【書き手の方々ヘ】
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【注意】
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議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
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立ってないようだったから立てたけど、よかったかな……
避難所にも音沙汰ないから勝手に立てたけど、後にして思えば宣言して立てればよかったです
申し訳ありません
◆bv/kHkVDA2 氏、乙です
ですが、次回からは次スレが立ったのを確認してから埋めるようお願いします
>>1 乙!
そして前スレ◆bv/kHkVDA2氏も乙!
無事にスレ立ったみたいで良かった。前スレで書けなかった感想をここで。
とりあえず…QBお前www続きも楽しみにしてます
前スレ最後の人、作品自体はGJなんだけど、次スレ立ってないうちから埋め投下ってどうなのよ……
もうちょっと常識考えて投下して欲しい
>>1乙です
前スレ最後の投下に関してですが、誠に申し訳なく
あの状況で投下すべきかどうか悩んだのですが、早く次スレに行きたいという思いだけが先行した結果、
埋めてしまえば次スレを立てる他無くなるなどとと思慮の浅い考えに従った結果、昨日の投下に踏み切ってしまいました。
今にして思えば、自分の勝手な行動はそのまま他の住人の皆様に多大な迷惑を掛ける事に繋がり、
また、色々と必要以上に焦り過ぎたのだと、自分自身の愚かしさを改めて実感するに至り、深く反省しております。
今回の件は、住人の皆様に叱咤される事も当然の報いかと存じ、どのような厳しい言葉も甘んじて受け入れようと考える所存であります。
以後はこのような独断専行、及び皆様にご迷惑を掛けるような事のなきよう、自分の行動に付随する責任に関してもよく考え、気を付けようと考えます。
この様なご迷惑を御掛けした上、厚顔無恥と思われるかも知れませんが、これからも投下は続けて行きたいと思います故、
もしよろしければ今後とも投下の際にはお付き合い頂けると幸いです。
長文失礼致しました。
非常に心苦しい報告になりますが、早速脱字を発見してしまいました。
>>6 の二行目は、「誠に申し訳なく存じ上げます」です。
連続でスレを汚す結果になってしまい申し訳御座いません。
乙です
次からは気を付けて
そういやフェイトとかはやてってどう絡んでくるんだろう
続き楽しみにしています
前スレ
>>445 投下乙でした。
三人共騙されるなァァァァッ!!
てか何だこのQB、原作より悪辣過ぎるんだが。
次回正統魔砲少女vs新統魔法少女(笑)激突ですね、わかりますwww
どうもはじめまして
ちょっとわかりにくいネタかもしれませんが
22:30頃から投下します
声が聞こえる。
魔法なんて信じるよりも、もっとリアルな力を手に入れたい。
渇望は、どこまでも果てしない。
「なのは、あんたまーだユーノんとこに入り浸ってんの?」
海鳴市、私立聖祥高校。
昼休みに屋上で一人飯としゃれ込んでいたなのはのところに、金髪の少女がいつものお供を連れてやってきた。
アリサ・バニングスは、腰に手を当てて仁王立ちの姿勢で、屋上の晴れた風にスカートをなびかせながらなのはを見下ろす。
「むー……、そんな言い方はないんじゃないかなあ、ユーノ君は悪い人じゃないよ」
どこか浮世離れした、ややもすれば間延びしているようにも見える茫洋とした表情でなのはは答えた。
アリサとなのはと、それから一緒に来ている月村すずかは、小学校の頃からの幼馴染で、
ずっと同じこの私立聖祥学園に通っていた。
小学生の頃は、いつも三人でつるんで、わいわい騒いでいたのだが、やがて学年があがっていくにつれ、
しだいに、それぞれ一人の時間を持つようになっていった。
異性の影がちらついたり、あるいは、ひとりで打ち込む自分の趣味を見つけてみたり。
「そうそうそれでさ、昨日聞いたんだ、S30の事故車が入ったんだって。いいパーツついてるかな」
「それよ、それ!いい女の子が、そんな油くさい趣味してちゃだめでしょ!」
「えー?」
すずかはアリサの後ろで、わたしも大学で工学部に進んだら自動車部に入るのも考えてますけどね、と苦笑いする。
「小さい頃から機械ものが好きだったんだよ、もう実際に手に入れられるようになったんだから」
「そりゃまーね……家電とかオーディオあたりで済んでりゃいいのになんでよりによって車なのよ」
「車はいいよ。機械が動いて、力を出してるってのが実感できるの」
「まーともかく、くれぐれも気をつけなさいよ、うちの校則からしたらほんとはあんたもやばいのよ」
「わかってるって。ありがとね、アリサちゃん」
そうは答えたなのはだが、正直、今更やめろと言われても、やめることなんて考えられなかった。
夜、多くの人々が寝静まり、街がひとときの静寂に埋もれる瞬間。
首都高速湾岸道路を駆け抜ける、一台の黒い影があった。
まばらに走る大型トラックの脇を、突き抜けるように倍以上の速度で通過していく。
背の低い車体に、猫の四つ足のように突き出たオーバーフェンダー。それが幅広のタイヤを飲み込んでいる。
他の車とは明らかに光量が違う強烈なHIDヘッドランプが、この車がストリートレース仕様であることを示している。
車体の色は、闇のように深い黒。
車種は、ポルシェ・911ターボ。リアウイング天面から見える巨大なインタークーラーが鈍い銀色に輝き、
それはこの車のエンジンが強力にチューンされていることをあらわす。
“ブラックバード”の二つ名で呼び謳われる、湾岸の猛者だ。
ポルシェのドライバーが探しているのは、ここ最近になって湾岸に“再び”現れたと噂になっている、純白のS30Zのことだった。
過去に忌まわしき伝説を持つ車。
大量生産される工業製品である自動車という観点からならば、同じ色、同じ型式、同じ外観の車などいくらでもあるように思える。
だが、そのS30Zは、少なくとも首都高をホームグラウンドにしている走り屋ならば誰もが、
噂を一度は耳にしたことがあるほどの畏怖すべき異名をとどろかせていた。
“悪魔のZ”。
そう、呼ばれていた車は、新たな乗り手を得て、再びその悪魔の姿を復活させようとしている。
ポルシェのドライバーの胸中には、そんな予感が切迫していた。
海鳴市郊外のある高校の正門前へ、1台の黒いポルシェが停まっていた。
あくまでも普段は、昼間の一般道では普通のポルシェとしてゆっくり走っているものだ。
昇降口を降りてきた栗色のショートヘアの少女は、正門前に停まっているポルシェの姿を見て一瞬歩を止め、
やがてかすかにうつむき加減になる。
近くに居たクラスメイトが何かを話しかけようとしたが、別の女子生徒がそれを止める。
クラスでは、割合地味な性格と思われているので、学校ではあまり目立たずにいる。
前髪に付けたX字型のヘアピンは、そんな少女の精一杯の、さりげない自己主張だった。
一見おとなしい少女が、いかつい外国製スポーツカーに向かって歩いていくのはある種危険な香りを漂わせる。
ポルシェのサイドウインドウが降り、赤みのかった瞳が少女を見上げる。
「ええよ……。わざわざ毎日迎えにこんでも。学校から家まで歩くくらいやったらもう大丈夫やから……」
そう呟くように言い、少女は自分の脚をさする。
少女は幼少の頃、脚に障害を負い、歩けなかった時期があった。
「いいから、乗って」
短く促され、少女はナビシートのドアを開けてポルシェに乗り込んだ。
Uターンのための操舵と共に太いタイヤが路面を噛み、砂粒を押し付ける音が地面を伝わる。
腹に響く排気音とプロペラ航空機のような独特の空冷エンジンの音を残して、ポルシェは走り去っていった。
支援頭文字D?
少女を自宅へ送り届けたポルシェが首都高へ向け発進していったのと同じ頃、
なのははある解体所兼修理工場のガレージに居た。
若い眼鏡の整備士が、エンジンのヘッドカバーを締め、最後にゆっくりと前開きのボンネットを閉める。
「とりあえず、これで一応走れるようにはなってるよ──なのは、本当にいいんだね?」
「うん。ヘンな話かもしれないけど、運命、そんな気がするんだ。こいつと出会ったのは」
若い整備士は、なのはとほとんど年のころは変わらないように見える。
「──気をつけてよ。本当なら、確実にスクラップにしてくれ──そう、前のオーナーに言われて預かったものなんだ。
僕も少しだけ動かしてみたけど、こいつは、本当にやばい。僕じゃとても手に負えなかったよ。
単にパワーがありすぎるとかそういうレベルじゃなかった」
そう心配そうに語る整備士に、なのははにこやかに微笑み、親指を立てて見せた。
「大丈夫だよ、ユーノ君。私とこのZ、本当に相性がいいみたいなんだ」
純白のS30Z。最初にこの解体所で見つけたときは、錆だらけで薄汚れて、
そのへんの廃車と見分けがつかないくらいだった。だが、なのはの目に留まったことで、
こいつは再びよみがえった。
不屈の意志、レイジングハート。
ユーノでも組まれているパーツをとっさには全て把握できないほど、徹底的なチューニングがされていた。
それでも、整備して軽く流してみた程度でも、
現代の首都高でも通じる一線級の戦闘力を持っていることはよくわかった。
そして、なのはは今夜、このZで首都高へ飛び立つ。
初めて手に入れたZ。
初めて手に入れた力。リアルな力。
それは、機械という無骨な無機質でありながらも、隠しがたい妖艶な魔力を秘めていた。
そして、その魔力はすぐに、もう一人の走り屋の目にも、見つかることになった。
「横浜33 て 53-68 ……間違いない。あの悪魔のZ」
黒い翼を力強く羽ばたかせるように、ポルシェはリアを深く沈めて加速体勢に入る。
駆動輪の真上にエンジンを置くリアエンジン・リアドライブのポルシェは、
瞬発力では他のどんなスポーツカーよりも優れている。
ナビシートに座る栗色の髪の少女も、そのZの姿を認め、驚きに目を見開いている。
ポルシェは相手が気づくよりも早く、一気に並びかけ、
そして体勢を整える隙も与えずに圧倒的なパワーで抜き去っていく。
「あれはなのはちゃん!?」
「知っているの?」
ポルシェのドライバーが、少女に呼びかける。
「うん……小学校で一緒やった子……でも、本当にあの車に……まさか……?」
「誰が乗っていようとも私には関係ない」
そう言いきると、ポルシェのドライバーは再び視線を真正面に据え、ギアを3速にいれ、アクセルを踏み切った。
高速道路の高架が衝撃で大きくうねるように見えた。それほどの加速だった。
一方、なのはもようやく相手の姿を見つけ、気合を入れていた。
「ブラックバード……今なら負ける気がしないの、あなたにも!」
なのはの声に応え、Zは狂おしいアフターファイヤーを吹き上げる。
こちらも3速へシフトダウン、床まで踏み切られたアクセルペダルに、ブーストメーターの針が痙攣したように跳ね上がる。
絶叫のようなホイールスピンとともに、Zは猛然と加速していった。
湾岸の深い時間帯、平日ということもあって一般車は少なくなり、走っているのは長距離トラックだけになっている。
道路のところどころに、暗礁のように居座っているソレを、右に左に交わしながらポルシェとZは突っ走る。
白いZは、レインボーブリッジから有明ジャンクションを抜けて湾岸線に入ると、じりじりとポルシェとの差を詰めつつあった。
フロントノーズに据えられた赤いZエンブレムがきらめく。
「ついていける……ついていけてるよ、ブラックバードに!」
Zの、パワーステアリングのついていない重いハンドルを握り締めながら、なのはは歯を食いしばって笑みをこぼした。
「(こんな顔、アリサちゃんやすずかちゃんに見せたらどんなにびっくりするだろう)」
「いけるよね、Z!」
アクセルを踏む右足に力を込め、Zがそれに応えた。答える声が聞こえたような気がしていた。
ゆるやかに左へそれる13号地コーナーを抜け、2台は海底トンネルへ飛び込んでいく。
ぎらつくトンネル内の照明で、互いの顔が見える。ポルシェは右車線を、Zは中央車線を走る。
互いのコクピットが数十センチの距離まで接近する。
「間違いないの?」
ポルシェのドライバーは、トンネルの轟音にかき消されないように叫ぶようにして、ナビシートの少女に呼びかけた。
「(どうして……どうして、なのはちゃんがあのZに乗ってるの……)」
少女は何も声に出せない。
トンネルはやがて登りへ転じ、再び夜の闇が迫る。
坂を登りきってトンネルを抜ければ、すぐに大井のコーナーだ。ここで一気に減速をかける。
一般車は居ない。道幅を三車線ぶんいっぱいに使ってポルシェはコーナーを駆け抜ける。
Zがややフロントをはらませ気味にしながらそれを追う。
「初めて乗る車でよく頑張った……けど、もう限界でしょう」
ちらりと、バックミラーに映る丸型二灯に目をやる。
「それ以上追えない……」
東海ジャンクションが迫り、またたく赤色灯が三人の目に飛び込んでくる。
工事だ。車線が、ふさがれている。
ポルシェは速度を落とさない。いちばん右側の車線が空いている。だが、Zがいる左車線がふさがれている。
「────ッ!」
吸い寄せられるように右へレーンチェンジしようとしたなのはだったが、Zは向きを変えようとしなかった。
ステアリングから、まるで自分が拒まれているかのように手ごたえが消えていくのをなのはは感じ取っていた。
ひとまず今日はここまでとなります
ありがとうございました
Dにするか湾岸にするかワイスピにするかかなり迷いましたが
やはり湾岸で行くことにしました(汗
次回は未定です
ではー
支援であります!
と思っていたら終わりでしたか。すいませんでした。
そして乙&GJです! レイジングハートが車になっとるw
そして黒いポルシェのドライバーはもしかして…
ただ、クロス元のタイトルを書いていただければ嬉しいです。
今回は湾岸ミッドナイトで正しいんでしょうか?
失礼しました。
11時20分以降に久しぶりに続きを投下いたします。
【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
スカリエッティが搭乗するキングダークJSごと負けちゃったりしてた頃、聖王の百合かご艦内通路では
クウガを乗せたトライチェイサー2000、アギト・アギトとリイン・G3を乗せたマシントルネイダー、
そしてクロノ・ジョーカーを乗せたハードボイルダーが猛烈な速度で動力炉目指して爆進中であった。
「ユリー! ユリー!」
「うおおおお! 百合の世界の邪魔をする者は通すなー!」
行く手には次々に百合戦闘員、木刀や釘バットで武装した百合厨等が立ち塞がって来るが、彼等を一々相手している暇は無かった。
「邪魔だ! 轢き殺されたくなかったらどけぇぇぇ!!」
「ユリィィィィィ!」
「あひー!!」
クウガ達は百合戦闘員や百合厨を構わず情け容赦無くバイクでひき潰して先に進むのであった。
しかし、ここである問題が発生していた。
「動力炉っつっても、そもそも何処にあるんだ?」
そう。これが問題。聖王の百合かご艦内をどの様に進めば動力炉に辿り付くのか検討も付かなかった。
「しまった…フェレットもどきならJS事件の時に無限書庫から聖王のゆりかごの艦内見取り図を発見した時に
ある程度目を通して記憶しているとも考えられるが、僕達の中にそれを知ってる者がいない…。」
クウガはそもそも今日始めて『リリカルなのはの世界』に来たんだし、クロノはJS事件の際には管理局艦隊を指揮していた。
リインはとりあえずはやてと共に聖王のゆりかご艦内まで入ってはいたが、細かい道筋は忘れてしまった。
「う〜んどうしよう…。」
「闇雲に進むわけにも行かないし…。」
と、四人が腕を組み首を傾げて悩んでいた時、リイン・G3がある事に気付いていたのだった。
「あ…地図みたいなのが描かれたパネルが壁に貼られてますけど?」
「え………。」
それには皆呆れてしまった。何と親切にも壁に艦内地図が描かれたパネルが貼られていたのである。
「何故こんな所に地図が…。」
「親切すぎるだろ? 何かの罠なんじゃ…。」
「いや、あながち考えられない話じゃない。そもそもこの中には相当数の百合ショッカー戦闘員や百合厨達がいた。
彼等が艦内で迷子にならない為にもこういうのは必要だったのかもしれない。」
そう。それが聖王のゆりかごと聖王の百合かごの違い。前者はごく一部の例外を除いて大半が自動化されている為に
態々艦内に地図を設置する必要は無かったが、聖王の百合かごの場合は百合ショッカーによって運用されている事もあり、
艦内に配属された百合戦闘員や百合厨達が迷子にならない為にも艦内地図は必要だったのだ。
「何はともあれ、この地図通りに進めば良いって事だな。」
「あっちだ!」
こうして地図に描かれた道筋に基き、クウガ、アギト・アギト、リイン・G3、クロノ・ジョーカー達は
各々のバイクに乗って再び通路を爆進するのだった。
その頃、同じくディケイド&なのは&ユーノを乗せたマシンディケイダーと、BLACK&朱里ちゃんを乗せた
バトルホッパーが聖王の百合かごにも当然あると推測される玉座の間へと艦内通路を爆進中だった。
「おいなのは! この先を進めば良いんだな!?」
「これも聖王のゆりかごとほぼ同じ物だとするなら多分そう。JS事件の時にこの道を通った覚えがあるよ!」
先に説明した通り、聖王の百合かごは聖王のゆりかごの同型艦である。細かい箇所は百合ショッカーによる
改修がなされていたとしても、基本的にはほぼ同じ構造を取っていた。その為にJS事件の際にヴィヴィオ目指して
玉座の間へ向かった事のあるなのはは、現在進む道に覚えがあった。だがここでなのはの左肩にしがみ付く
フェレット形態のユーノがある事に気付いていた。
「ちょっと待って。前から何か来るよ?」
「どうせ何時ものザコだろ?」
「違うよ! 何あれ!」
「はわわわわわっ!」
正面から現れた敵集団。それは何時もの百合ショッカーの百合戦闘員や百合怪人であると思われたが、それは違った。
「えぇ!? 何あれぇ!?」
「怪人なのか…?」
「怪人と言うには余りに貧相過ぎる様な…。」
「はわわわわ…。」
そう。そこにいたのは赤い腰ミノと前掛けを付けただけで後は裸な男達が、豚や牛や鶏等の色んな動物のマスクを被っているだけ
と言う怪人と呼ぶには余りにも貧相過ぎる怪人達であった。だがそれだけでは無かった。
「あ、一人だけ人間が混じってるよ。」
貧相な怪人達に混じって一人だけ人間の姿があった。しかし百合厨の類では無かった。鮮やかな紫色の服を着た若い男。
しかも、周囲の貧相怪人達を仕切っている様にも見え、この怪人部隊の隊長的位置付けであると思われる。
「○×△□! ×××! ○○○!」
「え? 何を言ってるのか分からないよ。」
「僕も良く分からないや。」
紫色の服を着た男はなのは達にとって聞き覚えの無い言語を使う為、何を話しているのか分からなかった。
「う〜ん…グロンギ語なら俺も理解出来るが、この言語は分からないな。」
ディケイドも首を傾げていたが、そんな時に朱里ちゃんがBLACKにしがみ付きながらも顔を横に出して口を開いていた。
「あの…私も細かい意味は分からないんですけど、恐らくタイの国の言葉では無いでしょうか…?」
「タイの国…タイ語!?」
「確かにあの紫色の服着てる人は何となくタイ人っぽい感じがする。」
良く見てみれば、紫色の服を着た男は東南アジア系的な顔をしているし、言語体系も何となく
東南アジア系っぽい雰囲気を放っている。とすれば、朱里ちゃんが言う通りに彼はタイ人でタイ語を使っている事も
あながち間違っては無いのかもしれなかった。
「あ、なるほど! アイツ等『ハヌマーンと五人の仮面ライダーの世界』の連中だな?」
「何それ?」
『ハヌマーンと五人の仮面ライダーの世界』とは、タイの国を舞台に五人の仮面ライダーとタイご当地ヒーローである
ハヌマーンが協力して悪と戦う物語の世界。そしてあの貧相な怪人達はその世界におけるタイ製怪人であり、
紫色の服を着た男も元々は仏像を盗んだ罪によってハヌマーンに惨殺されて地獄に堕ちたけどそこから逃げ出し復活し、
タイに本部の置かれた悪の組織の幹部となっていたりしたのだった。
「○×△□! ×××! ○○○!(タイ語で「そこの小娘二人の生き血を首領に奉げてやる!」と言っている。)」
紫色の服を着た男…つまり仏像泥棒の所属する組織の首領は何故か若い女性の生き血を好んでおり、
その為になのは及び朱里ちゃんの生き血を持ち帰ろうとしていた。そして彼の命令によって貧相怪人達が一斉に襲い掛かった。
「来たぞ!」
「見た目は貧相だが何をして来るか分からん! 気を付けろよ!」
「はわわわわ。」
こうして戦いが始まった。彼等タイ製貧相怪人達もタイ語を使っており何を言っているか分からないが
それ故に普通の怪人とは勝手が違うと思われ、ディケイド達はそれぞれバイクを降りて迎撃に移り、
バトルホッパーは朱里ちゃんを守る為に一時後方に下がるのだった。
「よしユーノ、またアレやるぞ。」
「え? またですか…?」
なのはの左肩から降りたユーノの後にディケイドが立ち、ライドブッカーから一枚のカードを取り出して
ディケイドライバーに差し込んでいた。
『ファイナルフォームライド! ユユユユーノォ!』
「ちょっとくすぐったいぞ。」
ディケイドがユーノの背中の毛並みを撫でる様に触れると共にユーノは巨大フェレット形態へとファイナルフォームライドし、
その背へなのはが乗り跨るのであった。
「行くよユーノ君!」
「うん!」
「はわわわわわ…おっきなイタチさんです…。」
バトルホッパーに守られる形で後にいた朱里ちゃんは巨大フェレット形態のユーノに驚きあたふたしていたが、
なのはを乗せた巨大フェレットユーノは構わず正面のタイ製貧相怪人集団へと突っ込んで行った。
「キューキュー!」
「○○○○××××△△△△□□□□!(タイ語で「うわー! 巨大淫獣だー!」と言っている。)」
「何を言っているか分からんが奴等動揺してるぞ! 今の内に畳み込めー!!」
なのはを乗せたまま突撃する巨大フェレット形態のユーノに貧相怪人達はワイワイと騒ぎながら浮き足立って行く。
その隙にBLACKは高々と跳びかかり、次々に貧相怪人達を殴り飛ばし蹴り飛ばして行った。そしてディケイドもまた…
『カメンライド! 響鬼! アタックライド! 鬼火!』
仮面ライダー響鬼にカメンライドすると共に、その口から放たれる火炎『鬼火』を貧相怪人達に吐きかけて行く。
そうすると貧相怪人達が腰に巻く赤い腰ミノに忽ち火が付き燃え上がって行くのは当然の事だった。
「○×△□○×△□(タイ語で「アチチ! アチチチ!」と言っている。)」
忽ちディケイド響鬼によってもたらされる高熱火炎攻撃に、貧相怪人達は赤い腰ミノが燃えて無くなってしまった為に
露出しそうな股間を手で押さえながら逃げ惑っていく。やはり彼等は外見のみならず中身も貧相な怪人達だった。
この後、態々色々と説明するのが面倒な程にあっさりとタイ製貧相怪人達を叩き潰してしまったディケイド、BLACK、
なのは、ユーノは続いて最後に残った仏像泥棒へ向けて一斉に駆け寄った。
「最後は君だけだよ!」
「さっさと倒して先へ進ませてもらうぞ!」
ディケイドとBLACKは高々と跳び上がってそれぞれのライダーキックを放とうとし、なのははユーノの背に跨ったまま
ディバインバスターの発射態勢を、そしてユーノはバインド魔法の応用で自身となのはを固定する事によって
砲撃時に発生する反動に備えていた。このコンボの前には如何なる怪人も一溜まりもない…と思われたが。
「ライダーキィィィック!」
「○×△□!(タイ語で「甘い!」と言っている。)」
「う!?」
何と言う事か、仏像泥棒はディケイド及びBLACKのライダーキックを回避するのみならず、キックの不発によって
体勢が崩れた隙を突いて張り倒し、さらになのはのディバインバスターの極太エネルギーの波動の上に乗っかかって
物凄い速度で駆け寄ると共にユーノに跳び蹴りをかましていたのだった。
「嘘ぉ!?」
「滅茶苦茶強いよ!」
「どう見てもただの人間なのに…怪人より強いってどういう事だ!?」
ただ貧相怪人達を率いていただけで本人の力は大した事は無いと思われていた仏像泥棒の意外な強さに
皆は驚くばかりだった。見た所彼はただの人間であるはずなのに…
「そうだ! すっかり忘れていた! 『ハヌマーンと五人の仮面ライダーの世界』の仏像泥棒は
何故かただの人間であるはずなのにライダーより強かったんだ!」
「えぇ!? あの人本当にそんな凄い人なんですか士さん!」
そう。仏像泥棒は見た感じはただ紫色の服着てるだけのただの人間のはずなのに、仮面ライダーを
真っ向から相手取って戦っても負けない程に強かった。しかし、彼の真価はここから発揮される。それは……
「こうなったら…バトルホッパー!!」
「はっはわわわわわっ!」
BLACKの呼び声に反応し、バトルホッパーが朱里ちゃん乗せたまま猛烈な速度でBLACKに駆け寄る。
そしてBLACKは大急ぎでバトルホッパーに跨ると共にハンドルを握っていた。
「かなり揺れるから舌を噛まない様に気を付けるんだ!」
「はわわわわ…。」
かなり怖い事が起こる事を予想してか、朱里ちゃんは泣きそうな顔でBLACKにしがみ付き、
BLACKはバトルホッパーを仏像泥棒目掛けて発進させた。
「ダイナミックスマッシュ!!」
BLACKと朱里ちゃんを乗せたバトルホッパーは仏像泥棒目掛けて猛烈な速度でのひき潰しアタック、
通称ダイナミックスマッシュで突っ込んだ…が、屈強なゴルゴム怪人さえ逃がさず吹き飛ばしてしまうそれを
仏像泥棒は楽々と回避してしまった。
「何!? ならばもう一度!」
BLACKとバトルホッパーは再度ダイナミックスマッシュを放つが、仏像泥棒はまたも回避してしまう。
「コイツ本当にタダ者では無いぞ!」
「タダ者とかそういう問題じゃないよ! あの人脚速過ぎ!」
何と言う事だろうか。バトルホッパーはもとより、仮面ライダーが使うバイクはいずれも
市販のバイクとは比べ物にならないモンスターマシン揃い。だが、仏像泥棒の脚はそれを持ってしても
追いつけない程にまで速かったのである。
「気を付けろ! 奴はV3がバイクで追い駆けまわしても追い付けなかった位に足速いぞ!」
「凄い…ティアナだってあんな事は出来ないよ。」
BLACKとバトルホッパーに続けと言わんばかりにディケイドもマシンディケイダーに乗り込み、
その後に元のサイズのフェレットの姿に戻ったユーノを左肩に乗せたなのはを乗せ、走り出した。
しかし、仏像泥棒はバトルホッパーとマシンディケイダーの両方で追っても追い付けない程の
脚力俊足で、猛烈な速度で逃げていたのだった。
「あの人本当に脚速いよね…何故なんだろう?」
「だがこれはある意味利用出来るぞ。逃げる奴の後を付いて行けば奴等の大将の所に着くはずだ。」
仏像泥棒の脚は確かに各々のバイクでも簡単に追い付けない程に速かったが、
仏像泥棒が彼等のバイクから逃げていると言う状況は、仏像泥棒を追っていればいずれ百合ショッカーを
率いる者の場所へ辿り付くであろう事は想像に難くなかった。
こうして逃げる仏像泥棒を追ってディケイド達を乗せたそれぞれのバイクが駆けて行く。
ぱっと見た感じではチンピラをバイクで追い駆けまわす暴走族にしか見えないが、今はそんな事
言っていられなかった。
ここで次回に続きます。
ただの人間なのにライダーを圧倒する仏像泥棒及び、それと互角に殴り合う博士の強さは異常。
問題があるとするならタイが勝手に製作したものなのでライダー作品ながら東映的に黒歴史扱いな点でしょうか。
前回「アメコミの世界」ってアメコミ一括りにしてたけどさ、スパイダーマンだけでも別次元に設定されてたりするのあるし?
実写映画とかマヴカプなんかもナンバリング入れて別個にアース設定つけたりね
>>20 投下乙です
原作知らないけど、程よい緊迫感が良い感じでした
21:30分より、小ネタを投下します。
元ネタはチキチキマシン猛レース
……のパロディの『SDガンダム猛レース』(DVD未収録)
それでは、各車一斉にスタート!
リリカルマシン猛レース
TIKITIKI
〜 NANOHA 〜
MOURACE
さあ、いよいよ第十回魔導師対抗猛レースの始まりだ!
各次元世界から集った魔導師レーサー達が、今や遅しとスタートラインに並んでるゾ!
優勝者には優勝トロフィー。更には副賞として素晴らしい賞品の数々が授与されるッ!
では早速、出場者とその相棒のマシンを紹介しよう!
1番 ガーデンオープン
レーサーは、虚数空間から戻ってきたプレシア・テスタロッサと、使い魔リニス!
二人で時の庭園型のガーデンオープンを文字通り鞭打って走るぞ!
「勝って新生活の資金を手に入れるわよ!」バチーン!
「何で私がこんなことを……」バチン!
2番 レイジンクーペ
レーサーはご存知、管理局の白い魔おゲフンゲフン……エース・オブ・エース!高町なのは!
愛車のレイジンクーペは永年連れ添った相棒だ!
「私、このレースで優勝したらユーノ君にプロポーズするんだ」
『 Master, It's Dead Flag. 』
3番 G‐3号
出力SSSランクは出場マシンで一番の性能!しかも運転手のゼスト・グランガイツ付き!
登録レーサーは、レジアス・ゲイズとギル・グレアム。ん、なにやら会談しているようだぞ?
「海の予算と人員をもうちょっと回してくれんか」
「うちも正直厳しいが、何とかしよう……レースの賞金で」
「おい」
4番 エスティアタンク
レーサーはプレシアと一緒に虚数空間から戻ってきたクライド・ハラオウン……って父さんかよ!?
次元航行艦『エスティア』の部品で作ったエスティアタンクは以外に高性能!
しかも当時の部下も一緒に手伝ってくれるんだってさ!人徳だねェ。
「ミッドチルダよ……私は帰ってきた!」
「艦長、それは声優違いです」
5番 聖王様スペシャル
乗ってるのはSt.ヒルデ魔法幼稚園のヴィヴィオくんとアインくん!
聖王様スペシャルは聖王協会のシスター・シャッハが夜も眠らず昼寝して作ったんだって。
「がんばりまーす!」
「(ヴィヴィオさんと一緒……どきどき)」
6番 クレイジーデザイア
レーサーは天才科学者ジェイル・スカリエッティ、軌道収容所からの遠隔操作での出場だぁ!
ありとあらゆるテクノロジーを節操無く詰め込んだクレイジーデザイアは、通称『走るびっくり箱』!
果たして今回はどんなでたらめギミックで自滅するやら。
『今回はワープ機能を搭載してみたぞ!テストしてみよう、ポチッとな』
*おおっと*
7番 ナカジマ7
レーサーはゲンヤ・ナカジマとその娘さん達!
見た目はハーレムですが毎月の食費でゲンヤさんはそーとー苦労してるらしいゾ!
「「「「「「「おとーさん、運転ヨロシク!」」」」」」」
「今月の食費が掛かってんだ、任せろ!」
8番 八神家サロンバス
レーサーは八神はやてとヴォルケンリッター!
ザフィーラが運転を担当。残りのメンバーは後ろのサロンで……?
「もはやこの勝負、勝ったもとーぜんや!」
「よし、宴会だな!シャマル、冷蔵庫の中になんか無いか?」
「スイカがあったわよ、はやてちゃん!」
「おお!ならば恒例、スイカわりだ!」
9番 にせホワイトベース
レーサーは異世界からの参加者、にせガンダム!
……ところで本物のホワイトベースってなんなんだろーね?
「ともだちほしいじょ〜」
00番 ゼロゼロマシーン
レーサーはどっかから現れたダーク魔王とライライ!
どーせまた無い知恵絞って悪いこと企んでだろーよねッ!
「煩いぞ塵芥!勝てばよいのだ勝てば!」
「シシシシシシシシ……ボクノセリフコレダケ」
実況は毎度おなじみ、クロノ・ハラオウンがお送りします!
さあ、まもなくスタートです!
※全車一斉にクラッシュのためノーゲーム。
てなわけで終了。
前にリリカルキャラでレースしようぜ!って話題があって思いついたもの。
一応クロスなのでにせガンダムにも出てもらいました。
だれか友達になってやってください。
>>36 乙です!うわーまた懐かしいものを!
SD×なのはと言えば高天氏のクロスSSで私も大好きなのですけどこういうギャグ路線のも見てみたいですね
これを機にもう一度ナイトガンダム様の雄姿を拝みたいとです……
どうもです
11:00ごろから9レス投下予定です
>>22 支援ありがとうございます
一応湾岸ミッドナイトです
タイトルは「リリカルミッドナイト」にしようかと思います
>>32 ありがとうございます〜
雰囲気を感じていただければ何よりです
視界の左前方から、工事現場のバリケードが迫ってくる。
身体の軸と、重力加速度の掛かる方向がずれ、自分の姿勢がわからなくなる。
直後、激しい衝撃と金属音がなのはを打ち据えた。
空転するリアタイヤが車体を押し出そうとするのを、なのはは腰に感じていた。
スピンしながらも、Zは前へ進もうとすることをやめない。
立ち止まらない。迷うことを許さない。
跳ね飛ばされてきた警告板がZのフロントガラスに激突し、
飛散防止の加工を施された強化ガラスが一面真っ白にひび割れる。
──小さい頃から、手のかからない子供といわれていた。
年の離れた兄姉と、共働きの両親を持ち、いつも家で一人で遊んでいた。
それはもっぱら、機械をいじることに費やされた。
ビデオデッキやラジオを分解して、部品を取り出してみたり、また組み立ててみたり。
そうやって遊んでいたのは、心のどこかで、ものごとの摂理に興味があったからなのだと、なのはは思い返していた。
学校の勉強よりも、自分で計測器や試料を集めてきて実験をすることのほうが楽しかった。
父が親戚から譲ってもらったお古のパソコンでプログラムを書いたりもした。
高校に上がって、一人暮らしをすることになったのは、どちらから言い出したことだっただろうか。
ただ、両親は、聖祥の学費と生活費だけは出させてくれ、と言っていた。
湾岸線には、静かな風のざわめきだけが虚ろに響いていた。
ドアは開く。自分の身体が動くことを確かめながら、なのははよろよろと道路に降りた。
フロントノーズをコンクリート壁にめり込ませるようにして止まったZは、
ボンネットの先、おそらくラジエーター辺りだろうか、冷却液の甘い匂いのする白煙を上げている。
ひたいに冷たい感触がある。手でなでると、ぬるりとしたものが滴り落ちた。
携帯電話を取り出し、おぼつかない指でボタンを押す。
「そうだ……発炎筒、おいてこなくちゃ」
シート下のレバーを引いてロックを外し、リアハッチを持ち上げる。
みしり、と音がして、シーリングにこびりついていた錆くずがぽろぽろと落ちてきた。
リアタイヤから伸びているブラックマークに沿って、ガラスの破片や金属片が道路いっぱいに散らばっている。
いったいスピードは何キロ出ていたのだろうか。
狂ったように路面に刻まれたタイヤのスリップ痕は、何度も壁にぶつかって跳ね返っている。
これは機械だ。
人間よりもはるかに強大な力を持ったマシーンだ。1トンを超える質量と数百馬力もの動力を持つ。
自分はついさっきまで、この巨大な機械を操っていた。
そして、操りきれなかった。
そんな重い実感が、今更のように襲ってきた。
「…………どうして、私のいうことをきいてくれなかったの……」
Zは何も答えない。
白いボディが、星明りを反射してきらめていている。
あのポルシェはもう影も見えない。
なのはは自宅のアパートの他、小さなガレージを借りて、そこに車を置いていた。
海鳴市は少し郊外に出るとすぐに建物がバラける。
ジャッキアップされたZは、ホイールが取り外され、エンジンルームがむき出しになっている。
昨日、ユーノが働いているスクライア商会の工場から、押し問答の末ようやく引っ張り出してきたのだ。
ユーノはZを修理しないと言い渡したが、なのははそれに納得せず、
結局、車体だけでも引き取るということで、損傷した状態のままローダーでこのガレージに運んできたのだ。
ガレージの家賃は自分のバイト代から払っているので、家族はこのことは知らない。
その日から、なのはの生活はZを直すことが中心になった。
古い書籍をかき集めて純正パーツの型番を調べ、
地元の日産ディーラーや部品工場を訪ね歩いて必要なパーツをそろえる。
購入したパーツの代金は、バイトを増やして払うことにした。
エンジンとフレームのダメージがさほどでもなかったことが幸いだった。
フレーム修正が必要なほどであれば、ボディパネルを取り替えるだけでは直らなかっただろう。
「なのちゃん、店長がシフトのことで相談があるって言ってるんだけどどうしても12時以降は出られないの?
同伴もいつも断ってるみたいだしさあ、やっぱこの仕事やるからにはとことん稼がなきゃ」
クラブの先輩ホステスは何回か、なのはにそう聞いてきた。
「もしかして彼氏?二人の時間を大切にしたいとか?」
「ええ、まあ……そんなとこです」
金もそうだが時間も足りない。東の空が白み始めるまで作業を続け、
部屋に戻ったら熱いシャワーで眠気と身体の汚れを落としてから、やっと学校へ行く支度を始める。
授業中にうとうとしていると、時折、アリサがノートの切れ端を丸めて投げつけてきた。
Zのエンジンルームに新しいボンネットを取り付け、赤いZエンブレムを貼り付ける。
絶対にくじけない、レイジングハート──不屈の心の象徴だ。
シートに腰を下ろし、キーを回してアクセルを踏み込み、キャブレターにガソリンが充填されるのを待つ。
十分にキャブが温まったのを待って、キーを始動位置へ入れる。
セルモーターが長大なクランクシャフトを回し、噴射されるガソリンの鼓動とともに、轟然とエンジンが目覚める。
Zの心臓が再び、動き出した。
ステアリングに手を置き、しばらくアイドリングの具合を確かめていたなのはは、やがて窓から顔を出して微笑みかけた。
Zの前で見守っていたユーノも、仕方なさげな苦笑を浮かべる。
「正直あきれたよ。本当にこのZを一人で直しちゃうなんて」
「これでまた、走れるよ」
「……わかった。僕はもう何も言わないよ」
「ありがと、ユーノ君!」
なのはのまぶしい笑顔に、敵わないな、とユーノは思った。
自分もそんなことを言える年齢ではないが、今時、これほどの情熱を持った若者は珍しい。
これほど、ひとつのことにあきらめずに打ち込む人間を、少なくともユーノは見たことがなかった。
「(確かに、そんな人間でなければコイツは認めてくれないのかもしれないな──)」
純白のボディに、赤いZエンブレムが、芯の強い乙女のハートのように輝いている。
海鳴大学病院の駐車場に停めていたZに乗り込もうとしたところで、なのはは見知った顔を遊歩道の中に見つけた。
向こうも、Zに乗り込もうとしていたなのはを見つけて同じように驚いていた。
バッテンの髪飾りをつけた栗色ショートの少女と、赤みのかったサイドポニーの少女。
二人は、Zをはさんでしばし向かい合った。
「はやてちゃんなの?」
「その声……やっぱ、なのはちゃんやったんや」
「わかんなかったでしょ、小学校の頃と髪型変えてたから」
なのはは小学生の頃は短いツインテールにしていた。はやては、髪型は同じおかっぱだが、
やや伸びてセミロングに近くなっている。
「なのはちゃんは今日は?」
「ちょっとこないだ事故って頭ぶつけてね、その検査で。はやてちゃんは……脚はもう治ったんだね」
「うん、おかげさんで……なのはちゃん、わたしこないだ図書館でなのはちゃん見かけたんよ、
なんや熱心に分厚い本抱えとって、声かけようか迷ったんやけど」
ああ、となのはは相槌をうった。
Zを直すため、旧車雑誌や当時の車両名鑑などを片っ端から読み漁っていたのだ。
「送ってこうか?」
なのはの誘いに、はやては一瞬迷うしぐさをして、あわてて手を振った。
「う、ううん大丈夫、迎えはおるから……」
「そっか。わかった。それじゃはやてちゃん、またね」
「うん」
Zのエンジンに火が入り、走り去っていくのをはやてはずっと見つめていた。
やがて、職員駐車場の方から独特のエンジン音が聞こえてきた。
黒いポルシェがゆっくりと駐車場から出てきて、そしてはやての待っている遊歩道の入り口の前へ停める。
「……なのはちゃん、来てたんやね」
「彼女があのZを?」
「自分で本読んで部品買って直しとったて……」
あの夜、バックミラーに映る、のた打ち回るようにスピンするZの姿をはやても見ていた。
だけど、ポルシェは止まらずに走り去った。
「なるほどね……さっき、私のところ(形成外科)に来た。おそらく気づいただろうね、彼女も」
「…………やっぱり、もう一度走るん?」
「……ええ。あのZは、私がツブす。……不幸な思いをする人間は、少ないほうがいいからね」
はやてはそれ以上答えることができなかった。
海岸沿いに伸びる海鳴臨海公園と工場地帯をつなぐ産業道路は、なのはがいつもZのセッティングに使っている場所だ。
道幅が広く、荷物を積んだトラックが出発してしまえば日中でも人通りがまったくなくなるため、走るにはうってつけの場所だった。
何往復もドリフトやターンを繰り返し、エンジン回転数の全域にわたって手ごたえを確かめる。
少しでも気になるところがあれば、すぐにエンジンフードを開けてキャブレターを調整する。
S30Zは現代の自動車用エンジンでは主流となっている電子制御式の燃料噴射装置(インジェクター)を搭載していないため、
機械制御でエンジンのセッティングをすることが必要だ。
ふと、聞き覚えのあるアイドリング音が聞こえているのに気づき、なのはは公園のほうを振り返った。
一目見てそれ以来ずっと忘れられない、漆黒のポルシェターボ。
そして、今の自分にとって最大のライバル。首都高を走っているとたまに絡んでくる他のそれっぽい車たちなど、
なのはは目にもくれていなかった。
「ずいぶん熱心にやっているみたいだな。昔から、そいつはいいセッティングが出にくかったんだ」
艶やかなストレートロングの銀髪が、太陽の光を浴びて宝石のようにきらめく。
黒のレザーパンツに黒のノースリーブハイネック。肌の白さとのコントラストがひときわ際立つ。
心のうちを隠しているようにも見える赤い瞳は、鋭くZを見つめている。
なのははZのキャブレターをいじりながら、手を止めずに視線だけ上げて答えた。
「八神先生……でしたっけ。はやてちゃんを横に乗せてましたよね」
「あの子は心配していたよ」
「そうですか。でも、今はそんな話じゃないんじゃないですか?」
翌日、なのはは久しぶりにアリサとすずかと一緒に下校していた。
Zの修理が一段落したので、授業にも余裕が少し出ている。
「……で、その、ブラックバード?だっけ?そいつと水曜またやるっての?」
聖祥学園指定のスクールバッグを背中に担ぎながらアリサが横目に言う。
「うん。今度は絶対負けないよ」
「死ぬわよ本気で……ま、そういう人生もアリかもね」
アリサは何度か、なのはのガレージにやってきてユーノとも顔を合わせていた。
何とかZに乗るのを諦めさせようとしていたユーノだったが、説得はことごとく失敗していた。
こうなったら梃子でも動かないんだから、
昔から一度やると決めたらそれを絶対に曲げない人間だったんだからと、アリサはユーノに話していた。
親友とはいえ譲れないものを何度もぶつけ合ってきたアリサは、
今となっては大分理解したところではあるが、ユーノもそう言われると引き下がらざるを得なかった。
しばらく黙って二人の話を聞いていたすずかが、思い出すように口を開いた。
「そういえば、形成の八神先生……だっけ?あのヒトが、首都高ではブラックバードと呼ばれているんだね」
「すずかのお姉さん海鳴大学病院に通ってんだっけ」
「うん、はやてちゃんの介助のこともあって、八神先生とは何度か会ったことが」
「そっかー、はやては別の高校行っちゃったからねー」
なのはたちのグループに、はやても小学校の頃は加わっていた。
聖祥はバリアフリー設備も充実していたが、
すずかやアリサは積極的にはやての車椅子の手伝いをしてやっていた。
はやての家に遊びに行ったことは、そういえば無かったなと、なのはは思い返していた。
約束の水曜日、深夜。海鳴市から首都高へ向かったなのはは、一旦湾岸線を千葉まで走って折り返し、市川パーキングに入っていた。
今日はユーノが自分のFC3S RX-7で同行し、それにすずかとアリサも一緒に乗ってきている。
さすがのアリサもなのはのことが心配になって、見に来ることにした。自分が見ている前なら無茶はしないだろうと。
やがて、ポルシェターボがパーキングへ入ってくる。
ポルシェのナビシートには、はやても居た。
お互いに車から降り、しばらく見詰め合う。それは獣が互いの縄張りを意識しあうように。
戦士が、互いの覚悟を確かめあうように。
「高町なのはです」
「私は八神凛……あなたたちのことは、はやてからよく聞いていた」
アリサとすずかは思わず顔を見合わせる。凛はついで、ユーノを見やった。
「そのZはあなたが?」
「僕はたまたま、業者経由でこれを引き取ったんです。前回のクラッシュからの修理はなのはが一人でやりました」
「……わかった。それじゃあ行きましょう。ここを出発したら湾岸西行きを直進、大黒を通過してベイブリッジゴールでどう?」
「わかりました。それでいいですよ」
ずっと黙っていたはやてが、思い切ったように声を上げた。
「なっ、なのはちゃん!隣、乗ってええ?」
「!?」
アリサ、すずか、そしてユーノも驚く。なのはははやてをしばらく見つめ、それから凛に視線をやった。
「ごめんな、リイン……でもわたしは」
「かまわない。だが何があっても知らないぞ、そのZに乗る以上──」
「(ちょっといいのあんなこと言っちゃって、もしはやての身に何かあったら)」
「(とはいっても僕らにはどうしようもないよ)」
ユーノたちは当惑したまま、FCに乗り込む。
力をみなぎらせるようにエンジン音を張り上げ、Zとポルシェは順次、湾岸線に向かって走り出していった。
今日はここまでです
そういえばアインス役の小林沙苗さんはアニメ版湾岸ミッドナイトにも
嶋田先生役で出てましたねー
ではー
乙おツー!
湾岸もいいなあ。
久しぶりに読んでくるか
投下乙です
どことなく渋いな
51 :
一尉:2011/05/03(火) 21:30:13.95 ID:K2rtZBW2
支援
7時30分以降に投下します
【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
15:玉座の間・動力炉の二箇所同時攻撃編
クウガを乗せたトライチェスター2000、アギト・アギト&リイン・G3を乗せたマシントルネイダー、
そしてクロノ・ジョーカーを乗せたハードボイルダーは進路上に立ち塞がる百合戦闘員や百合厨を蹴散らしながら
聖王の百合かご動力炉を目指して爆走していた。
「あちこちに見取り図とか道標が立て掛けてあるから道に迷わなくて便利だな。」
「元々は百合ショッカーの戦闘員とかが艦内で迷子にならないように…って事で作られたもんだろうけど…。」
「これはリイン達にとっても好都合です!」
聖王の百合かごは聖王のゆりかごと違い百合ショッカーによって運用されており、当然数多くいる
百合戦闘員や百合怪人が艦内で道に迷わない様にと彼方此方に艦内見取り図や道標等が置かれており、
その存在はクウガ達にとっても好都合だった。
「あった! あそこに動力室って書いてあるぞ!」
「態々あんなデカイ看板まで置いて…分かりやすいなおい!」
「逆に罠じゃないかと勘ぐってしまうな。」
丁度動力室があると思われる場所へ到着するのだが、その前の扉には分かりやすく『動力室』と書かれた
看板が立て掛けられてあった。余りにも分かりやすすぎて逆に罠じゃないのかと勘ぐってしまう皆であったが、
前述の通り聖王の百合かごは百合ショッカーによって運用されている故、ちゃんとしっかり何処が何室なのかと
ちゃんと記述しておかないと混乱が起こるのだろう。ならばこうなってしまうのも仕方の無い事だった。
「どうせ鍵が掛かってるだろうから一気に殴り破るぞ。」
「そ〜れ!」
クウガ、アギト・アギト、リイン・G3、クロノ・ジョーカーのパンチが一気に動力室扉に打ち込まれ、
その扉は忽ちの内に潰れぶっ飛んで行った。クウガ・マイティーフォームのパンチ力は3トン、アギトは現在アギトの力を
与えられ仮面ライダーアギト・グランドフォームとなっているので7トン、リインはディエンドのカメンライドで
出してもらったG3システムを装着しているので1トン、クロノは同じくディエンドのカメンライドで
仮面ライダージョーカーになってるので1.25トンある。合計12.25トンの力が扉には掛かった事になる。
「よし一気に乗り込むぞ!」
「分かった!」
「ってか何でコイツが仕切ってるんだ?」
何時の間にかにこの場を仕切ってしまっていたクウガの姿にクロノは眉を細めていた。
確かに即席ライダーであるクロノ達と違い元々ライダーとして戦っていたクウガことユウスケの方が
ライダーとして先輩であるから仕方が無いとしても、アギトやリインはともかく時空管理局において艦隊を
率いる位に高い地位を持ってるクロノにとってはプライドが許せなくて少々悔しかった。
「ここ本当に動力室か…?」
クウガは部屋中を見渡す。しかしそこはただだだっ広いフロアが広がるばかりで、ある物と言えば
その部屋の中心部で発光しながら回転する巨大なクリスタルの様な物体だった。
「ある物と言えばあの回転してるデカイクリスタルみたいなもんだけだな。あれ持って帰って売ったらいくらするかな?」
「馬鹿! あれが動力炉だ!」
「え!? あれが!?」
クロノ・ジョーカーに言われてクウガは真剣に驚いた。確かに彼にとっての常識では
あれが動力炉とはとても思えない。
「このクリスタルみたいなのが動力炉なのか。俺はてっきりエンジン的なのを想像してたから…。」
「これだから非管理世界の田舎者は…。」
「誰が田舎者だと!?」
ふとした言葉からクウガとクロノ・ジョーカーの諍いが始まろうとしていたが、そこを必死にリイン・G3が
間に割って入って止めていた。
「喧嘩は止めて下さいよー! 今はそんな事してる場合じゃないでしょー!?」
「そ…そうだった…すまん。」
「リイン…お前さりげなく根性座ってるな…。あたしは躊躇しちまったのに…。」
アギト・アギトはクウガとクロノ・ジョーカーの間に割って入ったリイン・G3の根性を
褒めていたのだったが、何時までもそんな事はしていられない。四人は動力室の中心部で発光しながら
回転を続けるクリスタル状の物体…聖王の百合かご動力炉を見つめていた。
「さて、これをどうやって止めるんだ?」
「流石に停止スイッチなんて便利な物は無いみたいだし…。」
「破壊するしか無いか…。」
他に止め方が思い付かなかったので、四人はそれを破壊する事に決めた。その為にそれぞれのライダーキックを
打ち込もうとしていたのだったが、そんな時だった。
「その様な事はさせない。」
「誰だ!?」
突如として背後から聞こえた謎の声。その声の方向に目を向けると、そこにいたのは意外な人物だった。
「な…なんだ…このリインが大人になった様な感じの奴は………。」
「まさか……リインフォース!!」
「誰!?」
そう、そこにいたのは夜天の書事件において消滅して消えてなくなったはずのリインフォースTだったのだ。
クウガ、アギト、リインは当事者では無い故に知り様が無いが、当事者であるクロノにとって衝撃的な事だった。
「そう。私は確かにあの時消滅した。しかし百合ショッカーの科学力によって蘇ったのだ。百合インフォースとして…。」
「そんな馬鹿な…百合ショッカーは死者をも蘇らせる力を持っているのか…これもまた世界はこんなはずじゃない事ばかりの一つの形か…。」
「その前に百合インフォースってネーミングに突っ込もうよ!」
何と言う事だろう。リインフォースTは百合ショッカーの科学力によって復活し、百合ショッカーの戦士
百合インフォースとして立ち塞がって来ていたのだった。
「そこにある聖王の百合かご動力クリスタルをやらせるわけには行かない。」
「くっ来るか!?」
こうして戦いが始まった。クウガ達四人は百合インフォースに果たして如何に戦うのか?
一方その頃、ディケイド&なのは&ユーノを乗せたマシンディケイダーと、BLACKと朱里ちゃんを乗せた
バトルホッパーは逃げる仏像泥棒を追い駆けまわした末、ついに玉座の間に辿り着いていたのだった。
「仏像泥棒の奴がいない…逃がしたか…。」
「でも士さん! ここだよ! 玉座の間!」
「ここか…。」
残念ながら仏像泥棒は逃がしてしまったが、代わりに本来の目的である聖王の百合かごの玉座の間に
辿り着く事が出来たので結果オーライと言える。
そして玉座の間には百合神博士、聖王ヴィヴィオ、覇王アインハルトの姿もまたそこにあった。
「ヴィヴィオ!」
「不用意に飛び出すな!」
よほど心配だったのだろう。なのはは思わずヴィヴィオ目掛けて駆け出そうとし、そこをディケイドに止められていた。
「ヴィヴィオ! 私が分かる!? 変身魔法で子供の姿になってるけどなのはママだよ!」
「だから落ち着けよ!」
なのははディケイドに止められながらも落ち着いていられる場合では無いと言わんばかりに訴え続ける。
「しかし、魔法で子供の姿になってると分かっているとは言え…あの姿でママと言うのは違和感があるな。」
「逆にあっちの二人は魔法で大人の姿になってる実は子供なんだよ。」
「はわわ! そうなんですか〜?」
なのはは変身魔法で子供の姿になっている事は何度も説明した通り。そして逆にヴィヴィオとアインハルトは
聖王、覇王となった時点で変身魔法による大人化をしており、その事をユーノに説明されたBLACKと朱里ちゃんは驚いていた。
しかし、なのはの訴えに対するヴィヴィオの反応は冷ややかな物だった。
「言葉を慎め。誰だか知らぬが何処の馬の骨とも思えない様な下賎な輩がこの聖王ヴィヴィオに対しその様な言葉を使う等。」
「え!? そんな…私だよ! なのはママだよ! 分からないの!?」
「知らぬな。第一勝手に私の母を名乗るとは無礼にも程がある。やはり下賎の輩と言うのは頭もおかしい様だな。」
ヴィヴィオの冷たすぎる反応になのはは絶句し、思わず手に握られていたレイジングハートを地面に落としてしまう程だった。
「そんな…ヴィヴィオ……。」
「落ち着け! あの二人は百合ショッカーによって洗脳されていると言う発想は沸かないのか!?」
「頭では分かっていても…やっぱり辛いよ…。」
なのはの瞳には涙が浮かんでいた。例え百合ショッカーによって洗脳され形式上は百合ショッカーの首領格に祭り上げられている
としても、やはりヴィヴィオに冷たい反応をされてしまうのはなのはにとって心苦しい物があった。しかし、そんな彼女を
尻目にヴィヴィオとアインハルトは仲良さげに手を繋ぎ立ち上がっていた。
「この私、聖王ヴィヴィオと覇王アインハルトが中心となって百合ショッカーはあらゆる世界を百合の下に統一する。」
「私達の邪魔をする者は誰であろうとも容赦はしない!」
ヴィヴィオとアインハルトはそう高々と宣言する。それに対しディケイドは今だ泣き崩れているなのはの背中を軽く叩いていた。
「お前が本当にあの二人を大切に思うと言うのなら、あれを止めるのが先決だろう?」
「う…うん…そうだね…。でも…。」
ヴィヴィオとアインハルトを聖王と覇王、そして百合ショッカーの呪縛を解く事が何よりも
二人の為になるとディケイドに諭され、なのはは立ち上がろうとしていたが、それでもまだ
ヴィヴィオとアインハルトの二人と戦うと言う事自体がなのはを躊躇させていた。
「仕方ない。この二人は俺が相手をする。お前達は百合神博士を追え。」
「光太郎さん?」
ここでヴィヴィオとアインハルトの二人の前に立ったのはBLACKだった。
そして逆にヴィヴィオとアインハルトの背後にはドサクサに紛れて逃げ出す百合神博士の姿が…
「誰でも親しい者と戦うのは辛い物だ。その様な辛い思いはさせたくない。だからあの二人は俺が相手をする。」
「ごめんなさい光太郎さん…。でも…余り二人を傷付けないで下さいね…。」
「分かっている。あの二人は百合ショッカーに洗脳されているだけなのだしな。」
「じゃあ俺達は爺さんの方を追うぞ!」
「光太郎さん頑張ってください。」
ヴィヴィオとアインハルトの二人の相手をBLACKに任せ、ディケイド&なのは&ユーノは百合神博士の後を追った。
そして朱里ちゃんは例によってバトルホッパーに守られる形で後方に下がるのだった。
「お前ごとき黒虫がこの聖王と…。」
「覇王に敵うとでも思っているのか?」
「聖王と覇王…か……。あいにくだが俺も元々はゴルゴムに世紀王として改造された者だ。ここは王同士対等に行こうじゃないか。」
「はわわわわ…。」
BLACKは聖王ヴィヴィオと覇王アインハルトに対し構えた。聖王&覇王対世紀王。この王同士の対決は果たして…
ここで次回に続きます。
湾岸線への合流路を上がり、先行するポルシェがハザードランプを3回点滅させる。
それを合図に、Zとポルシェはいっきにアクセルを全開にした。
やや距離をとってFCも続く。
3台の視界の先には、東京ディズニーランドのイルミネーションが星団のように瞬いている。
湾岸西行きで最初の難関ポイント、ディズニーコーナーが迫る。
中央車線にいたトラックを路肩からかわし、Zは早くもブラックバードに並んだ。
「ちょっ、いきなり速過ぎない!?しっかりついてってよユーノ!」
初めて見る圧倒的なスピードに驚くアリサ。
FCのステアリングを握るユーノも、Zのラフな動きに冷や汗をたらしていた。
「(やばい、やり過ぎだよなのは)」
ディズニーコーナーの右曲がりへ、2台並んで突入する。
アウト側のZは、白線をまたいで側壁すれすれをかすめながら、
それでもブラックバードがぐいぐいと前に出ていく。
「(ラインが苦しい……!そっちは余裕なの)」
コーナーを抜けたとき、ブラックバードはZの20メートル前方を悠然と走っていた。
立ち上がりで振り切ることもできただろうが、
あえて勝負を仕切りなおすために待っている。なのはもそう直感した。
「OK、Z。後ろから狙おう……!」
ナビシートでじっと黙っているはやてを、なのはは横目に見た。
このスピードにも怖がるそぶりはない。
ブラックバードの横で、かなりのバトルを経験しているのだろう。
はやてが迷っているのは、スピードの恐怖ではない、もっと別の理由だ──。
荒川橋を駆け抜け、葛西ジャンクションを通過する。
左手に、東京ビッグサイトの特徴的な逆台形のシルエットが浮かび上がってくる。
Zはぴったりとブラックバードのテールに喰らいついている。
「はやてちゃん、私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」
スピードメーターの針は270km/hを超えたあたりで震えている。
このS30Zに装着されているのは、400km/hフルスケールメーターだ。
速度の数字は400まで刻まれている。
「まだまだ余裕たっぷりだよ」
「……だめや」
はやては絞り出すように声を漏らした。
「このZは裏切る。みんな、みんな死んでまう……!」
辰巳ジャンクション通過。
前方に、一般車が固まっているのが見える。客を拾いに都心へ戻るタクシーだろうか。
この速度では、有明に着く前に追いついてしまう。
5速から3速へ。
シフトダウンによってエンジン回転が跳ね上がり、2台のマフラーから炎が吹き出す。
アフターファイヤーを激しく鳴らしながら、Zとブラックバードは
それぞれのラインで一般車をかわすスラロームに入っていく。
少しでもロスの少ないラインを探す。
2台横に並んだトラックの脇を、すれすれでかすめていく。
Zはまたも、車線の外側へ飛び出してトラックをパスしていった。
「右が速いッ!!」
FCも車間をあけて追う。ユーノも湾岸の走りはそこそこやっていたが、このスラロームで多少遅れ気味だ。
視界を阻まれ、2台の姿が見えなくなっていく。
「あーっ、置いてかれちゃうじゃないのっ!!」
アリサがじれったそうに叫ぶ。
一般車の集団を抜け、ついにZがブラックバードの前に出た。
すかさずフルスロットル、レッドゾーンぎりぎりまで引っ張って4速へシフトアップ。
「もう前には出させない!」
アクセル全開のままではステアリングはほとんど効かないほどに重くなる。
さらにもう一台のトラックをパスして、Zはブラックバードの頭を抑えた。
「兄ちゃんはこの車で死んだんや……それからみんなよそよそしくなった、
おとんも、おかんも、わたしをおいていなくなってもうた」
「初耳だね、お兄さんがいたんだ」
「幼稚園の頃とかこの車で送り迎えしてくれた、兄ちゃんはZをとても大事にしとったんや、それなのに──」
パスしたトラックの風圧で、Zのサイドウインドウが激しく叩かれたように震える。
「兄ちゃんが死んでからみんなおかしくなった、何かに取りつかれたようになっていった……」
「小学校の頃って、確かもうご両親は亡くなってたんだよね──」
「忘れよう思てた、もう昔のことやから、もう過ぎたこと、もう終わったことやからて……
……それなのに、それなのになんで!何で今更なのはちゃんがこの車なおしたん!?
