あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part310
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part309
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1333288264/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
第八十六話
超獣軍団陸海空! アディール完全包囲網完成
磁力怪獣 アントラー
海獣 サメクジラ
宇宙海人 バルキー星人
オイル超獣 オイルドリンカー
古代超獣 スフィンクス
さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!
怪獣は、一体で現れるとは限らない……
怪獣は、一体で現れるとは限らない。怪獣とは、自然の摂理から外れた特異な生命体であり、その大半はひとつの事例につき
一体の出現で終わることがほとんどである……だが、時には同時多発的に複数体の怪獣が現れることもあり、その際の脅威と被害は
単体で出現したときを大きく凌駕する。
記録を紐解けば、大怪獣軍団を結成しての総攻撃をもくろんだジェロニモンの討伐をはじめ、東京を壊滅の危機に追い込んだ
グドンとツインテールの同時出現、MACを崩壊寸前まで追い込んだ兄弟怪獣の襲撃と枚挙に暇がなく、そのいずれも特筆すべき
決戦として人々の記憶に残されている。
数はそのまま力となる。怪獣たちはウルトラ戦士のように助け合うことは知らなくても、ただ群れるだけでそのパワーは
何倍にも跳ね上がり、それはしばしば人類とウルトラ戦士たちに苦杯を味わわせてきた。
もっともシンプルにして、もっとも強力な攻撃手段。ついに怒りの臨界点を超えたヤプールの悪意の奔流は、ゴーガの復活に
はじまってアディールを、罪のない大勢のエルフたちを飲み込もうとしている。エルフたちは、これまで確かにディノゾールを
はじめとする怪獣たちの襲来を跳ね除けてきた。しかし、ヤプールが自分たちに対してまるで本気を出していなかったことを、
彼らはその誇り高さゆえに気づくことはできていなかった。
自分たちに迫り来る危機の重大さに対する自覚はなく、エルフたちは人間と同じ過ちを犯そうとしていた……
『ネフテス空軍、第二戦隊に緊急要請。突如アディール市内に正体不明の貝獣が出現し、現在市街を破壊中。至急、来援を請う』
その報が、東方に逃走して消息を絶った蛮人の巨大戦艦を捜索中の第二戦隊にもたらされたとき、彼らの受けたショックは
小さいものではなかった。
「警備部隊ののろまどもめが、いったいどこに目をつけていたのだ。我らの神聖な首都に敵の侵入を許すとは、信じがたい怠惰だ。
だがまあいい、安全なところでのうのうとしている連中にはいい薬だ。貸しを作ってやれば、およそ連中の態度も改まるだろうて。
全艦隊に集結命令を出せ、蛮人どもは後回しだ。アディールに急行するぞ!」
駐留部隊に毒を吐きながらも、艦隊司令は分散していた全艦隊に集結命令を出した。サハラの各地へ飛び去っていた
索敵部隊の艦艇や竜騎士が司令艦隊に向けて転進し、艦隊は堂々たる陣形を組んで首都アディールへと向かう。
新スレ乙です
その陣容は、戦艦十二隻、巡洋艦二十隻、駆逐艦、水雷艇他小型艦艇四十隻、総勢七十二隻の大艦隊である。竜の巣で
第一戦隊が壊滅して以来、旧式艦から試験航海すらおこなっていない新型艦、はては練習艦に武装強化をおこなっただけの
仮装巡洋艦まで加えて再建した努力が実った結果であった。
だが、半数が寄せ集めに近くても、その戦闘力は疑いようもない。乗組員は猛訓練を積んだ精鋭ぞろいだし、兵装はあるだけの
最新兵器が惜しげもなくつぎ込まれている。もし、ハルケギニアの五カ国の全艦隊を合わせたとしても、これに勝つのは困難を
極めるに違いない。
現に、彼らの大半は先日の東方号との接触で、まんまと取り逃してしまったことに屈辱を覚えてはいたが、まだまともに
勝負すれば負けなかったであろうと自信を保っていた。その不満を、アディールを襲ったという怪獣を倒すことで晴らそうと、
乗組員たちの士気は高く、さらにその後に二匹の超獣が現れて、首都警備部隊が壊滅的な損害を受け、一刻も早い来援を
請うとの悲鳴のような報を受けるにいたって頂点に達した。
「おのれ、我ら砂漠の民の象徴たるアディールをよくも……我らの力、土足で踏み込んだ愚か者どもに思い知らせてやるぞ。
総員、日ごろの訓練の成果を見せよ。敵を殲滅するぞ!」
火山の噴火にも似た乗組員たちの声がサハラの空を揺るがせた。
誰一人、負けることなどは考えていない。水軍から流布し始めていた鉄血団結党の精神、これまでにディノゾールなど
サハラに出現してきたいくつもの怪獣を撃退してきた実績による自信、大いなる意志は我らを守りたもうという信仰、
砂漠の民は蛮人との戦いには一度も負けたことがないという歴史による自尊心、その他根拠薄弱な自負。
もろもろあれど、彼らには必勝の信念があったことだけは間違いない。
ただし、自信も過ぎれば過信、うぬぼれという次元に上り詰めれば害悪としかならないことを彼らは忘れていた。
「司令! 前方に黒い雲……いえ、煤煙が見えます。アディールが、アディールが燃えている」
「やってくれたな、絶対に生かしては帰さんぞ。全艦戦闘配備、我らの真の力を侵略者どもに見せてくれる」
第二戦隊の各艦は、戦闘隊形に陣形を変更して、砂漠の果てに海と共に見えてきたアディールに可能な限りの全速で急行する。
しかし、怒りに我を忘れた第二戦隊のエルフたちは、アディールのみに目が向かってしまい、自分たちの足元に危機が
迫っていることに気づいていなかった。
堂々たる隊列を組んで飛ぶ鋼鉄の艦隊の後ろから、砂漠に海でクジラが海面のすぐ下を泳いでいるときのような波が
生まれて追っていく。それは信じられない速度で艦隊を追い抜き、ある一点で止まると、そこを中心にして蟻地獄のような流砂を
作り出し始めた。
直径は十メートル、二十メートル、五十メートル、百メートルとどんどん大きくなり、蟻地獄は島をも飲み込めるのではないかという
巨大さにまで達した。もしも、第二戦隊の乗組員たちが冷静であったなら、見張り員でなくとも誰かが気づいたかもしれない。
だが、彼らは首都を攻撃されたということで余裕を失い、戦士として大切な冷静さを完全に欠いていた。
一心不乱、猪突猛進とばかりにアディールに向けて突き進んでくる第二戦隊を正面から見て、アディールの建物の屋上で待つ
緑の複眼の宇宙人は、愉快そうにつぶやいた。
「ファッハッハッ、ようやく来たか、身の程知らない愚か者どもよ。わざわざ殺されに駆けつけてくるとは、我らの怖さが
まだわかってないようだな」
ヤプール譲りの意地の悪さを内包したいやらしい声。奴の目には、エルフの艦隊などはなんの脅威にも映っていない。
スフィンクスとサボテンダー、二大超獣に目がくらみ、己の分もわきまえない愚か者たちへの対策などはとうに打ってある。
だがもう少し待とう、ただつぶしてしまうだけなら簡単だが、奴らには自らの雄大で精強なだけの姿をこの街のエルフどもに
見せてもらわなければならない。
「おおっ! あれを見ろ、空軍の艦隊だ」
「わたしたち、助かったのね」
「やった! これで勝てるぞ。我ら砂漠の民の力、蛮族どもに思い知らせてくれ!」
「おい、高いところに行って見ようぜ」
艦隊の姿が街からも見えるようになると、逃げ惑っていた市民たちの中に喜びと安堵が流れ始めた。追い詰められたとき、
人の思考は極めて単純化する。そうすることによって肉体の操作をスムーズにし、脳にかかるストレスを軽減するのだが、
世界を白と黒、生と死、勝利と敗北とに単純に二元論化して行動するときが一番危ない。詐欺師は、そのどちらからも
見えない灰色の狭間に潜んでいるものなのだから。
味方の艦隊の到来を、喧嘩に負けそうな弱虫が親が助けに来たときのような感覚で人々は迎えた。建物の屋上や
高台に昇り、手を振って歓迎の意を表する。水竜を操って助けに来た水兵たちが、早く乗れと言っても聞く耳を持っていない。
「がんばれよ! やっつけてくれ」
常勝不敗のネフテス空軍の不敗神話が、アディールを襲う災厄を一瞬のうちに粉砕すると信じて、エルフたちは声援を送る。
それは一般市民だけでなく、ネフテスを管理する評議会の議員たちも同様であった。
「おお、とうとうやってきてくれたか。我が無敵艦隊が! 皆の方々、ほれご覧なされや」
「ううむ、壮観かな壮観かな。あれぞ、我ら砂漠の民が選ばれたる民である証。あれほどの艦隊、蛮人どもがあと千年かかっても
築けはするまいよ」
「どうやら皆様、これで一安心のようですな。どれ、あとは高みの見物とまいりましょうか。誰か、前祝いの杯を用意せい」
冗談が飛び出るほど、彼らには余裕が生まれていた。いや、むしろアディールが襲われているというのに、彼らの態度と
口調には緊張感がいやに欠けていた。共和制に近い政体をとるエルフたちの代表者たち、様々な部族から選び抜かれてきた
者たちといえば聞こえはいいが、彼ら議員の大半はこれまでの在任中にこれといった成果をあげたこともなく、ただ毎日を
前例に従って定例の業務を遂行してきたのみに過ぎない。
もしも任期中になにか不手際を起こせば、それはその議員を送ってきた部族全体の恥となるために、彼らは自らの責任で
行動を起こすことを嫌う。そのため、この非常時にあっても議員たちのほとんどは議場から動かず、無難以上の指示は
出されていない。ハルケギニアと同様に大きな変革がなく数千年を経過してきたネフテスの社会形態もまた、いつの間にか
気力を失っていたのだ。
これが、テュリューク統領が東方号をすぐに迎え入れなかった理由のひとつである。彼ら議員たちには、急な変革を
受け入れる余裕や意思がない。テュリューク統領の不在になすところがなく、誰も率先して代役を勤めようとはせず、
誰かが代わりに始めてくれるのを待つばかりの連中には、話し合いを持ちかける価値すらない。
このアディールの中で、もっとも高く美しい白亜の塔の一室から、窓越しに見下ろす風景は絵画のようであり、下には炎、
上には雄大なる大艦隊と、まるで歌劇を見ているような非現実的な輝きを彼らの瞳に焼き付けている。地上をはるか数百メイルの
この場所には、街の壊れる音も、人々の逃げ惑う声も聞こえはしない。
「さて皆さま、勝利の瞬間には杯を掲げるのをお忘れなく。不肖わたくしめが、乾杯の音頭をいたしましょう」
期待するのと、責任を丸投げするのはまるで違う。彼らはそれに気づかず、また気づこうともしていない。
当然、艦隊側でも言われるまでもなく、火砲のすべてを発射態勢にして、精鋭の竜騎士たちも愛用の魔法武器を持って
全騎飛び立っている。
人間の使う兵器を大きく上回るエルフの武器、それがありったけ火を吹けば島でも吹き飛ばせる。先日の竜の巣の大敗は
罠が待っているところで十分に力を発揮できなかったがゆえのものだ。今度は、地理的条件も問題はなにもない。相手は
たったの二匹、こちらは世界最強のネフテス空軍だ。
負ける要素などどこにもない、新兵すら恐怖心なく闘志を燃やす。
が、もうなにも怖くはないと思うほどの高揚感は、彼らに油断という最強最悪の敵となって張り付いていた。
勝ったも同然と、大砲に手をかけて浮かれる彼らの側には、すでに逃れようもないところに敵が迫っている。砂漠に
巨大な蟻地獄を作り上げ、その中から鋭い牙のようなあごを開いて空を見上げる巨大な甲虫。その大あごの中から、
虹色に輝く光のカーテンが空に向かって放たれたとき、ネフテス空軍の崩壊が始まった。
「し、司令! 右舷二時の方向に光の壁が!」
「なにっ! なんだそれは。うん!? どうした操舵士!」
がくんと船が揺れ、司令は操舵士を怒鳴りつけた。しかし、操舵士は自分のミスではないと蒼白になりながら叫んだ。
「た、大変です。舵が効きません!」
「なんだと! そんな馬鹿な。ぬわっ!」
船がまた揺れ、今度は舵取りのミスではない証拠に船は異常な機動を取り始めた。牽引している竜を逆に引きずるように
横滑りをしていき、さらに遼艦も次々に操舵不能と信号を出してくるではないか。
「艦隊は、光の壁に吸い寄せられています」
「なんだというのだ!? くそっ、なんとか振り切れ!」
「無理です。すごい力です!」
鍛え上げた竜の力がまるで役に立たずに、艦隊は磁石に吸い寄せられる砂鉄のように光の壁に吸い寄せられていった。
あの光の壁はなんだというのだ? 司令の疑問は、ふと下を見下ろした見張り員の絶叫で回答を得た。
「し、司令! 光の壁の根元を見てください」
「な!? な、なんだあれはぁ!」
司令と、彼に準じたエルフたちの目が驚愕に見開かれた。砂漠にできた巨大な流砂の渦巻き、その中心から、まるで
死神の大鎌をふたつ合わせたようなあごを持つ、五十メイルには及ぶのではないかという甲虫が上半身を出している。
光の壁は、その甲虫のあごのあいだから放出されていたのだ。
「なんだあの化け物は! 参謀長」
「は、あんな生物がサハラにいるとは聞いたことがありません! おそらく、あれも敵の用意した怪獣かと。見てください!
ど、どうやらあの光の壁は我が艦隊の鉄を磁石のように吸い寄せているようです」
参謀長の悲鳴と同時に、船体の装甲版が千切れ飛んで光の壁に吸い込まれていった。ほかにも銃や剣など、手持ちの
武器のほかにもありとあらゆる鉄でできたものが吸い寄せられていく。竜騎士たちも自らやドラゴンに身につけさせている
鎧が引き付けられているらしく、ズルズルと引っ張られていっている。
もう間違いはなく、どういう理屈かはわからないが、あの甲虫の出す光の壁は鉄を吸い付ける性質を有しているらしい。
しかしどうしようもない、戦艦は鉄の装甲版で全体を覆っているし、大砲をはじめとする兵器はみんな鉄で出来ている。
このままでは引きずり込まれる! そうなったら……司令はためらわずに怒鳴った。
「攻撃だっ! ありったけの砲撃をあいつに叩き込め!」
すでに発射準備が整っていた大砲がいっせいに放たれる。正確に狙いをつける暇もあろうかな、大小合わせて数百の
門数ならば、そのすべてが外れることなどはありえない。
蟻地獄の中が火の海になり、甲虫にも数十発の砲弾が着弾したのが見て取れた。蟻地獄の中は、舞い上がった砂と
硝煙で黒く染め上がり、一寸先さえも見えないほど熱と混沌が渦巻く世界となった。これならば、少なくともただではすまないと
司令から砲手まで含み笑いを浮かべた。
しかし、一陣の風が運んできたのは勝利ではなく愕然とした敗北の光景であった。
「なっ! 馬鹿な……無傷だと!?」
甲虫の黒光りする外皮には傷どころかわずかなへこみすらなく、まるで磨き上げた鏡のように光沢すら放っているではないか。
信じられない、あの怪獣の体は鉄でできているとでもいうのか? いや、仮に鋼鉄で全身を覆っているとしても耐えられる
破壊力ではないはずだ。固い、などという次元を通り越している……勝てない。
攻撃されたわけではない。怪獣は、ただ砲撃を受け止めただけなのに、高揚の極地にあった空軍将兵の士気はもろくも破壊された。
第二撃、第三撃も結果は変わらない。その光景を、緑の複眼の宇宙人は次元を通して眺めてせせら笑っていた。
「無駄だ無駄無駄。そいつの外骨格の強度は怪獣界の中でも一二を争う。ヤプールの技術をもってしても再現のかなわない
アントラーの鎧殻を前にして、そんな旧式兵器で歯が立つものか」
空軍の攻撃はかすり傷ひとつつけられず、力の弱い船から光の壁に飲み込まれていく。
圧倒的な防御力と、恐るべき磁力を放つ光の壁。それこそが、この磁力怪獣アントラーの能力である。
地球では、初代ウルトラマンが活躍していた時期に中近東の砂漠に現れたという報告があり、そのときも同様の能力で
科学特捜隊とウルトラマンを苦しめていた。鎧殻はスーパーガンやスパイダーショットはおろかスペシウム光線もまったく
受け付けず、光の壁と形容される虹色磁力光線はジェットビートルの推力でさえ抗えない吸引力を誇っていた。
蟻地獄の中に潜むアリジゴクそのままに、アントラーは引きずり込んだ船を自分の下まで引き寄せると、その船を
大アゴでがっちりとくわえ込んだ。すると、鋼鉄でできているはずの船が紙細工のようにひしゃげさせられて、真っ二つに
食いちぎられてしまったではないか。
「戦艦が、あんなにもろく」
破壊された船はバラバラになって流砂に巻き込まれ、蟻地獄の中に飲み込まれて消えていく。乗員は、生身の何人かは
飛んで逃げたようだが、船内に閉じ込められたままの者や、体に鎧や金属製品を身につけていた者は逃げられずに、もろともに
引きずり込まれて砂中に消えた。
その瞬間、艦隊に残っていた最後の士気は雲散霧消した。
「あ、あ……に、逃げろぉぉっ!」
ここにいては助からないという現実が、彼らの行動を決した。我先にと武器を捨てて船から飛び降りていく。士官の中には
何人か止めようとする者もいたが、彼らも自分の船が光の壁の直前まで来ると前言を翻して逃げ出した。
もはや空軍の誇りもなにもなく、軍艦からごまを振るように乗組員たちが逃げ出していく。忠誠心も美しさもあったものか、
死を恐れずに戦うという言葉が崇高な響きを持つのは、万に一つも、一パーセントでも勝算があってこそだ。虫の餌食になって
生き埋めにされる未来しかないとわかっていて、誰が船と運命をともにしようと思うか。それでなお残りたがるのは、状況が
見えていない馬鹿者か、敗北を死と考えている大馬鹿者しかいない。
「無様だな」
「あーあ、ありゃ全滅だなぁ。も少し早く気づいて艦隊を分散させれば、ちっとは残ったかもしれないのに」
せせら笑う二人の宇宙人。偉容を誇ったネフテス空軍艦隊はもはや見る影もなく、枯れ葉が雨水とともに排水溝に
流れ込むのにも似た惨状で磁力光線に吸い込まれては、下で待ち受けるアントラーの餌食となっていく。
「全滅だっ」
同様の言葉がアディールのあらゆる箇所で流れた。たった今の今まで期待と希望のすべてを込めていた艦隊が、
なんの役にも立たないオモチャ同然の代物だと思い知らされた絶望。それは彼らエルフのなんでもない市民たちが
はじめて味わう無力感……かつて、地球でもハルケギニアでも何度も繰り返されてきた、侵略者たちの黒いプレゼントの
洗礼が、負けを経験したことのないエルフたちの心を急速に蝕んでいった。
「もうだめだぁ! 逃げろぉぉっ!」
自分たちの力ではどうしようもないことへの純粋な恐怖、それを前にしたとき人もエルフも心は限りなくもろくなる。
市民たちは他者を押しのけて逃げ惑い、魔法で空を飛ぼうとしたら同じような他人とぶつかって道に落ちる悲惨な
光景が続出した。勝利の美酒の前祝いをしていた議員たちは茫然自失とし、我先にと議場から飛び出していった。
それは臆病ではなく、目の前に土砂崩れや竜巻が迫ってきているというのに逃げない人間がどこにいるだろうか?
ライオンに追われて逃げ惑うシマウマを臆病と誰が言うであろう? 彼らはまさにそれであった。
パニックはさらに助長され、街の被害を住人自らの手で作っていく。
軽い好奇心や怖いもの見たさで逃げずに残っていた者が、気づいたときには手遅れになっていて超獣に襲われる。
スフィンクスの火炎が街を焼き、球形サボテンの形で転がりまわるサボテンダーが街を蹂躙する。それらはまるで、
抗いようもない天災のようで、美しい街が見るも無残な瓦礫の山へと変えられていく。
「破壊だ、破壊しつくせぇぇ!」
猛攻はとどまるところはなく、スフィンクスの触覚が光り、破壊閃光が建物を爆砕した。さらに、サボテンダーの押し倒した
建物がドミノ倒しのように崩れて他の建物を連鎖的に破壊していく。街の壊れる音に、スフィンクスの吼えるような声と
サボテンダーの笑うような声がいっしょになって、エルフたちの狂騒はさらに増していった。
しかもそれだけでは当然すまない。空軍を全滅させたアントラーは街に侵入して破壊活動を開始した。かつてアントラーに
蹂躙されたバラージの街のように、家々が無慈悲につぶされてゆく。首都警備部隊の竜騎士たちは、それでも勇敢にアントラーを
食い止めようとするが、空軍の砲撃さえ通用しなかった相手に竜騎士の軽微な武器でかなうはずもなく、強力な先住魔法も
大アゴを振るうだけで涼風のように払い飛ばされてしまった。
圧倒的な破壊を続ける超獣と怪獣、一体でも手に負えないというのに、それがいまや三体。しかも、奴らと戦うはずだった
空軍艦隊は戦う前に全滅してしまった。
怖いものなしで、好きなように街を破壊する怪獣と超獣に対してエルフたちは無力だった。自棄に近く向かってくる抵抗などは
無に等しく、強固な皮膚を通すにあたわず、逆に圧倒的なパワーは精霊の守りを薄紙のように通過した。
スフィンクスの火炎が焼き、サボテンダーのとげが貫き、アントラーの力が崩す。すでにアディールの四分の一が壊滅し、
死傷者の数も天井知らずに増え続けている。
絶望の声が流れては怪獣の声と炎に飲み込まれて消えていく。だが、絶望の中だからこそあきらめない者たちも
そんな中にはいた。
幼い子を抱えた母親が。
「お母さん、怖いよぉっ」
「大丈夫よ、大いなる意志が、お母さんがきっと守ってあげるからね」
恋人の手をつないだ若い男が。
「も、もう逃げられないわ! 私たち、ここで死ぬのよ!」
「あきらめちゃだめだキエナ! 君には僕がついている、この手は決して離したりしないぞ!」
絶望の淵にあっても、いいや絶望の淵にあればこそ、守るべき誰かを持つ者たちはあきらめてはいなかった。我が身を
捨てても守り抜きたい誰かのためなら、絶望になど構っている暇はない。その、無償の愛が彼らにひとりでいるときには
持つことのできない”強さ”を与えていたのだ。
アディールの一方はスフィンクスとサボテンダーが暴れまわり、反対側はゴーガに破壊されて道がめちゃめちゃになっている。
さらに別方向からはアントラーが迫ってきており、陸からアディールを脱出する道は閉ざされた。もちろん、先住魔法を使える
エルフたちはメイジたちのように空を飛んで逃げることもできるが、空に飛び上がればスフィンクスの一万三千度の火炎熱線と
サボテンダーのトゲミサイルで打ち落とされるか、サボテンの花弁に似た口から伸びる真っ赤な舌にからめとられて捕食されてしまった。
陸と空を塞がれて、残った逃げ道はただひとつだった。
「水路だ、海に逃げろ!」
アディールは半水上都市であるために、その半分を海にせり出している。陸路をふさがれ、空軍が全滅してしまった以上、
残る海路へ向けて市民は殺到した。精霊の力を用いて水中で呼吸ができるようにするくらいはエルフであれば誰でもできるので、
溺れる心配はなく水路に飛び込んで船にたどり着く者、水竜やイルカのような慣れた動物にしがみつく者など、水路はまるで
渋滞する道路のようになって、海へ向かってエルフたちが流れていっている。
そしてその海には、ネフテス最後の軍事力といえる水軍が集結しつつあった。
「エスマーイル同志議員殿、アディール駐留艦隊の全艦出港完了いたしました」
「よろしい。二番艦から五番艦までは本艦に続いて戦闘態勢をとれ。悪魔どもめ、目にもの見せてくれる」
艦隊旗艦たる鯨竜艦の艦橋で、ひとりの男が憮然として腕を組んでいた。
彼は名をエスマーイルといい、軍人ではなくネフテスの評議会議員のひとりである。役職は水軍の総司令官に近く、
ほとんどの議員が非常時にあっても議場から動かなかったのに対して、数少ない自分の足で行動を起こしたひとりだった。
「同志議員殿、やはりご自身で指揮をとられるのは危険では? 駐留艦隊でまともに戦闘可能な船は、本艦を合わせても
わずか七隻です。現在、近隣海域の艦隊にも集合命令が出ております。それを待ってから戦端を開かれても」
「君はアディールが灰燼に帰してから戦い始めることに意義があると思っているのかね? それまで逃げ隠れして、
すべてが終わった後にのこのこ出かけていって、君は誰に勇を見せるというのかね?」
「はっ! 自分が臆病でありました。どうぞ、お見捨てなきようお願いいたします」
兵に確かな決意を込めた視線を向けると、エスマーイルは怒りに紅潮し、臆病とはほど遠い顔で炎上するアディールと、
そこで暴れる超獣たちを睨む。
が、彼は勇者と呼ぶには眼の色は暗い色で染まっていた。
「歴史開闢以来、何人にも犯されたことのない砂漠の民の聖なる都が……許さんぞ、異敵どもめ。我ら砂漠の民こそ、
この世の頂点に立つ選ばれし種族なのだ。大いなる意志の恩寵も知らない野蛮人どもめ、絶対に生かしては帰さん」
平和を守る意志や使命感よりも、傷つけられたプライドに憤る自己中心的な怒りが彼の胸中の大半を占めていた。
ギラギラとした瞳は眼前の敵しか見えておらず、エルフらしく彫刻のように整った顔は頬がこけて幽鬼のような恐ろしさが
漂っている。彼の率いる水軍艦隊は、先日の竜の巣の戦いで壊滅し、今やこの少数艦隊が残るのみ。再建は思うように
進んでおらず、力こそが誇りの源泉であると信ずる彼のような人種にとって耐え難い恥辱であったのだ。
その敵が目の前に現れた以上、勝ち目があるなしは関係ない。賭け事に負けた浅はかな男が、今度こそ今度こそと
安い意地で挑んでは身包みをはがされていくように、エスマーイルの目に見えている世界は狭かった。
「砲撃用意、長距離砲戦を挑む。街を飛び越えて直接怪獣を狙うのだ」
「ど、同志議員、それは危険です。もし砲弾がそれればアディールにも甚大な被害が出ます」
「奴らが海沿いまでやってくるまで待っていては何もかも遅い。それに、日々鍛錬を積んだ諸君らならば、狙いを
外すようなことはあるまい、違うかね?」
「は、はあ……それと、街から避難してきた市民たちの乗る船から救いを求める声が多数届いております。見捨てるわけには……」
「この忙しいときに……砂漠の民の誇りよりも我が身の安全をはかるとは恥知らずな連中だ。ええい、輸送船と修理中の
船があっただろう! 私はそんなことに関わっている暇はない」
もはや彼は『軍事力』がなんのために存在するのかすら見失っていた。いや、彼からすればこれが正しい軍のありかた
なのであろう。水軍は砂漠の民の力の象徴であり、その存在そのものが神聖で犯すべからざるものとなっている。
その進撃を邪魔するのならば、同じ砂漠の民であろうと反逆者にしか見えない。
彼は自らを疑わない、自らを種族の誇りを守る正義の使途だと。
「我ら砂漠の民、鉄のごとき血の団結を持って、異敵を殲滅せん。大いなる意志よ、我らを導きたまえ」
独善の怪物、鉄血団結党の党首であるエスマーイルは、己の正義に従って、まだ多くの同胞が取り残されている街への
砲撃を指令した。
長射程の大口径砲弾が鯨竜艦から放たれ、山なりの軌道をとって超獣と怪獣に向かった。
「うん? なんだ、まだ身の程わかってねえやつがいたか」
砲弾の飛ぶ甲高い音を聞いて、暇をもてあましていた赤い目の星人がおもしろそうに言った。これだけ力の差を
見せ付けられながら、よくもまあ無駄な抵抗をする気になるものだ、バカにせずしてどうしろというのか。
案の定、砲弾は当たって爆発はしたが、三匹のどれにもかすり傷も与えることはできなかった。むしろ、外れた砲弾で
広がった被害のほうがでかいくらいで、星人は腹を抱えて笑った。
「あっひゃっはっはは! ざまあねえ、てめえでてめえの街を壊してたら世話ねえぜ。無駄な努力ってやつは、ほんと笑えるぜ。
ああいうことすっから、下等生物っていうんだろうなあ。あっひゃっひゃっひゃっ」
赤眼の星人は心底おかしそうであった。それは、星の海を自在に飛ぶことのできる多くの宇宙人が地球人を見たときと、
共通の感覚であっただろう。地球人の使う程度の兵器を、大半の宇宙人は歯牙にもかけない。それだけ、彼らと人間との
あいだには覆しがたいテクノロジーの差というものがある。
だが、抵抗をしてくれるということは、それをひねりつぶす楽しみが残っているということだ。せっかく呼ばれてきたというのに、
退屈で腐っていた赤眼の星人は、同じく愉快そうに肩を震わせていた雇い主に顔を向けた。
「おい、ヤプールの代理人さんよ」
「フフ、わかっている。そろそろ頃合だろう、海に逃げて安心しているバカどもと、まだ勝てるつもりでいる大バカども……
宇宙の海賊と異名をとる貴様の実力、見せてやるがいい」
「けっ、ようやく出番か、待ちくたびれたぜ。おい、この仕事が成功したら、この星の海の支配権を俺に譲るって約束、
破りゃしねえだろうな?」
「心配するな、お前が海の支配権で満足するというならくれてやろう。我々の目的は、あくまでマイナスエネルギーなのだからな。
それよりも、言うだけの仕事はしてもらえるのだろうな? バルキー星人」
答えは、口元に浮かんだ不敵な笑みだった。アディール全体を見渡せる建物の屋上から、エルフたちでごったがえしている
海を見下ろして、右手を高く掲げて叫ぶ。
「こぉい! サメクジラァァッ!」
指をパチンと軽快に鳴らし、赤眼の宇宙人・バルキー星人は高らかに叫んだ。
その瞬間、アディールの洋上の海面に怪しい波がざわざわと浮かんだ。黒々とした影が海面下を高速で走り、真っ赤に
光る怪しい目がアディール洋上の艦隊と船団を睨んで、生き物としては考えられない速度で迫っていく。
その脅威に、最初に気づいたのは動物たちだった。イルカが主人たちの命令に背いて暴れだし、続いて鯨竜たちが
威嚇するようにうなり声をあげはじめる。エルフたちは、そのおびえるようなイルカや鯨竜の反応に、おとなしくさせようとするものの、
砲撃の轟音が自分たちに近づく本当の危機に気づくことを許さず、それが最悪の結果につながってしまった。
突然暴れだした一頭の鯨竜が舵取りのエルフの命令を無視してあらぬ方向に泳ぎだした。しかし、すさまじい速度で海面下から
飛び込んできた影が鯨竜の下を通過したとき、海は赤く染まって鯨竜の悲鳴がこだました。
「な、なんだ!? なにがいったい!」
致命傷を受けて海没していく鯨竜の上で、脱出しようと慌てるエルフたちが絶叫する。惨劇はそれにとどまらず、二匹目、三匹目の
鯨竜が同じ目に合う。生き残った鯨竜たちはそれぞれ勝手な方向に逃げ出した。もはや鯨竜艦隊は艦隊としての体をなしておらず、
悠然たる鯨から一瞬にして逃げ惑う鰯の群れへと転落した。
「なんだ! いったいなにが起きている。敵はまだ攻撃してきていないぞ!」
「ど、同志議員殿、海です。左舷海中になにかがいます、すさまじいスピードです!」
「海中だと!? ええい、副砲群撃て、そいつをしとめろ!」
主砲はすべてアディールを向いている。鯨竜艦の小口径砲が手照準で次々とうなり、海面に水柱をあげる。そして、その水柱の
群れの中から海面を割り、海上に飛び出してきた凶暴なシルエットにエルフたちは戦慄した。
「なんだあれは!? サメ? いやクジラなのか?」
クジラの巨体にノコギリザメのような鼻と鋭い角、しかしただのクジラではない証拠に、その泳ぐ速さは二百ノットを軽く超え、
大砲の照準が追いつかない。
「うわあ! 突っ込んでくるぞ!」
「回避ぃ! だめだ、間に合わないぃっ!」
抵抗する暇すらなく、槍のような怪獣の鼻先が一匹の鯨竜艦の腹を貫いた。分厚い皮膚も皮下脂肪も何の役にもたたず、
串刺しにされた鯨竜は悲痛な断末魔をあげて沈んでいく。
あの巨大な鯨竜をただの一刺しで殺してしまうとは。エルフたちは眼前の怪獣の凶暴さに驚愕した。鯨竜は全長百メイルに
及ぶ巨体を持ち、この世界の生物としては最大級の大きさを誇る。それゆえに、皮膚も装甲を張るまでもなく頑強で、たとえ
大砲の撃ちあいをしたとしても簡単に傷つくことはないのにも関わらず、なんなんだあのバケモノは!?
あっというまに半数の鯨竜艦を失った水軍艦隊は、怪獣におびえる鯨竜たちを押さえることもできずに算を乱していく。
この世界の常識を超えた遊泳速度と攻撃力を持つ怪魚。その正体こそ、宇宙海人バルキー星人のペット、バルキー星の
海の生態系の頂点に君臨する海獣・サメクジラであった。
ドキュメントZATの末尾に記載があり、地球の海の支配を企んだバルキー星人のしもべとして船を次々に沈めまくった。
水中移動速度は二百ノットを超え、鋼鉄を軽く切り裂くヒレと三メートルの鉄板も貫通する鋭さの鼻の前にはマンモスタンカーすら
一瞬で海のもくずと化してしまう。
鈍重な鯨竜では逃げ切るすべはなく、サメクジラはイルカが小魚の群れを追い込むときのように周辺を高速で旋回して、
なぶり殺すように弄んでいる。
だが、本当に悲惨な目に会っていたのは鯨竜やその乗組員ではなく、助けを求めて近寄っていたアディールの市民たちだった。
「うわぁっ! こ、こっちに来るな」
「お、おれたちは味方だぞぉ!」
逃げ回ろうと暴れる鯨竜が、小船やイルカで漂っていたエルフたちを巻き込んでいく。全長百メイルの鯨竜の巨体や、それが
巻き起こす波は単純に凶器になる。魔法を使うのが間に合わずに巻き込まれていく者、逃げようとして別の誰かにぶつかって
海に投げ出されてしまう者が続出した。
水中さえももはや安全ではない。二百ノットという超高速で泳ぎ回るサメクジラの作り出した乱海流がイルカでも乗り切れないほどの
流れになって無秩序に暴れ狂い、潜って逃げようとしていた者たちはもみくちゃにされていく。
それでも、もう海しか逃げ道はない彼らは必死に沖合いに出ようと争った。外洋にさえ出れば、飼いならされている水竜などが
放牧されている場所があるので安全なところまで行ける。それだけが彼らに残った唯一の希望であった。
しかし、その希望を打ち砕こうと、バルキー星人はテレポートでアディールから消え、巨大化してサメクジラの暴れまわる海上に出現した。
「ウワッハッハハ! 逃がしゃしねえよぉ、今日からこの海はこのバルキー星人が支配する。てめえらはサメクジラのエサになれえ!」
高笑いしながら現れた巨大星人に、逃げ道を塞がれたエルフたちは悲鳴をあげて右往左往した。
バルキー星人はそれを愉快そうに見下ろし、まるで幼児が水溜りに落ちた蟻をつついて喜ぶように、頭部のランプから発射される
断続光線『バルキービーム』で狙い撃っては沈めていく。エルフたちの中には星人に対して反撃を試みようと魔法を使おうとするが、
台風並みに荒れ狂う海の上では思うにまかせず、海を安定させようとすればバルキー星人が襲ってくる。
サメクジラのいる海は完全にバルキー星人の遊び場となっていた。かつて同族が太平洋で船舶を無差別に沈めまくった残忍さは、
この個体においても変わっていない。
だが、エルフたちもまだ戦意は失っていない。
「使用可能な砲門はすべて巨人を狙え! 悪魔ども、きさまらなどになにも渡しはせん」
エスマーイルは血走った目で叫んだ。プライドの高い者は自らの敗北を決して認めようとしない、さらに自己に陶酔する者や
差別主義者にとっては、他者に敗北することは自身の否定そのものにつながるから徹底的に現実を否定する。
が、彼のヒステリックな叫びは戦意を喪失しかけていた水軍を瓦解の一歩手前で食い止める効果はあった。
「う、撃て! 撃てーっ!」
生き残っていた鯨竜艦の砲がうなり、砲弾がバルキー星人に集中する。
「おわぁっ!?」
思いもかけない反撃はバルキー星人の意表をついた。水軍艦隊は全滅寸前になりながらも、訓練を積んだ錬度を発揮して
バルキー星人に砲弾を浴びせかけ、それで残数少ない竜騎兵たちも生き返って魔法をぶつけはじめた。
「効いてるぞ、ようし今だ、ありったけを叩き込め!」
「こ、この虫けらどもが!」
四方八方からの攻撃にはバルキー星人もたまらなかった。手でハエを追い払おうとするように暴れるが、攻守が逆転したら
エルフたちもやられっぱなしでいられるかと攻撃を強め、水竜がバルキー星人の足に噛み付いたりもしはじめる。星人は
逆上してサメクジラに助けを求めることも忘れていた。
悪あがきが思った以上の効果を生み、バルキー星人を押しているエルフたち。一度は逃げるのをあきらめかけた市民たちも、
わずかに落ち着きを取り戻して沖合いへの避難を再開した。バルキー星人の命令を失ったサメクジラはそれを止められず、
バルキー星人はエルフたちの集中攻撃を受けてじだんだを踏むばかりだ。
だが、そんな無様な光景をもうひとりのヤプールの手下は見逃していなかった。
「バルキー星人め、口ほどにもない。調子に乗って冷静さを欠くからこうなるのだ……仕方ない、手を貸してやる」
緑の複眼が怪しく光り、アディール洋上の空がガラスのように割れる。そして、開いた異次元ゲートの真っ赤な裂け目の奥から、
青い体をうろこで覆い、鋭い鼻先を持つ超獣が海に降り立った。
「やれ! オイルドリンカー、存分に暴れるがいい!」
三匹目の超獣、オイル超獣オイルドリンカーがその姿を現した。名前どおり石油を好物とするオイルドリンカーは、口から
体内のオイルを利用して作り出した高熱火炎を吐いて、逃げようとしていたエルフたちを攻撃し始める。
「ま、また出たあ! 引き返せ!」
「もうどこに逃げろっていうのよ。ああ、もう終わりよ。みんな死ぬんだわ」
逃げ道は完全に塞がれた。オイルドリンカーの出現は、きわどいところで持ちこたえていたエルフたちの最後の士気さえも
打ち砕き、バルキー星人も解放されて、怒りのままの攻撃が降り注ぐ。
陸も空も海も、怪獣と超獣と宇宙人にふさがれて、アディールは牢獄の囚人も同然であった。
包囲網は徐々に縮まり、エルフたちは海からやっと逃げ出してきたばかりの街に押し戻されていった。
もはや、誰の目にもヤプールがアディールの陥落や破壊などといった生易しいことを考えているわけではないことは明白だった。
奴はアディールに市民全員を閉じ込めて、一人残らず抹殺しようとしている。そして、自分たちにはすでに包囲網を抜けるだけの
力は残されていないことも。
アントラーの大アゴが高層建築物をはさんで噛み潰し、スフィンクスとサボテンダーが美しい街を自分たちにふさわしい砂漠に
戻していく。バルキー星人は再び調子に乗って、サメクジラとオイルドリンカーを率いて水竜をなぎ倒し、水軍の残存戦力を
すりつぶしていく。
「ハッハッハハ! 壊せ、もっともっと壊せ。だが、まだこんなものではないぞ……最後の一人になるまで恐怖させ、絶望のうちに
滅亡させてくれる。もっともっとあがくがいい、そうすればするほどお前たちは我らの力を思い知ることになるのだ!」
ヤプールは強大な力を思う存分に振るうことに酔い、ひたすら破壊の快楽を追及することをやめない。
まさに、現世にある悪魔そのもの。ただし、ヤプールはただの悪魔ではなく、生きとし生ける者すべての映し鏡であることを
忘れてはいけない。ヤプールと同等に残忍で卑劣な人間などいくらでもいる、我々が自らの醜部を認めずに隠そうとする限り、
ヤプールは永遠に不滅なのだ。
エルフたちの抵抗はしだいに微弱になり、生き残った空軍もアディール防衛部隊も生身でけなげにも防戦を続けているが、
それがなくなったときにすべてが終わってしまうと、生き残ったエルフたちは肩を寄せ合って、大いなる意志にひたすら救いが
あることを祈り続けた。
だが、いくら祈っても神は現世に救いは寄こさない。大いなる意志といえど、奇跡の安売りはしないだろう。なぜなら、奇跡とは
この世に生きる者たちによってもじゅうぶんに起こし得るからである。
危機に瀕したアディールを救援に訪れるものは、空軍主力が壊滅した今となってはあるはずがない。けれども、あるはずがない
南の空から、あるはずのない速度で現れた巨影。
「見えた! アディールだ!」
東方号はついに念願のアディールをその眼中におさめることに成功した。だが、圧倒的多数の戦力を誇り、なおかつまだどんな
隠し玉を用意しているかわからないヤプールに対して、東方号が逆転の兆しになりうる可能性は、はなはだ低いといわざるを得ない。
続く
今週はここまでです。
アディール決戦編二回目、敵となる怪獣超獣も頭数が出揃ってきました。登場させる怪獣は全シリーズから、ああでもないこうでもないと
迷いに迷いまくりましたが、実際書き始めてみると楽しかったです。でも、まだ出るのでお楽しみに。
ウルトラマン列伝ではついにエースも出ましたね。しかも我らのゾフィー兄さんの登場する回とは心憎い限りです。
ゼロ魔はアニメも終わり、原作のほうもクライマックスに近づいてきてますが、こちらもまだまだ目が離せません。まだ脳内にストックしてる
イベントや使いたいキャラはいるので、それは三部で使い切りたいと思います。特にタバサをそのままにしておくわけにはいきませんからね。
では次回、東方号参戦、VS超獣軍団です。
スレ立てのついで、と言っては失礼か、代理投下終了
代理乙です
空飛ぶフネで水雷艇って何するんだ?
>1及びウルトラさん、乙。
>16
ルーデるんだよ。
ウルトラの人、代理投下の人お疲れ様です。
これからも頑張ってください。
皆さん今晩は。四月も終わり日中が暑くなってきました。
桜も散り、季節はこれから夏というところですね。
さてと、特に何もなければ21時丁度から投下開始です。
よろしければ支援ついでにお付き合いお願い致します。
あれ?投下きてる?
20 :
無重力巫女の人:2012/04/30(月) 21:57:29.55 ID:pVrualnl
>>19 申し訳ありません。
忍法帖の関係で今は長文が投稿できないようです…
他の人が待つことになるかも知れんからそういう時はすぐ言うべきやったな
22 :
無重力巫女の人:2012/04/30(月) 22:14:37.65 ID:pVrualnl
>>21 本当にすみません。何分こういう事は初めてでして…
以後スレの書き手として気を付けます。
どんまい、代理行くよ
ドンマイ
ウルトラにゼットンとキングジョーとジャミラとゴモラはまだ登場せんのかね
四方を乳白色の壁に囲まれた広い部屋の中、一人の男が杖を片手に佇んでいた。
顔から判断すれば二十代後半くらいに見えるがそんな風に自分を見せないためか、立派な口髭を生やしている。
手にしている杖は軍の官給品であり、レイピアをモチーフにしたデザインは美しさと実用性の両面を兼ねていた。
平民が着るような薄い胴着を羽織ってはいるが、体から自然と滲み出る雰囲気は彼がただのメイジではないと周りに知らせている。
最も、この場には彼一人だけしかいないので大して意味はないのだが。
天井のフックに引っ掛けられたカンテラは微動だにせず、その真下にいる男を照らす。
頭上から降り注ぐ弱い光を浴びながらも、彼は明りが届かぬ前方の闇を見据えていた。
――奴を接近戦に持ち込むためには、距離を縮めなければいけない。
心の中でそうつぶやいた時、赤く小さな゛光の球゛が彼の頭上に三つほど現れた。
男の手のひら程もある長方形の赤い゛光の球゛は出現して五秒ほど空中で静止した後、゛光弾゛と化なって男に向けて飛んできた。
何の前触れもなくそれなりの速度で飛んできた゛光弾゛に対し、男はその場で跳躍する事によって回避する。
普通の人間がバッタのように跳躍する事はできないが、メイジならばレビテレーションやフライ、そして『風』系統の魔法をある程度扱えれば跳ぶことはできる。
男がその場から跳びあがったと同時に、彼の両足がついていた床に゛光弾゛が突き刺さり、三秒ほどして勢いよく爆ぜた。
床に着地した男の顔に爆発で吹き飛んだ木片が顔に当たるも、彼はそれを気にすることなく周囲の気配を探る。
―――近づいて一気にトドメとくるか、それともまだ距離をとって慎重に攻めてくるか…答えは?
瞬間、灯りの届かぬ暗闇の中から先程と同じ長方形の゛光弾゛が五つも飛んでくる。
男は再び跳躍して回避しようと試みるが、今度の゛光弾゛はどうあっても彼に直撃しなければ気が済まないらしい。
跳躍した男が立っていた場所を通過した゛光弾゛はそのまま直進することなく、大きなカーブを描いて男の方へと戻ってきたのだ。
『火』系統の魔法で同じような追尾機能を持つ゛ファイア・ボール゛のそれとは威力も凶悪さも桁が違う赤い゛光弾゛は、空中で無防備状態となった男の背中へと突っ込んでくる。
しかし男は焦ることなく軍に所属していた時に覚えた呪文の速読で゛レビテーション゛を唱え、自身の体を上昇させた。
今いた場所から更に高いところへと飛び上がった直後、音を立てずに五つの赤い゛光弾゛がスゴイ速さで通り過ぎていく。
男を二度、仕留め損ねた゛光弾゛は今度こそと言わんばかりに再びカーブを掛けようとしたが、三度目を許すほど彼は寛容ではなかった。
―――゛ラナ・デル・ウィンデ゛
男が脳内で呪文を唱えると、こちらに向かってこようとする゛光弾゛へ風で出来た鎚が振り下ろされる。
俗に゛エア・ハンマー゛と呼ばれた呪文はその威力をもって五つの゛光弾゛を纏めて風で押しつぶし、爆発させた。
赤い光をばら撒いて爆散したそれを空中で浮かびながら見ていた時、頭上からかなりの速さで迫ってくる気配を感じた。
忘れもしない。あと一歩というところで邪魔に入り、自分に敗北の味を教えてくれた彼女の気配を―――確かに感じ取ったのである。
―――なるほど、頭上か!
心の中で叫んだ直後、今度は白く大きな菱形の゛光弾゛が二つ空中にいる彼へ目がけて降ってきた。
速度自体は先程の赤い゛光弾゛ほどではない。その代わりなのか赤い゛光弾゛よりも大きく、中々の迫力があった。
クルクルと風車のように回りながらゆっくりと自分に目がけて落ちてくるその光景は、いいさか不気味である。
しかし男はそれに惑わされず、冷静な判断でもってスッと後ろに下がる。
一メイル程下がったところで菱形の゛光弾゛が男のいたところを通過し、そのまま地面へと落ちて行った。
だがそれを見届けるよりも先に―――――――相手は剣を片手に仕掛けてきた。
―――――このまま仕掛けるつもりか?
すぐさま迎撃態勢を取りつつも、男は向かってくる少女の姿をハッキリと捉えていた。
明りが天井のカンテラただ一つだけという暗い闇の中で艶やかに光る黒のロングヘアーと、頭に付けている白いフリルのついた赤リボン。
リボンと同じ色の服やそれと別途になった白い袖、セミロングの赤いスカートと首に巻いた黄色いスカーフ。
そして左手に納まっている三つの赤い゛光弾゛と右手に握られた剣まで、ハッキリと男の眼は捉えている。
しかし…容姿だけを一目見ればすぐさま異国の者だと想像できる彼女の顔だけは、黒い靄のようなモノが掛かっていて良く見えない。
その理由は良くわからないが、男はそれに興味はなかったし調べる気も無かった。
だがこの時、男は思っていた。「ようやくこちらに近づいてきた」と。
――面白い…その勝負、受けてやろう!
彼はこちらに向かって急降下してくる紅白の少女に向けてそう叫ぶと、自身が持つレイピア型の杖に『ブレイド』の呪文を掛けた。
騎士が良く使う、杖に魔力を絡ませて刃とする魔法であり、得意な系統ごとにその色と威力が大きく違ってくる。
『風』系統の使い手である彼の『ブレイド』は強く緑色に輝き、彼の上半身と短くも立派な顎髭を照らし出す。
その間にも紅白の少女は、右手に持った剣を大きく振り上げてこちらに突っ込んでくる。
男はそれに対し突撃するようなことはせず、菱形の゛光弾゛を避けた時と同じく横に素早く移動して回避した。
あと一歩というところで回避された少女の斬撃は空気を切り裂き、そのまま地面に向かって直進していく。
―――良し!もらっ…何?
こちらに無防備な背中をさらけ出した相手に笑顔を浮かべた男は、そのまま接近して斬りつけようと思ったが、少女の対応はあまりにも早すぎた。
地面まであと三メイルというところで、少女は赤いリボンとスカートを大きくはためかせて空中で一回転し、頭上にいる男へと体を向けたのである。
時間にして僅か三秒。そうたった三秒で再び攻撃の態勢を整えた少女の身軽さに、男はアルビオンのニューカッスル城で感じた戦慄を思い出す。
あの時もそうだった。全てが順調だったというのにあり得ないところで状況を覆された挙句、反撃できぬまま無様な姿を晒した。
こちらに体を向けて態勢を整えた少女は、男が軽く驚いている間に左手に持った三つの゛光弾゛を勢いよく飛ばしてきた。
先程と同じく中々の速度突っ込んでくるそれに気づいた時、男は回避ではなく゛光弾゛を撃破することを選んだ。
―――えぇい!始祖の御加護を!
彼は心の中で半ば自暴自棄な気分で始祖ブリミルに祈りながらも、迫りくる゛光弾゛を『ブレイド』の掛かった杖で勢いよく切り払う。
魔法に刃によって緑色に光る杖は音を上げることはなかったが、近づいてきた三つの゛光弾゛を見事に切断することは出来た。
長方形から不格好な四角形になり、数も六つに増えた光弾は斬られた場所でその動きを止め、そのまま赤い霧となって散ってゆく。
だが、直撃しかけた゛光弾゛を切り払った彼にとってそんな事は過ぎた事で、どうでも良い事であった。
何故なら…霧散していく赤い霧の中から、剣を振り上げた紅白服の少女が飛び出してきたのだから。
――――何…だと…!?
今度は回避も迎撃する暇もなく、男はただただ驚愕するしかなかった。
紅白の服をはためかせ、血を求めて鈍く光る刃先が迫ってくるなか…男は見た。
少女の顔を覆う黒靄の隙間から見える赤い瞳と、青白く発光する左手の甲に刻まれた―――使い魔のルーンを。
「まだだっ!まだ、俺は…」
今まで閉じていた口を開き、心の底から叫んだ瞬間。
少女の放った一振りは強力な一撃となって、男の胴体を易々と両断した。
◆
体中にまとわりつく汗による不快感で、ワルドは暗い寝室に置かれたベッドの上で目を覚ました。
だいぶ見慣れてきた新しい天井が目に入るよりも先に、彼は上半身だけを勢いよく起こす。
ただただ不快な汗に濡れた体と、得体の知れない息苦しさに苦しみつつも、ワルド唯一自由である両目だけを左右上下に動かす。
明りひとつない暗い部屋の中で彼は壁のフックに掛けられた黒いマントを見つけ、ついでテーブルの上に畳まれたトリステイン魔法衛士隊の制服と自分の杖が目に入る。
悪夢から目覚めてから数十秒ほど経ってから、今自分のいる場所がハヴィランド宮殿の中にある一等客室なのだということを再確認した。
あれは夢だったのか。そう呟こうとしたが思うように声が出ない。
恐らくうなされていた時からずっと口を開けていたのか、口の中が異様なほど乾いているのに気が付く。
次いで、喉をジワジワと炙るかのような痛みが襲い、ワルドは堪らずベッドのそばに置かれた水差しへと急いで手を伸ばした。
蓋を兼ねて飲み口の上に被せられていたコップを手に取るとそのままベッドの上に放り投げると、中に入っていた冷水を勢いよく口の中に流し込む。
ゴクッゴクッと勢いのある音と共に冷水は乾ききった彼の喉を通過し、潤いを与えて胃袋へと入っていく。
乾ききっていた喉が元に戻っていくのを感じながら、ワルドはアルビオンの水が与えてくれる祝福を心行くまで堪能した。
中身をすべて飲み干したワルドはホッと一息つき、ふと空になった容器を見つめた。
底にわずかな水が残っている容器は未だ冷気が残り、彼の右手から温度を奪っていく。
「夢…夢の中でも負けてしまうのか…」
手に持った空の水差しを持ちながら、ワルドはポツリと呟いた。
時折、思い出すかのように彼があの夢を見始めたのはそう、゛あの日゛起こった゛ある出来事゛が原因であった。
※
゛あの日゛―――それは、彼が今いる国『神聖アルビオン共和国』が旧き王権を打ち滅ぼした日。
全てが順調に進んでいた筈だった。あと一歩で、自分に与えられた任務を完遂できると彼は信じていた。
しかし苦労の末に積み重ねていった涙ぐましい努力という名の塔は、たった一人の少女によって蹴り倒され…呆気なく瓦解した。
『努力を積み重ねる事は至難の業だが、それを崩す時はあまりにも容易い』
かつて何処かで耳にした言葉の通り、勝者になりかけていたワルドは一瞬にして敗者となった。
任務を完遂する為の過程で右胸を刺して排除した少女は剣を片手に不死鳥のごとく蘇り、驚くべき速さで自分の分身ともいえる遍在を裂いていく。
もしもその時の様子を例えるのならば…そう、一本の゛剣゛が人の形を成して襲いかかってきたようだった。
迷いが一切見えない太刀筋と目にもとまらぬ素早さ、そして遍在達をいとも簡単に切り裂くその姿を目にすれば誰もがそう思うだろう。
目の前の光景に驚いている間に遍在は全て倒され、気づかぬうちに形勢は逆転していた。
そして彼は、目の前で起こった事に対して有り得ないと叫んだ。
―――馬鹿なっ!何故生きてるっ!?何故…
咄嗟に口から出たワルドの言葉に、少女――博麗霊夢は鬱陶しそうな口調でこう答えた。
『うっさいわね。起きたばっかりの私の耳に気に障る声を入れないで欲しいわ』
機嫌の悪さが露骨に見えるそんな言葉と、突然の襲いかかってきた強い衝撃を胸に受けてワルドは敗れた。
こちらの過去や事情など一切知らない、二十年も生きていないような少女の理不尽さをその身に感じながら。
※
「クソっ…あいつさえ。あいつさえ蘇らなければ俺は…」
回想の中で霊夢の嫌悪感漂う表情と自身の胸に受けた屈辱、そして仕留め損ねた゛元゛許嫁のルイズを思い出し、ワルドは頭を抱えた。
あの後、ワルドは無事に助けられた。胸に直撃したであろう少女の攻撃は強力であったが、不思議な事に傷跡どころか少し大きめの痣で済んだ。
幸い痣の方もクロムウェルのお墨付きで出してくれた水の秘薬で綺麗に無くなったが、それでも彼の胸には今もなお゛跡゛が残っている。
それは不可視の傷。他人には一切理解できない、心の中に未だ存在する屈辱と後悔、それに怒りが加わって傷の治癒を妨げていた。
何故あの時、もっと速くにルイズを殺さなかった?何故殺した筈の霊夢が蘇った?
彼は自らの傲慢と余裕が生んだ過ちと、自分を敗北に追いやった霊夢への殺意が頭の中をグルグルと流れている。
それは一見緩やかな流れの河に見えるが、一度荒れれば数万のも人々の命を攫っていく死神の河であった。
今の状態の彼を挑発すれば、例え始祖ブリミルであっても彼が放つライトニング・クラウドによって真っ黒焦げの焼死体に変わるだろう。
それ程までに彼は二人の少女に対して異様なまでの殺意を抱くと同時に、そんな自分に苛立っていた。
「クソ…『閃光』のワルドが…あんな子供に殺意を持つなんて…情けないにも程がある!」
そう言って彼は手に持っていた容器を思いっきり放り投げた。
数秒遅れて、一等客室に相応しい造りの壁にぶつかった容器が音を立てて割れ、ガラスの破片が飛び散った。
窓を通して入ってくる双月の光を浴びてキラキラと輝くガラスの破片は、まるで今のワルドの、自分の情けなさに涙する彼の心を表しているかのようであった。
◆
今日も今日とて平和な魔法学院の休日。
その日、ギーシュ・ド・グラモンは一人食堂にある休憩場のソファーに腰かけ、ボーっと天井を見つめていた。
遥か頭上にある天井には日の光が届いていない所為か薄暗く、その全貌を彼に見せようとはしない。
まるで雨雲のように暗いそれを見続けていたら、不思議とギーシュは得体の知れない憂鬱を覚えた。
「光の届かぬ暗部の先には幸があるのかな?…それとも、破滅?」
何処か哲学めいていてそうでない彼の独り言は、人気のない食堂の中に広がり消えていった。
今の時間帯、食堂には奥の厨房にいるコック長や調理担当の者たちを残して、他の給士やコックたちは使用人宿舎に戻って休憩をとる。
なので今はギーシュだけがポツンと、人を寄せ付けぬ平原に咲く一輪のバラのように、その存在をアピールしていた。
しかし、なぜ彼が食堂にいるのかというと別にお腹が空いるからというワケではない。大事な人との待ち合わせをしているからだった。
その人は女子生徒で、ギーシュがこれまで口説いてきた女の子たちの中でも一際輝き、彼にとって特別な存在であった。
ギーシュがいつもの悪癖で他の女の子と一緒にいても、怒ったり暴力を振るったりするが別れるようなことはない。
ある時は別れを告げられたこともあるのだが、自然とよりを戻していつもの様にツンと澄ましながらも優しく接してくれた。
それは例えれば゛赤い糸に結ばれたカップル゛ではなく゛磁石の如きカップル゛と誰もが答えるだろう。
例えどんなに離れていても、どんなに嫌だったとしても最終的にはお互いがくっつくしか道は残っていないのだから。
しかしギーシュにそれを問えば必ず「美しき薔薇に囲まれた幸せなカップルさ」という、彼のナルシスト精神がこれでもかと滲み出た答えがでるだろう。
それほどまでにギーシュは彼女を…『香水』の二つ名を持つモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシを愛している。
今日はそんな彼女と一緒に休日のトリスタニアでデートをする予定だったのだが、少しだけ問題が発生していた。
朝食を食べ終え一時間ほど自室で休んでからすぐに馬で学院を出るはずだったのだが、肝心のモンモランシーが部屋で香水を作っていたのだ。
「ごめんギーシュ、一時間もあるから新作の香水を試しに作ってて…ちよっと食堂で待っててくれない?すぐに行くから」
実際にその様子は見ていないものの、ノックしてすぐに帰ってきた返事とドアの向こうから微かに匂って来た花や薬品系の臭いですぐにわかった。
普通の男なら怒るだろうが、彼女の事を一番知っていると自負するギーシュはドア越しに笑顔を浮かべて了承し、その場を後にして今に至る。
二つ名の通り、モンモランシーは香水に関する知識と技術は学院一であり、それはギーシュだけではなくほかの生徒たちも知っている事だろう。
様々な植物や果物の匂いを均等に混ぜて作り上げる彼女の香水は街でも大人気で、時折大量に作った香水を街で売っていることもある。
ギーシュにとってそんな彼女はとても誇らしく、素晴らしい恋人゛たち゛の中でもひときわ輝く存在であった。
そして、そんな彼女と街に出かけられる自分はなんと美しい男か。とひとり自惚れしていると、食堂の外から二つの声が聞こえてきた。
ギーシュが今座っているソファのすぐ後ろにある窓を通して伝わってくるその声は、正に青春真っ只中と言える女の子の声である。
最初は誰の声なのかわからなかったが暇つぶしにと思い後ろを振り返ってみると、そこには見覚えのある少女が二人、ここから少し離れたところで何かを話していた。
同級生で『ゼロ』の二つ名を持つ事で有名なルイズが召喚した博麗霊夢と、彼女と一緒にルイズの部屋へ居候している霧雨魔理沙であった。
「街に行くからついでに誘おうと思ったけど、まさかシエスタも街に出かけたなんて…とんだ無駄足になったわね」
「私はともかく、お前の場合は無駄足というより無駄飛行じゃないか?」
紅白と黒白というハッキリと目に映る二つの少女は話に夢中なのか、窓から覗くギーシュに気づいていない。
シエスタという、何処かで聞いた覚えのあるような無いような名前に首をかしげつつ、興味本位と暇つぶしでギーシュは話を聞いてみることにした。
これは盗み聞きなどという邪な事ではない、偶々耳に入ってきただけだから聞いてみるだけさ。と心の中で思いながら。
「しっかしあれだな。急に暑くなってきたよな…こう、私たちがこの世界へ来るのを見計らったかのように」
魔理沙は遥か上空にある太陽を横目に、右手をうちわのようにして顔を仰ぎながら呟く。
「本当ね。もし幻想郷でもこんなに暑くなったら、境内の掃除をしてる途中に日射病にでもなっちゃうじゃない」
それに対して霊夢は腕を組み、まるで親の仇と言わんばかりに太陽をジッと睨みつけた。
「もしかしたら月が二つあるせいで、意地を張った太陽が無駄に頑張ってるのかもな」
魔理沙の口から出たトンデモ仮説に、霊夢はやれやれと言わんばかりに首を横に振る。
「そうだとしたら、私たち人間がいい迷惑を被ってるってワケね。全くイヤになるわ」
「同感だ。お互い張り合うのなら、私たち人間様が被害の被らないところでやって欲しいものだぜ」
二人は燦々と大地を照らす太陽を睨みながら、そんな事を話し合っている。
無論彼女らの後ろには食堂の窓からのぞくギーシュがおり、太陽と月の話もバッチリ聞いていた。
(何だ、ゲンソーキョーとかケイダイ…聞いたことのない単語だ。それに゛この世界゛って…)
そして霊夢たちの口から出た謎の単語を耳に入れ、目を丸くしつつも覗き見を続けることにした。
二人の話をこのまま聞けば、他人が知らない゛何か゛を知れそうな気がしたから。
「それにしても、こんな天気の良くて暑い日に街へ出かけるなんて…曇った日にでも行けばいいのに」
「お前の場合、もしも急須や湯飲みが壊れたりしたら雲の日、雨の日、雷の日、雪の日、吹雪の日、槍の日、弾幕の日でも人里に買いに行くな。これだけは何か賭けてもいいぜ」
自身の満々な魔理沙とは一方的にドライな霊夢は、イヤそんな事は無いと言わんばかりにヒラヒラと手を動かしながらも言葉を返そうとした。
「お生憎さま。私なら急須を捨てざるを得ないようなヘマは――――…したわね」
しかし、言い終える前に先週の出来事を思い出した彼女は最後のところで言葉を変え、恥ずかしそうに右手で自分の後頭部を掻いた。
魔理沙はそんな霊夢を見て軽く笑ったが、その顔には若干の苦味が混じっている。
「まぁ…あの時の事は忘れようぜ?もう一週間も前の事だし」
「その一週間前のヘマで暑い街に繰り出す羽目になったのは…元はといえばアンタの所為じゃないの?」
「?…どういうことだ?」
「だってホラ。アンタとルイズが森でタバサと出会わなかったら、あんなお茶と呼べないような呪物もどきを受け取らずに済んだかもしれないし」
「じゃあ言うが、もしあの時タバサと出会ってなかったらお前の命がどうなってたかわからないぜ?」
別に脅してるワケじゃないぞ。と最後に付け加えながら魔理沙がそう言うと。口を閉じた霊夢は目を瞑り、盛大なため息をついた。
「じゃあ結局は、アレに対する知識が無かった私が悪いワケねよ?」
気怠さと嫌悪感が混じった雰囲気を体から放つ霊夢の肩を、魔理沙が軽くたたいた。
「まぁ、それに関しては私も共犯だぜ?」
だから気にするなって。と最後にそう言って、魔理沙は笑顔を浮かべた。
その笑顔は夏の海のごとく爽快で、とても涼しげな気配を放つものだった。
やけにポジティヴな黒白の魔法使いに対し、紅白の巫女は沼のようなジト目で睨みつけ、文句を言った。
「アンタと共犯ですって…?私はアンタみたいな泥棒はしないわよ」
「何度も言うがあれは一応゛借りてる゛だけだぜ。死ぬまでな?」
最後の言葉を魔理沙が締めくくり、二人はそさくさとその場を後にする。
食堂の窓からジッと二人を眺めていた男子生徒の視線に気が付かぬまま。
離れてはいたが、バッチリと二人の話を聞いていたギーシュは遠ざかっていく霊夢と魔理沙の背中を見つめていた。
話の内容から察するに、おそらく二人は街へ出かけるのだろう。それは違いない。
しかしそれよりも彼が気になっているのは、二人の会話の節々から出た謎の単語と言葉であった。
ゲンソーキョー、ケイダイ。…そして゛この世界へ来る゛という魔理沙の妙な言い方。
謎の単語はともかくとして、魔理沙の言葉に、ギーシュは何か秘密があるのではないかと思った。
もしかすると…キリサメマリサという、この学院では゛以前にルイズを助けた恩人゛という事以外謎が多すぎる少女の真実がわかるかもしれない。
魔理沙はここへ来て以来、多くの生徒たちに色々な事を聞かれたのだが、持ち前の達者な口ぶりで今まではぐらかしてきた。
無論ギーシュもその一人であり、今まで彼女に関しては「どこか男気のある勇敢で活発な美少女」という感じで見ていたが、今になってそれが変わった。
―――こう、私たちがこの世界へ来るのを見計らったかのように
―――――――私たちがこの世界へ来るのを見計らったかのように
『この世界へ来るのを見計らったかのように』
『 こ の 世 界 』
頭の中で彼女の言葉が反芻し、ギーシュの脳内を満たしていく。
そこから導き出される答えは、決して普遍的な人生を歩んできた人間には理解できない答え。
惜しむべくは彼、ギーシュ・ド・グラモンもその普遍的な人生を歩んできた人間の一人に過ぎないという事だ。
多数である彼らの唱える゛常識的な思考゛が少数に支持される゛非常識な答え゛を否定し、全く見当はずれな回答を探そうとする。
「キリサメ…マリサ、k―――――ッ…イィッ!?」
彼女は、一体…。と言おうとした瞬間―――――何者かが彼の後頭部を掴んできた。
「ォ、オオゥ…!…ウグ!?」
鷲掴み、というものでは比喩できない程の握力で掴まれた彼の頭から、メキメキと縁起でも無さそうな音が聞こえてくる。
一体誰なのかと問いただそうとしても、あまりにも頭が痛すぎて声を出す暇もない。
まだ両足が地面についている分マシだが、このままでは宙吊りにされる可能性も考慮しなければならないだろう。
最も、今の彼にそこまで考えることができるのかどうかは定かではないが。
そうこうしている内に掴まれてから三十秒ほどたった時、後ろから声が聞こえてきた。
「へぇ〜、やっぱり学院中の女の子に声かけてる男は違うわねぇ」
その声は、痛みに苦しむギーシュに――否、ギーシュだからこそ鮮明に聞こえたのである。
いつも何があっても傍にいてくれて、離れていても気づいたら戻ってきてくれる…金髪ロールの素敵な子。
「学院の子や゛私゛には飽きたから。次は『ゼロ』の使い魔と得体の知れない居候を試し食いしようってワケね」
プライドは高いがそこが素敵で笑顔も気品があり、貴族の女の子として非常に理想的な彼女。
キュルケのように大き過ぎず、かといってルイズやタバサのように小さ過ぎもしない、安定した体のバランス。
趣味で作る香水やポーションは、彼女が得意とする『水』系統の魔法と彼女自身の知識と才能によって生まれた一種の芸術。
これだけだと非の打ちどころのない素敵貴族子女なのだが、彼女には一つだけ欠点があった。
それは恋する女の子なら誰もが持っているであろう、『嫉妬』の感情。
気になる相手が他の女の子へと目が向いた時、それが爆発して小さな暴力を引き起こすことがある。
問題はたったの一つ。今ギーシュの頭を掴む彼女の暴力が手でも足でもなく―――文字通りの「水責め」だということだ。
「うん…うん決めたわ!今日は街で貴女とお買い物する筈だったけど。予定を変える事にするわ♪」
最後にそう言って、満面の笑みを浮かべた少女――モンモランシーは杖を取り出した。
まるで盛りの付いた野良犬の如く、色んな子に色目を使うダメな彼氏もどきを…これから作る水の柱へと埋め込むために。
以上で今月の投下を終えます。
今月は延期していた東方求聞口授が発売して自分には嬉しい月でした。
自分のSSももうすぐゼロ魔三巻のタルブの戦いへと動いていきます。
そこは自分なりに頭を動かしてアレンジを効かせて行きたいとも思っている次第で…
では皆さん、また来月に…
ここまで、代理終了
無重力巫女の人乙です
ギーシュぇ…… そのあと水柱に頭をねじ込まれて拷問ですねわかります
いっそ永淋に去勢薬でも作って貰えば…… モンモンは永淋に弟子入りしそうだ
被爆星人・・・
よーしパパこれから第十九話投稿しちゃうぞ〜
エラーで書き込めないよ…
何だよ『あたり〜』って…
しょうが無いので避難所に投下します。
予告
いわく、7都市のひとつを灰に変えた悪魔の使い
600億$$の賞金首
人類初の局地災害指定
関わった事件は200を超え、被害総額は20兆$$オーバー
他にも数多の伝説を作った男が今、ハルケギニアの地で新たな伝説を生み出す!
