得できないように叫んだ。
「ちょっと、あんたは私の使い魔なのよ! 秘密にしないで教えなさいよ!!」
 魔法学院は、今日も平和な一日を過ごしていた。
118るろうに使い魔:2012/05/26(土) 18:07:49.38 ID:Hzz2Tknd
以上で終了です。本日は遅れてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
来週には、またいつも通りの時間で投稿したいなと思っております。
それでは、今日はこれで終了です。ありがとうございました。
119名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 18:17:11.69 ID:aBaIEYjC
乙でござる
120名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 18:37:58.79 ID:pJ63MhL2
絶対に乙でござる
121名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 18:48:34.05 ID:gBZZnJRa
乙でござった
122名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 20:00:19.17 ID:zNeKpqDT
るろ剣の最後の方ちょっと忘れたけど
逆刃刀持ってる状態で召喚なのかな
123名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 20:05:04.65 ID:6xl2OFOM


>>109
なぜかキザイア・メイスンの使い魔を思い出した
キンしか合ってねーっつーの・・・
124名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 22:26:08.96 ID:UROsJJPS
乙でござる


確かにコボルト分が足りない。ディーキン見たいよディーキン
125!ninja:2012/05/26(土) 22:27:21.91 ID:ZMZl5Hwo
テスト
126Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:39:24.72 ID:UsjD7wXX
こんな遅い投下ペースなのに期待してくださってありがとうございます。
では、22:45あたりから投下させてください。
127Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:45:12.30 ID:UsjD7wXX
 
ここはトリステイン魔法学院本塔最上階・学院長室。

齢数百歳ともいわれる学院の長オールド・オスマンは、机に向かいながらもいつものように暇を持て余していた。
今は部屋の端におかれた別の机で書き物をしている秘書のミス・ロングビルをぼんやりと眺めつつ、彼女の下着の色を確認する策をぼんやりと立てながら使い魔のハツカネズミ・モートソグニルにナッツを与えている。
 
「………。退屈じゃのう、何か面白い事はないものかなミス・ロングビル?」
「……お暇でしたら、たまには日頃私に押し付けている書類の整理でもなさってはいかがですか?
…そうですね、今日は使い魔召喚の儀があったはずですわ。もう大分前に終わっていると思いますが、担当教師からの結果報告はまだ来ていないようですね」
「おお、そういえば今日はそんな儀式があったか。
うむ…この年になると珍しい使い魔なんぞもあらかた見尽くしてしまって刺激はないが、パートナーを迎えた生徒らの喜ぶ顔は微笑ましいもんじゃ。
…もう夕方近いというのに確かに知らせが遅いのう、報告を忘れておるのではないか?
今年の担当は誰じゃ、ギトー君あたりかな?」
「いえ、確か……、ミスタ・コル―――」
 
ロングビルが日程表に目を通して返答しようとしたところで、学院長室のドアがコンコンとノックされた。
 
「失礼いたします、コルベールです。学院長、少しお話が……」
 



 
「……ふうむ、話は分かった」
 
一通りの事情説明を受けたオスマンは、水パイプを机に置くとコルベールの後ろに控えている問題の2人の方に目をやる。
ルイズはコルベールの説明の間ずっと緊張した様子でもじもじと落ち着かなさそうにしていたが、ディーキンの方は物珍しそうにあちこちをきょろきょろ眺めては羊皮紙にメモなどをとっていた。
なおロングビルは内密に事を運びたいコルベールが話の前に席を外してくれるよう頼んだため、またモートソグニルはオスマンの命を受けて密かにロングビルの後を追ったため、既にこの場にはいない。
 
「まあ、ミス・ヴァリエールもそこの使い魔君も、互いに合意したというのであれば契約を無理強いはできんのう。
なあに、契約なんぞ多分に形式的なものに過ぎん。その後の交流こそが大切じゃ、互いに良きパートナーとなれる自信があるのであれば、せんでも一向に構わんよ」
「し、しかしですな。オールド・オスマン、私が心配しているのは…」
「わかっておるよ、コルベール君。君が案じるように、慣例に反することによって起こる問題もいろいろとあろう。
あとで後悔するようなことがあってはいかん、そこでここはひとつこの4人で心ゆくまで話し合って、みなの納得がいく結論を出すとせんかの?
君らさえよければわしはいくらでも付き合うぞ。学院のつまらん定期会議なぞより有意義であろうし、どうせ暇だったしの」
128Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:46:21.46 ID:UsjD7wXX
 
オスマンがそういうと、ディーキンはちょっと手を止めてコルベールの後ろから顔をだし、首を傾げた。
 
「オオ、おじいさんはいいことをいうね。
それにあんたってまっ白で長いヒゲで、何だかエルミンスターみたいだよ」
「………なに? 今、何といったかね?」
「ンー、もしかしてあんたはおじいさんだから、耳が遠いの?
あんたはエルミンスターみたいに見える、って言ったの。
それか、ええと…ガンダルフだかガンダウルフだかいう人にも似てるかもしれないね。
ディーキンは本の挿絵で見たことしかないんだけど…、みんな白いヒゲが立派な人だったことは覚えてるの。
ねえ、そういえばそのヒゲっていうのは人間やドワーフがたまに顔につけてるけど、一体なんのためにしてるの?
ウーン……、年寄りの有名な魔法使いに見えてカッコいいからかな?」
 
そんな大した意味もない雑談に対して、なぜかオスマンが黙り込んで真剣な目で見つめてきたのでディーキンは首を傾げた。
そうして黙り込んだオスマンの代わりに、今度はルイズが後ろから口を出す。
 
「ちょっとディーキン、何だか知らないけどあんたの話は後で聞いてあげるから、黙ってお二人の話を聞いてなさい!
オールド・オスマンに失礼なことを言うんじゃないわよ、いくら契約をしないっていってもあんたは私が召喚したんだからね、あんたの言動の責任は私にもあるのよ。
あんまり場所と立場をわきまえない行動は慎んでもらうからね」
「アー、ええと……、ごめんなの。でもディーキンにはおじいさんに失礼をはたらく気はなかったよ。
ディーキンは思ったとおりを言っただけなの。今のって失礼なの?」
 
エルミンスターはフェイルーンでは誰もが知る高名な魔法使いであり、偉大な魔法の女神ミストラに“選ばれし者”でもある。
あのハラスターさえ凌駕するであろう、おそらくフェイルーン最強の魔法使いと言われているのだ。
ここでは知られていないのかもしれないが、彼の名はトーリルの外にある多くの次元界やいくつかの別宇宙にすら鳴り響いているらしい。
 
エルミンスターに似ているといわれれば、普通はむしろ褒め言葉だろう。
もっともディーキンはエルミンスターは強い魔法使いだとは認めても、格別偉い人だとかすごい英雄だとは考えていないので割と軽い気持ちでそういっただけである。
理由はどうあれ肝心な時には別の若い英雄任せで後ろに引っこむお年寄りは今一つ英雄的だとはいえない…というのが、英雄譚を専門とする一介のバードとしてのディーキンから彼に対する評価なのだ。
 
むしろディーキンとしては、彼は強大な魔法使いというよりも多くの面白い本の著者だという印象を持っている。
彼の著作にはかの“災厄の時”に、後の魔法の女神ミストラとなった女性ミッドナイトが活躍した話をはじめ、多くの英雄の壮大な実話の冒険物語がたくさんある。
それに彼自身の体験談…というか旅行記の類にも、楽しく興味深いものが多い。
 
中でも異世界へ旅しそこで出会ったどこぞの編集者にフォーゴトン・レルムの事を語って聞かせたという話は、別宇宙の事を伝えてくれる数少ない物語で実に面白かった。
そこで飲んだマウンテンデューという飲み物が美味かったとかパソコンだとかいうものがどうしたとか、しょっちゅう脱線していてよく理解できない部分も多かったが…。
その世界でも、きっと編集者のまとめた本を通じて、エルミンスターの名は有名になっているのだろう。
最近ボスのお供として少しは有名になったと思うし、もしかすると自分もその世界で多少は名が知られたりしているかも…と密かに期待している。
まあ、その世界には魔法使いがほぼいなかったらしいので、ここがその世界だという線はなさそうだが。
129Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:48:06.29 ID:UsjD7wXX
 
(……あれ? でも別の宇宙っていったら、ええと……)
 
ディーキンはボスとの冒険を通じて出会った人々の話を思い出していた。
そう言えば、何も本で読んだり聞いたりした話でなくとも、仲間としてアンダーダークやカニアを共に旅してきたティーフリングのヴァレンも元は別宇宙からの来訪者であったと言っていた覚えがある。
彼が住んでいたのは“大いなる転輪”と呼ばれる異なる宇宙の中にあって、無数の物質界や次元界に通じるポータルを有する『シギル』と呼ばれる次元都市だったらしい。
それに、カニアで出会った“眠れるもの”と呼ばれるセレスチャルやギスゼライの巡礼団なども、エリュシオンやリンボというその宇宙にある次元界の出身だと言っていた。
 
かつて別世界の物語などを聞いたり読んだりした時には自分には縁のないスケールの違う話と思っていたが、何時の間にか身近な事象になっていたことにディーキンは今更ながらに気が付いた。
実際、真に優秀な冒険者ともなれば、別の次元界は勿論別宇宙からの来訪者に遭遇したり自身がそれらを行き来したりするのも、さして珍しい事ではないらしい。
 
(ウーン、そういえばガンダルフだかガンダウルフだかいう人もどこかよその世界で有名な魔術師なんだったかな?
本の挿絵でちょっと見ただけだけど…、ええと、どこで読んだ本だっけ?
……ンー、そういえば、ここも別の宇宙とかかもしれないんだよね。
もしかして、ここの事が書かれた本もエルミンスターの別の世界の旅のお話とかで読んだことがあったかも。ええと……)
 
そうやって自分の記憶を手繰っているところに、オスマンから声を掛けられる。
 
「構わんよミス・ヴァリエール、わしは別に気にしてはおらん。
……むしろ、君の召喚した亜人との会話は非常に有意義なものになりそうじゃ。
あー、亜人君。君の名はディーキンというのかね?」
「そうなの、ディーキンはディーキンなの。えーと、あんたの名前はオールド・オスマンでいいんだよね?」
「うむ、皆にはそう呼ばれておるが“オールド”は通称のようなものじゃよ。わしの名はオスマンじゃ、よろしく頼むぞディーキン君」
 
好々爺然とした笑みを浮かべるオスマンに対してディーキンも一旦思考を切り上げると、イヒヒヒと(コボルド的には)にこやかに笑い返してお辞儀をする。
 
「こちらこそよろしくなの、オスマンおじいさん。
ここはいいひとばっかりでディーキンはすごく嬉しいよ!」
 
ディーキンは実際、先ほどからかなり機嫌が良かった。
英雄として名が知られた今のウォーターディープは別として、他の人間の街ではコボルドだという事でいきなり追われたりしてまともに話を取り合ってもらえたためしがほとんどない。
当然召喚される先でもそういった扱いを受けるだろうと予想し、そこでもまた時間を掛けて自分の事をわかっていってもらおうと決心して召喚のゲートをくぐった。
なのにここでは今のところルイズもコルベールも、そしてこの偉そうな老人までがみんな自分を追い払うどころか、まっとうな相手として扱ってくれている。
それがまったく予想外のことで、多少拍子抜けもしたがディーキンはとても嬉しくなっていた。
ルイズなどは貴族らしく多少高慢な態度ではあるが、これまでの人生で暴虐な主人に脅かされたり問答無用で追い回されたりが続いていたディーキンにとってそんな程度は問題外である。
 
普段のディーキンならこんな時はリュートを弾くか鼻歌でも歌い出すかするところだが、ここに召喚されてからはまだ一度もやっていない。
演奏などしたら真剣に考えてくれている他の人たちの邪魔になるだろうと考えて、空気を読んで大人しくしている。
 
……というのも無いわけでは無いが、主な理由としては単にひっきりなしに羊皮紙にメモを取っている状況なので歌っている暇も無いだけである。
130Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:50:07.49 ID:UsjD7wXX
 
「ええと……、それで、これから話し合いをするんだよね?」
「そうじゃ。君らもソファーにでも掛けたまえ。
悪いが秘書がおらんので茶は自分で入れてもらえるかの……、では、まずどういった問題がありそうか皆で思いついたことを書き出していくことから始めるかな」
 
オスマンは羊皮紙を何枚かとペンを手に取ると、皆を促して来賓用テーブルを囲むようにソファーに座り、臨時の会議を始めた。




 
―――話し合いでは各参加者が気付いた問題点を提示していき、それらに関して順に議論された。
 
まず、正規の契約をしないと使い魔としての特殊能力や感覚の共有が得られず、お互いの不利益になるという点。
これに関しては、ディーキン・ルイズともに『お互いの立場の尊重のためにはその程度のデメリットは仕方がない』という事でおおむね意見が一致していた。
 
ルイズには、『使い魔との感覚の共有がどんなものか試してみたい、生まれて初めて魔法を成功させたのだから、最後の契約まで済ませてその成果を噛みしめたい』という決して軽くはない願望があった。
だが、メイジとして“使い魔”の意思を尊重し、良好な関係を築いていくためには止むを得ないと既に割り切っていた。
また、元々ディーキンの能力にはさほど期待していなかったために感覚の共有が無い事で偵察や護衛に差し障ることは大した問題とは思わず、そこまで強い執着はなかった。
ディーキンの方としては使い魔として感覚を共有するということに興味はあったものの、単純な好奇心であり自分やルイズの将来と天秤にかけるようなことではないため、それは気にしていなかった。
一方で使い魔としての能力が備わらないことでルイズの不利益になるという点に関してはかなり申し訳なく思っていたが、
不利益を埋め合わせられるように偵察も護衛も自分の力の及ぶ限り真面目に務めると約束して、ルイズ側もあっさりと合意したことで決着はついた。
 
オスマンとコルベールも本人たちが納得しているなら特にそれ以上の問題になりそうな話ではないためすんなり承認したが、ただし周囲には正規の契約を済ませているものとして振る舞うように、と言い添える。
ルイズは最初虚偽を貴族らしからぬこととして潔しとせず、契約できなかったことは事実なのだから自分は嘲笑を受けても気にしないと言って反対したが、
しかし『正式な使い魔でないと知られてしまえば君が笑われるというだけでなく、亜人を野放しにしていることで学院側も非難を受けかねない』と指摘されると、渋々ながら条件を受け入れた。
ディーキンの方は事情がよく分からずなぜそうするのか不思議がったが、ルイズが渋い顔で自分が魔法を使えないことを言葉少なに説明し、またコルベールに使い魔でも無い亜人を学院に居させてはまずいのだと言われると納得した。
もっともコボルドが嫌われるのは当然としても、強力な召喚のゲートを生み出したルイズがろくに魔法を使えないというのはディーキンにとっては別の意味で非常に不思議だったが……。
 
ともあれその件についてはそれで片が付いたとみなし、4人は別の問題に移った。
次は、コルベールが案じていた、ルーンが無い事がいずれ知られてしまえば、正規の契約を済ませていないと露見してしまうという点。
 
これにはいろいろな意見が出たが、最終的にはディーキンが精巧に偽装した偽のルーンを体のどこかに装飾しておけば、まず露見しないのではないかと提案した。
下手に隠せば詮索好きでルイズに悪意を持っている生徒らに勘ぐられるかもしれないが、目の前にルーンが見えていればそれ以上気にも留めないだろうと考えたのだ。
131Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:51:50.50 ID:UsjD7wXX
 
それに対してコルベールは、ルーンは魔法的なものであり、刺青やペイントでは観察力の鋭いものやディテクト・マジックは誤魔化せないと指摘した。
それを聞くとディーキンは少し考え込んだが、ふと気が付いたように荷物から一本の巻物を取り出すと、これで生物や物に魔法の印を刻めばいいのではないか、と聞く。
以前の冒険でたまたま入手した《秘術印(アーケイン・マーク)》のスクロールを持っていることを思い出したのだ。
 
そこへルイズが、驚いたような顔をして横から口をはさむ。
 
「ちょ、ちょっとディーキン。あんた今、いったいどこからその巻物を出したの?」
「? どこって……、ディーキンの背負い袋の中のスクロールケースだよ」
「背負い袋って……、あんたそんなのどこにも持ってないじゃない!
それに、魔法のルーンを刻める巻物って一体何よ?
何でそんなマジックアイテムをあんたみたいな亜人の子どもが持ってるの?」
 
見ればオスマンとコルベールも、ルイズと同様に驚いたような顔をしていた。
 
「……アー、そうだったね。忘れてたの、今説明するよ」
 
ディーキンは自分が《変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)》を着用して自分の翼や荷物袋、武器などを見えなくしていたのを思い出した。
そこでルイズらに説明するため、頭に着けていた小さな指輪型の角飾りを外す。
たちまち幻覚が解けて角飾りは元の変装帽子に戻り、ディーキンの姿も一変した。
ベースはコボルドのままだが背中からは赤みがかった竜のような翼が生え、先ほどまでは隠されていた背負い袋やショートソード、クロスボウなどの携行品が姿を現す。
 
それを見た他の3人は一様に呆然とした顔をして…、続いて、当然のごとくディーキンに対する質問攻めが始まる。
その巻物や帽子は一体なんなのか?
何故そんな高度なマジックアイテムを亜人の子どもがいくつも持っているのか?
どうして自分の姿形や武器などを今まで隠していたのか?
さっきのドラゴンの血を引いているというのは本当なのか?
もともと疑わしかったがその姿でコボルドというのはどういうことなのか?
………
3人からかわるがわる質問を浴びせられ、ディーキンは予想より遥かに大きな反応に困惑しながらも可能な限りそれに答えていく。
提案の方はすっかり棚上げされてしまったが、この機会にと自分の方からも疑問に感じた点を問い返したりして、ある程度お互いに関する理解を深めることができた。
 
まずこの帽子は着用者の姿形を若干変更する幻覚を纏うごく低級のマジックアイテムで、巻物も使い捨ての低級呪文を発動するだけのものであり店で売っていること、値段もそう高くないということを説明する。
何故持っているのかという件については、自分は冒険者なので冒険中に見つけたり、帽子は人間の街に出入りすると亜人なので騒がれることが多く、騒ぎを起こさずに歩きたい時のために購入したものだと素直に事実を伝えた。
それを聞いたオスマンが流石は先住魔法だといい、コルベールがいや彼の魔法はそれとは違うらしいと話し、ルイズが先住でなくても亜人の魔法は凄いのね、とか感心したように呟いたりしていたので、こちらでは幻覚は高度な魔法らしいとディーキンも察する。
 
……どうやら彼らと自分達では、思った以上に魔法の体系に違いがあるようだ。
《変装(ディスガイズ・セルフ)》の呪文を発動する程度のマジックアイテムで彼ら専業のメイジが感心しているのも意外だったが、何よりもスクロールを知らないらしい様子であることが、ディーキンには驚きだった。
スクロールはもっともありふれたマジックアイテムのひとつであり、ウィザードが新たな呪文を覚えるためには無くてはならないものなのだ。
一般人でも知っているような品をメイジが知らないとなると、いよいよここは別の宇宙か何かなのではないか。
好奇心の面からも、また戦いになった場合に備える意味でも、できる限り早くこちら側の魔法について詳しく学んでおこうとディーキンは心に決める。
132Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:53:08.75 ID:UsjD7wXX
 
また、“君が言う冒険者とは何なのか”ということも質問されたが、ディーキンとしても厳密な定義などそもそもあるのかどうかも含めて知らないので返答に困った。
少し考えた上で、それは言葉通り“冒険をする者”……、各地を放浪してさまざまな仕事を請け負ったり、自ら遺跡を探索したりして生きる者たちの総称だと答えておく。
ついでに『ある人物を英雄と見込んで彼のお供としてそれまで仕えていた主人の下を離れ、冒険者のバードになった』ということも一緒に話しておいた。
その後冒険者として世界の危機を救っただの地獄の大悪魔を倒しただのという件については、ちっぽけなコボルドが話して信じてもらえるわけもないことくらいよくわかっているので黙っておく。
バードとしてこの目で見たボスの武勇や出会った皆の事をルイズ達にも知ってもらいたいという思いはあるが、いずれ機会があれば伝えることもできるだろう。
 
他の質問に関してはお互いになかなか言わんとするところが伝わらなかったが、オスマンの主導で順に一つずつ疑問点を確認していった結果、重要な新事実が判明した。
すなわちお互いの認識に食い違いがあり、こちらとフェイルーンではコボルドと呼ばれる人型生物の種類が違っているらしいことである。
 
ルイズらの話を聞く限りでは、こちらのコボルドは犬の頭を持つ人型生物らしい。
フェイルーンでいえば、コボルドというよりむしろ小柄なノール――ハイエナの頭を持ち身長7フィート半ほどもある邪悪な人型生物――に近いような感じだ。
そこでディーキンは自分の住んでいたフェイルーンではコボルドは僅かにドラゴンの血を引いている爬虫類型の亜人であり、自分はドラゴンの血が濃いために翼が生えているのだと説明し、
また、そのように特別な外見なので召喚者を驚かせてしまうのではないかと思ってゲートを潜る前に変装したのであり、話が長くなるかと思って今まで言い出せなかったが悪意はなかったと伝えた。
 
教師2人は、ディーキンの長い話が終わると納得がいったように頷く。
コルベールはディーキンの話は嘘ではないと確信していた。
彼には召喚された最初から今まで嘘をついているような様子は全くないし、嘘では自分が今まで見たこともない新種の亜人やマジックアイテムは作れない。
オスマンは、それに加えてある別の理由からも、ディーキンが嘘を言っていないと悟っていた。
 
一方、ルイズはいくら使い魔を信じるべきだといってもこんな突拍子もない話が果たして本当だろうか…と半信半疑だった。
 
(なんでオールド・オスマンやミスタ・コルベールは、こんなに簡単にこいつの話を信じられるのかしら。
そりゃあ、話の筋は通ってるみたいだし、嘘つきにも見えないけど……、いきなりそんなおかしな所から来たって言われても…)
 
ルイズが疑ったのは彼女の無知ゆえではなく、むしろ今までの人生で得た常識と努力して積み上げてきた知識があるからこそである。
話の筋は通るし証拠となる品も見せられたのだから、事実なのではないかという気持ちはあるし、自分の使い魔である彼を疑いたいわけでもないのだが……。
ディーキンの話はあまりに彼女の常識や知識からかけ離れていて、すぐさま全面的に受け入れられるようなものではないのだ。
 
ルイズはまた、この話の展開にいろいろと複雑に入り混じった思いを抱いてもいた。
もちろん使い魔の思いがけない能力や素晴らしい所持品には喜んだのだが、ルイズは自分の魔法で他のメイジと同じように空を飛ぶことがひとつの夢だった。
ディーキンが空を飛べると知ると、感覚の共有ができれば疑似的にでも空を飛べたのに、と改めて残念に感じたのだ。
……だがしかし、それを先に知っていれば自分は契約に関してもっと食い下がっただろうし、そうなると今こうして友好的にしているディーキンとの関係を台無しにしまっていたかも知れない。
だからむしろ先に知らなかったことは幸いだったのだ、それに感覚の共有はできなくても空を飛べるなら偵察や採集などの有用性は上がるではないか。
……と自分に言い聞かせはするものの、残念なものは残念である。
それに事情があったとはいえ使い魔に隠し事をされていたことは不本意ということもあり、ルイズはもやもやした気分になっていた。
133Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:54:24.59 ID:UsjD7wXX
 
(……まあ、今はいいわ、それよりも……)
 
ルイズは気分を切り替え、是非とも聞いておきたかった質問を口にする。
コルベールもそれとほぼ同時に質問した。
 
「……ねえ、あんたのその帽子って…、誰にでも使えるの?」
「き、君! その背負い袋の中には、もしやまだ他にも私の知らないマジックアイテムが入っているのでは!?」
 
2人とも、何かをすごく期待しているような顔だ。特にコルベールの勢いがスゴイ。
ディーキンはその様子にややたじろいだが、帽子は誰でも使える、自分の荷物袋の中にはたくさんのマジックアイテムが入っている、と質問に答えた。
そもそも背負い袋やスクロールケース自体も魔法の品であるし、ディーキンが身に着けている武具の類も軒並みそうである。
…というか、変装帽子などより自分が今身に着けている武具の類の方が遥かに高等で高額なマジックアイテムなのだが、
未知のマジックアイテムについて並々ならぬ関心があるらしいこの教師が、武具の類にはろくな関心を示さずマジックアイテムかどうか尋ねもしないのが気になった。
その主たる理由は彼が関心を持っているのは未知の技術についてであって高価なマジックアイテムではなく、たとえマジックアイテムであろうと技術的に面白い点もないだろうと踏んだからである。
また文化的にも、平民が使うような武具などはハルケギニアでは軽んじられているという点も大きい。
しかし事情を知らないディーキンは、こちらの方ではこういった品はありふれているので珍しく感じないのかも…、と想像していた。
だとすれば、しかるべき店に行けば強力な武具の類が安く手に入るかもしれない。
こちらの方で自分が持っている貨幣などがどのくらい通用するかはわからないが、機会があり次第覗いてみようと心に決める。
 
…と、そこで、ディーキンの返答に目の色を変えた2人(特にコルベール)がさらに問い詰めようとするのを横合いからオスマンが制した。
 
「……待たんか、2人とも脱線はそこまでじゃ。正直言ってわしも興味はあるが今は議題が先ではないかね?
こんな調子では日が変わってしまうわ、後でゆっくり話せばよかろう!」
「あ……、す、すみませんオールド・オスマン。
使い魔とはいえあんたはいずれ帰るんだし、自分で買ったものなら渡せとは言わないけど……その帽子、後で貸しなさい! 約束よ!」
「む……むう、残念ですがその通りですな。
しかし、今度は是非その品々について教えてくれ。君の居たところについても詳しく! 約束ですぞ!」
 
2人とも最後まで名残惜しげにしていたが、ともあれ中断していた議題に戻る。
結論としては図書館から古今東西の使い魔のルーンが記された事典を貸出し、それを元にディーキンが自分の体のどこかに適当なルーンを入れて第三者には正規の契約を済ませたものとして通す、という事で決着した。
何も本当に体にルーンを入れなくても、その変装帽子で偽装すればいいのではないか?…という意見も出たが、帽子は常に身ににつけっぱなしというわけにはいかない。
ディーキン自身も自分はいつもこの帽子を被っている気はないし、ルーンを体に刻むのも別に嫌だとは思わないといったためボツとなった。
 


134Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 22:55:50.86 ID:UsjD7wXX
 
その後も、契約しなかった場合に考えられる細々とした問題点を並べ出し、それに対する解決策を提案し合い、折に触れてディーキンの話を聞き……と議論が続けられる。
ようやく全員がひとまずこれでよしと合意したときには既に夕食の時間が過ぎていた。
そこで皆で食堂へ向かって余ったものを適当に食べさせてもらい、コルベールが図書館の鍵を開けて古いルーンの本を探し出し(ディーキンは図書館の大きさと、物凄い本の数に驚いていた)、最後に議論の結果を簡単に再確認して解散となった。
 
話こそ長引いたものの、結論としては『正規の使い魔同様に働き、問題を起こさない限りはいくつかの点で口裏を合わせたりルーンを偽装したりさえすれば契約自体はしなくても何とかなるだろう』ということでまとまり、皆ほっとしていた。
なおディーキンは図書館へ寄った際、自分はこのあたりの事に疎いので勉強したいからと説明して図書館への入室許可をオスマンから取り付け、本も早速十数冊ほど借りて背負い袋に収めている。
 
「いろいろあったけど、どうやら片付いたわね。……にしても今日は疲れたわ」
「ゴメンなの。お詫びにディーキンは肩を揉むよ、……ウーン、でも、背が届かないからルイズがちょっとしゃがんでくれたらね!」
「ありがと、でも別にいいわ。あんたが悪いわけじゃないし、謝ることもないわよ。
……ところで。契約してないとはいえあんたは使い魔になったんだから、いい加減に私の事はちゃんとご主人様って呼びなさいよ?」
「ウーン……、それなんだけど、ディーキンには昔“ご主人様”って呼んでた相手がいたから、どうもルイズの事はそう呼びにくいの」
「ああ……、そういえば、ドラゴンに仕えてたとか言ってたわね。
あんたがどこに住んでたのかは知らないけど……、韻竜がまだ生きてて亜人の子がそれに仕えていたなんていまいち信じられないわね。
別にあんたのことを疑うわけじゃないんだけど……、想像できないっていうか」
 
ルイズは先ほどの議論の合間にディーキンから、冒険に出る前のご主人様は白いドラゴンで、自分は彼からバードの技を教わった…というような話を聞いていた。
だとすればそれは韻竜ということになるが…既に絶滅したという韻竜がまだ生きていて、しかも亜人の子に楽士の手ほどきをするなど、あまりに荒唐無稽でとても信じる気になれない。
かといって悪い亜人で無い事は確信しているし、総合的に見ればいい使い魔を引いたとも思う。故意に嘘をついているとも思わない。
では先ほどからの“ありえない”話は何なのかと考えて、英雄と冒険したなどという話といいもしやこの亜人の子は自覚なしに嘘をついている…、つまり妄想の気でもあるのではないかとルイズは考え始めていた。
まあ妄想というだけでは実際に素晴らしいマジックアイテムを持っている事などは説明がつかないし、一部は真実もあるのかもしれないが……。
 
先ほどの魔法や見た目からは大して強いとは思えなかったが小さいとはいえドラゴンの血を引いているとか英雄と冒険したというのがもし事実だとしたら、少しは強いのかと期待して尋ねても見た。
が、『ボスの方がディーキンよりずっと強い』『彼はいろいろな事が出来るが主に武器を持って戦う戦士だ』という返答を聞いてやはり大したことはないと諦めた。
主に武器で戦うという事は平民か、メイジだとしても剣より頼りにならない魔法しか使えない程度の腕前ということ。
魔法の力に比べれば、武器に頼って戦うものの強さなどたかが知れている。
例えそのボスとやらがよほど強い戦士でメイジ殺しの類だったとしても、せいぜい経験の浅い並みのメイジになら勝てる程度が関の山のはずだ。
英雄だというのも、世間知らずの亜人の子どもが抱いた憧れからくる過大評価に違いあるまい。
 
だがディーキンとしては、今は嘘だとしか思ってもらえないような大きな話は控えようと心酔する偉大なボスの活躍や自分の経験を語り明かしたいのをぐっとこらえて、
むしろかなり抑え目に話したつもりだったのだが…、ルイズにはそれでもなお信じられるレベルではなかったようだ。
135Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 23:10:18.62 ID:UsjD7wXX
 
ここでもまた、お互いの認識の違いによる誤解が発生していた。
ディーキンとしてはフェイルーンのコボルドがドラゴンの血を引いていることは話したのだから、昔の主人のことくらいなら話しても信じてもらえないことはないだろうと考えていた。
フェイルーンでは竜と言えば通常は真竜(トゥルー・ドラゴン)の事を指す。
彼らは主に善なる金属竜(メタリック・ドラゴン)と邪悪なる色彩竜(クロマティック・ドラゴン)に分かれる。
ワイヴァ―ンやドレイク、ドラゴン・タートルなどの真竜でないドラゴンもいるにはいるが、それらは通常亜竜と呼ばれている。
そしてホワイト・ドラゴンは色彩竜の中で最も小柄で知能の低い、最弱の種として知られている。
自分が多少普通のコボルドと違うくらいのことは理解してもらえたようだし、今なら自分の主人がホワイトドラゴンだったという程度のことは、話が大きすぎるとは思われまい…と思ったのだ。
 
もっともディーキン自身は、今でも彼…タイモファラールは自分より強いと思っているし、ましてや弱いとか愚かだとは全く考えていないのだが。
彼は比較的若く怒りっぽい竜だったが、単に力があるとか頭が切れるということだけでは測れない強さ・賢さを持っていることを傍で見てよく知っているからだ。
ディーキンは今でも彼を恐れているが、自分にただのコボルドとは違う道へ進むきっかけを与えてくれた主として感謝してもいる。
 
一方、ルイズの認識はそれとはまったく違う。
ハルケギニアにもドラゴンはいるが、フェイルーンのそれとは種類や性質が全く異なっているのだ。
フェイルーンでいうところの真竜として扱われている火竜や風竜にせよ、ワイバーンなどの亜竜にせよ、使い魔でもない限りは普通の獣並みの知能しか持っておらず、当然言葉も解さない。
言葉を話すのは既に絶滅したと言われている韻竜と呼ばれる種だけで、しかもそれは最強の妖魔とされるエルフ(フェイルーンではエルフも怪物扱いはされていないし人間の街を普通に歩いているのだが)と同等かそれ以上と目される存在である。
そんなとんでもない、しかも既に滅びたはずの伝説上の存在に師事したなどと言われても誇大妄想かホラ話の類としか思われないのは無理もない。
 
ハルケギニアの基準で見れば、フェイルーンの真竜は例外なくみな韻竜ということになるだろう。
ホワイト・ドラゴンでさえ、誕生直後のワームリング段階で既にドラゴン語を話せるだけの知能があり、アダルト段階に達すれば並みの人間程度には賢くなる。更に年を経れば、人間ならば天才的と呼びうるほどの知性を得るのだ。
最も知能が高いゴールド・ドラゴンともなれば、誕生直後に既に並みの人間の賢者を凌駕するほどに賢く、最終的には最も賢明な人間でさえ到底及ぶ域ではなくなる。
それどころかワイヴァ―ンなどの亜竜も含めた殆どのドラゴンが通常の動物とは明らかに一線を画する知性を備えており、言葉を解する者も多い。
 
先程の話し合いでコボルドという種に関する相互の認識の食い違いはいくらか改善されたものの、まだまだ互いに確認しなければならない常識のズレは多いようだ。
もしディーキンが自制せず、ボスはドロウ(ダークエルフ)の軍勢を破り、地獄へ送られて悪魔の群れと一戦交え、巨大なドラゴンやゴーレムの群れやヴァンパイアの教団などとも戦った神話級の英雄だ…などと正直に話していたら、完全に妄想狂だと断定されていただろう。
136Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 23:12:21.38 ID:UsjD7wXX
 
…さておき、そんなお互いの認識のズレやルイズの内心など露知らず、ディーキンは首を傾げてあれこれ思案していた。
 
「ディーキンはルイズにウソなんかつかないの。…ウーン、それで、ルイズの事はなんて呼べばいいかな?
ディーキンにはボスももういるし……、髪が桃色だから“ピンクレディー”とか?
アア、“ステキ女性”っていうのはどうかな。いいと思わない?」
「……やっぱりルイズでいいわ。忘れてちょうだい」
 
…見た目に反して賢いかと思っていたが、やっぱりこの亜人は何かずれている。
妄想じみたことも言うし…、それともフェイルーンとかいう場所のコボルドはこういうのが普通なのだろうか?
ルイズはこめかみを抑えて首を振ると、内心で溜息を吐いた。
 
「やっぱりルイズでいいわ。忘れてちょうだい。
もういいから、話を変えましょう。……ねえ、そういえばほら、あの帽子、貸してくれる?」
「アア、そうだったね……。でも、別にディーキンはその帽子をそんなに使わないから、必要なときだけ貸してくれるならルイズにあげてもいいよ?」
 
ルイズは帽子を受け取るとそわそわしてディーキンを見つめた。
なおルイズが変装帽子を貸してほしがったのは単に平面を増量してみたいとか憧れの下の方の姉の姿に……とかいったごくありきたりな理由であり、
そわそわしているのは使い魔の亜人とはいえ他人に見られるのはそんな姿を他人に見られるのは気恥ずかしいからである。
しかし、今すぐしたいのは山々だが彼もこういっているのだしいつでもできる、今は眠いから明日一人になった時にでもいいだろう。
 
「こんな凄いもの……あんたの故郷では凄くないのかもしれないけど、とにかくちゃんと契約したわけでもないのに受け取れないわ。
ちょっと興味があって使ってみたいだけなの、こっちから頼んだ時に少し貸してくれればそれでいいわよ」
「そうなの? ウーン、ルイズがそういうなら。
じゃあ、もう遅いから明日の朝また来るね。おやすみなの、ルイズ」
 
ディーキンはそういうと、ルイズにちょこんとお辞儀をして部屋を出ていこうとする。
ルイズはそれを見て、目を丸くする。
 
「ちょ、ちょっと。どこいくのよ?」
「ええと、ディーキンはここに来たばかりだから、部屋が無いのは知ってるよね?
もう遅いしこのあたりは宿もなさそうだから、どこか外で寝るところを探すの」
「……何言ってんのよ、あんたは私の使い魔になったんだからここで寝ればいいじゃないの。
ベッドは空きが無いし、翼とかが生えてるあんたが使うのかも知らないけど……部屋の床でも野宿よりはいいでしょ?
毛布はもし無ければ貸してあげるけど…あんたは冒険者だとか言ってたし、背負い袋の中に持ってそうね」
 
ディーキンはその言葉を聞くと、驚いたようにまじまじとルイズの顔を見つめた。
次いで、自分が今いる部屋をきょろきょろと見回す。
非常に豪華な内装が施された貴族的な私室だ。
ウォーターディープでもこんな高級そうな宿には泊まったことがない。
今では英雄の身になったとはいえ、ウォーターディープは未だメフィストフェレスによる破壊から立ち直りきっておらず、難民があふれかえっている。
そのためボスは宿を難民に譲って街道で野宿することも多く、ディーキンもそれに従っているのだ。
 
フェイルーンでは大体2sp(銀貨2枚)払えば、粗末な宿になら泊まれる。
その場合、暖炉の傍の床で横になって寝る…宿の主人に気に入られればノミだらけの毛布くらいは貸して貰えるだろうが。
5spほど払えば、もっと身分のいい客と同室で一段高い暖房された床で毛布と枕を使って眠れる。
寝台のある個室が欲しいのならば、一泊当たりまず2gp(金貨2枚)は払わなければならないだろう。
今いるような豪奢な部屋で、床とはいえ上等の毛布までつけてもらうのには、一体いくらかかるだろうか?
137名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/26(土) 23:13:10.83 ID:+Efs/mZs
支援

思いって届くんだな
138Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 23:13:33.89 ID:UsjD7wXX
 
自分は使い魔にされるとは知らなかったとはいえそれと知って召喚に応じたのであって、別に異世界から拉致されたとかいうわけではない。
つまりルイズに養ってもらって当然という立場ではないし、どちらかといえば正規の契約をしないでほしいと無理な要求を受け入れてもらった分負い目がある。
したがって当然、ルイズのために使い魔として貢献し、対価として最低限日常の糧くらいは与えてもらってもいいような立場になるまでは野宿をし、食事も自分で用意するつもりでいた。
使い魔になるということで互いに合意したとはいえまだ彼女のために何の仕事をしたわけでもないというのに、こんな良いところで寝泊まりさせてくれるというのか?
ましてコボルドの自分は、ウォーターディープの英雄になる以前には金のあるなしに関わらず人間から追い回されて、とてもまともな宿になど泊まれない生活が続いていたというのに。
加えて先程も、食堂で自分にも無償で高級そうな食事をさせてくれたし……。
貴族にとっては余り物とのことだったが、あの食事だって宿で食べようとすれば軽く銀貨4、5枚は取られるだろう。
 
ディーキンの中では、ルイズに対する評価がグングン上昇していた。
今のところ彼にとってルイズは性格のキツイ高慢な少女などではなく、文句なしで優しい女の子である。
いや彼女に限らず、自分のために夜遅くまで話し合い続けてくれた2人の教師といい…、ここはなんていいところだろう、とディーキンは軽く感動していた。
 
「本当に、こんないいところで寝てもいいの?
ありがとうなの、ルイズ。あんたはすごく優しい人だよ!
ディーキンはルイズのために仕事するし、歌を作るし、どんな筋書きになるかわからないけど、きっと本にも書くからね!」
「ふふん、そんなに感謝しなくても主人として使い魔に当然与えるべきものを与えただけよ?
まあ、あんたの気持ちはありがたく貰っておくけど、働くのは明日からね。
……ふぁ……、もう遅いし私は眠いわ、あんたももう寝なさい」
 
ルイズの方は、感謝するディーキンに得意げに胸を張ると、ひとつ欠伸をする。
それからディーキンに洗濯ができるかを問い、自分の下着を洗っておくように言いつけるとネグリジェに着替えて明りを消し、ベッドにもぐりこんだ……。
 
ディーキンはそれを見届けると、物音でルイズを起こさないよう気を付けながら、暗闇でこれからの思案と作業を始めた。
ルイズの気遣いは嬉しかったが、せっかくこんなに面白そうな場所に呼び出されたのに、まだろくに何も分かっていないうちに寝るつもりはなかったのだ。
コボルドには暗視能力があるので、たとえ明りが消えていても問題なく読み書きや作業ができる。
 



 
そのころ、オスマンは自身の寝室で酒を傾けながら、物思いにふけっていた。
酒を入れているのはかつて出会った奇妙な魔術師からもらった不思議な器…指で強く押すと簡単にへこむ薄い金属の円柱形の容器で、読めない文字らしきものが描かれている。
その魔術師が言うには、異界の文字であるらしい。
もらった当初は酒ではなく、奇妙に舌を刺激する、それまでに味わったことのない美味な甘い飲料が入っていたのだ。
 
「……あの亜人は、お主と同じ世界から来た者なのか? さりとてお主の使いというわけでもないようだが……。
彼に聞けば、お主の事が少しは知れるかの……、エルミンスターよ」
 
139Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 23:15:23.86 ID:UsjD7wXX
 
ディスガイズ・セルフ
Disguise Self /変装
系統:幻術(幻覚); 1レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:術者自身
持続時間:術者レベル毎に10分(途中解除可能)
 術者は自分の外見を変えることができる。体型を変えたり、装備品一式を別の物に見せかけたり、身長を1フィートまで上下させたりできる。
ほくろや顎髭のようなちょっとした特徴を加えたり消したり、全くの別人や異なる性別であるような外見にすることもできる。
この呪文は選んだ姿が持つ能力や独特な話し方や身振りまでは与えてくれないし、手触りや音声も変わらない。
バトルアックスをダガーのように見せかけることはできるが、それでも武器の機能自体は変化しない。
作中に登場した《変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)》は着用者にこの呪文の効果を永続で与えるマジックアイテムである。値段は1800gp(金貨1800枚)。
 
アーケイン・マーク
Arcane Mark /秘術印
系統:共通; 0レベル呪文
構成要素:音声、動作
距離:接触、最大1平方フィート内に収まる印やルーン
持続時間:永続
 術者はこの呪文で、どんな物質にも傷をつけることなく自分のルーンや印を刻むことができる。ルーンや印は6文字以内でなければならない。
書いた文字は可視状態にも不可視状態にもでき、不可視にした場合ディテクト・マジックの呪文を使えば光って可視状態になる。リード・マジックの呪文は、文字が単語を成していればそれを明らかにする。
印を解呪することはできないが術者の意志かイレイズという呪文によって除去できる。
生きている存在にも記せるが、その場合にはゆっくりとかすれてゆき、約1ヶ月で消えてしまう。
 
大いなる転輪:
グレイホークという物質界を内包するD&D標準の宇宙観。
フォーゴトン・レルムは同じD&Dでも大いなる転輪とは異なる宇宙観における世界であるが互いに接続があり、共通の魔法を使ったりたまに行き来する者もいる。
D&D3版・3.5版と同じd20システムで判定するゲームには、メジャーどころではd20モダンやd20クトゥルフなどがある。
現代兵器やクトゥルフのモンスターとD&D冒険者で戦うこともできるのだ。
キワモノとしてはd20スレイヤーズ、d20ヘルシングなどといったものもある。どんな内容かは推して知るべし。
なおd20モダンにはD&D世界からモンスターがやってきた設定で遊ぶレギュレーションなどもあり、公式に地球とD&D世界には接続がある。
したがってゼロ魔とリンクさせた場合、ハルケギニア・D&D世界・地球それぞれに繋がりがあることになる。
 
大魔法使いエルミンスターはマウンテンデューが好み:
D&D公式設定です、私の捏造じゃないよ。
米国のサポート雑誌は「フォーゴトン・レルムの世界の秘密を、次元移動能力で登場したエルミンスターから聞いて作者がまとめた」と言う設定になっています。
彼がそれをフェイルーンの方で本に書いたとかディーキンがそれを読んでいるという点は私の捏造ですが、高レベルのバードは強力なウィザードの幼少期のアダ名とかトリビアルなことも普通に知ってたりします。
ので、ディーキンなら地球やハルケギニアの事をどこかで小耳にはさんだことがあってもさほど不思議ではないと思います。
 
140Neverwinter Nights - Deekin in Halkeginia:2012/05/26(土) 23:17:57.86 ID:UsjD7wXX
今回は以上です。
お待ちいただいてありがとうございます、遅れて申し訳ありませんでした(礼)。
できるだけ、早く次回を投下できるよう頑張りたいと思います。

……しかしこんな展開で大丈夫なのかな?
141名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 00:01:12.21 ID:LxX2RnuD
投下乙
142名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 00:09:58.29 ID:ucNEmqb1
乙ですたい
143名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 00:17:32.54 ID:lcqEa9ce
乙です。
次回も楽しみにしています。
144名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 07:52:22.41 ID:/UfJyuZ6
余裕で大丈夫
145名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 08:55:44.17 ID:4QWOchxW
ガンダウルフ…ウルフレンドの知識まで得るとは、高レベルバードの「バードの知識」恐るべし
146名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 09:13:03.34 ID:0tLUITpa
ディーキンならきっと、“柊蓮司の秘密”も知っているに違いない……!

言えるわけないけど。
147名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 10:59:17.77 ID:ymLdptPt
たいむわーぷ中のゴエモンインパクトを召喚とかどうかな?
さらわれたテファを助けるために、からくり盗賊団のおみくじ兄弟ならぬ元素兄弟の巨大ごーれむとバトルし、
ラストは重録兵衛のいかすおれさま号に乗ったマリコルヌをぶっとばす!

フーケに義賊の心を教えたり、アニエスに人魚変化の術を伝授したりする愛と友情の冒険ストーリー
148名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 11:01:07.64 ID:HclJP34e
妄想垂れ流してる暇があったらさっさと書けばいいんじゃないですか?
149名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 11:10:33.09 ID:vmoMxYnN
元々妄想を垂れ流すスレですよ?

