あの作品のキャラがルイズに召喚されました part294
もしゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part293
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1304350033/ まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/19(木) 23:04:55.70 ID:+8nTOJ9u
スレたて乙
話の都合上、前編が妙に短くなっちまいました。
前スレでも投下できるんじゃないかって思うほどですけど、途中できれるとメンドウなのでこっちします。
それじゃあ、いまから投下します
月 意味…裏切り・徐々に好転
祝宴があった次の日の朝、ニューカッスル城の地下にある鍾乳洞の港は、人で埋め尽くされていた。
彼らは疎開する人々たちで、その中に完二たちも混ざっていた。
キョロキョロとキュルケが視線をめぐらせている。
「ルイズは?」
「ワルドと結婚式挙げるんだとよ」
「この状況で?本当に何考えてるのよ、あの子は……」
「ワルドがウェールズに仲人やってもらいたいからとか言ったらしいぜ。帰りは二人でグリフォンに乗って帰るらしい」
「カンジはー、出席しないクマか?使い魔でしょうに」
「別に出たかねえよ。つか、グリフォンも三人はキツイんじゃねえの?」
キュルケがニヤっと一笑いして、完二の腕に抱きついた。
「ねーえ、あなた勝手に結婚しちゃうような薄情なご主人さまはほっといて、わたしの使い魔にならない?」
「ブホッ」
キュルケの豊満な胸が押し付けられた完二は鼻血を出した。
「キュ、キュルケちゃん、クマというものがありながらオヨヨヨヨヨ」
「な、完二お前、先輩を差し置いてうらやましい思いをイテッ!」
泣き真似を始めたクマも、タバサに杖で殴られた陽介も無視してキュルケは完二を誘惑する。
「この間、仮面の襲撃者からわたしを守ろうとしてくれたじゃない。そのときのあなたとってもかっこよかったわ」
「な、あれは体が勝手に動いただけで!つか、結局、何もしてこなかったし!」
完二が顔を真っ赤にしている。抱きつかれていない方の手で鼻を押さえた。
陽介は完二の言ったことを聞き、不思議に思った。
「そーいや、なんで魔法を出さなかったんだろうな?」
「そういえばそうね。たぶん、詠唱は完成してたと思うわ」
陽介の口にした疑問に共感してキュルケは完二から手を話しその指を口に当て、考える仕草をした。
完二はキュルケの胸が押し付けられなくなり、安心したような残念なような気分だ。
完二の背中にかけられたデルフリンガーが口を開いた。
「詠唱をちょこっと聞いたがたぶんありゃ『ライトニング・クラウド』だな」
久しぶりに声を聞いたな、と思いながら陽介は尋ねた。
「それってワルドが使った?」
「そうだな」
陽介とクマは納得したというふうに頷いた。
「なるほど、敵さんはカンジが割り込んできて、呪文を防がれると思ったから魔法を出すのをやめたクマね」
そう言うと次はキュルケが不思議そうな顔を浮かべ、彼女を代弁するようにタバサは言った。
「ライトニング・クラウドは雷の呪文。間に割って入っても二人とも電撃を受けた」
陽介たちはタバサの発言を不思議に思った。
完二のペルソナ、ロクテンマオウは電撃を無効にする。完二に電撃は利かないではないか。
「何いってるクマか、タバサちゃん。完二に電撃属性は……」
「ああーー!!」
陽介は何かに気付いたというふうに突然大声を上げた。
完二、クマ、キュルケは驚いてビクリと肩を震わした。歩いている人がチラっと見てきた。
「そっか、そーだよ……あれ?でも、それって……」
「なに大声上げてるんスか、センパイ……」
考え込んでいる陽介に完二はツッコミを入れた。
「わかったんだよ、完二!」
「わかったって何がっスか?」
「あの仮面のヤツはお前に電撃属性の攻撃が効かないから魔法を出すのをやめたんだ!」
「いや、だからそれはクマが……」
完二が何言ってんだ、この人は。という顔を浮かべたのに対して、キュルケが浮かべたのは別種の表情だった。
「カンジに電撃が効かない?どういうこと?」
キュルケは不思議そうな顔をしている。そしてその様子を見て陽介は自分の推理を確かなものにした。
「そうだ。お前が電撃効かないことをこの世界の人間は誰も知らねーんだ。二人を除いてな」
完二がはっとした顔を浮かべる。
「ワルド……!」
もちろんルイズも見てたけどあの仮面の襲撃者とは明らかに体格が違ったし、襲われた張本人だ。あの仮面の襲撃者はワルドだったんだ」
クマは当然の疑問を発する。
「ヨースケ、混乱してるクマ?ワルドは一緒にいたクマよ」
「あっ、そーじゃねえっスか!」
自分で言っておきながら完二はそのことを失念していたらしい。
その疑問への返答はすでに陽介の中に出来上がっているが答えたのはタバサだった。
「遍在……」
「そうだ、遍在をワルドは使ったんだ」
トリステイン学院を出発する前日、不気味な教師ギトーの授業が中止になった時に陽介はタバサに遍在のことを聞いたのだ。
遍在とは自分の分身を作る風の魔法である。しかもそれはそれぞれが魔法を唱え、戦うことができる戦闘能力を持つ高等な魔法だという。
それを知っているから陽介はひっかかりに気付けたのだ。
「へ、遍在……?ってなんスか?」
「ようするに分身の術みたいなもんだ」
タバサは陽介の大雑把な説明を補足した。
「それぞれが魔法の力と頭脳を持つ実体」
「彼は風のスクエアだから唱えられるでしょうね」
キュルケが呟いた。
陽介が総括する。
「ワルドは決闘で完二に電撃属性が全く効かないことを知った。
そして襲撃の際に、不意打ちに近い形で魔法を撃てたのに撃たなかった」
「雷は効かないと知ってたから」
タバサが言い、陽介はこくりと頷く。
「思えば宿を襲撃させたのもあいつだろうな。
チームを分断させようと提案したのもあいつだった。それが目的だったんだろうな。
そもそもこの任務は姫さまが内緒で一生徒に頼んだものだから、知っているものも限られるはずだ。
ワルドなら当事者だ。
そしてあいつは完二がキュルケをかばったらすぐに攻撃をやめて次の行動に移った。
たぶんそれが本当の目的だ」
「ルイズ……!」
完二が言う。
「なるほど、このタイミングで式を挙げたのも、わたしたちを追い払うためね。
グリフォンで追いかけるとか言ってたけど……」
「んな気はさらさらねえってわけか」
キュルケの最後の言葉を完二が引き取った。
その時、乗船員たちが大声で乗船を促し始めた。どうやらそろそろ出発するらしい。
「で?まさにあいつの思ったとおりになろうとしてるわけだけどどうするよ?」
「んなもん決まってらあ」
「あら、決まってるでしょ」
「ゴー!クマ」
そう言うと完二、キュルケ、クマは駆け出した。
「ま、そーだよな。んじゃ俺も……」
駆け出そうとした陽介の服をタバサがつまむ。
「ってタバサなにすんだよ?」
「することがある」
タバサは陽介に耳打ちをした。
投下終了です。
なんだ、この短さ!(驚愕)
ところで今回のサブタイは月なわけですが、ダークサイドムーン楽しみですね
乙
電撃が効かないって聞くとエネル戦でのルフィを思い出す
>サイトが別人になっただけの原作なぞりなどクロスオーバーでも何でもない
ゼロ魔SSを語るスレにあった奴だけど、これは至言過ぎるな
実際、そんなSSは少なくないし
至言も何も
グルメになり過ぎたお客様のどや顔発言に過ぎんよ
二次創作におけるクロスオーバーなんか、あのシーンが他のキャラだったらどうなるだろうとか、そう言う話題からの発想もかなりの割合で存在してるんだから
乙です。
No,13以降のアルカナがタイトルに出たのって初めてだな。
しかし自在にペルソナを付け替え出来るペルソナの主人公ってメイジの天敵だよな。
過去作でもP3のキタローが、コルベール相手にスルトを付けて詰みゲーにしてたし…
>>10 でもその為にクロス先のキャラや能力をねじ曲げるのはなあ…
ジョジョクロスだと結構なキャラがギーシュ如きに敗北したりしてるけど
その時はどう見ても不当にジョジョキャラが弱体化してたり、ギーシュが強化されてたりで
そこまでしてゼロ魔持ち上げたいかと不快になった
別にゼロ魔キャラは負けろと言ってるのではなく、
善戦、或いは勝たせる為に色々弄って、結果的にクロス先を貶めるような真似するくらいなら
パワーバランスの調整など要らんという話だ
>>12 つまりクマにライトニングクラウド(電撃)はヤバいんですね。
弱点克服できないP3の連中(キタロー除く)はキツいかも。
一方が他方を蹂躙する話ならともかく、召喚対象とハルケ世界 両方を尊重すればこそ
パワーバランスの調整が必要になるんじゃないかな?
召喚キャラの弱体化といっても たいていの場合
・単身で
・何の準備も無く
異世界へ移動するのだから、
・負傷した
・愛用の武器や道具が無い
・能力の発動条件が 元の世界と違う
等の問題は 生じてもおかしくは無いし その辺はSS毎に工夫されてると思う。
「貶めている」って感じるのは バランス調整云々ではなく、作者のスタンスによるものでは?
(もし『オレの好きな○○は こんなに奴に負けるはず無い』という方だったら、そちらの原作ベースの二次SS限定で読むのを楽しんだほうがいいかもしれません。)
ゼロ魔側をインフレさせればいい
ギーシュのゴーレムがパンチで地面にクレーターを作ったりワルドのライトニングクラウドで山一つ消し飛ばしたりするぐらい強化させて
いくら何でも限界というものはある
例えばダイの大冒険とのクロスでタバサとキュルケがハドラーに善戦してたのがあったけど
正直ゼロ魔キャラのレベルの魔法だったら、初期のハドラー相手でも通用なんかしないから
善戦なんかまず有り得ないわけで、その時点で無理が生じている
策略を巡らせたところでウソップがルフィに勝てなかったのと同じで、圧倒的な力の差は絶対に埋められない
ゼロ魔ssは大抵がそこをねじ曲げてるから読んでてもやもやするし、
それなら素直に蹂躙してくれた方がスッキリするって話なわけ
無論、ゼロ魔キャラと同レベルくらいの強さのキャラなら苦戦や敗北は有り得るから上記のようには思わない
要するに強キャラの扱いが総じて悪すぎるのだと主張する
蹂躙するのが嫌で拮抗したバトル描きたいなら、
そのキャラ出さないで、同レベルのキャラを出せばいいじゃんって話
>>16 そんな駄作化のお手本みたいな発想はさすがに勘弁
召喚されるキャラはサイトのポジ=主役なんだから
ゼロ魔側より召喚される側の方が優先されるのも仕方ないというか当然というか
まぁ基本的に「強くてニューゲーム」状態だし
ごくごく平凡な高校生だった平賀才人と
特殊な能力、技能、経歴を持った別作品のキャラクターを同列に見ないほうがいいだろうな
強くてチートだがとんでもないドジとか騙されやすいキャラならバランス取れないかな
前スレでパタリロが話題に出てたが、奴の場合は金儲けになるとまず食いついてくる
んで騙されることが度々あるw
作品最強キャラって基本的に扱いづらいから困る
戦闘員NO37564とかは結構面倒見がよさそうだがw
何を勘違いしてるのか
ジョジョキャラは大半はスタンドはあっても別に超人でもなんでもない普通の人達だから
つーか他所様のスレ作品の批判とか常識外れすぎる
クロスの作品間の尊重問題よりデカイ尊重問題すら守れないのかよ
>蹂躙するのが嫌で拮抗したバトル描きたいなら、
>そのキャラ出さないで、同レベルのキャラを出せばいいじゃんって話
ゼロ魔キャラより圧倒的に強い他作品のキャラは 召喚すべきではない。
召喚した場合は、ハルケ世界蹂躙にならなければ 不自然。
こう言う事でしょうか?
まあそういうことだな
元の世界観やキャラを尊重した場合、
強キャラ呼び出したらそうなるのが必然だからな
そこをねじ曲げてまでゼロ魔側を持ち上げるならばそんなのクロス先の作品の侮辱でしかない
要するにゼロ魔の噛ませにしてるに過ぎない
>>22 基本、成田系の最強キャラは流血沙汰ばかり引き起こしそうな感じがするよな
そう云う意味では37564やレリックはすごくマトモなのかもな
そういえば
ID:aVxdPElOさんが例としてあげてるSSって
>13も >17も、他のスレのSSですよね。
ここのSSは どうなんですか?
これも他所のSSですが、にじファンの『雪風と風の旅人』などは、
チート強キャラ召喚で、どちらの原作の雰囲気も 上手く出せてると思いますが、どうでしょう。
ラスボスのユーゼスはハルケに悪影響与えたくないから能力封印してたよな
他所だけどリヴァイアスのネーヤを召喚したのは、重力操作とかできるけど一切戦わずに
説得だけでストーリーを進めて完結させてた
バランス調整とか逆に相手舐めてる証拠
>>27 読んで来たけど、あれは別にクロス先のキャラが弱くされたりとかの描写は見受けられないなあ
それに実力を発揮する場面ではちゃんとその実力は発揮してるし、俺が言いたいのとは違うな
まとめサイトのペルソナ、更新されなくなったな・・・
誰か更新してやれよ?
雪風と風の旅人はいいものだ
ラスボスの続きこないかなぁ
オリハルコンのアクセの部分だけ複線回収してくれたら満足なんだが
正直、今までの推敲の中で一番疲れました。
今から投下します
始祖ブリミル像が置かれた礼拝堂には3人の人物がいた。
一人はウェールズ皇太子。3人だけの結婚式を取り仕切っている。
一人はワルド子爵。この結婚式の新郎。
最後の一人はルイズ。新婦である。
ルイズはぼんやりと考え込んでいた。
なぜ自分は姫さまの手紙を受け取りに来た戦場で式を挙げているのだろう?
式の執り行いをしているウェールズはアンリエッタ姫の大切な人、おそらく、いや間違いなく恋人であろう。
なぜ彼はにこやかに他の人間の結婚を祝福をしているのだろう?
彼がこれから向かうのは恋人のいるトリステインではなく死を敷き詰めた戦場だというのに。
傍らに立つのはワルド。ちらりと見ると、彼はにこりと笑いかけてくれる。
なぜ自分は結婚するのだろう?
「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
ワルドは重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。
「誓います」
ウェールズはにこりと笑って頷き、今度はルイズに視線を移した。
次はわたしの番であろうか。きっとそうだろう、結婚には新郎と新婦しかいないのだから。
未だにルイズは現実感をつかみかねていた。三人しかいない広間がひどくボンヤリしたものに感じられる。
ふわふわとした感覚の中、思い出したのはなぜか自分の使い魔のことだった。
昨夜の彼の横顔が自然と脳裏に甦る。ひどく楽しそうに彼は色々な思い出を語ってくれた。
中にはどこにでもありそうなバカをやった話からとても信じられないような話まで。
でもきっと全て本当のことなのであろう。彼はまるで本当のことのように、楽しそうに笑いながらウソをつける人間ではない。
自分も聞いてもらえばよかった。
結婚に悩んでいること。自分に自信が持てないこと。
それにこれ自分がどうすべきなのか。
話せばよかった。
完二と話がしたい。
ウェールズはルイズの様子に気付かずに婚約の儀式を執り行う。
「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において……」
しかし、ウェールズの言葉は最後まで続けらなかった。
バンと扉を開けられる音と同時に声も響き渡る。
「その結婚式ちょーーっっと待つクマ!」
それはまぎれもないクマの声だった。式を行っていた三人は予想外の声にいぶかしげに振り返る。
開かれた扉からやってくるのはクマだけでなく、その主のキュルケ、そしてルイズの使い魔である完二だ。
ルイズはポカンとしていが、自分の結婚式を中断させたのがクマであり、
自分の使い魔である完二はクマにおとなしく続いていることに腹が立ってきた。
どうしてあんたはのこのことクマの後ろについて来ているのよ。と理不尽にも近い怒りが湧き起こる。
だがワルドの様子は憤然とするルイズや半ば呆然とするウェールズと異なるものだった。
ワルドは彼らの姿を見とがめて表情を鋭くしルイズに突然手を伸ばしてくる。
彼がなぜそのような表情をするのか、彼が何をしようとしているのか。ルイズには理解できない。
ワルドが手を伸ばしてくることに反応できないルイズ。その時、完二の声が響く。
「ペルソナァ!」
ルイズとワルドの傍に以前ルイズも目にしたことがある完二のペルソナ、ロクテンマオウが現れた。
ワルドはトクテンマオウを視界に認めた瞬間に飛び退いた。
ワルドが飛び退いた一瞬の後、彼の立っていた場所にはロクテンマオウの得物が振り下ろされていた。
ワルドがさらに距離をとる一方、ルイズの元に完二、キュルケ、クマがやって来る。
「大丈夫?ワルドになにかされなかった?」
キュルケが心配そうに尋ねてくるが質問の意図がつかめない。
同じく突然の展開に呆然としていたウェールズがはっと気を取り戻し、婚約の儀式を邪魔した者を叱り付ける。
「きみたちこれはいったいどういうつもりだ!」
「花嫁をさらいに来たクマ」
「なにを言って……」
「おい、ワルド!テメエよくもルイズをさらおうとしやがったな……!」
ウェールズの更なる質問は完二の大声で中断させられたが、重要なのは完二の言った言葉だった。
えっ?とルイズはワルドを見る。彼の顔にもルイズやウェールズと同じ困惑が浮かんでいる。
彼もこの状況が理解できないように見える。
ルイズの脳裏に先ほどの厳しい顔が思い出された。あれはなんだったのか、見間違いだったのだろうか。
「なんのことだい?」
「とぼけんな!仮面つけてオレたちを襲ったことを忘れたとは言わせねえぞコラ!」
仮面をつけて襲う?まさかラ・ロシェームで、自分を抱えて逃げようとした襲撃者がワルドだというのか。
ルイズはじっとワルドの顔を見た。彼は否定しない。
そして否定しない以上に完二の言葉を真実だと肯定するのはその様子だ。
戸惑っていたような表情をしていたのが、冷徹な、研ぎ澄ましたような剣のような雰囲気を帯びていく。
完二たちは身構えた。ウェールズも何をしたらいいかまだわからないようだが、事態の変化に気付いたようだった。
しかし、ワルドは彼らのことを気にしないというように、じっとルイズだけを見つめてくる。
「ルイズ、僕と一緒に行かないかい」
彼の雰囲気は鋭いものから更に変化していてもはや異常とさえいえる。
たまらずと言った様子でキュルケが言う。
「あなた何言って……」
その声に覆いかぶさるような大声で言った。
「世界だ、ルイズ!僕は世界を手にいれる!そのためにきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの力が!」
叫び終わったあとにワルドは先ほどまでの狂気がウソのように穏やかな笑顔を浮かべた。
「一緒に行こう、ルイズ。幸せになろう」
一転した優しい言葉、しかしそれは先ほどまでの姿を忘れさせるものには足りない。
ルイズは確信した。そして自分がこれからどうするべきかも知る。
いつの間にかワルドだけでなく完二たちも見つめていた。不安そうな顔をする彼らにルイズは言葉をかける。
「ねえ、カンジ、あなた前にわたしを危ない目から守るって言ったのになんの役にも立たなかったわね」
「お、おう」
完二はいやに素直に答えた。
「今度はちゃんと間に合ったじゃない。ご主人さまとして褒めてあげるわ」
「ルイズ……!」
使い魔に報いるように笑いかけてからルイズは婚約者、いや元婚約者を睨みつける。
「ワルド、昔あなたが好きだったかもしれないわ。恋だったかもしれない……。で今のあなたはわたしを見てない。
あなたが好きだというのはわたしにあるという、ありもしない魔法の才能だけ。そんな理由で結婚しようなんて、こんな屈辱ないわ!」
ワルドの顔から先ほどまでの優しい表情は消え去った。全員へと語るような口調でワルドは喋り始める。
「わたしの目的の一つは潰えたわけだ」
「んだとぉ?」
「ルイズ、きみを手に入れることだ」
「当然よ!」
「そして……」
ワルドは突然二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。
ワルドは風のように身を翻らせ、ウェールズの胸を青白く光る杖で貫いた。
「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」
ウェールズの口からどっと鮮血があふれる。
「貴様の命だ、ウェールズ」
支援
完二たちは呆然と目の前の光景を見ていた。
ルイズを守るために構えていたが、突然のウェールズへの攻撃に反応できなかった。
「貴族派!あなた、アルビオンの貴族派だったのね、ワルド!」
「そうともいかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ。さて、ルイズ。最後にきみの胸ポケットにある手紙を頂いていくよ」
言い終わるか言い終わらないかの瞬間、完二がデルフリンガーを引き抜き、思いっきりワルドに叩きつけるように振りかぶる。
完二の攻撃をバックステップしてワルドは避けた。完二は武器を構え直す。
「キュルケ!ルイズを守ってやってくれ!」
「わかったわ」
「クマは王子さまを治すクマ」
クマがピョコピョコと歩いて地面に伏したウェールズに近寄る。
「無駄なことを。致命傷だ」
「やってみなきゃわかんねえだろーが!さあ、テメーとオレ、サシで勝負だ!」
ワルドはニヤリと笑った。
「決闘では僕の勝ちだったね?」
「へっ、二回も転ぶと思うなよ!」
完二が啖呵を切るとその手にあるデルフリンガーは柄の装飾部分をかちゃかちゃと音を立てながら喋り始めた。
「相棒!心が震えてるじゃねーか!悪くねー、俺も本気を見せてやる」
そう言うとデルフリンガーは突如輝き始める。輝きながらデルフリンガーは姿を変えていく。
発光を終えたデルフリンガーはサビに覆われた古い剣ではなかった。輝くような銀色の剣に様変わりしている。
「こいつぁ……」
「驚いたか、相棒?」
「お、おお!オマエこんなことできんのかよ!?」
「もちろん小奇麗になっただけじゃねえぜ」
「わかってるよ」
完二はぎゅっとデルフリンガーを握り直す。
体中に力を感じる。テレビの中での世界風に言うなら攻撃、防御力、命中・回避アップといったところか。たいした効果を持った剣だ。
「面白いものを見せてもらった。代わりに僕も面白いものを見せてあげよう」
ワルドは杖を立て呪文を紡ぐ。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
呪文が完成すると、ワルドと全く同じ姿をしたものが4人現れた。遍在の呪文である。
ワルドは現在、遍在と本物のワルドと合わせて5人存在することになる。
「ク、クマー、ワルドが増えたクマ!」
「4人も遍在を……」
「なんという使い手だ」
二人の勝負を見守っていたクマとキュルケ、それにウェールズが驚嘆の声を上げた。ウェールズが立っているのはクマの回復が終ったためであろう。
ワルドはウェールズが平然として回復していることに驚いたようだったが、動揺はすぐに表情から消えた。
どうやらワルドはこれから戦いだろ言う時に別のことを引きずるようなことはしないらしい。
「カンジ、助太刀するクマ!」
自分の仕事をすでに終えたクマは完二に手助けを提案する。だが完二はその提案を退ける。
「やめろ!コレはオレとワルドとの勝負だ」
すでにサシと言った手前、クマの手は借りられない。
「でもでも敵は5人クマよ!」
「問題ねーよ、ちょーどいいハンデだぜ」
そして完二はワルドが5人だろうと10人だろうと負ける気がしなかった。心が震えてそれを教えている。
戦いが始まった。
五体のうち三体の遍在の杖に目に見えるエネルギーを纏わせる。まるで剣のようだと思った。
完二の思った通り、杖を剣にする呪文らしくその三体は接近戦を挑みかかってきた。
だが三人を相手にしても完二は全くひけをとらない。それどころか押しているのは完二だ。
デルフリンガーの力によって完二は体が軽く、そして体中に力が満ちていた。
戦いながら完二は先ほど船着場を飛び出してからのキュルケとの会話を思い出す。
「ねえ、カンジ。どうしてあなたルイズを助けるの?」
階段を駆け上がっているときにキュルケは尋ねてきた。
「はあ?んなこと言ったらクマや花村センパイだって……て、アレ?いねーなセンパイ?」
陽介は付いて来ていない。おそらくなにか考えがあってのことであろうと完二は納得した。
「あの子たちはあなたの付き添いでしょ。どうしてあなたはあの子に肩入れするの。別に好きだからってわけでもないんでしょ?」
「たりめーだ」
ルイズのことが好きだから助けるなどということはない。というかなぜそういう話になるかすらわからない。
「助ける理由なんて困ってるからで十分だろ」
ふうんとキュルケはなにか面白いものを見るようにしていた。
そうだ、好きどころではない。ルイズは完二にとって最も気に食わないタイプの女性だ。
エラそうにしてすぐに怒る。
この世界に召喚されてすぐに服を洗わうように命令されたことを思い出す。
なんでも出来るみたいな顔をして出来もしないことをしようとする。
ルイズがアンリエッタから任務を引き受けたときのことを思い出す。
本当は悩んでいるのに肩肘張って自分を強く見せようとする。
昨晩見た小さな背中を思い出す。
悩んでいるのに強がって、そんな姿を見せられれば助けるしかないではないか。
ルイズのことを考えると完二の心は震える。体は軽くなり、力が体中を巡る。
完二の激しい攻撃で防戦一方になっている三体の遍在。
一体をまさに仕留めようとする時に、白兵戦に参加していなかったうちの一人が風の魔法を完二に向かって放ってくる。
雷ではなく、風の攻撃だ。致命傷にはならないから耐え切ってみせようと完二は体で受け止めようとする。
しかし手にあるデルフリンガーがそれを制止する。
「相棒、俺で防げ!」
完二はデルフリンガーに言われるがまま構えた。すると風の刃は剣に吸い込まれていった。当然、完二の体には傷一つできない。
驚いて完二は剣に問うた。
「お前、魔法吸い込めるのか?」
「すげーだろ?」
完二はにやりと笑う。デルフリンガーも顔があったら笑っていただろう。そういう雰囲気だ。
これでワルドは電撃の魔法だけでなく、風の魔法も使えなくなる。しかも白兵戦でも押し負けているのだ。
ワルドの旗色が一気に悪くなる。
「くっ、一旦下がるぞ!」
ワルドたち完二から離れた。おそらく次の攻撃に移るためのインターバルだろう。だが、それは致命的な判断ミスだ。
完二の前に金色に輝くカードが現れる。
「ペルソナァ!」
姿を現したロクテンマオウはギザギザした雷状の得物を地面に突き刺すとそれを両の拳で打ち砕いた。
ロクテンマオウは魔力を解き放ち、電撃が5人のワルドを襲う。
マハジオ、広範囲に電撃を起こす魔法だ。最下級魔法であるが、完二の持つスキル電撃ブースタ、電撃ハイブースタによってその威力は引き上げられている。
普通の人間ならば一撃で戦闘能力を喪失する。
全ての遍在は消え、残ったのは地面に伏した本物のワルドだけである。
「馬鹿な……こんな……」
シビれでビクリと体を震わしながらワルドは呻いている。
完二は勝利した。
ルイズ、クマ、キュルケ、ウェールズが歓声を上げて近寄ってくる。
「すごいじゃないか!スクエアを倒すなんて」
「カンジ、惚れ直したわ!」
「さっすがカンジクマ」
「やるじゃない、カンジ!」
ウェールズ、キュルケ、クマ、ルイズが口々に完二を褒める。
「へっ、よせよ。これくらい」
完二もなんだか照れくさい。
だが勝利に酔っている間もなくウェールズはすぐに話を現実的な問題に切り替えた。
「で、これから君たちはどうするんだい?」
「どうするって……」
「もう最後の船は出てしまったているはずだ。すぐにでもこの城は戦場になるだろう」
完二、クウマ、キュルケは顔を見合わせる。どうしようかと言った具合だ。
はあ、とルイズは溜め息をつく。
「あんたら事前に考えてなかったの?」
「ほら衝動的に……ね?」
キュルケの言葉に再びルイズは溜め息をついた。
どうしようかと顔を見合わせている時、開け放されたままになっていた扉から大小二つの影が入ってきた。
陽介とタバサである。
「あ、センパイ。ずいぶん遅かったスね。もう終わっちまったぜ」
「みたいだな。んじゃ、さっさとトンズラするぞ」
そう言うと、陽介とタバサは走って、先ほど入ってきた扉から出て行った。完二たちもなにか考えがあるらしい二人の後を追う。
辿り着いた場所は港であった。当然、非難民を乗せる最後の船は全て出港していた。
「船、出てるじゃない」
キュルケがそう言うと、タバサは首を振り、端っこを指指した。
そこに一つの船があった。
「あら、まだあったの?じゃあ、さっさとあれに乗って……」
「風石がもはやない」
しかしウェールズが絶望的な現実を告げた。
陽介は頷いた。
「たしかに残ったわずかな風石を全部譲ってもらいましたけど、それでも必要量の一割もないそうです」
「じゃあ、どうするの?」
ルイズはイライラしているように言う。
「落ち着けって、ルイズ。足りないなら補えばいいんだ」
「補うって……?」
「わたしと彼」
彼というところで陽介を杖で指しながらタバサは言った。
「大丈夫なのか?」
ウェールズが心配そうに言う。
「大丈夫」
「ここまで来たらやるっきゃないんで」
タバサと陽介は強い意思を瞳に宿らせている。
「信頼してるわ」
キュルケは親友とその使い魔にウインクをしてみせる。
「クマ、タバサチャンを信じてるクマ。あ、もちろん陽介も」
「オマケみたいに言うな!」
クマはその口調とは裏腹に、言葉には信頼が満ちている。
「オレのタマ、預けるぜ」
「頼むわよ」
ルイズと完二は陽介とタバサに言った。
「おう、任せろ」
陽介が威勢よく応え、タバサも任せてというように頷いた。
「あ、そうだウェールズ皇太子、ひとつお願いがあるんですけど」
「なんだい?」
「この船動かすの俺たちだけじゃ無理なんで船乗りを貸してくんないっすかね。出来るだけ多く」
陽介の図々しいとも言える要求に少しウェールズはポカンとしてから笑い始めた。
「ははは、そうかうっかりしてたよ。確かに船乗りが必要だ。で、出来るだけ多くかい?」
「はい、出来る限り多く」
陽介は重要なことだというように強調する。
完二は陽介の意図を理解した。
できる限りこの戦場から人を逃がしたいのだ。たとえ彼ら自身がそれを望まなくとも。
自分たちは船に関しては素人。動力をなんとかしても船を操ることはできない。
そして客である自分たちに何かあったら彼らの面子に関わることであるので彼らは断れないだろう。
「クマくんには命を助けてもらったうえ、大使を安全に送れないとなっては貴族の名折れ。手配しよう」
しばらくするとウェールズは10人の船員を連れてきた。
死ぬつもりだったためか不本意そうな顔をしたが、ウェールズに叱咤激励を受け、その顔は引き締まったものになる。
彼らに加えてルイズたち6人が船に乗り込む。
その際にウェールズはクマに感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、クマくん。きみの魔法は、どんな水の魔法も秘薬も効かないような致命傷からわたしを救ってくれた。
きみのおかげでわたしは戦場で立派に死ぬことが出来る」
クマは悲しそうな顔を浮かべる。
「クマはー、死ぬために王子さまを助けたんじゃないクマよ……」
ウェールズは微笑みを浮かべただけで何も答えなかった。
全員が船に乗り込み、準備が終わったときにウェールズが岸で大声を上げた。
「勇敢な我らが友に、敬礼!」
ルイズたち一行を乗せた船は港に集まった魔法使い、兵士の敬礼で送り出された。
「はあ、地面がこれほど恋しく思えたこともなかったわね……」
「まったくね……」
珍しくルイズはキュルケに同意する。
現在、彼女らは船の上にいたが、その船は空の上でも、当然海の上でもなく陸の上にあった。
ニューカッスル城を出港して2時間以上のフライトの末に彼女らの乗る船は草原へと不時着した。
燃料である風石は出港してすぐに切れて、ほとんど人力による飛行であった。
ウェールズがつけてくれた10人の中にいた4人の風の魔法使い、そしてタバサと陽介、彼らが船を飛ばした。
とはいえ実質的に船の浮力を作っていたのは陽介一人で、他は全てサポートであった。
船を浮かすとは大変な魔力のいることであり、多少のサポートで風石の使用量を減らすことが出来ても単体で飛ばすことなど普通ならば出来ない。
そういう意味で陽介は異常であった。
彼は本来風石が入れられるはずの動力源に終始、魔力を送り続けた。
もし彼がいなければ船は出航後、30分もしないうちに地面へと真っ逆さまだったろう。
今回の最大の功労者というほかない。そういうわけで現在、陽介は甲板でぐーすかと寝ているのも、文句はない。
いつの間にやらタバサがそれに寄り添って寝ているのもだ。彼女も魔力を使い切っている。
しかし……
「なんでこいつらも寝てるのよ……」
「さあ……」
甲板で寝ているのは陽介とタバサ、それにクマと完二だ。陽介が寝るなり二人も彼に倣うというように寝始めたのだ。
他の船員はみな船室に入っている。おそらくそこで寝ているのだろう。
「いいんじゃない。別にわたしたち待つ以外することがないわけだし」
キュルケの言うことはもっともなのでルイズも反論はしない。
現在、船はトリステイン国内の草原にあるのだが、近くに村落もない。それに船は不時着の際に船底部分が相当破損したのでもう浮かすこともできない。
そういうわけで現在彼らは誰かが船の飛ぶ姿を見て、その通報を聞きつけたトリステイン兵でもやってくるのを待つ他ない身だ。
「それにあの子もあなたのために戦ったんだからそれくらい許してあげなさい。」
そういうとキュルケは、わたしも寝ると言ってクマに寄り添って寝始めた。
わかってるわよ。ルイズは口の中で言った。
ルイズは音を立てないようにしのび足で仰向けに寝ている完二に近づいた。
彼の顔はなんとも無防備で、間抜けな笑顔だ。マユゲがないためかいかつい印象も与える。
タバサも、キュルケも自分の使い魔に寄り添って寝ている。なんとなく自分も完二の隣で仰向けになってみる。
視界いっぱいに広がる青い空。空に残月が彼女の気を引く。青い空に消されそうになっている淡い月だ。
昨晩、スヴァルの月夜だったためその影は一つである。完二の言葉によると完二のいた世界は月が一つだけの世界らしい。
月が二つ現れることがないなどありえないような話だが、ルイズは完二の話を信じると決めている。
今、見える空は彼の世界の空と同じ景色なのであろうか。
そう思いながら彼女は眠りに着いた。
支援
投下終了です。
ID:FrckW7Jjさん支援ありがとうです。
読んで「えっ、船の飛ぶ仕組みってそんなのだっけ?」
と思うでしょうが、まあ、この作品の中ではそうなんだと思ってください。
乙です
草原に不時着して船底を破損……じゃああの船はどうやって第三艦橋を守ってるんだろうか
45 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/22(日) 01:55:04.79 ID:dUm/TD6Z
46 :
呪いの使い魔:2011/05/22(日) 05:16:44.71 ID:fQJ5+sDA
皆様お久し振りです。
直接の被害に遭ったというわけでも無いのですが、
震災のゴタゴタで色々あってなかなかSS書けずご無沙汰となってしまいました。
最新話が出来たので予約が無ければここへ投下させて頂きます。
教室内が大爆発を起こしたその時、花城花鶏は最大の危機を迎えていた。
朝食の後、ルイズと共に授業を受けることになった花鶏は面倒臭そうな顔で仕方なしに付いて行った。
教室内に入ると、やはり飛び抜けて美人である花鶏は嫌でも目立つ。
教室中の視線が花鶏へ集まる中、キュルケとタバサだけは彼女と微妙に目を合わさないようにしていた。
「おお……やっぱり凄い美人……」
「あれ?私どうしたんだろ?女なのにドキドキしてる……」
「何であんな美人がルイズの使い魔なんだ?」
彼女に対して様々な感想が教室内を飛び交う。
そんな中、少し太った中年の女性が教室内へ入り、教壇へと立った。
「え〜、オホン。これより授業を始めます」
その一言で教室内は水を打ったように静まり返る。
それを見てご満悦そうににっこりと笑いながらその女性は言った。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
そしてルイズたちの方をちらりと見やると
「おやおや、変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」
そう言って、にっこりと笑うシュヴルーズ。
悪意は無いのだろうが、空気は読めていない。
すると、そのシュヴルーズの言葉に被せるように小太りの少年が叫んだ。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺を歩いてた平民を連れてくるなよ!」
その言葉にルイズの瞬間湯沸かし器が爆発する。
「違うわ!きちんと召喚したもの!それなのに……」
「ボソッ喋るな……」
小さい声。
だが、ハッキリと聞き取ることが出来るくらいのインパクトを含めてそう言ったのはルイズの隣にいる花鶏であった。
明らかに不機嫌そうな顔で花鶏は小太りの少年を睨み付けている。
小太りの少年は花鶏へ向けて言い返そうとする。
「な、へ、平民のくせに……」
「五月蝿い黙れ」
短く、簡潔な言葉。
だが、それだけで小太りの少年は何も言えなくなる。
花鶏は小太りの少年を睨み付けたまま口を開いた。
「小汚い雄豚のくせに言葉を喋るな。耳障り。(ピー)。(ピー)。(ピー)。(ピー)。(ピー)。(とても聞かせられない言葉)!」
言葉の意味がよく分からなくても、その勢いと凄みに負けて小太りの少年はその場に泣き崩れる。
彼は男としての尊厳を花鶏に全て踏み躙られたような気がして、そのまま立ち上がる気力を失っていた。
ルイズは意外そうな顔で花鶏を見た。
「アンタ、もしかして私を庇って……」
「……勘違いしないでっての。私は男が死ぬほど嫌いなの。特にああいう醜く、何で生きているのかさえ分からない存在はね!……ああ、あんな豚に話しかけられて鳥肌ものだわ」
花鶏はそう吐き捨てると、そのまま机に突っ伏して寝息をたて始めた。
今朝から花鶏は、隙があると立っていようが歩いていようが関係なくこうして眠ってしまう。
しかし、彼女は眠りながらでもセクハラ行為だけはやって来るので油断は出来ないとルイズは身構える。
そんなこんなでシュヴルーズの授業は始まった。
「花鶏〜!」
「ん……?智?」
花鶏の目の前には智こと和久津智が立っている。
可憐で美人で清楚で知的な少女。
それでいて胸は無いと言っていいくらい薄い。
ガードこそ固いものの、花鶏が今一番気に入っている少女であった。
「智……どうしてここに?」
「花鶏……実は話があるんだ」
「話……?何改まって……」
智はもじもじと顔を赤らめながら言った。
「花鶏……僕を……その、……調教して下さい!」
「ハイ来たアアアアアアアア!!!」
花鶏は目を特大のハートマークにした後、テンション最高潮で智へと飛び掛った。
ところで、花鶏の目が覚めた。
彼女に覚醒を呼んだのは、とてつもない轟音であった。
花鶏は壁に叩きつけられた形で座っている。
「ケホッ、ケホッ……何よ?何があったの?」
目の前は煙に包まれてよく見えない。
「またゼロのルイズか!!」
「何度目の爆発だよ!!」
「もういい加減にしてくれ!!」
教室内を怒号が飛び交う。
そこから大体何が起きたかを花鶏は推測していた。
(つまり、ルイズちゃんが何かをやらかしたってことね)
やがて目の前の煙が晴れた時、花鶏は瞬時に凍りついた。
彼女の中の時間が止まる。
「………………………………」
花鶏の目の前には一匹の蛇がいた。
お腹を丸々と太らせている。
蛇は舌をちょろちょろと出し入れして見せた。
「……ぃいやああああああああああ!!!!」
花鶏はみっともなく泣き叫ぶ。
そう、花鶏は蛇が大の苦手であった。
逃げ出したいのにその場から逃げ出せず、じっとこっちを見てくる蛇から目も逸らせず、何も出来なかった。
「いやああああ、た、た、たす……」
そこまで言いかけて花鶏は手で口を塞ぎ、それ以上言葉が出ないようにした。
しかし、目の前の蛇は花鶏の元へとにじり寄ってくる。
花鶏は涙をぼろぼろと零しながら再び叫ぼうとした。
「おい!僕のラッキーを吐き出せ!この蛇!!」
その時、一人の少年が蛇を掴み上げ、そのまま何処かへ持って行ってしまった。
目の前に蛇がいなくなり、花鶏は暫く茫然としていた。
(……何だ。蛇が苦手だなんて、あの子も可愛いところがあるんじゃない)
その様子を傍目から見ていたキュルケはクスクスと笑う。
しかし、すぐに花鶏の様子がおかしいことに気付く。
(どうしたのかしら?まるで、死ぬ寸前だったような……そんな顔しているわ)
花鶏は今まで見せたことの無い表情をしていた。
息は荒く、目は見開かれ、胸を押さえて肩を大きく上下させている。
いつもの余裕ぶった立ち振る舞いとは明らかに異なる姿。
彼女は脅えていた。
だが、その脅えは先程の蛇に対してでは無いようにキュルケには見えた。
「……あの子、変」
それはタバサも感じたようで、キュルケに向かってポツリと呟いた。
花鶏は暫くすると、フラフラと立ち上がって教室から出て行ってしまった。
そうとは露知らず、この騒動の原因であるルイズが教壇の上で言った。
「……少し失敗しちゃったみたいね」
50 :
呪いの使い魔:2011/05/22(日) 05:24:31.90 ID:fQJ5+sDA
今回はこの辺で。
毎度短くてすみません。
作中に出て来た和久津智はこのクロスオーバー先の「るいは智を呼ぶ」に出て来る主人公で
人気投票で2回連続ぶっちぎりの1位を獲った超人気キャラです。
そして彼女は実は男です。
女の格好をしている理由はこのSSでは語られることはないので、気になったらググって見て下さい。
それではまた。
>>44 作中で二回完全に無くなっている
つまりは・・・・・新しいのが生えてくる
52 :
つかよん!:2011/05/22(日) 07:58:32.04 ID:yTuiq7Df
ロトシリーズがまとめてwiiで出ますな。
これで最近「ニンジャコマンドー」「スプラッターハウス」「エメラルディア」「フライングパワーディスク」と何時のハードだか分からない稼働状況だった我が家のwiiも…あれ?
まあそんなわけで問題なければ8:00頃に
「使い魔は四代目」
第七話を投下します
53 :
使い魔は四代目:2011/05/22(日) 08:00:50.33 ID:yTuiq7Df
一般的に言って、老人の朝は早い。老人の姿を取るリュオにしてもそれは同様だった。
ベッドから起き上がり、カーテンを開けると、眩い朝日が差し込んできた。
枝から枝へと飛び回る小鳥達が素晴らしいコーラスを奏でている。外の程よく冷えた空気が心地よい、清々しい朝であった。
ふとベッドに眼をやれば、ルイズは熟睡していた。夢の中のルイズを起こす事も考えたが、まだ朝も早い。
時間つぶしに外の空気を吸ってくる事にして、彼は外へと歩き出した。実に良い朝だ。戻ってくる頃にはルイズの眼も覚めているだろう。
…そう思っていた時期がリュオにもありました。
部屋に戻ってきたリュオが見た物は、相も変わらず幸せそうに熟睡するルイズであった。
「何じゃぁ?まだ寝ておるのか…さて、どうしたものかのぉ」
ルイズの生活リズムがまだ分からない為、これが普段通りなのか、それとも寝過ごしているのかが今一はっきりせず、起こすべきかどうかリュオは迷っていた。彼をその迷いから解き放ってくれたのは、ドアをノックする音だった。
「おはようございます、ミス・ヴァリエール、リュオ様、シエスタですが」
「おお、もう来たのか。入るが良いぞ」
リュオの言葉を受けて、メイド服で身を包んだシエスタがドアを開き入ってきた。
そして、リュオに向かい深々とお辞儀をし、快活な声で挨拶をするのであった。
「おはようございます、リュオ様。…ミス・ヴァリエールは?」
「うむ、おはようシエスタ。ルイズならほれ、ごらんの有様じゃよ」
「…寝ておられますわね」
「うむ、見事に寝ておる。というわけで済まぬが起こしてはくれぬか?」
「わかりました」
ルイズはねむっている!
シエスタはルイズをおこしてみた!
ミス!ルイズにダメージをあたえられない!
リュオはようすをみている。
ルイズはねむっている!
「…起きぬなぁ…」
「はい…申し訳ありません。あの、もう一度やってみますね」
ルイズはねむっている!
シエスタはルイズをおこしてみた!
ミス!ルイズにダメージをあたえられない!
リュオはようすをみている。
ルイズはねがえりをうった!
つうこんのいちげき!シエスタは15のダメージをうけた!
シエスタはもんぜつしている!
「あ、あう…」
「だ…大丈夫か?」
運悪くルイズの寝返りでキツイ一発を貰ってしまったシエスタが声も出せず涙目で悶絶する姿を見ては流石にリュオは気の毒になった。
54 :
使い魔は四代目:2011/05/22(日) 08:01:38.88 ID:yTuiq7Df
「…すまぬ。シエスタにやらせたわしが悪かった。こんなにルイズの目覚めが悪いとは知らなんだ」
「い、いええ、大丈夫ですぅ」
年端も行かぬ兄弟の世話をしてきたシエスタにとって、寝ているルイズを起こす事など本来はなんら問題ない作業ではあるのだが、
ルイズは貴族であり、ただの平民であるシエスタは迂闊な起こし方は出来ない。
相手次第ではうっかり触れただけでも難癖をつけられて痛い目に合わされる可能性すらあるからだ。
そういうわけで腰の引けたシエスタの起こし方ではルイズを起こすにはガッツが足りないようであった。
「…むぅ、仕方ない。朝食はここで取る事にして…先に朝食の用意をしてくれぬか。その間に起きてくれる事を期待しよう。それで駄目なら…わしが無理にでも起こす」
「はい。申し訳ありません。それでは、食堂に行ってきますね」
シエスタを見送りながらリュオはまさかこんな事でザメハを使う事になるかもしれぬとはなぁ…何という呪文の無駄遣い…いや、有効活用か?と、少し現実逃避していた。
とはいえ、朝食の準備ともなれば、色々と音も出るだろうし、食欲を刺激する匂いも漂うだろう。そうなれば支度を終える頃にはルイズの眼も覚めているだろう。
…そう思っていた時期がリュオにもありました。
「…リュオ様、朝食の準備が終わりましたが」
「…終わってしまったなぁ…朝食や着替えの事を考えれば時間的にもそんなに余裕が無いんじゃろうし…仕方ない、わしが起こすしかないか」
朝食の支度が整ったにも関わらず未だにルイズは夢の中であった。流石に先程の事があったので、シエスタに頼むのは気が引けて、リュオは自分で起こす事にした。
しかし、その手をシエスタの声が止めた。
「あの、リュオ様?も、もう一度、もう一度だけやらせてください!」
「その意気や良し!と言いたいところじゃが…大丈夫か?余り無理せんでも良かろうに」
「い、いえ。これからずっとお世話する事になるんですし、最初からこれ位で挫けていられません!もう一度挑戦させてください」
「う〜む…では、これが最後じゃぞ。もし駄目だったらわしにまかせるんじゃ。なに、ここまで目覚めが悪いとなると起こせなくてもシエスタのせいではないわい」
ルイズはねむっている!
シエスタはルイズをおこしてみた!
リュオはようすをみている。
おや?ルイズのようすが…!?
幸いな事に、今度は反応があった。この分なら起こすことが出来そうである。
その時、リュオはある事を思いつき、早速実行に移した。
「おお?今回は上手くいきそうじゃぞ。それでじゃな、この分だと起きてもどうせ寝ぼけとるわい。じゃからな…」
55 :
使い魔は四代目:2011/05/22(日) 08:02:48.19 ID:yTuiq7Df
「おきなさい、おきなさい、わたしのかわいいルイズや……」
優しい声が聞こえる…あぁ、ちい姉様の声だ。
「おはようルイズ。もうあさですよ。きょうはとてもたいせつなひ。ルイズがはじめておしろにいくひだったでしょ。
このひのためにおまえをゆうしゅうなメイジとしてそだてたつもりです」
「…姉様、なんで王様に謁見するのに何で…その、竹やりと布の服なんですか?」
「何を言っているのちびルイズ。勇者の旅立ちの作法でしょ」
「エ、エレオノール姉様…でも、その、こんな装備で大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、問題ない」
「…さい、起きてください、朝ですよ、ミス・ヴァリエール」
「う〜ん、い、一番良い装備を…」
「起きてください、ミス・ヴァリエール、起きてください」
「…は、はえ?…だ、誰?」
「お目覚めですか、ミス・ヴァリエール。おはようございます」
「え?…ああ、シエスタ…だったわね。おはよう。…そうか、今朝から来る事になっていたんだったわ」
「はい、おはようございます。それでですね…えぇと、ゆうべはおたのしみでしたね」
「?シエスタ…貴女一体何の事を」
そこまで言ってから、ルイズは昨夜リュオと一緒のベッドで寝た事を思い出した。そして、「おたのしみ」が意味する事に思い当たった。
「ちち、違うのよシエスタ。これは、その、そういうんじゃなくて、ただベッドが一つしかなかったから…ってかリュオ、アンタも何か言いなさい!って、あれ、リュオ?」
真っ赤になりつつそこまで弁解した所で、ルイズは同じベッドで寝ていたはずのリュオがいない事に気付いた。
「ミス・ヴァリエール、リュオ様ならあちらに」
シエスタに示された方向を見ると、なるほどリュオが壁に背を預け立っていた。
「やっと起きたかいルイズや。全く、寝覚めの悪い娘じゃのう。シエスタが起こすのに相当苦労しておったぞ」
「ああ、おはよう、リュオ…じゃなくて!あ、あんたも何か言いなさいよ。シエスタが何か、…その、誤解しているみたいだし」
「うむ?そうじゃな…私見じゃが、顔を赤くしながらそんな事を言っても余計状況を悪化させるだけだと思うが」
「え?え?そ、そうなの?」
そう言われてルイズがシエスタを見てみれば、こちらもルイズの慌てふためく様子を見て「おたのしみ」が何を指すのか理解したようでみるみる真っ赤な顔になっていった。
「誤解?…何がですか…って、ええ!?そ、そういう事だったんですか!あ、あの!誰にも言いませんから!使い魔と主人は一心同体とか聞きますし!」
「シエスタ!だから違うんだってば!そんなんじゃないから!ああもう、どうしてこんな事に…」
わあわあ騒ぐ二人が面白く、リュオはしばらく見守りたかったが時間がそろそろ危ないので助け舟を出す事にした。
「あー、落ち着くんじゃ二人とも。ルイズよ、そろそろ着替えて朝食を取らんと、時間の余裕が無いのではないか?」
「そそそそ、そうね!シエスタ!着替えさせて頂戴」
「うむ、では陰ながら見守って…冗談じゃ、廊下で待っておるぞ」
そう宣言すると、後ろ手に扉を閉め、リュオは廊下に出た。
「ふむ。流石は今でも語り草になる台詞じゃ。破壊力抜群じゃわい」
ドア越しに聞こえてくる部屋の中の騒動を聞きながら、楽しそうに独り言ちるリュオであった。
第三艦橋と聞いて
まず思い出したのはマキナ・シャングリラ
あれって連結艦なのだったか、武装が未だに出てこないが、まさか非武装艦ってことは・・・ないよね
加藤召喚だったらファクターだしマキナ無くても十分なんだろうけど
ついでスパロボWの4コマを思い出す
カズマくんの部屋の被弾率は、高い
しかしあえてブレスを召喚してもよいかもだ
57 :
使い魔は四代目:2011/05/22(日) 08:04:41.77 ID:yTuiq7Df
「リュオ様、着替えが終わりました」
「うむ、では入るぞ」
シエスタの声で部屋に戻るなり、リュオは、ルイズに刺々しい声で話しかけられた。
「シエスタから聞いたわよ、アンタが起こす際に『ゆうべはおたのしみでしたね』と付け加えるよう言ったんだって?」
「うんむ。おかげでばっちり眼が覚めたじゃろ」
「朝からどっと疲れたけどね!本当、誤解を解くのにどれだけ苦労したと思ってるのよ!」
「何を言っておるんじゃ。ゆうべはおたのしみだったのは事実じゃろうに」
「あああアンタの話が興味深かったからつい聞き入っちゃったじゃっただけじゃない。妙な言い
方をしないで!」
「ああ、おたのしみ、ってそういう…いやですわ、私ったら…」
真っ赤になってリュオを攻めるルイズとは対照的に、腑に落ちたように頷くシエスタであった。
「ふふ。そんなに朝から怒るでないわ。大体、さっさと起きないルイズが悪い。シエスタが来てからどれだけ時間がたったと思っておるんじゃ」
「そ…それは…確かにちょっと寝過ごしたかもしれないけど…」
「見てみい。余りに起きないのでシエスタが既に朝食の用意を整え終わっとるんじゃぞ。今まで良くこれで授業に出れておったな…実は遅刻魔だったりはせんのか?」
「あ、あの、お二人ともどうか落ち着いてください…」
「わしはもとから落ちついておるわい。さぁ、冷めないうちに食べようではないか、時間もそう余裕は無いんじゃろ?」
「そ、そんな事で誤魔化されないんだからね!…とはいえ、時間が余りないのは事実なのよね
…むぅ、癪だけど…いいわ、食べちゃいましょ」
「そうこなくてはな。わしも腹が減った。では、食事じゃ」
ルイズは昨日と同様に始祖ブリミルと女王への祈りを捧げると食事に取り掛かった。
一方リュオはそのどちらにも祈る義理も筋も無いので祈らずに食事に入る。
「…そういえばシエスタの朝食はどうなっとるんじゃ?」
「ご心配には及びませんリュオ様。この後厨房で賄いを頂きますので」
「ふむ。しかし、呼びつけておいてなんじゃが、今は一番忙しい時間ではないのか?良くあの戦場から抜けさせてもらえたのぉ」
「はぁ…確かに何人いても足りない時間ではあるんですが、マルトーさんがむしろ乗り気でして。事情を話したら『我らの杖』にしっかりご奉公して来い、と笑顔で送り出されてきました」
「『我らの杖』…?それは一体何よ?」
「昨日のドラゴンの件で…な、それで何故かマルトーに気に入られて…まぁ細かい事は良いじゃないか、気にしないでくれい」
「…ああ、そうなの」
気まずそうなリュオを見て、触れられたくないのだな、と(ルイズにしては珍しく)察した。
が、リュオが初日から二つ名、しかも自分のより遥かに良さそうな物を得た事実は微妙にルイズを切なくさせたのであった。
58 :
使い魔は四代目:2011/05/22(日) 08:09:17.93 ID:yTuiq7Df
食事が終わると、シエスタは手際良くルイズの支度を済ませた後に、他に用事が無い事を確認すると、
「また夜に伺います。それでは失礼します」
と、二人に一礼すると、朝食に使用した食器、ルイズから渡された洗濯物を載せた台車を押しながら退室して行った。
シエスタを見送った二人は、戸締りを確認すると、いざ授業に向かうべく部屋を出た。
すると廊下にはキュルケが待ち構えていた。その隣には使い魔であるサラマンダーのフレイムが控えている。
ルイズはキュルケを見て露骨に眉を顰めたが、キュルケの方は一向に気にした素振りも無かった。そして、ルイズに続いて出てきたリュオの姿を認めると、優雅に一礼した。
「おはようございます。お目通りかなって光栄に存じますわ。竜王のひ孫様。私はキュルケ・フォン・ツェルプストー。二つ名は『微熱』。キュルケで結構ですわ。…ついでにおはよう、ルイズ」
「ちょっと!何よついでって!」
「ふぉっふぉっふぉっ、これくらいで怒るでないわ。あー、キュルケ。昨日の事は忘れてくれい。ちと冗談が過ぎたわ。わしの名はリュオ。遠方から来たただのメイジじゃよ。」
「…と、言う事になさるのですね?何か込み入った事情でも?」
「ふむ。どうしてそう思うのかな?」
「シルフィードが言っていましたわ。『王様』と。ドラゴンは嘘を付かないでしょう?」
「なるほどな…いや参った。降参じゃ。大した事情ではない。厄介事を避けるためじゃ。
王宮の連中や、マジックアカデミーなどうるさいやつらが多いらしいし、な。
しかし聡明な娘じゃな。確かに昨日わしが正体を現す前から警戒していたし、お主は中々見所がありそうじゃな」
「あらやだ。覚えていらしたのですか?恥ずかしながら何も出来ませんでしたけど」
「いやいや、取り乱さなかっただけでも立派なもんじゃ。大口叩いていた連中は総じて無様な姿を晒しておったからのぉ。
それはさておき、そういうわけじゃから、協力してくれると有り難いのじゃが?」
「納得いく理由ですわね。そういうことなら、喜んで。では、リュオ様、でよろしいのですか?」
「ふぉっふぉっふぉ、協力感謝するぞ。呼び方は好きにしてくれ。あまり堅苦しいのは好みじゃないのでな。何なら呼び捨てでも構わんぞ。実際、ルイズはそうしとるわい」
「あら、リュオ様、格式ばったのがお嫌でしたら是非ゲルマニアにおいで下さいな。
お高く止まったトリステインとは違って自由闊達の気風に溢れた過ごしやすい土地ですわ。全力を挙げて歓待いたしますわよ。
それにしても…さすがはルイズね。いくら使い魔だからって、王様を呼び捨てにとはねぇ?」
59 :
使い魔は四代目:2011/05/22(日) 08:09:57.38 ID:yTuiq7Df
突然話を振られたルイズは、憮然として答えた。
「…いいのよ、本人がそれで良いって言っているんだし。それより、人の使い魔に誘いを掛けないでよ。
アンタのサラマンダーだってなかなかのものじゃないの。本当、ゲルマニアの人間は欲張りで困るわ」
「ああ、フレイムね。勿論満足してるわよ。でも私は使い魔としてで無くて、客人として招待しようと思っただけなんだけど?それに、本人が良いと言えば問題ないんでしょう。いかがかしら、リュオ様?」
「はっはっは、どうやら分が悪いようじゃぞ、ルイズや」
「ちょっとリュオ!どっちにつく気よ!」
「おいおい、この程度の他愛も無い話でそんな血相を変えるんでないわ。それに、あくまで対等、と言う条件を忘れたわけでは有るまい。ただ持ち上げて欲しいだけなら太鼓持ちでも雇うんじゃな」
「むー.…それは、そうだけど…」
頬を膨らませ、見るからに不機嫌そうな表情を表に出したルイズを見て、リュオは、一つ溜息をつくと、ぽんぽん、とルイズの頭を軽く叩き、眼を合わせながら安心させるように話しかけた。
「やれやれ…今の所使い魔を止める気は無いから安心せんか。キュルケや、ご主人様がご立腹じゃからこの辺にしておいてくれぬか」
「あら残念、それでは大人しく引き下がる事にしますわ。ではまた後で。ごきげんよう、リュオ様、それにルイズ」
そう言うと、炎のような赤髪をかき上げ、颯爽とキュルケは去っていく。その後をちょこちょこと可愛い動きでフレイムがついていった。
「やれやれ、ルイズよ。お主はもう少し余裕を持った方が良いな」
「…余裕なんか持てないわよ。私は『ゼロの』ルイズだもの。そんな物持つ暇なんか無いわ、ただでさえ遅れて…」
ルイズの言葉は、どんどん小さくなっていった。
「あのなルイズ。危機感を持つのは良い事じゃ。じゃが、お主は一杯一杯になりすぎる。
もう少し大らかに構えたほうが良い。そうでないと見えてこない大事な物もあるのじゃ。
さて、これ以上は廊下でする話でもあるまい。気持ちを切り替えて教室へ行こうではないか。ああ、その前に顔を洗った方が良いかな?」
「…大丈夫よ、問題ないわ」
「うむ、その調子じゃ」
そして、今度こそ二人は教室へ向かい歩き出したのであった。
60 :
つかよん!:2011/05/22(日) 08:11:09.75 ID:yTuiq7Df
というわけで第七話はここまでです。
ちなみに最初に大まかな流れを考えたときは、この時点ではシエスタを登場させる予定ではなかった為に、色々と変わってきてます。
以下は、変更前の一部です。この段階だと「ゆうべは〜」はリュオのセリフでした。
ニヤニヤと笑うリュオを尻目に、ルイズはベッドから起き上がると着替えを出すべくクローゼットに手を掛けて…
固まった。
これが普通の使い魔だったら、着替えさせるよう命じる所だが、昨日余り馬鹿なことはさせるなとくぎゅ…もとい、釘を刺されたばかりである。やはり、やめておいた方が無難だろう。
「どうした、着替えんのか?まさかその服で出歩くわけでもあるまい?」
「当たり前じゃない!キュルケじゃあるまいし、そんな破廉恥な事しないわよ」
「なら早くせんかい。なんなら、わしが着替えさせてやってもよいぞ」
「…大却下」
なにか手をワキワキさせているリュオを一言で切って捨て、ルイズは自分で着替える事にした。なんか、こう。
「おおっと」
とかやられそうな気がしたからだ。
着替えるときに聞こえてきた後1年とかいや3年とかもうこのままかのうとかいう呟きは忘れる事にした。ど畜生。
呪いの方もつかよんの方も投下乙。
一時期は人が減ってたけど
最近はこうやって土日にさまざまな投下を見るのが楽しみですな。
呪いの使い魔の作者さん、使い魔は四代目の作者さん、乙でした。
よければ、5分ごろから小ネタの投下を開始します。
63 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:05:19.30 ID:ATqgOIOK
――「ウルトラ怪獣かっとび!ランド」より、ウルトラマン召喚――
「宇宙の果ての何処かにいる、私の僕よ! 神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より
求め、訴えるわ! 我が導きに応えなさい!」
魔法学院創立以来きっての劣等生といわれる少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・
ラ・ヴァリエールの呪文が、草原に響き渡った。本来は可憐であるはずのその顔は、鬼気迫る色で
塗り潰されている。
その理由は3つ。1つ目は、彼女は魔法が不得手で、どんな呪文も何故か必ず爆発させてしまう
こと。2つ目は、この呪文を成功させないと、つまり春の使い魔召喚の儀式で使い魔を召喚できないと、
自分は落第してしまうこと。そして3つ目、これが最も重要なことなのだが、既に何度失敗して
いるのか判らないということだ。同じ個所で唱えては失敗を繰り返しているので、ルイズの眼前は
直径10メイル、深さ3メイルは下らないクレーターと化している。周りの同級生たちは、既に自分を
揶揄することに飽きているのが見て取れた。
そして、今唱えた呪文の結果はどうなるのだろうか。
「きゃーっ!」
半ば案の定、爆発した。しかし、爆風に吹き飛ばされながら、ルイズは目を見開く。その爆発には、
今までの失敗にはなかった、手応えの様なものがあったから。
そのまま吹き飛び、背中で地面をバウンドすること3、4回。一瞬呼吸ができなくなるのも構わず、
ルイズは爆心地、もとい呪文を唱えた場所へと急ぐ。
「……え?」
すると、また広さと深さを増したクレーターの中、そこで立ち昇っている黒煙の中に、うっすらと
何かが立っているシルエットが見えたのだ。
瞬間、ルイズの心が歓喜と期待に沸き上がり、体が不安と緊張に震えだす。そんなルイズの心境を
知ってか知らずか、一陣の風が吹いた。春の香りを乗せたそれは草原を駆け抜け、黒煙を丸ごと
さらっていく。
そこに立っていたのは、見たこともない亜人だった。一見したところ、体毛らしきものは一切生えて
いないようだ。頭部にはとさかの様なものがあり、それが人間でいえば鼻筋の辺りまで続いている。
黄色に光る眼は楕円形で、ルイズの拳ほどの大きさはありそうだ。体色は銀を基調としており、そこへ
赤いラインがシンプルながら凝った走り方をし、美しい模様を描いている。胸に輝くのは何かの器官なの
だろうか、青い水晶の様な半球体があった。全体的なシルエットは人間に近いものがあるものの、頭身
自体は子どもの様に低く、2、3頭身ほどしかない。こんな亜人がいることなど、ルイズは今まで聞いた
ことさえなかった。
64 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:06:26.63 ID:ATqgOIOK
「あんた、誰?」
おずおずと眼下のクレータに立つ亜人に問い掛けると、亜人がこちらに向き直った。
「はい、私はウルトラマンと申します。はじめまして」
にこやかに答える亜人、ウルトラマン。どうやら、人語を解する程知能は高い様だ。そして、礼儀正しい
口調からも凶暴というわけではないらしい。それが判ると、ルイズはほっと安堵の息をつく。
「召喚は成功の様ですね。おめでとう、ミス・ヴァリエール」
いつの間に傍まで来ていたのか、引率の教師、コルベールが祝福の言葉を掛けてくれる。
「あ、ありがとうございます!」
「さ、それでは契約をお済ませなさい」
その言葉に力強く頷き、ルイズはウルトラマンの許まで降りていく。そして彼といざ対峙すると、1つ
咳払いをした。
「あなた、感謝しなさいよ。亜人が貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだからね」
「はい? なんのことですか?」
よく判らなそうなウルトラマンを無視して、ルイズは杖を構え、呪文を唱える。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。5つの力を司るペンタゴン、
この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ」
使い魔契約の呪文を唱えると、有無を言わさずウルトラマンに口づけする。された方は当たり前だが
驚いたらしく、その大きな目が飛び出さんばかりになっていた。
「わー! あちち!」
次の瞬間、ウルトラマンは左手を押さえて跳び上がった。恐らく、使い魔のルーンが刻まれているの
だろう。10メイル以上という恐るべき跳躍力で飛び跳ねている。
こうして、ルイズは望みの通り、宇宙の果てから、神聖で、美しく、強力な使い魔を得たのだった。
大ボケをかますという、但し書きがついていたにせよ。
召喚の儀式が終了すると、コルベールの号令で生徒全員が教室へ戻ることになった。各々が、フライの
呪文を唱えて浮かび上がる。その様子を、ルイズは歯噛みしながら見つめていた。魔法成功率ほぼゼロから、
ゼロのルイズと呼ばれる自分は、フライの呪文を唱えられない。その上、意地の悪い連中は嘲りの言葉さえ
投げてくる。
「ルイズさんは飛べないんですか?」
「う、うるさいわね!」
使い魔の質問に答えず、そっぽを向く。しかし、続いた言葉に振り向かされた。
「なら、私の背中に乗ってください」
「へ?」
言うなり、ウルトラマンの体が浮き上がった。次いで、両腕を頭上へ伸ばし、水に飛び込むような姿勢に
なって地面と水平になる。
「あ、あんた、飛べるの!?」
「ウルトラヒーローですから」
意味不明な単語を耳にするが、ともかく飛べるというのはなかなかのアピールポイントだ。その上、乗れと
言いだす以上人を乗せて飛ぶだけの力もあるのだろう。ルイズは自分が当たりを引いた実感を湧かせながら、
ウルトラマンの背にまたがる。
「では、行きますよ」
言うや否や、ウルトラマンは矢のような勢いで飛翔した。
65 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:07:13.47 ID:ATqgOIOK
「す、すごい……すごい!」
自分とさして変わらない体格ながら苦も無く、そして高速で飛ぶウルトラマンに、ルイズは興奮した声を
抑えられない。ウルトラマンの方もそれに気を良くしたらしく、ご機嫌な声を上げた。
「ハハハ、それじゃあ、マッハ5で行きますよ」
「まっは?」
また知らない単語がでてきたかと思うと、突然凄まじい加速が襲いかかる。暴力的な風が体中をしたたかに
叩き、風圧で呼吸もままならない。少しでも腕の力を弱めれば、確実に引き剥がされる。死ぬ気でウルトラマンに
しがみついていると、学院の塔がすぐそこまで迫っていた。
“あと少しで解放される!”
