【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html ・Jane Style(フリーソフト)
ttp://janestyle.s11.xrea.com/ ・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認してダブルブッキングなどの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
前の作品投下終了から30分以上が目安です。
(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
→参考URL>
【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は避難所の応援スレ、もしくはまとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。
→参考URL
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。
>>1 氏、乙であります。スレ立てについては以後気を付けます。
さて、前スレでも書きましたが、第7話の投下を本日23:00頃から
始めたいと思うので、よろしくお願いします。
それでは、時間となりましたので投下開始します。
第7話「晴天に雷鳴響く」 状況が一変したのは僅か数秒前だ。それまでは圧倒的な航空優勢の前に無力なガジェット が突っ込み、為すすべ無く撃墜されていく戦闘が2回続いた。2カ所への散発的な侵攻であっ たが、いずれも中距離空対空ミサイルAIM-7Pスパローによる攻撃を受けてあえなく頓挫した。 数の暴力をも覆す堅牢な防空ライン周辺は、侵入者を威圧するかのような静けさを醸し出し ていた。それを破ったのは、例の不明編隊だ。 雑音混じりのヘッドセットからブレイズの声を聞いたチョッパーは、短いながらも良く分かる 単語を拾うことができた。他に何か言ってないかと聞き耳を立てたが、以降のブレイズは荒 い息使い以外は一切口にしなくなってしまった。正直言って、勘弁してほしい。このミッドチル ダではありえない状況だが、チョッパー自身はブレイズの身に起こったことに心当たりが嫌と いうほどあった。眼前の警告灯に注意を払いながら、左翼後方のヴィータとグリムの無事を 確認するように無線を開いた。 「おい!今の聞いたか!?レーダーロックされたって言ってたぞ!」 「はい、確かに!」 「お、おい。なんだよ、どうしたんだよ!?」 事実を噛み締めるチョッパーの反応に、状況が飲み込めないヴィータは僅かに動揺する。 前方を飛んでいる2機のF-14の騒々しさに不安もかき消されてしまいそうだが、だんだんと気 味が悪くなってきた。ブレイズが飛んでいるであろう空域を見据えても、視認距離外で起こっ てはどうしようもない。先ほどからシャマルを通して状況を問い合わせているが、向こうも困惑 しているようだ。幸いなことに、原因がガジェットでないことだけははっきりしている。 その場で空中停止し、ブレイズへ通信を繋げてみるが応答が無い。会ってまだ数週間ほど だが、いつも余裕を崩さないどこか緩さを感じさせる男の姿は無かった。空間ディスプレイの 画面はノイズで埋め尽くされ、音声として聞き取れるものは酷く苦しそうだ。騎士甲冑を纏っ ているにも拘らず、ヴィータ本人も寒々しく思えてくるほどだ。過去の記憶と重なり、沸き起こ る焦燥感が最悪の状況を想起させる。 ぎり、とグラーフ・アイゼンを握る力が強くなる。冗談じゃない、そんなのまっぴらだ!高度を 500フィートほど上げて、再度ヴィータはブレイズやシグナム達の担当空域を見やった。よく 透き通った蒼空に小島のような雲や、反対側が薄らと見えるほどの小さな雲が天然の遮蔽 物を形成している。観察する分には申し分ない景色だが、今は舌打ちすらしたくなるほどの煩 わしい光景だ。高空の冷たい気流が白い肌を通り過ぎていく中、ヴィータは最初の持ち場に 静かに舞い戻った。情報収集の成果はあまり芳しくない。 「さっきからどいつもこいつも。なぁハンス、何があったんだ?」 自己完結を断念したヴィータは、観念したような渋い表情で事態を理解していそうなグリム に聞いてみた。 「距離です三尉。5マイル以上の距離があったのに、隊長は攻撃されました。ガジェットならあ りえない射程ですよ」 「言われてみりゃ、そうだな。…待てよ、何でガジェットの話が出てくるんだ?ブレイズの目の 前に居たのは不審機だろ?」 焦っているのか、やや早口で状況を伝えたグリムとは違い、ヴィータは自分でも驚くほど冷 静だった。副隊長としての職責が彼女に冷静さを持たせていたが、純粋に気になる点があっ たのが大きい。未だ霞がかった状況に対し、何を慌てればいいのかが分からなかった。グラ ーフ・アイゼンを肩に担ぎ、小首をかしげる姿はいささか場違いに思われた。 だが、指摘する者は誰もいない。おしゃべりのロッカーですら今は雑談を中断している。空 域を支配するのは明らかな緊張感、それも合理性を旨とする殺伐とした戦場のそれにまで高 まっていた。妙に落ち着かないのは戦闘機の爆音以外に、あまり慣れない類の空気が肌に 纏わりついてくるせいだとヴィータは感じた。通信のチャンネルを合わせれば半ば狼狽してい るロングアーチ、ノイズで満たされた指定外周波数、平常心をかがり火でくすぐるような異常 事態が頻発している。 顔には出さずとも、そろそろヴィータが耐えられなくなってきたと見越してか、グリムよりは数 段落ち着いた声でチョッパーが言った。
「つまりよ、せいぜいが2マイル弱の射程のリトルバードがこの世界で確認されている航空兵 器なんだろ?出てきたのもつい最近、だったら発展型って線で考えんのも不自然ってもんだ」 後は自分で考えてくれ、言外にそう思わせるようないつになく真剣な語調でチョッパーは締め くくった。その間も計器盤の上で手がせわしなく走り回り、気さくな性格からは考えられないほ どの動作でチェックを進めている。断片的な情報しか与えられないほどに余裕が無いようにも 見えなかったが、ヴィータは冷えに冷えた頭に言わない理由がいくつか浮かんだ。それを手が かりに事の真相を推測してみると、チョッパーがぼかした仮説の一つに行きつき背筋を悪寒が 駆け登った。 リトルバードはオーシア軍がガジェットU型に付けた愛称だ。その性能から、戦艦スクルドの 連装両用砲でも撃墜可能と評価され、戦闘機やミサイルなら十分抑え込める兵器という認識 が持たれていた。管理局が捕獲した敵機を分析したところ、より高度なAIを搭載しても爆発的 な機能向上は望めない他、機体規模の関係上大幅な性能向上も難しいと判断された。もとも と、ガジェットU型自体がここ数カ月で出現した新型である為、性能向上型が投入されるとも 考えられていなかった。 しかし、最も重大なことはガジェットU型は明らかに対空戦魔導師を想定して開発された兵 器であることだ。航空兵器としての概念が今のところガジェットしか無い以上、向上型や新型 兵器とてその範疇を逸脱する筈が無いのだ。 「じゃあ、あいつらは…」 「ああ。あんまり言いたかねぇが、奴らは多分――」 「ダヴェンポート少尉」 チョッパーが自身の仮説を述べようとした時、管制官が割り込んできた。いつも通りの事務 的な声色に若干の変化を見たものの、チョッパーには苛立ちを上積みさせる以外の意味は なかった。 「悪いが今取り込み中だ。反省文なら後で書いてやるから、ちょっと――」 「こちらのレーダーに新たな機影を捉えた。方位0‐4‐0から5機が侵入、高度9600、速度580ノ ット。セクターズールー・ブラボーからビクター・エコーへ向け南下中だ。直ちに急行し、進出を 阻止せよ」 ブツッ、と切れた無線の音がしばし頭の中を漂っていたが、間を置かずに足元から這い上が ってきた極限の緊張感に追い出された。 「おいおい、マジかよ畜生め。お次は何だってんだ」 受け持ちを無視してでもブレイズの援護をしようかと考えていたが、今度は自分達に降りかか ってきた。苦し紛れに悪態をつきながらも、半分は予想していた事態への対処は早かった。操 縦桿を引っ張り、機体を相手の針路に覆いかぶさるような位置に付ける高度まで上昇させる。 黙って通すような格好は癪に障るが、チョッパーは確認と攻撃が同時にできる位置取りが重要 だと考えた。機影を見つけた後、スプリットSで相手の上方を抑える機動が理想だ。もちろん、向 こうが気付いていなければの話だが。 「狙いはあたしらか?真っ直ぐ突っ込んできやがる」 「少尉、この新手ももしかして…」 持ち場に付いたまま、もはや見えなくなっているヴィータと後方に付いた僚機のF-14を交互に 見つめる。言わなくても良い理由が消滅したので、覚悟を決めて自分の考えを言葉に出した。 「もしかしなくても当たっちまってるぜ、こいつは。野郎のツラ拝みに行くぞ、付いてこい。ヴィー タは15000まで上がって様子見ててくれ」 レーダー切るのを忘れるなよ、とチョッパーは付け足した。彼の意図を察したグリムは、異論を 挟むことなくHUDをNAVモードに変更した。さて、何が出てくるのやら。平静を維持するために、 努めてラフな思考で数秒先の未来を予測したが、トリガーにかけた人差し指は既に強張ってい た。今日はさっさと上がって六課の隊舎で風呂に入りたい、などと全く関係無いことを非常時に 考えるのも久しぶりだ。平時の思考パターンを頭の片隅へ片付け、チョッパーはスロットルをミリ タリーパワーへゆっくり押しやり、侵入者との距離を詰めていった。 「ブレイズ!ブレイズ!無事なの!?返事をして!」 ヘッドセット越しのナガセの声が、酷く遠い場所から聞こえくるように感じた。無理な姿勢から機 体を捻ったので、失速を警告する警報が耳元でがなりたててくる。灰色に蝕まれていた世界が色 彩を取り戻すにつれ、酸素への欲求も息を吹き返してきた。液体酸素タンクを全て空にする勢い で酸素マスク内で荒い呼吸を繰り返し、機体と自身の状態を流れ作業の如く確認していく。
操縦系統、問題なし。燃料、流出なし。火器管制、異常なし。エンジン、両方とも無事だ。気だる いが、身体も一応無事だ、まだ飛べる。機体を水平に起こし、ミリタリーパワーでも速度を維持で きる緩やかな角度で旋回上昇に入った。 「っはぁ、はぁ…、くっ。ま、まだ生きてるよ。一体、何が起こったんだ…?」 何が起こった?そんなことは分かり切っている、ミサイルだ。しかし、誰が?何が?何故?纏ま らない思考を必死にかき集めながら、撃墜寸前まで追い込んだ原因を三次元の世界で探し回る。 同高度、左右を見渡してもそれらしき影は見えない。だが上空、2000フィートほどの頭上にはっき りと見える黒い物体を捉えた。 「嘘だろ…?」 すべては万全だった。F-14の機動力、速度、射程、どれをとってもガジェットはおろか空戦魔導 師ですら太刀打ちできないほどに圧倒的だった。何故なら戦闘機は空を統べるもの、支配するも のだ。空での戦いでは何物にも屈しない。否、あってはならないのだ。 「タリホー!これより反げ…、え?」 ミッドチルダで戦闘機F-14は無敵。それは質量兵器が魔法に勝っているということではなく、単 純に求められる状況の違いから発達した違いにすぎない。故に、戦闘機と同じ土台に立つことが できなければ撃墜することは難しい。しかし、F-14が最強といえるのは対等に戦う存在が居ない ことが前提条件だ。同じく音速を飛び越え、同じく長射程の攻撃手段を持ち、同じく大威力の兵器 を持ちうる敵と対峙すれば―― 「そんな、馬鹿な!?」 ――戦闘機としての優位性は崩れ去る。 目標を認識し、驚愕と恐怖に突き動かされるように操縦桿を薙ぎ払い上昇に転じた。ぐん、と機敏 に機首を持ち上げたF-14は編隊の左斜め下方から切り込んでいく。反撃のため、再度レーダーロ ックを浴びせると編隊は砕けるように一瞬で散開した。バラバラの機動をとりながらも、目的地を目 指す意思だけは変わらないようだ。そろそろ相手の姿を見極めたいと思ったブレイズは、頭上をふ らふらと飛んでいる一機に目を付ける。近づくにつれ、急速に拡大していく敵機の姿を視界に収め、 挙動を予測して上面を確保した。そして、相手の姿を見失わないよう常に一点を注視していた最中、 視線とそれは交差した。 機体と主翼が一体化したブレンデッドウイングボディ、一枚の垂直尾翼に単発のエンジン。そして 鷹の嘴のように鋭い機首には見覚えがあった。 …何ということだ! 「F-16だ!サンダーヘッド、不明機の正体はF-16だ!くそっ、奴らの方が小回りが利くぞ!ナガセ、 上方へ回って抑え込んでくれ!」 「ウィルコ!」 瞬間、スロットルレバーを前進限界まで叩き込みゾーン5、フル・アフターバーナーに点火。F-110 エンジンの鋭い咆哮が轟き、再度燃料を与えられたことで灼熱のジェットブラストが炎を纏う。昼間で も目が眩むほどの輝きを放つアフターバーナーが大気を焦がし、壁となった空を力強く蹴り飛ばす。 爆発的な推進力でもって力任せに速度を回復させ、防衛線を突破したF-16に追いすがろうと機体を 急旋回させた。亜音速から一気に超音速まで跳躍し始めたF-14は、高速飛行に対応すべく主翼が 最大の角度まで後退、さながらデルタ翼機を思わせる矢じりのような姿に変貌した。 目撃した敵機、F-16Cファイティングファルコン。小型軽量が持ち味でありながらフライバワイヤの 採用などにより高い戦闘能力を誇る傑作汎用戦闘機だ。近年のアップデートによりAIM-120AMRA AMの運用をも可能とし、空対空戦闘能力は極めて高い水準にある。ブレイズはサンド島防空戦の 交戦経験から、格闘戦におけるF-16の脅威を身を持って理解していた。F-14とて高性能機だが、ま ともに空中戦に引きずり込まれては不利だ。 弾かれたように散開した5機のF-16は、ほどなくして編隊を組み直した。隊長機を起点に左右斜め に連なる編隊、フィンガーチップを選んだようだ。放たれた矢のように後を追うブレイズは、その行動 に理解しかねた。戦闘機の天敵は戦闘機だ。背後からF-14が迫ってくるにもかかわらず、何故こち らを始末しないのか?レーダーを切ったとは言え、把握していない筈が無い。ならばもっと別の目的 があるのだろうか。あの編隊なら全機が一斉攻撃をかけることができる、一斉攻撃…。―――まさか!?
「シグナム!奴らの狙いは君だ!地面に飛び込んでクラッターに逃げ込むか、急上昇で射 線から逃げてくれ!ミサイルが来るぞ!」 「何ッ!?」 思いつく限りの対処法を伝え切ると共に、妨害のためにレーダーを照射した。今しも攻撃に 入ろうとしていた編隊を蹴散らしたが、それよりも早く外側の2機から1つずつ白い軌跡が飛 び出していく。両機から放たれた2発のミサイル、AIM‐120Bが止まっているに等しい空中目 標を粉砕すべく回避すら許さない超音速で襲いかかる。ブレイズの警告から僅か数秒、自 身に向かってくるミサイルの白煙をシグナムは捉えた。飛んで逃げる策はもはや間に合わ ない。 「くっ、レヴァンティン!」 『Schlangeform』 カートリッジロード、金色の空薬莢が弾き出されて弧を描く。鞘からレヴァンティンが白刃を 見せた時には、AMRAAMが必中圏内にまで突進してきていた。シグナムは引き抜いた白き 長剣を構えることなく、一薙ぎして勢いを加える。さながら分解するように刀身が姿を変え、中 心のワイヤーを支えに無数の刃がその身を連ねた。 シュランゲフォルムとなったレヴァンティンをAMRAAMの突入コースへ向けて薙ぎ払う。連 結刃を即席の障害物に仕立て上げたが、ミサイルは目標を見失ってなどいなかった。自身の レーダーに捉えた標的を、終末誘導装置が導くままに追い詰め、破壊する。単純な意思の下、 シグナムに迫ったAIM‐120Bはうち1発が刃の道に阻まれて両断された。もう1発も突如進路に 割り込んできた無数の刃に激突し、着発信管が作動して爆炎に成り果てた。だが―― 「―ッ!?近いか!」 2発目が思いのほか至近距離で起爆したため、破片の幾つかが任務を全うしようと飛来して きた。破片とはいえ、戦闘機を撃墜する代物だ。まともに受ければひとたまりも無い。反射的 に突き出した左手を起点に、ベルカ式防御魔法パンツァーシルトを展開。淡い紫色の魔力光 を放つ光の障壁に対し、残った破片が纏めて突っ込んできた。 「ぐっ、破片だけでこの威力とは…!」 防壁越しの激烈な衝撃に左腕が悲鳴を発する。咄嗟に繰り出したため通常よりも精度が低 いが、それでも数個の断片が纏う破壊力にしては常軌を逸していた。光の盾に遮られた破片 群は、耳障りな衝突音とAAランク魔導師の射撃魔法に匹敵する衝撃を浴びせて砕け散った。 本命の炸薬まで追加されていたら、障壁ごと吹き飛ばされたかもしれない。重々しい一撃に表 情を歪めながらも、シグナムは次の一手を打つ。視界に入った1機の敵機は、ブレイクと同時 に彼女への再突入コースを採っていたようだ。急上昇を掛けていたF-16が機体をロールさせ、 急降下による一撃離脱体勢に入っていた。 迷うことなく、シグナムはレヴァンティンを基本形のシュベルトフォルムに戻し、相手の懐に 飛び込むように急上昇で迎え撃つ。桃色の頭髪を纏めたポニーテールが激しい気流でなびく 中、彼女は更に角度を付けてF-16の機首よりも上面に飛び出る。航空力学と重力に縛られた 戦闘機には真似できない、魔導師ならではの機動にさしものF-16も遅れをとった。射線である 正面に再び標的を捉えようと機首を持ち上げるが、シグナムが構えた長剣は既に鞘から業火 を噴出させていた。 「もらった!紫電、一せっ…!?」 兜割のように高々と長剣を掲げ、対応が遅れたF-16に斬りかかろうとした瞬間、前方を流星 の如く飛び抜ける光弾に阻まれ反射的に飛び退いた。目を向けると、別のF-16がアフターバ ーナーで増速しながら上昇突撃で向かってくる。だが、機関砲の掃射でシグナムを牽制した F-16は、そのまま反転して離脱していく。片や、もう一機のF-16は急降下から水平飛行に移り、 またも彼女を射線に捉える。 今度は、近い。急激な機動で振り回すには時間が無さ過ぎる。機関砲かミサイルか、対物攻 撃兵器の何れかが自身に飛んでくることを覚悟し、レヴァンティンを正面に構えて防御体勢をと る。しかし、いくら待っても戦闘機が作り出す突風のような気流以外は何も飛んでこなかった。 絶好の機会を放棄してまで、急旋回で逃げるように離脱していく敵機を視界の端に見つけると、 シグナムもまた垂直上昇で大きく距離をとった。 「シグナム、大丈夫?機関砲を撃たれたみたいだけど」 通信から澄んだ女性の声が届く。ディスプレイに投影された姿はヘルメットと黒いバイザーで 表情を覆った、個人特定が困難なパイロットが一人。しかし、編隊内で誰よりも冷静な声色は特 徴的だ。状況を見るに、彼女がF-16にレーダーを照射して追い払ってくれたのだろう。
「ケイ、か。ああ、助かった。礼を言う」 未だ被弾の残滓を残す左手を庇いながら、25000フィートほどまでシグナムは昇る。彼女 を探し回っているのか、下で5機のF-16が我が物顔で空域を飛んでいる様子が目に入った。 強大な破壊力を持つ相手とはいえ、やすやすと侵入を許した上に追い立てられた自身の状 況に沸々と怒りに近いものが湧いてくる。だが、白い騎士甲冑の一部に小さく焼けついた個 所を見つめると、改めて接近の難しさを思い知らされる。真正面からの対峙は厳禁だな、と 一先ずの対処法を思考の最前列に置いておくことにした。 ようやくマシになってきた左手に相棒の長剣を持ち換え、消費した分のカートリッジを再装 填しているシグナムに、ナガセが話しかけてきた。 「彼ら、機動が鋭いし連携も緻密だわ。一人で挑むのは無茶よ」 「そのようだ。敵ながら見事なものだ、私が追い込まれるとはな」 実に口惜しいが、ナガセの言う通りだ。油断したつもりはなかったが、虚を突かれたのは紛 れもない事実だ。圧倒的な破壊力に速度、これらに加えて熟練者を思わせる連携が入る。 ナガセの援護が無ければそのまま撃墜されていた筈だった。判定ではなく、文字通り死んで いたに違いない。 開けた給弾機構へ親指でカートリッジを押し込み、再装填を終える。柄を強く握り締めるシ グナムに応えるように排莢部のカバーが一度スライドし、魔力の残滓が蒸気のように溢れだ す。漂う蒸気を切り払い、眼下の敵機を鋭い視線で射抜いた。そうだとも、やることは決まっ ている。立ちはだかる敵は斬り捨てるのみ、相手が何であろうと関係ない。その名を現わす かの如く、シグナムの闘志は紅蓮の炎のように燃え上がる。 「ちょっとシグナム!?ミサイルなんて撃たれて本当に大丈夫なの!?」 そんな彼女とは対照的に、切羽詰まった声で無事を確認してくる女性が一人。機動六課の 医務官を始め、映像からの情報を頼りにしている者には直撃に見えたようだ。騎士甲冑の右 足部分などに焦げ付いた個所があるため、無傷とは言い難いが無事ではある。今にもデイス プレイから飛び出して直に安否確認に来そうなシャマルに苦笑で返しつつも、冷静な声で伝 えた。 「この通り五体満足だ、多少の被弾は許したがな。主からお叱りを受けそうだ」 「もう、心配しているのははやてちゃんだけじゃないのよ?無理はしないで」 泣きそうなシャマルの表情を見て少し居心地が悪くなった。シグナムとしてはもう少し自分の 技量を信頼してもらいたかったが、はやてに同じことを言われればきっと何も言えなくなってし まう。そっぽを向いて顔を合わせない仕草をとるものの、既に心はいかにして戦闘機を撃墜す るかに傾いていた。 「しかし、ミサイルを撃墜するなんて流石だな。ついでに聞きたいが、例のミサイルは先端が 白かったか?」 逆襲に燃える烈火の将の神業を称えつつ、ブレイズは全く違う話を切り出す。気になる点は 相手の兵装だが、思い当たる兵器は2つほどある。そのうち一つは、できることなら認めたくな い代物だ。 「色は定かではないが、お前達のスパローに幾分似ていたな。曖昧な情報で情けないが、これ ぐらいだ」 「……いや、いいんだ。ありがとう」 これでAMRAAM装備は確実か。バイザーを上げてこめかみを摘みたくなってくる。一機の F-16とすれ違った時に、全てのパイロンにAIM-9サイドワインダー短距離空対空ミサイルが搭 載されている様子を見た。機動から考えて中心の3機のうち1機なのは間違いない。対して先ほ どシグナムに放たれたAMRAAMは外側の2機からだ。編成を推測するに、3機が格闘戦仕様で 2機が中距離戦仕様だろうか。 回線を開き、チョッパー達にもこの事実を伝えようとすると、ちょうど情報を纏め終わったサンダ ーヘッドが警告を発し始めた。 「サンダーヘッドよりウォードッグ、及び機動六課各員に緊急警報。未確認機の正体はF-16、戦 闘機だ。繰り返す、未確認機の正体は戦闘機だ」 その報せを聞いて、機動六課の人員は誰もが言葉を失った。相手はガジェットではない、空を 舞う質量兵器の頂点である戦闘機だ、と。ブレイズに続き、シグナムまで攻撃を受けた事実がよ り深刻さを深めた。航空勢力で強大な敵が出現したため、制空権はおろか防衛線の弱体化にま で発展しかねないのだ。少なくとも、ガジェットに向けられていた強力な火器が自分達を襲う事態 に際し、動揺しない者は居なかった。
空域を支配下に置きつつある敵編隊に目を配りながら、ブレイズは相手の戦略目標について考 えた。自分が狙われたのは当然として、それがどうにも追い払われただけのように思えた。ほぼ 必中のAIM-120とは言え、1発だけ放ってあとは無視に徹していたようだ。ブレイズを突破したF-16 が次に攻撃を仕掛けた相手はシグナムだったが、こちらはミサイル2発に格闘戦を挑むという念の 入りようだ。このことから、何が目的なのか非常に分かりやすい。 「魔導師さえ墜とせば燃料制限のある俺達は時間と共に弱体化する、ってところか?こっちの装備 までよく知っているようだ」 「それだけじゃないわ、装備も技量も侮れない。私達を相手にしても互角以上に立ち回れるはず」 ナガセの考察を頭に入れてブレイズは更に突け入る隙が無くなったように感じたが、彼女には短 い返事を返すだけに留めた。そうだった、何も戦闘機を無理に無視しなくとも相手取れるだけの戦 力を向こうは持っている。十中八九、後から来る地上部隊の増援のためにシグナムの排除に当た ったのだろう。接近戦で一騎当千の彼女を墜とせば、後に残るのは地上にはほとんど無力な戦闘 機だけだ。 順序立てはシグナムからだろうが、あまりに目障りであるならブレイズ達にも再び襲いかかる。 そのためのAMRAAMか、とブレイズは敵側の用意周到さに焦燥に駆られた。ドロップタンクで爆撃 でもできれば地上部隊への牽制ぐらいにはなりそうだが、例によって投棄済みだ。ならば、速やか に敵性航空戦力を排除するのが最も手っ取り早い。 「ブレイズより全機へ、シグナムとヴィータに近寄らせるな!2機一組で確実に仕留めろ!」 無線で指示を飛ばし、ブレイズは僚機を従えてF-14をより高高度に導く。F-110の力強い轟音が 高まり、ドライ推力最大のミリタリーパワーによって重い機体を鳥のように飛翔させた。23000フィー トまで愛機を昇らせるときに気付いたが、敵編隊は大きく距離を空けてほぼ単機で行動しているよ うだ。強力な戦力を分散させて心理的圧迫を加えたいのだろうが、狙う側としてはやりやすい。ふと、 バイザーの左端に単機行動のF-16を見つけたブレイズは、見つかる前に攻撃をしかけようと機首 をそちらに向けた。 操縦桿のトリガーに人差し指を掛けたまま、兵装選択スイッチを親指で最上段のスパローまで跳 ね上げる。HUDに浮かび上がった巨大な円、ASEサークルが現れると誘導の為にレーダーロック がかけられた。背後の脅威を察知してか、F-16は鋭いカーブを描きながらチャフをばら撒き、空中 に電子の残像を作り出す。だが、追従するブレイズが逃亡を許す筈もなく、再びASEサークルに敵 機が入ったところでミサイルを見舞った。 「逃がすか!フォックス・ワン!フォックス・ワン!」 最後のスパローを空中に放り投げ、背を見せて逃げる敵機に突っ込ませる。瞬く間に音速を突破 したミサイルが白い軌跡を曳きながら疾走していく。この角度、少々甘いが距離的にも命中は確実 だ。ブレイズのHUDには背面を晒して旋回するF-16の姿が収められ、大きく反射する主翼の像が スパローにも見えているに違いない。 だが、いきなり敵機は旋回を中断して主翼を翻し、急降下の体勢へ入る。後を追うべくブレイズも 機首を下げて追従するが、大きめの弧を描いてF-16はまたしても上昇を始めた。スパローの方は 突然の敵機の方向転換に食いつこうと迫っていくが、この時点で敵機の機動の内側に入り込んで しまい、進路から見失ってしまった。ロックをかけているにも拘らず、ミサイルは獲物が存在しない 虚空へ空しく消えていった。 「なんて奴だ!あれを避けるのか!?」 遠目で見ても9Gはあろうかという凄まじい速度での機動に戦慄を覚えた。空戦を得意とするナガ セでさえ、あそこまでの鋭い機動は滅多にできない。そもそも、F-14は実用上の制限が6.5Gなの で逆立ちしても勝ち目が無い。力任せの空戦機動も、通用しないかもしれなくなった。