なんで、今更このZに乗ってきたんよ!?」
どうしてこのZを見つけたのか。
声が聞こえた。自分を呼んでいる声が聞こえた。それはあるいは本当に、魔法だったのかもしれない。
「……わからないよ。このZは私の車だよ。過去がどうあれ、今は私のものだよ」
「もうええっ!なのはちゃん、この車にもう乗っちゃあかんよ!なのはちゃんまで死んじゃうのはいややっ!」
13号地コーナー。
ブラックバードがラインを変え、立ち上がりから海底トンネルにかけてのオーバーテイクを狙ってくる。
レーンチェンジでブラックバードの立ち上がりを抑えようとするZだが、わずかに早く並ばれた。
このまま2台並走で海底トンネルへ突入する。
「本当にいい車だよ……あのブラックバードとタメで走れる」
「知ってるんやろ、なのはちゃん……この車が、“悪魔のZ”て呼ばれてるて……」
トンネルを抜け、大井コーナーをクリア。
前回のバトルでなのはがクラッシュした工事現場は、まだ車線制限が解かれていない。
ブラックバードは右車線、Zは中央車線。このまままっすぐ行けばクリアできる。この前のようには行かない。
なのははそう自分に言い聞かせ、ステアリングを握り締める。
「この車に心を奪われて……事故っても、事故っても、また何度も走り続けようとして、
しまいに命を落としてしまう……自分だけやない、周りの人間までそれにつられてのめりこんでいってしまう……」
「…………」
「こいつはホンマモンの悪魔や!兄ちゃんは悪魔に殺されたんや!みんな、みんな……!」
バリケードを横目に突っ切る。車線が戻った先にまた一台、トラックがいる。
「違う!」
なのはは叫んだ。フロントガラスに映るはやての目には涙が浮かんでいた。
「こいつは私のものだよ!私のZなんだ!」
ブラックバードが左車線へ移る。東海ジャンクションを越えて、京浜大橋の直線が現れる。
「悪魔でもいいよ!たとえ悪魔でも、私はこのZがいいッ!」
東海ジャンクションの左コーナーをインベタでクリアするため、ブラックバードは左車線へ移っていた。
アウト側に位置するZ。トラックをパスした後でクリップにつくにはラインがきつすぎる。これで前に出られる。
「(結局、私が一番あのZに心を奪われているんだ──はやてには誤魔化せない)」
Zの姿を横目に見ながら、リインはステアリングを握る掌の感触を今一度確かめる。
「(今夜、はやてがあのZに乗ろうとしたのは……あのZを追う私の姿を見たくなかったから──
あのZを追おうとする私の姿を見たくなかった──私までもが、自分の前から消えてしまうのを恐れていた──
──だが、それは彼女も、高町なのはであっても同じはずだ──)」
ここでZを突き放す。ラインを制限されたZはコーナリング速度を大きく落とさざるを得ない。
ここで前に出たら、そのまま振り切る。
「(振り切られたら、そのまま諦めてくれ──それがはやての願いだろう──)」
「くっ……ここで前に……!!」
トラックを交わして大きくアウトにラインを振ったZは、凄まじい慣性質量を持ってステアリング操作を拒む。
このままではアクセルを踏めない。ひたすら、グリップが回復するのを待たなくてはならない。
Zの右リアタイヤが路肩を踏むのをなのはは感じ取った。それに振られて、フロントが左へ巻き込む。
「(えっ──?)」
エンジンの叫ぶ音が、空回りするように吼えた。
フロントガラスに映る景色が、滑るように横を向いていく。
やがて目の前に現れたコンクリート壁に、Zはゆっくりと──そうなのはには感じられた──タッチした。
大井南インターを通過したとき、ユーノは2対のハザードランプが道の先に点滅しているのを見て取った。
心臓がすくみ上がるのをこらえつつ、アクセルを抜いて減速する。
「うわーっ、やっちゃってるー!!」
ナビシートのアリサが叫ぶ。後席のすずかも身を乗り出して、目を凝らしている。
Zはコーナーを抜けた先の左側の側壁に後ろ向きに張り付いて止まり、
その数十メートルほど先の路肩にポルシェが停車している。
Zの傍らにはやてが立ちつくし、リインもポルシェから降りてZのほうを見ている。
なのはの姿は見えない。
ユーノはFCをZの前に滑り込ませ、降りて後ろを振り返った。
「なのは!!」
「はやて!!なのははっ、大丈夫なの!?」
アリサとすずかもFCを降りて、Zに駆け寄る。
Zは一見、損傷は軽いように見えるが、なのはは運転席から動かない。
「あっ……、アリサちゃん、わたし、わたし……」
泣き震えるはやてをすずかがなだめる。
アリサは割れてなくなったZのサイドウインドウに顔を突っ込んで、なのはの肩を揺さぶる。
「なのは!手と足、ちゃんとくっついてる!?立てないの!?しっかりしなさいっ!!」
「大丈夫だよアリサちゃん……気分いいから浸ってるだけだよ」
「はあ!?」
緊張が抜けて、なのはは穏やかな表情になっていた。
カーブに沿ってスピンしたので衝撃はそれほどでもなく、バンパーとドアををこすった程度で止まれていた。
「ね、はやてちゃん。今の、私のミスだったよね。Zのせいじゃない……。
──ブラックバードに伝えて。必ずまた湾岸に現れるから、
そのときはアッサリとちぎってやるから、ってね──」
なのはたちの横を、トラックがクラクションを鳴らしながら通過していった。
SERIES 1. 不思議な出会い END
◆ SERIES 2. テスタロッサの少女
ステージの上は、四方から照らしつけられるライティングによって肌が焼けるように暑い。
それでも、笑顔を絶やさず、歌声を胸いっぱいに響かせる。
もっとも音声は別録音で、後からエフェクトなどで整えた上でミックスダウンされる。
ガラス張りのミキシングルームの向こうで、音響監督が腕で丸を作った。
「はいOK──!!おつかれさまー!!」
照明が減光され、セットを片付けにスタッフが走り始める。
マネージャーが持ってきたスポーツドリンクを、ひといきに飲み干す。
今日の収録はこれで全部だ。明日から2日間、オフをもらっている。
つまり、今夜は存分遊べるわけだ。
今日の主役だった金髪の少女は、足早にスタジオを後にしようとしていた。
愛車に乗り込もうとしていた少女に、マネージャーがあわてて追いかけてくる。
「もうっ、フェイト!いつも言ってるだろ、スタジオに来たらちゃんとあいさつしろって!」
フェイト、そう呼ばれた少女は構わずキーをまわし、イグニッションボタンを押してエンジンを始動させる。
オフィスビルの間に挟まれた立地のスタジオ駐車場に、強烈なエンジン音が反響する。
「わかってんのか?これから半年が勝負なんだ。これから半年の仕事でキマるんだよ、
ただのアイドルで終わるか、一流の歌手になれるか!わかってんのかフェイト」
「そんな大声出さなくても聞こえてるって。次の金曜は、関口台のスタジオに12時だよね」
ゲート式シフトレバーの金属音を響かせ、ギアを1速に入れる。
メカニカルサウンドのうなりを上げるギアボックスの音とともに、巨大な車体が動き出す。
ガングレーメタリックの鋭角的なボディが、戦場を潜り抜けたバトルアクスのように路面に楔を打つ。
ケーニッヒマフラーを奢られたV型12気筒の澄んだ甲高いサウンドを響かせ、
フェイトの操るフェラーリ・テスタロッサは走り出していった。
「あーっ!フェイトーっ!ったくもう!」
強烈な排気圧に飛ばされそうになって踏ん張り、走り去っていったフェイトに毒づいたマネージャーの名はアルフという。
駆け出しの頃からずっと二人三脚で頑張ってきたアルフだったが、フェイトの車趣味にはほとほと手を焼いていた。
テスタのカーステレオに、自分が歌ったお気に入りの曲をセットする。
このメロディと歌声とともに湾岸線を流すのがフェイトの楽しみだった。
日本に来て、成功したら、夢だった幸せをつかみ取れる。
今夜も行こう、湾岸へ──
時間は24:00を回ったばかり。時間帯が早いため、湾岸には雰囲気組の車も多い。
もっとも、そういった連中相手なら互角以上に渡り合える性能をこちらも持ってはいる。
「速いのが来る……っ!?」
バックミラーに映る古めかしい丸型二灯にフェイトが気づいたときには、その車はテスタのすぐ後ろまで迫っていた。
反射的にシフトダウンし、アクセルを踏み切る。だが加速に移るタイミングが遅すぎた。
後方の車はテスタの動きを読みきったラインどりでレーンチェンジし、あっというまに前に出ていった。
「くっ!?」
3速のフル加速に移ったテスタの前方に、小ぶりなロングノーズ・ショートデッキの白いシルエットが見えた。
古い車だ。だけど、何かいいようのないオーラが満ちている。不思議な魔力がある。
「あれはZ……S30型!?まさか!?」
フェイトも、ここ十数年の日本車ブームはよく知っていた。
しかしS30Zといえばもう半世紀近くも前の車、パワーもノーマルなら120馬力しかないはずだ。
チューニングされているとしても、このフェラーリをここまで圧倒的に抜き去る性能差が生まれるものか。
白いZのテールからアフターファイヤーが飛ぶ。
マフラーはメインパイプも太い大口径だ。ターボチャージャーの排気を効率よく使うための太さだ。
4速にシフトアップ。Zはさらにテスタを突き放しにかかる。
「だめだ──完全においていかれた!」
話にならない。あれほどのマシンは自分は今まで見たことがなかった。
湾岸線の高架の向こうに小さくなっていくZのテールランプを目で追いながら、
フェイトは自分の中の血が熱くなりはじめるのを感じていた。
翌日、早朝からフェイトの電話でたたき起こされたアルフは、渋い顔で
マンションの駐車場へ降り、自分のR32スカイラインGT-Rに乗り込んだ。
フェイトの趣味に真っ向から付き合うつもりはなかったが、それでもフェイトを一人で走らせるよりは
自分も一緒にいたほうがいいと思ったのは、なのはに対するアリサと同じだった。
色は純正カラーのワインレッド、外見はほぼノーマルでブーストアップ程度のライトチューン仕様。
それでも、ノーマルテスタと走るには十二分の速さだ。
フェイトのフェラーリ・テスタロッサはエンジンはノーマルのまま、マフラーのみケーニッヒを装着。
足回りとタイヤ、ホイールはF40のものを移植し、安定性とコーナリング性能の向上を図っている。
ブレーキについてもF512Mのキャリパーに交換し耐久性を上げている。
フェイトが懸念しているのは、いかなこのティーポF113エンジンといえども、
現代の日本製高性能スポーツカーと渡り合うにはパワー不足だということだ。
テスタロッサに搭載されるF113エンジンは排気量5リッター、バンク角180度のV型12気筒。
日本向け輸出モデルは排ガス規制の兼ね合いもあり、最大出力は380馬力。
フェラーリ社の発表する公称最高速度は290km/hだが、実際に湾岸で走った場合の
手ごたえとしては、そのはるか手前で速度の伸びが鈍ってしまうという印象だった。
たしかにサーキットやテストコースのような何もない直線を走ればそれくらい出るのかもしれないが、公道はそれだけでは不足だ。
アルフとフェイトは近場のパーキングエリアに車を停め、コンビニの軽食をほおばりながら話している。
「でもさフェイト、フェラーリをいじれるチューニングショップなんてそうそうないよ。
それに十分だろ、実際その辺のスポーツカーもどきにゃ負けないんだし、相手の車が異常なだけだよ」
アルフがGT-Rを選んだのは、リアシートがありきちんと4人乗れて、大きなトランクもある
セダンボディで普段使いの足もこなせるからという理由だった。
確かに、フェイトのドライビングテクニックを持ってすればそこらの下手な走り屋には負けないのは事実だ。
それでも、あのS30Zの圧倒的な速さは印象に拭いがたいものだった。
「自分の本業は忘れるなよ。心配して待ってる人間が居るんだってことも」
アルフの言葉が頭の隅に残ってはいたが、フェイトはその日のうちに、とある外車ディーラーに愛車を持ち込んでいた。
ここはオーナーが元々自身でチューニングとレース活動をやっていたプライベーターという成り立ちもあり、
他のショップがあまりやりたがらない外国製スポーツカーのチューニングを積極的に行っていた。
ガレージには、ポルシェやBMW、コルベットなどのハイパワーマシンがずらりと並んでいる。
ガンメタという珍しいカラーリングのテスタロッサと入れ替わりに
やってきたのは、黒いポルシェターボだった。
バイパスへ向かって走り去っていくテスタの後姿を見て、
リインはあのフェラーリもただものではない車だと気づいていた。
「どうだった八神ちゃん」
「パワーは申し分ないですね社長、いい感じです」
「この930ターボのエンジンだとブーストは1.2kg/cm2がベストなんだ、
1.5かけるとなると負荷が大きいから、一応プラグの番手も上げたりしてるけど、
長時間の全開は気をつけてな」
「わかってます。……ところで社長、あのテスタには何を?」
ここ最近、悪魔のZもまた湾岸に舞い戻ってきた。
二回目のバトルでのクラッシュの後、向こうもじゅうぶんにセットアップを重ねているはずだ。猶予はもうない。
「テスタはNAエンジンだからな、何をやるにしても大掛かりになりすぎる。
NOSをつけてやるってことで話はまとまったよ」
「車体のほうは十分煮詰まっているようですね」
「見ただけでわかるかい。さすが八神ちゃんってところだな……」
この社長は以前から、自分たちの車を見てくれている。
だが、あの頃の仲間はもう一人も走っていない。
最後まで残ったのがリインだった。
復活した悪魔のZの噂は、走り屋たちが駆る車をつくるチューナーたちの耳にも入ってきていた。
「あのZ、また走ってるんだってな。八神ちゃんがこのターボに手を入れるのは、
そいつと走るためなんだろうけど……あまり、ムチャはしないでくれよ」
「ええ……大丈夫ですよ。私は」
リインはいつも、はやてのことを胸に留めていた。
それが、境界を越えて永遠に戻ってこなくなってしまった者たちとの違いかもしれない。
今日はここまでです
>>49 ありがとうございます〜
湾岸も最近また実写映画化されましたね
こちらもThe MOVIE 1stと銘打ってはいませんが続編つくる気満々のようで
たのしみですなー
初期のアキオ君のアツさも中々なもんです
>>50 湾岸は名台詞が多いですからねー
悪魔でもいい!とか色々あります〜
>>70 投下乙です。
あと著作権とかの基準が僕にもよくわかりませんが、ニコニコとかにリンクを張るのはやめた方がいいですよ。
>>2の注意にも書いてありますし。
お互い気をつけていきましょう!
さて、23時頃より「ドラなの」の第4章を投下したいと思いますのでよろしくお願いします。
>>70 投下乙です
>「悪魔でもいいよ!たとえ悪魔でも、私はこのZがいいッ!」
ああ、なるほどな
すみません。
投下しようとしたら本文が長すぎるとのことでできそうにありません。忍法帖・・・・・・のせいなのかな?
出直してきます。
1レス辺りの本文量を減らすとかはどうだろう
>>74 そうするとたぶん20連投ぐらいになるので、バイバイさるさんになってしまいそうです・・・・・・
この時以外に2chは使わないのでこういう規制は困ります・・・・・・
ともかく地道にレベル上げするか代理投下の方に投稿を完全シフトするか検討して出直します。
分けてもいいから続きが見たいです
どうやら投下にはまだ時間がかかる様子なので、10時以降に投下させて頂きますね。
【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
玉座の間から逃走した百合神博士を追ったディケイド&なのは&ユーノはついに百合神博士を追い詰めていた。
「爺さん。もう世界征服ごっこは止めて帰るぞ。あんたの孫も心配してるぞ。」
百合神博士も元々は仮面ライダーキバーラこと光夏海の祖父にして光写真館の主人、光栄次郎である。
それが死神博士のガイアメモリで死神博士ドーパントとなり、さらに百合ショッカーに入った事によって
百合神博士となっていただけの存在である。それ故にディケイドは彼に元の光栄次郎に戻って欲しかった。だが…
「小僧のくせに生意気な事を言うな! この私がどれだけ百合ショッカーに情念を燃やしてるとも知らずに…。」
「さあ知らないな。嫌なら実力行使で行くぞ。」
「いくらお年寄りだからって私も容赦しないからね。」
ディケイドはライドブッカー・ソードモードを、なのははレイジングハートを百合神博士に向けた。
しかし、百合神博士はこの絶体絶命の状況にも関わらず余裕の表情をしていた。
「フッフッフッ…。百合怪人作りの名人、百合神博士…。その最高傑作は…この私自身。」
元々科学者として幾多の百合怪人を作り出し、百合怪人作りの名人と謳われた百合神博士。しかし彼の最高傑作は彼自身にあった。
そして彼は何処からか百合の花とビールを取り出していた。
「百合で…ビール…ユリデビル!!」
ここで百合神博士は怪人ユリデビルに変身した。死神博士は元々イカデビルと言う怪人に変身する事が出来た…
と言うか、ユリデビルと言っておきながらその姿はイカデビルのままなのであった。
「幾ら怪人として最高傑作だとしても、爺さん自身に実戦経験なんて殆ど無いだろう?」
「確かにそうだよね。百合神『博士』だもんね。直接前線に出て戦うなんて事は無さそう…。」
「果たしてそれはどうかな…? 亀の甲より年の功と言う物を教えてやる!」
こうしてディケイド&なのは&ユーノ対イカデビルの戦いが始まった。この対決は果たして…
聖王の百合かご動力室ではクウガ、アギト・アギト、リイン・G3、クロノ・ジョーカーの四人が
動力炉を前にして百合インフォースに苦戦を強いられていた。
「はぁぁぁぁ!!」
「たぁぁぁ!」
「甘い。」
クウガとアギト・アギトが左右から同時に殴りかかるが、百合インフォースはそれを片手で裁いて行く。
リイン・G3はG3システム専用銃GM−01スコーピオンで援護するが、未確認生命体も一撃で倒せる程の
威力があるとされるそれも百合インフォースの強固な防御魔法に弾かれてしまうのみだった。
「ならば今の内に動力炉を!」
「させない。」
「うあ!」
クウガ達三人が百合インフォースを引き付けている間にクロノ・ジョーカーが動力炉を直接破壊しようとするが、
それも百合インフォースにはお見通しだった様子で、魔力砲を撃ち込まれ阻止されてしまった。
「強い……。」
「リインに毛が生えただけのもんかと思ってたらなんて強いんだ…。」
「リインフォースTの力はUとは比べ物にならないぞ。僕も分かってはいたが…。」
百合インフォースは強かった。あの夜天の書事件で大暴れしたリインフォースTが百合ショッカーの科学力で復活し、
さらに百合ショッカーの戦士百合インフォースとして敵に回って来たのである。ただで通してくれる程甘い相手では無かった。
「もう止めて下さい! 私達は本当に戦わなきゃいけないんですか!?」
「リイン!?」
突然百合インフォースに訴えかけ始めたのはリイン・G3だった。そして彼女はG3システムの
ヘルメット部分を外し、自身の素顔を見せ付けた。
「私はリインフォースU! 貴女の妹に当たる古代ベルカ式ユニゾンデバイスです!」
「そうか…貴女が私の妹……。」
「何故お姉様が百合ショッカーに手を貸しているのか…それを教えて下さい!」
百合インフォースが元々リインフォースTであるなら、それはリインフォースUにとって姉にあたる存在と言える。
それ故に何故彼女が敵に回り百合ショッカーに手を貸しているのかを知りたかった。
「残念だが私は蘇生されるに伴い百合ショッカーに絶対服従する様に改造されている。そして私の与えられた役目は
聖王の百合かごの動力炉リアクターの防衛。これは仕方の無い事なのだ。」
「そうなんですか…本当に仕方の無い事なんですか…?」
「そうだ。私を突破して聖王の百合かごの動力炉を破壊したくば、この私を倒すしか無いのだ。」
かつて夜天の書が過去の何者かの手によって闇の書となってしまっていた様に、リインフォースTもまた
百合ショッカーによって百合インフォースに改造されえいた。少なくとも彼女…リインフォースTとしての
自我が残っている様であるが、百合インフォースとして百合ショッカーに服従しなければならないのも事実の様だった。
「分かりました…リインはまだまだ未熟で半人前なユニゾンデバイスですけど…やります! お姉様を倒します!」
「そうか…ならば来い。私を倒して見せろ。」
リインは再びG3システムのヘルメットを装着し、さらに右腕にはG3システム専用超高周波振動ブレード
GS−03デストロイヤーを装着していた。
「行きますよぉ!!」
デストロイヤーを振りかざしリイン・G3は跳んだ。そして猛烈な速度で剣を振り回し百合インフォースを攻め立てて行く。
普段は頼りなさそうなリインのその変わり様にアギト・アギトは驚きに耐えなかった。
「強い…アイツ…何で…?」
「分からない。あえて推測するならば…リインフォースUとリインフォースTは姉妹の様な関係である事が
かかって来るだろうな。幾らリインフォースTが百合ショッカーに改造されてしまっているとは言え
百合ショッカーの尖兵として戦う彼女の姿はUにとってとても耐えられる物では無いはず。
だからこそあそこまで死に物狂いで止めようと頑張っているんだ。」
クロノ・ジョーカーはそう推測していたが、決してお前等も戦えよとか突っ込んではいけない。
「やぁ! はぁぁぁ!」
リイン・G3はなおもデストロイヤーを振り回し百合インフォースを狙うが、残念ながら一発としてかすりもしなかった。
「闇雲に振り回しているだけでは当たらんぞ。」
「なら避けられない様にしてやれば良いんです!」
ここでリイン・G3の左手からリイン自身の冷凍魔法が放たれた。忽ちの内に百合インフォースの脚を凍結させ
動きを止めてしまった。
「今です!」
脚が凍り動けなくなった百合インフォースへ向けてリイン・G3のデストロイヤーが振り下ろされた…が…
百合インフォースはそれを軽々と真剣白刃取りをしていた。
「な!?」
「脚を凍らされた程度で私がどうかなると思ったか? それにこんな物は何時でも………。」
百合インフォースは自身の脚を凍結させる氷を砕き脱出しようとしたのだが…その時だった。
「その一瞬が命取りだ!」
「!?」
クウガのマイティキックが百合インフォースの背中に打ち込まれた。リイン・G3に注意が向けられていたからとは言え
30トンもの衝撃が百合インフォースの背中に圧し掛かり、まるでゴム毬の様に吹っ飛んで行く。
「くっ! この位の事でぇ!」
クウガの蹴りと同時に流し込まれた封印エネルギーを持ってしても百合インフォースを倒すに至らない。
蹴られた勢いで吹き飛びながらも百合インフォースは体勢を立て直そうとしていたのだが、その正面にはアギト・アギトがいた。
「リインが頑張ってるんだ! あたしだってやるぞ!」
アギト・アギトの頭部に輝くクロスホーンが展開し、さらにその右足を中心にして地面がアギト・アギト頭部の
クロスホーンを象った様な形の光を放っていく。それと同時にアギト・アギトは高々と跳び上がり、
百合インフォースの腹部へ向けてライダーキックを放っていたのだった。
「くっ! くぅぅぅ!」
百合インフォースの表情が歪んだ。だがこの隙をクロノ・ジョーカーが逃がさなかった。クロノ自身が持つバインドで
百合インフォースを雁字搦めにして動きを封じていたのだった。
「今だ! リインやれぇぇぇぇ!」
「やぁぁぁぁぁぁぁ!」
クウガ、アギト・アギト、クロノジョーカーが攻撃の隙を作ってくれた。その三人のご厚意に報いるべく
リイン・G3は百合インフォース目掛けて跳びかかり、次の瞬間デストロイヤーが彼女の身体を斬り裂いていた。
「良くやったな…。妹よ…。」
「そんな事無いです。これは皆の協力があればこそ出来た事なんです…。リインなんかまだまだです…。お姉様…ごめんなさい…。」
「ふ…案ずる事は無い…。元々私は一度死んだ身…また元に戻るだけの事だ…。」
戦わねばならなかったとは言え、自らの手で姉を斬ってしまった事実に心痛めるリインフォースUに対し
百合インフォースはそうフォローし、笑顔のまま光となって消滅した。
「リイン…。」
アギト・アギトは優しくリイン・G3の肩に手を乗せる。それは大切な人を失った心の痛みは彼女にも良く分かるがこそ。
「リイン…これからも頑張るです…。お姉様が安心して眠れる様な…立派なユニゾンデバイスになってみせるです!」
「そんな事より早く動力炉壊さないか?」
「おい!!」
せっかくリインが新たな決意を固める良いシーンだったのにクウガの余計な一言が全てをぶち壊してしまっていた。
玉座の間ではBLACKが聖王ヴィヴィオ&覇王アインハルトの猛攻に苦戦を強いられていた。
「はっ!」
「くぁ!!」
聖王ヴィヴィオのストライクアーツ、覇王アインハルトの覇王流の技の数々がBLACKを追い込んで行く。
二人とも聖王、覇王となった時点でパワーもスピードも常人を遥かに凌駕し、ただのパンチですら
BLACKの強化皮膚リプラスフォームでも耐えかねる程の威力に跳ね上がっていた。
だがそれだけでは無かった。ヴィヴィオが着込む聖王の鎧、そしてアインハルトの覇王の鎧もまた
屈強なゴルゴム怪人を倒して来たBLACKのパンチやキックすら跳ね除ける鉄壁を誇っていたのだ。
「精気王だか性器王だか知らないけど、何処の馬の骨とも分からない世界の王がこの聖王と覇王に盾突く事が
どれだけ愚かな行為か知りなさい。」
「そうだ…俺は確かにゴルゴムによって世紀王ブラックサンとして改造されたが…俺個人はそれを拒絶し
人々の自由と平和の為に戦う仮面ライダーBLACKとなった! だがお前達はどうだ!?
お前達は本当に自分の意思で王になろうとしているのか!? 百合ショッカーにとって都合が良いから
と言うだけの理由で王に祭り上げられているだけの傀儡である事には気付かないのか!?」
BLACKはヴィヴィオ、アインハルトがどの様な人間であるかは知らない。しかしなのはと親しい関係に
ある事から、ある程度の予想は出来る。少なくともこの二人は『王』では無いし、なのはと親しい関係に
なった時点で本人もそれを拒否して一人の人間として生きる道を選んでいるはず。
「黙れ黙れ!」
「私達…聖王と覇王を愚弄するか!」
「当然するさ! お前達は所詮百合ショッカーの人形でしか無いんだ! 人形では無く人間でありたいのなら
聖王、覇王と言う肩書きは捨てて一人の人間として俺に掛かって来るべきなんだ!」
ヴィヴィオが聖王に、アインハルトが覇王となったのも全ては百合ショッカーにとって都合が良いから。
Vivid以降に入った新勢力の百合厨はいずれはかつてのなのフェイ百合厨を凌駕する勢いを持つだろう。
その事を見越した百合ショッカーは、彼等を確保する為にヴィヴィオとアインハルトを利用したのだ。
「黙れと言っているぅぅ!!」
「うっ!!」
ヴィヴィオとアインハルトの表情が豹変し、さらに激しくBLACKを攻め立て始めた。
怒りの余りその攻撃からは冷静さが消えていたが、怒りがこもっているが故に一発一発の破壊力は
先程までのそれを遥かに越えていた。まるでゴム毬の様に軽々と叩き飛ばされ、壁の彼方此方に打ち付け
叩き付けられて行くBLACK。
「くっ! くあぁ!」
「はわわわわわっ! 何とかして助けないと!」
聖王と覇王の同時攻撃の嵐に窮地に立たされるBLACKの姿を見て後方の朱里ちゃんは慌てていた。
これはただ見ているだけで無く、何とかして助けねばならないと必死に考えていたのである。
しかし所詮ディエンドがライドして出しただけの複製である彼女にオリジナルの孔明の様な知性は無い。
それでも必死に考えていた。今なんとか出来るのは自分だけなのだと。彼を助けられるのは自分だけなのだと。
「あ…そうだ……。」
朱里ちゃんは自身の手前にあったバトルホッパーに目を向けた。彼女が元々いた『三国志の世界(ただし恋姫版)』には
そもそもオートバイなる物は存在しないが故、これがどの様な仕組みで動いているのかは分からない。しかし、彼女も
BLACKがバトルホッパーを運転する様を見て、如何にすれば動かせるのかは頭に入っていた。
「こ…これを使えば…。カラクリ仕掛けの馬みたいな物…だよね…。」
朱里ちゃんはバトルホッパーに跨ってハンドルを握った。バトルホッパーは元々ゴルゴムによって世紀王専用マシンとして
開発され、さらにゴルゴムと言う組織にでは無く世紀王個人に従う様なっていた為にブラックサンが仮面ライダーBLACKとして
ゴルゴムから離脱するに伴い、彼もBLACKの相棒としてゴルゴムと戦う様になった。普通ならば朱里ちゃんと言う
他人の運転を受け入れるはずは無かったのだが、彼女のBLACKを助けたいと言う想いを察し、それを受け入れた。
「はわわわわぁ! 速過ぎて上手く動かせないぃぃぃぃ!!」
朱里ちゃんを乗せたBLACK救出の為に走り出したバトルホッパーだが、バイクの運転等した事の無い朱里ちゃんには
余りにも速過ぎた。バトルホッパーは市販のバイクとは比較にならないモンスターマシン。乗り物と言えば馬にしか
乗った事の無い朱里ちゃんに乗りこなせるはずが無い。だがそれでも必死にBLACKを助ける為にヴィヴィオと
アインハルトの二人の内のどちらかだけでも轢き倒そうと、必死にしがみ付くようにハンドルを握っていた。
「うっ!」
「トドメだ!」
「はわわわわわわ!!」
聖王ヴィヴィオと覇王アインハルトの猛攻に苦しみ倒れてしまうBLACK。二人の王は最後のトドメを
刺さんばかりにBLACKへ駆け寄っていたが、そこで朱里ちゃんの乗ったバトルホッパーの乱入によって
弾き飛ばされ、阻止されていた。
「何!?」
「やったぁ!」
どうにかBLACKの窮地を救って思わず喜ぶ朱里ちゃん。しかしそれも一瞬だった。
「邪魔をするなぁ!」
素早く体勢を立て直していた聖王ヴィヴィオはバトルホッパーに接近すると共に拳を打ち込み倒し、
その際にバトルホッパーから弾き飛ばされていた朱里ちゃん目掛け覇王アインハルトの拳が深々と打ち込まれていた。
「なっ!」
BLACKは絶句した。BLACKの身体さえゴム毬の様に叩き飛ばした覇王アインハルトの拳。
それを朱里ちゃんがもろに受けていたのである。もはや一溜まりも無い。次の瞬間、朱里ちゃんは破裂するかの様に消滅する。
「孔明!!」
所詮ディエンドがライドした複製と言えども、共に戦った仲間が倒れ消える様は決して良い気持ちとは言えない。
そして彼の脳裏には短い間ではあったが、朱里ちゃんとの思い出が走馬灯の様に蘇って来る………
「百合ショッカー…許ざん!!」
BLACKは切れた。そして彼のこの上無い怒りと悲しみに呼応する様にキングストーンが今までに無い程の
強烈な閃光を放つ。その輝きは二人も思わず顔を背けてしまう程の物だったが、BLACKの怒りは聖王ヴィヴィオと
覇王アインハルト個人にでは無く、二人の少女を非道な殺人兵器に変えてしまった百合ショッカーに向けられていた。
「そんなコケ脅しが通じると思ったの!?」
「次はお前も消えてしまいなさい!」
聖王ヴィヴィオと覇王アインハルトは共にBLACKへ迫る。だが、一方BLACKは左右の拳に
エネルギーが集中し、赤熱化して行くのが見えた。
「ライダーパーンチ!!」
「そんな物は効かない!」
BLACKのライダーパンチが炸裂。聖王ヴィヴィオと覇王アンハルトは当然それぞれの着込む聖王の鎧、
覇王の鎧で防いでいたのだったが…次の瞬間だった。鉄壁を誇っていたはずの各々の鎧にヒビが入っていたのだ。
「なっ!? そんな…?」
「何故……。」
今までBLACKの攻撃の全てを防いで来た鎧にヒビが入ると言う事実に思わず戸惑う二人。
しかし、BLACKの攻撃は終わらない。今度は脚にキングストーンエネルギーが集中し赤熱化して行く。
「ライダーキィィィィィック!!」
「うぁ!」
BLACKのライダーキックが聖王ヴィヴィオの聖王の鎧を完全に砕いた。しかもその際に生じた衝撃は
アインハルトの覇王の鎧さえも粉砕してしまう程の威力を見せ付けていた。鎧が砕けると共に倒れた二人は
見る見る内に身体が縮み、子供の姿になって行く。後は百合ショッカーの洗脳が解ければ良いのだが…
「ん………ここは………?」
「あぁ! 何この真っ黒いバッタ男!! 怖い!」
「言う事欠いてそれか! しかし、その様子では正気に返った様だな…。」
どうやら聖王の鎧と覇王の鎧がコントロール装置も兼ねていたのだろう。BLACKがそれを砕くと共に
二人は元の普通の少女(?)に戻っていた。しかし………
「だが…バトルホッパーは自己修復が出来るとしても…彼女はもう帰って来ない…。」
そう。バトルホッパーは自己修復機能により既にダメージを全快させていたが、朱里ちゃんは帰って来ない。
所詮ディエンドがライドした複製であるが故に死体を残さず消滅したと頭では分かっていても、やるせなかった。
「ならば僕にお任せさ!」
「うおっ! 何時の間に!?」
何と言う事だろう。何時の間にかにディエンドがそこに立っており、さらに何かのカードをディエンドライバーに差し込んでいた。
『三国ライド! 孔明!』
「はわわご主人様、またこの外史にお呼ばれされちゃいました〜。」
「……………………。」
BLACKは呆れて声も出なかった。こうもあっさりと蘇って来られると、自分の怒りと悲しみは
何だったのか…と、空しくなっていたのだった。だが、こうして朱里ちゃんも再合流を果たし
ヴィヴィオとアインハルトを聖王、覇王の呪縛から解く事に成功していたのだった。
次回に続きます。
今更こんな事書いても遅いですが、本作におけるヴィヴィオとアインハルトは
「そういうもの」として割り切っていただけると幸いです。
>>85 乙です
13時よりドラなの第4章を今度こそ投稿します。
さるさんされたら避難所の代理の方に投稿しますので、投稿が止まったら避難所の方を覗いてください。
では時間になったので投下します
ドラなの第4章「遭遇」
「えっと・・・・・・どちら様でしょうか?」
はやては居間を挟んだ反対側に立つ、雪女のように色白の女と直立二足歩行するネコに尋ねる。
「・・・・・・お前が八神はやてか?」
その声色は妖艶であったが、冷たく思えてまったく友好的に聞こえなかった。
しかし偏見、主観による決めつけはいけないと自制し、努めて友好的に振る舞う。
「そうですが、あなた方はどちら様でしょうか?えっと・・・・・・もしかしてシグナム達のお友達ですか?」
「シグナム?ああ、『守護騎士システム』か。あの役立たずどもには昔世話になったが・・・・・・今は違う!」
明らかに敵意あるその口調。それにシグナム達を道具のように言うその言い方に腹が立ったが、『守護騎士システム』というセリフが引っ掛かった。
シグナム達がナチュラルに生まれてきた人間ではなく、『夜天の魔導書』のシステムであったという情報は時空管理局上層部、一部のアースラ乗員、
なのはなどの友人というように極めて限られた関係者しか知らないはずなのだ。
なのにどうして知っている?
はやてがそうした事を問いただすと女は
「そんなことはどうでもいい!」
と一蹴し、続けた。
「八神はやて、"闇の書"を渡せ!」
「!!」
決定。こいつら次元犯罪者か知らないが悪人だ。
どうやら魔導書を自分がまだ持っていると勘違いしているようだ。
「(でも、おあいにく様。私は持ってませんよ〜と)」
はやては応援を頼もうと念話で皆に呼び掛ける。しかし─────
「残念だが念話は通らん。ここは私の結界の中だからな。・・・・・・さぁ、お前に救援は来ない。大人しく渡してもらおうか?」
「・・・・・・」
シャマルが家中に張り巡らし、管理局にすら『短時間での突破は難しい』と言わしめた各種魔法結界を破っているとは思っていなかったはやては歯
噛みする。
しかし相手の要求するものを持っていない。そして降参する気もないとなれば選択肢は1つだった。
はやては脱兎のごとき速業でカーテンの閉まった窓に体当たり。
そのままカーテンレールごと外れたカーテンとともに野外へと転がり出ると、バリアジャケットに換装した。
同時に後方より放たれたオレンジ色の魔力砲撃を右に鋭く転がって回避。自身の本型デバイス『蒼天の書』に命令する。
「スレイプニール、羽ばたいて!」
『Sleipnir.』
デバイスの応答と、白い魔力光を放つベルカ式魔法陣が展開。背中の漆黒の翼が展伸(てんちょう)された。
「(外にはシグナム達もなのはちゃん達もおるんや!助けは必ず来る!)」
はやてはそう確信すると、雲もないのに星1つ見えない不気味な夜空に飛翔した。
(*)
同時刻 壁紙秘密基地
そこでは回復したジャイアン達が目を覚ましていた。
「あれ?お前ら、どうしたんだ?」
ジャイアンがケロリとした口調で心配そうに覗き込んでいた人々に問う。
「良かったぁ、いつものジャイアンだ」
その内の1人、のび太が安堵のため息をつく。そして
「何があったか覚えてる?」
というドラえもんの問いに
「あ〜ん、ネコを追いかけた所までは覚えてるんだが・・・・・・」
と頭を傾げる。
「よいしょっと・・・・・・そういえば僕らは誰にやられたの?」
支援
先に起きていたスネ夫が棺桶から上体を起こしながら聞いてくる。
「それがよくわからないんだよ」
「ただ助けに行った僕達にも撃ってきて、助けるのに必死だったから・・・・・・」
ドラえもんとのび太が弁明する。そこで二人の意識の回復に安心して、イスに座っていた静香が物憂げにチラチラ壁を見上げながら介入してきた。
「・・・・・・ねぇ、いつまでここにいなきゃいけないの?私、早く帰らないとママが・・・・・・」
彼女の視線の先に固定されていた時計は8時45分を伝えていた。
「ドラえもん、もう大丈夫じゃないかな?」
「う〜ん・・・・・・大丈夫だと思うけど、一回外の様子を見てみよう」
ドラえもんは応えると画面に向かっていく。
「ドラえもん、出口はこっちだよ」
「そのまま外に出たら危ないでしょ?だからまず、基地のレーダーとカメラで外の様子を見るんだ」
彼はそう言って
「ああ、そっか」
と頭を掻くのび太を横目に機器を操作すると、電磁波という名の探信波を放った。
「・・・・・・どうしたのドラちゃん?」
突然顔色が曇った彼に静香が画面を見に来た。
「・・・・・・おかしいんだ。このレーダーは20キロ先まで映るはずなのに、半径4キロ・・・・・・つまりこの海鳴町より外が、まるで壁があるみたいに映ら
ないんだ」
ドラえもんは様々な手段を講じるが、やはり外は映らなかった。まるで世界が海鳴町だけになってしまったかのように・・・・・・
万策尽きた彼はとりあえず外を見てみようと『スパイ衛星』を基地の外に転送。映像を受信した。
「町は何ともないみたいね・・・・・・」
高度10メートルほどから見る夜景に家々の明かりが映える。
「でもよ、おかしいぜ。まだ9時なのに、海鳴駅にひとっこ1人いねぇ」
「え?そんなばかな・・・・・・」
ジャイアンのセリフにドラえもんは駅を拡大投影する。
駅はこの時間、帰宅ラッシュの後半を迎えているはずだ。しかしホームには乗客どころか駅員すらいなかった。
また線路上では電車が停車している。
回送列車かと思われたが、そうでない証拠に車内の電灯とヘッドライトは明々と灯っているのに運転手の姿は見えず、完全に乗り捨て状態だった。
路上の車も同様にへッドランプ点けっぱなしで放置されていた。マフラー(排気口)から白煙が上がっているところを見るとエンジンも掛かっているよ
うだ。
「どうなってるの?気味悪いよぉ・・・・・・」
スネ夫がその小心っぷりを発揮してジャイアンに身を寄せる。しかしジャイアン自身も自らの町の生物絶滅現象に薄気味悪く、掛ける言葉がなかった。
「・・・・・・あら?今画面の上が光らなかった?」
「え?」
静香の言葉にカメラが上を向く。そこでは『なぜ今まで気づかなかった!?』というほど人為的な光に満ちていた。
流星のように高速飛翔する白い光に向かってオレンジと黄色い光線が伸びる。しかし白い球のように見える光もそれに当たるまいとしているのか小
まめに軌道を変えていく。
「ねぇ、これってさっきのビームじゃない?」
「それに他の色した光線もあるわ」
「近づいて正体を探ってみようぜ」
相手が高速過ぎて捉えられないため、ドラえもんは手元の機器のスイッチを変えて『手動』から『最優先:追尾モード』にする。
すると衛星はスパイとしての隠密機動を棄ててレーダー波を使用。目標をがっちりと捕捉した。
そしてどうにか接近した衛星のカメラが捉えていたのは─────
「やっぱりさっきのネコだ!」
「でもこの女の人も空飛んでるわよ。どういうこと?」
それにネコと女の人はどちらもショックガンのような物でなく、やはり透明で円形をした板からビームを発射しているようだった。
伸びゆくビームがついに大きく蛇行していた白い光に着弾する。あわや撃墜かと思われたが、入射角が浅かったのか黄色い直線は30度ほど偏光
されて建っていたビルに命中した。
その威力は圧巻の一言であった。
薙ぐようになったために直線状になった着弾部分の外壁が瞬時に白熱してバターのように溶け、それよりも上の部分が滑り落ちる様に崩れていった
のだ。
ヒトが放つには破格過ぎる威力に、一同の額を冷たい汗が伝った。
そこでのび太が気付いた様に呟く。
「・・・・・・何か白いのを追いかけてるみたいだけど、いったい何だろう?」
のび太の呟きによって、一同の関心がそちらへ向く。
白い光を追うネコは、先ほど自分達を狙ってきた謎のネコだということは確かであるが、逃げている白い光は正体がまったくわからないのだ。
ドラえもんのスティック操作によってカメラが横にパンして白い光にロック。拡大していく。そうして
―――――包む白いオーラ
―――――人型
―――――白い帽子に白い服
―――――背中についた4枚の黒い翼と茶色い髪
というように徐々に輪郭が浮かび上がる。
そして一同が声を上げた。
「「はやてちゃん!?」」
ピーッ、ピーッ、ピーッ
鳴り響く警告音。レーダー波を逆探知されたのかスパイ衛星が敵に発見されたのだ。
そしてドラえもんが何かしようとする前に、はやてらしき少女を映し出した画面は瞬時にブラックアウトした。
「画面が!?」
もういっかい、しえ〜ん
「衛星がやられたんだ!」
「で、でも今のはやてちゃんだよね!?」
「でも何で空を飛んでるの!?」
「間違いねぇ!あれははやてちゃんだ!」
「ちょっとみんな落ち着いて!」
一瞬にして騒がしくなったのび太達をドラえもんが諌める。しかしジャイアンは止まらなかった。
「みんなで助けに行こうぜ!」
「うん!」
「行きましょう!」
のび太や静香が同調して出口へと走っていこうとする。それをスネ夫が立ち塞がるようにして止めた。
「なに言ってるんだよジャイアン!さっきの見ただろ!?あんな化け物なんかと戦ったら今度こそ僕たち死んじゃうよぉ!!」
撃たれた時の恐怖が蘇ったのか、その形相は必死そのものだった。
スネ夫の制止によって行け行けの空気に冷や水がかけられ、のび太達に迷いの表情が浮かぶ。
しかし山のように大柄なこの男にはそんなものは雑音に過ぎなかった。ジャイアンは火山が噴火したように憤然と言い放つ。
「それでも友達か!?」
その喝に基地全体が震え上がる。
「さっきのび太達は"あんな危険"なのに俺達を助けてくれた!俺は1人でも行くからな!」
彼の決意は固いようだった。
その力強い牽引力にのび太が
「ジャイアンだけにいいカッコはさせられないな。僕も行くよ」
と決意を新たにし、ドラえもんも
「僕らだってはやてちゃんとは友達なんだ。一緒に行くよ」
と続いた。静香ものび太のアイコンタクトに頷いて見せる。
そんな危険を犯してまで助けに行こうとするのび太達が信じられないのかスネ夫は困惑の表情を浮かべながら
「ぼ、僕は絶対行かないからね!!」
とその場に座り込んでその立場を堅持した。
「ケッ、勝手にしやがれ!」
ジャイアンは吐き捨てる様に告げて秘密基地の出入口へと続く階段に足を掛ける。
「お前ら、行くぞ!」
出撃の掛け声にスネ夫以外の返事が花を添え、階段を駆け上がる音が響く。しかしその中に静香とドラえもんの姿はなかった。
ドラえもんが後を追おうとした静香を引きとめたからだ。振り返った静香に「どうして?」という視線を投げられたドラえもんは、真剣な顔で応える。
「静香ちゃんはスネ夫君と留守を守って」
「でもはやてちゃんが・・・・・・!」
「帰る場所を守ることは人を助けるのと同じくらい大事なことなんだよ」
ドラえもんはそう説明して静香を無理矢理丸め込むと、残った2人に『ショックガン』、『空気砲』をそれぞれ残して出発した。
(*)
市街 上空
「(あかん・・・・・・全力が出せへん・・・・・・)」
2人組から逃げる八神はやては限界を感じ始めていた。
自らの特性である遠隔発生による攻撃や、爆撃による長距離支援という戦闘スタイルゆえ、前衛などの友軍がいない目視領域での戦闘は大の苦手
とする。各種魔法も総じて威力は高いが詠唱とチャージ時間が長い。
それに加えリンカーコアの縮小でクラスAAに魔力出力が減少していて、飛行魔法でさえ音速巡航が出来ないほど弱体化している。
相手はクラスSとまではいかなくとも自分以上の魔力出力を誇っているようだ。でなければ飛行に専念した自分に砲撃を放ちつつ追随できるもので
はない。
さらにそんな相手が2人もいる事からすでに不利だ。もし片方に先回りでもされたら─────
「!!」
眼前より迫りし黄色い魔力砲撃。
どうやら仮定の話ではなくなってしまったようだ。
「盾!」
『PanzerSchild.』
着弾の寸でに展開されるベルカ式魔力障壁。それは雷光の如く飛来した砲撃を受け止めるが、急制動を掛けたので飛行速度の全てを奪われてし
まった。
「く・・・・・・『刃持て、血に染めよ。穿(うが)て、ブラッディ─────』」
「キーッ!」
「痛い!」
噛みちぎられたかと思うほどの激痛に何を思う余裕もなく腕を振るう。しかし噛み付いた黒い影を振り落とそうとしたこの動作の代償は高かった。
「(杖が!)」
激痛からジンジンとする痛みにシフトした腕を見ると、握っていたはずの杖型デバイス『シュベルトクロイツ』が神隠しの如く手元から消えていた。反
射的に下を走査すると、それはあった。
だがここは地上でも無重力空間でもない。その杖は目前で重力の位置エネルギーをどんどん運動エネルギーに変換させていく。
「ちょ、待って・・・・・・!」
魔導士達はミッドチルダ式、ベルカ式どちらであろうとデバイスがなければ魔法を使うことも、一部を除いて維持することもできない。
そしてその一部に魔力障壁は含まれていなかった。
シールドの消失したはやてはデバイスを急降下して追いかけるが、放たれた第2射に正確に射止められてしまった。
オーバーAAランクの魔力素粒子ビームの奔流は自らを呑み込み、ビルの1つに叩きつける。
バリアジャケットを着ていなければ即死だったであろうはやては何とかその身を起こす。
視界は立ち込める建材の粉塵とバリアジャケットの自爆で発生した白い雲のような霧で塞がれるが、高所特有の強風で瞬く間に晴れていく。
しかしその視線の先に希望はなかった。
「(ここまで・・・・・・なんか・・・・・・)」
敵が余裕な表情を見せながらこちらへと向かってくる。
一方自らの体は悲鳴を上げ、バリアジャケットも衝撃吸収のためにあらかた自爆。デバイスもないので満足な抵抗もできない。
そんなこちらの現状に見かねたのか女が呼び掛けてきた。
「観念して闇の書を渡せ。そうすれば命だけは助けてやる」
「お断りや!・・・・・・ウチがどうなろうと構わん!せやけど闇の書は・・・・・・夜天の魔導書は絶対に渡せへん!」
女は床にへたばりながらも毅然と言い放ってやったこちらを見つめると、小さくため息を漏らす。
「そうか・・・・・・残念だ」
黄色いミッドチルダ式魔法陣の投射面がこちらをロック。魔力が集束していく。そして、発射キーなのであろう腕が振り下ろされる。
・・・・・・そこへ黒い影が躍り出た。
つづく
以上です。支援ありがとうございます!
投下乙です
やっぱりはやて一人だと不利か……
あと「帰る場所を守ることは人を助けるのと同じくらい大事なことなんだよ」って何気に良い台詞だな
投下乙です
ダイガードの赤木を思い出すな…w
乙Gjであります!支援の人も乙です!
こう言う場面のジャイアンの良い奴ぶりは本当に素晴らしく異常ですね。
そしてこう言う時のスネ夫の薄弱ぶりは酷く異常ですね……失礼。
そしてこれはヒr… オットイケナイ。
ドラちゃん、早く助けるのだ!
>>98〜
>>100 読んでくださってありがとう!
はやてちゃんはsts時でもタイマンではキャロぐらいらしいですからね。残念ながらリミッターなくても出力減少でそれぐらいになっちゃいますね。
ダイガードを見たことないので僕のことかよくわからないんですけど、ありがとうございます。
やはや、劇場版ジャイアンはカッコいいですよね〜でもスネ夫も以外と―――――うわっ、シレンヤ何をすrくぇrちゅいおp@「
20時半ごろから投下します〜
フェイトはここ数日、あの白いZの姿を求めて首都高を流すようになっていた。
環状、湾岸、横羽、さらには第三京浜や東名などさまざまな路線を走り、コースを覚えると同時に
その道その時間帯での車の流れも見ながら、あのZがいつどこで現れるかを探す。
もう一度勝負したい。今までの自分は、はっきり言って気が緩んでいた。
本気の戦闘モードでもう一度、あのZと走る。
それなら、きっと互角以上の走りができる。
「────いた!」
湾岸東行き、辰巳ジャンクションを通過したところで、深川線からの合流を下りてくるそのZをフェイトは目に留めた。
すぐさま全開。合流路が終わる前に、あのZと同等のスピードレンジにのせる。
本線を走っていたこちらのほうが速度は乗っているはず。立ち合いは有利なはずだ。
「今度は逃がさない!」
向こうも踏んだ。車体後部が沈み込み、扁平タイヤが変形するのが見て取れるほどの強烈な加速だ。
荒川橋のジャンピングスポットへ向かって全開で踏み込む。
ふわりと車体が浮き、着地と同時に襲ってくるホイールスピンをステアリングで押さえ込む。
こうなると、エンジン搭載位置が高く重量バランスの悪いテスタは苦しいところだ。
5リッターのトルクを生かし、立ち上がりでZに並ぶ。
右ハンドルのZと左ハンドルのテスタ。コクピットはすぐ近くだ。
「女の子……?」
フェイトは驚いた。あのZをドライブしているのは、自分とほとんど変わらないくらいの、年端も行かない少女だった。
走り屋といえば生意気盛りの若い男、というのはいささか時代遅れに過ぎるだろうか。
最近は女のドライバーも増えたとはいえ、だ。
ディズニーコーナーを抜け、Zはさらに加速していく。
完全にパワー負けしている。5速の伸びがまるきり足りない。
速度計の針は260km/hからじりじりと上昇を続けているが、Zはそれ以上の加速でテスタを引き離していく。
市川大橋を渡って江戸川を越える頃には、もうZの姿は完全に見えなくなってしまっていた。
Zを見失ったフェイトは、一旦湾岸習志野インターで降りて折り返すことにした。
今日のところは引き上げようか、そう思いながら、休憩のため近くのコンビニに入ろうとしたとき、そのZは再び現れた。
まるでそこにいるのが当たり前であるかのように周囲に溶け込み、コンビニの駐車場にたたずんでいる。
おそるおそる、テスタをZの隣に停める。
間違いない。あのZだ。白いボディに、砲弾型のエアロフェンダーミラー。鈍く光っているアルミホイールは16インチだろうか。
店内に入ったとき、その少女はドリンクコーナーの前で飲み物を選んでいた。
「こんばんわ」
声をかけ、その少女が振り向く。
心臓の鼓動が高まるのをフェイトは感じていた。
ただものでないドライバー……そして、不思議と人を惹きつける魅力がある。そんな気がする。
「ずいぶん速い車に乗ってるんですね。私も結構自信はあったんですけど、かないませんでしたよ」
そう言って外の駐車場に目線をやり、Zの隣に停めた自分のテスタを示す。
「見てみる?」
なのはの第一声がそれだった。この世界へ誘っている。きっと彼女は自分とは違う世界の住人なんだろうけど、
彼女の世界へ立ち入ろうとしている自分を誘っている。そうフェイトは感じていた。
ボンネットを開き、Zのエンジンがあらわになる。
左右のサスペンションをつなぐタワーバーに囲まれた中に、長大な直列6気筒エンジンが収まっている。
うねる吸気管の途中には、2基の大型タービンが組み込まれている。
「すごい……なんてエンジンなんですか、これ」
「L28っていうの。2800ccだからL28。S30Zのノーマルは2リッターなんだけど、これはエンジン載せ換えてるんだ。
それにターボを2基掛けしてる。タービンは、確かKKKのK26だったかな。
この状態で解体屋に転がってたんだから、本当にもったいないところでしたよ」
なのはもフェイトの車を見やる。
「結構見かけない車ですよね、ガンメタのフェラーリって珍しいんじゃないですか」
「ええ、この色が好きだから塗りかえたんですよ」
こんなに楽しく話せるのは久しぶりだ。大事なオーディションや収録のときとはまた違う、心地よい心の紅潮。
最後に友達とこんな風に語り合ったのはいつのことだっただろう。
なのはの背後、コンビニの窓側に陳列されている書籍コーナーの中に、ある音楽雑誌をフェイトは見つけた。
もっとこの少女と話していたい、そう思ったフェイトは話を振った。
なのはの方もすぐに気づいたようだった。
「あれ、もしかしてあなた……」
なのはが指差した音楽雑誌の表紙に写っていたのは、ステージ衣装をまとったフェイトのグラビアだった。
先月のオリコンチャートにランクインしたときに特集記事を組んでもらうことになっていたのだ。
「うん、ちょっとだけ有名なんだ私」
はにかむしぐさをしている自分が、初々しくて自分でもうれしくなる。
「同じ趣味の人を見つけられるとうれしいですよね」
「そうだね」
それぞれの買ってきたジュースのふたをあけ、口をつける。
首都高に走る何百、何千台という車の中で、自分たち2台がこうしてめぐり合った。
それはきっと果てしない確率の先にあったんだとフェイトは思っていた。
「クラスの友達がよく話してるの聞いたことがあるんだ」
「あ、学生さん?」
「まあね、最近あんまり授業出てないんだけど、そこはね」
悪戯っぽい笑顔を浮かべて、なのははZのボンネットをなでた。
この少女は本当に好きなんだ、ただの遊びではない。
趣味、という言葉を使ったが、それだけではあらわせない、何かもっと強い意志を持って走っている。
「私はそろそろ行きますけど」
「あっうん、私はもう少しここにいようかな」
エンジンをかけ、走り出していくZ。
その後姿をじっと見つめながら、フェイトは頬が熱くなり、胸の高鳴りが収まらなくなっていた。
なのははクラブでのバイトの前にもう一つ、メイドバーでのバイトも新しく始めていた。
実家での菓子作りの経験を買われて、ウエイトレスだけではなく厨房にも立つことがある。
もっともなのはとしては、Zの修理にかかる金がさらに必要だった、という事情が第一だった。
そんなある日、一人で来店した若い女の客が、カウンターで同僚の店員と何かを話しているのを見つけた。
しばらくして、同僚がなのはを呼びに来た。
「なのちゃん、なんか学校の先生とか言ってるよ」
やば、となのはは内心舌を出した。ここのところずっと学校はフケっぱなしだった。
女の客はカウンター席に座り、厨房の中をうかがっている。
「お帰りなさいませお嬢様ー」
いつもの営業トークで料理を出したが、静かな凄みをきかされてなのはは早々に観念した。
「こんな時間にどーしたんですか、シャマル先生……」
「それはこっちのセリフよ、高町さん」
ウエイトレスたちは大きなフリルのついたエプロンドレス、いわゆるメイド服を着ている。
客も相応の男たちばかりで、若い女の養護教諭にとってはあまり居心地はよくないだろう。
「ここ2週間一度も登校してこないんだもの、何事かと思うわよ」
「あー、明日はだいじょうぶです行きますから」
なんとかのらりくらりと話をはぐらかしたが、シャマルはなのはのシフトが終わる時間までずっと粘っていた。
さらに裏手の通用口から外に出ても、まだ引き下がらない。
「すいません次のバイトあるんで失礼しまーす!」
なのはは足早に、裏路地へ駆け込んでいった。
シャマルは追いかけようとしたが、すぐに見失ってしまう。
仕方なしに、改めてスーツの胸ポケットからメモを取り出した。
「仕方ないわね……こうなったら待ち伏せしましょう」
生徒名簿に記載された住所を頼りにアパートを見つけたシャマルだったが、なのはの姿はそこにはなかった。
次のバイトに行くと言っていたので、それからまだ帰ってきていないのだろう。
アパートの大家を訪ねてみたが、その老人もなのはのことはよく知らないようだった。
既に日はとっぷりと暮れている。自分も明日の授業に備えて家に戻らなければならない。
どうしたものか、と考えあぐねていたところで、車のエンジン音が近づいてくるのが聞こえた。
アパートの裏手に回ると、宅地の隙間に小さな畑が点在する空き地の中に、一軒の車庫があった。
明かりがついている。近くによってみるが、ひとけはない。
音がやがて道を曲がり、背後に来て止まった。
振り返ると、そこには古めかしい白い車と、その運転席から身を乗り出したなのはの姿があった。
「そこ、どいてもらえます?先生……」
今度はなのはが凄みをきかせる番だ。
学校では見せることのないぎらついた表情に、シャマルは一瞬たじろいだ。
なのははフロアに乗せたままの左足でアクセルをあおり、エンジン音を響かせる。
普通の車とはまるで違う爆音だ。暴走族、という単語がシャマルの脳裏をよぎった。
「いきなりバイト先に押しかけてきたと思ったら今度は家にまでですか」
「そ、そうよ、高町さん、みんな心配しているのよ、アリサちゃんやすずかちゃんも」
「あの二人なら大丈夫ですよ、みんなわかってますから」
「みんなって、この事を?あなたがこんな派手な車で遊び歩いてることを知って、何も言わないの?」
なのははやや不機嫌そうに振り返り、頭をかしげた。
「遊び歩いて?そんなことしてませんけどね」
「夜遊びじゃなきゃなんだっていうのよ、さっきのバーの店員さんに聞いたのよ、あの後はクラブですって?
高校生があんないかがわしい場所で働いてちゃだめでしょう」
なのははふっとため息をつき、ガレージのシャッターを下ろして鍵をかけた。
「話してわからないんなら、実際に見せましょうか?車の中でゆっくり“おはなし”しましょうよ、先生」
ごくりとつばを飲む。今更すごすごと帰るわけにはいかない、とシャマルは目の前の少女を見つめていた。
シャマルをナビシートに乗せ、白いZは海鳴市から横浜湾岸を上って首都高へ向かった。
慣らしがてら環状を一周する。アップダウンも激しく、コーナーが連続する環状は強烈な横GをZに与える。
遮音材が省かれたZの車内には、デフギアの噛む音や、リアタイヤが滑る音が容赦なく飛び込んでくる。
高速道路としては混雑過ぎるほどの交通量の首都高を、文字通りすり抜けるようにしてZはスラロームを繰り返す。
ひととおり走り、なのははZを芝浦パーキングへ入れた。
夜の東京湾に、レインボーブリッジのイルミネーションが浮かび上がっている。
ビルや車の明かりはまるで地上の銀河のようだ。
「本当に……ひとりきりでこんなことして……毎晩なんでしょ?あきれたわ」
シャマルは緊張を抜くように、大きく息を吐いた。なのはは自販機でスポーツドリンクを買ってきて渡す。
「ひとりじゃないですよ。仲間が居ます。仲間、っていうか、走ってるとめぐり合う同類、ですかね。
似たもの同士、けど、まるきり似てるわけじゃないんです」
なのはの瞳には、目の前の、目に映る範囲よりもずっと遠くが見えている。
見えないものは見えないのではなく、見ようとしないから見えない。
空き缶をくずかごに放り、なのははZの運転席に戻った。
「帰りますよ、先生。明日はちゃんと学校行きますから」
シャマルもここまで言われては、なのはの言を信用するしかなかった。
帰り道、湾岸線を下っているとき、扇島の発電所を過ぎたあたりでその車は現れた。
猛烈な速度で追い上げてくる。ヘッドランプの形と配置を見て、なのはは見知った車だと気づいた。
「ちょっと、なにあの車!?」
「フェラーリですよ、知らないんですか?」
「そうじゃなくて運転してるの、あれフェイト・テスタロッサじゃないの!?