そう考えて油断してしまったことを、ルイズは長らく後悔することになる。
「ところで、教室はどこですか?」
そう言って、ウルトラマンが急停止した。僅かに気が緩んでいたルイズは、その急ブレーキに耐えられず、
慣性の法則のままに前へ放り出される。
かくして、ヴァリエール公爵家の三女は、進級が決定したその日に学院の窓を突き破り、教室の黒板にめり込むと
いう、人生初の体験をするのだった。
その夜、全身を包帯で覆ったルイズは、ウルトラマンに使い魔としての心得と役割を説いていく。素直な
性格なのか、脳みそが単純なのか、割とあっさりウルトラマンは使い魔という立場を受け入れた。それに
安心したルイズは、そのままベッドへ横になり、眠ることにする。そして、ウルトラマンへは指示した
場所へと帰らせた。即ち、女子寮にあるルイズの自室へ。この夜、ルイズは医務室で過ごすことになるの
だった。ウルトラマンが看病するとは言っていたが、そこはかとなく不安なためやめさせたのは、きっと間違った
判断ではなかっただろう。
翌日、校医から授業を受ける許可をもらったルイズは、包帯の上から制服を着て教室へ向かった。その途中で、
ウルトラマンと合流する。仲良くなったシエスタなるメイドに朝食をご馳走になったらしく、今朝は
病院食しか口にしていないルイズは軽く恨めしくなった。
66 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:09:18.83 ID:ATqgOIOK
その日の最初の授業は、物質を別の物質に変化させる魔法、錬金についてだった。講師は、土系統の
メイジ、シュヴルーズ。彼女の授業を受けるのは、ルイズは初めてだった。だからだろう、彼女がルイズに
実技を指名したのは。一瞬の間もおかず、赤毛の天敵、キュルケが反論する。
「あの、ミセス・シュヴルーズ、止めた方が……」
「おや、ミス・ツェルプストー? 何故です?」
「危険だからです」
「危険? 錬金の呪文は、別に危険なものではありませんよ」
キュルケの忠告を一笑に付すると、シュヴルーズはルイズを再度指名した。そして、キュルケの態度に
かちんときたルイズは、それに力強く受ける。
結果はどうなったかといえば、やはり爆発だった。それにより授業は潰れてしまい、その罰として
ルイズは教室の修復を命じられてしまう。
「はあ、こんなの貴族の仕事じゃないわよ……」
文句を言いつつ、机を拭く。爆心地にいたがために、増えてしまった怪我と開いてしまった傷が痛い。
屈辱感と痛みに億劫さを募らせていると、ウルトラマンがにこやかに言ってきた。
「何を言うんですか。自分の教室を自分で綺麗にするのは、立派なことですよ」
自分の体より大きな机を軽々と持ちあげながら、壊れた机と取り換えていくウルトラマン。その前向きな
態度に、ルイズも少し机を拭く速度を上げる。そして、ルイズなりの頑張りとウルトラマンの超人的な
運動能力により、意外と早く修復と掃除は終わった。
「ふう、綺麗になったわね」
掃除なんて、普通はメイドの仕事。常日頃そう思っているルイズではあるが、いざ自分の力で教室の
清掃を終えると、達成感がふつふつと湧いてくる。
しかし、ウルトラマンは不満そうだ。
「そうでしょうか、何かやり残しがある様な……」
疑わし気に周囲を見回していると、ウルトラマンは突然床に這いつくばった。
「あー、やっぱり!」
かと思えば、愕然とした表情で叫びだす。
「爆発でできた床のひびの中が、汚れています!」
ガーン、という擬音が聞こえてきそうな空気を纏うウルトラマンを見て、ルイズもそのひびを覗き込んだ。
「そうね、でも仕方ないわよ」
見れば、ひびはとても手が入る様な大きさじゃない。ここまで磨くのは無理だろう。
67 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:10:48.70 ID:ATqgOIOK
「いいえ、大丈夫です!」
しかし、何故かこの使い魔は自信満々に言いきった。かと思えば、突然右腕を高らかに掲げる。
「“八つ裂き光輪”!」
また未知の単語が出た、と思うよりも早く、ウルトラマンの手に光る何かが現れる。それは、輪だ。
純白に輝き、のこぎりの様に周囲がギザギザになった光のリング。
いかにも物騒な形状のそれを、ウルトラマンは一気に床へ突き刺した。頑丈なはずの床に深々と刺さった
そのリングで、ウルトラマンは床のひびを広げていく。
「ちょっと! 何してるのよ!」
「こうすれば、汚れを拭きとれます!」
言った通り、ウルトラマンはひびの部分から床を丸くくりぬき、煤けた部分を拭いていった。
「むっ、いけません! まだまだひびがたくさん残ってます!」
「え……まさか!?」
その台詞にルイズが危惧した通り、ウルトラマンが今のリングを教室中のひびへと投げ始める。それと
同時に、教室の中がみしみしと音を立てだした。
「きゃーっ!」
「わーっ!」
次の瞬間、教室の床が抜け、ついでに壁も崩壊してしまう。
「掃除する教室が無くなってしまいました……」
「あ、あんたのせいでしょ……」
そして、桃色と銀色の主従は、瓦礫に埋まったまま呻くのだった。
昼食の時間になったが、ウルトラマンはひもじい思いをしていた。あれから、再び医務室送りになった
ルイズに、教室破壊の罰として昼食抜きを命じられていたからである。
「はあ、お腹がすきました……」
「あら? ウルトラマンさん」
そこへ、今朝賄い食を分けてくれた少女、シエスタが声を掛けてくる。
「シエスタさん、こんにちは。お仕事、お疲れ様です」
「ありがとうございます。ところで、どうされたんですか?」
元気のない様子を察してくれたのだろう、メイドの少女が気遣わし気に尋ねてきた。
「いえ、ルイズさんにご飯抜きの罰を受けてしまいまして」
「まあ、それなら、また賄いはいかがですか?」
その申し出に、ウルトラマンは首を横に振る。
「いえ、罰を受けているんですから、それはできません」
「真面目なんですね」
感心したとも、呆れたとも取れない声で、シエスタが言う。それに対し、ウルトラマンはまたにこやかに
笑った。
「でも、シエスタさんの厚意はありがたく受け取りました。何か、お手伝いできることはありますか?」
「え、そんな、いいですよ」
「遠慮なさらず。私の気持ちですから」
「ふふ、そうですか? それなら、デザートの配膳を手伝ってもらえますか?」
差し出されるトレイを手にし、ウルトラマンは快く頷いた。
デュワッ!(支援)
69 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:13:25.58 ID:ATqgOIOK
「なあ、ギーシュ、今は誰と付き合ってるんだよ!」
「誰が恋人なんだ、ギーシュ?」
少年たちが囃したてる様な声を上げる。手にしたバラを振るいながら、中心になっているギーシュは高らかに
答えた。
「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないよ。バラは多くの人を楽しませるために咲くのだからね」
自らをバラに例えながら、ギーシュは笑顔を振りまく。花すら霞むだろう笑顔のはずだが、何故か友人たちは
苦笑していた。それに首を傾げていると、後ろから声が掛けられる。
「失礼します、落とされましたよ」
後ろ目で見てみれば、ルイズが召喚した亜人が立っていた。しかも、まずいものを差し出してきている。
“まずい!”
思わず、無視を決め込んだ。しかし、それでも亜人は差しだしてくる。仕方なく自分のものではないと
言い張るが、周りが差しだされているものに気付いてしまった。
「おや? それはモンモランシーの香水じゃないか?」
そこから後は、急展開だった。あのまま周囲の友人たちは、自分はモンモランシーと付き合っているのかと
囃したて(事実なのだが)、それから先日一緒に遠乗りへ出かけた下級生のケティには涙混じりのビンタを
もらい、モンモランシーにもあの一年生に手を出していたのかとやはりビンタを喰らった。
ようするに、自分が散々な目にあったというわけだ。あの亜人が、自分の香水を拾ったせいで。それに対して
文句を言おうと、香水のビンを持ちながら亜人へ向き直る。
「なんということでしょう」
すると、肝心の亜人の方が何故か目に涙を滲ませている。
「私が拾ったビンが、喧嘩の原因になってしまいました……」
なにやら、亜人はビンを拾ったことを後悔している様だ。ギーシュはそれにほくそ笑み、一気に断罪すべく
畳みかけようとする。
「いけないビンです!」
「へ?」
しかし、続いた亜人の言葉に、妙な流れを感じた。
「壊しちゃいましょう!」
言うが早いか、ルイズの使い魔は奇妙な構えを取った。左右の手を手刀にし、右腕を縦に立てた。次いで、
左腕を水平にし、右腕とクロスさせる。訳のわからない、意味不明なポーズだ。
しかし、それを見た瞬間、ギーシュは何故か寒気を感じた。何故かは知らないが、亜人の体勢に戦慄が迸る。
それは、部門の家柄に生まれた者としての本能だったのかもしれない。そして、最も肝心なのは、亜人の構えが
明らかに自分の持つビンに狙いを定めているということだ。
「ま、マリコルヌ! 受け取りたまえ!」
「へあつ!?」
正体不明の危機感に駆られ、思わず同級生へとビンをパスする。突然ビンを投げられたマリコルヌの方はと
いうと、慌てふためきながらそれをキャッチする。一方、それを見て取った使い魔の亜人は、交差させた腕を
マリコルヌの方へと向け直した。
「逃げるとは卑怯な!」
叫んだ瞬間、亜人の右手が輝く。
「お仕置きの“スペシウム光線”です!」
70 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:15:27.97 ID:ATqgOIOK
刹那、その光る右手から、凄まじい閃光が放たれた。白銀に輝く光の奔流が、食堂を煌々と照らしだす。
その余りに眩い輝きの流れに、ギーシュは不覚にも美しいと感じてしまった。
「ぎょえーっ!」
直後に、マリコルヌの悲鳴が食堂中に響き渡らなければ、ではあるが。見れば、彼の周りは何かが爆発
したかのように机や床の破片が散乱し、マリコルヌ自身も焼け焦げながら痙攣していた。
しばしの後、焦げたマリコルヌから少し離れたところにいる生徒が、上から落ちてきた何かをキャッチした。
即ち、爆発の勢いで飛ばされた、香水のビンを。
「むっ、また逃げましたね!」
目ざとくそれを見つけた亜人が、今度はそちらへと構えを向ける。それを見て焦った生徒はすかさずビンを
放り投げるが、時既に遅し。その生徒は亜人が放つ光の犠牲者、第2号と化してしまった。
そして、食堂は地獄絵図と化してしまった。香水のビンが次々とたらい回しされていき、その度に亜人は
閃光を撃ちだしていく。しかし、それはなかなか直撃することはなく、ビンは爆風で飛ばされることはあっても
直接の被害にあいはしない。代わりに周囲の者たちが焦げていくだけだ。その上、ビンに掛けられた硬化の
魔法のせいで、ビンが床に落ちた衝撃で割れることも期待できない。
「ええい、ちょろちょろと逃げますね! 怒りの涙で、狙いが上手く定まりません!」
「なら、撃つなー!」
誰かが叫ぶのも虚しく、光は食堂を横切り、その着弾地点は吹き飛び、香水のビンは宙を舞う。
その一方で、全く被害にあっていないものもいた。あの亜人の背後は安全だと考えたのだろう、青い髪の
少女、タバサは、彼女の友人であるキュルケとともに、亜人の後ろを離れないように移動していた。それに
便乗しようと、ギーシュもそちらへと向かう。すると、何かが胸元に当たり、思わずそれを掴んでしまった。
嫌な予感がしつつも見てみれば、やはりそれは香水のビンだったりする。
71 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:18:21.28 ID:ATqgOIOK
「もう逃がしませんよ」
不吉な声が耳に入った。恐る恐る声の方へ目を向ければ、亜人がこちらへ腕を構えている。
「ギーシュ君でしたね、そのビンをしっかり捕まえておいてください」
「ま、待ちたまえよ、君! 少し落ち着きたまえ!」
慌てて言うギーシュに、ルイズの使い魔はしっかりと頷く。
「はい、落ち着いて狙います」
「そ、そうじゃなくて、は、話せば判る!」
話す前に、ビンから手を離せばいいのだが、焦りまくったギーシュはそのことに気がつかない。そして、
とうとうその時が来てしまった。
「いけないビンめ! とどめです!」
「うぎゃーっ!」
ついに、亜人の放つ光が、香水のビンを木端微塵に打ち砕いた。それを手にする、ギーシュごと。全身から
焦げくさい臭いを立ち昇らせながらギーシュが倒れ込むと、亜人が満足そうに笑っているのが見えた。
「悪いビンもやっつけて、これで食堂に再び平穏が訪れました」
「んなもん訪れとらんわーい!」
最初の犠牲者だからか、最初に復活したらしいマリコルヌの叫びを遠くに聞きつつ、ギーシュの意識は深く
沈んでいく。
こうして、食堂での騒ぎは幕を閉じたのだった。ちなみに、この件をきっかけにウルトラマンが誰かに決闘を
申し込まれるようなことは、一切なかった。誰だって死にたくはない。
尚、このはた迷惑な使い魔を召喚したルイズは、これ以降ゼロと馬鹿にされることはなくなったが、代わりに
人災のルイズと呼ばれて恐れられるようになったという。
「私がやらせてんじゃなーい!」
――終幕――
72 :
かっとび!使い魔:2011/05/22(日) 13:23:48.07 ID:ATqgOIOK
以上、投下終了です。
>>68の人、ご支援ありがとうございます。
前スレの351の人に「かっとびランドは小児向けでかなり下品だからどうかと思うけどなあ」
と意見を出されたので、下品でないネタでちょっとやってみました。ゼロ魔の1巻相当部分なだけに、
かっとびの1巻のネタで。
しかし、読み返してみれば誤字があった……
>>69の「部門の家柄に生まれた者としての本能だったの
かもしれない。」にある、部門を武門と脳内変換お願いします。
それでは、お目汚し失礼いたしました。
15:05分から投下します
「異世界ぃい?」
時刻は夜。カルパッチョを使い魔ということで女子寮の私の部屋に入れ、その能力と経緯を問いただしている所だった。だが聞こえてくる内容は突拍子のないことばかり。
神を決める神候補の戦いに才を求める100人の中学生の戦い。
それぞれが有する数々の才能を駆使し、杖を使わない魔法、○○を××に変える能力を用いて相手を気絶に追い込む戦い。
最後まで勝ち残った中学生は書き込むことで一つ好きな才能を得ることが出来る“空白の才”を神から貰うことができ、その中学生をバトルに参加させた神候補は神から次の神の座を貰うことが出来る。
そんな話私は知るわけがないしどこからどうみても異端でありブリミル教の神官に伝われば即座に異端審問にかけられ処罰されることだろう。
危機感のまるでないカルパッチョを見て私は溜め息を一つつく。相変わらずへらへらとにやけている。
まぁ真顔のカルパッチョは悪人面と爪痕のせいでとても恐いのでその方がいいのかもしれない。熊に引っ掻かれたような顔と体の3つの爪痕はどういう経緯でついたのかは気になったが、聞くのはやめておいた。
話しがそれたが、カルパッチョは夜空に浮かぶ二つの月を指差してオレの世界には月が一つしかない、
能力はあるが魔法なんてものはない、だからここは異世界でオレは別の世界から来たんだべ! と言ってのけた。そんなの信じられるわけないじゃない!
「でもよぉルイズ。それじゃあオレの能力はどう説明するんだべ? ‘指輪’を‘ロケット’に変える能力に‘マント’を‘翼’に変える能力。杖を使わねぇ先住魔法とやらがあるみてぇだが、その中にあんのか?」
「ない……けど。でも今まで見つかってなかっただけかもしれないし」
「そうかもしれねぇな。じゃあこの能力もあると思うか?」
カルパッチョはニヤリと笑みを強めて問いかけた。
「さっき話した中学生バトルだが全員が神候補から‘1つ’の能力を与えられているべ。さてオレの能力は?」
「だから何、って1つ?」
カルパッチョは少なくとも二つの能力を使っていた。そしてまだあるかのような事も言っている。そこから導き出される答えは二つ。
複数の神候補たち、または一人の神候補がカルパッチョに能力を複数与えた。
仮にそんなイカサマがあったとして、二つまでならともかく、三つ四つ与えたりしたらさすがに神様に気づかれるだろう。よって残る答えは。
「まさかとは思うけどあなたの能力って……‘相手の能力’を‘自分の能力’に変える能力?」
「おお! 一発で当てるとは流石だなぁルイズ! 中には二人の神候補に一つづつ能力貰ったっていうイカサマ野郎もいたが正真正銘オレの能力はそれだ。厳密には‘他人の能力’を‘自分の能力’に変える能力だけどなぁ」
「ふふーん。どう? 自慢じゃないけどこれでも私は座学の成績がトップクラスで優秀なのよ。あなたの能力が‘コピーする能力’だってそのくらい、ってちょっと待って。何その卑怯な能力!? あんたのそれの方が十分イカサマじゃないの!!」
「落ち着くべルイズ。強い能力にはそれ相応の限定条件があるべ」
「限定条件?」
「限定条件つまり使用条件だな。この能力を使うには対象の能力者の半径十メートル以内に二十四時間以上いなきゃいけねぇ」
「メートルはメイルで才は才能のことよね。そんな限定条件どうやってクリアしたの? あんたまさか相手を拉致して監禁」
「頭を使ったんだべ。最強の能力者のロベルト=ハイドンっていうんだがな、そいつに取り入ってロベルト十団を組織するように言ったんだ」
「ロベルト十団?」
チーム名のように聞こえるが最後に残るのは一人だけなのにチームを作ってどうするのだろうか。ーーなるほど、そういう事ね!
「わかったわ! ロベルト以外を倒すチームなのね。あなたがリーダーになれば、二十四時間以上近くに居続ける条件もクリア出来るし、相手の限定条件も聞き出せるわね!」
ニヤリと笑ってカルパッチョは肯定する。
「ご明察だべルイズ。その通りだ。ロベルトは‘理想’を‘現実’に変えるっていう最強の能力のかわりに使う度に寿命を一年失う限定条件がある。だからあんまり戦えねえ。
十団がロベルト以外を全員倒した暁には、優勝したロベルトが世界を白紙に戻して好きな地位を十団与えるっていう約束なんだべ」
「でもロベルトが約束を守るとは限らないわ」
「まぁオレも信じちゃいねえ。元々ロベルト十団はオレが能力を得るために作ったチームだからな。オレの目的は理想の地位なんかじゃねえ。優勝して‘女子に好かれる才’を手に入れることだからなぁ!」
「ふふっ。それでこそカルパッチョね!」
でも、そんなカルパッチョをこの世界に呼んでしまって良かったのだろうか。顔色をうかがって聞いてみる。
「ねえ、元の世界に帰りたいと思う? 才能を手に入れたいと思う?」
「ん? ん〜〜……絶対ぇ帰りたくねぇな。才能もいらねえ」
どうして? と問う私。
「だってよぉ。オレの夢はもう達成できてんだべ? オレに微笑みかけてくれる可愛い女の子と一緒に暮らすって夢がなぁ」
へらへらと笑うカルパッチョ。
「オレはこんな見た目でこんな性格だからよぉ。元の世界じゃ女の子に嫌われてばっかりだったんだべ」
だから、と付け加える。
「オレを嫌わないでいてくれる女の子と一緒に居られて。オレは今最っ高に幸せなんだべ」
「カルパッチョ……」
思わずにやけてしまう私。誰にも必要とされない落ちこぼれの私を必要だと言ってくれる。それだけで心の中がとても温かくなるのを感じた。
気恥ずかしそうに顔を背けると私の体を優しく抱きしめてくれる。心音が二人を紡ぐ。
さりげなくお尻を触ってきたカルパッチョを全力で突き飛ばして爆破させた。いい雰囲気が一瞬で台無しになった。
私だけの軽薄な使い魔は、どこまでいっても軽パッチョだった。
投下を終了します。第1話終了です
おいおい、弱体化がダメな場合
公式で弱体化が起こるディスガイアはどうなるんだ!w
というかあの世界のメインキャラを呼び出しても
大丈夫なのは2や3の一部ぐらいだぞ
アデルはそこまで強くないからいけるだろうが・・・嫁が黙ってね〜w
>>79 公式で起こりえているんなら、それもありじゃない?
弱体化がダメってのは、フリーザ様が意味もなく弱くなってウインドカッターで真っ二つにされたり、
バーン様の天地魔闘の構えがエクスプロージョン一発で破られたりとかそういう感じのだよ。
>>80 バーン様の天地魔闘がエクスプロージョン一発で破られる?
んなアホな。
なるほどそういう事かよくわかったよありがとう
パンヤからアリン召還
ハルケギニアに色んな意味で間違ったゴルフが伝わる事になったのは言うまでも無い
やはりゼロ魔側を魔法一つで街を消せるぐらいに強化してだな
>>83 それだとエルフと戦争したら勝つだろ
エルフたちだって魔法で街一つは吹っ飛ばせるらしいし
スレイヤーズ世界の賢者の石なものでも無いとな…
元の世界からゼロ魔世界に飛ばされた段階で、
弱体化したって何も不自然じゃないだろ。
その逆も有りだが。
初回時のエクスプロージョンなら町一つぐらいなら消せるかも
かっとびランドの人、乙でした。いや懐かしい。小さいころファンレター出したりしたことを思い出しましたよ。
さて皆さんこんにちは、けっこう暑くなってきましたね。PCの熱気がそろそろわずらわしくなってきました。
では、ウルトラ5番目の使い魔、45話投稿開始します。いつもどおり10分後にはじめますのでよろしくお願いいたします。
>>86 しかし、設定だと契約で逆に強化されるっぽいんだがなぁ
まぁ、飛ばされることによって、そのルイズ世界と自分の世界の法則の違いで
魔法が使えなくなるパターンも有るけど
魔法使いが魔法使えなくなる時点で大分話の展開が難しくなるから
まさしく
/)
///)
/,.=゙''"/
/ i f ,.r='"-‐'つ____ こまけぇこたぁいいんだよ!!
/ / _,.-‐'~/⌒ ⌒\
/ ,i ,二ニ⊃( ●). (●)\
/ ノ il゙フ ::::::⌒(__人__)⌒:::::\
,イ「ト、 ,!,!| |r┬-| |
/ iトヾヽ_/ィ"\ `ー'´ /
って事になるんだよな
今思うと弱体化しないと強すぎて召喚されたキャラが俺つえーーーするだけだしな
それだと面白味があんまりないし・・・
でも弱体化のしすぎは気を付けないといけないな
自分が持ってる(持ってた)技能とハルケの技能、知識を合わせて新たな技を開発するって裏技は使えるような気がする
第四十五話
母のために、娘のために
宇宙魔人 チャリジャ 登場
シェフィールドが去った後、タバサの心に残されていたのは深い絶望だけだった。
あの日……ティファニアに会うために、アルビオンに向かう船の中ですべてが始まった。船倉で一人でいるところを見計らって
現れたシェフィールド。やつは、自分から虚無の担い手の情報を聞き出そうとしてきた。
だが、当然そんな要求を呑むわけもなく杖を向けたとき、シェフィールドの放った言葉のナイフが、どんな魔法よりも鋭くタバサの
心をえぐった。
「まあそういきり立たないで、北花壇騎士タバサ殿」
自分と、自分にごく近しい人間しか知らないはずの肩書きを軽く口にしたシェフィールドは、愕然とするタバサにすべてを語った。
「まずは、あらためて名乗っておきましょうか。私はあなたの叔父、ガリア王ジョゼフさまにお仕えする者。ただし、あなたたち
北花壇騎士よりもさらに影の存在にして、ただ一人の直属の配下。あのお方のご意思をそのまま実行する手足が、この私」
「そんな、北花壇騎士のほかに、まだガリアにそんなものが……」
「うふふ、あなたが知らないのも無理はないわ。私は常に、ジョゼフさまのためにのみ働く。命令はジョゼフさまからのみ
受けるため、北花壇騎士団長のイザベラも私のことは知らない……あなたの武勇伝は、前々から拝見させてもらっていたわ。
エギンハイム村での戦い、それに少し前のリュティスでは、できの悪いお姫様がお世話になったわね」
シェフィールドはその後も、ジョゼフとタバサの父シャルルの因縁や、タバサの母がタバサをかばって心を病んだことも知って
いると告げた。いずれもガリアの中枢に精通していなければ出てくるはずのない知識……タバサも、もはやシェフィールドの
言うことが、本当であると認めざるを得なくなっていった。
「どう? これで、私の言っていることが真実だと理解してくれた? 足りなければ、キメラドラゴン退治をはじめとする、あなたが
これまでの任務であげた代表的な戦果も挙げてみせましょうか」
「もう、いい……」
抵抗する気力を失った声で、ようやくタバサは答えた。まさか、まさかと思ったが、虚無の担い手……すなわちルイズを狙って
いるのが、自分にとって父の仇であるガリア王ジョゼフに他ならなかったとはと、その事実は大きくタバサを打ちのめした。
それでも、数々の苦境を乗り越えてきたタバサの屈強な精神の支柱は、彼女に失神することを許さずにシェフィールドに向かい合わせた。
「なぜ、虚無を狙うの?」
「あら? ずいぶんと反抗的な態度をとるのね。そんなこと、聞ける立場だと思ってるの?」
内心を悟らせまいとする意識が、強気な対応をタバサにとらせた。もし、通常の任務であるならば、どんなに困難で危険で
あってもタバサは表情を変えない。だが、今まで決して他人を巻き込むまいと思ってきたガリアの暗部に、よりにもよって
友人であるルイズたちを巻き込んでしまったという罪悪感が、タバサをより残酷に傷つけていたのだ。
「ふふ、まあいいわ。吼えることもできないような愛玩犬は、ジョゼフさまには必要ないものね。あのお方は、世界に四匹しか
いない竜を戦わせてみたいと思ってる。でも、どうしていいかわからないからとりあえず捕まえることにしたわけ」
「なぜ、そんなことを」
「なぜって? 楽しそうだからに決まってるでしょう。あなただって、小さいころはお母上にイーヴァルディの勇者とか英雄譚を
聞かせてもらったりして、わくわくしなかった? そして、そんな戦いを小説や歌劇とかじゃなくて現実に見てみたいと思ったことはない?」
タバサの返答は、無言の眼光だけだった。もはや、言葉に表すことができないほどの、憤怒と憎悪が青い瞳の中で荒れ狂っている。
「うふふ、そう怖い顔しないで。もちろん、あなたの気持ちもジョゼフさまはちゃんと汲んでくださっているわ。いつも大変な仕事を
引き受けてもらって悪いと思っていらっしゃる」
そらぞらしい台詞に、タバサはなんの感銘も受けはしなかった。ただ、シェフィールドがわざわざ自分に正体を明かしたのは、
第二の虚無の担い手の場所を聞き出すためだけではないことは読めていた。ジョゼフは、そんな甘い男ではない。
「わたしに、なにをしろと?」
「いい子ね。そしてとても聡明だわ。まさに、あの方のおっしゃるとおりね。今日はあなたに特別な任務を与えるために来て
あげたの。これに成功したら、大きな報酬があるわ。あなたの母親……毒をあおって心を病んだのよね。その、心を取り戻せる薬よ」
そして与えられた任務は、虚無の担い手を手に入れるための企てに協力すること。まずは、第二の虚無の担い手の可能性の
強いティファニアの情報を居場所も含めて詳しく教えること、次に現在の虚無の担い手と行動を共にし、動向を逐一報告することだった。
むろん、タバサに選択の余地はなかった。
ウェストウッド村の場所を教え、シェフィールドがティファニアをさらったときから、タバサは引き返せない道に足を踏み入れた。
ルイズもキュルケも、みなタバサには全幅の信頼を寄せていたので、疑われることは一切なかった。
後ろめたさは、もちろんある。けれど、自分は最初から母の心を取り戻し、ジョゼフに復讐するために生きてきたのだ。そのために
積み上げてきたこれまでの努力を、ここで失うわけにはいかないと自分に言い聞かせてきた。
だが、エレオノールが内通者がいるのではないかと疑ったときには、本気で怒ってくれている皆を見て、思わず逃げ出して一人で泣いた。
それでも、母の心を取り戻すにはこれしかないと、必死で心を抑えてここまで来たのに……
手のひらの中の赤と青の小瓶が、これが悪夢ではなく悪夢のような現実であることを主張してくる。シェフィールドが渡した
二つの小瓶は、睡眠薬と毒薬……やつらはタバサにそれをみなの食事に盛れと命じてきた。虚無を捕らえるのと同時に、ほかの
邪魔者をこの場でまとめて始末するつもりなのだ。
しかも、その手をくだすのを自分にやれとは! ジョゼフは、どこまで自分の運命をもてあそべば気がすむのか。立っていること
すらできない絶望の中で、タバサは常に手放さない杖さえ捨てて、雷におびえる子供のようにうずくまって涙を流した。
才人やキュルケを自分の手で殺す。こんな自分を平然と受け入れて、ともに歩んでくれたかけがえのない親友を。
ルイズだって同じだ。彼女から思い人と姉を奪うなんてできるわけがない。
……しかし、やらなければ人質同然にされている母の命が危ない。
いったいどうすればいいの……親友か母か、片方を生かすためには片方を犠牲にしなければならない。けれど、どちらかを
選ぶなどそんな資格が自分にあるはずがない。
タバサは憎しみを込めて、手のひらの中の毒薬を睨み付けた。こんなものと、叩きつけて砕けたらどんなに楽だろう。しかし
それは自分のために毒を飲んで心を病んだ母親の命を砕くのに等しい。かといって……何度も、何十回もタバサは自らの中で
自問自答を繰り返した。
しかし、自分を納得させられる答えを出すには、あまりにもタバサが背負わされた選択は大きくて重すぎた。押しつぶされそうな
重圧の中で苦しむタバサの目に、もう一度二つの小瓶が映りこむ……
その瞬間、タバサは考えるのをやめた。
「……」
涙を拭いて立ち上がったとき、もうそこにいたのはタバサではなかった。
美しく澄んでいた青い瞳は黒く濁り、唇にも潤いが消えて生気がない。どちらを選ぶこともできず、誰を切る決断もできなかった
タバサは、自らの心を殺すことで、その重圧から逃れようとしたのだった。今のタバサには、記憶はあっても感情はない。悲しむ
ことも、いとおしむことも捨て去って、ただ与えられた使命を果たすだけの機械になりさがった。
それは皮肉にも、これまでいくらそうなじられようとも、決してそれそのものにはなるまいと誓ってきた『人形』に、自らを貶めると
いう悲しすぎる選択だった。
タバサの姿をした『人形』は、落とした杖を拾うと、毒薬の小瓶を懐にしまって踵を返した。
ところが、キャンプへ戻ろうとしたタバサの前に、木の陰から立ちふさがるように人影が現れた。
「こんな時間に、子供の一人歩きにしては長すぎるんじゃないかい?」
現れた人影は、タバサに向かって歩み寄りながら言った。近づいてくるにつれて、タバサのものとは違う形のふちなし眼鏡と、
つやのある緑色の髪が月光に揺れて現れる。
「ミス・ロングビル……」
現れた人物の名前を、タバサは感情の消えた声でつぶやいた。感情がこもっていないのではない。文字通り存在していないのだ。
その声をキュルケなど、普段の彼女をよく知る誰かが聞いたら、あまりの無機質さに戦慄さえ覚えるだろう。
だが、ロングビルは臆した様子もなくタバサに近づいてくる。その、あまりにも傲然とした態度に、タバサのほうから口を開いた。
「なぜ、ここに?」
「闇の世界に精通してるのは、あんただけじゃないんだよ。わたしたちを監視してるような、なんともいやらしい気配……あんたも、
それを感じてここに来たんだろ。ここで、なにを見たんだい?」
「別に、なにも」
それしか言葉を知らないというふうにタバサは答えた。しかし、ロングビルのタバサを見る目は、すでに学院の秘書としての
ものからはほど遠く、視線の先はタバサの杖と口元から動かない。
「ねえあなた、つまらない腹の探りあいはやめにしない? その懐のもの、それを誰に飲ませる気」
刹那、タバサの杖が振られた。ロングビルに向かって無数の氷の矢が放たれる。だが、それらはすべてロングビルの後ろに
立っていた木に突き刺さり、本人はそのそばに平然と立っていた。
「ウェンディ・アイシクル。あなたぐらいの歳で、瞬時に詠唱を終えてこれを放てるとはたいしたものね」
木に突き刺さった氷の矢を、指で軽く触れて検分しながらロングビルは言った。タバサが魔法を完成させて杖を振り下ろす瞬間、
彼女はすばやく身をひねってこれをかわしていたのだ。
第一撃をなんなくかわされたことをタバサは別に驚くこともなく、第二撃のウェンディ・アイシクルを放った。ロングビルは、これも
飛びのいてかわす。
「ふん、本気で殺しにかかってきてるみたいだね。でも、この程度で私を殺せると思わないでほしいわね」
「わかってる。土くれのフーケの実力、甘く見てはいない」
心を失っても、タバサの中に蓄積された戦いの知識と経験は生きていた。かつて、卓越した錬金の魔法や巨大ゴーレムを
使ってトリステインを震撼させた盗賊・土くれのフーケ。ただし、その悪名が単に魔法の強力さだけに支えられていたわけでは
ないことを、タバサは洞察している。警護の強力な衛士を突破し、多くの追っ手の追撃をかわすのには魔法だけは到底足りず、
幅広い知識と、豊富な経験に裏付けられたフーケ自身の人間の強さが必要であったはずだ。
また、ロングビルもタバサを侮ってはいない。連発されるウェンディ・アイシクルをかわしつつも、少しでも隙を見せたら即座に
蜂の巣にされることは承知している。
「これが噂にだけは聞いたことがある、ガリア北花壇騎士の力かい。ここまでの使い手は裏社会でも早々みつかりゃしないよ。
あんたの素質もあるだろうけど、相当な修羅場をくぐってきたようだね。違うかい?」
「あなたに答える義務はない」
「はっ、まあそりゃそうだね。けど、あんたの腕がなにより雄弁に語ってくれるよ。その若さで苦労したんだね。同情はしないけどさ!」
しゃべりながら、タバサの魔法の照準がしだいに正確になってきたことを悟ったロングビルは反撃に打って出た。袖口から
取り出したナイフをダーツのようにタバサに投げつける。魔法の矢に比べれば威力は格段に劣るものの、当たり所によっては
一本でも致命傷になりうる。
「無駄」
しかしタバサはナイフの弾道を見切ると、余裕を持ってかわした。闇の中での戦いは、裏社会の人間にとって基本の基だ。
タバサの青い瞳は月明かりの中でも常人以上の動体視力を発揮して、迫る脅威を感知していた。
「青い鳥に、フクロウの目までついているとは知らなかったね。だが、これならどうだい!」
余裕の態度を崩さず、ロングビルはさらに取り出したナイフを投げつける。今度は三本を同時に、それぞれ高さと左右の間隔を
ずらして、簡単には回避できないように弾道を計算してある。並の相手なら避けられないし、杖ではじこうとすれば隙ができる。
しかしそれは並の相手の場合で、タバサは三本のナイフを見切って最小の動作で回避した。
「無駄と……!」
反撃に出ようとしたタバサは、視界のはしでわずかに感じた違和感に反射的に反応して身をよじった。半瞬後、黒い矢が
タバサの上着をかすめて、わずかな切り傷をつけて通り過ぎていく。
「ちっ、今のをかわすとは、勘のほうもなかなかいいようだね」
舌打ちしたロングビルの手には、普通のナイフと並んで真っ黒に塗られたナイフが握られていた。木を隠すなら森の中と
いうふうに、闇の中にもっとも溶け込む色は黒だ。最初に投げた三本のナイフは囮で、本命の黒塗りしたナイフを時間差で
投げていた。けれど、ロングビルのつぶやいたとおり、タバサの強みは視力だけではなかったのだ。
「今くらいの小細工をする相手なら、これまでも何度も戦ってきた」
「そりゃ恐れ入ったね。私が現役なら、相棒に誘ってもいいくらいだ。ほめてやるよ」
「わたしの邪魔をするな」
ロングビルの軽口になんの反応も示さず、冷たくタバサは言い放った。いつものタバサならば、たとえ任務のときでも絶対に
口にしないような威圧感を込めた、相手を力と恐怖で屈服させようとする声だ。が、ロングビルはそんな脅しに心動かされたりはしなかった。
「それは聞けない相談だね。あんた、ミス・ヴァリエール以外の人間を皆殺しにするつもりだろう。私も含めてね」
「そう、わたしの任務の邪魔をするものはすべて殺す」
それもまた、”タバサ”ならば絶対に言うはずがない言葉だった。ロングビルは、タバサと同じ姿をした『人形』を敵意を込めて睨み返す。
「あの小娘の心は、どうやら完全に死んでしまったようだね。なら、もう容赦はしないよ!」
覚悟を決めたロングビルは、フーケだったころの冷酷な顔に戻って投げナイフを取り出す。しかし、タバサはそんなロングビルに
ひるむ様子もなく、冷徹に言い放った。
「無駄な抵抗はよしたほうがいい。所詮、魔法の使えないあなたでは勝ち目はない」
「ちっ!」
やはりそこを突かれたかと、ロングビルの顔が曇った。そうだ、ロングビルはかつてはトリステインを震撼させたほどのメイジ
だったというのに、この戦いでは一度も魔法を使っていない。彼女の魔法の力は、以前彼女の心の闇を狙ったヤプールが
取り付かせたガディバに奪われて以来、回復していなかった。
魔法が使える者と使えない者では、戦闘において大幅なアドバンテージの差がある。メイジの側の実力が低いか、使えない
側にガンダールヴ並の力があれば話は別であろうが、タバサは一級のメイジであり、正面から戦えばロングビルにまず勝ち目はない。
それでも、ロングビルはあきらめるわけにはいかなかった。
「だが、ここで殺されるわけにはいかないんだ。私の肩にはティファニアやウェストウッドの子供たちの未来がかかってるんだよ!」
そのとき、タバサの眉がわずかに震えた。『エア・ニードル』が放たれて、数本の木に貫通した風穴が開けられる。
むろん、ロングビルも唯一の武器である投げナイフで対抗する。が、一度タネが割れてしまえば奇策は二度と通用しなかった。
通常のナイフはもちろん、黒塗りのナイフもどんなに変化をつけて投げようとすべて回避されてしまう。
どちらも、相手の攻撃をかわすだけのすばやさを持っているがゆえに、戦いは長引く様相を見せてきた。
「さすがだね。闇の中でこれだけ戦えるやつなんて、私も会ったことないよ」
「黙って、死ね」
「あいにくと、こちとら仕事は派手にやるのがモットーなんでね。あんたこそ、女の子はちょっとはしゃべらないと男も寄ってこないよ」
夜目の利くタバサ相手に声を殺してもあまり意味はないので、ロングビルはつねにしゃべり続けた。そうしているうちにも、
ロングビルの放ったナイフとタバサの放った魔法が、地面や樹木に命中して乾いた音が立つ。ただ、タバサは最初から『氷嵐』
のような大きな魔法は使わずに、『ウェンディ・アイシクル』か、『エア・ニードル』のような威力の小さい魔法しか使っていない。
それは、威力の大きい魔法は詠唱に時間がかかり、その間無防備になるというのがひとつだが、もうひとつどうしても使えない
理由があった。
「じれてきてるようだね。まともにやりあったら、私はあんたの魔法で逃げ場もなくズタズタにされる。でも、そんなことをしたら
寝てる連中もさすがに気がつくからね」
ロングビルにとって、ほぼ唯一といっていいアドバンテージがそれだった。強力な魔法を使えば轟音が鳴り、眠っている皆の
目を覚まさせてしまうことになる。そうでなくとも、木を切り倒したりしたりすれば大きな音が出るために、広域破壊の魔法は使えない。
「なら、なぜ仲間を呼ばない? おまえ一人で、わたしに勝てると思っているの」
「バカ言ってんじゃないよ。あいつらはエルフからテファを奪い返すための大事な戦力だ。あんたごときを相手に消耗させるわけ
にはいかないんだよ」
森の中という地形もロングビルにとって数少ない救いとなっていた。開けた場所ならとてもかなわないだろうけど、入り組んだ
場所の戦いなら、遮蔽物の陰で休憩しながら戦える。しかしそれでも、ドットクラスの魔法ならば何十発も放てる精神力の容量を
持つタバサに対して、投げナイフの数が限られているロングビルのほうが不利なことに変わりはなかった。
「あと、七本か……さて、これであれを相手にどうしのぐか」
木の陰に隠れて、息をつきながらロングビルは吐き捨てた。衣の中に隠せるほど小さく、数十本を用意してきたナイフも、タバサ
ほどの使い手を相手にしては消耗は早かった。対して、向こうは見たところたいした消耗はしておらず、精神力には余裕がありそうだ。
そのとき、ロングビルの隠れていた木の中から、巨大な氷の槍が生えてきて彼女の肩をえぐった。
「あぐっ!? こ、これはジャベリン! いえ、違う!?」
打ち抜かれた肩を押さえ、ロングビルは振り向いた先の木が樹氷のように変わっているのを見て愕然とした。しかも一本や二本
ではない。周辺の木がすべて凍結し、鋭い氷の刃を八方に生やしている。
「樹木の中の水を凍結させて吹きだささせることで、木そのものを凶器に変えたっていうの!? なんて子なのよ!」
隠れている自分を追い出すためだけにそんなことをするとは! ロングビルはタバサの底知れない戦闘センスに恐怖すら感じた。
いや、これまでにも何度か彼女の戦いを目の当たりにし、相当な強さを持っていると思っていたが、これはそれらとは違う。
恐らく、タバサは普通に戦うときでも相手や仲間に配慮して、無意識に手を緩めている部分があったのだろう。いくら外面を
冷たく固めようとも、内側に存在する年頃の女の子らしい暖かさが無益な血を流すことを抑えていた。その抑制されていた
戦士としての冷酷な強さが、優しさという制御を失ったときにここまでになるとは。
「見つけた」
「ちっ、目ざとい小娘だねえ」
「そろそろ観念する。利き腕の肩をつぶした。あなたはもう戦えない」
「それはどうかねえ。土くれのフーケさまの底力、まだ見くびってんじゃないか」
強がってはみても、自分が戦闘を継続するうえで致命的な傷を受けたことをロングビルは理解していた。利き腕をやられては
もう満足にナイフを投げることはできない。そればかりか、腕を使えなくてはタバサの攻撃を避け続けるのももう無理だ。人間は
激しく動く際に腕でバランスをとる。走るときに腕を前後に振ったり、平均台を渡るときに腕を大きく広げるのがそれだ。
支援
タバサが放ったエア・ニードルを避けきれずに、ロングビルの脇腹に切り傷がつけられる。知り合いに対する躊躇や、獲物を
なぶるつもりなどはまったくない。一撃で息の根を止めるために迷わず心臓を狙ってきた。
冗談じゃない! こいつは本物の化け物か! ロングビルはあらためて目の前にいるのが、あのタバサかと目を疑った。
どこまでも冷酷で無機質。冷たさの中に穏やかさと気高さを併せ持つ『雪風』は消えうせて、すべての生物を零下の地獄に
封滅する『氷嵐』の化身がそこにいた。
「今度こそ、死ね」
放たれたエア・ニードルが、ロングビルの左脇腹をかすめて地面に突き刺さる。なんとか直撃だけはかわしたものの、重い
痛みが受けた傷の深さを物語る。苦し紛れで投げた四本のナイフもすべてかわされた。
「無駄なあがきはやめたほうがいい。せめて、苦しまずに死なせてあげる」
「そうはいかないよ……あとちょっとのところで、テファが待ってるんだ。私が、助けにいってやらなきゃならないんだよ!」
叫び返したロングビルの声に、タバサのほおがぴくりと触れた。
「むだなことを、お前はここで死ぬ……」
「それこそ冗談じゃないね。私はね、お前なんかとは背負ってるものの重さが違うんだ。母親のおっぱい恋しがって、仲間を
裏切るようなガキがナマ言うんじゃないよ!」
その瞬間、タバサの目が見開かれて、口元が大きく歪んだ。
「あなたになにがわかる!」
エア・ハンマーがロングビルの体を吹き飛ばした。背後の木に背中を打ち据えられて、背骨とあばらが悲鳴をあげる。しかし、
激痛の中で、ロングビルは今の瞬間タバサに現れた変化に気がついていた。
「ぐぅぅ……おやおや、本当のことを言われて怒ったのかい……?」
「だまれ……」
とどめを刺そうと近づいてくるタバサを、ロングビルは挑戦的な目で見返した。その目の先で、タバサはそれまでの貼り付けた
ような無表情の仮面がはがれ、目じりににらみ殺されそうなほどの怒りが浮き出ている。だがその顔が、逆にロングビルに
わずかな希望を持たせていた。
「ふ……どうやら、さっきの一言があんたのトラウマをひっかいちまったみたいだねえ……けど、どうやらあんたの心は完全に
死んでしまったってわけじゃあなさそうだ」
そうだ、人形は感情を持ったりしない、怒ったりしない。ならば、タバサにはまだ心が残っている。
ロングビルは、学院長秘書としていろいろな生徒の心の機微を見てきた経験からタバサを見てみた。元々、子供というのは
感受性が強く、いろいろなものに影響されやすい。しかし、その感受性の強さゆえにいじめや虐待などの外部からのストレスにも
深刻な影響を受けやすく、自らを守るためにあえて外からの刺激を一切遮断してしまうことがある。魔法学院にも、そうして自分の
部屋に閉じこもって授業に出なくなった生徒がおり、話し相手になってやってくれと学院長に頼まれたときのことを思い出した。
「あんたも、まだそんな顔ができるだけの感情があったんだ? いやあ、理性が麻痺したことで感情の抑制もなくなったのね。
ふふふ……それが、あんたの本来の心の姿ってわけだ」
「うるさい!」
小ばかにするように笑うロングビルに、タバサは再度エア・ハンマーを放った。しかし、冷静さを失った攻撃なら今のロングビルでも
かわすことはできる。そして、さらにロングビルは確信を深めた。
「どうやら、母親のことはあんたにとって相当なタブーだったようだね。失ったはずの心をここまで呼び覚ますとは。しかしまあ、
みっともなくとりみだしちゃって、よっぽど甘やかされて育ったんだね」
「だまれっ!」
「あらまあ、顔真っ赤にしちゃって。そんなにお母さんが恋しいの? かわいい我が子って抱きしめてほしいの?」
「だ、黙れと言っているのに!」
「図星指されたようだね。あっははは、これはけっさくだ! 闇社会に名高いガリア北花壇騎士が、母恋しさに戦ってたなんてね」
「貴様ぁ!」
逆上して見境のない攻撃をかけてくるタバサから身を避けながらも、ロングビルはタバサへの呼びかけをやめなかった。
『母親』がタバサにとってなによりも重要なキーワードであることを知ってから、執拗にタバサを言葉でなぶる。しかし、
ロングビルは決してやけになったわけでも、タバサへの憎しみで我を忘れてしまったわけでもない。むしろ、ロングビルの心は
先ほどよりもずっと冷めていて、タバサの『人形』を倒すことのできる唯一の『武器』を磨いていた。
「私はあんたの過去なんて詳しく知らないし、はなから興味もない。でも、そんなにまでなるってことはよほどのことがあった
ようだね。で、お母さまの心とやらを取り返すためにシェフィールドの手先にまで成り下がったわけだ」
「違う! わたしはあんな奴らに忠誠を誓ったことなんてない。本当は、私が殺されるはずだったのをお母さまが身代わりになって
くれたのよ。だから、わたしは命に代えてもお母さまを救い出すの」
「そりゃ健気でけっこう。でも、そのあげくがこのありさまとはね。あなたのお母さまも教育に失敗したね。いいや、もともとまともな
子育てができるような人間じゃなかったんだろ。身代わりに毒をあおったって、子供を守って戦う度胸もなかっただけなんじゃないか?」
「母を、お母さまを侮辱するなぁ!」
怒りの臨界点を超えたタバサは、フライでロングビルに体当たりして押し倒すと、喉元にブレイドをかけた杖をあてがった。
「取り消せ! さもないと殺す」
「やなこったね。誰があんたらみたいなバカ親子のために頭を下げてやるもんか、あんたに比べたらウェストウッドの子供たちの
ほうがまだ立派さ。あの子たちはあんたよりずっと幼いのに、親兄弟をすべて奪われた。それでも明るく前を見て生きてるんだ。
それに引き換えそんだけの強さがあって、母親もまだ生きてるっていうのにあんたはなんだい!」
ロングビルの怒声に、タバサは気おされたようにびくりとなった。
「う、うるさいっ! なにも知らないくせに、お母さまは毒をあおられてからすっかり変わってしまった。わたしを娘だともわからなく
なって、おもちゃの人形をわたしだと思い込んで、わたしには罵声を浴びせてものを投げてくるようになった。でも、そうまで
なってもお母さまはわたしの人形を心から愛して、誰にも渡すまいとしてくれる。そんなお母さまをどうして見捨てられるっていうの!」
「じゃあどうして母を苦しませるようなことをするんだい!」
その瞬間、ロングビルの首を切り落とそうとしていたタバサの動きが止まった。怒りで震えていた顔が一瞬で蒼白となり、杖に
かかっていたブレイドも解除される。ロングビルは、その隙にタバサを押しのけて立ち上がるも、タバサはそれを静止しようとはしなかった。
仮にこのとき、ロングビルが最後の投げナイフで刺すなりすれば、決着はついていただろう。だが、彼女は立ち上がる以上は
せずに、愕然としているタバサにもう一度正面から向かい合った。
「もしもあんたがこのまま私を殺して、命令どおりに皆を毒殺して虚無とやらを奪って、それで解毒薬を手に入れたとして、それで
あんたは目が覚めた母親のところに喜んで帰るのかい?」
「う、うっ」
「帰れはしないだろうさ。いくら取り繕ったって、あんたは仲間殺しの重さから逃げられるような人間じゃない。あんたの母親だって、
隠したとしても娘の様子がおかしいことくらいすぐに気づく。そうなったとき、娘が虐殺者に堕ちたことを知った母親が、死ぬよりも
苦しむってことがなんでわからないんだ!?」
「うっ、ぐぅぅ!」
心の底からえぐるようなロングビルの言葉に、タバサは杖を放り出し、両手で頭を抱えて苦しみだした。今ならば、武器を
使わなくても素手でタバサを無力化するとができるだろう。だが、やはりロングビルは手を出さない。なぜなら、今がタバサに
成り代わっている人形を破壊できる唯一の機会だからだ。そのために必要なものは、暴力ではない。
言葉、今のタバサに一番効き目がある武器は言葉なのだ。いつもならば、厚い理性の殻に守られて届かない呼びかけも、裸の
心がむきだしになっている今ならば、直接心に届く。強靭な精神力で押さえつけている戦いの恐怖心や、忘れようとしていた
罪悪感もまとめて表に出てきている今ならば、作り物ではない本物のタバサと向かい合うことができる。
「あんたは強がっちゃいるけど、ほんとは臆病で卑怯者さ。ほんとは誰かに助けてもらいたいくせに、関わり方がわからないから
もったいつけた理由で人を遠ざけようとする。そのくせ、心の中じゃ自分を特別扱いしてる。自分を悲劇のお姫様よばわりして、
なんて自分はかわいそうなんだって自分を甘やかしてる」
「違う、わたしはそんなことは」
「違わないさ、あんたくらいの年頃の娘はそんなものよ。自分を物語の世界のヒロインに重ねて、幻想に逃げようとする。誰でも
あることさ。あんたは強くなったつもりかもしれないけど、心の成長ってのは一足飛びにはいかないんだよ。でも、自分の弱さから
目をそらしても、本当に追い詰められたときには耐えられない。あんたは戦士としては比肩するものがいないほど強いけど、
心は他人に踏み入れられるのを恐れてるただの子供さ」
「違う……わたしは、わたしは」
「耳を閉じるな! あんたがどう否定しようと、あんたみたいなガキの性根くらいお見通しなんだよ。なんでだか、わかるかい?」
ロングビルは、最後の質問の部分を声色を穏やかにして問いかけた。
タバサは、その答えがわからずに沈黙で答える。すると、ロングビルはティファニアにするときのように優しくタバサに語りかけていった。
「それはね。あんたは子供で、私は大人だからさ。十年近い歳の差を甘く見るんじゃないよ。あんたがしてきたようなことは、私も
とっくにやってきた。だから、隠したって無駄なんだよ」
タバサの肩に手を置き、ロングビルは微笑む。彼女は、タバサの瞳から少しずつ狂気の色が引いていくのが見えたような気がした。
「あんたが、死ぬほど苦しい思いをしてきたってのはわかるよ。私も元は貴族で、ある日突然なにもかも失った口だ。それで
貴族を憎んで、唯一残ったテファを守ろうとした……なんだ、私とあんたは似たもの同士だったんだねえ。だけど、その行き着く
先はなんの救いもない地獄だよ。あんたも、見たろう?」
タバサは少しずつ冷めて、我を取り戻しながら記憶を蘇らせた。
ティファニアのため、復讐のためと自らに言い訳しながら悪事を重ねていたかつてのロングビル。しかし、ねじまがっていく心と
蓄積されていく心の闇は、本物の悪魔にとってかっこうの餌食だった。ヤプールに利用され、侵略の道具とされ、すんでのところで
命まで失うところであった。
あのときのロングビルと、今の自分のどこが違うとタバサは思った。自ら深い闇の中に入っていったあげく、その闇に
がんじがらめにされて、本当に失ってはいけないものを失おうとしている。
「わたしのやってきたことは……間違っていたというの?」
「ようやく、正気に戻ったみたいだね。そんなこと、誰にもわかりゃしないよ。どんな道を選んだって、自分の歩んだ道を振り返る
ことは必ずいつかくる。あんたは、あんたの大事なもののためにがむしゃらだっただけだろう。ただ、それでも超えちゃいけない
一線はある。どんな理由があろうとも、今あんたがやろうとしたことは許されることじゃあない」
タバサは無言でうなづいた。正気を失っていたとはいえ、その間にやっていたことの記憶は残っている。過去のどんな任務でも
なかったほど、タバサの中には罪の意識があふれていた。
「でも、だったらわたしはどうすればよかったというの。お母さまもみんなも、どっちも選ぶことなんてできない。あなただったら
どうしたの? あなただって、わたしと同じだったんでしょう」
「私だったら、もしテファの命と仲間の命を天秤にかけなきゃいけなくなったら、テファをとるね。そして、すべて終わった後で
あの子の前から姿を消す。それは盗賊であの子たちを食わせてたときから決めてた。でも、あんたは違う。あんたは別の答えを
出さなきゃいけなかった」
「なぜ?」
母を見捨てることが正しかったというのかと、タバサは低い身長からいっぱいにロングビルを見上げた。
「あんたの母親が、そう望むからさ」
「えっ……」
「あんたの母親は、自分の心を捨ててまであんたを救おうとしたんだろ。だったら、娘の手が自分のために血に染まるくらいなら
死んだほうがいいと思うさ。きっと、心を失ったときも自分のことなんか忘れて、あんたには自由に生きてほしいと思ったはずだよ」
ロングビルの言葉に、タバサは母との最後の時間のときを思い出した。
父が暗殺され、ジョゼフが自分も抹殺しようと呼び出してきた晩餐会。行けば必ず死が待っているそこにおもむく直前、母が言い残した言葉。
”シャルロット。明日を迎えることができたら……父さんと母さんのことは忘れなさい。決して、敵を討とうなどと考えてはいけませんよ”
忘れるはずもないあの日の最後の言葉と、ロングビルの言葉が完全に重なる。
「どうして、私がそんなことがわかるんだって顔してるね。簡単さ……私も、母親だからだよ」
「え……」
「そりゃ、お腹を痛めて生んだことはないさ。でも、テファや村の子供たちはずっと小さいころから面倒みてきたんだ。姉さんって
呼ばれてるけど、実際のところは私にとってテファは娘に近い。もしもあの子が私のために罪を負おうとすることがあれば、私は
その前に自分の命を絶つ。だからこそ、わたしはあなたの前に立ちふさがったんだ」
タバサの口からは、いつの間にか嗚咽が漏れていた。
負けた、わたしはこの人に負けた。力なんかじゃない、誰かのために戦う人間として負けた。この人は、より未来を遠くまで
見える目で見て行動している。それに引き換え、自分は目的を重視するあまり、それがどんな結果を引き起こすのか考えてもみなかった。
お母さま、ごめんなさい。キュルケ、みんな、ごめん。
もう自分はここにはいられない。そう思ったとき、タバサは杖を拾い、森の奥へと駆け出していった。
「あっ、ま、待ちなっ……うっ!」
とっさに追いかけようとしたロングビルだったが、タバサとの戦いで受けた傷がそれを許さなかった。タバサの小さい姿はすぐに
夜の闇にまぎれて見えなくなり、あたりには何事もなかったかのような静寂が戻る。
呆然と見送ったロングビルは、やがて戦いの疲労から草の上に座り込んだ。
あの子……いったいどうするつもりかしら。
ロングビルは、去っていったタバサを思って息を吐いた。おそらく、タバサはもう二度と自分たちの前に姿を見せる気はないだろう。
ならば、自ら命を絶つか、自暴自棄になってジョゼフに戦いを挑むか……そのどちらも、彼女の母は絶対に望まないことだろうに。
支援
そのとき、ロングビルの後ろから足音がし、振り返るとそこには赤毛の少女が立っていた。
「お疲れ様です。ミス・ロングビル」
「ミス・ツェルプストーかい、見てたなら手伝ってくれたらよかったのに。いつからそこにいたんだい?」
「十分くらい前ですわ。見張りの交代の時間になってもタバサがいないので探しにきたら、あなたと戦ってるんですもの。
驚いたわ。でも、あの子の尋常じゃない様子と、必死に呼びかけるあなたを見てたら、横槍を入れる気にはならなかったので。
大丈夫ですの?」
「ふん、元土くれのフーケをなめないでよ。このくらい、なんてことないわ」
ロングビルは、強がった様子で腕を振って見せた。
「無理なさらないほうがよくてよ。タバサを相手に、無事でいられるわけがありませんわ……でも、感謝します。タバサを、殺さないでいてくれて」
「ふん、あんな小娘どうなろうと知ったことじゃないさ。私はあくまでテファのために戦っただけ。あんなのでも、死んだらテファが
悲しむだろうからね」
くだらなそうに吐き捨てるロングビルの横顔は、キュルケはどこか照れくさそうにしているように見えた。
「それにしても、やっぱりあの子ガリアからそんな命令を受けていたのね。絶対に、人に悩みを打ち明けたりしない子だから……
だけど、もうあなただけを苦しめたりしないからね」
髪をかきあげて、空を見上げたキュルケが、ロングビルはまぶしく輝いたように思えた。
「行くのね」
「ええ、閉じたタバサの心を開くのは、あの子と同じ闇を歩いてきたあなたにしかできなかった。そして、傷ついたタバサのそばに
行ってはげましてあげるのは、親友であるわたしの役目……シルフィード、いるんでしょう! タバサのところに連れて行って」
空の上から、きゅーいきゅーいと悲しげに鳴くシルフィードが下りてくると、キュルケはその背に飛び乗った。
シルフィードは飛び上がり、双月の星空へと消えていく。
そして、場所を遠く離れたガリア王都リュティス。グラン・トロワでも、すでにタバサの敗北は知られていた。
「我が姪は失敗したか。やつらにもなかなかできるやつがいるな」
「申し訳ありませんジョゼフさま。すべて、私の不手際です」
「なに、かまわぬ。おもしろいものも見れたし、よしとしようではないか」
満足げに笑うジョゼフは、シェフィールドに扱わせていた遠見の鏡を切らせると、豪華な椅子にたくましい体を深く沈めた。
シェフィールドはジョゼフの前にかしこまると、主に向かって進言する。
「それで、シャルロットさまのほうはいかが処理いたしましょう。約束どおり、オルレアン夫人を始末いたしましょうか?」
「まあ待てミューズよ。あせることはない。半死人を処理するのはいつでもできる。我が姪がこれからどう出るか知れぬが、
慌てて先の楽しみをつぶすことはない。それより、明日はいよいよ彼奴らもアーハンブラに着く、そのことのほうが今はなによりも
楽しみなのだ」
「はっ、ビダーシャル興は虚無の力を恐れています。それがもう一人現れて、虚無を奪還せんとするなら、まず戦いになるかと」
「伝説の虚無対エルフの先住の力……想像しただけで震えが走る。それに、お前のことだ。まだなにかあるのだろう?」
ジョゼフが下目使いで笑いかけると、シェフィールドはうやうやしく頭を垂れた。
そして、シェフィールドが退室していくと、しばらくして部屋に別の客人が現れた。顔を白塗りにした小太りで黒のスーツを着た
その男は、ジョゼフの前にやってくると、芝居がかったお辞儀をした。しかし、顔をあげたときにはその姿は茶色い姿の宇宙人、
チャリジャのものへと変わっていた。
「久しぶりだな。どうだ、近頃の景気は?」
「王様のおかげで、こちらでの営業も順調です。この星では、私どもの世界にはいない怪獣が豊富に見つかりますもので、
大いに助かっております。わたくしの商品のほうも、お気にめしていただけていますか」
「ああ、どれも大いに役立て、楽しませてもらっている。だが、お前はそんなことを言いに来たわけではあるまい」
「ええまあ。こちらの世界もそろそろ雲行きが怪しくなってまいりましたので、そろそろ撤退を考えておりまして。でも、その前に
お得意様に閉店セールのご案内に来たしだいであります」
続く
ウルトラの人乙ー
今週はここまでです。bZieksk8の方、支援ありがとうございました。
今回はけっこう重苦しい話になってしまいましたが、お楽しみいただけたでしょうか。今回もウルトラマンも怪獣もほとんど
登場しない話ですいません。でも、タバサにはきつい内容かもしれませんが、ジョゼフとの確執はいつかどこかで決着をつけねばなりません。
そして、魂に訴えかけられるのはやはり人の心しかないと思い、この話を作りました。
来週はいよいよアーハンブラです。
ウルトラ乙
ゼロ魔の魔法って、多くのファンタジー物の中でもワーストクラスのスペックだから、
他作品の魔法キャラや特殊能力キャラとクロスさせた場合、
蹂躙気味になるのは必然みたいなもんなんだよな。
だからこそ、どちらかを弱体化とか強化とかしないで、蹂躙なしで話を進められる作品は面白いと思う。
クロス側のキャラによって街が容赦なく壊滅とか、いきなり無双して終了なんて問題外さね。
見ず知らずの世界を警戒して力を隠したり、暗躍する程度の作品が多いと思う
それに強さ基準のバランスよりかは、物語の筋の比重のが大事だったりするし
ここのまとめで一方的なクロスってのあまり思い浮かばない
>>80 上はともかくエクスプロージョンなら天地魔闘を突破できる可能性があると思う
作中で対応できた技が基本的に単体攻撃ばかりだったし
ああいう広範囲無差別系の技には対応した描写がないからどうとでも理由を作れる
強キャラ召喚・弱体化のネタは 繰り返し話題にする人がいるけど、
例えに出てくるのは 大抵 他のスレのSS。
ここのSSは、召喚対象とガチで殺し合う なんてのは少ないんだし、いったい どのSSが気に入らないんだか。
ここで議論する意味があるの? 「ゼロ魔SSを語るスレ」でやるべきでは?
