リリカルなのはクロスSSその118

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1名無しさん@お腹いっぱい。
ここはリリカルなのはのクロスオーバーSSスレです。
型月作品関連のクロスは同じ板の、ガンダムSEEDシリーズ関係のクロスは新シャア板の専用スレにお願いします。
オリネタ、エロパロはエロパロ板の専用スレの方でお願いします。
このスレはsage進行です。
【メル欄にsageと入れてください】
荒らし、煽り等はスルーしてください。
本スレが雑談OKになりました。ただし投稿中などはNG。
次スレは>>975を踏んだ方、もしくは475kbyteを超えたのを確認した方が立ててください。

前スレ
リリカルなのはクロスSSその117
ttp://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1307702997/

規制されていたり、投下途中でさるさんを食らってしまった場合はこちらに
本スレに書き込めない職人のための代理投稿依頼スレ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/anime/6053/1231340513/


まとめサイト
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/

避難所
ttp://jbbs.livedoor.jp/anime/6053/

NanohaWiki
ttp://nanoha.julynet.jp/

R&Rの【リリカルなのはデータwiki】
ttp://www31.atwiki.jp/nanoha_data/


2名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/22(金) 09:19:32.63 ID:0pN0cZZF
【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
  ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html
・Jane Style(フリーソフト)
  ttp://janestyle.s11.xrea.com/
・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認して二重予約などの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・鬱展開、グロテスク、政治ネタ等と言った要素が含まれる場合、一声だけでも良いので
 軽く注意を呼びかけをすると望ましいです(強制ではありません)
・長編で一部のみに上記の要素が含まれる場合、その話の時にネタバレにならない程度に
 注意書きをすると良いでしょう。(上記と同様に推奨ではありません)
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
 前の作品投下終了から30分以上が目安です。

(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
 →参考URL>ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3168.html

【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は、まとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
 不満があっても本スレで叩かない事。スレが荒れる上に他の人の迷惑になります。
・不満を言いたい場合は、「本音で語るスレ」でお願いします(まとめWikiから行けます)
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。

【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
 議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
 皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
 著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
 いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
 追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/22(金) 11:39:39.54 ID:nimAS0+q
若奥様アナルセックス
4 忍法帖【Lv=13,xxxPT】 :2011/07/23(土) 01:32:54.32 ID:cdnRsz8i
>>1
スレ立て乙!
5名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/23(土) 15:03:35.81 ID:rJ/kr8rO
なんでどのSSにも月島さんが出てないんだ?
フェイトが助かったのも闇の書の闇を倒せたのもヴィヴィオを助けられたのもフッケバインを撃退できたのも
全部月島さんのおかげなのに…
6名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/25(月) 22:28:51.14 ID:/6HYIlQH
>>5
出典作品とアバウトなキャラ解説をヨロシコ
7名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 00:28:55.49 ID:9C1Dx9+a
BLEACHの新シリーズの敵
斬った相手の記憶の中に自分の存在を刷り込む能力を持つ
実際にはその場にいなかったどころか当時知り合ってすらいなかったのに、
月島に斬られた仲間が過去を振り返って「あれもこれも月島さんのおかげ」とか言い出したりする
8名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 06:50:29.66 ID:Q7EPHCG9
最低系チートオリ主が欲しがりそうな能力だ……
9名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 07:22:19.00 ID:KtIFfc2q
なるほどな
>>5は月島さんに斬られちまったわけか
10名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 17:44:03.38 ID:QzsVcNTB
>>6
「あったはずの過去を分岐させて本来ありえないルートを作る」んで、BLEACHでの展開風にいうなら

なのは「なんでみんなオリ主のハーレムに加わってるの!?」

フェイト「なにを言ってるのなのは?オリ主さんが母さんを説得してくれてアリシアも生き返らせてくれたんだよ。なのはもそこにいたじゃない」
はやて「闇の書の呪いを教えてくれて、管理局とヴォルケンズの誤解を解いてくれたうえに、再生システムのバグも直してくれてリインフォースを救ってくれたのはオリ主さんや。なのはちゃんも一緒におったはずやで」

って感じになる
11名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 19:13:11.29 ID:j0FuYL+b
なのはがある朝起きるとみんなの輪の中に見知らぬ人物が
そして皆がその見知らぬ人物を褒め称え賞賛している
なのはがその人物について皆に聞くと>>10みたいな言葉が返ってきて恐怖して混乱するんだな
そしてその夜寝付けぬなのはが夜空を見ていると背後から物音が
振り返るとそこには刀をもった月島さんの姿が!

なんかホラーになってきた
12名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 19:32:29.97 ID:Y5T4YyD0
>>10
ヴィヴィオ「パパ〜」

こんな感じになるのか
13名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 19:34:20.18 ID:W/nj4ZHa
月島さんが人気者過ぎて生きていくのがつらい

月島んの能力がエグいのは、記憶の中の登場人物が操られてるや洗脳されてるじゃなくて
最初から「何年もオリ主と一緒に経験を重ねた結果、なのはよりもオリ主との絆が強くなっている」状況で登場するからなんだよな
だから>>10の状況でなのはがオリ主と口論した場合、フェイトやはやてはオリ主に味方してなのはを諭すだろうし、
なのはが強硬手段に訴えれば、より絆の強いオリ主側に味方して自分の意志でなのはと戦う
14名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 19:53:59.52 ID:NiCyaZL3
月島さん人気すぎw
15名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 19:59:01.71 ID:9C1Dx9+a
記憶改変の発動タイミングが任意ってのも厄介だよな
事前に海鳴中の全ての住人に仕込んでおいて、機を見て一気に解放
自分以外の全てが一夜にしてオリ主の味方になるとか、ホラーにも程がある
16名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 22:34:52.21 ID:33VS6RVf
>>15
成恵の世界で自分以外の家族が見知らぬ妹を受け入れてて「???」になってたな。
あれは怪しい宇宙科学の力があったから偽の妹を一時的に受け入れてはいたけど。

「怪しい魔法で加わった偽の仲間は問答無用でぶっ飛ばすの」

よし! 4号ちゃんクロスで誰か書こうよー。資料ないけどw
17名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/26(火) 23:37:06.79 ID:zvRJdjDO
ストリートファイター系とクロッスさせて
「スカリエッティ(サイコパワーで洗脳済み)の計画は
 ベガの新たな代替ボディを創造する目的だった」とか
「時空管理局が実は米軍と極秘関係にあって
 ガイルがミッドチルダに派遣される」とか
ネタだけはいっぱいあるのに文章能力の練度が我ながら低いので作れんぜよ
18魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/07/27(水) 00:13:43.50 ID:Yj3w0v5I
お久しぶりです、なのはVSスタスク戦が大体目処がついたので明日の昼ごろに
UPします。
時間がちょっと掛かりますが、よろしくお願いいたします。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 00:29:34.31 ID:C69+cUi/
おおお!三部作完結に合わせて来ましたな!
もちろんダークサイドムーンも見に行きますよ!
20名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 07:03:46.45 ID:voZnWlRt
>>13
ヴィヴィオ「オリ主さん全然怒ってないって!なのはママ!」
フェイト「そうだよ!」
シグナム「良かったな高町。オリ主が優しくて」
ヴィータ「ちゃんと今のうちに謝っとけよ!」
クロノ「そうだ。それはちゃんと謝った方がいいな」
はやて「謝っときや、なのはちゃん」
全員「謝りなよ」

全員『謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ謝れ』

スカ「・・・大丈夫だ高町くん。彼らはオリ主を仲間だと思っているが君の事も仲間だと思っている筈だ・・・急に襲ってきたりはしない」





こんな展開になる・・・だと・・・
21名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 08:17:10.42 ID:ZgBMx6tb
>>10-15
書き手の腕さえ良ければ、面白くなりそうなんだがなぁ…。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 10:31:20.09 ID:4MLRcJ6h
要するに月野うさぎ家に元からいた家族として入り込んだちびうさみたいなもんか。
古い? 悪かったな。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 10:40:44.60 ID:OwdqD8NE
ちびうさはかわいいから許す
でも月島さんは不気味でしかない

>>21
でも当の原作の評判は……
24名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 10:43:50.95 ID:RzUw/Rvf
チンプイでも似た話があったな。
未来の大人になった主人公が、人々の記憶やらその他写真とか色んなの操作して
現代の主人公の遠くに出かけていた姉という事にして一日だけ一緒に暮らすみたいな。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 11:42:40.64 ID:SN6ASuF8
都市伝説スレと聞いて
26魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/07/27(水) 12:13:35.07 ID:Yj3w0v5I
お待たせいたしました。短いですがなのはVSスタースクリーム編をUP致します。
27魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/07/27(水) 12:18:41.23 ID:Yj3w0v5I
―――10

「なのはちゃん…!」
はやてはそう一言呟いたきり言葉を失う。
「ザフィーラさん! 急いで下がって下さい!!」
なのはの言葉に、ザフィーラは頷いて後方へと飛び去る。
はやては急速に遠ざかって行くなのはの姿を、心配そうにいつまでも見つめていた。

「そうはさせるかよ!」
スタースクリームはそう言って二人目掛けてミサイルを一発放つ。
“アクセルシューター、ドライブイグニッション!”
ミサイルが発射されるのと同時になのはが持つ長杖型のデバイス、レイジングハート
先端部にあるコアに文字が表示される。
「シュート!」
なのはがそう叫ぶと同時にピンクの魔力光が一筋放たれ、はやて達を狙うスタース
クリームのミサイルに命中する。
バラバラになって落ちていくミサイルを見たスタースクリームは、はやてからなのはに
顔を向けて感心したような口調で言う。
「ほぉ? ちったぁやるようだな」
次いでスタースクリームは右手を上げて、機銃の狙いをなのはに定める。
「目標変更だ、まずはてめぇから血祭りに上げてやる!」
その言葉と共にスタースクリームの銃口が火を噴き、なのは目掛けて機銃弾の雨が
降り注ぐ。
同時になのはもアクセルシューターを連射してスタースクリームの機銃弾をことごとく
撃ち落とす。
「しゃらくせえ!」
スタースクリームは毒づくと、ミサイルを乱射しながらなのはへ目掛けて一直線に突っ
込んで行く。
なのははスタースクリームと等速で後退しながら、ミサイルをアクセルシューターで次々
と撃ち落とす。
“ファントム・スマッシャー”
レイジングハートに再び文字が浮かび上がる。
「シュー―――」
なのはがより強力な攻撃魔法を放とうとした時、スタースクリームはアフターバーナーを
かけて一気に距離を詰めて来る。
「―――ッ!」
反射的に左横へ回避動作を取らなかったら、なのはは金属の巨体とまともにぶつかって
弾き飛ばされていただろう。
28魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/07/27(水) 12:24:00.61 ID:Yj3w0v5I
「ちっ!」
スタースクリームが舌打ちしながら急停止するのと同時に、なのはの胸元のリボンが
切れて落ちる。
振り向いたスタースクリームの両手には短刀と鞘があった。
スタースクリームが鞘とナイフの柄を合わせ、それぞれ左右逆方向に回すと金属が擦り
合う音と共に薙刀へと変わる。
スタースクリームはそれを片手で持ち上げて振り回しながら、再び超スピードでなのは
へと斬りかかる。
なのはは間一髪の差でそれを回避するが、そこへすかさず反対側の刃が襲い掛かる、
それに対してなのははプロテクションを斜め横に展開して、力点をずらして刃を受け流す。
縦横無尽なスタースクリームの薙刀さばきに、なのはは回避だけで手一杯の状況に追い
込まれた。
このままでは真っ二つに切り裂かれるのは、誰の目にも明らかだ。
「どうしたぁ、もう終わりかぁ!?」
雄たけびを上げながら薙刀を振るっていたスタースクリームの右腕が突然動かなくなる。
「!?」
いきなりの事に戸惑ったスタースクリームが手元を見ると、薙刀を握っている右手にミッド
式魔方陣から伸びる鎖の形をしたバインドが絡みついていた。
捕縛盾(バインディングシールド)で動きが封じられている隙に、なのはは後方へ最大限
の速度で飛ぶ。
スタースクリームもすぐ我に返り、戦闘機に変形して捕縛盾を引き千切ってその後を追う。
“マスター!”
レイジングハートが言葉を掛けると、急速に距離を縮めるスタースクリームを見詰めながら
頷いて答える。
「うん、速いね。詠唱している余裕はないみたい。レイジングハート!」
なのはの指示を受けて、レイジングハートはなのは共同で開発したオリジナルシステムを
起動させる。
“了解、TTS(Thinking Tuning System=思考同調機能)を起動させます”
2921:2011/07/27(水) 12:30:28.79 ID:ZgBMx6tb
>>23
>当の原作の評判
なのはシリーズのこと?
それともBLEACHのこと?

BLEACHのことであれば、大きなコマでページ稼ぎばっかりやって、話がぜんぜん進まないからねぇ…。
話が終わる前に連載が終わっちまうぞ、アホ!

…まあそれはそれとして。
月島さん的なキャラは、主人公としては動かしにくいだろうな…上手くやった例は1つしか知らない。
30魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/07/27(水) 12:30:47.80 ID:Yj3w0v5I
なのはがデバイスを構えたのを見たスタースクリームが、嘲りの笑みを浮かべながら
再びアフターバーナーをかけて一気に詰め寄ろうとしたその時。
“エクセリオンバスター”
レイジングハートのコア表面に文字が浮かぶと同時に金色の大きい魔力光が放たれ、
スタースクリームの顔面に直撃する。
「がっ…!」
思わぬ衝撃にスタースクリームがのけ反り返ると、なのははそこへ間髪入れず立て続け
に撃ち込む。
“バスター! バスター! バスター! バスター!”
次々と撃ち込まれる攻撃魔法に、スタースクリームは路上に叩き落とされる。
なのはは攻撃を中止し、カートリッジを排挾するレイジングハートを構えたまま様子を見る。
埃と煙が収まると、路上には引き潰された蛙のように、仰向けで無様にぶっ倒れている
スタースクリームの姿があった。
「野郎ォ…!」
スタースクリームは起き上がると、なのはを憎々しげに睨み付けながら飛び上がろうとする。
その時、スタースクリームの右横に空間モニターが一つ開いた。
「スタースクリーム、人間一人に何を手こずっておる?」
メガトロンからの突然の通信に、スタースクリームは狼狽を露わに答える。
「こ、これはメガトロン様。相手が思いの外手強いもので…。ですがご安心を、すぐに
潰してご覧に入れます」
「最初の目標をあっさりと逃してか?」
「あ…い・いや、それは、その…」
なのはは、スタースクリームが自分を放って誰と通信を交わしている様子を、怪訝な
表情で見ていた。
一方、そんななのはにお構いなく、メガトロンは言葉に詰まったスタースクリームを
からかうように言った。
「もういい、その人間は儂が直々に相手をしてやろう」
「お・お待ちくださいメガトロン様! こんな人間程度でお出ましになる必要は―――」
そう言いかけたスタースクリームの言葉をメガトロンは苛立たしげに遮る。
「いいから下がれスタースクリーム! これは命令だ!」
そう言われたスタースクリームは、肩を落として答える。
「わ、分かりました…」
モニターが切られると、スタースクリームは苛立ち紛れに路面を蹴飛ばして舗装を
辺り一面に撒き散らす。
「畜生! あと少しってところで邪魔しやがって!!」
ひとしきり悪態をつくと、なのはを睨みつけながら言う。
「命拾いしたな人間! だが、メガトロン相手じゃ塵一つも残らんかもな!」
そして戦闘機に変形すると、捨て台詞を残して飛び去って行った。
「あばよ! せいぜい五体満足で葬式を出してもらえるよう、お祈りでもしとくんだな!!」
31魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/07/27(水) 12:38:42.96 ID:Yj3w0v5I
とりあえず、本日はここまでです。
今回スタースクリームがなのはに使用した武器は、「ダークサイド・ムーン」玩具版で
新たに追加された新装備“メックテック・ウェポン”の“ツインナルブレード”です。
一方で、なのはが使用したTTS(思考同調機能)は、デバイスと術者の頭脳に直通の
オンラインを設ける事で、詠唱を必要とする強力な攻撃魔法を瞬時に放つ事を可能と
した、作者独自の設定です。
このような感じで互いに戦術を駆使した戦い方が表現できればな…と思っております。
次は破壊大帝メガトロンの登場です、お楽しみに!
32名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 13:16:10.14 ID:BaidKbwo
33名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/27(水) 16:14:14.20 ID:OdHtXxsk
GJ!
次回対にメガ様がくるー!
34名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/29(金) 02:18:42.26 ID:zo9VnQ9Q
GJ
うわ……大帝自らエースを潰しに来るのかいw
35名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/30(土) 09:38:27.99 ID:49fhXTCU
月島さん…
36名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/30(土) 22:06:50.95 ID:okGXzwd/
メトロイドシリーズとのクロスを見てみたいの。
特になのは達にとっては鬱になりがちなプライム3でな…
37名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/30(土) 22:24:16.50 ID:J9+EMiiW
>>35
きらりんレボリューション?
機動六課のアイドル活動とな?
38名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/31(日) 14:36:24.52 ID:JoPMC1sV
破壊大帝、遂に出撃……
不謹慎だがメガトロン様を倒しちゃったら高町を恨む(ぉ
39Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:03:54.53 ID:mV1KTjK0
どうもお久でした
あやうくトリップを忘れるところでしたがなんとか思い出したので
21時半ごろから少々いきます
40リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:31:56.40 ID:mV1KTjK0
 湾岸線西行き、有明ジャンクションを通過して300km/hを維持しながら、中央車線から13号地コーナーへ切り込む。
 通過速度は280km/h。一般車がいなければラインどり次第ではもう数km/h上乗せできる。
 その数km/hの差が、最高速バトルでは大きな意味を持つ。

 911のギア比は、5速をレブリミットの7500rpmまで回しきってちょうど320km/h出るようにファイナルギアを組んでいる。
 それ以上の速度はバトルでは意味がなく、5速での待ちから一瞬のチャンスを見てダッシュする
スピードレンジにあたる250km/h→300km/hの加速をよくするほうが、一般車をすり抜けながらの
バトルでは重要になる。そういう考え方で最高速度を設定していた。

 湾岸を下りきり、再び第3京浜へ向かう。



 リインがスカリエッティのガレージに到着したとき、ちょうど入れ替わりにテスタが出ていくところだった。
 フェイトと一緒に見えた人影は、先日Kレコードで見た自動車評論家の男だろうか。

「…………めいっぱいだったろう?あれで」

 テスタを見送り、スカリエッティは唐突に言った。

 その言葉の意味は、リインも分かる。

「……次のステップへ」

「OK、車を入れたまえ」

 いったん閉めかけていたシャッターを再び上げる。
 明かりがともされた作業場は、きれいに片づけられて新しい仕事に備えられていた。
41リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:35:18.98 ID:mV1KTjK0
 リヤのエンジンハッチを開けた911を、腕組みしてスカリエッティは見下ろす。
 その隣で、リインは静かに立っている。

 海鳴大学病院でも、口数は少なくマシーンのようにオペをこなす冷静な人物像で通っているリインだが、
スカリエッティにはかすかな変化が見て取れたようだった。

「まずタービンを一つ上げる……今入れてるタービンはエンジンの様子を見るためのものだ。
エンジンの状態次第で、回せる大きさにも差が出てくる。ターボはあくまでも補機であり
パワーを発揮するのは最終的にはエンジンの実力だ。そのエンジンの持つ能力以上のパワーは
ターボをつけても何をしても引き出せない」

「可能な限り状態の良い個体を用意したはずですが」

「ワルくない。元々の状態もわるくはなかったが、君が乗り始めてからはいいアタリがつき始めている。
キカイに負担をかけない走りができる……重要なことだよ」

「…………」

 横に平たい形をした水平対向6気筒エンジンは、両脇にタービンを抱え、そこから最短距離のパイピングで
インタークーラーに接続されている。交差するように冷却コア内を通過した空気はサージタンクを経て
インテークマニホールドへ流れ込み、これも左右独立のスロットルバルブを経てシリンダーへ導かれる。
 配管長を短くすることは、圧力損失を最小限に抑え、アクセルレスポンスの向上に効果がある。
 大きなタービンはそれだけ回り始めるのに時間がかかり、アクセルを踏んでもすぐに過給がかからない、
いわゆるターボラグが発生する。
 だが、この911は設定ブースト1.2kg/cm2にもかかわらずまるでスーパーチャージャーエンジンのように
鋭く回転が立ち上がる。湾岸線での全開走行で、わずかのもたつきもなく途切れない加速が可能だ。
42リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:39:21.92 ID:mV1KTjK0
「パワーとしてはシングルターボのほうが有利かと思いますが」

 エンジンルームから視線をスカリエッティに移してリインが言う。911のエンジンルーム配置では
タービンはちょうど後輪の斜め後ろあたりに位置し、スペース的には少々苦しい配置だ。

「まあ確かに大容量シングルならこのエンジンでも1000馬力に手は届く。997の3.8リッターエンジンに
載せ換えればさらに上を狙える。だがまあ、前にも言ったが踏みっぱなしというワケには
いかないだろう。250km/hオーバーで一瞬アクセルを抜く、そこから再び踏んだ時、
ストンと落ちたブーストがどれだけ早く立ち上がるか……パワーとレスポンスをバランスさせるなら
私は迷わずツインターボを選ぶね」

「トップエンドを100馬力削っても……」

 リインが思い浮かべていたのは、2か月前のフェイトとの走りだった。
 クロノのスープラとなのはのZも一緒だったが、あのテスタの加速力は圧倒的だった。
 250km/hオーバーからのあの加速、もし5速へきっちりつなげていれば、300km/h前後から
再びパワーバンドに乗る計算になる。911ではエンジンが吹け切り、もう加速できない
上限の速度に至っても、テスタはさらにそこから加速できるスペックを持っていた。

「まあしょうがないかね。あんなのを見せつけられては」

 テスタのパワーは、911のナビシートでスカリエッティも見ていたはずだ。
 ギアボックスを砕いてしまうほどの強烈なパワーを、あの車は発揮していた。
43リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:43:55.09 ID:mV1KTjK0
 3.6リッターの排気量を持つ、911のM64エンジンは鈍い銀色で光っている。

「今更に驚いているんですヨ……自分がこれほど嫉妬する人間だったということに」

 スカリエッティは背を屈めるようにして笑いをこらえた。

「おいおい、そりゃ何に対してだね。君のポルシェは控えたのに、あのお嬢さんのテスタを
フルパワーにしたことかね?」

「こうしてあなたのつくった車に乗るとわかるんです。あなたほど機械に誠実なチューナーはいないと」

 吹き出した口元を手の甲で拭い、スカリエッティは再び白衣のポケットに手を突っ込む。

「君が今までみてもらっていた車屋はそんなにダメだったのかね」

「いえ。プロらしい仕事をキチンとしてくれました。ただ、ある時から進む方向が違っただけです」

 18歳で免許を取り、首都高を走り始めてから、ずっと世話になっていたガレージだった。
 気が付けばもう10年以上、深夜の走りを続けている。夜通し、疲れを知らないエネルギーにあふれていた
仲間たちは、いつしか一人消え、二人消え、そして今は自分ひとりだけになってしまった。

 公道での暴走行為など、どんな言葉を並べても認められるものではない。

 もう十分だろう。
 はやてを悲しませないで。

 それでも、自分はもはや降りることはできない。取りつかれている。

「──今君が考えているのと同じ理由だよ。誰だって自分の仕事には誠実でいたい。
だが、時としてその誠実さが足を引っ張る──機械に誠実に接しようとすればするほど、
その矛盾から目をそらせなくなる」

 車をイジる。それは、凶器をつくる仕事だ。
44リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:47:58.30 ID:mV1KTjK0
 午前4時。クロノは首都高から中央高速へ乗り、横田基地家族住宅へ向かっていた。
 走り込みは今週で切り上げ、最後のセッティングを行う。

 このスープラに対するマリーの仕事もこれで最後だ。

 東の空が、仄かに青み始めている。

「その車、まだ持っていたんですか」

 ガレージの中には、銀色のシボレーコルベットが置かれていた。
 クライドが生きていた頃、グレアムが乗っていた車だ。

 明け方の淡い空を背に自分を見たとき、グレアムが一瞬思い出したような表情をしたのを
クロノは見て取った。

「ああ。もっとも走らせたりはしていないがね。週に一度、その辺をゆっくり動かすだけだ」

「何馬力くらいでしたっけ」

「770馬力は出ていたはずだ。もっともシャーシがパワーについてこれなくてね、
クライドのスープラには最後まで勝てなかったよ」

 ロータス社によって開発された7リッターの排気量を持つV型8気筒OHVエンジンは、イートン製
スーパーチャージャーによって過給され、1.6トンの重量級ボディを獰猛に加速させる。
 そんなモンスターマシンも、今は余生を過ごすようにそっと眠りについている。

 早朝の基地は、発着する航空機もなく嘘のように静まり返っている。クロノが入ってきたときも、
ゲートに立っていた若い歩哨はカフェインガムを何箱も開けて、眠そうにしていた。

「もうすっかり乗りこなせているようだね。アリアたちも君にはもうかなわないと言っていたよ」

「いえ、めいっぱい集中してようやくやっと、ってところですヨ。もうほんとに、底の知れない速さです。
──でも、最後まで行けるって思えるんです。このスープラなら」

 懐かしさ。ずっと求めていた場所にたどり着けた、その感慨。
 父は自分を、見ていてくれるだろうか。このスープラを、最高のステージで走らせる。

 悪魔のZ。ブラックバード。もうすぐ、クロノは彼らと同じ舞台へ上がる。
45Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/01(月) 21:51:13.38 ID:mV1KTjK0
今日はここまでです

とりあえずなのフェイクロリインの4人のバトルが当面の山場ってとこで
その後第二部的な感じでスバルやティアナたちの話にもっていけたらなーと構想してます

ではー
46名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/02(火) 21:46:41.50 ID:2plE0z+u
乙です!!
47名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/02(火) 22:02:06.07 ID:69IiSCVC
乙です
この雰囲気好きだ
48Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/03(水) 23:23:21.18 ID:FTmkzqmk
どうも
ちょっと思いついてしまったものを23時45分ごろから投下します
49EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/03(水) 23:48:26.82 ID:FTmkzqmk
 その恒星系は、誰も近寄らない次元の辺境にあった。

 外縁天体がまばらに漂い、永遠に凍り付いている。
 生命の痕跡もみつからず、無人探査機による調査も遅れていた。

 外宇宙探査型ガジェットドローン・シリアルナンバー00511は、イオンエンジンを噴射して
中心恒星への重力井戸を降り始めていった。



 カレドヴルフ・テクニクス社は、時空管理局へ新型武装端末の回航を申請し、承認された。

 航行目的は、新型試作デバイスの実地試験。
 さらに、選抜執務官の実地訓練をも兼ねる──という名目で、管理局からも何人かの上級士官が船に乗り組んでいた。

 彼らは、ひそかにささやかれていた噂が事実であったと再認識していた。

 執務官たちの中から、さらに極秘裏に引き抜かれる、“執行官(エグゼキューター)”と呼ばれる者たちがいる。

 表向きの活動にはけして発表のできない、各次元世界に対する密使。

「──見えてきたぞ、『T』。あれが今回の目標<ターゲット>だ」

 この船の中では、誰も本名で呼ばれない。自分の名前を認識しているのは自分だけだ。
 『T』と呼ばれた、今回の試験に臨む執務官は、輸送船の窓から惑星の姿を見た。

 その惑星は、鈍色に輝く不思議な星だった。反射光の加減のせいか、完全な球体ではなくやや歪んでいるように見える。
 そしてさらに、いびつなジャガイモのような形をした小さな衛星を2つ、従えている。

 惑星の夜の部分に入り、輸送船は姿勢を後ろ向きに変えてからエンジンをふかして減速する。
 大気は青く光り、雲が出ているのが見える。大気の主成分は水と窒素であり、平均気温はセ氏7度。
 地殻には炭素を含む有機化合物が存在し、液体の水をたたえた海もある。

 しかし、この星には生命はいない。
50EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/03(水) 23:52:42.07 ID:FTmkzqmk
 無限書庫と時空管理局本局の間には太い魔力回線が敷かれ、情報をやり取りするための転送魔法が常に流れている。
 ある廃棄された観測指定世界の調査報告書が、無限書庫より送信された。

 この世界は探査機ガジェットドローンによる調査でも知的生命体および高度技術文明が発見できず、
観測指定世界から無人世界への分類変更候補に挙げられていた。
 資源などもめぼしいものがなく、次元世界各国も特に興味を示していなかった。

 そんな中、第3管理世界ヴァイゼンに本社を置く兵器メーカー、カレドヴルフ社が当該世界での
新型兵器実験のための無人惑星占有使用を管理局に申請し、それは承認された。

 派遣された輸送船団は、一見、滞りなく業務をこなしているように見えた。

 ミッドチルダ国立天文台の調査により、探査機ガジェットドローン#00511が収集したデータから、
興味深い事実が浮かび上がってきた。
 “TUBOY”──そう名付けられた無人惑星は、『かつて』生命が存在していた痕跡がある。
 現在は草木も生えない不毛の惑星だが、おそらく数十万年以上前は、豊かな自然があふれる緑の惑星だったというのだ。
 現在のTUBOYは、宇宙空間から見下ろしても地上に降りても、一面灰色の、珪砂と酸化鉄に覆われた冷たい星だ。
 しかし、ごくごく狭い範囲、ほんの数キロメートルの範囲の中に、人工物と思しき地形が見つかった。
整理されて並んだ細い帯状の段差は、何らかの建造物がそこにあったことを示唆していた。
 国立天文台は、単なる鉱脈の露頭と発表した。
 もっともその発表を興味を持って調べていた人間はほとんどいなかった。

 管理局、特に次元航行艦隊の船乗りたちの間では、ある噂がささやかれていた。

 あの惑星『TUBOY』には、かつて知的生命が暮らしていた。

 それはよくあるオカルト的な陰謀論としての性格と同時に、恐るべき一つの可能性を示していた。
51EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/03(水) 23:56:29.74 ID:FTmkzqmk
 百個以上をかぞえる次元世界をまたにかけての治安維持活動に従事する、時空管理局。
 各次元世界による共同運営が行われているが、彼ら次元世界に住む人々にとって、あるひとつの一般常識があった。

 それは、ひとつの次元世界に、人間が住む惑星、もしくは植民惑星を開拓した高度技術文明の発祥たる惑星は、
ひとつの次元世界に1個しかないということだ。
 通常人類は出身惑星や他の次元世界の惑星のみを行き来し、外宇宙航行能力を持っている人類も、
ついぞ同じ次元世界に属する他の有人惑星を発見してはいない。
 いつしか、それは次元世界に住む人々にとってごく当たり前の事実になっていた。
 宇宙はそれぞれ平等に与えられている。
 次元世界同士の交流ができていて、それでとくに問題なく、宇宙は観測できている。

 惑星TUBOYが属する世界には、仮番号として、初めて送り込まれた外宇宙探査機の機体番号にちなんだ
第511観測指定世界という名前が付けられていた。

 もちろん、511番目に発見された世界という意味ではない。
 この大きく飛ばされた番号にはあるひとつの危惧があった。
 無限書庫司書長はそれを察し、最高評議会からの要請に応じて無人探査機ガジェットドローン#00511のまとめた
調査報告書を次元世界連合政府へ提出した。

 銀河系の辺境、差し渡し7000光年の相転移空間が何重にも張り巡らされ、光学望遠鏡や電波望遠鏡による
直接観測を妨害している。ここを通る電磁波はかく乱され、くもりガラスのように向こう側の見えない、
いわゆる暗黒星雲として認識されていた。
52EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/04(木) 00:00:04.28 ID:FTmkzqmk
 通常、あたらしい次元世界が見つかると、まず観測指定世界に分類される。
 さらに現地住民の存在が確定できれば管理外世界となる。魔法技術の存在が判明し、次元世界連合への加入を行えば、
管理世界となり自由な国交がもたれる。

 第511観測指定世界、それは、あくまでも観測上の存在だった。
 相転移空間によって、あたかも別の次元世界にあるかのように見せかけられていた惑星TUBOYが存在するのは、
ほかならぬ第1管理世界──ミッドチルダが属する世界だった。

 そして、無人探査機ガジェットドローン#00511が観測したデータには、惑星TUBOYにかつて高度技術文明が栄えていた痕跡が含まれていた。

 これが事実とするならば、有史以来初めて、ひとつの次元世界に起源を異にする複数の人類が発生していた事例となる。

 しかし、無人探査機ガジェットドローン#00511は、もうひとつのデータを報告していた。
 この惑星には、自律駆動の戦闘兵器群の残骸が数多く残されており、それは惑星全体を覆っていた。
光学観測を行った場合にアルベドが極端に高くなるのは人工物、とくに金属機械が存在することを示す。
 そして、かつてこの惑星に住んでいた人々は、この自律兵器群によって絶滅した可能性が高い。
 通常の岩石惑星よりもはるかに大量の重元素、放射性元素が観測され、それは大規模な宙間戦闘が行われたことを示唆する。

 この惑星をまわる2個の衛星は、かつてこの惑星に住んでいた人類が、暴走か故障かして製造者に牙をむいた
その自律兵器群を破壊するために送り込みながらも撃破された、2機の人型機動メカのなれのはてだった。
 破壊された残骸が、年月を経て自律兵器群によって鹵獲され、軌道上であたかも苗床のように、小惑星ほどの大きさへ成長した。

 無限書庫司書長は、ひとつの仮説を口にした。

 もしこの惑星が、かつて滅びたもうひとつの人類の母星であったなら……我々ミッドチルダ人は、『2回目の人類』なのかもしれない。
53EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/04(木) 00:03:36.91 ID:JUwH8r4p
 カレドヴルフ社が開発したあたらしい武装端末は、SPT(スタンドアロン・サイコ・トラッカー)と呼ばれた。
 前世代にあたり時空管理局実戦部隊へ試験的に配備されていたAEC武装をより進化させ、
魔法の術式を完全にソフトウェア化して制御する。装備者は魔力の供給と火器操作だけを行えばよく、
いわば魔力駆動のパワードスーツのようなものだ。もちろん、SPTと既存のデバイスの併用は問題なく行える。
 SPTの設計思想として、『スタンドアロン』という名前が示す通り、外界から完全に独立した
自己完結型の機械であることがあげられる。
 魔力素の濃淡やAMFなどの妨害装置の影響を可能な限り減らし、高火力の運用を容易にする。

 そして、カレドヴルフ社はこの技術をある次元世界から入手した。

 ほかならぬその次元世界は、第511観測指定世界。惑星TUBOYをまわる2個の衛星に探査機を飛ばし、
衛星の核となっていた機動メカの化石から、その構造や使用されていた技術を採取した。
 SPTという名前も、かろうじて残っていたその機体のメモリーから入手した。
 『スペース・パワード・トレーサー』と呼ばれていたその有人機動兵器は、機種名として固有の名前を持っていた。

 “エグゼクター”。

 管理局が目論んでいる選抜執務官とは、このSPTの運用をおこなう人間を集める目的がある。

 原型となった機動メカの名称の綴りには、あえて一文字が抜かれていた。
 カレドヴルフ社の提案により、管理局は選抜執務官にあたらしい通名を与えた。

 “EXECUTOR”──『エグゼキューター(執行官)』と呼ばれる彼らは、常に影の存在であり、
そして次元世界の死刑執行人となる。

 いちはやく惑星TUBOYの秘密に気付いたカレドヴルフ社の動きを、もはや時空管理局は追認するより他の道はなかった。
54EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/04(木) 00:06:28.58 ID:JUwH8r4p
 この次元世界に暮らす人々は、超古代先史文明を共通の祖先として生まれた。
 惑星TUBOYは、いうなればその卵の抜け殻。
 かつて滅びた人類が、その痕跡を各地に残している。惑星TUBOYを支配している自律兵器群は、
何者によって創られそして破壊されたのか。そして、彼らを生みそして倒した者たちは何処へ消えたのか。
 人類は、いや、次元世界全体は、この世界の成り立ちに対する認識を改めなくてはならない。

 認識、それは各地より発見されるロストロギアにおいても同様である。

 従来の次元世界連合の法運用に基づけば、TUBOYもまた巨大な、惑星サイズのロストロギアとみなせるだろう。
 しかし、ここに管理局の正規部隊を派遣することはできない。
 この星に眠る真実は、次元世界の人々に流布するにはあまりにも危険すぎる。

 TUBOYの地表には、過去の戦闘で撃墜されたと思われる巨大宇宙戦艦が発見されている。
 ミッドチルダの記憶に新しい、ゆりかご浮上事件──
 未だ生きているこのTUBOYの自律兵器群たちが、次元世界とそこに居る人類の存在を認知するのは時間の問題だ。

 そして、TUBOYが存在するとされる第511観測指定世界は、その実態が第1管理世界の辺境宙域であるという事実。
 時空管理局、そして次元世界連合政府はこの事実を隠蔽しなくてはならない。
 眠れる殺戮機械たちを、興味本位につついて起こそうとする企業を押しとどめ、
すべてを秘密裏に深宇宙に沈めなくてはならない。

 次元世界の認識が揺らぐ危険。
 それは孤独な戦いだ。

 実地試験の名目で派遣される執務官たちは、現地に到着してからその事実を知らされる。
 帰り道は用意されていない。

 知ってしまった事実を消すことはできない。
 静かに、人知れず、はるか宇宙の片隅で、人間は孤独である。
55Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/04(木) 00:13:12.57 ID:JUwH8r4p
名前ありキャラが出てないぞーとかいって
キャラが居るよーなゲームでもなかったです

えー
クロス先は「EXECTOR」というロボアクションゲーム エグゼクターと読みます
ハードはプレイステーション 開発はアークシステムワークス 1995年の作品です
アークシステムワークスといえば北斗の拳やギルティギアシリーズが有名でしょうか

このゲーム、私が初めて買ったPSソフトだったんですがなんとメモリーカード非対応
パスワードでコンチニューをします
操作性がひどかったり自機のモーションが変だったりしましたが音楽は結構いかす

全5面のステージがありますが4面のボスがギガントシュラー・・・もとい巨大なハンマーを使ってくる
というとこでもぅ・・・でした

ミッドナイトもしこしこ書き中ですー
ではー
56名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/04(木) 01:50:50.67 ID:rPrA2tQi
こういう鋼鉄の匂いがするのっていいよね
なのはさんとか欠片もでてないがw
57名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/10(水) 16:22:55.22 ID:cyH7CSk4
(・∀・ )ノ新作マダー?
58名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/11(木) 01:46:17.24 ID:DsxU/grn
寂れてんなぁ
59名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/11(木) 09:17:18.07 ID:pJs4GdKo
そろそろ、クロスSSを終わらせる?
60名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/11(木) 11:45:33.71 ID:MYIiwreT
そろそろ真女神転生とクロスさせようか
デビルサマナー系にするか人修羅にするか
61名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/11(木) 12:17:28.26 ID:287UVR5A
>>59
連載続けてる人間が居る以上、まだ早いと思うが。
62名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/11(木) 12:34:05.87 ID:0I7lKU2R
>>60
デジタルデビルサーガはあったぞ
63名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 00:18:46.29 ID:W61BW/sa
もうデジタル・デビル物語じゃないのか・・・
64名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 07:52:09.90 ID:vAnPoPqU
LAW←→CHAOS属性のシステムがあるのって何作めだっけ
リリカル勢は全員LIGHT-LAWだろうな
65名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/12(金) 21:29:46.25 ID:bO+mx2Xc
よくてN−Lだろw
66名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/13(土) 03:02:35.48 ID:7eAaO04A
あの属性ってかなり思想が極端でないと変わらないから(生き方それだけレベルでないと)
なのは勢位じゃあニュートラル−ニュートラルじゃないか?
67FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/08/13(土) 12:30:28.79 ID:Epp01p9/
>>55さん、乙です!エグゼクターはBGMとか、かっこいいですよね!
お久しぶりです。
前回の投下から週間以上空いてしまって申し訳ありません。
内容は薄いと思いますが、読んでくれたら幸いです。
68FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/08/13(土) 12:35:47.48 ID:Epp01p9/
「これからそう遠くないうちに、私たちの世界とあなた方の世界の、戦争がはじまります。」
 八神はやてが聞いた報告の中では、これが最もインパクトがあるものだっただろう。
 それも当然だ。突然に、戦争が始まる、などと真剣な表情で言われようものなら、真剣に言っているのかそれともドッキリなのか、区別がつかないところだ。
 だがしかし、アイク達によるとこの男は「司祭」だという。
 聖職者ともあろうものがここで嘘を言って上層部を混乱させるとは考えにくいし、何よりそんなことをする理由が見当たらないそんなことをする理由が見当たらない。
 論理的な思考により、答えを導きだしたはやてが次の質問を浴びせる。

「遠くないうち、って大体いつごろの話や?」
「よくは分かりません。ですが両方の世界の戦力を考えると、どちらか一方が滅ぼされてもおかしくはないでしょう。
 あなた方の世界では科学が発展していますが、こちらは純粋な魔法が発展しています。二つがぶつかれば、お互いの文明が後退するほどの傷跡を残すと思いますが。」

 セフェランは率直に自分の意見を述べる。そこに、ニケが割って入った。
「セフェラン、そんな話は聞いていないぞ。私たちは女神に、アイクの手助けをして来い、としか言われたなかったように思えるが。」
 その通りだ。女神は、簡単にいえばそれくらいしか言っていない。
 セフェランはペレアスに目を向け、話しかける。
「ペレアス君。君はもうすでに分かっているのではありませんか?」
「は、はい。僕…私たちの世界で、あなた方の世界のものだと思われる兵器が私たちに奇襲を行いました。ですが、この世界でも同じようなものがあなた方を襲っていた。
 つまり、第三者が二つの世界を渡って兵器をけしかけたことになります。そうすると、二つの疑問が生まれます。」

「疑問…?」
 はやては顎に手を当てて考える。数瞬後にセネリオが答えを導き出した。
「何故、両方の世界に同じ兵器を送り込んだのか、何故二つの世界を戦わせようとするのか…ですね。」
「その通りです。本来、戦争はお互いに敵意を抱くことで兵士の士気は上がる。第三者が二つの世界を行き来できるなら、お互いの戦力を保持することも容易なはず。
 なのに、僕…私たちの戦力を投入している様子がない。それに、二つの世界を戦わせてその人にとって何の利益があるのかもわからない。
 …ただ、戦争を起こしたいだけならここまでまどろっこしいことをしなくても、どちらかの世界で大きな事件を起こして、それを上層部に異世界の住民がやったとリークすれば済む話です。
 恐らく、そうしなかったのは…アイク達という「イレギュラー」がいたからだと思います。」
「恐らくはアイク達がここに来たことによって、異世界を移動する術が明るみに出てしまえば自分たちにたどり着かれると考えたのでしょう。そして、アイクはこの戦争に深くかかわっているからこそ、私たちが派遣されたとも言えます。」
 セフェランが厳かに告げる。
アイクは一人でぼんやりとその話を聞いていた。興味がないわけではない。
 ただ、この一点だけが気になっていた。それは、今のアイクにとっても重要な意味を持つのだから。
「いつの時代も。何処の世界でも、俺達は戦わないといけない…命をかけて。俺は、戦争の理由なんていらない。ただ…」
 そこでいったん言葉を切る。
「ただ、俺達のしていることは正しいのか?本当にそれをするべきなのか?…それが知りたい。」

第17章「信念」
69FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/08/13(土) 12:37:48.13 ID:Epp01p9/
 アイクは、こう言いたいのだ。
―その戦争で戦うことは、正しいことなのか?―

「概要を聞く限り、この世界は俺達の世界と戦うことになる。なら、俺たちはどうすればいい?この世界に加担して、仲間を殺すのか?それとも、俺達の世界に加担してこいつらを殺すのか?」
「!!」
 その言葉を聞いて、はやてが立ちあがる。
 よもや、座ったまま死を待つというのもおかしいのだが。
「そんなことはさせへん!!もし、私たちを殺すというのなら…あなたたちをここで、殺す。」
 ペンダント形のデバイスをいつでも起動できるように、手を当てる。
 そんなはやてを、別にどうともせず、むしろそれが正しいという表情でアイクは見つめる。
「安心しろ。俺は皆を殺すつもりはない。同様に、俺の仲間も殺す気はない。…あくまでも、「俺は」だが。」
 そう言って、セフェラン達に目を向ける。
 まるで、お前たちは違うのだろう、とでも言うように。

「違います。私たちはこの戦争が起きる前に止めに来たんです。」
 セフェランが一歩前に出る。
 その横に、アイクが並ぶ。
「どうやって止めるつもりだ?」
「とりあえずは、先ほどの機械を分析するのがよさそうですね。多少は証拠がつかめます。」
「それが無理だったら?」
「いえ、それは無いでしょう。あれが私たちを襲ったものと同じならば、だれが作ったのか等を突き止めることができるはずです。」
「…理想論だな。誰が作っていようと、そいつを止める方法は無いんだろ?」

 二人で議論が展開され、ようとした時だった。
「一つ聞きたいんやけど、異世界を移動できるだけでイレギュラー扱いになるのはおかしいと思わへんか?だって、現にあんたらは向こうの世界から来たんやろ?」

 はやてが最も疑問に思っていたことを聞く。
 それもそのはず、セフェラン達は「ここにいる」。
 それでは、彼らもイレギュラーになりうる。そう言いたいのだ。
 そんな疑問を、セフェランはあっさり打ち消す。
「私たちは女神の力でここへ来ました。帰る方法は、女神の力を使うしかありません。しかし、アイク達は違います。彼等は女神とは全く関係の無い方法でこの世界へ来。違いますか?」
 その質問に、いいえ、とセネリオが短く返す。

「つまり、女神の力以外でこちらへ来た彼らには帰り道がこの世界に残されているのです。その証拠は、アイク達がこちらに来た装置にあるはずですよ。」

 その言葉にアイクとセネリオが固まる。
「どういうことだ!?」
「言ったとおりですよ。恐らくはその装置に帰るための技術、または方法が乗っているはずです。一方通行でそれを作る人は愚か者しかいませんから。」
70FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/08/13(土) 12:41:48.45 ID:Epp01p9/
「とりあえずは、アイク達は訓練に戻って。あんたらも、訓練に参加しといてや。」
 そう言って、はやてはその場を締めくくった。
 血気盛んなソーンバルケとニケはアイク達とともに模擬戦へ参加をする。
 その一方で、ペレアスとセフェランは木陰でフェイト達と話し合っていた。
「…魔法と言っても、私たちのは科学を伴った魔法。理論とか、そう言ったものが無いと出来ないんだ。」
「私たちの魔法は、まだ解明されてはいません。ただ、魔道の才は生まれつきなので魔法を使える人物は限られてくるんですよ。それに、「精霊の護符」と呼ばれる印を刻み、魔力を上げる方法もあります。…寿命が縮まりますが。」
 そう言い、セフェランはペレアスを見る。
 彼は、精霊と契約して魔力を引き上げた。ただ、その代償は大きかった。
「…この世界には、「印付き」と呼ばれる人種がいます。彼等はベオクからもラグズからも避けられ、ひどい生活を余儀なくされました。その印に、精霊の護符が酷似しているのです。」
 ペレアスはその印を彼女たちに見せた。
 同時に、フェイト達はセネリオにある印も見る。
「本当だ…」
「私たちの中では、ラグズとベオクが交わることは禁忌とされています。そうして生まれたのが…」

 その先は言わなくても分かった。今の彼女たちには、印付きがどんな扱いを受けてきたかはわからないが、それはセネリオの普段の態度を見れば明らかだった。
 つまり、彼の冷たさはそのつらい過去からきているのだ。
「…」
 そうしてそのままフェイト達は何も言わず、その模擬戦が終わるまで口を開こうとはしなかった。



「は〜い、それじゃ模擬戦終了。各自、体を休めておいてね。」
「「「「はい!!」」」」
 元気な声とともに訓練終了の合図がかかる。
 そんな時にやってきたのは、ある少女…いや、幼女だった。
「ママ〜!!アイク〜!!」
 とてとてと駆け寄ってきて、アイクの頭の上に乗っかった。
 以前、アイクがヴィヴィオをあやすために肩車をしたら妙にそれを気に入ってしまい、持ちあげなくても自分でよじ登ることを覚えてしまったのだ。
「…」

 だが、これもたまったものではない。
子供とは言え、人間。ストレートに言えば、重いのだ。
さらに、髪の毛を引っ張られたりと好き放題されるのである。
その状態から脱しようと、ヴィヴィオを隣にいたティアナの頭の上に乗せた。
ティアナもティアナで、その状態を維持するのがきついと見たのか、さらに隣にいたスバルにヴィヴィオを預ける。
そうして、スバルからエリオへ、キャロへ、なのはへ、フェイトへ、セネリオへと回っていく。
セネリオの頭の上に来た時、居心地が悪いと思ったのか単に移りたかったのかは分からないが、器用にアイクの頭の上へと戻っと言った。

 …沈黙が訪れる。
 アイクとセネリオ以外(もちろんセフェラン達も)笑いをこらえているのだ。
 腕を組んで考え事をするアイク。
 試しにもう一度、ヴィヴィオをティアナに渡してみたら同じ軌道でヴィヴィオが返ってきた。
「…」
 再び沈黙が訪れた。しかし、今回の沈黙は行動ではなく言葉で破られた。
「勘弁、してくれ……」

 その言葉に、その場にいた全員が笑いを堪えきれなくなった。
71FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/08/13(土) 12:44:06.97 ID:Epp01p9/
「まだだ…まだ強くなれる。」
 アイクはラグネルを握り締め、呟く。
 誰かと戦い、競い、比べることに生きがいを感じるアイクにとってはある種の儀式の様なものだった。
 そして、その言葉を発した瞬間、己の中に眠る罪悪に気付いた。

「敵として立ちはだかるならば容赦はしない…か。」
 それはつまり。
「俺自身、弱いやつと戦って退屈をしたくない…ということだったのか。」
 それは、本能が告げていたこと。
 それを今、しっかりと理解した。

 だが、それでも。殺したくないという気持ちがあったからであることには変わりはない。
 だからこそ今までも、これからもその信念を貫くと誓った。
 誰にでもなく、何にでもなく。
 
 それが、己の義務だと気付いたから。
「何を犠牲にしても、俺の守りたいものを守る。その結果、人を殺すことになっても、それは俺が償うべき罪。」
 アイクは少しづつ、罪を償う道が開けてきたような気がした。






「スカリエッティ、何のようだ。」
 漆黒の鎧を纏った騎士が男に話しかけた。
「管理局の奴らがまた向こうの世界から増援を呼んだようだ。」
「…知っている。」
「知っているのか、なら話は早い。」
 ゼルギウスの答えに満足したのか、ゆっくりと振り返る。
「我々の「計画」に彼らを利用させてもらうよ。一応、君も向こうの世界の人間だったから、断りを入れておこうとでも思っていね。」
「…利用するかされるかは彼ら次第だ。」
「確かにね。でも、本当なら、こんな計画を練る事態には至りたくはなかった。
 そこまで言って、スカリエッティの表情が険しく厳しいものに変わった。
 
「私が、彼らを助けてしまったことが唯一の、そして何よりの失敗だったのかもね…」


To be continued…….
72FE ◆GNWCFdnKG2zU :2011/08/13(土) 12:46:07.51 ID:Epp01p9/
以上です。
こうしてみると、4レスしかないという事実…
おまけに、表現がまだまだ稚拙でした。
それでは、また不定期更新になりますが、今後ともよろしくお願いいたします。
73Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:06:14.08 ID:kLhK9MJs
どうもです
11時半からミッドナイトいきますー
74リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:30:41.93 ID:kLhK9MJs
 東京都内の、やや郊外へ入ったバイパス道路のそばにそのチューニングショップはあった。
 シャッターを開けた工場フロアには何台ものスポーツカーが所狭しと並び、おおぜいのメカニックたちが
あわただしく作業をしている。ボンネットを開けてエンジンルームの整備をしているもの、
リフトに載せられてアンダーフロアの処理をされているもの。
 そんなチューニングカーたちのボディには、“RGO”のロゴマークをデザインされたステッカーが
張られている。

 RGOスピードファクトリー、日本チューニングカー業界の最古参にして最大手だ。
 それは単なる改造屋の領域にとどまらず、専門メーカー顔負けの自社開発パーツを数多く
リリースするほどだ。主力車種はGT-RとRX-7。特にGT-RはデビューしたばかりのR35型GT-Rのチューニングに、
業界の先陣を切って取り組んでいる。

 そんな華やかなチューニングカーたちの群れに、今日は一台の高級車が静かに混じっていた。

 メルセデス・ベンツSL600。城島洸一の愛車だ。もっとも、こういった車を乗っていれば
対外的なアピールになるという意味から、普段のアシとしてこの車種を選んでいるところもある。
 城島本人は、RX-7、とくにFC3S型RX-7に特別な思い入れを持っていた。

「よぉー城島、どうしたよ突然訪ねてきて」

「いやぁはは、ここのところ調子が上がってきたって感じで」

「さすがにもうヤンチャできる元気残ってねーだろ、すっかりテレビ人だもんナ」

「ええまあ……元気をもらえることがあったんです。知ってますか、あのS30──“悪魔のZ”を」

 軽口を叩いていた大田も、その言葉を聞いて懐かしむような顔になる。

「あれか……まだ走ってたんだな。やっぱり首都高か?」
75リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:33:51.59 ID:kLhK9MJs
「ええ。相変わらずの速さで。ひょんな縁でスカさんとも会いましてね」

 今度は目を細めて破顔する。このRGOの大田や、YM SPEEDの山本和彦、トミナガスピードの富永公、
彼らチューニングカーブームの立役者だった名チューナーたちと、スカリエッティは同期の人間だった。
 表舞台に出ることはなかったが、ストリートレースというアンダーグラウンドの世界で、
確かに認め合うつながりがあった。

「アイツ、生きてやがったのか。しぶてえ野郎だな」

 そうは言いながらも、大田はやんちゃ仲間の悪友とつるむように笑った。

「今オレの番組に出てる歌手のコいますよね、フェイトちゃんて……彼女の車をチューンしたんですよ。
今どき珍しいくらい車に入れ込む若者だって、スカさんも感心してましたね」

「おーあれか、ナンか最近リカコが珍しくCDなんか買ってくるからなんだと思ったら、あのコの歌なんだよな、
雑誌とかには出してねーらしーが、知れるとこには知れてるみたいだナ、結構な車好きて」

「今、悪魔のZを走らせてるのはそのフェイトちゃんの知り合いで──オレも一度、会いに行きました」

 大田は黙って煙草に火を点け、一息深く吹かした。

「いつんなっても変わらねえものって、やっぱりあるんだよな。昔は、もうチューニングカーなんてのは
いつまでも古い車種をいじくりまわすだけで先細っていくんじゃねえかと思ってたもんだが──
──新しい車でも、イジっていきたい、イジっていける部分はあるんだってな。それを見つけていく、
それを見つけようとする気持ちを持てる──あのZはそんなコトを教えてくれる気がするよ」

「アマさんとこも最近また結構やりはじめてますよね」

 『アマさん』の愛称で呼ばれるRE雨宮代表の雨宮氏は、最近のトレンドであるドレスアップ系の
チューニングカーも数多く制作している。
76リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:38:11.50 ID:kLhK9MJs
 現在、ロータリーエンジンチューナーたちを湧き立たせているのは、発表されたばかりの
次期RX-7……開発コード『RX-9』だ。この世代ではハイブリッドカーの時流に乗り、後輪に強力な
電気モーターが搭載される。主機関となるロータリーエンジンはこれまでのRE-13系を継承するか、
あるいは新規開発のRE-16X系のどちらかになるといわれている。

「REってのはとにかく低速トルクがダメダメなわけよ、そこで電気モーターだ。モーターってのは
ガソリンエンジンと違って回転数が低ければ低いほどトルクが上がる特性がある──」

「REのデメリットを打ち消すにはまさにうってつけの組み合わせですね」

「いや最近マジで思うのよ、10年後のチューニングカーってのはモーターをカリカリにイジってんじゃねーかってな(笑)」

「面白いですよね(笑)」

 RE雨宮、カーアクション映画にも車両を積極的に提供しているヴェイルサイドに続き、
RGOでもRX-9のコンセプトカーを制作していた。
 もちろん実車がまだ世に出ていないので、RX-8をベースにオリジナルのカウリングを架装した車だ。
 エンジンはFD3SのRE-13B型をベースにターボを取り除いてNAペリフェラルポート化し、
インナーサイレンサーを装着しなければ公道走行が不可能なほどの爆音を張り上げる。
 走り屋たちの間では、フロントバンパー中央に補助灯を配したデザインから、“ケルベロス”の二つ名で呼ばれていた。

「なー城島、いつか聞かせてくれたお前の持論があったよな、スポーツカーは20年ごとに大きく世代交代するって」

「ええ、1969年のS30Zと1989年のR32GT-Rですね」

「まさにお前の予言どおりに2007年R35GT-Rが出たわけだ。久々に日産の本気を見たって感じだぜ、
山本も富永ももう大はしゃぎよ、さっそくデモ車つくってバリバリ走らせてんだぜ」

「デュアルクラッチミッションでトランスアクスル、ドライサンプエンジンでしたよね。
オレのもうひとつの持論も見事に吹っ飛ばしてくれました」

「第3世代GT-Rがどこまでいくか、そしてオレたちチューナーもどこまでそれを追えるか──
少しでも新しい若い世代がやってくれればいいな」
77リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:43:20.29 ID:kLhK9MJs
 どんなに一世を風靡した車であっても時の流れには勝てない。20年もたてばどうしようもなく
くたびれてしまい、修復するのにも一苦労する。そうなれば、もはや現役の走りはできない。
 新しい、走りの車は、どんなに少数派でも確実に求める層がいる。

「そういえば吉井のやつがまた一台引っ張ってきてシコシコやってるぜ、見に行くか?」

「ええまあ、機会があれば。ちなみに車種は?」

「ルーチェロータリーターボだ、12Aターボを積んでる1982年式だ。オレらが現役だった頃は
マジでシビれたのヨ、何せREに初めてターボがついたんだからな。
その頃のサバンナRX-7はNAしかなかったからな、速攻エンジン載せ換えるぞって解体屋巡りしたもんヨ」

 サバンナも含め、当時のマツダが展開していたRXシリーズの流れをくむ車だった。
 RX-2カペラ、RX-3サバンナ、RX-4ルーチェ、そしてRX-5コスモ。
 これらのRE車たちで熟成されたロータリーエンジンは、FC3S型RX-7でひとつの完成をみる。

 往年の名車たち。今発売されている新車も、時がたてばそう呼ばれる時代がやってくる。
 そんな時の流れの中に、あの車は自分だけの流れを持っている。



 悪魔のZは、L28エンジンのサージタンクをさらに拡大し、キャブレター全体を覆うように造りかえた上で
再びその心臓を収めた。
 フロートやジェット、スロットルバタフライの調整をするためのメンテナンスホールをタンク脇に設け、
整備性も考慮した。このサージタンクはユーノが自らの手でアルミ叩き出しで成形して制作した。
 エンジンを降ろして色々と検討した結果、ブースト圧を確実にエンジンへ押し込むことを追求することに決めた。
 キャブターボの場合、いちばん難しいのは燃料制御だ。キャブレターはもともと、吸入空気の負圧を
利用してガソリンを吸い出す仕組みのため、吸気圧が変動すると燃料もうまく供給されなくなり、
パワーが出ないだけでなくエンジントラブルのもとになる。
 そのため、タービンによって加圧された環境下にキャブレターをそっくり収納してしまうことで、
常に変動するブースト圧にキャブレターが確実に追従できるようにした。
 燃料供給の最適化により、パワーもレスポンスも大きな向上が期待できる。

 だが、燃料供給を最適化するということは、これまで安全マージン側に振られていたセッティングが、
最適な領域へ移されたことにより、危険域に近づくことをも意味する。
78リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:48:06.75 ID:kLhK9MJs
 ユーノは今回のチューンにあたり、A/F計(空燃比計)をキャブレター直後のサージタンク内に取り付けた。
 キャブレター式の6気筒エンジンの場合、2気筒あたり1個のキャブレターがつくので、コクピット内には
新たに3個のメーターが取り付けられることになる。

「A/F計で実際に見てみたところだけど、今までのセッティングはかなり燃調を濃くされていた。
これを高回転域で絞っていくことで、ドロップ感は軽減されるしパワーも上がる……ただ、燃調を絞るということは
そくブローの危険が増えるよ」

「うん、わかってる。走ってると感じてたよ、力が押さえつけられてたって」

 燃調が濃ければ点火しにくくなり、回転も鈍くなる。薄ければ、自己着火などを起こしてブローに至る危険がある。
 きめ細かで正確な制御ができるインジェクションと違い、キャブレターではどうしても大まかな
セッティングしかできない。いくらキャブ側でセッティングしても、アクセル操作のわずかなミスで
燃料噴射が狂い、ブローさせてしまう危険がある。

 だがそういったリスクと引き換えに、強力無比なパワーを発揮する。

 悪魔のZが、速さを取り戻していく。



 神奈川湾岸線、浮島料金所を過ぎてトンネルを抜けるころには、Zはすでに300km/hを超えて加速している。
 今までは一般車がいないタイミングを狙って踏んでもトンネルを抜けるまでには280km/h程度までしか
速度をのせられなかったが、今は明らかに加速力が上がっている。
 9500回転まで引っ張ってもパワーが落ちない。
 パワーバンドを考慮すると、純粋な加速競争ならシフトアップは早めに行う方が効率がいいが、
たとえばバトルなどですり抜けをする場合は引っ張っていった方がシフトチェンジのロスを含めるといい。
 5速をめいっぱい踏み切れば、おそらく350km/hに達するだろう。

 それでも、そのスピードに追い付いてくる車がいる。
79リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:51:29.48 ID:kLhK9MJs
「速い……900馬力ってのは本当みたいだね」

 JZA80スープラ。
 相対速度からすると、おそらく280km/h前後で巡航してきた。Zをパスして前に出たスープラをなのはは追う。
 後ろから見ると、動きが相当ダイレクトになっている。ボディが強化され、パワーをしっかり
路面に伝えられるようになっている。

「FRでもこんなにトラクションかかるんだ……!」

 同じタイミングで踏んでも、スープラがより早く加速体勢に移れる。Zはアクセルをラフに開けると
すぐにリアが滑ってしまい、パワーが逃げてしまう。リアに荷重を移し、タイヤのグリップの範囲内で
少しずつアクセルを開けていかないと、車体が前に進まない。

 大黒ジャンクションから横羽線へ渡り、環状へ戻る。
 加速、減速、旋回、スープラの性能はあらゆる面でZを上回っている。いや、現代のスポーツカーで
Zに負ける性能の車のほうが少ないだろう。どんなにチューンされていてもZは40年前の車だ。

 横羽線の高速コーナーを、やや車間をあけてZとスープラは突き抜ける。
 スープラの動きがよく見えるように、そして、次第に車間を狭めていく。

 そして環状へ、浜崎橋ジャンクションを左へ折れ、環状外回りへ向かう。

 連続するS字コーナーを駆け抜け、霞が関トンネルへ飛び込む。スープラの車体は路面に張り付いたように、
スムーズに旋回していく。Zはリアを大きく振り出し、ドリフトアングルをとって姿勢を安定させる。
 踏んでいって挙動を制御する。なのははZのパワーを、腰の奥に沁みるように感じていた。

「クロノさんのスープラ……あれを作った人は、このZを知っている……?」

 加速する時、沈むリアタイヤとボディの動きが、ワンテンポおいて連動しているのが見える。
 シャーシはサブフレームを組み込んで、ボディパネルは応力を受けないようにしている。
 Zと同じだ。ガッチリと路面に食いつくシャーシは、モノコックボディでは出せないダイレクトさを持っている。
 いわゆるレーシングカーの動き──路面の1センチの凹凸にさえ反応し、それでいて限界域での粘りもある。

 それはあたかも、ドライバーを鍛えようと対話してくるかのようだ。
 車が、話しかけてくる。声が、聞こえる。
80リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:54:13.22 ID:kLhK9MJs
 湾岸線を下り、Zとスープラは大黒パーキングへ入った。
 クロノは今夜は一人で乗っていた。
 斜めに向かい合ったスペースに停め、車から降りる。

「そういえば、家どこでしたっけ?いつも帰るのはこっちからなんですか」

「横須賀だ。母親が基地勤めでね、実家……というか、日本での住まいは軍人住宅があるんだ」

「あ、そうだったんですか。私は海鳴なんで、ってことは帰り道は途中まで一緒ですね」

 首都高から海鳴へ帰る場合は湾岸線をそのまま直進する。海鳴で降りずにさらに道なりに進むと、
横須賀まで行き着く。

「こういう車に乗ってると、ご家族に心配されませんか?」

「君こそ」

 クロノはそう言いかけて、ふと、なのはの顔を思索した。

「ああ、そうか──うちの店に来た娘たちが君のことを話していたんだ」

 なのはは他の嬢たちがホストクラブに遊びに行こうと誘ってもあまり付き合いはしていなかった。
 仕事が終わればすぐに家に帰って、走りに出るかZをいじるかしていたい。そっちのほうがずっと楽しい。
 年頃の少女たちのように、休日は街へ遊びに、ということもない。
 アリサなどからすればなんてもったいない、と思われることだが、なのはは今のところは、
Zで走ること以上の楽しみはない状態だった。

「結構背伸びした子供だったんですね」

「そう言われてみると、そうかもしれないな」

「自分で言っておいてなんですけど、私は結構そういうとこあったと思うんです。うちは両親共働きで、
きょうだいも歳離れてたんで、その辺で自分が幼いっていう実感が無かったんですね。高校入ったら
もう一人暮らしするって、でバイトして生活費稼いで」

 恭也も士郎も、自分の仕事柄、なのはにあまり気をつかわせないようにしていた。
 なのはもそれを察していたから、自立できるようになったら早く独り立ちしよう、という気持ちがあった。
81リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 11:57:49.73 ID:kLhK9MJs
 早朝の風が、海から静かに吹き寄せている。
 秋も深まり、風は涼しくなってきた。
 今まで、自分はどこを目指して走ってきたのか。これから先、自分はどこを目指して走っていくのか。

 なのはは黙ってZに乗り込み、エンジンをかけて発進させた。
 バックミラーにクロノとスープラの姿が小さくなっていく。

 走り始めてから出会った者たち。ユーノ、フェイト、アルフ、ブラックバード。
 そして、はやてとも再会した。ヴィータやシャマル、八神家の者たち。
 悪魔のZをつくりあげた、ジェイル・スカリエッティ。
 幼いころ、テレビの向こうで活躍していた、城島洸一。

 彼らと出会って、自分の人生はどのような方向へ振れただろうか?彼らに出会わなければ、もっと違った
年頃の娘らしい華やかな人生が待っていたのだろうか?