書きたいなら書けばいいけどそうじゃない人間に強要するのはスレ違いだと思うが
150名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 11:21:20.85 ID:xFlt/iKM
>>145
バードレベル次第で”強力なウィザードの子供時代のあだ名”とかが
わかるからな、なに、知っているのかバード!
151名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 13:41:24.49 ID:LxX2RnuD
強要するのは「スレ違い」じゃないと思う
152名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/27(日) 14:32:40.79 ID:Iv6PRwKX
>>140
乙でしたー
読んでると想像が膨らんで楽しい。これからも期待してます
153名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 00:22:19.77 ID:PbNpiCUN
ディーキン乙です(遅いですが)
154名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 02:00:41.21 ID:6RFbMg4n
ディーキンの人来てたー

楽しみにしてたから嬉しいわ
155名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 12:28:46.70 ID:PzXSV4od
もしゼル伝シリーズから時オカ、ムジュラの時の勇者となったリンクが来たら
運命とか伝説とか神の力とかに散々人生振り回されたから「いい加減にしてくれ!」
って感じで鬼神になっちゃいそう
156名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 16:16:24.69 ID:IGWLFswU
そりゃお前の妄想リンクだろう
157名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 17:21:17.68 ID:BSUkN4lE
>>147
漫画版ヤエちゃんの人魚に思春期の目覚めを覚えさせられたボンボン世代の俺
まな板に人魚変化は宝の持ち腐れだから伝授するならテファかアンアンに
158ぜろ☆すた ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:20:30.67 ID:LO/IMEj/
18:25から第4話を投下します。
159ぜろ☆すた@ ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:26:28.28 ID:LO/IMEj/
「ぜろ☆すた ポケットきゃらくた〜ず 第4話」

「わ〜……、ミス・ロングビルだけ大きくなってるよ〜……」
 元に戻ったロングビルを見上げ、キュルケは彼女を質問責めにする。
「何で何で〜? どうやってやったんですか〜?」
「え? え? あの……」
「本人に聞いてもわからないんだから、困らせないの……」
 しどろもどろになったところでルイズから助け舟を出されたロングビルだったが、微笑ましげにテーブル上のルイズ達3人を眺め、
「……でもこうして見ると、私達こんなに小さくなっていたのですね」
 するとこなたもロングビルの胸元をじっと見上げ、
「でもこうして見ると――本当にロングビルさん大きかったんだなあ〜って……」
「どこ見て言ってるのよ!!」
 こなたの視線の先にある物を察して、ロングビルは顔を赤らめ、ルイズは鋭くツッコミを入れた。
160ぜろ☆すたA ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:29:28.15 ID:LO/IMEj/
「う〜ん、ミス・ロングビル1人だけ元に戻るなんて……」
「それもほんといきなりだったわよね……」
 ロングビルを眺めつつ、改めて呟いたルイズ・キュルケ。
 そんな2人の視界の端では、こなたがロングビルの服の袖にしがみついてよじ登っている。
「はい……。なので自分でもどういう事なのかさっぱり……」
「まあ、戻れたんだからよかったじゃん」
 と、こなたはロングビルの赤面などおかまいなしで彼女の胸元に足から潜り込んでいた。
「あんたはどこに入って言ってるのよ……」
 すると今まで沈黙していたギーシュ・カトレアも、
「でも、これで元に戻れる事はわかったな」
「そうだね。ちょっと安心したかも」
 と揃って安堵の表情になる。
「よかった〜、私達元に戻れるんだね〜」
「そうね。でも肝心の方法がまだ……」
 まだ楽観はできないという口調のルイズにこなたは気楽な態度で語るが、
「やー、もう1例出たわけだし、そんなに急がなくてもいいんじゃない? 私達もそのうち--っと……、お……」
 そう言いつつロングビルの服の内部に滑り込んでいく。
「うおっ!? ぶふっ! うぐう!」
 と悲鳴を上げながら上着の中を転がっていき、スカートの上に落下した。
「何してんのよ……」
 ルイズからのツッコミを聞き流し、こなたは起き上がってロングビルに文句を言う。
「もうっ、駄目じゃん、ロングビルさん! ちゃんと寄せててくれなくちゃ!」
「す、すみません……」
 思わず謝罪の言葉を口にしたロングビルがこなたを卓上に戻すのを、ルイズはどんなクレームだと言いたげな視線で見ていた。
「しかしロングビルさんの服の中を転がり落ちられるなんて、これぞ漢の浪漫てやつだあね♪」
「あんた女でしょうが……」
 こなたのオヤジな思考にルイズが呆れたその時、
 --グウウウウ……
 ルイズの腹の虫が盛大に鳴った。
「そ、そういえばごはんどうしようね?」
「……もうそんな時間……」
 赤面したルイズにあえて話を振らずそんな会話を交わすカトレア・タバサを、
「あ、では……、皆さんうちへいらしてはどうでしょうか?」
 ロングビルはそう一同共々誘ったのだった。
161ぜろ☆すたB ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:32:28.46 ID:LO/IMEj/
「まあ〜、コナタさん可愛くなっちゃって〜♪」
「ども、お褒めにあずかり」
「お人形さんみたいね〜」
 ロングビルの家に到着した早々、ティファニアはこなたを掌に乗せて満面の笑顔になった。
「……何か、テファって理解力ありすぎない……?」
「この姿見ても驚かなかったね……」
 まったく動じた様子の無いティファニアの態度を少々訝しがるルイズ・キュルケだったが、ロングビルはにこやかに微笑むのみだった。
「ティファニアなら話しても問題無いと思いましたので……」
「小さいお姉さんも見たかったわ〜」
 そんな事を言う2人にギーシュは、
(何だかもう、小さくなった事を秘密にするって感じじゃないな)
 などと考えていた。
「では私、着替えてきますね。戻りましたら食事の準備をしますので……」
 そう言って家の奥に入っていくロングビルを見送り、
「いいな〜、私も着替えたいよ……」
「そうね。キュルケは服が汚れちゃったし、何とかしないとね」
 と言ったキュルケに今度はティファニアがにこやかに微笑み、
「じゃあ、キュルケさんもお着替えする?」
「え? でも洋服が……」
「うふふ、あるじゃない、その姿にぴったりなサイズの服が♪」
 ティファニアはキュルケを左腕と腹部の間に挟み込むようにして、
「じゃあ、キュルケちゃんはこっちへ〜♪ みんなはお菓子でも食べててね〜」
 やはり家の奥へと入っていった。
「な、何でテファあんなにノリノリなんだろ……?」
162ぜろ☆すたC ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:35:28.56 ID:LO/IMEj/
 その後、一同は菓子をつまみつつ雑談に興じていた。
「へ〜、コナタあのフィギュア揃ったのか〜。凄いな〜」
「流石コナタだな♪」
「ふふ〜ん、まあね♪ 私の愛の深さゆえの巡り合いだったね〜」
「やっぱり僕は愛が足りなかったんだな……」
「そういうものなのか?」
 そんな会話を交わしていたこなた達をよそにカトレアは棒状の焼き菓子を短く折って、
「はい、コナタちゃん」
 とこなたに差し出した。
「ん?」
「食べやすくしといたよ♪」
「おー、ありがとう、カトちゃん」
 薪程の大きさがある(ように思える)焼き菓子をカトレアから受け取って、それにかぶりつき始めるこなた。
「………!」
 そこでこなたは、ルイズが焼き菓子の盛られた皿に背を向けカトレアの方を見つめている事に気付いた。
「あれ〜? ルイズ、食べないの?」
「ダイエット中よ! 言わなかったっけ?」
 声をかけてきたこなたに、ルイズはそう言ってそっぽを向いた。
「そんな事言ってダイエットばっかりしてると、元の大きさに戻れないよ〜?」
「それとこれとは話が別でしょ!」
 こなたの軽口にそう返答したルイズだったが、しばらくして思案の表情になり、
「……ねえ、コナタ?」
 とこなたに声をかけた。
「あい?」
「何でミス・ロングビルは元に戻れたんだと思う?」
「ん〜、そうだねえ。私が思うに――」
「思うに?」
 ルイズの瞳に期待の色が濃くなる。
163ぜろ☆すたD ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:38:29.51 ID:LO/IMEj/
 ……だが、
「やっぱりこの姿のままじゃ、サービスってやつができないからじゃないかな! ほら、ロングビルさんってそういう要素が満載じゃん?」
 こなたの返答は普段通りの軽口同然のものだった。
「誰宛てに何をどうサービスするのよ……?」
「だから、るいずんもサービス精神旺盛なキャラになればいいんだよ。っていうか、そういうスペックにバージョンアップ!」
「は!?」
 ルイズはこなたの瞳に宿った異様な光に危機感を覚えて後ずさりするが、
「GO! マルコメ!!」
 こなたの声に、ルイズへ手を伸ばすマリコルヌ。
「のあっ!?」
 抵抗らしい抵抗もできないうちにルイズはマリコルヌに摘み上げられ、制服の上着をたくし上げられる。
「ぎゃああ! やめなさいい!! やめっ!! あんたのそのオヤジ的思考は何とかならないのおお!!」
「――とは言ってみたものの、ルイズじゃそう簡単に萌えは付かないかもね〜。ツンデレは重要だけど♪」
 こなたが指を鳴らすとマリコルヌは手を放し、ルイズの体はテーブルの天板に落下した。
 当然ながら天板に叩きつけられたルイズは恨みのこもった声で、
「あ、あんた達ねえ〜……。ちょ……、ちょっとは……、オタクっていう以前に……、ものの程度を知りな……さいよ……」
 衣服は乱れ、呼吸は荒くなり、顔は紅潮しているという状態で切れ切れにそう言葉を口にしたルイズ。
 するとそれを見たギーシュ・こなた・マリコルヌは、
「い、意外と今キタんじゃないか?」
「ぬう、ひょっとしたら結構イケるんじゃ……?」
「あの悩ましい目ができるのは、かなりのやり手だと思うね」
 とひとしきり話し終えた後、こなたはルイズに向き直って肩を竦める。
「でも何も起きなかったねえ」
「あのねえ……、あんたの言う需要に対しての供給みたいなのじゃなくて、ミス・ロングビルだけが元に戻った原因が知りたいの!」
164ぜろ☆すたE ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:41:34.78 ID:LO/IMEj/
 するとそこへ、
「はーい、皆さん、見てくださ〜い♪」
 ティファニアが部屋に戻ってきた。
「じゃーん、お披露目で〜す♪ お人形さんのドレスを着せてみました〜♪」
 ティファニアの掌の上には、可憐なドレスに身を包み照れくさそうに赤面しているキュルケの姿があった。
 その可愛らしさに思わず見とれる5人。
『……お、おおおおおっ!!』
「流石キュルケ、似合うじゃん!!」
「キュルケ、可愛いよ!」
「萌えだな♪ 萌え萌えだな♪」
 大きな歓声を上げたかと思うと、こなた達はティファニアを取り囲み口々にキュルケを称賛した。
「マルコメ、写メ!!」
「あいよっ♪」
 とマリコルヌは遠話の手鏡を取り出し、ギーシュと共にキュルケを撮影し始める。
 そんな3人の様子をルイズは、
(なぜかしら……。3人の頭上に逆三角形の建物が見えるわ……)
 などと考えつつ眺めていた。
 2人が一通り撮影し終えるのを見届けて、ティファニアが意味ありげに笑みを浮かべる。
「あ、でもね、これで完成じゃないんですよ〜」
「え?」
「うふふ〜、こ・れ♪」
 ティファニアが差し出したのは、レースの切れ端と言っていい大きさのベールだった。しかしそれでも小さなバラの花の装飾が施されている。
 それをキュルケの頭部に被せるティファニア。
「はいっ♪」
 言葉と共に披露されたドレス(完成形)を纏ったキュルケは、小さいながらも花嫁のようでさらに魅力が増した。
 キュルケの姿を見たこなた達3人はしばらく彼女に視線を向けて硬直していたが、
『萌え!!』
 と口を揃えて一声上げると、先程にも増して大きくどよめいた。
「テファ、凄いよ。こんなにキュルケの萌え度を上げるなんて!」
「あらそうですか? 嬉しいです♪」
 こなた・ティファニアの会話を照れくさそうに聞いていたキュルケだったが、
「!?」
 突然体に何かを感じて目を見開いた。
 こなたも突然聞こえてきた物音に、音がした方向を振り向く。
165ぜろ☆すたF ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:43:46.19 ID:LO/IMEj/
 時間は少々遡って、ロングビルの私室。
「んはっ」
 部屋着から頭部と両腕を出して、眼鏡をかけるロングビル。
 着替えを終えて脱衣所に向かい、洗濯物を籠に放り込んだところで手が止まる。
「……普段の何気無い行動でも、小さいと不便そのものですね……。ひょっとしたら当たり前の事を当たり前にできるのは、とても大切な事なのかもしれませんね」
 そう呟いて籠に放り込む作業を再開する。
「皆さんも早く元に戻れるといいのですが……」
 と口にした時、突然居間の方から大きな音が聞こえてきた。
「……な、何の音でしょう……」
 慌てて居間へと戻り、扉を開ける。
「皆さん、どうかしたんで……す……か?」
 そこまで言って、ロングビルは言葉を失った。
 居間では、こなたが床に倒れたギーシュの胸の上に倒れ、ルイズもマリコルヌの腹の上で倒れ、キュルケは全裸・涙目でテーブルの上に座っていて(しかもなぜか元の大きさに戻っている)、カトレアはタバサに押し倒され、
ティファニアはキュルケに上着を羽織らせようとしていた。
「……え、あの、これはどういう……? あ……、ミ、ミス・ツェルプシュトーが元に……。いったい何が……」
「それが……、キュルケさんが急に大きくなってしまって……」
 困惑の笑みと共に、ティファニアはロングビルがいない間の事を語り始める。

 吹き上がる白煙と共にキュルケが元の大きさに戻った瞬間、膨張した彼女の体に弾き飛ばされてこなた・ルイズの体は宙に舞った。
 一直線に飛ぶこなたの進路にカトレアが立っている事に気付いたタバサは彼女を抱き寄せるが、その拍子に足を滑らせ、押し倒す形で2人は床に倒れ込む。
 一方こなたは、カトレアの後方に立っていたギーシュの顎を直撃。ギーシュは大きくのけぞって床に倒れる。
 そしてルイズも進行方向にいたマリコルヌの腹部に激突したものの、マリコルヌは何とか踏みとどまった。
「〜っ!?」
 キュルケも訳がわからず、言葉にならない混乱した叫びを上げる以外不可能だった。
166ぜろ☆すたG ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:46:19.61 ID:LO/IMEj/
「……という感じで、吹き飛ばされたお二人に皆さん巻き込まれてしまったのですよ……」
 事の次第を聞いたロングビルは心配そうに、
「ええと……、見たところ皆さん無事なようですが……」
 と一同を見回していたが、キュルケに視線を向ける。
「ミ、ミス・ツェルプシュトー……」
「う〜、いきなり大きくなっちゃうから、服がビリビリよ〜っ」
 涙を流すキュルケの姿に、ロングビルはふと違和感を覚える。
「なぜミス・ツェルプシュトーだけ大きく……。服は……?」
「たぶん人形の服だからよ」
 首を傾げたロングビルの疑問に、そう答えたのはルイズだった。
「ミス・ヴァリエール……」
「ほら、テーブルにあるキュルケのリボンが大きくなってるでしょ……。たぶん制服も元に戻ってるはずよ……」
 テーブルに視線を向けると、確かにベールを被せるために外されていたキュルケのリボンも、元の大きさに戻っていた。
「ミス・ロングビルの時は制服を着たままだったから大丈夫だったけど、キュルケは別の服を着てたから体だけ大きくなったのよ」
「キュ……、キュルケ……」
 丁度その時、仰向けに床に倒れ気絶していたギーシュの胸元で、こなたがそう声を出した。
 まだ立ち上がる事も不可能なようで、這い寄るようにギーシュの胴体の上を進み、
「服が破けるなんて今時アイドルでもやらない、そんな王道シチュ……GJ」
 そう言い残し、がくりと倒れ込んでしまった。
「ミ、ミス・コナタ!」
 こなたが倒れた事に狼狽するロングビルを、ルイズは少々呆れが入った表情で眺めていたが、
「……! ……そ、そうか……」
 ルイズはある事に気付いて声を上げる。
「みんな! わかったわよ! 2人が元に戻れた理由が!!」
167ぜろ☆すた ◆qMq3HrGsjaqL :2012/05/28(月) 18:48:29.62 ID:LO/IMEj/
以上投下終了です。
168名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 21:57:26.98 ID:VCe9tp8L
乙です。
169名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/28(月) 22:21:40.71 ID:QdhH6Lj/
今更ながらに聖戦士イーヴァルディの文章のトミノ臭に笑った。
御大、文章下手なくせに妙に味があって読んでるうちにあのストーリーに絶妙にマッチしてる
気になってくるのがすごいところなんだよな。あの妙なテイストをある程度再現できるって
才能だと思うわ。ぜひ頑張ってほしい。
アニメ版準拠なのにオーラバトラー戦記のテイストでどうすんだっつー話もあるかもしれんけどw
170名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 01:14:11.30 ID:AUFwDIDe
某県立医大の教授を召喚
医者だというんでちぃ姉様をみせたら8千馬力のサイボーグに改造されてしまった。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 12:29:02.10 ID:Xc4JdTF9
>>170
サイボーグGちゃんでも良さそうだw
172名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 17:47:28.23 ID:zF6iWUY/
ドクターゲロがカトレアを人造人間21号に改造とか
173名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 18:43:24.70 ID:WQfrIl7k
サイボーグとか改造人間にされちゃったけどやっぱり謎の変調が起きるカトレア、とかだったら読んで見たいな
174名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 18:56:38.46 ID:6bDxWkDC
成原でR・かとれあ というパターンも
175名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 19:07:07.42 ID:G0BMqsrq
なるほど、不治の病のまま不老不死化する、つまりパピヨン化するということだな
蝶☆サイコーじゃないか
176名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 19:13:50.54 ID:+Di5+RIt
カズキは人間同士の戦争に参加するんだろうか
177名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 19:22:28.08 ID:AUFwDIDe
召喚されたキャラみんなが戦争に参加したわけじゃないから作者のさじ加減でどうとでもなるだろ
178名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 20:59:42.42 ID:q1CPHENi
>>175
パピヨンと違ってホムンクルス化しても食人衝動は消えないだろう。
あれは人間に戻りたいという本能が理由だしな
179名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 21:20:58.39 ID:KkF7lZ0Z
>>178 中途半端なモムンクルス化が原因で、食人衝動が極めて低いとかいう設定をアニメか何かで見た。
180名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 23:11:47.69 ID:6bDxWkDC
逆に考えよう

おキヌちゃん「死んでも生きられます!」
181名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 23:17:43.30 ID:w9hZip6m
>>180
浦飯幽助「全くだぜ」
182名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/29(火) 23:46:10.52 ID:AUFwDIDe
Z-ONEならカトレアの記憶をコピーしたロボットとして再生できるかも
183名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 01:20:55.01 ID:4b0OC/Nb
地獄先生の知り合いの人魚の肉食ったら
不死身の馬鹿となったカトレアが……嫌だ!不憫すぎる!
184名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 11:11:30.61 ID:kEUT0CCt
>>179
それって
・中途半端なホムンクルス化のせいで、虚弱体質を抱えたまま不老不死になってしまった
・人間だった頃の未練が全くないため食人衝動がない
という設定がごちゃ混ぜになってないか?
185名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 13:36:07.15 ID:D2Yp4jxA
>>183
逆に考えるんだ、高橋留美子が描く人魚の肉よりはマシだと

…あれ喰ったら主人公補正ないとほぼ確実になりそこないw
186名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 18:07:26.98 ID:9cANMHQL
「やあ、ぼくきゅーべー。僕と契約して魔法少女になってよ」

これなら安定した回復も可能で魔法も使えるようになっていいこと尽くめだよね
(3話目に行かなければ
187名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 19:17:01.73 ID:tIc8yeO+
>>186
カトレアを健康にしたいという願いはエントロピーを超えられなかったってオチが見える
188名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 19:17:31.79 ID:sfOl+ZRQ
デッドプールみたいに病も同時に不死化&活性化して正気を失うと言うのも…
そして割れる第四の壁
189名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 19:50:40.32 ID:vRSY4dkP
「なんでアニメの私は健康そうなんだよ!」とか黄色いフキダシで喋りだすカトレアか
190名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 20:03:25.71 ID:C0mqiqe+
>>186
ルイズ「私のおっぱいをちいねえさま並みにして!」
191名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 21:33:31.80 ID:CZhI9Cej
>>190
「君の素質ではその願いは無理だよ」
192名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 21:45:10.08 ID:EKRwWuxP
>>190
「カトレアのおっぱいをちっぱいにしてきたよ」
193名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:01:59.96 ID:wnVDV13T
もうモモタロスでいいじゃん召喚するの。
「俺と契約して仮面ライダーになろうぜ!」
194名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:07:40.17 ID:EhaBScfs
ひ弱とはいえ、一般男性の良太郎ですらボロボロになるレベルなのに
貴族のお嬢様なルイズに憑依された日には筋肉痛で二日は動けないな
195名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:18:35.34 ID:SC58zafD
>>194
乗馬が得意な分、ルイズの方が体力ありそうだが…
196名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:22:38.45 ID:xQxR4GkZ
ルイズの身体能力とか一般の現代人より余裕で上なんじゃないかって気がする
そもそも異世界人だしメイジだし
197名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:22:45.24 ID:tIc8yeO+
魔法の代わりにサブミッションを決めまくるルイズ
198名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:33:23.85 ID:VJs2BSCn
虚無と言う名の肉体言語
199名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 22:41:05.23 ID:sVavgdOQ
>>197 ルイズ「打撃技など!!(シュバッ!!)」
アンリエッタ「花拳繍腿!!(ババッ!!)」
二人『サブミッションこそ王者の技よ!!(ガシィッ!!)』

アンリエッタ「お久しぶりねルイズ」
ルイズ「姫様もお変わりないようで」

こんな感じに再会する二人を連想した。
200名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 23:14:58.02 ID:9cANMHQL
>>199

魔法要らないにも程がある
201名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/30(水) 23:28:50.68 ID:NPZ2Qljg
カリンはまんま、あの母親のイメージ通りだなw
202名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 02:00:29.45 ID:mZIX+1be
お二方とも、新作乙です。というかコボルドまだかなって書いた20分後に新作がくるなんて、
嬉しいやらもっと早くみとけばよかったと思うやら

偽の契約でアーケインマークを使うとはワクワク
後々の伏線を丁寧に散りばめてる印象がありました、武器とかマウンテンデューとか、
デルフリンガーも登場しそうだし無事使って貰えそうだしよかった、ロングソードに習熟してるもんね
後は破壊の杖相当品が何になるのか……d20モダンとも繋がってるなら
まんまって事もありそうですが
203名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 02:15:07.17 ID:6nLzZaS0
>>202
デルフリンガーがそのまま出てくるとしたら、
コボルドにとっては2サイズ上の持つことすら出来ない武器になるのではないか?
204名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 02:33:44.84 ID:mZIX+1be
>>203
あれっそうだったっけ? アニメでサイトが普通に使ってたから中型用の片手武器で、
小型のディーキンにとっては両手武器として扱えるもんだと思ってたけど
ていうかサイズ差考えてなかったや
205名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 11:42:15.26 ID:j4jHqwHp
デルフリンガーなんてマミさんが飛び付きそうなネーミングぽいけどな
いやあの人ならもっと廚二ネームに改名させるやもしれんが
206無重力巫女の人:2012/05/31(木) 20:20:58.57 ID:ar4ycex3
どうも皆さん今晩は。無重力巫女の人でございます
相変わらず時が過ぎるのは早いと感じつつ、56話目を投下する日がきましたね。
何もなければ、20時30分から投下を開始します。
よろければ支援の方。お願いします。
207ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:30:02.65 ID:ar4ycex3
すいません、『56話』じゃなくて『55話』でした。ナニミスッテンダオレ...


その日はせっかくの休日でありながら、トリスタニアは暑かった。
まるで街に漂う全ての空気が熱を持ったかのように、初夏の熱気が街中に充満している。
更に、貴族や平民など大勢の人々が各所にある狭い通りを行き交う所為で、街全体の気温が時間が経つごとにどんどん上がってゆく。
今日の最高気温もそこに関係してくるのだがそれは三割の内ほんの一割程度で、残り二割に人が関係している。
結局のところ大勢の人がいる場所というものは、良い事も悪い事も同時に生まれてくるのだ。
熱気は地上だけにとどまらず、白い雲が浮かぶ青空へと上昇して屋上で涼もうと考えていた者たちにもその牙を容赦なく突き立てる。

結果、トリスタニアという街そのものが巨大な共用サウナへと変貌していた。
街の人々は一日ごとに気温が上がってゆく街の中で、もうすぐ厳しい夏がやってくるのだと改めて実感した。
だからだろうか、まだお昼にもなってない時間帯の中、街の各所に設けられた噴水広場や井戸に大勢の人々が足を運ぶ。
ある者は自宅の桶や空き瓶を持ってきて井戸の水を汲み、またある者は豪快に頭から水を被って涼しんでいる。
広大な土地と未開の森を開拓し、偉大なる文明を広げていった人々の象徴たる人口のオアシスは、今まさにその役割を全うしていた。

しかし、彼らは知らないだろう。
自分たちのすぐ傍に、『貴族とその従者』だけが快適に涼める『店』があるという事を…
そして、その場所には異世界から来た二人の少女と彼女たちを呼び寄せてしまったメイジがいる事も。



「外は暑いわね」
目にもとまらぬ速さで脳裏を過った言葉を、霊夢はポツリと呟いた。
「あぁ。暑いな。確実に」
それに答えろ。とは言わなかったが律儀にも魔理沙は答える。
まるで心の底から゛暑い゛という存在にうんざりしているかのような口調で二人は゛暑い゛をという言葉を口から出したが、その割には涼しそうな表情を浮かべている。
それどころか、平民や年金暮らしの下級貴族達が座った事の無いような高級ソファーに腰を下ろしていた。
もしもここが熱気あふれる大通りなら、このソファーは座った者の尻を蒸し焼きにする拷問゛器具゛ならぬ拷問゛家具゛に変わっていただろう。
しかし、そんなソファーにゆったりと腰を下ろしている二人とその顔を見れば、ここが外よりも気温がずっと低いという事を文字通り゛肌゛で実感できる。

この部屋には今゛風゛と゛水゛の魔法で作られたマジック・アイテムによって、寒くならない程度の冷気が天井を中心にして部屋中に漂っている。
そのマジック・アイテムは一度起動させると周りの空気を冷たくするのだが範囲こそ小さく扱いも難しいうえ、オマケに一個当たりの値段もそこそこ高い。
使えれば便利なのだがその反面、使いこなせなければ正に『宝の持ち腐れ』と言える代物だ。
しかし、ある程度腕の立つメイジがいればコントロールは意外と容易で、王宮や魔法学院などの一部施設では夏に欠かせぬマジック・アイテムとして使用されている。
今ルイズたちが訪れた店もそんな場所の一つであり、二人は天井からの冷気にありがたさを感じていた。

「…それにしても、涼しい部屋ってのは良いものだな」
「まぁ、外が結構暑くなってるから尚更よね」
魔理沙とそんな会話をしながらも、霊夢は人々が行き交う通りを窓越しに見つめている。
そこから見える人々は四方から襲う熱気に汗を流しつつ、忙しそうに通りを歩く。
時折他人同士が肩をぶつけてもどちらかが謝る事は無く何事もなかったかのように歩き去っていく。
暑いのにも関わらず外で露天商が声を張り上げているのか、窓を伝わって通りの喧騒がボソボソと聞こえてくる。
゛幻想的゛な幻想郷の人里では見れそうにない゛近代的゛なブルドンネ街の通りは、゛幻想的゛住人である二人にとっては目新しいものだった。

「しかしアレだな、こんな涼しい所にいるとホント外が暑そうに見えるんだな」
魔理沙の言葉に霊夢はただ頷きながら、ルイズがこの『店』を選んだことには感心していた。
208ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:36:22.67 ID:ar4ycex3


二人が今いる場所、それはブルドンネ街の通りに店を構える所謂『貴族専用家具専門店』と呼ばれる店の中にある休憩室であった。
以前タバサが持ってきたハシバミ茶が原因でティーポットを捨てることになったルイズは新しいのを買うために、霊夢と魔理沙を伴ってここを訪れたのである。

「今日は折角の休日だし、街へ行ってこの前捨てたティーポットを買い替えに行くわよ」
ルイズはそう言って、部屋で寛いでいた霊夢達を指差した。
突然の事に二人は目を丸くしたが、デルフは思い出したかのように刀身をカタカタと音を立てて震わせた始めた。
『へへ、そういえばこの前レイムの奴が実験して使い物にならなくなっ…―――』

ガチャッ!

「何が実験よ、何が」
カタカタと刀身を震わせながらこの前の「ハプニング」を語ろうとしたデルフは、霊夢の手によって無理やり鞘に納められて黙らされた。
その後はまだ何か言いたげに刀身を震わせていたが、またしてもクローゼットに入れられる羽目になった。

そのあと、魔理沙はルイズの提案にすんなりと了承したのだが、霊夢は暑いから遠慮するとルイズに言った。
いつもなら「じゃあデルフと一緒に留守番よろしくね」と言ってルイズは魔理沙と一緒に部屋を出るのだが…その日は違った。
何故かルイズがしつこく食い下がり「お日様に当たらないと頭からモヤシが生えてくるわよ」とか変な脅しを霊夢に掛けたのである。
「それなら全部引っこ抜いてモヤシ炒めにして食べるわ」と霊夢はクールに返した。
しかし、それでも餌に食いついた魚のようにしつこいルイズに、霊夢は怪訝な表情を浮かべながらもついに降参した。
元からルイズと言い争うつもりは無く、部屋にいても煩いデルフと留守番するのは耳触りであった為、ルイズたちについていくことにしたのである。
「全く!行くって言うのなら最初からそう言いなさいよね!」
「アンタがしつこく食い下がるからでしょうが」と返しつつ、霊夢も街へ行くことになった。



その後、魔理沙の提案でシエスタも連れて行こうという事になったが(彼女曰く「この前、クローゼットから助けてくれたお礼」)生憎彼女の方も街へ行っていて不在だった。
まぁシエスタの件はまた今度という事で三人もそれぞれ別の方法(ルイズは馬で魔理沙は箒、そして霊夢は空を飛んだ)で街をへ向かい、そしてこの店へと足を運んだのである。
店に入ったルイズはそのまま奥へと通され、魔理沙と霊夢は従者として扱われこの休憩室で待っていた。
きっと今頃、ルイズは店の奥でカタログと展示品相手に睨めっこをしつつ、自分の部屋に迎え入れるティーセットを探しているところだろう。
しかし何故霊夢と魔理沙はルイズと別行動なのかと言うと、それにはワケがあった。



それは今から三十分も前の事…。
店に入った時、従者は休憩室で待つのが当店の規則です。と店の人間に言われたからである。
確かに一部の゛貴族専用の店゛ではそのような原則があり、基本平民である従者は別室で待機するのが定めであった。

ルイズと違いトリステインの暑さに慣れていない二人は体が少し疲れていたこともあり、その言葉に従っておとなしく待つことにした。
来店する貴族の従者が待機するこの部屋には来客用のソファーが二つ、部屋の真ん中に置かれている長方形のテーブルを挟むようにして設置されている。
そして部屋の出入り口から見て右のソファーには魔理沙が、左のソファーには霊夢が座っていた。
この部屋にはそれ以外の家具は無く、閉まっている窓の近くに置かれている観葉植物がその存在を主張している。
その観葉植物というのが実に不気味であり、土の入った大きな植木鉢から斑点がついた大きくて長い葉っぱが五、六本飛び出しているという代物だ。
植物というよりかは、まるで突然変異で巨大化してしまった雑草のような観葉植物であった。
紅魔館で観葉植物などを見せてもらった事がある二人であったが、少なくともこんな不気味なモノは置いていなかった。
209名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 20:37:31.30 ID:XXmxoT5m
しぇん
210ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:40:13.44 ID:ar4ycex3
「何かしらこれ?気味悪いわね」
「これは…アレだな?多分秘薬を作るための薬草だろ」
初めてこんな観葉植物を見た二人は、一体何なのかと不思議に思った。
そんな時丁度良く気を利かせて飲み物を持ってきてくれた店の人間に、魔理沙があれは何かと聞いてみたところ…

「あれは、サンセベリアです」
「サンセベリア?」
「え、何?山菜?」
「サンセベリア。ハルケギニア南方の乾燥地帯に生えている植物で、夏の訪れと共にこの部屋に飾るんです」
難聴かと疑ってしまうかのような霊夢の聞き間違いを訂正しつつ、眼鏡を掛けた店の人間はそう教えてくれた。

そして説明を終えた彼が部屋を後にしてから三十分が経ち、今に至る――――



(何がサンセベリアよ、あんな葉っぱだけの気味悪い植物よりヒマワリとか植えなさいよね)
霊夢は心の中で観葉植物に毒づきながら、先程給士が持ってきたアイスレモンティーを一口飲む。
紅茶の香りよりも少し強いレモンの味がツ〜ンと口内に広がり、それに慣れていないのか霊夢は僅かに顔をしかめる。
(何よコレ?レモンの味が強すぎてお茶になってないような気がするんだけど)

まるでジュースみたいね。霊夢が心の中でそう呟いている時、魔理沙は同じく給士が持ってきたアイスミルクティーをグビグビと飲んでいる。
それこそ文字通り。まるで仕事帰りの一杯みたいに薄茶色の液体を飲み干す姿からは、とても゛高貴な貴族の従者゛とは思えない。
まぁ実際には二人ともルイズの従者ではないので、別にそういう風に振る舞わなくてもいいのだろう。
「ふぅ〜…まぁなんだ、こんな所で飲むのも中々良いじゃないか」
アイスミルクティーを飲み干した魔理沙は開口一番そう言って、グデ〜ンとソファーにもたれかかる。
今この部屋には二人以外誰もおらず、いたとしてもこの国で名高いヴァリエール家の従者には何も言いはしない。
それに、魔理沙自身がそういった作法の世界とは無縁な生き方をしているので誰かがどうこう言ってきても気にしないだろう。
相変わらず何処にいてもくつろぐ奴だ。霊夢はソファーの感触を存分に楽しんでいる黒白を見て改めてそう感じた。
一方の霊夢はというと、しっかりと姿勢を正してソファーに座っており、育ちの良さが伺える。
しかし外見が不幸にも、このハルケギニアではあまりにも奇抜過ぎた。
もしも彼女が淑女的な人物であっても、何も知らない者たちが見れば道化師か何かだと勘違いされるだろう。

顔を顰めたままの霊夢が半分ほど減ったアイスレモンティーの入ったコップをテーブルに置いたとき、唐突に魔理沙が話しかけてきた。
「そういえばさぁ、さっきからずっと気になってたんだが…」
「何よ?」
「この部屋が涼しいのって、絶対あの水晶玉のおかげだよな」
魔理沙の口から出た゛水晶玉゛という言葉に霊夢は「あぁ、そういえば」と頷いて、天井を仰ぎ見る。
少し白が強い肌色の天井に取り付けられた頑丈そうなロープに吊り下げられた大きな籠があり、その中には青い水晶玉が入っていた。
平均的な成人男性の頭部と同じ大きさを持つその水晶玉こそ、前述したマジックアイテムであった。
最も、魔理沙がいま気づいたのに対して、霊夢は部屋に入ってすぐにそれが何なのかある程度わかってはいたが。

強すぎずまた弱すぎもしない冷気は微かな魔力と共にそこから放出され、下にいる二人の体を寒くない程度に冷やしている。
ついさっきまで暑い外にいた事と、店の者が持ってきてくれたドリンクのおかげで少女たちは極楽気分を味わっていた。
このまま何もしていなければルイズが戻ってくるまで、この小さな空間にできた楽園で涼むことができるであろう。
ただ。霊夢とは違い、魔法使いである魔理沙はどうしてもあのマジック・アイテムが気になってしょうがなかった。

「…あの水晶玉、なんか気になるな。っていうかあれは私に調べてくださいって言ってるようなもんだな」
ソファーで寛いでいた魔理沙はまるで当然のことだと言わんばかりの言葉を呟くと立ち上がり、軽く背伸びの運動をした。
今行っている背伸びの運動を終えた黒白が何をするのかする前に気づいた霊夢は、目を細める。

「言うだけ無駄なんでしょうけど。まぁ程々にしときなさいよね」
嫌悪感が含まれた霊夢の忠告に魔理沙は白い歯を見せて笑うと体操を終え、自身が履いている靴へと手を伸ばす。
霊夢の履いている茶色のローファーと比べ泥土の汚れが目立つ黒のブーツを、魔理沙はいそいそと紐をほどいて脱ぎ捨てる。
持ち主の足から離れたそれは脱いだ持ち主の手によってソファーの傍に置かれる。
211ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:43:05.75 ID:ar4ycex3

「好奇心に勝るモノ無しってヤツだぜ」
魔理沙は自信満々にそう言って、今度は白い靴下をはいた足でテーブルの上に乗った。
マジックアイテムに不調が起こった際の為かテーブルの上に乗って爪先立ちをすると、天井から吊り下げられている籠を手に取れるのだ。
そして不幸(無論店にとって)にも魔理沙はそれに気づき、今まさにそれを実行しようとしていた。

厳選された素材で作られたトリステイン製のテーブルに飛び乗ったという少女は、きっと魔理沙が初めてであろう。
今の光景を店内でティーポットを探しているルイズと店の人間が見れば、目をひん剥いて気絶すること間違い無しだ。
その後…怒り狂ったルイズが怒りの表情を浮かべて杖と乗馬用の鞭を武器にして、魔理沙を追い駆けまわす姿も容易に想像できる。

今この場にルイズがいない事を、魔理沙は有難く思うべきだろう。
「さてと、まずは…」
何処から調べようかと、いざ手を伸ばした…その時であった。

突如、二人の耳に「カチャリ」という金属めいた音が飛び込んでくる。
その音に気づいてふと手を止めた魔理沙は、その音の正体が何なのかわからぬまま――軽く後ろへ跳んだ。
まるで足元に迫ってきた長縄を避けるかのように跳ぶと同時に後ろに重心をかけ、背後のソファーへとその身を沈める。
時間にして僅か二秒という早業をしてのけたものの、それを成した魔理沙本人はどうしてこんな事をしたのかと疑問を感じた。
しかしその疑問は、「カチャリ」というドアノブを捻る音と共に部屋へと入ってきた少女の姿を見て、自己解決した。

「待たせたわね。買う物は買ったし、ここを出るわよ」
ドアを開けた者――ルイズは部屋に入ってきた開口一番にそう言った。
それに対し二人はすぐに頷いた。何事もなかったかのように。

「?…何で靴なんか脱いでるのよ?」
「足の中が汗で蒸れてたから冷やしてたんだ」
そんな二人のやり取りを横目に、霊夢は呆れたと言わんばかりにため息をついた。



時刻は間もなく、午前十一時に迫ろうとしていた頃。

トリスタニアの気温は朝と比べて少しだけ上がっていた。
肌で感じれば少し暑くなったと思う程度であったが、街の大通りなど人気の多いところはかなり暑くなっている。
しかし、それと同時に気休め程度に吹いていた風の勢いが強まり、自然からの涼しい祝福を肌で実感できるようになった。
外の暑さに慣れたのか、露天商で働く者たちは自前の樽に入れた水を飲みながらも、精一杯声を張り上げて客を呼び寄せようとしている。
屋内にいる者たちは窓や扉を開放して風を入れ、室内に溜まった熱気を追い出そうとしていた。
街の外れにある工房や石切り場などで働いている者たちは街よりも風の恩恵を受けて、皆口々に感謝の言葉を呟いていた。

そして街が活気に包まれる中、それとは全く無縁の場所が街の郊外にある旧市街地であった。
一部では゛幽霊の住処゛と呼ばれる程になったそこからは、人の気配が殆ど感じられない。
職や財産を失った浮浪者たちは、汚れてはいるが地上よりかは幾らか涼しい地下水道へと退避していた。
例え地上で野垂れ死にしたとしても、寄ってくるのは人の味を知った犬猫やカラスだけであろう。
そんな場所に…゛かつて゛は教会として使われた廃墟が、他の廃墟と肩を並べるかのように建てられていた。

かつては始祖ブリミルを崇める聖なる場所として、この街に住む人々に祝福を与えていた。
しかし今は、罅割れた外壁から這い出てくるかのように生えてきた蔦によって見るも無残な廃墟へと姿を変えている。
この教会にいた聖職者たちは、もう十年近くも前に建てられた新しい教会に移り住み、誰一人この教会だった建物を訪れることは無い。
その外観の気味悪さから浮浪者たちは他の建物を選び、教会は荒れるに荒れていた。

しかし今日は始祖の思し召しか、一人の青年がこの廃墟を訪れていた。
彼の白い肌とブロンドヘアーは燦々と輝く太陽に照らされて、まるで芸術品のように美しく見える。

ここが祈りの場として使われていた頃は大きな鐘が吊るされていた鐘塔に上った彼は望遠鏡を使い、ブルドンネ街の様子をのぞいていた。
その姿には、まるで御伽話に出てくる王子様が結婚相手を街の中から探しているかのような、魅力的な雰囲気が漂っている。
確かにその例えは間違っていない。青年は今その手に持つ望遠鏡で三人の少女達を見つめているのだから。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 20:44:28.52 ID:XXmxoT5m
もう一しぇんやろうぜ
213ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:46:44.23 ID:ar4ycex3
一人は青年と同じく御伽話に出てきそうな魔法使いのような姿をしており、彼のそれよりも色が濃いブロンドと黒いトンガリ帽子は若干だが周囲の人々から浮いていた。
黒と白のドレスとエプロンは迫り来る夏季を考えてか、その外見とは反対で涼しそうだと青年は思った。
その右手には箒を握っており、もう少し老ければ無数のカラスと蟲たちを手足の様に操れる魔女になるだろう。

もう一人はトリステイン魔法学院の制服と黒マントを身に着け、一目で貴族のタマゴとわかる。
気高きプライドが見え隠れする鳶色の瞳には、周囲から襲い来る熱気にうんざりしたと言いたげな色が浮かんでいる。
彼女の髪の色は誰よりも目立つピンクのブロンドヘアーで、見る者が見れば彼女の体内にある血統の正体を知って頭を下げるであろう。

最後の一人はハルケギニアには珍しい黒髪であったが…それよりも彼女が身に着けている紅白の服は、あまりにも奇抜であった。
白い袖は服と別離しており、望遠鏡越しにもスベスベだとわかる腕と綺麗な腋をこれでもかと言わんばかりに周囲に晒している。
普通の女子なら赤面になるが、黒髪の少女はもう慣れっこなのか平然とした表情を浮かべた顔と赤みがかった黒い瞳で空を見つめていた。
頭に着けている大きな赤色のリボンと共に、もはや゛周囲とは違う゛という次元を跳躍し他の誰よりも目立っていた。

もはや奇跡としか言えない変わった容姿の三人を望遠鏡越しに覗きながら、青年はその内の一人に狙いを定める。
それは、最初に望遠鏡にその姿を捉えた黒白の少女――ルイズたちと一緒に店から出てきた魔理沙であった。

「へぇ〜…あれが彼女の言ってた゛トンガリ帽子゛の子か」
青年―ジュリオはひとり呟いて、望遠鏡をうっかりして落とさないようにその手に力を込める。
折角この眼で見る事の出来た゛イレギュラー゛を『望遠鏡を手落とした』という有り得ないミスで見逃すという事は、今の彼にとっては一番つらい事であった。
しかもようやく見つける事の出来た゛盾゛と数年前から目をつけていた゛トリステインの担い手゛と一緒にいるのだ。これほど貴重な瞬間は滅多に無いであろう。
「彼女を監視ついでに学院で働かせたのは成功だったね。でなきゃこんなの拝めることは無かったよホント」
ジュリオは望遠鏡越しにルイズたちを見ながら、自分の部下兼フレンドである女性の事を思い浮かべた。
彼女には学院にいる゛トリステインの担い手゛であるルイズと゛盾゛の霊夢を監視するために、学院で給士として働かせている。
トリスタニアから片道三時間もかかる場所に建てられた学院である為、誰かをその学院へ送るのが最も最適な方法であった。
給士程度なら役所で渡された書類一枚を見せれば即時採用されるので潜り込ませるのは非常に容易だった。

そして今朝…。
彼女から届いた手紙のおかげでで゛トリステインの担い手゛と゛盾゛に…新しく部屋の住人となった゛トンガリ帽子゛の三人が街へ来るという事を彼は知った。
その時宿泊しているホテルのテラスでアイスティーを嗜んでいた彼は、口に含んだアイスティーを吹きかけた程驚いたのは記憶に新しい。
一歩手前でなんとか飲み込んだ後、彼は冷静さをすぐに取り戻して手紙に書かれた文字を一字一句丁寧に読み始めた。
手紙には新しいティーポットを買いに行くという事とそれを買う店の場所…そして監視に最適な場所まで丁寧に書いてくれていた。
ジュリオは彼女の徹底した仕事ぶりに、心底感心した。

その後、部屋に置いていた監視用の望遠鏡を片手にホテルを出て旧市街地へ急いで向かい、今に至る。
「なるほど…見れば見るほど、御伽話とかで出てきそうなメイジだな」
望遠鏡越しにルイズと何やら話をしている魔理沙を覗きながら、ジュリオは幾つのか疑問を覚えた。
服はまだ良いのだが、頭にかぶっている黒のトンガリ帽子はいささか流行の波に乗り遅れているなと感じた。
丁度今から二十年前くらいにあれと同じようなタイプの帽子が流行ったと聞くが、今となってはあんな帽子を被るのは゛当時゛20代や10代だった者たちが主である。
無論今でもトンガリ帽子を愛する貴族はいるが、最新の流行ファッションがすぐにカタログに載せられるこの時代では少数である。
今望遠鏡で覗いている黒白の彼女ぐらいの年齢の子なら、流行ファッションには非常に敏感だ。
そんな子供が時代遅れとも言えるようで言えない曖昧な帽子を被るものだろうか。
何かしら理由があるのかもしれないが、自分が彼女ならあんなに大きい帽子じゃなくて、もっと小さいものを選ぶだろう。
ジュリオは心の中で思いながら、乾き始めた上唇をペロリと舐める。
214ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:49:02.26 ID:ar4ycex3
それが一つ目の疑問である「トンガリ帽子」。そして二つ目の疑問は「右手に持つ箒」であった。
トリステイン魔法学院にいる彼女からの情報では、有り得ないことにあの箒を使って空を飛んだのだという。

『箒を使って空を飛ぶ』

その発想は、元は軍が幻獣をまともに扱えない下級メイジ達に飛行能力を与えるという思想から生まれた。
それはハルケギニア大陸の各国に広まり、記録を辿れば今から五十年も前の事にもなる。
しかしいざ実際に乗ってみると、箒に掛ける魔力の調整や箒であるが故の耐久性の低さがまず最初に目立った。
ガリアなどでは専用の箒を開発したとも聞くが、同時期に行われた軍用キメラの開発に予算を取られてお蔵入りになったのだという。
結局、各国ともに「程度の低いメイジは馬で十分」という昔ながらの考えに落ち着き、計画は失敗のまま終了した。

そして現在、今ではそんな事があったという事実を知る者も極めて少ない。
もしも彼女が゛この世界゛の人間であるならば、それに乗るどころかそんな事実すら知らないであろう。
今では『箒に乗って空を飛ぶメイジ』という存在は、絵本や小説といった空想の存在になってしまっているのだから。

(――しかし、彼女が゛盾゛とおなじ゛場所゛から来たというのなら…話は変わるけどね)
ジュリオが心の中でそう呟いた瞬間、予想だにしていなかったアクシデントが彼の゛背後゛で発生した。

「あらあら、朝からやけにご執心ですこと」

そのアクシデントは、まずは声となって彼に囁いてきた。
声からして女性であるが、その声はジュリオが初めて耳にしたほど綺麗なものであった。
まるで風の女神の歌声の様に、澄んだ声である。
彼がそう思うほどその声は美しく、そして怖ろしいとも感じた。
望遠鏡を覗いていたジュリオは、最初はその声を単なる゛気のせい゛で片付けようとした。
きっと風の女神が明るいうちから覗き見をしている僕をからかっているのだ―――と。
しかし――本当にその声が゛気のせい゛ではなく自分の背後に誰かががいるのなら――――…そいつは、人間゛じゃない゛。

それは比喩ではなく文字通りの意味で、人間の常識では決してその存在を証明できない゛何か゛だ。
彼はその道の人間ではないが、望遠鏡を覗いている間は自分が無防備になるという事は自覚していた。
トリスタニアはそれなりに治安は整っているがここは旧市街地である。浮浪者のほかにも犯罪者やそれと同等の者たちの居場所でもある。
こんな真昼間に襲ってくるという事は無いであろうが、可能性は決してゼロではない。
肝試し気分で夜中にここへ足を運んだ若者たちが何十人も行方不明にもなっているという噂もあるほどだ。

それを知っているうえで、ジュリオはこの教会を選んだ。
ここら辺は日中の間、人気が無いので誰かに見られる心配もない。
それに、彼が今いる場所はある意味もっとも安全な所なのだ。

鐘を打ち鳴らす為に作られたこの鐘塔の出入り口はただ一つ、床に設置された扉だけだ。
扉を開けると下の教会へと続く古めかしい鉄梯子があり、それ以外の出入り口は全くもって見当たらない。
それに蝶番が丁度良く錆びており、扉を開け閉めする際には物凄い音を鳴らす。
つまりは、誰かが来ればドアの開く音でわかるしそれを聞き逃すほど彼の耳は悪くない。

しかし、先程の声が聞こえる直前――ドアを開くような音は一切しなかった。
まるで最初から、ずっとこの場所にいたかのように。

つまりこの声の主は―――人間ではないのだ、文字通りの意味で。
215名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 20:50:50.96 ID:XXmxoT5m
支援
216ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:52:02.96 ID:ar4ycex3

「………」
突然の声にジュリオは何も言わずに望遠鏡を下ろし、慎重に身構えてから後ろを振り返った。
その顔には、先程夢中になっていた楽しみを奪われた子供が浮かべるような、幼い嫌悪の色を浮かべて。
しかし、彼の背後には女の声を発したであろう存在と思しきモノは、どこにもいない。
ただ自分の視界に映るのは、夏色に染まりつつあるこの国を綺麗に見せる青い空と白い雲だけ。
ジュリオは無意識に目をキョロキョロと忙しなく動かして辺りを伺うが、声の主らしきモノは何処にもいない。
念のため手すりから少し身を乗り出して外の様子も見るが、そこから見えるのはかつて最大の栄華を持っていた廃墟群だけで何もいない。
やはり、ただの気のせいだったのか?――と、ジュリオがそう思った時…。

「でも…遠くから覗き見をするくらいなら、あの娘たちにもっと近づいてみなさいな」

今度は、背後ではなく耳元であの声が囁いてきた。
瞬間、ジュリオは目を細ると勢いよく振り返り、それと同時に持っていた望遠鏡も勢いよく振りかぶる。
まるで角材の様に扱われた望遠鏡はしかし、背後にいたでろあろう存在を叩くことはできなかった。
手ごたえは無く、ただブォン!と空気を勢いよく薙ぎ払う音だけがジュリオの耳に入ってくるだけであった。
咄嗟に繰り出したカウンターが、単なる空振りで終わったことに、彼は悔しさを感じる事は無かった。

「幻聴…じゃないだろうね。絶対に」
ジュリオの呟きに応えるかのように一瞬だけ風の勢いが強まり、彼の髪を撫でつける。
先程の声や望遠鏡を振るった時のそれとは違う、くぐもった風の音が耳に入ってくる。
「風が強くなってきたな…」ジュリオはそう言ってその場でしゃがみ込み、床の扉をゆっくりと開けた。
錆びついた蝶番の音は、まるで死にかけた老婆の悲鳴のようで、先程聞いた声と比べれば余りにも醜悪であった。
扉を開けた先には梯子があり、それを下りていけば廃墟と化した教会の中へと続いている。
教会の中は薄暗く、昼間だというのに不気味な雰囲気を醸し出している。
扉を開けたジュリオは眼下に見える教会の床を凝視しながらも、梯子に手を掛けようとはしない。
それから三十秒が経った後…ふと彼は後ろを振り返り、口を開いた。

「アンタが誰だったのかわからないけど…。まぁ、良い話のタネとアドバイスをくれたことに感謝しておくよ。何処かの誰かさん」

これは置いといてあげるよ。彼は最後にそう言って、右手に持っていた望遠鏡をその場に置いてから梯子を降りて行った。
今の彼にはもう望遠鏡は必要なかった。高いものではあるが必要になればその都度買いなおせば良い。
彼はもう、遠くから彼女たちを監視しようとは考えていなかった。
気づかれない程度に傍へ寄り、近いうちに彼らと接触してみよう―――と。

だが゛上の連中゛はその提案に対して慎重論を掲げてくるであろう。『今はまだ監視に徹する時だ』という少し芝居が入った言葉と共に。
無論、ジュリオもその事は不服ではあるが重々承知していた。
相手がもし゛普通の人間゛なら、監視を十分に行い接触するべきに値する存在かどうか見極める必要がある。

しかし…今回の相手はそれが通用しない――彼は無意識のうちにそう思った。
根拠らしい根拠は見当たらないが、彼の脳裏に不思議とそんな考えが浮かんできたのである。
ただ遠い安全圏から覗くだけでは彼女達の事を詳しく知ることなどできない。

むしろ、距離を置けば置くほど彼らの姿は遠くなりいつの日か見えなくなるのではないか?
ならばいっそのこと、近づけるところまで近づいてみた方が、ずっと有益なのではないだろうか?
それが正しい事なのかどうかはわからないが、ジュリオはこれが一番の最善策だと心の中で信じた。

梯子を降り、浮浪者たちに荒らされた薄暗い教会の中を歩く彼はその顔に、好奇心が含まれた笑顔が浮かべていた。
それは人が持つ感情の中では最も罪なモノであり、そして人を更なる存在へと昇華させる偉大なモノである。

「好奇心は人を滅ぼすっていう言葉があるけど…好奇心が無い人間なんて只々つまらないだけですわ」
先程までジュリオがいた鐘塔の屋根の上に佇む、人ならざるモノ――八雲紫は呟く。
その手に彼が置いて行った望遠鏡を持って昼時の喧騒で賑わうブルドンネ街を、ひとり静かに見つめながら。
217ルイズと無重力巫女さん 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2012/05/31(木) 20:59:39.49 ID:ar4ycex3
以上で、55話目の投下は終了です。支援してくれた人に感謝を
今回は色々と書きたかったのですが…とりあえず一言だけ

先月は色々と忍法帖でトラブってしまい、本当にすいませんでした。
では来月ぐらいに、また会いましょう。
218名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 21:11:46.61 ID:XXmxoT5m
乙でしたー
219名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/31(木) 23:44:33.01 ID:VutE+xRe
投下乙!
220名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 17:26:29.93 ID:xLmJvYN+