今話題なのよ、アニメの主題歌歌ったり、ヒロインの声もあててる有名な歌手の……」
「へえ先生、そういうこと知ってるなんて意外ですね。でも、今日はバトルの走りじゃないですから」
「バトル、って、まさかやめてよここでレースなんて」
「大丈夫ですってー」
ガンメタのテスタはZが横に人を乗せているのを見てとり、高速クルーズのモードに戻って走り去っていった。
翌朝、なのはが聖祥に登校してくると、なのはたちが通っている高等部の校舎前に、
場違いな少女が一人、いるのが見えた。
初等部の制服を着たおさげの少女が、誰かを待ち構えるようにしている。
その少女が待っていたのは自分のことだとなのはは気づいた。
とりあえず昇降口へ向かおうとすると、その少女はなのはの前に走ってきて立ちふさがった。
「おい!おまえ、高町、だな!」
開口一番、上級生に呼び捨てで名指しする少女の声に、周囲の生徒たちが一瞬何事かと見る。
少女の背負っているランドセルにはよれよれのウサギのぬいぐるみがぶら下げられている。
「えっと、どうしたの?」
「どうしたじゃねえ!昨夜、シャマルをシュトコーに連れまわしてっただろ!今朝聞いたんだ」
「シャマル先生のこと知ってるの?とりあえず、私教室に行かなきゃ、今日は必ず来るって先生に言っちゃったし」
「あっおい待て!」
制服のすそを引っ張り合ってやいのやいのと騒いでいるところに、なのはにとってはもはや耳に染み込んだ、
空冷フラットシックスエンジンの音が近づいてきた。その音の主は校門の前で止まる。
「何をやっているヴィータ」
そう言ってポルシェのコクピットから呼びかけたのはリインだった。
ヴィータ、と呼ばれたおさげの少女はあわてて振り返る。
「はやてを送ってきた戻りだ。全く、こんなところで油を売っている時間じゃないだろう」
「でもっ」
「いいから乗れ」
初等部の校舎はここからやや離れた丘の下にある。
なのはにとっては、シャマルやこのヴィータが、リイン──ブラックバードの知人ということが意外だった。
世の中、意外な接点がある。
しぶしぶヴィータはポルシェのナビシートに座り、リインはもう一度なのはの方に呼びかけた。
「事情はシャマルから聞いた。
正直乗り手の素性に興味はなかったが、まさか現役の高校生だったとはな……。
Zの仕上がりももう十分のようだな。そろそろどうだ」
バトルの申し込みだ。今まで、ずっと追いかけるばかりだった相手が、ついに自分のほうを振り向いた。
なのはは背筋に気持ちのいい冷や汗が流れるのを感じ取った。
「何いってんだリイン!こいつはあのZの……」
「いいですよ。次の水曜でどうです?やるなら早いほうがいいでしょう」
「わかった。……それに気づいているだろう、もう一人、われわれの匂いを嗅ぎつけたハンターがいる」
「もう一人……?」
「あのテスタだ。ここのところ毎日のように走り込んでいる。
湾岸の黒い怪鳥を撃墜しようとするのなら、こちらも全力で迎え撃つ」
「(フェイトさんだ──!)」
ポルシェが走り去った後も、なのははしばらくその場に立ち尽くしていた。
昼休み、なのははシャマルに話を聞きに保健室へ行った。
シャマルとヴィータは、八神家が縁を持つドイツのある医師の家の親類で、
現在はやての家にホームステイしている。
その関係で、シャマルは聖祥に養護教諭として赴任し、ヴィータは聖祥大付属小学校に通っている。
はやての家は、両親が亡くなって以降、ヨーロッパの親類に財産管理などの世話をしてもらい、
はやては中学まで一人暮らしをしていた。はやての兄が事故死してから、両親はどこか疎遠がちになり、
いつしか、はやてを置いていずこへともなく消えた。そばにいたのはリインだけだった。
「彼女も海鳴大学病院に勤めて長いし、はやてもよく懐いていると思ったんだけど……」
シャマルはそう言って言葉を伏せた。
身内を車で亡くし、それでも走り続けるのはどういう気持ちがあってのことなのか。
なのはにとっても、他人の家庭の事情など遠く理解も及ばないところではあった。
フェイトは遠見市の自宅マンションから、横浜郊外へ向けテスタを走らせていた。
常盤台インターを降りてすぐの、横浜国立大学を中心とした学園都市の片隅にそのファクトリーはあるという。
先日、テスタを持ち込んだガレージの社長から聞いた噂だ。
あのガレージは首都高最速といわれる走り屋、ブラックバードの駆るポルシェターボを
組んだショップとしてその筋では有名であり、そしてそのブラックバードから伝え聞いた話として、
フェイトにもたらされた情報だった。
悪魔のZを創りあげた男が、そこにいる。
「ここが……?」
それはチューニングショップとはとても思えない、朽ちた小屋のようなサイクルショップだった。
ママチャリが数台、無造作に置かれているだけで、とても商売をしている風には見えない。
社長が言っていたところでは、かつてブラックバードも当時Zを手に入れた仲間とともに
その男を訪ねたが、すげなく追い返されたという話だ。
フェイトが訝しげに店内を覗き込んでいると、ふと、後ろに立つ足音が聞こえた。
悪寒を感じ、あわてて振り返ると、作業着の上に白衣という風変わりないでたちの、ざんばら髪の男が立っていた。
「そこで何をしているんだね」
フェイトが何も返せずにいると、その男はのそのそと店のガラス戸を開け、奥のパイプ椅子に腰掛けた。
やがてタバコに火をつけながら、外に停めていたテスタに視線をくれる。
「何の用かねお嬢さん。困るね、あんなハデな車で乗り付けられちゃ」
フェイトはつばを飲み、思い切って、声に出した。
「ある人から聞いてきたんです。あなたが作った、悪魔のZといわれたS30が今、走っています」
「ほう……それで?」
「私の車を……悪魔のZに勝てるフェラーリにしてください」
鋭い眼光がフェイトを見上げる。ここで竦んではならない。意志の強さを見せるんだ。
そうフェイトは自分に言い聞かせる。
「お願いします。“ドクター”ジェイル・スカリエッティ」
深夜、湾岸線を流す一台の赤いGT-Rがいた。
一般車の流れよりもほんの少しだけ速いペースで、
攻め込んでいる車がいればすぐに探せる速度で首都高を大きく周回する。
「それでなんでアタシが引っ張り出されるんだよ」
「仕方ないじゃない、テスタじゃ3人乗れないんだもの」
「くくく、まあ夜は長いんだ、気長に待とうじゃないかね」
「フェイトほんとに大丈夫なのか、気味悪いよこのオッサン」
この男、ジェイル・スカリエッティは、元々は在日米軍附きの軍医として来日した。
上層部との確執によって軍を離れた後、アメリカでやっていたチューニングの経験を生かし日本で店を起こした。
その経歴から、当時の最高速アタッカーからは“ドクター”とあだ名されていたのだ。
当時、日産の日本国内での販売車両にラインナップされていなかった排気量2.8リッターのL28エンジンは、
スカリエッティの手によって日本に持ち込まれ、S30Zの車体に搭載された。
そのL28はさらにツインターボ化され、まさに悪魔のようなパワーを発揮するに至っている。
「しかしどういう風の吹き回しかね。すっかり客が居なくなって、自転車屋をやっている私をわざわざ訪ねてくるとは」
GT-Rは有明ジャンクションから台場線へ乗って一旦環状へ戻り、江戸橋から深川線へ入る。
「客が居なくなったって、はやらなかったのかい、アンタの店は」
アルフがぶっきらぼうに問いかける。スカリエッティは含み笑いを漏らした。
「いや。みな死んでしまったよ。私の芸術品を乗りこなせずにね」
箱崎から合流する車がところどころ途切れ始めている。走り出す時間帯になりつつある。
「(やっぱヤバイってフェイト)」
「(でもこの人があのZをつくったのは間違いないんだよ)」
こそこそとささやき合うアルフとフェイト。
スカリエッティはGT-Rの後席で、腕を組んだままずっと笑みを浮かべている。
「いい道だね首都高というものは。これ以上の舞台はないよ」
「……そうですね」
GT-Rのサイドミラーに瞬く光が映った。
来る。フェイトはとっさに後ろを振り返った。スラロームしながら上がってくる車が、2台。
「速いのが来ます!」
フェイトは後ろを振り返りながら叫んだ。
「アルフ、加速して左に寄って!道をあけるよ」
「わかってる!」
一般車の影から脱出してきたのは、まず先に黒いポルシェターボ。
さらにその後ろに、白いS30フェアレディZが続く。
「悪魔のZ!!」
フルスロットルのエキゾーストノートを響かせ、2台は辰巳ジャンクションの合流路へ向かって飛び込んでいく。
「アルフ!」
「これでも全開だよ!いっぱいいっぱいだ!」
今夜の湾岸はけしてすいているとはいえないが、それでも2台はお構いなしに加速していく。
速い。文句なしに速い。こうして見ているだけでも、今の自分のテスタでは手も足も出ないのがわかる。
「あれがそうなんですよね、スカリエッティさん!」
スカリエッティはじっと黙り、湾岸の道の先を見つめ続けている。
「あーっ、だめだついていけない」
このGT-Rではブラックバードと悪魔のZには追いつけない。
それは仕方ないとしても、いずれ、テスタはあれと同等以上の速さにしなくてはならない。
「……君が昼間もって来た車、あれはフェラーリかね?アレは確か2000万以上する車だったね」
「ええ……」
テスタはフェラーリのロードカーとしては生産数は多いが、人気車種ということもあり、荒く乗られた個体も多い。
フェイトは91年式の最終型を購入していた。これでも車齢は15年を軽く超えていることになる。
歌手デビューしてからためた貯金はほとんど使い果たしていた。
「じゃあとりあえずチューニング代として1000万持ってきたまえ。
君は2000万する車にさらにその半分つぎ込む。その金額と引き換えにあのZの前を走ることもできるだろう……が」
アルフは黙り、フェイトも固唾をのんでスカリエッティの言葉に傾注する。
「その引き換えに命を落とすかもしれない……速さを求めるとはそういうことなのだよ。
無限の欲望、ジェイル・スカリエッティのつくる車はそういうものだと理解しておいてくれ……」
嵐のような一瞬が過ぎ去り、首都高湾岸線はいつもの混雑のざわめきに戻っていた。
今日はここまでです
登場人物がいっぱいふえました〜
湾岸原作では結局L28の由来は謎のままだったのですが
こういう解釈もありかなと〜
それにしてもフェイトさん(とイシダ先生)金持ちですのー
撃墜すと書いてオトすと読むのは渋いですな〜
ではー
9:15分以降に投下します。
【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
ディケイド&なのは&ユーノは百合神博士の変身した怪人ユリデビルと壮絶な戦いを繰り広げていた。
「爺さんちょっと痛い目にあってもらうぞ!」
「果たして出来るかな!?」
ライドブッカー・ソードモードを握り斬りかかるディケイドに対し、ユリデビルと言う名称になってもその姿形は
イカデビルのままであっが故に腕に付いているイカ足をムチの様に使い、刃の無い部分を弾く形で迎撃していた。
それのみならず、ユリデビルは腰に巻いた百合ショッカーのエンブレムマーク付きベルトからエネルギー弾の様な物を
発射し、ディケイドを吹き飛ばしていた。
「うあぁ!」
「士さん! ならばディバインバスター!!」
ディケイドがユリデビルから離れた隙に今度はなのはがディバインバスターを撃ち込む。桃色の極太魔力光が
ユリデビルへ向けて射線上の空気を焼きながら突き進むが、ユリデビルはそれを高々と跳び上がり回避してしまう。
「老体と思って甘く見るなよ小娘!」
「あぁ!」
今度はなのはへ向けてユリデビルのエネルギー弾が放たれた。ユリデビルは高々と跳びあがった後の落下と共に
マシンガンの様に矢継ぎ早でエネルギー弾を発射して行く。
「ここは僕が!」
なのはの左肩に乗っていたフェレット形態のユーノがとっさに防御魔法でフォローし受け止めていたが、
単発でも強力なエネルギー弾が連続で次々にぶち当たってくる衝撃はユーノ自身の身体にも響かせ震わせていた。
「なんて威力…。」
「大丈夫ユーノ君!?」
「そらそらどんどん行くぞ!」
ユリデビルはなおもエネルギー弾を高速連射して行く。このままでは強固なユーノの防御魔法と言えども
突破されてしまうかもしれない。だがそこをフォローするべくディケイドは一枚のカードをディケイドライバーに
差し込んでいた。
「弾丸には弾丸で勝負だ。」
『カメンライド! 響鬼! アタックライド! 音撃棒・烈火!』
ディケイドは響鬼にカメンライドすると共に音撃棒・烈火を握り、それをユリデビルへ向けて高速で振り回す。
そうする事によって音撃棒・烈火から高熱火炎弾が連続発射され、ユリデビルのエネルギー弾と打ち消し合って行くが
逆に言えば、それで精一杯だった。
「くそ! これでもダメか!」
「ならば私もアクセルシューター!!」
ディケイド響鬼を援護するべくなのははアクセルシューターを発射、ユリデビルの高速連射されるエネルギー弾を打ち消して行く。
「すまん恩に着る!」
なのはのアクセルシューターのおかげで余裕の出来たディケイド響鬼はカメンライドを解除、元のディケイドに戻ると共に
また別のカードを差し込んでいた。
『カメンライド! ブレイド!』
ディケイドは仮面ライダーブレイドにカメンライドし、ライドブッカー・ソードモードを振り上げてユリデビルへ斬りかかった。
「行くぞ爺さん!」
なのはのアクセルシューターによってユリデビルのエネルギー弾攻撃が防がれている隙にディケイドブレイドの斬撃が
ユリデビルへ襲い掛かる…と思われたが、何とユリデビルはエネルギー弾を高速連射しながらも両腕のイカ足で
ライドブッカー・ソードモードに巻き付き、そのままディケイドブレイドごと投げ飛ばしていた。
「甘いは若造!!」
「うあぁぁ!」
「なんて強いの…。」
「最高傑作を自称するのは伊達では無い…と言う事か…。」
ユリデビルの強さは三人の予想を大きく上回っていた。百合神博士自身がご老体であるし、博士と言う立場上
直接前線に出て戦うタイプでは無いから怪人になっても高が知れると考えていただけに、これは意外だった。
だがそれは大間違いである。『仮面ライダーの世界』における死神博士ことイカデビルは一度仮面ライダーに
勝利している。故に決して実力が無いわけでは無かった。
「お前達の攻撃パターンは既に研究させてもらっている! そう簡単には勝てんぞ!」
「ならばまだ見せていない攻撃をするだけだ。」
ディケイドはライドブッカーから一枚のカードを取り出し、ディケイドライバーに差し込む。
今度は一体如何なる効果を持つカードなのか……
『プリキュアライド! ドリーム!』
「大いなる希望の力、ディケイドリーム…ってな。」
ここでディケイドはキュアドリームに変身した。『プリキュア5の世界』における他の四人のプリキュアには
既にライド変身していたディケイドであったが、ドリームはまだだった。まさに取っておきと言えるだろう。
「実は筆者が初めて買ったプリキュアフィギュアーツがこのキュアドリームなんだ。TVシリーズは
リアルタイムじゃ全然見てなかったくせにな。」
ディケイドリームは手をパンパンと叩きながらそう説明する。姿はキュアドリームになっても
声は門矢士のままなのだから凄い違和感。とは言え、彼の言う事は事実だった。キュアドリームこそ
筆者が初めて購入したプリキュアフィギュアーツだった。であるにも関わらず、他のフィギュアーツや
フィグマとして筆者が持ってるスーパーヒロイン同様にディエンドにライド召還されていなかったのは、
他の5系プリキュア同様にディケイドにライド変身させるべきだと考えたからである。
「さあ仕切りなおしだ。行くぞ。」
「やっぱりその姿でその声は…何と言うか…。」
ディケイドリームのその少女然とした姿からは想像も出来ない位に野郎臭い声に
なのはもユーノも滅茶苦茶引いていたのだったが、ここでユリデビルが腕部に付いたイカ足を
激しく地面に叩き付けていた。
「貴様! よくも私の前でその姿を見せてくれたな!?」
「は?」
キュアドリームの何が気に入らないのか、ディケイドリームの姿を見た途端にユリデビルの目の色が変わった。
「本来マスコットに過ぎない妖精と恋愛などしおって…キュアドリームのその行動に
一体何人の百合厨を涙させたか分かっているのか!?」
そう。『プリキュア5の世界』のキュアドリームこと夢原のぞみは、人間の姿にもなれるとは言え
本来は妖精であるココと恋愛っぽい事になったり劇中で実際にキスシーンが描かれたりと
ユーノはペット枠だから〜となのは×ユーノを否定したがる奴等に爪の垢煎じて飲ませてやりたい位に色々あった。
だが、その行動の数々は世界中の百合厨を怒らせる物でもあったのだ。
「その姿になった事を後悔させてやるぞ!」
ユリデビルはまるで本物のキュアドリームに怒りをぶつけるかの様にディケイドリームへ向けて
イカ足を伸ばしムチの様に振り回しながらディケイドリームを攻め立てる。その激しい攻撃には
流石のディケイドリームも後方へ跳び逃げるしか無かった。
「おいユーノ! お前のバインドとやらであのムチを止められないか!?」
「出来ない事も無いはずだけど…。」
「ならば直ぐにやれ! 奴の動きを止めた隙に俺が一発ぶち込む!」
やっぱりキュアドリームの姿だけど声だけ士のままってのは凄い違和感があったが
今はそんな事を言っている場合では無かった。
「チェーンバインド!」
「私も手伝うよユーノ君!」
ユーノのチェーンバインド、そしてなのはのバインドがそれぞれユリデビルを縛った。
二人がかりのバインドであったが、ユリデビルは強力なパワーでそれすら引きちぎろうとしていた。
「そんな非力でこの私を縛れる物か!」
「くっ! 凄い力…。」
二人は必死に力を込めるが、ユリデビルの凄まじいパワーによって引きちぎられるのも時間の問題だった…が…
考え様によってはそれで十分だった。何故ならば……
『アタックライド! シューティングスター!』
「ん!?」
それはキュアドリームの必殺技プリキュアシューティングスター。桃色のエネルギーを発しながら
敵へ向けて強烈な体当たりを撃ち込むと言う荒技である。ディケイドリームはそれをユリデビルへ向けて
打ち込んでいたのだ。
「ぬぉぉ!」
思い切り仰け反ってしまうユリデビルだが完全には倒し切れなかった。しかし、ディケイドリームの攻撃は終わらない。
また新たなカードをライドブッカーから取り出し、ディケイドライバーに差し込んでいた。
「これも爺さんが初めて見る奴だよな。」
『カメンライド! オーズ!』
「何!?」
ディケイドが次に変身したのは何と仮面ライダーオーズ。ディケイドの後番組のWのさらに後番組のライダーである。
ディケイドは本来クウガ〜キバまでの九つのライダーの力を持つライダーとして作られた物であるが、
明らかに想定外の存在であるシンケンジャーやWのカードまでもちゃっかりと手に入れていた。
ならばオーズのカードを手に入れ、さらにカメンライドでその力を行使する事が不可能なはずは無かった。
「これは見た事無いだろう?」
『アタックライド! トラクロー!』
ディケイドオーズは両腕に装備された虎の爪『トラクロー』を展開し、ユリデビルへ襲い掛かった。
「させるか! ぬぉ!」
「そうはさせないよ!」
「今の内に滅多打ちにしちゃえ!」
ユリデビルは反撃しようとしても、その全身をなのはとユーノのバインドが縛り上げており、動けない。
「よし! そのまま縛ってろぉぉぉぉ!!」
ディケイドオーズはタカの空間把握能力を持つ頭部『タカヘッド』でユリデビルの急所となりそうな部分を見定め、
バッタの力を持つ脚『バッタレッグ』から繰り出される凄まじい跳躍力で未だバインドによって縛られ身動きの取れない
ユリデビルへ向かって急接近すると共に激しい蹴りを蹴り込み、さらにトラの力を持つ腕『トラアーム』から繰り出される
打撃でユリデビルを滅多打ちにしていた。
「おのれぇぇぇ!!」
例え両腕両脚の動きをバインドによって封じられても、ユリデビルにはまだイカ足型の触手が残っている。
それを伸ばしディケイドオーズに巻き付け逆に縛り上げようとしていた。が、ディケイドオーズはここで
またも何かのカードをディケイドライバーに差し込んでいた。
『フォームライド! タカキリバ!』
ディケイドオーズの姿が変わった。仮面ライダーオーズは通常タカ・トラ・バッタの力を持つ
通称タトバコンボを基本としているが、胸・腕部をカマキリアームに変える事で
タカ・カマキリ・バッタの力を持つタカキリバと言う亜種形態にチェンジしていたのであった。
『アタックライド! カマキリソード!』
両腕部のカマキリアームに装備されたカマキリの鎌を思わせる鋭い刃、カマキリソードが
ユリデビルのイカ足触手を容易く斬り飛ばし、ディケイドオーズは束縛から逃れる。それのみならず
さらにカマキリソードでユリデビルの身体の彼方此方を激しく何度も斬り付けるのだった。
「ぬお! このまま好きにさせるかぁぁぁぁ!!」
全身の彼方此方を滅多打ちにされがらもユリデビルはバインドを引きちぎろうと力を込める。
だがこの隙を狙い、なのははレイジングハート先端をユリデビルへ向けていた。
「全力全開! ディバイィィィンバスタァァァァ!!」
今度はレイジングハート先端から放たれた桃色の魔力光がユリデビルを飲み込み焼いて行く。
そこへさらにディケイオーズはカメンライドを解除して元のディケイドに戻ると共に
一枚のカードをライドブッカーから取り出しディケドライバーに差し込んでいた。
『ファイナルアタックライド! ディディディディケイド!』
「とあぁぁぁぁぁぁ!」
ディケイドとユリデビルとを一直線で結ぶ間の空間に十枚の光のカードが現れ、ディケイドが
そこを通り抜けながらユリデビルへ向けてキックを打ち込んでいた。それこそディケイド版
ライダーキックであるディメンションキック!
「ユリィィィィィィ!」
ディメンションキックをもろに受けたユリデビルは全身が焼け焦げた身体で手足をバタ付かせながら
大きく吹き飛ぶと共に勢い良く床に叩き付けられていた。
「ぬぉ〜…まだまだじゃ〜…。」
これだけのダメージを受けながらまだ立ち上がろうとする不屈の根性を見せるユリデビル。
しかし、彼の眼前に再び眩い桃色の光が迫っていた。なのはが間髪入れずに再度放ったディバインバスターであり
瞬く間にそれはユリデビルの全身を飲み込んで行った。今度ばかりはユリデビルに耐える体力は残っていなかった。
「この私に勝ったからと言っていい気になるなよ小僧…既に百合生命体は完成した…。これで…我々の勝利だ…。」
「百合生命体!?」
彼等にとって初めて聞く事になる『百合生命体』と言う単語。その意味を問おうとしたが
時既に遅く、ユリデビルは爆発四散していたのだった。
「勝った…けど士さん…百合生命体ってどういう事なのかな…?」
「さあな…。」
と、その時だった。聖王の百合かごが大きく揺れ始めていた。それは動力炉の破壊と
玉座の間にいたヴィヴィオが聖王の呪縛から解き放たれたが故の現象。聖王の百合かごは
力を失って失速し高度を下げ始めていたのであった。
「どうやらユウスケ達も上手く行った様だな。とりあえず百合生命体が何なのかと言う詮索は後回し。今は撤収するぞ!」
「うん!」
ディケイド&なのは&ユーノはマシンディケイダーに乗り込み、その部屋を後にした。
しかし、彼等は気付いていなかった。新たな凄まじい力が今…百合かごの内部で胎動を始めていた事に…。
ここで次回に続きます。ちなみに私はディケイドがオーズにカメンライド出来ても問題無い派です。
>>114 投下乙です
ドクターはこういう役に嵌っているなあ
>>122 投下乙です
もやしボイスのキュアドリーム…………凄いシュール
お久しぶりです。
19:00にTRANSFORMERSクロスの続きをUPしようと思っておりますが如何でございましょうか。
歓迎。
他の投稿者と重なるかどうかとかは知らないけど。
では、開始致します。
―――10
スタースクリームが飛び立つ様子は、法王亡き後臨時に教会の全権を掌握した枢機卿会議
より、教会を占拠したメガトロン達の監視を命じられた教会騎士が目撃しており、直ちに
会議へ報告が送られた。
「判ったわ。それで、法王様は…?」
シャッハから報告を受けたカリムは、メガトロンを食い止める為に地下に留まった法王の
安否について尋ねる。
どう話すべきか思いあぐねたシャッハの様子に、カリムは何が起きたのか理解する。
「そう…」
カリムは寂しげな表情で一言呟いたきり、沈黙して目を閉ざした。
一方、管理局上層部はスタースクリームが何を目的にこちらへ向かっているのかを巡って
議論を繰り広げていた。
「まず最初に考えられるのは元老院だが…」
「…最高法院やここも目標に入っているかもしれん」
「戦略目標としてなら、市外北部のテダンガイル基地も含まれるな、至急基地に連絡して…」
「いや、だったら一番危ないのクラナガン沖に現在集結中の空母機動部隊だろ?」
スタースクリームの目的について意見を戦わせる幕僚たちを尻目に、ゲンヤは何気なく
呟く。
「奴が動き出したのは、ちびダヌキがGDどもへの攻撃を始めた直後だったな…」
ゲンヤの呟きを聞いたなのはは、敵が何を考えているのか突然悟った。
「はやてちゃんが…!」
なのはは目を見開いて呻くように言う。
その言葉を聞いたゲンヤと長官も、それが意味するものを瞬時に理解する。
「そうか、狙いは八神か!」
「高町一佐、急ぎ救援に向かえ!」
長官が鋭い声で命令を下すと、なのはは即座に敬礼して答える。
「了解しました、高町なのは一等空佐、直ちに出撃します!」
議論に熱中していた幕僚たちは、その横をすごい勢いで駆けて行ったなのはの後ろ姿を、
ポカンとした表情で見つめている。
「あ、あの…。長官、敵の意図が判ったので?」
恐る恐る尋ねてきた幕僚に、長官は冷静な口調で命令を下した。
「八神一佐に至急連絡を入れろ。眷属の狙いは一佐の命だ、すぐに後退して高町一佐と
合流するように…とな」
「は、はい! 直ちに」
命令を受けた幕僚は、なのはに続いてNMCCへと急ぎ駆けて行った。
ある程度ドローン部隊を叩き落として息が上がってきたはやては、自分のリンカーコアの
状態を改めてチェックする。
「よし、まだまだ行ける! リイン、次の目標は?」
“もうすぐ出ますです”
ユニゾン中のリインフォースが攻撃目標の規模と座標を伝えようとした時、はやての右隣り
に空間モニターが表示される。
「八神一佐、緊急事態発生です」
モニター内の士官が、緊張した面持ちではやてとリインフォースに状況の説明を始める。
「魔神の眷属が一体、聖王教会からクラナガンへ向けて飛び立ちました。狙いは一佐と推測
されます。
現在、高町一佐が救援に向かっていますが、相手の移動速度が早過ぎて間に合うか分かり
ません、至急退避を願います」
「あともう少しでGD達を全部落とせるんや、ちょっと待って貰えへんか?」
はやてからの異議に対して、士官は後退を促す。
「その余裕はありません、直ちに退却して下さい」
はやてと士官の問答が続く中、護衛部隊の指揮官を務める魔導師が傍らにいる部下達へ
目配せする。
その中から鱗肌に長い触角と、大きい目に長い複数の口吻を持った魔導師が出てきてはやて
に言葉をかけた。
「失礼致します」
「ちょっ…!」
抗議の声を上げる暇もなく、はやては護衛の魔導師にお姫様だっこで抱え上げられる。
はやての身柄を確保すると、魔導師部隊は最大限の速度で後方へ退却する。
「どこへ向かいます?」
一人が指揮官に尋ねると、指揮官は少し考えてから言う。
「まずは一刻も早く高町一佐と合流し、ここから一番近いテダンガイル基地へ向かおう」
「ウーオッ!」
魔導師達は、一刻も早くなのはと合流しようとより加速をかける。
一方、魔導師に抱え上げられたままのはやては、その腕から離れようとジタバタ暴れていた。
「ちょっと! ちゃんと自分で飛ぶさかい、ええ加減に離してや!」
そんなはやての抗議にお構いなく、魔導師部隊は自分たちの限界速度まで、いやそれ以上
を目指さんとばかりに更に加速する。
周囲の警戒に当たっていた魔導師の一人が、全員に警告する。
「八時の方向より未確認物体(アンノウン)が三つ接近!」
一瞬魔導師たちに緊張が走るが、モニターに味方である事を示す緑の表示とはやて直属の
守護騎士“ヴォルケンリッター”の面々の名前が出るのを見ると、ほっと安堵のため息を漏らす。
「主の護衛、感謝する」
シグナムが魔導師たちの労をねぎらう一方、紅いドレスとウサギのぬいぐるみの付いた帽子が
少女趣味なバリアジャケットに“グラーフアイゼン”と呼ばれるハンマー型デバイスを持った
ヴィータが、険しい表情ではやてを抱える魔導師を睨みながら言う。
「おい、はやてに気安く触るんじゃねぇよ!」
その様子に、青のシンプルなバリアジャケットを着込み、がっしりした体格と顔立ちと獣耳
の組み合わせがアンバランスな印象を与える“盾の守護獣ザフィーラ”が、執り成すように
魔導師へ言葉をかける。
「ここからは私が引き受けよう」
ヴィータの剣幕に少々怯みがちだった魔導師は、頭を下げてはやてをザフィーラに託す。
「お願いします!」
「ザ、ザフィーラ! だから私は大丈夫やって!」
今度はザフィーラにお姫様だっこされたはやては、顔を赤くしながら抗議するも、またしても
取り合ってもらえない。
突然、その場に居る全員の空間モニターに、けたたましいアラーム音と共に緊急警報の表示が
現れる。
「眷属が成層圏より急速接近中!」
警報を受けた魔導師たちは、どこから接近して来るのか、眼を皿のようにして周囲を見回す。
「見えるか?」
「いや、どこだ!?」
接近して来る機影に最初に気付いたのは、ヴォルケンリッターの三人だった。
「上だ!」
彼女達の叫びに魔導師たちが頭上を仰ぐと、X字に翼を広げた戦闘機がいつの間にかそこに
在った。
それは彼等の眼前でたちまち変形を始め、あっという間に人間の形をした金属の化け物へと
姿を変える。
「いよう、人間ども!」
金属の怪物は、魔導師達の鼓膜を破らんばかりの大音声で、高らかに宣言する。
「冥土の土産に教えてやるぜ! デストロン軍団のニューリーダー、航空参謀スタースクリーム
たぁこの俺様の事よぉ!」
「ミッド語…!」
自分達と同じ言葉を喋った事に、はやては驚愕の表情を浮かべる。
スタースクリームはまず、足を振り下ろして護衛の魔導師一人を叩き潰し、次いで二人目に
機銃弾を雨あられと浴びせて撃ち落とす。
「散開しろ! 一箇所に固まってたら全滅する!」
ヴィータの言葉を待つまでもなく、魔導師達は一斉に散らばり始める。
その間にもう一人を右腕で殴り倒したスタースクリームは、次の獲物をヴィータに定める。
背後に付いた魔導師がディバインシューターを撃ち込むも、これは苦もなく叩き落とされ、逆に
ミサイルを喰らって粉々に吹き飛ばされる。
「このっ…! アイゼン!」
ヴィータは毒づくと、自らのハンマー型デバイス“グラーフアイゼン”に呼び掛ける。
“了解!”
グラーフアイゼンはヴィータの呼び掛けに応えてカートリッジを一個装填すると、“ラケーテン
フォルム”と呼ばれる、片側にスパイク、もう片方に噴射口付きのハンマーの形に変形する。
ヴィータが振りかぶると足元にベルカ式魔方陣が展開され、噴射口から魔力の炎が吹き出す。
「打ち砕け!!」
ヴィータは超高速で“ラテーケンハンマー”を振り抜く。
だが、スタースクリームはそれを難無くかわすと、逆に右腕からモーニングスターを展開して
ヴィータを殴り倒す。
巨大な質量と桁違いの固さを誇る金属の拳をまともに受けたヴィータは、たまらず錐揉み状態で
墜落する。
「ヴィータ!」
はやては声を上げるが、ザフィーラがスタースクリームの攻撃を回避しようとジグザグ飛行を
行っているので、しがみつくだけで精一杯の状況だった。
「ここは私が何とかする、主の事は頼むぞ!」
「心得た!」
シグナムの言葉を受け、ザフィーラは全速力で現場を離れる。
「シグナムあかん! あの眷属は―――」
静止しようとするはやての言葉は途中で遮られた。
スタースクリームが立て続けに機銃弾を撃ち込んでくると、シグナムはシールドを斜めに展開して
それを弾き逸らす。
スタースクリームはそのまま機銃を撃ち込み続けながら、戦闘機に変形して突っ込んで来る。
シグナムはギリギリまでタイミングを待ち、衝突する直前に横に跳んで回避する。
跳びながらシグナムはレヴァンティンを“シュランゲフォルム”という蛇腹剣様に変形させ、
スタースクリームへとその剣先を伸ばしていく。
スタースクリームは人間では到底不可能な急制動で旋回してその切っ先を避けるが、シグナムも
レヴァンティンを巧みに動かして懸命に追いかける。
「ちいっ! しつこい剣だな!!」
スタースクリームは毒づくと、人型に変形して追って来るレヴァンティンを右手で掴む。
「!?」
予想だにしなかった行動にシグナムが驚きの表情を浮かべると、スタースクリームは厭味な笑い
で返す。
そしてレヴァンティンを掴んだまま自分の身体をグルグル急激に回転させ、シグナムを強烈な遠心力
で振り回す。
“おい…シグナム! …大丈夫か!?”
身体にかかるGに必死に耐えながら呼び掛けるアギトに、シグナムも耐えながら答える。
「…私の方は大丈夫だ…それよりアギト…奴に体当たりをかけるぞ…!」
指示を受けたアギトは、ニヤリと笑って言う。
“OK! 炎熱加速!”
その掛け声と同時にシグナムの背に炎の翼が現れる。
「レヴァンティン、モードリリース!」
“了解!”
シグナムの命を受けたレヴァンティンは、蛇腹を収納して急速に剣の形の戻っていく。
スタースクリームとの距離を一気に詰めたシグナムは、そのままスタースクリームへ体当たりをかける。
「うおっ…!」
アギトの炎熱加速による身体強化と攻撃魔法の援護を受けたシグナムの体当たり攻撃は予想外に強力で、
弾き飛ばされたスタースクリームも思わず驚きの声を上げた。
その隙にシグナムは体勢を立て直し、全速力で後方へ飛ぶ。
それに負けじとスタースクリームも戦闘機に変形して後を追い掛けて来る。
背後からスタースクリームが急速に追い付いて来るのを確認すると、シグナムはアギトに声をかける。
“奴が追って来る。アギト、精密誘導の方を頼むぞ”
“OK!”
シグナムはまっすぐに飛びながらスタースクリームの方を振り向くと、レヴァンティンの鍔に鞘を合わせる。
すると、剣と鞘の両方からカートリッジが排挾されて“ボーゲンフォルム”と呼ばれる弓の形へ変形する。
次いで弦を引き絞る形に構えるとレヴァンティンの刀身の一部が矢の形になり、魔力光が矢を包み込んだ。
「駆けよ、隼!」
掛け声に気合いを込めて、シグナムは切り札“シュツルムファルケン”を放つ。
それを見たスタースクリームが機首を上に向けて急上昇すると、シュツルムファルケンもその後を追って上昇する。
スタースクリームは急上昇を続けながら、突然農薬を空中散布するかの様に大量のミサイルを全方向へ発射した。
ばらまかれたミサイルは魔力の矢に反応し、たちまち明かりに群がる虫のように殺到して一斉に炸裂する。
至近距離での爆発にシュツムファルケンも反応して、スタースクリームの遥か手前で自爆してしまう。
「なにっ!?」
切り札がミサイルによる弾幕で防がれた事にシグナムは驚きの声を上げる、それが彼女にとって
致命的な隙を作る事となった。
爆炎の中から飛び出して来たスタースクリームは、右腕を伸ばしてシグナムをガッチリと掴むと、
そのまま回転しながらクラナガン市街へ急降下する。
シグナムは抜け出そうと身体を動かしてみるが、金属の手はしっかりと閉じられており、身動きもままならない。
EW−TTの陰に隠れて小銃型デバイスのカートリッジ交換をしていた、上半身は白い牙が幾つも
生えた口に白い豚、下半身は電動車椅子という姿をした魔導師が何気なく空を見上げると、金属の
化け物が独楽のように回転しながら頭上目掛けて落ちて来るのを見た。
仰天した魔導師は、横で短機関銃型デバイスを構えて攻撃魔法をドローンへ撃ち込んでいる、身長
2メートル弱の浅黒い肌をした狼の姿の同僚の肩を叩いて叫ぶ。
「おい! 何か上から落ちて来るぞ!」
それを聞いた部隊の数人かが空を仰ぐ。
魔導師を片手に頭上目掛けて急降下するスタースクリームの姿に、陸士部隊はパニックに陥る。
「退避! 退避だ!」
部隊長の指示を待つまでもなく、魔導師たちはクモの子を散らすように逃げ出した。
スタースクリームはEW−TTの頭上スレスレで水平飛行へ移り、進路前方に立っていたドロップキックを左腕で殴り倒す。
「どけどけぇ! ニューリーダー様のお通りだぞ!」
周囲に破壊を混乱を撒き散らしながら、スタースクリームは大通りを超低空で疾走する。
音速以上の速度で飛んでいる為、進路上にある総ての建物の窓ガラスがソニックブームで粉々に砕け散り、
それを目の当たりにした人々が逃げ惑い、走行中の車輌がパニックで次々と衝突を引き起こす。
このままでは二人とも共倒れになる、そう判断したシグナムは、アギトとのユニゾンを強制解除する。
「シグナム!」
射出されたアギトの姿は、たちまちのうちに見えなくなる。
スタースクリームはその事に気付かぬまま―――気付いたとしても意にも介さなかったろうが―――
鼻歌混じりにシグナムへ声をかける。
「おい、人間! 俺様はこの街に来たばかりで全然地理に疎いんだ。
一つ道案内でも―――うおっ!」
前方への注意が疎かになっていたスタースクリームは、“危険物輸送中。可燃、注意”と言う警告文が
書かれた巨大なタンクを取り付けたコンボイトラックに頭から激突した。
スタースクリームの身体は大きく跳ね上がり、トラックの後ろにあったワゴン車や普通乗用車の上へ
仰向けに倒れ込んでぺしゃんこにする。
一方、弾みで放り出されたシグナムはフロントグラスを突き破り、トラックの運転席に叩き付けられる。
次の瞬間、破壊されたトラックから漏れる燃料と火花を散らす電気系統が接触してトラックが一瞬にして炎に包まれる。
更にそれは破損したタンクから流出した可燃物にも引火し、車全体が轟音と共に盛大に炎と破片を吹き上げる。
起き上がって周囲に誰も居ないか確認するかのようにキョロキョロ見回した後、スタースクリームは場を
取り繕うかのように派手に炎上するトラックを睨みながら、わざとらしい大きな声で笑いながら言った。
「へ…へへっ。流石のエース級魔導師もこれで永遠にGOOD NIGHT! HAHAHA!」
「シグナム!」
シグナムとの意識の接続が途切れた瞬間、はやては大声で叫んだ。
はやての様子から、囮となって敵の注意を引き付けていたシグナムが倒された事を悟った指揮官は、
傍らを飛ぶはやてを抱き上げていた魔導師に尋ねる。
「高町一佐はまだか?」
指揮官の質問に答えようとした魔導師が、突然爆炎に呑み込まれて墜落する。
全員が振り返ると、スタースクリームが厭味たっぷりな笑い浮かべながら、急速に距離を詰めて来る。
「全員八神一佐の前に回れ! 可能な限り眷属の進行を食い止めるんだ!」
「ウーオッ!」
そう言ってはやての前―――すなわちスタースクリームの射線上―――に立った指揮官の後に、護衛の
魔導師たちも続く。
「駄目や! 逃げ…」
はやてが呼び掛けようとした時、スタースクリームはミサイルと機銃とモーニングスターでもってして、
魔導師達を蠅の如く次々と叩き落としていく。
はやては怒りに燃える眼でスタースクリームを睨み付けた後、自分を抱えながらジグザグ飛行を続けるザフィーラに言う。
「真っすぐに飛んでもらえる?」
「主!?」
突然のはやてによる指示に、ザフィーラは戸惑ったように目を向ける。
「敵の攻撃目標は私なんやろ? なら、望み通りにしてやろうやないか。ただし、こちらの砲撃魔法を
零距離で叩き込んで、最悪相討ちに持ち込んでやるつもりやけどな」
剣歯虎のような笑みを浮かべるはやてに、ザフィーラは戦慄を感じた。
ジグザグ回避をやめて一直線に増速を始めたはやてとザフィーラを見て、スタースクリームは嘲りの声を彼らに掛ける。
「速さでこの俺様に敵うわけねぇって既に分かってるだろが!」
その言葉通り、スタースクリームは戦闘機に変形すると、二人との距離を急速に詰めて来る。
「そうや、こっちへ来ぃ…。ええ子やからこっちへ来ぃ…!」
はやては、真っすぐ突っ込んで来るスタースクリームを凝視しながら小さく呟くと、シュベルトクロイツの
柄をスタースクリームに向け、小さな声で永唱を始める。
「彼方より来たれ、宿り木の枝。
銀月の槍となりて、撃ち抜け…!」
更に距離が詰まってきた時、はやては溜めた魔力を一気に解放する。
「ミストルティン!」
その掛け声と共に五本の魔力の矢が、はやてのデバイスから放たれる。
それと同時にスタースクリームも急停止して同数のミサイルを放つ。
ミサイルはミストルティンに命中すると石化して墜落して行く。
「え…?」
ミストルティンが防がれた事より、まるでこちらの攻撃を予測したかのような相手の素早い対応に、
はやては呆気に取られたような声を上げる。
「へっ、馬鹿どもが! 先程の魔導師との戦闘でそちらの攻撃パターンはほぼお見通しなんだよ!」
スタースクリームは嘲笑うように言う。
「させん!」
ザフィーラは気合の声と共に自分たちの手前に厚い氷の壁を現出させる。
だが、スタースクリームにとってはベニヤの壁に等しく、体当たりであっさりと破られてしまう。
「その首もらったぁ!!」
雄叫びと共に、スタースクリームははやてとザフィーラに銃口を向ける。
“殺られる!”
迫り来る死を目前にしたはやては、本能的に目を閉じて身を固くする。
その次の瞬間、真上からミッド式防御魔方陣を展開させた人影が、二人とスタースクリームの間に
割って入って来た。
スタースクリームの撃ち出す機銃弾は、ことごとくその魔方陣に弾かれる。
「なにっ!?」
スタースクリームは驚きの声を上げる。
目の前の人影―――小学校時代の制服を基にした白いロングドレスのバリアジャケットにポニーテール
の髪型をした高町なのは―――は、本局ビルへ簡潔に報告する。
「こちら“イーグルマザー”只今到着致しました」
今回はここで終了となります、続いてスタスクvsなのはの闘いです。
お楽しみに!
今回登場したオリキャラの元ネタ
●はやてを抱き上げていた、鱗肌に長い触角と、大きい目に長い複数の口吻を
持った魔導師:エビ『第9地区(2009年 アメリカ、南アフリカ)』
●上半身は白い牙が幾つも口に生えた白い豚、下半身は電動車椅子という姿を
した魔導師:怪物化した人間『ドゥーム(2005年 アメリカ)』
●身長2メートル弱の浅黒い肌をした狼の姿の同僚:ライカン『アンダーワールド
(2003年 アメリカ)』
乙です!
何故だろう、シグナムが大変な事になってるのにニューリーダー(笑)のナイトバード回の迷台詞が出たせいで全く危機感を感じなかったwwwww
そしてデストロン大暴れしてるのに全く働かないサイバトロン…
お久しぶりです。
9時くらいに投下させていただきます。
十三話がまだ全部書きあがっていないので先に書き上がってしまった幕間的な話なのですが…
では、投下を開始します。
「ぶぇーーーーーーっくしょい!!」
景気のいいダミ声が夜闇の中に響き渡った。
夜の森での大音声は殊更に良く響くらしく、声は波紋のように森の奥へ吸い込まれていく。
ふと木霊に耳を澄ませるように空を見上げると、炎に照らされて紅蓮に染まった木々が風に泳がされている。
今夜は月明かりが強いためか、薄明るい風景とも相まって幻想的とさえ思える風景となっていた。
(綺麗な森だなぁ…。マスマテュリアの永久樹氷の方が綺麗だけど…)
ぼんやりと氷に包まれた故郷を思い出し、ドーチンは深く嘆息した。
聞いた話ではウォードラゴンが放っていた冷気が止んだ事により、マスマテュリア全土を覆っていた氷は瞬く間に溶け出し、そこに住む地人の生活環境も一変したのだという。
あの美しい森を二度と見れないのも残念ではあるが、故郷にいるはずの父と母の安否も気になった…。
どちらにしろ現状ではどちらも確かめる術はないのだが…。
焚き木の爆ぜる音に混じり、ズビビ、と真顔で鼻水を啜る兄を横目で窺う。
「兄さん風邪でも引いたの?」
口にしてしまってから、全くもって限りなく無意味な質問をしてしまった事をドーチンは胸中で素直に認めた。
とはいえ気付くのが遅れるのはいつだって同じだ。更に言えば事が起こる前に気付けた所で事態を好転出来た試しというのもちょっと記憶にない。
何より最悪なのはどちらだったとしても、もはや呪いに近いレベルでろくでもない結末に終わるのは変わらないという事だろう。
そんなこちらの思いになど知らぬという様に、兄が椅子代わりにしていた小さな岩を蹴っ飛ばして立ち上がる。
「笑止!かつてはあの上腕二頭筋爆撃型超巨大暗黒殺人病魔―――――えぇっと…仮にドゲラリオン赤痢菌と命名する!
あの悪魔すらねじ伏せたこのマスマテュリアの闘犬、民族の英雄血者たるこのボルカノ・ボルカン様の超肉体が、たかだか小まめな手洗いとうがい程度でさっくりくたばる軟弱な病原菌如きに侵されるわけがないったらあるまい!
そんな事すら分からんとは兄は悲しいぞ、弟よ!」
こちらの眼前に人差し指をズビシィ!っと突き付け―――ついでに再び垂れだした鼻水を振り乱しながら―――兄が雄雄しく吠える。
「…うん、そうだね。とりあえず鼻水拭こうよ」
手洗いもうがいもロクにしてないじゃない…という言葉は咄嗟に飲み込んでおいた。案の定ろくでもない返答を返され、少し気分が落ち込むが、今さら些細な事である。
ちなみにドゲラリオン赤痢菌がいかなる病原菌なのかが少しだけ気になったが、こちらは些細を通り越して果てしなくどうでもいい事なのですっきりと忘れる事にした。
と、そのまま会話を打ち切ろうとした所で、炎の向こう側からまるでこちらの気持ちを代弁するかのように大きな溜息が聞こえてきた。
「うるっさいなぁ。前から思ってたんだけど、いちいち叫ばなきゃ喋れないのかよお前…」
…まぁそろそろ何か一言来るだろうなとは思っていた所だ。
嫌々ながらも皮肉の出所へと視線を向ける。そこには極端に生地の少ない服装に身を包んだ赤い髪の少女が、兄の方へ半眼を寄せていた。
彼女の名はアギト。
自分達がこの地に飛ばされて最初に出会った少女、に連れられて行った先で紹介された彼女の旅の連れらしい。
…少女。少女だ。どっちかって言うと『小』女だけど。丁度手の平に乗るくらいの…。
(慣れって怖いけど、必要なモノだよね…)
気にしなければなんて事はない。と、ある意味自己暗示に近い思いで念じる。
大体今まで散々味わってきた奇天烈な経験に比べれば、いまさら人間のサイズの問題くらいでどうこう思うほうがおかしな話なのだ。
「ぬ。何だ、居たのか貴様」
…かと言ってこれほどナチュラルに受け入れてしまうのも如何なものかとも思うが…。ちなみに兄は初対面の時から全く変わらずこの対応である。
人としての器を褒めるべきか、頭に残ってるネジの数を心配するべきか。迷いどころではあった。
「…フツーに喋れんじゃん。まぁいいよ。とにかくもう少し静かにしろよな。あたしはともかくゼストの旦那が起きちまう」
きっかり一段階表情を険悪にしながらも、意外にもアギトは落ち着いた対応を見せる。
いつもなら今の一言でもう大体で兄の三分の一くらいは焦げていてもおかしくないのだが…。
(――――まぁ理由なんて割りとハッキリしてるんだけど…)
この歩く火炎放射器(命名は兄である)が自分自身の事以外で自重を覚えるとしたら、ルーテシアと、もう一人。
彼女の気遣わしげな視線の先で寝息を立てている男が絡んだ時以外に在り得ないのだから…。
(そんなにか弱い人にも見えないんだけどね…)
心中で呟きながらアギトに習ってそちらを見やる。
全身を覆うような深い灰色のコートに登山用のような大きく無骨なブーツ、おまけにフードを頭からすっぽりと被っている男。
この暗い森の中、火灯りが無ければ完全に同化してしまいそうな出で立ちだった。
他に特徴と呼べるほどのものは特に無いが、あえて挙げるとするならばその長躯か。
実際、自分が見てきた人間種族の中でもかなり大きい部類に入ると思う。―――――もっとも地人からすれば人間種族自体が巨人そのものなのだが。
ともあれ、彼の事は実はそれほどよく知っているわけではない。
昔、騎士をやっていたという事。
ある目的があってルーテシア達と行動を共にしている事。
あと、この一ヶ月ちょっと一緒に暮らしてみて分かった事は、彼もルーテシアに負けず劣らずの寡黙者だという事くらいだった。
「おい、ドーチン」
ふと、アギトから声がかかる。ゼストを起こさないよう気遣っての事か囁くような声量で、
「ルーの奴、定期連絡にしては遅すぎねえかな」
定期連絡というのは、ルーテシアに仕事を依頼してくる何かの科学者だかとの話し合いらしい。
ゼストやアギトは何故かその科学者とやらを嫌っているらしく、顔を合わせるだけで露骨に不機嫌になるのを何度か目にした事がある。
ルーテシアもその事に気を使ってか、最近は一人で離れて連絡を取り合うようにしているのだが…。
「そうかな?」
「ちょっと様子見に行って来てくれ」
「僕が?」
「ボルカンに頼み事なんてするわけねーだろ。多分この近くにいるはずだからさ」
さりげなく兄の評価の低さが垣間見えるセリフではあったが、まぁどうでもいい。問題はそこではなく、
「夜の森の中だよ?どうやって探せばいいのさ」
今日は月明かりが強いとはいえ森の中、火の元があるここ以外は一面闇の世界だ。どんなに目を凝らしても木々の輪郭がかすかに見える程度の視界の中で人を探せと言われても正直困る。
更に言うなら、夜食用にと、ついさっき焚き木の中に放り込んだばかりの缶詰のスープも心配だ。何が―――というか誰が―――心配なのかはもはや言うまでもない。
「ルーなら大声で呼びながら適当に歩いてればあっちから転送してくるって。足場が心配なら旦那の荷物の中に確か懐中電灯が入ってたはずだから持ってけよ。使い方はこの間覚えただろ?」
「まぁ…うん」
頷くしかなく、首肯する。
我は放つ支援の一手
正直行きたくはないのだが、どの道断るわけにはいかないのも事実だ。
この不揃いな面子に拾われてから何だかんだで「食」だけは賄ってもらえているのだ。
この程度の頼みを断っては後々に遺恨を残しかねない。
不承不承といった風で立ち上がり、荷物袋の中を漁って先端にレンズのはめ込まれた棒状の機器を取り出す。
「じゃあ行ってくるね」
「おう。バカ兄貴はあたしが見張っといてやるから早く帰って来いよな」
すでに焚き火の中のスープしか目に入っていない兄を指し示しながら、アギトが言ってくる。
良かった。これなら兄から目を離しても夜食にありつけるかもしれない。
そう少し安堵すると、ドーチンは先ほどルーテシアの消えていった方向に適当にあたりを付け、森の中へ足を踏み出した。
「あ、そうだ。さっき旦那がこの辺野犬が出るかもって言ってたから気を付けて行けよ」
「……………………」
何とも言えず、とりあえず大声は出さずに見つけないとなぁ…などと思いながら、ドーチンは一気に重くなった気分を吐息に乗せて吐き出した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
背の高い木々の中、円形の光が照らす道を黙々と歩いていく。
道幅はそれなりに広いが、いかんせん足場が悪い。さっきから地面から突き出た石や木の根に何度も蹴躓いている。
視界ゼロで歩くよりは遥かにマシであるが、溜息を止めさせてくれるほどの慰めには程遠かった。
手に持った携帯型の光源に目をやる。こんな技術はキエサルヒマ大陸では見た事がない。
(やっぱり大陸の外まで飛ばされちゃったのかなぁ…。だから天人の遺跡なんかに寝泊りするのは止めようよって言ったのに…)
妙な事になったと、今更ながらにうな垂れる。
事の起こりは一月ほど前。当てもなく兄と共に大陸を放浪している最中、一夜の宿とした遺跡の中で起こった。
火事場泥棒みたいな真似をしたのがそもそもの間違いだったのだろう。―――――誓って弁解させてもらうがやったのは兄である。ボクは止めた。
元々大陸中の遺跡は大陸魔術士同盟の魔術士達によって粗方掘りつくされているのだ。
素人がどんなに一生懸命探った所で、食器の一枚も見つかりっこない…。
(…と、思ってたんだけどなぁ…)
そこがたまたま手付かずの遺跡だったのか、はたまた探索した魔術士が見落としていただけなのかは定かではない。
だが結果として兄は見つけてしまった。床に彫られたとある小さな『文字』。複雑に絡み合うように描かれたその文様には見覚えがあった。
『魔術文字(ウイルドグラフ)』。
かの『天なる人類』ウィールド・ドラゴンが用いたという「魔術」である。
効果の程は多種多様で、それこそ文字の数だけあると言われている。
加えて一時的な効果しか望めない人間の音声魔術と違い、魔術文字は媒体となる文字を傷つけられない限りその効果は、それこそ永続するものさえあるとかなんとか。
更に、魔術文字の最大の特徴は、条件さえ満たせば『誰にでも扱える』という事。
それが加工された特殊な道具ではなく、ただの魔術文字ならば、ただ軌跡をなぞるだけで効果を発揮するものさえあるという――――――
……ここでうっかり顔馴染みの魔術士のウンチクを思い出してしまった事、保身よりも好奇心が勝ってしまった事が運の尽きだった…。
文字をなぞった後の事はもうよく分からない。
ただなぞった文字が光だし、、次第にその光の文字が部屋全体に伸びていって最終的には目を焼かれるかと思うほどに発光しだした時点でもう後悔の極地に達していたのは覚えている。
逃げ出そうにも眼球が潰れそうなほどの白光にただただ両目を押さえてうずくまるしかなく…。
そして一瞬の振動の後、自分達が立っていたのは遺跡の石畳の上ではなく、満天の星空が輝く草原だった…。
…今思えばあの魔術文字はきっと転移の魔術だったんだろう。前にレジボーン温泉にあった遺跡で見たのと同じヤツだ。
その事自体はまぁいい、というか今更どうしようもない。命にかかわる類の魔術じゃなくて良かったと思うしかない。
問題は転移させられた場所がまったく見知らぬ土地だったという事だ。
いや、それだけならまだ楽観視していられただろう…。本当の問題は、「ここがキエサルヒマ大陸ですらない」という事だ。
アギト達に連れられて街に下りた時、本当に驚いた。
キエサルヒマ大陸に築かれていたモノとは桁違いなまでに進歩した文明の姿がそこにはあった。
(ルーテシアに聞いても「そんな所知らない」の一点張りだしなぁ。きっと大陸の外まで飛ばされちゃったって事だよなぁ…。参ったなぁ…。ちゃんと帰れるのかなぁ)
愚痴は抑えられてもため息までは止められない。
そういえば外の世界じゃ人間なんてとっくに絶滅してるみたいな事を誰かが言ってたけど
、あのクラナガンという街一つ見ても繁栄を極めているのは疑いようがない。
(まぁ実際に見てもいない人の話よりも自分の目で見た物を信じるべきだよね、普通は)
なんとも釈然としないが、現状で特に不利益を被っているわけでもないので無理やりにでも納得するしかない。
少なくとも聞き及んだとおりの無人の荒野に投げ出されるよりは百倍マシなのは確かなのだから。
と、ちょうど思考に一通りの区切りがついた所で、ふと気付いた。どこからか小さな音が鳴っている。
それが何なのか疑問に思うよりも早く、アギトの言葉が頭を過ぎった。
『旦那がさっきこの辺野犬が出るかもって言ってたから気を付けて―――――』
野犬が出るかもって……出るかもって……出るかも……
ぶわぁ…と一気に冷や汗が吹き出てくる。
震える指で慌てて懐中電灯のスイッチを切り、息を殺し、音の出所を探ろうと必死に耳を澄ます。
「……こっち」
「え?」
悩んでいると、ルーテシアが無造作にある方向を指で示し、そちらに向かってテクテクと歩き出した。
慌てて懐中電灯のスイッチを入れて、彼女の隣に並ぶ。
「道、覚えてるの?」
「違う。教えてくれるの」
囁きながらルーテシアが前の方を指差す。
「?」
首を傾げつつ懐中電灯を向けると、何か紫色の小さな光が導くように自分達の前を先行していた。
あれについていけばいい、という事だろうか…。
「………………」
「………………」
サクサクと、無言のまま草を踏み分ける音だけが辺りに響く。
なんとなく気まずさ覚えて、ドーチンはチラリと自分の背丈とそう変わらない位置にある横顔を盗み見てみる。
白光に照らされた横顔は、相変わらず感情というものを全て削ぎ落とされたとしか思えないような無表情。
いや、あるいは比喩ではなく本当に感情というものを失っているのかもしれない―――そんな馬鹿げた考えが浮かんでしまうほど、この少女には人間的な部分が欠けているように思える。
なにせ食事をしている時も、アギト達と世間話に興じている時も、いや、思えば最初の出会いからこっち、自分はこの表情以外の彼女を見た覚えが無い。
「…なに?」
「え!?あ、あ〜…えーと、その…」
ぼー、と顔を覗きこんでいた所にいきなり声をかけられて思わず顔が赤くなる。
別にやましい気持ちは無いのだが、ただ単に顔を見ていたというのもなんとなく気持ちが悪く、別の事を口にした。
「その…ホラ、今日はずいぶん時間がかかったなぁって思ってさ」
「…?なにが?」
「何って…。定時連絡だよ。さっきの人との。いつもはワリとすぐ済むじゃない」
「…今日は、またドクターにお手伝いを頼まれてたから…」
「お手伝い?」
聞き返すと、ルーテシアは軽く頷き、繰り返してきた。
「おつかいの『お手伝い』だって…」
幕間「地人・弟の憂鬱」 終
:魔術士オーフェンStrikers:2011/05/11(水) 21:38:26 ID:U2e4SfQ.
これにて投下終了となります。お目汚し失礼しました。
十三話の落とし所がどーーーーしても上手くいかないので、先に出来上がったこちらの方を投下させていただきました。
…本当はこの話は十三話の次に投下するつもりだったのですが…。前回の投下からずいぶん経ってしまったのでやむおえず…。
内容としては地人兄弟の現状確認と酷く分かりにくい伏線だけで大して進んでません。
あと、実はこの話半年前にはもう書き上がっていました。なんかもうほんと色々すみません。
>>140 乙ッス。忘れたころにやってきてやらかしてくれるのが新種珍兄弟w
ボルカン節とドーチン視点が完璧でした。
>>138 逃げろスタスク! それは敗北フラグだ!
>>140 魔術士オーフェンStrikers、投下乙です。オーフェンサイドも過去話だったし、これからアグスタやらで色々と物語が進んでいきそうですね
しかし、ドーチンは相変わらず苦労しているようでw
投下乙
待っててよかった
予約が無ければ19時30分頃から魔法少女なのは☆マギカ3話の投下を開始しようと思います。
それでは、投下を開始します。
暁美ほむらへと向けられる三人の目線は、どう考えても歓迎の類ではない。
明確な悪意の権化と化した暁美ほむらを、相対する正義で以て排除せんとする視線だ。
何故こんな事になったのかと問われれば、説明をするのは至って簡単。ただ単に、暁美
ほむらにとっては明確な敵であるインキュベーターの妨害をしようと追い立てた所で、運
悪く―奴らにとっては狙い通り、か―彼女ら三人に出くわしてしまっただけの事。
何故ほむらがインキュベーターを追い立てているのか、とか、そういう裏手の事情まで
含めれば、なるほど確かに難しい話にはなるが、現状を説明するだけならば、「襲う者と
襲われる者、そこに出くわしてしまった少女達」……たったそれだけで十分だ。
先程ほむらは、インキュベーターとの会話で、「高町なのはは暁美ほむらにとってもイ
レギュラーである」という旨の情報を与えてしまった。
それを知った奴らが何をどう考えて行動するのかは知れないが、奴ら曰く高町なのはも
また、魔法少女になる事が出来る人材らしい。
となれば、奴らは十中八九高町なのはを魔法少女にする為に行動するだろう。結果とし
てほむらは、何の情報も与えてやらないつもりで、標的を高町なのはに絞らせてしまった
のだ。
これは、この時間軸においてほむらが犯した最初の大きなミスと言える。
こういったミスが積み重なる事で、誤解や擦れ違いは徐々に大きく膨れ上がり、やがて
死ななくてもいい人達も、皆死んでしまうのだ。
開幕早々の痛手に毒づきながらも、ほむらは眼前の高町なのはへ手を差し出し、言った。
「高町なのは、そいつを私に渡して貰えるかしら」
「悪いけど、それは出来ないよ。だってこの子、こんなに苦しんでるじゃない」
高町なのはの胸の中で、白い小動物の姿をしたインキュベーターが小さく震えた。
なのははそいつを優しく抱き締め、その後方に佇む美樹さやかと鹿目まどかは―特に美
樹さやかは―、まるで悪人を見るような辛辣な視線で、射抜く様にほむらを見詰める。
今回の時間軸もまた、出会い方が悪すぎた。如何にほむらが彼女らを救う為に行動を起
こそうと、これでは何を言った所で無意味だ。彼女らの眼にはもう、暁美ほむらは悪人に
しか映らないのだろう。
「ねえほむらちゃん、どうしてこんな酷い事をするの? こんな事、ダメだよ……」
案の定、鹿目まどかは憂いを帯びた表情で、キュゥべえとほむらを眇め見る。
心優しいまどかならそう言うのだろうという事も解って居たし、まどかにはずっとそう
あって欲しいとも思う。
彼女にだけは、決して自分のようにはなって欲しくなから……だからこそ、鹿目まどか
は何も知る必要はないし、何も教える必要だってない。
「貴女達には関係の無い事よ。悪い事は言わないから、そいつとは関わり合いにならない
で……と言いたい所だけど、貴女達はもう、聞く耳を持たないのでしょうね」
「ううん、そんな事ないよ。ちゃんと聞くから、訳があるならきちんと話して欲しいんだ」
「話したところで無意味よ。あなた達には理解出来ないわ」
「そうやって最初から決めつけてちゃ、誰だって、何だって解り合えやしないよ」
「理解が出来ない以上、解り合う必要もないわ」
「……それでも私は、わかりあいたいの。というか、信じてる……って言った方がいいか
な。人は皆、わかりあえるんだって」
慈愛すら感じられるなのはの表情に、思わずほむらはたじろいだ。
人は自分が持たない物を持っている相手に憧れ、時には恐怖すら抱くというが、今回の
場合は後者に当て嵌まるのだと思う。
少なくとも、こんな言葉を恥ずかしげもなく語る少女を、暁美ほむらは見た事が無かっ
たからだ。
「……あなた、優しいのね」
「そんな事無いよ。私だけが特別な訳じゃない」
言葉に詰まったほむらを諭す様に、なのははほむらに右手を差し伸べ、続ける。
「本当はみんな同じ……わかりあえるのに、些細な事で誤解をして、それが嘘になって、
お互いを区別しちゃう。本当はとっても簡単な事なのに、人はこうも擦れ違っちゃうから
……だから私は、そうなる前にきちんとお話をして、ほむらちゃんとお友達になりたいの」
「……っ」
刹那、ほむらの心臓が音を立てて飛び跳ねた。
人との慣れ合いなど捨て去って、孤独を貫こうと決めたほむらに、友達などは不要だ。
そう心では思っていても、ハッキリと「友達になりたい」などと言われてしまうと、焦ら
ずにはいられない。ほむらはこの手の人間に弱いのだった。
もしも、出会うのがもっと早ければ……ほむらが何度もその眼に絶望を焼き付けてしま
う前に出会えていたなら……まどかに続いて、二人目の親友になれたかもしれないのに、
と思ってしまう自分が心の何処かに居る事に、まだまだ自分も甘いと思う。
「……馬鹿馬鹿しい、わ……友達だなんて言っても、全てをわかりあうだなんて、無理に
決まってるじゃないの」
ほむらの声は、自分でも驚くくらい、酷く不器用に紡ぎ出されていた。
冷め切った声は、心は、確かに揺れていた。何度も繰り返して培ったのは、どれも同じ
人間に対する接し方ばかりだ。それも、ほむらが知る限り、鹿目まどか以外の殆どはほむ
らを敵対視、もしくは危険視していた奴らばかり。
突然マニュアルに無い台詞を言われて焦るのは、致し方のない事だった。
「これ以上、話す事もないわ……お願いだから、もうこれ以上は関わらないで。私の話を
あなたが理解する事はないし、わかりあう事だって出来やしないわ」
「でも……だからって、ただ見ている事も、私はもう出来ないよ。だって、出来ないって
言って何もしなかったら、もっと何も出来ないから。それじゃ何も変わらないままだし、
ほむらちゃんだって救われないままだよ」
「ッ……、知った風な口を聞かないでっ……!」
何も知らない筈の高町なのはは、しかし全てを悟りきった風に言葉を続ける。
差し延べられた手は細く、力を込めて握れば折れてしまいそうなのに、誰よりも大きく、
逞しくすら見えてしまう。
その声は張り詰めた緊張を溶かし解すように柔和で、慈愛の瞳は逸れる事無くじっとほ
むらを見据えていた。
なるほど高町なのはとはこういう人間らしい。最初に出会った時に感じた、鹿目まどか
にも似た優しい雰囲気は、高町なのはの人間性が成せる業だったのだろう。他の誰にも真
似のしようがないし、仮に似た雰囲気の人物が居るのだとすれば、それは本当の意味での、
根からの御人好しくらいか。
「無駄だよなのは、こいつはあたしらと話す気なんてないみたいみたいだよ」
「さやかちゃん……」
美樹さやかが、高町なのはの肩を掴んで言った。
その視線は絶えずほむらを見据えていて、明確な敵意がありありと伝わって来る。もう
慣れたと言えば慣れたが、やはりあまりいい気はしない。
美樹さやかの所為でまどかが悲しんだ時間軸があった事も知っているからこそ、ほむら
は彼女の事をどうしても好きにはなれないのだった。
「あたしは正直、なのはにここまで言わせておいてそういう態度しか取れないあんたがマ
ジでムカつく。けど、なのはに免じて、それについてはこれ以上何も言わないわ」
敵意の眼差しと、敵意の言葉。それらを真正面からぶつけながらも、美樹さやかは一度
ほむらからは視線を外し、周囲の異質な空間を見渡した。
「それよりも、今はもっと重要な事があるって、あんたも解るよね?」
「……この空間の事かしら」
「そ。もしかしてこの手の込んだトリックも、あんたがやったってワケ?」
「これは私がやった訳じゃ――」
しかし、その言葉は最後までは紡がれなかった。
それ以上を告げようとした、その瞬間、突然ほむらとさやか達三人の間に、黒い影が落
ちたのだ。黒い影は、まるで紙に落とした墨汁のように広がって、そこから、小さな異形
が幾つも現れた。橙色の蝶にも見える身体からにょきりと胴体が伸びて、その先に出来た
白い綿の塊の中心には、手入れの行き届いた黒の髭が見受けられる。
使い魔だ。魔女に仕えるこいつらは、魔女の造り出したこの空間で、魔女に従って行動
する。魔女が人間達を餌と見なすのであれば、当然使い魔達にとっても人間は餌でしかな
い。使い魔達は、縦横無尽に宙を舞いながら、なのは達三人へと襲い掛かった。
なんと間の悪い事か。魔力を持ったほむらよりも、一般の人間であるなのは達を第一の
標的として選んだのかは知らないが、これではほむらが彼女ら三人をこの空間に誘い込み、
そして今また使い魔共を使って彼女らを苦しめている様に思われても無理はない。
最初に行動を起こしたのは、そんな三人の中心たる高町なのはだった。
「今は逃げるよ、二人とも!」
「待ちなさい……!」
ほむらが声を荒げるが、それはもう三人には届いていなかった。
何処かから現れた桃色の光弾が、予測不能な軌跡を描いて、空を舞う使い魔共に命中し
た。ほむら自身も理解出来ぬ現状に、何事かと思案するよりも早く、高町なのはは二人を
連れて撤退した。宙を舞う桃色の光弾は、まるで疾走する三人を護るかのように使い魔を
撃ち抜いていた。
すぐに追いかけようと地べたを蹴るが、ほむらが一人になった途端、使い魔共はほむら
にも襲い掛からんと飛翔して来る。それを華麗なステップで回避しながらも、暁美ほむら
は舌打ちと共に、鋭い眼光で以て使い魔共を睨み付けた。
「くッ……今は相手してる場合じゃないのにっ!!」
* * *
全力疾走で駆け抜けながらも、なのはが意識を集中させる。そうすれば、なのはの意思
に応える様に、空を舞う桃色の弾丸―アクセルシューター―は的確に異形を撃ち落とし、
撃墜せしめてくれる。
今のなのはならば、この程度の簡易魔法はバリアジャケットを装着せずとも使用する事
は出来る。その分意識を集中させねばならないのもまた事実だが、この程度の敵を落とす
のに、それ程の魔力は必要とは感じられなかった。
この異形共は、数は多いが一匹一匹の戦闘能力は大したことは無い。魔道師として数多
の戦場を駆け抜けて来たなのはにとってこの程度は朝飯前だし、こいつらと比べれば、か
つて戦った親友や、守護騎士達の方が圧倒的に強かったし、なのは自身も今よりもずっと
苦しめられた覚えがある。
とは言ったものの、流石に終わりが見えないのは辛い。こいつらを撃墜するのは容易だ
が、その先に元の空間に戻れるのかという保証もなければ、こいつらの増殖が止まる気配
もないのだった。
「何なんだよコレ! コレもあのコスプレ通り魔がやったっての!?」
「落ち着いてさやかちゃん、まだそうと決まった訳じゃないよ!」
なのはの後方を走りながら、さやかとまどかが息も絶え絶えに騒ぐ。
どうやらさやかは暁美ほむらという人間を好いてはいないようだったし、そう思うのも
無理はないのかも知れないが、なのははこの空間含めて、この異常事態はほむらが招いた
ものではないと考えている。
そもそもほむらは、さやかに問われた時に否定していたし、レイジングハートに調べさ
せてみたが、やはり今周囲で沸いている異形共からは何の魔力も感じられないらしい。
となれば、魔道師―多分―の暁美ほむらがこれをやったとは思えないし、そもそも暁美
ほむらにここまでやる程の敵意も感じられなかった。
唯一情報を知って居るのがキュゥべえだけなのだから、それについては後からキュゥべ
えに聞き出すしかないのだ。その為にも、今ここで数の暴力に負けて押し潰される訳にも
行かない。
「ね、ねえ、なのはちゃんっ……ほむらちゃんは大丈夫なのかな」
「こんな状況でもあの転校生を心配しようって、どんだけ優しいのよ!」
「うーん、何とも言えないけど、ほむらちゃんなら大丈夫……だと、思う」
暁美ほむらは魔道師だ。なのはと同じように、戦う力だって持っているのだろうし、こ
の程度の敵に遅れを取るとは思えない。こいつら程度の戦力であるならば、戦闘には向い
ていないユーノだって負ける事はないだろうと、なのはは思う。
少なくとも、こいつらはほむらと自分達の間に立ち塞がり、自分達目掛けて襲い掛かっ
て来たのだから、ほむらの方向へ逃げる事も出来ず、仕方なく二人を安全地帯まで送り届
けてから何とかしようと思ったのだが、その安全地帯も当分は見付かりそうもなかった。
『マスター、これではジリ貧です。やはりここは直射型の魔法で一気に空間ごと破壊した
方が良いのではないでしょうか』
レイジングハートの提案が、なのはを急かす。
やるしかないのか。そう思い、心中で愛機レイジングハートにデバイスとしての戦闘形
態へと移行する為の起動命令をしようとした、その時だった。
「……きゃっ!」
「まどかちゃんっ!?」
なのはの後方を走って居た鹿目まどかが、脚をもつれさせて、その場で転んだのだ。
当然、動きを止めたまどかは、奴らにとってはただの標的。弱肉強食の世界では、こう
して動きを停めた草食動物から、肉食動物に食われてゆくのだ。
無数の異形が徒党を組んでまどかへと迫るが、今ならばまだ間に合う。なのはが変身を
果たし、強力な魔法で群がるこいつらを一気に薙ぎ払えば、まどかは事なきを得るのだ。
だとすれば、なのはのやる事は決まっている。
レイジングハートがなのはの意思を汲み取って、その宝玉の身体を煌めかせた。
しかし、それよりも速く、この空間を駆け抜けたのは、金色の閃光だった。
金の閃光は幾筋にも延びて異形へと迫り、なのはは思わず「金の閃光」の異名を関する
友が駆け付けてくれたのかと思うが……違う。
なのはの友ならば、一瞬の内に戦場を駆け抜け、これまた一瞬の内に異形共を斬り伏せ
る筈だ。この場を駆け廻った金の光はどれも、敵を斬り伏せるどころか、まどかに迫る数
体の異形の身体に纏わりついて、その身を拘束していた。
「バインドっ……一体誰が!?」
思わず叫んだなのはの問いに答えたのは、先程と同じ金の閃光。されど今度は、ただの
拘束魔法の類では無く、直射型に伸びる、金の砲撃魔法のように見受けられた。
何処かから放たれた金の魔力は、まどかに迫る異形を的確に撃ち落とし、それと同じ要
領で、一斉に周囲の異形へ向けて金の砲撃は放たれる。圧倒的なフルバーストの後には、
片手で数える程しか生き残らなかった異形が、困り果てたように宙を漂っていた。
静寂になったこの空間で、コツ、コツ、コツ、と、誰かが歩く音が響く。
なのは達の視線が一斉に「誰か」を捉えると、その少女は手に持ったマスケット銃を投
げ捨てて、柔和な微笑みを浮かべた。
「危なかったわね、あなた達。でも、私が来たからにはもう大丈夫!」
現れた少女に、なのはは兎に角「黄色い」という印象を受けた。
まず目に付きやすい特徴の一つとして上げられるのが、頭髪だ。なのはの親友たる金の
魔道師と同じくらいの明るさの金髪は、左右で上品に巻かれていて、何処となくお嬢様の
ような印象を抱かせる。
しかしながらその表情は、なのはの知るお嬢様であるアリサや仁美とは違っていて、仮
に誰かに例えるとするならば、親友の一人である八神はやてに近いのではないかと思う。
別段顔が似ている、という訳ではないが、無邪気そうな笑みからははやてにも通ずる確
かな強気が感じられるし、それでいて優しそうな雰囲気を宿した瞳が、何処となくそんな
イメージをなのはに抱かせた。
衣服―恐らくバリアジャケット―は上から下まで黄色やベージュを基調としたドレス風
味で、彼女の動きに合わせてひらりと舞うスカートと、足首から太腿までを覆い隠すニー
ソックスの間からは、健康的な白い素肌が見える。
その外見と髪の毛が、なのはに「黄色い」という印象を植え付けた由縁であった。
「安心して、すぐに終わらせてあげるから」
なのは達に向けて放たれたその言葉には、絶対に負けはしないという強い自信と、すぐ
に助けてあげるから、という優しさが感じられた。
そこからは圧倒的な戦い―というのもおこがましいくらいに一方的な蹂躙―だった。
僅かに残った敵が徒党を組んで襲い掛かるが、黄色い魔道師は恐れの表情すら浮かべは
しない。確かな実力が彼女の自身を裏付けし、それは事実、彼女の動きをより軽やかにす
る。
何処かからマスケット銃を取り出しては、そこから放たれる金の閃光で異形を焼き払い、
一発撃ち終えたマスケット銃はすぐにそこら辺に投げ出して、また次のマスケット銃で敵
を撃つ。これをする度に異形の数は減っていくのだから、後はこれの繰り返しだけで済む
戦いだった。
(あの人……あの銃がデバイスって訳じゃないのかな)
なのはは考える。
普通、デバイスというのは魔道師が肌身離さず持っているものだ。
なのはで言うならレイジングハートがそれに当たるし、レイジングハートが無ければ強
力な魔法を行使する事だって出来はしない。
事実として、魔道師の強さとは、その才能だけでなく、魔道師が用いるデバイスに依存
する所があるといっても過言ではないのだ。
しかし目の前の彼女は、デバイスと思しきマスケット銃を取り出したかと思えば、一発
発射するだけですぐにそれを投げ捨てる。時たまそれを鈍器の代わりとして使用する事も
あるが、それはどう見たってデバイスの使い方などでは無い。
何処かに装着型のデバイスがあって、彼女は何らかの魔力であのマスケット銃を生成し
て戦っているのではないかと想像するが、どっち道それもなのはにとっては未知の戦い方
だ。
そんな戦い方をする魔道師は見た事がないし、居るのだとすれば、多分、魔力の使い方
としては非常に面倒で非合理的な運用方法をしてもまだ余裕のある、よっぽどの実力者な
のだと思う。
しかしながら、目の前の黄色の魔道師の戦闘能力は確かに圧倒的ではあるが、エース・
オブ・エースたるなのはから見れば無駄な動きも多いし、お世辞にもそんな魔力運用を用
いる程の余裕を持った実力者だとも思えなかった。
こうして、気付いた時にはなのはの興味は黄色の魔道師へと移り変わって居たのだった。
(レイジングハート、あの人の戦い方、どう思う?)