 Zの車内に、キャブレターの噴射音が奏でられる。
 ピークパワーだけではなく、ローブースト時の回転がとてもスムーズになった。
 これならもっと速く走れる。直線加速だけではなくコーナーでも勝負できるようになる。

 ステアリングを握り直し、シフトダウン、アクセルを踏み込む。

 走り続ける。たとえどんな結果が待っていようと、前へ、走り続ける。
 それがZの願い、そして自分の願い。

 このZとともに、行き着くところまで行きたい。

 おぼろげだった感情が、小さな決意へと変わっていく。
 そしてそれは、ひとつの未来を選びとることと引き換えに、いくつかの未来を捨てる選択でもあった。

 早朝の横浜湾岸線を、Zはなめらかに駆け抜けていく。
 車はいなく、海には朝もやがかかっている。

 力強いL28ツインターボの歌声が、海鳴市に流れている。



   SERIES 7. 決意と選択 END
82リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/14(日) 12:02:56.68 ID:kLhK9MJs
今日はここまでです
大田サンとRGOがでました(汗
ヤマさんはどこいった!?(汗

ロータリーエンジンといえばロリータエンジンというのはもはや定番ネタですな
RX-9はデザイン画の段階では結構かっこよさそうです

あと今回名前が出たアマさんちのドレスアップRX-7っつーのはたぶんこれ
ttp://akiba.kakaku.com/etc/0905/13/200000.php
※SLBは発射できません

>>67
ありがとうございますー
某笑顔動画にプレイ動画を上げてる人が一人しかいない!なんということでしょう

ではー
83マクロスなのは 忍法帖【Lv=1,xxxP】 ◆fN6DCMWJr. :2011/08/17(水) 22:03:16.85 ID:MxwL66Wu
職人の皆さん乙です。
さて、2か月ほど更新が滞ってましたが、23時頃よりマクロスなのは第23話を投下しますのでよろしくお願いします。
84マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/08/17(水) 22:05:51.63 ID:MxwL66Wu
―――――って忍法帳が!?
すみません。避難所の木枯らしスレに行きます・・・・・・
85マクロスなのは ◆fN6DCMWJr. :2011/08/17(水) 22:34:18.29 ID:MxwL66Wu
木枯らしスレの方に代わりに投下させていただきました。失礼しました。
86Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 18:35:55.49 ID:ZlG2nQkh
どうもですー
19時から投下します
今日はEXECUTORのほうです
87EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:02:01.01 ID:ZlG2nQkh
■ 1


「輸送船が遭難……?」

 時空管理局海上警備部の会議室で、はやてはヴェロッサから報告を受けていた。
 紛争地域ではない通常の次元世界での事件は海上警備部が管轄する。そのため、自分のところに報告が来るのは
自然な流れだが、とはやては考える。この男はもうひとつの腹積もりを持って報告にやってきた。

 第511観測指定世界において作業中だったカレドヴルフ社所有の輸送船が、約7時間前に消息を絶った。
 僚船からの報告によれば、現地惑星に墜落した可能性が高い。

 時空管理局より発令された任務は、同社輸送船乗員の捜索および、搭載物の回収。
 同社は新型武装端末の試験を行っていたため、機密情報に類される製品が積まれている。

「まあ、落し物捜しですよ。海鳴市に落ちたジュエルシードを回収したときに比べれば随分ラクでしょう」

 12月5日、時空管理局は捜索隊として巡洋艦ヴォルフラムの派遣を決定。同日出港。

 はやては渡された資料を改めつつ、この事件に対する管理局のプランに、尻尾切りがあることを見て取っていた。
 ヴォルフラムの出港に先立って、ミッドチルダ海軍所属のLZ級戦艦が1隻、訓練航海に出ている。
 一見別々の作戦宙域に向かうように見えるが、いざとなればこの戦艦をもって殲滅作戦を行う。
 LZ級戦艦の搭載するアルカンシェルは宙間戦闘に最適化され、大型惑星にも大ダメージを与えることが可能だ。

 事故現場である惑星TUBOYは、直径およそ4200キロメートルと、地球に比べて3分の1程度の大きさだ。
 密度も小さいため重力が弱く、地球に比べて全体的にスカスカの星だ。

 カレドヴルフ社は、低重力下での機動性試験のため、と言っている。

 乗組員名簿を順に見ていったとき、はやてはそこに知った名前を見つけた。

 しばらく見つめ、そしてゆっくりと名簿をデスクに置く。
 艦尾に位置する艦長室には、エンジンの振動が鈍く漂っている。
 袖机の引き出しを開け、名簿をしまい、奥から古いアルバムを取り出す。写っているのは、8年前の機動六課時代の
ものだ。自分が初めて率いた部隊──当時のメンバーは今は皆、それぞれの任地へ散らばっていった。
 そして、これから向かう星は、その中のひとりの任地だ。

 なるほど、確かにこれでは他の艦には任せられない。

 真実を知る者は、できるだけ少ない方がよい。
88EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:05:40.57 ID:ZlG2nQkh
 12月7日未明、ワープを繰り返して第511観測指定世界に到着したヴォルフラムは、
惑星TUBOYから約60万キロメートル離れた同期公転軌道に乗った。
 これくらいの距離まで近づけば、可視光線による惑星表面の観測が可能だ。
 カレドヴルフ社の輸送船団は現在、L5ラグランジュポイントに停泊し、地上からは引き揚げている。

 接近してみて判明したことだが、TUBOYには小型隕石サイズの小天体が数多くまわり、一種の環の
ようなかたちができている。はやては、第97管理外世界の太陽系に存在する有名なガス惑星の
姿を思い出していた。

「もしかするとこの隕石群は、もともとあった天然の衛星の破片かもしれんな」

 ミッドチルダが属する太陽系には、土星のような大きな環をもつ惑星はない。大型ガス惑星は2個とも、
木星のような平たくつぶれた形をしている。

 はやては艦のマイクをとり、指令を出す。

「降下部隊、発艦用意。惑星表面に降りて墜落地点の探索を行う。本艦は静止軌道上で待機」

「艦長、本艦は大気圏内へ降りないのですか?軌道上では距離がありすぎるかと……」

 副長が進言する。
 たしかにその指摘はもっともだ。ヴォルフラムが属するLS級巡洋艦は、大気圏内での運用を考慮され、
どちらかといえば宙間戦闘は不得手だ。
 だが今回に限っては、もし万が一大気圏内からの脱出を考えた場合、LS級のパワーでは重力を振り切るのに
時間がかかる、とはやては考えていた。

 はやての頭の中では、カレドヴルフ社の輸送船が事故を起こした原因は八割がた想像がついていた。
 この星にロストロギアが眠っているのなら、それは不用意に触れてよいものではない。
 カレドヴルフ社にしても、たしかに次元世界有数の技術力を持ってはいるが、あくまでも重機械専門なので
ロストロギアに対しては埒外である。
 どんな人間にとっても、宇宙、そして外惑星は未知の世界だ。そこは人間の縄張りの外だ。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/20(土) 19:09:26.09 ID:pulxF7mC
支援いるかな?
90EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:11:58.64 ID:ZlG2nQkh
 ヴォルフラムが降下部隊を送り出し、惑星表面への着陸が成功したとの報告を受けたとき、TUBOYの衛星の1つが
横切っていくのがヴォルフラムの艦橋から見えた。
 遠目に見ればほとんど普通の、ジャガイモ型の小惑星だが、太陽の光に照らされた面に、
明らかに生物的な増殖の跡が見て取れた。
 生態としては、貝やフジツボのような、石灰質の殻を持つ動物に近いのかもしれない。
 太陽の強烈な紫外線に焼かれる昼の面に、肩のあたりを上にして埋もれた人型が見える。
 大きさはおよそ3メートル程度だろうか。
 衛星自体の大きさは約20〜30キロメートルで、イメージとしては火星の衛星フォボス、ダイモスに近い。
 ちょうど人型の背中から、鉱物の結晶が成長していったように衛星の形状はかたちづくられている。

「不気味ですね……」

 若い女の通信士がつぶやく。

「この星にロストロギアが眠っているというのは本当なんですね。あれはきっと大昔に滅びた……」

「それは機密情報やで」

「でも艦長、みんな噂していることですよ。あ、彼女は最近本艦に配属されたばかりですから、
まだ知らなかったかもしれませんが」

 砲雷長が横から言う。この艦の幹部乗員たちも長年はやてと共に勤務してきたため、
他の艦の者たちよりはある程度裏の事情を察している。
 ロストロギアとは、管理局では超古代文明が遺した、現代のテクノロジーで再現不可能なもの、
と規定されている。かつては空想の産物とされていた超古代文明は、ジュエルシードやレリックを
はじめとしたロストロギアの発見によってその存在を確信されるようになったのだ。
 しかし、それでもなおその文明の存在した時期や場所は特定できず、さまざまな検証も
いまだ成功を見ていない。

「せやったな。要するに問題はそれや。もしコイツがほんまにロストロギアやったら、今まで発見された
どのロストロギアよりも、その製造者の起源に迫れる。今まで管理局が見つけてきたもんの
由来がいっぺんにわかるかもしれんのや。もしかしたら、知らんままの方がよかった思えるかもな」

 太陽が、TUBOYの影にゆっくりと沈んでいく。太陽の側から見れば、ヴォルフラムがTUBOYの夜の部分に
隠れたように見えるだろう。

「光学と赤外でスウィープ開始。この星の表面温度はミッドよりもずっと冷たい、熱を持つ物体の
判別基準に注意しいや」

 環境温度が異なれば、そこに存在する物体の平常温度も変わってくる。ミッドチルダの地上ではあたたかくない
温度でも、この星の基準では十分以上に熱いということが考えられる。
91EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:17:07.82 ID:ZlG2nQkh
 降下部隊が使用している上陸艇の反応が北半球に見える。地球やミッドチルダに比べると、表面に占める
海の面積は狭く、大半が険しい岩石質の陸地だ。海は、どちらかというと大きなクレーターに
水がたまっているように見える。

「イオン濃度、ミネラル濃度ともに高レベル、かなりの硬水です。飲み水には使えませんね」

 降下部隊からも、そこかしこに明らかに人工物とわかる金属の残骸が散らばっていると、映像が電送されてきた。
 事故船と、もともとこの星にあった残骸との区別がしにくいようだ。

 ヴォルフラムがTUBOYの静止軌道に入って4時間が経過した。
 TUBOYの自転周期はミッド時間(地球と同じ、1日24時間)に換算して約10時間なので、
軌道をおよそ半周していることになる。まもなく、太陽が再び見えるようになる。
 TUBOY地上では、輸送船の残骸と思しき破片がいくつか発見された。それらはいずれも
まだ熱を持っていることが確かめられた。

 はやては妙な予感を受けていた。それは勘のようなものかもしれない。
 カレドヴルフ社から提供を受けた当該輸送船の航路情報をもとに軌道計算を行い、
おおよその落下地点を割り出していた。
 そして確かに、その場所に残骸が見つかった。
 しかしそれは少なすぎた。この惑星の大気の量と、輸送船の軌道突入角度から考えても、
宇宙空間に弾き飛ばされたとは考えにくい。大気層もそれほど厚くないので、墜落したのであれば
地球やミッドチルダのように流星になって燃えたりはせず、大部分が地上に落ちたはずだ。

「……ッ!!?」

 突如、通信士がかけていたヘッドホンから漏れるほどの異音が聞こえた。
 通信士はあわてて呼びかける。はやては艦長席から思わず立ち上がった。

「カデット二尉!?応答してください、何があったんですか!?」

 降下部隊隊長のカデットあてに、通信士が呼び出しを続ける。
 はやては艦橋の窓から見えるTUBOYの影を見据え、わずかの思考ののち、新たな指令を発する。

「捜索中止!降下部隊全員を帰還させよ!フリッツ、機関全速!艦を低軌道へ寄せろ!」

 はやての命令にこたえ、ヴォルフラム操舵手のフリッツが舵輪を一杯に押し込む。
 ヴォルフラムはエンジンを噴射し、艦を傾斜させて軌道遷移にかかる。TUBOYにおける
静止軌道は高度1万200キロメートル、大気圏の厚さはおよそ75キロメートル。ヴォルフラムの速度なら
10数分ほどで低軌道に入れる。

「艦長!」

 ヘッドホンを押さえ、通信士がはやてを見上げて叫ぶ。彼女の耳には、柔らかいものが潰れる湿った音が
ひっきりなしに打ち付けていた。
92EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:22:51.33 ID:ZlG2nQkh
「これは……惑星内部に高レベル魔力反応確認!増大していきます!」

「……全艦戦闘配置。対艦対地戦闘用意」

「っ……了解!全艦戦闘配置!対艦対地戦闘用意!」

 命令を復唱し、砲雷科員がそれぞれの担当する兵装を起動させる。
 夜の真っ黒い地表が艦橋の窓いっぱいに広がり、乗員たちに艦を押し潰そうとしているような錯覚を与える。
 上陸艇が離陸する噴射炎がきらめいた。

 ヴォルフラムのレーダーが、上陸艇を追うように動いている多数の正体不明物体をとらえた。
 管理局次元航行艦隊の持つデータベースに登録されているあらゆる人工物にも該当しない、
異常なエコーパターンを持っている。大きさは数メートルから、大きいものでは50メートルに
達するものもある。
 火器管制コンピュータがただちにエコーパターンをもとに物体の形状を読み取り、追尾を開始する。

 ようやく、降下部隊との通信が回復した。

『第3分隊アギーラ曹長です、正体不明のロボットが多数出現しました!どうやらこの星の
表面に多数見つかっている化石と同類の連中ようです』

「隊長はっ、みんなは無事なんですか!?」

 通信士の呼びかけに、わずかな沈黙が重くのしかかる。

『……少なくとも5人やられました。艇に乗り込めたのは自分を含めて3人です。カデット二尉も……』

 少なくともとは、すなわち死亡が確認できたのがそれだけということだ。地上に置き去りにしてきて
しまった者もいる。彼らは行方不明扱いとなるが、生存の望みは限りなくゼロに近いだろう。

 沈黙していた艦橋要員たちの中から、はやてが静かに言った。

「……アギーラ曹長、採れたぶんだけで構わん、襲ってきた連中のデータを後で見せてや。
事と次第によっちゃカレドヴルフも共犯になるで」

「どういう意味ですか、艦長」

 砲雷長が聞き返す。問題の物体たちは空を飛ぶ手段を持っていないようで、レーダースクリーン上では
地面を這い回っているようすが映されている。ところどころに固まっているのは、こちらの隊員の
遺体を捕まえているのだろうか。まるで、腐敗物にたかる昆虫のような動きだ。

「少なくとも今までは、この星には生き物だけやなしに動く物体は見つかっとらんかった。
この距離でヴォルフラムのレーダーにかかるようなもんがうろついとったら、最初に探査機ガジェットが
来た時に見つかっとる。今地上で動きまわっとる連中を起こしたのは社の仕業かもしれんゆうことや。
それがわざとなのか過失なのかはわからんがな」
93名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/20(土) 19:26:37.94 ID:CZPM9Xlv
94EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:28:11.38 ID:ZlG2nQkh
「……原住生物、というわけではないようですね」

「彼らに生命反応はありませんでしたよ」

「でも、魔力反応はあったんですよね?今は消えたみたいですけど……」

 艦橋要員たちも、不安から口々に意見を言い合い始める。

「まあ今ここでうだうだ言っててもはじまらん。とにかく降下部隊を収容してからや」

 ヴォルフラムの艦橋から見えるTUBOYは、夜明けを迎えていた。
 上陸艇を着艦させ、TUBOYからの離脱軌道に乗るよう命じてから、はやては艇格納庫へ向かった。

 格納庫まで歩く間、はやてはぐっと唇をかみしめていた。
 完全に不意打ちを食らった格好になる。
 予見できたかといえば、それは結果論でしかない。しかし、部下を喪ったことは事実だ。
 おそらくは、墜落した輸送船も同じように地上に降りたか、あるいは表面に近づきすぎて
地上からの攻撃を受けたか。輸送船の航路データから逆算すると、ヴォルフラムと同じ
軌道をとって同じ時間帯で遭難したことになる。輸送船が地表に降りた目的は不明だが、
どちらにしろ、地上で襲撃を受けた結果遭難した可能性が高い。船のトラブルの可能性も
排除できないが、航路データを見る限りではそのような動きはしていない。

 生存して帰還できた3人のうち、アギーラ曹長をのぞく2人は怪我がひどく、すぐに医務室で
治療を受けることになった。アギーラひとりが、はやてたちに状況を報告する。
 声は気丈にしていたが、彼の表情は青ざめていた。
 降下部隊が持って行ったカメラには、問題の物体たちの姿が収められていた。ぶれていてはっきりと
輪郭はとらえられていなかったが、それでも2本ずつの脚と腕を持った姿が見て取れた。

「ロボットなんですか?こいつは」

 手足はあるが、人間でいう頭部にあたる部分がない。腕のように見える部分も、関節が生えている
向きが人間と違い、真上に伸びている。肘関節もなく、腕の先端はそのまますぼまっている。
 クローアームのようにも見えるが、写真からはそこまで判別できない。
 金属質の外見はロボットのように見えるが、かといってロボットと呼ぶには機能的なデザインに
見えない。ロボットは必ず目的をもってつくられる。たとえば土木作業であったり、介護作業であったり。
この物体は、目的をもってデザインされたようにはとても見えない。

「金属でできているのは間違いないです。自分が撃った魔法でこいつらの一体が損傷したとき、
飛んできた破片です」

 そう言ってアギーラは金属片を取り出して見せた。確かに、鉄を主成分にした合金だ。
 切断面が融けているのは魔力弾の熱量によるものだが、傷のついていない面を見てみても、
たとえば規格にしたがって製造された鋼板のように整った表面ではなく、まるで溶かした金属が
自然に冷えて固まったようにいびつだった。

「武装は」

「銃砲の類は、自分が見ていた限りでは有りませんでした。ただこの腕のように見える部分は、
標準デバイスの加速器にも似ています。他の二人も、レーザーのようなもので撃たれたと言っていました」
95名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/20(土) 19:31:23.74 ID:CZPM9Xlv
96EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:33:25.46 ID:ZlG2nQkh
 プリントアウトした写真を作戦会議室の机に並べ、皆、しばし黙る。
 確かに、ミッドチルダでも古代ベルカ時代の遺跡を調査する際には盗掘者狙いのトラップに引っかかる事故などが
起きてはいる。しかし、今回このTUBOYで発見された謎のロボットたちは、それらよりはるかに強大だ。
 しかも、単なる警備マシンの類でもないようだ。彼らはまるでけもののように、機械らしからぬ
知性の感じられない動きをする。仮に彼らの動作がプログラミングによるものだとすればそれは
ごく原始的で単純なロジックになるだろう。

 艦内電話が鳴る。当直士官が、本局からの入電が届いたとはやてに伝えた。

「まさかこの件で?」

「にしちゃ早すぎる」

 電文を開くと、それは訓練航海中のLZ級戦艦『アドミラル・ルーフ』からのものだった。
 次元航行艦隊司令部から、惑星TUBOYの殲滅任務を受けたため、ヴォルフラムは早急に
安全宙域に退避するようにとの連絡だった。

「LZ級を投入するんですか」

 当直に立っていた砲雷長が言う。本級は建造年次が古く、次元間紛争がまだくすぶっていた頃の艦だ。
 現在管理局が調達中の新鋭艦XV級に比較すると大型かつ旧式であり、近年は前線に出るよりも
新人水兵の訓練任務に就くことが多かった。
 火力は大きいがそれは逆に言えばオーバーキルすぎるということでもある。

「立案はミッドチルダ海軍クラナガン鎮守府、管理局の承認も得ている、か」

 はやては電文の末尾に添えられた署名を読む。

「JS事件以降、管理局の発言力が弱まりましたからね。たしかにミッドチルダ側からすれば
動きやすくなってるとは思いますが」

「どっちみち時間がない。30分で着くと向こうはゆっとる。カレドヴルフ社の船団にも打電や。
遭難輸送船スピンドリフト号の喪失を確認、生存者なし、未知の迎撃システムを発見し捜索を断念──と」

「了解しました」

「航海、取舵一杯針路1-8-0。黄道面の南側へ転針や」

「……!艦長、また魔力反応です!!」

 ヴォルフラムが第2宇宙速度まで加速した時、TUBOY内部で再び魔力反応が増大した。
97EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:38:04.94 ID:ZlG2nQkh
 はやてはただちに発信源を探るよう命じた。魔力素が特有の電磁波パルスを発生させることは
よく知られており、ミッドチルダ術式におけるパルスドップラーレーダーはこれを利用している。

「ベクトル座標X-1-2-6、Yプラス0-5-5、Zマイナス0-6-6……!惑星内部、“海底遺跡”です!」

 レーダー員が叫ぶ。“海底遺跡”とは、探査機ガジェットが発見していた、旧時代の巨大戦艦と
目される残骸だった。おそらく、先史文明の時代に建造され、戦闘で撃沈されこの星に墜落したのだ。
 探査機ガジェットは次元航行艦と違い、慣性飛行が基本でエンジン出力も弱いため、惑星に
接近するのにも限界がある。そんな距離からでもこの遺跡を見つけることができたということは、
すなわちその戦艦はとてつもなく巨大だということだ。

 海図に記入されたアドミラル・ルーフの現在位置はTUBOYより3度15分先行した角度、
距離にして約430万キロメートル。
 すでに最後のワープを終え、臨戦態勢に入っているはずだ。

「(向こうが勝手に起動したんやない……何かに反応した?こっちの接近を探知した?
だとするなら……まさか!)」

 はやてはマイクをつかみ、機関室へ命令を飛ばす。

「機関出力全開!全速離脱!」

 ヴォルフラムの艦体が、最大戦速で激しく揺れる。
 もしはやての予想通り、大型艦の接近を感じ取ってあのロボットたちが動き出したのなら、
ヴォルフラムが到着したときに襲撃を受け、そしてアドミラル・ルーフが接近しつつある今、
再び活動しだしたことが説明できる。
 そして、カレドヴルフ社の輸送船が遭難したとき、すでに先行して乗り込んでいた艦がいたのだ。

 その艦には、選抜執務官が乗っていた。
 カレドヴルフ社は選抜執務官の輸送を管理局から請け負っていたのだ。

「輸送船団はついてきとるか!」

「はい艦長!あと300秒で転送ゲートに入ります!」

「よっし、右舷全速、艦回頭180度!アドミラル・ルーフを迎えるで!」

 姿勢制御スラスターを全開でふかし、ヴォルフラムが旋回する。太陽の光に照らされ、
アドミラル・ルーフの艦影が見えてくる。

 TUBOYは、向かって右側の半球が昼の面になり、左半球、夜の面で、大量の赤外線放射が起きている。
 地下にいる何者かが動いている。
 そして、それははやてにとって、8年前のあの艦を思い出させるものだった。
98EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:43:14.55 ID:ZlG2nQkh
 ゆりかご。
 古代ベルカ時代のものとされていたあの艦も、実は先史文明の発掘兵器だったということだ。
 JS事件において、ついに解明できなかったあの戦艦の正体があの星に眠っているかもしれない。

「地震動を確認、推定マグニチュード5.5、海底に断層多数発生!」

「次元震は!?」

「今のところ反応なし!」

 ヴォルフラムの左舷800キロメートルに到達したアドミラル・ルーフは、ただちにアルカンシェルの
発射準備にかかる。エネルギー充填の粒子流が、艦全体を包むように光る。

 TUBOY表面は、すでにこの距離でも肉眼で確認できるほどに海が揺れていた。
 艦の浮上に伴い、大津波が起きている。海面の膨張によって大気も揺れ、雲が押し流されている。

「魔力反応、急速に浮上!」

「来るで……!」

 アルカンシェルの発射が早いか、向こうの浮上が早いか。もし撃ち漏らせば、今度はこちらが絶体絶命だ。
 アルカンシェルはその破壊力と引き換えに、艦の足を止めて全エネルギーをチャージする必要があり、
発射スキーム中の機動はほぼ不可能になる。
 管理局次元航行艦隊およびミッドチルダ海軍における基本戦術としては、複数艦を
一列に並べて3グループで斉射するマルチ隊形波動砲戦が採用されている。
 発射準備中の僚艦のサポートがないため、1隻で行うことは不可能な戦術だ。

「海面隆起!魔力反応、海面に出ます!」

 魔力光の輝きが見えた。噴射炎が迸り、TUBOYの大気が沸騰しているのが観測できる。
 それは赤い姿をしていた。ところどころが朽ちて穴が開いているが、それは全体として
横幅の広い楔形の船体をしていた。やや朱色に近い赤。水蒸気爆発の白煙をあげる海面から、
鋭い飛翔体が飛び出してくる。今度こそ、まぎれもない武装の発砲だ。

「高速飛翔体、少なくとも60以上!ミサイルです!」

 レーダー員の報告とほぼ間をおかず、アドミラル・ルーフがアルカンシェルを発射した。
 白色の光条がTUBOYに向かってまっすぐ伸び、一瞬を置いて惑星表面が激震する。浮上してきた
戦艦ごと、TUBOYの表面に、大気層を引きはがすほどの大爆発が起きた。惑星を構成する地殻とマントルの
構造に変形が生じたために、自己重力で潰れたのだ。
 爆炎は目測でも数百キロメートル以上に広がっている。

 L級巡洋艦のものは威力は幾分か落ちるとはいえ、幼いころの闇の書事件、成り行きによっては
海鳴市があのようにアルカンシェルを撃ち込まれていたかもしれなかった。
 海鳴市どころではない、日本が全滅してもおかしくないほどの破壊力だ。
 はやてはあらためて戦慄していた。
99EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 19:48:33.29 ID:ZlG2nQkh
 わずかとはいえ地上に姿を現した謎の巨大戦艦は、広がった爆炎との目測でも、やはりキロメートル級の
大きさを持っている。ゆりかごよりも大きいかもしれない。惑星が小さいゆえに、さらに大きく見えた。

「か……艦長」

 ヴォルフラムを揺さぶるアルカンシェルの衝撃波の中、レーダー員が戦慄したように計器を見上げている。

「目標の破壊を確認せよ」

「魔力反応、消えていません……魔力量なおも上昇中!」

「なんやと!」

 大気圏に広がる爆風はすでにTUBOY表面の半分ほどに広がり、中心は薄まり始めている。
 海水ごと吹き飛んだクレーターの中に、赤い楔は突き刺さったようにして、しかしなお原形をとどめていた。

「……目標は依然健在……!」

 砲雷長が声を絞り出すようにうめく。
 アルカンシェルは、ミッドチルダ魔法技術のひとつの特異点によって生まれた兵器だ。
 魔力素とリンカーコアが引き出す魔力とは、すなわち高次元干渉である。
 これにより、魔法という限りなく無限に近いエネルギーを人類は手に入れた。この理論が、
現代ミッドチルダの魔法科学、ひいては魔導兵器技術の根本だ。
 高次元干渉はデバイスが搭載するCPUによって緻密に計算、制御され、そのソフトウェアは
術式となる。この術式のプログラミングによって、炎熱、電撃、氷結の3大属性をあやつり、
それは空間を満たす粒子のエネルギー収支の制御によって実現されている。
 アルカンシェルはそのような制御を取り除き、高次元干渉によって生まれる大量の対消滅反応、
高次元粒子の漏れ出しを直接目標に叩きつける兵器だ。グラビトンによる圧縮破壊、タキオンによる
時空間歪曲による破壊が、アルカンシェルの威力の源だ。

 あの赤い戦艦は、アルカンシェルの直撃に耐えた。
 さすがに無傷とはいかず、動きを止めている。TUBOY表面にできたクレーターに半分近く埋まって、
身動きが取れない状態になっているが、なおその姿を保っている。

「ここに2発目を撃っても生き埋めから脱出させるだけか……」

 ヴォルフラムの舷窓から見るアドミラル・ルーフも、エンジンをアイドリング状態のまま、
再発射の態勢はとっていない。2発の連続発射はいかにLZ級でも機関への負担が大きい。

 ヴォルフラムの魔力センサーは、依然として赤い戦艦の反応を検出している。
 計器の故障でないのなら、アドミラル・ルーフも同じ反応を見ているはずだ。
 ここで追撃をかけあくまでも殲滅を目指すか、いったん引いて態勢を立て直すか──
 輸送船団はすでに転送ゲートで離脱し、TUBOY宙域に残っているのはヴォルフラムとアドミラル・ルーフの
2隻だけだ。しかし、この2隻の戦力で赤い戦艦を仕留められるかは不確実だ。
100EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 20:01:19.36 ID:8W4Bj2ob
「艦長、アドミラル・ルーフより入電です」

「まわして」

『八神くん、無事だったかね』

 通信スクリーンに、アドミラル・ルーフ艦長のカリブラ・エーレンフェスト一佐が映しだされた。

「救援感謝します、エーレンフェスト一佐」

 はやては敬礼でこたえた。
 観測により、TUBOY表面に設置されていたカレドヴルフ社の仮設キャンプは跡形もなく消滅したことが
確認された。今となっては、猛獣の檻の中で寝泊まりしていたようなものだったといえる。
 この戦闘の報告はただちにアドミラル・ルーフより次元航行艦隊司令部に送られ、管理局の
裁定を待つことになる。結果的には、敵を仕留めそこねたことは事実だ。
 敵は目の前に見えているが、自分たちはもう武器が尽きている。引き返すよりほかない。
 そして、敵はあの赤い戦艦だけで終わりではない。TUBOYの内部には、無数のロボットたちが埋もれている。
 彼らはいずれ目覚め、動き始めるだろう。

『われわれは目標の情報をわずかでも入手することができた。われわれの任務とはこの情報を
確実に持ち帰り、ミッドチルダをはじめとした次元世界の人々に正しく伝えることだ』

「──はい」

 アルカンシェルの爆風で飛び散った破片や粒子は宇宙空間へ大量に浮かび上がり、流星群のように
TUBOYの地表に落下し始めている。大気との摩擦が少ないTUBOYにおける流れ星は、地上のすぐそばで
輝きはじめて地面に激突して光る。地球やミッドチルダの流れ星は空が光るが、TUBOYの流れ星は大地が光る。

 地殻を貫通されたTUBOYは、臓物を切り開いたように、煮えたぎるマグマとマントルを噴出して、
あの赤い戦艦を包み込んでいた。赤い海に赤い船が浮かぶ。それは地獄のような光景だった。
 あたかも、赤い戦艦が惑星を呑み込もうとしているかのように、はやてには見えていた。

 はやてと同じ印象を、人は見たのだろう。
 赤い戦艦は、識別コードおよび固有艦名を“インフィニティ・インフェルノ”と名付けられた。
101EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 20:08:34.12 ID:8W4Bj2ob
第1話終了です

支援ありがとうございました
さるさん!やはり1回の投下は10res以内でないとだめなんでしょうかねー
もうしわけない(;つ )つベチャリ

一応モブキャラ他の名前の由来など
・カデット二尉→オペル・カデット
・フリッツ操舵手→オペル創業者の孫、フリッツ・フォン・オペル氏
・LZ級戦艦アドミラル・ルーフ→LZ-127型飛行船グラーフ・ツェッペリン号、ドイツRUF社
・カリブラ・エーレンフェスト一佐→オペル・カリブラ
・インフィニティ・インフェルノ→日産インフィニティQ45、「EXECTOR」の最終ステージ名、
(おそらく)最終ステージのマップとなる敵戦艦

やっぱ艦隊戦はもえますのー クリムゾンタイドとかレッドオクトーバーとか好きですからー

一応今回出た敵メカはステージ1で最初に遭遇する…操作に慣れてないと開幕5秒でしぬ(汗)

ではー
102Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/20(土) 20:22:08.83 ID:8W4Bj2ob
おっと忘れてた(汗)
アギーラ曹長もオペル・アギーラから
あとスピンドリフト号は原作ゲームの方でも元ネタがあるっぽい?
いかんせんアークシステムワークス初のコンシューマタイトルとあって
公開情報が少なすぎる割にメーカーサイトに壁紙DLページは残っているという謎仕様(汗)
103名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/20(土) 21:05:28.70 ID:pulxF7mC
乙です
104名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/20(土) 21:07:40.47 ID:vVdvERy2

なんか魔法科学と宇宙物は妙に相性があうような気がする
105名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/23(火) 08:33:25.51 ID:1aS9xT0I
乙です
SF色の強い世界はワクワクしますね
最初にでてきた選抜執務官は元六課メンバー…一体誰なのでしょうか
106名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/24(水) 13:21:32.94 ID:DX/xGnIs
たとえばこんなクロスSS
リリカルなのは×ロマンシングサガ2 〜七英雄がやってきた!〜
復活した七英雄が次元を超えてなのは世界に来る話

クジンシーのソウルスティールを見切れなくて次々と死んでいく局員たち
ボクオーンの移動戦艦にはアルカンシェルをぶっ放して勝利する局員たち
ダンターグの巨体から放たれるぶちかましには紙同然のシールドとバリアジャケット
ロックブーケのテンプテーションに操られ塔を建設してしまう男性局員たち
ノエルの剣技に押されるシグナム
スービエのメイルシュトロムに飲み込まれる局員たち
ワグナスには魔砲や遠距離攻撃でかろうじて対抗するなのはたち
107名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 00:21:08.90 ID:MpWcUHzt
ロマサガ2っていうからには、年代ジャンプと伝承法を取り入れてほしいかも
難しいだろうが、欲を言えば
108名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 02:24:05.25 ID:ZULgyzLm
>>102
うわ、元ネタしらねえw
しかしなんかいい感じだな!GJ

>>106
ワグナスwwwww
あと
ブチカマシやめてブチカマシ俺のトラウマorz
うむ突然話は変わるんだが、
未観測の世界には管理局の想定の範囲外の未知なる世界があるとしよう。
その世界がゼ・バルマリィ帝国とゾヴォーグ共和連合と地球連邦の三つ巴の銀河間戦争の真っ最中だったとしたら……
以下妄想
レジアスの元に誠実そうな男が来る。
「閣下、私の部下をお使いください。必ずや地上の平和だけでなく世界間の恒久平和を実現して見せます」
「ゼゼーナン!特使に過ぎない貴様は……」
「そうですねえ……我々のことは今後『ゲスト』とお呼びください」
109名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 11:49:15.43 ID:TQ1qVShm
(・∀・ )ノΛマダー?
110名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 12:06:31.44 ID:TkLrHbEl
111名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 16:43:05.15 ID:zhE2WFPU
……………いつからここは、雑談OKになったんだ?
112名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 17:11:33.53 ID:kLgMzou2
>>1
>本スレが雑談OKになりました。ただし投稿中などはNG。
正確な時期は知らんがOKにはなってるが?
113名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 17:11:46.91 ID:TQ1qVShm
>>111

>>1
>本スレが雑談OKになりました。ただし投稿中などはNG。

いつからこのテンプレになってたっけ
114名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/25(木) 21:20:25.89 ID:MpWcUHzt
避難所の機能縮小したあたり
2年くらい前の話だな
115名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/26(金) 13:22:37.35 ID:JsOPSJjD
ほしゅ
116名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/26(金) 15:35:27.73 ID:kT3Dezok
語るスレがあるのもあってSSオンリーと勘違いして皆遠慮しちゃうのかね
ゼロ魔のクロススレぐらい盛り上がってくれればいいんだが
117名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/26(金) 18:59:37.65 ID:Y/QK+F7a
>>106
こういう事か

ウォン  ウォン
  ウォン

「 ワ グ ナ ス !! 
 何か気がついたら、空飛ぶ少女に浮遊城が取り囲まれているぞ!」

「…ダンタークめ!
 新しい術法の実験に我々を巻き込むなど!」

「奴をせめる事はできまい
 俺たちもついノリノリで参加してしまったし…」

以下略
118名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/26(金) 19:29:42.33 ID:7Xevs1Td
クラナガンでタクシーで生計を立てるワグナスを幻視した
119名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 00:24:55.93 ID:lg4N8T7c
東方で某店主が主人公のRPGが作られてるのを見て
水橋キャラ中心でユーノ主役でのクロスオーバーRPGというのをネタとして考え中
主人公がサポート役で何が悪い。RPGの主人公ってアイテム役多いんだよポケモンとか

しかし、まだメモ段階だけど…やたらゲームバランスがピーキーかつ、なのは達メインキャラ以外ばっかりになりそう
120名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 00:43:30.05 ID:g6Wf6R7W
めんどくさいので海の局員たちに放って置かれるスービエ
121名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 01:37:55.25 ID:HUEE/lg4
>>119
私は一向に構わん!!
122名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 13:24:26.98 ID:lg4N8T7c
>>121
今のトコの水橋キャラのステータス傾向メモ
ゲームシステムとかも妄想中。ツクール持ってないけど

ユーノ:司令塔。防御と魔法防御、サポート系については文句無し、Lv最大になると数値カンスト。攻撃?要らない

白レン:接近戦タイプの妙な魔導師。燃費も良くて堅い。足が遅いのが弱点と言えば弱点。成長遅め。
レン :対単火力だけやたら高い。後のステータスは標準的。この2人は志貴呼び出し可(どっちかのみ)

ラハール:チ−トなステータス。後半で仲間に。全体的に高水準だけど状態異常しやすく燃費悪い。
アサギ :最強器用貧乏、永遠の次回策主人公。何でも出来るけどどこまでもトップにはなれない運命。

巴マミ :遠距離支援要員。防御、魔法防御、状態異常耐性が低いのでぼっちにすると速攻マミる。でも強い


テイルズキャラは通常のRPGにすると強みが薄れる気がする…あとバカテスの美波はキャラとしてのステが思いつかない…
123名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 15:35:54.80 ID:Hemwjqkj
>>122
後はクイーンズブレイドのレイナの妹、エリナだったか?
ヴィヴィオとか数の子にもいるけど、前者ボスそうだな…。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/27(土) 20:20:01.02 ID:Fk9NvZB0
>>122
白レンはバ火力なボスイメージが消えないなぁ
125Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 20:27:13.93 ID:4VRKLtbl
どうーもー
21時よりリリカルミッドナイトSERIES8を投下します
結構長いのでできれば支援いただけるとたすかります

>>108
元ネタを確かめようにもソフトのタマ数が少なくてブコフやゲオをめぐっても置いてるかどうかというのが(汗)
まあ一人だけですがプレイ動画が笑顔とU管にそれぞれあるので、見てみるのもいいかもしれません

>>104
魔法科学は現代宇宙論とも絡めるとわくわくしますねー
ただ次元干渉とかでぐぐるとぁゃιぃ教団とかがひっかかるのが(汗)
126リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:00:57.08 ID:4VRKLtbl
◆ SERIES 8. 撃墜


 いつものように横羽線を環状へ向かっていると、後ろから追い上げてくる車をなのはは見つけた。
 キセノン系の鋭いヘッドランプを持ち、車体は大きめだ。
 よく見るとそのすぐ後ろに、プロジェクターランプの車がもう一台いる。

「GT-R!」

 確か、となのはは思い返していた。時たま、クロノのスープラと一緒に走っていた双子の姉妹だ。
 R32とR33のGT-R。普通にそこらを走っているGT-Rとは動きが違う。いや、ドライバーがそのように
走らせている。今どきはかなり少なくなってしまった、本物のR乗りだ。

 一般的な日本の自動車評論──もしくはチューニング雑誌などの評価では、GT-Rは大きく重い車と
いうのが多くの認識だろう。実際、デビュー当時の他の車に比べれば重かったのは事実だ。
 しかしそれは、けして無駄に重くなったわけではない。速く走るためにボディを強化し、レースで
勝つためにきっちりと車体のメカニズムをつくりこんだ結果、1500kgという重量になっただけだ。
 車体補強をされたクロノのスープラを見て、また実際にZの車体を見てみて、その理由がわかった。

 多くの日本車は、ボディが弱すぎる。

 このZにしろ、元々小さめの車体を軽量化するために肉抜きがされている。それはメーカーでの
設計段階で、できるだけ応力のかからない部分を選んで空けられているが、もちろんボディ全体としての
寿命はいくらか犠牲にされる。

 Zには、強靭なパイプフレームによるボディ補強が行われ、内部のロールケージと外側のモノコックとで、
いわば二重構造のようなボディになっている。リヤサスペンションメンバーはサブフレームを介して
ロールケージに直結され、主に駆動力を受け止めるのはこの部分だ。
 リヤのボディパネルはほぼ被さっているだけの状態だ。これが通常のモノコックなら、大パワーを
かければリヤハッチのあたりからボディがゆがんでしまうだろう。 エンジンと後輪をつなぐ
プロペラシャフトは剛体なので、駆動力がもろに柔らかいボディを直撃してしまうのだ。

 パワーをきっちり路面に伝えるには、それを受け止められるだけの剛性のあるフレームを、
ボディ底面に張り巡らせなければならない。

 アクセルを踏み込めば、張り巡らされた幾本ものパイプがしなり、突っ張りあい、車体の姿勢が
かたちづくられているのが腰に感じ取れる。路面を蹴飛ばすリアタイヤに肉体が直結したように感じる。
 それゆえに、途方もないはやさで消耗していく車体の悲鳴が聞こえるようだ。

 時速300キロで走るということは、普通の車からは考えられないスピードで、命を削っていくことだ。

 命が、みるみる燃えていく。
 燃えても、燃えても、いつ終わってもおかしくないように思えても、それでも速く走り続けようとしている。
 この力はいったいどこから出てくるのだろう。
 湧き上がる炎は、今にも吹き消えてしまいそうだ。

 バックミラーに映るキセノンランプのダンスを後目に、Zは猛然と加速する。

 見ていない。見ているのはお前たちではない。
 心の中に、澄んだ水面に波紋が広がるように、闘争心が浮かび上がる。

 どんなにいい子ぶっても、湧き上がる闘争心を否定できない。
 否定することは、自分の命を絶つことだ。

 この心に、何よりも自分の心に目を背けるな。Zがそう言っているような気がする。
127リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:08:10.28 ID:4VRKLtbl
 リーゼ姉妹が悪魔のZを追っている頃、クロノは六本木の店で接客をしていた。

 その女は、彼女の立場からすれば考えられないほどに飾らない姿で、店内の豪華なソファに座って待っていた。
 いつもそうしているように、隣に座り、グラスを差し出す。
 女は、そんなクロノの顔を、じっと見下ろしていた。

「──なんでこんなトコに来てんだよ、母さん」

 女の身分は、アメリカ海軍第7艦隊所属、リンディ・ハラオウン大佐。
 クロノの母親で、在日米軍横須賀基地を拠点にしている巡洋艦アースラを指揮する艦長だ。

 もちろん、この店には女性軍人の客も来ないことはないが、立場のある上級士官はまず、目立つ行動は控える。

「そんな気の利かないこと言って……きちんと仕事はできてるの?」

 この場所では、母と息子ではない、客とホスト。
 たとえどんな仕事でも、仕事に対して卑屈になってはいけない。

「レティもあなたがここで働いてることちっとも言わないんだから、ロッテがわざわざ教えてくれたのよ」

「提督ならなおさら言いふらせないだろ」

 この数週間、クロノはずっと横須賀の友人たちには会っていなかった。
 横須賀に帰るのは週にいちど程度で、それも顔見世程度だった。ずっと寮に寝泊まりしていたし、
首都高以外のどこに出かけるという用事もなかった。

 アレックスやランディや、エイミィの顔を、もう見なくなってどれくらいたつだろう。
 子供のころから、アメリカにいたころから彼らとは幼馴染で、大人になっても幼馴染として
付き合っていくだろう、とおぼろげながらも思っていた。

 だが、今はクロノは一人だった。

 ヴェロッサなど、あたらしく知り合った仲間はいるが、かつての仲間はもう会わなくなってしまった。

「育ちのいいあなたにはツラい仕事だと思ってたけど、結構ウマくやってるみたいじゃない?」

「まあな」

「日本に赴任する時もこれでも考えたのよ、あなたを連れていくか、アメリカに置いてくるか──
でも結果として、あなたは自分の意志で日本に来ることを選んだ。そして仕事も住まいも自分で面倒を見て、
自分で生活を組み立てている。それは大切なことなのよ」

「こーいう仕事をしてるってことには……何も言わないのか?」

 ソファに背をもたれ、肩を近づける。
 普段目にすることのない、女としての母の姿に、クロノはかすかに息をのむ。

「その感覚があるってことは、自分が今やっていること──仕事でも趣味でも──を、認めない人間が
いるということを自覚している、ということよね」

 接続詞を繰り返す表現は、日本にいると、つい使ってしまいがちになる。
 それは事実と感情を、撚糸のように連ねていく表現方法だ。
128リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:15:39.00 ID:4VRKLtbl
「でも、それは自分の心を曲げる理由にはならない。他人の目よりもまず自分が納得できるかよ」

「オレは、もしかしたら納得できてなかったのかもしれない。だから、その答えを探したいんだ」

「ハラオウン家の名をあなたに背負わせることが?」

 クロノの着ているスーツは、ビジネスマン向けのものではない。街の紳士服店で、
セールで安売りされるものではない。いつも店の奥にさがしに行かなければ置いていないものだ。
 その身なりからしてまず、表の社会との隔絶がある。

 だが、それは自分で、自分の意志で扉を開け、一線を踏み越えた結果だ。

 後戻りもできるかもしれない、しかし、自分の意志はその選択肢を選ばない。
 後戻りすれば、戻ったなりの暮らしぶりというものはあるだろう。
 しかし、そうなればおそらく、首都高で出会った仲間たちとは、もう永遠に会えなくなってしまうだろう。

 高町なのは。フェイト・テスタロッサ。そして、ブラックバード。

 彼らはいずれも、普通に暮らしていればまず出会うことはない。

「正直に言うと、私にも不安はある。それはあなたがいなくなってしまうということ。あの人のように」

「父さんのことを──」

「でも、あなたの生き方はあなただけのもの。口に出すのは簡単だけど、今、あなたはこうして自分の
居場所を自分で手に入れた。そして、その中で生き方を見つけている。あなたは未来を見つけているのよ」

「──母さん」

 膝に置いた手のひらを重ね、深く、肌を重ねて握る。
 何年も会わずにいたうちに、年取った母の手のひら。幼いころ、手を引いてくれていたと思う。
 その記憶はいつしか忘れかけていた。

「だから、約束して。私の前からいなくならないで」

 リンディの瞳は、怜悧な軍人のものから、あたたかい母親のまなざしに変わっていた。

「ああ。約束する──」



 なのはのガレージに、ヴィータはちょくちょく遊びに来るようになっていた。
 送迎にはやても一緒に来るので、なのはが学校を終わってからバイトに出かけるまでのしばらくの間、
ガレージでZをイジっているのをはやてとヴィータは一緒に眺めている。

「面白いかな?ずっとそうやって見てて」

「すました顔しててもヴィータは甘えん坊なんよ」

「はっ、はやて」

 小学生のヴィータには、車の話などむずかしくてわからないだろう。
 ヴィータも、エンジンルームをのぞきこんだりとかはせず、ただなのはの姿を眺めているだけだ。
129リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:21:15.15 ID:4VRKLtbl
「そういえば、ヴィータちゃんのご両親は」

「うーんっと、そのへんは、いろいろむずかしいんだけど」

 頭の中で考えながらしゃべると、カタコトのようになる。
 単純な事情の家庭ではないだろう、となのはは思っていたが、聞いてみたところで、そんなに
根掘り葉掘りしたいわけではない。話題としてとっつきにくいなら、無理に聞くつもりもない。

 ヴィータは、ものごころついた頃まさに、はやてたちが悪魔のZに苦しんでいたのを見ていた。
 兄を亡くし、両親から捨てられ、落ち込みきったはやてを見ていた。
 家の中が、常に心が沈んでいた。

 保育園で、外を歩くときは車に気をつけましょうと教えられるたびに、ヴィータは悲しみがわきあがって
どうしようもなかった。誰かに、すがりたかった。
 シャマルとシグナムが、はやての世話をするために日本に引っ越すことを決めたとき、ヴィータは
自分も連れて行ってくれと頼みこんだ。

 はやてのそばにいたかった。
 はやての気持ちを自分に重ね、もっと重なりたかった。

 そして今は、はやてが知っている相手と同じ相手を、知りたい。

 生きていた悪魔のZ。この車は、今までいったい何人の走り屋の命を喰らってきたのだろう。
 そして、今自分の目の前にいるこの少女の命をも、悪魔のZは喰らおうとしているのだろうか。



 フェイトは、番組のロケのために箱根ターンパイクを城島と共に訪れていた。
 一般車の少ない早朝の時間帯、こういった取材の車だけでなく、地元の走り屋たちも現れる。

 箱根においては、深夜帯がいわゆる峠族、そして早朝がスーパーカー乗り、というすみわけができている。

 城島もそんな時間帯を狙い、明け方にはフェラーリやベンツを走らせ、夜にはFCを走らせていた。

 フェイトのテスタは、どちらかといえば明け方を走る車だろう。
 うっすらと仄明るく、青く染まった峠道を、先行するFCを追ってテスタを走らせる。
 最高速向けにセッティングされたテスタの足回りは非常にグリップ限界が高く、峠のスピードレンジでは
ほとんどスライドさせることができない。パワーオーバーに持ち込もうとすれば一瞬でスピンしてしまい、
パワーでドリフトさせることは困難な車だ。必然的に、コーナリングスピードによる慣性でリアを流す
走らせ方になる。

「FC3S型は、確か1985年発売でしたっけ」

「当時はポルシェのライバルってマツダは言い切ってたのよ、実際それくらい速かったんだゼ」

「Zも……」

 ポルシェといえば、あのブラックバードが乗る964型ポルシェターボを一番に思い浮かべる。
 現代でも、最新型の996カレラが、Z34型フェアレディZ(アメリカ名370Z)と比較されるなど、ポルシェとZは
スポーツカーとして長年のライバルだ。そして、RX-7もまた、日本のツーリングカーレースではZとライバルであり、
そしてポルシェターボともライバルだった。
130リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:30:15.33 ID:4VRKLtbl
 確かに、今FCの中古車はそれこそものによっては30万円程度の車両もある。
 だがだからといって、RX-7がポルシェやZよりも格下かといえばそうではない。
 中古価格も新車価格も違うかもしれないが、チューニングしてストリートを走る以上、
そんな生まれは関係なくすべて平等だ。

 無差別級の公道の走りで、FCも、964も、S30もずっと走り続けてきた。

 そして、これからも走り続けていくだろう。

 少なくともフェイトは、このときはそう信じて疑わなかった。



 はやてとヴィータがなのはのガレージに出かけているので、シグナムはひとりで八神家の留守番をしていた。
 シャマルもまだ学校に残って仕事をしている。
 掃除をしていると、ちょうど隣のはやての部屋で何かが落ちる音がした。

 部屋の中を見てみると、古ぼけた本が、本棚から落ちて開いていた。

「……?これは……」

 本を手にとり、開けてみる。
 くり抜かれたページの中から、鍵が飛び出していた。

 もともと本を縛っていたであろうはずの鎖が、鉄が錆びたのだろうか、ちぎれてほどけてしまっていた。

 鍵に刻まれた文字を見て、シグナムはかすかに眉をひそめる。

「“NISSAN FAIRLADY Z”…………悪魔のZが……魔力を蒐集しようとしている……?」

 S30Zのスペアキー。
 マスターキーは車体に付属されて一緒に移動するが、スペアキーはいくらでも作ることができる。

 この鍵は、はやての兄が死んだ後Zをいったん廃車にしたとき、一緒に処分したはずだった。
 しかし、まだ幼かったはやては形見と思ったのだろう、一本だけ持っていた。

 だが、たとえひとかけらでも残っていれば、あの悪魔の魔力は生き続ける。
 事実、廃車にされたはずの悪魔のZは解体所から引き揚げられ、めぐりめぐってなのはのもとにやってきた。

 闇の中から、何度でもよみがえる。

 悪魔は、死んでいない。

131リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:38:18.55 ID:4VRKLtbl
 夜の風が、もうすっかり冷たくなっている。
 寮に帰ってきたクロノは、軽く休憩を入れてからスープラのエンジンに火を入れた。

 湾岸を走り、そのままちょっと足をのばせば横須賀まで帰れる。
 横須賀に行けば、仲間たちがいる。
 でも、会いには行かなかった。向こうも、六本木に来たりはしなかった。
 距離や時間の問題ではない。
 会いに行こうとする意志がなければ、たとえ同じ町に住んでいたってすぐに離れ離れになってしまう。

 これから自分が行こうとしている場所には、いろいろなところからやってくる人間がいる。

 彼らは、普通に暮らしていればめぐり合うことはまずない。

 首都高を走る、ただそれだけのつながりがある。

 だからこそ、人によりかからず、独りをおそれず、生きていける。
 父が走りを愛していた理由は、きっとそういうものなのだろう。

「今日は隣はナシだぞ」

 姉妹でも、妹の方は色々と行動的だ。
 スープラの隣で地面に座り込んで待っていたロッテは、猫のようにクロノに上目づかいをくれる。

「わかってる。でも、私の気持ちもわかってるよね」

 空き地の隅に遠慮がちに停められた33Rはエンジンを切られ、車体が冷えている。
 もう今夜は走りに出ないつもりで、エンジンを休ませている。
 つまり、クロノが帰ってくるまでここで待つということだ。同乗もしないし、追走もしない。
 今夜、走りに出るのはクロノだけだ。

「クライドさんが生きてた頃は、お父様のとこに家族で遊びに来たりしてさ。その頃はクロノも
まだちっちゃくて、かわいかったよ」

「3歳とかそれくらいの頃だろ、よく覚えてるな」

「エイミィちゃんもランディも、クロノのこと、覚えてないっていうより、無意識に忘れたかったんだと思う」

「確かにな──オレでさえほとんど覚えてなかったんだ、でも、走ってると思いだせる気がする」

 立ち上がり、スープラのドアに手をついてコクピットをのぞきこむ。
 窓を下ろしているので、顔は近い。でも、近づけない。

 クロノの青い目。ロッテの目は、小さいころは同じ青だったが、大人になるにつれて薄金色になっていった。

 その移り変わりを、覚えているだろうか。

「オモテの通りに24時間営業のカフェがある、そこで待ってろよ。いくらお前でも
夜中に外に一人は危ないだろ」

「──うん」

 部屋で待ってろ、と、言ってくれることを、期待していなかったとはいえ、自分からは言葉に出せない。

 走り出していくスープラを、ロッテは普段からは随分しおらしい顔で見送った。
132リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:46:43.16 ID:4VRKLtbl
 まる一日かけたロケを終え、箱根から東京に戻ってきたフェイトと城島は、東名高速を降りたところで別れ、
それぞれの自宅へ向かった。

「お疲れ様でした」

「おつかれ、また来週もね」

「はい」

 遠見市へ、下道を走る。
 静かな郊外のバイパス道路は、ヒートアップした心をも静めてくれる。

 静かな道路を走る車は、とても美しく、そして楽しい。

 息を止めてコーナーを攻めなくても、ゆったりドライブをするのもまた楽しい。
 城島が言ってくれた通り、フェイトは、車にかかわるすべてが好きだ。
 車を、単なるスピードを出す道具としては見ていない。
 機能美を備えた、生きている機械として見ている。

 速く走る車というのは、命をはずませているということだ。

 マンションに着くと、エントランスの前にアルフが32Rを停めて待っていた。

「あれ、アルフは今日はもう終わり?」

 テスタを停め、アルフのもとへ駆け寄る。

「今日ははやめに切り上げてきたよ、そんでさ……フェイトは、今夜はこの後時間あるかい?」

「うん、大丈夫だよ」

 フェイトとアルフはいつもの公園へ向かった。
 いつも、この公園で時間をつぶしていた。
 駆け出しの頃、スタジオをあまり借りられなかった頃はこの公園で振り付けの練習をしたりもした。

 マンションの部屋を別々にしたのは、プライベートではそれぞれの生活を優先しようという意味と、
四六時中いっしょにいることで互いに依存しすぎないようにしようという二つの意味があった。

 GT-Rは、太いアイドリング音を低く響かせている。

「もしかしてアルフ、Rのマフラーかえた?」

 アルフの32Rにもともと付いていたのはHKSの公認マフラーで、これは静音重視のものだった。
 けしてパワーが出なくなるというわけではないが、普段のアシにも使っているので、やたらと
排気音を響かせるのはよくないという配慮からこのマフラーをチョイスしていた。

「ああ、まあまだ中身はそのままだけど、少しはよく回るようになってはいると思う。
なんつーか、ちょっとここらでアタシも気合入れなおさないとって思ってね」

「意外な風の吹き回しだね」

「いや、正直最近焦ってたんだよ。フェイトがいつの間にか遠くへ行っちゃうんじゃないかって」

「私は大丈夫だよ」
133リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 21:53:58.60 ID:4VRKLtbl
「──アタシは、フェイトみたいにすべてを車につぎ込むなんてできないよ。仕事上の付き合いもあるし、
接待とか、思ったより自分の自由にできるものってないんだ、時間もお金もね。
それこそ、こんなスポーツカーより、ひろびろとしたワゴンとかミニバンの方が、
ヒトをのせてどっかに出かけるには楽だしね」

 別にスポーツ系車種が嫌いというわけではない、ただ、それをすべてにすることに躊躇いがあった。

「大丈夫だよ、テスタはもうひととおり完成したから、あとは、まあまたムリしてどっか壊したりしない限り
そんなに大きな出費はないよ、もしなんだったら普段用にセカンドカーを用意してもいいし」

 生きていくうえでのものごとの重さというのは、もちろん個人によって感じ方は異なる。
 ある者にとっては楽しいことでも、他の者にとってはつらいことかもしれない。

 その違いを生むのはたとえば経済力であったり、立場であったり、そして、最終的には本人の意志だ。

 アルフはマネージャーとして、本来ならばフェイトを諌めなければならない立場だ。
 だが、自分でフェイトと一緒についていきたいとも思っている。

 それが、板挟みだった。
 フェイトとしては、仕事をきちんとできていて、そのうえでの空き時間にやるのだったら何も問題がない、
と考えていた。しかし、アルフはそれでも、この空き時間が終わって仕事に戻ったらどうなるのか、また
無事に仕事に戻れるのか、ということを考えていた。

 それは直接的にはスピードの恐怖である。
 スピードを出して走れば、事故時の生命の危険というのは二次曲線的に増加していく。

 自分がそんなことでいいのか。

 もし何かあったら、上司や、契約先や、彼らに何と言い訳すればいいのだろう。

 そんな不安が、アルフの心を締め付けていた。

 いや、そんなことはフェイトだって同じはずだ。
 それともやはり、一定以上のアイドルとなるとお姫様のようにもてはやされ、少々のやんちゃは
温かい目で見られるようになるのだろうか。
 アルフは、自分で思案するのが限界に突き当たっていると感じていた。

「──ねえ、よかったらちょっとドライブに行かない?攻めるんじゃなくて、普通に流すの」

 フェイトは、優しい顔でアルフを見てくれる。
 自分の方がずっと年上なのに、この少女に、今はすがりたい。

「……ああ。行こう」

 自分で口には出したが、これから自分がどこへ行こうとしているのか、アルフは迷っていた。
 行く、とは、自発的な要素を含む言葉だ。自分の意志で移動するという意味だ。
 しかし、今これから自分は、自分の意志で動こうとしているのだろうか。

 誰かについていき、目的地を任せるのは、自分の意志ではないのだろうか。

 それでも、フェイトと一緒に走ることで何かを見つけたい。
 それがせめてもの意志だと、思いたい。
134リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:01:50.63 ID:4VRKLtbl
 エンジンの調整を終え、Zのボンネットを閉めたなのはは、工具を片付けながらはやての方を見た。

「えっと、今日ははやてちゃんたちはどうするの?」

「大丈夫やよ、こっからうちまでやったら歩いても帰れるし」

「今夜も乗せてくれよ」

 ヴィータはなのはを見上げて言った。
 いつも大事そうにしている、うさぎのぬいぐるみを抱えている。

「うん、わかった、送ってくね」

「っ、そう、じゃなくって……高町、また首都高に一緒に行きたいんだ」

 はやてが視線をヴィータに下ろす。
 このZを嫌っていたはずのヴィータが、なのはと一緒に乗ろうと言っている。

「おまえもリインも、あたしがなんか言うくらいじゃ絶対にやめてくれないと思う、でも、
だからって、あたしはおまえのことを知らんぷりなんてできないよ」

「ヴィータちゃん」

「だからっ、その」

「──わかった。乗って。そして見てね、このZを」

 なのははZのエンジンをかけ、いつも着ているジャケットの内ポケットから、キーチェーンを使ってサイフに
つないでいた鍵を外してはやてに渡した。

「これ、部屋の鍵だから、はやてちゃんは部屋で待っててよ。大丈夫、学校にはちゃんと送っていくから」

「うん……わかった。帰ってくるときは電話してや、シグナムにはわたしからゆっとくよ」

「ああ……」

 ヴィータも4点式シートベルトの締め方を覚えたようで、自分でベルトをバックルにつないでいる。

「なのはちゃん、気を付けてな」

「うん」

 3.1リッターツインターボエンジンの太い排気音をあげながら、Zが発進していく。

 Zが出ていったあとのガレージは、孤独感を覚えるほどに静かだった。
 この海鳴にこういった閑静な住宅街があったというのもはやてにとっては意外だった。
 同じ町に暮らし、同じ学校に通っていた時期もある。それなのに、この場所を知らなかった。
 なのはがこの場所で暮らしていることを知らなかった。

 人間の出会いというのはとてもはかない。
 濃いガソリンの匂いは、どこか懐かしさを感じさせた。
135リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:08:25.64 ID:4VRKLtbl
 クロノが寝泊まりしている寮の裏手空き地に、白いR32GT-Rがやってきた。
 カフェに行こうかどうか思案していたロッテは、すぐにそれがアリアの車だとわかる。

 R32はハザードを点けて路肩に止まり、駆け寄ってくるロッテに助手席側の窓を開けた。

「なにやってるのよロッテ、こんなところで」

「いやその、まあちょっとぶらぶらと」

「こんなところをブラブラしてる方こそ何をやってるのでしょ、クロノは?今日はもう出かけたのかしら」

「みたいだね、たぶん、車もないし」

「っていうより、あなたが来てから出かけたんでしょ?」

 ロッテはばつの悪そうな顔をして頭をかいた。

「ばれてたかあ」

「しょうがないコね、あなたも」

 32Rのドアを開け、アリアの横に座る。
 33Rに比べて32Rは車体が小さめなので、室内はやや狭く感じる。運転席に座った時の車体感覚も、
こちらのほうが実際の寸法以上に小さく感じる。

「追いかけて上(高速道路)にあがらないの?」

「や……なんていうかそういうのじゃないんだ」

「昔からよね、あなたは」

 元気はいいけど、特定の相手に対してだけはものすごく奥手になる。
 小さいころは無邪気に元気に遊んでいて、成長するにつれて、ふと、異性を意識してしまう
瞬間がある。しばらく会っていなかった子に、久しぶりに会った時、その成長に惹かれてしまう。

 クロノは、アメリカでのジュニアハイスクールの頃までは他の同年代の子供に比べて背も小さくて、
ロッテたちにとっては可愛い弟のような感覚だった。

 だが、今のクロノはもう立派な大人だ。
 そして同じように、ロッテも大人になって、それぞれ、自分の意志での付き合いができる年齢だ。

 どこで、道を違えたのだろうか。

 同じ場所にいて、同じものをを見ていても、同じ道の上にいる感覚をつかめない。

 それが、切ないほどにもどかしい。

「言葉に出すのがこわいよ」

 アリアは黙って、32Rのフロントウインドウ越しに道行く車を眺めている。
 エンジンを切ると、外の道路のざわめきが、流れてくる。

 ハザードランプを点滅させる、規則的なクリック音だけが二人を包んでいる。
136リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:17:23.79 ID:4VRKLtbl
 横羽線を上り、浜崎橋ジャンクションを直進して環状内回りへ入る。
 東京銀座エリアのビルの間を、縫うようにして走る環状線は、地形やほかの建造物による制限があり、
高速道路としては非常に複雑なコースレイアウトをしている。
 普通に走るのですら神経を使う、荒れた道だ。

 走り抜ける数分の間が、とても息苦しい。

 横羽から環状を経由し、最短距離で湾岸へ向かう。
 江戸橋ジャンクションから9号深川線へ入り、箱崎から福住・木場方面へ曲がれば、辰巳から湾岸に乗れる。
 堀切まで回って葛西から湾岸へ入るルートもあるが、若干遠回りになる。

 新木場のコーナーへ切り込み、強い横Gに耐えながら踏み込む。
 S30は、ノーマルではただのストラット式で、いかにも古めかしい足回りだ。
 スカリエッティはこのS30をつくるにあたり、サスペンションメンバーをほとんどイチから設計しなおす
ように足回りを組んだ。リアのストラットタワーまでロールケージを延長し、リアタワーバーで左右輪をつなぎ、
左右のタイヤが確実に連動するように補強を入れた。S30のノーマルモノコックの強度では、高い荷重をかけて
走ると、いってみれば左右のタイヤがばらばらに動くようになって、車体が安定しない。
 いくらLSDをいれても車高調をイジっても、それらのパーツを支えるボディがゆがんでいては速く走れない。

 Zを、もっと知りたい。
 もっと速く走りたい。もてる力を、最後の一滴まで絞り出したい。
 最後まで、限界までパワーとスピードを出してみなければ気が済まない。
 そして最後の一滴まで出してもそこで終わりではない。もっと、もっと出せるはず、もっと速く走れるようにしたい。
 そのために、エンジンも足回りもボディも、もっと強化していきたい。

 それはまさに終わりのない、どこまでも果てのない、無限の欲望だ。

 速いスピードでのコーナリングで、Zの車内には、ドアなどのパッキン部分のゴムがこすれる軋み音が聞こえてくる。

「高町……どうしたんだよ?なにか焦ってないか……?」

 ドアの取っ手につかまりながら、ヴィータはステアリングを握るなのはを見た。

 Zのトランスミッションは今の新しい車に比べてレバーのストロークが長く、ギアの入りも渋いためかなり力を入れて
レバーを動かさないといけない。力を入れて叩き込むようにシフトレバーを握る。
 3速と4速を主に使い、混んだ9号を走り抜けていく。

「このZを信じてるんじゃなかったのか……?おまえの車なんだぞ、これは」

 辰巳ジャンクションから湾岸へ合流。ギアを5速に入れ、アクセルペダルを床まで踏み切る。
 もはやエンジン音よりも風切り音のほうが激しく、耳をつんざくように聞こえる。

「たしかに焦ってるかもしれないよ、私──
こんなに速く走ろうとしているのに、Zは、いつ、いきなりでも自分から命を絶とうとしているような動きを
見せるんだ──エンジンはどこまでもまわり続けて、そして壊れてもさえ回り続けていこうとしているようで、
まるで自分のパワーが自らを食い破ってしまうように──」

 サイドシートからなのはの顔を見ると、窓の向こうに見える夜のビルの景色が、光の残像を引いて
とほうもない速さで流れていく。

「胸が張り裂けそうだよ。力を出したくても出せない、ううん、こんなに強い力を出してるはずなのに、
これじゃあ足りない、まだまだ足りない、力を出したりないって感じちゃうんだ。
それで、もっともっといけるはずって思って、どこまでも走ろうとして、そして限界を超えたいと思う──」
137リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:25:26.53 ID:4VRKLtbl
 限界を超えてしまえば、そこに待っている結果は一つしかない。
 ヴィータは息をのむ。

「でもそれがこのZにとっての生き方なのかもしれない、命なのかもしれない。
だから私はこいつをずっと走らせていきたいんだよ」

「走らずにはいられないのか」

「わかってるはずなんだよ──」

 東海ジャンクションから連絡路を渡り、昭和島から横羽線下りへ合流する。
 目の前に、黒いポルシェターボの姿が現れた。

 ブラックバード。

「あたしもはやても、気づいてたはずなんだよ。気持ちは分かっても、それを言葉にできないんだ」

「彼女も同じなんだ──」

「言葉にできないつらさってのはすごくあるんだ。はやてとリインはそれをいちばんわかってるはずなんだ──」

 横羽下り。そういえば、このルートで一緒に走ったことはまだない。

「だからリインは、あたしたちの誰にも近づこうとしないんだ、ずっとひとりぼっちだったんだよ──」

 生麦ジャンクションを直進し、横浜環状をぐるりと回って再び横羽上りへ乗る。
 ブラックバードは、誰かを探しているように、ゆったりと巡航している。
 待っている。そして、予感している。

 今夜がきっとその時になる。

「(この911を仕上げてくれたスカリエッティさん──この車が、
きっと自分の最後の仕事になるだろうとあなたは言った──)」

 911のステアリングを握りながら、リインはあの男の表情を思い浮かべる。

「(走る意味を知ってほしい、それがクライドの遺志だった──私はそれを、彼に伝えたい──)」

 スカリエッティは、今夜出発する前、クライドとのことをリインに語った。
 あの当時、クライドは自分のダブルエックス2.8に搭載するエンジンのチューンをスカリエッティに依頼した。
 ベースは当時最新の70型スープラに搭載されていた、1JZ-GTE型ユニット。
 ダブルエックス2.8のもともとのエンジンは、その車名の由来にもなった2.8リッターの排気量を持つ5M-GEU型
だが、1JZはやや少ない2.5リッターの排気量を持ち、それでいて軽量なセラミックツインターボを装備することで
280馬力を発生、非常にレスポンスに優れるターボエンジンだった。

 あの頃、自分たちのつくる車はエスカレートしすぎていた、とスカリエッティは言った。
 高品質なエンジンパーツも出回り、入手しやすくなり、その気になればどこまでもパワーを追うことができた。
 旧型である日産L型、トヨタM型なども、蓄積されたノウハウにより非常なパワーを発揮できた。

 どこまでも、追い求める。どこまでいっても終わりというものがない。
 ここまでにしておこう、ここまででじゅうぶん、そういった線を引くことができない、どこまでも追い求めてしまう。