そのまま高空へ飛び去ろうとF-16は上昇していくが、まだ追撃できる距離だ。スロットルをゾーン 5に突っ込み、F-16の背後へ急速接近を図る。通用しないなら手を変えるまでだ、と兵装選択スイ ッチを中段にスライドさせ、短距離空対空ミサイルのサイドワインダーに設定した。緩やかに上昇を かけるF-16の軌跡に潜り込むと、その後背から赤外線誘導ミサイルを叩き込むベく巧みに食らい つく。前方の敵機のエンジンノズルから突き出る煌々と輝くジェットブラストが、迫るF-14を牽制する ように勢いを増す。HUDのシーカー捕捉範囲内に敵機を収め、接近に伴うオーラルトーンの変化が 極限まで高まった。 「捉えた!フォックス・ツー!」 IRミサイルの発射コードを宣言し、同時にAIM-9Lが左主翼下パイロンから空中に躍り出る。無理 な回避は向こうも同じだったのだろう、速度を取り戻すためのアフターバーナーが完全に仇となった。 今更出力を絞って自由落下のように急降下へ転じたが、もはや手遅れだ。推進剤を燃焼させること による白煙の軌跡が空中に飛び出すフレアに惑わされることなくF-16の垂直尾翼に突入し、アルミ 箔のように食いちぎった。閃光は瞬く間に火球へ変わり、巨大な戦闘機をたやすく呑み込んだ。 「撃墜を確認!スパローはこれで打ち止めだ、後は接近戦で片をつけ…」 ブレイズは、自然と口にした自身の台詞に背筋が凍りついた。今の戦闘で、長距離から相手を狙う 手段を失ってしまったのだ。残ったサイドワインダー3発と機関砲で、軽快な運動性能を誇るF‐16に 接近戦を挑まなければならなくなった。上手く立ち回れば全滅させることも可能だが、格闘戦に傾倒 するのはあまり好ましくない。 追撃されないよう、身軽になった機体を旋回させて空域を見回した。消えかかった自機の航跡雲を 目にすると、広大な空が手狭に感じられる。デバイスから提供される戦術情報によると、21000フィー トに1機、15000フィート程度に残りの3機が留まっているようだ。景色に溶け込んでいるように全く姿が 見えないが、そのうち突っかかってくるだろう。スパローを失ったブレイズに。 「こいつは少々、いや随分と分が悪いな。ドッグファイトは勘弁願いたいんだが。ナガセ、スパローは あるか?」 キャノピーの枠に設けられたリアミラーの左側に目をやり、1マイル以下の距離で付き添っているナ ガセ機を探した。碧い背景でトムキャットの姿が辛うじて認識できる程度だが、それでも小さな機影が 見せたキャノピーの反射は非常に心強かった。 「あと1発よ、ガジェット相手に使いすぎたみたい」 「了解だ、あるならまだいい。重い荷物はさっさと捨てたいが、そうもいかないらしい」 一先ずの朗報にブレイズはしばらくぶりに安堵した。1発だけのスパローが今日ほど頼もしく思えた ことはない。彼のHUDにはAIM-7残弾0が表示されていたが、僚機の分をあてにできるだけ心理的圧 迫感は和らぐ。とにかく、機関砲弾の1発たりとも無駄にできない状況だ、確実に1機ずつ始末しなけ ればならない。 頭上で戦術を組み立て、格闘戦と一撃離脱のどちらかで決めかねているブレイズに、シグナムが話 かけてきた。 「接近戦に自信が無いなら、いっそニアミス覚悟で向かってみてはどうだ?脱出が必要になれば助け てやる」 普段通りの真面目な声で、あまり笑えないジョークを披露する彼女とディスプレイ越しに顔を合わせ た。この非常時に一体何をどんな表情で言っているんだ、と訝しむ視線を烈火の将に送る。余裕の無 いブレイズは必至そのもので、このような行為事態も煩わしく感じていた。 真意を問いただそうと目を向けたが、真面目な彼女は声だけだったようだ。それは平時にフェイトや グリムをからかう、時折見せたフランクな表情だった。強風にあおられる桃色の頭髪が形を崩しては元 に戻り、長いポニーテールが風の流れを示すようになびいている。非現実的な状況下で凛々しい姿を 見せる1人の騎士は、表情だけは平時のように穏やかだ。いや、どちらかと言えばいつも通りブレイズ をからかっているのかもしれない。 1人で敵機への対策を考えていたのに、そんなシグナムを見るとブレイズは真面目だった自分が間 抜けに思えてきた。いくらか肩の力を抜いて、呆れたような声で返答する。それでも、バイザーに隠さ れた表情は少し緊張が薄れていた。 「冗談言うな、敵さんに撃墜数の献上なんて御免だね。君こそ、戦闘機に近づきすぎて吹き飛ばされ ないでくれよ」 「ふっ、それでいい。変に気負うよりは闘志を押し出して敵と対峙することだ。まだ慣れていないのだろ う?」
彼女なりの気遣いなのか、面と向かって心配するそぶりは見せなかった。どこか手を引かれている ようで、ブレイズは心のうちで少しだけムッとしたが、皮肉で返す気は起らなかった。『慣れていない』が 何を指しているのか判然としないが、何にしても新兵の彼にとっては全てが事実だ。戦闘機を操ること なのか、或いは戦うことそのものなのか。きっと全部だが、シグナムが言いたいのは後者だろう。 しばし時間を使い、ブレイズは遥か上空の瑠璃色の世界を見上げた。手狭なコクピットでも広大な空 は無限の解放感を与えてくれるが、それより更に上の領域はもはや孤独感の享受を強いてくる。安心 と恐怖の2つの顔を見せる天空で、両方を受け止められて初めて一人前なのだろうか。依然、彼はそ こまでの余裕が持てないでいる。戦史上で名を馳せたエース達は、一体どんな思いでこの空を見るの だろう?戦場の空を見渡す余裕があってこその、エースなのかもしれない。 HUDに目線を落とし、ガラス製の風防を兼ねた投影板に映る緑色の数字や記号を流し読みする。 エースの領域に到達しきれていないブレイズには、今しばらくは考えることも無駄な世界だ。だが、い つかそこまで翔んでやるさ、と密かな目標を胸中に仕舞い込んで、今の自分の答えを出しておいた。 「ルーキーなんて飛び級で卒業したいもんだ。下の子供達共々、な」 「そうあってくれると、主はやてやテスタロッサ、なのはも思っているさ」 烈火の将は相棒の長剣を抜き放ち、構えることで銀の刃に白い光を走らせた。 「それは俺達もそうかな?」 「さぁな、自分で聞いてみると良い」 「難しい相談だ、代理を探したいなぁ」 纏う雰囲気が騎士のそれへと戻ったシグナムの後を追うように、ブレイズは呼吸を整えて集中力を高 める。操縦桿の油圧系から伝わる主翼の重み、フットペダルから上ってくる気流の動き、F-14に纏わり つく情報を掻き集めて現在の状態を把握する。ここまで落ち着いて外の状況を探ったのは初めてなの に、自分の指先に近い感覚を得られた。 それなりに成長しているのだろうか。いや、今はそれも考えるだけ無駄だ。もう自分は評価されるだけ の存在ではない、仲間の命に全責任を負う『隊長』なのだ。そして、この戦闘を切り抜けることが現在の ブレイズに課せられた責務だ。いくら気負うなと言われてもここは譲れない。『全員で生還する』、これが 彼の信念であり、『隊長』から受け継いだ意思でもあった。ふっ、とブレイズはもう一度深呼吸し、『生存』 に関してのみ思考を使うように整理した。 「2人とも、お喋りはそこまで。敵機が上がってくるわ」 低空を警戒していたナガセから連絡が入り、ブレイズは身をよじって視線を下へ向ける。デバイスから展 開されているディスプレイには、敵機の進路が三次元情報となって表示されている。直接こちらに向かっ てくるのではなく、迂回しながら高度と距離を詰めるようだ。一直線に上昇してミサイルの無駄撃ちでもし てくれればいいものを、用心深い連中だ。 「格闘戦は最終手段だ、一撃離脱で行くぞ。ナガセは距離をとって援護を頼む。スパロー使用のタイミン グは君に任せる。シグナム、相手の速度が低下した状態を狙ってしかけてくれ。君なら見切れるだろう」 選択肢は決まった。忍び寄る敵機を迎え撃つため、2人に指示を出す。ブレイズ機もまた、昇ってくるF- 16を大回りな旋回によって射程に捉えた。直ぐにでも攻撃可能な彼に続き、返事は早かった。 「了解、2番機として誰にも墜とさせない」 「心得た」 頼もしい言葉を受け取り、ブレイズは空が森林で埋め尽くされるまで機体を横転させ、鋭い急降下で敵 機の進路へ突っ込む。援護のナガセも、接近戦を狙うシグナムも同じくそれぞれの攻撃点を目指して突 入を開始した。 ブレイズ隊がF-16編隊への反撃に移る最中、チョッパー隊にも変化が現れた。チョッパーを先頭に2機 のF-14はスプリットSからの急降下中に敵機の姿を捉えたが、こちらも戦闘機である可能性が高い。一 面の縁海でも隠れる気が無いように、5つの何かがそれぞれ光を反射して今しも頭上を突破しようとして いた。目視確認には少し遠いな、とチョッパーは降下中にスロットルをミリタリーパワーより少し押し込み、 ゾーン1のアフターバーナーで更なる接近を試みる。
5秒と経たない内に敵編隊が自機の進路を通り過ぎたが、それでも確認はできなかった。な んとなく、小型機であることは距離から分かるサイズと形状で把握した。次にやることは機首 を引き起こして連中の後ろからミサイルを撃ち込むことだ。アフターバーナーを切り、引き起こ しに入ろうとするとグリムが通信で割り込んできた。デバイスを通じてロングアーチからの画像 情報を頼りに敵機の特定をしていたらしいが…。 「チョッパー少尉!あれグリペンですよ!」 「何ぃ!?」 ディスプレイ越しの映像で確認したグリムが、上ずった声でその正体をチョッパーに報告した。 コクピット両側に装備されたカナード翼に、F-16同様の単発エンジン。高度な電子制御によって パイロットの負担軽減と戦闘能力向上を実現させたハイテク兵器の塊、JAS39グリペンが5つの 軌跡を絡めることなく整然と飛行していた。既存の第4世代戦闘機を上回る、新鋭機に分類され る強力な戦闘攻撃機だ。 「くそったれが。豪華な玩具持ってきやがって、節約生活の俺らに自慢か!」 目の前の森林地帯を一直線に飛び抜けていく敵編隊の背後を取ろうと、速度を絞って機首を 目一杯引っ張った。気圧差で発生する主翼からの航跡雲で縦の半円を描き、水平状態をひた すら目指す。遠心力で4倍以上にかけられるGに耐えながら、スパローの白い弾頭がグリペンを 一望できる位置についた。左後方には援護兼追撃役のグリムが付き、奴らの目標であろうヴィ ータも既に待ち構えている。 チョッパーはゾーン5までスロットルを押しやり、AIM-7Pを使用するためにレーダーロックをし かけた。跳ね上がった速度に対応するために、独特の可変翼が最大の角度まで後退して水平 尾翼と重なり、一つの翼のようになる。猛追するF-14のコクピットで、チョッパーはHUDの向こう の敵編隊の動きに注目した。HUDの中ではグリペンの1機が逃げられないように目標指示ボッ クスでしっかり囲われている。しかし、レーダーロックをかければどんな迂闊な敵機にでも自分 の存在が露見してしまう。 案の定、レーダー照射を感知した敵編隊は左右にブレイクし、それぞれがきついターンやイン メルマンでこちらに方向転換しようとしていた。 「ああっ、おとなしく飛んでろよ!グリム、左の奴らをやるぞ!」 「了解。レーダーには気を付けているみたいですね、サイドワインダーを使いますか?」 「んなもん、身軽になってからやるもんだ」 もっと近づいて、回避できない距離から撃たないと。お荷物なスパローでも至近距離で撃てば 短距離ミサイルよりは破壊力と推進力に優る。大きめのバレルロールの頂点で姿勢を戻し、チョ ッパーはヘッドオンで向かってくる分派した敵機にロックをかけた。流石に敵もアホでは無いらし い、今度はしっかり向こうもレーダーを照射してきた。RWRの警告音に従い、彼は急いでスパロ ー発射体勢を解除して回避機動に入る。 敵機の射線に対し、トムキャットを下方へ捻じ込む。ここで、グリペンはチョッパーの頭を押さえ るように上方から飛び込む機動で迫ってきた。チョッパーのF-14は再び進路を変えて、敵機の後 ろを取るべくシャンデルで高度を稼ぐ。互いの航跡雲が複雑にもつれ合い、いつの間にかドッグフ ァイトに突入してしまっていた。 「あっち行けよ!ヴィータ、一つ頼むぜ!騎士様の腕の見せ所だ!」 「安いもんだ、そこで引き止めてろよ!」 空中戦が繰り広げられる空域に近づき、ヴィータは4つの鉄球を取り出す。自身の前方に並べて 浮遊させた銀の鉄球を、グラーフアイゼンを横薙ぎに振るって打ち出した。味方のF-14に纏わり つく3機のグリペン目掛けて紅い光弾が不規則な軌道で吸い込まれていく。4発とも敵機の主翼や 尾翼を掠めるなど、惜しくも不発に終わったが手ごたえは掴んだ。 集中し、より誘導性を高めた第2射を撃ち込もうとした時、ヴィータは異様な音を聞いた。目前とは 別方向からジェットエンジンの轟音と、何か別の爆発音に近い物を耳に捉え、ハッと振り返った。視 線の先には攻撃から離脱中のグリペン2機と、放たれたと思しきミサイルの閃光と白煙があった。距 離にして約7マイル、上方へブレイクしていくグリペンは機首をもたげて進路を変え、ヴィータの撃墜 をミサイルに任せて増援に向かうようだ。JAS39から放たれたミサイルもまた、恐怖の命中精度を 誇るAMRAAMだ。
4発のAIM-120Bが薄い雲を切り裂き、小さな獲物を求めて白い軌跡を曳きながら殺到してくる。 AMRRMに狙われた標的は、航空機なら不発か故障を祈る以外に助かる術は絶望的だ。だが、鉄 槌の騎士ヴィータに敵のミスを祈るような考えは無い。向かってくるなら構わず潰すだけだ。 「面倒臭ぇ、まとめて叩き落としてやらぁ!!」 紅い少女はその容姿に似合わぬ気迫で吼え、シュヴァルベフリーゲンの第2射で迎撃する。どの みち回避なんて間に合わない、撃ち落とすか耐えるくらいしか対抗策は無いのだ。紅い魔力光を纏 った4つの鉄球が、AIM-120Bの正面へ突入していく。ミサイルの方が最高速度で上回るが、誘導を かけた光弾は寸分違わずミサイルの進路に乗った。 金属の塊たる鉄球と、レーダー保護の為の円錐状のレドームとが正面衝突し、内臓されたレーダ ーアンテナごとAIM-120Bの先端を押しつぶす。2発のミサイルは誘導装置を失い、さらに弾頭部に 達した光弾によってAMRAAMが内側から弾け飛んだ。残りの2発は横合いから貫かれたり、姿勢 制御用のフィンを抉り取られしてあらぬ方向へと消えていった。 グラーフアイゼンを振り払い、ヴィータは全速力で戦場へ向かう。特徴的な赤毛の三つ編みが両 方とも気流に弄ばれ、痛いくらい打ち付ける風が耳に騒音を放り込んでくる。そんな物も、目の前の 空中戦の騒々しさに打ち消され、逆に耳栓が欲しいくらいだ。アフターバーナーの眩い閃光や雷鳴 のようなジェットエンジンの咆哮が空域に轟き、時折聞こえる機関砲の掃射音が緊張感をぶつけて くる。 速度を落とし、ヴィータは目当てのグリペン2機を視線で追った。お互いがぴったり密着するウェ ルデッドウィングで上昇旋回に入っているようだが、空中戦に加わるかは決めかねているのだろう か。乱戦の様相を呈しているドッグファイトに入るよりも、機会を窺って一撃離脱を食らわせるように 見える。空中戦から距離を置いているようなので、ヴィータとしては目の前の3機を早いうちに仕留 めたかった。 「戦闘機ってのは思ったより速ぇな、面倒な奴らだ」 「…もっと面倒なのが増えたらしいぜ。下が騒がしくなってきやがった」 JAS39を追い回していたチョッパーは、デバイスを立ち上げて敵勢力の情報をヴィータに送った。 少し前に彼が気付いたことだが、戦域の端から複数の小さな光点が入ってきたのだ。 「こちらロングアーチ、戦闘機が飛来した方角から更にガジェットが侵入してきました!先頭にガジェ ットV型が数機、その後方からT型多数です!違う方向からの同時侵攻なんて…!」 機動六課の通信士、シャーリーはこれ以上ないくらい必死な様子で敵の更なる増援を告げてきた。 最後の言葉から、彼女にとって予想外な事態であることは確かだ。兵力の逐次投入は愚策とされて いるが、ここまで纏まった戦力をこのタイミングで出してくるとなると明らかに戦術だ。地上兵力の内 訳はガジェットV型が6機、ガジェットT型が18機ずつ。決して防げない数ではないが、副隊長が防 御に回れない状況がシャーリーを始めとする後方スタッフを焦らせていた。 航空兵力で敵陣に穴を空け、後に続く機甲兵力でもって突破口を確保し、最後に機動力が高い機 械化兵力で制圧にかかる。魔法世界出身の機動六課構成員には知る由もないが、まるで現代にお ける電撃戦そのものだ。 「次から次へと仕事増やしやがって。どうすんだブービー!これじゃ地上に手が出せねぇぞ!海軍 にスクランブルでも頼むか!?」 反対側の空域で戦闘に入っているブレイズへ、チョッパーは声を張り上げて対策を聞いてみた。空 母ケストレルは現在首都圏の港湾地区にて停泊中だ。そこから艦載機隊を送ってもらえば、形勢逆 転が見込めるかもしれない。 「そんな暇あるか!とにかくヴィータを地上に降ろして対応しろ!」 短く答え、ブレイズは通信を切って空中戦に舞い戻る。大方予想していただけに、チョッパーはそれ ほど落胆はしなかった。発艦準備や飛行時間を考慮すれば、間に合わない戦力を充てにするより自 力で切り抜ける方が合理的だ。しかし、戦力差が覆らない事実は胸に痛い。相手は1個飛行隊規模 の戦力に、ロボット兵器で構成された地上戦力が40機以上だ。
「流石はイカれた天才だぜ。戦闘機の上手い使い方だ、畜生!」 「感心してる場合か!新人どもの所には通せねぇんだ、あたしらで止めんだよ!」 「わかってらい!グリム、奴らをぶっ倒すぞ!」 「アーチャー了解!ここが大事ですよね!」 できるきことから確実に処理する、それが今できる最善の策だ。チョッパーとグリムは隊列 を維持しながら、入り乱れる敵機の航跡雲に潜り込んでいく。その軌跡の先に居る1機のグリ ペンに対し、チョッパーがレーダーを照射して出方を窺った。レーダーロックだけは気に留め ている敵機が急に速度を落とし、背後の敵にバレルロールで逆襲しようとしてきた。相手が上 空へ消えると共にチョッパーは急旋回で離脱し、後方から追撃するグリムに進路を譲った。 「グリム、そっちへ行ったぞ!」 旋回途上、左主翼側に見つけたグリム機にチョッパーが合図をかける。異常接近できるほど 速度が落ちたグリペンなら、後はミサイルを撃ち込むだけだ。グリムはチョッパーにもらったチ ャンスを活かそうと、尚も減速をかけてくる敵機を追い抜かないようにシビアな速度調整を続け た。 兵装をサイドワインダーに切り替え、耳元に流れてくる変化に集中する。やや低めの音程だ ったオーラルトーンが徐々に高まり、やがて耳の中を掻き毟るような継続的なものになった。 グリペンと重なった目標指示ボックスをひし形のダイヤモンドレティクルが追跡し、赤外線誘導 ミサイルに墜とすべき敵機を覚えこませる。 まだ早い、まだだ。もっと近づいて…、もっと…、…ここだ! 「アーチャー、フォックス・ツー!」 右主翼下のパイロンから勢いよくサイドワインダーが滑り出し、上方へ逃げようとしているグリ ペンの無防備な背面目掛けて突っ込んでいく。エンジンが発する赤外線を完全に捉え、尾翼と 垂直尾翼の間を命中個所に選んだミサイルは見事に直撃。グリペンは尻から蹴り上げられた ようにバランスを失い、エンジン付近からの出火によってたちまち火だるまになった。 「撃墜!ってうわぁ!?」 爆散するグリペンを見届けるよりも早く、別の1機が下方から突っ込んでくる様子を捉えた。レ ーダー警報が鳴った次の瞬間には、機関砲の火線がキャノピーを掠めるように空を抉った。慌 ててグリペンの軸線から逃れようとスプリットSからの急上昇を試みるが、ぴったり背後に付か れてしまった。右へブレイクすると見せかけ、思い切り左低空へダイブしようとしても騙せないば かりか、見える範囲に機関砲弾が突き抜けてきて進路を阻む。グリペンは機関砲の射撃管制と レーダーが連動しているので、弾道を計算しての射撃補正すら可能だ。機械好きのグリムがそ のことを知らない筈もなく、レーダー警報が続くことの意味も理解していた。 再度、ハイGターンから鋭いスライスターンに入るなどして下降と上昇を繰り返すものの、リア ミラーから敵機が消えてくれない。小刻みに発砲してくるため、弾切れを狙うには時間がかかり 過ぎる。しかも、射撃補正も精確になってきているようだ。オーバーシュートさせようとスロットル レバーを目いっぱい引き込んで速度を殺し、ハイヨーヨーに入ろうとした刹那、グリペンの機首と 視線が完全に重なった。 撃たれる!操縦桿を力いっぱい倒しながらも、被弾を覚悟して身を竦めた。 「だぁらぁぁぁぁぁぁ!!」 そんな彼の耳に届いたのは、少女の物とは思えない気迫の咆哮。シザースになりかかるほど 速度が落ちたグリペンに、グラーフアイゼンを両手で振り上げたヴィータが一撃を加えた。重い 金属の衝突音がジェットエンジンの騒音に混ざって響き、グリペンの右主翼部に大きな打撃痕を 刻んだ。が、姿勢変更のために主翼を持ち上げた際の強力な気流によって、その威力はかなり 削がれてしまった。グリムへの攻撃は断念させたものの、撃墜を免れた敵機はふらふらと離脱 していった。 「ちっ、浅かったか…!」 「さ、三尉、助かりました…」 「ぼやっとしてんな!前見ろ前だ!次来るぞ、今度は援護しろよ!」 未だにコクピットで生を実感しているグリムに、ヴィータはディスプレイ越しに怒鳴りつけた。あ まりの迫力に若干グリムが押されていたが、彼女は気にせず新たな目標に狙いを定める。上方 へ回ったチョッパーへ追撃するためか、急上昇で上がっていくグリペンが手の届く距離に入って きた。エンジンノズルから突き出る炎が非常に眩いが、速度はそれほどでもない。
「スピードが落ちりゃこっちのもんだ!行くぞアイゼン!」 『Jawohl』 相棒の鉄槌はその言に応え、1発のカートリッジをロードした。装填部がショットガンのよう な稼働音を発し、残留余剰魔力の一部が蒸気のように排出された。ハンマー状のデバイス の片面がロケット推進部に変形を果たすと、その勢いを得て敵機へ猛速で突撃する。瞬く間 にグリペンの懐に飛び込み、右主翼側から叩き潰そうとグラーフアイゼンをロケット推進の 加速そのままに振りかぶった。 もうあと少し、強烈な打撃を敵機に浴びせようとした時と、僚機からの警告が耳を突き抜け ていった時はほぼ同時だった。 「三尉!8時の上方からグリペンです!逃げてください!」 警告と左後方から高まった新たなジェットエンジンの唸り声に視線が吸い寄せられる。太陽 を背にして、先ほどの分派していた敵機の片方がついに一撃離脱をかけてきた。重力と、強 力なエンジン推力で弾みがついたグリペンがみるみる迫ってくる。攻撃を中断し、空いた手で 防御魔法を展開するより早く、敵機の機首から白煙が溢れ出る。Bk27、27ミリ機関砲が曳光 弾混じりの弾道を鞭のように弾き出した。標的にされた紅の少女は、巨大な機関砲弾の集中 砲火を浴びて被弾の粉煙にその身を覆い隠されてしまった。 「油断大敵だ。とても部下に見せられたものではないな、ヴィータ」 前から男性の言葉が聞こえ、恐る恐るぎゅっと閉じていた目を開いてみる。褐色の肌は鍛え 抜かれた強靭な肉体を強調し、大柄な体躯はヴィータとの身長差もあって巨人のようだ。騎士 甲冑とはやや趣が違う、格闘家然とした蒼い衣装に身を包んだその男は、前面に白き魔法障 壁を展開して機関砲弾を全弾防いで見せた。微動だにしない術者たる男はもちろん、防壁自 体にも何の影響も見られないことからその堅牢無比さに疑いは無い。 筋骨隆々の男は、普通の人間とは少し違った。清廉さと力強さの象徴たる白髪からは、蒼い 獣の耳が存在を誇示している。所謂獣人であるが、多くを語らぬ背の大きさは常人以上だ。体 格的にも、そして信頼が置けるという意味においても。今日も口数が少ないが、彼の言は全て に重みがあった。何故その姿なのか、という言葉も忘れてヴィータはつい憎まれ口を叩いてし まう。 「うっせー、ちっと間合いを掴み損ねただけだ。今度はぶっ叩いてやる」 「ならば構えろ。来るぞ」 「ザフィーラだって油断すんなよ、あいつらやたら速ぇし攻撃力が半端ねぇんだ」 銀の籠手で武装した両腕を構え、ザフィーラは敵機の機動を読み始める。普段の獣の姿では 手数が少ないため、彼は格闘攻撃も考慮して今の姿を選んだ。鋭い双眸は既に敵機の存在を 捉え、攻撃体勢に入ろうとしているものを優先的に追っている。グリムが1機撃墜したので残りは 4機だ。そのうち3機が彼の視界に入っており、機首を向けるその時を今か今かと待ち構えてい た。闇の書事件で発揮されたザフィーラの防御力は、今なお健在なのである。 強固な守護者の背に寄り添うようにして、ヴィータは不足分のカートリッジを再装填する。グラ ーフアイゼンのシリンダーから3発の薬莢を取り出したが、全て空になっていた。デバイスの変 形や加速に魔力を割かれてしまうので、やはり一撃必殺が望ましいようだ。シリンダーにリボル バー式拳銃へ装填するように新しいカートリッジを押し込んでいき、金属が擦れ合う稼働音を響 かせて完了した。3発と決して多くない装弾数だが、ヴィータにはこの上無く頼もしい代物だ。 敵機の動きをザフィーラが目配せで合図するなど、ヴォルケンリッターの2人は互いに合わせ 方を良く理解していた。念話を使わずとも、即席の連携ポジションを組めるほどだ。だが、部外 者であるオーシア空軍の青年には何が起こっているのか分からなかった。トムキャットの右主 翼から70ヤードほどの所で、ヴィータと初めてみる男性が背中合わせで静止していた。主翼を 海鳥のように広げ、300ノットの速度で合わせながら通信を繋いで空間ディスプレイに映った本 人の顔を確認する。まじまじと見つめてみたがやはり覚えがない。が、どこかで聞いたことがあ る名前が出てきた。 「ザフィーラってあの蒼い狼ですか?でも、そこに居る人って…」 「説明は後だ。私が敵の攻撃を引きつける、反撃はお前達に任せるぞ」
グリムに攻撃用意を促し、ザフィーラは敵機への対策を簡単に伝えた。グリペン2機が背中を こちらに見せていたのである。その機首を向けてくるまで10秒とかからないだろう。 「いいからお前は前向いて集中してろ!2回も言わせんな、しっかり付いてこいよ!」 「了解です!」 敵機から放たれたサイドワインダー2発を前に出たザフィーラが完全に防ぎ、薄れゆく黒煙を突 き抜けてヴィータが突出していく。ヘッドオン状態とはいえ、ミサイルを防ぐという驚異的な存在に 後押しされてグリムも接近戦に挑む。距離が近い、彼は短距離ミサイルを温存して機関砲で一撃 を加えることにした。操縦桿の兵装選択スイッチを最下段までスライドさせると、HUDに丸いガン レティクルが現れ敵機に重なりかける。 高速で擦れ違うその一瞬、中心点のピパーが敵機を捉えるまで引きつけ、グリムはすかさずトリ ガーを引き絞った。F-14機首左側面の機関砲口から、M61A1、20ミリヴァルカン砲が6本の銃身 を高速で回転させながら機関砲弾を撃ち出す。猛々しい雄叫びにも似た射撃音が轟き、曳光弾 が向かい合うグリペンを襲う。時を同じくして、敵機も撃ち返してきた様子を見計らい、グリムは フットペダルを踏み込んで射界外へ機体をずらした。 リアミラーを覗いてみると、グリペンの左主翼部付近から黒煙が上がっていた。命中はあまり 期待していなかったが、数発は当てられたようだ。あれでフラップなどの操縦系統の一部や、燃 料流出にでもなってくれれば有利に立ち回れる。しかし、追い打ちはかけずに新たな目標を探し 出し、そちらに愛機の機首を向けた。無理をせず、一撃離脱ができる状況であるならそれに越し たことは無いのだ。 「当てたみてーだな、上出来だ。判断も悪く無いぞ」 「僕は教本通りにやってるだけです。三尉、できれば格闘戦時のカバーをお願いできますか?」 「上等だ、あたしらベルカの騎士の戦い方を教えてやるよ」 グリムのF-14は気流を掴んだように高空へ舞い上がり、上手い具合に攻撃できそうな敵機に先 手を打てる位置に付く。その背後20ヤード程度にヴィータが陣取り、いつでも接近戦に持ち込め る距離を確保した。1機の戦闘機と1人の小さな魔導師は、その隊形で残りの敵機に立ち向かっ ていった。 僚機に戦果を譲って以降、少し離れた場所から事の成り行きを見守っていたチョッパーは安堵 したように普段の調子で口を開いた。忙しいせいか、誰も聞いていないのが少し寂しい。 「はっは〜、グリムの奴すっかり使われてんなぁ。まぁ、あれなら心配は無いか」 完全に捕まった時はヒヤっとしたが、やはりヴィータが頼りになる。ミサイルを防御する反則的な 存在も現れたので、今この一瞬程度はグリムから目を離していてもよさそうだ。本当は片時も離 すつもりはないが、あの2人が付いているならグリム本人の実力もあって、そう思わせられる。だ が、いつまでもサボっているのはよろしくない。チョッパーはフル・アフターバーナーまでスロット ルを突っ込み、トムキャットを加速させて戦場の空に踏み込んだ。 そこに、先ほどヴィータに右主翼をやられた敵機が、よろめきながら戦闘に加わろうとしている 様子を目撃した。その傷ならさっさと離脱すればいものを、敵の殊勝な判断に内心舌打ちしつつ 兵装選択スイッチを中段へ。 「悪いが丸見えだぜ。チョッパー、フォックス・ツー!」 左主翼下パイロンでAIM-9Lがパッと輝き、次の瞬間には主翼を覆い隠すほどの白煙を残して 手負いのグリペンを目指していく。レーダー同調を使わないボアサイトモードで撃ったので、背後 に注視していない限り敵機には何が起こったか分からないはずだ。あれほど見事な機動を見せ てくれる連中だ、この程度の攻撃ならフレアをばら撒いてあしらってしまうだろう。そう考えてチョ ッパーは機関砲による追撃を加えるため、グリペンに肉薄していった。 だが、何故か敵機は1つのフレアも出さず、それどころか満足な回避運動すらしなかった。サイ ドワインダーが命中したその瞬間でさえ、敵機は気付いていないように見えた。赤々と燃え盛る 炎を背負いながら、次第に高度を落としていくグリペンを見やり、チョッパーはしばし唖然としてい た。あまりに、あっけなさすぎる。もはや操縦すらままならなかったのだろうか?