「使い魔?僕が?」
「そうよ!アンタは私の使い魔なの!」
・・・使い魔として
「これは一体なんの騒ぎなのよ!このトンガリ頭ぁ!」
「それは僕の方が聞きたいくらいデース!」
人間台風(ヒューマノイドタイフーン)と呼ばれる所以
「な、なんなの・・・その傷だらけの身体・・・!?」
「あんまり女の子には見られたくなかったなぁ・・・」
彼の名は・・・
「ぼ、僕のワルキューレが一瞬で・・・!?」
「一体・・・何者なんだ!」
ヴァッシュ・ザ・スタンピード
暴走という名をもつ男の物語がまた始まる!
《TRIGUN・ZERO》
近日 公開
?
>>40 幾らキチガイ連中でもそこまでの権力はないだろうさ
ふと、リリなのStsの自称凡人ことティアナが召喚されたらどうだろうと思った。
なのはさんに撃墜された、劣等感の塊の頃とか。
作者次第です
あーもう、なのはの人まだー?
いまだにシリーズがしぶとく続いてる孔雀王から呼ぶとしたら、孔雀かアシュラか王仁丸かな
意外と遊戯王シリーズのキャラって少ないな
最終十代はユベルが問題だけど最終遊星なら問題なさそうだけど
49 :
!ninja:2012/05/02(水) 18:23:39.96 ID:Wn6MdOMc
サイヤのひと恋
>>44 ティアナさんってガンダムでいうとリ・ガズィぐらいのポジションだっけ?
ただし確変はいるとトランザムする
よくアンリエッタが無能扱いされるけど、ハマーン様やラクスが王女だったらトリステインはゲルマニアと同盟いらなかっただろうか?
ウェールズが御大将だったら王統派はレコンに負けなかっただろうか
無能というより公私混同が酷いというべきな気が…
無鉄砲
かな
結果出してるし才能はあると思う
家庭教師にアリストテレスかルキウス・アンナエウス・セネカ付いていれば
性格的に覇王か暴君になるタイプではあると思う
ロマンチストで激情家だし
トップが無能でも、周囲が有能なら何とかなるものだしな
……スレ違いなネタではあるが
もしもアンアンが王女でなく魔法学園のメイドさんだったら…
序盤で才人と関係持って駆け落ちしてたりしてw
>58
そんなことになるシチュエーションか……ルイズが虚無と発覚、ヴァリエール朝の誕生。
後の遺恨を残さぬ為と暴走した何者か(有力なのはワルド)に襲われ、命からがら逃げ出したアンリエッタはオールド・オスマンによって助け出され、学園でメイドとして就業する事に。
対外的にはアンリエッタの影武者になる筈が、没落したので一般人として生活することになったとか。
いや深い意味はないんだ
序盤の彼女の行動は、まあヒロインとしては結構ありがちな行動なんだよな
人の上に立つ人間としてはマズイどころの話じゃないがw
恋人に手紙届けて欲しいから戦場に行って頂戴
こんな事を頼む時点で国のトップとしてはあかんわなw
結果的に無駄に終わったがバレたら面倒な手紙を回収し
獅子身中の虫になっただろうワルドを早い段階で排除
さらに風のルビーを手に入れることに成功
ほぼ狙ってないけど結果的には国のためにもなっている
これぞ天性の資質
勘違い系主人公、アンアンとな
しかし、その手紙って本当にバレたらまずかったのかねぇ。
「同盟を結ぶのを阻止するために作られた偽物ですよそんなの。全く、始祖の血を引く王家に弓引くだけあって薄汚い謀略が好きなようだ」
と、言った感じで強弁すればいいだけだと思うがなぁ。
ゲルマニアの皇帝はその血と、将来的に国を併合するために「王女」が必要であって、別に「アンリエッタ」が好きなわけでもあるまい。
なら、彼女が傷物でも気にしないだろうから「ですよねー。そんな嘘が通じると思っているの?馬鹿なの?さ、結婚しましょ。同盟結びましょ」
と、口裏合わせるだろうし。
てか、いくら友とは言え国内の有力貴族の娘を生還の望みが薄い任務に投入とかも正気の沙汰では無いよね。
殺されてもやばいけど、もし捕虜になったらとてつもなく面倒なんだが。
さらに言えばウェールズの亡命とかも何を考えているのやらだよね。
レコンキスタの連中にトリステイン侵攻の大義名分を与える事になるし、大体彼が亡命してきてもゲルマニアとの結婚&同盟は避けられないのに。
好きでも無い男の元に嫁ぐ姿でも見せたいのか?この女は。
本当このスレの人間って考察するの好きだよな
>>65 だよなwww
問題は作者がそこまで設定を練っているかだ・・・
後このスレでロイヤルビッチって言ったら怒られる?
ロイヤルビッチはいまやタバサの称号でもあっからな
なんやかやで一番まともなのはイザベラ
タバサはビッチではないから問題ない
おいおい
ゼロ魔にまともなヒロインなんて居るわけないだろ?
アンリエッタを無能無能言うが、竜王を討伐する勇者に二束三文のはした金しか渡さないドSな王様に比べれば有能だろう
魔王を倒すための真の勇者を決めるために勇者を国中から呼び寄せて
バトルロイヤルさせる王様とかもいるしな、それよりは全然マシ?
>>70 いやあの王様は優秀だよ
この勇者ならはした金で十分と見ぬいた眼力は称賛に値する
実際魔王倒してるんだから最小限のコストで目的を達成した名君だろ
>>66 週刊連載とはいかなくても、それなりのペースで書かないいけないから
そのときの思いつきでだした設定や伏線、使わなくて消えたのもあるし
作者もそこまで手間かけんだろうね(笑)
>>67,68
まあ、青春まっさかりの恋愛脳な時期だしいいんじゃね。
作風が作風だし
>>721 ある意味ただもんじゃないのは確かだな
一人娘が宛もない旅にでる勇者についていくのを許してるし
ルイズもローラの愛ならぬルイズの愛をサイトに持たしたほうがいいな。
誰かデュープリの人の代理お願いします
>>75 なんか代理スレのほうでエラーが出て云々言ってるけど
>>72 どうも、プレイヤーの前にけっこう大量に”勇者”が旅立っているらしいよ
結局帰ってきたのはほとんどいないので、あの対応で正解
王様「さぞかし思いっきりつらーい怖ーい思いをするじゃろう
しかも、超痛かったり死んじゃったりするじゃろう
しかしワシは責任はとらん!そのために金を渡した。金で解決じゃ!」
>>79 痔は治りましたか?
…話は元に戻すが、ヒロインキャラをそれなりの地位と責任のあるポジションに据えるのは
扱いがかなり難しくなる気がするな
普通のヒロインだとよくある、主人公を助ける為の無鉄砲な行動が非難の的になりやすい
かなり古い作品だが、ナデシコのユリカがSSだとアンチの対象になる理由がそこだし
神坂 一コレクションに掲載されている短編に、勇者の支度金に関わる話も有ったな……
で、それがゼロ魔とどんな関係が?
>>62 任務から帰った後に鳥の皮がそう言ってるSSもあった
ふしぎなことに急に焼き鳥を食いたくなってきた
ルイズに王位を押し付けてサイトととんずらしちゃうアンリエッタとか読んでみたいな
よしIFスレに行こう
ん?いろいろミスってんな…
鳥の皮× 鳥の骨○
アンカ62× 64○
>>71 アニメ化決定した直後に原作と作画が喧嘩して第一部完で打ち切りなったシャイナダルクって漫画には
魔王討伐の為にそこらの奴に勇者認定して魔王討伐に出しまくってる国が問題になったりしてたな
>>85 もしウェールズが存在しない世界ならありそうだなw
最初に出会ったときの手のひらにキスであっさり惚れて、レコンキスタ戦での軍功をもって
シュバリエに、才人を銃士隊の一員にしてルイズから寝取るとか
サイトとアンリエッタの夫婦ネタ
サイト「ただいまぁ、あー疲れた疲れた。水精霊騎士隊の仕事もくたびれるぜぇ」
アンリエッタ「お帰りなさいあなた。ご飯にする?お風呂にする?それとも寝るぅ〜?」
サイト「なんでいきなり寝るなんだよ!もういいからメシだよメシ!」
アンリエッタ「はいあなた。ニラレバ炒めと、生タマゴ〜」
ハルケにも赤まむしドリンクは存在するのか
ジュリオ「今更、言えるわけがないでしょうね。6000年もの昔からケンちゃんラーメンが存在していたなどと」
ヴィットーリオ「新発売とずっと信じ続けていたわけですからね。信仰とは恐ろしい」
そういえば動植物ってどうなってんだろ
馬、鼠、鳥系は殆ど同じみたいだが、あと蛙もか
虫とか魚もいるのかな
すんごい精力増強剤になるようなのも(ry
食い物ネタで思ったけど
竜の肉って美味いのかな(笑)
成竜のもも肉なら、もの凄いデカいマンガ肉が取れそうだし、巨大なハム作れそうだ。
肉食の動物の肉はまずい
スッポンの生き血〜ってのもあるぞ。うぇっうぇっうぇっ
投下もない様子なのでデュープリ代理行きます
第十九話『裏切りのワルド』
昨夜ルイズと喧嘩別れをしたままミントはニューカッスル城からの脱出準備の為城の中を駆け回っていた。
そう、火事場泥棒だ。
脱出船が出発する時間まではまだまだ余裕がある。それまでにありったけのお宝を回収しなければならないのだ。
(今頃結婚式始めてるのかしらね………風のルビーはルイズがウェールズから預けられるだろうし…ワルドが何か企んでるっぽいのは気になるけど。)
多少気にはなるが今は時間が無い…今はお宝だ。
___礼拝堂
ルイズは戸惑っていた、今朝方早くにいきなりワルドに起こされ、ここまで連れてこられたのであった。
昨夜のミントの言葉と滅びる王家のショックもあり殆ど眠れていなかったルイズはワルドにこれから結婚式を挙げよう等と突然言われて戸惑い、混乱したまま状況に流されて此処まで来てしまった。
ウェールズの好意で貸し与えられ、ワルドの手によって頭に乗せられたアルビオンの秘宝の一つ『白の花冠』は白の大陸アルビオンを形容する様に魔法の力で瑞々しく咲いた白い花で作られたそれは美しい物だった。
いつも身に付けていた黒いマントも今は純白のマントで着飾り、簡易的ではあるがその姿はまさに花嫁以外の何物でも無い…
ヴァージンロードの先には荘厳なステンドグラスと神々しく聳える始祖ブリミルの像があり、その袂には皇太子としての礼服に身を包んだウェールズが心から祝福しているのだろう…ルイズを暖かく見守っていた。
「さぁ、ルイズ。僕の花嫁。」
そう優しく言ってワルドがルイズの手を優しく引き寄せウェールズと始祖の像へと一礼を行う。
それを確認してウェールズはにっこりと微笑むと祝詞の記された書を朗々と読み上げ始める。
「これより結婚式を始める。子爵、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか?」
「誓います。」
ワルドの迷い無い誓いの言葉にウェールズは満足そうに笑みを浮かべる。
「新婦ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、汝は始祖ブリミルの名においてこの者を敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか?」
そのウェールズの問いにルイズはようやく自分が今結婚式を挙げているのだと言う事を理解した。
今自分を見つめている隣のワルドと自分は結婚する…それはイヤでは無い。もともと婚約者でもあるしずっと憧れていた子爵様なのだむしろ嬉しい…だがルイズ自身は今全くどこかこの結婚に納得がいっていないのだ。
戸惑いの中ルイズはつい後ろを振り返る…当然ながら礼拝堂には誰も居ない。
ここ最近ずっと自分の側に居てくれていたミントは一足先にアルビオンを発っているとワルドから聞いていた…それでも無意識にミントの姿を探してしまった自分は何なのだろうかとルイズは自問自答する。
「新婦?」
ウェールズの声に思考に沈んでいた頭を覚醒させてルイズは慌てて顔を起こす。
「緊張しているのかい?大丈夫さ、君は僕を信じてくれれば。」
ルイズの様子がおかしいと感じたのかワルドが爽やかに言う。
(そうよ…ワルド様を信じれば…)
ワルドの言葉にそこまで流される様に考えたルイズだったが不意に昨夜のミントの言葉が頭をよぎった。
『あんたさ〜…ちょっと甘えてんじゃないの?』
途端にルイズは混乱していた自分の思考がクリアになるのを感じる。
確かにここでこのままワルドと結婚すれば後は幸せで安泰な人生がまっているだろう。
だが、それは何かが違う。ルイズ・フランソワーズはまだ自分の力で誰も見返してはいないし何よりミントを元の世界に戻すという責任を果たしていない。
結局このままでは『ルイズ・フランソワーズ』というメイジの存在は否定され『フランシス・ド・ワルドの妻』という人物が生まれるだけだ…
そんな事、認める訳にはいかない…結局自分の貫く生き方だけは自分で決めねばならないのだ。
心を決めたルイズは先程までの戸惑いを浮かべた表情を一変させてウェールズへと視線を真っ直ぐ向けた。
「誓えません。」
「なっ!?ルイズ??」
「何と?新婦はこの結婚を望まぬか?」
「はい。そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、わたくしはこの結婚を望みません。」
ルイズの予想外の答えにワルドは戸惑いを隠せないままルイズへと詰めよりその手を握る。
「どうしたね? ルイズ、気分でも悪いのかい?そうだろ?」
「違うの、ごめんなさい……」
「あぁそうか!!日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、今のままの私じゃワルド、あなたとは結婚できない。」
そう伏し目がちに言って首を振るルイズ…
「何故だ!?言ったじゃ無いか、いつか君は素晴らしいメイジになる。そう、世界だ!!君の力があれば世界を手にする事だって!!」
激昂した様にワルドはルイズの両肩を強く掴む…そのワルドの豹変ぶりにルイズは驚くと同時にまるで悪い夢でも見ている様な強い恐怖を感じた。
「わ…私は世界なんて欲しくない!痛いわ、離してワルド。」
常日頃から世界征服等という世迷い事をルイズはミントの口から夢なのだと語られている。その大それた夢を語るミントの瞳は今思えば希望に輝き、その野望は聞いている方が元気を貰える様な物だ…
しかしワルドの瞳が映しているのは邪な欲望だ…ルイズは世界を手に入れると声高に語ったそのワルドの瞳を見て確信する。
「ルイズ!!僕の物になるんだっ!!」
叫ぶワルド…それは最早誰が聞いても恫喝の声にしか聞こえぬ恐ろしい声。
「嫌よっ!ワルド、今解ったわ。あなたは私を愛してなんかいない…あなたが欲しがっているのは私の中にあるなんて思ってる在りもしない才能……こんな侮辱初めてよ!!」
「子爵!!ヴァリエール嬢を離したまえ。彼女は君との婚姻を望まぬと言い、今はっきりと君を拒んだではないか?残念だがこれ以上は私も見過ごす訳に行かん。」
ルイズがワルドを拒むのと同時にウェールズがワルドの背中に声をかける…
ウェールズもミントとワルドそれぞれが語る『世界』の意味の違いを感じたのだろうか、その片手は自然と腰に下げていた杖に伸ばされていた。
ワルドはその様な状況になってようやくルイズの肩を掴んでいた両手を離す…
あまりに想定外の事態に些か取り乱してしまった様だ…ルイズから向けられる侮蔑と恐怖の込められた視線を受けながらワルドは残念そうに微笑みを取り繕う……
「こうまで言っても駄目かい?残念だよ…ルイズ。」
「当たり前よ…」
「それでは仕方ない…君の事を手に入れるのは諦めるとしよう。これでも道中君を籠絡させる為に色々と手を回していたんだがね、本当に残念だ。だが、だからこそあと二つの僕の目的は達成させなければ成らない。」
「二つの目的?」
その不気味な物言いにルイズはワルドが何を言っているのかが解らず頭に疑問符を浮かべる…
「一つは君の持つ王女の手紙の回収さ…尤も君とは依頼主が違うがね。」
そう言った次の瞬間、不穏な気配を感じ取ったウェールズが杖を抜き。だがそれよりも早く風の魔力を纏い光を放つワルドの杖による神速の突きがウェールズの胸を正確に貫いていた…
「子…爵…貴様…」
「もう一つは彼の命だよ…ルイズ。」
「ワルド……まさか……あなた………」
ルイズは目の前の崩れ落ちるウェールズとその胸から杖を引き抜くワルドというその衝撃的な光景を信じる事が出来ず震える様に言葉を紡ぐ…
「あぁ、そうだよルイズ。…僕はレコンキスタだ……」
そう言って口元を歪めたワルドを前にしてルイズは懐から杖を抜いてワルドへとその先端を咄嗟に向けた…
唱える魔法等何でも良い…ルイズは目の前の『敵』へと精神を集中させる。
「フラ「エアハンマー。」」
ルイズが呪文を唱え始めると同時にワルドも呪文を詠唱する。
それは決定的なメイジとしての力量の差だった。ルイズのコモンマジックがワンスペルで在るにも関わらずワルドの詠唱の完了の方が尚早かった…
瞬間、ルイズの杖を掴んだ右手に凄まじい衝撃が襲いかかる…
杖はその手を離れ遙か後方へと吹き飛ばされていく…
そして…
ルイズの右腕は肘から先が本来ならば曲がるはずの無い方向へと不自然に曲げられていた…
「いっ……ぁ……ぃゃ…ああぁぁぁぁ!!!…ぅぁ…」
自身にとって初めて感じるであろう形容しがたい激痛にルイズは思わず悲鳴をあげ、折れた腕を押さえる様に反射的に踞る。
(痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!!)
「フッ…言っただろうルイズ、君には間違いなく素晴らしい才能があるんだ。だから君の爆発の魔法を僕は評価している。しかしだからこそ君に魔法を使わせる訳にはいかないんだ。」
ワルドの声も上手く理解出来ぬ程ルイズの思考は今痛覚によって乱されている。それでも今現在ワルドが自分に止めを刺そうとしているのは何となく理解はできた。
「い、嫌っ…助けて…」
「命乞いかい?だけど残念だ、僕はこれから君を殺す。」
ワルドはそう言って邪悪に笑う。
「助けてよっ…ミントッ!!!」
絶体絶命の窮地の最中、ルイズは無意識に叫んだ。己の使い魔の名前を…
___ニューカッスル城
今、ミントは息が乱れるのも構わず一心不乱に走っていた。
遡る事数分前。
粗方城内に残されていたお宝を回収し終え、ミント主観で価値の高そうなお宝の詰まった荷袋を担いで脱出の為に停留していたイーグル号の乗り込もうとそのタラップに足をかけた瞬間、ミントは自分の左目が妙な光景を映し始めた事に気が付いたのだ…
(何よこれ……此処は礼拝堂?…ワルドもウェールズも一緒って事はこれもしかしてルイズの見てる光景なの?)
ミントも使い魔と主の視角共有の話は以前ルイズに聞いていた。しかし、問題はそこでは無い。ミントの視界に映るワルドの鬼気迫る表情は明らかにただ事では無く、ルイズの感じている恐怖心なのだろうかミントの胸に言いようのない不快感が襲いかかる。
「まずいっ!!」
あれこれ考えるよりも早くミントはデュアルハーロウを握りしめると礼拝堂に向けてその場から疾風の如く走り出した。
後ろ髪を引かれる思いではあるが回収した金銀宝石類が詰まった荷袋はイーグル号の甲板へ乱暴に放り投げる…
「どうしたよ相棒?急に走り出して、お前さんあの船に乗らなきゃ帰れないんじゃねぇのか?……はは〜ん、さてはお前さんもよおし「そぉいっ!!」」
「……………悪かった…」
ミントの全力の投擲によって進行方向にある壁面に深々と突き刺さったデルフリンガーを走り抜ける様に引き抜いてミントは更にひた走る。感情の高ぶりが力を与えているのかそのスピードとスタミナは野生のディグレであろうと悠々と振り払えるであろう程の領域だ。
そして、左目の視界に映るワルドがどこか影を孕んで優しく微笑む…
ミントは通路の窓から大きく跳躍し、柔らかな花壇をクッションに飛び降りると現在地から礼拝堂までの直線を繋ぐ庭園を突き抜ける…
視界に映るワルドが突然に杖を抜いた…
ミントは目の前に聳える邪魔な城壁を睨み『ドリル』の魔法を発動させる…漆黒の螺旋はいとも容易く固定化のかけられた前方の強固な壁に大穴を開けた…
相変わらず左目は見たくも無い嫌な光景を映し続ける……ミントはギリッと唇を噛んだ…
胸を貫かれたウェールズの身体が力無く崩れ落ちる…
目の前に礼拝堂が見えた…
次いで左目が映したのは歪に曲がった華奢な右腕…それは間違いなくルイズの物だった…
『助けてよっ…ミントッ!!!』
そうして礼拝堂の大扉を前にしたミントにルイズの自分を呼ぶ声が届く…
「ワルドォッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
暴走した様に早鐘を打つ心臓でミントは跳び蹴りで大扉を蹴破ると同時に怒りの雄叫びを上げた。
ここまで、代理終了
代理スレでも言われてるけど下の文が長すぎたので、勝手に改行入れてます
不都合であればwikiに掲載するときに修正してください
>ウェールズの好意で貸し与えられ、ワルドの手によって頭に乗せられたアルビオンの秘宝の一つ『白の花冠』は白の大陸アルビオンを形容する様に魔法の力で瑞々しく咲いた白い花で作られたそれは美しい物だった。
>いつも身に付けていた黒いマントも今は純白のマントで着飾り、簡易的ではあるがその姿はまさに花嫁以外の何物でも無い…
>>106 乙です
永遠にワルド
ワルド ふりむかないで
夜空のかなたに輝く星は
ワルド お前の生まれた故郷だ
おぼえているかい 少年の日のことを
優しい母の声のなかで めざめた朝を
ワルド ふりむくな ワルド
男は涙を見せぬもの 見せぬもの
ただ明日へと 明日へと 永遠に
さて、恒例のかませ犬との対決か
デュープリの人と代理の人乙です
最近ガンダムネタ多いな嬉しいぜ
リリとかディアナ様とか御大将とかアムロとか
我が世の春が来た気分だ
特に予約がないのならば11:29頃から続きを投下しますがよろしいですか?
Mission 25 <異邦者の軌跡> 後編
ロングビルと共に学院本塔の階段を登りきったスパーダは学院長室の手前までやってきていた。
「ミスタ・スパーダをお連れしました」
ロングビルが一度、呼び出しの言葉をかけてから扉を開け、中へ入るように促す。
スパーダは既に扉を挟んで二つの魔力の気配が伝わってきたが、学院長室へ足を踏み入れるとその気配ははっきりと感じられていた。
土系統と水系統、それぞれ異なる性質であった。
堂々と入室すると目の前には金髪と黒髪の女性が二人、こちらを向いて立っている。
「では、失礼します」
礼儀正しく頭を下げ、外にいるロングビルは扉を閉めた。
ヴァレリーは現れたスパーダの端正な顔立ちと威厳に満ちた姿を見るなり、仄かに頬を赤く染めて嘆息を漏らしている。
対して、エレオノールは相手を威圧するかのような表情のまま腕を組み、仁王立ちをしていた。
スパーダも自分を睨みつけているエレオノールを冷たい瞳で見返していた。
「やあ、スパーダ君。授業中に来てもらってすまんのぅ」
「気にするな。アカデミーとやらからの客人はこの二人か?」
「あなたがルイズの使い魔を務めている元貴族、スパーダね?」
スパーダが顎で二人を指すとオスマンが答える前にエレオノールはいきなりずい、前へ出て尋ねてくる。
「そうだ」
ルイズの名前が出てきたことに少し怪訝そうに眉を顰める中、エレオノールはじろじろとスパーダの足先から頭まで視線を這わせていた。
スパーダを品定めするかのごとき辛辣な視線であり、平民はもちろんのこと、並の貴族の男でさえその視線に思わず身を震わせてしまうだろう。
約十数秒ほど互いに何も喋らず沈黙を続けていたが、スパーダは冷徹な表情と瞳を全く動かすことはなく、エレオノールもまたその冷たい視線に何も感じてはいないようだった。
(何で喋らないのよ)
(息苦しいの)
何とも気まずい雰囲気である。ヴァレリーはどうして良いのか分からず困惑するし、オスマンはため息を吐くばかりである。
やがてスパーダをまじまじと睨んでいたエレオノールは突然フンッ、と小さく鼻を鳴らした。
「平民上がりにしては、堂々としているみたいね。あの子がどこの馬の骨か分からない元貴族を使い魔にしたと聞いていたけど……」
エレオノールは怪訝そうな表情で未だスパーダからきつい視線を外さなかった。
「使い魔のルーンを見せなさい」
(……あっ! これはいかんぞい!)
スパーダに対するその命令にオスマンは内心で慌てていた。
伝説の使い魔、ガンダールヴの存在をアカデミーにでも知られればスパーダは人体実験の研究材料として目をつけられてしまう。
あのアカデミーのことだ。コルベールも興奮して王宮に報告しかけたことをしでかすかもしれない。
極秘事項であるガンダールヴの存在をアカデミーや宮廷の馬鹿共に知られるわけにはいかない。
「ああ――エレオノール君。彼を調べるより、まずは君も自己紹介はせんといかんよ。君は実家やこの学院で挨拶をしないという礼儀を習ったのかね?
ワシらはそのようなことを教えた覚えはないが」
間一髪、無言でスパーダが左手の手袋を外そうとした寸前にオスマンは話題を変えるべく話に割り込んだ。
恩師であるオスマンにそう言われ、ディティクトマジックもついでにかけようと杖を抜いていたエレオノールは渋々と杖をしまい、軽く咳払いをする。
「エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールです。あなたのことはオールド・オスマンより聞かせてもらっているわ。
フォルトゥナという異国の土地の領主だったそうね」
「もはや過去のことだ。君はルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールの親族か」
「その通りじゃ。エレオノール君はラ・ヴァリエール公爵家の長女でな。十年前にはこの学院を首席で卒業したのじゃよ」
スパーダの問いに対して答えたのは彼女ではなく、オスマンであった。
適当に話に割り込んでとっとと彼女達の用件を済ませ、使い魔のルーンの話をはぐらかしてやるのだ。
エレオノールがルイズの姉であることを確認したスパーダであるが、ふむと唸るだけで大して驚いていない。
「君が先も口にしたように彼女はトリステイン魔法アカデミーに所属する主席研究員なのじゃよ。それから、こちらはエレオノール君の同僚のヴァレリー君じゃ」
「あ、あの――ヴァレリー・ド・ローエンと申します。お初にお目にかかりますわ、ミスタ・スパーダ」
あたふたと慌てながら黒髪の研究員は頭を下げる。
「……それで、アカデミーの研究員とやらが私に何の用だ」
エレオノールはきつい眼差しを送りつつスパーダを見据えて両腕を組んだまま、肩を一度竦ませた。
「あなたはあの時空神像というマジックアイテムの持ち主だそうね?」
エレオノールからの問いに無言で頷くスパーダ。
「あのマジックアイテムはひと月ほど前、トリスタニアのアカデミーの入り口にいつの間にか置かれていたものなの。
でも、私達ではあの像については何の詳細を得ることはできなかったわ」
なるほど。時空神像がこのハルケギニアに分身の一部を放った先がたまたま、アカデミーの入り口だったわけだ。
何の前触れもなくあの分身は出現する。確かに、いきなりそんな物が現れれば誰だって驚く。
それからエレオノール達は時空神像をこの学院に保管してもらい、自分達が定期的にここを訪れて時空神像を調べていたそうだが、結局詳細は分からないという。
つい先日も来ていたということは先ほどのロングビルとの話で聞かされていたため、スパーダは彼女達の目的を理解した。
「あの時空神像とやらの正しい使い方を、あなたは知っているそうね」
「そうだな」
高圧な態度で尋ねるエレオノールに対し、何の迷いもなくスパーダは平然と答えていた。
時空神像を使用できるスパーダが戻ってきたため、こうして自分の目の前に現れたのだろう。
そして、実際に時空神像を使用する所や他の能力も知ろうというのだ。
その後にどうしようかはさすがに分からないが。
「では、実際に見せてもらうわ。ヴァレリー、行くわよ」
「え、ええ」
無駄な長話はせず迅速に話を進めたエレオノールは同僚を連れ、先に学院長室を後にしていった。
何やらエレオノールは相当不機嫌な様子であったことにスパーダは僅かに顔を顰めつつも、その後をついていく。
ついでにオスマンも同行していく。またルーンの件を持ち掛けられればすぐにでも話を逸らしてやるつもりだった。
「ところで、スパーダ。あなたは先ほどまでミスタ・コルベールの授業に出ていたそうね?」
「ああ」
ヴァレリーでさえミスタ≠ニ敬称で呼んでいたのに対し、エレオノールはそうは呼ばずに呼び捨てだ。
どうやら彼女はスパーダのことを貴族としてではなく、ルイズの使い魔もしくは従者として見ているのだろう。彼女からしてみればスパーダは他の教師達と同様に異国から流れてきた没落貴族と同じなのだ。
それでも一応、名前で呼ぶのは元貴族であったことに対する礼儀だろうか。
「ルイズの様子はどうだったの? 従者のあなたが授業に出ていた以上、あの子もちゃんと出席したのでしょう?」
「いや、部屋で寝かせてある」
「あたっ!」
階段を降りきった所でそう答えた途端、エレオノールは突如ピタリと足を止めていた。ヴァレリーは突然の停止に彼女の背中にぶつかってしまう。
「……何ですってぇ」
プルプルと肩を、いや全身を震わせるエレオノールから怒りのオーラが発せられているのをスパーダは感じ取っていた。
そのどす黒い怒りに満ちた低い声にヴァレリーの顔から血の気が引く。
エレオノールはキッ、と肩越しに振り返りスパーダを睨みつけた。間近で彼女の顔を目にしてしまったヴァレリーはびくりと竦み上がり、「ひっ」と声を漏らした。
それからドスドスと大股で、更に早足で歩を進めるエレオノールはルイズの部屋がある女子寮へと向かった。
「あら、あの像がないわ」
ルイズの部屋の前の廊下まで来ると、ヴァレリーが声を上げる。つい先日はこの廊下に時空神像が置かれていたはずだったのだ。
「あれならルイズの部屋の中だ」
「ちょうどいいわ……。ちびルイズ、たっぷりとお仕置きをしてあげるわ」
エレオノールのかけている眼鏡が窓の外から射し込んできた光に照り返され、キラリと光る。
「ああ、エレオノール君。君の妹は連日の任務で疲れ切っておるのじゃ。無理をさせては……」
「いいえ。たとえ姫様からの密命を勝手に受けたとしても、ラ・ヴァリエール家の娘を怠けさせる訳にはいきません!」
オスマンからの諌止をいなしたエレオノールはルイズの部屋の扉を乱暴に開け、ずかずかと中へ入っていく。
スパーダ達、他の三人は扉の外から中の様子を見届けていた。オスマンとヴァレリーは哀れみの表情を浮かべている。
(な……何て、行儀が悪い寝方をしてるの? 起きられないだけでなく、こんな……)
エレオノールが部屋に入ってまず目に飛び込んだのは、制服の姿のままベッドの上で横になっている、一番下の妹の姿であった。
すやすやと気持ち良さそうに眠っているルイズの姿が、エレオノールからしてみれば実に無作法で見苦しい姿だった。
主をフォローするのが使い魔の役目だというのに、あのスパーダという男は何をやっていたのだ。主を放って自分だけが授業に出るとは……。
普段から気性の激しく表情もきついエレオノールの顔は、妹の醜態を目にして一層苛烈なものとなっていく。
乱暴に自らの杖を振り抜くとルイズの体がふわりと宙に浮き、ベッドの横へと移動させ――
「ぎゃんっ!」
魔法の念力で浮かべていたルイズの体を床の上へと落とし、叩きつけられたルイズが何とも言えない悲鳴を上げた。
「い……痛たた……。何なの……」
「お目覚めかしら? おちび」
いきなり何が起きたのか、まだ意識がはっきりとしないルイズの耳に入ってきた低い声。
まだ寝惚けているとはいえ、その聞き覚えのある声にルイズの表情は徐々に青ざめていく。
本来ならここにいるはずのない人物。ルイズが決して頭の上がらず、逆らうことのできない人物の一人。
……いやでもしかし、いくら何でもここにいるはずは――。
「いだっ! ひだだだだっ!」
「ちびルイズぅ! ラ・ヴァリエール家の娘ともあろうものが、こんな醜態を晒すなんてぇ!! あなたには貴族としての自覚がないのぉ!?」
床の上で座り込んだままの寝惚けるルイズの頬を抓り上げ、先ほどから溜めていた怒りを解き放つエレオノール。
「や、やべでぐだざい、おねえざばぁ〜」
ようやく状況を理解したルイズは、必死に懇願する。
「オスマン学院長から全て聞いたわよ!? あなたったら私達に何の相談もなく勝手なことをして!! 戦時中のアルビオンに潜入!?
いつもいつも世話の焼ける子だわ!」
「あーあー、お可愛そうなルイズ……」
「本当じゃの……」
姉妹のコミニュケーションを外から眺めていたオスマンとヴァレリーは溜め息を吐きながら首を横に振った。
「This's a woman of violent temper a great deal.(ずいぶんと過激な女だ)」
スパーダも普段見ぬルイズの姿を目にし、激しい仕打ちを与える姉に対して思わず呟く。
「で、でぼ……あれはひべざばが……」
「いくらアンリエッタ姫殿下があなたに密命を頼んできたからといって! そんな勝手なことをして良いと思ってるの!?」
正確にはあの任務は一度、ワルドに対して密命を託したものであり、ルイズはその助手という形で付いていったのだ。
もっとも、ワルドが裏切り者であった以上、任務の責任者はあの時点でルイズに移っていたわけだが。
「そして、スパーダ!!」
ルイズから手を放し、振り向いたエレオノールの怒りの矛先がスパーダへと向けられる。
いきなり指を差されたスパーダはずかずかと自分の前まで歩み寄ってきたエレオノールによりきつく激しくなった眼差しで睨まれる。
「あなたがルイズの使い魔であるなら、主の行動をフォローするのが役目のはず! それなのにルイズをアルビオンに行かせたりして!」
あの時、ルイズに密命を託そうとしたアンリエッタをスパーダは咎め、結果的にルイズが直接密命を受けることはなくなった。
もしもスパーダがそうはせずにルイズが直接任務を受ければ、自分の力量も考えずに勢いだけでアルビオンへ赴き命を散らしていただろう。
スパーダなりにルイズの行動はフォローしたつもりだ。結局はアルビオンへ行くことになったがどちらにしろパートナーであるルイズを護衛してやったのだ。
「まあまあ、エレオノール君。君の妹はこうして無事に帰ってきた。それはスパーダ君が彼女を命がけで守ってくれたからじゃよ。
主を守るのは使い魔の役目。それはしっかりと果たしておる証拠ではないか」
「むぅ……」
オスマンに諌められ、エレオノールは怒りを徐々に鎮めていく。スパーダに怒りの視線は向けたままだったが。
そして、当のスパーダはこれほどまでに気性の激しい女に睨まれても全く動じていなかった。悪魔である彼にとって、この程度の威圧など全く意味がないのだった。
「まあいいわ。どこの馬の骨か分からない没落貴族とはいえ、ルイズを守りきったことは感謝するわ。今度からもしっかりルイズのフォローを務めなさい。何かあったら許さないわよ」
「Yeah.(分かった)」
相当に高圧的な態度であったが、その言葉と感情の裏側には紛れもなくルイズのことを心配する姉としての心遣いがあることをスパーダは察していた。
ああして頬を抓り上げたりしてきつい物言いはしていたが、別に妹のことは嫌っているわけではないのだ。
「ルイズ。近いうちに父様や母様に叱ってもらいますからね。覚悟しておきなさい」
「は、はいぃ……」
すっかり姉の気迫に呑まれて縮み込んでしまうルイズ。
「で、でも……どうしてエレオノール姉さまが……」
抓られて赤くなった頬を押さえながらルイズは恐る恐る話しかける。
「ああ、そうそう。忘れる所だったわね」
エレオノールはようやく、部屋の中に置かれている時空神像の存在に気がつき、その傍へと寄っていく。
ようやく本題に入れるということでスパーダ以下、オスマンとヴァレリーもルイズの部屋へと入ってきた。
「さぁ、では見せてもらおうかしら。スパーダ」
腕を組むエレオノールが顎で命ずるとスパーダは懐に手を入れ、自分の魔力の一部としていたレッドオーブをいくつか取り出した。
スパーダの手の上に乗るレッドオーブにエレオノールとヴァレリー、そして初めて見るルイズも目を丸くしていた。
「それはコルベール先生やオスマン学院長の話によれば、血液を魔力で結晶化させたものだそうね。あなたの故郷の技術で作られたと聞くわ」
「まあ、そうなるな」
天然のレッドオーブは悪魔達が流す血が悪魔自身の魔力と合わさることで生み出されるものだ。人間の血からでも作ることはできるが、悪魔の血液で作られた物に比べれば純度も大きさも著しく劣る。
スパーダはそれらを時空神像に捧げると、レッドオーブは掲げる砂時計の中へと吸い込まれていった。
『汝、魔族の血を捧げし者よ。我に何を望む』
時空神像から響く威厳に満ちた声にエレオノールとヴァレリーは一瞬、竦み上がった。
以前は『我は時の傍観者なり』『我に魔族の血を捧げよ。さすれば、我の記憶、古の力と知識を授けん』という風に何か要求してきたので、新たな返答に驚いていた。
「さて、どうしたいのだ?」
「何でも良いわ。それで秘薬が作れるのでしょう?」
では、オーソドックスにバイタルスターを……いや、たまには別の物でも作ってみるとしようか。
「ホーリースターを一つ頼む」
スパーダの要求に対し、時空神像の砂時計の中から青い光が出てくるとスパーダはそれを掴む。
『汝、魔族の血を捧げし者よ。浄化の力の欠片を受け取るが良い』
スパーダの手の上には、ちょうど赤子の手と同じほどの大きさをした青色に光る星の形をした石が乗っていた。
その石を目にして、エレオノールとヴァレリーの表情が驚愕の色に染まる。
「ど、どうしたのですか? 姉さま」
姉が驚く姿を見て思わず尋ねるルイズ。
「これって、あの時の……」
「そうよ。やっぱりあれもこれで作られたのよ」
エレオノールとヴァレリーがホーリースターを目にして目を見張らせて驚嘆していた。
「スパーダ、それはどんな効果があるの?」
「ホーリースターは浄化の力を宿す霊石だ。肉体を侵している毒を浄化し、正常な状態に戻すことができる」
つまりは解毒剤のようなものなのだろう。
「何故、君達はこれの存在を知っている」
スパーダからの問いに対し、エレオノールとヴァレリーは顔を見合わせた。エレオノールは何故か気まずそうな表情であり、ヴァレリーを睨みつけている。何かを喋らせるのを制しているようだ。
やがて小さく咳払いをしたエレオノールが、
「私達は先日、ある男からその秘薬を貰ったの」
「ほう」
「使い方はその男から少し聞いていたのだけれど、今までにそんな能力のある秘薬なんて見たことも聞いたこともなかったのよ。
でも、こうしてあなたが作ってくれたおかげでようやく納得したわ。それも異国の技術で作られた秘薬なのね」
感嘆とした表情でエレオノールは時空神像を見やる。
「それにしても対したマジックアイテムね。こんな秘薬をこうも簡単に作ってしまうなんて。一体、どういう仕組みで秘薬を作っているのかぜひ聞かせてもらいたいわ」
「エレオノール姉さま。その秘薬はどんな男から貰ったのですか?」
ルイズが尋ねると、何故かエレオノールは羞恥心で染まった表情を浮かべるなりルイズをきつい目付きで睨みつけた。
いきなり姉に睨まれ、びくりと恐怖するルイズ。
「あなたは余計なことを聞かなくても良いの! ちびルイズ!」
「……その男と会ったのはいつだ?」
スパーダは彼女達が出会ったという男について気になった。
ホーリースターを持っていたということは、そいつは恐らくハルケギニアの住人ではない。
まさかとは思うが……。
「ええと、三日前の夜だったかしら。その時に――」
「ヴァレリー!」
余計なことを喋ろうとしたヴァレリーを睨みつけるエレオノール。
あの時のことを知られるわけにはいかない。そうなれば、自分が晒したという醜態をルイズに知られることに……。
「三日前の夜、だな」
納得して頷いたスパーダは再び時空神像にレッドオーブを捧げる。
「何をするつもり?」
「エレオノール姉さま。これはマジックアイテムを作るだけじゃないんです」
時空神像のもう一つの能力を見たことのあるルイズはしたり顔を浮かべて言った。
ルイズの言葉にエレオノールは首を傾げた。
『汝、魔族の血を捧げし者よ。我に何を望む』
「お前が見た彼女達の記憶を見せてもらう。時間は三日前の夜間だ」
『承知した』
スパーダからの要求に対し、時空神像の砂時計から光が壁に向かって放射されていく。
「おお、何と……!」
ずっと傍観していたオスマンも見たことがない能力を発揮する神像に驚いていた。
エレオノールとヴァレリーは怪訝そうに光が放射される壁を眺めていた。
そして、壁には三日前にエレオノールとヴァレリーの身に起きた出来事が鮮明に映し出されていく……。
※Another Misson参照
酒場でヤケ酒を呷るエレオノール、その隣に座る平民らしき青年、その青年に担がれて酔い潰れたエレオノールは運ばれ、最終的にヴァレリーへと引き渡された。
「な……! な……!」
映し出される映像を目にしてエレオノールは目を点にして固まっていた。
自分はこんな醜態を晒していたというのか。酒を飲んだということしか覚えていなかったエレオノールは翌朝、ヴァレリーから伝えられたことで知ったのだが
それを聞いて自分はとんだ醜態を晒してしまったとあれから恥ずかしくて外にも出られなかった。
しかもあんな平民の世話になってしまっただなんて、ヴァリエール家の娘としてとんでもない恥だ。
初めはその事実を受け入れなかったエレオノールだが、その平民の男から渡された秘薬……スパーダが今作ったホーリースターを見せられ、認めざるを得なかった。
ちなみに酷い二日酔いのために体を起こすことすら間々ならなかったが、ホーリースターを使うことでエレオノールの二日酔いは嘘のように治ってしまったのだ。
こういった件で秘薬の効能を知ったエレオノール達だったが、この話は二人だけの秘密にするはずだった。
……そう、はずだった≠フだ。
「……エレオノール姉さま、婚約破棄されたのですか?」
「お、お、お黙り! ちびルイズぅ!」
ヤケ酒を呷っていた際に呟いた言葉にルイズが尋ねると、エレオノールは癇癪を上げていた。
逆上するエレオノールを見て、オスマンはやれやれと呆れたように首を横に振る。昔から彼女はこんな感じだったのは未だに変わらないらしい。
「ひだい! ひだいでず! おねえざばあ!」
「スパーダ! この映像を早く消しなさいぃ! これ以上、わ、わ、わ……私の秘密を、醜態を……!」
生意気な口を利くルイズの頬を抓り上げながら命ずるエレオノールだが、スパーダは顎に手をやり映像を目にしたまま黙り込んでいた。
――待ちなさい、平民。一応、名前を聞いておくわ。
――モデウスです。
(奴が、ここに……)
彼女達が出会ったという男の姿にスパーダは珍しく驚いた表情を浮かべていた。
背中まで長く伸ばし、右目を前髪で隠す黒い髪。三十直前だが青年としての面差しが強く残り気品に満ちた端正な顔立ち。
その身に纏うのは燕尾に別れた漆黒のロングコート……。
これらは、悪魔としての仮初の姿に過ぎない。
……そう。この男は人間ではない悪魔だ。しかもただの悪魔ではない。
「スパーダ君、この男を知っているのかね?」
オスマンはスパーダが懐かしそうに映像に映し出される黒ずくめの男を見ているためにすぐにそう察していた。
「何ですって? この平民はどこの誰なの!? スパーダ、正直におっしゃいなさい!」
ルイズから手を放したエレオノールがスパーダに詰め寄るが、本人はエレオノールの言葉など耳に入っておらず映像を眺め続けていた。
やがて、男が夜の広場から立ち去っていった所で映像が消えていく。
「ミスタ・スパーダ? あの平民はあなたの知り合い?」
「……そうだ」
「どこの誰なの! さっさと……」
「……私の弟子の一人だ」
激しく詰め寄るエレオノールを無視してスパーダは呟いていた。
「で、弟子って……スパーダ、他にも剣を教えている人がいたの?」
更に赤く腫れ上がった頬を押さえてルイズは問うた。
スパーダが教えるのはギーシュ達のように剣術だ。つまり、このモデウスという男はスパーダから剣を教えられた剣士ということになる。
だが、スパーダは悪魔だ。と、いうことはこの男ももしかしたら悪魔だということに……。
「ああ。……私の一番弟子だ」
モデウスは魔界でも相当に名を馳せている上級悪魔であり、黒騎士≠フ二つ名を持つ剣豪だ。
そして、スパーダが魔界にいた頃、魔帝ムンドゥスの右腕として仕えながらも、スパーダは見込みのある悪魔の双子に自らの技を教え込んだことがあった。
それがこのモデウス、そしてもう一人が白騎士<oアルという上級悪魔。モデウスはバアルの弟だ。
特にモデウスは天性の才能を持った剣の使い手であり、将来はスパーダの後継者となるかもしれないと称されるほどの素質があったのだ。
バアルはモデウスには今一歩及ばないものの、悪魔の実力としては申し分はなく何千もの悪魔達を斬り伏せるほどの力はあった。
スパーダがかつて、魔界と決別する際に二人の悪魔とある誓いを立てた。
――互いの志を貫き、生きていこう。
スパーダは人間達のために剣を振るい命ある限り守っていくことを誓い、モデウスとバアルは魔界にも人間にも組することもなくいつかまた三人で剣を交えよう、と誓った。
あれからもう千五百年以上も経つが、二人がどうしているかはスパーダでも分からなかった。
だが、モデウスはどうやらこの異世界に足を踏み入れていたようだ。
(どうやって、ここへ来た?)
だが、モデウスがこうして堂々とハルケギニアにいるということはやはりこの世界のどこかに魔界と繋がっている扉か何かがあるということになる。
……もしも会う機会があれば、再開も兼ねて本人から直接聞いてみるとしよう。
「ミスタ・スパーダの弟子? 何か教えてらっしゃるのかしら」
「おお、彼は異国では剣豪として名を馳せておったのじゃ。恐らく、魔法衛士隊が束になっても敵わんじゃろうな」
「あら、それほどまでに?」
オスマンが楽しげに答え、ヴァレリーは子供のように目を輝かせてスパーダを見た。
だが、その言葉にエレオノールが反論する。
「嘘おっしゃい! いくら異国で名を馳せたと言っても、所詮は平民でしょう? 平民上がりの貴族が、メイジに勝てるわけ――」
「エレオノール姉さま」
突如、低い声で呟いたルイズ。
今までにない毅然とした態度と声を発する妹にエレオノールは呆気に取られ、そしてその気迫に珍しく押されていた。
「スパーダはわたしのパートナーでございます。それを侮辱することは、わたしを侮辱することに他なりません」
「ルイズ、あなた……」
「たとえ姉さまでも許しませんわ」
自分に杖を突きつけてきた妹の姿に、エレオノールは愕然とした。
ついさっきまで自分には頭も下がらなかったはずのルイズが堂々と反発し、そして杖を向けている。
普通ならあり得ない光景、そして妹が豹変したことにエレオノールは顔を顰めていた。
いつもならこうして自分に反論してきた妹を叱りつけ、そして頬を抓り上げてやるのだが、あまりの気迫の強さにそれができない。
何がこの子をここまで変えたのだ? ……まさか、このスパーダが。
「ホッホッ……エレオノール君。君の負けじゃよ。スパーダ君は確かにメイジではない。だが、彼はワシらなんかよりもずっと貴族と呼ぶに相応しい男じゃぞ?」
プルプルと肩を震わせるエレオノールに対し、オスマンが諭した。
「……失礼したわね。スパーダ」
高慢な態度は変えないが、とりあえずスパーダに詫びるエレオノール。
当のスパーダ自身は自分に対する侮辱に何も気にしてはおらず無言のままだった。
(モデウス……バアルよ……誓いを果たす時が来たようだな)
時空神像は本来、アカデミーから預けられたものなので使用法が分かった以上、もう学院に保管しておく必要はなかったのだが、スパーダでなければ使えないために今後も学院に置かれたままとなることになった。
そしてエレオノールからしてみれば、自分の秘密を勝手に映し出した忌まわしい像などもう二度と見たくもなかったのである。
「いいこと? あれは見なかったことにしなさい」
学院の門の前で馬車に乗ろうとするエレオノールはルイズを睨みつけ、念を押す。
先ほどまで姉に歯向かっていたはずのルイズだったが今となってはその勢いも失せて言われるがままに頷いている。
「それから使い魔を頼らずとも今後はちゃんと自分の力で起きなさい。先生達の話もちゃんと聞くのよ?」
「は、はい……」
「スパーダ。ルイズの従者である以上、その子はしっかりと守りなさい。もしも何かあったら許しませんからね」
最後にスパーダにも苛烈な視線を向けるが、相変わらずスパーダは冷徹な表情のままエレオノールを見返していた。
その後、エレオノール達の乗る馬車は学院を後にし、トリスタニアへ続く街道を走っていく。
馬車が見えなくなるまで、二人はその後を見届けていた。
「ねぇ、あのモデウスって男……彼も悪魔なの?」
「ああ、もう千五百年以上も会っていない」
平然と答えるスパーダにルイズは馬車が去っていった方を半眼で眺めた。
「……エレオノール姉さまったら、まさか悪魔の世話になるなんてね」
だが、あのモデウスという男はとても優しそうな顔をしていた。あれで悪魔だと言われても何だか信じられない。
「ねぇ、そんなに長く会ってないなら一度会ってみたら? スパーダの一番弟子なんでしょう?」
「だが、どこにいるのか分からん」
「あの時空神像で分からないの?」
「あれは過去に記憶した物を私達に教えることしかできない」
学院の本塔へと歩を進めながら二人は会話を交わし続けていた。
昼頃にはトリスタニアの町へ戻ってきたエレオノール達は入り口で馬車を降り、一路アカデミーへと歩を進めていた。
楽しげなヴァレリーに対し、エレオノールは馬車の中から今でも不機嫌なままである。
「ミスタ・スパーダ。中々、良い男だったわよね」
「ふん、どうかしら……」
平民上がりだったとはいえスパーダは貴族としての風格は備えていたことは確かだろう。
それに何というか、どことなく幼き日に目にした父の若い頃とよく似た面差しであった気がする。髪の色こそ違うがモノクルを付けていたし、威厳に満ちていた。
だが、如何に貴族としての風格と威厳があろうと彼はメイジではない。異国のフォルトゥナから来た貴族だろうが、魔法が使えなければやはり貴族とは言えないのだ。
それなのにルイズときたら、彼を貴族として認めているようだ。
……何だか無性に腹が立つ。
こっちは婚約を破棄されたというのに、ルイズはいつの間にかあんな男と共にいるのだ。
しかも没落貴族であるということを省けばヴァレリーの言うとおり、かなり整った顔立ちである。
もっとも使い魔であり従者である以上、彼はルイズとはそれ以上の関係にはならないはず。
……ならない、はずだ。
あの男はあくまでルイズの使い魔であり、パートナーなのだ。いくら何でも、自分を差し置いてそんなことは。
それにルイズがスパーダを見ていた目は男としてではなく、どちらかと言えば父親を見るようなものだった気がする。
「エレオノール?」
「何よ。とっとと、アカデミーに戻るわよ」
考えるだけで苛々してくる。早く研究室に戻ってこんな思いは捨て去ってしまいたい。
「そうじゃなくて、あれ」
「え?」
ヴァレリーが指差すのは、ブルドンネ街の裏通りに続く路地の入り口。確か、あの先にはビエモンの秘薬屋があったはずである。
そこから現れたのは、蛇の絡み合う意匠が唾に施された細身の黒い大剣を背負う黒ずくめの男。
エレオノール自身は全く記憶がないのだが、数刻前に見せ付けられた映像に映っていた平民の男。
そして、妹が従える使い魔の弟子であったという男。
確か名前は――モデウス。
「彼じゃない? この間、世話になったって平民」
「……そ、そこの平民!」
不機嫌に染まっていた顔を羞恥に真っ赤に変えてずかずかと歩み寄り、エレオノールは声をかける。
路地で何かいざこざでもあったのか、モデウスは自らの胸を手で払っている最中だった。
※今回はこれでおしまいです。
「モデウス」と「バアル」って誰? という人はアニメを参照してください。
なお、今更ですがスパーダのボイスイメージは一作目のドルー・クームス氏をイメージして頂けると幸いです。
(あのコスチュームでイベント中も喋るのは一作目のみ)
パパーダ乙
デュープリおつおつ
19:40からvol.9を投下します。
「ゼロニスター Vol.9」
トリスタニア郊外のとある空き地。
マスクで口元を隠した1人の少年が、得物を手にした少年達に進路を塞がれていた。
「どいてくれないか。主人に借りた本を返しに行かないといけないんだ」
マスクの少年の言葉に立ちはだかる少年達は、
「聞いたか? 本返しに行きてーんだとよ」
「じゃあボコるのはまた今度にしといてやるか」
「……なんて言うとでも思ったかーっ!!」
「やっちまえーっ!!」
「いくらてめーが気合の入った奴だろーが、この人数にはかなうめー!!」
とときの声を上げてマスクの少年に襲いかかる。
「むうん!!」
「ぐえっ!」
マスクの少年の左ストレートが眼帯をした少年の顔面に炸裂した。
「ギャア!」
今度はモヒカン頭の少年を小脇に抱える形で締め付けたまま、左腕で坊主頭をつかんだ少年の腹部に膝蹴りをお見舞いする。
「く……、くそっ!! 本当に強えぞ、こいつ!!」
圧倒的実力差ではあるものの圧倒的物量差に嫌気が差して、迂回すべくマスクの少年は方向転換する。
「ちっ、いちいち相手してられないぜ!!」
「逃がすんじゃねーっ、捕まえろーっ!!」
「うらあっ!!」
走り去ろうとするマスクの少年に、逃がしてなるかとばかり何人もの少年達がしがみつく。
しかしそれでもマスクの少年は足を止める気配を見せない。
「うおおおお、こ……こいつ!! 歩くのをやめねーぞ!!」
「もっと乗っかれーっ!!」
しがみついている少年の数が3人になり4人になり、とうとう後方からはマスクの少年の姿が見えなくなったが、まだマスクの少年の歩みは止まらない。
「意地でも行かせねー!! ちゃんと勝負しろ、サイトー!!」
「うるせー、降りろこら!! 前見れないだろ。それと人の名を気安く呼ぶな」
マスクの少年・才人がそう言いつつ空き地の外の道に足を踏み出した時、
「!!」
――ゴオオオ……
大型馬車が少年達に向かって突進してきた。
「うおおおおお!!」
「あ?」
少年達が驚愕の叫び声を上げ、才人も訝しげに馬車の方向に視線を向けるが時既に遅し。
――ブチャブチャブチャ……
「ぎゃっ!」
「がふぁ!」
「おげえ!」
馬車は生々しい音を立てて才人も少年達もまとめてひき潰した。
トリスタニアの住宅街にあるアパートの一室。
「サイト君、遅か……」
そう言いかけて、部屋から顔を出した中年男性は言葉を失った。
玄関先に立っている才人の体は頭の右側が割れて脳髄が露出し、ちぎれた右腕の断面からは肋骨が、腰に空いた大穴からは内蔵が飛び出ているという悲惨な状態だったからだ。
「………!! ちょっと待ってください、サイト君……!!」
「すいません、コルベールさん……。本……、汚れちゃいました……」
そう言って血みどろになった本を差し出した直後、才人はその場に倒れ込んだ。
「サイト君っ!!」
決して助かる怪我ではなかった。才人の人生はここで終わる……はずだった。
だが才人を召喚した主人・「コルベール」は……、使い魔の悲惨な運命を黙って受け入れるような男ではなかった。
そしてさらにコルベールは……、ある研究において天才的な頭脳を持ち合わせていた。その研究の発想はあまりに子供じみていたため、コルベールにとっての真の理解者は才人1人だった。
「サイト君……。私は子供の頃によく人造人間ごっこをやっていたのですよ……。私はメイジ役で幼馴染みは……」
「くっ……、現実になってしまいました……!!」
ハルケギニア最強殺人鬼決定戦会場・才人の控え室。
部屋に通された才人に、スタッフの少女が本選の概要を説明していた。
「ハルケギニア最強殺人鬼決定戦、間も無く本選でございます……。こちらはミスタ・サイトの控え室となります。対戦の順番はその都度くじで決まるので、名前がコールされて10分以内には試合場へ……」
「聞きたい事がある。本選には何名が出場する?」
解説を遮っての才人の質問に少女が答える。
「ミスタ・サイトを含め、計13名でございます。凶悪な殺人鬼揃い……」
「『首にチャンネルが付いている奴』はいなかったか?」
「は?」
才人の質問の意味が理解できず少女は首を傾げる。
「円盤型で出っ張りのあるチャンネルが首に付いている奴で……、体格はお前と同じくらい小柄だ。見なかったか?」
「さあ……? なぜその者にこだわるので?」
「『コルベール』さんっていう俺の主人が……、『そいつに殺された』。敵を討たないと申し訳が立たねえ。コルベールさんは俺の命の恩人でもある人だからな」
『「虚無壺の会」主催による「ハルケギニア最強殺人鬼決定戦」、間も無く始まりまーす!! お集まりいただきましたハルケギニア各国のセレブの皆様!! あんたも好きね〜っ!! なんちゃって!!
「虚無壺の会」が古代闘技場(コロッセオ)に倣って建設しました本会場は、標高1200メイルの険しい山岳地帯に位置しております!! つまり部外者の介入は心配無用でございます!! 飛び散る鮮血に心置きなく歓喜の声をお上げくださいませーっ!!』
古びて見えるように細工が施された山中の円形闘技場に、マジックアイテムで増幅された女性スタッフの声が響いた。
『なお、皆様より大会についてのご質問が幾つかございました!! 大会を心から楽しんでいただくためにも!! この場を借りてあらかじめお答えしたいと思いーす!! では質問その1!!』
客席に座っているルイズ・ナックルスター・シエスタは、体をすっぽり覆う白い服に目の部分だけが空いた白い三角頭巾の集団に囲まれていた。
「早く始めろーっ!」
「高い金払ってんだ!! 楽しませろよーっ!!」
(おかしい……!! この人達完全におかしいです……!!)
どこ吹く風という態度のルイズ・ナックルスターとは対照的に、白装束達の剣呑な野次にシエスタは完全に怯えていた。
『「ほぼ全員の観客が白装束なのはなぜ?」 これは「作者が描写するのが簡単だから」ではございません!! 本大会は闇ルートの映像商品として撮影・記録されるため、(カメラ)に映る皆様方の社会的立場を安全なものとするためでございます!!』
見ると、確かに会場内各所に映像記録用と思しき大型のマジックアイテムが設置されている。
『その2!! 「普段隠れてるはずの殺人鬼達をどうやって見つけたの?」 お答え致します!! まず初めにハルケギニア中の衛兵機関内部の人間から情報を「買う」のでございます!! 「盗む」場合ももちろんございます!!