 このラインをクリアしていればいいという妥協点を置けないから、どこまでも追い込んでしまう。
 結果として、できあがる車は恐ろしく力を持ち、そして手におえないものになる。
 仕事としても、受け取れる工賃その他の報酬の割に合わないものになる。
 仕事として、そんな車を依頼してくれる人間などほとんどいない。
 そしてそんな人間が、恐ろしい車を乗って生きていられる確率などさらに低い。
138リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:33:39.72 ID:4VRKLtbl
 何人もの走り屋が死んでいく。

 クライドは、走りでは死ななかった。なんでもない一般道での不運な事故で死んだ。

 もしクライドが生きていれば、自分の車を最後まで乗りこなせていたかもしれない。
 そんなかなわない夢と、そして、クライドが一度だけスカリエッティに漏らしていた、自分の息子のこと。
 小さいころから、親の言うことをよく聞く、おとなしい子供だった。
 そんな聞き分けのいい子供を、いつまでも我慢できないだろう。
 大人になって免許をとれる年齢になれば、もしかしたら、自分と同じように走りの世界にやってくるかもしれない。

 その時、きちんと教えてほしい。

 自分はけして、無謀な走りをすすめたいわけではないんだということ。
 引き返せば安全な生活はある、それでも自分の意志で踏み込もうとするなら、絶対に迷わないでくれ、と。

「(そうだ──私は彼とともに走り、戦う──勝負する。その中で彼が何を見つけるかだ──)」

 横羽から、再び環状へ。今度は外回りだ。
 東京タワーのイルミネーションがきらめく中を、Zと911が走り抜ける。

 霞が関トンネルを抜け、北の丸を駆け上がっていったとき、一ツ橋ジャンクションから合流してくる車が見えた。

「フェイトちゃん──!」

 ガンメタのテスタ。5.4リッターの12気筒エンジン、さらにNOSをも搭載する。
 ひたすらに最高速度を追い求めた、電撃のような速さだ。

 テスタの後には赤い32Rも続く。アルフの車だ。
 パワー的にはやや物足りなさを感じさせるが、運動性の良さでカバーする。

 さらに江戸橋ジャンクション、内回りからスープラが現れた。

「クロノ君──なのはも、ブラックバードも──!役者はそろったね──!」

 NOSのバルブを開き、ナイトロスタンバイスイッチをソニックモードに切り替える。
 シフトアップ、ダウン、パーシャル域での過渡特性を改善し、どの速度域からでも瞬時に加速できるように
NOS噴射を行うモードだ。この制御なら、どんな車よりも加速力は高い。

「夢みたいだよ、ヴィータちゃん──こうやって走っている、みんなが、それぞれの力を出し切っている──」

 なのはの表情は、恍惚とも、戦慄とも取れる、危うい目をしている。
 瞳の芯が、必死で意識を保とうとしている。

「私は、このZを信じていたい、信じている──だから、このZを絶対に死なせない」

 箱崎を直進。堀切ジャンクションから中央環状線を経由し、葛西ジャンクションから湾岸へ乗る。

「(エキゾーストの音色が違う──高町が自分でセッティングしたのか──)」

 先行するZのテールを見つめながら、リインはかすかな羨ましさと、危うさを感じ取っていた。
 Zに、近づき、Zをもっと知ろうと深みへ入り、そうして、知らず知らずのうちにのみこまれていく。
 Zの魔力に、自分が呑み込まれていく。
139リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:41:23.81 ID:4VRKLtbl
「見ているかい、父さん──あの2台は今でも走っているんだ、ブラックバード、悪魔のZ──」

 4台とも、速さは全く互角だ。
 先頭がZ、その後に911、テスタ、スープラと続き、アルフの32Rが最後尾で追う。

「オレは父さんの気持ちと──母さんがなぜオレに、父さんのことを話さなかったのか、今のオレ
自身がきっとその答えだ──」

 テスタをパスして911に迫る。
 湾岸の長い長い直線、群れるトラックや一般車をかわしながら、走る道すじが限りなく重なっていく。
 先頭をゆくZが、道を切り拓いていくように感じていた。



 猛スピードで横を突き抜けていった車に、風圧で車体が揺さぶられる。
 思わずハンドルを握りしめ、車体の安定を保つように集中する。

「わああ!すっごいのが今走ってった!」

 追いかけようかとも思ったが、はるか前方に小さく見えるテールランプを見て、これはかなわない、と
瞬時に理解した。あの連中はまさに化け物だ。

 今日はとりあえず道を覚えに来ただけだし、無理して攻めることもない、そう思い直して、
一般車の流れに乗った巡航を続ける。
 それでも、深夜の湾岸線は一般車でも140km/h以上のスピードで速く流れる。トラックだけは
90km/hで作動するスピードリミッターがあるので、攻めて走る場合、この一般車とトラックの速度差を
考慮しなくてはいけない。どの車線を選び、どのラインをとればうまくスピードをのせていけるか。

 青いインプレッサは、その象徴ともいえる水平対向エンジン独特のボクサーサウンドを奏でながら走る。

 ドライバーは、幼さをたっぷりと残した、端整な顔立ちの少女だ。
 ストレートのやわらかいショートヘアはボーイッシュさを感じさせる。

 インプレッサはGDB型の後期モデル、2006年式だ。
 リアトランクにそびえ立つ大型のリアスポイラーと、ブリスターフェンダーに収められた大径ホイールは
4輪駆動システムと組み合わさって路面をしっかりつかむ足になっている。

「まずファイナルは換えないとなぁ、そんでもちろんエンジンも、やっぱり北米仕様のEJ25に載せ換えるのが
手っ取り早いかな」

 新しいステージを目の前に、少女は自分の愛車をチューンしていくプランを目を輝かせて考えている。

「あれ?渋滞かな」

 前方に、車の列が連なっているのが見えてきた。先行する車両が順次ブレーキランプを点灯させて
減速していく。先の方にいるトラックが、ハザードランプをつけて後方の車両に停止していることを知らせる。

「あっちゃー、こんなとこで渋滞にはまっちゃうなんて、ついてないなー」

 流れはすっかり止まってしまった。高速道路といえども状況によってはこのように速度が止まってしまう、
東京の首都高ならではの道路状況だ。
140リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:49:17.58 ID:4VRKLtbl
 インプレッサはいちばん左側の走行車線で、ちょうど東海ジャンクションの手前のあたりにいる。
 左へ緩やかにカーブしていく道路は、羽田空港の手前で海底トンネルに潜る。
 その海の向こうに、赤く染まった空が見えた。

 街の明かりではない。街灯やサーチライトではない。赤い光が、煙に反射して黒く光っている。

「え…………火事?……まさかっ、羽田で空港火災……!?」

 よく見ると、火の手は空港ではなく、その中を通り抜ける道から上がっている。
 湾岸線は海底トンネルを抜けると、羽田空港の2つのターミナルビルの間を走り抜ける。
 そのあたりから火の手が、空高く上がっている。
 揺らめく大気の中を、航法灯をつけた旅客機が着陸していくのが見える。

 予感の的中を示すように、道路に設置された電光掲示板に、『2キロ先 車両火災』の文字が点灯した。



 3車線の道路が、火の海に包まれていた。

 路肩に停まった911とテスタから、リインとフェイトが降りて炎の先を見つめている。
 これでは生身で手は出せない。消防車の到着を待つしかない。

 クロノも、険しい表情でZを見つめている。

 屋根がつぶれて、バーストしたリアタイヤで車体を傾げさせたZは、車体後部の燃料タンクからもうもうと
炎を上げている。クラッシュの衝撃でタンクが破損し、ガソリンに引火した。
 Zのさらに向こうで、道路を斜めにふさぐようにして止まったトラックがいる。
 向こうの運転手も、炎上する車を前にどうすることもできない。

「外科部長ですか、八神です。緊急オペの手配をお願いします、ええ、はい──クランケは18歳女性、自動車事故で、
外傷は左足脛部骨折、内臓破裂の可能性が──、血液型は──ヴィータ、高町は何型だ!?」

「えっ、えっと、そ、そう、Oだ、O型だよ」

「わかった。──すみません、外科部長、O型の輸血準備を。ええ──わかりました。救急隊には私から説明します。
第2手術室ですね、わかりました。よろしくお願いします──」

 病院との連絡電話を終え、リインはヴィータのもとに駆け寄った。

 ヴィータはぐったりとして動かなくなっているなのはを抱きかかえ、必死に呼びかけている。
 300km/hでトラックに激突したZは、激しくスピンしながらガードレールにぶつかり、車体を横転させながらも
かろうじて道路の中にとどまっていた。
 窓ガラスはすべて砕け散り、右リアタイヤはサスペンションが根元から曲がっている。

 車体がゆがんでドアが開かなくなったので、割れた窓から身体を引きずり出した。
 その直後にZは爆炎を噴いて燃え上がった。

「高町!しっかりしろ、高町!っちっくしょう!なんでだよ……なんでなんだようっ!」

 ヴィータは涙を流し、髪を振り乱して叫んでいる。
 なのはは最後までZをコントロールしようとし続け、助手席側のダメージを抑えた。
 ひきかえに、コクピット側をガードレールに直撃させてしまった。
141リリカルミッドナイト ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 22:55:37.47 ID:4VRKLtbl
「悪魔でもいいって……たとえ悪魔でもこの車がいいって、言ったんじゃなかったのかよ!
おまえが悪魔なら、なんであたしたちを助けてくれるんだよ!
死ぬなっ、高町!おまえが死んだらはやてはどうすりゃいいんだよ!高町ーーーっ!!」

「ヴィータ、落ち着け!わめいてもなんにもならん、救急車にお前も乗れ!お前も派手にコロがったんだ、
首をやっているぞ!高町のことは私に任せろ」

 リインはヴィータを引きはがし、抱きしめるようにして宥める。

 消防車と救急車がやってきて、事故処理を始めている様子を、クロノとフェイトとアルフはやや離れたところから、
神妙に見守っていた。この場では、自分たちにできることは何もない。ただ邪魔をせず見ているしかない。

「──Zは──なのはは、先頭を走っていたからトラックをかわせたはずなのに──」

 つぶやくように、フェイトが言葉を絞り出す。

 羽田南トンネルでの減速にかかる直前、空港中央ランプを通過した直後、ふいにトラックがなのはたちの
進路をふさぐように車線変更してきた。湾岸には時折、こうやって走り屋の走行を邪魔するトラックがいる。

 だが、このときのトラックは切り込みすぎていた。

 白線を巨大なタイヤがまたぎ、なのはは明らかにすり抜けられるスペースを奪われたことを直感した。
 このままいけばトラックのタイヤに激突し、右へハンドルを切ってかわそうにも壁がある。
 まっすぐ突っ切ればかわせるが、後続の4台はかわせない。トラックと中央分離帯に挟まれてしまう。

 Zはトラックを押しのけるように衝突し、結果、テスタ、911、スープラ、32Rはクラッシュを回避して停車できた。

「──突っ込んでしまったんだ──オレたちのために」

「なのは──」

「────信じるよ」

 クロノの言葉に、フェイトは驚きに打たれて顔を上げた。
 日本語ではなく、母国語である英語で、アイ トラスト ハーと言った。
 フェイトも英語での思考に切り替え、クロノの気持ちに同調する。

「彼女なら必ず立ち上がれる。彼女は、絶対に挫けない心を持ってるんだ。
心さえ挫けなければ、身体は必ず治る。身体が治って、心が挫けていなければまた走り出せる。それを信じよう」

「うん──このままじゃ終われない────優しいんだよね、悪魔ってのも──」

 消防隊からの放水を浴びるZは、真っ白な車体を煤で黒く染めている。
 それは自ら破滅を願うかのように、その身を震わせていた。


   SERIES 8. 撃墜 END
142Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/08/27(土) 23:02:27.54 ID:4VRKLtbl
第8話終了です

悪魔のZ炎上!なのはさんはどうなってしまうのでしょうか
そして青いインプレッサのドライバーはいったい…?

なんか最近ロッテとクロノのおねショt・・・ゲフンゲフン

ではー
143名無しさん@お腹いっぱい。:2011/08/30(火) 19:04:29.28 ID:lStAzOKa
おっさロリならザフィーラ使えばかんたげふげふ
144ドラなの 忍法帖【Lv=9,xxxP】 ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 20:40:17.24 ID:vLDRziLN
こんにちわ〜
23時頃よりドラなの第5章を投下するので、よろしくお願いしま〜す!
145ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:04:50.03 ID:vLDRziLN
では時間になったので投下を開始します。

ドラなの第5章「脱出」

「『ひらりマント』!」

見覚えある二頭身のロボットはその黒と赤のマントを手に、女との間へ割って入った。
それでも構わず放たれる砲撃。だが猫型ロボットはそれを

「ひらり!」

という掛け声とともに反らして見せた。
その砲撃は目標である自分を大きく反れて近くの壁に着弾。壁に穴を穿ち破壊の嵐を撒き・・・・・・いや?散らさなかった。
それどころか着弾したという確信が持てぬほど、そこには何の影響もない。

「(今の非殺傷(破壊)設定やったんか・・・・・・?)」

まだ自分に利用価値があると思っていたのだろうか?
しかし事態は考える間を与えなかった。
続いて後ろから「ドッカァーン!」という聞き覚えのある野太い声が。そしてそれとともに空気圧とは名ばかりの強烈な衝撃波が頭越しに通過して、浮き
足立った敵に着弾した。
それによって敵は一時高空へと退避する。

「はやてちゃん!大丈夫か!?」

振り返るとそこには、手に黒光りする筒を装備した剛田武がいた。

「た、たけしくん!?それにドラちゃんも!?」

「説明はあと!ジャイアン、はやてちゃんをおぶってあげて」

「任されよう!」

駆け寄った彼は疲弊した自分を背負ってこれまた謎のプロペラの付いた道具を自分に取りつけると、異議を唱える間もなくビルから"飛び降りた"。

(「えっ!?ちょっ、待ーーーーー」)

ここが何階か分からぬが2階とか3階というレベルではないことは確かだ。
はやてはスレイプニール(飛行魔法。翼を媒介とするため、一度作動させればある程度デバイス抜きでも継続運用できる)の緊急フルドライブに備
えるが、いつまで経っても落下の感覚はやってこなかった。

「・・・・・・と、飛んどる?」

一瞬もう死んだかと思ったが、身体中に走る痛みはこれが現実であると訴えた。

「たけしくんも魔法が使えるん!?」

「・・・・・・魔法?なんだそりゃ?」

武はあまり考えた風もなく下から応えると、筒から
146ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:06:52.25 ID:vLDRziLN

「ドカンッ!」

と叫んで敵へ衝撃波を放つ。
直後巨大な平手打ちでも喰らったかのような莫大な反動で大きく姿勢が乱れ、落ちそうになった。

「うぁぁぁーーー!ってありぁ?」

突然かかった急制動に武が怪訝な声をあげる。
その場は瞬間的な慣性制御によって背中の翼からたくさんの羽根が抜け落ちて、ちょっとした桜吹雪を現出していた。

「大丈夫か?」

呼びかけてみると、ようやく彼も何が起こったのか理解したようだった。

「あ、ああ。はやてちゃんか。助かったぜ」

「反動には気ぃつけてな。わたしはこの状態やとあんまり飛行の制御できへんから」

「わりぃ。―――――だがもうちょっと辛抱しててくれよ!」

言いつつもその筒をつけた右腕を横に旋回し、容赦なく放つ。
再び襲う反動。
しかし意図したことは攻撃ではなかったようだ。
彼にしっかりと掴まりつつ、さっきいた場所を見返す。すると舞っていた黒い羽根の桜吹雪を柱のような黄色い魔力砲撃が貫いていた。
武はドラえもんの防衛ラインを越えてくると踏んで、緊急回避にその反動を利用したようだった。
しかし所詮は素人の付け焼刃。護衛のドラえもんとは目的地以外のコースの同調ができない(事前にうち合わせていない)らしく、満足な予備回避
機動(ジグザグの回避運動など)ができずにデフォルトは直線飛行してしまう。
おかげで敵も偏差砲撃がいともたやすく行えるようで、どうしても緊急回避が多用されてしまっていた。

「(わたしが指揮してたらこんな綱渡りな機動させへんのに!)」

もしドラえもんが敵の1人に火力拘束されて、もう1人が攻撃してきたらと思うと気が気でない。
しかし何度試しても2人には念話は通らなかった。

「(まさかリンカーコアを持ってないんか?いや、でもこんな魔法みたいな科学がありうるはずないやないか!)」

ここ(第97管理外世界)より科学が進んだミッドチルダでさえこんなことは出来ないはずだ。
しかしその思索は敵の強力な魔力砲撃が自らの帽子を吹き飛ばしたことによって中止させられた。

「(今のは危なかった・・・・・・と、ともかく魔法かどうかの議論は後回しにして2人に話しかけんと!)」

かといって反動による無制限の急加速、急制動の繰り返しで口を開ければ舌を噛み切ってしまいそうだ。
どうやら今できるのは、同年代とは思えないほど大きな背中を持つ友人に掴まることだけらしい。
半ば諦めにも似た気持ちになりながら歯を食いしばり、首に回した腕を必死に保持する。
何回目だろうか?数える事すらままならぬ緊急回避に頭がフラフラになってくる。
それでもなんとか敵の位置と武の砲の位置を把握し続ける。
なぜならそうしないと武の機動の予想が立たず、緊急回避に備えることができないからだ。
左舷後方に静止した敵。どうやら照準に入ったようだ。気づいた武の右腕が真上に旋回し発射される。
普段なら難なく掴まり続けていられたはずだ。しかし大きなダメージを負った上で不規則な機動で脳をシェイクされ続ければ、その体が彼女の意思
を一瞬でも裏切ってしまうのは仕方のない事だった。
147ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:09:34.43 ID:vLDRziLN

「わ!」

回避の際の加速度に煽られて首に回していた腕が解かれ、武の左腕に保持されていた左足も抜けてそのまま空中に取り残されてしまった。
飛行魔法で落ちることはなかったが、デバイスがないので弱った飛行魔法の復旧ができず、回避と呼べるような機動はできない。
しかし予想された第2射はやって来なかった。見ると1筋の青白い光線が横切って、敵がそれの回避に躍起になっている様が見てとれた。

「遅いぞのび太!」

「ごめ〜ん!思ったより深く刺さってて・・・・・・」

下界よりやって来た彼がおもちゃのピストルのようなそれを武に投げると、もう一丁をポケットから取り出して装備する。どうやら左手は長い得物の
せいでふさがっているようだ。
あれはーーーーー

「はやてちゃん大丈夫?」

「ウ、ウチは大丈夫やけど・・・・・・」

「良かった」

のび太はそう言って安心すると、その得物をこちらへ差し出してきた。

「えっとこの棒、たぶん大事な物なんだよね?落としたみたいだから拾っておいたよ」

彼の左手に握られていた細長いポール、『シュベルト・クロイツ』がそこにあった。

「それ、ウチのデバイスや!のび太くんホンマありがとう!」

「うん。でもあんな高い所から落ちたのに壊れないなんて丈夫な─────」

「のび太くん危ない!」

ドラえもんの警告。
話していて完全に敵の存在を意識の外に置いてしまったらしい。のび太の弾幕が止まった事で隙のできたこちらへ敵の砲撃が放たれたようだ。

「盾!」

主の命に蒼天の書が副唱。受け取ったばかりのシュベルトクロイツが魔力を出力して、彼と砲撃との間に遠隔展開された魔力障壁は無事彼を
守―――――れなかった。
デバイス搭載の魔力コンデンサのチャージが受け取ったばかりだったために全くなく、通常出力のみでは耐えきれない。
ベルカ式の三角形のシールドは、ダムが決壊するかのように着弾点から瞬時に砕けて散る。
だが稼いだその零コンマ何秒はのび太に回避の隙を与え、光の鉄砲水が彼の頭にのっていた竹トンボのような奇妙な機械を吹き飛ばすにとど
まった。
―――――はやては知らなかった。その機械がやられる事がこの状況では彼にとって致命傷に近い事が。
だからそれが吹き飛ばされた事自体には何とも思わなかったが、彼が自由落下し始めたのを見てようやくその重要さに気づく。

「(あれがデバイスやったんか!?)」

148ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:11:50.64 ID:vLDRziLN
となればこうしてはいられない。しかしもはや通常の飛行魔法では間に合うまい。はやては即決すると蒼天の書に書かれた最終兵器を呟いた。
瞬時に白いミッドチルダ式魔法陣が展開されて

『フラッシュ・ムーブ!』

という復唱とともに疾風と化すと、急降下して落ちるのび太を抱くように救助する。

「止まってぇぇぇ!!」

飛行魔法を具現化する翼が折れんとするほどの急制動を掛けて、降下速度を殺していく。
本来この魔法の開発及び使用者であるフェイトは特別な方法によって直ぐに減速が可能だ。しかしはやてはまだその方法まで教わっていなかった
のだ。
迫る下界。
次の瞬間には叫びもむなしく自転車クラスに減速したスピードで"着弾"した。

「あいたたた・・・・・・のび太くん大丈夫か!?」

ガサガサいう動きにくい足場と立ち込める悪臭に顔を歪めながら、救助したはずの友人の名を叫ぶ。
すると彼は『海鳴ゴミ焼却場』と書かれた看板の近くで自分と同じく大量のゴミの山に埋れていた。

「あ、うん。ごめん。ありがとう・・・・・・」

「ええよ。お返しや」

はやてはそう言って、ニッコリ微笑んだ。

(*)

「ところで何でみんながここにおるん?」

のび太救出後制空権を完全に奪われて、件の場所で防空戦闘を行う中、はやては皆に問う。

「それは―――――ひらり!こっちが聞きたいよ!ここはどこなの!?」

ドラえもんの反らした砲撃が積み上げられた生ゴミの山に飛び込んで、吹き上がった腐敗物が自分達に降り注ぐ。
はやては頭に乗った鶏の骨らしきものを払い落としながら彼の問いにどう答えたものか瞬間的に逡巡(しゅんじゅん)するが、隠しても仕方ないと本
当の事を言うことにした。

「結界の中や。管理局・・・・・・わたしの仲間の救援が来ないってことはよっぽど強力なもんやと思うけど・・・・・・」

「結界?・・・・・・そうか、わかったぞ!」

「・・・・・・何がわかったの?」

「22世紀にもこれと同じような道具が売り出された事があるんだ!」

「じゃあ出る方法もわかるんだろ?」

しかし武のセリフに、ドラえもんは苦い顔をして首を振ってみせた。
149ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:13:51.82 ID:vLDRziLN

「それが・・・・・・この道具は空間を切り取る道具なんだけど、もし内側で事故があっても救助隊が入れないとか欠陥だらけで発売中止になっちゃった
んだ・・・・・・」

「そんなぁ〜!」

「もう、この役立たず!」

「ごめん・・・・・・」

しかしはやてにはこの会話に腑に落ちないことがあった。

「せやけど『なかなか入れん』ちゅう話なのに、どうやってみんなは入って来たん?」

「それは・・・・・・たぶん僕らは『壁紙秘密基地』の"超空間"にいたから、結界からの排除を免れ・・・・・・あっ!?」

彼の頭の電球的なものがピカッと光を放った。―――――ような気がした。

「出れる!出られるよ!この結界は超空間には干渉出来ないんだ!だから超空間を経由して秘密基地の出入口を結界の外に作れば─────!」

「晴れて星空が拝めるってわけだな。よぉーし!はやてちゃん、こっちだ」

武は先読みすると手招きと共に基地へと向かおうとする。しかしドラえもんは

「待って!」

と呼び止めた。

「基地の場所がバレるのはまずい。まずあの敵を何とかしないと!」

敵は上空を遷移したままこちらの出方を窺っている。基地とやらがどんなものか知らないが、そんな状態で下手に動けば砲火を雨あられと降らされ
てあっという間に動けなくなることは必至だった。

「じゃあ、足止めならわたしに任しとき。でも、ちょっちあのごっつい攻撃を何とかしてくれるか?」

牽制なのか近くの地面に着弾した魔力砲撃に視線に投げて言う。

「そういう事なら」

「「任しとけって!」」

武、そしてのび太とドラえもんが応じ、のび太の『ショックガン』からは少なくともクラスA相当の魔力砲撃が。
武の『空気砲』からは魔力で包んだらしい空気圧の塊を

「ドカンッ ドカンッ」

と連続的に撃ち出した。
ドラえもんも引き続き超低空にて、『ひらりマント』による全員の直掩(護衛)に入った。
(なおそれぞれのデバイス(道具)の名前はこの対空戦闘中に知りえたもので、ドラえもん達にばれないように行使した蒼天の書の簡易解析魔法
によって魔力を使ったものだとわかっていた。)

150ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:14:25.50 ID:vLDRziLN
「(いい腕とチームワークや)」

はやては普段の生活では想像できない彼らの手際を横目に、巨大なベルカ式魔法陣を展開して魔力のチャージに入った。

「うわ!なんだこれ!?」

どうやら突然足元に出現した魔法陣に驚いたようだ。ドラえもん達が敵の攻撃と勘違いして逃げようとする。

「大丈夫や!これはわたしがやっとるから!」

「そ、そっか・・・・・・」

「なんだ、驚かすなよ」

敵もこちらの魔力チャージに感づいたの攻撃の嵐が吹き荒れる。しかしそれはドラえもんによってそのことごとくが反らされた。
逆に武の範囲攻撃的な空気砲と、運動神経に似合わず射撃の得意なのび太のショックガンによって満足な射撃位置にすら着けないようだった。
しかしチャージも8割を超えようという時に、反れた砲撃が近くの塀に着弾。爆発を起こして比較的大きな破片が飛来してきた。
ドラえもん、のび太、武は動けるので対応も効くだろう。しかしチャージ中の自分は魔法陣の中央から動けないし、他に魔法も使えないので完全に
無防備だった。また、今の状態のバリアジャケットでは防ぎ切れまい。
ひらりマントで防ごうにも敵の砲火が止まらないので、ドラえもんにもどうしようもないだろう。
はやてはあんな凶悪な破片が自分当たらぬよう祈りながらチャージ作業を続ける。

「(今動いたら今までの苦労が水の泡や!それに敵の狙いは元々私。関係ないドラちゃん達は命を引き換えにしてでも、元の世界に戻してみせる!!)」

しかし『そんな決意、絶対に認めない!』とでも言うような真っ直ぐな男がいた。
視界に横切る自分の肩幅の2倍はありそうな同級生の姿。
彼は自分と破片の間で身構えると、

「ドカンッ!」

と叫ぶ。
それを発射キーとして発砲された空気圧は、見事に致命傷を負わすような大型破片の飛来を防いだ。しかし影響を免れた小型の破片が素通りし、
彼の衣服を、肌を切り裂いた。

「たけしくん!」

あまりの光景に悲鳴のようになってしまった叫びに、武は振り返って不敵に笑ってみせた。

「友達も守れなくて、ガキ大将名乗れっかよ!」

威勢よく聞こえる声。しかしはやてにはわかった。滴り落ちる血と飛び散った血。それらから彼が決して軽くない傷を負わされた事が。
だがはやてはそれを努めて気づかなかったふりをした。それが彼のプライドを傷つけぬ唯一の方策なのだから。
そしてついにチャージが完了した。

「みんな行くで!発動したら急いでその場所に向かうんや!」

「「わかった!」」

ドラえもんとのび太が応答し、武も頷いた。同時に"スッ"と杖を敵のいる空に向ける。
151ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:14:56.83 ID:vLDRziLN
『遠き地にて、闇に沈め!』

最終詠唱。そして高らかに技名としての発射コードを宣言した。

『デアボリック、エミッション!』

リィンフォースより受け継ぎし無属性・無差別空間攻撃魔法。それが自らの遠隔発生という資質によって敵の目前数メートルで炸裂した。
炸裂地点から爆発的に真っ暗な空間が四方に広がって敵を、そして灯りという灯りを完全な闇へと塗り潰していく。それはまるで噂に聞くブラック
ホールが輝く星星を呑みこんでいくような印象を見たものに植え付けた。
しかしそんな光景を眺めている場合ではない。見とれるのび太達に

「早く!」

と檄を飛ばして移動を促すと、迷わず武の元へ。やはり動けないようだった。

「先に行っててくれ。すぐに追いつく」

そう言って強がる彼を無視して体を、特に移動に必要な脚(あし)の状態を確認する。

「(ひどい・・・・・・)」

素人目にもそれはわかった。
ぱっくりと開いた大きな切り傷からは恐ろしいほどの血が出ている。
しかしそれにめげず以前勉強した応急措置マニュアルを必死に思い出す。
そしてここが戦場であることを考慮して、とりあえず止血だけでもとバリアジャケットのリボンを引き抜いて脚にきつく結ぶ。
圧迫で痛むのか苦悶の表情を浮かべる武にかまわず、短く詠唱して彼に浮遊魔法をかけた。
デバイスの専売セキュリティ機能である『他人の魔法を拒絶する』というオートバリアがないため、ほとんど時間はかからない。

「たけしくん、ちょっと強引に運ぶけど堪忍してな」

一言断ると彼を空中に仰向けで寝かし、自らの右腕を彼の右脇から通して反対側の服をしっかり掴んだ。
本来は海難救助で使われる輸送法だが、運びやすさ、安全性などの条件全てに叶うものだった。
はやては即座に最加速をかけると手招きするのび太達を追う。
まだ空では魔法の効果が続いている。何とか自分達がそこに行くまで足止めが効くだろう。

「えっと3丁目のタバコ屋を右に・・・・・・」

「のび太くん!そこは来た時に右なんだから戻るときは左でしょ!?」

のび太の暴走をドラえもんが寸でに止めた。
前言撤回。間に合わないかも・・・・・・
はやてはそんな頼りない友軍に頭を抱えたくなったが、とりあえず目標の場所には向かっているようだ。
海鳴町中央空き地を通り抜け、あとは真っ直ぐ4、500メートル先らしい。

「はやてちゃん!」

安心するのもつかの間、突然搬送中の武の声が自らを呼ぶ。そして右腕から彼の右腕の重さが消えた。
瞬時に彼の意図を察すると、武の浮遊魔法を反動に備えてフルドライブする。

「ドッカーンッ」
152ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:15:27.35 ID:vLDRziLN

一際大きな叫び声と共に地面へと莫大な力が襲うが、浮遊魔法と踏ん張った両足で何とか彼の高度を維持した。
振り返ってみるとあのネコが武の発射した砲撃を回避している所だった。
どうやらAAクラスのリンカーコア出力ではあの程度の阻止が限界だったようだ。
しかしここまで攻撃なく来れたことだけでも僥倖に違いない。そう思い直すと飛行魔法と浮遊魔法の出力を最大へと持っていく。
空気中に白い魔力光が飽和し、重力を完全に打ち消す。

「2人とも掴まって!」

伸ばした左手にドラえもんが掴まり、対空射撃中ののび太はドラえもんに掴まった。

「行くで!」

言うが早いか最加速。周囲の風景がF1クラスの超スピードで流れていく。
直後後方から爆音が轟く。しかしそれを無視して直進を行い、ドラえもんの

「ストップ、ストップ!」

という声で魔力コンデンサの大出力でごり押ししつつ制動。慣性をなんとか抑えて5メートルほどで停止した。
ドラえもんは止まるとともにそのまま建物の陰へと入っていき、のび太も続く。
振り返ってみると先ほどまでいた場所には大威力魔力砲撃が着弾していたらしく、膨大な土煙がキノコ雲を形成していた。

「はやてちゃん、急いで!」

建物の陰から静香の声。どうやら秘密基地とやらはここらしい。
武の方は負傷の影響か既に気を失っていた。しかし心臓の鼓動は確かに感じるのでまだ大丈夫だ。
建物の陰は狭かったが、静香の助けもあって何とか武を運び入れることに成功した。

「はやてちゃん、先に!」

静香がショックガンを手に空へと発砲しながら促す。

「ありがとう!静香ちゃんも早く!」

「ええ!」

秘密基地の入り口から手を伸ばし、彼女を引っ張り込んだ。
しかし静香は大事なことを忘れていたようだ。

「シャッターは閉じた?」

階段の先で待っていたドラえもんの問いに静香が

「ああ!」

と声を上げる。
どうやら基地の入り口は閉まるようになっていたらしい。

「じゃあわたしが─────」
153ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:15:58.35 ID:vLDRziLN

振り返るとネコが既にこちらへと飛び掛かっている所だった。

「(シールドは間に合わん!)」

反射的に持っていた蒼天の書を横薙ぎに振るうと、確かな手応えが書を支える腕にフィードバックされる。一瞬ホームランを打つ野球選手の気持ち
がわかったはやては慣性に任せるまま書を振り切った。
一時理想的な放物線を描いたネコだが飛行魔法で空中停止して再び飛び掛かろうとする。しかし─────

「ドカァーン!」

武ほどの声の迫力はないが威力は変わらぬ砲撃がネコの横から直撃。出入口から衝撃波とともに排出され、同時に走り込んだ砲撃主が出入口の
シャッターを閉鎖した。
間髪入れずにドラえもんがコンソールパネルのボタンを押す。
ディスプレイに『指定座標に転移開始』という表示と、転移中の証なのか低周波の振動で唸る基地。そこに1つの声が洩れた。

「僕だって・・・・・・やれば出来るんだからね・・・・・・」

あれほど勇気ある行動をしたスネ夫だったが、シャッターを背に腰を抜かしていた。
そんな彼に歩み寄ると、

「スネ夫くん、ありがとうな」

とその勇気に感謝した。

(*)

「はやてちゃんのデバイスより回答信号!第97管理外世界のGPS(グローバル・ポジショニング・システム)に接続、間もなく位置信号を受信します!」

エイミィの報告に、アースラ全体が魔法のようにストップモーションした。
どのような事態になろうとアースラの全能力を発揮するのために臨戦態勢の武装隊各隊が、医療室の医師が、機関室のエンジニアが、転送スタッ
フが、そして艦を指揮するクロノ・ハラオウンが続く報告に身構える。

「信号受信。出現位置、海鳴町内の海鳴山(海鳴小学校の裏山)中腹付近。バイタルは安定なるもバリアジャケットのダメージ大!」

「はやてをロックして直ちに医療室に転送!なのはとフェイト達に未知の敵に警戒するよう打電!」

クロノの指示にアースラが動き出す。

「艦長!指定された座標に6つの生体反応。位相変動による障害と近接状態のため個人を特定出来ません!」

転送スタッフの報告。クロノはスタッフの意図を察して指示を出す。

「ならば転送位置を中央転送室に改めて生体反応を持つ全て転送しろ!武装隊は急行、なのはとフェイトも来てくれ!私も向かう」

「了解!」

返事を聞くと同時に長年連れ添った愛機、ストレージデバイス『S2U』を片手にアースラのブリッジから駆け出した。
154ドラなの ◆5VufNcZOO6 :2011/09/02(金) 23:16:46.02 ID:vLDRziLN

(*)

クロノが中央転送室に着いた時は、間もなく転送が終らんとしている所だった。
展開し終わっていた武装隊隊長とアイコンタクトすると全員がデバイスを構えて敵に備える。
中央転送室はちょっとした体育館並みに大きな空間にある。それは武装隊を一度に大量に転送するためだが、今のように中央を360度武装隊で
堅めて敵を転送と同時に確保、逮捕する。それもまた常套手段だった。
クロノの隣に2つの個人転送魔法陣が立ち上がる。そして瞬時になのはとフェイトが転送されてきた。
次元位相を異にするらしい特殊な所からの広域転送魔法より通常時空からの個人転送の方が遥かに早いのだ。
中央に展開される白いミッドチルダ式の魔法陣から人影があらわれ始める。
その中にはやての姿を視認した。エイミィの報告通りバリアジャケットの損害は酷いらしく、帽子やあらかたの防御機構がパージされている。
一方敵と目される5人ははやてと同年代ぐらいの少年少女、そして謎の青い何かだった。
しかし変身魔法で化けの皮を被っているかも知れない。
クロノは油断なくデバイスを照準したが、具現化と同時になのはとフェイトが構えを解いた。

「静香ちゃん!?」

「それにのび太くん達も?」

少年少女達もこちらを見て驚いた様子で応える。

「なのはちゃんにフェイトちゃん?」

「ど、どうなってるの?ここはどこ?」

しかしそんなファーストコンタクトを事態の中心人物である八神はやてが遮った。

「みんな、説明は後でゆっくりするからまずたけしくんを助けて!」

具現化中には気付けなかったがはやてがバリアジャケットを血に染め、大柄の少年を担いで呼び掛けてくる。その少年の傷は確かに酷く見えた。
どうやら彼らはなのは達の顔見知りらしいし、敵意も見られない。
クロノは武装隊の警戒を解かせると、その少年を個人転送によって医療室に送った。

「・・・・・・さて、何があったんだ?」

クロノはバリアジャケットを解除して、残った4人となのは達と共に友人懇談会を開くはやてに問いかけた。

以上です。ありがとうございました。
155名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/03(土) 14:44:25.25 ID:WyREjW87
ドラなのが来てた、乙です。
156Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 20:55:31.76 ID:Bx3rT22g
どうもです
22時からEXECUTOR第2話を投下します

なんとかなのはさんが登場するところまで来た(汗)
157EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:01:14.19 ID:Bx3rT22g
■ 2



 ミッドチルダ軌道上で、第511観測指定世界より帰還したカレドヴルフ社船団は臨検を受けていた。
 別の次元世界から、危険物や病原菌などが持ち込まれていないか調べるためだ。
 特に、惑星TUBOYには未知のロストロギアが眠っているとされている。そのため、特に念入りに調べるようにとの管理局からの
強い指示が来ていた。数十隻もある大型輸送船たちに、沿岸警備隊の哨戒艇が接舷して、検査官が乗り込んでいる。
 これほどの規模の船団ともなると、地上に降りて入港するまでに数日も待たされることは珍しくない。

 輸送船の作業員たちは、検査官に同行する監督だけを残して、貨物室の隅で駄弁ったりしている。
 彼らにとっては、カレドヴルフ社といえども飯を食わせてもらっているお偉いさん、でしかない。
 遠方の現場に行くのに手当がいくら出るのかとか、休暇はいつ取れるのかとか、そういう話をしている。

 やがて、検査が終わるとコンテナひとつひとつにタグが付けられ、積み荷と行き先のデータが検査官の端末に入力される。
 この船団の場合はミッドチルダの内陸部にあるカレドヴルフ社の研究所にそのほとんどが運ばれることになる。大きなものは
いったん荷揚げして陸路で運ぶが、小さいデバイス類は大気圏内連絡船に積み替えて、同社研究所近くの空港まで運ぶことになる。
 検査を終えた輸送船から順次着陸軌道に乗り、クラナガン宇宙港へ降りていく。そこで積み荷の荷下ろしと、乗組員の交代を行う。
 次元世界経済の中心地であるクラナガンには、工業、商業、情報産業などさまざまな企業のオフィスが軒を連ねている。



 魔力関連の事業を展開し、ここクラナガンでの魔力インフラを一手に担うアレクトロ社の本社オフィスに、管理局より訪れた
ひとりの執務官がいた。物々しい警備態勢が敷かれたゲートに、わずかも臆することなく参じ、所定の手続きを手際よく
進めていく。IDカードを受け取った守衛が、データベースに登録された来館者リストとの照合を行い、間違いなくその執務官
本人であることを確認する。管理局の制服ではなく、普通のフォーマルスーツに身を固めたその女は、花崗岩で舗装された
エントランスを、ハイヒールの音を響かせながらゲートをくぐって建物の中に入っていった。

 数か月前より、アレクトロ社の所有する魔力プラントに対し、破壊工作の下見と思われる痕跡が散見されていた。

 この現代、魔力はもはやひとびとの生活に欠かせないものとなっている。魔力炉より生成されて各家庭や企業、工場などに
供給される魔力は、あらゆる機械や情報機器の動力となる。家電製品、交通機関、そして、魔導デバイス。
 現代ミッドチルダにおける武器兵器は、ほぼすべてが、魔力を用いて駆動する機器になっている。
 魔力の生産と分配を手掛ける同社には、それだけにさまざまな過激派団体からの攻撃が集まる。

 今回、これまでに行われてきた破壊工作事件の捜査を、アレクトロ社は管理局に依頼した。そして、社内に組織された対策チームの
オブザーバーとして、ひとりの執務官が派遣されたのだ。

 アレクトロ社に限らず、次元世界における巨大企業はさまざまな理由から、諜報戦や要人警護などの業務を管理局執務官へ
依頼している。もともと管理世界政府が共同で組織した警察機構という性格上、広がりすぎた版図をカバーするため、各政府から
独立して軍事業務、警察業務を請け負うことのできる組織が必要とされていた。

 執務官が、従来の警察機構や法曹機構に比べて強大な権限を持ち、原則として独立して任務にあたるのはそういった成り立ちが
あったからだ。身分的には国際公務員といえるのだが、その実態はこの次元世界において、各国政府のさらに上位に位置する、
いってみれば世界の管理者とその尖兵、のような位置づけとして、次元世界で活動する企業に利用されるようになっていった。
158EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:03:52.42 ID:Bx3rT22g
 それは、彼女にとってはいつもどおりの捜査だった。

 依頼主はミッドチルダにて魔力インフラ事業を手がけるアレクトロ社。
 数ヶ月前より、クラナガン郊外に建設された魔力炉プラントに対する破壊工作の痕跡が発見されていた。
 工作対象が大型の商用魔力炉であったため、この案件は時空管理局治安維持部門へ通報された。

 フェイト・T・ハラオウンは、問題の魔力炉建設を受注した企業の名前に、かすかに記憶を留めた。
 もちろん、自分だけが特別だとは思っていない。
 あの事故では、少なくとも数十名の犠牲者が出ている。彼らにも家族があり、友人があり、大切な人がいた。

 大切な人を失ったのは、母だけではない。

 最初の兆候は、アレクトロ社が所有する魔力炉プラントの変電施設で起きた。
 変電施設内で小火が発生したとの通報が現地消防当局に入り、消防隊員が現場に急行した。
 火災そのものはすぐに消し止められたが、変電装置に瞬間的な電圧変動が発生し、これが原因で、ここから送電される魔力を
使用していた住宅およびオフィスで、セキュリティシステムの一時的な停止が起きた。
 この二つの事案は、誰も関連性を疑うことが出来なかった。火災が起きれば魔力炉が止まるのは当然のことで、それによって
魔力を使用する機器が止まるのも当然のことで、機器が止まったことに対してわざわざ疑う余地は無い。
 そう考えるのは自然なことだった。

 火がおさまってから、現場検証のために立ち入った警察官たちは、不思議な物体を発見した。
 それは、一見して変圧器の短絡の原因になっていたように見えた。変電装置内に動物が入り込み、感電死しているように見えた。
 ただ、それがいったいどんな動物なのかというのがにわかに判別できなかった。
 物体は炭化して焦げていたが、足のようなものが生えているのが見えた。しかし、それは四つ足ではなかった。
 二本の直立した足で、はっきり言えば、人間のように見えた。
 あまりに小さいその身長と肌の色を除けば、それは人間そのものだった。

 もちろん、各次元世界にはさまざまな肌の色をした人類が住んでいる。背の高い種族もいれば低い種族もいる。
 しかし、そのほとんどはメラニン色素またはヘモグロビン・ヘモニシアン色素に由来する、褐色または青色の肌だ。
 身長も、おおよそ1.7メートル前後で、大きくても2メートル、小さくても1.5メートル程度だ。
 この死体のような物体は、燃え残った部分が、紫がかった緑色をしていた。
 表面はかすかな虹色を放ち、それはすなわち体表面の微細な凹凸による構造色を発生させていることを意味する。
 これは魚類や、軟体動物、昆虫などでみられる特徴であり、少なくともどの次元世界に生息する霊長類も、このような特徴を持つ
種族は発見されていない。ましてや、文明を持つ人類でこのような特徴を持って生まれた例なども、過去に発見されたことはない。

 仮にこの死体が人間のものとすれば、身元を調べる必要がある。
 ただちに地元警察から管理局へ、身元確認の依頼があげられた。遺体の体格からして、子供の可能性がある。とすれば、
幼児誘拐事件などとの関連性も考えられる。過去に起きた失踪事件で未解決のものとの照合も行われた。

 照合が必要な資料は膨大な量だったが、それでも2日後には、行方のわからなくなっている子供で該当する人間はいないことが判明した。

 身体的特徴からも、大人であればより目立つことになる。
 感電して燃えたためやや縮んではいるが、それを考慮に入れても身長はわずか90センチメートルほどしかない遺体だった。
 人間の子供ならば就学前児童の体格だ。

 結局、新たな身元不明者ということで継続して照合作業を行うことが決定され、捜査の焦点は事故の背景に人為的なものが
ないかどうかという方面に向けられた。

 フェイトは、遺体からDNA鑑定が可能なサンプルを採取できないか調べた。
 遺体の持ち主が人間だろうと動物だろうと、それはDNAを調べることでわかる。
 司法解剖により、脊髄の中心付近に燃え残った箇所があることがわかった。フェイトはそれをDNA鑑定にかけるよう、
解剖を行った検視担当官に命じた。
159EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:06:27.41 ID:Bx3rT22g
 鑑識からの回答はその日の夜遅くに来た。
 フェイトが既に帰宅していたため私物の携帯電話にかけてきたその鑑識官は、慄きを含んだ声でフェイトに告げた。

 あの死体は、現代では絶滅したはずの、超古代文明の時代に生きていた人間である。

 DNA内の塩基配列パターンを解析した結果、これまでに発見された古い人骨などから採取したDNAが、この死体のDNAとほぼ一致
することが確かめられた。進化による遺伝子の変異を逆算して差し引いていくとちょうどよく合致する。

 突飛な発想ではあるが、その前提に立って考えると辻褄が合う。

 さらなる検証が必要ではあるが、この死体の持ち主が超古代文明の時代の人間であるという前提のもとに聖王のDNAを解析すれば、
聖王の血統がいつ分化したのかが特定できる。そして、聖王の血統を解明するということは、すなわちロストロギアの起源を解明
するということだ。

 ロストロギアを製作したと思われる超古代文明は、わずかな遺跡や化石などから、少なくとも2万年以上前の昔であろうと
考えられている。そして、現代の人類文明が興ったのはおよそ7000年前だ。この当時は、地球でいう中世時代程度から始まり、
やがて機械技術が発達して、“質量兵器”とよばれる機械武器の時代となった。
 さらに物理機械から魔法科学が発達し、これにより“次元震”と呼ばれる災害に遭遇するようになった。

 その後、ベルカ支配の時代が続き、小国の乱立による戦国時代を経てミッドチルダが各次元世界を平定したのがおよそ160年ほど前だ。

 いわゆる近代文明の時代にミッドチルダが入ったのは、せいぜいが70年前程度となる。
 魔法科学を基礎にした文明が発達してきたのはそれからだ。それ以前は、魔法といえばもっぱら戦闘用のものであり、人々の生活は
依然として機械技術に頼っていた。一般市民の生活にまで魔法が浸透してきたのはごく最近のことだ。

 ミッドチルダ国立天文台は、第511観測指定世界における惑星TUBOYの年齢特定作業を急いでいた。
 あの惑星の年齢を特定できれば、発見された謎のメカたちの製造された時代を計算できる。
 そのためには、探査機ガジェットドローンの観測データに基づいて主星の年齢を算出し、そして主星が放射している電磁波と、
惑星表面に積もっている放射性元素の崩壊量を測定する必要がある。その放射性同位体のうちどれくらいの量が崩壊しているかが分かれば、
その崩壊した量の割合までにかかる時間を半減期から計算することで、惑星の年齢を推定できる。
 ただし、もし惑星TUBOYに存在した文明が過去に核戦争などを経験していれば、推定年齢は大きくずれることになる。

 国立天文台より無限書庫へ、過去の質量兵器戦争時代の資料請求が行われた。
 かつてミッドチルダで使用された質量兵器が、環境中の放射性元素の分布にどれほどの影響を及ぼしているか、情報を集める必要がある。
 理論値と実測値にどれほどの影響が出るかを把握すれば、その分、放射性元素を用いた年代測定の精度を上げることができる。
 惑星TUBOYの場合、タイムスケールを考慮すると、用いるのは半減期1570万年のヨウ素129が適当だ。ヨウ素は岩石惑星には
普遍的に存在し、また生物が存在していれば濃縮が起こるので、サンプルを確保しやすい。

 鑑識官は、あくまで自分の勘ですが、と前置きをしてから言葉を続けた。

「あの遺体の外見は、これまで想像されていた原始人類の姿とはあまりにも異なりすぎています。自分は進化生物学は専門外ですが、
こうして現物を目にしてみると、正直、人類は神によって創造されたのだという言説に納得がいってしまいそうです」

 神による世界創造。
 ミッドチルダでは比較的柔軟でリベラルな姿勢の聖王教会が多数派とはいえ、地域によっては、過激な教義を持つ宗教も存在する。

「──ただ、だとするとその“神”と呼ばれる存在は、人類を超える外宇宙生命体である可能性が非常に高い──」

 フェイトも慎重に応じる。
160EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:10:32.17 ID:Bx3rT22g
 一般には秘匿されているが、第511観測指定世界に存在する惑星TUBOYが超古代先史文明の起源惑星であるという説は、
管理局の現場の人間にはもはやかなり信憑性の高い噂として流れていた。
 その情報と真実があまりに危険すぎるため、情報公開、そして積極的な調査がためらわれている。
 あの惑星を調べた結果、知りたくなかった真実を知ってしまうかもしれない。

 ロストロギアに少しでも触れたことのある人間ならすぐに理解できることだ。

 なぜロストロギアなるモノが存在し、それは人智を超える絶大な力を持ち、そして管理局がその管理を行っているのか。
 その認識が、根底から覆る。

 あの遺体の持ち主がなぜ魔力炉プラントに侵入し、感電死したのかという経緯はともかくとして、先史文明時代の人間がこの世に
現実に存在しているという事実は、ロストロギアの由来に関するひとつの仮説──所謂インテリジェント・デザイン説を、
強力に補強する材料となりうる。

 ミッドチルダをはじめとした現在の次元世界人類は、先史文明人によって“つくられた”存在である。

 ロストロギアとともに発見される、先史文明人の化石が現生人類とあまりに異なる様相を呈し、その“ミッシングリンク”が
なぜできたのかという理由。
 それは、遺伝子操作によって一足飛びに進化を処置されたことを示す。
 現生人類に施された遺伝子操作。
 先史文明人と現代人の決定的な違い、それはリンカーコアの存在である。

 魔法を使うための力の根源となるこの器官は、遺伝子操作によって人工的に発生させられた臓器である。

 すでに現代の最先端魔法科学では、魔力資質の有無にかかわらず、リンカーコアという器官そのものはどこの次元世界の住人でも、
誰にでも例外なく発生しているということが確かめられている。
 一般に言われる『リンカーコアが無い』とは、リンカーコアをなすパーツそのものは体内に存在していても、実際にコアとして
活動していない状態を指す。

 リンカーコアは通常の人体の臓器と違い、細胞で構成されていないため、解剖などの物理的手段では検出することができない。
 CTスキャンや核磁気共鳴画像法などの間接観測でのみ見ることができる。
 そのため、魔力資質の無い人間を、たとえば透視魔法などで見たとしても、一見してリンカーコアが体内に存在するようには
見えないということだ。

 先史文明人から見れば現代次元世界人は被造物であり、現代次元世界人から見れば先史文明人は造物主である。
 ロストロギアが単に極めて扱いに注意を要する物体、というだけでは済まなくなる。

 人類に対する上位存在がいることが判明するということは、人類の哲学さえもが覆ることを意味する。

 魔法を操るのも、次元の海を渡るのも、すべて人類がこの世界の生物の覇者であるという無意識の認識が根源となっている。

「本件は機密ランクXを指定します。明日改めて保管方針について打ち合わせを──」

「わかりました。自分はもう少し資料を整理します」

「ご苦労様。とりあえず今日はもう上がって、明日に備えて」

「お心遣いありがとうございます、ハラオウン執務官」

 受話器を置き、鑑識官は深くため息を吐いた。
 顕微鏡をのぞいていて手が震えたのは、長い鑑識歴の間で数えるほどしかない。
 見てはならないものを見てしまったような気がしていた。
161EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:14:21.85 ID:Bx3rT22g
 物証として撮影した塩基配列パターンの写真乾板は、左右に並べて置かれた2つのパターンが99.9997パーセントの割合で
一致していることを示していた。
 相違箇所は蛍光ペンでマーキングを書き込まれているが、その部分がすべて、はかったようにDNAシーケンサーの基準アドレスに
符合していた。これだけの箇所が一度に変異するというのは自然には起こりえない配置だ。
 すなわち、この0.0003パーセントの遺伝子の相違とは、遺伝子操作のために使用されたプログラミング領域であり、
それは人工的に行われたということだ。
 個人個人で異なる部分というのは、もちろんもっと少なく、その場合は特定の領域だけを調べる。

 比較対象は、聖骸布から採取したDNAだ。

 “聖王”の出自については、現代でも諸説あり正確なところがわかっていない。
 ただ、少なくとも、王家の血を引く人間が何人かおり、そしてその一人は管理局の保護下にある。
 無論、彼女自身が自分の先祖に関する内容をすべて知っているというわけではない。

 これは、古代ベルカ建国当初までさかのぼる問題だ。

 古代ベルカが、当時としては驚異的な技術力および武力を保有し、次元世界を支配していた背景には、超古代先史文明の存在がある。
 この、一見なんでもない事件から、ロストロギアの由来を含めた次元世界の真実が、その片鱗を見せ始めている。

 検査室は他の職員たちが先に帰ってしまい、廊下も照明が落とされている。
 物音が全くしない、静まり返った部屋で、机の上を照らすだけの小さな蛍光灯が、インバータの振動で小刻みに光を放っている。

 床がかすかに震えた。

 足音。小さな足音。足音の持ち主はかなり軽い体重を持っている。

 半ば反射的に探索魔法を投げる。何も、反応はない。
 だがこの魔法は所謂パッシブスキャンなので、もし相手が魔力の放出を抑え、完全に身を隠していた場合には探知できない。
 自分から探信波を発するアクティブスキャンは、逆探知の危険性が非常に高く、捜査の現場の人間は使用を固く禁じられている。

 喉の鳴る音が聞こえた。これは自分の喉が出した音だ。
 この部屋のドアは1つしかない。半開きになったドアの、ドアノブから視線を下に移す。

 そこに、人影があった。

 暗い室内に、虹色の光が鈍く走る。

 数瞬、繊維質の何かが裂ける音がして、粘性の高い液体が床に落ちる音がした。
 床に、赤い液体が流れ出て、広がっていく。
162EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:17:36.85 ID:Bx3rT22g
 12月8日、午前11時37分。時空管理局本局の航空武装隊員詰所に、スクランブルを知らせる警報が鳴り響いた。
 待機していた隊員たちが即座に出動に向かう。

 出撃の準備を整えつつ、司令室より状況確認を行う。
 スクランブルはその性質上、一秒でも早く空に上がり、作戦内容の説明や目標の位置などは空中で念話によって伝えられる。
 警報発令から90秒で、二人の空戦魔導師がクラナガン上空へ飛び立った。

 週に何度かあるスクランブルとしては、特に遅れることもない、いつもどおりの出撃のはずだった。

『軌道上より降下予定だった民間輸送船が一隻、エンジントラブルを起こして高速で落下中だ。乗員はすでに退避したが、船の制御が
できなくなっている。当該輸送船を発見し、市街地への落下の危険がある場合は空中で破壊せよとの命令だ』

「了解した。これより高度8万に上昇して捜索にあたります」

『落下速度から計算すると猶予は数分しかない、急いでくれ』

「OK、聞こえたなジル、空気の薄い高空だ、遅れずついてこい」

「はい隊長!」

 ミッドチルダは惑星の物理的条件が地球と非常に似通っており、大気圏の厚さや組成もほぼ同じだ。
 航空業界では伝統的にヤード・ポンド法が使われており、高度は通常、フィート単位で表現される。高度8万とは、8万フィート、
すなわち24.384キロメートルを意味する。
 この高度まで上がれば、対流境界面からオゾン層を超えて、空が青く見える限界高度を突破する。
 ある高度を超えると、大気分子が散乱する光の量が少なくなり、青い空ではなく黒い宇宙が天に見える。

 実用上昇限度がどの程度になるかというのは、もちろん魔導師本人の飛行訓練もあるが、装備するバリアジャケットの性能も重要に
なってくる。高空での作戦行動には、単なる装甲としてだけではなく、低い気圧や極低温、強力な宇宙線に耐えるための防護装備が
必要になる。空戦魔導師のバリアジャケットにはそのような性能が要求される。

 空のかなたに、白煙を吹き流しながら飛ぶ輸送船の船影がきらめいた。
 ただちにコントロールセンターへ位置を通報し、地上レーダーサイトでの捕捉を試みる。

 空戦魔導師になるには、最低限、距離50キロメートルで目標を視認する視力を持っている必要がある。
 それでも実際に現場に出動する魔導師たちは、50キロメートルなどすぐ近くだと口をそろえて言う。
 巡航速度で飛べば、ほんの数分で過ぎてしまう距離だからだ。50キロメートルで相手を視認し、空戦に入ったとして、わずか30秒で
位置取りを決め、そのための針路を決定しなければならない。
 中世の、魔法が絶大な威力を誇っていた時代と違い、魔導師といえども大勢の後方支援要員による地上基地からの援護が、
現代魔法戦闘では必須になっている。

 輸送船は大気圏再突入を行った後で空気抵抗によってかなり減速しており、速度はおよそ7200km/hと測定された。
 高度は約40キロメートル、この速度で気圧の高い大気下層へ突入すれば、それでも輸送船の強度では空中分解を起こしてしまうだろう。
 乗員たちが乗り込んだ脱出ポッドが切り離されたため、その分さらに船体の構造強度が低下している。

 このような航宙機の制御不能事故の場合、次元世界では、事故機の進路前方に多数のバインドを配置して減速させる対処方法をとる。
 空中分解さえ起こさせなければ、破片が広範囲にわたって降り注ぐという事態は避けられ、可能であれば軟着陸させることもできる。

 宇宙空間から降下してくる輸送船に追いつくには、空戦魔導師が出せるほぼ限界の速度を発揮する必要がある。
 位置取りとして、輸送船の軌道に先回りし、向こうに追いつかせる形で前方から接近する。地上基地からの追跡により、輸送船の
予想落着地点はクラナガンより北方へ220キロメートルの森林地帯と算出された。軌道が近隣の都市の上空を通過するため、最適な
要撃ポイントは高度37キロメートル、クラナガンより北西方向へ170キロメートルの海上とされた。バインドを当てて軌道突入角度を
深くした場合、高度21キロメートルに達するまでに速度を2000km/h以下に減速できれば、海に落着させることができる。
163EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:21:35.35 ID:Bx3rT22g
 地上基地の司令官は、当該輸送船をただちに減速させ、海上への制御落下を行うよう命じた。
 命令を受け、出動している二人の空戦魔導師は、地上基地からの誘導にしたがって要撃ポイントへ向かう。

 最大速度を発揮するため、飛行高度を8万5千フィートにとる。これより高い高度では魔力素の濃度が低下し、低い高度では空気抵抗が
増大するため速度が落ちる。
 飛行魔法の出力を最大にして両脚に集中させる。バリアジャケットは速度の増加にしたがって緩衝角度をつけていき、飛行する魔導師の
頭部からおよそ3メートルほど前方に衝撃波面が発生し始める。

 超音速飛行を行う魔導師は、空間の歪みを目撃するといわれる。
 これは実際には、音速を超えて飛行する物体が発生させる衝撃波が空気の密度が著しく違う境界面をつくり、そこを通過する光が
屈折するためであると説明されている。

 クラナガンより北西へおよそ300キロメートルの位置で、目標輸送船を再捕捉。高度は37.6キロメートル、速度は6950km/hに低下していた。
 地上からの光学観測によっても、船体の崩壊が進行しつつあることが確認された。

 二人の魔導師は輸送船の前方80キロメートルに位置取りを行い、後方より追いついてくる輸送船に向けてバインドを発射、
船体を減速させて海面に落下させる。
 もし減速が間に合わなければ、崩壊した船体の破片が地上に降り注ぐことになる。その場合、船体を完全破壊できなければ
巨大な船体が地上に激突し、また破壊したとしても破片が広範囲に撒き散らされることになり非常に危険である。

 高速で接近する輸送船に対して、バインドを当てる猶予はほんの数秒しかない。速度が落ちたとはいえ6000km/h以上で落下してくる
輸送船に対し、こちらの魔導師の飛行速度は出力全開でも2200km/hを維持するのが限界である。もし初弾を外せば、
秒速1キロメートル以上の相対速度で飛んでくる輸送船にあっという間に追い越されてしまう。
 そうなれば、もはや再び先回りすることは不可能だ。

 輸送船との距離が60キロメートルまで近づき、二人の魔導師はバインドの発射用意をする。誘導性能の高い中距離弾で、射程距離は
約30キロメートル。最高速度で飛行しながらの発射のため、直線飛行で自分の姿勢変化を最小限に抑える。わずかでも姿勢がぶれれば、
空力負荷のためにデバイスのCPUパワーが食われ、飛行速度が下がってしまう。

『コントロールよりレッドドッグへ、発砲を許可する』

 地上基地の司令官より攻撃許可が出され、魔導師はバインドを発射した。
 発射時の輸送船との距離は約28.6キロメートル、着弾までの所要時間は2.2秒だった。
 初弾は輸送船の船首錨鎖庫付近に命中した。ここは宇宙空間で船体を固定するための重力アンカーが装備される位置である。
 バインドによる運動エネルギーを受け、船体は右へ約10度傾き、速度は6600km/hへ低下した。命中が確認されたとき、輸送船は
距離23キロメートルまで接近し、さらに2発のバインドが飛翔していた。
 続けざまにバインドが発射され、命中していく。船体が最初へ右に傾いたため、その軌道をカバーするように弾幕が展開される。
 バインドの弾体そのものには攻撃力は設定されていないが、高速で衝突する運動エネルギーは商船構造の船体を大きくへこませる。

 初弾命中から9秒後、輸送船の降下角が45度に達し、地上基地より射撃停止が命じられた。
 船首を潰した輸送船は空力によって右へ軌道を曲げながら、雲海に突っ込んでいく。
 その先は海であり、地上への被害はないと判断された。
 大きく減速した船体は、迎撃にあたった二人の空戦魔導師たちの下をゆっくりとした相対速度で通過していく。
 速度は依然として超音速であり、船体が雲に触れれば、衝撃波が雲を吹き飛ばす様子が観測できるだろう。

 雲海に沈もうとしている船の舷窓に、それは見えた。

「レッドドッグよりコントロール…………事故輸送船に残存者は?」

 地上基地の管制官はその質問の意味を一瞬はかりかね、わずかに言いよどんだ。
 その一瞬の間が、空戦魔導師に舷窓の大きさと普通の人間の体格を比較する思考時間を与えた。

 あれは人間ではない。小さすぎる。しかし、ヒトガタをしている。
164EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:25:42.57 ID:Bx3rT22g
 海上に落下する輸送船の船影は、地上基地からも追跡していた。
 陸地からはだいぶ引き離すことができたとはいえ、万が一ということもある。周辺海域の船舶には警報が出されている。

 レーダースクリーンに、変化が生じた。

「輸送船より小物体が分裂────これは、加速していきます!」

 腕組みをしていた司令官がとっさに顔を上げる。
 加速する物体、それはつまり自己動力を持っていることを意味する。すでに船体は動力を失っているので、自由落下する以外に
動きはないはずだ。空気抵抗で減速することはあっても、加速はしない。

「解析しろ」

「エコーパターン照合、該当ありません。大きさは推定3メートル」

 船体の一部がちぎれただけなら、一緒になって落ちてくるはずだ。
 それが加速して、しかもまったく違う軌道をとっている。

「分裂した小物体、軌道を変えます──東へ向かっています、上昇へ転じました。高度2万を超えます、速度は3400km/h」

 もはやこれは船体の破片ではありえない。
 何らかの、独立した物体だ。

「どこへ向かっている!?」

「小物体の針路0-8-5、このままいくとクラナガン宇宙港に到達します、あと7分です」

「速いな──地上本部に一級警戒アラートを出すように言え。それと──」

 司令官は言葉をややためて言った。

「カレドヴルフ社に問い合わせを。船団が持ってきた積み荷を、どんな小さなものでもすべて洗え」

「わかりました!」

 通信員が各部署への回路を開く作業にかかり、レーダー員がさらに小物体の追跡を行う。

「司令、小物体が速度を上げます!3600km/hから3800km/hへ、衝撃波が地上に到達します」

「沿岸の対空砲陣地から狙えるか?」

「やってみますが、照準が問題です、エコーが特殊でロックオンの精度がどうしても落ちます」

「司令、宇宙港の上空2キロにカレドヴルフ社の船団が到着中です、退避させますか?」

 戦術マップには、いったん海側を回って宇宙港への着陸航路をとる船団のマーカーがゆっくりと移動している。
 墜落した輸送船から飛び出してきた小物体は、ほぼ最短距離で宇宙港へ向かっている。

 その速度はすでに4000km/hを超えた。普通の空戦魔導師が出せる速度の2倍以上だ。

 出すことができる速度かどうかという以前に、超音速飛行は衝撃波を発生させ、地上の広範囲に被害をもたらす。
 原則として、市街地の周辺上空では超音速飛行は戦闘時を含めて禁じられている。バリアジャケットは装備者を空気抵抗から
守ってくれるが、それ自体が発生させる衝撃波はキャンセルできない。超音速飛行による衝撃波は、たとえ高度10000メートルを
飛んでいても、地上の建物の窓ガラスを粉々にしてしまうほどだ。
165EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:29:17.51 ID:Bx3rT22g
 通信がにわかに騒がしくなる。
 軍事用回線では、使用する周波数帯を定めた専用の念話術式が使われる。その回線が、各所からの声を拾い始める。

「──!小物体が船団に攻撃を──!」

「なに!?」

「小物体はカレドヴルフ社船団に向かっています!魔力弾および誘導弾が多数発射されていると!」

「間に合わなかったか──!航空武装隊はただちに離陸、小物体の正体をとらえろ!上がれる者はその場で上がれ、空中で合流しろ」

「映像入ります」

 スクリーンが切り替わった瞬間、炎を上げて沈降する輸送船の映像が入ってきた。
 魔力弾に貫通されたと思しき船腹には大穴があき、後部の船橋は破裂したようにひしゃげている。

 カメラは問題の小物体を追い切れていない。
 速度が速すぎて、ピント合わせが間に合わない。

 映像が切り替わってから20秒後、ようやく地上対空砲の第一波攻撃が発射された。

 沿岸に設置された砲台から誘導魔法が放たれ、緑色の紐状レーザーが空中へ殺到する。
 鋭くうねるようにして誘導されるレーザーが、小物体に突入する。地上からでは芥子粒のようにしか見えず、ブースターユニットの
噴射炎だけが青く輝いている。強大な魔力反応が観測され、魔力量は300億以上と推定された。これは発電用大型魔力炉に匹敵する値だ。
 人間の魔導師とは比べ物にならないどころか、戦闘用魔力機械ですらこれほどのエネルギーは出せない。次元航行艦のエンジンでさえ、
船に搭載する必要がある以上魔力炉の大きさには制限があり、XV級巡洋艦でも基準魔力値は120億だ。
 シールドが発生していることを示す、白い板状の閃光がきらめく。
 ひっきりなしに地上からレーザーが打ち上げられるが、小物体は落ちる様子がない。
 少なくとも命中弾は与えているはずだ。
 そうこうしている間にも、小物体から放たれる攻撃によって輸送船が貫かれ、墜落していく。

 小物体が放つ攻撃は2種類がみられた。
 マシンガンのような実体弾と、高出力の射撃型レーザーだ。そのどちらもが、輸送船の大柄な船体をやすやすと貫通し、大気圏突入用の
耐熱シールドさえ、薄紙のように引き裂いてしまう。
 実体弾は所謂徹甲弾のようで、流れ弾が地面に着弾しても爆発を起こさず、そのままめり込んでいる。

『距離をとれ!後ろに回り込ませるな!』

 地上管制の声が飛ぶ。
 小物体は非常な速度と旋回能力を持ち、航空機型ガジェットをはるかに凌駕する運動性を持っている。
 並みの空戦魔導師では追いつくことができない。まず、照準を合わせることができない。