規制強化に忍法帖、嵐は減らないくせに使いにくくなる一方だな
221名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 17:58:37.09 ID:rIuSiGXK
BLAME!とかHALOどうなってるんだろう
222名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 20:08:50.79 ID:80G2c+oo
作者が都市構造物で道に迷ったり宇宙船で漂流してるんじゃね?
223名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 21:13:21.38 ID:c3UTnGJE
核金だけ召喚したらゼロ魔キャラの武装錬金はどんな特性になるだろうかな。
ルイズ、鞭の武装錬金、特性は服従
224名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 21:43:01.34 ID:0MqPeCfC
2期も始まる事だし
DogDaysより閣下召喚
225名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 22:35:54.65 ID:r15zb3Xm
今の旬の作品……ガンダム……召喚

召喚されたガンダムこと騎士アルフガンダムをですねー
226名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 22:36:58.08 ID:9EQdIxLH
MEIJIシステム
227名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/01(金) 23:42:28.23 ID:EnBi5JZS
ガンダムと見せかけてー

カンタムロボってのもいいよね
228るろうに使い魔:2012/06/01(金) 23:50:14.18 ID:B75bgLkp
こんばんわです。今日も零時丁度から投稿を開始しようと思います
229るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:00:04.06 ID:j7pDuC8v
それでは、予定通り始めさせていただきます。



「しかし、まさかこんな結末になるとは……」
「本当…そうですよね…」
 ここは、トリステイン学院校長室。
その部屋で、ここの学院長でもあるオールド・オスマンが、深刻な顔つきで顎髭を撫でていた。
隣には、ルイズ達のサモン・サーヴァントを務めたコルベールが、これまた愕然とした表情をしている。
「お主は見えたかの、あの剣と最後の動き」
「いえ全く。正直言って、私があの場でも反応できたかどうか…」
 二人が話し合っているのは、先程のギーシュとの決闘の件だ。

数分程前、秘書のミス・ロングビルが、慌てた様子で扉を叩いてきた。
何でも、生徒達が決闘と騒ぎ立てており、どうにも止められる状況では無いらしい。そのため、『眠りの鐘』の使用許可を求めてのことだったが、それをオスマンは制止した。
ただ単に、そんなことのために秘宝を引っ張り出すのが、面倒臭いだけだったのだが。
「全く暇を持て余した貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。それで、誰と誰じゃ?」

 一人は、ギーシュ・ド・グラモン。数々な武功を重ねてきた由緒ある家系で、親子諸共
無類の女好きで通ってきた。今回も女絡みでの決闘だろうと、オスマンはあたりをつけた。
対するは、無能で名が知られるミス・ヴァリエールの使い魔、あの平民の人間だった。
それを聞いて、コルベールはハッとする。

「オールド・オスマン。危険なのでは? 止めさせたほうが…」
「まあまあ、ミスタ・コルベール。時には落ち着くことも重要じゃて」
 そう言って、ロングビルを下がらせ、懐から杖を取り出すとそれを振った。すると、壁にかかった鏡に、ヴェストリ広場で決闘を宣言するギーシュ達の姿が映った。
「とりあえず、あの男がお主の言う伝説の使い魔なのか、これで見極めようじゃないか」
オスマンは、どこか楽しげに鏡を眺めて、その後起こった出来事に、コルベールと一緒に呆然として口を開いた。


そして、今に至るというわけである。
正直、単なる様子見程度で、特に何かしらの期待はしていなかったが、実際に見せられたあの闘いは、その予想を遥かに上回ったものだった。
魔法を操るメイジが、平民に負けた。しかも殆ど一方的で。相手はまだ実力の半分? 四分の一? も出していない。
あの平民からすれば、「闘った」という気概すら持ってはいないだろう。
ギーシュが一番レベルの低い『ドット』クラスのメイジだったことを差し置いても、こ
の結果には流石のオスマンも驚きで声を唸らせた。

「ううむ、もしかすると…これは本当に…」
「だから言ったではありませんか、やはり彼は伝説の使い魔『ガンダールウ』なんですよ!」
 コルベールが嬉しそうな調子で、オスマンにまくし立てた。彼がこんなにも興奮しているのには理由がある。
 あの日、ルイズが平民を召喚した時、左手に現れたあのルーンは、普通の文献には載っていない、全く見たことのないルーンだった。
それからコルベールは、暇がなくても図書室へ赴き、古いものから最新のものまで、本を隅々と読んで調べまわっていた。

 その内、ルーンに関する一冊の文献が見つかった。
 それが、かつて始祖ブリミルが使役したとされる伝説の戦士『ガンダールウ』。
 主人の長い詠唱の間を守るため、あらゆる外敵を寄せ付けないその強さを持った使い魔は、一説によれば千人もの軍隊を蹴散らし、
並みのメイジでは歯が立たなかったと言われる程だったとか。

 コルベールは、熱く語りながらも考える。あの平民には『ディテクト・マジック』を使ってまで調べたが、彼はやはり普通の人間だった。それは間違いない。
しかし、あの体捌きは絶対に普通じゃない。あれは相当の修羅場をくぐり抜けてきた人間だからこそ出来る芸当だ。
加えて、あの剣閃と、最後にギーシュの杖を奪った、神速とも言える移動術。
 もしさっきの技が、彼の実力の片鱗だったとしたら……あれを見切れるメイジは滅多にいないだろう――そう思うとコルベールは身震いをした。
230るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:00:56.23 ID:j7pDuC8v
「やはり、このことは王宮に報告した方が――」
「それはならんぞ、ミスタ・コルベール」
 制するようにオスマンが、重々しく口を開いた。
確かに、ルーンのことや決闘の件から、『ガンダールウ』なのか、そうでなくても高い実力を備えた強者であることは事実だ。
ならばこれを無用心に王宮に報告したらどうなることか。
今のご時世、腕っ節の強いものは戦場で活躍される時代だ。この件が知れたら主人諸共、戦に利用されかねない。そうオスマンは危惧したのだ。
「この件は、わしが預かる。他言は無用じゃぞ、ミスタ・コルベール」
「は、はい! かしこまりました!」
 それからオスマンは、腰を上げて後ろの窓を、物思いに吹けるように眺めていた。
あの神速の動き。あれには驚かされたが、どこかで見た覚えがあったような…。
「まさか、あの時の―――――だが確かにそっくりだったのう……」



第五幕 『微熱のキュルケ』



「さあ、思う存分食ってくれ。『我らが剣』よ!!」
 太陽が地へと降りていく夕暮れ時。
シエスタに再び厨房へと誘われた剣心は、そこでマルトーといった、料理長に豪勢な食事を振舞われていた。
何故彼がこんなにも気前がいいのか、それは当然のことながら、ギーシュとの決闘のことが関係していた。
 平民が貴族を打ち負かした。という噂はもはや学院中で広まっており、同じ平民で、日頃から貴族に対する鬱憤を溜めていたマルトー達からしてみれば、
何とも胸の内が晴れるようなニュースだったのだ。
 ちなみに剣心のことを『我らが剣』と呼ぶのは、腰についている武器を剣と見立ててる
のが由来だ。

「しかしお前さん、どうしてそんなに強いんだい? ちょっと教えてくれよ」
「何、大したことはしてないでござるよ」
「ハハッ、謙虚だな! いいねえいいねえ、威張り散らしてるあいつらとは格が違うぜ!」
 マルトーは笑いながら、剣心の背中をバンバンと叩いた。どうやら相当気に入られたようだ。
 シエスタも、驚きと興奮が入り交じった声で話す。

「でも本当、凄かったんですよ!! 囲まれた時はどうしようと思っていたんですけど、あの時、すごく格好よかったです」
 シエスタが、少し頬を赤く染めて言った。それを見てマルトーは「お似合いさんだぜ、お二方!」とはやし立てた。
 それにシエスタは顔を更に赤くするが、今度は少しバツが悪そうにして俯いた。
「御免なさい。あの時急に逃げ出してしまって…その…私…」
「大丈夫、気にしてないでござるよ」
 相変わらず、屈託の無い微笑みを浮かべる剣心を見て、本当に気にもとめてないとわかると、シエスタもつられてニッコリと笑った。
――でも、と今度は別のことでシエスタは首をかしげる。
「急に呼んじゃって、何だかミス・ヴァリエールには悪い気もしますが…大丈夫ですか?」
231るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:02:24.70 ID:j7pDuC8v
 あの決闘の後、ルイズは剣心の後を追っかけながら、それはもうアレコレ聞いてきた。
なんでそんなに強いのか、とか、どこまで本気だったのか、とか、さっきのあれは魔法だったのか、とか。
 まくし立てるように聞いてくるので、剣心も当たり障りしない位には教えた。

「まあ、さっきの童は素質はあるけど、まだまだ発展途上って感じでござったな。あと最後のは、お主の言う魔法とかの類ではござらん。ただ走っただけでござる」
「はぁ? ただ走っただけで姿が消えるわけ無いじゃない、隠さずちゃんと教えなさい!!」
 どんなに説明しても、ルイズは納得しないので、剣心はヤレヤレとその話を打ち切った。実は、最後の移動については、剣心にとっても不思議に思うことがあったのだ。

あの時、ギーシュの振るう杖を見定めて、剣心はそれで充分間に合うだろうと『それなり』の速さに合わせて足に力をいれた。
しかしその時、急に体が軽くなった。
重たい鎧を脱ぎ捨てたかのごとく、次の瞬間、自分の視界すらも置き去りにする程だった。
今になって思えば、あれは、間違いなく自分が『本気で』走った時と同じ感覚。つまり、ちょっと力を入れただけで自身の限界までの速さを、容易に叩き出していたのだ。
今はもうその力は感じないが、もしあの時本気で駈け出したらどうなっていたか…

このことについては、ルイズには言わなかった。自分でもわからない事を話したって意味がないし、余計な言葉でこれ以上混乱させたくもなかった。
 そのルイズは、しばらくの間でもまだブツブツ何かを呟いていたが、今度は急に静まり返ったかと思うと、今度はどこか緊張したような声で呼んだ。

「ねえ、あのさ……」
 再び剣心は振り返る。ルイズはどこかモジモジした感じで俯いている。顔も真っ赤だ。
やがて搾り出したかのような小さな声で、ルイズは言った。
「あ、あれさ…ホラ、私…何も言わず行っちゃったじゃん…だからさ…ごめん…それで…ありがと……」
 湯気が出そうなほど真っ赤にしたルイズは、今度は思いっきり顔を上げて剣心を指差した。

「か、勘違いしないでよね!! 今言っとかないと、私がずっと後悔すると思っただけなんだから! あーあ、心配して損したと思ったら、
お腹が減って来ちゃったわ!!」
 一気にそれだけの事を言うと、そのまま剣心の前を通り越してズカズカと歩き去っていった。
 まだ教室の件で怒っているのかな、などとまたもやズレた考えをしていた剣心の所へ、今度はシエスタがやってきたというわけだ。


「そう言えば、ずっと気になっていたんですけど…」
 と、シエスタは不思議そうに腰の剣をまじまじと見つめる。ギーシュの時では、一瞬だけ使った、あの武器だ。
「それは何ですか? 形からして剣のようですけど、あの時見えませんでしたから……」
 マルトーや他の皆も気になるのか、視線がいっぺんに腰の武器へと注がれる。
せっかくだから、ということで剣心は、腰に差した得物を鞘ごと取り出して、シエスタ達に見えるように前に出し、そして刀身を抜いた。

 それを見て、シエスタ達は疑問符を浮かべる。
確かにそれは、剣のようだった。刀身を反らし峰を持つ、片刃の剣。
しかし、振り回すと思われる部分の方に、何故か峰があってその反対に刃がついていた。
簡単にいえば、本来あるべき刃と峰の位置が、逆になっているのだ。
232るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:03:55.00 ID:j7pDuC8v
「あの……斬りにくくないですか、これ?」
 シエスタは実際に手に取って、改めて刀をよく見やった。
ずっしりとした重量感に使い慣らされた柄。しかし刀身は殆ど新品同様に綺麗で美しく、
血一つこびり付いていない。
美的感覚は比較的普通だと思っているシエスタだったが、「こういうのを芸術って言うん
だろうなぁ」と感心するほどだった。
しかしこの刀、実用性はあるのだろうか? どう見たって普通に振ったら、人どころか木すら斬れなさそうだ。
感想より先に疑問を口に出してしまったシエスタだったが、それに剣心は優しく答えた。

「それは『逆刃刀』。拙者の魂を預けるに等しい、自慢の愛刀でござるよ」
「へぇ〜、そうなんですか」
 と、一通り眺めたシエスタは、その逆刃刀を剣心に返すと、今度はマルトーが笑ってこう言った。

「まあ、また飯が食いたくなったらいつでも来てくれ! 俺の目が黒い内は間違ってもお前さんを空腹にさせたりしないからよ!」
「私も、今度は逃げずに最後までお手伝いします。思うんです、私ケンシンさんと一緒なら、なんだって出来るんだって…」
 と、顔を赤らめながらも強く詰め寄るシエスタに対し、周りはヒューヒューと冷やかす。
それからしばらくは楽しく雑談をしながらも、これ以上は帰らないとマズイからと、剣心は厨房を後にした。


 朝通って来た道を辿りながら、ルイズの住む寮の前まで来ると、その隣にはフレイムが待っていた。
「おろ、どうしたでござる?」
 剣心は、フレイムの頭を優しく撫でた。対するフレイムは、何か言いたそうに剣心を見つめていると、藪から棒に袖に口を加え、引っ張り始めた。
どうやら付いてきて欲しいらしい。

「おいおい、どこへ連れてく気でござるか?」
 しかしフレイムは何も言わず、ただ剣心を引っ張り続けると、やがて一つの開け放れた扉の前で止まった。
 剣心はそのまま、フレイムと一緒に扉をくぐると、真っ暗闇の中から声が聞こえた。
「扉を閉めてくださる?」
 言われるがまま、剣心は扉を閉めた。
しばらく目の前が黒々としていたが、パチンと指を弾くような音が聞こえると、ロウソクが灯り点々と光の道を作っていった。
 その終着点に、キュルケはいた。ベットに腰掛け、艶かしい肌と豊満な胸を見せつけながら。
 現代の健全な青少年なら、このまま押し倒しても不思議ではないほどの、妖しい魅力を持っているキュルケだったが、
幕末時代の堅苦しい倫理観を持つ剣心からすれば、その姿は「はしたない、みっともない」以外に感想が出てこなかった。

「あなたは、あたしをはしたない女だと思うでしょうね」
「お主もそう思うなら、まず服を着るでござるよ」
 キュルケは今、制服すら着ていない、殆ど下着同然の格好で居る。男を悩殺するための勝負服なのだろうが、剣心には通用しない。

「思われても、仕方がないの。わかる? あたしの二つ名は『微熱』」
 キュルケもキュルケで、そんな剣心の態度を意に返さず、すり寄るように近づいてくる。
「あたしはね、松明みたいに燃え上がりやすいの。だから、いきなりこんな風にお呼び出てしたりしてしまうの。わかってる。いけないことよ」
「じゃあしなきゃいい話でござ――」
「でもね、あなたはきっとお許し下さると思うわ」
 剣心の言葉を遮りながら、すっと手を握りつつ、指でなぞり始める。そして、急に顔を上げると、その妖艶な表情で剣心を見つめた。
233るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:04:42.81 ID:j7pDuC8v
「恋してるのよ。あたし、あなたに。全く恋は突然ね――」
「キュルケ! 待ち合わせの時間に来ないと思えば……その男は誰だい!?」
 窓の外から、不意に声が聞こえた。
貴族の男が一人、恨めしそうな顔でこちらを見ていたのだ。
「ベリッソン! ええと、二時間後に」
「話が違―――」
 皆まで言わせず、キュルケはスッと胸の谷間から杖を取り出すと、何の躊躇いも見せず男に向かって振った。
ボン! と火が燃え上がるような音と共に、男は窓の外へ消えた。

「まったく、無粋なフクロウね」
「…どう見ても人でござったな」
「いやぁね、見間違いよ。ダーリン」
 ジト目で睨む剣心だったが、キュルケは特に気にせず、剣心に抱きつこうと両腕を回そうとしたとき――再び窓から声が聞こえた。

「キュルケ! 今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」
「スティックス! ええと、四時間後に」
 どうやらさっきのとは別の男らしい。強引に入ってくるその男に向かって、キュルケはまた杖を振り上げた。
再びボン! と勢いよい音が爆ぜると、悲鳴と落下音の後、ドスンと大きな音を立てた。

 もはや、ジト目を通り越して、得体の知れないようなモノを見つめるような目で、剣心は言った。
「……お主はそうやって、いつも男を手篭にしてるでござるか?」
「勘違いしないで、彼は友達というより知り合いね。あたしが本当に好きなのは、ア・ナ・タ―――」
「「「キュルケ! そいつは誰なんだ! 恋人はいないって言ってたじゃないか!」」」
 またもや窓際から、妙にシンクロがかった声で怒号が飛んだ。
今度は三人の男が、押し合いながらこちらを睨みつけていた。

「マニカン! エイジャックス! ギムリ! ええと、六時間後に」
「「「朝だよ!」」」
 仲良く唱和する三人に向かって、三度杖を振り上げようとして――今度はその腕を剣心に掴まれた。

「もう、止すでござるよ」
「……フレイム!」
 その声で、部屋の隅で寝ていたフレイムが起き上がると、未だに揉み合っている三人に向かって炎を吐いた。
またまたボン! という音と共に―――以下割愛。

「ふう、これで邪魔は居なくなったわね。ケンシ――」
 キュルケが振り向けば、既に剣心は出口のドアに手をかけていた。
これには、流石のキュルケも慌てた様子を見せた。

「ちょっと待ってよ! まだ夜は始まったばかりよ! これから――」
「そういう言葉は、もっと歳月を重ねて落ち着いてから、言うものでござブッ!!!」
 急に、ドアが物凄い勢いで開かれたと思うと、そこからルイズは鬼のような形相で見つめていた。
 ちなみに剣心は、扉の目の前に立っていたためその余波をモロにくらい、目を回して吹っ飛び、そのまま倒れ込んでしまった。
234るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:07:04.21 ID:j7pDuC8v
「ツェルプストー! 誰の使い魔に手を出してんのよ!」
「仕方ないじゃない。好きになっちゃったんだもん」
 そう言って、キュルケはここぞとばかりに目を回す剣心を優しく抱き寄せながら、吐息がかかるような声で耳元に囁いた。
「こ〜んな乱暴でガサツなご主人様より、私の方がよっぽど彼を幸せに出来るわ。ねえダーリン」
 ルイズは、それを聞いて目と顔を丸くした。そしてみるみる内に顔を真っ赤にすると、乱暴に剣心をキュルケの手からひったくり、
ズカズカと引っ張りながら部屋を後にした。

「ねえルイズ。恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命なのよ。身を焦がす宿命よ。恋の業火で焼かれるなら、あたしの家系は本望なのよ。
あなたが一番ご存知でしょう?」
 オーッホッホッホと笑うキュルケの声を振り切りながら、ルイズはとにかく自分の部屋へと逃れるように入った。


「さぁ〜〜て、それじゃ早速説明してもらおうじゃないかしら……」
 剣心が目を覚ますと、そこにはもう明王が憑依したかのような状態のルイズが目の前で仁王立ちしていた。
手にムチを持ち、眉をピクピクと釣り上げている所から、相当お怒りのご様子だ。

「いやいや、誤解でござるよ、拙者何もしてな――」
 バァンと、激しい音が目の前に叩きつけられた。剣心はドギマギした。神谷道場に最初に恵を連れ込んだ時の薫と、
全く同じ表情をルイズはしていた。
「そんな常套句はいらないわ……何でキュルケなのよ」
 ルイズの怒りが、体全体から伝わってくるのがわかる。正直、いつ噴火してもおかしくない状態だ。
「ちょっとカッコイイなとか…一瞬でも思った私が馬鹿だったわ…なんであの女なのよ」
 わなわなと、声まで震わせながら呟く。同時にトーンは段々と落ちて小さくなっていた。次だな……と剣心の予想を裏切らず、
とうとうルイズは爆発した。

「何であの女なのよ!! この、バカ犬―――――――――ッ!!!」
「おわっ! 危っ! 危なっ! 危ないでござるよ、ルイズ殿!!」
 やたらめったらムチを振り回すルイズに対し、剣心は何とかひょいひょい躱すが、表情は冷や汗でダラダラだ。
その後もルイズは数十分は暴れ続け、やっと息切れして止めたと思ったら、今度は剣心に正座させ、
キュルケの家柄は自分の家系の祖先の恋人を奪っただの、戦争の度に殺しあっただの、
どれだけツェルプストー家が憎たらしい存在かを夜遅くまで語り始めた。
235るろうに使い魔:2012/06/02(土) 00:10:13.43 ID:j7pDuC8v
以上で終了です。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
また来週、この時間にお会いしましょう。それでは。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 00:24:36.06 ID:0lPoFysM
オッーーーーーーーー!!
237名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 03:30:24.75 ID:X/gSh4ET

テンプレは安定してていいねぇ
238名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 15:56:17.19 ID:lE1zKdNF
ラビットハッチ召喚で異世界キターをだな
239名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 16:33:12.05 ID:nvZAK163
>>237
テンプレって言葉の使い方間違えてるだろ
240名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 16:46:58.59 ID:YSex5iMW
テンプレならまだいい
救えないのは才人をクロスキャラに置き換えただけの原作丸写し
241名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 16:57:18.93 ID:uEEjUgG+
テンプレ展開から外れると今度はオリ展開うぜーって騒ぎ出すんだろ
気持ち悪いわ
242名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 17:34:21.70 ID:nvZAK163
原作に沿ってるのはテンプレとは言わんぞ
243名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 21:18:55.48 ID:yjw4QHM6
乙!
さすが剣心、我らが剣という言葉がしっくりくるでえ
244名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 21:27:18.03 ID:gyc40btW
ここでオリ展開うぜえなんて話聞いたことないが
245名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 21:32:48.67 ID:2z7Z0qAT
オリ主人公はウゼェはあっても、オリ展開ウゼェはないな

蹂躙とかゼロ魔でやる意味あんのとかそういう根幹的なのは別として
246名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 23:27:32.11 ID:pkXAeQ8j
原作なぞりにもう飽きた、という我侭な意見なら何度も見たけどな
247名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 23:30:25.08 ID:0lPoFysM
さすが○○!我らがペン!
みたいなキャラはいませんかね
248名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 23:37:36.19 ID:eV8KOq1w
じゃあ杉井ヒカルを
249名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 23:51:06.46 ID:bXFrdJAk
炎尾燃か
250名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 23:55:45.87 ID:5B5dtENi
そしてジョゼフがジュビロを召喚か
251名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/02(土) 23:58:29.59 ID:NFG/W3+L
そこでコミックマスターJですよ

岸辺露伴はジョジョスレにあったな
252名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 00:03:15.13 ID:5s1O3Zro
カエルの為に鐘は鳴るのサブレ王子召喚
デルフ一丁買うのに有り金全部使いそう
253名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 00:13:41.24 ID:OMwvqueS
>>247
富士鷹ジュピロで
254名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 01:46:34.30 ID:fx0jWj6w
>>246
逆に原作をなぞらないとクロスの意味が無い、なんて言い出す御仁も居るから世の中は広いものだ
255名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 07:04:48.65 ID:lusSe6GW
>>254
そっちで騒いでここで迷惑かけてるような奴は別に居ない件
256名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 10:33:11.87 ID:Y2sueWjg
炎尾燃はガンダで凶悪なほど熱く勢いの有る漫画描いて、ミョズのジュビロは複雑かつ緻密に計算され尽くした伏線を最後の最後に全部畳みきる漫画を描くのか

やだ、超読みたい
257名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 11:02:22.98 ID:97znHcl2
>>247
ギーシュが体に「植物」と書かれて広場に棒立ちのまま放置されたりするのですね
ぁ、だけどペンじゃなくて筆だったわ
258名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 12:12:53.60 ID:qMpXAwrv
まだ来てない職業はあったっけ?
ヤクザと医者とマスコミはみたことないけど
259名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 12:19:25.10 ID:UqqoOlEa
医者はギルティギアのファウストがいる
ヤクザはジョジョのイタリアチームが似たようなものじゃね?
マスコミは知らん
260名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 12:21:17.86 ID:QmKKh8MZ
マクロス2の主役とか>マスコミ
261The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:10:23.09 ID:+IC1sGZE
13:14頃から投下を開始します。
262The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:14:57.34 ID:+IC1sGZE
Mission 28 <インターミッション>


スパーダ達が魔法学院へと帰還してから三日後、正式にアンリエッタ王女とアルブレヒト三世皇帝との婚姻が発表された。
式は一ヵ月後に行われる運びとなり、それに先立ちトリステイン王国と帝政ゲルマニアとの軍事同盟が締結されることとなる。
同時に王党派の倒れたアルビオンにおいて新政府樹立の公布がなされたのはその翌日であった。
両国間には緊張が走ったもののアルビオンは自ら特使を派遣し不可侵条約締結の打診してきたため、協議の結果難なくそれは受け入れられた。
何しろトリステイン、ゲルマニアはいくら軍事同盟を結んだとはいえ未だ軍備の整わない状況であり、おまけに内戦が終わったばかりでもアルビオンの空軍艦隊に対しては対抗しきれないのである。
よって、その協定はトリステイン、ゲルマニア両国にとっては願ってもない申し出であった。
こうして、ハルケギニアには表面上は平和が訪れたのである。

……そう、上辺だけの平和が。

ハルケギニアの裏側で暗躍し、この世界を狙う異世界の住人達の思惑に気づき、知る者はあまりにも少なかった。


アンリエッタ王女とアルブレヒト三世皇帝の婚姻が発表された翌日、王宮より学院長オスマンの所へ一冊の本が届けられていた。
古びた革の装丁がなされた表紙は触れただけでも破れてしまいそうにボロボロであり、中のページも色あせてしまっている。
本を訝しそうに眺めながら髭をいじるオスマン。ページは開けど開けど、どこも真っ白であった。
「始祖の祈祷書、かぁ……」
大きなため息を一つ吐き、オスマンは椅子に深くもたれかかった。
その本は六千年前、始祖ブリミルが神に祈りを捧げた際に読み上げた呪文が記されている、という伝承が残っている伝説の品であった。
オスマンもそれくらいのことは知っていた。だが……。
「いくらまがい物だからといって、これはあんまりじゃのぅ……。文字さえ書かれておらんじゃないか」
古今東西、そうした伝説の品には必ずまがい物が出回るものである。
本来ならばこの世に一冊しかないはずのその品は六千年という年月を経て何故か、ハルケギニア中に存在するようになったのだ。
各国の貴族や教会、寺院など、どこも自分の持つものこそが本物だと抜かしている。本物だろうが偽物だろうが、それらを全て掻き集めれば図書館さえできると言われている。
オスマンは頭を痛めた。偽物であることすら放棄したこんな品を王室が大事に保管しているとは……。
「なぁ、ミス・ロングビル? 君だったらどうするね? これを手に入れたりしたら」
相変わらず自分の机で淡々と仕事を続けるロングビルに声をかける。
彼女はそんな秘法などに興味はなかったのであった。
だが、オスマンは土くれのフーケ≠ナあった彼女ならばそのような触れ込みの品をどのように扱うのかが気になった。
「そうですね。鼻紙にもならないでしょうから、私のゴーレムで跡形も残らず破いてしまいますわ」
「怖いことを言うのぉ……」
だが、オスマンもこんなインチキ染みた本は思わず破いてしまいたくなるほどに馬鹿馬鹿しいと感じていた。
もっともこんな物でさえ国宝である以上、そんなことはできないのだが。
263The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:19:49.45 ID:+IC1sGZE
そんな時、部屋の扉がコンコン、とノックされる音が響く。同時に「失礼します」という少女の声も聞こえてくる。
席を立ったロングビルが扉を開けると、そこには学院の生徒であるルイズの姿があった。
扉の前で立っているルイズを確認したオスマンは頷き、ルイズはロングビルに部屋の中へと通された。
「旅の疲れは癒せたかな? 色々と辛かったであろうが、君達の活躍で同盟は無事に締結されたのじゃ。胸を張りなさい」
優しい声でオスマンは机の前に立つルイズの労をねぎらってきた。
その言葉にルイズの心はちっとも晴れやかにはなれなかった。だが、学院長がせっかくねぎらってくれているのだから、ルイズは無理に笑みを浮かべて一礼する。
同盟を結ぶということは即ち、幼馴染のアンリエッタが政治の道具として愛してもいない男などと結婚することを意味するのだ。
あの時、アンリエッタが浮かべた切ない笑みを思い出すとルイズも悲しくなり、胸が締め付けられる。
オスマンはしばらくルイズを見つめていたが、やがて先ほどの始祖の祈祷書≠差し出していた。
「これは?」
「うむ。始祖の祈祷書じゃ」
ルイズは怪訝な顔でその本を見つめる。
国宝であるはずの始祖の祈祷書=Bその名前はルイズとて知っている。だが、何故その書物がこんな所にあるのかルイズは疑問に思った。
「トリステイン王家の伝統で、王族の結婚式の際には貴族より選ばれし巫女を用意せねばならんのじゃ。
選ばれた巫女はこの始祖の祈祷書を手に、式の詔を読み上げる習わしになっておる」
「は、はあ」
「そして姫様は、その巫女にミス・ヴァリエール、君を指名してきたのじゃよ」
「姫様が……わたしを、ですか?」
「その通りじゃ。巫女は式の前より、この始祖の祈祷書を肌身離さず持ち歩き、読み上げる詔を考えねばならぬ」
「……へ? わ、わたしが考えるんですか!?」
いかにルイズでも宮中の習わしや作法などに詳しくなかったので驚いてしまった。
「まあ、大まかな草案は宮廷の連中が推敲するじゃろうがな。伝統と言うのは面倒なもんじゃのう。だがな、姫はミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ。
これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に立会い、詔を読み上げるなど一生に一度あるかないかじゃ」
それを聞いて、ルイズの表情は真摯な態度へと変化していった。
アンリエッタは幼馴染である自分を式の巫女として自分を選んでくれたのだ。ならば、その思いに応えなければならない。
「分かりました。謹んで拝命いたします」
始祖の祈祷書はミス・ロングビルの手を経由して、ルイズの手に渡された。およそ三百ページもあるボロボロの本はとても軽かった。
「うむ、頼むよ。姫様も喜ぶじゃろうて」
快く引き受けてくれたルイズを見つめ、オスマンはにこやかに頷いていた。
264The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:24:11.86 ID:+IC1sGZE
「時にミス・ロングビル」
「なんでしょうか?」
ルイズが退室した後、仕事に戻り始めたロングビルにオスマンが話しかける。
「君の年齢はいくつだったかね?」
「……」
いきなり何を言い出すのだ、このジジイは。ロングビルは微かに顔を引き攣らせた。
「……23ですが。それが何か?」
「ふぅむ。姫様は17で結婚じゃが、君はその歳でまだかぁ。婚期を逃すと色々と苦労するもんじゃな」
そこまで言った所で、ロングビルは冷たい表情のまま杖を手にしようとする。
「で、どうなのじゃ? その後は」
いつものように念力で本を投げつけてやろうかと思ったのだが、その言葉に手がピタリと止まった。
「何がです?」
「何じゃ。その様子ではまだまだか。難儀じゃのう」
一体、何の話をしているのかロングビルは分からず、顔を顰めていた。
「スパーダ君との進展はあれから何もないのか」
「……っ」
彼の名前が出た途端、ロングビルの頬は仄かに赤く染まった。
「彼が悪魔だからって躊躇う必要なんかないと思うぞい? まあ、彼自身はあまりそういう色恋沙汰には興味なさそうな気もするが、ぶつかり続ければ振り向いてくれるかもしれん」
ロングビルは何も答えられなかった。
スパーダはロングビルにとってかけがえの無い恩人だ。彼はこれまで何度となく彼女に救いの手を差し伸べてくれた上、大切な身内まで救ってくれた。
悪魔は本来、人間を甘言によって堕落させその命と魂を食らう存在だという。
思えば前に土くれのフーケ≠ニして、破壊の箱……パンドラという魔界の兵器の危険性を伝えようとしていた時の彼の態度は悪魔そのものであったと言える。
あの口から出ていたのが人間を堕落させるための言葉ではなかったというだけという話だ。あの時の彼が纏っていた恐ろしい雰囲気は今でも忘れられない。
正義に目覚め、人間を見守っているとはいえスパーダの悪魔としての本質は何も失われていないということだ。
しかも何千年という年月を生きているためか、極めて話術に優れている。悪魔らしく相手をいたぶるあの話術にロングビルは見事に彼の話術に嵌ってしまった。
もしもスパーダが人間を堕落させるための言葉を口にしたら、きっと何者であろうと抗うことなどできはしないだろう。
普段はあんなにも無口だというのに、その気になれば雄弁に語って人間を手玉に取ってしまうのだ。

(私ともあろうものが、お笑いだね)
だが、スパーダははどの人間に対しても一定の距離を取ろうとしているのはこれまで彼と関わることで察していた。
そんなスパーダが自分なんかに振り向いてくれるとは思えない。
「何じゃい。弱気になるとは君らしくもない。相手が悪魔だろうと当たって砕けるくらいの意気は見せんと、彼は見向きもしてくれんぞ?
そんな風じゃから、婚期を逃すんじゃぞい!」
珍しく沈んでいるロングビルを見かねてか、オスマンは熱く語りながら叱咤した。
最後に余計なことを言ってくれたため、今度はロングビルもしっかりと杖を振るって本を投げつけていた。
265The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:29:47.25 ID:+IC1sGZE
その日のスパーダはあまり人の立ち寄らないヴェストリ広場の隅に置かれているベンチに腰掛けていた。
午前中はこの三日間と同じように図書館に入り浸って調べ物をしていたのだが、まるで進展がない状況なのだ。
悪魔達は頻繁にこの世界に現れている以上、そうした文献か何かがあっても良いはずなのだが一文たりともそのような物が記されている本はなかったのである。
仕方が無いので、スパーダは当事者と思われる奴から話を聞くことにしたのだった。
スパーダは体内から篭手のデルフを引っ張り出すと、それを自分の隣に置く。
「いつまでそうしている気だ」
デルフはずっとスパーダに怯えている様子であり、いい加減に機嫌を良くしてもらわなければ困るために厳しく呼びかける。
こいつからは聞きたいことが山とあるのだから。
「なっ、何だよ相棒。……俺ぁ、怖いんだよ。ヴァリヤーグだなんて恐ろしい奴が相棒になっちまったんだからな……。悪い奴じゃねえことは分かるんだが」
「ヴァリヤーグとは何のことだ。……お前が知っていることを話してもらおうか」
このインテリジェンスソードであった精霊は明らかに悪魔達と関わりがあるらしい。
残念ながらデルフは肉体を持つ生物ではないため、時空神像の記憶から引き出すことはできない。よって、直接聞き出すしかないのだ。
「……分かったよ。しかし、その前に聞きたいことがある。相棒は始祖ブリミルやその宗教についてどれくらいのことを知っているね?」
「私は悪魔だ。そんなまやかしには興味がないが……基本的な話ならば調べてはある」
今回の調査の過程で始祖ブリミルの話について載っている本もいくつか読んでいたため、知りたくもない話までスパーダは知ることになっていた。
「強大な虚無の魔法を操り、私のこのルーン以外に3人の使い魔が共にいたそうだ。そして、そのブリミルらが聖地という場所を目指していたが、
先住魔法を操る砂漠のエルフとやらに阻まれて辿り着けなかった、と。ブリミル教徒の目的はその聖地とやらを奪還することらしいがな」
もっとも、数百年前にエルフと戦争を行ってから現在は膠着状態にあるらしく、あまり積極的に聖地を奪還する気がないように見えるが。
その聖地とやらに何があるというのだろうか。単なる領土争いとも違うような気もする。
「基本はしっかり押さえてやがるな。……ここだけの話だが聞いて驚くなよ。俺は六千年前、その始祖ブリミルと会ったことがあるのさ。
しかも、ブリミルが従えていた初代のガンダールヴがこの俺っちを握っていたのさ! すげえだろ!」
何故か自慢そうに話すデルフであったが、スパーダはあまり興味がなさそうな様子で頷いただけであった。
266The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:35:15.88 ID:+IC1sGZE
「……ま、今となっちゃあ神様扱いされてるブリミルだがよ、実の所そこらのメイジと対して変わんなかったね。
ニンニクが嫌いで食べられなかったし、俺を握っていた初代のガンダールヴを相手によく新しく編み出した魔法の実験を行なっては文句を言われるわ、鉄建制裁をおみまいされたりしてたもんなぁ」
昔を思い出しながら、デルフは揚々と語った。
その初代ガンダールヴは女性であったということは覚えているのだが、他はよく思い出せない。
ただ、その女性は人間ではなかったということは確かなのだが……。まあ、別にいいか。
「……で、だ。ある時、ブリミルは空間に穴を開けて別の空間同士を繋げるっていう魔法の実験を行なっていたんだ。実験そのものは成功だった。……けど、繋げた場所が悪かった」
深刻そうな口調で呟くデルフの話に、スパーダも真剣に耳を傾けていた。
「そこはこの世のものとも思えねえ、恐ろしい場所だったぜ。あれが地獄って奴なんだろうなぁ……。そこかしこに吸っただけで参っちまいそうな瘴気が漂っているわ、
見たこともない化け物達が互いを殺し合って喰らうわで、とんでもねえ所だった。おまけにそこは戦争の真っ最中だったらしくてな。
ははっ……人間同士やエルフとの戦争がまるで子供の喧嘩みたいに思えるほど凄まじかったぜ」
六千年前、スパーダはまだ魔剣士と呼ばれるほどの力は有していなかったどころか、どこの勢力にも属してはいなかった。過酷な魔界で生き残るのは相当辛いことだが、戦乱の最中にあればなおさらである。
当時は魔王≠ニ呼ばれていたムンドゥス、覇王<Aルゴサクス、羅王<Aビゲイルの三大勢力が中心となって戦乱が続いている状態だったはずだ。
「つまり、ブリミルとやらが魔法で繋いでしまった場所が魔界だったわけだな」
「そういうことさ。その地獄みてえな場所からブリミルはすぐに戻ってきたんだが、魔界の連中はそのゲートを通ってこっち側になだれ込んできやがった。
ブリミル達はそいつらをヴァリヤーグ≠ニ呼んで迎え撃ったのさ。相棒も何度か相手にしていた小物ばっかだったんだが、ブリミルも奴らには手を焼いたもんだよ。
俺もガンダールヴに振るわれて奴らを叩き斬っていたが……奴らほど斬って気分が悪くなるようなものは他にいねえ……」
デルフは声を震わせつつも己が体験したことを語っていた。
その声は怯えている証拠だ。事実、デルフが喋る度に金具がガチガチと音を立てているのが分かる。
「で、最終的に魔界の連中を何とか全滅させたんだが、奴らがなだれ込んできた影響で魔界とこの世界を繋ぐゲートは拡げられちまった。
そうなっちゃあ、いくらブリミルでも完全に閉じることはできねえ。仕方なく、閉じられるだけ閉じてゲートのある場所を封印した」
「……この世界が我が主達に侵攻されなかったのは不幸中の幸いだったな」
「ああ。あんな雑魚じゃなくて、相棒みてえな強い悪魔が現われでもすれば、いくらブリミル達でも勝てなかっただろうな。本当、運が良かったぜ」
当時の魔界は三大勢力が覇権を争い合う戦乱の時代だ。他の異世界など気にかけている余裕はなかったのだ。
……しかし、魔界のどこにブリミルは入り口を開いてしまったのだろうか。
ブリミルという奴が偶然、魔界の入り口を開いてしまったとしてもその存在に六千年間、魔界と決別する前のスパーダはおろか魔帝ムンドゥスでさえ存在に気づかなかったのだ。
逆に力の弱い下級悪魔や魔界の魔物ばかりがハルケギニアに姿を現したということは、よほど辺境の領域にブリミルは出入り口を作ったのか。
267The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:48:30.42 ID:+IC1sGZE
だが、何にせよゲートが未だに存在していることで、魔界とハルケギニアの次元の境界が薄くなっていることは確かだろう。
そのためにブリミルが残したゲートを通らずとも、悪魔達はこの世界を行き来することができるのだ。
「そのゲートとやらがどこにあるのか、覚えているか」
「悪いな。さすがにそこまでは覚えちゃいねえ。ただ、東の方だったってことだけは微かに覚えてるんだがな……」
「……まあいい。礼を言うぞ」
「いいってことよ!」
文献などによると、ブリミル教徒の目指す聖地とやらが東にあるという話だ。もしかしたらその聖地にゲートがある可能性がある。
だが、もしも聖地に魔界へのゲートが存在するのだとしたら、教徒達は何故ブリミルが封印した場所を目指すのか。
確か、聖地はブリミルが降臨した土地だという風に伝えられているということだが。
(どこもやることは同じだな)
宗教というものは大抵、真実が伝えられることは少ない。信者達を都合よく操るために虚構を作り上げるのがほとんどだ。
大方、宗教を後世へ伝えた者達がその事実を歪め、捻じ曲げてしまったのだろう。
「しっかし、その悪魔がガンダールヴになっちまうとはなぁ。さすがにブリミルも悪魔を使い魔にするなんて想定していなかったし、使い魔のルーンが効かないのも分かるぜ」
もっとも、たとえスパーダが悪魔でなかったとしてもルーンに己の魂を捧げることなど決してあり得ないが。
「ところで、この間相棒の中に新しい奴が入り込んできたようだがあいつはこれからどうする気だい」
「それはこれから次第だ」
ゲリュオンの力は空間を掌握して制御することだ。その力を借りてこれからの悪魔達との戦いに使うのも良いが……そのまま本体ごと呼び出して移動に使うのもいいだろう。
「俺っちももっと使ってくれよ。この際、篭手でも構わねえからさ。ずっと押し込まれたままじゃ退屈でしょうがねえ」
「考えておく」

懇願するデルフに生返事で答えると、不意に声をかけられる。
「あの、スパーダさん?」
顔を向けると、そこには学院のメイドであるシエスタの姿があった。
モット伯の屋敷から連れ出した件以来、どこかスパーダに対して躊躇いがちな態度になっていた彼女であったが、今日は珍しく自分からスパーダに声をかけていた。
「何をしてらっしゃるんですか?」
「相棒はこの俺を相手に談義に花を咲かせていたのさ。メイドのお嬢ちゃん」
「きゃっ! 何ですか、今の声は!」
どこからともなくスパーダ以外の男の声が聞こえてきて、シエスタは驚いた。危うく手にしていたトレーの上の物を落としそうになる。
「気にするな。それで何の用だ」
スパーダはトレーの上に乗っている物に目がいった。
ワイングラスの上に盛られたアイスクリーム、さらにホイップやいちごの果肉、シロップで彩られているそれは……。
紛れも無い、ストロベリー・サンデーだった。
268The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:53:07.06 ID:+IC1sGZE
「は、はい。あの、実はトリスタニアにいる親戚からスパーダさんのことをお聞きしまして」
そういえばシエスタはジェシカの従姉妹だったことをスパーダは思い出す。
「それで、スパーダさんがこちらのデザートが好物だとお聞きしたんです。それで今日はそれをご馳走になってもらおうと思って。……あの、よろしければ食べてもらえます?」
「うむ」
即答したスパーダはトレーに手を伸ばし、サンデーが盛られたグラスとスプーンを手にする。
元々、ジェシカが作ったサンデーはこのシエスタが直伝したということだが、果たして。

シエスタはトレーを抱えたままもじもじしつつ、スパーダの返答に緊張している。
「悪くはない」
スプーンで一口を運んだスパーダは感嘆と頷いていた。
ジェシカが作ったものより少し味が薄いが、どちらかというとあちらは味が濃かったのでこちらの方が良い。
「そうですか。良かった!」
心を込めて一生懸命作ったデザートが気に入ってもらえて、シエスタの顔はパッと明るく輝いた。
あの日以来、シエスタはスパーダのことが頭から離れなくて仕方が無かった。スパーダのことを考えると、胸が熱くなる。
何しろ、スパーダは悪魔の血を引くシエスタを人間として認めてくれたのだ。……あの時、彼が口にした言葉が忘れられない。

――Devils Never Cry.(悪魔は泣かない)

身分違いであることは分かっている。だが、それでもシエスタはスパーダにもっと認めてもらうべくこうして彼をもてなすことにしたのだ。
「相棒が甘党だったとはなぁ。意外だね」
「……ひょっとして、この篭手が喋ってるんですか? 変わってますね」
シエスタはベンチの上に置かれている変わった形の篭手に目を丸くした。
「おうよ。デルフリンガーっていうんだ。デルフって呼んでくれな」
「はい。よろしくお願いします、デルフさん」
スパーダは黙々とサンデーを食していたが、シエスタはそんな彼の姿を目にして嘆息を吐いた。
「スパーダさんが甘い物が好きだなんて、意外でしたね。こうしていると、この間の時のことが嘘みたいです」
「何のことだ」
「ほら、学院に大きな馬が入り込んできた時のことです。わたしもあれを見ていたんですよ。本当に緊張しました」
シエスタはあの時、ゲリュオンが学院に侵入した時に平民の給仕達はおろか貴族達よりも早くその存在を感じ取っていたのだ。
胸騒ぎがすると思って来てみたら、巨大な蒼い馬がタバサを追い回しているのだから驚いた。
そして、スパーダがあの馬を叩きのめしてしまうと、その姿に感服すると同時に何故か畏怖も感じてしまったのである。
目覚めてしまった悪魔の血と本能が、シエスタにこれまでにない感覚を与えていたのであった。
269The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 13:59:11.61 ID:+IC1sGZE
「親戚から話を聞いたんですけど、トリスタニアで悪い貴族を懲らしめたりもしたんですよね。
結構、話題になっているそうですよ。異国から来た貴族の剣豪がメイジを叩きのめしたって。スパーダさんには本当に感服しますよ」
あまり目立つようなことはしたくなかったのだが、あれは少々やりすぎたとスパーダは反省している。おかげでトリステインの宮廷に目を付けられることとなったのだ。
「美味かった。礼を言う」
サンデーを完食したスパーダは空のグラスとスプーンをシエスタに返すと、デルフを手に立ちあがる。
「また食べたくなったら、いつでもおっしゃってくださいね。スパーダさんのためだったら、何杯でも作ってあげますから」
「うむ」
ふと、スパーダはシエスタを見下ろしその顔をじっと見つめた。
シエスタはスパーダにこうもはっきりと視線を向けられて顔を赤く染めると同時に、睨まれているために少し怖く感じていた。
「……君の曽祖父のことだが」
「え、ええ? 曾おじいちゃんですか?」
いきなり予想していなかった話を振られてシエスタは慌てた。
曽祖父が心優しい悪魔であったとしても、もうシエスタは何も気にしないことにしていたのだ。曾おじいちゃんは曾おじいちゃん、それだけで充分である。
「何か村に残しているものはないのか」
彼女の曽祖父である中級悪魔のブラッドがタルブという村に現れたということは、その周辺にも何か手がかりがあるのではとスパーダは睨んでいるのである。
情報があまりにも少ない以上、些細なことであっても知っておくべきなのだ。
「うーん……聞いたことはないですね。ただ、曾おじいちゃんがいなくなってから少しして、村の近くの森で変な物が見つかったってことくらいしか……」
「変な物?」
その言葉にスパーダは微かに顔を顰める。
「はい。何の変哲もない大きな石版なんですけどね。村の人達はその石版が珍しいからって、拝みに行く人もいるんですよ。聖碑≠ネんて名前を付けちゃったりして」
(聖碑、か……)
ブラッドが村を去ってから見つかったという謎の石版……。それが一体、何なのかが気になる。
深刻そうな顔で俯き考え込むスパーダに対し、シエスタは何かを思いついたように顔を明るくさせた。
「そうだ! 今度、アンリエッタ姫殿下がご結婚なさりますよね。それでその一週間前に学院の給仕達もみんなお休みがもらえることになったんです。
それでわたしも帰郷するんですけれど、もしよろしければその時にわたしの村にいらっしゃいませんか?」
「……そうだな。では、その時になったら案内してもらおう」
シエスタは、まさかスパーダが即答で平民である自分の招待に応じてくれるとは思いもしなかったために驚いたが、それでも嬉しくなった。
「はい! よろしくお願いします!」
満面の笑みを浮かべて、深く一礼をしていた。
270The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 14:04:43.57 ID:+IC1sGZE
その日の夜、夕食を終えたスパーダとルイズは互いに寮の部屋へと戻ってきていた。
スパーダは図書館より拝借してきた本を手に椅子に腰掛け、ルイズはベッドの上で正座をしたまま始祖の祈祷書を開いている。
ルイズは白紙のページをじっと眺めながら式に相応しい詔を考え込んでいた。
「う〜ん……」
……が、元々ルイズはあまり文章を作ったりするのが苦手であり、事実魔法以外の授業で作文を書くという時には良い文が思い浮かばずに困っていたものである。
魔法はできなくとも座学だけは誰にも負けないルイズであったが、唯一の苦手な科目であるそれもまた悩みの種であった。
昼に祈祷書を受け取り、暇さえあれば詔を考えるのだが……未だ一文たりとも思い浮かばない。
ちらりと、ルイズはスパーダの方を見やった。
「ねぇ、スパーダ。姫様の結婚式が今度行なわれることは知っているわよね」
「ゲルマニアの皇帝とやらが相手だそうだな」
無関心な様子でスパーダは答えていた。手にする本から目を離さない。
その冷淡な態度が少しカチンとくるが、ルイズは話を続けた。
「それでね、姫様はあたしをその結婚式で詔を読み上げる巫女に選んでくれたの。でも、良い詔が浮かばないのよ……。一応、詩のような表現をすれば良いんだけど。
スパーダは人間の社会を何百年も見てきたんでしょう? 何か良い詩とか知らない?」
「私は詩人ではない。あまりそういうのも興味がなかったのでな。悪いが力にはなれん」
伝説の悪魔の知識と経験に少し期待していたルイズは不満そうに頬を膨らませる。
剣豪として剣を振るう時や威厳ある貴族として振舞う時などはとても頼りになるというのに。
いくらスパーダが人間社会を何百年と見てきたとはいえ、彼自身が興味を示さずに見聞や体験をしていない事柄に関しては全く頼りにすることはできないとは。
「娘っ子。第一、そういったことは大抵、宮廷の貴族達が内容を手直しをすると思うぞ。下手すっと、娘っ子が考えたのなんて跡形も残らないぜ?」
テーブルの上に置かれている篭手のデルフが口を挟んできた。
「そうだろうけど、一応伝統なんだからあたしもちゃんと考えなきゃならないのよ」
「まあ、あまり真剣になりすぎるこたあないと思うがね」
他人事のようにけらけらと笑うデルフの態度がムカつき、ルイズはテーブルの上の篭手を睨みつけた。
「姫様は幼馴染のあたしとの友情を思って、巫女の大役をくださったのよ。その思いに応えるためにもあたしもちゃんと考えなきゃならないのよ!」