ここのSSは弱体化よりもゼロ魔キャラ強化の方が多いな
特にワルド
どうしても主人公側をこいつに負けさせたい、もしくは苦汁を飲まさせたいが為に
無駄に強化されたり、変なシチュエーション作ってワルドに有利にさせたりで萎えることが多い
ゼロ魔の魔法はいろいろよくわからんからなぁw
特に偏在
あれチートすぎるだろw
別世界側の強さを利用してルイズ達の力を引っ張り上げるとかは
例えば、話が出たんで、大魔王バーンを召喚した場合
バーンはゼロ魔世界を俯瞰して見る役。もちろん強さは原作そのまま
物語としては、バーンの眼鏡にかなうレベルまでルイズ達の心身を強くし、それ以降は両者の関係でストーリーを膨らますとか
こんな感じで力の差自体を軸にして話を進めるとかね
力の差については、それイコール蹂躙という安易な思考を止めりゃいい
この程度の条件ならばストーリの骨にも肉にもなる
>>113のパターンもありだがね
俺の場合、炎のトライアングルスペルはメラゾーマと同威力って設定のSS作ろうとした頃あるし
ゼロ魔は設定が緩いんで、この手の改変はやりやすい印象だ
火のトライアングルなら3・4mの巨人を一瞬で炭化させるついでに鉄を溶解させるくらいは出来るんだよな
スクエアが出ないから一般的な破壊力の上限がわからん
むしろ基本スペックの無さが・・・・・
それなりの戦闘能力を有しているキャラなら一応なんとかゼロ魔のキャラはほぼ倒せる。
だけどジョゼフの加速に関しては封じ込め系か、チートクラスの能力がないと無理だろうな。あるいは有利な状況でやるか
クロス先の要素でゼロ魔キャラを強化すればいいんじゃね
たしかMTGクロスでのワルド超強化がそんな感じだった
原作の元素の兄弟が若干壊れ気味だが
ワルド基準くらいで考えると丁度いいバランスなんじゃないだろうか
せっかく投下多いのにどうでもいいことばかり言い合うなよ
設定考察スレがあるんだからそっちでやんなさい
>>115 まあ、その例の場合に生じる最大の問題点としては
>物語としては、バーンの眼鏡にかなうレベルまでルイズ達の心身を強くし、
これがとんでもなくハードルが高いって事だな。
何せ相手は曲がりなりにも他作品の、それも世界征服とか破壊とかやろうとしたラスボスだし。
少なくとも召喚直後、特に初期のルイズとかではその基準を満たすのはどう考えても不可能。
そして、一番困るのはその「召喚直後」にその要件を満たせなければ召喚したキャラが即命の危険に
晒されるのが確実って事だ。
少なくともバーンみたいなタイプのキャラは意味もなく格下に従う可能性は皆無どころか、即座に召喚者を
抹殺と言う方向に話が進んでも不思議じゃない。
テスト
そして、なんかごめんなさい
どうも、お久し振りです。
第二次Zの説明書に「クリアしたシステムデータを保管しておくと、再世篇でクリア回数に応じて『PP』『撃墜数』『資金』のボーナスが得られるよ」みたいなことが書いてあるのですが……。
ボーナスってZファンディスクの時みたいにちょろっと上乗せされるだけなのか、データ引き継ぎのことなのか、
引き継ぎだとしてMXやOGsの時みたいに均等割り振りになるのか、FとF完みたいにそのまま引き継ぎになるのか、
そもそも何回クリアすればどれだけそのボーナスとやらが貰えるのかも分からんので、取りあえずひたすら周回プレイをしております。
私の予想ではZファンディスク風の上乗せボーナスなんですが。
おそらくαの開発チームがZに回って、MXの開発チームがOGs→第二次OGとなっているのではないでしょうか。
ま、私の勝手な推測ですけどね。
では、22:45より第52話の投下を行います。
前回のあらすじ
・ギーシュの大隊が七万戦を担当することになって、そこにアインストが乱入
・ヴィットーリオがアレコレ考えた結果、カトレアに何かが起こったよ
・ゼロ魔&スパロボ統一最強決定戦、オリヴァー・クロムウェルVSシュウ・シラカワ
ラスボスキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
ダァー寝ようと思った所にラスボスさんキタ――(゚∀゚)――!!
事前支援+ 投下したら区切り目(2分割する場合と3分割する場合)を教えてください
何スレぶり
何レスぶりだろうか・・・・・・
と感慨
オリヴァーさんには是非ともシュウを凹ましてほしい
第2次OG発表とともに復活とは…
前言撤回!驚きました!!
忍者の制限に引っかかってるのか?
事前支援
>>129 何かきっかけがある度に決起している気さえするなw
支援スタ
なんか「本文が長すぎます」とかいうのが出てエラーになるのでもう一度テスト
それ忍法帖にひっかかってますよ
こないだできた毎日書き込みしてないと、書き込み量に制限がついてしまうって2ちゃんの新機能
「……………」
ユーゼスが空間転移した先で見つけたのは、道の真ん中で横たわって意識を失っているカトレアだった。
アインストの姿はない。
ここに現れた直後にどこか別の場所へと向かったのかとも思ったが、だったら最初からその『別の場所』に転移すればいいはずだ。
つまり、アインストの目的は少なくともこの地点にあり、更にここで気絶しているカトレアに何かをしたということになる。
「ふむ……」
カトレアの身体を腰から持ち上げ、近くにある木陰に寝かせる。
見たところ外傷どころか、かすり傷の一つも負っていない。
見ようによっては『ただ寝ているだけ』とも取れるだろう。
だが。
「……そんなわけがないな」
アインストの転移反応があったその場所に、カトレアが気絶して倒れていた。
これで何もないなどと考える馬鹿はいない。
しかし、見かけの上では何の変化もないのも確かだ。
傷はない。
髪も乱れていない。いや、倒れた拍子にやや乱れたようだが気にするほどではない。
服装も、少々土で汚れた程度。
自分が送ったブレスレットも、左手首に付けられたまま。
『道を歩いている最中に倒れてしまった』と言われたら、そのまま信じてしまいそうだ。
「…………。この際、仕方がないか」
外から見て分からないのなら、中身を調べるしかない。
ユーゼスは脳内にナノチップとして埋め込んであるクロスゲート・パラダイム・システムを起動させる。
更に周囲に誰もいないことを確認し、カトレアを虹色に光る立方体のエネルギーフィールドに包み込んだ。
「……………」
見やすいように、エネルギーフィールドを中のカトレアごと宙に浮かせる。
続いて、不純物が混ざっていると調査結果に不備が出る可能性があるため、カトレアが身にまとっている衣服を一度全て粒子レベルで分解した。
……さすがに自分が送ったオリハルコニウム製のブレスレットは分解していないが、まあこれは自分の手で取り外せばいいだろう。
「よし」
かくしてカトレアはユーゼス・ゴッツォの手により、身に着けていたものを全て消滅、あるいは取り外されてしまった。
そうして産まれたままの姿となった彼女の身体を、ユーゼスはエネルギーフィールドごとゆっくりと回転させながら、じっくり観察する。
もしかしたら、何らかの異変が服の下に隠されている可能性を考慮したのだ。
「……………」
忍法帳のLvで投稿量の制限がかかるようになった
!ninjaで確かめてみたらどうだろう
>>134 どうもです。では小分けにしていきます。
正面。
右から。
背面。
左から。
上から。
下から。
上下左右前後、あらゆる角度から見ても異常らしい異常はなかった。
少なくとも、外見上は。
「ならば、やはり身体そのものを調べるか……」
ユーゼスはクロスゲート・パラダイム・システムを使い、カトレアの『分析』を開始する。
並行世界のユーゼスは、確かサイキックウェーブか何かを使って強引にエヴァンゲリオンとやらを調べていたようだが、自分はあんな真似はしない。
実行するのに超強力な念を必要とする上に、対象の精神が壊れる危険性が極めて高いのだ。
どうもあの世界のユーゼスは、サンプルに対する扱いが雑と言うか、使い潰したがる傾向がある。
自分だったら、もっとじっくり丁寧にやるのだが。
閑話休題。
今はカトレアの身体のことだ。
システムを使ってカトレアの因果律を調べ、その肉体を構成する因子を―――
「……何?」
―――因子を解析した結果、何とも奇妙な結果が返ってきた。
ラスボス支援
もう諦めてたよ
「肉体の80%以上が、人間とは異なる細胞で構成されているだと?」
しかも構成している物質……と言うか、細胞はアインストのもの。
だが、カトレアがアインストと同じモノで構成されているとは、ほとんどの人間が気付くまい。
何せこの細胞の『人間への擬装』は、ハルケギニアどころか地球の精密医療検査ですら騙せそうなレベルなのだ。
自分とて、こうしてクロスゲート・パラダイム・システムを使っていなければ分からなかっただろう。
「だが、これは……」
何とも巧みな擬装だ。
各部の筋肉や内臓、皮膚はもちろんのこと、骨および骨髄、血液成分、体細胞、脳細胞、視床下部、卵細胞、代謝機関、五感およびそれに付随する神経、爪や体毛、遺伝子に至るまでが完璧に『健常な人間』を演じ切っている。
ウルトラマンが人間に変身しても、ここまで見事には行かないだろう。
貴重なサンプルとしてぜひとも長い目で観察していきたいところだが、そんな知的好奇心はともかく。
「……妙だな」
カトレアの身体の『人間』への擬装ぶりに感嘆すると同時に、分からない点がいくつか出て来る。
まず一つは、これだけ精巧な擬装や置換が出来るのならば、なぜ最初から『人間』を造らなかったのかという点だ。
いや、あるいは『人間』を造るためのテストケースや、前段階の実験のためにこれを行ったのかも知れないが、だとしてもおかしい。
だったらアインストが頻出しているアルビオンで、何かのドサクサに紛れ込ませるなどしてもっと隠密にやった方が絶対に効率が良いはずだ。
自分がアインストの立場なら、間違いなくそうする。
それでもこんな所にピンポイントで転移してきたということは、実験などではない明確な目的があると見るべきだろう。
しかし。
「何故、カトレアが?」
そうなると、対象がカトレアという点が不可解だ。
干渉を行うのは誰でもよく、転移した先にたまたまカトレアがいたので行った……という線もあるにはあるが、いくら何でもそんな偶然はあり得まい。
しかし偶然でないとして、『アインストがカトレアを狙う理由』というのが分からない。
「……………」
カトレアを狙った理由。
カトレアの肉体をアインストのものに変異させた理由。
カトレアの肉体を使って成し遂げること。
カトレアでなければならない必然性。
カトレアを操って行うこと。
カトレアに出来ること。
カトレアにしか出来ないこと。
支援
「一体、何だと言うのだ……?」
公爵家の次女という立場。―――理由としては弱い。ラ・ヴァリエール家はカトレアが実権を握っているわけではない。
メイジとしての実力。―――確かにカトレアは優秀なメイジではあるが、天才だとか史上最高の実力者であるとかではない。
「?」
分からない。
大体ラ・ヴァリエールの土地から一歩たりとも出たことのないカトレアが影響を与えられる事象など、かなり限定されてくる。
強いて言うなら対人関係で何らかの影響を与えられるかも知れないが、それでもその人数は少ない。
列挙していくと、ラ・ヴァリエール公爵、公爵夫人、エレオノール、ルイズ、屋敷の使用人、領民、彼女が世話をしている動物たち(これは人間ではないが)、あとは自分くらいのものだ。
使用人や領民、動物は除外するとしても、片手の指で足りる人数だ。
そもそも狙いが『対人関係』だとして、手段が回りくど過ぎる。
どうしてそんな外堀を埋めるような真似をするのか。
と、言うか。
「……この行動はアインストらしくない」
最大の疑問はこれである。
どこの並行世界だったかは忘れたが、確かアインストは事故に見せかけて殺した多くの人間の中から、ランダムに一人だけを選んで再生させたことがあったはずだ。
そしてその『再生させた人間』を元にして『人間』のデータを集め、更に『再生させた人間』を執拗に狙ったり、操ったりもした。
それはいい。
アインストにしてみれば誰でも良かったのだろうし、そこに深い考えも無かっただろう。
だが、今回のこれは明らかに『最初からカトレアを狙って』やったとしか思えない。
『今』、『このタイミングで』カトレアに手を出してきた理由こそ不明だが、そこに……何と言うか、人間的な思惑のようなものを感じる。
「と、言うことは……」
考えられる線としては、
何者かがアインストを操り、使役している。
何者かがアインストと取引をして、協力する代わりに見返りを求めている。
何者かがアインストに助言を与えている。
アインストが人間的な思考をするようになった。
このくらいだろうか。
「ふむ」
ユーゼスは一糸まとわぬ姿のカトレアをまじまじと見つめながら、思考に没頭する。
支援
Bytesが引っかかってるのかも?
と、その時。
「……ん、んぅん……」
「む」
カトレアの口から、うめき声が漏れてきた。
どうやら意識を取り戻しつつあるようだ。
「……取りあえず元に戻しておくか」
因果律を微調整し、カトレアの衣服を彼女の身体のラインに合わせて再構成。
あとは髪飾りを付けて、左手首にオリハルコニウムのブレスレットを装着。
カトレアを包んでいるエネルギーフィールドをゆっくりと地面に下ろして、解除。
「……………」
そのまま倒れそうになるカトレアの身体を、とさっ、と受け止める。
そして調査前と同じようにして、木陰に寝かせた。
「さて……」
カトレアの身体に起こってしまった異変については把握出来たし、アインストに起こった異変の方も、仮説の段階ではあるが何となく分かってきた。
では、それらを踏まえた上で。
「これからどう対応するかだな」
アインストと繋がっている者、あるいはアインストそのものについては、今の所どうでもいい。
その内にカトレアに対して何らかのアクションがあるだろうから、それを見てからでも対処は遅くあるまい。
……対応しなければならないのは、カトレア自身の方だ。
「……………」
極端な話。
ユーゼスはカトレアの身体を『元の状態』に戻そうと思えば、今すぐにでも出来る。
少々大掛かりに因果律を操作しなければならないので『自分の世界』に転移した上、超神形態に変身しなければならないだろうが、出来る。
出来てしまう。
しかしそうするとカトレアは『元の状態』、すなわち病弱で余命いくばくもない状態に戻ることになる。
彼女は皮肉にも人間とは違うモノとなったことで、本来そうあるべき『健康な身体』を手に入れたのだ。
それを本人のあずかり知らぬうちとは言え、手放させることは正しいのだろうか。
いや、それ以前に、ハルケギニアに対してそこまで強力な干渉をするのは自分の信念に反するのではないか。
「……………」
因果律を操作して普通の人間にした上で『健常な状態』にする、というのは論外だ。
それをするなら出会った時に既にやっているし、大体そのような『神様気取りの行為』は自分が最も忌み嫌うものの一つである。
誓いと言うほど重くはない。
決心と言うほど強くはない。
ただ、あの時。
あの場で悟り、たどり着いた答えを否定することになってしまう。
―――「イングラム……お前が言う通り、この世界に超絶的な力は不要だ。何故なら、そんなものがなくても……人々は生きている。そして、世界は存在し続けている……」―――
この宇宙に神など不要なのだ、と。
確かに自分は思ったし、口にも出した。
たとえ何が起ころうとも、自分自身のあの言葉だけは否定するわけにはいかない。
そうでなければ、おそらく『このユーゼス・ゴッツォ』はアイデンティティどころか、存在すらも崩壊してしまうだろう。
「…………、ふむ」
自分が死んだ時を思い出したついでに、自分が戦った彼らならどうするか、と考える。
―――例えば、瀕死の人間がいたとする。
その場にいたのが一条寺 烈―――宇宙刑事ギャバンだった場合、ドルギランの施設なり何なりを使って救命の道を模索するだろう。
ウルトラマンなら、同化でもしてその命を繋ぎとめるに違いない。
イングラム・プリスケンならば……具体的にどうするのかは分からないが、見捨てるような真似はするまい。
だが、それはその瀕死の人間が『彼らに気に入られた場合』の話だ。
伊賀 電やハヤタあたりが良い例だろう。
彼らが助かったのは、『ギャバンやウルトラマンに気に入られた』からである。
おそらくだが彼らが善良な人間ではなかった場合、バッファローダブラーやベムラーに殺されたままになっていた可能性が極めて高い。
……そもそも、あの連中は『自分が気に入った者』に対してはその身を捨ててでも助けるくせに、『自分が敵と見なした者』に対しては何の躊躇もなく殺しにかかるような奴らなのだ。
元人間で怪獣化したジャミラなど、実際にアッサリ殺していたし。
支援
支援支援
※もしかしたらさるさん食らうかもしれませんので、その時はどなたか代理をお願いいたします。
しかし、ユーゼスは彼らとは違う。
その人間のことを気に入っていようがいまいが、贔屓はしない。
何らかの借りがあれば、それを返すために能力を使うこともやぶさかではないが、理由もなく人を助けたりはしない。
とは言え、カトレアを死なせるとなると…………何と言うか、惜しい気もする。
「……………」
仮面を被っていた頃だったら、『こんなハルケギニア人の女の一人や二人、どうなろうと知ったことではない』と完全に放置するか、そうでなければ人体実験をしてデータの採取、あるいは洗脳でもして手駒に使っていたことだろう。
我ながら甘くなったものである。
まあ、このあたりは今までにカトレアと形成してきた交友関係に基づくものか。
何せ自分はハルケギニアに召喚されるまでマトモな人付き合いなどほとんどしてこなかったのだから、『親しく話せる人間』というものを大事に思っているのかも知れない。
「ん……」
「…………ふむ」
そんな自己分析はともかく、まずは今後のことだ。
クロスゲート・パラダイム・システムを使って……というのは却下としても、しかしハルケギニアの技術ではカトレアを元に戻すことは出来ない。
と言うか、地球の技術だろうがバード星の技術だろうが無理だ。
おそらく並行世界の自分が所属している、ゼ・バルマリィ帝国の技術でも不可能だろう。
……むしろ、こんな状態になった者を因果律の操作以外で『人間』に戻せる方法があったら、教えて欲しいくらいである。
エレオノールにしたように精神への影響をガードする防壁を作っておくというのも、アインストに侵食(この表現で良いのかどうかはともかくとして)された今のカトレアでは難しい。
超神形態になる必要はないだろうが、やはり『自分の世界』にカトレアを転移させる必要があるからだ。
ユーゼスがギリギリ認める『簡易的な因果律操作』のラインは、ちょうどこのあたりにあった。
そうなると。
「放っておく―――いや、経過観察とするべきだな」
手の打ちようが無いのであれば、打てないなりの行動を取るしかあるまい。
ギャラクシークライ支援
しかし、いくら何でもカトレアに対して馬鹿正直に『お前は健康体になったが人間ではなくなった。おそらく近い内にお前を人間でなくした怪物が接触してくるだろうから気を付けろ』などとは言えない。
いくら自分でも、その程度の分別はある。
同じ理由でエレオノールやルイズに相談も出来ない。
言ったところで信じてくれるかどうかすら疑わしい案件であるし、信じてくれた場合でもそれはそれで大問題だ。
唯一話せそうなのはシュウ・シラカワくらいだが、あの男にあまり借りを作り過ぎるのは良くない気がする。
「……私一人で当たるしかないか」
とは言っても出来ることなど、せいぜいカトレアの監視を強めることくらいだ。
そしてアインストがカトレアに対して接触、あるいは干渉を行ってきた場合には適宜対応……ということにするしかないだろう。
「歯がゆいものだな……」
一度は『全能なる調停者』などというご大層なものを目指していた男が、この程度の手しか打てないとは。
何とも情けない話である。
「…………。いや、今更か」
この件に関して、責任の一端は間違いなく自分にある。
『実行犯』が別にいるとしても、カトレアを普通の―――それこそ出会ったその時点から『正常で健康な人間』にすることが十分に出来ていたと言うのに、その選択肢を今もなお拒否し続けるユーゼス・ゴッツォに。
情けないと言うのなら、力を持ちながらも宙ぶらりんの状態にある時点で十分に情けない。
いや、そもそも自分のこの力は人であるには大き過ぎて、神であるには小さ過ぎる。
中途半端とはまさにこのことだ。
それこそ、あらゆる意味で。
だが、情けなくて中途半端でも、そんな人間なりに取れる責任はあるはず。
ならば。
たとえ、その存在を惜しいと思っていようとも。
「……いざとなれば、お前の始末は私が付けよう、カトレア」
浅い眠りの中にいる桃髪の美女に対し、ユーゼスは優しげとさえ言える口調でそう呟くのだった。
sien
ド・ヴィヌイーユ独立大隊、アルビオン軍、そしてアインストの大群の三つ巴の戦いは熾烈を極めていた。
銃声は引っ切り無しに鳴り響き続け、騎兵やメイジは半ば理性を無くしたかのように敵に攻撃を仕掛け、異形の怪物は唸りを上げて人間を屠っていく。
「ぐっ……! くそっ!!」
ギーシュはそんな戦場の真っ只中で、必死にゴーレムを操り、呪文を唱える。
自分の護衛のために出した4体のワルキューレは既に1体が全壊。
残る3体も見る影も無くボロボロで、片腕を失ったり頭が無かったりと酷い有様だった。
「はぁ、はぁ……!」
敵の脚を『アース・ハンド』で絡め取って転ばせて、後ろから迫ってきたアインストから逃げ出し、その逃げ出した先にいるメイジに向かってワルキューレを特攻させ、自分は即座に伏せて、中に仕込んだ火薬を使ってワルキューレを自爆させる。
「っ!」
すぐさま立ち上がって『ブレイド』を詠唱、薔薇の造花を基点として少し長めの魔力の刃を形成し、それを無我夢中で横なぎに振るうと、騎手を失って暴走していた馬の首が飛んだ。
ぶしゅ、と真っ赤な血が切断面から噴き出す。
「……っ、っ」
ピシャリと馬の返り血を浴びて怯むギーシュ。
だがその事実を飲み込む暇もなく、後方、自軍の中から巨大な火の玉が轟音と共に出現し、亜人とツタのアインストを焼き払った。
「だ、大隊長か……?」
これはギーシュもついさっき知ったのだが、我らが大隊長ことド・ヴィヌイーユ氏は『火』のスクウェアメイジなのだそうだ。
まあ、いくらこの大隊が寄せ集めの駄目部隊とは言え、仮にも『大隊長』を任されるほどの人間である。
それが並のメイジであるはずがない。
ギーシュはそれを頼もしいと思いつつ、けれどこの状況では慰めにもならないということもまた思い出し、半ばヤケになってもう1体ワルキューレを作り出した。
「ディスタント・クラッシャー!!」
鎖で胴体と繋がれたワルキューレの両腕が、爆発力を威力に変えて飛んで行く。
その攻撃の片方はちょうど『魚』のアインストの頭のあたり(本当に『頭』なのかどうかは不明だが)にある赤い光球にぶち当たり、1体のアインストを沈黙させるに至った。
「よし!」
灰になって崩れていくアインストを見て、決して小さくはない達成感を覚えるギーシュ。
しかし、アインストが消えて開けた彼の視界に飛び込んできたのは、
「……え」
『骨』のアインストの鋭い爪で引き裂かれる、自分の中隊員の姿だった。
支援
「あ、ぁあ……」
ここでのギーシュのミスは、『仲間が傷つく光景』や『仲間の死』というものを必要以上にマトモに受け止めてしまったことにあった。
この場にいたのが仮にユーゼス・ゴッツォであれば、特に感慨もなくまた戦闘に戻っただろう。
シュウ・シラカワの場合でも、多少表情をしかめこそすれ、割り切ることは出来たに違いない。
だが、彼はユーゼスでもシュウでもなく、ギーシュ・ド・グラモンなのである。
だから、戦闘に没頭して心も身体も熱くなっていた先程までの状況から、中途半端に冷めてしまう。
「っ、ひ、ぃ」
そして、地獄を見た。
いや、地獄にいることを確認してしまった。
『ツタ』のアインストが発する熱光線によって蹴散らされる者、『鎧』のアインストの拳によって殴り飛ばされる者、今さっき自分が倒したものと同種の『魚』のアインストの電撃によって焼け焦げる者。
槍で貫かれ、剣で斬られ、弓で射られ、棍棒で砕かれる多くの者たち。
銃弾、砲弾、風の刃、氷の槍、炎の玉、石のゴーレム。
誰かの怒号、聞き覚えのある声の悲鳴、ワケの分からない断末魔、獣の雄たけび、爆音、轟音、肉が潰れるような音、水袋が破裂したような音。
敵も、味方も、怪物も。
この場にいるあらゆる存在が傷付け合い、殺し合っている。
血と殺戮の戦場。
これが地獄でなくて何だ。
「ひぐっ、っ、ぅえ」
こみ上げてくる涙と震えと吐き気を抑えようと、手を強く口に当てるギーシュ。
次の瞬間には逃げ出したい衝動に激しく駆られるが、逃げ場などどこにも無いと気付いて、
「ぁぐ、ぐ」
パニックを通り越し、自失する。
それが致命的な隙となった。
支援
ザシュッ!!
「ぎぃ、あ!!!」
『骨』のアインストが持っている、黄色いツノのような突起物。
頭と肩に数個ずつ付いているそれは、『骨』の身体を離れ、頭が真っ白になっているギーシュに襲い掛かった。
盾代わりにしていた3体のワルキューレは防壁としての役割も果たせずに撃ち破られ、結果、ギーシュは大きな裂傷を負ってしまう。
「が……ぐ、ぁぁぁああああぁぁあああ!!」
傷口から血が噴き出る。
主な被弾箇所は、左の腿、右のわき腹、右肩、左頬。
直撃しなかったのは不幸中の幸いと言える。
だが傷口からドクドクと流れていく自分の血は、ギーシュの心を折るのに十分過ぎた。
「い、痛い……痛いぃ……」
その場に膝から崩れ落ちるギーシュ。
「……ぁ?」
ふと顔を上げれば、自分を傷付けたらしい『骨』のアインストがズンズンとこちらに向かって来ていた。
「うっ……っく、ひぃっ!」
ギーシュは半ば恐慌状態になりつつも無事な左腕で杖を振り、ワルキューレを1体だけ造り上げる。
そしてユーゼスが考案してくれた『無限パンチ』を繰り出し、その伸びる拳はアインストの弱点である赤い光球へと、
『ォォォォォオオオ……!』
「あっ」
届こうかという前に、『骨』のアインストの黄色い爪によって青銅の拳はあっけなく引き裂かれた。
『グゥゥウ…………ウゥウ!!』
「っ、ぃ、く、来るな」
今の一撃に触発されたのか、『骨』は赤い目を光らせてギーシュへ迫るスピードを上げていく。
ワルキューレはもう造れない。
無限パンチを撃ってしまったせいで、造るだけの精神力が残っていない。
武器を『錬金』、駄目だ。どうせ通用しない。
『アース・ハンド』で足止め。……足止め? 止めたところで、またすぐに向かってくるだけだ。
『ブレイド』で戦う。きっと駄目だ。
「あ、ぁぅ、あぁ、ああああああ」
もはや意味を成す言葉すら出てこない。
涙も震えも吐き気もない。
sien
ただ、どんどんとこっちに向かってくる『死』のことだけで頭がいっぱいだ。
「―――――」
ふと、真っ白になってしまった頭の片隅で。
『僕は死ぬんだな』と、どこか冷静に受け止めてしまっている自分がいることに気付いた。
……気付いたところで、どうなるものでもないが。
「―――――」
やっぱり痛いのかなぁ。
苦しいのかなぁ。
…………死んだあとって、どうなるんだろうなぁ。
死んだらもう、モンモランシーに会えないなぁ。
ああ、困った。
それは大問題だ。
どうしよう。
「―――――」
呆けた頭で、とりとめのないことを考えるギーシュ。
そんな間にも『骨』のアインストは彼に接近し、その大きく黄色い爪を振り上げていく。
次の瞬間、
「―――――」
ダァン、と。
銃声が一つ響いた。
「え」
続いてアインストの致命点である赤い光球に、ビキビキと亀裂が入る。
「……?」
一体何が起こっているのか、ギーシュには理解が出来ない。
と言うより、目の前で起こっていることを受け止める余裕が全くない。
けれど、受け止められなくても『目の前で起こっていること』を見続けることだけは出来た。
「―――――」
明らかに動きが鈍る『骨』のアインスト。
もう一発、どこかから撃ち込まれる弾丸。
『骨』は、その身体をパラパラと灰にしていく。
そして銃声が聞こえてきた方向から何者かが現れ、腰に携えていた短刀を引き抜いて、アインストの赤い光球へと力まかせに振り下ろした。
『ッッッッ!!』
ギーシュの語彙では表現しきれない、叫びのようなモノを上げてアインストが完全に灰になる。
一連の流れを呆然と見ていたギーシュは、自分を助けてくれた人間へとゆっくり視線を動かし、それが誰かを確認する。
「ぐん、そう?」
「ご無事ですかい、中隊長殿」
相変わらず飄々とした様子で話しかけてくるニコラ。
だが彼もこの戦場でかなりの激闘を経てきたのだろう、その外見は有り体に言ってボロボロだった。
一方で助けられたギーシュは、色んな感覚が麻痺しているせいで『危機から救われてホッとした』とか『助けられて嬉しい』とかいう感情すらわいて来ない。
「…………使えたんだな、銃」
と、こんな風に頭に浮かんだことを口に出すだけで精一杯だ。
「そりゃ一応は鉄砲隊ですから」
支援
ニコラはどこか間の抜けた会話に苦笑しつつ、ギーシュの状態を確認する。
まずは目でざっと見て、続いてギーシュの腕をとって軽く動かし……。
「づぅっ!!」
「……………」
痛みに身をよじらせるギーシュの反応と、その出血箇所とを交互に見てニコラは顔をしかめた。
しかしニコラはいつも通りの口調でギーシュに話しかける。
「中隊長殿、傷を治す魔法は使えますかい?」
「……っ、いや、水魔法はあんまり得意じゃない。それに、これまでの戦いで精神力もほとんど空っぽでね、ハハ……いッ、グァッ!!」
ギーシュはカラ元気ながらも笑おうとするが、『笑う』という行為のせいで体のあちこちにある傷が悲鳴をあげる。
―――もはや笑うことにすら多大な労力を使わねばならない状態のギーシュを見て、彼の副官は大きな溜息を一つ吐いた。
「はぁ……。しょうがない、コイツを使うか」
「ん?」
妙にやるせなさそうな表情を浮かべながら、懐から小ビンを取り出すニコラ。
琥珀色の液体の入ったその小ビンを見て、ギーシュは首を傾げる。
「何だい、それ?」
「酒です」
「は?」
「サウスゴータから逃げ出す時に、ちょいと失敬しましてね。今まで飲み時を逃しちまってましたが……どうです、景気づけに?」
「おいおい……」
こんな時に酒を勧められるとは思わなかったギーシュは、呆れるやら面食らうやらで思わず目をパチクリさせた。
(……いや、『こんな時』だからこそなのかな)
飲まなきゃやってられないと言うわけでもないだろうが、この状況じゃ酒の一つくらい飲みたくなるのも仕方ないかも知れない。
少なくとも、それも悪くないかなと自分は思い始めている。
それに、酒一杯で最後の力が振り絞れるのなら、安いものだ。
「…………。それじゃ、いただくよ」
「どうぞ」
ギーシュはニコラから酒の入った小ビンを受け取り、思い切ってゴクゴクと一気に飲み干した。
「ああ……」
美味い。
何と言うか、沁みる美味さだった。
こんなに酒を美味く感じたのは初めてだ。
ユーゼスは酒の類を全く飲もうとしていなかったし、そもそも酒の味や良さからして分かっていなかったようだが、何てもったいないことだと心から思う。
今度一緒に飲みに行く機会があったら、ちょっと強引にでも勧めてみよう。
いつかも行った『魅惑の妖精』亭で。
飲むのに慣れてないだろうから、最初は軽くて飲みやすいものからがいいだろう。
どんな酔い方をするのか怖いような、楽しみなような。
…………そんな機会は、多分、もうないけど。
それでも。
未来のことを思えると言うのは、良いことに思えた。
「よし」
末期の酒にしては十分だ。
身体が熱いのは酒のせいか、それとも気分が高揚してるせいか。
とにかく心機一転、身体はボロボロで魔法もロクに使えない状態だが、一気にパッと―――
「…………っ、あ、あれ?」
―――散ってやる、と決意しようとした瞬間。
いきなり強烈な眠気が襲ってきた。
「どう、なって……」
「……すみませんな、中隊長殿」
どんどん希薄になっていく意識の中で、ニコラのそんな声が聞こえる。
それでギーシュは、ニコラが自分にしたことを何となく理解した。
「ぐん……そう、……酒に…………」
言おうとしたセリフを言い終わることはなく、ギーシュの言葉が途切れる。
「…………ぅ、ぅう………………」
―――意識が闇に落ちきってしまう寸前。
すまなさそうなニコラの顔を見たような気がした。
「ふう、……さすが魔法。強力だな」
意識を失って倒れ込みそうになったギーシュを支え、ニコラは小さく息を吐く。
仕掛けは単純だ。
前々から用意していた魔法の睡眠薬。
それを入れた酒を、ギーシュに飲ませただけ。
本来ならギーシュが無謀な突撃でもしようとした時に飲ませるつもりだったが、意外なところで使うことになった。
ちなみに『酒をサウスゴータから失敬した』というのは本当である。
「さてと」
ニコラは眠るギーシュを抱え、いまだ激戦を続ける周囲に気を配りながらも『下』に向かって怒鳴り声を上げる。
「おい、モグラ!! いるんだろ!!!」
支援
sien
253 ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g [sage] 2011/05/22(日) 23:13:20 ID:ZDLgXu9. Be:
すいません、やっぱりさるさん食らいました。
どなたか代理投下をお願いいたします。
いてくる
頼みます。
166 :
ラスボス代理:2011/05/22(日) 23:20:16.71 ID:8p/FTOLR
ダンダン、とギーシュの見よう見まねで強く地面を踏む。
すると目の前の地面がズズズズと盛り上がり、土を掻き分けて一匹のジャイアントモールが姿を現した。
ギーシュの使い魔、ヴェルダンデである。
主人であるギーシュはこの決戦におもむく前に『ヴェルダンデとは別れた』と言っていたのだが、ニコラはこの主人思いの使い魔がそう簡単にギーシュのそばを離れるとは思えず、こうして呼んでみたのだった。
「よし。……お前さんがいなかったら馬にでも縛り付けて逃がすつもりだったが、いるとなりゃ話は早い」
傷だらけで眠るギーシュをヴェルダンデに渡す。
この傷で放っておいて生き残れるかどうかは微妙なところだが、少なくともこの場にいるよりは生存確率は高いだろう。
「モグ……」
「ん?」
ニコラがまた戦場に戻ろうとしたところで、ヴェルダンデがギーシュを抱えたままこっちを見ていることに気付いた。
……まあ、このモグラが言わんとすることは、何となく分かる。
分かるのだが。
「……いいんだよ俺は。こんな状況で俺だけが逃げ出したって、どうにもなりゃしないんだ」
「…………モグモグ」
「いいから行けって。……ったく」
ヴェルダンデが掘って来た穴の中に、一人と一匹を押し込むようにして脱出を促すニコラ。
ヴェルダンデもまた観念したのか、ニコラの方をチラチラと見ながらも穴の中へ戻っていく。
そんな主従を見送りながら、
「―――生きなよ、坊ちゃん」
ニコラは苦笑混じりに一人呟いた。
「アンタはまだ若い。……本当なら、こんな戦場なんかに出ていい年じゃあないんだ」
そう言えば。
『家族』なんてものを持っていたら、自分はちょうどあの中隊長くらいの年齢の息子がいてもおかしくない年だったか。
傭兵なんていうロクでもない稼業をしていることと、一人の方が気楽だったこともあって、妻も子供も持とうとしたことはないが……案外、そういうのも悪くはなかったかも知れない。
「…………。ま、今となっちゃ全部が遅いが」
ギーシュとヴェルダンデが穴の中に消えたのを見届けて、ニコラはまた改めて戦場に向かう。
自分たちのいた場所はささやかな安全地帯になってはいたが、それもそう長く続かず、怪物たちはもうそこまで迫っていた。
「……………」
『グゥゥゥウウウウ……!!』
その中の一匹。
『骨』のアインストが、今まさに自分に襲い掛かろうとしている。
「……っ」
ニコラは流れるような動作で自分の火縄銃に弾と火薬を込め、火打ち石を使って火縄に火を付ける。
167 :
ラスボス代理:2011/05/22(日) 23:20:59.55 ID:8p/FTOLR
しかしこっちが狙いを付けるよりも早く、『骨』のアインストは胸の光球の周りに生えているトゲを撃ち出して来た。
「ぐっ!」
銃弾を十数発ほどまとめて撃ったような攻撃を辛うじて避けつつ、ニコラは火縄銃の引き金を引く。
しかし。
『ゥゥウ……!』
「防いだ!?」
『骨』のアインストは両腕を使い、弱点である胸の赤い光球を防御した。
驚くニコラだが、同時に妙な納得もしていた。
弱点を防御する。
当然の行為だ。
それに『攻撃の気配を感じて警戒する』なんて、幻獣や亜人、ただの動物……それどころか虫だってやっている。
改めて考えてみれば、驚くことでも何でもない。
―――その『考える』という行為が、ニコラに隙を生じさせた。
『…………オォッ!!』
「!」
こちらに飛びかかって来る『骨』のアインスト。
自分の迂闊さに内心で舌打ちしながらも、ニコラは後ろに飛びすさって迫り来る爪を避けようとする。
「ぐっ!!」
鉄の胸当てと、その下に着込んだ厚皮、更にその下の胸部に少々深い傷を負うという犠牲を払いながらも、後ろに飛びすさって何とか横薙ぎに振るわれた爪を回避した。
(いつまた攻撃が来るか……!)
ニコラはそこから反撃に転じようとするが、生憎と銃は撃ったばかりで、弾込めや火縄の準備をしている余裕はない。
『骨』はもう既に二度目の攻撃態勢に入っている。
グズグズしていたら、こちらがやられる。
ニコラは腰の短刀に手を伸ばし、踏み込みながら、
「らぁぁあああっ!!」
『…………グォオオ……!』
ドスッ
結果。
その攻撃は命中した。
腹部を完全に貫通している。
素人が見ても、どちらに軍配が上がったかは理解出来るだろう。
そして。
「ご…………、っぶ」
口から勝手に溢れ出てくる大量の血。
ガハッ、という自分の咳き込みで『骨』の白い身体が赤く染まることと、腹から走る激痛とを認識して、ニコラは自分が致命傷を負ったのだと自覚した。
「……ぁ……、ぁ」
『骨』の黄色い爪は、いまだに自分の腹に突き刺さったままだ。
おそらくあと数秒もしないうちにこの爪は引き抜かれ、この『骨』はまた別の獲物を求めて去って行くのだろう。
それで終わり。
それが、終わり。
(って、おい……)
その時ニコラの胸に去来したのは、死への恐怖でも嘆きでもなく、怒りだった。
必要性があるんだか無いんだか、よく分からない戦争。
それでも勝ってたはずなのに、いきなり味方に裏切られて敗走して。
敵の足止めのために捨て石扱いの戦場に回され。
あげくの果てには、こんなワケの分からない骨野郎に殺されるなんて。
前々から自分でもロクな死に方はしないだろうなと思ってはいたが、ロクでもないにしても限度ってもんがあるだろう。
だから。
いい加減に。
「…………、……っっ!」
堪忍袋の緒が切れたニコラは、八つ当たりにも近い憤怒でもって、抜きかけていた腰の短刀を鞘から完全に抜き出す。
その動きのせいで腹の肉やら中身やらが掻き回され、尋常ではない痛みを味わうハメになったが、限界まで歯を食いしばって無理矢理に耐えた。
今にも引き抜かれそうな『骨』の爪。
そうされたら、『支え』と『腹の穴を塞いでいたモノ』が無くなることで、自分はすぐにヴァルハラ行きだ。
いや、ヴァルハラに行くのは『聖戦』で死んだときだけだったか?
まあいい。
そんなことよりも。
今はただ、素直な気持ちを。
この目の前の相手にぶつけよう。
「…………っざけんなよ、このっ……、……クソバケモンがぁあああ!!!!」
血を吐きながら叫び、手に持った短刀を振り下ろす。
ニコラの放ったその一撃は、彼自身を突き刺している『骨』のアインストのコア―――赤い光球を砕かんばかりの勢いで突き刺さった。
『ォ…………!!!』
「――――っ」
呻き声を上げ、すぐに全身を灰化させて消えるアインスト。
……当然、ニコラの『支え』と『腹の穴を塞いでいたモノ』もまた、その瞬間に消えることになる。
「――――ぁぁ、ちく……しょぅ」
仰向けに倒れこむニコラ。
確認していない、確認する余力も無いが、腹にポッカリと開いているはずの穴からは血がドクドクと流れていっているはずだ。
その感触がある。
いや、流れているのは血だけじゃない。
自分の中の熱と言うか、色んなモノも血と一緒に流れて消えていく感じがする。
「……………」
遠くには、戦場の音。
炎のくすぶり、魔法によって上がる火柱、大きな風のうねり、断続的な銃弾、大砲、武器と武器とのぶつかり合い、人とも獣ともつかない叫び、破砕、巨大なゴーレムから小柄な人間まで多種多様な足音。
すぐそばで行われていて、さっきまで自分もそこにいたのに、今はそれが随分と遠くに聞こえた。
「…………、…………ぅ」
霞みつつある視界で、ぼんやりと空を見る。
青い。
雲一つない。
あっちこっちで煙が上がっているせいで少し汚れて見えるが、いい天気だ。
「…………ぁん?」
そんな空の中。
どこかから光が飛んで来た。
光は次第にこっちに―――この戦場に近付いてきて、その輪郭をハッキリさせていく。
(何だろうなぁ、ありゃあ………………)
巨大で人のカタチをした、金色の輪のようなものが背中にある、空よりも蒼い何か。
それが、ニコラの生涯において最後に見た光景だった。
169 :
ラスボス代理:2011/05/22(日) 23:23:38.33 ID:8p/FTOLR
「うーん……」
トリスタニアの西端にあるアカデミー。
その中にある自分の研究室で、エレオノールは魔法学院への出向中に溜まっていた仕事を消化していた。
戻って来てから数日で事務系の仕事は完全に終わらせたが、メインの仕事は今まさに取り掛かっている最中だ。
いや、取り掛かってはいるのだが、難航している。
「……よく分からないとしか言えないわね……」
ぐりぐりと人差し指でこめかみを押しながら、頭を悩ませる。
『赤い鉱石』と『青い鉱石』の分析という、魔法学院に出向する前からの仕事。
これがどうにも進まない。
いや、ある程度は分かっているのだ。
ハルケギニア中のあっちこっちに現れていること。
ハルケギニアにある―――自分の知っているあらゆる物質にも似ていないということ。
とにかく硬いこと。
『錬金』の魔法すら受けつけないということ。
『青い鉱石』よりも『赤い鉱石』の方が硬度が高いということ。
何らかの『力』を内包しているということ。
更に、信じられないことだが……この『赤い鉱石』と『青い鉱石』は、限りなく鉱物に近い存在でありながら『生きて』いるらしい、ということだ。
「はあ〜……」
エレオノールがこの『石が生きている』という結論に行き着くまでには、それなりの手間と時間を要した。
それこそコモンマジックや『土』系統だけではなく、あらゆる系統の魔法を試して。
彼女の専攻は土魔法で、アカデミーでの研究テーマは『聖像の作成』となっているが、だからと言って聖像の材質や加工技術の研究のみに特化している訳ではなく、また決して『土』系統だけしか使えないという訳ではない。
むしろ聖像を作るためには『土』だけでは駄目なのだ。
例えば石や金属の加工のために『火』を扱ったり、熱したそれを急激に冷やすために『風』や『水』を使ったり、あるいは聖像の素材を作る過程で魔法薬の知識などが必要になる時もある。
こうした魔法技術や知識の積み重ねが、エレオノールを主席研究員たらしめていた。
だが。
「……この石がどうして最近になっていきなり現れたのかとか、どうやって生きてるのか、とかが分からないのよね」
思わず独り言を呟く。
一人で研究に没頭していると、よくあることだ。
「……………」
ハルケギニアの中で似た性質のものを強いて挙げるとするなら、ガーゴイルの動力にも使われている『土石』が近いかも知れない。
だが、似ているだけで同一では決してない。
何せ中身の『力』の取り出し方がサッパリ分からないし、精霊の力が込められているにしては出現場所に節操がなさすぎる。
よって、結局『肝心な部分は分からない』としか言えなかった。
おそらく他の研究者が調べても、同じ結論に行き着くだろう。
何せ、この自分が調べても詳細が不明なのだから。
―――こういう根拠のない自信は、エレオノールならではである。
「あ」
と、ここで彼女はひらめいた。
現状を打開するための画期的なアイディア。
それは、
「ユーゼスに手伝わせましょう!」
パン、と手を打って、その『画期的なアイディア』を口に出す。
「そうよね、どうせアイツも暇だろうし、私とは違う視点で何かに気付くかも知れないし、二人で……そう、二人で一緒にやれば色々と進展するかも知れないし」
別に彼に会う口実が欲しいわけでも何でもないが、研究のため、アカデミーの仕事のためなら仕方がない。
そう、これは自分の仕事を仕上げるための、やむを得ない措置なのだ。
なので、エレオノールは早速ユーゼスにその旨を伝えるべく紙とペンを取る。
「もう、しょうがないわね。ホントなら私一人でやるべきなんだけど……」
とか何とか言いつつ、エレオノールの顔には笑顔が浮かんでいた。
そうして『手早く研究が少しはかどらないから来て手助けしなさい』、『息抜きも兼ねて一緒にトリスタニアに行くから準備しておきなさい』、『来る日の日時』、『遅れたらお仕置き』と、必要な要件をスラスラと書いていく。
最後にその手紙に厳重に封をして『ユーゼス・ゴッツォへ』とあて先を書いた上で、アカデミーに勤めている小姓にラ・ヴァリエールへそれを届けるように命じ、ついでに研究の途中経過をレポートにまとめたものをアカデミーの上層部に運ばせる。
「ふう……」
さて。
研究進展の見通しはついたので、取りあえず仮眠でもとろう。
こういう研究職は自分の性に合っているとは思うのだが、長く続けていると昼夜の感覚が狂ってきたり、体内時計がズレてくるのが玉にキズだ。
「ま、こんなことに文句を言っても仕方がないんだけど」
手早く寝巻きに着替え、眼鏡を外し、研究室の一角に用意してあるやや小さめのベッドに横になる。
エレオノールはそのまま目を閉じて、実にスムーズに眠りへと落ちていった。
171 :
ラスボス代理:2011/05/22(日) 23:27:26.63 ID:8p/FTOLR
<―――よし、ここだな>
(あら?)
眠っている最中、エレオノールは奇妙な感覚に捕らわれていた。
眠っているはずなのに、意識がある。
(……夢かしら?)
だが、夢にしては色々と変だ。
起きている最中のように意識がハッキリしすぎているし、夢だったら何らかの光景が見えるはずなのに、周りは真っ暗で何も見えない。
(金縛り……とも違うわよね)
身体が動かなくて苦しい、ということもない。
むしろ何だか『レビテーション』でも使っている……いや誰かに使われている最中のように自分の身体がフワフワしているみたいな、いや、自分の身体の感覚があやふやと言うか、何と言うか。
とにかく奇妙だ。
何なんだろう。
そんな風にエレオノールが困惑していると、どこからともなく声が聞こえてきた。
<……接触には成功したようだな>
(え?)
いや、『聞こえる』という表現は適切ではない。
この声は、頭の中に直接響いてくる。
<あの世界で最もユーゼス・ゴッツォと強い繋がりを持つ者……。……お前は知らなければならない。かつてユーゼス・ゴッツォが犯した罪を……>
(な、何? 誰なのよ、あなた!?)
意識だけで呼びかける。
身体の感覚がよく分からない状態になっている以上、こうするしか方法がなかった。
すると、『声の主』はエレオノールのその問いに答える。
<並行世界の番人、虚空の使者、世界の歪みを修正する者、銃神の担い手……>
(?)
何だろう、それは。
呼び名が複数あるということだろうか。
<だが、この場において俺が誰かなどということは大した問題ではない>
(何よ、それ!?)
さっぱり分からない。
大体、ユーゼスが犯した罪がどうとか言っていたが、
(話をするんだったら声だけじゃなく、せめて自分の姿くらいは見せなさいよ!!)
<……そうしたいのは山々だが、それが出来ない理由がいくつかあってな>
(は?)
<まず、俺がお前の前に姿を現すか……もしくは直接的なリンクを行えば、確実にユーゼス・ゴッツォに気付かれるからだ>
(…………???)
どういう意味だろう。
いくらユーゼスが伝説のガンダールヴとは言え、こんなワケの分からない声だけの奴に気付けるとも思えないのだが。
<……『あの男』の影響の強い俺がユーゼス・ゴッツォの存在を感知することが出来るように、奴もまた俺の存在を感知することが出来るはずなんだ。例え、それが僅かな残滓であろうと……>
(感知?)
それはいくら何でも、ユーゼスを過大評価しすぎだ。
……そう言えば、ルイズは以前に“ユーゼスは『サモン・サーヴァント』で開かれるゲートを感じられる”と言っていた。
でも、それがこんな声だけのヤツを感知することに繋がるとも思えない。
<それに、因子が足りないあの世界とは逆に、お前のいるその世界は因子が揃い過ぎている……>
(……………)
頼むから、分かるような言葉で言って欲しい。
<『ユーゼス・ゴッツォ』が確実に存在しているという時点で『俺』がその世界に干渉出来る因子は揃っているが、直接的な干渉を行えば他の因子たち……シュウ・シラカワ、そして『監視者』と『闇黒の叡智』に気付かれる可能性がある>
(え?)
『カンシシャ』と『アンコクノエイチ』というのは意味不明だが、そこでどうしてシュウの名前が出て来るのだろう。
<……いずれも世界を変容させて余りあるほどの存在だ。お前のいる世界はもはや飽和状態と言っていい>
(飽和状態って……)
ハルケギニアはそんなに危険な状態なんだろうか。
まあ、確かに戦争はしょっちゅう起こってるけど。
<そのような状態で俺がまた直接的な干渉を行えば、その世界はより混沌とした状態になってしまうんだ>
172 :
ラスボス代理:2011/05/22(日) 23:29:28.83 ID:8p/FTOLR
(……………)
どうやら『姿を見せない理由』の説明は終わったようだが、その内容はエレオノールには理解不能だった。
いや、むしろいきなり専門用語を並べ立てられて、理解しろと言う方に無理がある。
その辺の不満をぶつけるため、エレオノールはまた意識で『声の主』に呼びかけた。
(あのねえ、人に何かを説明するんだったら、分かるように言いなさい!! 簡単な言葉で、最初から最後まで!!)
<……その通りだな>
(ああ、もうっ)
何だか、調子が狂う。
だが、それと同時にこの会話には妙な既知感があった。
こっちが懸命に訴えているというのに、いたって平然としたペースで対応するところとか。
一歩か二歩くらい引いた視点で物事を捉えているところとか。
言葉によるコミュニケーションを最低限で済ませようとするところとか。
世間一般の常識とズレているところとか。
(……?)
そんな人間と、つい最近まで毎日のように会話をしていた気がするのだが……。
<では、お前にはこれからユーゼス・ゴッツォの過去の所業を見てもらおう>
(えっ)
エレオノールが既知感の正体について考えていると、『声の主』はいきなりワケの分からないことを言い出した。
(見てもらう?)
<そうだ>
どういうことだろう。
ユーゼスが昔に何をやっていたのか知らないが、それを『聞かせる』のではなく『見せる』とは一体何のことなのか。
(あ)
そう考えて思い出す。
いや、思い至るといった方が正確か。
コイツの喋り方は誰かに似ていると思ったが、他でもないユーゼスに似ているのだ。
けれど、それとこれとが直接的に結びつくというわけでも―――
<行くぞ>
(ちょ、ちょっと……)
考える時間も、詳しい話を聞くゆとりも与えず、『声の主』は開始を宣言する。
そして、エレオノールの意識に未知の光景が流れ込んできた。
「あなたのお話はイングラム少佐から聞いていました」
「シュウ・シラカワ……。我々が送り込んだブラックホールエンジンの仕掛けを見抜いた男か」
「ええ、そうです。アレのおかげで私はグランゾンの縮退炉を完成させることが出来ました。その点に関しては感謝しています」
(え? な、何、これ?)
そこは真っ暗な空間だった。
と言っても、先程までいた『何もない空間』ではなく、周りのあちこちには星のきらめきが見える。
……自分の身体の感覚は相変わらずあやふやなままだが、あの『声だけ』のヤツがただ話しかけてくるだけの状態よりはかなりマシと言えるだろう。
だが……。
「あの男には我々地球人を……そして私を利用しようとした罪をあがなってもらわねばなりません」
「…………。私を倒すつもりか?」
「あなたを生かしておく意味はありませんからね」
「フッ……。確かに、お前のグランゾンが真の力を発揮すれば私を倒すことが可能かも知れぬ。……だが、その時はこの宇宙が消滅することになるぞ……?」
(ミスタ・シラカワ?)
どういう仕組みか知らないが、蒼い巨人に乗っているシュウや、その周りにいる様々な鉄の巨人たち、更にそれに対峙している―――何と言うか、形容しにくいカタチの巨大なモノに乗っている仮面の男の会話が、エレオノールの意識に流れ込んできた。
いや、それはどうでもいい。
……実の所どうでもよくないが、おそらくはこれがあの『声の主』の言っていた『ユーゼスの過去を見てもらう』ということなのだろう。
(でも、どうしてミスタ・シラカワがそれに出て来るの……?)
ユーゼスとシュウは以前からの知り合いだったようだが、それに関係があるのだろうか。
支援
そして、この仮面の男。
……この男に関しては、何か筆舌しがたいほどの物凄い違和感を感じる。
どうしてだろう。
自分はこんな男なんて知らないはずなのに。
「お前か……我々を何かと嗅ぎ回っていた男は」
「そうだ。火星にあったメガノイド計画のデータがハッキングされてから、僕はずっとお前たちを追い続けていた」
「メガノイド計画……。そうか、お前が波嵐創造の……。
……我が帝国監察軍が地球圏を制圧したあかつきには、私がお前の父親の遺志を継ぎ、地球人をメガノイド化するも良かろう」
「!! エンジェル・ハイロゥのサイキッカーに脳髄の摘出手術をしたようにか……!? そんなことをこの僕が許すと思っているのか!」
<待て>
(きゃっ!)
先程までの『声の主』がいきなり割り込んできたことに驚くエレオノール。
(い、いたの?)
<当然だ>
『当然だ』とか言われても、何が当然なのかサッパリだ。
そんなエレオノールの困惑をよそに、『声の主』は相変わらず勝手に話を進める。
<……これは『俺のいた世界』の過去のことであって、『お前の知るユーゼス・ゴッツォ』本人ではない>
(どういうこと?)
<お前に見せたいものはこれではないんだ>
シュン、と。
まるで本を数十ページほど飛ばしたかのように、目に映る光景が切り替わった。
「ここはアースクレイドルの人工冬眠施設……もっとも、誰もその中で眠ってはいないけどね」
「どういう意味だ!?」
「全ての人工冬眠者はメイガスによって処理されたのさ」
「何だって!?」
「旧人類の生き残りなど、僕らが管理する世界には不要な存在だったからねえ、フハハハハ!!」
「て、てめえら……!!」
今度はまた趣きが変わって、何かの建物の中。
真っ白な床に、丸い天井……だが、まるで墓場みたいな印象を受ける。
そして、今度もまた様々なカタチをした鉄の巨人たちがいた。
(……これが『私に見せたいもの』?)
おそらくはまた自分の近くに(『近く』という表現で正しいのかは分からないが)いるのだろう、『声の主』に呼びかける。
すると『声の主』は神妙そうな声色で唸った。
<……む、これは……>
「あなたたちは人間を何だと思ってるんですか!?」
「ぜい弱なタンパク質のカタマリだろ? そして、僕たちマシンナリーチルドレンの足下にも及ばない……取るに足らない存在……」
「そう。愚かな争いを繰り返し、地球を汚染するだけの存在でもある」
「お前たちでは地球を存続させることは出来ない……メイガスはそう判断したんだよ」
「だから、僕たちはお前たちをこの星から消去するんだ」
<……また失敗か>
何だか溜息まで聞こえてきそうな感じだ。
案外、この『声の主』は人間臭いヤツなのかも知れない。
とは言え、こう失敗が続いてもらっても困る。
「黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって! お前ら、何様のつもりだ!?」
「だから、言っただろう? 僕たちアンセスターは地球の管理者……そして、真の後継者さ」
暗転する。
場面が変わるという意味ではなく、本当に『暗転』した。
……要するに、最初の真っ暗な空間に戻ったのだが。
それでこれからどうなるのよ、とエレオノールが困惑していると、『声の主』が申し訳なさそうに語りかけてきた。
<……すまない。どうやらこの方法でお前にユーゼスの過去を伝えることは、極めて困難なようだ>
(はあ)
<おそらくあのシステムを持ち、『ユーゼス・ゴッツォ』としての存在を確立している者ならば、無数に存在する並行世界から任意のものを選んで他者の意識に投射することも可能なのだろうが……。
いや、ユーゼス・ゴッツォ自身が行おうとしても無意識的にフィルターがかかって、奴の言動などがぼやかされる可能性もあるか>
(?)
<……アストラナガンのティプラー・シリンダーを使い、それをディス・レヴで後押しすればと考えたのだが、見通しが甘かったとしか言いようがないな>
(そ、そう……)
<それに、俺のいた世界やユーゼス・ゴッツォが元々存在していた世界は次元交錯線がかなり不安定だったからな。色々と込み入っているんだ>
(…………ふーん)
適当に相槌こそ打っているが、正直この『声の主』が何を言っているのかエレオノールには全然分からなかった。
いや、それ以前の問題として、分からないことが多過ぎる。
自分が今置かれている状況も。
あの見せられた『光景』が一体何なのかも。
そして、物凄い違和感を覚えた『仮面の男』のことも。
全然、分からない。
sien
ドラえもんのポケットみたい。支援。
支援するのも私だ
<こうなったら仕方がない>
すると、『声の主』は意を決したように告げる。
<『俺』という存在の中にある『あの男』との因果律……、そして『あの男』とユーゼスの因果律を辿り、お前に『最初の世界』を見せる>
(え?)
<……ユーゼスと『あの男』がその場にいた事象しか追うことが出来ないのが欠点だが、得るべき情報としてはそれでも十分なはずだ>
(……………)
だから。
自分にもすんなり飲み込めるような言葉を使って、喋って欲しいってのに。
<あるいは俺の中にある『あの男』の記憶をサルベージして、お前の脳に投射するという手もあるが……それでは下手をすると脳の情報処理が追い付かなくなって、何らかの障害が出る危険性があるからな>
(は? 脳?)
<ああ>
(ちょ、ちょっと待って。よく分からないけど、今からその……あなたがやろうとしてることって、私には何の影響もないんでしょうね!?)
いきなり脳がどうこう言われて、不安になるエレオノール。
ハルケギニアでは、脳に関する研究も行われている。
魔法の源である魔力―――ユーゼスは自身のレポートにおいて精神力を『エネルギー源』、魔力を『出力値』と位置づけていたが―――は脳に由来していることが分かっているし、禁忌とされているが高度な水魔法を使った脳移植すら、理論上は可能だ。
いや、それでなくても脳が大事な器官だということくらい、誰でも知っている。
そんな大事な器官に障害が出るかもなどと言われて、黙っていられるか。
<大丈夫だ。今から行う方法ならば、後遺症が残る確率はきわめて低い。せいぜい10日ほど昏睡状態におちいる程度だ>
―――などと考えていたら、別な方向で障害がありそうだった。
(全然大丈夫じゃないわよ、それ!!)
<そうか?>
(そうよ!!!)
自分から見せると言っておいて間違えるとはうっかりさん
……何だか、本当にユーゼスと話しているような気分になってきた。
だが、この『声の主』はユーゼスではない。
どこがどう違うとハッキリとは言えないが、とにかくユーゼスとは違う。
それだけは分かる。
<ふむ……。では少しずつ小出しにするしかないな>
(小出しって何よ?)