 至近を突き抜けていく小物体の形が、人型のように見えることを、空戦魔導師の一人が目撃した。

 たしかに人型をしている。その見た目は、現在各国軍で研究がおこなわれている自律武装端末、“アーマーダイン”に似ていた。
 だが、その大きさやプロポーションはかなり異なる。
 カレドヴルフ社が製造したアーマーダイン第一号機「ラプター」の場合、戦闘服を着てヘルメットを被った人間のような外見で、
大きさも人間と大差ない。

 しかしこの小物体は──輸送船と比較して小さいので小物体と呼ばれているが、実際にはかなり大きい──人間の身の丈を超える、
身長3メートルはあろうかという巨体で、さらに人間とは違い太腿部よりも脛部の方が太く長い。背中には翼のようなスタビライザーが
装着され、そして、明らかに金属的な、光沢のある表面をしている。
 装甲を纏ったロボットのような外見だ。パワードスーツのようにも見えるが、そのプロポーション、特に胴体と四肢の長さが人間とは
異なりすぎているため、中に人間が入っているということはありえないと判断される。
166EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:33:07.42 ID:YxNLw5V7
 飛翔する弾丸を見た。

 弾丸は、通常、先が尖った円筒形をしている。それが真円に見えるということは、弾丸が自分に対して直進してきているということだ。

 声が出ない。
 声帯を震わせるための空気が肺から押し出される前に、その圧力が失われた。
 秒速7000メートルにも達する速度で飛ぶ高速徹甲弾は、空戦魔導師のバリアジャケットを全く無いもののように貫いた。
 超音速の弾丸が押しのける空気は衝撃波を発生させ、肉体を、骨格ごと吹き飛ばす。

 空中に、装備者を失ったことによってオートパージされたバリアジャケットの破片と、赤い蒸気が散った。

 急減圧した血液が散らばり、赤い蒸気になった。

『……──!ひとり墜ちた!誰だ、各隊小隊長は人数を数えろ!』

『速すぎます、追えません!』

『方位を見失うな、ビーコンを打て!デバイスの高度計をチェックしろ、バーティゴになるな!』

『うわっ、誰だ俺に当てたのは!見間違うな!』

『闇雲に撃っても当たらん、オートホーミングに頼るな!教則通り敵を正面に置け!』

 魔導師たちからの悲鳴のような訴えと、地上管制の声が錯綜する。
 魔導師たちは、自分が追っている敵の姿をとらえきれていない。どんな姿をしている物体を追えばいいのかわからない。
 ところどころで、付近を飛ぶ同僚へ射撃魔法を誤射してしまう者もいた。

 地上からの対空射撃が20秒おきに繰り返され、そのうちのいくつかは命中している。
 魔導師たちの射撃魔法も何発かが命中し、時折、小物体は空中で速度を落としている。

 それは、何かを探しているような動きだった。

「──!?隊長、あの船の上に──!」

 ひとりの魔導師が、炎上中の貨物船甲板上に立つ影を認めた。

 その影は人型をしていたが、大きさが人間より明らかに大きく、プロポーションも太い。
 間違いなく、自分たちが今追っている目標だ。
 管制官は各魔導師に目標の写真を転送し、今見ている相手との照合を行わせる。
 あれを狙えばいい。それが分かるだけで、負担は大分減る。

 敵が立ち止まっている。
 一方的な戦闘による極度の緊張に晒されていた魔導師たちには、その人型が何も警戒せず立ち尽くしているように見えた。

「シロッコ隊長!今なら!」

 空戦魔導師のひとりが叫ぶ。仮にも首都クラナガンの空を守るエリート部隊のはずだった自分たちが、たった一機の敵に翻弄され、
なすすべもなく撃墜されている。すでに6人は墜ちている。それも、すべてが徹甲弾を喰らい、空中で血煙にされてだ。

 しかし、今撃てば確実に、あの人型が乗っている貨物船も巻き添えにするだろう。
 甲板は炎上し、船橋は倒壊し、船の制御機能は失われている。しかし、もしかしたら中に生存者がいるかもしれない。

「ゴルフ1よりコントロール、目標が停止している。撃っていいか」
167EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:37:11.85 ID:YxNLw5V7
 念話回線を切り替えるわずかの雑音の後、地上基地からの返答が返ってくる。

『やむを得ない。全力砲撃だ』

「──了解」

 各隊に命令が伝達され、それぞれ射撃位置をとる。人型は、攻撃態勢を取られていることに気づいていないのか、それともそれさえ
意に介さないのか、甲板上をゆっくりと歩いている。歩く姿は、本当に人間のようにさえ見える。
 金属質の手足と、無機質な巨体をのぞけば。

 精密射撃機能を持つデバイスでは、照準時に目標を拡大できる。
 デバイスによって視覚野に直接入力されるその人型の姿に、彼らは驚きを禁じ得ない。

 ついさっきまでの無慈悲な戦いぶりが嘘のように、その人型はていねいに、甲板のハッチを剥がしていた。
 船倉の中には、積み荷のコンテナが置かれている。
 コンテナの天井が開けられ、その中には、あの人型の構成パーツと思しき、手や足や頭部が詰め込まれていた。
 この船が、どこかから持ってきたのだ。
 ばらばらの部品しか無かったのか、それとも、すでに完成されていた機体を、一度分解して積み込んだのか。

 機械にしか見えない頭部には、顔はない。バイザーのように見える部品も、単にセンサーを保護するためのものだろう。

 人型は剥がした鋼板を横に置くと、膝をついてしゃがみこみ、船倉の中に手を伸ばした。
 コンテナの中の部品を、ひとつずつ、取り出して船倉の床に並べている。コンテナの中から取り出された腕や足が、床に置かれ、
それはバラバラ死体のようにさえ見えた。外見が人間とは全く違うはずなのに、手足があるというだけで人間を連想してしまう。

 それはとらえた獲物を物色する肉食獣のようにも、猟師にわが子を殺された母熊が子熊の亡骸を拾い集めているようにも見える。

 あれが純粋な機械でできたロボットであるなら、その構造は非常に精密だ。足は屈伸して機体を支えられるし、腕にはマニピュレーターが
あり、ものをつかんだりできる。ただつかむだけでなく、ものを壊さないように、かかるトルクを柔軟に制御できるということだ。
 ああいった構造の機械は、次元世界ではいまだ開発できていなかったはずだ。
 簡素な作りの機械を魔力で動かす傀儡兵や、生きた人間の肉体をベースにあくまでも補助として機械を埋め込む戦闘機人のような
方法でしか、人型メカをつくることはできていない。アーマーダインにしても、動作は人間に比べればぎこちなさすぎる上に、一機あたりの
価格が非常に高価でそのうえ堅牢性に問題が残り、現状では実用性には乏しいとされている。

 照準スコープ越しに、滑稽なほどに人間臭いしぐさをする人型が見える。
 デバイスを握る手が震えないように、しっかり持とうとする。しっかり保持してさえいれば、照準動作はデバイスが補助してくれる。
 魔導師はそう自分に言い聞かせようとする。

「攻撃開始!」

 号令と共に、数十門の砲撃魔法が一斉に放たれる。
 高圧のエネルギー弾が人型を包み込み、その向こうにいる貨物船ごと、船体がメタルジェットによって融けるのが目視できるほどの
強烈な爆発が、空中に噴き上がった。溶けた鉄が飛沫のように飛び散り、それは赤い光を放って空中で冷えながら、小さな金属粉と化して
散らばっていく。
 金属が燃える閃光が、激しく瞬く。
 崩壊した船体が、煙に包まれながらゆっくりと落下を始める。
 噴きあがる炎に人型の姿は完全に覆い隠された。
 地上からは、レーダーサイトによって目標の追尾が続けられる。

『魔力量、減衰見られません。目標はまだ生きています』

『続けて撃て。ヤツの動きはこちらで追っている、射撃緒元をデバイスに転送する。ありったけの魔力を叩きつけろ』

「──ッ!」
168EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:41:31.65 ID:YxNLw5V7
 さらに、斜め下方からも砲撃。増援部隊がやってきた。
 折れて二つに割れていた貨物船の船体が、燃えた紙箱のように、砲撃魔法が持つ運動エネルギーによって浮かび上げられる。
 炎さえもが砲撃で吹き飛ばされ、張られたシールドの形の中に、人型のシルエットが見える。

「申し訳ありません、遅くなりました!」

「その声は高町一尉か!?教導隊が来てくれたのか!」

 魔導師たちが増援の姿を見る。
 ワンオフ装備の白いバリアジャケット、巨大な金色のデバイス。
 高出力飛行魔法を使用していることを示す、翼の具現化。
 まさに一騎当千を体現する戦いぶりから、白い悪魔とも謳われるほどの大魔導師。

『スターズ小隊、ゴルフ小隊、ロメオ小隊、左右から目標を挟撃せよ。ヤツが再び動き出す前に何としても落とせ』

「了解!スターズ1、射撃用意よし、全員私に続け!」

「ゴルフ小隊は右手へ集結、俺の周囲に並べ、ヤツを囲むんだ」

「ロメオ1、攻撃位置についた!小隊各員は私を中心に鶴翼陣形をとれ」

 残った魔導師たちが、それぞれの射撃位置についてデバイスを構える。
 エンジンを破壊された貨物船の船体が自由落下を始めるまでのわずかな時間をついて攻撃する。
 足場がなくなれば、人型も再び飛び立たざるを得ないだろう。それまでに、ありったけの攻撃を叩き込む。

 高町なのはは、愛機であるレイジングハートをブラスターモードにセットした。補助攻撃ユニットであるビットが射出され、
砲撃の集束率を上げる。あの人型の持つシールドの出力は並大抵ではない。下手な砲撃では、エネルギーが逸らされてしまい
見た目ほどに効果がない。
 硬いシールドを展開している敵を撃つには、エネルギーの集束率をめいっぱい上げ、より小さい断面積により大きいエネルギーを
集中させることが効果的だ。たとえ全体としてのエネルギー総量が少なくても、集束率が高く狭い範囲にエネルギーを集中させれば、
その分だけシールドにかかる負荷が上がり、攻撃が通りやすくなる。

 ゴルフ小隊とロメオ小隊の小隊長も、研修でなのはとは面識があった。
 彼女の実力は十分に知っている。

 魔導師たちはそれぞれのデバイスを可能な限りエネルギー密度を上げる。

『撃ち方はじめ。各員、統制射撃はスターズ1にならえ』

 地上基地の戦術リンクシステムを経由して、レイジングハートを各員のデバイスにリンクさせる。
 これによって小隊全員による、精度の高い統制射撃を行える。

 レイジングハートの、金色に輝く砲身にエネルギーが充填され始める。

 2条直線の加速レールが生み出すエネルギーは、弾体を秒速80000キロメートルまで加速できる。
 この砲撃を受けて、耐えることのできたものは今までいない。

「スターライト・ブレイカー!!!」

 なのはの掛け声とともに、魔導師たちが一斉に砲撃魔法を発射する。
 貨物船が吹き上げる火災が激しく、目標の人型は視認できない。地上基地からのレーダー解析によって計算された射撃緒元が
それぞれのデバイスに入力され、それにしたがって照準をつける。炎の中に存在するはずの人型に向けて、30本以上にも及ぶ
砲撃魔法のビームが撃ち込まれる。
169EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:44:55.11 ID:YxNLw5V7
 戦技教導隊において、なのははレイジングハートの術式にブラスター4を新たに開発し、インストールしていた。
 これはブラスター3までの、ひたすら出力を上げて破壊力の向上を目指した術式とは異なるアプローチで設計された。
 砲撃によって発射するビームの集束密度を限界まで上げ、より少ないエネルギーで破壊力を発揮する仕様だ。
 事実、エネルギー総量でいえばブラスター4はエクステンションなしのディバインバスターと同等かやや多い程度に過ぎない。
 しかし、そのエネルギー密度は桁違いだ。レイジングハートの砲撃魔法はどれも、極太のビームが目標を包み込むように押し潰す
イメージだったが、これでは見た目が派手なだけで、目標に直撃するよりも、受け流されて逸らされる部分や、大気中での減衰によって
電磁波となって逃げていくエネルギーが馬鹿にならないほど大量に発生し、著しく効率が悪い。
 計測では、従来のスターライトブレイカーでは発射したエネルギーのうち、実際にターゲットにダメージを与えているのは
5パーセントにすぎないという実験結果が出ていた。

 汎用性を求めるならば、集束率の向上は最も効果が高いアプローチである。

 スターライトブレイカー・ブラスター4では、発射される魔力弾の大きさは直径1インチ(2.54センチメートル)にまで圧縮される。
 ブラスタービットは弾体の圧縮に全リソースを投入し、発射するエネルギーはレイジングハート本体のみによってまかなう。

 なのはの砲撃にミリ秒単位で連動し、ロメオ小隊、ゴルフ小隊の空戦魔導師たちが砲撃魔法を放つ。
 互いの弾道干渉を最低限に抑え、わずかの時間差を置いて連続的に弾丸が命中する。

 大気がプラズマ化する激しいジェットが噴きあがり、貨物船の船体は今度こそ粉々にはじけ飛んだ。

 溶けた金属が蒸発する勢いで、爆発した船体がきらめく破片となって飛び散る。十分に小さくなった鉄は空中で燃え、黒い酸化鉄の
灰になって爆風に吹き飛ばされていく。爆発によって気圧が低下した中心部に吹き返しの風が吹き込み、巨大なキノコ雲が形成されていく。

「…………やったか?」

 ゴルフ隊の小隊長がつぶやき、地上基地へ確認をした。

 凄まじい火力投射量によってセンサーの値が振り切れ、目標のエコーパターンを抽出するのに時間がかかっている。
 魔力量300億の化け物ならば、それが破壊された時の痕跡も巨大なものになるはずだ。

 果たして、それは落下していた。

 爆炎の中からゆっくりと、自由落下を始める人型の姿が現れた。

 なのはは油断なくレイジングハートを構え、ロックオンを続ける。すでに目標のエコーパターンはレイジングハートのFCSに入力して
いるので、人型がどこへ飛んでも追跡できる。
 落下によって煙が吹き払われていき、人型の姿がはっきり肉眼で見えるようになる。
 頭部を下にしたあおむけの状態で、手足は弛緩し、意識を失ったようにして落ちていく。

「スターズ小隊、目標の追尾を解析します。高度3万以下への降下許可を」

『コントロールよりスターズ1、降下を許可する。民間船はすべて退避させた、遠慮なくやってくれ』

 了解、と小さく答え、なのはは小隊の魔導師を引き連れて、落下する人型を追って降下していった。

 民間船は退避した、とのことだが、その実は、すべて撃沈されたということだ。高空から見下ろして、それがわからないわけはない。
 宇宙港の桟橋は、もはや足の踏み場もないほどに、撃沈された貨物船や護衛艦の残骸が散らばっていた。ほとんど原形をとどめていない
船は、エンジンを撃ち抜かれて動力を失い、シールドも飛行魔法もホールディングネットも展開できないまま、高速で地面に激突した
のだろう。もしあの中に生存者がいたのなら、地上に激突するまでの時間は、この世で最も恐怖を感じる時間だっただろう。
 翼を失い、地に落ちる者。
 まるで巨人に踏みつぶされたかのように、地上に激突した護衛艦のような形をした金属の塊が、ひしゃげて広がっている。
170EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:48:12.01 ID:YxNLw5V7
「まだ動いてる。みんな、気を付けて。いつでも撃てるようにチャージをして」

 なのはは部下に命じた。

 人型は、まだなんとか機体の制御を取り戻そうと、ブースターを噴射させている。
 だがほとんど出力が発揮できないようで、噴射炎は途切れ途切れになっている。どうやら背中の翼は安定性のためのもののようで、それ
自体が揚力を発生させているわけではないようだ。飛行魔法を組み込んだデバイスを機械に搭載するなら、あのように背中にブースター
ユニットとして背負わせる形が、整備性の面からも一般的だ。だがだからといって、あれがミッドチルダの技術系列に属しているという
わけではないだろう。あんな形の戦闘メカは、次元世界のどこに行っても見たことがない。

『目標高度1万、さらに降下します』

「地面に落ちる──回収班の待機を」

『高度8000、落着まであと60秒』

「わずかに減速している。目標はまだ動いてます、減速しようとしています」

「高町隊長、まだ撃ちませんか。奴が死んだふりをしているなどということは──」

「その用意をしておいて」

 人型と共に、180km/h近い速度で降下を続ける。姿勢を逆さに、頭を地面に向けなければマイナスGがかかり、レッドアウトを
起こしてしまうだろう。地面が目の前に迫る。ギリギリまで追い、頃合いを見て上昇に転じる。

「噴射炎が激しくなってます、速度は!?」

『目標高度2000、速度毎秒110から100へ減速中』

 なのはは目を細め、あの人型がもはや地表への激突が不可避であることを察した。

「全員上昇!目標の落着地点を狙え!」

 なのはがそう言い終わる前に、人型は宇宙港の倉庫の屋根の上に、めり込むようにして墜落した。激突した質量に薄いトタン葺きの
屋根がひしゃげ、鉄骨が折れ曲がる。
 空戦魔導師たちは低空に降り、人型が落ちた場所を広い距離をとって取り囲む。

 じりじりと、包囲を狭める。
 倒壊した倉庫の中から、人型が再び飛び出してくる様子はない。

『目標魔力量、減衰を確認。急速に低下していきます。100億、50億、16億……さらに低下します』

 魔力量の低下。それは機械であれば魔力炉が停止し、人間であれば意識を失ったことによってリンカーコアの活動が低下していく
ことをあらわしている。
 目標の破壊に成功した。少なくとも、継戦能力を奪ったことは確実だ。
 その安堵が魔導師たちの間に浮かび始めたとき、突如、念話回線に声が割り込んできた。
171EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:52:49.35 ID:YxNLw5V7
 その声の主を、なのははよく知っていた。

『みんな急いでその場から離れ!魔力値のオチ方がいくらなんでも速すぎる、こっちで中性子線を検出しとる!全員全速力で退避せい!』

「はやてちゃん!?」

 なのはは叫びながら振り返り、空を見上げる。水平線の向こうに、LS級巡洋艦の姿が見えた。

 はやてはこの人型の動力源がなんであるかを確信していた。この至近距離ではバリアジャケットでも防御しきれない。
 はやての声を聞き取った魔導師たちはいっせいに加速し、海上へ向かう。下が海であれば、最悪、水中に逃げ込むことができる。

「あの人型はいったい!?」

『話はあとや、今はとにかく逃げぃ!』

「……っ!うん、わかった……!ジュリアさん、シロッコさん、お二人も退避を!」

 ロメオ小隊、ゴルフ小隊それぞれの小隊長にも呼びかける。桟橋を飛び越えて海上に出て、なのはが港を振り返った直後、
倉庫のひとつが黒煙を勢いよく噴出した。あれは爆発ではなく、その前兆だ。
 数秒後、閃光が発生した。
 衝撃波が地面を走るのが見える。爆発がキノコ雲を生じさせ、その煙の中に火球が生じているのが見える。

 核爆発。

 なのははそう直感した。
 はやては、危惧していた事態が現実に起きてしまったことに、きつく拳を握りしめ、爆風と熱線によってなぎ倒されていく宇宙港を、
じっと見据えていた。



 翌12月9日、戦闘によって多大な被害を受けた宇宙港へ管理局の災害処理部隊が現地入りし、とりあえずの事態収拾にとりかかった。

 接舷準備中を襲われたカレドヴルフ社の輸送船団はほぼ壊滅し、貨物船25隻が撃沈、7隻が大破。港内にいて応戦にあたった護衛艦も、
3隻が撃沈された。人型は地上施設には攻撃を行わなかったので、地上の対空砲陣地などはそれほど被害はなかったが、宇宙港は人型が
最後に起こした核爆発によって巨大なクレーターができ、港湾施設としての使用は不可能になっていた。
 港で働いていた作業員たちや近隣のオフィスビルにいた港湾会社職員など、バリアジャケットを装備していなかった民間人が
少なくとも450人以上、核爆発の熱線で即死したり、強烈なガンマ線もしくは重粒子線に被曝し、12月9日の朝、午前7時の時点で12名が
急性放射線症で死亡していた。
 爆発の瞬間、10グレイを超える線量が観測されていた。これは主に、水素核融合におけるppチェインによって発生するガンマ線だ。

 管理局およびミッドチルダ海軍が使用する軍港はやや離れた位置にあったため大きな被害は免れたが、それでも核爆発の爆風の影響で
いくつかの施設に損傷が生じていた。
172EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:55:59.32 ID:YxNLw5V7
 入港したヴォルフラムから降りたはやては、惑星TUBOYから持ち帰った情報を報告するため、なのはにも一緒に来るよう頼んだ。
 あのカレドヴルフ社の輸送船団は、惑星TUBOYで作業を行った帰りだった。すなわち、墜落した輸送船から発進して船団に攻撃を
かけたあの人型は、惑星TUBOYから発掘ないし製造したものであるということだ。

「CW社があんなのをつくってるって話は聞いたことないけどな。AEC武装とも、SPTとも違うみたいだし」

 SPT(スタンドアロン・サイコ・トラッカー)については、なのはの所属する戦技教導隊でもテスト運用が行われていた。
 まだ実戦投入できるレベルにはなっていないが、拡張性などの基礎スペックは非常に優れている。

「あれは、ロストロギアや。今の管理局の基準に照らせばそうなる」

 はやてはそう言い切った。

 管理局においてロストロギアとは、超古代先史文明によってつくられた物体、と規定されている。
 あの人型は、過去に存在した高度技術文明によってつくられた純粋な戦闘兵器である、ということだ。

 はやては惑星TUBOYでの作業にあたっていたカレドヴルフ社の出向幹部に聴取を行い、情報を聞き出していた。

 同社は、惑星TUBOYから発掘した機動メカの詳細な性能緒元をもとに、再現を試みた。
 そして、同惑星に残されていた製造システムを再起動させることに成功したというのだ。

「つまり、もともとあった機械のスイッチをただ入れただけなんだね」

「ミもフタもない言い方やけど、そういうことやな」

「それであれだけの……そういえば、あの人型メカ、そのものについては何か分かったの?」

 人型は、スターライトブレイカー・ブラスター4と、砲撃魔法の集中攻撃を受けて撃破され、墜落した後、核爆発を起こして破壊された。
 それでも、爆発跡を調べたところ、機体そのものは残存していた。動力炉があったであろう胴体は穴が開いていたが、手足や
頭部などは残っていた。さらに、動力区画は完全に隔壁が機能していたらしく、機体のそのほかの部分は驚くほど損傷が少なかった。
 この人型が破壊された直接の原因は、地上に激突した際の衝撃であり、落下中はまだ機体は生きていた。スターライトブレイカーの
直撃にさえも、事実上耐えていたということを意味している。
 それもまた、なのはにとっては衝撃的な事実であった。

「測定された魔力値も、シールドの硬さも、機動力もすべてが桁外れ……人間が操縦していたの?」

「それなんやけどな」

 はやては、調査班が撮影した人型の写真をなのはに見せた。

「コクピットらしき空間が胴体内にあった。せやけど、人が乗っていた形跡はなかった」

「どういうこと?」

「死体が見つからないんや。高熱でコゲたわけでもない、せやったら内装がこんな綺麗のまま残らへん。それ以上におかしなことは、
このコクピット、見てみい、右下に比較用の定規が写っとるやろ」
173EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 22:59:16.30 ID:YxNLw5V7
 指さしで写真をたどったなのはは、思わず息をのんだ。

「どう考えても人間が乗れる大きさやないんや。たしかにコクピットはある、けどどう踏ん張っても人間が入れへん。イスすらない、
これに乗る人間がおるとしたらそれは何者なんやってことになる」

「無人機?コクピットのように見えるのは偽装で……」

「にしては偽装の意味がない。せやったらきちんと人間が乗れるように寸法だけでもつくらなあかん。
だいいち、こいつは無人やったんや。死体が見つからないゆうことは、なのはちゃんらと戦っとった時のコイツは無人で動いてた
ゆうことや」

「……でも、人が乗ってるとしか思えないようなしぐさをしていたって、航空隊の証言もあるしね……」

「まあ今のところわかっとることは、コイツのエンジンは熱核タービン、出力は350メガワット。魔力値換算で350億。
固定武装は2種類、3連ガトリング砲身の7.62ミリ劣化ウラン弾、それとレーザーや。地上に落ちとった弾丸を回収してわかった」

「やられた魔導師はみんなこのガトリング砲で……」

 劣化ウラン弾は貫通力が非常に高く、また弾体が重いため、通常の拳銃弾程度を想定しているバリアジャケットでは運動エネルギーを
受け止めきれない。また、地球でさえも劣化ウラン弾を対人射撃に使う例は少なくとも公式にはない。

「確かにコイツを防御できるバリアジャケットはあらへんな」

 判明した恐るべき性能に、なのはとはやては慄きを隠せなかった。

 人間より一回り大きい程度の機体に、次元航行艦をもはるかに凌駕するエネルギーが秘められている。

 現代のミッドチルダの技術では、350億もの魔力値を発揮する魔力炉をつくろうとすれば、炉の本体だけでビルほどの大きさになって
しまうだろう。あの人型は、小柄な、自動車の運転席程度の大きさしかない胴体に、その魔力炉とコクピット──室内空間のサイズに
不審な点が残るとはいえ──を詰め込んでいる。

 しかも、そんな化け物のような機体が、なのはの全力砲撃にさえ耐えたほどの機体が、やわらかい建物の屋根に落ちただけで致命的な
破壊ダメージを受けた。その理由も分かった。機体の残骸を調べたところ、素材が極薄のチタニウム合金やカーボンファイバーなどであり、
物理的な構造では機体の自重すら支えられない強度しかないことが判明した。

 機体の重量は、動力炉が爆発して失われたので不明だが、どんなに重くても960キログラム以下であると推定された。

 重量の大半を占めるのは動力炉である熱核タービンエンジンであり、機体のフレーム単体では80キログラム程度しかない。
 平たく言えば、乗用車のボディよりも薄っぺらな機体だということだ。
174EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 23:02:32.08 ID:YxNLw5V7
 4000km/h以上にも達する飛行速度によってかかる加速・旋回Gも、おびただしい数を被弾した魔力弾の防御も、そして機体を
保持することも、すべてシールドに頼って行われている。シールドが切れれば、その時点で機体が自壊してしまうことになる。
 もし人間が内部に搭乗するのなら、機体が撃破された時点で生存の望みはゼロということになる。

 少なくとも、次元世界のどの兵器メーカーでも、このような設計思想は思いつかないだろう。

 コクピットと思われる室内空間の内装には、文字が刻まれていた。
 それはおそらくこの機体の名前と思われる。固有名か、もしくはこれと同じ型のメカを総称する名前か。
 文字はアルファベットの系列で、ミッドチルダ語で読んだ場合、SPT、E、X、E、C、T、O、R、となる。

 発音は、“スペースパワードトレーサー・エグゼクター”。

 はやてとなのはが資料を検討していた会議室の内線電話が鳴った。
 受話器を取ったはやてに、基地の職員が内容を取り次ぐ。

『八神提督、昨日の船団襲撃事件について、ハラオウン執務官が面会を求めておられます』

「わかった。2階のロビーに通しといて。すぐに行く」

『わかりました』

 受話器を置いたはやてに、なのはが話しかける。

「フェイトちゃんが来たの?」

「ああ。どうやら、事態はすでにかなり深刻なレベルまで進行しとるみたいや」

 なのはが撃墜した、異質な様相を呈する謎の人型機動メカ。
 はやてが遭遇した、第511観測指定世界惑星TUBOYに存在する謎の迎撃システム。
 そして、フェイトが発見した、超古代先史文明人と予想される謎の小人。

 三人の遭遇した事件が、ゆっくりと、焦点を重ね始めている。


175EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 23:10:28.35 ID:YxNLw5V7
第2話終了です

今度は空戦です!空はいいですのぉー(また)
ちなみにエグゼクターの取説には自機の設定資料が載っているのですが
ほんとーにアホのようにバカ高い出力のエンジンと軽っこい機体です
原作の設定では、全高5.2メートルに対し全装備重量830kg
紙装甲ロボとして有名?なスコープドッグですら3.8メートルに対し6トンあるというのに(汗)

ちなみにエンジン出力も取説に350MWと書いてあります 350MW = 35万キロワット
実在のエンジンと比較すると、ニミッツ級空母が19万キロワット、福島第一原発1号機が46万キロワットです

ではキャラの名前由来をどうぞ
航空魔導師
・ジル隊員→ロシアの自動車メーカーZIL
・ゴルフ小隊シロッコ→フォルクスワーゲン・ゴルフ、シロッコ、NATOフォネティックコード「G(ゴルフ)」
・ロメオ小隊ジュリア→アルファロメオ・ジュリア、NATOフォネティックコード「R(ロメオ)」

そういえば熱核タービンってマクロスの可変戦闘機と同じですね
あのちっこい機体のどこに…(汗)

ではー
176名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/03(土) 23:14:57.75 ID:kDlT5bu8
>>175
乙です、原作やってみたくなりますねー
VF-1はあれでたしか熱核反応タービン一機当たりの出力が
TW超えてたと昔読んだのでサイズ的には五分なのかな?
177Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/03(土) 23:20:51.99 ID:YxNLw5V7
>>176
どうもー
原作ゲームは…いわゆるksg(ry

全編ダンジョン探索のゲームなので、マッハ3.8の最大速度も発揮できる場所がありません
そのハネは飾りかと(汗)
敵は無限湧きで武器は強力でゲームとしてはかなり大味です

95年発売ということを考えるとグラフィックは結構頑張っている・・・か?
178名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/04(日) 08:21:29.17 ID:lA0+EV3Z

原作を知らないがそれゆえ先が見えないのでワクワクします
SF+ホラーちっくな感じは大好物なので期待してます
179一尉:2011/09/04(日) 18:52:30.26 ID:oZa+fyVN
支援
180名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/05(月) 19:21:41.37 ID:gOpNrp1W
SFっぽくていいな、たまらん
181Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 22:20:39.29 ID:SbPqS4fl
どうもですー
23時からEXECUTOR第3話を投下します
182EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:00:54.83 ID:SbPqS4fl
■ 3


 フェイト・T・ハラオウンは、八神はやてより告げられた事実に驚愕していた。
 表情が引きつり、唇が言葉を紡げずに震えている。

 お互いの知る情報を交換し、共有することが事件解決のために必要なプロセスである。

 しかし時に、その事実は非情に人の心を切り裂く。

「うそ……嘘でしょ、はやて!?」

 わなわなと倒れこむようにはやての肩をつかみ、フェイトは呼びかける。

「正式な情報や……。私の艦のデータベースに入っとる。申請すりゃ閲覧権限つけられる」

「そういうことじゃないよっ!だって、ティアナが、ティアナが……」

 第511観測指定世界、惑星TUBOYへ向かうにあたり、時空管理局次元航行艦隊司令部より、ヴォルフラム幹部乗員へ資料が提示された。
 その中に、船団に同行していた管理局局員の一覧があった。
 名簿の先頭には、『選抜執務官候補選出試験受験者 ティアナ・ランスター』と記されていた。
 はやてのような指揮官クラスの人間には知られていたことであったが、現場の執務官ひとりひとりまでには、個人レベルでは
情報が下りていなかった。
 極秘にスカウトの声がかかり、引き抜かれることがあるとは聞いていたがそれは単なる噂話として扱われていた。
 フェイトも、自身の抱える事件の捜査に追われ、そういった噂話程度の事案を気にかけていなかった。

 気にかけるべきだったのかと、後になって思っても取り返しはつかないことだ。

 そして、その噂話を聞いた段階で知ることの出来た情報だけでは、気にかけようという判断をすることはできなかった。
 気にかけたとしても、それを調べるべきだという判断を下すことはできなかっただろう。

「何を言っても事実は変わらんよ。ティアナは死んだ」

 背の高いフェイトを見上げ、はやてもぐっと感情をこらえているのがなのはには見て取れた。
 惑星TUBOYにおける戦闘で、ヴォルフラムは事実上何もできなかった。
 地表に降りた捜索隊も、最低限の自衛用武器しか所持しておらず、突如出現した謎のメカたちには太刀打ちできなかった。

 いつになく次元航行艦隊司令部の決断が早かったとは感じていたが、それが、公に出来ない非正規部隊の活動が絡んでいたからだという
ことまでは、わかっていてもはやてには口を挟む余地は無かった。
 わずか30分でアルカンシェルの使用許可が下り──あるいは、はじめから許可を持って出航していたかもしれない──、船団が
すでに脱出していたとはいえ、戦艦の到着後即座に発射された。
 脱出した船団の船籍リストには、何隻か欠けた船があった。
 その中に、ティアナを含めた管理局局員たちの乗った艦もあった。彼らが他の船に移乗したかどうかも確認できなかった。

 ただ、入港前に船団よりクラナガン宇宙港事務局へ提出された乗組員名簿および乗船客リストには、ティアナを含め、管理局局員の
名前は、一人も載っていなかった。

「事実って……!捜索に行ったんでしょ!?写真は!?現場は!?本当に、彼女の死亡を確認したの!?」

「冗談ゆうなや!地獄まで行けっちゅうんか!?アルカンシェルで星ごと吹っ飛んだんやぞ……!!」
183EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:03:30.43 ID:SbPqS4fl
「でもっ、ティアナなんだよっ、はやてだって知ってるでしょ、彼女は、わたしたちの」

「知っとるからなんや!?知っとる人間やからよけい人つぎこめゆうつもりか!?知らん人間やったら適当でええゆうんか!!?」

「そんなことっ……」

 肩を揺さぶり、明らかに取り乱しているとわかるフェイトに、はやてもさすがに声が大きくなる。
 張り上げた声に打たれたように、フェイトは肩を落とす。
 そのまま、呆けたようにはやてを見つめている。目の焦点が浮ついている。

「…………やる気あるんか?」

 噴火しそうな感情を抑え、声を押し殺してはやては言った。

 フェイトは手を離し、じっと、はやてを見る。
 すぐに視線を合わせられなくなり、顔を伏せる。

 ロビーに並べられた机は、簡易パーティションで仕切られてはいるが他の席も見える。
 他の職員たちはこちらを見ないようにして、自分の仕事をしている。

「私に会いに来るゆうからなんか手がかり持ってくるか思うてたら、文句と泣き言たれるだけか!?
そんなに言うなら自分で行ってこいや!あんた仮にも執務官やろ!?やる気無いんなら帰れや!!!」

 ロビーの吹き抜けの天井に、長い残響となってはやての怒声が響く。

「ちょっ、ちょっとはやてちゃん落ち着いて」

「…………ごめん。私どうかしてた……顔、洗ってくるね。洗面所は……」

「……そこの階段のとこを右手に入ればあるよ」

 はやてもややうつむきながら答え、フェイトは持ってきたバッグを取って足早に席を離れた。

 やがて、はやては苛立ちをぶつけるように勢いよく椅子に座った。
 音が響かないように直前でぐっとこらえ、テーブルに拳を置く。

「ごめんな、なのはちゃん。私もテンパってもうた……」

「……私もびっくりしたよ。選抜執務官の噂は聞いてたけど、まさかティアナがそうだったなんて」

 すでに机に広げていた書類をつまみ上げ、ばさりと落とすように紙を叩く。

「うちらに渡されたのはこれだけや。選抜執務官の試験ゆうても、それがどんな内容なのか、どういう形式なのか、試験に受かると
どうなるのかはわからん。ただ試験をやる場所が惑星TUBOYゆうだけや。ほんで、これを仕切っとる部署もわからん。少なくとも
次元航行艦隊の傘下なのは違いないと思うんやけど」

「選抜といっても私のところ(教導隊)に声がかかってるわけでもなさそうだしね」

 しばらくため息をつき、ロビーの入り口に置いてあるドリンクバーからアイスティーを持ってくる。
184EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:05:21.92 ID:SbPqS4fl
「なのはちゃん、そろそろフェイトちゃんの様子見てきてくれんか。気になることがある、例の緑色の小人な」

「はやてちゃんが行かないの?」

「あんなん怒鳴っといてのこのこ行ったらクサすぎるやろ……」

 軽く微笑み、なのはは席を立った。
 最後に共に戦ったEC事件から2年、自分たちも年はとったが、管理局全体でいえばまだまだ若輩だ。
 それでも、彼女には経験相応の貫禄がついてきていると、はやての座る姿になのはは思っていた。

 ヴォルフラムから惑星TUBOYに降りた捜索隊は、出発した12名のうち帰還できたのは3名だけだった。
 比較的軽症だったアギーラ曹長ははやてへの報告を行い、謎の迎撃ロボットたちの姿を写真に収めることに成功していたが、
あとの二人は傷が深く、ミッドチルダに帰り着く前に手当ての甲斐なく息を引き取っていた。
 結局、アギーラひとりを残して全員死んだことになる。

 軍隊では、通常、戦闘員の30パーセントを損耗した時点で全滅と表現する。それだけの人数を失えば戦闘組織として機能しなくなる
ことを意味し、たとえ幾人かが残っていたとしてもそれは頭数に入らない。
 ヴォルフラムの降下部隊は、まさしく殲滅されたということだ。

 あの人型との戦闘でも、航空武装隊の空戦魔導師が6人も撃墜された。たった1機の相手に対してだ。
 過去十数年間において、一回の接敵でこれほどの犠牲を出した戦闘はなかった。
 撃墜された魔導師の中には、なのはの教導を受けた者もいた。けして技量に劣る者ではないということは、なのはもよくわかっていた。

 まとめられた戦闘詳報を読み返せば、あれは戦闘ともいえない一方的な虐殺だったことが読み取れた。
 人型の不可解な行動は、輸送船の積み荷の中から自分と同じ機体のパーツを探していたとすれば説明できる。積み荷を探すために
邪魔な船を撃ち、まとわりついてくる魔導師たちを振り払おうと撃っていた。人型は、こちらからの攻撃を受けても積極的に回避したり
防御したりしようとせず、進路上に障害となるような場合にのみ攻撃を行っていた。
 もし人型が本気でこちらを攻撃しようとしていたなら、自分を含め迎撃に上がっていた魔導師たち3個小隊48名は全員が撃墜されて
いただろうと、なのはは分析していた。
 エースオブエースの称号に自惚れるつもりはない。それはあくまでも今までに遭遇してきた戦闘においてそう呼ばれるだけだ。
 これから先、どんな相手が現れるかわからないし、それが自分の勝てる相手とも限らない。
 いつ、自分より圧倒的に強い相手が現れるかわからない。その意識は、忘れずにいたつもりだった。

 殺そうと思えばいつでも殺せた。
 敵としてすら認識されていなかったのかもしれない。単なる障害物と、向こうは見ていたかもしれない。

 前線で戦う以上、いつも“死”を意識していないと言えば嘘になる。
 デバイスを持って空に上がる以上、いつ墜ちてもおかしくない。
 それだけは、忘れないようにしてきたつもりだった。あの冬の事件でも、機動六課での訓練でも。

 そして、フェイトにとっても。
 今朝方、仮宿舎から出てきたとき、クラナガンの管理局鑑識課で不審死事件があったと耳にした。
 殺人事件として警察が調べているとのことだが、その死んでいた鑑識官はフェイトから依頼された案件を直前まで調べており、
死亡推定時刻と携帯電話の通話記録から、死ぬ直前までフェイトと電話していたということが判明していた。
 すなわち、フェイトとの電話を終えた直後に殺されたことになる。
 現場に残されていた指紋や体液は、人間のものではないことが予想されていた。
 それも、フェイトが調べていた事件と深いかかわりがある。

 そしてはやては、この事件によって発見された超古代先史文明人──“緑色の小人”──が、惑星TUBOYに未だ生息している無人
ロボット群と、カレドヴルフ社が発掘した人型機動メカの謎を解くカギになるとにらんでいた。
185EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:07:59.97 ID:SbPqS4fl
 女子洗面所になのはが入ったとき、フェイトはいちばん奥の個室で、ドアにもたれかかるようにして背をかがめていた。
 すすり泣く声が聞こえる。

 執務官になってもう10年以上が経つ。それなりに経験を積み、後輩や部下も出来て、順調に仕事をしてきたつもりだった。
 だが、どこかに甘えが残っていた。
 なのはやはやてに対しても、小さいころからの親友ということでどこかに馴れ合いがあった。
 少なくとも仕事に対してはそんな姿勢ではいけない。それを指摘された。
 ティアナは確かに自分が目をかけていた後輩で、機動六課時代の部下であり戦友でもあった。
 それに対し、どこかで贔屓があったのは否めない。部下を喪ったのは、なのはもはやても同じであり、死の悲しみはみな等しく受けた
はずだった。それが自分にとって知人であるかそうでないかは、違いとは言えない。
 確かに、懇意にしている人間に何かがあるのと、まったくの赤の他人に何かがあるのでは、心に受ける衝撃は違う。
 だがそれを、その私情を仕事に持ち込んではいけない。ティアナも、ヴォルフラムのクルーも、航空武装隊隊員も、命は等しく重い。

 それを、はやてに叱咤された。
 海では、甘えは許されない。ひとりの怠慢は自分だけでなく、何十人何百人の、同じ艦の仲間たち全員の運命に影響する。
 そんな厳しい職場で戦ってきたはやてにとっては、今の自分は弛みきっているように見えたのかもしれない。

 備え付けのペーパーをちぎり、顔を拭く。化粧が崩れないように、ペーパーを軽く肌に当て、紙に涙を吸い取らせる。

「大丈夫?」

 声をかけたなのはに、うつむいていた顔を上げ、背を向けたまま答える。

「うん……ごめんね、心配かけて……」

「フェイトちゃんの調べてた事件がきっと重要な情報になるよ。それははやてちゃんもちゃんとわかってるから」

 手を握り、そっと抱きすくめる。
 子供の頃はそうでもなかったが、大人になって、はっきり体格の差を意識し始めた。
 小さな自分と、大きな彼女。
 けれど、儚い。



 “緑色の小人”──そう仮称された生物は、現在自分が居るクラナガンの土地勘はほとんど無いと推測された。
 鑑識官の殺害現場にも多数の指紋を残しており、また床に流れた血だまりを踏んで、床に足跡が付くことに気づいていないと思われた。
 少なくとも、足に付いた血を落とそうとしていた形跡が無かった。
 さらに、殺害現場である検査室を出てからも、あちこちの通路を行ったり来たりして、最終的に建物の外に出るのに15分以上を要していた
ことがわかった。管理局は警察当局に情報統制を敷き、極秘に捜索を行う予定としている。

 鑑識課では、あくまでもDNAの分析だけであり、サンプルを培養装置にかけたりなどはしていない。

 そのため、少なくとも個体数は2体──魔力炉辺電施設で感電死していた個体と、管理局オフィスに侵入し鑑識官を殺害した個体──が
存在することになる。また、床材に残されていた足跡から、体重は10キログラム以下であると計算された。
 やはり、体格は幼児程度の大きさしかないことになる。

 身長90センチメートルで体重10キログラムということは、ホモ=サピエンスとしても比較的細身である。
 殺害現場に残されていた指紋は、人間のものに比べて指が細長く、爪が短いことが判明した。
 はやては墜落した人型の機体から、コクピットと思われる空間内部に搭乗者が居た形跡が無いか、徹底的に調べるように命じた。
 採取した試料は管理局本局へ回す分のほかに、ヴォルフラムの設備を使っても独自に解析を行うことにした。もちろんバレれば
ただでは済まないだろうが、それでもやる価値はあるとはやては踏んでいた。
186EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:10:50.79 ID:SbPqS4fl
 フェイトは、鑑識官が今日提出する予定だった資料のまとめを行っていた。
 彼は昨夜、これから調査結果をまとめると言って電話を切り、おそらくその直後に殺された。
 殺害犯は鑑識官を殺しただけで、検査室に置かれていた資料には全く手をつけていない。このことからも、殺害犯であると予想される
“緑色の小人”は、現代の次元世界人類の技術文明に対する知見を持っていないと予想される。

 魔力炉変電所から発見された遺体のDNAは、先史文明人のものと酷似していた。また現代の次元世界人と、聖王の血統は、この
先史文明人を共通の祖先として、古代ベルカ時代に分化しそれ以降、混血が起きていない。もともと、聖王の血統が特殊な遺伝子を
持っていることは調べられていたが、その共通の祖先が判明したのはこの先史文明人の遺伝子を入手できたことによる。
 これは今回の件とは別に調査を行うため、資料を無限書庫に保存し、クラナガンの国立大学考古学部へ調査を依頼する。

 鑑識官が調べたDNA情報は、あの小人の肉体は人為的な遺伝子操作がなされたことを示していた。
 超古代先史文明人は、自らの肉体を改変するため、さまざまな遺伝子操作実験を行ったと予想される。その過程で、この緑色の小人の
ような種族も生まれた。この時代(2万年前)の地層からは、さまざまな形態を持った人骨が発見されている。これらは、現代の次元世界に
さまざまな姿、体格、顔つき、肌の色を持った人類が暮らしている源流になると考えられている。
 子供と大人、とするにはやや形態が違いすぎる人骨が見つかっていた理由は長い間わかっていなかったが、生きた完全なDNAのサンプルが
見つかったことで、その理由を推測することが可能になった。

 ヴォルフラムは仮係留ということで宇宙港に停泊し、護衛艦の補充が配備されるまでのつなぎとしてクラナガンにとどまることになった。
 この期間を使って出来る限り、惑星TUBOYに関する調査を行う。
 いずれにしろ、もう一度第511観測指定世界へは赴く必要があるが、そのためには入念な準備が必要だ。

「しかし、艦長も凄い度胸ですね」

 CICに集まった幹部士官の中から、ヴォルフラム副長であるエリー・スピードスター三佐が半ば笑うように言った。

「サーチャーメモリーの複製がバレたら軍法会議モンですよ」

 ヴォルフラムの搭載サーチャーで記録していた惑星TUBOY、および人型の観測データは次元航行艦隊司令部に提出した。
 規則では、メモリーユニットを交換してオリジナルのマスターテープを提出することになっているが、はやてはその前にデータを
別のメモリーにコピーしていた。もちろん、軍事機密の漏えいを防ぐためにマスターテープからの複製は固く禁じられている行為だ。

 それでも、上に提出して解析結果を待つだけ、では時間がかかりすぎる。
 たとえ隊規を犯すことになっても、はやては自らこのデータを調べることにしていた。

「OK、これでコイツを解凍すれば……出ました。データは本艦のコアにロードできましたよ」

 電測長を務め、幹部の中では一番の年長になるヴィヴァーロ曹長が、マルチスクリーンにデータを表示させて皆に示す。
 はやてとエリーは前に出て、それぞれヴィヴァーロの左右からスクリーンを覗き込んだ。

「艦長、これが“インフィニティ・インフェルノ”の魔力スペクトルですが……何か気になる点でも」

 魔力光は、単に固有の色の光を放出するだけでなく、周波数帯が部分的に欠けたスペクトルを発生させる。
 その欠け方は術者もしくは魔力機械ごとに固有であり、指紋や網膜同様、個人識別の手段となる。
 次元航行艦は、数光時から数光日程度の短距離ワープを行うことで、目標から発せられた魔力光の伝わる速度である
秒速30万キロメートルを先回りし、その痕跡を辿るという追跡方法が可能だ。
 また次元航行艦隊ではこの手法は広く行われている。
187EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:13:32.74 ID:SbPqS4fl
「LZ級は旧式とはいえアルカンシェルの威力は今でもトップクラスや。それを喰らって、少なくとも船体を維持できてたっちゅうことは、
ヤツは次元航行能力をもっとるゆうことや。いや、へたすると次元潜行能力まであるかもしれん」

「なるほど……もし敵が単なるワープ能力だけでなく、次元航行能力を持っているとするなら」

「惑星TUBOYから一足飛びにミッドまで飛んでこれるっちゅうことや」

「通常のワープではあくまでもひとつの次元の中でしか移動できませんからね。次元間を経由すればさらに距離短縮がはかれる」

 マルチスクリーンには、座標計算中の惑星TUBOYとミッドチルダ、さらに両惑星を結ぶ航路図が表示されている。
 その航路は現在、複数の次元世界を経由しており、もし通常空間のみで移動しようとすれば少なくとも30日はかかる距離だ。
 次元航行艦は、虚数空間を経由して移動することで18時間で到着が可能だが、もし敵戦艦にこの航路を発見されれば、即座に
ミッドチルダへの侵攻を許してしまうことになる。はやても当初は、仮に敵戦艦インフィニティ・インフェルノが復活し発進したと
しても、ミッドチルダへ到着するまでに何十日もかかるのでその間に迎撃態勢を整えることが出来るだろうと考えていたが、
そのアドバンテージがどうやら無くなる可能性があるということが判明した。

 さらに虚数空間を単艦で航行された場合、発見がさらに難しくなる。実際には迎撃のために取れる時間は数時間しかなくなるだろう。

「アルカンシェルは次元干渉をその破壊力の源とする──つまり、単独次元でしか存在しない物体には理論上防御手段がない、
装甲の硬さとか厚さ、魔法防御シールドやなんかはアルカンシェルに対しては全く防御力がない」

「逆にいえばアルカンシェルを受けて耐えていたということは、敵が次元干渉能力を持っていることを意味する。次元干渉ができるの
なら、被弾時に自艦の存在を別次元に逃がす、あるいは高次元から波動幕を引き出してくることでアルカンシェルを防御できる──
──ブレーンワールド理論(膜理論)では予言されていたことですが、実際に観測されたのは初めてですね」

 エリーの言葉に、はやては重くうなずく。

「そのとおりや」

 エリー・スピードスターは、士官学校でははやての2年先輩にあたり、やはり次元航行艦隊ではトップクラスの若手として注目を
集めていた。通常、はやてのような若い佐官には経験豊富な副官が付けられるのが常だが、エリーはその年齢としては驚異的なほどの
状況分析力があり、次元航行艦隊でも異例の措置としてヴォルフラム副長に就任していた。
 本人の性格としても、士官学校ではその狡猾さと慇懃無礼さからとっつきにくいところが見られていたが、はやてとは妙に
ウマが合っていた。

「高町さんがあの人型を撃墜したときも──、中性子線のことは言っていましたが、重力波のことは伝えていませんでしたね」

「あの場でいちばん危ないのはそっちやろ」

「ですが、敵が重力波を出していたということはあれのエンジンは波動制御機関であることを意味します」

「たしかにな……ミッドでもまだ基礎理論の領域を出てない次元属性を持つ魔力エンジン、やからな……」

 砕いた言い方をすれば波動エンジンと呼ばれるこの新機関は、従来の内燃機関や原子力機関と違い、超高次元であるカラビ=ヤウ空間への
アクセスによってエネルギーを取り出す。理論上、燃料は必要ない。もちろん、理論上は魔力素さえ必要ない。なぜなら、たとえ強力な
AMFなどを用いて魔力素の無い空間に放り込んだとしても、他の次元から魔力素を吸い寄せることが可能だからだ。最初に起動させるための
補助動力だけは必要になるが、いったん起動してしまえば、理論上無限に稼動できるエンジンとなる。
 このエンジンは──もちろん従来の魔力炉やデバイスであっても規模の大きいものでは観測されるが──次元干渉を行うという
作動原理上、稼動時に大量の重力波を放出する。エンジン内での反応を直接通常空間に吐き出せば、それはアルカンシェルの弾体と
同じものになる。
 いわば小規模なアルカンシェルを連続して発射しそれを動力源とするものだ。
 第97管理外世界の技術でいうなら、核パルス推進ロケットが発想としては近いものになる。
 これまでは力場や炉の中に閉じ込めることが出来ずただ爆発させるだけだった物理現象を、エンジンシリンダーの中で制御することが
できるようになったのだ。
188EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:16:00.53 ID:SbPqS4fl
 はやては士官学校では指揮幕僚課程の他に現代宇宙論も学んでおり、若手の艦長というだけでなく、新進気鋭の宇宙物理学者という
顔も持っている。この分野では、エリーよりもはやてのほうが知識はある。それだけに、はやては自分の中で考えをまとめることに
恐怖を感じていたが、エリーはそれをよく理解しはやてに理論の構築を促していた。

 ミッドチルダ術式およびベルカ術式における魔法の属性には、全部で6種類が存在する。
 その6種類とは、炎熱、電撃、氷結、重力、次元、粒子。
 単なる打撃を与えるような、一般には無属性攻撃と呼ばれるような魔法でも、実際には必ずこの6種類のどれかの属性を持っている。
 たとえば、はやてに近しいところでいえばヴォルケンリッター・ヴィータのギガントシュラークの場合、属性は重力と粒子である。
 すなわち、物理打撃部分を巨大化させるので空間内の粒子を制御していることになり、また大重量を生成するので重力を制御している
ことになる。もちろん他の魔法も、複数の属性を複合して持っているものは珍しくない。

 この6属性の中で、次元属性に関しては術式が極端に少なく、またそれを扱える者も非常に稀であった。

 はやてが過去に知る人物では、フェイトの母、プレシア・テスタロッサが使用していた次元跳躍魔法だけとなる。
 彼女は虚数空間に沈底させた要塞「時の庭園」から、次元航行艦アースラへ向けてサンダーレイジを使用した。
 通常の術式であれば、異なる次元に攻撃を送り込むことはできない。デバイスのジオメトリエンジンが時空連続体を飛び越えて
計算できないため、魔力を配置する座標が特定できなくなるからだ。
 そのため、次元跳躍魔法を使うには術者自身が時空連続体の計算を行う必要があり、それにはデバイス側のハードウェア
アクセラレーションが効かないため、負荷も高く、使用できる術者は限られてくる。また、計算式そのものも構築できる人間は少ない。

 波動制御機関を使用すれば、多数の時空連続体を同時に扱う計算が可能になり、次元航行艦の機動力が格段に上がる。
 虚数空間を単なる航路としてでなく、実数空間にしか攻撃できない通常兵器からの回避に利用する“次元潜行艦”だ。潜水艦が攻撃を
かわすために海に潜るように、次元潜行艦は虚数空間に潜行しつつ、実数空間を攻撃することが可能だ。
 さらにこの技術を応用すれば、現代のミッドチルダの魔法技術では事実上防御手段が無いアルカンシェルを、減衰ないし
無効化することが可能になる。

 次元属性魔法の研究が進まない原因には、単に難解な理論であるというだけでなしに、次元世界間の軍事バランスにも大きな影響を
与えるファクターであるという現実があった。アルカンシェルは戦略級兵器であるがゆえに、その威力に裏打ちされた相互確証破壊の
原則が崩れてしまうことは、次元世界の調和が破れることを意味する。

 ミッドチルダの魔法技術が揺らぐことなどあってはならないと、政府が考えるのは当然の帰結といえるだろう。
 魔法はあくまでも人類の持つ道具であり、危険をもたらす道具を作ってはならないと、人は考える。

「こいつの実態が知れる前に深宇宙に沈めろと、そう上(最高評議会)はゆっとるんやな」

「正確にはミッドチルダを含めた各次元世界首脳が管理局に要請しています」

「まあいまさら無理ですとは言えんわな」

 はやてはこめかみに手を当て、唇を引いて笑みを浮かべた。

「本艦の搭載火力ではあれほどの巨大戦艦を沈めるのは厳しいですね」

 ヴォルフラム砲雷長のレコルト・ガードナー三佐が言った。彼ははやてと同期である。
 基本的には真面目な性格だが、気配りもきき柔軟な発想のできる男だ。

 インフィニティ・インフェルノについては、浮上直後に撃墜したということもあり、艦の全体をおさめた映像がなかった。
 アルカンシェルによって露出した惑星TUBOYのマントルに埋まっている様子は観測できていたが、地表に出ている部分はともかく、
艦のどれくらいの部分が埋もれているのかがわからないため、全体の大きさは推測するしかない状態だ。
 艦の全体的な形状を単純なデルタ翼型と仮定した場合、全長は約73キロメートルとなる。艦首の船型を変えて船体を延長
していた場合はこれよりも長くなる。最も幅の広い艦尾部分は24キロメートルだ。
 外部に露出した艦橋は無く、制御区画は艦内部の深い場所にあり、推進器は艦尾に集中配置されていると予想される。
189EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:19:58.31 ID:SbPqS4fl
 はやてはコンソールのパームレストに肘をつき、スクリーンのガラスを指ではじいた。

「相手は恒星間戦略母艦クラスや。いくらこのLS級が傑作艦ゆうても所詮は沿岸警備用やからな」

「ミッドチルダ海軍の全艦艇を出しても厳しいんじゃないですかね?それとも、博物館から次元戦争時代の戦艦を引っ張り出して
きますか。あの頃のアルカンシェルは、今みたいに自主規制なんて無いですからとんでもない威力だったらしいですね」

 正面切って戦うには厳しい相手だというのは、誰もが受ける印象だ。
 とにかく大きさが巨大すぎるため、仮に敵が全く動かなかったとしても、完全破壊するにはどう考えても火力が足りない。
 速射砲でちまちま撃っていたのでは何万発が必要になるかというものだ。

「当面の問題はCW社ですね。彼らがどこまであの星の実態をつかんでいるのか……そして、どこまであの星を穿り返しているのか」

 レコルトの言葉には、珍しく苦々しさが出ていた。
 いつでも冷静に、理知的に振る舞う彼が感情を滲み出させているというのは珍しいことだ。

 たしかに、発掘したロストロギアが突如暴走し、甚大な被害をもたらすという事故はこれまでに幾度となく起きてきたし、その度に
時空管理局は多大な犠牲を払ってでも鎮圧し、ロストロギアをねじ伏せ、制御下に置いてきた。それはある意味、人類の誇りと意地の
象徴でもあった。この世にはロストロギアが存在し、それは人類に牙をむく。この強大な力を人類は征服してみせる。それこそが
人類の生きる証であり生きる意味だ。

 さらなる世界を求め、次元の海に漕ぎ出していくのは、このロストロギアを征服するという野心、よく言えばフロンティアスピリットに
よるものが大きい。この現代でも、冒険家たちはそんな大国の王族などからの援助を受け、未知の次元世界の探検を行っている。

 彼ら冒険家を支援するパトロンには、ミッドチルダをはじめとした次元世界超大国政府、そして聖王教会のような巨大宗教組織などがいる。
 次元の海を旅する者は、ほぼ例外なくこれらの組織とつながりを持っている。

 ロストロギアの分布は各次元世界に、まったくの規則性も無く一様にみられ、次元世界を旅するなら、いつ、どこでロストロギアに
遭遇してもおかしくないという様相だ。生物が住んでいない星なので安心して降り立ったら、実はとんでもない罠が仕掛けられていた、
それ自体はありえない話ではない。
 しかし、どこか腑に落ちないのも事実だ。
 自分の中の勘が、この事件には何らかの意志が働いていると告げている。はやてはそう思っていた。

 もう一度、あの本を開く時が来たのかもしれない。

 次元から次元へ、果ての無い旅を続けてきたあの本は、この世の全てを見通すアカシックレコードである。



 特別救助隊が、宇宙港の桟橋に散乱した瓦礫に生き埋めになった人々の救出作業を行っていたさなか、それは目覚めた。
 貨物船の外板が覆いかぶさっていたコンテナの中から、突如、大型のメカが飛び出してきた。モーターの駆動音を響かせて動き出した
そのメカは、無限軌道の履帯のように見えた部分が、実際には多数の甲羅のような外殻を接地させて駆動する、節足動物のような構造に
なっていた。
 腹をうねらせて進む異様な動きに、救助隊の隊員たちがあわてて逃げ出す。

 コンテナの残骸を押しのけて進み出たメカは、実際の駆動システムは別にして、戦車のような下半身に、蟹のような腕が生え、中央の
盛り上がった部分にセンサーユニットのようなガラス質のパーツが見えていた。
 黄色い外見は、塗装されているのではなく外皮素材の金属そのものが黄色をしていた。

 隊員たちは武器を持っていないので、動き出したメカに対し、遠目から様子をうかがうしかできない。
 あんなものが残骸の中に隠れていたなど想像も出来なかっただろう。
190EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:22:14.34 ID:SbPqS4fl
 黄色い戦車型のメカは──メカと言っていいのか分からないが金属質の身体をしているのは間違いない──は、まるで冬眠から覚めた
動物のように、ゆっくりと周囲を見回している。身体を左右に振るたびに、細い多脚が動く不気味な駆動音が耳を毒する。

「なっ、なんなんですかあいつは!」

 隊員のひとりがおびえた声で叫ぶ。
 エリート部隊ではあっても、特別救助隊は災害現場への出動が基本で、戦闘を行う組織ではない。
 スバル・ナカジマは、見たこともない異様なメカの姿に、かつて戦ったおびただしい数のガジェットドローンたちを思い出していた。

「まさか、あの船団の積み荷はロストロギア……」

 つぶやくように口に出し、すぐに意識を引き締めて次に指示すべき内容を考え出す。
 スバルは直ちに、現場からの避難と管理局地上本部への通報を命令した。機動六課の頃は幼さが抜けない新人兵士だったスバルも、今は
防災士長として権限と責任を与えられた人間だ。他の特別救助隊の士長たちも、陸士部隊などで実戦経験を積んできた者が多い。
 彼らと連絡を取り、指揮系統を失わないよう、隊員たちに的確な指示を与える。
 ただ命令を聞く、聞かせるだけでなく、迷わないようにすることが大切だ。部下の迷いを取り除くことが大切だ。

 再び、背後で金属がひしゃげる大音響が聞こえた。
 振り返ると、別のコンテナからもう一体、同じ戦車型のメカが這い出してきていた。こちらはコンテナが積まれていた貨物船が墜落した
衝撃で損傷したのか、腕が一本しかなく、もがくような動きを見せている。
 ゆがんだコンテナを突き破り、瓦礫を乗り越えて這い出てくる。
 メカの表面のどこにも顔などないのに、苦痛にうめいているような動きを見せる姿に隊員たちはさらに恐怖を受ける。

「たっ、助けてくださいっ!」

 叫び声のするほうをとっさに見やると、戦車型が蟹のような腕を伸ばし、地面に倒れた隊員の身体を突いていた。
 向こうにとっても未知の物体であろう人間を目の前にして、それがいったい何物なのかを調べようとしているように見える。
 しかし、体格差がありすぎるため、向こうにとっては軽く触れているつもりでも、人間にとっては巨大な力となる。

「私がどかしますからっ!今のうちに!」

 叫び、スバルはマッハキャリバーを起動させて突進した。瞬発力に優れるインラインスケート型デバイスは、急を要する場面で活躍する。
 戦車型の前に割り込み、蟹のような腕をつかんで押しのける。
 見た目どおりに戦車型は重量があり、体重で地面にはりついているためなかなか動かない。
 足を打った隊員は這いずりながらなんとか逃げようとする。戦車型は腕を押し返しているスバルに、さらに力を入れるようにして腕を
突き出してきた。スバルもさすがに踏ん張りきれず、マッハキャリバーのローラーがコンクリートの地面にめり込む。

「くあっ……重い……!」

「ナカジマ士長!離れてください!」

 別の隊員が、転がっていた鉄パイプで戦車型の腕を殴りつけた。衝撃がさすがに通ったのか、戦車型はよろめくように胴体を左右に
振りながら後ずさった。人間の力程度では傷が付けられないようで、戦車型は目の前にいる大勢の生き物(人間)が何者なのかを警戒する
ように、腕で地面をたたいている。
 ふとスバルが振り返ると、最初に出てきたものとこいつと、そのほかにもたくさんのメカたちが、壊れたコンテナや船の残骸の中から
這い出してきているのが見えた。一面瓦礫だらけの宇宙港の地面に、とっさに数え切れないほどの謎の戦車型メカが蠢いている。

「ひっ!こ、これは!死んでます、踏み潰されてっ……!」

 今度は女子隊員の悲鳴が聞こえた。あたりを見回すように動いている戦車型の脚部の下に、人間の腕が見えた。袖口が見えている服は
おそらく港湾職員の作業着だろうか。戦車型が脚を動かすと、地面に踏ん張られる多脚の殻の動きに従って腕の肉がすり潰されるように
ひしゃげ、肉から血が搾り出され、地面に流れ出て広がる。
191EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:25:26.67 ID:SbPqS4fl
 スバルは思わず奥歯を噛んだ。
 仲間が怯え、救助すべき人々が死に、しかしその原因となったメカたちは、人間を意に介していない。
 たとえば人間が、足元を這い回る蟻を踏み潰しても気に留めないように、彼らにとっては人間は気に留められない。

 戦車型の大きさは全高が2メートルほど、幅は1.5メートル程度。小型自動車程度の大きさだ。
 体重は、おそらく500キログラム程度であろう。戦車型の腕を押したときの感触からするとそれくらいだ。

「まずいです士長、こいつらは力がありすぎます」

「……今まで何人救助できた?」

「っ、自分の班では7人です……」

 スバルは思考をフル回転させる。戦車型を振り払い、救助を続けるか、それともすでに確保できた人々の安全を優先して撤退するか。
 特別救助隊の装備では、戦車型と戦うことはできない。

「……仕方ない。重傷者を最優先してヘリに──」

 言いかけたところで、異様な駆動音とともに、短い悲鳴が衝撃音にかき消されるのが聞こえた。
 重い物体の衝突に、やわらかいものが潰される湿った音。液体が飛び散る音。
 喉を裂くような若い女の悲鳴、そして、硬いものが割れて潰れる音。

 隊員の誰かだろうか、言葉にならない吼えるような悲痛な叫びが聞こえた。

 戦車型の一体が突如、隊員の一人に向かって突進してきていた。
 突進を受けた女子隊員は突き倒され、そのまま戦車型にのしかかられた。数百キログラムもあるであろう戦車型の体重に、彼女はなす
すべもなく押し潰され、まだ意識があるうちに、両脚、腰、胸の順に踏み潰されていった。
 戦車型の脚は多脚の先端に接地面積を広げる殻があり、これで地面をまんべんなく踏みきれるようになっている。
 この足の形のため、踏まれた場合全身に体重がかかり、皮膚が肉を包んだまま潰れて、重みによる圧力に耐え切れなくなった皮膚が
はじけて破れてしまう。

 悲鳴に、喉から血液が噴き出す水音が混じる。

 胸の上に戦車型が乗り上げ、肋骨が潰れて心臓が破裂し、彼女は腕を硬直させたまま動かなくなった。
 スバルのそばに報告に来ていた班長が、とっさに顔をそむける。今、彼の目の前で踏み潰された女子隊員は、彼の班の新人だった。

「くっ……全員撤退!急いで!」

 振り絞るように叫び、スバルは隊員たちの誘導にかかった。
 職責と、悔しさと。彼女を死なせてしまったのは自分の判断が遅れたせいかもしれない、もっと早く撤退を決断していれば、彼女は
助かったかもしれない──湧き上がる後悔を必死で押しとどめる。今、そうやって気力を萎えさせるわけにはいかない。
 今の自分は、心を奮い立たせて人を指揮しなければならない立場なんだ。

「走れ!走れっ!」

「あっ、足がっ、た、立てない!」

 瓦礫につまずき、足がもつれて転んだ隊員に、背後から戦車型が迫る。
 先輩隊員が必死に声をかけるが、立ち上がれない。助けるために引き返すにも、他の負傷者を抱えていて、危険すぎる。
192EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:31:15.11 ID:CRlWuejY
「くっ!みんな、とにかく走って!私がこいつらを抑える!」

 マッハキャリバーに加えて、スバルはリボルバーナックルを起動させた。
 倒れた隊員に向かっている戦車型を後ろから追いかけ、ジャンプして、ガラス質の部分に向かって飛び掛る。戦車型の胴体の上に乗り、
腕をつかんで、ガラス質の部分にリボルバーナックルを打ち込む。
 金属同士がぶつかる鈍い音が響き、ガラス質がひび割れる炸裂音が、珪砂の破片をはじけ飛ばせる。

「ナカジマ士長!」

「みんなは早く逃げて!」

 宇宙港は、建物が人型の核爆発によってほとんど吹き飛んでしまい、更地の状態になっていた。
 身を隠せる遮蔽物もない。とにかく敷地外の無事な建物があるところまで走るしかない。

「この……っ!!」

 へこんだ戦車型の胴体は、金属としてはかなり脆いものだった。少なくとも、町の鉄工所で使うような安い鋼板でももっと強度はある。
 ねずみ鋳鉄のように、やわらかく曲がったり潰れたりしている。

 戦車型の胴体に二発目のパンチを打ち込み、スバルは深い手ごたえを拳に感じ取った。
 敵の装甲を突き破った。
 強度のない軟い鉄板がちぎれ、勢いをつけたスバルの右腕が戦車型の胴体にめり込む。さらにリボルバーナックルを回転させ、突きに
捻り運動を加えてダメージを与える。500キログラムを超える体重が跳ね、内部のメカらしき配管やロッドをなぎ倒す感触を拳にとらえる。