敵機のことに思いを巡らせたのも僅か数秒で、撃墜による戦果追加の興奮も無い無感動な感 情がしだいに浸透し始め、チョッパーは味方に戦果を伝えた。 「残り3機だ。早いとこ始末して、今日のところは上がりにしようぜ」 深緑の地上に吸い込まれていくグリペンと対照的に、チョッパーのF-14は矢じりのように殴り込 みをかけていく。彼のHUDではグリムやヴィータ達と空中戦を展開している3つの目標指示ボッ クスが上へ下へと動き回っている。チョッパーは親指で操縦桿のスイッチを勢いよく弾き上げ、 遠距離戦の切り札の誘導を開始した。
第7話、投下終了です。 やっとホテル防衛線の中盤です。本当なら1話でまとめる筈なのにどうしてこうなった。 次回でこの長々しいホテル編も終了となります。いや、ホント予想外の長さですコレ。 ホテル『編』になっちゃってるし。 次はようやく新しい展開が見えてくるような回になります。 それでは、感想等お願いいたします。
テスト
GJ! ほんとに長かったですw 新展開にも期待!
>>1 スレ立て乙です。
そして遅れましたが新年おめでとうございます。
年をまたいでしまいましたが今夜の2時位にクロスSSの第7話を投下予約
したいと思いますので、どうかよろしくお願いします。
では時間が来ましたので投下を始めます。 クロス元は70年代の元祖Xファイルな米TVシリーズ「事件記者コルチャック」 そして今回もグロ&暴力描写が有りますので読む際にはご注意を。 また今回はフェイトさんファンの方々に一言・・・ごめんなさい!!(苦笑) では始めます。
「 来るなァー! 寄るんじゃねぇッス!! 」 有らん限りの声を張り上げ、頭の後ろで束ねた深紅の髪を揺さ振る様にして少女ウェンディが叫ぶ。 そして激しい怒声と共に彼女は、その腕に構えたライディングボードのトリガーを引き絞った。 何度も、何度も、力の限り何度も...... 「 近寄るんじゃねぇッス、このバケモノ! 変態オヤジぃ!! 」 声がかすれる事も厭わず、いやそれだけでなく自身の右太股に大きく深く口を開けた、酷い裂傷の痛みすら構わぬかの ようにして力の限り叫び続ける。 そして彼女の怒鳴り声と共に汗ばんだ手で握り締めたボードから、目前の相手に向けて凄まじい射撃音と共に高エネル ギー弾が続けざまに何度も撃ち放たれた。 だが、それらは全て..... その照準の先に立つ相手は表情一つ変える事は無く、あたかも曲芸師の如き見事な剣捌きで素早く、自身に向かって放 たれる攻撃を全て両刃の一振りで弾く。 その度に弾かれた高エネルギー弾が光の尾を引き、花火のような輝きを放ってビルの上空へと幾つも舞い上がった。 それでもウェンディは汗だくになって叫びながら、落ち着いた身のこなしで不敵な笑みを浮かべて剣を振う相手に向け て死に物狂いでトリガーを引き絞った。 そうして彼女が狂ったように射撃を続けていた時、トリガーからカチカチ! という金属音が空しく響くと同時に射出 口から白い蒸気を薄らと立ち上らせてボードが沈黙する。 「 ライディングボード、どうしたっス!? エリアルショット!! 」 突如として沈黙する”相棒”に向け、その心中の焦りを吐き出すかの如く叫ぶウェンディ。 だが彼女からの問い掛けに本局でAIを改良され、音声で会話が出来る様になった自身の固有武装から思いも寄らぬ答 が返って来た。 《 Cartridge Empty! Cartridge Empty! 》 「 クッ! こんな時に、何で…… 」 *リリカルxクロス〜N2R捜査ファイル 【 A Study In Terror ・・・第七章 】 それは数十分前の事...... 三番街の中央に位置する立体交差点の上空から、近隣のビル屋上に立つ殺人鬼“黒服の紳士”を見つけたウェンディは すぐ様その事を姉たちに知らせた。 だがその直後に彼女は何と、姉の一人チンクがはやる妹達を諌めようとして語る言葉を聞き流しつつ、無謀にも凶暴残 忍な殺人鬼にたった一人で立ち向かおうとしたのだ。
自分でもバカな事をしてるのは分かっていた。 だからと言ってジッとしていられる訳でも無かった。 あの殺人鬼がもたらす恐怖と狂気を前に自分が中空で一人怯え竦んでいた時、そんな相手に姉たちは自身の恐怖を振り 払う様にして、あえて勝てる見込みのない戦いを挑んだのだから。 がくがくと震えの来る脚でビル屋上へと降り立ったウェンディは、いまだ彼女に向かって背を向けたまま、手摺に身を 預ける様にして立つ大鴉の様な黒い影へと注意深く近付いて行く。 ある程度まで近付くとウェンディは、相手との距離に気を払いつつライディングボードを構え、セーフティを解除しな がら目前で外套の裾を風に揺らす相手に照準を合わせた。 「 み、みミッド地上本部っス! そ、そそそこの男、い今すぐ武器を捨てるッス! 」 声を震わせて怒鳴りながら彼女が発する警告に対し、黒服の紳士は振り向く事はおろか身動ぎすらせず、ただ黙ったま ま背を向けていた。 そうして何度か口答で警告するも相手は動きを見せず、幾分か焦燥といら立ちを覚え始めたウェンディは自らの“相棒” に向かって警告射撃を指示する。 「ら、ライディングボード!」 《 Allright! Ariel Shot! 》 鈍い射撃音とともに放たれた高エネルギー弾が黒服の紳士の足元で炸裂し、パラパラと細かなコンクリート片が飛び散 る中で不意に、目前に立っていた相手が動きを見せた。 いや動いたというよりは、高エネルギー弾が炸裂した拍子に手摺から身体がずり落ち、そのまま仰向けにバッタリと倒 れ込んだのだ。 暗がり中で驚きのあまりウェンディが思わず後ろへ一歩飛び退った時、それまで雲に隠れていた三つの月が顔を覗かせ クラナガンの夜空で輝き始めた時である。 その月明かりが倒れた相手の顔を照らし出した時、それを目にした彼女は一瞬の戸惑いの後に自分が今置かれている状 況を瞬時に理解する。 “……しまった!!” その次の瞬間! 背後から音もなく歩み寄った黒く背の高い人影が、その右横を素早く擦り抜けたかと思うやウェンディの右脚に激痛が が走り、彼女は思わず苦悶の叫びと共に腰を落として倒れ込んでしまう。 凄まじい苦痛に呻き声を漏らすウェンディが自身の右脚へと視線を向けると、そこに見えたのは後ろから膝の辺りに掛 けて大きく深く切り裂かれた自身の右太股だった。 「非常にシンプルかつ幼稚な方法ではありますが……」 その声が聞こえた方向へと彼女が目を向けた時、そこに見えたのは長い銃剣に付いた血を洒落たハンカチで拭いながら こちらの方へと振り向く黒服の紳士の姿だった。 「……こういう月夜の晩だと、思った以上に効果を発揮するものですな」 そう言いながら彼は持っていた銃剣を、落ち着いた仕草で上着の中へと仕舞うと、その整えられた口髭の下で口の端を 釣り上げ不敵にほくそ笑んだ。 そう先にウェンディが前にした人影は、やがて来るであろう追手を誘き寄せる為の囮...... 彼女が降り立ったビルの夜警なのか、警備会社の制服を着込んだ上から外套に見立てた暗幕を被せられ、その頭にイン クで黒く塗ったパーティ用の紙帽子を乗せた警備員の死体だったのだ。
「狙っていたのとは違う獲物が掛りましたが、まぁこれはこれで楽しめると言うもの」 物静かな口調で狂気と殺意を滲ませながら黒服の紳士は、相手の反応を楽しむ様にしてわざと、ゆっくりとした動作で 左に持つ仕込みステッキの握り部分に右手を掛けた。 鋼が擦れ合う不吉な音を響かせて彼が、仕込みの鞘より不気味に輝く両刃をゆっくりと抜きながら、その鋭い切っ先を ウェンディに向けようとした時である。 「 くっ! ざ、ざっけんじゃねぇッス!!! 」 なけ無しの闘志を振り絞る様にして怒鳴るや彼女は、傍らに有ったライディングボードを掴んで構えると、焼け付くよ うな右脚の痛みを堪えながら目前の相手に向かってトリガーを引き絞った。 何度も、何度も...... **************************************** 「おや? もう御終いですか」 それまで怒涛の如く続いていた射撃が止み、辺りに静けさが戻り始めたのを見て黒服の紳士が、未だ自身に向けて固有 武装を構える少女ウェンディに尋ねた。 「もう少し粘って頂けた方が、私としても退屈せずに・・・・・・」 「 うっせぇ! 勝手な事ほざいてんじゃねぇッス!! 」 緊張している為かこめかみに汗がジットリと流れるのを感じながら彼女は、相手の挙動一つ一つに全神経を集中し尖ら せつつ手探りで、その左手を腰のベルトに装着した予備マガジンのケースへと伸ばす。 震える手で何とかケースを探り当てるも、上のフラップを開けてみれば収めた筈のマガジンは無く、差し入れた指がケ ースの内側を空しく引っ掻くばかりだった。 “えっ? そんな・・・・・・” 慌てて周囲を見回わしたウェンディの目に映ったのは、辺りに散らばる幾つもの空薬莢の中へ混ざる様にして落ちてい た予備のマガジンだった。 そう先に黒服の紳士の手によって右太股を斬りつけられた時、派手に倒れ込んだ拍子にケースに入っていたマガジンが 飛び出したのだ。 「さっ、どうしました。 落とし物を拾わないのですか?」 その声に顔を上げれば、ほんの数mの距離を空けた向こうで黒服の紳士が、右手に持つ両刃を月明かりの中でギラつか せて立つ姿が見えた。 しかもマガジンは彼が立っている所と、傷付いたウェンディが腰を落として動けずに居る場所の、ちょうど真ん中あた りに落ちているのだ。 「早く拾わなければ、命の保証は出来ませんぞ」 「 て、てテメェなんかに言われたかねぇッス!! 」 「ならば、今すぐにでも拾えば宜しいのでは?」 その場に漂う張り詰めた様な緊張感と恐怖から文字通り、滝の様な汗を流して睨む彼女の神経を逆撫でする様に、黒服 の紳士は落ち着いた口調で挑発を続ける。 その剃刀の如く鋭い目付きを更に細め、ゆっくりとした足取りで大きく円陣を描く様にして、腰を落としたまま動けな いでいるウェンディの周囲を歩きながら......
そして更には鼻歌で異世界の音楽と思しき調べを口ずさみ、それに合わせて右手に持つ両刃の剣先を、まるで指揮者が オーケストラの前で指揮棒を振うようにして軽く揺らし始める 「 やめるッス。 そのフザけた鼻歌を止めるッス!! 」 「ほぉ、ワーグナーはお気に召さぬと? この“ラインの黄金”は名曲……」 「 んなもん知らねぇッス!!! 」 相手からの執拗な挑発を振り払う様にして怒鳴るウェンディ。 それが虚勢なのは自分でも分かり切った事。 だがそれでも彼女は今、こちらの隙を伺う様にして周囲を練り歩く殺人鬼に対し、震えの治まらぬ手でライディングボ ードを構えたまま精一杯に声を張り上げる。 そんな抜き差しならぬ状況の中で黒服の紳士が遂に、それまで切っ先を揺らしていた両刃を、ゆっくりと相手に向かっ て振り上げようとした時である。 「 ウ ェ ン デ ィ !!! 」 遠くから彼女の名前を叫ぶ声が夜空に響き渡ったかと思うや、その左斜め横から両刃を振り下ろそうとする殺人鬼に向 けて、黄金色の光を炎の如く放ちながら一発の魔力弾が放たれた。 “……えっ!?” だが突然の事に驚き目を丸くするウェンディの前で、黒服の紳士は自身の背後から向かって来る魔力弾を振り向きざま 何の造作もなく両刃の一振りで粉々に散らしてしまう。 その直後に叫び声の主が、己が妹を救わんと正に夜空を駆け抜ける彗星の如き猛スピードで、両刃を握り締めて佇む黒 服の紳士に向かって突っ込んで来るのが見えた。 **************************************** 「 テッメェェェェェェェっ!!!! 」 熱い...... そうそれは身体が炎に包まれ、真っ赤に燃え上がるかの様な熱さ。 連絡の有った場所に駆け付けた時、その向こうに見えた光景が目に映った瞬間、それまで胸中にモヤモヤと渦巻いてい た恐怖や焦燥と言った感情が全て吹き飛んだ。 いま彼女ノーヴェの中に有るのは、それこそ全身の血が瞬時に沸騰するかのような感覚。 「 よぉぉぉぉぉぉくもォォォォォォォォっ!!!!! 」 彼女の怒鳴り声は既に言葉にすらなっておらず、さながら猛り狂う野獣の咆哮となって夜空に轟く。 その次の瞬間! 傷付いて動けぬウェンディの上を、二つの影が飛び越えて行く。 『突撃者』の二つ名に相応しいノーヴェからの猛攻に対し素早く身を翻し、後方に向けバックステップで大きく跳躍し ながら、自身に向けて繰出される右拳の軌道から大きく外れた位置へと降り立つ黒服の紳士。 その向こうではガリガリと耳障りな音を立て、細かなコンクリート片を辺りに撒き散らし、猛スピードで横滑りしなが ら降り立つノーヴェの姿。 そして削れたコンクリートを更に大きく抉りながらの踏み込み。 続いて忌むべき”怪物”に向かっての跳躍。
「 行くぜジェットエッジィッ!! 」 《 Allraight Sir !! 》 主が声を張り上げて叫ぶ言葉にデバイスが応え、彼女が両足に装着したローラーブーツ、その足首でリボルバーフィン が唸りを上げて稼働する。 上空で身体を捻りながら体勢を整えるやノーヴェは、その眼下で両刃を握り締めて待ち構える相手に向けて...... 「 リィボルバァァァ・スパァァァァァイクッ!!!! 」 燃え上がる炎の如き黄金の光を纏いながら、渾身の力を込める様にして彼女が叩き付ける飛び蹴り。 その攻撃を身動ぎすらせずに両刃の一振りが元、殆ど紙一重で素早く受け流す黒服の紳士。 渾身の蹴りを受け流されたノーヴェは、着地するや間一髪入れず立ち上がり様に身体を素早くスピンさせ、その踵部分 で点火したブースターの勢い借りて右側より猛然とハイキックを繰り出す。 だがそれも”怪物”の身体を掠める事すら無く、相手が振う両刃とカチ合って空気が震える程の金属音が響いたかと思 うと、凄まじい火花を散らしながらいとも容易く弾かれてしまう。 「 まァだまだァァァァー!! 」 それでも怒り狂ったノーヴェの猛攻は止まず、すぐさま姿勢を立て直すや続けざまに右腕を大きく振り被り、そのまま 一気に右拳を叩き込む。 今の彼女は激しい怒りに我を失い、理性のブレーキが壊れたかの様に相手に向けて左右からの脚撃、更にはガンナック ルによる右拳の応酬を怒涛の如く繰出す。 だがしかし...... それらノーヴェの攻撃は全て火花を散らしながら弾かれ、あるいは容易く受け流され、一つとして相手の身体に届く事 は無く、それどころか攻撃を繰り出す度に防ぎ切れなかった刃が彼女の身体に酷い傷を刻んでいく。 「くっ! もう少し、もう少しッス……」 双方が凄まじい死闘を繰り広げる様を横目に見つつウェンディは、もう既に感覚が無くなり始めた右脚を引き摺りなが ら必死になって、その目の前に落ちている予備マガジンへと手を伸ばす。 だが彼女の手がようやくマガジンへと届いた時である。 攻撃の隙を突いて黒服の紳士が、仕込みの鞘を持ったまま左手でノーヴェの胸倉をガッシリと掴み、そのまま彼女の身 体を高く持ち上げると振り返る様にして立ち位置を素早く変える。 すると激しくもがくノーヴェの背後で凄まじい音響と共に、目も眩むような閃光を放ちながら何かが弾けた。 驚いて顔を上げたウェンディの目に映ったものは、“怪物”の手で胸倉を掴まれて高く持ち上げられ、ぐったりと項垂 れて意識を失なうノーヴェの姿だった。 突然の事にパニックに陥った彼女が辺りを見回した時、そこに見えたのは通りを挟んだ向かい側に建つビルの屋上、そ こで自身の相棒“イノーメスカノン”を構えたまま呆然とする姉ディエチの姿。 そう死闘の最中に黒服の紳士は、隣のビルから自身に向け照準を合わせる彼女の存在に気付き、すぐさまノーヴェの身 体を盾にして放たれた高エネルギー弾を防いだのだ。 「残念ですが、貴女が相手だと児戯にすらなりませんな」 そう語りかけると彼は目前で意識を失い、うつろな目を開いたままぐったりとするノーヴェの身体を、まるでゴミ屑の 様に傍らへと放り投げた。
「そこを動かぬように、お二人とも後でタップリとお相手いたします故……」 そう呟くような声で言い放つと黒服の紳士は、その射抜くかのような鋭い眼差しで次なる獲物の姿を捕えながら、ゆっ くりとした仕草で前へと踏み出す。 その彼の視線を追ってウェンディが見たものは、誤って自身の姉を撃ってしまった事に大きなショックを受け、その場 に座り込んで力なく肩を落とすディエチの姿。 「 逃げるッス! ディエチ逃げるッス、早く逃げるッス!! 」 未だ我を失って項垂れる彼女に向かってウェンディが、その声を張り上げて必死に危機を知らせる。 だが時既に遅し! 彼女が叫んだ時、その凄まじい跳躍力で黒服の紳士は片側二車線の通りを飛び越え、今まさに隣のビル屋上へと降り立 たんとしていた。 **************************************** 【 アイツが! アイツがこっちに来る!! 】 そのビルの最上階に到着しエレベーターを降りるチンクの元に、機人同士のリンクを通じて妹ディエチからの悲鳴のよ うな叫びが響く。 【 ダメ、止められない! アイツを止められない!! 】 「 待ってろディエチ! 姉もすぐそっちへ行く!! 」 妹からの悲痛な叫びに必死で答えながらチンクは、屋上へと続く階段を探して死に物狂いで走る。 だが彼女が屋上を目指しフロアを走り回っている間にも、妹の物と思しき射撃音が立て続けに幾つも聞こえた。 そしてようやく見つけた屋上へと続く階段を駆け上っていた時、チンクの胸中に湧き上がって来たもの。 それは後悔の念...... 二人が現場へと到着した際に、本部へ状況を報告する為とは言え妹を一人で先に行かせてしまった事。 その事に対する後悔が今胸中を埋め尽くそうとする中でチンクは、ハァハァと熱い息を吐いて汗だくになりながら階段 を死に物狂いで駆け上る。 そうしてやっと屋上にたどり着いた時、チンクがそこで見たもの。 それは自身の固有武装もろとも、その身体を“怪物”が振り下ろした両刃で袈裟掛けにバッサリと切り裂かれ、まるで 噴水の様に真っ赤な血飛沫を吹き上げて倒れる妹の姿だった。 「 ディエチィィィィィィィっ!!!! 」 その瞬間チンクの周りで世界が、ガラガラと音を立てて崩れて行った。 その命を代償にしてでも守り抜こうとしていた物がまた一つ、それも自身の目前で奪われたのだから。 ただでさえ上がり気味だった呼吸は限界を越え、その場にガックリと膝を落とした彼女は、そのまま倒れ込みそうにな る己が身体を、階段の手摺を掴んだ左手だけで辛うじて支えていた。 その意識は混濁していき、目の前の光景がボンヤリと霞み始める中、またも眼帯の奥で重く疼き始めた右眼の痛みに押 し潰されそうになる。
“ いやまだだ、まだ倒れるには早い! ” 薄れかけた意識の中からチンクに向かって、何かが力強い言葉で語りかけた。 その言葉に押されるようにして彼女は、その重く圧し掛かる絶望と右眼の痛みを振り払う様にして、未だ震えの治まら ぬ両脚でヨロヨロと立ち上がる。 そうしてチンクが滝の様な汗でグッショリになった顔を上げた時、その左眼に映ったものは血だまりの中で横たわる妹 の身体と、その傍らに立ち目深に被った山高帽の下から鋭い目で睨む背の高い“怪物”の姿。 「……許さぬ」 唇を震わせながら紡ぎだされる彼女の言葉。 それは自身の奥底から、湧き上がる様にして吐き出された“怒り”そのもの。 「 許さぬ、許さぬ、許さぬ!! 絶 対 に 許 さ ぬ っ !!! 」 凄まじい怒鳴り声を上げてチンクは、目に見えぬ大きな力に突き動かされる様にして、それまで居た踊り場から外に向 かって大きく踏み出す。 その両手に握り締めた全部で6本のダガーナイフを、薄闇の中でギラつかせて...... 「 貴様が! 貴様の如きバケモノが、我が妹に近寄るなっ!! 」 その顔を涙混じりの汗で濡らしながら怒声を放つチンク。 そして彼女は左足を前に踏み出し、その武骨なロングコートを翻す様にして腕を大きく振り被ると、相手に向かって右 のダガー3本を渾身の力を込めて真っ直ぐに投擲。 だがそれを黒服の紳士は両刃の一振りが元に素早く弾き飛ばし、放たれたナイフは甲高い金属音を響かせ、全て粉々に 砕け散る。 「 ディエチから、 私 の 妹 か ら 離 れ ろ っ !!! 」 普段の物静かな彼女とは別人の様に、声を張り上げ野獣の如く猛り狂うチンク。 続けて左の3本を投擲! 更にまた右から、そして両手で6本...... 青白い月の輝きが辺りを照らす中で彼女は、まるで舞を踊るかの様な身のこなしが元、その目前で刃を振う憎き殺人鬼 に向け、両手に持つダガーナイフを怒涛の如く叩き込む。 チンクが全身をバネにしてダガーを投擲する度に、その向こうでは黒服の紳士が優雅な身のこなしで刃を振い、そうし て眩い火花が瞬く中で彼の周囲には粉々になったダガーの破片が無数に舞い散った。 そうして投擲を続ける合間に彼女は自身と相手の立ち位置、そして傷付いた妹が倒れている場所との距離を確認するや 両手に持つダガー6本を低めに狙って同時に投擲する。 それが全て黒服の紳士が足元に、カカカっ!という耳障りな音を立てて突き刺さるのを確認するや...... 「 Runble !! 」 すぐさまチンクは自身のISを起動させるキーワードを叫ぶ。 「 Detonation !! 」 っと同時に黒服の紳士の足元に刺さったダガーナイフから、目も眩む程の閃光が迸り...... 「 吹 っ 飛 べ ぇ ぇ ぇ ッ !!!!! 」 そして凄まじい轟音とともに真っ赤な火柱が立ち上り、それがチンクの居るビルの屋上全体、そしてビルの周辺を煌々 と照らしだした。
“ た、倒したのか!? ” もうもうと立ち込める黒煙に咽かえりながらも彼女は、その生死を確認する為に爆発の中へと消えた相手の姿を、燃え 盛る炎を見透かす様にして探した。 だがその時である! 「 危ない、上ぇぇっ! 上に居るッスぅ!! 」 隣のビルから響くウェンディの叫びを聞きチンクが、すぐさま上空を見上げた瞬間そこには、まるで漆黒の大鴉が如く 外套を大きく翻し、右手に持つ両刃を高く振り上げて落下してくる“怪物”の姿。 自身の体重と落下速度を利用する様にして猛然と振り下ろされる刃を、ほぼ紙一重で避けたチンクだったが、それでも 完全には避け切れなかったのか自身の左腕に激痛が走る。 すぐさま視線を下げた彼女の目に見えたのは、肘の部分から皮一枚で繋がった状態で垂れ下がる自身の左腕。 そして更に追い打ちを掛けるが如く黒服の紳士は、その見上げる様な長身を捻り大きく右手を振り被るや、その鋭い切 っ先を何の躊躇いも無くチンクに向かって...... 「 チ ン ク 姉 ぇ っ !!!! 」 青冷めた夜空に姉の名を呼ぶウェンディの痛々しい叫びが響き渡る中、その視線の先に見えたのは右肩に刀身の長い両 刃を突き立てられ、そのまま串刺しにされた姉の無残な姿だった。 **************************************** 「 止めてぇぇっ!! 止めてくれッス!! 」 彼女は叫んだ。 自身の相棒ライディングボードを脇へと投げ出し、意識を失って倒れた姉ノーヴェの身体を抱きかかえながら、喉が枯 れる事さえ厭わずに叫び続けた。 その通りを挟んだの向こう側のビル屋上で、もう一人の姉チンクが今まさに忌むべき“怪物”の手によって、無残に嬲 り者にされようとしているのだから。 そう黒服の紳士は獲物に向かって己が刃を突き立てた際、わざと急所を外して相手の身体を貫いた上で、すぐには刀身 を引き抜かず串刺しにしたまま佇んでいたのだ。 「 もう止めてくれッス! チンク姉ぇを、チンク姉ぇを放してくれッス!! 」 今にも血を吐きそうな勢いで叫ぶウェンディ。 先に倒れたノーヴェの身体を、その腕にしっかりと抱いて叫び続けた。 そんな彼女の反応を楽しむかの如く黒服の紳士は屈む様な姿勢で、その目前にて自身が両刃によって貫かれて苦痛の呻 きを漏らし、苦悶の表情を浮かべる隻眼の少女の顔を覗き込む。 そして薄ら笑いを浮かべながら彼女に向かって、ボソボソと何かを囁きかけたかと思うと、不意に突き刺したままの両 刃を大きくグイッ!と捻り、それと同時にチンクの口から絶叫が響いた。 「 イヤァァァーーっ! もう、もう止めるッス。 そんな、もう、チンク姉ぇを……もう放してくれッス!! 」 彼女の口から響く悲鳴に打ちひしがれ、姉の救いを請いながら涙声で叫ぶウェンディ。 その二つの叫びが重なり合い、ユニゾンになるのを耳にするや黒服の紳士は、えも云われぬ様なうっとりとした表情を 浮かべると、またも何かを囁きくと更に獲物へ突き刺した両刃を大きく捻ろうとする。
だがその時である! 凄まじい突風が吹き荒れたかと思うや、驚くウェンディの目前に空気を震わすローター音とともに、その眼下より一機 のヘリコプターが姿を現し、向かいのビル屋上をサーチライトで照らしだした。 突然のことに事態が掴めぬまま呆然となる彼女の目に、中空でホバリングをしながら停止するヘリの機体、その横に大 きく描かれたエンブレムが映った。 「 我々はミッド地上本部の者です! そこの男、今すぐ人質を解放しなさい!! 」 ヘリに搭載された外部スピーカーより、力強く響き渡る怒気を孕んだ女性の声。 黒服の紳士が顔を上げれば、そこに見えたのは声の主たる女性の姿。 陸戦魔導師なのだろうか右手に槍型のデバイスを携え、黒っぽいコート型バリアジャケットを伊達に着込んだショート ヘアの女性が、ヘリの後部席より彼を真直ぐに睨んでいた。 「 もう一度言います! 今すぐ人質を解放し、そして武器を下に置きなさい!! 」 口元のマイクに向かって彼女が声を張り上げると同時に、ドカドカと重い靴音を響かせながらビル屋上へと続く階段の 踊り場より、十名以上は居るだろうか完全武装の魔導師達が姿を現す。 そして彼等は相手との距離を空けつつ半円形に陣を組み、いまだ右手に持つ両刃でチンクの右肩を貫いたまま佇む黒服 の紳士に対し、全員が杖型の汎用ストレージデバイスを一斉に構えた。 その状況に彼は幾分か不満げな表情を浮かべると、かなり腹立たしげな様子で突き刺していた両刃を相手の身体から素 早く一気に引く抜く。 すると苦痛から解放されたチンクの身体は、ビシャ! という湿った水音を立てながら、その足元に出来た血溜りの中 へと倒れ込んだ。 「 チンク姉ぇ!! 」 その様子を目の当たりにしたウェンディの叫びが響く中、彼女が居るビル屋上にもアサルトライフルやサブマシンガン で武装した、約20名以上の陸士達が堅い靴音を立てて姿を見せる。 「クソッ! 何てこった。 おい誰か、救護班に連絡を! 大至急だ!!」 そこで傷付き倒れたウェンディとノーヴェの姿を見た陸士の一人が、他の同僚達に向かって救援を要請する声が響く。 だがその隣のビル屋上では駆け付けた陸戦魔導師たちと、未だ右手に両刃を握り締めたまま投降する様子を見せようと しない黒服の紳士との間で、緊張感漂う睨み合いが続いていた。 そしてヘリに乗る女性魔導師が、その視線の向こうで外套を風に揺らしながら佇む殺人鬼に対し三度、警告の言葉を放 とうとした時である。 「 そこの黒服の男! 今すぐ武器を置いて投降なさい!! 」 殺人鬼が立つビル屋上付近の中空でホバリングを続けるヘリの更に上空より、また別の女性の声で投降を呼びかける言 葉が力強く響いた。 その声を聞き黒服の紳士が、その彼と対峙する陸戦魔導師たちとヘリに乗る女性魔導師が、そして隣のビル屋上で救護 員たちによって姉と共に応急処置を受けていたウェンディが空を見上げる。 その場に居た皆が上空を見上げる中、その視線の先に見えたのは右手に黒い斧型のデバイスを携え、空中に展開した魔 法陣の上に立つ女性執務官の“戦女神”の如き姿だった。 「 あなたを第一級殺人の現行犯で逮捕します! 今すぐ抵抗を止め、武器を下に置きなさい!! 」 雪の様に真っ白なマントを象ったバリアジャケットを翻し、およそでも20名以上は居る空戦魔導師たちの先頭に立つ 彼女は、その緋色の瞳で自身が立向うべき“怪物”を真直ぐに見据える。 「フェイト、さん? なんで、ここに?」 その様子を救護員の手当てを受けながら見ていたウェンディの口から、その執務官のものらしき名前が零れる。