それらに加えて衛兵機関が「胡散臭い」と敬遠する技術!! 例えば占星術等のオカルト的手段!! 施術者の人選さえ誤らなければ、これらの方法も有効なのでございますよ!!』
「……どうしたの、シエスタ。気分悪いのかしら?」
顔色を悪くして説明を聞いているシエスタに、ルイズが声をかけた。
「言っとくけど、これ以上は戦いたくなければ降りてもいいんだよ」
「え……?」
続いてナックルスターからかけられた予想外の言葉に、シエスタは目を丸くした。
「あたし達があんたを連れてきた理由はね……、……まあ『パシリがいてくれるといいな』ってのもあったけど……、あんたに自身を付けさせてやりたかったのさ」
「予選だけでも相当な修羅場だったでしょ? あれを思えばシエスタはこの先どこで誰に挑まれてもやっていけるはずだわ」
「ミス・ヴァリエール……」
そこまで言うと、ルイズはくわえた葉巻に火を点け真剣さを増した口調で続ける。
「でもね、シエスタ。逆に言えばここから先は……、流石に私も保障できないわ。おそらく予選とは次元が違う……!! それに加えて、バトルは基本的に1対1になる」
「……つまり、わかるわね? あんたが敵に殺されそうになっても、あたし達は助けてやれない……!!」
「……!!」
2人が語る本選の過酷さに思わず息を呑むシエスタ。
「対戦はくじ引きで戦う人間が決定されるらしいから、自分の名前が呼ばれるまでに『参加』か『辞退』かを考えておきなさい。私は一応後者を勧めるけどね……」
「う〜……」
進むべきか退くべきか、シエスタは頭を抱えて思い悩む。
(どうしましょう……!! 自分の力を試したい気持ちが無いと言えば嘘になります……。でも、参加すれば殺されるかも……!! それに普通の夢からも遠ざかりそうな気が……)
そうこうしているうちに、第1試合参加者を決める抽選が行われていた。
『それでは皆様、お待たせしました!! 第1試合参加者のくじ引きを行いまーす!! 誰かな♪ 誰かな〜♪』
そんな事を言いながら箱の中から取り出したボールに書かれていた参加者名は……、
『えー……、まずは「暴走メイド・シエスタ」ーっ!!』
「げーっ!!」
『どはははははは!!』
読み上げられた第1試合対戦カードの片割れの名に、シエスタは驚愕の絶叫を上げ、ルイズ・ナックルスターは爆笑した。
「おお!! お嬢ちゃんが戦うのか!!」
「頑張って殺されろーっ!! ぎゃははは!」
さらに周囲の観客からも無神経な野次が飛ぶ。
「何でお二人とも笑うんですかあーっ!!」
「いや……、この流れはある意味離れ技だと思って……」
「とりあえずこうしなさい。試合開始と同時に『参りました』って言えばいいのよ。これなら恥はかいても死にはしないわ」
「シエスタ様、どうぞこちらへ!」
女性スタッフに先導されて闘技場に下りていくシエスタ。
「頑張れよーっ!」
「死ねーっ!」
「………」
そんなシエスタの姿を才人は無言で眺めていた。
続いてシエスタの対戦相手抽選に入る。
『えー、対しましては……、「アサッシン・バリー」!!』
言葉と共に、会場の奥に続くゲートから小さな人影が現れた。
その身長は彼から上着を受け取った女性スタッフの腰より高いかどうかという程度だ。
『彼の名のスペル「Bully」とは、「いじめ」を意味します!!』
「……!!」
バリーの姿に才人ははっとした。
「アサッシン……!? ……のわりに随分小柄だな。120サントぐらいか」
「何だ、『Bully』って。昔いじめられていたとか?」
「おい! 奴の首を見ろ」
「あれは……?」
「旧式『遠見の鏡』のチャンネルのような……」
その言葉を聞いて、才人はバリーを目の部分にはめ込まれているガラスに亀裂が入らんばかりに睨みつける。
闘技場の地面に描かれた線上に立つシエスタに視線を向けつつ、バリーももう1本の線に向かう。
「ほお……、そっちも素手か。いい度胸をしている」
するとその時、
「ちょっと待てえ〜っ!! うおーっ!!」
「きゃーっ!!」
叫び声と共に才人が闘技場に乱入し、シエスタは悲鳴を上げた。
「サイト……!!」
「今度は何やらかす気だ、あの馬鹿……!!」
(あいつ……、どこかで見た事が……)
才人の乱入にルイズ・ナックルスターは思わず声を漏らし、バリーはどこか既視感を覚えていた。
「譲ってくれ!! 俺に譲ってくれ!! 頼む、シエスタ!!」
「!? !?」
「奴と戦うのを俺に譲ってくれ!! 俺が奴と戦う!!」
大変な剣幕で自分に詰め寄る才人に訳ありの匂いを感じ、シエスタは尋ねる。
「あの……、サイトさん、意味が……」
「俺は奴に主人を殺されたんだ……!!」
「え……?」
「俺の命の恩人でもある主人……、『コルベール』さんを……!!」
馬車にひかれた才人が目覚めた時、彼の肉体は全身金属鎧と言うべき姿になっていた。
「ちょっとコルベールさん、何ですかこれは……!?」
「サイト君の元の体から抽出した脳のデータを、私の自作人造人間にそっくり転送しました。サイト君を助ける前提で作った物ではありませんから、デザインが気に入らなかったらすいません。まあ次を作るまでの仮のボディーと考えてください」
マグカップ片手にコルベールがそう説明した。
「もう1度言いますよ。何ですかこれは……!?」
才人の困惑・憤怒がない混ぜになった言葉を後目に、コルベールはマグカップの中身を飲みつつ説明を続ける。
「毎日1時間専用アダプターでエネルギーチャージする必要があります。水はなるべく浴びないでください」
「コルベールさんっ!!」
万力のごとき鋼鉄の腕でコルベールの胸倉をつかみ締め上げる才人。
「痛いですよ、サイト君」
「俺を……、俺を実験台に使ったんですかーっ!?」
「これを見てください」
そう言ってコルベールが指差した先には、ぼろ雑巾という比喩が生易しいほど損傷して瞳の光が無くなった才人の肉体が横たわっていた。
「部屋に戻ってきた時のサイト君の体です。冷静に考えてどちらがましですか!?」
「………」
自分の体だった物の惨状に才人は言葉を失った。
──新しい体に慣れるため、俺は夜の闇に乗じてしばしば外出するようになった。
──けどある夜、コルベールさんの部屋に戻った時……、
「………!!」
才人が扉を開けると室内は炎上していた。
滅茶苦茶に荒らされひっくり返された家具の横には血まみれのコルベールが倒れていて、部屋の窓にはこちらを振り向く小さな人影が見えた。
その人影が消えたのを確認して、才人はコルベールに駆け寄る。
「ぐ……、サイト君……ですか……」
「コルベールさん!!」
「私はもう駄目です……、出血が致死量です。今逃げた奴は……、おそらくプロの殺し屋……」
「殺し屋……ですって!?」
「雇い主は心当たりが多すぎて見当がつきません……。名を変え姿を変えて教師になる前は、軍でいろいろ汚れ仕事をしていましたからね……」
「待っててください!! 医者を呼びます!!」
「君の修理やメンテナンスはもうできませんが……、方法はデータとして君の体内に保存してありますから心配しないでください。最期に……、サイト君に見せたい物があります」
と言って、コルベールは1枚の古びた紙を才人に差し出す。
紙には子供っぽい字で「さいきょうのじんぞうにんげん」と書かれていて、今の才人の姿に似ていなくもない絵と様々な設定が書き込まれていた。
「子供の頃に私が描いた『人造人間設計図』です。『最強』という設定です。いかにも子供の発想ですが。
ですがねサイト君……、考えてもみてください。もしも今のあなたが本当に最強の存在なら、その設計図を子供の頃既に描き上げていた私は……まさしく天才だったという事になりませんか?」
「………!!」
才人の過去にシエスタは驚愕の色を隠せなかった。
「では……、サイトさんが……、殺人鬼達から恐れられていたミス・ナックルスターに奇襲をかけたのは……」
「『最強』を証明するためだ!! コルベールさんの設計図に嘘は無い!!」
そう力説して拳を握り締めた才人に、観客席のルイズ・ナックルスターは納得の表情を浮かべる。
(納得だわ……)
(道理であたし達にボコられても絶対に負けを認めないわけだ)
そこへ女性スタッフが1人シエスタの所に歩み寄ってくる。
「シエスタ様、いかがなさいます? サイト様に譲られますか? シエスタ様は予選でメダル10枚を得たシード選手、多少の要望は通りますが……。
とはいえ、シエスタ様がくじに当たった事に変わりはありません。サイト様とバリー様がまず戦い……、勝者がシエスタ様と対戦していただく形になります」
「俺は別にかまわんぜ。どっちでもいい。『2人連続で戦う事に』なろうが問題無い……」
「………」
そう横槍を入れてきたバリーに激しさを増した才人の怒りのオーラに気圧される形でシエスタは、
「譲ります!! サイトさんに!!(2回戦目で降参しましょう)」
と宣言して闘技場の隅に退場する。
「恩に着るぜ」
すれ違いざまシエスタにそう声をかけ、才人は先程まで彼女が立っていた線に向かっていく。
『試合時間は無制限!! どちらかが降参・意識喪失・あるいは死亡するまでとする!! 周囲の手出し・物理的干渉はこれを禁止とし、破った者は処刑も辞さない!! なお敗北者の身の安全については、「虚無壺の会」は一切関知しないものとする!!』
才人・バリーが睨み合う中、会場にはルール説明のアナウンスが流れた。
「……てめえの首に付いてるチャンネル、アクセサリーにしちゃ間抜けだな」
「これか? これは精神的なスイッチさ……」
才人の挑発を薄笑いを浮かべつつ受け流し、チャンネルをひねるバリー。
次の瞬間、バリーの背中から指のように見えなくもない5本の肉の柱が生えてきた。
「俺は……『多重人格者』ならぬ……たっ……たじゅ……、『多重体格者』……!! そっ……外に出る体格を……チャンネル……で……切り替え……!!」
「え……!?」
シエスタも彼女に試合順の変更が可能だと伝えた女性スタッフも、呆然とバリーの変貌を眺めている。
『そ……、それでは、だ……だ……第1試合……』
そうアナウンスしている間にもバリーの変化は進み、背中からは指だけでなく肘まである腕が1本、さらにもう1本の手首が生えてきていた。
『はじめーっ!!』
「オオッ!!」
と声を上げつつ才人に迫るバリーは、歪ながらも巨大な人型になっていた。
「!? こ……、こいつ!?」
以上投下終了です。
135 :
るろうに使い魔:2012/05/04(金) 23:55:15.56 ID:6SmQ1+Te
ゼロニスターの人、乙です。
はじめまして、今回から小説を投稿しようしようと思っているものです。
今予約がない状態でしたらこれから五分後の0時丁度に投下しようと思うのですが、よろ
しいでしょうか?
題名は『るろうに使い魔』クロス元は『るろうに剣心』で、召喚される人物は『緋村剣
心』です。
136 :
るろうに使い魔:2012/05/05(土) 00:00:29.00 ID:6SmQ1+Te
何も問題はないようでしたら、このまま投下させていただきます。
ではどうぞ。
るろうに使い魔
―ハルケギニア剣客浪漫譚―
「次、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」
「はい!」
そう呼ばれて、ルイズは立ち上がり、皆の前から一歩前へ出た。
今日は自身にとって大切な儀式、自分の一生の召使いである使い魔を呼ぶ神聖な日だ。
「おい、ルイズの奴何を召喚するかな?」
「どうせボンボン爆発して終わりさ、賭けたっていいぜ」
などとざわつく周囲の言葉をなるべく無視して、今はこの瞬間に全身全霊を尽くす。
生まれてこの方16年、あらゆる魔法を爆発という形で失敗させ続け、未だに系統魔法
どころか基礎的な魔法まで扱うことができない。
家族からは才がないと言われ、生徒たちからは『ゼロのルイズ』という不名誉なあだ名
が通ってしまい、その屈辱に耐える日々。
そんな生活から、一転して変えることのできる重大な日。それがこの召喚の儀である。
(見てなさい、立派な使い魔を呼んでアッと言わせてやるんだから!)
周りの生徒たちは、あらかた使い魔を召喚し終えた後だった。
皆それぞれサラマンダーやモグラ、タコやカエル、中にはドラゴンまで召喚しており、
今は一体何を呼び出すのか……と好奇の目でルイズの方を注目していた。
段々とざわめきが薄くなり、静かになっていく中、ルイズは杖を掲げて朗々と唱えた。
「宇宙の果てにある私の僕よ、神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、
訴えるわ。我が導きに応えよ!」
刹那、ボンッと大きな音と共に煙やら埃やらが宙を舞った。
失敗したの…?と不安が頭の中に過ったが、煙の向こう側になにやら影みたいなものを
見つけると、今度は期待で胸が弾んだ。
(せめて、みんなから馬鹿にされないくらいの使い魔が出てきて!)
そう心の中で願うルイズをよそに、次第に視覚を遮る邪魔な煙が晴れていく。
そして……。
「これが…私の使い魔…?」
ルイズの目の前に現れた『もの』。それはこの世界ハルケギニアでは見かけない不思議で
異形な服を着ていた。
そして緋色の長い髪を一括りに纏めており、腰に刺さった知らない得物と頬についた十
字傷が特徴の―――
そう、それは紛れもない『人間』だった。
第一幕 『世界を越えた流浪人』
「……おろ?」
その日、この異世界にやってきた人間、緋村剣心はこの不思議な光景にすっかり目を丸
くしていた。
先程まであった見慣れた神谷道場の姿はそこにはなく、あるのはただっ広い草原とそび
え立つ、城とも屋敷とも取れる異形な建物。
周囲には明らかに日本人じゃない――夷人とも言うべき髪の色をした少年少女が、これ
またマントを羽織って好奇の目でこちらを見ていた。
その中で目の前に立つ人物、桃色の髪を長く伸ばした少女が、自分と同じくらい呆れた
表情で自分を見つめていた。
「これが……私の使い魔…?」
137 :
るろうに使い魔:2012/05/05(土) 00:02:23.23 ID:uQzQPvfn
その声を皮切りに、周囲からどっと笑いの歓声が響いた。明らかに嘲笑を含んだ笑いだ。
「おい、ルイズが人間を召喚したぜ!」
「しかも平民じゃん! ゼロのルイズにはお似合いだな!」
「おまけになんだあの服、貧乏人じゃねえの?」
周りが口々にそう囃し立てると同時に、桃髪の女の子――ルイズと呼ばれた少女は顔を
真っ赤にして叫んだ。
「ミスタ・コルベール、今のは失敗です! もう一度チャンスを…」
「残念だが、それは出来ない」
ルイズの願いも虚しく、コルベールと呼ばれた、真ん中が禿げた中年の男性は、静かに
首を振った。
「一度サモン・サーヴァントで召喚した以上、例外は認められない」
「そ、そんな…」
がっくりとうなだれたルイズは、しばらく悩み込んだまま動かないでいたが、やがて顔
を上げると、意を決したように立ち上がり剣心の方へと寄って行った。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
そう言うと、未だに状況をつかめていない剣心をよそに、ルイズは杖を振りかざし、な
にやら変な呪文を詠唱し始める。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司
るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
そしてそのまま、杖を剣心の額に当てると……。
「……おろ!?」
なんと口元に向かってキスをした。
さすがの剣心も、これで我に帰ったのか、目を丸くし慌ててルイズのもとから後ずさる。
「い、一体何を……っ…?」
と同時に、焼けるような痛みが剣心の左手に襲いかかった。何かと思い見てみると手の
甲当たりに文字のようなものが刻まれ始めていたのだ。象形文字の類なのだろうか、一通
り焼きあがると痛みも徐々に消えていった。
「ふむ、これは珍しいルーンだな」
ふと気づくと、いつの間にかコルベールが剣心の左手に刻まれた文字を見て、なにやら
書き込んでいた。どうやら記録しているらしい。
やがて書き終えると、未だにどよめきが上がっている周囲に向かっていった。
「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」
そう言うなや否や周囲の子供たちは杖を取り出し、何か短く唱えるとふわりと宙に浮
き、そのまま上へと飛んでいった。先程のキスで、幾拍か頭がはっきりとしていた剣心だ
ったが、この出来事に再び理性がフィードバックした。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ!」
そんなことを言いながら去っていく彼らを見て、剣心はただただ呆然とするしかなく、
やがて二人きりになったところで、ようやくルイズを見て口を開いた。
「あのー、ここ……どこでござる?」
「はぁ? 『ここ』をどこか知らないなんて、あんたどこの田舎から来たのよ!」
至極真っ当な質問のはずなのに、なぜかルイズは呆れながらため息をついた。
ルイズの説明を簡潔にするとこうだ。
まず、自分は『コモン・サーヴァント』なる儀式として、使い魔としてここ『トリステ
イン魔法学院』に呼び出されたこと。ルイズと契約(さっきのキスがそうだったらしい)した
ため、彼女を主人として――要は従者となって仕えること。この世界には魔法なるものが
あって、それを行使できるメイジが一番偉いということ。
138 :
るろうに使い魔:2012/05/05(土) 00:03:30.16 ID:uQzQPvfn
「ファーストキスだったのに、もう!」
顔を真っ赤にして叫ぶルイズに対し、剣心はかつてない程脳みそをフル回転させ、これ
までの状況を整理する。
考えてみれば、あまりに突飛すぎる。いきなり外国と思われる所へ移動させられ、そこ
で使い魔をやれ? おまけに貴族と呼ばれる種族は魔法なんて力をもって、空を飛んだ
りすることだってできるだって?
夢物語は夢の中にして欲しいものだが、あの時感じた左手の火傷や、今感じる風を打つ
感触は、紛れも無く本物だった。状況が状況だけに、まだモヤモヤした部分があるが、と
りあえず今、ハッキリと分かることはただひとつ―――
とりあえず自分は飛ばされてきたのだ。このどことも知れない異世界に。
「…それで、どうやったら帰れるでござるか?」
一縷の希望をのせたこの質問もルイズの言葉にあっさりと砕けてしまう。
「何言ってんのよ、そんなもんあるわけないじゃん」
元々サモン・サーヴァントで呼び出したものを、送り返す手段はない。この学院で進級
するための大事な伝統であり儀式のため、召喚したものはたとえどんなものだろうと、そ
れこそ人間だったりしても異例は認められない。
仮にあったとしても、最早契約まで済ませてしまった使い魔をみすみす返したりなどし
ないだろう。
駄目元での質問だったとはいえ、あっさり返された答えを受け止めるとなると、やはり
剣心としてはくるものがあった。
ルイズはルイズで、なぜ理想の使い魔を呼べなかったのだろうと肩を落としていた。
(ドラゴンとか、サラマンダーなんて高望みはしない、せめて犬とかフクロウでもよかっ
たのに…よりによって人間……しかも平民…)
また大きなため息が出そうになったとき、ふと思い出したように剣心の方を見た。
「そういえば、まだあんたの名前聞いてなかったわね」
「あぁ……そう言えばまだ名乗ってなかったでござるな」
剣心も、一度立ち上がって、改めてルイズを見た。
身長は自分とあまり変わらないかちょっと下当たり、綺麗な桃髪を流し、太ももまで見
える程の短い着物に膝まである長い足袋みたいなものをつけている。
釣り上がった目や攻撃的な気性からあまりそうは見えないが、黙っていれば中々に美し
い容姿をしていた。
139 :
るろうに使い魔:2012/05/05(土) 00:04:41.98 ID:uQzQPvfn
「拙者は剣心、緋村剣心でござるよ」
「ケンシン? 変な名前ね。……まあいいわ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・
ド・ラ・ヴァリエール。仕方ないからあんたのご主人様になってあげるわ。感謝しなさい
よね」
そう言ってルイズは、平坦な胸を大きくそらしてふんぞり返った。未だコトを把握しき
れない剣心としては色々と待って欲しい事が多かったが、どうやら使い魔になったという
状況を認めなければ話が進まなさそうである。
とうとう観念して苦笑いを浮かべながらも、剣心は優しい微笑みをルイズに見せた。
「まあ、こちらこそよろしくでござるよ、ルイズ殿」
かくして、その昔『人斬り抜刀斎』としてその名を残し、多くの人々から伝説とまで謳
われた男、緋村剣心は、通称『ゼロのルイズ』ことルイズ・フランソワーズの使い魔と相
成ったのであった。
というわけで、初投稿となりました。るろうに使い魔を投稿させていただきました。
いかがだったでしょうか? まだ初めてなので拙い所も多々見受けられるとは思いますが、
もしそういったところがあれば指摘して頂けたら幸いです。
また来週この時間帯に投稿しようと思います。本日はどうもありがとうございました。
また懐かしい元ネタをを、そういやSQで剣心再開してたな
改行がおかしいのが気になった
>>139乙
神谷道場から召喚と言う事は本編始まってから召喚か。どの時点からだろ?
>>140 再開っても新章とかじゃなく再構成みたいだった。
確か剣心って人誅編まで、半年程度の長さの超過密ストーリーだったよな
乙でした。
完走目指して頑張って下さい。応援してます
146 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/05(土) 03:14:33.84 ID:qYpYdxtu
剣心召喚乙
>>141 設定してるフォントで違いが出てるだけの予感
流浪人乙
>>64 不敗の魔術師がそんな事いってたな
乙乙乙
>>147 > そう言ってルイズは、平坦な胸を大きくそらしてふんぞり返った。未だコトを把握しき
>れない剣心としては色々と待って欲しい事が多かったが、どうやら使い魔になったという
フォントどうこうってか一行の文字数を揃えようとしてるのか、単語の途中で改行してるからだと思う
メモ帳で書く→保存する→そのままコピー&ペースト
これやると勝手に改行とかされるから、もしかしたらそれかもね
回避方法は、保存した後に書式→右端で折り返すのチェックを外すか、ファイルを開き直してからコピペをするといい
平坦な胸で思い出したが、ミートくんならキン肉マンのお漏らしパンツをルイズの胸で洗ってもおかしくない
(元ネタは超人オリンピックのキン肉マンvsラーメンマン参照)
メイジオリンピック編
7人の悪魔メイジ編
メイジ将軍編
夢のタッグメイジ編
トリステイン王位争奪編
>152
馬場さんに謝れ。
これから第二十話を投稿させて頂きます。
前回はエラーの関係で失敗しましたが今回は上手くいくと良いな〜
第二十話『新たな魔法』
「ワルドォッ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
窮地に陥っていたルイズの耳に聞き慣れ親しんだミントの声が聞こえた。
何故アルビオンを発っているはずのミントが此処に居るのか?何故ワルドを既に敵視しているのか?等、疑問を浮かべようとすれば幾らでも思い浮かぶだろうがルイズは今そんな些末事を気になど出来ない。
ルイズの視界の先で礼拝堂の扉を蹴破ったミントは脇目もふらず走り出すとワルド目掛けて跳躍し、必殺の跳び蹴りを放つ。
(ミント…来てくれた。)
その勇ましい姿が安堵を与えルイズのギリギリまで張り詰めていた緊張の糸を緩め、目からはまるで関を切ったかのように止めどなく涙が溢れ出した。
ミントの跳び蹴りをワルドは半身を反らせる様に最低限の動作で回避し、驚きもそこそこに油断無く目の前の少女へと杖の先端を向ける。
「これはこれはミント王女、随分と乱暴な登場ですな…船には乗船されなかったので?」
華麗に着地したミントはその場でくるりとターンするとワルドに向き直り、チラと蹲るルイズを目視した後、手にしたデュアルハーロウを突きつける。
「ルイズ、生きてるわね!?」
「うん…うん!!でもウェールズ皇太子殿下が…」
しゃくり上げる様なルイズの声を聞き、ウェールズの姿をその目にしたミントの頭に血が上る…その度に左手に刻まれたルーンは熱く激しく脈動した…
「ワルド…あんた、あたしを怒らせたわよ。」
「それはそれは……恐怖のあまり身ぶるいが止まりませんな。」
ワルドはそう言って言葉とは裏腹に余裕ありげに肩を窄ませ含み笑いを浮かべる。
「それはそうとミント王女、私から君に提案がある…この話は本来ならばルイズをこの手にすると同時に持ちかけようと思っていたのだが…」
「提案??」
「その通りだ。ミント王女、私と共にレコンキスタの元に来るつもりはないか?
我等レコンキスタは国境を越えた正しき貴族の連名。その最終目的は全ての国家を統合しエルフ共がブリミルより奪った聖地の奪還という崇高な使命にある。
私は余りこう言った品の無い直接的な言い方は好まぬが、君の目指す世界征服と我等の目指す国家の統合…本質的には似ているとは思わないか?
そして君は始祖の使い魔である『ガンダールブ』のルーンをその身に宿す人物だ、我等レコンキスタは間違いなく諸手を挙げて君を歓迎するだろう。」
ワルドはそう言って杖を持たない左の腕をゆっくりとミントへと誘う様に差し出した…
「それに直に此処にはレコンキスタ五万の兵が押し寄せる。どちらにせよ最後の脱出船に乗らなかった以上、君が生き残るにはこの私の誘いを受ける以外に術は無い。」
そう、ワルドの言う通り既にミント達にはアルビオンを脱出する手立ては事実上無くなっているのだ。
その様な条件を突きつけられ、ミントのワルドへの返答は決まり切っていた…
「はっきり言ってやるわ!!お断りよ。ワルド、あんたのやり方ってば陰険で陰湿で、いちいちムカつくわ!
味方の振りなんてして裏ではこそこそこそこそと余計な手を回して!!挙げ句の果てには乙女の純情踏みにじって結婚詐欺!!?
あんたみたいな、ふざけた奴はボコボコにしてやらないとあたしの気がすまないのよ!!
それにいっとくけどアルビオンもトリステインもいつかはこのあたしが支配するの。つまりあんた達はあたしの国を土足で踏み荒らしてくれた訳よ!
レコンキスタだかレンコンスキダだか知らないけど、この落とし前…きっちり付けさせて貰うわ!!」
ミントはそう言い放ち、ずいと一歩ワルドへと歩を進める。
ワルドはミントの物言いに思わず目眩を覚える感覚に陥り、呆れる様に溜息が零れる…内心説得に応じるとは思っていなかったが目の前の少女はもう言っている事が無茶苦茶だ…
「フッ…残念だよ、やはり結局はルイズと同じで我等に与する気は無いか…しかし結果としては逆に君の様な馬鹿げた人物を受け入れなくて済むのは良かったのかも知れない。
最後の情けだ…全メイジで最強と謳われる風のスクウェアたる私がこの手でウェールズの様に此処でルイズ共々始末してやるぞガンダールブ!!」
「ケリをつけてやるわ、ワルドっ!スクウェアだかなんだか知らないけどあたしの魔法で……ボコボコよっ!!!」
ミントが叫ぶと同時に両者が魔法を撃ち出す…
結果として相殺した両者の風の魔法によって向かい合った二人の間で空間が強烈な衝撃波を伴って弾けた。
ミントとワルドはその衝撃波を合図にして、申し合わせたかの様にそれぞれ同時に後退し、互いの距離をとって睨み合う。
ミントは自分の後方に居るどう見ても戦えそうに無いルイズをこれから戦闘に成るであろう空間から退避させる為。
ワルドはより長い詠唱を必要とする自身の扱う最強の呪文の詠唱を行う為に…
「ルイズ、立てるわね?後はあたしに任せて下がってて。」
「………うん。」
ルイズは素直にミントの言葉に従ってヨタヨタとした足取りで礼拝堂の隅へと移動する。途中自分の杖を見つけはしたが損傷が激しくもう使えそうには無かった。
「小手調べとはいえまさか私の風の魔法を相殺させるとわな…王女よ、やはり君を相手取るのに油断は出来そうに無い。故に何故風のメイジが最強と謳われるかを見せて差し上げよう。…ユビキタス・デル・ウインデ!」
詠唱を終えたワルドは自身を睨みながらデュアルハーロウを構えたミントに対し口上を上げると呪文を唱える。
だが、ミントはそんなワルドにいちいち付き合う義理は無いと言わんばかりに構わず魔法を撃ち出す。
ミントの魔法によってワルドの丁度頭上に現れた無数の氷の槍…タバサが得意とする『ジャベリン』に酷似したその魔法の名前は『アイシクル』。自分の周囲では無く直接標的の頭上で生み出されるというその性質の違いがワルドの虚を突いた。
だがワルドは杖を振るうと風を纏い、アイシクルを素早い反応で身を捻りながら大きく後方へと飛び上がる様に回避する。
そして再び地に足を付けると次の瞬間には何故かワルドの姿は空間ごとぶれる様に歪み、ミントの目の前で五人に増えていたのである。
「なぬっ?!増えた??」
その光景に驚き、思わず魔法を放つ手を止めたミント。
「風のユビキタス……俗に偏在と呼ばれる魔法でね、風の吹くところ、何処となくさまよい現れ、その距離は意思の力に比例する…」
五人に増えたワルドから発せられた声が礼拝堂にこだまする。そしてその中の一人がまるでミントに見せつけるかの様に懐から何かを取り出した。
それは見覚えがある白い仮面。
その仮面を被るワルドの所作…ミントはそれを一目見て全てを察した…
「あの仮面のメイジもあんただったって訳ね…」
「その通りだ。君にはあそこで退場して貰いたかったんだがね…」
言って五人のワルドが杖を振りかざし一斉に散開しミントに躍り掛かる。ワルドの最早この戦力差は覆す事など出来はしないだろうという確信と油断を持っての行動だ。
だが、ミントはその状況を冷静に見極めると引く事も怯む事も無くそれと違わぬタイミングで一つの魔法を発動させた。
黒色の魔法タイプ 『ハイパー』 かつて怪炎竜ウィーラーフが恐れ、封印を施した程の凶悪な魔法…
魔力を帯びた暗黒の閃光がミントを包んだと思った瞬間、ミントの足下が爆発する様に弾け、ミントの姿はその場から消えさる。結果としてワルド達が放ったエアハンマーとエアカッターは正に空を切る事になった。
そして次の瞬間にはミントに対して迂闊にも丁度真正面の位置を取っていた仮面を付けたワルドの顔面が無残にもデュアルハーロウの殴打によって仮面もろともに力任せに打ち砕かれる。
『闇の一撃』と名付けられたその魔法は一瞬の間だけではあるが限定的にミントの身体能力を桁違いに跳ね上げる効果を持つ。
無論、その効果には落とし穴もある。一つはハイパーの魔法全般に言えるが燃費が極端に悪いのだ。もう一つ、効果の維持が本当に瞬きする程度の時間でしかない事だ。
またその間の行動はミント自身の反応速度を明らかに超えてしまう。その為魔法の発動中、その行動ははっきり言えば真っ直ぐ突っ込んで敵を全力で殴るという使い方以外実質出来ない。
「チッ…ハズレか…」
仮面を付けていたワルドの身体が風に溶ける様に消滅するのを見てミントは舌打ち混じりに周囲を警戒しながらその場から直ぐに離れる。
ミントは様々な場所で無数のモンスターと、時にはゴロツキや別の冒険者等と多数を同時相手に一人で戦ってきた。そういう状況で一番不味いのは完全に包囲された状況だ。
ミントはワルドの魔法の的にならぬ様、礼拝堂の柱と壁を利用しながら足を止める事無く走る。
ワルドもまたミントを追うようにして二人を、待ち受けるようにして残った二人をと意思統一の出来た偏在だからこそできる抜群のコンビネーションでミントを追い詰めていく。
その間にミントの放った追尾性能の高い雷の魔法『トライン』がワルドの偏在の一人を焼いたがやはり攻撃に移ったミントのその隙を逃さず、ワルドの放ったウィンドブレイクがミントを吹き飛ばし、その身体を容赦無く壁へと叩き付けた…
「げふっ…!!」
「ミントッ…」
ルイズは不安に押しつぶされそうになりながらも立ち上がろうとするミントからは目を離さず始祖へと祈り続ける。もはや自分に出来る事はミントを信じて祈る事だけだ。
普通の人間なら間違いなく決着となっていたであろうウィンドブレイクの直撃を受けて尚、歯を食いしばり立ち上がったミントに対してワルドは偏在の一人をエアニードルの魔法を使わせて突貫させる。
「その首貰うぞ!ガンダールブ!!」
内心ワルドはミントの戦闘能力に対して驚愕していた。未だかつて全力で相対して自分の偏在を二人も打ち破った敵などワルドにとっては初めてだった…
ここでわざわざエアニードルで近接戦闘を行うのも偏にミントへの評価の表れだ。エアニードルがミントを貫けばそれで良し、
思わぬ魔法なり方法なりでこの窮地を凌いだならば控えた本体ともう一体の偏在のライトニングクラウドで確実な止めを刺す!!
魔法の発動は間に合わないと即座に判断し、偏在のエアニードルをミントは両手持ちしたデュアルハーロウで袈裟切りに力任せに打ち払う。
杖を折られながらもワルドの偏在はそのミントの行動に対しニヤリと勝ち誇ったように笑った。
杖を持っていなかったワルドの左手は振り抜かれたデュアルハーロウのミントが握る方とは反対側をを握り込む。既にライトニングクラウドは発動体勢にある。
「魔法は使わせん!逃しもせん!さぁ、私と共に雷雲に焼かれ「離っせ!!」イィッッ!!!!!!!!」
突然ワルドの偏在は何とも切ない悲鳴のような声を上げて泡を吹きながら全身から力を失い膝を突く…
ワルドの股間にはミントの足が深々とめり込んでいた。偏在を通し本体のワルド自身にも男として薄ら寒い感覚が背中を走る…
「だが、とったぞ!!」
「ミントッ、危ない!!」
二人のワルドの杖から同時に強烈な紫電がほとばしる…同時にルイズの悲鳴にも似た絶叫がミントの耳に届いた…
(やばっ…!!!!)
そう思うとほぼ同時にミントは雷を逸らす為デュアルハーロウを放り投げようとしたが、ある意味で死んでしまったワルドの偏在が最後の力を振り絞り未だそれを邪魔している。
しかし万策尽きたと思われたその瞬間、ミントの背中でデルフリンガーが鍔を鳴らした…
「相棒!!俺を抜けぇっ〜〜〜!!!!」
デルフリンガーの叫びと同時にワルドの杖からはライトニングクラウドが撃ち出された…
「燃え尽きろガンダールブ!」
ミントはあれこれ考える間もなく咄嗟にデュアルハーロウを手放しデルフリンガーの言葉に従うように背にした鞘からデルフリンガーをするりと引き抜いた。
ライトニングクラウドが迫る中、なんとミントの手に握られたデルフリンガーはその錆び付いた刀身でワルドのライトニングクラウドをまるで当たり前のように吸収してみせる。
そしてライトニングクラウドを飲み干した瞬間、デルフリンガーの刀身が眩い光を放ち、錆び付いていた刀身はまるで今磨き上げたばかりだというような輝きを放ち始めた。
「な…に…?」
その光景にワルドを始め、その場にいる全員が呆気に取られている。
「いやぁー忘れてたぜ!これが俺のほんとの姿だった!かつて六千年前にガンダールヴに振るわれていた伝説の剣!!それがこのデルフリンガー様よ!!」
デルフリンガーは愉快そうに再び鍔を鳴らした。
「ちょっと…あんたそんな便利な能力あるんだったらさっさと教えなさいよ。」
言ってミントはデルフリンガーの刀身をじと目で睨む。助けられはしたが腹が立つ剣だ。
「んなこと言ったって忘れてたんだから仕方ねえだろう。思い出させたのはお前さんだぜ、相棒。さっきからビンビン来てたお前さんのとんでもない心の震えが俺の記憶を呼び覚ましたんだ。」
「心の震え?あんた確か前もそんな事言ってたわね…」
「ああ。怒り、悲しみ、愛、喜び……。何だっていい大きく心が震えれば、それはそのままガンダールヴの力になる。」
「ふーん……」
デルフリンガーに改めてそう言われてミントは納得した。
不思議な事にワルドとの戦闘中、ミントは魔力を結構消費していたがそれ以上に沸き上がるような勢いで魔力が回復しているのだ。
「あんたって…もしかして遺産だったりしてね…」
改めてデルフリンガーを眺めてミントはそんな冗談を呟いて口元を緩める。
「相棒っ!!」
デルフリンガーの反応に合わせてミントは自分へと襲いかかってきた突風を切り裂く。
ミントの視線の先ではウインド・ブレイクを放った姿勢のまま、ワルドがわなわなと震えていた。
「何だ…その剣は!!魔法の吸収等……」
「へっ…吸収だけが脳じゃ無いぜ!!相棒、お前さんになら解るだろう?俺様の力がよ!!」
饒舌なデルフリンガーに対してミントは答えを返さないままただ口角をつり上げる…
(だが…奴は魔法の要を失った。である以上!!)
ワルドは再び冷静さを取り戻すと杖にエアニードルの魔法をかけて偏在と共にミントへと接近する。
「魔法の渦の中心に杖がある以上、この魔法は吸収できまい!そして閃光と謳われた私の剣技、それもそれが二人同時だ!…もはやこれまでだ。」
一人目のワルドの放つ青白く輝く杖の初手をミントは素早く回避して見せる。続いて二人目の斬撃をデルフリンガーの刀身で容易くいなしてみせる。
ワルドの推察通り、杖を中心とした魔力をデルフリンガーは吸収しきれなかった様だったがミントにとっては最早そんな事はどうでも良かった。
「貰ったぁ!!…??」
再び一人目のワルドが踏み込もうとする…だがそれは視界を遮るように突然巻き起こった炎によって阻まれる事になる。
「何っ、炎だと?」
予想外の事態にワルドが怯んだ次の瞬間、ワルドの胸を燃えさかる炎を纏ったデルフリンガーの刃が貫いた。
「何…だと…そんなバカ……な……ぐぁぁぁっ!!!!」
胸を貫かれ、身体の内から焼き尽くされたワルドの最後の偏在の身体が消滅する…
ミントは最後のワルド…必然的に本物へと向き直るとデルフリンガーの切っ先を突きつける。その刀身は先程まで燃えさかっていたにも関わらず今は既に何やら黒い靄の様な物を纏っていた。
「聖地の奪還だかなんだか知らないけど……。ひとたび、あたしを怒らせたらワルド、あんたに勝ち目はカケラもないっ!ボコボコよ!!
魔法【デルフ】をゲット!
今回はこれでおしまいです。
今回は特にルイズェの台詞が少なかった気がします。
今回でミントにオリジナル魔法を習得させてしまいました。賛否それぞれ在るでしょうが
暖かく見守って下さい。
それではノシ
乙乙
ワルドェ……
とったとかもらったとか一回の戦闘でどんだけ負けフラグをw
とりあえず召喚されたからと初日にホイホイとブリミルの所へ挨拶に行く聖☆おにいさんのブッダとキリスト。
そしてサクッと聖人同士で意気投合した挙げ句、3人で記念撮影した写メを見せられるルイズとか。
ルイズ「アンタ達の真ん中に居るのって誰?」
ブッダ「ん?ブリミルさん」
キリスト「いやぁ良い人だったねぇ」
>>165 あの漫画、日本だから許されるんだよなぁ……
百億の昼と千億の夜なんてキリストがもろに悪党だけど、あれはいいのかな
>>166 しかし海外でも意外と知られているから困る
作者が消されないか不安です
>>167 今は難しいだろうね、阿修羅+ブッダ+プラトン(漫画版では+ユダ)で弥勒とその手下のイエスと戦うなんて
>>168 イスラム関係は不可、と釘を刺されたそうだ。
今書いていて思い出したんだがアメリカのSF小説にも、
ブッダが殖民惑星で権力を握ったヒンズーの神々や狂信者キリスト(風)の人物と戦うものがあった。
ドリフターズ…
>>165 教皇コンビが速攻チョンボかましてウリエルさんにセコムされるロマリアを幻視した。
>>163 乙です!
戦闘にすごく緊張感があってハラハラしたぜ
ガレーン・ヌーレンブルグかトンブを召喚
人徳or強欲
どっちも面白そうなんだけどな
ゼロのルイズがオーク鬼を召喚したぞー!
戸谷さんですねわかります
トンブは銭積めば言う事を聞くしな
ギーシュが無惨なことになるが
179 :
ゼロツカ:2012/05/06(日) 12:41:47.89 ID:+MF1TI7/
どうもみなさんお久しぶりです。
ゼロツカの第3話が完成したので
誰もいないようでしたら10分後ぐらいに投下したいと思います
180 :
ゼロツカ:2012/05/06(日) 12:46:01.41 ID:+MF1TI7/
ゼロツカ 第3話 暗黒神と契約した男
部屋に戻ってみると、自分のご主人様はまだご就寝の様だった。
まあ、問題はないと思いノアレに話しかけてみる。
「ノアレ、まずは出て来てくれないか?」
何?会話なら普通に心に思ってくれれば出来るでしょ?
「今は面と向かって話がしたい」
はいはい、わかったわよ
そう言い、ノアレはさき程とは違い、普通に出てきた。
「まずは、なんで最初の頃、何も反応を示さなかった?」
「だって、楽しそうじゃない?何もない世界にあなた1人って言うの」
大体予想が付いていたが、まさか本当にこういう事だとは・・・まあ、契約の内容自体がそう言う感じなのだから仕方がない。
「君という奴は・・・まあ、いい。それより、これからどうすればいいと思う?」
「さあ?いざとなったら、いつでも帰れるんだから好きにしたらいいんじゃない?」
「そうか・・・ん?今なんと・・・?」
自分の耳がおかしくなっていないのならば、いつでも帰れると言わなかっただろうか?
いやいや、いくらなんでも別世界に来て好きに帰れるなどと言う事は・・・
「あなたがその気になれば帰れるわよ?本体の力を少し使えば」
「・・・・」
どうやら自分の耳はおかしくなっていなかったようだ・・・・おかしかったのは自分の契約相手だったようだ。
だが、それなら話ははやい、そこで寝ている女の子には悪いが、自分には自分の生活があり、自分が住んでいた世界があるのだ、帰れるのならばすぐに帰る事にしよう。
「・・・・まあ、それなら」
「あ。でも、すぐに帰るとかなしね。私がおもしろくないし」
この闇の精霊様は・・・・と思ったが、こう言い始めたらまず力は貸してくれない。
すぐに帰る事を諦め、ならばこの世界の情報や自分の状態という奴を教えてもらう事にした。
「わかった・・・でも、今の状態がどういったものなのか教えてくれないか?」
「それくらいならいいわよ。まず、ここはハルケギニアと呼ばれる世界。ヒデオが最初に気がついた通り異世界よ。ヒデオの世界とは違って、魔法が幅を利かせている世界ね」
「・・・・そんな世界に放り込んで、君は一体何がしたいんだ?」
「私がしたいようにしたいのよ。でもまあ、安心しなさい。この世界にはみーこクラスはいないし。いても、翔希より強いって事はないわ」
あれらと比べてはいけない気がするし、たとえ翔希以下だとしても、自分はスライムにすら瞬殺されるような人間だ。
少なくとも、自分ではどう頑張った所で力で勝てる相手はいないだろう・・・
そう思った所で、ルイズが妙な事を言っていたのを思い出した。
「そう言えば、この世界では貴族以外は魔法を使えないのか?」
「えぇ、そうなってるわね。だから、科学技術が発展せずこんな産業革命前みたいな世界なのよ」
「それとこれに一体どういった関係が?」
「たとえば、力を持っている人は持っていない人達をどうする事が出来て、どうすると思う?」
「・・・・力で抑えつけて支配する?」
「そう、でももしその力を持っている人たちが、力を持っていない人たちをどうこうするこ
181 :
ゼロツカ:2012/05/06(日) 12:46:29.50 ID:+MF1TI7/
とが出来なくなったら困るでしょ?」
ノアレの言っている事はこういう事だ、魔法と言う絶対を崩されたくないから、科学は発展させていないと言う事だ。
「まあそれが半分、もう半分は魔法こそが絶対だと思ってるのよ」
この世界の魔法がどれくらいからは知らないが、魔法こそが絶対と言うことはないだろう。
みーこさん達は分からないが、翔希は核弾頭をどうにかすることは出来ないだろうし、さっきノアレはどんなに強くてもと言った。
と言う事は、平均的な強さで言えばもっと下であろう。
ならばある程度の銃火器があれば勝てるだろう。
「それは何と言うか・・・・」
「滑稽ね。でも、現状この世界では科学技術は魔法に劣るのも確かな事よ。使ってる銃もマスケット銃とかそんなのだしね」
そう考えると、たしかに今の状態では正攻法で魔法に勝つ事が出来るとは思えない。
だが、連射が出来る銃が出来たらどうだろうか?その優位だって少しは覆すことが出来るだろう。
そう考えていると、ノアレはその考えを読み取ったのだろう、こう言ってきた。
「そうね。でもヒデオ、結局それはこの世界の問題であり、あなたがどうこうする問題ではないのよ」
「それも、そうだろうが・・・」
「それに、たとえヒデオがそれについて言って、連射出来る銃が出来た場合貴族と平民の戦争は避けられないでしょうね」
「・・・・さすがにそれはまずい」
「でしょうね。でもまあ、科学が発展すればいつか起こり得る事でもあると思うわ」
それはそうだろう。
少なくとも、ルイズやギーシュを見ればわかるが、貴族と言うのは平民を人と思っていない節がどこかあったように感じる。
全部が全部そうであると思わないが、おそらくそれが貴族の大半の考えなのだろう。
と言う事は、間違いなく行動にも現れているだろうし、貴族が平民に対して嫌がらせや虐めなどよく聞く話だ。
ならば、平民は貴族に対していい感情は持っていないだろう。
そして、今でこそ魔法と言う絶対があるが、その絶対を崩す力を手に入れたらどうなるか・・・元の世界でも昔あったと言われる革命がおこる事は間違いないだろう。
「ま、だからヒデオが何かする必要性も、気を使う必要もないのよ。あなたはこの世界をただ堪能すればいいだけの事」
そう言われればお終いだ、自分自身何か出来るともしようとも思わないためこの話はここで終わらせ、次の質問をした。
「それじゃあ、この手の甲に出来た、これはなんだ?」
ノアレに手の甲に出来た、ルーンとやらを見せて聞いてみた。
「ああ、それ?この世界では伝説と呼ばれる使い魔のルーンよ」
「そうか・・・伝説か・・・いや、待ってほしい。なぜそれが僕に?」
「なぜって・・・そこで幸せそうに寝てるのが、今は失われたと言う虚無の担い手だからよ」
「それでなぜ僕が召喚されるんだ・・・」
「さあ?そこまでは私も知らないわ」
今回の話は完全に納得が出来ない。
虚無の担い手と言うのはよく分からないが、おそらく世界に数人いるかいないかだろう。
そんなものの使い魔と言うのは納得できるものではない。
確かに自分は、裏の2代目聖魔王であるが、結局それは嘘とハッタリで手に入れた称号だ。
182 :
ゼロツカ:2012/05/06(日) 12:47:03.59 ID:+MF1TI7/
どうせ呼び出すなら、表の2代目聖魔王翔希である翔希やエリーゼの方が適任だろう。
間違っても伝説という立ち位置に、自分の様な引きこもりがいていいはずが無い。
そうこう悩んでいると、ノアレがこう言ってくる。
「そんなに悩む必要性はないんじゃない?あなたの持ってる力は伝説と呼ばれるにふさわしい力もあるでしょうに」
「それだって、ロソ・ノアレの力で僕の力じゃない。それに大体契約とは言っても、結局は何か特別な事をしたわけでもない、ただの口約束じゃないか」
「まあそれもそうだけどね。でも、あなたが伝説に選ばれてしまったんだからあきらめなさい」
納得は出来ないが、選ばれた以上どうにかすることは出来そうにない。
あきらめるしかないか・・・と思っていると、ふと思った事がある。
「そう言えば、伝説と言うからには、それなりの力なり能力があるんじゃ?」
「あるわよ。しかもたとえヒデオでも、その辺のメイジには負けない程度の能力がね」
「それは本当か・・・!?」
それなら、少しは希望が湧いてくると言うものだ。
さすがにこの世界で・・・と言うより、元の世界でも何が出来るというわけでもないのが、ここで何かしらの力を使えると言うのは安心感がある。
だが、この闇の精霊様がそんな事を許してくれるわけがなかった。
「でも、それだと面白くないじゃない?私は、0%の勝率を奇跡の一発逆転するあなたが見たいわけなんだから」
「・・・つまり?」
「その力使えなくするけどいいわよね?答えは聞いてない」
「ちょ・・・!?」
何を言ってくれるのだろうか、この精霊様は・・・それでは一体どうやって魔法を使ってくる相手に戦えと言うのだろうか。
ん?そもそも、なぜ戦う事前提なのだろうか?
そうだ、何も異世界に来たからと言って、戦う事はないのだ。
ならば下手な事をせずに、平和に生きていればいいではないか、そしてそこで寝ている少女は幸いにも学生だ、ならそうそう変な事にはならないだろう。
なら一体、どうやって戦闘に発展するようなことがあるのだ?
答えは否、元の世界では自分を巻き込むばかりのイロモノばかりだったが、あんなのが他の世界とは言え、そうそういるものではないだろう。
「なら安心・・・」
「色々考えてる所悪いけど、異世界に来て速攻で喧嘩吹っ掛けられたのはどこの誰だったかしらね?」
あの程度であれば誤差の範囲だろう・・・たぶん・・・おそらく・・・きっと・・・。
「誤差って・・・自分が異世界の人間だとカミングアウトして、変な力を使ったと思わせることのどこが誤差よ」
あの場は仕方なかったんだ!と思うが、自分がやった事はたしかにまずかった気がする。
「そうね。今までのヒデオのパターンから言って、何か変な尾ひれや装飾がプラスされて噂が広まってそうよね」
ありえそうで怖い・・・だが、ここは元の世界ではないのだからそう言う所までパターン化しないでほしい。
「そっちの方が私は、楽しそうだし構わないけどね」
そっちはいいかもしれないが、それをどうこうするのは結局の所自分だ。
そう言うのは出来るだけ避けたいところだ。
183 :
ゼロツカ:2012/05/06(日) 12:48:27.86 ID:+MF1TI7/
だが、今回はどこかの聖魔王が開いた大会の会場でもなければ、自分が勤めている規格外の所ではなく、魔法使いが通う学院ではあるが学校だ。
誤解されたところで大した事はないだろう。
「まあ安心して、私の気分で使わさせてあげるわ」
「なら最初から使わせてくれても・・・だが、一体どんな能力なんだ?」
「簡単な話が、あらゆる武器が使えるようになって、さらに身体能力が上がるって言う能力かしらね」
なるほど、たしかに能力としては強いかもしれない、だが、それでも地味に聞こえるのは自分の感覚がマヒしてしまったのだろうか。
「ま、その代わりと言ったらなんだけど、ご主人様に都合のいい使い魔にさせられるんだけどね」
「それは、なんというか・・・」
たしかに、能力的に言ったら人間が対象だろう。
当然普通の人間が言う事を聞けと言われて、納得するわけがない。
そのための配慮なのだろうが、なんというかそれはとても悲しいつながりに思える。
「でも、ヒデオは私がいるからそんな事にならないから安心して良いわよ」
そう考えると少しはノアレに感謝してもいい気がする。
欲を言うなら、元の世界に帰して欲しいのだが、帰ってもロクな事はなさそうなあたりどうしたものだろうか・・・
そこで、少し前に疑問に思った、ウィル子達の事を聞いてみることにした。
「そう言えば、この世界にウィル子達は呼べるのだろうか?」
「どうかしらね。ウィル子はヒデオが持ってる携帯がある限り呼べはするだろうけど、呼べたとしても何も出来ないでしょうね」
超愉快型極悪ウィルスなんてやっていたが、今では電子の神であるウィル子にとって、この世界では何も出来ないのは当たり前の事である。
ならばエリーゼは?と思うと、それに対してはこう言う。
「エリーゼは、元の世界程でないにしても、かなり戦えると思うわよ?」
それを聞いて安心したが、葉多恵さんとの山籠もりの時に呼んだ時を思い出して、よほどの事が無い限り呼び出さないようにしようと心に決めた。
「ま、こんなものでいいかしら?」
「あぁ、またわからない事が、あったらよろしく、たのむ」
「はいはい、それぐらいならいいわよ」
と言うと、ノアレはどこかへ消えた、と言ってもこちらが何かあったり、呼びかければ出て来てくれるだろう。
そうこうしていると、睡魔に襲われる。
色々初めての経験をし、異世界と言う所に来たせいか、疲れたのだろう。
起きていても、やる事はないので、この睡魔に身を委ねる事にした。
これからどうなるかわからないが、なるようにしかならないだろうと思いつつも、そう考える事しか出来なかった。
184 :
ゼロツカ:2012/05/06(日) 12:51:18.32 ID:+MF1TI7/
今回はこれで終わりです。
書いていて、ヒデオはかなり動かしやすいんですが
話を作るのは難しいですね。
なんとか完結には持っていけるようにします。
次回は気長に待っていただけたら幸いです
投下乙
17時より投下予定
第8話
『騒動』
──ルイズが学院長室に呼び出される前の話。
ルイズはベッドの上で、そわそわと忙しなく窓や部屋の外を覗いていた。
「あー、もう!朝までに戻るって言ったのに!!」
彼女を不機嫌にさせる原因、使い魔のアセルスが戻らない事。
時刻はまもなく、学院長室に呼び出される時間になる。
仕方なく一人で向かおうとすると、ルイズの頬に風が触れる。
部屋の窓は閉めたはずだ、ということは……
「アセルス!遅いわ……よ?」
帰ってきたと思って、振り返ると同時に怒鳴ろうとするが声が途切れる。
アセルスの隣に見知らぬメイド服を着た幼子が立っていた。
理解できない光景に唖然してしまう。
「その子、誰?」
ルイズはきょとんとした表情で尋ねた。
「吸血鬼のエルザ、私の身の回りの世話をさせる為に連れてきたの」
アセルスの放った吸血鬼の一言にルイズは固まった。
──ルイズ達が出て行った後、学院長室へ来訪者が現れる。
扉を叩く音に、茫然としていたオールド・オスマンは声を返す。
メイドだが、働くには明らかに幼すぎる外見。
見覚えのない少女は、アセルスの侍女になったエルザと名乗る。
アセルスの元で働くので、使用人として手続きを済ませて欲しいと願い出た。
「君も妖魔なのかね?」
妖魔なら、ただの人間を連れてくるとは考えにくい。
エルザは正直に吸血鬼だと告白する。
件の使い魔が吸血鬼を侍女として連れてきた。
新たな問題にオールド・オスマンは頭を悩ます。
ミスタ・コ……コッパゲみたいに、ストレスで自分の頭皮が禿げないか心配する程に。
「ええい、何で今年はこんなに厄介事が起きるんじゃ」
自らの使い魔『モートソグニル』に愚痴をこぼす。
鼠に答えが出せるはずもなく、暢気にナッツを齧っていた。
ため息つきながら、オールド・オスマンは書類にペンを走らせる。
エルザが吸血鬼だと表沙汰にしないよう、隠蔽工作を急ぐ。
吸血は食材に仕入れる動物の血で済ませるそうだが、信用できるか疑問が残る。
当初、オールド・オスマンは入学などさせるつもりはなかった。
断れなかった理由は、アセルスに『食料』を提供する必要がある事実。
吸血鬼は自らがアセルスの食料だと告げた時、舞い上がっていた。
身を捧げるのを待ちわびる様子は、まるで狂信者の姿。
実際エルザはアセルスに対して、崇拝に近い感情を抱いている。
欲望のまま人間の血を奪う吸血鬼を陶酔させた妖魔。
改めてオールド・オスマンはアセルスの異常さを感じていた。
エルザを連れてきた当事者、アセルスはルイズと共に首都へと辿り着いていた。
「だから、彼女は『食事』を用意するために連れてきただけ」
ハルゲニアの人間なら誰もが恐れる存在、吸血鬼の主となった妖魔の君アセルス。
彼女はルイズに釈明をしている最中だった。
ルイズはエルザを連れてきた事について、不満を漏らしていた。
乗馬の最中にエルザの存在を思い出し、街に着いてもまだ機嫌は戻らない。
妖力で思うがままに、女性を虜化できるアセルス。
文句を言われるという経験など持ち得ない為、どうしていいか対処に困っている。
「だったら最初に連れてくるって言いなさいよ!」
上級妖魔ともなると勝手気ままな性格が多い。
なぜなら、力を持つ彼らを咎めれる者などいる訳がない。
アセルスも「朝までに食事を済ませる」としかルイズに告げていなかった。
「連れてくるのは見てから決めたから……次からは気をつけるよ」
ありきたりな反省をアセルスが口にしたところで、ひとまずルイズも引き下がった。
吸血鬼相手とはいえ、見た目が幼い女の子なのは幸いだ。
男の外見であれば、部屋に入れるのは抵抗がある。
最もアセルス自身は男性の妖魔であれば、従えずに殺すつもりだったのだが。
ルイズはアセルスの性分を知らない。
「ところで、街へ何をしに?」
ルイズの不機嫌さが幾分解消されたのを確認し、アセルスは話題を変える為に尋ねた。
「とりあえずは本とアセルスの服ね。
流石に今の服ほど上質な物は無理でも、替えがないのは不便でしょ?」
肯定して頷くと、アセルスは欲しい物があったのを思い出す。
「街に武器屋はある?」
「裏路地にあったと思うけど……武器はあるじゃない?」
ルイズが指差したのは、アセルスの腰に下がった赤い剣。
『幻魔』と呼ばれる剣はファシナトゥールでも指折りの職人が作った魔剣。
ルイズは由来までは知らないが、剣が上質な物だと知っている。
そんな剣を持ちながら、武器屋へ行きたい理由が思い当たらない。
「戦うときは剣を二本持っていたから」
金獅子を名乗る、勇ましき妖魔が使っていた名剣。
彼女の持っていた剣は幻魔すらを凌駕し、世界中でも並ぶ物のない切れ味を持つ。
召喚された時、所有していなかったので手持ちの武器は幻魔のみとなっている。
「アセルスが持つ剣より凄いのなんて早々ないわよ?
それでも良ければ服の仕立てを待つ間にでも行きましょ」
「うん」
アセルスが針の城にいた頃には、考えもしなかった平穏な会話。
ルイズにとっても少し前までは誰かと買い物に街へ来るなど考えもしなかった。
二人は日常に充実感を得ながら、街の喧騒へと歩を進めた。
──ルイズ達が街に向かって、しばらく経った後の学院。
自室で読書に耽る一人の青い髪をした少女タバサ。
彼女の悩みは吸血鬼の討伐に関して……だったのだが、解消された。
詳細は分からないが、吸血鬼は退治されたらしい。
殴り書きのような書面から、従姉妹がご立腹なのがよく分かる。
「きゅい!吸血鬼なんて相手にせずに終わってラッキーだったのね!」
拍子抜けしたが、使い魔の言う通り危険を冒さずに済んだのは幸運だろう。
任務の取り消しを受け、虚無の曜日でもある本日は趣味の読書に没頭していた。
一人の乱入者が現れるまでは。
「タバサ!……!!」
名前を呼んだ後、声が聞こえなくなったのはサイレントの魔法を唱えたからである。
親友のキュルケだと気づいたが、一瞥もせず本を読み続けていると肩を揺さぶられた。
「虚無の曜日」
渋々、サイレントを解いて告げる。
「分かってるわ、貴女が虚無の曜日にはいつも趣味の読書に没頭するのは。
でもルイズが街に出かけたみたいで、あの子乗馬上手だから馬で後を追っても追いつけないのよ!」
サイレントの解除と同時にまくしたてるキュルケの用件が分かった。
自分の使い魔であるシルフィードを借りたいのだろう。
彼女がルイズに関して、ここ最近悩んでいたのは知っている。
無下に断るというのは躊躇われた。
自分もルイズの使い魔となった妖魔に尋ねたい事があった。
窓を開けて、自分の使い魔を呼ぶ。
青い幼生の風竜がタバサの部屋の窓へやってきた。
「いつ見ても貴女のシルフィードは惚れ惚れするわねえ」
「馬二頭、食べちゃ駄目」
竜は二人の少女を乗せて街の方角へと飛んでいった。
ルイズ達はまず街の仕立て屋に向かっていた。
アセルスの服等を注文するも、予想以上に金がかかってしまう。
原因はルイズが見栄を張って、可能な限り上質な素材で頼んだ為だ。
余分な自尊心は捨てたつもりの彼女だが、長年染み付いた性格は早々には変わらない。
幸いルイズは小遣いを溜め込んでいたので、まだ半分程度は残っている。
「ここから近いし、昼食の前に武器屋行く?」
武器を見るだけなら時間もかからないだろうと思っての提案。
アセルスもルイズが良ければと、武器屋へ向かった。
武器屋があるのは裏路地の方面。
「この辺は汚いからあまり近寄りたくはないのよね……」
悪臭に顔をしかめるルイズは剣の描かれた看板を見つけると、さっさと店内に入った。
「いらっしゃ──これは貴族様、うちはまっとうな商売してやすぜ」
店に入ると、中年の店主らしき男が慌てた様子で出迎える。
「客よ」
監査だとでも思っているのだろう。
店主に自分達が客だとルイズは伝えた。
「こりゃおったまげた!貴族が剣を!?」
驚く店主にアセルスが鞘ごと剣を見せる。
「同じくらいの剣が欲しいんだけど」
「中身をご覧になってもよろしいですかね?」
ルイズの注文に、店主は確認を求める。
アセルスが頷くのと同時に、剣を鞘から取り出した。
「こいつぁ……」
店主が思わず息を呑む。
武器屋として勤めて長いが、これほどの逸品はお目にかかれなかった。
赤い宝玉のよう見える刀身は、一見脆そうだがしなりも強度も十分。
驚くのはかなり使い込んだ形跡があるにも関わらず、刃こぼれが一つもない。
鞘や柄の模様細工も見事の一言に尽きる。
豪華絢爛な装飾で知られるシュペー卿の剣が店にあるが、この前には足元にも及ばないだろう。
剣は武器としても装飾としても、最上級の代物だと断言できた。
「申し訳ありませんが、これほどの名剣はうちにないですぜ。
頑丈さだけなら取り得のやつがいるんですがね……」
店主が素直に頭を下げる。
これほどの剣を持つなら、相当の審美眼と身分がなければ不可能だろう。
そんな相手に下手な代物を売りつければ、どんな処罰を受けるか容易に想像できた。
『頑丈さだけとは何でえ!』
「デル公!大人しくしてろ!!」
店主が無礼を働かないように、慌てて制止する。
声がしたほうをルイズ達が振り返ると、剣がカタカタと震えていた。
どうやら声の主はこの剣らしい。
「インテリジェンス・ソード?」
「おっしゃる通りで。剣を喋らせるなんて悪趣味な真似、一体どこの誰が始めたんですかねえ。
オンボロの癖に、口と態度だけは一人前でして……」
困惑したように尋ねるルイズに店主が肯定する。
アセルスはこちらでは剣を喋らす手段があるのだと、二人の会話から推察した。
目的は全く掴めないが、酔狂な人物はどこにでもいるのだろう。
『このデルフリンガー様を頑丈だけだの、ボロだの好き勝手言いやがって!』
「事実を言って何が悪い!お前が立派なのは名前だけだろうが!」
『なんだと!』
口論する二人(?)を尻目に、アセルスは剣のほうへと近寄る。
確かに見た目は錆だらけだが、刃の無事を確認する。
武器としての性能を優先させたいアセルスとしては、剣としての機能の方が重要だった。
『……おでれーた。おめー何者だ?』
店主との口論を中断して、デルフリンガーが呟く。
アセルスは質問を無視して、店主の方を振り返る。
「これはそんなに頑丈なの?」
「ええ。見ての通り錆も酷くて、口も悪いですが頑丈さだけは保証しやすぜ」
店主の太鼓判。
それを試すために、アセルスは幻魔を手に取る。
『あのー、もしもし?嫌な予感がするんだが、何をするつもり……』
汗などかかないはずの剣が冷や汗を流す。
アセルスは幻魔でデルフリンガーを折らんばかりの勢いで叩きつける。
『痛ええええええええええ!!!!!』
武器屋に悲鳴が木霊する。
思わず耳を塞いだ店主とルイズを見る事なく、アセルスはまず刃を確認した。
『何だその剣!?絶対普通の剣じゃねーだろ!?マジで折れるかと思ったわ!!』
捲し立てて抗議の声を上げるデルフリンガーに傷はない。
幻魔にも傷はないため、ほぼ同様の強度を持っているのだろう。
「これにしよう」
「だから、やるなら先に言ってよね……」
大声に痛む耳を抑えたまま、ルイズが呻く。
「武器なんか分からないからアセルスに任せるけど、いいの?」
ルイズの質問へアセルスは頷いて返す。
「普段は幻魔しか使わないから、見た目は問題ないかな」
『俺様、二番手かよ!?いろいろ凄い能力ある……気がするのに!』
アセルスの無情な宣告にデルフリンガーが再度、抗議する。
様子を伺っていた店主が売りつけるいい機会だと、デルフリンガーの鞘を持ち出す。
「どうしても五月蝿いときはこうやって鞘にしまえば、おとなしくなりまさあ」
「値段はいくらかしら?」
財布を取り出して尋ねる。
「新金貨で100になりますぜ」
「そんなものなの?」
武器の適正価格などルイズは知らないが、想像より安かった為に呆気にとられる。
「性格も見てくれも悪い剣を買う客なんていないもんで、いい厄介払いでさあ」
愛想笑いでそう伝える店主にルイズは代金を手渡す。
「ありがとう」
「べ、別にお礼なんていいわよ!アセルスが万全じゃないと主人の私も困るんだから!」
お礼を告げたアセルスの笑顔が眩しく、ルイズは赤らめた顔を見られないようそっぽ向いて答えた。
「まいどー、精々達者でなデル公よ」
気の締まらない店主の声を背に、二人は店を出て行った。
裏路地から大通りに戻る時、柄の悪い男が道を塞いでナイフを取り出した。
「お嬢ちゃん達。無事帰りたければ、有り金を置いていきな」
実に分かりやすい強盗の台詞。
アセルスが幻魔を抜くと、男の足元に亀裂が走る。
「はした金欲しさに殺されたい?」
アセルスからすれば、冗談程度の怒気。
男にしてみれば脅威以外の何物でもなく、あわてて逃げ出していった。
「本当に殺すのかと思ったわ……」
迷わず剣を抜いたアセルスに、ほっとして告げるルイズ。
「知り合いが見ている前ではまずいでしょう」
小声でルイズにだけ聞こえるように呟く。
「え!?」
思わずルイズが辺りを探ると、大通りの方から知った顔が二人現れる。
キュルケとタバサであった。
「はぁい♪ルイズ」
「ツェルプストー……なんでここにいるのよ」
暴言の一つも出そうになるが、第三者のタバサもいた為に自重する。
憎まれ口を叩きながらも、ルイズとは長い付き合いであるキュルケは気づく。
ルイズが自分にあからさまな敵意を抱いている事を。
「別に偶然よ、あんたが裏路地なんかにいたところが見えたから危ないと思っただけ」
偶然を装いつつも、いつもよりはほんの微かに素直さを出して答える。
本当はキュルケはルイズが教われそうになった様子を見て、助けようとしたのだ。
最もアセルスがいる以上、必要なくタイミングを逃したが。
タバサは妖魔がいるから大丈夫と踏んでいたが、キュルケが飛び出す形で釣られてしまった。
「お生憎様、あんたに何か心配してもらわないでも十分よ」
ルイズはいつも通り、憎まれ口を叩く。
キュルケはむしろ安堵した、拒絶されるよりは遥かに良い。
キュルケがルイズとの関係で悩んだ末に決心した行動。
今までと変わらず接する事。
例えルイズに拒絶されようと、あくまで今まで通り話かける。
ただし、『ゼロ』と言う彼女を傷つける単語を除いて。
しえんするよー
「で、これからどこ行こうとしてたのよ?」
「教える義理はないでしょう」
お互い憎まれ口を叩く、いつものやり取り。
「当ててあげましょうか?謹慎処分受けたから街で買い溜めにきたんでしょ?」
「なんで謹慎の事、知ってるのよ!?」
ルイズが図星を指摘され、うろたえた。
自分の失態を憎き相手に見られたのではないかという不安に駆られる。
「あんたね、あんだけ派手な騒動やらかせば謹慎処分くらい察しがつくわよ」
「うぐ……」
キュルケの反論に、ルイズは呻くしかない。
考えてみれば、今日は虚無の曜日だ。
学院長室に立ち寄った生徒なんて、自分だけに決まっている。
「しばらく顔を合わせる機会もないし、昼食くらいなら奢ってあげるわよ♪」
「ツェルプストーに奢ってもらうくらいなら、死んだ方がマシよ!」
彼女達にとってはいつものやり取り。
騒がしい二人をアセルスは後ろから見守っていた。
力を誇示してみせたにも関わらず、話かけてくるキュルケ。
彼女はルイズに悪い感情は抱いていないのだろうとアセルスは推測する。
ルイズを見下していた者は、ギーシュと同じ顛末を迎えまいと近寄ろうとすらしないのだから。
「貴女に頼みたい事がある」
唐突な質問に少女の意図が掴めない。
アセルスに声をかけたのは、キュルケが連れてきたタバサだった。
「何?」
「先住魔法について教えて欲しい、特に呪いの類いを」
先住魔法、貴族が使う魔法より遥かに強力な力を持つ。
使用者はエルフが有名ではあるが、妖魔にも使う者はいる。
無論この世界の妖魔ではない、アセルスは使えないのだが……
「私は知らないけど、先住魔法について知っている者ならいるわ」
先住魔法に関して、アセルスはエルザから聞いていた。
タバサが何を企んでいるか分からない為、曖昧な答えを返す。
「心当たりがいるなら協力して欲しい、見返りは必ず」
決意の秘められたタバサの強い表情。
よほどの事情があるのは、アセルスも感づいた。
「……深夜に、広場で待ってる」
アセルスの言葉にタバサが頷く。
二人が前を見ると、まだルイズとキュルケは言い争いを続けていた。
──結局なし崩し的に4人で食事をとり、食後のデザートを注文していた頃。
「ねえ、タバサ」
デザートを待つルイズがタバサに呼びかけた。
タバサはハシバミ草のサラダを大量に頬張りながら、ルイズの方へ顔を向ける。
「貴女、図書館とかで魔法に関する本をよく読んでいたわよね。
後で戦術関連の本を買いたいんだけど、オススメを教えてくれないかしら?」
「分かった」
本屋へは自分も立ち寄りたいので、特に断る理由もない。
「戦術関連?なんでそんなもの買うのよ」
キュルケが口を挟む。
まだ魔法も使えないのに、なぜ戦術書を買うのか?