<100の情報を一度に100送るのではなく、3か4ずつお前に送るということだ。回数はかかるが、これならば普通の人間の睡眠時間以下で済む>
(まあ、それなら……)
何だか眠るたびにコイツと話をしなくちゃいけなくなりそうだが、どうも雰囲気からして自分に拒否権はなさそうだし。
ここはこれで妥協するべきか。
<お前に憑依して『あの男』の記憶を追体験させるなどの手も考えたが、お前はユーゼス・ゴッツォによって『精神干渉を受けつけない』ように因果律を操作されている。……そうでなければ、俺もここまで回りくどい手を使う必要はなかった>
(ユーゼスが……?)
言っている内容は相変わらず理解出来ないが、どうやらユーゼスは自分に何かをしたらしい。
でもユーゼスに変なことなんてされたかしら、とエレオノールが記憶を辿っていると、
<……どうやらユーゼス・ゴッツォは、随分とお前のことを大事に扱っているようだな>
(んなっ!?)
それこそ変なことを、『声の主』から告げられた。
(ちょ、ちょっと、いきなりおかしなことを言わないでよ!!)
<何がおかしいんだ?>
(〜〜〜〜っ)
ヤキモキすると同時に、エレオノールは今の身体の感覚があやふやな状態に少しだけ感謝する。
…………もしもちゃんとした状態でそんなことを言われていたら、自分の顔が赤くなったり、心臓の鼓動が強く速くなっていることを嫌でも自覚しなければならないだろうから。
<ああ、それと>
(……今度は何?)
<ここに関する記憶は、お前が通常空間に復帰―――要するに目が覚めると同時に封印させてもらう。もちろん、俺がこうして干渉を行うたびに封印を解いて思い出してもらうがな>
(え? どうしてよ?)
<……お前は隠し事が得意なタイプには見えん。リュウセイや豹馬のように態度に出る可能性が高い>
(失礼ね! そいつらが誰かは知らないけど、私だって隠し事くらいは―――)
<そうやってすぐに感情的になるのが良い証拠だな>
(ぐっ……)
悔しいが、反論出来ない。
ちょっと自分のこれまでを振り返ってみれば、隠し事をするのが苦手というのは本当だし。
ユーゼスにも普段から『お前は感情的になりやすい』とか言われてるし。
って言うか、この『声の主』は歯に布を着せないでズバズバ物事を言うところなんかもユーゼスに似ている。
一体コイツはユーゼスの何なのかしら……とエレオノールが考えていると、『声の主』は今度こそと言わんばかりに周囲の空間を変化させ始めた。
<では始めよう。始まりの世界……二人の男の物語の、発端から終焉までを……>
以上です。
今の状態のカトレアって子供作れるのかなーとか思いましたが、OG2のエンディングでエクセレンが「双子の赤ちゃんが欲しいな」って言ってたので、まあ多分作れるんじゃない……のかな? やや自信薄ですけど。
あとド・ヴィヌイーユ大隊長が『火』のメイジってのは完全に私の独自設定です。
騎士姫あたりで彼の系統が明らかになったら、修正を加えるかもしれませんww
更に、エレオノールの意識に介入してきた謎の声!
い、いったいなにものなんだー(棒)
……うん、ごめんなさい、出したかったんです。
そして、とうとう私もPS3を買う時がやって来たようですね。
思えば新スパをやるためにPSを買い、
Fをやるためにサターンを買い、
IMPACTをやるためにPS2を買い、
RをやるためにGBAを買い、
64(中古)をやるために64(中古)を買い、
WをやるためにDSを買い、
NEOをやるためにWiiを買い、
第二次ZをやるためにPSPを買い……。
…………お、おのれ、なんと卑劣で狡猾な戦略を仕掛けてくるのだ!!
多分ゲストが出るんだろうなーとは思うんですが、しかしそうするとEXの分はどうするんだろうとか、『グランゾンのアレ』をやられたらこのSS的に気まずいなーとか色々と思うところはあるんですが、まずは新作が出ることを喜びましょう。
あとみんな、ククルのことを忘れないでいてあげて!
それでは皆様、支援ありがとうございました。
※今回の投下に際しては、皆様に多大なご迷惑をお掛けしてしまったことをお詫びいたします。
>>126の方
wikiへの登録は2パートで収まるはずですので、ニコラパートの直前で分割をお願いします。
ヒーロー戦記まで巻き戻ったり?
ラスボスの人も代理の人も乙!
話がいきなり進んだな
謎の声といい、wktkが止まらない
改めて乙でした。
>185 wiki登録はしましたが、改行空白の体裁が崩れてる可能性があるので修正をお願いしたいです。
1日で6作とは、今日は投下ラッシュだな。
乙&GJ。
まじでだれなんだなぞのこえ(ぼう)
あとナカーマ
乙ー
ククル?ああ、鋼鉄ジーグのキャラですね(棒
初めて生ラスボスを見た
投稿乙でした!
次も楽しみな展開だ・・・
乙でした。
戦争とかこういうシーンを見ると、さんざん自分たちにひどいことをしたカオスヘッダーをも救おうとしたムサシが本当にすごいやつなんだって思う
でもハヤタの場合はウルトラマンが悪いんだから人格は二の次だったのでは? ヒカリの場合は例外中の例外だろうけど
セブンがジンを助けて同化したときは、あの二人に昔の自分とアンヌを見たからかもしれないな
乙
召喚して契約してるってのに強い繋がりを持つのはルイズじゃないとはw
ユーゼスが全農の力は不要とみなし干渉したがらないのは結局のところ自分を神モドキとみなしているからで、
ウルトラマンその他のヒーローが干渉をいとわないのは、地球人を対等の存在と見ているから…
つまり自分たちも地球人も同じ世界の一員でしかなくて自分たちは神でもなんでもないと考えているからだろうね
人間が人間を助けるのに深く悩む必要はないってことだ
ウルトラマンたちは事故で今のような力を手に入れただけで以前は地球人と同じような存在だったようだし
乙でしたー
ユーゼスは、自分は違うと言いつつ気に入った者を助けてる
そんなものだ
>>196 でも人間から見たらウルトラマンはほとんど神同然の存在なんだよな
マサキ・ケイゴなんかが代表格。んで、ウルトラマンとは対照的に人間を下等とみなして崇拝を求めたのがキリエル人
>>196 > ユーゼスが全農の力は不要とみなし
・・・・・・ユーゼスは全農不要論者だったのか。
なぞの声の人は相変わらずずれてるなw
謎の声って霊帝水木兄貴じゃね?
まだ因子が足りないんですか(笑)
因子は十分に揃ってても、おまえ自身の準備が足りないとはww
チート級のキャラが出ても、原作を馬鹿正直になぞらなければ幾らでも性能そのままに、物語は書けるんじゃないのか?
>>79 おいおい、アデルさんはたった一人でラハールでさえ初見はビビるドラゴンを叩きのめす、生まれてからずっと(素手で)戦い続けてる歴戦の戦士だぜ?
各世界の勇者や魔王を返り討ちにする偽ゼノンにも、再生能力さえなければ倒せたかもしれないレベルだし
>>205 チート召喚キャラが自分勝手に振舞う→ゼロ魔レイプと騒ぐ
チート召喚キャラが謙虚に振舞う→クロス元レイプと騒ぐ
読み手はもっと大らかになるべきだと思った(確信)
つーか大騒ぎして否定してまで自分の理想の設定バランスの作品読みたいなら他人に求めるな
その読みたい理想の設定で自分で書け
理想の設定まで語れてるんだから充分執筆可能だろう
>>206 いやあれは偽ゼノン疲れてたからじゃね?
それに俺が言いたかったのは、主人公最弱と言いたかっただけで
別にアデルが弱いとは言っていない
万能以上全能未満のキャラとクロスを考えても基本的に世界へ干渉しない性格だから
どこまでの範囲を関わらせるべきか悩むようなキャラもいるわけでしてね
>>124 引継ぎなら引継ぎって明記されそうですし周回数×それぞれみたいなボーナスじゃないですかね
チャート埋めはちょっと強化パーツおまけしてもらえるとか
ともあれ投下乙であります
すっげー強くて世捨て人みたいな性格してるから元いた世界への影響も極小で召喚はしやすいんだけど、
だからこそ絡ませにくいってのはあるかもね。
17:15分から第2話を投下します。さるさん喰らうかな
第2話 無限の使い魔
髪を撫でる優しい感触が頬を伝う。ふわりと揺れ動く髪が心地よい風の存在を教えてくれた。窓から入る日差しは私のまぶたをゆっくりと開かせる。
軽く体を伸ばして小さな欠伸をつくとのそりと体を起こして開かれた窓を見やった。
「私ったら、窓を開けっ放しで寝ちゃったのかしら?」
まあいいか、とまだ朝食まで余裕がありそうなので眩しい光に当たらないように半目でごろんと反対向きに寝そべると。
「おはようさんだべルイズゥ!」
とんでもない悪人面がそこにいた。
「ッキャアアアアアアアアアアア〜〜!! って何だカルパッチョじゃない、朝っぱらから驚かせないでよね」
「おいおいそりゃないべルイズゥ。元気に爽やかに朝の挨拶をしたっていうのによぉ」
肩をすくめてニヤリと笑うカルパッチョは相変わらずの悪人面だ。手ぐしで髪を整えながら文句を言う。
「もう少しくらい寝かせてくれてもいいじゃないのよー。昨日の疲れがまだ残ってるんだからね。ま、おかげさまでばっちり目が覚めたわ。おはようカルパッチョ」
私はベッドから足をおろすとテーブルの上に用意された水の入った容器で顔を洗い横に畳まれたタオルで水気を拭う。
椅子にかけられた制服と下着を確認するとそれに着替えるために寝間着を脱……がなかった。
「朝の用意がやたらといいからご主人様としてご褒美をあげたい所だけど。だからといってそうやすやすと肌を見せてあげたりはしないわ」
本来なら男と言えどもカルパッチョは使い魔なので着替えを見せる所か手伝わせるのだが、私の使い魔にそれをさせると身の危険を感じるのでやめておいた。
「ひゃはは、さすがはご主人様だべ。んじゃ、外で待ってるから着替え終わったら呼んでくれや」
「ええ。着替えたらあなたには私の髪を梳かせてあげるわ。それがご褒美ね」
「おお! ルイズの綺麗な髪をか! そりゃありがてぇな!」
嬉しそうにヘラヘラと笑いながらドアを閉めて向こうに行った使い魔を見て私はクスリと笑ってしまった。全く気が利く上に本当に口の上手い使い魔ね。
強力な能力も使えるし、顔が恐いことを除けば立派な付き人になれるわ。護衛でも執事でも、そう使い魔でも。
あ、でももう一つ欠点があったわ。それはね、
「のぞくなーーーーっ!!!!」
私はドアの鍵穴から覗いているだろうカルパッチョ目掛けて杖を振り。
「ごふあッ! なぜバレたべぇぇぇぇ!!」
爆風で吹き飛ばした。スケベな事だわ。
身だしなみを整え、朝食をとるためカルパッチョを伴い食堂に向かおうと部屋の外に出る。
それを待ち構えていたように隣りの部屋の扉が開いて今一番会いたくない奴と出会った。
「あらルイズ。ごきげんよう」
「なーにがごきげんようよツェルプストー。私は朝っぱらからあんたに出くわして不機嫌よ」
「いやだわ、胸の小さい女は器も小さいのね」
「胸のでかい女は態度がでかくって困るわ」
「あらごめんなさい。あなたは胸がないから器自体がないわ!」
「んなわぁんですってええええ!?!?」
怒りのあまり公衆の面前で廊下中に響く程の大声を出してしまった。淑女にあるまじき行いだ。口喧嘩に負けカルパッチョにも見られた。最悪だ。
「朝っぱらから怒鳴らないでくれる? うるさくって困るわぁ。ところで隣りにいる男ってあなたの使い魔? 本当にただの平民なのね! あっはっは! あっはっ……は……?」
ツェルプストーが困惑している。カルパッチョの女子に嫌われる才はこの女にも有効なようだ。
私の機嫌が良くなったのを見てキュルケは怪訝な表情を浮かべたが、長い赤髪をかきあげて性懲りもなく使い魔自慢を始めた。
のっそりとサラマンダーがキュルケの部屋から顔をのぞかせる。なんとなくカルパッチョに似ていると思った。
話を聞き流しつつ澄ました顔でサラマンダーを見ているとこちらにやって来た。
「きゅるきゅる」
「あら、使い魔は主人と違って礼儀正しいのね」
「ちょっと私の話をちゃんと聞きなさいよ! あんた悔しくないの!?」
「全然? だってカルパッチョの方が強いし」
「平民がサラマンダーより強いって、あなた頭大丈夫?」
人をかわいそうな目で見てくるこの女に言語は通じないと思いカルパッチョに自己紹介をさせる。
「カール・P・アッチョだ。気軽にカルパッチョと呼んでくれ」
「え、ええ。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。キュルケでいいわ」
引きつった笑いを浮かべて後ずさるキュルケにカルパッチョはとどめをさした。
「ちなみにオレの能力は‘マント’をーー」
自分に向かって伸ばされた手を見て触られると判断したのか青ざめた顔をして跳びすさった。
「じゃあおおお先に失礼」
颯爽と逃げるように去ってゆく主を見て、サラマンダーのフレイムは一鳴きして私達に別れを告げると、大柄な体に似合わないちょこちょことした動きでついて行った。
うん。可愛さならあなたの使い魔の勝ちだわキュルケ。
満足した私は悲しげなカルパッチョを慰めつつ食堂に向かった。
裏手にまわった調理場で食事をもらうように言い、カルパッチョと別れた私は扉を開けてアルヴィーズの食堂に入る。
本当は特別に食堂に入れようかと思ったけど周りの席の女の子がゆっくり食べられないからね。
でも私は平気よね。初対面時は嫌悪感が強かったけど契約後はむしろ好感が持てる。
カルパッチョの左手に刻まれたルーンの効果で主と使い魔を結んでいるからかしら。
席に着いて食事前の祈りも終わりカルパッチョの無事を祈りつつも食事を終えてデザートがやってくる頃。給仕の恰好をしたカルパッチョがそこにいた。
ケーキの乗ったトレイをカルパッチョが持ちメイドがケーキをはさみで挟んでテーブルの皿に乗せてゆく。
何故か周りの女の子達の様子がおかしかったから後ろを振り向いてみたのだが、全く何をしているんだか。
(ちょっと! あんた何してるのよ!)
小声で文句を言ってみる。
(食事のお礼に手伝ってるんだべ)
にやにやと笑みを返してきた。
(だからって、その、女の子の近くにくる手伝いはしちゃ駄目じゃない!)
(あー、色々と勝手がわからねぇから嫌われにくい女の子の給仕の手伝いしかできなくてなぁ)
(え、ってことはそこのメイドは……って待ちなさい!)
(また後でなぁルイズ)
へらへら笑いながらひらひらと手を振りながら去っていくカルパッチョ。
「まったくなんなのよもう……」
釈然としない気持ちを抱えつつも、目の前に配膳されたケーキをほおばった。
食堂を出て私の部屋の前に待機していたカルパッチョを連れて教室へと向かう。
「そういえば、他人の能力を自分の能力に変える能力で一体いくつの能力をコピーしたの?」
「十団の能力と追加のメンバー三人の能力をコピーしたから、十三の能力をコピーしたべな」
「反則的ね……カルパッチョの能力を合わせて十四の能力が使えるんでしょ。指輪をロケットに、マントを翼に、他人の能力を自分の能力に、後は何が使えるのかしら?」
そう質問するとカルパッチョは辺りをキョロキョロと見回して困ったように告げた。
「いくらルイズでもなぁ……あんまり手の内を晒したくはないんだべ。特に奥の手はなぁ」
カルパッチョが初めて反抗した。
「何よー。答えられないの?」
「もちろんルイズには教えてもいいんだが……」
渋い顔で腕を組んでうなっている。少しいじわるしちゃったわね。
私だけに教えたとしても、つい誰かに言っちゃうかもしれないし。その誰かがまた誰かに伝えて広まってしまうかもしれない。
そうなったら手札が筒抜けになりカルパッチョが私を守りにくくなってしまう。
「誰にも言わないからとは言えないわね」
「むぅ……すまんなぁルイズ。理解が早くて助かるべ。大体さっきの3つで対応と応用ができると思うからオレの能力は指輪をロケット、マントを翼、他人の能力を自分の能力に変える能力(ちから)が使えるってことにしといてくれ」
「え? コピー能力のことは教えていいの?」
「ああ、オレの能力の事をしつこく聞いてくる奴とかにな。ただ限定条件の事は言わねえでくれ。そうすりゃかなりの脅威になるからなぁ」
「なるほどねぇ〜」
コピーされるってわかったら不用意にカルパッチョに近づけないものね。って……私達メイジの力もコピー出来るのかしら?
教室に入り二人で席に着く。やたらと目をひいていたが気にせずに会話を続ける。
「どうしたべルイズ」
「ん、まあこの話はまた後ね。そろそろ授業が始まるし」
聞き耳をたてている生徒がいるからこの話題はお預け。ペンと紙を取り出して授業の準備を始める。
「カルパッチョも授業を聞くの?」
「この世界について知りてえからな。後でルイズに聞いてもいいがこの時間に外でぶらぶらするのもったいねえべ? この辺りの探索もルイズと一緒にやった方がいいしなぁ」
一限目の授業の担任のシュヴルーズ先生が教室に入ってきた所で生徒達は雑談をやめて自分達の席に着いていった。
シュヴルーズ先生は教壇に立つと生徒達とその使い魔を見回して微笑んだ。
「春の使い魔召喚は全員無事に成功のようですわね。私は皆さんのこれからのパートナーとなる使い魔を見るのを毎年楽しみにしていて……あら?」
私と私の隣りにいるカルパッチョを交互に見て首を傾げていたがカルパッチョの左手のルーンを見て得心したようだ。
「ミス・ヴァリエールは随分と変わった使い魔を召喚したようですね」
そう発言すると教室の浮かれた男子達が騒ぎ始めた。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって傭兵を雇ったのかよ!」
「なんて醜い外見の平民なんだ。僕の美しい薔薇たちが皆怯えているじゃないか! 早々に立ち去らせたまえ!」
「体は鍛えられているが魔法が使えないんじゃあな!」
私が侮辱されるのは慣れているけど使い魔のカルパッチョまで侮辱されるのは我慢ならない。
立ち上がろうとして先に立ち上がる者がいた。
「おめえら……そこまでにしとけよ」
いつもヘラヘラとにやついているカルパッチョが真顔で生徒達を威圧する。
教室が静まり返った。
「オレを馬鹿にしたけりゃいくらでもしやがれ。だがルイズを侮辱すんのは許さねぇ」
私が庇うよりも先に庇われてしまった。ただちょっと気に障る発言があったので訂正する。
「何言ってるのよ。カルパッチョが馬鹿にされるなんて私が許さないわ」
「おお、そりゃすまねえなぁ。じゃあオレ達を馬鹿にしたけりゃ」
ギョロりと教室を見回して言った。
「覚悟しとけよおめえら」
男子達は謎の重圧感にさらされて黙ってしまう。
女子達はより一層恐怖が増したようで震えている。
そんな中、シュヴルーズ先生がまとめるように手を叩きながら言った。
「はいはいでは授業を始めますのでそのくらいで。皆さん外見や能力で簡単に人を中傷してはいけませんよ。そしてミス・ヴァリエール。良い使い魔を持ちましたね」
私は誇らしい気持ちでいっぱいになって元気よく答えた。
「はいっ!」
◇◇◇◇◇◇
私は虚ろな表情で教室内の片付けを行う。錬金の魔法を失敗してしまい教室がめちゃくちゃになってしまったからだ。
シュヴルーズ先生に指名されたときは驚いたものの、名誉挽回の機会を与えてくれたのだとはりきって、自身を持って錬金を行った。
結果はこの有様だ。錬金をかけた石ころが爆発しシュヴルーズ先生が気絶。机が大破。使い魔たちが暴れまわりそれを必死にカルパッチョが止めてくれた。
所詮私はゼロでしかない存在なのだと、むしろマイナスの存在なのだと思った。カルパッチョは黙々と壊れた机を隅に運んだり新しい机を持ってきたり高いところの拭き掃除をしてくれている。
すすけた机を拭いている私は無理矢理笑顔を浮かべて何でもないように振る舞った。
「悪いわねカルパッチョ! こんなこと手伝わせちゃって」
「……」
カルパッチョは無言で窓を拭き続ける。いつものふざけた感じは一切なく真顔で作業を続けていた。
怖い。使い魔の顔、雰囲気、威圧感、そして私に対する考えが。
何を考えているんだろう。後悔失望絶望嫌悪。使い魔にも見放された私は一体どうすれば……。
「おめえは、なにを望む?」
うつむいていた顔を上げるとカルパッチョがすぐそこまで来ていた。真剣な顔を見せるのはこれが初めてだった。
「オレには力がある。頭脳がある。能力がある。別にそれらが欲しくて手に入れたわけじゃねえ。どうしても叶えたい夢があったから努力して手に入れたんだ」
私の瞳は使い魔の瞳に吸い寄せられる。
「黙ってたが中には褒められねえ方法で手に入れた能力もある。卑怯にも卑劣にも他人を苦しめて踏みつけて掃き捨ててオレはここまで来れたんだ。
その努力は全部“女子に好かれるようになる”ためだけにやってきた。他の奴らにとっちゃそんなもんのために他人を傷つけてきたのかと、恨まれ憎まれあげくにオレは殺されるかもしれねえ。
こんだけやってきてオレは後悔してねえのかと問われれば、オレは断言するだろうな」
カルパッチョは不敵に笑ってこう言った。
「後悔なんてするはずがねえ。オレは夢を叶えられたんだからな」
SeeDの人来ないかな
流石に魔法は無理だろ
SEEDは小ネタあるけど実際呼ぶとしたら誰がおもしろいだろか
無印や運命より、アストレイの登場人物のほうがネタになるかな
ジャンク屋連中やサーペントテール召喚みてみたい
>>222 多分、ガンダムSEEDのほうじゃなくて
FF8のSeeDの方だと思う
それがおめえだ、ルイズ、と。
私の使い魔はいつものようににやけ顔を浮かべながらカッコイイセリフで口説いてきたのだった。
なんだか私の悩みが馬鹿らしくなってしまい、つい涙腺が崩壊してしまった。苦しい境遇にいたのは私だけじゃなかった。そんな当たり前のことを忘れていたわたしはひどく滑稽のように思えた。
「私は立派な貴族になりたい。敵に背中を向けず勇猛果敢に戦うメイジになりたい。私を支えてくれてきた人達に笑って成長できたと言える私になりたい」
誰にも話さず心に仕舞いこんできた気持ちを赤裸々に語り告げる。信用し信頼し心を支えてくれるこの使い魔と共に私は歩んでいきたいから。
「おう、任せとけ。絶対におめえの望みを叶えてやるべ。なんたって夢で目標でご主人サマだからなぁ!!」
ちなみに目標はルイズを守ることだべ、と付け加える使い魔。なんでわたしの使い魔はこう、なんてゆうか、軽いんだろう。好きになってしまったらどうするのだ。
!? あれいまわたしなんかとんでもないことを考えなかった!?
「よぉし、じゃあラストスパートだべ!」
そう言いながら作業に取りかかるカルパッチョの顔はどこか赤らんでいて。カルパッチョでも照れることがあるのだとわかって私は自然とにやにやするのであった。
投下を終了します。次はようやくギーシュ戦です
※ ※ ※
代理終了
遅れたがラスボス乙
・・・生きてるならとっとと報告ぐらいしやがれってんだ・・・!!
・・・・・・よく、生きて戻ってくれました・・・
番人登場やらギーシュの生還やらニコラさんやらグランゾン介入やら怒涛の展開ですね・・・わくわくしてきたぞ
しかし・・・確かに今更ながらシャトルは無数の死人の中からエクセレン(orキョウスケ)一人だけ選んだのも適当だなぁ
そりゃ何人も生存者居たら不審どころじゃないけど
・・・カトレアがベーオウルフみたいになりませんように
・・・ああ、ミィみたいなのを作るならやるといいですよリヒカイトさん
>>185 エクセ姉さんはIMPACTのラストでは普通に妊娠してますので大丈夫なはずです。
子供ができるよ! やったねカトレアちゃん!
カトちゃんだと、某お茶の人になってしまう・・・
隠の王の六条壬晴を召喚
ツンデレじゃない釘宮キャラってあまり呼ばれたこと無いよな?
りせちゃんは単独で呼んでも役に立たんしねえ
シャナと大河とアリアを召喚して
んでルイズに喚ばれたサイトが釘に囲まれて・・・・・
よしここは神楽召喚だな
ツンデレなルイズと被らないように、アリーゼやマルタあたりがいいな。
あるいは双子のパロムポロム姉弟か、ミシェルミレイユ姉弟でトリオ・ザ・釘宮とか。
ローズも忘れず。
235 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/23(月) 22:41:02.29 ID:XrqgDdtI
天河優人召喚
ツンデレでないくぎゅう……
よし! 明智ミツヒデことあけりん呼ぼうぜ!
にしてもなぜかアニメ戦国乙女のみつひでがくぎゅぽくないのは何故なんだろうか?
釘キャラなら、りぜる一択だろと思うのだが小ネタでも喚ばれてないな……
>>237 りぜる喚んでも爆発以外のオチが想像できません
遥と桐生さん呼び出せばいいんじゃね
ミョズは・・・真島辺りで
241 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/24(火) 00:00:05.12 ID:BQEqKpAY
アニェーゼは・・・既出か?
>238
くぎゅっぽい言動はあったけど、980円に声がついた事あったっけ?
ここはアルフォンスだろう
アルフォンス・エルリックだったらゴーレム扱いなんだろうな
泰麒なら汕子か傲濫を使い魔にしようとするのかな
人間に戻ったあとのアルフォンスを喚べばいーじゃない。
旧アニメ版なら錬金術使えるよ。
原作でも使えるんじゃね?
>>44 もし東方号に第三艦橋があったら誰が配属されるんだろうか
「あっ、ギーシュ隊長」
「おっ、ギムリか。君もこの船に乗り込んでいたのか」
「はい、私は第三艦橋勤務です」
「そうか、がんばれよ」
アルフォンヌ先生?
カルパの人乙
カルパッチョ主人公って珍しいってレベルじゃねえな
非ツンデレな釘キャラ…
終わクロの新庄(ドラマCD版)も確か釘だったはず
じゃあアザゼルさんのカキタレの釘だ
一応悪魔だから実力はあるぞ
>>228 カトレアちゃん「ちょっとだけよ〜、あんたも好きねえ」
>>246 多分使えると思うけど描写が一切ないよね
アルがルイズの世界に召喚されても
錬丹術 じゃないから錬成は無理な感じがする
くぎゅはただの記号的存在だから別にそんなこだわるなよ
>>207 原作通りの性能でも騒ぐのは騒ぐからな
環境によっていくらでも変わる可能性はあるじゃないか、周りが糞煩ければキリイだって喋るだろうw
楽天からルイーズ召喚
というのは一年前にはかかれているか
周りがしゃべると無口は余計しゃべらないぞ
作品によっちゃあ綾波レイもペラペラしゃべるが、
やはり無口キャラは最終回まで大して変わらんことが多いな
そういえばサイトの夢の中限定でタバサも饒舌になってたっけ
非ツンの釘
ブララグのグレーテル
イベント戦闘でギーシュが殺されかねん
ブリーチの涅ネムはルイズとは正反対の釘宮キャラだな
ゴリラーマン召喚
ティオだよティオ
ピンク髪にツンデレ
>>260 確かに金朋だった◯刀乙
うたわれのカミュで
スレ内外問わずでルイズがクトゥルフ神話の邪神呼んで無事だったSSってあったっけ?
長編でそういうのがなかなか無いので
よし!
なんの脈絡もなくゴーカイピンク呼ぼうぜ!
駄目なら芋羊羹で。
>>264 ティンダロスの猟犬呼んで、無事だったのはあるぞ。
>>265 ステカセキングでもいいんじゃね? 能力同じだろ。
>>264 ヨグ=ソトホースの子どもを使い魔にしたssがあった
無口キャラなら漢字二文字で会話するリンクスが…
覆面レスラーしか思い浮かばない俺
ゼロ・マスカラス「リッチャンハ?」
子供たち『カワイイデスヨ!』
武器使いのガンダには、リンクスより 忍者の百地さんの方が…
ガンダールブとして呼ぶなら武器使う人呼ぶ方がさまになるよな。
>>242 くぎゅのつんでれCDを音源に使って喋ったことがあるので、980円のCVはくぎゅというのは間違いではない。
また、水樹奈々がトロ・クロ・980円全員にアテたことがあるので水樹奈々がCVというのも間違いではない。
>>262 ルイズとティオ二人分の怒りを反映したチャージルサイフォドンとか
まじ勘弁してください
クトゥルフから異形の神々(の力の一端とか痕跡とか、実際はその程度)とか、まさに召喚って感じだなw
まあそんなもん呼び出したら常識的に考えて、ルイズが孕ませられた挙句に学院の全員が奇妙な最期を遂げて、トリスタニアは奇怪な生物の目撃情報が寄せられる地図から消えた町になるとかするけど
>>268 リンクスなんか喋りまくるのばっかりだろ、下手すると断末魔すら「・・・!」とかなレイヴンならともかく
無口といえば、BLAME!って断末魔や悲鳴・呻きすらも無いのな
レイヴンは一回しか出番ない上に、登場か退場時にしか基本喋らないからな
ブラムはまるまる1巻分で一言二言とか、笑い声とか
そのよく喋る霧亥があと15分ほどで投下予定
しょうがないじゃないか、原作並みに意味不明な作品にするのはSSだと無理だ
LOG-8 感知
・・・日没、つまり霧亥たちが一連の戦闘を終えてから数時間後。
人々が寝静まるのを待っていたフードと仮面が、トリステイン魔法学院のすぐそばで密会していた。
「それで、今やらなけりゃならない理由ってのは?」
フードの方は女性のようだが、中性的な声としっかりした服装から、人によっては男性と思うかもしれない雰囲気が漂う。
「あの男が居ないからだ、今は王都で釘付けにされている」
仮面の方は、体格と服装は男性のものだが、完全に音声は加工されていて、まったくどちらなのか分からず、フードの方と違い、感情を読み取るのも難しい。
「例の四人組か……あんたらのお仲間なんだろ?」
「いや、やつらは敵でも味方でもない。味方というには、やつらの立ち位置は遠すぎる」
「複雑な事情はいいさ、こっちは自分の仕事の邪魔になるのか助けになるのかだけ知りたいんだよ」
「………………」
仮面が、質問も聞かずに遠くを見ているのに気づいて、フードの女は不審そうにする。
「どうした?」
「早いな、情報を流してやったのに、捕獲どころか足止めもできないとはな」
「……話が違う」
遠見のための魔法や道具を使うまでも無く、一台の馬車が接近してきているのが分かる。
そこに乗っている人間が、どの程度の脅威であるかはすでに目にして知っているし、予定と違ってここまでやって来たことがそれを補強した。
「仕事に取り掛かれ、収蔵品だけでもいい」
「おい!」
仮面の姿は完全に掻き消えていた。
大気の屈折と振動で、人がひとりそこに居るかのように見せているだけなのだから、そう急がずに居ても良いだろうに―――フードの女は苦いものでも口にあるかのように唾を吐く。
「やってらんないねぇ………ほんと、ろくでもない奴に雇われたもんだ」
悪態をつきながらも杖を取り出すと、呪文の詠唱を始める。
土系統の基本的なスペルだったが、彼女の実力が並外れていたこともあり、その効力は最大級だった。
「さっさと終わらせるべきだね、これは……」
波打つ水面のようになった地面から、湧き上がるようにして土が盛り上がり、巨大な土くれを作り上げる。
フードの女は真っ赤な唇を余裕たっぷりにゆがめた。
人目の無い場所で、音を押さえつけて歩く巨大なゴーレム。
それを、得体の知れない使い魔如きに、止められるはずがないのだから・・・
・・・疲労の溜まった馬を駅で交換するころには、すっかり日は傾いており、足の遅い車で普通に馬を走らせたときよりも時間をかけながら戻ってみれば、日は地平線に消えていた。
どうせならと、私物を購入して馬車に詰め込んだことで夕食を逃したルイズはすきっ腹を抱え、空腹を捨てた霧亥は馬車に揺られながら、学院の方で起こっている現象を、のんびりと眺めている。
普通に考えれば異常な事態を、自身もまた普通ではないと自覚している霧亥は、果たしてこちらの基準でも異常な事態なのかと計りかね、横のルイズに声を掛けずにいた。
サイズこそ違えども、いつぞやのゴーレムと呼ばれたものが、ゆっくり練成されていく。
何かの土木作業にでも使用するのだろうと、霧亥は推測。
脊髄反射的に、その変化し続ける姿の正確な立体構造と構成物質を随時分析していた。
「なんだ、あれは!?」
驚いたのは、ここの人間たちの方だった。
馬車の操縦者が、歩行時の振動を受けてゴーレムの存在に気づくと、慌てて馬に歩みを止めるよう指示を出す。
「ちょ、ちょっと! 一体何が起こってるって言うのよ!?」
馬車を飛び降りたルイズも同じような反応を取っていたので、このようなことは、めったに起こりえないらしい。
ゴーレムは何をするでもなく、学院を囲む五角形の頂点の一つ、水の塔を左に避けると、一跨ぎで辺に当たる壁を乗り越え、音も無く本塔の一角を目指して突き進んでいる。
「宝物庫の方じゃない……ご、強盗なんじゃ…!?」
「ルイズ―――!!」
ルイズがおろおろとしているところへ、遠くから二人の生徒が、文字通り飛んできた。
馬に乗ることも、理解は出来るが相当恐ろしいことだと感じた霧亥には、とても自分の羽根で自重を支えられるとは思えない身体構造に、
半端な知能を備えた危険きわまる生物に跨るこの人間を見て、一体何を考えているのかと正気を疑いそうになった。
途中で見た目ほどの質量が無かったり、密度がおかしかったり、変化させていたりする妙な生き物だと気づいたが、むしろそんなものを完全に制御下に置けない恐怖を感じる。
この様な時間と場所で何をしていたのか、キュルケとタバサと呼ばれていた二人組みは危険な―――竜と呼ばれるものの一種らしい―――生物に運ばれてきた。
「何やってるのよ、あんたたちは!?」
「どうでも良いでしょう!」
「彼が帰ってくるのを待ってた」
その理由は分からなかったが、目の前の光景を見たことによる混乱からして、あのゴーレムについての驚きはこの二人も変わらないらしい。
魔法を発動して、ゴーレムを操っているのは誰か、先ほどの襲撃のこともあって、こういった非常事態に警戒した霧亥は意識を集中した。
「人は呼んだの?」
「当直の先生が居るはずよ、すぐに対応するはずだから、離れて見てれば十分よ」
とはいうものの、霧亥の目には、それらしい人間の姿は確認できない。
結局、誰かが動き出すどころか意識を覚醒させることもなく、ゴーレムは悠々とアウストリの広場を突き進むと、本塔のすぐそばに到着してしまった。
「誰も気づいてないみたいよ、どうするの!?」
「わ、私に怒鳴らないでよ」
余裕を見せていたキュルケも、さすがにうろたえ始めていた。
あのサイズのゴーレムを相手取れるわけも無く、かと言ってあれに気づかれないように人を呼びに行くのは難しいし、なによりわざわざ危険を冒さずとも、普通に考えればすぐ教員が対応するはずなのだ。
タバサも、口にこそ出さないが、杖を手に取り体を強張らせている。
唯一、霧亥だけが馬車のそばで、何も起こっていないようにゴーレムが宝物庫と呼ばれた物置の在る部分に取り付くのを観察していた。
ただの土くれに恐怖など感じないというのもあるが、彼我の実力差があろうとなかろうと霧亥はうろたえる事もないし、必要が無ければ積極的に攻撃しようとすることも無い。
問題は必要性の見極めだ。
「…………どうしたの?」
不意に霧亥の目付きが鋭く、というよりは悪くなったことを察知したのは、一際優れた観察眼を持っているタバサだった。
霧亥はゴーレムではなく、ゴーレムの左肩に登ってきた人物に視線を向けている。
それがゴーレムの操縦者であるということは一目で分かり、それ自体がどうということもないが、彼女が学院内での観察記録に該当する生体であり、
“こちら”ではなく、“自分”という個人へとその注意を向けながら作業を行っていることを素早く見抜くと、まず関連付けられるのが「先刻の襲撃者と関係がある」ということだ。
観察してみるに、彼女の思考の色は“焦り”。
ゴーレムから本塔の外壁に飛び移り、辺りに注意を向けながら、なかなか破壊できない足元の素材を走査している。
一頻り観察した後で、彼女の一連の動作を分析し、この行動が学院の人間に発見されることよりも、霧亥という個人の目を危険視してのものであるのを確認したところで、
こちらについての知識と共通認識を持っている、つまりこれは確実にあの四人組と何らかの関係がある人物であり、あの襲撃と同期して行動を起こしたのだろうと判断。
更に目を凝らせば、操縦者の管理の外に、いつぞやギトーと名乗った男が使用したのと同じ力の反応も視え、最低でも複数人で動いていることも分かった。
敵性
網膜に表示される文字もまた、そこから導き出した考えを肯定していた。
もちろん、その他もろもろの可能性はあるが、物事は多少悪い方を想定して対応するべきだ。
不必要な労力を費やすことを好まない霧亥だが、なにより、力の行使の必要があるのなら一切の容赦をしないことが彼の行動の基本である。
ゴーレムの操縦者近くの反応が、霧亥の予想したとおりの操作によるものであれば、ここの情報が駄々漏れの可能性もある。
攻勢に出るならば、出来るだけの火力で早めに潰さなければならない。
「キリイ?」
黒金を思わせる、ぼんやりとした光沢のある角張った短銃のようなものが、霧亥の手には握られていた。
表情は無く、目付きも何かを狙うという幹事には程遠い。
とても銃を撃つつもりとは思えないほど無造作に、力の抜けた右手が突き出された。
都市において最高級の火器を意味する第一種臨界不測兵器の一つである、最強の銃。
狙いはあまりに正確に、敵の重心に向けられている。
ゴーレムの肩で、霧亥の様子を伺いながら破壊活動を続けていた女こと、ロングビルはその姿を見て目を見開いた。
あの決闘のときの銃とは違う。
肘をきっちり伸ばし、この距離から、操縦者たる自分ではなく、ゴーレム自体を照準しているのだ。
それは決して無謀な行いなどではなく、間違いなく足元にある“土くれ”を、一撃の元に無力化可能なのだと、霧亥の立ち振る舞いを見たロングビルは直感した。
あの銃は一体なんだっただろうか?―――走馬灯のように、急激に加速された意識の中で、必死に記憶をたどる。
重力子放射線射出装置―――!!?
とっさに頭の中でそう叫んだはいいが、その後に逃げ出すどころか、満足に口を動かす余裕すら与えられなかった。
この霧亥の銃の使用による破壊は、大きく幾つかの種類に分けられる。
一つは単純に、強烈な重力子の放射線による重力子交換の増大で、重力質量が増加、周囲の物体が押し退けられるか押し潰されるかして、素粒子レベルで分解し、膨大なエネルギーを放出する。
続いて、そこまでの影響を受けないにしても、距離の離れた物質も、すぐ近くに巨大な重力源が出現したことによって、潮汐力で崩壊していく。
重力による特異点、ブラック・ホールなどの天体によって引き起こされる破壊が直線状に発生するのと同じだが、
これと違い、もっとミクロなレベルの変化として、力を伝達するゲージ粒子の変化ではなく“場”そのもの急激な変化という、ある種の真空の相転移にも似た急激な物理定数の変更で物体や時空に強烈な影響が出る。
どれほど頑強な物質であっても、その姿を保てなくなるような根本的な破壊現象だ。
同じようにして起こるのは、通常時には人の手に触れる物質とほとんど相互作用しないダーク・マターなどが、放射線によって形成された射線軸上の場へ一斉に干渉を始め、
これによる膨大な質量や各種作用の爆発的な増大によって、物は何でも変化し、破壊される。
以上によって、どれほど強固で、三次元方向以外にも広がりを持つような構造物であっても、プランク定数レベルの正確さで場に沿って二重に貫かれるのだ。
さらに、高度な重力制御とそれに付随する時空の制御も切り裂き、これ以外にも周辺の環境に対する、臨界の不測な破壊をもたらす。
二次的な破壊として、破壊された物質が渦となって周囲に広がるなどもあるが、霧亥たちの基準でいえば、特に問題ではなかった。
重力制御によって世界の根幹が成り立つ階層都市の内部ではない以上、その影響は“臨界不測兵器”といわれるには足らないところまで落ち込むが、それでも圧倒的過ぎる。
霧亥の銃に電流が迸ると同時に射出された、弾体とも領域ともいえないものが光速で飛翔。
指先ほどの大きさの何かが通り過ぎると、それを中心として、手元で細く先に行くほど徐々に広がっていくが、概ね半径1mの円柱を成す空間にある物質が一気に消失していく。
湾曲し、水面のように波打つ空間。
光の速度という、霧亥以外には知識すら持たないスケールの時間で消失した空間が、光の柱のように変化して、その圧倒的な力で周囲を飲み込むと、
はじめにあけられた穴の数倍の領域が、職人の手でくり貫かれたように崩壊した。
肉眼ではブラック・ホールが熱放射により光り輝いて見えるのと同じ要領で、極太の白いビームを放ったようになっている。
銃撃を直に受けたゴーレムとその向こう側にあった土の塔は、このようにして大穴を空けられるのと平行し、貫かれた周辺の物質も乱れた重力に追従して震え、
波にさらわれた砂の城のように粉砕され、追い討ちをかけるように襲ってきた光の渦を受けて弾き飛ぶ。
すぐ近くにあった学院を囲む壁や宝物庫と水の塔にも、建材の劣化を早回しにして見たかのように、一瞬で大小のひび割れが走り、崩れ、素粒子や光で焼かれる。
離れた位置にある、使用人や生徒たちの寮の屋根、窓などの軟弱な部分も、想定外の暴風雨でも通り過ぎたのかというほどに引き裂かれて散らばり、巻き上げられた土やゴーレムの破片に混じって空を濁す。
空では、雲が大気と一緒に押し潰されるか弾き飛ばされ、大気中の粒子の崩壊による電磁波によって、まるで朝日が昇ったかのように、直線上だけ青く変わってしまう。
「―――っ!!?」
ルイズたちは声にならない悲鳴を上げ、衝撃で吹き飛ばされ、肺の中の空気を強制的に排出させられた上に砂埃を吸い込んで激しく咳き込み、悶える。
馬車は幌が吹き飛ばされ、慌てた馬は煽られて転倒し生体活動を停止、操縦者はすぐ近くで木に頭を打ち付けて脳震盪によって失神。
霧亥のほうも、とっさのことだった上に、継続的に射撃をする必要もなかったので、射撃の反動を吸収しきらず、振り上げられた右腕に引かれて仰け反った。
溶解した物質が赤々と光を発し、岩石蒸気となったかつてのゴーレムや学院の一部は捲れあがった草や土、へし折れた植木を焼いていき、
降り注ぐ破片は、砂浜に波が打ち寄せたかのような雑音をあたりに響かせ、発生した気圧変化は、不気味で生ぬるい風をあたりに吹かせる。
ずいぶん度を過ぎた破壊に、霧亥自身も眉をひそめたくなった。
そうなんだ、じゃあ支援するね
なにせ、攻撃してみて分かったが、際限なく再構成されるわけでも、見た目以上の強度を持っているわけでもなかったのだ。
せいぜい、重量にして人一人分も無い原子に、結合の切断や生成を起こしてやれば取り出せるエネルギーで、十分に跡形も無く撃破できただろう。
この状況下で、無駄な発砲による力の浪費など、愚行としか言いようが無いというのに何をしているのか。
結果としてこの惨状。
地獄絵図…というには、人死にはまったく出ていなかったので、銃あるいは使用者の機能制限中での不完全な射撃を除けば最低出力の射撃であったにしても、奇跡的だ。
「げ……げほっ」
ルイズが何とか起き上がると、学院の方へ悠々と歩いていく霧亥を発見する。
召喚者を気に留める様子はまるで無い。
「なんなの、あなたは…」
朦朧とした意識と震える視線。
畏怖に近い、今まで感じたことの無い恐怖すら霧亥に対して覚えて、また倒れこむ。
キュルケは蹲ったままで、霧亥を見て目を丸くしていたタバサは、何とかしようと二人に這い寄る。
霧亥もまた、同じように負傷者へ歩み寄っていった。
未だにも濛々と煙が立ち込める中、教師や生徒が飛び出してきたが、そんなことは気にも留めずに、ゴーレムのいたあたりに向かう。
逃げる足が無いとはいえ、霧亥は非常時を思わせない足取りで操縦者の傍らへよる霧亥。
フードはずたずたで、腕は?げそうになっているし、足は塔から吹き飛ばされて着地したときの衝撃で砕けていた。
肺は完全ではないが潰れて出血し、皮膚は熱線で爛れ、衝撃で肝臓なども内臓出血を起こしている。
優れた身体能力を持ったメイジでなければ、とっさの防御による軽減も行えず、この程度の損傷では済まずに即死であっただろう。
そんな彼女が、網膜走査でロングビルその人であることを確認したことで、新たな脅威を意識しなければならなくなった。
学院内に不穏分子が潜り込んでいること自体はどうでもよいことだが、それが霧亥の存在を意識して、外部の人間と同調する形で行動したということは、
それなりに自分についての情報が流出しており、程度は不明だが正しく脅威を認識した者達が積極的に干渉してきているということだ。
妨害者であれば排除するまでだが、この狭く小さな世界と社会構造の中で敵対勢力を作ることは、可能であれば避けたい。
だからこそ、今まで行動を控えてきたというのに、面倒なことになってしまった。
まだ蠢いているロングビルに止めをさすのは簡単だが、拘束の手間もこの施設の人間が負うのだからと、これからのことをぼんやり考えながら銃をしまう霧亥。
残余電力のこれからを思いながら、ついでにという感じでゆっくりと振り向いて、もう一つの確認もする。
そこには、発砲直前まで遠隔操作型の“覗き窓”が開いており、視覚情報を送信し続けていた。
覗き見に気づいていた霧亥は、射撃によってまとめてその窓をかき消したが、肝心の部分が確認できなかったとしても、
襲撃が失敗したことで、霧亥という存在の危険性が、一連の勢力に知れ渡たることになるだろう。
逆探知して送信先を射撃する手もあったが、確実性に乏しい上に、自ら存在を露見する真似もしたくは無い。
これ以上どうしようもないので、例によって何事も無かったかのようにして、興味なさ気に立ち尽くす霧亥は、わらわらと学院の教師や生徒が走り回る中、
ロングビルが何をしようとしていたのかを知るために、ゴーレムが殴りつけていた辺りを観察し始めた。
ここの人間が行う物質の強化や保存措置の一つである“固定化”と呼ばれる作用によって、陰になってはいるが、軽く“視る”ことは容易い。
その様子を見て、足元でか細い声が上がる。
「……あ、あ、あんたの所持品と、一緒に、回収するように―――げぼっ………指示されたんだよ」
霧亥は声の主に一瞥すると、また壁の向こう側を観察する。
「“異界の杖”、さ………………」
今にも力尽きそうになりながら、脂汗と血でぬれた顔をにやりとして見せたロングビル。
後背に控えていた“目”が潰れてしまったからだろうか、恐怖と解放感をボロボロの表情に滲ませる。
その言動は、自分をたきつけているのだと霧亥にはすぐ分かった。
なるほど、確かに何かがある―――宝物庫のひび割れの間から染み出てくる奇妙な気配に、霧亥は近づいていく。
厚さが自身の腕の長さほどある壁に走るひび割れに、霧亥の指が差し込まれる。
霜柱でも踏みしめるような音。
続いて轟音。
学院の本塔の一面が、縦に割れる…数千倍の体積と数百倍の重量を持つゴーレムが成し遂げなかったことを、酷く劣化しているとは言え平然とやってのける光景は、倒壊時の煙で覆い隠され、目撃者は出なかった。
人の姿ほども在る建材の破片が崩れ落ちてきても眉一つ動かさない霧亥は、ロングビルと同じ物を目当てに瓦礫の山に踏み入る。
展示ケースの一つを発掘すると、そこに手を突っ込んで叩き割り、一本の棒状のものを引きずり出す。
ルイズたちに言わせれば、まさしく杖といった趣のそれは、確かにここでの杖と同じような使い方をしているようにも、目の悪い人間には見えるだろう。
電子制御は隔壁の開閉機構のような様々な機器に干渉し、まるで魔法のように、この杖のようなものをかざしただけで電子機器を扱えるし、人間や機械の脳を焼ききって機能を破壊することも出来る。
だがこれは、杖ではなく、どちらかというと棍棒の類だ。
電磁式警戒棒
電磁気力で相手を殴打、もちろんそのまま叩き付けたりもする。
対象の殺傷も考えているが、即時殺害の必要が薄い、あるいは即殺権限を有さない者が緊急時に使用する、
極めて低レベルだが非常時以外にも応用の利く古典的な装備で、ネットの保安を司る者達の一部が、このような装備を使用することが時折あった。
握りの部分には、霧亥の襟元に記されているのと同じ文様がある。
なぜこのようなものがここに?
簡単だ、思いのほかここは都市に近い位置にある―――可能性が高まるというだけだが―――ということに他ならない。
形はどうあれ、自分と同じようにここにきたものが居る。
万に一つも、ここの世界のものではないだろうし、如何に優れた技術を持って設計されているとはいえ、この劣化の無さから見て、比較的最近まで正規の所有者の手にあったはずだ。
喜ばしいことではある…が、霧亥はまったく別なことを考え、表情を険しくした。
猜疑の心を胸に、霧亥は煙渦巻く宝物庫を後にすると、また霧亥は歩き出す・・・
・・・歪んだ地平の先まで、微小な酸化珪素などで出来た粒が高低を作りながら覆い尽くしている。
遥か上空には巨大な水素ガスの塊があり、どんどん重い元素に落ち込みながら、膨大なエネルギーを放出している。
空気は密度も組成も場所によって変化し、水分子は空中で寄り集まり、乱雑な気体分子の運動は髪を揺らしただけかと思えば、スーツのすそを巻き上げるほど強くもなる。
酷くエントロピーに満ちた世界。
文明にはなんの縁も無いこの球面は、逆に文明の象徴たる都市のカオスを髣髴とさせた。
肩にかからない辺りで自然に伸びが止まった黒髪を靡かせる女性は、一人で延々と砂漠を歩み続けている。
ロバ・アル・カリイエ―――人々はそう呼ぶこともあるが、今彼女が歩く地域を正確に限定する言葉は、どこにも存在しない。
ネットのカオスの増大を促進せんばかりの時空隙干渉による影響は、特にこの相対座標からが強い…個人の意志はどうあれ、そういった理由で彼女はここに再構成された。
まるで疲れ知らずといった具合で、手首も首筋も寸分の隙無く皮膚に密着した分厚いスーツと、襟を立てた硬いコートを、無数の接着器具で固定するように羽織る。
足もスーツで覆われ、その上に何重かにブーツを履き、与圧系統まで使って、どう脱げばいいのかと疑問が出てくるほどに全てを一体化させている。
どれも彼女の髪のように真っ黒で、てらてらと滑った感じに金属光沢の様なものを発していた。
なんの当ても無く数百時間ほど軽く歩いたあとで、集めた観測データを基にこれからの行動を判断しようとしていたころに、一つの重大な手がかりが手に入ったところだった。
ある気配を感覚器官が察知したので、彼女は腰の辺りから、薄い汎用携帯機を取り出して天を仰ぐ。
携帯は薄っぺらな本のようにして開かれると、頭の方から細長い針が何本か飛び出して数百万km程度の狭い範囲の情報を観測し、紙面に当たる部分に無数の絵や文字で表示する。
リンクした網膜にはより詳細な情報と、その続報が矢継ぎ早に現れるが、細かな情報などどうでも良かった。
「対象の発砲を確認、回収に向かいます」
黒尽くめの女は携帯を通信機にして、誰かに躍動の無い声で一方通行な通信をする。
眉が八の字に曲がった表情から、何がそんなに楽しくないのかとでも言いたくもなるが、そんな感情すらまるで無いかのような青白い顔。
瞳の中でフィルターが切り替わる以外、その表情はまったく変化しなかった。
こうして何の感情も見せずに通信を終えると、無気力そうに三白眼で虚空を睨みながら、コートを翻す。
再び歩き出す彼女の、気味の悪いほど整った細い太ももに接着したホルスターの中には、黒光りする短銃に似たものが収められていた・・・
LOG.8@END
「キュイイイイイイ」というあの音は、充填時以外はまったく鳴らしていないので、結局登場させられなかった初発砲回
大体は画集や劇中描写に沿っているものの、今一分からないので多少個人的な想像で補完しているので、細かい描写は抛ってくれれば幸い
今回は喋らずにすんだ霧亥
これからわけの分からないことになるかもしれない
色々大変そうで乙乙
なんだか目が覚めてしまったので今から投下だ。わあい。
ところでP4の図書室の前に立ってたおしとやかなヤンデレ百合っ子ってどうなったんでしょうね
隠者 意味…思いやり・邪推
名城と謳われたニューカッスル城はいまや廃墟と化していた。
反乱軍レコン・キスタが大挙して攻め込んだ結果である。
そしてレコン・キスタが反乱軍であったのはその時までだった。
アルビオン王家がこの世界から消滅した現在、レコン・キスタはアルビオンの正式な政府である。
廃墟となった最後の王家の城を眺めている一人の男が居る。レコン・キスタの総司令官であった男、オリバー・クロムウェルである。
彼は今や皇帝となり、アルビオンの支配者となった男だ。そうだと言うのに、皇帝クロムウェルの顔に浮かんでいるのは苦々しいものであった。
攻撃の際に受けた損害が莫大だったのだ。たった300足らずの王軍に対して、死者は三千、怪我人も含めるなら倍になる。
王軍の士気が異常なほどに高かったためだ。
「あのトリステイン貴族め、ウェールズをしとめるなどと言っておきながら……!」
クロムウェルは吐き捨てるように言った。
彼が言うトリステイン貴族とはワルドのことである。ワルドはトリステイン貴族にして、レコン・キスタに加わった男だ。
彼には聡明だと名を轟かせていたウェールズを始末するように命じていた。しかし、彼は仕損じ、ウェールズは最後の最後まで前線に立ち、兵士たちと戦い続けた。
そのため王軍の士気は異常なほどに高く、すでに勝利した気分になっていたレコン・キスタの兵に対し善戦を続けた。
ちなみにワルドは捕虜としての扱いを受けて牢屋に入れられていたのを助け出され治療中だ。体中に火傷のような痕があったためその治療である。
「いらぬ損害が出てしまったが……よしとするか。必要なものは手に入ったのだから」
彼はポケットから小さな箱を取り出した。開けた中には美しい宝石の指輪が入っていた。
ウェールズが身につけていた風のルビーだった。彼の死体から剥ぎ取ったものだ。
「これがなくては同盟が成立しないからな……。しかし、ジョゼフはどうしてこれをそこまで欲しがるのか……」
クロムウェルは美丈夫であるガリア王国の王の顔を思い浮かべた。
まあいい。彼は自分に力を与えてくれた。ならば従う他ない。
「死者に鞭打つようで悪いが働いてもらうぞ、ウェールズ皇太子」
クロムウェルは与えられた力、アンドバリの指輪を見た。
アルビオンから無謀に近い航海(航空という方が正確か)を遂げたのちに、ルイズたちはトリステイン国の騎兵たちに発見され、その後、王城に連れて行かれた。
秘密の任務のために事情を説明できずに困っていたが、アンリエッタの口利きのために開放されて、今はトリステイン学院に帰ってきていた。
ちなみにアルビオンの十人の船員たちのこともアンリエッタは保障してくれるそうだ。亡命者として手厚く保護するという。
そして学園に戻った三人の魔法使いと三人の使い魔はそれぞれの日常に戻っていた。
その内、使い魔たちは現在、あるものを鋭意政製作中である。
完二が料理長マルトーに頼み、使わなくなった大きな鍋を貰ってきた。それで完二たちは風呂代わりにしようとしているのだ。
時刻は夕刻を過ぎたころ、学校の校舎から遠いところで、火を焚き、水を入れた大なべを3人がかりで沸かせていた。
「なあ、これもういいじゃねえのか?」
陽介が待ちきれないとばかりに言う。
「そっスね。煮立ったら入れねーし」
完二の返答を聞いて陽介は嬉しそうな顔を隠せない。
彼らが彼らの世界でいうマトモな風呂にこの世界に来てからは入っていない。
この世界の風呂は一種のサウナ風呂のようなものであり、風呂が好きな日本人である彼らにはとても我慢できないというのが共通の見解だった。
クマは日本人どころか人間と呼べるか怪しいものだが、クマ曰く心は日本人らしい。
「んじゃ、俺一番風呂いただきな」
「あっ、センパイずりー」
「クマも入りたいクマー」
二人の抗議の声を気にせず、陽介は服を脱いで、さっさと鍋に浸かった。
「くぁー、たまらん!疲れが吹っ飛ぶつーの?やっぱ日本人だなあ、俺」
気持ち良さそうな声を上げる陽介を見てクマが我慢できなくなったようだ。
「クマも入るクマ」
そういうとクマは球型の体の頭の部分をとった。頭を取った着ぐるみからは金髪碧眼の美少年が現れた。
「オマエ、パンツ一丁だったのかよ……」
クマは人間の姿のときには真っ白なカッターに黒いズボンを合わせているのだが、キグルウミの中から出てきたクマはトランクス一丁の姿であった。
「だってだって最近、クマずっとこの格好だったし」
「確かにクマ、最近ずっと着ぐるみのまんまだったな」
「だからってそりゃ変質者だろ……」
「カンジ、今からお風呂クマ。和のココロ、それは細かいことを気にしないこと」
「や、意味わかんねえし」
完二と陽介のツッコミを気にせず、クマはすぐに一糸纏わぬ姿になって、陽介と同様腰にタオルを巻いて、風呂釜とかした鍋に文字通り飛び込んだ。
「おまっ、狭いだろ」
陽介が抗議する。
「そーでもないクマよ」
たしかに鍋には二人ならそれほど狭くないほどにはスペースがあった。大人数の魔法使いの子供たちの食事を作るための鍋だっただけあって大きい。
「たくっ、しゃーねーな。暴れんなよ、さっきオマエが飛びこんだせいでただでさえ湯が溢れたんだから」
「わかったクマ。だからクマ、この異世界に負けないように日本人の風呂の入り方をします」
そういうとクマは「あー、ババンバン!あービバビバ」と調子っ外れに歌い始めた。
陽介と完二は「なんだそりゃ」と笑った。
それから陽介とクマは30分近く風呂に入っていた。
「ったく、長風呂過ぎんだろ……」
完二は服を脱ぎながらぼやいた。クマがのぼせきってふらふらしていたために陽介はそれを送っていって今は完二一人である。
外にいても風邪を引くだけなので寮塔に戻るのは正解なのだろうが、一人残る完二には少しさびしい。
そう入浴前は思っていたが、いざ湯に浸かれば、そんな細かいことはどこかに吹き飛んだ。
「あー、キモチいいぜ……」
久しぶりの入浴は格別だった。満足いくまで浸かっていようと心に固く決める。陽介とクマが長風呂をしてしまうのも仕方がないだろう。
「あーびばんばんばん……へっ」
「あのー、カンジさん」
背後からの声に完二は体をびくりと震わして驚く。下手な鼻歌を歌っていたのでなおさらだ。
「だ、誰だ……ってシエスタじゃねえか!」
太陽が地平に姿を消し光が抜けていく空間にシエスタが立っていた。
「お、おま……なんでここに!?」
完二は狼狽する。何しろ今の彼は裸なのだ。目の前に女性が現れれば慌てるのも道理だろう。
「ヨースケさんに聞いたらここに居るって聞いて」
「あんのヤロー……!」
「あ、ヨースケさんを悪く思わないで下さい!わたし、どうしてもカンジさんにご馳走したいものがあったんです」
「えっ、ご馳走?」
大食漢の完二はこの状況でも素直にご馳走という言葉に惹かれてしまう。
「はい、東方、ロバ・アル・カリイエから運ばれた珍しいものとか。『お茶』というそうです」
慌てていてシエスタがそこにいることしか認識していなかった完二も、ようやく落ち着きを取り戻す。
シエスタは確かにティーポットとカップを載せた盆を持ったことに気付いた。
そして同時にご馳走といっても完二の予想するご馳走とは違ったことにがっかりする。
「んだよ、お茶かよ……」
「あれ、もしかして飲んだことあるんですか?」
「まあな、オレの居た場所じゃ、よく飲んだぜ」
「そうなんですか……」
シエスタはしょんぼりとした様子になってしまった。完二は慌てて取り直す。
「い、いや、でもよ。ここに来てから全然飲んでねえからよ。飲みてえと思ってたんだよ」
シエスタは顔を上げてにっこりと笑った。完二の言ったことを信じたというより、気を使ってくれたということが嬉しいのだろう。
「ありがとうございます。それじゃあどうぞ」
「おう」
渡されたティーカップを取り、湯に浸かりながら啜った。
彼の世界の味だった。母が二人分とは思えないほど作った料理を食べたあと、出してくれた熱いお茶を思い出す。目頭が熱くなり、目元を拭う。
「ど、どうしたんですか?」
「な、なんでもねえよ」
さきほどの言葉はシエスタを気遣ったものだったが、どうやら自分でも気付かないうちに完二は故郷が恋しくなっていたようだ。
おふくろどうしてっかな……。
「その『お風呂』って気持ち良さそうですよね」
「ん、まあな」
郷愁に浸っていた完二の意識はシエスタに呼び戻される。
たしかに風呂は良い。この世界のサウナ風呂と比べれば天と地の差だ。
「わたしも入ってみたいです」
「いいぜ、別に」
完二に良い物を独占するような気質はない。きっとシエスタも、今まで入ってきたこの世界の風呂とは格段の気持ちよさに驚くであろう。
「ありがとうございます」
シエスタはそう言うと服のボタンに手をかけた。
「ちょ、ま、待て!おま、何して……」
慌てふためく完二とは対称にシエスタは何事もないかのように素のままである。いや、少し頬が赤い。しかしボタンを外す手はとまらない。
「なにってお風呂に入ろうと」
「オレが出てからに決まってるだろ!」
風呂に入ってもいいとはいったが今は考えてもおかしいだろう。
「そうなんですか?まあまあ、いいじゃないですか」
「よくねえよ、おま……!」
完二は言葉をつぐんだ。服を脱ぎ始めたシエスタの肌がわずかに見えたからだ。健康的でそれでいて艶やかな肌。
完二は顔を真っ赤にして体ごとシエスタから背ける。お風呂にのぼせたわけではない。
「そんなに恥ずかしがらないでくださいよ。わたしまで恥ずかしくなってくるじゃないですか」
「ならやめろってんだ!」
完二が叫ぶと同時に彼の背後でストンと何かが落ちる音がした。
「それじゃあ、失礼しますね」
どうやらさきほどの音はシエスタの身につけていた最後の一枚が落ちた音のようだったらしい。
やばいやばいやばいやばいやばいやばいと念仏のように同じ言葉が完二の頭の中で繰り返されていた。
一糸纏わぬ姿になったシエスタはドキドキしていた。シエスタも自分の行為がおおよそ常識的ではないのは分かっていた。
これは完二の気を引くためのアプローチなのだ。
貴族から自分を守ってくれた完二、メイドである自分より優れた裁縫の技術を持つ完二。
彼女は完二が荒っぽく見えて本当は優しいことをよく知っている。
つい先日戻ってきた完二だが、いつかまた完二はいなくなってしまうのではないかとシエスタは怯えている。
完二自身が消えてしまうような儚さだとかを持っているというわけではない。ただ彼は来るときが来たら帰る場所に帰ってしまうような気がするのだ。
妙な言い方だがまるで彼はまるで別の世界の人間のように感じることがある。
シエスタは背を向けた完二が浸かっている湯を見る。少し重なった双月の光が水面を赤く照らしている。
「えっ、赤い……?」
シエスタは湯が赤くなっているという事実に戸惑う。ついさっきまでは透明色をしていたはずなのに。
よく見てみると赤さは濃度勾配をなしている。そして最も濃いのは背を向けた完二のいるところだ。
そろっと首を出して、完二の横顔を見るとシエスタは「うっ」とうなった。
完二の鼻からは、滝のように、とはどう考えても言い過ぎだが、ともかく鼻血としてはおかしな勢いで鼻血が出ていた。
シエスタは思わず、引いてしまった。
「あ、そういえばマルトーさんから仕事頼まれてたんでした」
「えっ!?」
若干棒読み口調で言うとシエスタはパパっと服を着てその場を去る。
背後で完二がポカンとしているのを感じる。
少しして「うおっ!んだコリャア!」という大きな声が聞こえてきた。やっと鼻血を出していたことに気付いたのであろう。
次の日、完二は午前中、広場を歩き回っていた。
普段は厨房なり、使用人たちのいるところにいて談笑したり裁縫をしたりしているのだが昨夜のシエスタのことを考えてしまうと、どうも顔をあわせづらいのだ。
自分が悪いわけではないし、シエスタが悪いわけでもない。そもそも昨夜の出来事をどう考えればいいのかもわからないが、なんとなく気まずい。
「どうっすかな……」
どうするとは何のことであろうか。シエスタとのことか、時間の潰し方か、それとも元の世界に帰る方法であろうか。
完二自身もなにをどうするか判然としないままぶらぶらと歩き回っていた。
「ありゃあルイズじゃねえか?なにやってんだ?」
ルイズは手になにか持ってこまごましく何かをやっているようだった。
完二はすることもないので自分のご主人とやらの元へと歩いて行った。
「はあ……」
ルイズは溜め息をついて、自分の作品を見る。
彼女の手には編み棒と、そして彼女の作品である毛糸の塊があった。そう、毛糸の塊という言葉が最も似合う物体だ。
好意的に見る人がいれば捩れたマフラーくらいには言ってくれるかも知れないが、ルイズはセーターのつもりで編んだのであった。
「はあ」とルイズはもう一度溜め息をついた。
完二はワルドを倒し、クマは致命傷を負った皇太子の命を救い、
タバサと陽介は船をアルビオンからトリステインまで飛ばして一行の命を救った。キュルケだって自分を守ってくれた。
しかし自分は何も役に立たなかった。トリステイン魔法学院に帰還し、安心もようやく戻ってきてから、その考えがルイズの頭に貼り付いて離れなかった。
自分は魔法の一つも使えない。今回の旅に何の役にも立たなかった。アンリエッタの願いを意気揚々と引き受けておきながらなんというザマだろう。
それがルイズが編み物をし始めた理由だ。ルイズは魔法が出来ないからその分、手先が器用になるようにと母に教え込まれたが、それもこの有様である。
ルイズが三度目の溜め息をつこうとした時、目の前に彼女の使い魔が現れた。
「なんだこりゃ」
ひょいっと完二はルイズの作った毛糸のオブジェをつまみ上げるように持ち上げた。
「ちょっとバカ、返しなさいよ!」
ぴょんぴょんと跳び上がり、ルイズはマフラーのようなものを取り返そうとする。
完二はルイズの作ったものをしげしげと見ながら呆れたように言った。
「オマエ、不器用だなあ……」
ルイズの頭の中で何か音がした。
「悪かったわね」
ルイズはねじれたセーターを強引に奪い返す。
「どうせわたしは魔法も使えない、編み物もできない、何の役にもたたないゼロのルイズよ!」
ルイズは、言うだけ言うと広場の出口へと駆け出した。
「お、おい!」
完二の呼び止める声がするが、当然足は止めない。
完二も自分をバカにしている。
そのことがどうしようもなく腹立だしく、そして悲しかった。
それから数刻経つ頃、完二はシエスタと会い、あるものを渡していた。
「昨日のワビっつーのも変だけどよ、コレ」
「これ……ぬいぐるみですか?」
「編んで作ったからあみぐるみっつーんだ」
それは完二の作ったたぬきのあみぐるみだった。あみぐるみは様々な編み物や縫い物の中でも完二が最も好きで、得意とするものである。
メイド顔負けの裁縫技術を持つ完二の得意分野なのでその出来はこの世界の貴族相手に商品にできるほどであろう。
「すっごくお上手ですね、このたぬきさん。でもなんでたぬきなんですか?」
「シエスタのイメージってなんとなくたぬきっぽいだろ」
「わたしってたぬきっぽいんですか……?」
シエスタはしゅんとなる。
完二に他意はなかっただろうが、それでも妙齢の少女にたぬきっぽいというのは喜ばれるものではない。
完二は自分の失言に慌てた。
「あ、違げーぜ。深い意味はねーし、シエスタの声がたぬきっぽいセンパイに似てるっつーか、たぬきって案外かわいいし、んな気にしねーで……」
完二は取り繕うように必死で弁解する。
するとシエスタは顔を上げ、いたずらっぽく尋ねてくる。
「わたしってかわいいですか?」
「ばっ、そ、そんなんじゃ……」
「かわいくないですか?」
またシエスタはしゅんとしたように顔を下げる。
「な、いや、シエスタはかわいくないこたあ……」
完二は顔を赤くしきっている。あたふたとしていると顔を下げたシエスタがクスクスと笑い始めた。
やっと完二はからかわれていたことに気付く。
「んだよ、くそっ!」
乱暴な言葉を口にしてもその顔にはまだ赤みが残っていた。
シエスタもクスクス笑うのをやめて編みぐるみを胸に抱いて感じを上目使いで見つめた。
「大切にしますね」
「おうっ、大切にしてやってくれ」
いじけた態度をから一転して完二は笑った。素直というか根が単純というか完二は自分のしたことで喜ばれることを好む性質なのだ。
「ところでもう一つ持ってますけど、それは?」
「ああ、こっちはワビの品かもな……」
完二がシエスタにあみぐるみを渡してからさらに時間が経ち、夜。
完二はルイズの部屋の前にいた。本来ならこの時間は部屋でルイズと適当な会話をしたり、会話をしなければ裁縫に没頭していたりする。
いつもは軽いドアノブがなかなか今日は回せない。
なんとか意を決し完二はドアを開ける。
部屋の中にルイズはいた。彼女はベッドの上に腰かけ宙を見ている。心ここにあらずというか、何か考え込んでいる様子である。
しかし完二が入ってきたことに気付くと、きっと視線を向けてくる。完二は背中に手を回して歩み寄った。
「あ、あのよ」
「なによ?」
いつもより弱い声量の完二に対し、ルイズはとげとげしい声を投げかける。
「今日は悪かった」
「なんのことよ」
わかってるのであろうがルイズはわざわざ尋ねてくる。完二としてそういう回りくどいことは嫌いだが、今回は自分が全面的に悪いと思っているために殊勝に答える。
「オマエの編み物を見て……あれだ、不器用って言ったことだ」
ルイズはふんと不機嫌そうに顔を逸らす。
「別に気にしてないわよ。わたしが編み物が下手なのも、わたしが役に立たないのも事実じゃない」
完二は首を振ってそれを否定する。
「んなこたあねえ。てめーが好きなモンを下手だなんて言われていい気がするはずがねえ」
「だからそんなこと気にしてないって言って……」
ルイズの声は徐々に大きくなり始めた。それが途中で切れたのは完二が背中に隠し持っていた物を差し出したからだった。
「なによこれ?」
ルイズは完二が差し出してきた物を指差す。
「オレが編んだあみぐるみだ。ルイズ、オレがこれくらい編めるように教えてやる」
あみぐるみを突き出したままの姿勢で完二は固まった。
謝っておきながら教えてやるとはおかしな言い方かもしれない。しかしこれが完二が散々頭をひねって考えた最良と思うアイデアだ。
裁縫の腕が良くないなら成長すればいい。そう考えたのだ。
しかし、いざその場面になってくると嫌というほど緊張する。
なんだか嫌な汗が出てきそうな気分だ。
ルイズに似合うと思って黒いネコのあみぐるみを作ったのだが、彼女は許してくれるだろうか。許してくれなくても、あみぐるみだけでも受け取って欲しかった。
気勢を削がれた様子のルイズはしばし黙り込んでいたが、それからむっつりとした表情のまま完二に向かって両手を開くように伸ばしてきた。
「んっ」
それが渡せと要求していることに気付いて、完二は黒い細身のネコのあみぐるみを手渡す。
ルイズはあみぐるみをぎゅっと抱いた。そして完二をじっと見つめて言う。
「あんたが作ったって本当?」
「お、おう!」
ルイズが質問に完二は若干あせったように答える。とりあえず話をしてくれることに安心した。
「あんたが教えてくれるって……本当に?」
「おう。これでも元の世界じゃ教室開いて、編み物とか教えてたんだぜ?」
完二は自信を持って答える。への字に曲がっていたルイズの口が今夜初めてゆるんだ。
「似合わない」
ルイズはころころと笑った。
完二は反論しつつも笑ってくれたことにほっとした。
ルイズが邪推もなしに思いやりを受け入れたことは彼女の性質からすれば珍しいものなのかもしれない。
あるいは彼女は完二が来てから変わったのかもしれなかった。
何はともあれ、ルイズは素直に完二の素直な謝意を受け入れた。
そしてそれから数日、完二はルイズにあみぐるみの手ほどきをした。
ルイズの裁縫の腕は高いものではないが彼女は真剣に取り組み、完二の教えを真剣に聞いて、数日で成長の萌芽が姿を見せ始めた。
だがそれが芽吹く前に二人だけの手芸教室は中断されることになる。
王室からルイズにあるものが送られてきたためだ。
送られてきたのは一つの古びた本と一つの勅令。
古びた本は始祖の祈祷書、そして勅令とはアンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の婚姻の儀の詔を作成することだった。
投下終了。
みんな発言には気を使うんだぞ!