だがそんな中でも黒服の紳士は動じる様子を一切見せず、それどころか新たに姿を見せた“女神”の姿を見上げ、仕込 みの鞘を持ったままの左手を帽子に添えて軽く会釈をした。 「 もう一度云います! 今すぐ武器を…… 」 あくまで態度を崩さず余裕すら見せる相手に対し、彼女フェイトが更に語気を強めながら今一度、殺人鬼に向かって警 告を発しようとした時である。 「 執務官! ハラオウン執務官! 待って下さい!! 」 その言葉を遮る様にして、あのヘリに乗った女性魔導師が外部スピーカーを通じ、上空のフェイトと本局の魔導師たち に向けて叫び声を上げる。 「 あなたは!? 所属と氏名そして階級を……」 「 私はミッド地上本部諜報課のマーサ・フランケ! 階級は三等陸佐!! 」 フェイトからの問い掛けに対しヘリの外部スピーカーから、あのショートヘアの女性魔導師ことフランケ三佐の声が上 空に向かって高らかに響いた。 「 ここは我々地上本部の管轄です! 従って、あの男の逮捕権は我々に……」 「 いいえ! あの男は、あなた方の手に負える相手ではありません!! 」 現場での捜査権を主張するフランケ三佐に対し、その言葉をフェイトの声が切り捨てる様にして遮った。 「 ここから先はミッド海上の管轄となります! あとは私達に任せて下さい! 」 「 それは容認できません! 正式な手続きもなく捜査に介入すると言うのであれば、重大な越権行為になります! 」 声高に叫びながらフランケ三佐は右手に握り締めた槍型デバイスを射撃モードに設定し、またフェイトも相手に対し厳 しい視線を向けつつ、自身の相棒“バルディッシュ”を堅く握りしめる。 現場には張り詰めた緊張感が流れ、ともすれば双方のリーダー同士が皆の見ている前で、己が信念を掛け戦闘の火蓋を 切りかねない一色即発の空気が漂い始めた。 ビル屋上で犯人に向けてデバイスを構える陸戦魔導師たち、そしてビル上空にて包囲網を展開する空戦魔導師たち全員 が皆、身動ぎすら出来ずに互いの状況を見守る。
「なに、してんッスか! こんな時に、みんな何を……」 そんな中で遂に堪え切れなくなったのか、傷付いた身体を鞭打つかの如くウェンディが若い救護員に支えられながら立 ち上がり、そして現場で対立する双方に向かって声を上げようとする。 「 静粛に! どうか皆さん静粛に 」 が、しかしそこに意外な人物が割り込んだ。 「 どうやら、色々と事情が込み入って来たように、お見受けしますが? 」 深く良く通る声で双方の間に割って来たのは他ならぬ、この騒動の元凶たる黒服の紳士その人であった。 「 全く何もかも興醒め、これでは折角の余興も台無しですぞ 」 その場に居た全員が呆然と見守る中で彼は、その右手に持った両刃を落ち着いた仕草で鞘へと戻しながら、朗々とした 口調で話を続ける。 「 仕方が有りませんな、ではこうしましょう。 皆様のお相手は、また日を改めてということで 」 そう話し終えると黒服の紳士は、自身に向かってデバイスの照準を合わせる魔導師たち、そして射抜く様な眼差しで睨 むフェイトとフランケ三佐の二人へと静かに笑いかける。 「 それでは皆様。 今宵はこれにて、失・礼 」 そうして彼は気取った仕草、目深に被っていた山高帽を軽く右手で摘まんで持ち上げると、自身に対し武器を構える皆 に向かって会釈をするや...... 「「 止まりなさい!! 」」 それは一瞬の出来事。 二人のリーダーが叫ぶ制止の声がユニゾンとなって響き、それを合図にビル屋上の陸戦魔導師そして上空の空戦魔導師 だちが一斉に攻撃魔法を発動させる。 色とりどりの魔力弾が数え切れぬほどに飛び交う中を黒服の紳士は、その大鴉の翼が如き外套を派手に翻すや正に風の 如き早さで駆け抜け、そのまま屋上の手摺を飛び越え大通りへと身を躍らせた。 実際には数秒間の、だが隣のビルで目撃していた彼女にとっては、それが何時間にも感じられただろう。 その眼下に広がる大通りへと飛び出した時に“怪物”は、その様子を瞬きもせずに凝視するウェンディに向け、したり 顔で笑いながら左眼を瞑ってウィンクをしたのだ。 まるで『お楽しみは、この次に』とでも告げるが如く。
「……見付けて、やるッス」 気が付けば彼女は救護員の手を振り払い、傷付いた右脚を痛みを堪えて引き摺りながら、つい今しがた隣のビルから黒 服の紳士が飛び降りた方へと走って行く。 そして手摺から身を乗り出す様な姿勢で眼下に広がる大通りを見下ろすとウェンディは、有らん限りの声を張り上げて 怒りの雄叫びをあげた。 「 見付けてやるッス! 絶対に見付けて、皆の借りを返してやるッス!! 忘れんなバケモノ野郎ォっ!!! 」 フェイトに率いられた空戦魔導師たちが、そしてフランケ三佐を乗せた地上本部のヘリが、まんまと皆の前から逃亡し た殺人鬼を捕える為に追跡を始める中で、彼女の叫び声は風に乗って果てることなく響き渡る。 そして現場に残った陸士たち皆の上で、西の空が白々と明るみを増し夜の闇が薄れ始めていた。 そうそれは大都市クラナガンにとって、まるで血と酸臭に満ちた「惨劇の一夜」が明けた事を告げるように...... ・・・・・・Until Next Time
第7章の投下を終了します。 今回は少し嫌な役回りではありますが、フェイトさんに登場して頂きました。 この後で小出しにではありますがなのはさんや、はやてさんを始めとするリリカル世界の 定番(?)キャラの方々もお出まし(苦笑)頂く予定です。 ではまた次回・・・次はまたドラマのパートになるので地味になってしまいますが、執筆 が進み次第に投下します。 では今回はこれにて♪
GJ!! いやー、いい敵ですな。 ウェンディはこれからどう動くか。
スパロボKとクロスして6課にミストさん、スカ陣営にイスペイル様、地上本部にKガリ閣下で。
こんにちは 11時よりマクロスなのは第15話を投下します。
では時間になったので投下を開始します。 『マクロスなのは』第15話「魔導士とバルキリー」 後方のはやては爆撃のチャージに入っていた。 「『ホークアイ』、敵の正確な座標を送ってください!」 『了解。二佐の火器管制デバイス(はやての場合はリィンフォースU)へ座標を送信します。1発でかいのを頼みますよ!』 「了解や。任しとき!」 「・・・・・・来ました!未来位置予測開始・・・・・・着弾位置、高度1万メートル。座標、0120−333−906。30秒以内に爆撃してください!」 リインフォースUが報告する。 (なんだか聞いたことある番号やな・・・・・・) 一瞬思考を巡らせたはやてだが、今はそんな時ではない。先ほどと同様、合計6つの魔法陣を展開。時間がないため負担が大きいが予備チャージ と詠唱を破棄する。 「フレース、ヴェルグ!」 すると魔法陣より再び白い光の奔流が発射される。しかし予備チャージしなかったので同時にデバイスの魔力コンデンサがオーバーフローして セーフモードに突入した。 バリアジャケットを除く全ての魔法が消失し、融合するリィンの飛行魔法で何とか高度を保つ。 そして詠唱破棄したときの全身に来るピリピリとした痺れにも似た痛みに耐えながらAWACS経由のJTIDS(統合戦術情報分配システム)の戦術俯 瞰図を流し見る。 そこではバルキリー隊と魔導士各隊が指示通りの位置に防衛ラインを構築している様子が伺えた。 範囲攻撃に特化した自分はこれから起こるであろうガジェットとの戦闘への参加は、この一撃が最初で最後となる。 確かに全く関与しないわけではないが、それは指揮任務であって実際に目視して戦う彼らとは次元が違う。 彼女は心の中で『みんな頑張ってや!』とエールを送ると、意識を誘導に集束させた。 (*) ゴーストは高空へ。ガジェットは低空にそれぞれ分かれたため、集合したフロンティア基地航空隊は高空にて迎撃態勢に入っていた。 演習に参加した25機の内15機が演習で撃墜され、演習中止までフロンティア航空基地で整備していた。 そのため迎撃するフロンティア基地航空隊の戦力は残った9機(ライアン二尉は現在急行中)と、付近に警戒配備されていた2期生操るVF−1A部 隊25機の合計34機。 50を超えるゴーストを相手にするには少し心許ないが、これでも現状出来うる限りの全戦力だった。
しかしそれでも隊の士気は高い。なぜならMMリアクターは一定時間無負荷で休ませたため満タンになっているし、弾薬もVF−1A部隊の持ってき た実弾を補給、換装していた。 そして何よりスペック上ではなく、本当に高ランク魔導士部隊と対等以上に渡り合える事が証明された事が大きかった。 彼らの横を白い光の奔流が通りすぎていく。はやての魔力爆撃だ。 それは遥か前方で炸裂すると、敵をその圧倒的な魔力衝撃波で破砕していった。 この凄まじさに隊の者は一様に息を飲む。 『自分たちはあんなものに狙われていたのか・・・・・・』 と。 幾つかの編隊に分かれていたゴーストだが、その衝撃波に触れた瞬間粉微塵になる。 あのゴーストはどうやらリニアレール攻防戦の時の自律AIでも、最新ゴーストの純正AIである『ユダ・システム』も搭載していないようだ。おそらくガ ジェットの物を流用して一本化しているのだろう。 狡猾な彼らは本来なら退避する所だが、愚直なまでに直進。その半数ほどが撃破された。 『すげぇ・・・・・・』 2期生の1人が呟く。 VF−25のセンサーによると、それは5発でキロトン級の対空反応弾2発に匹敵する空間制圧力を示していた。 だがアルトはいつの間にかディスプレイから目を離し、その花火≠ノ見とれていた。それは破壊の光だが、反応弾と違ってただひたすら美しい光 景だった。 『こちら『ホークアイ』。今の爆撃によりガジェットは4分の1、ゴーストは3分の1が撃破された。今後爆撃の支援はない。各隊市民の安全を確保し、 敵を撃退せよ!』 『『了解!』』 ホークアイの指令にこの空を駆け、戦う者達の声が唱和した。 同時にゴーストから中距離ミサイルが雨あられと発射される。その数、250以上。 『迎撃ミサイル発射!』 間髪入れぬミシェルの掛け声に各機から6発ずつ、合計で204発の中HMMが発射され、ゴーストの発射したミサイルへと突入を敢行していった。 (*) 低空域 フロンティア基地航空隊と違って長距離誘導兵器のない魔導士部隊は、目視照準で己が魔力を込めた砲撃を運河のごとく攻め寄せるガジェットに 送り込んでいた。 しかしまだどこからか送られているらしく、ガジェットは減らなかった。 また、演習で生き残り空中に残った魔導士は約80名。撃墜組は遠い所に集められて来るのに時間がかかる。それに来た所で民間人の退避と、 新たに出現した陸戦型ガジェット(T型及びV型)の対応に追われるだろう。空への増援は望みようがなかった。 防衛ライン上ではひっきりなしに魔力砲撃と無線が飛び交う。
『こちら第1小隊、あれから2人やられた!八神隊長、早く増援を!』 『被害が大きい第1小隊は第2小隊と交代。第3小隊は交代を援護しつつ─────』 『こちら第14小隊、敵が多すぎる!高町空尉に援護砲撃を要請する!』 『こちら高町なのは。現在中央で手一杯なので支援砲撃はできません!宮原君=A教導を思い出して、何とか持たせて!』 『り、了解しました!第1、第2分隊で左右に展開!全力で迎撃!なのはさんはオレらを覚えてるぞ!叱られたくなかったら体を盾にしてでも、奴ら を決して後ろに通すな!』 『『了解!』』 『ワレ第10小隊第1分隊。孤立した!至急援護を!』 『こちら独立遊撃隊のフェイトです。第10小隊第1分隊、そこを動かないで!今行く』 現在魔導士部隊は14の小隊に再編成され、旧市街(廃棄都市)を守るため南北に小隊間を500メートル間隔にして並んでいる。 両側からこぼれるガジェット逹もいるが、このラインを放棄したら旧市街に現在の10倍以上の数のガジェットが雪崩れ込むことになる。おこぼれは 地上派遣隊(撃墜された演習参加者)に任せるしかなかった。 また、初動が早かったため即座に防衛ラインを築けた魔導士部隊だが徐々に押されて来ていた。 そして遂にラインにほころびがでてきた。 『こ、こちら第12小隊、ガジェットにラインを突破された!突破された穴が塞げない!支援を!』 『こちら第11小隊。手が回らん。わかってくれ』 『こちら第13小隊。すまないがこちらも無理だ』 左右の小隊も自分の持ち場だけで手一杯だった。そこに他から無線が入る。 『こちら特別機動隊空戦部隊だ。第12小隊、これより支援する』 演習中、ガジェットの出現に備えるために温存されていた地上部隊きっての対テロ特殊精鋭部隊『特別機動隊』が遂に到着したのだ。 彼らの到着に、戦線の穴が塞がれる。しかし既にラインを突破した20機を超えるガジェットまでは手が回らない。 『誰かラインを抜けたガジェットを迎撃して!』 ホークアイとともに指揮を任されているはやてが無線の向こうから指示を飛ばす。しかし前線の誰もが手が離せない状況だった。 だが後方から飛来した紫と青白い2つの魔力砲撃がそのうち10機近くのガジェットを一瞬で葬った。
急行してきたのはシグナムとライアンのVF−11Sだった。 『『隊長!』』 機動隊の面々が歓喜の声をあげた。 (*) シグナムとライアン、そして特別機動隊空戦部隊の参入により徐々に戦線を盤石なものへと変えつつあった。 『ライアン、そっちは任せたぞ』 「了解。隊長こそ抜かれないで下さいよ」 ガウォークに可変したライアンのVF−11Sとシグナムの2人は左右に分かれて敵へと斬り込み、最も敵の集まる中央と少数の敵が展開する左右の3つに分断する。 そんな2人の分けた左右のエリアを制圧するは特別機動隊の魔導士達だ。 元々同じ部隊の一同は絶妙な連携で敵を排除していった。 そして中央は本隊の鶴翼陣形によるクロスファイア(十字砲火)によって撃破されていった。 (*) ライアンは愛機VF−11Sで担当のガジェット群を切り裂いていく。しかし撃ち漏らした1機がファイター形態のVF−11Sに特攻を仕掛けてきた。 ファイター形態ではエネルギーの大半を推進に使うため、アドバンスド・エネルギー転換装甲の出力が下がって耐久性はバトロイドの時の10分の1 以下に低下する。 これは他で例えると20世紀末の重装甲車程であるが、例え人間大の物体であっても相対速度が音速を超えているだけで大破は免れない。 ガウォークに可変するももはや回避は間に合わないと見たライアンは反射で目を瞑ってしまう。しかし覚悟した衝撃はいつまでたっても来なかった。 目を開けるとキャノピーの外には懐かしい顔があった。 『よう、ライアン。危なかったなぁ』 彼がいつものお気楽調で言う。 彼─────ウィリアム・ハーディング三等空尉はライアンが特別機動隊に所属していた頃の同僚で、彼とライアンは同部隊で名の知れたコンビだった。 彼は転送魔法のエキスパートであり、同隊では幾多の戦闘を共に駆け抜けてきた。 どうやら、彼の転送魔法に救われたらしい。見るとさっきまで自分のいた位置にミッドチルダ式魔法陣が展開されていた。 「ああ、サンキュー。ウィル」 彼は手をヒラヒラさせると 『気にするなって』 とあしらった。
そんな彼の後ろにキラリと光る物を視認した。ガジェットだ。どうやらウィリアムを狙っているらしく、急接近してくる。 ライアンはスラストレバーを倒して即座にバトロイドへ可変すると、何が起きたか分からない友人を尻目に彼の背後のガジェットとの間に割って入っ た。 それと同時にガジェットのレーザーが放たれる。ライアンはそれをバトロイドの左腕に装備した防弾シールドで防ぐと、間合いを見て回し蹴りを放っ た。 空を切り裂き高速でやってきた巨大な足に蹴り飛ばされた哀れなガジェットは、急速に金属部品へと還元されていった。 「借りは返したぜ」 ライアンが外部フォールドスピーカーを通して伝えると、ウィリアムは 『相変わらず律儀な奴だな、お前は』 と笑った。 (*) その後再会したこのコンビは、後の手本となる画期的な戦法を編み出す。それはバルキリーと魔導士の連携だ。 魔導士はなのはやフェイトのようなハイクラスリンカーコア保有者以外は絶望的なまでに殺傷設定の攻撃や、連続する強力な物理衝撃を伴った攻 撃に弱い。だがバルキリーの陸戦兵器並の耐久性には定評がある。 またバルキリーもレーダー等が補助するがファイター、ガウォーク形態の時は圧倒的に視界が悪い。しかし魔導士はなんと言っても生身なのでそ んな制約はない。 こうして短所が相殺されると長所が生きてくる。 バルキリーでは操縦者はバルキリーと常にコネクトし、武装やその他に魔力を使ってしまう。そのためリンカーコアが最低Aクラスでなければまとも な魔法は使えない。一方魔導士はバルキリーとは違い、各種魔法(高速移動魔法や転送魔法など)が豊富だ。 バルキリーも常時、クラスBのリンカーコアにしてクラスAA以上の砲撃力。撃ちっぱなしミサイルの大量使用による制圧力。そして高い耐久性に汎 用性。 こんな長所を持つ両者が手を組むとどうなるか。彼らはその答えを示した。 (*) 雨のように降り注ぐレーザーの弾幕の中を突入していくVF−11S。その後ろにウィリアムが続く。 VF−11Sはウィリアムの最高速度である亜音速に合わせており、エンジン出力に余裕ができたため、余剰エネルギーはPPBSと火器に回されて いる。 そのため前部に展開したPPB(ピン・ポイント・バリア)の出力は4割向上し、この弾幕の中でも耐え抜く。また魔力砲撃の出力も2割ほど向上し、火 力と防御力がパワーアップした。 ウィリアムとしても盾代わりがいて安心だ。 しかし通常この速度で飛ぶと、ガジェットはその数と機動力に物を言わせて多方向から攻撃してくる。 その場合加速して振り切るか可変して迎撃することが通常の対処法だ。 今回もガジェット数機がライアンの死角から攻撃しようと忍び寄る。 しかし彼らは後ろで警戒するウィリアムによって発見、迎撃が行われた。 彼はエンジンノズルの真後ろに居るため、青白く光る粒子状の推進排気に曝される。しかしこれは悪い訳ではない。ミッドチルダ製のバルキリーや 今のVF−25は推進剤を完全魔力化している。
これは圧縮した魔力を噴射して反動を得るという効率の悪い推進方式だが、今回は好都合だ。魔導士から見れば圧縮した魔力をわざわざ(予備) チャージせずに受け取れるのだ。 仮にこれが莫大なチャージ時間を要するなのはのスターライトブレイカ−であっても魔力のフィードバックやデバイス冷却を無視すればカートリッジ を使わず10秒毎。エクセリオン状態のディバインバスターであれば1秒毎で速射できる。となれば通常の魔力砲撃など理論上常時照射すら可能なのだ。 クラスAAのウィリアムの魔力砲撃は空冷の影響もあってまるで速射砲の如き驚異的連射速度で撃ち出され、敵を残らず叩き落とした。 ライアンは死角を心配せず、前方の敵にだけ集中すればいいためずいぶん気楽だ。 2人はそのまま分散していた敵を追い回して暴れ回る。そして敵が包囲作戦に移ったと見るや敵中真っ只中で即時転送魔法を行使。脱出した。 突然目標を見失ったガジェットは一瞬棒立ちになる。そこに集中するは後ろに控えた本隊の130(演習参加組80人、特別機動隊50人)近い魔力砲撃だ。 たくさん飛ぶ蚊も集まって止まってしまえば叩きやすし はやての発案のもと実行されたこの囮作戦は、なのは達オーバーSランクを含め魔導士部隊だけでもバルキリー隊だけでもできない。双方が手 を組んで初めて実現出来る作戦だった。 しかし敵は多い。まだまだガジェットはたくさんいた。だが遂に高空より援軍が到着した。 その援軍は青に塗装されたVF−11SGを先頭に編隊を組んでいる。 『こちらフロンティア基地航空隊。上空のゴーストは掃討した。これより援護する!』 放たれる大量のミサイル。 逆落としに迫るミサイルにガジェットは一瞬にして火葬にされた。 この時、初めて防衛側は優勢になった。 (*) 時系列は戻って演習中止直後 地上では旧市街(廃棄都市)のスタジアムから近い「核シェルター」への民間人の誘導と避難が進んでいた。 しかし出現した陸戦型ガジェットがそれを襲わんと市外から迫る。 そこで総合火力演習に参加していた陸士達は民間人の安全を確保しようと奮戦していた。 陸士部隊の中には約3ヶ月前にリニアレール攻防戦で活躍した第256陸士部隊もいた。 その部隊でも同攻防戦でロストロギアを守りきった第1分隊隊長であったロバート・ジョセフ准尉は昇進し、小隊を任されていた。 彼の小隊はガジェットを市街に入れぬよう市外に広がる森林に防衛ラインを設定。踏み止まって迎撃していた。 「ロバート隊長、北東40メートル先よりガジェットT型が8機、V型が1機接近中。」 声を潜めた観測班の報告を受けたロバート三等陸尉は、小隊に指示を発する。 「T型には89式かMINIMI(ミニミ軽機関銃)で対応しろ。V型は俺が吹き飛ばす。いいな?」 彼の部下は 「了解」 と応ずると散開していく。 第97管理外世界のJSSDF(日本国陸上自衛隊)の装備をまるまるバリアジャケット化した彼らの緑に溶け込む迷彩は、日本型の森の色彩に合っ て更に威力を発揮。すぐにどこへ行ったか見えにくくなった。 続いてロバートは自らの愛銃である89式小銃に指令を発する。 「『エイトナイン』、ランチャーパック装備」 『Alright.』 89式小銃のハンドガード下にM203グレネード・ランチャー(米軍の装備する40mmグレネード弾発射機)の口径を小さくしたものが生成された。 彼は弾帯に付けられたパウチを探ると1発の弾を取り出す。それはベルカ式カートリッジシステムの大容量カートリッジ弾だった。だが少し違う。弾 頭の部分に後付けの信管が着いているのだ。 ロバートは信管を遅発に設定し、ランチャーに装填。草に隠れて伏せ撃ちの姿勢になる。彼の突然の出現に驚いたのか蛙がピョコピョコと逃げてい く。その逃げていく先に敵を視認した。 同時にこちらへと進撃するガジェットに向かって部下達の銃撃が始まり、にわかに騒がしく動き回る。 頭の悪いあいつら≠ヘ、多方向同時攻撃に対して一瞬パニックに陥るのだ。
(まったく馬鹿で助かる。バジュラじゃこうはいかないからな・・・・・・) 彼は以前の職場を思い出す。 マクロスフロンティア船団の新・統合軍『アイランド3・地上防衛隊』に所属していた彼は、第2形態のバジュラの大群が船内で暴れた際に同船で必 死に市民を守ろうとした1人だった。 (しかしなんで脱出挺なんかに避難民を誘導しちゃったかな・・・・・・) 彼はそう考えて思考の脱線に気づいた。 ロバートは邪念を振り払って意識を集中する。そして目標を狙うと発射機の引き金を引いた。 ひゅぽんっ シャンパンの栓を抜いたような音をたてながら、魔力(で発生させた電磁気)によって加速されたカートリッジ弾が発射された。 音はショボいが、その実音速で飛翔するカートリッジ弾は目標であるV型に着弾した。 しかし遅発のためシールドと装甲を破って内部に侵入。そこで強制撃発すると内包する魔力を解放した。 内側から文字通り吹き飛んだV型。そして部下達がT型を撃破したことを確認すると一息入れた。 そして自身のインテリジェントデバイスである愛銃『エイトナイン』に礼をいう。 「いつも補正ありがとな」 『No problem. This is my job.』 「ふっ、生真面目なやつだ」 彼は銃身を擦ると笑いかけた。しかし休憩もそこそこ再び観測班から通信が入った。 「続いてガジェットT型が5、6・・・・・・くそっ!24機!V型も7機確認!続々増加中!」 さっきの数程度なら小隊単位で対処できるが、これだけ増えると手に負えない。 「佐藤分隊、吉田分隊、共に後退しろ。ポイントデルタに集合だ。両隣の第4,6小隊にも後退の旨伝えろ」 隊の皆に指示を出すと、自らも伏せ撃ちの姿勢から起き上がり後退する。 バリアジャケットである各種装備(ヘルメットや防弾チョッキ、野戦服)は純正の物より軽く、物理・魔法攻撃に強く、コンパクトにできていた。 そのため例え森林であっても動きに支障はなかった。 (*) 1分後 ポイントデルタ─────つまり旧市街入り口にロバートが到着した時にはすでに小隊全員の集合が完了していた。 周りを見ると両隣だけでなく、森に展開していた第256陸士部隊全ての小隊が後退していた。 しかし幸いなことにどこも戦略的後退で被害はないようだった。 (*) ロバートの部隊はその後市街入り口にて水際戦をやることになった。 任務はできるだけ時間を稼ぐこと。その間に残りの部隊は後方にトーチカ(防御陣地)を設営する。 幸い入り口付近に木はなく、森から入り口までの間30メートルほどが比較的開けているため間を渡ろうとする移動物の迎撃は容易だ。 また、入り口以外の場所は当時戦時中だったためか鉄条網(100年以上放置されても錆びていないことから鉄$サでないため、この表現が正 しいかわからないが・・・・・・)が張り巡らされており、実質的な入り口はこの付近では唯一だった。
