1 :
名無しさん@お腹いっぱい。 :
2011/10/14(金) 21:56:01.18 ID:OhYTdk6A
2 :
名無しさん@お腹いっぱい。 :2011/10/14(金) 21:58:56.73 ID:OhYTdk6A
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だが、事件は翌日に思わぬ展開を迎えた。 件の執務官が、滞在していたホテルの部屋で死んでいるのがホテルの従業員により発見された。 彼はフェイトとは別のホテルに泊まっていたので、発見したのは朝食の時間を知らせるためにやってきた従業員であった。 彼の持っていた手帳から執務官であることがわかるとホテルから管理局へ通報され、管理局は彼の担当していた案件にしたがってアレクトロ社へ連絡し、そして同社経由でフェイトに報せが届いたのは従業員が遺体を発見してから19分後だった。 現場にフェイトが到着したときには、すでに地元警察が現場検証を始めていた。 彼の遺体は、死後3時間ほどが経過しており死因は神経毒による呼吸器の麻痺であると判定された。 左足付近に、吹き矢もしくはボウガンの矢が命中したような刺し傷があった。部屋の窓が割れていたことから、殺害犯は糸を結びつけた矢で彼を撃ち、糸を手繰り寄せて矢を回収したと推測された。 フェイトは現場をざっと一覧すると、すぐに通りをはさんだホテルの向かいのショッピングセンター屋上へ向かった。 もし犯人がボウガンを使用して彼を殺害したのであれば、おそらく矢はここから発射されている。 屋上の床をくまなく調べたフェイトは、コンクリートがかすかに凹んでいる箇所を発見した。 コンクリートの表面は洗い流されていたが、セメントが流出して砂だけが残っている様子から、強力な酸によってコンクリートが溶かされていることがわかった。 先日の、クラナガン市内の公園でヴィヴィオの友人が襲われたとき、同公園に残されていたスライムの痕跡と同じものである。 彼を撃ったのはスライムなのか、あるいは人間なのか……。 フェイトは、この一連の事件の背景にいる者が、人間にしては痕跡を多く残しすぎていることを気にかけていた。 クラナガンで鑑識官が殺された事件のときも、殺害犯と思われる者は血だまりを踏んでから足を拭かずに足跡を残していた。 またアレクトロ社に対する破壊工作でも、皮膚片をたびたび現場に残している。 たとえば指紋をふき取ったりなどの証拠隠滅をしようとした様子がほとんどみられない。 それはあたかも、人間とは別次元に住む生き物が、妖怪のように人間界に手を出しているようにさえ思えた。 ショッピングセンターとホテルの間の道路には、矢を引き抜いた際に落ちたと思われる執務官の血液が付着していた。 ショッピングセンターの建物のすぐそばに落ちていた血痕には、フッ酸が混じったと思われる、凝固した血液が残っていた。 もはや、スライムないし緑色の小人が、フェイトら管理局の捜査を妨害していることは確実である。 フェイトは自分のホテルの部屋に戻ると、すぐにレティに連絡を取った。 アレクトロ社に工作を行っているグループは、人間ではないエイリアンである可能性が非常に濃厚であり、アレクトロ社、およびヴァンデイン・コーポレーションに対する強制捜査が必要である。 その連絡を送信した直後、フェイトの部屋を訪ねてきた者がいた。 「プラウラー主任?」 フェイトを訪ねてきたのは、今回の案件を管理局に依頼してきた、アレクトロ社の保安主任だった。 昨日工場へ入ろうとして守衛に止められたときに守衛に連絡を入れてきた人物であり、彼女とは、フェイトが最初にアレクトロ社オフィスを訪れた際に今回の案件についての打ち合わせを行っていた。 確かそのときは、工場構内で行方不明者が出たとかいうようなことを言っていた。 プラウラーはフェイトに、アレクトロ社はミッドチルダ政府と組んでよからぬことを企てているのだと明かした。 「私の懸念どおりではありましたね……」 「それに関しては言葉も有りません」 プラウラーは、年の頃はオーリス・ゲイズと同じくらいだろうか、視神経直結型の薄型バイザーを着用した妙齢の女だ。 アレクトロ社内部では、ミッドチルダ政府に従って計画を進めようとする多数派と、非人道的な計画に反対して内部告発をすべしという少数の者たちがおり、プラウラーは内部告発を行おうとした一人だった。
「あなたのような立場の者は真っ先に囲い込まれるのでは?」 フェイトの懸念に、プラウラーは俯き加減で首を振り、この中にデータは入っているとメモリーペンを渡した。 「既に私の部下が6名、社の研究チームに実験体に使われてしまいました。チームは、生きた人間を魔力炉として使う実験をしているのです」 「その理由は?現行の電磁誘導式の炉ではいけないのですか?」 「これは……執務官どのにお話しするのは大変勇気がいるのですが、管理局が現在進めているという、“エグゼキューター”の装備に用いるために、生体ユニットが必要だというのです。 アレクトロ社ではこの生体魔力炉開発を担当しているのです」 「生体ユニット──」 ほぼ、フェイトの推理どおりであった。 アレクトロ社は、生きた人間を埋め込んだ魔力炉を作ろうとしており、その技術をヴァンデイン社と協力して開発し、実際に炉の製作を行っていた。 数年間に渡る技術実証試験を経て、既に数十基の実用炉が製作されたとプラウラーは話した。 実験体として使われ、死んだ──リンカーコアだけが生きていても肉体や脳がバラバラでは死んだのと同じだろう──人間は相当の数に上ることになる。 「──わかりました。プラウラー・ダッジ保安主任、執務官権限であなたの身柄を管理局の監視下に置きます。 ただちに時空管理局本局への移送手配をします──それまで、私があなたを護衛します。私のそばをけして離れないよう」 「感謝します、ハラオウン執務官」 フェイトはただちに本局へ追加報告を行い、プラウラーの身柄を確保して本局へ移送することを決定させた。 これについては、捜査本部長がじきじきにフェイトに回答を寄越してくれた。 ノースミッドチルダ空港から、SSTO(単段式軌道往還機)を使用して本局への直行便を用意するとのことだった。 機が空港に到着するまでの間、プラウラーは工場に残っている他の保安部員との連絡を取って引継ぎをし、フェイトは本局に持ち帰る捜査資料をまとめる。 ひとまず、北部ミッドチルダでの捜査はひと区切りがついたことになる。 「──そういえば、プラウラーさん、先ほど仰っていた“エグゼキューター”というのは」 「通称名のようなのですが、管理局では、“選抜執務官”という部署を作ろうとしているらしいのです。 そこで特殊な装備を使うので、その開発をうちにやって貰いたいと」 プラウラーの返答に、フェイトは息を呑んだ。 エグゼキューター──選抜執務官。それは、他ならないティアナが採用試験を受けていたものだった。 惑星TUBOYにて実地試験が行われ、しかしバイオメカノイドの出現により彼女は、同行していた管理局の試験官も含めて帰らぬ人となったとされたあの事件── それに、アレクトロ社を含めた次元世界有数の企業が、管理局にまとめられる形で関わっていたという。
新暦83年12月24日、クラナガン標準時午後4時30分を期して、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊は惑星TUBOYへの降下作戦を開始した。 地表に着陸するのはちょうどインフィニティ・インフェルノが埋まっている側とは反対側で、アルカンシェルによる破壊の影響が比較的少ない場所である。 主力艦は惑星TUBOYをまわる高度1万200キロメートルの静止軌道に6グループに分かれて停泊し、地表を監視する。 機動性に優れる巡洋艦がまず地上に降り、それから地上部隊を乗せた揚陸艦が向かう。戦艦は万が一の事態に備えて軌道上に待機し、地上を砲撃する準備をしている。 惑星TUBOYは、凍りついたように沈黙していた。 インフィニティ・インフェルノも、魔力センサーの数値さえ見なければまったく風化し錆びついているように見える。 艦の表面は砂塵嵐によって茶色く煤け、埋まっていたマグマの海はすでに冷えて固まっている。 惑星TUBOYのような小さな惑星では、マグマも冷えるのが早い。また量自体も少ない。 惑星の質量が小さいため、中心部を溶かしてマグマにするための重力エネルギーも少ないのだ。 たとえば地球やミッドチルダは、このタイプの岩石惑星としてはかなり密度が高く重力が強い部類に入るといわれている。 出撃している艦艇の中には、以前、ヴォルフラムからの緊急連絡を受けて惑星TUBOYに急行した、LZ級戦艦アドミラル・ルーフの姿もあった。 艦長、カリブラ・エーレンフェスト一佐は艦橋から見える惑星TUBOYのまばゆい白い表面に、わずかに目を細めた。 アドミラル・ルーフは降下部隊とは反対側のグループにいるので、地表に埋まっているインフィニティ・インフェルノの姿がよく見えている。 つい2週間ほど前に、このアドミラル・ルーフのアルカンシェル砲撃を浴びたはずのインフィニティ・インフェルノの艦影は、この距離からでもまったく傷ついていないように見える。 艦隊司令は、敵戦艦は自己修復能力があるとみていた。 もしバイオメカノイドたちがこの戦艦を単なる戦闘艦としてだけでなく、恒星間移民船としても使用していたのなら、通常の戦艦以上にサバイバビリティに優れていなければならない。 戦闘で損傷した場合でも、迅速な修理が可能でなければならない。 またそれゆえに、艦はこれほどまでに巨大化している。 艦が大きいということは、一部が損傷しても他の大部分は無事なので航行に支障がないということである。また、非戦闘員をおおぜい搭乗させるのであれば居住区を艦の奥深くに配置し、被弾から守る必要もある。 「艦長、アルカンシェルの発射準備は」 アドミラル・ルーフの砲術長がカリブラに質問する。 カリブラは海軍帽を押さえながら首を横に振った。 「今までの戦闘の分析で、敵は強い魔力に反応して動き出すとされている。特に次元航行艦のエンジンに対しては敏感だ。 アルカンシェルのエネルギー充填をしていては、敵を無闇に刺激することになりかねん」 「しかし……」 「それに、これほど艦が密集していては攻撃範囲の広いアルカンシェルはかえって使いづらい。通常の砲撃戦で応じるしかあるまい」 「あの戦艦に通用しますか」 「どんな艦でも人間の作ったものなら必ず弱点はあるよ」 アドミラル・ルーフの乗組員たちにとっても、本艦のアルカンシェルが防がれてしまったのは衝撃的なことだった。 旧式艦あつかいされているとはいえ、LZ級戦艦のアルカンシェルの破壊力はすさまじいものがある。 演習では、直径800キロメートル程度の小惑星ならば跡形も無く粉砕することが出来ていた。 直径4200キロメートルの大きさを持つ惑星TUBOYに対しては、地殻をやすやすと貫通しマントルを大きく抉り取ったが、惑星そのものを破壊するまでには至らなかった。 ちなみに、第97管理外世界の惑星であれば地球が直径1万2750キロメートル(ミッドチルダもほぼ同じ)、水星が直径4800キロメートル、冥王星が直径2300キロメートルである。 冥王星よりは大きいが水星よりわずかに小さい程度の直径である。ただし、惑星TUBOYの質量・密度は水星よりはるかに小さい。
それはともかくも、惑星内部に埋まっていた敵戦艦インフィニティ・インフェルノは、明らかにアルカンシェルを直撃されていたにもかかわらず、その艦体を維持していた。 はやてやエリーが予測していた通り、この艦は次元潜行能力を持つ。 すなわち、潜水艦が海に潜って攻撃をかわすように、虚数空間に存在を逃がすことによってアルカンシェルの威力を受け流したということだ。 もしあの艦が、搭乗した人間によって制御されているとしたら、その乗組員は高い操艦技術と練度を持っていることになる。 今のところ、惑星TUBOYの原住民とは先史文明人であるとされている。 その姿は想像の域を出ないが、数少ない目撃証言により、人間よりもやや小さい体格で、頭部と脳が大きく、やせた身体をしているとされている。 全体的なイメージは、第97管理外世界の人類が空想するリトルグレイ・エイリアンに近い。 カレドヴルフ社が惑星TUBOYから持ち帰ったバイオメカノイドたち──そのほとんどはクラナガン宇宙港での戦闘によって墜落して失われたり、船から逃げ出して管理局武装隊によって破壊されてしまったが──は、内部にこのグレイが搭乗している機種がある。 同社が既に発見していた個体としては、マリモ型がそうだ。これは球殻で包まれた内部に人型の機体があり、これにパイロットが乗り込む。 またCW社はまだ回収していないが、自走ロケット砲や土木作業車のような機種も存在することが確かめられている。 これらグレイは、先史文明人が自らを遺伝子操作して生まれ、霊長類──人類として進化の極限に到達しているとみられていた。 ミッドチルダに既に潜んでいると思われる彼らの遺留品を分析しても、人為的に遺伝子をいじった形跡がみられる。 背丈は小さく、人型(ヒューマノイド)ではあるが現代人と違い指が細長く、そして胴体に比べて四肢は短い。 これはクラナガンでの鑑識官事件において、殺害を行った個体が手足に血糊を付けて手形や足跡を残したため、そこから体格を分析した結果計算された。 彼らは、おそらく先史文明人そのものではなく、極端な設計思想の兵器であるバイオメカノイドを操縦するために造られた、限定的な知能のみを与えられたアンドロイドであると予想された。 遺伝子操作技術があるのならもっと高い体力を持つようにしたほうが有利であり、一般に文明が進むにしたがって衰えていく体力を補おうと考えるのが自然である。次元世界でさえ、ミッドチルダと他の世界では、国民の平均体力は有意な差が出ている。 バイオメカノイドを操るには、体力ではない別の何かが重要であり、そのために肉体の強度は切り捨てられた。 鑑識官を殺した個体が、浮遊魔法によるいわゆるテレキネシスを使って刃物を飛ばすというその高度な殺害方法とは裏腹に、血だまりを踏んで足跡を残すという初歩的すぎるミスを犯していたことも、彼らには一般的な人間としての知能がないことを示唆していた。 彼らはスライムに用いられているものと同じフッ素系化合物を使用して、脳以外の肉体を無機細胞に置き換える施術が行われていることが予想されていた。 ミッド・ヴァイゼン連合艦隊の降下部隊が地上捜索で発見したバイオメカノイドの化石内部に、この施術を受けた“人間”──身長はおよそ80センチメートルから90センチメートル程度──が乗っているのが確認できた。 これがすなわちグレイである。 彼らは、無機細胞の身体の特性を利用して脳を生かしたまま長期間にわたって冬眠状態に入ることが可能である。 任意のタイミングで目覚め、活動を開始する。 カリブラだけでなくはやても知る由もないことだったが、最初にヴォルフラムが降下部隊を送ったときに遭遇した二脚型のバイオメカノイドも、彼らグレイが乗って操縦していた機体だった。 クラナガンに現れたワラジムシや戦車型、大クモは無人機である。クラナガン宇宙港に一体だけ現れたマリモ型についてはフェイトのサンダースマッシャーで粉砕してしまったため、中の搭乗者ごと吹き飛んでしまっていた。 また、この搭乗者はその肉体の性質上、死ぬとすぐスライムに似たジェル状物質に変化してしまうため、もしこれを見つけてもそれが人間だとは判別できない。
彼ら──グレイという呼び名は無機物質の肉体を持つことによる灰色の体色に由来する──は、降下部隊が最初に発見した個体については既に死んでいることが確認された。 降下部隊が発見したのはおそらく戦闘で損傷した機体に乗っていた者であり、撃破時の衝撃か何かでハッチが開いていた。 ハッチがどのような方法で閉じられ、またどのようにして開けるのかが分からないため、原形を留めているバイオメカノイドについては、内部の搭乗者が生きている可能性がある。 惑星TUBOYの地上に降りた先遣部隊は、低軌道に待機している揚陸艦へ連絡を入れた。 「着陸可能な平地を発見しました。“クリスマスツリー”を立てます」 『了解した。“サンタ”は既に出発した、「ホーミー」が先ず降りる』 ミッドチルダではクリスマスという行事はないが、ゲンヤの先祖やグレアムの出身世界に伝わる祝日として、用語程度は知られている。 奇しくも、本日は地球でいうところのクリスマスイブにあたる12月24日だ。 揚陸艦をサンタクロースのソリに見立て、艦隊は惑星TUBOYへの着陸コースをとる。 ソリに積まれたプレゼントは、おおよそ貰って嬉しくない鉛玉とプラスチック爆薬である。プレゼントを持っていくのではなく、こちらが惑星TUBOYからものを持って帰る側だ。 先遣部隊がビーコンを敷設し、誘導電波に従って揚陸艦ホーミーが惑星TUBOYへ降下していく。 ミッドチルダに比べて重力が弱く大気が薄いので、空気抵抗を使った減速は出来ない。 艦は逆噴射ノズルから飛行魔法を発射し、軌道周回速度から大気圏内航行速度まで減速していく。 後続の揚陸艦の着陸誘導を行っている間、先遣部隊のある班は惑星の地下へ潜っていくトンネル構造を発見した。 それは一見して天然の洞窟のようにも見えたが、地下へ向かって一定の角度でまっすぐ伸びているという形状、またその内壁にわずかに人工的な金属の内張りの残骸が発見されたため、惑星TUBOYの原住民が掘ったトンネルであると判断された。 最初に着陸したホーミーの搭載部隊とあわせ、ただちにトンネル内部への捜索隊の突入が行われた。 このトンネルの周辺にはこれまで惑星TUBOY上にひろく分布していたバイオメカノイドの化石が見つからず、これらは先日のアドミラル・ルーフによるアルカンシェル砲撃でそのほとんどが破壊されたとみられた。 アドミラル・ルーフが行ったアルカンシェル砲撃により、このトンネルもかなりのダメージを受け、内壁はそのときに剥がれたと予想された。 アルカンシェルが惑星に命中した場合、その影響は直径100キロメートル級の小惑星が時速4万キロメートルで衝突する物理モデルによって近似解を導ける。 この場合には弾体衝突時に発生する空間歪曲のエネルギーが惑星の裏側まで突き抜け、ちょうど天体が前後に押し潰されるような格好になる。 アルカンシェルが命中した惑星の表面において最も被害が少なくなる場所は、命中地点を頂点とする、惑星中心と命中地点を結ぶ線を軸にして60度の頂角を持つ円錐を仮定した場合、その円錐表面が惑星表面と交差する地点であるとされている。 突入班は、トンネルの入り口から20メートルほど下った場所に大きな扉を発見した。 これは大型施設では一般的な、2枚の戸板が左右に開く形の引き戸で、その表面はおそらく数百年以上の間、開いたことがないと思われる錆と泥岩で固着していた。 扉が載っているレールのような部分もあったが、流れ込んだ泥が詰まっていて、無理にこじ開けることはできなさそうに見えた。 「どうします班長、爆破しますか?」 「まあ待て。まずはこの扉の材質と厚さと、それから向こう側に何があるのかを調べてからだ。うっかり大切なお宝に傷を付けたら大変だからな」 「わかりました。透視器と魔力カッターを持ってきます」
扉の表面には、文字のようなものは書かれていなかった。 施設の実態を秘匿するために情報を見せないようにしていたのか、あるいはこの扉を使う者たちは文字を必要としなかったのか。 透視器による測定で、扉は厚さ約20センチメートルで、リブを入れた鋼板を張り合わせた中空構造になっていることが判明した。鋼板の厚さは5〜6ミリメートル程度と測定された。 この程度の厚さであれば、電撃魔法を使用したアームドデバイスで切断できる。 突入班の隊員たちがそれぞれのデバイスを持ち、鉄が燃える火花を散らしながら扉を焼ききる。 やがて人間が数人並んで通れるほどの穴が開き、扉の向こう側には、格納庫のような広い地下空間が見つかった。 「動く物体に注意しろ……敵は熱では見つけられないぞ」 班長が隊員たちに念入りに指示を行い、慎重に進んでいく。 これまでの戦闘で、バイオメカノイドは体温が非常に低く、生物としてみた場合は変温動物に近い特性を持つことが分かっていた。 高温や低温にもある程度は耐え、人間が活動できる範囲の温度では動作に支障は出ないが、周囲の環境温度に応じて体温が変わるため、たとえば赤外線カメラなどでの発見は難しい。 冷たい場所にいればバイオメカノイドの体温も周囲の環境に応じて下がってしまうため、たとえば冷たい金属の中に熱を持った物体があるので姿を発見できる、というようなことにはならない。 魔力炉などの内燃機関を積んでいるわけではないので、動いていても熱を発しない。熱を持っているから生きているという判別方法が使えないのだ。 入り口に開けた穴をしっかりと確保し、サーチライトの光を投げ込む。 ざっと見渡してみた限りでは、中は何の変哲もない倉庫のようなつくりで、ただの鉄の箱に見えた。 壁には、かつてここが生きて使われていた当時のものであろう階段や、立てかけられたままの梯子が掛かっていた。 よく見ると、その階段の大きさも異常であった。 踏み板の幅が、明らかに小さい。 これを人間が使おうとしたら、足元が狭くて思うように踏めないだろう。 ここを通る者は、人間よりも小さい体格の持ち主である。 階段の踏み板には、金属が何かの有機物に接触して変質したらしい、染みが何箇所か見つかった。 このような染みを残す原因の物質について、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊は既に目星をつけていた。 降下部隊には、それ用の試薬を十分に持たせている。 隊員の一人が、踏み板にスポイトを使って一滴、試薬をたらすと、ただちに試薬が反応して色を変えた。ろ紙にすくい取ると、もともと透明な色をしていた試薬の液体は、青く染まっていた。 こうなった場合、対象の物質にはフッ素が含まれていることを意味する。 フッ素は反応性が高いので、たとえこの惑星TUBOYのような大気の薄い環境下でも、周囲のさまざまな物質とただちに反応してしまう。 惑星TUBOYの地殻にはフッ素がさまざまな金属と結びついた化合物が存在し、特に蛍石と呼ばれガラスレンズの材料にも利用されているフッ化カルシウムの結晶が多く分布している。 これによって、惑星TUBOYはその大きさのわりにアルベド(反射能)が高く、白色の明るい星に見えているのだ。 バイオメカノイドや、その内部に埋め込まれたスライム、彼らを操縦するグレイにとっても、この星で活動する限りはエネルギー源にはまず困らないだろう。フッ素ならこの星ではどこにでも分布している。 彼らにとっては、撃破された際に容易に発火・誘爆を起こす危険よりも、物量任せの兵器としての有用性がより比重が大きかったということだ。 「付近にいますかね?」 「捜索するんだ。慎重にな。必ず2人以上で行動するんだ」 いくつかあるドアを開け、突入班は内部の捜索を開始する。 トンネルは、ところどころ崩れて埋まってしまい通れなくなっている箇所がある。 それでも、規模からするとおそらく惑星TUBOY全体の地殻内に、このような地下空間が張り巡らされていることが想像できた。
いくつかのトンネルを調べるうちに、傾きがつけられた通路があるのが分かった。 特に地下へ潜るとか地上へ登るための通路ではないのに、階層構造とは違う傾きが見つかった。 揚陸艦ホーミーでは出動している捜索班から送られてくる報告と調査データをまとめていた。 その中で、惑星TUBOYのメイン・ダンジョンと思しき地下空間については、各班から送られてきた座標をマッピングしていくと、恐るべきひとつの形状が浮かび上がってきた。 降下部隊が着陸している地点のちょうど反対側に、インフィニティ・インフェルノが埋まっている。 惑星TUBOYの直径が4200キロメートルなので、仮に惑星内部を貫通する直線距離としても4000キロメートル以上離れていることになる。 しかし、発見されたトンネルは、ドック上の構造を成し、少なくとも数キロメートル以上にわたって、宇宙戦艦が入渠できる空間が内部に作られていたことがわかった。 その部分は、今は破壊され埋まってしまっている。 格納庫のような場所は、そのもの、宇宙戦艦に搭載されるバイオメカノイドの集積場だった。 ほどなくして、倉庫内の小部屋から、バイオメカノイドの化石が大量に発見された。 これは製造された後いったんこの倉庫に運ばれたが、そのまま戦艦に積まれるのを待っているうちに放置されてしまったものと思われた。 動いていないがベルトコンベア状の動く床が存在し、それはドックがあると思われる方向へ伸びていた。 そのドックは空だった。船は入っていない。 しかし、敵の戦艦が見つかったのはこの惑星の裏側である。 ということは、あの戦艦はこのドックから飛び立ち、惑星の裏側に墜落したのか。 それとも、インフィニティ・インフェルノのほかにも、バイオメカノイドたちは宇宙戦艦を保有しているのか──。 いくつかのトンネルに見つかった傾きは、他の水平なトンネルと成す角度を延長していくと、直径およそ1万7千キロメートルの円を描くことがわかった。 惑星TUBOYの直径は4200キロメートルであり、それよりも4倍以上大きい。 地下に突入した班とは別に、惑星の地質を分析していた別の班が、もしかすると、と前置きをして、ある仮説を揚陸艦の艦橋にいる降下部隊司令に送ってきた。 惑星TUBOYは、本来はもっと巨大な惑星であり、先住民であるバイオメカノイドたちが資源を使い尽くし採掘のために地下へ地下へと掘り進めていった結果、惑星自体が現在の大きさまで削り取られてしまったのである。 発見当時、文字通り惑星表面を埋め尽くしていたバイオメカノイドたちの化石の量を見るに、その説もあながち突飛な発想とは言い切れないものであるということは、降下部隊の隊員たちはうすうす感じていた。 宇宙探査機ガジェットドローン#00511が惑星TUBOYを訪れ、最初の写真撮影を行った時点で、それはこれまでにない異様な姿の惑星として認識された。 惑星TUBOYの表面は、ひとつの大きさが数メートルから数十メートル前後の瘤のような地形にびっしりと覆われており、通常このタイプの岩石惑星に見られる、クレーターや冷えて固まった溶岩というような地形がまったく見つからなかったのだ。 この瘤は、内部のスライムが失われて動かなくなったバイオメカノイドの金属の甲羅に、砂や泥が降り積もったものであった。 惑星TUBOYは、その表面積の実に90パーセント以上がバイオメカノイドの化石で覆われていた。 ほとんどは外殻の甲羅だけを残して風化しており、全く機能停止していたが、そのうち、5パーセント程度が完全な姿を残して生存していることが確かめられた。 この情報が入手されると、ミッドチルダ政府は次元世界各国の兵器メーカーをはじめとした軍需企業へ対策案の検討を依頼した。 結果、カレドヴルフ社がサンプル確保を目的とした輸送船団を惑星TUBOYへ派遣することを決定したのだ。
今回の惑星TUBOY派遣艦隊において、同社が採取した情報はかなりの細部にわたり共有されていた。 バイオメカノイドを相手にした戦闘において、特に有効な戦略はない。しいていえば発見し次第殲滅という方針を徹底することだ。たとえ一体でも撃ち漏らしがあれば、またすぐに増殖してしまう。 惑星TUBOYにおいて、バイオメカノイドはその飼育管理者たる先住人類を失っても、何万年にもわたって生き延びてきた。 バイオメカノイドたちは自らの肉体を維持する食物として惑星そのものを食べ、かつてミッドチルダより大きな直径を持っていた惑星TUBOYは、今では細々とした芯だけが残るのみになってしまっていた。 宇宙探査機による外部からの観測で、惑星TUBOYの密度がこのクラスの惑星としてはかなり小さく測定されたのは、ミミズやケラが土中を掘り進むようにバイオメカノイドによって惑星内部が削られ、穴だらけの軽石のような状態になっていたからであった。 惑星TUBOYは、恒星系主星からの距離がおよそ2億7千万キロメートルと遠く、また惑星自体が小さいため、じゅうぶんな太陽エネルギーを受け止められない。 この位置とサイズでは生命が発生するために必要な温度が得られないように見えるが、実際にはこの惑星は(宇宙スケールにおいては)ごく最近まではもっと大きい質量を持っており、大気を持つための重力と太陽エネルギーを受け止める大きさを持っていた。 また、バイオメカノイドたちが質量を消費したため、減った分の質量については何らかの形で惑星外へ持ち出されたことになる。 これらから総合すると、少なくとも敵主力艦は惑星TUBOYを飛び立ったことがあり、バイオメカノイドたちが兵器として消費したために惑星TUBOYの質量は減り、降下部隊が発見した巨大ドックはその艦の整備をするためのものであると予想される。 また、かつて大きかったといっても現在の惑星TUBOYは、太陽系でいえば火星程度の距離にある、火星よりもさらに小さな惑星である。 もし惑星TUBOYが天然の惑星であるなら、もっと冷え切っているはずである。 惑星TUBOYの表面がこのサイズの惑星としてはかなり濃い(それでもミッドチルダよりはずっと薄い)大気に包まれ、表面温度が摂氏7度程度に保たれているのは、惑星内部に何らかの熱源が存在することを示す。 そして、その熱源とは人工物である。 静止軌道上に待機していた戦艦群による観測で、惑星TUBOY内部の熱分布はインフィニティ・インフェルノを中心として、惑星中心核からいくらか偏っていることが確認された。 戦艦が埋まっている部分からやや離れたところにも大規模な熱源があり、それはこの惑星全体の人工建造物、バイオメカノイドの製造プラントや補給設備などをまかなうための動力であると考えられる。 通常、惑星内部をこれほど深く掘り進むことは不可能だ。 いかに惑星TUBOYが小さな星であるとはいえ、巨大な質量を持つ天体である。 中心部に近づくほど、惑星の質量が持つ重力によって圧力が高まり、中心部ではその圧力は数十万気圧にも達する。 この状態では、岩石はただの固体ではなく、高温の流動性を持ったマグマのようになっている。 惑星TUBOYは、岩石惑星としては完全に冷え切っており、その自己重力はバイオメカノイドたちが内部をくりぬいてそこに埋め込んだ人工の施設によって完全に押さえ込まれている。 12月24日の早朝、ユーノは再びミッドチルダ国立天文台を訪れた。 先日の大規模な戦闘によって街は若干慌しくなっており、ほとんどのレールウェイが止まってしまっていたのでユーノはタクシーを使用した。 天文台は市街地からはいくらか離れているので今回の戦闘による被害はそれほどなかったが、大クモが歩いたり大出力魔法が発射されたときの震動で望遠鏡が揺れてしまい、位置を直さなくてはならないとクライス・ボイジャーはかなり頭にきているようだった。 天文台のドームと望遠鏡の鏡筒には足場が掛けられ、おおぜいの技術者たちが作業を行っている。 「まったく管理局の連中は大変なことをしてくれたものだよスクライア君、ここの望遠鏡は旧暦時代からのご老体なんだ、あんな派手にやらかされてはまるきり観測が出来ない」 こんな状況でも第一に考えるのは星空を見ることであるというクライスに、ユーノは苦笑する。
「随分かかりますか?」 「こいつは昔ながらの物理固定式経緯台だからね。最新の魔力アクチュエーター搭載機のようにプログラムを調整して終わりというわけにはいかないんだ。 超音波ゲージとレーザー測定器で主鏡のゆがみを測らなければならん。それから鏡筒の芯出しをして、少なくとも2週間はみなくてはならないな。 その間、星を見るのはお休みだ」 「大仕事ですね。でも、鏡にダメージはなかったようで幸いです」 「ううむ。今ではこれだけの大きさの一枚鏡を製造する設備も、鏡を作れる職人もいない。これもいずれロストロギアと呼ばれることになるのかな、ははは」 ミッドチルダでも、かつては作ることが出来ていたがさまざまな理由で製造技術が失われてしまったものは多い。 たとえ無限書庫に資料が残っていたとしても、本に書かれた製法や数値だけでは技術を真似られず、職人の勘頼りの部分がどうしても魔法では再現できなかったというケースは多い。 本好きのはやてから、第97管理外世界で過去に作られロストテクノロジーとなってしまったものを、ユーノも色々と聞いたことがあった。 その最たるものは大砲であろう。日本は超大和型戦艦の主砲として口径51センチメートル、ドイツはグスタフ列車砲として口径80センチメートルまで作っていたが、これらの大口径砲は西暦2023年の時点では製造技術が失われている。 また、有人月飛行を行ったサターンV型ロケットも、資料は残っているが製造設備がない。 そのため、アメリカはスペースシャトル計画打ち切り後に新たにアレスロケットを開発するとき、可能な限りシャトルの技術を流用はしたが、残りはほとんど基礎研究からやり直さざるを得なかった。 ミッドチルダでは、現在は主流が電波望遠鏡になってしまったために光学望遠鏡の製造技術が失われつつある。 今クライスが気に掛けているような大型光学望遠鏡用の鏡については、鏡の材料になるひとかたまりのガラスを磨く設備、反射材となる銀を蒸着させる設備が、今のところミッドチルダには1基しかなく、 またその1基しかない製造設備を保有している企業も財務状況が思わしくなくいつ稼動停止させられるかわからない状況だ。 「そういえば、第97管理外世界には、分割式ではありますが主鏡直径10メートルの反射望遠鏡があるらしいですよ。 一枚鏡なら、コンピュータ制御で直径8.2メートル、厚さ20センチメートルを実現したものもあります」 「ほう、それはすごいな。やはり技術者たちの研究の賜物なのだろうね。 どうも省のおえら方たちは、魔法をなんでもできる文字通りの魔法と考えがちのようだが、これだってたくさんの科学者が努力して理論を考え実験を繰り返して作られたものなんだ。 ある日突然にできるようになったものじゃないし、いかに魔法でも宇宙を支配する物理法則に逆らったことはできないんだ」 「全くその通りです」 ユーノが例に挙げたものは、日本が所有するすばる望遠鏡である。ハワイ・マウナケア山に設置された本機は一枚鏡の反射望遠鏡としては世界最大を誇る。 また、地球人類は知る由もないことではあるがこれほどの規模の一枚鏡はどこの次元世界にも他にない。 このミッドチルダ国立天文台に設置されているのは口径3.6メートルなので、地球のものと比較すると少々インパクトは薄い。 ミッドチルダ式、ベルカ式、他のあらゆる術式を問わず、現代の魔法とはあくまでも空間内の粒子、波動、エネルギーを制御する技術である。 その結果として物体を浮かせたり、高速で飛ばしたり、炎や電気を放出したりできているだけである。 いわゆる奇蹟とかいった類のものとは決定的に異なる。魔法科学の知識が無ければ不思議に見えるが、知っていれば不思議でもなんでもない。 それゆえに、一見科学の常識外の現象のように見えてもそれは厳密に物理法則にしたがっている。バリアジャケットや、飛行魔法とそれに付随する慣性制御技術、これらも科学技術である。 魔力素も天然に存在する素粒子の一種であり、リンカーコアも人体に備わる機能である。 もしかしたら、他の管理外世界では違う呼び名をされているかもしれない。 第97管理外世界地球を観測するにあたり、純粋な機械であっても魔力が観測されうるとクロノが言ったのはそういうことだ。 もちろんミッドチルダでもそれは同じだ。ただ、ミッドチルダでは製造に魔力を使用しないものの方がもはや稀であるため、気づきにくい。 魔力というのはあくまでもミッドチルダ人がそう呼んでいるだけで、他の世界では当然他の呼び名があってしかるべきである。
望遠鏡の修復調整作業の間、ユーノとクライスは再び、第511観測指定世界の調査について相談をしていた。 「ミッドチルダは海軍を向かわせて、惑星TUBOYを征服するつもりのようですな」 クライスは昔ながらの頑固爺といった調子だ。 彼の世代だと、まだ管理局が設立されて間もなく、ミッドチルダ・ヴァイゼン間の緊張に伴う次元間紛争も多発しており、従軍して他次元世界に派兵されていた者も多い。 「まあ実も蓋もない言い方ではありますが。人間が住んでいないと分かれば、ミッドは概ね強気ですよ」 「実はわしの方でも惑星TUBOYの軌道計算を行いました。この計算尺でですよ。でなんですが、この星、普通の惑星とは決定的に違う異常な要素があります。わかりますかな」 「さあなんでしょう、想像もできません」 ユーノはわざとすっ呆けてみせる。クライスもそれに乗ってきて、含み笑いを浮かべた。 「重心が惑星の中心にないのです。いかさま用のサイコロを思い浮かべてください、重りを埋め込んで特定の目が出やすくしたサイコロです。 あれと同じように、普通重力にしたがって惑星中心に落ち込むはずのコアが、この惑星では中心から外れた位置に存在しているのです」 このような状態では、惑星の長径側に向かって非常に偏った圧力が掛かることになる。 重力の強さは物体の質量によって決まるので、惑星TUBOY上ではコアに近い面では重力が強く、コアから遠い面では重力が弱くなる。 これは地球やミッドチルダでも、惑星表面が完全な平坦ではなくまた赤道付近が膨れた形をしているため重力異常として現れるが、それはごく微弱なもので、たとえば赤道と極地で掛かる重力が倍も違うとか極端なものではない。 どんな天体でも、自転による遠心力は天体を分解する方向へ働く。それが重力とつりあうポイントで天体の形は決まる。 自転の速い天体は遠心力によって平べったくなり、また自転がじゅうぶんに遅ければ、たとえどんなに硬い物質で出来ていてもある程度以上の質量があると自己重力によって球形になる。 地球が所属する太陽系でも、アステロイドベルトの小惑星は数メートルから数十キロメートル程度の小さいものは典型的なジャガイモ型をしているが、直径が数百キロメートルにもなるセレスやベスタは球形をしている。 天王星の衛星ミランダも、過去の大衝突によって一度はバラバラになったが再結合し、いびつながらも球形を維持している。ミランダの直径はおよそ450キロメートルであり、惑星TUBOYよりもはるかに小さい。 つまり、惑星TUBOYは力学的にきわめて不安定な状態であることになる。 計測された質量と密度、構成物質、大きさでは、いつ大規模な崩壊を起こして天体の再結合が起きてもおかしくない計算になる。 しかし、惑星TUBOYはアルカンシェルの砲撃を受けてもその形状を保っていた。 その事実は、戦艦インフィニティ・インフェルノを含む惑星内部に建造された人工施設が、惑星全体の質量を支えられるほどの強度を発揮していることを示す。 「これほどの異常な物理的性質を示すとなると、この星はむしろ人工的に建造したフレームに岩石をくっつけた、いわば巨大なアステロイドシップともいえますね」 「しかも、わしらがこれらの計算パラメータを入手できるということはアマチュア天文家であってもこの答えにたどり着くことは可能ということです」 「データ自体は公開されてるものですからね。当局は何か言ってきてますか?ウェブサイトを閉めろとか」 「いいやあ、今のところは何もないですな。もっとも政府も今はそれどころではないでしょう、あの化け蟹のせいで」 大クモについては、管理局からは正式に個体名を“SPIDER”と命名されているが、実際、四本足ということもあって見る者によってはカニをイメージすることもある。 ミッドチルダでも、サイエンス・フィクションではさまざまな人工天体が考えられている。 それは概ね空想のものであるが、たとえば魔力結合でヘリウムを集積させた、どんな砲撃も吸収してしまう惑星サイズのガス状デバイスなどというのも登場している。 もちろんそのような天体はこれまで見つかっていないし、そのような巨大なデバイスも現在の技術では製造は不可能だ。
「実は僕も軽く計算してみました。質量比と衛星の軌道から計算できる共通重心を考えると、内部に存在するフレームは幅3000キロメートル以上はあります。 形状としては、多数の柱が中心に向かって連結したウニのようなイメージではないかと」 「わしはどちらかといえばリングのような形状を想像していますな。これならば自転による遠心力である程度荷重を減らせます」 「なるほど」 「スポーク状の構造も考えられます」 どちらにしろ、形状は外から見ることが出来ないので推測するしかない。 あるいは、惑星TUBOYの地殻とマントルがまるごと吹き飛ぶような事態が起きれば、内部のフレームが露出するだろう。 ただし、少なくともこの時点では、ユーノもクライスもそのような事態を起こしうる原因を考え付いてはいなかった。 惑星TUBOYの静止軌道上で待機している戦艦群の艦長たちは、それぞれに連絡を取り合い、惑星地表に不審な動きがないかを監視し続けていた。 降下部隊の発進から約3時間後の12月24日午後7時34分、軌道上に待機する6つのグループのうち第2戦隊に所属するアドミラル・ルーフは、惑星TUBOYの地表からおよそ25キロメートルの地下に魔力反応の出現を観測した。 カリブラはただちに反応の追跡を命じた。 アドミラル・ルーフのレーダーによる集中スキャンにより、当該地点はインフィニティ・インフェルノの艦底部から伸びたアームのような部品があると推定され、そこを経由して何らかのエネルギーが館内に送られていることが予想された。 ガンマ線領域の魔力光は、透過した物体の構成元素によって特徴のある吸収線を見せるため、艦艇の発する魔力光をスペクトル分析にかけることで敵艦の装備や装甲を推測することができる。 長年、海軍で戦艦の指揮を行ってきたカリブラは、これは敵戦艦の起動準備であると考えていた。 ただちに僚艦の艦長へ連絡をとり、複数艦による合成開口レーダーを臨時に構築して敵戦艦の動きを確認することにした。 魔力反応の上昇を確認してから7分後、アドミラル・ルーフを含む戦艦4隻によるスキャンで、第2戦隊の真下に位置する地表が毎分0.3ミリメートルのペースで隆起しつつあることが確認された。 これは地殻変動としては異常なほどの速さである。 可能性として考えられる最悪のケースは、敵戦艦が既に起動しており発進態勢に入っているというものである。 「艦隊司令へ連絡だ。惑星TUBOY表面に異常を確認、敵戦艦起動の可能性有と。電測、地表の追跡を続けろ。わずかな動きも見逃すな」 「アイサー!」 電測士が観測装置を慌しく操作し始め、通信士は艦隊旗艦への通信回路を開く。 「──それから、降下部隊の緊急帰還も考慮しろと伝えてくれ。もし敵戦艦が浮上すれば、地表にいる人間は無事ではすまない」 インフィニティ・インフェルノの再発進方法については、緒戦でみられた直接離陸を再度試みるパターンと、地殻を爆破して強制浮上するパターンの二つが考えられていた。 艦隊司令部では、敵戦艦の離陸方法として、逆噴射をかけて地面から艦体を引き抜いた後に回頭して離陸するというパターンが考えられていた。 インフィニティ・インフェルノは艦首を下に向けた格好で斜めに地面に埋まっており、右舷艦尾のおよそ30キロメートルほどが地表に露出している。地表から最も高い部分では7キロメートル程度である。 次元航行艦の対地レーダーは、おおよそ20センチメートルの解像度で地表を走査することができる。 もともと対地レーダーは地上に対空兵器が設置されていないかを調べるためのものなので、地殻変動の精密な測定にはあまり向いていない。 それでも、わずかでも変化が見られればそれは敵艦が動いているということである。 カリブラは、敵戦艦が地面に埋まったままメインエンジンを点火し、推進力によって強引に地殻を割って浮上する可能性もあるとにらんでいた。
通常、宇宙船の構造強度というのは大気圏内で用いられる乗り物と比べてそれほど高くない。 宇宙空間では天体からの重力がほとんどかからないので、自重に耐える必要がないのだ。 海に浮かぶ船が水の浮力で船体を支えているのと同じように、宇宙船とは自己の強度で船体を支えるようには出来ていなく、たとえ戦闘用艦艇であっても機動によってかかる荷重限界は、船体の構造強度ではなく慣性制御装置の性能に依存するというのが現代の常識である。 そのため、宇宙空間での運用に最適化された艦は大気圏内では身動きが取りづらく、艦種によってはそもそも大気圏内への降下ができない艦もある。 特に大気圏内での運用が必要な場合は、LS級やIS級のようにそれに特化した設計がなされることになる。 次元航行艦が地面に接触したまま無理にエンジンをふかせば、艦が潰れてしまうのが普通である。 しかし、敵戦艦にもそれがあてはまるとは限らない。インフィニティ・インフェルノは、惑星と正面からぶつかっても耐えるほどの強度があるのかもしれない。 「艦長!隆起速度が増加しています、現在毎分2センチメートル、地表に亀裂が入り始めています」 「猶予は無いな──全艦戦闘配置!他の艦にも連絡しろ、それから艦隊司令部へ、第2戦隊は独自に迎撃態勢をとる。隣接する第1・第3戦隊へも伝えろ。 艦回頭90度、艦首を惑星TUBOYの地平線へ向けろ。砲塔旋回、左舷60度を指向。対艦砲撃戦用意だ」 「了解しました……!」 カリブラの口から発せられる、本格的な戦闘を意味する命令に対し、アドミラル・ルーフの幹部乗員たちは高揚する重い気合で応える。 時代遅れの戦艦といわれ、安全な後方での“緩い”任務しか与えられてこなかったLZ級だが、先日のヴォルフラムを援護した戦闘で、本艦の乗組員たちの士気はかつてなく上がっている。 正直なところ、カリブラだけでなくアドミラル・ルーフの乗組員たちは実戦命令を今か今かと待ちわびていたのだ。 それは純粋に、力を振るうことに対する心の高ぶりである。そして、この古ぼけた戦艦への愛着である。 アドミラル・ルーフを含む第2戦隊の戦艦群がそれぞれに回頭していき、左舷側に惑星TUBOYを見る針路に乗って主砲を地表へ向ける。 インフィニティ・インフェルノは、第2戦隊と第3戦隊のちょうど中間に艦尾を露出させており、第2戦隊は軌道周回方向に対して艦尾を向けて後ろ向きの状態で飛んでいる。 後方を飛んでいる第3戦隊の艦は、第2戦隊と向かい合うようにして右舷を指向し、インフィニティ・インフェルノを狙う。 敵戦艦の艦首は惑星TUBOYの北極側を向いており、もしこのまま直進して離陸すれば、第3戦隊の方向へ向かって飛び出すことになる。 「艦隊司令部より返電です、降下部隊がバイオメカノイドに遭遇したとのことです!現在地表にて戦線を展開中!」 「まずいぞ……離陸可能な艦はあるか!?」 「問い合わせます!」 「急げ!敵戦艦の浮上が加速している。おそらく数十分も猶予はない」 アドミラル・ルーフの艦橋からは、惑星TUBOYに聳える山脈が震えているように見えていた。 隆起の速度はもはやマグニチュード5クラスの地震を発生させている。降下部隊でも、周期的な微弱震動から、敵戦艦が搭載兵装を使って岩盤を割ろうとしていることを察知していた。 地表に降りていた揚陸艦のうち、捜索班が帰還できた艦はただちに離陸しL5ラグランジュポイントへ急行した。 残りの艦は、揚陸艦ホーミーとヴォクシーが地表に残っている。このうち、ヴォクシー所属の班は地下施設の探索のためかなりの深部まで進出しており、帰還に時間がかかると予想された。 「2隻がいまだ地表に残っています、バイオメカノイド群は地下から出てきており、今のところ退路を塞がれるような事態にはなっていませんが」 「急がせろ」 「わかりました」
第2戦隊では、惑星TUBOYの表面にある山脈が長周期地震によって山体崩壊を起こしているのが肉眼で確認できていた。 もはや敵戦艦の再起動は確実である。 「──!か、艦長、魔力反応レベル急上昇──」 電測士が言いかけた途中、アドミラル・ルーフ艦橋から、惑星TUBOY表面上に激しい閃光が発生するのが確認された。 艦橋の窓が光で埋め尽くされるほどの光量が数秒間持続し、光が引いた後、地表に埋もれたインフィニティ・インフェルノが、後部メインエンジンから激しい噴射炎を放っているのが見えた。 地表の岩や化石が吹き飛ばされ、それだけで容易に脱出速度を超えて宇宙空間に吹き上げられていく。 「やはり敵戦艦は強行突破をするつもりだ」 カリブラは第2戦隊の戦艦群に、静止軌道からの上昇を命令した。軌道速度を減速することで、後方にいる第3戦隊との間隔を詰め、インフィニティ・インフェルノに追いつくように艦を移動させる。 魔力反応レベル上昇の最初の兆候──おそらくこのときに主動力炉が起動されたのだろう──から、わずか40分で敵戦艦は浮上を開始した。 敵戦艦はちょうど惑星表面に艦の側面をこすりつけ、マントル上を滑るように離陸してきた。 地殻が割れて削り取られ、マントル上から剥がれるように宇宙空間へ飛び出していく。 噴射炎は数百キロメートルも伸び、インフィニティ・インフェルノは非常にゆっくりと──それでも時速数千キロメートル級の速度である──上昇を開始した。 惑星TUBOYは表面を巨大な赤い楔に削られるようにその形状を変え、抉られた球形は戦艦の船体が離れると崩壊して谷を埋めていく。 アセノスフェアまで削り取られた惑星TUBOYは、圧力が失われたことで沸騰したマントルが爆発的に上昇し、戦艦の船体を包み込むように火山弾を噴出していた。 惑星そのものが真っ二つになってしまうかのように見えたが、インフィニティ・インフェルノの後方に位置する第2戦隊の艦からは、惑星TUBOY内部、アドミラル・ルーフの船体が載っていた場所は、 巨大な──目で見える範囲でも3000キロメートル以上はある──レール状のドックであることが見えていた。 覆われていた岩石が吹き飛んでも、内部には強固なフレームがあり、それは最初から戦艦の離床に耐えるように作られている。 敵戦艦とそれが収容されていたドックが、まるごと岩石で包み込まれ、惑星のような球形を形成していたのである。 少なくともカリブラの目にはそう見えていた。
無数の小隕石を船体に纏い、インフィニティ・インフェルノは惑星TUBOYの地表から完全に離陸した。 噴射されるエンジンは、船体を非常に重厚な迫力を持って推進する。ロケットノズルの数をとっさに数えられないほどだ。 宇宙空間に撒き散らされた岩石によって、索敵レーダーがほとんど効かない状態になっている。 それ以上に、敵戦艦があまりに巨大すぎてFCSのレーダー電波が攪乱され、ロックオンが出来ない。ロックするべき座標を特定できない。 ロックオンせず、目視によるマニュアル射撃を行うしかない。 これまでにない戦法を、こちらは強いられることになる。 「艦長、敵戦艦が発砲を開始しました。誘導弾、荷電粒子ビーム、多数発射されています」 電測士が報告する。発射された攻撃は、インフィニティ・インフェルノ正面に位置していた第5戦隊の戦艦群に向かっていた。 さすがに距離がありすぎるため、初弾では命中弾はない。ビームは空間を通過して宇宙のかなたへ消えていき、ミサイルは全て迎撃された。 しかし、この距離ではこちらも有効打を与えられない。そして、ホーミーとヴォクシーの2隻の揚陸艦は、いまだ惑星TUBOY表面に留まったままである。 彼らを見捨てることはできない。 それに、敵戦艦が浮上して動き出してしまった以上、これを放置することはできない。 敵戦艦との交戦は、最初から考慮されていたシナリオである。 惑星TUBOYの形状が大きく変化し、そして敵戦艦の巨大な質量が分離したため、重力バランスの変化によって軌道計算が追いつかなくなり、これまで滞在していた静止軌道からはこちらの艦はすべてはじき出される。 半ば強制的にこの巨大戦艦との戦闘を強いられることになるのだ。 こちらの艦は、戦艦と巡洋艦、さらに補助艦艇を合わせて数百隻がいる。さらに後方には空母機動部隊も控えている。 そして敵は、今のところインフィニティ・インフェルノ1隻のみである。 ただし、その大きさは比べ物にならない。 まるで大熊にたかるミツバチのようだ。 新暦83年12月24日20時26分、第511観測指定世界、惑星TUBOY上空1万キロメートル。 1隻対365隻という、前代未聞の艦隊戦が、その幕を上げようとしていた。
第7話終了です ・・・(滝汗) 収録するとき直します。。。艦名まちがえたー! ところでインフェルノさんのフォルムは個人的にファーストガンダムのチベ級に似てる気がします 艦尾ノズルの取り付け部が平らな面になってるとことか全体的な色合いとか 岩を割りながら発進してくるところはヤマトよ永遠にのイカルスから発進するシーンのイメージです・・・が艦名まちがえた(冷汗) グレイといえばMMRで大活躍してましたなー話は聞かせてもらったガラッ フェイトさんも某なんとかファイルっぽくなってきました ではー
質問です 保管庫で途中放棄され続けて更新される見込みの無さそうなSSの設定を再利用して新たなSSを書くってのは御法度ですか?
>>19 >保管庫で途中放棄され続けて更新される見込みの無さそうなSSの設定を再利用して新たなSSを書くってのは御法度ですか?
途中放棄の判断は誰がすんの?
他人が判断していいなら自分が使いたい設定のSSを勝手に途中放棄認定する奴も出るでしょ
過去スレに続き書いてますって宣言してる人もいるし
数か月音沙汰ないからって判断できないのが現状だし実際続き書いてくれて更新してくれてる人もいるし
年単位で更新してないSSでも変な諍い生むだけだからやめた方がいい
続き書くんじゃなくて設定流用だけなら、程度とか割合とか文章力とかによる。 二次作品界隈では定番な設定ってのは多かれ少なかれあるもんだからな。
リリなのの魔法って物理法則書き換えたり消去したりしてワープしたり光速度を実現したりするんじゃなかったっけ? 大量破壊兵器レベルの質量攻撃(巨大隕石やブラックホールを生成・または召喚)は法律で禁止されてるようだけど ああまあわざとそういうような設定でいくんならそれでいいが
>>19 同じ作品の同じキャラ使って、SS書いてもいいのよ?
乙です
フッケの名がここで出るとは
カレドヴルフは絶賛営業中のようですがヴァンデインはどうなったんでしょうね
Forceでもフェイトに突っ込まれてましたし
>>23 リリカルなのはシリーズの魔法はあくまでも超科学で幻想ではない、って設定じゃなかった?
どこかに作動原理の設定ってあったっけ
26 :
19 :2011/10/15(土) 07:23:16.72 ID:w+CM9T6H
返信ありがとうございました
>>21 確かにそうですね
恥ずかしいことに考えがそこまで及びませんでした
ありがとうございます
設定流用はしませんが、投下された作品と同じ原作、キャラを使ってSS書くかもしれません
その時はどうかよろしくお願いします
スレ汚しすいませんでした
>>23 >巨大隕石やブラックホールを生成・または召喚
なんかすごく二次創作の設定臭いな
BHは知らんけどメテオ禁止はたしかどっかにあった
公式
マジかソースはどこなんだろ まあ隕石落としは技術的にできそうだが 個人レベルでできると一人で世界滅ぼせるぞ
>>23 んな設定はないなぁ、ロストロギアでならそういうのあってもおかしくなさそうだけど
魔導師1個人で絞り出せる魔力じゃそこまでたいしたことはできなそうな感じ?
>>30 隕石っつったって質量も速度も千差万別だからねぇ
>魔法とは、自然摂理や物理作用をプログラム化し、それを任意に書き換え、 >書き加えたり消去したりすることで、作用に変える技法である。 小説版にこういう記述はある
光速度実現したりBHパなしたりなんて上位SF性能なら 国家非常事態レベルだったJS事件の時に戦闘に使われてるはずだし あの世界の魔法はそこまで強くないって認識かなぁ
そっちは聞いたことあるがブラックホールうんぬんは初耳だなあ 隕石はぶっちゃけ魔法使わなくても宇宙でも活動できる艦船があるから その技術を使えばガンダムのアクシズ落としみたいにやることも可能だからわかる どう見ても質量兵器だけど まあそういう兵器レベルでなら管理局が持っていても不思議じゃないが 個人レベルで戦略級の隕石召喚だのBH生成だのしたらもう 危険人物ってレベルじゃないよね はやてやなのはは大岩落としとか氷塊落としとかやってたけど まああれは戦術級だし
とりあえずEXECUTORではレリック1個≒500ポンド爆弾 クラウディアの魔力炉出力魔力値120億≒12万`h 空戦魔導師の速度/上昇限度=2200km/h/25000m 具体的な数値が出てるのはこれくらいか?
いやヘイムダルとかたかだか数百mの物体を遠洋で使っても 大陸沿岸に津波の心配が必要とかエネルギー量がマッハすぎるんや 核撃ってもそんなんならんよ 地震津波台風のエネルギーはぱない
>>37 あれは万が一のことを考えてって感じがしたな
波ってのはかなり遠くまで届くから
規模は少し小さいが氷山とかよく崩れてるが高波レベルのはず
波と津波は別物よい 例え1m以下の津波でも発生させるにはキロトンクラスの戦術核程度じゃまるで足りない 津波の高さやエネルギーの具合が幅など多種多様な条件に大きく左右されるにしても、だ
津波のエネルギーを核兵器で出すにはやっぱりツァーリボンバ(100メガトン)くらいないとだめみたいね
>>39 ちょっと言葉が足らんかった
あくまではやてが大雑把に津波と言っただけで
数百メートルの氷塊落としたぐらいじゃ津波じゃなくて
高波レベルになるんじゃねって言いたかった
前回の更新からかなり機関が空いてすみません、FEです。 色々な行事が重なって投下どころか、次回の作成も滞っていました。 と、後悔ばかりしても仕方無いので、18章投下します。
あの時、彼は言った。 「俺はあんたの中に、親父の剣を見ていたんだ…」 それは気休めなどでは無く、彼にとっては真実なのだろう。 だが、その言葉を私は受け入れることはできなかった。 それは、師をこの手で殺し、その息子までをも手にかけようとした。 挙句の果てには、満足に死ぬ事を許されずに忠誠をささげた主を裏切っている。 …私の人生は(とはいっても一度は死んだ身だが)、何処まで滑稽なのだろうかと考えるほどだ。 しかし、考える暇などない。悩む暇すらも与えてくれない。そんなことをするくらいなら、行動を起こすべきだからだ。 スカリエッティに従っているのもその為。 「私は漆黒の騎士。文字の通り、闇に生きる者。…その生も、死も。全ては闇の中に無ければならない…」 「ゼルギウス君、自分をそこまで卑下することはない。君は十分に光を放っているよ。」 「…私は光など放ってはいない。お前が光だと思っているものは幻。…それに、「闇」が「光」を照らすわけにはいかないだろう?」 「…君の言う通り、かもしれないな。」 スカリエッティも思うところがあるのか、それ以上は突っ込んでこなかった。 私が闇とするなら、彼らは光、か。 情報収集に向かうとスカリエッティに言って、私は地上に降り立った。 ふと、先ほどのスカリエッティの言葉がよみがえる。 「君は十分に光を放っているよ」 …一度死んでいるからこそ、わかる。戦場では、そんなものは何の意味もない。 そもそも、私はそんな曖昧なものには興味は無いのだ。 …仮に、本当に私自身が光を放っていると言うなら、それは私に対する皮肉だろう。 「漆黒の騎士が光を放つか…下らん。私は光を放つ権利も、光を浴びる権利もないのだ。」 この「戦争」の発端は私とスカリエッティ、そして。 「…元、私たちの世界の人間だからな…」 第18章「伝わらない想い、伝わる絆」
「皆さんに連絡です。公開意見陳述会が開かれることになるので、スターズとライトニングはその警備に当たってもらいます。できれば、セフェランさん達もお願いします。」 今回の任務は、ある建物で行われる会議の警護。 本来ならばセフェラン達まで招集するほどに厳重な形で警護することは無いのだが、騎士カリムからの予言が、いわゆる「テロ」を示唆していることが分かった。 そのテロの目的が何なのかはよく分かっていないが、彼女の予言は一度も外れることが無い。 故に、お偉いさん方が集まる会議場は最優先で守るべきだと判断されたのだ。 当然、その他の施設も守ることは守るのだが。 アイク、ペレアス、ソーンバルケ達は会議場を。セネリオ、セフェラン、ニケは六課に留まり、その他の場所でテロが起きた時のための戦力として働く手筈だ。 余談だが、カリムはアイク達のことも予言していた。 「神と共に歩むことを止めた者たちの報復の戦を止める救世主」 カリムによれば、他の予言はくっきりと浮かび上がってくるのに、アイク達のことを見ようとするとはっきりと浮かび上がらなくなるらしい。 その理由はよくわかっていないが、どうも良くないことが起きるのは確かだ。 少なくとも、戦争が起きるのは確定事項らしい。 「……本当に、物騒な世界だ。」 アイクが一人つぶやく。 今は部屋の中で出立の準備(と言ってもラグネルの手入れくらいだが)をしているので誰にも聞かれることはない。 「まぁ、俺達の世界でも似たようなことが言えるな…」 ラグネルを手に立ち上がる。 雇われ傭兵はそんな世界だからこそ、活躍をするのだ。 今までも、これからも。正しいと信じた道を進む。 それこそが本来の「グレイル傭兵団」なのだ。 時刻は夜23:00。 ライトニングとスターズの面々、それとアイク達はヘリに乗って会議場へと移動する。 当初はペレアス達もヘリコプターの存在と移動手段に驚いていたが、今は落ち着いたようである。 すでに配置につく場所とメンバーは決められているため、同じ配置のメンバーオ話し合っている。 もはやお約束と言うべきか、アイクとティアナは同じ配置になっていた。 「…といった状況になったら、俺が善戦に出る。その場合は、背後と援護を頼む。…ティアナ?」 「あっ、はい!!わかりました!」 「…?」 このやり取りもお約束であった。 本来ならば、このままティアナが照れて会話が終了するのだが、今日は違った。 「………アイクさん。」 ティアナが言おうか言うまいか逡巡する。 それほどに言いづらいことなのか、とアイクが想像した時だった。 「アイクさん…この世界で生活する気はありませんか?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。 いや、わかってはいたのだがその意味を理解するまでに数秒を要した。 そして、はっきりと答える。 「いや、そのつもりは無い。…俺にはやらなきゃならないことがある。」 その解答はわかりきっていた。アイクがどう言うかも、何を言おうとしているかも。 それでも、聞かずにはいられなかった。 「それは…?」 「あの世界で、俺は罪を償わなければいけない。人を殺しておいて、自分だけはのうのうと生きているのが許せないからな。」 いつもなら、ここで会話は終わるはずだった。だが、今回は終わらなかった。 「それは、私たちの世界に居たくないからですか…?」 その言葉に、その場にいた全員がティアナに注目する。 今日、この瞬間にもアイク達が帰る方法ができたら、彼等はすぐにでも去ってしまうかもしれない。 ティアナはそう思っているのだ。 そんな不安そうなティアナをよそに、アイクは笑っていた。 「なら、考えてみろ。本当に信頼できない仲間に、背中を預けるか?」 「…それは…」 「信用できない奴と行動を共にするか?死という可能性をかけてそいつに援護を頼むか?…違うはずだ。俺達は皆を信頼している。そうでなければここにはいない。そうだろ?」 ティアナは押し黙る。アイクは彼女を論破したつもりでいたが、ティアナは元々そのつもりではなかった。 わかりやすく言えば―――――― 「私が言ってるのは、そういうことじゃありません…」 「??」 「アイクさん………」 ティアナはいったん言葉を切り、爆弾を投下していった。 「アイクさんは、私のこと好きですか………?」 ヘリの中の時間が止まる。実際には止まっていないが、ここにいる人たちはそんな錯覚を感じた。 …ただ一人、アイクを除いては。 アイクだけは、ティアナの告白に対して涼しい顔で受け答えをした。 「ああ、好きだ。」 再度、時が止まった。いや、止められた。 この発言をそのままに受け止めれば、お互いは相思相愛になるのだ。 「ええつ!?…ってことは、アイクさんとティアナさん…」 「キャロ、落ち着いて!!ここは、二人を祝わないと!!」 「いや〜、ティアもようやく結ばれたか〜。私もいい人欲しいなぁ…」 皆が口々に二人の事をはやしたてる。 その喧噪のなか、ふと思い立ったようにスバルが聞いてきた。 「ところで、なんでOKしたんですか?」 いわゆる、のろけ話を聞こうとしていた。 「…?」 「つまり、何でティアナの告白をOKしたんですか、ってことです!!」 スバルも女の子。この手の話題には良く食いついてくる。ついでといては何だが、キャロとエリオ、なのはやフェイトもその話に聞き入っていた。 「…? 嫌な奴じゃないからだ。」
これまで幾度となく時が凍りついてきたが、今回はその場の雰囲気までも凍らせてくれたようだ。 彼女たちは重要なことを忘れていた。それはすなわち、アイクは「他人のこと」には驚くほど鋭いのに、「自分のこと」になると鋭くなるどころかわざとやっているのかと思うほど鈍感なのだ。 もちろん、今回も当然のごとく、そういった解釈をしていた。 ティアナは、アイクを「恋愛対象として」好きか、と聞いた。 対してアイクは、「好きか嫌いか」で好きだ、と答えたのだ。 明確にそのあたりを言及しなかったティアナの怠慢ともとれるが、本来ならこのような言い方をされれば誰だってわかることである。 「そ、そうですか…」 先ほどとは違った質の沈黙が降りてくる。その間ティアナはと言うと、膝に手を置いて項垂れていた。 その黒いオーラをなのは達は感じ取り、ヘリを降りるまで彼女に話しかけようとする者はいなかった。 ソーンバルケとペレアスもため息をつく始末だったが、ただ一人アイクだけは何か失言をしたのかと逡巡するだけであった。 目的地に到着し、それぞれが決められた配置につく。 先述のとおり、ティアナとアイクが同じ場所に配置されていた。ティアナは先ほどのことが無ければ素直に喜んでいたのかもしれない。 だが、素直に喜べないのはアイクのせいであった。 ここまで鈍感だったとは思いもしなかったのだ。せめて、恋愛ごとに関心があればよかったのだが、そうではないらしい。 …ふと、ティアナはアイクが難しい顔をしているのに気づいた。 「どうしたんですか…?」 「いや…少しな。」 そう言って、壁に寄りかかって腕を組み、静かに目を閉じた。 お偉い方を守っていて、良かったことなどは一度もなかった。少なくとも、守るに値するとは思いもしなかった者だ。 アイクは静かに過去を思い返す。 (そう言えば、元老院を奇襲したこともあったな…) かつて、作戦のなかで元老院議員達のいるテントを襲撃し、物資の破壊工作などを行ったことを思い出す。 あの時は何も感じなかったが、今思えばあの姿は人の上に立つべき者の姿ではなかった。 全くもって、愚か。そうとしか言いようのない姿だった。 (あまり良い思い出が無いものだな…) そして、また静かに目を開く。そこには、 「…?」 首をかしげてこちらを見つめるティアナがいた。その様子がおかしくて、ふと笑みをこぼす。 それを見てますます訳がわからなくなったティアナ。 それを見て、気づいたことがあった。 (確かに、あの議員たちは守る価値が無いのかもしれない。だが…) ここに存在する仲間は自分の命を投げ出し、名誉も誇りも投げ捨てでも守るべき価値のある者だと。 命をかけて、守りたい者がここにあると。彼女たちが教えてくれたのかもしれない。 そうだとしたら俺は、彼女達に救われているのかもしれない。 そろそろ、夜が明けるころだ。任務に戻らなければならない。 だが、その前にこれくらいは言わせてもらってもいいだろう。 「…ありがとう…」 誰にも聞こえないように小声でつぶやく。その対象なんて、言うまでもなかった。
「そろそろか…」 モニターの前でスカリエッティが呟く。その眼の前にはピアノの鍵盤の形をしたキーボードを叩いていろいろな情報を整理する美しい女性の姿があった。 「スカリエッティ様、準備が整いました。」 「ゼルギウス君は?」 「所定の位置へと向かわせています。…あの。」 その女性は、少々言いづらそうにスカリエッティに尋ねた。 「その…彼をそこまで信用してもよろしいのでしょうか?いくら腕が立つとはいえ、所詮は別世界の者。それに、敵方の英雄と親しいのでは…」 「心配無いよ、ウーノ。彼は、私の為だけに動いているわけではない。…私と彼はこの世界を大いに狂わせる要因を作ってしまった。それを止めるために彼は動くのだよ。」 「と、言いますと?」 「仮に、第3勢力がその他二つの勢力を相手にするにはどうしたらいいと思う?」 「…私なら、片方と友好を結んで一方を潰すか、その二つの勢力をけしかけて戦争状態にしてから弱りきったところを攻めます。」 「聡明な答えだね。私たちがしているのは、その解答の後者だ。…向こうはゼルギウス達の真実を知るために私達と戦うことになる。 そうすれば、双方の戦力は低下して第3勢力の思いのままだ。…私がしているのは、いわば牽制かな。「私達の戦力はまだ健在だ」という意思表示をさせているのさ。」 「…そうまでして、相手をしなければならない相手とは誰ですか?」 「言っただろう?…私と彼の、生み出してしまった「罪」さ。」 そう言って、スカリエッティは真剣な表情に戻る。 (このテロも、その意思表示も兼ねている…まあ、本来の目的の為でもあるけどね。) ニヤリ、とおおよそ人間ではなく、野獣の笑みを見せる。 (ゼストもアギトと向かわせた…私の計算に、狂いは無い。) スカリエッティは大きくマントを広げ、言い放つ。 「さあ、始めよう!!!」 「さて、スカリエッティがテロを起こそうとしているようだが…」 「くすくすくす。問題無いんじゃありません?どちらにせよ、あの管理局とかいう勢力に潰されるのは目に見えていますよ。」 「まあ、ワシらもまだそれなりに戦力はそろって居ないのが現状じゃが…」 「それは、これから作ればいい。私たちにスカリエッティが施した技術。それを使えば、「死者の蘇生」すら容易なことだ。さらに、クローン技術。これらがそろえば、後は優秀な人材だけ。ククク……実験が楽しみで仕方が無い!」 「皆よ、私たちの目的を忘れるな。私たちは、「神のいない世界」を作るのが、最優先事項だからな。」 闇はただ、深まっていく。 To be continued…….