P4一週目のとき、いらんことを言って海老原のコミュニティをリバースした大馬鹿野郎からのアドバイスだ!
どちらも乙
乙
悠々と歩いていく霧亥を王城でできないからといって学院でやるなwww
お二人とも乙!
>>298 お前絶対ミストさんだろ・・・
召喚とか全く関係ないんだが、ふとゼロ魔キャラでバスト占いの歌とか頭に浮かんだんだ…
サイトとギーシュが机に座って教壇にオールド・オスマンが…とか。
誰かと思ったらブロンさん…解説画像でまで…
てかM72でやられる相手にとか、よく考えたら完全に学院は巻き込まれ損かよwww
乙
乙*2
300mmの均質圧延装甲を貫通する兵器で無力化できた敵を、70000000mmの超構造体を貫通する兵器で粉砕したのか・・・・まさに無駄遣い
てかそんな時間に解説画像作るとかあほかもっとやれ
>>301 ああ、次はアカデミーだ・・・
AがタバサでBがルイズ担当になるのか…
バストサイズ、現在までのキャラでまとめるとこんなもんか
革命、ティファニア
爆、シエスタ、ジェシカ、アンリエッタ、キュルケ、イルククゥ、カトレア
中、アニエス、ミシェル、シェフィールド、マチルダ、ルクシャナ、カリーヌ、アネット
小、ルイズ、イザベラ、モンモランシー、ベアトリス
無、タバサ、エルザ、エレオノール
あくまでざっとだから異論は認める
物凄く今更だが……
>>171 <そのような状態で俺がまた直接的な干渉を行えば、その世界はより混沌とした状態になってしまうんだ>
『また』って事はもしかしてこの久保は、かつてハルケギニアに関わった事があるのか?それこそ6000年前とかに。
ティファニアのでかさだと、正直気持ち悪いレベルだよな
>>311 俺はどんな大きさでもライザーソードは展開できるが?個人的には大きい方が好きだが
>>312 フッ!俺は小さい子の方がエクスカリバーが立派になる
いいからそのオニオンソード(FF11版)を仕舞えよww
金の針じゃね?
オマチさん死んだらティファニアはどうなっちゃうん?
>309
原作の方でルクシャナの絵を見てみたんだが、これが中というよりモンモンやベアトリスと同じ小サイズじゃね?
それとカリーヌが中とか何の冗談かと・・・おや、誰か来たようだ。
紳士諸君の談義でいっそヒワイドリが召喚されてしまえとか思ってしまったじゃないか
>>310 世界がイレギュラー因子で飽和状態に対して、のことじゃないかな
以前のGUN OF ZEROのことかもだがw
あれのエピローグもシュウが召喚された経験あるみたいなこと言ってたが
小ネタと同じ作者さんだったのかな・・・?
しかし、改めて考えてみれば
超神ユーゼス
シュウ
ダークブレイン
ヴァールシャイン・リヒカイト
・・・最後のはぐれアインストの端末はまだともかくとして
とんでもない連中が集まったもんだよなぁ
っていうか、ヴァールシャインの本体はあくまでレジセイアってはずだが
そこんとこどうなってんだろ・・・化石化して動けないままヴァールシャインとヴェーゼントが死んで
一緒にくたばった様子だったが
このスレ的には既に独立した別固体なのかな
下手すりゃ教皇のあずかり知らぬEFでアレディたちにヴェーゼントが屠られて一緒に死にそうな・・・
>>314 戦士さんレタスお願いします・・・ってそれ短剣ですか?^^;;;;
ブラム乙
サナカン先生来ちゃうのか…
授業中居眠りしてるマルコリヌに重力子放射線射出装置をぶっ放すんですね、わかります
マチルダさんは女性陣の上位に食い込んでるはずだが可変型サイズのアニエスといい基準が作れないな
あとルイズは腰が細いから言うほど小さくないぞバストサイズ
腰が細くて革命のティファニアみたいのもいるけどな
>>299 そのPV初めて見たけどコレジャナイ感がすごいな……
ふと何の脈絡もなく『タキシード銀』からギンちゃんこと草薙銀次を召喚とか思い付いてしまった
ちゃんとした動物だし賢いし妙に根性あるしで、ルイズにとっては当たりの使い魔になるかもしれんな
懐かしいなタキシード銀。
じゃあ、『鬼のヒデトラ』の中の青鬼を召喚して才人に憑依させるか。
ルイズが泣くと、鬼になって無双する才人。
赤鬼は、ジョゼフに憑依して次々に異形が刺客として表れるあたりで。
銀次はハルケギニアなら簡単に自然死できそうだな
まああの天使が送り返してくれちゃいそうな気がするが
ちょっと話は変わるが、アニメ版の一期でシエスタのじいさんの乗ったゼロ戦以外に、もう一機飛行機が飛んでて、その一機は日食に向かって飛んで消えたって話があったよな。
あれ地球に繋がってるって設定でてないよな?
もしかしたら地球に帰れるかもしれないって、可能性の話しかしてなかったよな?
設定考察スレで聞きなさいね
>>327 今のところここのSSでもそのエピソード使ったの少ないよね。
最近だと萌えゼロさんくらいかな?
アニメといえばモット伯の登場率は異常、やっぱりアニメのごく初期に登場したおかげかね
そしてSSで割と死亡率の高いモット伯
たまにいい人だったりもするけど
モット伯自体がSSに出ない率>>>>モット伯の死亡率
使い魔品評会ってのもアニメからだっけ。これも使用率高いよな。
おひさしぶりです
忍法帖とやらができて上手くいくかちょっと不安です
ともかく、40分ぐらいから生やしてみるでござる
・・・もとい、投下します
ほぼ一日中グリフォンを走らせていたこともあり、ルイズ達は陽が沈みきった頃合に港町ラ・ローシェルに辿り着くことができた。
幻獣を世話できる貴族御用達の宿で手続きを済ませると、三人はアルビオン行きの船を都合するべく『桟橋』へと向かう。
『桟橋』の窓口でワルドがその旨を伝えると、返ってきた答えはこうだった。
「……船が出せないだと?」
ワルドが眼を細めてそう言うと、いかにも事務職らしい、細表の男は僅かに怯えた表情を見せた。
「は、はい。少々事情がありまして」
「スヴェルの夜だというのだろう? その分の料金は上乗せする。言い値でも構わん。今すぐ出せるフネを手配してくれ」
凄むようにデスクを指で叩き、ワルドが促した。
しかし男は首を左右に振ると、申し訳なさそうに口を開いた。
「いえ、それとは別に事情がありまして。とにかく、来週……次の虚無の曜日にならないとどのフネも出せません。……というか、」
出さないでしょう、と彼は萎縮交じりに漏らした。
「ちょっと、どういう事なのよ。来週までフネが出ないなんていくらなんでもおかしいわ」
隣に控えていたルイズが身を乗り出して男に詰め寄ると、同じ貴族とはいえ女の子を相手にしたためかいくらか緊張を和らげた男が頭をかきながら答える。
「……『凶鳥(フレスヴェルグ)』が出るんです」
「『凶鳥』?」
ルイズはワルドを見上げるが、彼はルイズに眼をやると肩を竦めて見せる。どうやら知らないらしい。
改めて彼女が男に向き直ると、彼は嘆息しながら語り始めた。
――約三ヶ月ほど前から、アルビオンを行き来するフネが消息を絶つという事件が相次いで発生した。
そしてその一週間ほど後から、そのフネの航路上にある山野やトリステイン沿岸で消息不明のフネの残骸や積荷などが発見されだしたのだ。
乱気流などが起きるような天候の変化はなかったし、フネを酷使して整備が不十分だったという事もない。
事故が起こる要因はほぼ存在せず――何よりもそれが起こる件数が多すぎる。
つまりは、アルビオンに向かう……あるいはアルビオンから来るフネを狙って襲撃する『何か』が存在しているのだ。
「それが『凶鳥』とやらか。空賊の類か?」
ワルドが顎に手を添えて呟くと、受付の男は力なく首を振って否定する。
「おそらくないでしょう。その、不謹慎な言い方になりますが、陸の盗賊と違って海賊や空賊は『紳士的』ですから」
空や海ではその乗るフネが沈めばその乗員が助かる可能性は限りなく低くなる。
そんな場所で生きる『船乗り』の矜持とでもいうのだろうか、海賊や空賊は他のフネを襲撃し略奪はしても沈めることはほとんどないのだ。
かつてトリステイン・ガリア間の航路を荒らし船舶を沈めていた悪逆極まった海賊が、別の派閥の海賊達によって沈められるという事例すら存在している。
ゆえに通常では、航海中に賊の類に襲われた場合はよほど防衛に自信がない限りは、大人しく捕まってしまった方が命を守る観点で言えば陸上のそれよりも安全なのだ。
「そもそも、ソイツは略奪だとか要求だとかは一切ないらしいですよ」
空の上で行なわれる凶行ゆえに生存者はほとんどいないが、奇跡的に生き残ったメイジの話によるとソレは唐突に現れてただ一方的にフネを襲撃し、そして一方的に蹂躙したのだという。
混乱した状況ゆえにソレが具体的にどのようなモノであるのかも杳として知れない。
ただ、生き残ったメイジが沈んでいくフネの中から、不可思議な光の尾を曳いて飛び去るソレの姿を見ていたそうだ。
ゆえに付いた字名が『凶鳥(フレスヴェルグ)』なのである。
よし支援だ
「……飛び去る?」
奇妙な言い回しにルイズが首を捻ると、男は小さく首を振って肩を竦めて見せる。
「らしいです。もっとも、そのメイジは精神的にかなりキてたそうで……いくらメイジとはいえ地上数千メイルに身一つで放り出されたんですから無理もないですが」
「確かにぞっとしないな……」
「アルビオンで反乱起こしてる貴族派……レコン何とか言う奴等の新兵器なんじゃないかって噂ですけど。
どっちのフネもお構いなしらしいですから、手の打ちようがありません」
「……どちらも? それは貴族派にも物を流しているという事か?」
ワルドが眼を光らせて言うと、男はあっと呻いて顔を青ざめさせた。
無言で睨みつけるワルドに男はせわしなく視線を彷徨わせたが、やがて開き直ったように上擦った声を上げた。
「と、とにかく! 他の港はともかくここのフネは週一で船隊を組んで動かすことにしてるんですよ! 軍が護衛をよこしてくれりゃあそんな事せずにすむんですけどね!」
なかば逆切れのように男がワルドに向かって叫ぶと、所属はともかく軍に身を置く彼は忌々しげに舌打ちするだけで男から眼を切った。
「どうしよう……来週まで待ってたら間に合わないわ」
つい先日週が明けたばかりなので、次の虚無の曜日はあと四日ほどもある。
それまで足止めされていては柊達に追いつくどころか王党派自体が戦争に敗れなくなってしまいかねない。
ルイズが不安げに漏らすと、それまで脇に控えていたエリスがおずおずと声を上げた。
「あ、あの……私達が乗ってきたグリフォンではアルビオンに行けないんですか?」
エリス個人としては足止めされるのはむしろ願ったりといった所なのであるが、三人の総意としてアルビオンに行くことが決まっているのでとりあえず案を出してみる。
それを聞いたルイズは期待交じりにワルドに視線を向けたが、彼は軽く肩をすくめて首を振った。
「グリフォンでは無理だな。アルビオンから降下するのならともかく、あの高度まで上る事ができるのは竜種ぐらいだろう」
ルイズは落胆も露に肩を落とす。
ワルドはそんな彼女を宥めるように彼女の肩に手を置くと、二人の少女に向かって言った。
「二人は先に宿に戻っていてくれ。一日中飛び続けて疲れているだろうし、食事もまだ取っていないからね」
「……ワルド?」
「停泊しているフネの方に直接かけあってみるよ。ここで息巻いていても話にならない」
「え。いや、しかしそれは……」
話を聞いていた受付の男は僅かに尻込みしながら呻いたが、ワルドは彼を睨みつけた後これ見よがしに腰に差した杖に軽く手を置いてみせる。
顔面を青くして凍りついた男に、彼は低い声で漏らした。
「あいにく我々は物見遊山でアルビオンに渡る訳ではないのだ。さっさと案内してもらおう」
※ ※ ※
その後ルイズとエリスはワルドに押し切られる形で『桟橋』を後にすることになった。
宿に戻って食事を取り、二人は部屋へと上がる。
ワルドの計らいで二人は相部屋だったが、状況や経緯もあいまって二人はほとんど会話をしなかった。
エリスはソファに座り込んでただじっと床を見続け、ルイズは窓際の椅子から町並みをじっと見続けていた。
お互いに顔をあわせることはほとんどなかった。
ただ、互いに互いを気にはしているようで時折ちらちらと相手の様子を疑い、稀に視線が合ってしまい慌てて目をそらすという気まずい空気が充満していた。
一種の拷問にも近い時間がどれほど流れたのだろうか、その空気に耐えられなくなったのかルイズが大きく嘆息してエリスに声をかけた。
「……まだアルビオンに行くの、反対なの?」
エリスははっとしてルイズを見やり、僅かに視線を彷徨わせた後ぽつりと返す。
「正直に言えば、反対です。私達が追いかけなくても柊先輩ならちゃんと任務を果たしてくれますから……」
それを聞くとルイズは端正な眉を軽く持ち上げ、やや表情を硬くする。
「……わたしは、貴女ほどヒイラギに信頼を寄せている訳じゃないの。そりゃあ確かに、フーケのゴーレムを倒したりして強いっていうのは認めるけど。
でもこの国の将来を左右するほどの任務をアイツ一人に任せる事なんてできないわ」
「けど、王女様――王女殿下は、柊先輩に任せるっていってたじゃないですか」
「う」
ルイズは言葉を詰まらせてしまった。
エリスの言う通り、王女たるアンリエッタの判断がそうであるならその臣下たるルイズが異を挟むことなどできようはずがない。
彼女にそうするよういったフール=ムールも王家と浅からぬ仲にあり常人を越える存在である事はわかっている。
論議をこねるとルイズの方に分がなくなってしまうのだ。
ルイズは苛立たしげに眉根を寄せどうにか反論しようとするが、上手い言葉を見繕えず口をぱくぱくと動かすことしかできなかった。
じっとこちらを見つめてくるエリスの視線から逃げるように明後日の方向を見やり、ぐっと唇を噛んで――ルイズは諦めた。
「……水のルビー」
「え?」
「姫様がヒイラギに渡した指輪。貴女も見たでしょ?」
「はい。それは見ましたけど……?」
なぜ今になってそれが出てきたのか分からずエリスは首を捻ってしまった。
ルイズは眼をそらしたまま唇を尖らせて言葉を続ける。
「あの指輪が、わたしが虚無の系統に目覚めるために必要なの……多分」
あれが出てこないまま王女の委任、という事になっていればルイズも憤懣やる方ないまでも同行するのを諦めていたかもしれない。
しかし、普通に生活を送っていればまず接触する機会がないだろうそれを眼前に出されてしまった事で引く事ができなくなってしまったのだ。
その情報源が奇しくもアンリエッタが訪れる発端となったフール=ムールなのだから、なおさらその信憑性が高まってしまった。
これが彼女の言の通りの『巡り合わせ』なのだ、絶対に逃すわけにはいかない。
「な……だったら何でそう言ってくれなかったんですか!?」
ルイズの言葉を聞いたエリスは思わず立ち上がり、彼女に一歩詰め寄った。
するとルイズは気圧されたように身を反らし、エリスに眼をあわせないままばつが悪そうに漏らす。
「だ、だって、これはわたしの問題だし……」
今までずっと一人でそうやってきたのだ。
他人に頼るのは彼女の矜持が許さなかったし、そもそも『ゼロ』と呼ばれ嘲られてきた彼女にはそんな風に頼れる相手など実家にいる姉以外に誰もいなかった。
「それならなおさらあの時言ってた方がよかったじゃないですか! それなら柊先輩だって反対しませんでしたよ!?」
「そ、そんなのわかんないわよ!」
「わかります! そういう事情があるんなら柊先輩だって、私だって反対はしません!」
支援させてもらいます
「えっ」
物凄い剣幕で迫るエリスが放った言葉に、ルイズは思わず呆気に取られた声を出した。
眼を丸めたルイズを見て少し落ち着きを取り戻したのか、エリスは大きく息を吐いてルイズの手を取った。
「ワルドさんの言ってた貴族の誇りとかは正直まだよくわかりませんけど……ルイズさんが魔法を使えるようになりたいっていうのは先輩も私もちゃんとわかってます。
だから……反対なんてする訳ないじゃないですか」
「……」
ルイズは言葉に詰まってしまった。
詰まったのは喉に言葉が引っかかっただけではなく、胸の奥にも言葉にできない何かが詰まってしまったからだ。
真摯に見つめてくるエリスの眼がなんだか妙に直視しにくい。
そういう視線を向けられた事があるのは、実家にいる姉のカトレアに見つめられた時ぐらいだ。
彼女にそうされた時は大抵無性に抱きつきたくなってしまうのだが、同年代のエリスにそうするのは流石に恥ずかしかった。
ルイズは困ったように眉根を寄せて視線をさまよわせ、逃げるように眼を反らした後口を尖らせた。
そして努めて平静を装って声を絞り出す。
「ま、まあ、何も言わなかったことについては謝ってあげるわ。でも、あんた達に言ったところで何かわかるとも思えなかったし……」
「それは……確かにそうですけど」
ハルケギニアの事をろくに知らない柊やエリスがそれを打ち明けられても満足に応えられることはないだろう。
実際に水のルビーがでてくるなどという事態を想定する事などできるはずもない。
お互いになんだか気まずくなって沈黙が漂ってしまった。
そんな空気を誤魔化すようにエリスは口を開いた。
「と、とにかく、そういう事情があったんなら私はもう反対しません。ルイズさんにとってもチャンスなんですから」
「エリス……」
ようやく同意が得られてルイズの顔に少しだけ喜色が浮かんだ。
そんな彼女に向かって、エリスは手を差し出した。
「ですから、とりあえず柊先輩に連絡を取りましょう」
「え?」
差し出された手が没収した0-Phoneを要求している事に気付いてルイズは反射的に懐に手を伸ばした。
しかしそれはエリスに0-Phoneを渡すためではなく――
「そ、それはイヤ」
「えぇ!?」
ルイズは後ずさってエリスから距離を取り、身を隠すように背を丸めた。
「なんでですか!? 事情を話せば柊先輩は反対しないって言ったじゃないですか!」
「い、今更アイツにおもねって合流したいとか言うの!? イヤよそんなの、恥ずかしい!!」
「は、恥ずかしいとかそんなんじゃなくて! 黙って追いかけるよりも連絡取って合流した方が早いし安全ですし!」
「そんな事しなくたってワルドも一緒にいるし、目的地も同じなんだし、大丈夫よ!」
「合流した方がもっと大丈夫ですよ!」
「ダメ! 絶対いやーっ!!」
子供のような駄々に焦れてエリスが詰め寄ると、ルイズは猫のように逃げ出しそうとする。
反射的にエリスは手を伸ばしてルイズの纏うマントの端を掴み、お互いに引っ張られる格好になってもつれるようにベッドに倒れ込んだ。
「ルイズさんが話せないなら私が話しますから! 0-Phone返してくださいっ!」
「いやだったら――ひゃん!? どこ触ってんのよぉ!!」
「ご、ごめんなさ……きゃあっ!?」
二人して奇妙な悲鳴を上げながらベッドの上で押し合い圧し合いを繰り返す。
そんな風にしていると不意にやや強い調子でドアが叩かれた。
絡み合ったルイズとエリスは飛び上がらんばかりに身体を強張らせると慌てて身体を離しドアに眼を向けた。
少しだけの静寂の後、ドアの向こうからワルドの声が聞こえた。
「……すまない。少しいいかな」
「は、はいっ!」
エリスがわたわたとベッドを降りてドアを開けると、帽子を目深に被ったワルドが所在なさげに立ち尽くしていた。
「一応ノックはしていたのだが……取り込み中だったかな」
「い、いえ、大丈夫です……!」
二人は頬を赤く染め、慌てて乱れた服や髪を整え始めた。
頃合を見計らうとワルドは気を取り直すように深呼吸し、話を切り出した。
「フネの件は話がついたよ。少々荒っぽくなってしまったが」
「あ、荒っぽくってまさか……」
「流石に刃傷沙汰を起こすことはないよ。ただまあ、恫喝と言われれば反論の余地はないがね」
不安そうに見つめるルイズとエリスに彼は肩を竦めて苦笑を漏らした。
安堵の表情を浮かべた二人にワルドは続ける。
「とにかく、フネの手配はできた。明日の夜明けと共に出航するから、今の内に休んでおいた方がいい。向こうに着いたらゆっくり休める保障がないからな」
「……わかったわ」
頷いたルイズにワルドは満足気に一つ頷くと、次いでエリスに眼を向けた。
そして彼は帽子を脱いで胸に当てると、恭しい態度で彼女に言う。
「ミス・シホウ」
「は、はい」
「すまないが、少々御主人を借りてもよろしいかな?」
「……えっ?」
「ワ、ワルド?」
「婚約者との十年ぶりの再会を祝う暇もなかったからね。少しゆっくりと話をしたいんだ」
「えっ、と。わ、私は構いませんけど……」
僅かに頬を染めてエリスがルイズを振り向くと、彼女はエリスに更に輪をかけたように顔を紅潮させ視線をあちこちに彷徨わせた。
そういう流れだとルイズがそう考えるのも無理はないし、実際エリスもそう考えてルイズとワルドを交互に見やる。
するとワルドは闊達とした笑いを上げて大仰に手を広げてみせた。
「ちょっと話をするだけさ。式も挙げないうちに手を出して君の御両親に殺されたくはないからね」
「わ、わかったわ」
砕けた調子で言うワルドに、ルイズは少し恥じ入ったようにそう言うとエリスに眼を向けた。
「それじゃ、エリス……」
「は、はい。行ってらっしゃい」
二人の事なのでエリスがどうこうする権利もなく、彼女は半ば呆気に取られたように返すしかなかった。
ワルドは礼に則った態度でエリスの手を取り甲に口付けると、しきりに髪を撫でつけながら歩いてきたルイズを促して部屋を後にした。
エリスは二人が退出した後も、閉じられたドアをしばしぼんやりと見つめ続けていた。
※ ※ ※
もう一回支援
ワルドの部屋に通されたルイズは、窓際のテーブルにある椅子に腰掛けて夜空を眺めていた。
スヴェルの夜が近い事もあり半分ほど重なり合った双月をぼんやりと見つめていると、コトリと軽い音が響く。
顔を巡らせると対面に座したワルドがテーブルに置いたグラスにワインを注いでいた。
月明かりに照らされているからだろうか、彼の落ち着いた仕草は普段接する同級生や教師、柊にもない『大人』を感じさせてルイズは思わず頬を染めて俯いてしまう。
落ち着かない気持ちで膝元の手を見つめた後、改めてワルドに眼を向けた。
するとワルドは嬉しそうに眼を細めてグラスを手に取り、ルイズも彼につられるようにグラスを手にする。
「二人に」
夜の静寂にグラスを重ねた音が沁み入るように響く。
普段なれた動作であるはずなのに、ルイズは少しだけぎこちなくワインで唇を濡らした。
正直味はまったく分からなかった。
「本当に久しぶりだね、ルイズ」
「……そうね。十年ぶり……くらいかしら」
「こうやって落ち着いて話ができたのはそれくらいだね。会っただけなら、僕が二十歳になった時が最後だったか」
「お父様から正式に管理を継いだ時だったわね」
ワルド家の爵位と領地は先代が戦死してすぐに彼が継ぐ事になったのだが、その当時ワルドはまだ若年で爵位はともかく領地の管理を一人で担いきる事は難しかった。
そこでルイズの父親であるヴァリエール公が後見となる事で彼に代わって領地の管理を行なっていたのだ。
そういった意味では彼が正式に『ワルド子爵』となったのは二十歳の時といえたが、これは事情を鑑みてもトリステインでは少々遅いくらいなのである。
「衛士隊に入ってひたすらに軍務をこなしていたからね。後見時代は勿論あれからも結局管理はジャン爺に任せっぱなしさ。
名目こそ僕のものであっても、実質的には彼こそがワルド子爵と言っても過言じゃない」
おどけたように、そして少し自嘲気味にそう言ってワルドは肩を竦めた。
思わず苦笑を漏らしてしまったルイズにワルドも同じように苦笑い、そして彼は瞑目して己が胸に手を添える。
「……だが、そのおかげで僕は今こうしてグリフォン隊隊長という地位を手に入れることができた。家格に拠ってではなく、僕自身の力に拠って。
そう誇れるくらいのことはしてきたつもりだ」
「……貴方は立派だわ」
ルイズは揺ぎ無く語る彼の姿が眩しくて、知らず顔を俯けてしまった。
目の前にいるワルドにしろ、深く語りはしないものの柊やエリスにしろ、揺ぎ無く言葉を紡げる者達は自分の中に確固たる何かを築き上げているのだろう。
だが、ルイズにはそれがなかった。
誇り高くあろうとしていても、それによって何かを成し遂げた事は一度もない。
まるで鳥の卵のようだ。殻だけが固くて、中身は酷く弱くて脆い。
それを理解できないならまだ救いがあったかもしれないが、彼女はそれを理解できていた。
だからこそ一層そういう人達に対して劣等感を抱いてしまう。
ルイズは手にしたグラスを口に付け、出かかったうらやみの言葉と一緒にワインを飲み干した。
一気に飲み込んだアルコールのせいか、体に火が付いたような熱さを感じた。
それを見届けてワルドが口を開く。
「立派ではないさ。何しろ子爵としての義務も婚約者としての責任も全て放り出した結果なのだからね」
「……やめて」
ルイズは眉を歪めて吐き出した。
親の口約束でしかない婚約者を持ち出した事ではなく、そんな台詞を言ってしまえる彼が少し不快だった。
話しかけられるほどに、何の落ち度もない彼を不快に思う自分が惨めになってくる。
だからだろうか、ルイズは少し胡乱気な仕草で頭を揺らすと漏らすように呟いた。
「……わたしは、貴方につりあうような人間じゃないわ。貴方も知ってるでしょう?
わたしが昔どんな子だったのか。今どんな子なのかも、聞いた事があるんじゃないの?」
「……」
ルイズの言葉にワルドは僅かに眉を寄せて黙り込み、そんな彼を見てルイズは自嘲じみた息を漏らした。
魔法が使えない『ゼロ』のルイズ。
そんな噂が全く外に漏れないなどという事はありえない。
人の口に戸は立てられないというのは貴族の子弟が通う魔法学院でも例外ではなく――否、それゆえにむしろ広まるのは確実といってもいい。
なぜならとかく貴族と言うものは往々にして醜聞を好むものだから。
ましてそれが名門中の名門と言われるヴァリエール家のモノならば尚更、表向きにはともかく眼の届かない場所ではそれなりに広まっているだろう。
無論実家にもそれは伝わっているだろうが、なまじ事実であるだけに騒ぎ立ててもヴァリエール家自身の品格を損なうだけだ。
「……他者を貶めて悦に入る連中のことなど、気にすることはないさ」
黙りこんでしまったルイズに、ワルドは静かに声をかけた。
彼は真っ直ぐにルイズを見据えたまま、更に言葉を続ける。
「そんな噂を耳にしたことは確かにある。君が姉君達と比べられてデキが悪いと言われてたことも、知っている。
そんな時いつも中庭の池にある小舟でいじけていた事もね」
「……」
その頃の事を思い出して、ルイズは僅かに羞恥を覚えて頬を染めた。
幼い頃、ワルドの言うように姉二人と比べられては逃げ出して拗ねていた。
そんな時に決まって迎えに来てくれたのは、すぐ上の姉であるカトレアと目の前にいるワルドだった。
カトレアは自分も魔法に目覚めたのは貴女ぐらいの時だったと優しく慰めてくれた。
ワルドも優しく、しかし力強く自分の手を取って共に屋敷に戻り、親に取り成してくれた。
家族であるカトレア以外に自分を励ましてくれた唯一の青年だったワルドに、少なからず憧れと好意を抱いていたのは確かだった。
――あの頃の記憶と同じように、目の前にいるワルドがルイズに手を差し伸ばした。
「だが、僕はあの頃からずっと感じていた。君には他人にはないモノを持っている、と。
そして君と再会した今、その予感が正しかった事……そして僕のやってきた事が間違いではないと確信した」
「え……貴方がやってきたことって……?」
「もちろん、君に相応しい男になることさ。いずれ偉大なメイジになるだろう君と共にいられるようになるために。
――そう、例えるなら始祖ブリミルとその傍にあったガンダールヴのように」
「……!」
思わずルイズは眼を見開き、身体を強張らせてしまった。
そんな彼女の様子を単に驚きと受け取ったのか、ワルドは僅かに首を傾げて口を開く。
「知らないかい? かつて始祖ブリミルが用いたと言う伝説の使い魔の事を」
「え、ええと、それは知ってるわ。いきなりそんな大きな話を持ち出されて驚いただけ……」
内心の動揺を必死に抑えながら、しかし完全には隠すことができずルイズは少し上擦った声でそう答えた。
自分が実際にその虚無の担い手である……かもしれない事をワルドが気付いているという事はないだろうが、唐突にその話を出されて驚いたのは事実だ。
ワルドはそんなルイズの心境に気付いた風もなく、彼女を真摯に見つめたまま語りかけた。
「僕は使い魔にはなれないが、君を共にあり君を守りたいという想いは本当だよ。そのために僕はこうして力を手に入れたのだから。
君が未熟だというなら、僕が守りそして導こう。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが在るに相応しい場所へ」
「……ワルド」
支援
ルイズの胸の奥がジンと熱くなり、その熱が身体を巡るような感触がした。
彼は今まで一度としてルイズから眼を離す事なく、そして差し出した手を引くことはなかった。
自分を見据える視線もその言葉も力強さも偽りなく純粋なものだった。
かつての憧憬と尊敬がそのまま具現したかのような彼の姿に、喜びのような感情が湧き上がる。
ルイズはどこか熱に浮かされたようにおずおずと手を伸ばし、そして差し出された彼の手に添えた。
軽く握り返してきたその手はやはり力強く、頼もしい。
僅かに手を曳かれて彼女の身体が前に傾いだ。
なんとはなしに浮かんだ予感に彼女はほんの僅かに眉を寄せ、しかし瞳を潤ませてワルドを呆と待ち受ける。
月明かりに照らされた二つの影がゆっくりと近づき――
「……!」
ルイズははっと眼を見開き、同時にワルドから手を離し慌ててその場から後ずさった。
彼女は椅子を蹴倒したことにも気付かず、驚きに眼を丸くしたワルドをしばし見やってから、顔を真っ赤に染めて呻く。
「あ、ご、ごめんなさい。けど、その、やっぱり、久しぶりに会ったばかりだから、まだ早いんじゃないかって……!」
どこか呆気にとられている風のワルドに見つめられてルイズは更に取り乱し、手をばたばたと動かした。
「早いと言えば明日も早いし、エリスも待ってるから、その、えと……だから……!」
混乱して上手く言葉を出せずに右往左往する彼女の姿を見て、ワルドは苦笑を漏らした。
「……そうだね。再会してその日に、ではいくらなんでも早すぎたかもしれないな。無粋な事をしてしまった」
彼は席から立つとゆっくりとルイズに歩み寄った。
僅かに身を強張らせた彼女に、しかしワルドは優しく彼女のピンクブロンドの頭を撫で付けると宥めるように言う。
「だが僕の気持ちは正真正銘本物だよ。だから、君も考えてくれると嬉しい。この任務を終えたら、もう一度聞こう。今度はちゃんとした形式の言葉でね」
「……」
その言葉がどういう意味であるかを理解したルイズの顔が再び朱に染まった。
彼女は逃げるように彼の元から離れると、そのまま入口の方に駆けていく。
淑女らしからぬ品のない動きだったが、今の彼女はそんな事を気にしていられる心境ではなかった。
「おやすみ、ルイズ」
「お、おやすみなさい、ワルド」
部屋を出る間際に投げかけられた声に反射的にそう言うのが精一杯だった。
ルイズはワルドの顔を見ることさえできずに部屋を後にした。
ルイズが去り一人になった部屋の中でワルドはしばし彼女が出て行った扉をじっと見つめていた。
そして彼はふっと息を吐くと踵を返し、今まで二人が座っていたテーブルに歩を進める。
置きっぱなしになっていた自分のグラスを手に取り一気にそれを飲み干すと、次いで彼はルイズが空けたグラスに眼を移した。
「……まだ早い、か」
そんな呟きは彼以外に届くことはなく、窓から落ちる月明かりと共に消えていった。
※ ※ ※
半分ほど重なり合った双月を、タバサは開けた森の中からじっと見つめていた。
その双月を分かつように伸びた輝線が夜空で弧を描き、ゆっくりと彼女の下へと迫ってくる。
やがて『破壊の杖』――箒にまたがった柊が彼女の前に降り立った。
「なんだ、まだ寝てなかったのか?」
「……シルフィードを呼んできた」
「ああ、そっか。結構離れてんのに、アイツよくここがわかったな……使い魔の共感能力って奴か」
首肯するタバサを見て柊は感嘆したように頷き、辺りを見渡した。
見たところこの場にそのシルフィードの姿はない……とはいえ、灯火一つも満足にない上この一画を囲むように木々が乱立しているので見えないだけかもしれないが。
柊がそんな風にしていると脇からタバサがポツリと呟いてきた。
「ニューカッスルに行っていたの?」
「ああ。一応どんなモンか見とこうと思ってな」
サイト達との話し合いの後、柊はヒートアップしたサイトとデルフリンガーに巻き込まれる形でサイトと手合わせする羽目になってしまった。
そしてその結果は……サイトの惨敗。
彼が言っていたガンダールヴの力、武器を自在に操り身体能力が向上するという能力は確かに瞠目に値するものだった。
が、それでも柊からすればそこまで脅威足りえるものではなかったのだ。
何しろ彼が手に入れたヴァルキューレ03――近接戦闘用箒はその性能も扱い方も柊は熟知しており、サイトの扱いもその想定をでるものではなかった。
更に身体能力では確かにサイトの動きは速く一撃も重い。
だが、単純に"それだけ"では更に規格外の魔王達と戦いを重ねてきた柊から見るとやはり見劣りしてしまう。
総括して言ってしまうと、個々の能力こそかなり高いものの、逆にソツがなさ過ぎて意外性――サイト自身の個性とも言うべきか――がなく非常に行動を予測しやすいのだ。
もっともサイトは元々闘いとは無縁の世界で暮らしていたのである意味当然の事ではあるのだが。
ともかく、そんな感じでサイトを打ちのめしデルフリンガーの溜飲を大いに下げ、夕食を取った後柊は一人ウェストウッド村を出てニューカッスルの様子を見に行ったのである。
その結果を窺うような視線を送ってくるタバサに、柊は大仰に肩を竦めて見せた。
「ダメだな。城一つ相手に馬鹿みてえな規模の布陣が敷いてあった。まっとうな方法じゃ抜けらんねえ」
ニューカッスルに辿り着いた頃にはかなり夜も更けていたが、周りに灯っている無数の篝火だけで規模はおおよそ理解できた。
示威行為なのか余裕なのかはわからないが、まさに蟻の這い出る隙間もないといった様子だったのである。
「こうなるともうフーケ……いやマチルダか? まあどっちでもいいけど……とにかくあいつに任せるしかないだろ」
あの陣容を鑑みた上で秘密裏に接触できるルートがあるとすれば、おそらく古典的に隠し通路的な代物なのだろう。
そうなるとやはり彼女の案内が必要になる。
柊がそう言うとタバサはそう、とだけ呟いて黙り込んでしまった。
元々彼女の側から必要以上の言葉は出てくることはなく、柊としても特に会話をする種もないので場に静寂が漂ってしまった。
張り詰めいているのか単に気まずいのか微妙な空気の中、柊がふと思い出したようにタバサに言った。
「あー……あのさ」
「……?」
「昼間に話したこと……ルイズの事なんだけどな」
柊はどこかばつが悪そうに頭をかいてからタバサに眼を向けた。
しかし彼女はさほど興味もなさそうにこう返す。
「あの時に言った。誰にも言うつもりはない」
「うん、まあ……すまねえ。頼む」
これが自分の事だけだったらわざわざ重ねて確認したりはしないのだが、ルイズのことを勝手に話してその秘密を暴露してしまったのだ。
彼女は言いふらしたりはしないだろう事はわかっていても、やはり気にしてしまう。
なんとなくいたたまれなくなって柊は溜息をつき、双月を見上げた。
ほんの少しの沈黙の後、どうにもする事も話す事もなくなったので柊は自分にあてがわれた部屋に戻ろうかと思いかけた。
が、それとほぼ同時に隣で囁くような声が漏れた。
「……私はガリアのとある貴族の生まれ」
「え?」
タバサの言葉の意図を理解できず、柊は思わず間の抜けた声を漏らした。
しかし彼女はそんな柊を無視して、どこか自分に語るようにして続ける。
「それなりに有名な家だったけど、ある男の陰謀にかけられ父は死に、母は心を失い、家名は地に堕ちた」
言いながら彼女は僅かに眼を細めた。
視線の先にはウェストウッドの森が広がっているだけだが、彼女が見ているモノは別のものなのだろう。
「私は父の無念を晴らし、母の心を取り戻したい。そのためには『力』がいる。あの男を討ち倒すだけの『力』が」
「……」
語る彼女の横顔を見て、ふと柊は気付いた。
あまり表情を浮かばせない部分が彼の仲間である緋室 灯に似ていると思っていたが、根本の部分で異なっていた。
緋室 灯が感情の起伏に乏しいのは、ウィザードとして(厳密にはそれだけではないが)重度の強化処理を施された結果情操面が欠如してしまったためだ。
言ってしまえば彼女はそもそもそういった感情を『知らない』のである。
だがタバサはそういう『仮面』を被っているだけで、内実はちゃんとした感情を備えた人間なのだ。
あまり良い方向のものではないとしても、今見せているタバサの顔は間違いなく彼女本人の表情だった。
「……なんでその話を?」
あまりにも唐突に話を振られたので、柊は僅かにいぶかしんでタバサに尋ねた。
すると彼女は一度だけ柊に眼をやり、そしてすぐに眼を切り……更に顔を背けて、言った。
「――誰にも言わないで」
「……」
思わず柊は目を丸めてしまった。
柊はまじまじとタバサを見つめ、しかし決してこちらを振り向こうとしない彼女にくくっと笑いを漏らしてしまう。
「……わかった。じゃ、お互い様ってことで」
「……」
意外に義理堅い少女に柊が口の端を歪めて言うと、彼女はやはり彼を振り向かないまま小さく頷いた。
そして彼女は話は終わりとばかりに歩き出したが、それを柊は呼び止める。
「ちょっと待った」
足を止めたタバサの背中を見やりながら柊は少し逡巡し、そして再び彼女に向かって口を開く。
「せっかくだから、今教えとくよ。……プラーナの事、知りたいんだろ?」
するとタバサはようやく柊を振り返り、以前の無貌の仮面を被った目つきで彼を見据えた。
彼女の行為と目的――復讐に関して柊は口出しできる立場ではない。
それを知った上でそれを教えるのが彼女にとって良い事かどうかはわからないが、少なくともその約束をしている以上反故にはできなかった。
「改めて確認しとくけど、コレはあくまで俺の世界にあったもので、この世界でもプラーナがあるのか、それを使えるのかはわからない。それでもいいんだな?」
「構わない」
逡巡することもなく彼女は答える。
箒などを見ていた時のような興味本位とは違う、どこか張り詰めたような表情のタバサを見て柊は腹をくくり彼女に語った。
プラーナとは万物の根源たる『存在』の力だ。
それはその本質通り、この世に存在するありとあらゆるモノに宿っている。
これは物質的なものに限らず非物質的なもの、現象や概念すら例外ではない。
ウィザード達はこのプラーナを感じ取り操ることによってその存在や方向性を明確化し強調することができるのだ。
ごく単純に言ってしまえば、能力の増幅装置(ブースター)と言ってしまっていいだろう。
攻撃や魔法の威力・逆にそれらに対する耐性を高めたり、知覚能力や行動速度を高めたり、およそ使用者が『そうしよう』と思った事にならば何にでもプラーナは適用できる。
またあまり効率がいいとは言えないが体力や精神力に転化して治癒効果も得ることもできる。
万物の根源ゆえに万象において作用する力――それがプラーナなのだ。
間に合うかな? 支援
とりあえず知識としての情報を説明してみたが、タバサの反応はといえば微妙に難しい顔で黙り込んだままだった。
口で言ってもいまいちわからないだろうことは柊も予想していたので、彼はタバサに向かって手を差し出した。
乗せられた手を軽く握った後、柊は瞑目して意識を集中する。
そして小さな呼気と共に柊はプラーナを解放した。
ギーシュとの決闘やギトーとの立会いで見せた時と同じように柊の身体から光が零れ、タバサは僅かに眼を見開く。
あの時ほど激しい力強さではないが、はっきりと感じられる『何か』が手を通して彼女の身体を通り抜けた。
「……」
タバサは何も言葉を発する事なく踏み寄って、柊に抱きついた。
驚いて柊は思わず目を開いたが、彼女の意図を汲み取って動かなかった。
二人を包んだプラーナは一分程も経たずに掻き消え、森の中に暗闇が戻る。
光が消えた後も微動だにしないタバサの肩に柊が軽く手を添えると、彼女はようやく柊から身を離した。
「……どうだ?」
柊が尋ねると、タバサは僅かに首を傾げた。
「……わかった」
「わかった? プラーナがあるのか?」
「わからない」
「……おい」
半眼になって漏らした柊に、しかしタバサは首を振る。
「よくわからないけど、私たちメイジが感じている精神力や魔力とは違う『何か』があるような気がする。……上手く"掴め"ない」
「微妙だな……悪いけど、俺が教えられるのはこれくらいだ」
プラーナの扱いに長けた『龍使い』や身に宿すプラーナが通常のウィザードと比して多い『勇者』ならばもっと上手く教えられるのかもしれない。
しかしこの方面に関してはごく一般的なウィザードでしかない柊はこうして実践して見せる以上のやり方を知らなかった。
幾分申し訳なさそうに頭をかいた柊に、タバサは自分の胸に手を添えて言う。
「これで十分。今まで感じられなかったモノが私の中にある。それを知る事ができた。後は私次第」
「そっか。すまねえ」
こくりと頷いて返したタバサと共に柊は改めて歩き出した。
森を抜けてウェストウッドの集落に辿り着く間際、木々の間から村人達の小屋が見え始めた時。
ティファニア達の小屋の脇に、一人の少女がいた。
「ティファニア?」
遠目に映る少女に姿に違和感を覚えて柊は小さく首を捻り、そしてすぐにその違和感の正体に気付いた。
彼女は帽子を被っていなかったのだ。
ティファニアとは初めて会ってから半日ほどだが、その間彼女は室内にいる時でさえも決して帽子を取らなかったのだ。
一応尋ねては見たが彼女は明らかに動揺するもののその理由を明らかにはしてくれなかった。
なので柊は内心、彼女は――その、女性としては大変困った事情があるのだろうと思っていたのだ。具体的には、コルベール的な意味で。
しかし今の彼女の姿を見ればそれが間違っていたことは一目瞭然だった。
腰に届くほどの長い金糸の髪。
頼りない月明かりを浴びて輝くそれが、夜風に浚われて緩やかに踊っている。
彼女とは少し距離があり、しかも夜闇の中なので柊達の存在に気付いていないのだろう、ティファニアは気持ち良さそうに夜風を受け止めて自らの髪を撫で梳いた。
その拍子にティファニアの横顔が――耳が露になる。
明らかに人間とは違う、細く尖った耳が。
「エルフ」
タバサが小さく呟いた。
「へえ……」
柊はわずかな感嘆と共に息を吐いた。
確かこの世界のエルフは人間と敵対――というよりは脅威の対象とされている種族だったはずだ。
どういう事情があるのかは知れないが、彼女はそれを隠していたのだろう。
この世界の住人ではない柊としてはどうでもいい事なのだが、タバサのような人間にとってはまた別の話だろう。
何となく眼を向けるとタバサは、
「どうでもいい」
言葉通りに欠片ほども興味がないといった風に返してきた。
反論すべき点も議論する必要も全くないので、柊達は彼女に気付かれぬよう迂回するため踵を返す。
歩いていると、風に乗ってハープの音色と共に少女の透き通るような歌声が流れてきた。
――神の左手ガンダールヴ。
勇猛果敢な神の盾。右に大剣左に長槍、宿せし『信頼』に心震わせ導きし我を護りきる。
――神の右手がヴィンダールヴ。
心優しき神の笛。猛る獣に『節制』を説き、これを従え導きし我を運ぶは陸海空。
――神の頭脳はミョズニトニルン。
知恵のかたまり神の本。万理を解する『賢明』なる者にて、導きし我に助言を呈す。
――そして最後にもう一人。
記すことさえ憚られる……。
――四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。
「……」
ティファニアの詩を耳に入れた柊は、ほんの僅かに考え込むような表情を浮かべてしまった。
ほんの数ヶ月前にファー・ジ・アースで関わったとある事件。
それの鍵となっていたのが共にハルケギニアに召喚された志宝エリスだった。
『宝玉の継承者』と呼ばれた彼女だけが扱えた箒――アイン・ソフ・オウルと、それに収まるべき七元徳の名を冠した宝玉。
すなわち『慈愛』、『賢明』、『剛毅』、『信頼』、『節制』、『正義』、そして『希望』。
その単語のいくつかが詩の中で使われていた。
もっとも、言葉自体は珍しくもないものなので詩に出てきてもおかしくはないだろう。
それより柊が気になったのは、現在ルイズの使い魔となったエリスに刻まれたルーンである『リーヴスラシル』のことだった。
ガンダールヴという単語が出た辺り、おそらく今の詩は虚無の使い魔に関する詩なのだろう。
だが、虚無の使い魔達の中でリーヴスラシルだけが謳われなかった。
ルイズが調べたときもその名だけはなかったらしいし、デルフリンガーも名前だけしか覚えていないと言っていた。
何故リーヴスラシルだけが"記すことを憚られる"のだろうか?
柊の経験則からいくと、この手の『名を伏せられた存在』というものは大抵の場合何かとてつもない厄介ごとの種になっているのだ。
なんだか嫌な予感がわいてきて、柊はそれを振り払うように頭を振った。
それを見咎めたタバサに「なんでもない」と返すと、二人はティファニアに気取られぬようその場を後にするのだった。
今回は以上。サイトとの手合わせは尺の都合でオミット
二つに分けて書くのも考えたのですがただでさえ投下間隔が長いのに更に足踏みするのはどうかと。
さほど意味のある場面でもないし(逆に言うと書いた部分に意味はある)
ともかく、これで種蒔きは終わったので次からようやく動きます
余談。
思い切って主人公のつもりで紳士的に書いてみたのに、ワルドが超うさんくせえ。何故だ
乙乙
悪ドだから胡散臭いのです、お疲れ様でした
乙
ワルド=ロリコンと言う図式が成り立ってしまっているから仕方ない
赤い人か旧神か神の代行体か
夜闇の方、乙でした。
普通に悪いワルドでも、ミスリードを誘う綺麗なワルドでも、ワルドという時点で胡散臭いのは仕方が無い。というか正体を明かす前で胡散臭くないワルドは見たことが無いなあ。
俺だよ、ワリオだよ
ワルドといえば、ロリコン、マザコン、熟女趣味、ヒゲ、若年寄と属性がそろってるからな
熟女ってどこだよ
マチルダ
熟女ってR18改めR45位だとばかり思っていたが、違うのか。
若白髪や若禿がないだけいいじゃないか。
今さらだけど。夜闇ってどう読むの?
よやみ?よるやみ?やあん?
やあんの魔法使いだと何かイケナイ響きに聞こえるね
夜闇の人待ってました!
帽子=ハゲ説は新しいw
柊さん想像力豊か過ぎです
サイトより柊のほうが強いなんて納得できん
逆はあっても柊が勝つなんてありえない
ヘイトだヘイト
『ゼロの花嫁』とかみたいに、レコンキスタに見切りをつける位の度量があれば、
そこそこカッコいいワルドのいるSSもあるんだけどねぇ。
・・・ほとんど無いわな。
ワルド=マザコンという図式もあるから胡散臭い
ガンダの能力を知ったばかりで、しかも心が強く震えてないサイトなら熟練の戦士には負けるでしょ。
技術があり、スピードとパワーがそこそこブーストされても経験が圧倒的に足りない。
原作にもあったけど、数多の戦いを経て実践したガンダ由来の戦闘技術を
自分のものとするような訓練しないとね。
ロリコンでマザコンとか、それなんて赤い彗星?
>>352 > 思い切って主人公のつもりで紳士的に書いてみたのに、ワルドが超うさんくせえ。何故だ
とりあえず髭を剃れば良いと思うんだ。
髭は剃っているがモミアゲが太くて長いワルド
そしてゴルゴ眉毛
いっそのこと、あの長い髪も切ったらどうだろうか
何を言われても折れないウェールズにいい加減飽きてきた
誰かこいつを説得出来る奴はいないのか?
他所のSSだとアンアンの身体がボッキュッバンで
スゲーエロチックになっているぞ〜、アレをゲルマニアの
オッサン皇帝に嫁がせるとか惜しすぎるな〜と囁いて
亡命させてたのが有ったなw
やはりエロは偉大なり!
アンドバリの指輪の存在を教えることであっさり折れるウェールズなんてざらにいるだろ
>>378 萌えゼロではルイズがふがくが敵を蹴散らしたら亡命するって説得してたよ。
で、五万を灰にして脱出中に敵に襲われて…だったけど。
これもまた、シュタインズゲートの選択なのか―――――ッ!?
>>378 『絶望の街の魔王、降臨』のジルは 一応 説得に成功?しているような。
『超1級歴史資料〜ルイズの日記〜』も BALLSがなんとかしてくれてるし。
>>380 最後に一矢報いようと名誉の戦死を試みたらゾンビにされて操られるとか最悪だからなぁ。
シリアスな話で説得を試みようと思うならそれくらいしかないか。
ぶっちゃけウェールズは貴族の名誉に固執してるんじゃなくて
少しでもトリステインの危機を遠ざけるためと
逃げることでアルビオンの戦禍が長引くことを防ぐって部分が多分にあるからね。
生半可な説得じゃ無理だろうな。
>>384 ジョジョの方だと
イギーが城を爆破させて
あたかも死んだように見せかけたって言う展開が有ったな
ワルドが悪役のお約束で「冥土の土産に教えてやろう」と、レコンの企み
根こそぎ暴露して、死ぬ価値がないと理解するとかないかな
うちのワルドもウェールズもわりと普通な扱いだったなあ……
今から投下開始します
悪魔 意味……悪意・悪循環からの目覚め
タバサと陽介の主従はガリアの首都リュティスを訪れていた。
シュヴァリエ・ド・ノールパルテル
その理由は北 花 壇 騎 士としての任務を北花壇騎士団団長であるイザベラから受けるためだ。
ガリア王国の王女でもあるイザベラが住まう宮殿プチ・トロワに入る前にタバサは以前したように使い魔を外で待たせようとした。
だがタバサなりの使い魔への気遣いは陽介が来るようにとのイザベラからの指示のために断念することになった。
タバサはイザベラのいつものいびりが陽介に向かうのではと心配した。
しかし陽介はタバサに「心配すんなよ」と言って彼女を待合室に残し、イザベラのいる謁見室に向かっていった。
メイドに連れられて陽介は大きな扉をくぐった。
扉が大きいだけあって部屋もなかなかの大きさで、天井も高い。
扉の直線状にイザベラはいた。RPGで王様のいるところのように階段状に高くなったところでずいぶんと高そうな椅子に鷹揚に腰かけている。
「久しぶりじゃない、ヨースケ」
「そーですね」
王族相手にどんな敬語を使ったらいいのかわからないが、とりあえず以前喋った時と同じノリで喋っておく。
特にイザベラがそれで気を害した様子もないのでこの調子でいいのだろう。
「これに今回の詳細が書かれているわ」
イザベラはポケットから一つの手紙を出した。
ポケット付きとか案外実用性の高いドレスだな。と陽介は思った。
陽介がどうでもいいことを考えているとき、使用人が陽介に手渡すべくイザベラから手紙を受けとろうとするが、
彼女はわずらわしそうに手をふってそれを制した。
「ヨースケ、あなたが直接取りに来なさい」
使用人たちの間にどよめきが走ったのを陽介は感じた。別に声にだして呻いたわけでもないが、
動揺が走ったのは確かだ。イザベラが何か妙なことをしたのかと思ったが、陽介には思い当たらない。
彼らの様子をいぶかしげに思いながら陽介は玉座の階段を上がって行く。
そしてイザベラと同じ高さの段に立った。
使用人たちが息を飲んだようだが何に彼らがそれほど気を張り詰めているのか陽介にはやはり分からない。
21世紀の日本育ちの高校生である陽介には知るはずもないことだが、
平民が玉座において王族と同じ高さに立つなど許されるはずもなく、
まして今イザベラは座っているため、陽介は見下ろす格好になっている。
使用人たちは全員陽助が不敬罪になるのではと肝をひやしているのであった。
しかし当人たちはどこ吹く風と言った様子である。
陽介はともかくハルケギニアでも指折りの高貴な血を持つイザベラは王族に要求される煩雑な作法を熟知しているというのに。
イザベラがその高貴な振る舞いを実践できているかどうか疑問もなくもないが、
しかし自分への礼儀を徹底させることに関しては熱心なイザベラの光景は使用人たちの目に奇異なものと映っていた。
「わたしはあいつを妬んでる。認めるよ」
イザベラは小さな声で言った。陽介にだけ聞こえるように。
「だからわたしはあいつに死ぬような任務を押し付けるのさ」
イザベラは陽介をきっと睨む。
陽介は目をそらさない。
「んなことしたって何の解決にもなんねーと思うぜ」
陽介は言葉を選ぶように額を押さえてから呟いた。
「やっぱ、話あったほうがいいんじゃないか。一人じゃ二人の関係は変わらねえと思うんだよ」
じっと見つめていたイザベラはくくくと笑った。
「あんたは王女さまにタメ口かい?」
陽介は慌てて訂正する。
「え……、っと自分はそう思うと思います!」
さらにイザベラは笑う。
テンパったためにへんな敬語しかでなかった。
陽介は言いなおそうとするが、彼女は笑いながら「いいよ別に」と言ってそれを制する。
笑い終わったあと、イザベラから表情が消えた。
「もう遅いんだよ。それに今回の任務は本当に危険だ。話し合う前に死んじまうさ」
陽介はイザベラの目を見て言った、強い意思を込めて。
「死なねえよ。タバサを死なせたりなんかさせねえ。
もちろん俺も死ぬ気はねえ。……だからきっと遅すぎるなんてことはないと思うぜ」
言い終わるなり陽介はイザベラに背を向けて退出する扉へと歩んでいった。
出て行く前に陽介はイザベラを見たが、顔を下げていたため表情は窺い知ることは出来なかった。
世界七大美味だという極楽鳥の卵を取ってくる。それが今回、騎士タバサに課せられた任務だった。
鳥の卵を取ってくるというだけでは簡単そうであるが、もちろん簡単ならばタバサに仕事は回ってこない。
極楽鳥は年二度卵を産む。今の季節はたしかに産卵時期のひとつなのだが、本来はこの時期に卵を取ることはない。
というのは極楽鳥は火竜山脈という6000メイル級の山が並ぶ山脈で卵を産むのだが、この時期は火竜山に子育てのために火竜も集まってくるからなのだ。
なので、火竜たちの居ない時期を狙って卵を取りに行くのが普通であり、そうでない時に卵を取りに行く者は自殺志願者としか思われない。
そして今、タバサと陽介はまさしくその危険な時に火竜山脈を登っていた。もちろんタバサも陽介も死ぬ気などさらさらない。
他人がその様子を見れば、そう思わないとしても。
「あっちい……」
陽介はゲンナリしたようにこぼした。
登山で体を動かしたからというのもあるが、事実として火竜山脈は暑いのだ。
通常、山というものは登れば登るほど気温は下がっていく。
そして一定以上の高さを持つ山は頂に雪がつもっているものだが、火竜山脈は6000メイルの高さがあるにも関わらず一片の雪も認めることはできない。そ
れは山のいたるところで溶岩流が噴出しているためだ。
そのため、山は高温に保たれ、その上降雨は全て水蒸気となるため火竜山脈は蒸し風呂同然だった。
陽介は腰に学ランを巻きつけていた。
だが巻いている分だけそこが熱を持ち、学ランを捨てたい衝動にかられる。
「この湯気にもうんざりだわ……。
俺って湯気にあんまり良いイメージないんだよな。なんか完二の思い出すっつーか」
「でも、わたしたちを隠してくれる」
陽介の言ったことの後半を無視しながらタバサは言った。
そのいつも変わらない涼しい口ぶりに陽介は感心する。
タバサの体も陽介と同様に多量の汗をかいているから暑いわけではないのであろう。
泥で汚れ、汗で前髪は額にへばり付いていた。白いシャツは汗で体に密着し体のラインを顕にしている……。
そこまで考えて、俺は思考を振り払うように頭を振る。
なんでこんな小さい子の体をじっと見てるんだ!アホか!変態か!