部隊は入り口の両隣に建ったビルの2階と道路に展開する。 道路は遮蔽物がなかったので、特殊合金のためか100年経っても原型を保っていた車3台を押してきて横倒しにし、盾代わりとした。 車の背後に隠れたロバートは部下がしっかり展開しているか確認する。 今、彼の小隊の全ての89式小銃にランチャーパック(15mmカートリッジランチャー)が装備されている。 しかしこれらは彼らの魔力によって生成したものではなく、工場で生産されたものだ。 魔法で物を生成するにはインテリジェントデバイス、またはアームドデバイスの補助と、クラスB以上のリンカーコア出力が必要なのだ。 だが大半の隊員は量産された安価なストレージデバイスでクラスCの者が多い。 予算が増えても隊員のリンカーコアの出力が上がるわけではない。昔も今も陸士は空戦魔導士と違って泥臭く、大変な職場だ。そうなると空にいる ディーン・ジョンソンのようなポストを狙って本局から来た転職組に代表される優秀な人材は陸士にはならなかった。 しかし昔と違って今はミッドチルダの誇る工業力が彼らを支えていた。 ちなみにロバートの装備するインテリジェントデバイス『エイトナイン』は支給品ではなく、彼が大枚叩(はた)いて買った貴重な代物である。 閑話休題。 小隊は4挺のMINIMIと21挺の89式小銃を保有している。MINIMIは面制圧を得意とするため両ビルに配備され、虎視眈々と待ち受けている。 現在ロバートの小隊は道路に13人、両隣のビルに6人ずつ分散配置されており、上手く立ち回れば撃墜組が到着する20分後(撃墜組は演習空域 の外まで転送されていたため時間が掛かる)まで足止めが効くはずだった。 そしてついに、奴等は姿を現した。 ガジェットT型が数十機、一斉に森から姿を見せたのだ。 「撃ち方始め!」 彼の号令が飛ぶと、MINIMIや89式小銃が一斉に火蓋をきった。 魔法の世界とは思えないタタタッ≠ニいう喧しい連発音(これはできうる限り微小な魔力で無理矢理電磁気を産み出しているために発生する音で、 断じて$ン計者の趣味ではない)。 超音速で飛翔する5.56mm徹甲弾によってガジェットは確実に倒され、骸を中間地点にさらしていく。 銃撃が小康状態になった。 どうやら第1波は重武装、重装甲のV型の姿がない事から斥候部隊だったようだ。 時を置かず、次はT型、V型の連合部隊がやってきた。T型はともかくV型は通常の徹甲弾ではダメージが少ない。 ここで役立つのが新開発のランチャーパックだ。 ロバート達は待ってましたとばかりにV型にカートリッジ弾を撃ち込む。 一番前にいたV型は他の隊員からも放たれたカートリッジ弾数発を受けて擱座。後続もほとんど同じ運命をたどった。 「圧倒的ではないか我が軍は!」 ロバートの部下である佐藤曹長が高笑いながら言う。確かにこの分なら後方のトーチカはいらないかもしれない。そう思い始めたロバートだったが、 こういう快進撃は長続きしないのが世の常だった。 (*) それは第3波が終わり「さて次だ!」と構えた時だった。 今までのようにT型がなく、V型が横一線になって進撃してくる。 それがどうしたと精密照準した時、違いに気づいた。 V型は以前ボールとあだ名したように完全な球に近い。しかし、そいつは何かの箱を両側に装 備していた。 (なんだありゃあ?) しかしロバートは躊躇わず発砲。部下達も続いて6体が大破した。 そこで残りの無事だった機体が箱の蓋を展開し、それぞれ数発何か≠発射した。小さなそれは白煙を噴き出しつつ一直線にやってくる。 この光景に彼らはようやくそれが何か理解した。 「た、退避!!」
命令が早いか道路に展開していた部下達は蜘蛛の子を散らすように車のシールドから退避して、より頑丈な建物の陰へと飛び込む。 しかし足がすくんでしまったのか飛来するミサイルを見つめたまま固まってしまった部下の1人が目に入った。 ロバートは反射的に彼へと跳ぶと、押し倒して伏せさせる。 直後に襲う衝撃。そのマイクロミサイルはバルキリー隊のミサイルのように魔力爆発となっていたが、車に残っていた水素燃料に引火して大爆発を 起こした。 莫大な熱量によって空気が加熱され、ロバートは自身の上を相当な質量物が通過するのを感じた。 ようやく衝撃が収まる。 耳が『キーン』という不快な耳鳴りを鳴らし、潤滑油が燃える嫌な臭いが鼻をつく。しかしそれこそ生きている証だ。 ロバートは衝撃でクラクラする頭を根性で起こして顔を上げる。 目前には大破した水素自動車が建物に突っ込んでいた。どうやら先ほど感じた質量物とはあれのことらしかった。 続いて爆発地点を振り返る。そこには隕石でも降ったかのようにアスファルトが砕け、クレーターを形成している。その向こうには悠々と進撃してくる 敵が見えた。 無事だった両隣の建物から友軍の阻止砲・銃撃が続いていたが、まったく意に介されていないようだった。 防御の正面を無力化されたこちらと敵の新兵器。こうなると戦線の維持は困難だった。 「総員撤退!撤退だ!・・・・・・オイ!こんなとこで寝るな!」 先ほど押し倒した部下に右肩を貸しながら後退しようとする。 彼に外傷はない様子だったが、バリアジャケットの自動遮音設定をしくじったのか片耳が聞こえない様子だった。 「隊長!早く!」 退避していた部下達が遮蔽物から躍り出て遅滞行動(撃っては後退、撃っては後退という戦術機動を繰り返して敵の進攻を遅らせる戦術)をしなが ら呼び掛けてくる。 そこへ爆音が再び轟く。振り返ってみるとあの両隣のビルから白煙が舞い上がっていた。どうやらミサイル攻撃を受けたようだ。 『こちらAWACS『ホークアイ』。ビルの部隊は転送収容した。道路にいた部隊はそのまま第2次防衛ラインまで遅滞行動を続けよ』 「了解!」 ロバートは通信に応えると、肩を貸していた部下を他の部下に預ける。そしてバリアジャケットのヘルメットからガラス板のような片目型HMD(ヘッ ド・マウント・ディスプレイ)を引っ張り出した。 これは全隊員が装備している赤外線暗視装置などの情報端末でAWACS、バルキリー隊が導入したJTIDSに対応している。 本来ずっと着けておくことが望ましいのだが、まだ慣れていない(着けた方の目で照準すると距離感を掴みづらい)ことが常時装備の足かせとなって いた。 装備した右目に友軍の位置や状態、敵の侵攻ぐあいからエイトナインに装填された残弾までさまざまな情報が表示される。 「バノン班は右に見える遮蔽物に隠れてランチャーを曲射射撃しろ。それぞれ3発撃ったら後退だ。藤田班は引き続き負傷者を援護しつつ退避!」 『『了解!』』 出された指示に混乱もなく動いていく。JTIDSのおかげで上空からの視界があるため、それぞれが状況を把握した上で動けるのだ。さらにバルキ リー隊がいれば適切な爆撃目標の指示などもっと高度に運用できるのだが、無い物ねだりはできない。 ロバートは指示を終えると振り返ってエイトナインの徹甲弾をフルオート速射。HMDの残弾カウンターが急激に減っていく。そこに再び放たれたミサ イルが迫る。 やつらとは20メートル程しか離れていなかったため見る間もなく飛び退くが、後ろからやってきた魔力衝撃波によって吹き飛ばされた。目前に急激 に迫る建物の壁。 頭に走馬灯のように過去の光景が過る。なぜか思い出すのがフロンティアに置いてきた恋人のことばかりだったのが印象的だった。 衝撃 体に鈍い痛みが走る。 (痛っつ・・・・・・今度こそ死んだかな・・・・・・) しかし目が開けた。足も体重を支えている。
(まだ生きてる!?) 考える間もなくその場を退避。瞬間、その場を敵のレーザーが熱した。 そこでようやく自らの魔力残量が減っていることに気付いた。どうやらエイトナインが激突寸前に浮遊魔法をかけて勢いを殺してくれたようだった。 「インテリジェントデバイスにした甲斐があったぜ・・・・・・」 その呟きに腕の中でしっかりと保持する89式小銃がキラリと光った気がした。 前へと向き直ると自分達より先にいるバノン班が遮蔽物からようやくランチャーを発射。それらは自分達の上を通り過ぎ、迫撃砲のように侵攻してく る敵を真上から強襲した。 連続する爆音。 さらに第2、第3射が続く。 「やったか!?」 振り返ったがHMDを介した視界には敵を表す赤いレティクルがズラリと並んで、ほとんどの敵の健在を伝えた。 曲射では敵のシールドを破りきることができなかったようだった。 しかし時間稼ぎには十分だったようで、部隊のほとんどが無事第2次防衛ラインまで撤退した。 だがそれでも全く事態は好転しなかった。 リンカーコアの出力が低い陸士部隊には対抗できる強力な魔力誘導弾を形成する力はなく、圧倒的に不利になった。 言ってみれば弓矢しか使えない相手に大砲を投入するようなもので、射程も威力も段違いなのだ。 また大抵の陸士達のストレージデバイスには容量の問題でレーダーが搭載されていない。おかげでデバイス補正が利かないため、六課のティアナ のようにミサイルを撃って迎撃するなど無理な相談だった。 レーザー攻撃しか想定していなかった防衛ラインは次々突破され、上空の制空権が無いためガジェットU型が飛び交う。 第256陸士部隊は多数の負傷者を出しながら後退していった。 そして民間人を誘導した核シェルターまでたった200メートルしか離れていない最終防衛ラインにて、ようやく増援が到着した。 『こちらフロンティア基地航空隊と空戦魔導士部隊。これより貴、部隊を援護する!』 フロンティア基地から急いで飛んできた15機の編隊とそれに続く空戦魔導士部隊。 バルキリー隊は一斉に散開すると、ガジェットU型との交戦に入った。 そして空戦魔導士部隊はヴィータを先頭に少数の部隊を伴って降下してくる。 どうやら空戦魔導士部隊はそれぞれの方面で戦っている陸士部隊ごとに振り分けたようだった。 「やっと来てくれたか!」 最前線を守っていたロバートは安堵するとともに、近くに降りてきたヴィータ達に駆け寄る。 「遅くなってすまねぇな。とりあえず、目の前の奴等をぶっ飛ばせばいいんだな?」 開口一番、ヴィータを知らないロバートはその控えめに言っても若い(正直に言えば幼い)魔導士の強気のセリフに目を白黒させたが、間違ってい るわけではないので頷いた。 「了解した。おまえたちは陸士達の援護をしてくれ」 彼女はどう見ても年上そうな他の魔導士達に指示を出すと、雄たけびと共に突撃していった。 「ちょ、ちょっと君―――――!」 彼女の実力を知らないロバートは止めようとしたが、逆に魔導士達から止められた。 曰く、 「機嫌が悪いから邪魔しないほうがいい」
とのことだった。 幼い魔導士を突撃させることに戸惑ったロバートだったが、突撃先で展開されている無双を見た彼は考えを改めた。 あれだけ自分達が苦労したV型のミサイルをハエでも落とすように軽々撃破し、V型本体をも一撃において吹き飛ばす。 彼女のハンマーが振るわれる度にV型が姿を消していった。その後に残るのは少数のV型とT型のみ。 「それじゃ・・・・・・行きましょうか?」 ロバートは唖然としてその魔導士の声に頷くことしかできなかった。 (*) ヴィータが蹴散らした後を逆進撃する陸士部隊+魔導士部隊の行程は順調だった。 AMFによってAランク魔導士の魔力砲撃であってもなかなか破れないガジェットV型のシールドはランチャーを直接照準さえできれば陸士達にとっ ては無いも同然。次々撃破していく。 苦労させられたミサイル攻撃もAランク魔導士の手にかかっては全く脅威になりえなかった。 また所々で敵の強固な抵抗があったが、JTIDSの恩恵に預かるバルキリー隊の空爆とバトロイドによる強烈な肉弾攻撃によって軽々突破していった。 こうして共同歩調をとった管理局部隊は順調に侵攻し、ついに市街からガジェットを一掃した。 同時に上空の戦闘も終わったらしかった。 (*) 演習中止から3時間後 ガジェットは諦めたのか撤退し、民間人の帰宅も管理局の手配したバスによって開始されていた。 しかし大半の部隊が民間人の誘導か警戒配備されている中でロバートの第5小隊は『ポイントデルタ』、つまりさっきの市街入り口まで来ていた。 実は彼の小隊は1人だけ、ここで行方不明を出していた。分隊長の佐藤曹長だ。 爆発からすぐに撤退したが、その時彼だけがいなかったのだ。 JTIDSにも同時刻に死亡ではなくシグナルロストというタグが残っているだけだった。 そのため部隊はまだ見つかっていない彼の捜索に来ていた。 (*) 爆心クレーターに戻ってきたロバートは、まずギリギリまで彼がいた車の後ろを見てみる。 そこにはまるでトマトケチャップを蒔いたような跡が・・・・・・なかった。 「チッ・・・」 どっちが残念なのかわからないような舌打ちをしつつ、次に退避していそうな建物の陰を見る。最有力候補であったそこは大型の瓦礫で埋まってい た。 他も見たがそれらしい形跡はない。つまり彼はこの下らしい。これならシグナルロストも頷ける。ここのロストテクノロジーとなってしまった建築材料 は電波のみならずフォールド波の遮断性能に優れており、JTIDSを始めとする機器も建物の中ではほとんど使えなかったのだ。 ともかく合致する事象から行方不明の佐藤曹長は瓦礫の下であることは確実だった。それの暗示することは明白だったが、ロバートは自らの89式 小銃を一瞥すると手をメガホンのようにして瓦礫に大声で呼びかける。 「佐藤、君はいい友人だったが、君の父上がいけないのだよ!」 そして芝居がかったように 「ふっふっふ、ハッハッハッ!」 と高笑いし始めた。 突然の隊長の乱心に当惑する部下達だったが、理由はすぐに知れた。
『シャ〇・・・・・・、謀ったな!シ〇ア!』 瓦礫の下から聞こえるくぐもった微かな声。それは紛れもなく佐藤の声だった。 「やっぱり生きてやがったか。このガン〇ムオタクめ!」 ロバート・ジョセフはそう言うと、瓦礫に笑いかけた。 (*) その後瓦礫を撤去しようと様々な努力がなされたが、それは膨大かつ大きすぎてとても人力では動かせなかった。もちろん砲撃で砕くなどもっての 外だ。 「重機を持ってきてもらうしかないかな・・・・・・」 ロバートはそう思ったが、ここは旧市街。到着まで3日はかかるだろう。 (さてどうするか・・・・・・) 思考を巡らせていると、頭上から爆音が聞こえた。 フロンティア基地航空隊のVF−11だ。制空権維持のため、ガウォーク形態で上空警護をしてくれているのだ。 そこで彼の頭の電球的なものが灯った。 (バルキリーの馬力があればあの瓦礫ぐらい退けられるじゃないか!) さっそく通信を送ってみると、 『要救助者ですね?了解、今行きます!』 と快く了承してくれた。 戻ってきた翼に射手座のマークを着けたVF−11Gはガウォークでゆっくり降りてくると静かに着地する。そしてキャノピーを開けたかと思えばパイ ロットが降りて来た。 EXギアをしているからわかるその小柄で華奢なボディライン。バルキリーのパイロットは女性らしかった。 「要救助者はここでしょうか?」 彼女はヘルメットを取ってこちらに問うた。 意志の強そうなパッチリとした瞳が特徴的な、まだ16歳ほどの少女だった。胸の名札には「Sakura Kudou」とある。 この歳でバルキリーのパイロットになれるということはよほど優秀らしい。マクロスフロンティア船団、新・統合軍のバルキリーパイロットの倍率が平 時で20倍ということはザラにあった。 しかしロバートのその考えは勘ぐりすぎだった。実はただバルキリーが戦力になるか未知数で適応力の高い若者が起用されただけだったからだ。 「そうだ。要請に応じてくれてありがとう」 彼は礼を言うとそこへ案内する。 「ここにうちの部下が下敷きになって立ち往生しているんだ。バルキリーでどかしてもらえないか?」 彼はその瓦礫─────5メートルを優に越えるコンクリートの塊の下を指差す。彼女はその慘場を見て痛々しい顔をした。 「ああ・・・・・・わかりました。救護班・・・・・・とか一応呼んだほうがいいですね。いろいろ確認≠ニかあるでしょうから・・・・・・」
そう言ってバルキリーに戻ろうとする勘違いした少女を、ロバートは慌てて呼び止めた。 「あぁっ、クドウ三尉、大丈夫なんだよ。アイツは下敷きだけど、ぴんぴんしてるから」 「はい? でも・・・・・・」 彼女は見上げる。そのコンクリート塊の出どころは5メートル上のビルの外壁だった。 確かにあんな高さからあんな物が降ってくれば、即死を想像するのも無理はなかった。 「まぁ、持ち上げてもらえばすぐにわかるよ」 彼女は終始首をひねっていたが、そうしていても仕方ないと思ったのかバルキリーに乗り込んでいった。 (*) コックピットにEXギアが接続され、機体の一部となる。 さくらは深呼吸すると左手に握ったスラストレバーをさらに45度立てて倒立させる。するとVF−11Gはガウォークからバトロイドに可変。重く長すぎ るライフルを地面に置く。 そして彼女はスピーカーで注意を呼び掛けると、下の陸士達を踏まぬよう細心の注意を払いながら現場に向かう。 バトロイド視点は普段の人としての視点より約10倍もの高さにある。そのためさくらは昔読んだ「ガリバー」というどこかの次元世界にある童話の主 人公になったみたいで、この形態が好きだった。 そうして彼女はどけるべき塊を前にすると、マニピュレーターを精密作業用の設定に変更する。そしてかがむと手を伸ばした。 EXギアシステムの恩恵から、これらの制御は操縦者の動きをトレースして行われる。そのためガウォーク・バトロイド形態は比較的すぐに慣れるこ とができるようになっていた。 VF−11は自身の拳よりはるかに大きなそのコンクリート塊を両手でゆっくり持ち上げ、横に下ろした。 他にも大きな瓦礫が取り除かれ、後は比較的小さな瓦礫のみとなったため陸士達が引き継ぐ。 そしてそれ≠ェ現れた。 「・・・・・・いったい、何なの?」 コックピット内から見守っていたさくらは、その異様な物体に唖然とする。そこには円筒形をした風船≠ェあったのだ。 レーダーに連動したIFF(敵味方識別装置)とJTIDSはそれを陸士部隊の佐藤曹長と認識している。 刹那それは周囲の安全を確認したのか破裂し、中からヒトが出てきた。 彼は体の各部を確認すると 「う〜ん!」 と、大きく伸びをした。 その後彼は無事を喜び合う同僚達にどつかれたりしていたが、確かに元気なようだった。 「・・・・・どうなってるの?」 バルキリーは無駄にさくらの動きをトレースし、首をひねった。 (*) あとで聞いた話である。 陸士部隊は装備改変計画で、第97管理外世界のJSSDF(日本国陸上自衛隊)の装備を参考とした。 その後彼らはオーバーテクノロジーなどを用いた通常持たせられない機能を多数アップデートしていったのだ。 その1つがこの対衝撃・対爆・対圧・耐弾用のこの機能だった。 これは緊急時使用者が通常小さな金具を引っ張ることによって作動し、作動後0.5秒で最大に膨らむ。 そして一度膨らんでしまえば使用者は最大瞬間圧力100トンに耐えられ、簡単な生命維持装置も備える。そして必要なら光学迷彩もオプションで 着ける事のできる究極の籠城装備だった。 どうもあの佐藤曹長はロバートという隊長と一緒にインテリジェントデバイスへと換装していたそうで、その決断があの絶望的状況から彼を救ったら しい。
ちなみにこの風船(エアバック)は、自らバリアジャケットをパージするまで解除出来ないようにできていた。 陸士の新型バリアジャケットにはこのようなびっくりドッキリ機能≠ェまだまだあるが、それはまたの機会に記述しよう。 (*) その後順調に民間人の帰宅は進み、ほどなく完了。技研の調査隊が現場検証する中、各部隊も別れを惜しみつつそれぞれの基地に帰還した。 (*) 「―――――それで、なんでわざわざ管理局の展開している地域にガジェットを送ったの?」 グレイスが男に問う。 ここはクラナガン郊外の秘密地下基地だ。彼女は男―――――スカリエッティのやり方を理解しているつもりだったが、今回は常軌を逸していた。 管理局に打撃を与えるためならば撤退があっさり過ぎるし、レリック等の回収なら演習が終わった後にゆっくり取りに行けばいいはずだ。 しかし彼は飄々とした様子で答えた。 「いやぁ、魔導士とバルキリーの連携した時の実力を見てみたかったんでね〜」 そんなことのために陸戦型ガジェット500機、ガジェットU型300機、QF−2200「ゴースト」を70機も費やしたらしい。 しかし、所詮は機械。今スカリエッティは最新の工業ラインによってこれらを量産。今消費したのは4割に過ぎなかった。 ゲート≠ニ時空差≠フ関係上マクロスギャラクシーの工業ラインは使えないが、持ち込んだ小規模の移動式工場があった。 その工場では今もガジェットドローンとゴーストの量産が進んでいる。 ミッドチルダの工業技術などゼントラーディの自動生産工場を参考にオーバーテクノロジーをふんだんに利用したこの工場の技術に比べれば、工 場制手工業とオートメーション工場程の違いがあった。そのため、これでも十分と言えた。 また彼は、無人兵器を主戦力としては期待していないようだった。 「・・・・・・でも嬉しそうね。どうして?管理局が強くなるのがそんなに面白い?」 「ああ、ようやく管理局も目が覚めてきた≠ニ思うとね。・・・・・・これまでの苦労がようやく報われそうだよ」 そのセリフを吐くスカリエッティの顔からは狂気が去り、どこか人間らしさが漂っていた。 「そう・・・・・・ところで面白そうな情報があるの。興味あるかしら?」 グレイスの誘いにスカリエッティは乗ってくる。 「・・・・・・ほう、どんな?」 「これよ」 彼女はホロディスプレイを展開すると、インプラントの視覚情報を送る。 そこに写し出されたのは第25未確認世界の地球を回る人工衛星からの映像だった。しかしタイムラインは2040年のものだ。 そこでは空中戦が行われている。片や前進翼が特徴的なベージュの機体と深い青に塗装された機体。そしてもう片方は2機に比べて一回り小さい 赤色の機体だ。 赤色の機体はその機動性に物を言わせて2機を翻弄する。しかし結局青い機体と刺し違えて撃墜された。 「これはあるシステムが暴走して、私たちの世界を恐怖に突き落とした時の記録よ」 グレイスはそのシステムが現在最新のゴーストのAIとして動作していること等を説明する。 「それがわたしとどんな関係があるのかね?」
「私達はあなたの裏切りを恐れてそのシステムをあなたには渡さない方針だった。でも、どういう訳か≠アの世界の密輸業者の手に渡ってしまっ たの。それは1週間後にあるホテルで密売されるらしいわ。それで、あなたはどうする?」 グレイスの問いに暫し沈黙していたスカリエッティだったが、突然笑い出した。 「ククク、いいねぇ、実に面白い!もちろん貰いに行こう。さァ、オーバーテクノロジーを使ったAI、どんなものか楽しみだ!」 そして彼は 「では、ごきげんよう」 と言って奥の部屋に消えた。そこは彼の本命の研究であり、主戦力として期待する戦闘機人$サ造の機材が一切合財入っている。 グレイスも見たがインプラント技術の進んだ彼女から見れば幼稚なものだった。わざわざ胎児の段階から改造を始めなければいけないとは・・・・・・ しかしグレイスはそんなスカリエッティを買っていた。 科学の万能を信じ、それを実施できる能力を持った彼はありし日の自らそのものだった。 それに今の彼にはランシェやマオのような邪魔者はいない。そこで邪魔者がいなかった場合の自分を彼と重ねているのだろう。 (情に絆(ほだ)されたものね・・・・・・) 本来銀河中に広がるこの計画の幹部達の許可が必要な技術供与だが、今回はグレイスの独断だった。 「さて、どう出るかしら。ミッドチルダの皆さん」 グレイスは誰に言うでもなく呟いた。 ―――――――――― 次回予告 対決が過ぎて彼らは・・・・・・ 次回マクロスなのは第16話『大宴会 前編』 イベントの歌、銀河に響け! ―――――――――― 以上で投下終了です。 ありがとうございました!
56 :
一尉 :2011/01/16(日) 21:35:18 ID:yNlzLQEp
支援
職人のみなさんGJGJ!! んで 某所よりredEyseネタを天災 ロビン「何故、子供を戦場に連れてきた」 フェイト「えっ……?」 ロビン「何故、子供にデバイスを持たせた」 フェイト「そ……それはその……」 ロビン「子供にデバイスを持たせるな! 戦場でデバイスを持つという事は……人を殺す、殺される、どちらも承知するという事だ。 管理局を立て直し、新しく築いていくのはその子たちだ……大切にしろ」 エリオ「うっ……ううっ、フェイトさん」 フェイト「ごめんなさい、エリオ、キャロ」 ロビン「この状況を招いたのは……大人達の責任だ」
>>57 redEyseが何だか知らんけど、非殺傷設定の存在を完全に無かったことにしてるSEKKYOUだよね
的外れすぎて失笑しか出ないわ
>>58 いや、的外れなのはそこじゃない…
(魔法の)才能がある人間以外は戦場に立てないし、そういった人間が足りてないことを無視している点だろう。
明日に廻せるような備蓄がないとも言う。
小ネタでも最低限の世界観ぐらいは把握してほしい
随分前に予告したディケイドクロスをコツコツ書き溜めてるんですけど 書けば書く程に話が膨らんで行くという袋小路に陥ってまだ投下が先になりそうスマソ
>>58 ふむ……
全ての犯罪者が非殺傷設定で丁寧に攻撃してくると?
クアットロとか最終話近くではガチ殺す気まんまんでしたが何か?(*´ω`*)
>>59 >>60 リリカルなのは大好きですよ
でもそれでも資質があるからといって
9歳児を戦場に出しちゃマズイだろう、と思うんですがねぇ(*´ω`*)
>>61 いいじゃないか!
長編大作どんと来い!!
じっくり練り上げてください!!
ま、かく言う私も自作品を停止させているオオバカものっすがorz
63 :
一尉 :2011/01/19(水) 19:55:28 ID:BqQCz/JM
支援
現実基準でフィクション語るとか理想郷でやってろ
お仲間が沢山いるぞ
>>58 で言われてんのは『殺す』部分だろ
そういうところは相手の基準に合わせるくせに子供が戦場云々でフィクション側を基準に出来ないんだね
しかしSEKKYOUしたがる連中は覚悟云々のくだりがテンプレなのかって位それしか言わないよな
>>62 そもそも彼らの赴く現場ってガチの殺し合いの戦場ではないと思う
あれはあくまでJS事件が特殊な事例なだけ
あと返答で顔文字付けるのは止めた方がいい
相手を馬鹿にしているように見える事があるから
>>62 某SSでもあったが、「殺さずに捕まえるのが仕事」なわけだから、
子供も大人も関係なく局員は非殺傷を使うのが当たり前。
たとえ相手が殺す気でかかってきたとしてもだ。
殺し殺されのSEKKYOUをしたいんだったら、戦争屋のところにでも行ってきなさい。
>>67 グレイスは第2話ぐらいからすでに出ていたような・・・・・・まあ細かいことは置いといてGJ支援ありがとうございます!
byシレンヤ
さて、ドラなの第3章を11時20分より投下しますので、ご協力お願いします!
…ファンタジーだと結構あるよな少年局員とか少年兵とかが、 たとえばウッソエヴィンとか友永勇太とか相良宗助とか
>>68 よっしゃああ!まってましたああああああ!!
全力で待機!!