『少なくとも、ミッド式でもベルカ式でもありません』
(私達の知らない、全く新しい術式の魔法って事かな?)
『いえ。ミッド式もベルカ式も、魔力を運用する戦術である以上、どちらも同じ魔法だと
言えますが、彼女の戦術はそもそも、我々の知る魔力運用ですらありません』
(……つまり、魔法じゃないって事?)
『我々の知り得る常識の範疇で魔法を語るのなら、そうなりますね』
レイジングハートの分析は、相も変わらず冷静だった。
ミッドもベルカも、大元は同じだ。魔力の源―リンカーコア―から生成される魔力を運
用して戦うから、どちらも共通して「魔法」と呼ばれている。
しかし、今まで魔道師だと思っていた黄色い彼女が使う術式には、そもそも「魔力」が
用いられていないという。「魔力」が運用されない以上、それを「魔法」と呼ぶのは違う
のではないか、というのがレイジングハートの見解であった。
* * *
巴マミは、なのは達が通う中学校の、一歳年上の先輩だという。
まだ義務教育の段階でありながら一人暮らしで毎日学校に通っている巴マミは、誰が聞
いても立派だと思うし、だからと言って、爛れた生活を送って居る訳でもなく、部屋は至
って上品に片付けられていた。
インテリアとしても非常にセンス良く、家具の配置から置物の飾り付け方まで、若者が
好むお洒落な喫茶店なのではないかと錯覚してしまうくらいの気品さでありながら、しか
しそこに嫌味さなどは皆無。
家具も置物もあまり高価過ぎる訳でもなさそうで、頑張れば手が届きそうな親近感が、
なのはにとっては非常に居心地が良かった。
「ろくにおもてなしの準備もないんだけどね」
苦笑いを浮かべながらも、先程なのは達の窮地を救ってくれた黄色の魔法少女こと、巴
マミはテーブルに人数分の紅茶が注がれたカップを置いて行く。
注がれた紅茶もまた一級品。味も香りも非常に上品で、テーブルを囲むなのはだけでな
く、さやかやまどかまでもが幸せそうな表情を浮かべていた。
そんな三人を眺めるキュゥべえも、マミに怪我を治して貰った事で調子が良くなったの
か、機嫌良さそうに小首を傾げていた。
ここへ来てから、既に数十分が経過していた。
その間で、マミが用いる魔法についても、簡単な説明は受けた。
なのは自身も、まだ完全にその情報の全てを飲み込めている訳ではないし、所々がまだ
不透明なままである事は否めないが、少なくともなのは達魔道師が用いる魔法と、彼女ら
魔法少女が用いる魔法は、概念を全く違えた別物という事らしい。
なのは達魔道師が魔法を行使する為には、まずその素質たるリンカーコアを持っている
事が前提条件で、そこから生み出される魔力を有効に運用する為に武器としても用いられ
るものがデバイスだ。
魔法といえど人が考案し開発したシステムを用いて使用しているあたり、こちらの方が
まだ幾分か馴染み易いものがある。
一方で、マミ達魔法少女が用いる魔法は、そもそもリンカーコアを必要とはせず、それ
とは全く異なる素質である「ソウルジェム」が必要であるらしい。直訳すれば「魂の宝石」
という意味になるが、それがどのようなものなのかはまだなのはも詳しくは知らない。
ソウルジェムを持つ魔法少女は、魔道師の魔法とは全く異なる未知の力で魔法を行使す
る為に、デバイスなどは必要としないし、それこそ戦闘タイプに関わりなく、どんな戦い
方でも出来るらしい。と言っても、皆ある程度は使い慣れた武器を用いて戦うらしいが。
要するに魔法少女の力とは、非常に精神的で、神秘的。科学でも解明できない、全く未
知の能力らしい。
「そして、魔法少女になった者は、魔女と戦う使命が架される」
「その、魔女っていうのは?」
「マミのような魔法少女が希望を振りまく存在なら、反対に魔女は絶望を振りまく存在っ
てところかな。世間でよくある理由のはっきりしない自殺や殺人事件はかなりの確率で魔
女の仕業なんだ」
希望とか絶望とか、非常に抽象的な説明だなと、なのはは思った。
何がどうなれば絶望が振り撒かれて、どうすれば人が自殺や殺人事件を犯すのか、もう
少し具体性を持った説明をして欲しいと思うが、多分、今これ以上魔法少女の設定を一気
に教えられても、余計に頭がこんがらがるだけな気がしたので、なのははそれ以上は問わ
なかった。とりあえず魔女を放っておく事は出来ないという事さえ解れば、今は問題なく
話を進められる。
「それで、マミさんはその魔女と戦ってるんですか?」
「ええ。今日あなた達が引きずり込まれたのが、魔女の結界。あの時私が助けに入らなけ
れば、あなた達は生きては帰れなかったでしょうね」
「私達、そんな怖いところに居たんだ……」
さやかとまどかが、青ざめた顔で縮こまっていた。
一歩間違えれば死んでいたなどと言われれば、それも無理はないのだが、それならそれ
で疑問も生まれる。なのははあの時、魔道師としての魔力ダメージで敵を殲滅しようとし
たのだが、果たして魔女は魔法少女以外でも太刀打ち出来るものなのだろうか。
「マミさん、魔女は魔法少女でないと倒せないんですか?」
「ええ、そもそも魔女の空間に入れるのが魔法少女だけだからね」
「つまり、魔女の空間に入る事さえできれば、魔法少女でなくても魔女は倒せる……?」
「……前例が無いからなんとも言えないけど、圧倒的な力があれば、不可能ではないでし
ょうね。実際、私の知ってる魔法少女の中に、物理ダメージだけで戦う人も居るし」
「物理ダメージ……?」
「ええ、例えば……穂先に槍が付いた多節棍、っていうのかしら……で戦う魔法少女とか」
しどろもどろな説明ではあったが、何とか脳内でイメージする事は出来た。
要は、シグナム達と同じ様に、格闘武器で戦う魔法少女も居る、という事だ。多節棍と
いうのは多分、レヴァンティンのシュランゲフォルムと似た様なものなのではないかと勝
手にイメージしておく。
少なくとも、物理的なダメージが魔女に有効であるのならば、なのは達の魔力ダメージ
だって通用するのだろう。魔女空間に侵入出来ない事はネックだが、もしも魔女に狙われ
たとしても、ただ殺されるだけではないという事はとりあえず解ったので、良しとする。
「で、魔法少女になった者は、僕が一つだけどんな願い事でも叶えてあげられるんだ」
「どんな願い事でもって……!? 金銀財宝も、不老不死も……あんな事でも!?」
「あんな事……?」
キュゥべえの説明を聞いて真っ先に飛び上がったのはさやかだった。
あんな事、というのが何を意味するのかは敢えて深くは考えないようにするとして、キ
ュゥべえはさやかの問いにも迷い無く「うん」と首肯する。
「そして、僕の事が見える君たち三人にも、魔法少女になる素質があるって事」
「私達が、魔法少女に……?」
なのはにさやか、まどかの三人が、それぞれ顔を見合わせる。
全くの一般人であるさやかとまどかのみならず、既に魔道師としての力を持ったなのは
までもが魔法少女になる事が出来るというのだ。もしもそうなれば魔道師と魔法少女の力
を併せ持つハイブリット魔法少女―今考えたネーミングだ―という事になるし、そうなれ
ば、なのははきっともっと多くの人間の命を救う事が出来るようになるのだろう。
ただ命を救いたいと言う願いだけで戦うなのはにとって、それは魅力的な提案ではある
が……既に魔道師としての未来を歩み始めたなのはにとって、魔法少女をも兼任するとい
うのはつまり、命を賭けた仕事を二つも同時にこなさねばならないという事。
思わず躊躇ってしまうなのはに、キュゥべえは可愛らしい笑顔で言った。
「だから僕と契約して、魔法少女になって欲しいんだ」
今回はここまでです。
今回から改行を1行40文字に固定し、1話と2話も改行し直して修正しておきました。
内容は変わって居ない(ほむほむやインキュベーター側の情報描写を増やした程度です)ので、ご安心ください。
この後で3話纏めてwikiの方に収録しておこうと思います。
それでは、お目汚し失礼しました。
投下乙です
みんな、QBの言葉を聞いちゃ駄目だww
皆さん投下gjです
一年以上ご無沙汰で恐縮なんですが、テンプレと避難所の運営議論スレを見て思ったんですが投下のルールが変わったんでしょうか?
注意書きを入れれば良いのでしょうか?
とりあえず20時50分から一つ短編の投下予約をさせていただきます
ではボチボチと始めます。後、一応注意書き一つ
世界観融合系ssです。それに伴い一部改変・ねつ造されている設定があります
此処は地面と天井が逆さなのだ。
つまり重力が逆に働いており、床が上で天井が下となっているのだ。
突入により踏み入った当初、飛行した状態であったが故に、高町なのははそれに気づくのが遅れてしまった。
それでも尚、彼女が次に来た危険を咄嗟に回避することが出来たのは、それは幸運以外の何ものでもなかった。
……否、それはもしかしたならば戦士として鍛え上げられていた危機感知の本能が咄嗟に働いたが故だったのかもしれない。
兎に角、その空間に踏み入った直後、具体的には分からない妙な違和感を抱きながらも、それでもそれが何なのか掴めぬまま、何気なく上を見上げたのが命を拾った。
見上げた天井――後に逆さまになっている床と知る其処に、二の足をつけて立っている兵士の姿がそこにはあった。
しかもそれだけではない。その兵士は手に持つ銃器をこちらへと構え、その銃口を正確に向けてきていた。
迂闊、そう自身を呪うのも二の次。認識と同時、けたたましい銃声と共にこちらへ向かって発射されてくる銃弾の嵐。
咄嗟にオートでレイジングハートがプロテクションを反射的に展開してくれていなければ、バリアジャケットがあったとはいえ、手傷を負うことは避けられなかったことだろう。
重火器から発射されてくる銃弾の嵐。その威力は並みの魔導師のプロテクション程度ならば、物ともせずに蜂の巣に変えるだけの威力はあっただろう。
しかしここでもまたなのはを救ったのは、その自身の自慢とも言える重層型魔導師の中でも突出するほどの頑強さだ。
事実、なのはを守護する防壁はものの見事に襲い掛かる銃弾の嵐を防ぎきって見せた。
当然、それに驚愕したのは確実に仕留めたとそう予感していたのだろう、発砲してきた相手側の兵士の方だった。
しかし、その彼の驚愕によって出来た致命的な隙を見逃すほどに発砲された側の高町なのははお人好しではない。
即座に反撃のシューターを展開、間髪入れずにその全弾を相手に向かって叩き込む。
警告はない。既にこれは突入による殲滅戦だ。手当たり次第に見つけた当施設の者は速やかに捕縛をするように下知は出ている。
それに、長年に渡って潜り抜けてきた修羅場の経験から一目でなのはには判断できていた。
この兵士達は投降を促したところで、大人しくそれに従うような聞き分けの良い部類の相手ではないことを。
故にここに至って彼女には容赦の二文字は存在しない。操るシューターは逃げようと動きかけた相手を逃すことなく直撃。加減無用の非殺傷弾は当然のように相手を昏倒させた。
なのはは素早く同行している部下達へと指示を飛ばす。昏倒した兵士をバインドによって拘束させ、周囲に警戒を呼びかけながら各班に事前に打ち合わせておいたフォーメーションによる行動を徹底させる。
「油断しちゃ駄目だよ。各自、気を引き締めて周囲を警戒しながら、私に続いて!」
そう指示を飛ばしながら、なのはは素早くサーチャーを作り出すと共に、哨戒と探索を兼ねて各ルートに向かってそれを飛ばす。
相当に広大なこの施設。突入した部隊はかなりの数になるが、それでもなのはの率いる部隊が担当するエリアだけでもかなり広い。
自分たちの主任務は露払い。これから続々に出てくるだろう迎撃の兵士や兵器たちを撃破しながら、本隊の中枢部への突入のために突破口を開かねばならない。
重要な役割であり、言うまでもなく大仕事だ。これが事前に説明されていた通りに総力戦の戦争染みたものになるというのなら、まさにその通りだろう。
「……それだけの相手だからこそ、私たちの出番ってことは分かるんだけど」
戦技教導隊の大多数までもが引っ張り出され、そして昔馴染みの親友たちまでこの戦いに加わっているのだ。
恐らく、管理局史上でも類を見ない大規模な作戦である。間違いなく、後の記録にまで作戦の成否はどうあれ、語り継がれることだろう。
自分たちは英雄か、それとも惨めな敗北者か。果たして後の記録はどちらで記されるのだろうか。
「少なくとも、皆をそうさせないために私たちが此処にいる」
そう、この部下達を、同僚達を敗残兵になどさせない。
必ず全員無事に、生きてミッドチルダへと帰してみせる。
だからこそ――
「正念場だよ、レイジングハート。気合入れていこう」
『All right. my master.』
十年間、共に戦ってきた何よりも信頼する相棒にそう告げながら、高町なのはは続く部下達を率いて、この魔窟に等しい施設内部へと侵攻を開始した。
魔窟……そう、確かに堅牢とも呼べそうなこの要塞はそう呼ぶに相応しい。
此処は『第三の月の都(ザ・サード・ムーン)』
そして彼女たちが目指すその最奥にいる者の名をグランドマスターと言う。
冥王の名を冠し、生命すらも自在に生み出し操り、圧倒的な軍事・経済・科学技術を有し掌握する絶対的な支配者。
とある次元世界では、文字通りに神として君臨し、他の次元世界までをも手中に収めんと活動する広域次元犯罪者。
時空管理局の創設時より敵対し、マークされ続けていた大物中の大物。
次元世界に侵攻する魔人。管理局にとっての長年の宿敵である。
後に、“『第三の月の都』攻略戦”と呼ばれる、管理局史上類を見ない大規模作戦はこうして幕を開けた。
もし、世界にも生き物と同じように寿命というものが存在するとすれば、まさにこの世界は末期そのものであろうと、彼――飛燕は思っていた。
実際、この世界は見るからに酷いものだった。
増えすぎた人口は更なる飢餓と紛争を引き起こし、慢性病と化した環境破壊は病気と遺伝子障害を生み出し続ける。
犯罪の増加は止まることもなく、人民の自殺率の割合も年を追うごとに上昇し続けている。
依存性と副作用の極めて高い悪性のドラッグは市場に蔓延し、倫理無き人体改造の横行は本来の人類の生態系すらも歪めてしまった。
ならばと救いを求める弱者に手を伸ばす者はおらず、本来そうあるべき政の為政者たちまでもが利己的な益へと走る企業と結託し、平然と企業犯罪を生み出し続ける温床そのものと化していた。
「もうこの世界に、正義や平和を謳う者はどこにもいない」
仮にそんなことを声高に叫ぶ者がいたとしても、それは形だけの偽善者。力なき者たちを騙し、食い物にする良心無き悪魔でしかない。
故に、この世界はもう助からない。人類は熟れ過ぎた果実のように、ゆっくりと腐っていくほかにない。
「俺たちストライダーズが何をしたところで、結局は何も変わらないんだ」
見下ろす眼下の摩天楼。偽りの輝きと歪な繁栄の中で、今もどこかできっと名前も知らない誰かが死んでいることだろう。
そしてそれは十中八九、弱者。そう、飛燕が本来守りたかったはずの人々だ。
力なき者たちが、罪無き人々が、脅かされることなく安心して笑って暮らしていける世界。
そんな夢物語の楽園のような世界を、それでも理想と求めて今日まで彼はこの傍らの戦友と共に戦い続けてきた。
けれど……
「……なぁ、教えてくれ。俺たちは……俺たちに救えるものなんてあるんだろうか」
少なくとも、飛燕は今の自分にも、そしてこの世界にも、それを見出すことは出来ない。
個人が有するならば凡そ最高峰と言っていい戦闘技術を有する彼だが、だからと言って、それで何かが救えるとは思えない。
何故なら、自分の持つこれらの力は全て人殺しのための技だ。誰かを殺し、何かを壊すためだけにしか使えないもので、何かを救うなどということが出来るとは思えなかった。
仮に目の前に悪漢に食い物にされんとする弱者がいたとする。成程、確かに飛燕は武力を持ってそいつらの排除はしてやることが出来る。
しかし結局はそんなものはその場しのぎに過ぎない。その明日をも知れない弱者を、それ以上にどうすることも彼には出来ないのだ。
「それでも、そうした奴等を一人でも多く排除することで、罪無き人たちが一人でも多く明日を生きられればと信じていたさ」
けれど、それを信じて戦っても、この手を腐った人間どもの血で汚し続けたとしても。
「けれど減らないんだ。俺が悪を一人殺したところで、明日には新しい悪が二人も三人も増えている。どれだけ排除したって、次から次へとキリがない」
そう、根本的に病んだ、救いようのないような歪んだ人間が多すぎるのだ。
そして改善の余地の無い劣悪な環境が、昨日の善人を、やがて明日の悪人へと変えてしまう。
世界そのものが歪んでいるのだ。救いようの無い程に。滑稽と言っていいほどに。
堂々巡りのイタチごっこ。底に穴の開いた桶で井戸の水を掬い続けようとしているようなものだ。
飛燕には誰も救えない。この世界だって変えられない。
それは恐らく、ストライダーズも、そしてこの傍らの戦友も同じことだろう。
「……俺たちは、どうしてこの道を選んだのだろうか」
どうして、自分たちには何も救えないのだろうか。
どうして、自分たちは何かを変えることが出来ないのだろうか。
この歪んだ世界を。ゆっくりと腐りきっていくほかに未来の無い人類を、どうにかするだけの力も無い。
「なぁ――飛竜」
先程から沈黙を貫く、傍らで共に眼下の摩天楼を見下ろしている戦友へと問いかける。
もう信じることも出来なくなった、理想を追い続けるために戦う意義を見出せなくなった、そんな自分たちの存在そのものの意義を彼は尋ねたかった。
「俺たちストライダーズに……本当に存在意義はあるのか?」
その言葉に対し傍らの戦友は、ずっと摩天楼を見下ろしていたその視線を初めてこちらへと向けると共に――
『――ん! 飛燕ッ! 何をしている!? 応えろ!?』
耳元からがなり立てるように聞こえてくるその声に、まどろみの中でたゆたっていた飛燕の意識は、急速に覚醒を促された。
飛び跳ねるように身を起こせば、そこは自室のベッドの上。枕元に置いておいた通信機から、先程から引っ切り無しに見知った声が応答を呼びかけてきていた。
それに負けず劣らずで鳴り響いていたのは、非常事態を知らせる警報の音だった。
「東風か? 何があった?」
通信機を即座に取り上げると共に、通話越しの相手へと飛燕は現状を尋ねかけた。
『侵入者だ! この非常事態に何をやっている!? お前も早く迎撃に向かえ!』
居丈高に怒鳴りつけてくる相手の返答。それは予想通りの内容であり、そして指示だ。同じ“あのお方”に仕える者同士、彼女との間に上下関係は存在していないが、いつも彼女は自分に対しては他の者たち以上に言動が攻撃的で棘に満ちている。
それは彼自身の出自に関係があることなど周知の事実ではあるが、今はそれをとやかく言っている暇はなさそうだ。
同じ“あのお方”へと捧げる忠誠心と実力は互いに認めている。犬猿の仲であれ、最も重要なその部分にはお互いに異議を挟む余地はない。
無論、飛燕とてこの『第三の月の都』の守護を任されている者だ。“あのお方”の居城でもある此処に攻め入ってくる無謀な輩が何者であれ、それを迎撃することに否はない。
ただそれでも今の彼が気になることがあるとするならば……
「侵入者ということは……あの男か?」
敢えてその名を口に出さず留めてしまったのは、この期に及んでまだ尚捨てきれぬ、その相手に対する持て余した複雑な感情ゆえにか。
けれど問いかけるまでもなく、それ以外にいまいと思っていた飛燕の予想は、しかし呆気なく裏切られた。
『違う。時空管理局だ! 奴ら、大規模部隊でこの『第三の月の都』に奇襲を仕掛けてきた!』
現在は防衛システムと部隊が各所で迎撃を行っているというが、かなりの数の高ランク魔導師を相手側も投入しているらしく、各所で激戦が繰り広げられているらしい。
「……管理局が? 何故この時期に、それもそんな大部隊で侵攻を?」
言ってみればこの現状、こちらにして見れば戦争をふっかけられたに等しい。仮にも身の程知らずな次元世界の守護者を名乗り、“あのお方”に長年に渡って楯突いてきた最有力の敵対組織とはいえ、やり方が強引過ぎる。
それに何より……
「どうして奴らが、この『第三の月』の位置を特定出来たんだ?」
現在の『第三の月の都』は、“あのお方”の被造物たる世界の近辺、その次元の海の中に隠れるように停留中であったはずだ。
当然その正確な位置は厳重に秘匿し、情報とて外部に漏れるような下手は打たないよう管理は徹底としていたはずだ。
“あのお方”の命を狙うあの男に警戒し、取っていたはずのその措置の中で、どうして場違いな管理局に位置を掴まれ、奇襲を仕掛けられたというのだ。
解せない事態。この『第三の月の都』の内部情報に精通していればしているほど、怪訝と思わざるに得ない。
『そんなことは後回しだ! とにかく、今は奴等を殲滅するのが先だ。一人たりとも“あのお方”の元へは近づけさせるな!』
東風の言い分は正しく、この状況下では尤もな意見だ。それは飛燕とて言われるべきまでもないことだ。
これ以上の議論は時間の無駄。“あのお方”とその居城である此処を守るためにも、飛燕とて即座に出撃しなければならない。
「ソロは?」
『既に侵入者の排除に向かっている。私ももう出る。お前も急げ』
「了解」
手短に最後の確認の後にそう通信を終えながら、装備を整えた飛燕は部屋を飛び出す。
まだ中枢部までは敵も侵攻し切れてはいない。“あのお方”の玉座には絶対に近づけさせない以上、自分たちの手で波打ち際で抑える他にない。
「……所詮、こんな事の為にしか使えない力だ」
ならば磨き上げたこの力と技術、せめて理想の新世界への礎と振るうのが道理と言うもの。
その為に自分は、かつての居場所を……自らの半生を捧げていたあの古巣を切り捨てたのだから。
「……そうだ。誰にも邪魔はさせない」
俺の、そして“あのお方”が御創りになられる新世界を、その理想を。
それを守るためならば……ああ、幾らでも穢れてやろうじゃないか。
決意を新たに、飛燕は駆け出す。自らの存在意義を果たす為に。
幸か不幸か、あの男の襲撃を警戒し、今此処は平時でも常に万全の迎撃態勢を怠ってはいなかった。
あの男を相手に過剰とも思えるほど準備していた、迎撃のための兵装の全てが、管理局の連中に存分に叩き込めるはずだ。
「間が悪いと思いもしたが、どうやら不幸中の幸い――」
しかしそこで、唐突に何かに思い至ったように、飛燕は呟き漏れていたその言葉と駆け出していたその足を、ピタリと止める。
「……本当に、そうなのか?」
今、飛燕の脳裏を埋め尽くしているのは、言葉通りのその疑問であった。
本当に、この時期にこのタイミングで、よりにもよって管理局が攻め込んできたことは、本当に偶然なのだろうか。
そんな簡単に片付けるには、どうしても無視できない気持ちの悪いしこりが残る。
当然だろう。やはり幾らなんでも出来過ぎている。
この状況はまるで、お誂えのように、あの男にとっての好機そのものではないか。
絶対の支配者であり、常に堅牢の守りによって固められている“あのお方”の命を、それを取ろうとする絶好の好機など、本当にあるとするならば、この今の状況をおいて他にあるだろうか。
いいや、ありえない。そもそも予想もしていなかったイレギュラー。それ故に起こっている混乱であり、生じた隙なのだ。
偶然などという不確かなもので、そんなものが起こるとも思えない。
それに飛燕自身が、なまじあの男の事を知り尽くしているということもある。
あの男なら、そうどんなに無謀か知っていながらも、それでも今尚その愚行を続けているあの男ならば、これくらいの事は平然と考え、利用するために躊躇いも無く実行するだろう。
あの男にとって唯一と言っていい、頑として譲らぬ、その任務遂行という意志のためならば。
そうだとするならば――
「やはりお前も来ているのか――飛竜」
かつて、常に共にあり、命と背中を預け、戦場を共に駆けた戦友の名を。
その強さに憧れ、ずっと追い続けていた、誰よりも強いその男の名を。
複雑な心境で、どこか恐れるように飛燕は呟いていた。
ストライダーズと呼ばれる組織がある。
忍者を前身として生まれた諜報組織であり、そこに所属するエージェントはストライダーと呼ばれる。
特定の国家には属さないひとつの傭兵集団であり、かつては情報収集・破壊工作・暗殺、およそあらゆる地下工作のエキスパートを世界各地へと派遣していた。
……尤も、それすら今は既にかつての栄華に過ぎず、現在は組織そのものが壊滅状態であり、活動中のエージェントもまた一人を置いて他にはいない。
そしてその生き残りである唯一人のエージェントこそ――
「飛竜より本部へ。予定通り『第三の月の都』へと潜入した。これより任務を遂行する」
恐らくは、これが最後となるであろう事前報告。
既にそれを聞き届ける者は存在しない。当然だ、既にストライダーズは彼を除き壊滅してしまっているのだから。
故にこそ彼は一人、否、例え組織や仲間達が無事であろうが、常に任務を遂行する戦場においては彼は一人だ。
故に変わらない。変わることなどなければ、変わる必要もない。
今も昔も、きっとそしてこれからも、彼はただ一人で戦い続けることだろう。
それを孤独と取るか、或いは孤高と取るか。どちらでもいいし、彼自身そこに何一つの興味もない。
重要なのは、未だ自分の任務は続いており、そしてそれは必ず果たさなければならないということだけ。
鉄の任務遂行心。そこに揺らぎは欠片もありはしない。
彼はストライダーとして、これからも、そしていつかの最後までもそう在り続けることなのだろう。
故に、この境遇も、この状態もまた必然。
そしてこの任務を、自分が請け負うということもまた。
今にして思えば、ストライダーズで最後に残ったのが自分だというのもまた、必然なのだろうと彼は思う。
確信があった。己の生涯とは、その存在意義とは、今日これからのこの瞬間のためだけにあったということを。
どれ程周りがこの行いを、無謀・愚行と嘲ろうとも、そんなものは歯牙にもかけぬ、果たさなければならぬものが今の彼にはあったのだから。
そう、この任務は……この任務だけは、他の誰にも譲れない。否、そもそも果たすことは出来ない。
当然だろう、何故ならこの任務は既に、ずっとかつての“あの時”から、彼の任務だったのだから。
そう、他の誰でもない。この任務だけは――
――この任務だけは、ストライダー飛竜のものだ。
彼にとっての最大の、そして恐らくは最後となる任務。
その必然を、その運命を、もう一度、今度こそは果たしに行く。
ならば、今よりこの戦場を疾風と化して駆ける事に躊躇いがあるはずも無く。
奴の玉座に辿り着き、奴を狩ることに恐れを抱くはずも無い。
故に――
「ストライダー飛竜――グランドマスターの抹殺を開始する」
最後に聞く者も無いその意味なき宣言をしたのは、彼にしては珍しい単なる儀式。
後戻りも過ちも無い、完遂を当然のものとすることを示すための宣誓も同じ。
故にそれも終われば、後はない。
即座に戦場を駆け抜ける死の風と化した飛竜は、唯一人の標的だけを目指して遂に任務を開始した。
彼の名を飛竜。
本名・国籍共に不明。そのコードネーム以外の詳しい経歴を知る者は、本人を除けば、かつての戦友くらいだろう。
それでも未だ裏の世界に君臨するその雷名、畏怖と共に語り継がれる彼の伝説は、その意味を知る者からすれば、あまりにも重い。
野を駆ける孤高の青き獣。その爪牙が冥王の喉下に突き立てられたか否か、その真実が後の歴史に記されるかどうかは、まだ誰も知らない。
惑星包括制御センター。
ここが事実上の冥王の玉座であること、それは既に周知の事実である。
故に管理局の連中も、そしてあの男も。その目的地として目指す場所が間違いなくここであろうことはどんな馬鹿でも分かるというもの。
なればこそ、ならばそこに当然のように座する冥王自身は、それについて何を思うか。
「問題ない」
そう、問題ない。一切は些事に等しきと、そう切り捨てる。
何故なら彼は冥王グランドマスター。
古き神の遺物のことごとくを焼き払い、自らの生み出す被造物によって理想の新世界を創造する新しき神。
神は揺らがず、恐れず、侵せない。絶対の存在であるが故に、人間ごときが如何様に出来るような容易き存在であるはずがない。
「故に問題ない。例え何者であろうと、余を打ち倒すことなど出来はせん」
管理局だろうが、飛竜だろうが関係ない。
そのような卑賤の俗物が手に届かぬ遥か高み、天に神とは居ますものなのだから。
「ですが――」
「くどいぞ、飛燕。貴様ごとき斯様な存在が、余に諫言を口にすることを許されると思うな」
尚もと跪き食い下がる飛燕を、グランドマスターはその圧倒的なまでの傲岸なる言動とプレッシャーで黙らせる。
流石に主の逆鱗に触れかねないと悟ったのだろう。飛燕は押し黙り、続き紡ぎかけていた言葉を押し留める。
それは諦観と確信の表れ。自分が何を進言したところで、冥王はそれを聞き入れはしないのだというこの現状への。
「恐れることはない。貴様も余の創造する新世界を望むというのならば、余の指示に従っておればそれでいい」
全てを裁定し、進めていくのは神たる自分の役割だとグランドマスターは言い放つ。それはつまり、下僕に自由意志など認めてはいないという、その返答の表れですらあった。
だがそう言われ、決定付けられた以上、飛燕が口の挟める余地などもはや何処にもない。彼を主に、此処を居場所に、彼の創る新世界を理想としている飛燕にとって、今更にそれ以外は何一つ残されてはいない。
それを承知の上で、覚悟の上で、自分は全てを捨ててまで、彼の傘下へと下ったのだから。
「余を守る剣となると誓ったのならば、余が下す指示の通りにその刃を振るえばよい」
道具風情が主の意図に割り込もうなどおこがましい。
道具ならば道具らしく、その指示の通りに振るわれろ。
そしてその為に――
「行け、飛燕。奴等を討て。管理局も飛竜も、古き神の子どもはことごとく、余の『至福千年紀(ミレニアム)』には全て不要」
いずれは全ての星々を、宇宙を、次元世界の果てまで、遍く全てを自らの被造物で創りかえる為に焼き払う。
まずはその門出。愚かしくも冥王の慈悲も愛も解すこともなく、歯向かう愚物どもを粛清する。
それが目指すべき理想への道行きならば――
「――了解しました。全てはあなたの御心のままに」
そう答え、立ち上がると共に一礼を済ますと、飛燕はその冥王の玉座より退室すると共に、その主の下す下知の通りに任務を遂行すべく行動を開始した。
理想の新世界、それ以外にもはや信じられる道が無いというのなら――
「飛竜――俺はお前を斬り捨てでも、そこに辿り着いてみせる」
もう、絶望に戻るのは沢山だ。
自身が強くあれないというのなら、せめて強き者の傍らで、その者が見ている世界を共有する。
そこにならきっと、何がしかの希望があるはずだと、それを信じて……
『第三の月の都』。
冥王グランドマスターの誇る居城にして、次元間を航行可能な巨大要塞。
超技術の粋を結集した強大な軍事力を有する魔窟。
例え管理局の精鋭を集結させたとて、そう簡単に落とせる規模の難所ではない。
それは組織創立時より連綿と続くこの公然とした敵対関係に終止符が打たれていないことからも明らか。
「……要するに、文字通りの難攻不落、か」
これはまた厄介なものを相手にせねばならなくなったものだと、半ばウンザリとした態度も顕に八神はやては溜息を吐いていた。
この『第三の月』の攻略戦を上層部の要請に従い参加することになって数日。幾時間もかけて綿密に練りこんで備えに備えて実行に移ったはずの奇襲作戦が、当初の目論見通りほど上手く事態が進行していないことに、流石に不安と苛立ちも抱きかけていた。
……否、むしろ――
「……状況はこっちの方が拙くなっとるってか。たまらんなぁ」
各所より先程から引っ切り無しに報告が続いている部隊状況は、劣勢という言葉で済ますことすらむしろお世辞が必要となるだろう。
施設内の随所に配置されている防衛システム。加え冥王側の兵士が持つ重火器類の威力。
……加え、トドメのように施設全域を覆っているAMF。
「……流石あらゆる技術を掌握しとる魔人……有象無象の犯罪組織とは桁違いか」
実際、それはこれまでの歴史が証明していたものの、自分たちがまさか実体験としてそれを得られるなど……ハッキリ言ってありがた迷惑もいいところだった。
しかしそれでも愚痴ってはいられない。精鋭を結集させた大規模奇襲を行っておいて間違っても返り討ちの敗走などとなれば、自分の首が飛ぶ程度では済まされない。管理局史上の沽券にも関わる汚点になるのは間違いない。
はやてとしてもそんなものはゴメンだし、何より次元世界の守護者の看板を背負う自分たちが負けるわけにはいかないのは当然なので、ここで退くわけにもいかない。
二度とない冥王打倒の好機。自分たちは是が非でも勝たなければならないのだ。
「……せやけど、どうしたもんかなぁ」
「呑気に溜息吐いてる暇なんてないですよ、はやてちゃん!」
耳元でこちらを怒鳴りつけるかのように叫んでくるリインフォースUのその幼さを多分に含んだ声。
任務中はマイスターはやてと呼ぶと取り決めていたはずのそれが出来ていないのは、彼女もまた切羽詰っていることの証明か。
実際、リインは好きで必死に怒鳴っているわけではない。そうやって怒鳴るくらいの大声でなければ聴こえないからだ。
何せ現状、障害物を盾にしながらその物陰で敵からの迎撃の銃火を凌いでいた最中だったのだから。
いくら騎士甲冑を纏っていようと迂闊に今飛び出そうものなら穴開きチーズと化すのは確定だ。故にこそ、引っ込むように今は物陰から銃弾の嵐が止むのを待っている最中だったのだ。
八神はやて十九歳。生と死が隣り合わせの戦場の最前線にて一部隊の指揮を任されたうら若き乙女。
正直、この現状はやってられなかった。本気で泣いて頼んで帰っていいか交渉したくなるくらいにはウンザリしていた。
「白旗振ったら向こうさん、許してくれると思う?」
「はやてちゃん! 冗談言ってる場合じゃないですよ!」
場を和ませようと言ってみた言葉に不謹慎だというように怒鳴り返すリイン。見れば他の部下達もまたその様子は同様だった。
どうやら滑ったらしい……冗談が通じない堅い連中はどうにも付き合いづらいので苦手だ。少しはリラックスした方が生存率も上がるのではないかと思ったのだが。
しかしこの現状では仕方が無い。空気を読めてなかったのは自分の方かと自らの否を認めることにして頭を下げた。
(……けど次に作る新部隊は、もうちょっと親しみやすいものにしたいかなぁ)
この作戦の後、ミッドチルダで新たに自分が部隊長として設立される予定となっている新部隊。既に構成員の八割方の見積もりは終わっていたが、部隊運営における個人的な課題くらいには胸に留めておこうかと考えていた。
(……にしても、あとちょっとで始められるって矢先でこれとはなぁ)
運命というものは実にままならないもの……相変わらずにそれを実感せざるを得なかった。
設立予定日も間もなくとスケジュールや後ろ盾への根回しへと奔走していた最中でのこの奇襲作戦参加の要請だった。
デスクワークと交渉で鈍った体の復帰戦には流石にハード過ぎる。新部隊を前に実戦の中で指揮を任されることになったというのは良い経験とはなったが、しかし現状の危険度そのものがバカにならない。
リイン以外の他の皆とも部隊を分けられてしまった。戦力の均等な分布の足りぬ急造構成であるために仕方が無いとはいえ、ヴォルケンリッターも取り上げられて戦場のど真ん中に放り込まれるとは、自分は上層部から相当疎まれているのかもしれない。
我が身のことを棚に上げて親友と家族一同の身を心配しているあたり、やはり彼女が八神はやてたる所以ではあったことだろう。
(……皆、無事やろか)
ハッキリ言ってしまえばランクは下だが自分などよりも余程戦場慣れはしているであろう仲間達を心配したところで仕方が無かったかもしれないが、それでも気になるのは事実だった。
この刻々と劣勢が続く現状に、目の当たりにしている敵の強固な防衛網。歴戦の勇士たる仲間達であろうとやはり心配になる。
「……皆、死んだらあかんよ」
こんな予定外の作戦以上に、彼らにはこれからの新部隊で働いてもらわなければならないのだ。尚のことこんな所で死なれるのは困る。
そしてそれは彼らに限った話ではない。
八神はやては改めて自分が命を預かっている部下達の顔を見回した。この彼らもまた死なせるわけにはいかない。当然だ、他の誰でもなく自分が預かっている以上は。
だからこそ先の言葉は仲間達だけでなく、この場の部下達にも告げた言葉でもあったのだ。
……尤も、この先程から続いている喧しい銃撃の嵐で聴こえていないことであろうが。
まぁ聴かれたら聴かれたで照れ臭いのでそれも別にいいのだが……。
閑話休題。そろそろ現実逃避は終わりにして状況打開のための努力へと移ろう。
まずさし当たっては、そう、この追い詰められている現状の打破からになるが……
「――リイン、ユニゾンの準備や。私らでここを一気に突破して道を開くよ」
口に出し示したのは単純明快な力押し。芸が無い以上に無策で恐縮なのだが、部下達を前へ出しても死なせるだけなので仕方が無い。
甘いと言われようとも、敵味方問わずに犠牲は最小の方向で。常に心がける八神はやての戦場におけるルールでもあった。
「ええか、みんな? 今から私らで一発でかいのぶち込んで道を開く。その隙を突いてみんなはさっきの指示通りの班分けで各所制圧開始や。……出来るな?」
最後の確認のその問いに対し、後ろに控えていた部下達は、皆示し合わせたかのように律儀に揃って了解の頷きを返してくる。
はやてはそれに満足そうに微笑みながら、内心で改めて彼らを死なせてはならないと決意する。
そう、死なせない。絶対に命を預かる彼らは死なせはしない。
だから――
「ほな行くで、リイン!」
「了解ですっ! マイスターはやて!」
末っ子の精一杯の呼応にどこか微笑ましさすら感じながら、しかしはやては瞬時に思考を戦闘時のそれへと変えながら物陰を飛び出し、通路の中央へと到達。
同時、待ち構えるように放射される速射砲の嵐。その弾雨の全てを展開したシールドで防ぎながらユニゾンの完了した状態からの一撃を解き放つ。
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ!」
解き放つは古代ベルカ式砲撃魔法――フレースヴェルグ。
本来の用途では超長距離砲撃用の魔法ではあるが、はやてはそれを眼前の通路前方を目掛けて発射する。
瞬間、数十メートル先に群がる自動防御兵器たちが次々に巻き込まれ、破壊されていく。
それは文字通りの前面制圧を成し遂げる、殲滅の光景だった。
本来の使用用途の距離と比べれば、あまりにも近距離。故に爆風が肌を叩くように彼女が立っている地点にまで届きかねない状況だった。
しかし彼女の後方より機を伺い待機している魔導師たちにとっては、それは息を呑む圧巻の光景であったことに変わりない。
「ほら、もたもたしとったらあかん! 皆、今がチャンスやろ!」
しかしただ一人、この光景を生み出した本人である彼女だけが呆然としている部下達を叱咤するように、そう檄を飛ばす。
それを聞き、漸くに部下達も正気を取り戻したのか次々と心得た了解の声を上げながら、指示通りに隊を成し、行動に移るために飛び出していく。
とりあえず第一の露払いを完了したことを確認しながら、しかし部下達の指揮とフォローに動き始める八神はやての顔は重たいものだった。
(やっぱりAMFの縛りが思った以上に重い。……私らでこれって事は、やっぱり相当状況は不利やな)
リミッター等の縛りを受けているかのごとき魔力結合の不調。その直接の原因たるこの要塞内全域を覆っているアンチマギリングフィールドの存在に思わず舌打ちが漏れる。
そう、管理局中の高ランク魔導師を掻き集めて行われているはずの今回の総力戦。にも関わらず奇襲を仕掛けながらも逆にこちらの方が劣勢を展開させられている最大の理由。
それがこの要塞内部に展開されている強力なAMFだった。ただでさえこれが用いられた戦場においての戦闘経験が豊富な魔導師は少ない。そうであるにも関わらず、状況は否応なくそれを強いられる。
未知の状況下の戦いほど厳しく恐怖に感じるものはない。恐らく本作戦の参加魔導師の半数以上がそうであろうことを考えれば、これが如何に不味い状況かは明白だった。
「とりあえずは三班と四班でこの一帯を制圧。
二班は隣接ブロックの偵察と可能なら制圧を実行。
一斑はこのまま私と一緒に先へ進む。
ええな、皆! 無駄に命を投げ捨てるようなことは禁止! 全員でミッドへ帰るからな!」
各班への指示と共に告げる言葉に応えるように返ってくる鬨の声。
現状、唯一の救いとも言える志気の高さだけには内心で安堵しながら、はやては部下たちを率いて自ら侵攻を再開する。
出来うるならば早急にこのAMFを発生させている装置だけでも見つけ出して破壊したいと思いながら。
王手を決めるその肝心な役割を、親友達へと託した。
目指すは冥王の玉座、惑星包括制御センター。
突破口を開いてくれた仲間達の期待へと応えるために、自分たちは最短距離でそこに辿り着き、一刻も早く敵の首魁であるグランドマスターを捕らえなければならない。
遅延も失敗も許されない。必ず果たさなければならないその重大な使命を、己が覚悟へと変えて、フェイト・T・ハラオウンは目的地たる冥王の玉座へと向かっていた。
なのはやはやてや守護騎士たち、この作戦に自分と同じく参加し、今もこの施設の何処かで戦っている十年来の仲間達を心配していないかといえば嘘になる。
楽観視は出来ない。予想以上に戦況がこちらの不利に傾いているその現状が存在している以上、それは当たり前だ。
けれどだからこそ、自分は急がなければならない。最速で、目的を果たして、一秒でも早く仲間達を勝利へと導かなければならない。
なのはたちだけの為ではない。それはここに至るまで、突破口を開くために命懸けで奮闘してくれている多くの仲間達のためにも、それは尚更だった。
故に――
――フェイトは止まらない。止まることなく駆け抜ける。
それは随伴している同じ部隊の仲間たちの目から見てすら、目を見張る程に凄まじい戦いぶりだった。
誰よりも速く、前へと出て、立ち塞がる障害を次々と切り伏せて突き進むフェイトの速さに、同行者達ですら誰一人追いつけない。
雷光の如き速度で戦場を駆け抜ける金色の死神。
それは圧倒的な畏怖するまでの強さと同時に、一種の芸術とも呼べるほどの美しさがあった。
誰もがその姿に、その戦いに、驚愕と恐れと同時に、魅せられていた。
言葉すら失う。目ではとても捉えられるような速度ではない動きだが、それでも目を離すことが出来ない。
端的に言ってしまえば、呼吸すらも忘れるほどに、彼女のその戦う姿は――美しかった。
それは正直に、対峙すべき敵でありながらも彼――飛燕すらもそう思えるほどに。
「――そこまでだ」
出来うるならば、その戦いぶりから分かる相手のその実力からしてもそうだが、こんな可憐な少女を相手に命のやり取りを進んでしたいという気持ちになれなかったのは事実だ。
しかしそれでも主から下されたその命がある以上、飛燕とてこの『第三の月』内部で、これ以上相手の狼藉を許すわけにもいかなかった。
だからこそ、最初の警告は言うならば彼が最後に相手へと抱いた慈悲も同じ。
気配すらも悟られることなき完璧な隠行で、高速で動き回る彼女へと追いつき背後を取った飛燕は、相手が振り返るよりもその先に、自身の唯一の得物であるサイファーを彼女目掛けて叩き込む。
二本一対のブーメラン状のプラズマ剣は、狙い違うこともない高速でフェイトへと向かって勢いよく迫る。
ベルカ随一の剣士たるシグナムと互角に剣を交し合える実力と、卓越した高機動型魔導師としての身体に叩き込んで鍛え上げてきた反射神経がなければ、フェイトの運命はそれに呆気なく切り裂かれることで終わってしまっていたことだろう。
咄嗟に無理矢理に振り返り、反射的に盾の様に前に出したバルディッシュで受け止めることで、フェイトはその奇襲に事なきを得た。
だが相手が超人的な身体能力をもって投げ放ってきた一撃であったというのも事実、膂力負けしたフェイトはそのまま弾き飛ばされるように地面へと叩きつけられる。
衝撃と痛みを無視しながら、素早く起き上がったフェイトは、しかし驚愕を禁じえなかったのも事実だ。
当然だろう、先の奇襲、もし相手があんな警告を告げてくることもなく攻撃してきていたならば、今頃自分はああして気づいて反応する前に、胴から切り裂かれていたかもしれないのだ。
(……この人、強い)
隙なく身構え対峙しながら、フェイトはそれを確信した。
相手がこれまでに類を見ない掛け値なしの強敵であり、そしてその実力が自分と勝るとも劣らぬほどに優れているであろうということも。
流石に冥王の居城。実力からしても恐らくは腹心クラスの部下なのだろうが、予想と覚悟があったとはいえ、よりにもよってこのタイミングで、しかも自分と巡り合うとは。
極めて好ましくない……言ってみれば悪い状況だ。
当たり前だ。雑兵を相手に無双をするのとは訳が違う。マトモにぶつかれば、無論負けるつもりは無かろうとも、強敵である以上、消耗は避けられない。
あくまでもフェイトの目的は敵の首魁であるグランドマスターだ。かの冥王は生命を自在に生み出し、それだけでなく自身もまた莫大な力を有すると聞き及んでいる。
おいそれと雑兵が討てるような容易い相手ではないはずなのだ。
だからこそ、そのキングを討ち取るエースとして、最速の機動力を誇るフェイトが選ばれたのである。
そうだというのに、ここでエース同士で無駄にぶつかり、キングに辿り着く前に消耗してしまっては、この突破口を開くために尽力してくれた仲間達の働きの意味がなくなる。
更に言えば不味いのはそれだけではない。相手と拮抗した実力である以上、戦いを始めればそう易々とは決着を着かせてくれそうにないのは明らかだ。
こうまで各所で劣勢が続き、長期戦を避けるべき状態である以上、ここでフェイトが戦いを長引かせて足止めを食うわけにはいかないのだ。
故に歯噛みする。沸き立つ焦燥は即座にベストと思える回避案を閃いてはくれない。
そして何より、相手である飛燕がそもそもそんな暇を許さない。
こうなる状況を忌避しながらも、結果的に対峙によって膠着が生まれかける。
それが分かっているのだろう、何とか打つ手を探すべくフェイトは焦った。
それはこの状況においては、致命的ともいえる眼前に対峙する相手へと向ける集中力を欠いてしまった隙となる。
僅かほんの一瞬、されど飛燕はその隙を決して見逃しはしなかった。
故に先手を取ったのは飛燕。反応が遅れたフェイトの始動よりも速く、彼は躊躇いもせずに一跳びで彼女の頭上を越えると同時に、サイファーをその背後の彼女の仲間達へと向かって投擲する。
高速で飛来するプラズマ剣の速度は、或いは銃弾すらも凌駕する速度だった。
警戒はしていたとはいえ、まさかフェイトを飛び越えて自分たちを狙ってくるとは予想していなかったのだろう。彼らは咄嗟の回避が間に合わない。
高出力を有するプラズマの刃は、彼らの防御すらも物ともせぬままにその身を引き裂く。
まずは二刀で二人、上半身と下半身で泣き別れとされ絶命。
プラズマによって切り裂かれた切り口が傷口を即座に焼いたのか、結果的に派手な血の雨が降らなかったのは、或いは幸か不幸か。
どちらにしろ、そんなことは今牙を剥かれている彼らにとっては意味の無いことだ。
そのまま飛燕は止まらない。初手の奇襲の成功すら彼にとっては当たり前のことに過ぎず、そのまま着地と同時に立ち止まることなく、疾走し、固まっている彼らの中へと飛び込むように詰め寄った。
フェイトが散開を呼びかけるよりも速く、彼らが自主的にそれを試みようとするよりも速く、駆け抜ける飛燕の動きの方が遥かに速い。
手元に戻ってきたサイファーをキャッチすると同時に、それを振るい次々と飛燕はフェイトの仲間達を切り伏せていく。
超人的な身体能力と技能、的確な動きと立ち位置は彼らに逃走も反撃も、どちらの選択すらも選ばせない。
首が、胴が、手が、足が、次々と斬り飛ばされて宙へと待っていく。
なまじ不幸だったのは、強力なAMFの縛り、そしてこの部隊にもう一人くらい、例えばシグナムのような、フェイトに匹敵するだけの実力者がいなかったということだろう。
それは本当に瞬く間、例えるならば閃光。
文字通りにそんな速度で仲間を助けるべく駆けつけた彼女の動きがそうならば、その彼女の目の前で無情にも最後の一人の首を切り飛ばした飛燕の動きもそうだったのだろう。
「後は、お前一人だ」
難なく自分を除く仲間達をあっさりと全滅させた飛燕のその声が、虐殺された仲間の死の現実に未だついていけないフェイトの耳には、遠く聞こえていた。
フェイト・T・ハラオウンがそうして強敵との遭遇を果たしていたのと同時期。
期せずして先行隊として後続のための露払いを行っていた高町なのはもまた、新たな障害に立ち塞がられていた。
進行方向上の様子を索敵するサーチャーを飛ばしながら、罠や待ち伏せの類を一つずつ確実に無力化しながら進んでいた彼女の部隊。
「目標を発見。これより抹殺(デリート)を開始する」
そんな彼女たちの部隊の不意を突くように奇襲を仕掛けてきたのは、この『第三の月の都』においても飛燕や東風に並ぶ実力者。
暗殺者ソロ。かつて裏の世界で名を馳せた殺し屋が直々に率いるその部隊が、なのはたちに奇襲を仕掛けてきた。
なのはとて決して油断をしていたわけでもない。周囲にもサーチャーを飛ばし、敵の存在の有無を確認することを怠ってはいなかった。
しかしながら、どういう技術を用いているのか、こちらの索敵を誤魔化すように接近され、不意打ちを仕掛けられれば即座の対応に後れを取るのは止むを得ない。
実際、それはまったくの不意打ちだった。突如進行中の通路の壁から飛び出すように迫り来たのは削岩に用いるかのような無数のドリル。
トラップと判断し、即座に迎撃し破壊しようと行動に移ったその隙を突くように、死角から飛び出してきたのがソロ率いる奇襲部隊である。
咄嗟にトラップの対応、そして待ち伏せていた部隊への対応、どちらに対処すれば良いのか判断できなかった者たちからまず犠牲となっていった。
あるいはトラップのドリルを躱すのに遅れて貫かれて、あるいはトラップを防いだ直後の隙を突くように敵に撃たれて倒れていく仲間達。
なのはのようにトラップと敵、どちらも器用に同時に相手取れるほどの技術や経験を用いていない者が部隊には多かったというのもある。
だがそれ以上に、なのはが怒りを抱いたのは仲間達を咄嗟に自らの手で守ってやれなかったという不甲斐なさであった。
「皆、一度撤退して態勢を立て直――」
「――遅い」
なのはの部隊全体へと呼びかける指示を遮る様に、銃火をばら撒きながら迫り来る敵たちには容赦も何もない。
辛うじて即死を逃れ、負傷した仲間を庇うように戦う者たち。それをまるで残党狩りのように今度は徹底として狙ってくる敵部隊。
させじと奮闘するなのはではあったが、敵部隊の練度とAMFの縛りの重さが合わさり、思うように仲間達を守りきれない。
眼前の光景は彼女にとって、自身が弾丸を喰らう以上にダメージを受けそうな悲惨な光景であった。
だからこそ――
「――レイジングハート! エクシード――ドライブ!」
『―――Ignition.』
形振り構っていられる場合ではない。出し惜しみが許される状況でもない。
故にこそエクシードモードを解放したなのはは、仲間達を守るために飛び出し、彼らを庇うように前へと出て、敵の攻撃を防ごうとする。
そこへまるで示し合わすかのように、敵部隊総員の銃火がなのはを目掛けて発射される。
躱すわけにはいかなかった。後ろにはまだ負傷した仲間達が残っている。
だからこそ、なのはが選ばざるを得なかった行動は、その場に留まって敵の正射を防ぐこと。
銃弾乱舞する嵐の直撃。それは屈指の重層型魔導師たる高町なのはの防御を以てしても、決して容易に耐え凌げるものではなかった。
実際、貫通こそなかろうとも展開したプロテクションすら叩き壊すように迫り来る銃火の嵐はなのはの総身を叩き伏せるように打ちのめす。
痛いのには慣れている。しかし気合だけで乗り切るにしてもそれは気が遠くなりそうなほどの衝撃と激痛だった。
しかしそれでも、
「……絶対っ、ここから後ろには……ッ……通さないッ!」
彼らを守る最後の砦を体現するかのように、なのははその迫り来る猛攻に耐えるように、その場から一歩たりとも動こうとはしなかった。
不退転の不屈たる意地。それを卑劣な襲撃者たちへと示すように……
一方、その頃。
八神はやて率いる部隊もまた、要塞内部の重要区画への侵入を果たしていた。
……尤も、
「探してたんはAMFの解除装置の方やったんやけどなぁ……」
しかし彼女が期待を外したかのような溜息をつきながら見つめる先に存在したのは、重力制御室のマークである。
そう後続への露払いも兼ねた進撃を続けていた彼女たちの部隊は、並み居る防御機構の数々を打ち払いながら、進み続けた先で此処に辿り着いてしまったのだ。
重力制御室。この『第三の月の都』の間違いなく心臓部へと該当する区画。要塞内部の重力の制御並びに、この要塞が次元空間内を航行する力場を発生している動力炉である。
当然、最重要区画であるのは間違いなく、ここの制御室を破壊されれば『第三の月』はただでは済まぬ重大な損害を受けることだろう。
「……って言うても、此処を今壊してもたら私らも纏めて終わってしまうわけやから」
実際は、手出しは出来ない。否、するわけにはいかなかった。
動力炉も兼ねている此処を破壊してしまえば、制御を失ったこの要塞は確実に虚数空間の海の中へと沈んでしまう。
そうなれば、何人たりとも生きて帰る事は不可能となってしまう。
撤退命令を発して、即座に引き上げる準備を整った段階で破壊するならば別ではあるが、しかし現状、激しい乱戦が要塞内全域で続いている最中であり、そのようなことが出来る余裕もない。
それに自分たちの撤退に関してもそうではあるが、それ以上にはやてが気にかけていたのは敵側のことでもあった。
大部分は高度な機械任せの防衛網だが、それでも少なからずの冥王傘下の兵士たちがこの『第三の月』に存在しているのは事実だ。
唐突に此処を破壊してしまえば、自分たちだけでなくそんな彼らも脱出が間に合わずに死なせてしまうことになる。
それは駄目だ。それでは単なる殺戮である。そんなものは管理局のする戦いではない。
人道的にも倫理的にも、そして何より八神はやてが八神はやてとして許されぬ方法である。だからこそ、彼女は戦局を左右するこの場を破壊するわけにはいかなかった。
だがそうかと言ってこのまま此処を放置するという手もない。少なくとも破壊の可不可に関係なく、この場が重要な意味合いを持つ場である事実自体は揺るがないのだ。
少なくとも、此処の破壊は両陣営共に避けねばならぬことであり、翻ればこの近辺では火力に物を言わせた武力行使が出来ないのは事実だ。
この場を占拠し立て篭もる……交渉の切り札として使うならば絶好の場所であることに間違いはないのだ。
「……痩せた考えはあんま好きちゃうけど」
戦法そのものとしては、それは個人的にはやてが好むものではない。だが戦の趨勢そのものを左右しかねない事柄である以上は、個人の好悪など挟む余地がないことくらいは弁えてもいる。
あくまでも作戦の最優先は冥王の打倒だ。そこは彼女も疑問の余地もないことだが、個人的な追加目標として全員で生きて帰ると定めているだけ。
その目的を果たすためならば、自分はこの機会を最大限に有効活用する責務もまたあった。
だからこそ、善は急げと作戦本部へと拠点制圧完了の報告を念話で飛ばそうとした、まさにその瞬間だった。
突如として、その刺客が強襲をしかけてきたのは――
最初にその襲撃に気づいたのは、副官として控えさせていた部下が唐突に横殴りに吹き飛ばされた時だった。
つまり、気づいた時点で致命的に八神はやては対応するには手遅れの状態だったのだ。
「――え?」
自身の口からそんな間の抜けた言葉が出ようとしたその直後。
突き刺さるように腹部へと発生する激痛。
それが鳩尾にもろに叩き込まれた相手の蹴撃であることに、弾き飛ばされてから彼女は気づいた。
受身だとかそんな行為はなす術もなく、そのまま勢い良くはやては思い切り壁に叩きつけられる。
……痛い。だがそれ以上に圧倒的に込み上げてくる吐き気。
そのまま盛大に嘔吐し、床に胃の内容物をぶちまけてしまい衝動を、御年十九歳という乙女の意地が無理矢理に拒絶する。
本当のことを言えば、無理をせず吐いた方が楽だし賢いのだが、それをやると女として終わってしまうのが分かっていたのではやてには出来なかった。
まぁそんな彼女の乙女の事情は置いておくとして……ここで漸くにはやては何があったのかを蹴り飛ばされた先へと視線を戻しながら確認する。
「フン、まだ意識があるか」
しぶとい奴めと言う様に鼻を鳴らしてこちらを居丈高に見下ろしているのは、自分とそう歳も変わらぬくらいであろう若い女性だ。
コスプレみたいなカンフースタイル……相手の姿に咄嗟にそんなことをはやては思ったが、しかし一目で実感できた相手の実力が伊達や酔狂でそんな姿をしているわけではないことを嫌でも理解させた。
「……ウチんとこの、部下は……?」
言葉一つ紡ぎだすだけで吐きそうになったが、意地でそれに耐えながら彼女にとって最優先である事柄を相手へと尋ねる。
はやてが睨むように気概を見せてまだ言葉を発せることに、女は意外だとでも言うような顔つきを一瞬見せるも、直ぐにそれは身の程知らずで生意気なものだと言わんばかりに置き換えられる。
どうでもいいがストレートに感情を顕にし、よく表情が変化する相手だなとはやては思った。
「さぁな。外に転がっている雑魚どものことを言っているのか?」
支援
返ってきたのは侮蔑と嘲笑。そしてその言葉から部屋の外に守備と待機につかせていた部下達がやられたことを理解する。
「……殺したんか?」
だとするならば絶対に許さない。そう示すように自身で可能な精一杯のドスの効いた言葉で再度尋ねる。
だが女はそんなはやての態度を粋がっているだけと取っているのだろう、まったく恐れるどころかむしろ蔑みの感情をより増してみせるだけだった。
「仮に生きていても直ぐに殺してやるさ。安心しろ、お前を含めて全員、不埒なハイエナどもはここから生きては帰さん」
悪党としか思えない皆殺し宣言を平然としてくる女。確かに悪党には変わりないので、ここまでやってくれればむしろ感心もするが、しかし生憎とその言葉には大人しく従えない。
「殺されるつもりはないし、あんたなんかに私の部下を殺させるつもりもない」
そう言いながら、シュベルトクロイツを杖代わりに八神はやては立ち上がる。
チラリと視線を一瞬向けたのは、自分と同様に女の不意打ちを受けて吹き飛ばされた部下。
意識を失っているのだろう。ピクリとも動かず立ち上がれる気配もない。最悪、死んでいるかもしれないという予感を抱くも、それはさせないと絶対に誓いながら魔導杖を構え直す。
今は即行で、この眼前の脅威たる女を無力化しなければ。
「一応訊いとくけど、投降の意思は?」
「身の程知らずが」
聞いているのかいないのか、こちらの問いに返答とも思えぬような暴言を吐き出しながら、舌打ちと共に女は構えを取る。
拳法の種類や流派などはやてには分からなければ興味もない。ただ相手が馬鹿みたいに強いのだろうということだけはウンザリと内心で溜め息を吐きながらも理解する。
(チャンスは一度きり。この間合いやと一発外せば次のターンはこっちに回ってこんやろな)
それが理解できていたからこそ、はやては自身の手持ちの魔法から何を相手に使えばいいか、その選択を高速で思案する。
(バリアジャケットの類は無さそうとはいえ、軽装やからこそ素早いのは確実やろし)
事実、先程の不意打ちでそれは証明されている。
ならば小手先の技では、それこそあっさりと躱されかねない。
(理想は空間ごと巻き込むような面制圧。これなら相手は回避できへん)
使用可能な魔法の中にはその類の魔法は確かにある。
しかしとはやてはチラリとその視線を一瞬だけ相手から外し、倒れている部下。そして奥の動力炉へと向ける。
(……幾ら非殺傷とはいえ、重傷やろう彼を巻き込むんは不味い。それに加えて動力炉に下手に干渉してもて事故でも起こったらそれこそ論外や)
最悪の場合、自分のこれから放つ魔法が、大惨事への引き金となりかねない。
はやてはこの時ほど、火力に対して小手先が追いついてない自身の腕を呪った。良くも悪くも大味な彼女に、細かい狙い撃ちだとかそんな精密性は畑違いなのだ。
流石にはやても自身の命惜しさに大虐殺者の称号を得るかもしれない選択を選ぶ度胸もない。そもそも人死にを起こすこと自体が許容できない。
かといってここで下手を打ってもし負ければ、自分だけでなく部下達も確実に殺される。部隊員の命を預かる者としてそれは本末転倒もいいところだ。
(……ああ、やばい。ギャンブルは嫌いちゃうけど、流石にこんな重すぎる命懸けのはしたないわ)
他者の命を自分が否応なく左右する状況。初めてではないが、だからと言って初めてでないからといって慣れているわけでも、躊躇わないわけでもない。
むしろ迷っていた。この場合、自分は何を選べばいい。この状況でどうやったら最善を導き出される。
味方どころか敵さえもその命を危ぶむ致命的に甘く、そして優しい葛藤。
しかしそうこうしている内にもそもそも相手側がそれを待ってくれなどしない。
動かぬこちらをどう見積もったのか、相手は遂にこちらを先んじて凄まじい速度で間合いを詰めるべく向かってくる。
はやては焦る。そして迷う。
命の選択に正確な判断が追いつかない。
そして――
「くぅ――――ッ!」
咄嗟に舌打ちでも吐くように眉を顰めながら選んだのは、ブラッディダガー。
散々通じないと予想していたはずの小手先の技。
それでもはやては、大技を選べなかった。確実に勝てたとしても、その結果として高い確率で誰かが死んでしまうかもしれない。
その結果を、未来を厭い、そして恐れた。
それはある種の優しさではあったが、同時に致命的なまでに甘い――逃げの選択。
そして分水嶺の勝負において、腰の引けた逃げの姿勢で勝利を掴むことが出来ないのは必然。
ならばこの結果もまた、当然のものなのだろう。
腹部へと叩き込まれる激痛。
相手の拳がめり込んできたということにはやては呼吸すら出来ず、九の字へと折れ曲がる。
激痛と共に感じるのは熱さと痺れ。
成程こういうカラクリだったのかと、騎士甲冑を纏っているはずの自分にどうして無手の打撃が効いているのかを嬉しくもなく理解する。
彼女――グランドマスターの腹心たる東風が振るう拳法は、強力なプラズマを纏っているのだ。
それがバリアジャケットの防護を焼き、拳をこの身へと貫通させているのだ。
迎撃のブラッディダガーのことごとくを躱し、その間合いにはやてを遂には捉えた東風。
無論、こうなってしまえばここから先にはやての反撃の機会など回ってはこない。
それを証明するように、次々と繰り出されてくる打撃をはやては全身にて受けることになる。
(……こっちは喧嘩弱いってのに、少しは手加減とかせえっての!)