以上投下終了です。 …自分で言うのも何ですが、2ヶ月近く執筆してこれか!!!まだまだ腕が上がっていません。 今後精進していきたいと思います。感想・アドバイス、待ってます。 どうも、FEでした。
いつのまにかいろいろ投下されてた乙 エクゼクターの地球の衛星はワープ空間抜けたら 宇宙戦争のど真ん中に飛び込んじゃいそうだな
こんにちは 職人の皆様乙です。 さて、前回1カ月以内に投稿したいなどと言いましたが、2か月もかかってしまいすみません。 ではマクロスなのは第24話を23時頃より投下しますのでよろしくお願いします。
時間になったので投下します マクロスなのは第24話 「教導」 『アルトくん!!』 『アルト隊長!!』 遠方にて支援狙撃を続ける2人の呼びかけがあるまでもなく、敵から意識を離していなかったアルトはガウォークで急降下して現域を離脱。直後ガ ジェット部隊5機よりロックオン、ミサイルが放たれた。 ロール降下したため天井を下界に向けるアルトは真下に顔を向けると、むこう側に見える自らの下半身と共にヘルメット内蔵のHMD(ヘッド・マウン ト・ディスプレイ)に映りこむ5個の赤いマーカーを確認。マーカーの横に表示される距離の数字が命中を表すゼロに近づかんとその数を減らして いく。 ロックオン警報の騒音の中アルトはVF−25の折っていた足を戻して推力を全開にし、ミサイルからの退避を図る。 『隊長、今落とします!』 さくらの声に遅れること数秒、バックミラーが一瞬青白い光を捉え、後方を遷移していたミサイル群をその花火の下に誘爆させた。 「サンキュー」 アラートが消えたことで追尾してきたミサイルの撃墜を確認したアルトは、インメルマンターンで高度を稼ぎつつ戦闘空域に復帰した。 そこで先ほど近くにいたはずのフェイトやヴィータが自らのフォローに入らなかった理由を知った。 当初5機だったガジェットの迎撃戦力だが、いつの間にやら目標の重点を輸送船『キリヤ』から変えたらしい。新たに10機のガジェットが戦闘能力 を一時的に減衰させた天城へと攻撃を集中させており、遠方の狙撃部隊ともども彼のフォローにかかりきりだったようだ。 地上に降りられれば推進剤を使わないのでVF−1Bの復旧が早くにできるのだが、このように海上ではそれも叶わず足手まといとなるしかない。 しかし天城のしぶとさは折り紙つきなものがあるし、守るフェイト達の技量も申し分ない。過程はともかく天城が囮となることで防衛目標のキリヤか ら大半のガジェットを引き離せただけでもよかったと思いなおした。 (大使達の到着まであと2、3分ぐらいか・・・・・・) レーダーに映る2機の機影は自家用機だろうか?小型の機が時速600キロほどでこちらへと遷移しており、防空任務もあと少しのようだ。 アルトは切り替えに伴って前方に向き直ると、目前に迫るガジェットは5機。一番最初に迎撃行動を取った5機のようだった。 翼下に懸架された短距離MHMM(マイクロ・ハイ・マニューバ・ミサイル)のシーカーがアルトの視線によって目標をロックし、10発のMHMMをラン チャーポッドから放出、空になったポッドを投棄する。 一方ガジェットも回避行動に入る前にMHMMを放ち、都合15発もの飢えた狂犬が迫る。 それに対抗してVF−25に搭載されしアクティブ・ステルス・システムがミサイルを含む敵のレーダーすべてにハッキング。そうして情報を書き換え ることで追尾システムに混乱を起こさせて命中させないようにするのだ。しかし当然それのみでは狡猾な狂犬を騙しきることはできない。 散らされず生き残った10発近いミサイル群にヘッドオンしたVF−25は命中寸前に機体上面のスラスターを全開。機体全面を下降させるようにして それらを素通りさせると、反転したそれらから逃げるように上昇をかけてミサイルたちを束ねる。そこで推力偏向ノズルを数瞬左に振ったかと思うと、 頭(機体前部)を支点に重い尻(機体後部)を機体上面から見て反時計回りに振り上げて180度横テールスライドした。 前方を向いたまま固定されたガンポッドの眼前には並んだ忠実な犬達。ガンポッドはそれらに餌をやるように青白く光る魔力弾をばらまき、食いつい たいけない犬を魔力爆発の中に葬った。 最後まで獲物を追い続けた飼い主に忠信な犬は自らの腹の中に眠る近接信管を作動。その役目をVF−25へのダメージとして果たした。 爆発とGとで揺さぶられる機内で転換装甲とPPBSの制御をしつつ敵編隊と肉薄していく。 その中こちらのミサイルが命中して1機の機動が乱れる。 「捉えた!」 急加速に続いてガンポッドの弾丸を浴びせようとしたが、他4機が立ちふさがるようにミサイルを10発ほど斉射して友軍を援護した。 アルトは反射でスラストレバーをフルリバースすると、機体は足を前に振り出して急制動する。そこで直接追ってこないように牽制としてガンポッド を掃射しつつ、反転退避をかけた。 「しかしなんで連中がいきなり連携を・・・・・・AIをゴーストのにでも変えやがったのか?」
反転から加速へと続いた急激なGにあえぎながら呟く。図らずしも真理を突いたアルトだったが、次の瞬間鳴り響いたロックオンアラートによって吹 き飛んだ。 アラートと同時に多目的ディスプレイには「64以上のレーダーロックを受けているため、アクティブステルスシステムの性能低下」を警告する表示 が付く。元の世界では数の多いバジュラやゼントラーディの大編隊との少数機での遭遇、キロメートル級戦闘艦の一斉ミサイル発射などでしか 点くような場面のない表示だ。そうでもなければたった1機に対して64以上もの個体からそれほどの時間差もなしに一斉に照準が行われるもので はない。 レーダーには後方と左右から多数のミサイルが迫っていることを示しており、追っていた5機だけでなく左右の他編隊(キリヤを攻撃し続けていた編 隊とフェイト達と戦っている編隊)のガジェットもミサイルを一斉に撃ってこちらを本気で落としに来たようだった。 先の表示が付いた場合、チャフにフレアに装備の全投棄による囮など遮二無二(しゃにむに)なって逃げるもしくは友軍の連携をもって全力で迎撃 するのがセオリーであり、唯一に近い生存方法である。 しかし現状、そのどちらの選択肢も取れないアルトは第3の選択肢に賭ける他なかった。 「メサイア、FASTパック装備!いくぞ!」 『Yes sir.』 機体の胴体部が青白い光に包まれ、それも収まらぬうちに側面スラスターを全開にして鋭くターン。遠心力で振り払われるように弾き飛ばした魔力 が、青白く煌めきながら空中に拡散していく。 VF−25は出現させた4つの大型ブースターから膨大な粒子の尾を引きながら後方だった敵(つまり当初の5機)へと最加速させ、左右から迫って いたミサイルを後ろに付けつつ直進する。機体の各所にあるチャフ・フレアディスペンサーからはありったけのチャフとフレアがばら撒かれ、推進排 気の粒子の魔力光を乱反射して妖しく瞬く。 そしてついに前方からのミサイルに接敵。アルトの操縦に従ってVF−25の推力偏向ノズルが、各種空力制御板が、FASTパックの推進ノズルが これ以上ないほど正確に制御されて、まるで機体を木の葉のように舞わせる。その舞いごとにヘッドオンした前方のミサイルがVF−25をギリギリ で素通りしていく。 しかしアルトの神業的操縦技術があろうと、ミサイルとしてはそんな簡単には避けさせてくれない。 ガジェットのミサイルはベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾を少し大きくした程度で、バルキリーのMHMMより遥かに小さい。しか し技術が先行しているのか、はたまたロストロギアの恩恵かMHMMに匹敵する速度と威力を持っていた。 最接近に合わせてミサイルは近接信管を発動させて、VF−25をその魔力爆発の奔流で呑みこもうとする。 しかしここはアルトの度胸が勝った。 FASTパック装備による迷いのない正面接触はミサイルが想定していた相対速度を上回らせ、VF−25が爆圧に挟まれるような致命的な位置から ほんの少し後方にズレたのだ。 アルトは魔力爆発のあおりをフィードバックして暴れる先進型デジタルFBL(フライ・バイ・ライト<コンピュータを介した飛行制御システムの一種>) の操縦桿を抑え込み、直進飛行を継続しようとする。 鳴り響く2重奏のアラート。 ロックオンアラートに交じって新たに鳴り始めたアラートに多目的ディスプレイを睨むと「SPS−25S/MF25(FASTパック)に深刻なダメージ」と あり、機体を上から見た簡易図の右舷側FASTパックが真っ赤に染まっていた。 一度出してしまったら2度目は当分できない虎の子の装備だったが、迷う間もなくそれをパージした。 バックミラーに一瞬映った右舷側FASTパックは機関部より煙を吐いていたが、後方より追ってきたミサイルと接触して爆発。それからは誘爆に次 ぐ誘爆により、無数のミサイルと引き換えにその原形を失って行った。 時間にして10秒に満たぬ切り札の活躍に惜しい思いが駆け巡るが、かの切り札が残してくれた意志はしっかりとこのVF−25に残っている。 それは形としては莫大な推進力によって得た運動エネルギーに過ぎないが、いついかなる時でもそれは空戦では大切なものだった。 「射程まであと少し・・・・・・!」 宇宙空間なら弾頭の到達時間が多少伸びるだけで大して気にもしないが、重力と空気抵抗のあるここではガンポッドの実体弾の有効射程は3000 メートル。敵が転換装甲であるなら実質1000メートルがいいところか。
接近を阻止する様に放たれる弾幕に機体を焼かれながらも、ついにターゲットレティクルが敵へと収束して赤くなる。 ロック、レンジイン! 「喰らえ!」 ガンポッドから毎分300発という速度で58mm高初速徹甲弾が放たれ、至近であればバルキリーの転換装甲をも5、6発で貫徹する運動エネルギー弾 は直撃した2機を紙屑のように引き裂いてその構成部品を大気中にまき散らした。 直後アルトはスラストレバーを引き起こして45度に傾けると、フットペダルを蹴りこんだ。 この操作によって機体はガウォークに可変して空中を滑る。眼前には撃墜は免れたが、被弾して動きの鈍ったガジェット。このまますれ違ってしま えばみすみす転換装甲の復旧時間をやるようなものだ。VF−25は前進する慣性力をそのままにガウォークの立体機動によって敵を追い詰め、そ の手に掴んだ。 バルキリーにとって掌の大きさ程度のガジェットの感触をEXギアのフィードバックによって認知したアルトは、バトロイドへと可変し残った2機のうち 近かった方へと投擲した。投げられて制御不能に陥ったガジェットがきりもみしながらその1機に向かっていく。 アルトはそれが直撃して2機とも撃墜する1石2鳥を確信するが、それは1発のミサイルによって防がれた。 その視線は魔力爆発によってあっという間に空中分解したガジェットを見送るが、内心驚愕していた。 「あいつら、味方を助けるために味方を撃ちやがった・・・・・・」 あのミサイルは間違いなくガジェットのもの。しかも通常はIFF(敵味方識別装置)でも積んでいるのか間違って追尾しないし、当たってもミサイル自 体の破損以外で誤爆しているところは見たことが無い。 となると意図的としか考えられないが、こんな非情だが友軍の意図的な破壊すら勘定に入れた戦い方ができるのは人間か、あるいは第25未確認 世界の最新型AI、それもゴーストクラスのAIだけだった。 ―――――『眼と眼があった瞬間』とはこのことだろうか? アルトはヘルメットのHMDに映り込んでいた観測機器を外装したそのガジェットに視線を向けると、なぜかそう感じた。 対人戦では幾度か感じたことがあるが、機械に対してそんな事を思うとは。しかし彼の鋭敏な感性は明白にその無機質な飛翔体から意思を、一般 人に分かるようカテゴライズすればエースパイロットが発する殺気に近い何かを感じていた。 そのガジェットは撃ち尽くしたらしいミサイルポッドを棄てて降下してくる。 反射的にバトロイドのガンポッドで迎撃するが、スラスターを機体対G性能の限界まで使って回避運動するそれには全く当たらない。そうかと思えば 衝突警報が真横の死角からの攻撃を感知。どうやら先ほど救われた1機らしい。アルトはこれをファイターに可変することでかわしたが、ミサイルも とうに底をつき、機体にもダメージが蓄積されているこの状況で2対1ともなれば必然的に不利にならざるを得なかった。 (*) 「派手にやってるじゃない」 ようやく視認できるようになり、機体の高性能カメラで管理局の部隊と同業者か知らないがガジェットとか言う機械を使う勢力が戦う様を眺める。 キリヤによれば管理局の護衛を受けているという。どうも政府に潜り込ませたこちら側の工作員が気を効かせて自分達を他世界から来た密使とい うことに仕立て上げ、管理局を味方に付けたようだった。 『どうします姉(あね)さん?こいつは武装なんてしてませんし、とっととずらかりましょうぜ!』 裏ルートで手に入れたVF−1C(民間用デチューン仕様)に乗る手下が呼びかけてくる。 「まぁ、あんたはとっととキリヤの格納庫に入りな」 『わかりました。・・・・・・あれ?でも、姉さんは―――――まさか!?』
「あん?決まってるじゃないかい。あたしら次元海賊「暁」を襲ったやつらにお灸を据えてやるのさ」 舌舐めずりと同時に彼女は左手に握っていたスラストレバーを押し出し、EXギアとかいうバリアジャケットから機体に嘗てクラスSと言われて持て 囃された自分の魔力を供給。MM(マイクロ・マジカル)リアクター(小型魔力炉)から増幅して出力した青白い粒子をノズルから噴射した。 『ちょっ、姉さん!』 「うっさいね、ちょっとは楽しませなさいよ!」 機体は民間機であるためMMリアクターを積んでいないVF−1Cに合わせていた出力からミリタリーパワーとなって、戦闘空域へと先行していった。 (*) 彼女の乗るVF−11の試作機YF−11Aはキリヤ上空を占拠していたガジェット7機に対して、搭載されていたミサイルポッドのMHMMをすべて斉 射。32発にも及ぶ弾幕は1機につき4発以上という大盤振る舞いであったため、いかがミサイル妨害装備を搭載したガジェットと言えど分が悪すぎ る。 7機のうちキリヤ攻撃のアプローチに入っていて逃げ遅れた3機がその身を海洋汚染の材料とし、残りの機体も一時退避を決め込んでキリヤ上空 から離脱していった。 (無人機のくせに損失が怖いと見える・・・・・・) よほど高価なものなのだろう。と彼女は思う。 次元海賊と言えど武装その他は供給元に頼っているため、それらを研究開発、さらには量産すら自前でやってのけるスカリエッティ勢にとってはあ れらが捨て駒でしかないことはわからなかった。 あの退避もゴリ押しせずに態勢を立て直してからの攻撃を選んで試験機体を出来るだけ多く残したかっただけで、他意はなかった。 しかし彼らはすぐにキリヤへと戻って来ることは叶わなかった。後方に置いてきたVFー1Cに寄り添う様に管理局の魔導士1人とバルキリー1機が 輸送船『キリヤ』までやって来て、砲撃で敵を散らし始めたのだ。どうやら先ほどまで中距離で火力支援をしていた部隊のようだった。 そこへ開いていた回線から通信が入り、ホロディスプレイが立ち上がった。 『この空域での作戦行動を任されている時空管理局機動六課の八神はやて二等陸 佐です。大使の護衛機とお見受けしますが、確認のため機載のIFF(敵味方識 別信号)の起動、もしくは貴官の所属を述べてください』 開いた画面の中で、佐官にしては若い小娘が淀みなく告げる。 調べた限り現在武装したバルキリーは例外なく管理局の所属であるはずなのでこの質問は道理だったのだが、もちろん応えられるわけなかった。 しかし答えあぐねていたところで、あちらに1本の連絡が入った事で追及が止まった。 『―――――え、なんやて?内閣府から?至急で?すみません、ちょっと失礼します・・・・・・』 音声がミュートになったのか相手の声が聞こえなくなる。この場で管理局とガジェット達の両方を相手取って戦うのは勘弁と思っていた彼女として は、願ってもないだろうチャンスを無駄には出来ないとVFー1Cに秘匿回線を開いて 「今のうちにキリヤに乗り込むんだよ」 と指示した。 キリヤの上部ハッチが開閉し、VFー1をその腹の中に収めて行く。甲板上部に開いた搬入口は1つしかないので、自分はまだ乗れそうになかった。 一方画面の向こう側では声は聞こえぬが相当白熱しているようだ。確かはやてと言ったか、その小娘が怒りもあらわに通信相手に怒鳴っている。 唇を読もうとしたが、「武器輸出を容認する〜」まで読んだところで気づかれて映像回線も保留にされてしまった。
時間が過ぎて行く――――― 変わらない「少々お待ちください」との文字と、MTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)のロゴを映し出した画面を見つめていても仕方ないと周囲に視 線を投げる。 今キリヤ上空には3人の魔導士と1機のVFー1Bが旋回しつつ敵を近づけぬよう防衛線を張り、狙撃仕様らしいVFー11はVFー25の援護を近距 離にて行っていた。 狙撃仕様で近距離戦闘とはこれいかに?と思ったが、VFー25とガジェットは互いの高機動ゆえに至近距離で戦闘を行っていて、遠距離狙撃など 出来なかったようだった。 (あんな重そうなライフル持ってるのに、いい動きするじゃない) その動きは自分が知っているような狙撃屋(スナイパー)の動きではなかった。 ある時はファイターで間合いを詰めたかと思うと、敵の攻撃をガウォークの立体機動力とバトロイドの耐弾性で無力化する。そして追い詰めた敵を 一撃必殺の青白く輝く砲弾で貫き大海原に沈めていく。 重い獲物であるライフルはうまく機体の推力で打ち消すことで、その質量を感じさせなかった。 これこそなのはがさくらに教え、アルトの指導の下バルキリー用に昇華させた近・中距離機動砲撃戦術の一端であった。 そんな戦闘を眺めていると、キリヤから通信が入る。VF−1の収容が完了したので、このVF−11も収容してとっとと逃げようという要旨だった。 「わかった。ここに残る道理もないし、とっととずらかろうかい!」 答えるとともにキリヤの甲板にガウォークの機体を下ろすと、格納可能なファイター形態に可変して翼をしまい込む。その間にも搬入口からノーズ ギア(機首の車輪)を引っ張る形式の牽引車がやってきて、慣れない機体のそれとのドッキング作業に躍起になっていた。。 上空の管理局部隊は武装したバルキリーを他国の民間船に乗せようとしていることで戸惑っているようだったが、ガジェットのキリヤに対する攻撃 も未だ止ま無いこともあってか別段行動までは起こそうとはしなかった。 「何してんだい早くするんだよ!」 キャノピーをあけて手下どもに怒声で発破をかけるが、その解答は想定外のものだった。 「規格が合いません!!」 「はぁ!?わざわざ管理局の規格に合わせたもの持ってきておきながらそんなことないでしょうが!!さっきのVF−1だって―――――」 「あれには合ってたんですが、これとは違ったんです!!」 彼は言うなり艦の修理に使う溶接具を持ちだしてきた同僚たちとノーズギアを簡易溶接で繋ぎ始めた。 彼女達は知らなかったが、彼女が持っていきたYF−11Aはその型番が示すようにVF−11の試作機としては最初期型。そのためこれは技術開発 研究所製だ。 その頃オーバーテクノロジーの全容を測りかねていた管理局の技術者たちはアルトの講釈で「何でもないように見える構造にも、オーバーテクノロ ジーではなんらかの意味がある場合がある」と言われ、その試験機としてもこのYF−11Aをノーズギアなども含めてすべて第25未確認世界の設 計図通りに作ったのだ。 これのおかげでオーバーテクノロジーに対する理解の向上と、エンジンの大出力化などVFの改良に大きく貢献していたという。 そんな理由のおかげで第25未確認世界の規格だったそれを彼らはなんとか簡易溶接で無理やり牽引車に繋げると、搬入口に引っ張り始めた。 ・・・・・・しかし少し間に合わなかったようだった。 開いていたホロディスプレイに光が戻り、先ほどの小娘、八神やはてを映し出す。 反射的に身構えた自分にはやてが告げる。 『ご安心ください。これは秘匿回線です。我々以外は聞いていません。・・・・・・あなたはハルピン・ギャビロフ特務一佐ですね?失礼しました。機動 六課一同は貴官の任務の成功をお祈りしております。以上、交信終了』
「え・・・・・・?」 突然本名を言われたかと思えば、謝られてさらに敬礼までされて送りだされてしまった。てっきり偽装がばれて袋叩きに会うものだと思っていたの でまったくの寝耳に水の対応に逆に戸惑う。 確かに自分には時空管理局での従軍経験がある。調べればそのギャビロフなる人物は第三一管理世界出身で最終階級は三等海佐だったとわか るだろう。しかしもう10年も前の話だし、当時艦長をしていた本局のML級強襲巡航次元航行艦『カトリーヌ』ごと謀反を起こして次元海賊「カトリー ヌ」を立ち上げてしまっていた。 (確かあの事件は、事故での喪失扱いで決着したって聞いたわね・・・・・・) はやてがこちらの本名を知っているところから察するに、その接点を利用してか内閣府に潜っている工作員が上手いこと話をでっち上げたのだろう。 (さすが先代、こんな工作員を送り込むなんて優秀ね・・・・・・私はあの人を越えなきゃいけないのか・・・・・・) 次元宇宙に主義も主張も違うが、数多ある次元海賊の中で自分の所だけが唯一管理局のミッドチルダ中枢に工作員を擁している。 それは自分が立ち上げた次元海賊「カトリーヌ」を吸収した次元海賊「暁」の首領であった彼がその類稀なる才覚を持って潜り込ませた人員だった。 そして今回の作戦のキモとなった輸送船『キリヤ』もその先代が盗み出してきたものだった。 (ほんと、敵わないわね・・・・・・) 搬入ハッチ閉鎖。そして手下たちが機体を床にロープで固定すると、輸送船『キリヤ』は深く静かに次元航行へと移って行った。 (*) 次元海賊の輸送船『キリヤ』を取り逃がしたが、ここまでの本来の目的は改良型の試験。作戦は成功だ。 しかしそれは彼≠ノとって、望んだ経過とは違っていた。 (「管理局め・・・・・・出てきたら落とさない程度に返り打ちにしてやろうと思っていたが、侮れないな・・・・・・特にVF−25のパイロットは・・・・・・」) あれだけのミサイルを叩き込んでおきながら撃墜することかなわず、結局喪失した友軍の半数以上が奴の手に掛かけられて落ちていたのだ。 (「本来なら管理局に目標を変更するところだが『ここからは僚機のガジェットは本来のAIに任せて、管理局との戦闘による撃墜の試験データを 収集せよ』とは酷な命令をしてくれる・・・・・・!」) せっかく生き延びさせた24機の内の9機。そのうちほとんどを見捨てなければならないのだ。 (「仲間意識か・・・・・・」) それぞれのAIの修正は自分で行った。それは自分以外の24機すべてを遠隔管理するのは不可能なため、命令に従うようにしたり、自分のデータをもとにチャフ・フレアを使った攻撃の回避方法の知識をインプットするだけの作業だ。 しかしそれは人間でいうと新兵に訓練を叩き込む教官のような作業だった。 全機が試作機だったことからスラスターの位置が試行錯誤のためバラバラに配置されていたりと、画一化されていなかった。このことからある程度 それぞれの機に思い入れができてしまっていたのだ。 もっとも「ユダ・システム」である自分も創造主、スカリエッティから自我を持つよう改良されなければこんなことは考えなかったはずだった。 まだ生まれて間もない彼は250ミリ秒間、自分が第25未確認世界で活躍する兄弟達のように完全な戦闘マシーンとして生まれ出ることができなか ったことを悔やむ。そして自分のような存在は作るのには手間がかかりすぎて現実的でなく、こうすることによって正規のAIが改良されて生存率が 上がるのは喜ばしいことと思いなおした。
キリヤを守っていた敵部隊が徐々に活発な活動を再開し、支援砲撃も始まった。 ガンガン被弾する友軍機。 彼には口はないが舌打ちすると、友軍1機を伴ってホログラムで光学迷彩を展開。撤退しながらの試験データ収集を開始した。 (*) 『ライトニング1、2機目を撃墜。さくらちゃん、援護ありがとう』 『いえ。次、左下方です』 『了解!』 キリヤの戦域脱出によってガジェット側にとって消化試合になったのか、特に目的意識もないように見えるU型改の撃墜は極めて順調に推移していた。 そんな中で1人、早乙女アルトはあることを不審に思っていた。 (おかしいな・・・・・・2機足りないぞ?) その内1機はあの気を感じた観測機器を外装した機体だった。 (もう落としたのか・・・・・・?) しかし以外な形でその2機は見つかった。 『こちら『ホークアイ』。そこから10キロの地点に転送魔法陣、8キロ地点には迷彩を解除したらしいガジェットを2機確認。空域から逃げるつもりらしい』 成層圏から撮った2機の高解像度写真が表示される。そこには彼が最も警戒する観測機器が外装された機体が混じっていた。 「ッ!?アイツ、逃がさん!!」 言うが早いかスラストレバーを全開。煌めく尾を引く流星となったVF−25は2機に瞬時に追いつくと、普通のガジェットの方へと攻撃を加える。 ガンポッドの曳光弾が赤い線となって目標に伸びていく。 しかしこちらはあの機体の制御下なのか、他の置いてきた8機と違ってその動きは鋭かった。 ガンポッドの火線を左右にブレイクしてかわしたかと思うと、オーバーシュートしたこちらに2方向から同時にミサイルを発射。ミサイルに挟まれる形 になったVF−25はその場にチャフ、フレアを撒きつつ右ロールして上昇をかける。とどのつまり右下降旋回するVF−25はその軌道を継続しなが らバトロイドに可変、足の噴射を操って身を翻す。 目前には各種欺瞞装置に騙されなかったミサイル群。人の形となったVF−25の2本の腕に保持されたガンポッドがそれらをしっかりと捉えていた。 「ディバイン、バスター!!」 熱血マンガよろしく技名を叫んで射出された青白い魔力砲撃は、防備ゼロの小型軽量ミサイルを薙ぎ払い、その向こう側にいたガジェット1機をも巻 き込んだ。 魔力砲撃とは言えクラスSに増幅されていたそれはガジェットの転換装甲をも貫き、機体を焼き尽くした。 「あとはお前だけだ!」
「あとはお前だけだ!」 バトロイドからファイターに可変する過程で機首を敵へと向け、突入した。 この勝負受けるかと思いきや、敵は急降下。海面へと落ちていく。 「ちっ!」 操縦桿を倒して無理やりスピリットSを実行する。刃物のような鋭角の軌道を描いて反転したVF−25は海面へとまっしぐらのガジェットの後ろにつ き、実体弾の雨を見舞う。が、次の瞬間にはその視界から消えていた。 スラスターによってコブラ機動に突入。一気に速度を落とし、こちらを前に放り出した結果だった。 しかしこちらも指をくわえているわけがない。海面すれすれでガウォークへと可変したVF−25は水上をターンしながら右腕1本で保持したガンポッド を薙ぐように撃ち放つ。 高度20メートル程度の低空を遷移するガジェットはそれをロール機動で回避して見せると、1キロ先まで迫った転送魔法陣への再加速を図った。ア ルトもそれに続いてファイターに可変しつつスラストレバーを跳ね上げる。 加速する両機は白い音速の壁を突き破ると、一転上昇をかけてシザースと呼ばれるDNAのような螺旋機動をしながら互いの後ろを取ろうする。 そこで再びアルトはガジェットを見失う。スラスターを使った姑息な予測軌道ずらしだったので見失った時間は1秒に満たなかったはずだが、後方を 取った敵がこちらを照準するには十分な時間だった。 ミサイル警報。数は6発。 VF−25は推力偏向ノズルを上に蹴り上げて胴体を下げ、機首を上向きに。そのまま進行方向と逆に機首を持っていくと、同時進行で生成していた 機体周囲の魔力球10個が活性化する。 「当たれ!」 視線ロックで敵ミサイルをロックオンしたハイマニューバ誘導弾が、デバイス「メサイア」の誘導に従ってそれらとの正面衝突を果たした。 ミサイルを持たぬこちらがまさか正面から迎撃するとは思っていなかったのだろう。ガジェットが勢い込んでミサイルの後追いにやってきて、ミサイル に当たらなかったハイマニューバ誘導弾を2発ほど受け止めながらVF−25の脇を通り抜けて行った。 即座に反転。そこにはガジェットの無防備な背中があった。 照準。ファイア――――― ガンポッドからそれが撃たれる前にガジェットが魔力爆発に包まれた。 (*) 彼は満身創痍になった体と、損傷によってブラックアウトした機能を復旧、もし くは再起動していく。 攻撃の直前でミサイルの自爆による目くらましをした甲斐あって、ハイマニューバ誘導弾と自爆のミサイル分の被害ですんでいた。被害は破片がユ ダシステムにも関連する部分まで抉るなど決して軽くないが、それでもVF−25の58mm弾を受けるよりはましだっただろう。 壊れかけた後部カメラには、こちらを見つけなおしたVF−25が向かってきているのが見えた。 損傷の衝撃で混乱する彼はそれを焼き付けるように記憶しながら開いていた転送魔法陣に突入、空域からなんとか脱した。 (*) 10分近く空域を警戒飛行した迎撃部隊だが、増援の様子はなかったため来たときと同様の手順で撤退を開始した。
(*) 帰還途上 「これより滑走路へのアプローチに入る。ランディング予定は5分後」 『了解アルト一尉。―――――時間も時間なので、静かにお願いしますよ』 「わかってるよ」 ささやき声で補足するロングアーチスタッフ、ルキノ・リリエ通信士にうんざりしながらも応える。もともと自分は六課所属。周辺住民が騒音に対して どれほどうるさいのか身に染みていた。 いままで魔導士という無音の存在が当たり前であったため、昨今の特に軍用であるバルキリーの騒音は彼らにとって未知との遭遇に近い心理的 ショックを与えていたのだ。 しかしこれほどの質量を持つものを音速以上で飛ばそうというのだから、やむを得ぬ対価であることもまた事実であった。 ともかくアルトはスラストレバーを必要推力ギリギリに設定すると、先ほどから聞きたかった事柄を問い詰めることにした。 「所でロングアーチ、あの輸送船はどこに向かったんだ?というよりなぜ武装したVF−11が民間船に?」 アルトの問いに対して、ルキノでなくはやてが応える。 『あの船の動向については管理局法第32条E項において機密とします。いくらアルトくんでも教えられん』 「第32条のE項?」 聞きなれない条項に視線が泳ぎ、バックミラーに映る優秀な同僚に収束する。 「えっと・・・・・・第32条が「機密」についての条文で、E項は確か「機密に当たる作戦行動」・・・・・・だったかな?」 『さすがフェイトちゃん。アルトくん、ともかくこれは管理局の作戦行動やから、心配せんでも大丈夫やで』 「おまえがそこまで言うならいいんだが・・・・・・」 そこへはやて達と一緒に指揮所で缶詰めになっていると思っていたロングアーチスタッフであるシャーリーが扉から現れる。しかし――――― 『どうしたのシャーリー?』 誰が見てもその挙動不審に気づけたようだ。VFー11Gに乗るなのはが問う。 「えっと・・・・・・皆さんが戻って来てから伝えます・・・・・・」 そう言い残してそそくさと指揮所を後にした。 「なんだ?」 『う〜ん・・・・・・はやてちゃんは何のことかわかる?』 「さぁ、どうなんかなぁ〜」 どうやら知ってはいても教えてくれる気はないようだ。個人的なことだろうか? その場でアルト達には何だろうと顔を見合わせることしか出来なかった。 (*) 10分後 「え〜!? ダメだよシャーリー、人の過去勝手にばらしちゃあ!」 六課に帰還してすぐ伝えられた事実に思わずその言葉が口をついて出た。
なんでもティアナ達に教導の意味を教えるために自分の撃墜の話をしてしまったのだと言う。 「ダメだぜ、口の軽い女はよぅ」 バルキリーから降りて何事かと見に来ていたアルトが愚痴る。普段の彼のセリフとは思えなかったが、なぜだが違和感はなかった。 「あの・・・・・・その・・・・・・見てられなくて・・・」 シャーリーは頭を下げるが事態はそんな簡単ではない。自分の撃墜に関わる情報は管理局内では未だに『TOP SECERT(最高機密)』であり、違 反すれば問答無用で軍法会議になりかねない。 それも機密に関わることなので完全非公開で行われ、どうなるか全くわからない。 だがなのはは、この中に告発するような者はいない事を知っていた。 なぜならこれが機密である事を知っているのはフェイトとヴィータ、そして自分だけだったからだ。 アルトやさくらも─────いや、教導の卒業者には教訓≠ニして話していたし、完全無欠に無関係な天城君は 「(ドラマの)続きはどうなった!」 と叫んで既に宿舎に飛び込んでいた。 (もう・・・・・・) ため息をつくと、頭を下げて両手を合わす困りものの友人に再び目をやった。 (仕方ない。言うのが少し早くなっちゃっただけかな) 思いなおした彼女はシャーリーからティアナの居場所を聞き出すと、義務付けられている報告を済ましてそこに向かった。 (*) 機動六課敷地内 桟橋 ティアナはこの場所が好きだった。 夜風に吹かれながら明るい月と対称的な暗い海とを眺め、涼しげな波音を聞けるこの場所が。 普段は訓練が終了して2,3分ほどゆっくりしていく場所だったが、ここへ来てもう20分。まるで不思議な魔法がかかったようにその場を動けずにいた。 早く強くなりたいと思っていた。だけど、間違ってるって叱られて、隣を走る相棒にも迷惑かけて悲しい思いをさせた。 これらの出来事は彼女を深く落ち込ませた。 (それに、私は結局・・・・・・) (*) 「ティア・・・・・・」 彼女から『独りにして』と言われていたスバルだが、遠く離れた茂みに隠れてエ リオ、キャロと共に彼女を見守っていた。 そこに数人の闖入者が現れた。 「アルト先輩?」 スバルの疑問形の呼び掛けに、彼は無声音とジェスチャーで 「よ!」 と挨拶する。その後ろでもさくら、そしてシャーリーが
「こんばんは」 と会釈した。 どうしたのか聞こうとしたスバルだが、ティアナの声が聞こえてきたため中断さ れた。 『なのは・・・・・・さん?』 振り向いたティアナの視線の先を追うと、軽く手を後に組んだなのはの後ろ姿が あった。 (*) なのははそのまま自らの隣に座り込み、涼しむように、明るい月が暗い海に沈んでいく幻想的な風景を眺める。 そんな沈黙が10分ほど・・・いや20秒ぐらいの事だったかもしれない。ともかく、その沈黙に堪えられなくなって口を開く。 「・・・あの、シャーリーさんやシグナム副隊長にいろいろ聞きました。」 「なのはさん≠フ失敗の記録?」 「え・・・・・・」 てっきり「なんの話?」と聞かれると思っていたティアナは少し狼狽する。 「あ、いえ、そうじゃなくて─────」 ティアナは自らの思考力が上手く回っていない事を改めて実感した。なのは達が帰投してからそれなりに時間が経過しているのだから、シャーリー でもシグナムでも聞く機会があったはずだ。 そんな簡単なことすら失念していたことにティアナはすこし可笑しくなった。 「無茶すると危ないんだよって話だよね」 なのはの確認に、ティアナの頭ではさっきの話がフラッシュバックする。 普通の、魔法すら知らなかった9歳の女の子が、魔法をその手にしてすぐに死闘を繰り返した。 少女はその後も自分の信念と守りたいもののために「早く強くなろう」として命懸けの無茶をし続け、遂には撃墜され、瀕死の重傷を負ったという話。 その少女が目の前にいるなのはであると聞かされたティアナの解答は、1つしかなかった。 「すみませんでした・・・・・・」 なのははそんなティアナに頷き1つを返した。 (*) 「じゃあわかってくれたところで聞くけど、ティアナは自分の射撃魔法をどうして信じないの?」 「それは・・・・・・兄を最後の最後で守りきれなかった魔法だから・・・・・・」 ティアナと彼女の兄ディーダ・ランスターの射撃魔法は少し特殊で、通常の半分以下の大きさの魔力球(魔力弾)を使用する。これは誰も使えない から特殊というわけではなく、練る魔力量が少ないため6〜8歳の子供が普通の魔力球の練習のために使う。 つまり、リンカーコアがあるものなら誰でもできるという事だ。 しかしほとんどの場合で真っ直ぐにしか飛ばず、誘導性能や機動力など汎用性に優れた通常の魔力球には到底及ばないため使われないのだ。 しかしディーダはこれを究めることによってそれを練習用から実戦レベルにまで引き上げた。 練る魔力量が少ないということはそれだけ早く生成でき、小さいということは空気による減殺が少なくなり、より遠距離に届く。 また、真っ直ぐにしか飛ばないというのは最高クラスの信頼性の象徴であり、なのはの砲撃ですら反動で多少のブレが出る。つまり戦場の原則で ある『敵より早く、敵より遠くから、敵より正確に狙い撃つことができる』そんな技だった。 事実彼の技術は陸士部隊の目に止まり、装備改編前に負担の大きい魔力砲撃に代わる主力攻撃方法となっていた。 閑話休題
「そっか・・・・・・でも模擬戦でさ、自分で受けてみて気づかなかった?」 なのはの問いかけの意味が分からず首を捻る。 「ティアナの射撃魔法って、ちゃんと使えばあんなに早く撃てて、当たると危な いんだよ」 「あ・・・・・・」 「私は今まで一度もティアナとは撃ち合ったことはないでしょ?だって正面から早打ち勝負したら絶対ティアナの方が早くて正確に当たるから。だ から、そんな一番いいところをないがしろにしてほしくなかったんだ。・・・・・・まぁ、でもティアナの考えたこと、間違ってはいないんだよね」 なのはは言うと、隣に置かれていたティアナのデバイス『クロスミラージュ』を手に取る。 「システムリミッター、テストモードリリース。高町なのは一等空尉。承認コード、NCC−1701A」 『OK,release time 60 seconds.(承認。解除時間60秒。)』 解除を見届けたなのははデバイスを起動状態にし、ティアナに渡す。 「命令してみて。モード2≠チて」 ティアナはそれを受け取ると、おそるおそる指示を出す。 「モード・・・・・・2」 直後銃全体がオレンジ色に瞬いたと思うと 『Set up.dagger mode.』 という復唱と共に変形していく。 フロント・サイト(照星)の付いたマガジンを兼ねるグリップと、ピストルグリップ辺りで折れ・・・いや、折れていた物を引き起こしたというほうが正しい。 ともかく、引き起こされて真っ直ぐになった銃身は、ピストルグリップの下から魔力刃で覆うようにして銃口までつながる。 そして最後に銃口から、自らが作戦時無理やり作った魔力刃より大きなそれが、まるで短剣のように伸びた。 「これ・・・・・・」 自らの相棒の変貌に目を白黒させるティアナになのはは説明する。 「ティアナは執務官志望だもんね。ここを出て、執務官を目指すようになったらどうしても個人戦が多くなるだろうし、将来を考えて用意はしてたんだ」 ティアナは規定の60秒が経ったのか元に戻ったクロスミラージュを握りながら涙する。そんな彼女になのはは続けた。 「クロス(近距離)はもう少ししたら教えようと思ってた。でも出撃は今すぐにでもあるかも知れないでしょう?だからもう使いこなせてる武器と魔法を もっと確実なものにしてあげたかった。だから1つの技術を身につける事が目的のさくらちゃんとは違ってゆっくりやってたんだけど・・・・・・ゆっく りって地味だから、あんまり成果が出てないように感じて、苦しかったんだよね。・・・ごめんね。」 「ごめん・・・・・・なさい・・・・・・こんなに私のために準備してくれてたのに・・・・・・私、なのはさんの期待に応えられなかったみたいで・・・・・・」 「・・・・・・え?どうしてその結論!?」 「だって2発目の砲撃、なのはさん、結構本気で私を落としにかかったじゃないですか!」 「ああ、それは・・・・・・」 なのはにとって触れたくなかった、できれば触れずに行きたかったこの事柄。しかし残念なことにティアナはその事実に気付いていたのだ。 もし彼女が事前に彼と接触せずにこの場面に遭遇してしまっていたら、バレまいと思って彼にしたときとまったく同じ嘘をついて煙に巻こうとしただろう。
(なんてバカだったんだろ・・・・・・私・・・・・・) この分では自分の教える優秀な生徒達の前では、彼にしたような嘘を見破るなど児戯にも等しきものだったようだ。 だからなのははそれを教えてくれ、さらには受け止めてくれた彼に改めて感謝した。 「ごめん!実は・・・・・・あれは私のせいなの!」 なのははすべてを話した。 彼女自身から湧きあがった黒い考え、そしてそれに至った理由を。 ティアナはこの告知を少し驚いた様子だったが静かに聞き入り、最後にはどこか嬉しそうな表情へと変わっていた。 こうなると納得出来ないのはなのはの方だ。自分は最悪の場合ティアナ自身の魔導士生命に終止符すら打ちかねない行為を教官の身の上で行っ たのだ。批難される事こそあっても、その様な表情を浮かべられる場面では無いはずだっだ。 「落ち着いてるんだね」 「はい。だって、私の前にそれを怒ってくれた人がいるみたいでしたから」 「それってーーーーー!?」 「私、宿舎の屋上から見たんです。なのはさんとアルト先輩が言い争ってるのを。・・・・・・先輩すごいですよね、あんなに離れてたのにちょくちょく何 を言ってるのか聞こえるって」 「・・・・・・」 「その時は断片的過ぎて先輩がどうしてあんなに怒ってたのかよくわからなかったんですけど、やっとわかりました。なのはさん、たぶんアルト先輩 に嘘をついたんですよね?」 ティアナにどこまで聞かれていたかわからない以上、嘘を重ねても仕方ない。なのはは正直に頷く。 「でも、今話してくれた話は本当の方だった。だからちょっとびっくりしましたけど、なのはさんがちゃんと私と向き合ってくれてるってわかったらうれしくって」 その顔にウソはない。その事実になのはは安堵したが、彼女のセリフはまだ終わっていなかった。 「・・・・・・でも、やっぱりちょっと強引だと思います。不発だったからよかったですが、もし撃ってたら私、ここにいられませんでした」 こちらの心情は察してくれたが、さすがにティアナもあの砲撃を無条件に看過することはできなかったようだ。 そこでなのははひそかに温めていたできれば切りたくなかった打開策のカードを使うことにした。 「ごめんね・・・・・・・それで考えたんだけど、ティアナ言ってたよね?さくらちゃんみたいな教導をしてほしいって。もしティアナが望むなら明日からで もできるけど、どうする?でも私は・・・・・・あー、もちろんティアナ達全員をどこに出しても恥ずかしくないエース級のAランク魔導士にしてみせるよ! だけど私ね、あなた達には―――――!」 「いいですよ、このままの教導で」 ティアナは言うと、座り込んでいたポートから立ちあがって清々しそうな表情で大きく伸びをする。 「本当言うと私、なのはさんに煙たがられてる、手を抜かれてるって思ってたんです。でも、全然そんなことなくて・・・・・・。だからもう、そのことはい いんです。それに今の様子だと、この教導には普通とは違う秘密があるみたいですし」 「にははは・・・・・・」 危うく言いそうになったが、立場上はにかみ笑いで応える。しかし内心切り札のカードの無力化に焦っていた。 「(これ以上私がティアナにしてあげられることなんて・・・・・・)」
「そこで私から一つだけお願い、聞いてもらっていいですか?」 「なに・・・・・・かな?」 脳裏を最悪の可能性が過る。 小さきは自らの職権の乱用、果ては犯罪まで。ティアナがそんなこと願うわけないと思ってはいても、彼女の魔導士生命を奪うかもしれなかった対 価としてはそれも止むをえぬとも思えてしまっていた。 だからティアナの次の言葉を聞いた時、なのはは心底安心したという。 「もう一度、模擬戦を受けさせてください!」 なのはは自らの生徒の純真さと安心感に万感の思いをもって頷き、それに応えた。地平線の先に見えていた月は軌道の影響で沈まず、新たに 登ったもう1つの月とともにクラナガン湾を照らしていた。 (*) スバルには2人の会話は聞こえなかったが、どうやら和解できたようなのでそっと胸を撫で下ろした。 そんな彼女の肩がとん≠ニ叩かれる。振り返るとさくらが昨日と同じジェスチャー≠していた。 その意味を即座に理解したスバルは頷くと、ここにいたギャラリーと共にその場から撤退した。 (*) なのは達が戻ってきたのは10分後だ。2人はロビーに入るなり驚く。 「よぅ、遅かったじゃねぇか」 婉曲語法で2人を迎えたヴィータの手には数枚のトランプが握られている。 また彼女だけでなく、シグナムやシャーリー、アルト、さくらにフォワードの3人と総勢8人が1つの机を囲んで同じようにトランプを握っていた。 「・・・みんなどうしたの?」 しかしなのはの問いはアルトの宣言でかき消された。 「いざ、革命!」 放られる1枚のジョーカーに3枚のファイブ。しかし上には上・・・・・・いや、下には下がいた。勝ち誇った顔をするアルトの前に4枚のスリーが放られ たのだ。 驚愕するアルトに放った主が厳かに告げる。 「勝ちを急ぎすぎたな大富豪よ」 シグナムは微笑を浮かべると8切りして4を投げると1抜けした。 盛者必衰。アルトは一気に都を追われることになった。 悔しげに項垂れるアルトと大富豪に興じる人々。なのはとティアナは石像を続けていると、背後の入り口の扉が開いた。 「お、やっとるやっとる〜」 現れたのは何か箱を持ったはやてとフェイトだった。箱にはビンゴ抽選機≠ニある。 「いったい何事なの?」 なのはのその問いに、はやては笑顔で答える。 「さくらちゃん発案のビンゴ大会や。・・・・・・おーい!みんなこっから1枚とってな」
はやての呼び掛けに大富豪に興じていた人々がわらわら集まって来て、ビンゴカードの束から1枚ずつ引き抜いていく。 「さぁ、ティアナさんもなのはさんもどうぞ」 空気から取り残されていた2人もさくらに招き入れられ、和やかな、そして楽しげな人々の輪の中に入っていった。 (*) そのビンゴ大会はひどく白熱した。賞品として先着3名にゲームに参加した者なら一度だけ言うことを聞かせられる王様カード≠ネるはやて特製 の手作りテレカが手に入るためであろう。 途中ロビーに来た天城が司会進行を申し出たり、ヴィータがビンゴ抽選機(取っ手を回して番号のついたボールを出す機械)を盛大回して誤ってぶ ちまけるハプニングがあったりと波乱を巻き起こした。 しかし誰の顔からも笑顔は片時も消えず、階級などない学校のレクレーションのように和気あいあいと進行した。 そしていろいろあって何度か振り出しに戻り、3枚目になってしまったビンゴカード。おかげでまだ勝利条件であるトリプルビンゴに到達した者はいな かった。 「─────54番!さぁ、誰かいませんかぁ!」 天城がハイテンションで転がり出た球の番号を読み上げる。それに1人の少女がニヤリと微笑んだ。 「ふ、みんな済まねぇな。トリプルビンゴだぜぇ!」 ヴィータが雄叫びと共にカードを持った右手を突き上げた。 そして天城から王様カードを受け取ると、ビシッ≠ニアルトを指差した。 アルトは自らの一列も埋まっていないカードを見て覚悟を決める。 そしてヴィータは王様カードをどこぞの長者番組の紋所のように彼にかざすと、高らかに宣言した。 「早乙女アルト!私と明日勝負しろ!」 極めてヴィータらしい命令にアルトはため息をつく。今や彼の方が上官なので拒否権がないことはなかったが、余程と言える断る理由が思いつかな かったようだ。 「仰せのままに・・・・・・」 体の演技こそ王妃に従えるナイトのようであったが、不服そうに答えたという。 (*) その後また振り出しに戻るなど激闘が20分ほど続いてようやく残りの2枚の行き先が決定した。 それはどういう因果かティアナとアルトであったが、2人ともすぐには権利を行使せず、夜も遅かったのでそのまま解散する事になった。 (*) 次の日 スターズ分隊の再模擬戦は、引き分けに終わったライトニング分隊の後に行われた。 2人の機動は訓練通りだが、クロスシフトAからBや、BからAの変更の流れは滑らかで、なのはをずいぶん手こずらせたという。 そして───── (*) スバルの連続攻撃とティアナの間断ない誘導弾の攻撃を受け、白いワルキューレは遂に地上に引きずり下ろされた。 しかし地に足を着いた彼女の砲撃力はそれでも強力であり、高度の優位に立ったスバルでも近づけなかった。 だがそんな彼女の前に虚空からティアナが現れた。 この間合い、シールド展開は間に合わない。まさに一騎打ちの早撃ちの距離だ。
どうやら早撃ちなら勝てるという助言に忠実に従ったらしい。 だが───── (甘い!) なのはは魔法の起動の邪魔になるレイジングハートを右手に持ちかえると、利き手である左手の人差し指をティアナに向ける。 「クロスファイヤー、シュート!」 放たれる小型魔力弾。確かにティアナの射撃魔法は優秀だが、その魔法を模倣できないわけではない。 なのはとの勝負においては単純な魔法の起動時間の勝負ではないのだ。 (惜しかったけど残念だったね) なのはは勝利を確信した。しかしここは地上。つまりティアナのフィールドだった。 魔力弾はティアナを貫通して、そのまま彼女ごと消えた。 「フェイク(幻影)!?」 続いてレイジングハートが右から飛翔してきた魔力弾によって弾かれ、地面に転がった。 「え!?」 そちらを見ると、砲撃用魔法陣を展開したティアナがいた。 そう、何もかも罠だったのだ。 わざと目の前に出現して助言に従った一騎打ちが狙いであるようにアピールして見せたのも、なのはが砲撃を行わずいつもの癖でレイジングハート を持ちかえる(デバイスにプログラムされていない魔法を本体経由で使おうとすると、無駄に処理しようとして発動が少し遅れるため)のも、全てティ アナの狙いどうりだったのだ。 あたかも助言に従った演技をすることによって、本来レイジングハートによって飛行魔法などの面において優越するがゆえに、選択肢が多いはず のなのはの選択肢を完全に奪い取る老獪な罠。 なのはは急いでレイジングハートに駆け寄るが間に合わない! 結果として右手のビルの2階から放たれたオレンジ色した魔力砲撃が、無防備の彼女を直撃した。 (*) 「やったぁ!」 ティアナがビルから出てくると、彼女を迎えたスバルにハイタッチした。 なのはは晴れていく煙の中から姿を現すと、そんな2人に笑いかけた。 「うん。文句のつけようがないくらいいい戦いぶりだったよ。それに一撃どころか撃墜されちゃうとはね」 教官の面目丸つぶれだよ〜と彼女は嬉しそうに苦笑すると、遠くで観戦するライトニングの2人に集合の合図を放った。 (*) 「みんなお疲れ様。今日は午前までで訓練は終わりだけど、定期模擬戦のレポートを書いて今日の18時までに提出してね」 「「はい!」」 4人は今回引き分けか勝ちだったので気分は良さそうだ。いつもの訓練終了時と違って覇気があった。
「あと、解散前に私から渡すものがあります」 『何だろう?』という顔をする4人の前に、昨日渡すはずだった4冊の冊子を取り出した。 「今日は訓練開始から6カ月の節目の月だからね。これまでやってきた訓練の要点とかアドバイスとかをまとめてあります。暇な時でいいから目を 通してね」 「はーい!」 4人はそれを受け取ると、互いに目配せしながら指示もないのに整列した。 「え?・・・・・・みんなどうしたの?」 ティアナが代表するように応える。 「実は私達、昨日話し合って、なのはさんに伝えたいと思ってた事があるんです」 なのはからすると全く意表をついたものであり、何を言われるか少し心配したが、先を促す。 すると4人は声を揃えて合唱した。 「「半年間ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」」 それはまるで小学生のようなお礼の言葉だったが、心がこもっているためノー・プロブレム。 なのはは最上級の笑顔で 「こちらこそ」 と応えた。 この時、なのはは照れ笑いする自らの教え子達を見て誓ったという。 『この子たちは絶対私の手でどんな状況でもあきらめずに打破できるような一流のストライカーにして見せる。他の生徒のように短期ではできなか ったけど、この子たちなら絶対大丈夫。だから何があっても、誰が来ても、この子達は落とさせない。私の目が届く間はもちろん、いつか一人で、そ れぞれの空を飛ぶようになっても』と。 (*) さて、昼頃から始まったアルトvsヴィータの模擬戦だが、一進一退の攻防をみせた。 そのため我慢出来なくなったさくらとフェイトが、続いて天城と シグナムが参戦する大演習となった。 勝敗についてはまた機会があれば記述したいと思う。 その2週間後、サジタリウス小隊の出張任務は解かれ、別れを惜しみつつフロンティア航空基地に帰投した。 ――――― 以上 投下終了。ありがとうございました
投稿オツデース 話数も長くなると繋げるのが難しくなってくるしね ところでフェイトちゃんはマクロスなのはでは「一等海尉」と第1話で出たけど 公式ではどの一尉相当に該当するのかしら…
>>68 「公式ではどの一尉相当」というのはどういう意味でしょうか?
僕が知る限りにおいて、公式の方の本局で尉官が使われているところは見たことがありません。(しかしフェイトさんの執務官に代表される呼び名
はどうも称号のような物らしいですし、本当はあるのかも知れません)
公式でも同じなんだろうと思いますが、マクロスなのはの世界では、本局は地上部隊と並んで時空管理局という組織の中の一部署ということになっ
ています。
日本で例えるなら、時空管理局が自衛隊。本局と地上部隊が海上自衛隊と陸上自衛隊です。
同じ組織であるなら階級もはっきりさせなくてはならないだろうと思い、フェイトさんにはなのはさんと同列の一等海尉という階級を付けました。
>>69 普通に公式で本局所属でなのはが一等空尉、ヴィータが三等空尉、グリフィスが准陸尉、はやてがStSの4年前に一等陸尉ですが。
ああ、そうだ、本局とで分かれてるの完全に俺の設定だった・・・・・・ ・・・・・・ごめんなさい。もう公式との区別がつかなくなってるみたいです。2年ぶりに原作見直して頭冷やしてきます・・・・・・orz
stsでのフェイトは本局執務官(一尉相当官)だったっけ?