>>69 物語の展開としての少年局員少年兵はセオリーですよね
Vガンではウッソを見た敵軍の人が「子供が戦場に出てくるなんて」ってショックを受けてる描写とか
ああいうストーリー展開は私は大好きです。
それでは時間になったので投下を開始します 『ドラなの』第3章「誕生会」 「「はやてちゃん、お誕生日おめでとう!」」 十数人の歓声に続いて『パンッ、パンッ』と室内に轟く銃声・・・・・・じゃなかったクラッカーの破裂音。 そして頭から肩まで瞬時に出現した7色の紙テープを装備させられることになった八神はやては、身内・友人達を見回して 「みんな、ありがとう!」 と彼女の持てる精一杯の笑顔を返した。 検査から4時間を経て開催されたはやての誕生日会は総勢16人(ザフィーラ、アルフは犬形態で外なため、実質的には14人と2匹)と大規模なものであった。 さすがにここまで来るとそれなりの広さを持つ八神家でも収容しきれない。そのため会場は海鳴町でも1、2を争う豪邸であるすずか邸で行われていた。 そして金持ちであるからに――――― 「ああっ!ドラ屋のどら焼きがあんなにいっぱい!」 遠くから見てもメーカーがわかるらしい。 パーティーに呼ばれていたドラえもんが山と積まれたそれをロックオンすると、ミサイルもかくやという正確さとスピードで肉薄。目標に食らいついた! 「気に入ってもらえたかな?しずかちゃんから『ドラちゃんはどら焼きが大好きなのよ』って聞いて取り寄せたんだけど・・・・・・」 すずかに問われたドラえもんは 「うん!うん!」 と大きく頷いて見せる。 「もう大、大、大好き!これをくれるなら何でもやっちゃう!」 「うん、良かった。喜んでもらえて」 すずかはドラえもんの本当に美味しそうな食べっぷりに無邪気な笑みを浮かべるが、そこにスネ夫がほの暗い笑みを隠しながら介入する。 「じゃあこれから毎日どら焼き奢るからさ、僕の所来ない?」 「え?毎日!?どうしよっかな・・・・・・」 身を乗り出して考えてしまうドラえもん。しかし危険を感じ取ったのび太が駆けつけた。 「もう、そこは考えないでよぉ〜!」 「ハハハ、ごめんごめん。じゃあスネ夫くん、明日からお願い―――――」 「ってそっちなの!?」 そんな風にドラえもん懐柔計画が進む中、スピーカーで拡大された声が武力介入した。
『それではこれより、はやてちゃんの誕生日を祝して、一曲贈りたいと思います!』 即席に作られた壇上に立ってマイクを握るは、剛田たけしことジャイアン! その宣言にシグナムなどの守護騎士一同も、結婚式場レベルの豪華な食材が並ぶ机を囲っていたなのは達も一斉に血の気が失せた。 みんなの思いはただ1つ。 「「(ここで歌われたら死人が出る!)」」 歌エネルギー(音波による振動エネルギー)が外部に逐一逃げていく野外ですら恐ろしいのに、それが乱反射するであろう室内では壮絶な地獄が 予想された。 しかし───── 「いよ!待ってました!気張っていきや!」 シンとした会場に上がる1つの歓声。 「はやてちゃんありがとう!」 はやての発破にジャイアンはさらに気分を良くしたようだ。持ち込んだラジカセを操作しながら礼の声を上げた。 「「(はやてちゃぁぁぁん!)」」 全員の心の悲鳴が響き渡る。 はやてはあの歌の恐ろしさを知らないのか!? しかし主賓が言った以上、もう誰にも止められない! こうなってしまっては彼女らは次善の策を講じるしかなかった。 『(フェイトちゃん!)』 『(うん!)』 念話による通信で瞬時に意志疎通を図った2人はそれぞれ待機状態の己のデバイスに命ずる。 「レイジングハート、物理防御バリア展開用意!最優先モード!」 「バルディシュ、対光波・音波バリア展開準備!」 『Alright.』 『Yes sir.』 両デバイスが同時に応じる。 ジャイアンの歌は時として"物理破壊を伴う"。そのため室内では落下物(例えば頭上に輝くシャンデリアなど)に対処するため、なのはのシールドは 遮音以上に大切な生命を守る最終防衛ラインだ。 しかしそれだけしても遮音と物理防御の効果があるのは近くにいた静香とアリサ、守護騎士一同、そしてはやてだけだろう。 すずかやのび太達は肩を落としながら壇上前に集っており、距離が有りすぎる。 しかし視線を戻したなのはは、はやてが効果範囲から出ようとしている所を目撃した。 『(は、はやてちゃん!バリア張るから効果範囲から出ないで!)』 しかし彼女は 『(ウチのために歌ってくれるのに、聞かないなんて出来へん。それに"大丈夫"やて)』 と自身たっぷりに返信。 こちらに対応できる力があることを知らない静香、そして念話を解せないアリサも道連れに効果範囲から出てしまった。
「ど、どうするなのは!?」 フェイトが焦って呼び掛けてくる。 なのはが回答に詰まっていると、今度は守護騎士達が動いた。壇上前へと。 「シグナム!どこへ!?」 「ヴィータちゃん!シャマルさんも!」 2人の呼び止めに彼女らが振り返る。 「我ら守護騎士。"死する"時は、主(あるじ)と共に」 とシャマル。 そしてシグナムも 「・・・・・・最期になってしまったが、テスタロッサ。お前のような勇敢な魔導士に出会えて良かった」 と辞世の句のように告げる。 続いてヴィータが 「なのは、教導隊入り頑張れよ。"上"から応援してるからな」 と決めた。 台詞回しは申し分ない3人だが、足が震えていることがフェイトには少々滑稽に映った。 ともかく3人は効果範囲から出ていってしまった。 ・・・・・・不意に、俯いたなのはが呟く。 「―――――フェイトちゃん、私、間違ってた」 「へ?」 「相手の短所も受けれなきゃダメだよね」 どこか清々しい表情を浮かべたなのははレイジングハートを胸ポケットへ。そして空いた左手を差し出してきた。 「"いこう"、フェイトちゃん」 その吸い込まれるような菩薩の微笑にフェイトの生存本能がオーバーライド。"いこう"が例え"逝こう"だろうと受け入れる覚悟を決めた彼女は、その手を取った。
(*) 『よぉし、みんな!準備はいいかぁ!?』 「「おぉーーー!!」」 自棄(ヤケ)になった人々は歓声を返す。 そして彼ら彼女らはこれから起こるであろう惨劇を予想して、ある者は竦み上がり、またある者は現実逃避に走る。 さらにこうゆう時(死期)は普段絶対に言えないことも言えるものだ。フェイトは彼女の大親友に最期の告白を行おうとしていた。 「なのは、実は私、なのはのことが─────」 「フェイトちゃん?」 その決意がもう少し早くて、もう少し早く言っていたならこの先の未来は違ったかも知れない。 しかしそうはならなかった。 周囲が身構える中、ジャイアンが大きく"腹式呼吸"。マイクを持つ右手の小指がピンと立つ。 そして───── "瞳閉じれば 出逢えるのは何故─────" 聞こえてきたのは一曲の歌だった。 それは半年以上前に聞いたダミ声でも何でもない。透き通る春の風とも呼べばいいだろうか?それほどまでに暖かい歌声だった。 気づいた時には聴衆達はその歌に体を預けていた。 もうここにはあのガキ大将と怯える子供達などいない。舞台と客席が一体となり、ただ1つの歌があった。 曲は流れるようにサビへと突入。歌手、剛田たけしは手のひらを広げた左手を客席のただ一人、八神はやてへと向けて歌い上げる。 "─────蒼い地球を守りたい!君だけのために〜!" その熱を含んだ熱唱にはやては恥ずかしそうに微笑み返した。 こうした時を過ごして歌という名の永遠は、曲の終了という終わりを告げた。 しかし観客達は興奮冷め止まぬように盛大な拍手と歓声とを彼に送った。 「明らかに上手くなっている!」 「たけしさんステキぃーーー!」 「アンコール!アンコールを!」 そんな歓声にジャイアンはいつもの調子に戻って 「ありがとう!心の友よ!」 と歓声に応えた。 だがそれは止まない。
「「もう一曲!もう一曲!」」 と彼へのコールを続ける。 彼は初めてのことに涙し、声を張り上げる。 「いよっし、じゃあ一曲だけだ!だがこれはみんなで歌えよ!」 「「おぉ!!」」 再びジャイアンは腹式呼吸。その歌を紡ぎ出した。 "ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデー・・・・・・" 誰もが知る誕生日に歌う定番曲『ハッピーバースデートゥーユー』。しかしそれは全く違った、だが温かくウキウキしてくる曲に聞こえる。これがあのジャイア ンに眠っていた真の実力なのであろうか? そして武、なのは、フェイト、アリサ、すずか、シグナム、ヴィータ、シャマル、のび太、スネ夫、ドラえもん―――――全員の声が一人の少女に向けて唱和した。 「「♪ハッピーバースデー、はやてぇ〜!♪」」 それと同時に少女は棒状のライター、いわゆる「チャッカマン」の火を、ロウソクのように吹き消した。 途端に剛田武のコンサートホールは 「「おめでとう!」」 と歓声溢れるパーティー会場へと戻った。 (*) ジャイアンの歌の種明かししよう。 結論を言ってしまえばドラえもんは今回何もしていない。 これの主な関係者はジャイアン自身と"八神はやて"その人だ。 実ははやてはここ半年魔導の力が使えなくなって空いてしまった時間を様々なことに投資していた。 教育の充実によって短期化が遥かに進んだミッドチルダでは11歳ですでに中学卒業レベルの学問をこなしており、ある程度社会進出しても遜色な い歳と見なされているという。 もちろん管理局で戦技教官や執務官をやるだけなら、見合った技能と日本クラスの道徳観を持ち、義務教育を全うすれば何の問題もない。 しかしはやては『命令されてその通りに動く"手駒"にはなりたくない』という強い思いがあり、管理局の局員養成校『ミッドチルダ防衛アカデミー』の士 官候補生になるため勉学に時間を投資していた。 そんなとき、はやてはある噂を耳にした。 「ジャイアンがまたリサイタルをやるらしい」 学校中を瞬時に駆け巡り、生徒達を恐怖のどん底へと叩き落としたその噂。 しかしはやてはこれを好機とした。ジャイアンは歌が物凄く下手なのは知っていたし、時として物理破壊を伴う彼の歌は丁度バリアジャケットの"対 音波防御性能"のテストに最適だったのだ。 そして周囲の聴衆が耳を塞ぐなか開催されたリサイタル。 光波・音波防御(対閃光手榴弾設定とも言う)を最大に設定したバリアジャケットを着用したはやてはその歌を普通に聞くことができた。 そして彼女は聞いているうちにそれほど悪いものでもない事に気づき始め、さらに言えば彼に天性のものを感じていた。
・重心の低い体型。 ・日々大きな声を出すことによって鍛えられた肺活量と喉。 ・溢れる体力と気力。 ・ほぼ全員耳を塞いでいるのに挫けないで歌い続ける不屈の心などなど・・・・・・ それでも現状全く上手くない。ジャイアンにとって最大の悲劇は、初期値がアンバランスすぎて誰も真面目に聞けなかったことがもっとも大きい。 最後にははやては素で拍手を送っていた。 それからはジャイアンと歌で意気投合。週に2〜3回のペースで歌の練習を開始した。 場所は学校の裏山。お陰で裏山から聞こえる歌を怪物の鳴き声と誤認した周辺住民が 「裏山に怪獣が住み着いたらしい」 と噂し、恐れられたが問題ない。 それが2ヵ月前。はやても歌の知識はほとんどなかったが、図書室で借りた"ウガ"とかいう出版社の出したあの本で何とか埋め合わた。 例えば今までやっていた胸式呼吸から腹式呼吸への転換などがその対処法だ。 ジャイアンは聞いて、アドバイスをくれる人がいて気分よく練習できる。 またはやても、未だ実用化されていない音波振動兵器(音波により対象物質の共通振動数を伝えて、共振によって内部から破壊するとされる兵器) の論文を書けそうなほどのデータを集める事ができた(これは『ミッドチルダ防衛アカデミー』の入学論文のためである)。 余談だがジャイアンの歌は超広域に渡る周波数の音波を発しており、どんな理屈か電磁波にも変換され、ギガヘルツ帯の携帯電話やデバイスの アクティブ・レーダーを妨害するなどECM(エレクトロニクス・カウンター・メジャー。電子妨害手段。)に近い能力を発揮することもあったという。 ともあれ、こうしてジャイアンの歌のスキルは格段に進歩。今に至っていた。 「はやてちゃんがそんなことをやっていたなんて・・・・・・」 シャマルがはやての説明に驚いたように口元を押さえる。 「シャマル、お前はずっと近くにいたのにこんな危険な行動も把握できていなかったのか?」 シグナムに非難のセリフをかけられ 「ごめんなさい・・・・・・」 と済まなさそうに謝る。 「プライバシーって言うから・・・・・・」 「プライバシー?・・・・・・ああ、あれか。難しい世の中になったものだ・・・・・・」 シグナムは何も考えずとも主を守るだけで良かった過去をほんの少し懐かしく思った。 しかしこれこそ"道具"である自分達、守護騎士システムに与えられた一人の人間として生きることの自由と独立の代償。甘んじて受け入れねばならぬものだった。 「ま、結果オーライってことで!な?」 「・・・・・・はい。わかりました。しかしあまり無理はなさらないでください。主に何かあったらと不安になってしまいます」 「了解や♪」 はやてがおどけて敬礼して見せる。この様子だとまだなにかやっているかもしれない。 しかしシグナムは口では言っても不思議と不安な気持ちにはならなかった。彼女の周りには我ら守護騎士だけでなく、頼もしい友人達がいる。 何かあっても、命を張ってでも助けようとしてくれる友人が。 我らが主は本当に、そういう得難い大切な人達に恵まれていた。
「はやてちゃ〜ん、それにみんな〜、ビンゴ大会始めるわよ〜!」 アリサ・バニングスがビンゴカードの束を持ってこちらに呼び掛けてくる。 はやてはそれに 「今行くで!」 と応えると、小走りするように向かった。 しかしシグナムはその元気な後ろ姿に、もうすぐ魔導の力がなくなることを彼女が聞いて、どんなに落ち込んでしまうかと思うと気が気でなかった。 (*) 時空管理局艦船 L級巡察艦 56番艦『アースラ』 第97管理外世界近傍の次元空間で待機するこの艦艇では、艦長であるクロノ・ハラオウンがある人物と通信を行っていた。 『─────そっか・・・・・・はやてちゃんの病気はやっぱり・・・・・・』 「ああ。詳しい検査結果を見たが管理局の技術では太刀打ち出来そうにない。しかし原因はほぼ特定した。間違いなく闇の書だ」 『・・・・・・なるほど、それで珍しく連絡してきたってことか』 「そうだ。君の活躍にも"ちょっぴり"だが期待しているからな」 クロノの嫌味がかったセリフに画面の中の彼は 『ちょっぴりは余計だな。これでも無限書庫の司書なんだよ』 と苦笑いしてみせる。 『まぁ、実を言えば1週間ぐらい前に闇の書に関連しそうな古文書がここで発掘されたんだ。今は急ピッチで解読作業に掛かってるんだけど、こっち は見ての通り設備も人員も限られてるからなかなか進まないんだ。本局に行けば解析チームがいるんだけど・・・・・・』 彼のいる場所は砂漠の真ん中に一張りの中規模のテントがあるだけという寂しい場所だった。 「そこは第12管理外世界か。それなら近いから個人転送でアースラに来い。本局までの足ならこれが一番速い」 『うん。ここの発掘は本業の人達に任せてこれから古文書を持っていくよ。受け入れのほうをお願い』 「了解した。歓迎するよ。しかし出港は明日、はやてに検査結果を知らせてからだ。だからまだ急がなくてもいいぞ」 『いや、すぐに行くよ。こんな埃っぽい姿じゃなのは達に会わせる顔がないし、僕も早くシャワーでも浴びたい』 「最後の行水から1カ月と言ったか?水ならアースラにたっぷりある。必ず入れ。本艦の中で異臭を撒き散らすことは許さんからな」 『ハハハ、手厳しい。それじゃあ後で』 若き考古学者はそう告げると、通信を閉じた。
(*) 誕生会はビンゴ大会、誕生日のプレゼント渡しと進行していくなかで異様なまでに盛り上がった。 しかしそんな楽しい時間も永遠ではない。彼ら彼女らが気づいた時にはもう時計は午後8時を知らせていた。 「楽しかったけどもう遅いし、お開きにせなあかん。・・・・・・みんな、今日はウチのためにホンマ、ホンマありがとう!」 はやてが壇上でマイクを両手に保持し、最高の笑顔で一同に告げる。それを合図にしたかのようにどこからか巻き起こる拍手。それは次第に拡がり 最後には全員に伝染した。 八神はやては車椅子で生活して過ごした3年以上前には考えもしなかったこの光景に、胸が一杯になった。 (*) 20分後 八神家一同はすずか邸専属メイドさんが運転する車で。なのはとフェイトもアリサの呼んだハイヤーで帰宅の途に着いた。 ここでできればドラえもん達もスネ夫の呼んだリムジンで・・・・・・とか言いたい所だが、世の中そう甘くない。 彼らの足はもっぱら己が足と自転車ぐらいだ。 静香の場合は家が八神家に近いため乗り合わせても良かったが、自転車をすずか邸に乗り捨てる訳にもいかない。必然的に自転車で帰る事になった。 ちなみにドラえもん、のび太は自転車がないので『どこでもだれでもローラースケート』だったりする。のび太達は自転車が羨ましいと言うが、果たし て普通の人からすればどちらの方がいいのか・・・・・・ まぁ、それは置いておこう。 5人ともスケートや自転車を使わず話しながら帰っていたので、ものすごくゆっくりだ。そしてそれは丁度彼らが空き地前の角に行き着いた時だった。 一同の内、ジャイアンが何かを見つけた。 「何だありゃあ?」 ジャイアンの指差す先にはやや太い黒猫。いや、短足だからそう見えるのか。しかし最大の問題はそれが"二足歩行"しているという事だ。 見つかった事にびっくりしたのか 「キキーッ」 などと鳴きながら空き地へと逃げていく。 明らかにネコの鳴き声ではなかったが、ジャイアン達には関係ない。 ジャイアンとスネ夫は自転車に飛び乗ると、 「かわいそうよ!」 という静香の制止を振り切って 「捕まえて見せ物にしてやる!」 と言いながら追撃、空き地へ入っていった。 しかし次の瞬間聞こえてきた声は 「捕(と)ったどぉーーー!」
というような喜びの雄叫びでも 「逃がしたか!」 という悪態でもなかった。 暗い空き地に明らかに街灯とは違うオレンジ色の閃光が走ったかと思うと、 「ギャァァァ!」 というスネ夫の悲鳴が響き渡った。 「スネ夫!?ドラえもん!」 「うん!」 のび太とドラえもんが現場に駆けつけようとローラースケートで地面を駆る。 しかし空き地に着くと同時に今度はジャイアンの悲鳴が耳に届いた。 二人はそこで見た。"何かが書かれたオレンジ色の円状の透明な板"と、そこから伸びる"オレンジ色の光線"を。光線はあやまたずジャイアンを捉 えており、当のジャイアンは感電でもしたように硬直。光線の解除と同時に地面に倒れ伏した。 「ジャイアン!」 のび太の声に呼応するような形で今度はこちらに光線が放たれた。それをなんとか建物の角に入ってやり過ごせたのは僥倖(ぎょうこう)、もしくは 奇跡と言って良かろう。 「ドラえもん、これじゃ近づけないよ!」 「よぉし・・・・・・!」 ドラえもんも相手を脅威ある敵と見なしたのかポケットに手を突っ込む。そしてひみつ道具を取り出した。 「『スーパー手袋』!早く着けるんだ!・・・・・・『こけおどし手投げ弾』!僕がこれを投げ込むから、爆発したら突入。向こうが怯んでる隙にジャイアン 達を助けるよ!」 「O・K!」 ドラえもんはのび太が手袋を着けたと見るや、手投げ弾のピンを抜き 「口をあけて目と耳を塞げ!」 という注意を発して空き地へとそれを投擲した。 数瞬の後轟音と共に炸裂。カメラのフラッシュほど短い時間に強烈な爆音と閃光を放射し、対応していなかった者の目を、耳を奪った。 「ゴー!」 ドラえもんの掛け声と共に二人は空き地へと雪崩れ込む。そこにはスネ夫とジャイアンが倒れていた。 それをのび太達はスーパー手袋によって得られる怪力とローラースケートによる機動力で救出、搬送を開始する。 ここまでの経過時間はたったの10秒弱。 素人には過ぎるタイムだ。おかげで敵からの迎撃はなく、ドラえもん達は二人を背負ったまま空き地から脱出。静香とともに安全圏への退避を図る。
「・・・・・・」 一目散に逃げていたのび太は2ブロックほど進んで後ろを振り返ったが、敵の追撃はないようだった。 というか根本的に"敵"はあのネコなのだろうか? 一方ドラえもんもこのまま逃げても仕方ないとみんなを建物の影へ誘導する。 「のび太くん、ジャイアンを」 ドラえもんは担いでいたジャイアンをのび太に託すと、再びポケットに手を入れる。しかし目的のものが出ないのか四苦八苦している。 「これも違う、これも違う、これも、これも、これもぉーーー!『お医者さんカバン』はどこだぁーーー!」 その焦りに見かねた静香に 「落ち着いてドラちゃん!」 と諌められる始末。 しかしその焦りも分かる。のび太の両腕に感じる重み。スーパー手袋を通して確かに感じるその重みは地球重力によるものではなく命の重みだ。 どちらにも切り傷といった外傷はないが、いかなる攻撃だったのかよくわからない。 のび太にはその辺りの知識はなく、それがさらに不安を煽った。 しかしドラえもんがようやく役に立つものを探し当てた。 「・・・・・・ん、これなら!『壁紙秘密基地』!」 ドラえもんは声も高らかにポスター大のそれを出すと、民家のブロック塀にそれを貼りつけてシャッターを開いた。 「中に!奥に治療のためのベッドがあるから二人をそこに寝かせて!」 ドラえもんはスーパー手袋を静香に渡す。 のび太は少なくともジャイアンよりは取り回しがきくであろうスネ夫を彼女に託すと、シャッターの先にあるはずのベッドへと向かった。 (*) ジャイアンを担ぐのび太、スネ夫を背負う静香を先に入れ、ドラえもん自らも入ろうとして静香の自転車の存在に気づいた。 「危ない危ない・・・・・・」 見つかっては困ると彼女の自転車を四次元ポケットへとぶち込み、やや煩雑にシャッターを閉めた。 閉めてしまえばこちらのもの。数ある壁紙シリーズのなかでも最大のサバイバビリティ(生存性)を発揮するこの道具は、発見されにくいこともさる ことながら、内部空間が超空間になっているため仮に壁紙自体が焼けても違う場所に出入口を出現させることができるのだ。 シャッターの施錠閉鎖を確認したドラえもんはさっと階段を駆け降りると、この施設の1つである治療室へ。 しかしそこではのび太と静香がまごついていた。 「ドラえもん、この"ベッド"でいいの?」 指差されるまるで棺桶のような箱。どうやらもっと寝台のような形を想像していたらしい。現代と未来の治療室の違いから発生したジェネレーション ギャップであった。 「うん。急いで!」 ジャイアン達が所定のベッドに寝かされたことを確認すると、近くの制御コンソールから治療コンピューターを作動させた。
支援 ドラえもんの道具のほうがなのは達の魔法より夢があるよねw
この秘密基地にはたいていの設備がそろっており、おもちゃに近い『お医者さんカバン』の域を超える高度な治療すら全自動で行うことができるのだ。 こうして二人を寝かした棺桶の蓋が閉まると、中央画面に検査中という文字が表示された。 棺桶の内部ではX線や超音波、核磁気共鳴など多岐に渡る種類の検査が「これでもか!?」というほど行われている。あの棺桶のような形状は患 者を外部から完全に遮断して検査の精度の向上を図ることと、内と外の人間を同時に守るための形だった。 「・・・・・・ドラえもん、どう?」 のび太が聞いてくるが、結果が出るまで何とも言えない。そのため 「う〜ん・・・・・・」 と唸ることしかできなかった。 (*) 機械の動作する音以外は沈黙が支配するその場に不意に光が戻った。 結果が出たのだ。 「えっと、ケガの程度は・・・・・・軽傷みたいだね。よかった・・・・・・」 のび太がさらっと流し読みしてその結論を読み上げた。しかし静香は他の部分も気になったようだ。 「ねぇドラちゃん、ケガの内容の所の『MEPによる1度の魔力火傷』ってあるけど、MEPってなぁに?」 ドラえもんは処置するよう機器を操作すると、その質問に答えようと頭を捻る。 「あ〜えっと・・・・・・僕が持ってる『タケコプター』って知ってるよね?」 「ええ」 「あれとか他のひみつ道具も電池で動いてるんだけど、それが貯めてるのは電気じゃないんだ。MEP(マジカル・エレメンタリー・パーティカル)。訳 して『不思議な素粒子』とか、誤訳か知らないけど『魔力素』とか呼ばれる空気中に浮かぶ素粒子を『連結核』っていう専門の発電所で使えるエネル ギーに変換して、そのエネルギーを貯めておくものなんだ。だからこの時代じゃ僕の道具の充電がきかない」 「へぇ・・・・・・でもどうして電気じゃダメなの?少しぐらい過去に行っても充電できるじゃない」 当然の疑問である。そんな特殊な電源を使ってはせっかくの道具も使えなくなるばかりだ。しかしドラえもんは首を振る。 「ううん。これじゃないとダメなんだ。MEPはちょっと工夫するだけで簡単に重力子の制御による重力制御とか、空気中の元素に干渉して任意の物 質を作るとか、空間歪曲による空間の瞬間移動とか・・・・・・う〜ん、いきなり言ってもわからないよね・・・・・・」 もっと簡単に伝えたいんだけど、昔教科書で丸暗記したことを少しアレンジしてるだけだから・・・・・・と弁明するドラえもんに、静香は 「それでもいいわ。続けて」 と促す。 「うん。ともかくMEPはいろいろできるんだ。・・・・・・そうだ、例えば電気だけでタケコプターを飛ばそうとすると、重力制御装置が大きくなりすぎてこ こまで小さくできなかったり」 ・・・・・・お分かりだろうが、タケコプターは回転する翼(ローター)で発生させた揚力で飛ぶヘリコプターの原理と同じではない。
それを行った場合羽が小さすぎて必要な揚力が得られないばかりか、回転が強すぎて危険である。 そのためタケコプターには翼の内部に重力制御装置が組み込まれており、これによって10割の負担を軽減しているのだ。 トドのつまりプロペラ(回転翼)は見栄えと、目と耳でどの程度動作しているか(正常、電池切れ、故障など)を確認する"お飾り"である。 「じゃあこの魔力火傷ってのは何なのさ?」 続くのび太の質問にドラえもんは 「多分魔力素って誤訳からできたものだと思うけど・・・・・・」 と前置きをすると、ある道具を取り出した。それは彼の持つ道具の中でも攻撃的な要素の強い『ショックガン』だ。 ドラえもんはそれを空いた棺桶に入れるとフルスキャン。画面にその内部構造を示す3次元図面が浮かんだ。 「MEPは何にでも使える。例えばこのショックガンもこの丸い形をした粒子加速器で、こんな感じにMEPを速くして打ち出す道具なんだ」 誰か準備したのか、それとも今作ったのか―――――おそらく後者だろうが―――――パイプ状のリングの中を粒がくるくる回り、パッと前に撃ち出すアニメ ーションが流れた。 「・・・・・・MEPはすごく小さくて、普段は物を通り抜けちゃうんだ。でもこうしてビームにして密度を上げると、たまに物や体に衝突するものが出てくる。それが 当たった場所にショック、つまり火傷みたいな症状を与えて気絶させる。それがショックガンなんだ」 「えっと・・・・・・つまり、相手がショックガンを使ったってこと?」 「わからない。とりあえず今は様子を見るしか・・・・・・」 ドラえもんはそれだけ言うと黙り込んでしまった。 (*) 時系列はジャイアン達の襲撃直後に遡る。 次元航行船『アースラ』は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。 第97管理外世界でオーバーAランククラスの魔力砲撃の発砲を3発探知したのだ。 魔力周波数、魔力光、それら個人を特定する2つの要素は地球に駐屯するどの魔導士にも適合しなかった。しかし分かることは1つ。 術式がミッドチルダ式であることだった。 こうなると次元犯罪者の可能性が高くなる。 現在エイミィ達電算室のメンバーが術者を映像に収めようと努力しているが、強力なジャミングが行われているのかまったく映像電波が通らなかった。 「なのは達に知らせろ!海鳴町、中央空き地にて危険魔法使用。警戒しつつこれを確認せよと」 クロノの指示が飛び、通信担当の部下が動く。 なのは達は民間協力者とは言え管理局から謝礼という形で給料を貰っており、すでに管理局局員に数えられていた。 「艦長、すでに高町さんはフェイトさんと共に現場に急行中との事です」 「うん、さすが地元だ。初動が早い」 感心する内に他から通信リンクが開いた。クロノは怪訝な顔をしつつそれに応える。 「ん、どうしたシグナム?こちらの情報はそちらにも送ったはずだが─────」
『違う!"主はやてが消えた!"こちらでは精神リンクを含め消息を確認できない!そちらはどうだ?』 「なんだと!?・・・・・・エイミィ!」 「はいよ!」 クロノの指示にエイミィの手が目にも止まらぬ速打ちで機器を操作して確認するが、結果は同じだった。 「バイタル、デバイスの信号、第97管理外世界を含め、半径20次元宇宙キロ以内に応答認めず!本艦は、完全にはやてちゃんをロストしました!」 その報告にクロノは思わず艦長席のパネルに拳を打ちつけた。 「くそ!やつらの狙いははやてか!全力を挙げて探せ!転送魔法、結界、失踪に関する全ての可能性を洗い直すんだ!」 「「了解!」」 中央電算室のメンバーが一斉に応答。この事態にその誇りを掛けて挑み始めた。 クロノは一応の落ち着きを見せると、シグナムにどのように消えたのか説明を求める。 『それが・・・・・・目の前から突然消えたんだ』 シグナムの説明によると、はやては誕生会から家に帰ってすぐ疲れていたのか居間のソファーで寝入ってしまっていたという。 そこで風邪をひいてもいけないとシャマルが掛け布団を掛けようとしたその時、彼女は全員の視界から何の前触れなしに消え失せたらしい。 『誰も結界、転送魔法なんて感知しませんでしたし、物質操作魔法で空気中に元素分解された様子もないんです!こんなの普通あり得ません!』 シャマルが悲鳴のように言う。 確かに質量を持つものが我々の3次元世界で肉眼によって見えなくする方法は4つほどしかない。 1つはブラックホールのような強い重力で光をねじ曲げる方法と、2つ目は光を完全に吸収、もしくは反射させない事で相手の目に光を届かなくさせる方法。 もちろんブラックホールに代表される超重力を使うものは荒唐無稽であるため除外。後者は後ろの光を通して透明化する魔法として多用されるが、シャマ ルの探知能力は優秀で、この近距離なら必ず何かを探知するはずである。つまりこれも違う。 3つ目は核分裂などによる質量欠損。 しかしこれも『E=mc2乗(エネルギーは質量×光速の2乗)』という有名な式の通り、欠損した質量は全て熱、音、光といったエネルギーに変換される。それ なりに軽いと予想されるはやてであろうと、質量全てがエネルギー化すれば余裕で日本を地球から消滅させることができる。よって除外。 最後の4つ目は肉眼で見えないほどバラバラに分解すること。 多少困難を伴うものの、恒常的に使われる物質操作魔法(例えばデバイスを無から空気中の元素を固定して生成したりする)によって実現可能なこの方法。 そのためシャマルは大事をとって空気中の浮遊物を調べた。が、予想される空気の密度変化、もしくは質量の増加は確認できていなかった。 ともかくこの神隠しはエネルギーや質量といった対価となる何かが出ない以上、物理的にあり得ないものだった。 しかしそれはあくまで3次元的な考察であった。 「まさか・・・・・・本当にこんなことが・・・・・・!?」 解析していた電算室の一人が画面に釘付けになった。 「どうした?何か見つかった?」 主任であるエイミィの問いかけに彼は振り返って頷く。 「はい!データを送るので再確認願います」
データが送信され、エイミィがそれを一から解析し直す。そして導き出した結論は同じだった。 「なるほど・・・・・・これはイノベーション(技術革新)もいいとこだね・・・・・・」 「・・・・・・どうした?報告しろ」 まだ何にも知らないクロノがこちらに問うてくる。エイミィは自身すら信じがたいその結果を報告した。 「海鳴町全体を包む"結界"を確認!しかし魔法としてのプログラムを介していないようで、発覚が遅れました!」 「魔法を介さないだと!?そんなことができるのか?」 「今の技術じゃ無理です。おそらくデバイスなどに頼らなくてもいいほどの"科学"を持った者の仕業だと思われます。これより結界の突破方法の模 索に入ります」 エイミィ達電算室メンバーは再びフル稼働体勢へと突入していった。 (*) 結界内 はやてが目を覚ますとソファーの上にいた。壁の時計によれば眠ってしまった時間は10分かそこらのようだ。 「シグナム?・・・・・・シャマル?・・・・・・ヴィータ?・・・・・・ザフィーラ?」 誰も応えなかった。 「あれ?みんなどこ行ってしまったん・・・・・・」 先のアースラと今とで2度目の独りぼっちに寂しさが募った。 「まぁ、さっきまでにぎやかやったし、しゃーないか・・・・・・」 『祭りの後の独りは寂しいもの』と割り切ったはやては、みんなを探そうと立ち上がる。 だが、その目があるものを捉えた。 「えっと・・・・・・どちら様でしょうか?」 そこにいたのは浮世離れした色白の女と、"二足歩行"したネコだった。 To be continue・・・・・・ 以上で投下終了です!ご支援本当にありがとうございました!