 パンチのモーションで右腕を引き抜いたとき、戦車型の胴体から赤い液体が噴き出すのが見えた。
 オイルか何かかと思ったが、それはもはや脳の奥にこびりついた、生臭いにおいをしていた。

 戦車型が、穴の開いた体表から血を噴き出している。

 その様子を見ていた他の隊員たちも、驚きに思わず立ち止まっている者もいる。

 外見はどう見てもロボット、メカなのに、それは人間と同じ赤い血液を流している。
 いや、同じなのは色が赤くて状態が液体であるというだけだ。その構成要素は全く違うということを、スバルはすぐにその肉体に
叩きつけられた。

 鋭い痛みに、とっさにリボルバーナックルをパージしてしまう。

 見下ろすと、戦車型の返り血を浴びた右腕が、皮膚が火傷をしたように赤く腫れ上がっていた。
 腕に無数の針を刺されたような広範囲の痛みに、思わず腕を押さえて立ちすくんでしまう。

「ナカジマ士長!?だっ、大丈夫ですか!?」

「ぐっ……あっ、く、この……!」

 未知の薬剤か、重元素を使用した人工血液なのか。皮膚を垂れていく滴の重みから、それが通常の脊椎動物の血液ではありえないことを
スバルは直感した。血の滴は頬や胸にもかかっていて、頬の滴からは刺激臭がしていた。舌に臭いが触れ、頭がくらりとしそうなほどの
強烈な苦味が感じられる。
 特別救助隊の隊員が装着するバリアジャケットは対NBC性能に重点が置かれているが、それでも防御しきれないほどの強烈な刺激だ。
 右腕を押さえながら顔を上げると、仲間が傷を負わせられたことに気づいたのか、他の戦車型が動きを活発化させ、スバルの周囲を
取り囲むように集まってきていた。他の特別救助隊の隊員たちも、その様子に気づいていても、武器がないので手出しができない。

 痛みを振り切り、再びリボルバーナックルを装着する。完全に囲まれる前に突破口を作る。拳を戦車型の腕に打ち込み、相手をよろめ
かせる。足の数が多く接地面積が大きいため、戦車型はかなり派手に殴られても姿勢が安定している。拳の後に蹴りを続け、戦車型の
巨体を押し出して後退させる。
193EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:34:39.16 ID:CRlWuejY
 周囲に集まってきたのは4体ほどだろうか。それでも、戦車型は横幅が大きいため、360度すべてを囲まれているように感じる。
 突進をサイドステップでかわし、細い脚が露出している部分を狙って蹴りを打ち込む。
 折れた節の部分からも、刺激臭を放つ戦車型の体液が漏れてくる。滴が脛にかかり、さらに激痛が走る。

「無理です士長、このままじゃ!」

「くっ、みんなは逃げられたの!?」

「今ヘリが来て、負傷者を搬送してます、ナカジマさんも早く!」

 スバルは宇宙港の敷地を見渡し、すぐに接近される範囲にどれくらいの戦車型がいるか数えた。
 半径50メートルほどの距離には10体程度がおり、それらはスバルの周囲に集まりつつある。戦車型の移動速度は人間が走るよりは遅い
ようだが、突進を行うときは瞬間的にかなりの距離をダッシュしてくる。

 狙いを一体に絞る。完全に動けなくした個体を放れば、他の個体も動きが制限される。
 センサーユニットと思われるガラス質の部位を集中的に狙う。リボルバーナックルに鋭い回転を与え、思い切りの正拳突きを打ち込む。
 戦車型が大きく後ずさり、腕を垂れ下がらせて動きを止めた。
 関節部は通常のロボットのようなヒンジ構造ではなく、多数のフレームを重ね合わせたじゃばらのようになっている。

 戦車型たちをあらかた振り払い、周囲から敵が離れたことを確認して、息を吐く。
 油断なく構えを解かないまま、肺だけを動かして身体を回復させる。

「ナカジマさんっ、もう大丈夫です、もうみんな脱出しました!早く戻ってください!」

 後輩の女子隊員が叫んで呼びかける。
 スバルは、蹴りで多用したため戦車型の体液を浴びた左足が、思った以上にダメージを受けていることを察していた。刺激臭は液が
強酸性であることを示しており、足首の肉が溶けて、骨格フレームとマッハキャリバーのブーツ部分が直接接触している感触がある。
 戦闘機人といえどもベースは人間の肉体であり、機械部品だけで身体を動かすことはできない。
 骨や筋肉が致命的な損傷を受けて機能を失えば、機械の骨格フレームが体重を支えられなくなる。

 構えを解けない。構えを解いて身体の力を抜いたら、足首が折れてしまいそうだ。バリアジャケットは術式が損傷して魔力が漏れ出し、
マッハキャリバーも動作クロックが低下している。ダメージは予想以上に大きい。

「ナカジマさんっ!!」

 振り返れば、おそらく左足がいかれる。そうなったら、あとは這いずって移動するしかない。
 迷っている間にも、戦車型はじりじりとにじり寄ってくる。

 後方で、巨大な魔力が発砲される衝撃を感じた。

 砲撃魔法が撃ち下ろされ、スバルに迫っていた戦車型を直撃した。これにはさすがの戦車型も大きく身体をバウンドさせ、腕や脚を
潰しながら派手に転がっていく。
 この砲撃魔法を、スバルは何度も間近で見たことがある。
 さらにビームが連続で撃ち込まれ、戦車型は次々と撃破されていく。

「武装隊が……首都防空隊が?」

 安堵に緊張が抜け、スバルは背中から地面に倒れ込んだ。左足のマッハキャリバーを装備解除し、待機状態にして左手に握る。
 見上げると、晴れた空、抜けるように青い空を背に、白い翼が舞っていた。
194EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:37:29.68 ID:CRlWuejY
「なのは……さん……」

 戦車型が撃破されはじめ、安全が確保されたことを確認した他の救助隊員が、スバルを助けにやってくる。
 二人がかりで両腕を支えてもらい、なんとか立ち上がる。右足しか動かせないので、その辺に落ちていた鉄パイプを杖代わりにする。

「なのはさん、フェイトさんもっ、気を付けてください!敵の体液に当たると肉が焼けます!」

「わかったっ!スバルははやく手当てを!こいつらは私たちが片づける!」

 フェイトはバルディッシュをライオットザンバーに切り替える。砲撃戦主体のなのはは遠距離攻撃ができるが、フェイトは接近戦を
行うことから、強酸性の体液を浴びる危険が高い。ライオットザンバーなら間合いが広めなので距離をとれる。
 なのははディバインバスターを連発し、戦車型を一体ずつ各個撃破していく。ディバインバスターを受けた戦車型は全身を覆う外皮が
破裂するようにちぎれて、融けて潰れるように動かなくなる。黄色い体色は焦げたような茶色に変化していた。
 ライオットザンバーで叩き斬られた戦車型は、腕がちぎれ飛んで、脚部がへこんだ。金属質な外見とは裏腹に、装甲はやわらかく、
むしろ甲虫や甲殻類のような印象さえ受ける。

 なのはとフェイトの戦いぶりを遠目に見ながら、スバルは他の救急隊員からの応急手当てを受けていた。
 肉が焼けて血管がふさがってはいるが、念のため、包帯で脛を縛り、止血する。

「ナカジマさんっ、大丈夫ですか!?足が、こんな……」

 最後まで残って他の隊員の誘導をしていた若い女子隊員が、心配そうにスバルの身体を見る。
 彼女はスバルが戦闘機人であることを知ってはいたが、実際にこうして、ダメージを受けて機械部分が露出した姿を見るのは初めてだ。

 スバルの左足は、脛の骨にあたる部分がおよそ3分の1ほど溶けてなくなり、腱だけで足首が繋がっている状態だった。筋肉などは溶けて
しまい、もともとの骨と、接合した金属フレームも酸によって表面が変質していた。こうなってしまうと、いったん切り落として、新しい
フレームを付け換えなければならない。
 脛に残った肉の部分は、燃えたようにちぢれていた。これほどの浸蝕性を持つということは、それ自体が戦車型の体内で何らかの作動油
として使われているわけではないだろう。金属も溶かしてしまうのだから、金属でできているロボットにとっても有害物質だ。
 よく見てみると、自分が殴って穴をあけた戦車型は、やはり漏れ出した自身の体液に対してはダメージを受けているようだった。
 あたかも、寄生生物にとりつかれているかのように見えた。

 戦車型があらかた倒された頃、その予想が正しかったことが判明した。

 比較的船体の原形をとどめて墜落していた貨物船の残骸の中から、大きなボールのような姿をしたメカが転がり出てきた。
 いや、メカというよりは、これこそまさに生物のように見える。巨大な刺胞動物、あるいは、紫色のマリモ、といったところか。

 なのはとフェイトには、もはや不審な物体に対しては警告なしで攻撃してよいという許可が出ていた。
 すかさず、ディバインバスターとサンダースマッシャーの同時射撃が飛ぶ。

 マリモは、強度の高い膜状の外皮の中に、戦車型の体内にあったのと同じ強酸性の血液を満たしていた。この血液は引火性も高かった
ようで、ディバインバスターの余熱によって発火し、水蒸気爆発を起こしたようにはじけ飛んだ。赤い血しぶきが燃えて濃い紫色の
煤煙になり、強烈な刺激臭を放ちながら大気に溶けていく。燃えてしまえば、その煤にはもう肉体を溶かす作用はなくなっていた。
 球状の膜が破れると、その中から、スライムのような物体が這い出てきた。
 これは戦車型よりもさらに大きく、身長は3メートル以上はある。粘性の高いジェルをこねて固めたような外見で、頭部のように見える
部分は直径が1メートル以上あり、そこに、軸のずれた二つの目蓋、そしてこれも直径が40センチ近い巨大な眼球が見えている。
 明らかに、機械ではない。機械だとしても、少なくとも材料は金属ではない。
195EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:40:44.03 ID:CRlWuejY
 なのはよりも早く、フェイトがサンダースマッシャーの第二撃を放った。スライムは動きがとても鈍く、身体を震わせていたがほとんど
まともに動けず、サンダースマッシャーを被弾した。ジェル状の身体は導電性が高いようで、体表面が激しく沸騰しながら爆発し、
飛び散った粘液の中に、小さな粒のような金属体があるのが見えた。どうやら、これがスライムの本体のようで、こいつが粘液を集め、
固めて制御することでスライムの姿を形作っている。

「っ!!」

 スライムの中に、芯のような、やや大きめのカプセルのような物体が見えた。赤い血液の中に浮かぶその青紫色の物体にめがけて、
フェイトはザンバーを横薙ぎに振る。粘液の中からはじき出されたカプセルは地面に落ちて、鈍い金属音を立てながら転がっていく。
 おそらく制御ユニットだったであろうカプセルを失ったスライムは、やがてどろりと身体を崩壊させ、地面に広がっていった。
 コンクリートに触れた部分は、セメントと反応して、蒸気をあげながらくすぶっている。

「全目標撃破。もう周囲5キロに異常魔力反応は無し……片付いたよ、はやてちゃん」

『おし。特別救助隊の連中はどうや?いけそうか?』

 念話の声は、スバルたちにも聞こえている。

「私は大丈夫です、一応処置はしました」

「──とりあえず、今残ってる者は比較的軽傷で──うん、特別救助隊の子にひとり、殉職者が」

『なのはちゃんらが到着する前や、仕方ない──スバルもそこにおるんか。後で報告書まとめたら、私のとこにもまわしてや。
あのバイオメカノイドどもの情報を少しでも集めなあかん』

「わかりました。──すみません、お手間をかけさせてしまって……おひさしぶりです、はやてさん」

 人型とか戦車型とかマリモとか、形状で呼んでいても仕方ないので、暫定的な呼称として、惑星TUBOYに由来する無人メカたちを
“バイオメカノイド”と呼ぶことが決まった。
 彼らは、機械の外装を纏った一種のヤドカリのような生物であると予想される。
 戦車型の体内に満たされていた体液は、それ自体がアメーバ状の身体を持つ生物だ。マリモのように、むき出しになっていることも
あるが、たいていは、ヴォルフラムがTUBOY地表で遭遇した二脚型や、貨物船のコンテナに詰め込まれていた戦車型のように、機械を
つくってその中にもぐりこんでいる。この機械そのものは、惑星TUBOYに存在する無人プラントで製造されていることが判明した。
 といっても、それは人間が作る機械とはかなり異なり、やわらかい金属を型にはめてプレスしただけの簡易なものだ。
 それを、内部に入り込んだスライムがあやつっている。ちょうど、スライムが金属の鎧を被っているような形だ。
 ただし、スライムそれ自体が元凶の生物というわけではなく、あくまでも鎧を着せるのに適するようにつくられた人造生命体だ。
 スライムの制御ユニットである粒を分解してみても、高度なAIのような構造は発見できなかった。
 彼らは、単純な動作を繰り返す古典的なロボットだ。少なくとも現状倒した個体を見る限りはそう判断せざるを得ない。

 この現状を説明する方法として、いくつかのシナリオが考えられる。
 ひとつは、惑星TUBOYに住んでいた人類が、何らかの目的でこれらのメカノイド群をつくり、そして人類が滅びた後もメカノイド群だけが
活動を続けていたというものだ。これがいちばんシンプルなシナリオとなる。
 しかしこれだと、惑星TUBOYの人類が滅びた後、いったい誰がメカノイド群のメンテナンスをしていたのかという問題が生じる。
 バイオメカノイド群たちは、機械構造としてはかなり大雑把なもので、工業製品として考えた場合はあまりにもお粗末過ぎる工作精度
しかない。中に生物が入るという構造からするとそれで問題ないのかもしれないが、これを人間が設計したとはにわかには考えにくい。
196EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:44:00.84 ID:CRlWuejY
 また、これらメカノイドたちはそれほど長時間の無補給運用を考慮されておらず、電力や、内部のスライムが消費する栄養分の補給が
必要になる。これらは、少なくとも惑星TUBOY上に限っていえば、補給基地のようなものがあり定期的にそこに帰還するようプログラム
されていたとも考えられる。この場合、他の惑星に連れて行かれてしまえば、じきにエネルギーが尽きて動けなくなってしまうだろう。
 もうひとつのシナリオとして──これはやや複雑であるがより現実的なものである──、惑星TUBOYの人類が製造したのはまったく別の
システムであり、バイオメカノイド群はそれが独自に進化した結果誕生したものであるという推測ができる。
 このシナリオの場合、重要になってくるのは惑星TUBOYの人類が滅びたタイミングである。
 人工的なシステムであれば、当然、メンテナンスの必要性が生じる。メンテナンスをする者がいなくなったためにシステムの動作が狂い、
結果としてバイオメカノイドが生まれてしまったのか、バイオメカノイドが生まれたために人類が滅びたのか。
 後者のシナリオであれば、人間の制御できる範囲を超えたシステムが、惑星TUBOYに眠っているということになる。

 惑星TUBOYから浮上しようとしていた赤い戦艦は、全長が100キロメートルに届こうかという常識はずれの巨体をしていた。
 この戦艦は惑星TUBOYの人類が建造したのか、それともバイオメカノイドたちが自ら建造したのか。

 ヴォルフラムの搭載するサーチャーで撮影した敵戦艦インフィニティ・インフェルノの映像を用いて、ヴィヴァーロ曹長は敵戦艦の
性能分析を行っていた。重要なことは敵の性能を把握することである。兵器は、外見からおおよその性能を推測することが可能である。
 ヴィヴァーロ曹長は、敵戦艦は複数の段階にわたって大幅な船体の増築が行われていると予想した。
 全体としては単純な楔形──アスペクト比の小さいデルタ翼型──の船体をしているが、魔力光スペクトルを分析した結果、少なくとも
大きく3つの部分に分けて、建造された年代が大きく異なる船体が混じっていることが判明した。
 そのスパンは少なくとも1500年以上と計算された。

 ここで、あの赤い戦艦を惑星TUBOYの人類が建造した可能性は限りなくゼロに近くなった。

 人間が作った艦であれば、1000年以上も同じ船体を使い続ける理由がない。
 機械である以上必ず老朽化はするので、古いものはスクラップにして新規に船体を作り直したほうがいい。
 魔力光スペクトルで見る限りでは、インフィニティ・インフェルノの構成素材は何の変哲もない鉄やチタンであり、製造が困難な
特殊鋼などが使われているわけではない。古い船体を使い続けなければいけない理由は少なくとも見当たらない。

 あの赤い巨大戦艦は、バイオメカノイドたちが自らのコロニーとするために建造したものである。

 コンテナに詰め込まれ、貨物船に積まれていた戦車型やマリモなどのバイオメカノイドたちは、すでに製造済みであったものを
惑星TUBOY上で捕獲したものであるとの証言が、貨物船の乗組員から得られた。
 惑星TUBOY上では、少なくともカレドヴルフ社の船団が滞在していた間は、彼らは全く機能停止した状態で、魔力反応も検出されず、
何らかの動力が接続されている様子もなかったという。惑星探査機による観測で見つかっていた化石と区別はつかない状態で、CW社の
社員による説明でも、保存状態のよい化石を運び出すという作業指示を受けていたと、その乗組員は証言した。
 クラナガン宇宙港に入港する際も、積み荷は鉱石またはスクラップと申請されていた。
 検査の際も、魔力反応はなく、がらくた機械のようにしか見えなかった。検査官は、惑星TUBOYに存在するメカノイドの形状を
知らされていなかったために、戦車型が積み込まれたコンテナをそのまま通してしまっていた。

 そして実際、宇宙港での戦闘で撃破された戦車型たちも、スライムの体液を洗い流してしまうと、その機械単体では、惑星TUBOYの
化石と見分けはつかないことが判明した。これが自己動力を持つ戦闘メカであることを、外部からの観測によって証明できなかった。

 スライムをかたちづくっている粘液は、成分は水のほかにはエステル系油脂、アルカリ金属、そして珪素やフッ素などで、構成成分と
しては機械潤滑用のグリスやオイルに近いものであることが判明した。
 人体に対する激しい反応性は主にリチウムとフッ酸によるものだった。
 少なくとも、次元世界全般に広く生息している炭素を含んだ有機化合物による生命体ではない。
197EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:48:14.02 ID:CRlWuejY
 はやての懸念は、惑星TUBOYでの輸送船遭難、ヴォルフラム捜索隊への襲撃、そしてクラナガン宇宙港での戦闘、そのいずれもが、
次元航行艦──すなわち、大型の魔力機械が接近したときに起きているということだった。
 忘れてはならない要素として、バイオメカノイド群たちは何のために作られたのかということだ。
 もし、彼らのもともとの姿がたとえば惑星TUBOYの防衛システムであった場合。
 次元航行艦のような強い魔力を発している物体を、“脅威度の高い目標”と判定するということはありうる。
 船団の作業員たちには知らされていなかったようだが、船団に同行してひそかに、ティアナたち、選抜執務官試験を行う局員を乗せた
艦が、惑星TUBOYに降り立っていたのだ。この艦はL級巡洋艦の最初期の型であり、艦名は「アエラス」。この艦は消息不明となっている
ことが次元航行艦隊の航海管制記録から判明し、おそらく、惑星TUBOY近傍で撃沈されたと思われる。

 バイオメカノイドたちが目覚めたのは、この巡洋艦アエラスの接近遭遇によるものかもしれない。

 ヴォルフラムの艦長室に運ばれた食事のチャーハンをほおばりながら、はやては考えていた。
 あの戦闘メカたちを目覚めさせてしまったのは、管理局に責任があるのか。もし、選抜執務官の試験などというものをあの惑星で
やろうとしていなければ、バイオメカノイドがミッドチルダに持ち込まれることはなかったのか。
 非武装のCW社輸送船に対しては、バイオメカノイドは攻撃をしなかっただろうか。
 少なくとも、輸送船のうちの一隻がおそらくバイオメカノイドの攻撃によって撃沈されたことは事実だ。
 アギーラ曹長の持ち帰った破片を分析した結果、惑星TUBOYの地表に墜落したCW社輸送船は、ヴォルフラムが到着する前に、何者かの
手によって残骸のほとんどが持ち去られていたことがわかった。惑星TUBOY上で遭遇した二脚型の破片に、CW社の輸送船に由来する塗料が
付着していた。あの二脚型が、少なくともCW社の輸送船に触れたことは間違いない。

 解析結果をはやてに報せにきたヴィヴァーロ曹長は、艦隊司令部はこの情報を握り潰すでしょう、と言った。
 このような結果、この次元世界に他の人類が存在するなど、認めてはならない。他の人類、ましてや創造主を滅ぼしてしまうような
人工の生命体の存在など、認められない。認めてしまえば、人類全体が神の意志に屈服することになる。
 そのような運命など、あってはならない。

 少なくとも、次に第511観測指定世界に派遣される艦があったとしても、それは捨て駒になるだろう。
 管理局は、この問題を解決できなければ、先送りにするしかないという状況だ。

 運命を避けようなどと思ってはいけない。
 運命に立ち向かい、乗り越えることができるのが人間だ。

 幼いころの彼女を──リインフォースの想い出を、幾度となく夢に見ながら、はやてはそう考えるようになっていた。

 どんなに願っても、人間の意志がそれぞれ独立している以上、いつかどこかで事件は起こる。
 事件が起こることそのものに対して憤っても仕方がない。
 時空管理局海上警備部の艦長として、また、いち管理局員として、できることは、目の前の事件解決に全力で取り組むことである。



 外宇宙を航行する、一隻の次元航行艦があった。
 真新しい純白の塗装に包まれた、安定感のある大柄な艦容。
 艦橋に多数設置されたセンサー類を支える重厚なシルエットに、時空管理局次元航行艦隊のエンブレムが威厳を飾る。

 XV級巡洋艦、艦名は「クラウディア」。

 次元航行艦隊きっての若手提督として期待される、クロノ・ハラオウンが座乗する艦だ。

 クラウディアが航行しているのは、第97管理外世界、天の川銀河の中心から2万7千光年、オリオン標準子午線から東経132度25分、
銀河公転平面より9000光年南方に離れた、銀河系辺境の宙域だった。
 地球が属する太陽系からは、直線距離にして約6万2千光年離れており、いて座の方角に銀河中心バルジをはさんだ反対側だ。
 通常、いかに次元航行艦といえども恒星系からこれほど離れた宙域へ進出することはまずない。
 クラウディア艦橋からは、全天を見渡しても星の姿は全く見えず、どこまでも黒い宇宙空間が広がっている。
198EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:53:42.71 ID:CRlWuejY
 艦橋で当直に立つ幹部士官たちは、静かに、計器の監視を続けている。

 外宇宙は、物質の密度がとても薄い。
 時速数万キロメートルという高速で飛行していても、一秒あたり一個の原子に衝突するかどうかというほどだ。

 それでも、その一個の原子が、数十個の原子になるような、わずかに密度の高い空間がある。

 クラウディアは、その密度の高い空間を追跡していた。
 衝突する原子の個数が多いということは、そこを何らかの物質が通過したということを意味する。

 それは空に飛行機雲が引かれるように、森林にけもの道ができるように、点々と、時空の痕跡が残っていく様子だ。

 クラウディアの艦首には、今回の任務の為に製作されたラムスクープインテークが取り付けられ、空間の物質密度を計測できるように
なっている。これはもともと天文観測用のもので、これまでは外宇宙探査機に搭載してダークマターなどの観測に使われていたものだ。
 いて座A*を出発点とし、天の川銀河中心部からこの時空の痕跡を辿ってきたクラウディアは、ついに銀河公転平面から大きく離れ、
ハロという電離ガスに満たされた系外空間へ進出していた。一般的な銀河は、中心のバルジを何本かの腕が取り巻いた円盤のような
形をしているが、実際にはこのハロが銀河をすっぽりと包み込み、全体としては球形をしている。

 密度の高い時空の痕跡は、銀河系を出て、大マゼラン雲をかすめ、うみへび座の方角へ伸びていた。
 この先には、天の川銀河が属する局部銀河群の中では比較的明るい、NGC3109小銀河が存在するが、これは天の川銀河と重力的な
つながりはなく、独立した系である。天の川銀河とその伴銀河たち、そしてこのNGC3109は、ともにアンドロメダ大銀河の重力にしたがい
おおよそ直径600万光年の範囲で局部銀河群をつくっている。

 本来、管理外世界であるはずの宇宙にクラウディアが進出している理由には、ある特殊任務が存在した。
 それは第1管理世界ミッドチルダ、第3管理世界ヴァイゼンの両政府が共同で企てたものだった。

 次元世界の探求、それは誰もが夢見るものであり、それゆえに、この分野で主導権を握ることは、次元世界を支配することに直結する。

 そのために、ミッドチルダ政府は本格的な深宇宙探査に取り組んだ。
 次元世界が数百もの次元に分かれながら並行的に存在しているのは、もとをたどればひとつの宇宙だったものが分裂している姿だという
仮説に基づき、これを証明する計画が立てられた。
 八神はやての予感とは独自に、ミッドチルダとヴァイゼンの各政府は、各次元世界は単に見た目が分裂しているだけで、実際には
一続きの宇宙であるという実態に確信を持っていた。観測上は別次元にしか見えない各世界の時空の隙をつくためには、地上から望遠鏡で
覗くだけではなく、実際に次元航行艦を派遣し、時空連続体のつながりを発見する必要がある。
 最初の派遣先として第97管理外世界が選ばれた理由は、探査機ガジェットドローン#00551──それは第511観測指定世界にて惑星TUBOYを
発見した探査機でもある──が観測したデータの中に発見された、ある周期的なパターンを持つ電波信号だった。
 それは、人工的に作られ、発信されたものだった。
 長波長電波が紡ぐ信号のビットパターンは、およそ46年前、第97管理外世界より発信されたものと一致していた。
 つまり、地球から惑星TUBOYに向けて、何らかのアプローチが図られていたということだ。

 ある次元世界から発信された信号が、別の次元世界で観測される。

 この観測事実が、ミッドチルダ政府がこのミッション開始を決意する契機となった。
 ミッドチルダ政府の意向を受けた管理局は、次元航行艦隊から引き抜いた艦を集め、外宇宙探査艦を仕立て上げた。
 事前に別任務を受けて出航していた艦に向け、そのミッションは発令された。

 それが、今回、第97管理外世界に派遣されているクラウディアである。
199EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/08(木) 23:58:02.61 ID:CRlWuejY
 クラウディア副長を務める、ウーノ・スカリエッティ三等空佐は、艦長室のドアの前に立ち、静かにノックをした。

「入れ」

 艦長の許可を得て、ウーノは静かにドアを開ける。
 彼女は、戸籍上は2年前に死んだ扱いとなっている。そうでなければ、こうして新たな身分を作り、管理局所属艦に搭乗することは
できなかっただろう。

 クロノは艦長室の椅子に深く腰掛け、士官用のジャケットを襟を立て、表情を隠すように着込んでいる。

 クラウディアは既に出航より2週間が経ち、一日に一度の日次報告以外は管理局本局とも、他の僚艦とも全く連絡を取っていない。

「これより本艦は天の川銀河を離れ、南へ向かう。人類がいまだ到達したことのない深宇宙だ。本艦の意志はそこで示される」

 クロノの言葉は、重い責任感と、そして未知の領域に挑戦する野心を併せ持っている。
 そうウーノは感じていた。生まれてずっと共に過ごしてきた、あの男と同じように。
 人類は、いつの間にか純粋な心を忘れてしまった。ウーノはそう思っている。

 クロノとウーノは、8年前、管理局と反管理局勢力として一戦を交えた関係である。

 8年前と現在と、クロノの心境に生じた変化はいかほどのものだっただろうか。8年前の彼なら、たとえこのような任務を命じられても
蹴っていただろうと、ウーノは思っていた。単に命令だから、というだけで従うような単純な人間ではない。
 自分の意志に照らし合わせて納得がいかなければ、けして首を縦に振らない男だ。
 それだけは確かだと、8年前のJS事件当時から感じていた。
 この男をしてこのような危険な航海への船出を決意させたミッドチルダの野望とは、どのようなものだろうか。

 ウーノの思案も、この深宇宙のようにどこまでも黒く、果てが見えない。

200Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/09(金) 00:05:02.94 ID:AYScY/R3
第3話終了です

いやぁ宇宙はいいでs(ry

凡「え?あたしの出番プロローグのアレだけ?いやいやいや」
たぬき吼える!はやてさんもっとなじってハァハァ

…話がそれました。(汗)

戦車型は1面に、マリモは3面に登場する敵ですが…突進が意外と速いので通路を曲がると出合い頭にごっつんこ
ジェノサイドガン(通称:緑豆)で押し返しましょう

ってか敵キャラの正式名称すら設定されてないとか色々やっつけっぷりが(汗)

えっと
ヴィヴァーロ曹長→オペル・ヴィヴァーロ
エリー・スピードスター→ロータス・エリーゼ、オペル・スピードスター
L級巡洋艦アエラス→トヨタ・エスティマアエラス

あとすいません188で探査機のナンバー間違えた!ガジェットドローン#00511がただしいのです

ではー
201名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/09(金) 20:58:47.34 ID:Xc6jK0p9
乙です
あの糞ゲ……ゲフンゲフンをここまで調理できるとは
SF+Xファイルみたいな味付けがいい感じです

あ、あとSSの時の文の途中の改行は逆に読みづらくなるときがあるんで
そんなに気にしなくてもいいと思います
202名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/12(月) 06:42:34.27 ID:j7lsDdYQ
バイオメカノイド
略してバイド?
203名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/12(月) 20:27:52.35 ID:kbqdtfMm
なのは達がBYDO化して帰ってきた、とかそういうネタってもうあったりする?
204名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/14(水) 02:32:16.78 ID:aEj2DwN+
>203
それ何てΛ?
205名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/14(水) 07:52:03.78 ID:DMXqpZbP
ミッドチルダにもグレイが!
キバヤシさんの出番かモルダー捜査官か
206名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/14(水) 17:06:38.00 ID:KdZ3H05F
冷厳なる氷剣の儀式(笑)
207名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/15(木) 09:18:50.20 ID:2t/PNpRL
氷剣でブレイブルーのジンを連想したのは何故だろう…


なのは達がバングの戦闘に巻き込まれたら大変だろうなー(戦闘中にふんどし一丁になるHENTAIを見て悲鳴上がるの想像)
208 [―{}@{}@{}-] 忍法帖【Lv=1,xxxP】 Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/16(金) 00:43:32.26 ID:XAkoZ/JQ
どうもです
忍法帖がふっとんでしまいましたので
木枯らしスレにEXECUTOR第4話を投下します
209 [―{}@{}@{}-] 忍法帖【Lv=1,xxxP】 Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/16(金) 01:30:03.56 ID:XAkoZ/JQ
木枯らしスレに投下しました
ボイジャー!宇宙ヤバイネタは中二心をくすぐられますのー
ダークエネルギー!ドメインウォール!Λ-CDMモデル!
銀河宇宙オデッセイとか大好きでした
>>201
X-FILESは私も大好きでしたーラブファントムがいかしてましたな
緑色の小人…リトルグリーンマンはエピソードがありましたね

ヒュウウイイイイと鳴く大クモは1面ボスです
エレベーターに隠れてミサイル撃ってればノーダメージで…ごにょごにょ

ところでLS級ってもしかしてレクサスLSが元?(汗)
・XJR級打撃巡洋艦→ジャガー・XJR
・RX級戦艦→マツダ・RX-7
・クライス・ボイジャー→クライスラー・ボイジャー、惑星探査機ボイジャー1号

地球の様子が出ましたのー何かたくらんでる風味ー
技術的に管理局とやるのはおよよ?

ではー
210名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/16(金) 18:43:31.55 ID:n3bf9yVy

スライムに貴重な幼女が食べられてしまうとはなんというエロゲ
それにしても地球は管理局とニアミスの可能性が出てきたなあ

ちなみに元ネタのゲームをググってみたが
情報がほとんどなかったw
211 [―{}@{}@{}-] Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/18(日) 22:53:02.32 ID:iiSkdLY6
どうもですー
きょうは久しぶりにミッドナイトをいきます
23時半ごろから投下します

>>210
14歳が幼女かどうかというのは議論の余地があるかと思いますが
エグゼクターに関しては…(汗)

攻略サイトくらいあるだろうとグーグル先生に聞いてみたら
( ゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシ
 
(;゚д゚) ・・・
 
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
  _, ._
(;゚ Д゚) …!?

まさかいっこもないとは思わなんだ(汗)

それでも格ゲ板のギルティギアスレでは時たま
「アークが新作STGを作ってるらしい」→「エグゼクター2か!?」
という流れがアワワワ
SERIES 9. Z will be back.@



 落ち葉が、夜風に吹かれて乾いた音を立てながら路面をすべる。
 谷を静かに吹き抜ける風が、木々をざわめかせ、町の騒音をおおいかくしている。

 夜の峠。

 群馬県、赤城山。
 平日であり、雪がちらつき始めた季節、夜に騒ぐ走り屋たちは鳴りを潜めている。
 そんな中、一台の車が、赤城道路を上っていた。

 野太い、大気を殴りつけるような重低音。
 スポーツカーに興味を持つ者なら、この音を聞けばいやおうもなく車種を思い浮かべるだろう。

 4輪駆動独特の短く鋭いスキール音を鳴らし、その車はブラインドコーナーを立ち上がってくる。

 スバル・インプレッサ。

 夜の闇に溶け込む紫のボディカラーは、質量を持つ旋風のように、車体を路面に張り付かせるように安定した動きで
コーナーを駆け抜けていく。
 多くのFR車乗りが楽しむような、テールを大きく滑らせるドリフト走行とは一線を画す、無駄のないタイトな走り。
 タイヤをスライドさせるのは少しでもはやくコーナー出口に向かうため、タイヤのグリップをフルに引き出すため。
 けして駆動力を無駄に空回りさせてタイヤをすり減らすためではない。

 風を切るように、走り抜けた後の草木が揺れる。

 紫のインプレッサが頂上の折り返し地点となる観光案内所の駐車場に入ってくると、もう一台の車がすでに先に来て
待っていた。同じインプレッサだが、ひとつ新しい型の、青色のボディの車両だ。

 ドライバーの少女はフェンダーに腰掛けて待っていた。

「やっぱ来ると思ってたよ、ギン姉」

 ショートヘアの少女が、紫のインプレッサのドライバーに呼びかける。
 紫のインプレッサは、青のインプレッサの斜め向かいに停め、ターボタイマーをセットしてエンジンを切った。

「久しぶりに一緒に走らない?もうさあ、このインプ買ってから誰もつるんでくれなくて。
あんまり速すぎてついてこれないのかなあ?」
 ケラケラと笑う少女に、ギン姉と呼ばれた女は苦笑する。
 少女の呼びかけからすると、彼女の姉だろうか。

 二人はおそろいのドライビンググローブをはめ、同じ車種を乗っている。

 ギンガの車は、GDB型インプレッサの中期モデル。いわゆる涙目インプと呼ばれる車種だ。
 インプレッサとしては全体で二代目にあたり、現行のインプレッサは三代目となる。
 ギンガの妹は、彼女たちが乗る車のメーカーと同じ名前の、スバルという少女だ。
 スバルが乗るのは、同じGDB型インプレッサだが後期モデル。つり目インプだ。

 SUBARUは伝統的に、モデルチェンジのサイクルは長いが、同じモデルであっても間断なくマイナーアップを繰り返して
性能の向上と完成度の熟成をはかっており、スポーツカー愛好者からの評価は高い。

 また、WRCをはじめとしたラリーなどのレース活動にも積極的に参加し、モータースポーツに力を入れている。

 なにより、自動車メーカーとしてのSUBARUは彼女たちの地元、群馬県に主要な工場を構え、群馬県民にとっては
地元を代表する大企業なのだ。
 思い入れはある。

「スバル、あなたも走り回るのはいいけどちゃんと考えて走ってる?言ったわよね、お姉ちゃんの真似をしたくなるのも
わかるけどやるならきちんと、って」

「大丈夫だよ!わたしとこのインプはもう敵なしだって!」

 ギンガにとっては、スバルはまだまだわんぱくな子供だ。
 東京などの都会ならともかく、田舎では日常の移動手段として車が半ば必須なので、ほとんどの者は高校在学中、
18歳の誕生日を迎えると同時に普通免許をとり、車を買う。
 スバルが免許を取って走り出してから、彼女には類まれなドライビングセンスがあるということは、
姉であるギンガがいちばんよくわかっていた。
 だが、公道はあくまでも一般車が生活のために走る場所であり、レースのための場所ではない。
 公道での走りには、言葉にはあらわしきれない暗黙のルールがある。

 そうでなければ、命がいくらあっても足りない。

 ギンガは、姉としてせめて、この公道の掟だけを、スバルに教えたいと願っていた。
 スバルが先行し、ギンガが後追いで、2台のインプレッサは赤城下りを走り出した。
 細かい違いはあるが、2リッターターボの水平対向4気筒エンジンを縦置きしたFRベースの4WDという
パッケージングは共通である。
 縦置きならではの重量バランスのよさを生かし、インプレッサは身軽で安定性の高い走りを見せる。

 赤城道路は、そのコース全長のほとんどが中速コーナーが左右に連続するレイアウトであり、長い直線もほとんどない。
 もちろんFR車でドリフト走行を楽しむのにも適しているが、インプレッサのようなトルクフルな4WDマシンにとっても
戦闘力を発揮するにはうってつけのステージである。軽快な運動性と、路面をしっかりつかむトラクションを併せ持つ
インプレッサは、このような峠のワインディングでは圧倒的な速さを発揮できる。

「おっ……っとと、いきなりここでくるのギン姉」

 S字コーナーで早くもギンガはカウンターアタックをかける。
 右コーナーへアウトから進入し、イン側についているスバルとアウト側のガードレールとの間にノーズをねじ込んでくる。
 だが、ここで抜くつもりではないことを、スバルは車体の動きから読み取っていた。
 切り返しの左で、ギンガのインプレッサはすっとノーズを下げる。

 さらにテールをなめるようにポジションを変え、ヘッドライトの光を当ててプレッシャーをかける。

「(スバル、あなたはまだ経験が足りない──)」

「つうっ、この曲がれ……!」

 フロントタイヤが鈍いスキール音を上げ、ラインがふくらむ。
 アクセルとブレーキを小刻みに踏みかえ、スバルはグリップを取り戻そうとする。ノーズがイン側に向き切ったら、
プッシュアンダーを出さないように慎重にアクセルを踏み込んでいく。

「(ほらもうそこから踏めないでしょ、じっと息を止めてグリップが回復するのを待つしかない──)」

 ゆるやかに下りながらの右コーナーで、スバルがアンダーを出したのを見逃さず、ギンガはイン側へ切り込む。
 このコーナーは視界が開けていて、対向車が来ていないことをコーナーに入る前から確認できる。
 対向車線を使ってオーバーテイクが可能な区間だ。
215名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/18(日) 23:37:56.53 ID:Rpe9/Ur/
しえん
 コーナー前半で旋回を終え、ギンガのインプレッサはイン側をまっすぐカットしてスバルの前に出た。
 スバルはこれに対してラインを変えることができず、アウト側から動けない。

「あーっ、やられたー!」

「(車はセッティングだけじゃ曲がらない、ましてや腕だけでもね……スバル、あなたはまだまだ覚えていかなきゃ
ならないことがたくさんある──」

 前に出たギンガは、さらにペースを上げて駆け下っていく。
 抜かれたショックから立ち直り切らないスバルを、いっきに引き離しにかかる。

「(ただやみくもに飛ばすだけじゃあ公道は走れない──それは誰に教わるでもない、自分の身に染みて覚えなきゃ
いけないことなのよ──)」

 最後のヘアピンに向かうストレートにスバルが入った時、ゆるやかに左へそれるカーブのブラインドから、対向してくる
ヘッドライトが見えた。
 ヘアピンに入る手前ですれ違う。スバルは車を左車線へ、イン側の護岸につける。

「えっ、うそっ!?もう折り返してきたの!?」

 ギンガのインプレッサが、まったくぶれることのないラインですれ違っていく。

 オーバーテイクしたコーナーから折り返し地点まで、いったいどれくらいのペースで走っていったのだろうか。
 タイムアタックをすれば、いったい何秒の差が出るのだろうか。
 このヘアピンから折り返し地点まで、10秒あるかどうか。そこからターンしてさらにあのストレートまで走ってくるには、
それこそいったい何秒のリードを広げなければならないだろうか。

 スバルはペースを落とし、ふもとへ向けてインプレッサを走らせていった。
 ギンガが再び頂上へ着いた頃、ドアのホルダーにかけておいた携帯電話が鳴った。
 駐車場に車を止めてから電話に出る。

『あれ、スバル来てないの?走りに出たから一緒だと思ってたんだけど』

「さっきまで一緒だったんだけっどね、もう降りてったんじゃないかしら。そっちはチンクと一緒?」

『うんまあ、じゃゲンヤさんには伝えとくよ、ごめんね運転中だった?』

「大丈夫よ。それじゃ、後でねセイン」

 電話を切り、ギンガは赤城山の黒い影を見上げながら、自分たち姉妹と、父ゲンヤのことを思い浮かべる。

 父は地元ではそれなりの名士であり、また地元企業SUBARUとも仕事の付き合いがあり、その点は自分たちが走りを
するにあたっては好都合なことではあった。
 しかし、父は、娘たちがこのような危険な遊びをすることを、少なくとも安心してはいられないだろう。
 スバルはいずれ、実家を出て上京するつもりでいる。高校の進路相談でもそのように言ったと聞いていた。
 気の早いことで、首都高へも何度か下見に行ってきているらしい。

 自分は、どうだろうか。このまま地元で、父の仕事を継いで、一家を受け継いで暮らしていくのだろうか。

 地元であるここ赤城山では、“赤城最速のナカジマ姉妹”などと通り名がついたりはしているが、自分とて、いつまでも
峠で遊んでなどいられないだろう。いつかは引退しなければならない。

 スバルはまだ、この世界に入ってきたばかりで、何もかもが新鮮な輝きに満ちて見えるだろう。

 その輝きが絶望の闇に落ちないうちに、生きていく力を、この世界で生きていく力を身につけてほしい。
「こんばんわー」

「おっスバルー、こっちこっちー」

 スバルはいつも行きつけのファミレスに入り、呼びかけてきた少女と同じテーブルについた。
 呼びかけてきた少女は髪を赤く染め、いかにも跳ねっかえりといった元気さを見せている。

「ずいぶん早かったじゃん、一往復くらい?あたしたちまだ一皿しかあけてないよ」

「いやー、ギン姉と一緒に走ろうと思ってたんだけど、これがアッサリちぎられちゃってね」

「えースバル、あのインプでも勝てないの?」

「もうホント、ギン姉はバケモンだよ。基本的に足ちょっと固めただけでエンジンもボディもノーマルなのに、赤城で
いちばん速いんだもんね。ランエボもGT-Rもセブンもギン姉にはかなわないんだから」

「すっげーなあ、さすが赤城の青い流星(シューティングスター)っていわれるだけはある」

「ノーヴェ、そのあだ名はなんか恥ずかしいな」

 スバルは照れ笑いを見せた。スバルは小さいころからずっとギンガを慕い、仲のいい姉妹だった。
 スバルにとっては、姉ギンガはなにもかもが優れた、人間の見本のような人物に見えていた。

「アルトさーん、パスタ大盛りお願いしまーす!──ところでさノーヴェ、あんた自分の車のサイズ知ってる?」

「ほえ?」

「たて(全高)・よこ(全幅)・ながさ(全長)、トレッドにホイールベース。前にギン姉に言われたのよ、
必ずこの数値を頭に入れて走らせろってね。峠ってのはただでさえ狭い道だから、センチメートル単位で車体を
制御できなきゃならないって、そのためには自分の車の大きさを、車体感覚だけじゃなく正確な数値で覚えろって」
219名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/18(日) 23:51:34.46 ID:Rpe9/Ur/
 スバルはポケットからメモ用紙を取り出して見せた。
 そこにはインプレッサの車体数値がギンガの字で書かれている。

「実際に数値にしてみるとわかるんだけど、インプってのは基本的に小さい車なのよ。
3ナンバーになったのは太いタイヤを履くためにフェンダーを広げたからで、ホイールベースや
全長はふつーの5ナンバー乗用車よりむしろ短いくらいなのよ」

「へえー……ってことはあれ、あたしのS15より?あれって14からサイズダウンしたはずなんだよね」

「小さいね。特に全長はS15のほうがほんの少し長いよ。確かに意識して走ってるとわかる、車の動きがつかみやすいって。
でもそれでも、あの赤城コースでもてあましちゃう。ギン姉と同じラインを後ろからついていこうとしても、
わたしはまだこのインプの大きさを手の内につかみ切れていないってわかるんだ──」



 同じころ、スバルたちの父、ゲンヤが経営する工場に、一台のレッカー車が乗りつけていた。
 すでに夜は更け、普通ならば陸送の業者も来ない時間帯だ。

 ゲンヤはレッカーに積まれたその車のシルエットに、引きつり笑いが浮かぶのを感じていた。

 中が見えないようにブルーシートを被せられ、固定のためにロープが巻かれているが、“それ”は今にもその拘束を
振りほどこうとしているように見える。

「やあ、ひさしぶりですねスカリエッティさん。突然仕事を頼みたいなんていうから何事かと思えば」

「ああ──どうしてもあんたでなきゃダメなんでね。コイツをもう一度頼むヨ」

 スカリエッティはそう言い、レッカーの荷台にかぶせていたシートをどけた。

 姿を現したその車、S30フェアレディZの純白のボディが、闇夜に不気味な光を放つ。
 神奈川県、川崎市。そのチューニングショップは、今もっとも勢いのあるショップとして知られていた。
 あまり派手な宣伝は打たないが、社長をも務める若いメカニックの腕は確かだと、その筋の人間たちには有名であった。

 現在、首都高エリアに出撃するスカイラインGT-Rはその多くが、このショップによるチューンを受けていた。

 工場には今日も、何台ものGT-Rが入庫し、従業員たちが作業を行っている。

 その様子を事務所兼倉庫の2階の窓から見下ろしながら、その女は丸眼鏡をきらめかせた。

「相変わらずにぎやかねえ、儲かって仕方ないでしょ」

 その口調は意地の悪さが含まれながらも、どこか憎めない陽気さを持っている。

「いやもう、毎日毎日馬車馬状態だぜ。それか車輪まわすハムスターとかか」

「ふふっ、まあがんばりなさいな若社長クン。ところでコレかしら、前に言ってた“R殺し”って──」

 そう言って女は、コートの内ポケットから一枚の写真を取り出した。
 写っている車は、ダークレッドのDC2型インテグラ。その中でも特に、スパルタンなセッティングを施された
特別モデルであることをあらわす“TYPE-R”のエンブレムが、夜の首都高の照明を浴びてぎらついている。
 デジタルカメラのセンサーに、強い残像を残すように“R”の赤い文字がきらめく。

「シルバーカーテンでひたすら処理して、やっとここまで鮮明にしたのよ。これで間違いないわよね、こいつが今環状で
噂になってる、“R殺しのインテR”──って」

 写真を受け取った男は、名をヴァイス・グランセニックという。
 このチューニングショップ『MAOH(魔王)』の代表を務める若きチューナーだ。

「たぶんな。ウチのお客もずいぶんカモられたって言ってる──」
 首都高環状線は、一般的な高速道路の印象からすれば明らかに狭すぎる道である。
 車線こそ幅はあるが、とにかくカーブが多く、また曲率もきつい。
 ビルの谷間をすり抜けるため、地方の山の中を走る幹線道路のように、ゆるやかに曲げるわけにはいかないのだ。
 また設計も古く、路面も傷んでいるため、大パワーの車はその速さを持て余し気味になる。

 そのような、どちらかといえば有利なコースであるという条件があるとはいえ、そのインテRは、格上であるGT-Rを
手玉に取るような、尋常でない速さで環状を走り抜けるといわれていた。

「で、やっぱり行くの?このオレみずからオトシマエをつけてやる、って?いいトシなんだからそろそろ落ち着いたら?」

 茶化すように言う女に対し、ヴァイスは苦笑しつつ、目元を鋭くする。

「いやあ、いいトシだからこそだぜ?この商売はナメられたらやってけないからな。オレのつくる車に挑戦するってことは、
オレ自身に挑戦することと同じさ。オレだってものづくり人のはしくれだからな、つくるものの出来で勝負するんだよ」

「まあせいぜい。あ、それともうひとつ、例のS30Zだけどさ──ちょっと知り合い筋で小耳にはさんでね。知りたい?」

「なんだよ?」

「どうも、こないだの湾岸線の事故はあのZが絡んでいたらしいの。空港が一時閉鎖されかけたほどの大事故で、トラックが
ふっとばされて──でそのZだけど、なんと廃車されずに修復されてるっていうのよ」

「ほう……それはオーナーの意志なのかな」

「そこまでは。でも、いずれ復活してくることは間違いないわ。これまでも、そうだったしね──」

「──相変わらず、意地が悪いなクアットロは──」

 言いながら、ヴァイスはゆっくりと視線を作業場の方へ移した。
 ヴァイスは、GT-Rこそが最強のチューンドだと思っている。GT-Rにほれ込んだ男だ。
 悪魔のZ、うわさは聞いたことがある。そして今、R殺しも現れた。

 上等だ、両方まとめて受けて立とう──そう、ヴァイスは決意していた。
 東京都内、銀座の歓楽街に、その車は停まっていた。
 エンジンは切られているが、人を待っているのだろうか、ハザードランプが点滅している。
 道を歩く人々は、それぞれの店へ飲みに行くグループ、宴が終わって帰る途中のグループ、それぞれで、
道路を走る車や停まっている車に気を留めたりはしない。

 路駐をしていたインテRのドライバーは、助手席の座面に放り出していた携帯電話が鳴ったのを聞いて、
読んでいた雑誌を閉じ、電話をとった。
 室内灯がつけられた車内に、短めのツインテールヘアのシルエットが揺れる。

「もしもし?飲み会終わったの?」

『ああ、あと艦長たちはもう一軒回るって言ってる。僕はとりあえず抜けてきたよ』

「付き合わなくていいの?コネも大事でしょ」

『今日は提督もいっしょだったんだよ。あの人が来るとみんなつられちまうからな』

「自分の母親じゃないの。わかった、それじゃあ新橋駅の北口のあたりで待ってるから」

 ツインテールの少女は通話を終え、携帯電話をしまうと、室内灯を消して車のエンジンをかけた。
 点灯するヘッドライトに、ダークレッドのボディが浮かび上がる。
 サイドスカートには、“TYPE-R”の赤いエンブレム。

 リヤエンドに輝く大径マフラーは排気によって小刻みに揺れている。
 鋭く発信していく車体の敏捷な動きは、この車がハイレベルなチューニングカーであることを主張していた。

 少女の名はティアナ・ランスター。彼女は日本の大学へ通いながら、電子機器の専門技術を学んで幹部候補として
軍人になる道を志していた。
 先ほど電話をしていた男の名はグリフィス・ロウラン、ティアナに日本留学を勧めたいわば先輩士官で、
在日米軍横須賀基地を取り仕切るレティ・ロウラン提督の長男である。
 縁故などを頼るつもりはもとよりなかったが、それでも交際を持っていたほうが後々有利だろうという判断で、
ティアナとグリフィスは奇妙な付き合いをしていた。

 都会の雑踏を、インテRは流れるように走り抜けていく。


   SERIES 9. Z will be back.@
224 [―{}@{}@{}-] Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/19(月) 00:08:20.52 ID:/qzY5IWX
今日はここまでです
新シリーズというかタイトルが少し変わりまして登場人物が増えました(汗)

EXECUTORではティアナとうぶん出番なさそうなのでこっちで活躍です

しかしスバルとマキはともかくティアナと友也ってあんまにてな…(^^;)

ではー
225 [―{}@{}@{}-] Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 20:01:58.21 ID:d5iOIBxM
どうもー

21時ごろからEXECUTOR第5話を投下します
226 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:01:16.67 ID:d5iOIBxM
■ 5



 西暦2023年9月22日、ボイジャー3号は予定通り木星スイングバイを行い、太陽系脱出軌道に乗った。
 本機が行うのは、惑星の重力だけではなく機体に装備されたエンジンを併用してより高い加速を得るパワードスイングバイである。
 機体は木星大気圏をほとんどかすめるようにして飛び、強大な重力によって得られた脱出時の速度は107km/s。この速度で飛べば、
およそ4年程度で末端衝撃波面へ到達可能であると見込まれている。

 軌道としてはパイオニア10号とボイジャー1号のちょうど中間の方角へ飛んでいく。両機は惑星探査を行うという目的から速度も抑え、
黄道面に沿った軌道で飛んでいたが、このボイジャー3号は太陽系外縁部へいちはやく到達することが目的なので、機体の強度が許す
限界まで速度を上げることができる。

 これほどの速度を出すスイングバイを、ソ連もアメリカもこれまでに行ったことはなかった。
 機体は設計通りの強度を発揮してくれるのか。木星は、接近する探査機をその途方もない高重力で圧壊させてしまうという芸当を
やってのける。過去、運用終了となった探査機を木星に突入させる作業も行われていたが、突入させられた探査機は大気圏に入ってすぐに、
強烈な嵐と重力によって文字通り粉砕されていた。
 ちなみに、冥王星探査機ニュー・ホライゾンズの場合、木星におよそ230万キロメートルまで接近することで21km/sに加速している。

 ボイジャー3号が木星に接近した高度は、従来の探査機であれば木星の重力で潰れてしまうほどの至近距離だった。
 プロトンL型ロケットは、月よりも遠い位置から──すなわち地球重力の束縛が弱くなるほどの距離から──高初速を持たせて宇宙機を
発進させる能力を持つ。初速度86km/sで地球軌道を離脱し、太陽の重力でやや減速して82km/sで木星軌道へ突入。一般に、スイングバイに
よって得られる加速量はその惑星の軌道速度の2倍である。木星の軌道速度はおよそ13km/sなので、おおまかに計算して最大で26km/s増しの
加速が可能である。
 木星の公転軌道に対しほぼ垂直に近い軌道で接近し、重力によって軌道を曲げ、木星に落ちようとする勢いを速度に変換して、木星の
北半球から赤道を斜めに横断して南半球へ飛び出す。このときに搭載された補助ロケットブースターを出力全開で噴射し、107km/sという
途方もない加速を得ることができた。
 通常の惑星探査機であれば、地球からの出発時に燃料を使いきった方が機体が軽くなって速度を出せるのだが、今回のミッションでは
とにかく太陽系外へ早く出ることが優先された。木星軌道上であれば地球軌道よりも太陽からの距離が離れている分、太陽の重力を
振り切るために必要な速度が小さくて済むので、そこでエンジンを噴射すれば地球軌道上で行うよりも効率の良い加速が可能だ。
 また本機は従来の化学燃料ロケットを補助ブースターとして、メインエンジンには軽量なプラズマイオンロケットを搭載している。
 これは化学燃料を使いきった後も長時間の加速が可能である。イオンロケットは比推力が高く、飛行時間が長ければ長いほど、
最終到達速度は化学燃料ロケットよりも速くなる。

 スイングバイ終了後、ジョンソン宇宙センターよりセルフチェック指令が送られ、ボイジャー3号は観測機器や推進システムに異常が
ないかのチェックを行った。結果、機体は完全に作動しており、すべての機器が性能を完全に発揮できることが確認された。
227 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:07:06.03 ID:d5iOIBxM
 太陽からもっとも近い恒星は、ケンタウルス座α星系プロキシマであり、距離はおよそ4.3光年である。
 光の速さでも4年以上かかる距離は、ロケットで加速する宇宙船では数万年以上もかかってしまう。

 それはこのボイジャー3号とて例外ではないが、NASAの顧問学者たちはひとつの仮説に期待していた。

 宇宙空間には、はるか遠方の空間同士をつなぐいわば“ゲート”のような存在がある。
 もしそこへ宇宙船を突入させられれば、いっきに何千光年をも渡る、ワープ航法が可能になる。
 人類が宇宙へ飛び出して数十年、ずっと夢見てきた、はるかな星の海を渡る技術。
 SF小説の中だけのものだったワープ航法が、思わぬ形で現実になろうとしている。

 太陽系外へ飛び出した探査機が謎の減速をするという“パイオニア・アノマリー”を、このゲートが存在することによる重力輻射の異常分布が原因であると仮定すれば、ワープ航行を行うために必要なチェックポイントとそこへの航路、軌道パラメータが導き出せる。
 付近を飛んでいるエッジワース・カイパーベルト天体が受けるであろう摂動を精密に測定することで、ゲートの正確な位置が計算できる。

 ボイジャー3号が目指すのは、太陽系近傍、天王星軌道付近より黄道面の南側へおよそ22億キロメートルの距離に存在するゲートだ。
 これは、ボイジャー1号の信号が戻ってきた方角と一致していた。
 ボイジャー1号は現在、NASAの追跡によると現在太陽からおよそ180億キロメートルの距離を飛んでおり、これは別に信号をキャッチしている。
 これとは別に、一見何もないはずの空間から突如、同じパターンの電波が飛んできたのだ。
 これは、可視光やその他の電磁波で見ることのできない未知の天体がそこに存在することを意味する。

 人類史上初めて、次元跳躍──ワープを行う宇宙船。
 公式なオペレーションにはならないが、科学者たちは期待と確信を持っていた。

 ボイジャー3号の機体製作を担当したアメリカの企業は、耐荷重500万Gのケージをつくり、そこに高精度の重力波検出器を収めた。
 ワープ時にどれだけの影響が機体にかかるかはまったく予測がつかないが、もし、この検出器が耐えられれば、現在観測が行われているCDM(冷たい暗黒物質)の分布に基づく重力方程式に加えるべき宇宙項の値を、非常に高い精度で求めることができる。
 ボイジャー3号は、機体制御に用いる4基4軸のリアクションホイールとは別にこの重力波検出器を用いても機体姿勢の計測を行い、機体にどの方向からどれだけの重力がかかっているかをセンシングすることができる。
 これによって、ワープのためのゲートの位置を、正確に追尾して軌道を修正することができる。

 スイングバイ終了から3か月ほどで、太陽系の惑星たちがまわる公転平面から南へ大きく離れたボイジャー3号は太陽風の弱まりを観測し、NASAはボイジャー3号が太陽系を脱出したと発表した。

「デビッド、“スピンドリフト”は予定通り太陽系を脱出したそうだ」

 こじんまりとしたオフィスの奥で、書類の決裁をしていた男、デビッド・バニングスのもとに報せが届いた。
 彼の会社では、ボイジャー3号に搭載される機体制御装置の製作を請け負っていた。

 このプロジェクトの受注は通常の競争入札ではなく、NASAからの指名によって行われた。
 何をどこの企業に担当させるかというのはNASAとアメリカ政府が決定した。
228 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:13:13.43 ID:d5iOIBxM
 政府系機関からの直接の指名を受けるというのは企業人にとって非常な名誉であると同時に、その背後に隠された大きな動きを予感させるものである。
 デビッドも、とくに陰謀論などを信じるたちではなかったが、渡された仕様書の要求数値には不可解な点があると気付いていた。
 物理学の知識があり、過去のアメリカの宇宙計画で使用された宇宙船の性能を知っていれば、ボイジャー3号に要求された性能諸元は文字通り桁違いの数値だと理解できた。
 構造材の強度、観測機器が耐えうる重力加速度、放射線強度、温度など。
 機体そのものはともかく、観測機器については太陽の中に飛び込んでも機能を維持できるほどの耐久能力が求められていた。

 NASAの発表では、ボイジャー3号の任務とは太陽系外縁天体の観測である。

 その任務に、これほどの性能の探査機を用いる必要があるのかといえば、それは疑問を持たざるを得ない。

「小人はすこぶる快調だそうだよ」

「それはなによりだ」

 デビッドの仲間たちは、ボイジャー3号──スピンドリフト号を、さらに“小人”というあだ名で呼んでいた。
 これは、ある冒険ドラマに登場する、巨人族の住む惑星に不時着した宇宙旅客船にちなんだものだ。
 その宇宙旅客船は固有機体名をスピンドリフト号といい、巨人族から見れば、地球人は小人であるという意味である。

 さらに、古いおとぎ話で妖精が人間を手助けしてくれるという──たとえば白雪姫と七人の小人とか──説話にもちなんでいる。

 ボイジャー3号は、人類が初めて挑む外宇宙に棲む妖精のようなものだ。

 天文学者というのはおとぎ話が好きなのだ──というのは、多分に誇張が入った認識だが、それでも、今NASAが考えていることを一般人に話したなら、それはとんだ夢物語だといわれるだろう。

 しかし、デビッドにはあるかすかな期待があった。

 今は彼の会社とは別の大企業に出向しているが、彼の娘、アリサ・バニングスが幼い頃、よく彼女と遊んでいた少女たち、彼女らは現代の妖精だったのだと、デビットは思い返すようになっていた。

 高町なのは、八神はやて、フェイト・テスタロッサ──彼女たちは、バニングス家が日本の海鳴市に住んでいた頃の、学校でのアリサの同級生でもあり、アリサと同い年なので、たしか今年で27歳になるはずだ。
 家族ぐるみの付き合いをしていた中、高町桃子や恭也などから語られる近況に、あの少女たちが魔法の世界に行ったということは、デビッドのような常識的な大人をしてさえも信じるに値する出来事だった。

 思えば、自分がこうしてアメリカに戻って本格的に宇宙開発事業に参入することになったのも、そういった縁があったからだとデビッドは気付いていた。
 あの町、海鳴市には、日本だけではない、アメリカもまた注目していた。
 自分に最初に商談を持ちかけてきた営業マンも、実は、米政府にスカウトされた人間だった──のかも、しれない。
 自分のような一般人に存在を悟られるようでは、とも考えてみたが、逆に、存在を教えなければ、自分の行動に影響を与えられないだろう、とデビッドは考え直していた。
 アメリカは確実に、ある明確な目標を持っている。

 CIAは、はっきりとデビッド・バニングスという人間をマークしている。

 オフィスに置かれた小型テレビは、ニュース番組で、イギリスでの海外緊急速報を映していた。
 ロンドン近郊でIRAの犯行と思われる爆弾テロ事件があり、民家数棟が倒壊、市民に死者が数名出ているという。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/28(水) 21:15:17.89 ID:RtEMctCA
シエン(・∀・)
230 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:17:51.18 ID:d5iOIBxM
 クラナガン宇宙港に係留されたヴォルフラムの露天艦橋で、エリーとレコルトは磯釣りに興じていた。
 桟橋についた状態では艦の一部が水上に出るため、ちょうど露天艦橋から海を見下ろすことができる。
 二人はここぞとばかりに釣り糸をたらしていた。

 釣った魚が食べられるかどうかというのはまた別の話である。
 一応、特別救助隊による線量検査は行われているが、件の人型が撃破された際にまき散らされた放射性降下物はまだ完全に除去がなされていない。
 現在も、バリアジャケットを装備した作業員でなければ港内への立ち入りはできない状態だ。

「釣れますかね副長?」

 真面目な性格のレコルトではあるが、エリーが相手だと少々のせられ気味になる。

「今結構大きいのがきそうな。あの大クモが釣れたらすごいわね」

「むしろ異次元釣りでもしたいところやな」

「あ、艦長?っとと」

 はやての声に、エリーは素っ頓狂な声を上げて振り向いた。リールを握っていた手が離れ、糸が巻きだされていく。

「ちょっと士官を集めて会議室に集合や。ややこしいことになったかもしれん」

 エリーとレコルトは顔を見合わせた。
 今ですら、管理局とミッドチルダが妙な緊張状態にあるというのに、さらに何か事件が起きたのか。

 その事件の情報はすぐに明らかになった。

「まずみんなに報せなあかんことがある──今から12時間前、ギル・グレアム元提督が、第97管理外世界でテロに巻き込まれ、亡くなった」

 会議室の机を囲み、ヴォルフラム幹部乗員たちは驚きにうたれていた。
 ギル・グレアム提督といえば、次元航行艦隊設立の立役者として、海の人間なら知らない者はいない英雄だ。
 今は引退して隠居していた、とは知られていたが、その出身世界が第97管理外世界であったということまでは、知っている者はいくらか少なかった。
 なぜ管理外世界で事件に、という疑問を呈する者もいたが、それが彼の出身世界であったから、と聞かされると、困惑しながらも一応は納得していた。

「われわれ管理局の存在が漏れたなどということは……」

「そこまではまだわからん。けど、今んとこ、その線はないと上は考えとる。
現地の報道では、過激派武装組織の犯行とされ、提督はたまたま巻き込まれただけ、ゆう内容や。
第97管理外世界では、もちろん管理局での身分なんか明かすわけないから、近所の住民には普通のじいさん、で通っとったし」

 確かに衝撃的な事件ではあるが、それだけだろう、で済むと、はやて以外の幹部たちはこの場では考えていた。
 だがすぐに、はやてはさらなる推理をもって言葉を続ける。
231 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:22:28.75 ID:d5iOIBxM
「けどな、これからばれるかもしれへん。なんでかわかるか?」

 はやての質問に、エリーが神妙に答える。

「彼の使い魔……ですか?」

「そのとおりや。グレアム提督の実家には、アリアとロッテのリーゼ姉妹が一緒に住みこんどった。
近所の住民にも、あの家は老紳士と孫娘二人の三人家族やとみられとる。
しかし、今回の事件で、吹っ飛んだ自宅から見つかった遺体が老人一人だけやゆうことになったら、身柄が見つからん孫二人はどこへ消えたっちゅう話になる。
もちろん捜す、けど見つかるワケあらへん。彼女らは人間やないんやからな。
これもひとつだけ放送しとった局があったが、提督の自宅から見つかった遺体は、“人間ひとりと猫二匹”やったそうや」

 自身の唾をのむ音をそれぞれが聞く。

 使い魔が死んだ場合、その遺体がどのような様相を呈すかというのは死亡時の状況による。
 主が死んで魔力供給が絶たれた場合であれば、即座に消滅する。この場合、遺体は全く残らない。

 負傷などで致命的なダメージを受けた場合、そのときとっていた姿の遺体が残る。
 猫の状態で遺体が見つかったということは、死亡時には動物形態をとっていたことになり、また少なくともその時点ではグレアムはまだ生きていたことになる。

 これまでの活動で、リーゼ姉妹が動物形態をとることはほとんどなかった。管理局員として働くために常に人間形態で活動していた。
 あえて動物の姿をとるなら、それは人間では不可能な隠密性が必要になる戦闘時である。

 グレアムは偶然巻き込まれたのではなく最初から狙われており、リーゼ姉妹はそれを察知していた──

 はやては、この筋書きの可能性がゼロではないと考えていた。

「そうなると問題は、第97管理外世界の人間にリーゼ姉妹の存在が知られていたか、ですね。
人間と思われていたか、それとも猫が素体の使い魔であることまで知られていたか。
使い魔だとばれていれば、猫の姿に変身してもだめですね」

「念のためゆうことで、一応は捜査官が出張ることになるゆうとった──。けどこれもじゅうぶんに気をつけんと、やぶへびになる
危険がある。──とはゆうても、うちらが口出しできる領分やないけどな」

 事件の捜査であれば、フェイトたち執務官の職務となる。
 第97管理外世界はフェイトも数年間住んでいたことがあるし、また闇の書事件においてはフェイトもグレアム提督とは面識があった。
 そして、なによりもはやて自身が、海鳴市での生活をグレアムに面倒を見てもらっていたといういきさつがある。
 あの当時は、闇の書が復活するまでは、はやてはグレアムが管理局の人間だということは知らなかった。
 事件の背景を知り、管理局が闇の書事件解決のために地球で活動を行っていたということを知ったのは、ずっと後になってから、事件が終結してから2年後のことだった。
232 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:27:20.51 ID:d5iOIBxM
「しかし艦長、提督を爆殺したのが第97管理外世界の過激派ゲリラという報道が正しいのであれば、現地政府の統制が及ばない武装勢力が存在するということになりますが」

「あの辺りは昔からややこしい紛争地域でな……ここ十数年は表向きには平和的解決を見たゆうことにはなっとったが、今でも謀略に利用されるような組織が存続はしとる。
報道でIRAゆうとったからゆうて、それがホンマにIRAの仕業もしくは意志かはわからんちゅうことや」