内心で吐き出す罵倒は事実であれ、しかし相手がそれを知る由もなければ知ったところでその意図を汲み取るつもりとて勿論ないだろう。
為す術もなくフルボッコにされて弾き飛ばされる。しかし逃がす気もないというように瞬時に間合いを詰められ、また攻撃が再開される。
そもそも最初からこの状況に陥っていた時点で、はやてには勝機など残されていなかった。
いくら単体火力において最強を誇る夜天の王といえど、オプションたる守護騎士もなしに戦場でその真価を発揮できるはずがない。
ましてや本人が告げる通り、彼女は下手をすればちゃんと訓練した新人陸士にだって負けかねないほど、単体での近接戦は致命的に不得手だ。
ならばどう足掻こうが、もはやご都合主義の救援も為しに、ここから自力で逆転など出来るはずもない。
……そう、できるはずもないのだ。
だがそれでも――
不意に眼前に横薙ぎに走った一閃。
しかし東風はそれをあらかじめ見切っていたのか、余裕の動作で難なく跳び躱してみせる。
しかし数歩の間が空きながら、相手を見据えて先のソレが何であったのかを理解する。
「この後に及んで、まだ見苦しい悪足掻きか?」
「……うっさい……黙れ……」
語気も出来るだけ強く言い返すも、しかしそれが張子の虎も同然の強がりであることは八神はやて自身が理解していた。
しかしそれでも、はやては振り切ったシュベルトクロイツをしっかりと手元に引き戻して身構えながら相手を睨みつける。
「そんな粗末な杖一本で、稚拙な技量で私と殴り合う気か」
「……世の中にはな……剣道三倍段……って言葉もあるんや」
ぜいぜいと荒い息で、致命的に苦しい強がりは承知の上で、それでもはやては自ら示すその気概を衰えさせはしない。
それは確かに血迷っていると相手に笑われても仕方のない暴挙ではあっただろう。
これ程の達人と言っていい技量の相手に、ド素人の自分が杖一本で接近戦を挑もうなどということは。
無論、言われるまでもなく勝てるわけがない。剣道三倍段?……ああ、確かにそんな言葉はあるが、そもそも自分と相手のこの開きは三倍程度では済まないだろう。
恐らく、否、確実に一発当てるどころか掠らせることも出来ず、先に殴殺されるのがオチだろう。
……だが、それがどうした?
「……何や、ビビッとんか?……どうした、ほれ、かかって来いや……!」
寿命を縮めるだけの下手な挑発。それが分かっていても敢えてはやてはそれを相手に対して口にした。
まだ負けていないと、絶対に屈してはやらないとその意地を示すように。
見苦しい? 悪足掻き? ああ、上等だ。
「……こっちは、さっさと可愛い部下たちをミッドに帰してやらなあかんのや。いつまでも姉ちゃん相手に手間取っとるわけにはいかん」
死なせない。生きて帰すと決めたのだ。
部下を、仲間達を、絶対に自分が守ると決めたのだ。
ならばこんな所で簡単に諦めて、趣味でもない御免極まる殺され方を受け入れることなど出来るはずがない。
要するに、八神はやてはまだ何一つ諦めてなどいなかったのだ。
「……雑魚が。調子に乗るな」
その態度が心底気に入らないとでも言うように、東風は不快気にその眉を顰める。
そしてこれ以上調子付かせないとでも示すように、先程以上に明らかな殺気の篭った構えへと移行する。
どうやら本気でこっちを殺すつもりになったらしい。
(……理想は頭に血が昇った相手に、綺麗に見事なカウンターを入れて逆転K.O.やけど)
無論、世の中そんなに甘くはないことは分かっている。自分の技量でそれが出来るというのなら、明日から間違いなく道場だって開いてもいいくらいだ。
故に万が一にもそんな可能性はありなどしない。
ならばどうする……?
(……最後の神頼み、ご都合主義のラッキーパンチに賭けるしかないか)
それこそ物語なら莫大な主人公補正を必要とする最終手段も同然の荒業。
ましてやこれは現実である。それこそ万が一、否、億が一にも勝負の世界でそんなものが発生する確率は零に等しい。
(……けど、完全な零やない)
万が一だろうが億が一だろうが、上等だ。
どの道このままでは何もしなければ確実に殺される。自分だけではない。この場にいる部下全員が、だ。
生憎と生きている内に命を捨てるような真似だけは絶対にしないと、はやては“彼女”に誓っているのだ。
ならばこの選択には是非などない。
(上等や。こうなったらとことんギャンブルでいったろうやないか)
指揮官としては致命的に失格な思考だったが、そんなものを今は気にしてなどいられない。
故にこそ――
「――死ね」
「阿呆、こんな所で誰も死なせるか」
まさに疾風と化して迫る最中の相手の殺人宣告に、はやては吐き捨てるようにそう言い返しながらシュベルトクロイツを振るう。
心中にているかどうかも分からぬ神に祈る。海鳴に帰った時には神社の賽銭に給料一ヶ月分を入れていいとさえ思う。
見苦しいのも意地汚いのも承知の上。それでもいいから――
(お願いや! 私にチャンスを――)
そう願いながら相手にこの杖が有効打として決まって欲しいと、そう願うも……
しかし、現実は非情である。
一瞬後にはやてに知覚できた感覚は、振るった杖が何も捉えられずに空を切ったということ。
そして同時、あらん限りの威力を持って胸元にぶち込まれた相手の蹴撃の感触。
これまで意地になって堪えてきたはやてだが、流石に今回ばかりは口元より喀血を押さえきれずに吐き出す。
それだけではない。相手の攻撃にその場で踏ん張ることも出来るはずがなくそのまま壁まで蹴り飛ばされる。
しかも凄まじい威力と勢いはなお衰えず、直撃した壁からも今度は反動で前方へと弾かれる始末。
そして待ち構えていたのは、トドメと振り下ろすための踵を上げて身構える東風の姿。
……流石に死んだか、と一瞬後にあれを喰らって絶命する未来を八神はやてもまた否応なく思い知らされかけ――
――正に、その時だった。
風が疾った。
それは何ものよりも鋭利で強靭な、そして無慈悲なまでに確固としたもの。
死神になり代わり、死を運ぶ風だった。
一閃。その光刃がそれこそ一瞬、空間に線でも引くような残影を描いたと思った瞬間だった。
はやての目の前で、間の抜けたようにそれが飛ばされて宙を舞った。
呆然とはやては反射的にそれを目で追っていた。
それは足。今まで散々に、何度も何度も乙女の自分を蹴飛ばし続けてくれていた憎らしい足。
眼前の敵――東風が、丁度トドメと自分にぶちかまそうと振り上げていたその足だった。
それが切断されて宙を舞う。一瞬、自身の足が斬り飛ばされたことにも気づかなかったのだろう、東風もまた、はやてと共にまるで信じられぬように宙を舞うそれを、一緒になって目で追っていた。
しかしそれも僅か一瞬のこと。当然だろう。足を切断されたその痛みが、漸くに遅れて彼女の脳へと届いたのだ、そんなことをしている暇はない。
絶叫が室内に響き渡る。切断された足の部分を抱えるように転げ回り、苦痛にのた打ち回る東風のその姿。
当然、足を斬り飛ばされるなどという経験の無いはやてには、それがどれ程の激痛かは分からないが……むしろ、それはきっと想像したくもないものなのだろう。
それこそ常人ならショック死はほぼ確定。激痛にのた打ち回りながら、それでも生きている彼女は大したものだと正直に思う。
そして本来ならば足を飛ばされれば発生するはずの大出血。普通ならそれによる失血死で命を失っていたのもおかしくはないのだが、生憎と彼女にはそれすら許されなかった。
何故なら彼女のその足の切断面は、既に焼き焦げて出血そのものを強制的に止めていたからだ。それは振るわれた得物の特性ゆえに他ならない。
光剣サイファー。
ストライダーズの中でも最高峰のランクたる特A級。その中ですらごく一部の者しか扱えないほどに高い技量を必要とされる、最強の白兵用兵装。
それによって切り裂かれた以上は、マトモに済む筈もない。プラズマは何ものも例外なく切り裂き、その傷口そのものを焼いてしまうのだ。
後から振り返っても、それはえげつのない武器だったと、八神はやては正直に述懐する。
言いようにこちらをボコボコに蹴り飛ばしてくれたとはいえ、それでもこれは気の毒以前にやり過ぎだ。
殺す気でやったのか、とその下手人に思わず怒鳴りつけたかったはずだ。
……尤も、当人からすればそれこそが愚問だと、歯牙にもかけずに切り捨てたのだろうが。
「喧しい。喚くな」
自分でそれだけのことをなしておきながら、のた打ち回る東風へとその相手が吐き捨てるように告げたのは、冷酷そのものとすら思えるそんな短い一言だった。
「ス……ッ……スト……ッ……ライダァァァ………ッ!」
足を斬り飛ばされ、地面にのた打ち回る東風が、それでも最後の意地のように涙と汗とその他もろもろの、激痛と屈辱と怒りに満ちた表情で、その相手を見上げながら言葉を発する。
そこにいる相手――それこそ見たままの忍者そのままのような格好をした、はやてとそう年齢も大差ない青年は、しかしそんな東風の怨嗟に満ちた態度すら何ら歯牙にもかけはしなかった。
度胸が据わっているのか、それこそ本当にこれくらいのこと何とも思っていないのか、はやてには正直その判別がつかない。
鉄のような無反応の無表情。その青年は既に東風など見てはいなかった。
恐らくは、不意打ちで彼女の足を飛ばしたのも、決して殺されようとしていた八神はやてを助けようとしてしたわけではあるまい。
事実、それがありありと分かるくらいに、結果的に助けたことになったであろうはやてにすら一瞥さえくれずに、そのまま真っ直ぐに奥へ――重力制御室へと向かっていく。
はやてはハッと正気に戻ると共に、とにかく青年を呼び止めようと口を開こうとしたその瞬間だった。
「阿呆……がっ! あのお方に……ッ……まだ逆らい続ける……ッ……つもりかッ!?
貴様などに……ッ……あのお方は……決して、斃せんッ!」
先んじて、東風がそんな嘲笑も顕にその背中へと向かって叫びかける。
そんな気力がまだ残っているのかと、それこそはやてが驚いたほどだった。
「世界は……あのお方の……ッ……ものだッ!
あのお方に逆らった……ッ、貴様……などに……ッ……未来はない!」
まるで断言するとでも言うように。後悔しろと言わんばかりに。
青年の背に向かい、嘲笑と罵倒をまるで妄執するかのように続ける東風。
怨嗟の篭るその挑発の数々は、正直まるで関係ないはやてですら聞いていて思わずにゾッとしたほど。
この女がそれほどまでにグランドマスターに畏怖し、そして忠誠を誓っているのだということが、薄っすらとだがはやてにも察せられた。
しかし、そんな東風の罵詈雑言に対しても、それを言いたい放題に言われていた青年の方はといえば。
ただ静かに振り返ってきて、まるで蟲でも見るような目で、倒れ伏している東風へとたった一言。
「だから貴様は飼い犬なのさ」
たった一言。されど痛烈とも言える、皮肉の篭った斬り返し。
傍らのはやてですら、これは効くと思ったのだ。恐らくは忠誠心の塊とも思われる東風が、その侮辱同然の物言いを許せるとは思えなかった。
事実――
「飼い…犬……ッ……だとッ!?」
私の忠を。私のあのお方への献身を。
これまで誇りを持って続けてきた私のその全てを。
度し難くも、薄汚い、愚かな死に損ないに過ぎぬストライダー風情が。
――飼い犬、だと?
「ふざ……ッ……けるなぁぁぁぁぁぁ!」
殺す! 絶対に殺す! 必ず殺す!
許さん! 許してなるものか!
新世界に居場所を許されぬ、古き神の遺物ごときが。
あのお方の第一の臣たるこの私を飼い犬呼ばわり。
万死すらも生温い。絶死を下し、来世すらも許さん。
否! 今この瞬間、もはや一秒たりともその存在が永らえ続けること自体が冒涜だ。
故に殺す! 疾く殺す! この眼前の身の程知らずの不届き者を、私のあのお方への忠が完殺する!
「ストライダァァァァァァァァァァ!!」
故に躊躇も何もありはしなかった。
右足が無いなど関係ない。勝ち目云々そのものなど視野にも入れていない。
狂的なまでの忠誠と、そして怒りに支えられた東風は、地面についた両手をばねの様に叩きつけ、その反動で片足のみで宙へと跳んだ。
そしてそのまま、その残った足にプラズマを纏わせながら、眼前の絶死を誓った怨敵目掛けて容赦なく迫る。
そんな鬼気迫る突撃を敢行してくる相手に、飛竜は――
ただ無言でサイファーを構え、迫り来る相手を見据えながら、その蹴りを直撃寸前で、難なく見切り、躱す。
そして相手が驚愕や次手を打つことすらも許さずに――
「犬の茶番に付き合っている暇はない」
そんな一言を無情に告げると同時に、一閃。
最後まで屈辱と憤怒にその表情を歪めながら、東風のその切断された首が宙を舞った。
以上、投下終了
ミッドナイト氏、支援入れてくださりありがとうございました。
まだまだ長いので今回はここまでにしときます。久しぶりの投下で色々と不備が出てた場合は申し訳ありません。
まぁそんなわけでクロス元は『ストライダー飛竜2』。若干のナムカプアレンジ設定も使わせていただいています。(後、根も葉もない捏造設定もありますが)
マヴカプやナムカプでお馴染みとは言えやはり元ゲーがマイナー過ぎるかと危惧もしたんですけど……よくよく考えれば某界隈ですっかり汚い忍者呼ばわりで有名だから、そうでもないんですかね。
……ストライダーは忍者じゃないんだが
久しぶりに元ゲーとナムカプ再プレイして、マヴカプ3でまさかのリストラにあった腹いせで書いたんですけど、本当は3レス程度の嘘予告で書いてたつもりがいつの間にか短編ssになってました。
そんなわけでもう暫しお付き合いしていただければ幸いです。それでは、また
投下乙でした
元ネタはわかりませんが、相変わらず心理描写も戦闘描写も丁寧で引き込まれました
スクライドの方も含めて、今後の投下も楽しみにしております
乙
元ネタはネタで聞いた事がある程度ですが
イカした戦闘シーンに自分も引き込まれました
乙でした
元ネタが大好きな作品でしたし、内容にも引き込まれましたので、今後も楽しみにしております
職人の皆様GJです。
そんでもってお久しぶりです。
この時間ですし、見た所予約もないようですので、このままクウガ24話を投下しようと思います。
とりあえず久々なので前回までのあらすじを簡略に。
一つ。クウガの力を取り戻し、未確認生命体第45号に続いて、第42号をも撃破した五代雄介。
二つ。ダグバの霊石の欠片を拾っていたアリサは、欠片をなのは達管理局に渡すべく彼女らを呼び出した。
そして三つ。すずかの飼い猫ミックが誤ってダグバの霊石を取り込み、未確認へと変貌を遂げてしまった。
それでは投下を開始します。
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月下の庭園で、響き渡るは獰猛な野獣の咆哮。
ライオンかトラか、はたまたチーターか。それが正確に何の声なのかは解らないが。
だけれど、それが獰猛な肉食獣のそれに近い雄叫びである事だけは確かだった。
月村すずかはそんな野獣の声と胸騒ぎに突き動かされて、一人走る。
何故にこんなに胸騒ぎがするのかと問われても、答える事は出来ない。
これまでの経緯と、直感的な何かがすずかを焦慮に駆り立てるのだ。
「はぁ……はぁ、はっ……何処に居るの、ミックー!」
口元に当てた右手でメガホンを作って、叫ぶ。
されど当然の様に、すずかの声に答える者はいない。
何もミックの身に何かが起こったと決まった訳ではないのに。
それなのに、心の何処かで、ミックに異変が起こったのではないかと考えてしまうのだ。
とんでも無い石を持ち去ったミックが消えた直後に、肉食獣の咆哮が木霊した。
以上の情報から考えれば、最悪の事態を想定してしまうのも無理はないのだが。
しばらく走って居れば、やがてすずかも異変に気付いた。
見渡す限りに拡がる新緑の木々は、夏の到来を予感させる爽やかな光景である筈だった。
だけど、今日は何かが違う。木々のざわめきだとか、周囲の大気だとかが、感覚的にではあるが違うのだ。
初夏の生温かい風は、汗が纏わりついたすずかの頬を嬲り、長い髪の毛はべったりと張り付いてくる。
暑苦しくて、服を着ている事すら煩わしく感じる程なのに……どういう訳か、背筋は嫌に冷たい。
所謂第六感という奴であろうか。得も言われぬ不快感が、悪寒となってすずかを戦慄させる。
やがて、すずかとは真逆へ向かって、逃げ惑う様に走り去って行く猫達と擦れ違う。
それはまるで、本能的に肉食獣から逃げようとする草食動物の様で。
逃げ惑う猫達が、すずかの憂慮を殊更駆り立てる。
やがて、すずかは見た。
「え……――」
瞬間、意味を成す言葉なんてものは、何も思い浮かばなかった。
ただ、目の前の現実が理解出来ず、受け入れられず、無意識に後じさる。
やがてすずかの頭は、理解出来なかった現実を、否定すべき現実と判断した。
軽くかぶりを振って、瞠目の眼差しを向ける。
「グルルルルルルルルル……」
目の前の獣が、低く唸った。
肉食獣のそれによく似た唸りは、周囲の大気を振るわせて、木々をざわめかせる。
鋭い眼光は確かにすずかを捉え、赤の牙が剥き出しになった口元からは、獣の吐息が漏れる。
こうしていざ対峙してみれば、それはニュースで見た未確認などよりもよっぽど恐ろしく感じてしまう。
すずかが知る未確認生命体とは、まだ“人の形”をしていた。
人らしい理性も感じたし、奴らは人語すらも解したらしい。
だけど、目の前の獣から感じるのは、未確認にあった“人為的な恐怖”ではない。
本能に従って獲物を仕留め、喰らうだけのただの獣(けだもの)。
本能的に植え付けられたのは、そんな印象だった。
黄金の獣が歩を進める。
ずしりと、庭園の芝生が沈み込んだ。
鋭い爪痕が新緑の大地を抉って、ゆっくりとすずかとの距離を縮める。
逃げなければ、自分は殺されてしまう。そう考えるのは、生物としての本能だ。
だけど、頭ではそれが解っていても、脚がまるで棒の様に動かなかった。
蛇に睨まれた蛙とは、まさにこの事であろう。
「ミッ……ク――」
そうだ。自分は今、こんな事をしている場合ではない。
見るからに危険な化け物が今、庭園の中に紛れ込んで居るのだ。
ここは危険だ。すぐにでもミックを見付けだして、保護しなければいけない。
まるで肯んじ難い現実から目を背ける様に、すずかはそう考えた。
だけど、現実はかくも非情で。
「え……?」
ミックと呼ばれた黄金の獣が、すずかの目の前で脚を止めた。
逞しい四肢で大地を踏み締めて、巨大な右腕で、黄金の毛皮に包まれた顔を擦る。
その仕種は、ネコ科の動物のそれと等しい。すずかも良く見慣れた、猫の仕種だ。
黄金の獣はやがてすずかの足元に傅いて、甘える様な瞳ですずかを見上げるのだ。
獰猛な獣の双眸は、とても甘えている様には見えないのだろうが、少なくともすずかはそう感じたのだ。
「い、いや……そんな……うそっ――」
かぶりを振って後じさる。
目の前の獣は、狼狽した様子で再び歩を進める。
すずかが一歩引けば、獣もまた、一歩を進める。
それはまるで、主人に寄り添おうとする家畜の様で。
……本当は、一目見た時から頭の中では解っていたのかも知れない。
ただ、認めるのが嫌で、受け入れられなくて、気付かないフリをしていただけなのかも知れない。
しかし、この獣を見た瞬間の自分の考えなどは既に最早忘却の彼方であった。
気付いた時には、認めたくない現実を否定するように。
「いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
腹の底から、裂帛の絶叫を響かせていた。
◆
まるでジェット機が駆け抜ける様な音がびゅん、と鳴り響く。
音速に近付き、金の閃光となったフェイトが、月村の庭園を縦横無尽に駆け回っているのだ。
光の刃を携えたフェイトが駆け抜ければ、後に残された深緑の葉がはらりと散る。
しかし、それでもフェイトは敵の動きを捉えられずに居た。
「ハァッ!!」
月夜の晩に、黄金に光輝くデスサイズが振り下ろされる。
だけどそこには既に誰も居らず、フェイトの刃は空を斬り、芝生を削るだけだった。
バルディッシュから放出される魔力刃が掠めた事で、土色を露出させた大地を見て、フェイトは舌打ちする。
これで何度目であろうか。数え切れない程刃を振り下ろしたが、その内実に半分は回避せしめられている。
音速のフェイトの攻撃を回避するという事は、奴もまた音速に近い速度を叩き出せるという事だった。
「逃げてばかりで!」
苛立ちを言葉にして吐き出す。
あの獣は、攻撃を仕掛けても反撃を仕掛けて来ない。
といっても、速度が同じである以上、フェイトに加速のアドバンテージはない。
そんな状態で強靭な未確認の一撃を受けようものなら、それこそ即死も有り得る。
故にフェイトとて一切の油断はせずに戦うつもりなのだが――それにしたって不自然だ。
敵は全くといっていい程、フェイトには攻撃を仕掛けて来ないのだ。
もしかしたら、自分は敵とすら見なされて居ないのかも知れない。
フェイトが再び音速に突入し、獣に急迫する。
獣は当然の様に、それを回避せんと飛び上がる。
強靭な脚力は驚異的な速度を叩き出し、獣は一瞬で音速に近付いた。
金の閃光となったフェイトは、空を駆ける獣を叩き落そうと加速するが、その攻撃は届かない。
獣の機動力は異常だった。音速で近場の木の幹に触れたかと思えば、その瞬間に方向転換。
ぎゅおん、と音を立てて、幹を足場に真逆の方向へと跳んだのだ。
急制動するフェイトの身体。
「なのは! そっちに行ったよ!」
すずかを庇う様に杖を構えるなのはに向き直る。
解って居る、と言わんばかりにこくりと頷いたなのはは、杖を突き出した。
なのはの眼前に飛び降りた金の獣に向けて、無数の魔力弾が急迫する。
全方位から獣を取り囲むように迫るそれを回避する術は、無い。
それを知らずに後方へと跳び退ろうとした獣は、後方から迫る魔力弾に撃ち落とされた。
どさりと音を立てて落下した獣は、どうやらあまり戦闘には慣れていないらしい。
相当な実力を持っているにも関わらず、逃げる事しかしなかったのはそういう事だろう。
ならば、こいつが誰かを傷つける前にここで動きを封じて、すぐに五代さんに連絡する。
桜色と金色、二色の魔法帯が輪となって獣を拘束する。
胴体に四肢、獣の首まで、体中の至るところに、何重にも拘束魔法が掛けられる。
これくらいしなければ、未確認を封じる事は出来ない。
否、これだけしても、何時までもつかは甚だ疑問だ。
「早く、はやてと五代さんに連絡を――」
「待って!!」
しかし、フェイトの言葉はすずかによって遮られた。
気が動転したのであろうか、取り乱した様子で眼前のなのはを押し退けた。
なのははすぐにすずかの腕を掴もうとするが、それは容易に振り払われる。
すずかは拘束されたままの獣へと駆け出し、
「いけない、バインドが!」
同時に、獣の拘束にヒビが入った。
バインドに走った亀裂は瞬く間に広がり、数瞬の後には、獣は自由を取り戻していた。
獣に向かって真っ直ぐに駆け出すすずかに応える様に、獣もまた一歩を踏み出す。
ずしりと音が響いて、美しい芝生が醜い足跡で蹂躙されてゆく。
獣の吐息が、低い唸りと共にぐるるるる、と吐き出される。
すずかが危ない。そう思ったのはなのはだけではなく、周囲に居た全員だ。
なれば、友に危機が迫る前に、この手で救わねばならない。
「ミッ――」
すずかが手を伸ばした。
まだ幼く、小さな白い手を、醜い獣に向けて。
それに応える様に、獣もまた、黄金の毛皮に包まれた巨大な爪を伸ばす。
美女と野獣。例えるならば、そんな光景であった。
そして、二人の手が触れ合おうとした。
……その瞬間。
「――バスタァァァッ!!」
凝縮された桜色の魔力の奔流が、獣の身体を直撃した。
血の様に赤い牙を剥き出しにして、呻きとも取れる唸りを発する。
獣は、胴体からなのはの砲撃に抉られて、遥か後方へと吹っ飛ばされた。
今のは、牽制の為になのはが発射した一撃。チャージ時間を短縮したショートバスターだ。
この攻撃で倒そうなどとは露程も思っては居なかったが、どうやら存外効いているらしい。
見るからに凶悪そうな瞳を剥き出しにし、痛みに呻くその姿に、なのはは確かなダメージを確信したのだ。
その身体を強かに地面に打ち付けて、転がった獣に、なのはは追撃の魔法を打ち込む。
魔力の弾丸が、再び雨霰となって獣の身体を打ち付け、小さな爆発を巻き起こした。
更に追撃の力を強めようと、杖を握り締める腕に力を込めた、その刹那。
「やめて! お願い、やめて! なのはちゃん!」
「えっ――!?」
なのはの動きを掣肘したのは、すずかの声。
なのはの動きを掣肘したのは、すずかの腕。
身体全体でなのはに飛びついたすずかが、なのはの腕を無理矢理に降ろさせたのだ。
レイジングハートの切先は大きく逸れ、集中力が途切れた数発の魔力弾が急降下する。
それらは全て、目の前で呻く獣に命中する前に、その脚元に被弾し、爆ぜた。
「ウ、グ……ァァ――」
それを尻目に、金の獣は何とか身体を起こす。
巨大な腕と脚で大地を踏み締め、まるで虎の様な動作でなのはを眇めた。
ここへ来て眼前の未確認と初めて視線を合わせたなのはは、ぞくりと戦慄した。
外見のおぞましさもあるが、奴の双眸を見るや、言い知れぬ不快感を感じたのだ。
まるで、悲しみとか、怒りとか……そういう負の感情をぶつけられたような。
そのまま獣は踵を返し、最後に一目振りかえると、そのまま空へと跳び上がった。
一瞬で驚異的な速度を叩き出した獣は、逃げる様に夜の闇へと消えて行った。
「今の未確認、まさか……」
一瞬の出来事であったが、なのはは確かに見逃さなかった。
というよりも、一瞬の出来事であったが故に、それは尚更なのはの目に焼き付いていた。
今し方逃げ出した未確認が、最後に一度だけ振り返った……その瞬間を。
この地上に生きるどの肉食獣よりも凶悪そうな顔は、しかし悲しみに歪んでいた事を。
そして、その醜くも凶悪な瞳から、一滴の涙が零れ落ちる瞬間を――。
◆
海鳴市、月村邸、すずかの自室―――08:26 p.m.
胸中で芽生えた罪悪感は、月村すずかの心を苛み、その呼吸を荒げさせる。
なのはが背中を摩ってくれて、フェイトは心配そうにすずかの顔色を窺ってくる。
アリサは仁王立ちをしたままではあるが、心配そうに横目ですずかを見詰めていた。
「私、あれがミックだって、解ってたのに……酷い事、しちゃった……」
途切れ途切れの言葉は、きっと、誰が聞いても苦しそうに聞こえると思う。
必要以上に皆に心配を掛けてしまうのは望ましくない事だが、今この瞬間ばかりは仕方が無かった。
どうせ頭は何にも回らないし、他の事を考えようとしても、思い浮かぶのはミックの事ばかりだ。
あの時ミックは、姿は変わっても、今までと何ら変わらずに自分に寄り添ってくれようとした。
なのに自分は、外見が変わったからと言ってそれを受け入れられず、絶叫で以て拒絶してしまったのだ。
きっとミックは、傷ついたと思う。信頼していた主人に拒絶されて、その上攻撃まで仕掛けられて。
もしもミックの立場に居るのが自分であったなら、きっと耐えられない筈だ。
「私っ……私、どうしよう……あの子、あんなに、苦しそうにしてたのにっ……!」
「落ち着いて、すずかちゃん……攻撃しちゃった私が言うのもどうかと思うけど、
私達も責任を持ってミックを探すから……必ず見付けだして見せるから」
なのはの言葉が、何故か言い訳のように聞こえてしまう。
気付いた時には、すずかは絶叫していた。
「見付けだして、どうするの!? あの子はもう未確認になっちゃったんだよ!?」
「それは……」
返す言葉が見当たらないのか、なのはは気まずそうに俯いた。
彼女自身も、自分が攻撃を仕掛けてしまった所為で……という負い目を感じているのだろう。
なのはの瞳には今のすずかと同じ種の、罪悪感とも取れる陰りが見え隠れしていた。
すずかの親友は、本当に優しいから……こんな時、自分と一緒に苦しんでくれる。
だけど、それは余計に今のすずかの激情を駆り立てるだけでしかなかった。
優しさと同情は紙一重だ。だとすれば、当事者でないなのはのそれは同情でしかない。
そう思うと、すずかの気持ちはどうしようもなく辛くなって、涙が止まらなくなってしまう。
嗚呼、本当に一番酷いのは、誰でも無く“自分”なのだ。それくらいは解って居る。
友達を救う為に攻撃の手段を取ったなのはよりも、ミックの気持ちを裏切った自分の方が、よっぽど酷いのだ。
しかし、それが解ってはいても、混濁した感情の整理がつく訳はないし、余計にこんがらがるだけだ。
この感情の行き場は何処にもなくて、行き場を失った憤りは、眼前のなのはへ吐き出されてしまう。
すずかがこんな状況に陥る事など、普段なら絶対に有り得ないのに。
この時だけは、自分でも解るくらいに、どうかしていたと思う。
すずかは声を荒げて、尚も叫んだ。
「それでなくても、もしも警察に見つかったら、きっと殺される……!
誰もあの子が小さな猫だったなんて思わないし、きっと世間はあの子を化け物扱いする……!
そしたら、もうあの子に居場所なんて無いじゃない……! 安心出来る場所なんて、何処にも!」
興奮しているようで、すずかの言い分は的を射ていた。
事実として、未確認生命体は無差別大量虐殺に続いて、小学生の連続殺人と、悪質な事件を起こし過ぎた。
仮に「ミックは本当は未確認じゃないので、安心です」なんて言ったところで、誰が信用するものか。
きっと誰にも理解されず、取り合ってもくれず、ミックは化け物扱いされたまま、処分されるだけだ。
考えただけでぞっとして、止めようの無い涙が溢れ出て来る。
そんなすずかを、優しく抱きとめてくれたのは、他ならぬ高町なのはだった。
「大丈夫だよ、すずかちゃん……元に戻る方法はきっとある筈だから……
私達が絶対に助け出すから、信じて待っていてくれないかな……」
「……どうやって、助けるっていうの……?」
この腕はなのはを抱き返す事はないまま、質問だけが口をついて出る。
今度はフェイトが、なのはに補足するように言った。
「金の欠片を取り込んで変身したのなら、私達がその欠片を破壊すれば、きっと。
多分、まだ欠片は完全には融合してないと思うから、早い内に対処をすれば、間に合うと思う」
「本当に……?」
「うん、本当」
すずかはそっと、なのはのから身体を離した。
両手で真っ赤になった目を擦って、視界を歪める涙をぬぐう。
クリアになった視界に真っ先に飛び込んで来たのは、なのはとフェイトの強い瞳であった。
絶対に助け出して見せるから、と。彼女らの瞳が、そうすずかに訴えかけているようで。
彼女らももう、心の中で折り合いをつけたのだろう。
いつまでも悲しんで居てもどうしようもない。悲しみを打ち破る為には、やらねばならない事があるのだと。
不安で堪らないのは変わらないし、今だって大声を上げて泣き出したい気持ちは同じだ。
だけど、彼女ら二人の強い瞳を見ていたら、何故か本当に助けてくれそうな気すらしてくる。
「本当に……ミックを助けてくれるって、信用していいの……?」
「約束する。絶対に助け出すって……私と、フェイトちゃんと、皆の力で」
「うん、私達が証明するよ。どんな状況でも、諦めさえしなければ、希望はあるって事を」
二人の言い分は、呆れるほどの綺麗事だった。
返す言葉を失って、茫然と立ち竦むすずかの肩に、もう一人の親友が手を置いた。
振り返れば、そこに居るのは、二人と同じ様に強い瞳を持った少女――アリサだ。
「ま、まぁ、私には何も出来ないけど……その代わり、ずっと一緒に居てあげるくらいは出来るから。
なのはとフェイトがミックを助けて帰って来るまで、寂しいなら、私がアンタの傍に居てあげるから……
だからもう、泣くのは止めなさいよ。まだミックは死んでないし、助かる可能性だってあるんだから」
「アリサちゃん……」
嗚呼、自分はなんと素晴らしい友達を持ったのだろう。
先程まで、悲劇のヒロインぶって当たり散らすしか出来なかった自分が恥ずかしくすら思えてしまう。
友達が悲しんでいる時は、自分の事の様に必死になってくれる……それが彼女達ではなかったか。
目をぎゅっと食いしばって、僅かに残った涙を手の甲で払拭する。
それからすずかは、大きく頭を下げて、懇願した。
「ごめん……ごめんね、皆。本当にありがとう……ミックの事、お願い……」
これにて投下終了です。
名前欄変えるの忘れてましたけど、「クウガおかえり第24話」です。
毎度ながら1話1話が短いですけど、キリのいいところで区切って行こうと思ったらどうにもこうなってしまうようで。
多分、もっと省くべき無駄な部分はあると思うし、上手く詰めればもう少しテンポよく進むとも思うのですが、
実力不足もたたって何とも上手くいかないのです。いやはや、この辺は自分への課題ですかね。
この話自体、長期に渡ってちまちまと書いてはいたのですが、SS自体なのはクロスロワのエピローグを
書いて以来ろくに執筆していなかったので、腕が落ちまくっているような気もしますが……。
これからはリハビリも兼ねて出来る範囲で投下のペースを上げて行こうとは思います。
さて、今回はミックのグロンギ化(元ネタは仮面ライダーWのスミロドンドーパント)の続きです。
異形に“なってしまった”者の悲しみ、といいますか。一応ミックの方向性は見えたかと思います。
次回以降はミックの決着編に入って行く予定です。といっても流石に次回一回で終わりはしませんけど。
それでは、次回以降もよろしくお願いいたします。
投下乙です
ああ、ミックが悲しいなぁ…………
メモリブレイクならぬ、欠片ブレイクを誰かしてくれれば
マスカレード氏、投下gjです。次回も楽しみにしています。
>>189、190、191の方々、感想ありがとうございます。
スクライドクロスの方は、この短編終わったらボチボチ投下させていただこうかとは思っています。
他に投下される方々がいないようでしたら、20時40分から投下予約させていただきます。
では時間になりましたのでボチボチと
それはまさに一瞬で、故に最初の制止に致命的に出遅れた段階で、八神はやてには止める暇すらも与えられなかった。
故に、ストライダー飛竜の無慈悲な一閃が、東風の首を躊躇いも無く切断したその光景を、はやてはただ見ている他になかった。
それはあまりにも淡白で、そして一方的な、殺人だった。
そしてそんな殺人を、幾ら相手が敵であったとはいえ、管理局員である自分が目の前で止める事も出来なかった。
「……ちょっと………待て……!」
思わず漏れ出る彼女の声……それに込められていた感情は怒り。
いくら敵――広域次元犯罪者の一味とはいえ人間は人間。罪を裁かれることになろうともこんな唐突に一方的に、理不尽に命を奪われるべきは今ではない。そんな現実に対しての怒り。
そしていくら襲われたからとはいえ、問答無用に容赦なく首を刎ねて殺害するなどという非情極まる方法で人を殺めたその当人、その相手に対しての怒り。
それに何よりもこれが一番重要だ。最も彼女にとって度し難く許すことの出来ない怒り――その光景を目の当たりにしながら止めることすら出来なかった自らの怠慢。
全てに対する怒りと共に、はやては腹の底からのその怒声で制御室内部へと向かおうとこちらに背を向け歩きかけていた青年を、呼び止めた。
「こら……そこのアンタ……ッ……ふざけんなッ!」
自分でも言葉を選ぶべきなのは分かっている。正体不明のそれも嫌というほどに察せられる凄腕の戦闘者。迂闊な言葉で刺激し、挑発すべきではない。
そしてどのような理由で、例え本人にその気など無かったのだとしても、結果的に先ほど命を助けられたのは間違いなく自分だ。それを理解できているならば、今の己の言葉が愚かな暴言以外の何ものでもないことは彼女自身も理解している。
だがそれでも――
「何で殺した!? 殺す必要なんてなかったやろ!?」
それが単なるルールの押し付けであるくらいは理解できている。だがそれでも、言葉は止まらない。お門違いと承知の上でも沸きあがってくる怒りという激情を抑えきれない。
だって仕方が無い。だってそうだろう。どれほど誰かに諌められ、咎められ、嘲笑されたとしても、この一点だけは絶対に譲れない。
人を殺したのだ。
目の前のこの青年は人を殺した。正当防衛が成り立つ状況の有無だとかそんな細かいことは取っ払って、ただその事実が、その行いが八神はやてには許せない。
人一人の命を、未来を、可能性を、罪を償うチャンスすら、問答無用に理不尽に、一方的に奪ったのだ。
それが何よりも許容できない人種である、この八神はやての目の前で、だ。
だからこそ噛み付くように怒声を上げて、彼女は痛む体にそれこそ鞭を入れて引きずるように動かしながら、青年の下へと詰め寄った。
「あんたあの姉ちゃんを殺さんでも、そんだけ強かったら無力化出来たやろ!? なのに何で殺したんや!?」
人の死を見るのが初めてというわけではない。これでも自分は管理局員。ヤクザな商売とは無論言わないが、それでも切った張ったの修羅場を体験してきたのは一度や二度ではない。
今回の大掛かりな作戦にしろ、危険な任務は確かにある。敵味方問わずに命を失う状況だって確かに何度も見てきたし、受け止めてきた。
だがそれでも、そんな人死にを出さないと覚悟を決めて、最大限に努力して何とか事を収めようと常に戦い続けてきた。
命は尊い。死は重い。生きたくても生きられなかった者を自分は知っている。“彼女”は厳密には人間ではなかったが、それでもはやてにとって掛け替えの無い家族だった。
だからはやては人死にが嫌いだ。偽善と嗤われようが、甘いと罵られようが、犠牲という奴が本当に我慢ならない。それを許容する状況そのものを許せない。
だからこそ先の彼の凶行は彼女の逆鱗に触れたのだ。どう考えても先のあれは避けられない犠牲などではなかったはずだ。
どんな犯罪者であろうが、正当な裁きも受けずに問答無用に殺されていいはずが無い。
そう憤るそんな八神はやてに対して――
「素人めいた言葉を吐くな」
漸く沈黙を破って口を開いたかと思えば、しかし対する飛竜の口より紡がれた言葉は、そんな冷酷無情に切り捨てるかのような一言だった。
「なっ――!?」
思わず顔を真っ赤に更に憤ろうとするはやてに対して、しかし飛竜はくだらないと鼻を鳴らすだけ。
実際、それは彼にとっては愚問愚答以前の、そもそも問答とすべきものですらない。
「管理局、喧しく喚くのは勝手だが俺の任務の邪魔をするな」
確かにこの要塞攻略の為の陽動の駒とすべく、情報をリークしてこの地に管理局を招いたのは飛竜だ。
しかしそれもあくまでかく乱としての一要素、混乱する戦場を己が気づかれぬよう都合よく隠密行動を行うために便利だと思った隠れ蓑に過ぎない。
冥王をこの手で討つのはあくまで己だ。管理局がグランドマスター捕縛を譲れぬ最至上の目的と掲げるのと同じように、否、それ以上の強い思いと拘りをこのミッションへと抱いているのは飛竜だ。
助太刀も応援も不要。むしろ邪魔。こちらは弾除け代わりには使ってやるという理不尽で傲慢この上ない思考だが、本気で飛竜はこの場に存在する管理局の部隊をその程度にしか捉えていない。
そんな輩からの思ってもみなかったくだらない口出し。ああ、そんなものに構っている暇があるはずもない。
ましてや、戦場の何たるかも解していない、人を殺すことをとち狂ったように躊躇う素人同然の妄言ならば尚更だった。
要するに、聞く耳を持たない。それを態度でありありと示しながら話すことなどないと踵を返しかける飛竜を、しかしはやては強引に逃がさないというように手を伸ばしかけ、
「ちょい待て! まだ話は終わって――」
「――邪魔をするな」
飛竜は彼女の伸ばす手を強引に掴み取ると共に、そのままひね上げるように背中に回すと壁に叩きつけて押さえ込む。
はやての口より壁に叩きつけられた衝撃と、背中で締め上げられている腕の痛みで苦鳴が漏れるも、無論のこと飛竜が意に介すはずもない。
それどころか言葉でこそ告げていないが、その現状と対応、無言のプレッシャーが強制的に理解させるように告げてきていた。
これ以上、余計な邪魔をするつもりなら容赦はしない。
実際、飛竜はそのつもりだった。この状況、このまま力を入れて腕をへし折ってやることすら躊躇いはしない。むしろ、これ以上喧しく騒ぐつもりなら本気でそうするつもりでさえあった。
女子供であろうと、それが進行方向上の些細な石ころ程度であろうが、ストライダーの任務の障害となるのなら、それは問答無用で排除対象だ。
管理局と揉めるのは得策ではない、だが飛竜とて目の前で邪魔が入る以上は見逃してやるほどに優しくもない。
故に、これが最後通告。
しかしそんな飛竜の対応に対して、はやては――
「……女はなぁ……もっと労わらなアカン。……兄ちゃん、プロか何か知らんけど、男の度量が知れるで」
この状況、か弱き散らされる華と甘んじるほどに八神はやてはしおらしくない。戦う乙女はこの程度の無頼な脅しに決して屈したりはしない。
内心ではそれこそひね上げられる腕の激痛で叫びたいし、本気で腕を折られそうで泣き出したい気分だったが、意地でもそれを抑え込む。
暴力のプロ気取りの無頼漢程度に、管理局員の誇りは、否、八神はやて自身の信念は決して挫けはしないのだ。
「……クールに黙って、面倒な奴は暴力で排除。成程なぁ、痺れるくらいにカッコええヤクザさんや。兄ちゃんの考えてること当てたろか? さっきから何ワケの分からんことばっかほざいとるんやこの小娘は……そう思ってるやろ?」
「…………」
「黙んまりかい。まぁええよ、こっちはこっちで勝手に続けさせてもらうさかいに」
ちゃんと聞いているかなど分からない。否、この聞く耳持たない態度から察しても、こちらの言葉など素人の小娘の戯言と、そう聞き流されているのが関の山かもしれない。
だが知るか、知ったことかと彼女自身も半ば自棄になりながらも、紡ぐ言葉は決してやめようとはしなかった。
「アンタからすれば、私らみたいなんは素人の妄言を実行しとる大馬鹿な甘ちゃん程度と見下されとるんかもしれん。
戦場で敵を相手に、何を温くて甘いトチ狂ったことやっとるんやと呆れとるんかもしれん」
実際、多くの次元世界における守護者として機能している管理局とはいえ、争い絶えない紛争中の次元世界などからはそう見られることもある。犯罪組織を相手ならば言わずもがなだ。
戦場で相手も殺せない甘ちゃん……そう、この目の前の男のような生粋の人殺しのプロのような者から見れば、そう思われるのだろう。
別にどう捉えようと構わない……が、それがそちらの勝手であるように、こちらにもこちらの勝手というものがある。
「――管理局の戦いを、舐めんな」
こちらの掲げている鼻で嗤われるような正義でも、譲歩できない部分くらいはあるのだ。
そう、例えば――
「殺して終わり、はいそれまで……生憎となぁ、ウチらの戦いってのは、そう単純なもんやない。そんな無責任で終われるほどに、軽いもんやないんや」
例えどんな人間であろうが、その行いには起因となるべき理由がある。
それを明らかにして、正当で公平な上で、罪は贖われねばならない。
あるいは、やり直しだって出来るはずだ。
命さえあれば、どのような形であろうとも『未来』という『次』がある。
それは恐らく、決して何者であろうとも奪っていいものではない。
「人殺しは最低や。一方的に傲慢に、理不尽にその人間が持っとった『未来の可能性』ってやつを、勝手に奪って台無しにする。
兄ちゃん、あんたにはあの姉ちゃんの未来を奪えるだけの権利ってものがあるんか? お偉いプロフェッショナル様は他人の命を好き勝手に奪えるほどに偉いんか?」
だとするならば、自分たち管理局はそうでない以上はプロではないのだろう。
ならば先の彼の言葉通り、自分たちは素人……アマチュアだ。
だが――
「アマチュア舐めんなよ、プロフェッショナル。ウチらの戦場は人殺しのそれやない。少なくとも私らはこの戦場でそんなものは絶対認めん。アンタが任務で人殺そうが、ああそれはあんたの勝手かもしれん。
……けどな、ここは私らの戦場や。私の目の前で、勝手にそんなことさせることも、見過ごすこともせん。邪魔をするな言うんはなぁ……こっちかって同じや!」
啖呵を切ると言うのなら、確かにこれはそれに値した。
無茶苦茶な言いがかりも同然の暴論だが、少なくとも触れてはならぬ琴線へと触れた相手に対する、これが彼女の答えとなる宣戦布告。
限りなく無謀、匹夫の勇にも等しき蛮勇。この後、どんな恐ろしい目に遭わされるかくらいは、彼女としても理解できていた。
それでも許せなかった。譲れなかった。人殺しのプロ気取りに、人を殺さない自分たちアマチュアの意地が負けてたまるかという想いが勝った。
故にこそ後悔はない。例えこのままここでこの男に殺されようが、曲げられないものを曲げなかった自分が、こんな男に負けたなどとは彼女は微塵も思っていなかった。
だからこそ――
「貴様の辞世の句なら、その程度だろうよ」
まったく意に介した様子もなく、無情なその一言と共にミシリと鈍く響き渡った嫌な音。
「づぅ〜〜〜〜〜〜〜!!!??」
悲鳴も上げられなかった。
本当に容赦なく、あっさりと躊躇いもせずに自らの腕が折られたということを遅れて届いた激痛と共に理解した。
か弱い乙女の腕を折りやがった……嘆き以上にデリカシーもフェミニズム精神の欠片もない相手にキズモノにされたと怒りが勝った。
尤も、相手が相手である。残念ながらはやてがこの男を相手にデリカシーやフェミニズムを求めること自体が、見当違いとも言うものだろう。
これは本当に殺されるかもしれない……先ほどからずっと散々予期しながらも漸くにそれがリアルに己の内で明確化されたのは、痛みで蹲り動けぬ自分を相手にサイファーを振り上げようとしている男の姿を確認すればこそ。
(……ああ、ほんまに人の話を聞かん男は最悪や!)