乙! UGAすげーw ショックガンは非殺傷設定のデバイスだったのかw
88 :
62 :2011/01/20(木) 00:57:18 ID:PPeS4KF3
>>86 ほほう。
ここでそう来るかーー!
続き期待してます!!
ドラえもん劇場版の男気全開なジャイアンが見たいです
>>65 >子供も大人も関係なく局員は非殺傷を使うのが当たり前。
ですよねー。
警察組織ですから当然ですよね。
で、それでも子供を最前線に立たせますか?という疑問が
>>64 の指摘している「フィクション側(管理世界)の基準」なら使える人材は9歳児でも使えということですね
そこ言い出すと、次は、なんで最初期からそんな感じで幼女が戦ってるリリカルなのは見てんの? ってことになると思う。
フィクションにマジレスとか
>>87 ,88
読んでいただきありがとうございます!これからもがんばるのでよろしくお願いします!!
>>89 1期2期は魔法少女だからそういうもんで済ませられたが3期以降は……
>>88 そんなあなたに魔法少女まどか☆マギカがおすすめよー
まあ、本人がやりたけりゃいいんじゃね?
禁書のステイルさんじゅうよんさいとかだって、未成年なのにドロドロの世界に望んでいるし。
どらなのさんGJっす。
設定関係はちんぷんかんぷんだから、また読んでおくとして、最後の引きが強いぜ。
94 :
一尉 :2011/01/22(土) 19:41:26 ID:7HVt+9wW
支援
>>93 あれかぁ……
3話で先輩魔法少女が頭から食い殺されるとか、『魔法少女』の名を冠するにはやたらグロいんですがw
シャッハさんがロールシャッハと化したら。
/ ‖ =只= ‖ ヘ i / ´ ` ヘ i ゙、 ヘ.___,ヘ__,ノヾr’ |=.|.| | ´╂`.| |..|.=| | | | |,・╂>.|,| | i ; ,|//.・╋> ;ヽ| i. /´,`ヾ、‖, /`ヽ、.i / / | `´冫 丶. \ / / | / .丶 ゝ \ /⌒へ、 | 丶,ィ´⌒冫 ノ ` ` .| |ソ__,ノ |-_〆、 ノノ |――|ー|――| .| l l l:l| . | l .| l:; |l l l l.| .| l .; ;.' 冫; ; ;! |. l : 〈 // l l| !l l l i! ! l .l l| i l l l i,. /\/| |\/:i |..:::::::::| i.::::::::::| .!:::::::::| !.::::::::| |::::::::! !:::::::| .|.::::::| .!.::::.| |:::::| |__:,| ,|:::_:| / レ、 ||/ ` | / `|. l / 丿 \_/ ヽ-´ 彡
シャハハ!
多分誰もが一度は考えるシビアな魔法少女を本気でやってくれたよな
ジェノサイバーとのクロスが読みたいな〜 ジェノサイバーVS機動6課とか・・・ てか、ジェノサイバーを解る人がここにいるかさえ疑問かもwww
そろそろてつを来んかのう
Λさんを待ち続けています
まそう少女VSリリカルな19歳VSもっさんとかやろうぜ。
106 :
名無しさん@お腹いっぱい :2011/01/26(水) 14:36:15 ID:6UuLoMGN
アニメがんばれゴエモンとかBWネオのクロスとか
マギカからリリカルなのはを知って レンタルの半額期間に一期からStSを一気に借りて見ました。 ええ、私はリリカル世界にハマりました! それからまとめサイトでいろいろ読みました。 私は『加治隆介の議』とStSのクロスを書いているのですが これはフィクションにマジレスに抵触するのでしょうか? よろしくお願いします。
勝手にやれよ 二次創作なんて人それぞれだ お前がアウトだと思うならアウトだしセーフと思うならセーフだろ 面白ければ見るしつまらなかったらNG処理するだけ
未だ謎の多い古代ベルカに関して様々な記述を残した本が何と97管理外世界で発見される。 その本を出版したのは社長自らが取材・執筆をして出版している民明書房と言う弱小出版社で、 社長である大河内民明丸が取材旅行の最中に時空の乱れによって古代ベルカの時代に飛ばされ そこで経験した事を「自身の創作小説」と言う事にして執筆・出版した物であった。 民明書房なら仕方が無い。
マギカと言われると思い出すのは『レンタルマギカ』 いつき「なのは、僕の右斜め上45度にディバインシュート ユーノ、左斜め後方32度にプロテクションだ」 とか……
113 :
一尉 :2011/01/29(土) 21:45:51 ID:8X7ETNqS
超空の連合艦隊ならクロスにしてもいいかも。
職人の皆さんGJ してレッドアイズとのクロスまだですか? ネタ書き込みで叩かれても頑張れw
118 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:06:05 ID:/YbgWqnE
投下の予告も無さそうなので、LB氏の代理投下をさせていただきます。 さるさんを喰らう可能性もあるので、よければ支援お願いします。 **** [中記念、LBです。 規制中の為、こちらに6-Dを投下します。 注意事項 相変わらずの大容量、45KBオーバー かなりのオリ設定詰め込み そしてD無双
119 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:07:01 ID:/YbgWqnE
其は、魔を討つ魔にして一人の騎士。 其は、数多を斬って乱舞する狂戦士。 其は、ただ一人だけを守る優しき少年。 其は、全ての敵を殲滅する冷たい兵器。 “双剣の騎士”、“戦いを嫌う臆病者”、“規格外の怪物”、“任務の出来ない落ちこぼれ”、“出来損ないの人形”。 僅か二年の間に呼ばれた、彼の者の代名詞が数々。 されどもそれは昔の話。怯えも迷いも失敗もない。 最強となる筈だった騎士剣の力と、決して揺らがぬ信念を備えた彼は、確かに騎士として完成したと言えるだろう。 “双剣の騎士”、“規格外の怪物”、“虐殺の狂戦士”、“生きた殲滅兵器”、“理不尽の権化”、“賢人会議の最終兵器”。 嗚呼、しかしてそれは喜ぶべきことだろうか。彼が強くなったことを賞賛する者は、知人を含め誰一人として存在しなかった。 一人殺せば犯罪者、百人殺せば英雄。しかして数百の人間を虐殺し、尚も世界から犯罪者と叫ばれる者。 優し過ぎるが故に、ある意味相応しくもある意味相応しくない力を生まれ持つ者。 ――今、双子の騎士剣が振るわれる。 第六章:D-side 舞う者たち 〜Dream or Real〜 天井から突き刺さる照明を見上げ、ディーは眩しさに眉を顰めた。 時の庭園内で最も広いフロア。段差の無い床を複数のシャンデリアが照らしている。 視界を前方に戻せば、壁に程近い場所でこちらと向き合うプレシアの姿があった。 一方のディーも、数メートル後方には反対側の壁が存在する。 周囲は既に、不自然な空間の揺らぎが広がりつつある。これはプレシアが結界を作っている為だ。 プレシアの右手には杖型のデバイス、左側には立体表示されたコンソール。ディーの腰には鞘へ収まった二振りの騎士剣が既にある。 これから行うのは紛れもない模擬戦。プレシアの提案に対し、百聞は一見にしかず(Seeing is believing)ということでディーも合意したのだ。 情報制御と魔導に関してはお互いに情報交換はできるものの、魔法士or魔導師相手の効果は試してみないと分からない。戦闘もまた然り。 ディーとしても早めに対魔導師の感覚や対策を練っておきたかったので、願ったり叶ったりである。 因みに、お互いの“魔法”は情報制御と魔導に区別する事で話が纏まった。
120 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:08:01 ID:/YbgWqnE
前者は元々正式名称なので兎も角として、後者は過去の呼称とのこと。 今では魔力素によるエネルギー運用技術そのものを“魔導”、完全個人運用の技術を“魔法”と区別しているらしい。 魔導師と呼ばれるのはその名残なのだとか。 「……展開完了。これで結界自体が破壊されない限り、何を壊しても問題ないわ」 不定形に揺らいでいた空間が前触れなく整った直後、コンソールの操作から顔を逸らしたプレシアの声が響く。 そこまで派手な破壊能力など、ディーは持っていない。しかし突っ込んだら睨まれるので口には出さない。 「さて、早速始めるとしましょう」 (大規模情報制御を感知) 言葉と共に、床下から次々と“何か”が浮き出てくる。それらは見る間にディーの身長を追い越し、西洋に近い巨大な全体像を顕とした。 掃除ロボットや自動警備システム等は見た事こそあるものの、こういったものは魔法士の世界に無かった。 資源やエネルギー関係の問題は勿論、技術面の違いもよく分かる代物である。 「傀儡兵、ですか」 「誰も私だけとは言ってないわよ?」 妖艶さすら含んだ腹黒い笑みに、苦笑で答える。この人物、やはり一筋縄ではいかない。 というか、物を壊すのは傀儡兵の方が上ではなかろうか。突っ込んだら睨まれるのでやっぱり口に出さない。 決して出せない訳ではない。決して。 「ところで……例のあれ、解析できましたか?」 模擬戦の提案後、ついでとばかりに頼んだ事がある。 自分とセラが転移させられた、謎の現象。唯一の手掛かりは、表示されていたデータのみ。 賢人会議の参謀に伝わるよう砂浜に書き記しはしたものの、巻き込まれた自分がこのまま手を拱いている訳にはいかない。 違う技術を持っている魔導師達なら、何か別の事が分かるかもしれないとディーは考えた。 幸いプレシアは魔導師であると同時に研究者でもあったため、これまた願ったり叶ったりである。 「模擬戦の準備で忙しかったけれど、一目で大体分かったわ。もう少し暇な時に詳細なものを渡すから、待って頂戴」 「ありがとうございます」 期待以上の返事に安堵する。そういえばそんなこと言ってたわね、とでも言われたらどうしようかと思っていた。 最近になって人となりを把握し始めたものの、何やら精神的に追い詰められている様子。 娘に強く当たるのも関係しているのだろうが、原因が隠されていると思しきプレシアの研究室は立入禁止区域。
121 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:09:01 ID:/YbgWqnE
迂闊に危ない橋を渡る訳にはいかない。 「ルールは簡単よ。これらの防衛を突破して、私に一撃当ててみなさい。敗北条件はそちらも同じ。制限時間は十五分。何か質問は?」 律儀に説明と質問タイムを送ってくれる。 普段の態度からしてちょっと意外だが、実験である以上ちゃんと成果が出なければ納得しないのだろうと考える。 何にせよありがたい為、遠慮なく問う。 「プレシアさんへの直接攻撃は、どの程度まで有効ですか?」 「バリアジャケットを傷付ける程度」 「傀儡兵は壊してもいいんですか?」 「胴体を破壊されなければ数日でスペアと交換できるから、胴体の破壊だけは禁止よ」 「プレシアさんは戦うんですか?」 「ええ。こんなお人形ではできない事もあるから」 「わかりました」 それだけ聞ければ十分だ。 手にしてから既に二年ばかり、実質自分とほぼ同い年の騎士剣を掴み、両腰の鞘から引き抜く。 頭の中でスイッチを叩くのも、また同時。 (I-ブレイン、戦闘起動) 思考の主体を大脳新皮質上の生体コンピュータ――I-ブレインに移行。 五感の神経パルスだけでなく、自分を含めた周囲状況までもが数値データ化。 脳の通常部分へ余計な負荷がかかる事を防ぐため、フィルター処理を施されて漸く神経に戻される。 その思考速度、実に十億分の一秒(ナノセカンド)単位。何もかもを置き去りにする圧倒的な演算速度が、物理法則を超越する。 (「身体能力制御」発動) 発動するのは騎士能力の基本。体内の物理法則を改変して高速行動を可能とする能力。 ディー自身も騎士としての能力は非常に高く、騎士剣の補助がなかろうと七倍速で行動できる。 魔導師の感覚で言うなら、バリアジャケットを装着する作業に近いかもしれない。相違点を挙げるなら、あちらが防御でこちらは加速というところか。 次に、数と体格差を考慮し、音速をも凌駕できる出力を調整。敵数は二十。個体の大きさは前述の通り。 (運動速度、知覚速度を十五倍で定義) 周囲の全てが倍率分の一に減速し、自分だけがスローモーションの世界で極普通に動けるようになるという状況が作り出される。 正確には、周りが遅くなったのではない。自分が速くなったのだ。 ……このくらいでいいかな? 出力は、自分より二段下の並以下――第三級(カテゴリーC)の騎士が発揮できる程度。 少し加減し過ぎかもしれないけれど、相手は“条件つきの”保護者。
122 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:10:01 ID:/YbgWqnE
敵でも味方でもない以上、手の内を隠すに越したことはない。いざという時も、後で出力を引き上げれば済むだろう。 それに、模擬戦の目的は勝利や瞬殺などでは断じてない。 互いに情報交換を行い、騎士の能力もある程度説明こそしたものの、能力の応用法や奥の手については伏せた。 プレシアも同じようなもの故、おあいこである。 細い両腕を、小振りな双子の騎士剣と共に翼の如く広げる。一対多、二刀流で全方位に注意を向ける構えだ。 準備完了。まずは後の先で迎え撃つ。 「――いつでもどうぞ」 * 構えた少年に対し、プレシアは強い違和感を覚えた。 ハスキーなアルトの声。思わず性別を間違えてしまいそうな声。今発したそれは、余りにも泰然として乱れがない。 銀色の瞳。人形染みた顔の中で唯一意志の強さを表していた瞳。今輝くそれは、冷たく鋭く尖っている。 全体的に頼りなさが――人間らしさが存在しない。まるで機械人形と入れ替わったかのようだ。 平常からのギャップを感じるその冷たさが、鋭利な刃物を連想させる。 ……これは…… 異様な雰囲気に、プレシアは狂気の瞳を鋭く細めた。 生まれて二年で任務続きだったとは聞いている。しかし、昔からこうだったのだろうか。 それとも短期間における非常識な戦闘経験と、それに伴って築き上げた精神が、少年を限りなく冷徹なものへと変えているのか。 後で聞いてみなければと心に留めつつ、情報交換で得た騎士・魔法士関連の知識を思い出す。 記憶・演算・出力。多少の違いはあれど、魔法がその三竦みによって発揮される技術でしかない点は、魔導も情報制御も全く同じだった。 大きな違いと言えば、魔力を媒介としているか否か。どうも魔法士の場合は演算のみでゴリ押ししているらしい。 能力発動の際、イメージは愚か詠唱も予備動作も不要と言えば、理不尽さも少しは分かるだろうか。 ミッドチルダの最新鋭CPUですら足元にも及ばない、圧倒的な演算速度。その数値を聞いた際は流石に頭を抱えた。 魔力に演算を施して何らかの効力を持たせられるなら、別の物も理論上可能なのではないか。 過去にそう考え、そして挫折していった者達はどうやら間違っていなかったようだ。 では何故魔力だけが操作できるのかを少年に問えば、情報強度の問題ではないかと返ってきた。
123 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:11:01 ID:/YbgWqnE
如何に出鱈目な演算能力を持つ魔法士でも、変質出来ない物は存在する。人間やコンピュータなどの“考える物体”がそれだ。 自身の肉体ならまだしも、他者の情報強度は非常に堅い。 物体に魔力を通してからだと演算出来ないのは、その魔力が既に対象の所有物となっている為ではないか。 無機物制御を例としたこの仮説がプレシアの研究意欲に火を点けたのは、また別の話。 何にせよ、“I-ブレインを備えぬ人であっても変質させることのできる唯一の物体”こそが魔力だった。 立体コンソールの操作を開始。二十を数える傀儡兵達をそれぞれの指示を与える。 配備されている傀儡兵は全六種類。この模擬戦で扱うのは、大型と空兵型を除く四種類。 杖を手にした魔導師型が四体、弩弓と翼と尻尾が特徴的な弓兵型が二体、剣や斧、盾等を装備した歩兵型が十三体。 残る一体は各フロアのボス役を務める中型である。 歩兵型・弓兵型は主に物理、魔導師型は魔導、陸戦AAランクに匹敵する中型は物・魔の併用で攻撃と防御を行う。 防衛時の自律行動では反応が良くても頭は悪い。よって、今回はプレシア自らが手動操作する。 庭園の駆動炉からエネルギー供給を受けて動いているため、傀儡兵のエネルギー切れを心配する必要はない。 ただし魔導の発動には別途で魔力が必要な為、予め貯蓄してある。 中型はプレシアの傍で待機、弓型はフロア上空から狙撃ポジションを取り、魔導師型を後衛・歩兵型を前衛に置く。 まずは歩兵を進める所だが、今回は模擬戦という名を借りた実験。魔導師型を先に動かす。 小手調べやその他の意味合いを込めて、四体中一体に高速直射型の魔力弾を生成させる。勿論演算は傀儡兵頼りだ。 発動魔法はフォトンランサー三発。一つは頭部、二つは胸部へ照準。 傀儡兵の前方に、逆三角形の並びでスフィアが出現。その上で傀儡兵の補助動力とされる魔力が固められ、弾殻が作られる。
124 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:12:01 ID:/YbgWqnE
魔力弾に関して講義を受けた際、騎士の少年は「炎使いみたいですね」と評していた。 分子運動制御特化型魔法士“炎使い”。 名前通り周辺の分子運動に干渉し、熱量や運動量を操作することであらゆる物質を銃弾・盾・槍、材料次第では爆弾にすら変える能力である。 対して魔導師が射撃や防御に使っているのは、魔力唯一つ。 空気分子などを直に操れないため、魔力そのものを分子運動制御の材料にしているようなものだ。 比較すれば魔導師の方が劣っているように聞こえるかもしれないが、伊達にミッドは汎用性を求めていない。 魔法士が持ち得ていないのは、運用する物質に別途で付加効果を追加する事だ。 所謂ウイルスのようなもので、ブースト魔法や防御魔法等が代表例として挙げられるだろう。 だからこそ、たった今形を整えた青紫の魔弾には非殺傷・非物理破壊設定という“ウイルス”が入っているのだ。 術式完成。スフィア・魔力弾生成完了。残るはトリガー唯一つ。 少年の隠してきた力を垣間見る。それは、閉ざされた箱の中身を覗く行為だ。 無論、空である事は決してない。ありとあらゆる方面からその証拠は挙がっている。 問題は、中身の価値が魔導師にとってどれ程のものなのか。 今や禁忌とされる人造魔導師や戦闘機人に次ぐ新たな可能性に、研究者としての好奇心が擽られる。 故に、躊躇も恐怖もありはしない。 「ファイア」 たった一つの号令を合図に、中身にも軌道にも一切の捻りなく、弾丸は少年へ牙を剥いた。 * (攻撃感知) 先端の尖った魔弾が動き始めたのは、額の裏側に浮かぶI-ブレインからのメッセージと同時だった。 魔力の色に関しては既に学習済みなので、動揺は皆無。注視するべきは弾丸の形状・速度・性質である。 速度は実弾にこそ劣るものの、殺傷設定時の威力は弾体の大きさで補って尚余りあるだろう。 恐らく、単純な高速直射型。誘導性皆無の初歩的な魔力弾だ。引っ掛けは無いと見ていい。 突き進むは三発。うち二発はディーの胸部を、残る一発は額目掛けて迫る。 十五分の一に減速して見える魔の弾丸を冷静に見つめ、ディーは一歩踏み込んだ。 魔導師ならば、この時点で選ぶ選択肢は基本的に回避か防御である。 高い移動能力で躱すか、障壁を作り出して防ぐか。もしも魔弾を無力化できる攻撃手段があるのなら、“迎撃”を選んでもいい。
125 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:13:01 ID:/YbgWqnE
しかし、既に相手が弾丸を射出してきた時点では、同じ飛び道具による迎撃は難しい。 更に指定した方向へ一直線に向かう高速直射弾を三発も、完全同時に撃ってきたのだ。これでは武器を振るって撃ち落とすのもままならない。 並の人間でも、並の魔導師やあのフェイトであっても、この状況では回避優先が関の山。次点として防御に迷うだろう。 だがしかし、標的としてそこに佇んでいるのは誰だろうか? 只の人間? それとも魔導師? 何の力も持たない非力な少年? 手に持つ双剣を脅しにしか使えない憐れな優男? 答えは、全て否。 魔法士である。そして騎士である。魔法士を倒す為に作られた魔法士であり、魔法士達から化け物呼ばわりされる程の規格外である。 たった一人の少女を守るために満身創痍の身体を引きずり、二千の敵兵に単身立ち向かった騎士である。 両の剣を縦横に振るい、その戦いで何百もの兵を切り伏せ、“近接攻撃のみで敵を殲滅する兵器”と化した魔法士である。 そんな彼の思考からは、回避も防御も浮かばずに。 1+1=2を記述するように、迎撃を選択した。 非殺傷設定だろうとはいえ躊躇なく額を狙った一発を、僅かに屈み込むことで直撃軌道から外れる。 次に、この体勢だと両肩に命中するであろう残りの二発を照準。翼で身を隠すように両腕を折り畳む。 腕は脇の下を通り、剣は元々収めてあった鞘の上を通過し、更に後ろへ。 これから行う“実験”が失敗しても確実に受け流せるように軌道を調整し、迎撃。 完璧なタイミングと精度でバツの字に振り上げた双剣が、二つの魔力弾を過たず捉える。 (「情報解体」発動) 同時、騎士が所有する二つ目の能力を発動。 その能力は、騎士剣に接触した物体の存在情報に直接干渉し、消去するというもの。 情報の側から存在を全否定されれば、対象は物理的にも存在を維持できなくなり、原子単位に分解されて砂の如く崩れ落ちるのだ。 両肩を打ち据える筈だった青紫の弾丸は騎士剣によって軌道を逸らされつつ、形状をも崩される。 ディーの後ろを通り過ぎた時には、解体された魔弾は青紫の粒子――魔力素と化して散っていた。 一方、頭上を通った弾丸は勢いを止めず、後方の壁に着弾。 非殺傷・非物理破壊設定にしてあったのか、元から綺麗だった壁には傷一つ付いていなかった。 青紫の輝きを放っていた魔力の残滓は、空気に溶けて色を失う。
126 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:14:01 ID:/YbgWqnE
遅れて、大魔導師の表情が僅かに揺らいだ。能力は既に三つ目まで簡潔に話してある為、一驚以外の理由である事は確かだ。 対してディーは、確かな手応えを感じていた。 生まれてから二年。それはそのまま、ディー自身の戦闘経験とほぼ等しい。 チタン合金や電磁射出の銃弾、軍用フライヤーや単分子ワイヤー、窒素結晶や荷電粒子、時には捻じ曲がった空間まで。 普通の人間なら短いと言い切れる時間の中、それなりに色々な物を解体してきた。 その上で、内心に浮かぶ感想はただ一つ。 ……やっぱり、脆い。 騎士剣を介して知覚した、魔力弾の情報強度が、呆れる程低い。ここまで情報強度の低い物質を解体したのは流石に初めてだった。 同時に、これはディーの予想を全く覆さない結果でもあった。 何せI-ブレインを持たない人間でも演算で運用できる物質だ。それ程までに変質しやすいなら、情報側で“堅い”道理など存在しない。 ディーが構え直し、配置されていただけの傀儡兵達も一斉に得物を構える。 両者にとって、魔弾と剣の衝突こそ開幕のゴング。お互いの拳と拳を突き合わせただけの、ただの挨拶だ。 ここからが、本当の小手調べ。炎使いと同じ、という先入観は以ての外。 魔導師側の手札は、大まかな分類を見ただけでも非常に多彩である。最初は眼を白黒させたものだ、と心の内で苦笑する。 パッと見の為まだ明言こそできないものの、既知の魔法士で最多の手札を持つカテゴリ“悪魔使い”よりも多いだろうとディーは踏んでいる。 数日程度しか学んでいない事も相俟って、油断は禁物。一つ一つ、対象の形から情報制御のパターンまで隈なく観察する必要があるのだ。 身構えるディーに対し、向こうも動く。杖を持った傀儡兵四体に、プレシアまでもが魔力弾の生成を開始する。 I-ブレインで視力を補正し、形作られていく総数二十以上の弾体を見やったディーは―― 「……うわぁ……」 思わず顔を引き攣らせ、呻いた。 物量は脅威に値しない。第二級(カテゴリーB)の炎使いでも桁一つ多く氷の槍を展開できる。つまり、看過すべきでないのは質だ。 先程と一見してあまり変わらない槍状の高速弾は勿論の事、近い形で言うなら片刃の剣や球、果てには回転し続けるブーメランまで浮遊している。 これ程多種の魔力弾を一度に生成するのは、実戦において“無駄”の筈。
127 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 19:15:01 ID:/YbgWqnE
あらゆる飛び道具でこちらの反応を探り、効果のある魔力弾を探すつもりなのだろう。 勿論ディーも、プレシアがそういう考えで仕掛けてきた事は理解できる。できるのだが。 ……これ、全部射撃……? 数が多いのではなく、種類が多い。デュアルNo.33、初めての体験である。 怯懦はない。ただ、余りの多彩ぶりに少々辟易しただけだ。 しかして相手は待ったを知らない。何とも言えない感慨を抱いている中、全体の三分の一を占めていた魔弾群の一角が射出され始める。 高速弾の群れに、幾つか別の弾体が混じった混成射撃。その上空で、弓兵型が弩弓を引き絞る。 遅れて歩兵達も前進開始。外見に似合わぬ俊敏性でフロアを駆ける。 気を取り直したディーは、更に前へ。騎士に防御の選択肢が存在しない以上、ここで後退など論外である。 * 湖の上を風が凪ぎ、視界の下半分を占める青が揺らめいた。 「フェイト……駄目だ、空振りみたいだ」 後方から声をかけてきたのは、狼の姿になっている使い魔。 水面から突き出た岩の上で、フェイトは短く「そう」とだけ返した。 「やっぱり、隠れながら探すのは難しいよ」 「うん。でももう少し頑張ろう」 ジュエルシードに管理局が関わり始めて、既に数日。 上辺は落ち着いていても、フェイトの内面は確実に焦っていた。 身を隠しながら何とか集めているものの、向こうは三つに対しこちらは二つ。芳しいとは冗談でも言えない。 だからと言って引き下がるつもりは毛頭ない。残る六つを一気に回収すればまだ何とかなる筈だ。 このまま一つずつ集めていったら、幾つかを管理局側に取られてしまう可能性が高い。それを防ぐなら、多少の無茶を覚悟しなければならない。 まずは地上に残っている青の宝石を探し、残りが全て海中にあると判断した場合、海に魔力を流して強制発動。そのまま一網打尽とする。 言葉にすると簡単だが、今まで一つ一つ封印してきたのを複数相手にするのだ。難易度は想像を絶している。 それでも、自分達にはこれしか方法が残されていないのだ。 「ところでフェイト、左腕はもう大丈夫かい? 大丈夫なら、外していいからね」 「うん。ありがとう」 使い魔の言葉に頷き、その場で左腕の包帯を勢いよく抜き取る。痛みは全くなかったので、もう問題ない。
捨て置け
支援
130 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:03:01 ID:/YbgWqnE
問題だったのはその直後。何の前触れも無く突風がフェイトを襲い、その手から包帯を奪い去っていった。 解けた純白は風にのって飛び、青空の中へと溶けていく。 青に混じる白が、フェイトの中で一人の人間を思い出させた。 ……あの人、今頃どうしてるかな。 雲になって掻き消えてしまいそうだった、銀髪銀眼の優しそうな少年。そういえば、昔の母も同じ位優しかった。 アルフはまだ完全に心を許した訳ではないらしいが、悪い人でない事に変わりはない。 寧ろ、最近の母に怒られていそうだ。後ろの使い魔に見えないよう、フェイトはこっそり頬を緩めた。 少年の言った通り、地上を探し終わったら一旦休もう。体力と魔力を回復して、万全の状態で海に魔力を打ち込むのだ。 多少疲れている時よりは、まだ封印出来る可能性もグッと広がるのだから。 それぞれに思い、それぞれに考え、それぞれに心を配り、それぞれに心を痛める。 己の疲労を測り切れていない魔導師には、隠された真実など知る由もない。 無知とは即ち、自由にして罪。この罪を償うことに必要なものは何なのか……今は、誰も知らない。 少女が持つ心配は正当であり杞憂。使い魔が持つ警戒は正解にして不足。 理由など、唯一つ。 少年は余りにも優し過ぎ、同時に余りにも危険過ぎる存在だった。唯それだけの話である。