あと地上と本局は陸自海自とかよりも 米常備軍と州防衛軍辺りが近いのかなぁ 対等な関係じゃないみたいだし
どうもです 本日19時半からEXECUTOR第8話を投下しますー
■ 8 第511観測指定世界に進出していたミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊は、旗艦であるRX級戦艦「リヴェンジ」に設置された艦隊司令部からミッドチルダ海軍クラナガン鎮守府へ向け、“ロストロギア発見”の報告を打電した。 この時点で、敵戦艦インフィニティ・インフェルノは惑星TUBOYから高度50キロメートルまで上昇していた。 重力の小さい惑星であるがゆえに、この距離でもう脱出速度を超えて、太陽周回軌道へ遷移しつつあった。 ミッド・ヴァイゼン艦隊の戦艦群も、敵戦艦に引きずられる形で惑星TUBOYの重力圏を脱出し、太陽周回軌道に入っての同航砲戦を行う。 敵戦艦の針路上にいた第5戦隊が、最初に接敵する。 インフィニティ・インフェルノの主兵装は荷電粒子砲と予想され、これは高いエネルギーを持った粒子を発射するので空間に散らばる原子を励起させ、弾道が尾を引いて見えることが特徴だ。 真空中における弾速はおよそ秒速22万キロメートル程度になる。 逆探知レーダーによる走査で、敵戦艦はロックオン射撃を行っていないと予想された。 つまり、目視砲撃である。 こちらも散らばった岩石の影響でレーダーの精度が出ず、条件としては五分だ。 旗艦リヴェンジより、第5戦隊へ応戦命令が伝達された。 ミッドチルダへは、発見したロストロギアの危険度を鑑みて応戦すると伝えている。 向こうも、これは承知していることだ。 ミッドチルダはそのように管理局へも報告するだろう。 そうなれば、管理局はここでの戦闘に対してとやかく言うことができなくなる。 「結界魔法によるかく乱を」 宇宙空間を戦場にした戦闘は、海上での砲撃戦以上に電子機器の性能が勝敗を決める。 数万キロメートルも離れていては、敵艦を肉眼で見ることはできない。 レーダーや、光学望遠鏡などで目標の位置を精密に測定しなければ、砲撃を当てることができない。 それは少なくとも現時点においては、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊も、インフィニティ・インフェルノも、同じ条件であるように見えた。 インフィニティ・インフェルノと真っ先に向かい合う第5戦隊は、隊列先頭に出ている戦艦群による結界魔法を放射した。 これは空間を歪ませることによって電波や可視光による観測を妨害したり、敵弾をそらしたりする効果がある。 次元航行艦の対空防御としては、最も長距離では誘導魔法により敵弾を直接狙い撃って迎撃、中距離ではこの結界魔法、そして近距離では迎撃レーザーやシールド魔法での直接防御、となる。 現代では次元航行艦同士が砲撃戦を行うケースはまれであるが、実際に戦艦同士で撃ち合うなら、この結界魔法で相手の砲弾をそらしきれなくなるギリギリのあたりが砲戦距離となり、それはおよそ10万キロメートル前後である。 また艦種類別としても、結界魔法を使用して10万キロメートルの距離から撃たれた自艦の砲撃に耐えられるシールドを装備することが戦艦の条件である。 防御魔法よりも長射程攻撃魔法を重視した現代艦では、巡洋艦の方が小回りもきいて何かと便利なため主に建造されている。 敵戦艦の荷電粒子砲は、こちらの戦艦主砲と同等かやや強い程度の威力があると予想された。 ただ弾体の性質をはっきりと測定できないので、実際に何かに命中するところを見るまでは確かなことはいえない。 「距離8000、全艦主砲発射可能射程につきました」 通信士が僚艦との連携を確認し、艦長へ報告する。 第5戦隊の戦艦は単縦陣をとり、インフィニティ・インフェルノに向かって右舷上方から斜めに交差する針路に乗っていた。 「各艦、各個に撃ち方はじめ。兵装と思われる箇所を発見した場合は各艦の判断で攻撃せよ」 戦隊長を務める艦長の命令により、第5戦隊に所属する12隻の戦艦が、順に主砲射撃を開始する。 射程距離内には既に入っているので、先頭艦から最後尾まで、長さ6000キロメートルの範囲から逆扇状に砲撃が敵戦艦に向かう。 次元航行艦が採用している主砲はフェーザー・ショックカノン魔導砲であり、これは荷電粒子砲に比べて弾道が細く見えるので、撃った側からは、砲身先端が光ってからしばらくして命中地点が爆発するというように見える。
12隻の戦艦から青いビームが放たれ、直後、インフィニティ・インフェルノの艦首部分で閃光が走った。 激しい爆発が周辺を巻き込んで広がり、炎の向こうに、めくれ上がる外壁が見える。 ダメージは与えている。各艦の艦長は、連続しての砲撃を命じた。 第5戦隊の位置からでは、敵戦艦は惑星ほどの大きさがあるようにも見える。大気がないため遠くの光もぼやけず、比較対象物がない宇宙空間では遠近感がなくなるためだ。 惑星表面から吹き上げられて漂う隕石が、時折砲弾に掠られて爆発している。 「艦長、敵艦転舵します、敵戦艦インフェルノ、機関増速、面舵全速で回頭中!」 「なに!?」 「敵艦、艦傾斜右15度、艦の腹側をこちらに……っ、艦長、敵艦艦尾が外側からまくってきます!」 インフェルノは旋回に伴い、メインノズルがある艦尾を大きく振り出す姿勢をとる。水上を航行する船舶が見せる現象である“キック”と原理は異なるが、挙動は似ている。 宇宙空間では水上船舶と同じような板状の舵は使えないため、サイドスラスターを噴射するか、エンジンの推力を偏向させることで船体を制御する。 このとき、推力中心のある部分が外側の軌道を通る。インフェルノはメインノズルが艦の後端部分に集中装備されているため、推力中心は極端に艦尾に寄っており、旋回時には艦首よりも艦尾の方が外側に振り出されることになる。 これは通常の次元航行艦でも起きている現象ではあるが、インフェルノのような巨大な船体では、キックによって振り出される距離も想像を絶するものになっていた。 艦首を見ていればじゅうぶんな距離があるように見えた第5戦隊だったが、彼らがいる場所をなぎ払うかのように、インフェルノの艦尾が猛烈な速度で迫ってきていた。 「全艦……ダウントリム一杯、面舵一杯!かわせ!」 まさか体当たりを仕掛けてくるとは予想外だった。 第5戦隊の戦艦群はエンジンを全開にして、インフェルノの船体下部へもぐりこんで回避を試みる。 上昇しようとした場合、惑星TUBOYの重力に逆らう形となり、また第5戦隊の艦が位置していたのがインフェルノの船体中心よりやや下側だったため、そのまま勢いをつけて突っ切ったほうが速いと判断した。 全速前進で、惑星TUBOYの崩れた地表が眼前に迫る。 重力で引かれることで加速をつけ、急速転舵を行う。インフェルノは、右へ旋回して、太陽へ向けた軌道をとろうとしていた。 「操舵手、舵から手を離すな!目一杯押し込め!」 次元航行艦を含めた船の舵輪は、押し込むことで下げ舵、引っ張ることで上げ舵に操作される。 第5戦隊の12隻の艦で、12人の操舵手が力と祈りをこめて舵を握る。 「敵艦、直上を通過!」 宇宙空間では、音はない。 無音のまま、秒速数十キロメートルもの相対速度でインフェルノが第5戦隊を掠める。大気中や水中を航行するときのような引き波は起こさないが、眼前すれすれを高速で通過するインフェルノの姿は、乗組員たちに強烈な衝撃を与える。 「っ、艦長、最後尾の『ラピッド』が敵戦艦に接触!落伍します!」 「クソっ!間に合わなかったか……!」 第5戦隊の戦隊長を務めていた先頭艦「ロイヤル・オーク」の艦長も、この事態に思わず毒づいた。 12隻の単縦陣を組む場合、艦の間隔を500キロメートルにとったとすると先頭から最後尾までは6000キロメートルになる。宇宙空間ではこれでもかなりの近距離である。 インフィニティ・インフェルノとの交戦開始距離がおよそ1万2千キロメートルだったので、これは宇宙空間における戦闘としては相当な接近戦ということになる。 作戦方針としては、敵の船体が巨大であれば小回りはきかないことが予想されるので、接近して機動力でかく乱するという戦法が考えられていた。 しかし、実際には敵戦艦は、たしかにそのスケールからすると動きは鈍いのだが、如何せん巨大なためにその鈍い動きでも、固有速度が途轍もなく速くなっている。 ゆえに、普通の船の操縦に慣れた船乗りであればこそ、敵戦艦とこちらの大きさの比を体感でつかみきれなかったのだ。 インフェルノの側はゆっくりした動きのつもりでも、次元航行艦の側からすれば超高速となる。
インフェルノの左舷艦尾に衝突したRX級戦艦ラピッドは、艦のほぼ中央部を圧し折られるようにして操縦不能に陥り、噴射されるインフェルノのメインノズルの炎に突っ込んで、艦橋と艦尾を吹き飛ばされた。 艦の前半部は残り、衝突した箇所で折れ曲がった艦体を回転させながら、破片を散らばして離れていく。 インフェルノのメインノズルからの噴射は、巨大なプラズマロケットエンジンであることが判明した。噴射炎を浴びたラピッドの船体が、高い電荷を持っていることを示す青白いスパークを上げながら燃えていた。 酸素のない環境で金属が燃えるということは、原子が数万度以上もの高温になることでプラズマ化していることを表す。 イオンエンジンというのは一般的に推力比を重視し推力そのものは小さいものであるが、これほど巨大なエンジンになると、その噴射される金属イオンの量も途方も無く、次元航行艦程度の質量ならはじき飛ばしてしまうほどの推力が発生している。 また、ノズルの形状から見た限りでも加速コイルが幾重にも直列で設置され、単位時間あたりの推力を重視した設計になっていることが見て取れた。 太陽の遠い光が、回転する破片を弱々しく照らす。 RX級戦艦の乗員定数は154名である。艦橋を含めた上部構造物はインフェルノのエンジン噴射をもろに食らって跡形も無く吹き飛び、おそらくCICにもダメージは及んでいるだろう。 インフェルノのエンジンがイオンロケットならば、ラピッドの艦内は一瞬にして2万度以上ものプラズマで満たされ、余すところなく燃え上がったはずだ。 ラピッドが描く軌道は、惑星TUBOYの重力の影響を受けてやや曲がり、第511観測指定世界の太陽系から離れる方向へ、宇宙の闇へ消えていく。 撃沈された次元航行艦の乗組員が生存できる可能性というのは限りなく低い。 「ラピッド、交信途絶──魔力反応消失を確認、エンジンが自動停止されたようです」 電測員が計器を読みながら言う。 ロイヤル・オークの艦橋はわずかの間、沈黙に包まれた。 外では、インフェルノが巻き上げた岩石が結界に衝突する鈍い音が時折響いている。 「──全艦、反転上昇。敵戦艦を追え」 「……アイアイサー!取舵一杯艦回頭180度、全速前進!敵戦艦を追います!」 まだこちらは1隻を失っただけだ。負けたわけではない。 しかも、敵はまだ積極的な戦闘をしかねている。 理由はともかく、敵に隙があるのは事実だ。 魔力光の長い軌跡を引いて、11隻の第5戦隊戦艦が飛翔していく。 惑星TUBOY地表では、脱出してきた捜索班がかろうじて揚陸艦ホーミーに集まり、乗り移っていた。 地面が崩れ、艦が埋まってしまったのでヴォクシーは放棄することにされ、残った人員をホーミーに乗せて離脱する。 インフィニティ・インフェルノの発進に伴う巨大地震でトンネルが崩れ、生き埋めになってしまった隊員もいた。 だが、今は崩れた土を掘り返している余裕はない。 「このっマヌケが!“クラナガンM12”じゃないんだから!」 地すべりに巻き込まれた衝撃で船体が歪み、なかなか閉まらないハッチを蹴りつけていた隊員の一人が吐き捨てた。 クラナガンM12というのは昨年ミッドチルダで制作されたパニック映画のタイトルで、地球が真っ二つに割れた場合の地震エネルギーがマグニチュード換算で12であるということに由来する。 「ガスを吸ったのか、落ち着け、ゆっくり息をしろ!」 班長が酸素マスクを持ってきて、過呼吸を起こしかけていた隊員を取り押さえる。 惑星TUBOYの大気は非常に希薄だが、地下トンネルの中ではフッ素が反応したさまざまな有毒ガスが噴出していた。
「まだ4班が戻ってませんよ」 「これ以上待てない、惑星自体が崩壊しちまう」 「でもっ」 「ごちゃごちゃ言うな、ヴォルフラムの二の舞になるぞ!」 班長が、撤退をぎりぎりまで堪えようとする隊員を叱る。 先日、惑星TUBOYに降下したLS級巡洋艦ヴォルフラムの捜索班がバイオメカノイドの襲撃を受け、一人を残して全滅したという出来事はミッドチルダ海軍にも伝わっていた。 精鋭部隊を自負する管理局の次元航行艦隊ですらそうなったのだから、もっと臆病なくらい慎重になるのがちょうどいい。 ヴォルフラムの被害はある程度誇張されて伝えられてはいたが、この星では、迷えば迷うほどジリ貧になっていくのだから逃げるか進むかを素早く決断しろということは、各員に強く徹底されていた。 「あれはっ、敵の戦艦ですか!?」 空を見上げた隊員が、腕を伸ばして指差し、声を上げる。 惑星TUBOYでは大気が薄いので、空は青くならない。昼間でも濃い藍色の空に、日の出や日の入りの前後だけ、地平線が薄青く光る程度だ。 ホーミーが着陸している上空を、巨大な影が通過していった。 インフィニティ・インフェルノの艦体は、太陽に向かって針路をとり、地表にも巨大な影を落とす。 艦は既に秒速100キロメートル以上に加速しているが、その速度でも艦全体が通過しきるのに1秒近くかかる。 太陽の光を浴びて、細長い楔形の船体の形が、地上からはっきりと見えていた。 「1隻やられてます、どの艦が!」 別の隊員が叫んだ。 インフェルノの艦尾に引きずられるように、煙を上げて墜ちていく艦の影が見える。 惑星TUBOYからはじき出されたこちらの艦はいずれも太陽の引力につかまっており、撃沈されたラピッドも、次第に太陽の引力に引かれていく。 「撃ってるんですか!?効いてないんじゃ!!」 「敵がでかすぎるんだ、よく見ろ弾は当たってる」 双眼鏡を持っている者は構えてインフェルノを狙う。 第5戦隊は右舷側に出て後方から追いかけ、前方からは第2・第3戦隊が迎え撃つ形で合流を図る。第4・第1・第6戦隊はいったん太陽に接近する楕円軌道に移動して先回りし、インフェルノの針路前方で待ち構える。 こちらの戦艦群は二手に分かれてインフェルノを前後から挟み撃つ形だ。 巡洋艦部隊は惑星TUBOYの公転軌道の外側から大回りして、長距離ミサイルの発射態勢に入っている。 さらに別の戦隊が戦艦部隊にしたがってインフェルノの前方に回りこむ。 空母部隊はインフェルノから距離450万キロメートルの距離をとり、艦載機の航続距離ぎりぎりの範囲で追跡を開始している。 戦艦と巡洋艦はそれぞれの戦隊に分かれてインフェルノを囲み、砲撃を続けている。 300隻以上の艦からの砲撃を浴びて、インフェルノの艦表面は細かくはじけるように震えている。 それでも、艦の大きさが巨大すぎるため、目立ったダメージを受けているようには見えない。 「効いてるのか!?」 地上から見上げる隊員たちも、双眼鏡の解像度ではどれだけのダメージをインフェルノに与えられているのか分からない。
地上から見上げる隊員たちも、双眼鏡の解像度ではどれだけのダメージをインフェルノに与えられているのか分からない。 「班長!奴らが這い出してきます!」 ふと後ろを振り返った隊員のひとりが、喉をいがらせるようにして叫んだ。 折り重なるように積もった甲羅をかき分ける耳障りな金属音を発して、シールドマシンのようなバイオメカノイドの個体が姿を現す。一度に3体が現れた。 シールドマシンとはいうがミッドチルダでトンネル掘削に使われているようなものよりずっと小さく、小型自動車程度の大きさだ。 おそらくモグラのような生態を持っている個体なのだろう。土中を掘り進む能力に優れ、たとえ埋められても素早く移動できる。 機体先端は多数の棘がついた剣山のような円盤になっており、これを回転させながら、6本の脚で歩行する。 先端の掘削機の形状から、“オロシガネ”という呼び名が付いていた。垂直に立てると、野菜をすりおろす道具に似ているからである。 ただし、こいつがすりおろすのは野菜ではなく人間の身体だ。 クラナガンに出現した戦車型やワラジムシよりも、突進時の速度はさらに速い。しかも正面からの攻撃は掘削機が盾の役割を果たして効きにくい。 突進は戦車型と同じように短距離を直線的に突っ走るものだが、わずかながら方向転換も可能なので、とっさに避けるのは難しい。 既に“すりおろされた”隊員は10人近くにのぼっていた。 「まずいぞっ、撃て撃て!近づけるな!」 隊員たちはそれぞれにデバイスを取り出して構え、オロシガネを砲撃する。 ヴォルフラムの降下部隊が二脚型バイオメカノイドに襲われ、ほとんどなすすべなくやられていたという情報から、今回の惑星TUBOY派遣艦隊では、地上に降りる降下部隊には急遽多数の重火器を配備していた。 一般隊員に通常支給されている杖型標準デバイス(アサルトライフル)ではなく、陸軍が使っているような魔導榴弾砲(グレネードランチャー)である。 さすがに屋内で使うには威力が強すぎるが、バイオメカノイドの金属外皮でも叩き割れる破壊力がある。 砲撃魔法を喰らったオロシガネが爆発して、割れた殻が吹き飛んで散らばるが、掘削機部分は傷ひとつ付かず、オロシガネの身体からちぎれて地面に転がった。 タングステンか何かだろうか、よほど硬い金属で出来ているようだ。 「班長、艦の発進準備をしてきます!」 ホーミーで待機していた乗組員が、降下部隊の班長へ伝える。 現在のところホーミーはエンジン、動力炉とも無事であり、離陸が可能であるとみられていた。 今のうちに離陸しなければ、ヴォクシーのように土砂崩れに巻き込まれ、飛び立てなくなってしまうかもしれない。 その場合、別の艦が着陸しての救助を行う必要があるが、敵戦艦が上空に陣取っていてはそれも不可能だ。 急いで離陸し、敵戦艦から隠れるために惑星の影まで逃げなければならない。 次元航行艦は、ほとんどの艦種においてごく少人数での運用が出来るようにつくられている。 これは広大な宇宙空間を移動する艦船では、緊急時に人間による操作が間に合わない状況が多いことから、艦の基本的な操作はCICや機関室などの堅牢な区画からすべて行えるようにという要求によるものである。 管理局やミッドチルダ海軍をはじめとした海軍艦艇では、通常勤務は三交代制をとるため、乗員定数は艦の各部署を動かすのに必要な人数の3倍に予備要員を加えた程度となる。 新しい艦は省力化が進められ、たとえばRX級戦艦は定数154名だが、LZ級は330名と多い。 ホーミーが含まれるE級揚陸艦では、エンジンを始動するだけなら機関室に2名が行けば可能である。 それでも、人数が少ないとエンジン始動の手順をこなすのに時間がかかるため、その間、降下部隊はバイオメカノイドとの戦闘を凌がなければならない。
揚陸艦のカーゴルームから機関砲デバイスを取り出し、オロシガネに向けて掃射する。 射線上に入らないように、平地に集まっていた隊員たちがあわてて避ける。 重力が小さい惑星TUBOY上では、機関砲はアウトリガーを展開しない状態では反動で砲身が跳ね上がり、狙いが定まらない。 魔力弾が地面に命中したときに飛び散る小石や砂粒も、空高く飛び上がっている。 直撃を食らったオロシガネが、ちぎれた掘削機と一緒にくるくると回転しながら跳ね飛ばされ、地面に落ちて破裂して体液が飛び散った。直後、小爆発が起きて白煙が広がる。 「いたぞおおおっっ!」 機関砲を撃っていた隊員が叫んだ。 砲撃デバイスを構えていた他の隊員が何事かと彼を振り返る。 機関砲の弾幕が向けられた先には、オロシガネとは別の自走砲型バイオメカノイドがおり、被弾して破損した機体から、小さな人型のようなものが這い出してきている姿が見えた。 「グレイだっ!!」 誰ともなしに声が上がった。 あれが、バイオメカノイドを操縦している者である。 灰白色の皮膚をしているが、光の加減で緑がかっても見える。漏れた体液が発火している自走砲型から、火をよけて駆け出すが、グレイもまたすぐに身体が発火して、走りながら爆発して飛び散った。 人間の姿をした生き物が、爆発した。 それは異様な光景であった。 炎熱属性の変換資質や、魔法による炎の生成などとは全く異なる現象だ。 人体発火現象などただでさえオカルト、超常現象である。それが、発火するだけでなく爆発までしてしまう。常識として、生物の肉体は爆発物ではない。肉も、骨も、血液も、たんぱく質もカルシウムもどこにも爆発する要素はない。 それなのに、グレイは、傷口から発火して爆発した。 バイオメカノイドが爆発するならまだ分かる。彼らは機械や、ロボットのような外見をしていて、生物的な外見だったとしても、人間とはかけ離れた節足動物や甲殻類のような姿なので生物的な外見をしたメカと捉えることもできた。 だが、グレイは、皮膚の色や頭部の大きさなどが異常であっても二本ずつの手足で直立歩行をする人型である。 それが、爆発するという光景は、戦っている降下部隊隊員たちにさえ、異常な精神状態をもたらす。 「やれっ、やっちまえ!」 機関砲は三人がかりで押さえ込まないと砲身が安定せず、隊員たちが取り付いて撃っていた。 引き金を引いている隊員に、興奮した隊員たちが早く敵を撃ち殺せと嗾ける。 「逃がすな!」 「みぎだっ、右から来る!まわせまわせ!」 「吹き飛べっこの!」 倒しても倒しても、バイオメカノイドは湧き出てくる。一体地下にはどれほどの数の個体がいるのか想像もつかない。 やがて、ホーミーのエンジンが起動し、艦の側面に設けられた排気口から始動直後に出る未燃焼の余剰魔力ガスが噴出した。 「いそげ!乗り込め!発進するぞ!」 ホーミーの艦橋から、舵輪を握る士官が呼びかける。 E級は艦橋勤務の乗員も少なく、常に詰めているのは艦長と航海長、機関長の3人程度だ。 「アウトリガーをしまえ!そのままじゃ動かせないぞ」 いったん引っ張り出した機関砲は、重いので一人では収納できない。 何人かが手伝ってようやく艦内に戻せた。 降下部隊が艦内に戻ってから、上陸用の門扉を閉じる。格納庫内は通常与圧されるので、扉は二重になっていてエアロックが間に設けられている。
閉じた門扉に、オロシガネが体当たりをかけているのか、重い金属音が格納庫に響いた。 金属の空き缶を叩いたように、ホーミーの艦体が巨大な太鼓のような動きをして格納庫に音が響く。 扉を叩く不気味な音に、隊員たちは早く艦を発進させろと艦内電話で怒鳴った。 ホーミーの操舵手は舵を一杯に引き、同時に機関士はエンジン・テレグラフを全開位置にした。 人間の魔導師に限らず、機械であっても大出力飛行魔法は魔力光の露出を伴う。艦船の推進器であればそれはロケットノズルから噴射する炎として観測される。人間の魔導師では、手足や背中などに生じる翼状の構造として観測される。 噴射炎を地表に吹きつけ、撃破したバイオメカノイドの残骸を吹き飛ばしながらホーミーが離陸する。 比較的体格が小さいオロシガネが吹き飛ばされて地面を転がり、自走砲型は太いビームを撃ちあげ、ホーミーの船底を叩いた。 自走砲型が撃つのは光線というよりはプラズマの塊で、その性質は実体弾に近く、金属を叩く打撃音がホーミー艦内に響く。このタイプの砲は原理としてはレールガンやマスドライバーに近く、投射するのが金属ではなくプラズマ塊というだけである。 荷電粒子砲の特徴として、命中した物体を瞬間的に加熱することがあげられる。高い電荷を持った粒子を発射するため、特にイオン化傾向の高い金属原子を強く励起し、爆発的な熱エネルギーを生み出す。 次元航行艦が採用しているショックカノンと比較して、波動幕やエネルギー吸収ガスなどの防御手段で無効化されやすいが命中時の破壊力は概して高めだ。 ショックカノンは次元干渉を行い素粒子の位相をそろえて発射し素粒子そのものを振動させる砲で、これは対象の構成元素や防御シールドなどに影響されにくい安定した攻撃力を発揮できるのが特徴だ。 また、魔導砲との相性も良い。属性としては粒子の単独属性となる。 上昇するホーミーのレーダーに、救援駆逐艦が2隻映った。 インフェルノはホーミーとは反対側へ向かって航行しており、少なくともホーミーを攻撃しようとはしていないように見える。 「なんてバケモノだよ……」 ホーミーの舷窓から見えるインフェルノの艦尾を見ながら、隊員のひとりがつぶやいた。 インフィニティ・インフェルノは船型が楔形をしており、艦尾部分がもっとも太い。艦を真正面から見たときのシルエットは菱形であり、艦の後半部分は上下が平らに均されて甲板のようになっている。 さらに艦尾には横幅20キロメートル、縦幅4キロメートルという広範囲にわたって無数のロケットノズルが設置されている。 ノズルの一つ一つも、直径が1キロメートル以上はありそうに見える。 「戦闘の様子はどうなんだ」 艦橋で僚艦との連絡を取っている士官に、降下部隊の隊長が尋ねる。 「第5戦隊が今ヤツの真正面に陣取ってる、少なくとも2隻やられたらしいが、くわしいことはわからん」 「さっき煙を吹いてるのが1隻見えたぞ」 「ケツからぶち当てられたらしい、向こうはどうやら図体の割りに砲が少ないようだ」 「少ないっていっても何百門もあるんじゃないのか」 ショックカノンの場合は距離が遠いと弾道が見えにくくなるが、荷電粒子砲の場合は弾道を真横から見てもビームが飛んでいく軌跡が目で追える。 現在観測できた限りでは、インフェルノの砲兵装は3連装砲塔の荷電粒子砲を1セットとし、360度指向可能な砲塔が中心線上に6基、左右舷側に10基が確認できている。舷側のものは傾きをつけて設置することで、艦の上部や下部も狙える配置だ。 これ以外にはやや小口径のものが、単装で少なくとも片舷に100基以上敷き詰められている。 また、主に艦首部に多数の埋め込み型ミサイルランチャーがあることが確認できた。 これほどの兵装を積んでいても、それは外からではとっさに見えない。 荷電粒子砲は加速器で運動エネルギーを与えた粒子の進行方向を整えるための砲身が必要であり、通常の艦艇であれば砲塔が外部に見えるが、インフェルノは船体が巨大すぎて砲身があっても見分けられない。 こちらの巡洋艦部隊は距離を離してミサイルによる攻撃を行っている。 敵は誘導弾に対する迎撃能力はそれほど高くないようで、弾幕を張ってはいるがだいたい3分の2ほどが迎撃をかいくぐって命中している。 それでも、敵の砲撃が時たま巡洋艦をかすめ、中には直撃弾を受けて落伍する艦もいる。
装甲の厚い戦艦はともかく、巡洋艦程度だと部位によっては非装甲の箇所があるため、砲弾が貫通してしまう。 艦首が丸ごと吹き飛ばされて、それでも砲撃を続けている艦もいる。 「おい大丈夫か、ジリ貧だぞ」 「これだけ近くじゃアルカンシェルは撃てない、撃つなら距離をとらないと味方をまきこんじまう」 「砲戦でやろうとしてるのか!?こんなんじゃけりがつく前に来年になっちまうぞ!」 数万キロメートル離れた宇宙空間上で、ホーミーの降下部隊隊員たちは固唾を呑んで戦闘の成り行きを見守っている。 インフェルノの姿はこの距離でもかなりの大きさに見えるが、こちらの次元航行艦はこれほど距離が離れてしまうと艦影が見えない。 時折、インフェルノの放つ荷電粒子ビームが伸びていった先で閃光が発し、被弾したことを示す爆発が見える。 そうかと思えば、搭載ミサイルを誘爆したと思われる派手な爆発も見える。 魔力弾頭のミサイルは、弾頭に詰められた魔力結晶はもともとの性質として高エネルギーを持っているため、被弾などの衝撃によって安全装置が破壊されると誘爆の危険がある。 立て続けに3隻の巡洋艦が、弾薬庫に被弾して轟沈した。 インフェルノは太陽周回軌道に乗り、近日点をおよそ200万キロメートルにとった。 惑星TUBOYが属する太陽系は、主星が比較的小さな、スペクトル型がK型の主系列星である。質量は地球が属する太陽のおよそ0.75倍で、表面温度は5200ケルビンとやや低く、直径、明るさも小さい。 それでも、距離200万キロメートルということは光球の表面すれすれまで接近することになる。 惑星TUBOYからの距離は75万キロメートルまで離れた。 第5、第6戦隊はインフェルノの正面から離れ、180度回頭してインフェルノの艦尾についた。 これで、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊の艦は、敵艦を左右と後方から追い立てる形になる。 すでにRX級戦艦が7隻、L級巡洋艦22隻、GS級巡洋艦10隻が撃沈または大破され、こちらの被害もけして少なくはない。 新鋭艦であるXJR級は精密な誘導ミサイルを生かして効果的に敵の砲塔をつぶしていたが、これも弾数が限られているので、このままいけばこちらの残弾数よりも敵の兵装数が上回り、手数が尽きてしまうと計算されていた。 「第3戦隊ラミリーズ、艦橋に直撃弾!通信応答しません!」 「ミサイル飛来、数少なくとも20以上、自動迎撃モード、トラッキング開始!」 「第11巡洋戦隊より入電、ミサイル再装填のため距離をとります」 「結界魔法出力115パーセントを維持!魔力炉出力、105パーセントで安定中」 「──艦長、このままでは押し負けます」 アドミラル・ルーフの戦闘艦橋で、各所から送られてくる報告を聞いていた副長はカリブラに具申した。 こちらの攻撃も敵に命中してはいるが、それによって敵が行動に支障を生じているようには見えない。 LZ級やRX級の主砲弾が命中しても、インフェルノはまったく堪えていないように見える。 一方、敵の砲撃はほとんど止むことなく続けられ、1隻、また1隻と友軍艦が撃沈されていく。 戦況は持久戦の様相を呈し、そしてそれはミッド・ヴァイゼン連合艦隊にとって不利な展開である。 いかにこちらの艦数が多いとはいえ、総合的な火力ではインフィニティ・インフェルノが圧倒している。 このままインフェルノが惑星TUBOYから離れる軌道を進むなら、ある程度距離をとったところで全艦によるアルカンシェル一斉砲撃となる。 艦隊司令部はそのつもりであったが、このままではアルカンシェル発射可能位置に到達するまでにこちらが撃ち減らされてしまう。 「敵の攻撃は減衰しているか」 「はっ、敵戦艦からの砲撃はほぼ変わらず、毎分240発のペースで続いています」 「敵の針路に変化は」 「変わらず1-6-5です」
報告を聞き、カリブラは艦隊旗艦リヴェンジへの回線を開くよう通信士に命じた。 「司令、戦況は芳しくありません。そろそろアルカンシェルの発射準備に掛かったほうが宜しいかと」 『エーレンフェスト君、もう少し持ちこたえてくれ。この距離では撃てん』 「何故です司令、わが方は既に惑星TUBOYと敵戦艦の間に割り込みました。障害物は無いはずです」 艦隊司令の表情に、かすかな変化をカリブラは見て取った。 『今水雷戦隊が下方から敵戦艦に向かっている、やつも艦底部の防御は手薄と見える。この攻撃が終わるまで待ってくれ』 「司令、私は艦長です。艦長には艦の乗組員の生命を預かる責任があります」 『どういうことだね』 「われわれの任務は敵戦艦インフィニティ・インフェルノの殲滅ではないのですか?」 ほんのコンマ数秒でも、言葉に間がある。アドミラル・ルーフの艦橋にいる乗組員たちも、メインスクリーンに投影されている通信ウインドウを注目している。 それはリヴェンジの側でも分かっているだろう。リヴェンジは艦隊旗艦なので、艦の指揮は艦長が行うが、それに加えて艦隊司令が他の艦長や戦隊長へ命令を出している。 『エーレンフェスト君』 「もし敵戦艦の鹵獲ないし拿捕が目的であればそのように命令してください。さすればわれわれは命令に基づいた効率の良い戦いが出来るでしょう」 乗組員たちは、冷汗と同時に胃がきりきりと捩れるような緊張を味わった。 このような挑発的な物言いは、思っていてもなかなかできない。 軍隊において上意下達は重要である。特に艦船は多数の人間が連絡を取り合って動かす以上、人間と人間の連絡が遅れると艦全体の動きに支障が出てしまう。 またそれゆえに、命令は明解明瞭でなくてはならない。命令を受けた側が、その解釈に迷ってしまうようでは良い指揮官とはいえない。 インフェルノが放ったビームの1発が、アドミラル・ルーフの艦橋の至近をすり抜けていった。 すぐにダメージリポートが行われ、アンテナやセンサーに損傷はないことが確かめられたが、あと少し弾道が違っていれば艦橋に直撃弾を受けていたところだった。 カリブラは通信ウインドウ越しに艦隊司令を見据える。 音は聞こえないので、艦橋の窓からは被弾した艦は爆発して閃光を放つのが見えるだけだ。 インフィニティ・インフェルノの艦首から再び数百本ものミサイルが放たれ、そのうちの一群が大きく弧を描いて後方の第5戦隊へ向かってくる。宇宙空間で飛ぶミサイルは煙の尾ではなく、姿勢制御スラスターの噴射炎が扇形に明滅して見える。 第5戦隊でアドミラル・ルーフに後続していたRX級戦艦レゾリューションが、迎撃しきれなかったミサイルを艦首に被弾し、最上甲板が100メートル近くにわたって剥離した。 船体からちぎれた甲板の構造材が艦橋に衝突するのを避けるため、レゾリューションは艦をロールさせて破片を振り払っている。 「司令。ご命令くだされば5分でアルカンシェルを発射可能です」 LZ級の場合、アルカンシェル発射のためのスキームは通常12分を見る。 だが、エネルギー充填だけなら3分、照準作業は敵が目の前にいるのなら1分で可能だ。 『──わかった。第38水雷戦隊が10分後に敵戦艦に一斉雷撃を行う。その間、戦艦部隊を後方に下げて巡洋艦群で敵を抑え、水雷戦隊が離脱すると同時にアルカンシェルの一斉砲撃を行う。 これで敵を撃破できなければ、あとは肉薄しての直接打撃しかない』 つまり、接舷しての切り込み攻撃ということだ。 敵艦内部に魔導師を突入させ、動力炉ないし制御中枢を破壊する。 外部からの攻撃で破壊できなければ、内部から壊すしかない。 海軍の範囲でできる攻撃とは、アルカンシェル発射までだ。そこから先は海軍では対応できない。 『戦艦部隊は現在の砲撃を中止し砲戦距離8万キロメートルに再集結だ。エーレンフェスト君、君が戦艦部隊の指揮を執ってくれ。頼むぞ』 「了解しました、司令」
通信ウインドウが閉じられ、艦橋に詰めている士官たちが、待ってましたとばかりに期待の視線をカリブラに向ける。 戦闘開始からこれまで、思うように戦えなかった鬱憤は皆が持っている。 最初からアルカンシェルを撃っていれば、もっと早く決着が付いていたかもしれない。 その感情を、敵にぶつけてやる。 アドミラル・ルーフの砲術長は、照準は自分に任せてくださいとカリブラに具申した。 「やってくれるか」 通常、アルカンシェルは最終的な発射操作は艦長が行う規則である。 「はい。一撃で仕留めて見せます」 だがもちろん、艦の中では艦長が全ての権限を持ち、艦の機能を掌握する。 たとえどんなに地位のある司令部参謀でも、海軍大将であっても、艦の中では艦長に従う。 カリブラは他の戦艦群へ通信を開き、アドミラル・ルーフに従ってマルチ隊形をとるように連絡した。 この隊形では前後方向に3隻が並び、それが横一列に広がる。 アルカンシェルの威力を最大限引き出すため、全艦が互いの射程を遮らないように位置を取る。 第1戦隊に所属していた、ミッドチルダ海軍の中で最新鋭の戦艦であるLFA級「アイギス」の艦長アストラ・ボーア一佐が、カリブラに直々に通信を送ってくれた。 彼もまたカリブラとは同期であり、次元間戦争時代は勇猛な戦いぶりで鳴らした男だ。また近年では新鋭艦の処女航海における艦長を歴任するなど、ミッドチルダ海軍の中ではもっとも実戦経験の豊富な艦長である。 『エーレンフェストさん、このアイギスならばアルカンシェルの威力は艦隊中最大です。私が先頭に立ちます』 「危険なポジションですぞ」 『もとより承知の上です。それにこのLFA級の戦闘力は伊達ではありません、凌ぎきって見せますよ』 アイギスを1番艦とするLFA級は、ミッドチルダ海軍の象徴となるべく建造された最大最強の戦艦である。 魔力炉を並列接続することで出力の安定を図り、アルカンシェルを連装で搭載することで威力を倍増させているのが特徴だ。 第1戦隊がアイギスを中心に先頭へ、その後ろにアドミラル・ルーフ率いる第2戦隊、さらに両翼へ残りの戦艦群が並ぶ。 アイギスの右舷後方に艦隊旗艦リヴェンジが位置をとり、全体を指揮する。 LFA級は積極的な直接戦闘において最強であることを目指しているので、コストが嵩み脆弱性を増す電子装備はむしろ減らされており、旗艦任務には汎用性の高いRX級が適しているところもある。 巡洋艦隊は距離20万キロメートルをとってミサイル攻撃を実施する。 ミサイルに限らず、宇宙空間では実体弾は推進剤が尽きても慣性の法則に従って飛び続けるため扱いが難しい。目標を外したりロストした弾を適切に処理できないと、思わぬスペースデブリをつくってしまう。 次元航行艦の兵装が早くから魔導砲を主体に装備されているのも、エネルギー弾のほうが制御が容易だからである。 また、実体弾は魔力弾よりもかさばる上に、弾頭が魔力エネルギー結晶であれば誘爆の危険もある。 それでも、魔導砲に比べて一撃の威力が高いミサイルは宙間戦闘では一発逆転を可能にする有力な装備である。 インフィニティ・インフェルノは巡洋艦相手にはあまり撃ち返さず、そのままの針路を維持して航行していた。 太陽へ向かう軌道をとり、重力を利用して加速していく。 推進ノズルの炎は輝きをひそめて慣性飛行モードになり、その巨体は濃密なガスの大気を放つ赤い彗星のようにさえ見える。 「全艦発射位置よし。アルカンシェルへエネルギー充填開始せよ」 残存して戦闘が可能な戦艦58隻が、それぞれの魔力炉を出力全開で駆動させエネルギー充填にかかる。 インフェルノは艦尾を向け、こちらの攻撃態勢をまるで意に介さないように航行している。 巡洋艦部隊が発射するミサイルはインフェルノの周囲を取り巻くように飛び、対空迎撃砲の隙をぬって突入する。 時折撃ち返す大口径荷電粒子砲が巡洋艦をかすめ、機動力の高い巡洋艦は操艦で回避する。 それでも中には被弾して大きく姿勢を崩す艦もいる。
荷電粒子砲は電荷を帯びた粒子による質量ダメージもあるため、衝撃で運動エネルギーを大きく受ける。 インフェルノに距離数百キロメートルまで肉薄し、至近距離からのミサイルの近接射出攻撃を行っていた巡洋艦の1隻が、至近からの荷電粒子砲を2発同時に被弾して艦体が真っ二つに折れた。 魔力炉から炎が噴出し、大爆発を起こして轟沈する。 艦体はインフェルノの左舷中央部に激突し、その部分に突き刺さるようにして止まった。 魔力炉は船体フレームから外れて艦底を突き破って飛び出し、こちらもインフェルノの装甲板にめり込んでいる。 他の巡洋艦たちの動きに、一瞬の乱れが生じた。 目の前で味方艦が破壊されるところを見て、そして破壊された姿が目の前に留まって、動揺が生じている。 そこへインフェルノの砲撃が殺到する。 別の艦がすぐに、荷電粒子砲で艦尾を叩かれ、推進器が大破して航行不能に陥った。 艦尾ノズルから激しく炎が噴きあがったが、乗組員によってただちに機関緊急停止がされたようで動力が切れ、慣性に従って飛んでいく。 もしアルカンシェル砲撃でもインフェルノを撃沈できなければ、残された作戦は接舷しての強行突入しかない。 それも、思い通りに接舷できるとは限らない。敵の濃密な対空防御を突破しなければならない。 撃ち負ければ、今の巡洋艦のように集中砲火を浴びて粉砕されることになる。 インフェルノを前にして、戦艦でも巡洋艦でも耐久力はそう大差はなくなる。 荷電粒子砲を立て続けに3発も浴びれば、いかなRX級でも大破してしまうだろう。 扇形に広がる、ミサイルのブースター噴射炎が鳥の羽のように連なって輝いた。 集結した数百隻の駆逐艦群から発射されるミサイルは、シーカー部分をパルス状に輝かせて飛翔する。流星のように、点滅する点光源が瞬間移動しているように見える。これに対しても、インフェルノは全く回避運動を取らない。 発射されたミサイルは三千本を超える数だ。これだけの数を一度に被弾すれば、たとえゆりかごクラスの大型艦であっても轟沈するだろう。 敵は回避運動も防御姿勢もとらない。たとえ被弾してもまったく意味はないとさえ言っているかのようだ。 インフィニティ・インフェルノはミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊の戦艦群に対して完全に艦尾を向け、太陽へ向けた軌道に乗って加速している。 それはあたかも、こちらとは戦闘を行うまでもないと言っているかのようだ。 クラナガン宇宙港での、人型との戦闘でもそうだった。 向こうはただまとわりついてくる魔導師が邪魔だから撃ち返していただけだった。 それだけで、6人もの空戦魔導師が撃墜され、命を奪われた。 中央第4区での戦闘でも、人型はこちらの迎撃作戦をまったく無視し、事実上単機で大クモを撃破したと言っていい。 管理局最強の戦力のひとつと目され、歩くロストロギアとも比喩されるほどの大魔導師、八神はやてをしてさえ撃破できなかった大クモを、こちらの作戦を全く無視して、あえて配慮するような素振りさえ見せて単機で破壊しおおせた。 今もまた、インフェルノに向かっていった艦艇は戦艦や巡洋艦など、数十隻が撃沈されている。乗組員の数は1万人を超えることになる。それだけの犠牲をも、あの戦艦はものともしない。 敵は、いや、彼らにとっては敵のつもりでさえないのかもしれない、彼らはどこへ向かい何をしようとしているのか。 「やつの軌道の先に何がある──?」 アルカンシェルの発射準備を進めながら、カリブラは他の士官たちに聞こえないように小さくつぶやいた。 先日、この宙域でヴォルフラムを援護したとき、八神はやてに言ったこと。 大切なことは、入手した情報を正しく伝えること。 自分たちが入手した情報とは、この惑星TUBOYに存在する巨大戦艦が、ミッドチルダの存在を察知したということである。バイオメカノイドたちは、次元航行艦が接近したときに活動を活発化させ、集ってきていた。 惑星TUBOYの地表に墜落した艦は2隻が確認できていた。 カレドヴルフ社の輸送船が1隻、そして管理局所属のL級巡洋艦が1隻である。 この墜落した艦の残骸はすぐにバイオメカノイドたちによって惑星内部へ持ち去られた。 まるで、アリが獲物を巣に運び込むかのように。
カレドヴルフ社は、管理局の局員の命、いや自社の社員の命さえ、利用しようとしていた。 墜落した輸送船の残骸や、乗組員の遺体がバイオメカノイドによって運び去られていくのを、取り返すでもなく、バイオメカノイドに攫われた人間を助け出そうとするでもなく、彼らバイオメカノイドがそれをどこへ持っていこうとしているのかを追跡していた。 そして、外部からの観測では分からなかった、惑星地下に広大な人工空間が存在する事実を突き止めたのだ。 外部からは、ただの岩石惑星にしか見えなかった。 地表で人工地震を起こして、地震波の伝わり方を観測したことで、惑星内部にその質量からは考えられないほどの密度の偏りがあること、中空構造があることを突き止めた。 しかし、想定される場所が地下深くであることで、それを実際に目視して確認することができなかった。 そこでバイオメカノイドを利用することが考えられたのだ。 墜落した輸送船と負傷した人間をあえて放置し、彼らをバイオメカノイドに攫わせることで、バイオメカノイドたちの巣のようなものが発見できるとカレドヴルフ社は考えた。 そうして惑星TUBOYが一種の人工惑星であり、それが惑星サイズの超巨大なロストロギアであるということを突き止めると、カレドヴルフ社はその事実をヴァイゼン政府およびミッドチルダ政府に報告した。 報告したのである。 追及されて口を割ったのではなく、最初から報告しに来た。 それはカレドヴルフ社にとっては、まさに待望していた成り行きだったのだろう。 この事実を伝えれば、両世界の政府は当然、惑星TUBOYを制圧すべく動き出すだろう。 そして、管理局は、黙っていても手が出せないだろう。 何しろ第511観測指定世界には魔法技術がないばかりか、人間さえ住んでいないのである。 人間がいない世界に対して、管理局は強く出ることができない。 現地住民の保護という名目が使えないので、たとえば、貴重な自然環境の保護とか、そういった理由で介入の中止を要請する程度しかできない。 しかし、第511観測指定世界については、最初から荒廃した、資源にも乏しい世界という認識が広まっていた。 それゆえに、管理局は他の中小次元世界の賛同を得にくかった。そんな惑星に気をとられる暇があるなら、他に保護すべき次元世界はいくらでもある。 この間に、ミッドチルダとヴァイゼンは第511観測指定世界における権益確保のために動き出したのである。 新暦83年の12月というのは、年の瀬も押し迫った中にそういった次元世界超大国の思惑と陰謀が渦巻いていた月であった。 バイオメカノイドたちの本拠地を探ったカレドヴルフ社は、惑星内部、当時は海底遺跡と呼ばれていた巨大構造物に、バイオメカノイドたちの巣があることを発見した。 そこには大規模な製造プラントのようなものがあり、そこでバイオメカノイドたちが生み出されていた。 惑星TUBOY表面から発見された化石はその多くが機能停止してから数十年程度が経過しており、生きているものでは活動期間はどんなに長い個体でも2年程度だった。 この星はミッドチルダに比べて主星からの距離が遠く公転周期が長いため、1日の長さは約10時間だが、主星の周りを1周回る間に1784回自転する。つまり、惑星TUBOYにおける1年は1784日ということになる。 ミッドチルダのスケールに置き換えると、惑星TUBOYの1年はおよそ740日であるので、大体、惑星TUBOYのスケールで1年程度が、バイオメカノイドの寿命ということになる。 バイオメカノイドの生きている個体が惑星TUBOY上に存在するということは、製造プラントは現在も稼動しているということである。 運び込まれた艦の残骸は、巨大生物の消化器官を思わせるような溶鉱炉に放り込まれ、ごく低温でゆっくりと溶かされた。 圧力をかけて粘土をこねるように形作られた外殻に、別のプラントで作られたスライムが注入され、数十時間をかけて1体のバイオメカノイドができあがる。 製造プラントはチューブ状のエレベーターを地表まで伸ばし、外に出ると、バイオメカノイドは惑星表面へ這い出し、地表の形状を覚えるように歩き回り始める。普段はくぼ地や山の陰などに隠れていて、時折、化石となった残骸を回収しに出かけている。 製造プラントの中には、有機物を保管するための保存液のようなタンクがあり──どちらかというと地底湖のようなものだ──人間の遺体はその中に放り込まれた。 他にも、この惑星に迷い込んだらしい生き物がタンクに入れられていた。 特に何に利用するでもなく保存しているように見えた。
これらの施設は、当初は惑星TUBOYそのものの内部に建造されているように見えたが、一部は戦艦インフィニティ・インフェルノとして分離した。 惑星TUBOYに残った部分というのは、主にインフェルノの修理と整備をするための設備で、生物を保存していたタンクはこちらの側に取り付けられていた。 バイオメカノイドたちは、回収した生き物(この場合は人間)が、知能を持つ生き物かどうかを調べることができた。 知能を持つ生き物、すなわち科学技術文明を持つ人類であれば、いずれ惑星TUBOYを発見し、調査のためにやってくることが考えられる。 しかるに、惑星TUBOYにおけるバイオメカノイドたちは、およそ来訪者を歓迎するような設備を作っているようには見えなかった。少なくとも炭素系有機化合物をもとにした生物にとっては住みよい環境ではない。 惑星の地表は強反応性のアルカリ金属に覆われて、生物にとって有害である。 そして明らかに、惑星TUBOYのバイオメカノイドたちは、生物を“狩る”ために行動しているように見えた。 カレドヴルフ社の輸送船団に乗り組んでいた社員の一人は、彼らの行動はあたかも戦闘訓練のように見えると言った。 拾った人間を、まるで模擬戦の標的のように放り出し、そこに他のバイオメカノイドたちが群がっていく。 有機物でできた生物を、捨てるでもなく食べるでもなく、ただ保管する。保管するという行動は実は高い知能を持っていることを示す。食物でもない、すなわち生存のために必ずしも必要ではない物体を何かに利用しようとしているということだからだ。 そして、この惑星TUBOYを周回している2個の衛星は、その生成が天文学的スケールにおいてごく最近であることが調べられた。 太陽系誕生と同時に生まれたのでもなく、近くを通りがかった小惑星を重力で捕獲したのでもなく、ごく最近、惑星TUBOY近傍で誕生した天体ということである。 こちらについては大きさが20〜30キロメートル程度と小さかったこともありすぐに起源が判明した。 この2個の衛星は人工物であり、人型のメカを芯にして、バイオメカノイドが取り付いて鉱物結晶を成長させた結果できた天体である。 宇宙空間では、バイオメカノイドは運動のために大型化する傾向がある。その場合金属質の大きな体格を作る。 衛星の中心に存在したメカには、記憶装置が積まれていた。惑星TUBOYの起源は、おそらくこのメカが正常に稼動していたときに観測され記録されたと思われた。 その当時の惑星TUBOYは、植物が生え、青い空を持ち、水と緑に包まれた惑星であった。 わずか数千年程度で、この惑星に一体何が起きたのか。惑星全体が、謎の生体機械とその化石に覆われてしまうなど、にわかに想像できない出来事である。 表面が化石に覆われていたということは、バイオメカノイドが化石になるためのもっと長い時間を要していたということで、惑星TUBOYがバイオメカノイドに覆われたのはごく短い期間に起きた出来事ということになる。 衛星の芯になっていたメカには、その出来事の直接的な観測記録は無かった。 しかし、それを示唆させるデータは記録されていた。正確には、組み込まれていた。 人型メカの火器管制装置に、バイオメカノイドたちのデータが入力されていたのである。航法装置には、巨大戦艦のデータが入力され、内部構造図と思しき地図をもが入力されていた。 それはすなわち、この人型メカはバイオメカノイド群と巨大戦艦──インフィニティ・インフェルノを破壊するために行動していたということである。 それがバイオメカノイドに取り付かれ、衛星と化していたということは、おそらくこの2機についてはその作戦目的を果たせず敗北してしまったということであろうが──、しかしその後数千年間、残骸は惑星TUBOYを周回し続けていた。 もしバイオメカノイドがこのメカもしくはこのメカを製造した存在と敵対しており、戦争行為を行っていたのであれば、撃破した敵兵器をわざわざ自分たちの母星上空にとどまらせておく理由はない。 さっさと破壊するか、宇宙の遠くへ放り出してしまおうと考える方が自然である。 カレドヴルフ社の船団は、バイオメカノイドに何らかの統一された意思があるのかどうかを確認するために惑星TUBOYに進出していた。 もし彼らが組織的な行動を行っているのなら、何らかの理由を持って敵兵器の鹵獲や回収を行っているということになる。 その場合、敵兵器を回収する目的とは敵対勢力の分析である。 敵は(この場合は人型メカを建造した勢力は)どの程度の規模を持ちどこの星に住み技術レベルはどの程度なのか。 それに基づいて必要な戦力を計算し作戦を立て、戦艦は出航するはずである。
事実、インフィニティ・インフェルノは惑星TUBOYを飛び立った。 もし手出しをせずじっと観察していれば、インフェルノがどこに向かうかを追跡すればバイオメカノイドと戦っていた勢力が何者なのかを確かめられる。 ただこの場合、次元世界人類は本当にただの観察者になってしまう。 横から余計な手出しをして反撃を食らっただけになってしまう。 バイオメカノイドたちが、次元世界人類の知らないどこかの勢力と戦っていたということも考えられるが、これまでの宇宙開発の結果、そのような未発見の文明が存在する可能性は限りなく低いと考えられている。 次元間航行は、光の速さでも何百億年もかかってしまう宇宙の距離というものを事実上、無にできる。 距離に縛られずに世界と世界の間を行き来できる。 定期便が運航され気軽に行ける次元世界も、実数空間に直すと実は数億光年先に存在している世界であるかもしれない。 それゆえに、外部との係わりをあえて絶って現代文明と隔絶した暮らしをしているような少数民族以外には、次元世界連合の知らない世界は存在しないと考えられている。 そのような世界はほとんど探索し尽くされ、少なくともこの宇宙には未発見の文明世界はないように考えられていた。 探検家が探しているのはアルハザードに代表される未知のロストロギアであり、少なくとも中世大航海時代のような大規模な新次元世界というのはもう見つからないと思われている。 今後、見つかることがあるとすればそれは第511観測指定世界のように、複雑な位相欠陥に阻まれて観測が困難な領域に存在する次元世界である。そのような世界には少なくとも知的生命は発生できないと考えられている。 残る可能性として考えられるのは、バイオメカノイドたちは何らかの理由で長期間にわたり敵対勢力の位置を見失っており、その間にその勢力は消滅してしまったというシナリオだ。 その場合、目指している場所は何もない場所かもしれない。 あるいは、滅んだ文明に代わって新しい人類が住んでいる場所かもしれない。可能性としてはこちらのほうが高い。 惑星TUBOYをまわる2個の衛星の芯となっていた人型メカ──“エグゼクター”については、使用されている言語は文字としてアルファベットを使用し、それはミッドチルダ語に近いことが確かめられた。 ミッドチルダ語は、同じく26文字のアルファベットを使用し、言語系統としては地球における英語に近縁であるとされている。 文字の変化から、英語とミッドチルダ語はほぼ同じ時期に分化し、それぞれの世界で独自に変化してきたと考えられた。 ゲンヤ・ナカジマなどの、地球系民族の移住に伴って英語がミッドチルダに持ち込まれ、それがミッドチルダ語の先祖となったと考えられている。 また少なくともその時代については、次元間世界の交流路は現代と大きく異なっていた可能性がある。 これがロストロギアが製造されていた先史文明時代となると、現代とは全く異なる世界観であることが考えられる。 当時の文明がどのような交流路を持ち、どこの世界とどのような交易を行っていたかというのは文献にしか頼れない。当時の船なども残っていないし、残っていたとしてもロストロギア扱いである。 新暦83年、11月の末、惑星TUBOYへの出航に先立って、八神はやてはユーノ・スクライアへ、ひとつの情報を伝えていた。 超古代文明、先史文明については、第97管理外世界にもその伝承はあり、それは1万2千年から2万年前の間に存在したとされている。 ミッドチルダに伝わる超古代文明伝説と、時期はほぼ同じである。 もちろんこれらはどちらの世界の考古学会においても、学術的地位はないに等しい説である。証拠と呼べるものは何も無く、ただのおとぎ話の領域である。 しかし、ユーノ・スクライアにはあるひとつの目算があった。 それは第511観測指定世界の存在そのものである。 宇宙探査機ガジェットドローン#00511の軌道要素を見れば、宇宙探査に携わったことのある人間なら本機が惑星TUBOYを発見したのはほとんど運命的偶然のなせる業だと感じ取れるだろう。 第511観測指定世界は、あたかも人為的に隠されたかのようにして存在していた。 探査機ガジェット#00511は、7年という、次元航行船としては考えられないほどの長期間をかけて飛行し、惑星TUBOYにたどり着いた。 7年間もの無補給航行など、有人艦ではまずそのような探査計画など了承されないだろう。 軌道へ投入したまま放置され、ほとんど忘れ去られかけていたところで惑星TUBOYに遭遇したのである。
発見ではなく遭遇である。 最初から惑星TUBOYを目指して飛んでいたわけではない。 たまたま飛んでいった先に新たな次元世界が見つかっただけである。 本来であれば、運用終了となっていたはずの探査機である。 それは確かに偶然であったのかもしれない。しかし、それは発見された。発見してしまった以上、その事実を無かったことにはできない。 そこに確かに存在することが分かった以上、たとえミッドチルダが無視しても、他の世界が発見してしまうかもしれない。 ミッドチルダにとっても、これは後戻りの出来ない作戦であったということだ。 ミッドチルダ、そしてヴァイゼンは、超古代文明の存在を確信している。 少なくとも次元世界においてはロストロギアという証拠物が存在する。それは地球であればオーパーツと呼ばれるものも含まれる。 幸いにして、地球においてはこれまでのところ、破局的災害をもたらすようなオーパーツは見つかっていない。 闇の書のような次元間航行機能を持つデバイスが流れ着いたりなどはしたが、それだけだ。 地球やミッドチルダに限らず、どこの次元世界にも概ね似たような伝説が伝わっている。 ユーノは、自分がこれまで調べてきた各地の遺跡や発掘物などから、これまで見つかったロストロギア、少なくとも自分が処理に関わったロストロギアはすべて惑星TUBOYにその起源を由来することを調べ上げた。 それは異例の長期間を要したプロジェクトであった。 クライスのような外部機関の人間にも助力を得た。そして、彼をはじめ多くの人間が、超古代文明発祥の地──すなわちアルハザードの存在を確信し、それは惑星TUBOYであると結論付けるに至った。 それはミッドチルダ政府も、同じ結論にたどり着いたということだ。 ミッドチルダ政府が無限書庫の掌握をも求めているという情報は、クライス・ボイジャーを経由してユーノに伝わった。 これについては管理局といえども断らざるを得ない。 ユーノもクライスも、このような情報を分析されてはミッドチルダ政府にとって都合が悪いというのは百も承知である。 クライスは天文台に入る前は元海兵隊の観測員であり、度胸のある男だ。海軍にも知人が多く顔もきく。 その筋で、ミッドチルダ海軍が管理局の裏をかいて動いているという情報はクライスも独自につかんでいた。 カリブラやアストラなど、ミッドチルダ海軍の古参の艦長たちも、クライスをはじめとした退役軍人たちに海軍の活動が伝わり、それがやがてさまざまな組織に、もちろん管理局にも伝わっていくことは予期していた。 どんなに情報を取り締まっても隠しきれないものである。 もって1ヶ月程度であろうとカリブラはみていた。 最初に惑星TUBOYに向かってから、もうすぐ1ヶ月がたとうとしている。 年が明ければ、新年の活動を始める各業界にも噂が広まる。年末に向けて話題が欲しいマスコミはもう動いているだろう。年末休暇に向けて、ワイドショーで放送するために取材を始めている局もあるだろう。 新暦84年という年は、おそらくミッドチルダだけでなく全ての次元世界にとって転機となる。 アドミラル・ルーフの艦橋から、15万キロメートルの距離をおいてもなお巨大な輝きを見せ付けているインフィニティ・インフェルノの艦影を見据え、カリブラ・エーレンフェストは気合を新たにした。 既に兵装管制盤には射撃装置をセットし、砲術長が照準作業にかかっている。 他の艦でも急ピッチで発射準備を進めている。 カリブラは自身のキーチェーンに提げたアルカンシェルの管制キーを取り出し、砲術長に直接手渡す。 このキーを発射装置に差し込んで回すことで、アルカンシェルの発射プロセスは起動される。 術式の詠唱は艦に搭載されたコンピュータが自動で行い、このキーが差し込まれていることを検出して最終的な発射操作が行われる。もし途中でキーが抜ければ、ただちに詠唱は中止される。 「発射許可を、艦長」 「アドミラル・ルーフ艦長、カリブラ・エーレンフェストの権限においてアルカンシェル発射を許可する」 「アイアイサー……!」 巡洋艦部隊は、それぞれの戦隊長の判断でタイミングをとり、全速力でインフェルノから離れる。 惑星TUBOYはインフェルノの右舷760万キロメートルに位置し、重力的には影響の少ない位置へ脱した。
各艦が連絡を取り合い、最終的に艦隊旗艦リヴェンジより、攻撃が発令される。 アルカンシェル、発射。 戦艦、巡洋艦、合わせて200隻以上からのアルカンシェルが、強大な空間歪曲を持ってインフィニティ・インフェルノに迫る。 空間が激しく歪み、太陽が大きく水平に引き延ばされるように見えた。 艦を固定しているはずの重力アンカーが引きずられ、走錨する艦もいる。艦隊司令は全艦に全速後進一杯を命令し、ワームホールに飲み込まれないように各艦の艦長は操舵手と機関士に命じる。 宇宙の黒い空が瞬き、それは巨大な空間歪曲により青方偏移を起こした宇宙背景輻射だった。宇宙に満たされた冷たい電波が、歪んだ空間を通過することによって可視光領域まで圧縮されたのだ。 それはゆらぎである。 インフレーション理論に基づく、宇宙誕生の前にあったとされる“無”のゆらぎの姿が、視覚化されて艦隊の乗組員たちの目の前に現れた。 重力波センサーはどの艦の目盛りも完全に振り切れ、敵の姿をロストする。 アルカンシェル発射の余波は、太陽系全体に広がりつつあった。 同時刻、虚数空間内。 第1世界ミッドチルダへ向け航行していたXV級巡洋艦クラウディアは、巨大な次元震反応を探知した。 それは第511観測指定世界で、バイオメカノイドたちの戦艦インフィニティ・インフェルノに向け発射されたアルカンシェルのものだった。 次元震とは、すなわち位相欠陥が揺さぶられることである。 これによってドメインウォールが移動したり、一部がちぎれてテクスチャーやモノポールを形成することがある。 これがもし通常物質でできた天体に衝突すれば、それこそ巨大恒星や銀河さえも消し飛ばすほどの凄まじい対消滅反応が起きるだろう。それは超新星爆発にも匹敵するエネルギーである。 過去には、そのような現象によって、人間が居住していた惑星が消滅する事故も何度か起きていたと思われる。 はるか遠方、原初の宇宙で輝いているクェーサーは、一説ではこの次元震をエネルギー源に輝いているのではないかともいわれている。 宇宙の年齢は137億年であり加速膨張を続けているという説に基づけば、誕生したばかりの宇宙はとても密度が高く、そのときには現在よりもはるかに多いペースで次元震が発生していたと考えられる。 このモデルでは、宇宙空間を情報が伝わる速度の限界である光の速さ(およそ秒速30万キロメートル)を超えて現象が伝播できる。 すなわち、ひとつの位相欠陥が次元震を起こすと、それは相転移空間を伝わるので、見かけ上の速さが超光速のように見えるのだ。 実際には、何かの意味のある現象が高速で伝播しているわけではないが、ほぼ同時に広範囲の空間で対消滅反応が起きるので、見かけ上、次元震の波動が超光速で伝わっているように見える。 「艦長、ミッド・ヴァイゼン連合艦隊の砲撃です。一斉砲撃です」 クラウディア副長、ウーノ・スカリエッティは、艦橋のマルチスクリーンに投影された観測数値を見ながら言った。 「そのようだな。少なくとも150発以上のアルカンシェルが直撃している」 「次元の壁は破れますか」 「ここで破れなくてもいずれ破れる。その時彼らは自分たちの行いの真の意味を知るだろう」 ミッドチルダを出港した日の夜、クロノ・ハラオウンは幹部士官を集めて今回の任務に込められた意味を語った。 次元世界の真実。それを知ってしまったミッドチルダ政府がとるであろう行動。 そして、それに対して管理局の力の限界が見えているという事実。 ウーノは、この航海の目的は、いつ考え付いたものなのかをクロノに質問した。 その答えは、18年前、ギル・グレアムから闇の書事件の真実を知らされた時だという。 次元世界は、ここにきて、自らの姿を見つめなおし再確認する必要がある。 その写し鏡となるために自分たちは出航するのだとクロノは言った。