「では何故、素直に王女を祝福しない」
唐突にスパーダが口にした言葉に、ルイズは息を呑んだ。
「そのような大役を与えられたにも関わらず、君はあまり王女の結婚を喜んでいるようには感じられんが」
悪魔は人間のあらゆる面を観察することで、その心に秘めている思いを看破するという。
スパーダの指摘に、ルイズは悲しそうな顔を浮かべて呟きだした。
271The Legendary Dark Zero:2012/06/03(日) 14:11:13.47 ID:+IC1sGZE
「だって、姫様は本当は政略結婚なんて望んでいないのよ? ウェールズ殿下と結ばれたかったはずだわ。でもそれが叶わない以上、愛してもいない男の所へ行くだなんてそんなの辛すぎるわよ……」
帰還報告をアンリエッタにした際、スパーダがウェールズを説得していたことと最後の最後に生き残るように口添えをしてくれたことにはとても感謝していた。
命を落とした所を直接見ていないとはいえ、密かに探し出ということはしなかったが。
ウェールズ殿下はあれからどうしたのだろう。あれだけの大群……しかも悪魔達も相手にしてはただでは済まない。
できることなら、スパーダの言に従って生きていてくれればいいのだが……。
「そういえばこの国は長い間王位が空席だと聞くが。今は王はいないのか」
「そうよ。先代の王がお亡くなりになられた時も、マリアンヌ王妃様は喪に服すると言って即位することはなかったの」
スパーダは読んでいた本をテーブルに置き、新しい本を手にして開きながら細く溜め息を吐いた。
「……要は、その女が全ての元凶か」
「ちょ、ちょっと! 王妃様に対してその女≠チて、なんて失礼なことを言うのよ!」
「アンリエッタ王女がそうして政略結婚に苦しむのも、この国がゲルマニアとやらに同盟を求めるようになったのもその王妃とやらが王族の責務から目を背けたのが原因ではないのか。
……はっきり言う。この国の王族はただの飾りに過ぎん。衰退し続けるのも頷ける」
先々代のフィリップ三世という王は英雄王などと呼ばれるほどの武人であったそうだが、所詮はそれだけ。それ以外の政治能力はあまりにも乏しかったという。
王女は国民の人気こそあるものの、まだ政治の経験が不足している駆け出しの状態だ。そして何より……。
「私にはそのマリアンヌという女が娘を生け贄にしているようにしか思えん」
「い、生け贄って……!」
あまりにも無礼な言葉を口にするスパーダに、ルイズもベッドから降りて立ち上がっていた。
「その女が女王として即位をせずとも、再婚をするなりして新たな王を迎えていれば結果は変わっていただろう。だが、その女は私情に走り己の責務を娘に全て押し付け、自らは安穏の道へと逃げ込んだ。
……実に虫のいい話だ。その女は王族も、母を名乗る資格もない」
人間界でそうした光景は何度も見届けていたスパーダは、容赦なくトリステインの王族を唾棄していた。
「……愛する人を失くすっていうのは本当に辛くて悲しいものなのよ! 王妃様も先王のことを思ってあえて即位をしなかったんだわ!
だからこそ、アンリエッタ姫殿下に全てを託したのよ! その言葉……絶対に他で言っちゃ駄目だからね!」
悪魔としての冷酷な呟きに対し、ルイズは強く言い返す。
「独り言だ。気にするな」
「にしちゃあ、ちょっと言い過ぎだったんじゃないかねえ。不敬で打ち首にされちまうぞ?」
テーブルの上のデルフが呆れたように、そしてからかうように声を上げていた。
「と、とにかく! あたしは姫様のために詔を考えてみせるわ! スパーダもパートナーなんだから、何か言い言葉が思い浮かんだら教えてちょうだい!」
「うむ」
ぷるぷると震えていたルイズはベッド上に上がり、再び始祖の祈祷書を睨みつけていた。
(ウェールズ殿下が生きていれば……きっと、姫様と……)


※今回はこれでおしまいです。
272名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 14:16:27.16 ID:ZLqZ1ffg
おつです
273名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 14:36:45.47 ID:soNwhp/Q
パパーダ乙
274名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 21:15:57.66 ID:2gpLceFS
これは乙だ
275名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 22:12:57.99 ID:IgjYLmyC
乙です。
まあ確かに元凶だよなあマリアンヌ大后。実際の所はノボルが全くそこまで考えていなかっただけなんだろうが。
276名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 22:19:30.55 ID:ufaLYgYw
>>257
生き字引の筆懐かしいなあ
277名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 22:25:09.79 ID:4KUZDTW8
何気にチート軍団だよねガンマ団
ナマモノがアレな所為で目立たないが。

タンノ/イトウ「あらいい男」

ワルド/ギーシュ「ひぃぃ」
278名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 22:56:41.65 ID:UqqoOlEa
>>277
そら世界最強の殺し屋軍団だし
279名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 23:01:09.01 ID:woLaRr/a
ルイズ「それで、次はどんなお笑い芸人が来るの?」

シンタロー「イロモノばっかりで悪うございました!」

280名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 23:43:21.69 ID:iWfgdo0i
PAPUWAってゼロ魔と比べたら人間の男女比率逆だよね
人間女性がくりこちゃんとウマ子だけだしwww
ルイズが逆召喚されたらロタロー2号だ

あとなんかハーレム隊長化したワルドを想像したwww
281名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 23:51:53.43 ID:xAdtjIJ6
>>280
そりゃ作者自らが「女書きたくねぇ」って言ってたからな
282名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/03(日) 23:52:25.24 ID:v1MUM8x9
他の使い魔(獣)連中が相手でも友情を育めないアラシヤマ
283名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 02:20:32.24 ID:6QHrcHvV
>>282
ヴィンダールブになったけどやっぱりハブられるんですねわかります
284名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 05:29:24.37 ID:Qxvkbt5J
>>283
ヴィンダールブならハブられるのも当然だろうな(ヴィンダールヴじゃないんだから)
285名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 05:36:59.76 ID:bK5/rq8V
そろそろ人修羅の人と日替わりの人のをよみたいでござる
286名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 15:00:34.14 ID:UpTj4+qm
ラグドリアン湖のど真ん中にパプワ島が出現
ガリアとトリステインが領有権を主張して軍を送り込むけどみんな散々な目に合って帰ってくる
287名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 15:26:57.78 ID:7bRRAulF
イトウとかタンノくんとか使い魔として呼びだした日にはどうなるか
ほかのパフワ島の生ものは結構役に立ちそうだがあいつらは食うしかないだろ
288名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 16:44:28.73 ID:dRZFJEij
>>276
ギーシュからは何が収穫出来るんだろう
289名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 17:26:41.42 ID:LkwAonWW
>>288 体のあちこちからバラの花が咲くんじゃね?
290名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 18:19:23.22 ID:aXPg5laD
>>255
以前居たぞそう言う事を言い出した人。まぁ大騒ぎにも迷惑にもならなかったが。
291名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 18:26:46.76 ID:9mLeFZGb
そういやエツィオのやつってどうなったんだっけ
292名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 18:27:49.48 ID:9mLeFZGb
おっと、sage忘れすまん
293名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 19:24:30.68 ID:Qxvkbt5J
>>291
避難所で投下が続行中ですたい
294名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 20:08:24.12 ID:9mLeFZGb
>>293
dクス
295名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 20:11:02.00 ID:EKhqAFF0
>>289ルイズならクックベリーだなwww
296名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 21:51:48.01 ID:rZF93qhP
タバサならはしばみ草、テファは桃りんご(特大)
297名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 22:09:30.63 ID:l36eptp6
ワルドは無花果か、花が咲かない的な意味で
実はとてもおいしいんだけどね、ポジション的においしい位置にいたからそこはサービスだ
298名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 22:55:41.13 ID:m/LJhHF/
そういや剣心と才人って全然似つかぬようでいて不殺通してる点は共通してんな

>>258
ヤクザはからくりサーカスから阿紫花が、マスコミは東方から射命丸が来てるな
299名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 23:03:38.45 ID:FijRPLGa
別にサイト不殺通そうとなんてしてねーだろ

殺したら殺したくらいで毎回戦ってる
300名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 23:12:14.90 ID:PAdOFyPv
火竜の喉を機銃でぶち抜いたりオークを両断したり人間以外は躊躇なく殺ってるな
人間相手でも一人も殺していないかというと疑問ではある
ワルドに機銃ぶち込んだシーンではワルド死んでておかしくなかったし
実際おマチさんが手当てしてなきゃ死んでたし
301名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 23:20:04.03 ID:3gdJ+qwz
ウルトラ代理行きま
302ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:21:13.34 ID:3gdJ+qwz
 第八十九話
 たったそれだけのこと
 
 大蟻超獣 アリブンタ
 友好巨鳥 リドリアス
 高原竜 ヒドラ
 磁力怪獣 アントラー
 海獣 サメクジラ
 宇宙海人 バルキー星人
 古代超獣 スフィンクス
 さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!
 
 
 最初は、なにもできないと思っていた。
 
 わたしは、エルフの母とアルビオン大公だった父の元に生まれ、幼くして両親をなくすと、人目を避けて森の中で暮らしてきた。
 そう、わたしはハーフエルフ。人間とエルフのあいだに生まれた半端者……人からは恐れられ、エルフからは蔑まれる存在。
 だから、わたしが誰なのかは誰にも知られてはいけなかった。そうしなければ、この世界では生きていく保障すらないと、
両親に代わってわたしの面倒を見てくれたマチルダ姉さんはきつくわたしに言いつけた。
 
 でも、たったひとりで暗い森の中で隠れ潜んでいられるほど、わたしは強くはなかった。
 いつからか、わたしは戦争や災害で親を失った子たちを引き取って育てるようになった。
 たまたま森の中をさまよっていた子や、マチルダ姉さんが拾ってきた子。森の中の道を通った人買いの馬車から、姉さんと
いっしょに助け出した子たちなど、ひとりひとりのことをよく覚えている。
 彼らはみな、わたしのことを本当の親のように深く慕ってくれた。
 けれど、みんながわたしを慕ってくれるのはなにも知らない子供だから。彼らもいつかは大人になり、知らなかったことを知るようになる。
 そのとき、みんなは変わらず自分のことを慕ってくれるのか……わたしはみんなを愛しながらも、いつか訪れるそのときに怯え続けていた。
 わたしは実はとても虚しいことをしているのではないのか? こうして森の中に隠れ続けて、逆に子供たちを森の中に閉じ込めている
だけではないのだろうか? マチルダ姉さんも、わたしのために人生を無駄に使ってしまっているのではないのか? わたしはいったい、
この世界の中でなんのために存在しているのだろうか?
 眠るとき、答えの出ない自問の繰り返しに何度も枕を濡らした。
 
 でも、世界はわたしの思っていたよりも大きく、この世に隠れ場所なんかないように、運命はわたしの周りで動き出した。
 最初は、ふらりとやってきた旅の人、ジュリさんとの出会いだった。
 わたしたちの住むウェストウッド村を襲った、巨大な怪物・怪獣と超獣。そして、ウルトラマンの戦い。
 それは、外の世界に漠然とした憧れしか抱いてこなかったわたしに、とてつもなく大きな衝撃になった。
 外の世界は、わたしなんかの想像をはるかに超えて大きくて広い。サイトさんやルイズさんたち、マチルダ姉さんが連れてきてくれた
新しいお友達との触れ合いを経るうちに、わたしの外の世界へのあこがれは大きくなっていった。
 でも、そのときはまさか自分が世界の命運を左右するほどの運命を背負っていることなどは、夢にも思わなかった。
 わたしにはエルフがもっとも恐れるシャイターンの力、『虚無』の系統が宿っている。それが、わたしの持って生まれた宿命。
 突然持たされた、この大きすぎる力……きっと、わたしだけだったら重圧に押しつぶされるか、理解さえできずに呆けているしか
できなかっただろう。
 だけど、ルイズさんたちが教えてくれた。この力は、滅亡に向かって走っている世界を救うために必要なんだって。
 
 だからわたしは来た。母の生まれたこの国へ……わたしが誰なのかを知るために、わたしのなすべきことを知るために。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 23:21:19.58 ID:rtLCZ/B9
マリコルヌは栗の花の香りがすごそう…
304ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:21:36.60 ID:3gdJ+qwz
 そして、みんなは凄惨な戦いにおびえていたわたしになすべきことを教えてくれた。
 みんなを助けたい。わたしをなんの抵抗もなく受け入れてくれた友達を。それにトリステインでわたしを待っていてくれる
みんなの下へ一人前になった姿で帰るためにも。
 サイトさんは、いざとなったらおれが守ると言ってくれたけど、あの人にはわたしなんかよりずっと守るべき人がいる。
 テュリュークさんがくれた、ふしぎな青い石が手の中で光っている。大昔のエルフの英雄が残していったという、きれいな石。
始祖ブリミル……わたしの遠いご先祖さまが残した本といっしょに、もしも本当にふしぎな力があるなら、わたしに勇気を貸して。
 わたしにみんなの言うようなすごい力があるなら、それを使うのは今!
 
 振り返った過去との決別を誓い、ティファニアは流れるような呪文とともに杖を振った。
 光芒……彼女がこの世に生を受けてから、その身に蓄積してきた膨大な魔力が一気に解放される。
 虚無の初歩の初歩の初歩。しかし、心優しく人を傷つけることを嫌うティファニアにその魔法は相性が悪く、本来ならば
使いこなすことはできないとされてきた。
 しかし、戦う決意をしたティファニアはあえてその呪文を唱える。決意と覚悟は力となり、ティファニアの生涯一度限りの
超魔法がアディールを襲う悪魔たちを照らし出した。
 
 
『エクスプロージョン!』
 
 
 光が世界を包み、闇の結界に包まれていたはずのアディールが一瞬昼間のように明るくなった。
 虚無の光は杖を振ったティファニアを中心に、あまねくすべてを貫いた。神々しさとも違う、不思議だが生きているような
優しい輝きは、それを見たすべての人々に一生忘れ得ない記憶を植えつけた。
〔テファ、とうとう虚無の魔法を使ったのね……〕
 かつて自分が使ったものと同じ輝きを見て、ルイズはティファニアの覚悟を知った。始祖の祈祷書を用いて、自らの力を
開放することは、ただの少女としてひっそりと生きていける道を完全に捨てるということになる。それでも、彼女は小さな肩に
背負うには大きすぎる力を振るうことを選んだ。ならば、もう他人がその選択に口を差し挟む権利はない。
 
 閃光は、まさしくティファニアの心の火ともいうべき太陽となり、ほんの数秒の短い寿命の中で奇跡を起こして消えていった。
 鏡のような海の上に、島のごとき不動の姿を鎮座させる東方号。甲板で戦っていたギーシュやミシェルたちが、目を覆うような
光芒が去った後に目の当たりにしたのは、ほんの十数秒前と同じ場所にいるとは信じがたい光景であった。
「ち、超獣は? いったい、どこにいったんだ?」
 首をちぎれんばかりに振っても、今の今まで東方号を沈めようと怪力を振るっていた超獣オイルドリンカーの姿は霞のように
消え去っていた。
 いや、そればかりではない。エルフたちを無数の触手で襲っていたタコ怪獣ダロンも影も形もなくいなくなり、その海面には
同じように呆然としたエルフたちが何十人も浮いている。
305ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:22:00.83 ID:3gdJ+qwz
「お、おれたち、助かったのか?」
 サメクジラのいた海面にはわずかな気泡のみが残り、バルキー星人に追われていたコルベールも魔力切れを起こして
わけがわからないといわんばかりに自分の杖を浮き輪代わりにして立ち泳ぎをしていた。
 
 不可解なことはそれだけではない。大火災に見舞われ、焼け野原と化そうとしていたアディール市街の炎は息を吹いた
ろうそくのように白煙を残して消え去り、崩れた瓦礫に阻まれて焼け死にかけていたエルフは、目をしぱたたかせながら
道の真ん中に大の字に寝転んだ。
 
 だが、なによりも驚くべきこと。そして数々の謎の答えは、ウルトラマンAとその周辺にあった。
 アントラーとアリブンタ、二匹の強豪怪獣と超獣を相手取り、苦戦を余儀なくされていたエース。受けたダメージも軽微で
なくなり、時間も経過してカラータイマーが赤く点滅を始めていたころに虚無の光は彼らを貫いた。
 かつてルイズが使ったときは、幽霊船怪獣ゾンバイユに風穴を空けて致命的なダメージを与えたエクスプロージョン。
そのときのものは収束して炸裂したようだったが、ティファニアの使ったものは自らを中心にしての拡散型の爆発だった。
この光はヤプールによって封じられた闇の結界の中のすべてを貫き、彼女の願った奇跡を現出した。
 アントラーとアリブンタは人形のように崩れ落ち、全身を痙攣させて口から泡を吹いている。それだけではなく、スフィンクスと
サボテンダーもまた、大きなダメージを受けたらしく地面に倒れこんで起き上がる気配がない。しかも驚くべきことに、
ヒドラとリドリアスには一切の影響はなかったようで、むしろきょとんとしている様子がかわいらしくもあった。
〔こいつが、テファの虚無魔法かよ。なんて威力だ〕
〔すごい……わたしが使ったエクスプロージョンの何倍……始祖ブリミルの使ってたオリジナルに匹敵するか、それ以上かも〕
〔しかも、街や人には一切の被害を与えずに超獣のみを倒すとは。これは、私でも到底できん〕
 才人、ルイズ、それにエースは打たれた体を押さえながら、倒された超獣たちを見下ろして驚嘆した。
 だが、ティファニアの最初で最後のエクスプロージョンの炸裂は、ヤプールの超獣軍団を一撃のもとに無力化したのみならず、
さらなる奇跡をもおまけとして残していった。
〔ん? そういえば北斗さん、なんか体が楽になったような〕
〔なに? こ、これは! エネルギーが回復している〕
 なんと、危険レベルまで減少していたエースのエネルギーが一気に全快まで跳ね上がっていた。カラータイマーは青に
戻り、受けたダメージもほとんどなくなっている。
 
”これも、テファの魔法の力なの? だが、エクスプロージョンは攻撃の魔法のはず!? いや、テファならばもしかして”
 
 エクスプロージョンの効果としてはありえない力に、ルイズはとまどった。しかし、同じ虚無の担い手ゆえにひとつの
仮説が頭の中に浮かんでくる。エクスプロージョンは使い手の狙った対象物のみを破壊できるという、奇跡的な効力を
有する魔法なのだが、それが実は狙った対象物を破壊ではなく『変質』させる効果だったとしたら? もしくは、巨大すぎる
魔力の暴発が、魔法の力は心の震えに左右されるという法則に従って、エクスプロージョン自体にイレギュラーを
発生させたとしたら?
306ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:22:21.85 ID:3gdJ+qwz
 答えはわからない。しかし、眼前の現実はまさしく奇跡としかいいようのないものであった。
 ヤプールの超獣軍団は無力化され、火災は鎮火され、エースの体にはエネルギーが満ちている。それを実現させたのは、
ティファニアのアディールにいるすべての人たちを助けたいという願い。そのシンプルで、それであるがゆえに強い祈りは
膨大な魔力の衝撃波となって、アディールに災いをなすもの、すなわち超獣はおろか火災などすべてに対して襲い掛かった。
 その結果、街で暴れていた超獣は大きなダメージを受け、街の炎はかき消されてしまった。そして、エクスプロージョンの
直撃を至近で浴びてしまったオイルドリンカーとダロンは、文字通り消滅させられてしまったのだ。
〔さらに、私の体に満ちる力は、彼女のこの街を守りたいという意思がプラスに影響したがゆえか。とてつもないものだ。
これほどの超能力を有する種族は、宇宙全体を見渡してもそうはいないだろう……だが〕
 ウルトラマンAは感嘆したが、手放しに喜ぶことはしなかった。振り返り、東方号のある方向を見つめる。
 恐らく、これほどの力の解放を人の身でして、本人が無事であるということはないだろう。しかも、これが終わりではなく
始まりにすぎないことをエースは知っていた。
 だが、助けることはできない。きっと、ティファニアにとってこれから訪れる難題は、彼女の人生最大の壁になるだろう。
それを乗り越えるには、彼女自身の本当の決意と勇気以外に頼れるものはない。エースの金色に光る眼は白煙を貫いて、
この奇跡を起こし、これからさらなる奇跡を呼び込まなくてはならない使命を背負った少女を見守った。
 
 アディールの海に傷ついた体を横たえる東方号。その頂上部で、エクスプロージョンにすべての精神力を使い果たし、
魔力の抜け殻のようになったティファニアが力なく崩れ落ちた。
「ティファニア! だいじょうぶ? しっかりして」
「あ……ル、ルクシャナさん。だいじょうぶ、ちょっと疲れただけだから」
 ティファニアは、倒れこもうとしたところを受け止めたルクシャナの腕の中で弱弱しく笑った。ルクシャナは、慌ててエルフの
治癒の魔法をかけるが、ティファニアの顔には大粒の汗が浮き出し、息は肺病にかかっているかのように激しく荒れている。
「やっぱり無茶だったのよ。使い方もわかってない魔法を、無制限に発動させるなんて、悪くしたら死んでいたかもよ!」
 始祖の祈祷書の序文には、虚無の魔法はときには命を削ることもあるゆえに使い方に注意せよと、わざわざ警告があるという。
それを、自分の系統に沿うこともない呪文を無制限に解放した日にはどうなっていたか。普通の魔法でさえ、反動で体調を崩したり、
耐え切れずに死亡する例もあるというのに!
「っとに、蛮人ってやつはどいつもこいつもバカばっかりなんだから! ほら、水薬よ、飲める? しっかりしなさい!」
「……ありがとう。やっぱり、ルクシャナさんは優しい人ですね」
「っ! バ、バカ、こんなときになに言ってんのよ。いいから早く飲みなさい。少しだけど、体内の水の流れを整えてくれるわ。
あとはもういいから、あなたは休んでなさい」
 ルクシャナの診るところ、ティファニアは今すぐにでも入院が必要な危険度だった。とにかく精神力はおろか、生命力までもが
著しく失われていて、まるで虚無魔法に命を食われた残骸のようだ。少なくとも数日は絶対安静にしなくては、彼女は自らの
生命の鼓動すら保てるかどうか。
 だがティファニアは、普通の人間なら意識が混濁してまともにしゃべることすらできなくなってきているはずなのに、はっきりとした
強い意志をその瞳に宿らせ、毅然とした口調でルクシャナに言った。
「ルクシャナさん、お願いがあるんです。わたしのやるべきことは、まだ終わってないんです」
「あなた、まさか……死んでもいいの!?」
「大丈夫です。まだ、あとちょっとだけならがんばれるから……お願い、これはわたしにしかできないことなんです」
307ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:22:41.47 ID:3gdJ+qwz
 ティファニアはルクシャナの腕に抱かれながら、片手で彼女の襟首を信じられないほどの強さで掴んで頼んだ。
 もう、どこにもそんな力は残されてはいないはずなのに……ルクシャナは意を決すると、ティファニアの体を抱え上げた。
 役割を失った始祖の祈祷書と杖は、鉄の床の上におもちゃのように転がっている。しかし、なんの魔力も持っていないはずの
バラーダの輝石だけは、まるでティファニアをはげますように、強く握り締めた彼女のもう片方の手の中で光り続けていた。
 
 超獣軍団の無力化により、非現実的なまでの静けさに包まれているアディールとその洋上。そこに、少女の年幼く聞こえる
声が響いたとき、市民たちの視線はあますところなく、声の源泉たる鋼の巨城の頂点に注がれた。
 
「アディール市民の皆さん。いいえ、サハラに住むネフテスのエルフの皆さん、わたしの声が聞こえていますか」
 
 風魔法で増幅された澄んだ声。それは、呆然自失としていた人々に自我を取り戻させ、同時に彼らのすべては鋼鉄の
塔の上に女神のように金糸の髪をなびかせて立つひとりの少女を見た。
 
「みなさん……えっと、わ、わたしはティファニアといいます。だ、大事なお話があるので、どうか聞いてください」
 
 ここで、聞いていた市民たちの陶酔感もしくは緊張感はある程度の低下をした。塔の上に立つ女神のような、造物主の
贔屓を一身に受けているような美少女の口から流れたのは、戦乙女の鼓舞のような美々しき旋律ではなく、厳しい教師に
答案を手渡しするときの女学生にも似た弱弱しい声だったからだ。
 しかし、少女は逆に数万というエルフたちの視線を一身に浴びるという緊張の極で身を固めながらも、手を貸そうとする
もうひとりの少女の手を断って自分の足で立ち、言葉を続けた。
「わたしたちは、サハラの西にある人間たちの世界、ハルケギニアにあるトリステイン王国から平和のための使者として来ました」
 ざわめきが海上、陸上を問わずに起こった。彼らの誰一人として想像もしていなかった言葉……いや、過去幾千年にも
渡って武力を持っての侵攻のみを繰り返してきた人間に対するエルフたちの認識には、平和を求めてというもの自体が
欠落してしまっていたのだ。認識のないものになど、気づけるわけがない。
 想像の埒外からの呼びかけに、エルフたちの注目はいやがうえにも上がる。東方号の仲間たちは、そんなテファの姿に、
もう止めようがないと無言のままで見守っていた。
「今、ハルケギニアとネフテスを含む、この世界は滅ぼされようとしています。その敵は、異次元人ヤプール。この世界の
外から来たという、自らを悪魔と呼ぶ恐ろしい力を持った侵略者です。すでに、ハルケギニアではヤプールの操る巨大な
怪物の群れ、超獣が暴れまわり、このネフテスでもヤプールの侵攻はもはや隠れようもありません」
 どよめきが大きくなり、市民たちは口々にティファニアの言ったことを反芻した。
 実は、ネフテスの市民たちのかなりの割合は、このとき初めてヤプールや超獣の名を聞いたのである。ヤプールは、
竜の巣での戦いなどを通して、自らの正体と目的を何度もエルフたちに語っていたが、評議会は市民にパニックが
起こるのを防ぐために、その事実を軍内部にのみとどめて、市民には断片的な情報しか与えてこなかった。
「ヤプールは、ハルケギニアとネフテスの両方をいっしょに滅ぼせるだけの力を持っています。対抗するには、どちらか
一方だけの力ではとても足りません。そこで、トリステインのアンリエッタ姫さまはわたしたちに命じて、長年続いた
ハルケギニアとネフテスの争いを終わらせようとしているのです」
 一気に、ティファニアは目的の要点をしゃべりきった。そこまでで、ティファニアはさらに大きく疲労して、後ろに倒れこみかけて
ルクシャナに背中を支えられた。
308ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:23:19.85 ID:3gdJ+qwz
 やはり、立っているだけでも相当つらいはずなのに。しかも、元々引っ込み思案で人前に出ることすら苦手なくせに……
 だが、ティファニアの消耗など度外視して、エルフたちの動揺は大きかった。
 初めて聞く敵の存在と、世界全体の危機という彼らの尺度を大きく超えた敵の存在が、人間を相手には無敵を誇ってきたことと、
何者にも侵されずに今日まで繁栄を誇ってきて安穏に慣れきっていた彼らの頭上に、まさしく雷鳴となって降り注いだのだ。
「まさか、そんな……」
「信じられない……」
 それぞれがつぶやいた言葉は百人百色あれど、内容はほぼその二言に集約されていた。
 証拠はまさしく眼前にある。アディール防衛の部隊は戦力の大半をすでに失い、空軍の主力艦隊は一隻残らず撃沈。
水軍もほとんどの鯨竜艦を沈められ、残っているのは旗艦以下数隻のみ。エルフたちが信じてきた無敵神話は完全に
崩壊して、目の前には残酷な真実のみが転がっている。
 が、それでもエルフたちは人間たちと手を組もうというつもりにはなれなかった。
「ふざけるなよ! 自分たちが危なくなったからって、我々に泣きついてくるとは図々しい。お前たちの世界がどうなろうと
知ったことか、さっさと滅ぼされるがいい! 蛮人ども」
 そうだそうだと、多くのエルフたちが共感して叫んだ。数万の罵声の嵐にさらされるティファニアの姿に、見守っていた
ギーシュやエレオノールらは怒りを覚えたが、ビダーシャルやテュリュークはわかっていた。これが、エルフと人間との
あいだにある溝、こうなることは最初からわかっていた。
 だが、ティファニアはあきめなかった。
「みなさん! みなさんが、人間を憎む気持ちはわかります。ですが、その憎しみこそがヤプールの思惑通りなんです。
なぜなら、ヤプールは人間やエルフ、この世界に生きるすべての種族の怒りや憎しみ、そんな暗い心を糧にして強大になる
悪魔なんです。ですから、わたしたちが憎しみ合う限り、ヤプールには絶対に勝つことはできないんです!」
「な、なにを馬鹿な!」
 それこそ信じられないと、市民たちはティファニアの言葉を受け入れなかった。ヤプールの本質は、まさに悪魔と呼んで
差し支えないものだが、それを理解するのは常識では難しい。だが、そこへテュリュークとビダーシャルが助け舟を出してきた。
「市民諸君、テュリュークじゃ。そのお嬢さんの言ったことは、すべて正しい。わしはかねてより、この世界で起きている異変の
兆候を知るために、蛮人の世界へ使いを送っていた。そのビダーシャルくんが、かの地で見聞きしてきたことは、まさしく
伝承にある大厄災にも匹敵する凶事だったのじゃ」
「ハルケギニアでも、蛮人の軍隊がヤプールを迎え撃っているが、その劣勢は抑えようもない。聞くところ、ヤプールが
ハルケギニアにはじめて姿を現したころは、一回につき一体の超獣を出して攻めてくるのがせいぜいだったそうだが、
今はこうして平然と数十体の軍勢を繰り出してくるようになっている。ヤプールは今でも際限なく強くなり続けている。
それは、精神力が魔法の力に変わるのと同じく、ヤプールは世界中に満ち満ちる憎悪を無限に食い続けているからだ」
 評議会議長と議員の言葉に対しては、さすがに疑う者はいなかった。が、憎悪を喰らって強大化し続ける、それは
比喩ではなく悪魔そのものでしかない。そんなものに対してどうしろというのか、どよめく市民にティファニアはもう一度言った。
「みなさん、ヤプールはこの世界の歪みそのものなんです。何千年にも渡って、西と東に分かれて争い続けてきた
よどんだ世界の空気が、ヤプールという悪魔に住みよい場所を作り上げてしまっていたんです。人間を憎む理由は、
みなさんにあるでしょう。それでも、どうかやり直してみてはもらえませんか!」
309ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:23:40.93 ID:3gdJ+qwz
 血を吐くような必死の訴えに、今度は罵声の嵐は起こらなかった。だが、人間を憎むエルフの蒸留生成物のような男、
エスマーイルは一歩の妥協もなく叫んだ。
「黙れ! さんざんサハラを侵しておいて、今さら和睦などと虫が良すぎる。だいたい、その理屈で行けば蛮人が
この世から消滅したほうがよいではないか。第一、貴様は何者だ? なぜエルフが蛮人の味方をする!」
 その質問に対して、ティファニアは一拍の間をおいた。ある意味では、それは市民たちすべてのエルフが最初から
疑問に思っていたこと。テュリュークやビダーシャルは知っているが、ティファニアのことは誰も知らない。だが、
ティファニアの正体を明かすことがどうなるのかは、先のファーティマの件からも容易に知れている。
 それでも、ティファニアの目から覚悟は消えなかった。
「わたしは、ハルケギニアでエルフの母と人間の父のあいだに生まれました。わたしの体には、ふたつの種族の血が
半分ずつ流れています。わたしは、ハーフエルフです!」
 躊躇もどもりも一切ない。真っ向から、エルフのもっとも忌み嫌う存在の正体を明かしたティファニアの気迫が、このとき
確かにアディール全体の空気を支配した。エスマーイルすらも、罵声を喉が通るまでに一呼吸の休憩を必要とした。
「ば、なんと! 蛮人の汚い血が混じった、この世でもっとも恥ずべきハーフエル!」
「それは違います!」
 エスマーイルの罵声をさえぎったティファニアの鋭い声が、彼女に発せられようとしていた無数の罵声をも消滅させた。
「わたしは確かに、エルフと人間、どちらにも属さない異端な存在です。そのために、ハルケギニアではわたしは長い間を
人間から隠れ潜んで生きてきました。けれど、外の世界に出たとき、多くの人がわたしを受け入れてくれました。そして、
ハーフエルフだからこそ、わたしは人間とエルフのふたつの種族を見て考えてきました。エルフと人間、そのどちらも
心を持つ存在としては価値に差などありません!」
「なんとおぞましいことを! 大いなる意志の恩恵すら知らぬ蛮族が、我ら砂漠の民と同等とは侮辱もはなはだしい」
「それは思い上がりです! 兄弟でも兄と弟はまったく違う存在であって当たり前なように、違うということに優劣を
つけて自分を偉く見せようとするのは誤りです!」
 言葉を剣と盾にしてのエスマーイルとティファニアの激闘は、その威圧で割って入ろうとするすべてを封じ込めた。
 あれが、ほんとうにあのテファなのかと水精霊騎士隊や銃士隊、普段の彼女を知る者は例外なく思った。いつもの、
温和で天然な少女の顔はなく、苛烈で気迫に満ちた戦う人間としての強さが溢れている。まるで、彼女の両親が
この世ならざる時空から見えない力を与えているような、そんな馬鹿げた空想さえ信じたくなる光景は、まだ終わらない。
「あなたにひとつ尋ねます、あなたの言うように仮にこの世から人間がいなくなって、エルフだけの世界になったとして、
そこにあるのは理想郷ですか?」
「むろんだ! 我ら砂漠の民は、大いなる意志の加護のもとで世界に敢然たる光を満ち満ちさせるであろう!」
 それは、ビダーシャルやテュリュークが何度説得しようとしても変わらなかったエスマーイルの狂信、そのものであった。
 だが、ティファニアは呆然と見守るエルフたちの前で、狂信の波動を真っ向から受け止め、跳ね返した。
「いいえ、あなたの妄想は決して誰も幸福にすることはないでしょう」
「なんだと!」
「エルフによって統一された世界、そこには確かに人間との争いはありません。ですが、戦うべき相手がいなくなったとき、
あなたたちの憎しみは消えてしまうのですか? パンをこねたこともないあなたが敵を失ったとき、あなたは何ができると? 
そして、戦うことしか教えられなかった人たちに、戦いが終わった後であなたはなにをしてあげられるというのですか?」
310ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:24:00.84 ID:3gdJ+qwz
 エスマーイルの顔から血色が引いた。戦って勝つ、それは当然のことだ。だが、戦いが終わった後のことを考えるのは
勝つことよりも実はずっと難しいのだ。なぜなら、人は戦いが終わった後は戦い以外の方法で生きていかなくてはならない。
戦争が終わった後で、多くの兵士が戦場での心の傷から平和に適応できずに苦しみ続けていることから、権力者は目を逸らす。
 そして、憎しみによって束ねられた結束はそれがなくなったときに、人のあいだに何も残さない。外に向かっていた
攻撃の衝動はたやすく昨日までの友に向かい、残されたものを奪い合う泥沼の争いがまた起こる。さらに、エスマーイルの
ような力の信奉者は上意下達を万人に求め、従わない者は力で押さえつけるしか方法を知らない。地球でも、幾多の
英雄や革命家が勝利の後に味方に見捨てられたり裏切られたりして、みじめな末路を遂げているのだ。
「あなたは、ハルケギニアを手に入れられればそれでみんな満足すると思っているのかもしれませんが、それではただの
強盗と同じことです。盗賊を褒め称えることが、エルフの正義なのですか!?」
「いいや、我らには蛮人を許すことなどできない大義がある。シャイターンの門を開け、我らを滅ぼそうとする悪魔が
蛮人たちの中にいる限りはな!」
 ついにエスマーイルは切り札を切った。エルフと人間の戦乱の根本原因である聖地を巡る問題。これが解決しないがために、
ふたつの種族は血みどろの争いを果てなく続けてきた。
 シャイターンの脅威がある限り、エルフに安息はない。エスマーイルは、これで虚飾と露呈してしまった自らの大義名文を
回復できると確信した。
 しかし、ティファニアは一呼吸を置くと、穏やかに口を開いた。
「あなた方の言う虚無……シャイターンの力が、あなた方を滅ぼすことはありません」
「なに! なんの根拠があってそんなことを!」
「それは、わたしが虚無の担い手。シャイターンの末裔だからです」
「なっ!?」
 絶句、エスマーイルだけでなく、ほかのエルフたちはおろか、経過を見守っていた仲間たちも同じように言葉を失った。
まさか、エルフにとって最大の禁忌である虚無の事実までも明かしてしまうとは……けれど、ティファニアに後悔はなかった。
それは、たった今言ったことだけではなく、未来に対しても。
「先ほど見せた光の魔法、あれが虚無の魔法のひとつ、エクスプロージョンです。ですが、わたしはこの力を人間とエルフの
戦いに使うつもりはありません」
「く、口約束ではなんとでも言える! その言葉が真実だという保障はあるか!? 百歩譲って真実だとして、我々は知っているのだぞ。
悪魔は同時に四人現れると! 貴様ひとりが黙ったとして、ほかが同じだということがあるのか!」
 エスマーイルの怒声は当然のことであった。エクスプロージョンの威力を見れば、彼女が虚無の担い手であると信じざるを得ない。
そこに潜在的な恐怖心と敵意が生まれて発露する……しかし、ティファニアはかんしゃくを起こした子供をなだめるように、
怒りを受け止めて受け流そうと穏やかさを保って語った。
「もしも、他の虚無の担い手があなた方を攻めようとするのであれば、わたしは命にかえてもそれを阻止します。わたしの友人に、
もうひとり虚無の担い手がいますけれど、彼女も同じ思いです。わたしたちはこの力を望まずして手に入れましたけれど、
たとえ過去になにがあったとしても、わたしたちは争いを大きくするためにはこの力は使いません」
311ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:24:36.57 ID:3gdJ+qwz
「だまされるものか! 蛮人は卑怯で、嘘つきだからな。その約束を、保障できるというのか!」
「……あなたは、どうしても、わたしたちを信用できないというのですね」
「当然だ!」
 ティファニアは悲しげに目を伏せた。それは森に住んでいたころ、親を失って引き取ってきた幼い子供を夜寝かすときにぐずるのを
あやしたときにも似ているが、ずっと悲しそうに見えた。
 子供は多少ひねくれてもぐずってもいい。そうしながら世の中がどうなっているのかを身を持って体験し、できることとできないことを
覚えて人に譲ることや異なる意見を受け入れることができるようになっていく。だが、若いうちにそうした世の中の複雑さと矛盾の
構造を受け入れられないまま成熟した大人は、世界に自分を合わせるのではなく、自分の論理に無理矢理周りを合わせようとして
他者との軋轢を生んでいく。それは、個人的なレベルでいうなら頑固者や偏屈で通るが、そこに権力や思想が混じるととたんに
他者を正義の名の下に無理矢理併合して、逆らう者は悪にしか見えない狭隘な狂信集団を生んでいく。
 エスマーイルの昔になにがあったのかはわからない。しかし、多感さを覚えられず、未成熟なまま人格が固定されるような
極端な安逸さか逆境に満ちた淡色な育ち方をしたのは想像にかたくない。そうして自我が肥大化し、人格を傲慢にしたところへ、
選ばれた砂漠の民というプライドと、それを汚す蛮人を滅ぼせというエルフの中に蓄積していた不満が亡霊のように取り付いた結果、
誕生したのが鉄血団結党党首という狂信者の王なのであろう。
 不満をもてあましていた若いエルフや、社会から拒絶されていたファーティマには、シンプルで感情的なエスマーイルの
思想は受け入れやすく魅力的に見えたのも仕方がない。しかし、理性を麻痺させて感情に走るのは気持ちいいことだろうが、
それは絶対にいけないのだ。
 
 誰もが、ティファニアとエスマーイルの議論を見守っている。それはそのまま、エルフと人間の代表のぶつかりあいに見えた。
 しかし、ティファニアは気づいた。エスマーイルは、いわば実体を持たない怨霊。いくら戦っても、言葉の剣はすり抜けるだけで
相手には届かない。怨霊を消せるものは、ただひとつだけだということに。
 
 深く息を吐き、ティファニアは言葉の向く先を個から全へと変えた。
「アディールのみなさん、みなさんにとってシャイターンの力、虚無が怖いものだということは、それを振るったわたしも
わかりました。こんな力が、もし間違ったことに使われたらと思うと、すごく怖いです。それに、大きな力が手を取り合うことに
邪魔になるのであれば、かえって無いほうがいいですよね……ですから、わたしも捨てる覚悟をします。聞いてください、
虚無の魔法を担い手が受け取るには、始祖ブリミルの残した祈祷書と、始祖のルビーが必要なんです。それを、みなさんに
預けます」
 
 どよめきが海の上に流れた。と、同時にティファニアたちのいる防空指揮所にテュリュークとビダーシャルが上がってきて、
始祖の祈祷書と水のルビーを拾い上げて、掲げて言った。
「これが、主の言うシャイターンの秘宝じゃな。むう、確かにこの世ならざる力をこれからは感じる。これを預かれば、
シャイターンの力の覚醒はこれ以上は確実におさえられるじゃろうな。だが、おぬしは本当によいのか? それほどの力、
使いこなせば、この世にかなわぬ願いはないかもしれないのだぞ?」
312ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:24:55.27 ID:3gdJ+qwz
「かまいません。もしも、わたしたちが危険だと判断されたら、遠慮なくそれを破壊してしまってください。よろしければ、
この場で焼き捨てていただいてもかまいません。その代わりに……」
 虚無の力の源泉、そのものを代償に出すというティファニアの決意に、仲間たちは強く打たれた。ティファニアは、
ルイズに勝手なことをしてしまってすまないと思うけれど、ルイズならきっと許してくれるだろうと、なぜか安心できていた。
 虚無の祈祷書とルビーはエルフの手に渡り、これで今後新しい虚無の呪文を担い手が覚えることはない。しかし、
虚無の魔法などより、もっと必要なものがあるのだ。
「よかろう、これはわしが預かる。諸君! シャイターンの末裔は、我らにひざを屈したも同然になった。それでもまだ、
不満が残るのならば言うがよい!」
 テュリュークの声が流れ、エルフたちの中にこれまでで最大のどよめきが流れた。
 エルフにとって最大の恐怖要素である虚無がなくなる。それはエルフにとっての悲願であったと言っていい。だが、
それで解決するほど両種族の問題はたやすくはない。エスマーイルはもちろんのこと、大勢のエルフたちが、いままで
蛮人たちが我々になにをしてきたのかと怒鳴りかけてくる。
 
 しかも、エスマーイルを相手に時間をかけすぎたために、敵が次々と復活してきたのだ。
「きさまらきさまらきさまらぁ! よくもやってくれやがったな、もうゆるさねえ。今すぐ皆殺しだぁ!」
 海中からバルキー星人が現れ、東方号に向かってバルキーリングを振り回しながら迫ってくる。さらに、サメクジラも
浮上してきて、ゆっくりながら東方号に向かい始めた。海中に逃れたおかげで、エクスプロージョンの一撃を軽減して
しまっていたのだ。
 再び悲鳴が海上に響き渡る。それのみならず、地上でもアントラーやアリブンタ、ダウンしていた超獣たちがしぶとくも
また起き上がってきはじめたではないか。
〔まだ死んでなかったの!? こいつら、せっかくあとちょっとってとこだったのに!〕
〔超獣が空気を読むわけもないよな。仕方ねえ、第二ラウンド開始だ!〕
 敵も弱体化しているとはいえ、まだこちらの倍の数がいることに変わりない。ウルトラマンAは超獣どもが海へ
向かわないよう、ヒドラとリドリアスとともに、その身を挺して立ち向かっていく。
 しかし、陸上の敵にエースが向かうということは、海上のバルキー星人とサメクジラがノーマークにされてしまうと
いうことでもある。東方号に、もはや手加減するつもりのない怒り狂ったバルキー星人が迫る。
 けれども、エースは信じていた。人間とエルフの持つ底力を!
「きゃああーっ!」
「死ねぇーっ!」
 バルキーリングの金色の一閃が、焼け焦げた星人の邪悪な容貌のままにティファニアのいる東方号頂上部に
襲いかかる。ビダーシャルやルクシャナがカウンターを唱えようとするが、とても食い止めきれる重量ではない。
だが、邪悪な一撃の前に、若者たちが傷ついた身を挺して立ちふさがった。
「水精霊騎士隊、命振りしぼれぇ!」
「分散してはダメージは通らない。みんな、頭を狙うんだ!」
「我らのティファニア嬢のピンチ! くたばれこの野郎ぉーっ!」
 ギーシュを先頭に、ギムリの掛け声で水精霊騎士隊は残った精神力を振り絞って魔法を放った。後先考えない
全力全開の炎や雷、氷やかまいたちなどごちゃまぜだが、どうせどう逆立ちしたところでコルベールのような大魔法は
使えない未熟者ぞろいのヘタクソばかり、なら後先など考えるだけ無駄というものだ。
313ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:25:15.07 ID:3gdJ+qwz
 レイナールの指示のもとでの集中砲火がバルキー星人の頭を爆破し、コルベールによって大きく傷つけられた様が
より醜く焼け爛れて、星人は意識が遠のき始めたのかよろよろと後退した。しかし、バルキーリングだけは手放さずに、
なおも逆襲を図ろうとする。だが、そこへ思いもよらぬ追撃が襲い掛かった。
「ぐわっ!? なんだこれは! 竜巻? ぐぉぉぉっ!」
「砂漠の民のことも、忘れてもらっては困るな」
「エルフどもか! この程度のものぉ。なんだっ! か、体が凍っていくぅぅ!」
 竜巻でずぶぬれにされたバルキー星人の全身に凍結魔法がかけられ、巨体がまるで氷の彫像のように変わっていく。
彼らも自分たちの半分も生きていない子供が、信じられないほど勇敢に戦う姿を目の当たりにして、己の全力をこの数分で
燃やし尽くす覚悟を決めたのだ。
 ろうそくは燃え尽きる前にきらめきを増す。今は嫌な意味合いの言葉だが、それで戦えるなら戦えないよりはるかにいい!
「ティファニア! このバカどもの相手はおれたちにまかせろ! 君は、君のやりたいことを残らずやってしまいたまえ!」
 少年たちの、明るすぎるくらい輝いた笑みの数々がティファニアを奮い立たせた。
 バルキー星人は氷付けにされ、サメクジラは再び主人の命令を失って目標を見失った。が、そんな状況が何分続くものか、
人間もエルフも精神力は一気に削りつくし、どうあがいてもすぐに底をつく。そうなれば……いや、馬鹿馬鹿しいことだ。
水精霊騎士隊は勝手に自称していた昔から、馬鹿の馬鹿による馬鹿の集まりだったのだ。
 
 命そのものを盾にした彼らの奮闘によって、ほんのわずかな安全が保障されたティファニアは、息を整えて自身の
使命と向かい合う。すでに戦う力は無くとも、もっと大きな力が言葉に宿ると信じて。
「みなさん、見てください! エルフと人間が力を合わせることは、こんなにもたやすいのです。生き物に優劣なんて、
ほんとうはあるはずはありません。恐れないでください、わたしたちも最初はそうでした」
 必死に呼びかけるティファニアの叫びと、協力して星人に挑む人間とエルフの姿は次第に市民たちの心に染み渡っていった。
 しかし、それでもエルフたちの心を覆う疑念の壁は厚い。お前たちはよくても、ほかの蛮人どもが同じだといえるのか。
安心させたところで裏切るつもりではないのか。あれだけ狂ったように聖地を攻めてきたお前たちが、そう簡単にあきらめられるのか。
当たり前の質問が次々と浴びせかけられる。
 詭弁では回避できない魂の叫び、それに対してティファニアも心からの答えを返した。
 
「みなさん、みなさんの言うことはもっともです。確かに、人間とエルフのあいだにある溝は、この一日で埋めきれるほど
小さくはありません。きっとこれからも、多くの問題が立ちふさがり、皆さんを怒らせてしまうような人間が次々と来ることも
あるでしょう。ですが、人間たちもみんな一生懸命なんです。みなさんにとってのシャイターンの門が、人間たちにとっての
聖地であること、それが皆さんは許せないんでしょう。けれど、思い出してみてください……」
 
 ティファニアは、そこでいったん言葉を切って皆を見渡した。その目には、エルフと人間の過去と、そして未来がおぼろに映っていた。
 
「自分にとって当たり前なことが、人には全然当たり前じゃなかったりしたこと。自分にとってとても大切なものが、人には
まったくつまらないものだったりしたこと……そんなこと、これまで一度もありませんでしたか?」
 
 
 続く
314ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/04(月) 23:26:05.00 ID:3gdJ+qwz
今週は以上です。皆さん、お楽しみいただけたでしょうか。
この物語は、そのときどきにおいて登場人物の成長物語を描いているつもりですが、今回はそのスポットをティファニアに当ててみました。
SFやファンタジーなどジャンルを問わず、キャラクターが困難に直面して大きくなっていくというのは普遍のテーマであり魅力であると
思いますが、その点においては今作も例外ではありません。
人間は困難にぶつかってこそ成長する。ゼロ魔本編でも皆はそれぞれの壁にぶつかっています。ただ、その成長をうまくできなかった
人間の歪んでしまった結果として、エスマーイルとの対比としてここでは描いてみました。
全体的に会話が多くなり、ウルトラマンと超獣のバトルを期待していた人には申し訳ないと思いますが、エルフと人間の問題を
ちゃんとした段取りもなしに通り過ぎてしまうわけにはいきませんので、こればかりはご了承ください。



ここまで、代理終了
315名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/04(月) 23:35:21.95 ID:X0avj0Qi
元ネタ興味ないから読んでないけど乙
よく続くなぁ。作者みんながこれだけ根気あれば最高なんだが
316名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 17:17:37.33 ID:Gi9fQJ4D
差別や偏見とかウルトラシリーズにはそうした重いテーマを扱ったものもけっこうあるよな
ヒーローものってのは一面では教育番組だから深い
317名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 21:12:15.43 ID:ywKSW2Iv
子供向けだからこそ、人の中の悪い面から目を背けないという話はウルトラに
限らずライダーや戦隊のような特撮はもちろん、アニメでも多いよね
本当の正義というものを突き詰めて描こうとすれば必ず、この世に絶対の正義など
ないという話になるといった感じのことが書かれた本を昔読んだ覚えがある
318名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 21:22:40.80 ID:K2HnjVwG
ちなみに、正義の味方のルーツは月光仮面
「憎むな、殺すな、赦しましょう」

にある
319名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 21:36:02.46 ID:fN/OvrAc
ある意味で正義の味方「指折りなら任せろ―(ぽきぽきー)」
320名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 21:38:49.01 ID:HU8l9mQ6
あんたは子ども向けじゃないじゃないですかー

まあ子ども向けだからこそやるんだろうな
毎週ヒーローが怪人倒すだけじゃネタ切れになるし
321名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 21:52:36.27 ID:N7fwdJu5
正義の味方といったら
けっこう仮面
322名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 22:29:59.84 ID:Pmg8CbX2
>>321
決闘イベントに突入したら、ギーシュがモンモンにもケティにも見捨てられる予感
323名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 22:30:09.86 ID:Gi9fQJ4D
>>318
だからアンパンマンは永遠のヒーローなんだなあ……
324名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 22:56:29.37 ID:G8uBke/c
ブギーポップが浮かんだ>正義の味方
325名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 23:12:34.25 ID:c3+xYbNq
>>319
お前のような正義の味方が居るか!
せっかく自作自演で第三次世界大戦を回避したと思ったら・・・・!
326名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 23:14:13.54 ID:Gi9fQJ4D
そうだ、白猿は正義の味方とは認めないから
327名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/05(火) 23:42:03.62 ID:HmP9Z1Hm
>>324
ブギーさんは世界の敵の敵であって正義って感じじゃないなあ
328名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 00:08:16.89 ID:Kz6XjNQ/
>>327
平成ガメラも地球の守護神であって厳密には人類の味方ではないですしね
329名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 00:08:31.84 ID:vziKAEMo
仮面ライダーとかは人間の手に負えない悪との戦いに身を投じてはいるが
基本的に普通の戦争だの犯罪だのには一々首を突っ込まないからな
ロールシャッハさんにしても某エミヤ親子にしても洋の東西を問わず
そういうのに全部首を突っ込もうとする奴やこの世から無くそうとする奴とかは
頭がオカシイ、暴走した正義ってのは共通した価値観
330名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 02:41:43.78 ID:N6pRyuUY
月光仮面さんのコンセプトだと
弱いものや力のないものの味方=正義の味方であって
エミヤ、ロールシャッハみたく
正義の名の下に力を振るうのは違うらしい
331名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 07:58:14.31 ID:3zRhQVKe
勧善懲悪な時代劇モノとかあるじゃないか
332名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 08:28:21.33 ID:LBJwp+K6
時代劇ものだって言ってみりゃ人知れず悪を討ってるだけで捕まればアウト、もしくは公的機関じゃない
333名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 08:32:49.69 ID:Tc13bBNb
>>332
黄門様にしろ将軍様にしろ遠山様にしろみんな公権力じゃないか
334名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 08:39:24.46 ID:LBJwp+K6
>>333
だから公権力いうてはるやないですか、必殺仕事人とかは前者だと思うけど
335名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 09:18:01.78 ID:Tc13bBNb
>>334

>>332の「公的機関じゃない」
が「ではない」って意味に取れたよ
ニホンゴッテムツカシイネ

しかしよく考えてみると時代劇の勧善懲悪って
公権力vs公権力だよな
336名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 10:42:59.67 ID:PFJvRIXM
自浄作用みたいなもん?
337名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 15:24:15.98 ID:Qz4ylPOt
公権力のない時代劇なら三匹が斬るシリーズかな
ゼロ魔でやるとしたら若い頃のカリーヌ、コルベール、ひねくれる前のエルザが放浪中に会って世直しの旅をしていくってのがいいか
338名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 16:28:12.25 ID:iAqPYjCh
>>337
公儀隠密とか入りまくり
339名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 16:53:06.70 ID:Qz4ylPOt
時代劇の主役が公権力ばかりって、あの時代侍の身分じゃないと刀挿せないからじゃないかな
340名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 17:55:47.56 ID:1mz8uO3O
破れ傘刀舟先生とか
素浪人月影兵庫とかは?
341名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 20:14:16.15 ID:/yrEi6r2
清水次郎長とか、公権力もくそもないな
342名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 20:58:29.19 ID:Kz6XjNQ/
じゃあ義賊ゴエモンを召喚、宝物庫にあるのは破壊のほらがい
343名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 21:45:41.24 ID:vBBqZHtG
>>329
仮面ライダー2号さんならアルビオン大陸で反王政派と王政派の杖だけをぶち折る戦いをしてくれますよ。
344名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 21:48:24.25 ID:ky3tUPlO
木枯し紋次郎とか
345名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 21:51:21.25 ID:Kz6XjNQ/
そういやウルトラマンAにも平安時代にタイムスリップする話があったな
346名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 22:16:27.24 ID:nx1o8Xeg
つまりマツケン召喚か
347名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 22:44:19.86 ID:9suFlBEF
コブラ!カメ!ワニ!
ブラカーーーーワニ!
348名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 23:10:05.19 ID:uOvu7MLn
避難所にいるH男さんも要人暗殺しまくってるけど、アレも勧善懲悪と呼べるのだろうかw
衆人環視のど真ん中で殺すと言う見せしめレベルの殺し方だけどw
349名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 23:27:36.32 ID:9FWbFwDf
>>343
「正義。仮面ライダー2号」

か。あのシーンは痺れたよな
350名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 23:48:03.75 ID:N0NhRXsj
サイヤの人こねぇなぁ...
351 忍法帖【Lv=16,xxxPT】 :2012/06/06(水) 23:50:00.52 ID:N0NhRXsj
サイヤの人こねぇなぁ...
超サイヤ人2に目覚めたりする展開あるのかな?
352 忍法帖【Lv=16,xxxPT】 :2012/06/06(水) 23:51:04.15 ID:N0NhRXsj
連投スマソ
353名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/06(水) 23:52:10.59 ID:Cpl5TP6V
せめてキリのいいところまではやってほしいよね
354名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 00:14:54.39 ID:cXtNq1Vh
まじで、なのはの人降臨して欲しいわ
355名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 00:21:36.64 ID:9bHfa0TN
ラスボスはまだか
356名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 02:18:23.27 ID:qb/3mp5n
確かになのはの人は読みたいな。
あとは、クラースの人待っています。
357名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 03:11:15.99 ID:GQNQE5Lt
バトルナイザーごとゴモラを召喚されないかな。
通常はマックスのときの小型で、いざとなったら巨大化する
虚無の目覚めでレイオニックバースト、姉の犠牲でEX覚醒!