口にこそ出していないものの、疑問を察したルイズが少し不機嫌になる。
「関係ないでしょ……と言いたいけど、貴女も火のメイジだしついでに聞くわ。
貴女爆発させる魔法は使える?」
「魔法に失敗するかって話?」
質問を把握してないキュルケに悪意はないのだが、ルイズはむきになって反応する。
「違うわよ!火の魔法で爆発を使った戦術があるでしょ!」
「そんなのあった?」
キュルケの返答に呆れながら、ルイズが教えようとするより先にタバサが口を開く。
「火と土を使った魔法。
土を揮発性の油などに変えて引火、蒸発した油分が爆発を起こす。
戦場以外では、大規模な建物の解体作業などでも利用される」
タバサの説明に感心した声を発していると、ルイズが指摘する。
「男漁りばかりしてないで、たまには勉強もしなさいよ」
実技こそトライアングルと優秀なキュルケだが、座学に関しては二人に劣る。
平均程度ではあるのだが、勉学に励んだルイズや本の虫なタバサとは比べようもない。
キュルケは自らの成績に関して気にしていないので、ルイズの罵倒も右から左へ受け流す。
「仕方ないでしょ、貴女達と違って予習するほどマメじゃないもの」
『先月の授業でやった』わよ!」
優等生二人の息の合った反論に、キュルケは押し黙るしかなかった。
──買い物を終えると、街は夕暮れに染まり黄昏を迎える。
ルイズ達も帰りはタバサの風竜に乗って学院に戻ろうとしていた。
道中、キュルケやタバサからは少し離れた位置に座っていたアセルスの隣にルイズが移動する。
「ねえ」
アセルスがルイズの方へ振り返る。
「……怒ってる?」
「何故?」
ルイズの言うような感情などアセルスは持ち合わせていない。
なのに、どうしてそう感じたのか?
「だって、途中からアセルス何も言わないままだもの」
アセルスは納得する。
途中から沈黙していたのを、ルイズは怒っていると誤解したのだ。
「違う、単に羨ましかっただけ」
アセルスは素直に答えた。
「羨ましい?」
「うん、私はもうあんな風に話せる相手がいないから」
アセルスが虚空を見上げる。
はっとしたルイズは思わず顔を伏せてしまう。
「……が、いる……」
かすかな声は風に流され、聞き取れなかった。
「え?」
「私がいるわ」
答え直したルイズの表情は俯いたままだった。
だが、アセルスの心に暖かさを満たすには十分な一言。
「うん、ありがとう」
妹がいたらこんな感じなのだろうか。
そんな事を考えながら、アセルスはルイズの髪を撫でた。
ルイズの頬が、思わず赤くなる。
「人前では止めてよね……」
気恥ずかしさからくる拒否だったが、ルイズも満更でもない。
すると、風竜が大きく旋回するように突然動きを変えた。
「きゃあ!?」
体制を崩して、思わず悲鳴を上げるルイズ。
アセルスはルイズが落ちないようにと身体を抱き寄せた。
「あ、ありがと……」
ルイズの顔が更に赤みを増す。
何があったのかタバサに尋ねようとする前に、キュルケの唖然とした声が聞こえる。
「何よ、あれ!?」
30メイルはあろうという巨大なゴーレムが学院から立ち去っていく姿。
相当な重量にも関わらず、音がないのはサイレントの魔法を使っているからだろう。
「土くれ」
「土くれって……フーケ!?」
タバサの呟きにキュルケが説明を付け加える。
現在トリステインを賑わす噂の一つ、怪盗『土くれのフーケ』。
ゴーレムの大きさと肩に乗る黒いローブは噂の特徴と一致する。
「なんで学院に……あ、宝物庫!?」
ルイズもフーケの噂を聞いていた。
なので、即座に学院の宝を狙ったのだと勘づいた。
「タバサ、追って!捕らえないと!」
「おそらく事後、追っても後手に終わる」
ルイズがタバサに頼むも、即座に否定された。
タバサの予想通り、近づくより早くゴーレムはただの土塊へと姿を変える。
「フーケの顔は見えなかった?」
ルイズの問いに、アセルスは首を振って答える。
「見えたのは人影が途中で飛び降りたのと、手に何か大きい包みを持っていた事くらいかな」
フーケの逃亡に何もできず、悔しがるルイズ。
この時、事件はまだ始まったばかりだと誰も思ってなかった。
今回の投下は以上です。
デルフ入手したはいいけど、あまり使う場面なさそう
乙
アセルスさん乙。ところでこんなメッセージが来ていますwww
コルベール「おいちょっとまてなんでコッパゲって言い直したコルベールでいいだろうが
オー・・・エロジジイ」
乙です
vipのスレで見たけど子供に当て字は忘れたがルイズって名づけてる親がいたな
名前がルイズでブサイクだったらどうするつもりなんだろうな
命名『トンヌラ』
お、ゼロツカきてたか。おつおつ。
ウルトラの代理行きまっす
第八十七話
六千年の溝
大蟻超獣 アリブンタ
友好巨鳥 リドリアス
高原竜 ヒドラ
磁力怪獣 アントラー
海獣 サメクジラ
宇宙海人 バルキー星人
オイル超獣 オイルドリンカー
古代超獣 スフィンクス
さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!
「見えた、アディールだ!」
東方号の艦橋の窓から望む北の空。その地平線のかなたから顔を出してきた白亜の街の姿に、この船に乗り込んできていた
エルフたちの間から快哉があがった。
ヤプールのアディール完全破壊宣言を阻止せんと、ヒドラとリドリアスの力を借りて、限界を超えた速度で北上してきた東方号。
甲板の木材は風圧ではじけ飛び、船体各所は無理な力がかかり続けていたので悲鳴をあげているが、ついに東方号は旅の
最終目的地であるアディールを見れたのだ。
「おれたち、とうとうここまで来たんだな……」
窓越しに大きくなってくるアディールを見ながら、ギーシュたち水精霊騎士隊や銃士隊の面々はつぶやいた。
恐らく、ハルケギニアの歴史が始まって以来、この光景を見るのは自分たちがはじめてに違いない。それにしても、彼らは
誇らしく思いながらも薄ら寒く感じた。あの、大都市という表現すら過少に思える巨大建築物の群れはどうだろう、トリスタニアなど
あれからすれば田舎町もいいところだ。あんなものを砂漠に建設してしまうエルフというのはやはりとてつもない連中だ。
自分たちの先祖が何十回攻め込んでも勝てなかったわけである。
しかしそれにも増して、そんなことも知らずに単にエルフは怖いものとだけしか思ってこなかった自分たちのなんと無知なことか。
人間を蛮人を呼ぶ資格はエルフよりもむしろ自分たち人間にこそふさわしかったと、自嘲の笑みが誰からともなく流れる。
だが、くっきりと空に向かって伸びていく黒い煙の柱は、そこがすでに平和な街ではないことをも色濃く示すものであった。
平時であれば、畏敬と尊敬を持って訪問したに違いない異国の都はいまや戦場と化していたのだ。
「すでに攻撃を受けているわ。間に合わなかったの!」
エレオノールの悲鳴が、まだ記憶に新しいトリスタニアの炎上の光景を思い出させた。ただ一体の超獣によって、数千年
かかって積み上げられてきた伝統と歴史もろとも、より以上に尊い人命を多数失って灰燼に帰したかつてのトリスタニア。
トリステイン人ならば忘れようもない苦い記憶が、天を焦がす黒煙とともにまぶたの裏に鮮明に蘇ってくる。
「超獣です! いち、にい、さん……三匹! 見えるだけで三匹が暴れてます。アディールはもう、火の海ですよ!」
艦橋トップで双眼鏡を覗いていたギムリの、喉の許す限りの声が伝声管から響いてきた。
コルベールたちも、日本製の双眼鏡や、エルフの魔法の望遠鏡を覗きこむ。スフィンクス、サボテンダー、アントラーの
三匹によって破壊されていくアディールの光景が網膜に映り込み、悔しさのあまり目じりが熱くなってくる。
けれども、悲嘆に暮れている余裕はない。破壊活動がまだ行われているということは、まだアディールは完全に破壊されつくしては
いないということだ。やれることはある、コルベールは自分の命令が多くの若者たちを死地に追いやるかもしれない責任の
重さを感じながらも、逃げるわけにはいかないと決断した。
「テュリューク統領、本船はこれよりアディール市民の救助活動を開始します。領空立ち入りの許可を、いただけないでしょうか?」
「ふふ、なにをいまさらという気もするがのう。やれやれ、とするとわしは歴史上はじめて蛮人をアディールに入れた議長と、
名を残すことになるかいな。大多数のエルフたちからしたら、りっぱな反逆者になるかい。ほっほっほほ」
テュリュークは、自分がネフテスの歴史上最大の犯罪者になるかもという選択の間際だというのに楽しそうに笑った。
「よろしい、許可しよう。なあに、議会の許可がどうとかは、わしが首をくくればすむ話じゃわい。はっははは」
「すみません……」
人間社会でいえば、ブリミル教の教義を冒涜するも同然の大罪に違いないのにこの陽気さ。コルベールは、責任を背負うということが
どういうことなのか、にわか船長ながらその重圧を自分では支えきれるのかと、心からすまなく思うのだった。
だが、ヤプールは接近してくる東方号の姿をとうに認めていた。
「フハハハ……やはりやってきたか愚か者どもめ。うまくわしを出し抜いたつもりだろうが、貴様らがなんらかの方法で
数時間内にやってくることは想定のうちだ。フフフ、そんなに死に急ぎたいならば、ここを貴様らの墓場にしてくれる!
見ろ! 世界が地獄に変わっていく姿を!」
その瞬間、アディールの上空に紫色に鈍く光る不気味な雲が現れた。あれはなんだと思う間もなく、雲はアメーバのように
うごめきながら、アディールの空全体を覆うように拡大していく。その光景に、東方号の窓から外を眺めていた才人は
思わず艦橋への伝声管へ向けて叫んでいた。
「コルベール先生、まずいです。ヤプールはアディールを完全に封鎖してしまうつもりだ!」
「なんだって? どういうことだい!」
「おれの世界でもあったんです! 封印されてたヤプールが蘇るとき、街ひとつがああして闇の壁の中に閉じ込められちまったことが」
才人は、まだ中学生だったころにTVニュースで見た光景をそのまま思い出していた。
あれは、ボガールが倒されてしばらく経ったころだったか。神戸港に突如テンペラー星人、ザラブ星人が出現したのに続き、
神戸の街全体が未知のエネルギー障壁に覆われて外界と完全に遮断されてしまったことがあった。
それは、神戸沖にウルトラ兄弟によって封印されていた究極超獣Uキラーザウルスを復活させようともくろむ宇宙人連合が
ウルトラ兄弟をいぶりだすためと、外からのGUYSの妨害を防ぐためのものだった。その強度は高く、ちょうど近海まで来ていた
ガンローダーとガンブースターは神戸に入ることができずに立ち往生を余儀なくされた。しかも、宇宙人連合が全滅した後も
消えなかったことを考えると、障壁の発生には宇宙人連合を影で操っていたヤプールが関与していた可能性も高いのだ。
「ヤプールは、本気でアディールのエルフたちを皆殺しにするつもりだ! 先生急いでくれ、こいつが完全に閉じちまったら
侵入するのは不可能になっちまう!」
闇の障壁はドームのようにアディールを覆いつくしつつあり、どんどん太陽光がさえぎられ、アディール全域が薄暗くなっていく。
これを破るにはウルトラマンタロウやゾフィーのような超パワーが必要になる。ウルトラマンAひとりなら突破はできるだろうが、
そうなれば入ったところで最初からエネルギーをロスした状態で戦い始めなくてはならなくなる。
「了解した! ならば、こんなこともあろうかと思って用意してきた秘密兵器がある。しっかり掴まっていたまえ、飛ばすぞ」
「期待してるぜ先生! ようしルイズ、こっちも中に入ったらすぐにゼロ戦を飛ばすぞ!」
「ちょ、サイト!? 新・東方号からの空中発進はまだ一度も試したことないんでしょ。テストは?」
「そんな暇あるか!」
全速前進、あらん限りの力で東方号は飛び、それを引くヒドラとリドリアスも全力を出す。
そして、コルベールは東方号に装備してきた秘密兵器集のうちから、ひとつのレバーを選ぶと、おもいっきり引き上げた。
「いくぞ、緊急用加速用ヘビくん改良型。その名も燃え上がるヘビくん、みんな覚悟してくれよ!」
聞くからにぶっそうな名前が唱えられると、異議申し立てがおこなわれるよりも早く東方号の船尾から猛烈な火焔が
噴出した。と、同時に十万トンを軽く越える東方号の船体が背中を押されるように加速しはじめたではないか?
「ははっ! 火薬の噴射装置に風石を組み合わせて、燃え方を何倍にもなるように工夫したのだよ。しかし、ちょっと軍の
倉庫から火薬を拝借しすぎたかなぁ? わははーっ!」
「あんた真面目に働いてるように見えてそんなことしてたの!? てか、本当に空中分解するわよぉーっ!」
無茶の二乗であった。宇宙金属で強化されている船体はいいとして、水蒸気機関が取り付けられた翼部分は
ただでさえ過負荷をかけられているというのに、固定化の限界を超えてビスがはじけ飛ぶ。しかし、その代償に
一時的に音速に近い速度を与えられた東方号は、閉じかけていた闇の傘の内側にすべりこむことに成功した。
「やった! 間に合ったようだぞ」
「加速装置を切り離せ! 全速制動、バラバラになってしまうぞ」
全力で減速をかけて、空中分解寸前だった東方号はすんでのところで安定を取り戻した。それと同時に、ヒドラと
リドリアスがくわえて引っ張っていた錨が放されて、東方号は自由になる。
だが、喜ぶのは早すぎる。ヤプールのエネルギー障壁は東方号の背後で完全に閉じてしまい、これでアディールを
中心にした半径数十キロは闇のドームによって完全に外界と遮断されてしまった。もう、勝利する以外にここを出る手段はない。
通常動力に移行した東方号を、不気味な闇が包み込む。ついさっきまで砂漠の熱射にさらされていたというのに、今は
冬の曇り空より冷たい光しか甲板を照らしていない。まるでこの世のものとは思えない光景に、コルベールやエレオノールは
もちろんのこと、テュリュークやビダーシャルも息を呑んだ。
「蛮人の教義にある『地獄』とは、このようなものなのかもしれぬな」
「残念ながら、まだこの世ですよ。しかし、悪魔の所業なのには違いありません……そして、これは全世界の未来の
姿かもしれないのです……」
すでにヤプールはその気になれば全世界を滅ぼせるほどにまで強くなっている。目の前の光景は、それをなによりも強く
証明するものであった。やらないのは、地球のある時空に侵攻するときのために、少しでも多くマイナスエネルギーを
溜めておこうと考えているに過ぎない。
アディール上空に差し掛かってきた東方号を、ヤプールは憎憎しげに見て叫んだ。
「馬鹿なやつらめ、飛んで火にいる夏の虫とは貴様らのことだ。やれぇ!」
空を向いたスフィンクスの火炎熱線と、サボテンダーのトゲミサイルが狙い撃ってくる。東方号はとっさに取り舵をとって
これをかわしたが、ほっとする間もなく、ここがただの地獄ではなく戦場であることを思い知らされた。
「くっ、相手が三匹じゃ分が悪すぎる。レイナールくん、高度を下げて奴らと距離をとるんだ」
「了解!」
「コルベール先生、才人です! おれがゼロ戦で出て奴らの気を引きます。その隙に体勢を立て直してください」
「サイトくん……無茶はするなよ」
「心配なく、おれは死にませんよ」
才人は心配げなコルベールにそう答えると、伝声管から離れてルイズとともにゼロ戦に乗り込んだ。
「ふふ、あんたといっしょにこうして飛ぶのも久しぶりね」
前と同じように才人のひざの上に小柄な体を腰掛けさせて、ルイズは小幸せそうにつぶやいた。けど、才人はそんなルイズに、
やや心ここにあらずといった様子で答えた。
「ああ……そうだな」
「どうしたの? なんか、うかない様子だけど」
「いや、大丈夫だ。それよりルイズ、この戦いが終わったら、お前と一度落ち着いて話してみたいことがあるんだ」
ルイズの答えは聞かず、才人はルイズの頭に特製の飛行帽を押し付けた。そのまま風防を閉じ、魔法で稼動するように
改造してあったエレベーターでゼロ戦を格納庫から飛行甲板に上げると、エンジンを全開にして飛び立った。
「うぉぉっ! やっぱ、空中発進には無理があっかな?」
滑走というより甲板から滑り落ちるような無茶な発進は、ガンダールヴだったころの感覚を残しているはずの才人も
肝を冷やすような感じで、失敬ながら目をつぶって抱きついてくるルイズの感触を味わったまま昇天したいと思ったくらいだった。
だが、体に染み付いた感覚はゼロ戦を落下中に見事に立て直させた。そんな才人のゼロ戦を見届けたように、ヒドラと
リドリアスは翼を翻してスフィンクスとアントラーに向かっていく。
「どうやら、二匹は引き受けてくれるみたいだな。ようし、ならいくぞ、サボテンダー!」
急降下から一転して、戦いの幕は切って落とされた。無人の野を行くがごとく、破壊を思うままにしていた超獣と怪獣に、
怪獣と戦闘機が立ち向かっていく。
空中からヒドラがスフィンクスに体当たりを食らわせた。起き上がってきたスフィンクスはほとんどダメージを受けたようには見えず、
火炎熱線を浴びせかけてくるが、ヒドラも火炎を吐いて空中で相殺してしまう。
争いを好まないリドリアスは、攻撃をおこなうよりも攻撃の盾となってアントラーの前に立ちふさがっていった。ウルトラマンと
正面から渡り合えるだけの怪力と、なによりも頑強で切れ味にすぐれた大アゴが襲い繰るが、それでもリドリアスは逃げ遅れていた
エルフたちの盾となって、強力なアントラーの前に立ちふさがる。
そして、そんなリドリアスの献身は、才人たちにやるべきことを教えてくれた。
「どうせゼロ戦の武装じゃたいしたことはできねんだ。なら、囮にでもなんでもなってやろうじゃねえか! こっちだ、サボテン野郎!」
サボテンダーの眼前をすれ違う瞬間に、ルイズがエクスプロージョンを顔面に浴びせかけてダメージを与えた。むろん、それだけでは
決定打になるはずもないが、逃げ遅れたエルフを舌を伸ばして捕食しようとしていたサボテンダーは照準をゼロ戦に変えて襲ってくる。
「サイト、後ろ後ろ!」
「当たるかよっ!」
サボテンダーの放ってきたトゲミサイルを、才人はゼロ戦を高速旋回させて回避する。ジェット戦闘機を百発百中で撃墜するほど
精度の高いサボテンダーのトゲミサイルが相手でも、ゼロ戦は戦闘機同士の格闘戦・ドッグファイトでは世界最強とうたわれた
身の軽さを活かして避けきった。
「いいぞ、このままこっちだけを狙ってきやがれ」
「単純な奴よね、大きな力を持ってもそれに振り回されてちゃ、力のないものにも勝てなくなる。昔のわたしなら、考えもしなかった
でしょうけどね」
ルイズは、独白の後に「それに、昔のわたしなら、なにを置いても相手に勝つことだけを優先してたでしょうね」と、心中で自嘲した。
時間を稼ぐことしかできないなら、時間を稼げばいい。力を持って、それを振るうことの意味と責任を、今のルイズは心得ている。
その証拠に、逃げ遅れていた市民たちは超獣の魔手から逃れて安全な場所に逃れつつある。もしここで強力なエクスプロージョンを
放ってサボテンダーを怒らせていたら、多くの犠牲者が出ていただろう。
市民たちは、「あれはなんだ?」「また悪魔の新手か?」と、指差していぶかしんでいるが、とにかく命あっての物だねだと
多くの者は逃げていった。それでいい、なにをおいても命より大事なものはないのだから。
しかし、才人たちはこれから自らの決意の固さを試されることになるのを知らない。ここはエルフの国ネフテスの首都、本来であれば
人間世界にとって永劫の敵地であったはずの場所なのだから。
市街地で才人たちが超獣を食い止めているのと時を同じくして、東方号はアディールの反対側へと回り込んでいた。
そちら側はバルキー星人に率いられたサメクジラとオイルドリンカーが暴れていたが、接近してくる東方号に気がつくと、
バルキー星人は水軍にとどめを刺すのを中止して、東方号に向かってバルキービームを放ってきた。速射されるビームが、
外しようもないほどの東方号の巨体に命中し、連続する爆発が床を揺さぶる。
「艦橋! 左翼に被弾。水蒸気機関停止、速度が落ちます! わぁっ!」
機関室から飛び込んできた報告は、東方号の船としての命運が尽きつつあることを示していた。コルベールは、機関室で
消火に当たっているであろう水精霊騎士隊や銃士隊に避難するように命じると、必死に蛇輪を回していたレイナールに指示した。
「もうこれ以上の回避は不可能だ。レイナールくん、着水だ」
「しかし先生、海にも敵がっ! うわっ、またこっちを狙ってる」
「かまわない、もう水蒸気機関も限界なんだ。東方号ごとぶっつけてやれ!」
「先生……ええい、もうどうにでもなれぇーっ!」
開き直ったレイナールは、最後の舵をバルキー星人に向けた。炎と煙を翼から吐き出しながら、墜落にも似た降下速度で
バルキー星人に突進する。星人はこっちにくるなと手のひらを向けて慌てるが、今さら避けることなど不可能だ。覚悟を決めた
東方号の決死の体当たりが炸裂し、轟音とともに東方号は星人と正面から激突した。
「ぬわぁーっ!」
激突のショックで、東方号の全員が床からはじき出されて壁や天井に叩きつけられた。むろん、ぶつけられたバルキー星人も
十四万トンの鉄塊に激突されて無事ですむはずがなく、象の突進に立ち向かったライオンのように数百メートルもの距離を
吹き飛ばされて海中に沈んでいった。
「着水だっ!」
コルベールが、眼前に広がる青い海原をさして叫んだ。口内に広がる鉄の味はそのまずさで生きているという実感を彼らに
取り戻させてくれる。艦首をひしゃげさせながらも、東方号は海上に滑り込んだ。
「着水……か、完了」
船が止まると同時に、緊張の糸が切れたようにレイナールは蛇輪にすがりつくようにして床にへたり込んだ。彼の眼鏡には
額から垂れてきた汗が乾いて白い筋がいくつもついている。それだけ、神経をすり減らす操舵だったのだろう。
しかし、本番はこれから。悪いが、休んでいる時間などはない。
海上に飛び込んだ東方号を、イルカや水竜にまたがったエルフたちは呆然とした目で見上げていた。彼らは全員、頭まで
ずぶぬれになって顔をぬぐったりしていた。東方号が着水するときの大波によるもので、昔戦艦武蔵が進水したときも、
そのあまりの巨体によって港の水位が急上昇して、多くの家屋が浸水被害を受けてしまったという記録が残っている。
この船はいったいなんなんだ……? ネフテスの旗をマストに掲げているが、その下の旗は見覚えがない。
東方号を見上げるエルフたちは、その島のような巨体に、バルキー星人の手から逃れられたことも一瞬忘れて見入ってしまった。
けれども、バルキー星人を跳ね飛ばして沈めたとはいえ、まだこの海には怪獣と超獣が二体もいるのだ。鯨竜艦を
血祭りにあげたときのように、サメクジラが沖合いから迫ってくる。
「右舷、海中から怪獣が来ます!」
見張りのギムリの声が響いた。見ると、海面のすぐ下を巨大な航跡を作りながら、ものすごいスピードで怪獣が迫ってくる。
危ない! いくら東方号の元が戦艦大和だとはいえ、艦底部の装甲はそんなに厚くないのである。かといって、東方号には
武装はなく、相手が海中では魔法の効力も薄い。
「だが! 多分こんなこともあろうかと!」
発明品を連続で使う機会に恵まれて、無駄に調子に乗っているコルベールが別のレバーを引き上げた。
東方号装備の、コルベールの秘密兵器その二が発動する。東方号の舷側にブイのように数珠繋ぎにワイヤーで
貼り付けられていた、直径一メートルほどの無数の楕円形のカプセルが割れて中から黄色い液体が漏れ出してきた。
その液体は舷側を伝って海に流れ出し、東方号の周囲は黄色いペンキを流したように原色に染まる。
「ミスタ・コルベール、今度はなんなの?」
「しっ、黙って見ていたまえ」
いぷかしむエレオノールにそう言うと、コルベールは黄色く染まった海面を見つめた。
なんなんだ、あの液体は? あんなもので怪獣を止められるというのか? 息を呑んで突進してくるサメクジラを見る
エレオノールやビダーシャルは、激突も覚悟して足を踏ん張った。
ところが、東方号まで一直線に進んでいたサメクジラは、突然方向を転換すると嫌がるように逃げ出してしまったではないか。
「ええっ!? 怪獣が、逃げた。あの黄色い液体のせい?」
「貴様、まさか、毒を流したのではあるまいな?」
「いいえ、あれはトリステインの海岸部に自生している植物の実から抽出したエキスです。毒性はありませんが、海水と
混ざると強い刺激臭を発するので海生動物は嫌がるんです。沿岸の漁民のあいだでは、これを使ってサメや海獣から
身を守る習慣があることを思い出して、用意していたのが役に立ちました」
そんなものが……艦橋にいた者たちはコルベールの先見の明さえ超えたなにかに驚嘆さえ覚えた。一応、本来ならば
これは溺者の救助中にサメが寄ってくるのを防ぐために装備されたそうだが、地球においても一部の島の原住民のあいだでは、
これと同じような絞り汁を海に撒くことによって航海の安全を守る習慣があるそうだ。
サメクジラは黄色い汁がよほど苦手なようで、潜ってしまったまま顔を出さない。しかし、オイルドリンカーは別で、
海面をざぶざぶと掻き分けながら東方号に迫ってくる。東方号に残っていた重油の匂いに誘われているのか? だが、
何回もコルベールの発明に助けられてばかりはいられないと、今度は甲板にギーシュたち水精霊騎士隊と銃士隊が集結した。
「よいか諸君、あの一ヶ月の地獄の特訓は今日この日のためにあった。ぼくら水精霊騎士団の武勇、地の果てまで
とどろかすチャンスであるぞ!」
「戦いのときに無駄口をきいていると死ぬぞ。半人前は仕事をこなすことだけを考えろ」
ギーシュとミシェル、アマチュアとプロの温度差の激しい会話は、むろん超獣にはなんらの効果ももたらさない。
常識的に考えて、ただの剣士と半人前のメイジがいくら頭数をそろえたところで超獣に太刀打ちできる見込みは少ない。
けれども、彼らもこれまでの経験から生身で怪獣と戦わねばならないようなときが来ることは予測していた。そのために、
彼らは知恵を絞りあって、自分たちの力でできることを考えて、そのための特訓も積んできた。
「さて、準備はいいか? チャンスは一度、外すなよボンクラども」
「ちぇっ、かわいい教え子にもう少し優しい言葉はないものですかね。ま、どうせ実力で見返せというのでしょ? じゃあやりますか、
人間の力ってやつを見せるためにね!」
意を決したギーシュは、友と共に甲板に上げてきた太い鎖を『レビテーション』で持ち上げた。これは元々大和のクレーンに
使われていたもので、水観を吊り下げる目的で作られているから強度は十分、さらに固定化もかけてある。先端は鋭い
カギ爪になっており、これを彼らは全力の魔法でオイルドリンカーに向かって投げつけた。
「当たれっ!」
飛ばされた鎖はオイルドリンカーの首に当たった。もちろん、超獣の強固な皮膚にはじかれて傷ひとつつけられなかったものの、
それは最初から計算済み。代わりにカギ爪がひっかかって、ふた巻きほどして絡みついた。
「やった!」
「上等、さあ次だ」
短く褒めて、ミシェルは待機していた少年たちに合図した。風のラインメイジが、渾身の力を込めて電撃呪文を鎖に叩き込む。
電撃を飛ばす『ライトニングクラウド』は高位のメイジにしか使いこなせないが、単に電撃を発生させるだけなら彼らの技量でも
可能で、伝導体があれば電撃は空中を飛ばすより確実に敵に伝わる!
鎖を伝わってきた電撃を食らって、オイルドリンカーは感電して悲鳴をあげた。
「どうだっ! おれたちのしびれるようなパワーを受けた感想は!」
「油断するな、火炎が来るぞっ! 銃士隊、撃て!」
電撃だけでは怒らせるだけだ。そのくらいはわかっている、かといって銃士隊の軽微な火器ではかすり傷もつかない。
ただの弾丸であればだ……今、彼女たちの持っている火器はマスケット銃ではなく、ロープを利用した原始的な投石器で、
そこから先ほど東方号の舷側から撒かれたものと同じカプセルがオイルドリンカーの顔に向かって投げつけられた。それらは
半分は外れて海に落ちたが、残り半分は当たって割れたカプセルから強烈な刺激の液体が顔面にぶちまけられ、しかも
いくつかは目や口に入ったらしく、視覚を奪われ、口内に強い打撃を受けてオイルドリンカーは東方号を襲うどころではなく苦しんだ。
「ふん、やはり薬は飲むのが一番効くようだな」
「野蛮人の素朴な発想に恐れ入ったか! 人間の知恵をなめるなよ」
怪獣を相手に真っ向から力でぶつかっては勝てなくとも、知恵をしぼって勇気を出せば道を開けることを彼らは知っていた。
地球でも、ウルトラマンをものともしない超強豪怪獣を人間が撃破したり、撃破するきっかけになった例は数多く記録されている。
電撃と目潰しと口封じ、ダメージとしては大きくなくとも戦意を失わせるにはこれで十分だった。鎖が外れると、オイルドリンカーは
その反動で海に倒れこんで、暴れながら逃げていく。あの様子であれば、しばらくは大丈夫であろう。
一時的にとはいえ、星人と怪獣超獣を撃退して、海は平和を取り戻した。
「だが、またいつ出てくるか……けれどチャンスは今しかない」
コルベールはアディールの方角を見てつぶやいた。アントラー、サボテンダー、スフィンクスの暴れまわる陸上はすでに炎が
広く回っていて、とても逃げ戻れるようなところではない。大同小異の危険度だが、今ネフテスの市民たちを安全に避難させられる
場所は、この東方号しかない。
艦外への放送用に用意されたマイクが取り出される。もちろん、これも電気ではなく魔法で使えるように改造されているが、
スピーカーから発生する音量はオリジナルと大差ない。マイクを手渡され、テュリュークは彼が保護しなければならない多くの
市民たちに向かって呼びかけた。
「ネフテス市民の諸君、私は最高評議会議長のテュリュークじゃ。驚かれていることと思うが説明している暇はない。そのまま海に
い続けるのは危険だ。この船に避難したまえ」
常に表している飄々とした雰囲気からは想像できないような、はっきりとした力強い声がスピーカーから海上に響き渡った。
海上を漂っていたエルフたちは、テュリュークの声に救いの神がやってきたように感じて、次々に東方号から下ろされた
タラップやはしごなどに群がってくる。
しかし、彼らはこれが人間の乗ってきた船だと知るや態度を豹変させた。甲板で出迎えた水精霊騎士隊や銃士隊を見て、
彼らは口々に叫んだのだ。
「シャイターン!?」
水精霊騎士隊や銃士隊はエルフ語をまだ詳しく理解できないので、聞き取れたらしい言葉はそれだけだったが、彼らの態度や
表情がすべてを語っていた。おおむね、こちらを指差したり後ずさったり、表情も困惑や怒りが大きく前面に出ている。
ギーシュたちは、覚悟していたつもりであったが、こうして目の当たりにすると嫌がうえでも思い知らされた。彼らの中には
危険だとわかっているのに海に引き返していったり、中には短剣を抜いてあからさまな敵意を向けてくる者もいる。
「蛮人」「悪魔だ」「殺してしまえ」
少しずつ、聞き取れた単語の中に、どう考えても友好的でないものが混ざっているのがわかってきた。どうやら、彼らは
人間すなわち『蛮人』を『悪魔』と同一視しているらしい。
冷や汗が湧いた。ギーシュたちも、もう何度も生きるか死ぬかの経験をしてきたことにより、エルフたちの敵意が本気だと
悟ってしまう。正直、ルクシャナやビダーシャルを相手にして、気が緩んでいた。こちらは何もしていないのに、この殺気の
強さはどうか?
これが、エルフが人間を見る目……ほんの少し前まで、自分たちがエルフを見ていた目の裏返し。
甲板の狭い空間を挟んで、人間とエルフは睨みあう。それはそのまま、ハルケギニアとネフテスの縮図そのものだった。
「助けに来ました」
わずかに記憶しているエルフの言葉でそう言いたいが、喉が凍って言葉が出てこない。相手の言葉はわからなくとも、
唾を吐き捨てがなりたてる姿から、ひどい罵声を浴びせられていることはわかる。
そしてついに、何人かのエルフがギーシュたちに向かって攻撃の魔法を使おうとしてきた。
「な、なにをするんだ?」
「よせっ! 手を出すな」
とっさに魔法を打ち返そうとしたギーシュたちをミシェルが制した。ここで火蓋を切ってしまっては絶対に取り返しが
つかなくなってしまう。それはすなわち、ネフテスとハルケギニアをはじめとして全世界の滅亡に直結するのだ。例え
殺されたとしても、戦うわけにはいかない。
(サイト……)
心の中でミシェルは名を呼んで祈った。左手は胸元をつかみ、その下には彼から贈られた銀のロケットが守っている。
人間の系統魔法よりもはるかに強力なエルフの魔法を受けたら、人間などはひとたまりもない。そのとき、ビダーシャルが
現れて彼らを一喝しなければ、水精霊騎士隊と銃士隊は全滅していたかもしれない。
「待て! お前たち」
両者のあいだに割って入ったビダーシャルとエルフの騎士団に、いきり立っていたアディールの市民たちは意表を突かれた。
評議会議員であるビダーシャルの顔は、一般の市民たちでも知っている者は多く、彼らは魔法を解いて彼に質問を浴びせかけた。
「議員殿! これはどういうことなのですか? なぜ蛮人の乗った船がアディールに? わけがわかりません、説明してください!」
「すまないが、詳しく説明している時間的余裕はない。しかし、彼らは敵ではないことは私が保証する。詳しいことは後だ、
この船ならばアディールの市民全員を収容する容量がある。乗れ!」
有無を言わせないビダーシャルの命令に、市民たちは戸惑いながらもうなづいた。戦艦大和の基本乗員数は五千人以上であり、
武蔵と信濃が合体して超巨大航空戦艦となった今であるならば、乗せるだけならば万単位の動員にも耐えられる。重量は
いくらかさばろうとも重力制御機構を使えば問題はない。
だが、市民たちがしぶしぶながら従って乗り込もうとしたとき、生き残っていた鯨竜艦から大音量で声が響いた。
「待たれよ、アディールの同志市民諸君! 悪魔の甘言に乗ってはならない」
「ちっ! エスマーイルか」
ビダーシャルは口元にわずかな歪みを作って、この世界の中でも一二を争うほど嫌っている男の名を吐き捨てた。
恐らく、特殊な集音装置か口元の動きから読唇術を使って会話を盗み聞きしていたのだろう。しかし、よりにもよってこんなときに。
「ビダーシャル殿、これはどういうことかな? よりにもよって蛮人をこのアディールに迎え入れるなど、ネフテスに対する
重大な反逆行為であるでしょう?」
「貴方に説明している暇はない。簡潔に述べれば、彼らは蛮人の国家からの友好の使者である。私たちは礼に従い、
賓客として彼らを迎え入れただけのこと」
「友好の!? それは驚きだ、幾千年にも渡ってサハラを侵略し続けてきた蛮人どもが友好とは笑止のきわみですな。
そうか、少し前に報告がありましたが、空軍の包囲を振り切ってサハラに侵入した蛮人の巨大船とはそれのことですな。
市民の皆さん、甘言に乗ってはなりませんぞ! 蛮人の船になど乗せられてはどこに連れて行かれるか。蛮人世界で
奴隷として売りさばかれるかもしれませんぞ」
市民たちのあいだに動揺が走った。ビダーシャルは奥歯を強くこすれさせて、愚かな男の名を口内でつぶやいた。
馬鹿者め、お前はこの期に及んでも状況が見えていないのか? 三体の星人と怪獣超獣は倒したわけではない、
奇策を使って一時的に撃退しただけだ。またいつ襲われるか、今度襲われたときに撃退できるかはわからない。
にも関わらず、市民たちを危険な洋上に残しておけというのか。
「市民の皆さん、砂漠の民の誇りを失ってはなりませんぞ。シャイターンをあおぐ蛮人どもは永遠の敵、それと組する者は
すべてネフテスへの反逆者となりましょう!」
いいや、お前はこれを機会と見て、目障りな私と統領閣下を蛮人と手を組んだ裏切り者として処分するつもりなのか。
馬鹿が……ビダーシャルは何度目かになるかわからない罵倒を心中でぶつけた。今この場で滅亡に瀕している国の
権力の座を争うことに、何の価値があるのか。
それとも、お前は蛮人に助けられるくらいならば、アディールの同胞全員を道連れにするつもりなのか? 美々しき
滅亡の美学のために、女子供まで深海に沈めて毒酒に酔うつもりなのか? 名誉ある鉄血団結党の党首どのよ?
さらに、エルフの敵意は怪獣超獣に続いて、彼らのために戦おうとしている者たちに立ちはだかっていた。
サボテンダーを相手に足止めを続けている才人のゼロ戦を、生き残っていたエルフの竜騎兵たちが狙い撃ってくる。
「くそっ、やめろよ! おれたちは敵じゃねえ」
「ビダーシャルから聞いた、『我交戦の意思なし』の信号は出してるっていうのに。こいつら、見えてないの!」
そうではない、見えていて無視しているのだと才人とルイズは理解していた。エルフに、特に軍人には染みこんだ
人間への敵意がゼロ戦も怪獣と同じに見せているのだ。
これでは、かえって戦場を混乱させているだけだ。確かに、こんなところに突然人間がおかしな機械に乗って現れたら、
それは驚くだろうが、こちらが超獣を攻撃していることは見えるはずだ。彼らも完全に頭に血が上ってしまっている。
一時はゼロ戦に気をとられたサボテンダーも、こちらが同士討ちをしだしたのを見て体勢を立て直してきた。
「サイト! 危ない」
ルイズがとっさに操縦桿に体をかけて倒した。急降下にうつったゼロ戦のいた場所をトゲミサイルが突き抜けていく。
ルイズが反応してくれなかったら、ふたりとも座席ごと串刺しになっていただろう。
「サ、サンキュールイズ」
「バカ! 油断するんじゃないわよ。あっ! しまった!」
一瞬、才人に気をとられた瞬間、ルイズの目に真上から迫ってくる竜騎兵が見えた。炎の弾がまっすぐにコクピットに
向かって飛んでくる。
「畜生!」
才人は出来る限りの回避運動をとった。ゼロ戦の運動性能はそれに応え、機体はねじ切れるように旋回する。しかし、
至近距離から放たれた火球は完全にかわしようがなく、コクピットは免れたものの機体後尾に命中を許してしまった。
「きゃあっ! サイト!」
「にゃろうっ! 尾翼をやられたっ!」
ゼロ戦の欠点は、その運動性能と引き換えに機体強度が脆弱に過ぎるという点だ。いわば、鷹の爪を持ったツバメとでも
いうべきアンバランスさであるが、攻撃力と引き換えに背負った防御力の低さの代償は、墜落こそ逃れたがゼロ戦から
右の尾翼を奪い取ってしまった。もう、機動性は望むべくもない。
「サイト、また来るわよ!」
「くそっ、逃げるしかねえか。舌をかむなよ!」
追いすがってくる竜騎兵とトゲミサイルを飛ばしてくるサボテンダーから逃れるには退却するしかなかった。急降下をかけては
ダメージを受けたゼロ戦では風圧だけでバラバラになってしまう。軟降下で機体をなだめつつ、ゼロ戦はたまたま向いていた
方向を目指して煙を吐きつつ飛んでいく。
「追ってはこねえか、超獣のほうが問題だろうけど、できれば追ってきてくれたほうがよかった」
「そうすれば、とりあえずあの人は超獣から逃がせたっていうのね。確かにそうだけど、あんたはもう少し自分を大切にしなさいよ……
あら? あれは、学校かしら」
ふと、ルイズの視界に魔法学院と似たような施設が映った。ここらはまだ被害を受けていないようで、きれいなままの建物が
いくつも並んでこちらを見上げているエルフの姿も見える。どうやら、避難所として使われているらしく、校庭には子供のエルフが
大勢集められているのが見て取れた。
だが、近づくにつれてそこが尋常な雰囲気ではないことが見えてきた。
「なに? エルフたちが逃げ回って……なっ! なにあれは」
「蟻地獄!? まさか、あれは!」
才人は愕然として叫んだ。校庭に、直径十数メートルはあろうかという蟻地獄が渦を巻き、生徒たちを引きづり込もうとしていた。
エルフの子たちの何人かは飛んで逃げ出しているようだが、エルフといえど子供ではまだ魔法が不得手な者も多く、崩れる砂の
勢いのままに飲まれていく。
そしてその底には、鋭い牙をむき出しにして獲物を待ち受ける巨大な蟻がいる。
危ないっ! 才人とルイズは迷わず風防を開き、蟻地獄を目指して飛び降りた。
「ウルトラ・ターッチ!」
ふたりのリングが輝き重なり、ふたつの命がひとつの光に昇華する。
虹の光芒の中から現れ出でる、銀の光の戦士。
蟻地獄は柔らかい砂を蜘蛛の糸のように張り巡らし、落ちた獲物を深淵の底へと飲み込んでいく。突然、校庭に開いた蟻地獄は
そこにいた子供たちのうちから少女たちのみを飲み込んだ。
「きゃあぁぁーっ、助けてぇーっ!」
年の頃が十にも達しないようなエルフの少女が、砂の地獄の底へと落ちていっていた。もがけどもがけど無駄で、飛ぶ魔法を
まだ習得していない最下級生の彼女たちには蟻地獄から脱出するすべはなく、奈落の底で待つ化け物は鋭い牙を振りかざして
待っている。
底に沈めばどうなるか? そんなことは考えるまでもない。あの牙で生きたまま腹を破られ、体を食いちぎられて、血の一滴までも
吸い尽くされてしまうだろう。
「いゃあぁぁーっ! 誰かーっ!」
手を伸ばせど地上はすでに遠く、助けの魔法ももはや届かない。死にたくないと涙を流し、声の限りに叫んでも光は遠ざかる。
だがそのとき、天から飛び込んできた銀色の輝きが彼女たちを掬い出し、地上に立ち上がると校庭で待つ仲間たちの下に
手のひらを開いて降ろした。
見上げた先で彼女たちを見下ろす銀の巨人、ウルトラマンA。そして、その後ろで立ち上る砂煙の中から地上に飛び出てくる、
エサを奪われて怒る巨大な大蟻超獣アリブンタ。
「ヘヤァッ!」
振り返り、超獣に対してかまえをとるエース。対して、アリブンタも強靭なあごと鋭いハサミになった腕を振りかざす。
そんな両者を見て、助けられたエルフの少女は喉も裂けんと声を張り上げた。
「いゃぁーっ! バケモノが、また”二匹”ぃーっ!」
エースの肩がびくりと震えた。突進してくるアリブンタを迎え撃つエースの後ろで、エルフの子供たちは恐怖におびえながら逃げていく。
「わぁあーっ! 逃げろ、バケモノたちに殺されるーっ!」
「なんでわたしたちの街にあんなバケモノが出るのよ。もう出てってよぉーっ!」
バケモノ、バケモノとエルフたちはエースの背に叫びかける。その声に、才人とルイズは胸に刺すような痛みを覚えていた。
なぜ、どうしてあんなことを言われねばならない。おれたちは、ただみんな仲良くなれればいいと、それだけが望みで助けにきたというのに。
だが、そんなふたりにエース……北斗は静かに呼びかけた。
〔ふたりとも、心を乱すな。俺たちがここで退けば、彼らを超獣の前に無防備でさらすことになる〕
〔エース、でも!〕
〔善意が受け入れられないこともある。必死の呼びかけが、相手にとってはわずらわしいだけのこともある……けれど、
人の心に心を伝えるには、そんなことは当たり前なんだ。怒ってはいけない、力づくで心の中に立ち入っていこうとすれば、
そこには必ず歪みと憎しみを生む……彼らはまだ、知らないだけなんだ〕
エースは語る。差し伸べた手を払われようと、かけた言葉を罵倒で返されようと、ほんとうにその人のことを思っているのならば
あきらめてはいけないのだと。たとえそれが、何十回、何百回繰り返されることになろうとも……
そして、人間とエルフの対立の中の渦中にある東方号でも、ひとりの少女が自らの中に流れるふたつの血の種族のために
勇気を振り絞ろうとしていた。
「わたしにできること……おかあさん、わたし……がんばってみるよ」
ティファニアの手の中で、青い輝石が彼女を勇気付けるように、静かに優しく瞬いていた。
続く
今週はここまでです。
GWもあっというまに終わりですね。その一端として、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
さて、今回の超獣はアリブンタ、偶然ですがこのあいだのウルトラマン列伝で放映されたのと同じでした。いやあ、こいつは
ブロッケンやバキシムなどと同じく小さい頃のトラウマメーカーでしたんですけど、現在放送分ではしっかりカットされてました。
これも時代の流れですか。
原作では東方号がアディールに到着して、それで続くとなっているので、ここからは完全に私のオリジナルとなりますが、
原作への敬意を保ちつつ、ウルトラシリーズの味を加えていこうと思います。
それから、来週はすみませんがお休みします。GW期間中に思うように時間がとれなかったのと、ある程度は察していただけると
うれしいのですが、作中の内容のおかげで予想を大幅に下回ったせいです。
実際、スランプとはこういうことを言うのかもしれませんね。書いてるうちでは、今が山なのでこれを越えたらスピードも上がると
思いますが、質だけは落とさないように気をつけようと思います。
ここまで、代理終了
ウルトラ乙
いやむしろよく書き続けられるものかと
代理も乙
ウルトラマンが拒絶される展開か
海賊船弁天丸が不時着
ウルトラの人&代理の人乙
ウルトラマンが拒絶されるというとメビウスのババルウ星人回を思い出す
ネクサスなんて弧門しか味方いなかったし
『IにしてMの使い魔』というのが浮かんだ。
他国の女公爵(公爵令嬢のルイズより偉い)を召喚してしまった。
しかし、一緒に来た家臣の一人がエルフでさあびっくり。
とっさに魔法を使おうとしたところ、亜人の跨っていた竜が上の人をコルベールに投げつけた!
巨大な銃を担いだ兵士も飛び上がり、上空から連射して生徒達を吹っ飛ばす……
一方エルフは高見先生と相談中。
そもそも突然現れたヒーローを味方と思えってのがその手の番組の矛盾なんだよな
ライダーは世間公認みたいなかたちで戦ってたのもいるけどと、Jrライダー隊にあこがれた俺が言う
ゆえにヒーローって本来孤独なわけで
「そんなケチなコト言わないの!
人知れずあらわれ、事件を解決去っていく。
コレが正義の使者ってモンじゃない?」
みたいな
悪の組織と対決するヒーローそれ自身も銃刀法とか道交法その他的に警察に追われる存在だったりするよな
バットマンやロールシャッハにパニッシャーとかか
ライダー1号も最初は自分の異形を嫌って一人で戦ってたな
で、それがゼロ魔にどんな関係が?
ワの人がヒーローだってことだよ
おこがましいってレベルじゃねーぞ
蟹が仮面ライダー名乗るくらい失礼
第62代北斗神拳伝承者召喚とかどうだろうか・・・・?
ケンシロウと違って人間臭いし、色々からめやすそうではあるけど
ボルキャンサーが仮面ライダーを名乗るのはおかしいが
シザースが仮面ライダーを名乗るのはなにもおかしくはない
ゼロ魔原作でここからワルド大活躍でヒーロー化するかもしれないじゃないか
才人やルイズ達をかっこよく助け母の悲願達成しおマチさんに捨てられ教皇を出し抜きエルフを倒しで
おマチさんに捨てられるのが活躍なのかwww
もうワルドが復権するには「地獄で会おうぜ、ベイビー」とか言って自爆するくらいしかないと思う。
正直ネタキャラ化しすぎ、ありゃもうライバルじゃなくて芸人だ。
>>242 ギルガメッシュルートか
自爆するも相手は無傷という汚名挽回しそうだけど
こんばんわ。予約がなければ22:21頃から投下を始めますがよろしいですか?
>>244 "Let's Dance Baby !!"
Mission 26 <迷える蒼き馬> 前編
気がつけば見知らぬ場所に立っていた。
そこは遥か昔に駆け回った風景とよく似ていた。緑豊かな大地、彼方に霞んで見える山々……。
何より千五百年ぶりに目にする蒼穹の空が懐かしかった。あれからずっと地の底に封じられた塔の中にいたのだから。
かつては多くの英雄達を乗せて戦場を駆け抜けてきた戦場やいつの間にか迷い込んだ魔界などとは違う清々しい空気だった。
肉が焼け焦げる匂いも、咽返りそうな血の匂いもしない。幼き日はこのようなのどかな場所を人間達の世話を受けながら育てられた。
だが、今の己にとってはこのような平和など退屈でしかたがない。
一度味わってしまった血みどろの戦場での空気、熾烈極まる過酷な戦いの日々。
そして、新たな故郷となった魔界の瘴気。それがここにはない。
己が求めるのは、修羅の一刻。戦いの場、力ある強者のみである。
だからこそ、己の力とこの足で探し求めるのだ。
――ヒヒィーンッ!!
精悍な巨体と前足を持ち上げ、一頭の巨馬は力強く嘶いた。
頭上に広がる蒼穹の空よりも蒼い炎を身に纏い、己の巨体に匹敵する馬車を引き、誇り高き勇猛な妖蒼馬≠ヘ駆け出した。
己をも超えん、強者を求めて。
魔法学院において、その日の正午はいつになく盛り上がっていた。
正門前から本塔まで続く広場には多くの生徒達が集まっており、これから始まる余興に皆、期待を高まらせている。
生徒達が見守る中、二人の男女は互いに10メイルほど距離を取ったまま向かい合っていた。
その一人、ギーシュ・ド・グラモンは造花の杖から落とした花びらをいつのものように剣に変え、握り締めた。
相対するタバサは愛用の節くれだった杖を手にして静かに棒立ちで佇んでいる。
一年前、この学院に入学した際にも彼女はとある事情により決闘を挑まれたことがあったが、その時は決闘相手だった生徒をほとんど無視するような態度で軽くあしらってやった。
だが、今は違う。相変わらずの無表情ではあるが、視線はその時とは違いしっかりとギーシュを視界に捉えて見つめている。
ギーシュはスパーダに鍛えられたおかげで、相当に剣の腕を上げている。自分と二人がかりだったとはいえ、彼はワルドにある程度善戦したのだ。
タバサとしては自身の力を更に高めるにあたってはギーシュは練習相手として不足はないだろうと判断していた。だからこそ、彼との手合わせを了承したのである。
本来、貴族同士の決闘は禁止されているのだがこれは別に本気の決闘ではない。あくまでもお互いの力試しのようなものだ。
教師達に咎められた際、ギーシュがそのように告げることでこうして手合わせが実現したのである。
二人はちらりと、本塔の入り口の方を見やった。
観戦する生徒達に混じってルイズやキュルケの他、スパーダも腕を組みながらじっと二人を見つめていた。
「では、始めようか。タバサ」
ギーシュが剣を斜に構えると、こくりと頷いたタバサも己の杖を構えて臨戦態勢を取る。
「またあの時の顔になってるわねぇ」
キュルケが面白そうにギーシュの顔を見てにやにやと笑みを浮かべていた。
今もまた、ワルドとの戦いの時に見せた戦士としての表情へと変化しているのである。さっきまでスパーダに立会いを頼んでいた時が嘘みたいだ。
「でもモンモランシー、あまり嬉しそうじゃなさそうね」
ルイズはちらっと離れた所にいるモンモラシーを見やるが、彼女はギーシュの表情を見て見惚れるどころか口を手で覆い、顔は真っ青になっていた。
どうやらショックを受けている様子のモンモランシーだが、何故あのようにまで愕然としているのか。
「さぁて、どっちが勝つのかしら? 見ものだわ」
キュルケは無二の親友のタバサが勝つと信じていた。スパーダに剣術を叩き込まれたとはいえタバサだってトライアングルクラスの風メイジであり、
しかもシュヴァリエの称号を授かっているほどの実力の持ち主なのだ。そう簡単に負けるはずもない。
「ねぇ、スパーダ。どっちが勝つと思う?」
「やれば分かる」
ルイズの問いに対し、冷徹な態度で返答するスパーダ。
勝負は時の運でもある。戦いの中の状況次第で戦局はどちらにも傾くものだ。故に総合的な実力は劣るであろうギーシュがタバサに勝つことも不可能とはいえない。
つまりは結果次第なのである。どんなに実力のある戦士でも、時に些細な出来事で力なき者に敗れることはあるのだ。
「いやあっ!」
最初に仕掛けたのはギーシュだった。
タバサに向かって駆け出し一直線に突進するギーシュは腰だめに構えた己の剣を鋭く突き出す。
当然、タバサはあっさりとその初手をひらりとかわし、ギーシュの横に回りこむ。
「せやっ!」
ギーシュは体を反転させつつ剣を大きく薙ぎ払う。エア・ハンマーの呪文を唱えようとしたタバサはそれを中断し、杖で剣を受け止めた。
ガキン、と剣戟の音が響き渡る。
「……っ」
昨晩、スパーダとの手合わせで受けた閻魔刀の一撃に比べれば全然軽いのだが、小柄なタバサにとってはその一撃は意外に重く思わず小さく呻いていた。
悪魔と人間の力は歴然としている。故にスパーダから受けた一撃の重さはあの閻魔刀であっても杖が弾かれそうになったほどだが、人間であるギーシュの一撃も中々に重く手が痺れる。
ギーシュとしては以前よりスパーダから「腕だけで振るな。体全体で剣を振れ」と言われていたため、その教えに従って己の体と遠心力を利用して剣を振るったまでである。
「フライ」
剣が受け止められてもギーシュは休まずさらに体を捻って剣を振るってきたため、タバサは一度後ろへ跳んで離脱する。
「まだまだっ!」
「エア・ハンマー」
追い討ちで剣を斜に構えて突進してきたギーシュに対し、瞬時に呪文を完成させていたタバサは真空の槌を放つ。
「ぶっ」
真正面からまともに受けたギーシュの体は呆気なく吹き飛ばされる。
10メイル以上は吹き飛ばされたギーシュであったが、地面に落ちる寸前で受身を取って着地していた。
「おっとっと……」
が、バランスを崩して尻餅をついてしまう。ちょっと決まらなかったな、と内心悔しがる。
「ウィンディ・アイシクル」
「うわわっ!」
そこへタバサが杖を頭上に振りかざし、無数の氷の矢を放ってきた。
襲い掛かる氷の矢を、ギーシュは慌てて体を横へ転がしてかわし、急いで立ち上がる。
「どうした、ギーシュ!」
「ミスタ・スパーダの弟子ならもっと良い所を見せろー!」
ギャラリー達から歓声と共に野次が飛ぶが、今のギーシュはそんな声を聞いている余裕などない。
タバサは容赦なくウインディ・アイシクルによる追撃を続け、タバサの周囲を逃げ回るギーシュを追い詰めていく。
一見すれば追い詰められているギーシュが不利なように見える。
だが、タバサは徐々にギーシュが距離を詰めていることに気がついた。
「離脱」
追撃を一時中断し、フライで飛び上がると周囲を旋回しながら近づいてきていたギーシュの外側へと着地した。
「これはどうかな!」
ギーシュは思い切り剣を横に振りかぶると、薙ぎ払うようにして己の剣を手放した。
風車のように勢いよく回転しながら飛来してきた剣をタバサは己の杖で弾き返す。だが、これで終わりではないことは既に知っている。
投げると同時に造花の杖を手にしていたギーシュはそれを、まるで指揮者が演奏するかのように流れるような動きで振るう。
すると、明後日の方向へ弾き返された自分の剣の軌道が反転し、タバサ目掛けて戻ってきたのだ。
タバサはそれを今度はエア・ハンマーを放って迎撃する。
「……っ!」
その途端、自分の足を掴むような感触が伝わった。
見ると、タバサの両足は土くれの手ががしりと掴み取っていたのだ。ドットスペルのアースハンドだ。
身軽さが最大の武器であるタバサにとって、この状態は実にまずい。
「たあああぁっ!」
念力によって弾かれていた剣を引き戻したギーシュは動きを封じられているタバサへ向けて一気に駆け出した。
「タバサ! がんばってー!」
キュルケから声援が飛ぶ。
「エア・ハンマー」
ひとまずギーシュを吹き飛ばそうと杖を突き出し魔法を放ったのだが、それを見越していたらしいギーシュは呪文を完成させた瞬間に素早く横へと跳び退っていた。
しっかりと受身を取って着地し、止まることなくタバサとの距離を詰めたギーシュは一気に勝負を決めようとした。
「ストーム」
タバサは頭上に杖を構えると、自分を中心に30メイルにも上る大きさの竜巻を発生させた。
「うっ、うわあぁ!」
勢いあまってその竜巻に吸い込まれてしまったギーシュは一瞬にしてタバサの頭上で高く巻き上げられた。
それでも剣と杖だけは手放さなかったが、自由落下をし始めたギーシュを迎え撃つべくアースハンドの拘束から逃れたタバサが真下で待ち構えていた。
本来ならこの高さから落ちていく以上、自分にレビテーションをかけて地上への激突は避けるのだが、ゆっくりと降下すれば良い的にされる。
……いちかばちかだ。
「でやああああぁぁぁっ!」
ギーシュは落下しながら剣を振り下ろしたのである。スパーダが繰り出す兜割りと同じで、落下の勢いによって相手を叩き潰すのだ。
これだけの高さからならばその勢いと衝撃はかなりのものになるだろう。
……もちろん、決まろうが外れようが地面に激突してしまうので寸前でレビテーションはかけることにするが。
タバサは剣を振り下ろしながら落下してくるギーシュを目にし、迎撃するのをやめてその場から飛び退いた。
レビテーションでゆっくりと着地したギーシュは杖にブレイドの魔法をかけているタバサを見据えながら剣を大上段でゆっくりと振り上げる。
「見ろよ、ギーシュのあの顔」
「あれがギーシュか? いつもと全然、違うじゃないか」
先ほどよりもさらに険しくなったギーシュの戦士としての表情に生徒達は驚嘆していた。
フライの魔法で地面すれすれで飛行し一気に詰めてきたタバサに対し、ギーシュは剣を振り下ろすがツバメのごとく宙返りをされて、空振りとなっていた。
「タバサの勝ちだわ!」
キュルケが歓声を上げると、他の生徒達も同様に沸き返っていた。中には「何で負けてるんだよ!」などと野次が飛んだりもしている。
ギーシュの攻撃を空振りさせたタバサは杖で剣を弾き飛ばすとギーシュの首筋にブレイドの魔法がかけられている杖をピタリと当てていた。
「決まり」
魔力の刃を宿して光る杖を見ながらギーシュは引き攣った顔を浮かべるが、タバサは静かに告げる。
溜め息を吐き、苦笑したギーシュは頭を掻いていた。
「やれやれ、負けてしまったなぁ」
ギーシュも正直、シュヴァリエであるタバサとあそこまで渡り合えたのは自分でも驚いていたのだ。
自分はドットとはいえメイジである以上、今回は魔法も併用してみたのだが予想以上に効果的だったことが分かった。
何にせよ、今回の組み手は良い経験となったことであろう。ギーシュはいつになく意気揚々として、自分の剣を拾いに行った。
タバサは全てが終わったと言わんばかりに広場を後にしようとする。
「タバサ! あなた、やるじゃないの!」
キュルケが親友の勝利に対して嬉しそうに抱きついていた。
250 :
一尉:2012/05/08(火) 22:44:24.17 ID:NBn06cri
金正恩を召喚にするルイズ
「どうだったかな、スパーダ君。負けてしまったけれど、それなりに戦えたと思うんだ」
「……まあ、合格だな」
真っ先に師匠のスパーダの元へと駆け寄ったギーシュは彼の意見を聞いていた。
スパーダもギーシュの成長ぶりには素直に感心していた。まだまだ荒削りではあるが、ギーシュは自分の教え通りに剣を振るえたのだ。
しかも魔法を併用することで戦闘を補助するということまでしてのけた。剣をブーメランとして投げつけるのはスパーダも使う技なのだが、あれは見事である。
「モンモランシー! 僕の勇姿はどうだったか……あれ?」
ギーシュは愛する女性からも意見を聞こうと呼びかけるが、どこを見回してもモンモランシーの姿はない。
「モンモランシーなら帰っちゃったわよ」
「ええ! どうしてだい!?」
ルイズがそう告げると、ギーシュは狼狽した。
モンモランシーはギーシュが竜巻で打ち上げられた後、剣を振り下ろして落下してきた辺りから逃げるようにして去ってしまっていた。
彼女はずっとショックを受けた表情のままギーシュの戦いを見続けていたのだが。
「さあ、本人に聞いてみたら?」
「おおーい! モンモランシー! 僕の話を聞いてくれよぉ!」
ギーシュは慌ててモンモランシーに呼びかけながら探し始めていた。
余興は終わったことで、生徒達は各自解散していく。
中にはタバサとギーシュのどちらが勝つかで賭けをしていた者もいたようで、金を巻き上げている生徒の姿もあった。
昼休みはもうすぐ終わり、午後の授業が始まる。ルイズは午前の授業に出られなかったので、午後の授業に出席しなければならない。
スパーダは学院の図書館で調べるべきことがあった。
このハルケギニアに魔界の悪魔達が現れるのであれば、必ずどこかに魔界とハルケギニアを繋ぐ役目を果たしている何かがあるはずだ。
それこそフォルトゥナに存在していた地獄門のようなものが。
おまけにこの世界は単純に悪魔達が餌を求めて現れるのではなく、明確に最上級悪魔の勢力によって侵略されようとしているのだ。
かつて魔帝が人間界へ侵攻した時に人間達を利用したように、今回も何者かがハルケギニアの人間達を利用している。それで生まれたのがあのレコン・キスタなのだ。
レコン・キスタを操る悪魔の勢力を相手とする前に調査が必要だ。悪魔達に関する資料がこの学院の図書館にあれば良いのだが……。
「何だ……?」
図書館へ足を踏み入れた途端、異様な気配をスパーダは感じ取っていた。
やや遠くからではあるものの、はっきりと感じられる強い闘気。そこらの下級悪魔達はもちろん、中級悪魔でさえ比較にならない魔力である。
その気配を持つ何者かが、この学院へ近づいてきているのが分かる。
踵を返したスパーダは未だ感じ続けている気配を逃さないようにしつつ、足早に図書館を後にした。
午後の授業には参加せず、タバサは学院の正門前に来ていた。
使い魔のシルフィードを呼び寄せ、これからトリスタニアの町へと向かう。町で必要な本を買うためだ。
先ほどのギーシュとの組み手はそれなりに良い経験となったことに満足していた。単純に剣だけでなく魔法による補助まで使いこなすようになったギーシュは以外に手強かった。
ギーシュの欠点は突っ込み過ぎる所にあることが分かっていたため、そこを突いたのは正解だっただろう。
だが、やはりもっと強い相手と戦って自分の力をさらに上げてみたい。
その相手に最も相応しいのが、悪魔なのである。
スパーダのような伝説の悪魔はさすがに力の差がありすぎるので、もう少し下級の悪魔程度であれば相手としてはちょうど良いのだが。
「きゅいっ! きゅいっ! お姉さま、お姉さま」
「どうしたの?」
シルフィードに跨った途端に声を上げだしたため、タバサは怪訝そうな顔をする。
「何か近づいてくるのね。精霊達が、悲鳴を上げているのね……」
他に人がいないために風韻竜は遠慮なく人語を口にしている。
タバサはシルフィードの言葉を聞くと、地面へ飛び降り杖を構えていた。
その表情はいつになく険しく、何者かの接近に対して気を抜かぬよう神経を研ぎ澄ませていた。
シルフィードの耳には、次々と精霊達の声が聞こえていた。……恐怖に怯える声が。
――コワイヨ、コワイヨ。
――アイツガクル、クルヨ。
「来た」
タバサの耳に微かに聞こえてくるのは、重々しい馬の蹄と馬車が走る音。
徐々にその音は大きくなってくるのだが、肝心の馬と思わしきものの姿が見えない。
「きゅいーっ! お姉さま、危ないのねー!」
シルフィードが慌てて飛び上がりつつ叫ぶと、突如タバサの正面の空間が蒼暗く歪みだした。
危険を察したタバサはフライで飛び上がると、空間から巨大な蒼い何かが飛び出し、自分の真下を通り過ぎていった。
――ヒヒィーンッ!!