ミッドチルダもヴァイゼンも、自分たちの力ではどうしようもない存在が現れることを恐れている。この世に自分たちより強い力が存在することを恐れている。 だから、惑星TUBOYを秘密裏に破壊しようとしておきながら、あわよくばその技術を入手しようという、虻蜂取らずな作戦を立てたのだ。 それは恐れと欲望の二律背反であり、人間の心理を洞察するなら導き出すことは十分可能な答えである。 だからこそ、ウーノもこうしてクロノを信じることができている。 けして、無為な考えではない。 冷徹に人類の未来を見通している。この男はずっとそれを考えて生きてきたのだ。そして、自らの力で答えをつかもうとしている。 それは人間ならば誰もが持つ願いであり、悲願そして欲望である。 真実を見つめる勇気をなくし、その純粋な感情と心に目をそむけた人間が、いかに堕落してしまうかというのはウーノはよくわかっているつもりだった。 クラナガンの街すべてがバビロンであるとは言わないが、ミッドチルダは肥大しすぎた巨人と化しつつあるのもまた否定できない事実である。 「怖くはないか?」 半ば唐突に、クロノはウーノに問いかけた。 クラウディアは針路をミッドチルダへ向け、巡航中である。 「──いえ。私“たち”は、既に死んだ身ですから」 2年前、管理局が各地に設置している軌道拘置所が、テロリストによって襲撃されるという事件が散発的に起きていた。 テロの実行犯は管理局に対する批判を述べた。それは管理局の更生方針に対する不満であり、自分は私刑を行いたいのだということを言っていた。犯罪者に対する管理局の処遇は甘すぎであり、管理局が手を下さないのなら、自分が成り代わって彼らを処刑する。 この事件に伴い、拘置所に収容されていた囚人が多数死亡した。 その中には、JS事件に関わった戦闘機人や、首謀者とされる科学者ジェイル・スカリエッティも含まれていた──と、管理局はプレスリリースにて発表した。 もし自分が管理局に対して反旗を翻すなら、このシナリオを企てた者たちはどれほど慌てふためくだろう。 そんな嗜虐的な感情が、一瞬ウーノの胸中に生まれる。 クロノの冷静沈着な立ち姿を見て、しかしすぐに考えを静める。 彼の精神力は、軍人としてもかなりの強靭さを持っている。 それはけして刷り込みや洗脳などの恣意的な手段によるものではなく、あくまでも彼自身の強い意志によるものだ。 彼が幼いころからそういった鍛錬を欠かさずに生きてきたことをウーノは知っている。 彼の能力は、ジェイル・スカリエッティも高く評価していたのだ。 もし幼い頃の彼が夢見ていた未来があったのなら、今彼はまさに自分の生涯をかけた任務に就いているのだろう。 そして、自分はそれを助けたい。 よく補佐し、従うことを望んでいる。それは単にクラウディア副長の職務としてだけでなく、ウーノ・スカリエッティ個人としての意志でもある。 拘置所襲撃事件に際して、ウーノは、“テロリスト鎮圧のために出動した”管理局の巡洋艦に、“偶然”救助された。 もちろん、救助した艦の名前も、救助された人間の名前も、公表などするわけがない。 ウーノと同じラブソウルム軌道拘置所に収容されていた戦闘機人、ナンバーズ7番セッテは、ウーノの目の前で、“テロリスト鎮圧のために出動した”巡洋艦の砲撃を受けて爆死した。 巡洋艦の搭載艦砲は、XV級であれば5インチ速射型ショックカノンである。 これは位相振動による破壊効果を持ち、仮に人体に命中したなら、肉体が一瞬で原子核と電子を引き剥がされ、血も肉も骨も一切がプラズマ化して爆発する。 ナンバーズの中でも感情の発現がとくに少なく、機械のように行動しまた扱われていた彼女だったが、姉妹として少しの情はあった。 収容された巡洋艦の艦内で、他の軌道拘置所も同様に襲撃されたと聞いたとき、ウーノは初めて感情を爆発させ取り乱した。 この世で最もかけがえのない存在だと信じていた男を、失ったかもしれないという哀しみ。 それをもたらしたのが今自分の周りにいる管理局の人間だという事実。 自分の中の世界が、心が、壊れそうになっていたウーノを、真実を教えて救い出してくれたのはクロノであった。
管理局に“再収容”されたのは、ウーノ、トーレ、ジェイル・スカリエッティの3人だった。 クアットロとセッテは、それぞれの拘置所において、テロ実行犯ごと爆殺された。死んだと発表する以上、実際に現物を見せなければ報道機関の納得は得られないだろう。 二人の遺体──といっても速射砲の砲撃を受け、焦げた砂のようになってはいたが──は、JS事件の実行犯らが“全滅”した証拠として報道機関へ公開された。彼女らに直接手を下したのは管理局である。 だが、そのような事実は外部からは観測不可能であった。 トーレとスカリエッティは、共に管理局本局内のどこかで、極秘プロジェクトに携わっていると聞いた。 ウーノは、その能力を活かす道として、クラウディア乗り組みをクロノから持ちかけられた。 JS事件にしろ、管理局が治安維持をお題目に掲げている以上動かざるを得ないが、そもそもスカリエッティに研究を依頼していたのも管理局である。 利用できるものなら利用したいし、世論の批判さえかわせるなら彼の才能や研究成果は失うには惜しすぎるものであった。 スカリエッティの起こした事件は確かに混乱をもたらしたが、彼の持っている心とは、現代の次元世界人類が失いかけている純粋なものであるというのは、管理局としてもけして無視していたわけではなかった。 「艦長、もう一度確認しますが──これからの本艦の行動は、“本艦の意志”ですね?」 クロノはゆっくりと振り向き、ウーノを見る。 「そうだ。ミッドチルダ海軍の任務でも、時空管理局の任務でもない──」 クラウディアの艦橋発令所で正面に向き直ると、クロノは新たな命令を発した。 「航海、グリッド表示51-15への針路を計算しなおしてくれ。速力20宇宙ノットで到着できる時間はいつだ」 「はっ、20宇宙ノットでの航行ですと38時間後が目安です」 「わかった。速力20宇宙ノットで巡航開始。電測は交代、各科順番に食事をとれ。3時間後にワープを開始する」 虚数空間をかきわけ、航行するクラウディアは長距離次元観測機を発射して目的地の偵察を行った。 目指す宙域には、アルカンシェルの強大な空間歪曲を浴びて船体を捩じられるインフィニティ・インフェルノの姿があった。 時空管理局本局では、レティの管轄するドックに入渠したLS級巡洋艦ヴォルフラムの改装工事が急ピッチで行われていた。 大気圏内運用を主眼に入れたLS級では取り外されていたアルカンシェルを再度搭載し、切り札となる高火力を持たせておく。 それから、LS級にもともと搭載されている高度なイージスシステムに対応した誘導魔法砲台も、最大同時交戦目標数の多いタイプに換装する。 LS級の火器管制装置なら、最大で768個の敵ユニットを同時にロックし攻撃が可能だ。 最新型のXJR級打撃巡洋艦と比較しても遜色のない戦闘力を得ることができる。 なのはやヴィヴィオは一度艦を降りて、本局内部の居住区で休息をとったりしていたが、はやてはずっと艦内で待機していた。 どこに出かけるという気にもならないし、艦の工事を自分の目で見ておきたかった。どのような装備が搭載され、それを扱う作戦をどのように立てればいいかを考えておく。 若い頃、管理局に入りたてだった頃は、嘱託魔導師として働き詰めだったなのはを心配し、時には引き留めたりしていたが、今は自分の方がなのはよりも働き詰めになっている。 自分の生活の場が、艦という、職場と同じ場所になっている。 艦というのは多かれ少なかれ、乗組員にとっての家となるものだ。 だからこそ乗組員たちはある種の家族のような共同体であり、心をひとつにして戦うことができる。 それはどんなに科学が進歩しても、魔法が進歩しても変わらない。
ヴィヴィオは、本局内に設置されている無限書庫を訪れていた。 ここの事実上のボスであるユーノ・スクライアは、高町なのはの幼馴染でもあり、ヴィヴィオも、小さい頃は良く遊んでもらっていた。 「司書長は今日は外出だよ、たぶん夕方には戻るんじゃないかな」 「えーっ、そうなんですか」 ロビーの受付でヴィヴィオを応対した無限書庫の職員は、司書たちの行動予定表を見ながら言った。 ユーノが外に出るなど珍しいことである。 思えば彼はいつも書庫の中で探索を行うか、取り出した本を周囲に何十冊も浮かべて資料を整理しているか、そんな姿しか見たことが無かった。 自分から渉外活動をするような人物には見えなかったが、やはり、時にはそういう仕事をすることもあるのだろう、とヴィヴィオはとりあえず思っていた。 ヴィヴィオがヴォルフラムに保護されたことに伴い、聖王教会のシスターとして働いている戦闘機人オットーとディードの二人も、本局へ赴く予定である。 彼女たちと合流するため、ヴィヴィオは本局連絡空港の待合室へ向かうことにした。 ユーノは、行動予定表のホワイトボードに、行き先としてミッドチルダ国立天文台と書き込んでいた。 受付の職員も、たとえ司書長であってもわざわざ外出先を詮索することもない。 ここ数日、ユーノは外出が多かったが、それは単に外での用事が増えているだけだろうと考えていた。 ヴィヴィオが無限書庫を訪れていた頃、ユーノ・スクライアはクラナガンの臨海空港で、手荷物を係員に預けていた。 この空港では本局との連絡シャトルや緊急転送ポートが運航され、管理局の職員も多く利用している。 もちろん、無限書庫司書長であるユーノがこの空港を利用するのも当然の行動である。 搭乗ゲートをくぐり、乗降口へ向かっていたユーノの前に、二人の管理局局員が現れた。二人の服装は、一般職員ではなく本局査察部のものだった。 それは送迎といった雰囲気ではなかった。 ゲートの向こうで待っていたということは既に搭乗手続きを済ませていたか、別の便で到着しゲートをくぐらずに待っていたか。 どちらにしろ、穏やかな雰囲気ではない。 「スクライア司書長、少しお話を」 「すまない、急いでいるんだ。機に乗ってからでいいかな」 とぼけて答えたユーノだったが、二人の局員──服装からして、本局の査察官だろう──は、すばやくユーノの両脇を固めていた。 彼らのスーツの下で、隠密作戦用の超小型デバイスが起動する。 ユーノが彼らの誘導に従って乗降口を通り過ぎたとき、通路の向こうに、見慣れた男の姿が現れた。 綺麗に誂えた白のスーツに、光沢を出して磨かれた靴。 身のこなしは、おちゃらけているように見えてその実、一分の隙もない。 ユーノも、いずれ査察部の目に留まるだろうことは予想していたが、まさかこの男が直々にやってくるとは思っていなかった。 「どうした、ヴェロッサ」 「アコース査察官、と呼んでくれたまえ、ユーノ君。いやスクライア司書長」 普段のファーストネームではなく、互いの職掌で呼び合う。 それは彼らが任務として対峙していることを意味する。 「本局査察部は、無限書庫からの機密情報漏洩を疑っている」 「僕がそれをやったと?」 「その疑いがかけられている」 ヴェロッサが連れてきた査察官は、変わらずユーノを押さえている。 彼らは可視光で見えない捕縛魔法など、一般には流通していない特殊な術式を装備している。
「特に情報を持ち出したことはないな。無限書庫の情報管理規定にのっとって扱っている。具体的にどこが不味かったのか教えてくれるかな?」 ユーノはヴェロッサを鋭く見据えた。 もしユーノが本当に機密情報に触れていたというのならば、ヴェロッサもそれをこの場で口に出すことはできないはずである。 ヴェロッサのレアスキルである思考捜査でも、ユーノほどの魔導師を相手にすると、面と向かって心理の駆け引きをしながらでは捜索効率が落ちて現実的ではない。 「とにかく査察部へ一度来てくれ。ここでは話せないな」 「賢明な判断だ」 「以後24時間監視をつける。すまないが、業務の引継ぎなどがあるのなら遠隔でやってくれ。無限書庫には僕から話を通しておく」 「わかったよ──アコース査察官」 ヴェロッサの案内で、ユーノは査察官たちと共に管理局の特別便に乗り込んだ。 これは民間の航空会社とは別に運航される不定期便で、パイロットも管理局所属の軍人操縦士である。 使用される機体も、偵察機や輸送機などの軍用機を塗装でカムフラージュしたものだ。 ユーノにしてみれば、ようやくおっとり刀で本局が動いたかというところだった。 ヴェロッサを寄越してきたのも、他の査察官ではユーノを相手にするのが厳しいという考えがあったからなのだろう。 ユーノとヴェロッサは、かつて機動六課時代に共同で仕事をしていた経歴がある。 ゆえに、通常の業務では知りえないコネクションがあることを期待された。 そして管理局は、ミッドチルダ政府からの圧力を恐れている。 ユーノはそこまで見越した上で、協力者にクライス・ボイジャーを選んだのだ。彼は、現役時代はそこそこ名の知れた魔導師であり、同期の海軍軍人にはカリブラ・エーレンフェストやアストラ・ボーアなど、ミッドチルダ海軍の名だたる提督がいる。 そんな男に対し管理局が査察官を送ったなどということがミッドチルダ政府に知れれば、管理局は激しい批判に晒されることになるだろう。 よって、管理局が突いてくるなら自分しかありえないとユーノは考え、待ち構えていたのだ。 「まず行動指針を言ってくれるかな。管理局は最終的にどうしたいのか、それがわからないと僕も話しようがない」 機内の座席に深く腰を落ち着け、ユーノは腕を組んでヴェロッサを見据えた。 二人の査察官はそれぞれヴェロッサとユーノの向かいに座り、四人でそれぞれ向かい合っている。 ヴェロッサはいつものように、座席のサイドテーブルに焼き菓子を広げた。この男は勤務時間中でもどこでも構わず菓子を食べることで有名だ。それは本人曰く、自分のレアスキルは脳を使うため、糖分を激しく消費するからだという。 カラメルの香ばしい匂いが機内に広がり、軍用機のオイルの臭いと混じる。 3個目のワッフルを齧り、ヴェロッサは目線を上げてユーノを見た。 「今までと同じだよ」 それは長考の末に選んだ言葉にしては、やや投げやりに過ぎるように思えた。 しかし、考えてみればロストロギアの出土場所や世界によって扱いを変えるというのも管理局としてはできないことである。それはひいては次元世界を差別することに取られかねないからだ。 「今までと同じだ。今までと同じように調査し、今までと同じように応戦し、今までと同じように封印する」 「そのために必要な戦力は?」 ヴェロッサはシートベルトをしたままで、両腕を広げて見せた。 肩をすくめたつもりが、シートベルトで座席に固定されているので奇妙な体勢になる。 「とんでもない量だ」
「正気とは思えないね」 「そう、僕も正気とは思えない」 くくく、とユーノは思わず含み笑いを漏らす。 いつも冷静に、超然と振舞うこの男が、うろたえる姿は純粋に可笑しいものである。 同時に、これから迎える困難を共に乗り切ろうという仲間意識のあらわれでもある。 「今向かっている艦隊は捨て駒かな?」 「さあ、僕は艦隊司令部じゃないからね。ミッドチルダ海軍の考えは分からない」 「管理局としては、次元世界政府を正しく抑えるのが仕事じゃないのかな?」 「それができれば苦労はしないさ」 「ミッドチルダは自分たちに対し管理局は手出しできないと考えている」 「そのようだ」 もしミッドチルダと管理局が反目するのなら、管理局はその組織運営さえ危うくなる。 名目上でも組織系統上でも独立した国際機関ではあるが、管理局はその運営資金を次元世界各国からの出資に頼っている。 主席理事国であるミッドチルダの同意無しには、管理局所属部隊は事実上の活動が出来ないのだ。 ミッドチルダが否と言えば、管理局はミッドチルダ政府の責任をそれ以上追及することができない。 建前はともかく、管理局はミッドチルダが世界支配をするための出先機関と、中小次元世界からは見られている現状ではある。 「しかし、ミッドチルダ海軍が惑星TUBOYと交戦したことで、われわれ次元世界連合が惑星TUBOYにとって敵であると看做される危険はある。その可能性は非常に高い」 「艦隊の出撃が無ければどうだった?」 「それを僕に訊くのかい?」 ヴェロッサも、口元を引いて歪んだ笑みを見せる。 そんなことは言わずとも分かっているだろう、という表情だ。 腹のうちに隠すだけでなく言葉に出してみろと、ユーノは言外に伝えている。 「ミッドチルダは突如として異次元より空襲され、艦砲射撃を撃ち込まれ、無数のバイオメカノイドに蹂躙される。海軍の防衛線は10時間もてば良い方だろう。陸軍など何の役にも立たないだろう。 ──そう、ミッドチルダ政府は考えていた。それゆえに敵が動き出す前に叩く必要があった」 「敵戦力はそれほど強大であると見積もった──その根拠はあるのかな?」 この言葉を待っていたという風に目線を上げ、そしてわずかに声を堪え、ヴェロッサは言葉を紡いだ。 「その情報が無限書庫から持ち出された」 ユーノも、1秒か、2秒か、唇を引いたまま表情を止める。 吊り上げた目尻に、笑みは張り付いたままだ。 「成る程──ミッドチルダ政府は超古代先史文明の伝説を信じており、アルハザードの存在を確信しているということだね──」 「そう、考えうる“最悪の”シナリオだ。もしアルハザードが実在するのなら、ミッドチルダはおろか、現代の次元世界人類の持つどんな科学技術でも到底太刀打ちできない。 彼らに刃向かうなら人類はひとたまりも無く滅亡する。 そして軍隊とは国民の財産を守るために存在する。たとえ1パーセントでも危険が及ぶ可能性があるのなら軍はその危険を排除しなくてはならない」
「それが惑星TUBOYに、第511観測指定世界に大艦隊を派遣した理由──と」 その所謂ところの軍の使命さえ、方便として使われることをイメージする者がほとんどだろう。 危険を排除するためと言って、それならまずその危険が存在することを証明してくれとなる。 過去、ミッドチルダが大規模質量兵器の秘匿所持などを理由に他次元世界への侵攻を行ったケースでも、実際にその顛末がどうなったのか、質量兵器は正しく処理されたのかなどということはほとんど知られていない。 管理外世界オルセアが次元世界連合に非加盟であるのもそういった、ミッドチルダに対する不信感が根本にある。 ミッドチルダはそのオルセアに対しては現在のところ非干渉であるが、ヴァイゼンなどはかなり強硬に出ていて、近海の航路を通る民間次元航行船の護衛名目で艦隊を派遣したりなどしている。 「今ある戦力では惑星TUBOYは殲滅できないね。巨大戦艦だけじゃない、あの惑星自体が恒星間戦略母艦のようなものだ。 レリックは、ロストロギアを遺した文明の中ではいってみればごく普遍的な動力装置として使われていた──それゆえに出土数が多かった。 ジュエルシードも単に遠隔操作可能なように、使用者の思考を読む機能がついているに過ぎない。願いを叶えるなんてのは後から見つけた僕ら人類が勝手にそう思い込んでただけだ。 また、聖王──レリックウェポンがそうであるように生体への融合性が高いということは人体の強化に使うことも視野に入れた設計がなされているということだ。 正直なところ、これほどの技術文明を相手に戦争を挑むのは、ましてやこそこそと調査や試料採取なんてことをやるのは自殺行為というほかない。 ──でも、戦わずして降伏するのは人間的な感情を蔑にしている、人間の誇りを捨てた行為だ──というところかな?」 「確かにミッドチルダにはそういう考えの者が多い──次元世界連合の中心として、魔法科学興隆の地としての矜持── ──だが、それは今ここで論じることでもないだろう」 「──そうだな」 「問題は、現在ミッドチルダ及びヴァイゼンが艦隊を派遣するに至った理由、第511観測指定世界惑星TUBOYがアルハザードであるという仮説──」 「第511観測指定世界の情報は秘匿されていないね。探査機ガジェットの観測データも、ミッドチルダ国立天文台のウェブサイトで公開されているものだ」 まさか遡及適用をするつもりじゃないだろうな、とユーノは付け加える。 仮にも法治国家であるミッドチルダにおいて、そのような超法規的措置など不可能だ。 事件に対処するにも、法に則った捜査が必要である。 「今になって急に機密扱いにしたら、かえって不審がられる」 「ミッドチルダが惑星TUBOYを狙っていると白状するようなものだね」 ヴェロッサは連れてきた査察官に、本局へ連絡をとるように言った。 無限書庫司書長ユーノ・スクライアの身柄を、本局査察部査察官ヴェロッサ・アコースの監視下に置き、他の査察官の干渉もさせない。 もともと査察部は、執務官以上に互いの交流がない部署ではあるが、それをさらに徹底させる。 今となっては、本局査察部にさえミッドチルダ政府の息がかかっていないとは言いきれないのだ。 「だがそうなると、ヴェロッサ、君がそうじゃないとも言いきれないんじゃないのか?」 「だから僕と君が会うようにしたんだよ。君が他の査察官と会っても、僕が他の司書と会っても仕方がない。お互い、腹に一物を抱えているんだ。 抱えたものがあるからこそ、互いに相手を読むことが出来るんじゃないのかな。僕のレアスキルでも、相手が本当に知らないことは読めないよ」 「いいだろう」 ユーノとヴェロッサを乗せた連絡機は、本局の連絡港へ向かい、専用のレーンへ乗って着陸態勢に入る。 現在、本局はミッドチルダの昼の面に滞空しているが、連絡港がちょうど夜の側を向いていたため、本局の影に入って機内は一瞬暗闇に包まれる。すぐに室内灯が点灯し、窓の外に、誘導灯の規則的な点滅が瞬いている。 無限書庫に連絡を取ったとき、取り次いだ職員が、ヴィヴィオちゃんが来てましたよとユーノに言った。 他の司書たちには、クライスと会っていたことや、独自に調べていた超古代文明のことも話してはいなかった。彼らには何も事情を説明していないので、とりあえず長期出張になるかもしれないとだけ伝えている。 ヴィヴィオ。彼女もまた、ユーノの中では、かつてのJS事件の当時とは別の意味で特別な人間になっていた。 古代ベルカの王族とは、すなわち超古代先史文明人の血をも濃く受け継いでいるということである。
XV級巡洋艦クラウディアは、惑星TUBOYがその質量の大部分をインフィニティ・インフェルノの発進によって失い、主星との質量バランスが変わったため、現在の軌道よりもさらに遠方へ軌道半径が移行しつつあることを観測していた。 アルカンシェルの余波により、いったんは太陽の方向へ引き込まれるが、その反動でさらに遠くへはじき飛ばされる。 惑星TUBOYは一時的に、離心率の大きい楕円軌道へ移行していた。 この軌道は不安定なので、次第に近日点と遠日点が移動していき、軌道を数十周もする頃には、軌道半径3億キロメートル程度の円軌道に落ち着くとみられた。 これにより、他の外惑星の軌道も影響を受ける。 惑星の急速な軌道変更は、太陽系の重力バランスを変化させ、それまで遭遇しなかった未知の天体への道を開く。 ワープアウトした瞬間から、クラウディアはただちに全速力でインフィニティ・インフェルノの正面へ艦をとった。 ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊とは、インフェルノを挟んで真正面から向かい合う位置取りである。 アルカンシェルの全力砲撃を浴びたインフェルノは、艦後部が大きく捩じ切られたように割れ、内部構造を露出させた状態で航行していた。 動力はほとんど落ちて艦尾ノズルの炎は消え、慣性飛行に従って太陽に向かう軌道に乗っている。 さしもの巨大戦艦も、150発以上のアルカンシェルによる空間歪曲のエネルギーは、次元の壁を破ってダメージを受けるに十分過ぎたようだ。 放出された重力波は、おそらく宇宙を何周も巡るだろう。1000億光年以上を少なくとも伝播するということだ。 クロノは艦が完全にワープアウトしたことを確認すると、ミッドチルダ海軍の共通回線で、艦隊へ向け打電した。 ミッドチルダ海軍でも、クラウディアの突然の出現に驚いている様子だった。 突如出現した未確認艦に対し、艦隊先頭に出ていたLFA級アイギスが緊急応戦の準備にかかり、各戦隊の先頭艦から索敵レーダーが照射される。 艦隊旗艦であるRX級リヴェンジは、クラウディアへ向けて通信回線を開くよう返電した。 「大規模次元震を観測しました。敵戦艦がワープ準備に入っていると思われます」 『こちらでも敵の動きは観測している。敵には既に大ダメージを与えた』 「司令、私は時空管理局次元航行艦隊所属、クロノ・ハラオウンです。わがクラウディアは敵戦艦インフィニティ・インフェルノのワープ終了推定地点を計算しました。 敵戦艦が目指している宙域は、第97管理外世界太陽系です」 両艦を隔てる数百万キロメートルの宇宙空間が、凍りついた。 アルカンシェルの余波は空間を激しく歪ませ、背景に見える外惑星の光が揺らめいている。 静かに輝いている主星太陽から、フレアの光が瞬いた。K型主系列星は質量が小さいが、この惑星TUBOYが所属している太陽系の主星は核融合反応が同クラスの星に比べて不安定であり、爆発的なフレアを時折起こしている。 フレアによって光球から浮き上がって散らばる磁力線で、空間上に転送ゲートの形が浮かび上がった。 それはインフェルノが開いたゲートであった。 「司令」 『ハラオウン君、クラウディアの任務はトールの双子の観測だったはずだが』 「心得ております。結果、第511観測指定世界と第97管理外世界は非常に近傍であるという観測データが得られました」 この回線は秘匿通話ではない。通信内容は、艦隊全艦が聞いている。 「敵戦艦は第97管理外世界に向かっています。すなわち、地球へ向かっています」 カリブラ、アストラはそれぞれの艦で、クラウディアへ向け主砲をロックオンしたまま、インフェルノの軌道計算を行うよう命じた。 外宇宙航行を行う次元航行艦は、原則として単艦での行動が可能な程度の能力を最低限持つこととされている。 もし戦闘などによって僚艦が失われた場合でも、1艦でも残っていれば帰還が可能なようにということだ。 次元航行艦の搭載する航法システムは、惑星や恒星系などの運動を計算するのにも強力なコンピューティングパワーを発揮する。 「次元間航行プロセスはすでに起動しています。敵戦艦インフィニティ・インフェルノは、わが方のアルカンシェルを被弾するよりも早く次元移動の準備を完了させていました。 しかるに、ただちに敵戦艦の追撃が必要であると具申します」 『我々に、第97管理外世界へ進出せよと言うのか』 「緊急事態です」
艦隊司令と通信を行うクロノの姿、その言葉は、やり取りを後ろで聞いているウーノにとっては白々しくさえ思える。 最初から、ミッドチルダ海軍を第97管理外世界へ引きずり出すことを目的にしていたのだ。 地球近傍の宙域で、あの謎の小型探査機とすれ違った時──。 あの宙域が、位相欠陥として第511観測指定世界と第97管理外世界を繋いでいること、それはすなわち惑星TUBOYがその存在を察知していたのはミッドチルダではなく地球であるということだ。 そして、あの小型探査機は最初から第511観測指定世界を目標にしていた。 でなければあのような何もない宙域を飛んでいるわけがない。 ミッドチルダ艦隊は、惑星TUBOYへ向かえばほぼ自動的に第97管理外世界へ誘い込まれることになる。 今まで、幾百もの次元に分かたれていた世界が、惑星TUBOYを通じてひとつに繋がる。 解放されるアルハザードの真実は、次元世界人類の存在を軽く凌駕する。 「少々失礼します。──時空管理局本局より、緊急連絡を受信しました。本艦は新たな任務へ向かいます。 “次元航行艦クラウディアはすみやかに第97管理外世界地球近傍宙域へ移動し、敵戦艦を追撃せよ”──です。 私はこれより敵戦艦の追撃にかかります」 『ハラオウン君!』 「そのうちミッドチルダ海軍、ヴァイゼン海軍からも同様の指令が届くでしょう。よくお考えください」 『ハラオウン君!君はわざわざ、それを言うためだけにわが艦隊の真正面に顔を出したのか!?』 輝きを増す太陽に、吸い込まれるように旋回しつつインフェルノはゲートへ向かっていく。 艦首から、艦体が虚数空間へ潜行しつつあることを示すドップラーシフトの光が揺らめきはじめる。 クロノはクラウディアの操舵手に、回頭180度を命じた。 クラウディアはミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊に対し、完全に艦尾を向ける。 正面に立っている2隻の戦艦、アドミラル・ルーフとアイギスがクラウディアをロックオンしていることは確認している。 さらにクロノは、砲雷長へクラウディアの艦尾5インチ砲を使い、発光信号出力のショックカノンを使用してアイギスへ位相通信を行うよう命じた。 ショックカノンは、出力を低く抑えると、非常に狭い指向性を持った通信波として使える。空間の位相そのものを偏向させるので電磁波のように拡散することがなく、非常に遠距離まで届く。念話のように傍受されることもない。 クラウディアの艦尾5インチ砲が砲口をかすかにきらめかせてモールス信号を発し、その光をLFA級戦艦アイギスは受け取った。 位相のわずかな偏移に信号を載せ、送る方法である。これは次元航行艦同士の秘密通話に最適である。わずか数百キロメートルしか離れていない隣の艦では、これを受信できないのだ。 通信を受けたことを聞いたアストラは、通信士に受信データの復号を命じた。 やがて、通信士が復号されたクラウディアからの電文をアストラに送ってくる。 「────艦長。クラウディアは──」 「さすが、ハラオウン君……あのギル・グレアム提督の直弟子というだけはある」 アイギスの艦橋からも、次元間航行へ移るインフィニティ・インフェルノの姿が見えていた。 それは太陽の光をかき消してしまうほどの強烈な輝きを放ち、インフェルノがいかに巨大な艦であるかということを見せつけていた。 インフェルノが潜行していく虚数空間への穴から、すれ違うように小物体が飛び出してきた。 アイギスの電測士は念のためそれを報告したが、アストラは、今はそれに構っている暇はないと判断した。 クラウディアに続いて、アイギスが機関を始動させ、艦を発進させる。 『待ちたまえ、ボーア君』 「司令、もとより我々は後戻りできません。敵戦艦を追撃すべきです」 『しかし、管理外世界に──』 「許可を得たと同義です。ミッドチルダ政府の命令とは、敵戦艦の確実な撃滅です。敵が他の次元世界に逃げたから仕留め損ねましたではいけません」
アイギスに続き、アドミラル・ルーフが、続いて第1戦隊の戦艦群が次々と発進する。 リヴェンジの艦長も、座乗している艦隊司令に、発進許可を求めていた。 『──わかった。これよりわが艦隊は敵戦艦の追跡を開始する。各艦、アイギスに後続して次元間航行に入れ』 「了解──!」 クラウディアから遅れること1300万キロメートル、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊は敵戦艦インフィニティ・インフェルノを追い、第97管理外世界へ向けて発進した。 惑星TUBOY宙域には、損傷して航行不能となった艦の救助のために駆逐艦数隻を残し、残りの主力艦は隊列を組み直して再出撃する。 その艦たちを、無機質に見つめる目があった。 宇宙探査機、ボイジャー3号。 ウラヌスの槍に突入し、長距離ワープを行った本機は、スピン通信により現在位置、そして撮影した光学観測データをジョンソン宇宙センターへ送信した。 受信したデータはただちに解析され、ウラヌスの槍を抜けた先が地球からおよそ170万光年離れた暗黒銀河の影にある、局部銀河群のはずれに位置していることを確かめた。 ボイジャー3号が撮影した天の川銀河は、史上初めて、外部より天の川銀河の全体像を直接捉えた写真となった。 太陽系からでは、暗黒星雲や銀河バルジに阻まれて全体像が見えなかった天の川銀河の姿。 それは全体的に黄色っぽい色をした、はっきりとした4本の太い腕と短めの棒状構造を持つ棒渦巻銀河であった。 太陽系とは銀河中心を挟んだ向こう側に位置しており、腕は手前から南十字腕、白鳥腕、ペルセウス腕と続いているのが見える。この中で白鳥腕は銀河全体を一周するほど長く伸び、その直径はざっと12万光年以上はあるように見えた。 天の川銀河は、これまで考えられていたよりもはるかに巨大な銀河である。 そして、この局部銀河群で最大の銀河であるアンドロメダ大銀河は、実にその2倍以上の規模を持つ、超巨大銀河であった。 バルジや腕は天の川銀河に比べて青みがかっており、若い大質量星の数が多いことを示している。渦の巻き方は緩くそれぞれの腕は平たく伸びた円盤型で、直径は20万光年以上に達し、さらに銀河ハロの濃い円盤が35万光年以上の範囲に広がっている。 ボイジャー3号が現在位置している空間は、地球からではいて座の方角に広がる銀河中心の強い明るさに光が拡散され、観測しにくい領域だった。 さらに多数の矮小銀河が込み合い、暗黒星雲に隠されて地球からは見えにくい位置であった。 それでも、近傍に存在する惑星から、ある特定の信号が発せられていることを確認した。 かつてボイジャー1号が搭載していた電波信号。 それを何らかの手段で入手した存在がおり、彼らがウラヌスの槍を通じて地球へ信号を送り返してきた。 そして、その発信源とされる惑星にたどり着いたボイジャー3号は、地球へ向けて航行する、多数の巨大宇宙船を発見した。 西暦2023年12月26日、ESA(欧州宇宙機関)が運用するハーシェルU宇宙望遠鏡による観測で、太陽系黄道面より南へ20億キロメートル、“ウラヌスの槍”と名付けられた宙域に、全長100キロメートル以上に達する巨大物体が突如出現したことが判明した。 100キロメートル以上の大きさを持つエッジワース・カイパーベルト天体や散乱円盤天体が、これほど近い距離にあれば、これまでに行われたサーベイで発見されていたはずである。 観測された軌道要素は、その物体が地球への衝突コースをとっていることを示していた。 考えうるあらゆるパラメータを考慮に入れた計算で、トリノスケールは10と算出された。 この物体は、地球への衝突が確実である。
直径100キロメートルの小惑星が激突すれば、地球の生命圏は間違いなく、根こそぎ破壊される。 アメリカ、ソ連、日本、イギリスの各政府は、ほぼ同時に、それぞれの持つ情報機関からの分析結果を受け取った。 そこに記された答え。 それは多くの人にとって驚愕と畏怖と憧憬をもたらすものであり、そして一部の人間にとって絶望と希望をもたらす運命である。 多くの人間が、かすかな希望を持ちながら、それが訪れないことを願いそして諦めていた。 一部の人間が、それを待望し、そして絶望していた。 ──異次元からの来訪者が、まもなく地球へやってくる。 ハーシェルU宇宙望遠鏡による観測データは、この巨大物体が天然の小惑星ではなく、人工物、それも超巨大な宇宙戦艦であることを示唆していた。 さらにそれだけでなく、この巨大艦に引き続いてさらに数百隻もの宇宙戦艦が、ウラヌスの槍宙域に出現している。 ウラヌスの槍から発せられていたボイジャー1号の信号とは、はるかな異次元に存在する者が送り返し、ワープ空間であるウラヌスの槍を経由して、直接太陽系内に送り込まれた電磁波だった。 これならば、他の星から太陽系にやってくるのに何万光年もかける必要はない。 発信源である惑星は、ボイジャー3号による観測では距離が遠すぎて詳しいことは分からなかったが、少なくとも何らかの生物が存在していることは確実とみられていた。 おそらくボイジャー3号が到着する直前に他の天体と衝突したか何かで、惑星は大きく抉れていた。破片が周囲に漂っていることから、その現象が起きたのはごく直前であると考えられた。 しかし、破片は急速に集まり、惑星はその形状を修復しつつあった。通常重力で小惑星が微惑星へ成長していく過程よりも比較にならない速度である。それは人工的な手段で破片が集められていることを意味する。 ボイジャー3号の重力波検出器は、惑星それ自体の質量に由来する重力ではない、人工重力とも呼ぶべき波動が破片に向けて放射されていることを観測することに成功していた。 あの惑星は、生きている。 直径およそ4500キロメートル、太陽系でいえば水星程度の小さな惑星である。 その惑星は、あたかも自らの意志を持っているかのように周囲の破片を引き寄せ、結合させ、成長していた。それはすなわち、その惑星に住む生物ないしそれに類する存在が、自らの意志を持って惑星の修復を行っているということだ。 NASAはボイジャー3号を問題の惑星へ軌道投入することを試みたが、速力の問題とまた惑星の質量の変化が予測しきれないことから、観測を開始できるのはどんなに早くても翌2024年2月頃になってしまうと計算された。 その頃には、ウラヌスの槍から出現した宇宙船群はとっくに地球に到着しているだろう。 地球人類にとって初めて訪れる、他の星に住む知的生命体との遭遇。 その瞬間が、刻一刻と、迫っていた。
第8話終了です クア姉さま…(;ω;)けしてポルテ通信士と名前が被るからとかそういう理由では(ry 個人的にナンバーズではウーノ姉さまが一番好きです 色々艦とか提督の名前が RX級戦艦リヴェンジ以下→イギリス海軍リヴェンジ級戦艦(R級とも呼ばれ全ての艦がRで始まる艦名をもっています) LFA級戦艦アイギス→レクサス・LFA GS級巡洋艦→レクサス・GS E級揚陸艦ホーミー、ヴォクシー→日産・ホーミー(ホーミーの車両型式がE2x)、トヨタ・ヴォクシー アストラ・ボーア→オペル・アストラ あとカリブラ・エーレンフェスト艦長は1話からの再登場ですがエーレンフェストの定理という量子力学の公式があるそうですね クラナガンM12…きっと日本沈没とか2012とかそんな感じの映画ではないかと 地球を一周する断層のエネルギーがマグニチュード12だそうなのでアラレちゃんのパワーは(汗) いたぞぉぉぉ!は某シリデター…もといプレデターですね オロシガネは2面に出てくる敵です 敵もビームやグレネードを使い始めてひーひー逃げ回ってるところに画面外から突っ込んでこられると非常に危ない 何か踏むとしびれる床とかヘンな仕掛けがたくさんありました ではー
乙です
乙です ついにクロノが…!? そしてロッサ&ユーノもなにやら企んで… 男衆がとても渋いですね
乙です なんという地球逃げてーな展開 段々と謎が解き明かされていくようでワクワクします ていうかセッテさん爆死してたのかよ!やだー! え?メガネ?あいつは別にいいんじゃないかな
初投稿ではありますが、「怒首領蜂 大往生」とのなのはクロス短編というネタで出します 投稿はじめは午後9時半辺りを予定 ※注意! :治ることにはなりますが、一部のメインキャラクターが重傷を負う描写があります :メインは「大往生」ですが、「怒首領蜂」系列四作(+α)より 文章・単語・要素を引用しています(「大佐」の言葉など) :最後の「おまけ」は「怒首領蜂」以外のタイトルを用いています タイトルは「StrikerS VS 怒首領蜂」ということでどうぞー
[ WARNING ] このさきには 暴力的で 鬼のような 極殺兵器どもが あなたをまっています。 そ れ で も 抗 い ま す か ? ⊂ はい ⊃ いいえ ……………………………………………… JS事件から経て、約1年とXヶ月後……。 『だっ、だめだ! 防御魔法が役立つ状きょ――ぉぉぉあああ――――!』 ―――《それ》は突如、やって来た。 『緊急事態』という名の、招かれざる客。 「本隊の到着前に……調査部隊…全滅…!?」 『正体不明の飛行物体の追跡および調査』……その緊急通告が事の始まりだった。 次元航行艦からの発見を察知次第、《それ》は暴れ出し、そのまま暴れ続けた――― ----- 「ヴァイス君っ!離脱して!このままじゃみんな…狙い撃ちにされる!」 「少数っ……無茶っすよ!? 《アレ》…《アレ》は……明らかにヤバすぎる!!」 ―――桜色と黄金色。二色の閃光が向かう先に、《それ》は居た。 「…死なないでくださいよ、なのはさん…フェイトさん…!」 燃え盛る火のような何かに常に包まれた、異常な姿―――
----- 「直撃…したはず…!?」 星々の光が弾かれた。 稲妻の剣が砕かれた。 《それ》の体を内包した、狂ったように輝く珠によって。 「っ!フェイトちゃん!離れてっ!!」 その御礼として、贈り物をするかのように、 《それ》のあらゆる所から破壊の嵐が溢れ出す。 周囲を遍く壊しながら。 立ち向かっていた空戦部隊はその礫を嵐を避けて、 避けて、そして避けきれずに命を落としていく。 離脱者を除けば残り、彼女たち2名――― 「プロテクションが…っ…!もた…ない…っ!?」 終わりが無い。 休みなど無い。 彼女ふたりの身を守る盾は、ただ削られるだけ。 《それ》が撒き散らす破壊の礫。もはや嵐。ただひたすら続く雨、雨、雨……。 生物であれ、非生物であれ、 周囲にあるものを《殺す》しか脳が無いかのように振る舞う魔物――― 「…っ…!フェイトちゃんっ!?」 パートナーの限界を察してか、パートナーを背にするように盾を展開し、渾身で庇う体。 …覚悟の行為も、長くは続かない。 盾は砕け、礫が爆ぜ、その体が撥ね揚げられ、墜ちる――― 「…っ………っ…!」 迫りくる、嵐。 墜ちていく、仲間。 限界に追い詰められた、自身。 何をするか、すればいいのか、迫られる、決断。 渾身の離脱。 それしか無かった。 余力では、それしか出来なかった。 全身で友を抱きしめ、墜ちていく。 遠くへ。友が危うくならないぐらい、遠くへ―――
敵となるものが近くから消えた事を《それ》が認識した時、《それ》は、深追いをしなかった。 まるで《誰か》に呼ばれるように、飛び去り、消えた――― ----- 破壊の跡。 瓦礫の地上。 力無く横たわる体ふたつ。 先に目が覚めたのは、黄金色の髪の彼女。 覚めても、体中に残る激痛、脱力感。薄れたままの意識。 その彼女の上に覆い被さったまま、力尽きているもう一人。 「……っ……なの……は……?」 破壊の嵐の中、墜ちゆくパートナーを抱きしめて、体を挺して友を守った彼女も、 破壊の礫を幾度と身代りに受け、無事ではなかった。 「…な……の…は…… …起…き……て………な…………は……」 弱く震える手で、触れる。 力尽きて動く気配が無い。弱い鼓動が体を通して伝わってくる。 その頬に手を伸ばす彼女も意識も、やがて闇に沈む。 ―――高町なのは ―――フェイト・T・ハラオウン ――――――――以下2名、意識不明の重体で発見された。 * * * ………もがれた光の翼。……… ………閉ざされた天の光。……… ふたりは夢を見る。 同じ夢。 宣告の夢。 夢の中に現れた、男の声。――― ――― 我々の未来をより輝けるものにするために、 私はこの時代の次元圏に新たな秩序を築くことにした。 ――― …っ…はぁ……はぁっ… ――― さしあたり貴公らには私の 獄滅極戮兵器群と戦ってもらおう。 ――― …はぁっ……ぁっ……は…あ…っ…! ―――― 涙と鼻水の覚悟はよろしいか? ――――
「――――――――っっ!!」 長い暗黒の中から、謎の幻聴と己の荒い呼吸で、彼女は目を覚ました。 「……っ…!」 上体を起こした直後、腿や背に、痛みが走る。長い昏睡の影響か、頭痛もする。 まどろみが残った寝醒めで、彼女――高町なのは――は、病室で意識を取り戻した。 奇跡的に後遺症が悪化するようなことは無かったが、 あの時の交戦で受けた負傷が治りきったわけではない。 ----- ―――同時刻、聖王教会。 外光も無い闇に包まれた部屋の中、彼女は、右手の紙片を見ていた。 その文章から目を背けず、それでも、右手の震えは止まらない。 呼吸は静かに、それでいて何かを恐れるように荒い。 『…《黙示録》の…再来……』 「預言者の著書」。それによって創造される言葉。 その中に、彼女の心を乱そうとする句が刻まれていた。 〜 輝ける翼と死の宿命を携え 女王は帰還せり 女王絶える時 緋き羽音は産声をあげ ついに世界は洗われる 〜 * * * ―――およそXヶ月後………。 ………異常な宣戦布告。……… 首都クラナガンを中心に、無数に浮かび上がるホログラム。 TV画面の放送すらジャックされてまで、《その男》が姿を現す。 《私の名は、ゴットヴィーン・ロンゲーナ。 地球圏国連軍・大佐である》 《この領域を中心とした未開拓次元圏において、 私が新たな秩序を築くことにした》 《理想の管理体制実現のため、 余剰な存在に対して然るべき処理が必要だ》 《翌日より私の最強の特別戦闘兵器群をもって 君等を抹殺するので、よろしく》 《どこまで もがき苦しむか見せてもらおう》
―――『未開拓』。 あからさまにミッドチルダを見下した単語。 新大陸に上陸した『征服者』と、わざとらしく明かすような言い訳。 そして、『抹殺』。 その場の居住者達に対して、異常すぎる宣言。 あまつさえその宣告をしておきながら、『よろしく』などと――― ………本局内、病室。 広範囲にわたる『宣告』が、彼女の目に、耳に入らない事は無かった。 意識はある。 ベッドからは離れられるも、まだ癒えきったわけではない。 「同じ…男…?」 あの奇妙な夢。 黒一色だけに埋め尽くされた中、彼がいた。 その夢の中に現れた男と同じ服。同じ髪。 「……間違いない……間違いないよ…なのは……」 一瞬だけ、ズキリ、と痛む脇腹を片手で軽く押さえつつ 窓の外を眺めたままの、金色の髪の彼女――フェイト・T・ハラオウン。 あの《異常な未確認機体》との交戦から奇跡的にも生還し、 そして、未知の暴力によってパートナーともども墜とされた。 友の体が癒えていることに安堵はしていたものの、 夢の中だけで一度見た《あの顔》。あの時と同じ《理由なき殺意》。 それに接したことで、心内に不安が現れ始めた。 その不安は翌日的中する――― * * * 緊急の避難勧告は既にミッドチルダ全域に亘り、住民などほぼ皆無。 残ったのは、戦える力を持つ者だけ。 そのうちの何名が予測できただろう。 決死の覚悟を宿した勇志が、叡智を組み尽くした技術が、 想像を絶する《ただの暴力》によってこなごなに砕かれることに――― ――― 死 ぬ が よ い ―――
………戦線の名を被った地獄。……… 「わずか日中3時間の交戦で、 こちら側の死者、重傷者ともに多数…クソッ!酷過ぎる!」 「敵はなんだろうと無差別に攻撃してくる!撤退しても…待機しても!」 「いつ来るんだ…? 隙を狙われてるのか、真っ向勝負で来るのか…これじゃわかりゃしないっ!!」 ………兵器という名の『悪魔達』。……… 「……運良く撃墜できた敵機を、グループ単位で回収できました。 …運良く、です…」 「パイロットが、居ないんだよ…。機械だ…。 プログラムだけが兵器の操作を全部処理してる」 「…西暦…さん、…っ!…三千…年…!?」 解読で明かされた、西暦3000年代。 悪魔は、殺意の顕現は、その時代の地球から来た。 ………焦燥と不屈の管理局。……… 「あんなものを用意してきたのだから解る…。 政治的な取引は、もとより存在していない…」 「生者の我々と、機械だけの敵勢力…… 先に疲れ、全滅するとしたら…」 「最初から『殲滅』するつもりで宣戦を告げてきた。 『降伏』の選択肢が無いことぐらい…解っている!」 * * * ………滅亡の真実。……… 『…騎士カリム、騎士はやてがご到着いたしました』 ―――秘密会議。 鉛のような重圧の空気の中で、公開される《黙示録》。 「本来なら離れられない立場なのを、無視してまで来てほしかったのは… 今、伝えなければならないことがあるため」 本来なら読んではいけない……開くことすら許されない…… 真実が開かれる――― 「歴史を覆し…聖なる栄光を地の底へ叩き落とすほどの、禁書よ」
――最たる終焉は形として現れた 終わりなき死と破壊のみを王の国々へ撒き散らした 僅かひとつの行いに全てが慄き 呻き 叫び震えた 無終の光が天空を照らし 数多の鈍色が大地を穿つ 逃げ惑う民も 抗い戦う騎士も 皆ひとしく死を免れる事はできない 何ものをも滅ぼす《女王》の羽音は止まらず 国の悉くを石と土の姿へ還され 全て潰えし時 悪魔の《女王》は飛び去りぬ―― 「古代ベルカも含めて、複数の次元世界の崩壊… 大規模次元震の引き金が、その《女王》一人――」 「『一人』じゃないわ…これを見て」 広げられた古代の布衣。遺された恐怖の記憶――― 「よほど恐れていたのか。それほど手遅れの傷だったのか。 生き残ったベルカの民が、己の血で描き残した、当時の遺物…」 ドス黒くこびり付いた色で描かれた《女王》の正体。 象形化されてはいるが――逃げる人々。墜落する巨船。 そして、それらを蹂躙する、空に座す《女王》。その姿は――― 「…ハチ。 ブンブン飛び回りそうな、…『蜂』そのまんまや…」 * * * ………対抗すべき術を求めて。……… 「ジェイル・スカリエッティ。上層からの特例により、 身柄を一時的に開放する。……協力を、要請する」 『いったい何の心変わりかね?クロノ・ハラオウン提督。 …まあ、声色で予測はつく』 再び集う、十一名の数――― 『今の立場ゆえ、映像を越しての言葉しか贈れないが――』 「…お久しぶりです、ドクター」 因縁の相手への、画面越しの面会――― 『お二人とも一緒に…そろそろ復帰かい?』 「ジェイル…スカリ、エッティ…」 『ああ、気を楽にしてほしいね、テスタロッサ。 今の私なら、君達に危害など与えられないだろう?』
『どうやらこうまでして「動員する」ぐらい緊急事態なのが解る。 少し前まで危険視していた対象まで働かせるとは、当局も底が知れたものじゃないか?』 『《アレ》は…ただの機械。どう分類しても機械さ。 何もかも「殺す」事しか考えてないような物体に過ぎないよ』 『私の目標とは真逆……完全な生命すら死滅させてくれるような「殺意」』 『質量兵器の範疇に済ませられるものじゃない。 《殺す》ことを《極めた》……そう、《極殺》の兵器――かな?』 『ここに存在するもの全てを敵と捉え、 完膚なきまで《ノックアウト》するつもりだ。 徹底的な《浄化》という《ノックアウト》で……だね…』 * * * ………戦禍の中、傷は深く。……… 「セイン…チンクを…連れて…離脱、しろ…」 「トーレ姉…っ!その、傷…っ…傷がぁっ!!」 「無様に…死ぬつもりは…ない… もし…散ると、しても…あの、檻の中で…錆びる、よりは…いい……」 「セッテもいる…残存戦力は…問題ない…… 事が、済んだら…すぐ戻る…! ……行けえぇーっ!!」 ----- 「重傷者が…多すぎるのよ…。医療班も、疲弊して…… ヴィータちゃん…私、離れられない…。だから――」 「そのままでいいさ、シャマル」 「…あのロクデナシどもをブッ壊すのは、あたしらの役割だ。 だからあたしらがぶっ倒れた時に、治す役がいねーと…無茶もできねーしな」 「死なないで…みんな……」 * * * 「特大級の敵勢力機…っ!4体です!4体同時に出現――」 ………それぞれの激戦。………
「ヴォルテール…退いて!もういいっ!お願い!逃げてっ!!」 『手加減なんか…する気ねぇっ!こんな…こんな事する奴らにっ!!』 「この剣が、折れようとも…心無きモノどもに、この地は蹂躙させんっ!!」 「返せっ…!みんなの…街を…空をっ…返せえぇぇーーっ!!」 大型制空戦闘機……凄駆! 「僕とディエチで砲台を壊す!止まった隙に、中枢を!」 「イノーメスカノン、踏ん張ってくれ…あと…あと、少しだけ…!」 「確実な道は…省みず一気にもぐり込むしか!」 「特攻する覚悟、できたんならっ…もうどうなっても知らないっスよぉーーっ!!」 局地用浮揚戦車……百虎! 「こ、のっ……このっ…!カメ野郎ォォォーーーっっっ!!」 「砕けるものかっ…!たとえ死んでも、盾となってみせる!!」 『リインの全て…全てを、マイスターはやてに託すです。だから…だからっ!』 「生きるんや……誰も死なないで…みんな生きたままで、勝つんやっ!!」 軌道衛星防衛艦……厳武! 「畜生っっ!墜ちろ!墜ちろっ!墜ちろぉぉーーっっ!!」 「近づけさえっ…!近づけさえ…すればっ!!」 「っ!スバル、違うっ!あっちはパーツを捨てただけで… 本体はまだダメージを受けてない!!」 「全力で…追いついて見せるからっ…!相棒ぉっ!!行っくぞおおぉーーっ!!!」 局地用浮揚戦艦……逝流! * * * 『私が提供できるものは、全てとは言い難いが…提供したつもりだよ。クロノ・ハラオウン提督』 『後はもはや私の専門外だ……では、しばらくは黙る事にしよう』 ジェイル・スカリエッティを映すウィンドウが、消える。
………復帰。そして、決意。……… 「…行こう。なのは」 「わたしだけじゃない、皆の未来が、かかってる。 逃げ道は、無くていいよ…逃げる気なんて、無いから」 ………決戦。……… 「…勘違いしないで下さる?高町一尉。 あんな相手なら、機械だって恐怖を覚える… このクアットロがここまで協力したのは、単純な保身が理由よ」 「わかってるよ。……ありがとう」 「…我が身が危うくなったら、速やかに離脱させてもらいますわ」 曇天の廃墟。 ただ続く、廃墟。 そこは、数多の魔導師が命を奪われ、2名のエースを撃墜した《暴力》が出現した場所。 そこに、5機目の特大敵性機体は現れた。 「あんな所に…堂々と設置されていた!?どうやって……」 最終鬼畜兵器……黄流。 「光の羽……あれが、真の姿……黙示録の《女王》…」 「たとえどんな強大な兵器でも、機械だよ。 機械なら…人が作った物なら……同じ人のわたしたちでも、止められるっ!!」
そして最後に現れる、“災狂”の敵―――! 「……っ…あの時と…同じ…!…だけど……」 ―― 果たしてここまで来たか。腹立たしいまでに優秀である。 ―― 「…いる……。あの《女王》とは別の……でも…近いの……」 ―― だがもっとも望ましい形に進んできているのはとても愉快だ。 ―― 「…ダメ……このまま居たら…ダメ……!」 ―― 我が未来次元圏総合改竄素敵計画は 君らの強い命を以ってついに完遂されることとなる。 ―― 「クロノ君っ!皆っ!!」 〜 魔法少女リリカルなのは ミッドチルダinデスレーベル 〜 StrikerS VS 怒首領蜂 「逃げてぇぇぇーーーッッッ!!!」 ――― いよいよもって死ぬがよい。 ――― ―――― そ し て さ よ う な ら 。 ―――― --------------------
―――同時公開!!!――― ある日、森の中… 「私、レコ!あなたはだあれ?」 「えっと、私、高町ヴィヴィオ!よろしくね!」 「タカ、マチ?なが〜い名前だねー」 迷って、たどり着いた先は、大自然の世界でした。―― 「これはね、サクレツの実!こーやって……」 すぐに仲良くなった、不思議な力のある女の子二人は、 (あれっ?母様から聞いた「レコ」っていう女は、どっちなんだろう…) 大きな竜を連れた、一人の男の子と出会いました。 「すごーい!」 「島が浮いてるよぉ〜」 「と、飛びすぎだよっ。二人とも待って〜!」 色とりどりの大地と大空の世界。 「パルムくん!ハイロー!大丈夫!?」 「き、君、ヴィヴィオちゃんなの!?それに、その光…きれい…」 「すご〜い!ヴィヴィオって、おっきくなるんだ!」 冒険の先に明かされる、哀しみと…… 「止めなきゃ…… パルムくんのママに…会いに行かなくちゃ…… こんな…こんなの……ひどいよ……!」 待ち受けるのは……女王の陰謀! 〜 虫姫さま ふたりと 聖王さまも いっしょ 〜 ――― ウッフフフフフ……虐狂の極悪上弩へようこそ。 ――― 「パルムくんのっ…ママなんでしょ!? 本当の…ママなのに……どうしてっ……どうしてっ!!」 -------------------- ※注意! これらのクロスストーリーは、何もかも始める気がありません(ノ∀`)
118 :
◆.cmcLtDHEM2R :2011/10/26(水) 22:10:49.70 ID:pRX6GvXg
これで1発もの短編ひととおり終わりましたー 途中までトリップというものを勘違いしていた 映画やゲームの予告編のようなもんを意識してみたら、最初から意識すると難しい… 「大復活」での大佐が過去の時代に軍隊を送り込んでいる設定らしいので↓ :空戦部隊との交戦…「【火蜂】のような極殺兵器試作機」の試験運用としてヤッた :古代ベルカの殲滅…「黄流」の試験運用としてヤッた こんな動機で行なったという設定のつもり 途中にある「大往生BOSS戦」での「なのは勢キャラの組み合わせ」は↓ :大型制空戦闘機・凄駆 vs キャロ&シグナム(inアギト)&エリオ :局地用浮揚戦車・百虎 vs オットー&ディエチ&ディード&ウェンディ :軌道衛星防衛艦・厳武 vs ヴィータ&ザフィーラ&はやて(inリインフォースII) :局地用浮揚戦艦・逝流 vs ノーヴェ&ギンガ&ティアナ&スバル (※セリフ順) こうなって最終戦のは :最終鬼畜兵器・黄流 vs なのは&フェイト(+大規模空戦部隊) :極殺兵器・■■ vs なのは&フェイト こうしたつもりです 「おまけ」に登場するヴィヴィオは「vividでの歳&まだ『聖王の鎧』は宿っている」 という設定のつもりで載せたりしました 「虫と竜ならルーテシア&キャロのほうか…?」 こう考えたりもしましたがな
>>118 乙であります。
ド派手な大破壊系SSが来たようで大変いいと思います。頑張って下さい。
さて、自分の方話が出来たので、23:00あたりから始めたいと思います。
>>118 乙。しかし、もし真・緋蜂-改が出てきたらどう足掻いてもバッドエンドしか見えないw
とはいえ、あれクリアーした人居るんだよな。まさに神の域
では、時間となりましたので投下開始いたします。 炎と煙、そして構造物の破片を周囲に撒き散らしながら、魔神はビル内を破壊しつつ突き進んで行く。 進路上にあるものはことごとく薙ぎ倒され、凄まじい破壊から逃げようと右往左往する人間たち。 ビルの外壁を突き破ると、魔神はゆりかごから人型に変形しつつ、オフィス街へ着陸…というよりは 墜落する。 路上にある車・街路樹・街灯が、前転姿勢でゴロゴロ転がる魔神に潰され、弾き飛ばされ、人々が パニックに陥って逃げ惑う。 魔神はそのまま突き当たりにあるアール・ヌーヴォー様式のオフィスビルに激突し、瓦礫が上から 降りかかって来た。 石材や金属材の破片を振り払いながら立ち上がると、メガトロンは右手あるなのはの身体を顔の前に 持って来る。 意識不明の重体に陥っているのは、生命反応を確認するまでもない。 「ふん、やはり儂の相手はあいつにしか務まらんか」 そう呟くと、興味を失ったメガトロンは、なのはを無造作に放り捨てた。 「なのはーっ!!」 なのはの身体が路面に叩き付けられる寸前、駆け付けたヴィータが抱き留めた。 ヴィータ自身もスタースクリームにやられたダメージで身体のあちこちは傷だらけだっだが、それには 構わずなのはに必死になって呼び掛ける。 「なのは! おい、しっかりしろ!」 いくら呼び掛けても何の反応も返って来ない状態に、ヴィータの呼びかけが途絶える。 力なくもたれるなのはを呆然と見つめるヴィータの脳裏に、ある光景が浮かび上がっていた。 純白の雪を染める夥しい量の鮮血。 背後から胸を貫かれるという、命に関わる重傷を負いながらも、なおもヴィータを気遣うなのは。 だが、あの時はなのはにもヴィータの呼び掛けに応えられる程度の意識がまだあった。 今は意識不明で身体が何箇所も複雑骨折や粉砕骨折している事、そのどれもが致命傷になりかねない 重大なダメージである事が、こうして抱えているだけでも判る。 胸が微かに上下しているのが分からなければ、死んでいると思っても不思議ではない。 ヴィータの眼に、深く青い怒りの炎が浮かび上がった。
なのはの身体を優しく横たえると、ヴィータは立ち去ろうとするメガトロンに振り向く。 「てめぇ…待ちやがれ!」 ヴィータには眼もくれず、メガトロンは悠然と歩を進める。 「待てっつってんだろ!」 そう叫んで鉄球を一個撃ち込むと、ようやくメガトロンは止まって振り向いた。 「何か用か? 人間」 メガトロンは面倒臭そうに言うが、それが余計ヴィータの怒りを煽る。 「許さねぇぞ! よくも…よくもなのはを…!」 怒りに燃えてグラーフアイゼンを構えるヴィータを、メガトロンは無関心に見遣るだけだった。 「止めておけ、貴様では儂には勝てん」 「うるせぇ!」 「無駄死にしたくなくばその人間を連れて立ち去れ。今ならまだ助かるかも知れんぞ」 そう言って背を向けたメガトロンに、激昂したヴィータが跳び上がってアイゼンを振りかぶる。 メガトロンはそれを軽く避けると、右腕のチェーンメイスを出して逆にヴィータを殴り飛ばす。 直撃を受けたヴィータは墜落しかかるが、何とか体勢を立て直して落ちるのを防ぐ。 なおも怒りを燃やしてメガトロンを睨み付けるヴィータに、メガトロンは凍り付くような冷たい 視線を浴びせながら言った。 「来い、試してやる」
グラーフアイゼンにカートリッジが立て続けに装填されるとギガントフォルムへと変形し、ヴィータ の足元にベルカ式魔方陣が展開される。 次いでアイゼンの槌部分の前にドリルが、尾部にはジェットエンジンの噴射口が現れる、ヴィータ の切り札“ツェアシュテールングスハンマー”だ。 噴射口から炎が噴き出ると、ヴィータの身体は独楽のように回転を始めた。 ヴィータは高速回転で勢いを付けて再度メガトロンへアイゼンを振りかぶる。 メガトロンが右腕を上げて防ぐと、腕を突き破らんとドリルが高速回転を始めて盛大に火花を巻き上げる。 「ぶち抜けぇーっ!」 必死の形相で叫ぶヴィータとは逆に、メガトロンは辟易したように首を振ると左腕をヴィータに向ける。 すると腕の中から砲が現れ、ヴィータ目掛けて立て続けに砲弾が発射される。 なのはが受けたフュージョンカノン程の威力ではないが、強力な砲弾の直撃を何発も受けたヴィータ は吹き飛ばされ、なのはのすぐ横に叩き付けられた。 「ぐっ…!」 ヴィータはうめき声をあげながら起き上がると、手元のアイゼンに眼を向ける。 すると、まるでそれを合図としたかのように、グラーフアイゼンの槌の部分全体にひびが走り、粉々に 砕け散ってしまう。 「ア…アイゼン!?」 ヴィータはそう一言口にしたきり絶句する。 グラーフアイゼンがあまりにも呆気なく壊れた事が切っ掛けで、ヴィータの中で荒れ狂っていた激情の 波が静まって行く。 ヴィータは呆然とした表情で、アイゼンを握っていた手から、生死の境をさまようなのはへ眼を向ける。 結果的に自分のデバイスに無理を強いてしまった事、なのはの救護を後回しにしてしまった事…これら の事実を否応なく自覚させられる。 それらに対する自責の念、メガトロンに対する憎悪、様々な感情がヴィータの中でまぜこぜになり、 自然と涙が溢れ出した。 「この儂に刃向かう事の恐ろしさを思い知ったか。だが、もう遅いぞ!」 その声に顔を上げると、メガトロンが二人を蟻の如く踏み潰そうと足を上げるのが見える。 「この愚か者めが、思い知れ!!」 ヴィータが反射的になのはに覆いかぶさった次の瞬間、轟音と共に巻き上がった土埃が辺り一面を包んだ。
目を開けると、ヴィータはなのはと自分が未だに潰されていない事に驚く。 何故自分たちが生き永らえているのか、疑問に思いながら周囲を見渡すと、メガトロンとは 全く別の、青みがかった銀色に四本の指が付いた機械の足の間に自分たちが居る事に気づく。 反射的に見上げると、メガトロンよりやや小柄ながら、それでも巨大な人型機械がそびえ立っている。 一瞬、新手の敵かとヴィータは警戒したが、それなら自分たちをかばう形で立つはずがないし、 メガトロンを見上げる青い光の目には邪悪さが感じられないのが分かった。 スチールブルーの装甲に包まれた機械の巨人。 ヴィータにはそれが、はやてから聞いたギリシア神話に登場する、天空を支える神アトラスを連想させた。 “アトラス”は、しばらくメガトロンと相対した後、天から響く雷鳴の如き重く響く、しかし父のような深い 威厳に満ちた静かな声で言う。 「メガトロン」 それに大してメガトロンも相手の名を呼んで返した。 「“コンボイ”か」
えー、本日はここまでです、色々考えた割には短い感じになってしまったような…。 今回のコンボイ司令官登場のところで「第一部 完」となります。 この時点での司令官の形態は“プロトフォーム”です。 「第二部」に関してはまだ構想が未完成ですが、現時点では最初に、ジャガー、インセクトロン、 リアルギアにナンバーズ非転向組と変態博士の登場を予定しております。 時間がかかると思いますが、なにとぞよろしくお願いいたします。
怒首領蜂・・・TDN蜂?ガチムチヒバチw 【アッー!ルタイプ射精ルタの由来】 隕石に扮したバイドらが地球に追突 ↓ 「バイドを倒せ」「倒せば電子制御兵器の暴走は止まるんですね」などの 会話を経て出動に。 ↓ R-13を選んだので、「黒い機体だなぁ」などと言われる ↓ ザコ敵がフォースに当たってドース値が溜まる。 ↓ モリッツGにフォースをぶつけながら弱点に波動砲をぶつける。「気持ちいい!」と悶えながら爆破。 水の中に入りBGMを変化させる。このあと、R-13がフォースをつけ、バイドに前から フォースシュート。「アッ、アッ、アッ、アッ!」と魚バイドは破壊されながら声をあげる。 ↓ 赤ちゃんも加わりラストダンスが始まる。ヤラれるばかりだったバイドが一転、攻勢に出て、 フォースを取り込んで精子を出し始める。R-13は小刻みに動きながら 避けて、ドース値が溜まってバイドコアにデルタ・ウェポン。 あとライトニング波動砲だったので異次元空間に取り残されたらしい。
R−TYPE LEO(独自設定大有り):R-戦闘機の機能持ったサイボーグ兵的なキャラ(全部機械だし、リリなのと対照的) R−TYPE FINAL:歴史設定等 R−TYPEタクティクス(T、U両方) ラスボスとか取り巻きとか、機体設定プラスα トリガーハートエグゼリカ(『チルダ』つながり。あと、フェインティア(イミテイト)の声が桑谷さん) とのクロス思いついたが ・・・これ、なのは達出る幕無いと言うか正直バイドやヴァーミスの餌か何かでしかなくなっちゃうよね? 惑星や世界の10や20どころじゃ何の意味も無いって…一体どうしろって言うんだ エグゼリカ達が仲間になってくれても魔法文明完全否定だよなぁ…アンチ書きたいわけじゃないのに いっそDODとクロs(ry
超兄貴とのクロスでロストロギア「プロテイン」を追う六課 第810(ハッテン)管理世界の王が起こした騒動はついに次元世界を巻き込む大戦争にハッテン、もとい発展した 聖王、覇王、冥王、そして裸王ボ帝ビルのベルカ四天王が現代によみがえる イダテン、ベンテンと激突する六課フォワード陣 「今こそワシの出番」と一肌脱ぐ(物理的に)レジアス中将軍 「筋肉よりおっぱいや!」と叫ぶわれらが部隊長 ええと…
両氏とも乙です それにしてもSTGにおける未来の地球はろくなもんしか作らないなw
>>125 GJ!
コンボイ司令キターーー!
映画じゃあんまり活躍しなかった装備を活躍させて欲しい。
超攻撃的文明 未知のものに対して、まずは攻撃の準備を行う 拾い物を兵器にするのが得意である あまりに攻撃的なので、作った人工知能が片っ端から誤作動を起こす 放置し過ぎるとわけの分からない兵器を繰り出すの要注意 兵器関連の発達速度は高度な技術を保有する多くの文明より数倍速い 勢い余って自分たちの星を滅茶苦茶にしちゃいました☆(てへっ 棒wikiより引用 なんて恐ろしい文明なんだ…
さらには荒廃した地球をたった一人で一万年かけて癒した 人間も開発してるなSTG世界の地球
>>127 いっそこれでもかとアンチ書けってことか?