ルイズ「とどめよゴモラ!超・振動波!」
358名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 04:17:40.62 ID:unQCVKf/
人修羅の人待ってるから
359名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 14:32:55.26 ID:mCAYcFsv
時代劇で公権力から危険視されながら悪人退治している人としては松平長七郎とかが居るな
360名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 18:21:43.41 ID:5ZtM0UAA
カトレアがゼットンを操って襲ってくるわけか
361名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 18:54:35.31 ID:l/4L9Bhn
ゴルゴム創世王みたいな老獪キャラを召喚したらどうなる?
362名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 19:55:21.38 ID:9/VzoVXV
天下繚乱的な意味での鳥居耀蔵とか
363名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 20:23:39.18 ID:DQVIp/OZ
>362
すがのんがルイズ役に名乗りをあげました。

天下的なホームズが来たらどうなるんだろう?
364名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 21:24:37.13 ID:9/VzoVXV
>>363
すがのんが鳥居相手にSプレイとか無理じゃね?
365名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 21:31:29.73 ID:RWR5mVZo
ウォーズマンの人はもう来ないのかな?
原作はいま凄く熱いのに。
366名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 23:04:07.44 ID:9PNMOh0u
「ユビキタス・ウィンデ……風は偏在すr」

【その時、不思議な事が起こった】

「俺は太陽の子!!」
「俺は悲しみの王子!!」
「俺は怒りの王子!!」
「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド!!貴様だけは絶対に…」

『ゆ?る?ざん?!!(×4)』
367名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 23:05:11.26 ID:9PNMOh0u
あれ?コピペしたら変になった。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 23:50:19.58 ID:7WBxGsLk
そこまでしなくても勝てるじゃねーか!
鬼か
369名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/07(木) 23:57:39.32 ID:6lnaMVBR
>>366
クライシス帝国の悪夢再び
370名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:04:03.39 ID:8C88Pkpf
ジャーク将軍かディケイドでも助けにやらないとワルドが不憫すぎる
371名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:04:37.98 ID:dBrUaMDD
坂村先生に倣って、どこでもワルドっていうとなんかカワイイ感じが……しないね
372名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:08:56.81 ID:XEyS/x2c
鳳凰院さん召喚でコッパゲとハルケ製未来ガジェット作ってもらおうぜ
373名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:09:34.35 ID:8F+RhLwj
>>370
マリバロンを応援に呼んでレコン・キスタの作戦をバラしてもらおう
374名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:17:07.18 ID:8C88Pkpf
ガンダ:ボスガン ミョズ:マリバロン ヴィンダ:ガテゾーン リーヴ:ゲドリアン
大災厄:RX
375名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:36:31.85 ID:8F+RhLwj
>>374
ダスマダー「・・・」
376名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 00:53:38.84 ID:utTtvs17
ワルドと見せかけてー

ワドルドゥ

もしかして:ワドルディ
377名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 01:35:11.09 ID:cBXm3493
ダングルテールの新教徒の宗教がもしDODの「天使の教会」だったら
アニエスがマナ化……というひどい想像をしてしまった……
378名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 01:52:50.40 ID:a/GmfDwU
>>376
アニメ版かヘルパーだったら有用だな

>>377
オガーザーンオガーザーン!
379名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 03:01:48.13 ID:miL8+FCU
ワルドと見せかけてワイルドタイガー

ハンドレッドパワーは強いけどすぐタイムリミット来るから緊張感でるかも
おじさん的に楓の為にすぐ帰る必要有るが……
380名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 04:53:25.24 ID:gm3hSwgU
>>258
ティファニアがドクター・メフィストを喚んでた
381名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 07:47:51.52 ID:dBrUaMDD
>>379
楓の能力は魔法にも有効だろうか
魔法にも効くのなら楓の方が話は作りやすそうだな
382名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 10:54:26.47 ID:GR+MRm/P
スーパー1の世界じゃ子供も拳法を使ってたからトリステイン武道家学院でもいいかも
383『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 17:59:44.68 ID:yV0im+aF
放置されてて不憫だから代理いきます
384『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:00:20.88 ID:yV0im+aF
第1話 訪れる巨影

「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!
 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」

今日は春の使い魔召還の儀式の日だった。
既に召還を終えた生徒たちは使い魔たちとふれあいの時間を過していた。
そんな中、桃色がかったブロンドの髪の少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは
叫ぶかのように呪文を唱えた。

今日十何度目かの召還の呪文。
今度こそこの魔法を成功させて、使い魔を召還するつもりだった。
心のどこかで沸いてくるあきらめの気持ちを抑えて、自分の望む使い魔の姿を描いていた。

そしての爆発、黒い煙幕が周囲を取り巻く。
他の生徒たちは、また失敗だなとヤジを飛ばそうとおもった。
少女は見覚えのある爆発に失敗を思い浮かべた。
しかし何度目かのその爆発は様子がおかしかった。
それは失敗ではないと勘違いだと理解した。

あたりは深い暗雲が空に染まり、深いに轟く地響き、不快な醜気が漂い始めた。
そしてなにより爆風の煙幕では覆うことができないほどの白い巨体。
まるで骨が肉になったような邪悪な姿をした巨大なモンスターがそこにいた。
所々傷ついたように赤い内部が見えていた。
まるで悪魔!闇をまとった悪魔をかたち取ったモンスターだった!
「なにこれ・・・」
生徒の一声で我に返ったのは儀式を監督していた禿頭の男性、コルベールだった。
「生徒諸君は学院に戻りなさい!」
そういうとコルベールは杖をモンスターへ構えた。
そういったあと、それがルイズの召還したモノというのを気にせず杖先から炎を出した。
続いて青い髪の少女、タバサも自分の頭よりも長いその杖を構えた。
「...ジャベリン」
タバサも続いて氷の矢を放つが、炎も氷もそのモンスターに当たる前に見えない壁にあたり消滅してしまった。
「スカ・・・ーレット・・」
深く轟く声でモンスターは言い放つ。
そしてそれは仰々しく周囲を見回した後、そのモンスターは闇へと溶けていった。
385『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:01:12.61 ID:yV0im+aF
一瞬の事であたりの生徒は動く事ができなかった。
それはもちろん召還した本人、ルイズも同じ事だった。
煙幕が緊縛した空気と共に離散していった。
そんななか依然として唖然としているなか、モンスターがいたところに金髪の男が仰向けで倒れていたのにルイズは気づいた。
きっとこれもルイズが召還したのだろう。
普段ならここでマリコルヌあたりが笑いの種にするところだろうけど、そんな雰囲気ではなかった。
「ウォ、ウォッホン みなさん 静まりなさい。
 ミス・ヴァリエール。とりあえず、そこにいる方を起こして差し上げなさい。」
ルイズは気絶しているであろう男へ駆け寄り、肩を揺さぶった。
「ちょっと!ねぇちょっとおきなさいよ!」
「うぅ......」
男は気絶しながら夢をみていた。
黒髪の少年。妹の友人だというあの少女。
魔島と呼ばれる島で、怪物を異世界へ押しやったこと。
そして友達ができ、笑顔を見せるようになったたった一人の妹の事。

(ちょっとおきなさいよ…)
(誰かが呼んでいる。誰だ 俺を呼ぶのは…)
男が目をあけると、目の前にいたのは少女だった。
「...カスティル」
それは一瞬、男の妹に見えた。
「へ…」
「......カスティル...じゃないのか」
一人気落ちする男にルイズは憤慨した。
「ちょっと あんた。
 ちゃんと話を聞きなさいよ。あんた誰なのよ!」
男は答えない。
しかし少女はしつこく問いかける。
「...エンドルフ」
しびれを切らしたのか男は答えた。
それはもちろん偽名をだった。
「で、あんた誰なのよ?どこの平民?さっきの化け物はなに?
 あんたとなにか関係あるの?」
いけ好かない態度をとる男にルイズは質問で責め立てた。
めんどくさそうにしている男は等々沈黙という態度をとった。
ただ怪しむ目でルイズと周囲を見回していた。
そこに割り込んできたのは、コルベールだった。
「ミ、ミス ヴァリエール。 とりあえず召還は成功しました。
 すぐにコントラクト・サーヴァントをしなさい。」
「ミスタ・コルベール!」
 ルイズがそう叫び、コルベールの前へ進み出る。
「何だね? ミス・ヴァリエール。」
「も、もう一度召喚させてください!」
「これは…伝統なんです、ミス・ヴァリエール。例外は認められない。
 何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。
 奸むと好まざるにかかわらず、彼を使い魔にするしかない」
コルベールは毅然とした態度でルイズへ答えた。
「そんな!」
 懇願するようなルイズの叫びにも、しかしコルベールはただルイズに視線を送り、宣告する。
「さあ、早く契約しなさい。私は先ほどの出来事をオールド・オスマンへ連絡しなくてはならない」

( ――何よ 何なのよ。さっきの事といい、召還されたのが平民だといい。
 もうめちゃくちゃだわ。でもこれ契約しないと留年になっちゃうし。
 あの禿、私の気持ちぐらい少しは汲んでくれてもいいんじゃないかしら?)
数十秒の考慮、いや準備の時間をとったのちルイズは決心した。
386『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:01:35.76 ID:yV0im+aF
「あ、あんた。エンドルフっていったわね。
 かかか感謝しなさい。普通平民が貴族にこんなことされるなんて一生無いんだからね!」
年上だろうエンドルフに対して貴族らしい振る舞いで言い放った。
そしてルイズはエンドルフに近づいて目をつぶる。
エンドルフはルイズを疑問の目で見つめるだけだった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
ルイズは自らの唇をエンドルフに重ね合わせた。
さすがに自分の年齢の半分ほどの娘からの口づけにはエンドルフは驚いた。
そして唇を離した瞬間、彼の体が熱くなり、胸が光り出した。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
強烈な胸の痛みにエンドルフは苦しみだした。
「使い魔のルーンが刻まれてるだけよ、別に何も問題ないから安心して」
ルイズは冷たく言い放った。
しばらくするとエンドルフの胸には使い魔のルーンを刻みこまれた。
そこにコルベールが寄ってきて、刻まれたルーンをのぞき込む。
「ふむ...これは珍しいルーンだな。 少し観察させてもらうよ。」
といい、コルベールは、スケッチを取り始めた。

「さてと…とりあえず、皆さんは寮に戻ってください。今日の残りの授業は休講とします。」
コルベールは踵を返すと、空を飛んで建物へと消えた。
周りの空気もだんだんと元に戻ってきており、生徒たちは各離散していった。
「...エンドルフ、私についてきなさい」
「...なんでだ」
「な、なんでって。あなたが私の使い魔だからよ」
「ふん、意味がわからねぇ...」
そんなやりとりをしているルイズを見てマリコルヌは大声で言った。
「おーい、ルイズが早速平民の年上を口説いているぞ」
マリコルヌの野次は周りの生徒を笑いの渦に引き込んだ。
ばつの悪くなったエンドルフは一人、校舎の方へと歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。 そっちじゃないわよ!!」
「おーい、ルイズが早速フられたぞ!!」
後ろで言い放つマリコルヌと笑い声を無視してルイズは彼を追いかけていった。

第1話 了
387『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:02:42.46 ID:yV0im+aF
第2話 初めての使い魔

寮の部屋へはいるとエンドルフはベッドに横になり始めた。
やっと彼を自分の部屋まで連れてきたルイズは息絶え絶えでしゃべることもままならなかった。
しばらくの間を置いた後、第一声を放ったのはエンドルフの方だった。
「おいおまえ、ここはどこなんだ? 俺はどうしてここにいる?」
今更ながらの疑問を彼はルイズにぶつけた。
「おまえじゃなくて、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 こう見えても貴族であんたの使い魔なんだからおまえなんて呼ばれる筋合いはないわ!」
エンドルフはめんどくさそうにため息をついて再び質問をする。
「ルイズ。 ここはどこなんだ? 俺はどうしてここにいる?どうして俺がおまえの使い魔なんなんだ」
「ここはハルケギニアのトリステイン王国。 あんたは私が使い魔にするために召還したの。 あんたが私の使い魔になったのは
偶然よ。あんたが偶然、サモン・サーヴァントの召還で呼び出されてしまっただけよ」
ルイズは呼び捨てが気にくわなかったが、それ以上にこの会話が進まないのは良くないと思い気にとめないよう答えた。
「そうか...」
そういうと再びの沈黙が周囲を取り囲む。
「それよりさっきの白いモンスター!あなたなんなのか知らないの!?
 普通サモン・サーヴァントで2つ以上の生物が召還されるなんてことありえないし」
「そうか...あいつもやっぱりこの世界へ来たのか。」
「あいつって...やっぱりあんたあいつの事知っていたのね!!教えなさいよ あれはなんなのよ!」
「あれはな...俺の世界でサルファーと呼ばれていたもんだ。どこか異世界からやってきて
 俺の世界を滅ぼそうとしていた悪魔だ。」
少しの静寂の後、エンドルフは答えた。
「う..そ。ねぇ...嘘でしょ!?」
ルイズはその言葉が信じられなかった。
しかし召喚された直後のあのいやな感じ。
強大な邪悪がそこにあったのをルイズは思い出して彼が言っていることは正しいとわかった。
「俺はそいつを別の世界にやるために異界の扉をあけて押し込んだ。そしてここにたどり着いたってわけだ。」
そう、ルイズのサモン・サーヴァントは失敗していたのだった。
彼らがたまたまそこへ召喚されたのだった。
「そ、そんな やっぱり私、サモンサーヴァントの儀式…失敗していたのね」
「そんなことはどうでもいい。それよりも奴はどうなった! どへ行った!」
「ちょっと、そんな怒鳴らないでよ。というか私のベッドから降りなさいよ!」
「ごまかすんじゃねぇ!」
「ど、どっか行ったわよ! 黒いのに包まれて消えちゃったわよ」
「...」
彼は無言でべッドから飛び降り、ドアの方へと向かう。
「ちょっと!どこいくのよ!」
「あいつにとどめを刺す」
「な、なにいってんのよ! 無理に決まっているじゃない!メイジでもない、平民のあんたに!」
「だったらこのまま放置しておくっていうのか?...そうすればこの世界も俺の世界、イヴォワールと同じになるぞ」
「そ、それは...それはだめだけど。とりあえず、居場所もここがどこかさえわからないのに出て行くなんて...ねぇ待って、待ってよ!」

388『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:03:04.95 ID:yV0im+aF
彼はこの光景が既視感(デジャヴ)に思えた。
昔彼が妹をおいていく時を思い出させた。
振り返った彼には一瞬ルイズが妹のカスティルに思えた。
しかしそれは一瞬ですぐにあの小五月蠅い娘になった。
「エンドルフ...?」
「ウォルナットだ...。」
「えっ?」
「俺の名前だ。ウォルナット。」
「ちょ、あんた偽名を名乗っていたのね!」
「見ず知らずの妖しい奴らを前に普通は本名なんて名乗らないだろ」
「ま、まぁそうかもしれないけど...」
「とりあえずだ...おまえ。この世界について教えてくれ」
ベッドに腰をかけつつウォルナットは言い放つ。
「その前、私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 何度も言わせないで」
「わかったよ、ルイズ。 とりあえずこの世界のこと。使い魔のこと。おまえのことについて教えてくれ。」
――カスティル。 俺はサルファーを倒す。この力があるのはその為だと思っている。
  もう会うことはないだろうが、せめておまえの世界を再び奴を侵略させない――

**************************************
その頃、隣国であるアルビオン辺境にて。
「な、なんだ。空が黒く染まりだしたぞ...」
「黒い森の方からだ!!」
「おい、あれはなんだ...」
そこに現れたのは、白い怪物。
そうそれはサルファーだった。
微力な瘴気に誘われてサルファーはアルビオンの地へと舞い降りていた。
**************************************

第2話 了
389『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:03:30.43 ID:yV0im+aF
第3話 ゼロ憑き

朝起きたウォルナットは寝ぼけ眼であたりを見回した。
そこにいたのは、ネグリジェ姿で寝ているルイズだった。
「うぅ…ん 神聖で…美しく…強力なぁーぁ」
どうやら昨日の召還の件でうなされているようだった…。
ウォルナットはひっぱたいて起こそうと考えたが、どこか妹、カスティルを思い出してその手を納めた。
「おい、起きろ」
起こす義理はなかったが、起こさないと後で五月蠅そうだ。
そう考えたウォルナットは声をかけた。
貴族と縁がないと思えたウォルナットだったが、請負人(クローム)としての職業柄、貴族との
やりとりには慣れていた。そしてなにより没落はしたが、彼自身が元の世界では貴族の家柄の出身だった。

「うぅ〜ん、誰よ…。私を起こすの…って誰よあんた!私のドラゴンは!?」
起きたルイズの目の前にはドラゴンではなく金髪の見知らぬ男が映った。
しばらく考えたのち、ルイズは思い出した。
「あぁ、そうだった。昨日召還した平民だったわね…」
「おい、起きろ 朝だぞ」
ウォルナットは再び言い直した。
「もぉ〜わかってるわよ、着替え。 着替えとって」
「ほらよ」
それに対してウォルナットはすんなり渡す。
ここでいちいち逆らっていたら先が思いやられるからであった。
着替えを受け取ったルイズは自ら着替え始めた。
本来使い魔や従者がいる貴族はそれらに着替えをやらせるものだが、昨日今日であった信頼できない男に任せるわけにはいかなかった。
信頼できないわけじゃない、だけどまだそれにたる関係がまだないからであった。

着替えが終わるとルイズはドアを開けてでていこうとした。
「あんたもついてきなさい。」
「へいへい」
二人がドアからでると向かいのドアの一つが開いて、燃えるような赤い髪の女の子が姿をあらわしたのだ。
「…おはよう。キュルケ」
 義務的に挨拶を返す。
表情はあくまでも額にしわを寄せてだが。
「あなたの使い魔って、それ?」
その一言目にはルイズへの憐れみや嘲笑が含めてあった。
その後のやりとりは大凡ウォルナットの予想通りだった。
彼女の一言に向きになったルイズが彼女にかみつき(もちろん言葉でだ)。
それを彼女は体よくあしらった。
その後ルイズは食後まで不機嫌が続いていた。
そして更に不機嫌になる出来事が、授業で起こった。
それは新任の教師が土系統の魔法「練金」を彼女にやってみるように言ったことだった。
390『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:03:54.07 ID:yV0im+aF
「ミス・ヴァリエール!!」
「えっ!は、はいっ!?」
今朝のキュルケとのやりとりを思い出していたルイズは周りからみたらかなり長い間舟を漕いたように見えたらしい。
さすがに放置できなかったか、シュヴルーズ先生がルイズの頭を軽く叩いて呼び覚ます。
舟をこぐ暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう」
「え? わたし?」
「そうです。ここにある石ころを、あなたの望む金属に変えてごらんなさい
 そうね、まずは真鍮に変えてみてはいかがかしら」
とシュヴルーズは促した。
「え・・ええ・・・」
周囲はどよめき、なによりルイズ自身に動揺があった。
しかし、その動揺は自信へと変わった。
絶対成功するという根拠のない虚無な自信。
そしてルイズは立ち上がった。
同時にタバサが立ち上がって教室を出て行った。
幾人の生徒がルイズやシュヴルーズに制止の言葉を投げたが、彼女の耳にはもう入っていなかった。
「いいですか?ミス・ヴァリエール。練金したい金属を思い浮かべ、呪文を唱えなさい」
その言葉を胸にルイズは、杖を持ち上げた。
そして呪文を詠唱し始めた。
口ずさむ呪文がキュルケを含め他の生徒には死の呪文に等しかった。
ちなみにウォルナットは、それを気にせず肘をついた状態で寝ていた。
そしてその次の瞬間教室は白い閃光に包まれて、ウォルナットが何故ゼロと呼ばれるか理解した。

第3節 了
391『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:05:10.69 ID:yV0im+aF
第4話ふたりの貴族(前半)

「オールド・オスマン!!」
学院長であるオールド・オスマンの部屋を勢いよく開けたのはコルベールだった。
「な、なんじゃね!?」
視線をコルベールに移さず、オスマンは手元の書類に筆をとっていた。
「オールド・オスマン…。あ、あの?なにをなさっておられるのですか?」
「いやの。ミス・ロングビルが急に用ができたとかなんとかで、今朝からいなくなってしまっての!仕事を全部わしがやらねばならんのだ」
「そうだったのですか。」
「…やはり少々スカートの中を見すぎたかの…」
ボソッとつぶやいた一言にコルベールは自業自得だとおもった。
「それで用事はなにかの?コルベール君」
「あっはい。 それがですね、このルーンを見てください。」
そこに書かれてきたのは昨日ウォルナットから写し取ったルーンだった。
それをみたオールド・オスマンは表情を一変した。
「詳しく教えてもらうか コルベール君」


そのころルイズたちは爆発の後片付けがやっと終わった。
片付けは昼休み前までかかってしまった。
昼休みになると他の生徒は軽い昼食を含めて使い魔や他の生徒との語らいをしていた。
そしてその場にルイズがやってくると一人の男子生徒が大声でしゃべりはじめた。
「あぁ午前中の授業のせいで、僕の髪の毛が少し焦げてしまった!!ほんとうに誰かさんの魔法は成功率が"ゼロ"なんだね!」
その男子生徒、ギーシュはキザで嫌みったらしく言い放った。
「くっ」
ルイズは唇を噛んだ。
反論したいけど、事実で反論の余地がなくギーシュを睨みつけた。
「何故キミは魔法をろくに1つも使えないのに二年生に進級してしまったんだい!」
ここぞとばかりにルイズにむかって、ギーシュはぶちまける。
ルイズは俯いてしまった。
ウォルナットからは一瞬だが、瞳から涙がこぼれるのが見えた。
「ちょっとギーシュ言い過ぎよ!」
ルイズとは仲が悪いはずのキュルケが一言止めに入った。
「ふん、キュルケ。 キミも本当は僕と同じ事を言いたいんじゃないのかい?
二年生になっても毎回こんな目に遭わされるなんてたまったもんじゃないってね!」
「そ、それは... でもそれはルイズはわざとやっているわけじゃないんだから!」
「キュルケ…」
半泣きのルイズはキュルケのほうを見つめた。
「ふん、どうだか…だいたいキミだって...ドッハ!!!」
と、ギーシュが更に不満をもらそうとした瞬間、彼の頬に拳が飛び込んだ。
周りの空気が一瞬にして凍った。
ウォルナットがギーシュに熱い一発をお見舞いしたのだ。
392『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:05:49.86 ID:yV0im+aF
「ウォルナ…ト」
ポカーンっとルイズは彼を見つめていた。
他の生徒は絶句していた。
「キ、キミ。なんて事をしてくれるんだね!きき貴族である僕に向かってなにをしたかわかっているのか!」
ギーシュは殴られた頬を押さえながら叫んだ。
「あぁ。オレが何をしたかって?目の前にいた五月蠅いハエをたたきつぶしただけだが」
「ハ、ハエだと。僕を貴族、グラモンの息子だと知っての事かい!」
"貴族"という言葉であたりは騒々しくなってきた。
「ハッ知るかよ!こちとらそんな奴ら相手にしたことないんでな」
嘘だ。ルイズにはウォルナットが嘘をついているのがわかった。
これはウォルナットが喧嘩を売ろうとしているのだ。
止めなければ!
「ちょっと、なにやっているの!今すぐギーシュに謝りなさい!」
「ハッ!お断りだ」
再び鼻で笑ったウォルナットにギーシュの怒りが限界にきた。
「ふ、ふん。 今ここで許しを請おうとしてきたら許してやっても良かったがいいだろう。決闘だ。 貴族が貴族たる所以を教えてあげよう!
ついてきたまえ。ヴェストリの広場で決闘だ」
といいギーシュは歩き出す。
ウォルナットはルイズの制止をきかず、ギーシュについていった。
そして今の出来事をみていた他の生徒たちも我先にと広場へと向かっていった。


広場には既に数人の生徒がいた。
もともといた者、この見物に来た者。
しかし誰もがこの二人の組み合わせを好奇の目で見ていた。
「もう一度チャンスをやろう!土下座をして僕にあやまれ!もう2度とギーシュ様に刃向かいませんっと」
それに対しウォルナットは何も答えなかった。
「そうか。 謝るつもりはないと」
「あぁ、これっぽっちもねぇな」
近くからルイズが叫ぶ声が聞こえたが、ウォルナットはそれを気にしなかった。
「そうか…」
低い声でギーシュは再び言うと、バラの形を模した自らの杖を振り下ろした。
そこから零れ落ちた一片の花びらが光、ゴーレムの形を成した。
「言い忘れていたが、僕の二つ名は青銅。 そしてキミの相手をするのは僕のゴーレム、ワルキューレ!」
そこには青銅の甲冑が現れた!
393『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/08(金) 18:06:20.77 ID:yV0im+aF
「行け!ワルキューレ!!」
そうギーシュがいうと青銅の甲冑がウォルナットめがけて襲い掛かってきた。
ギーシュはそのとき勝利を確信した。
それはギーシュだけではなかった。
平民がメイジ、貴族に勝てるはずがなかった!
しかしその予想は無残にも消え去った。
ウォルナットの一蹴。
それによりギーシュのワルキューレは砕け散った。
「そ、そんな」
一瞬の出来事にギーシュは唖然としていた。
「大したことねぇな。なんだ仕舞いにするのか?」
ウォルナットはさっきのルイズをみるギーシュのようにあざ笑う。
ギーシュは更に杖を振り乱し新しいゴーレムを幾多に手前に並べた。
今度こそ勝てる。
そう勝ち誇ったギーシュの予想は再び消え去った。
ウォルナットに一斉に飛び掛ったワルキューレは一斉に吹き飛んだ。

「ふん、イヴォワールの魔獣共はこんな土人形の100倍は強かったぜ」
「ま、魔獣だって・・・」
ドットクラスのメイジ、ギーシュはもちろん魔獣となど戦ったことがなかった。
かなう筈がなかった。そのとき自らの浅はかさを知った。
奴はわかって喧嘩を売ってきたのだ。
「僕の・・・負けだ」
自然と口から出ていた。

(うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)
周囲は一気にどよめいた。
(平民が貴族に勝った!!)
あちらこちらからそんなささやきが飛び交っていた。

「それじゃあ、あいつに謝ってもらおうか」
というウォルナットがいうとおとなしくギーシュはルイズに謝罪した。
「すまない。ルイズ、僕が言い過ぎた。」
「ううん 事実だし。 いわれても仕方なかったことよ」
とルイズは言い返した。
あたりは円満解決の雰囲気に包まれていた。
これで終わったそう誰もが思った。

しかし状況は一変した。
昨日のように暗雲が空を覆い、深いに轟く地響き、不快な醜気が漂い始め、獣のような叫び声がとどろき始めた。
そして一閃の雷と共に暗闇の中から昨日のモンスターがルイズたちの前に現れた。
「…サ、サルファー!!!」
ルイズは昨日ウォルナットから聞いたそれの名前を呼んだ。
しかしウォルナットは言い変えた。
「いや、これはサルファーの影。闇の化身だ」
や、闇の化身…。
どちらにせよ仰々しくまた禍々しいその姿にルイズだけではなく周囲の生徒、そしてウォルナットさえも息をのんだ。

第4話 前半 了
394ウルトラ5番目の使い魔 89話 代理:2012/06/08(金) 21:22:47.71 ID:biD5TSKW
395名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 21:23:52.44 ID:biD5TSKW
だからコテハン記憶チェック入っとらんというのに、この体たらくよ
396名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 22:06:02.45 ID:GR+MRm/P
三回目ともなるとわざとやってるんじゃないのか
397ゼロのドリフターズ ◆IxJB3NtNzY :2012/06/08(金) 22:42:28.87 ID:+bLXG+EK
こんばんは。
22:50くらいに第9話を投下します。
398ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:50:22.40 ID:+bLXG+EK
「――それじゃあ・・・・・・始めるか」

 言葉と共にメンヌヴィルの表情が完全な狂兇一色に染まり、ブワッと熱が膨れ上がる。
業炎が溢れ出したのとほぼ同時。メンヌヴィルは三つの影が動くのを感じていた。
中央前列のウェールズ近くの一人、向かって左に二人。

 続いて少し勝手は違うが聞き慣れたような火薬の破裂音が響いた。内いくつかは重なるように耳を震わせたその音。
敵の内の二人が原因だということはすぐにわかった。前列の一人と、向かって左の片一方。
形は独特のようだが、それは紛れもなく銃なのだろう――それも連発が可能な――。

 メンヌヴィルは鉛が蒸発した匂いに眉を顰めつつ攻撃を中断し、渦巻く炎を一旦周囲に置いておく。
魔法を展開するのが少しばかり遅れていれば、弾丸が当たっていたやも知れない。
撃ったのは丁度正面に位置する小柄な影。左手にナイフ、右手に銃器を構えているようだった。

 仲間が一挙に三人もやられたのをメンヌヴィルが把握したところで、たちまち乱戦へと発展した。
そうなれば今まで狂った己に付き従ってきた隊員達、魔法人形などはものともせず数の差を圧倒する。

(女・・・・・・それもガキか)
メンヌヴィルは眼前の者をすぐに理解した。されど女子供だろうが強者は強者。侮る理由にはならない。
そうでなくともメンヌヴィルは普通の人間よりも、対象の本質を知ることが出来る。
メンヌヴィルの持ち得る"眼"と、戦場経験が教えてくれる。
銃をしまってナイフのみをこちらへと向けているだけなのに、何か途方もないような圧迫感を感じる。

 「面白い」と考えている内に隊員は一人、また一人と減っていった。
最初こそ押し込んでいた。伏せていた隊員からも援護魔法が飛んでいる。
だが一人とてつもない術者がいた。最初に動いた三人の内、銃を撃たなかった方の男。
魔法で巧みに片一方を守りながらも、確実にこっちの面子を葬り、削り取ってきている。
まるで味方の重騎兵を捨て石にするように、容赦無く淡々と刈り取るサマ。

 その鮮やかさはただただ美しく、思わず惚れ惚れするほど。
戦において負ける気はしないが、単純なメイジとしての力量は今の己をも凌駕しているだろう。
否、今までに知る誰よりも凄まじい使い手。思わず震えてしまうほどに。
――まず無駄がない。その動きも、使う魔法も。相性を含めて的確に必要最小限で倒していく。
圧倒的な経験と、バトルセンスが為せる技。あれがきっとトリステインの凄腕とやらなのか。

 メンヌヴィルの中の冷静な部分が状況を観察し分析していると、またも破裂音が響いた。
銃士の男が初手以来、ようやく動きを見せたのだった。何か"長物"を構えて連続して撃っていく。
戦場でも味わったことのない、"連射できる銃身の長い銃"。敵方でそれを認識出来たのはメンヌヴィルのみ。
銃士の男はその銃をもって、伏せていた三人の隊員を順繰りに、確実に狙撃していった。
鋭敏に観察して出所を探っていたのだろう。片方が守り、片方が見つけて撃つ美事なコンビネーション。
399ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:50:45.97 ID:+bLXG+EK
 
(警戒すべきは三人か・・・・・・流石に正面から同時に相手するのは骨だな)
凄腕メイジは言うまでもなく、眼前の得体の知れない少女と、伏兵をどんどん殺していった銃士も油断ならない。
メンヌヴィルは決断する。だからせめてウェールズだけは殺しておく。"仲間もろとも"であろうが関係ない。
20年前の・・・・・・今の己のキッカケとなった男を、捜し出して焼き殺すまでは死ねない。
ウェールズさえ殺せば面目は立つし、今後の為にも金と人脈は必要だ。

 メンヌヴィルは微塵にも気配を見せずに、火勢を一層濃くして地中から炎を走らせた。
欲張れば地下を突き進む炎を気取られる。気取られれば不意討ちは失敗してしまう。
よって一人相手が限度だった。特にあの火水風土の四色メイジは油断ならない。
大地から伝わる違和感を、体を通して勘付かれる可能性が非常に高い。
そうでなくともあんな美味そうな三人を、いともあっさり殺すのは憚られる。


 数瞬の内に地盤を溶かしながら進んだ高熱は、正確にウェールズ達の足元から吹き出てあっさりと飲み込んだ。
ウェールズと、相対していた仲間の隊員は、声をあげる間もなく一瞬で燃え上がる。
そして同時に正面の少女から感情の動きが見て取れた。

(・・・・・・これは・・・・・・買い被っていたか?)
得体は未だ知れないし、威圧感のある少女。しかしたった今、感情に大きな揺らぎを見た。
それはすぐ隣でウェールズが死んだこととは・・・・・・また別物のようである。

 そしてこの場にいた最後の隊員の絶命を感じながら、メンヌヴィルから笑みが消える。
終わってみれば敵は残り三人――"最初に動いた三人"だけが残っていた。

 注目すべきは最初に虚を突いて、即座に撃ち殺した手並の銃士。
伏兵の位置を正確に補足し、撃ち殺していった力量。
ほのかに纏う空気も、間違いない。そう・・・・・・アイツが一番"コチラ側"に近い。
上品さの欠片もない。ただ無情に、一片の躊躇なく、殺すことだけを目的としていた。
凄腕メイジの無駄のなさとは違う。ただ淡々と、仕事をこなすように殺人を為した。
メイジでもないたった一人の銃使いと二挺の銃。実に6人もの経験豊富な傭兵メイジがあっさりと殺されたのだ。

 メンヌヴィルは改めて笑みを浮かべた。
魔法ではなく銃による効率的な殺し方。それもまたそそると。
疼く・・・・・・どうしようもなく。20年前のあの隊長以来に、心の中の種火が燻る。
やはりこいつらに俺を試したい。我が炎でもって焼き尽くしたい。

 だが20年も焦がれてきたあの男を諦めたくはない――だから聞いておこう。
今は必要とあらば逃げることも辞さない。既にウェールズを殺す目標は達成している。
だからまた会う為に、次に戦った時にその肉の香りを嗅ぐ為に・・・・・・メンヌヴィルは問うた。

「お前達の名が聞きたい」
400ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:51:05.56 ID:+bLXG+EK


「――それじゃあ・・・・・・始めるか」
メンヌヴィルの言葉が――その瞬間に発した殺気が合図であった。

 ――シャルロットは、リボルバーを抜いていた。目の前の男から炎熱が噴き上がるその瞬間。
遂に・・・・・・この時が来た。相対した状況からの、正真正銘の命の奪い合い。今まで幾度も考え悩み抜いてきた瞬間。
戦場特有の高揚感なのか・・・・・・頭も鈍くなく、気配を敏感に察して動けている。我ながら驚くほどに。
そして――殺す。殺すしかない。肌がピリピリと焼けそうなほどの強烈な殺気。その根源たる手練れの術者。

 まだまだ練度は低いものの、何度も繰り返してきた動作。
右手で銃を引き抜きながら親指でハンマーを起こし、銃口を敵に向ける。トリガーを引く。
未だ低い命中精度は連射で補う。右親指でコックして何度も連続して撃つ。2発――3発――。
ワンテンポ遅れて4発目を撃ったところで無意味を悟る。弾丸が一切"届いていない"と。

 弾の無駄と知れば、シャルロットは銃をホルスターへと戻す。
他の敵にも撃とうと思ったが既に乱戦へと相成り、不意を討たねば自分の弾丸は当たらないだろう。
それに何よりも眼前の敵首領と思しきメイジから目を離せない。それほどのプレッシャー。

 他の敵も自分には手を出してはこなかった。戦闘狂は戦場ではザラにいる人種。
往々にしてそういった種類の人間は、自分の獲物を掠め取られることを非常に嫌う。
目の前の男もその類で、周囲もそれをわかっているのだろう。
だから自分は二人を信頼し任せ、敵首領だけを相手にしていれば良い。
眼前の敵を止めておくことが最優先、己のすべきことだと判断する。

 左手で順手に持ったナイフの刀身を、差し出すように向ける。
押し潰されそうな緊張感の中でも。集中一つ乱さず敵首領を互いに釘付けにし続けた。


 ――キッドは、シャルロットと同時に・・・・・・されどシャルロットよりも早く銃を撃ち込んでいた。
視界に映っていたメイジを適当に選び、各人二発ずつ計三人。確実に胴体へと弾丸を叩き込む。
拙いシャルロットとは比較にならない高速連続精密射撃。積み上げられた技術の年季が違う。
銃の名手としての実力を、ガンファイターとしての力量を、遺憾なく発揮していた。

 撃鉄部に左手を添えて、手の平で仰ぐように連射していく『ファニング・ショット』。
命中精度こそ落ちるものの、それでも一発も外すことなく的確に命中させた。
常人であれば3発分の音しか聞こえないほどの連射間隔。

 とりあえず直近の仕事は終えたと、周囲を警戒しつつもキッドは悠長にリロードを始めた。

 
401ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:51:27.45 ID:+bLXG+EK
 ――シャルルは、銃よりは遅いがそれでも詠唱速度は有象無象をものともしない。
魔法で風の障壁を張って安全を確保したところで、戦場はようやく脈動した。
ウェールズも、お付きの護衛達も、敵傭兵部隊も、一斉に動き出して大乱戦となる。

 魔法を使えないキッドを守りながら、素早くも焦らずにシャルルは相手を選別していく。
火、水、風、土を様々に掛け合わせ、時に堅固に、時に柔軟に、効率良く敵性戦力を無力化させていく。
空気の流れを知り、温度変化を読み、踏みしめる地から伝わる感覚で戦場を把握し立ち回る。

 四系統をそつなく使いこなす万能さ。器用貧乏とも言えるが、それはデメリットではない。
どれも中途半端な系統特性だったからこそ、全てを伸ばすことが出来た。
それぞれを使いこなせるからこそ出来る戦術。圧倒的な対応力が実現する。
伝説や物語にも残るメイジのような華々しさはない。だけどそれで良かった。

 今の力があるからこそ守れるものがあるのだから。



 感覚が麻痺しているのだろうか。シャルロットはそんなことを心のどこかで思う。
眼前の敵は動かない。こちらも動かないし・・・・・・動けない。
詠唱して攻撃するタイミングを掴めない。しこりのように、何故だかどうしようもない気持ち悪さが残る。
こちらを見ているようで・・・・・・見ていない。まるで見えざる手で、心の臓腑を鷲掴みされているような感覚。

 依然として微動だにしない敵の周囲を、炎が生物のようにうねっている。
『火』は――破壊に優れ、戦争向きの系統と言われる。それもそうだ、炎とは攻防一体。
単純な熱量による高火力は、土も、水も、風さえも届かない。

 延焼すれば被害は拡大し、ひとたび燃やされれば呼吸が――詠唱がままならない。
結局のところ、どの系統であろうが"最強"とは術者と環境次第である。
ただ炎は四系統の中でも特に強度幅が顕著であり、殆どの魔法が攻撃向きなのが特徴。
風系統のような小器用さはいらず、ただ威力を高めるだけで十二分に強力になる系統だ。
 
(それにしても・・・・・・)
目に焼き刻むほどに燃え続けるあの炎は異常だ。父様やキュルケの炎とは明らかに違う。
まさに戦の為だけに練磨し続け、それまで焼き殺してきた全ての魂を燃料にしているかのような禍々しさ。

 もちろん魂だの霊だのといった類のものは存在しない――信じていない。
そんなシャルロットでも錯覚せざるを得ないほどの、立ち昇り続けるオーラ。
フーケも大概だったが、この男はさらにレベルが違う。炎を極めたと言っていいメイジだろう。
 
402ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:52:01.36 ID:+bLXG+EK
(初めてまともに戦う敵としては・・・・・・荷が重い)
こちらが詠唱しようにも駄目だ。先に動いたら負けると"思わせられる"。
手の中にあるナイフと、自分の特性が併せれば"そんなことはない"筈なのに。

 戦素人である己のチャチな第六感でも告げている。警鐘を鳴らしている。
実戦経験はほぼ無きに等しく、本能よりも理屈をとるタイプのシャルロットであったが、ここだけは踏み留まる。
最初は魔法による全力火力で攻めようと思っていたが、結局は銃での先手に切り替えた。無意識に選んでいた。
結果論だが、日和ったのは正解だったかも知れない。魔法を放てば敵も黙ったままではいまい。

 相手が炎系統の実力者とわかった上で、今こうして睨み合いながらゆっくりと戦術を考えられる。
焦って仕掛けていれば、"初撃で死ぬことはなかろう"が、畳み掛けられた可能性は無いとは言えない。
(これもまた一つの好機と見る・・・・・・)

 シャルロットは自身で気付かぬまま――笑みを浮かべていた。



 深めに被ったハットの下で額のルーンが一層輝く。
(う〜ん、カオスだ・・・・・・)
キッドは心の中で溜息を吐きながらも、澄んだ心で状況を見続ける。
ある意味美しくも見えなくもない、魔法飛び交う乱戦――。
安請け合い・・・・・・というほどではない。本当に敵が攻めてきたが想定の範囲内でもある。
とにかく幸いだったのがシャルロットの父親シャルルが、予想を遥かに超えて凄まじかったことだ。

 魔法に疎いキッドでも「これなら問題ない」と確信するほど。
心配の必要もなかろうが、一応シャルロットの方も目を向ける。あっちはあっちで膠着状態のようであった。
リロードしながら様子見をしていく内に、徐々に"魔法人形"の減少を感じる。さながら肌で直接感じるように把握する。

  "神の頭脳『ミョズニトニルン』。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す"。
ブッチが刻んだ『ガンダールヴ』同様、キッドが額に刻むそれも伝説のルーン。

 ガンダールヴはあらゆる"武器"を使いこなし、ミョズニトニルンはあらゆる"魔道具"を使いこなす。
ブッチのそれと違って身体機能の強化こそないものの、同時に扱える魔道具に際限はないようだ――。
――少なくともここ数日。休息を挟みつつではあるが、普通に動かすだけならば限界というものは見えなかった。
ガンダールヴには発動時間に限りがあるが、ミョズニトニルンはひたすら安定していた。
 
403ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:52:18.90 ID:+bLXG+EK
 ハルケギニアには様々な"魔道具"が存在し、用途も多岐に渡る。
生活用品から戦闘用品まで、作り手の実力次第でどのような物品でも作れる。
その最たるものが『魔法人形』である。"ガーゴイル"とも呼ばれ、各所で見られるポピュラーなもの。
連絡・運搬・警備・娯楽など生活の一部として運用されている。

 形状は人型から獣型まで、大きさも小動物から建造物並まで。飛行するタイプなども存在する。
才能ある土メイジが素材と環境に恵まれれば、本物の人間と見紛うほどの精度でも創れるとか。
特殊な効果を持たせることも可能であり、大半は遠隔自動操縦型で相応の魔力を必要とする。
より高度な動作を可能とするガーゴイルほど魔力が必要であり、外部入力を要する場合もある。

 ウェールズを護衛する一団の、殆どを占めていたガーゴイル人形は戦闘用であった。
40を超えるガーゴイルに重厚な兜や鎧を着せて中身を隠し、槍・剣・盾などを持たせた上で馬に乗せた。
喋りはしないものの反応はまさに人そのものであり、熟練部隊のような動きで行進した。
だから誰も疑わなかった・・・・・・人間じゃないなどとは。数こそ少ないが精兵がついているのだ、と。

 首都ロンディニウムからずっと――キッドのミョズニトニルンは人形を動かし続けた。
魔力も知識も持たない漂流者が、まるで片手間と言わんばかりに微細な操作で魔法人形を人間のように見せた。
触れるだけで魔道具の性質を余さず理解し、どんな魔道具でも無尽蔵に使いこなす。
ガンダールヴ同様、ミョズニトニルンもまた伝説のルーンに恥じぬ効力を持っていた。


(・・・・・・伏兵か)
遠間からの魔法。どんどん数を減らされている要因をキッドは悟る。
待ち伏せなのだから当然の備えであるし、驚くことでもなかった。
キッドはリロードを終えていた銃をしまうと、肩に掛けていたウィンチェスターライフルへと切り替えた。

 敵がこちらを視認可能な距離なら、こちらも概ね狙撃可能な筈。
鷲の眼のように鋭く見ると、雑把にアタリをつける。
ワイルドバンチとして活動していた頃に、隠れては襲撃ということもやっていた。
だからこそ今の自分達と逆の立場になって考えればなんとなくわかる。自分達なら一体どこに陣取るのか。
おおよその位置に見当はつく。さらに魔法の飛んでくる方向を見ればほぼ間違いない。

 敵の姿を確認すると、ゆっくりと息を吐きつつライフルを構えて体を固定する。
伏兵が様子を窺い、魔法を放とうとする僅かでも確かに存在する時間。
まずはどこでもいいから一発、怯んだところに二発、トドメに三発。それで終わり。

 障壁から少しだけ乗り出した身を戻し、また次へと照準を合わせて狙撃する。
遠距離から攻撃してくる視野の狭い伏兵は、周囲への――それも他の方向の伏兵がどうなったかなど気付けない。
だから既に一人を殺していても警戒されることもない。まして連射式の銃が普及していない世界。
敵伏兵隊員には、何かおかしなことをやっている奴・・・・・・としか見えていなかった。
 