力強く嘶きながら学院の敷地内へと侵入してきたのは一頭の馬だった。
ただの馬ではない。体高だけでも明らかに3メイルを超え、頭も含めれば4メイルにも達する巨馬であった。
後ろに引く馬車もその精悍な巨体に見合うほどの大きさであり、おまけに車輪の中心から鋭いスパイクが伸びている。
着地したタバサは巨大な馬車を振り回しながら反転し、振り向いてきた巨馬と相対する。
「蒼い、馬」
この馬の最も特徴的であったのはその体の色だった。蒼い――天に広がる蒼穹の空よりも蒼ざめた体をしているのである。
しかも鬣や蹄までも青白く、さらには青白い炎まで纏っていた。不思議と熱気は感じられず、むしろ氷のような冷気が発せられている。
その姿はどことなく気高く、誇りに満ちているのをタバサは全身で感じ取っていた。
「……悪魔」
同時にこの馬からとてつもない威圧感と闘気を感じ、察していた。この馬は、悪魔であると。
杖を握る手に力が入る。白昼堂々、この学院に悪魔が現れるだなんて思いもしないことだった。
しかも以前より相手をしている下級悪魔達などとはまるで雰囲気や風格が異なる。スパーダまでとはいかずとも、相当な力を持つ悪魔であることをこうして相対しただけで理解していた。
巨馬の青白く光る鋭い目がタバサを捉えていた。蹄を強く鳴らし、荒々しく呼吸を続けている。
――ヒヒィーンッ!!
精悍な巨体と前足を高く持ち上げると、巨馬はタバサ目掛けて突進していた。
「何々!? 今のは?」
授業が始まる寸前、教室の生徒達は外から聞こえてきた馬の声にざわめきだしていた。
次々と窓に向かって張り付き、正門の広場を窺いだす。
他の生徒達が一斉に動き出す中、ルイズにキュルケ、そしてギーシュとモンモランシーの四人だけは座席についたままであった。
ルイズは次の授業を受けるために準備をしており、キュルケは退屈そうに自分の爪に化粧をしている。ギーシュは何故か不機嫌なままのモンモランシーを振り向かせるべく必死に言い寄っていた。
この四人は一々、そんなことで動じることはなかったのである。
「おい、あれはミス・タバサじゃないか」
「な、何なのあの馬! 幻獣? ユニコーン!?」
「あんな幻獣、見たことないぞ!」
授業に参加しなかったタバサの名前が挙がった時、ルイズとキュルケもようやく席から立ち上がり、急いで窓に張り付いていた。
ギーシュとモンモランシーは相変わらずであったが。
「タバサ!」
「あれは……」
ルイズとキュルケは広場で起きている出来事に吃驚していた。
正門前の広場には激しく駆け回る巨大な蒼い馬の姿があった。
馬車を引き、全身に蒼い炎を纏いながら走るその馬はタバサを追い回しているのである。
しかし、あの馬は何なのだ? 幻獣のような神秘的な姿をしているが、あんな幻獣はハルケギニアでは見たことも聞いたこともない。
(あれはもしかして、悪魔?)
ルイズはあの蒼い馬からスパーダまでといかずとも異様な殺気と威圧が発せられているのを感じ、思わず身震いした。
だが、何故悪魔がこの学院に? 何の目的で?
どちらにしろ、スパーダを呼んで何とかしてもらわなければ。
「あっ、危ない!」
蒼い馬は駆け回るタバサを外壁へと追い詰め、そのまま一直線に突進を仕掛けている。
だが間一髪、フライの魔法で上空へ逃げたために馬はそのまま外壁に激突する――。
「き、消えた!?」
蒼い馬は壁に激突する瞬間、突然空間の中へ飛び込むようにして姿を消してしまったのである。
着地していたタバサは注意深く周囲を見回していたが、やがて別の離れた場所の空間から現れた馬が再びタバサ目掛けて向かってきた。
「行ってみようぜ!」
「何なのかしら、あの馬!」
生徒達は次々と教室から抜け出し、広場に向かっていった。当然、ルイズとキュルケもである。
他の教室でも目撃されたのか、次々と教室の外へと溢れ返るように出てきていた。
「こら、君達! 早く席に――うわっ」
教師達が諌めるも、これだけの数が相手では圧倒されるしかなかった。
「お願いだよ、モンモランシー! 僕の話を聞いておくれよ!」
そんな中、この二人だけは未だ教室に残って片や言い寄り、片や無視を続けていた。
スパーダが広場へ到着した時、感じ取っていた悪魔の気配の主の姿がそこにあった。
青白い炎を纏いながらしつこくタバサを追い回している巨大な馬。
「あいつは……」
見覚えのある蒼ざめた巨体にスパーダは珍しく面食らっていた。
かつてテメンニグルを封じる際に一戦を交えたことのある上級悪魔……。人間界では死を象徴する不吉な存在として恐れられるという。
その悪魔の名は妖蒼馬<Qリュオン。
元々は遥か古の時代に人間界から魔界に迷い込んできた戦馬であり、魔界を彷徨っている内に強大な悪魔へと変貌したものだ。
人語こそ口にはできないものの、長い年月を経て魔力を得た分、その知能は上級悪魔に相応しく人間を凌駕するほどとなっている。
魔界の戦場に不意に現れては敵味方関係なく次々と悪魔を薙ぎ倒していくほどに荒々しく、悪魔達からも恐れられていた存在だ。
かつてテメンニグルを封じる際にスパーダはゲリュオンと戦ったことがあり、中々に手強い相手だったのを覚えている。
ゲリュオン本人としては人間はおろか悪魔に対して明確な殺意などを抱いているわけではなく単純に戦場を駆け回るか強い相手と戦いたいだけなのだろうが、
それで人間達に被害を出されては堪らないためにテメンニグルと共に封じたのである。
……そう。あの塔の中に封じたはずなのだが、何故このハルケギニアに奴がいるのか。
(やはり、どこかに出入り口があるのだな)
かつて封じたはずの悪魔さえもこのハルケギニアに姿を現した以上、その考えは当たっているはずだ。
「さて、どう相手をするか……」
かつての敵が姿を現したにも関わらずスパーダは腕を組んだまま塔の壁に凭れ掛かっていた。
今、ゲリュオンが戦っているのはタバサだ。そして、タバサは悪魔達との戦いで自分の力を高めようとしていることをスパーダは知っている。
ならば、その敵を相手に一体どう戦うのか。じっくりと見せてもらうことにしよう。
タバサが力を示し、ゲリュオンを負かせばそれで良し。そうでなければ自分が出る。
雪風のタバサと、妖蒼馬ゲリュオン。
互いに蒼を象徴とする強者達は己の力をぶつけ合っていた。
※今回はこれでおしまいです。今後はゲーム中で仲間?になる上級悪魔も登場させる予定です。
255 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/09(水) 00:34:58.79 ID:KvRmnrBG
投下お疲れさまです!!
乙〜
257 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/09(水) 02:52:51.42 ID:YKYTKqgJ
ナイスですよDMCな世界をZNTな世界に召喚しようとする作者方!。
>>258 あれも超大金持ちの道楽だしなぁ
大金持ちの道楽……? うん。夜な夜なコスプレして世直ししてるルイズパパとルイズママが見えるぞw
こんばんは。
5分後くらいに投下します。
ゼロの使い魔の番外編って単行本には未収録だよな?
扉並ぶ終わりの見えぬ通路で事務に励む"男"。煙草を吸いながら新聞を読んでいる。
その見出しは様々であった。"世界の出来事"を、そこからわかりやすく知る。
"島津豊久ら"の蜂起。"山口多聞"の動向。
"ハンニバル"と"スキピオ"の状況。"十月機関"の活動。
そして・・・・・・"ワイルドバンチ"の行方も――様々な事柄を媒体を通して目にする。
――突如濃密な気配が顕現した。
空間ごとその色を塗り潰して侵食し、無機質な通路を歩いて近付いてくる"少女"。
"男"は新聞を広げたまま、目線を"少女"の瞳へ向ける。
「まだそんなあがきをしているのね"紫"」
紫の領域を侵犯し、"少女"は傍若無人といった様子で無遠慮に前へと立つ。
「あなたがいくら頑張った所で、あなたがいくら『漂流』を送り込んだ所で私の勝ちなの。あなたがいくら頑張っても全ては無駄な事なの」
"少女"は通告する。結果は火を見るより明らか。自明の理。わざわざ言うまでもないことを敢えて――。
「失せよ"EASY"。間違いは正さねばならない」
紫は確固たる意志を込めた眼でEASYへ向かって繰り返す。
「失せよEASY。お前の好きにはさせぬ、哀れな女」
EASYの顔が歪んでいく。苛立つ・・・・・・紫の思いに、その眼に。
ギリッと鳴らすように歯噛みした後に、EASYは笑ってやる。紫にもすぐにわかる――絶望が。
「哀れなのはあなたよ、やれるものならやってみなさい」
すると紫が開いていた新聞の一面が、まるで水を零したように滲んでいく。
黒字はさながら生き物のようにのたうち、その形を変えて、また新たな情報を紫へと突きつける。
紫の顔がインクと同じように歪み崩れる。そこには"黒王軍"の勢力拡大と侵攻が書かれていた。
「あなたの漂流物たちなんかで、私の廃棄物たちが倒せるわけがない」
†
「うおお〜!!」
ブッチは感情のままに叫んだ。キッドはただただ言葉が出なかった。
夜空に浮かぶ双月のコントラストに照らされた浮遊大陸、『白の国』アルビオン。
"空"から眺める"空と陸"。そんなスケールの大きさも相まって、圧倒され興奮するしかなかった。
そもそも船で空を飛んでいるというのも感動であった。まさに異世界ということを思い知らされる。
「ちょっと静かにしてよ、恥ずかしいでしょ」
ルイズの言葉も耳に入らず、ブッチは高揚感をそのまま全身で表す。
古ぼけた書を手に持ちながらルイズは嘆息をついた。決して観光目的ではないのだ。
下手すると修羅場が待っているかも知れないと言うのに・・・・・・――。
――とはいえ、ブッチとキッドの二人は慣れっこだから関係ないのだろうとも思う。
それにアルビオンの絶景は自分でも舌を巻いてしまう。
シャルロットもマイペースに、アルビオンを本片手に見つめていた。
破壊の杖盗難未遂事件において、直接的にフーケを打倒し、第一の功を為したブッチとキッド。
二人には銃を武器に使うことと、また今後の立ち位置も含めて『銃士隊お預かり特別遊撃銃士お雇い』となった。
そして使い魔の活躍は主人の手柄であることから、ルイズは王女直属の女官へと任ぜられた。
シャルロットはその複雑な立場もあり、また銃を扱うことからブッチとキッドと共に特別銃士となる。
アンリエッタの御身を保護し、表向きは打倒のサポートも行った第二の功であるジョゼットとイルククゥには恩賞が送られた。
有事の際に王女の命によって動く特殊銃士。
その正式名の通り、銃士隊に帰属する雇われ銃士である。
されど普段から何もしなくても給金が出るというもので、ブッチとキッドの二人も快く受け入れた。
そしてこの度、ルイズに緊急かつ極秘の事柄として声が掛かり、任務が言い渡された。
『アルビオン王家のウェールズ皇太子に謁見して手紙を渡す』というもの。
日々脅威を増している黒王軍への対抗と、未だ各国へ侵略を続けるオルテ帝国への共同戦線。
その為の同盟と・・・・・・――婚姻。
形としては政略結婚となり・・・・・・本来であればそんなもの、ルイズは友として反対するところであった。
しかして今度のアンリエッタとウェールズに関しては、二人にとって望むべくものとなる。
二人は従兄妹の間柄になるが、密かに愛しあう仲であるからだ。
はっきりとアンリエッタ姫さまから聞いたわけではない。
だが言葉の節々や態度から、そう察することは幼馴染としては容易であった。
ルイズ自身、これ以上に嬉しいことはない。ただし差し当たっての問題がある。
少し前にアンリエッタはウェールズに対して一度、同盟と婚約について申し入れを行ったのだが断られているのだ。
アルビオン王家から直接の説明はなかったが、十中八九政治情勢が関係していることはトリステイン側も掴んでいた。
王家に不満を持つアルビオンの貴族達が、何やら不穏な動きを見せているという。
お互いの感情と国のメリットを考えても、断る理由があるとすればそれしか考えられなかった。
ルイズは手紙を届けると共に真意を確かめ、また説得をお願いされた。
トリステイン国の臣達の中に、内通する背信者がいる可能性が見られるからである。
よって極秘裏に、かつアンリエッタの想いを理解し、それを伝えることが出来るのがルイズしかいなかった。
再度正式な特使が改めて申し込むまでに任務を完遂する。
そして・・・・・・ルイズと共にシャルロット、さらにキッドとブッチまでついてきた。
二人の友として心配するシャルロット。単純に浮遊大陸アルビオンが見たい行きたいワイルドバンチ。
一人で行こうと思っていたが――戦力として申し分ない三人であるので、正直心強いのも事実である。
アンリエッタからも許可を頂き、正式に四人の極秘特使として向かっている次第であった。
ルイズは"水のルビー"を嵌めた手に握る"始祖の祈祷書"見つめる。
トリステイン王家の伝統。婚姻の儀にて、貴族の中から巫女を選び、詔を詠むというもの。
始祖ブリミルの秘宝にして、トリステイン、アルビオン、旧ガリア、ロマリアの四王家にのみ、それぞれ伝わるという国宝。
数いる候補者達の中から・・・・・・始祖の祈祷書を通し、『詔を詠む巫女』という大役を選んで下さった。
そして未だ正式に婚約が決まってない状況で、これから自分達が特使として赴く段階なのに渡してくれたのも――。
――わたしがウェールズを必ず説得してくれるだろうという、絶対的な信頼の証なのだ。
同時にアンリエッタの本気が窺える。当然だ、国と愛を両方貫き守ることが出来る選択なのだから。
アンリエッタ王女殿下――否、結婚後には王位を継ぐだろう。
アンリエッタ女王陛下直属の女官として、トリステインの為にも、絶対に失敗など許されない。
他国に内通し王家に背信する者達を欺く為にも、事は慎重に運ばねばならない。
正式な使者がやって来る前に・・・・・・必ず話をまとめ、スムーズに成立させるのだ。
そうしなければ付け入る隙を与えてしまうことになるのだから――。
†
親ウェールズ派の信頼おけるパリーという人物を通して、ウェールズへと接触する。
二日ほどで特に問題もなく都合もつき、王宮内の個室で謁見することと相成った。
無礼があってはならぬことと、本人達も場違いを理解してか、ブッチとキッドは首都ロンディニウム内で観光をしている。
「ウェールズ・テューダーだ、人払いは済んでいるから安心していい」
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです」
「シャルロットと申します」
アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーは、直接渡された手紙を読み始める。
トリステインで最も高貴な美貌を持つアンリエッタ王女とも釣り合いがとれ、お似合いといえるほどの整った顔立ち。
品行方正で堂々とし、武人としての気質も備えるウェールズは、御前にいるだけルイズは妙な緊張感を覚えてしまう。
以前に送られている申し入れと内容はそこまで変わらないのだろう。
すぐに読み終えたウェールズは早速本題へと入る。
「お待たせした。まずは遠路はるばる、余計な手間を掛けさせてしまって本当にすまないね。
君達のような者を派遣してきた意味もよくわかる。だが・・・・・・やはり"今はまだ"承服しかねる」
「理由をお聞かせ願えますか?」
"今はまだ"と言われればその理由も察することが出来る。
アルビオンの事情も任務を請け負う時に伺っている。
だがしかしそれでもルイズははっきり聞く。その上で説得するのだ。
「恥ずかしい話だが、王家の力不足で貴族達が不満を募らせている。場合によっては内乱にも発展するやも知れない。
そのような者とトリステインの王女が結婚するなど・・・・・・ね。まずは自国内を決着させ、相応しい男となりたいのだ」
「で・・・・・・でも・・・・・・っ!!ウェールズさまは、姫さまを――アンリエッタさまを愛していらっしゃるのでしょう!?」
ウェールズの顔が曇る。それは疑問や嫌悪といったものではない。
ある種の憂いを帯びたような色で、どこか儚げにも見えた。
「確かにぼくは彼女が好きだ、愛している。彼女もそうだ。ぼくを愛してくれている。それはお互いわかっている。
だが今のぼくには"資格"がないんだ。アルビオン王家の伝統と格式も恥ずかしいばかり。我々の力不足を痛感している」
そんなウェールズの言葉を黙って聞いているシャルロットの耳が痛い。
四王家の内のガリアは既に亡国となった。つまりは6000年に及んだ歴史を守ることが出来なかったことを意味する。
シャルロット自身生まれる前の出来事であるが、王族の一人としてなんとなく居心地の悪さを感じた。
されど同時に内心だけでニヤリと笑う。ウェールズがそういったことを重んじるということは好都合だった。
「――だからこそケジメをつけてから同盟を結び、結婚したい」
「そんな・・・・・・でも・・・・・・もし、万が一にも・・・・・・」
ルイズはそれ以上言葉を紡がない――否、紡げなかった。
「ああ、わかるよ。もしかしたら最悪王家が取り潰され、命を落とすような可能性があることも。
そうなれば当然同盟どころの話ではなくなる。国内も混乱するだろう。だから彼女には――」
「姫さまはそんなこと気にしません!!姫さまは何よりも・・・・・・なに・・・・・・よりも・・・・・・」
ルイズは感情の余りに涙を目尻に溜めながらウェールズを遮る。
まともに恋もしたことない自分は、アンリエッタの心情を真には理解出来ない。
だけどそんな自分が慮るだけでもこれほど胸が苦しい。
だから姫さまはもっと辛い思いをしていらっしゃるに違いないのだ。
「提言よろしいですか?」
そこでようやくシャルロットが割って入る。打算的に、今が頃合だろうと見てのことであった。
「・・・・・・なんだい?」
感極まっているルイズがとりあえず落ち着くまで、ウェールズはシャルロットとの話へ切り替える。
「今すぐに婚約を発表すればこそ、貴族派も抑えられるというものではないでしょうか?」
「それは・・・・・・そうだろうね」
国という単位で見ればデメリットは殆どない、国民の支持も得られるだろう。
貴族派にとっても大義名分が弱まってしまうのが明らかだ。
「しかしアンリエッタに迷惑を掛けるわけには・・・・・・――」
あくまで抑えるだけで根絶するわけではない。そうなれば同盟国には迷惑が掛かる可能性が大いにある。
場合によっては、それをキッカケに貴族派がクーデターに踏み切るようなことも考えられる。
「姫さまは!!――」
ルイズが叫ぶ。語気が強くなり過ぎていたことに今更ハッとして、失礼を働いたことに気付く。
「――姫さまは、そんなこと・・・・・・迷惑だなんて思いません」
ウェールズは穏やかに笑う。それは慈しむような感じであった。
「アンリエッタは良い友をもっているんだね。こんなにも必死になってくれる・・・・・・」
ウェールズの顔色を窺いながら、シャルロットは続ける。
「ルイズの言う通り、王女殿下――そしてトリステインにとっても、被る迷惑など微々たるものです。
同盟による利点こそ余りあり、御結婚と同盟が行われないことこそ、両国にとって大損害。
日増しにその脅威を増す"黒王軍"。浮遊大陸のアルビオンにとっては、まだ実感のないことと思います。
ですが・・・・・・いつ迫るとも知れぬ危機であり、国の大事。備えるのは早ければ早いほど良いというものです」
シャルロット自身、噂に聞くばかりでしかなく黒王軍への実感はない。
しかしそれでもここは誇張してでも大袈裟に言う。
「それに・・・・・・失礼を承知で申し上げれば、先に仰った理由はいずれも王子殿下のエゴでしかありません。
端的に言えばただの面子でありプライド。アンリエッタ王女に対する思いも、些少ながら御理解は出来ます。
されどここは婚姻を早々に執り行い、貴族派に釘を刺しておくことこそが何よりも肝要であると心得ます」
シャルロットはまるで威圧するように強い想いを双眸に携え、ウェールズを射抜く。
「過ぎた言葉をお許し下さい。しかしそれこそがひいては国の為――そして"民の為"でもあるのです。
王族なればこそ・・・・・・私情を排し、たとえ自己を犠牲にしてでも、民の為に尽くすべきかと存じます」
シャルロットの言葉にウェールズは噛み締めた様子であった。
強めに言った。言う必要があった。ルイズが感情論で攻めて、自分が理屈を説く。
両面で説得する効果。その手応えを感じつつ、シャルロットはさらに畳み掛ける。
「私は・・・・・・元ガリア王族です」
そう言ってシャルロットは、"指輪"を取り出すと指に嵌めて見せた。
「なんと!?そしてそれは・・・・・・」
「はい、"土のルビー"です。この指輪と、この青い髪色がその証です。手遅れになる前に、やらねばならぬことがあります。
まして私欲に塗れた貴族が権力欲に取り憑かれ、成り代わって政治を為すなど民の為とはなりません。どうかご再考を」
「・・・・・・お願いします。アルビオン国民の為に。そして何よりもウェールズさまと姫さまの為にも・・・・・・」
ルイズもシャルロットに続いて頭を下げる。
そんな少女達の姿を見て――焦りがあったとはいえ――ウェールズは心の底から己を恥じた。
そう、全てはシャルロット。彼女の言ったように、所詮はつまらぬ男の意地に過ぎない。
聞こえは良くても結局のところ、自分の我儘でしかなかったこと・・・・・・。
同盟しようとしまいと、貴族派の脅威は消えない。貴族派が動くとするなら、遅かれ早かれ同じ事だ。
ゆえに動かせない為に、動いた時に必要なこととは。一刻も早く同盟し、万全の状態で迎えるということ。
トリステインには借りを作ってしまうことになるだろうが・・・・・・借りは返すことが出来る。
さらに自分自身の素直な気持ち。繕うことない裸の本心を自問する。
(愚かだな・・・・・・、どこか己自身に酔っていた節があったのかも知れない)
シャルロット――元ガリア王族。ガリアを滅ぼした今のオルテ帝国という先例。
彼女は身をもって知っているのだ。王家としての道を奪われた、始祖ブリミルの直系一族として。
愛すべき国民を思えばこそ、改めて考える余地はなかった。
そして――アンリエッタと逆の立場であったならと考えた時、迷いすらも完全に消え失せていた。
それほどまでに彼女を愛しているということに・・・・・・ウェールズは気付かされたのだった――。
†
「ブッチ、遅いわよ!!」
「あ〜わかってるって、うるせーな。頭に響くからキャンキャン喚くなって」
後続の正式な使者が到着し、アルビオン皇太子ウェールズとトリステイン王女アンリエッタ。
二人の婚約と、二国間の同盟が発表されてから三日ほど。
使者として――さらに巫女として、ウェールズをトリステインまでお連れする為に、ロンディニウムに一行は残っていた。
そして今日、城へと参内する段になって悠長にブッチが準備をしていることを理由にルイズは怒る。
「毎日毎日、夜遊びをしては酒飲んで・・・・・・お・・・・・・女遊びをしてキスマークつけてくるなんて非常識よ!!
そりゃぁ契約の条件として面倒みるとは言ったけど、銃士隊としての給金使い切ってたかりに来るなんていくらなんでも――」
「あーあーすまん。調子に乗り過ぎたことは認めるっつの」
「ちょっとくらい悪びれなさいよね!!」
「・・・・・・確かに、苦言を呈しますが――いい大人が少々だらしないと思いますね」
敢えて感情を微塵にも込めなかったシャルロットがワイルドバンチ二人へ向けた言葉に、キッドがバツが悪そうに謝る。
「・・・・・・すまん」
ブッチと一緒にハメをはずした手前、言い訳の余地もない。
いい年したオッサンが、下手すると娘のような年の頃の少女の家のスネを齧るなんてみっともないにも程があった。
使い魔契約の見返りとはいえ、やはりプライドがないこともない。
苦痛を強いられているのならまだしも、逆に漂流者として保護されている立場でもある。
「お金貯めて牧場の一つや二つ、買えばいいじゃないの」
確か二人とも昔牧場で働いていた筈だ。そう以前に聞いたのを思い出して、ルイズはそう言った。
「ありゃあ俺には向いてねえ」
ブッチは言い切る。諸々あって結局身をやつして最終的に強盗団を結成したのだ。今更なのはキッドも同じ。
「・・・・・・経営者になればいいじゃないですか。オーナーとして誰かに任せればいいんです。悠々自適ですよ」
建設的にシャルロットが提案する。働くのが嫌なら、雇う側になればいい。
「実はな〜、俺は牧場買ったことがあるんだよ。だが色々あってな・・・・・・」
ブッチは語る。立地が悪かった。アウトロー連中も流れてくるし、経済的に失敗した。
「――ふ〜ん、ならウチの土地を使えばいいじゃない」
するとあっさりとルイズは言ってのけた。ルイズの生家、ラ・ヴァリエール家。
トリステインでも指折りの大名家の持つ富と、権力と、威光と、保有する土地は広大である。
「なん・・・だと・・・?」
「必要な土壌は土魔法で整えられますしね。用心棒は雇ってもいいし、お二人のルーンだけでも楽に出来るかと」
「お?お〜・・・・・・」
「ふむ・・・・・・」
ブッチとキッドは顔を見合わせる。
二人の給金を合わせて、貯め続ければやってやれないことはない。
聞けば聞くほどやれないことではなさそうであった。
「・・・・・・悪くねえな」
「あぁそうだな」
そもそもトリステイン国内に無法者が少ない。お国柄なのか"お世界柄"なのかはわからないが。
いや相対的にそう感じているだけで、元の世界――アメリカ西部開拓時代――が多すぎたのだのかも知れない。
世界全体に目を向ければ情勢は不安定なものの、いずれ安定した時の選択としては申し分ない。
「土地も資金援助も口利きしてあげるわ。その代わり数年間くらいは、一番質の良い物を優先的に買わせて貰うわよ」
それは逆を返せば、安定するまでの固定客になるということ。まさに至れり尽くせり。
「うん」
「うんうん」
ブッチとキッドは互いに何度も頷く。
あまり考えたくはないが、正直いつまでも無茶が出来る年じゃなくなってくる。
気ままに余生を過ごす人生設計。思わぬところで目標が出来た。
「良かったですね、夢が定まったみたいで」
「――って、早く準備して王宮に行かないと!!」
悠長に話し過ぎたと後悔しつつ、ルイズは焦りを全面に叫んだ。
以上で終わりです。
ではまた次回にさようなら。
投下乙!
投下乙!
ゼロ魔本編の時間軸に入るまでオリストで続くんだけど、ここってそういうのは大丈夫な方?
あとその展開上ゼロ魔本編に入るまで、原作キャラとクロスキャラが一名ずつ以外はほとんど
オリキャラなんだけど良いのかな?
自分で判断しろ、自分で判断できないような作品は大体批判くらう
>>272 >>273 ありがとう。自信がついた。
もし何もなかったら、30分から投稿したいと思います。
時間になりましたので、投稿していきたいと思います。
題名は『聖戦士イーヴァルディ伝説』
召喚されるのは、原作通り才人とミ・フェラリオ、オーラマシンたちです。
第一話
「いまどき、お守りなんてさ」
自室の机の前、平賀才人は手に取った幸福のお守りとやらを眺めていた。何の変哲もない、漢字が縫い込んである普通のお守りである。
それは母が主婦仲間と遊びに行った温泉でのお土産である。才人もテレビで見た事のある名の知れた温泉であった。最近のブームとも言えるのか、
曰くその温泉のお守りは中々に効力があると朝のニュースでもよく耳にする。しかし、才人は男であり、16歳にもなったのである。世間の、主に女性の
ブームには対して興味はなかったし、お守りを信じる程、子どもでもなかった。
そうは言っても、そのお守りを捨てずに持ち続けて、新しい携帯のキーホルダーにしているのだから、才人もそれなりに親孝行者であると言える。
これでもう少し勉学に力を入れてくれればとは家族全員の意見であり、才人とてそんな事は言われなくてもわかってはいるが、できないものは仕方ないと
半ば諦めかけている。取りあえず、浪人しなければ何とかなるだろう程度の考えである。
今でも教科書とノートを出してはいるが、一向にやる気は起きなかった。しかし、今回のテストでそこそこ良い点を取れば、念願のノートパソコンが手に入るかも知れないという
期待は才人に火をつけかけたが、所詮はその場限りのやる気であり、今の現状である。
そもそも、珠の日曜日に勉強に打ち込むという方がおかしいのだと、いまどきの学生らしいどうしようもない言い訳を才人は考えていた。確かに、学生らしい考えではあるが、
そんな事を親の前で言えば、げんこつの一つでも飛んでくるだろう。それか、鼻で笑われるだけである。それもそれで気分の良いものではないので、無理にでもペンを握って
教科書とにらめっこを始めるのだが、たいていは問題を五問ほど説いたところで力尽きる。
「頭痛い……それに少し腹も減ったなぁ」
机に寝そべって、うだうだとしていた。小腹が空いたから何か食べようかと思ったが、あいにく菓子類は切らしていたはずである。才人は財布と取り出すと、中身を確認する。
彼にしては珍しく千円が入っていた。これなら、十分腹を満たすものが買えるはずである。そう思った才人の行動は早かった。財布と充電器につないであった携帯をポケットに入れると、
さっさと玄関まで降りる。靴を履いていると、才人がおりてきた事に気がついた母親がリビングから顔だけだして、
「出かけるの?」
「うん、ちょっと買い物……コンビニまで行ってくるよ」
「あら、そう。気をつけないよ。あと、帰ったらちゃんと勉強するのよ?」
「わかってるよ、じゃ、行ってきます」
適当に返事を済ませると、才人は飛び出すように家を後にした。母親はやれやれと言った顔でそれを見送った。
才人の自宅からコンビニまでは近くはないが、言うほど遠くはない。軽い運動をすると思えば気楽な道のりである。ただ、交通量が多いので、そこかしこに飛び出し注意の看板などが設置されていた。
数十分も歩けば、歩道橋が見えて、それを渡って道路の反対側へと移動し、さらに数分歩けば、駅前のロータリーに出る。その周辺に、目的地であるコンビニを見つけると、才人はさっさとその中に入って、
店内を適当に見て回る。何か食べ物を買っていけばよいだけなのだが、ついつい買わない雑誌などを手にとって、立ち読みをしてしまうのは癖なのだろうか。
「お、この特集まだやってたんだ」
雑誌の中で才人の目を引いたのは数十年前に起きた戦争の内容であった。自分が生まれるよりも前、それこそ両親が子どもだったころの話らしいが、全世界を巻き込んだ戦争があったと言う。今でも時々
テレビ番組で見る事もあるし、学校の教科書にも載っている。戦争とひとくくりに言っても、その内容は下手なアニメよりもアニメらしいと才人は感じていた。否、その戦争を目の当たりにしていない世代の人間たちにしてみれば、
夢のある話に見えるのだろう。
「オーラバトラーかぁ……かっこいいよなぁ」
突如として、現れた謎のロボットと軍隊。それらは二つの陣営に分かれ、片方は征服、もう片方はそれを阻止すべく戦い、そして両者の消滅という形で戦争は幕を閉じたと言う。異世界の痕跡は、戦争の傷跡以外残らなかった。
異世界の人間も、ロボットも、その技術も、全ては消え去ったという。しかし、その戦争後にもたらされた物語は、今も伝えられている。異世界のロボット、軍隊、世界を巻き込んだ戦い。少年にしてみれば心躍るものがある。
やはりというか、才人も例外ではなく、オーラバトラーの魅力に取りつかれた少年であった。
「妖精チャム・ファウの行方、異世界バイストン・ウェル……ロマンだよなぁ」
雑誌の内容にのめり込んでいた才人は、ふと、裏表紙を見て値段を確認する。値札には千二百円と手持ち金を僅かにオーバーした値段が書かれていた。才人は「まぁいいか」と呟いて、雑誌を棚に戻すと、おにぎり三つと
から揚げのセットを買って、コンビニを後にする。
「あぁ、飲み物も買っておけばよかったな?」
歩道橋の上を半分進んだところで、才人はしまったという顔でぼやいた。そういえばジュースの類も切らしていて、今家の冷蔵庫にあるのは、お茶くらいで、それも今日の夕飯で、家族が各々二杯飲めるかどうかの量である。
多いとは言えなかった。
「と、言っても、今から戻るのは、それはそれで面倒だな……仕方ない、我慢我慢……」
はぁっとため息をついた時だった。何かの轟音と共に才人の身体が揺れる。とっさに歩道橋の手すりにつかまったが、再度、ドンドンという轟音と震動が響くと、才人は熱を感じた。歩道橋の中で尻もちをつく形になった才人は何事かと思い、
手すりの間から周りを確認した。もうもうと黒煙をあげたトラックが、恐らくはこの歩道橋を支える柱にぶつかったのだろう。トラックは黒煙と共に炎を噴き出していた。
才人はとにかく立ち上がって、歩道橋を降りた方が良いと判断し、駆けだすように自宅側の階段を目指した。階段を下る、まさにその時だった。才人は轟音と震動に襲われる。トラックの小爆発であった。しかし、階段を降りようとする才人に
態勢を崩すには十分な刺激であった。
マズイ!
そう思った。才人は前に倒れ込むように、階段とその下の道路の味気ない色が視界に広がった。
「あ……!」
僅かな声だった。その声を発すると同時に、才人は奇妙な浮遊感を感じた。
才人がまず感じたのは心地よい感覚だった。幼い頃に母に抱かれたような、優しい感覚。温かな人のぬくもりを感じていられるような、不思議で安心できる感覚だった。
胎児のように身体を丸めた才人だが、しかし、それは一瞬にして変化した。渦に吸い込まれるような感覚と自由落下するふわりともぞくりともしない奇妙な感覚を感じた才人は激しい恐怖を感じた。
『母さん!』
才人は叫んだ。無意識のうちに才人はお守りのついた携帯をしまったポケットに手をあてがっていた。ややあって、才人は背中に衝撃を感じた。
「がっ……!」
痛みはさほどひどくはなかった。例えるなら、一段ベッドから落ちた程度だろうか、あの嫌な感覚にしてみれば、どうってことない痛みだった。才人はぶつけた背中をさすって、
起き上がる。手に持っていたおにぎりとから揚げは少しつぶれていた。
「……?」
不意に、才人は目を凝らして、周りを見た。周囲に広がる光景に思考がついてこれない状態であった。
「森……? なんだって、こんなところに」
夢でも見ているか、しかし、それにしては背中の痛みは治まってくれない。才人は近くにあった樹木に手を添えると、感触を確かめるように押したり、叩いたりしてみた。
「確かに木だな。近所にこんな森はなかったし、近くの山はこんな樹海のような場所は……」
そこまで言いかけて、才人は不安に駆られた。ありえない状態なのだ。自分は事故に巻き込まれて、階段から落ちたはずである。それが、気がついてみれば、場所もわからない森の中、才人はハッと我に返って携帯を取り出す。
「はぁ? なんだよ、充電出来てないじゃんか!」
それ以上の事態に陥っているのに、携帯の充電ができていない事に対してここまで慌てる事が出来るのは、ある意味才人も大物なのかもしれない。はぁとため息をついて、落胆するが、才人は携帯の画面に映る、
電波の本数が二本ほどたっている事に気がついた。
『電波は通っているのか?』
「聖戦士か?」
そんな混乱の中で、さらに才人を混乱させるような声が聞こえる。幼い少女のような声でもあったが、声の中には毅然とした態度があった。才人はその声の方へ振り返ってみると、衝撃を受けた。
「よ、妖精……チャム・ファウ?」
容姿は異なるが、それは雑誌で見た、異世界の小さな妖精にそっくりであった。目の前の妖精は薄い翅と翡翠色の髪、ドレスともワンピースとも言えない、不思議だが、優雅な服を着ていた。
「チャム・ファウ……懐かしい名です。ミ・フェラリオをご存じと言う事は、貴方は地上の人間と言う事ですね?」
「フェラリオ? な、何の事?」
何かで聞いた様な単語だった。
「地上の人々は我々フェラリオを妖精と呼びます。貴方は私をみて、妖精と言い、そしてチャム・ファウの名前を出しました。と言う事は、地上人であるのは間違いないでしょう?」
「地上人って……俺は日本人だ……名前は才人、平賀才人……」
「バイストン・ウェルのものからすれば、日本人もアメリカ人もみな地上人です」
「え……てことは、ここはバイストン・ウェル? 何十年も前に突然現れた、異世界の軍隊の世界?」
まさかと思う。少なからず憧れていた異世界に自分は迷い込んだのだろうか。そんな淡い期待もあったが、それよりも才人は家に帰れるのだろうかという心配があった。なぜだか、そう感じた。
「いえ、ここはバイストン・ウェルではありません」
「なら……!」
ここは日本なのか、そう口に出そうとした矢先に、
「むろん、日本でも……地上の世界でもありません」
「……!」
「ここは、全くの異世界……私は使命の為、この世界にやってきました。その使命を果たす為に聖戦士を呼び寄せたのです」
フェラリオは真っすぐな瞳で才人を見た。小さな、それこそ人形くらいの背丈しかないフェラリオではあるが、その容姿は可憐でまさに妖精のようだった。才人は若干頬を赤らめて、フェラリオから視線を外した。
「その、君が、理由があって、ここにいるのはわかるけど……俺はどうして、ここに? できれば、すぐに帰りたいんだが……」
「貴方が私の目の前に現れたと言う事は、貴方が聖戦士として、召喚された事を意味します」
それはいきなりすぎる話である。
「聖戦士って、召喚って……なんだよ、そりゃ? お、俺は言っちゃなんだが、普通の学生で……勉強はできない、スポーツだって人並みくらいしか……」
「それでも、召喚されたと言う事は、貴方には聖戦士の資格があり、オーラ力があるという証拠なのです」
「オーラ力……だって?」
また聞きなれない言葉だ。才人はバイストン・ウェルやオーラバトラーの名前は知っていても、それ以上の詳しい内容は知らなかった。
「人の中にある力……生体エネルギーともいうそうです」
「俺は魔法みたいなものは使えないぞ?」
「それほど便利ではありません。ですが、力である事に変わりはありません」
「よくわからない……それに、俺にだって、自分の生活がある! そんな、勝手に召喚なんてされて!」
半ば叫び声のようにかすれた声で才人は言った。フェラリオは視線を下げて答えた。
「それについては申し訳ないと思っています。ですが、私も使命を果たさなければならないのです。それが、私の最後の罪滅ぼしとなるのですから」
フェラリオはきっぱりと答えた。視線をあげて、才人の目を見ながら、その表情は真剣なものだった。才人はなぜだか、小さなフェラリオに気圧される感覚を覚えた。
「か、勝手だよ……それに使命ってなんだよ……」
「この世界からオーラマシンを排除するのです」
「オーラマシン? オーラバトラーの事か?」
「それも含めた全てのマシンです。本来なら、消滅するか、バイストン・ウェルへ帰還するはずだったマシンが、この世界に送り込まれてしまいました。マシンはこの世界にとって、
異物であり、存在してはならないものなのです。手遅れになれば、この世界もバイストン・ウェルや地上界と同じように戦乱に巻き込まれるでしょう」
「そ、そんな大げさな……確かに、戦争はあったけどさ……すぐに終わったし……」
「地上では核兵器というものが使用されたそうですね。それにパリが炎上し、多くの犠牲者が出ました。オーラマシンはそれらを引き起こす兵器なのです!」
才人は戦争を知らない世代である。いくら事細かく教えられても実感がわかなければ、それまでであった。実際、フェラリオの熱弁に反して、才人はそういうものなのかという感じでしかなかったし、
平凡な学生にしてみれば、それも当り前の反応なのかも知れない。
『そんな事言われたって、俺は普通の学生だ……過度な期待をされても困るってもんだ。それに、俺は家に帰れるのか? この、フェラリオも俺を返す気はないのかも知れないし……』
そう考えると、ぞっとする。このまま一生をここで過ごす事になるのだろうか。それは勘弁してもらいたい。少年ともなれば、冒険活劇に憧れはするが、それは所詮憧れである。今実際に体験してみると、
不安しか感じられない。そんな不安が顔に出ていたのだろう、フェラリオは心配そうな表情で、こちらの顔をうかがっていた。才人はまた頬を赤らめて、それでも何とか気取られないようにした。
『拉致同然の召喚したくせにさ……そんな顔されると、怒る気も起きないよ』
はぁっとため息をついて、才人は気だるげな視線をフェラリオに向ける。そういえば、まだ名前を聞いていなかった。
「君さ……名前は?」
そんな才人の言葉にフェラリオも思い出したように語りだす。
「申し遅れました、私はシーラ。ミ・フェラリオのシーラです」
「シーラか……」
ふと、どこかで聞いた事のある名前だと思った。知り合いに外国の女の子などいないから、アニメか漫画のキャラクターだろうと、思ってそれ以上は考えなかった。
「まぁ、なんだ……聖戦士とか、使命とかはよくわかんないけど、俺はこんな樹海みたいなところで野宿する気はないし、取りあえず街にでも出よう?」
街に出たからと言って何が出来るわけでもないが、見知らぬ森の中にいるよりは人の影があった方が安心できる。運が良ければ、何かあるだろう。才人はそんな能天気な事を考えれるくらいの余裕が出てきていた。
不安は残っていたが、それを打ち消す為にも、才人は身体を動かすしかなかった。
実際は、異世界にやって来たなんて事を信じられないだけであったが、才人はそれに気がつく事はなかった。
才人は森の中を真っすぐ進んでいた。意外と木々が邪魔にならない程度に広がっており、進みやすい道ではあるが、未だに街の影は見当たらない。
それでも才人が進めるのは、シーラのおかげである。宙に浮かぶシーラは空高く舞い上がると、街のある方角を見つけて、才人を先導してくれていた。
『こういう時って、空が飛べるって便利だよなぁ』
前を飛ぶシーラを見ながら、才人は思った。初対面ではあるが、シーラは良く気配りのできる子である。先導しながらも、才人の歩幅に合わせてくれているし、
時折街の方角を確認したり、声もかけてくれる。対して才人はまだ遠慮があり、受け答えも短いままだった。
重苦しいというわけではないが、会話のない沈黙の空間は居心地が悪い。才人は思い切って、声を出そうとしたが、その瞬間、森の奥がガサガサと騒がしく音をたてた。
『……!』
何事かと思って、才人とシーラは身近な樹木の影に隠れた。音のした方向からは、依然として木の枝をふむ音が聞こえる。何かが歩いているようだった。動物か何かだろうか、
それか、こんな奇妙な場所に召喚されたと言う事はモンスターでも出てくるのだろうか、才人は息をのんで、ゆっくりと顔を出した。
『何だ、あれは!』
才人の視界に映ったのは人だった。無精ひげを生やして、薄汚れた服を着たひょろ長い男であった。普通ならば、人を見つけた事え喜ぶところだが、才人はそれをするのをためらった。
『子どもをかついでいる? それに、あの子縛られてないか?』
男の肩には手足を縛られ、口をふさがれた金髪の男の子がいた。じたばたと暴れているようだったが、ひょろ長いとは言え、大人の男の力で簡単に押さえられていた。その光景は素人から見ても、異常である事はわかる。
「暴れるな! くそっ、あいつら、俺に面倒を押しつけやがって!」
男は悪態をつきながら、担いでいる少年の尻を叩いて黙らせようとする。しかし、少年はそれに対して抗議するように強く身体を動かす。
どうみてもじゃれあっているようには見えない。才人は樹木の影に隠れながら、息を整え、落ち着かせる。よく観察してみると、男は腰に剣をぶら下げていた。助けるべきか。そう考えてはみるものの、
こちらは丸腰で向こうは武器を持っている。才人は特別運動が出来るわけでも、格闘技を習っているわけでもない。剣を振り回されたら、それでおしまいである。
「こいつ、貴族の子どもだからって良い気になって!」
躊躇する才人をよそに、男は暴れる少年に苛立って乱暴に地面に落とす。受け身が取れない状態で落とされれば相当な衝撃である。少年は苦痛に顔をゆがめていた。しかし、男は重たい荷物から解放され、肩を回してリラックスしていた。
「あいつ!」
小声でだが、思わず口出さずにはいられなかった。
「才人、私があの男の気を引きます。その隙に腰の剣を奪うのです!」
「シーラ?」
不意の言葉に才人は反応できなかったが、シーラは才人の返答を待たずに男の前へと飛び出していった。
男にとってもそれは驚きであった。突如として目の前に現れたシーラの姿にみっともなく小さな悲鳴をあげて、後ろに下がる。僅かに狼狽した男の周りをシーラは飛び回った。
しかし、男も驚いてばかりはいられなかった。未だ驚愕の表情を浮かべながらも、震える手で剣の柄を握る。スッと僅かに刃を見せると、同時に男は背中に衝撃を感じた。
才人が体当たりを仕掛けたのである。才人は殆ど我武者羅に男の背中目がけて突撃し、男の手から離れた剣を握る。そして、殆ど夢中で剣を振るうと男はギョッとして、「メイジ!」
とわけのわからない言葉を出して、恐怖に歪んだ顔を向けていた。
「お、お前……早くどっかに行っちまえよ!」
今更になって才人は剣の重さに戸惑っていた。しかし、そんな才人の戸惑い以上に男は恐怖していた。それは才人からも見てとれた。なぜ目の前の男がそれほどまで恐がっているのはか
理解できなかったが、それは好都合と判断して、剣先を男に向ける。ジリッとつま先を動かすと、男は「ひぃ!」と悲鳴をあげて、おずおずと後ろに引き下がる。同時にシーラが才人の傍によると、
今度こそ大きな悲鳴をあげて、男は走り去っていった。
それを見送った才人は震える手から剣を手放して、その場にへたれこんだ。足もがくがくと震えていたが、ハッとなって少年の方を見る。
「あぁ……言葉は通じてるのか? い、今から縄を解くからさ……暴れないでくれよ?」
先ほどの緊張が抜けきれない才人は僅かに声を震わせながら言った。少年は無言で頷くと、身体を転がして、背中を向けてくれた。どうやら信用はされたようだった。
「縄なんて、解くのは初めてだから、時間がかかるかも知れない。シーラ……?」
「周りを見ておきます」
「ありがとう……」
それを聞いた才人は縄を解き始める。中々がっちりと絞められた縄は硬くて、解くのに難儀したが、幸い時間をかける余裕はあった。途中、剣を使えばとも思ったが、使い慣れていない物を使って
怪我をさせるが恐くて、止めにした。
四苦八苦しながらも、何とか手足の縄を解いた才人は、最後に口をふさぐ布を取ってやった。その際、最初にこれを解いてやればよかったなと思ったが、もう過ぎた事であった。
「ンン……最初に口を自由にするものではないのか?」
開口始めの一言がそれだった。
「あ、あぁ……ごめん」
才人も悪いとは思っていたのか、少年の口調に腹を立てるよりも素直に謝っていた。
「だけど、こうして命を助けられた。貴方には感謝している。見慣れない、服装だな? 伝説と言われていたフェアリーを従えている。くらいの高いメイジのようだが……そうは見えないな?」
「その、メイジってなんだ? さっきの男も言っていたけど、俺は普通の学生で、シーラはさっき知り合ったばかりなんだ」
そういや、ダンバインの最後の浄化後だと
主要キャラは全員フェラリオに転生したんだっけか
ん?規制くらったか?
避難所の代理投下の方に書き込んでくれれば投下するが
金髪の少年は眉をひそめながら、才人とシーラを交互に見る。すると、懐から小さな杖を出すと小声で何かを唱えて、杖を才人とシーラに向ける。才人とシーラはそれを不思議なものを見るようだった。
数秒と経たないうちに少年は杖をしまうと、
「メイジではないようだな。しかし、フェアリーを連れて歩いているとは……やはりメイジか?」
「いや、だから、メイジってなんだよ……」
それを言った時だった。馬の蹄の音と共に野太い男の声が響いた。
「ジルダ様!」
そう言って現れたのは、軽装の鎧に身を包み、槍をもった男だった。男は器用に馬を操り、才人の姿を見ると、サッと槍を向ける。
「貴様、何者だ?」
槍を向けられた才人はたじろぎ、その場に凍りつく。鼻先まで伸びた槍の切っ先はこちらがおかしな動きをすれば、一瞬で顔を貫く事が出来る。才人は冷や汗を流しながら息をのんだ。
「フェアリーの使い魔だと! メイジか!?」
「まて、アベル!」
槍を向ける男を叱りつけるように、少年が才人と男の間に入る。槍を構える男はそれに戸惑いながら、槍をずらす。
「アベル、この者は私を賊から救ってくれた男だ。無礼はゆるさん」
「しかし……」
「我がラターナ家に恥をかかせる気か?」
「ですが……!」
「くどい。賊ならばもっと抵抗するはずだ」
男は少年の言葉に顔を渋らせながらも、槍の構えを解いた。
「わかりました……しかし、警戒はさせていただきます」
「ン、それくらいな……」
目の前でわけのわからない会話を続ける二人を眺めながら、才人は本格的に面倒な事になったのかも知れないと感じた。チラッとシーラを見るが、シーラもどうして良いのかわからないようだった。
しかし、才人よりは落ち着いているように見えた。
『俺……どうなっちゃうんだ?』
一人取り残されたような感覚だけが、才人にはあった。
投下終了です。
暫くはオリストが続きます。
書き忘れたのですが、クロス先の作品は「聖戦士ダンバイン」
となります。
代理投下完了
自分としては何度か構想を練っては挫折したテーマの作品を読めるのは非常に嬉しいw
>暫くはオリストが続きます。
ここで、どういう経緯でフェラリオやオーラマシンがゼロ魔世界に来たかを説明するんだろうな
話としては重要なとこだが、あまり長くしすぎると才人以外の本編のキャラの出番が
遅れるからある程度はスッパリと切って纏めたほうがいいと思うし…難しいとこだな
作者&代理乙
いかにもダンバインっぽい雰囲気があっていいね
作者も代理の人も乙でした。ダンバイン懐かしいなぁw
今後原作ストーリーに絡む時のためと、それと読者を飽きさせないために、
時々思い出したようにすれ違う程度にでも原作キャラを登場させて、
フラグらしきものをそれっぽくチラ見させていくと、いいスパイスになるかもしれません
ビルバインさんは第4スパロボで鬼のような強さだったな
まあとりあえずワルドが仮面つけて再登場かと思ったが、
ハイパー化して「…ママ!」と叫びながら爆死する方が似合うなw
ワルドは
「8歳と9歳と10歳の時と、12歳と13歳の時も、僕はずっと・・・待ってた!!」
「クリスマスプレゼントだろ!! カードもだ!」
の方が似合いそうだ
ママ助けてでマンマユート団がハルケにとか連想した
才人のゼロ戦に追っかけまわされる姿しか浮かばねえw
巨大幼女「オガァーーザァーン!オガァーーーーザァーン!!
オガァーーーーーーザァーーーン!!!」
何故かテファと居るサコミズ皇とか…
オウカオーとか居たらヤバいか
ああ、文章がそれっぽくて懐かしく感じたw
乙です
サコミズ・・・サコミズ隊長、なんで死んじゃったんだよぉ
>>297 たぶんコンプリートに収録されてた短編のことだと思う。
アライブの付録のタイムスリップネタ、買い逃しちゃったんだよなあ……
単行本にまとまらないかな。
>>299 電撃だとそういうのあとでまとめてくれるけどMFだとどうだろうなぁ
>>243 むしろスクウェア無双バリバリのところをザコ敵の自爆攻撃に巻き込まれてあえなく最期をむかえるとか
これからデュープリズムゼロ第二十一話投下します。
第二十一話 『脱出アルビオン』
礼拝堂に並ぶ石柱の一本が崩れ落ちる…
(何だこれは!!??……間違いなくエアニードル程度では受ける事すら叶わんぞ!?)
ワルドは思わず戦慄し歯をぎりと食いしばる。
ミントの手によって振り抜かれた黒い靄を纏ったデルフリンガーの切っ先はワルドの鼻先数サントを掠め、斬撃はそのまま脇にあった石柱へと叩き込まれていた。
常識的に考えて大柄な成人男性程の胴回りを持つ石柱を剣で切るなど不可能だ。
ワルドはミントの剣が石柱に弾かれるにしろ、食い込むにしろ確実に生まれるであろう隙を突く為に確実な回避を選んだがワルドの想定もろともに黒い靄を纏ったデルフリンガーは容易く石柱を切り砕いた…
石柱に刻まれた傷は風の刃で付けたような鋭い物では無くもっと荒々しく、それはまるでミノタウロスが全力で斧を振るったかのよう…
続けて返すミントの刃がワルドに迫る。。
回避に徹しつつワルドはこの規格外の破壊力を理解した。ハルケギニアの魔法にも今ミントが使用している魔法に酷似している物があるからだ。
「(成る程…この魔法やはり正体は解らぬがその本質は『ブレイド』か!)ならばっ!」
接近戦では分が悪いと判断し、簡単な風の魔法で土煙を巻き上げワルドは一足飛びでミントから距離を取った。
「エアハンマー!!エアカッター!!エアハンマー!!!」
苦し紛れとはいえワルドの真骨頂である高速の詠唱によって不可視の魔法がミントへと襲いかかる。
「来るぜ、相棒っ!!」
「分かってるわよ。」
活躍の場が与えられている事が嬉しいのかやたらとテンションが高いデルフリンガーをふるってミントは迫る魔法へと迷う事無く前進した。
「くっ…」
やはりと言うべきかミントの足を止める事は出来たがワルドの目の前で魔法はデルフリンガーに掻き消される。
接近すれば凶悪な攻撃力を持つ剣とガンダールブの技が…たとえ離れようとも残された精神力で放てる魔法が通じない事実にワルドは心底苦い表情を浮かべる。
(くそっ!これが伝説の使い魔ガンダールブか。認めたくは無い…認めたくは無い…が!!このままでは確実に負ける…)
余りに相性が悪い。戦術的撤退もやむ無し、とそう判断を下し即座にワルドは天を仰ぎ上空で待機させていた己のグリフォンを呼び出す為口笛を吹く。
口笛に反応して直ぐにグリフォンはステンドグラスの天窓を突破して舞い降りてきた。しかしそれと同時にミントが距離を詰めようとしている。
だが、ワルドにも最後の切り札はある。まさかそれを使わねばならぬような事になるとは夢にも思っていなかったが…
ワルドは素早く新たな呪文の詠唱を終えると杖の先端を視界の正面に見据えたミントでは無く、その端に映るルイズへと向けた。
「えっ……?」
ルイズは戦闘の最中に今まで見向きもされなかった自分に突如ワルドの杖が向いている事に気づきその身を硬直させる。
「ガンダールブ!私への一太刀かルイズの命か、選んで貰う!!ウィンドブレイクッ!!」
「なぬっ!?」
ワルドの言葉にその意図を読み取り、ミントは足を止めるとワルドが全力でルイズに向けて放ったウィンドブレイクの射線へと咄嗟にその身を投げ出した。
間一髪、ミントがその身を盾にデルフリンガーでウィンドブレイクを吸収してルイズを守る…だがその間にワルドの元にグリフォンが辿り着いていた…
「フハハハ、やはりルイズを守ったかガンダールブ。」
まんまと目論見通りに事が運んだ事に高笑いを浮かべてワルドは飛び上がったグリフォンの背からミントとルイズを勝ち誇ったように見下ろす。
「ワルド…あんた、逃げる気!?」
「逃げる?ククク…これは異な事を仰る…君達は私が相手をせずとも此処で確実に五万の兵に蹂躙されて死ぬでは無いか。先程までの闘いはいわば戯れだよ。」
「やっぱあんたって最高にむかつくわ…」
「同感よミント。」
ルイズとミントは勝ち誇るワルドを貫くように睨み付ける。
「随分と嫌われた物だ…だがそれも仕方在るまい。ルイズ、アンリエッタの手紙は君の遺体から後で回収させて貰うよ。それでは永遠にさよならだ。ハハハハ!」
ワルドはそう言い残して背を向けると逃走の為、グリフォンを天井の砕け散ったステンドグラスへと飛翔させる。
しかし…
「言っとくけど、このままあんたを見逃してあげる程……あたしは甘く無いのよ!!」
怒りの雄叫びと共にミントは全身全霊の力を込めて緑色の魔力を纏ったデルフリンガーを振り下ろす。
ミントに残された全魔力から生み出された巨大な風の刃はデルフリンガーの刀身を離れ、一気に解き放たれると礼拝堂そのものを一刀のもとに両断した。
刹那、ワルドの頬を一瞬の風がなぞる…風のメイジたる鋭敏な感覚でワルドはその風の鋭さを感じ取った…次に感じたのは奇妙な違和感。それは己の右腕からだった。
「…ッ!?…ウオォォァァァァ…!!????」
余りの衝撃に思わず絶叫が上がる。ワルドの視界で本来自分の右腕があるべき場所では唯々、血しぶきが噴き上がっていた。
杖もろともに失われた右肘から先はミントなりのルイズの折れた腕に対する意趣返しなのかそれとも純粋に狙いがそれたのか…
「おのれぇっ!!この屈辱忘れんぞ、ガンダールブ!!」
憤怒の表情でワルドはミントを睨み捨て台詞を吐く。
結局ワルドにはミントの真意は分からなかったがその身を預けているグリフォンが怯えたように全速力で飛行してくれた御陰でミントの魔法の追撃からは逃れる事は何とかできた。
「ちっ、逃がしたか。」
飛び去ったワルドのグリフォンを追うように見上げて地団駄を踏むとミントは舌打ち混じりに毒づいてデルフリンガーを鞘へと押し込んだ。
色々とこの剣には聞きたい事はあったがその前にこの状況を何とかしなければならない。
「ミント…ありがとう。でも…これからどうすれば…」
ルイズはヨロヨロとミントの隣まで移動すると不安げな表情でミントを見つめた。
「どうするもこうするも無いわ。何とかこの国から脱出するしか無いじゃない…」
「でも…どうやって…」
「ったく、知らないわよ…あたしよりもあんたの方がこの世界の事詳しいんだか…ら…っ…ぁれ?」
ふとミントは突然の脱力感に襲われてその場にへたり込んでしまう。
「ミントっ?どうしたの大丈夫?どこか怪我を…」
軽い目眩を覚えながら駆け寄ってきたルイズを制してミントは何とか立ち上がる。
ヴァレンとの闘いの時もそうだったが戦闘を終え、緊張が解けたせいで一気に疲労が襲いかかったのだろう。
「あ〜…へいきへいき…ちょっと強引な魔法使いまくったせいで疲れただけ。少し休めば大丈夫だから…」
「でも…ひどい顔色だわ…」
ルイズは心配そうにミントを見つめる。医療には明るくないルイズから見てもミントの顔色は明らかに悪かった。
「でも…本当にどうすれば……ミントもこの調子じゃ歩けないし船も無いわ……」
ルイズは改めて現状を把握するとどれだけ今自分達がどれだけ絶望の中にいるのかを認識してしまう。
すると、不意にルイズの足下でぼこっと床石が割れ、何か見覚えがある茶色の生き物が顔を出した。
「え?」
ルイズとミントが何故今ここにギーシュの使い魔ヴェルダンデが居るのかが理解出来ず呆気にとられているとヴェルダンデはそのままルイズへと鼻先を擦りつける。正確には水のルビーへと。
「おーい、ヴェルダンデ!どこまで君はは穴を掘る気なんだね!って……ルイズじゃないか!!?」
ヴェルダンデが出てきた穴から、ギーシュの声が聞こえてきたと思えば一拍置いて、その穴からひょっこりギーシュが顔を出した。
「ギーシュ、何であんたがここに!?」
ルイズの問いにギーシュは土に汚れた手で自慢の金髪を掻き上げる。
「あの後何とかフーケと傭兵達を退けてね。タバサのシルフィードで君達を追ってアルビオンに辿り着いたのさ。そうしたら今度はヴェルダンデが突然穴を掘り始めたから慌ててそれを追いかけて今に至るってところさ。
いや〜、タバサとキュルケと共にフーケのゴーレムを相手取った僕の勇士を君達にも見せたかったよ。君達こそあれからどうなっ…」
と、合流の成功に浮かれていたギーシュはようやくルイズとミントが満身創痍になっている事に気が付いた。とくにルイズは服もボロボロで右腕が明らかに折れている。
更に極めつけ、後ろには胸を貫かれたウェールズの遺体…
明らかに困惑と同様の表情をギーシュが浮かべるが二人は今はいちいち構って等いられない。
「とにかく良くやったわギーシュ。さぁ、脱出するわよ。」
「ちょっ…状況が!!子爵は…わぷっ」
「説明なら後でするわよ。ほら、ルイズも、腕、気をつけなさいよ。」
「ミントは?」
「…あたしは武器拾ってくる。先に行ってて、直ぐ追いかけるから。」
「うん…急いでね。」
混乱しながら状況の説明を求めようとしたギーシュの顔を蹴りで穴へと押し込み、軽い問答の末ルイズを見送るとミントはゆっくりとウェールズの遺体が横たわる祭壇へと歩み寄った。
「さて…あんたも報われない男ね…悪いけど約束通り風のルビーは貰っていくわよ。」
既に物言わぬウェールズからは了承も抗議も無い。
ミントは独白気味に語りかけながらその血にぬれた指先から風のルビーを抜き取った。その後でウェールズの顔を撫で、安らかな眠りを促すように瞼を落とさせる。
心なしかウェールズの表情は少しだけ穏やかな物へと変わっていた…
既に一刻の猶予も無い、外からはレコンキスタと王党派の開戦の怒号が聞こえてきている。
「じゃあね、ウェールズ。」
ミントは直ぐ近くの瓦礫からその姿を覗かせているデュアルハーロウを拾い上げると、ウェールズへ手を振って躊躇う事無くヴェルダンデの掘った穴へと飛び込んだ。
___
脱出路の穴を抜けた先、シルフィードの背の上でミントはラ・ロシェールで分かれて以来のタバサとキュルケに暖かく迎えられた。
「色々大変だったみたいね。ミント。」
「まぁね〜、あんた達も大変だったでしょ?…正直迎えに来てくれて助かったわ。」
「心配…徹夜で飛んで来た…」
「感謝してるわ。シルフィードもご苦労様。」
ミントが二人への感謝と労いの言葉を掛けながら背中を撫でるとシルフィードは疲れた様子ながら「きゅるきゅる」と喉を鳴らして喜んだ。
「それじゃあ、脱出するわよ!」
以上で今回は終了です。
しかし何故か今回ワルドは視点が多かった…なんかしっくりこなかった気がします。
ミントの使った魔法剣のイメージはデモンズソウルのストームルーラーと呪いの武器です。
じゃあまたです。
投下乙ざんす
310 :
るろうに使い魔:2012/05/11(金) 23:55:55.99 ID:34x3wLyL
デュープリズムの人、乙です〜.