因みに、にじファンのあるSS書きは、タグにアンチ管理局を追加したら
閲覧数に加速がかかったとか(汗
ここで戦闘妖精雪風とのクロスものがない不思議
>>130 >「よく見ておけスタースクリーム、本当の体当たりとは、このようにやるのだ!」
オールハイルメガトロンですね、わかります。
でも実写映画のビル突入を生身のなのはさん相手にやるのは自重してください、メガトロン様。
と思ったけど、実写版メガ様じゃ人間に遠慮なんてしないか。
メガ様がカッコよすぎてやばい。
いいとこで終わったなぁ>TF 次回も楽しみにしてます〜
DMのようにメガ様の脊髄を引っこ抜きするのだなオプティマスは。
どうもー 22時半からEXECUTOR第9話とミッドナイトのおまけを投下しますー
■ 9 時空管理局、本局近衛艦隊に配属されたLS級巡洋艦ヴォルフラムは、アルカンシェルの取り付け作業が終わり、併せて行っていた魔力炉の換装作業を進めていた。 LS級は船体のモジュール化が進んでいるので、エンジン換装も比較的簡単に行える。古い艦のように船体を切断しなければならないというようなこともないので、新しい魔力炉を据え付けたらモジュールを接続しなおせば船体は復元され、ただちに強度を発揮できる。 炉自体は、XV級にも採用されている基準魔力値120億のM9S型で、これは艦船用魔力炉としての次期標準機種になるとみられていた。 製造はアレクトロ社、組み立てはクラナガン北部の工業都市にある工廠で行われている。炉は補機類のみを外した完成状態で引渡しが行われ、実際に船体への取り付けを行うドックまでははしけで輸送される。 工事の視察にははやてと共にエリー、ルキノも訪れ、新しいエンジンの能力を確かめていた。 今回の編成替えに伴い、元主任操舵手だったルキノ・ロウランも、ヴォルフラム航海長として赴任が決まった。 現在、ヴォルフラムの操舵手を務めているフリッツは彼女の一番弟子である。 「頼むでルキノ。この艦も久しぶりやろ、あとでシミュレータ使うか?」 「任せてください。LS級は他にも何隻か乗ってますからね、大丈夫です、目をつぶってても操艦できます」 「期待しとるぞ」 ルキノは、2年前のEC事件のときはヴォルフラムの操舵長を務めていた。 その後、操艦技術研究のために本局へ移動し、多くの艦に乗務して操縦システムの研究と、操舵手の育成を行っていた。 船乗りにおける教導隊のような役回りである。 ドックの作業場から艦を見下ろすはやてたちに、構内通信が送られてきた。 はやては端末を取り出して、ランプの点滅色からそれが重要度の高い用件であることを察する。 「八神さん、どこからですか?」 「うん、緊急連絡や。おおよそ、本局がようようケツに火ぃ点いたっちゅうとこやないか」 通話ウインドウを出し、空間上に形成されたボタンを押して回線を開く。 連絡してきたのはレティだった。 彼女の息子、グリフィス・ロウランと結婚しロウラン家に嫁入りしたルキノにとっては彼女は義母にあたる。 レティの持つコネクションを活用するためにもヴォルフラムにルキノが再配属となったのだが、今回の用件はそれではない。 「ども提督。なんや最近、査察部が騒がしいようですけど」 『そのことだけれど、八神二佐。ミッドチルダ海軍連合艦隊司令部から、管理局への通報があったわ。 XV級巡洋艦クラウディアが第97管理外世界へ進出。惑星TUBOYから発進した敵戦艦、インフィニティ・インフェルノは──第97管理外世界、地球を目指して航行していると』 通信ウインドウを横から見ていたルキノが息をのみ、エリーは表情を引き締める。 『クラウディアは現在、敵戦艦インフェルノを単独で追跡し、ミッドチルダ・ヴァイゼン艦隊は約1天文単位の距離をとって後続中──向こうも、管理外世界まで追撃を継続することを、それぞれの政府がまだ決定を下せていない。 そして、われわれ管理局への要請は次の通り──“管理局は本事件に対してミッドチルダ政府およびヴァイゼン政府と共同で事件解決のため行動して貰いたい。ついては管理局所属艦船クラウディアの独断専行について誠意ある回答を求める。 管理局が我々次元世界国家の意思に反する行動をとる場合、管理外世界住民との無闇な接触を避けるため、クラウディアの拿捕、場合によっては撃沈も止むを得ない──”』 「──クロノくんが?」 “撃沈”という言葉に、はやてが頬を強張らせる。 クロノ・ハラオウン。それははやてにとっても少なくない思いのある男だ。 『ミッド艦隊がアルカンシェルを撃った直後に現れて、観測結果を一方的に言ってきたと──言ってるわね、向こうは』 「それは提督が命令したことですか?」 通信ウインドウの中で、レティはやや目を伏せた。
『残念ながら今のところ、クロノ君は私の命令に背いていると判断せざるを得ない──私が彼に命令したのは、観測事実を秘密のまま本局へ持ち帰ること。 このクラウディアの行動については、ミッドチルダもヴァイゼンも、限りなく過激な挑発として管理局に抗議をしてきているわ』 「じゃあつまり私らの任務は──」 「艦長」 拳を握る力を強めるはやてに、エリーが横からささやく。 エリーに腕をさすられ、はやてはすんでのところで声を押しとどめた。 管理局として、脱走艦の処分をも任務とされる。 しかもその標的は、幼い頃からの親友の、その義兄が指揮する艦である── 次元航行艦は単独で強大な戦力を持ち、しかもいったん港を出てしまえば、後は全く艦長の全権下に置かれる。外宇宙や別次元へ進出した次元航行艦には、陸上からの統制は及ばないのだ。 それゆえに、与えられた権限や任務を逸脱した艦には、どこの次元世界の海軍、宇宙軍であっても厳しい処罰が課せられる。 『落ち着いて。あくまでもミッド政府にはそう答えたというだけよ。私達管理局は独自に命令を出す── 八神はやて二佐、出撃命令です。明日早朝、クラナガン標準時12月26日午前5時を期してヴォルフラムは本局を出航、第97管理外世界へ向かい、天王星宙域で待機し敵戦艦インフィニティ・インフェルノを捜索してください』 「──了解しました」 通信ウインドウが閉じても、はやてもエリーもルキノも、緊張を解くため息を吐かず、重く押し黙っていた。 ここのところ、本局査察部でも妙な動きがあったのは見えていた。 特に、ヴェロッサ・アコース査察官が無限書庫の司書たちに対する調査を行っていた。 ヴェロッサは、そもそもの発端となった、カレドヴルフ社からの遭難輸送船捜索の依頼をはやてに持ち込んでいた。 そのヴェロッサが、今度は惑星TUBOYについて調べていたユーノの身辺を洗っていたというのである。 はやてとヴェロッサは、共に聖王教会の騎士カリムに師事した兄妹分のような仲であった。 仕事では、それぞれの立場や言い分があるのは分かるが──それにしても、管理局上層部の不穏な動きについては、はやてとしても疑念を拭いきれない状態であった。 聖王教会は、先日のクラナガンでのバイオメカノイド出現事件について、聖王が戦闘に赴き生存したという事実に触れ、ミッドチルダ市民においてはけして挫けたり自棄になったりしないでほしいという声明を出していた。 ミッドチルダには聖王がいる。だから、恐れることはない。というのだ。 聖王とはヴィヴィオのことである。ヴィヴィオは、およそ初めてといっていい実戦を行い、生き延びた。 DSAAレギュレーションに基づいた競技用魔法ではない、実際に殺傷能力のある攻撃魔法を使用するのは、JS事件でゆりかごに乗った時以降初めてのことだった。 そして、バイオメカノイドと戦い、自分の身を守りきった。負傷したなのはを守り、レイジングハートを起動させた。ヴィヴィオの魔力は、スポーツだけでなく実戦でも通用することを示した。 この聖王教会の声明に、ミッドチルダだけでない、他の聖王教が広まっている次元世界各国も激しく反応した。 聖王の存在は知っていても、ミッドチルダ以外の次元世界ではそれが実在する人物であると知られていない場合もある。 ましてや、現在存命している聖王が、14歳の少女であり、しかも人為的に造られた個体であるなどと知っている者はさらに少ない。 それほどの重要人物なら、なぜ護衛の一人もいなく、街中でいきなり戦闘に巻き込まれるような事態になったのか。 そもそも、聖王とは何者なのか。我々と同じ人間なのか。人造魔導師なのか。 聖王教会はこの事件を利用して信者を獲得しようとしているのではないか。何か裏があるのではないか。 ミッドチルダではいざ知らず、他の中小次元世界では混迷極まる反応が湧き上がる。 彼らは直接被害を想像しにくいために、クラナガンの市民に対して疑問を持ってしまう。 バイオメカノイドたちが闊歩したクラナガンの街は、中央第4区は全域が完全に壊滅し、隣接する区もかなりの被害を受けた。 交通網は各所で寸断され、市民の移動にも支障が出ている。 大クモに橋を落とされたメープル川では、川を渡る路線を持つ鉄道会社はいまだに運行再開の見込みどころか、路線修復のめどすら立っていない。
夜が明け、破壊されたクラナガンの街が太陽の光に照らし出されたとき、直接被害を受けなかった離れた地区や他の都市の住民たちも、クラナガンの被害の様子を報道で見て誰もが戦慄した。 戦争が起きてもこうなるだろうか、という、破壊しつくされた建造物。 そこがつい数時間前まで市街地だったことが信じられないような、地盤の露出。 ワラジムシが通ったところは道路や地面が穴だらけになり、戦車型が現れたところは建造物が穴だらけになった。ビルが倒壊した場所は、帯状にコンクリートの破片が積み重なっている。 ところどころに、傾いだ街灯や信号機、雑居ビルや商店の看板が、泥をかぶって埋もれている。バイオメカノイドの体液を被った瓦礫は、石もコンクリートも鉄筋も歪んで溶けていた。 大クモとの戦闘が行われたメープル川の川岸では、河川敷が大きく削られて川の流れが変わり、泥水が市街地の水路に流れ込んだり、切れた堤防からあふれた水が道路を流れたりしていた。 地震や台風などの自然災害が比較的少ないクラナガンゆえに、かつてこのような大規模な災害に見舞われたことが無かった。 JS事件でも、いくつかの軍事拠点が破壊されただけである。 また戦争ならば、軍事目標以外の民間建造物を攻撃しても(戦時国際法などをさて置くとしても)あまり戦略上の意味はないし、弾の無駄である。 はやてやなのはは、小学校の頃夏休みになるとよくビデオで見せられた、第二次世界大戦の映像を思い出し連想していた。 クラナガンの惨状は、東京大空襲もかくやというほどだった。 バイオメカノイドたちは軍事施設だろうと一般の家屋だろうと構わず破壊した。 それは彼らには兵器と住宅を区別する知能が無かったからなのかもしれないが、それでも、この現代において、無差別破壊というものがどれだけの悲惨な戦禍をもたらすのか、ミッドチルダ、そして管理局は見せ付けられた。 人間ではない相手──それはロストロギアを相手にしても同様である──との戦いは、戦争ではない。少なくとも、非対称戦闘である。 それを、管理局は改めて強く認識しなくてはならなかった。 謎の人型メカ、エグゼクターは、その動力に波動エンジンと核エンジンのコンバインドサイクルを使用し、使用する武器は劣化ウラン弾と中性子レーザーを使用している。 中央第4区のいくつかの地点では、地面にめり込んでいるウラニウム・ペネトレーターの残骸が発見されていた。ウラン236そのものの放射線強度はさほど強くはないが、燃焼して酸化ウランになると、粉塵となって重金属として振舞う。 もちろんバイオメカノイドに核攻撃が特に有効というわけでもなく、エグゼクターにとっては元々たいした武装でもない、ということなのだろう。 ヴィヴィオの証言では、エグゼクターは二丁拳銃で装備した劣化ウラン弾ハンドガンをほぼ100パーセントの命中率で撃ち、無駄弾のない攻撃を行っていた。 今クラナガンの土壌から発見されているのは、バイオメカノイドに命中して破壊効果を発揮した後──つまり命中時の高熱で燃焼した後──の酸化ウランの破片だ。劣化ウランを徹甲弾の弾芯に用いると、他の大重量砲弾と違ってこのように高い貫通効果がある。 はやてがヴォルフラムの艦長室に戻ってくると、管理局次元航行艦隊司令部より発令された命令書が届いた。 規定に従い、エリーの持っている暗号鍵とはやての持っている暗号鍵を合わせて復号し、命令書を開く。 ヴォルフラムが向かう先は、第97管理外世界の太陽系、黄道面を南へ26億キロメートル、地球からおよそ34億キロメートル、天王星軌道に共鳴する宙域だ。 ここは位相欠陥の存在が見つかっており、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊とインフィニティ・インフェルノはここを経由して太陽系へ向かった。 現在、地球近傍に見つかっている主な位相欠陥は太陽の南磁極付近、準惑星セドナ上空、この天王星軌道、そして太陽〜地球系のL3ラグランジュポイントの4箇所がある。 かつてのPT事件や闇の書事件のときは、アースラはL3ラグランジュポイント経由で地球とミッドチルダを行き来し、そして現在第97管理外世界に滞在している定期哨戒艦は太陽南磁極経由で行き来している。 哨戒艦については、インフェルノから見るとちょうど太陽に隠れる位置にいたため、いったん土星軌道まで退避することになった。2023年12月26日の時点では、天王星と土星はほぼ太陽を挟んで反対側に位置している。
インフェルノがとっている航路は、木星に接近する軌道を取る。新暦83年現在、太陽系内の外惑星の配置は、天王星軌道上の位相欠陥と地球を結ぶ軌道上には木星が陣取っている状態だ。 ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊は、木星を利用した重力ターン航行でインフェルノに追いつくことを目算している。一方、クラウディアは単艦で航行しているため、ミッド・ヴァイゼン連合艦隊はクラウディアの現在位置をロストしている。 ヴォルフラムは天王星軌道上で待機し、別途命令を受け次第地球へ向かえと指令された。 「自分らのとこの艦を追うのに、連合艦隊の一番ケツで待ってろゆうんか」 「本艦は正面決戦にはどちらかといえば不向きですからね。ともかく、時間がないです。第97管理外世界に到着し次第、高町さんとヴィータさんのSPT慣熟訓練を行いましょう」 「せやな」 ヴォルフラムには、改装工事と併行して、カレドヴルフ社の技術開発部より引渡しが行われた次世代個人用戦闘端末、SPTが配備されていた。 現在、2機の完成品と3機分の予備パーツが積み込まれ、なのはとヴィータが使用することになっている。 フェイトとシグナムについては、従来装備でのCQCを想定するため、大柄なSPTはとりあえず使用しないことになった。 本来であれば本局の訓練設備を使って十分に操作を覚えてからの実戦出動となるのだが、今回は如何せん時間がない。 インフェルノに追いつくまでの通常空間航行の時間を使って操作練習をすることになった。 シャマルはヴォルフラムの艦医補助として、ザフィーラはスバル、ノーヴェらと共にヴォルフラム搭載陸戦隊へ配属される。 ヴィヴィオは、オットー、ディードの護衛をつけて本局に残る。ヴィヴィオの友人たちも、とりあえずコロナとアインハルトの二人は無事が確認された。二人とも、中央第4区の北側に設置された避難所仮設住宅にいるという。 港に集まり、出港前の最後の別れを惜しんでいるなのはたちを見届け、はやては一足先にヴォルフラムに乗艦した。 フェイトとシグナムも、追って早朝に到着する予定である。 「艦長、出航まであと6時間です。交代で仮眠をとってください」 「エリーが先に行ってええよ」 「私は大丈夫です。艦長、今日はずっとつきっきりだったじゃないですか。少しでも休まないと」 エリーはまた、はやての手首のあたりを握った。ちょうど静脈を絶妙に絞める位置である。 「ちょ、わ、わかったわ!わかったからくっつくなつーの!」 あわてて離れるはやてに、エリーは珍しく優しい微笑みを見せた。彼女が笑うときはどちらかというと不敵な表情のほうが多い。 やや頬を紅くして、はやては艦長室へ引っ込んでいった。 はやてを見送ったエリーは、軽くため息をついて、艦橋へ向かった。 出航に先立って、補給の進捗具合を確認しておく。艦が必要とする物資は多岐に渡る。魔力炉に供給するための燃料(魔力素を多く含有する液化ガスなど)、魔力炉や魔力素吸着装置のメンテナンスのための交換部品、工作機材、そして水、食料、医薬品、武器弾薬。 乗組員の衣類や、居住区の調度品なども必要だ。高い士気を維持するためには、快適な居住環境が必要である。 デバイス用のカートリッジも、いつもの出撃より多めに持っておいたほうがいいだろう。特になのはやフェイトクラスの高ランク魔導師は、カートリッジの消費も多い。 個人カスタム品などのハイエンドデバイスでは、いわゆるマグナム弾のような強装薬のカートリッジも使われることがある。カートリッジの規格表を改めながら、レイジングハートやバルディッシュが使う弾薬も用意しておく。 発注をかけておいた物資は、艦後部の補給ハッチから搬入されている。 作業をしていた甲板科員が、燃料補給は午前3時30分までに完了するとエリーに報告した。 「了解。気をつけて作業をしてください」 「ありがとうございます、副長」 思えば、はやてが管理局の動きに対して思い詰めるようになったのは1ヶ月前、無限書庫の情報捜索を一手に取り仕切るユーノ・スクライア司書長に、ロストロギアの製造者とされている先史文明に関する情報を教えてからである。 ユーノに第511観測指定世界の情報を知らせて、取って返したように、同世界で民間企業の輸送船が遭難したという報せが届いた。 その司書長本人は、どうやら査察部の手に捕まり、聴取を受けているらしい。
第511観測指定世界は、発見当時はほとんど注目を集めなかった。 次元間航路も複雑で、その割に星間物質や惑星が少なく、コストをかけて発掘基地を建てるに値しないとして、資源採掘世界としても魅力的には見えなかった。 そのため、管理局も当初は放置しかけていて、無人世界への分類変更も検討していたのだ。 だが、この世界は、ひとつひとつ宇宙方程式の項を埋めていくと、恐るべき解を現してくる。 宇宙空間に存在するバリオンとダークマター、反物質の質量比、そして宇宙背景輻射の強度。 この世界が、ミッドチルダをはじめとした他の次元世界よりも、いくぶん“年齢が若い”宇宙であることが、方程式を解くことによってわかってきた。 これは次元世界中の宇宙物理学者たちが今まさに計算を行っている、解析途上の情報である。 最終的な答えが出るのは当分先の話になるだろう。 しかし、ミッドチルダやヴァイゼンや、そしてバイオメカノイドたちは、彼らが答えを解きだすのを待ってはくれない。 エリーが艦橋に戻ってくると、航海長に正式に就任したルキノ・ロウランと、通信士のポルテ・クアットロがいた。 二人は航法装置と通信装置の点検をしていた。 エリーの姿を見つけ、敬礼を送る。エリーも敬礼で返してから、発令所に入った。 「どうですか、具合は」 「オッケーです、航法装置に第97管理外世界太陽系の軌道数値は入れました。あとは実測で精度を補います」 慣れた手つきでコンソールを操作するルキノを、ポルテは尊敬の眼差しで見つめている。 「なんだか、寝付けなくって、ちょっと早く出てきちゃいました」 年若く、まだ軍隊色に染まっていないともいえるポルテだが、これから、もっともっと磨り減っていくだろうとエリーは思っていた。 惑星TUBOYから帰還してくる間、彼女は通信を取り次いでいるとき以外はほとんど放心したような状態で、はやてが何度か注意しないと操作を忘れてしまうほどだった。 一応、士官学校での教育課程は受けているはずだが、彼女が取っていたのは技術科なので、戦闘に関してはそれほどコマがなかった。 基礎鍛錬も受けているはずですが、とエリーは最初は思ったが、受けていてもまだ戦場を実感しきれない、という者も少なくない。 惑星TUBOYでの作戦は、ポルテがヴォルフラムに配属されてから初めての、殉職者を出した戦闘となった。 それまでは本格的な戦闘に入る事件もなく、おおむね、船団護衛や哨戒などで、たとえ敵が出てきても貧弱な装備の海賊で次元航行艦を見れば一目散に逃げ出す、そんな連中ばかりを相手にしていた。 そこへきて、人間の持つ武器や魔法をものともしないバイオメカノイドが現れたのだ。 彼らには、言葉が通じないだけでなくまったくの意思疎通が不可能だ。 バイオメカノイドは、目の前に人間がいるのを見て、それが人間であることを確かめると、即座に攻撃してきた。 まるで人間を狙っていたかのようである。 降下部隊が使用していた上陸艇には興味を示さず、人間だけを狙っていた。 離脱しようとする隊員たちが乗り込んで、ようやく人間が使う乗り物だという程度を理解したのか、ランディングギアにしがみついたりしたが、最終的には振り落としてヴォルフラムへ帰還することができた。 ヴォルフラムの降下部隊が遭遇した二脚型バイオメカノイドは、人間を見分け、攻撃する能力を持っていた。 人間を狙う殺戮ロボットである。 もし、そんな兵器が作られ、実戦投入されたら。 戦場へ運び込み、狙うべき目標を入力すれば、あとは黙って見ているだけでいい。自動的に敵(人間)を捜し、発見し、攻撃し、殺す。殺したら、他の人間を捜して移動する。それを、動力が尽きるまで続ける。 ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊が遭遇したバイオメカノイドたちについても、さすがに脅威と感じたのか管理局へ通報してきた。 それによると、惑星TUBOYへ上陸した揚陸艦の乗組員が、搭乗員の乗っているバイオメカノイドを目撃したという。 乗っていたのは、小さな、緑白色の身体をした奇妙な人型生物だという。 その報せを受けたはやては、これこそが、フェイトが追っていた“緑色の小人”に違いないと直感していた。 これも、揚陸艦乗組員の証言によるとバイオメカノイドと同じように爆発性のある体液を持ち、被弾による負傷などから容易に引火・爆発を起こすとされていた。 人型をした物体が爆発する。それも、人型メカなどではなく、二足歩行の生物が爆発する。
異様極まる光景といえるだろう。 たとえば、手榴弾を浴びたり。ベルカ戦乱期にカートリッジシステムが発明されると、このカートリッジに装填する魔力結晶を、簡易な金属ケースに詰めて手投げ弾として使用する方法が考えられた。アームドデバイスのリロード装置はそのまま、雷管になる。 この構造が、現代につながる魔導爆弾の先祖である。 これは火薬式の爆弾よりも小型化が可能である。魔力結晶はプラスチック爆薬に似て可塑性があり、錠剤型に成型することもできる。 そうやって製造した魔力爆弾はテロリストや、暗殺任務を行う諜報員などが利用した。 超小型魔力爆弾を仕掛けられた人間は、全身のいたるところが爆発を起こして、まず皮膚が破裂して筋肉や内臓が細切れになり、関節が外れて骨がばらばらになり、そして全身が人体としての機能を失ってただの肉塊になり、崩壊する。 関節から神経がちぎれて、皮膚が裂けて肉がはがれる。内臓は骨で支えられていないので、腹膜が破れればたちまちはみ出してしまう。 もし腹の中に爆弾が仕込まれたらどうなるだろうか?骨も腸も心臓もごっちゃになって飛び出す。 ましてやこの緑色の小人──現場では、“グレイ”と呼ばれたが──は、体内に、おそらく血管の中に、強い爆発性を持つ液体が流れているのだ。 叩いただけで爆発するかもしれない。そうなれば、皮膚も肉も骨も、すべてがばらばらになって飛び散る。飛び散れば、他のバイオメカノイドと同じように誘爆したり、毒性を発揮して二次被害を与える。 もはや人型をしている目的が、人間に心理的圧力を与えるためとさえ言えてしまう。 なぜ人型兵器が人型に設計されるのか、それは人間と同じ姿をすることで、自我や自己認識を狂わせるためだ。 人間が死ぬ様子を見れば、人は心に強い衝撃を受ける。 動物が死ぬ様子であれば、衝撃的ではあるが、人間ほどではない。 機械が壊れる様子であれば、衝撃はそれほどない。 人が、人間が死ぬ様子を恐れるのは、同族意識からくる。 ならば兵器を人型に作れば、その同族意識を狂わせることができる。 人間の姿をしていても、人間ではないかもしれない。その疑念を持たせることができれば、人間は、他人との連携という戦力のひとつを大きく殺がれることになる。 生理的嫌悪感を催す外見に、グレイは作られていた。 グレイが──緑色の小人が現実に存在するとなると、たとえばフェイトが捜査の過程で見つけた膏薬をくれる小人の伝承などの、『昔々、小さな妖精が天から降りてきました』といったような言い伝えも、おとぎ話と一蹴することが出来なくなる。 もしかしたら本当に、グレイがミッドチルダにやってきて、人間と接触していたかもしれないのだ。 膏薬は、もしかしたらスライムの原料かもしれない。 神隠し、ないしは、山に棲んで人をさらう妖怪──近代文明を手に入れたミッドチルダではすっかり聞かなくなった話だが、たとえばグレイが人間を採集し、自分たちの姿をドレスアップする参考にしていたかもしれない。 もしくは、バイオメカノイドがより効率よく人間を狩れるように性能向上の参考にしていたかもしれない。 「第97管理外世界に派遣されたことのある艦は少ないですからね。今までも、交代を入れても派遣される艦はほぼ固定でした。 今回、初めて同世界を訪れる艦がほとんどでしょうね」 「ミッド艦隊のどの艦でも、航法士は大忙しですよ、きっと」 「そういえば、八神艦長や高町教導官は、第97管理外世界の出身なんでしたよね」 ルキノは航法屋らしい心配をし、ポルテははやての故郷世界としての興味を示す。 はやてはミッドチルダに移り住んでから、他の局員のように里帰りというものをほとんどしていなかった。 もともと、地球でも天涯孤独の身であった。地球に帰ってもそこには実家など無い。帰るのは、なのはやフェイトが海鳴を訪れるのに一緒についていくといった程度だった。 はやてにとっては、もはやミッドチルダで過ごした時間の方が長くなっている。 また、今のはやての生活基盤もすべてミッドチルダにある。地球には、何も残してきていない。 海鳴市の生家は引き払ったし、学校も、もともとほとんど通っていなかった。闇の書事件の後、一般学校の基礎教育課程もミッドチルダで受けている。 いちおう、中学までは聖祥に籍は置いていたが、それだけだった。
そういった、元いた世界で身寄りをなくしたのでミッドチルダに流れ着いた──という身の上の人間もいないことはないが、はやてのように管理局に勤め出世するケースはまれである。 ギル・グレアムにしても、イギリスには実家を残して、たまに帰省していた。 管理局を退職後は、ほぼ実家に隠遁し、そして今回の事件に巻き込まれた。 「まああくまでも出身というだけですけどね」 「副長、それはまたどうして」 そういえばポルテははやての身の上を知らなかったな、とエリーは思い返す。 闇の書事件にしても、その顛末は一般には、局員でさえ知られてはいないのだ。 一般には、闇の書という違法に製造されたデバイスがあり、管理局の活躍により封印された、といった程度のことしか知られていない。 「艦長はもうこっち(ミッドチルダ)の人間ですから。そういえばポルテ、あなたはどこの生まれでしたっけ?」 「あっ、ええっと、私は西ミッドの、エルセアです」 「そう、割と近くですね。今回は、ちょっと遠出になってしまって新年のお祝いは艦内でやることになりますけど、大丈夫ですね」 「ええまあ」 照れるようにポルテは頭をかく。 西部エルセアはミッドチルダの中でもクラナガンに次ぐ大都市圏で、山岳地帯が多くやや乾燥した大陸型気候の土地だ。 古代ベルカ時代では、諸王国の領土獲得競争の最前線が延びていたこともあり、デバイス片手に傭兵稼業を営むガンマンのような者たちもいた。ミッドチルダにおいて西部劇といえばそのような者たちが生きていた時代を舞台にした作品をさす。 もちろん今は近代都市が広がる、今どきの街である。 今回、出港時間が未明になるため、勤務シフトで午前3時から作業にかからせる。 出港後、通常の3交代勤務に戻し、第97管理外世界へ到着したら第1種警戒態勢で航行するスケジュールになる。 「それじゃあ、私は仮眠をとってきますね。艦長が戻ったらよろしく」 「わかりました」 ルキノとポルテが元気よく返事をし、エリーは居住区内にある副長私室へ向かった。次元航行艦では通常、乗組員居住区の入り口から一番近いところに副長室が配置され、艦長室は別区画に置かれる。 副長は大抵の艦で船務長を兼ね、乗組員の監督も副長の職務になるため、ちょうど寮長のような立場にもなるのだ。 まだ少々時間が早いか、居住区は静かなものだ。皆、出港前の最後の休息だ。 エリーは副長室で自分の日誌端末に記録を打ち込み、閉じてから、艦長室へ向かった。 現在時刻は2時48分。交代の時間にはもう少しある。 「スピードスター、入ります」 はやては、艦長室に据えられた一人掛けのソファに背を沈め、指を組んで目を閉じていた。 ベッドもあるが、机に広げられたままの端末の様子を見るに、おそらく資料を読みながらうとうとしていて眠ってしまったのだろう。 「艦長……貴女の考えてることは私にはお見通しですから」 つぶやく。そっと音を立てないようにクロゼットを開け、替えのシャツを取り出す。 軍服というのは耐久性や機能性も大事だが、それ以上に、見栄えによる士気高揚の要素も重要だ。指揮官たる者がよれよれの格好では締まりがないというものだ。 今日ずっとエリーが見ていた限り、はやてはもうまる一日着替えをしていない。出港前に身なりを整える必要があるだろう。 「管理局員という──地球には無い特殊な公務ですからね── 誰にもましてその職務に忠実でなくてはならない──管理世界の人間になるということは、管理世界の維持運営に携わるということ── またその意志があるのなら、どこの世界の出身であっても管理局は迎え入れる── ──ただ何もしないで権利だけ主張、なんて人間が、今はじわじわ増え始めている── ミッドチルダが管理局を“羨む”のはそういう理由もあるんでしょうね──」 はやてのベッドの置き時計は、夜光塗料で青く文字盤を浮かび上がらせている。
エリーは、専門は社会科学で、組織運営と人材管理を学んでいる。 はやても、エリーの専攻は知っている。士官学校では、互いの専門科目を教えあったりしたものだ。 機動六課時代も、エリーは既に本局司令部附きで勤務していたが、六課解散直後はゲンヤの元で、はやては再びエリーと共に部隊長のスキルを磨いていた。 そんな、ずっと努力を続けてきたはやての姿をエリーは知っている。 彼女が背負うことになった運命も、闇の書事件のもたらした心の重荷も、知っている。 第97管理外世界地球という、ある意味魔法とは無縁な世界で生まれた彼女が、次元世界人類になろうとしていた思いを知っている。 次元世界人類になるとは、次元世界のために働くということである。 それは別に魔法があるとあらざると、どんな世界でもどんな国でもまたどんな社会でも同じことだ。 管理局が接触を持っていないというだけのことで、地球もまた次元世界のひとつである。 故郷は大切なものであるが、また縛られるべきものでもない。はやては、自分の生きていく場所を、この次元世界につくろうとしている。だから、その気持ちを、忘れずに認め、助け、支えたい。 それが、エリー・スピードスターのささやかな、しかし心からの願いだった。 ヴォルフラムの出航が6時間前に迫り、フェイトは北ミッドチルダでの捜査を切り上げ、時空管理局本局に赴くことになった。 アレクトロ社保安主任であるプラウラー・ダッジから得られた証言をもとに、アレクトロ・エナジー、及びヴァンデイン・コーポレーションに対する家宅捜索の手続きが取られることになった。 ここから先は、法務の領域である。 捜索令状が出れば、管理局の執務官が両社社屋および各営業所に乗り込んでの捜査が行われる。 管理局の警察業務における地位としては国際警察にあたるため、ミッドチルダやヴァイゼンの地元警察よりも地位と権限は高くなる。もっとも、執務官個人に対して、次元世界政府経由で圧力が掛けられるというケースもままあることだ。 管理局職員はどうしてもミッドチルダ出身の人間が多くなるため、たとえばミッドチルダ政府にとって都合の悪い事件となると、堂々と公開捜査を行うのが時には邪魔をされるということはある。 フェイトは、この件に関してはアレクトロ社が捜査を直接妨害してくるであろうことを警戒していた。 何より社自体が捜査に協力的ではないし、最初に依頼してきたプラウラーも社内では上層部と対立していたため、外部機関である管理局の助力を求めたという状況である。 よって、後任となる執務官には特に注意して、たとえ管理局の上司であっても疑ってかかれと伝えた。 本来ならこのような事件はじっくり腰を据えて、ティアナと共同で捜査にあたりたいところであったが、そのティアナも今はもう亡き人である。 プラウラーが言っていた、エグゼキューターなる者たちの存在──アレクトロ社が彼らに浅からぬ関わりを持っていることは確実である。 そして、ティアナ自身も。 さらに第511観測指定世界、惑星TUBOYは、このエグゼキューターに関わる企業や次元世界政府が極秘に人間を送り込み、何らかの工作活動を行っていた場所であった。 その惑星TUBOYが、惑星それ自体が巨大なロストロギアであるという管理局始まって以来のレアケースとなり、“調査のため”と銘打ってミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊が出撃し、さらに管理局も次元航行艦の派遣を決定した。 その艦に、自分も乗り組めというのである。 管理局は、今のところレティがほぼ独自に内部捜査を行っている状況である。 レティの肩書きとして軍令部総長という役職があるにはあるが、現代のミッドチルダではその権限の多くが形式的なもので実効力はない。 そのため、信頼できるはやてや自分に話が回ってきたというわけだ。 はやての指揮するヴォルフラムには、かつての機動六課メンバーも集められているという。 そして、ヴォルフラムがミッド・ヴァイゼン連合艦隊を追って第97管理外世界へ進出するというのだ。 第97管理外世界、地球。 かつて、自身がロストロギア・ジュエルシードを追って赴いた世界であり、さらにはやてとの出会いをもたらした闇の書事件の舞台でもあった。 管理局提督ギル・グレアムから、地球は管理外世界でありながらさまざまな魔法技術が眠っており、次元世界全体から見てもきわめて異例の措置がとられている世界であると聞いたことがある。
地球では、一般の住民と、支配者層である政府との間にかなりの認識の隔たりがあり、世界全体としては魔法技術を認知してはいるが、まだ現地住民に広く知られるところまではいっていないという特徴がある。 ミッドチルダや他の多くの次元世界と違い、魔法技術の発見よりも先に科学技術が発達してきたという点で大きく異なる。 現在、管理局の定期観測船が常駐してがいるが、この艦船も今回の艦隊進出に伴い一時撤退している。 なのはの実家帰りに一緒についていったりなどはしたことがあるが、事件によって、任務で向かうのは、闇の書事件以来初めてだ。 連絡の電文の最後に、次元航行艦クラウディアが、ミッド・ヴァイゼン連合艦隊より任務逸脱の疑いで追われているとも付け加えられていた。 これは彼に命令を伝えたレティも把握していなかったことである。クロノは、おそらく独自の判断でインフィニティ・インフェルノを追い、ミッド・ヴァイゼン連合艦隊を第97管理外世界へ誘い込んだ。 インフェルノの目的地が地球であると見抜いた上で、あえて艦隊を誘導した可能性がある。 この文章を目にしたとき、フェイトは胸が遠くなっていくような感覚を覚えた。 クロノは、命令違反や隊規違反を犯すような人間では絶対にありえない。 ハラオウン家の養子となり、短くない年月を共に家族として過ごしてきて、クロノは、正しく品行方正、質実剛健、正義感の塊のような人間であると理解していたはずだった。 フェイト自身が当事者となったPT事件でも、その後の闇の書事件でも、まさに身を粉にして解決に尽力していた。闇の書事件では、結果的に黒幕であったかつての恩師、グレアム提督に自ら対峙し、事件の真相をつかんだ。 次元航行艦アースラの艦長であるリンディ・ハラオウン提督を母に持ち、世襲執務官とやっかみもあったが、それを跳ね返す実力を身につけ実績を上げてきた。まさに管理局員の鑑のような人間である。 フェイトが執務官の道を志したのはクロノの影響が大きい。 そして、今のフェイトの社会一般常識や、執務官としての職務に当たる姿勢、価値観など、ミッドチルダの一般社会を生きていくためのほとんどすべてと言っていい存在をクロノから受け継いだ。 生まれてからずっと時の庭園で過ごしてきたフェイトの感情形成は、そのほとんどがクロノの影響である。 その彼が、このような事件を起こすなど──。フェイトは、自分の心が深い闇に堕ちていくように感じていた。 自分の生きてきた規範さえもが打ち砕かれたように感じた。 クロノは、一体どういうつもりでこのような行動をしたのだろうか。 もし第97管理外世界で戦闘が起き、地球の住民を巻き込んでしまったら──。管理局として、管理外世界へ被害をもたらすということは最も避けなければいけない事態である。 これがもし、次元世界軍が管理外世界へ進出し、管理局がそれを制止するというのならまだわかる。 しかし、クロノは先頭に立って第97管理外世界へ向かった。しかも、敵戦艦を追ってよいか迷うミッド・ヴァイゼン連合艦隊を挑発して嗾けるような物言いを、わざわざ艦隊の真正面にワープアウトしてオープンチャンネルで堂々と放送したという。 なぜこんなことをしたのか──フェイトは、クロノの真意をはかりかねていた。 こんな状態では、実家にも帰れない。 この報せは実家にも届いたのだろうか。エイミィや、リンディに、カレルやリエラに、どんな顔をして会えばいいのだろうか。 捜査の引継ぎを済ませた後、フェイトはクラナガン市内のビジネスホテルに部屋を取ったが、一人きりでは眠れなかった。 部屋の床に放り出したバッグの中身を、気を紛らわすように整理してみる。 携帯電話は仕事用を2つと、私用を1つ持っている。私用のほうには以前ティアナがこっそり教えてくれた男娼派遣店の番号が入っていたが、こんなときに呼ぶ気にはならない。 結局、悶々としているうちに本局への連絡便の出発時間が来てしまい、フェイトはやや疲れた瞼をさすりながらホテルを後にした。
高町なのははヴォルフラムの艦載艇格納庫に運び込まれたSPTの威容を、ヴィータと共に見上げていた。 従来型のデバイスの場合は、携帯に便利なサイズの待機状態への変形機能を搭載することがもはや当然の潮流となっているが、本機については機体そのものが大きいために変形機能の術式も複雑化して負荷が大きく、また整備性の観点から、変形機能は非搭載となっている。 それでも関節部を開放した格納状態は備えられており、これはたとえば空母に搭載する戦闘機が翼をたためるようになっているのと似た状態である。 以前、EC事件のときに使用したAEC武装よりもさらに大型のデバイスであり、また外見もより機械然としたものである。 AEC武装については、開発途上のほとんど試作品の領域のものであり、いざ実戦で使ってみると思わぬトラブルが起きたり、耐久性に問題が生じたり、いろいろと不便を感じていた。 このSPTはそれらの諸問題をクリアし、さらなる能力向上が図られているとの、カレドヴルフ社の謳い文句である。 既にミッドチルダ政府軍では運用を行っているという。陸海軍の精鋭部隊にはSPTが配備され、精鋭部隊が編成されているとの噂である。 「改めて見るとすげえな……高町、おまえのところではもう何度かテストしてたんだろ」 ヴィータは外見が子供のままのため、SPTの大きさがさらに強調される。 シルエットはまさにパワードスーツそのもので、装備者──搭乗者と言ったほうが適当に感じるが──の手足の先から、SPTの四肢がさらに伸びている。 手にあたる部分はあらかじめプログラムされた術式によって動くマニピュレーターで、脚部はローラースケートのようにホバー駆動が可能になっている。 装備したときの全高は3メートル強といったところだ。ヴィータの場合は体格が小さいため、胴体フレームにあたる部分のモジュールを省略することで全高を短縮して装備する形になる。プロポーションはやや寸胴になる。 SPTとして重要な機能は四肢と頭部、バックパックに集中しているため、極端なことを言えば上半身と下半身は必ずしも繋がっている必要は無い。 胴体フレームは装備者の体格に合わせたスペーサーのようなものであり、補助装備を積むこともできるが無くても動作に支障はない。 デバイスを制御するために必要な通信リンクさえ確立していれば無線行動も可能だ。今のところそのような仕組みにする利点が無いので物理接続のみとなっている。 「まあ、私のところやったのは機動性とか耐久性とかだね。重いデバイスを持ったときとか、魔力配分をどうするかとか、それでどれくらい稼動できるか、パーツの磨耗はどれくらいかとか。 実験室での加速劣化試験だけじゃ分からない問題点を、洗い出さないといけないからね」 「武器はやんなかったのか」 「一応、レイジングハートを持って撃ってみたりはしたよ。ブラスターモードでも魔力に余裕がかなり出た。とはいっても、実際にデバイスを装備しての戦闘テストとなると、それはやっぱり納入先ごとに調整がいるみたい」 「ソフト的にはまだまだ詰める余地があるってことだな」 「だね」 ヴォルフラムに配備されたSPTでは、装備者から供給される魔力のほかにリチャージ可能なバッテリーを積む。バッテリーは魔力値にして890万の容量を持ち、カタログスペック上はSPTの内蔵魔力のみでディバインバスターを撃つことも可能である。 これはもちろん純粋な攻撃魔法だけでなく、装備者の身体能力上昇にも寄与する。 ヴィータであればグラーフアイゼンの攻撃力はいかに高速でハンマーをぶつけられるかということになるため、ラケーテンハンマーやギガントシュラークなどの威力向上が見込める。またハンマーの正確な振り下ろしも制御することができる。 その特性から、アームドデバイスを使用する場合は身体能力向上に魔力を多めに割り振り、インテリジェントデバイスを使用する場合は冷却装置を駆動したり砲撃エネルギーを補助したりといった魔力の配分方法が考えられる。 「高町」 ヴィータの声が、格納庫の広い空間に反響する。床や壁、天井が金属で遮音材なども無いため、格納庫の中では小さな声でも鋭いエコーがかかる。 「コレ……ぶっちゃけ動力に何使ってんだよ?このサイズでこんだけの魔力を出すなんて尋常じゃない。それに──こないだのクラナガンでの戦闘、あんときに出てきた人型メカが、このSPTじゃねえかって噂も出てるんだ。 それに、宇宙港でも──聞いた話じゃ魔力値300億だって?古代ベルカ時代でもそんなバケモノいなかったぞ」
テクノロジーの進歩は、時に後退し追いかけることもある。 古代ベルカ時代に作られた巨大魔力兵器は、中には軍縮の流れによって廃棄され、製造技術が失われてしまったものもある。 現代の艦船用魔力炉で出力は数十億〜200億程度、商用の発電用魔力炉では機種によっては1基あたりの魔力値が1000億を超えるものもある。 だがそれらはみな巨大で、発電用魔力炉ともなると炉本体だけで30メートル近くになり、補機類を含めた装置全体を格納する建屋は一辺60メートルの立方体の形状をした巨大な建造物になる。 機械式魔力炉、特に現在次元世界において主流である誘導コイル方式の場合、圧力容器によって魔力炉本体のサイズは小型化するのに限界が生じる。 いくら魔力で強化した金属であっても、耐えうる圧力には限度というものがあり、魔力炉自体が発生させる圧力はそれを容易に突破する。 「艦船用補助バッテリーを流用して、規格上は1セルあたり250万でそれを両脚大腿部裏側に2セルずつ、計4セル積む……マージンを考えると妥当なところじゃない?」 なのはは自分が使う予定のSPTを見上げながら、視線は正面のまま答える。 格納状態でもSPTの全高は2メートル以上あり、なのはよりずっと背は高い。 「次元潜行艦なら炉のサイズはそれほどでもないし──、バッテリーは256セルとかそれくらい積むから、容量的にはそんなもんだし」 ヴィータはグラーフアイゼンの柄の先端で、床をコツコツと叩く。 これはヴィータが思案をしているときの癖のひとつだ。 通常、艦の大きさに対して艦の質量は指数関数的に増加していく。艦に必要な魔力値もそれに比例して増加する。 次元潜行艦は、魔力センサーによる索敵を回避するために時には魔力炉を止めてバッテリーだけで隠密潜行することもある。そのために大容量の電池を積む。次元潜行艦は艦船としては比較的小さい部類に入るが、それでも数億もの魔力値を持つ。 いずれにしても魔導師個人レベルで持てる魔力値とは比べ物にならない容量だ。 管理局に所属する魔導師なら、AAランクでは平均魔力値は400万〜600万程度で、Sランクの認定を受けた者でも1000万を超える魔力値を持つ魔導師はかなり少ない。 人間の魔導師と魔力機械では変換効率などの違いから一概に比較できないが、それでも従来のデバイスと比較して桁外れの出力を持っていることには違いない。 「こいつの魔力量がどうしても気になる。これ、ほんとに890万か?いくら兵器だとしても──オーバースペック過ぎる」 「設計マージンがありすぎる──いや、もともともっと大きな出力で作られたものを、大幅にデチューンしている──ってこと?」 「たしかに、このサイズのデバイスには独立した魔力炉は積めないけどよ」 過去には、航空機搭載型の魔力炉が検討されたことがあった。しかしこれも炉の小型化ができずに戦略爆撃機クラスの大型機でないと積むことができず、結界魔法を使うとしても鈍重になりすぎてメリットが無いとして開発は中止された。 ミッドチルダでは一般乗用車や戦闘車両、小型航空機では触媒を用いた内燃機関が主流である。 これも魔力は使用するが、技術的にはレシプロエンジンやガスタービンエンジンに近いものである。 「とにかく、今はこれを使いこなすことを考えよう。これの性能をきちんと引き出せれば、バイオメカノイドとも互角以上に渡り合えるはずだよ」 出港時間が近づいたので、なのはとヴィータは居住区へ戻って待機する。 2機のSPTは、格納庫のハンガーに繋留され、静かに沈黙している。 ヴィータの心配はある意味当然であった。 このSPTは、そもそもが根幹となる技術を、惑星TUBOYから発掘されたエグゼクターから流用したものである。機体構造はエグゼクターを参考にし、重量増加に直結する金属素材の物理的強度ではなく、シールドによってフレーム剛性を確保する形を取っている。 魔力が切れれば機体が自壊するのも同じである。補助動力としてバッテリーが積まれるのは、万が一被弾などで装備者からの魔力供給が失われた場合でも、安全に機体をパージし格納状態へ移行してからシャットダウンできるだけの猶予を確保するためである。 これはカレドヴルフ社での開発時にも問題になり、実際にミッドチルダ海軍からの問い合わせもあった。 もしSPTを装備したまま魔力が完全に失われた場合はどうなるのか、と。 必然的に宇宙空間での戦闘が多くなる海軍の場合、魔導師はギリギリまでデバイスのシャットダウンを避けようとする傾向がある。 宇宙空間でデバイスが停止するということは即、死を意味する。
もし意識を失うなどして、デバイスを装備したまま魔力が切れた場合、通常のバリアジャケットであれば形成された力場がある程度残るが、SPTの場合は全身を包み込む形状であることから、練成された金属素材が制御を失って装備者を押し潰してしまうことになる。 いかにバリアジャケットを装備していても、全身に数トン以上もの荷重が掛かれば肉体は潰れてしまう。 カレドヴルフ社は、この問題をオートパージ機構と独立した補助動力の搭載でカバーすると回答した。格納状態であれば機体を最低限支えるだけの支持材が展開されるので、魔力供給を切っておくことができる。 もちろんこれは今ヴォルフラムに配備されている機体を見た限り──のことで、実際にミッドチルダやヴァイゼンの正規軍に納入された機体がどれくらいの能力を持っているかというのは未知数である。 今のところ、カレドヴルフ社が公開しているデータシートでも機体フレームとなる部分は一機種のみで、オーダーに応じて搭載バッテリーや制御コンピュータをカスタム可能、としている程度である。 SPTを装備する魔導師はある程度以上の魔力量があることが前提なので、能力の低い魔導師をブーストアップという使い方ではなく、高ランク魔導師の能力をさらに引き上げるという方向性である。 例えばなのはであれば、今までは足を止めてチャージ時間が必要だったディバインバスターやスターライトブレイカーなどを、移動しながら撃てるようになる。また反動も軽減される。 魔力消費も、SPT側で補助するのでより短い間隔での連発が可能だ。もちろんその場合はレイジングハートもそれだけの連続使用に耐えるよう強化が必要になる。 先日のクラナガン中央第4区での戦闘でレイジングハートは大破していたので、フレーム交換も含めて修理を行っている。 もともとの形状が杖型のため、シャーシ部分は管理局の制式型標準デバイスと同じ強化メニューが使える。 新しいフレームを造ってコアとストレージを移植し、冷却能力も引き上げて耐久性を高めている。フレームは結合魔力を増加させて強度を上げている。 ヴィヴィオがディバインバスターを撃ったときに魔力供給回路がオーバーロードを起こしたことから、こちらも新型のドライバーMOSFETを採用したシステム基板に換装した。低損失で高効率の魔力供給が可能である。 なのはも、朦朧とした意識ながらもあの人型メカの戦いぶりは見ていた。 エグゼクターが展開したシールドは、500ポンド魔導爆弾24発の凄まじい破壊力を完全に防ぎ、自分とヴィヴィオを守った。 人間の魔導師ではこれだけの破壊力を防ぐシールドは張れない。結界魔法に長けたユーノでさえどうかというほどだ。少なくとも、あれだけの威力の爆弾を浴びて、自分たちはともかく、エグゼクターの機体には傷ひとつ付いていなかった。 それ以前にも、沿岸対空砲の魔力弾が何発か命中していたはずである。それも全く機体に痕跡を残していなかった。 このSPTもまた、エグゼクターと同等の戦闘力を発揮できるのか──というのは、なのはも気にかけるところだ。 もしくはエグゼクターが惑星TUBOYから発掘されたオリジナルなら、このSPTはデッドコピー、廉価版、だから能力も相応に低いだろうか。 どちらにしても、実戦では持てる能力を最大限発揮するのみである。 それ以外に、戦闘でとるべき行動はない。 新暦83年12月26日、午前4時50分。 LS級巡洋艦ヴォルフラムは機関を始動し、発進準備に掛かった。 静止軌道に位置する管理局本局では、太陽の光が届かなくなるのは深夜の数時間のみで、この時間でももう明るくなっている。 それでも艦船発進口は夜の面を向いているため、艦内は照明が必要である。 艦橋の窓からは、太陽光を浴びて輪郭が淡く光って浮かび上がっている本局のシルエットが大きく広がっている。 本局は巨大なスペースコロニーのような構造を持ち、その外周はエネルギー吸収ガスを主体とした二重三重のシールドで包まれている。 そのため、発着する艦船や航空機は定められた航路を正確にたどることが必要だ。 「時間です。艦長」 艦橋にはやてと共に立つエリーが、懐中時計を取り出し現在時刻を確認する。午前5時を回ったことを確認し、出港作業を開始する。 「重力アンカー解除、舫い解け」 はやての命令に従い、艦を固定していたアンカーと繋留索が離され、艦が桟橋から離れる。 続いてエンジンを微速でまわし、秒速数メートル程度からゆっくりと艦を進めていく。
「両舷微速」 「両舷微速、宜候」 ドックから外部へは長さ16キロメートル程度のまっすぐなトンネルでつながれ、トンネルの出口には漆黒の宇宙空間が口を開けている。 トンネル内の空間上にはマーカー用のスフィアが並べられ、これに従って操艦していく。 トンネル内の規定速度に合わせてスフィアは色分けされており、出口部分では青色のスフィアが配置され、ここから宇宙空間へ向けての加速が可能になる。 本局から宇宙空間へ出て、トンネル内マーカーの伸びた先には航法指示用のスフィアが最後に置かれており、そこには進行方向と脱出速度が表示されるようになっている。 はやての発進命令の後は、航海長であるルキノが出港を指揮する。 「両舷微速、速力20ノットから35ノットへ増速」 「速力35ノットへ増速よし」 「第4マーカー通過、規定速力50ノット到達まであと15秒」 ゆっくりと速度を合わせ、艦の往き足を見ながら舵と機関を調節する。 「最終マーカー通過、左回頭用意」 「左回頭用意」 「回頭30秒前、速力50ノットを維持せよ」 「速力50ノットを維持します」 50ノット、すなわちおよそ93km/hでヴォルフラムはトンネルを通過する。 トンネルの直径は1キロメートル以上もあるが、次元航行艦にとってはごく狭い範囲だ。 開かれたゲートは数千トンの質量があり、開閉に10分以上を要する。本局の周辺には、警備艇やタグボートなどが待機し、大型戦艦の入港などをサポートしている。 「外空間に出ます」 舵輪を握るフリッツが、窓の外に目をやりながら言う。 ルキノは艦橋の前列に立ち、はやてとエリーは中央の一段高くなった発令所で指揮を行う。 「回頭10秒前、星図に針路をマーク。5秒前、4、3、2、1、マーク。操舵手、左回頭開始。取舵、針路2-7-0」 フリッツは舵輪を左へ回し、目盛りの数値が270を指したところで止める。 続いて艦の現在の進行方向を示す別の目盛りが、000から359に変化し、ゆっくりと数値が減っていく。この目盛りは艦が現在向いている方向を角度で表し、000が北をあらわす。そこから時計回りに数値が増えていき、090が東、180が南、270が西となる。 惑星軌道上では方位は惑星表面におけるそれと同じものを使用する。 ヴォルフラムは本局の北側に開いた発進口から出て、西へ、この場合はミッドチルダの公転方向とは逆側へ向かう。 この針路では太陽に対する公転速度を減じることになるので、艦は太陽に引き寄せられて内側の軌道へと移動していく。 本局の影を脱すると、ヴォルフラムの青い艦体を太陽の光がまぶしく照らした。 「回頭完了、針路2-7-0」 「速度50から75へ増速、外縁離脱まで60秒、機関室へ、魔力炉出力100パーセントで運転開始」 「こちら機関室、運転出力100パーセントにセット」 「本局との距離5000メートル、慣性系を本艦へ移します」 「速度変更、地球系から太陽系へベクトル切り替え、切り替え5秒前、3、2、1」 「切り替え完了、速力3分の2」 「速力3分の2、メインノズル、噴射開始60秒前」
「外縁離脱確認。艦長、出港完了しました」 ルキノは振り返り、発令所のはやてを見上げる。 「出港完了を確認した」 「時空管理局本局、次元航行艦隊司令部より入電です。『ヴォルフラムの出港完了を確認、安全な航海を祈る。健闘されたし──』」 港を管制する艦隊司令部からの通信をポルテが読み上げる。 ルキノとはやてはそれぞれに力強く頷き、はやては右腕を掲げて号令した。 「了解。両舷全速、星系内航行速度へ移行。ヴォルフラム、発進!」 「ヴォルフラム、発進!」 エンジンをふかし、ヴォルフラムの艦体が力強く加速して本局から発進していく。 後部メインノズルから噴射される魔力光がまばゆく輝き、ヴォルフラムは星の海へ向けて飛び立っていく。 本局やミッドチルダ地表から観測すればヴォルフラムが加速して遠ざかっていくように、また太陽の側から見ればミッドチルダや本局と一緒に公転しているヴォルフラムが減速して離れていくように見えるだろう。 ある程度距離をとったところで、ヴォルフラムは艦を反転させ、太陽へ向かう楕円軌道をまっすぐ進むことになる。 ミッドチルダが所属する太陽系でも、規模や惑星の配置は第97管理外世界とほぼ同じであり、内惑星はやや小さめの岩石惑星が2個、およそ1億5000万キロメートルの平均公転半径を持つ第3惑星がミッドチルダである。 そして外惑星にはミッドチルダの3分の2ほどの直径を持つ岩石惑星が1個、間に小惑星帯を挟んでミッドチルダの12倍程度の直径を持つガス惑星が2個ある。ただし、ガス惑星は二つとも、はっきりとした輪は持っていない。 過去には輪を持っていた可能性もあるが、少なくとも現在は拡散してしまっている。 ミッドチルダの月は2個あり、それぞれミッドチルダを28日と42日で公転している。大きさは地球の月よりやや大きいものと小さいものである。小さいほうがより外側を公転している。 太陽は、これも第97管理外世界の太陽とほぼ同じ直径、質量を持つG型主系列星である。 年齢はおよそ72億年と考えられており、こちらは地球が所属している太陽よりも若干歳をとっている。あと数億年のうちには中心の水素を使い果たして膨張し、赤色巨星になると予想されている。 本局を発進してから12時間後に、ヴォルフラムは次元間航行に入って第97管理外世界に向かう。 宇宙空間に小さくなっていくヴォルフラムの映像を執務室に置いた端末で観ながら、時空管理局次元航行艦隊軍令部総長レティ・ロウランは大きくため息をついた。 ひとまず、はやてたちは無事に出発することができた。 ヴォルフラムには可能な限りの能力向上プログラムを施したし、乗艦している魔導師も、艦長のはやて自身をはじめ、なのは、フェイト、スバル、ヴィータ、シグナムと、管理局実戦部隊の中でも指折りの実力者たちである。 第97管理外世界において戦闘が発生するとすれば、敵戦艦インフィニティ・インフェルノ内部に突入しての対バイオメカノイド戦が考えられる。 インフェルノは現在、ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊との戦闘で被弾したアルカンシェルの影響で砲雷撃戦能力をほぼ喪失していると考えられ、この場合は次元航行艦を接舷させての突入作戦を取ることになる。 艦自体の大きさが次元航行艦とは比較にならないため、どちらかといえば機動要塞を相手にするような戦術が必要である。 そのために、元々火力重視の魔導師である高町なのはとヴォルケンリッター・ヴィータには、最新鋭の魔力兵器であるSPTを配備した。 想定する戦場として、宇宙空間での艦載魔導師による制空戦闘、さらに敵艦内部に突入しての屋内戦闘がある。 SPTの持つ機動性と高火力の両立は、立体的な三次元機動力が求められるこれらのシチュエーションで真価を発揮する。 「また寿命が縮まるわね……」 クロノはともかく、はやてはまだ若く血気にはやりがちなところがある。 副長であるエリーがそこを絶妙に押さえているので、ヴォルフラムはここまでは順調な経歴を重ねてきた。それでも、はやてがとる大胆な戦術は、監督する立場であるレティにしてみれば毎回肝を冷やされるものである。 だが、緊急時に必要となるのは臨機応変な決断力であること、八神はやてという人間は独自の直感と経験に基づいた戦術を確立しているというのは、提督としてのレティの下している評価である。 第97管理外世界という、管理局にとってはアウェーとなる戦場で、いかに戦っていくか。 レティは、はやての柔軟な思考が大きな意味を持ってくると考えていた。
ヴォルフラムを送り出した後、レティが取りかからなくてはならないのはフェイトから報告が上がってきた、アレクトロ社とヴァンデイン社の不審な動きである。 ここ最近になってミッドチルダで起きはじめた、異星人が関わっているとみられるいくつかの事件を捜査したフェイトは、この両社が共謀し、彼らの手引きによって未知のエイリアンがミッドチルダに侵入している可能性が高いと結論付けていた。 クラナガン宇宙港での船団襲撃事件から、中央第4区でのバイオメカノイド出現事件までの数週間、バイオメカノイドがどこにどうやって潜伏していたかというのは、現在管理局でも不明点の多い問題として調べている。 バイオメカノイドたちはおそらく宇宙港付近の海中から、川を遡って下水道に入り込んだと考えられている。とすると、中央第4区以外にも既にあちこちに潜伏している可能性がある。 クラナガン市内での捜索は、地下区画に重点を移して継続している。フェイトらが行っていた地上の廃棄都市区画などの調査でもバイオメカノイドを発見できなかったことから、彼らの潜伏にグレイが関与している可能性も検討している。 また、ヴァンデイン社の企業警察──ミッドチルダでは法律が定める権利として企業が私設兵力を持つことが可能である──がクラナガン市内に潜入している可能性もあるため、捜査は極秘とし、武装した魔導師が担当している。 クラナガンの下水道設備は伝統的にかなり大規模で、広大な流域面積を持つメープル川の最下流に位置するという立地上から大量の雨水を吸収できるよう大きな容積を持った空間が確保されている。 それだけに、浮浪者や犯罪者たちのたまり場となったり、違法に製造された魔法生命体が住み着いていたりなどといったことが起こりやすい。 バイオメカノイドもそういった者たちの中に紛れ込んでいる可能性がある。 戦艦という姿かたちをはっきりと示しているインフェルノと違い、バイオメカノイドについてはその全体像が未だにつかめない。 個々の端末は概ね数メートル程度の限定的な人工知能を積んだロボットの様相を呈しているが、その生態や製造機構は未だ不透明である。 クラナガン中央第4区での戦闘では、バイオメカノイドは自己複製──生物的な面を見せる生態からは、繁殖と表現したほうがいいのかもしれない──が可能であり、時間がたてばたつほど、個体数が増加していっている可能性さえある。 いつまた、地上へ数千体単位で飛び出してきてもおかしくない。 たとえ惑星TUBOYを破壊したとしても、ミッドチルダに既にバイオメカノイドが持ち込まれてしまっている可能性は非常に高い。 このような現状では、凶暴な外来種生物が持ち込まれた島のように、在来種たる人類は日々バイオメカノイドの襲撃に怯えながら暮らしていかなくてはならなくなる可能性さえあるのだ。 2年前のEC事件は、ヴァンデイン・コーポレーションが製造していたエクリプスウイルスが原因であると突き止められ──実際にはこのウイルス兵器は同社がゼロから生み出したものではなく、これもまた古代ベルカ時代の何かを発掘したらしいが──、 同社が半ば身代わりになる形で感染者たちの大量処分と“滅菌処理”が行われ、一応の解決を見たという顛末になっていた。 感染した個体は、管理局が把握したものは全て破壊されたはずだった。 だがその後も、ヴァンデイン社はウイルス兵器とそれを用いた戦闘用強化生物の開発を継続し、それがバイオメカノイドとも無関係ではないということが次第に判明しつつある。 EC事件に際して、はやてが蒐集した銀十字の書のデータは、現在も解析作業が継続中である。 これまでのところ、古代ベルカ時代に、当時で既にその存在が知られていた先史文明の遺物──現代で言うところのロストロギアである──の中に、このようなウイルス状の物質があった可能性が高いことが調べられた。 当時は原理が分からず、人間や動物をモンスターに変えてしまう呪いの力、とされていた。 ただ、もしヴァンデイン社がこの伝承をもとにエクリプスウイルスを発見し、さらにグレイやバイオメカノイドの復元・製造を行っているとすると、それこそ、ミッドチルダは有史以前から惑星TUBOYの超古代技術文明の影響下にあったということになってしまう。 この現代の科学技術文明、魔法技術文明さえ、古代ベルカではなく惑星TUBOYの遺産であるということになってしまう。 だからこそ、ミッドチルダ政府は焦っている。 今までは、ロストロギアのほとんどがベルカ時代にいったん発掘復元され、その後再度埋もれていたものだったので、扱いなどに関してある程度知識が蓄積されていた。
だが、ここにきて、バイオメカノイドをはじめとした、先史文明時代から現代まで全く人類が触れてこなかったロストロギアが続々発見されるとなると、人類の認識、管理局の対応能力を超えてしまうことが考えられる。 そうなると、制御できないロストロギアによって甚大な被害がもたらされるばかりか、次元世界連合において管理局が著しく威信を失うことにもつながる。 それだけに、今回の惑星TUBOYに始まる一連の事件では、ミッドチルダとヴァイゼンの暴走を抑え、事件を穏やかに終息へ導かなくてはならない。 管理局の最終目標は、少なくともそこに向かうことで意見の一致を見ることができるはずだ。 逆にここで管理局が意思統一をできない場合、管理局の組織力が決定的に瓦解し、再び次元世界が混沌とした戦乱の時代に突入する──その可能性もゼロとはいえない、とレティは考えていた。 これはもはやレティ個人の力ではどうしようもない。いずれ、管理局全体に協調を呼びかけなくてはならない。 執務室のインターホンが鳴り、受付の職員が、レティへの来客を伝えた。 『リンディ・ハラオウン元提督がお見えです』 「わかりました。通してください」 『はい』 レティは机の上に広げていた書類を引き出しにいったんしまうと、リンディを迎えるために応接室へ向かった。 レティの執務室は3部屋に分かれており、中央の執務室と、その前の応接室、それから泊り込みの業務や極秘の会談に備えた私室という部屋割りになっている。 受付職員がリンディを応接室に案内し、レティはテーブルにつくよう促した。 二人はそれぞれ、荷物を置いてから部屋の中央にあるガラステーブルを囲み、革のソファに腰を下ろした。 高級感のある管理局制定の第一種軍装が、二人を堅く包んでいる。 「──クロノのこと、私にもついさっき報せが届いたわ」 「ええ……」 リンディは、クロノの母親である。息子が事件の当事者となったことで、彼女の胸中も複雑なものがあるだろう。 元々次元航行艦隊所属の艦長であることから、作戦任務中は長期にわたって家を空けることになる。 その生活についてはリンディも、妻であるエイミィもわかってはいたことだったが、いざこうして事件が起きてみると、家族としてどう対応すればいいのかというのは迷うところである。 クロノとエイミィはすでに二人の子供をもうけている。 もし、この任務逸脱事件の調査を進めるにあたり、家族である自分たちにも何らかの処分が下るとなると、成人であるリンディやエイミィはともかく、まだ幼い二人の子供への影響が心配である。 軟禁などされたら、学校にも行けなくなる。行けたとしても、周囲の人々から何を言われるかわからない。 クロノとしても、自分が何かをすればそれは家族にも影響を及ぼすというのはわかっていたはずだ。 艦隊司令部から受けた任務にない操艦をし、次元世界政府の正規軍を挑発するというこの過激な行動は、それを押してでもやらなければならないことだったのか── クロノは、昔から考えを内に秘めるタイプだとリンディは思っていた。彼が執務官になり、初めてアースラに配属されたときから、その背中はずっと見ていた。 仮に自分が取り調べを受けたとしても、自分の分かることは何も無いだろう。そしてそれは、エイミィも同じだろう。妹であるフェイトに対してさえ、クロノは本当の本心の深いところは、ついに一度も見せていない。 色々な意味で堅い人間だった。 レティは秘書職員に紅茶を入れるよう指示し、やがて秘書が二人分のティーカップを持ってきた。 リンディの甘党は管理局員の間ではかなり有名なので、紅茶と一緒に角砂糖の瓶も忘れない。 「今回の件では、ミッドチルダ政府からの強い抗議がきている──たとえ実態がどうであろうとも、管理局として何かしらの答えは用意しないといけないわ」 「私も一応身の回りの整理はしているけれど」 「貴女を差し出してそれでいいのかというのもね……。これに関しては私も正直迷っているのよ。 クロノ君の行動は、その場当たりのものとは考えにくい。十分な準備期間を持って計画を練っていたはず── もっとも上の連中は、精神錯乱とか亡命とか勝手なことを言ってるけれど」 「そんなこと、クロノに限って、そんなこと──ありえないわ」 拳をテーブルに置き、震わせながら、絞り出すようにリンディは言葉に出した。 自分の息子である。 それがこのような言われようをして、黙ってなどいられない。