実際は17歳の陽介に対して15歳のタバサがそこまで幼いと言えないのだが、陽介はタバサを外観から12、13歳くらいだと考えているのであった。
そんな陽介の苦悩などお構いなしにタバサは登っていくので、陽介も余計な思考を振り払いついていく。
登っている途中、瑠璃色に光る鳥の羽が二人の視界を過ぎて行った。
「お、あれがそうじゃねーのか?」
「そう」
タバサはこくりと頷き、おおよそ極楽鳥が産卵する高さまで来たので卵を捜索すると陽介に言った。
また、極楽鳥が産卵する場所ということは火竜が生息するので気をつけるようにとも。
陽介は火竜に気をつけ小声で了承の意を伝えた。
それから20分ほど黙々とふたりは極楽鳥の卵を探した。
しかし、わかりやすいところには産まないのか卵は見つからない。極楽鳥が飛ぶ姿は時々見かけるのだが。
陽介がめげずにタバサに言われた通り岩の間を探っていると、二つの瑠璃色の卵を発見した。
ずいぶんと大きく、鶏の卵の十倍はあるんじゃないかと思われる。
「おい、タバサ。それっぽいの見つけたぜ」
陽介が小声でタバサを呼んだ。ちゃんと聞こえたらしくタバサが走り寄って来る。
その姿を確認して、陽介は岩の切れ間に手を伸ばした。届かない。
ならばと陽介は体をねじ込み、両手を伸ばす。
卵に手が届いた。なんとか片手ずつに大きな卵を持って、穴を抜け出そうする。しかし……
「あれ……?やべ、抜っけねえ!」
上半身全てを岩の切れ目に入れてしまったために体が引っかかりぬけなくなってしまった。
あせって腰の位置をずらしてなんとか脱出しようとするが抜けない。
鳥がなにやら甲高い声で鳴いているが、気にも留めなかった。今は穴から抜け出すことが全てにおいて最優先だ。
陽介が極楽鳥の卵を発見したらしいので、タバサは陽介に近づいた。
陽介は上半身まですっぽりと岩の切れ間に体を入れて卵を取ろうとしていた。
これで任務も完了かと気を抜きかけたとき、タバサは空で極楽鳥がさえずっている意味に気付いた。
タバサが振り返ると、靄の中に大きな影がある。
それはタバサがエルフと並んで戦いたくない魔獣、竜だ。
しかもタバサの前に姿を現したそれは通常の火竜よりも大きく、十八メイルはあろうかという個体である。
頭には雄にあるトサカがなく、鱗の色は雄よりも色濃く燃え滾る炎のようだ。老成した雌である。
火竜は一鳴きした。極楽鳥の鳴き声に似ていたが、それは事実とは逆であろう。
極楽鳥は火竜を呼ぶためにその真似をしているのである。だが声質は似ていても声量はまるで違う。
空気が震える。それが伝染したかのようにタバサも身震いした。
その圧倒的過ぎる姿。人間がどれほど修練しようと勝てない存在それが彼女の前に存在した。
背後で陽介が「うわっ、なんの声だ!?」と騒いでいるのが聞こえる。くぐもった声なので未だに穴の中なのだあろう
さらに火竜は天を仰いで咆哮した。そしてどうやらそのまま火を吹こうとしているようだ。
口から火炎が溢れる。そのわずかな火炎でも、周りの空気は揺らめく。信じられない熱量だった。
タバサに戦慄が走る。逃げ出したくなる。しかし、一度背後を振り返ってから、タバサは地面に足を突き立てた。一歩も引かないつもりである。
なぜなら彼女の後ろには彼女の使い魔が居るのだ。
自分は魔法使いだ。使い魔を見捨てることなど出来ない。
タバサは強く決意し、呪文を唱える。
「ラグーズ・イス・イーサ・ウォータル……」
ジャベリン
タバサの杖の先に、太く、大きな“氷の槍”が膨れ上がる。
火竜は目の前の口を大きく開き、岩をも溶かすブレスを吐いた。
同時にタバサもジャベリンを解き放つ。
炎の息吹と氷の槍が空中で激しくぶつかった。
氷の槍が、巨大な熱量で溶けていく。
炎の息吹が、その冷気で燃え尽きていく。
激しい水蒸気が立ち上る。
時間にすれば一瞬の出来事だ。
氷と炎が生み出した霧が晴れる。
火竜も魔法使いも攻撃を放つ前の姿のままで佇んでいる。
タバサはじっと火竜を睨みつけていた。その視線は射るようだが、実際は先ほどの槍でもう精神力は空っぽになり彼女には魔法は撃てない。
もはや彼女に自衛の手段は何もなく、今残っているものは魔法使いとしての矜持とさきほどまで自身の持ちうる最高の氷槍を持っていたときの残滓である。
火竜はしばらくうなり続けていたが、それから再び首を天に向けた。再び炎の息吹を放つつもりだ。
支援
タバサは絶望に包まれる。ついぞさっきまでの戦う者の表情はない。
それは彼女が“雪風”と呼ばれるようになってから、最も感情的な表情的なものだったかもしれない。
彼女にはもう目の前の巨大な存在に対抗することはできない。
それが火を噴けば自分の命は簡単にかき消えてしまうだろう。
タバサの口が小さく動いた。彼女が何を言おうとしたのかは彼女自身にもわからない。
その時、背後から陽介の叫びが聞こえて回転する円形の刃が火竜へと飛んだ。
そしてそれは天にのばされた火竜の首に接触し、切断した。
タバサは呆然とする。
何が起きたというのか?
切断されてかろうじて乗っかっていた切断された上部が切断面からズレて地面に落ちたときも
目の前で何が起きているか分からなかった。
「大丈夫か!タバサ!」
背後からかけられた声でタバサは後ろを振り向いた。
そこには彼女の使い魔、花村陽介が佇んでいた。両手に瑠璃色の卵を持って。
自分の使い魔が助けてくれたということにタバサはようやく気がついた。
タバサは地面にぺたりと座りこむ。
「大丈夫か!おい?」
陽介がもう一度尋ねてくる。タバサは力なくこくりと頷いた。
いつもの寡黙ではない。言いたいことがあるはずなのに声が出ないのだ。
「よかった……」
陽介がほっとしたように言った。
そのとき再び大きな足音が聞こえてきた。先ほどの火竜の鳴き声を聞いたからか三匹の火竜が現れる。
「んな!増援かよ!?」
陽介が驚いたように言うが、タバサは無感動だった。
現れた3匹は先ほどの雌火竜に比べてこぶりとはいえ、一匹の火竜より脅威に違いないというのにタバサの心は波打たなかった。
恐怖感が鈍くなっているのは、一匹でもかなわない恐ろしい火竜が三匹も現れたせいなのか、
それとも隣に立っている使い魔のせいなのか、タバサにはわからない。
現れた3匹の火竜は明らかに動揺していたようだった。おそらく強力な火竜は仲間の死体を見ることに慣れていなかったためであろう。
だが敵を前にしての逡巡はあまりにも無用心であり、そのツケは高い代償であがなわれた。
「頼むぜ、ペルソナ!」
陽介の背にペルソナ、スサノオが現れた。
スサノオは力を貯め、そして体の回りを回る刃を天に放つと同時に力を放出した。
三匹の火竜は嵐よりも激しい風の渦に襲われる。疾風の刃で体を切り刻まれ、
その体を地面に叩きつけて激しい音を立てながら地面に倒れ伏した。
タバサはただただその光景を見ているばかり。
「よしっ、終わりィ!」
タバサは座り込りこんだまま使い魔を見た。
今は黒い上着を脱いで白い服になっている以外はまるでいつもの様子だ。
とても魔法使いが死力を持ってしても倒せない火竜を4体もほふった人には見えない。
陽介はタバサに話しかけようとして、何かに気付いたらしく、卵を地面においてから改めて言った。
「ほらっ、立てっか」
ぼうっとしているタバサに陽介は手を伸ばした。
タバサはその手を取った。
イザベラは薄着でベッドの上で横になりながら、小さいころの思い出をよみがえらせていた。
自分は小さいころかあの従妹が嫌いだった。
いや、陽介が行ったようにコンプレックスを抱いていたというほうが正しいだろうか。
彼女は自分よりも小さいというのに魔法がうまかったために嫉妬した。
また、もしかすると彼女はいつも両親と楽しげにしていたことにも嫉妬していたのかもしれない。
彼女はあのころは良く笑う少女であった。
自分には母はおらず、父は自分と遊んでくれることなどなく顔を合わせること少なかった。
それを寂しいと思ったことがないわけではないが、そういうものだと割り切っていた。
しかし本当は自分の従妹のように親と楽しそうに話す姿に憧れていたのだろうか。
わからない、理由はわからないが実際自分は従妹に嫉妬していて
彼女の父が死んだ時も母の気が父の手で狂わされたときもかわいそうだとは思わなかった。
彼女に冷たい仕打ちをし続けた。しかしその結果はどうであろう?
ただただ虚しさが積っただけだ。一度でも満足できたことなどない。
やり直すべきなどであろうか。遅すぎることなんてないと思うなどと陽介は言ったが、遅すぎるとしか思えない。
そもそも今回の任務は危険すぎる。いくら腕利きの彼女とはいえ帰ってこれるとは……。
思考にふけっている時、イザベラの寝室に使用人が入ってきて彼女の予想を裏切ることを告げた。
「シャルロットさまが参りました」
イザベラは呼び方を人形七号に訂正させることもせずに、使用人の言葉を吟味した。
それからイザベラの言葉をじっと待つ使用人に彼女を使い魔と共に謁見の間に通すように命じた。
陽介とタバサは極楽鳥の卵を渡すべくプチトロワを再び訪れた。
今回はイザベラの命令で二人で謁見の間に来ていた。
「ふうん、本当に生きて帰って来るとはねえ……」
尊大に腰かけたままイザベラは言った。
それからイザベラは黙りこくった。何度か口を開こうとするが、思いなおしたように口を閉じる。
それを見て、用はないと判断した卵を渡したタバサはさっさと退出しようとする。
「あ、おい」
と陽介が呼び止めようとするが、構わずに去ろうとする。
本当は宮廷の適当な者に卵を渡して帰るつもりだったのだ。
それがなぜかイザベラは直接陽介と共に渡しに来るように命じたから来ただけだ。
タバサはこの従妹を嫌っているわけではない。だが、特に騎士になってからというもの、下らない嫌がらせをされ続けていた。
だから彼女が面倒な用事を思いつくのを待つつもりはなかった。
しかし退出しようとするタバサはイザベラは呼び止められた。
「ま、待ちな、用はまだ済んじゃいないよ!」
その声が若干上ずっていることが気にかかりながらタバサは踵を返して戻った。
用はあるといいながら、イザベラはタバサが待つとなると再び何か言おうとして、それを打ち消してを繰り返した。
その作業が何度目かに及んで、ようやくイザベラは喋り始めた。
「卵を二つ取ってきたんだよね?」
いつもの尊大さが感じられない質問に、タバサはいつものようにこくりと頷く。
「実はその依頼主はどっかの大貴族でね、大金払って北花壇騎士団に依頼してきたのさ」
イザベラは早口に言う。
「でだ。極楽鳥の卵は一つ渡せばそれで済むんだ。だから一つ3人で食べちまわないかい?」
イザベラは言い切ったという表情を浮かべている。
一方タバサは表情には出さなかったが、眉をひそめる思いだった。いったい何を考えているのだろう。
しかし、陽介の反応は気楽なものだ。
「えっ、いいのか?あれってめちゃくちゃ高級なシロモノなんだろ?」
「あ、ああ、構わないよ」
イザベラはなぜかホッとした様子だった。
「ラッキー!じゃあご相伴に預かろうぜ、タバサ」
自分の使い魔に勧められ、タバサはうなずいた。もともと彼女にはイザベラの申し出を断る権利などないのだ。
それから三人は部屋を変えて、長机についた。
上座にはイザベラ。そして彼女を挟むようにタバサと陽介が座っている。
極楽鳥の卵が調理されている間、会話はなかった。
タバサはいつもどおり寡黙で、イザベラはそわそわとしていただけで何も喋らない。
陽介が「3人で食うにはこの机長すぎね?俺たち端しか使ってないし」と言っても二人とも何も答えてくれなかった。
そんな時間もほんのしばらくで、シェフの手によって料理された極楽鳥の卵が運ばれて来た。
「お、来た来た……ってゆで卵?」
陽介は自分の前に置かれた料理を見て、きょとんとして言った。
こんな豪華な宮殿で調理されるというのだからどのような調理がされるのかと思っていたら、庶民的に調理されていたのだから当然だろう。
「いい食材はね、シンプルな料理法が一番おいしいのよ」
とイザベラが言った。
なるほど、ゆで卵というシンプルな調理法にも関わらず、それからはゆで卵とは思えないほどいい香りがしていた。
「たしかにこんなデカイゆで卵ってだけでたまんねえな、ちょっと」
陽介はさきほどとは打って変わって目の前の卵を楽しみそうに眺める。
マンが肉ではないがそれに近いものがあると陽介は思った。
「それじゃあ、お食べなさい。ヨースケ、シャルロット」
久しぶりに従妹の名前を呼んだイザベラはタバサをちらりと見た。タバサは特に変わった様子もなく、ゆで卵を口に運んでいた。
イザベラは小さく溜め息を吐くと二人に遅れて三等分させた極楽鳥のゆで卵を食べた。
それから沈黙が流れる。
タバサはいつもどおりのポーカーフェイスだが、イザベラと陽介は似たような表情を浮かべている。それは困惑とか戸惑いとかいったものだ。
陽介は遠慮がちに喋り始めた。
「さすが世界七大珍味っつーの?庶民的な俺の舌には合わないつーか……」
「珍味じゃなくて美味よ。あと、わたしの舌にも合わないわね」
イザベラが陽介の言葉を訂正しつつも同調した。
そしてタバサがはっきりと言い捨てた。
「まずい」
イザベラと陽介は大きく笑った。
結局、極楽鳥の卵は火竜のいない時期に取ってきたものだけが味が良く、
タバサの手に入れた卵は食用に適したものではなかった。
しかし、イザベラにとってこの食事は忘れられないものとなる。
悪循環は終わる。
投下終了。
やっと二桁。でもまだ全体の半分に達してないっていう。
とりあえずゼロの使い魔21巻が出るまでには完結させたいですね。
話の展開が速いのはトランスフォーマーが好きだからかもしれませんね。もちろん初代
乙です
そういえばペルソナって、シリーズをさかのぼればかのご立派様に行き当たるんですよね
ヘイローの人来ないかな
KYOから努力の天才アキラを…
色んな人に毒はきそう
かっとびランド書いた人アホすぎるwwwwwwwwwwでも愛すべきバカだwwww
玉井先生も天国から喜んでるだろうよ・・・
多分だけどエース=やんちゃ坊主のイメージを作ったのはあのひとだと思う
超闘士じゃ完全にギャグキャラだったしな
402 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/27(金) 02:47:41.92 ID:tZInw99g
>>398 メガテンシリーズから枝分かれしたのがペルソナ&デビルサマナーだからなあ。
そういえばギーシュも言っていた、最終的にたどり着くのはご立派な塔であると……
……あながち間違ってないのがなんか自分で言っておきながらアレだな。
>>378 ご立派様がご威光で何とかしたじゃないか。
あらためて読み直すと、ご立派様は本当使い魔としてご立派に完璧だったなw
うん、ご立派様は喪失する正気度と比べて明らかに強いんだ。
“月に吠えるもの”なんか5点しか削れない(実話)からな。
混ぜるなよ
やけくそになるだけで正気度は変わらんわよ
イザベラサマって原作で救済されるの?
出番は短かったけど大活躍してたよな。
性格が激変してて違和感バリバリだったけどね
一応あれが素の性格らしいが、まあ違和感はあるわな
実はありゃ二人目なん・・・・おっと誰か来たようだ
元々コンプレックス解消されれば性格激変しそうだったとは思うよ
状況が変われば性格も変わるぞね
綾波育成計画ではレイがアスカ以上に積極的になってるようなもんか
外伝では不本意についた職みたくいってたけど、本編ではかなりうまく手下たち使ってるみたいに
描かれてたから、少なくとも素質はあったらしいね、北花壇騎士団長。
>>413 >コンプレックス解消されれば性欲激しそう、に見えた
>>417 コンプレックスからくるストレスを発散する為に、夜な夜な 男を食い物に…
なんてSSは 残念ながら、ココ向きじゃないか。
エロパロ板に腐るほ(ry
夜闇の人で思い出したけどベル召喚のほうは止まってるんだよな・・。
あっちのワルドは母親の写真入りペンダント破壊されてある意味腕切られるより悲惨だな。
ハルケに写真だと!?
>>421 ファスナーが存在してる時点でナニを今更
>>410 この作品のことかとドキっとしたぜ……
今から投下します
正義 意味…誠意・一方通行
極楽鳥の卵を手に入れてプチ・トロワを訪れた後、タバサは表情にこそ出さなかったが、戸惑ってばかりであった。
あの今まで嫌がらせしかしてこなかった従姉が高級食材である極楽鳥の卵を食べることを許したり、
それが不味かったからと口直しに宮廷料理を出してくれたり、宮廷の浴場に入るように勧めたり、
次の日のための休息のために寝室を貸してくれたり、実家に帰るように勧め馬車を出すと約束したりしてくれた。
そう、いつものイザベラとはまるで対応が違う。
タバサの経験から言って最もおかしいのはイザベラがその間イタズラをしてこないことであった。
料理を手を使わずに口だけで食べろとか、風呂で息継ぎせず5分間潜水しろとか、ベッドの上に虫の死骸がつまれていたりとかそういったことが何もなかったのだった。
これから考えられる客観的事実はイザベラが親切をしているということだ。にわかには信じがたいことだが。
戦士であるタバサはどのような状況下でも必要とあれば眠ることのできるのだが、その夜は寝つきが悪かった。
違和感がまとわり付いて仕方がなかったからだ。
そして妙に冴えた頭でタバサはイザベラの変心の理由を考えた。そしてり陽介以外に考えられないと結論付ける。
陽介が彼女と一人で会って、次に来たときにイザベラの態度は激変していたのだ。
彼はイザベラの何かを変えたのだろう。
もしかしたら彼は自分の運命すらも変えてくれるかもしれない。そのような考えも思いついてしまう。
突拍子もない考えだろうか。しかし、ともすれば頼りなさそうに見える彼は三度も自分の命を救ってくれた。
一度目は吸血鬼から、二度目は大軍勢に囲まれた城からの脱出の際、三度目は火竜から。
どれも並みの魔法使い、いやスクエアのメイジであろうとそう出来るモノではない。
そうしてタバサは自分の使い魔のことを考えているうちに眠りに就いてしまった。
次の日の朝、タバサと陽介は朝食を済ませて出立の準備をしていた。
イザベラが陽介に会いに来たのはそんなときだった。
彼はすでに彼の主人が先に行っているであろう馬車が用意された所へ向かおうとしていた。
「なんだ、イザベラさん?タバサならもういないぜ?」
そう言われるとイザベラはつんとそっぽを向いた。
「わかってるよ、昨日のあんなことしたあとじゃ会いづらいだろ」
「照れてんのか?」
もしかして……という口調で陽介は尋ねる。
「そんなんじゃないけどさ……」
口ごもるようにイザベラは言った。
陽介が見るに的は射ているのだろうが、どうも複雑な感情もあるようだ。
「で、なんのようだ?」
陽介は話の舵を別の方向へと切ると、イザベラはこの部屋に来て話そうした本題を語る気になったらしい。
「あんたにはあの子のことを良く知っていて欲しいの」
イザベラは打って変わって真剣な表情になる。
「あの子にとって一番大切な人は実家にいるの……。それを知らないとあの子のことはわかんないのさ。
ヨースケ、あんたにあの子の力になって欲しいんだ。あたしには、やっぱり、その……難しいからさ」
イザベラが喋り終わったあとに二人はじっと見合った。それから陽介は言った。
「ああ、任せとけ。俺はなんつってもタバサの……」
「使い魔なんでしょ」
途中でイザベラが言葉を奪い取った。陽介はよくわかったなと笑った。
目的地には王都リュティスから出発して半日ほどで着いた。
それは大きな湖の近くにある立派な造りの大名邸だった。しかしどこかうらぶれた印象を陽介は持った。
その豪邸内に入ると陽介は客間に待たされ、タバサはさっさとどこか別の部屋に行ってしまう。
陽介は部屋を見回した。豪奢な造りで手入れも行き届いていたが、生気が感じられない。
高そうな絵も、きらびやかなシャンデリアも荒涼さを増やすだけだ。まるで人が住んでいないようだった。
もっともさきほど、ペルスランという老いた使用人に出会ったので本当にそうだというわけではないが。
部屋を見回しているとその老僕が盆を持って部屋に入ってきた。そして陽介の前のテーブルにワインと菓子を置く。
菓子に目もくれず、陽介は尋ねた。
「なあ、ペルスランさん、この家ってタバサの両親は住んでないのか?」
尋ねられた方は、じっと質問者の顔を見た。
「タバサとはシャルロットお嬢さまのことですか」
ペルスランはどこか苦々しげに言った。その苦々しさは陽介ではなく別の何かに向けられていると陽介は感じたがそれでも少し居心地が悪く感じた。
ペルスランはその様子に気付いたのか、はっとして言った。
「すいません。あなたが悪いというわけではありません。どうかご気分を悪くしないように」
「いや、別にいいっすよ」
それにしてもタバサというのは本名ではなかったのか。イザベラとの会話でおそらくはそうではないかと思っていたが。
シャルロットという名前もイザベラの口から聞いたような覚えもある。
「どうして、偽名なんて使ってるんですか、タバサは……いやシャルロットは?」
陽介をじっと見ながらペルスランは言った。
「よろしければお名前をお聞かせ願いますか?」
「花村陽介です」
「わかりました、ヨースケさま。お嬢さまがこの家に連れてきた方、また使い魔であるなら構いますまい」
それからペルスランは深く一礼すると語り始めた。
「今を去ること五年前、先王が崩御なさった時、二人の王子がいました。
現在、王位にあらせられるジョゼフさま、そしてシャルロットお嬢さまのお父上であられたオルレアン公のお二人です」
「やっぱりタバサは王族だったのか……」
陽介は自分で事実確認をするために口にした。
王女であるイザベラが従姉であるなら、タバサが王族なのは当然であろう。
「しかしご長男のジョゼフさまはお世辞にも王の器とは言いにくい暗愚なおかたであられました。
オルレアン公は王家の次男としてはご不幸なことに才能と人望にあふれていた。
そのため宮廷では、ジョゼフさまを王としようとする派閥とオルレアン公を、という派閥が生まれてぶつかりました。
結果を申しますとオルレアン公は謀殺されました」
「謀殺……って殺されたってことか!?タバサの父親が!?」
ペルスランは頷き、肯定する。
「狩猟会の最中、毒矢で胸を射抜かれたのでございます。
この国の誰よりも高潔なおかたが魔法ではなく下船な毒矢によってお命を奪われたのです。
その無念たるや、私などには想像もつきかねます」
なんと言っていいかわからず陽介は黙り込んでしまう。
「しかし、ご不幸はそれだけにはとどまらなかったのです」
ペルスランの話は続く。
「ジョゼフさまを王座につけた連中は、次にお嬢さまを狙いました。
将来の禍根を断とうと考えたのでありましょう。連
中はお嬢さまと奥さまを宮廷に呼びつけ、酒肴の最中に毒の杯をあおるように命じたのです。
そして奥さまはシャルロットさまをかばい、代わりにそれをお飲みになられました。
それはお心を狂わせる水魔法の毒でございました。以来、奥さまは心を病まれたままでございます」
陽介はペルスランの話を黙然として聞いている。
「お嬢さまは……、その日より、言葉と表情を失われました。
快活で明るかったシャルロットさまはまるで別人のようになってしまわれた。
父を失い、目の前で母が狂えば当然のことでしょう。そんなお嬢さまは素寸で王家の命に従いました。
困難な……、生存不能と思われた任務に志願し、これを見事果たして王家への忠誠を示したのです」
半ば言葉を失いかけていた陽介ははっとした。
タバサの受けた任務とはイザベラを仲介して命じられる任務のことであろうか。
ペルスランは陽介の様子がすでに見えなくなっているのか、感情に任せるままに言葉を紡いでいく。
「そして!未だに宮廷で解決困難な汚れ仕事が持ち上がると、解決を命じる!
父を殺され、母を狂わされた娘が自分の仇にまるで牛馬のようにこきつかわれる!
私はこれほどの悲劇を知りませぬ。どこまで人は人に残酷になれるのでしょうか」
そこまで言い切るとペルスランの激情も落ち着いたようで、一息ついた。
陽介は、無口で無愛想なタバサのことを考えた。親の仇にこき使われているという。
そしてイザベラのことを考えた。従妹に非情な命令を与えている張本人。
恨むべき敵であろうか。イザベラがいなくても彼女の父親であるという王が命令を与えるかもしれないが、事実として彼女はタバサに困難な任務を与えていた。
親のやったことに対して娘に責任はないはずだと陽介は考える。
彼女がタバサの親に何かをしたわけではないが、彼女は実際にタバサに命令を下していたのだ。
イザベラが変わろうとするならタバサがそれを許すならば構わないはずだ。
しかし考えてみれば陽介はタバサとイザベラの間に何があったかは、実を言うとロクに知らない。
腹の中がジリジリと焦れてくる感じがする。陽介は勢い良くソファから立ち上がってペルスランに尋ねた。
「タバサはどこにいるんすか?」
タバサの母の部屋の前で待っていると、タバサが部屋から出てきた。その顔は驚いているように陽介は見えた。
この世界に来てからタバサに付き従っている間に彼女の表情変化を読むことが出来るようになったのかもしれないし、
もしかしするとタバサが自分に気を許して感情を表に出すようにしてくれているのかもしれない。
あるいは表情の変化など気のせいかもしれないが、それは考えないことにする。
タバサは出てきてからしばし陽介を見つめたのち、歩き出した。陽介も横に並ぶ。
「ペルスランさんから話聞いちまった」
「そう」
短くタバサが答えた。
「そっか……」
その様子から最近タバサの表情を読むことに長けてきた陽介(そう思うようにした)は自分が知っても構わないとタバサが考えていると判断した。
それから陽介は何を言っていいか分からなくなってしまった。
いてもたってもいられなくなってタバサの母親が居る部屋でタバサの対面が終わるのを待っていたのだが何を言おうとは考えていなかった。
陽介は足を止めて振り返る。そしてタバサが先ほど出てきた扉を見た。
あの扉の先に心狂わされたタバサの母親がいるという。
イザベラの言ったタバサの一番大切な人、そして守りたい人なのであろう。その人があの部屋の中にいる。
彼女に関して一つ陽介に考えがあった。タバサが母親の部屋から出てくるまで待っていたときに浮かんだものだ。
彼女の心を狂わせたのは魔法の薬だという。ならばクマによって治せるのではないか。
クマはアムリタという毒・混乱など全ての状態異常を直す魔法を使えるからだ。
しかしそれを陽介はタバサに伝えられない。ペルソナ能力でこの世界の魔法を直せるとは限らないからだ。
もし効かなかった場合を考えると下手に伝えることは出来ない。
タバサは落胆の表情を見せようとしないだろうが、それがなおさらつらい。
考えをひと段落させて再び歩き出そうと視線を戻すとタバサと視線が合った。
陽介はビクっと体を震わして驚く。どうやらじっと陽介が歩き出すのを待ってくれていたようだ。
「うおっ……待っててくれてたのか?」
タバサは答えずに背を向けて歩き出した。
陽介は2,3歩ほど跳ぶようにして彼女の横に並んだ。
「ありがとな」
「いい」
つれない返事だったが陽介には、いや二人にはこれで十分であった。
二人は並んで歩いた。
投下終了。
基本的に一区切りで一章なので短いのと長いのでえらい差がありますね。
今までで一番長かったのは吸血鬼の話かな
乙ー
おつ
>>421 お前はノボルやあの出版社がハーレムエロ萌え以外に、何か考えて物を書いてると思ってるのか
>>421 別に写真とは書かれていなかったような
ファスナーなら三美姫の輪舞のコンプリートブックの書き下ろしノベルの挿絵でベアトリスの着てる
ボンテージ衣装にもついてるのが確認できる。ついでに彼女が土系統だということも確認できる
たしか肖像画じゃなかったっけ
>>431 ノボルはいい加減にパンツの方にも力を注ぐべき
>>434 そらのおとしものみたいにしろと?
智樹「ギーシュ、とうとうおれたちの夢がかなったな」
ギーシュ「ああ、トモキ君は天才だ。さあ、起動しろ。パンツ千枚から作り上げた我らの夢のガーゴイル!」
智樹「Go! パンツロボあらためパンツワルキューレ!」
オチはまかす
最先端すぎてついていけん
お久し振りです。
もうすぐ梅雨で雨が嫌いな自分としては憂鬱です。
何とか続きが完成したので、予定が無ければ投下します。
よろしくお願いします。
「…フー、いやー!人心地ついたぜー!」
プリッシュは目の前に積まれた何枚もの皿を満足そうな顔で見つめながら少し膨らんだお腹をさすっていた。
久方ぶりのちゃんとした食事に心もお腹も満足といった感じである。
プリッシュはシエスタの方へと向き直り、気持ちのいい笑顔を作って言った。
「お前に会えなかったら、あのまま飢え死にするところだったぜ!有難うな、シエスタ!」
「いえいえ、どういたしまして」
その様子を見て、シエスタはまるで母親のような顔でにっこりと笑っていた。
つい数分前、プリッシュは厨房の前をうろうろとしていた。
シャントットに教えられて厨房へ来たまでは良かったのだが、プリッシュはある懸念を抱いており、それが中へ入ることを躊躇わせた。
それは自身の見た目である。
ここへ召喚された時、自分とシャントットの姿を見た他の生徒やコルベールは恐怖と敵意を抱いていた。
また今朝出会ったメイドのシエスタも敵意こそは抱かなかったものの、同様のリアクションであった。
流石に何度も同じようなリアクションを取られれば、プリッシュも自身の姿が恐怖の対象であることを自覚する。
どうもここの世界の住人はエルフを恐れているらしい。
実際はエルフとは似て非なるものであるプリッシュだが、外見はエルフそのものである。
故に、彼女が何の躊躇も無く厨房へ入れば、中の人々がどうなってしまうかは想像するに容易い。
シエスタみたいにちゃんと話し合えれば誤解も解けようものだが、あれは一対一で相手が恐怖からその場を動けない状態だったから対話の機会を得ることが出来たのである。
人が多いであろう厨房内で対複数が相手なら、召喚された時と同様に敵意と恐怖が上回り、プリッシュの言葉は届かないであろう。
「む〜、困ったぞ」
プリッシュが唸っていると、そこへ配膳を終えて戻って来たシエスタがプリッシュの姿を見とめた。
「どうされましたか?プリッシュ様」
「ん?シエスタじゃねぇか!実はよお…」
プリッシュは厨房へ入れない理由を身振り手振りでシエスタへと伝える。
すると、シエスタはプリッシュの手を取り、にっこりと笑ってみせた。
「私に任せて下さい!」
シエスタはそう言うと、プリッシュを連れて厨房の中へと入って行った。
流石にプリッシュもこのシエスタの行動には吃驚したが、それ以上に厨房内も騒ぎとなる。
しかし、シエスタは落ち着いた様子で厨房の皆へ丁寧にプリッシュのことを説明しだした。
すると、最初はプリッシュの姿に脅えていた厨房の者たちも、次第に落ち着き始め、やがてプリッシュのことを受け入れるようになった。
厨房の中の一人がにこやかに言う。
「シエスタがそこまで言うなら問題ないだろうさ。あの子は嘘つかんしな」
その言葉に厨房の者たちは一様に頷いた。
中でもガタイのいい男が何かを手に持ったまま大きく頷いている。
「…ほらよ、使い魔の嬢ちゃん。腹減ってんだろ?賄いで良けりゃ食え食え!」
そう言って男が差し出したのは、とろとろのシチューであった。
「うおおおおお!い、いいのか、食っても!?」
「ああ!こんなんで良ければどんどん食ってくれや!俺の名はマルトー、ここの料理長をやってる。俺がいいって言ってんだから気にすんな!!」
「有難よ!マルトーのおっさん!!俺の名はプリッシュだ!!よろしくな!!」
「おっさん!?おっさんか!!確かにおっさんだ!!ガハハハ!!よろしくな!!」
二人はがっしりと固い握手をする。
こうして、プリッシュは無事賄い料理にありつくことが出来たのであった。
食後にプリッシュが食堂での一幕をシエスタも含めて厨房の者たちに話すと、マルトーはえらく憤慨した。
「ったく、これだから貴族の連中ってのはよお…」
「マルトーのおっさん、どうしたんだ?何かむかついてんのか?」
「ああ、俺は貴族の連中にむかついている!!奴らと来たら、あれだけ大量に飯作らせるくせに自分たちは殆ど食わないで残しやがるんだ!」
「うわあ…勿体ねぇなあ」
プリッシュは先程の料理の山を思い浮かべ、心底勿体無さそうな顔をする。
そんな彼女の顔を見ながら、マルトーは力を込めて言った。
「ああ、勿体無い!勿体無さ過ぎる!!…だからなるべく残ったもんはうちらでこっそり分けて食ったりもしている」
「ってことは、そん時にここへ来れば俺もあの美味そうな飯食えるのか!?」
「勿論だ!使い魔の嬢ちゃんなら歓迎だ!極上のワインを空けて待ってるよ!…残り物だけどな」
「うおおおお、そいつはいいこと聞いたぜ!!」
プリッシュは心の中でガッツポーズを取る。
マルトーはニカッと笑った後に、沈痛な面持ちになった。
「…それに、連中は味の違いも分かりやしねえんだ。せっかくこちとら工夫に工夫を重ねて日々美味いもの作ってやってるのによ!」
「おお、確かにさっきのシチューは美味かったぜ!!あれは店に出せるレベルだな!!」
「使い魔の嬢ちゃんは分かってるねえ!!…それにしても、嬢ちゃんの主人も酷えなあ。いくら使い魔だって、ちゃんとした人間なのにあんなもん与えるなんてよ。明日さえ見えない貧民じゃあるまいし、いくら何でもあんまりじゃねえか」
マルトーは怒ったような口振りで言った。
その隣でシエスタは困ったように笑って何も言わなかったが、概ねマルトーに肯定気味な様子であった。
プリッシュもマルトーに同調して頷く。
「ったく、アイツはちょっとどうかしてるぜ!使い魔にしたって俺は納得してるわけじゃねーのにあんなものしか食わせてもらえなくて、それで従えって言われても誰も従わねぇっつーの!」
「ガハハハ!貴族相手にその物言い!ますます気に入ったぜ!!さっきも言ったけどまた来な!!うちらは何時でも使い魔の嬢ちゃんを歓迎するぜ!!」
「おう!遠慮しないでまた来るぜ!」
そうして暫く談笑してから厨房を後にしたプリッシュは食堂へ戻ろうとした。
ルイズに会いたくないと思っていた気持ちが嘘のように消えていたのだ。
お腹がいっぱいになり、マルトーたちに不満をぶちまけて先程までのモヤモヤがスッキリしたからだろうか。
そんな些細なことは気にせず、プリッシュは食堂までの道を進む。
すると、十数m先に何やらキョロキョロとせわしなく辺りを見回すルイズが目に入った。
恐らく自分を探しているのだろうと、プリッシュは遠くから呼び掛ける。
「おーい、ルイズー!」
「あ!居たわね、この馬鹿犬!!」
返ってきたのは辛辣な言葉であった。
いきなり居なくなった自分も確かに悪いが、馬鹿犬呼ばわりをされる道理は無いとプリッシュは憤る。
こちらへドタドタと向かって来るルイズにプリッシュは言った。
「おい、何で俺が馬鹿犬なんだ!」
「うるさい!主人の申し付けを守らない使い魔なんて、馬鹿犬と同じよ!」
「何だよそれ!」
ムキになって言い返すプリッシュに背を向けてルイズはまたドタドタと歩き出す。
プリッシュはその背中に何か言ってやろうかと思ったが、有効な言葉が出なかった為、仕方無く無言でルイズの後をついていった。
無言のまま歩くこと数分、二人は広い部屋へと入った。
中は教室のようで、召喚の儀で見掛けた少年少女たちがそれぞれ席に着いている。
今朝、ルイズをからかいに来たキュルケという少女の姿も確認出来た。
ルイズがさっさと自分の席へ着いたので、プリッシュも隣に座ろうとすると、途中でルイズに止められた。
先程とのデジャヴを感じたプリッシュは「またか」という顔でルイズに尋ねた。
「今度は何だよ?」
「アンタは使い魔。まさか御主人様の隣に座れると思ったの?自分の立場というのを弁えなさい!」
「ハァ!?」
今度という今度は流石に腹に据えかねたプリッシュが何か言おうとしたその時、教室内へ一人の中年女性が入って来た。
「ハイ、皆さん。席へ着いて下さいね」
その言葉と共に、まだ着席していなかった生徒たちが慌てて自分の席へと戻って行く。
プリッシュの怒りは、中年女性の一言でそがれてしまい、仕方なくその場に座り込む。
その様子をルイズがうんうんと納得しながら見ていた。
(カーーー、本当にむかつく奴だぜ!!)
プリッシュは心の中でそう叫ぶと、長い耳の中へ小指を入れて穿り出す。
このままルイズと目を合わせていたくなくなっていた。
「これより授業を始めます。初めての方もいらっしゃるようなので自己紹介しますね。私はシュヴルーズ。『錬金』を教えています。どうぞよろしくお願いします」
シュヴルーズと名乗った中年女性は教師のようで、紫を基調にした服に身を包み、如何にも魔法使いですと言わんばかりの帽子を被っていた。
シュヴルーズはニコニコと笑いながら言った。
「皆さん。春の使い魔召喚は無事に大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」
そう言うと、シュヴルーズの視線がプリッシュを捉えた。
「ミス・ヴァリエール。亜人とはまた変わった使い魔を召喚しましたね」
その一言に、ルイズはあまり面白く無さそうな顔をする。
どうも『変わった使い魔』という言葉がどうもお気に召さなかったようである。
そんなルイズへ小太りの少年が小憎たらしい声を掛けた。
「流石ゼロのルイズ!使い魔も俺たちとは全然違うんだな!いや〜驚いたよ〜」
小太りの少年の口調や表情から、言葉とは裏腹に明らかにルイズを馬鹿にしていることが分かる。
すると、彼の言葉に何人かの生徒がクスクスと笑い始めた。
その笑い声を聞いて、ルイズは激昂に駆られ立ち上がる。
「ミセス・シュヴルーズ!風っ引きのマリコルヌが私を侮辱したわ!」
「何だと!?『ゼロ』のくせに僕を侮辱するのか!?」
「うるさいわね!!先に侮辱したのはアンタでしょ!?」
「何言ってるんだよ『ゼロ』なのは事実だろ!!」
「うるさい!!!!」
二人のやり取りがエスカレートし始める。
シュヴルーズがやれやれと杖を取り出そうとしたその時であった。
「うるせぇぞテメェ!!!!!」
教室内に怒りを孕んだ声が響き渡る。
一瞬で教室内は静けさを取り戻した。
怒号の主はルイズの隣で地べたに座り込んでいるプリッシュであった。
「な、な、『ゼロ』の使い魔のくせに…」
「その口閉じな!今すぐここでボッコボコにしてやってもいいんだぜ!?」
「ひ、ひぃ!!」
プリッシュの迫力に圧され、小太りの少年はそのまま黙り込んでしまった。
一方のルイズは唖然とした表情でプリッシュを見つめている。
「アンタ…」
「…」
プリッシュは無言であった。
ルイズはプリッシュから目を離して席に座りなおす。
「あ、あ、あ、え〜と、で、では授業を始めます。オホンオホン」
突然のことでテンパったシュヴルーズはこの空気を打破する為に無理矢理授業を開始した。
思わず素っ頓狂な声が出て来るが、気にせずに教科書を捲る。
その間、ルイズはチラッとプリッシュの方を見やった。
先程までのルイズはこの反抗的な使い魔をどうやって躾けようか考えていた。
何を言っても文句を言うし、時には逆らおうともする。
だから、つい厳しく当たってしまっていた。
しかし、そんな自分の為に彼女は怒ってくれたのだ。
(プリッシュ…)
ルイズは少しだけ、この使い魔に対しての見方を変えた。
そして、彼女への接し方を変えようかなと思案し始めていた。
(…まただ)
そうとは露知らず、プリッシュは先程の自分の行動に疑問を抱いていた。
(またアイツが馬鹿にされていると思ったら、腹が立ってきやがった。何でだ?アイツを庇う気なんて全然無かったのに…)
あんだけの扱いを受けて好印象を抱けというのがまず無理な話である。
だが、ルイズに対しむかつくことはあれど、嫌いになっていない自分がそこにいた。
別に彼女のいいところを見たとかそういうわけでも無いのに。
(…どうかしちまったのか、俺の頭は?)
プリッシュは頭をポリポリと掻いた。
その彼女の左手が少しだけボンヤリとした輝きを見せていたことに気付く者はいなかった。
というわけでここで5話目は終了です。
最後にシャントットのパートを入れようかと思ったのですが、
キリがあまり良くなかったのでそちらは次回の冒頭に入れようかなと。
次回で決闘直前まで持って行きたいなあって思います。
では、また。
443 :
ゼロの戦闘妖精:2011/05/28(土) 10:45:43.75 ID:xwQ2K/4F
ご無沙汰してます。『ゼロの戦闘妖精』です。
進路クリアならば 五分後より投下開始します。
また タルブまで行けなかった…
Misson 15「プロジェクトY 〜翼の名は ゼロ〜」
トリステイン・ゲルマニア両国首脳が結んだ『雪風製造計画』に関する、ある重要な会議が ここ トリステイン魔法学院の一角で行われていた。
『第一次生産機種 選定会議』
将来 雪風と同等もしくはそれ以上の航空機を 自ら造り出す為の第一歩として、雪風のデータに在る機体のコピー生産に挑むもので、同時に 対レコンキスタ戦の戦力増強を図ることも目的としている。
もっとも、製造の為の詳細なデータがあっても、それを執り行うだけの技術が未発達である以上、どのような機体を選んだとしても大差は無い。
それは、会議の参加メンバーの人選を見ても判る。ルイズと キュルケと タバサ、この三人だけなのだから。
一応の基準として 第二次世界大戦頃のレシプロ機を候補とし、雪風のモニタに様々な機体の画像を映し出す。
それを覗き込みながら 「あれがイイ」だの「これがイイ」だのと 姦しい。
レシプロ限定としたのは、コルベールが既に自力で 油種不明の燃料を使った内燃機関の作成に成功していた為だ。
ジェットは無理でも レシプロなら、下地がある分 (かなり無理をすれば)エンジン製作は可能であるとの判断だった。
また ジェット化の進行は、電装品の増加と比例する。
今のところ ハルキゲニアで製造可能な電気機械は無線機迄である。レーダーは、航空機用はおろかフネ用の物すら目処が立っていない。
その点からも 第二次大戦期の機体が限度となった。
キュルケの一押しは、『ユンカース Ju87 シュトゥーカ』
平行世界とはいえ、帝政ゲルマニアとドイツ第三帝国は なんら関係は無いハズだが、それでも何か通ずるところがあるのだろう。
それに、急降下爆撃と大口径機銃 火力重視な点からして、いかにも火のメイジ キュルケが好みそうな機ではあるが、
…ルーデルにでも なる気かキュルケ?
タバサが選んだのは、意外にも米軍の『P-38 ライトニング』
理由を聞くと
「…お腹すいた。オイルサーディン 食べたい。」との事。
まぁ 確かにペロハチは『メザシ』だけどね、 あるんかい!ガリアにメザシ!?
呆れ気味のルイズに、「他に無いの!」と言われて 次に選んだのは、『XF5U』
…タバサ、それは失敗作の試作機だ。ついでに、本物の『パンケーキ』じゃないから 食えんぞ。
「あんた達に任せても ロクな意見が出ないわね。
いい、対レコンキスタ戦において重視すべきは、竜騎士との空戦と戦列艦への攻撃 制空権の確保よ。
対地攻撃も必要になるでしょうけど、優先すべきは空戦性能。すなわち 軽快な運動性。後は 航続距離 いえ滞空時間ね。
こちらの機体生産が軌道に乗るまでは 敵の竜騎士とは圧倒的に数量で差があるはず。
となれば 一機が出来るだけ長時間戦い続けて 相手の数をガンガン減らさなきゃならないわ。
以上の条件を満たす機は、これよ!」
ルイズが 過剰なパースの付いたポーズで指さすモニタには、緑色のボディに赤い丸の描かれた戦闘機。
ハルケギニア語に変換された その機体のデータ表示を覗き込む二人。
「ルイズ。アンタ、ひょっとして!」
「……『名前』で、選んだ?」
「そっ そんな事は、(ちょっとしか)…ない…わ…ょ…」
こうしてハルケギニア製航空機の第一号は、『三菱 零式艦上戦闘機(のレプリカ)』になる事が決定した。
その 少し前に
「ねぇルイズ、この機は何ていうの?」
「うん どれよ、ちょっとキュルケ ページ進めすぎよ!」
「イイじゃない。これ 頑丈そうだし 見るからに強そうだし、アタシ これがいいわ!」
「確かに強いけど、それ そんな形でも一応ジェット機よ。それに 最初の機体としては、色々とハードルが高すぎるんだってば。」
「じゃ これは、ツェルプストー家が独自で作ることにするから 資料だけ頂戴。それならイイでしょ。」
「…無理だと思うわよ〜?」
なんてやりとりもあったりする。
(さて キュルケのお気に入りは 一体なんでしょう?)
魔法学院に 皆が忙しくなる時期が近付いていた。
学生の本分にして 不倶戴天の強敵、『期末試験』である。
しかし それさえ乗り越えてしまえば、待っているのは『夏季休暇』。学生生活最大級のイベント 夏休み!
生徒達は、尻を叩く鞭と 目の前のニンジンの相乗効果で、全力疾走状態。教員も 試験の準備に追われていた。
そんな中 ルイズは、他の者と全く違う事に忙殺されていた。
雪風の調査及び航空機製造計画の本格始動で、トリステイン・ゲルマニア両国のアカデミーから百名近い研究者が派遣されてきた。
その誰もが 未知の技術の塊である 雪風に魅了された。知らない・判らないものは知りたくなるのが 研究者の性。
それに答える事が出来るのは、今のところルイズ唯一人。当然の様に 彼等はルイズの元に殺到した。
新規の人員が派遣されるたび、また最初から一通りの説明をしなければならない。もちろん ルイズが。
その手間を省く為に 初心者向けの参考書を作ることにした。しかし その原稿もルイズが自らの手で書かねばならない。
「う〜 せめて、プリンタか 外付けモニタがあれば!」無い物ねだりのルイズ。
少しでも負担を軽くしようと 口述筆記も試しにやってみたが、書き手にとって聞いた事の無い単語が出て来る度に手が止まってしまい、いちいち解説せねばならないので 却って手間がかかってしまった。
結局 アンリエッタに泣き付いて予算を貰い、トリスタニアの出版社を一つ買い取って そこの機材を一式 学院へ運び込んだ。
そして 雪風の浮遊式自動投下ポッド(ひさびさ登場の『トーカ君』)にサンプル回収アームで活字を拾わせ、そのまま印刷することにした。これなら ルイズが間に入らなくとも、雪風が直接制御可能だった。
ただし この手法が使えるのは文章だけで、図や挿絵等はダメだった。ルイズも さほど絵心があるほうでもない。そこで、デルフリンガーの『ウラ技』を使うことにした。
デルフは その使用者が意識を失った等の非常時には、使用者の身体を操って動かす能力がある。これと 雪風のデータリンクを組み合わせると…
まず ルイズがデルフを握ったまま寝る。デルフはルイズを机に向かわせる。そして 雪風がデルフ経由でルイズに絵を描かせる。
これで 睡眠時間も無駄にせず仕事が出来るようにはなったが、その分 疲れは溜まっていく。
ルイズは毎朝 起きぬけに、疲労回復のマジックポーションを飲むのが習慣になってしまった。
新規派遣メンバーへの対応を進めながらも、初期からの人員により『零戦』開発は始まっていた。なにせ 時間が無かった。
トリステインからの兵員増派により、ニューカッスル城におけるアルビオン王家対レコンキスタの戦闘は小康状態を保っていたが、反乱軍が大規模攻撃を仕掛けるまで 早ければ三ヶ月 遅くとも半年と予想されていた。
それまでに新兵器を開発し、運用可能にしなければならない。
この計画に携わる 全ての者達が、自分の専門分野で 挑戦を続けていた。
異世界の 未知なる機械。それに使われているのは 職人にもメイジにも未知なる素材。だが それを作り出せねば 求める機械は完成できない。
今 一人の土メイジが、その新素材の一つに挑んでいた。
(どうして…何故上手くいかないの! いえ、焦ってはダメ。落ち着くのよ 冷静になりなさい。
『アルミニウム』単体なら もう確実に錬金出来る様になったじゃない。あとは 混ぜ合わせるだけ。全てを均一に。そして 一体化させる。
まったく。『合金』なんて考え方 そのものが無かったのに、今までよく『合金』の筈の金属が錬金出来ていたモノね。
それにしても 『科学』は凄い。ほんの少し 何かを混ぜる、その比率を変化させる。それだけで 物の性質が劇的に変化すると言うのですから。
さあ もう一度。朝から何度も失敗して、精神力も残り僅か たぶんこれが最後の一回。思い描きなさい、軽くて 丈夫で 光り輝く金属を。
必ず成功させてみせる!私の、姉としての、ヴァリエール家長女の尊厳を賭けて!)
エレオノールは呪文を唱え 杖を振り下ろす。机の上の試料(石の塊)が、鈍い銀色の物体へと変化する。それをじっと見つめる ルイズ。
雪風とのデータリンクは、雪風側からルイズへ情報を伝えるだけのものではない。リンクの影響からか、大幅に強化されたルイズの五感を 雪風に送信している。ルイズは 雪風の最も多機能な高感度外付けセンサーユニットでもある。
ルイズの送ったデータを、雪風が分析する。…さて 判定は?
「やった! やったわ大姉様!『超々ジュラルミン』 錬金成功です!!」
「おちび、私を一体誰だと思ってるの。これくらいの事、出来て当たり前よ!」
内心 ホッとしながら、そんな様子は微塵も見せないエレオノールだった。
錬金魔法の要 それはイメージの具現化である。術の成否を決めるのは、術者が錬金する対象をどれだけ理解しているかという事。
『黄金』すら錬金可能なスクエアメイジであっても、もし『真鍮』を知らなかったとすれば、学生にでも錬金可能なその卑金属を作れない。そういうものだ。
錬金の第一歩は、対象を知ること。見て 触って 確かめる。『解析』の魔法を掛けて より深く探る。そして 自分の中に確固たるイメージを作り上げる。
今しがた エレオノールがやってみせたのは、違う。
現物の存在しない未知の物質、それを 『原子番号』や『分子構造』 密度や物性といった情報のみから錬金したのだ。
これは 画期的なことである。
メイジが目の前の物質から得られる『情報』は 感覚的なものであり、言葉にする事すら難しい。
科学における『情報』は 概念的であり 多くの場合数値化されている。
科学知識を学んだとしても、それを魔法の発動に必要な『イメージ』に変換できなければ、せっかくの知識も『宝の持ち腐れ』にしかならない。
来るべき新時代の土系統メイジに求められるのは「科学情報を魔法感覚にコンバートする能力」であり、エレオノールはそれをやってのけた。
「じゃ、早くそれを持って行って、解析の資料にしなさい。そうすれば 皆コレを錬金出来る様になるでしょう。
私は疲れたから、ちょっと休ませてもらうわ。」
妹の前で みっともない姿は晒せない、その思いだけで 何とかここまで耐えてきたが、流石にもう限界だった。
エレオノールは 手近な椅子の所まで行くと 崩れ落ちるように座り込み、そのまま眠ってしまった。
(ありがとうございます、大姉様。これで 何とかなりそうです。)
ルイズは改めて 自分の姉に感謝した。
アルミニウムの生産は 鉄や銅と事情が異なる。
まず、原料であるボーキサイトを採掘する鉱山自体 現時点では存在していない。更に、アルミの精錬は 他の金属の様に熱して溶かすだけでは済まない。工業的手法で大量生産するのは、現状では不可能だ。
よって 錬金による生産に頼るしかない。少しでも多くのメイジに アルミの錬金を修得して貰いたい。その道筋を 姉が切り開いてくれた。
嬉しかった。ルイズの瞳は 涙で潤んでいた。
同じ部屋の中に もう一人、潤んだ瞳でエレオノールを見つめる少年がいた。
彼の名は、トーマス・ワット。あのワット長官のお孫さんで 中々の美少年。
齢十二歳ながら 父親の『車載用蒸気機関 開発計画』に名を連ねるほどの秀才で、祖父から『機関車』の二つ名を貰っている。
(スゴイ人だなぁ。あんなに立派で 堂々として 凛々しくて、それに…あんな綺麗な女の人 見た事ないや!)
それは、初めてのトキメキ。一人の少年が 恋に落ちた瞬間だった。
彼が 自らの思いを成就させるには、幾つもの難関が立ちふさがるだろう。
まずは、あのエレ姉に『ショタ属性』があるかどうかだが… とりあえず頑張れ トーマス君!
『錬金とイメージ』の問題では、こんな事もあった。
今後、無線機や発電機を作る為、配線ケーブル用銅線が大量に必要となる。
『銅』といえば『ギーシュ』、ということで 早速 銅線を錬金させてみる事になった。
人型と糸状という形の違いに 初めは戸惑っていたようだが、そこは『青銅』の二つ名を持つメイジ、一発で決めて見せた。
「うわぁ〜 凄く細いわ! それに 綺麗な緑色。」
錬金されたケーブルの束を手にとって 感嘆するモンモランシー。だが すかさずギーシュにルイズのツッコミが入る。
「ギ〜シュぅ アンタねぇ、なんで最初から『サビ』てるのよ! うわっ それも芯まで!
これじゃ 電気が通らないじゃない!」
ギーシュは、???。
「えっ だって 青銅ってのは こういうもの…」何が問題なのか 判らない。
「違〜う!
いい、『青銅』ってのはね、銅を主成分とし錫を含んだ合金で、本来の色は 錫の含有量によって変化するけど赤銅色から黄銅色なの。
錫が多量になれば銀色に近くなるけど その分脆くなるわ。
アンタが言う緑色のは、酸化して生じた炭酸塩の『緑青』、つまりは錆よ。それで、(…以下 小一時間ほど「ルイズ先生の金属学講義 青銅編」)』
ギーシュにどれだけ理解できたのか それは不明だったが、今度は『純銅』を錬金させてみた。
数回の失敗の末、なんとか赤銅色に輝くワルキューレを作り出すことに成功した。だが そこまでだった。
慣れ親しんだゴーレムならば、多少材質が違ってもイメージできる。しかし、糸状に整形するには 作り慣れた『錆び青銅』でなければダメ。
やはり 問題となるのは『イメージ』だ。ならば そのイメージを補助するもの 想像のトリガーとなるものは無いか?
ルイズは、雪風の検索データの中から ある『絵物語』を発見した。
(これよ、これだわ!)
再挑戦の日。
ギーシュの杖から 花弁が一枚落ちる。現れるのは純銅製のワルキューレ。ここまでは良し、さて 上手くいくか?
新たに追加された呪文、それを唱えてもう一度杖を振る。
「いくよ、『ワルキューレ、ストーン・フリー!』」
その言葉と同時に、赤銅色の戦乙女が編み上げ人形の様な姿へと変化し、わらわらと解けていく。そして地上には銅ケーブルが積みあがっていった。
成功!
「やったわねっ!ギーシュ。」
「なに、君の見せてくれた あの絵物語のお陰さ。」無意味にジョジョ立ちポーズで応えるギーシュ。
「それにしても あの話は面白かったなぁ。
あの前と 続きもあるんだろう?よかったら それも…」
「あ〜 悪いけど 今は忙しいから無理。まぁ そのうちにね。」
(冗談じゃないわ。それ 私に第一部から全部書けって事!?あんな細かい絵 とてもじゃないけど描いてられないわよ!!