どうもお久しぶりです。
予定がないようでしたら、五分後の零時丁度から投稿してもよろしいでしょうか?
311 :
るろうに使い魔:2012/05/12(土) 00:01:09.46 ID:7SFxfU9J
何も問題はないようなので、それではこれより始めさせて頂きます。 時は幕末―――――。
黒船来航から端を発した一つの時代。明治維新が訪れるまでの十五年間。
尊王、佐幕、攘夷、開国―――様々な理想野望が渦巻く最中。
徳川幕府と維新志士――剣を持つものは二つに別れて戦いを繰り広げた。
その幕末の動乱期、その渦中であり激戦区となった土地、京都にて、『人斬り抜刀斎』と呼ばれる志士がいた。
修羅さながらに人を斬り、その血刀を以って新時代『明治』を切り拓いたその男は、動乱の終結と共に人々の前から姿を消し去り、時の流れと共に『最強』という名の伝説と化していった。
そして時代が進み、今や刀や侍は過去のものへとなっていった明治の東京にて、その男は人知れず姿を現した。新しい『信念』と『刀』を携えて。
数々の出会いと死闘に身を投じながらも、男はその信念を持って剣を振るい、明治の時代にその名を残さなかったまでも、関わった人々からは確かな『英雄譚』となって語り継がれることとなった。
その、確かな居場所を見つけた男は、ある日再び姿を消すこととなる。誰にも知れず、ひっそりと――――。
そして新たな浪漫譚は別の世界。この世界とは根本的に別な『どこか』。刀と侍ではない、魔法と幻想が栄える世界の『どこか』。そんな世界から話は始まる。
312 :
るろうに使い魔:2012/05/12(土) 00:03:03.59 ID:34x3wLyL
あれからの夜――剣心はルイズに案内されて彼女の部屋へあがった。
途中、自分は別の国からやって来た、という言葉もルイズはさして取り合おうともしなか
った。
確かに、身なりや風貌は見たこともないが、言葉がこうして通じる以上彼女からして見
れば、この国のしきたりや習わしを知らないこの男こそがおかしいのだった。
剣心自身も、最初はまだこの国が地球上のどこか、つまり日本から遠く離れた地である
ことを信じていたし、それを疑わなかった。
あの月を見るまでは―――。
「月が…二つ…?」
「当たり前じゃない、何驚いてんのよ」
かつて日本に居たとき、時々何度と仰いでみたそれとは根本的に違う、青い月と赤い月。
その瞬間、剣心は自分が住まう場所とは何かが絶対的に違う、完全に隔絶された世界だ
ということを、頭ではなく心がそう理解した。
何を馬鹿な、と思うこともある。たまたま月が二つ見える地域があって、今はその場所
にいるんだ、という考えもできなくはない。
だが、そういった希望的観測は、最早すればする分損するだけだと思い始めたのだ。ル
イズの話しぶりから見ても、この国は余程大きいものだというのが見て取れるし、無理に
世間に隠そうとしている気概もない。そんな有名な国なら、祖国にも噂程度でも伝わって
いてもおかしくはない。
というより、人目を気にせず空を飛んでいる人間や空想上の動物を使い魔にしている時
点で、どこかおかしいと気づくべきだったのだ。
ようやく自分に置かれた立場がかつてないほど窮地的だと分かり始めたとき、そんな剣
心の心情など露知らずといった口調でルイズが口を開いた。
「とりあえず、使い魔としての使命でも教えておくわね」
「……何をすればいいでござるか?」
剣心の問いに、ルイズは大きく胸を張って答える。
「まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力が与えられるのよ」
と言われても、特にピンとこない。体調に変化はないし、何かが見えるようになったり、
聞こえるようになったわけでもなかった。
「その次に、使い魔は主人の望むものをみつけてくるのよ。例えば秘薬とか」
313 :
るろうに使い魔:2012/05/12(土) 00:03:40.69 ID:7SFxfU9J
「どんなものでござる?」
その言葉に、期待するだけ損したと、ルイズは力なくガックリとうなだれた。
「もういいわ…、それで最後に使い魔は主人を守る存在でもあるのよ。これが一番大事! でもね…」
ここでルイズは剣心をまじまじと見つめた。
自分と変わらない身長差に締まりのない表情、腰に差している武器のようなものを一緒に入れて鑑みてみても、ルイズの想像する「どんな苦境からも守ってくれそうな戦士」には到底見えなかった。
(もう、なんでこんなヤツ呼んじゃったのかな…)
心中でため息をつきながら、ルイズは剣心の目の前でいきなり制服を脱ぎ始めた。隣で慌てて後ろを向く剣心に向かって、服やら下着やら投げつけた。
「それ洗っておいてね。あ、言っとくけどあんたは床よ」
そう残してベットに潜り込むと、余程疲れたのだろう、そのままスヤスヤと寝息とたて始めた。
別にその点はなんとも思わなかった剣心は、そのまま腰を下ろして愛刀を肩にかけ、ルイズが寄越した服を畳んで横に置いた。
眠りにつく中、ふと剣心はこうなってしまった『あの時』を思い返していた。
あの時―――、まだ日本の神谷道場にいた剣心は、いつも通り朝食を食べてその後衣服の洗濯をしていた時だった。
昼過ぎには弥彦の稽古の相手をしてやろうと、そんなことを考えながらふと目を向けると、そこにはいつの間にか鏡があった。
一体何だろう? 突如現れたそれに警戒はしつつも、その一部に剣心は無用心に触れてしまった。その瞬間、吸い込まれるように鏡に引っ張られ、その次にまるで放り出されたかのように地面に叩きつけられていた。
そして、今に至るというわけである。
今頃、向こうは自分が居なくなって大騒ぎでもしているのだろうか、今もなお必死で探し続けているだろう彼等の姿が容易に想像出来るだけに、少し罪悪感に苛まれた。
(すまない、弥彦……そして薫殿)
必ず帰るから――そう口にして呟きながら、剣心も目を閉じた。
第二幕 『流浪人の一日』
空へと昇っていく太陽の日差しを受けて、剣心は目を覚ました。どうやら夢落ちとかではないようだった。
ベットの中のルイズは、まだ起きる素振りを見せない。
今起こしても大丈夫だろうか? 正確な時間帯を知らされていないため、少し迷ったがこの際仕方ない。
意を決して、剣心はルイズの肩を揺さぶった。
「起きるでござるよ、ルイズ殿」
「ふぁ…あんた誰?」
などと寝ぼけるルイズをよそに、剣心は昨日畳んでおいた制服を取りあげると、それをルイズに渡した。
ルイズはそれを見て、目の前の男は昨日召喚した使い魔であることを思い出したのか、手元にあった服を再び投げ返すとすっくと立ち上がった。
314 :
るろうに使い魔:2012/05/12(土) 00:04:30.87 ID:34x3wLyL
「何してんのよ、早く着替えさせなさい」
一瞬、奇妙な沈黙が流れた。ルイズは剣心に対してなんの気恥ずかしさも見せず、ネグリジェの下着姿のまま仁王立ちしている。
言葉の意味を読み込むのに時間がかかった剣心は、何か言おうとして…やめた。反論したところで割を食うのはわかりきったことだからだ。
「…もう少し女子としての恥じらいを持ってほしいでござる」
「何か言った?」
深いため息をつきながら、剣心はいそいそとルイズに服を着替えさせ始めた。
場所は移り、トリステイン学院の食堂室。
『アルヴィーズの食堂』と呼ばれるこの場所は、まさに貴族が食事をするのにふさわしいと言えるような、煌びやかで贅沢な造りとなっていた。
仕度を終えてこの食堂へとやってきたルイズは、その広い間に並べられた3つのテーブルの真ん中の席に座り、剣心を見て床の方を指さした。
そこには、粗末なパンとスープが無造作に置かれていた。卓の上に置かれている豪勢な食事とは程遠い拵えである。
「本当ならこの食堂に来ることすら許されないんだからね」
感謝しなさいよ、とも言いたげにルイズは鳥肉を美味しそうに頬張り始めた。
段々とルイズの性格をつかみ始めた剣心は、これも特に何も言うことなくスープの皿に手を伸ばした。その時……。
「あら、ずいぶんお早いのねルイズ」
剣心の上から、そんな声が聞こえた。顔を上げるとそこには、ルイズと同じ制服を着た、燃えるような真っ赤な髪をおろした褐色で巨乳の美女が立っていた。
「あんたと同じ席にいたくないだけよ、キュルケ」
「あらあら、相変わらずつれないわねぇ」
苦虫を噛み潰したような顔をするルイズとは対照的に、キュルケと呼ばれた女性はクスクス笑いながら気にもせず答えると、今度は剣心の方を見た。
「しっかしほんとに平民を召喚させちゃうなんて、さすがねゼロのルイズ」
明らかに馬鹿にしたような口調でルイズに言うと、キュルケの横からもそもそと何かが現れた。
トカゲ? と剣心は首をひねった。見かけは確かにトカゲのそれだが、にしては大きく尻尾には炎が灯り、口から火が見え隠れしている。恐らくは自分と同じ異世界から連れてこられただろう種族だろうということで、今は納得した。
「でもどうせ喚ぶなら、こういうのがいいわよねーフレイム」
そう言って、キュルケはフレイムという名のトカゲの頭を愛おしく撫でた。
しかし一方フレイムは、そんな主人の意に介さず、剣心の下に置いてあるパンを見つめていた。
「欲しいでござるか?」
にっこりと微笑む剣心の問いにフレイムはこくりと頷くと、剣心はなけなしのパンのひと切れをフレイムの口に放り込んだ。フレイムは美味しそうに口を上下させて食べた。
「あら、何か悪いわね。大丈夫?」
「何、ひと切れもふた切れもさして変わらないでござるよ」
素直に感心したような口調でキュルケは言うと、剣心は残りのパンとスープをそのまま頬張った。
「平民だけど、面白い使い魔ね。大切にしなさいよ。ご主人様」
最後にからかうようにルイズにそう言うと、キュルケはフレイムを引き連れてその場を後にした。
はあ、とため息をついたルイズは、そのまま去っていくフレイムを見、そして剣心の方を睨んだ。
315 :
るろうに使い魔:2012/05/12(土) 00:05:25.31 ID:34x3wLyL
「まったく、余計なことしてくれて」
それにしてもサラマンダーかぁ、とルイズは思った。
キュルケは出立や実力、ついでに容姿も認めたくはないが学院でもかなり優秀なメイジだ。そんな彼女だから、希少種ともいえるサラマンダーを召喚したということは、悔しいがどこか納得せざるを得ない。
『メイジの実力をはかるには使い魔を見よ』
この言葉が示すとおり、改めて自分とキュルケの召喚した使い魔が、そのまま今の実力の差を如実に表しているみたいでかなり癪だった。
「そう言えば、ゼロってどういう意味でござる?」
「もう、ボーッとしてないで早く行くわよ!」
そう言って剣心の後ろの裾を引っつかむと、何かを振り切るように駆け出した。
その後、ルイズ達はその足で教室へと向かった。
既に何人かが雑談していたり、本を読んでいたり、使い魔を自慢し合っていたりと中々に賑やかだ。キュルケもまた、大勢の貴族の男達の中心に座って楽しそうに喋っている。その中で剣心を見つけると、軽くウインクをした。
使い魔の座る椅子はない――そうルイズが口を開こうとしたとき、それをもう察知していたのか、すでに剣心は教室の後ろに背中をあずけていた。
やがて、扉が開いて中年の女性がローブと帽子を纏って現れた。
その女性、ミセス・シュヴルーズは、ルイズ達や使い魔達を見て、簡単に挨拶すると早速授業に移った。
「私の二つ名『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年皆さんに講義します。魔法の四大系統はご存知ですね? ミスタ・マリコルヌ」
「は、はい。ミセス・シュヴルーズ。『火』『水』『土』『風』の四つです!」
剣心もまた、興味深くこの講義を聞いていた。
この世界は、魔法を使うメイジが全てというようなことは幾度となく聞いてきたが、実際に見たり聞いたりすると、成程たしかに凄いものだなと思わざるを得ない。
今回は『土』系統の講釈だったので、まだ全体を深く知ったわけではないが、これから先何が起こるかわからないため、こういった情報は重要だと思ったのだ。
中でも極めつけが、実習で行われた『錬金』だった。ただの石くれが真鍮に変化したときは、剣心だけでなく周りもあっと驚いていた。
316 :
るろうに使い魔:2012/05/12(土) 00:08:08.09 ID:7SFxfU9J
「さて、では一通り説明が終わったところで――ミス・ヴァリエール、この石を錬金してみてください」
この指名に、なぜか先程の数倍近くのどよめきが起こった。
何事だろうと訝しげに見たところに、キュルケが真っ青な状態で手をあげた。
「ミセス・シュヴルーズ、それはやめたほうがいいと思います。あの…危険です」
その言葉を聞いて、今度はルイズがムッとした顔で、負けまいといった感じで立ち上がった。
「私、やります」
「ルイズ、やめて」
キュルケの制止も聞かず、ルイズは大股で歩み寄ると、石の前に立ちサッと杖を取り出した。それと同時に生徒たちがもぞもぞと机の中に入り込んで、身を隠す行動に移った。事態を読み込めないのは、剣心とルイズの前に立つミセス・シュヴルーズのみである。
ふと視線を変えると、キュルケが机に隠れながらこちらを手招きしていた。
「あなたもこっちに来たほうがいいわ。さっきも言ったけど……危険よ」
意味深に話すキュルケを見て、一体何が起こるのかと聞こうとした瞬間……。
―――ドゴォォォォォン……!!!
「おろぉぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!!!」
強烈な閃光が全体を覆ったと思ったと同時に、大音量の爆音と大きな衝撃波が襲った。
教室は辺り一面、襲撃でもされたのかと思うほどに散らかされ、使い魔たちはこの騒動にそれぞれ騒ぎ立てる。
勿論、この事態を察せなかった剣心もその例外ではなく、その爆発に思い切り巻き込まれてしまい、目を回して吹っ飛ばされていった。
その爆心地、すっかり黒こげになったルイズは、同じく煤だらけになって気絶しているミセス・シュヴルーズを見て、そして次にボロボロになった教室を見つめると、さも頑張ったような仕草をとった。
「ふうっ、ちょっと失敗してしまったわね。」
その瞬間、周りが一斉にルイズに向かって騒ぎ立てた。
「ちょっとじゃないだろ、ゼロのルイズ!」
「いつも失敗する確率ゼロじゃないか!」
成程、だから『ゼロ』なのか。
剣心はそんなことを思いながら、悔しそうに俯くルイズの方を見つめていた。
以上で投稿終了です。今回は当たり障りのない感じになりました。
前回で改行がおかしいとの指摘をいただきましたので、少し修正してみました。でも全然修正できてない……。
途中改行がおかしいのは、行が長いとエラーが出たからです。
ちなみに冒頭部分の方は、本当は第一幕の時に載せるはずだったのですか、手違いでこちらでの投稿となりました。
まとめでは、第一幕の方に加えておきます。
本当にもう色々不手際が多くて申し訳ございません
あと、この剣心は人誅編終了後の、大体左之助が大海へと旅立った少し後くらいの所から始めています。
それではまた来週この時間に、本日はどうもありがとうございました。
乙でござる
318 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/12(土) 01:05:17.56 ID:Cof8xe+s
デュプリも乙
作者が作品を投下してから最低でも5レスほどコメントがされてから別の作者が投下した方が良いと思う。
コメントしづらい。でも、一応乙です。
この時間帯に4時間も開いてりゃ十分でしょ
デュープリの人&るろうにの人乙です
風のルビーはアンアンに渡すんだろうと思いたいがw
>>319-320 最近感想付かないからねぇ
またコテ消えてねぇしorz
ドンマイ、いつもご苦労様
こういうときは恒例のあれだろう。
ラスボスの人、ミーディアムの人、テイルズの人、いつでも帰ってきてください。
そして、安心院なじみさんをハルケギニアに召喚してくださる作者さんが現れることを大いなる意志に祈るのね!
>>321 どうも2ちゃんの規制が強いらしいな
いま続きが読みたいのはクロちゃん
GIFTの続きこないかなぁ
サイトより弱いキャラってなかなか召喚されないね
スペランカー先生…
他にいなければ19時から投下予定
第9話『妖魔』
『破壊の杖、押収いたしました 土くれのフーケ』
壁の痕跡から、犯人がフーケである事は間違いなかった。
「壁の点検係は誰だ!?」
「昨日の当直はどなたです!?」
「衛兵は何をしていた、所詮平民か!?」
魔法学院の宝物庫から宝が盗まれる。
前代未聞な緊急事態に会議が行われていた。
しかし、お互い責任のなすり付け合いで事態が進展する気配はない。
ルイズ達も目撃者となった為に、会議室へ呼ばれている。
アセルスは今すぐにでも目障りな連中を消してしまいたかった。
実行しなかったのは、隣で拳を強く握り締めるルイズの姿が見えたから。
彼女に取っても目の前の光景は、堪え難い苦痛だった。
自身が理想とする貴族は生徒どころか教師にすらいない。
現実をまさに今、ありありと見せつけられた。
タバサはいつもの無表情だが、キュルケも呆れた表情を隠そうともしない。
彼女の二つ名『微熱』など、些かも感じさせない冷めた眼で会議を見ている。
当直だった教師が判明すると、教師達は一斉に矛先を向けた。
堪忍袋の緒が切れかかったルイズだが、彼女より早く叱責する者が現れる。
「みっともない真似はやめんか、馬鹿者」
扉から現れたのは、学院の最高責任者オールド・オスマン。
学院長の到着と同時に、場は水を打ったように静まり返った。
「議題は責任者探しなどではなく、盗まれた宝物をどう取り返すかではないかの?」
オールド・オスマンの問いに誰一人答えようとしない。
しばらくの沈黙の後に、コルベールが口を開いた。
「王宮へ連絡して、討伐隊を派遣してもらうのは?」
「遅すぎる、王宮への連絡までに逃げられてしまうじゃろ」
「討伐隊を結成しても、逃亡先が不明では追いかけようがありませんが……」
二人のやり取りを聞いていた別の教師が意見を述べる。
「お主達はフーケの姿を目撃したとの事。
その時に見た状況を説明してはくれんか?」
オールド・オスマンはルイズ達に状況の説明を求めた。
「街から戻る際に巨大なゴーレムが学院から立ち去る姿が見えました。
アセルス曰く、筒状の『大きな包み』を持ち去って飛び降りたそうです。
残念ながら、人影がどこに逃げたのかまでは分かりません」
ルイズが代表して答弁する。
「なんだ、それでは手がかりにならんではないか」
説明を受けた教師の一人が愚痴を零した。
「……申し訳ありません」
言葉こそ丁寧だが、その口調は心底冷たかった。
キュルケがルイズから向けられた悪意を思い出すほどに。
「よさんか、わざわざご足労じゃった……」
オールド・オスマンが労いの言葉を終える前に、部屋に飛び込んできた人影。
「すみません、遅くなりました!」
「会議はもう始まっておりますぞ、ミス・ロングビル!何をしていたのですかな?」
大量の書類を抱えたロングビルは叱責にもひるむ事なく、調査報告を読み上げる。
「フーケの逃亡先に関して、今朝から調査しておりました」
「ほう、流石仕事が速いのう。して、何か手がかりは掴めたかね?」
オールド・オスマンが続きを促す。
「はい」
ミス・ロングビルの返答に会議室がざわめく。
「西に4時間ほどの小屋付近で黒ローブ姿の男が目撃されました。
長い包みを持っていたという証言から盗まれた『破壊の杖』の特徴とも一致します」
「なんと!?」
コルベールが驚愕の声を上げる。
「道案内は頼めるかね?ミス・ロングビル」
「勿論です」
即座の肯定に、オールド・オスマンは声を響き渡るように軽く咳払いをする。
「ここに土くれフーケの討伐隊を結成する!志願するものは杖を掲げよ!!」
教師達は誰も杖を掲げない。
皆一同に顔を見合わせるだけだった。
「なんじゃ?土くれのフーケを捕まえようという者はおらんのか!」
先程までのざわめきが嘘のように静まり返っている。
やがて、室内の沈黙を破るように一本の杖が掲げられた。
「ミス・ヴァリエール!貴女は生徒ですよ!?」
「第一、君は謹慎処分の最中ではないのかね?」
教師達が次々に非難の声をあげるも、ルイズは声を荒げて反論する。
「誰も杖を掲げないじゃないですか!」
ルイズの正論の前に教師達は押し黙るしかない。
するとルイズの横からもう一人、杖を掲げる者が現れた。
「ミス・ツェルプストー!君まで……」
「ヴァリエールには負けられませんもの」
キュルケが杖を掲げたのを見て、タバサも杖を掲げる。
「タバサ、無理につきあわなくてもいいのよ?」
「心配」
素っ気ない一言だが、親友の心遣いがキュルケには嬉しかった。
教師達は生徒のみである事に不満を漏らすが、決して自ら動こうとしない。
ルイズ達の身を案じている訳ではなく、もしもの時に責任を負いたくないだけなのだ。
オールド・オスマンは、彼らの浅ましき胸中など見抜いている。
タバサがシュバリエの称号を持つ事、キュルケもトライアングルのメイジである事。
そしてルイズの使い魔が妖魔である事を持ち出し、場を説き伏せる。
「諸君らの活躍に期待する」
「杖にかけて!」
こうしてルイズ達による土くれのフーケ討伐隊は結成された。
「でも、どうやってフーケは宝物庫の壁を破ったのかしら?」
馬車に揺られながら、キュルケが疑問を口にした。
手綱は場所を唯一知っているミス・ロングビルが握っている。
「考えられるのは、固定化の老朽」
タバサが本に眼を向けたまま、答える。
「厳重な固定化をかけていたはずだから、フーケでも簡単に崩せるとは思えないものね」
タバサの推測にルイズも同意した。
本人も知らないが、壁を破壊された真因はルイズにある。
ルイズが深夜、魔法の練習を行っていた頃。
狙いが暴発した際、宝物庫の壁に亀裂が入った。
練習のみに集中していたルイズは、暗さもあって傷を見落としていた。
今朝、宝物庫の下見に来ていたロングビルが壁のひび割れを発見。
厄介者だった使い魔もルイズと街へ共に出かけたと聞いて、フーケの本性を現したのだ。
最も、誤算が生じた所為で学院に戻らざるを得なかった。
誤算が更に重なったのは、教師達が誰一人着いてこなかった事。
盗んだ宝の使い方を知りたかったのだが、彼女達生徒が知っている可能性は低い。
教師達がここまで腰抜け揃いだったのも想定外ではあった。
胸中で軽く舌打ちする。
運が向いてきたと思いきや、何かズレている。
こういう時は、得てして何をやってもうまくいかないものだ。
ロングビルは最大の懸念、アセルスへ視線を向ける。
アセルスは無言のまま、ルイズの傍らで剣を二本抱えていた。
「老朽化起きるまで点検してなかったり、宿直サボってたりしっかりして欲しいわ」
キュルケの愚痴に、ルイズは会議室での様相を思い出す。
個人的な好き嫌いは別として、ルイズは教師達に敬意を払っていた。
今では欠片も残されていないが。
責任のなすり付け合いを行う彼らの姿を、ルイズは貴族と思えなかった。
「ルイズ、どうしたのよ?」
ルイズの変調に気づいたのは、やはりキュルケ。
討伐隊の任務を率先して立候補した姿は、まぎれもなく普段通りのルイズだ。
本来ならば必要以上に気負ってしまう性格でもある。
今のルイズはどこか上の空で、気負うどころか緊張感すら伝わらない。
「なんでもないわよ」
「しっかりしなさいよね、こっちはあんたに巻き込まれたんだから」
キュルケがルイズを煽るように、大仰にため息をついてみせる。
ルイズは何も答えず、外を見つめる。
決闘の時のように悪意を向けている訳でも、いつもの様に言い返すでもない。
「ちょっと、本当に大丈夫なの?」
ルイズの反応がない為、心配そうに尋ねてしまう。
「大丈夫よ、思うところがあっただけ」
ルイズが考えていたのは、貴族に関して。
規律を重んじる。
自らと他者の名誉を守る。
この二つが模範的な貴族像と言えるだろう。
家族は間違いなく当てはまる。
母親に関しては鉄の規律として、国内外に知られる厳格な人柄だ。
父や一番上の姉も同様だし、優しい次女の姉も芯は強い人だと分かっている。
では家族以外ではどうか?
ルイズの専属メイドでもあるシエスタから様々な貴族の話を聞いている。
評判のいい貴族と言うものは、彼女の話には存在しない。
以前、シエスタを無理にでも学院から引き抜こうとする貴族がいた。
シエスタを舐め回すような目線、下衆な目的だったのは容易に想像できる。
自分の専属メイドだと告げると、ルイズに媚び諂うように言い訳を述べて去っていった。
家族以外で立派な貴族を見た覚えがない現実。
責任を果たすべき立場の貴族が、責任逃れに終始する姿。
そんな不品行は、世間知らずの少女を落胆させるのに十分すぎた。
「貴族って何なのかしら……」
ルイズは独り言のつもりだったのだが、キュルケには聞こえていた。
彼女が落ち込んでいるのは、先ほどの会議室での教師達が原因だと納得する。
ルイズは貴族としての建前すら厳守する気高い性格だ。
だからこそ、先ほどの教師の醜態に落ち込んでいるのだろう。
「今はフーケの討伐に集中しときなさいよ」
相手はトライアングルのメイジなのだ。
気を抜いたまま、戦闘になればルイズの身が危うい。
「分かってるわよ」
キュルケの言い分も正論だ。
ルイズは請け負った任務、『破壊の杖』奪還に集中した。
──ロングビルの案内で、森を歩いたしばらく後に小屋が見えた。
「あの小屋ですわ」
廃墟らしき建物に、人が住んでいる気配は感じない。
「私が見てくるから、ここで待っていて」
アセルスを振り返った時、すでに姿が消えている。
代わりに小屋の窓から、アセルスの姿が確認できた。
「え?」
ロングビルが間の抜けた声を上げる。
「アセルスは一定の距離なら自由に移動できるそうなんです。
他の妖魔よりは距離が落ちるらしいんですけど」
ルイズが説明すると、一同は驚いた表情を浮かべた。
「メイジにとって、恐ろしい能力ね……」
キュルケの呟きにロングビルは内心で同意した。
戦闘による魔法の優位は、遠距離からの攻撃だ。
呪文を詠唱する隙がなければ、魔法は発動できない。
平民でも至近距離で戦うのなら、メイジに勝てる可能性は高くなる。
別の機会を窺うか。
命あってのもの種だとフーケが諦めかけた時、突如現れたアセルスに驚愕する。
「小屋の中にあったのは、このケースだけ」
アセルスが取り出した、2メイルほどある木箱。
裏に魔法学院のサインがあるので、盗まれた物に違いないだろう。
「中身は?」
「確認してない、何が盗まれたか知らないからね」
アセルスは『破壊の杖』を見ていない。
中身が本物かどうか、判断しようがなかった。
「罠はない」
箱を受け取って、確認していたタバサからの報告。
中身を確認するべきではないかとロングビルの意見に全員が賛同する。
「開けてみるわよ」
学院の宝に興味があったのか、キュルケが率先して箱を開ける。
「……これが破壊の杖?」
キュルケも実物を見たことがない。
だからこそ、杖と言われても判断し損ねた。
彼女には金属質な奇妙なオブジェにしか見えない。
本体は杖というよりは筒に近い。
少なくとも中心部分を手に持つには太すぎる。
重量も相当だ、普段から携帯できる軽さではない。
ディテクト・マジックを試してみたものの、魔力も感知できない。
「ええ、間違いないわ」
ルイズは破壊の杖を閲覧したことがある。
タバサも同様でルイズの言葉に、頷いて肯定する。
「ハイペリオン……」
アセルスの呟く声に、一同が注目する。
「知っているんですか?」
ロングビルが身を乗り出して、質問する。
「杖なんかじゃないわ、陽子ロケットっていう強力な大砲よ」
「大砲……にしては小型過ぎない?」
アセルスの説明に、キュルケが首を傾げる。
国柄ルイズ達よりは火器に詳しい自負があるも、このような大砲は知識にない。
「私が元いた所にあった武器よ……なぜここに?」
アセルスがこの世界にいるのは、ルイズに召喚されたからだ。
同じ方法だとしても、無機物を召喚するなどありえるのか疑問が浮かぶ。
「どうやって使うんです?」
「蓋を外して、引き金を引くだけよ」
不可思議に思考が囚われていたアセルスは簡単に答えてしまう。
「へえ、そうかい」
ロングビルの口調が変わった。
ルイズ達が驚いてロングビルへ顔を向けると、蓋を外した破壊の杖を構えている。
「ミス・ロングビル、一体何を!?」
唐突なロングビルの行動に、ルイズ達の思考が追いつかない。
「……ロングビルが、土くれのフーケ」
状況を理解したタバサが呟く。
ルイズとキュルケがタバサの方を振り返った。
「おっと、杖を向けるんじゃないよ。
そうさ、お宝を盗んだはいいけど使い道が分からなくてねえ」
破壊の杖は、大規模な爆発を巻き起こす噂を聞いていた。
フーケは巻き込まれないよう、ゴーレムを生み出すべく詠唱を行う。
「動くんじゃないよ、特にそこの妖……魔……!!」
声が途切れたのは、妖魔の姿がすでに消えていたからだ。
体中から血の気が失せる。
本能が警鐘を鳴らしていた──今すぐ離れろと。
攻撃を避ける事が出来たのは全くの偶然。
動こうとして、足元の木の枝に躓いたのだ。
近くの木を薙ぎ倒すものの、アセルスの幻魔は宙を斬る。
その間にゴーレムを作り出して、肩からルイズ達を見下ろす。
運に助けられたフーケは、アセルスの空間移動の特性を掴んだ。
「どうやら一瞬で移動できるって訳じゃなく、少し時間がかかるようだねえ!」
大量の冷や汗を流しながらも、フーケは胸を撫で下ろす。
空間移動が、万能ではないと判明した大きな優位。
破壊の杖の使い方を知った今ならば、勝算があると感じていた。
「まとめてあの世にいきな!」
引き金を引くと同時に、轟音が起きる。
放たれた陽子ロケット砲が、ルイズ達を目掛けて飛来した。
アセルスは宙に飛ぶと同時に、ルイズ達をかばうべく剣で砲弾を受け止める。
その刹那、全てを飲み込む爆発が起きる。
ルイズが唱える失敗魔法とは比べ物にならない規模。
その場にいた全員が爆風によって、身体を木や岩に叩きつけられる。
タバサの使い魔である風竜も空から近寄ろうとしていたのだが、熱風に上空へ吹き飛ばされていた。
「きゅい!お姉さま!?」
禁じられていたのだが、つい叫び声をあげてしまう。
声を聞かれる心配はなかった。
炎が爆ぜる音にかき消されてしまったからだ。
「う……」
最初に起きたのはルイズ。
胴体を打ち付けた為に、痛みはあるものの意識ははっきりしていた。
眼前の光景に唖然とする。
焦土と化した大地、炎と黒煙が吹き荒れる景色はまるで戦場のようだった。
「あ……あ……」
体の震えが止まらない。
爆発の直前、アセルスが取った行動を回想する。
彼女は自分達を庇うように……砲弾に飛び込んだ。
「アセルスーーーーーーーー!!!!」
少女の悲鳴に答える者はなく、森に響き渡る。
声で意識を取り戻したのは、皮肉にも土くれのフーケだった。
「ふ……あははは!これほど凄い武器だったとはねえ!」
フーケが思わず笑う。
自らのゴーレムも妖魔も一瞬でかき消された。
まさに破壊の杖の名に相応しい威力と言えるだろう。
空中で爆発が起きたにも関わらず、大地は地獄絵図のような炎で包まれている。
破壊の杖──ハイペリオンと呼ばれる兵器は、太陽に冠する神話から名付けられた。
アセルスのいた世界においても最高峰の火力を誇り、弾丸は熱以外に衝撃を撒き散らす。
もう一度ゴーレムを作る余力は残っている。
再生させるとなれば厳しいが、最大の障害だった妖魔がいなくなった。
残ったのは生徒達も爆風には巻き込まれていた以上、怪我を負っているはずだ。
ゴーレムを生み出して、再び肩に乗る。
炎による熱気が凄まじいが、上空でないと姿が視認できない。
巨大なゴーレムが、炎を踏み分けて前に進む。
足元にいたルイズには、まるで世界の終末に見えた。
いや、終わってしまったのだ。
アセルスに恥じない貴族となる。
生まれて初めて持った目標も希望も、もうルイズにはない。
「フレイムボール!」
ルイズが唱えたのは魔法。
失敗による、爆発が巻き起こる。
「フレイムボール!フレイムボール!!フレイムボール!!!」
自分が抵抗できる唯一の手段。
狙いも定まらない爆発だけだが、それで構わない。
何度か唱えた呪文の一撃は、ゴーレムの表面を抉り取る。
フーケを討つ。
それ以外、ルイズは考えていなかった。
一方、フーケとしても爆発は厄介なものだった。
普段であればゴーレムを再生させるだけだが、残された魔力は少ない。
破壊の杖を使うかと考えるも、大砲なら弾が必要のはず。
盗んだ目的はあくまで金、売りつける事を考えれば無駄撃ちは避けたい。
「仕方ないねえ」
最後の魔力をつぎ込むと、ゴーレムの表面が鉄で覆われる。
そしてルイズに向けて、拳を振り下ろした。
──次に意識を取り戻したのはキュルケだった。
彼女は目覚めてすぐ後悔した。
無謀にもゴーレムに立ちはだかるルイズの姿。
助けようと身体を動かすが、足に力が入らない。
次に叫ぼうとしても喉が涸れて、呻くだけが精一杯だった。
友人と思っていた少女が蹂躙されるのを、見つめるしかない己の無力さ。
始めて気付く。
ルイズはこの何も出来ない絶望感を日々抱いていたのだと。
「ルイズ……!」
血が吐き出されるのも構わず、キュルケは精一杯叫んだ。
しえん
ルイズの世界は静かだった、これが走馬灯なのだろうか。
ゴーレムの腕が迫ってきているのに、時間がゆっくりと感じられる。
誰かに呼ばれた気がして視線だけを脇に向ける。
そこには、憎んでいたはずの相手が泣き叫ぶ姿だった。
「なんて表情してるのよ、ツェルプストー」
そう思ったが、声が出ない。
彼女が何故泣いてるかはすぐ理解できた。
──あぁ、そうか。私死んじゃうんだ。
恐怖は一切なく、虚しかった。
煤けた頬に一粒の涙が流れ落ちる。
何者にもなれなかった自分、何も出来なかった人生。
最期ならば、アセルスの姿をもう一度見たいと願った。
「ルイズ、大丈夫かい?」
ルイズの願いは叶う。
ゴーレムは切り崩され、止まっていた少女の刻が元に戻る。
「……アセルス?」
ルイズの前に立っていたのは、確かに彼女だった。
「ゴメン、遅くなった」
ハイペリオンの砲弾と爆発を受けたが、死んでなどいない。
爆風により森の外まで吹き飛ばされた後、アセルスはルイズ達を探していた。
空間移動を使わなかったのは、炎でルイズ達の居場所が掴めなかったから。
少し考えていれば、炎の中心地にいると分かるはずだがアセルスも焦っていた。
爆発魔法を見て、ルイズの無事を確認。
安堵するのと同時に、冷静さを取り戻す。
空間移動を試みて、今ルイズの前に現れたのである。
「化け物……!」
アセルスの存在に驚いたのはルイズだけではない。
フーケも信じられない光景を前にして、腰を抜かす。
戦艦すら落とせるだろう規模の爆発。
最も被害を受けたはずのアセルスが生きていた。
更にゴーレムの一撃を受け止めると、剣で粉々に砕かれた事実。
アセルスはゆっくりと、フーケに歩み寄った。
魔力は先ほどのゴーレムで、使い果たしている。
『エルフ程度じゃ間違いなく太刀打ちできんじゃろ』
オールド・オスマンの言葉が浮かぶ。
──殺される。
嫌だ、私はまだ死ぬ訳にはいかない。
「うあああああああ!!!」
破壊の杖を再び構えると、迷うことなくトリガーを引いた。
距離が近く、爆発が飛び火する危険性があるのだが考える余裕はない。
だが、砲弾は放たれなかった。
カチッという乾いた音を立てたのみ。
「どうして!?」
何度も引き金を引いても、やはり何も起きない。
「弾切れ……」
誰に向けた訳でもない、ルイズの独り言。
破壊の杖、ハイペリオンの装填数はわずか二発。
フーケが撃ったのは一発、残りは前の持ち主が使っていたのだろう。
アセルスだけが事実を認識していたが、彼女にはどうでもいい話でしかない。
「捕らえた」
アセルスの一言は、フーケからすれば死刑宣告にも等しい。
左手で首を掴むと右手の剣を水平に構え、胸の中心部に突き刺す。
「が……あ……あ!」
幻魔を引き抜こうと、フーケは必死に手を伸ばすも空を切る。
アセルスは突き刺したまま力を込めて、身体を引き裂こうとした。
「アセルス、殺してはダメ!」
ルイズが叫ぶと同時に、アセルスの動きが止まる。
剣を引き抜くと、痛みと失血からフーケが意識を手放す。
「ごめん……テファ…………」
フーケの擦れた声が届いたのはアセルスだけだった──
投下は以上です
支援してくださった方ありがとうございます
投下GJ!
アセルス乙! ハイペリオンかぁ……そんなのもあったなあw
ところで、今期アニメで話題のニャル子さんから召喚するんだったら、誰を召喚すると一番面白くなりそうなんだろう
やはりニャル子……かと思ったけど、真尋がいないと宇宙的な超技術で一瞬で帰ってしまいそうだw
>>345 そりゃ、中の人繋がりであれしか居ないだろw
アセルスの人乙
>>328 スペランカー先生はオワタ式なだけで当たりさえしなければ
そこらの不良が束になっても勝てないくらい強いんだぜ
先生は召喚の衝撃で乙りそうだな…
小ネタでもう召喚されてるじゃないですか!
ダダを呼んでみたらどうだ?顔だけは怖いけど戦わせたら哀れになるほど弱いぞ
ルイズは誤って董卓を使い魔として召喚してしまった
董卓に国を乗っ取られルイズと女王始め女達は全て董卓の肉奴隷とされ
城からは毎夜ルイズの泣き叫ぶ喘ぎ声が聞こえていると言う
>>345 そもそもハルケギニアの娯楽文化じゃニャル子を満足させられないだろうしね
真尋だったら、ルイズがフォークに刺されたりするんだろうか……
さすがにニャル子よりはマシだろうから大丈夫かもしれないけど。
生身で宇宙遊泳して帰るだろw
>>350 そうかな?
普通の人間相手なら小さくしまくって標本化していたし
生身の大きさではムラマツにも手こずっていたから宇宙人としては弱いが、
流石に数十mの大きさになれば人間では相手にならんだろうし
いや、縮小光線銃あってこそな上に、あれ故障するぞ
巨大化したらそりゃだが、仮にウル魔に出てもエースには到底歯が立たんだろうな
エースには勝てないがサイトには勝てるだろ
空飛べるし透明化能力だって持ってるぞ
ウルトラ族には無効だがふつーの相手には優秀な能力じゃないか?
とにかく、「ウルトラ怪獣/宇宙人としては弱い」のと、
原作のサイトより弱いかってのは全然別問題だからな
じゃあ確実に原作才人より弱い宇宙人となるとチャムダ星人あたりか
普通に食堂あたりで地道に働いてそれっきりになりそうだけど…
ミジー星人はどうか。あいつら特殊能力無かったよね。
ニャル子さんじゃなくて真尋の方を召喚するとか…?
収拾つくのか知らんがwwww
なんで宇宙人限定になってんだよ……
邪神にすらダメージが通るフォークがあれば序盤は楽に切り抜けられそうだな
何処ぞのメガネのパロディ台詞と共にワルドの額に突き刺さるフォークとか…
あんまり強そうじゃないウーチュー人
よし! シグナルマンさん召喚しよう。
宇宙人…よし、マリン(バルディオス)召喚しよう
※ハルケギニアに水没フラグが立ったようです
じゃあ正義の宇宙人、N-アクア・ドルフィンを召喚したらどうだろう。
ルイズ、ワクワクを思い出すんだ!
>>364 どう考えて強いウーチュ人じゃねぇかwww
もうエルドランでいいんじゃないか? この人基本的にやられてる姿しかないし
敵襲来→「ハルケギニアの子供たち。後はたのんだぞ」の流れで
宇宙人じゃなくて宇宙ロボットだが
大長編コルえもん ルイズとゴーレム兵団なんてのが脳裏に
ただただ弱いのなら美食戦隊薔薇野郎のよしおとか
「手応えあったわ!…ってあれ?」
「ミス・ヴァリエール!足元!」
「むぎゅっ」
で物語終わるけど
じゃあ筋肉番長とか
あれはナース派手とびっくりXがいないと死んでしまうけど
ガンダ補正でなんとかなるか
ここは一つ超星艦隊からポチでどうだろう?
宇宙海賊の幹部→主人公の家族に拾われてペット→ドリル戦艦託されて味方に
とか素敵な経歴持ってるよ
そういえばのび太は射撃の才能がすごかったな
宇宙トップクラスのガンマンと互角に戦えるぐらいの戦闘力
生まれてくる時代を間違えたと言われたほど
>>351 蒼天董卓ならアンアン引き降ろしてルイズ女王爆誕棚
蒼天董卓ってコネタで出てなかったっけ
新海底軍艦からインペロを召喚。アホな軍部がトリステイン空軍に差し込むがレキシントンに勝てないほど弱い
ラ号が来た日にはコルベール大喜びだな
>>371 タルブの珍味「ナットー」でシエスタに餌付けされるプレリュードさんの姿が目に浮かぶわー
>>377 馬っ鹿、お前、プじゃなくてブだろう?
ブレイブルーさんだよ。
蒸気獣プレリュードを召喚とな
コスモス荘からピエールを喚ぼう
ルイズの鞭はこの上ないご褒美だろう
ゼロ魔世界の動物に変態できたら面白そうだな
董大帥だったらゼロ使に出てくる国を全て滅ぼして自分の国にしてしまいそう
董卓、武力94
ゲルマニア皇帝、武力97
ルイズ、武力75
そして今まで高慢ちきな貴族どもに虐げられていた平民はみな董大帥を解放者として慕うのであった
少々まとめサイトのネタばれになるが我慢できないので物申す
なぜ、なぜゼロの黒魔道士に出てきた
「クジャの服を着たティファニア」の絵が存在しないんだ!!(自分は絵心ゼロ)
>380
なるほど。素で女王様体質のルイズならピエールにとってはご褒美……問題は上の姉や母親に会ったとき、会っただけで変態しないかですね。
BLAMEのひと来てくれー
キルバーンを召喚しちゃったら
決闘のたびにジャッジを使うからギーシュ行方不明、ワルド行方不明
ちなみにピロロは元の世界で魔界から別の人形を取り寄せてハルケのことを暇つぶしで遊んでいた
388 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/14(月) 17:14:30.91 ID:IDlLvSgM
呼び出した瞬間世界終了なやつら
ソウルクレイドル 裏ルート主人公崩壊エンドver
クロノトリガー 1999年のラヴォス
魔法少女まどか☆マギカ Kriemhild Gretchen
ファイアーエムブレム覚醒 ギムレー
>>387 勘違いするな
元々ダイ大はこっちでやって問題ない
勘違いした一部の連中が暴走して勝手にやっただけだから
実際こっちの方が古いダイ大作品あるしね
おばちゃん乗っ取ったら乗っ取り返されたサーペント星人。
いやアレはむしろおばちゃんのバイタリティが凄すぎるだけか
七星剣を振り回し
ゲルマニア軍をぶち破る曹操
ルイズとの間に曹丕をもうける曹操
曹操暗殺を企てた校長と姫およびその一族を処刑する曹操
ルイズがエレキングの幼体を召喚したら 孤独な心に付け込まれて怪獣を飼う女にされるな
テファやカトレアが召喚した場合はリムエレキングになって懐くか
ギーシュやマリコルが召喚したら、月光怪獣のほうになりそうだ
>>388 ペルソナ3のニュクスも追加してやってくれ
>>388 ゲッターダークネスのイデアと真ゲのコーウェン&スティンガーとRーTypeのバイドも
スランプで更新できねえ……
自分は書けなくなった時はとりあえず台詞だけ先に書いて
間を地の文で埋めていくってな書き方してる。台詞は浮かぶんだよなぁ
そしてスランプ繋がりでDr.スランプから誰か召還するのはどうだろうと言ってみる
ゴーレムに踏みつぶされても地面にめり込むだけでほぼ無傷。
レコン・キスタを口からのエネルギー砲でぶっ飛ばす。
空飛ぶ赤ん坊に何度も喰われるデルフ。
デルフを喰う?
EAT-MANか。
テロメアと被るな
こんばんは。ご予約などがなければ23:19頃から投下をしたいと思いますがよろしいですか?
だめですって言ったらどうするんですか?
ではまた後日に。
スパーダの方投下楽しみにしております。
>>401は刃に頭を打ち付け自害せよ
これから毎回だめですって言うお仕事が始まるのか
テロメアと聞いたらラウ・ル・クルーゼ召喚とキタ
406 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/14(月) 23:53:53.73 ID:ni2I7Tgv
ふざけるなよ
>>401 スパーダの方の投下を楽しみにしていたのに・・・
407 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/15(火) 00:03:58.65 ID:9PTPavIZ
>>401 なんちゅうことをしてくれはったんや・・・!
なにこれ、新しい
まぁ言いたくなる気持ちわかる
>>401は、今度トイレノックされたら「どうぞー」て言うんやで
>>401 というかこれで投下止める方も止める方でね
時間的に手間取るならさっさと寝たかったのかも知れん
スパーダの方いつも楽しみに拝見させていただいています
投下お待ちしております
>>401は押すなって書いてあるボタンを押すタイプだな
つかオリ主SS投稿されなかったぐらいで騒ぐなよ。
いいですか?なんていちいち聞く方が馬鹿だろ
そして言わなけりゃ規約違反だと喚くわけか
それこそ馬鹿の所業だ
普通に時間指定で投下すりゃいいだけだろがボケ
代理投下依頼来てるから先にそっちを処理したら?
あ、うちは規制中で携帯専ですんで
いや
>>401-402の流れはジョークの一種じゃないのか
「ちょっと言ってみた」に「ちょっと乗ってみた」ってだけの
スパーダの人にしても別に今投下しなきゃいけいないってわけでもなかったんだろうし
うわー痰壷民だーにげろー
>>396 ガッちゃんを召喚したらとりあえずデルフが食われるのは間違いないでや
でも痰壺だ毒吐きだ言っても、オリ主であることには変わらないでしょ?
DMC本編でもまともな描写がなくって、小説に登場して描写ありっていうのも一切ない状態なんでしょ?<本来のスパーダ
それってオリ主とか言われても仕方ないんじゃね?
ダンテとバージル足して人間臭さ無くした感じだとおも・・・・・
あ、これただ新しい武器持ってはしゃぐバージルだわ
まあオリ主呼ばわりはされてもしゃあないな
せやな
>>424 結局そこよな、公式で何かあればまだしも名前と小道具以外は何も無いし
と、401の自演でお送りしております
自演()
召喚されたキャラを読者が知ってることが前提だけど、このキャラならここでこうするだろう、こう動くだろう、こう言うだろう。
読者は予想をして、作者は動かして楽しむのがクロスの魅力だと思うんだよね。
例えば同じDMC勢のダンテが敵を前にして軽口叩きまくって揚句挑発して怒り狂った相手をフルボッコにしたり、
相手の前口上が終わるより先にバッサリ切り捨てる兄貴だったり、そういう作者の描くキャラクターと、読者が抱くキャラクター像が一致して初めて楽しめると思うんだよね。
描写一切なし、コスはあれどプレイアブルキャラどころかストーリーに名前だけしかでて来ないスパーダ持ってきて、
性格、言動、口調は想像と推測で書きましたって言われても、それって道具借りてきただけのお前のオリキャラだよね?としか思えない。
正直ファンとしてもイマイチ魅力を感じられないんだよな
>>431 御高説ありがとう御座います()
実際おもしろいから俺みたいに楽しみにしてるのも居るんだから
批評()は他所でやれ。
ていうかDMC見たこと無いからそんなんわからんかったwww
普通に読めてるし問題ないよ
もうやめて!!
私のために争わないで!!
こんばんわ。
先日は他に投下予定の人がいると思ったので辞退しただけなのですが……。
とりあえず、22:36頃に投下を始めます。
Mission 26 <迷える蒼き馬> 後編
昼休みが終わった後、学院長のオスマンはいつものように自分の執務室である学院長室でくつろいでいた。
呑気に鼻毛を抜いたり、机の引き出しから取り出した水キセルを美味そうに吸っていたのだが、そのキセルがふわりと宙に浮きだした。
「年寄りの楽しみを取り上げて楽しいかね? ミス・ロングビル」
部屋の隅の秘書机で淡々と仕事をしながら杖を振るったロングビルの元に水キセルは静かに移動していく。
「一応、あなたの健康管理もわたくしの仕事ですからね。オールド・オスマン」
「うぅむ」
事務的に素っ気なさそうに答えた彼女に対し、オスマンはつまらなそうに呻いた。
土くれのフーケ≠ニしての裏の生活を捨て、正式に秘書としてこの学院に就職が決まってからというものの、どうもロングビルはオスマンに対してつれない態度を取るようになってしまった。
ちょっとした悪戯心でセクハラをしてやっても、前みたいに滑稽な反応はあまりしてくれず、本性を露にして「ブレッド≠おみまいしてあげようかしら」などと怖いことまで言うようになってしまったのだ。
もちろん、仕事自体は今まで以上にてきぱきとこなしてくれているし、何より秘書がいるということ自体は非常に助かる。……だが、何か物足りないのだ。
「ところで、君はこの後トリスタニアへ身内に会いに行くそうじゃな?」
「ええ、そうですわ」
これからロングビルは毎日の仕事を一通り終えたら、トリスタニアの修道院に預けているティファニアの元へ行くことにしていた。
そうすればあの子もきっと安心してくれることだろう。
「ほっほっ、アルビオンに帰省していたのは大切な人を連れ出すためか。何、今のアルビオンは危険すぎるからの。それが一番良いじゃろうて」
オスマンにはティファニアについて詳しいことは話してはいない。だが、この狡猾な老人は自分が盗賊であったことを見抜いた油断のならない人間だ。
もしかしたらティファニアのことまで全て知り尽くしているのでは、とロングビルも内心このオスマンを警戒していたのだ。
「ワシらに出来ることがあったら何でも相談してくれて良いからの?」
「お心遣い、感謝しますわ」
ロングビルはあくまで事務的に、素っ気無い返答をしてくる。
「何じゃ、つまらんの。……して、どうじゃったモート・ソグニルよ」
肩の上に乗ってきた一匹の白いハツカネズミ。オスマンの使い魔が主に報告を行う。……いつもの悪戯の結果は。
「うぅむ……確認はできなかったか。残念じゃな――あたっ!」
突如、一冊の分厚い本が投げつけられてきて、オスマンの顔面に背表紙が直撃した。
ロングビルは淡々と仕事を続けながら手にしていた杖を下ろす。
(まったく、これだから男ってやつは……スパーダを見習いなさいよね……)
もっとも、スパーダは人間ではなく悪魔なのだが。
しかし、ロングビルにとっては彼が人間だろうが悪魔だろうが、そんなことは全く気にしてはいない。
彼が何者だろうと、異種族たる人間として生きようとしていることは事実なのだ。
「オ、オ、オ、オールド・オスマン! 大変ですぞ!」
突然、ノックもせずに飛び込んできたのは数人の教師達であった。全員が血相を変え、息を切らしている。
おまけに相当慌てていたのだろう。勢いあまってそのまま前のめりに倒れ、折り重なってしまった。一番下の教師が重さのあまりぐえ、と呻いている。
いきなりの出来事に本をぶつけられて顔を押さえていたオスマンも仕事を続けていたロングビルも呆気に取られてしまう。
「何じゃい? そんなに血相を変えずともワシは逃げはせん。また生徒達が何かしでかそうというのかの」
つい先ほど、ギーシュ・ド・グラモンとタバサの二人が組み手をしようとしたという報告を受けていたが、スパーダが監督を務めているという話も聞いていたので彼を信じて放置していた。
だが、いくら何でも短時間で生徒達が何度も厄介ごとを起こされてはオスマンとしてはたまったものではない。
「そ、そうではないんです!」
「が、学院の敷地内に見たこともない幻獣が侵入してきたのです!」
「……幻獣、とな?」
それまで飄々としていた老人の表情が一瞬にして、スパーダから送られた二つ名賢者≠ノ相応しいメイジの顔へと変わっていた。
ロングビルも仕事を続けていた手がピタリと止まる。
「今、生徒達がその幻獣を取り押さえようとしているのですが、あまりに凶暴で……」
「我ら教師もこれから総出で厳重を押さえようと考えているのですが、どうかオールド・オスマンのお力を……」
ふむ、と頷いたオスマンは手を机の上で組んだ。
「……して、ミスタ・スパーダはどうしておる?」
スパーダの名がオスマンの口から出てきた途端、教師達の表情は嫌悪と不満で染まりだした。
(本当に狭量な奴らじゃのう……)
教師達のほとんどがスパーダを異国の没落貴族として侮り、見下し、敵視していることにオスマンは呆れた。
そうやって偏屈な態度を取ってよくも貴族を名乗れるものである。
そんなにスパーダが疎ましいなら、陰口を叩くより堂々と面と向かって言うほどの度胸を見せてやれば良い物を。
もっとも、逆にスパーダに言い負かされるのがオチだろうが。
「……まあよい。では、ワシもすぐに向かおう。他の教師達は集まっているのかね?」
「いえ、まだ授業に向かった教師達が……」
――ヒヒィーン!
蒼ざめた巨馬、ゲリュオンが力強く嘶き、前足を高く振り上げ、大地を踏み鳴らした。
ドゴン、と鈍く大地が揺るがすほどの音と共に足に纏っていた青白い炎が巨大な波となって周囲に広がり、草地を焼き焦がしていく。
ゲリュオンの纏う炎は現世の炎とはまるで性質が違う。その炎は紛れもなく全てを焼き尽くす地獄の業火である。
だが、その炎から発せられるのは熱ではなく、生ける者達を凍えさせる極寒の冷気だった。故に焼かれる者は異質な苦痛を味わいながら焼き尽くされるのだ。
「フライ」
襲い掛かってきた炎を宙へ飛んでかわすタバサ。
庭の中を荒れ狂う獣のように無差別に走り回る青白い炎はやがてゲリュオンの元へと戻り、再び全身に纏っていた。
だめです
――ブルッ……!
着地したのを見計らってか、ゲリュオンが馬車を引きタバサ目掛けて突進してくる。
タバサは迫ってくるゲリュオンに自ら向かっていき、すれ違い様にゲリュオンの体にエア・スピアーで風を纏わせた杖で斬りつけてやった。
「浅い……」
だが、上級悪魔として強靭な肉体を持つゲリュオンの体にはかすり傷程度しか付けられない。
敷地内を荒々しく駆け回るゲリュオン。その間、後ろに引いている馬車から次々と無数の巨大な矢が絶え間なく射出されていた。
放物線を描きながら飛んでくる矢を同じく立ち止まらずに走ってかわしていくタバサ。矢は着弾した途端に小さく爆発する。
連続で射出され続ける矢をかわし続けるのは骨が折れる。一瞬たりとも気は抜けない。
おまけに、先ほどのギーシュとの手合わせで精神力を消耗していたため、大技を使用することもできないのが痛手だった。
何とかチャンスを見つけ、一撃で決めなければならない。
ちらりと、タバサは本塔の壁にいつの間にか寄りかかっていたスパーダの方を見やった。
彼は先ほどから腕を組んだままじっと自分達の戦いを冷徹な表情のまま眺めており、参戦しようとする様子を見せない。
時折、銃を取り出しては手の中で弄んでいるのだが、その視線はタバサから外さなかった。
(わたしを試している?)
「で、でかい!」
広場に到着した生徒達は広場を駆け回るゲリュオンの巨体に度肝を抜かれていた。
大きさでいえばタバサの使い魔であるシルフィードとほぼ同じくらいであるが、その巨体から発せられる威圧感はあまりにもレベルが違いすぎる。
「あ、あんなのをどうするっていうんだよ……」
生徒達はゲリュオンの迫力に次々と気力を萎えさせていき、へたり込んでしまう。いかに魔法を使えるメイジとはいっても、所詮は実戦経験も何もない学生に過ぎない。
竜のように獰猛で、ユニコーンのように気高そうな、恐ろしい未知の幻獣を相手になどできるわけがなかった。
(スパーダ……! 何で、タバサを助けないの?)
ルイズは本塔の壁に寄りかかり静観しているスパーダを見つけ、訝しんだ。
まるで先ほどのギーシュとタバサの組み手を傍観していた時のように、タバサとあの悪魔との戦いを呑気に観戦している。
スパーダならばあんな悪魔など一捻りに違いないはずなのに、何故加勢しないのだ?
「今、助けるわよ!」
無二の親友が窮地に陥っている姿を目にすればすぐにでも手を差し伸べるのがキュルケの性分である。
相手が幻獣だろうが何だろうが、杖を振るわずにはいられないのであった。
したり顔を浮かべるキュルケは杖の先に魔力を集中させて巨大な火球を作り出し、火球をさらに膨れ上がらせていく。
「フレイム・ボール!」
キュルケの杖から放たれた巨大な火球はタバサを追い回しながら馬車から爆矢を放ち続けるゲリュオンの移動先に向けて正確に飛んでいった。
――ブルッ! ブフッ……!
「あら、ずいぶんと頑丈みたいねぇ……」
胴体に直撃し、怯みはしたものの、ゲリュオンが纏う極寒の炎の影響のためかあまり効き目がないようだった。
それどころか逆にゲリュオンを刺激してしまい、標的がタバサから攻撃してきたキュルケへと変わっていた。
急停止によって地を滑りながら巨体を器用に回転させ、キュルケ達の方を振り向きだす。
「お、おい! こっちに来るぞ!」
「うわあ、来るなああぁ!」
「きゃあああっ!」
生徒達は矛先を向けてきたゲリュオンに対し、蜘蛛の子を散らすように次々と広場中を逃げ惑った。
あんな巨体に体当たりされればもちろんのこと、後ろに引いている馬車に轢かれればただではすまない。しかもあの馬車には武器まで積載されているのだ。
「ちょっと、キュルケ! こっちに気を引いてどうするのよ!」
下手に刺激してしまったキュルケをルイズが責める。
蹄を踏み鳴らし、首を左右に振りながら荒々しく呼吸を続けるゲリュオンの鋭い瞳は横槍を入れてきたキュルケへと向けられていた。
怒りに満ちた瞳を青白く光らせ、ゲリュオンは走りだす――。
「「タバサっ!」」
その隙をタバサは当然、見逃さなかった。
すかさずゲリュオンの傍まで駆け寄り、その背に飛び乗ったのである。
広場中に散らばった生徒達はその様子を不安な様子で見守っていた。
タバサとしては一対一の戦いに横槍を入れられたのは少々、不満ではあったものの今の自分の状態ではまともに戦っては勝ち目がないのも分かっている。
――ブルッ……! ヒヒィーンッ!!
当然、ゲリュオンはタバサを振り落とそうと暴れだした。体を振るい、巨体を持ち上げて叩きつける度にタバサは危うく振り落とされそうになる。
だが、タバサはそうはさせじとゲリュオンにしがみ付く。
「くっ……」
ゲリュオンが纏う極寒の炎は直接触れなくとも、これだけ間近にいるだけで炎から発せられる冷気はタバサを蝕んでいた。
まるで猛吹雪の中にいるかと思うくらいの寒さであり、タバサの手は既に悴み赤く腫れ上がっていた。このままでは確実に凍傷してしまう。
炎に焼かれて火傷をするのと、零下にさらされて凍傷するというのは肉体が損傷するという点では全く同じだ。
ただ熱いか冷たいかというだけの違い。どんな炎も結果的に相手を傷つけるのである。
「がんばって、タバサ!」
必死に戦う親友の姿にキュルケは声援を送っていた。
思ったのでって、スレの流れも読まねーのかよw
「スパーダ! 何をやってるの! どうしてあなたも戦わないのよ!」
ルイズはゲリュオンが庭を駆け回っていないうちに観戦しているスパーダの元へ行き、ものすごい剣幕で詰め寄っていた。
人間を悪魔の手から守るために剣を振るうはずである伝説の魔剣士が戦わない姿を見て、そのパートナーとなったルイズは大いに不満であった。
「まあ待て。最初に奴と戦いだしたのは彼女だ。まずは彼女の勝敗が決まってからだ」
「勝敗って……これは決闘じゃないわ! 相手は悪魔なのよ! あなたはあいつらからあたし達を守るために戦うんでしょう!?」
冷徹に、悠然とした態度のスパーダにルイズはさらに食って掛かる。
スパーダはタバサとあの悪魔の戦いを決闘として見ているのか? 一体、何を考えているのだ。
「せっかく強者同士がフェアな戦いを続けているのだ。私がここで手を出しては彼女のためにもならん。君も奴には手を出すな」
「何なのよ……! もう!」
聞く耳を持たない様子のスパーダに、ルイズは癇癪を上げるとそっぽを向く。
パートナーとはいえ、悪魔の考えというものがよくわからない。
(まだ全力を出していないな……)
かつてゲリュオンと戦ったことのあるスパーダは、その時に繰り出されたゲリュオンの最大の得意技を思い返していた。
全盛期のスパーダでさえ、ゲリュオンのあの力には手を焼かれたことを今でも覚えている。
タバサはその力の布石を先ほど、見ていたはずだ。果たしてそれを見切れるか。
「ブレイド」
ようやく体勢を整えたタバサが振り上げた杖の先に魔力の刃を纏わせると、ゲリュオンの胴体へ一気に突き立てる。
深々と杖が突き立てられた胴体から血が一気に噴き出した。
――ヒヒィーンッ!!