「もちろん私も錯乱とか、ましてや亡命なんてありえないと思っている。だからこそ、突き止めなくてはならない──彼の真意を」 深く呼吸をして、リンディは感情を静める。 次元航行艦クラウディアの独自行動については、ミッドチルダ政府の情報機関も調査に動いている。 彼らの分析でどのような結果が出るか、そして、クロノが何らかの言い置きを管理局内に残していないかというのも、レティたちは大急ぎで調べなくてはならない。 この件でも、ミッドチルダ政府に先行を許すと管理局の立場がそれだけ不利になる。 こうなってくると、現在の管理局には外部に対して有効な交渉力を持つ人材が欠けていることが浮き彫りになっている。 最高評議会はすでになく、ギル・グレアムも先日の第97管理外世界でのテロ事件で死亡している。 レジアス・ゲイズがまだ生きていたなら、ミッドチルダ政府との仲介役として最適であったが、それももはや後の祭り、無いものねだりである。 最後のそして最大の実権を握るのは、事ここに至っては聖王教会騎士筆頭、カリム・グラシアである。 もともと彼女の持つレアスキルの性質から、管理局が直に管轄して予言対策のスタッフを用意していたが、それゆえにカリムは管理局の運営や聖王教の広まっている次元世界政府に対しても発言力を持つ。 今回の事件では、聖王の血統が古代ベルカよりもさらに遡って先史文明時代まで辿れることが判明した。ゆえに、ヴィヴィオも当事者になってくる可能性がある。 そうなれば聖王教会としても動かざるを得ず、その場合前面に出てくるのはカリムである。今の聖王教会では、カリムが実質上のトップであり意思決定の窓口だ。 次元世界政府と渡り合っていくことを考えると、各世界との交渉役としてもカリムの存在は大きい。 やはり、彼女に頼るしかないか── レティもリンディも、思い当たる人脈としてはそれくらいだった。 次元航行艦隊幕僚会議では、クラウディアの確保、対話を優先すべしという意見をラルゴ・キールが推していた。 クロノがはっきりと管理局所属艦であると名乗った以上、クロノの言葉は管理局の言葉となる。 管理局もクロノの行動を無視して次元世界政府には交渉できないし、クロノもまた自分の言葉の後ろには管理局がついてくることは認識しているはずである。 そのために、クロノと管理局との間で認識のすり合わせが必要である。 ヴォルフラムにはその任務もある。ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊よりも早くクラウディアを捕捉・接触し、クロノ自身の口からその真意を確かめなくてはならない。 形骸化した条項ではあるが、管理局に対する次元世界の不可侵協定──いかなる次元世界も正当な理由なく管理局の意思決定に干渉してはならない──が使えると、レオーネ・フィルスは検討していた。 どうにかして管理局緊急安全保障理事会の開催まで持っていければ、そこでミッドチルダとヴァイゼンに交渉することはできる。 とにかく、現状では、このままクラウディアが管理外世界で撃沈される事態は絶対に避けなくてはならない。 そうなれば今度こそ管理局はミッドチルダに対して説明ができなくなってしまう。 「クロノ君は私達管理局を奮い立たせるために──?」 レティのつぶやきに、リンディは砂糖をすくっていたティースプーンを持つ手を止めて、顔を上げた。 「それはどういうこと──」 「もし単にクラウディアが単独で第97管理外世界に向かっただけなら、ミッド艦隊はそれを見過ごすかもしれないし、その場合、管理局上層部もミッドチルダ政府も大きくは動かない── ──例によって、PT事件や闇の書事件の時のように、現場の艦だけに解決を任せることになっていたかもしれない── 自分がその存在をミッド政府に知らせることで、管理局が動かざるを得ない状況をつくる──クロノ君はそのつもりなのかもしれないわね」 「──でも、だとするとなおさら私たちは急がないといけないわ。このまま手をこまねいていては、クラウディアはインフェルノに到達する前に間違いなくミッド・ヴァイゼン艦隊に攻撃される。 両次元世界が、管理局の──口封じをするためにね。ミッドとしては、管理局の不祥事は自分にも火の粉が飛んでくる危険が大きいわ」 「クロノ君としても、無暗に自分を危険に曝す意味はないはず──とすれば、それだけの危険を冒してでも管理局全体を動かしたいということね」 リンディは5個目の角砂糖をティーカップに入れ、ティースプーンの先がカップの底に溜まった砂糖をひっかく音を立てた。
「この事件は──管理局始まって以来の危機になる」 レティも、眼鏡の奥で小さく、しかし深く頷いた。 新暦83年12月26日、おそらくこの日は、次元世界の歴史が変わる日になる。 近代文明を手に入れた次元世界が、初めて遭遇する異世界──それは、アルハザード。 クラウディアの針路、そしてヴォルフラムの出撃は、管理局の歴史を変える。 翌日、西暦2023年12月27日。 地球とミッドチルダは──次元世界ではさほど珍しいことではないが──同じ公転周期を持ち、自転周期も同じである。すなわち1年は365.24日であり1日は24時間という、全く同じ暦を持つ。 地球で言う西暦2023年とはミッドチルダにおける新暦83年である。 年の瀬が押し迫った12月末、アメリカ合衆国宇宙軍および国防総省は防衛準備態勢(デフコン)レベル3を発令した。 これにより、世界各地に設置された米軍基地がその配備兵器を起動し、いつでも発射できる態勢を確保する。 基地に待機している兵や士官たちの間では、数日のうちにデフコンがレベル2──過去、キューバ危機の際に一度だけ発令されたことがある──に引き上げられるという噂が広まっていた。 太陽系内に突如出現した巨大宇宙戦艦の姿は、その発するエネルギー量から、市販の小型望遠鏡でも観測可能なレベルであった。ESAハーシェルUによる発見から3時間後には、オーストラリアのアマチュア天文家が新彗星として発表を行った。 NASAやソ連宇宙アカデミーによる隠蔽工作は不可能であった。 多くの観測により、新彗星と思われていた天体が、金属質の船体を持つ巨大宇宙船であると判明するのに時間はかからなかった。しかも、その後方には数百隻に上る宇宙船が後続していた。 巨大UFO──すなわち異星人の宇宙船が、大船団を引き連れて地球へ向かっているという事実はすぐに人々の知るところになった。 そこへ来ての緊急招集である。 すでにアメリカは異星人の侵攻を察知し、そのために警戒態勢をとっているのだと、軍に勤務する人間ならそう考えるのも無理はなかった。 東海岸上空にも、戦術核ミサイルを翼下に抱えた戦闘爆撃機が常時待機の態勢に入った。 しかもそれは、対地ミサイルや対艦ミサイルではなく、アメリカの主力宇宙兵器、ASM-135対宙ミサイルであった。 現在の状況から、それが敵国の軍事衛星に向けて発射されるものではないということは明白であった。宇宙空間より迫る未知の物体に対する核攻撃──その態勢をとっているということである。 この情報はただちにソ連へもホットラインで伝えられた。 ソ連は周辺諸国への刺激を避けるため、地上の陸軍部隊は動かさず、内陸深くに設置したミサイルサイロを点火した。 地上に露出したロケット発射場のほかに、ソ連では地下に埋設した発射場や、大型トレーラーで牽引可能な移動式レールランチャーを多数備えている。またソ連の主力ミサイルであるR-7シリーズはこれらの設備に対応している。 これらのソ連本土内の基地については通常米軍監視衛星の射程内であるが、今回、アメリカとの共同での動きのため、西側諸国のほとんどはソ連のこの動きを察知できなかった。 日本へは、別途アメリカから連絡が行われた。 アメリカでは深夜だったが、日本時間では昼間のため、国会を急遽中断して緊急閣議が開かれた。 10時間後には、中軌道高度へ配備されていたSDI-6キラーレーザー衛星が、地球外方向を向いて反転を完了し、搭載された大出力レーザー砲の射程を天王星の方角へ向けた。 ASM-135の射程距離は最大でも高度5万キロメートル程度であり、たとえば地球に接近する隕石を迎撃して破壊するというような方法はとれない。これまで、スペースガードは主にソ連のR-7や日本のM-6ロケットを使用することを想定していた。 月軌道(約38万キロメートル)以遠への攻撃能力を持つのは、ソ連のR-7(アール・セブン)、日本のM-6(ミュー・シックス)の二機種のみである。 いずれも現存する最も古い世代のロケットであり、信頼性を第一に考えられる軍事ロケットとして設計が行われている。 これらのロケットには──ロシア語ではミサイルとロケットを区別しないが──それぞれ宇宙空間での破壊力を重視した核弾頭が装着され、空気の無い環境での戦闘に最適化されている。 海鳴市に滞在していたCIA諜報員たちにも、急遽帰国が指示された。 彼らが当たりをつけていた人間たち──バニングス家は既にアメリカへ移住したので除き、月村家、高町家の二つの家庭──については、現在のところ有意な情報は得られないとして、捜査打ち切りを指示された。
ロンドンにいたFBIのマシュー・フォード捜査官に対しては、そのまま滞在継続が指示された。 ブレイザーは今後の予定として、米軍はこれまでに収集復元したさまざまな技術の実証試験を行うつもりだとフォードに伝えた。 いずれイギリス上空にもUFOが飛ぶだろうということだ。 フォードも、同じFBI内部にも色々とうるさい人間がいることは分かっている。当分、“ビュロー”──FBI本部には戻らず、ロンドンの霧の中で過ごすのもいいかもしれないと思っていた。 地球にさえ、異星人の尖兵は潜んでいる。彼らもまた、自分たちの本拠地を“ビュロー”という暗号名で形容していた。 おそらく彼らもそのような組織を持っているのだろう、とフォードは思っていた。 ロンドンでテロに巻き込まれたあの老人、ギル・グレアムは、おそらくその組織を知っていたかもしれない。しかし、今、地球人がその組織の情報を知る手段は制限されつつある。 CIA長官トレイル・ブレイザーは、海鳴市から入手した情報を分析した結果として、ある言葉をマシュー・フォードへの手紙にアナグラムとして潜ませた。 この件は政府よりもむしろ、アメリカ国内の軍産複合体が躍起になっている。 彼らは異星人のもたらすオーバーテクノロジーが欲しくてたまらないのだ。それはむしろ理性の歯止めがきかない分政府よりも厄介だ。彼らは金儲けができればそれでよく、国家や人類の安全などということには興味がないか、疎い。 それがどれほど危険な技術かということをわからない。マネーゲームだけしかわからないのだ。 そのために、ブレイザーが直々に組んだこの暗号さえ──CIAとしてはごく標準的な強度である──彼らは分析できない。 ロンドンでブレイザーからの手紙を受け取ったフォードは、地球に派遣されている異星人の組織の名称としてその言葉を目にした。 “タイム・スペース・アドミニストレーション・ビュロー”──時空管理局。 それは異星人たちの母星を管轄するのか、それとも外宇宙進出をも担当するのかは想像もつかないが、どちらにしろこれまで地球で観測された未確認飛行物体目撃事件のいくつかは、彼らが絡んでいるものである。 彼らの宇宙船は“ビュロー・シップ”とも呼ばれ、いくつかのタイプがあり細かい違いはあるが、概ね楔形をしているという特徴がある。 地球上で目撃されるUFOは葉巻型や円盤型、三角型などさまざまな形状をしており、“ドローンズ”とも呼ばれる幾何学的な形状の機体もある。 それらについては専門の研究者がおり、分類が試みられている。ほとんどは鳥や既知の航空機、または別の自然現象の見間違いと判明しているが、中には本当に説明が不可能なものもある。 その中に、彼ら異星人の乗る宇宙船が含まれている。 今、太陽系に現れて地球に接近しつつある船団は、彼らの宇宙艦隊なのだろうか。 そして、彼らの目的はなんだろうか。友好的なものだろうか。 地球へ、何をしに訪れるのだろうか。 フォードは、異星人に会ったことがあると主張する、あるFBI捜査官への接触を検討していた。 もし彼が会ったという異星人が、あの宇宙艦隊が所属する文明の人間であるのなら、当然、地球へ向かうにあたり何らかの情報が発生するはずである。 知的文明を持ち科学技術を持つ人類ならば、なおさら、はるか遠くの宇宙へ、ろくな調査もなしに人間を送り込んだりなどはしないはずだ。 無人機によるじゅうぶんな探査を行い、安全を確保してから向かうはずである。 逆に、もし彼らが侵略目的なら、外宇宙探査を兼ねた軍艦を最初から派遣してくるということもありうる。 何らかの障害があっても、軍艦ならば生存性能も高く設計されているはずであり、また搭乗員は軍人であるので、他の惑星上──ここでは地球のことだ──で遭遇する危険に対する対処能力も優れているはずである。 あの船団は、異星人の宇宙艦隊だろうか。地球を侵略するためにやってきた異星人の軍艦なのだろうか。 その場合、彼らはどこまで地球の実力を把握しているだろうか。もしくは、地球の軍事技術はどこまで彼らに対抗することができるだろうか。 どちらにしろ、先制攻撃はお互いしたくないはず──である。──彼らが、互いの文明を認知し交渉を持とうとしている限りは。
第97管理外世界、太陽系火星軌道宙域。 カークウッドの空隙を利用してミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊の偵察機による追跡を振り切ったXV級巡洋艦クラウディアは、先行して地球へ向かう針路をとっていた。 敵戦艦インフィニティ・インフェルノに関しては、第97管理外世界に出現してから速度と進路を変えておらず、少なくとも推進装置に重大なダメージが及んでいることが予想された。 地球へ向かうつもりなら外惑星宙域から加速して向かっていくはずであり、ほとんど漂流するような低速で航行する利点はない。 また地球による捜索発見を受ける危険が高まる。 インフェルノに戦闘能力が残っているかどうかは、惑星TUBOY宙域での戦闘以降、艦隊が接触をしていないので不明だが、少なくとも偵察機が接近しても攻撃を仕掛けてくる様子は無かった。 ミッド・ヴァイゼン艦隊の空母から発進した偵察隊は航続距離のギリギリとなる1000万キロメートルまでインフェルノに近づいたが、敵戦艦は動きを見せなかった。 この距離まで届く兵装が無いか、もしくは探知能力をも喪失しているか。 どちらにしろ、この軌道のまま進めばインフェルノは地球に激突する。 いかに巨大戦艦であろうとも、地球クラスの大型岩石惑星に衝突すれば無事ではすまない。もし敵戦艦がまだ生きているならその前に再起動、針路変更を行うはずである。 クラウディアで行われた軌道計算では、その場合の限界距離は火星軌道周辺であると見積もっていた。 ここを通過する前にインフェルノが軌道変更のために艦を動かさなければ、時速数百万キロメートルという猛スピードで地球に激突する。 その場合、地球ほどの大質量が相手ではさしものインフェルノもぺしゃんこに潰れるだろう。そして、地球も無事ではすまないだろう。直径数千キロメートルのクレーターができ、地殻津波と岩石蒸気が地表を覆いつくすだろう。 惑星TUBOYのようなやわらかい軽岩石ではなく、地球は非常に硬い高密度の岩石と金属コアを持つ。 次元間航行が可能な戦艦でも、激突すれば間違いなく大破する。別次元に逃げようにも地球の巨大な重力はそれを許さない。いずれにしろ、地球に接近すればインフェルノは何らかの行動を起こす。 そして、地球人類もその兆候を観測しているはずだ。インフェルノが動けば、地球も動く。 その瞬間を逃さないことが重要だ。 「沈底警戒を始めてから28時間です──艦長、もう少し地球へは近づかないのですか?予想されるインフェルノの軌道変更可能範囲は、この軌道では本艦の索敵範囲を超えます」 クラウディアは火星軌道の近くにある次元断層に潜み、地球からの観測を回避していた。 次元断層は生物が住む恒星系内であっても多数が発見されており、特に次元断層の多い宙域は古くは宇宙のサルガッソーのようにも警戒されていた。 「ミッド艦隊は地球の防衛兵器の配置を把握していない。彼らが地球に近づきすぎて攻撃を受けるのは避ける必要がある」 「彼らは本艦を発見しますか」 「どうしても発見しなければならないだろう。また本艦を発見するまでは地球へは近づけない。 そしてインフェルノが地球へ接近してもなお本艦を捜そうとするなら、ミッド艦隊が管理外世界の被害を看過しようとしていることを意味する── 次元世界連合の盟主を自負するミッドチルダとしてはそのような行動はとれないはずだ」 艦首を太陽に向けて完全に停止しているクラウディアからは、コロナ質量放出によってかすかに瞬く太陽の姿が、静かに輝いて見える。 宇宙空間では、大気の揺らめきがないため星の光は非常に静かだ。 動く物体さえ見えない。小惑星帯があるといっても、その密度は非常に希薄である。よくイメージされるような、岩石が散らばった空間ではない。次元航行艦から周囲を見渡しても、小惑星の姿が見える場所はほとんど無い。 次元断層の内部では、周辺を飛ぶ小惑星や隕石の影響も受けない。 次元航行艦でなければ内部には侵入できない。もし何らかの物体が侵入しようとしても断層の相転移空間に接触して弾かれ、阻まれる。 過去、この次元断層に接触して破壊され、通信途絶となった火星探査機が何機か存在していた。
「地球の主な防衛兵器は地上から発射される核弾頭ミサイル、それに軌道上に配置された衛星から発射されるレーザー砲だ。 いずれも次元航行艦に対してもダメージを与えることができる」 「シールドは」 「直撃すれば貫通される。核弾頭の場合は効果が無い。次元航行艦でも対核防御能力を持つ艦は少ない」 「エネルギー吸収ガスを散布すれば防げますが、それは敵の兵装が何なのかを知っていなければとれない戦術ですね」 SDI-6が装備しているのは、出力75メガワットの硬質レーザー砲だ。これは周波数が可視光線領域から紫外線領域に及び、高い貫通能力を持つ。 出力がやや制限されるがX線レーザーも撃てる。この場合射程距離は多少短くなるが、それでも100万キロメートル以上は理論的には飛ぶ。 対宙ミサイルは基準射程距離として50万キロメートルまで狙うことができる。これは軍事衛星の中にはそれほどの遠地点まで軌道を伸ばすものがあるからで、50万キロメートル先の遠地点にいる衛星を狙えるのはソ連のR-7V“ボストーク”のみだ。 日本のM-6は若干短く42万キロメートル、L-5(ラムダ・ファイブ)では距離12万キロメートルまで飛ばせる。特にL-5は機体が小さく、トレーラーに搭載したレールランチャーからの発射が可能で、ASM-135には及ばないが非常に高い機動性を持つ。 いずれにしろ、これらのミサイルによって攻撃された場合、発射を探知してから回避にかかったとしても、第一撃は間違いなく被弾する。 地上からミサイルが発射されたことを、もし発射の瞬間に探知できたとしても、飛来する物体が何であるのかを分析し、さらにそれが自分たちに向かって飛んでくることに気づくまでに時間がかかる。 それから回避運動を開始しても、次元航行艦の運動能力でも確実に避けられる保証はない。 さらに、レーザー衛星に至っては光学照準のみで電波を打たないため、砲口が向けられていることを探知できない。光速で飛ぶレーザーを、発射の瞬間には被弾していることになる。 もし、管理外世界の文明との接触で戦闘が発生した場合。 地球とミッドチルダが一気に緊張状態に突入するのは明白である。 管理局所属艦として、次元世界の存在を認知していない世界へ進出する場合には現地住民からの突然の襲撃を受ける可能性というのは当然考慮すべきものである──が、これが次元世界政府軍となると、指揮官クラスはともかく乗組員全員が納得することは難しい。 特に今来ている艦隊は空母を連れている以上、特に血気盛んな艦載魔導師──艦載機パイロットたちの無断出撃を止めなくてはならない。 ミッド・ヴァイゼン艦隊は、地球の兵器に関する情報をほとんど持っていないといっていい状態である。 互いに、相手のことをほとんど知らない状態で、闇の中で武器を構えた状態での遭遇となる。 「この状況で、ミッドチルダがどこまで冷静になれるかが鍵だ。もし反射的に撃ち返し、戦闘を拡大させてしまうようでは彼らはおろかだ」 「艦長は、戦闘が拡大する可能性はどれくらいとお考えですか?」 ウーノの質問に、クロノはかすかに肩を揺すった。 「わが艦はその戦闘へミッド艦隊を誘う。ミッドチルダはともかく、ヴァイゼンは未だ他次元世界との交流に不慣れだ……彼らを制止するには、連合艦隊内部での連携を行う必要がある。 あの艦隊司令がそこまでできるかどうかが運命の分かれ目だ」 「艦隊司令は──トゥアレグ・ベルンハルト少将でしたね」 「ヴァイゼン側の最高将官としてイリーナ・マクシーモワ・カザロワ少将がいる。彼女もまたミッドチルダ海軍とは長年ライバルだった軍人だ。 どちらも、管理世界の正規軍がその出身世界外で行動することの困難さはよく知っている──各次元世界間の軍事バランスに直結する要素だからな」 クロノの横顔を、ウーノは視線で見つめる。 「連合艦隊でありながらつい最近まで争っていた──そこに意思疎通の障害があると」 視線を感じ、クロノは横目でウーノを見やる。 「ましてや異世界たるこの宙域ではなおさらだ」 ミッドチルダとヴァイゼンは、つい四半世紀前までは次元世界連合の運営を巡って争っていた二大軍事国家であった。 もともと鉱産資源が豊富で、優れた工業技術を持っていたヴァイゼンと、いち早く魔法を基幹産業と軍事力に組み入れ、魔導師を大量導入したことで圧倒的な軍事力を手に入れたミッドチルダは、過去の次元世界大戦でも、覇権を懸けて争った大国であった。
その当時で既に、ミッドチルダとヴァイゼンの両国が保有する質量兵器──当時は兵器を魔法、質量で区別する概念は無かったが──の量は次元世界全体を1万回滅ぼしても余りあるとされ、現在に至るまでついに直接対決を避けたほどである。 質量兵器廃絶が明確に意識され、管理局が設立された後も自陣営に引き入れた次元世界小国に代理戦争をさせるなどしていたが、ここ数十年で何とか歩み寄りと軍縮を行ってきたところである。 現在のミッドチルダやヴァイゼンにも、冷戦当時の軍人がまだ多く残っている。 ベルンハルトやカザロワも、かつて次元の海で艦隊を率い、互いに睨み合っていたことがある間柄だ。 次元世界の一般市民にとっては日常生活に直接影響は少なかったため実感のしにくいものではあるが、現場の兵士たち、将官たちにとっては単純に昔のことと済ませられないものである。 12月27日、クラナガン標準時午前8時。この時点でミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊は木星を通過し、インフィニティ・インフェルノの針路前方に回りこんだ。 このまま、徐々に正面へ移動しつつ距離を近づけていく。近日点をほぼ同じ位置にとっているので、軌道としてはやや中心のずれた二つの楕円を描くことになる。 火星軌道を通過した時点で、艦隊とインフェルノは距離800万キロメートルまで接近する。 ここからなら艦載機の航続距離に入る。さらに、艦隊を移動させての直接戦闘が可能である。 ただその場合、地球に近すぎるため、艦隊がいることを地球に発見されてしまうだろう。 現時点では、地球はまだミッド・ヴァイゼン艦隊とインフェルノを、小惑星なのか宇宙船なのかを判断できていないはずである。 インフェルノと地球の間に陣取ったミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊が結界魔法を放射しているので、インフェルノの船体を正確に見ることはできない。人工物であり赤い色をしているという程度は分かるかもしれないがそれ以上の情報は得られない。 通常の金属質小惑星とは性質が異なることは見えても、光学望遠鏡による直接観測が可能な距離にならない限りは、宇宙戦艦だと断定はできないはずだ。 インフェルノに関しては、金属でできているということ程度は分かってしまうだろうが、それはこの際仕方が無いことである。 まずいのは、地球の近くで戦闘を行えば、地球の側から観測したときに、来訪してくる宇宙船は武器を搭載していると見られてしまうことである。 武器を搭載しているということは軍艦である。未知の軍艦が自分たちの母星に接近してくれば、警戒態勢をとるのは当然である。 地球に近づけば近づくほど、ミッド・ヴァイゼン艦隊は戦いにくくなる。 艦隊司令であるベルンハルト少将は偵察隊を再発進させ、クラウディアの捜索を行うよう命じた。 クラウディアがインフェルノ追撃を目標にしているなら、この先の火星軌道周辺で待機しているはずである。 ここを越えてしまうと、追撃戦に適した宙域は無い。 インフェルノと共に地球へ激突する気でないなら──だ。 もちろん、インフェルノの側も、たとえダメージを受けているにしても地球衝突の限界距離までに動力を取り戻し、衝突軌道から外れなければならないはずだ。 よって、敵が再び動き出してはこちらも接近が難しくなる。動力が復活するということは兵装も復活する可能性がある。 「クラウディアはまだ発見できないか」 「今のところ報告はありません」 空母の艦長も、発艦させた偵察隊からの連絡を待つが、グッドニュースは無い。 それでなくても、第97管理外世界には初めて訪れる艦が多い。彼らにとっては手探りの航行である。 かねてより第97管理外世界は、保有している外宇宙探査能力を鑑みて、大型艦の大規模な派遣が難しいとされてきた。 これだけの規模の艦隊で航行しているのを、既に発見されている可能性は高い。結界魔法も、これほど艦の数が多いと不自然な干渉が生じてしまい万全ではなくなる。 ここで妙な動きをすれば、それだけ地球を刺激することになる。 定期哨戒艦も撤退しているので、現時点では地球の動きは全くつかめない状態である。地球に派遣されている管理局員たちも、十数名程度はいるらしいが、彼らも中継役となる哨戒艦がいなくては情報を送信することができないだろう。 威力偵察をさせろという戦闘機パイロットたちの申し出を、各艦の飛行長や戦隊の航空団司令がなんとか慰留しているといった状況だ。
次元航行艦が搭載する戦闘機はそれ自体が巨大な魔力機械であり、操縦する人間にも魔導師としての能力が求められる。 戦闘機パイロットというのは一般に、生身でも魔導師としての強力な戦闘能力がある。 それゆえに、搭乗型兵器の操縦士全般に言えることではあるがプライドが高い。彼らは自身の能力に絶対の自信を持つと同時に、強い責任感も負っている。戦闘機は高価な機械であり、大勢の人員のサポートが必要である。 それだけの支援を受けて、下手な戦いはできないという自負がある。 戦闘機パイロットは、次元航行艦隊の中でも、艦隊附き執務官と並んで花形職業のひとつである。 「まったくあの若造が……先走った真似をしおって」 第2機動艦隊所属の空母『アラゴスタ』では、老齢の艦長が苦々しく呟いていた。 クロノ・ハラオウンの名前は、ミッドチルダ海軍の中でも管理局次元航行艦隊期待の若手艦長として知られていた。 管理局のホープ、海の若き勇者とまでいわれていたほどの男が、今回何故このような行動に出たのか。管理局だけでなくミッドチルダ側でも、自軍司令部の動きに奇妙な点を感じ取った者はいた。 アラゴスタでも、乗り組んでいた情報将校が海軍司令部へ問い合わせていた。今回の出撃に際して、何か政府から、軍よりも上の者からお達しがあったのかどうか。 敵が次元間移動能力を持っているならば当然、それを追って他の次元世界へ移動することは起こりうる。 その情報を、ミッドチルダ政府が事前につかんでいたかどうか。 少なくとも艦隊は、“戦艦が埋まっている惑星”を調べるために来た。惑星が、ある程度の大きさを持ったひとつの天体がまるごと次元を越えて移動するような現象は、これまでに観測されていない。 もし次元間航路に進入した星があっても、天体クラスの大きさであれば次元断層に衝突して破壊されてしまう。 惑星TUBOY自体が次元を移動したわけではないが、敵戦艦インフェルノは、次元世界人類が普通に考える宇宙船のスケールをはるかに超えている。 クラウディアに探査任務を与えるにあたり、何か持たせた情報はあったのか。 でなければ、あの戦闘の現場にいきなり現れて、敵戦艦の目的地が地球であるなどと調べることは間に合わないはずだ。 何か他の情報源をもとに、敵戦艦の目的を分析した可能性が高い。 となれば、そのようなことができるのは、クラウディアに任務を命じたミッドチルダ政府以外ありえない。 「(ハラオウン艦長は我々がこうして追ってくることを計算に入れている──とすれば、絶対に火星軌道よりも外側で待っているはずだ)」 仮に地球がミッド艦隊の存在を察知していたとしても、火星軌道程度まで離れていれば攻撃してくることはないはずだ。 少なくとも、地球の持つ兵器でそれほど射程距離の長いものは知られていない。 また、インフェルノの軌道からみても、先回りして迎え撃つなら火星近辺しかない。 空母部隊は4隻ごとの戦隊を組みながら、それぞれの担当宙域を偵察している。 午前9時16分、この日3回目の偵察を行っていた偵察隊から、次元震を探知したと報告が送られてきた。 場所は火星軌道より245万キロメートル外側、小惑星帯の内縁部付近である。 これが自然現象による次元震でなければ、ミッド艦隊以外の何者かがこの宙域にいるということになる。 しかも、それは次元間航行能力を持ち、ワープ能力を持っているということだ。 「艦長!」 偵察隊の管制を行っていた管制官が、ヘッドホンを押さえながら発令所に呼びかける。 「うむ」 「ウィッチ6より報告、次元航行艦のワープアウトを確認、艦級はLS級巡洋艦!」 「艦名は」 「現在照合中です……出ました!魔力光スペクトル照合、管理局次元航行艦隊所属、“ヴォルフラム”です!」 「管理局の──!」 アラゴスタの艦橋要員たちが、驚きに声を上げた。艦橋の窓からは姿は見えないが、それぞれに、ヴォルフラムがいるであろう方向の宇宙空間を見つめる。 あの向こうにいる。しかも、こんな場所にいきなり現れた。 クラウディアといいヴォルフラムといい、管理局の若い艦長はどうしてこう予想のつかない大立ち回りをやらかしてくれるのか。
アラゴスタ艦長はフライトデッキへの連絡をとり、艦載機の発艦準備を命じた。 この距離ならば、地球に気づかれずに攻撃・撃沈が可能である。もし相手がこちらに仕掛けてくるつもりなら、躊躇ってはならない。 ミッドチルダ海軍の任務とは、次元世界におけるミッドチルダを守ることである。他の次元世界よりもまずミッドチルダを優先しなければならない。 「準備でき次第発艦!空中で合流しろ。本艦周囲700キロメートル圏内で待機だ」 『あれは管理局のフネですか!?発砲許可は!?』 「こちらが指示するまで発砲するな!応戦も控えろ!とにかく相手を包囲するんだ」 アラゴスタの飛行甲板から、第一陣の戦闘機がカタパルトで打ち出される。 母艦は針路を変えられないので、アラゴスタとヴォルフラムの間に割って入り、間合いを近づけさせないようにする。 空母から戦闘機が飛び立ってきたのを見て、はやても口元を歪めながらマイクを握った。 「艦長、空母アラゴスタより艦載機発艦!数4、……今5機目が出ました!上空直掩を行うようです」 「ロックオンはしとるか」 「本艦へのレーダー照射はありません」 「よっし……このまま前進、取舵30度!アラゴスタの正面に艦をとれ!」 「取舵30度、アイ!」 艦をロールさせ、ヴォルフラムは大きく左へ旋回する。 向こうの艦載機は飛び立っただけで、こちらに向かってくる様子はない。アラゴスタの側でも、管理局所属艦に対して先制攻撃はできないはずだ。 「アラゴスタの位置は!」 「左舷後方、方位1-9-0!距離27万!」 「艦長、どこまで近づくんです」 「ミッド艦隊が何を考えてるか一発でわかる位置──向こうがこっちに主砲を撃てる位置につく!艦回頭180度、艦傾斜左一杯! 向き直ったら──今や!前進一杯、舵中央!──エンジンストップ!ダウントリム10度に調整、惰性で航行、距離6000まで近づけ!」 魔力光の噴射を艦全体にたなびかせ、真後ろを向いた状態でエンジンをめいっぱい吹かす。 逆噴射の姿勢を取り、急速に速度を落とすヴォルフラムは、アラゴスタの側から見れば真正面から突進してくるように見えるだろう。 戦闘機たちがすばやく両翼に散開し、ヴォルフラムに搭載デバイスを向けて魔導砲の照準をつける。 ヴォルフラム艦橋でも、光学観測で彼らの動きを追っている。 ヴィヴァーロはマルチスクリーンに映像を送った。戦闘機を正面から捉えた映像で、デバイスの銃口が真円に見える、すなわち銃身がまっすぐこちらを向いているということだ。 その銃口から魔力弾が発射されれば、間違いなくヴォルフラムに命中する。 じりじりとにじり寄るように速度を合わせ、距離6000キロメートルを隔てた状態でヴォルフラムはアラゴスタに向かい合う。 ヴォルフラムの突然の出現に、戦隊を組んでいる他の3隻の空母も直掩部隊を発進させている。巡洋艦も数隻従っているが、いきなり艦隊正面に陣取られては下手に動けない。 第2機動艦隊の艦たちは、ヴォルフラムの電光石火の操艦に、まさに虚を突かれた形となった。 ここで針路を変えれば、ミッド艦隊は敵戦艦の破壊が目標ではないと自白することになる。 このままヴォルフラムを攻撃すれば、ミッドチルダは管理局に反抗する意思があると表明することになる。
絶好のチョークポイントに艦をとったヴォルフラムは、アラゴスタの後方に位置するミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊本隊のさらに向こう側に、敵戦艦インフィニティ・インフェルノが航行していることを確認した。 「艦長、後方800万キロメートルに次元航行艦を発見!方位1-7-5、おそらくXV級、次元断層の中に隠れてました!」 「──クラウディアやな」 「これでミッド艦隊も」 「当然見つけたやろ。ほんで、クロノくんのほうでもわたしらの動きを見てるはずや」 ヴォルフラムのワープアウトにより、次元間航路に波動が伝わる。 ミッド艦隊の真正面にヴォルフラムが出現したことを、クラウディアでも探知できる。そして、アラゴスタもこの波動により、クラウディアの存在を発見したはずだ。 発見したなら、当然、本隊へ報告するだろう。 もしミッド艦隊が自分たちを追ってくるなら、彼らはインフィニティ・インフェルノの頭を押さえる形になっている現在の位置から外れることになる。 正面に陣取ってインフェルノの邪魔をするのをやめ、インフェルノを地球に向かわせるように移動することになる。 インフェルノの地球到達を阻止するか、それとも管理局艦の迎撃を優先するか──。 もしクラウディアを追ってミッド艦隊が針路を変えれば、それはミッドチルダは管理外世界の安全よりも管理局への反抗を優先させているということになる。少なくともそういう言質を管理局に与えてしまうことになる。 「(あんたが黙るようならわたしがその口割らせるで、クロノくん──)」 レーダーをにらんでいたヴィヴァーロが、映る艦影の動きをキャッチした。 「艦長、ミッド艦隊に動きが出ました!本隊が針路を右20度へ変針、こちらへ向かってきます」 「距離と速度は」 「艦隊旗艦リヴェンジまで380万キロメートル、速度は38宇宙ノット全速です!あと10分以内には主砲射程距離内に入ります」 はやては大きく肩で深呼吸すると、艦橋の窓から正面を見据えた。 「よーし。艦長より全艦へ、これから正面のミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊を突っ切り、敵戦艦インフィニティ・インフェルノに向かう。 それから電測、後方のクラウディアの動きを監視。ロストするなよ」 「了解です艦長」 「距離300万を切ったら発進する。機関室、出力全開から最大戦速まで40秒でもってけ。やれるな」 「はい!」 「おっと──艦長!クラウディアが動きました!本艦後方より右舷に出ます、これは──ミッド艦隊の頭を押さえます!」 ヴィヴァーロが送ってきたクラウディアの位置は、ちょうどミッド艦隊本隊の左舷側に向かう針路だった。 ヴォルフラムからは、右舷後方の至近距離をかすめられる形になる。 「気の早いやっちゃな!ミッド艦隊との距離は!」 「現在303万!あと60秒で300万を切ります!」 クラウディアの速度からすると、おそらく同じくらいの時間でミッド艦隊の主砲射程距離内に入る。 どちらも、互いの腹を読みあい、そして互いの行動をある意味で信頼しているからこそとれる操艦だ。はやても、クロノの腹の内を読める。 「この艦にフェイトちゃんが乗ってるゆうことわかってるんかなクロノくん──よっしゃ!全速前進、針路0-1-0!アラゴスタの舷側をすり抜けろ!巡洋艦からの機銃掃射を避ける位置や!」 「全速前進、針路0-1-0!」 ルキノが命令を復唱し、エンジンノズルから魔力光を激しく噴射してヴォルフラムは急加速する。 正面至近にいるアラゴスタの右舷ギリギリをかすめ、両翼に展開している戦闘機や巡洋艦からの砲撃を、アラゴスタを盾にして避ける。アラゴスタの近くに艦をとっていれば、誤射の危険から他の艦もヴォルフラムを撃てない。
ヴォルフラムとクラウディアはそれぞれの針路でミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊を突破し、インフィニティ・インフェルノに向かう。 ミッド艦隊本隊の向こう、およそ0.15天文単位先に、インフィニティ・インフェルノがいる。 この距離では、ミッド艦隊もこのままヴォルフラムやクラウディアに構っている余裕が無くなる。早めにインフェルノ攻撃のために動かなければ、地球衝突の阻止限界点を超えるまでの時間が無くなる。 「艦長、第2機動艦隊が反転します。続いて戦艦部隊も回頭、本艦に向かいます」 「クラウディアには」 「戦艦部隊が大きく二手に分かれてます、本艦とクラウディアにそれぞれ24隻ずつが向かってきます、残りは空母の直衛に回るようです」 コンソールに設置された手すりにつかまりながら、エリーが身構える。 「撃たれますよ」 「かわしてみせるわい」 ヴォルフラムはミッド艦隊本隊の右側を、クラウディアは左側を通過する。 本隊である戦艦58隻を中心として、ミッド艦隊は左右に大きく展開しながら反転し、ヴォルフラムとクラウディアを追ってくる。 もちろん、その先にはインフェルノがいる。インフェルノを狙うなら、砲撃しても何の問題もない──。 瞬間、ヴォルフラムの艦体が小さくぶれるような動きをはやては感じ取った。 もちろん物理的に振動したわけではない。多次元空間の揺れを、高い魔力資質を持つ人間は時に感じることができる。次元を束ねて揺さぶる攻撃、それはすなわち次元航行艦の搭載する魔導砲である。 ヴォルフラムの正面、血塗られた壁のように迫るインフェルノの艦首が、青い光を放って爆発した。 瞬く閃光に、およそ2万キロメートルの距離をとってヴォルフラムの右舷前方を走るクラウディアの姿が浮かび上がる。ヴィヴァーロは探知したクラウディアの魔力光スペクトルを索敵レーダーに入力し、ロストしないよう追跡を開始する。 「艦長、ミッド艦隊の砲撃です!始まりました!クラウディアは現在位置、本艦右舷前方、方位0-2-8上下角プラス30、距離1万9600!」 「どっちを狙うか──ここでぶっ放せば地球に見つかるぞ」 「最悪、私たちもインフェルノの連れと思われてますよ。何せあの大型艦の後ろにぞろぞろと連なってるわけですから──」 「仕方ないところや──!」 ルキノとフリッツのコンビネーションで、ヴォルフラムは戦艦部隊からの砲撃をかわしながらインフェルノに接近する。 エンジンを逆噴射して速度差を縮め、インフェルノの左舷側に開いた破口を発見しそこへ艦を寄せる。 「あそこから入れる、ルキノ、あの破口に艦を入れろ!インフェルノのめくれ上がった外板を盾代わりにするんや」 「了解です艦長!艦を反転、取舵一杯!右舷サイドスラスター噴射、速度同期!」 「艦長、クラウディアがインフェルノの後方へ向かいます」 「場所としてはあっちがよりアルカンシェルのダメージを受けてる──それにエンジンもたぶん後ろにある、とにかくわたしらはこっから内部に突入するぞ」 「ゆりかごの何十倍も大きいですね──」 「その分隙もでかい、もし人間が乗ってたとしてもこれだけの艦や、絶対手が回りきらんところがある。 レコルト、破口内部をスキャンして突入口を探れ!壁をぶち抜けそうなとこがあったら片っ端から速射砲をブチ込め!」 「了解!艦首砲塔自動追尾リンク完了、マニュアル射撃で狙います!」 接近すると、インフェルノはまさに小惑星のような、圧倒的な威容を持っている。 ミッドチルダ・ヴァイゼン連合艦隊との戦闘で砲撃が命中した箇所は無数の破断した外板としてささくれ立っており、さらに艦の後半部分はアルカンシェルのダメージによって大きくねじれ、上下に押し潰されたような歪んだ状態になっている。 これでもなお船体が形を保っているのはまさに驚異である。直径100キロメートルの小惑星でも、アルカンシェルの発生させる歪曲空間に落ちれば、強大な潮汐力によってばらばらに分解される。 次元潜行によって亜空間に逃げられるということを差し引いてもなお、インフェルノの船体は、アルカンシェルの破壊力に耐える強靭な船体強度を持っていることになる。
ヴォルフラムの搭載するパルスドップラーレーダーに、破壊されて外部に露出した艦内通路のような場所から多数のバイオメカノイドが這い出てきている様子が映し出された。 バイオメカノイドは変温動物の性質を示すため、赤外線暗視装置などでの探知はできない。赤外線によるロックオンは不可能である。 目視射撃か、あるいは映像解析による追尾能力が必要になる。 レコルトはヴォルフラムの搭載艦砲を操作し、レーダーにかかる大きな通路を次々に砲撃して障害物を破壊していく。さらに外板の裏側に潜り込むことで艦を完全に隠すことができる。 CICでは、オペレーターが入力した射撃諸元を確認しながらレコルトが持つトリガーによって発射操作を行える。発射装置を砲雷長が持つことで、迅速かつ的確な攻撃が可能だ。 ヴォルフラムが進入した破口は直径およそ600メートル、深さ1000メートルほどに開いており、LS級の大きさならすっぽりと収まる。この中に隠れてしまえば、ミッド艦隊からの砲撃はかわせる。 少なくとも、“流れ弾に当たったように見せかけて撃沈”ということはできなくなる。 クラウディアもおそらく、インフェルノの後ろへ回り込むことで巨大な船体を盾にしてミッド艦隊の砲撃をかわしているはずだ。 「そろそろ出るぞ……なのはちゃん、フェイトちゃん、用意はええな。ヴィータとシグナムも」 「いつでもOKだよ」 「はやてさん、私たちは」 「スバルらも後から続け。ザフィーラの指示に従って、3グループに分かれて内部の捜索を行う。なのはちゃんとヴィータちゃんのグループ、フェイトちゃんとシグナムのグループ、それからザフィーラとスバル、ノーヴェのグループや。 なのはちゃんらがまず先行して大物をあらかたぶっ潰したら、フェイトちゃんらで狭いとことかに残ってる奴らを掃討。スバルらは艦内の動力炉や制御装置を探るんや」 「わかりました!」 「よーし──後部カタパルト展開、エアロック外扉開口!フェイトちゃんも、宇宙戦用バリアジャケットはちぃと動きづらいかもしれん、無理に飛ばすなよ! シグナムとザフィーラも、援護きっちり頼むで」 「了解です、主はやて」 「任せてくれ」 インフェルノ艦内には、薄いながらも空気が存在していた。しかしその主成分は窒素と二酸化炭素で、酸素がほとんど無い。由来としてはおそらく惑星TUBOYの大気をそのまま艦内に充填していたと思われる。 バイオメカノイドは、見たところ真空中でも活動できるようだ。 バリアジャケットの術式にプラグインで機能を追加することで、空気層で装備者の周りを包んで呼吸が可能になる。与圧はインフェルノ艦内との気圧差を考慮して0.45バールに調整され、動きやすくする。 SPTを装備したなのはとヴィータが、カタパルトを使用してまず発艦する。 数百メートルの距離をジャンプするようにして、空中から通路入り口へ向けてディバインバスターを発射、破断面から垂れ下がった梁材などの障害物を吹き飛ばす。 破口の中には太陽の光が届かないので暗闇だ。ディバインバスターの魔力光に浮かび上がった通路には、数体の二脚型や、ミサイルランチャーのような個体がいるのが見えた。 やや細い、通気口のようなパイプからは、時々ワラジムシや、ガのような飛行型バイオメカノイドが這い出して宇宙空間に転げ落ちている。 音が伝わるのに十分な大気が存在するので、ガが羽ばたく耳障りな音が聞こえてくる。 「気持ち悪りぃ虫みたいな連中か──!直接ぶっ叩くのはまずいんだったな、高町」 「体液に触れると爆発する。直接打撃は避けて、遠距離攻撃を主体にして」 「了解だ──!」 SPTは飛行魔法をバックパックとして標準装備しており、装備した魔導師が戦闘魔法のみに専念できる利点がある。 なのはやヴィータはもともと自分でも飛べたが、攻撃魔法を撃ちながら飛ぶ場合はどうしても負荷がかかり、計算が追いつかないシチュエーションもこれまでにはあった。 飛行魔法は、特に急激な機動や姿勢変化を行う場合には、ただまっすぐ飛ぶ場合と比べて格段に魔力消費が増える。それは主に術者の体勢の変化によって空気抵抗の制御が必要になるからで、これは高度かつ複雑な流体力学計算が必要になる。 とりあえず浮かべばいい、というだけではないのだ。 「シュワルベフリィーゲン!!」 一度に4発生成した魔力弾を叩いて撃ち出し、空中に漂っているガとワラジムシの群れをはじき飛ばす。SPTは腕力の補助もするので、これまでは予備動作が必要で隙が大きめだったヴィータの魔法も格段に機動力が上がる。
インフェルノ艦内には人工重力が発生しており、艦表面から数メートル程度まで展開されているようだ。その範囲に入ったワラジムシが艦表面に“落下”し、衝撃で身体の節が潰れて体液が漏れ、爆発した。 体液が付着したインフェルノの装甲板表面は白煙を上げてみるみる溶けていく。 2発目のディバインバスターで、被さっていた太い支柱が艦体から外れ、幅10メートル程度の広い通路が現れた。 左右の壁にはマイクロミサイルランチャーが設置され、索敵レーダーが回転している。 「あそこから入れる……ヴィータちゃん、私は右のランチャーを叩く」 「おし、あたしは左だ」 タイミングを合わせ、いっきに距離をつめる。 逆噴射をかけて最低限の減速で、ミサイル砲台の死角にもぐりこむ。大きな箱型のランチャーを左右にそれぞれ天秤のように吊り下げ、1基あたり46発の発射口が見える。 発射されたミサイルはなのはたちのSPTのスピードを追いきれず誘導をはずれ、天井に激突した。 濃密な炎が広がり、天井や壁をなめる。 「焼夷効果重視だ……直撃しなければいける!」 敵ミサイルは貫通能力に劣ると見たなのははランチャーの基部に接近して、アクセルシューターを放った。 振りかぶった右腕にミサイルが1本当たるが、角度が浅く、バリアジャケット表面を掠めて弾体が跳ね返り、空中で爆発した。 少しでも距離が離れてしまえば、このミサイルの炸薬量ではSPTの装甲で完全に防げる。接近して回り込めば旋回速度が追いつかない。ただし、ひとたび弾幕に包まれてしまえばナパームに似た焼夷油脂で焼かれることになる。 「高町、大丈夫か!?」 「うんっ!こいつ、ロックオンできる範囲はたぶんすごく狭い、SPTのスピードならかわせる!」 「よーし、こっちも片付けた!フェイト、シグナム!あたしたちに続け!」 ギガントシュラークでミサイル砲台を叩き潰し、ヴィータの合図で、フェイトとシグナムがそれぞれインフェルノ艦内に突入する。 広めの通路があるとはいえ狭い艦内では、フェイトのスピードも発揮しきれない。さらに宇宙戦用バリアジャケットがあるので最大速度や加速は大きく制限される。ここでは正確な射撃と早撃ちが必要になる。 通路の向こうから、左右の壁に開いたドアを開けて、何体かのバイオメカノイドが歩いてくる音が聞こえた。 足音のパターンからすると、二脚型のようだ。敵が何によって目標を探知しているのか──これほど辺りが暗くては可視光では無理だ。赤外線か、電波か──もしくは音か、磁気か。 こいつはビームを撃てる。しかも、火力は人間を一撃で殺すのに十分だ。以前惑星TUBOYに降下したヴォルフラムの捜索隊も、この二脚型にほとんどがやられていた。 「来るぞ──30メートル先だ」 かすかな空気の流れによって、フェイトのインパルスフォームの白いマントがはためく。 通路の暗闇の向こうから、金属の床を、金属の足が踏む硬い音が聞こえる。この個体も金属質の外骨格を持つようで、駆動音のように聞こえるのは外殻が擦れる音だ。 「バルディッシュ、サンダースマッシャーをダイレクトロード」 なのはたちが突入した後に続き、シグナムとフェイトが進んでいく。 ミサイルランチャーなどの大きく危険度が高い敵は優先的に撃破していくが、二脚型はドアの陰に隠れるなど、限定的ながら知能があるようだ。通路の向こうに打ち込んだサンダースマッシャーで何体かは倒せたが、まだ足音が壁の向こうから聞こえる。 この班ではフェイトが前に出て正面の敵を優先的に攻撃し、左右から現れる敵をシグナムが潰していく形だ。 「後ろだテスタロッサ!」 突如、ひびの入っていた壁を崩して別の二脚型が現れた。目の前に現れると、二脚型は3メートル以上の身長があり非常に大きい。 頭頂部付近から斜め上に生えた腕があり、関節は内側へ曲がる部分が二か所ある。明らかに人間や脊椎動物の構造とは異なり、腕の先端はレーザー発振器になっている。ちょうど、マグネトロンがむき出しになったような構造だ。 至近距離に出現した二脚型に、シグナムはほぼ真下からレヴァンテインを振り薙いだ。二脚型の胴体を中央から叩き割るように斬る。 これもバイオメカノイドの個体の例に漏れず外皮は柔らかく、すぐに凹んで曲がる。 切り返しの攻撃で、倒れる二脚型をさらに突き飛ばす。二脚型はバランスを崩して大きくよろめき、割れた胴体から青いスライムを垂れ流して倒れた。
「!?人が──!?」 二脚型の胴体から、白いものが這い出してくるのをフェイトは見た。 漏れ出した体液が発火し、燃え始める。その炎から逃げるように、白い物体は二脚型の胴体から飛び降りた。 それは暗い通路の中で淡く光るような体表をしており、床に立って走る姿は、二本の足と二本の腕を持ち、丸い頭部を持っていた。 「人間!?」 「いや違う、あれは──!!」 シグナムが言いかけた瞬間、走っていた白い小人が、突然爆発した。 胴が破裂し、頭部や手足がちぎれて転がる。さらに手足も、内部から小爆発を繰り返している。 「これがグレイか──!!」 出撃前のブリーフィングで、はやてが言っていた。 敵バイオメカノイドの中には搭乗者がいる個体もあり、乗っているのは灰色の身体をしたエイリアンである。彼らはバイオメカノイド本体と同じく引火性の体液を持つ。 フェイトがミッドチルダで捜査していた事件に関わっていたとされる緑色の小人の正体が、おそらくこのグレイだ。 そうはやてから聞かされていた。今こうして目の前で見て、フェイトは、このグレイが緑色の小人であることに間違いないと確信していた。 『シグナム、聞こえるか!敵のミサイル砲台は人間が乗ってる、つっても子供みたいなちいせえやつだ──!』 「こちらでも遭遇した。ヴィータ、これはエイリアンだ、間違いなく。人間ではないモンスターだ……!」 念話でヴィータが知らせてきた。ヴィータも、炎上するミサイル砲台の操縦室らしき場所から飛び出してくるグレイを目撃していた。 もっとも、グレイもバイオメカノイドの体内から外に出てしまうと長くは──せいぜい数秒程度しか──生きられず、すぐに爆発してしまう。艦内の大気圧が低すぎるため、体液がすぐに沸騰して発火してしまうのだ。 「こいつは生物ですら──見ろ、テスタロッサ。こいつには筋肉が無い、スライムが詰まった袋で、シリンダーのように身体を動かしているんだ。 骨も皮もつくりものだ──こいつも人間型のバイオメカノイドだ。──青ざめているぞ」 「わかってる──」 シグナムの足元で、倒れて転がってきたグレイの腕が、体液が流れ出したことで爆発を免れ、抜け殻のようになって転がっていた。スライムの作用で、体液をかぶったところはゼラチン質のようなゲル状に溶けかかっている。 皮膚はまるで詰め物をしたように膜をつくってふくれている。発酵させる前の生白いパン生地のようなやわらかい皮膚と、異様に細い骨の間にはスライムが詰められていた空間があり、これはおそらく肉をくりぬいて詰め込まれたものだ。 骨には腱がついているので、本来なら筋肉もあったはずだ。それを全て剥がし、切り取った上で、新たな駆動装置としてスライムを詰め込んだのだ。神経には麻酔を掛けたのだろうか、それとも、この生物には痛覚は存在しないのだろうか。 レヴァンテインの切っ先で、そっとつついてみる。 爆発性があるのは体液として詰め込まれたスライムのみで、骨や皮膚は普通の生物と大差ないようだ。皮膚片は、確かに、これまでミッドチルダ各地の事件現場で発見されたものと同じ特徴を持っていた。 異様な生物の姿とその死に様を見て、辺りが暗いせいではないだろう、フェイトは頬がこけたように慄いた表情になっていた。 後退った拍子に、バリアジャケットの金属ブーツで何かを踏んだ。足元を見ると、白い石灰のようなものが散らばっていた。 それはグレイの頭蓋骨だった。スライムによって皮膚が溶けて、骨だけになったのだ。頭の中には、脳が入っていなかった。ゲル上の物質に包まれた、スライムの制御装置と思われる金属粒が数個入っていただけだった。 フッ酸によって侵されたカルシウムは脆くなり、すぐに砕けてしまう。グレイの骨はただでさえ薄く、脆い。フェイトが踏み割った頭蓋骨は、砂のように崩れて、床に摺りこまれた。
通路の先は、変わらず暗い。照明のようなものも無い。ところどころ、床や壁に不気味に光る蛍光管やそれを覆ったパネルがあるだけだ。 あたかも道案内をするように、光る床が並んで、乗れば自動的に運ばれる、エスカレーターのような装置に組まれている。 この艦が本当にバイオメカノイドのコロニーなら──たとえどんなに不気味な生物であろうとも、必ず彼らの生態がある。それに基づけば、住処の構造を推測することは可能である。 この光る床にそって進めば、そこには必ず何かがある。 誰の助けも無い、孤独な艦内。暗さと、気圧の低い環境に独特の音の伝わり方が、虚無感を強調させる。 グレイはここで生まれ、何を思い生きていくのか。ミッドチルダに現れた緑色の小人は、自分が置かれた環境をどのように認識したのか。侵入者である自分たちは、この艦内でどのように迎え撃たれるのか── 既にスバルたちも、インフェルノ艦内に進入し捜索を開始している。この艦の操縦装置、もしくは制御装置のようなものがあるのならそれを動かすことを試みる。 艦を動かすことができれば、地球への衝突コースから離脱させなくてはならない。 またそのためには、彼らの動きをよく見なくてはならない。 もし、インフェルノが目覚めず、地球衝突前に再度アルカンシェルでの破壊を試みることになれば、おそらくミッド艦隊は自分たちごと撃つだろう。 そうなれば、命はない。 「テスタロッサ、気づいているか──艦が動いている」 「本当!?──これは──」 「かすかに重力が鉛直方向からずれている──加速度が掛かっている証拠だ。待て、ヴォルフラムに問い合わせる」 シグナムがはやてに念話で連絡をとった結果、インフィニティ・インフェルノが艦首逆噴射ノズルを作動させ、軌道と速度が変化したことが分かった。スバルたちではない、バイオメカノイドたちが自ら操縦を行った可能性がある。 変更された軌道では、最接近距離430キロメートルまで近づいて地球の重力でいっきにターンし、静止トランスファ軌道へ進入するコースになる。 すなわち、インフェルノは減速して地球周回軌道へ入るつもりだということだ。 そしてさらに、この動きは地球側にも観測され、この物体が小惑星などではありえなく、異星人の手によってコントロールされる巨大宇宙船だと認識されるだろう。 なのは、フェイト、そしてスバルたちの運命を乗せ、深紅の超巨大宇宙戦艦は無人で飛行していく。
第10話終了です な、長い(汗) とにかく敵の本拠地?へ乗り込みました しかし5面のタイトルが「INFERNO」(地獄)なのに1面のタイトルは「STAIRWAY TO HEAVEN」(天国への階段)って一体・・・ まさか天国から降りて地獄へ向かうとかそういうあれですかそうですか(汗) ・トゥアレグ・ベルンハルト→フォルクスワーゲン・トゥアレグ ・イリーナ・マクシーモワ・カザロワ→ロシアの自動車メーカーGAZ(本社工場所在地であるゴーリキー市はマキシム・ゴーリキーに由来) ・空母アラゴスタ→アラゴスタ(サスペンションメーカー、車高調などをつくってます) では続いてミッドナイトの嘘予告?を
リリカルミッドナイトForce 予告(仮) 車の通りもまばらな、首都高湾岸線。 流れをわずかにリードする速度で、一台のポルシェが走っていた。 トラディショナルな舟形のボディながら、全高は低く抑えられ、ワイド&ローなフォルムをつくっている。 ヘッドランプユニットはボンネットにくいこむように補助ランプを配置し、涙目とも、威嚇ともとれる戦闘的な外観を見せる。 色は銀色。高速道路をぎらつくように照らす高圧ナトリウムランプの光に、塗装面の粒状が見える。 ポルシェ・911ターボ、996GT2。 最大出力は462馬力、量産車種ではオプション設定されていた4WDシステムを廃止することで軽量化し、ポルシェのロードゴーイングカーとして最強のスペック、公道最速を誇るモンスターマシンだ。 その最高速度は優に300km/hを超えるが、ポルシェの伝統的なRRレイアウトから挙動は気難しく、さらにこのGT2は4WDを廃して軽量化していることで重量配分もかなり後ろ寄りであり、高速域でのコントロール性はピーキーである。 ステアリングを握るのは、およそこのような凶悪な面構えの車には不釣合いに思えるほどの、幼げな顔立ちの少女だった。 やわらかい亜麻色のロングヘアを肩に流し、銀色のバングルを左腕にはめている。 本革巻きのカーボンコンポジット製ステアリングホイールは、素手で触れればいっきに侵食されてしまいそうな、殺気立った印象を持たせる。 しかし、少女はその細く華奢な手指で、996GT2のステアリングをしっかりと握り締めていた。 幅広タイヤを履くために大きく膨らんだリアフェンダーには、「STROSEK DESIGN」のステッカーが輝いている。 ポルシェの本国ドイツで、最高の栄誉あるポルシェチューナーとして知られる「シュトロゼック・デザイン」社のエンブレムロゴである。 ドライバーの少女の名はリリィ・シュトロゼック。 彼女は日本で、この996を最大限に走らせられる場所を探していた。そして、夜の湾岸という舞台を見つけたのだ。 ギアを3速にいれ、アクセルを踏み込んでいく。 996は240km/h程度まで一気に加速していき、そこでいったん速度を落とす。 道にはだいぶ慣れてきたつもりだったが、それでもこの車を限界域まで加速させていくのは容易な操作ではない。 ポルシェがドライバーに求めるレベルは非常に高い。ただ乗るだけなら乗りやすいが、いざ本気を出せば、ポルシェは、特に911は、突然にその表情を豹変させる。 ドイツのアウトバーンでも、制限速度が無いとはいえなかなか一般のドライバーは、そこまでスピードは出さないし出せない。 「私じゃ……だめなのかな……?この車をもっと乗りこなせる人でなきゃ……」 呻くように呟くリリィ。いかに彼女がシュトロゼックであろうとも、この996は少女がすぐに乗りこなせるような車ではない。 ふとバックミラーに目をやると、さっきまでいなかったはずのヘッドランプが近づいてくるのが見えた。 「嘘っ!?湾岸に入ってから他の車は追い越してない──追いついてきたの!?このスピードに……」 ヘッドランプは、古風な丸型二灯である。 色温度を低めにして視認性を高めたHIDランプの強烈な光が、996のテールとリリィの頬を眩しくあぶる。 近づいてくる相対速度からして、後ろの車はおそらく250km/h以上で走ってきた。
瞬く街灯に、かすかにシルエットが浮かび上がる。 それはリリィにとっては、もはや見慣れたフォルムであった。 「911!あれも同じポルシェ──!」 一方、996を前方に発見したドライバーも、かすかな期待と共にその後姿を見つめていた。 「996か──あのウイングはGT2だな。しかし走りの人間ではない──か──?」 特に飛ばして走っているわけではない様子を見てとると、リインはステアリングを左へ切り、すばやく中央車線へレーンチェンジした。 相手に動揺する暇を与えず、死角から音も無く抜き去る。 公道は一般車が走っている場所であり、無駄に煽っても危険なだけで意味はない。一般車の流れを壊さず、それでいて速く走る。 湾岸、首都高で走るにはその流れをつかむ感覚が必要だ。 そして見たところ、まだあの996のドライバーは、その流れをつかめるところまでは到達していない。 オーバーテイク。 リリィも、間近に迫ったそのポルシェ911の姿をはっきりと見た。 964型3.6ターボ。装着されたエアロパーツはカレラRS用のもので、これほどのスピードレンジでもしっかりと空力効果を持ち、ダウンフォースを発生させ車体を安定させる。 リリィも、日本に来るにあたって噂程度には聞いていた。 首都高湾岸線には、おそろしく速いポルシェターボがいる。 そして、そのポルシェと肩を並べるほどの速さを持つ、古い日本車がいる── 少年、トーマは、ふとしたきっかけでその車に出会った。 「これ、ポルシェですよね?なんて名前なんですか?」 少女、リリィは、彼の持つセンスに気づく。 「へぇー、ポルシェっていってもいっぱい種類があるんですね」 「はい。これは現行モデルのひとつ前、996っていう型なんです。他にも、993、964──とか、あります」 あのターボにもう一度会いたい。同じポルシェ乗りとして、このまま引き下がることはできない。 こちらはより新しい996型なんだ。旧型の964に負けたままではいられない。 「お嬢ちゃん、あのブラックバードを追ってるのかい?」 「ブラックバード……?山本さん、よければそのポルシェについて教えてくれますか」 チューナー・山本和彦も、リリィの持ち込んだ996に興味を持った。 「トーマ君だっけ、ユウジから君のことは聞いてるよ。カメラもいいが、車もまた魅力的だろ、特にチューンドカーは」 「ですね……。純粋に機能を追求した機械っていうのは共通してると思います」 「時には、機能を追求することが人間にとって扱いきれないモノを生み出してしまうこともある──」
ポルシェ・911ターボ。 それは日本の、いや世界中のスポーツカー愛好者にとって、永遠にかけがえの無い特別な存在だった。 「知ってるかい?アメリカでは911のことをウィドーメーカー(未亡人つくり)っていうんだよ。 乗る人間はみなすぐ死んで、家族があとに取り遺される──それほど危険な車と認知されてるんだ」 「姉貴は俺にも話してねェよ──小僧、お前にそのつもりがあるなら、心しておけ。お前は毒になるんだ──ポルシェターボという毒にな」 「それでも多くの人間の心を虜にし、引き換えにそいつ人生を吸い取る──たまらないじゃないか」 湾岸の黒い怪鳥、ブラックバード。 その二つ名で呼ばれるリインフォースこと八神リインも、自分を狙い飛び立とうとする者の存在を察知する。 「富永サンは930の頃から見てるんですよね」 「オレが16の頃だ。派手なアナウンスも宣伝もなく、東京モーターショーにひっそりと展示されていた初代ポルシェターボは、マット(つや消し)な銀色に塗装されていた── ショーモデルとしてはあまりにも控えめに。オレはそこに製作者の戸惑いを感じ取った、本当に売っていいのかコレを──と。 それから毎日オレは考えたわけよ、あの機械に惹きつけられたわけを……ただ、あの車が持つ毒を感じ取っていたんだ」 引き返せないほど、のめりこむ。途中で降りることはできない。 「試作車は280馬力で最高速度280km/hとアナウンスされた。これは当時としては驚異的だ。 量産モデルは260馬力と少し常識的なスペックに仕立て直され、1975年発売開始──その毒を世界中に撒き散らし……そして認めさせた」 「毒、ですか」 「そうだ──ポルシェターボは、毒だ。それは新しくなった996でも変わらない。電子制御や4WD、とりあえず優しいフリしてるだけだ。 相変わらずその内側には正しくない機械がいる──ひと皮むけば毒の本性をあらわにする」
世に出たときから、ポルシェターボは世界中のスポーツカーたちにとっての基準となっていた。 新しくつくられるスポーツカーは、須らく当時のポルシェターボと比較された。 他のメーカーには真似できない、有無を言わせない圧倒的な高性能。 機械として精密に作りこまれたそれは、同様に機械としては最初から間違っていた。 このような車を作るなど、ましてや売るなど間違っている。 自然吸気モデルでぎりぎり、乗用車としての体裁を保っていた911は、ターボ化によってまったく別物の車へと変貌してしまった。 「スピードに魅せられた人間なら誰でも分かる──NAの911がRRとして正しくつくられた機械なら、911ターボは、あれはもう911じゃあナイ。 ポルシェターボはあらゆる意味で別格なんだ」 「それは──、それは、この996でも同じなんでしょうか。スカリエッティさん──」 世界中のメーカーが、チューナーが、走り屋が、ポルシェターボ撃墜を目指して走り出す。 それは日本車であっても同じだった。 日産、S30型フェアレディZ。 この小さな大衆グランドツーリングカーも、世界中でポルシェターボと競った。 そして、現代日本の首都高速道路でも。 金の剣十字──シュベルトクロイツを握りしめ、ブラックバードこと八神リインは、前人未到の領域へ踏み込む。 最後は、あの悪魔を撃墜するために。 「最終的にあのZを追撃できるのはポルシェターボのみ──私はそう判断した。 だから君の911をチューンする。あのトーマとかいう坊やもじきに走り出す──迷っている暇は無いよ」 「わかりました──」 首都高の白い悪魔。 その伝説は、さらに続いていく。 リリカルミッドナイトForce 娘T○PE Vol.1から連載開始!
おわりです(汗) しかしなんというか、湾岸原作で911ターボを毒と表現してたのは何かエクリプスに通じるものがあると思ってみたりなんかりして 996は水冷だろキョーミあるのかと聞かれていえ全然とバッサリな島センセw なんとなくフェイトさんのテスタはケーニッヒテスタロッサ(スーパーチャージャーとターボチャージャーを両方装着)にレベルアップしてたり・・・ないか(汗) ではー
宇宙戦闘、車と続くとオメガブースト思い出す うん、マイナーゲーだってのは分かってるよ?
乙です
ようやくゲーム内のステージにたどり着きましたな
グレイが異様に怖いなあ
>>176 OPでしか撃てない必殺兵器イエス砲を装備したあの機体か
おはようございますちと補足のようなものを ロシア語の人名には父称というものがありましてこれは息子か娘かで変わります カザロワ少将はお父さんがマキシムさんだったので父称はマクシーモワとなります ゴーリキー自動車工場という名前だとあの怪力ポケモンがガチムチで車をつくっている光景が・・・いやいやいや オメガブーストは開発がポリフォニーデジタルなんですよね 今やグランツーリスモ専門メーカーみたいになっちゃってますが他にもいろいろ作ってたんですよね STGで倒した敵の「中の人」が出てくるゲームってなかなか・・・ 初見の時は「えっ無人って言ってたじゃん!」と焦りました ・・・エリー副長、はやての2年先輩ということはもうすぐみそ(ry うーん、うーん、うーん・・・ ではー
>Gulftown氏 GJでした しかし、ミッドチルダとヴァイゼンの間柄から漂ってくる米ソ臭に、思わずフイタwww
>>177 だってあれOP用使い捨て武器だもの
良く考えると、あの機体って旧式でその上、武装が
バルカン(コレ威力的に絶対攻撃用武装じゃないよね?てか何で携帯武装?)
ホーミングレーザー(無いと100%死ぬメイン武装の割りに扱いがおざなり)
ヴァイパーブースト(一番役立って欲しい時に役立たず。スコア稼ぎには邪魔。何の為の切り札だ)
のみ、って・・・
パンツァードラグーンも武装ほぼ一緒なんだよなぁ…
オメガブーストのシステムでなのポを・・・3D酔いでまともに戦えないなw レスターに倒されたはずのアルファコアがミッドに流れ着いてという導入でクロスできるかな
なんか、PS2版の獣王記とのクロスが見たくなった。 もちろん、すべての獣化能力持ちでな。
>>180 パンツァードラクーンなら
あの世界の兵器ほとんどがロストロギアの基準を満たすなw
まあ文明が滅んだだけで人間は逞しく生きてるし
そもそもあの世界の連中は外の世界に出て行きそうにないし
あんな未開の世界管理局も来るメリットがないからクロスさせづらい
キャロとフリードを飛ばすって手もあるぞ。
むしろ、キャロフリをパンツァードラグーンの世界出身ということにしてだな(ry
>185 ロックオンして曲がる、外れの無いレーザーブレス……いやそれ以上に進化がヤバイか。
>>183 あれ、敵は殆ど人造生物だからなぁ(作中での設定名称は攻性生物だけど)
未開の世界どころか人類がトンデモレベルな文明築いた後に滅びちゃった後の世界ですよ?
これ言うとモンハンもドラゴン(つかボス級クリーチャー以外も?)って人造生物の成れの果てっぽいし
あの世界も多分一回人類が文明繁栄させて滅びちゃった後っぽい
ようつべとかで、流出したらしい設定原画で継ぎ接ぎされたドラゴンの絵とかあるし…
或いはあの世界そのものがバイオトープという可能性も無きにしも非ず…
どっちにせよ、管理局の手に負えないレベルである世界の可能性が高いべ
……雑談禁止じゃなかったの?
時々
>>188 みたいなのがでるが自治厨面するならせめてテンプレ読んで欲しいな
バイド自重しろ言われて追い出されたこと根に持ってんの?