なまじ顔がマフラーで隠されていても分かるイケメンなだけに、それは更に性質が悪いとも言えた。
決めた。自分の副官につけるのが男ならば、ちゃんと自分の話を聞いてくれる素直な男にしよう。
そんなどうでもいいことを考えながら、はやては何とか逃げようと必死に体を動かし始める。
こんな所では死ねない。新しく立ち上げるはずの部隊。待ってくれている家族や親友たち。
皆を置いてけぼりにして、無責任に自分があの世に旅立つわけにもいかない。
そう思って抗おうとするも、それは所詮圧倒的な実力を誇る死神を相手には、儚い以前の無為な行いに過ぎず。
振るわれるサイファー。躱すことの出来ぬ自分。
最後にはやてが思ったのは、この結末をリインフォースが許してくれるだろうかという、そんなどうしようもない心配だけだった。
光刃が振るわれる。一閃、二閃……瞬く間すら許さぬ高速の斬撃は、眼前の対象をまるで豆腐のように苦も無く切り裂いた。
目標の破壊が完了したこと、それを確認した後に飛竜は重力制御室より飛び出ると同時に、駆け出した。
ここから先は時間との勝負だ。これまでのようにイレギュラーの対処にもたついて時間を無駄に浪費していれば、目標どころか自分までもがお陀仏となってしまうだろう。
故にここからは正真正銘の、迷いの許されぬスピード攻略だ。
先程、飛竜は重力制御室の内部に存在したこの『第三の月の都』を維持していた重力制御装置を破壊した。
これにより、そう時間もかからずに制御を失ったこの『第三の月』は虚数空間の海へと沈むだろう。
それは飛竜の取った保険……否、任務を確実に完遂するための詰めの一手。
冥王抹殺が目的ではあるが、飛竜はこの場から冥王はおろか、彼の一派を誰一人逃がすつもりなど毛頭なかった。
冥王の有する人には過ぎた忌まわしき力と、その研究成果と共に、後の禍根となる可能性のある残党の存在すら許さずに根こそぎ殲滅する。
その為には、この『第三の月の都』そのものを堕とすことが最も手っ取り早いと考えた。
それ故のこの行動。正に問答無用の皆殺しの一手だが、無論のこと飛竜に躊躇いがあるはずもない。
むしろこのような暴挙、管理局の部隊すらも諸共巻き込まれかねないというのに、それすらもどうでもよかった。
……どちらにしろ、あのような訳の分からぬ妄言を吐く小娘がいるような部隊だ。素人が分を弁えずに全滅となろうが、そんなものは意に介する必要すらもない。
それどころか、既に彼らの役目は終わっている。ならばこの自分の戦場においては、彼らは既に邪魔者だ。事態の危機を察し、舞台の上から潔く退場してもらった方がまだマシとすら思えた。
そう、ここから先にある舞台の上に上れる役者は既に決まっている。
それは即ち――
「俺と奴……そして――」
組織の裏切り者。ストライダーズを抜けた未来無き愚か者。
ああ、逃がしはしない。目こぼしするつもりすら毛頭ない。
冥王が譲れぬ獲物であるのと同じくらいに、既にあれもまた絶対の抹殺対象だ。
奴を討ち取るその前に、どうせあの男の方からこちらに向かってくることだろう。
一番の戦友だ。それくらいは察しているし、その愚かな甘さと意地くらいは認めてやる。
故に――
「――待っていろ、飛燕」
今日ここで、俺がお前に引導を渡してやる。
冥王に屈し、ストライダーズを裏切った者に未来などない。
断罪の時を間近に予感しながら、ストライダー飛竜はただ殺意を鋭利に研ぎ澄ませながら、崩壊の近づく魔城の中を、抹殺対象を求めて駆け抜ける。
どうあっても振り切れる相手ではない。
不本意ながらも現状の結論としてフェイトが導き出さねばならない答えはそれだった。
冥王が座する玉座を目前にまでしながら、最後の最後でこうして打ち破るために戦わねばならぬ壁に対して、彼女もまた静かに覚悟を決めた。
正直に言えば、同行していた仲間達を眼前の相手に殺されたという怒りもある。そうでなくても冥王に近しい立場であろう相手である以上は見逃せないは当然。
しかしここで激突すれば相応の厳しい消耗戦は避けられない。それを確信していたからこそ、なんとかこの相手を撒けないものかと苦心していたのだが……
「逃げるのはお終いか?」
「……ええ、もう止める事にします」
こうして対峙し合うまでの過程で、何度も振り切ろうと試みた。
けれど相手の超人的な身体能力と地の利を把握されているという結果が、その追随を振り切れぬ失敗へと終わらせた。
故にこそ、フェイトはこうしてバルディッシュを構えながら眼前の強敵と対峙し合っている今へと至るのだ。
「ならば大人しく――」
「――はい、突破させてもらいます」
相手の諦めろとでも告げてくるつもりであったのだろう口上を、一方的にこちらで断ち切りながらフェイトはハッキリとそう宣言した。
つまりそれは実力にてこの相手を乗り越えて先に進ませてもらうという意思表示。
ある意味では大した傲慢さとも捉えられかねぬ宣戦布告に対し、しかし相手は激昂することや不快感を示す様子すらなく、ただ僅かに笑みのような表情を垣間見せるのみ。
「……面白い。ならばそれが可能かどうか――示して見せろ」
相手のその上等と言わんばかりの迎え撃つ態度に、フェイトは言葉ではなく行動で答えた。
時間が惜しい、未だその事実自体が揺るがぬ以上は短期決戦を望むのは至極当然。
振るわれるバルディッシュの魔力刃。相手は実刃にプラズマを纏わせたその刃にて受け止める。
切り結ぶ剣戟は、およそ常人の目で捉えるのが困難と言っていいほどの高速の世界の出来事である。
非殺傷とはいえ当たれば昏倒必至の魔力刃と、文字通りの必殺に相応しい威力を有するセラミック装甲すら容易に切り裂く雷光剣。
一合、二合、三合……激突し切り結ばれる閃光の剣戟はまったくの互角のままにどちらも相手へとその刃を届かすまでには未だ至らず。
故に埒の明かぬ現状と見切るように、剣戟の間を縫って距離を取るべく離脱するために先に動いたのは…………フェイト。
離脱の最中にロードされるカートリッジ。次いで彼女が組み上げた術式はトライデントスマッシャーである。
最も信を置く愛用魔法プラズマスマッシャーの発展系。中近距離の高速戦闘において真価を発揮する直射型砲撃魔法。
トライデント(三つ又)の名を冠するそのままに魔法陣中央の一線から左右に枝分かれするプラス二線が、着弾点で再び結合することにより雷撃を伴う爆発を発生させる。
無論、その速度は単なる銃弾の比ではない。
フェイトにしても勝負を決めるつもりで放ったに等しい砲撃。対する相手――飛燕とてその正体が何であれその攻撃の意図がそうであったことくらいは瞬時に読み取っていた。
故にこそ、そこから飛燕がその回避のために取った動きは、まさに常人を逸した超人の技法だった。
目視からでは凡そ間に合わぬプラズマの三つ又。その弾道と到達予測ポイントを発射寸前で予測した飛燕は、そこから臆するどころか自ら進んで前進という選択肢を取った。
無論、銃弾を遥かに凌駕する速度と威力。当たれば例え飛燕と言えども戦闘不能は免れないはずだった。
「あくまで当たれば、だ」
どのような砲撃であろうが到達ポイントとその弾道を読み切っていれば、ストライダーに躱せぬ道理はない。
それを証明するように飛燕はプラズマの嵐を見事に掻い潜りながら速度を落とすこともなくフェイトを目掛けて真っ直ぐに前進してくる。
当然そんな光景はフェイトにしてみれば冗談染みた悪夢に等しい出来事だ。親友ほどでないにしろ砲撃の精密性には自信を持っていた分、ショックもまた大きかった。
だがそんなものに打ちのめされている暇を厳しい現実は許さない。
砲撃魔法を回避しながら疾走する飛燕は、そのまま自身の得物たるサイファーをこれまで見せたのと同じように投擲武器として彼女を目掛けて投げ放つ。
雷光剣サイファー。ストライダーズの中でも最高峰、特A級のその中でも一部のみが扱えるとされている最強の白兵用兵装。
その中でもオーソドックな飛竜が使っている物とも異なり、飛燕のサイファーは殊更に異質な武器である。
ジオメトリカルサイファー。投擲に特化し、様々な状況で活用することを目的とされたその武器は、長いストライダーズの歴史の中でも、ここまで見事に扱えたのは後にも先にも飛燕のみだ。
故にこそ、放たれるその一撃が告死を示す死神の鎌にも等しいものであろうことは明らか。
フェイトの脳裏に蘇ったのは、防御など意にも介さずに切り裂かれた他ならぬ眼前の相手に殺された仲間達の姿だ。
防御は不可。恐らくはそれごと切り裂かれると咄嗟に判断したフェイトは、故にこそソニックムーブを発動し、眼前に迫ったその刃を上空へ飛んで躱す。
「逃がさん!」
「――ッ!?」
しかしその回避を許さぬというように、飛燕もまた上空へと逃げたフェイトを追って跳躍する。
本来ならば超人であるストライダーと言えども生身。何一つの専用装備も無しに魔導師のように空中を飛ぶことなど不可能である。
しかし此処は上下逆さの空間すらザラである魔窟に等しき『第三の月の都』。
ましてや今二人が戦っているエリアは重力と無重力が相反して支配する半重力空間。通常に比べても明らかに重力の?から半ば解放されかけてもいる環境だ。
加え、飛燕は文字通りの常人を遥かに凌駕する身体能力を有する超人である。卓越したバランス感覚と獲物を追う狩人の本能は相手に追随し、決して逃さない。
左右の壁を蹴り砕くように勢いをつけながら、宙に逃げるフェイトへと瞬く間に迫る飛燕。
そのまま驚愕するフェイトに委細構わず、構えたサイファーを彼女目掛けて振り下ろす。
対するフェイトもまた、気圧されたままこんな空中で切り裂かれて終わるなどという末期を受け入れられるはずもない。
数多の修羅場を潜り抜けてきたのはSランク魔導師である彼女とて同じ。故にこそ反撃を狙うようにバルディッシュの刃を飛燕を目掛けて振り上げる。
交差し、激突する二つの刃。
衝撃と火花を散りまかせながら、空中の至近距離で両者の目が合った。
……強い、そう正直に認めるようにフェイトは思う。
やはり眼前のこの青年は強い。凡そ予想通りではあったが、やはり容易に突破などとは一筋縄ではいかぬ強者だ。
フェイトの十年以上の戦歴の中でも、非魔導師にかつてこれ程までに苦戦を強いられた経験など無い。
……否、違う。非魔導師などという区切りを問わず、かつて戦った相手の中でこれ程卓抜した技量を有した武人がいただろうか。
唯一近しいと思えるのは……やはりベルカの騎士たるシグナムだが、正統派剣士の彼女と比べてもやはり眼前のこの相手は異質だった。
だがそう思うと同時に、不思議に敬意に似たものを相手に対してフェイトが抱いていたのも事実だった。
生身の超人……そう、自分たち魔法技術とはその境地を異とする全くの別種の理に到達しているであろう相手。
魔法という要素はあれ、フェイトもまた戦闘を生業とする者である以上は、武として己が体を鍛えることとは無縁ではない。
眼前の相手は自分たちのような魔法という補助を無くして、自分たちに迫り、或いは凌駕するだけの力を示している。
いったいどれ程の鍛錬を年月として費やせば彼ほどの超人は生まれるのだろうか。
それこそ本当に並大抵のものではない。自分たちの鍛錬すらも或いは凌駕するであろう血肉を削った苦行であるはずだ。
「……それ程に費やした力を持っていながら……ッ!」
故にこそ敬意、そして同時にそれ以上の義憤へとフェイトは駆られるのだ。
だってそうだろう。この青年はそれ程の血で滲む努力を命懸けで積み重ねてきているはずなのに――
「――どうして、それ程の力をこんなことに使うんですか!?」
「……何?」
フェイトの訴えるようなその言葉に、意味を測りかねると言った様子で問い返してくる飛燕。
彼女は構わずに彼へと告げる。
「どうしてそれだけの力を人殺しに使うんですか!? あなた程のその力なら、誰かを助けるためにだってその力は振るえるはずでしょう!?」
「――ッ!?」
フェイトの弾劾染みたその言葉に、何か思うところがある部分を抉られたような表情を咄嗟に垣間見せる飛燕。
それを見逃さなかったからこそ、フェイトは思った。
この男は確かに自分の目の前で人を殺し、犯罪組織に加担している犯罪者だ。
……だがそれでも、人の心そのものを捨てたような悪鬼羅刹ではない。
そうでなければどうして……この青年はそんな悲しい顔を浮かべられるというのか。
「冥王グランドマスターがどんな存在かは……あなただって知っているはずです」
「……当然だ」
ならば何故――そうフェイトは問い返さずにいられない。
冥王は犯罪者だ。自ら神を僭称し、人道に外れた呪われた研究を繰り返し、暴力と言う恐怖政治で徹底的に人民を圧政で支配し続けている暴君だ。
何人もの罪無き人々が、彼の圧政で死んでいったかなど分からないほどに、長きに渡って多くの犠牲者を生み出し続けてきた。
そして何より極めつけは、その野心を留めることなく、他の次元世界にまで侵攻を続けているというその侵略行為だ。
多くの世界が、数え切れぬ人々が、放っておけば彼の理不尽な支配によって犠牲になることだろう。
時空管理局として、何より人としても、フェイトはそんな人心無き暴君による理不尽な被害の拡大を許すわけにはいかなかった。
そしてそれはフェイトだけではない。グランドマスターの野望を認めぬのは他の次元世界の人間ならば当たり前のことだ。
故にこそ、皆の思いを背負い、そんな皆を守るためにも冥王はここで斃さなければならないのだ。
「あなただってそれは分かって――」
「――だからどうした」
尚もそう言葉を続けようとするフェイトに対し、苦み走った口調ながらもハッキリと飛燕はその口上を斬り捨てる。
そんな妄言、そんな価値観、聞くに値しないと示すように。
実際、飛燕はフェイトに対して激しい苛立ちを感じてもいたのだ。
「確かに……貴様らから見れば“あのお方”はそういった存在かもしれない。
だが――俺たちにとっては必要な存在なんだ」
「――ッ!? どうして!?」
飛燕のその言葉に信じられぬと目を見開くフェイト。彼にしてみれば語るにも値しない相手ではあったが……一方的な視点で言われっぱなしは癪に障ったのか、苛立ったその言葉は止まらない。
「管理局、貴様らのような世界にとっては理解できぬかも知れないが……俺たちの住む世界がどれだけ酷く、救われぬものかなど分からないだろう」
まるで世界の終わりを見てきたといった表情で飛燕はそう告げてくる。
実際、飛燕が生きて見続け、戦い続けてきたあの世界は既に末期だ。
時空管理局のような世界が管理するような、人心に満ちた世界などほど遠い死にゆく世界。
正義も救いも何も無い、善という弱者が悪という強者に蹂躙されるだけのそんな世界。
「けれど、そもそもそんな世界を生み出したのは――」
「――ああ、他ならぬ“あのお方”だ」
そんなことは承知の上だと飛燕ははっきりとフェイトへとそう告げた。
実際、それを理解しているからこそ飛燕はグランドマスターの下についたのだから。
「そして他ならぬ“あのお方”が生み出した世界だからこそ、あの世界を再生させることが出来るのも“あのお方”だけだ」
「そんなこと……っ」
信じられないといったように首を振るフェイトだが、飛燕にしてみれば彼女の意見などどうでもよかった。
彼にとって大事だったのはその一点だけだったのだから。
グランドマスターは言ったのだ。この世界は所詮古き神が生み出したものの延長であり、故にどうあろうとこのままでは救われない。
真に救済を望むというなら、一度全てを零に戻して消し去るしかない。古き神の遺産たる旧世界の全てを焼き払い、新世界に降臨する神が一から作り直す。
不完全な神の成果の限界ならば、新しき神がそれを取り払い新生する。
それなくしてあの死に瀕した世界はもはや救われない。
「……そう、救われない。救えないんだよ。……“あのお方”以外の誰にも、もはやあの世界は救えない」
その現実を絶望と共に飛燕は理解している。
自分も戦友も、そしてストライダーズであろうとも救えなかったのだ。どれだけそれを信じて戦い抜いてきても不可能だった。
人間の手では世界を救えない。ならばそれを超える存在――神の慈悲に縋るより他に術などもはや残されていない。
そして飛燕が見出し、信じた神こそが……かの冥王グランドマスターだ。
飛燕が知りうる限り、彼以外の誰にも自分たちの世界を救う神となれる存在はいなかった。
だから賭けたのだ。信じたのだ。捧げたのだ。
冥王に忠誠を誓い、彼による救済がかつて自分の諦めた理想に繋がるはずだと夢を見た。
飛燕にとってはそれが全てであり、それを捨てて他のものを選ぶことなど出来るはずがない。
仮にもし、他の可能性があるとするならば――
「――ならば管理局、貴様らが今すぐに俺たちの世界を救えるのか?」
「――ッ!? それは……」
飛燕の問いにフェイトは咄嗟に答えられなかった。
当然だ、時空管理局は次元世界の平静を保つ天秤の守護者ではあるが、個々の世界そのものを救済することを目的とした組織ではない。
フェイト個人の思いや考えがどうであれ、特定の世界に対して領分を越えた干渉は許されない。
……そしてそもそも、仮に管理局における保護が飛燕たちの世界に齎されたところで、その執政が現状を改善させるには何年もの時間を有するのは明白。
一朝一夕のご都合主義の奇跡で世界が救えるのは物語の中だけの話だ。
フェイトとてその道理を知らぬ暗愚ではない。むしろ聡明の部類に入る彼女だからこそ、それが不可能であることくらいは痛いほど理解できる。
故に返答できぬフェイト自身の態度こそが結論だと飛燕は切り捨てる。
「俺たちにとっての救済は“あのお方”が創り上げる新世界のみだ。……貴様らがそれを奪おうと言うのなら、俺は貴様らを斬り捨ててでもそれを守るだけだ」
それが飛燕自身が望み、選んだ生き方。
だからこそ――
「邪魔を……するなぁぁぁぁぁぁ!!」
障害を振り払う意志そのものを体現するかのような咆哮と共に、フェイトへと振り下ろしているサイファーへと更に力を込める。
単純な筋力差……そして何より形振りも構わぬことを示すような相手の必死のプレッシャーに、動揺していたフェイトもまた気圧された。
拮抗が、崩れる。
受け止めていたバルディッシュごと弾き飛ばされたフェイトはそのまま叩き落され地面へと落ちていく。
咄嗟に受身を取るものの、そのままこちら目掛けて追撃に降りてくる飛燕のサイファーが振るわれる。
フェイトは必死にソニックムーブを発動しながらそれをギリギリで回避。だが尚もしつこく食い下がってくる飛燕の次から次への追撃に、その顔は苦悶へと歪んでくる。
我武者羅とも言えるここで勝負を決めんとする相手の猛攻。技量そのものが凄まじく捌くのが困難だというのもあったが、それ以上にフェイトを苦しめていたのはメンタル面だ。
先の飛燕の言葉。血を吐くような苦悶も顕に投げつけられた言葉と現実。咄嗟に、いや未だに有効的な言い返しが思いつかない。
それは妄執とも言える飛燕の気迫を制すことが出来ず、そして彼を説得は出来ないとも言うこと。
フェイト・テスタロッサは誰よりも優しい少女である。
己自身、それが時に致命的な甘さであることは理解していた。けれど、持って生まれそして育った環境の性ゆえか、それをどうしても捨てることが出来ない。
それは彼女の最大の長所ではあったが、同時にこのような状況においては致命的とも言える枷となってしまうことも事実だった。
フェイトは躊躇いを覚えていたのだ。
目の前のこの青年。やり方そのものは間違っていると認めることも出来ない敵だが、しかしどうしてもそれを問答無用で倒していい相手だと割り切れない。
更生の可能性は充分にある。だがしかし自分はその道を提示してやれない。
彼へと抱いた一種の優しさゆえの同情が、この戦いの中でフェイトの動きを鈍らせていたのだ。
そんな暇はない。仲間とこの男と今優先すべきなのはどちらなのか、局員としてもフェイト自身としても考えるまでもないことのはずである。
頭では理解していた。けれど感情が割り切れない。
鬼にも修羅にもなれない彼女は、故にこそそれに成り果てでも己の道を通そうとするこの眼前の相手には勝てない。
故に、その結果は必然であったのかもしれない。
何十合と続いた剣戟。しかしそれに遂に終止符を打つ結果を示すように、フェイトの手からバルディッシュが弾き飛ばされる。
迷いが生んだ拮抗を崩す彼女の技量の鈍きが、そうさせてしまった。
それはシグナムに見られでもしたら一喝ものの失態だろうな、とフェイト自身がありありと自覚できたもの。
「終わりだぁぁ!」
当然、決定的勝機であるこれを逃す飛燕ではない。
そして近接戦で得物を失ったフェイトは、咄嗟に魔法を使おうにも間に合うはずもない。
振り切りるように横薙ぎ一閃に振るわれる飛燕のサイファー。
反射的に後ろへ飛んで躱そうとするフェイト。
だが――間に合わない。
腹部へと唐突に発生する灼熱感。それが横一文字に腹を割かれた故のものであることをフェイトは理解する。
得物の特性上、出血はない。だがそれは同時に言えば故にこそ切り裂かれた腹から内臓が顔を出すともいうこと。
幾らこんな戦いの中に身を置く人生とはいえ、流石にフェイトとて年頃の娘。自分の腹から顔を覗かせる内臓に嫌悪に近いグロテスクな思いを抱くのは事実だし、何より自分の身体に傷が残りそうな負傷を負えば悲しくもなる。
力が抜ける。踏ん張れず立っていることもままならず、フェイトはそのまま前のめりに倒れかける。
最後に何を自分でも思ったのか、己に打ち勝った相手へと掴もうと手を伸ばしかけ――
「――触るな」
拒絶を示しそれを振り払うように弾かれ、何も掴むことが出来ないまま、フェイトは地面へと倒れこみ、その意識を闇の底へと沈めた。
「……これで一部隊、か」
主の玉座に襲撃をかけんとした手勢……その最後の一人が目の前で倒れ伏すのを確認した飛燕はその倒れた相手を静かに見下ろしながらそう呟く。
恐らくは精鋭中の精鋭であったのだとは思われるが、それでも一つの部隊にこうも手間取らされるなど言い訳もしようもない己の不手際だ。
今も尚、戦闘は続いている。先の少女が率いた部隊だけが主を狙っていたなどということはありえない以上、早急にその他の部隊も見つけ出し殲滅していかなければならない。
主の創る新世界……己の理想の邪魔は決して誰にもさせはしない。
故に負けない。絶対にこの身は負けるわけにもいかない。
そして主もまた絶対に討たせはしない。
「――東風、現状はどうなっている?」
先の少女との追いかけっこ、そして果ての戦闘にかまけ過ぎて主戦場から切り離されてしまっている。
早急に現状の把握をした後、自分は遊撃として行動に移らねばならない。
その為にもまずは現状のこの戦場の指揮官と言っていい東風から詳しい情報を回してもらいたかったのだが……
「……どうした? 応答しろ、東風」
先程から連絡を取ろうとかけている通信機。その先に繋がっているはずの相手からは一向に言葉の一つすら返ってこない。
それが暗に示すこと……戦況の推移はこちらが不利と傾きかけているのだろうかとも不安すら生じかける。
「東風、どうした? 応答してくれ」
現状はソロもそうだが彼女自らも最前線へと駆り出されている身。重要施設……確か彼女の担当は重力制御室付近であったはず。
連絡も取れぬほどにその付近は今激戦区へとなっているのかもしれない。
救援に向かうべきか、現状における行動指針としようとしていた彼女からの情報提供がない以上、咄嗟の判断に飛燕は戸惑ってもいた。
自分がこれ以上この近辺より離れれば主の守護もまた手薄になってしまうというのも間違いない。管理局も無論のことだが、あの男の暗躍を確実視していた飛燕からすれば迂闊に持ち場を離れるのは危険だという予感もまたあった。
だがしかしながら東風は防衛の柱である以上は見捨てるというわけにもいかない。並の窮地程度自力で脱するであろうという信頼はあるが、しかし過信が過ぎて重要施設まで敵に制圧されればそれこそ戦場の天秤は一気に傾いてしまう。
迂闊な行動は許されないが、決断を無駄に引き延ばす愚を犯すことも今の飛燕には許されない。
どちらにせよ動かねばならない、そう選択の決断へと入ろうとしていたその時だった。
突如、『第三の月の都』はその制御を乱されたかのように激しく揺らぐ。
「――ッ!? これは……!?」
動揺が飛燕の胸中へと広がったのは言うまでもない。
どう考えても先の揺れは要塞の正常な航行の最中に起こる振動などではない。
異常事態を示す先触れ。東風との連絡の取れぬ事とも相まって飛燕の不安は最悪の形にて帰結する。
咄嗟に飛燕はそのままこの場から飛び離れるように駆け出し始める。目の前の少女が本当に死んでいるかどうか、その確認すら怠ったそれは本来の彼らしくもない迂闊な行動だった。
しかし既に飛燕の頭の中では彼女の存在など放置することすら思考を避けないほど、それどころではなかったのだ。
「飛竜……ッ!?」
予感は既に確信の領域へと昇華しつつあった。
即ち、かつての戦友との血塗られた再会。
避けては通れぬ悲劇にもなりきれぬ喜劇……その幕が近いであろう事は明らかでもあった。
ソロが率いる部隊に目標への総射を中止させたのは、急に『第三の月の都』そのものが激しく揺れ、傾きだしたからだった。
間髪入れずの一斉射撃。これだけの火力に晒されれば、いくら堅牢な強度を誇る対象でも確実に抹消できたはずだ。
そう思ったからこそ、ソロは射撃を中止し、状況の確認と部隊の態勢を整えさせることを優先したのだ。
客観的に見るならば、それは決して間違った判断と言えるわけではない。
このような状況下ですら冷静さを失わずに的確に動こうとしたソロ。そして彼に従う部隊はむしろ優秀とも言えただろう。
ただ単に、致命的にある一つの事柄を大きく見誤っていたというだけだ。
それを唐突に証明するように、銃火にて発生した煙の向こう側から突き抜けてくる桜色の閃光。
極太の帯とも言えるそれは、横一列に並んでいたソロの部隊の一角を容赦なく吹き飛ばし、薙ぎ払う。
「――何ッ!?」
流石にいきなりの思ってもみなかった襲撃に、ソロは咄嗟に部隊へと散開を指示しようともするも……
だが――遅い。
極太の桜色の閃光。それが終わるか否かの同時に今度は大量の同色の魔弾が一斉に煙の向こうから飛び出していく。
しかもかなりの操作性があるのか、次々と的確に逃げようとするソロの部下達を追うように直撃、彼らを撃ち落していく。
信じ難い事態。統制を失い隊列を乱し、瓦解の兆しを見せ始める部隊。
咄嗟に不味いと判断したソロは、一喝を放ち冷静さを取り戻そうと呼びかけようとするも――
「……流石に、これはちょっと我慢の限界かな」
身を翻し後方へと身体を向けていたその背後。即ち先程までの前方側、それも直ぐ近くから聞こえてくる、背筋がゾッとするほどの低く抑えられた女の声。
馬鹿な!? ありえん!?
そんな思いにソロが憤ったのは無理からぬこと。
だがそれは限らずこの声の側とて当然のことなのだろう。
「悪いけど、ここからは一気に逆転させてもらうよ」
それはソロからしてみれば死刑宣告にも聞こえる言葉。
だがあまりにもデタラメで理不尽としか思えない対象に、いいようにやられてそんなものを認められるはずがない。
故にこそ、
「高町……なのはぁぁぁあああああああ!!」
そんなご都合主義のようなことが認められるかと、怒りと共にソロは振り返りながらその手に握った得物たるサラマンダーを躊躇いなく発射する。
だが振り返ったその先……迎え撃つように迫ってきていたのは先程の比ではない桜色の極光、その奔流である。
それは最後のソロの足掻きを、まるで小賢しいとでも言うように飲み込みながら、そしてそれすらものともせずにソロどころか背後の部下たちまでをも巻き込みながら、吹き飛ばした。
致命的な見誤り。
それはこの眼前のデタラメな女のふざけた耐久力を甘く見ていたことだったのだと、ソロは漸くに理解した。
「これで最後、大人しく投降してもらいます」
あれからものの数分もかからず、指揮官たるソロを失い瓦解した彼の部隊は、眼前の女たった一人の反撃に対応できぬままに全滅させられた。
全滅とはいえ非殺傷。こうしてソロも部下たちも生きてはいる。しかし既にあのふざけたダメージから戦闘続行も出来なければ、立ち上がることすら不可能だ。
「……我々の、負けだな……」
潔く事実としてソロはそれを受け入れた。
つまりは任務失敗。よもやあのストライダー以外に自分を倒す者がいようとは思ってはいなかっただけに驚きはある。
だが悔しさ等の感情は湧いてはこない。ソロはプロだ。戦場の掟として、ただあるがままの現実をこれが全てと受け取るのみ。
そして同時にそれは、負けた以上は仕事を請け負ったプロとしても責任を負わねばならないということ。
そしてケジメのつけ方は、彼にとっては至極単純に一つだけだ。
「貴様の勝ちだ、白い悪魔。
――だが、俺は貴様らの捕虜に落ちるつもりはない」
仕事人としてのプライドが、最後の意地がソロにそれを拒絶させて許すはずがないのだ。
「抵抗は無駄です。大人しく――」
まだ何かをするつもりなのか、それをさせじとなのはは身構えながら身柄を拘束させるためにバインドを発動させようとするも――
――しかし、ソロの動作の方が僅かに一歩速かった。
ソロはなのはの動きを先んじて、手の中に隠し持っていたスイッチを押す。
「――任務失敗。これより自らの抹消(デリート)を開始する」
それがなのはが最後に聞いたソロの言葉だった。
驚愕するよりも先、目の前が激しく光ったと思った直後に、ソロの身体は粉微塵に爆発した。
爆発そのものは小規模なものだった。
故に至近距離だったとはいえ、巻き込まれた高町なのはにそれによる負傷らしきものもありはしなかった。
……あくまで身体面においては、であるが。
『マスター、ご無事ですか?』
レイジングハートから安否を気遣うかのような声。
だがそれは今の彼女にとっては、あまりにも耳に遠いものであった。
今のなのはにとっては、この結果があまりにも認められ難いものだったからだ。
『マスター!?』
「……え、あ……うん、私は大丈夫……大丈夫だよ、レイジングハート」
レイジングハートからの何度目の呼びかけだったのだろうか、呆然としていたなのはは漸くにハッと気づくと共に何とか相棒へとそう答え返す。
……否、そう答え返すことしか出来なかったのだ。
「レイジングハート……彼は……?」
『恐らくは自らに仕込んでいた爆薬を用いて、自爆したと思われます』
「……そう………そう、なんだよね………」
未だ呆然とするなのはに比べてレイジングハートは冷静だった。
なのは自身もレイジングハートの説明に、その通りだと思いながら、しっかりするように自らへと叱咤するべく言い聞かせようとする。
だが……
「あ………」
間の抜けた呟きは、ふらふらとしたまま振り返った先で目に留めた光景を見て零れたものだった。
自分が率いていた部隊。守るはずだった部下たち。
その多くが傷つき、そして少なくない数が既に亡骸と化していた。
「みんな………」
戦場は初めてではない。仲間を失ったことだって一度や二度ではない。
犠牲者が出るのは避けられない。これは本当に戦争のようなものだと作戦開始前から理解していたし、覚悟だって固めていたはずだ。
「ごめん……みんな……」
けれど、だからと言って慣れるものではない。冷静に割り切れるものであるはずもない。
全て自分の手で守れると思っているほど傲慢ではない。しかしながら、それでも自分の目の前で犠牲者など出したくはないと思って戦っている。
敵にしろ味方にしろ、こんな所で死んでいい命などあるはずがないのだ。
だからこそ――これ以上の人死には到底認められるはずがなかった。
「レイジングハート、本部からの冥王捕縛の報告はまだ来てないよね?」
『はい、未だそのような報告は上がってきてはいないかと』
作戦開始より構成されていた冥王捕縛の予想時刻。それは既に大きく過ぎ去っている。
捕縛部隊にはあのフェイトが組み込まれていた。報告も上がらず部隊の沈黙が続いているということは、彼女たちの部隊に何かがあったということなのだろう。
フェイトの安否には身も引き裂かれそうな不安を感じる。だが憂慮すべき事態はもはやそれだけに留まってはいなかった。
「……『第三の月の都』が沈みかけている?」
『はい。恐らくは先にあった振動と関係してのことと思われます』
レイジングハートが演算してくれた予測によれば、そう遠くない時間の内に重力制御を失い、姿勢を崩しているこの要塞は、虚数空間の海へと沈んでしまうらしい。
本部に問い合わせてみれば、上がってきた報告によると何者かに重力制御室内部の動力炉を破壊されたらしい。
それが導き出す結論は、たった一つだけだ。
既に本部は作戦を中断、全部隊に艦隊まで撤退するように指示を出してきていた。
なのはもその命に従い、生き残った部下達に退却するように指示する。
……その指揮を、生き残った副官へと任せて。
『マスター、冷静になってください!?』
部隊を離れ、よりにもよって冥王の玉座まで向かわんとしている主を、レイジングハートは説得するように呼びかける。
「……私は冷静だよ、レイジングハート。だからこそ行かなきゃいけないの」
別にレイジングハートが危惧しているような、頭に血が昇ってトチ狂っているわけでも断じてない。
自身で答える言葉通り、むしろ己で不思議と思えるほどに今のなのはの心中は凪いだ静かなものであった。
ならばどうして、沈没に巻き込まれるかもしれぬ危険を覚悟で、彼女は危険度の増す奥へと進もうとしているのか。
フェイトの安否が気になっている。理由の半分は多分それで正解だ。
だがもう半分の思いもまた、ここで譲るわけにはいかなかったのだ。
「……もう、ここで全部終わらせなきゃ」
これ以上の犠牲や悲劇を生み出してはならない。
安っぽい正義感や愚かな英雄願望に駆り立てられているわけではない。
ただ単純に、これ以上はそれを許容したくないという我が侭と意地があっただけだった。
管理局の撤退と同様に、グランドマスターとて恐らくは居城とはいえ此処を破棄し、脱出するだろう。
たとえ冥王といえど今回の損害、決して容易な再起を行えるほどに浅い傷などではないはずだ。
だが二千年以上その存在を確認されているかの存在にとっては、どれだけの時間の流れがかかろうともいつかはかつてのように、否、それ以上の勢力として復活するだろう。
その時に、管理局は、自分たちは冥王を倒せるのか? 否、戦えるのか?
決して断言は出来ないし、そして何よりそのような未来を生み出してしまえば、今この時の戦いが、起こってしまった犠牲が無駄になるのも同然だ。
だからこそ『次』はない。冥王に『次』を与えてはならない。
『今』だ。『今』此処で全てを終わらせなければならないのだ。
故になのはは進む。片道切符の地獄行きを承知の上で、それでも未来に禍根を残さぬよう、その為に――
――エースオブエースは冥王の玉座を目指して駆け抜ける。
「……『第三の月』が……落ちるというのか?」
報告の上がってきたその事実に、歯噛みするように呟く飛燕。その身はあらん限りの憤りへと震えていた。
今彼が向かっているのは出戻りのようにスタート地点たる惑星包括制御センターだ。
即ち、彼の主が座す玉座。
飛燕の目的は玉体たる冥王を連れて脱出すること。切り替えられたその優先順位に従って主の下に馳せ参じ、説得すべく急いでいた。
「終わってたまるか。……こんな所で終わってたまるか」
そう、こんな所では終われない。でないとストライダーズを切り捨てた意味すら失ってしまう。
冥王が創造する新世界。誰もが清らかな天使のように幸福に暮らせる社会。
それを見届けるまで主を死なせるわけにもいかないし、自分も死ぬわけにはいかない。
だからこそ急ぐのだ、全てが手遅れに間に合わなくなるその前に。
――しかし、
「何処に急ぐ。貴様の終着点は此処だ」
悠然と、駆け抜けようとする飛燕の前方上の道に立ちはだかるように現れる影。
影……否、それは影ではない。
「――飛竜ッ!」
その名を叫びながら、しかし速度も緩めず止まることなくそのままサイファーを握り直し、駆け寄ると共に振り下ろす。
激しい金属音同士のぶつかり合い。そして明滅するプラズマの光。
互いに一歩も譲ることなく、その場でサイファーの刃を交差し合う二人。
飛竜と飛燕。
「そこを退け、今はお前の相手をしている時間がない」
「時間がないのはこちらも同じだ。お前の後にまだ奴の始末が残っている」
どこまでも許容できぬ忌々しい暴言。飛竜のその態度に当然のように飛燕が怒りを覚えたのは言うまでもない。
「“あのお方”を始末だと……そんなこと俺が許さん!」
「貴様の許可など最初から求めていない」
万言の言葉を費やそうが、もはや互いの溝は埋められない。
決定的に違えた道。選び取り目指すべき異なる未来。
ならばこの対決もまた避けられぬ必然だろう。
飛燕がまだそれでも飛竜に対して友情を抱くというのなら、取れる選択肢はもはや一つだけだった。
「飛竜……お前の悪夢、今日ここで俺が終わらせてやろう」
憧れの全てを過去に捨て、輝かしき未来を掴み取るために。
飛燕の覚悟にしかし飛竜はくだらないと言いたげに、鼻を鳴らして吐き捨てるようにただ一言。
「勘違いをするな。狩るのは俺で、狩られるのは貴様だ」
「……古き神の遺物どもが、小癪な真似を」
憤怒と屈辱にこの身が震わされるなど、この二千年近く殆ど経験していない絶えて久しいはずの感慨であった。
しかしこうして再びムシケラと見下していた連中に足元を掬われる結果がある
王にして神たるグランドマスターにとって、それは耐え難い仕打ちであった。
「だがまだだ。この程度のことで余は終わらぬ」
旧世界の遺物……滅びる定めたるムシケラどもに自分が敗れることなどありえない。
確かに損害は大きく、ここまで進行してきた計画すら何十年という単位で大幅な遅れとなることだろう。
だがそれでも……尚それでも、彼は不滅だった。
絶対的巨魁。新たなる神を自負するこの男は、此度の戦いで自分が負けたなどとは露ほども思っていない。
むしろ――
「ムシケラどもが、神の怒りを見せてくれよう」
“あれ”の試運転には丁度良い機会だ。どちらにしろこの『第三の月』を脱出する際は、“あれ”を持っていかねばならぬし、そのためにはどの道“あれ”を起動させねばならぬのだ。
それならば、脱出のついでに“あれ”の性能を外に蠢くあの五月蝿い小蝿どもに見せ付けてやれば良い。
そう結論付けたからこそ、グランドマスターは未だ玉座にて居座り、切り札の起動準備を進めていた。
ふとそんな時だった。
『――やあ、何やら大変な事態になっているようだね?』
唐突に外部からの秘匿回線を通しての通信。モニターに現れた人物はグランドマスターもよく知る人物であった。
「……貴様か、何用だ?」
今は貴様などに構っている暇などない。直ぐにも通信を切らんばかりの苛立った口調で冥王はモニターに映る人物へと問う。
『いやなに、旧友の危機と耳にしてね。助けは必要か訊きにきたんだよ』
モニターに映る人物――紫の髪に黄金の瞳を持つ白衣の男は、気安いとでも言えそうな態度にて笑みすら浮かべながら冥王へと言葉を投げ掛けている。
次元世界屈指の犯罪者。一世界の神同然の男に対して、それはあまりにも不遜。身の程を弁えぬ態度である。
事実、グランドマスターの不快さは通信を開くよりも前から比べても、見る間にその苛立ちは増してきていた。
「白々しいことを言いおって。……そもそもこの事態、貴様らの差し金ではないのか?」
『第三の月』の崩壊は近い。本来ならばこのような無礼者に割いている時間など殆どない。事実、冥王自身が態度にてそれを露骨に証明している。
それでも会話や通信を打ち切らないのはむしろ冥王の側である。それは先のその言葉の真実を確認しておくためであった。
『それは誤解だよ。……まぁ確かに、私のスポンサーはこれを好機に目の上の瘤たる君を取り除こうという腹積もりなのだろうが、私に限っては君に向ける牙などありはしないよ』
冥王の返答を促すその態度に、しかしモニター越しの男もまた一向に臆した様子もない。それどころか今の状況や会話すら楽しんでいるといった様子にそんな言葉を返答にと示してくるのみ。
あくまで自分は従順である、いけしゃあしゃあにそれこそ白々しい返答にグランドマスターは不快気に鼻を鳴らす。
しかし元よりこの男が食えぬ相手であることくらいは承知の上だ。仮に罵倒を浴びせかけようともその憎らしい笑いすら治めぬことだろう。時間の無駄である。
ならばこの男の真意自体は今は置いておく。問題は先の男の返答の内容だ。
「――“無限の欲望”」
冥王は男の核たるその名を呼ぶ。
自らが生み出した被造物。かの失われたアルハザードの遺産。そして何より、あの愚かしい小物どもにわざわざくれてやった男のその名前を。
その男が自らのスポンサーと口にした存在。それは即ち――
「ならばこれは奴ら――最高評議会の独断であり、貴様はあずかり知らぬことだと?」
時空管理局最高評議会。表向きは彼にとっての最大の敵側派閥。
三百年間、冷戦に近い対立を続けてきた敵対者。
しかし本当のその実態は……
「……奴ら、まさか“盟約”を忘れたわけではあるまい」
遡ること三百年前。丁度、互いを滅ぼし合う最終戦争へと発展しかけていた衝突寸前の時期。
次元世界の裏側にて交わされていた一つの“盟約”があった。
『来たるべく審判の日、次元世界の全てを掌握するために君が動く。
その時に彼ら管理局は君に協力し、共に次元世界の全てを征服する』
それをスムーズに行うための裏側からの地盤作りを行っておく。
本格的な最終衝突を回避し、今日この日まで維持され続けてきたはずの裏側の真の目的。
ジェイル・スカリエッティが今口にしているその内容こそが“盟約”だ。
「然り。それが“盟約”だ。その為に我らは互いを不可侵と定めてきたはずだ」
だと言うのに、ならばこれは何だと苛立ちも顕にグランドマスターは問う。
表向きは敵対関係だが、決して干渉は禁止と決めてきたはず。
それを唐突に裏切る形のこの奇襲。
裏切られた側の冥王からしてみれば、到底納得出来るものではなかった。
当然だろう。これは恩を仇で返されたのも同じなのだ。
「この三百年の延命! そして貴様! 全てだ! 全て奴らへと与えてやったのは誰だ!?
――余だ! 冥王たる余がわざわざくれてやったのだぞ!? それを――ッ!!」
屈辱……そんな生温い言葉で済まされるわけがない。
ミッドチルダのクラナガンで今も生き恥を晒しているあの醜い脳ミソ共、この手で八つ裂きにしてやってもまだ飽き足らぬ。
激しい憤怒と憎悪。復讐の念。冥王を激情に駆り立てるそれらが治まることは決してないだろう。
『まぁ確かに君からすればその怒りは尤もなことだ。……しかしね、冥王。君の言うように彼らは俗物だ。誰よりも君を恐れ、誰よりも君を妬んでいる。死期が近いと悟っているのもあるんだろうね。もはやその縋りつく妄執を抑えることなど出来ないんだろうさ』
三百年。この冥王ほどでないにしろ、脳だけという不完全な形とはいえ彼らもまた人としては長すぎる歳月を生き永らえた。
それでも彼らには縋りつくべき妄執があったから。敵対者に頭を下げて技術を賜ると言う屈辱同然の行いをしてでも、それでも果たそうとしている悲願がある。
自らの終わりが近いこととも合わされば、今更にどのような行いに手を染めようが彼らにしてみても何の躊躇いも恥もないのだろう。
『そもそも彼らは三百年前から“盟約”を守るつもりなんてなかったんじゃないのかな』
彼らが欲していたのは自身の延命法と冥王が保有していた技術。
そして失われたアルハザードや古代ベルカの遺産である。
最初から貰うものだけで貰って、後は時を見て裏切るつもりだったのではないのかなとスカリエッティは可笑しそうに自らの予想を告げる。
「くれるだけくれてやって裏切られる……余を間抜けな道化と嗤うか?」
『まさか。彼らもしたたかだが、君のそれと比べれば大人と子供さ。君の方こそ気前が良さそうな素振りも裏腹に、彼らを欠片ほども信用していなかったんじゃないのかい?』
大規模破壊兵器。群を抜いた質量兵器の数々。そして広範囲規模のAMF発生装置。
これらの開発に精力的に力を注いできたのは、全て来るべき日に反旗を翻すであろうと予測していた管理局を滅ぼすためではないのか。
そう問うてくるスカリエッティの言葉に、しかし冥王は答えない。だがその沈黙はありありとその答えを示してもいた。
『彼らにしてみても焦っていたんだよ。着々と勢力を広げ地盤を固めていく君。時を置いてはいずれ負けてしまう。だからこそ、仕掛ける時をずっと窺ってきた』
スカリエッティの言葉通り、しかし冥王とてそれくらいは予想していた。だからこそ決して一部の隙も見せず、こちらの内情とて一片たりとも洩らしはしてこなかったはずだ。
冥王の情報操作は完璧だった。彼は自らを神と気取る傲慢さを持ち合わせているが、しかし決して大局を見据えて迂闊な隙を見せるほど愚かでもない。
事実、かつて二千年以上前、その慢心で一度は危うく自らを潰えさせかねぬ窮地にすら立ったこともあったのだから。
故にこそ、自分に過ちなど無かったはずだ。
『君自身に隙は無かったのかもしれないね。けれどある一人のエージェントの存在が、君の気づかぬ隙を晒す原因になってしまったのではないのかな?』
ここが核心だと楽しげに笑いながら告げてくるスカリエッティのその言葉に、グランドマスターもまたあることに気づいたようにその身を電流が走ったかのごとく震わす。
彼自身に隙はない。だがそんな隙が無いはずの彼を破滅へと誘ってくる例外的存在が確かに一人だけいたことを冥王もまた認めていた。
そう、忘れるわけがない。何故ならあの男はこの世でただ一人、偉大なる自分に対して初めてその死を予感させた存在だった。
「……飛竜っ……!?」
冥王の奥歯を噛み締めんばかりの忌々しげなその呟きに、スカリエッティは正解だと笑った。
『そう、彼だ。君にとってのただ一人の敵対者。君の創ったその世界で、たった一人で君に従おうともせずに抗い続ける宿敵』
因果の鎖と言うものが仮に存在するとすれば、彼と冥王の間に繋がれたそれは例え幾星霜もの時が過ぎ去ろうとも、決して断ち切れるものではないのだろう。
今でも鮮明に思い出せる。否、忘れることの出来ぬ恐怖として記憶の中に刻み込まれているのだ。
そう、あの男だ。あの男だけなのだ。
――もし本当に、神たるこの身を滅ぼせる者が存在すると言うのならば……
“――貴様らに、そんな玩具は必要ない”
二千年前のあの時、刃こそ届かなかったとはいえ、自分の前に辿り着いたあの男。
「……やはり、奴こそが余を滅ぼさんとする最大の敵ということか」
甘く見ていたわけでも、軽んじていたつもりも断じてない。
だがスカリエッティが告げるその思わせぶりな口ぶりから冥王もまたその全てを悟った。
反旗を翻した最高評議会。奴らへと情報をリークし、その行動の後押しとなった原因であろう男の存在。
隙なきはずのこの自分に、こうまで致命的な隙を晒させて外部からの厄すらも招きこんできた破滅の死神。
飛竜という男の存在が、いま神たる自分をこうまで明確に脅かさんとしている。
『さてどうするのかな、グランドマスター?
当然逃げるのだろうけど、管理局も彼も君を逃がすつもりなんてないんじゃないのかな? どこまで追ってでもきっと君を破滅させようとしてくるだろうさ』
言われるまでもない。そんなことは言われずとも分かっている。
そもそも下等なムシケラどもに尻尾を巻いて逃げるなど、そんな屈辱に等しいことが出来るはずもない。
だからこそ、すべき事は決まっていた。
「逃げるだと? 愚か者が、余がどうして奴ら如きを相手に逃げねばならん。
この場で小五月蝿く飛び回っておる管理局も、死に損ないの飛竜も、全て纏めてここで葬り去ってくれるわ」
そもそもその為に“あれ”の起動準備を続けていたのだ。
これ以上、この男に構っているような暇もない。
『そうかね、なら手が借りたいなら言ってくれ。君ならば格安で助けを提供させてもらうよ』
「不要だ。貴様、余を誰だと思っている。貴様如き被造物の助けを借りるほど余は落ちぶれておらん」
きっぱりと拒絶を示す冥王の態度。“無限の欲望”と呼ばれる男はそれに残念と苦笑を浮かべる。
『そうかい。折角、私の自慢の娘達をもうそちらに救援へと向かわせているのだが……これは要らぬ気遣いになってしまったか』
ここで貸しでも作っておこうという腹積もりであったのだろう。スカリエッティのその余計な申し出に用意がいいと呆れながら、やはりこの男は食えぬ男だと改めて思った。
「……例のナンバーズとやらか?」
『ああ、その通りさ。君からの技術提供で予定していた時間よりも遥かに早く皆仕上がりそうでね。そのせめてもの恩返しを思っての派遣だったのだが……分かった、ではこちらから手出し不要と彼女たちには伝えておくよ』
「そうしておけ。ここから先、巻き込まれようとも責任は取れんぞ。早々に撤退させることだな」
『そうさせてもらうとしよう』
そう言いながら、これで会話も終了と通信を切ろうとしていたまさにその時だった。
「――冥王グランドマスター……ッ!」
唐突に玉座たるこの惑星包括制御センター内部に響き渡る声。
不遜にもこの冥王の名を憚りもせずに叫ぶ無礼者に、何者かと冥王もまたそちらへと振り向いた。
センター入り口。入ってきたばかりなのだろう。負傷しているのか入り口脇の壁へと荒い息を吐きながら凭れ掛かって立っている一人の娘。
まだ若い。凡そ二十歳前後くらいか。鮮やかな色合いの金髪に、ルビーのような赤い瞳を持つ女。
『……ほう、そう言えばこの作戦には彼女も参加しているとは資料で確認していたが』
それでも意外だと言うように呟くスカリエッティに、グランドマスターは知り合いかと尋ねる。
スカリエッティは苦笑の色を強め、どこか皮肉気に肩を竦めて頷きながら、
『まぁ、彼女も私の娘のようなものさ』
そう告げながらモニターの向こうから、スカリエッティは彼女――フェイト・T・ハラオウンへと改めて視線を向けた。
以上、投下終了
前回代理投下してくださった方、ありがとうございました。
しつこく続いてすいません。後、二度ほどの投下で終わるとは思うんですが……やはりもう少し話はコンパクトに纏められるよう努力したいです。
この最後らへんのきな臭い繋がりの部分が世界観融合設定での捏造部分です。
別に管理局は上は少し黒いですが、決して悪い組織なんかじゃないんですが……こんな話、書いてる自分が言っても説得力ないですね。読んでて不快感を抱かれた方がいられましたら、それは私の筆力と構成力の不足によるものです。申し訳ありません。
後少しだけ続きますので、もう少しだけお付き合いいただければ幸いです。
それでは、また
乙です
切れたなのはさんが作中で一番怖いってどういうことなの・・・
感想ありがとうございます
他の方の予約がないようでしたら20時40分頃から投下予約させていただきます。
時間になったのでボチボチと
『プロジェクトFのことは憶えているかな?』
「……貴様が基礎理論を組み立て、どこぞの魔導師に提供してやったというあれか」
使い魔を超える生命体の創造。元媒体からの記憶を抽出し複写させることにより同一個体の永続を目的として進められた研究。
冥王自身も遥か昔に着手した研究の一つである。……尤も、今の自分ならば兎も角、当時の自分は実現不可能と見切りをつけて打ち切ったプロジェクトに過ぎないが。
どちらにせよ、スカリエッティの組み立てたその基礎理論自体は興味があったので彼も目を通したことがある。しかしかつて自分が辿り着いた道以上にはなりえていない不完全なものに過ぎなかったはずだ。
かの研究より生み出せるのは、所詮器の外側だけが似せられるだけの不出来な劣化クローンが限界。個体の有する素質・パーソナルデータは完全に一致させることも出来なかった。
加えて複写させたはずの個体の記憶……これが完全に定着しないようでは既にクローンとしての価値がないも同然だった。
神に至る道としてプロジェクトFは何の役にも立たぬ無価値。それは両者とも研究を打ち切る際に結論付けた最終的な共通見解のはずだ。
『私がその理論を提供した人物がね……プレシア・テスタロッサというのだよ』
スカリエッティのその言葉にだからどうしたと冥王は眉を顰めた。
不完全な研究を引き継いだどこぞの誰とも知れぬそんな一魔導師の名など知りもしなければ興味もない。
スカリエッティもそんな関心のない冥王の態度を察したのか、どこか愉快気に含み笑いを見せながら、次に入り口の女魔導師の方へと視線を促して言葉を続ける。
『さて、彼女は名をフェイト・テスタロッサという。君ももしかしたら名前くらいは聞いたことはないかな? 管理局でも指折りの優秀な執務官なんだがね』
その言葉に冥王もまた瞬時に漸く成程と言った様子で頷いた。
娘のようなものという言い分。先のカビの生えた研究の話。そして女魔導師の名前。
むしろ流石にそこまで揃えられれば気づかぬ馬鹿など居はしないだろう。
「成程、ではあれはFの遺産ということか」
『ああ、今なお現存している貴重な個体だ。出来ればサンプルとして手に入れたいと常々思っていたんだが……』
しかしスカリエッティのその言葉に対し、グランドマスターは嘲るように諦めろと嗤うのみ。
この男がどれだけ興味を抱き欲していようと、そんなものは冥王自身には関係ないことだ。
出来損ないの分際で分不相応にこの神の間に入り込んだ痴れ者である。問答無用で排除するのが道理というものだ。
『やはりそうなるか。……いや仕方がないとはいえ、実に残念だ』
そう苦笑を浮かべながら、どこか哀れみの視線も顕にスカリエッティはそれをフェイトへと向ける。
対するフェイトの方も、予想外の相手の登場に半ば驚愕と共に呆然としている始末であった。
だが時間が差し迫った状況である以上、いつまでもこんな茶番に付き合っている暇もない。
「そろそろ終わるぞ。余もこれから予定が詰まっている」
『……分かった。では冥王、あなたの武運を祈っているよ』
来るべき新世界、そこで再び見えんことを。
まるで戯言のようにそんな言葉を最後に告げながら、スカリエッティと繋がっていた通信は断ち切られ、モニターが消える。
その瞬間、正気に戻ったフェイトが呼び止めようと叫びかけるもそれも間に合わない。
そして冥王もまた茶番は終わりと示すように、即座に侵入者の排除のために行動を開始する。
「光栄に思え。出来損ないの失敗作が、この神たる余の手で地獄へ行けるのだからな」
言葉の終了とほぼ同時。その身に纏う黒衣の中より飛び出すように無数の獣が生まれ出で、一斉に眼下のフェイトを目掛けて襲い掛かった。
無数の獣が一斉に殺到するかのように襲い掛かってくる。
フェイトはその予期せぬ事態に一瞬虚を突かれながらも、反射的に後ろへと飛び退ってそれを躱す。
それでも尚、即座に追撃をかけんと迫り来る獣たち。
フェイトは展開したフォトンランサーでそれらが辿り着く前に次々と撃ち落し、殲滅させていく。
しかし――
「――ッ!?」
思わず苦悶に顔を歪めながら腹部を手で抑える。
先の飛燕との戦闘でサイファーによって切り裂かれた腹部の傷。簡易治療魔法で表面部分だけ取り繕ったような応急処置しかしていないので、当然のように痛みが治まることなく危険信号を告げるように全身へと激痛を訴えかけてくる。
思わず膝を着く。荒い息すら整えられず、視界すら既に霞みかけている危うい事態だった。
意識を取り戻しここまで辿り着けただけでまさに奇蹟と言っていいような重傷の身だ。既に彼女の限界はとうの昔に訪れていたのだ。
「無様よな。この程度の塵の侵入を此処へと許すなど……飛燕め、存外に使えん男だ」
グランドマスターは上空からフェイトを蔑むように見下しているものの、しかし本当のところはフェイトなどまるで眼中にもいれていない。
そもそもこの男にとっては、自分以外のものなど全てが役に立つか立たないかの道具のようなものに過ぎないのだろう。
会話と呼べるものすら未だ交わしておらずとも、相手のその傲慢な態度からそれをありありと察すことが出来た。
「……グランド……マスター……あなたは……ッ!」
「出来損ないが、身の程も弁えずいつ余の名を呼んでいいと許可した」
汚らわしいものでも見るように不快気に吐き捨てながら腕を一閃。
突如発生した衝撃波がフェイトの体を打ちのめし、そのまま壁へと叩きつける。
満身創痍の彼女では呻きながらも、何とか立ち上がろうとするもののそれすら危うい足取りである。
だがそれでもフェイトは立ち上がらなければならない。問わねばならなくなったこともある。
「……どうして……あなたがジェイル・スカリエッティと……?」
この場へと突入し、任務のことすら思わず忘れるほどに衝撃を受けた事態だった。
ジェイル・スカリエッティ――この十年の間にずっと追い続けていた犯罪者。
自分のルーツを知るはずの男。何故あの男が冥王と通信など取り合っていたのか。
広域次元犯罪者同士の裏の繋がり?……本当にそれだけなのか?
或いは、もっと裏に隠された大きな謎が――
「ふん、末端は何も知らされず踊らされているだけということか」
フェイトの様子にまるで一人だけ合点がいった様子で納得するかのような冥王。
だがその意味をフェイトが知るはずもない。
だからこそ問い質そうとしたのだが――
「貴様ら塵が知る必要などない」
茶番には付き合っていられない。まるでそう示すように、再びその黒衣の内より無数の獣を生み出しながらフェイトを目掛けて差し向けてくる。
反応しようと動きかけるも、やはり限界寸前のフェイトの体は反応が遅れ。
間に合わず口腔の奥より生える獣の牙がフェイトに突き立てられんとしたまさにその瞬間だった。
突如、上空より降り注いできた無数の桜色の魔弾が次々と獣たちへと撃ち込まれ消し飛ばしていく。
まるで呆然となりながら、思わず反射的にフェイトが上空を見上げたその瞬間だった。
「――大丈夫、フェイトちゃん? 助けに来たよ」
そこに存在していたのは誰よりも頼もしく、信頼できる愛しい親友の姿。
管理局のエースオブエース。高町なのはがそこにはいた。
ストライダーとは潜入・破壊工作におけるエキスパートである。
忍者を前身としている隠密工作員ではあるものの、彼らが有する戦闘技術は非常に高いと言われている。
ストライダーにおいて平均とされるC級。これはよく調練された軍隊一個部隊と同格とされる戦闘能力を誇る。
ましてこの二人は飛竜と飛燕、彼らは更に上とされる最高峰のランクたる特A級に分類される。
ならば繰り広げられる両者の真っ向からの激闘。それが超人の領域に達するレベルのものであることは今更語るまでもない。
繰り交わされる雷光剣サイファー、その剣閃の応酬。
直接刃同士をぶつけ合わせたものも含めれば、既に何十合の決死を迫る剣戟が繰り出されたかは本人たち以外には分からぬことだろう。
上段から中段を主眼において前面制圧を目的として繰り出される飛竜の刃の数々。
対する飛燕は己の獲物を器用に傘のように回転させながら、盾のように用いてそれを凌ぎきる。
その攻防の直後、間髪入れずと言うように飛竜の姿が飛燕の目の前より突如掻き消える。
一瞬のロスト。しかし飛燕は冷静に微塵たりとも心を揺るがせない。
まるで約束組み手の続きを見せるかのように、瞬時に次手を予測した飛燕は咄嗟に地面に倒れ込むように身を屈む。
直後、先の飛燕の頭部が存在した空間を薙ぐように鋭く通過して行ったのは、そこを目掛けて蹴撃を放った飛竜。
――ヴァジュラ。ストライダーの扱う体技の一つ。代表的な奇襲技。
しかしそれが来るのを飛竜の手口から読み切っていた飛燕は、素早く回避と同時の起き上がり様に上を通過していく飛竜へと渾身の刃の一撃を振り上げた。
飛竜はそれを難なく自らのサイファーを用いて弾くことで防ぐ。……だが攻撃側の飛燕の膂力に押し負けたのか、そのまま吹き飛び着地の際には両者の距離が開く。
飛竜にとってそれは間合い外。しかし飛燕にとってそれは違う。
飛燕のジオメトリカルサイファーは本来この距離こそを最も得意とする投擲に特化した武装だ。
瞬間、即座に飛燕は飛竜を目掛け己の獲物を投げ放つ。
弾速すら陵駕せんと迫る必殺の刃。飛竜はそれを一つは弾き、もう一つは横跳びに躱す。
それを読むように投擲と同時に飛竜を目掛けて駆け出していた飛燕は、弾かれた一方のサイファーを素早くキャッチ。そして飛竜の回避コースを回り込むようにサイファーを構えて待ち伏せる。
予測されたピンボールの軌道の様に、刃を躱しこちらへと跳んで来る飛竜。
飛燕は気合の怒号と共にその姿を断ち切らんと刃を一閃。
だが――
「――何ッ!?」
「予測の範囲だ」
憎憎しいまでの涼しげな声が、その攻防の結果を意味づけていた。
飛竜を両断せんと走るサイファー。彼はその飛燕の斬撃を敢えて己のサイファーで受け止めるのではなく、あろうことかその振るう飛燕の手首を素早く掴み捻ることで斬撃を逸らしてみせたのだ。
タイミングを間違えれば、掴み損ねれば即死に繋がる蛮行。しかしそれを飛竜は平然と眉一つすら変化させずに行ってみせたのだ。
それは相手の規格外の度胸を……否、両者の彼我の技量差を見せ付けるも同然の行いだ。
驚愕する飛燕。だが飛竜からすればそれは知ったことではない。むしろ予測外の事態であれ敵を目前に致命の隙を晒すものは彼の価値観で言えば総じて二流だ。
相手の斬撃を防ぐのにサイファーを用いなかった理由……それは当然ここでカウンターで相手にその刃を叩き込むため。
故に飛竜には微塵も躊躇いはない。飛燕の隙を晒すその胴、それを両断せんと横薙ぎに一閃するサイファー。
咄嗟に……それこそ正に生命維持のために本能が無理矢理に動かした反射だったのだろう。飛燕はそのギリギリで床を踏み砕く勢いで跳びながら後ろへと反ってそれを躱す。
だが――飛竜は更にそこまで読んでいたのだろう。
その後ろへと跳び退ろうとする飛燕の顔面。そこに問答無用に本気の蹴りを叩き込む。
横薙ぎに一閃する勢いを利用し、独楽の回転のように相手への接近の距離を稼ぎながらその流れの勢いを利用して蹴りを放ったのだ。
当然、無防備な顔面への一撃に飛燕は蹈鞴を踏むようによろめく。
その一瞬の隙を突くように、既に飛竜は相手の背後へと回り、逃がさぬように相手を掴み跳躍。
「黄昏に消え去るがいい……」
最後に、相手のそんな言葉が耳元へと走ったのと同時だった。
空中でまるで分身するかのような超速度で飛竜が飛燕のその身へと次々に繰り出していったのは無数の攻撃。
「ラグナロク!」
その彼自身の結びの言葉と同時、飛燕の全身へと叩き込まれるように走った衝撃は、ストライダーの体技が誇る必殺の奥義。
全身から生まれる激痛。各所より生まれる無数の傷。血塊を吐きながらそのまま飛燕は固い地面の上へと叩き落とされた。
「がぁ……ッ……ァッ……!?」
「茶番は終わりだ」
戦闘続行不能のダメージに苦悶にのたうつ飛燕を、無感情に冷酷に見下ろしながら当然のように飛竜はそう告げる。
彼にとってはこの勝利自体にも意味はない。裏切り者への粛清、その義務を果たしたのみなのだから。
故に結果が全てだ。飛竜の勝利も飛燕の敗北も、当然の帰結としてなるべくしてなったものに過ぎない。
後は言葉通りに飛燕にトドメを刺し、この茶番を終わらせ本来の任務遂行へと戻る。それだけの寄り道に過ぎなかったはずだ。
だが――
「飛…ッ……竜ぅぅ……ッ!!」
それでも尚、まだ抵抗するように立ち上がって見せたのは重傷の身である飛燕。
全身をラグナロクによって打ち込まれた傷で、既にそれは致命の身であることは明白だった。
それでも息を荒げ、血走った目でこちらを睨みつけながら立ち上がったその姿は地獄の獄卒すら凌駕せんとする鬼気迫る迫力があった。
……尤も、そんなものに怯むような可愛げも殊勝さも対峙する飛竜にあるはずがなかったのは当然のことであり。
「見苦しい」
故に容赦なく一瞬で間合いを詰めると共に蹴り上げる。そのまま宙に浮いた相手の身へと再び拳を叩き込み、最後は直接掴んでもう一度地面へと容赦なく叩き落す。
問答無用。容赦なしの追撃。……否、サイファーを用いて即座に首を刎ねなかったところを見れば、この男にしてはらしくもない有情だったのやもしれない。
どちらにせよそれが飛竜の気紛れか手抜きなのか、或いは飛燕の執念深さか生き汚さかは分からないが、それでも勝負はつこうとも敵が未だ生きていると言うことに変わりはない。
しかし両者どちらにとっても時間が差し迫っていたのも事実。どうであろうとこれ以上の無駄な時間は割けないのは明らかだ。
故に終わらせる。まず先にそう判断した飛竜は、サイファーを構え直しながら漸くにトドメを刺すべく悶絶して倒れ伏している飛燕へと近づく。
しかし……
「……飛竜……ッ……お前は……何を、考えている……?」
辛うじて首だけを持ち上げながら、見下ろす飛竜を睨みつけるように見上げながら飛燕は問う。
否、それは問いと言うよりも既に彼にとっては身を裂かんばかりの怒りの叫びだ。
「……ここで、“あのお方”が死んでしまえば……俺たちの、世界は……どうなる……?」
自分たちの世界を救えるのは冥王グランドマスターただ一人。
その持論を未だ飛燕は曲げていない。否、曲げられるはずがない。
その信仰だけを拠り所に全てを……ストライダーズすら捨てたのだ。
冥王による救済、彼の新世界の創造だけが今の飛燕の全てだ。
この手を数多の血と罪で染めることから逃げずに向かい合えるための理由だ。
多くのものを切り捨てた。多くのものを犠牲にしてしまった。
許されることでないことは分かっていても、今を苦しむより多くの人々を、死に逝こうとしているあの世界を救うためだと割り切っていた。
だから今日まで戦ってこられたのだ。
だというのに……ここまで来て、後もう少しというところまで来ているというのに。
「任務が……そんなに大事か?……そんな、何の大儀もない……クソッタレの理屈で……いったい、お前には何が救える……ッ!?」
許せなかった。我慢ならなかった。納得できなかった。
認められるはずがない。認めていいはずがない。
「……ストライダーでは何も救えない。……俺もお前も……結局は何も救えなかったじゃないか……ッ!?」
あの日抱いた無念、やるせなさ、失望と絶望。
その全てを刻んで憶えている。あの後悔があったからこそ今の飛燕が存在するのだ。
そしてだからこそ、同じ穴の狢でありながら、何も出来ないくせに人々の救済そのものを邪魔しようとする飛竜に、飛燕は我慢ならなかったのだ。
「答えろよ、飛竜……ッ!……お前に、何が救えるって言うんだッ!?」
任務遂行だけが全ての機械か人形のような男に、何一つ救えるはずもないだろうと怒りを叩きつける様に飛燕は問い質した。
しかし真っ向からその怒りをぶつけられる飛竜は微塵もその冷徹な態度を崩すことなく、
「神に人など救えはしない。どのような結果になろうが人の滅びも再生も、選べるのは人自身の選択だけだ」
神に救済を求める、それこそが甘えた茶番の思考だと飛竜は切って捨てた。
徹底的に現実だけを見つめて、そこから未来の趨勢をどちらに傾こうが自分たちだけで決める。
神の被造物、下僕ではなく、独立した存在として最後まで残る意地を貫く。
人がすべきことがあるとすればそれだけだと飛竜は示す。
どれほど辛かろうとも、認め難かろうとも、それでも人は今己の生きている現実という世界の上で懸命に生きていかなければならない。
「貴様らの甘えた上から目線の救済など、ぬるま湯の箱庭への逃避と同じだ」
そこへ弱さから逃げ込むのは当人の自由だ。
だが手前勝手の価値観を押し付けて、全て同じように変えてしまおうとすることこそ、愚行以外の何ものでもない。
飛竜にかの冥王を認められず、許せぬものがあるとすればその一点。
「箱庭で死にたいなら、まずは貴様らが先にそこで死ね」
自分はそこに同類どもを積み重ねて、最後にその箱庭を徹底的に破壊するだけだ。
最初からそう決めていた。否、最初からそうせねばならなかった。
あの時……かつてそれが果たせなかった責務としても、飛竜には妄人どもの箱庭に終止符を打たねばならぬ責任がある。
故に――
「――ぬるま湯の夢の続きは地獄で見ろ」
それだけを無情に告げ、飛竜は容赦なくサイファーを振り下ろした。
あまりの突き放すような無情とも言える飛竜の言い分。
飛燕は半ば愕然として打ちのめされたのは言うまでもない。
甘えた箱庭への逃避。そう言い切られた自分たちが目指した救済。
無論、納得できるわけがないのは当たり前だ。飛竜の言い分は確かに尤もなものかもしれないが、しかしそれは逆に全て自分一人で選ぶ力を持っている強者だからこそ言える言い分だろう。
ならば弱者は? 明日をも知れぬ今日も生き残れるかも知れぬ弱き者たちは?
奪われ、踏み躙られるだけに甘んじる他ないものたちはどうするというのか?
ただ泣けと言うのか? 諦めて全てを受け入れろと言うのか?
「……ざ…ける……なぁっ!」
ふざけるな! 湧き上がる怒りと共に叫び上げる言葉はそれだった。それだけだった。
認めない。それこそ認められない。
尤もらしい言い分のようで、それこそやはり何一つ救うことなど出来ない飛竜の言い分などやはり認めることが出来るはずがない。
既に身体は死に体。絶え間なく続く激痛に、思うように動けぬ体、永遠の眠りへと誘わんとでもするように尾を引いてくる霞む意識。
その全てを――飛燕はただ怒りで凌駕した。
首を断たんと振り下ろされるサイファー。
飛燕は咄嗟に身体を無理矢理に動かしてそれをギリギリで躱す。
よもや心身ともに打ちのめし、死に逝く他にはないだろうと思っていた相手のその足掻きには、飛竜も珍しく瞠目するように動きを鈍らす。
その一世一代のチャンスを掴むように、飛燕は全ての余力を振り絞って相手から飛び離れる。
向かう先は己が獲物――サイファーの転がっている場所。
瞬時にそこまで辿り着き、サイファーを掴みながら振り返り身構える。
既に飛竜はそれ以上の足掻きをさせぬとトドメを刺すべくサイファーを振り構えて迫ってくる。
――アメノムラクモ。ダッシュと共にサイファーを用いて突進してくるストライダーの体技の一つ。
それを飛燕は横跳びに躱す。目標をロストし、空振りの隙が出来たその側面から飛燕は残る全ての力を振り絞ってサイファーを投擲。
飛竜はそれを咄嗟に上へと跳んで躱す。
だが空中へとギリギリで逃れたその隙は大きい。
飛燕もまた空中を駆ける様に跳びながら飛竜へと迫る。
――エクスカリバー。本来ならばサイファーを構えて突進する空中走行技なのだが、即興の手であるため飛燕は無手。
だが飛竜の手には手放すことなく握られているサイファーがある。このままギリギリ身体を反転させながら横薙ぎにでも振り抜かれれば、飛燕はわざわざ両断されるために特攻しに行くのも同然だ。
しかしながら、それが杞憂であることを確信と共に飛燕は理解していた。
飛竜が予想通りに飛燕の向きへと振り返ろうと迫り来るその背後。先程投げる際に方向調節したサイファーが、飛竜を後ろから両断せんと迫り来ていたからだ。
飛竜はその事態に珍しく舌打ちを吐きながら、より脅威と判断したサイファーの方へと対処。自らの雷刃を振るいそれを弾き飛ばす。
それとほぼ同時のタイミング。抱きつくように飛竜の身へと突進した飛燕は、そのまま抵抗する相手を空中で拘束しながら、突進する先に空いていた穴へと向かってそのまま飛び込む。
そこは『第三の月』の外部へと繋がる排出口。……当然、その先が全てを飲み込む虚数空間の海であることは今更言うまでもない。
飛燕の狙いは最初からただ一つ。
「飛竜……俺と一緒に……地獄へ堕ちろォ!」
捨て身覚悟の身投げ。本来ならば不本意な方法だが、こうでもして刺し違えぬ限りはこの男を止められない以上、仕方がなかった。
冥王の創る新世界を、その救済をこの目で見られぬのは残念だが……しかし、この最強の敵――誰よりも憧れたかつての戦友と共に死ねるというのなら悔いはない。
ストライダーという悪夢もここで終わりだと、そんな万感の思いと共に後一歩で虚数の海へと堕ちんとしたまさにその時だった。
「死ぬなら死ぬで、貴様が勝手に先に死ね」
最後までまるで何の感慨も示さないと言うような切り捨てる一言を飛竜が発した瞬間だった。
突如拘束している状態であるはずだというのに、至近距離から全身に打ち込まれるように再び生まれた激痛に飛燕が血塊を吐き出す。
いったい何が……? そんな驚愕と疑問が生まれ、痛みのせいで飛竜を拘束していた手の力が弱まった瞬間だった。
その隙を見計らったように、今度は力づくで飛竜は飛燕の拘束を振り払い、今度はそのまま相手を掴んで空中で器用に回転しながら勢い良く前方の穴へと向かって投げ飛ばす。
「地獄への道連れ、餞別代りにくれてやる」
投げ放つ直後、そう最後に彼が呟いたと同時、追撃のように再び飛んで行く飛燕の身へと迫ってきて撃ち込まれる攻撃。
「ガァッ……!?」
霞む視界と意識の中で、飛燕は漸くにその正体が何であるかに気づいた。
(……オプションA?)