これまで以上に高い嘶きと共にゲリュオンの体はぐらりと揺れ、横倒しに伏していた。その巨体に見合った重々しい音と衝撃が同時に響く。
「み、見ろ! ミス・タバサがあの幻獣を!」
「か、勝ったの? あの子が?」
あの巨馬が倒れ伏した姿に、生徒達から次々と歓声が湧き上がった。
力なく横たわるゲリュオン。腹が微かに上下していることからまだ息があるらしい。
杖を引き抜き、飛び降りたタバサはゲリュオンの頭へゆっくり近づくと杖を振り上げ、ジャベリンの呪文を唱える。
その手はゲリュオンの極寒の炎にさらされたおかげで凍傷寸前だったが、それでも杖だけは決して手放さなかった。
本来ならばこんな勝ち方は望んだものではなく、互いに万全な状態で一対一で勝負をつけたかった。
だが、自分が力を付ける前に生き残らなければ何もならない。これほどまでに強い敵を相手にできたというのに、全力を出せなかったのが心残りである。
ゲリュオン自身の目には未だ闘志が宿っている。まだタバサとの戦いは諦めていないらしい。
だが、もはや動けはしないだろう。
「とどめ……」
ならば、せめて今出せる全力を持って楽にさせてやるのみ。
残された精神力を全てジャベリンの魔法に注ぎ込み、頭上に巨大な氷の槍が生み出される。
その氷の槍を放った瞬間、ゲリュオンの闘志の失わない目が赤く閃光を発した。
途端に倒れ伏すゲリュオンの全身から黒い魔力の奔流が周囲へ広がっていく。
「っ……!」
気づいた時には、目の前に倒れていたはずのゲリュオンの姿が消えていた。外れた氷の槍は異様な遅さで地面に突き刺さる。
どこへ行った? と考える前に、体が思うように動かない。まるで水の中にいるおかげで水圧が体に重く圧し掛かるような感じで、動きが遅くなっている。
それに自分の周囲の空間がおかしな感じとなっており、タバサは当惑した。
先ほど空間の中へと掻き消えたように、ゲリュオンは空間に干渉することができる能力を持っている。
それによって多次元を逃げ込んで攻撃を回避したり相手を惑わすことはもちろんのこと、今のように自分以外の空間の流れを遅くするなどという荒業も可能であった。
全力を持ってすれば、時を止めるなどということも可能であるがかなりの力を消耗してしまうため、ゲリュオンにとっては切り札ともいえる技なのである。
「タァ〜バァ〜サァ〜ッ〜、あ〜ぶ〜な〜い〜っ〜!」
キュルケの声がスローで聞こえてきて、タバサは周囲を見回そうとしたが、やはり体の動きが遅くなっているために振り向くことさえできない。
次の瞬間、空間がいつもと同じの様子に戻ると同時にタバサの動きはいつもと同じ速さに戻っていた。
背後から間近に迫る蹄と馬車の音に気がついた時、背後に何者かの気配を感じていた。
――ヒヒィーンッ!
空間転移によってタバサの背後へと移動していたスパーダは目の前に迫ってきたゲリュオンを移動する合間に装備した篭手のデルフで正拳を繰り出していた。
己の走る勢いを利用されて繰り出されたその強烈な一撃で、ゲリュオンの巨体は後ろへよろけながら大きく滑っていた。
「ひぃっ! な、何だよ! ヴァリヤーグを相手にしてんのかぁ!?」
昨晩、タバサと手合わせをしていた時には何かに怯えていて黙り込んでいたデルフがようやく喋りだしていた。
デルフの言葉を無視するスパーダは唖然としているタバサを肩越しに振り向く。
「中々上出来だ。……が、最後に油断したな」
突然現れたスパーダの言葉に、タバサはしゅんと俯き落ちこんでいた。
あの時、確かにもう動けないゲリュオンを確実に倒せると思い込んでいた。その僅かな心の緩みが油断を生むことになってしまった。
やはり、自分はまだ力不足だ。単純に力だけでなく、こんな初歩的なミスを犯すだなんて。
しかも相手は悪魔なのだ。何をしてくるか分かったものではないと、知っていたはずである。
「後は私がやる。君は下がれ」
身構えるスパーダの言葉にタバサはおとなしく引き下がる。
「タバサ、大丈夫? ……こんなに霜焼けになって」
キュルケは赤く腫れてしまったタバサの手を見るなり、優しく包み込むようにして掴む。
氷のように冷たくなった小さな手を、微熱の手で溶かしてあげようとしていた。
「お、おい! 相棒! 俺はな、できればヴァリヤーグを相手にするのはこりごりなんだ。今回ばかりは相棒の愛剣で……」
「持ってきていない」
閻魔刀もリベリオンもルイズの部屋に置いてきてしまっているが、篭手のデルフでも充分に戦える。
ゲリュオン自身も既にスパーダを標的に定めている。ここで逃げるわけにはいかない。
……そもそも、デルフの言うヴァリヤーグとは何のことだろうか。礼拝堂でも自分のことをヴァリヤーグだ、などと口にしていたはずである。
だが、今はそんなことよりもこいつを相手にするのが先だ。
ゲリュオンも蹄を踏み鳴らしつつ、首を左右に振りながら荒々しく息を吐いていた。その目にはタバサと戦っていた時以上の闘志が宿っている。
かつて戦った魔剣士との戦いは、今でも覚えていた。あの時のスパーダは剣を振るって自分と死闘を繰り広げたはずだ。
あの時は自分の力の全力を持ってしててでもスパーダを倒すには至らず、悔しくも敗北を喫することとなったのである。
テメンニグルに封印されてから、いずれまた再戦することを強く望んでいたゲリュオンとしてはここでスパーダに出会えたことはまさに喜ばしいことだった。
いつもと装備は違うが、そんなことは大したことではない。
伝説の魔剣士と再び力をぶつけ合えることに、ゲリュオンの悪魔としての闘志がさらに燃え立った。
――ヒヒィーンッ!
「できればお前とはゆっくりやり合いたい所だが、そうもいかん」
そんなゲリュオンの思いとは裏腹にスパーダはあくまで冷徹であった。
前足を高く上げ、大地を踏み鳴らし極寒の炎を撒き散らすがスパーダは高く跳躍してゲリュオンの馬車に飛び乗る。
以前、ゲリュオンは馬車に乗られることで死角から攻撃されてしまい、敗北してしまったが今度はそうはいかない。
目を赤く光らせると、己の空間を干渉する魔力を外へ開放し、スパーダを包み込む。
案の定、スパーダの動きは遅くなる。いかに伝説の魔剣士といえどこの力には抗えない。あの時もそうだった。
ゲリュオンはさらに多次元へ逃げ込むと同時に、馬車に積んでいた巨大な槍を地面に着地しようとするスパーダの八方へと設置する。
まだスパーダの動きは遅いままだ。このままでは串刺しになる。
「危ない!」
一方、ゲリュオンの魔力による拘束の外側にいるルイズ達はスパーダの動きがタバサと同様にスローになってしまったために慌てていた。
設置された槍は空間が元に戻ると同時に射出され、一斉にスパーダへと襲い掛かる。
だが、着地した瞬間、篭手のデルフが地面に叩きつけられ、スパーダ自身の魔力を爆発させていた。
赤い爆発と衝撃波は槍を吹き飛ばし、粉々にする。
そこへ離れた場所から姿を現したゲリュオンがスパーダ目掛けて突進していく。
「おいおいおい! 相棒、来たぞ、来たぞ! ……って、何をするつもりだ! おい!」
デルフが慌てて叫ぶが、スパーダは自らゲリュオン目掛けて駆け出していったのだ。
「な、何をする気!」
「いくら何でも自殺行為だよ!」
戦いを見守る生徒達もスパーダが自らゲリュオンに向かっていく姿に驚きが隠せなかった。
篭手のデルフを構えてはいるものの、先ほどみたいに待ち構えてのカウンター攻撃ではない。自ら突っ込んで攻撃しても同士討ちになるかもしれないのだ。
ゲリュオンとしても、スパーダが拳を繰り出してきたら多次元を移動し、背後から襲い掛かるつもりであった。
既にスパーダとの距離は目前。今にも拳を繰り出そうと力を溜めているのが分かる。
その拳が繰り出された時、スパーダは敗北を喫するのだ。
――ヒヒィーンッ!
気がついた時、ゲリュオンの頭に何度も強烈な衝撃が襲っていた。
拳を繰り出すかと思っていたスパーダは突然姿を掻き消し、ゲリュオンの頭上に空間転移するとそのまま体を車輪のように前転させながらゲリュオンの頭に何度も踵落しを繰り出したのである。
思いもしなかった攻撃を受け、勢いがついていたゲリュオンの体は滑りながらスパーダの回転蹴りを頭に受け続けていた。
スパーダの革靴の踵がゲリュオンの頭部を打ち付ける度に赤い閃光が瞬く。
ぐらりとよろめき停止したゲリュオンに対し、スパーダは軽やかに着地する。
その左腕は未だ、構えを解いてはいない。
「……フンッ!」
力を溜めに溜めた左腕でふらつくゲリュオンの胸を下から一気に突き上げた。
渾身の力を込めて繰り出されたその強靭な一撃はゲリュオンの巨体を高く打ち上げ、大地へと叩きつける。
ドスン、という重厚な音が響き渡り、後には沈黙だけが残っていた。
そして、あの恐ろしい巨馬を制した一人の男は拳を振り上げたままその場で静かに立ち尽くしている。
「か、勝ったの?」
「……す、すごい!」
「さすが、ミスタ・スパーダだ!」
横たわるゲリュオンの傍で左肩を回すスパーダの姿に、再び生徒達から歓声が上がった。特に彼を師事する生徒達からの歓声は凄まじかった。
その戦いを見届けていたルイズ、キュルケ、タバサの三人も強靭な力を持つ悪魔を目の前で容易く倒してしまったスパーダに唖然とする。
(これが、スパーダの力……)
あれだけ強大な力を持っていた悪魔が、力なく横たわっている。しかも先ほどのタバサの時とは違い、さらに弱々しい。
もはや戦う力が残されていないのは明白だ。
たとえ剣を持たずとも、どんな力を持った強大な悪魔であろうと、伝説の悪魔であるスパーダの前では赤子も同然なのだということを改めて思い知らされる。
「きゃっ!」
「また立ち上がったぞ!」
すると、横たわっていたはずのゲリュオンがよろめきながら体を起こし、立ち上がっていた。
だが、その目にはもはや先ほどまでの獰猛な闘志は宿っていない。
あるのは自らを再び打ち破った強者に対する敬意であった。
疲弊している乱れた息を吐き続ける蒼ざめた巨馬の視線は、己を打ち倒したスパーダへと向けられている。
スパーダは黙り込んだまま、冷徹な表情と視線をゲリュオンへと返していた。
互いに睨みあう、二体の悪魔の姿。その張り詰めた空気にルイズ、キュルケ、タバサの三人は食い入るようにじっと見つめ、緊張していた。
これから何をしようというのか、生徒達は誰も予測できない。
――ヒヒィーンッ!!
突然、ゲリュオンは高く嘶きながら全身を光の粒へと溶かしていった。
あれだけ暴れまわっていたはずだった恐ろしい巨馬の姿はもうどこにもなく、スパーダの目の前には蒼ざめた光が静かに浮かんでいるだけであった。
その光を、スパーダはゆっくりと左手で掴む。すると、自らの中に強大な魔力が流れ込んでくるのをはっきりと感じていた。
「……いいだろう。お前を使ってやる」
強い力と魂を持つ上級悪魔は、時にその姿を変えることがある。
己に匹敵、もしくはそれ以上の力を示すことでその戦った相手を認めることで魂を捧げ、その者に力を貸し与える。
たとえそれが人間であろうと、力さえ悪魔に示せばそういった事態もあり得るわけである。
そして、その魂が姿を変えると多くは魔具となる。だが、中には魔具とはならず己の力そのものを認めた相手に授けることがあるのだ。
今のゲリュオンや、以前から宿しているドッペルゲンガーなどがそれに当たる。
ドッペルゲンガーは元々、人間界で活動をしていた時に戦い、打ち破ることで勝手にスパーダに魂を捧げてきたのだ。
その魂を解放して元の姿に戻してやることで、使役することもできる。
土くれのフーケ≠フ件ではそれを利用したというわけだ。
もっとも、悪魔としてのプライドが高すぎるような奴はたとえ己以上の力を示そうとも、決して魂を捧げることはしない者もいる。
その場合は自分を負かした相手を殺すために一度退いて力を蓄えリベンジを果たしてくるか、相討ち覚悟で特攻までしてくるのである。
それでも雪辱を果たせずにに屈してしまうと、悪魔の奥底にある魂そのものが敗北を認めてしまい、己の意思とは無関係に魔具と化してしまうのだが。
スパーダとしてはゲリュオンを殺すつもりはなかったので、潔く自らの意思で魂を捧げてくれたのは都合が良かった。
「また変な奴を体の中に飼いやがってぇ……相棒、あいつはヴァリヤーグなんだぞ? っていうか、相棒もヴァリヤーグだろうが……」
生徒達からの歓声が続く中弱々しく呟くデルフであったが、スパーダは僅かにデルフを一瞥しただけであった。
(ヴァリヤーグ……か)
※今回はこれでおしまいです。
448 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/05/15(火) 23:48:03.70 ID:qyKPcYlE
スパーダのひと投下お疲れ様です!
パパーダ乙
クロスの際、
クロス先の作品とゼロ魔の設定が混ざり合うような内容と
一切混じらない内容とどっちが好き?
俺は後者
例えば、ハンター×ハンターのクロスがあったとして
ルイズたちが念を覚えるような展開はあまり好きじゃない
それは設定が混ざるとか世界観クロスとかそういうのとまた違う気がする
実戦に全く役に立たない程度の念なら覚えても気にならないかなーとは思う。
むしろビスケ様みたいな念能力ならネタっぽくて良いかな。
Persona0みたいな混ぜ方は好きだったなぁ。
荒れると逆に昔を思い出すわwww
異世界同士のぶつかり合いみたいな感じが好きだから
片方が片方の能力を学んだり、使ったりは微妙だな
クロス先のキャラがデルフ使うくらいがギリギリ許容範囲
それでも専門の武器持ってたり、武器を持たないキャラに無理からデルフ持たせるのはまた微妙だが
デルフは魔法に対する盾として優秀だから、作者的には既に武器持ちキャラでもデルフを持たせたいと思うのかも。
ただ、キャラが「別にいらねー」と考えてるのに無理やり持たせるからいかん、と。
デルフは武器じゃなくてマスコットキャラだし
ちょっと前に鉄人兵団の話題出たけど、ザンダクロスの頭脳の代わりに
デルフ搭載すれば「使われる」のではなく「使う」デルフの時代が来るで
原作の台詞がどうだったか細かく覚えてないのでアレだが
デルフが「お前使い手か?」って言っただけで
すぐにルーンと結び付けるキャラの多いこと多いこと
金田一かよ
そんな一言で「こいつは何か知っている!買わなきゃ」って思わないだろ
>>459 それが可能ならアルカディア号の頭脳とかキングジョーの頭脳とかメカゴジラの頭脳とかなれるな
こりゃデルフ無双の時代がきたか
トランスフォームするやつとか、薬品漬けデルフは好きだったぜ
デルフ「お前使い手か?」
オナ主「何言ってんだこいつ」
ルイズ「こっちのレイピアをちょうだい」
親父「まいどあり!」
完
アイザック・クラークならデルフを改造して工具にしても違和感無いよね
>>460 自分と異世界の接点が使い魔のルーンしかない状態で自分を知ってるようなこと言われたら関係あると思ってもおかしかないぞ
まあフィクションだからって目で見るから俺らにとって分かりやすいのは確かだけど別に金田一レベルの推理力はいらんでしょ
ルーン『あの剣は我々に関わりがあるのだ〜〜買え〜〜買え〜〜』
言葉のチョイスが悪いと思う
さびた剣に「使い手」だけ言われたら「こいつ自分売り込むのに必死だな」と思われても仕方がない
ひねた性格のキャラなら余計にそう思うだろう
これだけで「ルーンと関わりがありそうだ」と結び付けるのはやはり強引な展開だと思う
原作がそうなんだから従え!と言うならしょうがないが
一方で上条さんは「使い手」云々を言われる前にそげぶした。
そもそも原作で武器屋に行ったのは、才人が武器を欲しがったからだった気がする
RPG脳の持ち主なら関係性を見出すかもしれんぞ
リアルファンタジーで冒険者の気分になってればなおさら
錆びてボロい剣が後々最強武器になるとかありがちだしな
こんなもんにいちいちリアリティ追求してもしょうがねーが
Gガンからドモン呼べば無問題だろ
特訓で錆びた刀使うし
一番頑丈だったから、で理由は十分じゃないの?
店中の剣を試しに折ってみたわけでもないのに何故サビ剣のデルフリンガーが一番頑丈だとわかる?
話すから面白いで買う
使ってみたら悪くないでいいんじゃね
もう「うわ、喋った!」とショットガンぶっ放されて粉砕、検土杖に憑依したらいいのよ
タルブにあるのは武力ロボ
しかしデルフが戦闘機に憑依したら、まんまウルトラマンガイアのPALのポジションだな
サイトのパソコンとゼロ戦を行き来してサポートするデルフ。だが忘れっぽいOSというのはいかがなものか
>忘れっぽいOS
「WAWAWAわ〜すれ〜もの〜」と歌うデルフを想像しちまった
デルフ「おっエロ画像はっけーん、壁紙にしておくか」
デ「俺を買って」
主「自分の武器があるからいらない」
デ「役に立つから買って!(必死)」
こんなパターンも割とある
別に、武器屋に行かない展開があってもいい。自由とは(ry
デルフがたまに武器屋以外の場所で登場するパターンもあるよね、他のキャラに買われてたりとか。
そも初代ガンダールブが使ってた武器とかある意味伝説で残ってそうなんだけどそのへんの伝承ってどうなってるんだろうね。
テンプレイベント消化だるいから破壊の杖の代わりにデルフでおk
>>482 それ昨今のワンパターンを打破する妙案かもしれん
山浦環源清麿作、デルフブリンガー。
少なくとも作られた当時は名剣なので、鬼麿が処分しに来たりしないけどな。
異世界のなんか凄い武器にデルフが宿ってるとかプチカオス
しかし戦闘機に宿るにしても物を考えないと
サイト「脱出!」
デルフ「えっ!あっ、あぁ〜〜」チュドーン
>>486 戦闘機に憑依でトチ狂った考えが浮かんだんだが(笑)
場違いな工芸品の人型の兵器(MSとかATとか)に憑依してたら
ルイズに召喚されてしまうデルフとか
>>481 デルフをガンダールヴが買ったけど、ルイズの使い魔が買ったのではないSSもあるな
ルイズの使い魔になるのがヴィンダだったりミョズだったりするタイプのSSか
490 :
一尉:2012/05/17(木) 19:45:25.17 ID:3hehLvz1
ローマン
>>482 破壊の杖役のアイテムと一緒に置いてあってフーケに盗まれるSSならすでにあるな
言葉の話せないキャラの音声出力扱いで
鋼丸がムキになるな
予約なければデュープリズムゼロ第二十二話を21時30分より投稿します。
>>492 蒼炎の使い魔ではその用途でルイズに買われてるな
投下ですか?どうぞどうぞ
第二十二話 『帰還〜邂逅』
____ 魔法学園 中庭
『やめろっやめろ〜!!やめっ!!!ギャアァァァァ〜〜〜……………………!!!!』
魔法学園の平和な昼下がり…静寂を引き裂いて響き渡ったのは男の絶叫と一発の落雷の轟音。
「別に吸収出来るんなら良いじゃ無い。…で、実体を伴った衝撃までは消しきれないみたいだけど電撃何かは問題なしね。
これであたしの魔法も一通り試したけどあんた以外とやるわじゃない。」
アルビオンでその真の姿を見せたデルフリンガー…ミントはその力をこの数日で試していた。友人となった他のメイジの魔法、自分の魔法。全て例外なくデルフリンガーは吸収してみせる。
相変わらず記憶は曖昧な為ブリミルや生きた古の情報は得られなかったが…
「褒めてくれるのは嬉しいがよ相棒。お前さんほんとやる事が無茶苦茶だぜ。何て言ったっけか?あの黒い大球『グラビトン』か…あれは流石の俺様もへし折れるかと思ったぜ。」
「何言ってんの、折れてないんだから良いじゃ無い。」
「ひでぇぜ相棒。」
「あ、居た居た。ミント〜!!」
地面に突き立てられたデルフリンガーを引き抜きながらミントが満足そうに笑っていると少し離れた所からミントの名を呼びながら誰かが連れだって中庭へと歩いてくる。
「ん?キュルケとタバサじゃない。どしたの?」
「へっへ〜、面白い物手に入れたからあんたに見せに来たのよ。きっとあんたこういうの好きだと思ってさ。」
言ってキュルケは近くに備え付けられたテーブルへと腰を落として手にした羊皮紙の束をミントに見せつけるようにひらひらと遊ばせる。
その直ぐ隣に腰掛けてタバサはいつもの如く本の世界へと意識を落とす。
「地図?」
「そっ、実家の息が掛かった商人から買い取ったお宝の地図。」
「お宝っ!?」
ルイズ、ミントがアルビオンでの任務を終えて魔法学園に帰還して一週間が経った。
あの後無事に帰還を果たしたルイズとミントはアンリエッタにはラ・ロシェールまでの道中からアルビオンで起きた全てを報告した。
アンリエッタは残酷な事実とウェールズの死に悲しみに暮れるように泣いたが既にレコンキスタの薄暗い陰謀が迫る以上事態はそれを許しはしない。嫌が応にもこの危機に立ち向かわなくてはならない。
「アンリエッタ…あたしがウェールズから貰ってた風のルビー、あんたにあげるわ。
その代わりと言っちゃ難だけど『遺産』『ヴァレン』『エイオン』『デュープリズム』これ等について調べて貰える?
それとあたしが帰る為に貴女の力が必要な時は協力してもらいたいの…」
「勿論です。ミントさんはわたくしの為に危険を冒してまで尽力して下さった大切なお友達。今度はわたくしが手を貸す番です!!」
「アン…」
「ミントさん…」
そんなやり取りの結果ミントは当初の目論見通り、王女の全幅の信頼を手に入れた。望めば始祖の秘宝すら借り受ける事も可能だろう。
おまけに抜け目ないミントはアンリエッタに一筆を書かせることにも成功した。
【 この書を持つ女性ミントは王女アンリエッタ・ド・トリステインの盟友にして大恩ある恩人であり、その身は王家とヴァリエール家にて保証をする物也。
故に王女の権限においてこの書を持つ女性の活動に対し諸貴族は最大限の便宜を図るようお願いする物也。
アンリエッタ・ド・トリステイン 】
そんな常識外れな書を背中の鞄に収めてミントは今キュルケの手にした宝の地図に瞳を輝かせて注目する。
「タバサと何日か授業サボって宝探し行こうと思うんだけど、どうするミント?」
キュルケはミントの返答がわかりきった事を聞きながら悪戯に口角をつり上げた。
「行くにきまってるじゃない!!このあたしに掛かれば宝探しなんてどうってことないわ〜!!」
「フフフ…だと思ったわ。やっぱり声かけて正解だったわね。」
「ルイズの許可は?」
揃ってノリノリで握り拳を天に振り上げたミントとキュルケにタバサがぽつりと呟くように問い掛ける。
「あ〜そんなのいい、いい。そりゃ一声位はかけるけどあたしが行くって言ったらそれはもう決定なの。
ルイズ自身は腕の怪我もあるし何よりアンリエッタの結婚式の祝詞っての考えなきゃいけないからどうせあの子は図書館や自分の部屋に缶詰よ。あたしには関係ないわ。」
___ ルイズ自室
「あ〜…もうっ!!全ッ々思い浮かばないわっ!!」
備え付けのテーブルに座って白紙の書物と向かい合い、ルイズは降って湧いた名誉でありながらも厄介な事案に嘆きながら自慢のピンクブロンドの髪を掻き毟って項垂れる。
と言うのも数日前、ゲルマニアとの軍事同盟締結の為、アンリエッタ王女と皇帝アルブレヒト3世との結婚式がおよそ一月後に行われる事に決まった。
だが、アンリエッタからの直々の依頼によって伝統である祝詞の巫女にルイズが選ばれた。
それは良い、しかしオスマンを通じて渡された秘宝【始祖の祈祷書】は表紙以外は全て白紙という驚愕の仕様で秘宝と言う事で食いついたミントも一目でガラクタと断じた代物だ。
本番ではルイズは祈祷書を手に、あたかもそこに祝詞が記されているかのように自分で考えた詩を読み上げなければいけない。
そして、ルイズには残念ながらそう言った詩を謡う才能が決定的に無かったのである。
「うぅ…誰か助けて…」
ルイズは一人自室で誰とも無く恨めしげに助けを求めて深く溜息を溢す。因みにミントはルイズに対してはっきりと面倒だから手伝う気は無いと伝えていた。
___ 中庭
「で、他には?あたし達だけなの?」
「一人メイドを連れて行くわ。偶然お宝の隠し場所の近くに実家がある子が居たから連れて行く事にしたわ。聞いてみたら地理にも明るいみたいだし、私達の食事の世話もして貰わないといけないしね。」
「へ〜それは助かるわね。あ、それとそういう雑用なら一人連れて行きたい奴がいるんだけど大丈夫かしら?」
旅慣れているのかキュルケの以外に周到な段取りにミントは感心する。そしてミントの頭に一人お供として連れて行くのに最適な人物の顔が思い浮かんでいた。
「美少女に囲まれて冒険の旅だなんて…きっとあいつ泣いて喜ぶわよ〜。」
ミントは言いながらにんまりと意地悪く微笑みを浮かべて食堂脇のテラスを見やる。
そこにはやはりというかこの後訪れる不幸などつゆ知らず、恋人であるモンモランシーと談笑しながら優雅に午後のティータイムを楽しむ男子生徒の姿があった。
「…少しだけ同情するかも…」
キュルケはそんなミントの視線の先に居るギーシュ(生け贄)のこの先の苦労を思うと思わず苦笑いを浮かべた。
___ ウェストウッドの森
所変わってここはアルビオン大陸、サウスゴーダの街の外れにあるウェストウッドの森…今、この木々生い茂る深い森をローブを纏った一人の人物が歩いていた。
「ハァ〜…ようやく戻ってこれたよ。ティファは元気にしてるかね〜。」
独り言を呟きながら歩くのはかつてミス・ロングビルと呼ばれ、土くれのフーケを名乗り、マチルダ・オブ・サウスゴーダの名を隠した年…妙齢の女性。
「まっ、ラ・ロシェールの闘いであたしもレコンキスタから上手い事抜けられたしね、あのガキ共にしてやられたのは癪だけど御陰でこうやってここに戻って来れたってんだからあれも結果オーライって所だね…」
思い出すのはラ・ロシェールでのキュルケ、タバサ、ギーシュの三人を相手取ったあの夜の闘い…作り出した巨大ゴーレムは尽く氷と落とし穴の嫌がらせや足止めに会い、雇った傭兵は気づけば全滅。
マチルダの精神力が底を尽き始めた辺りで熱疲労と油の練金の合わせ技によってゴーレムを一気に崩され、最終的には意表を突いて風龍の背から飛び降りるように勢いを乗せて放たれたタバサのドロップキックでゴーレムの肩からぶっ飛ばされてしまった…
「あ〜〜〜〜っ!!!…思い出すだけで腹が立つ!!」
マチルダがそこまで思い出して一人森の中でストレスを発散するように叫んでいると不意に森の奥から人の気配を感じとり足を止める。
マチルダが今目指しているウェストウッド村はまだまだこの先でそこの住人というか子供達はこんな森の入り口付近にまで一人で出ては来ないよう教育されている。
「そこに居るのは誰だい!?出てきな!!」
マチルダは言ってタクト状の杖を抜いて油断無く構える。すると進行方向に生えていた桃林檎の木の陰から一人の男が静かに、だが堂々と姿を現した。
「(仮面?怪しい奴だね…)何者だい?」
マチルダの行く手を阻むように現れた男は主に目鼻を隠すような黒い仮面を付けていた。マチルダはつい最近共に仕事をしたあのいけ好かない白い仮面のメイジを思い出して警戒心をむき出しにする。
「悪いが名乗るつもりは無い。小娘、私はこれより先にはお前を進ませる訳にはいかん。
悪い事は言わん、このまま立ち去るならばそれで良し。立ち去る気が無いのならばこちらも少々強引な手をとらせて貰う。」
男の言葉にマチルダの表情は強張った…
マチルダには自分がティファニアの元に帰る事を邪魔しようとする人物が居る事に心当たりがある。脱走まがいに抜けたレコンキスタの追っ手か…フーケ時代の追っ手か…それとも直接ハーフエルフのティファニアを狙う人物か。
マチルダは知らなかったがこの仮面の男こそは先日ティファニアが召喚した人物、ルシアンだ。そしてルシアン自身もマチルダの名前こそティファから聞いていたが目の前の怪しい女がそうとは知らない。
いわばこれは不幸なすれ違いによる事故なのだ。
「引く気は……無さそうだな。よかろう…」
マチルダの様子に引く気が無い事を悟り、ゆらりと流れるような動きでルシアンは戦闘態勢に移行して軽く足を肩幅に開き半身を前にだす。
(こいつ…強い!!)
マチルダはその一動作だけでルシアンから発せられるプレッシャーを感じ、一瞬でルシアンの力を感じ取る。
伊達に荒事に身を置いていた訳では無いが杖すら持たずただ立っているだけでこれ程の威圧感を感じるなど尋常では無い。これが盗みの仕事なら逃げている所だ。だが、マチルダにはここで引く訳にはいかない理由がある。
次の瞬間、杖を振るったマチルダの足下の土は一気に隆起し、巨大な人型を形作りマチルダを肩に乗せた。これこそがマチルダの十八番の巨大ゴーレムだ。
ルシアンはマチルダのゴーレムが完成するまでの時間その様子を興味深げにただじっと見つめる。
「悪いけど、私の邪魔をするなら潰れて貰うよ!」
マチルダの意思に呼応してゴーレムがその豪腕を振り上げてルシアンへと一気に振り下ろす。しかし、ルシアンはそれに対して回避等の行動は一切行わなかった。
「わが魔力に挑むとは……無謀の極みだな。」
その代わり、ただ一言言って自らの左手をゴーレムの拳に向けて突き出し、手の平に魔力を集中させる。次の瞬間、それだけでゴーレムの拳はまるで何かに阻まれるようにルシアンの眼前でピタリと止まった。
「嘘、そんなっ…バカな!!一体何がっ!?」
どれだけ魔力を送り込んでもピクリとも動かなくなったゴーレムの上でマチルダは驚愕の声を上げる。ルシアンは杖すら持っていないし一言も呪文を唱えていない。ただ手を翳しているだけだ。
理解出来ないその現状にマチルダが混乱していると不意にゴーレムを押さえつけていた強力な力が消え去り、そのまま慣性に従いゴーレムは地面に拳を突き立てる。
予期せぬゴーレムの動きにマチルダの視界は揺れ、一瞬自分の足下だけを映す事になる。
ルシアンがどうなったかも分からず、まずは状況を確認しようと慌ててマチルダが再び顔を持ち上げ前を向くとそこにはマチルダにとって信じられない光景が映り込んでいた。
「これまでだ。」
目の前には杖も詠唱も無く、纏った甲冑法衣の飾り帯を毒蛾の羽のようにたなびかせて浮遊するルシアンの姿。
(あぁ…こんどこそ私もお終いね…ごめんねティファ…)
そうしてルシアンの掌が閃光を発したと思った瞬間、マチルダの意識はまさに手も足も出ないまま衝撃と共に途切れたのだった。
「…う…ぅ〜…ん…」
「あ、ティファ姉ちゃんマチルダお姉ちゃん目を覚ましそうだよ。」
一人のまだまだ幼い少女が簡素な木製ベッドに横たわるマチルダが僅かに声を上げた事に気が付いてティファニアを呼ぶ。
「ん…ここは…」
ようやく意識を取り戻したマチルダはぼんやりとした意識のまま見慣れた天井を認識し、上半身をベッドから起こす。と、そこに突然暖かく柔らかな衝撃がマチルダを襲い再びその身体をベッドに押し倒す。
「マチルダ姉さん!!」
しばらく耳にしていなかったその最愛の妹の声にマチルダの意識は一気に覚醒した。先程森の中で怪しい男に敗れ、気を失ったというのに目覚めれば自分の目指した目的地に辿り着いているのだから意味が分からない。
「ティファ…」
それでもマチルダは甘えるように自分に抱きついてきたティファを強く抱きしめ返し、絹糸のような金髪を優しく撫でてやる。その感触は間違いなく今が夢幻であるという事を否定していた。
「どうやら目を覚ましたようだな。」
そんな水入らずのやり取りを行っていた二人に部屋の扉の側から声がかけられる。
その声の主は仮面を外し素顔を晒したルシアンであり複数の子供達に法衣の裾を握りしめられている。その姿を認めたマチルダは分からない事ばかりだと無意識に表情で語る。
「先程は知らぬとはいえ悪い事をした、素直に謝罪させて貰おう。手荒い真似をしてすまなかった。」
「いや…え?あんたは一体何者だい?」
「姉さんこの人は……………」
マチルダの当然の疑問、それに答えたのはティファニアだった。
召喚の儀式から村の一員になるまでの経緯、狩りや子供達への教育、悪意を持って森に入り込んだ部外者を捕まえてはティファの元に連れてきたりと様々な面でウェストウッド村を助けてくれていると言う事。
そして人間では無いと言う事も…
「成る程ね…」
ティファの説明にマチルダは頷いて納得する。
今更亜人の類いだから等で差別をする気も無いし周りのルシアンに対する態度を見れば不器用ながらティファや子供達に対してどれだけ真摯に誠実に相対してきたかは覗える。
「分かったよ。これからこの国も物騒になりそうだからね、あんたみたいな強い男が側に居るなら私も安心だからね。よろしく頼むよルシアン。」
「あぁ、こちらこそよろしく頼む。マチルダ。」
言ってぎこちなく笑ったルシアンと優しくも厳しい姉然としたマチルダは堅く握手を交わす。
こうしてルシアンとマチルダはこの仮面を必要としない平和な村で互いにティファニアと子供達を守るという理念の元、少々のすれ違いを経て邂逅を果たしたのだった…
「所で……ルシアン、あんたティファに手を出したらぶっ殺すからね…」
「いらぬ心配だな…だが、心得ておくことにしよう。」
以上で終わりだぜぇ〜。
最近忙しくて遅筆気味だが応援してくれてる人も居るみたいだから頑張るぜ〜
ワイルドだろ〜?
デュープリの人乙
マイルドなデュープリの人投下乙
デュープリの人乙乙
乙でした。
デュープリの人乙
テファ召喚済みコースか
>>492 ブレスXのニーナの口代わりとしてのデルフか、すげーシュールな光景になるな
というよりニーナの体力じゃあデルフは持てずに引きずることになりそう
このスレのゼロ魔のSS書いてる人は『出さない』『やらない』って選択肢は無いんだろうか?
何か一通りテンプレ踏まないと気が済まない人が多い気がする
別に原作と同じイベントが起きなくてもいいと思うんだが…
デルフが登場しない
フーケが盗みを働かない
ワルドが裏切らない
ゼロ魔から逸脱しただけで十分新しい話が書けるじゃないか
そういうのが見たいんですよ
(例に挙げた展開のSSもあるのは知ってるけどね)
Xのリュウだとルイズがボッシュポジションになりそう
世界を敵にまわしてでも空を目指した位だからルーンの強制力も無意味かも
Dダイブでステータス異常も無効化されるから解除されてもおかしくない
ニードレスからアダム・ブレイド
幽遊白書から戸愚呂(弟)
FFTからガフガリオン
デモンズソウルからオストラヴァ
以上四名、気が向けばどれかを書きたいと思います。やる気の兼ね合いで全部は無理なので誰が良いでしょうかね?
四人とも呼ぶんだ
>>515 そんなやる気じゃ何を書いてもすぐにエタるだろ
自分が書きたいの書けばいいじゃない
>>512 デルフ未登場はいいが他2つは使い魔が余程じゃないと覆らないだろう
序盤というか召還前から予定されてることだし
特にフーケとワルドは中盤の見せ場である対7万フラグに関わるし
ゼロ戦フラグとかもまとめてへし折るならアルビオン王家存続ルートで纏めてへし折るとかあるけど
デルフも結構重要なポジションにいるけど使い魔の性能次第じゃ序盤役立たずだからな……
読む側としては絶対にエタらない自信があるやつならいいな、くらいしか
>>519 あとは原作の世界観無視して斜め上にぶっちぎるか
Vのリュウと聞いてあのストリートファイターVのリュウを思い出してしまった…
波動拳を撃つだけで両腕をぐるぐる動かして1話使っていたような…
>>519 へし折ってもいいじゃない?
大半の話はギーシュとの決闘、フーケからの財宝奪還、アルビオン行き、零戦とルイズが虚無に目覚めるの辺りでエタっているんだから、その先のフラグなんて残してもどうせ消化できないよ。
ならいっそのことその辺りで話が終わるようにした方が、完結できる可能性が高くなると思う。
もちろん、これは完結を最優先にした場合の考えだけどね。
ぐるぐるパンチか…
〜〜〜ッッ
二次とはいえ、創作なんだから発想も展開も自由でいいと俺は思うな
テンプレ展開の方が楽なのは分かるが、なぞってるだけじゃ書いててつまらなくなってくることもある
と、昔ここにSS投下してた俺が言ってみるテスト
原作イベントフラグをへし折った場合、代わりにオリジナルイベントぶちこむことになるだろうけど、そうすると執筆難易度が無茶苦茶高まるんだよなぁ…
おれは四次元殺法コンビの言葉を思い出すようにしている
シチュエーション変えれば別にストーリーなぞっても問題ないと思うぞ
あるいは違うイベントの皮かぶせて分からなくするという手もある
イベントの順序入れ替えってのも簡単だがテンプレ打破には有効だと思う
アルビオンの前に惚れ薬や魅惑の妖精亭を入れるのはアニメでやってる手法
また、原作イベントでもキャストを入れ替えれば印象は大きく変わる
決闘の相手がモンモンやマリコルのこともあったし、惚れ薬をルイズ以外が飲んだパターンもあった
>>527 整合性もとろうとするとまあ難しいな
投げ捨ててるようなのも多くあるし
無理にテンプレやろうとして逆に整合性つかなくなってるようなのも多くあるが
>>512 萌えゼロだとワルドは裏切りそうだったけどアンアンに先手打たれて
すっかりダブルスパイだな。
ということで、萌えゼロさんと戦闘妖精さん続きまだー
>>531 戦闘妖精さんのワルド好きだな〜
あと、ゴーストステップのワルドも結構良かった
ワルドは人によって扱いが天と地な稀有なキャラだわな
ギーシュもね
別にヘイト好きでもないし、鬱展開も好きじゃないけど
その二人が優遇されてたらなんかイライラする、ワルドは特に
ワルドは割とひどい目にあってると思うが、ギーシュが不遇なのって知ってる限りでは提督だけだ
帝王は?ん、聖帝の下僕が不満かぁ〜
ご立派様の二人は・・・うん
アーカード召喚ものでギーシュがくたばったのとかあったぞ
プロシュート兄貴…はジョジョの方か
ギーシュの扱いが下手なのは即エタるイメージ
アセルスの人がギーシュ殺してたような
542 :
るろうに使い魔:2012/05/18(金) 23:56:59.37 ID:bm46x6Qs
皆さんお久しぶりです。もし大丈夫でしたら今日0時丁度に投稿しようと思います。
543 :
るろうに使い魔:2012/05/19(土) 00:00:12.87 ID:/R3ukZwf
それではどうぞ
その日、ミセス・シュヴルーズの錬金についての授業は、ルイズの失敗というアクシデントのおかげで中止となり、しぶしぶその場で解散することになった。
当事者であるルイズは、その責任として教室の片付けを命じられ、剣心と共に教室に残ることとなった。
こういう時こそ魔法を使えば…と一瞬頭をよぎったが、そういえば召喚されたとき、基礎魔法もできないようなことを生徒が言っていたことを思い出した。
体中煤だらけで、あくせくと片付けるルイズを見て、剣心は優しく肩に手を置いた。
「ルイズ殿、少し休むでござるよ」
「え、……でも」
ルイズはまだ散らかった周りを見た。まだ三分の一も済んでいない。まだまだひどい有様だ。
その惨状を見て、ルイズは何か言いたげに口を開くが、一旦気を取り直すと改めて呟くような声で言った。
「そうね…それしかできないんだからあんたに任せるわ」
そう言うと、ルイズは教壇の上にポツンと座り込んだ。その姿はどこか儚げだった。
こういう時こそ、威張り散らして馬車馬のごとく働かされると予想していただけに、先程の失敗が余程応えたのだろうと思った。
そして、時間にして約数十分後――
ボロボロだった教室の机を元通りに並べかえ、ようやく教室らしさを取り戻していった。
さすがに、割れた窓や折れた机椅子などは直しようがなかったため、なんとも形だけの痛々しい姿だったが、とりあえずは一段落はついてホッとする。
その頃はもう、時刻は昼過ぎを迎えていた。
「終わったでござるよ、ルイズ殿」
「……ん」
しかし、ルイズは生返事だけで未だ心ここにあらずといった感じだった。
気休めにしかならないだろうが、その姿があまりにもかわいそうだったので、ここは一つ優しく、慰めの言葉でもかけてあげようと近付いた。
「拙者、この世界のことや魔法について詳しく知らぬゆえ、大層なことは言えんでござるが」
「……」
「まあ、あまり気に病まない方が良いでござる。失敗なんて、誰もがするものでござるよ」
「……のよ…」
ルイズが、拳を握り締めながら震えるような声で呟く。
次の瞬間、涙目な瞳を隠さず叫んでいた。
544 :
るろうに使い魔:2012/05/19(土) 00:01:00.16 ID:bm46x6Qs
「あんたに私の何がわかるっていうのよ!!」
そう言うと、わき目も振らずにルイズは駆け出した。悔しさに顔を歪ませながら…。
剣心は追いかけなかった。「一人にして欲しい」……そう背中が語っていたから。
第三幕 『流浪人の一日 後編』
剣心はその後、あてもなく学院の中をブラブラと歩いていた。
特に行き先はない。ルイズが落ち着くまでの間どう時間を潰そうかと考えて、それなら少しこの学院を探ってみるかということで色々と見回っていたのだ。
途中、様々な人や使い魔とすれ違う。皆一様にして同じ服やマントを身にまとい、時たま変な目でこちらを見てくるときもある。…そんなに目立つだろうか?
しかし、何もここにいるのは貴族ばかりではないようだ。向こうからやってくる女性は服や雰囲気からして使用人だろうと思った。彼女もまた、不思議そうに剣心を見ていたが、
剣心は特に気にしなかった。
ふと、ルイズの言葉が脳裏を過ぎる。
『あんたに私の何がわかるっていうのよ!!』
必死で、それでいて悲痛な叫び。彼女は、この世界で言わせてみるとどうやら『落ちこ
ぼれ』なのだろう。
ただ努力せずに泣き喚くだけなら、剣心も特に気にはしなかった。しかし、あれは一生
懸命頑張っているのに実らない、自分の何がいけないのか本気で分からず今も悩み続けている顔だった。
さっきの事も、爆発による自身の失態を、平民という使い魔に尻拭いをさせてしまった。
それに対してなんて言っていいか分からず、あまつさえその平民に慰められてしまったことで、
我慢していた感情が爆発してしまったのだろう。
剣心は、ふとため息を漏らした。
一応、元の世界へ帰る目標があるとはいえ、それを見つけるまでは彼女の世話くらいな
らしてあげようとも思うし、それなりに力になってあげたい。
しかし、ルイズの言っていた使い魔の仕事を思い出し、考えた。
まず一つ、目となり耳となる能力。要はルイズの視点や聴覚が剣心にもわかるようにな
るらしいのだが、未だにそんな兆候はない。
もう一つ、ルイズの求めるものについても、この世界について詳しく調べればいけると
思うが、現段階では協力は難しい。
「この二点」に置いてのみ、今じゃどうしようもないなと思いながら歩いていると、ふと腹の内側から大きな音が鳴った。そういえば食事は朝のパンとスープだけで、
それ以降何も口にしてなかったっけ。
545 :
るろうに使い魔:2012/05/19(土) 00:01:47.57 ID:bm46x6Qs
「あの、お腹すいているのですか?」
と、後ろから声が掛かった。
振り向くと、先ほどすれ違った使用人の少女が、伺うような視線でこちらに近づいてきた。
「いや何、大したことではござら―――」
言い切る前に、体から自己主張するかのごとく一段と大きな腹の音が鳴り響いた。
少女は、クスッと屈託の無い笑みを浮かべると、剣心を見た。
「どうぞ、ついてきてください。賄いものでよろしかったらお出しします」
少女の名前は、シエスタといった。
シエスタは、そのまま剣心を学院の厨房へ連れていくと、『シチュー』といった食事を持
ってきてくれた。この世界に来てからの初めてのまともな料理が来たので、剣心はそれを美味しく平らげた。
「いやかたじけない、助かったでござるよ」
「いえいえ、そんな大層なものじゃありませんよ」
そう言ってにこやかにシエスタは笑うと、改めて剣心をまじまじと見つめた。
「えっと、ケンシン…さんですよね、貴方、ミス・ヴァリエールの使い魔ですよね? 噂になってましたよ」
一瞬誰のことか本気でわからなかったが、ああルイズのことかと考えていると、シエスタが再び口を開いた。
「お昼、食べさせてもらえなかったのですか?」
「まあ、近いでござるな」
ルイズがたった今、自分をどう思っているのかわからない以上、なんとも言えないがと
りあえず今は、下手に刺激しない方がいいだろうとそう考えていた。
しかしシエスタは、それをどうやら別の意味でとったようだ。
「そうなんですか……そうですよね」
シエスタは、さっきとはうってかわってしんみりとした口調で、そして恐る恐る言った。
「もしメイジたちが本気になったら、私たち平民が何しようが敵わないですよね……」
暗い顔をして俯くシエスタを見て、剣心は何か話題を変えようと口を開いた。
「せっかく馳走になったし、礼として何か手伝うことはござらんか?」
それを聞いて、シエスタは顔を上げると、大きなケーキと皿がたくさん並んでいるのを見た。丁度食後のデザートを配ろうとしたところだった。
「では、こちらを運ぶのを手伝ってくださいな」
「承知したでござる」
546 :
るろうに使い魔:2012/05/19(土) 00:02:37.83 ID:/R3ukZwf
剣心はその後、食堂に行ってデザートの配布を始めた。
銀のトレイからシエスタが切ったケーキを乗せて配りながら歩いていくと、気障ったらしいメイジが数人の取り巻きとなにやら話し込んでいた。
「なあ、ギーシュ! お前誰と付き合っているんだよ」
「誰が恋人なんだい? ギーシュ!」
ギーシュといった少年は、唇に指を立てていかにもな含み笑いをした。
「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませているために咲くのだからね」
そんな風に話していると、ふと彼のポケットから何かが落ちた。ガラスの小瓶のようだ。
どうやら気づいてないらしい。剣心はそれを拾い上げ、声をかけた。
「これ、落としたでござるよ」
しかしギーシュは取り合わない。聞こえなかっただろうか? でもシエスタはハラハラした表情で剣心を見ている。声が小さいわけではないようだ。
「落としたでござるよ、これ」
仕方がないので、今度は直に渡しに行った。それを見てギーシュは苦い顔で手を横に振ったが、取り巻きの一人が大声で叫んだ。
「おお、その香水はもしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」
「てことはギーシュ、お前が付き合っているのはモンモランシーだな。そうだろ?」
どうにも雲行きが怪しくなってきた。口々に騒ぎ立てる周りをギーシュは必死でなだめていると、やがて少女が一人、ギーシュの前に立つといきなり泣き出し始めた。
「ギーシュさま…やはりミス・モンモランシーと……」
「ご…誤解だケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは君だけ―――」
弁解すら聞いてもらえず、ケティはギーシュの頬を思い切りひっぱたくと、そのまま泣きながら去っていった。
続いて、巻き毛で金髪の綺麗な少女が、ギーシュの所へやってきた。怒りで顔を引き付かせているのを見ると、この娘こそがモンモランシーだと剣心は思った。
「やっぱり、あの一年生に手をだしていたのね?」
「お願いだよ、モンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、怒りで―――」
しかしやはり、話の半分も聞いてもらえずモンモランシーは、ワインを掴んでギーシュの上からドバドバかけ始めた。
「うそつき!」
最後にそう言い捨て、モンモランシーもギーシュの元から居なくなった。
一瞬流れる、重たい空気。そんな中、剣心の言葉が止めを指した。
「まあ、自業自得でござるな」
その言葉を皮切りに、ギーシュが気障ったらしく振り向くと剣心を見た。
「君のせいで、二人のレディの名誉に傷が付いた…軽率に香水のビンを拾ってくれたおかげでな、どうしてくれるんだい?」
「でも二股をかけたのはお主でござろう?」
いともあっさり返される反論に、ギーシュはグウの音も出ない。取り巻きたちも笑って「そうだ、そうだ!」と口々にはやし立てる。
「いいかい、給仕君。僕は君が香水のビンをテーブルに置いたとき、知らな―――」
「悪いけど、拙者仕事中故これで。これに懲りてもう二股はやめるでござるよ。童」
ギーシュの額に青筋がビシリと浮いた。自身(と彼女達の)プライドを傷つけられたこと。
平民にそれを指摘されたこと。女性ならともかく、平民の、それもひょろそうに見える男にも無視されたこと。
それがギーシュの中でついに爆発し、剣心に向かって杖をつきたて朗々と叫んだ。
547 :
るろうに使い魔:2012/05/19(土) 00:03:22.37 ID:/R3ukZwf
「よかろう『決闘』だ! 君に貴族としての礼儀を教えてやろう!」
対する剣心は、何のことだか分からずポカンとした表情でギーシュを見返した。代わりに、隣のシエスタは顔を真っ青にして体を震わせていた。
「あ、あなた……殺されちゃう…貴族を本気で怒らせたら……」
そしてそのまま、シエスタは脇目も振らず走り去った。
入れ替わりで、今度はルイズが駆けつけてきた。
「あんた、何してんのよ! 見てたわよ!」
「おお、ルイズ殿。もう大丈夫でござるか?」
慌てるルイズをよそに、未だ事態をよくわからない剣心が呑気にそう言った。それを見て、ギーシュがフフッと笑う。
「成程、誰かと思ったらゼロのルイズが呼んだ使い魔だったのか。道理で貴族に対する礼節をわきまえないわけだ」
「ホラ、謝んなさいよ。今ならまだ許してもらえるかもしれないわ!」
「残念ながら、もうこの場で決闘を宣言したんだ。今更取りやめになんてできないよ」
すでに勝ち誇ったような口調でギーシュはそう言うと、くるりと剣心達に背を振り向いてその場を後にした。
「ヴェストリの広場で待っている。ケーキを配り終わったら来たまえ」
「あんた、一体どうするつもりなのよ!」
呆れた様子でルイズが叫んだ。
「ギーシュと決闘なんて、怪我だけじゃ済まないわ、いや、怪我で済んだら運のいいほうよ!」
良くて半殺し……などと呟くルイズをよそに、剣心は引き続きケーキを配ろうとして、そう言えばシエスタが居なくなってしまったからケーキが切り分けられないと気づいた。
「まま、ルイズ殿、『けえき』でもどうでござる?」
「あんたね……何でそんな余裕なのよ……」
心配するのがバカバカしく思うほど、剣心は優しい笑みでケーキの皿をルイズに渡した。
既に周りには、剣心が逃げ出さないよう見張りを立てている。
そんな場合じゃない――。ルイズはケーキを押しのけて、この状況がどんなに大変かを教え込んだ。
「聞いて? あのね、あんたはこの世界に来たばっかって言ったわよね。だったら頭に叩き込んでおきなさい。『平民はメイジに絶対に勝てない』。ここでの常識よ!」
「まあまあルイズ殿、拙者決闘を受ける気はござらんよ」
548 :
るろうに使い魔:2012/05/19(土) 00:05:56.78 ID:/R3ukZwf
……へ? といった感じでルイズは口を開けた。そんな彼女をよそに剣心は続ける。
「確かに、あの童の話の腰を折ったことや、無視したことについては、拙者にも非はある。それについては、謝るつもりでござる」
「じゃ…じゃあ…」
拍子抜けするように呟くルイズを尻目に、剣心は再び口を開いた。
「まあ、なんであれ…もう一度あの童の所へは行くつもりではござるよ」
そう言うと、剣心は慣れない手つきでケーキを切り分け、興奮して騒ぎ立てる生徒達に、再びケーキを配り始めた。どこまでも呑気な様子で。
ルイズはただ、剣心のその態度に呆然と突っ立っていた。
とまあ、ここまでが以上です。次にいよいよ本格的な決闘になります。
それではここで、また来週、この時間に会いましょう。それでは。
乙でござる
乙龍閃
だいぶ昔だがGAROの召喚の時に
ギーシュがホラーになって死んでるもあったな あとモンモンもケティもホラーになってたが
短編ですが、一本投下します。
クロス元は
新Petshop of Horrors
召喚するのは
伯爵D
それでは、1分後に投下します。
新宿の歌舞伎町。
そこにある『新中華街(ネオチャイナタウン)』。
そこは東京でありながら、まるで異国の…特に東洋の妖しい雰囲気を醸し出していた。
「伯爵伯爵!」
「伯爵どこー?」
「おい、お前が隠したんだな!?」
「うわ!何だお前ら!?」
伯爵D(カウント・ディー)を呼ぶ様々な声。
それらを一斉に受けた劉武飛(ラウ・ウーフェイ)は、戸惑いを隠せずにいた。
個々ならば対処も出来ようものだが、集団で来られれば流石に容易く対処は出来ない。
「「「伯爵ー!」」」
「…ったく、一体何だってんだこいつらは?」
劉はそう言うと、乱れたスーツを整え、ずれた眼鏡を直して“彼ら”を睨み付ける。
彼、劉武飛はここ新中華街の総支配人の息子である。
舐められてはいけない。
最近の劉は伯爵Dの店へとよく出入りしていた。
この店には一つの噂があった。
人身売買、麻薬の取引が行われているのではないか、という。
自身の街に等しいこの新中華街で、そんなことが堂々と行われているのは許せない。
その証拠を掴みに彼は店を頻繁に訪れているのであった。
だが、今日は別にそうした理由で尋ねたわけではなかった。
そうして毎日のように顔を出していると、特に何もなくてもついつい店へ足を運んでしまうのである。
習慣というのは何とも恐ろしい。
「…どうやらあいつはいないようだな」
店をぐるりと見回してから劉は呟いた。
いつもならば、この時間は伯爵Dが好きなスイーツの一つをお茶と共に食している時間である。
なのに、今日に限っては菓子の甘い香りすらしてこない。
こんなことは滅多にないことである。
「店を開けたまま外出とは無用心だな。あいつらしくもない。それに…」
劉はチラリと先程の襲撃者たちを見やった。
「ふう…『ペット』まで放し飼いにしたままとはな」
彼の目線の先にいたのは、多種多様な『動物』であった。
彼らは鳴いていた。
この場にいない、伯爵Dを思って。
一方、その頃。
遠く離れた世界、ハルケギニア。
そこにあるトリステイン魔法学院という学び舎。
「きゅいきゅい!伯爵は何でも知っているのね!」
青い髪の少女が、一人の男にそう言っては瞳を宝石のように輝かせていた。
「フフ。私の知識などまだまだですよ。何たって、まだ私の知らない世界がここにこうして存在しているのですから」
そう言って男は薄く笑った。
男はワンレンのショートボブの黒い髪にオッドアイを持っていた。
東洋風のまるで女性のように綺麗なその顔は微笑を湛えると、それはもう絵画のように美しく、目の前の少女を魅了していた。
「あら、私おかしいのね。おねえさまがいるのに…」
「何もおかしいことなどありませんよ。私もあなたに心を奪われつつあるのですから。今も見惚れているのです。あなたのその美しさに」
「伯爵…」
二人はともに見つめ合う。
「ったく、よくもまあ公衆の面前でそんな臭い台詞が言えるなあ!ええ?お前もお前だシルフィード!こんな奴に口説かれてその気になって恥ずかしくないのか!?」
そんな二人の間に乱暴な言葉を持って、割って入る男がいた。
悪そうな顔つきで、ともすれば不良っぽい感じだが、何処かワイルドさを感じさせる。
そんな男であった。
「フレイム!伯爵にそんな口の利き方ないのね!」
シルフィードと呼ばれた少女はそう言って、フレイムと呼んだ男を睨み付ける。
フレイムは、フンと鼻をならすだけで、彼女と目を合わせようとはしなかった。
そんな二人を見て、伯爵Dはハッとなり、手を合わす。
「…これは、うっかり。私がシルフィードばかりに気を取られていたので拗ねてしまったのですね?」
「あ?何でそうなるんだよ?」
伯爵Dの言葉にフレイムはそう食って掛かる。
その目は血走り、今にも伯爵Dへと飛び掛らんばかりであった。
だが、伯爵Dは笑顔を絶やさずに彼へ手を差し伸べた。
「あなたも美しい。彼女とはまた違った意味で」
「ふざけん…っ!」
「…ええ、美しさを比べるなんて無意味ですね。あなたの美しさはあなただけのもの」
「…」
「私はあなたが欲しい。出来ることならば今すぐ奪いたい。そう思っていますよ、フレイム」
「…チッ、俺には御主人様がいるんだよ!」
そう言ってフレイムは伯爵Dたちへ背を向けた。
「…御主人様より先にアンタに出会っていれば…な」
聞こえるか聞こえないかくらいの声でそう呟くと、フレイムはその場から去って行った。
その後姿を見ながら、伯爵Dは寂しそうに笑う。
「…彼も縛られているのですね」
伯爵Dは左手を見る。
そこには、彼には似合わない入れ墨のようなものが刻まれていた。
「…でも、彼は彼の主を嫌ってはいない。それだけが唯一の救いでしょうか」
もう片方の手で左手を摩りながら、伯爵Dは目を閉じる。
「私とは大違いですね…」
「伯爵…そんな悲しい顔しちゃいやなのね」
「シルフィード。あなたはとても優しい。有難う」
伯爵Dは彼女の頭を優しく撫でた。
シルフィードは、うっとりした表情で伯爵Dを見つめ、そして顔を彼の体に擦り付けていた。
暫くそうしていると、突如その場にまた新たな闖入者が現れた。
「こら!犬!こんなところで何してんのよ!!」
少し離れたところにいる筈なのに、五月蝿く聞こえる。
そのくらいヒステリックな声を上げたのは、桃色の髪の少女であった。
伯爵Dは「ハァ…」とため息をつくと、シルフィードを撫でる手を止めた。
そして、名残惜しそうな顔で彼女を見つめた後、振り返った。
「まったく!!またこんなところで油売って!!洗濯はまだなの!?」
「はい、申し訳ございません…」
伯爵Dは桃色の髪の少女へ丁寧に頭を下げた。
「おい、またアイツだぜ…」
「ああ、あの“ゼロの使い魔”だろ?」
「伯爵へ向かって何様なんだよ、アイツ!」
「許せないわ…」
「いつも伯爵をイジめて、あの子大嫌いなのね!」
周囲がざわつく。
それでも彼女はムスっとした顔のままである。
「とっととやるの!!いい!?」
「はい…」
伯爵Dはまだ頭を下げ続けている。
それは少女が歩き出すまで続けられていた。
少女が伯爵Dに背を向け歩き出すと、伯爵Dもそれに続く。
気配でそれを感じると、少女は「フン」と鼻を鳴らしてみせた。
「ねえ、アンタ…」
「…」
「いつも人の目を盗んではここへ来るけど…」
彼女は周りを見回した。
「『使い魔』の小屋なんか来て楽しいの?」
「…」
「アンタも一応は私の『使い魔』だけど、それでも『人間』なのよ?」
伯爵Dは何も言わずに彼女の後をつけていく。
彼が何も言わないので、少女もまた口を噤んだ。
先程まで人間の姿、人間の言葉で話していた者たちは本来の姿に戻り、その目を、声を伯爵Dへ向けていた。
(…この私が『ペット』になるとは。それも人間の。フフ、皮肉ですね)
表情こそ出してはいなかったが、彼は心の中でいつまでも嗤い続けていた。
人間とは決して相容れない。
それが彼の宿命であった。
人間の中に好ましいと思う者もいなくはない。
だが、人間という種族は大嫌いであった。
数多の生き物を殺し、絶滅にまで追い込み、終いには自らの血筋すらも滅ぼそうとした人間。
伯爵Dの祖先は、動物たちと心を通わすことの出来る不思議な力を持っていた。
その力故に崇拝され、そして畏れられ、そして殺されたのである。
そんな人間の『使い魔』となってしまったのは、数日前のことであった。
(…ええ、なってしまったものはしようがありません)
(…でも、あなたにこの私を飼いならすことは出来るのでしょうか?)
(ねえ…)
伯爵Dはずかずかと歩いて行く少女の後姿を改めて見た。
(ルイズ様…)
伯爵Dは僅かに笑みを浮かべた。
その氷のような表情は、どこか恐ろしく、そして美しかった。
と、こんな感じ終了です。
伯爵Dと使い魔たちの交流が書きたかった。
ただそれだけです。
タイトルは『人間の使い魔』とでもしましょうか。
原作のダークな感じが出ていれば幸いです。
スレ汚し、すみませんでした。
それでは…。
あ、ここだけ訂正します。
×「ああ、あの“ゼロの使い魔”だろ?」
○「ああ、あの“ゼロ”だろ?」
ルイージを召喚……
いつもこういう召喚モノだと兄さんが呼ばれるんだよな
ちんちんはぼくのほうが大きいのに
いっそのことブラッキーをとか。
どうも、22時15分頃に第二話を投稿したいのですが、大丈夫でしょうか?