404ゼロのドリフターズ-09:2012/06/08(金) 22:52:52.44 ID:+bLXG+EK
 シャルルが確実に守ってくれているおかげで非常に楽な仕事。
伏兵が完全に沈黙する頃には、戦場もほぼ収束しつつあった。
こちらの魔法人形による重装騎兵隊は全滅。お供のメイジ達も皆やられていた。
メイジの数では負けていても、単純兵数では3倍以上はいたのだが・・・・・・それだけ敵が強かった。
そして巧みにガーゴイル達を囮や壁にしつつ立ち回ったシャルルが、誰よりも凄絶であった。

(とりあえず大丈夫そうか)
最も頼れる戦力――取り返しのつかない人間は誰一人欠けていない。損害としては非常に軽微だ。

 またもシャルルが敵を屠ったところで、やっこさんらも残すところ三人。
未だシャルロットと睨み合いを続けている敵リーダーで一人。
魔法の刃でウェールズと白兵戦を繰り広げている敵メイジで一人。
そしてシャルルは残る一人を殺す為に動いていた――時だった。

 剣戟を繰り広げていた敵メイジもろとも、ウェールズの足元から炎が出現した。
昼間をさらに明るく照らすその炎柱に、思わずたじろいでから原因へと目を移す。
やるとすればもう一人しかいない。気配の濃すぎるその男。シャルロットと対峙している男。

 あんなものをもし自分が喰らっていたらと思うと冷や汗が滲んだ。
多少なりと守られていたとしても、あれはひとたまりもないだろうと。

 ――瞬く間にシャルルが敵を殺して戻って来る。
「すまない、次はさせない」
守るという約束であったし、結果的には免れた。が、自分の不甲斐なさにシャルルは謝る。
されど事実としては違う。それだけ敵が強者であることの証明であった。
まるで"意識の間隙を突くような"絶妙な機で、その凶悪な炎を見舞ったのだ。

 キッドは返事をせず、現況を眺めつつ考える、この場で生き残ったのは四人。
結局敵側の最大戦力と思しき人物は健在で、今までの乱戦すら前哨戦と思えてきた。
だがこれ以上ないくらいに、敵はこちらの"策"に嵌まってくれていたのは確か。
ウェールズが死んだことすら何も問題はない。全てが大きな戦略の予定調和の一つと言える。

 本来の目的たる仕事は既にほぼ果たしていると言って良かった。
首都周辺で襲い掛かって来ようものなら、流石に少し問題はあったが――。
それでも一挙両得の作戦は成った。そして貴族派がこうして敵を送り込んできたおかげで一石三鳥になる。
報酬もきっと大幅に増えるだろうとキッドは感謝した。命を懸けた甲斐もあったというもの。

 ここからもう戦局は決まったようなものだろう。自分達が死にさえしなければいい。
べらぼうに強いシャルロットは当然として、ガードに専念するシャルルがいれば己の身も安全だろう。

 とはいえアレは少しヤバそうだと見つめる。
仲間もろとも構わずウェールズを焼いた、異様で冷血な大男。
それは同時に現実主義者で、揺らぐことなき鋼鉄の精神を持っているということに他ならない。

 ここから負けるとは思わない。ここからひっくり返るようなことはない。
(だけどまだ・・・・・・一波乱はあるかも知れないな)

 キッドの中で積み上げられた経験がそう言っていた――。
405名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/08(金) 22:53:31.07 ID:+bLXG+EK
以上です。ではまたさようなら。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 09:49:53.52 ID:XzdVOTbT
>>395
自分の投下する用と代理投下用で専ブラ違うのにしたらどうかな
407名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 16:42:23.25 ID:inkYjLDB
ディーキンのアーケインマークって六文字までだったら、ガンダのルーン作れなくない?
408名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 17:12:07.57 ID:pkS4Vwpr
ガンダールヴのルーンである必要なくね?
409名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 17:25:08.06 ID:XTBOmdCe
偽装にわざわざ伝説のルーンはチョイスせんだろうと思うが
410るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:12:39.09 ID:+vdkyyFE
皆さんお久しぶりです。今回もズレてしまって申し訳ありません。
もし大丈夫でしたら、二十分頃に投下を始めたいと思います。
411るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:20:44.51 ID:+vdkyyFE
それでは、投稿を開始します。


「剣心、今日はあんたに『剣』を買ってあげるわ」
 ある日の朝、剣心に起こされたルイズが、出し抜けにそう言った。
ここに召喚されてからもう、それなりの数日がたっていた。
使い魔の仕事にも大体慣れ、安定した時間を過ごしていた剣心は、これを聞いて今日はそうはいかないだろうなぁ、と心中そう思った。
 別にルイズが突飛なことを言うのは、珍しいことじゃない。言ってることがコロコロ変わったり、論破されると真っ赤になって怒ったりと、
それに比べればまだ優しい方だ。
しかし、街に行くのはいいとして…何故武器を? そう思った剣心は、自分の腰の逆刃刀を手に当ててルイズに見せた。

「拙者にはこれがある、無理して買ってもらう程、困ってはござらんよ」
「前から思ってたけど、こんなナマクラのどこがいいのよ?」
 ルイズは、勝手に剣心から刀を引っこ抜くと、それをまじまじと見つめた。
実は過去に一度、ルイズにも逆刃刀を見せてあげたことがあったが、峰と刃が逆についた刀を眺めて、シエスタと同じような疑問をぶつけた。
 その時剣心は、ルイズにもシエスタと同様の答えを返したのだが、シエスタと違い貴族出身でお嬢様気質のルイズからしてみれば、
「彼が貧乏人だからこんなモノしか持っていない」と変な方向へと解釈していたのだ。

「斬れるかどうかもわからない武器なんか持ってるより、あたしがもっと良いものを買ってあげるわよ」
 感謝しなさいよね、と付け足しながらルイズはエヘンと胸を張る。無論というか、これにはちゃんと訳、というか狙いがあった。

 ルイズは、キュルケと剣心との、あの夜の絡みがあって以降、ちゃんと自分がご主人様であることを、どうやって示せばいいかずっと考えていた。
どういう理由があろうと、宿敵であるツェルプストー家に自分の使い魔を取られたとあっては、ただでさえヴァリエール家に塗りたくっている泥を、
さらに上塗りしてしまうからだ。

 これ以上生き恥は晒せない。そこでどうやって剣心に関心を持ってもらうか、結局行き着いたのは「何かを買い与える」という手段だった。
しかし、剣心は何を欲しがっているのかさっぱりわからない。聞き出すのも面倒だ。そんな矢先に逆刃刀の話に流れ込んだため、
じゃあ剣にしよう、という風になったのだ。

「買ってもらっても、使わないでござるよ? それでもいいで――」
「ホラ、ちゃっちゃと仕度しなさい、早く行くわよ」
 せっかくの反論も聞く耳持たず、ルイズはさっさと部屋を出ていってしまった。
はぁ…、とため息をつきながら、どう言ったら聞き入ってもらえるのかと思案しながらルイズの後を追った。



     第六幕 『伝説の剣』



そんなルイズ達からところ変わって。
今日は虚無の曜日ということで、皆が遊びで街に繰り出したり、楽しいひと時を過ごしたりなど、自由な休日を味わっていた。
自室で本を読む少女、タバサもその一人。
いつもいる騒がしい友人が、この日は来ないため、ひょっとしたら…とか思いながら静かにページをめくると――

ドタドタドタ、と走ってこちらに向かって来る音が聞こえてきた。
タバサは、その音を聞くなり隣に置いてある、身の丈以上もある杖を手に取り、ボソボソ声で『サイレント』を唱えた。
それに遅れて、キュルケが慌てた様子でタバサの目の前までやってきた。
キュルケは、しばらく何事か自分に向かって話しかけていたが、やがて声が聞こえていないのがわかると、困ったような様子で肩を思い切り揺さぶり始めた。
412るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:22:02.81 ID:+vdkyyFE
流石にこれでは読書どころではない。仕方なく『サイレント』を解くと、キュルケの大きな声が耳元で響いてきた。

「タバサ、今から出かけるわよ! 早く支度してちょうだい!」
「……虚無の曜日」
 鬱屈そうな様子を隠そうもせずタバサはそう言うと、再び本に視線を落とした。
キュルケは、そんなタバサから本を取り上げると、頼んでもいないのに事の顛末を話し始めた。

 簡単に纏めると、また新たに恋をした男が、今度はミス・ヴァリエールの使い魔らしい。
それで、どうやって自分の情熱をアピールしようかと考えてた矢先、彼は主人と共に外出
したという。
 追いかけようにも、馬に乗っている以上、徒歩では追い付かない。そこでタバサの使い
魔でもある風竜・シルフィードを借りたいということだった。

「……わかった」
 しばらく考え込んだ後、タバサは抑揚のない声でそう言った。
キュルケほどではないが、実はタバサも剣心には興味を持ったクチだ。
あの決闘――特に終盤の集団戦を、相手が隙だらけとはいえ、何の苦もなく回避していた。
そしてあの、高々と跳んだ剣閃と、最後の一瞬の動き。
 注意深く目を凝らしていたのに、刹那にして視界から消え失せ、ワルキューレを粉砕し、ギーシュの杖をもぎ取ったあの動作は、
驚きの歓声があがるまで自分でも全然わからなかった。

 恐らく彼も、自分と同じか…否それ以上に、幾度も死線を乗り越えてきた猛者なのだろう。
そういった意味では、未だ隠している実力について、タバサにとっては大いに関心があったのだが、だからといって特段どうこうするつもりはない。
いつか彼の本当の力が見れたらいいなと思う程度だ。

 まあ、そう考えれば彼の動向を探るのにいい理由が出来たし、読書だって飛行中でも充分読める。
それに拒否すれば、納得するまで帰らないだろうキュルケが、隣でずっと騒がしくしているよりかはそっちの方が有意義か。――そうタバサは結論づけた。

「ありがとね、タバサ! やっぱり持つべきものは友人ね!」
 隣で嬉々としてはしゃぐキュルケをよそに、タバサは窓を開けて口笛を吹いた。
すると窓の外から、タバサの使い魔、ウィンドドラゴンの幼生シルフィードが顔を出し、二人をその背中に乗っけるとバサバサと翼をはためかせ、宙へと飛んだ。



 一方、ルイズと剣心はトリステインの城下町に到着し、その街並みを練り歩いている最中だった。
 白い石を基調に造られたこの街は、行き交う人々や商人の声が常に聞こえ、活気のある雰囲気を作り出していた。
こういった喧騒は、どこも変わらないなと、剣心は色々な店や商品を眺めて思いながら、武器屋を探すルイズの後を追った。
413るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:23:29.74 ID:+vdkyyFE
しばらくすると、人気も少なく段々と狭くなる路地裏へと入っていった。
その中の一つに武器屋があるのをルイズは確認すると、扉を開けて店の中へ入った。
成程、確かに如何わしい感じが辺りを漂っているが、並んでいる剣や甲冑は武器屋というだけあって見事なものだ。
その店の奥にいる、店主と思しき親父が胡散臭いような目でこちらを見ていたが、ルイズが貴族だとわかると、急に畏まった調子を取った。

「貴族の旦那、うちはまっとうな商売をしてまさあ、お上に目をつけられることなんか、これっぽっちも――」
「客よ」
 店主の言葉を遮って、ルイズはそれだけ伝えると、剣心の方を指差した。
「剣をお使いになるのは、この方で? けど立派な武器を腰に刺してるじゃないですか」
「いいのよ、とにかく適当に見繕って頂戴」
「まあ、若奥さまがそう言うなら、うちは構いませんが……」
 そう言いながらも、店主はニヤリと口元を歪ませた。世間知らずの嬢ちゃんめ、せいぜい高く売りつけてやる。そういった雰囲気を漂わせている。


 ただ、この部屋に入ってきてからというもの、当の剣心は何故か辺りをキョロキョロと見回していた。
「何やってんのよ、ケンシ――」
 見とがめたルイズが、そう言いかけて気づいた。さっきまでのほほんとした表情だった剣心の眼が、今は鋭くつり上がっていることに。
ギーシュの時に見せた、あの眼だ。
それは、興味や探究といった感じで見回していないのは明白だ。もっと別の、何かを警戒しているような……。

「……そこの者、隠れてないで出てきたらどうだ?」
 空気の中に混じる、微妙に小さい音を聞きつけて、「誰かがこっちを見張っている」そう確信した剣心は、腰を落として指で刀の鍔を弾いた。
キンッ、という金属音が微量ながらも響きわたり、その下からは鈍く光る刀身が顔を出す。辺りにはには緊張感が漂う。
 やがて、店内から店主のものではない、けたたましい声が聞こえた。

「――へえ、まさかここで俺の存在に気がつくたぁね」
 その音を頼りに、剣心はゆっくりと歩を進める。
しかし、声が聞こえてきた場所には、乱雑に置かれた剣が置いてあるのみで、人影らしきものは見つからない。
 警戒を解かず、慎重にその一つの剣に手を伸ばしてみると、急に剣の鍔をカチカチ鳴らしながら声を発した。

「今度のは、ちったあマシな奴が現れたじゃねえか」
 剣が喋った……? 剣心は急に目を丸くした。ここにきて色々と不思議なことを体験した剣心だったが、
流石に言葉を話せる剣がいたことに対して驚きを隠せない。
「珍しい、それってインテリジェンスソード?」
 ルイズも、不思議そうな顔をして店主に訪ねた。
意思を持つ魔剣、インテリジェンスソード。噂に聞く程度だったが、実物を見たのはルイズも初めてだ。
「そうでさ、しかしこいつは口は悪いわ、客にケンカを売るわでこっちとしては、ほとほと困っているわけでしてね」
「ヘッ、事実を言ったまでだ、どいつもこいつも見栄えだけ気にして、一丁前なことだけ抜かしやがるヘナチョコ相手に、
ホントの事言って何が悪いってんだ!?」

 一瞬、ルイズもムッとした表情になった。まさに今、その剣の言う通りな事を考えていただけに、この言葉はとても鼻についたのだ。
しかし剣心は、そんな彼女をよそにさっきとは一変して、面白そうな感じで喋る剣を手にとった。
 身の丈は、剣心と同じくらいだが、それでも中々な長さにちょうどよく反った片刃の剣で、刀身の表面は磨かれていないのか、ボロボロに錆び付いていた。

「……おでれーた、てめ『使い手』か?」
「おろ?」
 急に呟くような口調で、剣がそう言うと、なんのことだかわからない剣心を無視して、何事かブツブツ言い始めた。
「それだったら、さっきの反応も納得だな――よし、てめ、俺を買え」
414るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:25:17.30 ID:+vdkyyFE
 いきなりの勧誘に、剣心は驚いた。買うといっても、特に使う予定はない。何度も言うが自分には逆刃刀があるし、
それ以外の剣を使う気はこれっぽっちもない。
「拙者、剣を使う気も買う気もないでござる。それではこれで」
 そう言って、デルフを丁重に仕舞い店を出ようとする。慌ててデルフが叫んだ。

「ちょいちょい待って!! 取り敢えず買っておくれよ!! 出番がなくなっちまう!!」
 意味不明な事を叫ぶデルフに対し、剣心はきっぱりと告げる。
「いや、拙者にはもう刀があるし、これ以外を使う気などないでござるよ」
「まあそう言わずに、お願いだからさ、損はさせないからよぉ!!」
 悲痛な叫びを上げてデルフは剣心を引きとめようとする。流石に少し可哀想になってきた。仕方なく、剣心は顎に手をやって考える。

 しかし、改めて見るとデルフの見た目は、かなり年季の入ったものだというのは理解できる。ということは長い年月を生きてきたはずだ。
使うかどうかは置いといて、もしかしたら元の世界への情報や秘密…でなくとも何かしらの情報を握っているかもしれない。その可能性はある。
それなら、持っていても損はないだろう――そう思い直し、剣心は決めた。
「仕方ないでござるな……」
「イイィィィィィィィヤッホォォォォォォ!! ありがとよ相棒!!」
 すごく喜ぶデルフを見て、引くに引けなくなった剣心は、今度はチラリとルイズを見る。

「どうでござる? ルイズ殿」
「えぇ〜、あんなのがいいの?」
 明らかに嫌そうな声を隠そうともせず、ルイズは不機嫌な顔をした。
しかし、他にパッと見たあたり、別の、それも豪勢なものとなると、金貨でも千や二千は下らないものばかりだ。
 今の手持ちが、新金貨で百程度だということを踏まえて考えると、やはりこんなボロ剣しか買えないのが相場らしい。
 仕方なく、といった感じでルイズは聞いた。

「あれ、おいくら?」
「あれなら、百で結構でさ」
 店主は、適当な様子で手をヒラヒラと振った。厄介払いができて清々する、というのが正直な本音だろう。
 ルイズも、それを聞いて後に引けなくなり、結局のところ百の新金貨を支払って、このボロ剣を購入することにした。

「まったく感謝しなさいよね、ケンシン! ボロ剣!」
「誰がボロ剣だ! 俺にはデルフリンガーっちゅう立派な名前があるんだぜ!!」
 ボロ剣、もといデルフはそのまま鞘に収められ、それを剣心が背負う形で肩にかけた。
流石に剣心の身長ほどもある大剣を、腰に指すわけにはいかないので最終的にそうなった。
取り敢えず、当初の目的を果たす事が出来たルイズは、これでもうキュルケなんかに目がいかないでしょ。とか思いながら、
そのまま剣心と帰路についた。
415るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:27:13.94 ID:+vdkyyFE
 その夜、ある貴族の館で、事件が起こっていた。二つの月が照らし、皆安らかに寝静まる夜の世界。
 館の主、モット伯は、恐ろしさと怖さで、ただただ体を震わせているしか無かった。
足元には、配下の警備兵達『だった』モノが、あちらこちらで血の池を作っている。中には杖を持った連中もいたが、皆関係なしに死体と成り果てていた。

そして目の前には、赤い血を刀に滴らせる、男が一人。
今までモット伯が見たこともない、その異様な格好は、この状況では更に恐怖心を演出していた。
 役立たずめ、と死んだ兵士に毒づきながらも、モット伯は後悔していた。何故、あの手紙の意味を、もっと深く読み取ろうとしなかったのかと。


 ふと届いた一通の手紙。差出人不明で出所もナシ。そしてその外見は、黒々とした封筒に包まれていた。
 封を開けてみれば、そこには異国の文字とも取れるような落書きと、ここだけは分かる日付と時刻が書かれた奇妙なメッセージだけ。

 貴族の自分に向かって、悪戯とは何ともいい度胸ではないか。激昂したモット伯は、その手紙の主を詳しくあたって見たが、結局分からずじまい。
 そしてその中で、平民にしておくには惜しい程の可愛いメイドを見つけ、是非自分の物にしようと企む内に、結局手紙のことはすっかり忘れていた。

 その結果が、今のこの状況を生み出した。
モット伯は、足がすくんで動けなかった。戦う気力なんてない。その悉くを奪い去るほど、その戦闘は悲惨なものだった。ただ、震える声で命乞いをするばかり。

「た…頼む……命だけは…」
「うふふ。貴族様も、維新志士様と大した違いはないようだねえ。どいつもこいつも手前勝手な豚共ばかりだ」
 男は、笑うようにそう言うと、ゆっくり刀をモット伯に向ける。助ける気は皆無のようだった。
 モット伯は、悲鳴を上げて必死に逃げようとして―――

 ――急に、体が動かなくなった。
この事態に、半ばパニックに陥る。声すらあげられないため、魔法も使えない。ただただ、ゆっくりとやって来る男の凶悪な笑みを、見ていることしかできなかった。

「うふふ、死ーね」

 白刃が降り下ろされるのと同時に、モット伯の、心の底から出た最後の悲鳴が館中に響きわたった。
416るろうに使い魔:2012/06/09(土) 19:31:36.52 ID:+vdkyyFE
今日はここまで終了です。しばらくは原作に添う展開になるかとは思います。
それではお付き合い頂きありがとうございました。また来週にお会いしましょう
417使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:24:59.12 ID:y2cP2MNj
剣心の人投下乙
20:30より投下予定
418使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:31:02.55 ID:y2cP2MNj
第11話『運命』
舞踏会から数日が経った、ある日。

水の中に浮かんでいるような感覚。
ルイズは過去の風景を見ているのだと気付いた。
母親に叱られ、池のほとりの小船でうずくまっていた幼い頃の夢。

その度に優しい子爵様が手を差し伸べてくれた。
いつものように手を取って、夢から覚める……はずだった。

目を覚ましたルイズが次に見たのは、薄暗い部屋だった。
暗く感じるのは揺らめく灯りの所為で、建物自体は立派な代物に見える。

「……ハア……ハア……夢か……やな夢だったな」
聞こえてきたのは、ルイズにも馴染みのある声。

「アセルス!?」
ルイズが驚いて叫ぶも、アセルスには届いていない。

「ここ、どこ?服が破れて……血の痕?
どっか怪我したのかな……じゃあ、ここは病院?」
現状がどうなっているのかまるで分からない有様で、周囲を見渡していた。

ルイズもかつて見た夢を思い出していた。
人ならざる者を乗せた馬車に、アセルスが跳ね飛ばされていたと。

アセルスは尚もうろたえながら、部屋を出て行く。
置いていかれるまいと、ルイズも慌てて後を追いかけた。

城は異様としか表現できない代物だった。
上層には化け物が飛び交い、置かれた棺には人が入ったまま並べられている。

「こんな所にも花がある」
アセルスがたどり着いたのは白い花壇。
優雅に飾られた花も、城に漂う雰囲気の前に不気味でしかない。

「ここの城主も意外といい趣味かな……うっ」
花畑に近づいたアセルスの心臓に、背後から剣が突き刺さる。

「え?」
ただ呆然とするしかないルイズ。

「血は紫か」
後姿だけで顔は見えない。
突然現れた男が一言呟くと、姿を消す。
白い花はアセルスの体から流れた鮮血に染まっていた。

──鮮やかな紫色に。
419使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:35:01.95 ID:y2cP2MNj
「……生きてる……傷が……ない……夢なら覚めて、お願い!!」
心臓を貫かれながらも生きていた事実に混乱する。
血に塗れた姿のまま、アセルスは何かに導かれるように歩く。
しばらく降りた先にたどり着いたのは、壮大な玉座の置かれた広場。

「名は?」
玉座に座る男が尋ねる。
声の主にルイズは聞き覚えがあった。
アセルスから流れた血を確認していた人物だと気付く。

「私はアセルス。
でもね、人に尋ねる前に自分で名乗るのが礼儀だと思うな」
「この無礼者!」
配下の者がアセルスの態度に憤るが、当の本人は気にした様子もない。

「アセルスか、人間にしては気の利いた名だな……気も強い、いい事だ」
「そろそろ名乗ったらどう?」
アセルスの催促に、配下達が次々と口を開く。

「魅惑の君」「無慈悲な王」「薔薇の守護者」「闇の支配者」「美しき方」「裁きの主」
「ファシナトゥールの支配者、この針の城の主」

「妖魔の君、オルロワージュ様」
最後の一人が彼の名と正体を告げる。

「妖魔……妖魔だったのね!私は人間、あなた達には関係無いわ」
家に帰すよう懇願するアセルス。
オルロワージュと名乗る男は、二つ名の通り無慈悲な声で告げた。

「先ほど花壇で見なかったのか?
お前の血は紫だった、お前はもう人間ではない」
「嘘……」
アセルスは後ずさりしながら呟く。

「セアトの剣で串刺しにされた、その傷はなぜ無い?
そもそも、我が馬車に轢かれてお前は死んでいた」
アセルスは何も言わずにただ青褪めて、震えていた。

「お前が甦ったのは我が青い血の力、妖魔の青と人の赤。
二つの血が混じりあいお前の血になった、紫の血の半妖半人だ。」
「私が……」
人でなくなった現実を受け入れられないアセルス。

「アセルス!」
絶望する彼女に手を差し伸べようとして、ルイズは飛び跳ねるように起きた。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 20:35:29.02 ID:LUyC+kBL
しえん
421使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:39:54.96 ID:y2cP2MNj
「また……アセルスの過去?」
激しく脈を打つ心臓を抑え、呟く。
気を落ち着かせる為に、窓を開けて換気する。

時刻はまだ夜明け前、ルイズの髪を冷たい風がそよぐ。
アセルスが部屋にいないのは、『食事時』だからだろう。

ルイズも必要だと分かってはいる。
アセルスも気遣って、ルイズが寝静まった頃に向かっていた。
だが目覚めた以上、独占欲から嫉みにも近い感情がルイズに芽生える。

「はぁ……使用人に嫉妬してどうするのよ」
頭を振って反省したのは、ルイズが成長した証。
同時に、アセルスに対する信頼の現われでもあった。

再び夜風にあたり、頭を冷やす。
身を乗り出した際に、下にいるメイドの姿に気付いた。

「あら、シエスタ?」
呼びかけた訳ではなかったのだが、シエスタに声は届いていた。

「ルイズ様?」
見上げた先に、自らの仕える少女の姿。
シエスタの目は、驚いたように見開かれている。

「こんな遅くまで仕事?」
「今日は遅番ですから……
ルイズ様こそ、こんな夜更けに如何なさいましたか?」
至極真っ当なシエスタの返事に、ルイズは硬直する。

アセルスの過去を話すのは躊躇われる。
夢見が悪かったと言うのも、あらぬ勘違いをされそうだ。

「ちょっと寝つきが悪くて」
多少は誤魔化しながらも、正直に告げた。

「でしたら、ホットワインでもお入れ致しましょうか?」
「……そうね、お願いするわ」
仕事の邪魔をするようで悪いが、好意を素直に受け取る。

──数分後、シエスタがホットワインを届ける。
誰かと話したい気分だった為に、ルイズはシエスタを引き止めた。
422使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:45:55.54 ID:y2cP2MNj
「少し聞きたいの」
「はい……なんでしょうか?」
神妙なルイズの面持ちに、シエスタも畏まった様子で伺う。

「ああ、緊張しないで。
他愛もない話だから……シエスタは運命って信じる?」
ルイズはくつろげるよう微笑んでみせる。

「運命ですか……私は信じないですね」
「どうして?」
自分だけが魔法が出来ない、ルイズは魔法が使えない運命を呪い続けてきた。

次に思い出すのは、人間でなくなったアセルスの姿。
何故彼女があんな運命に巻き込まれねば、ならなかったのか。

どこか答えづらそうに、シエスタは口ごもる。

「気を悪くしないでくださいね、祖父からの受け売りなんですけど……」
前置きを確認して、シエスタは続きを口にした。

「祖父曰く、例えどんな人生でも自分で変えるしかないと。
自分で決断して来なかった人間だけが、運命を言い訳のように使うって」
シエスタの言葉に、ルイズは胸を突き刺されるような感覚に陥る。

今までどれだけ決断をしてきただろうか?
魔法が使えるようになる目標、貴族で有り続ける志。
貴族生まれと言う立場や環境に流されただけではないのか?

自分の意思で決断を行ったのは一度だけ。
ゼロと認め、アセルスに恥じない貴族となると宣告した時。
だが、その決意すら彼女の影響に過ぎないのではないかと疑念が生じる。

「だから、私も運命は信じないですね。
まぁ祖父は、ブリミル教すら信用しないって公言するほど偏屈者でしたけど」
苦笑しながらも、懐かしそうに語るシエスタ。
彼女の姿に、ルイズも少しだけ心が軽やかになった。

「偉そうな発言をしてしまい、申し訳ありません」
謝るシエスタに、ルイズは首を振って否定する。

「ううん、素晴らしいお爺様だと思うわ。
ありがとう、シエスタ。引き止めて悪かったわね」

「いえ、お話できて嬉しかったです。
それではごゆっくりお休みなさいませ、ルイズ様」
シエスタが部屋を出る前に、一礼する。

「おやすみ」
挨拶を交わして、再びルイズはベッドに潜る。

発端はアセルスとの出会いだった。
だが、立派な貴族となるのは自分で決めたのだ。
過酷な運命が待ち構えようと後悔するつもりはない。

ルイズは固く誓うと共に眠りについた……
423使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:50:19.98 ID:y2cP2MNj
──王女来訪の当日。
ルイズも久方となる王女の姿を見つめていた。
最も、他の生徒同様に整列して出迎えてはない。
ルイズとアセルスは学院長室から遠見の鏡で見ている。

二人は品評会に参加するつもりはない。
オールド・オスマンとしても、ありがたい申し出。
王宮連中の迂闊な行動で、揉め事が起きる可能性は十分にあった。

王女の姿を見て、共に遊んだ記憶が蘇る。
あの頃に比べ、自分は成長したのかと考える。

魔法を使う努力は続けていたつもりだった。
思い返せば、闇雲に魔法の詠唱を行っただけ。
実際、空回るだけで何一つ実を結んでいないのだから。

現実を受け入れられなかった。
今は魔法を使えなくても、いつか報われると信じていた。

「滑稽だわ……」
努力というのは、正しい方向に向けて意味を成す。
間違った努力を続けても、賞賛も評価もされようはずがない。

「どうしたの?」
ルイズが溜息と共に自嘲する姿に、本から目線を上げる。
王女に興味が無いアセルスは、文字を覚える為の絵本を読んでいた。
タバサからエルザに会わせたお礼として見繕ってもらった本だが、今はどうでもいい。

まだ短い付き合いながら、アセルスはルイズの性格を把握しつつあった。

端的に言えば、自虐的。
ルイズは人生において、自信を得た経験がない。
親譲りの気の強さはあれど、自信がなければ虚勢にしかならない。
些細な理由……例えば身体的な成長等に対して、大きな劣等感を抱く原因でもある。

「ううん、今まで無意味な努力を続けていたなと思っただけ」
虐げられてた者が力を持てば、過信しやすい傾向にある。
そうならないのは、アセルスの存在とルイズが抱いた志の高さ。
他者より力を付けても、自分が納得できないなら充実感は得られない。

「これから正せばいいよ」
「うん」
急かすでも、甘やかすでもない。
そんな一言にルイズから肩の荷がおりる。

「あ……」
再び遠見の鏡に目を向けたルイズの動きが止まった。
写っていたのは夢で見た人物──かつての許婚の姿だった。
424使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:55:57.99 ID:y2cP2MNj
「オーイ、嬢ちゃん」
アセルスは会話しない為、デルフはルイズと話すのが日課だった。
今日に限っては部屋に帰ってきて以来、呼びかけても上の空で反応がない。

部屋に悠然と時間が流れる。
静寂を破ったのは、扉を叩いた来訪者。
エルザかシエスタかと思ったが、用事を頼んだ覚えはない。

立っていたのは、黒いローブを被った一人の少女。
部屋に入るや否や、呪文を唱えると部屋が淡く光った。

「ディテクト・マジック?」
来訪者にようやくルイズが反応を示す。

「どこに目が光ってるかわからないですから」
そう言いながらフードを取ったのは、ルイズも良く知る姿。

「姫殿下!?」
トリスティンの王女、アンリエッタその人だった。
ルイズは慌ててベッドから降りると、膝を突いた姿勢でひれ伏す。

「品評会を休んだのには驚いたけど、ご無事なようで何よりですわ」
ただ困惑するルイズを後目に、王女は世間話をするかのごとく語りかけた。

「姫殿下の心遣い、身に余る光栄でございます。
何故このような所まで、おいでになったのですか?」
ルイズは面を上げて、当然の疑問を投げかける。
王女は疑問には答えず、ルイズに大仰に詰め寄った。

「他人行儀な挨拶はやめて頂戴!
ここには小煩い枢機卿も媚び諂うだけの宮廷貴族もいないの。
貴女にまでそんな態度を取られたら、私に心休まる親友はいないわ!」
王女はルイズを抱きしめると、一気にまくし立てる。

その後、ルイズと王女は思い出話に花咲かせていた。
湖畔のほとりで遊んだ事や、泥だらけになって家臣に叱られた過去。
時にはドレスの奪い合いで取っ組み合いをしていた等、他愛もない内容。

アセルスは二人の旧交を邪魔するつもりはない。
何かと余計な一言の多いデルフを連れて、部屋から姿を消していた。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 20:58:23.99 ID:LUyC+kBL
支援
426使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 20:59:41.19 ID:y2cP2MNj
夜空に浮かぶ二つの月。
特に行く当てがある訳でもないアセルスは、屋根で月を見上げていた。

「なあ相棒、感傷に浸ってるところ悪いんだけど……」
アセルスは無言で呼びかけた剣を見下ろす。

「前にも聞いたけど、お前さんいったい何者なんだ?
人間なのに人間じゃなく、妖魔の血が流れてるのに妖魔でもない」
「誰に聞いたの?」
いつもと変わらないように聞こえるアセルスの口調。

「そんな怒らないでくれ。
何となく使い手の感情とか力とか分かるんだよ」
感情を察したデルフリンガーが正直に答える。
アセルスは機械にエネルギーの異常を判断されたのを思い出していた。

「貴女には関係ないわ」
軽々しく話したい過去ではない。
ルイズに半妖の事実を伝えたのは、似た境遇によるものからだ。
人に存在を知られれば、利用されるか怯えられるかだと経験している。

「相棒の不利になる事は言わねえって」
「うっかりで口を滑らされても困るもの」
アセルスがデルフリンガーを信用しない理由。
かけがえのない存在──白薔薇を失った時、軽口を叩いた魔物を思い起こすからだ。

背後の気配に気付いて、アセルスが振り返る。
振り返った先にいたのは、忠実な僕となったエルザ。

「ご主人様、ルイズ様が御呼びです」
「分かったわ、すぐ行く」
アセルスは空間移動で姿を消す。
デルフはそのまま屋根に置いていかれた。

「相棒が信用するのは嬢ちゃんだけかよ。
使い魔としては正しい姿勢なんだろうけどさ……」
なおもブツブツと不満を零すデルフ。
エルザも愚痴には耳を貸さず、剣を拾うと仕事場へ戻った。
427使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 21:05:40.14 ID:y2cP2MNj
「何か用?」
突然、部屋に現れたアセルスに驚く王女。
慣れた様子のルイズが王女に代わって説明する。

「実は、アン……姫殿下から依頼を頼まれたのよ」

アンリエッタ王女の依頼。
内容を要約すれば、政略婚の障害になる手紙を引き取る事。
問題は手紙を出した相手が、反乱で陥落しかけている王国の皇太子である。
一人で請け負うにはあまりに危険な任務──だが、ルイズは引き受けてしまっていた。

アセルスは頭を悩ませる。
ルイズがアセルスの力に頼っている訳ではない。
どんな使い魔が呼び出されたとしても、引き受けたのは想像できる。

「貴女……自分が何を頼んだかわかっている?」
王女への不信感が生まれる。
親友と言いながら、危険を押しつける王女の姿。

アセルスが最も嫌う人間の悪意。
己が目的の為に、他者を利用するやり方に似ていた。

「危険な任務ですが、ルイズなら大丈夫と信じていますわ」
酷く軽薄な王女の笑み。
憤りを増しただけの弁明に、アセルスは王女の首を抑えて壁に叩きつける。

「アセルス!?」
ルイズが驚愕して叫ぶ。
王女に対する非礼以前に、アセルスが何故怒っているのか理解できない。

「大切な者を失う辛さも知らないで、よくも言えたものね」
王女からはアセルスの表情は逆光になって見えない。
ただ明かりもないはずなのに、妖しく輝く赤い瞳は怒りに満ちあふれていた。

「何を……」
「親友?貴女はルイズが死んだって、ただ嘆いて忘れるだけでしょう」
王女が問うより、アセルスが永久凍土のように冷たい声を放つ。

「姫殿下を放して!私は名誉の為なら死なんて恐れないわ!!」
「だからよ、彼女は君の性格を知っている上で頼んだ」
ルイズの請願に対して、アセルスの返答は拒否だった。

「そんなはず……!」
「いえ……ルイズ、彼女のおっしゃる通りですわ」
なおも反論しようとしたルイズを制止する。
アセルスがようやく首から手放すと、床に崩れ落ちて咳き込んだ。
428使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 21:11:12.56 ID:y2cP2MNj
「私に心休まる相手がいないのは本当ですわ。
だからこそ、誰にもお願いできなかった事も……」
懺悔するように王女は……いや、アンリエッタは本心を語り始めた。

「なら、どうして……」
ルイズは次の句が紡げなかった。

自分を利用したいだけだったのか?
友だと告げてくれたのは偽りだったのか?
本当の理由を聞きたい感情と聞きたくない感情が、ルイズの胸中に渦巻く。

「私はウェールズ皇太子を、今でも愛しております」
「……亡命を進めたいと?」
ルイズにも依頼の真相が見えてきた。

ウェールズ皇太子を助けたいが、家臣が賛同などするはずもない。
亡命を受け入れれば、アルビオン王国の打倒を掲げる貴族派と敵対する事になる。

その程度は政に疎いルイズでさえ予測できた。
アンリエッタとて理屈では分かっているつもりだ。

「私は彼に手紙を届けて欲しかった……」
王女ではなく、恋人として手紙を送りたい。
こんな酔狂な依頼を頼める相手がいるはずもない。

何とかできないかと悩む中、ルイズがフーケを捕らえた一報が伝わる。
かつての親友だったルイズならば、引き受けてくれるかもしれないと考えた。

「私は……ルイズ、貴女を利用しようとしたのですわ」
泣き崩れるアンリエッタはただ悔恨していた。
ルイズの身の危険など考えてもいなかった事実。

いや、本当は気づいていた。
ただ自分の目的の為に利用したのだ。
日頃、忌み嫌っているはずの宮廷貴族達のように。

「今日起きた事は全てお忘れになって。
ここに来たのは王女でも、貴女の友人でもない……ただの愚かな女ですわ」
死者のように虚ろな瞳のまま、アンリエッタは部屋を出て行こうとする。

「アン……いえ、姫殿下」
ルイズの呼び止めに、アンリエッタの足が止まる。

振り返るのが怖かった。
ルイズに合わせる顔がない。
部屋から一刻も早く、逃げ出してしまいたかった。
429使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 21:16:03.63 ID:y2cP2MNj
「逃げるな」
彼女の葛藤を見破るようにアセルスが促す。
心臓を鷲掴みにされた心境のまま振り返った。
ルイズは敬服を示す姿勢で跪いて、顔を伏せている。

「ルイズ……?」
ルイズの真意が把握できない。

「手紙を届けたいと望むのでしたら、一言仰せください。手紙を必ず届けよと」
悲嘆も、失望も感じられない。
彼女の瞳にあるのは強い決意のみ。

「何を言っているの!?私は貴女を……」
「私は由緒ある公爵家の三女で、貴女は王族です。
命じられたなら、如何なる理由とて引き受けてみせます」
ルイズには、昔話していた先ほどまでの穏やかさはない。

「ですから姫殿下もご決断ください。
私に号令を下すのも、このまま去るのも貴女の意思一つです」
アンリエッタは息が止まりそうな程の重圧を受ける。
同時にルイズが何をさせようとしているのか、気付いてしまった。

ウェールズ皇太子を手紙を届けよ。
友人ではなく、王女として命じれば良い。
代償としてルイズの命を、己の一存で天秤に懸ける必要がある。

「わ、私は……」
喪に服すと言い訳ばかりで王位を継がない母親。
権威のみを求めて、責務を果たそうとしない宮廷貴族。
アンリエッタの周りには、王族の手本になるような人物がいなかった。

自然と重責から逃避する回数が増えていく。
先程ルイズに己の醜態を晒した時も、逃げるように部屋から去ろうとした。

王女の権威も心構えもない、ただの傀儡の少女。
いや、一人だけ王族を自覚するよう忠言する者がいた。
アンリエッタの嫌う相手、鳥の骨と揶揄されるマザリーニ枢機卿。

『王族である以上、いつの日か決断をしなかった事を後悔しますぞ』
まさに忠告通りの事態が起きていた。
鼓動だけが早くなり、意識だけが遠のいていきそうになる。

ルイズは顔を伏せ、アセルスも沈黙する。
夜分も更けてきた以上、周囲の喧騒もない。
永遠とも錯覚しそうな静寂のみが、部屋を支配している。

「ルイズ」
王女の声は震えたままだ。
しかし、心は決まっている。

「手紙を……ウェールズ皇太子に……届けるように」
震える手でルイズに封筒を手渡す。
軽いはずの手紙が、鉛より重く感じられる。

重さの正体は、ルイズの命。
初めて自分の意思で下した命令で、人が死ぬかもしれない重圧。
430使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 21:21:19.52 ID:y2cP2MNj
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
必ずや姫殿下のご期待に沿え、この困難な任務を成し遂げてみせます」
ルイズは下賜された手紙を両手で受け止め、力強く答える。

「ルイズ……教えて頂戴。何が貴女の心を変えたの?」
ルイズとて、箱入り娘だったはずだ。
王女と遊んでいた頃から、年月を経たが印象は変わらなかった。

「私が変われたのは、一つの決心」
「決心……?」
アンリエッタが身を乗り出して、没頭する。
ルイズの一言一句を聞き逃すまいとするように。

「使い魔の儀式まで私は自分の境遇を嘆くだけでした。
どれだけ努力しても、魔法が使えない『ゼロ』のルイズと馬鹿にされる日々」
彼女の噂は以前、耳にしていた。
簡単なコモン・マジックすら使えない落ちこぼれと評されていたとも。

「あだ名通り、私には何もない。あるのは公爵と言う立場だけで私自身は空っぽの存在」
アンリエッタは胸が締め付けられる思いだった。
ルイズが抱いていた感情は、多かれ少なかれ自身にも存在するものだ。

「でも、貴女は変わった……」
同じ立場だったはずのルイズと自分。
しかし、今では差が大きく離れている。

促され、震えながらようやく命令を下せた小心者の自分。
死すら厭わずに任務を受けたルイズとは、比べ者にならない。

「目標へ向かう為の道に気付いたのです」
「立派な貴族になりたいと語っていた事?」
アンリエッタが思い出したのは、常日頃からルイズが語っていた将来の夢。

「はい、でも何も出来ずにいました。
理想に対して、何一つ届かない自分と言う現実を認めたくなかった」
「自覚できた……その理由は?」
答えを求める王女に、ルイズは一つだけ誓いを求める。

「これから話す事は誰にもおっしゃらないでください」
王女が頷いて同意したのを見て、ルイズの独白が再び紡がれる。

「きっかけは使い魔の召喚儀式でした。
ここにいるアセルスを呼び出したのが始まりですわ」
使い魔召喚儀式からの出来事をかいつまんで話す。

呼び出したアセルスが妖魔の支配者である事。
妖魔でありながら、誰より貴族らしく感じた印象。
ギーシュとの決闘、フーケの討伐。
431使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 21:25:30.10 ID:y2cP2MNj
「妖魔の支配者……」
荒唐無稽にも思える話だったが、ルイズが嘘をつくはずもないと思っている。

「私はいつかアセルスの力に並び立てる貴族になる、これが今の目標ですわ」
ルイズの誇らしげな表情。
彼女がこれほど自信に満ちあふれた姿は、過去に見た記憶がなかった。

「ルイズ、今の貴女がとても……羨ましいですわ」
アンリエッタには人生の目標と呼べるものはない。
愛する者の危機に、ただ小娘のように狼狽するのみ。
口では親友と謳いながら、泣き落とすような真似で危険な任務を請け負わせた。

己の卑小さを嫌という程に思い知らされた。
項垂れていたアンリエッタはアセルスの方を振り向いた。

「アセルス様でしたね?この度の非礼、深くお詫びをいたしますわ」
アンリエッタが深々と謝罪する。
アセルスからすれば不快な相手ではあったが、
ルイズが望んで任務を受けた以上は口を挟むつもりはない。

「身勝手な願いですけど、ルイズをお守りください」
「心配しなくても彼女は必ず守るわ」
アセルスにも絶対の自信がある訳ではない。
自身は永遠の命でも、大切な人を守れなかった経験はある。
危険はあるが、ルイズが望むならアセルスは叶えるつもりだった。

「ルイズ、ごめんなさい。
許してなんて言えない、資格がないのも分かっています。
でもどうか無事で帰って頂戴、私のたった一人の友人なのだから」
芝居がかった出会い頭の時のようではなく、不安からルイズを抱きしめた。

「心配しないでくださいませ、私が姫様のお願いを断った事なんてないでしょう?
夜に城を抜けて、ウェールズ皇太子に会う時だって私は変わり身を引き受けたじゃないですか」
ルイズが安心させるように軽口を叩く。
思わずアンリエッタの顔が赤く染まった。

「い、いつから気づいていたのルイズ?」
「つい先ほど。
恋文を届けて欲しいと頼まれた時に、私を影武者に逢引していたと思い当たりましたわ」
いたずらっ子のように笑うルイズに釣られて、アンリエッタも笑った。

僅かな時間だが、二人は今度こそ心から話し合った。
二人の様子を見て、微笑ましく思うと共にアセルスの胸に小さな痛みが走る。

王女の依頼、胸の痛みの正体。
この旅でルイズとアセルスの関係は大きく変わる。

二人の少女が行き着く先は天空かそれとも……
432使い魔は妖魔か或いは人間か:2012/06/09(土) 21:30:41.43 ID:y2cP2MNj
投下は以上です、支援してくださった方ありがとうございました
433名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 22:11:19.77 ID:kG0q1vGC
山田、食堂にご飯をタカりに行きます!
434名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 22:51:03.22 ID:XTBOmdCe
るろうに乙!
鵜堂刃衛は好きな敵なので嬉しいわ。
435名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/09(土) 23:20:03.48 ID:uumtjGMZ
妖魔さん、乙です
436名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 00:22:07.48 ID:ZFuHSP4E

早くも400kb越え
437名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 11:08:41.80 ID:yIelMz/x
ISのちょろいさんを召喚
イギリス淑女の礼儀に則り食堂の皆にメシマズ料理を振る舞い
マルトーさん達を寝込ませる
438名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 12:57:12.34 ID:BDoQm8jj
なんか、久しぶりの投下ラッシュだったな
各作者さんともお疲れさん
439『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/10(日) 13:00:22.37 ID:VcPuEvUY
誰もやらんようだから代理投下の余りやっちゃいます
440『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/10(日) 13:00:55.16 ID:VcPuEvUY
第4話ふたりの貴族(後半)

誰もが皆動けなくなっていた。
そんな中、サルファーの影、闇の化身は1度の咆哮を放つ!
すると周囲には使い魔が幾重にも現れた。
その数なんと何十匹!
それが広場に埋め尽くされた!
その途端、多くの生徒が逃げ出した!

それを幕開けに使い魔や闇の化身が動き出した。
とっさに動いたのは、青髪の少女タバサと赤髪の少女キュルケだった。
「…ウィンディ・アイシクル!」
そう、タバサが言い放つと尖った氷結が幾重にも使い魔に飛んでいった。
そしてキュルケはそれを支援するかのようにファイヤーボールを放った。

教師コルベールが来たときには幾人の生徒が臨戦態勢になっていた。
「な、なにが起きているのかね!」
と言おうとしたコルベールだったが、一目で状況を把握した。
かつて炎蛇と呼ばれた彼は杖を使い魔に向けて放つ。
杖先からは大きな炎の渦が飛び出した!!
その炎は多くの使い魔を包み込み、無へと返した。
しかし、闇の化身が再び咆哮すると使い魔たちは現れた。
「き、きりがない」
キュルケがあせりの一言を言い放った。


「ルイズ、お前。魔法が使いたいか?」
そんな中、ウォルナットは突然言う。
「な、なによ 急に」
「いいから、どうなんだ。」
「つ、使いたいに決まっているじゃない!私はメイジよ
私は魔法を使ってみんなを笑顔にするためにメイジになったのよ」
「そうか」
一言落ち着いて一言いうとウォルナットは1冊の本を懐から取り出した。
「これは俺の世界の武器だ。これがあればお前であれ魔法は使える。
もちろん魔法の素質は問われるが、それでもこの本に合成されている魔術は使える。 どうだ使ってみるか?」
ルイズは躊躇った。
それは、自分自身の力ではない。
今までの努力が無に帰ってしまう気がした…。
しかしそれでも今この状況でそんなことは迷ってられなかった。
「使うわ!使って私も戦う!」
「そうか」
そういうとウォルナットは本を手渡した。
ルイズが触れた瞬間それは輝きだした!
幾重の呪文がルイズの中に入ってきた。
そしてルイズは無意識に言い放つ!
「メガ…サンダー!!!」
すると周囲に大きな雷が落ち、使い魔を焼き払った。
それはタバサのアイシクル、コルベールの炎の数倍の威力だった。
「す、すごい…。」
ルイズが驚いた。凄まじい威力だった。
そしてそれはウォルナットも驚きだった。
それは恐らく魔力の素質がとても深いのだと彼は結論付けた。
それは他の生徒、キュルケやタバサ、そして先ほどまで馬鹿にしていたギーシュさえ声を失っていた。
続いてマジックバリア、メガヒールと言い放つと周囲の生徒は深い白に包まれた。
「な、なによ これ。」
皆驚きの目でルイズを見つめていた。
441『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/10(日) 13:01:30.06 ID:VcPuEvUY
あのルイズ。あのゼロのルイズが魔法を使っている。そして今まで散々馬鹿にしてきた私たちを助けてくれている。
驚きの中、複雑な感情が芽生えながらも誰もが目の前の現実を受け止めていた。

そんな中一人、闇の化身を見つめていたやつがいた。
ウォルナットだった。
「さってと、そろそろおっぱじめるか」
そういうとウォルナットは構え唱え始めた。
「魂のともし火よ!」
多くの雑音が混じる中、その声は澄み切るように声が響き渡る!
「眠りし獅子を呼び覚ませ!」
ウォルナットの体が赤く光りだす!
「覚醒の能力(ちから)! サイコ・バーガンディ!!!」
その瞬間、ウォルナットの胸に刻まれたルーンが光りだした!
そしてウォルナットの何かが爆発した!
周囲に風を巻き起こし、不快な醜気を消し飛ばした。
「な、なんなの」
「……イーヴァルディ」
タバサは何度も読み返した本の勇者の名前をつぶやいた。
その姿はまるで伝説の勇者、イーヴァルディを彷彿とさせた。
「いくぜ!」
小走りをした後飛び跳ね、闇の化身へと突っ込んだ!
着地をした瞬間それは大地が裂け浮かび上がった!
使い魔は蒸発をし、闇の化身は大きな悲鳴を上げた!
うおおおおおおおおおお!!
闇の化身の手や体の一部が吹き飛んでいった!
ウォルナットは好機(チャンス)とみて、再びやつに向けてその力を放とうとした!
しかし、闇の化身が一歩早く、再び闇の渦へと消えていった…。
闇の化身は渦に消える瞬間つぶやいた。

――スカーレットと――
442『ゼロブレイブ〜異世界はじめました。〜』代理:2012/06/10(日) 13:02:18.03 ID:VcPuEvUY
第4話 了

投稿は以上です。
なんとなく召還されたのがウォルナットだったらルイズと合うんじゃないかとおもい書かせていただきました。
アルビオンがサルファーに侵略されたという設定なので大凡のいつもの流れのゼロの使い魔ではなく後半から
かなりのオリジナルがはいってゆきます。
読者の方が不快でなければ今後もゆっくりとですが、続けていこうと思います。
それでは失礼いたします。


以上、代理終わります
443名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 13:11:32.31 ID:VcPuEvUY
それから感想
初投稿にしてはまあまあだった。熱く描写を伝えたい意欲は伝わってくる
ただ話を細かく区切りすぎで一話あたりが極端に短い。全部合わせてもウル魔の一話分くらいしかないんだから二話くらいにまとめるのが上等
444名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 13:51:23.52 ID:Ryu5E/iO
明確な取り決めはないけど最低でも10Kbくらいか?