見覚えのあるキノコ型の小型機械。
ストライダーズにより生産され、任務従事の際にストライダーが携帯し多用するオプションパーツだ。
だがあれらは全て飛燕がストライダーズを裏切る際、ストライダーベースに残る全てを破壊したはずだった。単純な構造の機械ではあるが、そう簡単にこんな短期間に修復なり作成なりは出来るはずがないと思っていたのだが……。
或いは、飛燕が見落としたどこかに残っていた物を、この最終決戦に密かな切り札として持ってきていたということか。
「……ウロ……ボロ、ス………」
途切れ途切れに呟くのは、飛竜が最もオプションパーツのフォーメーションとして多用した技の運用法。
飛燕が最も脅威と判じ、これだけは使わせてはならないと念を押して封じたはずの技だったが……対処が甘すぎたということか。
二体の円を描くように回転しながら撃ち込まれて来る弾。それに次々と被弾しながら、飛燕はそれでもまるで執念のように飛竜を掴まんと手を伸ばす。
しかし遥か前方、既に万能鎌クライムシクルを用いて壁に張り付いて外への墜落を逃れている飛竜へとその手が届くはずもなく。
行かせてはならない。あの男に冥王を殺させてはならない。
新世界を、救済を、それを守るのが自分の義務であったはずだと言うのに……
「飛……ッ……竜ゥ――――――ッ!!」
最後に慟哭となって響く叫びは、虚しく反響するのみで届くはずもなく。
飛燕は最後まで追い求めて憧れていたその相手へと手を伸ばしながら、無限の奈落の底へと向かって堕ちていった。
万能鎌クライムシクルを壁へと突き立て、何とか墜落を間逃れた飛竜は眼下の奈落へ落ち逝く飛燕の姿を早々に見切った後、そのまま器用な動作で素早く上へと昇りきった。
飛燕を相手に余計な時間を取りすぎた。刻々と崩壊の迫り来る『第三の月』の中で、今度こそ飛竜は最後の標的の抹殺のために駆け出そうとしたその時だった。
「……それで? 貴様らはそこでいつまで隠れているつもりだ?」
ふと思い直したように、駆け出すのを一旦やめながら飛竜が振り返り声を放ったのは無人の空間。
飛竜が鋭く見据えるその先――当然、人も存在せず無音であるはずのその場所。
しかし飛竜は躊躇い無くそこへ向かって今度はサイファーを振り抜こうとしたまさにその瞬間だった。
「ちょっとストップ! 分かりました、ごめんなさい! こっちが悪かったから許して!」
慌てて取り繕うように切羽詰った女の制止の声がその先から突如響いてくる。
突然の怪事態。本来ならばそうであるはずだというのに、それを見据える飛竜の視線は徹底的に冷めたものであり。
「さっさと姿を現せ」
飛竜の冷たい命令の言葉に応じるように、その場から突如彼の目の前へと現れて見せたのは二人の少女。
両者同じ種類のボディスーツにコートを羽織っている。一人は十代半ばから後半になりかけの三つ編みに眼鏡の少女。もう一人は幾分か一回りほど幼く小柄な体型の灰色の長髪に眼帯を巻いた少女だった。
この突如現れた眼前の少女たちが、自分同様にこの『第三の月』への侵入者であることは飛竜も理解していた。
しかしそれも当然であろう。何せ――
「何を今も此処をうろついている。貴様らの役目はとうに終わったはずだろう?」
――この少女達こそが、飛竜がこの地への侵入の際に手引きの役目を負った相手だったのだから。
勘の良すぎる相手というのは扱い辛くて面倒だ。
そう改めて彼女――クアットロは眼前の飛竜を相手にしながら内心でそう思っていた。
主――ドクター・スカリエッティの命を受け、この男が『第三の月』内部へとスムーズに侵入できるように、自身の能力を用いて手引きしてやった。
最初からの契約通りの役目の遂行。後はドンパチの舞台となるこの場からはさっさと退場して、遠くから高みの見物と決め込むのが吉であると思っていたのだが……
(……まったく、ドクターの遊び心も困ったものね)
面白そうだから現地から隠れてリポートしてくれ、などと当初の予定を破棄して実行するよう頼まれたのだから堪らない。
どういうわけかスカリエッティはこの飛竜という男に興味を持っているようで、彼のやろうとしていることを見届けたいと興味に駆られていたのだ。
それに付き合わされる立場となったのがクアットロである。幸か不幸か、その手の隠密作業は能力的に彼女は適任だった。故に嫌がったのだがドクターに仕方なく拝み倒されたのでこの危険な遊びに付き合ってあげていたのだ。
侵入当初は相手に気づかれた様子も無く、ストーキングに成功していたのだが、いったいどの辺りからどうやって気づいたのか、遂にはこうしてバレてしまって出てこざるをえなかったのである。
「ここで何をしている?」
「何って……まぁ、こんな戦争滅多に見られませんので、物見遊山と観戦でもと思いまして」
相手はどんな理由からこちらに斬りかかってくるかも分からない、冷酷無情の殺人マシーンのような男である。いつもは人を小馬鹿にした態度を好む慇懃無礼なクアットロとはいえ、相手が相手なので緊張して言い訳の言葉と表情も思わず引き攣ってしまう。
クアットロのその返答にくだらないと言った態度で鼻を鳴らす飛竜。それはハイエナかハゲタカでも見るような視線だった。
「良ければ我々も手を貸しますが?」
助力が必要かと思い控えていた、まるでそう言った態度で今度は妹のチンクの方が飛竜へと向かってそう問いかけてみたのだが……
不要だ、そんなにべもない鋭い視線と返答が返されてくるだけだった。
最初期の取り決めから変わらず、やはりこの男は自らと冥王との間の介入を強く拒んでいた。
断られること自体は予測済みだったのだろう、失礼したと返す一連のチンクの態度は姉のクアットロ以上に揺るぎもなく平然としたものであった。
……脳筋どもはどこかで通じ合うものでもあるのか、単純で羨ましいものだと、どこか内心で蔑むと同時に呆れてもいたクアットロ。
しかし飛竜の方もこちらとのお喋りに時間を割くつもりもないのだろう。
「貴様らの目的は何だ?」
誤魔化しも言い逃れも許さない、そんな態度も顕に尋問じみた問いをしてくる飛竜。恐らくさっさと終わらせて目的を果たすために急ぎたいのだろう。
嫌がらせは趣味だが、怒らせる相手次第でそれがやぶ蛇になりかねないことはクアットロとてちゃんと理解している。
だからこそ言葉を選び、嘘を吐かずに正直に答えてやった。
「最初に貴方にコンタクトを取らせてもらった時、言った通りですよ。
ドクターもいい加減、目の上のタンコブのあの老害を排除したい。だから貴方にその抹殺を頼みたい、と」
無論、全てではないが嘘でもない。
そもそもこの一連の戦争。こうなるように最初に絵図を描いたのは、他ならぬ彼女たちの主であるスカリエッティだ。
スポンサーである最高評議会たちに冥王への危機感とその醜い嫉妬を煽ってやり、管理局と冥王軍の間で衝突が起きるように動かし。
同じ目的を持って行動していた飛竜に接触し、『第三の月』にスムーズに侵入させてやるように手引きし、彼に冥王を暗殺させる。
最初からそのために、全ての駒を盤上に揃えてこの遊戯を開始したのだ。
(……今頃ドクターもキングの退場を防ぐために、時間を稼いでいるだろうし)
さっさとこの鉄砲玉を向かわせて、あの男の首を取ってもらおうとクアットロは考えていた。
「ああ、それと……これを渡しておこうと思ったんですよ」
そうして揉み手でもするようにヘコヘコした態度で近づきながら、クアットロが飛竜へと渡したのは掌に収まるサイズのPDA。
こんなものが何だと訝る飛竜に、クアットロは笑みを浮かべながら操作方法と使用目的を教える。
「ここを押すとですねぇ……ほら、現在のこの施設内部のマップと脱出ルートが出るでしょ?」
あら便利、とまるで胡散臭い通販番組の司会者のような説明。
要するに、脱出の際に必要となる地図ということである。
こんなものをわざわざ用意せざるを得なかったのは、まさかクアットロやスカリエッティも飛竜が『第三の月』を含めて全てを丸ごと葬り去ろうとするような破壊魔だとは思っていなかったからだ。
クアットロとしてはこんな危険人物はここで冥王もろともくたばってもらいたいと思っていたのだが、生憎とドクターが死なせるには惜しい人材だと言ってくるので仕方がない。
冥王を抹殺した後、その場で死なれては困る。故に余計な仕事としてもう一度飛竜に接触してこれを渡す必要があったのも事実だった。
丁度良い機会だったし、これにて雑務を終えて、この男にもさっさと目的を果たしてもらいたいと送り出す。
「ではでは飛竜さん、ドクター共々、私たちはあなたの任務成功を祈っておりますので」
背を向け駆け出していく飛竜へと、手を振りながらクアットロはそんな心にもない言葉を告げる。
それに当然、飛竜が答えるはずも無く。
PDAだけ早々に受け取ると共に、彼は自分たちの前より瞬く間に消え去るように去っていった。
その姿を見送った後、クアットロが漏らしたのは猫を被っていた態度を振り下ろす盛大な溜め息。
「……まったく偉そうな脳筋のくせして、こっちがどれだけサポートしてやってると思ってるのかしらね、あの男は」
そう呟きながら傍らへと視線を戻すと、チンクが誰かと通信している様子だ。
「あらチンクちゃん、誰と楽しくお喋りしてるのかしら?」
「トーレ姉とだ。例のサンプルを回収したらしい。ドクターから撤退の指示も出たらしいし、今から合流するとのことだ」
そのチンクの返答に、やれやれ漸くかとまるで肩の荷が下りたかのような盛大な溜め息を再び吐くクアットロ。
彼女としてもその指示には是非もないのだ。こんな地獄に片足を突っ込んでいる巨大な棺桶とはさっさとオサラバしたい以上、トーレとさっさと合流してしまいたかった。
「それにしてもサンプルは回収したって……姉さまったらよく間に合ったわね」
「トーレ姉は優秀だ。そして何より我々の中で最速だ」
彼女が間に合うと判断して行動に出た以上、この結果も当然だろうと返してくるチンク。
それを見ながらクアットロはこれも脳筋同士の奇妙な信頼感とでもいうやつなのだろうかと呆れながら首を傾げる。
まぁどうでもいい。どちらにしろ、このゲームも既にクライマックスを残すのみの終盤戦。
精々、自分とドクターを愉しませる為に駒どもには滑稽に踊って欲しいものだ。
それがクアットロが既に興味の大半を失いかけていたこの舞台に、せめてもと思った考えだった。
縦横無尽の数で次々と繰り出されていくのは桜色の魔弾。
管理局のエースオブエース、高町なのはが繰り出すシューター。
対するは次元世界屈指の大犯罪者、冥王グランドマスター。
「……痴れ者が」
忌々しく吐き捨てるかのように呟くと同時、前方に生み出した障壁が飛んでくる魔弾を次々に防いでいく。
しかしそれは正面から向かってくるもの限定である。なのはの操る魔弾の軌道は変幻自在。背後や上下左右、回り込むように障壁を迂回したコースの魔弾が次々に冥王へと迫る。
グランドマスターはその黒衣の身より再び生み出した獣たちを放出。まるで肉の盾のように魔弾を身を挺して防ぐそれらの存在によって、被弾は零。
なのはは瞬時にその思考を砲撃へと切り替える。カートリッジロード。同時、その照準を冥王グランドマスターへと向けて発射。
桜色の砲撃が身に迫る光景に、流石のグランドマスターも目を見開く。
そしてその身が有する強大な念動の力を搾り出すように前方へと集中。
その掌へと集束されたのは巨大な紫電の渦。それを解き放つように迫り来る砲撃へと向けて叩き込む。
両者の砲撃がぶつかり合い、視界を焼く激しい閃光が生まれる。
結果は相殺――その直後である。
「冥王グランドマスターッ!」
「――ッ!?」
冥王の背後、その隙に回り込むように瞬時に現れたのはフェイト・T・ハラオウン。
バルディッシュを3rdモードへと変形させた彼女は、その雷刃の一撃を相手の背後から叩きつける様に振り下ろす。
冥王は咄嗟に振り返り、それを受け止めようとするも……数秒の拮抗の後に弾き飛ばされる結果となる。
不定形じみた黒衣の塊のような冥王の身体が地面に叩きつけられ、バウンドする。
咄嗟に追撃を試みようとしたフェイトだったが、やはり傷口の痛みが酷いのだろう、思わず蹲って膝をつく。
「フェイトちゃん!? 無理しちゃ駄目だよ!」
慌てて傍らに駆け寄ってくるなのは。涙でも浮かべかねない心配気な表情に、フェイトは申し訳なさ気に良心が痛むのを感じた。
しかし……
「……ごめん、なのは。でもこれは……私の戦いでもあるから」
侘びを告げながら、しかし痛みを堪えて毅然と立ち上がりながら、冥王の方へと向き直りバルディッシュを構え直すフェイト。
そう、なのはに怒られるのは分かっていて申し訳ないとは思っている。でもそれでも、どうやらこれは自分に関わる戦いでもあるようなのだ。
故に退けない。退くわけにはいかなかった。
「おのれぇ……出来損ない風情が……ッ!」
再び宙へと浮かび睨みつけてくる冥王のその身は、しかし屈辱と憤怒に震えたものであった。
当然だ、神を自認する傲慢なこの男が人間風情……否、それにすら劣ると見下していたはずの出来損ないに地面へと叩き落されたのだ。
ただでは殺さない。塵も残さず消し去ってくれる、と冥王はその身より強大な魔力をあふれ出させてくる。
ミッドチルダ式ともベルカ式とも異なる運用体系の技術。擬似的にも生物まで見事に構成してみせるその技は、確かに次元世界に名高き未知と言っていいものなのだろう。
だが魔力資質や実力ならば、なのはたちとて負けていない。否、二人合わされば互角以上……このまま一気に畳み掛ければ確実に勝てるはずだ。
故に最後の踏ん張りどころだと、なのははフェイトに勝負を決すべく一気に仕掛けようとして促しかけたその瞬間だった。
今までの比ではない勢いで、激しい揺れを引き起こす『第三の月』。
とうとう崩壊が始まってしまったのか、そう二人が息を呑んだその時だった。
「光栄に思えよ、塵芥ども。貴様らは余が真なる神へと至る道……その成果を持って葬り去られるのだからな!」
グランドマスターがそう高らかに告げたその瞬間だった。
今までこの部屋を覆っていた天井が突如砕けて降り注いでくる。
危なくそれを回避しながら、なのはとフェイトが見上げたその先に……それはあった。
――異形。
一言で言ってしまうならば、それは正しくそう呼ぶ他になかっただろう。
人とは形状を異とする半身半蛇。しかしその山のような両腕は半円型のアーチのように、このセンターそのものを天井から抱え込まんとするほどに巨大。
加え、その腕の各所に点灯するように光るのは高密度の雷と炎の数々。
中心部とされる部分。だがそこには頭部はない。その中心部から這い出るように生えているのは、自分たちともサイズの変わらぬ異形の上半身であった。
巨人の中から人が生え出ている……何とも形容し難き嫌悪染みたその姿は、不気味以外の何者でもなかった。
更に特筆すべき部分があるとすれば、その巨大な異形の外皮は機械であり、同時に生物のソレでもあるということだ。
……そう、この異形は生きている。咆哮を上げるその姿は正しく機械と生物の融合体だった。
冥王の盛大ともいえる哄笑が、まるでそれの姿に圧倒されているなのはたちを嘲笑うように降り注いでくる。
「これこそがカドゥケウス! 余の力、その全ての結晶! 星へと至る神の道よ!」
自らの雄大さ、その誇示の象徴と言わんばかりの様子で、異形の名称を名乗り上げるグランドマスター。
圧倒されていたなのはたちではあったが、それでも今は例え相手が何であれ立ち向かわねばならないと身構え直したその瞬間だった。
天井全体を覆う異形の両腕。そこに膨大な量と思われるエネルギーが次々と集束されていく。
不味いと思った時には、しかし時既に遅く。
「塵も残さん! 無へと還れ、痴れ者どもが!」
冥王の大音声による一喝。
それを引き金とするように、無数の集束砲の雨がなのはたちへと向かって降り注いできた。
『第三の月』外縁部。その場所から壁に器用にしがみ付きながら彼女――トーレは一連の趨勢を密かに見届けていた。
普段から常在戦場を心がける彼女だが、それでも先の光景と異形の示して見せたその威力には流石に瞠目していた。
『いやはや素晴らしい。……成程、あれが彼の切り札というわけか』
どこか楽しげに震えた声――唐突に眼前に現れたモニターに映り興味深げに笑っていたのは彼女の主――ジェイル・スカリエッティだ。
トーレは突然このような事態にも拘らず呑気に通信を入れてきた彼を咎めるわけでもなくただ一言、問いを返す。
「どうしますか?」
『どうとは? 君には何か思うところがあるのかな?』
そう問い返してくるスカリエッティに、トーレは彼から視線を外しながら、もう一度、距離を離したあの先で顕在する異形を見つめながら告げる。
「――アレは危険です」
自分たち、ひいてはドクターの『夢』への大きな障害にもなりかねない。
グランドマスターそのものがそうであると思ったから、今回こうして排除へと踏み切ったのだが、改めてあの異形を見て確信した。
アレの放置は危険である。ここで早急に排除すべきだ、と。
『君にそれが出来ると?』
試すかのようなドクターの問いにトーレはいいえと首を振った。
正面からの戦いでは、そもそも戦いにもならず粉砕されることだろう。それは抵抗の間もなくあのエースたちが消し飛ばされたのを見て明らかだ。
故にトーレにはあのカドゥケウスという化物は倒せない。
「しかし今なら不意を突けば、その主くらいは……」
トーレが鋭くその黄金色の鷹の目で見据えるのは、その異形の傍らで現在勝利に酔いしれている冥王だ。
もはや敵は打ち倒した、自分を阻むものはいない、まるでそう思い切っているような隙だらけの様子だった。
相手のあの様子。そしてこの程度の距離ならば――
「――私のISを用いれば、仕留める事に訳はないかと」
己の性能と現状を判断した上での、シミュレートで弾き出した結論。
トーレのその言葉にスカリエッティは頼もしいと笑いながらも、
『いいや、その必要はないよ』
あっさりとトーレの要請を退けた。
流石にそれはトーレも訝しげに眉を顰める。しかし彼女の態度がどうであれ、スカリエッティの結論は変わらなかった。
彼は首を振りながら静かに告げるだけ。それは自分たちの役目ではない。その役目には適任がいると。
「ストライダーに奴らが打倒出来ると?」
『ああ、するだろうさ。案ずることはない、彼は自分ですると宣言したんだ。既に結果が決まっている事象に介入するのは無粋だろう?』
あの男のどこにそれ程の信頼を寄せるのか、トーレにはドクターの意図がさっぱり理解できなかった。
しかし彼の思考など凡そ自分如きに理解できるものでもない、そう分かりきってもいたため、早々にその追求に対しては打ち切った。
彼女のそういった態度がスカリエッティも好ましかったのだろう、どこか労わるような優しげな声で、
『ご苦労だったね。もうクアットロたちと合流し、君たちは戻ってきてくれればそれでいい。帰ってゆっくり休んでくれ』
帰還命令に対し、トーレは承諾の頷きを返した。
向こうの戦場には、未だ後ろ髪引かれる危惧や思いもありはすれど、ドクターが放置と命じる以上はそれに従う他なかった。
故にトーレは名残惜しさを断ち切りながら、器用な動作で踵を返しながら外縁部を進み始め、
『ああそうそう、せっかく苦労して手に入れたサンプルだ。途中で落として失くさないようしっかり持って帰ってきておくれよ』
通信を切りモニターが消える直前、茶目っ気でも出したように言ってくるドクターのその言葉に、トーレは生真面目に頷きながら、回収したそのサンプルを落とさぬようしっかりと背負い直した。
上空より叩き込まれるように降り注いでくるのは集束砲の雨。
そう、まさに雨。少なくとも自身のディバインバスター以上と予想される威力の砲撃が無数の束となって降り注いでくる。
高町なのはは咄嗟に傍らのフェイト・T・ハラオウンを顧みる。
酷い負傷を負っている彼女。今は無茶を通して動いているが、流石にこの雨を全て躱すことなど今の彼女には出来ないだろう。
ならば防御は?……否、同じだ。負傷と疲労で魔力の減退している彼女がこの攻撃を凌ぎ切れるとは思えない。
瞬時にそれを判断したなのはは、故にその即座の行動に対してすら躊躇いはなかった。
「フェイトちゃんッ!」
「なの――ッ!?」
彼女が自分の名前を最後まで呼ぶのすら遮るように、押し倒すようになのははフェイトを抱きしめると、そのまま地面へと伏せさせる。
そしてカートリッジロードの限界までを駆使し、展開したシールドと自分が彼女の上へと覆い被さる形で、この攻撃を凌ぎ切ろうと試みた。
押し倒している下のフェイトから、こちらが何をやっているのか悟ったのだろう。やめうように必死に呼びかけてくるが、しかしそれは生憎と聞けぬ相談だ。
フェイトを守る。絶対に死なせない。今のなのはが優先すべきこと、したいことはそれだけだった。それしか選べないし、それしか選ばない。
だからこそ――
「大丈夫だよ、フェイトちゃん」
安心させるようにそう告げて微笑み返す。無論、それが何の説得力もない行為でしかないことは承知の上だった。
フェイトの叫びと涙を最後に確認したその直後だった。
叩きつける様に降り注いできた集束砲の雨の数々が、展開した防御すらも貫き、なのはの身にまで降り注いできた。
カドゥケウスによる集束砲の雨が降り注がれた惑星包括制御センターは、既にその姿を原型すら留めぬ様な酷い有様へと変えてしまっていた。
立ち込める灰塵がまるで霧のように部屋全体を覆いつくしている。
それが晴れるのに暫くの時を要しながらも、既に冥王は先の無礼者どもは殲滅し尽くしたと判断していた。
未だ完全起動段階には至っていないとはいえ、これ程の出力だ。矮小な人の身程度で抗えるようなものではない。
そう、このカドゥケウスがある限り己が負けることも滅びることもあるはずがないと彼は確信していた。
無限の学習と成長により、進化し続けていく新たなる神の雛形。現段階の試運転によるスペックですら、管理局の戦艦隊と互角に渡り合う……否、蹂躙し、殲滅させることすら可能なはずだ。
冥王の悲願成就の瞬間とは、このカドゥケウス完成の時をおいて他ならないのだ。
「この『第三の月』を失うのは惜しいが……しかしカドゥケウスさえ健在ならば」
そう自らを納得させながら、冥王はそろそろこの要塞を離脱し、そのまま自らが創り上げた世界たる地上へと一度帰還しようと思っていたその時だった。
見下ろす眼下、そこに崩れ落ちた瓦礫を退かしながら出てくる人影を捉える。
忌々しい、まだ生き残っていたのかと舌打ちを吐きながら、冥王はカドゥケウスへともう一度命令を下そうと振り返り――
――そこに問答無用でこちらを頭部から両断せんと振り下ろしてくる、刃を見た。
フェイト・T・ハラオウンは何とか瓦礫を退かし外へと這い出ながら、救出した高町なのはを抱えて必死に呼びかけていた。
「なのは!? なのはッ!? 目を覚まして!?」
涙ながらに懇願するように抱きしめる相手の姿――それは本当に酷いものだった。
あの集束砲の雨が降り注いできた瞬間、咄嗟になのははフェイトを庇うように、身を挺して砲撃から彼女を守ったのだ。
お陰でフェイトはあの猛撃を受けたとは思えないほど、信じられないほどの最小限の負傷で済んだ。
しかし代償に彼女の盾となって迫り来る砲撃のほぼ全てをその身で受けてしまったなのはは、バリアジャケットすらボロボロに成り果て、その身は火傷と傷により目を背けたくなるほどに酷い有様へとなっていた。
自分のせいでなのはが傷ついてしまった……その最悪の事態にフェイトは自らの痛みや現状すらも忘れて、彼女の名を呼びかけることしか出来ない。
無力だった。情けなかった。何より彼女を傷つける直接の原因となった自分自身が許せなかった。
「なのは……お願いだから……死なないで」
簡易な治癒魔法を施そうが、元々不得手である事に加え激しく動揺している今の状態で上手くいくはずもなく。
ましてやこれ程の重傷ではそんなもの焼け石に水程度の効果すら望めない。
しかしフェイトには他に何もない。何も出来ない。後は彼女が死なないように天にでも祈るくらいしか出来ない。
それこそ敵対している冥王が本当に神だというのなら、恥も外聞もなく縋り付いて慈悲を請いたいと思うほど。
それくらいになのはという存在は彼女にとって大きく、それを目の前で失うかもしれないという現状への動揺と混乱は激しいものだった。
そんなどうしようもない極地に陥っていたフェイトを、それでも偶然にも強制的に正気へと立ち戻らせたのは――
――突如、直ぐ近くに地面にめり込むように激しい落下をしてきた男の登場だった。
千載一遇、まさにそう呼ぶ他にない最大にして最後の好機。
万感の殺意と渾身の一撃を持って、忌まわしき冥王を両断せんと振り下ろされた飛竜のサイファーは――
「――戯け。身の程を知れ!」
刃が今にも振れんとしてその直前に、他方から飛んできた雷撃に弾き飛ばされ、逸らされる。
滅多に無い驚愕という珍しい表情を思わず見せた飛竜に対し、冥王はしてやったりとニヤリとした笑みを向けるのみ。
どちらにしろ、絶好のチャンスであった奇襲を逃してしまったのは事実。
舌打ちを吐きながら飛竜は空中で器用に飛び離れながら、傍の壁面へとクライムシクルの刃を立ててしがみ付く。
宙に浮いている冥王は飛竜を捉えながら、嘲るように告げてくる。
「久しいな、飛竜。再び余の前へと跪きに来たか?」
それが“いつ”のことを指しているのか。しかし飛竜は表情すら変えずただ冷たく鋭くグランドマスターを睨み据えるのみ。
決して屈服することなき、そして勝利すら諦めぬふてぶてしいまでのしつこさ。
懐郷の念を流石に冥王も禁じえない。
グランドマスターは己が背後に控えさせている最高傑作を、どうせならとまるで披露するかのように飛竜へと示しながら告げる。
「再びよく来たと言ってやりたいところではあるが、既に遅い。このカドゥケウスをもって余は真なる神へと至る。今更貴様一人が足掻こうがもはやどうにもならん」
カドゥケウスの自慢げな紹介に、飛竜は僅かだけ冥王からそちらへと視線を向け直す。
巨大な異形。満ち満ちて溢れ出しているエネルギーは、飛竜をもってその肌を粟立たせる程に強大なもの。
恐らく先の渾身の奇襲の失敗も、この異形に邪魔をされたからということか。
「……成程、大した玩具だ」
飛竜はカドゥケウスから冥王へと視線を戻しながら、そう返した。
玩具――己が神へと至るために生み出した最高傑作をそのように評され、グランドマスターの眉が不快気に歪む。
相変わらずに口の減らない不敬者であるらしい。その辺りがまったく変わっていないことにまたしても少しだけ郷愁を感じる。
だがどちらにしろその不敬、聞き逃してやるつもりは毛頭ない。
「玩具だと? 戯けが、取るに足らぬそんなものは、むしろこれまでに余が創ったお前たちを含む全てだ」
そう、全て。全てを生み出したのは自分。
生み出した全てを気に入らぬ不完全と断じ、再び創り直そうとしているのも自分。
全て総て、創って壊して創って壊して、その繰り返しだ。
……尤も、
「次なる新世界こそ、もはや貴様は不要だがな」
忌まわしい因果の鎖。やはりここで断ち切るのは自らの手をもってして。
対する飛竜。新世界の神に反逆せんとする逆徒たる彼は、くだらげに鼻を鳴らして一言、
「夢想遊びの続きは、地獄でやれ」
その言葉の終わりと同時、勢いよく壁面を蹴りながら飛竜は空中疾走にて一気にグランドマスターとの距離を詰めんと迫る。
しかし――それを妨げんと現れたのはカドゥケウスより放出されし無数の雷弾の嵐。
飛竜はそれを切り払いながら進もうとするも……あまりにも弾幕の量が桁違い。
思わず苦悶を漏らし動きが鈍ったのは、とうとう雷弾の嵐に囚われてしまった飛竜である。
グランドマスターは終始嘲りの表情を変えることもなく、
「貴様の刃は、所詮余には届かんよ」
最後に集束砲の一撃が飛竜を直撃し、そのまま彼は遥か眼下の地面へと墜落した。
粉塵を上げる勢いで地面へと落下し、床を砕いた飛竜のダメージ総量は甚大なものだった。
不覚を取る……もう随分と経験なくし久しい感覚だが、久方ぶりに味わってみてもやはり愉快なものでもない。
全身至るところに生まれた負傷。内部の骨も何本か折れていることだろう。辛うじて命に別状はないものの、重傷であることには何の変わりもない。
だが――それでも任務達成の為には許容範囲内だ。
自らのコンディションから任務の続行は『困難』であれ、それでも『不可能』ではないと判断したからこそ、痛む体を無視して飛竜は立ち上がった。
……尤も、この任務だけは例え続行が不可能と判断される負傷を負ったとしても、命を捨てようが諦める気もないものなのだが。
どちらにしろ、行動に支障なし。そう判断しながら立ち上がった飛竜は直ぐ傍らに自分以外の人間がいることに気づいた。
「……管理局の魔導師、か」
バリアジャケットを身に纏っていること、あの化物にやられたのだろう負傷しているその姿から、飛竜はそのように判断した。
共に年の頃は自分と同じくらいか。どちらも酷い傷を負っていて、特に白い服の栗色髪の女の方は一目で分かるほどの重傷だ。
だからといってどうというわけでもなく、そんな先客がいたということだけ認識すると、飛竜はそれきり興味を失ったように彼女たちから視線を外すと前へと向かって歩き出す。
「――あ、あの!」
そこでどういうわけか後ろから呼び止められる。
戦闘中でもある。無視すれば良かったし、普段の自分なら間違いなく無視していたはずだ。
だからこそ自分でも訳が分からぬと己のことを呆れながらも、しかし飛竜は彼女たちへと振り向いていた。
声をかけてきたのは白い女を抱きかかえている金髪の女の方だった。
「……あなたは……?」
「…………」
答える必要性すらないような下らない質問だった。この状況で自己紹介も何もそんな余裕もなければ興味もない飛竜は、女の質問を無視しながら無言で再び歩き出した。
「待って! 待ってください!」
再び呼び止められる。いい加減、煩わしいのは言うまでもない。
冷徹に感情の機微を可能な限り抑制するのが飛竜という男だ。非常時を差し引いてもそんな自分を僅かながらも苛立たせられるなら、それは大したものだと珍しい感心すら憶える始末だった。
当然、立ち止まらないのが正解だ。そうあるべきだと自身に課していたし、今の自分はこの状況ではそれを貫かねばならない。
だから今度は立ち止まることなく歩を進める。
それでも女はならばと呼び止めるのではなく、そのまま彼の背へと声を飛ばしてくる。
「逃げてください! このままアレと戦っても勝ち目はありません!」
呆けたような相手なのかもと思っていたが、意外にも冷静な思考が保てているらしい。
彼我の戦力差を判断し、勝ち目はないと見抜いて撤退を促す。
女の警告と判断は、状況的にも常識的にも確かに正しかった。女への評価を上方修正しながら、その警告そのものは飛竜とて認めていた。
しかし――
「待ってください! 無謀です! 戻って!」
語気を強めかかってくる警告。
飛竜がそれでも無視を決め込み、戦いの場へと向かおうとしているから叫んでいるのだ。
しかし言葉では埒が明かないと判断したのだろう。次に女が取ってきたのは随分と度胸のある強硬手段だった。
歩を進めていた飛竜の足。そこに唐突に環のような拘束具が現れ、彼の足を拘束してしまったのだ。
不意打ちにバランスを崩しかけるも踏ん張ってそれを意地。ただ飛竜は鋭い視線を立ち止まって女の方へと振り返り向ける。
「邪魔をするな」
邪魔をするなら殺す。言葉にこそ出さなかったが明確に発し向けた殺気でそれを察したのだろう。女の表情は更に強張った。
茶番に付き合う暇はない。この女も動力炉で会ったあの馬鹿げた女の同類だったのかと判断した。
ならば脅したところで屈することはないだろうと判断。その辺りの理解は先の女を相手に珍しい敬意と共に察していたのだ。
飛竜はサイファーを一閃。足を縛る拘束具を難なく切り裂く。
女はそれに驚愕したようで、それなら武器を振るう腕を拘束しようとしてくるが生憎とその思考を飛竜は既に読んでいた。
一度歩いた距離を駆け戻るなど、それこそ自らを間抜けと証明しているようで馬鹿らしくも思ったが、しかし邪魔をする以上は排除せねばならないのだから仕方がない。
実を言うと魔導師との戦闘は初めてでもないし、その対処法も訓練と実戦を通して叩き込んでいる。
相手の常套手段――バインドは既に読みきった対処であり、問題なく駆け抜けながら設置型のトラップすらかかることなく突破する。
女が驚愕の表情を浮かべながら、こちらが向かってくるのを対処しようと動きかけるものの、間合いを詰めた飛竜の方が遥かに速い。
そのまま女が動くよりも先にその首筋ギリギリにサイファーの刃をピタリと押し当てた。
女の表情と身が強張る。こちらの武器がどういうものか理解しているのだろう。話が早くて助かった。
「死にたいか?」
だからこそ冷酷に、たった一言脅しとしてそう告げた。
対する女はしかしそれに対して強張った表情こそ変わらないが、それでも毅然とした態度でこちらを見返しながら、
「死なせたくないんです」
ハッキリと意地でも譲らないというような意志を垣間見せながらそう返してきた。
その彼女のデジャヴを覚えるような態度に、またかと飛竜は内心で呆れの溜め息を吐いた。
「……貴様も素人か」
らしくもなく呟いたこちらの言葉。聞き拾い意味が分からないというように問いかけたい相手の態度を無視し、再び実力行使が必要かと判断した。
問答無用で黙らせる。無駄な体力は使いたくないが、邪魔をされればこちらの任務遂行の可否も関わってくる以上は放置も出来ない。
故に相手の意識を奪うべく行動に移ろうとしたその時だった。
上空から再びこちら目掛けて降り注ぐように迫ってくる雷弾の嵐。
どうやら茶番に時間をかけすぎたらしい。加え、神気取りでありながら度量の狭いあの男が痺れを切らしたのだろう。
女の相手をしている暇もなく、素早く飛竜は彼女の傍たるその場から飛び離れる。
雷弾は女よりもむしろこちらを狙ったものだったのだろう。
まるで追尾するようにこちら目掛けて迫ってくるそれらを切り払いながら、丁度良いと女へと最後に視線を向けて一言だけ告げてやった。
「貴様の方こそ、そちらの女を死なせたくないなら早く逃げるんだな」
別に彼女たちがどうなろうが知ったことでもなかったし、それこそ自分らしくもないまるで他人に対する気遣いめいた発言だった。
言った傍から自分自身で不機嫌になりながらも、飛竜は以降、彼女たちの存在など忘れたように振り返ることもなく、雷弾の嵐を凌ぎながら、冥王を目掛けて駆け出した。
結局、眼前の青年を止める事もできず。
恐慌状態から咄嗟に立ち戻ったものの、それでも管理局員としての責務を果たせず、あの部外者の青年を危険の渦中へと向かわせてしまった。
加え……肝心のなのはの問題は青年に言われた通り、あまり猶予のない危惧すべき問題だった。
管理局員として、このまま冥王も青年も放置してはおけない。
しかしフェイト・テスタロッサ個人としては、なのはを死なせるわけにもいかない。
非常識なあの化物に向かっても勝機はない以上、なのはを連れて一刻も早く撤退するのが正しい判断であるはずだ。
しかしここであの青年を止めなければ、確実に殺されるだろう。
二律背反の苦悩がフェイトを蝕む。公私が対極を指すここで自分は本当に正しい判断が出来るのか。
それこそ思考放棄を選びたい気分に本気でなってきたその時だった。
「……フェ、イ…ト……ちゃ…ん……」
抱きかかえているなのは。意識を失っていたはずの彼女がこちらに対して目を開けながら精一杯に微笑んでくる。
なのは、と名前を呼びながら強く抱きしめたかったが傷の負担になると咄嗟に判断してそれを押さえ込んだ。
そんなフェイトに対して、なのはは優しい微笑みを崩すことなく言ってくる。
「……迷っちゃ……駄目だよ。……私たちは、私たちに……出来ること、しないと……」
そう言ってなのはが見上げるのは頭上の巨大な異形。
そしてそれを操る冥王だ。
あれを放置するわけにはいかない。あの男の野望は止めなければならない。
その為に、自分たちは此処に来て戦ったはずだ。
「……大丈夫……私……まだまだ……戦えるよ」
そう言って支えられていたフェイトから離れ、レイジングハートを杖に自力で立とうとする。
見ているだけで危うく放っておけない姿だ。だがそれでも意地を通そうとする不屈の意志が彼女の姿から垣間見られた。
これはどう考えても本来は止めるべき無茶だ。
だが――ここはそれでもその無茶を通さねばならない場面でもある。
それを通さなければ……今ここで冥王を倒さなければ、きっと掛け替えのない多くのものが彼の我執によって踏み躙られる。
そんなことは絶対にさせるわけにはいかない。
だからこそ――
「戦おう……フェイトちゃん」
「……うん、分かった。なのは」
最後までここで彼女に付き合おう。
かつて彼女がそうしてくれたように、今度はそれが自分の番だ。
それがなのはの願いなら、翻ればそれはフェイト自身の願いでもある。
一人ではないのだ。自分たちは二人だ。
二人一緒ならば、こんな状態だろうとも決して負けはしない。
それを信じるように、フェイトは立ち上がったなのはを傍らから力強く支えた。
痛む身体を酷使しながら、それでもそれを表面に出すこともなく、雷弾の嵐の中をストライダー飛竜は駆け抜ける。
前へ、前へ、只管に前を目指して。
狙いは最初からただ一つ。冥王グランドマスターの首、ただそれだけ。
尤も、それを為すためにはまずこの邪魔な玩具の方から潰さなければならないようだが。
流石に骨の折れる疲労感を飛竜は感じる。
しかしストライダーの任務は絶対だ。その遂行を必ず果たすことこそが彼の矜持でもある。
故にこそ――
雷弾の嵐を掻い潜り、遂には異形の腕へと到達。飛びつくように捕まると同時。クライムシクルを突き立てて、一気にその上を昇る。
これだけの質量の相手、弱点を狙わねば倒すことは出来ないだろう。
この異形が機械と生き物の合いの子のような存在であることを考えれば、中枢部と思わしき頭部を完膚なきまで破壊すれば機能停止に追い込めるはずだ。
そう判断したからこそ、遥か頭上の異形の頭部を目指して飛竜は駆け上がる。
しかし――
「戯けが、余がそれを許すと思うか」
駆け上がるその先、立ち塞がるように瞬間移動で現れたのは他ならぬ冥王。
この男を切り捨て駆け抜け、一気に諸共殲滅させる。
その勢いで冥王を目掛け飛竜が駆け上がろうとしたその時だった。
飛竜が昇っているその腕。そして対にある反対側の腕からも。
今度は雷と炎の渦が次々に生まれ、飛竜へと迫る。
加え、頭上のアドバンテージを取るように冥王が次々と生み出す生物までもが大量に降り注いでくる。
自身がオプションを用いて使う技――レギオンのお株を奪うようなその上からの攻撃に小さく舌打ちを吐きながら対処。
駆け上がるその速度を僅かなりとも緩めることなく、飛竜は冥王の下僕、カドゥケウスの雷炎をサイファーを乱れ切りに振るいながら、弾き飛ばそうとする。
……尤も、それでもやはり勢いに負けるのか。
堅牢とも言えるはずだったサイファーの剣戟による結界。だがそれを上回る質量で覆い圧壊させるようにレギオンと雷炎の嵐は飛竜に押し勝ち、再び遥か下方の地面へと叩き落そうとしてくる。
何とか総てを途中で弾き飛ばし、振り払うも、既に目前まで詰めていたはずのカドゥケウスの頭部との距離は、落下によってみるみる離されていく。
もはやこれは間合い外。飛竜のサイファーの刃はカドゥケウスには届かない。
後は飛竜の墜落と同時に、再び集束砲による雨で消し去るだけ。
そうほくそ笑みながら、グランドマスターが勝利を確信したその時だった。
「リミッター解除」
落下しながら飛竜が呟くその言葉の意味に首を傾げたその瞬間だった。
飛竜が届くはずもない落下中の際に、サイファーを悪足掻きのように振るう。
無様とそれに嘲笑い吐き捨てようとしたグランドマスターだったが――
「――ガッ!?」
思わず生まれた激痛と血塊を吐いたのは、彼にとって想定の範囲外たる異常事態。
いったい何事かと目を見開き凝視し、そして冥王はそれを漸くに理解した。
届くはずもないのに振るわれ続けている飛竜のサイファー。
しかし、そうであるにも関わらず刀身が通常以上に輝きを放っているその剣先から振るわれるたびに何かが生まれ、それが上空たるこちらを目掛けて飛んでくるのだ。
あれは一体何だと疑問を生じかけながらも、直接に身に受けたそのダメージより冥王は瞬時にその正体を看破した。
「貴様ッ! プラズマを――ッ!?」
そう、飛竜は定められている以上の限界ギリギリまでサイファーの出力を上げ、余剰火力で発生しているプラズマを刃として飛ばして、飛び道具に活用していたのだ。
それはサイファーの性能を一時的に上げる代わりに、以降にその威力をダウンさせる一時的なブーストであり、余剰火力のプラズマが逆流するように飛竜の身まで蝕む諸刃の剣なのである。
だがそれでも、委細躊躇なく飛竜はそれをエネルギーが続く限り全力で幾度も雷刃を飛ばし続ける。
発生するプラズマの雷刃が狙っているのは、冥王自身の身。
そして――
――その冥王が背後で守るカドゥケウスの弱点たる頭部だ。
身を挺し、そして力を発動させながらその飛んで来る雷刃を防ごうとするも、内幾発かはやはり防ぎ切ることが出来ずに、カドゥケウスの頭部に殺到するように突き立っていく。
巨大な異形も痛みを感じるのか、雷刃が頭部を切り裂く度に身を震わす絶叫を上げ続ける。
最強の白兵用兵装――雷光剣の限界を超えた出力による攻撃だ。
このまま喰らい続ければ、それこそ未だ不完全であるカドゥケウスの頭部は破壊されてしまう。
そうなればカドゥケウス自体の機能停止であり、それは総じて彼の神へと至る道の終焉でもある。
「やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
断じてそのようなこと許せるはずもない。
だからこそ冥王は飛竜の暴挙を無理矢理にでもやめさせるべく、極大の紫電を彼に向かって撃ち出す。
ここで一気にカドゥケウスを切り崩すことだけに専念していた飛竜は、その紫電が直撃寸前まで雷刃を飛ばすことをやめず――
「――ぐぅッ!?」
結果として、その紫電を回避も防御も出来ずに直撃を受け、そのまま勢いよく地面まで叩き落された。
それで漸く雷刃の猛威がやんだことを確認し、即座に冥王は被造物の安否を確かめにかかる。
無残にも頭部のあちこちを根深く切り裂かれたカドゥケウス。辛うじて駆動に問題がないものの、あのまま後数度でも雷刃を喰らっていれば危ないところであった。
内心でホッとしながら、グランドマスターはやはり早急にあの男は始末せねばならないと判じ、集束砲によるトドメをまさに実行に移そうとしたその瞬間だった。
『Thunder Rage』
瞬間、今度は上空からカドゥケウスへと目掛けて叩き込まれたのは黄金の雷。
何事かと振り仰いだ時にはしかし既に遅く。
カドゥケウスの頭部――そこを目掛けて己がデバイスの矛先を向けていたのは二人の魔導師。
既に排除したも同然。そう高をくくり捨て置いたはずの死に損ないの小娘ども。
「やめろ……やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
これ以上のダメージを与えられれば、それこそ本当にカドゥケウスは停止してしまう。
それが分かっていたから冥王は絶叫と共に二人の射線上へと何とか立ち塞がろうとするも――
「大型だ。防御も固い」
「うん……でも私とフェイトちゃんの二人なら」
かつて交わした憶えのある言葉を奇しくも今再び交わしあい、なのはとフェイトはそれぞれ構えるレインジングハートとバルディッシュの矛先を標的へと向ける。
チャンスは一度きり。これで押し切れなければ後はない。本当に負けだ。
だが彼女たちの表情には、不思議と焦りや不安の類はない。
当然だ。だって一緒に戦ってくれるのは他の誰よりも信頼できる――
「――いくよ、なのは!」
「――うん、フェイトちゃん!」
先に仕掛けたのはフェイト。三発のカートリッジロードと同時、先端に集束した雷撃を全力で解き放つ。
「サンダァァァ……スマッシャァァァァアアアアアアアアア!!」
黄金の雷撃。それは狙い違わずカドゥケウスへの頭部に迫り――
「やめろ……やめろぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
割り込むように現れた冥王が展開する障壁が、それをさせじと全力で受け止める。
驚くフェイト。そして防御ごと撃ち抜くべく更なる魔力を込めるも、流石に相手も次元世界屈指の巨魁。猛然と展開する障壁はそれを撃ち砕かれんと必死に踏ん張る。
ベストコンディションのフェイトならいざ知らず、今の彼女は消耗激しい重傷の身。余力の総てを振り絞ろうと足掻くも、それでも貫けない。
――そう、彼女一人だけならば。
だが――
「ディバィィィン……バスタァァァァァアアアアアアアアア!!」
彼女は一人ではない。
肩を並べ、一緒に戦ってくれる仲間が、友がいる。
全力を振り絞る高町なのはの加勢。桜色の砲撃がフェイトの黄金の雷撃と並行するように合わさって、冥王の障壁へと迫る。
「おのれぇぇ……ッ……おのれぇぇぇぇッ!!」
亀裂が走る冥王の障壁。
それでも尚、諦めることなく弾き返そうと迫る執念は、並々ならぬものである。
だがそれでも――
想いの強さならば、決して彼女たちも負けてはいない。
否、むしろ……
「なぁ……にぃ……ッ!?」
ありえぬと押されるように段々と亀裂が致命的になっていく冥王の障壁。
Sランクレベルの砲撃を二つ同時に相手取る驚異的なその力も……だがやはり、それはたった一人のものに過ぎない。
己を唯一絶対の神、そう信じて疑わぬ、他者を見下し道具のように利用するだけのただ一人の王。
けれど相手取る彼女たちは違う。そう、二人。互いを信じ合える強い絆で繋がった仲間であり友である二人だ。
それは例え個々の力において冥王に劣ろうと、
「なのは……ッ……行くよッ!」
「うんッ……せぇぇぇの――――ッ!!」
二人束ねたその力なら、決して冥王を相手にすら劣るものではない。
その事実を証明するように、黄金と桜色は合わさりあい、遂には巨大な極光となって冥王の障壁を穿つ。
最後に信じられぬと冥王が目を見開いたのは、いったい如何なる理由でか。
己が絶対と謳ったはずの力が破れたことか?
取るにも足らぬと捨て置いた相手にこうして破れたことか?
或いは――
「認めん……認めんぞぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」
このような結末、敗北など断じて認めん。
そう叫びながらも、そのまま極光の渦へと貫かれ、背後の最高傑作たる被造物諸共に、冥王は吹き飛ばされた。
飛竜のブーストを用いたサイファーでの猛攻。
そしてなのはとフェイトの二人によるSランクレベルの集束砲撃。
弱点たる頭部にあらんかぎりのダメージを与えられたカドゥケウスは――
「―――――――――――――!!!」
生物として叫びにもならない……しかし明確な絶叫を上げながら、遂にその頭部が砕け散る。
「……余のカドゥケウスが……星への道が………」
中枢を司っていた頭部を破壊され、機能停止へと陥ったカドゥケウスはそのままその異形の巨体を制御を失ったように虚数空間への海へと沈めていく。
同じように砲撃で吹き飛ばされながら、外縁部に辛うじて引っかかりその場にしがみ付いていたグランドマスターは、そんな絶望の呟きを漏らしながら最高傑作の沈没を呆然と見ている他になかった。
神へ至る……そのために必要だったはずの最後の鍵。次元世界を制覇するために創り上げた無敵の生物兵器。
それが無残にも敗れ、撃ち砕かれていく。
その光景は冥王自身の二千年にも及んだ見果てぬ夢の終わりでもあり。
「貴様らにそんな玩具は必要ない」
その明確な幕引きを実行すべく、今死神がここまでやって来ていた。
振り返るグランドマスター。
絶望と恐怖と憤怒と憎悪……混沌とした感情の渦と彩られた老獪の視線が捉えたのは一人の男。
ゆっくりと歩くような速度で絶死を告げる死神の鎌を構えながら近づいてくる暗殺者。
「飛竜……ッ!?」
男の名を呼ぶ冥王のその声には、余人には凡そ測り知れぬ混沌とした感情が込められていた。
グランドマスターの脳裏に瞬間的に過ぎったのはある一つの光景。
“今”ではない“かつて”。
同じようにこの場所で。
一つの終止符を打ったはずの戦いがあった。
その時、冥王は確かにそれに勝利した。その結果を持って今を創り上げ、不完全ではあるが神の座へと至ったのだ。
憶えている……ああ、憶えている。
忘れない。忘れるものか。
あの光景を。あの勝利を。あの男を――――!
今でも勝利の愉悦と、そして相反する消し去れぬ恐怖と共にハッキリと憶えていた。
故に――
「貴様は本当に……“あの”飛竜なのか?」
問い質さなければならない。ハッキリさせなければならない。
あの日の勝利は、あの日の栄光は。
本当に己を永遠の神として祝福するものであったのか……
「二千年の昔。余の前へ立ち塞がった……」
飛竜の歩みは止まらない。
歩みながら鋭利に絞り、研ぎ澄まされていく殺気も。
何一つ窺え知れないその感情を消し去った眼は、何も告げることはなく――
「あの時果たせなかった任務を果たすため、今ここで余を殺そうというのか――!?」
――ただ……一閃!
己が身体を両断する刃の感覚。
二千年前に跳ね除けたはずのそれが、今回遂に逃れられなかったことを冥王は悟った。
言葉にならぬ呻きを搾り出しながら、それでもグランドマスターは残る執念で己を滅ぼした怨敵へと手を伸ばそうとするも……
しかし、それは届くことなく。
「飛竜より本部へ、任務――――完了」
神の頂に上り損ねた魔人がその生涯最期に聞いた言葉は、二千年越しの達成を告げる宿敵の総てを終わらせる呟きだった。
以上、投下終了
後はエピローグというか後日談というか、そういうのが少しだけで終わりです。
短編ssなんだからこんなに長くしてどうすんだって話ですが……兎に角、次で終わりです。
それでは、また
乙です
逆に考えるんだ
短編じゃなく中編だったと考えるんだ
11:30以降に投下します
【注意事項】
・悪の組織が百合人気を利用した世界征服を企み、その一環として他ジャンル否定を行ったりし、
なのは達がそれに抗うので作品全体を通してみると百合否定っぽく見えます。
・↑に伴い現状のアニメ界及びヲタを風刺する要素があります
・みんなふざけている様に見えますが、やってる当人達は至極真剣です。
・ディエンドの無駄遣い
・自分の好きなキャラがディエンドに勝手に呼び出されて使役される事に我慢出来ない人には不向き。
登場作品
・魔法少女リリカルなのはシリーズ
・仮面ライダーディケイド&仮面ライダーBLACK&歴代仮面ライダーシリーズ
・プリキュアシリーズ
・恋姫無双
・ブラック★ロックシューター(ディエンド的意味で)
・ハルヒ(ディエンド的意味で)
16:轟沈! 聖王の百合かご脱出編
動力を、そして起動と制御の大元であった聖王を失い、聖王の百合かごは徐々にではあるが高度を下げ始めていた。
今はまだ緩やかではあるが、このままでは高度を下げるどころの話では無くなり墜落となるかもしれない。
その前に何とか脱出しなければならなかった。
「もっとスピード出ないの!? 士さん!」
「無茶言うな! お前が重くてこれ以上スピード出ないよ!」
「士さん酷っど〜い!」
ディケイド&なのは&ユーノを乗せたマシンディケイダーとて既に時速何百キロも出ているのだが、
それさえ遅く感じてしまう程にまで事態は切迫していた。まあ互いに罵り合う余裕はある様だが…
とは言え、そうこうしている間にここでバトルホッパーに乗ったBLACKと朱里ちゃんと合流していた。
「そっちは上手く行ったか!? こっちは二人を助ける事が出来たぞ!」
「ああ! こっちも爺さんを倒した!」
互いの戦果を報告し合うBLACKとディケイド。そしてBLACKの言う通り、彼の乗るバトルホッパーには
朱里ちゃんのみならずヴィヴィオとアインハルトが必死にしがみ付いていると言う何ともシュールかつ和やかな光景が垣間見られた。
何処からどう見ても定員オーバーで、もはや曲芸の領域である。
「バトルホッパー! 四人も乗せて重いと思うが頑張ってくれ!」
「怖いよ! 落ちちゃうよ! 黒バッタのおじちゃんもっと速度落としてよ〜!」
「はわわわわわわ!」
朱里ちゃんは相変わらずとしても、余程怖いのだろう、ヴィヴィオは取り乱しBLACKに必死にしがみ付いて泣き崩れていた。
「ヴィヴィオ、今は非常時なんだから我慢しなさい。アインハルトを見てみなさいよ。
こういう状況なのに凄く落ち着いてるじゃない?」
「そうかな…僕には騒ぐ余裕も無い程怖がってる様に思えるけどな…。」
なのはの言う通り、アインハルトはヴィヴィオと違って泣きもせずにクールに澄まして…いる様に見えるだけで
良く見てみると、口をガチガチを震わせ実は相当にビビっている様子だった。
そして一時走った後でトライチェイサー2000に乗ったクウガ、マシントルネイダーに乗ったアギト・アギト&リイン・G3、
ハードボイルダーに乗ったクロノ・ジョーカーと合流するのだった。
「士ー! 動力炉はぶっ壊したぞー! でも本当驚いたぞ! エンジン的なの想像してたのにクリスタルみたいなのが動力でさ…。」
「そんな事は良いから早く逃げるぞ!」
「……………。」
状況が状況なだけに仕方が無いとは言えディケイドに叱られてクウガも少しショボンと来てしまっていた。
とは言え、今はそんな事をしていられないのも事実。皆を乗せたそれぞれのマシンが猛烈な勢いで出口目指して通路を爆走するのだった。
間も無く墜落するとあって聖王の百合かご全体が大混乱となっていた。無理も無い。聖王の百合かごには
百合ショッカーに所属する百合戦闘員や百合怪人、百合厨等が相当数乗り込んでいたのだ。彼等もまた一刻も早く
脱出せんと大騒ぎになっており、もはやディケイド達の相手をする余裕すら無い様だった。
そしてやっと出口近くにまでやって来ていたディケイド達なのだが、その出口付近は我先に脱出せんとする
百合戦闘員や百合怪人達でごった返してしまっており、簡単に脱出出来る状況じゃなかった。
「ユリー! ユリー!」
「早く! 早く脱出しないと爆発しちゃうブヒー!」
「こんな所で死にたくないブヒー!」
「ブヒヒヒィー!」
ブタみたいに丸々太った百合厨…俗に『百合豚』と称される男達が彼方此方にギュウギュウに詰められており、
これはもはや脱出と言うレベルの話では無くなってしまっており、彼等の汗の匂いがディケイド達の所まで
漂って来る程であった。
「うあ…汗くさ〜い…。」
「畜生…こんな所で足止め食ってたら本当にこの艦と運命を共にする事になっちまうぞ!」
ディケイドは苛立ちの余り壁を殴り付けていたが、それでどうにかなる物でもなかった。
「外に出る事さえ出来れば僕がフローター系の魔法を使って皆を安全に地上まで降ろす事が出来るけど…
前があの様子じゃそもそも外に出る以前の問題で…。」
「ユーノ君元気出して…。」
皆の力になれずガックリとうな垂れるユーノの頭をヴィヴィオが悲しげな表情ながら優しく撫でて
励ましていたのだが、そんな時に転機が訪れるのである。
「士! その様子だとしっかりやれたみたいだね。」
「海東! お前達も無事だったか。」
「皆無事で私も嬉しいわぁ〜ん!」
ディケイド達を聖王の百合かごの奥へと進ませる為に百合ショッカーの大軍を足止めし頑張っていた
ディエンドと彼のライドしたストロンガー、RX、電王と言う三人の仮面ライダー及びスーパーヒロインズ、
関羽こと愛紗、恋姫の世界の貂蝉、ブラックロックシューター、長門有希、キュアブラック&ホワイト、
キュアピーチ&パッションも無事だった様子で、どうにか合流出来ていたのだった。
「いや〜出口は大変な事になってるみたいだね〜。」
「そんなのん気な事言ってる場合じゃないですよー青いライダーさん!」
「早く何とかして外に出ないと!」
「まあ焦らない焦らない。」
相当切羽詰った状況にも関わらずディエンドはかなりの余裕を見せていた。それは何故かと言うと…
「外に出る方法ならあるよ。その為にキュアパッションを呼び出していたんじゃないか。」
「え!? キュアパッションにそんな力があるのか!?」
皆の視線がキュアパッションに集中する。キュアパッションにはこの状況を打破する力があると言うのだろうか…
すると、彼女は懐から何かを取り出す。それは少女然とした顔の付いた赤い鍵だった。
「この赤い鍵は何だ?」
「これはアカルンと言って、これでも一応妖精なの。」
「ほう、妖精とな…。」
「アカルンには長距離や様々なパラレルワールドへの瞬間移動を自在に出来る力を持ってるわ。」
キュアパッションこと東せつなにプリキュアとしての力を与えた妖精アカルン。普段は特に自己主張せず
プリキュア変身アイテムの役目に専念しているのだが、それに伴い短距離長距離次元間を問わず様々な場所へ
自在に瞬間移動が出来る力を持っていた。
「なるほど、それで安全な場所まで瞬間移動…と言う事だな。」
「ハイ。」
「凄いな。元々は筆者がフィギュアーツとして持ってるからと言うだけの理由で枯れ木も山の賑わい感覚で
参戦しただけのキュアパッションがこんな所で役に立つなんて筆者自身が一番驚いてるだろうよ。」
「そんな事言うと置いてっちゃうよバーコードさん…。」
「おっとそれは失礼した。」
こうして、とりあえずキュアパッションのアカルンの力によって皆で安全な場所まで瞬間移動…と思われたのだが、
そこでキュアピーチがパッションの肩を掴み止めていた。
「ちょっと待って! あそこにいる人達はどうなるの!?」
「当然この艦と運命を共にする事になる。通常の有機生命体の耐久力ではこの艦の落下と爆発に耐えられない。」
そう。確かになのはやディケイド達はキュアパッションの持つアカルンの力で脱出出来るとしても
現在進行形で出口付近で脱出しようとワイワイ騒いでいた百合厨達はそうでは無い。
長門が淡々と説明した通りの事はまず確実と言える。しかし、ディケイドの判断は結構非情だった。
「奴等は百合ショッカーに加わった言わば敵だぞ。自業自得だ。」
「そんな……。」
「でもやっぱり一応一緒に脱出させるだけの事はしようよ士さん…。」
「なのは?」
なのはも彼等を見捨てる事は出来ない様子だった。それはユーノやクロノ・ジョーカーも同様だった。
「既に戦闘員や怪人に改造されてしまった人は完全に百合ショッカーに染まっているから仕方が無いとしても
ただの百合厨は助けても良いんじゃないかな?」
「フェレットもどきの言う通りだ。僕も時空管理局の一員として彼等を見捨てる事は出来ない。」
「アイツ等はお前等のアンチとしてお前等を叩きまくった連中だぞ…それでも良いのか?」
「構わない。確かに彼等には酷い目にあわされたけど、だからって殺す事は無いじゃないか。」
ユーノとクロノ・ジョーカーは真剣な面持ちでディケイドの瞳をじっと見つめる。
確かに百合厨は彼等のアンチとして色々酷い事をして来たが、百合戦闘員や百合怪人と違いただの人間であり
まだ救い様はある。その為に個人的な恨みよりも彼等を助ける事を選んでいたのだった。
彼等の気持ちを悟ってか、クウガもまたディケイドの肩に手を乗せていた。
「士、アイツ等も助けてやろうじゃないか。アイツ等を見殺しにしたら後味が悪くて誰も笑顔になれない。」
「…………………。」
暫しの沈黙の後、ディケイドはキュアピーチの方を向いた。
「あいつ等を助けたら助けたで、また再び敵に回って襲い掛かって来るかもしれんぞ。それでも良いのか?」
「その時は……戦うまでだよ……。」
キュアピーチの真剣な表情、そして皆の気持ちを察しディケイドはキュアパッションの肩に手を乗せた。
「分かった…じゃあ助けてやれ…。」
「分かったわ。」
こうして百合厨達も助ける事に決まった。キュアパッションの意思に反応してアカルンの力がなのはやディケイド達を…
そして百合厨達を墜落しつつあった聖王の百合かごの外、地上へと瞬間移動させていたのだった。
キュアパッションのアカルンの力によって地上へ脱出する事が出来たなのはやディケイド、そして百合厨達は
聖王の百合かごが爆発し轟沈しながら地面に落下し爆発する様を見つめていた。幸い落下地点は無人の採石場っぽい場所であった為、
聖王の百合かごの落下によって周囲に被害が及ぶと言う心配も特に無い様子だった。
「聖王の百合かごが沈んでいく…。百合ショッカーだけじゃない…古代ベルカの忌むべき遺産もこれで終わりだね…。」
「後は…さあ、お前等はどうする?」
ディケイドは周囲に呆然と立ち尽くす百合厨へ目を向けた。そう、先も説明した通り相当数の百合厨もまた
助けられその場にいた。しかも彼等は百合ショッカーに手を貸し敵となっていた者達でもあり、その手には
木刀や釘バット等が握られていた。
「俺達と戦うか…このまま立ち去るか…選べ…。」
ディケイドはライドブッカー・ソードモードを握り構え、それに合わせてなのははレイジングハートを、
愛紗は青龍偃月刀を構え、ブラックロックシューターは★Rock Cannonの砲口を百合厨達に向けられていた。
それに対し百合厨達は…
「も…もう嫌ブヒ…。」
「もう帰るブヒ…。」
「母ちゃんも心配してるブヒ…。」
と、百合豚が戦線を離脱して行くのを皮切りに散り散りになって去って行った。余りにもあっさりした去り様に
なのは達も少々呆れてしまう程だった。
「あの時は物凄い勢いで襲い掛かってたのにあっさりと…。」
「当然だ。百合ショッカーと言う後ろ盾はもう無いんだ。百合ショッカー亡き今、奴等はただのヲタの集まりだ。」
そう。百合厨達が大暴れ出来たのは全ては百合ショッカーの後ろ盾と組織力があればこそ。
それを失った彼等にはもう戦う力は無いと言えた。
「とりあえず…これで各世界で猛威を振るってる戦闘員や怪人も沈静化して行くだろうな。
奴等を上から仕切る指揮官クラスは実質全滅したも同然なんだ。」
「これで長い戦いも終わりか…終わってみると…寂しいもんだな。」
「はわわ〜これでご主人様の所に帰れるんですね〜。」
まだ相当数の百合戦闘員や百合怪人が残っているだろうが、彼等を仕切っていた百合ショッカーにおける
幹部クラスはもう壊滅したも同然。故に彼等も各々の世界に戻って元いた組織に合流するだろう。
これで長い長い百合大戦も終了…と思われたのだが……………
次回に続きます。次から本当に本当の最終決戦が始まります。
飛竜乙
ナムカプの忍者勢は強かったなぁw
感想ありがとうございます。
20時40分頃から最後の投下予約をさせていただきます
ではボチボチと
渾身と呼ぶに相応しい最後の一撃。
それを放った直後のことであった。高町なのはがバランスを崩し、そのまま墜落しかけたのは。
フェイトもまた限界に近い疲労の蘇りにより、そう余裕のある状態でもなかった。しかしそれでも親友が目の前で墜落しかけたのだ。慌ててソニックムーブを発動させ、空中にて何とか彼女の身体を抱きとめる。
「なのは!? しっかりして!」
重傷の身である彼女へとそのような呼びかけを行うのは酷であることは承知の上であった。
だが状況が状況、最後の一撃に手応えがあったとはいえまだ全てが終わったわけではない。
既に崩壊まで幾ばくの時もないこの『第三の月の都』の現状もあった。
ここで力尽きて気を失っては、それこそ冥王諸共の心中と同じである。
それがなのはも分かっていたのだろう。荒い息、霞む意識、重傷の身であれど、それでも彼女もまた何とか自らの意識を手放さぬように奮闘していた。
否、むしろそれどころか……
「……フェイト、ちゃん……私のことは、いいから……」
冥王の捕縛を、とそれが最優先の使命であるようになのはの方から促してくる。
ここに自分を一旦放置し、先に冥王の捕縛へと向かえ。なのはのその意思にフェイトが一瞬躊躇いを覚えたのは事実だ。
しかし一瞬の逡巡の後、フェイトが決断したのは――
「……分かった。直ぐに戻ってくるから、ここで待ってて」
何の為にここまでやって来て、そして何の為にここまで傷ついてすら戦い続けたのか。
ここで親友の為と思って彼女の言葉に背けば、それはそのまま彼女の選んだこの結果に対する否定や侮辱になる。
そしてそれは、責任放棄の逃げとも同じだ。
それが分かっていた。理解していた。
だからこそフェイトはなのはの言葉に頷き返したのだ。
傷ついたなのはの身体を優しく瓦礫の壁へと預けさせた後、フェイトは振り返ることなく余力を絞った最速で、外縁部まで一気に飛び立つ。
最速で冥王を見つけ、そして捕縛するために。
その目的を持って外へと飛び出したその直後だった。
ストライダーの放つ一閃が、冥王の身体を横薙ぎに両断したのは。
それこそ一瞬、飛び出した直後に目に飛び込んできたその光景には目を見開き、思考すらも停止した。
明確な殺害現場、その目撃だ。
正当防衛云々だとか、そんな細かいこと以上にただフェイトが思考を取り戻した後に感じたのは、間に合わなかったのかというそんな思いだ。
いつの間にあの状況から先回りしていたのか、冥王暗殺をまんまと出し抜かれ成功されてしまった現実には彼女とて言葉を失う他にない。
彼女が捉える視界の先、両断された冥王が虚数空間の海へと堕ちていくその姿と、それを静かに見届ける暗殺者の姿だけが、スローモーションのようにゆっくりと進んでいく。
時間そのものが停滞してしまったかのような感覚、全力で向かっているはずなのに、自分の進む動きも、眼前に目指す目的地も、奇妙なほどに遅く遠く感じた。
漸くに辿り着いて着地した外縁部、既に冥王は落下し終え、暗殺者もまた悠然とした態度でこちらへと振り向く。
「……殺したんですか」
「ああ、殺した」
間の抜けたやり取り。自他共に認められるその光景に笑い出したくすらなってくる。だが当然それが彼女に出来るはずもなく、理性を総動員した使命感を奮起させ、対峙する自らの表面でそれを何とか保とうとした。
この光景をもしもう一人の親友たる八神はやてが見ていればどう思っただろか。
弾劾するように、激しくこの眼前の青年へと詰め寄ったのではなかろうか。
醒めているとも思えるほど妙に冷静になっていく思考の中で、そんな意味もない仮定の連想をフェイトはしていた。
だがやがてそれすらも現実逃避であると認め、フェイトは静かに振り切る。
そして管理局員として、ここで自分が成さねばならない務めをしっかりと思い返す。
「現場の重要参考人として、ご同行願いますか?」
口上は任意。しかしそう告げながらバルディッシュを構えるこちらの態度で相手もまた拒否権を認めていないことを理解したことだろう。
事実、青年はその彼女の言葉に答えるまでもないと言った態度で、ただ無言でその手に持つ雷光剣を構え直すのみ。
全てに対する決着は、もはや次で決まるのみ。
お互いに言葉はなかった。勝負は一瞬。それで全てが決まるであろうことは両者共に理解できていた。
取り決めの合図もない。ただ崩壊の兆しが激しくなるその中で、両者が対峙するその間合いの中間地点の爆発が互いの合図と化した。
奇しくも、まるで当然のように両者ともそれを同時に床を踏み砕くように前方へと飛び出す。
爆煙の向こう側、そこを突っ切って飛び出してくる相手の姿を想定しながら、両者はその互いの得物を持って勝負を決すべき振りぬき――
各所より爆発を上げながら、ゆっくりと主の末路を追うように虚数の海へと沈んでいく『第三の月の都』。
冥王の己が二千年の神の権威の象徴とも呼ばれた魔城。生み出した数多の戦争の犠牲を内部へと残しながら、塵へと還る様にバラバラに崩れながら沈んでいく。
管理局の次元航行艦の窓よりその光景を見届けながら、八神はやてはこの短くも激しかった戦争の終わりを実感した。
別に感動を覚えて涙を流すわけではない。犠牲は悲しいし、傷も痛む。けれどだからと泣くわけにもいかない。
自分は最後までこの結果をしっかりと見届ける義務がある。故に涙などで視界を滲ませれば、それは邪魔以外の何ものでもない。
だから涙を流すなど論外だ。
だというのに……
「……はやてちゃん?」
「ん? どうかしたか、リイン?」
「い、いえ……」
自分の方から呼びかけてきておいて、実に歯切れの悪いリインフォースUの珍妙な態度。いったいどうしたのかと思わず可笑しくなって笑みを浮かべてしまう。
だがそんなはやてに対し、リインは些か躊躇っていたようだが、やがて意を決すと共に思い切ったようにこちらの肩の上にまで飛び乗ってくる。
そしてただ優しくこちらの目元へとその小さな手を伸ばし、
「泣かないでください。はやてちゃん。リインがちゃんと付いてますから」
まるで安心させるように、あやすかのようなその言い分。母親じみたその言動にどういうことかと首を傾げようとしながら、そこで漸くに自分が涙を流していたのだということに気づいた。
ああ、情けない。自分は家長なのに。こんな無様な醜態を晒して末っ子にまで心配かけさせていたのか。
「……あれ? ほんまや。……何で私、涙なんか流しとるんやろな?」
きっとあのデリカシーの欠片もない忍者モドキに腕を折られたからだろう。
一応、痛み止めと治療はもう受けているのだが……しかしきっとそうに決まっている。
そう思い自分へと言い聞かしながら、これ以上の醜態は晒せないと必死に鼻をすすりながら無理矢理に泣き止もうと奮闘する。
自分が泣いていてどうする。むしろ自分は泣いている人間がいればそれを優しく慰めてやる立場だろう。
自分らしくない。そう思うからこそ、これ以上意地でも泣いてたまるかと本当に力技で泣き止んだ。
そんな意地っ張りなはやての態度に、リインは何を思ったのか。今度は可笑しそうに笑い始める。
最初こそ笑うなと彼女に対して頬を膨らませていたはやてではあったが、やがてはやてもまたどうでもいいと言ったように釣られて笑い出す。
戦争直後に不謹慎この上ない。気でも触れたような行為に、誰かに見られれば咎められるなと分かっていたので、何とか笑いを堪えようとしていたのだが……
しかしそれでも凡そ数分。リインと一緒にはやては結局疲れるまで笑い続けていた。
やがて、笑いを収めた後にリインより視線を外しながらポツリと、
「早う皆で一緒に帰らんとな」
「はい! 皆で一緒に帰るですよ、はやてちゃん」
末っ子の粋の良い返答にその通りだと頷き返しながら、漸くにはやてはそこで自分たちが生き残ったということ、そしてこの戦争が終わったのだということを受け入れられた。
きっとこの多くの掛け替えのない犠牲に対し、自分は傷跡を残すだろうし、或いは苦悩として振り返ることも出てくるだろう。
だがそれでも……
「これからいろんな意味で忙しくなりそうや」
「そうです。だから一生懸命頑張らないといけないですよ」
残っている問題は山積みであり、立ち向かうべき問題もまだまだ強大なものばかりだ。
しかしそれでも、生きてさえいればいつかはきっと何とかなるはずだと八神はやては信じていた。
それがどうしようもない楽観主義である。それくらいは自覚していたが、それでも。
「リインや皆が無事に生きててくれて良かった。……今はそれだけで、充分や」
願わくば、今日この日に抱いた後悔の多くを。いつか目指すべき未来の先で二度とは起こさぬ過ちの結果とするために。
八神はやては今のこの想いを決して忘れえぬよう、深く心へと刻みつけた。
こうして、後に“『第三の月の都』攻略戦”と呼ばれた戦争は、ここに幕を閉じた。
そして、それから――
例え世界を治める神が死んだとしても、それで世界そのものが終わるわけでもなければ、変わるわけでもない。
眠らない不夜城めいた眼下の摩天楼。その頂上より灯火の消えることなき歪な繁栄の象徴たる街を、ストライダー飛竜は静かに見下ろしていた。
傍らにはもはや共に背中を預けて戦場を駆ける戦友もいない。
まるで何も変わらぬ世界のようで、しかし実質は僅かづつではあるものの変化の兆しをこの世界が見せ始めていることを、飛竜は理解してもいた。
世界を裏より支配する冥王が潰え、彼の支配下にあった政財界の大物、犯罪シンジケートなどが軒並みに大打撃を受け、支配における影響をおおいに揺らがせた。
しかし無論のこと、古き支配者が倒れればその後釜を狙わんとするハイエナが現れるのは自明の理とも言えるものであり。
実際、この世界はかつてないほどの神の遺産を争いあう骨肉の争いめいた紛争を各所で起こしている。
当然のように政治が混迷し、秩序は乱れ、災禍が広がり、数多の犠牲が今も生まれ続けている。
世界を支配する悪者を倒せば、世界は救われハッピーエンドを迎える。そんなものは子供染みた物語の中以外にはありはしない。
今必然のように起こっている、このかつてない混迷の時代こそ、それこそ飛燕が忌避し続けていた姿そのものなのだろう。
結果はどうあれ、飛竜自身が自らの手を持ってその引き金を引いたのは事実である。
ならばその責任に対し、この男……飛竜はいったい何を思うのか?