「そうなると、下手に管理局は手を出せませんね」

「向こうもそれをわかっててやっとるのかもしれん」

「というと、既にイギリスおよびアメリカはわれわれを?」

「そう考えといても遅くはないゆうことや」

 第97管理外世界には、定期哨戒として次元航行艦が常時2隻ずつ観測任務に配置されている。
 現在、観測できる範囲として地球に不穏な動きはない。

 しかし、彼らの視点では兆候があったとしてもそれを判断できないだろうとはやては考えていた。

 もしグレアムが管理局の人間であったから狙われたというのであれば、そのような行動を起こせるのは米ソをはじめとした先進超大国以外にありえない。
 そのような情報は彼らでなければ収集できないからだ。
 イギリスの首都ロンドンという、大英帝国のお膝元で起こったテロ事件であるにもかかわらず、当のイギリスや、アイルランドと関係の深いアメリカの動きがまったく見られないということは、彼らにとっては織り込み済みの事件であるということだ。



 ギル・グレアムの自宅跡を捜査のため訪れたロンドンの警察官たちは、彼の飼っていた猫たちの遺体が、異様なほどに夥しい量の銃弾を撃ち込まれていたのを発見した。
 周辺の住宅の壊れ方から、このテロの犯人はひそかに爆弾を仕掛けたのではなく、まず住民を銃殺したのち、無人となった家に爆弾を仕掛けて遺体ごと吹き飛ばそうと画策していたと予想された。
 使用された爆弾の破壊力が大きく、グレアムの遺体はひどく損傷して死亡推定時刻もわからないほどだったが、猫たちは体が小さかったため、家具の影に隠れて遺体が残っていた。

 銃撃戦を行う犯人は、極度に興奮しているため動く物体であれば人間でなくても発砲してしまうことは考えられる。
 しかし、これだけの量の弾丸が撃ち込まれているということは、それが人間ではないことがわかってからも発砲を続けていたということである。
 相手が猫だと気付いていて、なお撃ち込んだということだ。
 トリガーハッピーになって弾を撃ちきったというわけではない。
 そこからさらにマガジンを交換するという作業を行い、再び猫を狙って撃っている。

 訝しみながらも、犯人が使用した銃器の特定のため弾丸を回収しようとした警察官たちを、突如現れた数人の黒服たちが押しとどめた。

「なんなんだ、あんたたちは?」

 警察官のひとりが問う。彼らは高級そうなスーツで、官僚のように見えるが、現場に来るような人間にも見えない。

「私はFBIのマシュー・フォード捜査官だ。イギリス連邦政府より我が国に要請があった。本件はこれよりFBIが管轄する」
233 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:33:56.94 ID:d5iOIBxM
 身分証を提示した黒服に対し、警察官たちは困惑を隠せない。
 FBIはあくまでもアメリカの事件を管轄する組織のはずだ。
 それが、外国であるイギリスで起きた事件ににわざわざ首を突っ込むとは何事だろうか。

 フォード捜査官と警官たちが問答している間に、他のFBI捜査官たちがところどころから試料を拾い集めている。
 警察としては現場の保存をしなくてはならないのだが、相手がFBIとあってはあまり強くも言えない。

「いったいこの家の住人に何があったというんですか?グレアム氏はもう定年をとっくに過ぎた老人ですよ」

「君らが知ることではない」

「しかし」

「月並みだが私は君らに忠告しなくてはならん。これは我々でなくては対処ができない事件なのだ。
もし君らが独走しようとするのならば、我々は人類全体の安全のために君らを消さなくてはならなくなる」

 フォードの言葉に、さすがの警官たちも引き下がらざるを得なかった。
 オカルト映画の中でしか聞けないと思っていたセリフが、目の前の人間から発せられた。
 彼らは、いわゆるところのメン・イン・ブラックなのだろうか。
 閑静な住宅街に、異様な静けさとざわめきが同居する。

 木々の葉の中から、一羽のカラスが羽ばたきを騒がせて飛び立っていった。



 新暦83年12月20日。
 この時点でクラウディアは第511観測指定世界から再び位相欠陥トンネルを逆戻りして太陽系へ帰還し、トールの双子が太陽系からおとめ座ローカルボイドへつながる位相欠陥トンネルの出口にあたることを確認していた。
 この航路を用いれば、地球を出発した艦は数時間で銀河系外へ、もしくは第511観測指定世界へ到着することが可能になる。
 第511観測指定世界は、実数空間における位置としてはこの第97管理外世界、天の川銀河とほぼ平行して重なる位置にある。
 もし次元断層がなかった場合、惑星TUBOYと地球はおよそ13光年程度離れて存在することになる。
 これはさらに、既に判明していることである、第511観測指定世界と第1管理世界が実際には同一次元世界に存在したという事実とあわせて考えると、
第1管理世界と第97管理外世界もまた、実数空間に重ね合わせればごく近い位置に存在するということになる。
 実際、通常の次元間航行を用いてもミッドチルダから地球まではかなり近い。
 次元間航行における距離というのは実数空間に当てはめて算出することはできないが、もし仮に、すべての次元世界は重ね合わせの配置が可能であると仮定すると、
ミッドチルダ、地球、そして惑星TUBOYの3つの星系は、互いにごく近い位置にあって互いを見ることができるということになる。
 宇宙が多数の次元世界に分かれていなければ、ミッドチルダも、地球も、異星人を発見するのにさして時間はかからなかっただろう。
 ミッドチルダにしても、文明発生から他の次元世界の発見に至るまでは相当の時間がかかっている。

 クラウディア艦橋の窓には、冷涼な輝きを発する太陽の姿が見えている。
 太陽までの距離はおよそ10億キロメートル。太陽のそばに、木星と金星がかすかに輝いて見える。
234 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:40:06.75 ID:d5iOIBxM
 それは、距離600万キロメートルでクラウディアのレーダーに捕らえられた。

 彗星や小惑星ではない人工物の反応が返ってきた。
 クロノは直ちに結界魔法の展開を命じた。
 大型の次元航行艦の場合、無人探査機であっても観測機器に写りこんでしまう危険がある。
 緊急時には光学迷彩機能を持つ結界を使用しなければならない。
 もちろん可視光だけではなくあらゆる電磁波による観測からも身を隠さなくてはならない。

 少なくとも現時点では、次元世界と第97管理外世界は、互いに認知をしていないことになっている。

「前方の小型機、方位0-1-5、本艦のほぼ正面より向かってきます。慣性飛行のモードです」

「熱反応を確認、魔力素濃度レベル、ゲインプラス0.2」

「新型か──この探査機の観測目的はなんだ?」

「艦長、どういうことですか」

 クロノの傍らに控えていたウーノが問いかける。
 クラウディアは現在、太陽に向かう双曲線軌道に乗っており、このままの針路と速度ではおよそ24分後に小型機とすれ違う。
 交差時の距離は7000キロメートルまで接近する。

「少ないながらも魔力素の濃度が上がっている。地球人類は我々の知らない新しい技術を開発したようだ」

 クラウディアのセンサーは、小型機が魔力を放出していることを検知していた。

「第97管理外世界が魔法技術を」

「そうとは限らん。純粋な機械であっても魔力が観測されるケースはある──だがこれほどのゲインは天然魔力素としては少々高い」

 クロノは観測員に命じ、小型機の魔力反応を解析にかからせた。
 機械が魔力を発する場合、ミッドチルダでは魔力電池や魔力炉などを動力源として搭載している場合が考えられる。
 だがこの場合はもっと強い反応が出る。
 それ以外には、たとえば素材となった金属や樹脂などが魔力の影響を受けていた場合。
 ただの機械であっても製造に魔法を使用した場合は、残留魔力が検出される。

 今回の小型機の場合、残留魔力としては強すぎるが、魔力電池だとすると弱すぎる程度の量が検出された。

 恒星系内であっても主星そして公転平面からこれほど離れれば、恒星風の影響も弱まり、空間中の魔力素もかなり少なくなってしまう。

「スペクトルはどうだ?」

「──お待ちを──出ました。
艦長、おそらく小型機はプルトニウム熱電変換電池を搭載しているものと思われます。
これは結構強い魔力を出す元素です」

「なるほど。たしかに外宇宙へ出る探査機のバッテリーには不可欠な装備だ」
235 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:45:44.23 ID:d5iOIBxM
 小型機は接近し、交差が10分後に迫った。
 向こうは軌道を変える様子がない。おそらく、無人機であり、そしてクラウディアの存在を探知はしていない。

「よし。魔力光スペクトルを採れ。あとで照合が必要になるかもしれん──操舵手、左舷速力1/3、面舵10度。艦を前方の小型機から離せ」

「了解、左舷速力1/3、面舵10度」

 クラウディアの操舵手が舵輪をゆっくりと操作し、それにしたがって艦体にかすかなヨーが生じる。

 小型機は可視光線で見えるほどの魔力光を発してはいないが、ガンマ線領域で見るとはっきりとわかるほどの魔力反応が確認できた。
 軌道修正により、クラウディアと小型機は距離およそ9000キロメートルで交差する。

「前方の小型機、本艦左舷30度より接近中、相対速度毎秒163キロメートル。小型機はごくわずかですが加速しています」

「追跡を続けろ」

「交差まであと4分」

「艦長、軌道変更完了しました。近日点を太陽中心より7550万キロメートルに修正」

 窓からは、変わらず黒い宇宙しか見えない。
 宇宙空間では、他の艦や天体を肉眼で見ることはできない。
 もし肉眼で見える距離まで接近していたら、それはあわや衝突の危険があったことを意味する。
 すべてはレーダー上での精密な計測によって軌道計算を行い、それに基づいた航行をすることが必要だ。

 クラウディアと小型機がもっとも接近する距離9000キロメートルでも、クラウディアの艦橋からは小型機を肉眼で見ることはできない。

 それでも、宇宙を航行する次元航行艦としては至近距離でのすれ違いである。

「交差まであと2分」

「艦このまま、針路を維持」

 音は聞こえないし、影も見えない。
 だが、確実にそれは接近している。そして、過ぎ去っても、何も見えない。

「電波放射確認、小型機より地球へ向けて発信されている模様」

「内容は分かるか」

「不明ですが、記録します。変調速度600hz、シングルレベルです」

「よし、あとでデコーダーにかけろ。小型機の動きに変化がないか注意しろ」

「魔力放射レベル依然として変化なし」

「本艦左舷40度、距離1万6千キロメートル、交差まであと45秒」
236名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/28(水) 21:51:22.18 ID:RtEMctCA
シエン
237 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 21:51:56.55 ID:d5iOIBxM
 向こうからクラウディアを見ても、やや光が曇る程度にしか見えないはずだ。
 またそのようなものをたとえ発見したとしても、その正体はわからないだろう。

 小型機は巨大なアンテナを地球へ向けた状態で、観測装置を前方に向け、イオンエンジンの噴射炎を輝かせて飛んでいく。

 クラウディアが小型機の後方へ出たとき、それははっきりと見えた。

「小型機の推進装置より高レベル魔力反応確認、イオン噴射ロケットです」

 計測器の数値を、乗員たちが固唾をのんで見守る。

「左舷上方対向角50度、最接近ポイントまであと10秒、5秒、……交差しました。小型機は本艦後方へ遠ざかっていきます」

 小型機は速度、針路ともに変えず、クラウディアの左舷9000キロメートルを通過して、太陽系外へ向かって飛んでいく。

 3分間追跡し、小型機の動きに変化が見られないことを確認して、クロノは警戒態勢の解除を命じた。
 艦橋乗員たちのどこからともなく、安堵のため息が漏れる。

「一安心、といったところですかね」

 つぶやくように言った航海長に、ウーノが注意を促す。

「いえ、確実とは言い切れないわ。あの小型機の搭載している機器の内容が分からない以上、どんな痕跡を採取されているかわからない。
結界魔法は主に可視光に対するステルス性だけで、もし向こうが次元間観測が可能な装置を持っていれば本艦の位置も丸見えよ」

「しかし副長、第97管理外世界には魔法は」

「無い、というのが管理局およびミッドチルダ魔法科学研究所の見解だけれどね。
でも、彼らの科学力は一定水準を超えているというのは確かな評価よ」
238 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:01:18.96 ID:d5iOIBxM
 クロノは航海長に新たな指示を出す。

「どちらにしろ、この外宇宙で何が起きていても地球人類は手出しをできん。
本艦の観測任務はすべて完了している。
本艦はこれから太陽周回軌道に入り、0.95軌道ゲートを経由して第1管理世界へ帰還する。
航海長、速度を12パーセント上げて太陽を回れる軌道を計算してくれ。少し到着を早める」

「わかりました」

 太陽の放つ光が、コロナ放射で揺らめいているように見える。
 第97管理外世界において地球が属する恒星系の太陽は、特に南磁極が非常に活動的で、多数の磁気チューブがしばしば光球から飛び出している様子が観測されている。
 磁気チューブに沿ってプラズマが太陽表面から浮き上がる現象は、プロミネンスと呼ばれ、チューブがちぎれてプラズマが爆発的に放出される現象は、太陽フレアと呼ばれている。
 0.95軌道ゲートはこの太陽フレアと磁気チューブに隠された位置にあり、地球からの観測を回避するには都合のいいポイントだ。
 原則として、ミッドチルダと地球を行き来する観測船はこの航路を使う。

 たしかに、一見して隠れるにはうってつけの場所のように見える。

 だが、地球人類の打ち上げた観測衛星を、管理局もすべて把握できているわけではない。

 特に、極軌道をまわる衛星や、地球から離れた位置に軌道をとる衛星からは、必ずしもこの0.95軌道は隠れられない。
 太陽観測衛星“SOHO”や“ひので”などが撮影する太陽表面の写真には、しばしばこの0.95軌道に近づく次元航行艦の影が、謎の巨大宇宙航行物体として写り込んでいた。
 写真上では、太陽放射の干渉もあって長さが数百キロメートルもある巨大宇宙母船のように見え、そして太陽内部に生息する生き物のようにも見ることができた。

 それは太陽の不思議といった要素で片づけられ、オカルトマニアの飯のタネにはなってはいた。

 しかしそれも、たとえばギル・グレアムのような事情を知っている人間にとっては、気が気でないことであっただろう。
239 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:07:26.46 ID:d5iOIBxM
 テムズ川のほとりにそびえる、奇妙な形をした塔──その一角にオフィスを借り受けたマシュー・フォードは、守秘回線の電話で、ワシントンD.C.にあるFBI本部への報告と、捜査方針の検討を行っていた。
 回収した弾丸に付着していた血液から、3種類のDNAを採取することができた。
 結果は、3種類とも、異なる人間のものであることが判明した。

 付近の住民には周知のとおり、あの家には老人がひとりと、彼の孫娘が二人、住んでいた。
 それは聞き込みからも分かっていることである。

 しかし、実際に、爆弾で吹き飛んだあの家からは、老人の遺体しか見つからなかった。
 代わりに見つかったのは二匹の猫であった。

 そして、その猫の遺体から、人間のDNAが検出された。

 彼女たちは、獣人だったということなのか。
 あるいは、ヒトとネコのハイブリッド、キメラだというのだろうか。
 人間と動物をかけあわせるというのはヒツジやブタなどで実験はされていたが、ネコでそれを行ったという話は少なくとも聞いたことがないし、そうやって生まれた人間が、日常生活を送れるほどに成長した事例もない。

『実は今、ブレイザー長官が一緒なんだ。いや、長官の自宅に来ていてな……今代わる』

『私だ。フォード君、ご苦労だった。それで、やはり“彼”は並行世界へ行っていたということで間違いないようだな』

「いただいた予測データどおりではあります。しかし、私にはまだ信じられません」

『だが事実だよ。真実だ』

 トレイル・ブレイザーは、CIA長官でありながら自ら渉外活動も行う積極的な人物で、フォードら親しいFBI捜査官が何人かいる。
 今回、アメリカがいち早くイギリスへ捜査官を送り込めたのもブレイザーの活躍があった。

「“空飛ぶ円盤(フライング・ソーサー)”に攫われた人間だったというのでしょうか、あの老人は」

『その説も含めて検討するよ。ところで、そっちの地元警察はどうだね』

「今のところ協力的です。ただ向こうとしても、現場を一目見ればわかることですから納得しきれてはいないようですが」

『致し方ない。ところでフォード君、昨年君に行ってもらった日本の街があるだろう』

「昨年というと、海鳴市ですか」

 ブレイザーの言葉に、フォードは記憶をたどる。

 海鳴市では今から丁度18年前、2005年の冬に、大規模な爆発現象が大気圏高層部にて観測されていた。
 ちょうどクリスマスの夜で、周辺一千キロメートル以上にわたって電離層のイオンが励起され、通信電波の異常や、北海道では肉眼でも見えるほどのオーロラを観測した。

 それ以前にも、春先から微弱な地震動が頻発しており、上空を通過する監視衛星の軌道が、不可解な重力異常によって影響を受けていた。
 重力異常の発生は冬に入って増大し、2005年12月24日夜から25日未明にかけてピークを迎えた。
 そして、海鳴市上空1200キロメートルにおいての大爆発が観測された。
 国際宇宙ステーションはこのときたまたま地球の裏側にいたが、付近を飛んでいた通信衛星や偵察衛星などが大きく軌道を乱され、復旧にかなりの時間を要した。
 天文学会では、マイクロブラックホールが地球を通り抜けたのではなどといった突飛な説も出され、確かに、モンブランにあるEUの観測所では巨大な重力波を検出してはいた。
 それはかつて、大マゼラン星雲で爆発した超新星1987Aにも匹敵する規模のものだった。
 太陽の数十倍にもなる巨大恒星が爆発したよりも強力な重力波なら、次元の壁に穴が開くほどの“何か”が、しかも地球上で起きていたことになる。
240 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:13:14.76 ID:d5iOIBxM
 ソ連防空軍では、かつてのツングースカ大爆発の再来かと神経をとがらせていた。
 未発見の彗星が大気圏に突入し爆発したのか、あるいは中国などが極秘に成層圏核実験を行ったのか。
 たしかに放射線強度はやや増加していたが、それは天体由来としても十分に考えられる程度の量だった。
 CIAはその年のうちに調査チームを組織し、海鳴市周辺にその爆発現象の痕跡が残されていないかを調べていた。

 フォードも、2022年の冬に海鳴市を訪れ、近隣の住民らの話として、当時、未確認飛行物体の目撃例が相次いでいたことを聞いていた。

『今回の件でMI6の協力を得られたのも、クリステラ議員の力添えがあったのだよ』

「成る程──というと、やはりイギリス・アメリカ両政府が」

『まあ連中の後押しがなくても、私としてはこの事件はぜひ解いてみたい謎ではあるがね』

 冒険少年のような口調でブレイザーはおどけてみせ、フォードもやや表情を緩める。

『そちらのロンドンでBBCを視ればわかるだろう、先月、歌手のアイリーン・ノア氏が寄付を行ったアメリカの医療福祉団体、あれは実はNASAのサイバネティクス技術研究グループに加盟しているんだ。
そこのメンバーにはバニングス・テクノクラフトも名を連ねている』

「バニングス──あの精密機械企業ですね。それで海鳴市に──」

『どうだ、点がつながって線になってきたろう?これも地道な調査の積み重ねだよ。
君が昨年、海鳴市内の病院から入手した試料の中には、2005年当時に市内で採取された、正体不明の生物の痕跡も混じっていたんだ。
“彼ら”は自分たちの痕跡を消そうとしていたようだが、それでも隠しきれなかったものがある。
海鳴市内で複数回の戦闘が起きた形跡があり、そしてその現場に残されていた血液からDNAを採取し復元することに成功した。
それが、今回グレアム氏の自宅から発見された猫のものと一致した』

「グレアム氏は、かつての海鳴市における一連の事件に関わりがあると──」

『そういうことだ。うちの調べでは、氏の口座があるロンドンの銀行と、
日本の海鳴市との間に定期的な資金のやりとりがあったことまではつかんでいたんだが、当時誰かが住んでいたと思われる海鳴市のそこには今はもう誰もいなくてね。
我々の方が一足遅かったようだ』

「そのようでしたね」

『いずれにしろ、少なくとも日本はこの件に関してはうちの邪魔はしないと言っている。
向こうさんにしてみても自分の国の上空でドンパチやられたのでは自衛隊(セルフ・ディフェンス・フォース)の面目が立たないからな。
内閣情報調査室とも連携はとっている。あとはソ連と中国がどう出るかだ』

「中国は少なくとも、工作員を送っていました」

『ミカミくんは相変わらずだよ。君も彼女には目を付けられないようにな』

「わかっております、長官」

 ブレイザー率いるCIAの調査チームは、少なくとも2005年の海鳴市において、オーバーテクノロジーを操る者たちによる組織的な戦闘が発生していたという出来事を、ほぼ事実として確信を持っていた。

 海鳴市には、日本だけでなくアメリカやイギリスも、さまざまな因縁からそれぞれの技術を持ち込み、研究や実戦テストを行っていた。
 CIAとして見極めなくてはならないことは、彼らが用いる技術そのものではなく、彼らが“どんな目的で”戦っていたかということだ。
 それによって、アメリカが、ひいては人類がとらなけらばならない立ち回りは違ってくる。
 フォードが地元警官たちに言った言葉は、誇張でもはったりでもないのだ。
241 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:18:23.54 ID:d5iOIBxM
 研究者たちを顧問に招き入れ、独自に編成した解析班による調査で、2005年のクリスマスに海鳴市はるか上空で発生した爆発現象は、そのエネルギー量が太陽にさえ匹敵する規模であるとCIAは結論付けていた。
 これほどのエネルギーは、アメリカが保有するいかなる水素爆弾でも出せない。
 在日米軍基地で観測された放射線強度の変化グラフでは──これはもともとは中国や北朝鮮、ソ連の核実験を監視するためのものであるが──、爆発現象によって放出されたエネルギーの発生源は、その大半が対消滅反応であることが読み取れた。
 通常の核兵器が用いる核分裂や核融合ではない、もっと細かい粒子の反応が起きていた。

 この観測データは、誰が持ち出したのか宇宙論研究者たちに利用され、超ひも理論の裏付けのひとつとなっていた。
 観測された放射線、そこから推定される対消滅反応を起こした物質の量、観測された重力波の強度。
 これらを突き合わせると、どうしても計算が一致しない量の物質が、消滅している。エネルギー収支が合わなくなる。

 超ひも理論によれば、収支が合わない分のエネルギーは、重力波となって高次元へ逃げていったと説明される。
 エネルギーは高次元を伝わり、次元を超えて伝播する大量の重力子(グラビトン)の波動、すなわち重力波を放出して、実在次元と高次元とのバランスを保つ。
 これによって、何もない空間に突如エネルギーが湧き出して痕跡を残すという超常現象の一種が説明できる。

 少なくとも、あの夜の海鳴市上空に、“異次元への穴”が開いたことは間違いない。

 問題は、それが自然現象ではなく人為的なものなら、それは誰が何のために起こしたのかということだ。

 異星人がひそかに地球に飛来し、何らかの工作を行っているのか。
 地球征服をたくらむ、小柄な灰色の宇宙人──というのはおよそレトロな認識ではあるだろうが、いずれにしてもなぜ地球でそれを行う必要があったのかということを、安全保障の観点からCIAは調べなくてはならない。

 足かけ18年にわたるCIAの調査により、付近の海底を含めた海鳴市の合計21か所の地点において、高レベルの放射能を帯びた土壌が発見された。
 土壌に含まれる放射性同位体の崩壊量から、丁度18年前に何らかの強力な放射線源が存在したことが判明した。
 もしウランやプルトニウムが原因であれば、それこそ大型原子炉にも匹敵する量の放射性物質が海鳴市にばら撒かれていたことになる。
 しかし今のところ、付近の住民に放射線症と思われる症状はみられない。
 この21か所の土壌に痕跡を残した原因の物体は、そのエネルギー源が何であれ、それを完璧に制御する技術を持っている。

 核爆弾にも匹敵するエネルギーを秘め、それを任意に発動できる。

 件の宇宙論研究者たちは、エネルギーさえ用意できるのなら無機物を動かしたり、生き物を操ったりすることは十分可能であると言ってのけた。
 物体が動くとは、すなわち外部からのエネルギーを受けるということである。
 それを任意の空間に配置できるのなら、何もない空間にいきなり氷を出してぶつけてみたり、植物を歩かせることもできる。
 それはもはや魔法と言っていいものだろう。
 もちろん、それに見合ったエネルギーを用意できての話である。
 この現代では、そのような魔法を撃つには、直径が数キロメートルもあるような巨大な円形加速器が必要になるものだ。

 2005年の海鳴市で戦闘を行った者たちは、少なくとも個人携行が可能な機器(デバイス)で、それほどの巨大なエネルギー、すなわち魔法をを扱うことができていたという点については、ブレイザーもフォードも意見の一致をみていた。
242 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:23:29.37 ID:d5iOIBxM
 リオ・ウェズリーの葬儀に出席したヴィヴィオは、クラナガンの自宅に帰らず、そのまま近くの安宿で一晩を明かすつもりだった。
 司法解剖の結果、遺体への有毒物質の浸透が酷く、通常の埋葬が不可能であると、所轄警察からリオの家族に告げられていた。
 そのため、棺は空の状態で、リオの写真だけを祭壇にあげて祈りをささげた。
 じゅうぶんに期間をかけて除染を行わなければ、公共墓地へ棺を埋めることはできないとも言われていた。

 あの公園での事件以来、気持ちが混乱して落ち着かない。
 自分の中に沸きあがったのは、力を、もっと強い力を欲する気持ちだった。

 かつて8年前、巨大戦艦ゆりかごの中で抱いていた気持ち。

 純粋な意識だった。

 その是非はともかくとして、それは感情としてとても澄んでいたと、ヴィヴィオは思い返していた。
 母の説得と、そして多くの人たちのあたたかい支援を、もちろん感謝してはいる。
 しかし、代わりに何かが無くなったのは確かだ。
 それは一般的には善くないことだから、無くなった方がよかったのかもしれない。

 その無くしたものがあれば、リオを救うことができただろうか。
 あの化け物に立ち向かえる力を、振るうことができただろうか。

 今の自分は、少なくともただの14歳の少女である。
 腕力も、社会的地位も大したものがない。
 聖王の血は引いていても、それはこの現代社会では何の役にも立たない。

 チンク、セイン、ウェンディ、オットー、ディード──彼女ら戦闘機人たちは、自分を助けるために働いてくれている。
 もし自分の身に何かがあれば、彼女たちは自分を守るために戦ってくれるだろう。
 彼女たちに助けてもらえば、自分の身は守れるかもしれない。しかし、それでは納得できない。
 気持ちがすっきりしない。
 自分の力で身を守り、そして敵を倒したい。
 守るだけでなく、積極的に攻めていきたい。危機を及ぼす敵を、探し、そして殲滅する。
 それは安全と平和を手に入れるための戦いだ。危機を及ぼす存在は、クラナガンにたしかに潜んでいる。
 母が、高町なのはが警官たちに説明していた言葉を、断片的にだが聞いていて、それが何を示しているか理解するだけの知識は修得している。

 ミッドチルダに迫る、正体不明の敵性存在がいる。

 リオは、その敵性存在の攻撃を受けて死んだ。ミッドチルダの市民が犠牲になったのだ。
 もし自分が王であるのなら、臣民に犠牲が出て、それを黙って見過ごせるだろうか?民を守らない王は王といえるのだろうか?

 そんなのは過去のしがらみ、縛りである、と、言うことはできるかもしれない。

 だがそれならなぜ、自分には力が備わっていたのか。
 最初から、何も関係のない一般人の家庭に生まれていたというのならまだわかる。
 しかし、自分がどういう由来で生まれたのかは知っていて、それによってどのような能力が自分の身についていたかは理解している。
 それを黙って見過ごせというのは、少なくとも今となってはできない。
243 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:28:18.59 ID:d5iOIBxM
 力を、手に入れたい。

 聖ヒルデ魔法学院で出会ったばかりの頃、いつもどこか哀しげな目をしていた彼女──アインハルト・ストラトスが抱いていた気持ちは、きっとこのようなものだったのだろうか。
 守りたいものを守れなかった、その哀しみ──
 もし自分の子孫に、今の自分の哀しみが、アインハルトと同じように受け継がれてしまったら、それはとてもつらい運命だろう。

 けりを、つけなくてはならない。

 何ができるというのは、一日や二日考えた程度ではどうにもならない。
 聖王教会へ行けば、何かわかるだろうか。
 シスター・カリムやシャッハは、このような相談を受けてくれるだろうか。

 通りをいくつか渡ると、銃砲店の看板が立っているのが見えた。
 もっとも、ヴィヴィオは魔導師ランクを持っていないので売られているデバイスを購入することはできない。
 セイクリッドハートには、ストライクアーツで使うための競技用魔法しかインストールしていないので、これは実際の戦闘には使えない。
 実際に対人殺傷能力を持つ攻撃魔法がインストールされたデバイスを購入するには、少なくともDランク以上の魔導師ランクを取得し、身分証明書を管轄の自治体へ登録しなければならない。

 武器があれば──。

 どのみち、今まで貯金していた小遣いでは、実戦に耐える戦闘用デバイスはとても高価で買えないものではある。

 ため息をつき、肌寒さを感じる手をコートのポケットに入れて、歩き出そうとしたときにその気配はやってきた。
 思わず振り返る。稜線の向こうには、クラナガンの高層ビル群が、航空機用の警告灯を赤く光らせている。
 空に、目を凝らす。戦闘機ないし空戦魔導師が飛んでいれば、航空灯が光っているはずだ。

 光が見える。速い。すぐ近くを飛んでいるのか。

「あの光──魔力光?なにかの炎が吹いてる──」

 閃光が飛ぶのが見えた。
 今夜の天気は曇りだ。地上近くまで垂れ込めた雲に、強烈な光が反射している。
 地上に設置された砲台からの誘導魔法が放たれている。

 それはすなわち、領空侵犯機に対し迎撃戦が行われていることを意味する。

 人型をしているように見えた。
 とても離れた空の上で、光の点のようにしか見えないのに、透視するようにイメージが浮かんできた。

 人間が乗った機械が、あの暗闇の空を飛んでいる。
244 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:33:25.32 ID:d5iOIBxM
 非常警報が鳴り響き、住民たちに避難命令が出された。
 個人シェルターを所有している者はその中へ、そうでない者は指定の施設への移動と待機が命じられた。
 これほどの規模の発令は、JS事件以来のことである。
 警官たちが通りに出て人々を誘導し、ぞろぞろと人の波が流れていく。

 ヴィヴィオは大通りの真中に立ち、じっと空を見つめていた。

 あの空に現れた人型は、きっと知っている。

 避難のための列を作っている人々を追いかけるように、路地裏から大きな影が現れた。
 列を作りながら歩いていた最後尾の人たちが、あわてて走り出す。

 街灯の光に照らされたそれは、巨大な虫のような、節足動物のような姿をしていた。
 黄褐色の身体に、赤い単眼が3個、頭部らしき場所についている。
 丁度、草むらにある石ころをひっくり返すと裏側にびっしりと貼り付いていそうな、ワラジムシのような格好をしている。
 しかしその大きさは明らかに異常だ。
 体長は4〜5メートル、体高も2メートル近くある。巨大なワラジムシだ。
 警官たちは携行しているデバイスを起動させ、人々の誘導を急ぐ。
 もしこのワラジムシたちが人間を襲うものであれば、市民を守らなくてはならない。

「セイクリッドハート!セットアップ!」

 半ば反射的にヴィヴィオはデバイスを起動させていた。
 あるいは、この苛立ちをぶつけられる相手が欲しかったのかもしれない。

 ワラジムシは腹部に多数の小さな脚を持ち、移動速度がとても速い。
 自動車並みのスピードで走り回れる上に、平べったい体格のおかげか安定性も高く、方向転換もすばやい。
 念話で発砲許可を受けたと思しき警官たちが、デバイスを構え、ワラジムシに向かって撃つ。
 一般警邏の警察官が使用する標準デバイスは警棒型で小さいので、威力も相応に小さい。
 拳銃程度の射撃魔法では、ワラジムシの動きを止められない。
 射撃魔法の弾丸が当たるとワラジムシは一瞬ひるむが、すぐにまた走り出す。
 それはゴキブリが走り回っているような姿で、生理的な嫌悪感を催させるものだった。

 警官の一人がヴィヴィオに向かって呼びかけているように聞こえた。

 目の前に走り出てきたワラジムシに向かって、ヴィヴィオは大きなステップから力をためて正拳突きを繰り出した。
 拳から振り放たれる衝撃波で、ワラジムシの体表が大きくへこむ。
 金属質のメカのようだが、装甲と呼べるほどには体表は硬くないようだ。

 ワラジムシの体節から吹き出す青い粘液に、ヴィヴィオは数日前のあの化け物を思い出していた。
245 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:39:16.49 ID:d5iOIBxM
 リオを殺したあのスライムと、このワラジムシは同類だ。
 飛び散った粘液は地面に触れると、アスファルトと反応して刺激臭のする白煙を上げている。あの体液に触れると、肉が溶けてしまう。
 リオはあのスライムに格闘戦を挑もうとして返り討ちにあってしまったんだ。
 スライムを倒してから、なのはがヴィヴィオを慰めていたのは、ストライクアーツのみならず素手の格闘攻撃ではあの化け物と戦うのは危険すぎるということを知っていたからだ。
 あそこでヴィヴィオが何もできなくても、それは責められないことだった。

「おまわりさんっ!こいつらに、近づきすぎないでください!体液を浴びると溶けます!」

 叫び、ヴィヴィオはさらにディバインバスターで可能な限りの遠距離攻撃をワラジムシに当てる。
 なのはが使う、レイジングハートの主砲と名前は同じだが、こちらはDSAAレギュレーション準拠の競技用魔法なので術式にはリミッターがかけられ、見た目はともかく実際の打撃力はエアソフトガン程度しかない。
 ワラジムシのような大きな体躯には致命傷を与えられない。

「無理をしないで!管理局の応援がくるまで、なんとか逃げて!」

 警官の誰かだろうか、返事をしてくれた。
 横目に見ると、ワラジムシは今まであちこちに隠れていたのか、ビルとビルの狭い隙間や、ごみ収集用の箱、道路の側溝など、至る所から這い出してきている。
 ビルの天井の貯水タンクの中から出てきたものもいた。
 もはや数百匹以上のワラジムシが、文字通り街を埋め尽くしていた。いったいこれだけの化け物が、どこに潜んでいたんだ。
 人々は何も知らずに、化け物がそばにいるのに気付かずに普段の暮らしを送っていたのか。
 ワラジムシたちは集まり、走っていく。それは何かから逃げるように、あるいは、何かに惹き寄せられているように見えた。

 自分のデバイスを持っている市民は、それぞれに応戦したりもしている。
 ヴィヴィオの声を聞いたのか、射撃デバイスを持っている者は、他の人々を援護するように魔法を撃っていた。

 人々は公園やグラウンド、体育館のような広い場所に集まり、道路や狭い路地にはワラジムシたちがびっしりと蠢いていた。

 よく見ると、大きい個体や小さい個体もいる。殻のような薄い樹脂の膜をかぶった個体もいる。
 メカと知らなければ、卵から生まれたばかりの幼虫のように見える。

「こいつら、生き物なの!?メカなの!?」

 クラナガン宇宙港に、これと同類のメカが現れて戦闘になり、スバルたち特別救助隊の人々がかなり犠牲になったと、ヴィヴィオはノーヴェから聞いていた。
 彼らは金属の身体を持っているのでメカと、バイオメカノイドと呼ばれているが、一種の動物型サイボーグのようなものらしい。
 しかし、殺せない相手ではない。その性質のために戦い方を注意する必要はあるが、殴ったり撃ったりすればダメージは通るし、殺せない相手ではない。

 飛行魔法の魔力光が空にきらめく。

 管理局の魔導師たちが駆けつけてきた。
 飛びかかってくるワラジムシを回し蹴りで押しのけ、ヴィヴィオは周囲の配置を確かめた。
 大通りに這い出してきたワラジムシは、クラナガンの中心部へ向かって動き出している。
 ヴィヴィオと警官たちはそれを後ろから見る形、魔導師たちはワラジムシの進路前方からやってきた形だ。挟み撃ちできる。
 これでなんとかなる、と、警官たちが安堵したのもつかの間、今度はビルの窓をぶち破って、別のバイオメカノイドが現れた。
246 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:44:16.99 ID:d5iOIBxM
 砂のように粉々になったガラスが道路に散らばり、大きなシルエットが飛び降りてくる。

 こちらはやや明るい黄色の体色をした、キャタピラのような脚部を持った個体。
 クラナガン宇宙港に現れたものと同じ、戦車型のバイオメカノイドだ。

「!撃っ──!!」

 ほとんど偶然といえた。
 へたり込むように体を落とした瞬間、それまでヴィヴィオの顔があったあたりを、大出力のビームが突き抜けていった。
 その光線のやってきた方向には、戦車型が、蟹のような太い腕を掲げて、ゴムの袋を握りつぶすような、異様な吼え声をあげている。

 コンクリートが崩れ落ち、地面にぶつかって割れる音が背後から響く。
 ヴィヴィオに向かって飛んできたビームは、後ろにあったビルの壁に当たり、窓ガラスが砕け散って、壁面が大きく割れた。
 中の鉄筋が見えるほどにコンクリートは抉り取られ、破片が落下する。
 これには、人々はひとたまりもない。やわらかいものが潰れる音がした。
 落ちてきたコンクリートの大きな塊が当たったのだろうか。振り返ると、街灯の明かりに、液体の反射が見えた。
 崩れ落ちてきた百キロ以上もあるコンクリートに直撃され、頭が潰れてしまった死体が見えた。

 戦車型は、腕の先からビームを撃てるようだ。
 ワラジムシを狙って撃っているようだが、照準はあまり正確ではなく、かなりの流れ弾が避難している人々の頭上に降り注いでいた。
 押し寄せてくるワラジムシをジャンプして避けながら、ヴィヴィオもたまらず、サイドステップで戦車型の砲撃をかわす。
 大量のメカノイドを前に、戦車型は明らかに興奮しているように見えた。ワラジムシに突撃を繰り出す個体もいる。
 勢い余ってワラジムシを飛び越え、そのまま人ごみの中に突っ込んでしまう戦車型がいる。人々が、悲鳴を上げながら将棋倒しになる。
 あれの体重は数百キログラムもある。踏み潰された人間は、数人ではきかないだろう。

「練習場へ!みなさん、練習場へ逃げてください!」

「パパがっ、お巡りさん、パパが下敷きになって!誰か助けてえ!」

 人々の怒号に、泣き叫ぶ小さな子供の悲鳴が混じる。
 戦車型の砲撃をよけようとしたワラジムシが人ごみに突っ込むたびに肉が潰れる湿った音が飛び散り、子供の悲鳴が一つずつ消えていく。
 見回すと、ワラジムシが高速で駆け抜け、轢かれた人間が、糸くずのようにねじれて、回って、転がっている。

「デバイスを所持している方へッ!発砲は止めてください!彼らを刺激しないように!」

 もはや警官たちによる状況収拾は不可能になっていた。

 戦車型とワラジムシは互いに攻撃し合っているが、人々にとってはそれどころではない。
 管理局の魔導師たちは両方を攻撃対象に、魔法の発砲を開始した。

 空気を裂くような発砲音と共に、夜の大通りに魔法の火炎とバイオメカノイドの体液が飛び散る。
 魔法の熱エネルギーを受けたバイオメカノイドの体液はあちこちで引火し、炎に包まれてのた打ち回るワラジムシがいる。
 そうかと思えば、戦車型の砲撃をまともに喰らって吹き飛ばされる魔導師もいる。
 戦車型の砲撃は、人間用の武器でいえばグレネードランチャー並みの破壊力がある。
 身体ごと商店のシャッターに打ち付けられた魔導師は、全身の皮膚が砕けるように爆発して、手足が燃えながらちぎれて空を舞った。

 セイクリッドハートの防御力でも、これを受け流すのは容易ではない。受け流したとしても、流れ弾が今度はあらぬ方向へ飛んで行ってしまう。
 戦車型はもはやワラジムシと人間との区別をしなくなり、動く物体に対して無差別に砲撃を始めた。
 魔導師たちもこれほど敵の数が多いとは想像できなかったようで、指揮系統は混乱し、完全に乱戦となっていた。
247 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 22:49:38.57 ID:d5iOIBxM
 風を切る、独特の音が響いた。

「迫撃砲!?」

 空に、鈍い黒色の球が見えたかと思うと、ワラジムシたちの塊の中で大爆発が起きた。
 アスファルトが抉られ、重油を塗りたくられた大きな砂利の粒となって飛び散る。
 ちぎれたワラジムシの体節や、戦車型の腕が爆風で飛ばされてくる。
 黒色の球は魔法陣を纏いながら降ってきて、通りのあちこちで炸裂する。
 道路は穴だらけになり、通りに面した建物の壁にはバイオメカノイドの体液が飛び散って垂れ、甲殻類の抜け殻のようなバイオメカノイドの破片が突き刺さっている。
 しかしその中には、人間の腕や足のようなものも混じって、道路端の花壇の中に転がっていた。
 逃げ遅れたか、混乱で方向を見失い、バイオメカノイドたちの中に迷い込んでしまったのか。
 人々ごと、管理局はバイオメカノイドを掃討するつもりだ。

 ああ、とか、うう、というような、言葉にならない人々のうめき声が聞こえる。
 声のする方を見渡しても、瓦礫とバイオメカノイドの残骸しか見えない。

 空戦魔導師たちが空にいる。大型砲撃デバイスの照準が、地面に向けられている。

 人々の誘導をしていた警官たちも、もはや何人が生き残っているだろうか。
 後退りすると、ヴィヴィオは丸い棒のようなものを踏んづけた。警官の持っていたデバイスだ。
 デバイスのグリップ部分には人間の手が見えたが、それは手首から先がなかった。

 まばゆい砲撃魔法の閃光が迸り、つい数時間前まで、遊びや仕事帰りの人々でにぎわっていた大通りは、土砂と瓦礫を激しく吹き上げて崩壊した。
 バイオメカノイドの体液が混じり、それは空中で燃え上がり、炎を纏った石つぶてとなって飛び散る。
 襲う土砂の圧力に、戦車型が押し潰され、ワラジムシが胴体をちぎられ、人間は細切れになって飛び散る。

 ヴィヴィオは、そのすべてを、見ていた。



 当直当番へ引き継ぎの準備をしていたまさにその時、一級警戒アラートの警報が鳴り響いた。
 なのははすぐに司令室へ急ぎ、知り合いの司令官へ状況確認を行った。
 本来は教導隊は直接出撃するための部隊ではないが、この際そんなことも言っていられない。

 オペレーターに通信機を一台貸してもらい、地上本部への回線を開く。
 所轄の首都防衛隊と連絡を取り、出撃体制を聞く。クラナガン中央第4区の市街地に大量のバイオメカノイドが出現、個体数は500体以上と予想される。
 既に緊急出動した魔導師がいるが、彼らではおそらく敵を食い止められないだろう。
 首都防衛隊の分隊長は、分隊支援火器の使用準備をしている、と言った。

「そんなっ……市街地ですよ!?民間人も多数いるんです、そんなところで……!」

 なのはは耳を疑った。
 分隊支援火器といった場合、通常は正規軍レベルで使用する、戦場を面制圧するための広域攻撃魔法のことをさす。
 第97管理外世界の武器でいえばロケットランチャーや重機関銃などが該当する。
 これらは危害半径が数十メートルから100メートル以上と広範囲に及び、市街地で使用したなら、市民や一般家屋への巻き添えは避けられない。

 それはわかっているが、と、分隊長は苦い表情を見せる。
248名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/28(水) 22:52:42.15 ID:zyVqY6yO
市街戦はほんと地獄やで支援
249名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/28(水) 22:58:56.87 ID:RtEMctCA
支援火気
250 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:00:13.18 ID:d5iOIBxM
 通常の市街戦を展開するなら、一体のバイオメカノイドに対し、せいぜい1、2人で対峙することになる。
 しかも、市街戦ということは障害物や遮蔽物となる建物が所狭しと立ち並び、視界が非常に悪い。
 そんな中で、人間よりもはるかに大柄なバイオメカノイドを相手にするには、条件が悪すぎる。
 狭い場所ではこちらも集団で行動できないため、最悪、少人数に分かれた魔導師たちが各個撃破されるという事態が起こりうる。
 クラナガン宇宙港では広い開けた場所での戦闘だったため、なのはとフェイトの二人で戦うことができたが、市街戦となればディバインバスターやサンダースマッシャーのような大振りの魔法は威力が大きすぎて使えず、接近戦を強いられる。
 複数の個体に囲まれたら、自分たちであってもやられかねないだろう。

 仕方ない、と思い直そうとして、なのははすっと背筋が寒くなった。

 バイオメカノイドたちが出現している地域は、リオ・ウェズリーの実家に近い。
 今日、彼女の実家で執り行われた葬式に行っていたヴィヴィオが、まだ帰ってきていない。
 ということは近くにいるかもしれない。
 もしかすると、戦闘に巻き込まれている可能性がある。

「隊長、私も出ます」

『しかし高町くん、教導隊は──』

「処分はあとで受けます。その代わり、攻撃するなら手加減なしで、全力でやってください」

 なのはの切迫した声に、隊長も気圧された。
 通信を取り次いでいる司令室のオペレーターが、不安げになのはを見上げている。

『──わかった。うちの隊ではMk76魔導榴弾を用意している、50メートルより離れていれば大丈夫だ。留意してくれ』

「了解です」

『私も君の骨を拾わなければならない事態は避けたい。十分に気を付けて』

「──ありがとうございます」

 なのはは官舎の外に出ると、すぐさまバリアジャケットを装着し、レイジングハートを起動させた。
 今回は飛行魔法を使い、現場に急行する。空中へ上がると、立ち並ぶビルの間から、火の手があちこちに上がっているのが見えた。
 地上を、砲撃魔法の火線が飛び交っているのが見える。あの様子だと、もはやこちらの魔導師は陣形を完全に崩され、乱戦になっている。
 連携を分断された魔導師たちは、やたらに砲撃を放っているが、数が多すぎるバイオメカノイドに囲まれて、一人、また一人と力尽きて飲み込まれていく。
 涌き出るワラジムシたちに集られ、人間はぐちゃぐちゃに踏み潰される。

 レイジングハートをしっかりと構え、なのはは全速力で飛び立った。



 ミッドチルダのはるか上空、クラナガンを真下に見下ろす静止軌道上に位置する時空管理局本局では、クラナガンに出現した大量のバイオメカノイドたちの追跡を行っていた。
 彼らは軌道上からでもその蠢きが見えるほど、広範囲に散らばり、そして密集していた。
 それは数十分をかけて、近くにいる個体同士が集まり、大きな群れをつくり、そして彼らはクラナガン宇宙港へ向かっていた。
 宇宙港へ向かおうとするのはワラジムシたちで、これは少なくとも1千体以上が出現している。
 数からして、カレドヴルフ社の貨物船でも積みきれない量だ。
 出動した魔導師たちからの、孵化したばかりのような小さな個体がいるという証言から、このワラジムシはCW社貨物船より解き放たれてからの数日間の間に、瞬く間に繁殖して数を増やしていったと推測された。
 ワラジムシの生態は本来の昆虫とほとんど同じであり、湿った薄暗い路地裏などに隠れ、捨てられた生ごみなどを食べていた。
 戦車型は、そのワラジムシたちを追い立てるように現れた。
 これは数が少なく、海に墜落した貨物船に隠れていたと思われる。
251 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:05:00.35 ID:d5iOIBxM
 バイオメカノイド同士が互いを攻撃しあう状態が起きているとの報せを受け、本局の作戦会議室では大慌てで対策が検討されていた。

「奴らの共倒れを狙うのは厳しいでしょう」

 集まった参謀のひとりが言った。
 レティも、宇宙港に集結している護衛艦群の指揮のため本局に戻っていた。

「戦車型については、ワラジムシを優先的に攻撃している状態です。
しかし如何せん数が多すぎます、このまま放置していれば30分とたたずに戦車型は全滅するでしょう。
そしてそれ以上に、中央第4区の街は破壊し尽くされます」

「しかしなぜメカノイド同士が攻撃しあっているのでしょう、敵味方の識別が狂っているのでは?」

「なんとも言えません、宇宙港での戦闘では使用することのなかった砲撃魔法を、今夜現れた戦車型は使用しています。
まるであのワラジムシたちこそが戦車型にとっての本来の攻撃目標であったかのようです。
宇宙港での戦闘では、彼らにとってはわれわれ人間が敵かどうか判断がつかないまま戦っていたのかもしれません」

「彼らにそのような知能があるとは思えませんな」

「どちらにしろ、今は出現したバイオメカノイドを掃討することが最優先です。
敵の性質上、作戦区域となる中央第4区は商業施設が多く建物が入り組んでいますから、魔導師による市街戦を展開するには厳しいものがあります」

「──となると、敵の殲滅を最優先に考えた場合、航空機による戦術爆撃しかありません。
もちろんその場合、中央第4区市街地への二次被害は避けられませんが」

「市民の避難は完了しているのですか」

「河川敷グラウンドと区立体育館に、それぞれ。今の時点で市街地に残っている人々は、救出は不可能と思われます」

 不可能とは、救出しようとすればもっと多くの犠牲が出るだろうということだ。一人を助けるために十人の犠牲が出るだろうということだ。
 そんなことをすれば戦闘員の数が減り、敵を倒すために必要な人数が足りなくなってしまう。

 通信ウインドウが開き、地上本部からの報告が上がってきた。
 面識のあった司令官で、レティは通信ウインドウを横から見る。

『首都防衛隊は爆装で出撃し、敵バイオメカノイドの掃討にあたっています。
上空から確認できる範囲では、現在の作戦区域に生存者はみられません。
──それから、戦技教導隊の高町一尉が、ちょうどわが基地に居合わせまして、応援に向かっています』

 レティは苦虫を噛み潰したような表情になった。この大事なときに、勝手な出撃をしてくれたか。
 なのはが出撃しているとあっては、大掛かりな爆撃ができない。
 おそらく彼女は地上に降りて戦うだろう。そうなったとき、まさか彼女ごと爆破するわけにもいくまい。
 いかに高町なのはであっても、航空機搭載型魔導爆弾の破壊力には生身では耐えられない。

「中央第4区の区長へは報告を?」

『先ほど行いました。“最も効率のよい作戦を”との依頼です』

「わかりました。我々管理局はその判断する最も効率のよい掃討作戦を展開しますと回答してください」
252 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:08:24.71 ID:d5iOIBxM
『イエスマム、アドミラル・ロウラン』

 敬礼でこたえ、司令官は通信ウインドウを閉じた。
 さらにレティは参謀たちに、現在クラナガン宇宙港に停泊している巡洋艦ヴォルフラムへ、その場で待機し絶対に動くなと重ねて伝えるよう命じた。
 数日前の大クモ出現のときも、はやては出撃できない自分にかなり苛立っていた様子だったが、今回までも、どうにか我慢してもらわないといけない。
 この戦闘を乗り切れば、ヴォルフラムを本局へ回航することができる。

 最悪はやてだけでも単独出撃を許可するか──と、そうレティが考えたところで、ヴォルフラムへの回線をつないでいた参謀が、八神艦長がレティ提督と直接話したいと言っていると、通信ウインドウをレティの席へ持ってきた。



 クラナガン宇宙港にも、はるか離れたクラナガン中央第4区での戦闘の影響か、焦げるような臭いの風が吹き込んできていた。

 八神はやてはヴォルフラムの露天艦橋に立ち、艦の指揮を任せたエリーに本局への通信を行わせていた。
 やがて、ちょうど参謀会議を行っていたレティ・ロウランとの通信がつながったとエリーから連絡が届き、はやては露天艦橋ウイングに設置された通信ウインドウのスイッチを入れた。

「──提督、見えてますやろ?私のカッコ」

 はやては既にバリアジャケットを装着した状態で露天艦橋の見張り台に立ち、いつでも飛び立てる状態で待っていた。
 画面の向こうで、レティが口元をゆがめるのが見える。

『しょうがない子ね、まあ私も貴女と同じことを考えていたわ』

「──止めても行きますよ。なんだったら憲兵隊廻してきてもいいです。機関止めた状態でも、対潜波動爆雷やったら撃てますから。
それで係留をぶっちぎります」

 いつにないはやての物騒な言葉に、近くの席で通信を聞いているであろう本局の参謀たちが青ざめる顔が目に浮かぶ。

『そこまでしなくても大丈夫よ。
八神二佐、私の権限で貴官に迎撃作戦を命じます。
“夜天の書”を使用し、クラナガン中央第4区における作戦区域内に出現したバイオメカノイドをすべて撃破してください。
既に戦技教導隊の高町一尉が向かっています。可能であれば彼女と合流し共同で戦線を展開してください。
今回出撃するのは貴官一人です。
現時刻より25分後、午前1時を期してミッドチルダ駐留航空団による戦術爆撃を中央第4区に対し行います。
それまでに戦闘終結が不可能であれば、直ちに離脱してください。
貴官もしくは高町一尉が作戦区域に残っている場合でも爆撃は行います。
回避照準はとりません、いいですね?』

 タイムリミットは25分。それまでに片がつかなければ、なのは、はやてもろとも爆撃で消し飛ばすという。
 民間市街地への爆撃、それも首都クラナガンに対しそれを行う。尋常ではない事態だ。

 もちろん、中央第4区の区長とて議会に諮ったりなどしたわけではないだろう。区役所の庁舎から現場を見て、それで判断した。

 この時間であれば、ミッドチルダ政府の招集も時間がかかる。現場の判断が一番早い。

 非難は免れないだろうが、それでも、あの化け物を一目見てしまったら、決断をしたくなる。
 あれは、ただのメカでも、ましてや害獣でもない。人間の力が及ばない、外宇宙よりもたらされた異質のモンスター・エイリアンだ。
253 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:12:09.01 ID:d5iOIBxM
 本局との通信ウインドウを閉じ、はやては艦橋内のエリーへ通信回線を開いた。

「聞いてたなエリー。私は今から行くで。留守番、きっちり頼むよ」

『任してください艦長。リィンちゃんにもよろしく』

「ああ──久々に全力や。援護頼むで」

『オーケーっす。レーダーで見るだけなら止まっててもできますからね、こっちでバッチリ、ナビします』

 電測室から、ヴィヴァーロ曹長も威勢のいい声を届ける。
 はやては夜天の書を起動し、メインメモリに術式をロードして、即時射撃のスタンバイをさせる。
 管制ユニットであるリインフォースIIは、現在は人工人格プログラムを起動せず、完全にデバイス内部での夜天の書とのリンクをとる状態にしている。
 夜天の書のような超大型ストレージデバイスを迅速に制御するには、フルサイズのAIを組み込み、WSO(兵装担当士官)のように作業をさせるのが適している。

「よっし──ナイト1、八神はやて、出る!」

 気合を入れ、はやてはヴォルフラムから発進した。
 重量級のバリアジャケットを加速させる飛行魔法は魔力光の余波を光の粒のように放出し、黒い翼を展開して羽ばたく。
 はやての使用するバリアジャケットは夜天の書の大出力魔法に耐えるため、通常の武装局員が使用するものよりも数倍以上の強度と装甲を誇る。
 並みの魔導師では維持することすらままならないほどに魔力消費は激しいが、そこははやての資質ゆえだ。

 黒き翼がクラナガンの夜天へ飛び立つ。
 それは神々の黄昏の幕開けであった。

「ヴォルフラムよりナイト1、発艦完了を確認。速度900まで加速──艦長、早速お客さんです。これは待ってたツラですよ」

 ヴィヴァーロが操作するヴォルフラムの魔導レーダーに、まるでタイミングを計っていたように、水平線の影から飛来する高速物体が捕捉された。
 すぐさまエコーパターンを照合する。

 その照合結果は、先日宇宙港上空で首都防衛隊と激戦を繰り広げ、そして今夜クラナガン上空に突如現れた、あの人型と一致していた。
 対空砲の能力をはかるようにしばらく飛び回った後海へ去り、今また再び現れた。

 惑星TUBOYで発見された謎の機動メカ、SPTエグゼクター。

 海面すれすれを飛んできた人型は、ぎりぎりまでレーダーの探査範囲外に隠れ、距離35キロメートルで出現した。
 水平線上に、ブースターユニットの青白い噴射炎が広がり、海面に反射して激しく瞬く。

 人型は宇宙港の手前で海面から上昇すると、ヴォルフラムの真上をフライパスしてクラナガンへ向かっていった。
 その先にははやての姿、そして炎上する中央第4区がある。

「艦長、人型がすごい勢いで追っかけていきます。あと20秒で追いつかれますよ」

『わかっとる、後ろがまぶしいわ。奴は何か打っとるか』

「アクティブレーダースキャナーを1秒に1回、きっちり走査してます。魔力量は380億、ガンガン出てます。
艦長の影がスクリーン上でかき消されそうです」
254 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:16:31.95 ID:d5iOIBxM
「こちらスピードスター、艦長、高度を下げてください。見つかるとまずいです」

『向こうはもうこっちを見つけとる。気にせず堂々としてるとこを見せる──あの人型が、ホンマに人間が操ってるモノやったらな──!』

 バリアジャケットによって空気抵抗から保護された空間の中で、はやての頬を冷や汗が流れる。
 もし人型が攻撃をかけてくれば、この距離でははやてであってもかわせるかどうか。
 レーザーならばシールドで防げるかもしれない。しかし高速徹甲弾は防御が難しい。
 あれはおそらく、波動制御機関から対生成によって核燃料をつくりだし、それを熱核タービンにかけることによって、弾体となるウランを無限に生産できる。
 残弾を気にする必要がなく、無限に撃てるマシンガンだ。

 はやての上方200メートルほどを、人型は猛烈な相対速度で飛び越していった。
 上空を通過する瞬間、はやては人型の両手に、それぞれハンドライフルが握られているのを見て取った。

 先日撃破したものとは別の個体だ。今回の人型は劣化ウラン弾の銃を二丁持っている。

『なのはちゃん、聞こえるか!そっちで生き残っとるのは何人や!』

 戦闘エリアへ近づき、はやては念話を飛ばす。
 あたりのビルがほとんどボロボロに倒壊している中、なのはは残っていた5階建てのショッピングモールの屋上から、ディバインバスターを撃ちおろしていた。
 弾丸に爆発属性を持たせ、ビルの階下に群がってくるワラジムシをまとめて吹き飛ばす。
 それでも、弾幕をかいくぐったワラジムシがビルの壁をよじ登ろうとしている。
 腹部の多脚で、ワラジムシはコンクリートの垂直な壁に張り付いて登ることができる。

『きてくれたの、はやてちゃん!この有様じゃ捜せないよ──ッ!!』

『何を捜しとる!?そのままそこにとどまってたってジリ貧やぞ!』

『ヴィヴィオがいるんだよ!今日、第4区に行くって言ったまま帰ってきてないんだ──!!』

『なんやて──ッ!!?』

 吐き捨てながら、はやてはフレースヴェルグを放つ。
 大口径魔力弾が掃射するように着弾し、地面を大きく抉りながらワラジムシたちを空中へ吹き上げて引きちぎる。
 加熱で地面が爆発し、あたり一面、バイオメカノイドの体液が流れ出して散らばっているのがわかる。

「なんちゅう無茶してくれとんやドアホウ!もうすぐ本局の爆撃機が来る!この第4区ごとバイオメカノイドを焼き尽くす作戦やぞ!」

「爆撃っ……それって!」

 なのはは振り返り、降下してくるはやての姿を見上げる。
 最大速度での飛行から、翼を広げて急制動をかけるはやての姿が、闇に羽ばたく黒鳥のように見える。

「どの辺にいるかわかるんか!?連絡は!?」

「わからないよっ!今日はリオの葬式で、携帯は持っていかなかったから──!」

「落ち着けや!なのはちゃんがパニクってどうするんや!探せるもんも探せんぞ!」

 なのははかぶりを振り、レイジングハートの加速レールをビルの天井に打ち付ける。
 レイジングハートの砲身は、限界を超えたディバインバスターの連射に、真っ赤に過熱していた。
 叩かれたコンクリートが、砂を破裂させて湯気を噴く。
255 [―{}@{}@{}-] EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:20:43.78 ID:d5iOIBxM
 教導官として経験を積んだなのはでさえ、冷静さを失ってしまうほどの状況。
 ヴィヴィオが行方不明であるという状態が、なのはの焦りにさらに拍車をかける。

「もしヴィヴィオがおるんならどっかで戦っとるはずや、その気配を探せ!大丈夫や、ヴィヴィオならやれる!」

「うん……はやてちゃん!」

 なのはとはやては二手に分かれて再離陸し、それぞれ別の方角から、上空捜索を開始する。
 すでに10分が経過し、爆撃機がクラナガンの南に現れた。
 あと15分で爆撃機編隊は第4区上空へ到達し、ありったけの魔導爆弾を投下する。

 はやてを追い越して飛んでいった人型が、地面に向けて実弾銃を撃っているのが見える。
 人型は、こちらもワラジムシに対して攻撃を行っている。
 しかし今は、共闘などといったことを考えている余裕はない。そもそも、あの人型に言葉が通じるかどうかもわからない。

 人型が旋回している、その真下のあたりから、突如として大量の魔力弾が打ち上げられた。
 人型に反応して応射したのか。それは普通の人間ではまず発現することのない、虹色の魔力光を放っていた。

「セイクリッドクラスター……!!」

 間違いない。あれはヴィヴィオの魔法だ。
 どうやってかはわからないがあれを撃ったということは、ヴィヴィオはまだ生きて戦っている。



 ほとんどが炎と瓦礫に埋め尽くされてしまった第4区の町。
 地面にはおびただしいワラジムシが蠢き、空には無慈悲な爆撃機が舞う。
 人々はもはやなすすべなく寄りかたまり、身を寄せあって怯えるのみ。

 撃墜された魔導師の死体から拾った標準デバイスを手に、ヴィヴィオはさらにカートリッジマガジンを装着した。
 弾さえあれば魔法を撃てる。術式のプログラムはセイクリッドハートのメモリから移してロードした。魔法はデバイスがあれば撃てる。
 火災の炎で大気がゆらめき、周囲を取り巻くワラジムシたちの姿が揺れる。

「ここは、どこなの──」

 ヴィヴィオは、自分の手にしたデバイスをワラジムシに向けて構え、きつく奥歯を噛み締めた。

 人間の姿が見えない。
 あたり一面、露出した砂利と鉄筋コンクリートの残骸しか見えない。
 炎を踏み潰しながら、ワラジムシたちが蠢いている。
 乗り捨てられた自動車に突っ込んだのか、オイルをかぶって背中に火がついた個体もいて、体節をくねらせてもがいている。

 ここはどこなんだ。自分はさっきまで、街にいたんじゃなかったのか?