投下を考えると20Kbくらいが限度?0分またけば40Kbもいけるか?
445名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 18:14:34.24 ID:UhpVZwko
おっ、避難所にソーサリーが来てる
446名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 20:20:37.32 ID:NespCPbF
今更で恐縮だが、川相さんを召喚しても井端が連れ戻しには来なくなってるのな。
447名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 23:08:47.44 ID:2erk/GNr
火竜山脈が爆発してメガヌロンが麓の村に大量発生、
討伐を命じられたタバサがメガヌロンの出てきた洞窟の奥深くで見たものとは…

総天然色映画、ゼロの使い魔外伝タバサの冒険
448名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/10(日) 23:14:44.10 ID:YSGddEEp
サイヤ待ってます
新規DBも待ってます
449名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 01:17:37.84 ID:RQ19SE1N
ゼロ魔の原作未読でアニメの二期までしか見てなくても書けますか?

つまり比較的書きやすい題材でしょうか?
450名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 01:19:42.85 ID:f+5g5d74
はい
451名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 01:24:04.68 ID:8U6RAtV0
一応、書き手は原作読んでおいた方がいいと思うよ
スレ見てると、必ず文句垂れるのがいるから
452名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 01:28:09.69 ID:Awkni0OE
何その言い方
453名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 01:52:21.35 ID:RQ19SE1N
ありがとうございます
アルビオンで主人公が瀕死になるあたりまで原作読んでおくことにします
454名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 06:37:16.94 ID:QW2DrS1z
つーか原作読まないとか論外
455名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 06:46:09.37 ID:n4mp1PQR
ゼロ魔はアニメと原作じゃ大分話が違ってくるからね
読んでおいても損はしないよ
456名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 10:41:35.46 ID:Bp0W8G/E
論外とまでは言わんけど、読まないよりは読んだ方がいいかもね
457名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 10:43:42.68 ID:WmfxTYfG
見切り発車になるのは確実
458名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 10:54:45.51 ID:MUrQ4lp4
>>449のような言い方する奴がまともな物を書けるとは思えないのだが
459名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 11:09:50.30 ID:hZ2j31bN
召喚キャラがギーシュをフルボッコの後SEKKYHOしたら飽きてエタるのがパターン
460名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 12:27:29.21 ID:0jroVcq3
そういや、ルイズとシエスタの心中未遂事件取り入れてる作品てなんかある?
461名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 18:30:03.36 ID:KpDZMGzN
>>460
難しいな。というか7万戦まで行けるssがごく少数、さらにそこまで行くと原作からは大きく違っているものが大半だから
462名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 22:44:05.85 ID:7eNcvXJW
そこまで行ってるのにエターなった作品ってなんかもったいないよな

そういや禁書の人も長いこと見てないな…
463名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/11(月) 22:46:13.35 ID:v/6pWvU9
魔王伝とラスボス
464名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 00:48:40.64 ID:+/9DuojO
サイトの代わりに召喚される連中は
基本サイトより強かったり機知に富んでたりするんで
7万戦で死ぬルート辿る事があんまない気がする。
話がそこまで進んでも心中未遂イベントが発生しなさそう。
465魔砲の人 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 06:53:25.97 ID:pOOUCbWt
おひさです。一年ちょいかな?

ちと短いですけど、続き上げます。
466名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 06:55:20.81 ID:J0rSVo7+
おほ、早起きは三文の得支援w
467ゼロと魔砲使い 第34話−01 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 06:58:40.80 ID:pOOUCbWt
 「何よ、これ……」
 
 ルイズは目の前の光景を、とうてい現実のものと思えなかった。
 
 「いくら何でも、こんなのって有りなのかい……」
 
 マチルダも、ただ呆然とそれを眺めることしか出来なかった。
 
 「なんなの、これ……なんでこんなことがあり得るの?」
 
 なのはですら、思考が停止しかかっていた。
 そして。
 
 
 
 「ひどい、ひどすぎます! これが、戦争なんですか!」
 
 ティファニアが、あまりのことが起こっている戦場を見て、慟哭していた。
 
 
 
 ――眼下の戦場は、文字通りの『地獄』になってた。
 
 
 
 
 
 
 
 結局レコン・キスタからはなんの回答もなく、教皇聖下認可の元、王軍は『討伐軍』となって出陣した。
 そう、討伐軍である。レコン・キスタは、もはや『反乱軍』ですらなかった。
 破門宣告により、人間外、亜人や魔獣と同等の、人としての尊厳を持つ必要無しの存在と認識されたのである。
 そして、彼らは見た。
 首都ロンディニウム郊外。
 彼らは、そこに布陣していた。
 何故か、破門宣告を告げにいったはずの兵達、その全てすら含んで。
 彼らがいるのなら、その分の船もあるはずなのに、それも使わず。
 いや、それどころか。
 彼らの敷く陣の中央には。
 
 レコン・キスタ代表、オリバー=クロムウェルが、堂々とその身を晒していた。
468ゼロと魔砲使い 第34話−02 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 06:59:42.86 ID:pOOUCbWt
 「どういう事だ……?」
 
 討伐軍総帥として出陣してきたウェールズが訝しがる。
 どう考えてもここに彼が出てくる意味が無い。ロンディニウムに籠もっている方が遙かに勝算がある。
 参謀の一人は、
 
 「市民に破門のことが伝わって、市内にいられなくなったのでは」
 
 そう意見を述べてきた。納得出来るものであったが、それは違うと、ウェールズは思った。
 
 「いや、それなら戦場の後ろに本陣を構えている方が正しい。あのような目立つ位置に出る意味が無い」
 「それもそうですが」
 
 そのこと自身は、参謀自身が不審に思うことでもあったので、強い反論はしなかった。
 
 「いずれにせよ、もはや我々にもあちらにも後はない。降伏勧告すらもはや無意味だ。我々に出来るのは、たとえ虐殺と後世いわれようとも、目の前の軍勢を殲滅することのみ――征くぞ」
 
 そして、開戦の宣言がなされ、軍は動き始めた。
 この時の双方の軍勢は、王党軍約四万、対するレコン・キスタ、約八千。
 五倍の軍勢のぶつかり合いは、彼らの壊滅を持って決するはずであった。
 これだけの勢力差があるなら、そもそも攻め手に策はいらない。受け手の策を警戒するだけでよい。
 そしてこの場、この開けた戦場ではそれを警戒する謂われはなかった。
 何しろ相手は間違いなく全軍がここに出ているのだ。伏兵はないと参謀諸卿も口を揃えて宣言した。
 事実、伏兵も何も無かった。両軍の正面衝突によって、夥しい死が、その場にまき散らされた。
 だが。
 
 
 
 その『死』は、一方的なものになった。
 
 
 
 「なんで死なないんだ! いいかげんにしねっ!」
 「な、なんでおまえが!」
 「い、生き返った……うわぁ、やめろおっ!」
469ゼロと魔砲使い 第34話−03 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 07:00:57.11 ID:pOOUCbWt
 敵軍は『死者の軍勢』だった。突いても切っても死なず、倒れず。四肢が残る限り、戦闘を続けた。
 さらに恐ろしいことに、倒された者のうちのいくばか……この時点では彼らは知らなかったが、彼らの血を浴びたもの……が、死してなお立ち上がり、こちらの敵となって友軍に襲いかかってきたのだ。
 この時点で直接接敵していた前衛軍の士気が崩壊した。そして戦場での情報伝達の誤差が、さらなる悲劇を読んだ。
 なまじ大軍なことが仇になり、崩壊する前衛が後続の軍とぶつかって混乱状態になってしまったのだ。
 この場合後方の指揮官が指示を出して軍を再編成しなければならなかったのだが、前衛の実体が伝わった時、既に前線部は手がつけられない大混乱になっていた。
 進軍する中衛と、崩壊・退却する前衛がごちゃ混ぜになり、さらにそこへ無敵の死体軍団が乱入、そこでさらに不死者が増えるという最悪の連鎖を生み出してしまった。
 どうにか後方のウェールズたちがその状況を掴んだ時には、既に最前線は取り返しのつかないことになってしまっていた。
 何とか軍の崩れを立て直し、戦列を再編した時点で、軍の数はこちらが三万二千、敵は一万二千になっていた。
 しかも相手は死なず、それどころかこちらの戦死者が相手に加わるという。
 この魔法をどうにかしない限り、いくらこちらが多くても何の意味が無かった。
 
 
 
 
 
 
 
 「一体、どんなからくりがあるというのだ! それを打ち破れねば、手の打ちようがないぞ!」
 
 いらついたようにウェールズは作戦台に拳を打ち下ろす。それは行き場のない怒りを込めた八つ当たりで、誰かを責めるものでないのはその場の誰もが判っていたので、彼を非難するものはいない。
 成り行き上、この場にいたルイズ達も、口をつぐんでいた。
 
 「全く、死者が生き返るなど、一体どんな魔法だというのだ……」
 
 が、誰となく呟かれたその一言を聞いた瞬間、そのことが脳裏にひらめいた。
 
 「あ、アンドバリの指輪!」
 
 ルイズの叫びに、その場にいた全員の視線が集まる。
 一斉に注目を浴びたルイズは、思わずうろたえてなのはの方を見る。
 そしてルイズに見つめられたなのはも、その存在を思い出していた。
 
 「うかつでした……あれ、確かクロムウェル司教が持っていたんですよね……」
 「そうよね。けど、まさかここまですごいとは予想外だったわ」
 「水の精霊の秘宝……甘く見ていました」
 「何か知っているのか、ミス・ルイズ」
 
 ウェールズがその声に一縷の希望を乗せて問い掛けてくる。ルイズはその目を見つめ返しながら頷いた。
 
 「うかつにも私自身忘れていたというか、気に留めてはいなかったのですが……私はラグドリアン湖の水の精霊から、一つの任務を負っています。
 それが彼の精霊の持つ秘宝、『アンドバリの指輪』の奪還。
 そしてそれは、レコン・キスタの首領たる、オリバー=クロムウェルの手にあることまでは判っていました。
 そして、その秘宝の力とは……死者に偽りの命を与えて蘇らせ、そしてそれを操ること。
 彼はその力で偽りの虚無を名乗っていたと思われるのですが……」
 「まさか、ここまでの力とは……という訳か」
 
 ウェールズの言葉に、ルイズは頷いた。
470ゼロと魔砲使い 第34話−04 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 07:02:29.89 ID:pOOUCbWt
 「力が力だけに、あくまでも虚無を名乗るために密やかに使っているのだと思っていたのですけど……」
 「あるいは、後がないと知ってなりふり構わなくなったか、ですね」
 
 ルイズの言葉をなのはが補完する。
 
 「……他にそんな事が出来る何かがあるとも思えないな」
 
 そしてウェールズは、ため息と共に言った。
 
 「まいった。こうなるともう、これは『戦争』じゃない。どっちかというと、魔法比べの領域だ。数も、質も、全く意味が無い」
 「それこそ、奇跡の出番、っていう訳かい」
 
 ティファニアに付き添っていたマチルダが合いの手を入れる。
 
 「かも、しれないね」
 
 ウェールズも、疲れたようにそうぼやき……自分たち以外の視線が、どこかに集まっていることに気がついた。
 自分たち以外……自分と、ルイズ&なのは、そしてティファニア&マチルダ以外の人物の視線が、ルイズに集中していてた。
 確かに、奇跡の担い手と言えば彼女だ。
 だが、いくら何でもそれは都合がよすぎるだろう。
 そして当のルイズは。
 
 「なのは……何とかなるのかしら」
 「私だと何とかなるかもしれませんけどちょっとまずいですし、ご主人様は何とか出来てもたぶん魔力が足りないと思います。無理すれば命に関わりますし」
 
 そんな危険な相談をしていた。
 
 「死者をいくら精霊の秘宝とはいえ、あんな冒涜的な形で使うのはちょっと許せないとは思うけど」
 「虚無の魔法なら、何とかならない訳では無いと思いますけど、一人二人ならともかく、全軍はさすがに無理かと」
 「ちょっと待って? 何とかはなるの?」
 「推測ですが……虚無の魔法の特質を考えますと、こういう魔法を打ち破るというか、魔法そのものを打ち消してしまうタイプの魔法もあるんじゃないかと思うんです」
 
 実のところ、なのははレイジングハートが解析したリストでそういう魔法があるのはイリュージョンの時同様判ってはいる。だが、その魔法は対象の魔力を相殺する形のものゆえ、今のルイズではせいぜい一部隊分の魔法しか打ち消せないのも判っている。
 それゆえ、そういうお茶を濁したような答弁になっていたのだが。
 
 「だとしたら……」
 
 ルイズは、肌身離さず持っていた『始祖の祈祷書』を取り出し、同時に預かっていた『風のルビー』も取り出した。
 そしてそれを、外の光景に震えていたティファニアに差し出す。
 
 「たぶん、何とか出来るのはあなただけよ。『アルビオンの虚無』たる、あなただけ」
471ゼロと魔砲使い 第34話−05 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 07:03:02.27 ID:pOOUCbWt
 ティファニアは、差し出されたそれを見て、ゴクリと唾を飲み込む。
 
 「私だけ、なのですね」
 「ええ。私か聖下が何とか出来ればよかったのかも知れないけど、私も聖下も虚無の力を使っちゃってて、たぶん全軍を何とかするだけの力は残ってないの。でも、あなたなら、足りるかもしれないわ」
 「始祖の秘宝は、それが本当に必要とされる時、その力を担い手に明かします」
 
 震えるティファニアを、ルイズとなのはが励ます。
 そしてそんな彼女を支えるものもいる。
 
 「やってみるかい、テファ。もしやり遂げられたら、もうテファを蔑む人はいなくなるよ。立場だけじゃなく、名実共にね。あの子たちも、もう肩身の狭い思いをさせなくてすむ」
 「あの子たちに……」
 
 マチルダの言葉に、ティファニアの脳裏に、めんどうを見ていた孤児たちの姿が映る。
 このまま震えていたら、彼らにも命の危険が迫ることになる。
 彼女の震えが、止まる。
 それは決意の証。
 
 「やって、見ます……」
 
 ティファニアは、ルイズから受け取った、『風のルビー』を指に嵌める。
 そして『始祖の祈祷書』を手に取る。
 
 
 
 「おお……」
 
 
 
 その場に居合わせた人々の口から、そんな感嘆の声が漏れた。
 彼女の決意に答えるかの如く、祈祷書は光を発しつつめくれていき。
 ティファニアに、この事態を押されうる、一つの呪文を託したのであった。
 
 
 
 
 
 
 
 希望は、見えた。
 だが、彼らは知らない。
 芽生えた希望を打ち破る魔の手は、もうすぐそこに迫っていることを。
472魔砲の人 ◆IFd1NGILwA :2012/06/12(火) 07:07:24.65 ID:pOOUCbWt
 短いけど、取り敢えずここまで。

 長いことエタっていてすみませんでした。

 ちょっと円環の理にとらわれていまして……そちらは何とか抜け出しましたが。



 本当はもう少し先まで書けるのですが、ちょっとここからがらっと流れが変わるので切りました。

 仕事は相変わらず忙しいですが、前回の免停開けからやっと一年過ぎて、ようやく前歴が消えたのでちょっと記念の意味も込めて。


 この話もラストは見えているので、なるべく早いうちに終わりに征きます。



 原作無視してぶっ飛ばし、クロスオーバーの本質たる設定改変のあげくがどんな結末にたどり着くのかを、取り敢えずお待ちください。

 魔砲の人でした。
473沈黙の魔法学院:2012/06/12(火) 07:24:41.38 ID:J0rSVo7+
魔砲の人、乙でした。

たまには起き抜けの巡回も良いことがありますなぁ。

今日は良い一日になりそうですw

でも、今回のサブタイトルはどうなるんだろ?


仕事も大変だと思うので無理をせずに進めて下さい。

いつまでも待ってます。



多分今から出勤だと思いますので行ってらっしゃい。お気をつけて。
474名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 09:15:04.06 ID:66rb3qsa
エタったとばかり
乙です、続き楽しみにしてます
475名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 09:16:20.19 ID:hqWKYoJx
>>465
おお。お帰りなさい。
476The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:05:07.49 ID:uhr66R1q
誰もいないみたいなので、続きの投下をしたいと思います。
477名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 13:06:38.17 ID:Cbe8jGkt
>>472
乙! お帰りなさい!
次回も楽しみに待っています!
478The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:12:09.90 ID:uhr66R1q
Mission 29 <禁断の魔法薬> 前編


金髪の巻き毛が自慢である少女、香水≠フモンモランシーは趣味で秘薬作りに勤しんでいる。
彼女の実家のモンモランシ家はトリステインの由緒正しい伝統ある名家であるが、色々な事情があって領地の経営だけで精一杯の状況である。
故にモンモランシーも小遣いを自分で稼ぐために香水を作ってはそれを街女や貴族の女性らに売り捌いていたのだ。
彼女の香水は独特の香りがすることで中々評判があり、結構な高値で売れるのである。そうしてお金を稼いでは、珍しい秘薬の材料を手に入れて作るのである。
もっとも、それらはコレクションを目的としているために使う機会はほとんどないのだが。

あくるの日の夜のことである。寮の自室でモンモランシーはいつも以上で真剣に秘薬作りに熱中していた。
「見てなさいよ……絶対に振り向かせてみせるんだから」
ぶつぶつと呟きながら、るつぼの中の秘薬をすりこぎでこね回していた。
今作っているのははただの秘薬ではなく、国法によって作成と使用を禁じられている品である。
これまでコツコツと貯めていた小遣い1000エキュー以上を費やして禁断の秘薬を作るための高価な秘薬を購入していたのであった。
見つかったら大変な罰金が科せられると知りつつも、モンモランシーはその秘薬を作らねばならなかった。
自分の大切な人が今、奪われようとしている。しかもあのスパーダという男と一緒にいたためかギーシュは以前とすっかり変わり果てた姿になりつつあった。

その時の男らしい気迫ある姿は悪くないとは思いつつも、そんなのは本当の彼ではない。ギーシュはキザっぽいのが一番似合っているのだ。それが変わってしまうのが嫌だった。
だがあのスパーダという男にすっかり入れ込んでおり、まともな手段では元のギーシュには戻せないだろう。
だからこそ、これから作る秘薬に全てを賭けているのだ。

滑らかにすり潰した香木に竜硫黄、マンドラゴラ、そして闇市でなければ手に入らない肝心の秘薬……香水瓶に入れられたほんの少量のその液体をるつぼの中に入れていく。
ちょうどこの一滴が闇市で扱っていた最後の一品。しかも今後、入荷の予定はないというので本当にギリギリだったのだ。決して、失敗は許されない。
少しずつ、少しずつ……こぼさぬように細心の注意を払って一滴一滴をるつぼの中へ落としていき、慎重にかき混ぜていく。
大切な人を何としてでも取り戻すために、モンモランシーは徹夜で禁断の秘薬を作り続けていた。


アルビオンより帰還してもう一週間以上が経っていた。
その日は虚無の曜日、多くの男子生徒達は朝からヴェストリ広場でスパーダの行なう剣術の稽古に参加していた。
この稽古によって己の状況、環境が変化した生徒が何人かいる。
まず、ルイズと同じクラスの同級生で風上≠フ二つ名を持つマリコルヌ・ド・グランドプレ。
元々、彼がスパーダの稽古に参加したのは女の子にもてたいからという理由であった。小太りな体格である彼は女子には全くもてたことがない。
故にギーシュが師事しているスパーダから剣術を習って少しでもモテるためのきっかけを作ろうとしていたのだ。
スパーダの稽古は昼休みの合間、そして時々午後の授業が終わった夕方近くにも行なわれる。
それが何週間もほぼ毎日続けられており、マリコルヌにとっては極めて辛い運動となっていた。
「君、最近少し痩せたな?」
共に稽古を受けているギムリはマリコルヌの体を見て思わず呟く。
そう。結果的にその稽古をほぼ毎日受けていたのが功を成したのか、マリコルヌのぽっちゃりとした体は以前より少しではあるが逞しいものへと変わっていた。
出ていた腹も少し引っ込み、脂肪の多かった体などには筋肉がつき始めている。
「よぉしっ! もっともっと、修行に取り組むぞー!」
その指摘を受けたマリコルヌは、いつになく張り切っていた。女の子にモテる様を想像して、思わず顔がにやけてしまう。
「あっ! おい!」
「うげっ!」
結果として、組み手の相手をしていたギムリの木剣を腹へまともに受けることになってしてしまった。
479The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:17:50.70 ID:uhr66R1q
「ワルキューレ!」
スパーダの直接の弟子であるギーシュ・ド・グラモンはいつにも増して戦士としての気迫を発揮していた。
剣を片手に杖を振り、青銅のゴーレムを作り出すと正面に立つスパーダ目掛けて突進させていく。
スパーダは腰の閻魔刀は手にせず左手に篭手のデルフを装着しており、向かってきたワルキューレに一発フックを叩き付けた。
バゴンッ、と鋭く重い打撃音と共に粉々に砕かれるワルキューレ。
だが、ギーシュは既に武装したもう二体を作り出して左右から時間差で向かわせていた。
「てやっ!」
さらに、スパーダ目掛けて自らの剣を投擲する。
勢いよく真っ直ぐに飛んでいく剣をスパーダはひらりと体を横に捻ってかわした。
右から来たワルキューレがメイスを振り下ろそうとする。だが、スパーダはそのまま体を勢いよく左に一転させる。
遠心力を利用して繰り出された左手の裏拳がワルキューレのメイスを腕ごと吹き飛ばし、もぎ取っていた。
砕かれた青銅の残骸が草地に放られるようにして転がる。

左から時間差で向かってきたもう一体のワルキューレもまたメイスを薙ぎ払おうとしていたが、一転し終えたスパーダはそのまま腰を低く落として足払いを繰り出した。
軽々と宙を舞ったワルキューレだったが、スパーダの頭上をギーシュの剣が回転しながら通過していくのをはっきりと耳にしていた。
「てえりゃあっ!」
念力で剣を引き戻したギーシュは即座に、立ち上がろうとしているスパーダへと駆け寄り斬りかかろうとした。
だが、スパーダは草地に叩きつけられていたワルキューレを蹴り上げ、再び宙へと舞わせていた。
「おっと!」
今までずっと、スパーダが腰だめに構えていた左拳を目にしたギーシュは慌ててその場で倒れるようにして伏せる。
直後、先ほど以上に鋭く凄まじい衝撃音と共にワルキューレが吹き飛ばされていた。
「危ない!」
「きゃあっ!」
まるで砲弾のような勢いで飛んでいったワルキューレを観戦していたギャラリー達は慌てて道を開けるようにして左右によける。
そのまま学院の外壁まで飛んでいったワルキューレはそれに衝突し、バラバラに砕け散っていた。

「ひゅーっ! 飛んだ、飛んだ!」
正拳突きを繰り出したスパーダの左手、装着されているデルフが歓声を上げていた。
「おおおっ!」
ギーシュは回避に成功したことを確認してすぐに起き上がり、そのままスパーダに斬りかかっていた。
袈裟に振り上げ、体を捻りつつ斬り返し、懐目掛けて突くなど、次々と剣の乱舞がスパーダに繰り出される。
矢継ぎ早に繰り出されるその剣を、スパーダは子供をあしらうかのように篭手で全て防ぎきっていた。
「素敵よ! ギーシュ様!」
乱舞を次々と繰り出すギーシュの表情はまるで獅子のように勇ましく、ギャラリーの女子達から黄色い声が上がっていたがギーシュの耳には届いていなかった。
「――うわあっ!」
スパーダに乱舞を繰り出し続け、剣を振り下ろそうとした途端、激しい閃光が瞬いた。同時にギーシュは自分の胸に風魔法のエア・ハンマーが叩きつけられた時以上の強烈な衝撃を感じていた。
ギーシュの体は軽く十メイルは吹き飛ばされ、剣を手放し草地に叩きつけられてしまう。
スパーダは左手を突き出したまま、静かに立ち尽くしている。
「ふぅ……。突っ込み過ぎだったなぁ、貴族の坊主」
蓄積されていた衝撃を開放されたためにどこかスッキリした様子でデルフは言った。
「痛い……」
480The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:22:54.32 ID:uhr66R1q
まともに魔力開放によるカウンターを食らってしまったギーシュは草地の上で仰向けになったまま、起き上がれないでいた。
全身が痺れてほとんど動けない。
ちらりと、ギャラリー達の方を見やる。……初めはそこにいたモンモランシーの姿は、どこにもなかった。
(何故だ? どうして、僕を見てくれないんだい)
哀しそうな面持ちで、ギーシュは溜め息を吐いた。

アルビオンから帰ってきてからというものの、モンモランシーは何故かギーシュを避けるようになっていた。
以前、二股をかけてしまった件はあったものの、ギーシュの本命はあくまでモンモランシーである。
だから積極的に愛の言葉を囁いたり、薔薇の花を贈ったりなどして気を引いたり、共にお茶を飲んだりもしていた。
彼女もまんざらではないのか、表面上は仕方なさそうにギーシュに付き合ってくれたのだ。
ところが最近はどれだけ彼女の気を引こうとしても無視されてばかりであることにギーシュは困惑していた。
その理由を、「自分が弱々しいから」と判断していたギーシュはいつも以上に剣の修行に取り組むことにしたのである。
自分がモンモランシーを守れるようにもっと強くなることで振り向いてもらいたかったのだが、どうやらまだまだ彼女に認めてもらえる強さにはなっていないようだ。
そのためにもこうして更なる特訓に打ち込み、それが終わった後には諦めずにモンモランシーにアタックするのである。
体を起こしたギーシュは未だビリビリと痺れる胸を押さえる。
「……そ、そういえばどうしてタバサはいないのかな。また手合わせを頼もうかと思ったのに」
「実家に帰ったそうだ」
スパーダは左肩を揉みつつ回しながら言った。

タバサは今のギーシュの練習相手としてはちょうど良い相手であり、暇な時は手合わせをしてくれることに了承してくれていた。
しかし、いざそれを頼もうかと思ったら今日は朝食が終わってからシルフィードに乗ってどこかへ行ってしまった。
おまけに親友であるキュルケも面白そうだから、という理由で同行したためにここにはいない。
タバサは時々、授業を休んだり抜け出したりして留守にすることが多い。その際、伝書フクロウが必ず飛んでくるので何か特別な用事のようである。
そもそも彼女の実家はどういった場所なのかよく分からない。ガリアからの留学生だということは分かるのだが。
まあ、何にせよタバサとの手合わせができなかったので師匠のスパーダにこうして直接、手合わせをしてもらったのである。
スパーダとの手合わせは本気の殺し合いに等しいものだった。
以前にもたっぷり味わった悪魔としての本性を露にしていた組み手はタバサの時と違って、絶対に気は抜けない。
少しでも気を緩めれば確実に殺される。故にギーシュも本気を出し切らねばならなかったのだ。


結果的にギーシュは殺されはしなかったものの、スパーダの体術で徹底的に痛めつけられることになった。
顔こそ傷つけられることはなかったものの、体中に無数の痣をつけられている姿は実に痛々しい。
それでもモンモランシーは以前のように彼を介抱してくれることはなかったが、ギーシュ本人はこの傷だらけの姿を彼女に見せることで自分はさらに強くなったことを示すのだ。
「ああ……待っててくれよ、モンモランシー。今、君の元へ……」
足取りはおぼつかず、剣を杖にしなければまともに歩くことはできなかったが。
481The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:28:34.57 ID:uhr66R1q
(ギーシュもこりないわね。あんなにボロボロになるまで続けることないのに)
始祖の祈祷書を抱えながらルイズは呆れたように嘆息する。
朝食を終えてからというものの、式で告げる詔を自室や図書館、そしてつい先ほどまでこの広場と回って初めの文程度までは考え付いていた。
そこから先で停滞してしまったので、気分転換をするため一時中断しているわけである。
「それからどうだ。何か詔は考え付いたのか」
庭の隅のベンチに腰掛けるスパーダに近づくなり、何の前触れもなく単刀直入に尋ねてきたためルイズは渋い顔をした。
「ありきたりなものかもしれないけど……」
「では、思いついたのを述べてみろ。だが、あまり批評には期待しないでもらおうか」
「ま、あまり固くなるなよ? どうせ、ほとんどは王宮の奴らに手直しされるんだから」
左手に装着したままのデルフがけらけらと笑うと、ルイズはムスッとした顔になる。
「うるさいわねっ。黙って聞いてなさい」
こほん、と小さく可愛らしい咳をしてルイズは考え付いた詔を読み上げていく。
「この麗しき日に、始祖の調べの光臨を願いつつ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。畏れ多くも祝福の詔を詠みあげ奉る……」
「どうしたい? 続けろよ」
そこで黙り込んでしまうと、デルフが急かしてきたので拗ねたように唇を尖らせた。
「これから火に対する感謝、水に対する感謝……順に四大系統に対する感謝の辞を、詩的な詞で韻を踏みつつ読まなきゃならないの。
でも、詩的な表現なんてそう簡単には思いつかないわよ」
かと言ってスパーダは芸術などにはあまり関心がなさそうなので助力は求められないし、デルフなど論外だ。
「……詩、か。では、ギーシュにでも聞いてみてはどうだ」
黙って詔を聞いていたスパーダが提案するが、ルイズは渋面を浮かべた。
「嫌よ。だって、ギーシュの考え付くのなんてどうせキザ臭いものばかりじゃない。そんなもの詔になんかしたら恥よ」
「それじゃあがんばって、自分で考えるこったなぁ」
他人事のように笑うデルフにうぅ〜、と唸るルイズ。
「ねぇ、スパーダ。本当に何か良い詩とか知らないの?」
「そうだな……」
あまり芸術に興味がないスパーダとて、何もそういった分野に無知というわけではない。世を渡り歩いていると自然に耳にしてしまうものもあったりするものだ。
が、やはり今のルイズに必要なものをスパーダは耳にしたことがない。
「すまんな。やはり力にはなれん」
「……もういいわ。まだ時間はあることだし、ゆっくり考えることにする。さ、お昼ご飯にしましょう」
残念そうに溜め息を吐いたルイズは、既に生徒達は解散して自分達以外に誰もいない広場をスパーダと共に後にしていた。


昼食が終わって一時間ほど経った後、ルイズは詔を考えるのは一日中断することにし、スパーダを連れて学院裏手の草原へと訪れていた。
詔を考えるのも大事だがもう一つ……ルイズにはやらなければならないことがあるのである。
そのために昼食が終わった直後、スパーダに頼み込むことでこうして来てもらったのだった。
この場所を選んだのはヴェストリ広場では人が来るかもしれないため、スパーダの悪魔の力を見られる恐れがあるからである。
「それじゃあ、お願いね」
「うむ」
杖を抜き身構えるルイズに対し、スパーダは自分の左右に無数の赤い魔力の刃、幻影刀を浮かべていた。
なお、デルフを幻影剣や幻影刀にしたままだとうるさくなるために篭手にして装着している。
482The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:33:37.16 ID:uhr66R1q
高速で回転する幻影刀を学院の外壁に向かって射出する。呪文を唱えていたルイズはその刃に向けて杖を振り下ろした。
「ファイヤー・ボール!」
別に呪文など何でも良かったが、ルイズはこの魔法を選んでいた。
ルイズがイメージしたのは、幻影刀の少し先の空間に爆発を起こすことだ。

――ドンッ!

何もない空間に一瞬、透けた魔力が収束したのが見えた途端、その場所を中心にして爆発が起きた。
「おっと、おしかったなぁ」
篭手のデルフが呟く。
だが、狙いは僅かに外れており、爆発は飛んでいった幻影刀のすぐ横で発生している。
もっともその爆風によって幻影刀は砕かれていたのだが。
「まだまだ続けるわよっ。スパーダ、お願い!」
ルイズはさらに杖を構えてはりきっていた。スパーダは無言で幻影剣を自分の周囲に作り出していた。
自分の魔法は本来ならただの失敗に過ぎないものだ。四代系統魔法のどれにも当てはまらない。
だが、スパーダが助言をしてくれたおかげでその失敗を自分なりに活かすという道に進ませてくれた。
コモン・マジックならば何とか使いこなせるようになったとはいえ、この失敗も更に活かすことが大切だ。
ルイズの目標は多くの人に認められる立派なメイジとなることなのだから。
気分転換にもちょうど良い。

スパーダの放つ幻影剣、幻影刀を的にしてルイズはこの爆発の失敗……バースト≠ニ名付けることにした魔法を撃ち続けていた。
今のように射出され、高速で飛んでいく幻影剣を一発のバーストで撃ち落したり、大量に放たれた幻影剣を小さなバーストを連鎖的に同じ場所で発生させて一掃するなど様々なバリエーションで魔法を行使していた。
それは夕方になるまで続き、スパーダは黙々と自分の魔力から作った幻影剣を的にしてくれていたが、ルイズは次第に精神力を消耗してきて頭がクラクラしていた。
「今日はもはや打ち止めだな」
「まだよ。あともう二、三発くらいは撃つわ」
だが、それでもルイズは虚勢を張って続けようとした。
「おいおい、娘っ子。あまり無理すんなよ? 引き際が肝心だぜ」
「うるさいわね。アンタを的にしてあげなかっただけでも感謝しなさい」
茶々を入れてきたデルフに言い返すと、ルイズは改めて杖を振り上げようとした。
「あ……」
その途端、これまで以上の目まいがルイズを襲い、さらに視界もぼんやりと霞みだす。
ルイズの体はくらりと、力なく倒れそうになるがスパーダが左手で支えてくれた。その拍子に、左手で抱えていた始祖の祈祷書が足元に落ちてしまう。
「限界だ。自重しろ」
スパーダはルイズを支えたまま諌めてくる。
「もう……こんな時に……」
「だから無理すんなって言ったじゃねえか。メイジの魔法は無限じゃねえ。いくらイレギュラーな魔法つったって、精神力の消耗は他の魔法とそう変わらないんだからな」
ルイズとしてはもう少し特訓を続けたかった。
スパーダはギーシュ達に何時間にも渡って剣の稽古を付けているのだから、自分にだってそれと同じくらい特訓に付き合ってもらいたい。
悪魔であるスパーダの体力はそれこそ人間の何十倍もあるだろうが、人間であるルイズの体力や精神力はそう高くはない。
「ねぇ、スパーダ。例のデビルスターって秘薬……」
「残念だが、今は切らしている。どの道、戻らねば作れん」
悪魔の秘薬に縋ったが、やんわりとスパーダは断っていた。

「うぅ〜……」
やはり、今日はもう切り上げた方が良いのかもしれない。悪魔であるスパーダの忠告はある意味、的を得ているものばかりだ。それを拒めばどうなるか分からない。
483The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:38:47.41 ID:uhr66R1q
ルイズは仕方がなく、その言に従うことにする。落としてしまった始祖の祈祷書を拾おうと屈みこんだ。
「やだ……本当に今日は休んだ方がいいみたい」
「何だ」
篭手のデルフをしまったスパーダが尋ねる。
「気にしないで」
開かれていた祈祷書の1ページ、白紙しかないはずのそこに一瞬、文字のようなものが見えた気がした。
次に目を凝らしてみてもそれは霞のようにページの上から消えてしまっており、もうそこには何も見えなかった。
本当に疲れてしまっているようだ……。
拾い上げた祈祷書を抱えてルイズはスパーダのコートに寄りかかったまま、共に学院へと戻っていった。
右手の指にはめている、アンリエッタ王女から任務の褒賞として貰った水のルビーが仄かに光っていることに気づくことはなかった。


同じ頃、学院本塔正面の中庭にて、モンモランシーは設けられたテーブルの一席についていた。
頬杖を突いていた彼女は恐る恐るポケットの中から手の中に収まるほどの小さな香水瓶を取り出すと、それを両手で包んだままじっと見つめていた。
「今のうちに入れちゃおうっと……」
誰も人がいないことを確認し、モンモランシーはテーブルの上に置かれていたワインを二つのワイングラスに注ぐ。
そして、今しがた取り出した香水瓶の中にある液体をほんの一滴……僅かな量だけを片方のグラスに落とした。
あまり量が多すぎると効果が強くなりすぎるらしいので、これくらいがちょうど良い。
後は、ギーシュの到着を待つのみ。
昼間、スパーダと組み手をしたおかげでボロボロの姿になって現れたギーシュはいつものようにモンモランシーに愛の言葉を囁いていた。
「僕はこんな姿になるまで、彼の稽古を受けていたんだ」とか、「君を守れる強い男になれるなら、この程度の痛みなど、問題ないさ」などと言ってきたのである。
そんな風に熱心に口説かれると、モンモランシー自身は悪い気はしなかった。
もっとも、そんな姿を見せられた所でモンモランシーはツンとした態度で彼をあしらう。そうすることでギーシュはさらに必死になって自分に食いついてくれる。
モンモランシーがずっと彼に対してつれない態度をとり続けていたのは、そうすることで自分へもっと目を向けるように仕向けたのであった。
そして、仲直りをするということで夕方、一緒に一杯やろうということになった。……だが、ただの仲直りではない。
「でも、本当に効き目あるのかしら……?」
たった今、ワインに注いだポーションの正体は国法で作ることを禁じられている惚れ薬だ。
何故、そのような物を作ったのか。理由はただ一つ。
ギーシュはあのスパーダという男の元で貴族であるはずなのに剣の稽古を受けるようになったことで彼に夢中になってしまったのである。
おかげで自分と過ごす時間は大幅に減ってしまい、おまけに自分の知らない姿になりつつある。
それを阻止するためにも、何としてでも自分へと振り向かせてやるのだ。そのためには、たとえ違法である惚れ薬を作ることさえ躊躇わない。

スパーダは女子だけでなく、多くの男子でさえ惹きつけられるほどの強いカリスマを持った男だ。
まともにやったのではまるで勝ち目がないからである。
……しかし、当のギーシュはいつになっても現れない。
スパーダに痛めつけられたダメージが祟ったのか、この密会の約束をしてからすぐに気絶してしまい、今は自分の部屋で寝かせてある。
あれから大分経っているのにまだ起きていないのだろうか。
だが、いずれ起きるのだからモンモランシーはそれまで待つことにした。
取り出した手鏡で髪の調子などを整え、いつ彼が来ても良いように準備をする……。
484The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:44:15.38 ID:uhr66R1q
「こんな所で何してるの?」
突然、誰かに声をかけられた。振り向くと、そこにはギーシュを奪ったスパーダとルイズの姿があった。
何だかやけに疲れている様子で、スパーダに寄りかかっている。
傍から見れば父と娘みたいに見える姿である。
「ギーシュを待ってるのよ。あれだけボロボロになるまでがんばったんだから、ちょっとだけ許してあげることにしたの」
「ふぅん。今までずっとギーシュにつれない態度だったのに、急に許してあげるなんて。どういう風の吹き回し?」
「べ、別に良いでしょ。ルイズには関係ないわ」
「あっそ……。これ、もらうわよ」
すると、ルイズが手を伸ばしたのはテーブルの上に乗っていたワイングラス。
しかも、それは惚れ薬を仕込んだやつだ。
それを見たモンモランシーは慌ててルイズに飛び掛る。
「……あっ! 駄目よ! それはギーシュに飲んでもらうんだから!」
「いいじゃないの。あたし、疲れて喉が乾いてるんだから。減るもんじゃないでしょ」
「駄目だったら駄目なの!」
ルイズが手にしたワイングラスを取り返そうと、モンモランシーは彼女と取っ組み合いになった。
その拍子でワイングラスの中身がいくらか飛び散り、その一部がまだテーブルに乗っているワイングラスの中へ落ちたことにモンモランシーは気づかなかった。

スパーダはその様子を黙って傍観しているだけであったが、ふと近づいてくる人影に気づきそちらを振り向いた。
「何をこんな所で騒がしくしているのかしら」
学院長の秘書、ロングビルであった。
彼女は休日ということで朝早くからトリスタニアの修道院を訪れ、ティファニアに会ってきたのだ。
そして、たった今こうして帰ってきたばかりなのである。そこで目に付いたのが、隣で騒いでいる二人の女子とスパーダだった。
「気にするな。それより、彼女の様子はどうだ。変わりはないか」
「ええ。他の子達ともよくやっているわ。すっかり馴染んでいるわよ」
「うむ。何か異変が起きたら私にも知らせろ。スカロンにも相談をしておくといい」
ロングビルはあのオカマの男の顔を思い浮かべ、思わず渋い顔を浮かべていた。
……気持ち悪いったらありゃしない。
「……ところで、あなた明日明後日は用事があるかしら」
「何か用か?」
「あの子があなたに会いたいっていうのよ。あなたのことをずいぶんと気に入っているみたいでね」
ティファニアがスパーダの話題を切り出すと、妙に明るくなっていたのをロングビルは思い起こす。
スパーダは魔法学院でどのようなことをしているのか、自分とはどのような関係なのかといったことを熱心に聞いてきたりするのだが、あれはまるで身内のことを知りたがる子供のような姿だった。
たとえスパーダが悪魔であろうとその内に秘めたる人間らしさは分かっているようで、また会って話をしたいなどと言ってきたのだ。
「別に今のところは用はない。付き合ってやってもいいぞ」
「そう。それじゃあ、明日は平日だから私の仕事が終わったら行くことにしましょうか」
隣では未だルイズとモンモランシーがいざこざを続けていたが、二人は気にせずに話を続けていた。
ふと、ロングビルはテーブルの上に乗っていたワイングラスへゆっくりと手を伸ばした。
帰ってきたばかりで喉が渇いていたこともあるが、スパーダと会話を続けていたためにほとんど無意識な行動であった。
ロングビルはくいっ、と中に注がれているワインを一飲みしていた。……安物のようだが、まあ悪くはない味だ。
485The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:49:23.34 ID:uhr66R1q
「素直にすれば良いのよ。それじゃ、貰うわね」
一方、腕っ節は強いルイズはモンモランシーをようやく組み伏せ、奪い取っていたワインを同じように一口で飲み干してしまった。
「あっ!」
それを見たモンモランシーは青ざめた顔で声を上げる。
もう、全てが台無しだ。……このままでは。
「やあ、遅くなってすまないね。モンモランシー。僕はこの通り、すっかり回復したよ……」
と、そこへ今になって現れたのはモンモランシーが待ちわびていた男、ギーシュであった。
ルイズはあの惚れ薬が入ったワインを飲んでしまった。もしも、ここでギーシュを見てしまったら……。
「わああああああっ!」
起き上がり、上に乗っているルイズを弾き飛ばしたモンモランシーはそのままギーシュに向かって体当たりした。
二人はそのまま草地の上に倒れこんでしまう。
「おっとっと……ど、どうしたんだね。そんなに僕が待ちきれなかったのかい?」
何も知らぬギーシュはそんな彼女の行動に酔ったように笑っていた。

「いたた……何すんのよ、モンモランシー! たかがワインの一つや二つくらいでそんな……に……」
体を起こし尻餅をついていたルイズの視界に入ったのは、スパーダの姿。
その姿を目にした途端、ルイズは己の胸が熱くなるのを感じていた。
スパーダはルイズにとって、いわば尊敬できる教師か父親のような存在であった。
自分の失敗を活かせるように導いてくれただけでなく、強大な剣技をもって自分達を守ってくれた。
おまけに彼は人間のために力を尽くした正義の悪魔であり、人間の愛を知って故郷と決別したのだという。
その彼の偉業を思い出し、ルイズは更にスパーダに対する憧れを強くしていた。彼のように強くなってみたい、と。
だが、その憧憬はたった今、好意へと変わった。あのワルドに抱いていたようなまやかしなどではなく、心の底から彼を愛する思いが膨れ上がった。
たとえ悪魔であろうが、そんなことは関係ない。自分は、彼が好きなのだ。
ルイズ自身でさえ当惑するほどにその感情は大きかった。
とろんとした目つきで、スパーダを見つめる。
そして、そんな彼の傍にいつの間にかいるロングビルに対する嫉妬心が大きくなっていた。
486The Legendary Dark Zero:2012/06/12(火) 13:54:37.41 ID:uhr66R1q
一方、同じようにワインを飲み干したロングビルにも変化があった。
ロングビルは密かにスパーダに対して強い思いを抱いていた。
初めは同じ没落貴族ということで親近感を抱き、次は自分のために色々と手助けをしてくれた挙句たった一人残された身内までも助けてくれた彼に恩義を抱いていた。
ロングビルはそんな彼に対していつかその借りを返したいと思い、その中でスパーダに心惹かれていた。
たとえ彼が悪魔だろうと、それは変わらない。
もっとも、スパーダが自分に振り向いてくれるとはさすがに思ってはいなかった。だから、それ以上の思いを抱くことは自ら封じていた。
ところが、そのスパーダをこうして間近で見た途端、彼女もまた心の奥に秘めていた彼への思いがより大きく膨れ上がった。
この男に対して、どんな女が色仕掛けをしかけようが振り向くことなどありえないことだろう。
だが、それでもロングビルは濁流のように膨れ上がった自らの思いを抑えることはできなかった。
自分はこの男に尽くす。そう決めたのだ。

惚れ込んでいた男の顔を見て、ロングビルの顔は仄かに赤く染まった。ぽろりと、手にしていたグラスが落ち、カシャンと音を立てて割れた。
妖艶な目付きで、じっとスパーダの顔を見つめてくるロングビル。
そして、スパーダの胸にそっと自分の頭をうずめて抱きついていた。
スパーダは自分に抱きついてきたロングビルを平然としたまま見下ろしている。
「ああ……スパーダぁ……」
いつもの彼女とは思えぬ色気のある声で呟く。
「ねぇ、お願いよ……私を抱いて……」
「だめぇっ! スパーダはあたしのものなの! 他の女の人と一緒にいちゃ嫌ぁ!」
ルイズがロングビルに飛び掛るが、彼女は敵意を剥き出しにした表情でルイズを睨みつけていた。
「……うるさいわねっ! 子供が大人同士の恋路に入り込むんじゃないよ!」
「あたし、子供じゃないもん!」
二人の女は一人の男……悪魔を巡って争い合った。

倒していたギーシュの上から起き上がったモンモランシーはその様を見て唖然とした。
「へ? な、何でミス・ロングビルまで……」
「な、何がどうなってるんだね? これは一体……」
これが惚れ薬の効果なのだろう。どれほどの効果があるか少し不安だったモンモランシーだったが、これで納得ができた。
結局、それをこのギーシュに飲ませるのは失敗したが……。
しかしルイズがあんな姿を見せるのは分かるが、何でロングビルまで?
見ると、テーブルに乗っていたもう一つのグラスがない。先ほどの音と草地に散らばっているガラスの破片からして、彼女が飲んでしまったのだろう。
だが、どうしてあのグラスに惚れ薬が?
全く理解できないモンモランシーとギーシュは、二人の女が争い合う姿を見ているしかなかった。
それに対し、二人が取り合おうとしている当のスパーダはというと、
「Did you even feel mad?(気でも狂ったのか?)」
などというあまりに素っ気ない反応であった。


※今回はこれでおしまいです。前にも宣言しましたが、話の尺を可能な限り短くするために他の巻の話を持ってきています。
487名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 14:29:59.24 ID:RIspTl/G
作者さん達に作品を一斉投下して貰えると嬉しくなっちゃうね。
そうだろう?スティンガーくぅん
488名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 14:33:36.50 ID:HMJMO5v8
乙乙
489名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 15:47:44.35 ID:HBNfLxE4
ここに以前投下して長いこと空けちゃったが、終わりまである程度考えてある。書く時間も作ればあるだろう
だが何故か書く気が出てこない…
PCなくて携帯で書いてたから、機種変えてメモ帳が残念な性能になったってのもあるけど
490名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 16:38:41.70 ID:F2uY3Kb+
書きたい時が書き時
491名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 17:03:29.63 ID:LNfg55ZH
思い立ったが吉日、その日以降は…
492名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 17:11:38.24 ID:0CIoy2Ba
…思い込み
493名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 19:02:13.66 ID:3Y/6pcBB
粗筋はあるんだ。
最終回の決めぜりふもあるんだ。

何で書けないんだよ、俺……
494名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 19:08:36.68 ID:F2uY3Kb+
なんだ構ってちゃんか
495名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 19:41:03.63 ID:rLpXmPsk
小説の一番難しいところ

セリフとセリフの間の描写をうめること

セリフとプロットしかない奴はだいたいこれで頓挫する
台本式のSSが流行る理由はここ
496名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 20:14:43.08 ID:fIY1O65A
>>495
小説とか普通に読んでると書き方は大体わかるけど、読んでないと難しいと思う。
自分もここでSS書いてるけど、読んでるおかげか描写で苦しむことはあんまり無いね。
脳内で書きたいシーンが映像になって、んでその次に文章が自然と浮かんでくる。
497名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 20:48:16.03 ID:WkcEaZpf
作者その2だけど、俺も書きはじめる前から百冊以上小説を読んでたら描写はだいたいイメージできるな
むしろ描写より台詞が原作キャラから剥離してないかが気になる
498名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 21:35:40.61 ID:munniwI0
普通に書いてると台詞パートと地の文パートが水と油のように層を作り始める
まあ悩みは人それぞれか
499名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 21:45:52.61 ID:/w/ElgDj
>>489
ネットに上げるだけなら
批評批判に耐えて投稿し続ける不屈の精神力があればいい

情景表現とかは書き慣れてみがいてけばいいよ

うん

500名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/12(火) 21:50:50.16 ID:5Pp4ATNg
>>496
それと同時に、その手の作者が表現したいものは脳内アニメで
それを漠然と文章に変換しただけの代物を小説と呼んでるんじゃないかな
501名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 04:00:37.03 ID:hcRW9ECR
あと引き出しだね
描写は書き起こしを繰り返すと単調になってくるから
適度に見直す必要がある
勢いが付かないときは特にね
502名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 14:03:45.53 ID:PLYsu1UY
100冊以上って別に多くなくね?
ってか少ないぐらいな気がするが
503名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 16:14:03.47 ID:LH7vhPdR
雑多な2次作者よりも原作者がきちんと回復してくれることを祈りたい
504名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 19:23:43.80 ID:hmpN49QJ
>>502
まあ、べつに文学賞ねらうようなものかくわけじゃないしいいんじゃね