「…………」
変わらず無言・無表情。薙いだ湖面めいた変化を窺わせぬその様子からは、余人がこの世界に対して彼が何を思っているのかは、到底理解することも出来ないだろう。
しかしそれは飛竜の側も同じだった。冥王を討ったのは“かつて”の己自身の責務を完遂するため。そこに他者の理解や同情は何一つ必要ない。
神のいなくなったこの世界で、その神を殺した男は、これから先のこの世界で如何様に生きていくというのか。
――不意に、携帯している通信機より呼び出し音が鳴り響く。
飛竜は静かに通信機を取り出すと共に耳へと傾ける。
本部よりの新たな任務の通達。例え世界が変わろうとしていても飛竜の成すべき事は何も変わらないと証明するかのようなその光景。
「――了解」
新たな任務の請負、それを承諾する旨の返答を短く返し、飛竜は通信機を切って仕舞う。
そして変わらぬように幾秒の間、摩天楼を見下ろした後。
これまでの全てを断ち切るように飛竜はその場より飛び立ちかけ――
『俺たちストライダーズに……本当に存在意義はあるのか?』
唐突に耳へと聞こえたその幻聴に、飛竜は珍しく行動を中断すると共に、ゆっくりと傍らへと振り向く。
そこで飛竜がその視線の先で捉えたのは――本当にらしくもない光景。
自分がこの手で殺した男――戦友たる飛燕の幻覚。
デジャヴを不意に憶えた理由を、彼は即座に理解した。
あれはいつの頃だったか。この摩天楼の上でいつか交わしたそのやり取りのことを飛竜は思い出した。
あの時に、相変わらずに素人めいていたあの戦友が、自分へと問い質してきたのと同じ問い。
あの自分は彼に向かって何と返したのだったか……?
ストライダーズの存在意義。そんなものは決まっていた。
「ありはしない」
あの時と同じ答え、同じ言葉を、同じように飛竜は返した。
幻はその言葉に対して、目を見開いた動揺を顕にする。
あれほど頑なに任務遂行に拘っておきながら、その言葉はあまりにも矛盾に満ちているだろうと、まるでそれを責めたてるように。
幻の飛燕の言い分は飛竜とて凡そ理解は出来ていた。確かに己の言葉と行動はあまりにも矛盾している。
ストライダーであることに拘りながら、ストライダーという存在を否定する。
度し難い矛盾であろう。しかしそれでも――
「俺たちストライダーズは、いつか世界にとって不要となる」
否、いつかは世界にとって不要とならなければならない。
ストライダーズという存在が不要になる世界を創らなければならないのだ。
存在価値を否定するために、その存在価値を全うする。
それは神の創る箱庭ではなく、人自身が自らの意志で勝ち取った結果としてだ。
しかしそこに至るまでには、これからも多くの問題が世界には生まれることだろう。
だからこそ、生まれてくる問題を自分たちが取り除く。
世界に続く混迷が、災禍が、人の世に蔓延り続ける限り、戦い続けるのが自分たちだ。
それがストライダーだ。
『……だが、それならそれはいつ終わる?』
飛燕の当然とも言えるその問い。
ストライダーズが必要となくなる世界。確かにそれは理想だが、しかし同時にそれは限り無く現実に遠い未来であることも間違いない。
確かに冥王は倒れた。彼の者の支配から脱却し、混迷を始めている世界だが、しかし一方で管理局を代表とする多くの次元世界より新たな支援が生まれているのも事実だ。
或いは、これから長く続くであろう混迷の世界の果ては、確かに新しいより良き世界へと変わるかもしれない希望もある。
だがそれは現実に見通しも未だ不鮮明な、何年・何十年・何百年先かなど誰にも分からない状態でもあるのだ。
それこそ、飛竜がこれからの生涯を戦い続けたとしても、或いは存命の内には見届けられぬものかも知れないのだ。
『それでもお前は戦い続けるのか?』
生涯の果てで振り返った時、それは本当に後悔をしない意義のある生涯となるのか。
到底そうは思えない。思えないからこそ、飛燕はそれを途中で止めてしまったのだろう。
冥王に従属する道を選び、より可能性の高いと信じた道へと賭けた。
飛竜と飛燕の違いがあるとすれば、そこなのだろう。
最後まで、己をストライダーとして貫けるかどうか。
飛燕にはそれが出来なかった。ならば飛竜は――?
「それが――ストライダーだ」
知れたこと、答えの見えた愚問であると、飛竜は幻のその問いを一蹴した。
幻はそれにも動揺をみせたが、飛竜はそれもまたくだらないと振り払う。
姿形を器用に似せ、思わせぶりに口走ろうが、これは己の作った単なる幻影。
既に己の答えは決まっているし、そしてそれは生涯変わらない。
だからこそ、今更飛燕の形を取ってそれを止める迷いが現れようとも、それすら否定して消し去るのみ。
これは己自身の答えを示す決着でもある。
それを証明するように、飛竜はサイファーを引き抜くと共に飛燕の幻へと向かって一閃。
切り裂かれ、消えていくその幻に、もはや飛竜は振り返ることすらもなかった。
そう、彼の生き方は既に決まっていた。
それは何者にも変えられないし、揺らがすことも出来ないだろう。
だがそれは同時に、彼自身の頑な生き方は変わらないが、同じように頑なな他者の生き方そのものを否定するというわけではない。
だからこそあの時――
一閃するように振りぬかれたサイファー。
それは八神はやての頭上ギリギリの壁を深々と切り裂いた。
それこそ首を刎ねられると思っていたはやては、現実としてそうならなかったことの方にむしろ驚いていた。
しかしそんなはやての様子も、飛竜は何ら意に介することもなく。
そのまま素早く相手の首に手刀を叩き込み、即座に意識を断ち切らせる。
「なっ――!?」
意外な幕引きに対し、意識を今にも失う最中で驚いている彼女へと対し、
「ならば精々、その生き方を貫いてみせろ」
彼女がそれをどうやって貫こうが知ったことではない。
素人の戦場に興味はない。ご大層な思想や信念は、その相応しい時と舞台で勝手に与り知らぬところで披露すればいい。
もしこの少女がそれを成し遂げる器だというのなら、必然としていつかそれは訪れることだろう。
ここから生き延びられればの話だが……
その程度が出来ずして、大言壮語は謳えなかろう。
だから出来るものならやってみろと一瞥だけを残して、気を失った八神はやての元を後に飛竜は重力制御室内部へと踏み込んだ。
勝負は一瞬だった。
チャンスは一度きり、切れるカードも一枚だけ。
だからこそ、ここでそれをモノにするために彼もまたその一撃に全霊を賭けた。
だが結果を言えば、そこにイレギュラーの要素が入り込んでしまったのも事実だ。
爆煙を切り抜け、視界の先に僅かに捉えた金色の影。
それを両断すべく飛竜はサイファーを横薙ぎに一閃する。
対するフェイト、彼女もまたその得物たるバルディッシュを迎え撃つようにこちらへと向かって振り抜く。
間合いは互角。振り抜く速度は僅かに……フェイトの方が上。
これまでの戦闘の連続で、流石に見えない部分で酷使し続けた身体の付加が顕著に現れたのか。
ベストのコンディションならばいざ知らず、この時の飛竜は流石に抜刀の速度でフェイトを相手に1テンポの遅れを喫した。
刹那の見切りの戦いにおいては、それは致命的とも言える結果だ。
(……ぬかったか)
だからこそ飛竜は、咄嗟に脳裏でこの現実が示す己が敗北を察し、静かに受け入れようとすらしていた。
だが――
振りぬかれる両者の一閃。
それは刹那の間を置いて、どちらを勝者へと選んだかをありありと証明させる。
刃を振りぬいた姿勢のままやがて力尽きるように倒れたのは――
「――くぅッ!?」
喀血と共に倒れ伏したのは――フェイト・T・ハラオウン。
先に刃を振りぬいたはずの彼女が、何故敗北したのか……
勝った側であるはずの飛竜の方が、解せぬその事態に思わず眉を顰めた。
直後、そんな飛竜の背後より轟く爆発音。
流石に近距離のことに、爆風が肌を叩く影響もあり飛竜もまたそちらの方へと振り向いた。
静かに見据えた彼の視線の先、そこで捉えたのは煙を上げて大破しているこの『第三の月』の各所に配置されている防衛機械の一体だった。
その鋼の筐体に爆発を起こさせた致命の傷として突き立っていたのは……金色の魔力刃である。
それを見て漸くに飛竜はこの結果の謎を察した。
「……俺を助けたつもりか?」
ハッキリ言えばそれは情けをかけられたに等しい行為だ。
背後の接近に気づかなかった己の失態そのものが間抜けの極みであったとはいえ、しかし事実眼前の相手に気を取られすぎて注意を割けずに見落とした。
背後からの機銃がこちらを狙っているのを、向かってくるフェイトの方は見えたのだろう。
だからこそ彼女は飛竜を切り伏せるはずだったハーケンセイバーを咄嗟に背後の機械を破壊するために飛ばしたのだ。
結果としてそれは、確かに飛竜の方が命を救われるという形となっていた。
だが解せない。命のやり取りを直前に行おうとしていた相手を彼女はどうして助けようとしたのか。
「……死なせたく……ない……って……言った、はず……です」
血を吐いて苦しげに倒れ伏しながら、それでも懸命に視線をこちらに向けようとしながら、搾り出した言葉でフェイトはそう告げる。
それは飛竜がそれこそ素人と断じたその甘いやり方の極致とすら言えたものだった。
無論、それが飛竜にとって到底理解できるような考えでないことも事実だ。
しかし……
「……借りは借りだ」
命を助けられたという結果がある。
流石にその借りを無視できるほど飛竜は道理というものを軽んじていたわけでもなかった。
だからこそ飛竜は倒れているフェイトへと近づくと共に、その身体を担ぎ上げる。
朦朧とする意識の中、それでも何をされているのか理解しているのかフェイトが驚きを顕にするものの、しかし飛竜は、
「借りは返す。脱出の手伝いまではしてやる」
ジタバタ動くなと釘を刺すようにそう告げる。
幸い……と言って良いのかどうかは不明だが、飛竜がフェイトへと放ったサイファーは、既にリミッター解除により出力の減退した状態だった。
代名詞ともいえる無双の切れ味も既に失われ、プラズマもほぼ纏っていない状態の刃は、バリアジャケットによる防護とも合わさり、斬撃というよりは打撃で済んだ。
早期に治療を施せば、命には問題ない傷である。
治療云々は兎も角と置くとしても、ここで死なれては飛竜自身の矜持にも些か反する以上、さっさと彼女を連れて脱出へ動こうとしたその時だった。
「…ま…だ……なの、は……が……」
虚ろな意識の中、それでもこちらを呼び止めるようにポツリと呟く彼女の言葉に、飛竜は足を止めた。
そして即座に思い出す。この女ともう一人、そう言えばあの場により重傷な女魔導師がいた。
「仲間か?」
当然そうでろう問い返すまでもない愚問だった。
だが飛竜の問いに対し、フェイトは崩れかかって一刻も猶予もない惑星包括制御センター内部の方を必死に指差しながら……
「……とも……だち……」
必死に搾り出すように告げるその言葉は、見捨てては行けないと飛竜に言っているも同然であり……
あくまで借りはこの女個人に対してである。仮にも命を救われた対価に、同じように命を救ってやる。
本来ならばそれでチャラであり、それ以上は借りの範囲には含まれない余分なものに過ぎないはずだ。
だからこそ飛竜がフェイトの要請を命の危険を顧みてまで考慮してやる必要は、ありはしない。
そう、ありはしないはずだ。
だが……
――友達。
その言葉、単語は飛竜にとっても決して欠片ほども無縁であるというわけでもない。
むしろ自分はこの地で先程その因縁の清算を行ったはずだ。
だからこそ、フェイトのその言葉に飛竜が咄嗟にらしくもなく飛燕を連想したのなど、単なるくだらない感傷以外の何ものでもなかった。
ストライダーにとって、それはまったく不要なものでしかない。
だが、このフェイトたちは飛竜たちとは違う。
ストライダーでもなければ、彼が定義するプロでもない。
素人と切って捨てた……単なる甘いアマチュアたちだ。
「…………」
飛竜は無言のまま、クアットロより貰い受けたPDAを取り出し、起動させる。
この『第三の月の都』を脱出するための、現在使用できる最短ルートがそれには記されている。
女とは言え成人を二人。加えて彼自身の状態も負傷と疲労の激しい重傷だ。
これで果たして脱出には間に合うか……?
こんな思考や選択を選ぶこと自体が、本来はストライダー飛竜にあるまじき愚行とも言える行いだ。
しかしそれでも……
「死んだら所詮そこまでということだ」
死なない人間などいない。それは自分自身が良く知っている。
超人とはいえ飛竜とて生身。いつかは死ぬし、いつ死んでもおかしくはない。
既に生涯最大の任務は果たしている。ここで自分が仮に死んでも……それが自分の末路に過ぎなかったというだけだ。
それにこの程度のレベルの窮地は、今まで幾度も潜りぬけている。可能か不可能かと問われても、決して不可能というわけでもない。
ならば珍しくも……否、本来ありえぬこの気紛れ、最後に挑戦してみるというのもまた悪くはない。
それはストライダー飛竜の生き方ではない。
それはこの少女達のような、素人めいた甘い生き方だ。
しかし……
「あんた達みたいな生き方もある、か」
それくらいは、認めてやってもいい。
そして生涯に一度くらい、自分の手でそれを行ってみるというのも……
故にこそ、そうと心に決めた後の飛竜の行動は迅速だった。
フェイトを落とさぬようしっかりと担ぎ直しながら、PDAの図面を瞬時に頭に叩き込むのと同時に、
「貴様らに出来て、俺に出来ぬ道理もない」
高町なのはが残されている惑星包括制御センター内部へと、飛び込んだ。
『第三の月』とは異なる、本物の月を見上げながら、一瞬の追憶とはいえどうしてあんなくだらないことを思い出したのか。
それこそ飛竜自身にも分からぬことであれば、どうでもいいことですらあった。
あの記憶に新しい自身とそう歳も変わらぬであろう三人の少女たち。彼女たちがその後どうなったのかなど、飛竜は知らなければ殊更に興味を抱くわけでもなかった。
『第三の月』での戦争を生き残ったとはいえ、あの重傷だ。管理局の医療技術がどれ程のものか飛竜は正確には知らないが、それでも当分はベッドの上での生活を余儀なくされているだろう。
命あっての物種。あの程度の負傷で未来が拾えるなら、むしろ安いと言って良いくらいだ。
……どちらにしろ、彼女たちの以後がどうであれ、もはや自分とは二度と会うこともないであろうことを考えれば、記憶に留めて置く必要とてない。
借りは返し終えた。戯れも終了した。ならば刃を交えたこの記憶も、いつかはいずれ忘れ去ることなのだろう。
惜しむほどのものとは思っていない。だからそれ自体はどうでもいいのだ。
それでも尚、敢えてあの少女たちについてまだ思うことがあるとすれば……
自分とは異なるその生き方。あの少女たちもまた、それを最後まで貫けるのかどうかというくらいのこと。
それは飛竜の与り知る領分ではない。だからこそ、彼女たちがそれを貫こうが貫くまいが、それを飛竜が知る術というものはない。
ああいった表の舞台で輝く英雄となれる者たちと、闇の世に生きる暗殺者に過ぎぬ自分とでは、所詮生きる世界も違えば、見据えている未来も異なる。
本来ならば、交わることすらもなかったはずの道だ。偶然が生んだ運命の悪戯で、たまたまに道の途中が交差しただけに過ぎない。
彼女たちの生き方を否定をするつもりはないが、だからと言って別に羨むつもりもない。
これが自分の生き方であり、ストライダーを貫くことには矜持もある。
他の誰でもなく、飛竜自身が決めた道こそが、この生き方だ。
いつか自分という存在が、ストライダーズという存在が、その存在意義を終了するその時まで、刃折れようとも己はただこの道を進むだけ。
見上げていた月の浮かぶ夜空、飛竜はそれより視線を外し眼下の摩天楼へと再び向け直す。
己の舞台はこちらである。空は自らの領分にあらず。
遍く変わらぬ次元世界の空は、彼女たちのような翼持ち飛ぶことの出来る魔導師が戦場とすればそれでいい。
こちらはこちらで自らの戦場を駆け抜けるのみ。
――故に彼は“野を馳せる者(ストライダー)”
そろそろ行こう。次の任務が待っている。
それを理解すると共に、飛竜は躊躇うことなく輝き消えぬ眼下の摩天楼を目掛けて飛び降りる。
迷うことも、躊躇うことも、恐れることも一切なく。
いつかその駆け抜ける足が止まるその時まで、飛竜の戦いは終わらない。
――では、最後に語られざる舞台の裏の話をもって幕を閉じよう。
ミッドチルダ。首都クラナガン。
時空管理局地上本部――その最奥に位置する余人の立ち入りを禁じられた間。
そこに響く三者の老人の声があった。
「……冥王が堕ちた、か」
「左様。最後の古き神は潰え、旧暦の時代より長らく続いた旧き神話も終わりを迎えた」
「我ら人の手によって、か……」
異様。その空間を何も事情を知らぬ者が初めてこの場に足を踏み入れ目撃したのだとすれば、まさにそのように称するだろう。
殺風景とも呼べるほどの必要最低限の器具のみを配置され、開け放たれた広大な空間。
その最奥たる中心部。まるでそこに三席の玉座の如く君臨するのは三つのカプセル。
何がしかの液体に満たされたそのカプセルの中、そこに浮かぶようにそれぞれ存在していたのは……人間の脳。
ここは時空管理局最高評議会。最高位の特別執政権を有する次元世界最大派閥組織の幹部たちが席を有する場。
彼らカプセルに入り言語を用い会話を交わしている三つの脳。
彼らこそがその最高評議会のメンバーであった。
「思えば三百年。屈辱と欺瞞の日々であれ……長き時であった」
「ああ。これでかの冥王とも本当に終わりともなれば……感慨深いものがある」
「されど振り返ってはいられない。もはやこの次元世界に神は不要。先が見えた我らの終わりもまた近い。冥王の後を追う前に成し遂げねばならぬことがある」
即ち、それは人の手により創り出す悠久万世の楽土。
傲慢な神が生み出す先の知れた至福千年紀(ミレニアム)などとは訳が違う。真なる後世の万人のための救済だ。
システムは既に作り上げている。最大の問題でもあった対立派閥たる古き神も既に潰えた。
自らの終わりも差し迫っている以上、そろそろ計画は本格的な段階へと移る必要がある。
「惜しむらくは、我らが直接その眼を以て完成を見届けられぬことか」
「無理からぬことだ。我らは神ではない。神にもなれぬ。……そもそもこの三百年の無様な延命さえも本来ならば過ぎたるもの」
「人として総てを成し遂げ、人として人の世の礎となりて潰える。我らが最初から決めていたことだ」
三百年前。本来ならば終わりを迎えるはずであった旧暦の時代。
暗黒期と呼ぶに相応しかった無秩序と闘争によって血に濡れた終末の世界。
かの次元世界屈指の巨魁。後の禍根となるに分かりきっていた傲慢な神。その存在に頭を下げてまで、延命のお零れに縋りついたあの時の決断。
次元世界も時空管理局という生まれたばかりのシステムも、まだあまりにも円熟となるには程遠いほどに幼すぎた。
人はあまりにも知恵を知らず、滅びに走る愚者であった。
導くものが必要だったのだ、愚かな終わりを回避するため。そして神によって世界を好きにさせぬための対向せし牙が、砦となる存在が必要だった。
彼ら最高評議会と今呼ばれる者たちは、それを憂いて自ら人の身さえも捨てて礎と成ることに身を捧げたものたちだ。
「全ては終わり、そして始まる」
「旧き神話は終わり、旧秩序は一掃される」
「後は我らが提唱する新世界構造。これを以て人々を導く我らの後を継ぎし者を見定めるのみ」
その言葉と同時、総意を示すように脳たちの眼前に現れたモニタに映るのは一人の男。
管理局において表に出ることすらない、極秘扱いとされるかの人物の詳細なプロフィール。
「“無限の欲望”……ジェイルは本当にこれに値するか?」
「あれの我の強さは承知の上。その潜在的危険度も或いはかの冥王に比肩する可能性とて察している」
「……それでも尚?」
「多少の毒は目を瞑らねば仕方あるまい。所詮レジアスは傀儡。三提督も器ではない」
「……本当に、最後のやむを得ぬ代替案としてだな」
「然り。聖王が我らの望む形で機能しさえすれば、それで総てが上手くいく」
所詮、かのアルハザードの遺児とて、新世界に復活する正当なるベルカの後継者のために用意したオプションに過ぎない。
それに万が一、今度はアレが見果てぬ愚かな神の夢を見ようというのなら……
「その時は廃棄すれば良い」
その言葉と同時、次にモニターへと映ったのは、先のジェイル・スカリエッティとは容貌の異なる別の男だった。
「ゼストという牙もある。アレも道理と我らの見据える未来の尊さを分からぬほどに愚かというわけではあるまい」
鎖に繋いだ番犬の名を呼びながら、それが対抗手段であると示す。
だが――
「……しかしルーテシアを取引にでも使われれば?」
「あれも武人とは言え人の子。幼子を盾にされれば大義を見失う可能性もある……か」
「……確かに、危惧すべき面ではあるな。ならば尚のこと、やはりジェイルからもゼストからも目を離すべきではないな」
またしてもモニターが映り変わる。そこに映っていたのは先程の男たちとは一回り以上も歳が異なる、まだ十そこそこと言った年齢の幼い少女だった。
それが番犬を縛る鎖であるのと同時に、番犬の戒めそのものを解き明かしかねない存在にもなり得ることを彼らは理解していたのだ。
「“無限の欲望”……冥王すらも手にかけた親殺し。次に我らへ牙を向けぬ道理も無し、か」
むしろ充分にその可能性はあった。
否、冥王よりアレを貰い受けたその時より、彼らは誰よりもその危惧に対して敏感であったのだ。
「急がねばならぬ。悲願は目の前なのだ。ここでジェイル如きに躓くわけにはいかぬ」
「新たな牙を用意せねばなるまい」
「アテはあるのか?」
「一人、この上もない適任がいる」
その言葉と同時、次にそのモニターへと映った人物は……
「野を馳せる青き獣、か?」
「行方は? それにアレこそ金でも大義でも動かぬ男なのではないか」
「……交渉の必要があるな」
闇の奥。新世界創生のための会議を続ける最高評議会。
人として、人の世を憂い、人の世の礎となることを選んだ者たち。
だが、肉体すらも捨て去って、ただ脳だけとなってこの世にしがみ付くその姿こそ――
「――まさに人の成れの果て。……いやはや、浅ましき姿じゃないか」
こちらに情報を伏せ、秘密裏に始末を図ろうとしている最高評議会。
ドゥーエというお目付け役を通して、既に筒抜けだと言うのに……間が抜けているものの、涙ぐましい努力ではあると認めよう。
「いかがなさいますか、ドクター?」
傍らで別の作業を続けながら、しかしこのまま放置を許すのかと問うてくるウーノの言葉に、しかしジェイル・スカリエッティは可笑しそうに笑いながら、振り返って首を振るだけ。
「どうもしないさ。老い先短い老人たちの戯れ事だよ。今くらいは好きに夢を見させておいてあげようじゃないか」
取るに足らぬ些事である。まるでそう言い切る様に告げるスカリエッティ。多少の楽観視が過ぎるのではないのかというその態度には、流石に彼の補佐としてウーノは口を挟まざるを得なかった。
「しかし油断は出来ません。最高評議会が本当に“彼”と接触してしまえば――」
「――ああ、分かっているよ。今度は“彼”が私を殺しに来るかもしれないね」
それが分かっていてどうして、と自ら危険を招き寄せんばかりのスカリエッティの態度は、ウーノには到底理解できるものではなかった。
だがそれも仕方がない。ジェイル・スカリエッティは狂人なのだ。彼の細分化された狂気の一端を受け継ぐ雛形として生み出されたウーノとはいえ、スカリエッティ自身の総ての狂気が理解できるわけではないのだ。
そしてそれはスカリエッティとて望んではいない。我が子に確かに狂気を分け与えたのは彼自身だが、さりとてだからと言ってこの自分だけの狂気を例え娘とはいえ彼女たちに総て理解して欲しいわけではないのだ。
己は狂っている。その狂っている中で望んでいるほんの遊び心なのだ。彼が娘たちへと理解して欲しい己の狂気とはその程度である。
「ドクターはすっかりあの忍者モドキがお気に入りになられたんですね」
どこか呆れたように、ウーノの心中察すると言うようにそんな言葉を続けてきたのは、唐突に現れたクアットロである。
十二姉妹の四女。ナンバーズという個体の中で或いは最もオリジナルたるスカリエッティに近しい性質を持った彼女。
クアットロの言葉に、しかしスカリエッティは何ら恥じることもないと言った様子に頷き返すのみ。
「ああ、彼のことはとても気に入っている。それは間違いないね。……どんな形であれ、或いはまた逢いたいと思っている、それも認めよう」
そして或いは、次に逢える可能性のあるその関係こそが、自分が望んでいる理想的なものではなかろうかとスカリエッティは言ってくる。
当然、それが正気で言えることではない以上、確かにこれで彼が狂っていることが証明されたのは間違いない。
暗殺者に殺されていいから逢いたいなど……当然、ナンバーズたちに理解できるものではなく。
「認めるわけにはいきません。ドクターにかかる火の粉を払う……それもまた我々の役目です」
そう生真面目に言い放ちながら、次にこの場へと足を踏み込んできたのはトーレ。そして彼女の後に続くようにチンクである。
図らずも長期稼働中の長年の付き合いたる初期メンバーがここに集うこととなっていた。
クアットロは戯れのように言う。これでドゥーエお姉さまもいてくれれば勢ぞろいだったのに、と。
しかし彼女にも彼女のお勤めがある。そして、それはいずれ行動へと移り、実を結んでもらう必要となる大切なものだ。
故に彼女はまだここには帰って来れず、そしてそれも仕方のないことだ。
「もう直ぐ目覚める妹たちに、ドゥーエも逢いたがっています」
「なに、もうすぐ家族は一同に揃う。新世界へさえ旅立てれば、離れ離れになる必要も二度とない」
故にもう少しの辛抱に過ぎないと、ウーノの言葉にスカリエッティは答える。
そしてそれは同時に、当然ながらこれから彼が主催として行おうという『祭』を取りやめるつもりもないという意志表示でもあり。
その言葉にこの場に集う者たちの表情は一様に変化を見せる。
或いはその時の戦いに備えての決意の表情であり。或いはその時の惨劇を予想してみる愉悦の表情であり。
そして或いは――
「……ドクター?」
「……いや、何でもないよ。それより、君たちもその時に備えて、準備の方は抜かることのないように」
スカリエッティの指示に、心得たと言うように一斉に了承の言葉を返す娘達。
それに満足気に頷きながら、スカリエッティはゆっくりと再び後ろへと振り返った。
彼が振り返ったその先――そこに存在しているのは一つのポッド。
生命維持の為の調整液が波立っている中、確かにそこには一人の人間が眠っている姿があった。
「折角拾った命だ。せいぜい君も楽しんで付き合ってはくれないだろうか?」
意識もなく眠る相手からの返事は、当然の如くありはしない。
だがそんな返事など既にどうでもいいと言うように、スカリエッティの脳内ではその人物の『祭』の内での割り振りすら検討済みであったのだ。
「それにしても……折角、拾ってきてくれたトーレ姉さまの前で言うのも何ですけど、その人、本当に使えるんですかねぇ?」
「使えようと使えなかろうと、我々のすべきことは何も変わりはしないさ」
クアットロの疑うような水を差すその言葉に、しかし拾ってきた当人であるトーレの方がまるで何の問題もないといった態度で、そう答え返すのみ。
あの『第三の月の都』で、この人物を助けた理由とて、トーレにすればそれがドクターの命令だったからだ。
根本的な部分で、相手の生死自体は自分の管轄外に過ぎず、どうなろうがどうでもいいことなのである。
あの場では『サンプル回収』という命令だったから助けた。この人物がこれから先、目覚めた後にどう生きようが、或いはどう死のうが、それはトーレにとっては与り知らぬこと。
「ドクターに協力するのなら、我々の味方だ」
「敵対すれば?」
「当然、我々の敵だ」
「もし敵だったら?」
意地の悪い質問を続けてくるクアットロに、トーレはまるで愚問だというように一度小さく鼻を鳴らした後、
「その時は――私がこの手で排除する」
平然と何事でもないと言い切った。
一度は命を助けた誼だ。
死ぬべき時に死なせてやれずに生き恥を晒させた責任もある。
敗者の矜持を受け持つ者として、その責任くらいは自分が果たしてやるさと迷うことなく、同じように彼女もそのポッド中で眠る人物へと視線を向ける。
「まぁ、それは目覚めた後の彼の決断次第だろうさ」
どちらに転ぼうが別にいいのだ。
駒として有用に扱えるなら、喜んで自分たちは彼を迎え入れてやるというだけ。
仲間になってくれるなら、それはそれで楽しかろうとスカリエッティは笑うのみ。
「どちらにせよ、後には退けない」
沈黙を続けていたチンクが何を思ったか呟いたその言葉に、スカリエッティもその通りだと頷いた。
そう、既に賽は投げられた。これから指し手たちそれぞれの野心を胸に加速度的に進んでいくこの盤上は、もはや半端な妥協では終わることなどないだろう。
そうでなければ、少し邪魔だから先に退場願いたかったという理由だけで、先に排除した冥王に対しても、申し訳が立たぬというものである。
そう、冥王は潰えた。自らの限り無い欲望が喰い尽し、糧となってもらった。
グランドマスター。自分を生み出してくれた生みの親。
感謝も愛情もある。その喪失すらも子として悲しもう。
故に――
「神に成り損ねたあなたの夢。ならば代わりに私がそれを引き継ごう」
尤も、やり方と創り出す新世界の形と中身は同じものだと保証は出来ないが。
どちらにしろ、今よりこの時、この“無限の欲望”は勝手ながら冥王の後継者を名乗らせていただこう。
なべて親殺しこそを真なる自立と称すなら、この結果こそをその証明の形として。
「――だからこそ、君も一緒に私の『夢』へと付き合ってくれないか?」
その為に、わざわざあの死に逝くはずの場で助けてあげたのだから。
狂気は感染する。感染して膨れ上がり、より更なる悪性のものへと進化していく。
唯一絶対の神となることを望んだ冥王グランドマスター。
その狂気を限り無い欲望を以て喰い尽し、取って代わろうとしているジェイル・スカリエッティ。
この先、この狂気は更なる進化を遂げて引き継ぐ者が現れるのか。
或いは、その狂気そのものの連鎖を断ち切る者が現れるのか。
それはまだ、誰にも分からない。
“無限の欲望”がその狂気の瞳を持って見据える、カプセルの中で眠る人物――飛燕にも。
以上、投下終了。
最後は最初期のプロットだった嘘予告みたいな終わり方ですが……
一応、飛燕主人公。スカ陣営メインのsts編が脳内プロットでないわけじゃないんですが、書くとしてもスクライドクロスを完結させてからですかね。
とりあえず13話(カズマ復活辺り)まで一年前に書いてたんですが、データがぶっ飛んで修復できずに心が折れてたんですけど…十周年記念で再燃してきたので、今は一から書き直してる途中です。
近い内に投下出来れば良いなと思ってるんで、その時にまた読んでいただければ幸いです。
それでは、また
265 :
一尉:2011/05/15(日) 22:51:48.00 ID:8ihAgO8c
支援
どうも、お久し振りです。
殆ど一年振りになりますが、十一時半に投下をしたいと思います。
では投下を始めます。
「あの二人が、ああも簡単に……」
「負けた……」
訓練室を見下ろすように設置された隣室にて、模擬戦の一部始終を見ていた三人。
その内の二人、ユーノとアルフは茫然とした面持ちで言葉を吐き、眼下のヴァッシュを見つめていた。
「何だ、君たちは前回の戦闘映像を見てなかったのか?」
「いや、見たけど……此処まで圧倒的とは流石に……」
「幾らなんでもアソコまで強いなんて思わないだろ。普段がああなんだしさあ」
「今見たとおり、コレが彼の実力だよ。君たちの言いたい事も分からなくはないがな」
その模擬戦は時間にすれば五分にも満たない極短時間のものであった。
だが、その五分の間に見せ付けられるは信じられない出来事の数々。
魔導師でもない人間が魔力を活用しての高速移動に反応し、砲撃魔法や誘導型射撃魔法をも回避し、二人のエースを完封するその光景。
二人の実力を知るユーノとアルフだからこそ、その驚愕は更に大きなものとなる。
「……クロノ、もし君が彼と戦ったとして、勝てると思うかい?」
ユーノの口から零れた言葉は、無意識の内に沸いて出た疑問であった。
百年をも越える年月の間、様々な次元世界を統括してきた時元管理局。その長い歴史に於いて、最年少で執務管となった天才魔導師。
この天才魔導師と二人のエース魔導師を圧倒した男とが戦闘を行ったとして、どちらが勝利するのか。
思わず好奇心からユーノは口を開いていた。
その問い掛けにはアルフも興味があるのか、ピクンと耳を揺らして、クロノへと視線を移す。
ユーノとアルフ、二人の好奇心に満ちた視線を受けて、最年少執務管はにべもなく言い切る。
「まぁ十中八九、僕が勝つだろうな」
さも当然のように、なのはとフェイトを容易く打ち倒したガンマンに対して、勝利できると。
「な、何でそんな自信満々に言い切れるんだよ」
「別に僕だけの話じゃない。なのはにも、フェイトにも、アルフにも、君にだって、勝機は充分にあるさ。ただ今の模擬戦はなのは達が戦い方を間違っただけだ」
「間違ったってどういう事さ」
「単純な話だ、ヴァッシュには大きな弱点がある。それは―――」
と、不審気な表情を浮かべるユーノとアルフに対して、クロノが言葉を続けようとしたその瞬間であった。
「―――バインドね」
その一言と共に訓練観戦室の扉が開いた。
会話を中断させ、一斉に振り返るクロノ達。
視界に飛び込んでくるは、執務官権限で出入り禁止にした筈の部屋に笑顔で入室してくる、二人の女性の姿。
黒耳に黒色の尻尾、身体のラインに張り付くような黒を基調とした服。
その二人は服装から姿恰好まで、まるで鏡に映したのかのように、非常に似通っていた。
唯一の相違点といえばその髪型くらいか。片方は肩甲骨に届く程の長髪、もう片方は肩までの短髪である。
「アリアにロッテ? 何で君達が此処に!」
その二人を見てクロノの鉄仮面が易々と砕け散った。
驚愕をありありと表に出しながら、唐突な入室者へと近付き声を上げる。
事態について行けないユーノとアルフは困惑を浮かび上がらせて、クロノと入室者へと視線を交互に行き来させていた。
「よっ、お久しぶりぶり〜、クロスケ」
「こそこそと何かしているのを見かけてね、ちょっと付けさせて貰ったわ」
予想外の来客に慌てふためいているクロノとは対照的に、落ち着き払った様子で笑顔を見せる二人の女性。
その猫のような耳や尾を見て、アルフとユーノは女性達が使い魔である事に気が付く。
「つ、付けさせて貰ったって……」
「ちなみに全部見ちゃったから。質量兵器を使ってる所も、それを止めもせずに見てるクロノも」
長髪の方、クロノから見て右側に立っている女性―――リーゼロッテが指差した先には青色の光球が一つ。
それは俗に言う探査魔法。ロッテとアリアの二人はその魔法弾を通して室内の様子を観察していたのだ。
ちなみに探査魔法の為の魔法弾は、訓練室の中にもう一つあったりもする。
「局内で質量兵器の使用許可なんて、クロスケも悪くなっちゃって。師匠の私も悲しいぞ〜」
その横に立つアリアも、ロッテの言葉に頭を抱えるクロノへと愉しげな笑みを向け、からかいの言葉を投げる。
ますます立場の無いクロノは思わず盛大な溜め息を吐いていた。
「おいクロノ、大丈夫なのか?」
「ああ、心配ない。彼女達は僕の師匠だ……あまり認めたくはないがな」
「師匠?」
「そういう事〜、よろしくね可愛い小ネズミちゃん」
「心配しなくてもチクったりはしないから安心して」
「は、はあ、そうですか」
「あんた等がクロノの師匠ねえ……」
口調に軽いところがあるが、クロノはこの二人の師匠を信頼していた。
勿論、初対面のユーノとアルフには不安しか残らないだろうが、まあそこは割愛。
今は口で信頼を促すしか、クロノには出来ない。
「それにしても彼、面白いわね」
「生身で魔導師を抑え込んじゃうなんて、上手く鍛えれば大化けするんじゃない?」
再会と初対面の挨拶も一段落ついたところで、アリアとロッテは話を本筋へと戻した。
アリアは好奇心を前面に映して、ロッテは好奇心を瞳の奥底に映して、ガラスの向こう側で魔法少女達へと熱心に何かを語っているヴァッシュを見る。
その体捌き、反応の早さはリーゼ姉妹から見ても異常なもの。驚愕にも値する。
ただ現状では脅威たり得ないとも、思考の片隅で二人は感じていた。
「「ま、でも―――魔法が『からっきし』使えないんじゃあ話にもならないけどねえ」」
脅威たりえない大きな要因はというと、魔法が使えないという、魔導師との戦いに於いては余りに大きすぎる弱点。
見事なハモりと共に放たれた言葉が全てを言い表していた。
「だってバインド一発で終了でしょ? せめてバインドブレイクくらいは使えないとねえ」
「幾ら反応が早くても、あの程度のスピードじゃ設置型には対応できないだろうしね。誘い込んでバインドで即終了だよ」
「攻撃も直線的だし距離とっちゃえばね。遮蔽物が多いとこなら、尚更こっちが有利だし。飛行魔法くらい使えれば厄介なんだろうけど」
「遠距離バインドでも、広域型の魔法でもOKだね捕まえちゃえば後は煮るなり焼くなりで」
「近距離、中距離に付き合わなければ幾らでも勝ちは見えるわね。長射程で広範囲の砲撃か、バインド、もしくは設置型で、トントン追い詰めてけば問題なし」
「ま、余裕余裕」
「あの子達の敗因は戦い方が正直すぎた事だね。もう少し上手く立ち回れば勝ちは充分に見えたんだけど」
「そうだねぇ。あの反応速度を相手に真っ向勝負は私たちでもちょっと厳しいだろうし。そこら辺は経験の差だろうね」
次いで息付ぐ間もなく繰り広げられる『ヴァッシュ・ザ・スタンピード批評会』にユーノとアルフは言葉を失う。
たった一回、数分にも満たない模擬戦を盗み見たでけで、ヴァッシュの弱点をつらつらと羅列する二人の使い魔。
成る程、最年少執務官の師匠という話に虚偽は無いのだろう。
その観察眼に、ユーノとアルフは驚嘆を覚えていた。
「あ、そうそう、クロスケ。一つ伝えたい事があったんだ」
と、ようやくヴァッシュへの酷評を終えた二人はクロノの方へと向き直る。
その表情に先程までのふざけた様子は在らず、真剣な顔でクロノを見ている。
その真剣な雰囲気にクロノも顔を引き締め、二人の方へ身体を向ける。
「まだ入院中のクロノは知らないだろうけどさ。今日はさ、結構厄介な奴が地上本部に来てるんだよね」
「うん、だから師匠の私達が警告に来てあげた訳。悪い事するならバレないようにやりなさいね」
「違うでしょうが……。取り敢えず今日の所は特訓を止めときなって伝えたくてさ。こんなヤバいトコ見られたら流石にマズいでしょ」
アリアとリーゼの伝えたい事はクロノにも理解できた。
本局からお偉いさんが来ているので、今すぐこの違法行為を止めろとの事だ。
リーゼ達の言葉に、クロノの内にも危機感が首を擡げ始める。
「で、その厄介な奴とは―――」
と、クロノが口を開いた瞬間、その扉は二度目の開閉を持って客を招き入れる。
その来訪にリーゼは言葉を止め、扉の方へと視線を向ける。
次いで残りの四人の視線も吸い込まれるように扉側へと移っていく。
そして、今度こそ全員が全員の表情が驚愕に染まる。
あちゃー、という呟き(ハモり)がアリアとリーゼの口から漏れた。
全開となった扉の向こう側に立つ人物は、時空管理局に名を置く者なら誰もが知っている大物。
ある局員はその人物を鬼と呼び、またある局員は悪魔と呼ぶ。
だがしかし、また別の局員は女神と呼び、更に別の局員は天使のようだと言う。
数多の屈強な兵士達にトラウマを植え付け、それでいて癒やしを与えてきたその人物の名は、
「フォーン・コラード三佐!」
第四陸士訓練学校の長たる熟女が其処に立っていた。
愕然の声を上げたクロノ・ハラオウンは、焦燥に満ちた表情でチラリと視線を模擬戦場へと向ける。
模擬戦場では二人の魔導少女に対して熱弁を振るうガンマンの姿があった。
勿論、禁則とされている質量兵器をその手に握って。
弁解の余地などない。完全な現行犯であった。
「あら、あなた達、何をしているの?」
お通夜ムードとなった室内にて、老女が一人楽しげに微笑んでいた。
◇
「君たちは強い。その年でそれだけの実力だ、あと数年もすれば僕なんかよりもずっと強くなると思う」
広々とした訓練室のど真ん中にてヴァッシュは魔法少女達と相対していた。
自身の圧勝で終わった模擬戦を振り返りながら、ヴァッシュは言葉を吐く。
視線の先では、なのはとフェイトが真っ直ぐに此方を見つめていた。
純粋な瞳であった。
「でも、なのは達は『今』力を付けたい訳だ。守護騎士達を止める為の力を」
そんななのは達を見ながら、ヴァッシュは拳銃を取り出す。
強い心を持った、優しき心を持った魔法少女達。
ガンマンとして荒野を旅してきたヴァッシュ・ザ・スタンピード。
次元を越えた邂逅の果てに、魔法少女達はガンマンへと師事を申し込んだ。
「……無茶はしないと、約束して欲しい。いくら強くても君達は子どもだ。本来、こんな戦いに参加すること自体が無茶苦茶なんだ」
そう言うヴァッシュの顔は何処か苦しげであった。
沈黙が続き、言葉がじんわりと染み渡る。
普段のヴァッシュらしからぬ言葉に、なのは達は思わず困惑の表情を浮かべてしまう。
「と、説教臭くなっちゃったかな? じゃあ、気を取り直して早速特訓といきますか。まず、なのは!」
「は、はい!」
唐突の名指しに身構えるなのはへと、ヴァッシュは何時も通りの緩い笑顔で問い掛ける。
「問題です。僕は、何でなのは達に勝つ事ができたでしょうか?」
質問に、再びなのはは口を閉ざす。
手も足も出せずに敗北した先の模擬戦。その敗北の理由はなんだろうか。
速度も火力もなのは達が勝っている。改めて考えると、総合的な能力はなのは達が勝っている筈だ。
「ちなみに反射神経と回避力ってのはバツね。確かにそれのお蔭で逃げ回れはしたけど、勝てはしなかっただろうし」
だが、圧倒された。
二対一で、破格の勝利条件で、総合的な力は上回っているにも関わらず、負けた。
その敗因とは何だろうか。なのはは俯き、顎に手を当てて少しの間、熟考する。
答えは直ぐに浮かんできた。
「……早撃ち、ですか……?」
「正解。僕は早撃ちがあったから、なのは達に勝つ事ができた。これがなければ、さっきの模擬戦なんて逃げ回るだけで終わってたよ。流石なのはだ、良く見てる。では次! フェイト!」
ズビシとフェイトを指差すヴァッシュ。
その口から再び問い掛けが放たれる。
「もし自分より総合的に上回る敵と相対した時、もしくは自分と総合的に同等の敵と相対した時、君はどう戦う?」
ヴァッシュの問い掛けは、問題というより質問であった。
総合的に上回る、もしくは同等の相手と聞き、フェイトの脳裏に守護騎士の将たる女性が浮かぶ。
次に彼女と戦闘する時、自分はどう戦うか。フェイトは少し考え、答えを呟く。
「……スピードで攪乱しながら接近戦に持ち込みます」
「そう、それが一番だろうね。なのはならどうする?」
「遠距離か中距離からの砲撃戦で戦います」
「やっぱ二人とも分かってるね。自分より強い相手と戦う場合は、自分の得意分野で勝負する。フェイトはスピード、なのはは砲撃、僕なら早撃ち、てな感じでね」
二人の回答に満足げに頷きながら、ヴァッシュはトリガー部を指に掛け、拳銃をクルクルと回す。
そして二人の前を歩きながら、言葉を紡いでいく。
「そこまで分かってるなら話は早い。特訓は二人の『得意分野』を伸ばしていくように行っていく。それもただ伸ばすんじゃない。誰が相手でも負けない位に、伸ばす。分かるかい?」
ニンマリと微笑むヴァッシュに、なのはとフェイトも頷く。
やる気に満ち満ちた瞳でヴァッシュを見詰めながら、魔法少女達はそれぞれの得物を構えた。
そして特訓が、始まった。
◇
そして、ガンマンと魔法少女が織り成すそんな一部始終を、フォーン・コラードは見下ろしていた。
訓練室を見下ろす位置にある部屋にて腕を組みながら、愉しげにガンマンの師事を聞いている。
「彼、なかなかに面白いわね。名前は何て言うの?」
室内に漂うお通夜ムードなど何処吹く風、フォーン・コラードはマイペースにクロノへと語り掛けた。
その様子はまるで温和な良きお婆ちゃんだが、状況が状況だけに気が休まる事はない。
「……ヴァッシュ・ザ・スタンピードです」
「ヴァッシュ君ね。うん、面白いわ、彼。本当に面白い」
そう言って訓練室を見下ろすコラードの目は、まるで大好きな絵本を読んでいる子どものようにキラキラと輝いていた。
「ねえ、クロノ執務官。こんな言葉聞いた事ある? 『自分より強い相手に勝つには、自分の方が相手より強くなければならない』」
「いえ、聞いた事はありませんが……」
「そう。ふふっ、あなたもウカウカしてると、あの二人に抜かれちゃうわよ」
「は、はあ……」
それだけ言うと、コラードは訓練室へと背中を向けて出口の方へと歩いていく。
思わず驚愕に言葉を失うのはクロノの方であった。
ヴァッシュの得物がデバイスか質量兵器か、歴戦のフォーン・コラードが見誤る筈がない。
質量兵器の容認など、下手すれば懲戒免職ものの違反行為である。
それを見逃す等、通常ならば有り得ない。
「最近、目が悪くなってきてねぇ。遠くのものが良く見えないのよ。そろそろ眼鏡でも掛けた方が良いかしらね、クロノ執務官」
まるで世間話のように語りながら、コラードは扉の前へと立った。
軽い機械音と共に扉が開く。
コラードは薄い笑みを口元に讃えたまま、部屋を出ていった。
ほう、と部屋に残された誰もが安堵の息を吐いた。
「はー、ヤバかったね、クロスケ。最年少執務官質量兵器法違反で逮捕! なんて見出しが朝刊飾る所だったよ」
「本当にだよ、師匠たる私達まで被害こうむるところだったわ」
コラードが退室した扉を茫然と見詰めるクロノの背中に、ローゼ姉妹がのし掛かってくる。
姉妹の間で板挟みになりながら、クロノは考えていた。
何故、フォーン・コラードが自分達を見逃してくれたのかと。
「ありゃヴァッシュに惚れたね。アイツ、人を引き付ける何かを持ってるじゃん」
「……やっぱり局の中で訓練は危険だったかもね。本当に危ないところだったよ」
ユーノとクロノの言葉に同調しながらも、クロノは扉を見る。
彼等の後方、ガラス窓の先ではガンマンと魔法少女が言葉を交わし、訓練を続けていた。
◇
『フェイトはさ、僕の戦い方に似ているよ。スピード。誰よりも早く動いて、誰よりも早く攻撃を当てる。力も、技も、関係ない。戦場を支配する能力だ』
現在、フェイトはヴァッシュと近接の間合いにて打ち合いを続けていた。
高速移動でヴァッシュを翻弄し一撃を畳み込む―――という予定なのだが、如何せん上手くいかない。
フェイトの高速移動の全ては、ヴァッシュの尋常ならざる反射神経により見切られていた。
振るわれる漆黒の戦斧は、白銀の拳銃に止められ、または空振りで終わる。
『なのははそうだね……砲撃単体で見れば充分な強さだ。そりゃもうヤバいくらいにね。だから、当てるまでの技術だ。
近距離だろうと、中距離だろうと、遠距離だろうと、銃口を相手へと食らいつかせて砲撃を当てる。それが必要だ』
現在、なのはは高速で移動するフェイトへと狙撃の体勢を取っていた。
距離は凡そ十メートル。魔導師の戦闘であれば近接の間合いに位置する距離だ。
近接で見るフェイトの速度は、時折知覚の外へと飛び出る程に速い。
戦場全体を見渡せる遠距離であれば、ロックを掛けること自体はそう難しくない。
だが、近距離になると話は違う。一瞬で視界の外へと移動し、また一瞬で正反対の位置へと姿を現す。
レイジングハートの矛先はフラフラと右往左往をするだけに終わり、とてもじゃないがロックオンを出来るとは思えない。
だが、と二人は思う。
もしヴァッシュの反応すら振り切る速度で動けたのなら。
もし近接の間合いでフェイトの速度にすら反応でき、砲撃を当てられるようになったのなら。
それは自分達の求める『力』に大きく近付くのではないか。
守護騎士達を止める力。
アンノウンを撃退するだけの力。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードを手助けできるだけの力。
道が開けた気がした。
後は鍛錬を積み重ね、前に進むだけ。
訓練を続ける魔法少女達の瞳は、無力感から解き放たれ、鮮やかな輝きを放っていた。
これにて投下終了です。
一応、特訓編は終了であります。一年挟んでコレですよ、はい。
完結までのプロットはあるので何とかしたいのですが、如何せん書く暇がない…。
これからも細々と更新していきたいと思います。
投下乙。
トリーズナー氏に続いてトライガン氏もキター。
何だろう、最近は復活ブームなのか?
両氏ともに乙です〜
やはり飛竜さんはツンデレだった
俺の目は誤魔化せない
ヴァッシュさんのほうも久しぶりだなあ
もう一度最初から読み直してみよう
みなさん乙です!
さて、忍法帖のレベルを上げ、私は帰ってきた!!
でも第21話投下しようかと思ったらもう容量が無かった・・・orz
次スレ立てようにも僕ではレベルが足りないので出直します・・・・・・
>>251も乙
そこでアカルンは反則
ってか豚言うなw
もう次スレの季節か…早いなぁ
最近は投下ペースも激しいし、早めに作った方が良さそうだね
という訳で作れる人頼む!
自分も立てようと思ったけど無理だった…………
ごめん
復活といえば、ナイトガンダムとオーフェンもこないかなぁ……
オーフェン来たばっかじゃん
埋める?
埋めは鯖に負担掛かるから、よくないと聞いた
どうなんだろうね
じゃあ、何か雑談でもして残りの容量埋めましょうか?
それじゃあ、したらばでぽつぽつ出ているロワについてどう思う?
俺は二匹目の泥鰌は無理だと思っている
なのはクロスロワのこと?
って言っても、あまりぶっちゃけると本音で、ってなるし・・・
ロワ自体は読んでないけど、ざっと目を通す限り、本編止まってる作者ばっかじゃねーかって突っ込みは妥当だと思う
一応書き手だけど、ロワやりたいとは思わない
自分は続編に興味ある書き手だけど、成功する可能性が低いのもわかる
だから今は何とも言えない
お祭りだと割り切って、思い切ってやってみるのも手の一つだと思うよ。
ただ完結の見込みは限りなく低い。
そもそもパロロワなんて完結する方が珍しいくらいなんだし
やってみたいことにはやってみたいけどね
でも、他にやりたいって人が出てこない限り自分はあまり強く言わない
クロスロワでなくてもリレーSSやってみればいいんじゃね?
1stの時にも色々問題あった事踏まえると難しいんじゃね。むしろクロスSSに拘る必要性も無いしのぅ
293 :
test:2011/05/21(土) 08:55:20.36 ID:eeuDG55c
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: .: . // /´/! 从 / / / ,} .i ト、ヽ Y: . : .: .
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, イ´ , イ .∧ __》、 `T ´i , ィ</\ ヽ` ー--- .... _: .: .
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: .: .ヽ. \ / / V \ZZZZZZZzz-、 `ヽ \
\ `ー- _ ` ー- 、ZZZZZ>: .: . V ハ
: .: . \  ̄ ミ 、: . . ` : . . \ \ i }
: .: . |` ー ┬―┬‐┬-- 、\ 、ト、 \ ,′ , .リ
. : . | .! | | ! ヽ \ ヽ、 : : . ヽ \ \ ` 、 / / ,′
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: .: . ヽ. ハ\ \ /彡イ⌒ー-----'⌒ヽミ、 \ ヽ` 、\ ハ j/
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