こいつは一体誰と戦ってるんだ
まぁ作品投下なけりゃ閑古鳥鳴いてるようなスレじゃ誰も寄りつかんからな 職人の邪魔にならんように配慮しつつ雑談で盛り上げていけば良いと思うよ やたらスレの容量気にする人もいるけど、不都合あれば新スレ立てりゃいいんだし? 規制とかでスレ立てできんってんなら避難所に投下すればいいだけの話し
リリカルなのはとFF零式のクロスが読みたい
195 :
名無しさん@お腹いっぱい :2011/11/07(月) 15:03:31.51 ID:WFExGxl/
>>194 アニメ版のゴエモンやカービィっていう手もある
ふむう、ピンクの生き物はともかく、ヤヱちゃんがでるのは楽しみではある
漫画版のヤエちゃんのエロさは大人フェイトすら凌駕するからな
どうも EXECUTOR10話がかきあがったので21時半から投下します
■ 10 通路の壁を砲撃で打ち崩しながらなのはとヴィータは進む。突入部隊を送り出してからも、ヴォルフラムの側も搭載艦砲を使ってインフェルノの艦内を掘り進んでいる。 見た目から判別できる限りでは、インフェルノの船体構造はかなり継ぎ接ぎだらけで、最も外側を覆う装甲の裏側には繊維状に張り巡らされた骨材が無数に伸び、そこからある程度の──といっても数キロメートルはあるが──隙間をもうけて内殻がある。 全体としては潜水艦の複殻構造のようになっており、艦の主要な機能部品はすべて内殻に取り付けられているようだ。 外殻と内殻の間には位相変異された空間が詰まっており、これによって巨大な船体を維持している。ワープ時に船体を包み込み、構造材を保護するようになっている。 内殻は、これも過去の戦闘の影響か、それともアルカンシェルを被弾したせいか、あちこち捩じれたり、穴が開いたりしていた。ただ少なくとも、RX級の主砲や水雷戦隊のミサイルでは外殻を破れてはいなかったようだった。 なのはたちが突入した部分は外殻から大きな支柱の基部へ続き、艦内深くへ通路が伸びている。 この支柱はバイオメカノイドも通路として使っているようで、ところどころに、ワラジムシや、くらげのような形をした個体が張り付いているのが見える。 「ルキノ、投錨できそうな場所はあるか?」 内部は暗く、しかし広い。次元航行艦ほどの大きさの物体でも動き回れる空間がある。 窓の外は不気味に暗く、ところどころに蛍光物質が光っている部分が、星空のように見えている。 「もうすこし艦尾側に寄ればありそうです。強い魔力反応は艦底部から出てます。おそらく動力区画もそこに」 「上下の区別あるんかこの船に」 「船体の色が、薄いほうがたぶん上ですよ。惑星軌道上に乗った場合、太陽光を反射して船体が過熱するのを防がないといけませんから」 「魚と逆やな」 「確か、第97管理外世界のスペースシャトルも機体上面が白で、底面が黒ですよね」 「とっくに退役しとるわ」 インフェルノ内部では人工重力のかかる方向がかなり複雑に入り組んでおり、この場合は次元航行艦ほどの大きさの船体では艦首と艦尾で重力の向きが違ってくるような状態になる。 こうなると飛行魔法にかかる負荷が極端に上昇し、ヴォルフラムは時には壁面に艦体を擦りながら、ごく低速での航行を強いられていた。 「速力3ノット……フリッツ、舵のきくギリギリの速度を維持して」 「了解です──手が震えます航海長」 「がんばって」 やがて、支柱の数が少ないやや開けた空間に出て、ヴォルフラムはこの場所で重力アンカーを展開して艦を固定する。 この位置はインフェルノ内部に進入しているなのはたちにも連絡し、帰還時はここへ来るように伝える。 ヴォルフラムから調べられる限りでも、インフェルノ艦内の構造はどちらかというとグレイの体格に最適化されており、今なのはたちが突入して調べているのはバイオメカノイドが移動できるようにつくられた通路だということが見えていた。 ところどころに大規模な空間があり、それは列をなして配置されていることから、大クモのような大型バイオメカノイドが格納されている場所と考えられる。 総合すると、太い通路と細い通路が網目のように入り組んだ、血管のような構造をしている。バイオメカノイドが通れる太い通路が動脈、グレイが通れる細い通路が毛細血管ということだ。 グレイ用の通路は狭いのでこちらの人間は通れない。 スバルたちが調べているところでは、インフェルノには艦全体を統括してコントロールするような仕組みは備わっておらず、各部のユニットが連携して動いているらしいことがわかった。 艦内には通信のための回線などがなく、ところどころに配置された大きなコネクタのようなユニットから、植物の根のように金属繊維が伸び、これを使って信号をやり取りしているらしい。 金属の成分を簡易分析した結果、やはりこの艦をも含めたバイオメカノイドたちは、金属を、機械というよりも生体素材として用いていることがわかった。 たとえば昆虫やミミズの中には埋設されたケーブルを齧ったりなど、金属を食べるものがいる。もちろん栄養として消化できないのでそのまま排泄されるが、もしこのときにより加工しやすい形で出せるなら、それは溶鉱炉や冶金具を使わない金属加工といえるかもしれない。
通信回線のような役目をしている金属の根も、齧って捏ねた金属の塊を塗りつけて伸ばしていったものだ。 またそれゆえにあまり硬い金属は使えず、アルミニウムや鉄、鉛など、比較的やわらかい金属を使っている。 ナトリウムやマグネシウムなどはスライムの体内に取り込まれ、鉄、銅、ニッケルなどは噛み砕かれて外骨格に形成される。 何体か倒したバイオメカノイドも、同じ種類の個体でも外骨格の金属の成分比が微妙に異なっており、規格化された機械部品を組み合わせて作られているわけではないと思われた。 ミッドチルダで一般的にイメージされる、溶かした鉄を槌で叩いて鍛えるものでも、魔力で金属原子を整列させるものでもない。 彼らは金属を食べ、それをそのまま肉体につくりかえる。無機物を食べ、それを体内で合成してスライムを作る。 その過程で生み出されるフッ酸が、スライムの粘性と毒性を作り出している。 これまで、生命とは炭素系有機化合物によって構成されたものをさしていた。また炭素系物質でなければ生命は発生しないと考えられていた。 同じ第14族元素である珪素を主体にした生命の可能性も考えられていたが、宇宙空間に存在する物質の割合がどこの星でも概ね同じである以上、また珪素と炭素の反応性や合成可能な化合物の違いから、生命の発生には炭素が必須と考えられていた。 どこの次元世界でも、生命は炭素とそこから合成されるアミノ酸を元に生まれている。 一見、石のような硬い甲羅を持つ生き物でも、それはカルシウムや炭酸塩などでできていて、内部には必ず有機物があった。 バイオメカノイドたちは、その構成物質に有機物を含んでいない。 生命の定義からは外れる者たちである。しかし、自己動力で動き回ることができる。さらに、自己増殖することができる。 捜索の結果、ザフィーラが彼らの巣と思しきフロアを見つけていた。 そこには多数の卵のような──薄い金属缶のような外見だが──ものがおり、内部には形成途中のバイオメカノイドがいた。 高い圧力に耐える金属の殻の中にやわらかい金属を詰め、これを低温でゆっくりと延伸することで外殻を作る。 あらゆる姿が、スバルたちがこれまで目にしたどんな生物ともその様相を違えていた。 「ノーヴェ、これってさ……ディープダイバーじゃ捜索できない──よね」 「悪りぃ冗談だぞスバル……セインのはあくまでも無機物に潜れるってだけだ。内部じゃ普通に体格で制限される、こんな複雑な形状のものじゃ、狭くて身動き取れねぇよ。 潜れるのは地面とか床とかのあくまでも均一な物質だけだ──それにこいつの床は、板を敷いたとかそんなんじゃねえ……洞窟を掘り進んだとかそんなだ」 削り取ったインフェルノ艦内の壁材は、気泡や砂などが混じった金属の塊で、それは(溶鉱炉やプレス機に比べれば)ごく低温で生成されたことがわかった。 ごみなどが混じっていても、溶かさないのであれば不具合はない。 粘土をこねるように金属を塗りつけて、壁を積み上げていっている。ところどころに、鉱石内に含まれていた黒いオイルが染み出している。 「まるで巨大生物の腹の中にいるようだな」 「こっ、こわいこと言わないでくださいよザフィーラさん」 「俺は外を見張っている。この部屋の探索を」 艦内には光がほとんどない。スバルとノーヴェは、それぞれ視覚を赤外線に切り替え、増幅装置のデシベルを一杯に上げている。 このような環境では、光が無くても物体に温度があれば赤外線が放射されるので、それを感知して視ることができる。艦内の気温は摂氏12度、さらに艦そのものの温度はやや高く、およそ摂氏40度程度ある。 すなわち、何らかの動力が依然として生きており、その排熱が艦全体を温めているということだ。温まった艦が、艦内の気温を維持している。 艦の外の宇宙空間に出ればそこは摂氏マイナス200度以下の極低温であり、太陽放射も弱い。 スバルとノーヴェは部屋の中でできるだけ距離をとり、低出力の振動破砕を床に打ち込む。 艦内を透過して反射してくる振動をキャッチし、二人の立っている位置での伝わり方の違いを計算することで、大まかな構造を推測できる。 本来ならもっと精密な人工地震発生器と測定器があればいいのだが、用意はできなかったのでスバルとノーヴェの勘頼りだ。振動破砕という武器自体が、人工地震発生器からの応用でもある。 反射波はとても複雑なエコーを返し、想像以上に通路は入り組み、また壁面内部も隙間だらけであることが感じ取れた。
鳥の骨のように隙間だらけの構造の中に、ひときわ大きい空間があるのがわかった。今いる場所はおそらくその周辺通路だ。 「はやてさん、はやてさん、聞こえますか──今私たちのいるところから700メートルくらい下に大きな空間があります」 『了解。こっちでもマッピングを続けとる。そのまま次のフロアへ進んでや』 「わかりました。ザフィーラさん、移動します。ノーヴェ、行くよ」 バイオメカノイドの卵たちは、殻の中で対流する液体金属が不気味に輝いている。 彼らが殻を破って動き出さないことを願いながら、スバルたちは通路を走り、次のフロアへ向かう。艦内にいるバイオメカノイドは二脚型がほとんどで、これは破壊すると内部からグレイが這い出してきていた。 戦車型やワラジムシと違い比較的装甲が厚く、体内にあるスライムの量が少ないようだ。リボルバーナックルで直接殴っても、外骨格を割らないように気をつければ倒せる。 ザフィーラの技でも、ある程度の遠距離攻撃が可能なので、近づいてくる二脚型を突き倒してダメージを与えられる。 「よし、今だ!ドアまで走れ!」 「はいっ!!」 ひとつひとつの部屋はおよそ25メートル四方程度で、これらの部屋を結んでいる大きな中央廊下のような区画には方向案内だろうか、光る床が規則的に埋め込まれている。 また、いくつかの床は回転するようになっていた。ターンテーブルのような構造で、しかし駆動音が全くしないため、おそらく魔力を用いている。 先にノーヴェが部屋に駆け込み、奥の壁に設置されたエレベーターを見つけた。 「スバルっあれ!」 「うんっ」 エレベーターは、ひとことで言えばミッドチルダで広く使われている転送ポートに近い構造のようだ。 自動車が1台すっぽりおさまる程度の大きさの四角錐状のドームに、片面だけが結界で閉じられるようになっている。内部の転送用空間との仕切りは色が付けられ、空中に境目が浮かび上がっている。 これらの構造も、転送ポートと比較的似ている。 「同じ機能なら同じ外見になるということだ」 外に敵が近づいてこないことを確かめ、ザフィーラも部屋の中へ入ってきた。 「そうですね──ノーヴェ、これがどこに繋がってるか見れる?」 エレベーターの操作パネルらしきものはあったが、錆や油で固着してしまい開けられなかった。 「わかんねぇ、術式が全く違うからデータが読めない」 「乗ってみるしかないか」 「大丈夫か?」 「少なくともこれが艦内設備なら、行ったきり戻れないなんてことは無いはずだよ」 「だといいけどな──」 まずスバルが先に一人だけ、エレベーターに乗る。 身体が完全に結界内部に入ったことが確認されると、自動で転送プロセスが開始される。転送ポートを使うときと同じように、空間が一瞬歪んで瞬くように見えて、次の瞬間には、出口となるエレベーターの空間幕が目の前に見える。 立ったまま、そっと身体のコンディションを確かめる。 周囲の空気、呼吸のガス交換量、血中酸素濃度。掛かっている重力、骨格や筋肉、パワーアシストにダメージを受けていないかどうか。 全て問題ないことを確認し、ゆっくり足を踏み出す。 エレベーターを出ると、そこは先ほどのフロアより階層をひとつ降りたらしい場所だった。 天井から垂れ下がった金属箔は、先ほどのフロアの床と同じ材質でできているように見える。
「ノーヴェ、聞こえる?」 『ああ、そっちは大丈夫か?ナビに見えてるか、こっちからは30メートルくらい移動したように見える』 「うん、こっちでも二人とも見えてる。ちょうど階層を降りるエレベーターみたいだよ」 『敵は?』 「今んとこ──待って、うん──大丈夫。気配はない」 エレベーターがあるフロアは、床が藍色になっている。何かのハロゲン化金属のようだ。空気に、塩素臭が混じっている。 スバルやノーヴェのような戦闘機人、プログラム生命体であるヴォルケンリッターは、元々ある程度の宇宙空間でも活動できる。なのはとヴィータはSPTを装備しており、これも極限環境への対応能力がある。 現在出撃しているメンバーの中では、フェイトだけが宇宙服の着用が必要になっている。 バリアジャケットがその機能を担うので、見た目には大きな差はないし、物理的なバイザー等も必要ないが、これを装備していると魔力消費が極端に上がり、飛行魔法などの出力が落ちる。 自分たちはともかくフェイトはあまり長時間の活動ができない。また防御が必要な物質の量が増えると、戦闘が困難になる可能性もある。 「空気の組成も均一じゃない──ところどころにガスが出てる」 ザフィーラも、狼形態に変身して周囲の気配を探っている。この形態では、人間形態よりも嗅覚や聴覚の感度が上がる。 空気に混じっているのは、塩素ガスとわずかなフッ化水素ガスだった。 「不味いな。このガスを防御するにはバリアジャケットの出力がかなり必要だ。SPTならともかく、生身で曝されては我々でも危ない。現在出撃しているメンバーではフェイトが一番防御力が薄い」 「伝えましょう。──はやてさん、フェイトさんたちは今どの辺に」 ヴォルフラムに連絡し、インフェルノ艦内に有毒ガスが滞留している箇所があることを伝える。 突入した隊の管制を行っているヴォルフラムから、フェイト・シグナム隊へ連絡を送る。 十数秒後、連絡を完了したとポルテが伝えてきた。 『スバルさん、シグナム一尉たちは今運搬ラインを見つけて、そっちを捜してます。空間も開けてるので、ガスの滞留は避けられるかと』 「わかりました。止まってる装置とかの中も十分に気をつけてください」 スバルたちが潜っているのは、艦底に近い場所で、外から取り込んだ水を処理するプラントとみられた。 通路をいくつか過ぎるとガラス窓があり、その向こうに水が流れている斜面が見えた。 これほど巨大な艦だと、内部に川や沈殿池のような構造を作れる。ガラス越しに、水が流れるせせらぎの音さえ聞こえてくる。 「ガスはあそこから?」 「そのようだ。あの水は恐らく非常に塩素濃度の濃い水だ」 水が流れている斜面に、ところどころ鉱物の結晶ができているのが見える。 フッ化物や塩化物はさまざまな色、光沢の結晶をつくる。中には高圧力環境下で透明になるものもある。 もともとは平坦な金属の床だったのが、ミネラル分が沈殿して岩のようになり、さらにそこが水流で侵食されたり結晶が成長したりを複雑に繰り返すことで、鍾乳洞のような不思議な光景が広がっていた。 水の音は、広い周波数帯域にわたって音波を発生させる。 窓から辺りを見回そうとしているスバルとノーヴェを見て、ほんのわずか、音で敵の接近を察知できない状態が生まれることをザフィーラは危惧した。 「ザフィーラさん?」 「──しっ!近いぞ」 「何が──ッ!ノーヴェ、何か来る──!」 ゴムのような軟質樹脂が軋む音が聞こえる。 重量は1トン近い、おそらく大型の車両型バイオメカノイドだ。通常の機械車両と異なるのは、外骨格が擦れる音が混じる点だ。 スバルはリボルバーナックルを、ノーヴェはジェットエッジを起動し構える。 ザフィーラも、防御魔法の用意をする。
ゲートが開く音が聞こえる。彼らはインフェルノ艦内に配置された防衛兵器だ。艦内の通路を、正規の手順で通過する手段を持っている。 近づく。1トン近い重量の物体が移動することで床が振動でゆっくりと上下する。 繊維状の金属が積み重なった床材は、弾性の高いばねのように揺れる。 『スバルっ、高エネルギー反応、距離45ッッ!』 念話の向こうで、はやてが叫んだ声が聞こえた。 ほぼ同時に、暗闇に満たされた通路の向こうが光に満ちる。間髪いれず側転して初弾をかわす。左足を踏ん張り、起き上がる体勢のまま右腕を引く。ディバインバスター発射の反動にも、新型マッハキャリバーは完全に耐えている。 「すごいですよシャーリーさん──!」 視覚を可視光線に戻す。敵の発射するビームが、通路をいっぱいに照らし出している。 自走砲のような個体──しかし、この敵が搭載しているのは、巨大なパラボラアンテナ型のビーム砲だ。大出力のマイクロウェーブを放射する、いわゆるメーザーに分類される砲だ。 ノーヴェは敵の射線から飛び退きながらも、スバルの脚の具合を心配している。 マッハキャリバーを義足のように使えるといっても、ほとんどぶっつけ本番に近い戦闘だ。自分の脚のように使いこなせるものなのか、コンマ数秒以下を争う戦闘に追い付くのか。 敵メーザー砲車は2台がやってくる。動きは遅いが、火力は段違いだ。 クラナガンに出た戦車型とは比べ物にならない大火力で、ビームが着弾した壁面は金属が溶けて垂れ下がっている。 「ノーヴェ、敵の足元を揺らす!車体がぐらつけば狙いはつかないよ!」 「わかった!」 壁の右側に位置を取ったスバル、ノーヴェと、左側に位置を取ったザフィーラが、それぞれに拳で床を撃ち、メーザー砲車に衝撃を与える。 スバルとノーヴェは物体を振動させる技を持つため、これを受けると床面の構造材が激しく共振する。ザフィーラも、床面から突き出すケージタイプの結界魔法を使える。これで敵の動きを封じたところに接近して打撃を加える。 車体が跳ねながらもメーザー砲車がビームを撃ち、天井に命中して大爆発を起こした。 メーザーの加熱効果で天井の金属が溶け、含まれていたアルカリ金属が激しく燃焼しながら火の雨を降らせる。 「とおおーりゃああっ!!」 数滴の被弾をものともせずスバルが突進し、メーザー砲車に飛びかかる。 ナックルダスターの直撃を受けたメーザー砲車がパラボラを割られ、砲塔基部からスパークの火花を散らした。 ザフィーラが防御魔法を放射し、降ってくる溶けた金属の粒を防ぐ。 「ノーヴェ、今だよ!」 「よしっ!」 スバルに続いてノーヴェが飛び込み、車体をひねられたメーザー砲車に追撃を加える。 砲身の形状から重心が高くなっているメーザー砲車を、足元をすくうように打ち据える。大きくバランスを崩し、車体を傾げさせたところに、さらにスバルは返しの打撃を打ち込もうとした。 後方にいたもう一台のメーザー砲車が、スバルに向けて砲撃した。 ビームは損傷していた方のメーザー砲車の後端付近に命中し、大爆発と共に金属の破片を飛び散らせた。 スバルは腕をとっさにかばい、肩をパラボラにぶつける形でメーザー砲車の影に飛び込む。爆風が回り込んでくるまでのタイムラグを利用して限界までバリアジャケットの出力を上げる。 実戦では、攻撃と防御に割り振る魔力の配分に常に気を遣い、変更しなくてはならない。 攻撃用の魔力が実際に必要になるのは敵に向けて発砲したり、打撃が命中する瞬間のみで、常に魔法を展開していては無駄に魔力が消費されていくだけだ。また敵の攻撃を回避する間や、防御に徹する間には、攻撃力に変換される魔力は無駄になってしまう。 防御時には防御魔法に最大限の魔力を、回避時には飛行魔法や加速魔法に最大限の魔力を使う。 六課での訓練で、何度もたたき込まれたことだ。闇雲に最大魔力量を増やし、垂れ流すように魔力を放っても、損失が多すぎて消耗してしまうだけだ。また、魔導師ランクは単に瞬間魔力値が大きいだけでは取れない。 魔力をいかに効果的に、効率的に戦闘能力に変換するかが肝要だ。
バリアジャケットの表面に激突する、夥しいマイクロウェーブの波動が肌を震わせる。 周波数がマイクロメートル領域に入る電磁波は、特に水分子に対して強く作用する。強力なレーダー電波などを、間近で浴びた場合人間や生物が焦げてしまうことがある。金属ならなおさらだ。 マイクロウェーブを使用するレーザーを、特にメーザーという。メーザー砲は、人間であっても機械であっても等しくダメージを与える。 「スバルっ!!」 「大丈夫っ!!」 照射が途切れた隙をついて飛び出す。 それでも、メーザー砲車はほんの数秒の息継ぎだけで次の照射を開始する。砲塔は車両の正面に固定され、首振りがあまりできないようだ。敵の旋回速度よりも速く動けばかわせる。 メーザーが通路の壁を焼き、次々と爆発、発火を起こす。炎を背に、スバルはメーザー砲車に向かう。 流れ弾を喰らったもう一台は完全に機能停止したようで、煙を噴いている。これを盾に、反対側からザフィーラもメーザー砲車に接近する。 メーザー砲車は接近戦用の武装を全く持っていない。 後方や側面に回り込まれると手も足も出ないようだ。その代わりに、正面に立ってしまえば強力無比なビームで焼き上げられることになる。 ノーヴェは機能停止したもう一台の影で遮蔽を取りながら、飛び出すタイミングを計っていた。 この班では遠距離攻撃のオプションが少ないので、基本的に敵に近づかなければ有効な攻撃できない。メーザー砲車のような大火力の相手に対しては、いかに敵の攻撃を回避して接近するかがカギだ。近づけなれば、一方的に撃たれることになる。 肩が震え、息が上がっているのが分かる。あのメーザー砲車の攻撃は、直撃すれば間違いなくこちらは粉砕される。 巨大なパラボラは、非常な視覚的威嚇効果がある。攻撃力の大きさを、見た目でわかりやすく示している。 インフェルノ艦内の希薄な酸素に、戦闘機人である自分は体内に組み込まれた人工心肺システムが全力で駆動し、肺を介さず血液に直接酸素を供給している。それでも、自律神経の興奮は呼吸数を上昇させる。 吐き出す二酸化炭素を、相手は見ることができるだろうか?夏の夜、蚊が頭の上に集まってくるように、排出した炭酸ガスで居場所がばれてしまうだろうか。 「!!」 再び、ビームが天井に着弾する。 天井が大きく抉られ、繊維状の金属の塊が溶けながら落ちてくる。 「くそっ!!」 動かないメーザー砲車の車体を蹴り、反対側の壁まで飛び退く。落ちてきたワイヤーの塊がメーザー砲車の車体を押し潰し、内部のスライムが漏れてくる。細かい金属粒はすぐに反応し、フッ化水素ガスの煙が上がり始める。 これほど室内の温度が上がっていてはすぐに発火する。水分も、自分たちがいることで大気中の水蒸気量は増えているだろう。そうなれば、アルカリ金属の反応はさらに促進される。 ノーヴェは目の前のメーザー砲車までの距離を目視した。 6.3メートル、スバルとザフィーラはそれぞれ右手と左手にいる。メーザー砲車は、ノーヴェから見て左側を向き、ほぼ45度の角度だ。 こちらに向き直るには時間がかかる。 「ジェット!」 狙うのはパラボラの基部だ。ここは兵装の性質上、装甲を張ることができない。また可動部でもあるので、重量の関係からあまり硬い金属も使えない。戦闘機人の筋力ならばじゅうぶんに打ち抜けるはずだ。 スバルが一連の攻撃を打ち込んで、間合いを取るために飛び退く瞬間を狙う。 敵に立ち直る隙を与えずに飛び込む。 「おっりゃああっ!!」 右の拳に纏わせた魔力で、メーザー砲車に思い切りのフックを叩き込む。 腕に張ったシールドは敵の装甲表面とこちらの拳の接触角度を最適化し、最大限の打撃力を打ち込む。 衝撃にビームの発砲が中断され、メーザー砲車のパラボラ基部にあったキャパシタが爆発した。砲撃が中断されたことで行き場を失ったエネルギーが瞬間的に大電圧を発生させ、キャパシタの容量を超えてしまった。 「ぐっ!!」 「ノーヴェっ!?」 勢いを殺せずにそのままメーザー砲車の車体に激突する。 爆発したパラボラが、部品の破片を飛ばしてきてそれが腹に当たった。ダメージはバリアジャケットで大半を受け流したが、体勢を崩したままメーザー砲車にぶつかってしまい、一時的に平衡感覚が狂っている。
「このデカブツが、いい加減に黙りやがれ──!」 左手で、パラボラと車体の接続部にある部品を引きちぎる。 ケーブル類は、繊維状に押し出した金属がむき出しで、絶縁はオイルによって行っているようだ。ここにもスライムが使われている。 メーザー砲車は2台とも機能停止したようだが、こちらも予想外にダメージを食った。 スバルが駆け寄ってきて、ノーヴェを抱き起こす。 「大丈夫!?立てる?」 「ああ……なんとか。──くそっ、それにしてもあたしも──、随分ナマっちまってた──」 「そんなことないよ」 トレーニングはそれでも毎日欠かしてはいなかった。 だが、基礎体力だけではどうしようもない部分があるのは事実だ。特にここ数週間、周囲で起きた余りにも異常な事件の数々に、精神の落ち着きが乱され、戦闘訓練に身が入っていなかったのかもしれない。 バイオメカノイドたちは、少なくとも歩兵レベルでは、生身の魔導師をはるかに凌駕する戦闘能力がある。 扱いとしては戦闘車両とした方が適切かもしれない。ただ、敵にはこれらに随伴する歩兵に該当する戦力がない。グレイは、言ってしまえば単なる制御装置、生体コンピュータである。手足があるのは最低限の移動能力確保のためである。 ザフィーラが、メーザー砲車の車体の外板を剥がして中を調べている。 クラナガン宇宙港での戦闘で撃破されたエグゼクターが人間が乗るにはあまりにも狭すぎるコクピットを持っており、さらにグレイが人間よりもずっと小さい体格であることから、はやてはグレイがどのようにバイオメカノイドに組み込まれているかを気にかけていた。 メーザー砲車は車体構造が頑強であるためか他のバイオメカノイドのように爆発を起こさず、車体の原形をとどめている。 中を開けてみれば、これまで推測でしかなかったバイオメカノイドの構造がどのようになっているかがわかる。 「ザフィーラさん、どうですか?」 メーザー砲車の車体の上に登っていたザフィーラは、酷く重い表情で、ちぎった外板を反対側に投げ捨てた。 スバルたちに、無言のまま手招きする。 「──見た方が早いぞ。如何とも説明し難い──」 スバルとノーヴェは思わず顔を見合わせる。 「わかりました、今行きます──ノーヴェ、歩ける?」 「ああ、もう大丈夫だ──」 メーザー砲車の車体によじ登り、外板を外して中が見えるようになっている場所を覗き込む。 そこには、バイオメカノイドの内部構造が見えている。 「これは──っ」 スバルは絶句した。ノーヴェも、顔を引き攣らせて慄いている。 ザフィーラは後ろにいるもう一台のメーザー砲車を振り返り、あれは潰れてしまって内部構造を見るには適さないだろう、と推測した。 外骨格構造の外殻は、昆虫のように、スライムが充填されたシリンダー状の袋で接続され、これを筋肉のように組み付けていた。 この袋が収縮することで身体を動かす。内部の空間にはやや薄い濃度のスライムが充填され、これは内部のメカを衝撃から保護する。 そしてこのゲル状物質に浮かぶようにして、制御装置が機体中心部に据え付けられていた。 カプセル──ではない。かといって卵でもない。 膜にくるまれるようにして、グレイの四肢が液体の中に浮かんでいる。細い指には金属繊維が絡まり、大きな眼球は白目のない、真っ黒な瞳孔が深い闇を映し出している。すでに目に光はなく、カルシウムの沈着によって黒い瞳が濁り始めている。 それは、透明なゼラチン質の膜のように見えた。 しかしその光沢と独特の臭気は、それが液体金属でできていることを示していた。
周囲の大気温度は摂氏20度程度であり、この環境温度では液体の相を呈する金属は数多く合成されている。バイオメカノイドたちもそんな金属を利用して生まれている。 液体は、人間にとっては生命の源である水を想起させる。 そして、バイオメカノイドたちにとっても、液体相とはもっとも懐かしさを覚えさせるものであろう。 たとえそれが、人間にとっては猛毒のハロゲン化合物と放射性元素のスープであったとしても。 彼らにとっては、それは食物であり寝処であり母胎である。 「──おそらく、彼らバイオメカノイドは本当に生命だ──。機械ではない、動物を改造して機械のような外見にしている。 構造としては──、傀儡兵やゴーレムに近い」 「でっ、でも──あれはただの抜け殻を」 「正しく抜け殻だ。それを動かすのが魔力かスライムかという違いだけだ。スライムもおそらくは、単に惑星TUBOY上でもっとも手に入りやすい元素を材料にしているだけだろう。 ミッドチルダであれば岩石や炭素を使ってもいいはずだ」 「ゴーレム……」 ノーヴェは、自分がストライクアーツを教えていた子供たちの中の一人が、ゴーレム生成の魔法を修得していたことを思い出していた。 あれと原理としては同じなのだ。 魔法によるゴーレム生成は、魔力が無くなれば即座に崩壊してしまう。 しかし、もしゴーレム生成魔法を組み込んだ制御装置を取り付け、バッテリーなどと組み合わせて常に魔力を供給できるようにすれば、それは自律行動が可能な無人兵器となるだろう。 実際、発想そのものはベルカ時代にすでに考案されていた。 当時の技術では精密な制御ができなかったため、生成されるゴーレムは動きが遅く、また操作する魔導師が攻撃される問題もあり実戦では使いにくいものだった。 ザフィーラ自身、守護獣という身の上からそういったゴーレムを身近に見る機会は多かった。 その後、その場でゼロから生成するのではなくあらかじめ製作しておいた簡易な物体を動かす方式の傀儡兵などがつくられた。この場合は魔力を切っても崩壊はしないが、大柄な物体を保管しておくために取り回しが悪く、魔力効率もよくない。 魔導師による生成魔法の高効率化により、現在では、数メートル級のゴーレムであれば人間と遜色ない機動性を持てるようになっている。 それでも熟練した魔導師のスピードには追いつけず、またゴーレムを操作している間は術者本人は無防備になってしまうため、戦場で使用するためには工夫がいる。 バイオメカノイドたちは、独立した動力源を持ち、さらに自力でエネルギーを補給する能力を持っている。 金属を食べることで外皮や駆動メカ部分の材料を補給し、体内で合成することで自己修復が可能である。さらに、芯になる制御装置のサイズ自体はとても小さいので、機体内で芯だけをつくって排出し、外部で成長させることで自己複製を取ることさえが可能である。 すなわち、増殖できるということだ。 外見自体は人工物である匂いを漂わせているが、それはもはや人の手を離れた、独立した機械生命体である。 惑星TUBOYの住人は、なぜこのような、手におえない暴走を引き起こす可能性のあるシステムをつくったのか── もはやそれは詮索しても仕方のないことであるが、こうして彼らが動き出してしまった以上、被害をもたらす前に止めなくてはならない。 メーザー砲車の車体下部に穴を開け、内部のスライムを抜き取る。 中身が流れ出してしまうと、金属の部品だけが姿を現した。強い衝撃を与えなければ爆発させずに分解できる。スバルたちの班では、バイオメカノイドの構造を探ることも目的の一つだ。 「丁度内部のグレイが金属外皮を着て、装甲服のように纏っている形だな」 「でも、ザフィーラさん──これじゃあ服を着てるんだか、服に着られてるんだかわかりませんよ」 ノーヴェが見上げた先には、繊維状の金属で手足を縛られ、メーザー砲車の外殻の内側に吊るされているグレイの姿があった。 内部では、グレイは殻の内側から生えている金属繊維を掴んで姿勢を保っているようだ。機体の制御は、別に頭部に接続されたワイヤーから行う。
グレイはまず、全身を覆うウェットスーツのようなものを着る。これは頭部を除く全体をやわらかい樹脂状の化合物でくるみ、半透明の白色をしている。頭部は透明な殻でくるまれ、これだけなら宇宙服を着た人間のようにも見える。 この状態で透明な液に浮かび、さらにまた樹脂状の膜でくるむ。これをバイオメカノイドの機体内に埋め込む。 機体内にはグレイが入れるだけのスペースがあり、やわらかく変形するので、圧力をかけて安定させて詰め込まれる。 樹脂状の物質は、シリコンに似たもののようだ。成分に有機物は含まれていない。 二重の樹脂膜に包まれてもグレイは手足を伸ばして歩き回ることができ、バイオメカノイドが破壊された場合この姿で這い出してくる。 遠目に見れば、機動メカの搭乗員が機体から脱出したように見えるだろう。 だが実際は、貝を脱がされたヤドカリのように、無防備で脆弱な神経節だけが飛び出したものだ。 クラナガン宇宙港で撃破した戦車型も、特別救助隊の隊員たちが洗浄を行って敵の残骸を洗い流してしまうと、それはただの金属の塊にしか見えなかった。内部に駆動装置のようなものが一切なく、機械であることを示せなかった。 メーザー砲車は、ムカデのように多数の脚を順番に動かすことで駆動する履帯状の歩行装置を持っている。ちょうど、芋虫やカタツムリのように腹部の蠕動運動によって前進する。さらに左右の差動によって旋回する。 このしくみは戦車型やオロシガネも同じで、おそらく車両型の脚を持つバイオメカノイドはおおむねこのような歩行の仕組みを持っている。 脚や砲塔を動かすのも、人工筋肉のようなシリンダー状の装置によって行われている。生体電気によって伸縮するシリコン膜を、内部の液圧によって力を増幅して伝える。 総じて、虫のような構造の機体をくり抜いて、そこにグレイが乗り込む仕組みであるということになる。 そのグレイも、脳ではなくマイクロマシンが頭部に埋め込まれ、これによって動いている。頸椎から伸びた神経はマイクロマシンを包んで神経線維を生やしているので、もともとの脳はごく小さく退化させられ、代わりにコンピュータを接続していることになる。 このマイクロマシン自体はクラナガンでの戦闘などでかなりの個数を回収していたが、解析は難航していた。 今のところ、電波などを使用した通信機能は少なくとも無いだろうという程度しかわかっていない。 「制御装置はグレイの側にある──ということは主従関係はグレイが主でバイオメカノイドが従だ」 ザフィーラの言葉には、彼らが辿ってきた進化の道を思索しようとする色がある。 「グレイは惑星TUBOYの住人であり、自分たちが乗るための兵器としてバイオメカノイドをつくったのか──それとも、住人はすでに滅んでおり、あくまでも無人兵器であるバイオメカノイドの操縦用アンドロイドとしてグレイをつくったのか──」 「回収しますか?」 グレイの無傷の個体が手に入るかもしれない。 ワイヤーを切って降ろせないかどうかスバルは試している。直接触れるのは危険なので、低出力のバインドを使って運ばなければならない。 「解剖でもすんのかよ」 「それははやてさんが決めることだよ──」 身体をだらりと垂れ下がらせたグレイはぴくりとも動かない。 死んでいるのか、気絶しているだけか──体温が無いので、どこを見て生死を判断すればいいのかも正直分からない。この生き物のように見える物体に、心臓はあるのか。血液は流れているのか。 「俺は見張りに立つ。主にも報告しておく、くれぐれも慎重に作業してくれ」 「わかりました。お願いします」 メーザー砲車の分解に取り掛かるスバルたちを見届け、ザフィーラはフロアの出入り口と周辺の壁の厚さを確認し、警戒態勢に入った。 今の戦闘で、他のバイオメカノイドたちがここを発見したかもしれない。 これまでのところ、バイオメカノイドたちは互いの連携や情報共有といったものをほとんど行っていないと推測されている。だとすれば、敵の目視範囲内に入らない限り察知されないということも考えられるが、それは楽天的な予想である。 戦闘によって激しい震動が伝わった。メーザー砲車の発砲で、大量のマイクロ波が放出された。火炎による熱も発生している。 これらを探知されていれば、「外敵が侵入した」と判断される可能性は非常に高い。
通路の中央を真っ直ぐに魔力弾が突き抜けていき、終端で大爆発を起こす。 爆発属性を付与された爆風が広がり、壁面で反射して何重にも増幅されて空間を満たしていく。 屋内のような閉鎖された空間では、炸裂弾の威力というのは格段に上がる。開けたところであれば大気中に拡散してしまう爆風が壁で反射して戻ってくるため、エネルギーを逃がさずに敵にぶつけられる。 続けざまに十数発の砲撃が撃ち込まれ、壁の出っ張りや柱の影に隠れていたバイオメカノイドの個体も、次々に爆風を浴びて粉砕され、燃えていく。これほどの出力では爆風だけで金属外皮の耐久力が破られてしまう。 含有しているアルカリ金属のため、バイオメカノイドたちは独特の閃光を放つ燃焼をする。 砂が崩れるように身体が崩壊し、メーザー砲車やミサイル砲台、二脚型などの個体が次々と破壊される。中には、火炎放射能力を持つアメフラシのような姿をした個体もいた。体格は小さめだが、天井や壁に貼りついて移動し、体色を変化させられる。 突入から30分程度が経過し、既になのはとヴィータが破壊した敵バイオメカノイドの数は3千体を超えようとしていた。数えるのも面倒になるほど、遠距離からの砲撃の連射で進撃してきたが、デバイスのイベントログにはきっちりと撃破した目標数がカウントされている。 これほど派手に動けば敵に居場所を知らせるようなものだが、逆にその方が好都合だ。 なのはたちの班は、可能な限り敵をおびき寄せ、破壊する陽動任務である。 敵がなのはたちに注意をひきつけられている間に、フェイトやスバルたちが艦内を捜索するのだ。 「きりがないっ……!この奥から湧き出してくるよ、天井を崩して塞ぐ!?」 「いーや、敵は今んとここの大広間に引き付けられてる、ここを通って進もうとしてる限りはここで撃ちあうのが確実だ。下手にバラけさせると追いつけねえぞ」 「変わったよねヴィータちゃんも」 時折メーザー砲車がビームを撃ってくるが、回避に時間を割けない。常時展開させたシールドで防ぐ。 マイクロミサイルはアクセルシューターで迎撃し、敵の残骸はヴィータのシュワルベフリーゲンで焼き払う形だ。 これほど大出力の魔法を連発していても、なのはもヴィータもエネルギー切れになる様子はない。SPTが搭載する魔力電池の威力は桁違いである。 レイジングハートに取り付けられた冷却ユニットが、常に高温の余剰魔力を噴出している。デバイスコアの温度は850度で安定している。これがもし880度を超えるようだと危険だ。900度を超えれば、通常であれば安全装置が働いて強制的にクロックダウンされる。 だが今は安全装置を切り、魔力さえ流し込み続ければレイジングハートは自壊するまで魔法を撃ち続ける。 無数のワラジムシや二脚型、マリモなどが転がり出てきて、大海嘯のように押し寄せてくる。対抗するにはこちらも全力砲撃を続ける必要がある。 「リインが本の中に戻されてからかな──?」 EC事件終結──解決ではない──後、はやては少しずつ夜天の書の改造に取り掛かっていた。 今まではそのほとんどがブラックボックス化されていて仕組みが分からなかったものを、モジュールごとに分解して少しずつ解析し、コードを書き直していく。 いわゆるリバースエンジニアリングであるが、工業製品や一般のパソコンソフトなどとは比較にならない難易度だ。 自動防衛プログラムが消滅した今だからこそできること──である。 それに際して、あの雪の朝の思い出──初代リインフォースの気持ちをはやてがどう思っているかというのは、なのははついに口に出せてはいなかった。 現在、リインフォース・ツヴァイは人格プログラムを停止され、管制機能のみを動かした状態で夜天の書にインストールされている。 かつての小さな上司として皆と共に行動するのではなく、あくまでも夜天の書をコントロールするだけの存在である。 出そうと思えば実体化させられるらしいが、その場合出てくるのはただの人形だとはやては言った。 他の4人の守護騎士たちがこの判断をどう捉えているのか──は、今ここでヴィータに尋ねる暇はない。 『高町さん、敵の出現ペースはどうですか』 「途切れる気配は全く無いです。少しでも砲撃を休めれば途端に──っ、エリーさん、他に敵戦艦の動きは?」 『静かなものです。こちらはインフェルノ艦底部に投錨し停止しました。座標はさっき送った通りです』 「了解──それにしても、酸素がないはずなのにあんなに派手に燃えて、赤外じゃないと狙いが付けられないですね」
SPTにも赤外線暗視装置は装備されている。この場合は、可視光では煙や魔力光で目隠しをされてしまうが、赤外線ならこれらを透過して見ることができる。 フロアの形が見えれば、そこで動き回るであろう敵が出入り口をくぐって出てくるところを狙い攻撃できる。 赤外線で見ると、バイオメカノイドはもやっとした輪郭のような形だけが見える。艦内の床や壁との温度差が小さいので、うっすら浮かび上がるような形でしかとらえられない。これほど温度差が小さいと、熱源追尾の誘導魔法は使えない。 『アルカリ金属は酸素が無くても燃えます、湿り気があると水素と反応します。さっき、ザフィーラさんの班から浄水池のようなプラントを発見したと報告がありました。 おそらく連中の巣です。艦内の大気には水蒸気が含まれてますから、カリウムもカルシウムも派手に燃えますよ。気を付けてください』 「なるほど──っ、スバルたちも今のところは順調そうだね」 『だといいですが。ただ、逆噴射が作動した原因を突き止めないといけませんね。あれがこの艦に乗っている何者かの操作なのかどうかです。 それによっては捜索しなくてはならない目標が増えます』 「バイオメカノイドだけじゃない、“インフェルノの乗組員”がいるかどうか、ってことですね」 『ええ。バイオメカノイドがあくまでも無人兵器であり使役されるモノなのか、それとも彼ら自身が自我を持ち独自に行動しているのかです』 爆発の炎に混じって、電気が金属に伝わってはじけるスパークの音が聞こえてくる。 敵バイオメカノイドのうち、マリモは電撃魔法を使えることが判明している。 射程距離は短めだが、大出力の電撃はフェイトのサンダーレイジにもひけをとらないだろう。 何よりも数が多い。赤外線視界の中では、砕け散った機体に混じってグレイの手足が吹き飛ぶのが見える。バイオメカノイド本体よりも体温が低めのようで、SPTの暗視装置が視覚化する赤外線視界では青く(冷たく)見える。 「前進するよヴィータちゃん。次のフロアへ突入して、そこでさらに敵を集める」 「大丈夫か、装甲は」 「まだ十分持つ。どのみちあまり長時間同じ場所にとどまりすぎても敵をひきつけられない──次のフロアはここよりも少し奥行きがあるから、左右から向ってくる敵を集められる」 「落ち着けよ、高町──先にキレた方が負けるぞ」 ヴィータが牽制射撃を撃っている間にすばやくチャージし、フロアを隔てる壁に向かってスターライトブレイカーを放つ。 砲撃はインフェルノ艦内の壁を次々と突き破って炸裂し、広い破口を生じさせた。 爆発の余波が左右の側坑を伝わって隣のフロアにも飛び出していったようで、一時的に敵の出現する勢いが途絶える。 「前進、50メートル先」 「了解」 なのはのSPTは青と白で、ヴィータのSPTは赤と茶でそれぞれ塗装されている。 基本骨格となるフレーム自体は同じものだが、ヴィータは胴体セクションを除いて装着しているのでやや小さく、また装備している魔法が異なるため、バックパックの形状が異なっている。 砲撃魔法に特化したなのはの機体にはエネルギー照射用の補助翼が展開され、ヴィータの機体は魔力弾を連続生成できる射出機が装備されている。ヴィータはグラーフアイゼンの制御のみに集中すればよい。 金属と金属がぶつかり合う武骨な足音がフロアに響く。空気が薄いので、音の伝わり方はミッドチルダの地上とは異なる。 パワーアシストの微妙な圧力制御が、なのはとヴィータの両腕に伝わる。 動作トレースの精度はAEC武装の頃からすると格段に上がっており、ほとんど違和感のない機動が可能だ。脚も、100キログラム以上のパーツを履いているとは思えないほど軽快に動かせる。 崩れかけていた壁をグラーフアイゼンで叩き割り、まずヴィータがフロアへ進入する。 索敵の後、後方のなのはへ合図。それを受けて、なのははフロアの奥の暗闇へ向けてディバインバスターを1発、撃ちこむ。 「破壊音に混じって──敵の駆動音。数、20以上。70メートル先、通路の左右から来る」 「いつでもいいぞ」 「うん。砲撃位置を再設定、レイジングハート、カートリッジオートリロード」
壁の穴から、ワラジムシが身体をくねらせて這い出し、独特の変調音を響かせてマリモが転がってくる。 マリモの体表は、赤外線で見ると複数の皮が分割されて縫い合わされている継ぎ目が見える。 同様に紫外線領域では、球状の体に無造作にくっつけられた眼球のような構造が見え、これは転がって移動しても必ずどれかの目が前方を見られるようになっていた。 マリモの移動は、体内で気泡を移動させて重心を変化させることによって行っている。緩慢だが不気味な移動方法だ。 ヴィータはSPTのバックパックから大型魔力弾を生成し、軽々とトスしてグラーフアイゼンを振りかぶる。 「炸裂弾、炎熱属性、近接信管を1.5メートルに調定。信管作動距離50メートル以上80メートル以内」 まず初弾でコメートフリーゲンが撃ち込まれる。これは大型の殻つき魔力弾を打ち出し、破片効果によってグレネード弾のように使うことが出来る。 本来ならこのような魔法は屋内戦闘では威力が大きすぎて使えないものだが、SPTを装備していればある程度の爆風には耐えられる。 従来の携行型デバイスによる魔導榴弾砲では、安全距離を少なくとも35メートル以上とる必要があったが、少なくとも現在のSPTならゼロ距離砲撃でも耐えられる。 バイオメカノイドの群れの中に飛び込んだ魔力弾は近接信管が作動して炸裂し、大火力の熱エネルギーをばら撒く。 炎が通路の突き当たりを満たし、みっしりと詰まったバイオメカノイドたちが次々と爆発していく。 炎で敵を足止めしたところに、なのはがディバインバスターを撃ち込む。 撃ち返しとばかりに放たれるマイクロミサイルや荷電粒子ビームを蹴散らしながら桜色の魔力砲弾が飛翔する。 バイオメカノイドが使用するマイクロミサイルは誘導装置が機械式であり、コンピュータを使わずにフォトダイオードの電圧が直接可動翼を動かす仕組みだ。 そのためホーミング性能自体はごくわずかだが、精密機器を必要としないので簡易な材料で大量に作ることができる。 弾頭に詰められているのはアルカリ金属を使用した焼夷弾である。酸素が無い環境でも燃焼し、同時に装填された水によって真空中でも爆発的反応と熱エネルギーを発生させる。 壁や天井にぶつかったミサイルから炸薬が飛び出し、燃えながら散らばってくる。 燃焼するマグネシウムの塊がシールドにぶつかり、激しい閃光と魔力光を吹き散らす。 「ヴィータちゃん、眩まされないでね!」 「ああ!」 シールドを左手で張りながら、右手でグラーフアイゼンを振るう。魔力弾の生成はSPTのバックパックが自動で行うので、空いた左手を使って防御が出来る。 なのははディバインバスターをおおよそ3秒に1発のペースで連射している。チャージ時間を短めに、手数を重視するモードだ。 それでも、押し寄せるバイオメカノイドは弾幕をかいくぐって突進してくる。 ヴィータは息が上がるのを感じていた。時間の感覚が長くなり、3秒ごとに撃っているはずのディバインバスターの連射速度が落ちているように感じられる。 迫りくるワラジムシとマリモの異様な体色が、熱帯雨林の毒虫のように視覚を刺激する。 迸る魔力光と爆炎のおかげで、塩素臭のする体液を見なくて済むのが幸いかもしれない。疲労したこの状態で、スライムの匂いを吸い込んでしまったら、思わず嘔吐してしまいそうだ。 いや、実際に有毒ガスを吸い込んでいる。それで嘔吐程度で済むのは自分が魔法生命体だからだ。人間が吸い込めば肺や気管が炎症を起こして爛れてしまう。 なのはは、と見やるが、こちらもかなり追い詰められ、表情は険しい。圧倒的な敵の物量に焦りが見えている。 『ヴィータ、やばくなる前にポジションを取り直せ!最悪、内殻表面までおびき出してヴォルフラムの主砲で撃つ』 ヴォルフラムから、はやてが念話を送ってくる。 『天井を崩して一時的に足止めしろ!その間にラインを下げるんや』 「わっ、わかった!高町、天井を撃つぞ」 「うんっ!」 ディバインバスター発射の合間を狙い、天井に魔力弾を撃ち込む。2階層が一度に撃ち抜かれ、重みでちぎれた金属繊維の塊が粗い埃を散らしながら落ちてくる。 床に落ちた瓦礫を乗り越えてこようとするが、幅が狭くなっていてつかえている。 その様子を狙いすまし、ヴィータが再び魔力弾を8発同時に叩き込む。 狭い空間では爆風が圧縮され、破壊力が格段に上昇する。逃げ場のない衝撃波が、金属さえも砕く。
とどめとばかりに、カートリッジを3発ロードしてのディバインバスターを放つ。 天井がほぼ丸ごと撃ち抜かれ、上階の床ごと落盤してくる。大重量に押しつぶされるバイオメカノイドたちが、あちこちから炎を噴き上げている。それは噴火する火山のようだった。 「移動するよ!隣のフロアへ、壁を撃ち抜いて退路を確保しておく!」 「それでよしっ!きちんと作戦立てていくぞ──!!」 爆発の衝撃でひびが入った天井の隙間から、アメフラシたちが這い出してくる。 時折小さな炎を吹き、身をよじるようにして動く姿はまさに生き物のようだ。 赤くうごめく体内の臓物は、おそらく、燃焼するストロンチウムの炎だ。 「マガジン交換っ──冷却材、残りは──70リットル──!」 レイジングハートに使用するためのカートリッジの弾倉は12発入りバナナマガジンだ。 最初からチャンバーに入っている分を含めて、最大で13発のカートリッジを即応弾として携行できる。 さらに、SPTに搭載された補助冷却装置は液化ガスを使用するものでデバイスコアを強制冷却しながら魔法を撃てる。従来のように1発撃つたびに排気筒を動かして余剰魔力を逃がす必要はない。 排出されるガスと水蒸気で、煙が揺らめき、頬に泥水が滴る。 魔法の発砲によって赤熱するレイジングハートの砲身レールは、コアと同じくらいに、より輝き、燃え盛っていた。 インフェルノ艦内に大規模な格納庫のような空間があるという報せを受けたフェイトとシグナムは、既に発見していた運搬施設が、そこへバイオメカノイドたちを運び込むための設備であることを調べていた。 ゲートが降りているが、コンベアはその格納庫があるであろう方角へ向かって設置されている。 コンベアも、ベルト駆動ではなくエスカレーターのように歯が噛み合って連結されたもので、生物の背骨のような構造だ。 埃を巻き込んでこびりついている潤滑油が、骨から漏れる髄液のようだ。 「敵のほとんどは高町とヴィータの班に引き寄せられているな」 部屋の空間が広いため、音が響く。 フェイトは心配そうに天井を見上げている。 なのはたちが現在戦っているフロアは比較的上層の方にあり、スバルたちとフェイトたちは艦底部に近いところへ出ていた。 バイオメカノイドたちの出現ルートは、艦の後半部から中央付近を直進してきて、目標とするエリアに出たら各所に散らばるという形だ。 このことから、艦の中心部分を前後に貫くメインシャフトのような構造があると推測される。 スバルたちの班が発見した大広間はこのメインシャフトの直下にあり、おそらくインフェルノの後方下部へ向かって艦載機を発進させるためのフロアであると推測された。 「行くぞ、テスタロッサ」 現在、大広間の探索に向かうことができるのはフェイトたちの班だ。 スバルたちは捕獲に成功したグレイの遺体を回収する作業に取り掛かっており、しばらく手が離せない。 なのはたちは押し寄せるバイオメカノイドの迎撃に手一杯だ。 上方から響く砲撃の音とは別に、フェイトはもうひとつの気配を感じ取った。 「待って、反対側から──はやて!」 『なんや?』 「大広間の正面に位置する外殻の場所は!?そこに砲撃が」 ヴォルフラムは──インフェルノ艦内に進入した班も含めて──現在、外の宇宙空間にいるであろうミッド・ヴァイゼン艦隊の動きを全く見ることができない状態だ。 はやてはただちに、機関始動をかけて緊急発進の準備をするように命じた。同時に、大広間の形状を分析し、そこから平行に座標を伸ばした場所に該当する外殻のレーダースキャンを行う。 レーダーが読み取ったデータを分析していたヴィヴァーロが、即席で作成した3Dモデル画像を発令所に転送する。 「艦長、本艦前方5キロメートルに外殻可動部を発見!おそらく発進口のようなものです、ミッド艦隊はここを外から破壊しようとしてます!」 おそらくインフェルノの兵装が沈黙していることを確認し、艦表面に接近しての捜索で発進口を発見したのだ。
「あとどれくらいで破れる」 「おそらく数分です!クソ、インフェルノの人工重力が強すぎて隠されてた──!」 ヴィヴァーロは焦りを漏らした。通常これほどの至近距離で、魔導砲の魔力反応を探知できないケースというのはない。インフェルノ艦内の複雑な重力輻射は、ミッドチルダの大気圏内や通常の宇宙空間では想像もできないような現象を見せる。 「まずいですよ艦長、もしミッド艦隊が侵入してきたら、高町さんたちの回収が困難です」 「わかっとるわ──」 はやては頭の中でシミュレーションする。即座に撤退帰還を指示し、現在位置から離脱すべきか。あるいは、インフェルノ艦内の深くに逃げ込み応戦するか── 時間にして数秒の合間、さらにフェイトから念話通信が届く。 「艦長、フェイトさんからです!大広間に大型バイオメカノイドが出現しました!」 エリーもレコルトも、額に汗をにじませて作戦を考えている。 「艦長、大広間はギリギリ本艦が通行可能な広さです。主砲で撃ちますか」 「そんなことをしたらフェイトさんごと吹っ飛んでしまいますよ」 「待て──ポルテ、今から言う座標をなのはちゃんに送れ。タイミングを見てそこへ全力砲撃、通路を開いたらフェイトちゃんらと合流して、大型バイオメカノイドを迎撃せよ。 スバルらはあと何分で戻れる、ザフィーラを呼び出して確認しや」 ポルテはスバルたちの班へ連絡を取る。 「──っ、艦長!目標物の確保はできましたが、運搬に時間がかかります、少なくとも15分はみてほしいと!」 「15──おーし、そんならこっちも動くぞ」 はやては発令所へ上がり、マイクをつかむ。 「艦長より機関室へ、機関前進半速。航海、重力アンカー開放。インフェルノ内殻に艦をつけ、砲雷長、前部主砲1番2番射撃用ー意」 「ミッド艦隊が進入してきます──」 「聞こえんか砲雷長!主砲射撃用意や!」 「しかし艦長、本艦はミッドチルダ艦およびヴァイゼン艦に対する攻撃許可を受けておりません!」 CICからレコルトが言い返してくる。 管理局所属艦が次元世界正規軍所属艦に攻撃を行うということは、管理局が当該次元世界への武力制裁を行うということである。 そして管理局設立以降、それは一度も行われたことはない。 「誰が攻撃するゆうた!主砲の準備をしろゆうことや」 「はっ……!?」 「ヤツらは既に管理外世界での戦端を開いとる。もうミッドチルダ政府も決断したはずや。 いや、決断せざるを得んかった──クラウディアが、この世界へ来よったからな! ミッドチルダにとっては地球と大っぴらに関わることは今までできんかった、せやけど今ならそれができる!他次元世界からやってくる脅威から現地住民を守るゆう大義名分が立ったからな!」 地球を半ばなし崩しに次元世界へ引き込み、貸しを作る。 第97管理外世界として自らの存在と立場を地球に認知させれば、彼らの意向を管理局の運営に反映させることができる。 すなわち、管理局に所属している地球出身の提督──はやてがその最たる人間だ──に対し、地球の意思を通じて大きな発言力をミッドチルダが持つことができる。 いかにはやてがロウラン派閥の最右翼といえども、自らの出身世界の意見を無視したことはできないはずだ。 そうミッドチルダは考えていた。
「艦長、重力アンカー開放完了!機関半速で前進します!」 「よっし、アップトリム一杯!上昇してインフェルノ内殻に貼り付け!ヴィヴァーロ、対地レーダースキャン開始!インフェルノ内殻の形状を1ミリの誤差もなく書き起こせ!」 「わかりました艦長!」 「艦長、フェイトさんとシグナム一尉が敵大型バイオメカノイドと戦闘に入りました!敵は三つの首を持つ巨大竜とのことです!」 フェイトたちからの通信をポルテが伝える。 竜は青紫色の表皮を持ち、四本の脚と一対の翼、三本の首と二本の尾を持つ。 これまでに確認されたどの個体よりも生物的な外見を持ち、金属装甲ではないシリコン質の皮膚と肉を持っている。 その体躯は大クモよりもさらに一回りほど大きい。 念話回線にも混じってくるほどの、不気味な呪詛のようなドラゴンの鳴き声が、インフェルノ艦内に響いている。 ミッドチルダは、1年の終わりまであとわずかの夜を迎えていた。 もう幾たびか太陽が昇れば、人々が新たな年を迎えたことを実感する。 それは単に太陽の周りをミッドチルダが公転する周期をある一点で区切ったに過ぎないが、そうしてひとつの区切りを引くことで、人間はものごとの基準を手に入れることができる。 逆に言えば、基準がなければ人間はものごとを認識することができない。 その基準をもたらす存在は、時空管理局においては次元世界そのものである。 次元世界とは虚数空間によって分断された、並行世界のようなものであると従来は考えられてきた。 虚数空間を航行するとはすなわち、別の宇宙へ行くようなものだと考えられていたのである。 しかし、どこの次元世界を訪れても観測される現象や物理法則、天に輝く星々の姿、そして宇宙の姿──が同じであるという事実が次第に明らかになるにつれ、次元世界とはもともと一つの宇宙であるものが、何らかの原因で分断されているのだという説が生まれた。 最新の観測による宇宙の年齢は137億年である。 よく誤解されるが、これは宇宙の大きさが137億光年という意味ではない。実際の宇宙は、数千億光年もの途轍もなく広大な空間を持っている。 あくまでも137億年前に発せられたビッグバンの残滓が観測されているというだけであり、宇宙という次元空間がつくられる速度は光速限界に縛られない。 別々の次元世界が一つの宇宙に由来することを確かめる方法として、それぞれの世界から同じ天体を観測しその結果が一致することを確認するという方法が考えられた。 そして確かに、それぞれの世界で同じ天体──用いられたのはじゅうぶんな遠距離にある銀河である──を観測することに成功した。 しかし同時に、それぞれの世界で得られた天体の位置をもとに、当該次元世界が存在するであろう方角に望遠鏡を向けても、その世界の存在を観測することができなかった。 同じ天体が見えているのに、それを見ているはずの相手は見えない。 これは次元世界における現代宇宙論の最大の課題として残されていた。 この問題を解決する糸口が、第511観測指定世界、惑星TUBOYにおいて発見されたのである。 次元災害の原因と考えられていたいくつかの現象は、それが宇宙規模の自然現象に由来するものであり、そしてそれこそが宇宙をいくつもの次元世界に分断していた原因そのものであった。 宇宙スケールでは、時空連続体は複雑に巻き取られた形状をしており、それぞれの次元世界を隔てている壁(物理的な境界が存在するわけではない)は巻き取られた時空が折り重なった部分であると考えられる。 そして惑星TUBOYとそこへ到達したガジェットドローン#00511の観測したデータにより、この時空の折り目──これまでは次元断層や位相欠陥などと呼ばれていた──は、次元世界人類の想像以上に、各次元世界を結び付けていることが分かってきた。 聖王教会騎士、カリム・グラシアは、これまでに著された預言書の内容を改めて精査し、いくつかの預言に現れた、次元世界の成り立ちに言及している部分を、改めて再解釈を試みていた。 次元世界を隔てている原因が、宇宙規模とはいえ自然現象であるのなら、長い年月の間にはその位置や見かけが変化していることが考えられる。 およそ300年前までしか遡れない現代文明よりも、古代ベルカの文明はさらに長い期間繁栄を続けていた。 現代ミッドチルダの歴史学では、ほんの300年程度の昔をさえ、先史時代と呼んでいるのである。 それはあるいは、質量兵器を大規模に戦争に用いていたことに対する忌避感があるのかもしれない。
しかし今や、ミッドチルダの魔法技術は、かつての質量兵器をはるかに上回る水準まで膨張してしまっている。 時空を直接破壊する、究極の次元属性魔法──アルカンシェルの発明により、現代魔法兵器はひとつの特異点に到達したとみられた。 各次元世界はアルカンシェルを戦略級兵器として大量に配備し、互いに牽制しあった。 これが放たれるときとは、敵国の母星に対する先制奇襲攻撃をかけ、反撃の機会を与えずに惑星ごと葬り去るという使用方法である。 しかしすぐに、このアルカンシェルを次元潜行艦に搭載して深宇宙に配備し、第2次報復用兵器として運用する方法が考えられた。 すなわち、もしある国がその敵対している国に対しアルカンシェルを撃ち、母星を攻撃したなら、たとえ母星に配備されている兵器をすべて制圧したとしても、次元潜行艦に搭載されたアルカンシェルによって反撃を行うことが可能である。 次元間の移動や、虚数空間への潜航が可能な次元潜行艦は、いかなる作戦を用いても、いちどに完全に破壊しつくすことが困難である。 ここに、アルカンシェルを基底にした相互確証破壊による軍事バランスが成立した。 「騎士カリム──?」 消灯前の見回りをしていたセインは、カリムの執務室から明かりが漏れているのを見つけた。 部屋はランプも点けておらず、机の上に広げた情報端末のディスプレイの光だけが煌々とカリムの貌を照らしあげていた。 「──どうしましたか、シスターセイン」 「だめじゃないですか、こんな部屋暗くしてちゃ、目を悪くしますよ──」 蛍光灯のスイッチを入れようとしたセインを、カリムは手を静かに挙げて制止した。 ディスプレイを見続けて乾いた目を擦り、机のスタンドライトを点ける。 教会では、クラナガンの近代住宅ほどには電気製品は使われていない。 事務職員の使う情報端末や室内照明といった程度で、暖房や空調も古くからの換気口や薪の暖炉などである。 教会周辺の極北ミッドチルダ地域は、現在では年配者や現役を引退した資産家たちの別荘も建ち並んでいる、のどかな田舎の装いを見せている。といっても、クラナガンからそれほど離れていない、あくまでも田舎風の別荘地、という程度だ。 現代の次元世界の科学技術では、自然界の魔力素を効率よく利用するために電気が発明されたが、聖王教会では今でも古い魔力をそのまま使うしきたりが残っている。 「──過去の預言ですか?」 「“旧い結晶と無限の欲望が交わる地 死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る 死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる” ──JS事件当時のものです。これに基づいて機動六課は設立され、ゆりかごを発見──撃沈に至りました」 「これは、私たちの」 JS事件の当事者──セインもその一人である。当時は、戦闘機人ナンバーズとしてスカリエッティと共に活動していた。 「確かに、あの当時起きた事件、出来事をこの詩篇は的中させているように見えます──しかし、これには別の解釈が可能な余地があります」 「それは──」 カリムは情報端末を操作し、ディスプレイ上に詩篇の2行目を拡大して表示させる。 「“死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る”──これは、聖王のゆりかごが起動するという解釈が当初はとられました。 しかし、ひとつ、説明できない部分があります──“死せる王”という言葉です」 「聖王のことなんですよね?」 「そうです。少なくとも、現在の陛下──ヴィヴィオが発見されるまでは、聖王の血筋とは絶えたものと考えられていました。ゆえに、死せる王の下とは聖王陵墓のことである、というのですが── 少なくとも過去、ゆりかご周辺では聖王家の者が葬られた陵墓は発見されていません」 言葉の意味を理解するわずかな間を置き、セインは息をのむ。
「ゆりかごはあくまでも古い船であり──それ自体が墓、ではないし、またゆりかごの中で生涯を終えた王がいたとしてもそれでは数が多すぎて言葉が不自然になります」 「じゃあ、騎士カリム──これは、ゆりかごのことを言っているのではない……?」 「この文中における王の原語は“lord”です。われわれ聖職者にとっては、この単語は正しく君主を意味しますが──言葉としては、その業界の有力者、立役者、黒幕──のような意味も持つのです」 「黒幕──」 「クラナガンでの先日の戦闘の顛末は聞きましたね。八神艦長、そしてレティ・ロウラン提督からの報告にあった、未知の外宇宙生命体── そして、新たに発見された次元世界──そして、そこから飛び立った巨大宇宙戦艦」 「宇宙──っ、じゃあ、まさかこの詩篇は!?」 空恐ろしい想像に、セインは言葉を上ずらせる。机に両手をついて身を乗り出し、ディスプレイに表示された詩の原文を凝視する。 詩は魔力紙片の束に書き記され、現在読んでいるのはそれを電子データに入力したものである。 死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。 より平たく原文を訳すなら、「約束の地で名有りの人物が死に、彼女は神の力を得てよみがえる」となる。 これに符合する事実は何かと考えた場合、約束の地(聖地)とはアルハザードである。そして、いちばん最近になって発見された新たな次元世界、第511観測指定世界は、アルハザードの最有力候補と目されていた。 そこへ向かった管理局艦の1隻が遭難し、搭乗者が死んだ。 その後、ミッドチルダに、第511観測指定世界より現れた多数の外宇宙生命体──バイオメカノイド、そしてエグゼクターがやってきた。 エグゼクター──それは、地球の英語ではEXECUTORと綴って「法の執行者」をあらわし、さらにミッドチルダ語では綴りが変化してEXECTORとなり「君臨する者」を意味する。すなわち、王と言い換えることもできる。 詩篇の他の部分と合わせて考えると、この詩が意味するものとは、次元世界に君臨するモノの出現によって現在の時空管理局という世界運営システムが破壊されるということになる。 「管理局所属艦クラウディア──クロノ・ハラオウン提督の艦に、私の名前で既に任務を与えてあります。 惑星TUBOYより飛び立った敵戦艦インフィニティ・インフェルノを撃沈し、内部に存在するであろうエグゼクターを確保せよ──と」 「──騎士カリム、それは管理局の承認を……?」 「……いいえ。私にも、艦1隻程度を動かす権限はあります。それがクロノ君の艦であったことは幸いでした──いえ、これも因果の皮肉というものでしょうね。 もしミッドチルダが、クラウディアの艦長が私とつながりを持っているということを知ってあえて第511観測指定世界の探索任務にクラウディアを指名したのなら、ミッドチルダは管理局という組織に対し挑戦しようとしていることになります。 もう質量兵器戦争は過去のものであり、管理局による監視、管理は不要である、自分たちミッドチルダが世界を守り運営していく──そう考え始めてもおかしくはないところまで、現在のミッドチルダは来ています。 ──シスターセイン、あなたのお姉様がひとつだけ私に訴えてくれたことがあります。欲望を失った人間はもはや人間ではない、と──あなたたちの父君の思いを無碍にしないでほしい、と──」 「ドクターの……」 「事実から目をそらして、人間社会の中で生きていくことはできません。それは私たちであっても同じです。聖職者は世捨て人ではないのですから── 無限の欲望とはミッドチルダのことです。暴走するミッドチルダが未知の外宇宙生命体を呼び覚まし、それに対処できなければ、もはや管理局は次元世界を運営していく権威を失います。 そうなったとき、たとえ嵐にもまれようとも、混沌に沈もうとも、次元世界人類は必ず──新たな道と生き方を見つけます。 自分たちのおかれた立場、自分たちが何者なのかという真実──それを、クロノ君は見つけようとしています。その答えが第511観測指定世界にあるのです」 セインもようやく、カリムが考察した新たな詩の解釈を理解した。 中つ大地という表現は、次元世界の境界が取り除かれるということである。すなわち、宇宙がいくつもの次元世界に分かたれている理由が判明するということである。 そしてそれが事実ならば、今度こそ本当に、管理局システムは崩壊の危機を迎えることになる。 自分たちの状況対処能力を超えた、圧倒的な力の存在によって。