あんな絵を 毎週毎週何十枚も描き上げてるなんて、向こうの世界の『マンガ家』って ほんとにニンゲンなのかしら…)
計画の進行に伴い 大量の人員がトリステイン魔法学院へ派遣され、そのための宿舎や研究棟の増設が必要となった。
幸い 学園周辺には十分な土地があったので、現在 ちょっとした建設ラッシュの様相を呈している。
それを仕切っているのが、学院総務部 修繕課所属の『親方』。(Misson 02参照)
実は この人物、トリスタニア職人ギルド 理事の一人でもある。そして 王宮と職人協会から、ある重要な任務を与えられていた。
「フォッフォッフォッ、どうですかな。職人達は 学者連中と上手くヤッとりますかな?」
学院長室で茶を飲みながら歓談する オールド・オスマンと親方。
今回の計画では 普段あまり接触の無い職人と研究者が かつて無いほどの大人数で 共同で任に当たることになる。
そこで生じる様々な軋轢等を調整するのが この二人の役目だった。
一線は退いているが 名人と名高い親方に 面と向かって逆らえる職人はいない。また アカデミーの研究員は ほぼ全員が学院卒業生でありオスマンの教え子だ。調整役としては 正に適任と言える。
(ちなみに ゲルマニア側は 産学共通で顔の効くワット卿がいるので 問題は無い。)
「なぁに 皆 喜んでますよ。普段 縁の無ぇ貴族の先生方の前で 思う存分自分の腕前を披露出来るってね。
それに ルイズ嬢ちゃんは、今じゃ職人の間でも えらい有名になっちまいましたし。」
「フム、例の『定規(スケール)』の件ですな。そういう貴方も?」
「ええ 頂きました。
尤も 私のは腕前云々ではなく、『世話になっている 礼代わり』って事でしょうがね。」
きっかけは 雪風の機関砲弾だった。
残りの弾丸が心許なくなった時点で ルイズは、馴染みの職人にその製作を依頼した。
砲弾の素材や火薬の質については いかんともしがたく、『無いよりマシ』ぐらいのつもりだったが やはり 満足のいくものは出来なかった。
問題は 『精度』だ。
ハルケギニアにも 一応、長さや重量の規格は存在する。(無ければ商取引や徴税は成り立たない。)
だが それが極めて粗い。一般に用いられる長さの最小単位が『サント(cm相当)』で それ以下は目分量。
流石に 時計やオルゴールなどの精密機械を作る職人は そうは行かないが、それでも厳密な統一が図られているのは 個々の工房の中だけ。
同じ規格の部品を他の工房で製作すれば 微妙にサイズが違ってきてしまう。
これを何とかする為 ルイズが次に出した注文は、『精密な定規』だった。
mm単位 一部は0.1mm単位の目盛りを刻んだ金属製の定規を複数作らせ、ルイズの目を通して雪風に検品させる。
不合格なら廃棄処分とし 合格したものにヴァリエール家の紋章を入れ 職人に手渡した。
「私からの注文品には、このスケールを使ってね。」
そう言ってルイズは 改めて砲弾のオーダーを出した。職人は それに応えて見せた。
『良い職人を育てるのは、客の出す難題』という格言があるらしい。あの職人は みるみる腕を上げていった。
そうなると、「何があった?」と 仲間内で評判にもなろうというもの。
そこで、「ちょいと一杯!」と誘い出し 酔わせたところで問い詰めりゃ、語られるのは『貴族の少女の 奇妙な注文』。
無理だと思った精度の要求、それを成し遂げられたのは、
「まぁ コレのお陰かな。」 掲げて見せる 一本の定規。そこに煌く 公爵家の家紋。
「ウォオォ〜!」酒場の一角で どよめきが上がった。
翌日から ルイズの元に、若手職人の売込みが殺到した。
「あの野郎よりオレの方が、腕ぁ立ちますぜ!」
「どんなシロモノでも 作ってみせまさぁ。」
「ぜひアッシにも、注文を!」
新しいモノへの興味、先に行った者へのライバル意識、そして比較的保守性の強い職人社会での 久方ぶりの『面白イベント』
それは ちょっとした『祭り』だった。
ルイズとしても 意欲的な職人と面識が出来るのは 願ったり適ったり。
その中から 見込みのありそうな者数名を選んで、先の『紋章入り定規』を渡した。彼等も ルイズからの注文をこなしていくうちに 驚くほどに力を付けていった。
そのため 今ではこの『ヴァリエールの定規』は、職人の腕前を示すステータス・シンボル化しているのだ。
それは トリステインの職人社会という枠を超えて 広がりを見せつつあった。
『零戦』のエンジン製作担当部会。若いトリステイン貴族が、錬金でのピストン・シリンダー成型テストに臨んでいた。
彼は 「精巧な造型」を得意とし メイジ社会では評価が高い男であったが、それでもシリンダーに収まるピストンを作るには 数回のトライを要した。
(難しいものだな。)
精密な仕上げには それなりに自信はあったものの、かつて無い程の精度を要求する『エンジン』という機械に興味を持ち、そして遣り遂げた事に満足感を覚えていた。そこに、
「あの〜、貴族の旦那。
其方に在ります失敗作 『出来損ない』のうちの幾つかを、一晩 預からせちゃあ貰えませんか?」
若手の職人が一人 申し出た。
「ん? 構わんが、何をしようというのだ。」
「へへっ、それは明日のお楽しみ ってことで。
ちょいとばかり 面白いモノをご覧に入れますよ。この『定規』に懸けまして!」
翌日 その言葉は真実であると証明された。
錬金で作られたピストンは、かろうじてシリンダーに挿入することが出来る その程度の物でしかなかった。
職人が一晩かけて加工したそれは 違った。
『ぴったりと』嵌るのだ。まるで 元々一つのモノであったかのように。
居並ぶ貴族達は 驚愕した。
(これが 平民の、職人の『技』なのか!)と。
だが、
「兄さんや。今度はソレを ワシに預けてみんか?」
そう言ったのは ゲルマニアの老職人だった。
数時間後 再度披露されたピストンとシリンダーを見ても、メイジ達には何処が変わったのか判らなかった。
しいて言うなら、「動きが滑らかになった」位か。
ただ 先程の若い職人だけが そこから目を離せずに身を震わせていた。そして 唐突に、
「御見逸れしました〜!」と 跪いて頭を垂れた。
メイジ達の困惑は深まるばかり。
「兄さん、頭を上げなせぇ。何も そんなつもりでやった事じゃねぇ。」
「いいえ。
オレは 思い上がってました。
ヴァリエール様に目をかけて頂き、『定規』まで下さった事で すっかり天狗になってたんです。
それに気付きました 気付かせて頂きました。」
「いやいや、アンタ その若さにしちゃぁ イイ腕しとる。あれ程の『仕事』が出来るんじゃからな。
きっちり固定する部品なら どうにも文句の無いシロモノじゃった。
じゃが アレは可動部品じゃ。ピストンは、何千回 何万回 数えるのもバカらしくなる位にシリンダーの中を往復する。
そんな機械のキモは、『遊び』よ。キツくては駄目 ユルくともイカン、その『間』を見切る事。それが肝心じゃ。」
「はい!」
「ワシは 磨き職人じゃ。
ワットの先生様が 初めて蒸気機関を作りなすった時からずっと、シリンダーとピストンを磨かせてもらっとるからのぅ。『遊び』の具合は この手がしっかり覚え込んどる。
じゃが それはあくまで蒸気で動くピストンのもの。今度の機械は シリンダーの中で直接油を燃やすとか。この老いぼれの経験など どれほど役に立つのやら。
新しい機械の『加減』を見極めるのは、若いアンタらの役目。ワシは せいぜい 手伝う事しか出来ゃせんよ。」
「はい、師匠!」
「ひょっ、『師匠』とな?」
「オレは今日、大事なことを教えて頂きました。だから…
何も ゲルマニアの工房まで押し掛けようとは言いません。ここで 一緒に働いている間だけでも。
心の『師匠』と呼ばせて下さい!!」
若手職人は 思った。
(さすが 機械に関しちゃあ、ゲルマニアは一歩も二歩も先に居る。でも あの『雪風』は、それよりずっと先に居るんだ。
まずは『師匠』に追いついて 乗り越える!そして もっと もっと もっと!)
ベテラン職人も 思う。
(トリステインも、イキの良い職人が育ってきとるわ。こりゃ ワシらゲルマニアも うかうかしておれんわい。
にしても ここの熱気はスゴイのぅ。工房の内弟子共も 一度は連れてきてやりたいもんじゃ。いい経験になるじゃろうて。)
技術は 国境を越えて、人と人を結び付けていく。
職人同士だけではなかった。
メイジは 『匠』の世界を垣間見た。貴族の『誇り』と似て非なる 平民の『職人魂』に 何かを感じ取った。
彼等もまた 『技術者』であった。『造る者』だった。新しきモノを生み出す為に この場に集った『同志』だと判った。
平民 貴族、身分違い それがどうした。目指すは一つ 『零戦』の完成。それだけのため 共に往こう。
ハルケギニア六千年の滓、魔法による階級意識は 一時の感情で消し去れるほどヤワなものではない。
しかし 今この場にいる者たちの心の壁には ホンの小さな穴が開いたのかもしれない。
強固な堤をも壊すという 蟻の一穴が。
それは 一月余り 二月にも満たない日々だった。
嵐の如く 怒涛の如く 駆け抜けた日々だった。
貴族が居た、平民が居た。メイジが居た、職人が居た。
翼を作った者達が居た。プロペラを作った者達が居た。風防を 車輪を 計器を作った者達が居た。
悩み 対立し 激論を交した。支え合い 手を取り合って進んだ。夜を徹して 幾度も繰り返した。
そして 全ての成果は一つになった。
森の中に『基地』があった。
ある使い魔の為の『秘密基地』だった。
今ではもう 秘密ではない秘密基地。
そこに、
皇女が居た。皇帝が居た。大臣が居た。
学者が居た。教師が居た。軍人が居た。
職人が居た。学生が居た。使用人が居た。
それを見る為に、それの完成を祝う為に、皆が集まった。
滑走路に佇む 一機の『零戦』
オリジナルのそれとは 微妙に違う姿。
技術的に届かなかった部分、意図的に変更した部分。それらを含めて これが、ハルケギニア製航空機 第一号だった。
ゼロからの挑戦。百年以上の技術史を飛び越える偉業を 人々は成し遂げた。そして 祈った。
「この機の未来に 幸あらんことを」と。
今この時だけは、兵器の宿命 人殺しの道具であることを忘れ、ひたすらに祈った。
『零戦』が飛び立つ。
テストパイロットは、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
現時点における 唯一の航空機パイロット。だが すぐに、そうではなくなるだろう。
この試作機が オリジナルと異なる点の一つ。複座化されている事。練習機としても使用できる事。
トリステイン・ゲルマニア両国の飛行幻獣騎士から選抜された パイロット候補達は、機種(騎種?)転換訓練の開始を 今か今かと待っている。
(皇女と皇帝陛下御自身も名乗りを上げたが、側近達に全力で阻止された。)
試作『零戦』(通称 ゼロ号機)の完成により 計画は一つのヤマを越えた。だが これからが本番なのだ。
ゼロ号機は ハルケギニアに多くの新技術を伝えると同時に、現時点でのトリステイン・ゲルマニアの工業力 その可能性と限界を浮き彫りにした。
雪風は 情報を詳細に収集し、FAFへと送信した。
FAF電子知性体群は、雪風を通じて 未知の技術体系である『魔法』の解析を進めていたが、捗々しい成果は上がっていなかった。
そこに、ハルケギニア側で 科学技術を用いて航空機の開発を進める との情報を受け、魔法技術と地球系技術の対比と融合が観測できるのではとの観点から、条件付きながら援助を惜しまない方針を採っている。
雪風からの情報を基に FAFシステム軍団 航空機開発局は、トリステイン・ゲルマニアの技術力に見合った形で零戦を再設計 『リファイン・ゼロ』として雪風に返信した。
機体性能及び生産性が大幅に向上した その製造計画は、ルイズによってすぐさま関係各員に配布され、試作機完成の翌々日には 量産機の生産が開始された。
これが、トリステイン・ゲルマニア連合軍 機械化航空騎士団 制空戦闘機『ゼロセン』の誕生に至る経緯 その ほんの一部である。
《続く》
以上です。
名前欄の入力をミスって missionがintermissionになってました。スイマセン。
当初の予定には無かった 『プロジェクトY』続編でしたが、相変わらず 雪風の出番が…
それと 避難所に
「サブのオリキャラばかりでなく原作キャラも活躍させて!」
との感想があったので、頑張ってみましたが、
やっぱり今回も『名無しの職人』が 主役っぽくなってしまいました。
他所では、
『貴族ヘイトな グロSS』が増えてるみたいなので、ウチは敢えて
「平民と貴族の ちょっとイイ話」みたいな感じにしてみましたが いかがでしょうか?
このSSの基本方針は「みんなで幸せになろうよ〜(By特車二課 後藤隊長)」ですので。
だから エレ姉様にも、小さな幸せフラグを立ててみました。
(今後どうなるのかは 私にも判りません。)
次回こそ 『タルブ村で夏休み』編になるハズ?
リアル投下に始めて遭遇した。
お疲れ様です。こういう職人ががんばる話って大好きです。
それにしても……あんたなんていうネタを出してくれたんだw
スレが違うじゃないかw
ところでこの「機関車」の二つ名を持つトーマス君は、名前との間に
「の」が付くのか付かないのか気がかりです。
雪風の人乙
そういやシエスタが雪風知ってたっけ…すっかり忘れてた
投下乙
偽善者トーマスじゃなくて良かったのじゃよ。
バストバースト!なトーマス思い浮かんだしにたい
>>456 モレスター・トーマぁス!ですねわかります
369
遅レスだが実は柊は他作品と比べても結構チート。原作で最初に柊が出てきた
時点でガンダールブの魔剣使い版とも言うべきスキルを取得してる。
さらにその時点で銃弾を魔剣で弾ける動体視力と反射神経をもってる。
正直最新刊の柊とサイトでサイトが勝つのはまず無理
そんなことより機関車トーマスから人面車両うじゃうじゃ召喚しようぜ!!
痴漢車凍升だと!?
落ち着きたまえ^^
あ、投下乙です
乙でした。
ガンダ印で思い出したが、孔濤羅は逆に弱体化したんだっけか。
リメイク版も出たことだし、続きが読みたいと言ってみる(チラッ
乙です
キュルケが気に入ったのってトリュープフリューゲルかな?
あれ、ガンナー2鋼鉄の咆哮ではヘリ甲板があれば戦艦でも運用できるから、ひよーんと飛んでいく姿を拝めるんですよね
でも航空機の攻撃力がバカ低いから最強の円盤機ハウニブーでも「いないよりまし」なありさまなんだよな
あと、ゼロ戦は無理に超々ジェラルミンを使う必要ないような。大戦末期には木製で作ることも研究されたし
まあ後世日本の木製戦艦や木製潜水艦はいきすぎとしても……
465 :
ゼロの戦闘妖精:2011/05/28(土) 19:52:31.44 ID:xwQ2K/4F
>>464 どうもです。キュルケのアレは、「ページを進めすぎてる」ってのがミソで、
だいぶ先の時期の機体です。(ある意味 『シュトゥーカ』の隔世遺伝?)
登場するとしても ず〜っと後になると思うので 忘れてもらっても大丈夫です。
紺碧・旭日ネタは やってみたいのもありますけどね。
特に 漫画版新旭日の『巨大ヒトガタ兵器VS巨大戦車」なんて、ヨルムンガンド戦でやれたら・・・
(あのシリーズ、『転生者』なんて 『にじファン』あたりにぴったりの設定があるのに 見かけないなぁ)
戦闘妖精の人乙
久しぶりにべらんめぇ調のワルドが見たいぜ
467 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/28(土) 20:12:41.12 ID:t8npJYra
戦闘妖精さん、すっごく面白かったです。
ワクワクドキドキして、人と人との繋がりがあって好かったです。
できるなら、シエスタがパイロットになってほしいなーって思います。
お体にお気をつけて、次回楽しみにしています。
468 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/28(土) 20:13:00.08 ID:t8npJYra
戦闘妖精さん、すっごく面白かったです。
ワクワクドキドキして、人と人との繋がりがあって好かったです。
できるなら、シエスタがパイロットになってほしいなーって思います。
お体にお気をつけて、次回楽しみにしています。
技術難易度が低めで、火力な機体?
燃料と弾薬を目一杯積んで、手動で攻撃できて、
頑丈でサバイバルキットが優秀な機体か?
空耳が聞こえる……
「タバサ、休んでいる暇はないわ、出撃よ!」
戦闘妖精さんとこのワル平は以前原作蹂躙とか色々叩かれていたけど、
凡人すぎて叩かれていたんだなぁ。
しかしいつの間にか戦闘妖精は完全にネタ、というかギャグ作品だな
>>469 まああのレベルでも、ハルケからは相当進んだものが揃ってなければ、長期運用どころか数回の出撃も出来ないんだけどな
昔からほとんどギャグだったろ
ヴオォォォ
いやまぁ柊はそもそもにしてウィザードなんだから
イノセントのサイトじゃガンダ補正あってもサイト不利でしょ。
しかし豊富な実戦経験を得たサイトが最高に心を震わせれば勝負はわからんと思うけどね。
あと今回は武器が剣だったけど、柊が苦手とする戦闘スタイルの箒を選択すると言う手もあるでしょ。
それから一番忘れてはいけないのは、柊はファンブル出せばギーシュにも負ける!(笑
俺は時代劇好きだからワル平気に入ってるよ
そういえば今度暴れん坊将軍と仮面ライダーがコラボするそうだな
ワルキューレ版ストーンフリーテラ吹いたwww
ジョジョ立ちするギーシュは見てみたいなwww
どうもゼロのペルソナの作者です。
なんか短編が書きあがったので今から投下します。
あ、登場キャラは↑からコンボイ、アイアンハイド、バンブル、メガトロン、スタースクリ−ム、サウンドウェーブです。
寛大な心で読んでね
さて、今日のトランスフォーマーは!
アメリカにある荒野、そこではサイバトロンとデストロンの戦いが繰り広げられていた!
「デストロンめ!今日こそ一人残らず息の根を止めてやる!」
そう威勢よく言ったのはアイアンハイド。
形勢はサイバトロン有利だ。
「ええーい、デストロン軍団!退却!!」
メガトロンの退却命令にデストロン勢は空を飛び、逃げ始める。
「臆病者め!どこまでも追って始末してやる!」
「落ち着け、アイアンハイド。追いかけるのは無理だ」
サイバトロン総司令官コンボイはアイアンハイドをなだめようとするが、
頭に血の上ったアイアンハイドはそれを受け付けない。
「いいえ、コンボイ司令官!あなたの命令でもこればっかりは聞けません!」
アイアンハイドは真っ赤なボックスカーにトランスフォームし、デストロンを追跡する。
「待て!アイアンハイド!」
「司令官!オイラが止めてきます!」
「いいや!わたしも行こう」
バンブルが黄色い小型自動車、コンボイはトレーラーに変形しにトランスフォームして後を追う。
空を飛んで逃げるデストロン軍団。
「やれやれ。あなたの命令に従うとロクな目にあいませんなあ」
「黙れ、スタースクリーム!」
その時、メガトロンにビームが突き刺さる。
「な、うおおおおおお」
メガトロンは地面へと落ちていく。
「サイバトロンの攻撃か?よーし者ども!メガトロンはくたばった!今からこのスタースクリームさまがデストロンのニューリーダーだ!」
デストロンのbQスタースクリームが高らかにニューリーダー宣言をしたとき、メガトロンを襲ったレーザーがその身を襲う。
「ぐわああああ!!」
「ウオッ!」
落ちてきたスタースクリームに巻き込まれサウンドウェーブも落下していった。
「どうだ!正義の力を思い知ったか!」
メガトロンとスタースクリームを狙撃したのはアイアンハイドだ。
「アイアンハイド!」
「お、バンブル。それにコンボイ司令官」
「独断行動は禁じたはずだぞアイアンハイド」
「すいません、司令官。しかし司令官、今さっきメガトロンとスタースクリームを始末しました。今から奴らの残骸を捜しに行くところです」
「なに!本当か!?」
メガトロンたちが落下した場所を探す三人。
その時、バンブルが奇妙なものを見つけた。
「わあ、なんだろ、これ?」
「どうしたバンブル?」
「見てください、司令官。なんだか変な鏡みたいなのがあるんですよ。コイツがなんなのかわかりますかね?」
バンブルの言うとおり銀色の鏡のようなものがあった。それはなんとも奇妙で、波打ち、宙に浮いているではないか!
いったいこれはなんなのか!?
「さあ、わたしにはサッパリだよ。だが危険なものかもしれない」
「わかりました。ってうわわわ……」
つまずき、バンブルは銀色の鏡に倒れこもうとする。
「危ない、バンブル!」
バンブルはしばらくの間、なんとか体勢を保とうとしたが限界をむかえ、倒れこんだ。
「わあああああああ」
すると不思議なことが起こった!なんとバンブルが鏡の中に吸い込まれてしまったではないか!
「おお、バンブル……」
「司令官、どうしましょう、バンブルが!」
「彼を見殺しには出来ない。行くぞ、アイアンハイド!」
「はい!」
鏡の中へ入っていくコンボイとアイアンハイド。果たして彼らを待ち受けるものは!?
鏡の向こうの世界。広がる草原にコンボイとアイアンハイドは放り出された。
「う、ここはいったい……?」
「あ、コンボイ司令官。それにアイアンハイドも」
「バンブルじゃないか!?ここはいったいどこなんだ?」
「さあ、オイラもわかんない」
「なんだか変な連中もいるな……」
アイアンハイドは周りを見渡す。三人の周りにはなにやらローブを羽織った人間が立っていた。
まるで中世の魔法使いのようである。
相談をする三人に一人の少女が近づいてくる。ピンク色の髪をしている。
「ワーオ、かわい子ちゃん」
バンブルは少女を見て小さく呟いた。
「わたしの名前はルイズ。あんたたちいったい何なの?」
「ああ、わたしはコンボイ。サイバトロンのリーダーだ」
「オレはアイアンハイド」
「オイラはバンブルっていうんだ。ヨロシク」
「よろしく。さっき出てきたのもサイバトロンなのかしら?」
アイアンハイドはバンブルに言った。
「きっとデストロンの連中だ」
アイアンハイドが先ほど現れたという者たちをデストロンと断定する。
「いいや、奴らはデストロン軍団。この世界を破壊しようとする悪の軍団だ」
「あら、そうなの」
「で、やつらはどこに行きましたか」
「わからないわ。飛んでどこかに行っちゃったから」
「ならしょうがない。サイバトロン、トランスフォーム!」
コンボイの掛け声で一行は車モードにトランスフォームした。
「さあ、乗って」
「ありがとう、バンブル」
ルイズはバンブルに乗り込んだ。
「じゃあ、魔法学校にまで行ってくれる?」
「オッケー」
魔法学院に付いた一行。
石造りの巨大な建物は中世ヨーロッパを思い出させる造りである。
「あら、ルイズじゃない」
塞の門をくぐりぬけて待っていたのは白いドレスを着た女性である。その手には古びた本があった。
ルイズがバンブルから下りた。
「アンリエッタさま」
「誰?」
「この国のお姫さまよ」
バンブルの質問にルイズは言葉短く答える。
なるほど、言われてみればアンリエッタという女性、高貴な雰囲気を放っているではないか。
「こちらの方たちは?」
「サイバトロンです」
サイバトロンの代表者としてコンボイが対応する。
「わたしはコンボイ司令官。実は鏡のようなものをくぐったらこの世界にやってきてしまったのです。
できることなら帰る方法を探す手伝いをしていただければありがたいのですが」
「まあ、それは大変。ルイズ、このかたたちの協力をしてあげなさい」
「はい」
「ところであなたが持ってるその古臭い本はなんです?」
アイアンハイドがアンリエッタ姫の手に持つ本のことを尋ねる。
「ああ、これはわが国の秘宝なんです。この国に危機が迫ったときに偉大な魔法使いがこれで魔法を使うと伝えられています」
「へぇ〜」
バンブルは感心した。
「なんだかちょっと見てみたいな」
「いいですよ。といっても何も書かれていませんが」
アリエッタはその古びた本を開いてサイバトロンたちに見せた。
「本当だ。何も書いてないや」
「これは偽物でしょう。きっと持つだけムダですよ」
アンリエッタは首を振ってアイアンハイドの言葉を否定する。
「いいえ、近いうちのこの本は役に立つことでしょう。なぜならアルビオンが攻めてくるからです」
「アルビオン?」
「アルビオンは空に浮かぶ国。そしてわが国の敵です」
「空に浮かぶだって」
サイバトン一行は衝撃的な言葉に驚いた。
上空高く雲の中にある国、アルビオンだ。信じられないだろうがこの国は本当に浮いているのである。
そしてアルビオンのリーダーであるクロムウェルの部屋。
彼はアルビオン一の野心家でもあるのだ!
「ふん、さてどうやればあの国を滅ぼせるものやら……ん、なんだこれは?」
クロムウェルは机の上に置かれたカセットテープを手に取った。するとそれは姿を変えた。
「な、なんだコイツは!?」
情報破壊兵コンドルである。コンドルは彼をつかむと窓ガラスを割って彼を連れ去った。
クロムウェルを待っていたもの、それはデストロン軍団だった。
コンドルはクロムウェルを運び終えるとカセットテープにトランスフォームし、サウンドウェーブの胸に戻った。
「な、なんだキサマらは!?」
「わたしはメガトロン。あんたの味方だよ」
「味方だとぉ?」
「そう。聞くところによるとあんたはこれから侵略を始めるそうじゃないか。だからわたしが力を貸そうというのだよ」
メガトロンが話す傍らで、ランボルとサンダークラッカーは黙っている。
「ふん、何ができるというのだ?」
「すばらしい動力を与えよう。あんたたちは良いエネルギーを持っているが動力システムが悪い。そしてその代わりに我らにエネルギーを与えて欲しい」
「そんな要求を飲むとでも」
「他の国一つ支配できるのだ。エネルギーの少しくらい安いものだろう?」
クロムウェルは手をあごに当てて考え込む。
「うーむ、わかった。協力してもらおうじゃないか」
メガトロンは満足げに頷いた。
「ありがたい。やはりあんたこそリーダーの器だ。スタースクリーム、この方を帰してあげろ」
スタースクリームはジェット機にトランスフォームする。メガトロンはクロムウェルがそれに乗るのを手伝う。
パイロット席に座ったクロムウェルが最後にメガトロンに言った。
「いいか、役に立つ動力を作らなければこの話はなしだからな」
スタースクリームはクロムウェルの城に飛んでいった。
「ふふふ、バカめ。利用しつくしたあとは始末してやるわ」
サイバトロン一行はルイズに案内されある村を訪れていた。
その村にはコンボイたちが彼らの世界に帰る手段があるというが、果たして!?
「この村にはね、別の世界からやって来たっていうものがあるらしいの」
アイアンハイドはキョロキョロと周りを見渡した。
「こんな村に本当になにかあるんでしょうか、司令官」
「さあ。だがともかく調べてみるしかないだろう」
「こっちよ」
ルイズが案内したのは大きな納屋だった。
そしてその中にあったものとは!
「わーあ、こいつは飛行機だよ」
納屋の中にあったもの、それはまぎれもなくジェット機であった。
「わたしたちと比べればブリキのおもちゃ同然ですが、間違いなく我らの世界のもです」
アイアンハイドの意見にコンボイは頷く。
「ああ、どうやらこの話本当くさいぞ」
そして!!
「なんでも昔、日食を通ってやってきたらしいわ」
「日食だって?ところでルイズ、次の日食の日は?」
「今日が日食よ」
アルビオンにある港。そこにはデストロンたちがいた。
「やれやれこんな木の船が浮くなんてとてもじゃないが信じられませんなぁ」
スタースクリームは港にある船を見て言った。そうなのだ。
この世界では船が空を飛ぶのである。
「キサマが信じようが信じまいがどうでもよいわ」
「はいはい、おっしゃるとおりで。それよりもあの装置はちゃんと働くんでしょうね」
スタースクリームが言ったのは船に取り付けられていくメガトロンの作った動力装置のことだ。
「問題ない。あの風石とやらの本来のエネルギーの数十倍の力で浮くさ」
風石とはモノを浮かせる不思議な石のことである。
「でも大丈夫ですかねえ。あの風石は不安定で危険。取り扱いを間違えれば爆発しますぜ」
「うるさい!!」
「うぇっ」
ガシャン!
メガトロンがスタースクリームを叩いてスタースクリームは倒れた。
そこへサウンドウェーブがやって来た。
「取リ付ケ作業終ワリ。イツデモ出撃出来ル」
「よーし、出撃だぁぁぁぁ!!!!」
ドーーーン!
突然の爆発音。いったい外で何が起こっているのか!?
全員納屋から出る。
「ちょっと待ってくれ。レーダーで調べてみる」
「見て、アルビオン軍よ!」
ルイズが空を指差した。そこにあったのは空飛ぶ艦隊だった。
コンボイたちの元に馬に乗ったアンリエッタがやってくる。胸当てをつけ、なんとも物々しい雰囲気である。
「姫さま!これはいったい!?」
「アルビオン軍が攻めてきました。ここは危険です。全員避難を」
だがアンリエッタの言葉とは逆にアイアンハイドはいきまいた。銃を構える。
「なーに、あんな木造建築、オレが全部叩き落としてやる」
「やめろ、アイアンハイド。わたしたちは人間同士の戦いに加わってはいけない」
「そうも言ってられないようですよ、司令官!」
バンブルが指差すのは船の上に立つメガトロンだ。
「メガトロン!」
「それにスタースクリームにサウンドウェーブもいます。よーし」
アイアンハイドは銃を構え直した。だが再びコンボイはそれを止める。
「やめろ、アイアンハイド」
「でも司令官!」
「我々は人間に危害を加えてはならない」
「でもどうするんですか、このまま待ってるなんてオイラできないね」
バンブルも戦いたいようだ。
もちろん、コンボイもデストロンが人々を襲うのを黙ってみているつもりなどない。
「わたしにいい考えがある」
コンボイのいい考えとは納屋にあったジェット機のパーツを使って空を飛ぶことだった。
それからアイアンハイドとバンブルによりコンボイの背にジェット機の翼とエンジンが付けられた。
「これでもう飛べるはずです、司令官」
コンボイの背中に付けられたエンジンが起動し始める。
さあ、出撃だ!
ジェットエンジンが唸りを上げて船の上にいるメガトロンたちと戦うために飛んでいく。
上空の飛行する船の上。
「ふははは、こうやって攻撃するのを眺めるのもいいものだな、クロムウェル」
悦に浸るメガトロン。しかし、クロムウェルは慌てていた。
「おい、なんだアレは!?」
「どうした?……うおっ、あれはコンボイ!奴もこの世界に来ていたのか……撃てー!!奴を近づけるな!」
メガトロンの命令によりそれぞれの船の船からコンボイめがけて大砲の玉が飛んでいく。
そしてコンボイはそれらを喰らって、ジェット機のパーツが壊れたために地面へと落ちていった。
「やったぞ!これでわしのジャマをするものがいなくなったのだ!」
空高くから落ちてくるコンボイ。
アイアンハイドとアンリエッタはその姿を見ていた。
「あれは司令官だ!」
「やられたんですね」
二人はコンボイの下へ駆けつけた。
「大丈夫ですか」
「ああ、なんともない」
コンボイはなんとか立ち上がろうとする。
「司令官、無理はいけません」
「大丈夫だと言ってるだろうが!!バンブルはどうした?」
「あら、ルイズもいませんわ」
二人の疑問にアイアンハイドが答えた。
「さっき、ルイズがどこかに行って、バンブルは探しに行くといっていましたね」
村外れでルイズがめそめそと泣いている。
「泣くのはおよしなよ、ルイズ」
「ほっといてよ、バンブルビー。わたしは悔しいのよ、姫さまの役に立てなくて。
わたしは魔法を使えないから。わたしったら本当に役立たずだわ」
「いーや、そんなことないね。ルイズはきっと目に見える以上の力を持ってるよ」
「ウソばっかり」
「ウソじゃないさ、オイラだってナリは小さいけどいつも大活躍してんだから」
バンブルの励ましを受けてルイズの顔に笑顔が戻った。
「ふふ、ありがとう、バンブル。なんだかわたしやれる気がしてきたわ」
その時である!ルイズの手にある本が光り出したではないか!
覚えているだろうか?それは偉大な魔法使いが使うといわれた本だ。
「まさか、そんな……」
先ほどまでなにも書かれていなかったはずの本にはいまや文字がびっしりだった。
「わーおすごいや」
アルビオンの船団の攻撃は村を襲い続けていた。
「もうわたしたちにはどうしようもありません……」
アンリエッタは悔しそうに言った。
「なんとかできないんですか、司令官!」
「うーむ」
その時、突然光がコンボイたちを襲った。
「ホオッ!」
その光はコンボイたちではなく空に浮かぶ船たちも襲った。
「コンボイめ、もはやどうすることも出来ずに困り果てておるわい……ん、なんの光だ?」
コンボイたちと同じ光が船団を包み込む。
面喰らったのも無理はない!それはルイズの魔法であった。
光が消えた後、爆発音が起こる。
サウンドウェーブとスタースクリームが慌てて言う。
「全テノ船ノ動力ガ爆発シテイル」
「大変ですぜ、なんとかしないと……」
だがデストロンたちがなんとかする前に船は落ちていく。
アンリエッタたちは呆然としている。
「あの光はいったい……」
そこへ車モードのバンブルに乗ったルイズがやってくる。
「あなたなのですか、ルイズ?」
「はい、姫さま」
「ああ、本当にありがとう。ルイズ……」
アンリエッタはひしとルイズを抱きしめる。
コンボイは二人を尻目にバンブルとアイアンハイドに命じる。
「よし、あとはメガトロンたちを捕まえるだけだ!サイバトロン戦士トランスフォーム!」
アイアンハイドが赤いワゴン車に変形し、コンボイもトラックに変形した。
「わたしの後に続けー!」
「う、うう……」
半壊した船に埋もれ、呻くメガトロン。
「いったい何が……」
「そこまでだ、メガトロン」
倒れたメガトロンの前に現れたのは銃を構えたコンボイだ。
「コ、コンボイ……!」
「さあ、降伏しろ。そして元の世界に帰るぞ」
銃の標準をピッタリと定められ、メガトロンも従う他なかった。
日食の時間、キラキラと光る銀色のものが現れた。
「これが元の世界に帰るための扉だろう」
「ええ、これでやっと我らの世界に帰れるのですね」
トランスフォーマーたちの下に二人の少女がやって来た。
アンリエッタとルイズだ。
「みなさんのおかげでクロムウェルも捕まえられました。ありがとうございました」
「ありがとう、みんな!」
サイバトロンたちも同じ気持ちだ。
「ああ、こちらもだ。ありがとう」
「ルイズ、頑張っておくれよ」
「ええ、もちろん。あなたのおかげよ、バンブル」
「ええ、そんなオイラ照れちゃうなあ……」
バンブルの照れる様子にコンボイ、アイアンハイド、アンリエッタそしてルイズも笑った。
投下終了。
タイトルがハルケギニアじゃなくて、ハケギニアになっとる!
訂正し忘れとるし!
なんかTF知らないと酔っ払いが書いたものにしか見えませんねえ。
一応TFの雰囲気を再現しようと頑張ってみたんですけど、TFの脚本がどれほど難しいのか、痛感させられました。
次回ゼロのペルソナは「恋愛」です。いいですよね、ラブコメ
皆様投下御疲れ様です!
まだキュルケお気に入りのブツが出ていないようだから私も…
それはA-10!スツーカ乗りの戦車破壊神が開発に参加した空飛ぶ猪と見た!
戦闘妖精の人、乙です
P38がメザシなら、もしスカロンに選ばせたらブリュースター・バッファローを選びそうだな
なぜかって? そりゃビア樽だから
アンリエッタにとってはマローダーやブラックウィドウは禁忌だろうな
核を見つけてしまった現在の原作才人には、タンク152が似合う気がする
範馬刃牙から勇次郎が召喚されて
アルビオンから帰るときにルイズの顔面を掴んだままアルビオンから生身で飛び降りて
リッシュモンの高級馬車をクッション代わりにして着地成功とかそんな話を・・・流石に死ぬか
ルイズが
492 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/29(日) 01:35:24.19 ID:b19r+zW1
ぬら孫から召喚されるなら誰が合うかな?
あまりに強烈なニワカミリヲタスペック厨臭
銀英伝のオフレッサー上級大将
ギーシュとのイベント戦でワルキューレを無双するも
ヴェルダンテによって敗北
考えることは皆同じかw
つーか、レッドサンゼロメイジか……懐かしいな
マダ続いてるん?
>493
自分、幼稚園児の頃からA-10が好きだったよ。
あんたみたいなニワカ批判厨にどうこう言われたくないね。
A-10というとグレッグ・ゲイツが思い浮かぶ
嫌な幼稚園児だなぁw
皆さんこんにちは、先日ストーブを片付けたのですが、また気温が下がって早まったかなと思っています。
それはさておき、ウルトラ5番目の使い魔、46話投稿開始します。ですがなぜか忍法帳がリセットされてしまいましたので、
小分けになってしまいます。猿さん回避で10分後にはじめますのでよろしくお願いいたします。
事前支援
第四十六話
揺るがぬ意志との戦い
深海怪獣 ピーター 登場
照りつける日差しはトリステインでの真夏が小春に思えるほど暑く、全身から吹き出す汗は常時水筒の水を喉に欲しさせる。
道なき道は、一歩ごとに足を飲み込もうとし、歩くだけでも相当な体力を必要とする。
話に聞き、頭で想像していたよりもはるかに厳しい砂漠の旅が、弱音を吐く気力さえ一行から失わさせた。
だが、気力を振り絞ってひとつ、またひとつと砂丘を越え、ひときわ大きな砂の長城を一行は制した。その瞬間、先頭を
歩いていた才人の眼前に、ついに待ち望んでいた目的地が姿を現した。
「見えたぜ! あれがアーハンブラ城か、砂漠に浮かぶ島ってとこだな」
一週間の旅路を経て、ルイズたち一行はついに目的地であるアーハンブラへ到着した。
それまでの緑にあふれた世界から一転して、砂にあふれた乾いた世界。初めて見る砂漠を踏破して、とうとうティファニアが
囚われている古代の要塞へと、一行はやってきた。
「ここがガリアの最東端……人間の世界の終わりってわけね」
砂漠に孤高に立つ古びた小城を間近まで来て仰ぎ見て、ルイズは感慨深げにつぶやいた。
昔話や学校の歴史の授業で、過去幾百回と繰り返し聞かされた人間とエルフとの戦い。それが、ここでおこなわれてきたかと
思うと、散っていった幾万もの霊魂がさまよっているような、薄ら寒い錯覚すら覚える。
しかし、それとは別の悪寒を、ルイズたちはふもとの町から城へあがる道を歩きながら感じた。
「誰もいなかったわね。やっぱり、町全体が無人になってるのね」
どこまで行っても子供ひとり出てこないほど静まりかえった町が、これからティファニアを助けに行くのだという一行の心中に
水を差した。しかも、どの家も元々人がいないのではなく、きちんと戸締りされていた。つまり、少し前まで人間がいたという
生活観が残っていることが、よりいっそうの不気味さをかもし出している。
彼らは、ジョゼフの命によってアーハンブラから住人が強制退去させられたことを直前の宿場町で聞いてはいた。しかし
いざ沈黙で覆われた町に迎えられてみると、嵐の前の静けさのような、待ち構えられているかのような圧迫感が伝わってくる。
そんな暗い雰囲気を敏感に察して、ルクシャナがやれやれと首を振った。
ウルトラ支援
「あなたたち、そんなんじゃあ叔父さまに会ってもぜったいかなわないわよ。もっとシャキッとしてもらわないと、せっかく
連れてきた貴重な研究材料があっさり死んじゃったら、私の苦労が台無しになるんだからね」
自分が連れてきたくせに、まるで他人事のようにいうルクシャナにさすがに才人たちもカチンとくる。しかし、一週間の旅路で
彼女が研究第一で、その他は自分も含めて優先度ががくんと落ちることを知っていたたため、顔に出しても口には出さない。
その代わりに、エレオノールが別のことを尋ねた。
「ねえあなた、今日までもう何度も聞いたけど、あなたの叔父、ビダーシャルってエルフはそんなに強いの?」
「強いわよ。私たちエルフの行使手の中でも叔父さまほどの人はそういないわ。人間のメイジだったら、スクウェアクラスでも
素手で勝てるくらい。魔法を使えない兵士なら、四〜五百人は軽く片付けられるでしょうね」
平然と話すルクシャナに、エレオノールは知っていたとはいえ、おもわずつばを飲み込んだ。
旅の途中で、一行はルクシャナから先住魔法を見せてもらっていた。彼女はたいした用もないのに精霊の力を行使するのは
冒涜だと言ったけれど、知識では知っていても、実際に見たことがあるものはいなかったから当然の備えである。が、いざ
目の当たりにしてみると、その威力は想像をはるかに超えていた。
ルクシャナが命じるとおりに森の木々が動き、鋭い槍や鞭に変形した。「風よ」と簡単に命じるだけで、タバサやエレオノールの
唱えた攻撃魔法が軽くはじきかえされてしまった。土も岩も水も、同様にルクシャナの言うとおりに動いて武器となった。実際、
学院のルイズの部屋で正体を明かしたとき、もしも交渉が決裂して戦闘になっていたら、石の精霊に塔を自壊させて全員を
生き埋めにするつもりだったらしく、一同はぞっとしたものである。しかも、ルクシャナ自身は戦士ではなく、行使手としては弱いというのである。
そんな相手とこれから戦わねばならないのかと、才人はうんざりした。
「なんとか、話し合いでティファニアを返してもらえないかなあ……?」
「叔父さまの性格からして、まあ無理でしょうね」
「そんなに気難しい人なのかよ?」
「よく言えば真面目、悪く言えば頑固者ってところかしらね。でも、保身しか考えてない評議会のおじいさんたちや、
決まりきったことしか研究してない学者たちよりはずっと物分りがいいほうよ。そこのところは、蛮人の世界とたいした違いは
ないと思うわ」
ちらりと視線を向けられたエレオノールは、思い当たる節が多々あるので閉口した。
「ともかく、人格的には尊敬できる人よ。ただ、使命を果たすためなら自分の筋を曲げることもいとわない責任感の強い人だから、
正直言って説得は難しいと思うわ」
「やっぱりなあ……せめて、タバサとキュルケがいてくれたら心強かったんだけど。お母さんが急病じゃ仕方ねえもんな」
才人は、ため息をひとつついて西の空を望んだ。
タバサとキュルケが昨晩に一行から離脱したことは、ロングビルの口からタバサの母親が急病で倒れたという知らせが伝書
フクロウで来て、二人はそのためにシルフィードで帰ったというふうに説明されていた。これに、才人やルイズは土壇場で貴重な
戦力が離れることをもちろん惜しんだけれど、すぐにお母さんの命には代えられないなとあきらめたのだった。
こちらに残った戦力は、才人とルイズ、エレオノールとロングビル。なお、ロングビルの昨夜の負傷は自力で手当てをして、
後は代えの服で傷口を隠してごまかしている。ルクシャナは叔父と戦うわけにはいかないだろうから、実質のところは素人に
毛が生えた程度の剣士と、爆発しか使えない虚無の担い手、戦闘は専門外のメイジと、魔法の使えなくなった盗賊……
他人が見たら、これでエルフに勝負を挑もうとするなど狂気のさた以外の何者でもないだろう。
支援
だが、才人たちに引き返そうとする気持ちはさらさらない。自分たちの目的はエルフを倒しに来たのではなく、ティファニアを
救出しに来たのだ。その意味を履き違えるなと、才人とルイズは自らに言い聞かせる。
やがて丘の上の城門に一行はたどりついた。巨大な鉄製の門は固く閉ざされていて、まるで動く気配もなかったが、
ルクシャナが前に立っただけで開門した。どうやら、ルクシャナが到着したら開くようにビダーシャルが門の精霊と契約していたらしい。
城門をくぐると、突然それまでの砂漠の熱気が消えて、秋口のような涼しげな空気が一行を包んだ。
「うわっ? なんだ、急に涼しくなったぞ」
「ああ、叔父様がこの周辺の大気の精霊と契約して、気温を下げてるんでしょう。わたしも自分の家の周りにこれをやってるけど、
城ひとつを覆わせるなんてさすが叔父様ね」
軽く言うルクシャナに、一行は例外なくぞっとした。いくら小さいとはいえ、城ひとつを覆う大気を自在に操るとは。同じことを
人間の風のメイジで再現しようとしたら、いったいどれだけの人数が必要になるか想像もつかない。
「たいしたものね……」
「あら、このくらいで驚いてたらとても叔父様の相手はできないわよ。それに、契約がなされてるってことは、ここに間違いなく
叔父様がいるってこと。覚悟しておくことね」
ごくりとつばを飲み込む音が誰からともなく流れた。
城内はルイズたちが想像したものを裏切り、古城とは思えないほど美しく整えられていた。だがやはり、人の気配は皆無で、
その生活感のない無機質さが才人たちをいっそう警戒させた。
兵士たちの詰め所を素通りし、廊下をしばらく進むと中庭に出た。そこは、砂漠の中だとは思えないような、水をたたえた
オアシスになっていて、乾燥した世界に慣れていた才人たちの目を癒した。しかし、彼らの目を本当にひきつけたのはそこでは
なかった。池のほとりの芝生の上で、憂えげに空を見上げている金色の妖精……その姿が蜃気楼でないとわかったとき、
誰よりも早くロングビルがその名を叫んでいた。
「テファ!」
「えっ? えっ!? あ、マ、マチルダ姉さん!?」
戸惑いながらもティファニアがロングビルの本名を答えたとき、真っ先にロングビルが駆け出し、一歩遅れて才人たちも続いた。
駆け寄ってきたロングビルとティファニアは熱い抱擁を交わしあい、互いに本物であることを確認しあう。ほんの数秒しか経って
いないというのに、ロングビルの顔はすでに涙でぐっしょりと濡れていた。
「本当に、本物のマチルダ姉さんなのね。いったい、どうやってここまで来たの?」
「まあいろいろあってね。話せば長くなるけど、みんなで助けにきたんだよ」
ティファニアはロングビルの肩越しに、才人とルイズの顔を見つけて表情を輝かせた。
「サイト、ルイズさんも、あなたたちも来てくれたんですね!」
「ああ、もちろんさ。用があって今はいないけど、キュルケとタバサも来てたぜ」
「ウェストウッドの子供たちも無事よ。今はトリステインで預かってもらってて、元気で待ってるわ」
子供たちの安否が知れたことで、ティファニアに心からの安堵の笑みが浮かんだ。こんな状況にあっても、一番に子供たちの
ことを考え続けているとは、やはりティファニアは優しいなと才人は思う。それに、一番ティファニアの心配をしていたはずの
ロングビルも、外聞など眼中になく彼女の無事を確かめていた。
ウルトラーしえーん!
「ともかくテファ、怪我とかしてない? なにもされてない?」
「うん。大丈夫、ここではなにも不自由しない暮らしができてたから元気よ」
「でも、ひとりで寂しかったでしょ。いじめられたりしてない?」
「平気、最初は一人だったけど、ここでもお友達ができたから」
そう言ってティファニアが手を数回叩くと、池の中から小さなトカゲのような生き物が顔を出した。だがそれは、水面から地上に
あがってきたとたんに子馬ほどの大きさの、カメレオンに似た生き物に変わって皆を驚かせた。
「うわっ! な、なんだいこいつは!?」
「やめてマチルダ姉さん! この子は暴れたりしないから」
驚いてナイフを取り出したロングビルを、ティファニアは慌てて止めた。確かにその生き物は暴れるでもなく、むしろぼぉっとした
様子でティファニアの後ろで四つんばいで止まっている。しかしルクシャナは珍しい生き物ねと興味深げに眺めているが、
カエルが苦手なルイズは、爬虫類系の容姿をしているそれにおびえて才人の後ろに隠れてしまって、エレオノールも気味悪がっている。
ただ、才人は常時肌身離さないGUYSメモリーディスプレイを取り出して、その生き物の正体を探っていた。
「アウト・オブ・ドキュメントに記録が一件。やっぱり、深海怪獣ピーターの仲間か」
エレオノールとかに見つかると後々うるさいので、スイッチを切ってさっさとしまった才人はルイズにこいつは危険はないと告げた。
深海怪獣ピーター……正確には怪獣ではなく、学名をアリゲトータスという太平洋の深海に生息する普通の生物である。
水陸両性で、性質はおとなしく、他者に危害を加えるようなことはない。だが、本来の体調はわずか二十センチくらいと普通の
トカゲ程度の大きさしかないのだが、体内にある特殊なリンパ液の作用によって、周辺の温度変化に反応して一瞬にして
大きさを変える能力を持っているのだ。
まれに漁師や釣り人に釣り上げられることがあり、現在はそのまま海中に帰すことが義務付けられている。凶暴性は
ないのだが、あまりに高熱にさらされると最大体長三十メートルにも巨大化してしまうことがあり、過去にペットとされて
いたものが、山火事の影響で巨大化してしまった例が重く見られているのだ。
ヤクザなドラマー支援。
才人はピーターの下あごあたりを軽くなでてみた。すると、気持ちよがっているのかは不明だが、喉を鳴らすように鳴いたので
才人はおかしそうに笑った。
「これがテファの新しい友達か。ふーん、よく見るとけっこうかわいい顔してるじゃん」
「サ、サイトよしなさいよ。噛み付かれるわよ」
「だいじょぶだって。ティファニアのお墨付きだよ。それに、おれもこれを見るのははじめてなんでな。興味あるんだ」
実は才人もピーター……アリゲトータスのことはよく知らないのだ。その性質ゆえに、動物園でもこれを飼うことは厳禁で、
一般人が実物を見ることはほとんどない。しかし、普通海中深くにいるはずのこいつがなんでこんなところに? 首をかしげると、
池の水が底からとめどなく湧き出ているのが見えて、はたと思いついた。
「そっか、地下の水脈がどこかで海までつながってるのか。それで、迷い込んだこいつがここまで来たってことか」
知ってしまえばたいしたことではなかった。砂漠は表面は乾燥しきっていても、その地下には地底の海ともいうべき巨大な
水源を抱えている。それが場所によっては地上に吹き出してオアシスとなり、砂漠に生きる人々の生命の源となっている。
もしこれがなければ、いくらエルフとて砂漠に住むことは不可能だっただろう。
しかし、ひとときピーターをなでる平穏な時間が流れたのも、危険の中のほんのわずかな休息時間にしか過ぎない。
そのことを、ティファニアと会えて喜びに沸いていた彼らは忘れていた。
「お前たち、そこでなにをしている」
突然響いてきた、高く、澄んだ男性の声が一行に現状を思い出させた。一部をのぞいていっせいに身構える。
ハルケに届け、この支援ー
すみませんが、今日は天候のせいか回線がおかしいようなので避難所にまとめて投下します。
時間を大幅に食ってしまってもうしわけありませんが、どなたか代理投下をお願いします。
ウルトラの代理投下します
しくじった。ティファニアを見つけた時点でさっさと連れて逃げればよかったと思っても、後の祭りは変えられない。
いや、仮にそんなことをしていたとしても、すぐに捕まって同じことだっただろう。姑息な手など通じないだけの、穏やかな
声色の中に隠された巨大な威圧感を感じて、才人は無意識に乾いた唇をなめた。
対して、相手……近づいてくるにつれてエルフだとわかった男は、まるで戦うそぶりなど見せずに無防備に歩いてくる。
が、彼……ビダーシャルは、ティファニアを囲んでいる人間たちの中に見知った顔を見つけると、深くため息をついた。
「私はエルフのビダーシャル。招かざる客たちよ。お前たちに告ぐ……と、言おうと思ったのだが、ルクシャナ……お前の仕業か。
これはどういうことか説明してもらおうか?」
「あら、説明させてくださるんですの? そりゃあもう、私も蛮人世界でけっこう苦労したんですよ。何度か命の危機にも会いましたし、
でもそのおかげで、ラッキーな発見もありましたの」
厳しい口調で問いかけてくるビダーシャルにも、少しも悪びれた様子もなくルクシャナはこれまでのことをこまごまと説明した。
やはり、虚無の担い手を薬にかけるのは絶対反対で、しょうがないので力づくでやめさせようと思った。でも自分だけでは
どうしようもないので、たまたま彼女の知り合いを見つけたのでけしかけたと平然と言う。これは弁明というよりも、自慢の論文を
壇上で聴衆に発表しているに近い。そのふてぶてしさを超えた不遜さに、才人たちさえ呆れたが、当然ビダーシャルは怒った。
「ルクシャナ! 研究熱心なのはけっこうだが、度を超して人に迷惑をかけるなと言ってあるだろう。第一、蛮人の戦士を幾人か
連れてきたところで、私に勝てると思っているのか?」
「ええ、ですから悪魔の末裔を連れてきたんですの」
「なに?」
ビダーシャルの顔から怒りが消えて、困惑の色が浮かんだ。そしてルクシャナはルイズに対して、「出番よ」とでもいう風にうながす。
ルイズはルクシャナの一歩前まで歩み出し、貴族の流儀を守った礼をして名乗った。
「わたしはトリステイン王国の貴族、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。エルフの国の使者、
ビダーシャル興、あなた方の探している虚無の担い手の一人は、このわたしです」
毅然と名乗りきったルイズには、エルフに対しての恐れはない。覚悟ならとっくにすませていたし、なによりも後ろに才人が
いて守ってくれているという安心感が、強く彼女を支えていた。
一方のビダーシャルは、さすがに一瞬動揺した様子を見せたが、すぐさま鋭い目つきに戻るとルイズに問いかけた。
「お前が、悪魔の力の担い手だと?」
「ええ、始祖ブリミルが残した失われた系統……わたしもつい先日まで幻だと思っていましたが、始祖の残した秘宝のひとつ、
始祖の祈祷書がわたしにすべてを教えてくれました」
ルイズはビダーシャルの問いに、明白に、堂々と答えた。それはルイズの中に眠る血の力か、それともルイズ自身が持つ強い
意思のなせる業か。このときだけは、人並みより小柄なルイズが長身のビダーシャルを見下ろしているような錯覚を才人たちは感じた。
「信じる信じないはあなたの自由です。ですが、ひとつだけ誓って、わたしたちはあなたと戦いに来たわけではありません。
わたしたちは理不尽にさらわれた友を救うためだけに来たんです。願わくば、話し合いに応じられたく思います」
ビダーシャルは瞑目した。即答を避けたのは、ルイズの言葉を否定したからではなく、事の唐突さと重大さが彼の判断力の
処理限界をすら軽く上回っていたからだ。ティファニアなどは、「えっえっ? ルイズさんが、えっ?」と、困惑しきって、「ごめん
テファ、話はあとでするから」と、才人になだめられている。彼はそれよりははるかにましなほうではあったけれど、それでも
彼自身が一番論理的かと認めえる答えをはじき出すまでには数秒をようした。
「いいだろう。ルクシャナが連れてきたのだ、ただの蛮人ではあるまい。我々エルフも戦いは好まない。話を聞こう」
「感謝します」
ビダーシャルが紳士的な対応を見せたことで、ルイズたちも肩の力を半分は抜くことができた。一応の覚悟はしてきて
あったとはいっても、やはりエルフといきなり戦わずにすんだというのはほっとする。だがその喜びにも、すぐに冷水がかけられた。
「ただし、まず断っておくが、私はシャイターンの末裔を逃がすつもりはない。お前も、悪魔の力を宿しているというのであれば
同じだ。この城から帰すわけにはいかない」
冷たい目で断言したビダーシャルに、才人はデルフリンガーを向け、ロングビルはナイフを取り出す。しかし彼らの前に、
意外にもエレオノールが立ちはだかった。
「やめておきなさいよ。まともに戦ったところでどうせ勝ち目なんかないし、せっかく向こうがまずは話を聞こうって言って
るんだから、ぶち壊しにしないでよ」
「でも、この野郎はおれたちを帰さないって言ってるんだぜ!?」
「それはまた後で考えましょう。どのみち、最初からそうなることは覚悟のうえだったんだし。それよりも、人間とエルフ、どっちが
野蛮な生き物なんだかあんたたちが証明してみる?」
その一言が、今にも攻撃をかけようとしていた二人の気持ちを落ち着かせた。
様子を見ていたルクシャナも、いきなり戦闘に突入しなかったことでほっとした様子を見せている。
「ま、結論がどうなるにせよ、議論を尽くすのは無駄じゃないからね。さすが先輩、うまくまとめてくれました」
目配せしあった二人には同じ目論見があった。すなわち、ルイズとビダーシャルに会話させることで、謎のベールに覆い
隠されている虚無の実情を探ることである。なにしろ六千年も前のことであるので、人間とエルフのどちらにも断片的な
記録しか残っていない。ルイズたちはすでにルクシャナから、聞けることは根掘り葉掘り聞き出しているものの、虚無に関しては
エルフの間でも重要な機密らしく、ルクシャナもほとんど知らなかった。そのためにビダーシャルとどうしても話す必要があったのだ。
そうして、まずルイズは前置きとして、ルクシャナからなぜビダーシャルたちがこの地にやってきたのかなどは聞いていると告げた。
「あなた方の土地でも、すでに怪獣の出現や、異常な現象が起こっているそうですね」
「そうだ、それを確かめ、変調をきたしているこの地の精霊を鎮める。そうしてサハラへの影響を事前に食い止めるのが一つ目の
任務。もうひとつが、お前たちシャイターンの末裔が揃うのを阻止することにある」
ここまではお互いに確認のようなものだった。本題は、ここからである。
「そのシャイターン……あなた方は悪魔と呼ぶ虚無の力、かつて大厄災とやらをもたらしたそうですが、それはいったいなんだったのですか?」
ルイズの質問に、ビダーシャルはジョゼフやティファニアに語ったとおりのことを説明した。エルフの半数が死滅したというほどの
恐るべき大災厄……ただし、その実情はビダーシャルすら知らないということが、少なからずエレオノールたちを落胆させた。
「お前たちの期待に添えなくてすまないな。だが、それではこちらからも質問させてもらおうか。お前が、本当にシャイターンの
末裔というのならば、悪魔の力に目覚めたいきさつを聞かせてくれ」
「ええ、数週間前のことよ……」
了承したルイズは、ビダーシャルにはじめて虚無の魔法を使ったあの日のことを話した。怪獣ゾンバイユの襲来、始祖の
祈祷書と風のルビーの共鳴、現れた古代文字、そこから発現した魔法『エクスプロージョン』の威力など。そして、自分が虚無に
目覚めたその事件が、すべてガリア王ジョゼフが虚無の担い手を探し出すために起こした事実も、包み隠さず語った。
「なんだと!? あの男が、自ら悪魔の力を……」
この事実はビダーシャルにとってもショックに違いなかった。嘘でない証拠に、トリステインで起きたことはすべて事実だと
ルクシャナも証言している。彼としては、虚無の発現を防ぐために、わざわざ大きなリスクを背負って交渉を成立させた男が、
陰では虚無の目覚めを早めていたと知って穏やかでいられるはずもない。
が、ルイズたちとしては、まだビダーシャルに聞きたいことはある。その機を逃してはならないと、ルイズは矢継ぎ早に質問をぶつけた。
「もうひとつ聞きたいことがあります。ジョゼフは、わたしを虚無と見極めるときと、ウェストウッド村でティファニアをさらうときの
どちらも怪獣を囮として使いました。人間が怪獣を使うなんて、普通じゃ絶対不可能なのに、ジョゼフはいったいどうやって怪獣を
使役する術を手に入れたかご存知ですか?」
「いや……それも初耳だ。しかし、奴には奇怪な様相の側近が何人か存在していた。なかでも、一人は明らかに人間ではない、
感じたこともない不気味な気配を放っていたのを覚えている」
「一人は間違いなくシェフィールドね。つまり、ジョゼフが怪獣を操っているんじゃなくて、ジョゼフの側近の何者かが怪獣を操る
方法を持っているということになるわけね」
ルイズは才人と目を合わせて意見を交換した。その、明らかに人間ではないというやつ。確証はないけれど、人間の能力を
はるかに超えた相手、宇宙人だと考えれば可能性は高い。しかし、エルフに加えて宇宙人まで配下に加えているとすれば、
ジョゼフとはいったい何者であるのか? その疑問に、ビダーシャルは苦々しく答えた。
「わからぬ。私が言うのもなんだが、ジョゼフ……あの男は蛮人の中でも別格といっていい。やつなら、なにをしでかしたとしても、
私は驚きこそしても疑問には思わないだろう」
「無能王と呼ばれている。そんな男が、ですか?」
「無能王か……それは相当な偏見と誤解の産物だな。やつの頭の中身は、私からしても底が見えない。それは状況証拠だけを
見ても、お前たちにも充分わかるはずだが?」
「ええ……」
言われなくとも、それは十分に承知している。これまでのシェフィールドの手口の大掛かりさと合わせた狡猾さ、それをまったく
外部に知られずにおこなうなど凡人のなせる業ではない。
「我も当初は蛮人どもの評を参考に、やつに接触を試みた。しかしそれが大変な誤りだと気づいたときには遅かった。こちらの
弱みに付け込んで、あらかじめ用意していた交換条件の何倍もを提供させられるはめになってしまったのだ」
「まあ叔父様、そこまでなめられておいでなのに、よく生真面目に家来をやっていられるわね」
ルクシャナが呆れたように言うと、ビダーシャルはやや疲れた笑みをこぼした。だが、それはあくまで表面的なものだ。
ビダーシャルはジョゼフに対して知性以外の脅威を感じていたことを語った。
「確かにな。私もそう思う……が、どうにも抗えぬ妙な迫力を持った男でな。ともかく、直接会った者でなければ、奴の魔物じみた
得体の知れなさはわかるまい」
ティファニアを預けてきたときも、今思えば疑ってしかりだったとビダーシャルは思うが、そうはできなかっただろうなとも思うのだ。
確かに虚無について調べてくれと頼みはしたけれど、その本人を見つけてくるとは想像していなかった。いったいどうやって
見つけてきたのかと尋ねても、ジョゼフはロマリアの研究資料を拝借してなどと適当にはぐらかしてしまった。本当なら、もっと
食い下がって疑うべきだったのに。
「叔父様、もうこの際ジョゼフとは縁を切ったほうがいいんじゃありませんの?」
「しかし、そうすると我らがこの地に干渉する糸口を失ってしまう。それはできない」
危険な匂いを感じ取ったルクシャナが警告しても、使命を重んじるビダーシャルは受け入れようとはしなかった。しかし、
ルクシャナはやれやれと呆れたしぐさを大仰にとり、あらためて叔父に忠告した。
「叔父様、それでしたらもうこの場でほとんど解決できるんじゃありませんの? ここにはこのとおり、悪魔の末裔が二人も
いるんですよ。私たちが恐れているのは揃った悪魔の力がシャイターンの門に到達することでしょう。そのうち半分をこっちに
取り込めば安心なんじゃありませんか?」
「なっ!?」
ルクシャナの言葉は乱暴ながら確信をついていた。人間よりはるかに強大な武力を誇るエルフにとって、警戒すべきは虚無の
力ただひとつと極論してしまってもいい。ただの人間の軍勢が攻め込んできても、撃退することが可能なのはこれまでの歴史が証明している。
だが、そのためには彼らが悪魔と呼ぶものたちと正面から向かい合わねばならない。ルイズは、今こそビダーシャルに自身の本心を伝えた。
「ビダーシャル興。わたしや、このティファニアはエルフの世界に攻め込もうなどとは微塵も思ってはおりません。伝説がどうあれ、
それがわたしの意志です。それに、もしも残りの二人の虚無の担い手が悪意を抱くようであれば、わたしたちが全力をもって
阻止します。ですから、どうかわたしたちを信じて彼女を返してはくれないでしょうか」
ルイズの言葉には、うそ偽りのない熱意のみが込められていた。これで、なおルイズを疑うとすれば、それは人間の良心を
最初から信じていないものだけだろう。ビダーシャルは直立姿勢のまま瞑目し……やがて、ゆっくりと目を開いてルイズを見た。
「残念だが、それはできない。今はその気がなくとも、人間というものは心変わりするものだ。未来の危険を放置するわけにはいかない」
「くっ……未来の危険などを問題にするのであれば、それこそきりがないではないですか! 虚無といってもしょせん人が使う力、
六千年前と同じ結果が出るとは限らないではないですか」
「そんな危険な賭けに一族をさらすことはできない。我らにとって、シャイターンの門を守るということは、もはや伝統という
生易しいものではなく、”義務”なのだ」
かたくななビダーシャルの態度に、ルイズはこのわからずやめと顔をしかめさせた。ここまで話ができて、ジョゼフへの信頼が
薄らいでいる今なら説得できるのではないかという淡い期待は裏切られた。ルクシャナの言ったとおり、これはまた大変な
頑固者らしい。使命感が強すぎて、まったくとりつくしまがない。
「ミス・ヴァリエール、残念だけど交渉は決裂のようね。こうなったら、もう力にうったえるしかないわ」
ロングビルが落胆するルイズを慰め、戦うようにと促す。見ると才人も戦闘態勢に入っており、ビダーシャルも迎え撃つ気配を示している。
「来るがいい、悪魔の末裔よ。お前が完全に力に目覚める前に、ここで食い止める」
戦うしかないのか……ティファニアを救い、ここから皆で帰るにはもうそれしかないのか。
だが、杖を握りながらもルイズは納得できなかった。以前、始祖の祈祷書が見せてくれたビジョンの中では、人間とエルフは
ともに手を携えていた。なのに、その子孫である自分たちは血を流そうとしている。これでいいはずはない。なにか、なにかまだ
方法はないのか? ビダーシャルを納得させ、無益な戦いを避ける方法が!
そのときだった。ルイズの指にはめられた水のルビーが輝きだし、同時にルイズが肌身離さず持ち歩いている始祖の祈祷書が光を発しだしたのだ。
「こ、これはいったい!?」
突如あふれ出した神秘的な光に、才人だけでなく、エレオノールやロングビルも目を覆って立ち尽くす。
ビダーシャルとルクシャナも、目が見えなくては精霊に命ずることはできず、ティファニアもわけもわからずうずくまる。
その中で、ルイズだけは妙に落ち着いた様子で祈祷書を開いていた。
「始祖ブリミル……そう、あなたもこんな戦いは望んでいないんですね」
祈祷書を自分の体の一部であるように開き、ルイズは物言わぬ本に残されたブリミルの声を聞いていた。
これまで、どんなに新しいページを開こうとしても応えることのなかった祈祷書が応えた。まるで、ルイズが真に必要とする
ときまでじっと待っていたように……ルイズが心から欲しているものを与えようとするように。
虚無の魔法……『記録(リコード)』……それを使って始祖の祈祷書に残されたブリミルの記憶を皆に伝えるのだ!