щ(゚д゚щ)カモーン
大丈夫そうなので、投下します。
第二話
アベルはまず才人に剣を捨てさせ、射抜くような鋭い視線を向けながら、槍を反対に向けて柄で才人が武器を隠し持っていないかを確認してから、
馬から降りて、ジルダを乗せると手綱を引き、才人についてくるように促した。言われるまま才人とシーラはアベルの背中を追う。暫くすると、森を抜け、
ぽつぽつと小さな家屋が見え、その奥には質素ではあるが、それなりに大きい屋敷が見えた。
才人は歩きながらも、周りを観察した。いかにも古い服装を来た人々が自分たちを奇異のまなざしを向けてくるのは少し不愉快であった。しかし、才人は
そんな人々を見れば、自分が異なる世界に来たと言う事を実感しなければならなかった。
「目の前に見える屋敷が私の家だ」
ジルダは僅かに声を高揚させ、才人に振り返りながら屋敷を指差した。才人はそれにつられるように屋敷を眺める。なるほど、金持ちの家らしい作りだと、
当の才人は金持ちの家というものをあまり知らないが、多分そういうものなのだと思った。
「でかいなぁ……」
「あれは領主様の住まいで、ジルダ様はこのラターナ領の領主のご子息だ」
ぽつりと漏らした才人の疑問にアベルが答える。領主というものにピンとこない才人だったが、村長のようなものだと自己解釈した。
「アベル、私は先に父上に説明してくる。その者に失礼のないようにな!」
「ジルダ様!」
ジルダはそう言いながら、馬の手綱を引いて、走らせた。ジルダの乗馬の腕は足したもので、一気に馬を駆けさせ、アベルの制止の声も聞かずに、
あっという間に小さくなっていた。取り残されたアベルは才人とシーラの方を見やって、ため息をついて、二人はその姿に苦笑するしかなかった。
「あのような目に会った後だと言うのに……ジルダ様の横着は……」
「果たしてそうでしょうか?」
「ウン?」
頭を抱えるアベルだったが、シーラはもう姿の見えなくなったジルダの背を見送りながら、微笑んだ。
「屋敷を見た彼の目はとても輝いておりました。我々の手前ではあのように振舞っていましたが、やはり心細かったのでしょう。早く家族に会いたかったのでは?」
「ウゥム……あのジルダ様が……」
「子どもは大人が考える以上に繊細なものです」
「はぁ……伝説に聞くフェアリーと言うものは博識と言われているが……人間観察も得意という事か」
「私はそこまで大層な事は出来ませぬ」
二人して何やら真面目そうな話を始めたが、才人は殆ど蚊帳の外であった。むしろ、全くの赤の他人に対して、よくもこう話しかけられるものだと、シーラに関心していた。
妖精と言うもの皆そうなのだろうかとも考えた。
しかし、黙ってばかりと言うのも、なんだか居心地が悪く、才人は何か一言言おうとして、
「あぁ……!」
どこか上ずった声を出してしまい、シーラとアベルの注目を浴びてしまう。
「こ、子どもは風の子って言うし……元気が一番って言うか……あ〜」
遂に出た言葉がそれだった。他にも何か言った方が良いと思ったのだが、言葉が見つからず、詰まってしまいおたおたとしていると、アベルは苦笑していた。
「クフフ、ジルダ様は風のメイジであらせられる。なるほど、風のような方ではあるな」
どうにも意味をはきちがえているような気がしてならない感じはしたのだが、才人はこれ以上恥をかくのが嫌だったので、何も言わなかった。
屋敷に案内され、始めて本物のメイドという存在に出会い心を打たれたのもつかの間、才人とシーラはアベルに引き連れられて、ラターナ領主シーゲン・ラターナと対面していた。
シーゲンは多少豪華な服装を来ていたが、所々乱れがあり、ボタンの掛け違えも見えた。丸顔で蓄えられた黒ひげ、少々肥満気味な体型、良く見れば目が腫れていた。
『泣いていたってことか? そこに子どもが帰ってきて、急いで準備したって感じか』
才人は多少緊張しながらも、目の前の領主が一人の親であり、人間である事に安堵していた。
シーゲンはジルダを救った才人に抱きつく様に歩み寄り、数々の称賛の言葉を送ってしまいにはジルダが生きて戻ってきた事に対して大人げなく泣きはじめていた。そうと思いきや、
立ち直り、乱れた衣服を整えると、先ほどまでの行動を思い出してか恥ずかしげに笑っていた。
「いやはや、情けない……ジルダは一人息子でな、失えば私も生きる気力がなくなってしまうほどなのだ。妻もジルダがさらわれたと聞いて、寝込んでしまったのだが、今頃ジルダの
顔を見て、元気になっているだろう。それもこれも、君のおかげだ」
「いえ……下手をすれば……自分も、ジルダ……様、も危険にさらしてしまうところでした」
歯切れの悪い敬語を使いながらも、才人はできる限り礼儀を尽くした。シーゲンと会う直前にアベルから厳にと言われていたからである。たとえ領主の息子の恩人とは言え、最低限度の
礼儀は尽くすようにとの事であった。
「過程はどうあれ、ジルダが無事に帰って来た。私はそれで満足している。サイト……と言ったか?」
シーゲンは先ほどとは違って落ち着いた声で、才人とその隣を飛ぶシーラを見やった。
「メイジではないが、伝説のフェアリーを連れている。まるでイーヴァルディの勇者のようだ」
「勇者……ですか?」
「御伽噺だよ。地方によって少々内容が異なるが……我がラターナ領近辺では勇者イーヴァルディはフェアリーと共に旅をするという」
「偶然じゃないかと……」
いよいよゲームやアニメのような展開になってきた事に才人は苦笑いをしながら、否定する。そんな才人にシーゲンも微笑していた。とはいえ、勇者のようだと言われるのは中々悪いものではない。
若干幼稚ではあるが、少年の夢といったものだからである。
「しかし、フェアリーを連れているとなると、少し目立つ。それが平民であれば、なおさら」
柔和な表情は崩さなかったが、シーゲンの言葉は真剣だった。
「はぁ……」
対して、才人はこの世界の常識もなにも知らないわけで、どうしてシーゲンがそんな事を言うのかが、わからなかった。メイジとかいう言葉もそうだが、シーラのような妖精はこのどこかファンタジーな
世界ではポピュラーなものではないのかと頭をかしげてしまう。
事実、ジルダもアベルもシーラを見て伝説の存在と言ったし、この屋敷に来てからも多くの人々はシーラの姿を見て、大きく目を見開いていた。
「メイジは使い魔を持つし、中にはドラゴンなりグリフォンなり高位な幻獣を使役するものもいると言う。しかし、フェアリーというのはてんで聞いた事がない。と、いうより、存在自体が眉つばもので、
自然や精霊の化身とも噂されるフェアリーが、今こうして、平民の君と一緒に私の前にいる」
シーゲンは何事かを考える仕草をしながら、小さく唸った。
「ンン……いや、君は本当にイーヴァルディの勇者かもしれんな」
ポツリと、独り言の様に呟くシーゲン。
「いや、それは……」
「ハハハ! なぁに、少なくとも我が息子にとっては勇者やも知れぬ……これ!」
返答に困る才人をおいて、シーゲンは扉の向こうで待機するアベルとメイドを呼び寄せた。主の呼び出しに従者たちは短くもしっかりとした返事を返しながら、入室してくる。
「アベル、この二人を客室にご案内しろ。お前たちは、食事の用意だ」
『かしこまりました』
三人の従者は深々と頭を下げると、言いつけどおりに行動を開始した。アベルは才人とシーラについてこいと合図して、二人もそのあとを追った。メイドの二人はそのままキッチンへと向かったのか、
才人たちとは反対の廊下へと渡っていった。
暫くして、案内された客室は才人の実家の部屋よりも広く清潔感があった。ふと窓に目をやると、外は太陽が少し下がっており夕暮れに差し掛かろうとしていた。
「今日はここで休め。だが、出入り口には警備の者をおいておく。ジルダ様を助けたとは言っても、貴様たちの身元は不明なままだからな。悪くは思うな。暫くすれば、メイドが食事を持ってくるだろう。
用事があれば、警備の者に頼め。他に何かあるか?」
「あ……今は……なんにも。むしろ、ここまでしてくれるのはありがたいっていうか……」
ある意味監視、警戒されている形にはなるのだが、野宿するよりはマシだし、才人としても何か問題を起こそうという気もない。寝床と食事を提供してくれるだけ、
ありがたいのだから。
「シーゲン様に感謝なさるのだぞ。こう言っては何だが、シーゲン様は平民の扱いは良い。他の貴族の家ならば、ここまではせん。ところ、貴様は……」
アベルはそこまで言って、口をつぐんだ。
「いや、疲れているだろう。質問はまた今度にする。あぁ、それから余りフェアリー殿を外に放つなよ。目立つ。ではな」
それだけ言ってアベルは部屋を出て行った。彼の部下と思しき兵士が二人、扉の前に立つと同時にメイドが食事を持ってきてくれた。小麦色のパンに野菜のスープ、
何の肉かはわからないが、焼いたものが並べられていた。その横には小さな木の実やフルーツの盛り合わせがあった。恐らくはシーラの食事のつもりなのだろう。
ともかく才人が礼を言うと、二人のメイドはにこやかな笑みを返してくれたが、返事はなかった。しかし、意外と容姿の整ったメイドに笑顔を向けられただけでも才人は満足だった。
そして、食事の匂いに、ふと自分は腹が減っていたのだったと言う事と、コンビニで買ったおにぎりとから揚げを森の中に置いてきてしまった事を思い出していた。
「はぁ……まぁ、何にせよ食事にありつけたのは運がいいのか……それに」
才人はチラッとシーラに視線を向ける。館についてからずっと黙ったままの妖精が気になったのだ。
「シーラ? なんか、ずっと黙ってるけど、大丈夫か?」
「えぇ、少し驚いていたもので」
「驚く?」
むしろ驚くのはこっちの方だと、考えながらも才人はシーラの言葉に耳を向けた。
「才人は、異世界に来たというのに、もう順応しています。意外と心が座っているのだと」
「よしてくれよ……せっかく考えないようにしてたのにさ」
確かにある程度だが、いつもの自分に戻りつつある。不安が全くないと言えば嘘になるが、それも始めの頃にしてみれば、随分と楽になった。才人は自分の神経が意外と図太い事に今更ながら気づかされる。
「ごめんなさい……」
だが、シーラは才人がそんな事を考えているとは思わず、彼の言葉をその通りに受け止めてしまった。顔を伏せ、小さな声で謝罪した。
そうなると、慌てるのは才人の方である。別にシーラを責めているわけではないのだから、彼女にそんな顔をされると、自分がいじめたように思えてくる。それがたまらなく嫌だった。
「ちょっと……! いいんだよ、別に。そんな事よりもさ、飯だよ、飯」
かと言って、どういえば良いのかわからないのも事実で、才人は取りあえず自分は全く気にしてないという姿を見せる為に、パンにかじりついた。そんな才人の姿を見て、シーラも微笑すると、
小さく切られたフルーツの欠片を手にとって食べた。
異世界に来て、始めての食事は正直言って味気ないものだったが、それでも腹が膨れた事には変わりなかった。
食事を終えた二人だったが、勝手知らぬ屋敷の中を歩き回る気にはなれなかった。それに、部屋の外にいる警備の者たちが許さないだろう。もしくは、ぴったりと張り付いてくるに違いない。
だとすれば、大人しくベッドの上で寝転がるのが一番良い。ふと、窓の外に目をやると、夕暮れ時の薄暗い風景が目に入る。元の世界では電灯や民家の明かりがあってか、いくらかは明るいはずなのだが、
ここから見える風景には、電灯の明かりなどなく、うっそうと生い茂る森や地平線の彼方にそびえる山が影となってより一層辺りを暗くしていた。ここからなら月が見えるかなとも思ったが、あいにくまだ自分
たちの部屋の反対側にあるのか、端すらも見えなかった。
「美しいものです」
窓際に腰かけていたシーラが夕暮れを眺めながら言った。赤茶けた夕暮れの光が翡翠色のドレスをその色に変えていた。
才人はベッドから起き上がらず、頭だけをシーラの方へと向けた。
「ありのままの自然とそれに調和するように人々の営みがあふれる。ここに住む者は大地の力を借り、それを魔法と言う形で再現させます」
「魔法? 杖を振って、色々できるっていうのか?」
そう言われると、助けた少年ジルダも杖を振るって自分たちの身体を調べていたようだった。
「血筋によって扱えるものとそうでないものとがわかれるようですが、概ねは才人が考える魔法と同じものだと思います」
「ふーん……」
「信じられませんか?」
「いや、具体的なものを見たわけじゃないし、でも異世界に来たって事はそういう事なんだろうなって……それに、元の世界でもバイストン・ウェルやオーラバトラーなんて存在があったわけなんだから、
さほど驚く事でもないのかもって……」
ある意味では魔法以上のものが元の世界にはあったわけで、そう考えると魔法の一つや二つはあっても良いだろうと言うのが才人の考えである。だが、それは実物を目の当たりにしていない楽観的な
視点も含まれていた。
「ところで、さ?」
「はい?」
寝返りをうちながら、才人はすっかり忘れていた事を思い出していた。
「俺って帰れるの?」
シーラは『使命』の為に自分をこの世界に呼んだと言った。その使命とはオーラマシンをこの世界から消去る事。この使命に関しても漠然としていて、一体どれくらいの量をどのようにして消し去るのか、
そしてその使命が終わった時、自分はどうなってしまうのか。そこらへんが曖昧なままで終わってしまっていた。
「……」
「血筋によって扱えるものとそうでないものとがわかれるようですが、概ねは才人が考える魔法と同じものだと思います」
「ふーん……」
「信じられませんか?」
「いや、具体的なものを見たわけじゃないし、でも異世界に来たって事はそういう事なんだろうなって……それに、元の世界でもバイストン・ウェルやオーラバトラーなんて存在があったわけなんだから、
さほど驚く事でもないのかもって……」
ある意味では魔法以上のものが元の世界にはあったわけで、そう考えると魔法の一つや二つはあっても良いだろうと言うのが才人の考えである。だが、それは実物を目の当たりにしていない楽観的な
視点も含まれていた。
「ところで、さ?」
「はい?」
寝返りをうちながら、才人はすっかり忘れていた事を思い出していた。
「俺って帰れるの?」
シーラは『使命』の為に自分をこの世界に呼んだと言った。その使命とはオーラマシンをこの世界から消去る事。この使命に関しても漠然としていて、一体どれくらいの量をどのようにして消し去るのか、
そしてその使命が終わった時、自分はどうなってしまうのか。そこらへんが曖昧なままで終わってしまっていた。
「……」
シーラは黙ったままだったが、才人にはおおよその返答が推測できていた。
「帰れないって事か」
これもある意味ではお決まりな展開とも言える。シーラもその件については負い目があるのか、顔を伏せていた。かと言って才人も彼女を責める気はない。
だが、同時に疑問に思う事もある。それはシーラの事であった。才人が使命の為に召喚されたと言うが、それはシーラも同様である。シーラは本人が言う事が正しければ、
バイストン・ウェルの妖精、ミ・フェラリオである。そして、この世界はバイストン・ウェルではなく、全くの異世界。つまり、シーラもまたこの世界にとっては異邦人なのである。
「そもそも、俺もシーラもどうやってこの世界に来たわけ? 俺は、まぁ、シーラに召喚されたって事らしいけどさ?」
最もな疑問でもある。
「簡単に説明すれば、オーラ・ロードを通り、ゲートをくぐりました」
「……? オーラ・ロードは特番とかで聞いた単語だけど……」
「オーラ・ロードは地上世界とバイストン・ウェルを結ぶ道、そしてゲートはこの世界へと繋がる扉、ワールド・ゲート……私もオーラ・マシンも、そして才人も、オーラ・ロードを通り、
そして抜け道をとおるようにしてゲートから出たのです」
「あぁ……よくわかんないんだけど、玄関から入って、窓から外に出たって感じ?」
「正しくもありませんが、あながち間違いでもないでしょう。ですが……」
説明を続けるシーラの表情は曇っていた。それは、説明をしながらも、シーラ自身わからない事があるという具合だった。
「本来なら、オーラ・ロードとこのゲートは繋がる事などないのです」
「けど、俺達はそれを通って来たんだろ? なら、帰れるんじゃないのか?」
「入り口となったオーラ・ロードは難しいですが、開けない事はありません。私にも、僅かながらにその力があります。ですが、出口となったゲートに関しては、
私にもどういうものなのかはわからないのです。私たちの知るオーラ・ロードとは全く異なる力によるものですから……」
才人たちが出てきた出口であるゲート、逆を言えばこの世界から元の世界に戻る為の入り口の開け方をシーラは知らない、またはできないと言う事だ。
結果的にそれは才人の帰還への望みが限りなく低いという事にも繋がる。
「なるほど、こりゃ手詰まりだよなぁ」
少なくとも才人の頭では打開策を講じる事はできない。専門的な知識もなにもない状態なのだから当たり前だが、自分より今の状況に詳しいシーラですらわからない事をどうして才人に理解出来ようか。
才人はもう一度ベッドに寝転がると、手を頭の後ろに回して不貞寝の態勢に入った。ある意味では無責任なシーラに呆れもするが、憤慨するわけでもないし、怨むとかいった感情もない。
こうなってしまった以上は深く考えずに流れに身を任せるしかなった。
朝早く、それこそ普段なら才人はまだ眠っているような時間帯、ドンッという大きな音と共にドアが勢いよく開かれる。同時に少年の甲高い声が部屋に響く。
突然の事に才人とシーラは眠気も吹き飛ばされるように跳び起きる事になる。布団をはねのけ、ドアの方へ顔を向けると、そこには年相応な笑みを浮かべた
ジルダと部屋の外で諦め顔を浮かべるアベルとその部下たちがいた。
「お目覚めか、勇者殿!」
元気のよい声だったが、才人もシーラも目を丸くしながら、唖然とジルダの姿を眺めていた。
「暫くすれば、メイドたちに朝食を運ばせる。終わり次第、《倉庫》に来てくれ。案内はアベルにさせる。私なりに昨日の礼をしたい。心配はない、父上には許可を
いただいている。ではな!」
言いたい事だけ言って、ジルダは嵐のように去っていった。アベルはこめかみを押さえながら、顔を横に振り、小さくため息をついていた。そしてチラッと二人の
方に視線を移すと、またため息をついた。
「つまりは、そういう事だ。朝早くにすまんな」
「あ、いや……わかりました」
才人もそう答えるしかなかった。
「元気のよい子ですね」
「いや、元気が有り余りすぎじゃないか?」
そして、ジルダの言うとおり、暫くするとメイドが朝食を運んでくる。パンとスープなのは昨日の夕食と変わらないが、肉の代わりに新鮮な野菜とゆで卵が供えられていた。
才人とシーラが朝食を終えると、メイドが食器を片づけに来て、同時にアベルが迎えに来る。
「改めてすまんな。ジルダ様の奔放さは我々も手を焼いている」
「はは……」
「ふふ……」
才人は苦笑して、シーラは微笑した。長い廊下を渡る道中、アベルはジルダの事について語った。曰く教育係から逃げて、市井の子どもらと一緒に泥だらけになって帰ってくる、
かと思えば母親の誕生日に
不得意な錬金で作ったアクセサリーをプレゼントしたり、その為に真面目に勉強に取り組むなど。聞こえてくる言葉の節々にはどこか親しみがこめられており、嫌っているような
そぶりはなかった。むしろ、その元気の良さが嬉しいという感じでもあった。
「今朝も執事長に嫌味を言われた。ジルダ様を浚った賊とその一党の足取りもつかめないまま、いくら恩人とは言え、身元も定かではない者にジルダ様を軽々しく合わせるなとな。
あぁ、気を悪くしないでくれ、賊の件でピリピリしている者も多い」
「はぁ……昨日の今日、ですからねぇ……」
「すまんな」
アベルは「すまんな」が口癖になっているようだった。どこか苦労人の気配のするアベルに才人は無意識のうちに敬語を使っていた。せめて自分だけでも苦労させないようにという妙な気遣いだった。
その後も適当なやり取りを交わしながら、ジルダの待つ倉庫の前までやってくる。ジルダは三人の姿を見つけると、大きく腕を振りながら、大声で呼びかけた。
「こっちだ!」
腕を振るジルダの背後には屋敷よりは一回り程小さい、レンガ造りの倉庫があった。倉庫はいたってシンプルな作りで長方形型の建物で、変わっているのは正面に巨人用にも見える鉄製の門が
供え付けられていた。しかし、良く見ると等身大の人間用の扉もそのすぐ近くに存在した。
「よくぞ来てくれた、勇者殿、フェアリー殿。さぁ、倉庫に入ってくれ。我がラターナ家の《鎧人形》を見せてやるぞ」
「《鎧人形》って?」
「みれば、わかる!」
聞きなれない単語、才人は尋ねてみたものの、少年は彼の腕を取って、扉を勢いよく開けると、倉庫の中へと引っ張っていく。薄暗く、
光源も窓からの太陽光と無数のランプだけで、埃っぽい空間の中、それらは鎮座していた。才人の目に最初に映ったのは、角が折れた
巨人の残骸だった。ハッと息を飲み、左右に視線をずらすと、その残骸の周りには同じように、頭部を失ったものや上半身が抉れたもの、
どれも人型の形を保っておらず、まさに屍をさらしていた。しかし、それらを見て才人が取り乱したりしなかったのは、それらが生物ではなく、
才人もよく知る、だが始めて間近で見るものだったからだ。
「オーラ……バトラー……」
その残骸は間違いなく、オーラバトラーであった。
ザワリと鳥肌が立った。あれほど憧れていたオーラバトラーが目の前にある。残骸とは言え、本物が目の前にあるのだ。才人は暗闇に目が
慣れてきたのか、よく目を凝らして残骸の胸部に注目した。本来なら、コックピットが存在する部分である。上半身が抉れているものは論外として、
どれもこれも、カバーがひしゃげ、素人目に見ても開ける事は不可能。物理的に破懐して取り除かないといけないだろう。第一に動くかどうかすらままならない状態であった。
呆気にとられつつも、才人は傍らを浮くシーラに目をやった。自分よりもはるかにオーラバトラーに関わっていたはずの彼女は一体どんな顔をしているのだろうか。
「……!」
しかし、目に映ったのは顔を輝かせるわけでも、崩すわけでもなく、ただ無表情のまま、オーラバトラーを見上げるシーラの姿があった。ただそれだけなのに、才人は気圧される感覚があった。
そして、シーラの語った使命とやらの事を思い出していた。
『マシンを消す。シーラは確かにそう言った。それって、つまり言葉通りの事、目の前のオーラバトラーの残骸を排除しなくちゃいけない』
だが、目の前のは所詮は残骸である。
『言っちゃ悪いけど、ここの連中にオーラバトラーとか、マシンが修理できるとは思えない。考えすぎじゃないか? それに、無傷のものじゃないと……』
そこまで考えて、才人は「アッ」と声をあげた。
「これ、原型をとどめている奴はないのか?」
ジルダの方に振り返りながら、才人は残骸たちを指差す。
「ム、すまんが見つかっていない。こやつらを引き上げた池にはもう何もなかったからな」
「池?」
「そうだ。二週間ほど前だったか、我々の領地内の池の中で見つかってな。周辺を調べたら、ごろごろ出てくるようになったのだが、未だ完全なものは出てきておらぬ」
ジルダは「ちなみに、私が最初に見つけた」と付け加えながら胸を張っていた。
だが、才人はそれに目をくれず、シーラの言葉をもう一度思い出していた。いよいよ持ってシーラの言っていた事が嘘ではないと実感せざるをえなかった。
ジルダの少し見栄を張ったような言葉が聞こえてくるが、才人はその殆どを聞き流していた。だが、上機嫌なジルダはそんな才人の様子に気がつく事もなく、自分がどのようにしてオーラバトラー、
ジルダらの言う鎧人形を見つけたのかをずっと話していた。
「学者が言うにはな、鎧人形は古代の王、もしくは始祖ブリミルの時代の精霊を模した石造かガーゴイルではないかと言われている」
オーラバトラー、鎧人形の事を他人に語る事が嬉しいのだろう。ジルダは満足げな表情を浮かべながら、ずっと、アベルが迎えに来るまで、その口を止めなかった。だが、才人は奇妙な胸騒ぎだけを感じて、
額の汗をぬぐった。
そして、シーラはオーラバトラーの残骸を前に、ただ静かに、瞳を閉じた。それは祈りのようでもあった。贖罪のようでもあった。しかし、その真意を知るものは、シーラだけだった。
才人もジルダも、迎えにきたアベルも、誰にもシーラの心中を察する事はできなかった。
『これが……私の罪……果たすべき、使命』
かろうじて頭部が残っているオーラバトラーの残骸が自分を恨めしそうに睨みつけている。そんな錯覚を感じながら、シーラはその魂が浄化される事を祈った。
短いですが、これで投下終了です。地の分より会話文が多めなのは反省。
展開は小説版ダンバインとも言えるオーラバトラー戦記と∀ガンダムを意識してますので、
似てるというか、まんまな部分が多いのも反省。
前回いただいたアドバイス等は第三話の方で活かせたいと思います。
それでは。
聖戦士の人乙
聖戦士乙
>>552-558 スレのルールも知らないでカスみてえなもん投下してんじゃねえよクズ
二度とこのスレに近寄るな
…『人間の使い魔』を書いた者ですが、
どうやら皆様のお気を悪くしてしまったようです。
申し訳ございませんでした。
もう二度とSSの投稿はいたしませんので、
せめてROMくらいは許して下さいまし。
そんなキレるようなことしてるか?
投下前の予告時間は短いけど終了報告はきっちりしてるしageてもいない
何をもってクズとまでいってるの?
なんで噛み付いたのか謎すぎる
内容はさておいて
>>575 別に気にすることはないと思うよ
今は誰の作品も読まないようにしてるので出来については何も言えないけど
書きたい題材があったら投稿すればいいと思う
まぁ上にも書いた通り投下予告は5分から10分前ぐらいが妥当だけど
まさかルイズがちょっと悪く描かれてるから、それでキレてんのか?
どんだけ繊細なんだよ
>>574 文句を言うなら問題点くらい指摘していけ
聖戦士の人乙です
ホント楽しみな作品が出てきて嬉しいです
サイトが80年代の絵で思い浮かぶw
やべぇーマジやべぇー574さんが本気出したら
こんなスレは「あっ」という間に滅んじまうぜ超やべぇー
574さんのルイズ愛はやべべべべぇ
ジョーカーとかペンギンとかがハルケに来たらどんな犯罪を起こすもんかな
そろそろ虚無のパズルの人帰ってきてくれないかなー
マテパも最終章が始まりそうだし
せめて生存報告だけでも見たいところだ
あと禁書の人も
確かここ三人ぐらいマテパスレ住人いたよな
みんな魔法大好きだな
マテパのプリセラだったらビダーシャルをジール・ボーイのように
ただの拳でブッ飛ばすか、格闘技術で完全勝利してくれる気がする
正直「反射」って関節技とか防げるか疑問に思う
《反射》は精霊に攻撃を防御・反射してもらう技(風の精霊にウィンディアイシクルを止めさせるなど)だから、
密着したゼロ距離での攻撃は多分防御するヒマが無いので防げない
ただしそれ以前にゼロ距離へ接敵することを防ごうとはするだろうが
設定談義をするつもりはないが、ビダーシャルだって動きもするしガンガン攻撃してくると思うが
言われりゃそうだね、完全勝利はさすがに無いか
ただ、プリセラってジール・ボーイの華龍三ッ眼を真正面から受けて
耐えきっちゃったから、なんでもぶち破るイメージがあったんだ
眠狂四郎の円月殺法はどうだろう。斬られに行かないと気絶する、みたいな。
本人曰く
「力に力で対抗するのはバカのやること。でも自分はバカだからそれしか能がない」
だから相手が誰であろうと肉弾戦の力押しでガチバトルを挑むだろう。
ただ数多くの格闘術を身に着けているから必要に応じて攻め方を変えるだろうけど。
エルフ相手にどう戦うのかは見てみたいね。
>>593 巨大な岩石を雨あられと飛ばしてくる相手にどうしろと
バンチの漫画版眠狂四郎だと聖者アヌビスの姿がみえんのかね
誰もいなければ21:30から投下予定
第10話『輪舞曲』
「ミス・ロングビルの正体が土くれのフーケだったとはのう……」
学院まで戻ってきたルイズ達からの報告。
オールド・オスマンは髭を撫でながら、苦々しく呟いた。
少女達は日頃の気品など、微塵もない程に煤けている。
怪我はアセルスが術で治したが、汚れまでは落とせない。
「何はともあれ、良くぞ破壊の杖を取り返してきてくれた。礼を言おう。」
命がけの任務を果たした生徒達に、深々と頭を下げる。
「諸君による功績に報いる為、王宮へシュバリエの称号を申請しておいた。
もっとも、王宮の堅物どもが素直に受勲させてくれるかは分かりかねるが……」
勲章の授与。
栄誉あることではあったが、ルイズは気がかりな事を尋ねた。
「あの、アセルスには何もないんでしょうか?」
信賞必罰。
どちらもルイズは、当然だと考える。
世の中がそれ程単純に出来ている訳ではないと知るにはまだ若すぎた。
「残念ながら、彼女は妖魔じゃ」
「そうですか……」
妖魔に勲章が授与されないのは分かっている。
それでも功労者のアセルスに、何も恩賞がない事実は受け入れがたい。
「気にしなくていいよ」
アセルスは恩賞など興味ない。
気がかりなのは、もっと別の事だった。
「さて、今宵はフリッグの舞踏会じゃ。
主役はこの場にいる皆となる、盛大に楽しんでくれ」
「私はまだ処罰が残ってますが?」
当然の疑問をルイズが口にする。
「罪は取り消せん、だが挽回はできる。
危険も厭わず、フーケ討伐に推参した勇気。
破壊の杖を取り戻し、フーケを捕らえた実績。
どちらも賞賛されてしかるべき事じゃよ」
ギーシュの容態が落ち着いた報告もあり、決闘の罪を取り消すつもりだった。
破壊の杖奪還。
教師がなさねばならない責務を果たしたのだ。
褒美を取らせこそすれど、このまま罰を与えるなど教育者として風上にも置けない。
「ありがとうございます……」
賞賛を受ける経験がルイズの人生になかった。
他人に認められるのを誰より願ってきたルイズだったが、素直に喜べなかった。
フーケを捕らえたのも、ゴーレムを打ち倒したのもアセルスだ。
何も出来なかった自分が賞賛され、自他共にアセルスには何も与えられない。
「ほら、せっかくの舞踏会なんだから早く身だしなみを整えて準備しましょ」
キュルケが強引にルイズの背を押して、退室を促す。
少女達が退室していく中、アセルスだけが部屋に残る。
「アセルス?」
「少し用があるから先に行って頂戴」
真剣なアセルスの眼差しに、ルイズは無言で頷くしかできなかった。
部屋に残されたのは学院の主であるオールド・オスマンと、妖魔の君アセルスの二人。
「……それで用とは何かね?」
妖魔との対峙に、多少の警戒をしながらオールド・オスマンが尋ねる。
「貴方達が破壊の杖と呼ぶ武器、あれはどこで手に入れたの?」
「杖を知っておると言ってたのう……少々年寄りの昔話をしても良いかの?」
アセルスは首だけで促す。
「今から、五十年ほど前じゃった。
山岳で秘薬の採取を行っていた儂は、ワイバーンの群れに襲撃されてのう」
そう言いながら、杖を持つと机からの引き出しを開けてみせる。
「その時、一人の青年が儂を助けてくれた。
破壊の杖を構えたかと思うと、ワイバーンの群れを爆発で一掃しての。
この手帳や他の小物もその恩人が持っていたものじゃ」
念力で取り戻した破壊の杖と、手帳やその他の小物を机に並べる。
(IRPO……)
アセルスには手帳や小物に見覚えがあった。
彼女がいたリージョンでの、治安維持局を示すマークが刻まれている。
「その青年は今どこに?」
「……死んだよ、ひどい傷を負っててのう。
埋葬した後、恩人の形見として破壊の杖や彼の所持品をこうして預かっておる」
オールド・オスマンは頭を振って、辛そうに答えた。
「彼がどこから来たのかも分からないのね?」
「うむ、故郷に帰りたいとうなされておった……
リージョンとかアイアール……なんとかと呟いておったが、そんな地名は聞いた覚えがなくての」
アセルスは針の城に戻る気は毛頭ない。
懸念しているのは彼らがこちらの世界に来ないかという事。
ハイペリオンを持ち込んだ人物がどうやってこの世界に来たか。
アセルスが知りたかったのはそれだけだが、手がかりはなさそうだと判断する。
「もう用はないわ」
「待ちたまえ、君は彼について心当たりがあるのではないかね?」
アセルスが立ち去ろうとするも、オールド・オスマンが引き止めた。
「さあ?」
半分は事実、半分は嘘である。
自分の知っているリージョンの住人なのは確かだ。
だが、彼自身の情報はアセルスにもほとんど分からない。
「……そうか、引き止めてすまんかったの」
納得はしていないが、オールド・オスマンは素直に引き下がった。
使い方が不明だった破壊の杖を使った事実、アセルスは何か知っている。
しかし状況証拠にすぎない以上、追求した所で情報の真偽を見極めれるはずもない。
アセルスは無言で出て行く。
一人きりとなった部屋でオールド・オスマンは安堵していた。
ロングビルを雇った経緯、尻を触っても怒らなかったからという理由がばれずに済んで……
「お待ちしておりました、ルイズ様」
扉を開けての第一声に思わず、目眩を起こす。
「えーと……エルザだったわよね?」
ルイズは埃塗れになった為、キュルケ達と風呂に入ろうとしていた。
部屋に戻って支度をするつもりだったのだが、エルザの存在を忘れていた。
「はい」
「貴女が仕えるのはアセルスじゃないの?」
とりあえず浮かんだ疑問が口に出る。
「はい、ですがルイズ様のご命令も遵守するよう遂せられております」
「そう……」
ルイズはどうしていいのか分からず困惑する。
幼い容姿を除けば、仕草はメイドとして問題ないだろう。
ただ服従しているとは言え、吸血鬼相手に雑用を頼むと言うのも躊躇われる。
「それじゃ、お風呂に入りたいからシエスタに伝えておいてくれないかしら?」
この時間はまだ湧かされていない。
シエスタに準備を頼むつもりだったが、伝言役を任せた。
「かしこまりました、ルイズ様」
エルザは一礼すると、部屋から去っていく。
胸中でシエスタに押し付けた事を謝りながら、ルイズは汚れるのも構わずベッドに倒れ込んだ。
しばらくすると、扉が再び開く。
エルザが戻ってくるには早すぎた。
「ルイズ」「アセルス!」
アセルスの声を確認するや否や、ルイズは飛び起きて叫ぶ。
「ゴメン」「ごめんなさい!」
二人の声が同時に発せられる。
そして顔を見合わせた、相手が謝った理由がお互い分からない。
「どうして謝るの?」
まず口を開いたのはアセルスだった。
「だって、私達をかばったせいでアセルスが……」
アセルスもハイペリオンの爆撃を受けて無傷ではいられない。
怪我程度はアセルスも慣れているのだが、戦闘経験のないルイズには衝撃だった。
何より自分が足手まといとなった為に、アセルスに怪我を負わせたとしか思えなかったのだ。
「違うわ、私が迂闊に武器の使い方を喋ったから君を危険な目に合わせた」
アセルスはルイズを危機に陥れたと思っている。
フーケに武器の使い方を教える愚行を行ってしまったのは自分。
それが無ければ、ルイズ達がこれほど傷つく事もなかっただろうと。
「でも……!」
「大丈夫、私は殺されたって生き返れるもの」
上級妖魔を完全に殺すには、同等以上の妖魔でなければ不可能。
支配者の一人の血を受け継いだアセルスとなれば片手で数えるほどもいない。
「大丈夫じゃないわよ!」
ルイズが泣きそうな顔でアセルスの胸を叩いた。
アセルスがルイズを見て思い出したのは、白薔薇の姿。
白薔薇を守る為に無理をした事もあったが、その度に彼女は悲しそうな顔をしていた。
──ああ、そうか。
この娘も私が傷つくのは嫌なんだ。
「ゴメン、無理はしないよ。だからルイズも。」
「……うん」
無茶と言うならルイズもアセルスを責められない。
アセルスがフーケに殺されたと勘違いした時、一人でゴーレム相手に立ち向かったのだから。
扉を叩く音と同時にエルザの声が扉越しに聞こえる。
「ご主人様、ルイズ様。
ご入浴の準備が既に整っております」
「分かった、すぐ行く」
アセルスの返事に、扉の前から気配が遠ざかる。
二人は支度を済ませると、部屋を後にした。
支援
「遅かったじゃない、ルイズ」
浴場の更衣室に着くと、開口一番キュルケが出迎えた。
準備が早いと思ったら、すでにキュルケが頼んでいたらしい。
「淑女は身だしなみに時間がかかるのよ」
キュルケはルイズの様子が、いつもの調子に戻っていると判断する。
何があったのか知らないが、好都合だった。
ヴァリエールはこうでなければ、張り合いがない。
「淑女ねえ?」
キュルケがルイズの体の一部を凝視する、主に胸を。
「何がいいたいのかしら?」
怒気を込めてルイズが返す。
無論、そんな事で怯むようなキュルケではない。
「お子様の間違いじゃなくて?」
自慢のプロポーションを見せつけるかのように、キュルケが見下ろす。
「胸だけ大きければいいってものじゃないでしょ!」
「あら?胸以外でも負けてるつもりはないわよ」
悔しそうに歯ぎしりするルイズ。
魔法が使えない以外のもう一つの劣等感、自らの体格について。
「痛っ」
近づいたタバサがキュルケの足を後ろから軽く蹴り上げる。
体型にコンプレックスを抱いているのはルイズだけではなかった。
「アセルス……も……」
話をアセルスにも振ろうとしたところで、ルイズが動きが止まる。
アセルスもルイズと共に風呂場について来ていた。
ルイズとキュルケが言い争っている間に、彼女は既に服を脱ぎ終わっている。
色鮮やかな緑髪はまるで翠玉のよう。
無駄がなく、鍛えられ引き締まった肢体。
アセルスの生み出す、中性的かつ妖美な雰囲気。
生まれたままの姿に一際引き立てられ、目を奪われた。
「どうしたの?」
「……敵」
キュルケとは別の方向性だが、魅惑を持つアセルスに呟く。
アセルスはルイズの意図を理解できずに、首をひねるだけだった。
──湯加減は悪くなかった。
香料が強いが、アセルスは薔薇の匂いを好んでいる。
数十人単位でも問題ないと思うほど、浴槽は広大だった。
湯に浸かりながら、騒ぐルイズ達をのんびりと眺めていた。
貴族の令嬢だけあり、可憐さに満ちている。
浴場に二人っきりでない事にアセルスは安堵していた。
無防備に肌を晒すルイズに、吸血衝動を抑制できる自信がない。
妖しい笑みを浮かべそうになり、気づかれないよう口元を抑える。
「……どこ見ているのかしら?」
隣にいたキュルケと体型を見比べられたと感じていたらしい。
ルイズがアセルスの視線に気づいて、口調に僅かな怒りがこもる。
「いや、奇麗だなと思って」
「な……!」
ルイズの頬が思わず赤らむ。
悟られまいと湯に顔を浸けて隠そうとするが、照れ隠しは一目瞭然。
そんなルイズを見れば、からかうのがキュルケの日課だが今は別の事を考えている。
キュルケは学院でも、最も多く異性との付き合いをしてきたと自負する。
だから気付くアセルスの異常さ。
当然、キュルケには非生産的な趣味などない。
なのにアセルスを見ていると、微熱が燃え上がるような感覚に陥る。
(彼女って……そういう趣味なのかしら)
キュルケの予想は当たらずとも遠からずだった。
アセルスがキュルケに気づいて、目線がかち合う。
背筋を駆け抜けた感覚が、悪寒なのか微熱なのかキュルケには判断しかねた。
「そろそろ出ましょ」
風呂から上がるようキュルケが促す。
舞踏会の準備も考え、ルイズも素直に従う。
その事にキュルケがほっとしていると気づいた者はいない。
──フリッグの舞踏会。
年に一度開らかれる学院のダンスパーティだが、色恋沙汰に関する噂も多い。
故にどの生徒も異性を誘おうと躍起になる。
タバサのように普段通りの者もいるが少数派である。
人気の高い者はいつもに増して多くの異性から誘いを受ける。
キュルケなどその最たる例だろう。
逆に目立たない者が着飾った姿を見て、誘われる場合もある。
こちらの例にはルイズが当てはまった。
「ラ・ヴァリエール公爵家令嬢。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおなーりぃーーー!!」
近衛兵の言葉に、会場は二つの意味でざわめく。
一つは罰を取り消された事を知らない者。
もう一つは現れたルイズの美しさに目を奪われた男子生徒達によるもの。
ルイズを馬鹿にしている者達も驚愕する見違え方。
日頃の侮辱など忘れて、我先にとルイズを踊りに誘う。
ルイズはそんな連中の相手をする気など毛頭ない。
適当にあしらうと、アセルスを探すべく会場をうろついて回る。
アセルスはタバサと話している最中だった。
話は終わったのか、ルイズが近づくとタバサは席を離れる。
ルイズにはいつもと同じ無表情に見えたが、その瞳には何かの決意が秘められていた。
「やぁルイズ、踊らないの?」
「踊ろうにも相手がいないもの」
ルイズが誘われていたのはアセルスも見ている。
つまり、踊りたい相手がいないという意味だろう。
「見る目がない連中ばかりね」
アセルスの一言にルイズは笑う。
「タバサと何を話していたの?」
二人が話していた内容が気になった。
ルイズが振り返るとタバサは会場から後にしている。
「エルザの居場所を教えただけ」
タバサの目的を隠したまま、アセルスが答える。
人に聞かれたくないであろう事情を話す程、無粋ではない。
先日の深夜に落ち合う予定だったが、フーケの騒動で機会がなかった。
「そう」
ルイズもそれ以上は追求せずに済ませた。
何となくタバサの込み入った内情に気づいたからだ。
誰だって人に聞かれたくない悩みを多かれ少なかれ抱えているのだろう。
「ねえ、アセルスは踊れる?」
「少しね」
教養に関して、白薔薇から習っていた。
アセルスはその中で、踊りを覚えた経験もある。
「せっかく着飾ったんだもの。
私と踊っていただけませんこと、レディ?」
ルイズがアセルスを踊りに誘う為、手を差し出す。
「私で良ければ喜んで」
手をエスコートして、アセルスは答えてみせた。
「アセルス」
会場に流れる緩やかな音楽にルイズの声が乗る。
「ありがとう」
ルイズの口から発せられた謝辞。
アセルスはルイズに礼を言われた動機が掴めない。
「使い魔になってくれて……ありがとう」
使い魔を呼ぶ前のルイズなら、素直に言えなかったはずのお礼。
アセルスほどの妖魔からすれば、自分と契約を結ぶ義理などないはず。
なのにギーシュ相手の決闘、更にフーケ討伐時とアセルスは助けてくれた。
「ねえ……」
ルイズは悩んでいた、次の句に踏み切っていいものか。
アセルスは何も言わないで優しくルイズを見守っていた。
そんなアセルスの瞳を見て、ルイズはようやく決心がついた。
「私がアセルスにしてあげられる事はないの?」
ルイズが今悩むのは、自分の無力さ。
形だけとはいえ、自分とアセルスは主と使い魔の関係だ。
だが、自分にはアセルスへ何一つ与えられるものが存在しない。
「どうして?」
「以前言ってたわよね……大切な人を失い、後悔したって」
声がしり込みするようにか細くなる。
ルイズの質問に、アセルスはただ黙って頷いた。
「私はアセルスが現れたのが、何より嬉しかった。
今までの惨めな人生も、貴女と一緒なら変えられると思っている」
アセルスに救われたのは心。
自分の生まれた存在理由が分からなかった。
貴族とは何か知らないまま、貴族を目指していた。
「でも、私はアセルスに何も与えられない……それが嫌なの。
アセルスが私に切っ掛けをくれたように、私もアセルスの力になりたい」
「ありがとう、君は優しいんだね」
アセルスの手のひらがルイズの頬に触れる。
「でもね、少し思い違いしている」
ルイズを抱きしめるように優しく手を回す。
「私にも大切な人がいたわ。
私は彼女に何かして欲しい訳じゃない、ただ傍にいてくれるだけでよかった」
アセルスがルイズに求める願い。
全てを失って、孤独に陥っていた。
妖魔の君としてではなく、ルイズは同じ境遇を持つ者として自分を求めてくれる。
「蔑まれ、爪弾きにされていたからこそ分かるでしょう?」
アセルスの問いかけにルイズはシエスタを思い出す。
初めて慕ってくれた彼女の存在が、どれだけありがたかったか。
友人もおらず、先生にも頼る事が出来ずに一人で泣く日々が多かったのだから。
「だったら私はずっと傍にいるわ。
使い魔の契約はどちらかの寿命が尽きるまで結ぶものだもの」
ルイズは嬉しそうに宣言してみせた。
しかしルイズは気付いていない。
人間と妖魔が何時までも一緒にいる事などできるはずもないと。
『人間と妖魔が幸せになれるわけない!』
かつて叫んだ言葉。
アセルスは思い出していたが、告げる気はない。
今はただ、自らと共に歩んでくれる存在が嬉しかった。
華やかなダンスホールで二人は何時までも踊り続けた──
「わかってたよ、うん。
俺様の扱いってぞんざいになるだろうなーって」
誰もいない静かな森でただ一人。
そんな状況であれば、愚痴をこぼしたくもなる──例え剣であっても。
「でも存在ごと忘却の彼方って言うのは酷くねえ?」
声の主はアセルスと共に、爆発で吹き飛ばされたデリフリンガーだった。
二日後。
デルフリンガーがいないと気づいたのはルイズだった。
アセルスは思い出す事がないまま、エルザに回収されるまでデルフの独り言は続いた……
投下は以上です
いい加減、猿のペース掴まないと・・・
投下乙
デルフ放置プレイ乙ww
投下乙
アセルスって確か漢字の名前が設定されてたよな
アセルスの人、投下乙
侍系キャラが召喚された時に手持ちの刀代わりにデルフを持たせようとしている作者へ
刀と西洋剣は全くの別物なので、ハッキリ言って代用にはなりません
お気をつけを
ハルゲニアではありません
ハルケギニアなのれす('ω'`)
デルフって直刀だっけか?なら代わりにはならんわな
日本刀と同じ使い方が出来ないだけだし、
ルーン補正で直刀の使い方に支障は出ないし
デルフを最初から日本刀にしてしまうのもまた自由。
デルフの中身が入ってればデルフだし。
アニメだと直刀だけどエイジ絵だと普通に反ってるんだよ
原作でサイトも居合してるしあんまり気にしない方が
ガンダ補正で多少無茶な力の掛けようはできるだろうよ
半端な知識でドヤ顔して自爆するパターンを見られるとか運が良いな
ガンダ補正で無理矢理代用になるというのは今更ながら便利な設定だな
>>620 申し訳ありません。気合いが足りなかったことをお許しください。
過去にデルフを自分好みにセルフ魔改造してしまう変人も居たがなw
人もいないしウルトラの代理
第八十八話
わたしが生まれてきた意味
タコ怪獣 ダロン
宇宙同化獣 ガディバ
大蟻超獣 アリブンタ
友好巨鳥 リドリアス
高原竜 ヒドラ
磁力怪獣 アントラー
海獣 サメクジラ
宇宙海人 バルキー星人
オイル超獣 オイルドリンカー
古代超獣 スフィンクス
さぼてん超獣 改造サボテンダー 登場!
ウルトラマンAは、その生涯において五指に入るような激戦を、いままさに始めようとしていた。
エルフの都、アディールを襲うヤプールの超獣軍団。かつてエースやウルトラ兄弟を苦しめた多くの強豪の蘇ったものたちは、
ヤプールの強烈なマイナスエネルギーの波動に当てられて、圧倒的な凶暴さでこの地のエルフを根絶やしにしようとしている。
それに対して、立ち向かうのはエースひとり。
一体でさえ、ウルトラ戦士と互角以上のパワーを持つ悪魔たちに対して、今のエースにはこれまで支えてくれた人間たちもなく、
まさに孤立無援の四面楚歌。だが、それでもエースは完全なる闇の中の太陽となるために戦いに望む。
まずは、肉食の蟻と宇宙怪獣が合成して誕生させられた大蟻超獣アリブンタが相手だ。エルフの少女の血をすすろうとして
妨害され、怒るアリブンタにエースは立ち向かう。
「ヘヤァッ!」
アリブンタと組み合ったエースは、渾身の力でその突進を食い止めた。身長五十七メートル、重量六万二千トンのアリブンタの
突進を止めたことにより、エースの全身のウルトラ筋肉が張りあがり、エースの立つ学校の校庭の土が跳ね上がった。
〔さすが、パワーアップさせられているな!〕
かつて戦ったアリブンタよりも数段上の力に、エースは前のままのつもりで挑んでは危険だと気を引き締めなおした。これも、
強大化したヤプールのマイナスエネルギーゆえか、力負けするほどではないが空腹でこのパワー、絶対に倒さなくてはいけない。
だがその前に、餓えたアリブンタがエサとして狙うエルフたちを守らなければと、エースはまだ大勢のエルフの子供たちの
残っている学校を見下ろして決意した。
「ジュワァァッ!」
組み合った姿勢から、渾身のウルトラパワーでアリブンタを頭上高く持ち上げる。
〔とにかく、こいつを学校から遠ざけなくては!〕
ウルトラリフターでアリブンタを担ぎ上げたエースは、戦場を移すべくアリブンタを放り投げた。巨体が宙を舞い、学校から
数百メートル離れた無人の通りに地響きをあげて背中から落ちる。その衝撃たるや、アディールの基礎となる埋め立てた
大地が沈没するのではないかと思われたくらいだ。
見事に舗装された、コンクリート敷きのような道路を駆け、エースはアリブンタに突進する。
「トォーッ!」
助走をいっぱいにとったジャンプキックが炸裂し、起き上がってきたアリブンタが再度吹き飛ばされる。タケノコが二本背中に
生えているような巨体がビルディングに似た建物に突っ込んで粉塵を巻き上げ、起き上がってきたときの逆襲に備えるべく
エースは身構える。
だが、エースの出現にヤプールは敏感に反応していた。街の一角が崩れて、灰色の砂煙が土中から噴煙のように吹き上がる。
〔こいつはっ!〕
エースの眼前で、地中から巨大なハサミのアゴを持つ甲虫が浮上してくる。才人は叫んだ。
〔アントラーだ! くそっ、いきなり二対一かよ〕
リドリアスに押さえられていたはずのアントラーの出現に才人は唇を噛んだ。地底を通って、いきなりエースの目前に
来たのは偶然ではあるまい。恐らくヤプールは、どの超獣のところにエースが現れても複数で対処できるよう狙っていたに違いない。
〔落ち着け、どっちみち多勢に無勢は覚悟の上だ。ほかの超獣もやってくる前に、勝負をかけるぞ!〕
〔おうっ!〕
〔ええっ!〕
どっちみち、ウルトラ戦士に長期戦は不可能なのだ。この街にいる超獣怪獣は、現在のところだけで七体。そのうち
スフィンクスとサボテンダーはヒドラとリドリアスが押さえてくれているが、同時に相手どれるのはせいぜい二体までが限界だ。
それも、一体はあのアントラーとあってはこの時点ですでに余裕はまったくないと言っていい。
〔いくぞ! お前たちの好きには絶対にさせん〕
アリブンタとアントラー、二匹の蟻地獄怪獣を相手にエースはひとりで立ち向かっていく。
「ヤアァッ!」
大アゴで噛み付いてきたアントラーの攻撃を大ジャンプで避け、降下してきて背中にキックを叩き込む。
次いでアリブンタは口から白色の霧を吹き出してきた。それを浴びた建物が一瞬のうちにボロボロになって溶けていく。
蟻が体内に持ち、外敵などに対して使用する蟻酸という酸の仕業である。ただの蟻なら噛まれたら腫れる程度で済むこの酸も、
アリブンタのものは鉄でも一瞬で溶かし、人間ならばあっというまにガイコツに変えてしまうほどの強烈さを持っているのだ。
〔だが、当たらなければ危険はない!〕
自分に向かってきた蟻酸の霧を、エースは両手を合わせた先に吸い込んでいく。
『エースバキューム!』
いかなる毒ガスをも無効化できるエースの技に、一度見せた攻撃は通用しない。
さらに、エースは蟻酸を吐き切ったアリブンタの顔を目掛けて、伸ばした右手の先から三日月型のエネルギー光弾を発射した。
『ムーン光線!』
連続発射された三日月の弾丸はアリブンタの顔面に次々と当たり、牙や複眼に少なからぬダメージを与えた。
一時的に感覚を失ってもだえるアリブンタ、普通ならここで追撃をかけるところなのだが、その隙を埋めるようにアントラーが
大アゴを振りかざして迫ってくる。エースはその牙を受け止めて、真っ向から食い止めた。
〔パワーの勝負なら負けはしないぞ!〕
挟み切ろうと力を込めるアントラーと、逆に押し返そうとするウルトラマンA。ウルトラマンの骨の強さは人間の五千倍、間接は
三重に強化されているといわれ、超筋肉が生み出すウルトラパワーを十全に引き出して、どんな巨体の怪獣を相手にしても
壊れることはないという。
「ヘアァッ!」
アゴを受け止めた状態からのキックがアントラーの腹を打った。のけぞるアントラーだが、やられるときにその反動で
エースも反対方向に吹っ飛ばした。
エースとアントラー、それぞれが背中から石造りの建物に倒れこんで、子供が積み木を組んだもののように崩壊させる。
だが、街の崩れる様を見て、エルフたちはエースに非難の声を浴びせた。
「ばっかやろーっ! 私たちの街を壊すな。暴れるならよそでやれバケモノども!」
「そうだそうだ! 死んじまえ、この悪魔どもめ!」
エースは心の中ですまないと詫びた。怪獣を食い止めるためには仕方がないとはいえ、彼らにとっては自分たちの街が
破壊されていることには違いないのだ。気をつけてはいても、狭い街路だけで戦うのは無理がある。無人とはいえ、ウルトラマンと
二匹もの怪獣超獣の対決は、すでに街の一区画を瓦礫の山に変えていた。
けれど、守るべき人たちから非難を浴びせられることには、特に才人とルイズには堪えた。人のためにやっているのに、
それが通じないむなしさは若い二人にはつらい……けれど、エースはそんなふたりに諭す。
”ふたりとも、この世の中には誰にも褒められなくても、大勢の人のために毎日を一生懸命働いている人が大勢いるんだ。
そんな人たちは、名誉や見返りを求めているわけじゃあない。ただ毎日の、普通で平和な日々をみんなが送れるようにと
願って、ときには嫌われたりしながらもがんばっている。そんな人たちを、君たちは見たことがないかい?”
才人は考えた……思い出すのは、父と昔遊園地に車で遊びに行ったときに、その途中父が一時停止違反で白バイに
捕まって違反キップを切られたことがあった。そのおかげで、遊園地に着くのが遅れてしまって、そのときは子供心に警察を
恨んだのをよく覚えている……けれど、今になって思えば、あのときキップを切られて嫌な思いをしたおかげで、父は交通法規に
気を使うようになり、今日まで無事に過ごしてきた。
もしもあのとき、白バイに会わずに、父がその後も安全を軽視する運転を続けていたらどうなっただろうか。
ルイズも思う。小さい頃、メイドや執事にさんざん小言を言われて彼らをうとましく思い続けてきたが、それは自分のためを
思ってのことではなかったか。ただ報酬が目当てであれば、貴族の子供のかんしゃくにさわるようなことはしなかっただろう。
使命感や善意を、無知ゆえに反感を持って迎えてしまったことは自分たちにもあった。まさしく無知の怒り……そして、
彼らエルフのほとんどはウルトラマンの存在そのものを知らないのだ。それを思えば、罵声の百や二百がなんだろう。
けなされたくらいで、別に身が削れるわけではないだろう。
「テヤッ!」
学校に向かおうとするアリブンタの前に、エースは正面から立ちふさがる。
今は理解してもらえなくてもいい。けれど、かけがえのない命だけは絶対に守りぬかなくてはならない。それが、
ウルトラ戦士の誇りなのだ。
だが、志だけでは人は救えない。
海に追い出されて漂うエルフたちを救おうと着水した東方号。しかし、エルフたちは人間の船に乗ることを拒絶し、
怒りと憎しみの矛先をそのまま人間たちにぶつけてきた。
「この、汚らわしい蛮人どもめ! アディールの美しい海を汚しおってからに」
「西の地だけでは飽き足らず、とうとうサハラまで侵略に来たか。お前たちの蛮行の数々、忘れると思うか!」
「私の父はお前たちが侵略してきたときに死んだのよ。よくも、シャイターンの信奉者どもめ」
東方号の甲板で、ビダーシャルたちわずかな穏健派を挟んで、アディールの市民たちの悪罵の数々が人間たちに降り注ぐ。
そのいずれもが、戦士でもないただの市民たちから発せられ、エルフの一般層に自分たち人間がどう思われているのか
知らしめさせられて、人間たちは心を傷つけられた。
(バカ野郎たちめ、せっかく助けに来てやったのに。この船に乗らなきゃお前ら助からないんだぞ)
心の中でそう叫びたい欲求が強くなっていく。特に、貴族の子弟として誇り高く育ち、この任務にも強い使命感を持って
望んできていた水精霊騎士隊は強い屈辱感を味わっていた。
「こいつら……ぼくらは世界の平和を守るために命がけで戦ってるんだぞ。それなのに、この言い草はどうだ!」
罵声にかき消されて聞こえないが、誰かがつぶやいた言葉が水精霊騎士隊の胸中を包み隠さず表現していた。
ギーシュが歯軋りしながら薔薇の杖を握り締め、ギムリが靴のかかとで甲板を蹴った。
ほかにも、つばを吐き捨てようとして思いとどまる者、杖に『ブレイド』の魔法をかけようとして、その手を自分で押さえる者など
彼らの我慢は限界に近づいていた。
「ちくしょう」
甲板に立つエルフの誰かが投げた物が人間たちの頭上に落ちる。水精霊騎士隊はわずらわしそうにそれを払いのけ、
銃士隊は身じろぎもせずに無表情のままで体で受け止める。
(あなたたちは何故怒らないんだ?)
水精霊騎士隊の少年たちは、水筒やペンのインキをぶちまけられても顔色ひとつ変えないミシェルたちを見て思った。
そして、師匠筋に当たる彼女たちとの差を思い知る。いくら普段は大人気ない態度をとっていても、戦場となったときの
悠然さはどうか。感情を押し殺すのが精一杯の自分たちには、とてもできない。
なにを言われようと、絶対に手を出してはならない。それを自分たちに言い聞かせ、ギーシュたちは我慢する。
だが、人間たちの無抵抗を、エルフたちは好意的には見なかった。さすがに評議会議員や騎士団のいる前で魔法を
撃つような無謀な者はいなくとも、表だって言い返すことのできない人間たちへの暴言はエスカレートしていく。そして、
人間たちの意向を知って、なんとか彼らを受け入れさせようと説得を続けるビダーシャルやテュリュークの言葉も、
人間を無条件で敵とみなすエスマーイルに邪魔されてしまう。
「市民の皆さん! 悪魔の言葉にだまされてはなりませぬぞ、奴らが我ら砂漠の民にしてきた暴挙と侮辱の数々を
思い出すのです。我らの正義は、シャイターンの信奉者どもをこの世から抹殺し、真の平和をもたらすことにあるのです」
「エスマーイル……貴様の頭には、それ以外の言葉が詰まっておらぬのか。馬鹿が」
もはや説得する気もうせたとばかりに、ビダーシャルは嘆息とともに吐き捨てた。
口を開けば、オウムのように蛮人憎しの罵声しか出てこないあの男とは話すだけで気がめいってくる。確かに、言っていることの
一部は正鵠を射ているかもしれない。この数千年の人間とエルフの戦いのほとんどは人間側から仕掛けてきて、エルフは
防衛戦をおこなったのみで、勝者であっても被害者意識のほうが強い。その繰り返しで、エルフ全体に人間への敵意が
熟成されてきて、人間がいなければという考え方が主流になってきたのも事実だ。
いわば、エスマーイルは数千年にわたるエルフの無意識下に沈殿してきた負の遺産の代弁者なのだ。よって、彼の
指揮する鉄血団結党が大きな支持を受けるのも当然といえば当然、溜め込まれたものは吐き出される先を求めるのが
道理なのだから。
「私が、もう三十ばかり若ければお前の言葉に酔えたかもしれんがな……しかし、何も考えずに怒りと憎しみに身をゆだねる
お前のやり方のどこに、選ばれたる者の資格がある? それでは、蛮人はおろか獣の思考ではないか」
そもそも、平和のために戦争しようということ自体が矛盾しているではないか。お前は勝てばいい、我々は勝てると
主張するに違いないが、仮に人間を皆殺しにした後で、本当に平和と幸福が来ると思うのか? 得た土地の分配や、
功績の大小をめぐる争いが起きないと言えるか? 戦死者の遺族への保障や、大量の人員を失った商業・工業が
立ち直るのにどれだけかかると思う?
それらすべてを、お前はまかなえるのかエスマーイル? きっとお前はためらうことなく「できる」と答えるのであろうな。
ビダーシャルがあいだにいるおかげで、ギリギリ破局だけは迎えずにいるエルフと人間たち。
だが、貴重な時間を無駄にした取立てを、運命の女神は冷酷に命じてきた。
「超獣だぁーっ!」
奇策で撃退しただけの超獣たちが、いつまでもおとなしくしているはずはなかった。オイルドリンカーが海中から巨大な
頭を浮き上がらせ、サメクジラの立てる航跡が沖合いを高速で旋回する。
そして、バルキー星人も東方号に激突された胸を左手で押さえながらも、怒りをあらわに海中から起き上がってきた。
「てめぇらぁぁ! よくも俺さまをコケにしてくれやがったなあ。ぶっ殺してやる!」
宇宙剣、バルキーリングを振りかざしてバルキー星人が迫り来る。東方号の甲板に上がっていたエルフたちは、悲鳴を
あげて危険な海に飛び込んでいき、水精霊騎士隊と銃士隊は迎え撃つ体勢をとった。
「くそっ! やっぱりくたばってなかったか。エルフたちがおとなしく従ってくれたら、船を動かすくらいはできたのに」
「たわけ! うぬぼれるな。貴様らいつからそんなに偉くなった? 助けに来て、”やっている”つもりになるなど百年早い。
身の程をわきまえろ、使命の重さを勘違いするな」
ミシェルに怒鳴られて、ギーシュはひっと肩をすくめた。そして、頭を冷やして敬礼した。
「申し訳ありませんでしたぁっ! っと、じゃあ親愛なる水精霊騎士隊の諸君、そのぶんの怒りはあっちにぶつけるとしようか。
なあに、奇策はもうないけれど、人間死ぬ気になればなんとかなるものさ」
「だといいけどねえ。隊長、真っ先に戦死なんてしないでくださいよ。そんなになったら、ぼくら生き残ってもミス・モンモランシに
殺されますからね」
「その点については心配いらないさ。薔薇を散らせる権利があるのは美しい乙女と昔から決まっている。それに、ぼくは
嫉妬深いからね、親友とはいえ女の子を人に譲るなんて我慢できないのさ」
「隊長、あんまり欲深いと天罰が下りますよ」
「それは問題だな。死神が美人だったら交際を申し込むが、もし男だったら殴り飛ばしてしまいそうだ。そうだ君たち、
じいさんの神さまの加護はみんなにくれてやるから、代わりに美人の悪魔と美少女の死神はぼくがもらうよ。いいね?」
やれやれと、水精霊騎士隊から呆れた声が流れた。この期に及んでもギーシュの根っこはギーシュでしかないらしい。
けれど、下手に勇ましい文句を聞くよりは安心できる。つまらないジョークの言えるうちは、まだ生きている実感があるというものだ。
わずかな魔法や飛び道具を使って迎え撃つ水精霊騎士隊と銃士隊。だが、そんな抵抗をあざ笑うように、怒れるオイルドリンカーの
火炎が東方号の甲板をあぶり、バルキーリングが東方号の翼を打ち砕いた。
「う、右舷四番エンジン損傷! せ、先生、このままじゃあ!」
「反撃だっ! 東方号がやられたら全部終わりだぞ! ミス・エレオノール、ここは頼む。私も出る」
「ミスタ・コルベール!? 待ちなさい! あなたなんかが出て行ってなにになるっていうの!」
迫り来るバルキー星人とオイルドリンカーに対して、コルベールは愛用の杖と身ひとつで飛び出していった。艦橋から
フライの魔法を使って飛び降り、高角砲の丸い防盾の上にひらりと降り立つ。そして、目を細めて、超獣と星人を相手に
必死に防戦を続けるギーシュたちを見つめた。
「ミスタ・グラモン、それにみんな。見事な戦いぶりだ、私は君たちのような勇敢な生徒を持ったことを誇りに思うよ」
コルベールは戦争が嫌いだ。無益に無意味に人が死んでいき、死んでいった者たちはすぐに忘れ去られてしまう。
貴族はそこに誇りを見出し、美しく死ぬことを美徳としているが、コルベールに言わせれば残される者たちの悲しみを
無視した自分勝手な言い分でしかない。
けれど、たとえば家に侵入した強盗から我が子を守らなければならないときのように、あえて戦わねばならないことが
あることもコルベールは知っている。しかし、自分の半分も生きていない子供たちが大義のためとはいえ、死んでいくのは
あまりにも惜しすぎる。
「教師が生徒を差し置いて生き残るわけにはいくまい。船長としては責任放棄だが……ま、元々私の柄ではなかった
ということか……やれやれ、何歳になっても主体性を持てないな、私は」
自嘲して、コルベールは杖を上げた。軍人だった頃に磨いた攻撃の魔法、もう二度と人間に対しては使うまいと封印してきた
この力だが、今は自分にこの力が残っていることを感謝する。
そのとき、オイルドリンカーの吐いた高熱火炎がギーシュたちを真っ向から襲った。石油化学コンビナートを一瞬で大火災に
包み込んだ真っ赤な悪魔の舌が、少年たちをからめとろうと迫り来る。
だが、覚悟を決める暇もなく呆然と立ち尽くしたギーシュたちの後ろから、同じくらいすさまじい火炎が飛び、オイルドリンカーの
火炎を押し返した。
「無事かい、君たち?」
「コ、コルベール先生!」
少年たちは度肝を抜かれた。彼らがいまだかつて見たことがないほどのすさまじい火炎は、コルベールの杖から発せられていた。
呆然と見守る生徒たちの前で、コルベールの火炎はオイルドリンカーの火炎を押し返し、さらに口内にまで逆流して爆発した。
「やった!」
口の中で爆発を起こされて、オイルドリンカーはよろめいて倒れこんだ。いかに超獣とて体内への攻撃にはもろい。初代の
ベロクロンはエースのパンチレーザーを口内に喰らい、体内の高圧電気胃袋を破壊されて大ダメージを受けたのが敗因となっている。
オイルドリンカーは吸収した石油や石炭などの燃料に着火して吐き出すことで火炎放射をおこなっているから、恐らく体内の
石油袋に火炎が到達したに違いない。人間で言えば胃に穴が空いたようなものだ。その痛みは想像を絶する。
コルベールは次いで、バルキー星人を見上げて杖を振った。バルキーリングを振りかざし、東方号ごと叩き潰してしまおうとする
星人に対して、コルベールの杖の先で巨大な火球ができあがる。
「あ、あれは『フレイム・ボール』!? し、しかし」
ギーシュは我が目を疑った。それは、火の系統の一般的な攻撃魔法のフレイム・ボールに違いないが、火球の大きさがまるで
そのレベルの代物ではない。前にトライアングルメイジのキュルケの使ったものを見て、その大きさと炎のうねりの激しさに
驚嘆したことがあるが、コルベールのそれはキュルケのものの二倍はゆうにある。
無言のままで、コルベールは火球をバルキー星人に向かって投げつけた。星人は一直線に向かって飛んでくる火球を軽く
避けようとしたが、フレイムボールには使い手の意思である程度のホーミングをできる特性がある。外れると思った瞬間を
狙った方向転換は星人の意表を突き、顔の左半分を炎で包み込んだ。