インフェルノ内壁に接近し、外殻を向いて停止したヴォルフラムは、インフェルノ後部から接近してくる次元航行艦をレーダーにとらえていた。 すでに外部から撃ち込まれるミッド艦隊の砲撃によって外壁が貫通され、ヴォルフラムの艦影は彼らにも見えている。 先頭に立っているのはミッドチルダ海軍所属、LFA級戦艦アイギスである。 「クロノくん──ここでやる気か?」 クラウディアはヴォルフラムの前方12キロメートルに停止している。 はやては通常回線による無電を打つように命じ、クラウディアとの通信がつながった。 『本艦の任務は敵戦艦の撃破と敵機動兵器の回収だ。邪魔はしないでもらいたい』 「ミッド艦隊を巻き込んで、地球も巻き込むつもりか」 『敵戦艦の進撃を止められなかったことは残念だ。しかし、敵戦艦インフェルノは撃沈されねばならない』 「この宙域でか?地球への影響は避けられんぞ」 『我々が来ても来なくても、インフェルノは第97管理外世界に向かっていた。そうなったとき、管理局が、ひいては次元世界全体が、第97管理外世界のために何ができるかということだ。 もし、インフェルノの進撃を見過ごし第97管理外世界において現地住民に被害があった場合、管理局はその信頼を著しく失う』 「インフェルノの目的地がミッドチルダやなくて地球やと、最初からわかっとったゆうことか」 『それを確かめるために、敵機動兵器の回収が必要だ』 「っ──!!」 インフェルノ内殻で激しい爆発が起き、大型バイオメカノイドが姿を現す。 三つの首を上下左右に振り、あたりをうかがいながらゆっくりと這い出てくる。 この姿は、アイギスに続いて進入を試みているミッド・ヴァイゼン艦隊にも見えている。 艦内の空気はインフェルノの人工重力によって保持されているが、宇宙空間に向かって破口が生じているため、これ以上の内部での戦闘は危険である。 「艦長、ミッドチルダ艦隊、アドミラル・ルーフから通信です」 「つなげ」 クラウディアへの回線とは別に、アドミラル・ルーフからの通信をポルテが取り次ぐ。 スクリーンを2つ並べ、前面に出した方にアドミラル・ルーフを映す。 『我々にとって最も避けなければならないことは互いの意思疎通を怠ることだ』 「同感ですな、エーレンフェスト一佐」 『八神くん、インフェルノはすでに地球周回軌道へ乗っている。上層大気圏を使ってエアロブレーキをかけ、地球〜月系のL5ラグランジュポイントへ向かう軌道だ』 「こっちでも探知しました。この軌道では、最接近距離では人工衛星が多数飛んでいる軌道に近づきます」 『インフェルノの近地点通過はあと80分後だ。地球接近に備え、艦をインフェルノ内部に突入させて地球からの探知を避けるべきというのがベルンハルト司令の判断だ』 「賢明ですね。今の状態では、私らもインフェルノの連れやと地球からは見られるでしょう。地球に近づけば攻撃されます」 はやてとカリブラのやりとりを、ルキノやポルテをはじめとしたヴォルフラムの艦橋要員も固唾をのんで見守っている。 地球は、はやてやなのは、そしてグレアム元提督の出身世界として、ミッドチルダ人からはむしろ近しい世界と認識されていた。 それが、軍事衝突の危険をはらむ緊張状態に陥っている。 たとえ個人個人がいい人であっても、国家として対峙した場合に同じとは限らない。 軍事力を持ち防衛の意志を持つ独立国家であるならば、やり方を誤った接近をすれば当然武器を向け合うことになる。
『率直に聞きたい。地球の武器は何があるのかね。我々は第97管理外世界の情報をほとんど持っていない』 もちろん、はやての知っている内容も、情報部の正式な手続きを経て調査承認されたものではない。 だが現場ではそんな悠長なことは言っていられない。 はやてはヴォルフラムのデータベースに登録しておいた地球製兵器のデータをアドミラル・ルーフに送信するよう命じた。これは地球においても軍の広報資料として国民に広く公開されているものである。 「地球には数万個の人工衛星が回ってますが、その中の、高度2400キロメートルにあるこの一群──こいつがキラーレーザー衛星です。 それから、地上から発射される核弾頭ミサイル──これは月軌道まで届きます。主要発射基地は北半球にあるこの二つの大陸にあります」 『防衛ラインはどのあたりに設定されている』 「そこまでは私も分かりませんが、地球の静止軌道が高度3万6千キロメートルで民間の衛星はここに多数配置されてます。少なくともここを守らないといけませんから、倍掛けして7万2千、おそらくこれより近づけば撃たれます」 『最初の接近で撃ってくる可能性はどれくらいあると考えているかね』 「五分五分──と言いたいとこですが、たぶん99パー撃ってくるでしょう。地球は私らの予想以上に管理局を知っています」 ミッドチルダにしても、地球に限らず管理外世界へ諜報員を派遣することはある。 そして、入手した情報はミッドチルダ国内であってもごく限られた人間しか触れることができない。 這い出してきたドラゴンが、羽を大きく動かして内殻を飛び立った。 フェイトとシグナムは敵が内殻を離れたことを確認し、ヴォルフラムへ帰還すると連絡してきた。 続いてなのはとヴィータも戻り、最後にスバルたちが、捕獲したグレイをケージに詰めて持ち帰る予定である。 「──?艦長、人工重力が──」 インフェルノ艦内の重力輻射が変化したのを観測し、ヴィヴァーロが言いかけたとき、突如ヴォルフラムの艦体が大きく傾きはじめた。 「ぬお!なんや!?電測、状況を確認せい!」 「これはっ、艦長、トラクタービームです!インフェルノ内部から強力な人工重力が放射されてます、艦が引きずられます!」 エンジンを止めていたので、ヴォルフラムの艦体は次第に後ろへ引っ張られていく。 『八神くん!敵大型バイオメカノイドへの攻撃は』 「待ってください!まだ本艦の降下部隊が戻って──!」 重力場に引きずられ、通信が途切れる。 クラウディアは独自に前進し、ドラゴンに主砲を向けた。 進入してくるミッド艦隊はひとまず外殻の裏側に退避している。 「ルキノっ、全速前進!推力で艦を立て直せッ!!」 「っ了解、全速前進!機関室、魔力炉出力110パーセント!」 ドラゴンが這い出してきた大広間の通路から、フェイトとシグナムが脱出してくる。 幅数キロメートルもあるインフェルノの艦内空間で二人が目にしたのは、ドラゴンへの砲撃態勢をとっているクラウディアと、内殻の一部が盛り上がった場所に向かって引き寄せられているヴォルフラムの姿だった。 「シグナム、ヴォルフラムが!」 「くっ……、主!」 ドラゴンは3つの首をそれぞれ別の方向へ向けて攻撃ができる。すぐ近くにいたフェイトとシグナムに向けて、青いビームが発射された。 ビームはプラズマの塊を比較的低速で吐き出すもので、物体に触れるとエネルギーを解放して大爆発を起こす。 爆風で吹き飛ばされ、身体を回転させてなんとか体勢を立て直すが、つかまるものがない空間では艦内の地形は障害物にしかならない。 「テスタロッサ、ひとまずヴォルフラムに戻れ!ここでは重力が強すぎてまともに飛べん!」
距離が離れてしまったフェイトに向かってシグナムが呼びかける。 複雑な重力場に飛行魔法を乱され、わずかに注意がそれたところにドラゴンが追撃をかけてきた。 反射的にレヴァンテインを振り薙ぐが、プラズマの弾体が大きすぎた。 「シグナム──ッ!!」 激しい閃光が走り、艦内の空気に含まれる希ガス原子が励起されて光の波が広がる。プラズマの煙を纏いながらインフェルノ内殻に叩きつけられ、炎に混じって魔力残滓が散らばっていく。 無重量状態の空間では、物体は思いもよらぬ飛び方をする。流れる魔力光が、複雑に曲がりながら拡散していく。 人工重力を振り切って艦内空間を漂いはじめる破片の中に、レヴァンテインの刀身が混じっているのをフェイトは見て取った。 敵が撃つ砲撃は途方もない破壊力を持っている。 高速で飛び散ったレヴァンテインの破片を浴びて、頬や額から血が流れ出している。 「──急げ……!スバルたちの、援護をしろ……!」 「シグナム!」 揺れる大気に、ドラゴンの呪詛が耳を蝕むように響く。 これほど接近していては艦砲射撃はできない。クラウディアも、艦載兵装ではシグナムを援護することができない。 刀身の中ほどから折れたレヴァンテインを胸の前に構え、シグナムはドラゴンの三つ首を見据えた。 「行け、テスタロッサ!この化け物は私が相手をする!」 「──はいっ!」 フェイトが全速で飛び立ったのを見届け、シグナムはドラゴンを見上げた。 3本の首を交互にくねらせ、空間を這うように近づいてくる。 先ほどのプラズマブレスで完全に破壊されていないのを見て取ったのか、やや警戒するようなしぐさを見せる。 その姿はあまりにも生物的に過ぎた。 「さあこっちへ来い……貴様に主を拝ませられるか……!」 レヴァンテインが大破した状態では、大半の魔法を撃てなくなる。 残された機能は、接近しての魔力付与攻撃である。 その場合、敵に近づくということは反撃を受ける危険が非常に高くなる。何より、ドラゴンが相手では体格差がありすぎる。敵の体重はおそらく数千トンはある。 巨大な質量はそれだけで武器になるのだ。 ドラゴンと対峙するシグナムに、クロノとはやてがそれぞれ念話を送ってくる。 『シグナム一尉、できるだけすみやかに距離を取ってくれ。君がいては本艦が攻撃できない。大型バイオメカノイドは人間が相手をすることは困難だ』 『ハラオウン提督か──だがまずは主はやてへの説明をしてもらいたい』 至近距離での爆発で視覚神経にダメージを受けた。右目が、焦点を合わせられなくなっている。 ぼやけた視界に、右腕に刺さって食い込んだ金属片が見える。レヴァンテインのものではない、インフェルノ内壁から剥がれ落ちたニッケルと鉛の塊だ。 『時間がない』 『わが主を愚弄することは許さんぞ』 『シグナム、言い合っても始まらん!クロノくん、クラウディアの攻撃でそいつをやれるか』 『現在動けるのは本艦だけだ。八神艦長、君は君の任務を』 『っ──わかった!聞いたなシグナム、はよ戻れ!』
やや逡巡し、シグナムが飛び立とうとするよりわずか早く、ドラゴンが再び呪詛を放ち始めた。 およそ聞いたことのない言葉で、それが声なのか、テレパシーのようなものなのか、とっさにわからない。音の定位を判別できない特殊な音波を放っている。 「く──っ!?」 『シグナム、どうした!返事を!早う戻らんと!』 「あ、主──敵の、これは一体──!!」 ドラゴンの三つ首に睨み付けられるように囲まれたシグナムは、とっさに動けなくなっていた。 肉体と意識が分断されたように感じ、聴覚神経に注ぎ込まれる呪詛の音波が、頭の中で直接脳をつかんでいるように感じられる。 運動能力に拘束をかけるということは神経性の攻撃だ。 クラウディアでは、ウーノが敵の発する攻撃を分析していた。 「幻術魔法です。それもかなり強力な」 「金属質の体表を持たないのは姿を変えるためか──」 ドラゴンの翼から、光が屈折するほどの揺らぎが放たれる。 それは呪詛に連動しているように見え、さらに、揺らぎがいくつかの場所でかたまりをつくり、実体化し始めた。 揺らぎの中を通過する光の周波数がドップラーシフトによって変動し、電磁波は七色の可視光線を放つ。ドラゴンがその背から幻影を生やし、触手のように動かしている。 幻影を振り払うようにレヴァンテインを向け、炎熱を撃つ。デバイスによる制御がない状態では炎をただ撒く程度しかできない。 「くっ──、ヴォルフラムへ、誘導を要請──視界が利かない──!」 空気の粘度が高まったように、シグナムには感じられていた。平衡感覚がなくなり、密度の高い液体の中に浮かんでいるようだ。 ヴォルフラムの艦影は、遠くでゆらゆらと揺れ、ゆがんで見える。光が見える方向と、音が聞こえる方向が違っている。 「まずい、五感をかなり奪われとる──ルキノ、敵のトラクタービームからは脱出できんか!」 「出力が強すぎます、危険な状態です!機関室、飛行魔法出力はこれ以上あがらない!?」 『無理です航海長!既に魔力炉出力120パーセント、これ以上はオーバーヒートします!』 「シグナム一尉が帰還します、着艦コースへ誘導を!」 「艦が不安定な状態や──着艦位置が取れん!クソ、インフェルノ内壁のどっかにつかまれるとこ探してそこへ逃げ込め!なのはちゃんとヴィータもや!」 ヴォルフラムの艦橋から、こちらへ飛んでくるシグナムと、その向こうにドラゴン、さらに右手遠方にクラウディアとアイギス、アドミラル・ルーフが見える。 「っ──艦長、ドラゴンがこちらに!プラズマ弾発射を確認!3発いっぺんに来ます!」 「どちくしょーが──」 「艦長、この位置では撃てません、シグナム一尉が射線上に!」 左右に避けようとすれば、たちまちトラクタービームに引き込まれる。 このまま主砲を撃ってプラズマ弾を迎撃しようとすれば、シグナムごと吹き飛ばしてしまう。 トラクタービームを放っている部分は、内殻から生えた塔のような構造物だ。 土台部分にツメが生えた釣鐘のような形で、多重構造の室内空間を持っている。 塔の頂上に据え付けられた社からビームは放たれている。あるいは、宇宙空間での牽引用の装置なのかもしれない。 「主──まだ、一発だけなら──!」 「──シグナム!!」
幻惑された視覚の中でも、プラズマ弾の弾道は見えた。 ヴォルフラムの前方1500メートルで、シグナムはプラズマ弾に体当たりを敢行した。 それはヴォルフラムの艦橋からも目視できる距離だった。 再び、狂おしい閃光と魔力残滓が飛び散る。シールドや魔力弾生成時に発生する余剰魔力ではない、魔力で構成された物体が破壊された時に出てくる魔力残滓は、魔法生命体であればまさしく肉体が削り取られていることを表す。 爆風に吹き飛ばされ、魔力光とプラズマの破片に混じって、低い大気温度で凍結した赤い結晶が吹き寄せてきた。 ヴォルフラム艦橋の窓にぶつかり、チリチリと音を立てる。 「血……これはっ、シグナム一尉!?シグナム一尉、応答してくださいっ!!」 飛び散ってきたものが何かを理解したポルテが、通信端末に向かって叫ぶ。 大量の荷電粒子によって燃焼する希ガス元素の煙を振り払って、さらに残りのプラズマ弾が飛んでくる。 「ニャロ……艦長、プラズマ弾本艦前方距離300!!間に合いません、被弾します!!」 「総員対ショック姿勢!何かにつかまれ!!」 はやてが叫ぶ。直後、狂おしい衝撃がヴォルフラムを揺さぶった。 希薄な大気に減衰されることなく飛んできたプラズマ弾が、ヴォルフラムの前甲板中央付近に命中した。 大質量のプラズマの塊がシールドを圧壊させ、運動エネルギーと熱エネルギーを発散する。荷電粒子砲やフェーザー魔導砲と違い、プラズマ砲はエネルギー弾でありながら砲弾の質量が実体弾並みに非常に大きい。 プラズマ化した金属は周囲の原子から電子をはぎ取ってイオン化させ、物体を破壊する。 ソニックムーブでシグナムを抱えて離脱したフェイトは、爆炎に包まれるヴォルフラムの艦影を振り返り、戦慄に心を支配されていた。 直撃弾だ。おそらく命中したのは前部1番主砲付近だ。 あそこには砲塔操作のための要員がいる。あれだけの爆発では、砲塔基部、ターレット部の装甲も貫通されている。 現代の次元航行艦では、シールドを生成する防御魔法の進歩により物理的な装甲は減らされ、船体規模に余裕のある戦艦以外ではほとんど弾片防御程度の防御力しか持たない。 数秒おいて、砲塔内の魔力弾カートリッジが誘爆したらしい青白色の魔力光が噴きあがる。 LS級では魔導砲へのカートリッジロードは自動化されているが、カートリッジの魔力充填操作は人力で行われている。 砲塔1基につき、6名。どれだけ生きているだろうか。 「はやて──ッッ!!」 被弾の衝撃で推力中心がずれ、ヴォルフラムは艦首から引き込まれるように回転してトラクタービームに引っ張られる。 逆噴射も間に合わない。 この位置から飛んだとしても、たどり着いたとしても何もできない。人力で次元航行艦を押し返したりなど、不可能だ。 何もできない。 ヴォルフラムの舷側がインフェルノの内殻に接触し、側面部のアンテナが折れ曲がって削れ、火花を散らして吹き飛ぶ。 内殻の隙間にはなのはとヴィータがいるはずだが、あの勢いではよけられない。 「はやてぇぇっ!!誰か助けて、なのは、クロノ、助けてよ!はやてをっ──!!」 フェイトの叫びも空しく、フェイトの見ている目前で、ヴォルフラムは艦体を裏返しにした状態でインフェルノ内殻の塔に激突した。 ヴォルフラムが衝突した衝撃で塔が破壊され、トラクタービーム自体は止まったが、いったん勢いがついた艦体は凄まじい慣性質量でインフェルノ内壁を抉り、めり込んでいく。 逆さまになってインフェルノに激突した艦橋が押し潰され、スタビライザーフィンがはじけ飛んでくる。 削り割られてめくれ上がった壁面が破片を散らし、艦の各所が接触で火花を上げる。 「はやて……はっ!?」 空間のゆがみが通過する。 フェイトのすぐそばを、ドラゴンが放った幻影が通過していった。 あのドラゴンは幻術魔法の使い手だ。人間の魔導師ではない、竜そのものが魔法を使う。機動六課にいたフリードでさえ、これほど高位の魔法を使ったことはなかった。
『フェイト、フェイト!応答しろ』 「クロノ!?はやてがっ、ヴォルフラムが!!」 『まずはあの竜を倒すのが先だ、シグナム一尉を本艦に収容する!それから竜に攻撃をかける』 「はやてたちは!?」 『竜を片づけなければ救助活動も行えん、急げ!』 「わっ、わかった」 フェイトはシグナムを抱えてクラウディアに向かう。 クラウディアでは、搭載する大型魔導砲の発射準備を行っていた。 XV級では主要砲熕兵装となる5インチ魔導砲3門の他に大型の魔法陣式砲台を搭載しており、JS事件においてゆりかごに向けて発射されたのもこちらの大型魔導砲である。 フェイトの離脱を確認し、クロノは魔導砲発射準備を命じた。 クラウディアの甲板に白色の魔法陣が浮かび上がり、砲撃のためのエネルギーをチャージしていく。 なのはとヴィータは逃げ込んでいた内壁の窪みから、周囲の様子をうかがっていた。 トラクタービームに引き寄せられたヴォルフラムの艦体が内壁を抉るように高速でぶつかり、危うくなのはたちも巻き込まれるところだった。 それよりも前に、ヴォルフラムに向かってきたプラズマ弾を止めるためにシグナムが特攻したのも見えていた。 ピラミッド状の塔に覆いかぶさるようにして、完全に裏返しになった状態でヴォルフラムは停止している。 艦の動力が生きていれば、艦内に入れば床面に立つ方向へ人工重力がはたらいているはずだ。 「くそっ、待ってくれ高町、足が……」 崩れてきた壁の割れ目にヴィータの足が挟まり、動けなくなっている。 戦闘の高揚で痛みが麻痺しているが、骨が折れているとなのはは咄嗟に見て取った。 「だめだよヴィータちゃん、折れてる、無理に動かしたら──!」 SPTのパワーアシストで壁をどかそうとするが、厚さが1メートル以上もある絡まった金属の塊で、なのはの腕力ではどかせそうにない。 かといって、こんな至近距離で魔法を撃つわけにもいかない。 壁材は継ぎ目のない構造で、バインドで縛ってどかすという方法も使えない。 「SPT、左脚部パージ、パーツを放棄する──」 「ヴィータちゃん、痛みはっ!?」 「仕方ねえだろ!足の一本や二本、飛んでりゃあ関係ねえ!」 流れ出した血液が、インフェルノ内殻の内部に滴り落ちていき、奥から何かの金属に触れて反応し白煙が上がってきている。 今の状態で塩素ガスを吸い込んでしまったら、本当に痛覚が麻痺して酩酊してしまう。 ヴィータはSPTの左脚部パーツを切り離し、通常の騎士甲冑を左脚部分だけ解除して強引に足を引き抜いた。 皮膚と筋肉が引きちぎれる湿った音に、なのはは目を覆うこともできずに息を詰まらせる。無理に力をかけたのでバランスを崩して転び、倒れたヴィータはグラーフアイゼンを杖代わりにしてなんとか起き上がる。 バックパックの飛行魔法を併用し、右足だけで立つバランスを取る。 左足が、太ももの中ほどから無造作にちぎられた状態は普通の人間なら痛みで動けないほどだ。 神経系に補正をかけて痛覚をキャンセルし、脳内麻薬物質の分泌を促す魔法を処置している。 ヴィータの青い瞳は、頭から流れる血と涙が混ざって鮮やかなマゼンダに染まっていた。 「とにかく、はやての……ところに行くんだ」 内壁にグラーフアイゼンを引きずる、重い金属音が地を這う。 なのはは何も言わず従うしかない。
ヴォルフラム艦内では、副長のエリーが乗員の点呼を行っていた。 激突の際に壁やコンソールに身体を打った者が何人かいたが、艦橋要員は全員の無事が確認できた。 CICにいたレコルトも、転倒して全身打撲だがとりあえず会話はできる状態だ。 「艦長!艦長は、誰か見ていないですか!?」 ヴォルフラムの艦橋はほぼ天井の中央付近から塔の構造材に貫かれ、串刺しになった格好だ。 衝撃で艦内の機器などが外れて転がっており、発令所も床がゆがんで室内がひしゃげている。 「艦長──ッ!!」 エリーの呼びかけに、はやてはかすかに意識を取り戻した。 背中が冷たく、重力が背中に向けてかかっている。床に仰向けに倒れた状態だ。 指は動く。それを確かめると、ついで手のひら、手首、腕が動くことを順に確かめていく。 右腕をなんとか挙げ、エリーに知らせようとする。 身体を激しく床に打ち付けたのか、足が立たない状態になっている。 「艦長!今助けます、そこで動かないでいてください!」 発令所の床に落ちた配管を飛び越え、エリーとルキノがはやてを助け起こしにやってくる。 頭を打った衝撃で一時的に脳震盪を起こしたようで、とりあえず身体は無事に動かせる状態だ。 「大丈夫ですか、立てますか!?」 「あー……なんとか、っと、足元が危ないな、すまんエリー」 「無事で何よりです、私につかまってください」 「艦はどうなっとる、皆は」 はやてを担ぎ、エリーは艦橋の下段に降りた。 天井が破られて発令所に鉄骨が突き刺さり、室内空間が潰された状態になってしまっているため発令所からの指揮はとれない。 空いたスペースがある操舵席と、電測室、CICからの指揮が可能かどうか、レコルトとヴィヴァーロが機器の点検と動作確認を行っている。 「派手にやられました。機関は緊急停止、今再起動を試みてます。敵大型バイオメカノイドのプラズマ弾により1番主砲大破、2番主砲動作不良です。 1番主砲の要員は、残念ですが──」 「──わかった。他にケガした者は」 「みな軽傷です。砲雷長も頭を打ちましたがとりあえず勤務継続可能です」 「すまんな。──敵はどうなった」 「あれを見てください」 ヴォルフラムの窓から、砲撃を浴びているドラゴンの姿が見える。 クラウディアは艦首魔導砲でドラゴンを撃ち、応戦している。ドラゴンはそれでも一撃では倒せず、大柄な体躯で動き回り、時折プラズマ弾を撃っている。 艦の機動で回避するためにクラウディアはドラゴンにそれほど接近できず、サイドスラスターを駆使してプラズマ弾をかわしながら、遠距離から砲撃を行っている。 「──!こちら、管理局次元航行艦隊ヴォルフラム、応答してください!……──あっ、は、はい!こちらヴォルフラム、現在敵戦艦内殻表面にて停止中です!はい、わかりました、伝えます! っ、副長!通信がつながりました、クラウディアが応答しました!フェイト執務官とシグナム一尉はクラウディアに収容、応急治療中とのことです!」 通信席で連絡を取っていたポルテが、エリーたちを振り返って叫んだ。 彼女も煤と油で顔や服が汚れてしまっていたが、その表情は純粋に生還を喜んだ笑顔が戻っていた。 続いて、機関の再始動に成功したとの報せが機関室から届いた。 機関が動けば、艦を離床させて脱出することができる。 スバルたちの班を収容したら、急いで離床し退避しなければならない。
「艦長、メインノズル噴射可能です、飛行魔法出力12パーセントが限界ですが、なんとか飛べそうです」 機関室と連絡を取っていたエリーが報告する。 その声に頷きつつ、はやてはヴォルフラムにさらに迫りつつある敵の存在を見ていた。 「喜ぶのはもうちっと待てや……。今の本艦の機関始動を察知してバイオメカノイドがやってくるぞ。 連中は魔力を放つ物体に引き寄せられる。次元航行艦のエンジンなんぞ夏の夜の虫が飛び込む松明みたいなもんや」 はやてはシュベルトクロイツを起動させてバリアジャケットを装備し、他の乗組員たちもそれぞれの携帯デバイスを取り出していつでも撃てるようにする。 基本的に次元航行艦勤務の水兵には、艦内でのオペレーションの邪魔にならない程度の拳銃型デバイスが支給される。 艦艇の乗員が直接戦闘をするケースは現代ではまず考えられないため威力は最低限のものだが、牽制程度はなんとか行わなければならない。 エリーの持つデバイスは索敵能力に優れた支援向きで、サーチスフィアを放出して艦外の様子を探ることができる。 手元に投影されたスクリーンには、ヴォルフラムに向かって壁面上を歩いてくる、夥しい数の人型の幻影が映っていた。 「これはっ、バイオメカノイド……!?」 スクリーンを見たポルテが戸惑いを含んだ驚きを漏らす。 幻影は、シルエットだけなら人間のように見える。これまで確認された二足歩行型のバイオメカノイドはいずれも人間とはかけ離れたプロポーションをしていたが、これは人間そっくりに見える。 エリーはさらに、幻影の向こう側、幻影を追いかけるように向かってくる影を見つけた。 拡大投影すると、赤い影と白い影が見えた。 その姿は、エリーたちにとって安堵を生じさせるものだった。 「高町さん!ヴィータさんも、二人が来ます!」 「幻影の動きに変化は」 「ありません、今本艦艦首に乗り上げました。ヴィータさんたちの方もかなりやられたようで速度が出ません、追いつく前に幻影がここに到達します」 「総員、宇宙服バリアジャケット着用。緊急事態に備え、緊急脱出の手順を確認せよ。各部署、交代で復旧作業に当たれ。 負傷者はただちに応急処置を。モモさんとシャマルの出番や」 はやてはシュベルトクロイツを構え、艦橋の露天部分へ出た。 艦自体のシールドが作動できないため、艦内の防御は構造材の強度のみに頼ることになる。 「ポルテ、メーデーを発信してロックしろ。エリー、私以外の艦橋要員は発令所から退避、それぞれの管轄部署にて待機。 奴らの相手は私だけで十分や」 「艦長、しかしそれでは艦長が危険です」 「他のみんなは丸腰もおんなじや、生身でバイオメカノイドとやりあえへん。私やったら敵を食い止めるくらいはできる」 幻影が、上を向いた艦腹を登ってくる。 なのはたちは飛行魔法が使える高度で、幻影を追いかけてくる。 よく見るとヴィータのSPTは片足がない。目を凝らすと、SPTのパーツだけでなく左足自体がなくなっている。 「ヴィータ……!」 ヴィータはやっと飛ぶくらいしかできず、片足の痛みで魔力が出ない状態だ。 「なのはちゃん、今こっちはシールドが使えん、あんまり艦を壊さんといてくれよ」 「はやてちゃん!無事だったんだね、シグナムさんは、フェイトちゃんがクラウディアに運んでくれたって」
「こっちでも聞いた。私らが切り抜けなあかんのはあの三つ首がバラ撒いた幻影や──!」 幻影といって、とはやてはふと思案した。 幻術魔法とは本来は敵のかく乱を目的とした魔法である。このように明らかに偽物だとわかる状態で使っても意味はない。 あえて大量の幻影を放つとすれば、それは敵の攻撃を分散させ精度を落とすためのノイズ・メーカーである。 夜天の書を開き、フリジットダガーの発動準備をする。 氷結属性を付与することで空気中の水分や元素を凝結させ、実体弾としての効果を発揮できる。 「撃ッ──!」 ダガーの弾体が出現した瞬間、幻影たちが突如走りだし、飛びかかってきた。 最前列にいる4体へ向けてまず発射する。 フリジットダガーが命中した瞬間、幻影は崩れ、灰色の粘土のようなものに変化して落下した。 さらに別の幻影が落ちた粘度を踏み、幻影の色が灰色から青紫に変化する。 幻影の内部に赤い光が生まれ、直後、鋭いレーザー光が放たれた。 咄嗟に身体をかがめたはやての肩口のあたりを突き抜けてレーザー光が飛び、背後でヴォルフラムの艦橋外壁にぶつかって破裂音をあげる。 「っつ、こいつは──エネルギー吸収体!?」 「はやてちゃん──!」 粘土を他の幻影も次々に拾っていき、やがて、人間型のシルエットが溶けて、液体金属のようにくっつきはじめる。 幻影というよりは、ドラゴンから分裂した即席の使い魔のような物体だ。 「おお……」 驚愕か、怨嗟か。はやては思わず声をこぼしていた。 シュベルトクロイツを左手に握って杖をつき、レーザーを被弾した左肩を右手で押さえる。 合体した幻影は、やがて一様な黒い色だった表面を変化させ、ある一つの姿を作り出した。 本来の幻術魔法であれば、偽物の姿を取る瞬間を見られていれば意味はない。 しかし、あのドラゴンが放った幻影は、見た目を擬態するだけでなく相応の戦闘能力と耐久度を持っている。 「そんなっ……まさか!!」 上空から追いかけていたなのはとヴィータも驚きを隠せない。 幻影が形作った姿は、かつて18年前、雪が舞う朝に光と消えたはずの、闇の書の意志──初代リインフォースの姿だった。 なぜ、どうして。 なのは以上に、はやてとヴィータは愕然としていた。 一体、どうして。 単に幻影がだれか不特定の人物の姿をとっただけなら、驚きはしてもそれだけだ。 しかし、その人物の姿が、自分たち以外誰も知りえないような姿だったとしたらどうだろうか。 この姿の外見を、敵はいったいどこで知り、見て、覚えたのだということになる。 「嘘やろ……──っ、もしかして!?フェイトちゃん、フェイトちゃん聞こえるか!シグナムは今どんな具合や!?意識はあるんか!?」 はやてはフェイトに念話を送った。もし敵が、現在交戦している自分たちからリインフォースの外見を入手したというのならまだわかる。 だがもし、もう一つの予感が当たっていたら──さらに、敵は驚くべき手段を持っていることになる。
『はやて!?今処置して……けど、──、傷が深くて、──……い!!』 「くそっ!ジャミングか!?距離が遠すぎるか──」 リインフォースの姿をとった幻影は、さらに右手を差し出し、はやてがよく知る本の形を出現させた。 その本は、まさに本物が今はやての手元にある。いかに見た目をそっくりにつくりあげても、その蒐集した魔法を使ったりなどできないはずだ。 再び、ドラゴンが放つ呪詛の声が聞こえる。 これはドラゴン本体ではなく幻影が放っている。 リインフォースの顔をし、リインフォースの表情をして、しかし声は、地の底、闇の底から響くようなおどろおどろしい、人間のしゃべる言語ではないような呪文を唱えている。 この呪文を聞くと、何かが壊される。集中力が途切れてしまう。精神の仕組みが崩されそうになる──はやては思わず、肩を押さえていた手を胸元に移し、心のありかを確かめるように強く胸を押さえた。 呪文が響く。もはや、インフェルノ内部の広い空間に完全に反響しているように聞こえる。 あのドラゴンが唱える呪文は、精神攻撃のような力がある。 「はやてちゃん、危ない──ッ!!」 なのはが叫ぶが、間に合わない。 咄嗟にシュベルトクロイツを振り上げてかばおうとしたが、杖ごと弾かれた。 リインフォースの姿をした幻影が、背中から展開した翼を変形させ、鋭利な鞭のように振り払ってはやてを打った。 足元が薙ぎ払われるような感覚がして、身体が浮く。 さらに切り返して、シュベルトクロイツが、握っている自分の腕ごと回転して飛び跳ねるのをはやては見た。 「っ……はっ……はやてえええーーー──ッッ!!」 ヴィータの絶叫が、ヴォルフラムの甲板に反射してはやての耳に届いた。 次の瞬間には、はやての視界には真っ暗なインフェルノ外殻の裏側が見えていた。 天を見上げている、いや、自分が突き倒されて視界が上に向けられたのだ。 立ち上がろうとするが、力が入らない。 詠唱が続けられるドラゴンの呪詛が、リインフォースの姿をした幻影を操り、はやてのそばに跪かせる。 「はやてええっ!うわああっ、ああああっっ!!」 ほとんど錯乱したような状態で、飛行魔法の制御も忘れて甲板に落下激突しながら、ヴィータは叫んだ。 リインフォースの姿をした幻影が、翼を変化させた黒い触手で、はやての両腕両脚を一瞬で、四本とも斬り飛ばしたのだ。 四肢を失ったはやては身体を制御できずに、ヴォルフラムの甲板に背中から落ちる。 目の前で親友が身体を切り刻まれる瞬間を目撃し、なのはは身体が竦んでしまっていた。 SPTの飛行魔法で空中に滞空したまま、その場から動けなくなっている。 響き渡る呪詛が、言葉ではないはずの音を言葉と認識しようとして脳が混乱しかけている。 あのドラゴンが操る最も強力な武器は、プラズマ弾でもレーザーでもない。人間の脳を侵す特殊な波動だ。 「リイ……ン……?」 手足の切断面から血液が急速に失われ、はやては意識が薄れていた。 自分の傍らに跪いているのは幻影のはずだ。 それなのに、その顔は懐かしい。偽物だというなら、どうやってこれほど、自分に感情を想起させる容貌をつくれるのだ。
乗組員の避難を終えさせたエリーが、艦橋に戻ってきた。 艦橋の窓から、甲板に倒されたはやてと、その傍らに跪く何者かの姿を認める。 「艦長──ッ!!」 ヴィータは甲板に落下して起き上がれず、這いずって手を伸ばそうとしている。 もう、届かない。 何十メートルもあるヴォルフラムの艦首から艦橋までの距離を、ヴィータは届かない。 「エリーっ!!見えてるんだろ、はやてを助けろっ!!高町っ、ちくしょお!誰かっ、はやてを助けろおお!」 「ヴィータちゃん……あっ、ヴィータちゃん、身体が……」 なのはがゆらゆらと左手を伸ばす。エリーは咄嗟に自分のデバイスを取り出しはやてに向ける。 魔力量測定、リンカーコア活動レベル確認。 測定された魔力値はほとんど計測下限に消えかけていた。 「ッ……いけません!リンカーコアが停まりかけてます、艦長、このままじゃヴィータさんたちが……!」 リンカーコアの活動が弱まっている。 それはすなわち、生命活動が低下していることを意味する。 「えっ……嘘っ、まさか、……そんな!魔力が止まって、うそだろ、これって、はやて、はやて……!」 ヴィータの肉体が、末端部分から魔力残滓に変化して分解しつつあった。 通常この現象は、使い魔を作成した魔導師が、使い魔を残したまま死んだ場合に、魔力供給が途絶えて使い魔が消滅する現象として観測される。 ヴォルケンリッターもまた、守護騎士システムによって作成された魔法生命体である以上、魔力供給なしには活動できない。 自ら持つリンカーコアを維持するための魔力がなくなれば、消滅してしまう。 そして、ヴォルケンリッターへの魔力供給が途絶えるとは、夜天の書の主が死亡もしくは重篤な負傷によりリンカーコアが魔力を生成できなくなった状態である。 「はやて──ッッ!!」 ヴィータの叫びも声にならない。声を発生させる力さえもが消えていく。 歩くロストロギアとまでいわれたほどの、強大な魔力──それが、消える。想像もできなかったことが、起きている。 魔法の力が、及ばない強大な敵。それを目の前にして、自分たちはなすすべがない。 はやての命が、失われていく。 リインフォースの姿をした幻影は、はやてを看取ろうとするかのように跪いたまま静かにたたずんでいる。 なのはも、エリーも、それに手出しできない。 ヴィータの声が消えてしまったインフェルノ艦内の空間には、ドラゴンが唱える呪詛と、クラウディアの魔導砲の砲撃音だけが残っていた。
10話終了です ぶたいちょーーー!! この三つ首ドラゴンは3面ボスです 実際ゲーム中では大して強くないのですが胴体壊しても首だけに分裂して向かってきたり 何より戦闘中ずっと流れる呪文がとてもきもちわるい アワワワワワ トラクタービームは2面と5面のボスが使ってきますね ただでさえ操作性のよろしくないゲームなのに引き寄せられるとかもう 釣鐘型と表現しましたが実際にはドリルの生えたやかんみたいな外見です カリムさん暗い部屋でパソコンやっちゃだめですよーって 顔を下から照らすと目じりや口元のしわが強調されてウギャー ではー
乙です ヴォルケン全滅フラグか この作品だとマジで全滅しそうだから困る 精神を侵すドラゴンの声とかロードス島のドラゴンの戦意をくじく遠吠えを思い出すなあ
乙です まさかのはやて&ヴォルケン死亡
いよいよ魔法技術vs質量兵器の激突ですね
職人の皆様乙です。 さて、23時頃よりマクロスなのは第25話を投下するので、よろしくお願いします。
では時間になったので、投下を開始します。 マクロスなのは第25話「先遣隊」 SMSはアクティブ・ソナー作戦が行われたその日の内に、フォールド空間の座標に向けてAIF-7F「ゴースト」(無人戦闘機)部隊を派遣した。 しかしその結果は残念なものだった。 そこには土台から外れたフォールドブースターが浮いていただけだったのだ。 その事実は関係者を大いに失望させたが、ゴーストの持ち帰ったフォールドブースターは驚くべきことを記録していた。 ブースターが外れる寸前に記録したのであろう、アルト達の緊急デフォールドした座標だ。 その知らせに一番狂喜したのはルカだった。 「やった!これでランカさん達を迎えに行けますよ!」 単体でフォールド空間に取り残された場合、生存は絶望的だった。なぜならフォールド機関なしでフォールド空間を航行した場合、三次元の物体は 時空エネルギーの圧力に耐えられず機体が即座に圧壊、自爆するからだ。 しかしデフォールドしているなら話は別だ。 大気圏の離脱及び突入。そして星間航行能力のあるVF-25のサバイバビリティ(生存性)があれば大抵何とかなるはずだった。 しかしその座標はフォールド断層内のサブ・スペースと呼ばれる使わない・・・・・・いや、使ってはいけないゲート位置だった。 この空間に開いたゲートは普段使うゲートとは違って、通常空間との相対位置に必ずしも一致しない。 つまり入って10秒でデフォールドしても隣の銀河だった。という事が起こり得るのだ。 そのため救助はフォールド空間を経由せねばならなそうだった。 しかし救助の準備に取り掛かったSMSに横やりが入った。 『ここから先は我々が行おう。ご苦労』 突然の通達。差出人は新・統合軍だった。 最近風当たりの悪い新・統合軍としては、目に見える成果が欲しかったのだろう。 救出≠ニいう美味しいところだけ持っていく理不尽で一方的な申し出だったが、悔しいことにSMSは民間企業であり、新・統合軍は大切なスポン サーだった。 そうして今度はその座標に、救援の先遣隊として統合軍のゴーストが一機送られることになった。 そのゴーストはフォールドクォーツを応用した通信機が装備されており、これを中継器として向こう側とのリンクが確立できるはずだった。 (*) 新・統合軍 ステルスクルーザー艦内 統合指揮管制所 そこでは一人のオペレーターがフォールド空間に突入したゴーストのオペレートを行っていた。 「まもなくデフォールドします。3、2、1・・・・・・ん!?」 「どうした?」 何が起こったかわからない上官がそのオペレーターに詰め寄る。 「それが・・・・・・リンクが切れました」 「なに!?」 その画面にはゴーストからのカメラ映像が送られていたはずで、先ほどまでフォールドゲートが映し出されていた。しかし今、画面は砂嵐になっていた。 原因を探ろうと切れる以前の記録を見返してみるが、ゴーストのレーダーは何も探知していないし、ゴースト自体もオーバーホールから三日しか 経っていないはずなので故障はまずあり得ない。
「どうなってんだよ!」 彼はコントロールパネルにしたたか拳を打ち付けた。 (*) その頃クォーターのバーでは一番美味しいところを持っていかれたため、調査隊の隊員達がクサっていた。 特に悔しいのはルカだ。 「酷すぎますよ統合軍は!後少しってところで良いだけところだけ持っていって─────!」 「まぁまぁ、ナナセちゃんには私が伝えるわ。『あなたの彼がランカちゃんを見つけた』って」 シェリルがグロッキーな彼をなだめる。ハタチ前なのに周囲に合わせてお酒を頼んだ彼だが、あれから三時間。まだ一度も口を着けていなかった。 (まったく、まだ子供なんだから) 口には出さなかった。 そこにオズマ少佐が血相変えてバーに飛び込んできた。 「隊長? どうしました?」 「統合軍の先遣隊のゴーストが消息を断ったらしい」 「「え!?」」 その場の一同が唖然とした。 (*) 先のバジュラとの闘争においてあまり目立たなかったゴーストだが、そのサバイバビリティと戦闘力は世界最高峰だ。 そう簡単に落とされぬよう戦略・戦術システムと対ハッキングプログラムは毎週のように更新され、各種探知機から武装まで毎年アップデートされている。 それが消息不明となると事態は深刻だった。 即座に合同捜査という運びとなり、再びSMSが表舞台に立つことになった。 (*) フォールド空間 そこには精密な調査をするためSMSから派遣されたルカ率いる調査隊と護衛のピクシー小隊が展開を始めようとしていた。 母艦となっているのは新・統合軍のノーザンプトン級ステルスフリゲートだ。 今回ゴーストの行方不明の理由もわからず、まだ表向き新・統合軍の管轄として扱われているため船だけ回したらしい。 (僕達の命の重さはこの船一隻分ってことか) ルカは艦長席に座って指揮を取るコンピューター頼りのお飾りペーパーエリートに視線を投げると、ため息をつく。 しかし彼は容姿はともかく大人だった。すぐに (僕達だけで行かせなかったことを評価すべきか) と思いなおすと、自らが座る艦の科学・調査ステーション(艦のセンサー類が統合制御監視できる部所)のコンソールパネルを弾いた。
艦に搭載された各種長距離センサーではゴーストが入ろうとしたフォールドゲートの座標に異常は見られない。また、レーダーにも反応はないよう だった。 しかしゴーストが行方不明になったことは厳然とした事実であり、宙域に吹き荒れる磁気嵐がセンサーを妨害し、敵機が隠れている可能性も否定で きない。 ルカは最新の観測データをこの船の格納庫で翼を休める己が愛機『RVF-25』に転送。その席を統合軍ではない、SMSから連れてきた調査隊の一 人に任せると、格納庫に向かった。 (*) ノーザンプトン級ステルスフリゲートはフリゲート≠フ名に違わず配備数が多く、基本設計は30年以上変わっていない。しかし高速性とステルス 性に長け、現在もマイナーチェンジしながら継続して量産が続けられて、各移民船団の主力護衛艦艇として活躍する優秀な艦種である。 それを証明する例としては、過去にバロータ戦役において第37次超長距離移民船団(通称マクロス7船団)が行なった突入作戦『オペレーション・ス ターゲイザー』の際、この重要な作戦に母艦『スターゲイザー』として同型艦が使用されていることなどが挙げられる。 さて、この艦はひし形の艦体構造と直線的なフォルムによってパッシブ・ステルス性を向上させている。また、フリゲートと言えど全長は252.5メー トルと第二次世界大戦の大和型(全長263メートル、基準排水量64000トン)に匹敵し、兵装は粒子加速(ビーム)砲や反応弾を含めた各種ミサイル なので火力では比較にならない。 しかし運用重量約1200トン(質量)とまさに駆逐艦クラスであり、その差から生み出される内部空間は機動部隊(バルキリー隊など)を運用するに十 分な広さを提供していた。 SMSのピクシー小隊を率いるクラン・クラン大尉も愛機クァドラン・レアと一緒に格納庫にいた。 彼女の傍らにはバジュラとの抗争時からピクシーの二番機を務めるネネ・ローラが同じようにクアドラン内で出撃待機に入っている。 クランはその首に掛かるペンダントを愛しい物のようにギュッ≠ニその手に握った。 そのペンダントの先には彼女の愛した人の遺品がある。 その彼が見えすぎる目≠フ矯正のために掛けていたそれはアルトにとってのVF-25Fというように、今となっては彼女に掛かったカース(呪い)だった。 彼は無防備だった自分を守るために何のためらいもなくその身を盾にして死んだ。 愛のため殉じる。 『そんな陳腐な言葉』と鼻で笑われるかもしれない。しかし彼は自らや大切な友人達を守りきれたことに安堵して散った。 そのためクランはこのペンダントから彼の分まで生きる≠ニいう呪いにも似た使命を背負っていた。 (ミシェル、お前は私が戦うことを望んでいないかもしれない。だが、私はゼントランなんだ。お前の守った人達は私が守り続けてみせる!) クランは決意を新たにしながらRVF-25に搭乗を始めたルカを見やった。 (*) 『クラン大尉、僕の『アルゲス』の探知範囲から出ないでくださいよ』 「わかっている」 クランは応えると、ノイズの激しい自機搭載のレーダーから目を離した。 彼女らは今、例のデフォールド座標に向かっている。 SMSのクァドランに搭載された各種レーダーシステムは、新・統合軍より高性能のものを装備しているが、この磁気嵐の中では役に立たなかった。 一方ルカの搭乗するRVF-25の装備するイージスパックはレーダードーム『アルゲス』に代表される強力なレーダーシステムと大容量・超高速コン ピューターを搭載。その索敵能力と管制能力はルカの技量も相まって本式のレーダー特化型護衛艦一隻分に匹敵し、航空隊の目≠ニして機能 する。 現在ルカはその強力なレーダーシステムとコンピューターを駆使して磁気嵐を寸分の隙なく解析、ノイズを補正し、三機の中で唯一正確なレーダー 情報を入手していた。 しかしデータリンク電波も撹乱されてしまうので、ルカから届く音声通信と自身の目だけが頼りだった。
『まもなくデフォールド座標です。ローラ少尉、ワープバブルの位相範囲を最大にしてください』 『・・・・・・はい』 ルカの指示に編隊の最後尾に位置するネネのスーパーフォールドブースターが全力稼働。時空エネルギーの圧力に対抗するために展開される ワープバブル徐々に大きくなり、デフォールド座標までをバブルで包んだ。 ネネはそのまま定点となり、ルカとクランは周囲を警戒しつつ前進。デフォールド座標の調査を開始する。 『─────走査完了。付近に機影なし。フォールドゲートを開きます』 ルカの声が届き、RVF-25の主翼にくくりつけられたフォールドブースターが光を発する。 刹那、目前の空間に亀裂が入り、フォールドゲートを形成した。 クランは油断なくゲートに向かってクァドランのガトリング砲を照準するが、ゲートは我関せずとばかりにそこにあるだけだ。 『・・・・・・大丈夫みたいですね』 「ああ」 どうやら取り越し苦労だったようだ。おそらくゴーストも統合軍のバカが操作を間違えて故障させてしまったのだろう。 (これだからデブラン(ちっこいの)の作る機械は─────) と自らの搭乗するゼネラル・ギャラクシー社再設計のクァドラン・レアを棚に置いてため息を着いた。 『それじゃこのままデフォールドします。クラン大尉は先導願います』 「わかった」 彼女は応え機体を前進させようとするが、寸前で左端の方で視界を遮るもの≠フ存在に気づいた。 胸元に入れていたペンダントが飛び出し、漂っていたようだ。 クランは危ない、危ない。とペンダントトップについた眼鏡の入った容器を掴み胸元に戻す。だがその先にあった左舷を映すディスプレイに光を捉える。 刹那クランの手は即座に動き、ルカのRVF-25を突き飛ばした。 『うわっ!』 ルカの悲鳴と共に、さっきまでバルキリーがいた場所を光弾が貫いていった。 「ルカ!今のはなんだ!?」 通信を送りながらその物体に腕部のガトリング砲をぶち込む。しかしそれらの弾幕は空しく空を切った。 『現在走査中!─────ダメだ!レーダー反応なし!目標はステルス、もしくは何らかのエネルギー体です!引き続き解析します!』 「チィ!」 クランは機体を横滑りさせて迫る黄色い光球を回避する。ルカもバトロイドに可変してガンポッドを照準、掃射するが、レーダーに映らないので普段 コンピューター補正頼りの彼には荷が重い。 そうしているうちに蛇行していた光球は突然180度速度ベクトルを変えると、ルカに突入を始めた。
「ミシェル、私に力を!」 クランはその胸に鎮座するペンダントに願掛けすると、機体の出力リミッターと『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』のリミッター をオーバーライド。 機体の主機が瞬間的な200%の稼働によって悲鳴のような高周波の唸りをあげ、まるでゴーストのように設計の限界性能を引き出して加速する。 華奢な彼女の体に人間には到底耐えられない十数Gという莫大な力が働くが、メルトランディ(ゼントラーディの女性のこと)である彼女は遺伝的に ハイGに耐えられる。それに"守る"と決め、そのための翼を与えられている彼女にとってそれは些末な問題にすぎなかった。 その速度そのままにルカと光球の間に割って入った。設計限界からの瞬間停止によって限界を迎えた慣性制御システムが煙をあげて吹き飛ぶが、 クランの瞳は正面のまっすぐに迫る光球の姿から離れなかった。 「ハァァァ!」 腕部にフルドライブのPPBを展開、雄叫びと共にその光球に正拳の一撃を放った。 激突した両者から発生した莫大な時空エネルギーの余波が電流として発現。クァドランの巨体を流れる。 その過電流によって機載の電子機器が次々システムダウンを起こし、沈黙していく。 しかしクァドランはいい意味でシンプルな機体だった。 その基本設計は何千何万周期もこの広い宇宙で戦い続けた『クァドラン・ロー』という機体だ。 『クァドラン・レア』はそれをゼネラル・ギャラクシー社が再設計、現代戦に対応するため多数の電子機器を装備し、武装を改装したものだ。 ゼントラーディの兵器群はプロトカルチャー設計のもので、その耐久年数は人間製のものとは比較にならない。 それは品質の高さ(さる筋の調べによるとピコメートル単位の誤差すらないらしい)も挙げられるが、その設計のシンプルさが物を言っていたのだ。 その基本設計を受け継いだクァドラン・レアは元々各種電子機器などなくても操縦者さえいれば戦闘稼働が可能なほどのタフな機体だった。 『お姉様!』 遠方でワープバブルを維持するネネの悲鳴が耳を打つが、通信機はそれを最後に沈黙する。 絶縁破壊を起こした電気配線がスパークして目の前にあった前部モニターを吹き飛ばす。 腕部のガトリング砲に異常事態。それを警告するモニターがなかったが、彼女の髪の光ファイバーを利用したインターフェースによってそれを知り得 たクランは、緊急システムでそれをパージする。直後電子機器のスパークで弾薬に引火したそれは大爆発した。 次々機能が死んでいくクァドランの中でクランは必死に機体を操り、光球を押し留める。 おそらくVF-25やVF-27ではすでに機体は操縦者を見捨てて機能停止していただろう。 しかし各部分ごとに独立したブロック(ユニット)型という名の構造。そして正副二重(つまり四重)に確保された操縦用回線はこの状態でも操縦者を 見捨てまいとなけなしの力を振り絞る。それはもはや奇跡に近い稼働だった。 その甲斐あってようやく光球は転進、左舷方向に流れていく。 「嘗めるなぁ!」 気合い一発。クランは機体前部を相手に向けると、前部を向いたまま旋回能力が死んでいた『対艦用インパクト・キャノン』をカンで照準。引き金を引いた。 元のビーム砲から対バジュラ用のMDE重量子ビーム砲に換装されたこの火器はあやまたず光球を貫き、爆散させた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」 荒い息づかいがヘルメットの中を反響する。 クランは機体を動かそうと操作するが、ピクリとも動かなかった。気づけば主機である背後の『キメリコラ/ゼネラル・ギャラクシー熱核コンバータ FC-2055μ』も停止している。 どうやら愛機は本当におシャカになってしまったようだった。 (お疲れ様だ。良く頑張ってくれた) クランは敵を倒すという役目を果たして息絶えた愛機に告げると、非常用の爆裂ボルトに点火。コックピットハッチである前部装甲をパージすると、 手を差し出すネネのクァドランに掴まってルカ共々母艦に帰還した。
(*) 「有人調査で判明したのは以下の通りです」 集めた調査隊員を前に、ルカは調査結果をスクリーンに投影しながら説明する。 調査隊を襲撃した光球は莫大な時空エネルギーの塊で、調査隊が磁気特性(機体が金属なため)を持ち、レーダー波を発していたため自然と 寄ってきたものであること。 レーダー波を吸収、結果アクティブ・レーダーで探知できないことからゴーストもおそらくこれに撃墜されたと思われることなどだ。 「─────しかし問題はこれだけではありません」 ルカはそう告げると、スクリーンに違う画像を展開する。 「これは・・・・・・次元断層シールド?」 調査隊の1人が驚愕に目を見開く。これは現代ではバジュラクイーンしか発生させたことがなく、次元断層によって位相空間内を外部の次元と隔て ることで物理的な攻撃を完全に防ぐ現状では最強のシールドだ。 「はい。あの光球のエネルギー源を様々な調査結果をつき合わせて検討した結果フォールドゲートを自然発生の強力な次元断層シールド≠ェ 塞いでいるという結論に達しました」 彼の説明によれば、光球がフォールドゲートを開いた時に初めて出現したことから関連性を調べてみると、開いたフォールドゲートの数値異常に気 づいたという。 最初はサブスペースのゲートだからと気にしなかったが、どう考えてもエネルギーが莫大過ぎる。 そこでゲートを解析すると、どうやらアルト達が無理やりデフォールドした結果、次元連続体が寸断され莫大なエネルギーが流出。そこに溜まり、 シールドを形成したらしい。 「またこれにより時空までも捻じ曲げられているらしく、波動的に変動して時間の進行速度が変化しているようです。計算上では現時点で、あちら側 ではゆうに3カ月以上が経っているものと考えられます」 「それじゃランカはもう―――――!」 部下であるアルトはともかく、溺愛する妹の安否を第一に置いているらしいスカル小隊隊長は顔面を蒼白にして拳を握る。 20日やそこらならVF-25は問題なく稼働して星間航行できる程度の移動手段になるだろう。コールドスリープを使えば酸素も食料も何とかなる。し かしそれ以上となると機体はパイロットの整備だけでは維持できない。三カ月ともなればまず飛べまい。そうなると搭乗者達の生存率は飛躍的に低 くなる。なぜなら全くわからない未開の場所で、人間にあった生存可能惑星が見つかる可能性は限りなくゼロに近い。 その事実は宇宙開拓者であった自分達がよく知っていた。 「いえ、オズマ隊長、その点は大丈夫です。あちら側には一定以上の生存可能惑星があるみたいなんです。時間の変動の正確な係数も接近した 時収集したデータからランカさんのフォールドウェーブを解析してわかったものですし・・・・・・彼らはまだ、僕たちが迎えにくるのを待ってくれていま す」 自分達にとっては一週間も経っていない事柄だが、あちらにとっては三カ月以上。これだけ長いと捜索は打ち切られたと判断するはずだが、まだ生 きて待っていてくれているという事実はオズマを含め調査隊隊員達を今まで以上に奮い立せた。 しかし――――― 「しかし現時点で二つの障害があります。ゲートを開くと溜まったエネルギーがフォールド空間に溢れ出して光球という形に発現、これが今回のよ うに第一の障害となります。もっともこちらに関してはクラン大尉のようにバルキリーレベルの重量子ビームの直撃か金属性実体弾で消滅させたり 反らすことができるでしょう。しかし第二の障害である断層シールドは現用の戦術反応弾頭、DE(ディメンション・イーター)弾頭を含めても突破は 不可能です」
「ちょっと待て、それじゃアイツらを助けに行けないってのか!?」 希望が出てきたと思った矢先、絶望に落とされたことで調査隊の一人が感情も露に机を叩く。 「安心してくだい。手はあります」 「なん・・・・・・だと?」 ルカは不敵な笑みを浮かべるとそれを告げた。 「僕らには断層シールドを素≠ナ突破できるバジュラ達がいるじゃないですか」 調査隊員達は 「「その手があったか!」」 と喜ぶと、上げたり下げたりしてもったいぶったルカにオズマを筆頭とした者共からスリーパーホールドなどの手厚い歓迎≠ェ施された。 「・・・・・・バカどもが」 「そうですよね。これだから殿方は―――――ってお姉様!」 「私も混ぜろぉ〜!」 楽しそうに両腕を振り回しながら闘争の渦の中に突貫して行った大学の先輩で小隊長である青髪の少女にネネは (これはこれでありかも・・・・・・) と思ったそうな。 (*) 新・統合軍とバジュラクイーンを交えた協議の結果、先遣隊として個体番号1024号。通称「アイくん」、そしてブレラ中尉搭乗のVF-27『ルシファー』 が選定された。 アイくんが選ばれた主な理由としては第1に、成虫のバジュラ(赤色をした大きなバジュラ)であること。 そして幼生の時にランカに育てられたため、個体としての知能が高く、クイーンからの誘導を切られても完全な自立行動が可能だったことなどが挙 げられる。 またVF-27が行けるカラクリについては、これもまたルカの隠し球である。 実は例の断層シールドには通常兵器の単体による攻撃は通用しないが、強力な歌エネルギーのサウンドウェーブと強力な重量子ビームか、重量 子反応砲の相乗効果で突破可能という結論が出ていたのだ。 そこで特定のサブスペースを探し出せる高性能センサーと重量子反応砲によって唯一あちらから能動的に帰還できるマクロス・クォーターを送り込 むことを考えたのだが、ここで問題となったのは向こうとこちら側との時差であった。 最も近い時の時差でも10倍強。つまり仮にマクロス・クォーターが突入までに10秒かかってしまうと、先に突入した先端部分と後部との時差は100秒 となって船体自体が引き裂かれる。 そこでSMS技術班は、フォールド空間内で外界と次元的位相を持って断絶させるフォールドのワープバブルをヒントに時差から内部空間を守る時空 シールド(ディストーション・シールド)を考案した。 しかしそのための改修は数時間かかることが予想され、あちら側の時間軸で三〜四カ月ほど掛かってしまう。 かと言って先遣隊であるアイくんには行った先での生活支援などできないことが多い。また、何かを随伴させようにも彼の突入方法はクォーターの ようなシールドに守られた物でなく、重量子ビームで空いた穴に爪を掛けて無理やり広げ、飛び込むという荒い方法だ。 そこでその荒業時に耐え、かつアルト達の支援に対応できるであろうVF-27に白羽の矢が立ったのだった。 そして先のブリーフィングの六時間後には先遣隊の突入が真近に迫っていた。
(*) 惑星『フロンティア』の宙域ではアイくんを見送る艦艇が集っていた。 みなアイくんの所属部隊である民間軍事プロバイダ「惑星フロンティア防衛隊」の異種属混成艦隊だ。 嫌気から統合軍を飛び出した人間とゼントラーディの艦艇に加え、バジュラの空母級が実験的に一隻配備されている。規模は小さいが、半年前に さらに広域を担当する新・統合軍艦隊を突破したはぐれゼントラーディの五個艦隊を水際で一日以上足止めするという輝かしい戦歴を誇っており、 その有用性を高く知らしめた現在SMS最大のライバル会社だ。(なおこの事件は統合軍艦隊到着前にシェリルとランカを数万光年先からからスー パーフォールドして輸送したSMSの介入で収束しており、新・統合軍の威厳をさらに貶め、彼らのいいとこなしの代名詞のような事件となっていた) 防衛隊主力バルキリーであるVF-171の編隊がアイくんをフォールドゲート前で待つSMSのマクロスクォーターまで送り届けると、その深緑の翼を 翻しながら惑星軌道上の母艦へと戻っていく。 『帰ってこいよ!戦友!』 フォールド通信波に乗ってやってきたそのうちの一機のバルキリーパイロットの声に、最近覚えた片腕の指を一本だけ立てるという行為を返した。 人間流に言うとサムズアップと言うそうで、パイロット達がやっていたのを真似てみたのだ。初めてこれをやった時にはフォールド翻訳機以外の意 思疎通ができたと喜んでくれた。 それ以来険悪だった自分達と仲良くしてくれたように思う。おかげで人間とは自分の真似をされると嬉しいらしいことは我々全体で♀w習済みだ。 彼は今回の見送りなど破格の待遇は努力が認められて自分達、バジュラという生物もまた、人間やゼントラーディ逹にとっても戦友であり友人であ ると認められたからだと思っていた。 『これより未知の空間に旅立つ、アイ君に敬礼!』 アイくんにはまだ階級というものがよくわからなかったがこの部隊のバジュラ・クイーン≠ニ認識する声がフォールド通信波で放たれる。 元フロンティア新・統合軍防衛艦隊司令、今の防衛隊の艦隊司令であるバックフライトの声だったそれは光を凌駕するスピードで各艦に波及して、 一斉に敬礼を放たせた。もちろんバジュラ空母級の仲間達も学習を生かして敬礼の真似事をしていた。 アイくんは一度礼を言うように宙返りしてフォールドゲートへと突入していき、シェリル座乗のクォーターも続いていった。 (*) フォールド空間内サブスペース 予定座標 今も補強などの改装作業の進むクォーターのブリッジのステージでは、シェリルがステージ衣装に身を包み、たたずんでいた。 また飛行甲板には出現するだろう光球に対して射撃を行うマイクローン化したクラン大尉の搭乗するVF-25Gや多数のデストロイド(人型陸戦兵器) がずらりと配置され、壮観な光景を出現させていた。 そして───── 「全艦、準備完了」 ディスプレイに浮かび上がった合図にキャシーの声が花を添える。その知らせに艦の長たるワイルダーは凛と号令を発した。 「野郎ども!我らの姫君に必ず希望≠送り届けるぞ!作戦開始!!」 ワイルダーの号令一下アイくんの体内フォールド機関を活性化。予定座標にフォールドゲートを開いた。 同時に飛行甲板の部隊が一斉に射撃を開始し、出現した光球の撹乱を開始した。 それに呼応するようにシェリルはマイクを握りしめると歌い始めた。
〈ここからは『射手座午後9時Don't be late』をBGMにすることを推奨します〉 吹き荒れる磁気嵐に対抗するため重力制御装置が全力稼働でクォーターの姿勢を制御する。 その人工重力によって重力が歪められるが、撃ち出される弾体は距離に反比例して直進していく。 そして甲板が一瞬火山みたいに光ったかと思えば、巨大な砲弾とミサイルが飛翔して行った。 VB-6『ケーニッヒ・モンスター』の32センチレールカノンから撃ち出されたDE(ディメンション・イーター)弾四発と、両腕に装備された六門の重対艦ミ サイルだ。 四発の砲弾はフォールドゲートに熱いキス。真っ黒な異空間を作り出して、シールドを削った。 一方ミサイルに釣られた腹ペコ光球は反応弾頭に匹敵する爆発に呑まれ霧消した。 「第2ステージ開始!」 キャシーの指令にアイくんは背中に背負う甲羅から伸びた巨大な針にエネルギーを集束し始め、無防備になった彼に迫る光球をVF-27自慢の高 機動で動き回り、展開した弾幕がその行く手を阻む。しかしそれのみではとても間に合わない。 「持ってけぇぇぇ!」 クランは叫びと共にVF-25Gの装備するSSL-9B ドラグノフ・アンチ・マテリアル・ライフルから55ミリ超高初速MDE弾を撃ち出し、流星のようにアイく んに迫った光球のことごとくを散らし、撃墜する。 また同時に砲弾とサウンドウエーブによって不安定になった次元断層シールドにアイくんの、ゼントラーディの2000メートル級戦艦をも一撃で沈め る重量子ビームが放たれた。 着弾、そして大爆発。 だがそれを持ってしても穿たれた穴は1メートルに満たなかった。 しかもそれすら徐々に閉じていく。 「飛んでけぇ!」 クランの叫びが聞こえたのかアイくんは尾を振って突進。その穴に自らの針と手を突き入れ、力任せにこじ開けようとする。 シェリルは渾身の歌で、クラン達は弾幕でアイくんを援護する。 全員思いが届いたのかシールドのヒビが広がっていく。そして───── パリンッ! ガラスの割れるような音と共にシールドを無力化。VFー27がその間隙を縫ってゲートに突入。アイくんは一度こちらを返り見るようにして突入して いった。 「ゲート消失!ブレラ中尉からの通信リンク待機中・・・・・・」 クォーターのブリッジにて通信・火器管制を務めるラム・ホアが耳にインカムを押し当てながら待つ。 VF-27に積んだ特殊なフォールド通信機ですぐさま通信リンクを確立、向こうの状況を送ってもらう手筈になっていたのだ。しかしその視線の先の時 差修正タイムラインが一時間、ついには一日を超えても通信リンクが確立されることはなかった・・・・・・ to be continue ・・・・・・ 以上です。ありがとうございました。
241 :
一尉 :2011/11/12(土) 21:46:49.76 ID:N7c2Kjab
支援
語るスレで洋画クロスのネタがいっぱい出たよ
マクロスの人乙
>>243 いつのまにか容量やばかったか
乙
, --─−- く{ ,.r:_;:-‐…‐ゝ‐ … −- . . r─- ..、 , .:.´: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : `マニス: :. /. :/: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : `マム :. /. :/ : ; .: .: .: ; .: .:.l : : : : : : : : : : : : : : : :マ}]: : /⌒ヾ . : /.: : : :./.: .: .:l : : : : : : :.l : : : : : : : : : リ: : ′:/: : : : :/. : .: : |l: : : : :./:.:| .: :.|l : : : : : : l: : ,′:,′: : : /:. :.‐-:.:|: : /: :/.:-{─:八.: .:l: : :.:.|: i: i.: :.l: : : : :/:,ィ===x杉' : /: :,斗ャ==ミx人: : :.l: |:. l.: :.| l: : : i:,イ{ {:::::刈/ 厶イ {::::::刈 /八: : :|: |:. | {: | |: : : |从 乂こリ Vこり / :/_): : |: |::.、 {八j |: l: .{ ハ 厶イ:{八: :}八::::::.. {八}:.∧: :丶 ' .イ:.:.| |:::::}从 : \:::.. /: : ://∧: :个:。. ‘ ’ ..イ\:.:.| |::::::::八: : : \:::. . /: : ://,ム{ヽ:.∨〈 >.. . ..<{〉 _\:!:::::::{:::::\: : : \::.. /: : ://:::{∧} ト、.:Vニニニ}{ニニニ{_ 厂入::::::|::::::::::\ : : :\:.、 . ___ ,/: : ://::::/ 〉{ }: :∨ }{ ¨¨7 }::::::::|::::::::::::::::\: : : \\ { { ` ̄ ̄二ニ/ / V}: : :| }{ / \ }`ー一'´ ̄ ̄ ̄7フ}: : :\\ { { ◯ /_/ 〉.:.:.:| }{. 〈 \ ◯ /∧}: : : : :\\
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