 ここはもう、人間の住むべきところじゃない。

 バイオメカノイドから逃げ回っていた人々の悲鳴ももう聞こえない。
 炎が大気を揺さぶる風音と、遠くから響く砲撃魔法の発砲音しか、もう聞こえない。


256 [―{}@{}@{}-] Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/09/28(水) 23:28:02.83 ID:d5iOIBxM
第5話終了です

つ、つかれた(ゼェゼェ)

地球では色々動きが出てきたようです
エーックスファーイル
まあアースラのアルカンシェルもあの場所でぶっ放したら大変です
ジュエルシードは放射・・・やっぱり触ると禿げるといっていた彼の言葉は(汗)

ところでSTGにはナマモノ敵というのは定番なんでしょうか
ワラジムシは3面に出てくる・・・というか3面は全体的にナマモノばっかりです
取り説のステージ紹介には「警備ロボットが町を守っています」
・・・どうみても守れてませんが?(汗)
ドアを開けたとたん

   v         v
(((( ∴ ) カサカサ ( ∴ ))))カサカサ

ウギャー

ではー
257名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/28(水) 23:36:48.26 ID:zyVqY6yO
乙です
地球のほうも管理局の存在完全ばれてるなあ
しかし正体不明なことには変わらないからよけい不気味に見えるだろうな
そしてようやく影の薄かった主役メカが来た!
これで勝つる!
258名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/29(木) 00:16:59.69 ID:szQ5UJiD
おつです
259名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/29(木) 23:55:03.85 ID:FyNN4Mj1
乙です
でもこの管理局、侵略者以外の何者にも見えn・・・原作通りか
260名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/30(金) 06:28:03.20 ID:w/hjYiMd
↑どこを侵略してるの?
261名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/30(金) 12:17:16.54 ID:jQ1284VC
>>259が見ていた『原作』と俺らが見ていた『原作』は、どうやら違うものだったようだな
262名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/30(金) 20:10:36.99 ID:ZK3TxWcM
ビビオ覚醒に期待
263名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/30(金) 23:39:54.58 ID:riDDWu5L
>>261
地球側からってことじゃね
明らかに地球上で破壊を伴うなんらかの行為を行っているのに
その正体や尻尾がまったく掴めないから不気味この上ない
まさか善意で行ってたなんて考える奴なんていないだろうし
原作どおりかは知らんがw
264名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/01(土) 15:28:54.01 ID:0CYNMK5m
レイハさんぶつけないでw
265 忍法帖【Lv=4,xxxP】 緑お兄ちゃま ◆KAHO.JAv16 :2011/10/02(日) 14:37:02.44 ID:d2JrPyT2
PSPから書き込んだら二重投稿とかねorz
PHANTASY STAR PORTABLE2よりキャスト男性頂き
266名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/02(日) 14:38:27.16 ID:d2JrPyT2
ぎゃー、誤爆!
スレ汚し失礼しました。
267名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/03(月) 07:49:27.60 ID:Y2nVPbWC
ファンシースターか・・・
あの世界で真剣に『魔法』が如何こう言い始めたら爆笑されるか、病院連れてかれるか…
268名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/06(木) 20:02:10.76 ID:3i5VtnQ1
すっげえ今更だが

>>20
スカさんが実はオリ主の仲間で、オリ主にもう一回斬られて能力解けるんですね、わかります
269魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 10:52:58.05 ID:YtIMGV48
約二か月ぶりに登場いたします。
破壊大帝メガトロンVS高町なのは編がある程度目星がついたので、本日12:00に投下いたします。
270魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:04:37.63 ID:YtIMGV48
お待たせいたしました、続きをUPいたします。

「…!?」
突然スタースクリームが引き揚げた事に、なのはは首を傾げていると、彼女の真横で空間モニターが開いた。
「高町一佐、たった今聖王教会より魔神が飛び立ったと報告がありました!」
そう喋る、黒毛の目の大きいゴリラのような顔のオペレーターの緊張した表情から、なのははスタースクリームが引き上げた
理由と次に何が起こるかを悟った。
「狙いが私…ですね?」
言うべき事を先を取られたオペレーターは驚いたような表情を浮かべたが、すぐに平静に戻って話を続ける。
「は、はい! 八神一佐から高町一佐に攻撃目標が変わったと推測されます! 大至急―――」
「分かりました、直ちに迎撃に向かいます」
オペレーターの言葉を遮って、なのはは言う。
「え!? あ、あの…一佐…」
言葉に詰まったオペレーターが当惑した表情で周囲を見回すと、モニターの表示はゲラー長官に切り替わった。
「高町一佐、相手は君と同じオーバーSランクの聖王教会法王を苦もなく屠った化け物だぞ」
冷徹な口調で言うゲラー長官に、なのはは決然とした表情で答える。
「分かってます。ですが敵の狙いが私であるなら、もし引き上げた場合クラナガン市街への更なる被害が懸念されます。
その点、私が洋上に出て迎え撃てば、魔神の市街地への侵入は阻止できますし、万が一私が敗れればそれで満足して引き
揚げる事も考えられます」
「確証はあるのか?」
再度問い掛けられた時、なのはの中では迷いがあった。魔神の狙いと市街への被害について、そしてセクター7内で見た凍り
漬けの魔神が放っていた禍々しさに対する恐怖。
「あります!」
それらの感情を押し殺し、なのはは自信ありという態度で断言する。
一方、ゲラー長官も答えが出るまでの一瞬の間に、なのはの迷いと恐れを敏感に感じ取っていた。
そして、なのはの言葉にも理がある事を、相手が相手だけになのは以外では対抗する術がない事も、十二分に理解している。
「分かった、君に任せよう」
ゲラー長官はなのはの提案を受け入れると、念を押すように言葉を続けた。
「だが、決して無理はするな。勝てないと思ったらすぐに逃げろ、いいな?」
「はいっ!」
長官の言葉を受けて、なのはは力強く頷いた。
271魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:06:25.30 ID:YtIMGV48
ブロウルが次々とミサイルを発射すると、ティアナはバイクを急発進させて回避する。
目標を見失ったミサイルはそのまま路上や建物に命中して煙と破片を撒き散らす。
煙と埃で視界を遮られたブロウルに、ティアナから撃ち出された魔力弾が命中するが、ことごとく装甲表面で弾かれて傷一つ負わせる
事が出来ない。
弾は派手に飛び交う割に、状況はほとんど変化しないという奇妙な膠着状態に、ブロウルは苛立ちも露わに唸り声を上げる。
一方、ティアナの方は敵の注意を自分に引き付けて、市街地から廃棄都市区画へブロウルを誘導する…という作戦を立てて動いていた。
作戦自体は今のところ順調に行っていると考えてます差し支えなかった。
“セイン、あとどれくらい?”
先行して目的の廃棄都市区画までの距離を計測しているセインへティアナは問いかける。
“あと五分ほどです”
それを聞いたティアナの顔に笑みが浮かぶ。
“OK! 魔力の散布は既に十分だし、廃棄都市区画まで誘い込めれば―――”
ティアナの念話は、 セインからの悲鳴に近い警告に遮られる。
“し、執務官補! 未確認物体が一つ急速に接近中です!”
それと同時に、人型に変形したダブルフェイスが、うらぶれた雑居ビルを突き破ってティアナへ躍りかかる。
「!!」
いきなりの事にティアナが驚愕の表情を浮かべると同時に、乗っていたバイクが突然乗り手を空中に放り投げて上半身女性、下半身
車輪の機械人間に変形する。
人間に変形したバイクは路面スレスレまで身体を倒してダブルフェイスの下を掻い潜る。
攻撃をかわされたダブルフェイスは、そのまま派手に地面を転げまわる。
一方、女性型機械人間の方は再びバイクに戻って、真上に落ちてきたティアナを受け止める。
「え…!? え、ええ…!?」
突然の事に呆気に取られているティアナを乗せて、バイクは猛スピードで走り去る。
「“サイバトロン”…だと!?」
攻撃を避けられたダブルフェイスが、呻くように低く呟いた。
272魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:09:02.40 ID:YtIMGV48
洋上に出たなのはは、背後に拡がるクラナガン市街の方を振り向く。
市街のあちこちから煙が立ち上り、緊急車両のサイレンの音が遠く離れたなのはの耳にも聞こえてきた。
“マスター”
レイジングハートに促されて、なのはは海の向こうに再び目を向ける。
魔神の姿は見えないが、相手はこちらの姿を捉えて確実に近づきつつあるのが、皮膚越しにはっきりと感じ取れる。
なのはは、自分の手持ちのカートリッジの確認を始める。
レイジングハートには全6発中半分使ったカートリッジが1本、バリアジャケット内のアンモパウチには全弾装填されたカートリッジが
4本、普通なら戦うには充分だが魔神相手では心もとないように、なのはには感じられた。
“相手は聖王教会法王を屠った怪物…だったね”
なのははレイジングハートに話しかける、TTSによる、念話すら介さない直接の思考のやり取りなので、処理時間も速く、秘匿性も
段違いに優れている。
“はい、マスター”
“と…なると、長期戦は絶対に禁物、短期決戦で決着を付けなければならない”
“はい。それも全力を出せる一瞬の間で決するかと思います”
“瞬間で相手に総てを叩きつなければ、こちらに勝機はない…って事?”
“そうです、マスター”
“と、なると…”
会話を始めてから結論が出るまでにかかった時間はわずか一秒ほど。
レイジングハートが差し込まれたカートリッジを全弾ロードすると、なのはは次のカートリッジに交換する。
持てるカートリッジ総てを使い切ると同時に、“ブラスターモード”に移行したレイジングハートから左右大きな光の羽が二枚、上下に
四枚の羽根が現れ、“ブラスターピット”と呼ばれる金色に光る三角形の小型飛行物体がなのはの両肩に二機ずつ現れた。

オペレーターがなのはに告げる。
「魔神の到達まであと数分、視認が可能になります」
なのはが空を見上げると、遥かな高空から炎の塊が一つ、急速にこちらへと降下しているのが見えた。
“古代ベルカの驚異的な発展を可能にし、そして恐らく滅亡の本当の原因ともなった秘宝中の秘宝…”
“…死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る…”
なのはの中で、シモンズの言葉とカリムの預言がよぎる。
“レイジングハート…ホントにいい?”
死と隣り合わせの状況を前に、なのはは意思確認するかのようにレイジングハートへ話しかける。
“もちろんですマスター、あなたと私は死ぬまで一緒です”
レイジングハートからの、主と運命を共に出来る事を喜ぶ返事に、なのははわずかに表情をほころばせた。
273魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:11:19.51 ID:YtIMGV48
「高町一佐! 魔神は既に攻撃可能範囲に入っています!」
オペレーターが呼び掛けても、なのははレイジングハートを構えたまま、身動き一つ取らない。
「いったい何を考えて…!」
「…自殺でもする気か?」
「待っているんだ」
騒ぐ幕僚たちを制するかのように、ゲラー長官の言葉が重く響いた。
それを聞いた幕僚たちは、水を打ったかのように静まり返り、長官に目を向ける。
「相手が相手だけに長くは戦えない…となると、ギリギリまで引きつけて短時間、それも一瞬で全力を叩きつけて倒すつもりだろう」
それを聞いた幕僚たちの視線は、再びモニター上のなのはに集まった。

初めは小さな流星だった魔神の姿は、降下するにつれて大きくなり、今や天をも焼き尽くさんばかりの劫火となって、なのはを
押し潰さんばかりに迫ってくる。
“400km…350km…300km”
レイジングハートは魔神の姿を視認すると同時に、距離を計測してなのはに伝えている。
並みの魔導師なら逃げ出すか気を失うような凄まじいプレッシャーがかかる中、なのははレイジングハートを握り締め、魔神から
視線を外さない。

なのはの様子を見たメガトロンは、ニヤリとほくそ笑むと更に加速とプレッシャーをかける。

“100km…50、40、30…10、9、8…”
距離が二ケタを切っても、なのははなおも動かない。
“…1”
レイジングハートがそう告げた時、なのはは遂に自らの切り札を出した。
“スターライトブレイカー”
次の瞬間、レイジングハートとブラスターピットから桜色の目も眩むような強烈な光が溢れ出し、なのはの眼前に迫った魔神を
包み込む。
光の勢いはそれで減じる事はなく、そのまま空を駆け昇り、成層圏を突き抜け、そして…。

「スターライトブレイカー、月面に着弾しました」
NMCCでは、恐竜のような長い首に赤いつぶらな瞳のオペレーターが、茫然とした表情で報告する。
「魔神が完全に破壊されたかどうか、大至急確認させろ」
額から角が二本生え、めくれ上がった唇から牙が露わになった幕僚が指示を出すと、オペレーターは真顔に戻って空間モニター
を開く。
「どう思いますか?」
ヘルメットを被った女性幕僚がゲラー長官に尋ねる。
「普通に考えれば、これで一件落着…と言いたいところだが…」
長官の後を継いで、ゲンヤ少将が続ける。
「相手が相手だけに、油断は禁物ですな」
274魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:12:56.07 ID:YtIMGV48
レイジングハートが排気してアクセルモードに戻ると、持てる力総てを出し切ったなのはは、グラリと体勢を崩す。
深呼吸して体を落ち着かせようとするが、そんな努力を裏切るように激しい動悸と嘔吐感が襲う。
少し落ち着いてから空を見上げると、魔神の姿は見当たらない。
なのはの顔にかすかに安堵の表情が浮かんだ。

一方、本局の方では幕僚たちが緊張した面持ちで、月面の状況の報告を待っていた。
「このまま完全に破壊されてればいいが…」
幕僚の一人が言うと、もう一人が首を横に振りながら言う。
「あんまり過大な期待はしない方がいいが、せめて動けなくなるぐらいならば…」
幕僚たちの希望的観測には意に介さず、ゲラー長官は無言で席に座っている。
空間モニターが開いて、幕僚たちの議論が途絶える。
「各地の観測所の報告を総合した結果、月面上には残骸も何も確認できません。
蒸発したのでなければ、まだ動いている可能性が」
その報告に、場の空気が一気に凍りついた。

同じ時、なのはも突然膨れ上がる殺気を感じ取った。
「マスター!」
レイジングハートからの警告を受ける前になのははプロテクションを展開する、と同時に足元の海から大きなエネルギー弾が
なのはを襲う。
プロテクションで辛うじて防いだものの、それで複数張ったシールドは完全に砕け散ってしまう。
続いて二発目が撃ち込まれ、これはなのはを直撃して体を宙へ舞い上げる。

「貴様の力、その程度か!」
その声と共に海を裂いて魔神が空へと躍り上がる、名前の由来となった銀色に輝くボディには傷一つ見当たらないない。
「よく見ておけスタースクリーム、本当の体当たりとは、このようにやるのだ!」
魔神はそう言いながら右手を伸ばして落下するなのはを掴むと、ゆりかごに変形して猛スピードでクラナガン市街へと飛ぶ。
275魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:19:48.16 ID:YtIMGV48
本局NMCCは、魔神が無傷で現れた事で大混乱に陥っていた。
オペレーターも士官も幕僚も、みな空間モニターに怒鳴り声を上げ、右往左往する。
「オペレーターに魔神がどこへ向かってるか至急確認させろ!」
そんな状況の中、ゲンヤ少将は近くで茫然と立っていた、赤い顔に長い花をした士官の襟首を掴んで大声で指示を出す。
命令を受けた士官は我に返ると、NMCCへ駆け出してオペレーターの一人にそれを伝える。
オペレーターは周囲の同僚にも協力を仰いで、なのはと魔神が戦った位置と現在位置を基に進路上にある大きい建造物を調べて
行く。
「本局か!?
「いや、それなら進路は少し北にずれてないか?」
「と、なると…」
少し議論した後、オペレーターは結果を士官へ報告した。
「目的地は本局、または次元世界貿易センタービルと見られます」
次元世界貿易センタービルとは、本局に次ぐ750階という高さを誇る高層建築物で、複数の世界で活躍する多国籍企業の多くが
本社機能を持つオフィスを構える、次元世界の経済の中枢とも言える建物である。

「マスター、魔神は次元世界貿易センタービルに向かっています!」
レイジングハートがなのはに状況を伝えるも、スターライトブレイカーで全力を出し切った事に加え、先程の攻撃によるダメージで
身動きすらままならない。
意識が途切れそうになるのに必死で抗いながら、なのはは魔神の向かう方向へ顔を向ける。
ビルが急速に近づいてくるのを見た時、何も出来る事がない事をなのはは悟った。
せめてダメージだけでも最小限度に抑えようと、なのはは残る力をフルに使ってプロテクションを幾重にも展開する。
総ての力を使い果たしたなのはが意識を失うのと同時に、魔神はセンタービル529階のフロアに突っ込んだ。
276魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS:2011/10/08(土) 12:23:03.66 ID:YtIMGV48
今回はここまでで終了です。
間隔がかなり空いてしまってますが、頑張って書いて行きますです。

今回のオリキャラ元ネタ集

●黒毛の目の大きいゴリラのような顔のオペレーター:『SF ゾーン・トゥルーパーズ』(1984 アメリカ)
●恐竜のような長い首に赤いつぶらな瞳のオペレーター:クリーチャー『クリーチャー』(1985 アメリカ)
●額から角が二本生え、めくれ上がった唇から牙が露わになった幕僚:アキロンの大王『デモンズ』(1985イタリア)
●ヘルメットを被った女性幕僚:デビルガール『火星から来たデビルガール』(1954 イギリス)
●赤い顔に長い花をした士官:天狗
277Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 18:25:03.70 ID:N8w8eq2i
どうも乙ですー

さて私もEXECUTOR第6話を21時半ごろから投下します

いろいろな情報を収集しさるさん対策をとっていざ…!
そういえばメタルギアなのはでピポサル回収を命じられたフェイトさんというネタが…まさか、ジュエルシードの正体は(汗)
278EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:30:38.33 ID:N8w8eq2i
■ 6



 頬を焼くような炎の熱を感じながら、ヴィヴィオはゆっくりと歩を進める。
 歩くたびに、舗装を失って砂と土がむき出しになった地面に靴が沈み込む。
 クラナガンの土壌は広大な堆積平野なので、地盤は比較的やわらかい。
 このような地面では、踏ん張りがききにくく、敵が攻撃してきたときにとっさの回避が難しい。
 足の踏み切りを使わず、飛行魔法を短距離ダッシュに使うやり方が必要になってくる。

 あちこちに、ワラジムシに襲われて壊れた家屋や自動車の残骸が燃えている。
 街灯は押し倒され、ランプが割れて中のフィラメントが溶け出している。

 コンクリートの破片にかじりつくようにしてワラジムシが動いている。これだけ火災が至るところで発生していると、敵も目標がわからなくなるようで、戦車型もワラジムシも、周囲をうかがうようにゆっくりと動いている。
 敵が何を情報収集の手段にしているか──視覚なのか聴覚なのか、さらには視覚であっても可視光なのか赤外線なのか紫外線なのか──わからないが、少なくともこの状態では、敵もヴィヴィオを見つけにくいようだ。

 目の前にいて尻尾側を見せているワラジムシに、距離およそ10メートルでヴィヴィオはデバイスを向けた。
 管理局首都防衛隊の一般隊員魔導師に配備されている標準デバイスは、9ミリ程度の小口径弾の連射と、チャージしてからの炸裂弾を撃ち分けられる。
 バイオメカノイドには、小口径弾はほとんど効かない。体格が大きいため、人間相手であれば十分な制圧能力がある威力の弾丸でも、動きを止めるには至らない。

 ある意味暗黙の了解である。魔導師が使うデバイスや魔法は、人間に向けて使うことを想定しており、それ以上の大型機械や大型生物を攻撃する目的では作られていないのだ。
 ましてや地域警邏が主任務となる地上の魔導師は、犯人の殺傷ではなく制圧を目的とするので魔法の威力はさらに制限される。
 第97管理外世界でも、たとえばアメリカの警察官が市街地を逃走する犯人に向けてM79グレネードランチャーやデザートイーグル50A.E.を発砲することはない。

 セイクリッドクラスターの術式を流し込み、散弾を放つ。反動が大きく、しっかり構えないと腕がもっていかれそうになる。
 放たれた虹色の魔力弾は、ワラジムシの背中を叩くように命中し、体節をつくっている外骨格が割れて、一部が飛んでいった。
 背中に穴の開いたワラジムシは、ゼリー状の体液を垂れ流し、もがいている。
 穴の開いた部分を狙ってさらにセイクリッドクラスターを撃つ。ワラジムシの体内に飛び込んだ魔力弾が、外骨格の内側で跳ね返りながらワラジムシの内臓を引き裂く。
 動かなくなったワラジムシは、すぐに体液に引火して爆発を起こす。既にヴィヴィオが歩いてきた道すじには、撃破したワラジムシの死骸がいくつも、悪魔召喚の儀式に捧げられた生贄のように炎をあげていた。

 立ち上る煤煙と、散らばる瓦礫で、周囲はまったく見えない。ここがクラナガンのどのあたりなのかも判別ができない。
 今日の空は曇りで、街の灯りが雲を淡く光らせていたはずだったが、今は雲が火災の炎を反射し、不気味に赤黒く染まっている。

 拾った標準デバイスで当初はディバインバスターを撃とうとしたが、負荷が大きすぎて耐えられなかったのか、デバイスがバックファイアを起こして壊れてしまった。
 セイクリッドクラスターでも、数発も撃つと銃身がガタガタになってしまうので、見つけた限りのデバイスを何度も持ち替えながらヴィヴィオはここまで来ていた。
 バリアジャケットはダメージの蓄積で破損し、下に着ていたコートも袖口が焦げている。
 セイクリッドハートも過負荷によって外装のぬいぐるみが半分ほど燃えてしまい、中の結晶体がむき出しになっている。

 それでも、うさぎは残った半身で、健気にヴィヴィオを励ましていた。

「駅まで、行けば……!」

 痛みをこらえながら、前を見据える。
 ディバインバスターの発砲に失敗したときのバックファイアを腕にもろにかぶったらしく、左の手首がひりひりする。火傷は軽くはないはずだ。

 鉄道網は激甚災害が起きた場合を考慮して、設備は頑丈に作られ堅牢な連絡手段も備えられていると、なのはから聞いたことがあった。
279EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:34:04.52 ID:N8w8eq2i
 クラナガンのような建造物が密集する大都市ともなれば、ひとたび災害が起きた場合の被害も甚大なものとなる。
 ハリケーンや竜巻といった気象災害、地震などはクラナガンは比較的少ない土地だが、広がりすぎた都市開発の手は各地で計画のゆがみを発生させ、工事が止まったまま放置された地区や、交通網の整備の遅れからゴーストタウンと化して荒廃した地区があちこちにある。
 ミッドチルダ政府は、主要幹線を緊急時の軍事連絡線として使用するプランを持っており、クラナガンの都市開発に反映されていた。
 ヴィヴィオはその話をなのはから聞いたことがあり、中央第4区にある駅のひとつがその路線に該当していることを思い出していた。

「打ち上げればっ、きっとママが見てる──!」

 デバイスを空にかざし、発砲する。
 空に舞うのは、本局の魔導師だろうか?それとも、飛行型のバイオメカノイドだろうか。

 それでも、誰でもいいから気づいてほしい。

 その願いをこめて、ヴィヴィオはセイクリッドクラスターを撃ち放った。



 夜のクラナガンに浮かぶ大火災の光は、遠くベルカ自治領からも見ることができていた。
 ちょうどクラナガン上空に雲が出ていたため、雲の水滴によって光が拡散され、地平線の向こうが赤く染まっているのが見えたのだ。

 報告のために執務室を訪れたシスター・シャッハは、緊急電話でどこかと話しているカリムの姿を認めた。

「──はい、はい。こちらでも確認しました、内容については後ほど──承知しております。ただちに騎士団を召集し諮ります──はい。わかりました──そのように。では一旦──」

 カリムは通話を終え、震えるような重いしぐさで受話器を置いた。
 彼女が、これほどまでに動揺を見せるのは初めてのことだった。騎士団を召集、という言葉から、事の重大さをシャッハは察していた。

「騎士カリム──」

「聞いていましたか。──たった今、聖王陛下がクラナガン中央第4区で消息を絶ったと連絡がありました」

 シャッハは絶句した。
 今、外で見てきたクラナガンの空は、戦争でも始まったかと思えるほどに、炎で赤くなっていた。
 この聖王教会とクラナガンは、距離にして140キロメートルも離れている。
 にも関わらず、明るさだけでなく範囲も、小都市ほどの広さの範囲が炎上しているのが見て取れる。

 火災が市街地で起きているのなら、市民への被害は想像を絶するものがあるだろう。
 そして、犠牲になった人間たちの中に、自分たちが神のように奉る聖王が、含まれているかもしれない──。

「陛下はっ──」

「虹色の魔力弾を見たという、本局所属魔導師の報告が来ているそうです。希望はあります」

 シャッハの声をさえぎるように、カリムは言葉を振り絞った。

 そうだ。希望を捨ててはいけない。
 ヴィヴィオは、生きている。生きて、戦っている。

 報告に行ったはずのシャッハの様子を見に来たのだろうか、教会のシスターたちが、執務室の前に集まっていた。
280EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:38:34.45 ID:N8w8eq2i
 誰もが、不安な面持ちでカリムを見ている。
 カリムが、次にどんな言葉を紡ぐのかを傾注している。

 たったひとつの言葉で、多くの人間の心が動かされる。

 王とは、人を支配する者とは、そのような存在なのだ。

 たとえ無意識であっても、被支配者であることを意識せずとも、人々の心の拠り所というのは確かに存在する。
 それはなにも特定の個人とは限らない。思想であったり、意志であったり。それは無機物でもない、自分の意志でもよい。
 ヴィヴィオは、そんな気持ちを、幼い頃から持っていた。

 聖王の資質の本質とはそこにある、と、カリムは考えていた。

「──すぐに教会本部の騎士たちを集めてください。時空管理局に対し、聖王教会の公式声明を出します」

 はい、と、可憐にも健気な返事をしてシスターたちが寄宿舎に走る。
 彼女たちを見送った後、シャッハは再びカリムに向き直った。

「シャッハ──聖王は、わたしたちの希望です。希望を失った人間が生き抜いていくことはできません」

「────はい」

 聖職者といえども、支配者の試練から逃れることはできない。
 神はすがるためにいるのではない。人が人を導くために、生きる指針とするためにいるのだ。
 けして、天の上から救いをもたらしてくれる存在ではない。
 神は、人が自ら見出さなくてはならない存在なのだ。

 その覚悟無しに、聖職者になることはできない。
 聖王教会に帰依するとき、カリムがひとつだけ、曲げてはならない戒律として教えたことだった。

 その覚悟を試されるときが来たのだと、シャッハは胸に重しがかかっていくのを感じていた。



 クラナガン中央第4区では、出動した魔導師たちからの報告を管理局本局へ転送すると同時に、聖王教会へも情報共有を行っていた。
 エースオブエース、高町なのはが出撃しているという報せは出動した地元魔導師からももたらされ、さらに、本日第4区にいて事件に巻き込まれた市民の中に、彼女の娘、高町ヴィヴィオがいるということも、避難誘導にあたっていた警察官の一人から報告が上がっていた。
 高町ヴィヴィオという14歳の少女が、聖王教会が擁する聖王の血を引く人間、聖王ヴィヴィオであるという事実はもはや、ミッドチルダの国民にあっては公然の秘密である。
 人々は、特に意識せず接していても、彼女が、ヴィヴィオが聖王たる者であることは紛れもない事実だ。

 聖王教会からは、対応を検討するという返事をもらった。

 これが管理局の進める作戦に影響を及ぼすことは確実だ。
 市民の安全を守るための作戦ではあるが、もし聖王に被害が及んだことが明るみになれば、第4区、そして管理局への批判は避けられない。

 いかに管理局といえども、市民の支持なしには存続できない。

 必然的に、聖王の捜索及び救助を作戦目的に追加しなくてはならなくなる。

 管理局所属の爆撃機部隊は既に発進し、クラナガンを射程におさめている。
 彼らを呼び戻すか、攻撃待機を要請するか──。
 爆撃機は絶大な攻撃力を持つ魔導爆弾を搭載できるが、その攻撃力の代償に、人間の魔導師に比べると機動力が著しく劣る。
 いったん攻撃を中止させてしまうと、再攻撃に向かうまでに時間がかかる。

 聖王を救助後に再攻撃とした場合、どれほどのタイムラグが生じ、そのタイムラグによってどれだけの被害が増えるか。
281EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:43:49.49 ID:N8w8eq2i
 どのような選択をとっても、失敗が露見する可能性はある。
 言ってしまえば、聖王の身辺を警護できなかったのが既に失敗であるとも言える。

 しかし、その選択をしたのは彼女、ヴィヴィオ自身である。

 ならば、彼女は自分の選択によってこのような事態になることも、想定しているではないか?
 いや、想定してしかるべきであろう。また、彼女が生きていればそのように命令を下しただろう。

 クラナガン中央第4区の区長は、時空管理局本局への、再度の要請を行った。

 ──“バイオメカノイド掃討作戦に変更を認めず。爆撃隊は予定通り第4区上空への進入を許可する”──。

 本局へ依頼を上げたという報告は、同時に聖王教会本部へも送られた。



 クラナガン宇宙港への進撃を続けるバイオメカノイド群をはやては追い、なのははヴィヴィオがいると予想されるエリアへ急行していた。

 虹色の魔力光を放つ散弾は、間違いなくヴィヴィオの魔法、セイクリッドクラスターである。
 散弾を撃つだけなら市販の術式にも存在するが、虹色の魔力光──カイゼル・ファルベというのはヴィヴィオだけにしか出せないものだ。
 少なくとも、今まで虹色の魔力光を発現させた人間は聖王の血筋の者しか知られていない。第4区の住民で虹色の魔力光を持つ者はいないはずだ。

 出撃している爆撃機は、GBM-37魔導爆弾を搭載している。
 これは爆風が地面と水平に広がる特徴を持ち、特に広範囲の対地攻撃に適している。
 たとえば広い平原に展開している敵部隊などを攻撃するのに使われたりするが、このような市街地に向けて投下した場合、障害物に隠れた敵にも爆風が回り込んで到達するため、逃げ場のない確実な攻撃ができる。
 管理局直属部隊に配備される魔導爆弾の中でもかなり大型の機種であり、炸薬重量は500ポンドである。
 500ポンド(約225キログラム)の魔力結晶に封入されたエネルギー量はロストロギア・レリック1個分に相当する。
 爆撃機はこのGBM-37を1機あたり4個積むことができる。6機の編隊を組めば、24個ものレリックが同時に爆発したのと同じ破壊力を発揮できる。
 これだけの威力ならば、およそ5キロメートル四方の広さを持つ中央第4区のどこにバイオメカノイドが隠れていたとしても、一匹も逃さず殲滅できるだろう。

 あくまでも威力ではなく攻撃目標によって区別される。
 バイオメカノイドは地上歩兵扱いなので、それに対して行う爆撃は戦術爆撃であるということだ。

 これだけの爆弾で攻撃されたなら、自分はもちろんヴィヴィオも、はやてでさえ、耐えられないだろう。
 爆発に巻き込まれればまず命はない。
 これまでの管理局の作戦方針から考えるに、爆撃機は自分たちがいても構わず攻撃を行うだろう。爆撃機が到達するまでに、ヴィヴィオを発見し、救出して離脱しなければならない。

 セイクリッドクラスターが発射された地点は、中央第4区のターミナル駅に近い場所だった。
 この駅は幹線が通るため施設自体が大きく、目印になる。
 ヴィヴィオも、戦い方を自分なりに見つけている。

「!ヴィヴィオ──!」

 空から見下ろすと、数匹のワラジムシがなにかを取り囲んでいるのが見えた。
 彼らに囲まれた中にきっといる。

 なのはが低空へ降りようとしたとき、突如、上方から空気を裂く超音速弾の飛翔音が疾った。

 とっさに見上げると、あの人型がなのはの上空50メートルほどに滞空していた。
 姿勢制御用の小型バーニアをふかし、空中で停止している。
 近づくと、非常に強い魔力を感じ取れる。
 さっきまで気配がなかったのは、おそらくエンジンを止めて隠れていたのだ。

 人型が撃った弾丸は、ワラジムシたちを貫いて地面に突き刺さった。
282EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:46:14.34 ID:N8w8eq2i
 索敵魔法を発射し、弾丸を分析する。弾体はウラニウム・ペネトレーター(劣化ウラン弾芯)であり、炸薬は組み込まれていない。
 純粋に、命中時のメタルジェットのみで攻撃する徹甲弾である。ウランを徹甲弾の侵徹体に用いた場合、命中時に発生する高熱によって燃焼し、焼夷効果を発生する。
 ここでいう燃焼するとは核分裂ではなく、空気中の酸素と反応して酸化ウランになるということである。
 これはもちろん対人射撃では全く意味のない設計であるが、バイオメカノイドを相手にした場合、金属の外骨格を貫通した後、1200度以上の高温で燃えるウランの粒が体内に飛び散ることになり、非常に高い破壊効果がある。
 有人搭乗型の兵器でも、装甲を貫通した後で機体内部ないしコクピットに大量の焼夷弾をばら撒くような効果がある。

 人型の放つ徹甲弾を喰らったワラジムシたちは一撃で戦闘力を失い、爆発していく。

 周囲に群がるワラジムシたちが瞬く間に倒され、ヴィヴィオも人型の存在に気付いた。
 なのはの姿を見つけ、安堵するように地面にへたり込んでいる。

「後ろ!危ない!」

 叫ぶ。
 生き残っていた戦車型の一体が、瓦礫を押しのけて這い出し、ヴィヴィオの背後に迫っていた。
 これまでの動きを見ている限りでは、戦車型はワラジムシを優先的に攻撃している。
 だが、この戦場の混乱では、おそらく戦車型はヴィヴィオとワラジムシの区別が付いていない。バリアジャケットに浴びた返り血を、ワラジムシと誤認している。

 腕を振り上げ、その先端に魔力の収束が出現する。
 戦車型の砲撃は、人体を軽々と粉砕する威力がある。
 今のヴィヴィオは聖王の鎧を持っていない、普通のバリアジャケットしかない。戦車型の砲撃を防御できない。

 なのはは全力で飛んだ。
 声が出ていたかもしれない。叫んでいたかもしれない。
 バリアジャケットが空気を押しのける圧力で、自分の声が聞こえなかった。自分の声がヴィヴィオに届いたかどうか分からなかった。

 アクセルフィンによるダッシュと同時にラウンドシールドを起動するが、展開が間に合わない。
 左腕に出現する魔法陣の描画がもどかしい。魔力の配置と展開が、過負荷によってクロックダウンしたレイジングハートでは追いつかない。
 それでも、ヴィヴィオをかばい、戦車型の砲撃の射程をさえぎる。

「ママ──っ!!」

 やや遅れて反応し、背後を振り返ったヴィヴィオは、眼前すぐそばで大爆発が起きるのを見た。
 迸るエネルギーが顔を掠め、強烈な運動エネルギーと熱量を持っているのが感じ取れる。
 まばゆい光に包まれる影が、なのはの身体であるのを見て取った。

 瞬間の後、爆風がヴィヴィオの身体を打ち据え、ヴィヴィオはその場に突き倒されたようにしりもちをついた。

 バリアジャケットの破片が、桜色の魔力光を放ちながら散らばっている。

「……!ママっ!ママ、しっかりして……!」

 黒い土とアスファルトの向こうに、栗色の髪が見えた。
 髪は、白いリボンでまとめられている。土をかぶっているが、白いバリアジャケットが見える。

 跳ね返るように起き上がったヴィヴィオは、地面に突っ伏したなのはに駆け寄った。
 ヴィヴィオをかばった左腕が、バリアジャケットを大きく破損させて傷口を開けている。飛び散った砂や礫が肌を切り裂き、なのはの左腕はみるみる血に染まっていく。
 直撃はかろうじて避けたが、高圧プラズマの塊は強力な運動エネルギーを持っている。血で輪郭がぼやけたなのはの左腕は、おそらく手首が砕けている。
 レイジングハートは機関部に被弾し、コアが動力を低下させて明滅している。加速レールは根元から折れ、もはや発砲は不可能だ。

 見上げると、戦車型はなのはたちの様子を伺うようにゆっくりと前進している。
 目標の継戦能力がなくなったかどうかを確かめようとしている。

 もし妙な動きをすれば、戦車型はただちにとどめをさそうと追撃してくるだろう。
283EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:49:39.51 ID:N8w8eq2i
 夜空に浮かび上がった中央第4区のビルは、そこかしこを戦車型の砲撃で打ち抜かれ、まるで巨大な虫食いのように穴だらけになっている。
 あんな砲撃を生身で食らえばひとたまりもない。

「ママっ、起きて、敵が来る──!」

 なのはの肩を揺さぶり、ヴィヴィオは呼びかけた。

「ヴィ……ヴィオ……」

 空中から飛び込んできた勢いを受け流す余裕も無かったのか、地面に激突したなのははぐったりとして起き上がれない。
 顔には泥と血糊が混ざって絡みつき、見慣れた優しい母の表情は見る影もない。

「にげて、……爆撃機が、来る……」

「ママッ!」

 高町なのはをしても、これほどまでに消耗させられてしまうほど敵の勢力は多いのか。
 もうクラナガンは、町全体がバイオメカノイドに占拠されてしまったのだろうか。
 コロナも、アインハルトも、フェイトも、スバルも──みんな、バイオメカノイドにやられてしまったのか。

 地面にうずくまるなのはの姿に、ヴィヴィオは自分の中の世界が崩れていくのを感じていた。
 今まで、母は誰よりも強い頼りになる人間だった。いつも自分を守ってくれた存在だった。
 それが今は、傷つき、地に伏している。彼女が勝てない存在が現れている。

 戦車型が地面を踏みしめる音が聞こえる。
 もうこっちを見つけている。逃げることはできない。

 約束したはずだ。
 いつかママを守れるようになると。

 どんな人間でも時の流れには勝てず、衰え、弱っていく。

 そうなったとき、もっと若い人間である自分が、大切な人を守れるようになるべきである。

 ヴィヴィオはその思いから、ストライクアーツを学び始めた。
 なのはを守れるように。
 それは、こんな日がいつか来ることを、わかっていたはずではなかったのか。

 リオを、守れなかった。

 そしてまた、なのはも、守れないのか。
 目の前で母が死んでいくのを、何もできず見ているしかないのか。

「くっ……!レイジングハート!!」

 足を踏ん張って立ち上がり、ヴィヴィオはレイジングハートをつかんだ。
 コアはまだ動力を保っている。
 レイジングハートは、まだ幼い頃、魔法の練習を一緒にやったことがある。そのときに、色々な魔法を実際に使ってみたことがある。感触は、まだ覚えている。

「レイジングハート、お願い──ママを助けて!!」

 術式は既に起動した状態になっている。ヴィヴィオは片側だけになったレイジングハートの砲身を、目の前の戦車型に向ける。
 破損したレールから漏れ出すエネルギーを押さえこみ、魔力を結集させていく。

「ディバインッ!バスタアアアッッ!!!」

 掲げた腕の先から、極彩色の大口径砲弾が撃ちだされるのを、ヴィヴィオはしっかりと見ていた。
284EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:53:02.15 ID:N8w8eq2i
 管理局の爆撃機編隊はクラナガン上空に達し、第4区上空まであと2分の距離に到達していた。
 空中警戒レーダーでは、問題の人型メカが、第4区ターミナル駅付近で地上へ降下したのを最後にロスト(失探)していた。
 爆撃任務を行う航空機であるという性質上、搭載されるレーダーは地上の詳細な地形や移動物体を走査できる、ルックダウン能力に優れたものであるが、それでも人型は地上に降りてから、爆撃隊の追跡を振り切っていた。
 あの人型の搭載兵装はいずれも速射性能にすぐれ、機動による回避は難しい。
 爆撃機は戦闘用航空機としては防御力が高い方だが、それでも集中して撃たれればどれだけ耐えらえるかというのは未知数である。

 爆撃機編隊の編隊長は、進入高度を500メートルにとるよう各機に指示した。

 今回の作戦では敵が対空攻撃能力を持っているわけではないので、ぎりぎりまで低空を飛び、爆撃の精度を高める。
 地上に展開している首都防衛隊の魔導師から、ワラジムシたちが川沿いに進攻しているとの報告が届いていた。

 爆撃隊は川に沿って飛び、なるべく周囲に建物のない、巻き添えを少なくできる攻撃ポイントを狙う。

 GBM-37の破壊力では、爆心地から半径20メートルの範囲のいかなる建造物も全壊し、一般的な鉄筋コンクリート造のビルであれば半径300メートル以内で損傷する。
 軽車両や歩兵などのいわゆるソフトスキン(柔目標)に対しては、危害半径は600メートルとなる。
 レリックを比較に挙げれば、燃料を満載した旅客機などが停泊する民間空港であれば2発、ダメージコントロールを考慮した軍用空港であっても滑走路に3発直撃すればその機能を完全に失わせることができる計算になる。

 これまでの戦闘の分析では、バイオメカノイドは金属外皮なりの防御力は持っているが、装甲と呼べるほどには堅固でないとの結論が下されていた。
 銃砲やアームドデバイスによる直接攻撃よりも、爆弾による広域攻撃が効果的であるということになる。

「機長、あれを見てください」

 爆撃機の操縦士は、第4区のターミナル駅付近に吹き上がった巨大な魔力光を目撃した。
 魔力光の色は虹色である。

 大出力砲撃魔法が発射され、バイオメカノイドが多数破壊されたことを示す、連鎖的な小爆発が発生している。

「聖王陛下がおられます」

 投下ポイントからは、およそ200メートル程度離れている。
 このまま投下すれば、魔導爆弾の爆風に巻き込まれてしまう。

「司令部からの命令に変更はないか」

「はい。先ほど、第4区区長から、予定通り攻撃を行えと要請が入っています」

「了解──」

 管理局や、ミッドチルダなどの先進国軍で使用される爆撃機は、与圧のための機械用バリアジャケット、放射線防護、さらに搭乗員が着用するバリアジャケットなどで、機内は幾重にも張り巡らされた魔力防壁に包まれている。
 位相変換境界を肉眼でも見ることができ、サイバースペースにいるような、一種独特の雰囲気がある。

「バイオメカノイド群の集結を確認、先頭はメープル川河川敷第16突堤付近」

「攻撃ポイントまであと1分、各機ウェポンベイ開口せよ」

 爆撃機の腹が開き、ランチャーに魔導爆弾がセットされる。
 4発の爆弾は一航過で投下される。
 爆弾には軌道を安定させるための尾翼が付いているが、万が一、落下時の姿勢がぶれて誤爆しないとも限らない。
 操縦士は機体が急な動きをしないよう慎重に操縦を行い、投下手はランチャーのスタビライザーを油断無く点検する。
285EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:56:22.69 ID:N8w8eq2i
 投下30秒前、攻撃ポイントの最終確認が行われ、爆弾の安全装置が解除される。

 これにより、弾体に装填された魔力エネルギー結晶は、着地時の衝撃によって地中へ1メートルほどめり込み、数秒後に遅発信管を作動させ、そのエネルギーを解放する。
 500ポンドの魔力結晶体は、半径数百メートルの範囲の生物を焼き尽くすエネルギーがある。

「投下15秒前、各機高度500メートルを維持せよ」

「2番機、投下用意よし」

「3番機、投下用意よし」

 編隊6機全機からの報告を確認し、編隊長は投下指示を出す。

「ロック解除、全機爆弾投下せよ。ナウ・ナウ・ナウ」

 合図とともに、各機のランチャーに爆弾を固定していたピンが外され、爆弾は自重によってレールの上を滑り落ち、機体から離れる。
 6機の爆撃機から、合計24発のGBM-37魔導爆弾が落下を始める。
 落下軌道を安定させるためにわずかにひねりが加えられた尾翼によって弾体は回転を始め、信管を真下に向け、落下していく。
 高度500メートルからの投下なので、投下から着弾まではほんの数秒しかない。
 投下母機が安全距離を取れるように信管は遅発式で、地面にぶつかってしばらくしてから爆発する。

 河川敷にはワラジムシがびっしりと、隙間無く詰めて押し寄せ、地面が脈動しているように見える。

 その中に次々と魔導爆弾が突き刺さっていく。
 ワラジムシは投下された爆弾を単なる落下物としか認識できず、いったん飛びのくが、すぐにまた集りはじめる。地面にめり込んだ爆弾にのしかかったり、よじ登ったりしている。

 爆撃機のパイロットは、ウェポンベイを閉じながら、河川敷にうごめくワラジムシたちを目で追いかけていた。

「総員衝撃に備えろ」

 機長のアナウンスが機内に響く。乗組員たちは手近なものにつかまり、衝撃で吹っ飛ばされないように踏ん張る。

 夜の闇に、黒い粒々が飛び上がるように見えた。
 それはワラジムシたちの影だった。
 閃光に吹き上げられるように、ワラジムシたちがちぎれながら空中にはじき出され、直後、空気が割れる大音響とともに衝撃波が爆撃機編隊を揺さぶった。
 衝撃波が主翼の飛行魔法を瞬間的に狂わせ、機体は激しく上下する。

 地上に迸る爆炎に、巨大なエイのようなフォルムをした爆撃機の影が浮かび上がる。
 その下で、ワラジムシはまるで弾ける豆のように跳ね、燃え、破裂していた。
 GBM-37の特徴である、地面を覆うように広がっていく爆炎が、起爆から数秒をかけて第4区の地面を走る。炎が広がる速度は秒速数十メートルにもなるが、空から見下ろすと、まるで映画のスローモーションのようにゆっくりに見える。
 ある程度を広がった爆炎はやがて対流によって地面から浮かび上がり、煤煙となって空へ昇りはじめる。

「デルタ1より司令部へ、全機投下完了。弾着を観測、全弾起爆を確認。戦果確認を要請する」

 空に浮かび上がっていく魔力の炎を横目に見ながら、爆撃隊1番機の機長は本局の司令部へ報告を行った。
 本局ではクラナガン中央第4区へ偵察衛星のカメラを向け、軌道上からの捜索を開始した。
 同時に、被爆範囲から退避していた首都防衛隊の魔導師たちによる地上捜索も開始される。

 地上の魔導師たちの中には、セイクリッドクラスターの弾丸を見ていた者もいた。

 彼らにとっては、バイオメカノイドが殲滅できたかどうかということだけでなく、聖王が無事かどうかということも、懸念事項のひとつである。
286EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 21:59:09.50 ID:N8w8eq2i
 ビルの鉄骨が基礎から引っこ抜けたくぼ地に身を隠し、ヴィヴィオは空を見上げていた。
 爆撃機が近づいているというなのはの言葉に、ヴィヴィオはなのはの身体を担いで、近くのくぼ地へかろうじて逃げ込んでいた。
 これは戦車型の砲撃で崩されたところに魔導師の砲撃魔法の流れ弾が当たり、完全に倒壊してしまった建物である。

 視界を覆うように、ヴィヴィオの目の前に立つ巨体。

 二本の足で立ち、二本の腕を持ち、そして、完全な直立歩行のためのプロポーション。
 その背に伸びる巨大なスタビライザーフィンは、有翼の悪魔のように鋭く、そして金属的な光沢に満ちている。

 泥と油と土煙に覆われたこの場所で、それはある意味場違いなほどに、不気味に輝いていた。

「ひ……ひと……っ……がた……?」

 顔のように見える場所は、半透明のバイザーで覆われて表情は見えない。
 かすかに、二対の光が、眼窩に灯っているように見える。

 身の丈、4メートルに届こうかという鋼鉄の巨人。

 いや、その光沢ある表面形状からすると、軽金属でできているようにも見える。
 翼を含めれば、その全高は5メートルを超える。

 足音は軽い。その大きさからは驚くほど軽いが、人間としては、重い体重を持っている足音のように聞こえる。

「かばってくれた…………?」

 呆けたように言葉が口をついた。

 河川敷で炸裂した魔導爆弾の爆風を、ちょうど背に受けるようにして人型はヴィヴィオの前に立っていた。
 背をやや屈め、その腕と翼で包み込むようにしている。

 両手には、銃身長が16インチを超えるほどの巨大な拳銃が握られている。
 この銃口から放たれる大重量のウラニウム・ペネトレーターは、ワラジムシを瞬く間に打ち砕いて見せた。

 装甲に覆われていない関節部に注目してみるが、これは樹脂か何かの柔らかい素材なのだろうか、可動部は覆い隠されていて見えない。
 中に人間が乗っているのか、それとも無人のロボットなのか、外部からはうかがい知れない。

 ヴィヴィオの腕の中で、なのははようやく気を取り戻した。
 かすかに息をしつつ、目蓋を上げる。
 左腕の感覚は完全に無い。右手で、レイジングハートのありかを探す。ヴィヴィオはあわてて、なのはの右手に掌を重ねた。
 レイジングハートは、しっかり持っている。完全に動作限界、設計上の魔力安全マージンを使い切り、蒸気を噴いて強制冷却モードになっている。

 これ以上、戦うことはできない。

 人型の脛部が、蓋を開けるようにスライドして、人型は拳銃をそこに格納した。
 思わず視線をやるが、内部がメカだったのかははっきりとは見て取れなかった。少なくとも、人間のような内骨格構造ではないのは確かだ。
 この機体は、物理的なフレーム構造や、モノコック構造では強度を発揮していない。この機械の形を構成しているのは、金属の強度ではない。
 魔力が、姿を形作っている。

 この鋼鉄の巨人は、魔力でできている。ヴィヴィオはそう直感した。
287EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:03:24.24 ID:N8w8eq2i
 これはロストロギアなのか。この巨人はロストロギアなのか。
 魔力でできた機械、もしくは、金属質の魔導生命体。もっと違う何かか。
 ゆりかごに搭載されていたガジェットドローンには、多脚型のマシンがいた。ガジェットドローンの形状は様々で、作ろうと思えばどんな形でも作れる。
 それが人型であってはいけない理由はない。

 しかし少なくとも、ゆりかごに搭載されていたあらゆる戦闘端末も、このような鋭利なシルエットを持った人型の機種はいなかったはずだ。

 この姿は、古代ベルカの系譜には、ない技術体系から生まれている。

 人々が伝承に伝える、空から舞い降りた悪魔、ないしは、天使。
 それは、人類とは全く異なる起源をもつ異星人だったのではないかと、歴史研究者たちは考えることがある。
 ヴィヴィオは、そんな仮説を、単なる与太話としてではあったが、ユーノから聞いたことがあった。

 おとぎ話、古代の冒険小説、そんな世界にしかいなかった、戦う機械の巨人。

 今は、目の前にいる。

 目の前にしてみれば、その正体とは現代次元世界人類の技術水準をはるかに凌駕する、高度なロボットであったのだと理解できる。

 昔の人々がこれを目にしたら、それは悪魔にも天使にも見えただろう。

「!!」

 空気を裂く飛翔音とともに大口径魔力弾が飛来し、目の前の人型が爆発する。

 ヴィヴィオはなのはをかばうように抱きかかえ、身をかがめた。
 魔力光を放つプラズマ粒が散らばっていくと、その中から、まったく無傷の人型の姿が現れた。

 振り返ると、建物の残骸に隠れた、首都防衛隊の魔導師だろうか、砲撃デバイスをこちらに向けているのが見えた。

 向こうからは、ヴィヴィオが人型に襲われそうになっているように見えただろう。

「待ってください、私は──!」

 ヴィヴィオが魔導師に呼びかけようとしたとき、無機質な金属音を響かせ、人型が再び拳銃を取り出した。
 拳銃とはいうが、人間のサイズでは対戦車ライフルほどの大きさがある。

 人型には、魔導師の砲撃魔法ではダメージが通らない。
 しかし、魔導師は、人型の拳銃で撃たれれば死ぬ。

 乾いた破裂音が響く。高温のプラズマによって空気の分子が瞬時にイオン化し、その衝撃が音波になって広がる。

 人型の持つ拳銃は、大電流から発生するローレンツ力によって弾丸を撃ち出すレールガンだ。

 魔導師が遮蔽を取っていたコンクリート壁を粉々に砕き、徹甲弾は人体をばらばらに引きちぎった。
 弾丸によって砕かれたコンクリートをもが高速でぶつかり、バリアジャケットごと人体が叩き割られる。
 炸薬がないので、命中時に起きる爆発とはウランの弾芯がコンクリートに衝突したことによる、運動エネルギーが熱に変換されたメタルジェットだ。
 融けて飛び散る高温のウランに、人体は瞬時に焼かれ、切り裂かれる。

 コンクリートが血煙を纏って爆発し、そこには、人間がいたという雰囲気がまったく残らなかった。
 散らばった血糊の中に、元がなんだったのか分からない肉のかけらが転がっているだけだった。
288EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:06:46.21 ID:N8w8eq2i
 人型はゆっくりと、再び拳銃をしまう。

 ヴィヴィオは、人型を見上げる自分の喉が震えているのを感じていた。
 これは、人間が勝てない相手だ。
 圧倒的な力を持っている。
 この人型の気分ひとつで、人間は簡単に命を奪われてしまう。
 この人型に感情という概念があれば──だが。

「っ……──!」

「デカブツ!そこを動くな!」

 今度は人型の向こう側の空中から、声が響いた。
 空を背に、三対の黒い翼が見える。

 見回すと、人型の周囲に数百本もの魔力弾が配置されていた。
 赤い短剣型に形成された魔力弾が人型を取り囲み、発射態勢を取っている。
 この魔法はヴィヴィオも見たことがある。

「八神艦長──!!」

 はやてはブラッディダガーの発射準備をとり、人型を射程におさめていた。
 人型は周囲に配置された魔力弾を見て取り、はやてに背を向けたまま、頭部だけをゆっくりと回転させた。
 振り向いているしぐさなのか、しかし、人間とは違って胴体の向きが変わらないまま頭部だけがターレット上で方向転換する。

 はやての持つ、剣十字の形をした杖──シュベルトクロイツは、夜の闇の中で、中心のコアから白い光を放っている。

「動くなよ──ちょっとでもヴィヴィオに傷つけてみい、この魔力剣があんたをぶち抜き切り刻むで!」

「八神さんっ、だめですこいつと戦っちゃ、八神さんでもむりです──!!」

 人型は、ミッドチルダ語を解するのかそもそも分からない。
 はやてにしても、人型に言葉での警告が通じるとははなから思っていない。
 だが、あくまでも警告を与えた上での攻撃でなければ、後々面倒なことになる。

 ヴィヴィオは、人型がはやてに攻撃をしないことを願っていた。
 人型の持つ拳銃は、弾速が秒速数千メートルに達する。
 この距離では、発砲されれば回避は不可能だ。

 はやてが撃たれる光景を、ヴィヴィオは必死で頭の中から振り払おうとする。

 人型はゆっくりと頭部を正面に戻すと、背部の翼を動かした。

 主翼基部にそれぞれ装備された2基のブースターが炎を吹き、人型の機体が地面を離れ、上昇していく。
 炎は、ロケット噴射のような物理的な反動を利用するものではなく、高出力飛行魔法の魔力光と同じものだ。
 はやてはブラッディダガーで人型を取り囲んだまま、人型の動きに合わせて魔力剣を慎重に移動させる。

 ブラッディダガーは人型の周囲およそ8メートルほどで弾体を待機させ、発射準備態勢を維持している。

 はやては首都防衛隊の念話回線で、人型に向けて発砲しないように呼びかけた。
 並みの砲撃魔法ではこの人型の防御を破れない。
 また、指揮系統が混乱したままバラバラに攻撃し、反撃を受けて各個撃破されるような事態は避けなければならない。

 人型はゆっくりと上昇し高度をとる。

 はやてはブラッディダガーによる包囲を続ける。

 ヴィヴィオは、なのはを抱えたまま地上から人型を見上げていた。
289EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:10:57.32 ID:N8w8eq2i
 人型ははやてと同じくらいの高度まで上がり、停止した。
 滞空したまま、あたりを見回すようにその場での旋回に移る。

 人型とはやての間の距離は22メートル。索敵魔法を照射し、距離を精密に測っている。

 高度は15メートル。これくらいの高度でも、見渡せる範囲は格段に広がる。
 川を挟んで向こう側の高層ビルの間から、クラナガン沖の海が見える。

 人型が、はやての方を向いて止まった。

 人型には頭部のような部分はあるが、はっきりとした顔面は見て取れない。
 だが、人型が投げている視線をはやては感じ取った。

 強烈な気配に、とっさに人型の視線の先を振り返る。

「八神さん──!!」

「エリー!エリー!聞こえるか、今そっちはどうなっとる!っと、ぬおっ!!」

 ヴォルフラムへ念話を飛ばす。
 はやてが回線を開くのとほぼ同時に、人型が飛び立った。
 猛烈な加速ではやてのそばをかすめ、海へ向かって飛んでいく。その先には、ヴォルフラムが係留されているクラナガン宇宙港がある。

 今、宇宙港にいる護衛艦はほとんどがバイオメカノイド追撃のため出撃し、港に残っている艦はヴォルフラムを含めて数隻だけだ。

『艦長、何がありました!?こっちは──!』

「──エリー!どうした、応答せい!」

言葉が途切れ、念話にノイズが乗る。

『っと、艦長!こちらスピードスター、あの大クモが現れました!今度は宇宙港を避けて、メープル川河口に向かっています』

「それや!バイオメカノイドは川沿いに移動しとった、それを追っとる!
私も今から戻る、大クモを追跡しろ!あと、人型がそっちへ飛んでった、たぶん大クモに向かうつもりや!」

『マジですか艦長、無事でしたか!?』

「なんとかな!ヤツはこっちには攻撃をせんかった、不意打ちかけた首都防衛隊の魔導師に反撃しただけやった」

『あの人型はバイオメカノイドとは別モノなんですかね?』

「少なくともヤツの体内にはスライムがない、構造が違う。それにヤツには知能がある──目標を分析して攻撃すべきかどうかを判断しとる」

『言葉は──通じませんよね』

「それはわからんが──」

 翼を広げ、後を追って飛び立とうとするはやてに、ヴィヴィオは呼びかけた。
 なのはも、疲労から目を閉じているが、はやてが来ていることには気づいているようだ。

「八神さんっ、本局にっ、お願いします、連絡をっ、ママが、ママがけがをして──!」

 はやてはすばやく頭の中で計算した。このまま人型を追跡するか、それとも、なのはの救助を他の魔導師に任せるか。
290EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:13:53.98 ID:N8w8eq2i
「──エリー、ちょいと頼まれてくれるか。私はこれからなのはちゃんとヴィヴィオをそっちへ運んでく、艦の医務室に収容してや。
それから大クモの追跡をする」

『高町一尉が──わかりました。5分で準備します』

 かすかに驚きを含ませたが、エリーはわずかに言葉を待ち、すぐに決断した。念話回線を切り、艦内の各部署へ指示を出す。

「おし!聞いたなヴィヴィオ、今からヴォルフラムになのはちゃんを収容する、一緒に来い!私にしっかりつかまっとれ」

「はい、八神さん──」

 はやてはいったん地上に降りてホールディングネットを展開し、その中にヴィヴィオとなのはを抱えて飛び立った。
 爆撃隊からの攻撃成功の報告を受け、地上に展開していた首都防衛隊の魔導師たちが、戦果確認と残敵掃討にかかっている。
 こちらも緒戦で作戦展開を誤り、数十名単位の殉職者を出している。

 できるだけ障害物のない視界の開けた場所を移動し、少なくとも3人以上のグループで行動する。
 生き残っているバイオメカノイドに遭遇した場合も必ず1対複数の状況を確保してから戦闘を開始する。

 バイオメカノイドには威嚇射撃は効果が無いので、戦闘になったら即最大出力での攻撃を行う。
 バイオメカノイドは、人間のように火砲を恐れるということはない。魔法を撃たれても、直撃しない限りひるまない。至近弾を受けてバランスを崩すことはあっても、驚いて転ぶというようなこともない。
 もし、バイオメカノイドに恐怖という感情があったとしても、それは人間が認識できるしぐさではない。
 昆虫や魚類の所作から、人間が感情を読み取れないのと同じだ。

「ごめんね、はやてちゃん……」

「なのはちゃん、大丈夫か!?私の艦で手当てをする、ゆっくり休んどけ。ヴィヴィオも無事や」

「うん……。レイジングハートは」

「わたしが持ってるよ」

 待機状態に切り替えたレイジングハートを、ヴィヴィオはなのはの右手に握らせた。
 左手は骨が折れているので、公園のベンチの破片だろうか、落ちていたプラスチック板を添え木代わりにしてハンカチで縛り、固定している。
 はやては応急の治癒魔法をかけ、傷口の腐敗を止める。
 治療するには、艦の医療設備で治癒魔法を使い、エネルギーの補給を確保したうえで造血細胞と骨芽細胞を活性化させる必要がある。

 レイジングハートも、連続使用による過負荷と、最後のヴィヴィオのディバインバスターの発砲で大破していた。
 こちらも、工廠へ送っての修理が必要である。

「派手にイッたな、キャパシタが半分以上吹っ飛んどるぞ。MOSFETも黒コゲや」

「ごめんなさいママ、レイジングハートに無理をさせちゃって、それで──」

「ううん、ヴィヴィオのせいじゃないよ。デバイスはいくらでも直せる、ヴィヴィオが生きていたことがいちばん大事だよ」

 管理局員の使用するデバイスにはイベントログの記録と提出が義務付けられている。
 はやてはレイジングハートのメモリダンプをいったん夜天の書に退避させ、それからシャットダウンした。
 レイジングハートは今夜はこれ以上の戦闘は無理なので、スイッチを切っておく。

 クラナガン宇宙港に停泊するヴォルフラムの艦影が見えてきたとき、メープル川の大きな中州の上を歩いている、大クモの姿があった。
 その巨体のために遠くから見るとゆっくりした動きに見えるが、実際には大クモの歩行速度はかなり速く、時速80キロメートル近くに達する。
 中洲にかけられた橋を渡って逃げようとする市民の車たちは大クモにすぐに追いつかれ、橋げたごと川に叩き落されている。
 吊り橋のワイヤーが身体に絡まった大クモは、しばらく足をばたつかせていたが、やがてワイヤーを振り切って、再び川をさかのぼり始めた。

「エリー、他の艦はどうしとる」

『発進して上空で待機していますが、敵は市街地のど真ん中を歩いてますからね。艦砲射撃も誘導弾も誤爆の危険が高く難しいです』

「かといって生身の魔導師じゃあ火力差がありすぎるか……」
291EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:18:53.88 ID:N8w8eq2i
『お待ちを。──艦長、先ほど航空14隊の連中が出たと報告が。シダーミル区南端の河川敷に防衛ラインを設定したようです』

 聞き覚えのある部隊名に、はやては目を顰め、なのはは面を上げる。

「シグナムさんが?」

『高町一尉、本当に大丈夫ですか?無理しないでくださいね。
あそこは区営の野球場がありますから広さは十分です。大出力砲撃魔法を使っても、巻き添えになる建物は少ないでしょう』

「わかった。なのはちゃんを収容したら私もすぐ行く」

 魔導爆弾の攻撃をかろうじて逃れたワラジムシたちは、それでも数十匹程度がいるが、河川敷をぞろぞろと進んでいた。
 戦車型のほうは中央第4区にすべての個体が残っており、これは首都防衛隊の魔導師たちで掃討可能だと判断された。

 はやてたちの新たな作戦目標は、海中より出現した大型バイオメカノイド、大クモの撃破となる。

 軌道上の管理局本局司令部でも、バイオメカノイドたちの行動はワラジムシ群と大クモの合流であると分析された。
 レティはヴォルフラムを経由してはやてへ、敵バイオメカノイドの集結を阻止せよとの追加命令を発令した。
 はやてはそれに対し、負傷した高町なのは一尉を、緊急事態に鑑みヴォルフラム艦内へ収容すると報告を返した。

 レティとしても、なのはを早いうちに自陣営へ引き入れ、身柄を確保するのは重要な事柄である。
 はやてがなのはとの合流に成功し、さらにヴィヴィオも救出できたのは不幸中の幸いと言える。

「レティ提督、ですか?」

「ああ、ヴィヴィオにはまだゆうとらんかったか……まあ私のさらに上の上司、ゆう人や。このバイオメカノイドどもへの対策を、中心になって進めとる」

 吊り橋を突破し、大クモは水しぶきを上げながら川を歩いて進撃を再開した。
 メープル川はクラナガンの中心部を北から南へ流れる大きな川で、河口付近では川幅は800メートル以上、水深は12メートル以上になる。
大型の戦艦でも水上航行による進入が可能なほどであり、この川を渡る橋は橋げたと水面の間を少なくとも70メートル確保するように定められている。

 クラナガンの交通の要所であり、それだけに、敵にとっても攻めやすい場所である。
 周辺の高層ビル街のように建造物が混み合っていないので、大柄な体格のバイオメカノイドにとってはここはとても通りやすく見えるだろう。



 首都航空隊第14隊の武装隊員たちは、シダーミル区のメープル川河川敷に布陣し、向かってくる大クモを待ち構えた。
 川を上流側より下ってくるワラジムシたちに対しては、堤防の道路および周辺のバイパス道路に戦車を配置し、進撃を食い止める。
 河川敷のような広い場所であれば、大型の戦闘車両を配置しやすい。
 戦車は120ミリ魔導徹甲弾を発射できる機種で、この火力であればワラジムシを遠距離から圧倒できると見積もられていた。
 さらに武装隊の砲撃魔導師が脇を固め、戦車の死角をカバーする。

 魔導師と戦闘用魔力機械のいちばんの差は機動力である。
 魔導師は、人間が入れるところならばどこへでも展開できるし、高速で空を飛ぶことが出来る。
 機械は、火力や防御力は大きいがどうしてもサイズやメンテナンスの問題がある。また、障害物や複雑な地形にも弱い。

 状況に応じて、大火力を持つ戦闘車両と、高い機動力を持つ魔導師を有機的かつ機動的に運用することが、現代魔法戦闘では重要になっている。
 機械はもっぱら、人間の魔導師よりも高速かつ正確な詠唱が可能である。
 高出力魔法の複雑な詠唱も、機械であれば迅速にこなせる。
 魔力機械を運用するオペレータは必ずしも自身が高い魔力資質を持っている必要は無く、火器操作や状況判断などに長けていればよい。

 もちろん、はやてのように自身も高出力魔法を自在に操ることができてさらに指揮能力も優れた魔導師というのもいるが、本人の資質に頼る部分が大きい以上、安定した戦力にはなりえない。

 次元世界で実用化された魔法技術というものは、あくまでも人間が使うためのツールである。
292EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:23:02.49 ID:N8w8eq2i
「隊長、14隊各班、全員配置につきました」

 副官が報告する。
 首都航空隊第14隊の隊長、シグナム一等空尉は愛機デバイスである大剣レヴァンテインを地面に突き立て、土煙の向こうで動いている影をきつく見据えていた。

 大クモの移動速度では、こちらの射程距離に入るのはおよそ4分後と予想される。
 第14隊は河川敷の堤防をトーチカとして利用し、川の真ん中を進んでくるであろう大クモを、両側から挟撃するように陣を敷いていた。

「よろしい。──目標が射程内に入り次第、全力砲撃だ。仰角をとり、建造物への誤射を避けよ。
距離1000を切ったらフェーズ2に移行する」

「──わかりました。打ち合わせ通りに」

 シグナムは、遠距離攻撃と近距離攻撃の2段構えの作戦を立てていた。
 第14隊の砲撃魔導師による砲撃でまず大クモを迎え撃ち、接近したら自分が最前列に出ての近接戦闘に入る。
 砲撃魔導師は、これはなのはにもいえることだが接近戦に弱い。魔法の詠唱時間も長く動作が大振りで運動性が低いため、敵に近づかれると狙いが付けにくくなるのだ。
 また、大出力魔法は至近距離で撃ったときに自分を巻き込む危険も高い。

 第14隊の魔導師たちは、距離3000メートルで砲撃を開始した。
 幾本ものビームが大クモに向かって伸び、その巨大な甲羅を叩く。
 大量の砲撃に、大クモがシールドを発生させているのが肉眼でも確認できた。
 魔法陣の形状ははっきりとは分からないが、ミッドチルダ式ともベルカ式とも異なるものだ。

 大クモが地面を踏みしめるときの震動から、シグナムは大クモの体重は少なくとも2200トン以上であると見積もっていた。
 これは現在応戦にあたっているIS級フリゲート艦に匹敵する重量である。
 それでいて大きさが30メートル程度ということは、その重量の由来が非常に分厚い装甲であるということが容易に想像できる。

 かつて地球、第97管理外世界に住んでいた頃、はやてが海鳴市の図書館から借りてきた色々な本の中に、あれと似た大きさと重さの物体の情報が記されてことをシグナムは思い出していた。
 それは現代よりも80年も前に建造された、第97管理外世界の巨大戦艦の主砲である。
 はやては小説や童話などだけではなく、科学図鑑もよく読んでいた。
 その中には、乗り物や、兵器を扱った本もあった。

 戦艦の主砲は、砲身の長さが20メートルもあり、それが3本収められた砲塔を防御する装甲の厚さは50センチメートル以上もある。
 これらは窒素やモリブデンなどを浸透させて製造した特殊な鋼鉄でつくられ、重量は1基あたり2750トンもある。
 この装甲により、マッハ2以上の速度で飛んでくる1.5トンの砲弾を防御できる。

 現在、管理局が配備する最も大きな地上砲台である“アインへリアル”が豆鉄砲のように思えるほどの大きさと威力、防御力だ。

「あれを打ち砕くには生半可なエネルギー量ではきかないぞ!」

 声を張り上げ、シグナムは隊員たちに気合を入れる。
 レヴァンテインをボーゲンフォルムに切り替え、構える。

 一般的にアームドデバイスはインテリジェントデバイスに比べて直接打撃力に優れるといわれるが、これほどの巨大な相手に対してはさして変わらなくなる。
 重力属性を付与した攻撃でもなければ、デバイスによる打撃攻撃は単純に重量の差が攻撃力に影響する。
 アームドデバイスの場合はブースターなどの加速機構を搭載している機種が多く、また単純にインテリジェントデバイスよりも重いため、打撃の威力が強くなるのだ。

 ボーゲンフォルムから発射される魔力弾が大クモの顔面に突き刺さり、わずかな間を置いて爆発する。
 シールドを貫いた魔力弾が、大クモの単眼の一つを破壊した。シールドが反応し、大クモの体表全体が白く閃光を放つ。

 それでも、大クモはまったくひるまない。まるで痛覚が存在しないかのようだ。
293EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:27:23.48 ID:N8w8eq2i
 シグナムは14隊の各班へ左右への展開を発令した。
 大クモは進撃を続け、距離1200を切った。
 レヴァンテインをボーゲンフォルムからシュランゲフォルムへ切り替える。
 砲撃がいったん中止され、爆炎が引いた後に現れた大クモの身体は、ほとんど傷が付いていなかった。
 外から見て分かる損傷は、シュトゥルムファルケンによって潰れた1個の単眼だけだ。大クモの頭部には、少なくとも10個以上の単眼があるように見える。

 蛇腹剣のような形態をとるシュランゲフォルムでは、鞭のように打ち付けて攻撃する他、分割された刀身の先端からビームを撃つことができる。有線ビットのような使用方法が可能だ。

「隊長、──あれが本当に眼かどうか」

「いずれにしても傷を負わせたのは確かだ。どんな堅固な装甲でも、基本的に内側からの衝撃には弱い……一箇所でも穴が開けばそこが隙になる」

 レヴァンテインから第14隊の魔導師たちへ、損傷した大クモの頭部の射撃諸元が転送された。
 この座標をデバイスのFCSでロックオンすることで精密射撃が可能になる。

「各班射撃用意よし」

「撃て!」

 号令と共に、広範囲からの一斉射撃が、大クモめがけて殺到する。
 大クモの体表が激しく爆発し、空間に電撃が走る。高温に、溶けた金属が燃えていることを示す赤い煙が舞った。

 一撃を放った後、第14隊の魔導師たちは後方へ移動する。レヴァンテインを構えたシグナムが先頭に残り、大クモに対峙する。

「──あの砂竜よりも大きいな──そしてはるかに硬い──!」

 シュランゲフォルムは100メートル以上伸ばすことができる。
 大クモの背中を飛び越し、先端を大クモの尾部に引っ掛ける。糸鋸を引くように、連結刃を食い込ませる。

 レヴァンテインの刀身と大クモの装甲が接触している部分が、激しい魔力光のスパークを上げる。
 触れるだけでこれほどの余剰魔力を放出するということは、まさに桁違いの出力のシールドが張られていることを意味する。
 通常の一般武装隊員が使用するバリアジャケットとは比べ物にならない防御力があることになる。

「融かし尽くせ!」

 レヴァンテインの連結刃を通じて、炎熱魔力を流し込む。シールドを貫いて、直接大クモの装甲に熱エネルギーを流し込む。
 温度が上がれば、金属はその構成元素の物理的性質に従ってふるまう。温度が上がって融点を超えれば、金属は固体から液体へ変化し、融けてしまう。

 体表は硬い金属で覆われているが、眼球部は、センサーを仕込むために装甲を張れないので防御は弱いはずだ。

 大クモの体表を覆うシールドの出力を計測しながら、左手に持った小太刀で大クモの頭部を斬りつける。
 レヴァンテインも改装によって、サイドアームとなる短剣を生成できるようになっている。これにより、シュランゲフォルムの弱点であった、攻撃動作時に機動が制限される問題を解決している。
 近くで見ると、大クモの体表は鉄を鍛えて作られた鋼板ではないことが見て取れた。まるで熔けた液体の鉄をかぶった生き物が、そのまま冷えて固まった鉄を甲羅のように着込んでいるように見えた。
 表面は、確かに金属質なのだが、砂粒や岩石の破片などが埋まっていて、かなりざらざらしている。塗料で塗られているわけではなく、色素がそのまま金属内部に溶け込んで体色を表現している。
 まさに、素材が金属であるということを除けば、巨大な甲殻類のように見える。
294EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:29:12.48 ID:1eU48GJZ
 レヴァンテインの連結刃で引っかかれた大クモの背中には深い彫れ溝が刻まれた。
 切断面は表面と全く同じ色かたちをしていて、表面加工なども施されていない、金属の塊を甲羅状に引き伸ばして被っていることが見て取れた。