「お願い、始祖の祈祷書! わたしたちをもう一度、あの時代に連れて行って!」
光が爆発し、人間もエルフも関係なくすべてを飲み込む。
そして、光が消え去って祈祷書がただの古ぼけた本に戻ったとき、ルイズの望んだすべては終わっていた。
「まさか……あれが、六千年前のハルケギニア……」
力を失い、芝生の上にへたり込んだエレオノールの声が短く流れた。ルイズの声に応えた始祖の祈祷書は、以前二人に
見せた六千年前のビジョンを、この場にいた全員の脳に叩き込んだのだった。
想像を絶する、破滅と殺戮の戦争の歴史……かろうじて立っているのはルイズと才人だけだ。ロングビルやティファニアも、
白昼夢を見ていたように呆然としている。
だが、もっとも衝撃が大きかったのはエルフの二人であった。これまで漠然とした伝承でしか知ることのできなかった、
大厄災の光景。それを直接目の当たりにしたこと、そしてなによりも、エルフのあいだでは悪魔として伝えられているブリミルが、
エルフとともに戦っていたということが、彼らの信じてきた"常識"に大きな揺さぶりをかけたのだ。
「あれが……大厄災」
いつも人をバカにしたような態度をとっているルクシャナも、許容量を超える衝撃に腰を抜かしていた。人間とエルフの
小競り合いなど比較にもならない、全世界規模の最終戦争。かつてエルフの半分を死滅させたという伝承をすら超える、
世界を焼き尽くした大戦。そして、その戦火の中を戦い続けたブリミルと、その仲間たち。
やがて、ショックからいち早く立ち直ったルクシャナは、隠し切れない興奮とともにビダーシャルに詰め寄った。
「叔父様、見ましたよね! あれ、あれって!」
「あ、ああ……」
「あれが悪魔、シャイターン本人なんですね! それに、いっしょにいたあのエルフ、光る左手を持ってましたよね! もしかして
あれが大厄災のときに私たちを救ったという、聖者アヌビスなのでは!? もしそうなら、学会がひっくり返るほどの大発見になりますよ!」
好奇心の塊のようなルクシャナにとっては、たとえ自分の常識を根本から打ち砕くような出来事でも喜びの対象となるようであった。
しかし、ひたすら愚直にエルフとして生きてきたビダーシャルにとっては、それは受け入れるにはあまりにも異質で大きすぎた。
あのビジョンの歴史が真実であるならば、エルフと人間という、過去幾たびとなく争い続けてきた二つの種族のいがみ合う理由はなくなる。
そのとき、迷うビダーシャルにルイズが呼びかけた。
「ビダーシャル興、信じられない気持ちはわかります。わたしもはじめ見たときはそうでした。でも、人間とエルフは手を
取り合うこともできていたんです。それだけじゃありません。翼人に、獣人、今は他の種族と交流を絶っている多くの種族が
共に生きることができていたことがあったんです。過去にできていたことが、今はできないなんてことはないはずです。その
可能性を信じてくれませんか?」
「しかし……あの映像が真実であったという証拠はない」
「いえ、あなたほどの使い手なら、あれが作り物であるのか違うのかわかるはずです」
断言するルイズにビダーシャルは口ごもった。自然と口をついて出てしまった否定の言葉だったが、ビジョンはぬぐいきれない
現実感を彼に突きつけていた。あの質感や熱は幻覚で再現できるものではない。ならば、やはり……
「残念だが、認めざるを得ないようだな。あの光景は太古の現実……そして、お前が悪魔の末裔であることも」
「あなたがわたしをどう呼ぼうと自由です。でも、悪魔だろうと心はあります。意志はあります。何度でも言います。わたしたちは
誰一人としてあなたと、エルフと争うつもりはありません。だから、ティファニアを返してください。お願いします!」
ぐっとルイズは小さな頭を体の半分まで下げた。その姿に、エレオノールはあのプライドの高いルイズがエルフに頭を
下げるなどと驚き、ビダーシャルも、ここまでの魔法を見せながらなお戦おうとしないルイズに心を揺さぶられた。だがそれでも、
ビダーシャルの答えは苦渋に満ちながらも変わらなかった。
「……何度言われようと、私の答えは変わらない。シャイターンの復活を……」
「いいかげんにしなさいよ!」
ビダーシャルの言葉が終わらないうちに、猛烈な怒声でそれをさえぎったのはエレオノールだった。彼女はとまどうルイズを
押しのけると、ビダーシャルを指差して怒鳴った。
「さっきから黙って聞いてたらなんなのよあなたは! これだけの証拠を突きつけられて、あまつさえ自分の半分も生きて
ないような子供に頭を下げさせておきながらその態度。あんたのその澄んだ目や長い耳は飾りなの? あんたは自分の目で
見て、自分の耳で聞いたことすら信じられないわけ!?」
「貴様になにがわかるというのだ! 過去いくたびの蛮人との戦乱で同胞を失ってきたのは我らも同じだ。シャイターンの門を
守るために散っていった大勢の先人たちの意志を、私が裏切るわけにはいかぬ」
ビダーシャルは、譲れないものがあるのはお前たちだけではないとはじめて怒鳴り返した。
IDが変わりましたが代理投下していたものです
忍法帳の大量投下?にかかったらしく作り直しになったので続きはどなたかお願いします
それでは、引き継がせていただきます。
しかしエレオノールは、そんな彼を見据えるとはっきりと言い放った。
「違うわ。あなたはただ、楽な道を選ぼうとしているだけよ」
「なに……っ!?」
「先祖から代々受け継いできたしきたり。そりゃ確かに大事でしょうよ。でもね、”従う”なんてこと誰にだってできるのよ。
自分じゃなにも考える必要はないからね。本当に難しいのは、自分で考えて決めるってこと。それが”生きる”ってことじゃないの?」
エレオノールは心の中で、ほんの少し前までは私もあんたと同じだったんだけどねとつぶやいた。ヴァリエールと
ツェルプストー、対立して当たり前だとずっと思っていた自分の中の常識に、正面きってひびを入れてくれた妹と、生意気な
赤毛の小娘がいなければ。
彼女は整った顔をゆがめて立ち尽くしているビダーシャルに、最後の一言をたたきつけた。
「ここにいる者は、誰一人として強制されてきた者はいないわ。皆、自分の意志でここに立ってる。虚無だとか世界だとか
関係なく、この子たちは友達を助けるために、私は妹を守るために覚悟を決めてね。なのに、その相手がこんな優柔不断男
だとはがっかりだわ」
過去何十人もの婚約者候補の男の心をへし折ってきたエレオノールの暴言が、容赦なくビダーシャルの心に突き刺さった。
ルイズはもう一度争うつもりはないと告げ、才人もルイズの心意気に打たれてティファニアを帰してくれと頼む。
使命と、歴史の真実のはざまでビダーシャルは迷った。一族の義務を守るか、それともあくまで戦うつもりはないとする
目の前の少女を信じるか。そのとき、葛藤する彼にルクシャナが言った。
「叔父さま、結論を容易に出せるものではないのはわかります。でしたら、私が彼らのそばについて常時監視するということで
どうでしょうか? もし、彼らが私たちに害あるものでなければそれでよし。もし不穏な行動があれば即伝えますし、私が
害されればそれでもう結論となるでしょう。どうです?」
「いや、しかしそれでは君が」
「研究のためにこの身が滅ぶなら、むしろ本望ですわ。それに、どっちみちジョゼフとは手を切るんでしょ。こっちのほうが手が
かからなくて確実ですって」
それで使命にもある程度報いることもできるでしょうと、言外にルクシャナは言っていた。確かに……妥協案としてはかなり
乱暴ではあるけれど、ビダーシャルとて虚無の担い手相手に確実に勝てるという自信があるわけではない。なにより、人の
心を薬で奪うということに、彼の良心も痛んでいた。
迷った末、彼はついに決断した。
「わかった。ルクシャナ、君にまかせよう」
その瞬間、緊迫感に包まれていた場が、一転して歓喜の渦に変化した。
「やった! テファ、これで帰れるぜ」
「サイトさん……よかった。誰も傷つかないで、本当によかった……あ」
「ちょ、テファ! しっかりして」
安堵して倒れ掛かるティファニアを、才人とルイズが支えた。
「信じられない。ほんとに、エルフと和解できるなんて」
ロングビルも、最悪のときには刺し違えてもティファニアを逃がそうと覚悟していただけに、気が抜けてどっと疲れがきた。
が、誰よりも解放された思いを味わっていたのはビダーシャルであった。悪魔の末裔を相手にしていたつもりだったのに、
その相手は目の前で、今は小さな子供のようにはしゃいでいる。あれが本当に悪魔なのか? むしろ悪魔なのは……
物思いにふけるビダーシャル、そこへいつの間にやってきたのかルイズが現れて言った。
「ありがとうございます。ビダーシャル興」
「礼を言われる筋はない。それに、勘違いするな。我らとお前たちが敵であることに変わりはない」
「でも、人間の世界にはこんな言葉もありますよ。昨日の敵は今日の友って」
なにげなく、ルイズは右手を差し出した。ビダーシャルは一瞬意味をはかりかねたが、すぐにルイズがなにを求めているのかを悟った。
もしも、これが成立したらエルフと人間の両方にとって浅からぬ意味を持つ出来事となるだろう。彼はその引き金を自らの意思で
引くべきかを考えた。
だが、そのとき。
「見たぞ、裏切りものめ」
突如、不気味な声がして一行はいっせいに振り返った。そこには、全身を黒いローブで包んだ男が立っていて、その姿を
見たビダーシャルは忌々しげに言った。
「貴様は、あの女がよこしてきた使用人の……ただの使用人ではないと思っていたが、やはり監視だったか」
「ふふふ……協定は破棄なのだろう。ならば、この城から全員生きて帰すわけにはいかぬ。覚悟するがいい、もはやこの城は
私の体の一部も同然だ。見よ! そして今度こそ、サヨナラ・人類……」
男はローブを脱ぎ捨て、不気味な怪人の正体を現す。その瞬間、アーハンブラ城全体が激しく揺れ動きだし、地下から
巨大な柱のような物体が無数に空を目指して生え出した。
続く
以上です。ウル魔版アーハンブラ城編、お楽しみいただけたでしょうか。
ビダーシャルを相手に、この形での決着は意外だったかもしれません。当初のプロットでは、私もここでルイズがディスペルを
覚えて勝利するという形で考えていました。
しかし、書いているうちに「力で屈服させて、それで本当に理解や信頼が得られるのか?」と疑念が湧いてきて、戦いを
避ける方向で話を作り直しました。
『力で勝つだけじゃ、なにかが足りない』
ウルトラシリーズの曲の中で、この歌詞がもっとも好きです。
また、先日ウルトラマン基金のwebサイトを見てまいりましたが、ウルトラマンとともに歩んできた多くの方々の温かいメッセージを読み、
一円、十円でも募金は続けていこうと感じ、そんな心が届くような作品が書ければいいなと思いました。
最後に、支援してくださった皆様、ありがとうございました。
さて、次回才人たちに襲い掛かる敵はなにか? また来週!
これにて、代理の代理 終了。
前半妙に細切れだな乙
ウルトラ乙
代理も乙
そういえば、漫画やアニメで結構「災厄」って出てくるよな
BLAME!も災厄がどうのって話が出るし、同じ釘宮のシャナでも大災厄を回避どうのこうの
>>525 「A-10とか昔から好きだったわー、幼稚園児くらいから好きだったわー(チラッ」
いくんだ
>>472、ヴォオオォォォォされるべきはこいつだ
>>539 >ヴォオオォォォォ ってのが アヴェンジャーの射撃音だとしたら
A−10が好きな
>>497には むしろ 『ご褒美』?
>>540 ミンチより酷くなって二度と現れないならそれでいいだろ
おかま海軍のペイヴウェイでもなんでもいいけど
快楽のうちに死ぬ…この拳はトキ!?
そういえばYS-11以来の国産旅客機が作られてるそうですね
てかここゼロ魔スレですよね
お久しぶりです。
なんとか今月中に投下できそうです。
進路クリアなら18:45ごろより第47話(過去編最終回)を投下します。
それではいきます。
「……なっ!?」
トリステインの王宮にてフィリップ三世が書簡を開く二日前。ガリア
王国の王都リュティス。その中心にあるヴェルサルテイル宮殿の巨大な
王城『グラン・トロワ』の謁見の間で、トリステイン王国の密使である
一人の竜騎士が絶句した。
「そ、それでは我が国には何の利益もないではありませんか!」
「……そんなことはないだろう?卿の言ったとおり、貴国の生ける伝説、
『烈風』どのを治療することができる。それ以上のことは何も書かれて
いないぞ」
絶句する竜騎士を、玉座に座するガリア王、ルイ一三世が肘をついたまま
その王権の証である整えられた青い顎髭をなでつつ見下ろす。その顔には
絶対的な強者の笑みが浮かんでいた。
「我が忠臣は貴国の望みを叶えるだろう。他に何か言いたいことはあるか?」
先代のロベスピエール三世と異なり、ルイ一三世は若く好戦的な野心家だ。
トリステインのフィリップ三世とも幾度となく杖を交え、臣民からの
人気も高い。その彼が煮え湯を飲まされ続けたトリステインの伝説の
窮地を知り、交換条件を出してくることは想定されていた。しかし……
竜騎士はうなだれたまま答えられなかった。無理もない。散々待たされた
あげく、わずかでもこちらの要求を通すか、それとも全部なかったことに
されるか。その様子を、ガリア王は自身の質問への肯定と受け取った。
「本来ならば卿をもてなす宴を開くべきだが、今は時間が惜しいだろう。
フィリップ三世陛下への親書をしたためる故、しばし待て」
ルイ一三世はそう言うと、指を鳴らす。即座に小姓が用意した火食い鳥の
羽根ペンと羊皮紙を王の御前に掲げる。ガリア王はさらさらと流麗な筆致で
親書をしたためると、懐から宝石がちりばめられた精巧な銀細工の杖を
取り出し、一振りする。その動きに合わせて親書が巻き上がり、封蝋され、
花押が捺された。
その親書を、小姓が竜騎士の前に持ってくる。それを受け取り、失意を
隠すことなく退場する竜騎士。その姿が見えなくなってから、控えていた
重臣が王に注進する。
「陛下。『烈風』を亡き者にするまたとない機会ですぞ。それを……」
重臣はそれを最後まで言うことができなかった。王が素早く立ち上がり、
その豪奢な襟首を掴んでいたからだ。
「お前は……俺を『烈風』に勝てないから誅殺した臆病者と、歴史に
名を残させたいのか!」
襟首を捕まれたまま持ち上げられ、重臣は泡を吹く。ガリア王はそれを
見て吐き捨てるように言う。
「『烈風』とは、いずれケリをつける。分かったか!」
そう言って、ガリア王は重臣を緋毛氈の上に放り投げた――
「これは……おのれルイめが!」
親書に目を通したフィリップ三世は、怒りとともに親書を真っ二つに
引き裂いた。その様子に、あかぎが尋ねる。
「いかがなされましたか?」
「どうもこうもないわ!あの男、よりにもよって『こちらで加療する故、
烈風どのをリュティスまでお連れいただくよう』などと書き寄越しおった!
これではこちらには何の益もないではないか!」
腹に据えかね今にも火を噴く勢いの王に、あかぎは静かに言葉をかける。
「あちらも焦っておられるようですわね。何しろ『毒』の正体と治療方法を
知るのはこちら、治療できるメイジはあちら、ですもの。
ですが、ある意味これで良かったのかもしれません」
「どういうことだ?」
王は興奮冷めやらぬままあかぎをにらみつける。その怒りを優しく
静めるように、あかぎはゆっくりと落ち着いた様子で言う。
「治療が必要な人間がもう限られてしまっているからです。
ド・マイヤールさまが倒れてすぐ、私が識別救急のカードを使ったのは
覚えておられますか?」
「う、うむ。余に『在隊治癒可能な微傷者』の緑のカードを渡しおったな。
余を葡萄か羊毛のように扱いおって。あのカードがこれに関係するのか?」
王は逆に問う。
識別救急――トリアージの概念は、赤十字国際条約で禁止されている
『差別的治療』に当たるとして導入には慎重だったものの、大日本帝国
陸海軍における最前線の野戦病院ではこれなくしては成り立たず、軍医
関係者のみ分かる変則的なものとして導入された。
だが、これは貴族社会においては時によって貴族よりも平民の治療を
優先するという、社会の根底を揺るがす禁忌に触れるものであり、実行に
当たっては実際にあかぎに面と向かって抗議した『水』メイジもいた。
しかし『キョウリュウ』の『毒』の正体を知る唯一の人間が行うことで
あるため、王命によりトリステイン・アルビオン連合艦隊の残存将兵
全員に対して実施されていたのである。
王の問いに、あかぎはその目をまっすぐ見て答える。
「はい。黒いカード――『助かる見込みのない死者』は別にして、赤い
カード――つまり『担架で搬送しなければならない重傷者』を、私は
全部で六枚出しました。
『キョウリュウ』の心臓に杖を突き立てたアルビオン空軍の三人、
『キョウリュウ』の動きを止めた『烈風』ド・マイヤールさま、そして
ご自身の大隊を『キョウリュウ』の間近で指揮し続けたド・ギンヌメール
伯爵さまと、ド・ワルド子爵さま。
そのうちすでに二人が亡くなっておりますが、残る四人のうち、
ド・ギンヌメール伯爵さまとド・ワルド子爵さまはまだ動けますから、
何とかなりますわ」
「ん?ギンヌメールにはそちは『自分で歩ける徒歩可能者』の黄色い
カードを渡したのではなかったか。そちはもう一度カードを配ったのか?」
「はい。『キョウリュウ』の『毒』の影響は、時間が経ってから現れる
ものもあります。ですので、艦隊がトリスタニアに戻ってからすぐに、
もう一度お配り致しました」
あかぎの言葉に王はうなる。あかぎが渡したカードは黒もそれなりには
あったものの、ほとんどが緑と黄色ばかりで、黄色が一番多いと王は
聞いていたからだ。
実際、原子力光線砲の攻撃と被曝の度合いにより、即死かもう助かる
見込みのない重体に陥るか、さもなくば何とかハルケギニアの治療だけで
持ちこたえられるレベルで落ち着いた者が多かった。だが、あかぎも
放射線の中長期的な影響についてまだ知らないことが多かったことを
知るのは、それから数年の時を必要としていた。
「陛下。この件、私にお任せいただけませんか?ド・マイヤールさま
だけでなく、より多くの人間が助けられるようにしてみせますわ」
あかぎのその言葉から三日後、六騎の竜騎士に護衛された二台の竜籠は
一昼夜でトリステインとガリアの国境を越え、ガリア王国の王都
リュティスに到着した。
最速の風竜と、同じく風竜の竜籠である。積載重量よりも速度を優先
しており、そのとおり、乗客に負担をかけない最大速度でここまで来た。
彼らを迎えたガリア空軍は、国境からの連絡が届くのとほぼ同時の到着に
驚きを隠さなかった。
「時間との勝負ですので、ご無礼を承知で急がせていただきました」
フル装備のあかぎはそう言って、迎えたガリアの将軍をさらに驚かせる。
ハルケギニアでは見ない黒い髪の女が、見たこともない衣装と装備を
纏って竜籠から姿を現したのだ。その後ろから、金色の髪を縦ロールにした
トリステインの貴婦人が続き、もう一つの竜籠から軽量化を施した簡易
ベッドが『レビテーション』の魔法で浮き上がらせた状態で姿を現す。
その傍らには、ピンクブロンドの髪をショートカットにした若い貴婦人と、
それよりもやや年上のトリステイン貴族の青年が二人、ベッドと貴婦人を
守る騎士のごとく立つ。その様子に、ガリアの将軍は思わず一歩退いた。
「陛下の親書では『烈風』どののみをお連れするように書かれていたはずだが?」
「あら?『烈風』ド・マイヤールさまをこちらで加療する旨は書かれて
おりましたが、それ以外はダメとは一言も書かれておりませんでしたわ。
私の助手としてド・モンモランシ夫人は必要ですし、時間との勝負故、
護衛のついでに一緒に治療するのは当然です」
あかぎは将軍に向かってしれっとそう言ってのける。その様子に将軍は
隠すことなく歯がみした。
あの後、あかぎは今回の治療を体験させ、後の治療を行うために
『水』メイジを要求した。前回同じ事を聞いたときには全員辞退したが、
今回はしばらくしてから手が上がった。
それがかつて水の精霊との儀式を司っていたこともある貴族
ド・モンモランシ夫人。彼女とて異端の技に嫌悪感を抱いていたが、
同時にかつて精霊との儀式に失敗し没落した家を再興させたいとの思いも
あった。そうして悩んで天秤にかけた結果だということは、あかぎにも
痛いほどよく分かった。
同時に、ギンヌメール伯爵とワルド子爵の治療も行えるよう、あかぎは
画策した。ワルド子爵は魔法衛士隊グリフォン隊の隊長だが、幻獣を
乗りこなす技に長けており、風竜に騎乗できたことは僥倖だった。
全員風竜に騎乗させ、護衛としてガリアにねじ込み、既成事実として
治療することにしたのだ。それを伝えようとしたときにミネルバ中尉の
訃報を聞き、あかぎは肩を落としたが、残る全員を救えるよう、とにかく
急いだのだった。
「……そういえば、貴君の名を聞いていなかったな」
「東方の果て、大日本帝国海軍聯合艦隊司令長官付き副官のあかぎと
申します。向こうでは将官待遇でしたわ。今はトリステイン王国に身を
寄せております故、今回国王フィリップ三世陛下の全権大使としてここに
立っております」
「覚えておこう。
陛下がお待ちだ。貴君の言葉が嘘ではないことを期待しているぞ」
忌々しげにそう言うと、将軍はきびすを返した。
支援
グラン・トロワの謁見の間。そこは今静かなざわめきに支配されていた。
玉座に片肘をついて座する王を前に、遙か東方からやって来たという
女将軍が少しも臆することなく立つ。それは臣下の礼ではない。その証拠に、
女は身につけた武器の一切を取り上げられてはいなかった。王の命令だが、
それ故に、居並ぶ重臣たちはその見たこともない巨大な盾のような武器が、
両脚を包み込む鉄の長靴が、自らの主君にいつ牙をむくことになるのか
気が気でなかった。
「貴様のことは聞いている。あのがらくただと思わせていた『竜の羽衣』を
指揮し、かの憎き敵に痛打を浴びせたとな。
おまけに貴様本人もとてつもない治癒魔法の使い手だと聞いたぞ」
そう言ってにやりと笑うガリア王ルイ一三世の先制攻撃。ガリア王国の
情報網をもってすれば、観戦する駐在武官すら配置していない戦場に
おける情報すら把握しているという余裕の表れ。だが、あかぎはそれを
にっこりと受け流す。
「それは光栄ですわ。ですが、早く本題に入っていただかなければ困ります」
「な……貴様!陛下の御前であるぞ!」
その余裕の表情にいきり立つ重臣たち。しかし、あかぎは笑みを
崩すことなく言った。
「今の私たちには時間がありませんの。
それをわざわざここまで呼びつけておいて、さらに引き伸ばし……本当に
今回被害を受けた人たちを助けたいと思っているのですか!?」
笑ったままのあかぎだが、そのにじみ出る迫力は並み居るガリアの
重臣たちを気圧す。そこに拍手の音がする。重臣たちの列が割れ、
そこにいたのは青を基調としたガリア南薔薇花壇騎士団の騎士服に身を
包み、片目を隠すような緑がかった長髪に眼鏡をかけた、理知的な紅顔の
美少年だった。
少年騎士はくいと眼鏡を直すと、あかぎの前に進み出る。
「あなたの言葉はまさに正論です。今のぼくたちにはこの一秒はまさに
黄金の砂時計。どんな宝石よりも尊い」
そう言って、少年は右手の白手袋を外してあかぎに差し出す。
「あなたは?」
「おや?今回ぼくを指名したのはあなたではなかったのですか?」
「……遅いぞ。マクシミリアン」
「申し訳ございません。陛下。ヴァルハラに旅立つ騎士たちを放って
おくことはできませんでした」
「まったく。天才と誉れ高きお前も、運命には勝てんか」
ガリア王の呆れたような声に、あかぎは驚いた視線を少年騎士に向ける。
「はじめまして。異国の将。ぼくがガリア王国南薔薇花壇騎士団の
マクシミリアン・ラルカスです」
そう言って、ラルカスはあかぎと固い握手を交わした。
「面白いですね」
あかぎから治療方針を聞いたラルカスの第一声はそれだ。
「人の生命を司る設計図がそんなところにあったなんて。とはいえ、
女性に限れば新たな命を宿す子宮の側ですし、そう考えれば納得できます。
提供者を同性の兄弟姉妹に限るのも、設計図が近いという理由ですね?」
うんうんと納得するように首肯するラルカス。そこにあかぎが続ける。
「あなたにお願いしたいのは、提供者への麻酔と患者の拒絶反応の滅殺です。
私の国のやり方だと、患者は命は助かってももう子供がつくれない体に
なってしまうの。こっちの魔法だと、それを回避できると思うのよ」
「つまり、『水』の流れを操作して、書き換えた設計図が正しく機能する
ようにする、ということですね。そちらのド・モンモランシ夫人も
『水』のトライアングルだそうですが、シャルル王子殿下には及ばぬものの
まもなくスクウェアに達するぼくの方が向いている、と」
「難しいかしら?」
「いえ。ぼくに任せようと思ったのは賢明な判断でしたよ。他のメイジなら、
そもそもやろうとさえ思わないでしょうしね」
そう言って、ラルカスは不敵に微笑んだ。
あかぎが提案した治療方法――それはまだ大日本帝国でも臨床実験
段階にすら至っていない骨髄移植だった。台湾の海軍秘密試験場で発生した
小規模な臨界事故の被害者を死後解剖した結果からたどり着いたそれを、
あかぎはこの異世界で実現しようとしていた。
一方、治療を行うためガリア王国の王都リュティス郊外のサナトリウムに
移動したカリンたちの前に、一人のガリア花壇騎士が現れる。取り急ぎ
取り付けたような右の義足に松葉杖をつき、つるりをはげ上がった青年
騎士は、警戒するギンヌメール伯爵たちを横目に、『レビテーション』で
浮き上がった簡易寝台に横たわるカリンに話しかける。
「やっぱり。カリン・ド・マイヤール、きみだったか」
「……お前は……誰だ?」
「おいおい。おれを忘れたのか?」
カリンの言葉にやや気分を害した青年騎士。だが頭をなでたときに
その理由に気づいたのか、辺りを見回し出しっ放しのモップを見つけると、
それを引き千切って頭に載せる。
「これなら分かるか?」
「……お前……!ペルスランか!?」
「やっと思い出したか。そうだよ。おれだよ、カリン」
「ペルスランだと……!?貴卿、ガリア王国東薔薇花壇騎士団団長の
ジャン・ペルスラン卿か?」
その名を聞いてワルド子爵が目を見開く。それを聞いて、ギンヌメール
伯爵もカリンの姉たちも、驚いた視線をペルスランに向けた。
「いかにも。吟遊詩人が謳う、天に挑んだ愚かな竜騎士だ」
「……生きて……いたんだな」
「ああ。八千メイルから墜落死する寸前でなんとかな。その代償に二度と
飛べなくなったが。
だが、陛下はそんなおれを団長に据えたまま今回の戦に臨んだ。
おれも艦隊を率いて陛下の信頼に応えようとしたんだがな……結果は
この有様だ。フネは爆沈したが、またおれは生き残った」
感慨深く、苦しそうに言葉を紡ぐカリンに、ペルスランは複雑な笑みを
向ける。慰めの言葉をかけようとしたカリンだが、その前にペルスランが
にかりと笑った。
「……だがな、これだけ失敗したにもかかわらず、もう戦えなくなった
おれを陛下はまだ必要としてくれる。
信じられるか?カリン。陛下は、おれをシャルル王子殿下の御側役に
命じて下さった。殿下と、未来の奥方様、そしてお子様をお守りする
大役を、おれに授けて下さったんだ」
「ペルスラン……おめでとう。よかったな」
「ああ。だから、カリン。お前も『毒』なんかに負けるなよ」
真顔で言うペルスラン。カリンは、彼が怪我を押して自分を激励に
来てくれたと今更ながら知った。
「……負けるものか」
「それでこそ『烈風』だ。いつかまたあの店で祝杯をあげよう。じゃあな」
軽いガリア式の敬礼をして、ペルスランは去って行った。その消えた
背中に、ギンヌメール伯爵が言う。
「……我々は、ガリア王という人物を誤解していたのかもしれないな」と。
「……これは……」
「なんということでしょう……」
先にカリンたちが向かったサナトリウム。その大ホールを見てあかぎと
モンモランシ夫人は絶句する。
本来は通る必要のない場所。だが、ラルカスはあえてここを通った。
「……これが……ぼくたちがあなたを欲した理由です」
そう言って、ラルカスは拳を握りしめる。その言葉からは、たとえようの
ない深い悲しみがにじみ出る。
そこには――血と漿液、そして排泄物のにおいが充満していた。全身が
焼けただれ、膿にまみれた者。かすれるような声で横を通る彼らに
「み、水……」とだけ口にした者。吐瀉物と汚物にまみれ、それを止める
術を失った者――末期的な放射線障害の患者たちがそこにあふれていた。
「彼らには『治癒』の魔法が効かないんです。ぼくたちは……ただ彼らが
死んでいくのを見送ることしかできない」
「ミスタ……」
「あなたには見て欲しかった。この現実を。
何が天才だ。ぼくには、彼らの苦しみを和らげることすらできない……」
あかぎが言葉をかけようとするが、ラルカスはうつむいたまま自嘲するように
言う。そこに、彼らを見つけた従軍看護婦姿のガリア花壇騎士が走り寄る。
その帽子に飾られた薔薇の部隊章から、彼女もラルカスと同じガリア
南薔薇花壇騎士だと分かる。
「ラルカスさま!」
寄って来る彼女から見れば子供でしかないラルカスだが、それは上司に
助けを乞う部下のようだった。ラルカスは軽く頷くと、彼女が案内するまま
ある患者の許へと向かう。あかぎとモンモランシ夫人も、二人の後を
追った。
「気をしっかり!ラルカスさまが来て下さいましたよ!」
女騎士はそうベッドに横たわるぼろぼろの患者に声をかけた。
聞けば、彼は桃山飛曹長が上空から見た『キョウリュウ』との戦いで
胸に杖を突き立てようとして、その皮の厚さに阻まれたらしい。
彼の部隊の竜騎士たちはもう全員ヴァルハラに向かってしまった、とも。
ラルカスはベッドの竜騎士の手を握ると、先程までの弱気などみじんも
感じさせない口調で言う。
「ぼくが分かるか?今、トリステインからお招きした、東方のメイジどのから
みんなの治療法を伝授してもらうところだ。
もう少しだ。だから……もう少しだけ待ってくれ!」
ラルカスが手に力を込める。しかし――竜騎士は聞こえぬほど小さく
何かを言うと、そのまま力が抜けたようにラルカスの手をすり抜けた。
にわかに慌ただしくなるその場所を離れ、ラルカスは言った。
「……行きましょう。もう、今のぼくにできることはない」
ラルカスはあかぎたちに顔を見られないように歩き出す。
二人はその後ろをついていくことしかできなかった。
あかぎたちが治療室の前に到着すると、そこにはカリンたちだけでなく、
王宮『グラン・トロワ』の警護をしていたはずの西百合花壇騎士がいた。
カリンの姉は術式で腰のあたりをまくる必要があると伝えてあるので、
予定通り病人服に着替えていた。
何故中に入らないのかとあかぎが問うと、騎士は「まもなくこちらに
陛下がおいでになります」と答えた。
「……時間が惜しいって言ったこと、ご理解いただけなかったのかしら」
「まあまあ。あなたの技をご自身の目で見たいのでしょう」
「はぁ。手術中は余計なことを考えたくないのに……」
ふつふつとわき上がる怒りをなだめようとするモンモランシ夫人に、
あかぎはがっくりと肩を落とす。それまでの印象とは異なったあかぎの
リアクションに、モンモランシ夫人だけでなくラルカスもくすりと笑った。
それから程なくしてガリア王がその場に到着する。王は悪びれもせず
手を上げると、あかぎの前に立った。
「悪いな。貴様の手腕を俺の目で見たくなった」
「それは構いませんが、そういうことでしたなら前もってご連絡を
いただかなければ困ります」
「ふっ。俺にそこまでずけずけとものが言えるヤツはこの国にはいない。
どうだ?俺のところに来ないか?いくら貴様が有能な将軍でも
トリステインでは貴族の地位にも就けまい。とはいえ、いきなり爵位を
やるとうるさいのがいるからな。とりあえずシュヴァリエとして、
その禄の倍を出そう。それか、側室として囲ってもいいぞ」
「身に余る光栄ですが、謹んでご辞退させていただきます」
「おい、即答か。普通ならそこで少しは悩むだろうに」
あかぎの言葉にガリア王は一瞬気分を害した顔をした。だが、すぐに
それを笑い飛ばした。
「まぁいい。このハルケギニアの人間ではない貴様には貴族の地位も
王の側室となるのも興味はないということか。ますます気に入った。
確か、貴様はトリステインでは商人として身を立てていたな。
それなら……」
「申し訳ございませんが、私の扱う『ミジュアメ』は、トリステイン王国
国王フィリップ三世陛下より国外への販売を制限されておりますので。
誠に申し訳ございません」
「ちっ。フィリップのヤツ、相変わらず抜け目のない。クロステルマンに
アストン、モット……こっちに向けているだけでも『烈風』だけじゃなく
いいのが集まっていやがる。
仕方ない。今回は引き下がろう。だが、トリステインに飽きたら
いつでもガリアに来い」
「考えておきますわ」
そう言って、あかぎはにこやかに微笑む。そしてカリンとその姉を
連れて治療室に入ろうとしたとき――ラルカスが待ったをかけた。
「待って下さい。あかぎどの、あなたはさっきぼくに『生命(いのち)の
設計図を移すのは同性の兄弟姉妹から』と言いましたね。
どうして『烈風』どのはそちらの女性なのですか?」
「何だと?」
ラルカスの言葉に、ガリア王の視線が鋭くなる。皆の視線が一堂に
集まる中、カリンの姉は臆することなく言った。
「我が家の男子はカリンただ一人にございます。弟の命が危ういとき、
そこに手をさしのべない姉がどこにおりましょう」
「……ほぉ。未知の技を最初に試されて死ぬかもしれんというのに、
たいした度胸だな」
ガリア王は試すようにカリンの姉を見下ろす。彼女はその視線から
目をそらすことなく続ける。
「殿方に騎士道がございますように、わたくしども女にも婦道がございます」
「なるほどな。……マクシミリアン。お前もガリアの騎士として、負けるなよ」
「もちろんです。この杖に、いえ、ガリア花壇騎士の名にかけて、東方の
技を我が物として見せます」
ガリア王の言葉に、ラルカスは姿勢を正し踵を鳴らしてそう答える。
そして――ハルケギニア史上初の術式が開始された。
「では、これより骨髄移植手術を開始します。
手順は先程打ち合わせたとおり。まずは二人に眠ってもらって、
それからカリーヌさんの拒絶反応を滅失。その後ルイーズさんの腸骨から
骨髄液を採取して、これを腕からの静脈点滴としてカリーヌさんに移植します」
「……まったく。そういうことなら先に話を通してくれても良かったんじゃ
ないですか?」
部屋の扉が閉まり、あかぎが用意した道具を前にしての説明を聞きながら、
ラルカスは小さく溜息をついた。
「ごめんなさいね。でも、これはトリステインの最重要機密事項なの。
少なくともあと三十年、できれば死ぬまで内緒にして欲しいわね」
「……仕方ないですね。吹聴したところでこちらに益はないですし。
わかりました。それでは、始めますか」
「ええ。ド・モンモランシ夫人、お願いします」
あかぎの言葉にモンモランシ夫人は真剣な面持ちで頷いて、ベッドに
仰向けに横たわるカリンとうつぶせに横たわるカリンの姉の二人に
『眠りの雲』(スリープ・クラウド)の魔法をかける。術者の心根を
映し出したかのような安らかな眠りに誘われ、二人はすぐに寝息を
立て始めた。
「次にカリーヌさんの拒絶反応の滅失。ミスタ・ラルカス、お願いします」
「心得ました。……さて、うまくいってくれるといいのですけれど」
そう言って呪文を唱えるラルカス。『治癒』(ヒーリング)の呪文に
近いが、その効果はある意味真逆。モンモランシ夫人もその一語一句を
聞き漏らすまいと真剣に耳を傾ける。
その様子を、カリンは夢見心地のまま、現実感を喪失した状況として
感じていた。
自分が自分じゃなくなる感じがする――カリンはラルカスの魔法で
自身のほとんど崩壊した遺伝子情報が喪失するのをそう感じていた。
ふと顔を横に向けようとする……が、それはできなかった。
ただ、姉の規則正しい寝息が聞こえるだけ。諦めてそのまま眠りに身を
委ねようとしたとき――絹を引き裂くような悲鳴が部屋に響き渡った……
「次はルイーズさんの腸骨から骨髄液を採取ね。自分の腰に手を当てて、
両肘を張った時に親指が当たる位置の少し下くらいの場所から採取するの」
あかぎはそう言ってラルカスに消毒済みの注射器を手渡す。
トリステインの職人たちが不眠不休で五日間、精魂込めて作り上げた逸品。
あかぎの要求したハルケギニアの常識を覆すミリ単位以下の精度を熟練の
職人の勘と腕前のみで実現したゆがみのないその銀の針は、彼らの伎倆と
意地のたまもの。もちろんメイジたちも負けてはおらず、骨を貫くために
用いられるステンレス鋼が存在しないハルケギニアで職人たちが生み出した
針に『固定化』と『硬化』で補強を施したのみならず、ゆがみなく透明度の
高いガラス製の注射筒、そして中央にはめ込まれた黄金の象嵌リングが
彼らの美意識と伎倆を誇示していた。
ラルカスは一度自分の腰に手を当てて位置を確認してから、あらわに
なったカリンの姉の腰に手を添えてゆっくりと針を沈み込ませる――が、
そのとき、カリンの姉が痛みに絹を引き裂くような叫びを上げた。
「……くっ。眠りが浅かったか」
骨をも貫く痛みに暴れるカリンの姉。針が折れるのを恐れたラルカスが
とっさに針を引き抜こうとしたが、長い針が抜ける際に生じる痛みが
さらに彼女を苦しめる。何とか針を痛めることなく抜くことができたが、
モンモランシ夫人が『眠りの雲』をかけても効かず、あかぎも暴れる
彼女を押さえるのに手一杯になった。
「……どうした!?何があった!?」
「入ってこないで!」
異常事態を察して外から激しく扉を叩く音とともに聞こえる声。骨髄液の
採取と移植は細心の注意を払う必要がある。無菌室がない状況で、これ以上の
騒動は厳禁。あかぎの声で外は収まったものの、ベッドの上で声をかけて
落ち着かせようとしても無理な状況で、押さえつけるだけでは術式の
続行などできるはずもない。
そのとき……モンモランシ夫人があかぎをそっと押しのけて、カリンの
姉を優しく抱き上げる。ベッドに上がって患者の腰を外に向け、全身を
使って保定する。
「ごめんなさいね。わたくしの魔法が甘かったから。でも、もう少しだけ
我慢して。すぐに終わるから」
ぎゅっと胸に抱きしめて。ゆっくりと落ち着かせようとするモンモランシ夫人。
そこにラルカスの狙いを定めた『眠りの雲』がかかり、今度こそゆっくりとした
寝息が聞こえ始めた。範囲魔法を間近にいる人間を巻き込まずに決めた
彼の伎倆に、あかぎは内心舌を巻く。
「ふう。一時はどうなることかと思いましたよ……」
「でも、落ち着いてくれて良かったわ〜。ミスタ・ラルカス、注射器に
異常はありませんか?」
「ええ。中に少しだけ入った体液を捨てて消毒し直せば問題なく使えます。
あまり時間をかけるのも患者に負担をかけるだけですから、手早く
やりましょう」
「わたくしはこのまま保定しています。何かあった時を考えれば、
こうするのが一番でしょう」
「お願いします」
ラルカスはそう言うと、注射器を洗浄消毒して、先程よりも慎重に
針を突き刺した。針が腰に深々と突き刺さり、骨の表層を貫いた硬い感触と
その先の柔らかい感触を確かめた状態でゆっくりと押子を引き、ガラスの
注射筒に赤いゼリー状の骨髄液を採取する。初めて見る生きた骨髄液
――それはまさしく生命の設計図だ――にラルカスとモンモランシ夫人は
畏怖を禁じ得なかったが、それを素早く埃が入らないように工夫された
袋の中でガラスの瓶に移し替え、必要量が揃うとカリンの右腕に点滴
静脈注射を開始する。これらの道具もトリステインの職人、メイジたちの
力作。点滴セットは今はここにある三セットだけだが、注射器とともに
トリスタニアでは今も新しく製作が続けられ、あかぎたちの帰還を待っていた。
「こ、これで……後は待つだけですね……」
ラルカスが疲れた表情であかぎに向かい合う。モンモランシ夫人も同様。
二人はあかぎが点滴を行う手順を一挙手一投足見逃すことなく覚え込んだ。
二人はこれからそれぞれの国の患者たちを治療する中心となる。
だが、今はお互いやり遂げた達成感で満たされていた。
うぉぉぉ〜、萌えゼロさん 生存確認! 支援、支援、支援。
「ええ。
後は、静脈から入った骨髄液がカリーヌさんに定着してくれることを
祈るだけ。定着しても最低三週間は常に注意が必要よ。血色が良くなって、
ちゃんと血液が作られるようになったら、一般の病室に移しても大丈夫よ」
「それにしても……これが、生命を移す……ですか。やりようによっては
衰えた肉体から脳だけを移す、なんてこともできそうですね」
「それは私の国でもまだ現実的じゃないわね。いずれはできるように
なるかもしれないけれど、それ以上に問題が多すぎるわ」
「そうですか……」
あかぎの言葉に、ラルカスはやや落胆した様子を見せる。その様子に、
あかぎは不穏なものを感じたのだが、口にはしなかった――
「……こうして、カリーヌさんやギンヌメール伯爵さま、ワルド子爵さまを
何とか助けられたの。拒絶反応がほとんど発生しなかったのは、今でも
本当に奇跡だと思うわ。
でもね、本当の問題はこの後に発生したのよ……」
そう言って、あかぎは語りを中断する。そのタイミングを見計らって
シエスタが冷めてしまったお茶を取り替える。
シエスタが戻ってから、あかぎは話を続ける。
「『キョウリュウ』の毒――放射線の影響は、それから三年以上過ぎてから
私たちに牙をむいたわ。多発する癌と風評被害……『毒が移る』って
言われて、縁談が破談になった人も多く出たって聞いたわ。トリステイン
だけじゃない。ガリアでも、ゲルマニアでも、アルビオンでも。
あの戦いから私が眠りにつくまでろくな小競り合いもほとんど発生
しなかったのは、どこもそんなことをしている余裕がなくなってしまった
からね。
だけど、それだけじゃなかった。私がそれを痛感したのは風評被害が
広がる前。『キョウリュウ』との戦いから二年が過ぎて……ピエールさんと
カリーヌさんに最初の子供が授かった時よ」
あかぎの表情が暗くなる。それを聞いて、ルイズは「え?」と思った。
「あれ?エレオノール姉さまの年とずれてる?」
「ええ。エレオノールちゃんが生まれる前。そう、あなたたちにはお兄さんが
いたの。生まれてすぐに死んでしまったけれど……ね」
「そんなこと……父さまも母さまも一度も話してくれたことが……って、
あれ?そういえば……」
ルイズはふと思い出す。そういえば……両親だけでヴァリエール家の
墓所にお参りすることがある。自分たちは決して連れて行ってくれない
けれど、それが、もしかすると――
そんなルイズの横顔に、あかぎは若き日のカリン――カリーヌを重ねていた。
――あの子はどこ?ねえ、あかぎ!――
――あの子は……リオンは、きみの体の毒を持って始祖の御許へ向かったんだ!――
――ピエール?それ、どういうこと?ねえ、答えて!――
そのときのことを思い出したあかぎは沈鬱な面持ちになる。
それから顔を上げ、ルイズを見た。
「……カリーヌさんは、ちゃんと骨髄が定着して元気になった……
そう思っていたわ。
だけど、魔法で消したはずの生命の設計図――遺伝子の損傷が残って
いたのでしょうね……あの子……ピエールさんがリオン君って名付けた
あの子は、生まれても長く生きられない体だった……」
「どういうこと?」
ふがくが問う。あかぎはその問いかけにぽつりぽつりと答えた。
「ふがくちゃんなら、分かるわね。
サイクロピアだったのよ……。その子を見たのは、取り上げた私と、
ピエールさんだけ。
私が取り上げたのだって、カリーヌさんが強く望んだから。
それでも二人とも強かったわ。
リオン君を送ってから、翌年にエレオノールちゃんが生まれて……
弱々しい産声だったけど、何とか元気に育ってくれたわ。
けれど、次のカトレアちゃんの時に、また私たちは現実を突きつけられたの……」
ルイズも、ふがくも、そしてシエスタもアニエスも、誰も何も言えなかった。
あかぎは言葉を濁し、そして続ける。
「だけどね。次のルイズちゃん……あなたが生まれたとき、二人とも
本当に喜んでいたのよ。力強い産声を上げたのは、あなただけだったから。
ううん。それだけじゃない。あなたが元気に生まれて育ってくれたことで、
ようやくカリーヌさんの戦後が終わったの」
「母さまの……戦後……」
ルイズがその言葉を反芻する。その言葉の意味は重い。生きた伝説、
強さの権化だと思っていた母がそんなことを考えていたとは、ルイズは
これまで知ろうともしなかった。
「……その様子だと、あかぎは知っているみたいね。カトレアの病気が
なんなのかを」
「え?」
ふがくの言葉に、ルイズは思わず顔を上げる。しかし、あかぎはそれには
明確に答えなかった。
「ええ。けれど、それは今話すことではないと思うわ。
けれど、これだけは覚えておいて。ルイズちゃんが伝説の系統で、
ふがくちゃんがガンダールヴなら、これからもあなたたちの前に『槍』が
現れるかもしれないってことを」
「それはそうかもしれないけど……。それよりも、今話すことではないって……
それってどういうこと?」
ルイズは混乱しそうだった。情報量が多すぎる。自分が『虚無』で、
ふがくが『ガンダールヴ』……なのは理解している。けれど、召喚された
『槍』と戦わなければならないかもしれないなど、考えたこともなかった。
ルイズの問いかけに、あかぎはしばし瞑目する。そして、ゆっくりと
話し始めた。
「…………話さなければならないかしらね。私が、『キョウリュウ』を
倒してから何をしたのかを。
……フィリップ三世陛下も、末期癌で亡くなったの。癌に『治癒』の
魔法を使っても病状が悪化するだけだったし。そもそもハルケギニアで
癌なんて全く知られていない病気よね。
だから……私は陛下の痛みを和らげるために二つの薬を処方したの」
「何を処方したの……って、まさか、あかぎ!?」
ふがくが何かの気づいたのか、おもむろに立ち上がる。その射貫くような
視線を、あかぎは目を伏せ直視できなかった。
「……ふがくちゃんは気づいたみたいね。
そう。私が処方したのはモルヒネとヒロポン……私の手持ちが尽きた
後は、クロステルマン伯爵の薬草園にあった芥子と麻黄から精製したわ。
それまで同じ材料から作っていた秘薬より純度が高い製法も教えたから、
それによって苦しみから逃れて安らかな死を迎えられた人も多かったけど、
伯爵を余計な騒動に巻き込んでしまったわ……結局、伯爵があんなことに
なってしまったのは、私のせいね」
「な……なんてものを渡すのよ!あかぎ、なんでそんなことしちゃったのよ!」
「ね、ねぇふがく。その『モルヒネ』と『ヒロポン』って……何?」
テーブルを叩くふがくの剣幕に気圧されながら、ルイズがおずおずと
尋ねる。だが、それに答えたのはふがくではなく、アニエスだ。
「それはわたしが答えよう。
『モルヒネ』は銃士隊を含むトリステインの近衛と王軍に支給される
鎮痛剤だ。軍医と衛生兵以外では竜騎士と魔法衛士だけが所持を許されている。
死にそうなくらいの痛みでも和らげてくれる強力な秘薬だ。
『ヒロポン』は強壮剤……いや、戦闘薬だな。その圧倒的な効果から
『氷の女王』の異称もある。通常は支給されないが、眠気を払い、戦う事への
恐怖感をなくす秘薬だ。もっとも、効果が切れた後の疲労感はすさまじいがな――
どちらも一般には流通していないし、トリステインでしか生産されない秘薬。
そして許可なくの所持が発覚すれ問答無用で死罪。
……有り体に言えば、どちらも限定的な使用のみ許可されるべき麻薬だ。
かつては王国の侍医長だったクロステルマン伯爵、そして彼が謀反の咎で
刑死した後はリッシュモン高等法院長がその管理を行っていることが、
何よりの証拠だ」
「な……なによ、それ……」
思わず絶句するルイズ。その様子に、あかぎは申し訳なさそうな顔をした。
「私が陛下に処方したのは末期癌の耐えがたい痛みを和らげるためよ。
ただそれだけ。陛下の最後の願いを無碍にはできなかったのよ……」
「だけど、どっちもこのハルケギニアには存在しない薬よ!そんなもの
渡しちゃったら、どんなことになるか、分からないあかぎじゃないでしょ!?」
「ええ。よく分かっているわ。
けれど、自分がよく知る人間が、自分たちの世界のものの影響で
苦しんでいるのを見て、私は放っておけなかった。
ふがくちゃんの言うとおりね。私は分かっていて混乱の種を植えたわ。
だから、武雄さんが死んでしまったとき、私は休眠することにしたの……
自分の弱さから逃げちゃったのよ」
ルイズは、そんなあかぎにどう言葉をかけて良いものか迷った。
もし、自分が同じ立場だったら、自分が、自分のよく知る人のその苦しみを
和らげられる手段を持っていたなら、それを使うことを躊躇うだろうか?……
少し迷いはするだろうが、たぶん、躊躇わないに違いない。
ルイズはふとふがくに視線を移す。拳を握りしめ、いらだつふがく。
彼女も分かっているのだ。いや、自分よりもこのあかぎという鋼の乙女を
知る彼女だからこそ、いらついているのだと。
だから、ルイズはもう一度聞いた。あかぎに、自分が一番知りたいことを。
「……あかぎ。教えて。ちい姉さま、カトレア姉さまの病気がなんなのか。
『治癒』の魔法も効かない、少し無理をすれば大変なことになる姉さまの
病気を」
ルイズはあかぎをまっすぐに見つめた。しかし……
「その答は、もう話したわね」
「え?それって、どういう……」
「言葉のとおりよ。そのものは話していないけれど、答はもう言ったわね。
それを理解できるかは、あなた次第よ。第一、それを知ったところで
どうする気だったのかしら?
……言葉が悪かったわね。でも、仮にそれを知ったところで、治療できる
可能性があるのはミスタ・ラルカスとモンモランシ夫人だけ。
モンモランシ夫人はもう十年以上前に亡くなっているし、ミスタ・ラルカスも
南薔薇花壇騎士を辞めて自由騎士になったって聞いたわ。
厳しいことを言うけれど、私がその二人と連絡を取れた時期にも
カトレアちゃんの治療をお願いしなかった、ってことを、ルイズちゃん、
あなたはどう理解するのかしら?」
ルイズははっとする。ちい姉さま――カトレアの薬は、このタルブの村に
母カリーヌが自ら求めに来ている。それを誰が処方しているのかを聞いたことは
なかったが、間違いなくその処方箋を書いたのは目の前にいるあかぎ……
ミジュアメのようなあの特製の薬を匙一つ食べると、全身がきしむ痛みに
耐えていた姉の表情が和らいでいた。そして、その甘い香りに子供だった
ルイズが手を出そうとすると、母にこっぴどくしかられた。
それがどういう意味だったのかを、聡明なルイズはようやく理解した。
「……そんな……ひどい……ちい姉さまが、いったい何をしたって言うのよ」
「ルイズ……」
「ルイズさま……」
ぽろぽろと涙が頬を伝う。その様子に、ふがくとシエスタが立ち上がる。
「仕方なかった、誰も悪くなかった、って言えるほど、簡単なことじゃ
なかったってくらいは私でも分かる。
だけど……あかぎ、それはやっぱり間違ってると思う」
「ルイズさま。ミス・モンモランシにお話を伺ってみましょう。
それに、ガリアの騎士さまなら、同じガリアからの留学生のミス・タバサが
何かご存じかもしれません。
ですから、お気持ちをしっかりと持って下さい」
「う、うん」
二人はルイズを両脇から抱えるように寝室へと連れて行く。そのとき、
ふがくは電探に何か引っかかるものを感じたのだが、直接動く気配を
見せなかったため、それをノイズと判断して無視した。
そして、アニエスはそんな三人を見送ってから、はっきりと言う。
「わたしは、あかぎ母さんが最善ではないとしても、次善だとしても、
どうにかしようとしたのは知っているつもりだ。
子供の頃は分からなかったが、銃士になった今なら分かる。『守る』と
いうことの難しさが」
「……ごめんなさい。アニエスちゃん。少し、一人にしてもらえないかしら……」
あかぎはテーブルの上で手を組み、祈るようにしてアニエスとは目を
合わせなかった。アニエスがそれ以上言葉をかけられないまま、詰所に
戻るために出て行くと、家族たちも食堂に近づかなかった。
そうしてあかぎの電探が近くに動くものを感じなくなったとき、彼女の
頬を一筋の涙が伝う。
「……ごめんなさい。武雄さん。ちょっとしゃべりすぎちゃったかな……」
あかぎのつぶやきに食堂の空気がわずかに揺れる。ただ、それだけだった……
支援しますっ
以上です。やっと過去編が終了しました。
かなり尺が長くなりましたし、これ以上分割してしまうとまた本編に戻るのが
遅くなってしまうので、カリンちゃんの戦後編はほぼカットしました。
ガリアのことを書くのに14巻を読み直したら南と西を間違えたかな?と
思ったのですが、15巻を読んだら間違ってなかったようだったので一安心です(何
なるべくツキイチではお目にかかれるようにしたいと思っていますので、
これからも宜しくお願いします。
GJでした! まさかの美少年ラルカスw
久々の投下、乙でした。
何か 時期が時期だけに、カトレアの悲劇が・・・
リアル世界での 一日も早い事態収束と、被災者の皆様に健康被害がない事を 願います。
萌えゼロの人乙
放射線はホント怖いわ…
血を吐きながら続ける、悲しいマラソンですよ
乙です。
放射能で苦しんでいるのが身内じゃなかったら、抗う姿に感動しつつも
自分じゃなくてよかったと安堵するんだろうなぁ、とかそんなことを考えさせられました。
そういえばギエロン星獣のときは東京も放射能汚染されたんだよな
そういや、忍法帳とか大丈夫?
しばらく投下する人が減りそうな予感がするけど
リセット三回目だっけ?
どうなることやら
2ちゃんも不便になったもんだ
忍法帳もだけど要領からスレ立て時期だよな、でもレベルが足りなきゃ立てられない。たまるまでは何日もかかるし
回避できた人いませんか?
プロバイダ単位で規制の巻き添えが発生しないように、ってシステムじゃないのん? > 忍法帳
政治系とかで大きな動きがあると決まって大規模規制が発生しますからねぇ
実際きついよな、スレ立てが楽にできなくなると
スレ立てやってみる
スレ立て乙
でもみんなの忍法帳が回復するまでしばらく投稿は減るものと覚悟したほうがいいかもな
ここで●持ちの出番ですよ
忍法帳と言うものがよくわからない
あと話が1ミリも進まない、何故こんな妙なところで詰まっているのか
ウルトラ忍法帳のクロスSSならいつでも歓迎しますよ
忍法帳の問題はスレ立てだけじゃなく
低レベルだと長文かけないんだよな
レベル1で250Byte位しか書けないから
4096Byteの書き込み制限のうちの5%位しか使えないのかな?
安価付けようものなら三行が限界
二つ安価付けると二行
投下しようと思ったのになんかメンドイことになっとるねえ
>>581 書きたいんだがコミックスが手に入らない
物置からコミックボンボンを引っ張り出そうにも量が多すぎるw
まとめWikiにすぐ登録されるssとなかなか登録されないssの違いって何?
作者嫌われてんの?
男子高校生の日常とか生徒会役員共が好きなんだがなんとか呼び出してネタに出来んものか……
>>586 呪いの使い魔みたいなのもあるんだし、料理次第だろ
今はなきボンボンか。
超闘士と、宙球戦士が未だに忘れられんな。
超闘士は復刊で完全版出たが、宙球は難しいだろうなあ。
るい智は日常パートも多いけど、一応能力バトルみたいな要素もあるから
それらとは比べられないんじゃないの?
まあバトルシーンが無いだけでそれらのキャラは召喚前の原作サイトと同レベルの能力だから
話を作れなくは無いだろうけど
天草シノとか下手したらサイトより役に立つかも知れんしな
いい加減安定しないかな……
忍法超、また流された?
何が忍法帖だよ、馬鹿馬鹿しい
こう何度もリセットをほいほいやられるとさすがにな
避難所に投下してアドレスだけ本スレとかになりそうですね。
>>592 何か、いざとなったらそれもアリな気がしてきた
まず俺は書き上げないとなw
>>591 _>三>、_
<:.ー:.〈:.:.:.∧_r―――┐
ヽ:.r:∧:.{ y |__/ l
ノ:.:.〉_ Vし__/ | l
r厂Τ\∧_>V .ィ , ィレ7 |
/ ヽ |/]i.vィ/ ′ _≦_  ̄\ _,, -―-- .._
/yへ / | | ′ >\ `ー''" __ /ー‐-、
(_// /―――f 三ミ| / / 7 / /  ̄ ヽ r_ノ
`┴ー――‐^ー-^| フ´ ̄ _≦/__∧__ \
V \_| 、`ー-≦、ノ `ーキ-≠、 />x
| |、_\ ヽ//イ ∧
| _」ヽヽ_> )>′⊥_}、
└r''"´ ヽ }ノ \ / / / \
ヽ ヽ |'´ \ / / .、へ \
| | \ \ / / / \\ \
| | \ / / / \\ \
>>444 遅レスだけど、タバサに双胴の悪魔はある意味似合ってる気がする。
待ち遠しい
アクマの作者さん
待ってます
調べるほど面倒な話なのな、忍法帖。
一括規制されないだけマシと言えばマシなんだが…
さて、投下する覚悟を決める作業に戻るとするか。
ボンボンならハンゾーだな
なにより将軍がかわいいしね
>>585 まとめにすぐ登録されるSSは投下した「作者さん」がその足で登録してる事が多い
遅い作品は読者が「気付いた時」に登録しているから遅い
大河原先生が光臨されるとか?
むう…
ボンボンならJING一択だろ
ボンボンと言えば飢狼伝説だってばっちゃが言ってた!
ボンボンならプラモウォーズだろJK
カンニングーだろJK
自分ならロックマンXだな
それかロックマンか
>>607 でもそれってコロコロですよね?
コロコロはたまにエロかった。特に別冊
>>609 夏の別冊でトラウマができたのは俺だけじゃないはず…
611 :
!nanja:2011/05/31(火) 22:17:20.67 ID:tBOCq2+1
にんじゃー
なんだよなんじゃって
しかも忍法帳何度やってもエラーになるし
よしテスだ
末尾がPTならスレ立て可能だぜ。
615 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/05/31(火) 23:10:28.93 ID:gLbzWj+i
ここまでアホーガンとレスラー軍団無しorz
ボンボンにさらに忍者とくればゴエモンのヤエちゃんしかいない
最高にエロかったわ
某防衛隊員(エビス丸ってたしか… いや、よそう。
俺の勝手な推測でスレの皆を混乱させたくない)
ボンボンならプラモ狂四郎にガンダム野郎だな
次スレの流れで歯ぶら士召喚を思いついたが誰得。
取りあえずV8キッドを挙げてみる
みょ?
まだ容量あるのか。
あと5KBか
>>617 エビス丸の正体が、かわいい女の子だって!?
そんなことが本当にあるのか……?
うめ
埋めろ埋めろ心をこめて埋めるのだ〜!
ボンボンで忍者…お気楽忍者ハンゾー君……
シャドウ召喚は・・・小ネタにあったな
瓦礫の塔から召喚はいいけど
魔大陸から召喚は違う意味で泣けるからやめにしてね!!
>>629 誰もいない・・・あんな所に妙な鏡が!
的な感じでワンチャンあるで!
「埋めよう」
「埋めよう」
そういうことになった。
梅干し
各巻よりセリフ抜粋・シエスタ
1巻「貴族の方々にお出しする料理の余りモノで作ったシチューです。よかったら食べてください」
2巻:出番なし
3巻「け、結婚するからって言えば、喜ぶわ。みんな。母さまも、父さまも、妹や弟たちも……、みんな、きっと、喜ぶわ」
4巻「もう、ちょっと、その、人が来なさそうで、綺麗な場所がいいなあ。あ、でも! これ願望でして! サイトさんがここがいいって言うんなら、ここでも平気よ。ああ、わたし、怖いです。だって初めてなんだもの。母さま許して。わたしここでとうとう奪われちゃうのね」
5巻「……子供みたいな体して、貴族? ……へぇ」
6巻「好きなんでしょ? 要はやきもちじゃないですか。それなのに貴族がどーのこーのなんてね、ちゃんちゃらおかしいですわ」
7巻「やーん、こんな早く会えるなんてー! わたし感激です! か・ん・げ・き!」
8巻「勘違いしないでください! ミス・ヴァリエールは正直どうでもいいです! でも、好きな人の涙は見たくないんです……、ぐぐぐ……」
9巻「し、しかってください! サイトさんにしかっていただくなら、わたし本望だわ! こ、こんな感じですっ!」
10巻「『お前が望むやり方で、このわたしに奉仕しなさい』。そう言ってマダム・バタフライは、騎士に奉仕させるんです! それがもう! きゃあきゃあきゃあ! 言えません! きゃあきゃあきゃあ!」
11巻「でも、そんなやらかすであろうサイトさんが……、わたし……」
12巻「モノにしたなんて……。そんな言い方はよくないわ、ジェシカ。第一サイトさんは、わたしのそういう人じゃないもの。ご奉公先の、ご主人さまよ」
13巻「わ、わたしはちょっと舐めちゃいましたけど! そんぐらいですから! わたしは綺麗なままです! その、サイトさんのために……、ぽっ」
14巻:出番なし
15巻:出番なし
16巻「安心してください。このシエスタは、いつでもサイトさんの味方ですから。ほんとうもう、なんのかんの言ってわたしが一番ですよ? なにせよそ見してもあんまり怒りませんし、他の子とキスしてもあんまり怒りません。それ以上したら殺しますけど。でも好きですからね」
17巻「う、浮気はわたしだけにしてくださいねって! 言ったのにッ! やくそくしたのにッ! なんでサイトさんは高貴が好きなんですかぁ! 野に咲く可憐な花の良さだってもっと知るべきですッ!」
18巻「軽く? 入っちゃった?」
19巻「何もしないでただ待ってるなんてできないんです。もし、何かあったら……、サイトさんにも、ミス・ヴァリエールにも……、わたし、生きてる価値がなくなっちゃいます。だからお願いです。連れてってください」
20巻「地獄に落ちろ」
各巻よりセリフ抜粋・ワルド
1巻:出番なし
2巻「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」
3巻「ありませぬ。しかし、わたしに乗りこなせぬ幻獣はハルケギニアには存在しないと存じます」
4巻「くそ! 俺は……、俺は無能なのか? また『聖地』が遠ざかったではないか……」
5巻:出番なし
6巻「まあ有能は有能らしい。期待しようじゃないか」
7巻:出番なし
8巻:出番なし
9巻:出番なし
10巻:出番なし
11巻:出番なし
12巻:出番なし
13巻:出番なし
14巻:出番なし
15巻:出番なし
16巻:出番なし
17巻:出番なし
18巻「わかるだろ、マチルダ。俺にとって、聖地に向かうことは義務なんだ。そこに何があるのか、それはどうだっていいんだ。母の最期の願いだ。俺は、聖地に行かなくちゃいけないんだ」
19巻「ガンダールヴ、懐かしい名前ですな」
20巻:出番なし