ライトノベルとかじゃ数読んでもな
字を読むのに慣れてサクサク読める程度だろ

505名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 20:02:30.05 ID:FqpcsC+s
いやまぁ文章をガチで書くならラノベどころか小説ばっか百冊読んでも何の意味も無いがな
506名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 21:31:30.26 ID:Fgv3Ecpp
サイトメガロウイルスを召喚
507一尉:2012/06/13(水) 22:24:48.05 ID:iu8SLwjC
カダフィ大佐を召喚にする。
508名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 22:54:41.44 ID:2+z6PpHr
なのはの人来てたー
まじでずっと待ってたよ〜
509名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 23:14:39.55 ID:MR4Lacna
プレデター召喚の続きはまだかな
510名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/13(水) 23:46:16.66 ID:ZY6uN84n
幼なのはの人が気になります
入院するっていって中断してるんだよね……
511名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 00:59:28.55 ID:UTsnmqUi
wiki見たけど、一話しかない最終更新2008のやつ?
流石に更新待ちは無謀じゃね?
512名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 01:02:09.74 ID:8QglWsS8
311前の更新だと最悪お亡くなりの可能性もある…
513名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 01:33:53.09 ID:btZyjezw
ストUリュウやベルセルクの人とか楽しみに待ってるんだけど
それがあるのが本当に怖い。生存報告だけでもして欲しい
514名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 01:41:05.76 ID:UJAUGdq1
生存報告するって事はまだ書く気があるって事だからな…

できれば完結させて欲しいが原作が完結して無いから締めをどうするか悩んでいる人は多そう
515名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 02:31:12.09 ID:NCB3LdGq
こう言っちゃなんなんだが原作が完結するかどうかもはっきりしたわけじゃないし…
516名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 03:31:56.58 ID:PRvw9Xz9
最近の流れをみて思いついたので一発ネタ投げます
517名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 03:36:23.04 ID:PRvw9Xz9
「ゼロのルイズ! 召喚出来ないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」
 来た、とルイズは思った。
 朝、アルヴィーズの食堂で使い魔と並んで食事をとっていた時。先刻、教室に足を踏み入れた時。好奇の視線と腫れ物に触るような緊張が張り巡らされている中でも、彼女はぐっと歯を食いしばって前を向いていた。
 連れていた使い魔は不安のためか、見慣れぬ光景にきょろきょろと視線を彷徨わせていたが、フォローを入れる余裕もなかった。
 この先の未来が、この使い魔から向けられるであろう視線が恐ろしくて、何より自分が情けなくて、何も起こらぬうちからルイズは泣きだしてしまいそうだった。使い魔が気遣わしげな目を向けていたことにも、まるで気づいていなかった。
 時間が経つにつれますます張り詰めていくその糸を叩ききったのは、『風上』のマリコルヌ。無言の圧力を感じていないのか。空気が読めない風メイジとはこれ如何に。ミセス・シュヴルーズが教室に足を踏み入れて、やっと授業が始まると油断した瞬間だった。
 同調して、同級生たちの男子達がはやし立てる。何度も『ゼロ』の二つ名が聞こえる。食い縛るルイズの歯は最早ぎしりと音を立て、背筋はぴんと伸びていたけれど怒りと屈辱で頭の中はぐらぐらと揺れていた。
 普段のルイズなら、すぐにでも堪忍袋の緒がはじけ飛んでいただろう。しかし、そうすることは何があっても、例え、空に浮かぶアルビオンが落っこちてきても容認出来ない。
 彼女が呼び出した使い魔は、人間だった。それも、小柄な平民の少女だった。身長は恐らく130サントもないだろう。
 ルイズの記憶する最も背の低い同級生よりも10サント以上小さい。年齢は十を数えるか数えないか。ルイズは末娘であったが、もし妹がいればこのくらいであろう。
 彼女の使い魔はそういう、幼くあどけない少女だった。その彼女の前で、喚び出した当の自分が、庇護を与えるべき主が、みっともなくわめき散らす事ができるだろうか?
 ルイズにだって、『ゼロ』にだって意地がある。全身全霊で耐えねばならない、これはそういう試練なのだ。
 囃し立てる声が止むまでの時間は、ルイズにとって永遠とも思えた。何があったのだろう、どよめきが聞こえた。ただルイズの思考は緊張で真っ白になっていたから、何が起こっているのかまるで解らなかったが。
 胸の奥から不安がわき出してくる。彼女は知ってしまっただろう。自分を喚び出した人間が、貴族でありながら魔法が使えないみそっかすであることを。
 芯の強い子なのだろう、召喚されたことには驚いていたし状況もよくわかっていないようだったが、すぐに名前を交換して眩しい笑顔を見せてくれた。その屈託ない笑顔に、僅かでも失望が混じっていたら。ルイズの心は折れてしまうかもしれない。
 それでも。もう我慢が利かなくて、ちらりと視線を横に向ける。
 誰も座っていない席がそこにあった。
「え?」
 先程までそこに座っていたのにどこへ行ったの。まさかもう私に愛想を尽かしてしまったのでは。まさか、ざわめきは彼女が教室を出たから?
 ルイズの頬から血の気が引いて、真っ青に染まる。そんな、まさか。嘘でしょう。使い魔に見放されるメイジなんて。
 絶望に足を取られ、底なしの奈落に落ちる。その瞬間。

  ――ばちんっ。

 物凄い音だった。自然と野次が収まり、教室が静まり返る。ルイズも気付いた。ルイズを一番に馬鹿にした、マリコルヌ。その前に、何故か彼女の使い魔がいるのだ。
 誰一人として口を開けない。誰もその光景を信じられなかったのだ。
 まさか、幼い女の子が年上の、それも貴族の少年を強かに引っ叩いただなんて!
「お、お前なにを」
「痛い?」
 呆然とした彼が漏した呟きは断ち切られた。彼女の言葉はそれだけ強かったから。まるで乱世の覇者のような貫禄と凄みがそこにはあった。
「でも、大切な物を傷つけられた心は。もっともっと、痛いんだよ」
 教室を沈黙が包む。誰も何も言えなかった。
 ルイズもまた、何も言えなかった。
 言葉を放った彼女の使い魔の決然とした顔の方が、もっとずっと、痛くて苦しそうに見えたのだから。


 魔法少女リリカルなのはより、高町なのはを召喚。多分A’s後。
518名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 03:43:16.93 ID:PRvw9Xz9
一レスですが以上です。
話に上がった幼なのはさんが自分的に腑に落ちなかったので自分なりに。
といっても名言喋らせるので限界でしたが。
夜中に何やってるんだか。

・おまけ
「使い魔め……!」
「使い魔で、いいよ」
「使い魔らしいやり方(?)で、話を聞いてもらうから!」
 多分ヴァリエールさんちのカリーヌさんあたりが話を聞いてくれなかったのだと思います。
519名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 07:16:55.24 ID:A1hffH4d
乙!
ふと、リリカル繋がりでプレシアさん(アリシア付き)召喚なんてのを考えた
アリシアが死んだままで、もしアンドバリの指輪の情報を知ればその入手に躍起になるんだろうな
一方、他のSSでよくあるように、召喚時の超常パワーでアリシアが蘇生してたとかなら、プレシアさん無双の始まりだね
520名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 08:52:24.22 ID:nC093YwO
>>511
間違った
幼なのはじゃなくて幼ユーノだ
ルイズがなのは役でタバサがフェイト役のやつです
作者さんにもごめんなさい
521名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 12:29:12.57 ID:82fegtYk
これだけじゃ分らないよね?
全力全開スターライトブレイカー!
522名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 12:31:28.07 ID:fl+1fg/p
UCのマーサや髭のリリ・ボルジャーノみたいな女傑を召喚したらどうなる?
523名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 12:50:38.13 ID:UTsnmqUi
投下乙
大人なのはさんとはまた違ったポジションに収まるんだろうな

>>519
虚数空間に落っこちた後なら鮮血の使い魔的展開になりそう
524名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 16:43:22.42 ID:shNxRlk/
県立地球防衛軍とクロスを想像。
タルブ村が九州某県のごとくしいたけが特産で温泉かけ流しの癒しの里。
トリステインは綱引きは強いがサッカーは弱く、魅惑の妖精亭は由緒正しい材木問屋。
杉野はいずこな国家が歌われて、ブリミルならぬざびえるが讃えられる。
そしてルイズがトリステイン魔法予備校に通うカオスな世界をイメージしたが、文章にすんのは無理だと気づいた。
525名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 20:40:18.06 ID:8d6Xv3lc
イナイレの五条さん召喚したらおもしろそうだなw

ルイズ「あんた誰?」
五条さん「五条です・・。ククク、お前、俺を召喚するとは、なかなか変なやつですね・・・。」
526名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 20:45:25.64 ID:b7GNz8FY
いやべつに
527名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 21:03:42.50 ID:YPyAF3W2
それを面白そうと思えるのがうらやましいわ
528名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 21:06:41.50 ID:4+z5s7Ud
もうあるし
529名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 21:20:27.00 ID:8zWhww8+
職人の皆様乙
魔砲の人も乙
この調子で損失実験体、メイド長、魔王伝、ラスボス、人修羅、ベルセルクなど、
ほかの方々も帰ってきてくれんだろうか
530名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 21:36:42.83 ID:shNxRlk/
スレ残量が中途半端
531名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 22:30:41.20 ID:brwTGZIA
悟空はやく来てくれええええ
532名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/14(木) 23:04:08.33 ID:lhh2NGlp
>>529
更新停止してしまった面子が豪華な分、もの悲しいな…
無理にとは言わないが、せめて生存報告ぐらいはして欲しい

とにかく、魔砲の人が戻ってきてくれたのは本当に嬉しい
これからもゆっくりで良いから頑張ってくださいね
533名無しさん@お腹いっぱい。:2012/06/15(金) 00:53:38.72 ID:ng8gDu/1
4発売前に、もう一度チーフの活躍が読みたいな・・・
ウル魔代理行きます。

 第九十話
 目を開いて見る世界
 
 大蟻超獣 アリブンタ
 友好巨鳥 リドリアス
 古代暴獣 ゴルメデ
 高原竜 ヒドラ
 磁力怪獣 アントラー
 海獣 サメクジラ
 宇宙海人 バルキー星人
 古代超獣 スフィンクス
 さぼてん超獣 改造サボテンダー
 地獄超獣 マザリュース 登場!
 
 
 宇宙は、様々な次元の世界に分かれている。そしてそのいずれも、無限ともいえる数の生命によって満ち満ちている。
 だが、そのいずれにも絶えない争いが息づいて、昨日も今日も戦火をほとばしらせている。
 それはウルトラマンのいる世界、いない世界を問わない。生き物たちはその中で、生存のため、大義のため、侵略のためと、
理由を問わずに戦いを始めては終わり、また始まっては終わりを永遠に繰り返してきた。
 なぜ、いずれの宇宙でもほぼ例外なく、戦いというものは続くのだろう? さらに滑稽なのは、そのほとんどで強く平和を
願う人々がいるのに、争いは絶えない事である。
 中には、そんな生き物たちに見切りをつけたロボットたちが造物主の生物を滅ぼし、とって代わった星もあった。
 だが、そんなロボットの完璧なはずの星もまた、争いを捨て去れずに滅んでいった。
 全宇宙を統べる絶対の法則は争いなのだろうか? 元を辿って行き着けば、生物が原始の単細胞として海を漂っていた頃から、
他者を喰らって生存をはかるという機構はすでに完成されていた。
 口さがないものは、弱肉強食こそが宇宙の真理だと豪語してはばからないが、しかしそれでは生命が何億年もの時間を
費やして身につけてきた知性や、その知性を多くの犠牲を払って進歩させて築いてきた文明は、ただの暴力装置でしか
ないではないか。
 
 この星でも、西のハルケギニアでは人間が、東のサハラではエルフが、それぞれ他の惑星では見られない独自の
文明社会を築いてきた。が、そのいずれも争いの宿命からは逃れられず、無意味に命をすり減らす戦争を繰り返した末、
その隙をヤプールに付け込まれて、こうして滅亡の危機に瀕している。
 アディールを襲う超獣軍団を迎え撃つウルトラマンA。
「テェーイ!」
 アリブンタとアントラーを相手取るエースのチョップが空を裂き、キックが大太鼓のような大気の激震を生み出す。
 東方号を破壊せんものとするバルキー星人とサメクジラを相手に、少年少女、若者たちは懸命に蟷螂の斧を振り上げる。
「水精霊騎士隊全員、根性だせ! いいかみんな、命に代えてもティファニア嬢を守れ。でも、彼女の差し入れてくれる
手作り弁当をまた食べたかったら死ぬんじゃないぞ!」
「一度捨てると決めて、姉さんとサイトに救われたこの命、もうわたしは地獄に戻るつもりはない。お前ごときに、殺せるものなら殺してみろ」
「やれやれ、僕はどうしてこんなところで蛮人を助けて戦ってるんだろう。聞いた話じゃ元はといえば、ルクシャナがあの
ハーフエルフに肩入れしたのがそもそもの元凶だとか。婚約者の僕を無視して、ほんとにやりたい放題の数々……
いままでは大目に見てきたが、今度という今度はガツンと言わせてもらうからな!」
 軽口を叩いたり決意を固めたり、なかばやけくそになってはいても彼らは皆負けることなどは考えてはいない。勝ち目などは
誰が見てもなくとも、彼らはみな勇壮で、かつ悲壮なる勇者たちだった。
 
 しかし、元凶を辿ればエルフと人間がどこかでいがみあいをやめていれば、彼らが若い命を武器にして戦う必要などは
なかったはずだ。先人たちが解決を先送りにしてきた問題が、積もり積もって子孫たちを苦しめている。
 人間は動物と違い、知恵あることを誇りとしてきた。だが、その誇るべき知恵を正しく活用してきたかには、大いに疑問符がつく。
 ハルケギニアの六千年の争いを、地球人類は笑えない。
 古来より人は、より優れた剣を、銃を、大砲を、軍艦を、大陸間弾道弾を作り出せる国を先進国として当たり前に思ってきた。
だがそれは、より優れた人殺しの技術を自慢してきたに過ぎない。まして、核兵器を用いて数百万の人間を一度に殺傷し、
地球すら滅ぼしうる力を得意げに誇示する国を、はたして文明国と呼ぶのだろうか? そんな国は、いくらでも存在する。
 地球人類は、いまだに文明という道具に遊ばれる、物覚えの悪い猿にすぎないのかもしれない。
 その点においては、六千年に渡って進歩のなかったハルケギニアの文明も、地球となんらの優劣の差はない。
 
 けれども、どんなに長く昼寝を続けても、いつか目が覚めるときは必ず来る。無我夢中にトンボを追いかけ続けた子供も、
腹が減って日が落ちれば家に帰って来る。
 ならば、田舎劇場の三流脚本家が手がけた演劇のように、延々と猿芝居を続けてきた人間とエルフの戦争も、そろそろ
飽きて仕舞いにしてもいいではないか。あらゆる宇宙の、星の数ほどの賢者が考え、砂漠の砂粒ほどの戦士が散っても
見出せない恒久平和にはなれなくとも、たったひとつのくだらない戦争くらいは終わらせられるはずだ。
 
「きっとそれが、ハーフエルフとして生まれてきたわたしの役目なんだと思う」
 
 ティファニアは、自分を始祖ブリミルの意志を継ぐ大魔法使いだとも、この世界の命運を左右する選ばれた者だとも、
そんな自惚れた考えは持っていなくとも、この多くの人を不幸にしかしない馬鹿馬鹿しい戦争だけは止めようと覚悟していた。
 振り返れば六千年の歴史の中でも、人間とエルフの和議を考えた者はふたつの種族にあったろう。けれど、そのいずれもが
失敗したのは、人間の貴族や、人間を蛮人と見くびるエルフを見ればわかる。きっと彼らは平和をお題目に、相手に自らの
要求を突きつけ、相手のことを考えない傲慢な天子さまであったからなのだろう。
 
 解決すべきは、ふたつの種族が屍山血河を築いてもなお奪い合いをやめない聖地にある。片方にとっては尊きもの、
片方にとっては忌むべきものであるという相反する価値が、この問題を複雑化させてきた。
 
 けれどティファニアには、どちらの種族も満足させる答えなど思いつかない。だがティファニアは自分の非力さを知っている。
知っているし認めているから、エスマーイルのように自分の考えで無理矢理すべてを動かそうなどとは思わない。ましてや
多くの賢者が行き詰った、知恵という道具が生物に与えられた意味、文明というものが持つ意味を解き明かす英知は
ないこともわかっている。
 ティファニアにあるのは、人間の英知が生み出した高度な哲学書の知識でも、エルフの誇る大いなる意志の恵みによって
知りえたこの世の理の真実ではない。彼女にあるのは、さびしがりやでわがままな子供たちといっしょに、苦楽をともにして
森の中で一生懸命生きてきた思い出だけ。
だけど、だからティファニアには人間とエルフの戦争という大問題も、かんしゃくを起こして意地を張り合っている子供の
けんかくらいに見ることができた。その、無知さとは違うある種の純朴さが、彼女にもっとも率直に核心を突いた言葉を、
母親が我が子に諭し聞かせるような優しさを交えて口にさせた。
 
 
「自分にとって当たり前なことが、人には全然当たり前じゃなかったりしたこと。自分にとってとても大切なものが、人には
まったくつまらないものだったりしたこと……そんなこと、これまで一度もありませんでしたか?」
 
”思い出してみてください……誰でもない、あなた自身に問いかけてみてください”
 
 他人を見るのではなく、自分の人生を振り返ってみてくれと頼むティファニアの言葉に、エルフの人々は心の片隅に
しまってきた若い頃や幼い頃の記憶を掘り起こしてきた。
 
”そういえば、あのときに……”
 
 いまだ超獣と怪獣の吼えたける声のやまぬ中で、エルフたちは心の中で短い過去への旅に出た。
 
 自分にとって当たり前なこと……ある若者は、ネフテスのために騎士になり軍隊に入ることが男として当然のことだと
思っていたのに、恋人はそんな危険なことはやめてと、どうしても理解してくれなかった。
 
 自分にとってとても大切なこと……ある母親は、種から熱心に育てた花を子供に見せたが、子供は少しも興味を
持ってくれなかったことを思い出した。
 
 それは当人にとっては不愉快な記憶だろう。しかし、それを逆の立場から見てみたらどうだろうか?
 恋人がそばにいることだけで幸せな女にとって、若者の使命感はどう映るか? 遊びたい盛りの子供にとって、
花を見せられることがうれしいことと限るだろうか?
 なぜ理解してくれないんだと怒ることは簡単だ。しかし、それは同時に相手も思っていることだろう。
 聖地の奪い合いも、それと同じことだと、ティファニアは穏やかにゆっくりと、ほんとうに子供にするように語った。
人間もエルフも、自分の主張をのみ押し通そうとしては争う以外にどうしようもない。だが、相手も同じように苦しんで
いるのだとわかれば、そこには話し合いの余地があるではないか。
これまで人間もエルフも、相手を異種の生き物と見なすがために、相手の立場と気持ちになって考えようとはしなかった。
突き詰めれば、それが戦争をはじめとする多くの問題の元凶なのだろう。欲望にまみれた権力者はともかく、多くの
市民たちにとってすれば、こんな戦争で得るものなどなにひとつないのだ。
 
「なにか、偉そうなことを言っちゃったみたいで、すみません。ですが、みなさんにそうした思い出がひとつでもあれば、
それはエルフと人間がわかりあえる何よりの証拠だと思います。わたしたちは、本来西と東に住むだけの兄弟なのですから」
 
 ティファニアはつたない言葉ながらも懸命に説得を続けた。
 何度反論されようと、何度怒鳴りつけられようと、何度罵倒されようと、その度に真剣に、心からの言葉を尽くして。
 彼女には話術はない。理論立てて相手を論破する知識も無い。あるのは、熱意とあきらめない心のみ。けれども、
うわべをとりつくろうことなく虚心に、いっしょうけんめいに話すティファニアの態度は、次第にかたくなだったエルフたちの
心を少しずつ溶かし始めていた。
 
”もしかしたらこの子は、なんの裏もなく蛮人と砂漠の民をひとつにしようとしているのか? そんな馬鹿な……だが”
 
 人にものをわからせるためには、教える側にわかってもらおうという誠意がなにより必要だ。ただ漫然と黒板に
公式を書き連ねていくだけの教師の授業で成績を上げていく生徒がいるだろうか? 熱意の無い言葉は朝の鳥の
さえずりと同じで、耳の中には入っていかずに反対側に素通りしていくだけだ。
 しかし、ようやくとわずかばかりの融氷を成し遂げ始めていたティファニアの説得も、力づくでそれを破壊しようとする
悪魔たちの猛攻の前には風前の灯であった。海上でバルキー星人が氷付けにされて封じられている間にも、陸上から
海上へと攻撃の手を伸ばそうとする超獣軍団は動く。
〔ここから先へは絶対に通さん!〕
 ウルトラマンAと、彼に味方する二匹の怪獣、ヒドラとリドリアスは全力で超獣軍団を食い止めていた。
 アントラー、アリブンタ、スフィンクス、サボテンダー。いずれも屈強で凶暴な猛者ばかり、ヤプールが、このアディールを
完全に地上から消してしまおうと送り込んできた、マイナスエネルギーの申し子たちである。
「ははは! ウルトラマンAよ、先ほどの不可思議な光には驚いたが、どうやらあれは連続しては使えないようだな。
一匹や二匹がやられたぐらいではわしは痛くもかゆくも無いぞ! 下等生物どものあがきに期待した愚かさを後悔しながら
なぶり殺しにしてくれるわ」
 異次元の闇の中でヤプールは残忍な笑いを高らかにあげた。奴にとっては、我が子のように作り上げた超獣といえど
どこまでいこうと捨て駒でしかない。徹底的な利己主義もまた、ヤプールがヤプールである所以である。
 邪悪な意志のおもむくままに、海に向かって動く超獣たち。今いるものたちは水中適応の特性はなく、先に失われた
ガランの存在が惜しまれるが、それでもミサイルや火炎の射程に海上をただようエルフたちが入ったら惨劇となってしまう。
そうなったら、もう説得どころではない。蹂躙されて、全滅する末路しか待っていない。
 それだけは、なんとしても避けなくてはならない。ヤプールの言うところの、下等生物のあがきにかける光の戦士は
そのために命をかける。
「テャァッ!」
 アントラーとアリブンタの二匹を相手にして、エースも全力を振り絞る。突進してきたアリブンタの首をわきの下に
掴んでねじあげて、大アゴを振りかざして攻めてきたアントラーを蹴り飛ばして建物に衝突させた。
 二対一でもエースはひるまない。また、太古の時代から長い眠りを経て蘇ってきたヒドラとリドリアスも、サボテンダーと
スフィンクスを相手に血を流しながら戦い続け、彼らの壮絶な戦いはおのずと追われることから解放されていた人々の注目を
集めることとなった。
 
”あの巨人はいったいなんなんだ? 怪物どもと戦っている。はじめは焦っていて気づかなかったが、自然の法則に
背を向けているような怪物どもの邪悪な雰囲気とは裏腹に、純粋な光のように清浄な気に満ちているぞ”
”いいやそれどころか、この街に宿る種種の精霊たちが、まるで応援するかのように取り巻いているじゃないか”
 
 人間と違い、大いなる意志、精霊という超自然的な存在を感知することがエルフにはできる。それは森の中で
小鳥のさえずりに耳を澄ますようなもので、殺気立つ耳には聞こえない。しかし、ティファニアの呼びかけで心に
落ち着きを取り戻した彼らの耳には、彼我に漂う気配の正邪の違いとともに精霊たちの呼びかけが聞こえていた。
 だが、精霊たちの声があっても、まったく未知のものへの不安はぬぐい得ない。迷うエルフたちに、ティファニアは
信頼を込めて告げた。
 
「皆さん、あの巨人は敵ではありません。彼は、ヤプールと戦うために外の世界からやってきた平和の使者、
わたしたちは彼のことをウルトラマンと呼んでいます」
 
 ウルトラマン、その名はエルフたちの心にひとつの記号として染み入っていった。
 実際には、まだハルケギニアにはウルトラマンの正体を知る者はいない。しかし、エースをはじめとするウルトラマンたちは、
今では正義の味方として、人間たちのあいだに強い信頼感を勝ち得ている。それはなぜか、ティファニアは寡黙なる
巨人たちが、どうして人間たちの友人となっていけたのかを訴えていった。
「彼らウルトラマンさんたちは、ヤプールの送り込んでくる超獣からいつもわたしたちを守ってくれました。戦うだけではなく、
命を奪われそうなときにかばってくれたり、燃える街の火を消してくれたこともあったそうです。彼は、間違いなくわたしたちの
味方です!」
 ティファニアは、はじめてジャスティスに会ったときにサボテンダーから助けてもらったことを思い出しながら言った。
思えば、幾百の言葉よりもあのときに助けてもらった感動がジャスティスを信じるなによりの原動力となった。エースも
同じく、最初に存在を疑っていた人も、超獣と戦うのみならず、命の危機に瀕した人々を助けた姿が少しずつ人々の
信頼となって積み上げられていったのだ。
言葉には嘘が含まれるかもしれない。行動にも嘘が含まれるかもしれない。けれども、言葉は万や億を揃えても
流れていくだけだが、行動の積み重ねは信頼を生む。三顧の礼で孔明を迎えた劉備の例を紐解くまでも無く、
毎朝「おはよう」とあいさつをしてくれる隣人に、好意を抱かない人はまずいないだろう。
 
「真実がどうであるか、みなさんの目で見て確かめてください。それでもわからなければ、何度も何度でも見てください。
わたしたちはそうやって答えを出しました。みなさんも、誰かに教えられるのではなく、みなさんが自分の目で見た
事実で、ほんとうに納得がいく答えを見つけてください」
 
 一回で答えが出なければ、何度でもやり直せばいい。一度の説得で聞き入れてもらえなければ、何度でも
繰り返すしか方法はない。一度で絶望しては駄目だ……何百回の失敗にも立ち向かう勇気があってこそ、はじめて
不可能が可能になるんだと、それがウルトラマンから人間たちが学び、今エルフたちに伝えたいことだった。
 
 エルフたちの目は、真実を知るためにエースへ向かう。
「ヘヤァッ!」
 担ぎ上げたアリブンタを激しく地面に叩き付け、地中に潜ろうとするアントラーを引きづり出してチョップをお見舞いする。
〔絶対にここから逃がすかよ! テファたちの邪魔はさせねえ〕
〔わたしたちの努力を、こんなことで無にさせてたまるものですか。トリステインで待ってる姫さまに、朗報を持って帰るまで
わたしたちは絶対に負けられないんだから!〕
 才人とルイズも、ティファニアと仲間たちの頑張りを見て気を奮い立たせていた。二匹の攻撃をかわしながら、確実に
攻撃をヒットさせてダメージを蓄積させていく。
 だが、アリブンタはかつてメタリウム光線の直撃にも耐え、アントラーはスペシウム光線にかすり傷も負わなかった
強豪なのに、これはどうしたことだろう? 実は、ティファニアの渾身のエクスプロージョンは、二匹に体力的のみならず
肉体的にも深刻なダメージを加え、防御力も大幅にダウンさせていたのだ。
『アロー光線!』
 リング状のショック光線がアントラーに当たって、全身に感電したような衝撃を与えて倒れこませた。戦いは、期待に
応えようとするエースに報いるかのように、徐々にエースに優位に傾きつつあった。
『シューティングビーム!』
 付き合わせた手の先から放たれた青色光線がアリブンタに当たって吹き飛ばす。その後ろから、アントラーが虹色磁力光線を
放ってエースを吸い寄せようとしてくるのをスライディングでかわすと、腹の下にもぐりこんで掬い投げの要領で投げ飛ばした。
「トアァーッ!」
 背中から叩きつけられて、アントラーが寿命を迎えたセミのようにもがく。だがそれでも巨大なアゴをハンマーのようにふるい、
エースを打ち据えて苦しめてくるのはさすがだ。アリブンタも、ハサミのあいだから火炎を放って攻撃を加えてくる。
 激しい攻防戦が続き、その息を呑む超重量のぶつかりあいにエルフたちは我を忘れて見入った。しかし、まだ彼らの目には
未知の強大な力を持つ相手への恐れとおびえがある。そんなとき、サボテンダーと戦って抑えていたリドリアスが力量差から
押し切られて、球形サボテンの体当たりをまともに食らってしまった。
〔あいつ! くっ!〕
 そのとき、ちょうどエースは二匹にとどめをさせるかどうかというところにまで来ていた。あと一発、メタリウム光線を
撃ち込めば倒せるかもしれない。だが、そうしているうちに……その選択に彼らは迷わなかった。
〔お前たち、邪魔だぁぁーっ!〕
〔道を、開けなさいっ!〕
 アリブンタとアントラーに強烈なパンチをお見舞いし、エースは空高くジャンプした。才人とルイズの心に応え、エースの
心も彼らに等しい。空から見下ろせば、白石の建物の瓦礫に埋もれ、悲痛な鳴き声をあげるリドリアスが見える。対して、
サボテンダーは超獣の姿に戻り、花弁のような口を開き、体を左右にゆすりながら独特の声で笑い声をあげている。
 とどめを刺す気だ。エースはトゲミサイルを発射する直前のサボテンダーとリドリアスのあいだに割って着地した。
直後、鋭いトゲがそのまま弾丸として発射されるトゲミサイルが発射されてエースを襲う。バリヤーを張る暇はない。
エースはその身でトゲミサイルを全弾受け止めた。
「ウッグォォッ!」
 エースの左腕と左わき腹にトゲミサイルが刺さり、苦悶の声がエースから漏れる。人間でいえばナイフを突き立てられた
ような傷に、鋭い痛みがセーブしきれずに才人とルイズにも伝わるが、今さらこのくらいの痛みで弱音を吐く二人ではない。
体に刺さったトゲミサイルを引き抜くと、サボテンダーに向かって投げ返した。
「トアッ!」
 持ち主に返されたトゲミサイルは鋭利な切っ先の役割をそのまま果たし、緑色の体に深々と刺さった。その威力は
サボテンダーも自分で味わうのは初めてだったらしく、サボテンの枝そのままの腕では抜くこともできずに奇声をあげて
苦しんだ。
 だが、ダメージというならば左腕を打ち抜かれたエースのほうが大きい。まだ痺れが残り、腕の力は半減しているままだ。
サボテンダーはそこを狙って全身のトゲミサイルをいっせいに撃ちかけて復讐をはたそうとしたが、その前にエースの
上下縦に伸ばした手から三日月形の光のカッターが放たれていた。
『バーチカル・ギロチン!』
 研ぎ澄まされた光の刃が、燕のように一瞬でサボテンダーのシルエットと重なって通り過ぎていく。
 一瞬の静寂と、凍りついたかのように身動きを止める超獣。だが次の瞬間、サボテンダーは包丁を入れられた野菜のように
左右真っ二つに両断され、崩れ落ちた。
 やった! 観戦していたエルフたちの何人かは歓声をあげた。はじめて、目に見える形で超獣が倒されたのである。
 しかし、深い傷を負った体で強力な技を放ったエースは、その無理がたたってがくりとひざを突いた。
「フウゥゥ……」
 左腕の感覚が無い。骨にまでは達していないが、少しの間左腕は使い物にならないだろう。
 苦痛にじっと耐えるエース。すると、その背の方向から、リドリアスがゆっくりとした声で鳴きながら、傷ついたエースの腕に
顔をすりよせてきた。
〔お前、心配してくれるのか……〕
 エースは、子犬のようにけなげな姿に胸の奥が熱くなってくるのを感じた。お前も傷を負っているだろうに……エースは、
リドリアスの頭を優しくなでて、自分は大丈夫だというふうにうなづいて見せた。
 そして、彼らの互いをかばいあう姿は、エルフたちにも深い共感を呼んでいった。あの巨人や巨鳥たちは確かに
すさまじい力を持っているが、ああして互いを思いあう心を持っている。決して、理解できないものではない。
 だがそのとき、エースの背後で突然土中から砂煙が噴き上がった。その中から這い出てくる巨大なハサミを持った頭、
アントラーが土中を高速移動して奇襲をかけてきたのだ。危ない! エースは今完全に無防備だ。そこへ!
「後ろよーっ!」
 ひとつの叫びがエースを動かした。頭で考えるより早く、体に染み付いた戦士の感覚が手足を動かし、下から突き上げた
キックがアントラーの首元に当たって吹っ飛ばした。よろけて、木から落ちたカブトムシのように仰向けに倒れこむアントラー。
しかしエースはアントラーに追撃を仕掛ける絶好のチャンスなのに、それをせずにゆっくりと立ち上がると、くるりと振り返り
避難している人々に目を向けた。
541ウルトラ5番目の使い魔 90話 (8/12)(代理):2012/06/15(金) 03:46:45.97 ID:q7I4w9/B
「あ……」
 その視線の先にいたのはひとりの少女だった。さあっと、波が引くように彼女の周囲のエルフたちがどいていく。
 ウルトラマンAとエルフの少女が目と目を合わせ、互いを見詰め合った。彼女のエルフの学校の制服はすすけて汚れ、
表情にも憔悴の色が濃いが、瞳はじっとエースを見上げている、あのときのように。彼女は少し前にエースに
アリブンタから救われた、あの子だった。
 
「ありがとう」
 
「えっ! 今……」
 たった一言だが、少女はまたウルトラマンの声を聞いたような気がした。しかし、その真偽を確かめる間もなく
ウルトラマンは戦いに戻っていった。
「あ……」
 周りのエルフ、彼女の級友たちが見守る中で、少女は無言のままでウルトラマンの背中を見上げていた。周りからは、
今ウルトラマンと話してたのかと問いかけてくるが、それは彼女自身にもわからなかった。正直、どうしてウルトラマンの
危機にとっさに叫んだのかもわからない。やっと命が助かって、もうこのまま気を失ってしまいたいくらい疲れていたのに、
なんであんなことをしたのか……ふと目に入っただけで、あんな、わけのわからない蛮人の味方なんかのために……
”……立てるかい? 立てたら、走って早く行きなさい。振り返らず、さあ!”
 心の中に、あのときに耳に響いてきた言葉が返ってきて、彼女は頭を振った。砂漠の民はこの世でもっとも尊い存在、
なのに……でも、胸が熱い。あれは、悪いものじゃない! 彼女はまだ始まって間もない人生で、最初に自分で
考えて大事な決断をした。
「が、がんばってーっ! ウルトラマーン!」
 言ったとたん、彼女は顔を真っ赤にしてうずくまってしまった。我ながら、なんてことを言ってしまったものだと後悔する。
あんなことを言ったら、皆や親になんて言われるか。エルフがあんなものにすがるなどはしたないと叱られる。でも、でも、
わたしは……!
 しかし、羞恥心に染まり、耳を覆った彼女の鼓膜に手のひらを通して伝わってきた大声は、叱り声でも罵声でもなかった。
「そうだーっ! いけーっ!」
「がんばってウルトラマン! 精霊たちは、あなたを加護しているわ!」
「それだけじゃねえぞ、俺たちが応援してやるからなーっ!」
「だから負けるな! 私たちは、あなたを信じるから!」
 ひとつの声がふたつに、ふたつがよっつに、よっつがやっつに、十八、三十六、七十二、百四十四と倍々していく声の
連鎖は瞬く間に天を揺るがすような歓声となって街の一角を支配した。
 少女が顔を上げたとき、そこにはウルトラマンを応援するエルフたちで埋め尽くされていた。
 そう、エルフたちも皆、自分で見た真実を肯定したかった。だが、染み付いた因習を振り払う勇気と、ほんの一欠けらの
きっかけがほしかったのだ。その口火を、ひとりの少女のたった一声が切り、吐き出された心の声は火山のように
とどまるところなく響き渡る。
「が、がんばってーっ! 勝って、アディールを守って、わたし、応援してるからーっ!」
 気づいたときには少女も大声で叫んでいた。その顔には、もうおびえの色はひとかけらもない。満面の笑顔と、
希望と未来と、ウルトラマンたちへの信頼の光が輝いていた。
 
〔そうだ! 信じてくれる人がいる限り、光の戦士に限界はない!〕
 エースは傷ついたリドリアスをかばいながらアントラーへ怒涛の攻撃を絶やさない。
542ウルトラ5番目の使い魔 90話 (9/12)(代理):2012/06/15(金) 03:49:26.63 ID:q7I4w9/B
 パンチ、パンチ、チョップ、キック! 担ぎ上げてのエースリフターが反撃させる隙なく炸裂する。さしものアントラーも
スタミナが尽きてすでにフラフラだ。が、地中から奇襲をかけられるのはアントラーだけではない。アントラーに追撃を
かけようとしていたエースの背後で砂煙が上がり、土中からアリブンタがエースを引きずり込もうと狙ってきた。
 土中から、真下からの攻撃ではエースも対応しきれない。エースの足にアリブンタの毒牙が食い込もうとした。
 だが、アリブンタが必勝と復讐に歓喜した瞬間だった。突然、アリブンタのさらに下の地中から太い腕が現れて、
アリブンタを羽交い絞めにすると、怪力で持ち上げて地上まで引きずり出したのだ。
〔あれは……あの怪獣は!?〕
 アリブンタを担ぎ上げて地底から現れた新しい怪獣に、エースはヤプールの新手かと一瞬戸惑った。土色をした
二足恐竜型の怪獣は才人の記憶にもなく、アリブンタを放り投げると勝ち誇るかのように吼えた。
 が、困惑するのは一瞬ですんだ。その怪獣は、弱ってじっとしているリドリアスに向かって低くうなると、リドリアスも
くるると喉を鳴らして答えたではないか。まるで、大丈夫か? よく来てくれたと言い合っているようだ。
〔知り合いってことか〕
 びっくりしたが、どうやら敵ではないらしい。新しい援軍、リドリアスとともに目覚めた古代暴獣ゴルメデが、地底を
通って遅ればせながら到着した。雄たけびを上げ、リドリアスに代わって戦うべくエースと並ぶ。
〔ようし! これで形成は逆転ね〕
 この怪獣にはマイナスパワーは感じなかったことが、エースにとっても安心材料となった。むろんそれだけではないが、
この星を守るために怪獣たちまでもが立ち上がろうとしているのが、生きようとする星の息吹のように感じられてうれしかった。
 アントラーとアリブンタはゴルメデにまかせて大丈夫だろう。エースはそう考え、スフィンクスに苦しめられているヒドラの
援護にまわるためにジャンプした。
 
 
 いったん大声で放たれたときの声は、やまびこが山から山へと伝わるように見えない波でとどろいていく。
 東方号で必死にエルフたちへの呼びかけを続けるティファニアと、彼女を守る仲間たちの奮闘で、ギリギリ抑えられていた
バルキー星人の体を覆っていた氷が砕け、死に物狂いの星人が精神力を使い果たした彼らに襲い掛かってきたのだ。
「かはぁーっ! ぶっ、潰してやるぅぅーっ!」
「しぶとい奴め、我々もまあよくやったほうだと思うが、このあたりが潮時か」
 ふうと息を吐き、ビダーシャルは悟ったようにつぶやいた。もう撃てる魔法はエルフも人間もひとつも残っていない。
あとできることといえば殴りつけてやることくらいだが、ちと手が届きそうにないのが残念だ。
 バルキーリングの一閃が迫り来る。今度という今度は防ぐ手立てはひとつも残されていない。あれを喰らえば、
とりあえず何十人死ぬことか……東方号が沈められるまで何分かかるか、やるだけやったので悔いはないが、残念だ。
 だがそのとき、バルキー星人は海中から立ち上った巨大な水柱に飲み込まれた。
「こっ、これは!?」
 人間とエルフたちは目を見張った。直径五十メイルに及ぶのではという巨大な水柱はバルキー星人を取り込むと、
そのまま高さ百メイルにはなるのではという大きさの中心に星人を取り込んだまま固定された。星人は必死で
もがいているようだが脱出できないようだ。しかし、誰も魔法は使っていないはずだ。ならば……
543ウルトラ5番目の使い魔 90話 (10/12)(代理):2012/06/15(金) 03:51:36.08 ID:q7I4w9/B
そこに、大勢のエルフたちの声が響いた。
 
「アディールをこれ以上好きにさせるか! わたしたちだって戦えるんだ」
「統領閣下! 我々もともに戦います。よそ者が命をかけて戦っているのに、我々だってまだ戦う力はあります!」
「ウルトラマンと同じく、その蛮人たちも私たちのために命をかけてくれている。そんな子供たちが戦えているのに、
私たちにできないはずはないと気づきました!」
 
 そこには、海に小船やイルカに乗って浮かびながら魔法を使っている何百何千というエルフたちがいた。彼らもまた、
ウルトラマンを応援した仲間たちの歓声を聞いて、同じようにがんばっている人間たちを信じる決意をしたのだった。
 首都防衛部隊や水軍空軍の生き残りの将兵たちを筆頭に、アディールの大勢の市民たちがひとつになっている。
「こ、これは、なんという!」
 東方号の艦橋から見下ろしたテュリュークは絶句していた。合体魔法、その概念はエルフにもあるし、軍の中では
ひとつの戦法として確立しているが、彼の長い人生の中においてもこれほどのものは見たことがなかった。
男女、職業や身分、老人も子供までがいっしょになって、精霊への祈りを束ねて強大無比な力に変えている。
 水柱の中に閉じ込められたバルキー星人とサメクジラは、水中適応も精霊の力に封じ込められているらしく、
もがけどもがけど脱出できない。ラグドリアン湖に住む水の精霊と同じように、この海に宿る大いなる意志も、
海を荒らす邪悪な者たちに対して怒っていた。それが、恐れることや、憎悪に身を任せることをやめて、前を向いて
戦うことを選んだエルフたちの力で具現化し、侵略者を封じ込めた。自然の怒りに、彼らは触れたのだ。
「とどめだぁぁ!」
 精神力を振り絞りきったエルフたちの意志は、天変地異や宇宙人の科学力をも超えた力を発揮した。何千人という
エルフたちの力で生み出された水柱は一瞬にして凍結し、巨大な氷柱……いや、氷山へと姿を変えたのだ。
「なんと……」
 テュリュークやビダーシャル、人間たちは完全に絶句した。恐らく、エルフの歴史上、これほどのものは例を見るまい。
普段はエルフは精霊と契約し、命じて魔法を発動させるが、精霊とエルフの意志がひとつになったとき、ここまでの奇跡が
起きるとは。その中に閉じ込められた星人と怪獣は、琥珀の中の虫のように、今度こそ身動きひとつできない。
 そして、ふたつの氷山に細かな亀裂が無数に入った。刹那、氷山は数兆、数京の破片に変わって粉々に砕け散ったのだ!
「やったぁーっ!」
「わぁぁーっ!」
 大歓声が響き渡り、バルキー星人とサメクジラは残骸すらわからないくらいに木っ端微塵になって砕け散った。
宇宙の海賊と恐れられる無法者は、恐れを捨てて決起したエルフたちと自ら荒らした海の怒りによって、この遠い星に
544ウルトラ5番目の使い魔 90話 (11/12)(代理):2012/06/15(金) 04:25:17.71 ID:q7I4w9/B
散ったのであった。
東方号の甲板では、エルフたちと人間たちが手を取り合って喜んでいる。海の上ではその数百倍の歓声があがり、
自分たちの力で悪魔の軍勢を打ち破ったと喜んでいる。そして、彼らは誰からともなく東方号の人間たちに、さらには
彼らにとってもっとも忌むべき存在であるハーフエルフの少女へ向けて手を振りはじめた。
「あ、えっと……」
 ティファニアは困った。彼女の見る先には、数万のエルフたちが手を振ってくる姿がある。でも、それにどう答えたら
いいのかわからずに戸惑っていると、ルクシャナがぽんと彼女の肩を叩いた。
「なにしてんのよ、さっさと手を振ってやんなさいよ。みんな、あんたを待ってるのよ」
 軽くウィンクして、この英雄と、茶目っ気を見せてくるルクシャナのおかげで、ティファニアは胸が軽くなった気がした。
そういえば、サイトが言っていた……やってみてほしいって必殺技、あれをやってみよう。思いっきりの笑顔に、
みんなと仲良くなりたいって真心を込めて!
「み、皆さん! えと、ど、どうもすごかったです!」
 天使のような笑顔と、どもってどこかずれた一言が流れた瞬間、エルフたちは爆笑した。ティファニアはそれで、
また顔を真っ赤にしてしまったが、ルクシャナはそれでよかったのよとほめて、妹にするように倒れそうなティファニアの
体を支えてやった。
「ほら、見てみなさいよ。みんな、あなたに笑顔を向けてるのよ。ハーフエルフとか関係なく、あんたを受け入れてくれたの。
あんたの努力が実ったの、もっと誇りなさい!」
「はい……でも、それはわたしだけじゃなくて、みんながいてくれたおかげです」
 疲れとともに、心地よい充足感が体を満たしてくるのをティファニアは感じていた。今確かに、エルフたちと自分たちの
心は通じ合っている。人間だから、ハーフエルフだからなどというこだわりを、皆の努力する姿が乗り越えてくれた。
エスマーイルと彼の一党だけがまだわめいているが、もう彼らの言に耳を貸す者は誰もいない。なぜなら、人々は見たからだ、
人間たちが命をかけて戦う姿を。その勇姿の輝きにくらべれば、空虚な言葉のがなり声が誰に届くだろうか。
 ティファニアたちのがんばりがエルフたちに勇気を与え、エルフたちは持ちうる以上の力を発揮して星人と怪獣を倒した。
団結の力……たとえ戦士でなくとも、ひとりひとりの力は小さくとも、集まれば巨大な悪魔に対抗することもできる!
まぎれもない奇跡を成し遂げたティファニアの手の中で、青い輝石が祝福するように力強く輝いていた。
 
 超獣軍団の闇を打ち消すように人間とエルフたちの輝きは増していき、その光を受けてウルトラマンAは力を増していく。
『メタリウム光線!』
 エース必殺の光線が超獣スフィンクスに炸裂し、スフィンクスは仰向けに倒れると大爆発を起こした。スフィンクスは
首を跳ね飛ばしても胴体だけで向かってくるほど生命力の強い超獣だが、木っ端微塵にされてはどうしようもない。
 エースはスフィンクスの最期を見届けると、弱っているヒドラを助け起こした。体中傷だらけで、スフィンクスの放った
高熱火炎にやられた火傷が痛々しい。ほんとうによくやってくれた……リドリアスとともに、ガランと戦い、東方号を牽引し、
今ここでスフィンクスと戦い続けてくれた。疲労でいえばエースより上だろう。
545ウルトラ5番目の使い魔 90話 (12/12)(代理)
 ヒドラを、あとはまかせて休めと横たえると、エースは立ち上がって振り返った。その先には、ゴルメデがアントラーと
リドリアスと戦っている姿があった。
〔あいつらを倒せば、ヤプールの超獣軍団は全滅だ! あと一息だぞ、ふたりとも!」
〔おう!〕
〔ええ!〕
 圧倒的破壊を好きにした超獣軍団も、そのほとんどが撃破され、勝利は目前に迫っている。
 あと一息、あと一息で勝てる! 人間も、エルフも、最後の勝利を確信して、天をも震わすのではないかという大歓声をあげた。
 
 
 だが、ヤプールの闇の力はまだわずかな衰えも見せてはいなかった。むしろ、超獣軍団の壊滅を喜ぶかのように、
邪悪な笑い声を高らかにあげていた。
「フッハハハハ! それで勝ったつもりか愚かものどもめ。貴様らがなんらかのイレギュラーを起こして逆襲してくることくらい、
わしは最初から計算していたわ。そいつらは最初から貴様らの隠し玉を使わせるための捨て駒よ! バルキー星人よ、
貴様はよく役立ってくれたぞ。そして、貴様らにはもう同じことのできる力は残っていまい。我らヤプールの力、その本当の
威力を見せてやる。悪魔どもよ、我が闇の力を受け取るがいい!」
 空間の裂け目が出現し、そこから膨大なマイナスエネルギーがあふれ出してきた。
〔こ、これは!?〕
 エースは驚愕した。ハルケギニアに来て以来、感じたことのないほどのケタ違いのマイナスエネルギーの波動、
これはまさか、ヤプールはいままで遊んでいただけだったというのか。しかし驚いている暇もなく、それは黒い稲妻のように
収束し、アントラーとアリブンタに降り注ぎ、リドリアスとゴルメデも巻き込んで巨大な闇の竜巻を生み出していった。
「フハハハ! 驚いたかエースよ。だがこれだけではないぞ! 無念のうちに散った屍よ、闇の力を受けて新たな姿となって
蘇るがいい。転生せよ、超獣マザリュース!」
 闇の稲妻は、今度はエースに倒されたサボテンダーの亡骸に降り注いだ。すると、両断された体が接合し、腕に
鋭い爪が生え、邪教の仮面のような不気味な頭部を持つ超獣に再生してしまったのだ。
「うわぁっ! し、死んだ超獣が生き返ったぁ!」
 エルフたちの間から悲鳴があがった。あれだけ苦労してようやく倒したというのに蘇ってくるとは。これがヤプールの
力だというのか。落胆と、絶望が再び彼らの心を侵食しはじめる。
 しかし、エースはあきらめていなかった。
「ヘヤアッ!」
 構えを取り、息を整えて力を込める。その目は、次元の裂け目を通してヤプールを見据えていた。
〔超獣を再生させてくるというなら、何度でも倒してやるまでだ。このくらいで、希望を折れると思うなよヤプール!〕
「フフフ……さすがだなウルトラマンA、この状況で動揺せぬとはな。だが、貴様らがそうして奇跡をなしとげてきたのも
事実。ならば、貴様はこの地に眠っていた最強の力で葬ってくれる!」
〔最強の力だと!?〕
「そうだ! 見るがいい!」
 アディールの中心に、最大の闇の稲妻が降り注いだ。無数の建物が吹き飛ばされ、評議会の象徴たる白亜の巨塔が
轟音をあげて崩れ落ちていく。そして、瓦礫の山と化したそこが揺れ動くと、瓦礫を吹き飛ばして地中から巨大な影が
這い出してきた。
「フハハハ! いかに貴様でも、そいつに勝つことができるかな? かつての貴様の兄のように、無様に地を這いずるがいいわ!」
〔なに!? あ、あの怪獣は!〕
 才人は思わず叫んでいた。あのシルエットは、小さい頃から何百枚とスケッチブックや自由張に落書きした怪獣の中の怪獣。
 土色の肌に、戦国武者の兜のような角を持つ頭部と、果てしない力を秘めた太い腕を持つ、たくましさに満ち溢れた肉体。
鼻先の鋭い角は、どんなに固い岩をも砕き、そして大蛇のように長く強靭な尻尾の一撃はあらゆる敵を粉砕するという。
 地球最強の怪獣の一角と言われ、かつて初代ウルトラマンを初めて倒した大怪獣が、凶暴な雄たけびをあげて動き出した。
 
 
 続く