 シグナムが大クモに斬りかかっている間に、第14隊の他の魔導師たちは河川敷の左右に大きく展開し、大クモを取り囲む。
 大クモは身体が大きい分、相対的に小さい人間の動きを追いきれないと予想された。
 魔導師たちは遮蔽物に隠れて動きを気取られないようにしながら、大クモの横や後ろへ回り込む。

『隊長、射程を取れました!援護します』

「よし、奴のケツを叩いてやれ」

 念話で各班の魔導師たちへ指示を飛ばす。
 レヴァンテインで斬りつけ、さらに後方から砲撃で追い立てる。前後から挟み撃ちする格好になる。
 大クモは前にも後ろにも進めない状態で、地面にうずくまるように足を縮めた。

「跳ぶかッ!!」

 14隊の魔導師たちを飛び越えようとしたのか、大クモは縮んだ体勢から大きくジャンプした。

 大気をうならせて空中へ舞いあがった大クモに、すかさず地上から砲撃が撃ち上げられる。
 一般に重装甲の生き物は、腹部が弱いことが多い。大クモが必ずしもそれに当てはまるわけではないが、第14隊の魔導師たちは空中に飛び上がった大クモの腹めがけて、それぞれ砲撃を撃ち込む。

 ジャンプの頂点から、落下してくる大クモに向かってシグナムはダッシュした。
 向こうが落下してくるスピードと、自分が飛び込んでいくスピードを合わせて、大きな相対速度で激突する。普通にダッシュして斬りつけるよりも運動エネルギーの大きい攻撃が可能だ。
 もちろん、こちらの武器がそれだけの衝突に耐えられることが前提である。

 高密度の魔力を乗せて、シュベルトフォルムに切り替えたレヴァンテインを振り薙ぐ。

 刀剣による攻撃で重要なことは、攻撃を当てる物体と、武器の刃が接触する時の角度である。
 刃物には、最も切断力の高い角度というものがある。
 この角度を最適に制御できることが、剣術者にとって必須技能である。
 レヴァンテインはその刀身から魔力刃を形成し、金属の質量に重ね合わせて打撃力を生み出す。直接接触による衝撃に、さらに魔力が浸透して目標内部を破壊せん断する。

 大地が激震する轟音が走る。
 河川敷の地盤が割れ、飛び散った土砂が川に落ちて水を泥に変える。
 崩れた砂の塊に足を突っ込み、大クモは身体を傾けて甲羅を地面にめり込ませた。

 大クモの巨体に、水しぶきが激しく噴きあがる。

『隊長、奴はまだ動いてます!』

 反転するシグナムに、副官が念話で知らせてくる。
 大クモの身体の大きさは、それだけで武器になる。レヴァンテインの斬撃をまともに受けても耐えられる。

「砲撃を続けろ!目標を足止めするんだ」

 避けなければならないことは、大クモが建造物の多い市街地に侵入してしまうことである。
 第14隊がこの作戦区域に持ち込んでいる装備はどれも火力が大きく、狭い場所では使えない。
 市街地への巻き添えを避けるために、この河川敷で大クモを足止めしなければならない。
295EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:32:14.74 ID:1eU48GJZ
 川岸の土手に埋まった大クモにシグナムが突撃し、二回目の斬撃を浴びせる。
 再び間合いを取るために離れたとき、入れ替わるように、大口径の砲撃魔法が飛んできた。

 大クモの全身を包み込むほどのシールドが発生し、それがひび割れるのが見えた。

「フレースヴェルグ──主はやて!」

「待たせたなシグナム!」

 はやての砲撃を浴びた大クモはさすがにたたらを踏み、胴体を地面についてしばらくうずくまる。

 第14隊の魔導師も、間断なく大クモに砲撃を浴びせ、ダメージを蓄積させていく。
 大クモのシールドは、攻撃が命中した瞬間に全身の体表が白く光るように形成され、表面のごく薄い範囲に展開されている。
 ラウンドシールドなどの通常の防御魔法と違い隙間なく全身を覆えるので、防御は堅固だ。

「この大クモ相手にはちまちま撃っててもきりがない。いっきにカタつけるぞ。シュランゲバイゼン・アングリフで敵を縛り上げ、そこにラグナロクをブチ込む。いけるな?」

「──はい。拘束時間0.9秒で行けます」

「よし──隊のみんなにも協力してもらう。ひさびさに全力砲撃いくぞ」

 はやてはシュベルトクロイツの出力を上げた。
 これほどの高出力での駆動は、魔力供給や冷却などの問題から長時間は維持できない。
 もちろん、一撃で決めるつもりでいる。

「14隊各班、広く展開しろ。敵のシールドが切れたところに狙いをつけて撃つんだ」

『了解、シグナム隊長、水路の合流点から狙います』

「私は砲撃が海側に抜けるように射程をとる!1分後に発射や!」

「わかりました!」

 はやては大クモの上を飛び越えて距離をとり、川の上流から、海側へ向けて発砲する。
 シグナムは上空から、レヴァンテインの攻撃で大クモを抑え込む。
 さらに第14隊の魔導師たちが、はやての砲撃に連動して、大クモに一斉砲撃を行う。

 大クモが足をついた場所は、大クモの体重によって川底が削れ、流れる水が渦を巻いている。
 川の形が大きく変わり、水量が中州の砂を次々と押し流していく。

 この水の中では、大クモも足を取られるようになる。

 そこを狙う。

 夜天の書から放たれる白い魔力光が、クラナガンの空に白夜の輝きをもたらしていた。
296EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 22:36:26.73 ID:1eU48GJZ
 ノーヴェ・ナカジマが大クモの姿を目撃したのは、その日の勤務を終えてスバルの見舞いに行こうとしていた時だった。
 スバルが入院している病院は、ちょうどエントランスに向かうと海が見える。
 その、海岸の向かいに見えるメープル川河口へ向かって、巨大な黒い塊のようなものが浮上していくのが見えた。

 やがて街の灯りに照らされだすと、それが赤い甲羅を持つ巨大な四本足の物体であることが見て取れた。

 大クモ、と呼ばれている大型バイオメカノイドの個体である。

 甲羅の上を滑り落ちていく海水のスピードから目測して、大クモの大きさは数十メートルあるように見えた。

 呆然と立ち尽くし見つめているノーヴェの視線の先、2キロメートルの河口上で、大クモは川を渡る吊り橋に、飛び越えようとするように大きくジャンプして体当たりした。
 脆い砂糖細工のように橋が崩れるのが、スローモーションに見えた。
 実際は、橋と大クモが大きすぎて、落下速度を体感でつかめなかったために錯覚したのだ。

 病院の前の通りを歩いていた人々が、驚きに、ざわめきながらそれぞれ立ち止まり、河口を見つめている。

 メープル川河口には、川の両側の地区を結ぶ大きな幹線道路と、鉄道が合計3本の橋を架けられている。
 この時間なら、帰宅する人々の車がたくさん走っている。その中に、大クモが突っ込んでいった。崩れた橋の、ひしゃげて潰れながら水面に落ちていく橋げたの間に、たくさんの自動車が絡まっているのが見えた。

 吊り橋のワイヤーに打ち付けられ、空中にはじき出された自動車が、回転しながらドアがちぎれて、大きな水柱を上げて海に落ちた。

 中に乗っているであろう人間は、姿が見えなかった。
 海面に激突したときの衝撃は計り知れない。自動車は大クモの背丈よりも高く跳ね飛ばされた。
 橋げたから海面までの高さは80メートルもある。そんな高さから落ちれば、水面にぶつかるということはコンクリートの壁に激突するのと同じ衝撃だ。

 念話の呼び出しコールが鳴り、はっと我に返ったノーヴェは震える手で受話ウインドウのボタンを押す。
 フェイトからだ。今日は捜査に出かけていて、クラナガンにはいなかったはずだ。

『ノーヴェ!今、どこにいる!?スバルと一緒!?』

 車を走らせながらだろうか、念話回線を通じて、大きなエンジン音が響いている。

「フェイトさん……化け物が、河口に……!」

『外にいるんだね!?私も今戻ってる、あと20分くらいで着けると思う!』

「だ、だめだよフェイトさん……こっちに来ちゃだめだ、あいつは、いかれてる……!!」

 ノーヴェは、バイオメカノイドの姿を初めて見た。
 ロボットでも、魔導生物でも、ましてや兵器でもない。一体あれはなんなんだ。

『落ち着いてノーヴェ、スバルは動ける?安全を確保して、もし市民の混乱が生じるようなら誘導を!
なのはもはやても戦ってるんだ、気をしっかり持って!』

「わかってるっ、けど」

 ふと見ると、大クモが歩んでいく先、クラナガンのどのあたりだろうか、火の手が上がっているのが見える。

 ただの火事ではない。恐ろしいほどの広範囲が炎上している。
 そして、時折、砲撃魔法の弾丸が空に打ち上げられている。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/08(土) 22:48:02.50 ID:a0dTrZsi
・∀・
298名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/08(土) 22:49:39.76 ID:a0dTrZsi
・д・
299EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 23:00:28.99 ID:N8w8eq2i
 その場所をようやくノーヴェは思い出した。
 クラナガン中央第4区。
 今日、ヴィヴィオが行っているはずの親友リオの実家に近い。

『ノーヴェ?──ノーヴェ、どうしたの、ノーヴェ!!』

 炎に包まれ、崩れ落ちる街。
 その中に、ヴィヴィオがいる。
 リオの実家も、聖ヒルデ魔法学院の生徒寮も、おそらくは跡形もなく吹き飛んでいる。

「うそ……嘘だろ……うそだろぉぉ!!」

 人目を憚らず、ノーヴェは叫んだ。
 空に、激しい魔力光の反射が瞬き、低空に垂れ込めた雲が、地上から立ち上る火災の煤煙を溶かし込んでいく。
 空へ撃ちあがった魔力砲弾が、雲の粒子を激しくかき乱し、空を渦巻かせる。

 大クモを遠目からうかがうように、管理局所属のフリゲート艦が上空に現れた。
 艦の大きさと比べても、大クモははるかに大きい。

 このような巨大な存在を前に、人間はなすすべもない。

 そして、このような異常事態が進行していたのにもかかわらず、ほんの数キロメートル離れた、隣の区にいた自分は事態に全く気付けなかった。
 クラナガンは巨大な街であり、そして、人間同士のつながりが、手を取りきれないほどに広すぎる。
 人間は、集まりすぎて、互いを見渡せなくなってしまった。

 それは、クラナガンだけではない、ミッドチルダ、そして他のあらゆる次元世界が同じだ。

 その事実を、ノーヴェは見せつけられていた。



 ヴォルフラムの艦橋では、人型がメープル川河口へ向かって飛んで行ったところまでは追跡できたが、その後のジャミングが激しくロストしていた。
 大クモの放出している魔力と、人型の巨大な魔力が干渉しあって強いノイズを発生させ、レーダーの素子がオーバーフローしていた。
 通常使っている受信感度にすると、スクリーン全体が真っ白になってしまい見えない。
 近くにいることは間違いないが、正確な位置はつかめなくなっていた。

 はやてはヴォルフラムから再発進して大クモに向かい、シグナムと合流していた。

 首都航空第14隊と連携し、ラグナロクによる全力砲撃を行うと打電されていた。
 周囲の地上局員たちは退避し、第14隊の砲撃魔導師だけが大クモの周囲に残る。シグナムは上空から、はやては大クモの正面から、それぞれ攻撃位置につく。

 レーダーが使えないため光学観測に切り替え、甲板科員がヴォルフラムの露天艦橋および前甲板に立っての周辺警戒を行う。

 ヴォルフラム艦内に収容されたなのはは、すぐに集中治療室へ入れられた。
 左腕を魔力素で満たした治療ポッドに浸し、治癒魔法によって破損した細胞を取り除いて、骨と神経を再生させる。

 なのはは艦橋と医務室の通話回線を開くようエリーに頼んだ。

『今艦長から連絡が、ラグナロク発射まであと15秒です。衝撃波が来ます、なんかにつかまっといてください』

「わかった」

「副長、高町一尉の治療にはセルフクローニングデバイスを使います。一応後で艦長に報告を」

『OKモモさん、お願いします』

 なのははストレッチャーに寝かされたまま、動かせる右手でフレームをつかむ。
 担当の軍医は、割れやすい薬の瓶などをしっかりと棚にしまってから、なのはとヴィヴィオに大丈夫だよ、心配しないで、と言った。
 ヴォルフラムは重力アンカーを双錨泊に切り替えて艦を固定している。
300EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 23:03:42.82 ID:N8w8eq2i
 外では甲板科員が、桟橋との舫い綱をしっかりとつなぎなおしている。

「ヴィヴィオ、大丈夫だよ、心配しないで」

 なのはは、ベッドの傍らを離れようとしないヴィヴィオの、表情を見上げた。

「ママ……」

 ヴォルフラムの艦内にいても、外で響く魔法の砲声が、竜の遠吠えのように響いている。

 メディカルモニターの計器は、かすかに速くなったなのはの脈拍を、無機質な矩形波の音で知らせている。

『ラグナロク発砲を肉眼で確認。大クモに命中しました』

「エリーさん」

『重力波ノイズ観測。衝撃波、あと33秒で本艦に到達』

 エリーは艦橋の幹部士官と、各部署の乗組員を指揮し、ヴォルフラムの観測装置ではやてをサポートしている。
 はやての強さも、彼女の働きがあってこそだった。

『副長、ノイズがクリアになります──!ふ、副長!方位0-2-2、距離1万5千に新たな魔力反応──いえ、これは人型です!堤防の陰に隠れてました!』

『なに!?』

 ヴィヴァーロ曹長の慌てた声が入ってきた。

 大クモがダメージを受けたことで干渉が消え、人型の反応がヴォルフラムのレーダーにかかった。
 魔力量はさらに上昇し、395億に達している。

「エリーさん!?敵は、倒せたんですか、はやてちゃんは!?」

 声を上げるなのはを、ヴィヴィオは宥めようとする。
 今は傷を治すことだけに専念して。これ以上、傷つかないで──。
 艦橋でも、観測データから状況を分析するには時間がかかる。なのはは、やがて力を抜いてベッドに身体を投げ出し、顔を寄せてきたヴィヴィオに頬を当てた。
 お互い、埃と煤まみれで、傷の処置をしたら、消毒して体を洗わなくてはならない。

 明るいところで見てヴィヴィオも初めて気が付いたようだったが、標準デバイスで魔法を撃っていた間に、手首が火傷で真っ赤に腫れていた。
 標準デバイスの許容入力ではヴィヴィオの魔力を受け止められなかったために、コアから漏れた魔力余波を手にかぶってしまっていたのだ。

 セイクリッドハートはうさぎの外装が全く燃え尽きてしまったが、本体は無事で、ヴィヴィオの肩に乗っている。

『高町一尉、人型が現れました。しかし艦長の読み通り、こいつは敵味方を──少なくとも、攻撃対象かそうでないかを判別してます。
今のところ、われわれは攻撃されていません──
人型はコヴィントン大橋のケーソンの上に立ってます、おそらく堤防沿いに低空を進攻してきたと思われます。
──お待ちを、大クモが反転しました。人型と大クモは距離450で向かい合ってます』

「はやてちゃんは」

『無事です。シグナム隊長も──っ、これは、粒子砲の反応?
高町さん、人型が攻撃をかけます、大クモ相手に──電磁波出力上昇を観測、魔力量換算、SSS以上──うち(管理局)の計算表にゃ当てはまらない量ですよこれ』

 あの人型の武器は、レーザーと拳銃だけではない。

 未知の兵装を持っている。

 そして、その武器が、はやての最大出力魔法にさえ耐えた大クモに向けて放たれる。
301EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 23:06:43.16 ID:N8w8eq2i
 スバルはとりあえずの処置として一般用の義足はつけていたので、そのまま病院から外出許可を取った。
 ノーヴェと一緒にフェイトの車で拾ってもらい、大クモとの戦闘現場が見られる高架まで移動する。
 避難しようとする人々の車で道路は至る所で渋滞しており、また、大クモによって橋が破壊されたため、河口付近の埋め立て地区に取り残されてしまった人々もいた。
 こちらは、出撃しているIS級フリゲートが接舷しての救出活動を行っている。

 フェイトは路肩に車を停め、念のためバルディッシュをいつでも起動できる状態にして、大クモと、対峙している航空第14隊の戦闘を見守っていた。

「フェイトさん、今日はどっちに!?」

「北ミッドの空港に、アレクトロ社のチャーターしてる輸送機が破壊工作を受けていてその捜査で。
一応はやても連絡くれてたんだけどちょっと遠いところだったから」

「あの発電所の近くですね」

「ええ。少なくとも同社を狙っている組織はかなり大がかりに、そして綿密に慎重にやっている──!!」

「!!」

 ラグナロクの砲撃が命中し、大クモがついに大爆発を起こした。
 分厚い甲羅が割れてはじけ飛び、大きく体勢を崩して転倒する。

 だがそれでも、身体は完全には壊れない。

 四本の脚は地面をしっかりととらえて踏ん張り、川に甲羅を半分浸かった状態でさらに向かってくる。

「あれは──フェイトさん、あれを見てください!」

「なんだよスバルっ……あれは!?──あの魔力光は……」

 スバルが指さした先には、橋げたを丸ごと大クモに叩き落されて土台だけが残っている、コヴィントン大橋のケーソンがある。
 人型のメカが、そのケーソンの上に立っていた。

 翼を広げ、踏ん張るような体勢をとっている。

 手に持った拳銃を、両手撃ちの構えで大クモに向ける。
 その拳銃の銃口から、魔力によって形成された長い加速レールが伸びる。
 レールガン。弾体は実体弾とは限らず、圧縮したプラズマを撃つこともできる。人型が行おうとしているのはこちらの攻撃だ。

 加速レールは、オレンジ色の魔力光で形成され、クロスして構えた二丁拳銃の間に、まばゆい魔力弾が生成される。

 人型の足下に、魔法陣が現れる。
 それはまぎれもないミッドチルダ式の魔法陣だった。

「フェイトさん──あの人型、あれは──!」

 あの構え、という言葉は、掠れてノーヴェの口から出ることはなかった。
 フェイトも、スバルも、そしてはやてもシグナムも、人型の放つ凄まじい魔力に、圧倒されていた。

「はやてっ逃げて!」

「はやてさん!シグナムさん!」

 人型が、砲撃を放つ。
 その瞬間、フェイト、スバル、ノーヴェ、はやて、シグナムは──声を聞いた。
302EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 23:09:00.09 ID:N8w8eq2i
 それは人型が行った詠唱だった。

 機械に入力された術式のプログラムなのか、それとも搭乗していた人間が唱えたものか。

 しかし、とはやては首を振る。
 あの人型には、フレームは隙間だらけで装甲と呼べるものはなく、スケルトンのような骨格に薄いパネルを張って人型のように見せているだけだ。
 内部に人間が乗れるようなスペースはない。宇宙港で撃破した個体と、構造は同じだ。

 人型の構えた二丁拳銃から、オレンジ色の圧縮プラズマビームが迸る。

『──ゼクター!シャイニング・クラッシャー──!!』

 声を、聞いた。

 人型に言葉が通じるのかなどということを考える間もなく、はやてとシグナムは急いで第14隊の魔導師たちを退避にかからせた。
 巨大なエネルギーが人型の二丁拳銃から放たれ、至近距離で大クモに命中する。
 大クモの甲羅が今度こそ真っ二つに割れ、内部から爆発が起きる。脚が付け根からちぎれて折れ、体重を支えられなくなって関節がばらばらになる。

 堤防上の道路にいた戦車が、人型の放った攻撃のすさまじい余波をくらって横転し、坂を転げ落ちる。
 魔導師たちは堤防に隠れるようにして、大クモの大爆発を回避する。
 はやてとシグナムは全速力で飛び、爆風が弱まる距離まで離脱する。

 大クモが爆発した後には、川岸が削られて、そこだけ川幅が広がっていた。
 割れた甲羅が川幅いっぱいに散らばり、よくわからない形状の機械部品のような金属塊が、さらに広範囲に散らばっていた。
 バイオメカノイドの死骸が、付近の道路や住宅へ飛び散った。
 あちこちで白煙が上がり、大クモの内臓は建物の屋根にぶつかって穴をあけたり、壁を突き破って屋内に飛び込んだりしていた。

 大クモの体内から流れ出たスライムが、川の水に溶けて流れていく。
 メープル川は青い水で染まり、それはゆっくりと海へ出ていった。

 大クモを撃破した人型──“エグゼクター”は、再びクラナガンの南海上へ飛び去っていくのがヴォルフラムのレーダーで観測され、距離220キロメートルで水平線の向こうに消え、ロストした。
 偵察衛星による追跡も、電離層を使って振り切られた。管理局の情報分析部は、人型は単独での大気圏離脱・再突入能力を持ち、宇宙へ飛び去ったと結論付けた。

 そのような分析も、現場ですぐに役に立つという状況はまれだ。

 戦闘開始から2時間と47分、12月22日午前1時24分。
 本局司令部は大型バイオメカノイド大クモの撃破、沈黙を確認し、戦闘終結を宣言した。

 はやての目の前には、無情に破壊し尽くされた中央第4区とメープル川の瓦礫が広がっていた。

 あのバイオメカノイドたちには、もっと強い力の武器が無ければ勝てない。
 今のままでは、人類、いや管理局はただの観戦者でしかない。
 人型──エグゼクターと、バイオメカノイドとの戦いを、横から茶々を入れながら見ていることしかできない。
 いきなり自分たちの住処に乱入され、こっちの都合を無視して戦いを始められておいて、追い出すこともねじ伏せることもできない。

 管理局の存在意義をもが揺るがされる。

 火災は燃やすべきものが尽きて炎が鎮まりかけており、薄まった煙の向こうに、曇りが晴れた夜空が、星を見せ始めていた。

 軌道上に見えるであろう時空管理局本局の暗い影を、はやては星を見るように見上げていた。

303Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/10/08(土) 23:15:05.02 ID:N8w8eq2i
第6話終了です

・・・(汗)

主役メカたるもの必殺ワザのひとつやふたtゲフンゲフン
シャイニングクラッシャーはゲーム中ではレーザーオプションを5個取ると撃てるようになります
発射時の音声が妙に詰まった声なのはご愛嬌
他にもいろんな種類のボムを取って撃てます
そのうち本編中でも使うかも?

・IS級フリゲート→レクサスIS
・モモ軍医→MOMOコルセ スポーツステアリングなどのカーアクセサリーメーカーです

なのはさん、本作では27歳すからいろいろとガタが・・・あわわなんでもないです

ではー
304名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/09(日) 13:54:19.96 ID:P+eq0isj
乙です
ようやく主役メカが活躍したやったー!
でも必殺技なくてもミサイル無限撃ちだけでいいんだけどね
305名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 00:41:33.17 ID:ggUF5eMz
>>276
GJ!
さっすがメガトロン様だ!
306名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 01:47:09.61 ID:K/fCX1wg
>>303
乙です
307名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 07:45:09.37 ID:B9mfqP+L
おつです
そういえばΛって連載開始がForceやVividより先だったんですよね
なんとも感慨深いものがあります
308名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 20:16:07.04 ID:B9mfqP+L
保管庫壊れた?
309名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 20:40:50.90 ID:AwaZfE1+
>>308
壊れたというよりもトップページがイヤガラセかうっかりミスで消された…
ってところだと思う。
310名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 21:15:56.12 ID:QiGIIbq6
なおしたよ
多分戻ってるはず・・・
311名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/10(月) 23:50:45.80 ID:AwaZfE1+
>>310
乙です。
312名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/11(火) 06:41:38.73 ID:3quj/uyX
砂竜より大きくて硬いのか…
あの緊縛プレイをしたやつより大きくて硬いw
313名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/11(火) 20:22:40.56 ID:mt2JT/vf
容量がそろそろいっぱいだ
314名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/11(火) 20:43:16.49 ID:YLovcIg2
まじ
あと何KB?
315名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/11(火) 21:27:58.16 ID:rs1nUwO1
>>314
残量41kb
316名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/12(水) 11:39:26.52 ID:yhCTV/tp
スレまたいでの投下ってありだっけ?
317名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/12(水) 16:43:55.76 ID:mlBZJWs8
あり
318Gulftown ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 20:53:43.20 ID:DjsvCWZg
どうもです
EXECUTOR第7話ができたので21時半から投下します
今回は容量的に現行スレで収まらないので途中から次スレに行きます
319EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:32:11.75 ID:DjsvCWZg
■ 7



 悪夢のような一夜が明け、クラナガンの街はとりあえずの一日を迎えようとしていた。
 直接被害を受けなかった地域では、いつもどおりに人々が職場へ出勤し、子供たちは学校へ登校している。

 クラナガン宇宙港では係留されていたヴォルフラムへ、シャーリーとシャマルが新たな武装端末の引渡しのために訪れていた。
 シャマルは普段は地上本部での勤務であり、また本部から近い軍人住宅に入居していたため滅多にクラナガン市街へ出ることはなかった。
 それだけに、昨夜の戦闘の凄惨さは驚愕に値するものであった。

 クラナガンの北西部に位置する中央第4区は、出現した1500体を超えるバイオメカノイドと投下された24発の魔導爆弾によってほとんど破壊しつくされ、道路は穴だらけになり、建造物は軒並み倒壊して瓦礫の山になっていた。
 バイオメカノイドたちは第4区周辺から出現し、メープル川へ向かい川に沿って海へ向かった。この通り道となった区域も、まるで巨人に踏み荒らされたようになっていた。
 ワラジムシたちは硬い顎を持っており、コンクリートや鉄骨の建物でも噛み砕いて崩し、進撃していた。
 そして、海から出現しワラジムシたちを迎えるように川をさかのぼっていった大クモ。
 河口に掛かっていた3本の橋は大クモによってなぎ倒され、橋げたが真ん中から折れていた。
 大クモが撃破された地点には、夥しい数の破片が散乱し、飛び散った有毒物質によって、付近の住民は当分、自宅へ戻ることが出来なくなっている。

 総じて、クラナガンの中央部、主要都市機能をつかさどる区域のおよそ3割が、壊滅的な被害を受けた。
 物流を担う運送拠点は大クモに踏み潰され、また住宅やオフィスビルなどはワラジムシに噛み砕かれ、戦車型の砲撃によって破壊された。

 これらバイオメカノイドの襲撃によって亡くなった市民は、おそらく10万人を超えるだろうと予想されている。負傷者は25万人を、また身体が無事でも家財を失った市民はもっと多くなるだろう。
 敵の出現がちょうど、帰宅時のラッシュに重なった。
 さらに一般企業が年末の休暇にさしかかる時期であり、深夜になっても人々が大勢、街へ出ていた。その真っ只中にワラジムシの大群が出現したのだ。
 鉄道などの公共交通機関だけでなく、自家用車に乗ったままバイオメカノイドに襲われ、逃げる間もなく死んだ者がかなりの割合に上った。
 人々が逃げようと車を走らせていたところに大クモが出現し、車に乗ったままで道路から動けなかった人々は、車ごと海へ叩き込まれた。
 メープル川河口の海底には、崩された橋げたと共に多数の自動車や鉄道車両が数百台単位で沈んでおり、遺体の回収は困難を極めると予想された。
 また、中央第4区には魔導爆弾が投下されたため、骨さえ残っていないであろう死者も多くいるはずだ。
 彼ら市民の遺族には、その旨を通知する文書と、死亡届の様式及び葬儀業者への提出用書類が区役所より送付される。

 かろうじて残っていた第4区の区役所庁舎では、事態収拾及び復旧、救助作業と平行して、そういった事務作業についても市民課の職員たちが早朝から早出をして作業にあたっていた。
 彼らも、自宅が破壊され当分庁舎で寝泊りせざるを得ない者もいる。
 捜索に出動している地上本部の魔導師たちから送られてくる報告を元に、身元が判明した死亡者に対しては所定の手続きをとり、住民登録にデータを入力していく。

 それは市民の自治を司る部署として当然の職務ではあるが、職員たちにとっては、これほどの数の人間が一挙に命を失ったという事実は、積み上げられる書類の紙束以上に、重い感情を胸のうちに生じさせるものであった。

 ヴォルフラムへの乗艦手続きを済ませたシャーリーとシャマルは、艦長室ではやてと対面していた。
 シャマルも、勤務先の部署が離れているため、シグナム同様にはやてと会うのは久々である。

「無事なようで何よりやったな」

「はい……」

 シャマルは、大きな耐爆ケースを持ち込んでいた。
 その内部には新型のデバイスが格納され、質量は30キログラム以上もある。軽々と持ってはいるが、それはケースに飛行魔法の術式が装備されて重量を軽減しているからで、実際には普通の人間には重くて持てないほどの質量がある。

「これはスバル用の新しいマッハキャリバーか」

「ええ。たぶん今日付けで、レティ提督からスバルへ辞令が届くと思うわ。特別救助隊からヴォルフラム附きの陸戦隊への転属命令──それと、新しいデバイスの受領もね」
320EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:36:07.61 ID:DjsvCWZg
「スバルはどうしとる?」

「身体はもう大丈夫だから、許可が出ればすぐにでも退院できる。フェイトちゃんが迎えに行っているわ」

「そか……。まあ、確かにあのバイオメカノイドどもと戦うにはこれまでのデバイスでは無理があるわな」

 スバルには、ヴォルフラムへの乗り組みと同時に、新たなデバイスとして改造マッハキャリバーが配備される。
 これは宇宙港でのバイオメカノイドとの戦闘で失った左足を代替し、さらに強力な戦闘力を発揮させるものとして設計された。
 カレドヴルフ社が開発した新型武装端末SPTの技術を応用し、大掛かりな外科手術が必要となる戦闘機人(ないしそれに類するサイボーグ)よりも簡易で柔軟性のある身体能力向上が可能となる、装着型デバイスだ。
 もちろん、五体満足な人間でも、装着することでパワードスーツのように身体能力を強化することができる。

 このような設計思想はけして新しいものではなく、もともとブーストデバイスというカテゴリーもあるようにデバイスによる身体能力強化というのは昔からあった発想である。
 しかし、人体そのものの強化を行うデバイスというのはこれまでに作られたことは無かった。戦闘機人が似たような設計思想ではあるが、技術的ハードルの高さから実用化されたとは言い難い。

 SPTについては、デバイス開発技術者としてシャーリーにとっても興味を引かれる事柄である。

 これまでは、デバイスはあくまでも人間が手に持って使う武器であるという制約から、極端な大出力化をするにも限度というものがあった。
 SPTならば、独立した動力源を内蔵しさらに筐体サイズも拡大されているので、設計上の許容幅が大きく拡大されている。
 従来の、単なる移動砲台的な用途をされていた魔力機械とも一線を画し、装着した姿は魔力駆動のパワードスーツのような構造となる。

 魔導師ならではの機動性はそのままに、さらなる高火力の運用を容易にする装備だ。

 もちろん、もっと大型化して搭乗型ロボットに仕立てることも可能だ。その場合機動性は多少犠牲になるが、それでも従来の戦車や自走砲に比べれば別次元の機動力を発揮できることは確実だ。

 地球にしてもミッドチルダにしても、人型ロボットを設計する上で最も困難な技術的ハードルは人型の形状を駆動させる機構である。
 SPTは、それを人間が着用するスーツ状の構造とすることで解決した。
 人型の駆動機構を作るのが難しいなら、人間が内部に入ってそのまま駆動機構になればいい。
 従来よりあった、大出力の携行型デバイスやバリアジャケットに対する要望もこの方式であれば解決できる。
 パワードスーツを着るのなら、腕や足の筋力にもスーツのアシストがあるので、生身の人間では持てないような大重量の砲撃デバイスや、装着したら最後身動きが出来なくなるような重装甲のバリアジャケットも運用可能である。

 カレドヴルフ社は他の魔導デバイス開発メーカーにも協力と規格策定を呼びかけ、このSPT専用の大型デバイスの開発に取り組んでいた。
 もちろんSPTを装備した魔導師が通常のデバイスを使ってもいいが、SPTならばさらに運用できる範囲が広がっているので、これまで困難だった大型武器を使って戦闘ができる。

 当面は、重機関銃などの分隊支援火器を手に持って運用する形になるだろうといわれている。

 人間の魔導師であれば三脚やバイポットを使って地面に固定して撃っていた大口径砲撃デバイスを、手に持って撃つことができる。
 この類のデバイスは、レイジングハートの数倍もある巨大さで、スターライトブレイカー級の砲撃魔法をマシンガンのように連射できる。
 それだけに補助冷却装置や、大口径カートリッジの給弾機構などが大型化し、砲身と駐退機構を含めた大きさは2メートル以上、重量は100キログラム近くに達する大きさで、人間が持って使うことは出来ない武装だった。
 SPTならばこういった武器を、高い機動力で移動しながら撃つことができる。
 高い火力を持つ装備を、迅速に展開できるということは、作戦立案上で非常に有利な要素となる。
321EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:40:57.09 ID:DjsvCWZg
 はやては、シャマルの今後の身の振りについて質問した。

「実はな、これはシグナムやヴィータにも話はしとるんやけど、またぞろ例によって特務部隊を編成する案がレティ提督から出とるんや。
ヴォルケンリッターと夜天の書がリンクしとる以上、普段の勤務地があちこちに散らばってるのは不都合があるゆうてな」

 シャマルはしばし考え込む。
 確かに、ここ数年間はヴォルケンリッター同士でも会うことは少なくなっていた。
 シグナムは首都航空隊に所属し、ヴィータは戦技教導隊にいる。ザフィーラも特別警護部で、それぞれの任務に従事している。

 管理局の採用している魔導師ランク制度に基づき、戦力の過剰な集中を避けるという名目はあるが、時に、その一般的な保有ランク量を超えて例外的に部隊が編成されることがある。

 JS事件に伴う機動六課、EC事件に伴う特務六課がそうだ。

 既にヴォルフラムに収容されていたなのはも、レティを通じて戦技教導隊へ、出向の打診をしていた。
 同時にヴィータにも同様の話が持ちかけられているはずである。

「今度はどこへ行くの?」

「──第511観測指定世界という、新たに発見された世界がある。そこにある惑星TUBOY……ここには、既にミッドチルダとヴァイゼンの連合艦隊が向かっとる。
こいつらの真の目的の確認と、それから惑星TUBOYの調査──や。
どうせ知られることやから言うけど、ミッドチルダ海軍、及びヴァイゼン海軍はこの第511観測指定世界に大規模な艦隊を派遣しとる。
戦艦72隻、巡洋艦293隻、空母38隻、他補助艦艇多数……ほとんど外征艦隊といっていい規模や。連中の目的が何か、管理局安保理の勧告を振り切ってまで何をしようとしとるのかを見極めなあかん。
クロノくんが帰ってくるのにも、この大艦隊をどうにかして突破せなあかんからな」

「ミッドチルダが……はやてちゃん、それは管理局の……?」

 懸念を示すシャマルに、はやては首を横に振る。

「いいや。これはミッドチルダ政府が独自にやっとる計画や。既に管理局内部にもミッド、ヴァイゼンの手の人間が入りこんどる。
せやからレティ提督も私ら含めごく限られた人間しか引き入れとらん。もう管理局内でさえ他の艦や提督は信用できんゆう有様や。
連中は、第511観測指定世界を攻め落とし、惑星TUBOYを──いや、惑星TUBOYに眠る技術を入手しようとしとるんや」

 管理局の中でレティが持っている私設の情報班は、ミッドチルダ海軍艦隊の目的とは惑星TUBOYの破壊ではなく、バイオメカノイド技術の入手であると分析していた。
 戦艦を多数出撃させているのもアルカンシェルで惑星を破壊するためではなく、あくまでも敵兵器の暴走時などにやむなく破壊するためである。

 これまでの時空管理局の方針として、どんなに強大なロストロギアであっても必ずいったんは分析の為に回収していた。破壊処分とする場合も、たとえば闇の書のように制御が不可能であり影響が甚大であると判断されたときに限る。
 それが今回になって、まったく手をつけないまま破壊するとあっては、他の次元世界各国から疑いの目を向けられることは必至である。

 それならば、最初から調査の為の出撃、と宣言して、そのうえで発掘したロストロギアを我が物にしてしまえばいいわけである。

 大艦隊を出撃させた理由は、他の次元世界軍にロストロギアを横取りされないための威嚇である。

 惑星TUBOYには、敵の主力戦艦であるインフィニティ・インフェルノが埋まっている。
 12月20日の時点で、魔力反応は惑星TUBOY全体から発せられるようになっていた。
 総魔力量は、あえて数値にするなら650京以上となる。もっともこれは惑星内のいくつかの場所に分散している魔力源の合計なのであまり意味はない数値だ。
 インフィニティ・インフェルノはその船体のかなりの部分が地中に埋まっており、もし再浮上しようとするならば惑星TUBOYに直径100キロメートル以上のクレーターを作るだろうと予想されている。
 過去にこの艦が惑星TUBOYから飛び立ったことがあるのかは不明だが、この惑星TUBOYは、おそらく天然のまま残っている地質はほとんどなく、大部分が先住人類によって作り変えられているだろうと分析されていた。

 いわば、ひとつの惑星を丸ごとドックに改造したということである。

 ロストロギアを製作した先史文明人の技術レベルならば、恒星間航海のためにはひとつの惑星を丸ごと補給基地や寄港ポイントにしてしまうことは造作もないだろうと予想された。
322EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:44:53.30 ID:DjsvCWZg
 そして、管理局がその掌握をしている無限書庫から捜索された情報は、これら先史文明人の製作した史上最大のロストロギア、“惑星TUBOY”が、これまで見つかったあらゆるロストロギアの祖先であることを示唆していた。
 すなわち、ジュエルシードも、レリックも、そして過去数百年にわたって受け継がれてきたレアスキルも、この惑星TUBOYの住人たちが発明し、さまざまな次元世界において実用に供されていたものが現在まで残っていたというのだ。

 ロストロギアに分類される魔法エネルギー結晶体は、現代の次元世界人類が実用化したものとは比べ物にならない高密度、コンパクトさを実現している。
 レリックはほんの数十グラムの切り出しだけで、数百キログラムの魔導爆弾と同じだけのエネルギーを生み出せる。
 また、それは純粋な結晶体としてだけではなく、生体との適合も最初から念頭において設計され、大掛かりな生体膜でくるむ必要もない。
 ジュエルシードは、ナノマシンレベルでのイメージコントロールデバイスが内蔵され、複雑な魔法術式プログラムなどを必要としないハンズフリーな動作を実現している。
 これも、現代の技術では再現が出来ない。

 また、たとえば聖王教会の騎士カリムが持っているような、昔であればエスパー、超能力とされていたようなレアスキルも、先史文明人が人体改造の一環として発明し、処置していたものが、遺伝によって受け継がれていると考えられた。
 先史文明人は、超能力を自ら作り出すことができていたのである。

「フェイトちゃんがそのことで調査を依頼してきていたのよ……例の事件で殺された鑑識官は、私も知っている人だったから」

 シャマルは重い言葉を発した。

 フェイトはアレクトロ社からの依頼によって、ここ数ヶ月間に渡って仕掛けられていた同社への破壊工作を捜査していたが、その犯人グループはかなり組織的に行動しており、地元警察や地方自治体への圧力を掛けていることが判明した。
 事件現場に時折残される、緑色の皮膚片がそれを示している。
 これは管理局での分析の結果、先史文明人の遺伝子そのものを含んでいることが判明している。
 もしこの皮膚片の持ち主が生きているのなら、それは学界の定説では既に滅んでいるはずの先史文明人が、この現代に生きて活動しているということを意味する。
 それが純粋な生き残りなのか、あるいは人為的に甦らせられたものかは定かではないが、これほどの大掛かりな活動は、仮に先史文明人が生存していたとして独自に出来る規模ではない。
 現代の次元世界人類の協力者がいると予想されている。
 しかも、警察による捜査を妨害したりできるなど、相応の権力を持った地位についている人間である。

 フェイト自身、そういった人間の存在を察していなかったわけではない。
 アレクトロ社へ赴くにあたって、チームを組む執務官が割り当てられた。
 彼ははっきりと、自分の任務はフェイトの監視であると言った。フェイトが、管理局に不都合な捜査資料を発見してしまわないようにということである。

 そのこともあって、フェイトはしばらくクラナガンを離れざるを得なかった。ようやく戻ってきたときには、既に大クモが街へと進攻していたのである。

 フェイトは、自分が受け持っている事件のほか、管理局が進めているとされる選抜執務官についても調べていた。
 選抜執務官──執行官(エグゼキューター)という名称以外ははっきりしたことが分からず、その職務や、採用基準なども不透明であった。
 また、どこの部署の所属になっているのかということもわからなかった。
 選抜執務官の試験を受けていたとされるティアナが、どういったルートでスカウトされたのかということも分からなかった。

 最後にティアナと共に捜査をしたのは約半年前のことである。
 その時には、このような選抜執務官の話はまったく出なかった。

 管理局が、いつからこの計画を進めていたのか──そして、ミッドチルダ政府の差し金が入ったのがいつからなのか。
323EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:48:05.47 ID:DjsvCWZg
 ミッドチルダ政府は明らかに、管理局の存在を邪魔に思っている。
 元々、次元世界間で起きた次元大戦があまりにも甚大な被害をもたらし、次元世界各国が疲弊困窮したため、各次元世界の調停役として管理局は発足している。
 それがおよそ85年前のことである。

 現代にあっては、質量兵器戦争からの復興を過去のものとし、近代文明を手に入れ経済成長を背景に強大な軍事力をつけたミッドチルダにとっては、次元世界政府の運営に口を出す管理局は邪魔で仕方がないということだ。

 ミッドチルダはこれまでにも、管理局の決議を無視して他次元世界に派兵を行ってきた過去がある。
 JS事件でも、管理局を出し抜いてゆりかご撃沈に向け動いていた。
 結局は、クロノ・ハラオウン率いる艦隊が一足早く到着し、ゆりかごを制圧したが、ミッドチルダ海軍は最初から、管理局次元航行艦隊の出撃をよしとしていない面があった。
 ミッドチルダ海軍から出向している艦は管理局次元航行艦隊の中でもかなりの数を占め、実際にゆりかご制圧に出動したのはほとんどがミッドチルダの艦である。
 ゆりかごを撃沈し、JS事件を解決に導いたのは管理局ではなくミッドチルダなのだという事実を、ミッドチルダ政府は欲していた。
 スカリエッティの研究に当初出資していたのも、ミッドチルダ政府である。管理局最高評議会に働きかけ、生命工学の研究成果をミッドチルダ政府は要求していた。

 思えばあの当時から、ミッドチルダの独走の兆しは見えていた。

 レジアス・ゲイズが訴えていた地上戦力の増強も、管理局単独ではミッドチルダの治安維持がままならないという事情があった。
 クラナガンにおいてさえ、管理局が直接担当している区域は地上本部周辺のごく狭い範囲で、ほとんどはミッドチルダ陸軍が管轄している。
 そのミッドチルダ政府軍の担当地域で起きた事件に、管理局は手を出せなかった。あくまでもミッドチルダとの共同作戦という形をとらなければ、捜査を開始することができなかったのである。

 地上本部にとって、管理局の独自戦力の増強というのは急務であった。
 それは組織的には、ミッドチルダ陸軍が部隊を管理局へ出向させ、指揮権を管理局に移譲することである。
 次元航行艦隊の場合はその形で艦隊を編成している。

 陸では、組織間のしがらみもありなかなか難しいところがあった。

 陸士部隊でも、ゲンヤ・ナカジマが率いていたような管理局直属部隊というのは数がとても少なかった。
 ミッドチルダ陸軍所属の部隊は、どうしても行動が遅れがちになった。
 これは八神はやてが機動六課設立を決意した理由でもある。

「わたしたちも、腹は決まっています。呼ばれればいつでも参じます」

 シャーリーは眼鏡の奥に強い意志を宿らせ、はやてに言った。
 はやても、深い瞳でそれを受ける。

 現在、レティが直接指揮権を持つ艦船はXV級クラウディア、LS級ヴォルフラムの2隻である。艦長はそれぞれクロノ・ハラオウン、八神はやて。
 この2隻だけでは少々心もとないが、リンディとその元部下たちの艦が、いずれ参入してくるとレティは見積もっていた。
 レティがその管理を任されている、月面基地に艦を収容できる設備がある。
 本局のドックも、レティが直接管理しているものは1つしかないので、もし他の艦に空きドックを埋められてしまうとこちらの補給が絶たれる事態になる。

 管理局内部には、既にかなり深い派閥の溝ができていることを、シャマルもシャーリーも認めざるを得なかった。
324EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:53:26.33 ID:DjsvCWZg
 西暦2023年12月19日の時点で、ボイジャー3号は太陽からの距離がおよそ22天文単位となり、天王星軌道のほぼ真南に位置していた。
 予想される太陽系近傍ゲートにはまもなく到達できると予想された。

 ジョンソン宇宙センターでは、ボイジャー3号へ向け通信中継ビーコンの放出が指令された。

 これはボイジャー3号がゲートを越えた際に、通信電波を中継するためのものである。
 ボイジャー3号には量子スピンを利用した通信機が積まれており、これは機体が宇宙のどこに居ても通信が可能であるが、機体がワープしたことを確認するには電波による通信で位置を特定することが必要である。
 量子スピンを実用的な宇宙空間での通信に利用することは、このボイジャー3号が初の試みである。

 ビーコンは遠日点39.15天文単位、近日点1.78天文単位、軌道傾斜角54.75度の長大な楕円軌道に投入され、常に太陽系近傍ゲートを指向するようになっている。
 これにより、ボイジャー3号がゲートの向こうへ消えても通信を継続できる仕組みだ。

 ボイジャー3号は、イオンエンジンによる加速を終了した後、12月15日と18日の2回に渡ってスラスター噴射を行い、ゲートに向けて軌道を修正した。
 途中、わずかな軌道のぶれを観測し、大質量を持った何かとニアミスしたことが示唆された。
 しかし、観測装置には何も写らなかったので、光を反射しない暗い小惑星だろうと判断されていた。

 NASAでは、ボイジャー3号が突入する予定のゲートを、「ウラヌスの槍」と名づけた。これは太陽からの距離が天王星とほぼ同じであることに由来する。

 軌道傾斜角が大きいため、この近辺には彗星核などもほとんど飛んでいない。
 もしたまたまゲートに飛び込む天体があったとしても地球からの発見は困難である。
 エッジワース・カイパーベルト天体や散乱円盤天体はより太陽の黄道面に近いところをめぐっており、球殻状に分布するオールトの雲天体はより遠くに分布するため、この付近は太陽系近傍ではもっとも天体の密度が小さい場所である。

 地球からの観測では、ボイジャー3号本体がゲートを通過しても、ビーコンにより未だ太陽系近傍に留まっているように見える。また、ビーコンが巡る軌道はボイジャー3号の周回予定の軌道であると発表されている。

 ボイジャー3号のウラヌスの槍への突入は、アメリカ東部標準時で12月24日午前3時39分と決定された。

 NASAチーフディレクターのシェベル・トルーマンは、知人であるFBI捜査官マシューから聞いた話として、アメリカ宇宙軍が最近になって宇宙空間での軍事訓練を活発化させていることに疑問を抱いていた。
 アメリカ宇宙軍は現在、常時配備の戦力としてSDI-6キラーレーザー衛星を24基、ASM-135対宙ミサイルを320基、即応態勢に置いている。
 ASM-135は成層圏に待機したF-15戦闘機から発射されるミサイルで、地上に設置したランチャーやミサイルサイロから発射するソ連のR-7や日本のM-6、L-5に比べて破壊力には劣るが機動性が高いのが利点だ。
 確かにソ連や中国との緊張があるのは事実だが、NASAに依頼される衛星の運用試験の回数はここ数ヶ月、明らかに増えていた。
 NASAが管轄しない、NORAD独自の運用となるとさらに増える。

 ただでさえ、予算を食うだけでなく諸外国の非難が厳しいプロジェクトである。

 連邦政府が何か、トルーマンの知らない情報をつかんでいるという予想はあったが、これに関してはマシューも情報を教えてはくれなかった。
 そのマシュー自身、半信半疑ではあった。これをそのままトルーマンに伝えることができるのかと確信が持てていなかった。

 しかしそれは、CIAが進めていた日本での調査により明らかになる。

 12月22日、CIAはひとつの結論を出した。
 日本の海鳴市において検出された21箇所の放射線異常地点は、そのすべてが地球外に由来する特殊な物質によってもたらされた。
 CIAのトレイル・ブレイザーが直轄する分析チームが、海鳴市より採集された土壌のサンプルをおよそ半年掛けて分析した結果である。

 放射性同位体の量は、半減期から逆算して、2005年の春に問題の放射性物質が海鳴市に存在したことを示していた。
 しかし、その物質が放出していた放射線は、ウランやプルトニウムのような通常の物質では説明が付かない。
 海鳴市から採取された土壌はエネルギーの非常に高いガンマ線を主に放出しており、これは中性子過剰な原子核を持ち地球上では安定して存在できない。
 海鳴市に痕跡を残した物質は、何らかの技術によりこの物質をきわめて安定した形で維持していたと予想された。
325EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:57:05.02 ID:DjsvCWZg
 地球外からもたらされた物質が海鳴市に多数存在し、そして、同時期に巨大な重力波が観測されている。
 これらの状況からして、恒星間航行が可能な技術を持った存在が、2005年の春から冬にかけて海鳴市近辺に滞在していた可能性が高いとCIAは結論付けた。
 重力波は、現代の最新宇宙論によれば、ワープを行う天体ないし宇宙船が大量に発生させると予想されている。
 ボイジャー3号に重力波検出器が積まれたのも、探査機の機体がゲートをくぐることによって大量の重力波が観測されるという予想に基づいたものだ。

 ブレーンワールド理論によれば、重力波は通常物質(バリオン)と違い次元の壁を超えて伝播するため、同様に次元に穴を開けて(ワームホールを作って)長距離を移動する宇宙船は、重力波を痕跡として残すといわれている。

 異星人が地球に飛来していることを否定する論拠としてよくいわれる、異星人がいても光速を超える手段が無いから地球に来ることができないという指摘──実際は超光速を相対性理論は否定していないが──を、超越する事実としてそれは認識される。

 当直の交代間際、一人の管制官がトルーマンに言った。

「いよいよですねチーフ」

「そうだな」

「楽しみではありませんか」

 その管制官は、小さい頃からスターウォーズのファンだったとよく語っていた。宇宙に関わる仕事がしたくてNASAに入ったのだと、同僚や、トルーマンにも語ったことがある。

「もちろんだが、それ以上に怖さもある。たとえば、オッペンハイマー博士のように」

 トルーマンは、このプロジェクトが人類の力では制御できない領域へ踏み込んでしまうことを予想していた。

 アメリカ政府も、ゲートを超えたボイジャー3号がどこにワープアウトするのかという点についてはまったく予想が付いていない。
 予想することは事実上不可能である。

 ボイジャー1号の発信した信号がこのゲートから出てきたことは事実だが、ではその信号はいったいどこを経由してこのゲートにやってきたのかということは全く予想が出来ない。
 人類が持つ技術では、ウラヌスの槍とボイジャー1号の間の通信経路を見ることが出来ない。

 実際には、ボイジャー1号の信号は準惑星セドナの上空に存在する別のゲートを経由して惑星TUBOYに到達し、そこから返された信号が、ウラヌスの槍から出て地球に戻ってきている。
 管理局では、XV級巡洋艦クラウディアの観測によりこれを確定していたが、ボイジャー3号がその領域に到達するにはもうしばらくかかる。

「自分は、人類は科学を正しく役立てることができると信じています」

 若い管制官の言葉に、トルーマンは深くうなずいた。

「その意志が大切だ」

 ジョンソン宇宙センターの管制室は、たくさんのコンピュータが発する冷却装置のファンの音で満たされている。
326EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 21:59:37.22 ID:DjsvCWZg
 アレクトロ社の警護任務を遂行するにあたり、フェイトとチームを組んでいた執務官は、捜査を引き継いで単独で同社の警護にあたることになった。
 フェイトは、同社施設より多数発見されている、緑色の小人の痕跡を追っていた。
 その捜査の過程で、フェイトはアレクトロ社が発電所を建設した用地に、かつて祀られていた民間信仰の小さな神社があったことを発見していた。
 近隣の住民から話を聞くと、そこで祀られていたのは小さな両生類のような、妖精に近い神で、人々に特殊な膏薬を与えたと伝えられていた。

 その膏薬とされるものの現物は入手できなかったが、ある老婆から、伝承になっている壁画を見せてもらったフェイトは、そこに描かれていた神というものが、緑色で小さい体格をしていることに気づいた。

 デフォルメされて描かれてはいるが、同じ場面に描かれた人間と比べて、半分くらいの身長で描写されている。
 石を彫って刻まれた壁画なので色はないが、沼や湖周辺の水草と同化していると記されていた。

 過去数百年にわたってこの地に、緑色の小人が姿を見せていたことは可能性が高くなった。
 もしこれが先史文明人の生き残りであるというのなら、ミッドチルダの考古学は大きな認識の変更を迫られる。

 フェイトはもうひとつの仮説として、この事件の真犯人が、この地に伝わる伝説をカムフラージュに利用したというシナリオを考えていた。
 というのも、この発電所が建設された理由として、近くにある田舎町に、ヴァンデイン・コーポレーションが大規模な製薬工場兼研究所を所有しているのである。
 そこで使用するエネルギーをまかなうため、アレクトロ社に依頼して供給能力の増強を行っていたのだ。

 第16管理世界リベルタに本社を置くこの製薬企業は、特に生化学方面で高い技術力を持っておりまた魔導デバイス開発も手がけているが、それだけにさまざまな黒い噂が絶えない。
 2年前のEC事件でも、原因の一端となったのはこのヴァンデイン社である。

 かのフッケバイン一家に限らず、ヴァンデイン社はアレクトロ社以上に、過激派団体に狙われている企業である。
 まず、ヴァンデイン社はその顧客に次元世界各国の非正規武装組織を抱えている。
 彼らに対する武器や薬品のセールス、また、その見返りとしての実験体の提供など。
 EC事件においては複数の次元世界政府から当該世界での営業停止処分を受けているが、ここミッドチルダではそれを免れていた。

 もし緑色の小人が人為的に復活させられたのなら、そのような技術を持つのはヴァンデイン社をおいて他にない。

 フェイトはカレドヴルフ社への内偵のほかに、このヴァンデイン社においても調査の必要があるという報告書を管理局捜査本部へ送信した。

 そして、北ミッドにおけるヴァンデイン社の活動について調査を進める。

 もし、この3つの企業が協力関係を結んでいるのなら、これは複数の次元世界を巻き込んだ一大陰謀事件となる。
 カレドヴルフ社は第3管理世界ヴァイゼンに、アレクトロ社は第1世界ミッドチルダに、そしてヴァンデイン社は第16管理世界リベルタに拠点を持っている。
 そして、ヴァイゼンとミッドチルダに関しては共同で艦隊を出撃させ惑星TUBOYに向かっている。
 第16管理世界リベルタは、次元世界連合の中でもそれほど目立った発言はしていないが、どちらかといえば周辺国家に比べて独立気風がある世界だ。

 この3つの世界、特にヴァイゼンとミッドチルダは次元世界では1、2の超大国であり、ミッドチルダの軍事力は他の全ての次元世界が束になっても敵わないとさえ言われている。
 次元世界連合の中では、ヴァイゼンがミッドチルダに次いで第2位の力を持ち、牽制役として争ってきたが、古代より長年ライバル関係にあったこの二大世界が、ここにきて水面下で手を握ったことになる。

 ヴァイゼンとミッドチルダの両世界間におけるデタント(緊張緩和)は、次元世界が抗うことの出来ない超大国による世界支配を呼び寄せる。

 そうなったとき、もはや管理局でさえ彼らの暴走を止めることは不可能だ。
327EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 22:03:13.00 ID:DjsvCWZg
 ヴァンデイン社の研究内容として、特にここ数年、違法な生物兵器製造が行われているという疑いがたびたび持ち上がっている。
 2年前のEC事件以後も、同社所有の研究所周辺で不審な生物を目撃したという情報が後を絶たない。

 この緑色の小人も、ヴァンデイン社がその生物兵器技術によって製造もしくは復活させ、それが研究所を逃げ出していたのではないか──という推理をフェイトは立てていた。

 発覚すればさらなる攻撃の材料になってしまう事件を、秘密裏に葬ろうとすることは十分に予想できる行動である。

 バイオメカノイドの出現によって混乱に陥っているクラナガンについては、死傷者の捜索と隠れているバイオメカノイドの掃討は管理局およびミッドチルダ陸軍が担当することになり、フェイトは一旦北部ミッドチルダへ戻っていた。

 地元のビジネスホテルに部屋を取って捜査資料をまとめていたフェイトは、アレクトロ社とヴァンデイン社の間で互いに人員の出向が行われていたことに気づいた。
 一見、この両社の業務内容はかぶっていないように見えるが、その実、アレクトロ社は極秘プロジェクトとして、生体魔力炉の研究を行っていたのである。
 これは従来の誘導コイルを使った炉ではなく、生きたリンカーコアを魔力発生装置として使用するものである。
 特にヴァンデイン社が開発している戦闘用モンスターの動力源に用いることが考えられている。
 これを利用すれば、改造生物に付きまとうエネルギー源(食物)の補給や老廃物の処理などの問題を解決できる。
 現在でも、召喚士は使役する竜や蟲の飼育に苦労させられる例が多い。
 機動六課時代も、召喚魔法使用者であったキャロ・ル・ルシエがフリードやヴォルテールの扱いに大変苦労していたことを覚えている。
 アレクトロ社が開発している生体魔力炉を召喚獣などに埋め込めば、彼らは何も食べなくても何十日も活動することが可能になるのだ。

 また、独自にヴァンデイン社を取材していたフリージャーナリストや新聞記者たちが謎の失踪を遂げる事件が、過去5年間に計7件起きていることも、資料を整理しているうちに見えてきた。
 彼らのうち、3件については数週間後に近隣の森の奥で遺体が発見されている。
 当時の捜査資料によると、遺体には強い化学物質の作用によって腐敗が妨げられていた形跡が見つかった。
 確実を期すには管轄の警察署へ照会を行わなくてはならないが、フェイトは彼らの失踪に緑色の小人が関わっていると直感していた。



 翌12月23日、フェイトは地元の警察当局へ赴き、ジャーナリスト失踪事件の捜査資料を請求した。
 渡された資料には、失踪後に遺体となって見つかったジャーナリストの身体から、フッ素酸化物を主成分にした奇妙なジェル状の物質が見つかったことが記されていた。
 これについては当時の捜査では、犯人が遺体を焼いて死亡推定時刻をごまかすために使用したと考えられていたが、フェイトにとってはこれは重要な鍵になる。

 このジェル状物質は、バイオメカノイドの体液に含まれているものと成分が同じである。

 また、バイオメカノイドはこのフッ酸を持つスライムのような無機生命体によって操られていると予想されていた。
 クラナガン中央第4区での戦闘でも、撃破したワラジムシや戦車型の残骸から、同じ成分を持つ粘液が見つかっている。
 フッ素は非常に反応性が高い元素であり、取り扱いは困難で危険である。ほとんどの金属と常温常圧で反応し、またガラスも溶かしてしまうため、専用の容器が必要になる。
 金属素材で耐フッ素性能を付与されているものはごくわずかである。

 それゆえに、当該機械に使用されている素材が耐フッ素性能を持っているかどうかが、重要な鍵になる。
 アレクトロ社が発表している新型魔力炉のうち、M62R型と呼ばれる機種が、実際には生体魔力炉であるとフェイトはみていた。
 もちろん、広報資料には通常型の魔力炉としか記載されていない。
 しかしこの機種は特定顧客への機材更新による換装という形でしか納入されておらず、一般企業がこの機種を導入することが通常のルートでは出来ない。
 その特定顧客とはヴァンデイン社、カレドヴルフ社、そしてミッドチルダ海軍である。

 この魔力炉に使用されている物資の出所を調べることで、この炉の製造に緑色の小人が関わっていることを突き止められる。
328EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 22:09:26.42 ID:DjsvCWZg
 フェイトはその日の夕方、アレクトロ社の貨物集積場へ張り込んだ。
 鉄道を使用して運び込まれたコンテナは、トレーラーに載せられて同社の工場へ輸送されている。

 集積場の職員は、物資は魔力炉冷却用のナトリウムであると証言した。
 工場へ調査に向かおうとしたフェイトの前に、件の執務官が現れた。
 彼は、この工場へは入らない方がいいとフェイトに言った。

「何を調べてきたのかは大体想像がつくが、これは手を出さない方がいい」

「どうして?アレクトロ社が狙われている理由がこの工場にあるかもしれないのに」

「だからだよ。俺たちが下手に手を出して、奴“ら”が表に出てきてしまったら……」

 奴ら。執務官は、犯人が複数であることを言った。
 しかも、話しぶりからそれは人間ではなく、問題の先史文明人である。

「俺はこの工場の警護を命じられているが、ハラオウンさん、あんたは今のところ社の連中が立ち入りを許可してない。俺としても黙って通すわけにはいかないんだ」

「じゃあ申請を……ううん、あなたの手で工場内を調べられないの?警護対象を確認しておきたいとか、言い訳は何とでも……」

 言い合っている間に、工場の守衛らしき男がやってきて、立ち去れ、とフェイトに言った。

「私は彼の同僚です、地元警察の捜査資料を確認したのですがここに運び込まれている物資に……」

「これは企業秘密です。たとえ執務官どのであってもお見せすることはできません」

「しかし」

「わが社が依頼したのは工場の警備です、それ以外の──」

 そこまで言いかけたところで、守衛の携帯電話が鳴った。
 念話ウインドウを出し、受話スイッチを押す。

「どうしました主任?」

『地下7階フロアで運び屋が一人いなくなった。すぐにゲートの閉鎖を』

「わかりました」

 短い通話を終え、守衛は回線を切った。
 念話回線を遮断するフィールドを張るなど、この工場はその辺の一般企業とは一線を画すセキュリティが敷かれている。
 特殊な周波数と変調方式を使う念話でなければ通信が出来ないようになっている。

 守衛が持ち場に戻っていき、執務官はフェイトに小声でささやいた。
 肉声による会話は、念話と違って遠距離には届かないが、逆に傍受される危険が少ない。

「とにかくここは引いてください。アレクトロだけじゃなく管理局まで巻き添えを食います」

「それはどういう……──まさか、管理局が裏で」

「聞かれるとまずいです」

 執務官はフェイトを重く見据え、それ以上の言葉をさえぎった。
 フェイトも、ここまで言われては無理に押し入ることはできないと判断した。
329EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 22:15:44.03 ID:DjsvCWZg
 出入りのトラックドライバーから、この工場では大量のアルカリ金属を使用しているとの証言が得られた。
 製造しているものが軽合金やそれを用いた金属部品なので、原料として使用していると言うこともできる。

 だが、運び込まれている物資の中に、ひとつだけ、詳細な組成が分からない薬品があった。

 それは1ヶ月あたり10キログラムしか使用されないが、それを輸送するための容器は非常に頑丈に作られ、1メートル四方ほどもある大型のボンベに詰められていた。

 そのボンベの出所は、クラナガン郊外にある化学薬品工場である。
 そこで製造されたフッ酸を含むペーストが、このアレクトロ社工場に持ち込まれていた。
 フッ酸ペーストは、それ自体はデバイスやコンピュータの製造に使われるものでもあるので、それだけでただちに不審とみることはできない。
 だが、今回に限っては事情が異なる。

 アレクトロ社は、生体魔力炉の開発をミッドチルダ海軍より受注していた。
 ミッドチルダが惑星TUBOYを手に入れようとしているのは、この生体魔力炉をつくるのに必要な技術が惑星TUBOYに存在するからである。
 既にカレドヴルフ社が同惑星から入手したSPTの技術同様に、惑星TUBOYに眠る技術はロストロギアであると同時に、現代の次元世界の科学技術で再現可能なものもかなりの量が含まれている。

 生体魔力炉を作るためのリンカーコアは、ヴァンデイン社が人体ブローカーを通じて入手していた。

 その取引の資料をもが、工場の元従業員の自宅跡から見つかった。

 この町はアレクトロ社の発電所と付属施設、工場が主要産業であり、多くの住民はアレクトロ社の関連施設で働いている。
 他に大きな企業も無く、ほとんど企業城下町のような小さな田舎町である。

 それだけに、町の人間たちも、自分たちが従事している仕事が重大な機密情報に触れるものであるという意識を忘れがちになっていた。

 この元従業員は、病気によって工場を退職した後、自宅で人知れず死んでいた。
 身寄りが無く友人付き合いも少なかったため、遺体はフェイトが彼の自宅に踏み込むまで、ベッドの上に横たわったまま残されていた。

 フェイトは地元警察に通報をした後、彼の仕事机からアレクトロ社工場に関するファイルを入手した。
 そのファイルには、あの工場で製造されていたのは生体魔力炉であり、炉内部に埋め込まれた人間の入手先がヴァンデイン社であること、人間をリンカーコアに加工して魔力炉に詰めるための処理にスライムを使用していたという内容が記されていた。
 リンカーコア抽出処理のための装置についてはヴァンデイン・コーポレーションが技術協力を行い、技術交換会の出席者の中には、EC事件にも深く関わっていたハーディス・ヴァンデインの名前が記されていた。

 EC事件終結後、彼は事件の責任を問われ管理局に拘束され、その4ヶ月後に獄死している。

 フェイトは改めてハーディスを収容していた拘置所の記録を調べ、彼の死に不審な点が無かったかを洗った。

 ハーディスの遺体からは、この工場で作られていたフッ酸ペーストと同じ成分が検出されていた。
 彼の死にスライムが、そして緑色の小人が関わっていたことはほぼ確実である。

 通報で駆けつけた警察は、この元従業員の死を深く詮索したがらなかった。
 それはある意味当然の反応ではある。この町の財政はその予算の大半をアレクトロ社からの法人税収入に頼っており、同社に撤退されると市の運営が立ち行かなくなるのだ。

 警官は一時はフェイトを疑うようなことも言ったが、元従業員の遺体が死後数週間経過していたことを確かめると、病気による孤独死であると結論付けて、さっさと場を片付けようとしていた。

 フェイトは元従業員の自宅から持ち出したファイルをホテルの部屋で改めた。
 地元警察の了承無く証拠物件を勝手に持ち出した形となり、もしばれれば問題になるだろうが、この際仕方がない。いざとなれば執務官権限を利用することも出来なくはない。

 この情報は、レティやはやてにも知らせ、共有するべきである。
 ミッドチルダ、ヴァイゼンだけでなく、リベルタまでもがこの陰謀に加担しているかもしれない。
 ヴァンデイン・コーポレーションが単独で動いているのかもしれないが、次元世界間での大規模な活動には、どうしても管理局の目を避ける必要があり、そのためには政府内に協力者を作ることが必要である。
 フェイトとチームを組まされた執務官も、おそらくその線での圧力が掛けられていたか、もしくはそちら側の人間であろう。
 このファイルはじゅうぶんに注意して本局へ持ち帰る必要がある。
330EXECUTOR ◆mhDJPWeSxc :2011/10/14(金) 22:17:39.54 ID:DjsvCWZg
次スレへ行きます
331名無しさん@お腹いっぱい。:2011/10/14(金) 22:25:35.56 ID:58Ni8V6M
次スレ

リリカルなのはクロスSSその119
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1318596961/
332名無しさん@お腹いっぱい。
                  Y三三ヘ                    爪j、   /                      \
                   Y三三∧                     辷彡  〈    x======ミ _                \
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           价x       Y三三厶              YYヤヘ._/ 'く__/ |!__| __.L__ ___\  ヽ           ;
             寸ニ≧x    守三三心、            Yア / >  -/‐」ト ‐‐!¬|一|ヽー‐-、 \ `..          l|
               寸三少x   寸三三三\           X ' / / !ィf斗ミ|   | _」_ l  ヘ  乂 \ヘ        リ
                  寸三三≧x.__寸三三三\           / / ;/ /  从{kィリ|   |、 { `i 、 |iXi| `ヽ| 〉ヽ       〃
                  弌三三ニ>气三三三ミ\         '  '; | ' {  ! イ 弋以ヘ 斗芸ミE   [》 《]_\ | ト、\   /
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魔法少女リリカルなのはA's劇場版に期待