131 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:04:02 ID:/YbgWqnE
* ――模擬戦開始から、どれだけ経っただろうか。 今のプレシアに、マルチタスクで時間を計る余裕など欠片も無かった。 気を抜けば少年の姿を見失いかねない。リアルタイムに兵達へ指示を与え続けなければ、あっという間に戦線が崩壊してしまう。 知る事と理解する事は、決して同義ではない。実体験の方が実入りが多い以上、分からない事は幾らでも存在する。 それでも、少年が未だ本気を出していないのは分かる。自己領域を使わないのが何よりの証拠だ。 でありながら、プレシア側は予想を上回る不利に陥っていた。 まず、飛び道具が通用しない。 手数と速度を重視した直射弾で一時的な弾幕を張っても、全て回避と迎撃のみで捌かれる。 秒速二百メートルの弾丸も、今の少年には時速五十キロメートルという子供が投げた石ころ程度にしか見えないだろう。 弾幕の中に誘導弾は言わずもがな、形状を変えて魔力刃やブーメラン等を混ぜたものの効果は無し。 最後のブーメランに至っては、態と避ける事で戻って来るかどうか確認する程の余裕を見せてくれた。 本当に戻ってきた際、少年はどう思ったのだろうか……いや、聞かないでおこう。 弓兵の矢で狙撃も試みたが、殆ど不意打ちでありながら視線も向けず弾いて見せた。後ろに目でもあるのか。 多少体勢は崩れたものの、隙を突かんと待機させていた歩兵は見事に反撃されてしまった。 次に、速過ぎる。小回り的な意味で。 加速自体は大したことでもない。高速移動魔法を使えば魔導師の方がもっと速いだろう。 問題は、それが永続効果であるという一点に尽きる。 一挙手一投足、体勢の立て直しや移動から攻撃への移り変わりも含め、全てノンストップ加速状態。 攻撃前後の僅かな隙も十五分の一に縮められては、迂闊に手も出せない。 優秀な高速戦魔導師でない限り、真似できない芸当だ。できても連続高速移動は負担が掛かるし、その状態で攻撃するとなったら高等技術。 ついでに言うなら、歩兵の攻撃も受け流していた。 話が違う。何が“加速してるだけで膂力は上がらない”だ。反作用打ち消しの効果だけで十分乗り切っているではないか。 三つ目に――情報解体。 剣の刀身に一瞬でも接触さえしていれば、持主の意思一つで発動できる物理防御無視の対象破壊能力。 飛び道具が通用せず、傀儡兵達が次々と脱落していく最大の原因。
132 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:05:06 ID:/YbgWqnE
反則である。並の魔導師相手ならこれだけで有利に進めるだろうと思える位反則である。 歩兵が張った防御魔法もあっさり解体していた。早急に対処法を考えねばなるまい。 何より、これでまだ自己領域という奥の手が存在するのだから恐ろしい。 この時点で、プレシアの内心には陸戦AAA+以上という評価があった。 跳びかかった歩兵達をあろうことか踏み台にして上へ登り、見事弓兵にとりついた銀の少年を見上げる。 辿り着けないだろうと高を括っていた矢先、狙撃手への接近を許してしまった。 しかし、弓兵はまだ一体残っている。片方を仕留めた所で、足場の無い空中では二体纏めて仕留める事など不可能だろう。 それは同時、攻撃回避の困難も意味する。勝機があるとしたら、今しかない。 すぐさま周辺の魔導師型に指示を送りつつ、自身も魔力弾を生成する。 魔力弾による支援射撃は、これで三度目。特殊弾体はプレシア自身が生成・射出している。 それを除けば全く変わらないように見えるが、前回と前々回を比較すれば対処の難易度は全体的に上がっている。 全スフィア中三分の一から放ってきた第一波、射出数を倍に増やした第二波、全スフィアから容赦なく撃ち出された第三波。 速度も威力も順に割増しており、特殊弾体もきちんと難易度を上げている。 足場や状況の悪さ、第一波以来号令をトリガーにしなくなった分も含めれば、流石に厳しくなってきた筈。 特殊弾体として、誘導操作型多重弾殻弾一発と直射型反応炸裂弾三発を選択。魔導師型達の魔力スフィアに混ざって生成を開始する。 狙いは上空、戦闘不能となった弓兵の上。 加速状態のまま、「これからどうしようか」と言わんばかりに頬をかいて“いた”、銀髪白衣の少年騎士。 こちらの魔力弾に気付いた瞬間気を引き締める辺り、油断はまるで見られない。 いや、特殊弾体の底が知れないからこそ油断できないのか。 こっちはそろそろネタ切れだというのに。マルチタスクで行われた余計な思考を中断しつつ、誘導弾一発のみを撃ち出す。 未だ弾丸を開放しない魔力スフィアの群れから、孤独に標的へ向かう特殊弾。 足場に制限がある上、誘導操作弾ときては回避不可能。迎撃以外術はない。 遠慮なく構えた少年の瞳――今や同一人物のものとは思えない程鋭利な銀の両眼が、更に鋭く細まる。 次の瞬間。多少の期待が込められた魔力弾は、一刀の下斬り捨てられた。
133 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:06:11 ID:/YbgWqnE
……これも駄目か! 多重弾殻弾ならばあるいは、と思った矢先の結果に舌打ちを抑え切れない。 斬撃時に連続発動させたのだろうか、外殻と中身を順に解体されたようだ。 やはり生半可な射撃で仕留められる相手ではない。まずは何としても動きを止めなければ。 無論、その為の次善策は既に用意してある。 残りの炸裂弾を纏めて射出し、一拍遅れて魔導師型の弾丸を一斉に解き放つ。 足場こそ限られていながら、対する少年は回避を考えずに迎撃態勢である。 プレシア製の魔弾が特殊である事は、少年も認知済み。 だからこそ避けない。情報解体の通じない物がないか、確認する為だ。 しかし多重弾殻弾の次に期待していた炸裂弾は、当然の如く解体される。 予想通り。迎撃という一瞬の隙が、少年から退避の時間を奪った。 ディーに割り当てた炸裂弾は一発だけ。残り二発は狙い違わず、弓兵の両翼に着弾。 物理破壊設定で着弾した魔弾はそのまま炸裂。弓兵を空中へ留める為のパーツを破壊すると同時、粉塵を撒き散らして少年の視界を奪う。 無事な方の弓兵までもが覆い隠された直後、本命の直射弾幕が煙の中へ殺到した。 身体能力制御の弱点が一つ、飛行不可能。足場が落下していては、満足な体勢などとれる筈がない。 数も速度もこれで最大。如何に十五倍加速といえど、回避も迎撃もままならずに被弾するだろう。 もう一体の弓兵に飛び移る可能性も考えて、予想跳躍軌道に合わせてきっちり弾幕も張っている。 一発でも被弾すれば、此方の勝利。例え突破できたとしても、翼をもがれた弓兵の真下には歩兵達が集まりつつある。 現在、動ける歩兵八体の内、着地際を狙えるのは五体。 というのも、先程ディーに飛びかかった三体がディーに踏み台扱いされた時、無理に空中で対応しようとしてそのまま体勢を崩してしまったのだ。 結果として、仰向け・うつ伏せを問わず“頭から不時着(ヘッドスライディング)”した噛ませ犬三体のできあがりである。 それでも五体あれば十分。容赦も着地も許さない一斉攻撃で、この模擬戦を終わらせる。 まず落ちてきたのは、頭部と翼を無残に失くした弓兵。粗大ゴミよろしく床に叩きつけられる。 もし弓兵に取り付いた少年が隠れているなら、人形達は即座に反応している。それがないなら、次に少年が落下する筈だ。 反撃にも対応できるよう全機が身構え……そのまま二秒経過。
134 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:08:01 ID:/YbgWqnE
落ちて来るにしては遅い、と疑問に感じ始めた時、弓兵の不時着音がもう一つ。 両腕・頭部・両翼を無くしたもう一体の弓兵が、少年諸共別地点に落ちて来たのだ。 「な――」 予想の斜め上を行く展開に、流石のプレシアも虚を突かれた。 ……何をしたの? まさか、“使った”のだろうか。 もし使用したなら、既にこちらの懐へ潜り込んでいる筈だ。隣の弓兵に乗り移る程度で済ませる訳がない。 態々此方の視界に入らない状態でやってのけたのだ。“あれ”はそもそも視認できない以上、隠す必要性を感じない。 兎も角、此方に見せられない事は確実。タネは後で調べるとしよう。 一秒と掛からず冷静さを取り戻したプレシアは、全傀儡兵に対し新たなコマンドを下す。 “時間を稼げ”と。 「……煌きたる天神よ、今導きの下降り来たれ……」 マルチタスクにより、既に詠唱中。できるだけ規模は大きく、駒達も巻き込む範囲でなければ素で回避されかねない。 無論、二重三重なれど策はある。しかし同時に懸念もある。 一つ、策が通用するか否か。 二つ、少年はどこまで“使う”のか。 三つ、この攻防に、自分自身は保つのか。 それでも、撃たねばなるまい。自分以外に誰がやるというのか。 律儀に残りの歩兵達を相手取る、少年騎士。機動力に任せて兵達を振り切り、こちらへ向かう事も可能だろうに。 ならば、その余裕を敗因にしてみせよう。 直後、騎士と人形達が拘束機能を備えた紫の雷光に照らされる。鋭く保っていた少年の銀眼が、初めて驚愕に見開かれた。 ただし、拘束されるのも攻撃を受けるのも少年のみ。こと制御に関し、この魔法は元々性能が高い。 「――サンダーレイジ」 予想通りに拘束機能を破壊した少年へ放つは、非殺傷の巨大雷撃。 如何なる加速能力を以てしても、光速で飛来する広域攻撃は回避不可能だ。 紫の稲光に目が眩み、状況を視認できなくなったその時。 ――“それ”は来た。 * (運動速度、知覚速度を十五倍で再定義) 周辺の時間が、先程より約数倍速く流れる。 取り付いていた弓兵から降り、十数秒ぶりの床へ着地。そのまま残りの敵兵達へ向き直る。 既に狙撃の心配はなく、残る脅威は後方支援を残すのみであった。
135 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:09:04 ID:/YbgWqnE
あの時。上下左右前後と足場の不確かな粉塵の中、ディーが何をしたかというと。 “鬼の居ぬ間の洗濯(While the cat is away, the mice will play)”よろしく、銃弾を足場代わりに隣の弓兵へ乗り移ったのだ。 言うまでも無く、簡単ではない。対象となる足場は亜音速の魔力弾。接触しただけでもダメージを受ける可能性は残っていた。 とはいえ、元々後者を確かめる為の個人的実験。 その場の思い付きな上に本気も出せないとくれば、大魔導師に見せる訳にもいかなかった。 要は目撃されなければいい。視界を遮られるものの、こちらの位置を把握できなくなる点では相手も同じ。 出力を最大値にすれば、亜音速の弾丸も時速二十キロメートル超の移動物体である。 失敗した場合は、三つ目の能力を惜しみなく使って元の位置に戻ればいい。 問題は一メートル先も見えない中、どうやって魔弾の位置を正確に把握するかというと、一流の魔法士なら案外できたりする。 粉塵が撒き散らされる前の弾幕から速度と軌道をトレースしてしまえば、タイミングを合わせて飛び移るだけで済む。 幸い、敵後衛はもう一体の弓兵近辺にも弾幕を張っていた為、ありがたく使わせて貰った。 結果は大成功。最早魔力弾を警戒する要素は、八割以上ないと見ていいだろう。
136 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:10:11 ID:/YbgWqnE
歩兵も残り八体。開始から三分の二近くまでその数を減らしている。 ……多いなあ…… 対するディーは、うんざりしていた。 それもその筈、魔法士の騎士とは対魔法士・対個人戦を想定して設計された能力である。 ディーの切り札こそ例外ながら、一対多には全くと言っていい程向いていない。 しかも加速は十五倍と完全に手加減。本来の出力なら、数十体位秒殺出来る。 その気になればプレシアに直接攻撃こそできるものの、魔導師が持ち得る大量の引き出しは出来るだけ見ておきたい。 挙句現在の加速倍率でも十分倒せるときては、現状に甘んじる他ない。 次はどんな隠し玉が出るのやら。第四波を予感し、ディーは双剣を握り直す。 漸くプレシアからの指示を受けたか、歩兵型だけでなく、魔導師型までもが一斉に動き出した。 既に半数近くが腕や武器を失っている歩兵。通用しないのに捻りの無い直射弾を生成する魔導師兵。 黒衣の大魔導師ただ一人だけが、詠唱を始めていた。 これについても既知の情報。イメージ上昇と演算補助を兼ねた、大技の準備だ。 少し考え、兵達の相手を続ける事にする。魔弾と突進と格闘攻撃を躱し、壊し、受け流し、只管待つ。 待てば待つ程、人形達は犠牲となった。 挟みうちの突進を回避され、正面衝突から派手に倒れる者。 交錯時の情報解体で片足を失い、両手をバタつかせて抗うも、結局は倒れる者。 攻撃を受け流されたと思ったら退避され、真上から落ちてきた追撃役のもう一体に踏み潰される者。 魔導師型のサポートも虚しく、見る見るうちに戦える歩兵の数が減っていく。 やがて残り歩兵が三体となった頃、真上から紫の光が空間を差した。 同時、ディーの身体が縫い止められたように固定される。あっさり動きを止められた事実に、ディーは驚愕した。 捕縛魔法、という単語が頭を過ぎる。鎖や輪状、ケージ型などは知っていたが、こんなものもあるのか。 しかし、対処法は事前に幾つか考案してある。早速情報解体を発動し、拘束機能の解除に掛かった。 (情報解体成功) 予想通り、解体成功。しかし動かせるのは両肘から先。 より広範囲へ行わなければ、自由の身にしてくれないようだ。 ……それなら! (身体能力制御終了。情報解体発動) 身体能力制御に充てていたリソースを、情報解体に上乗せして何とか成功。全身の束縛が解ける。
137 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:11:21 ID:/YbgWqnE
本気を出せばこんな必要ない。これも手加減だとばれない為の工夫である。 しかし、あまり悠長にしていられない。周辺を隈なく照らす光を消しても、頭上の光が未だに潰えないのだ。 ……雷? 見上げた第一印象が、それだった。天井に浮遊する巨大な魔力光から、文字通りの紫電が走っている。 魔力変換資質・電気を使った、広域攻撃だろうか。まもなくこちらへ降り注ぐ事は疑いない。 非殺傷かどうかは不明、というよりできればそうであって欲しいのはともかくとして、電気である。 その攻撃速度を予想するに、魔法関係である以上多少誤差が出る事を踏まえても、亜光速ぐらいは超えてのけるだろう。 即ち視認=ほぼ直撃を意味する。指向性もまばらだろうから、ほぼ面の攻撃と見て良い。 現在発揮しているI-ブレインの出力では、情報解体による迎撃も、身体能力制御による回避も不可能。 攻撃範囲外へ退避しようものなら、その前にあれを撃ってくるのも容易に想像できる。 向こうもそれを見越しているのだろう。ある意味、大魔導師からの合図でもあった。 三枚目のカードを切ってみろ、と。 しかしディーは、此の期に及んで自分より相手の心配をしてしまった。 言うまでもなく事前に能力を伝えてはいるものの、果たして対処できるのだろうか。 相手に対する不安を押し殺し、I-ブレインの回転数をこの模擬戦内で初めて“引き上げる”。 (騎士剣「陰陽」完全同調。光速度、プランク定数、万有引力定数、取得) 物理定数の中でも根幹を担う、三種のパラメータに干渉。 発動する為の、必要最低条件は二つ。 一、第一級(カテゴリーA)騎士の中でもある程度以上能力が高いこと。 二、己の能力に耐え得るだけの高性能な騎士剣を備えていること。 第三次世界大戦において、対魔法士戦闘において、騎士が圧倒的優位に立った最大の原因。 (「自己領域」展開。時間単位改変。容量不足。「身体能力制御」強制終了) 直後、半透明の膜がディーを包んだ。 自己領域。“使用者にとって都合のいい時間と重力が支配する空間”を作り出す、もう一つの移動能力。 使用者を中心に展開された球状フィールドの内外では、時間の流れが決定的に違う。重力も自由自在に変えられる。 今回は出力を抑えている為、客観的に観測できる移動速度は秒速約十万キロメートル。 最大で、光速度の約八十パーセントという完全な亜光速移動が可能。
138 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:12:31 ID:/YbgWqnE
何れにせよ、肉眼での捕捉は不可能である。 解体直後で空気中に漂う魔力素が未だ紫色を示す中、ディーは一直線に走る。 攻撃が来る前に安全圏へ逃げてしまえば、如何なる攻撃だろう脅威と成り得ない。 限りなく静止状態に近い世界の中、予想される攻撃範囲から難なく逃れ、それでもまだ両足を動かす。 周囲の兵も、前方に立ち塞がる兵も、仁王立ちしている一回り大きな兵も素通りして、目標はプレシア・テスタロッサ。 更に後ろへ回り込み、一切の妨害を受ける事無く背後をとった。大魔導師がこちらの移動に気付いた様子はない。 現実時間にして、発動から五百万分の一秒以下の出来事である。 (「自己領域」解除) ――この時点からの長い一秒間が、勝敗を分けた。 半透明の膜が消え去り、観測できる外界の時間経過速度が約一千万分の一倍から一倍まで加速する。 自己領域から身体能力制御までの、能力起動状態変更時に発生する僅かなタイムラグ。 騎士が持ち得る唯一の弱点。しかし、その隙は余りにも短い。魔法士ですら、突く事自体困難なのだ。 I-ブレインも無ければ知覚関係の強化も行っていない魔導師に、果たして対応できるのだろうか。 直後、巨大な落雷がディーのいた空間を叩いた。迸る雷光が思った程強くないのは幸いか。 後は一撃与えればいい。バリアジャケットで守られているなら、騎士剣で斬りつけてもダメージにはならない。 実戦なら情報解体で壊してもう一撃というところだが、これは模擬戦である。 (「身体能力制御」発動。運動速度、知覚速度を十五倍で定義) 漸く、自分以外の時間が十五分の一まで減速。 右の騎士剣を振り上げる。既に対策されていなければ、これを袈裟がけに下ろして終わり。 ――と思った次の瞬間、攻撃対象が不意に崩れ落ちた。 「え――」 演技とは思えない。そこまで己の銀眼で見定めたディーは、全身を硬直させた。 それは、嘗ての光景。 戦闘中に発作を起こし、力無く倒れたあの人の姿。 娘の為、病の身体に鞭打って戦い続けた、母親の姿。 マリア・E・クラインの、姿。 ――どうして、おかあさん死んじゃったんですか? 重なる姿。重なる状況。重なる光景。そして、重なる躊躇。 コンマ単位の空白は、魔法士どころか一流の魔導師相手でも十分命取り。それでも、ディーは止まってしまった。 それこそ、ディー最大のトラウマであるが故に。
139 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 21:16:02 ID:/YbgWqnE
彼女を傷付けたのは、他でもない自分なのだから。 「……ぁ……」 我に返った時には、捕縛魔法で拘束されていた。 首・両手首・両足首・腰。それぞれディーを空間に縫い止める、魔力製の輪状拘束具。 後の先で反応した訳ではない。恐らく、指定した空間に侵入すれば自動で機能するトラップとして準備していたのだろう。 本来なら幾つか迎撃していたかもしれないが、トラブルにより手首から足首まできっちり拘束。 遅れて、こちらに気付き振り向いた黒衣の大魔導師。狂気に塗れた瞳には、少なからぬ驚愕が見える。 差し出した掌には、拳大の魔力弾。 (情報制御感知。回避不能。防御不能。危険) 離脱不可能。敗北確定。そして最後の追い打ち。 正確に鳩尾へ直撃した魔弾は、拘束の解かれたディーを数メートル先へ吹き飛ばした。 「っと……!」 先程の精神状態ならともかく、騎士剣も所持したまま。すぐさま空中で体勢を立て直し、何とか着地。 模擬戦の最中だとか、傀儡兵がどうとか、今のディーには関係ない。 「プレシアさん――!」 脇目も振らず、全速力でプレシアのもとへと急いだ。 **** ここまでが前編分です。
140 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 22:01:18 ID:uH7K7W08
模擬戦結果、プレシア側の勝利。勝因が勝因の為、甚だ不本意であった。 自分と少年のどちらかが攻撃を受けた瞬間、傀儡兵の動作は停止するようプログラミングしてある。 余計な事をされる前に見た目だけでも復帰の形をとり、傀儡兵達の自動修復作業を開始。 相手側からの強い要請で壁にもたれたまま、互いに質疑応答の時間。 それも終わって少年を個室へ戻し、自らも研究室に入ったところで、プレシアは呟いた。 「……まずいわ」 騎士が持つ三種類の能力について、ここで纏めてみよう。 身体能力制御。半永続の加速能力。反作用処理機能付属。 五感の数値データ変換まで備えている為、視覚・聴覚への攻撃は不意打ちでもなければ通用しない。 痛覚の遮断も凶悪だ。本人は非殺傷設定を羨んでいたようだが、痛覚感知の是非は魔導師にとって大きい。 例え気絶しなくても、痛覚によって体の動きに支障を出せれば、確実に戦闘能力の低下へ繋がる。 それがないとなれば必然、昏倒させる難易度が跳ね上がるのだ。相対する場合、殺傷設定で挑んだ方が楽だと断言できる程。 途中から半ば殺すつもりで攻撃してませんでしたか? と問われた通り、半分は半殺しにするつもりだった。 もう半分は少年へ答えた通り、あの位でも何とかしてしまうだろうと予想していたから。終盤までは自己領域すら使ってなかったし。 自己領域。特殊フィールド形成に伴う、超高速移動能力。 具体的な速度は測れなかったものの、身体能力制御で対応できない広域攻撃等には非常に有効と分かった。 とはいえどちらも一長一短と聞いた通り、とりあえず弱点は存在する。 更に“並どころか世界最強の騎士でも”この二つは同時起動不可能ときた。 ここまではいい。ここまでなら許せる。 問題なのは情報解体だ。はっきり言って凶悪過ぎだ。 対象の存在情報に直接干渉し、物理強度無視で破壊する能力。 物理強度無視の魔法も此方に存在するものの、発動速度は決して早くない。 いや、そんな事は問題にもならない。魔力製物質も瞬時に解体できる事実こそ、最も重要なのだ。 魔力弾や防御魔法の破壊、拘束魔法も接触さえすれば解除可能。 多重弾殻弾やバリアジャケットまで無力化できる辺り、ある意味アンチ・マギリング・フィールドより質が悪い。 実際に見ていて、生物に通用しないのは本当なのかと疑った程だ。 何故出来ないのかと聞けば、情報強度の問題になるらしい。 例えるなら、相手に与えた魔力を制御できないのと同じ、だそうだ。 言われてみればそうだ。リンカーコアへの直接干渉でもしない限り、相手の魔力を直接操るなんて出来っこない。 特定の例外を除き、情報解体を始めとした情報制御の直接干渉を、生物に対して行うのは至難の業。ほぼ不可能に近い。 理由は、対象の情報強度――情報制御そのものに対する防御力――にある。情報の側にも、物理強度と同様に“変質のし難さ”が存在するのだ。 特定の例外を除けば、物理強度と情報強度は決してイコールにならない。 物理的に強固なチタン合金は情報の側から見れば非常に脆弱であり、影響を受けやすい。 物理的に脆弱な人間や魔法士は情報の側からすれば非常に強固であり、他者からの情報制御を受け付けない。 故に、生身の敵本体には情報解体ではなく物理攻撃で叩く他ない。だからこその“騎士専用剣型デバイス”なのだ。 与える魔力に最初からプログラムが入っているブースト魔法。防御魔法のプログラムに干渉するバリア破壊効果等も似たようなものである。
141 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 22:02:32 ID:uH7K7W08
そもそも魔力とは、次元空間という壁を凌駕し、次元転移をも可能とする唯一のエネルギー。 無論、次元空間から流れてくる魔力という存在そのものに環境が適応していない世界もある。ジュエルシードの落ちた地球などが典型例だ。 魔力を運用するリンカーコアの全容は未だ未知の部分が多く、地球等の魔法文明が存在しない世界でも備えている生物が稀に現れる。 何にせよ、魔力の存在を認知した一部の人類は時に独占し、時に広め、短い繁栄と衰退を繰り返した。 中でも二つの文明、汎用性を選んだミッドチルダと対魔導師戦を選んだベルカが大きく発展したのは決して不自然と言えないだろう。 何より、次元世界間の戦争でミッドチルダが生き残れたのは、この汎用性があってこそ。 射撃・防御・広域攻撃・砲撃・捕縛……挙げればキリがない。 これについて、少年は多彩と評価。ただし移動と格闘に関しては何も言わなかった、というより言えなかったのが正しいか。 ――移動と格闘を忘れてもらっては……ああ、あなたにこれを言っちゃ駄目ね。 ――いえ、そんなことは……ええっと……。 分かり易くて宜しい。 とりあえず何が言いたいかというと。この魔力が、汎用性の高さが、これ以上ない位少年に有利な方向へ働いている。 だからこそ、プレシア・テスタロッサは険しい視線で模擬戦の映像を見直していた。 フロア内の天井や壁際に設置してあった無数のモニター用サーチャーで記録された映像。 何か見落としはないのか、何か弱点は発見できないかと探せば探す程、思い知らされる。 吊るされしシャンデリアの下、端の廊下から静かに闇の差し込む大広間で、巨大な人形達を相手にたった一人で戦う、銀髪銀眼の若き騎士。 細い体躯から生み出される運動曲線には淀みがなく、決して狭いとは言えないホールの中を縦横無尽に駆け巡る。 襲い来る巨兵に対し振るわれる双剣は、敵と比べればあまりにも小さく、しかし外見からは想像もつかない程の鋭い孤を描く。 その一つ一つが、敵兵達の武器を、腕を、脚を、そして魔法を、一閃の下に粉塵へと帰していく。 最終的に存在を否定された魔弾は、魔導師に与えられた速度をある程度維持しつつ、空中で魔力素と化し霧散する。 本来金属だった物質は、霧散した状態から空中で再結晶し、床に落ちて暫くカラカラと転がり、やがて静止する。 幻想的で、交響的で、それでいて限りなく洗練された、銀(しろがね)の剣舞。 銀光が閃く度、プレシアに理解を促させる。 ……これが、魔法士……! 知れば知る程、見れば見る程、“それ”が異常な力だと思い知らされる。 速い強いでは済まされない。剣を以て魔法を壊し、詠唱を許さずに懐へ入るなど、まるで、 ――まるで、魔導師を殺す為だけに存在するような―― 想像するに堪えない、いつもの自分らしくもない考えに、思わず唇を噛んだ。 奇しくも、プレシアの想像は当たっている。 魔法士の騎士が持つ能力は本来、個人戦・接近戦・そして対魔法士戦に特化している。 簡潔かつ語弊の無い言い方をすると、魔法士とは“異能を持つ人間”である。 魔導師も、簡潔かつ語弊の無い言い方をすると、“異能を持つ人間”である。 魔力やI-ブレイン等といった専門用語さえなくなれば、“魔法”を恐れる人間にとって大した違いがないように。 騎士にとっては、“騎士を含めた例外を除く多数の魔法士”と“あらゆる次元世界に存在する魔導師”に大した違いがないのである。 「本当に、まずいわ」 映像を再生していて、分かった事がある。 完全には把握できないものの、少年は間違いなく手を抜いていた。 身体能力制御も、どこまで本気だったか不明瞭。 魔導師との相性を始めとした実験の意味合いが強かったため、傀儡兵と対等に戦えるよう加減したのだろう。
142 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 22:03:55 ID:uH7K7W08
それはつまり、裏を返せば傀儡兵ごとき相手にならないと断言しているようなもの。まるで底が見えなかった。 騎士能力は三種類のみ。それしかないと少年は断言したし、嘘とも思えない。 しかしまだ何か隠している……何を隠している? 右の剣にある結晶体については、聞いてもはぐらかされた。 奥の手だから滅多に使う事はないと言われたものの、それでなければ“あれ”はどう説明するのか。 足場の悪い空中、粉塵と弾幕の只中、隣の弓兵へ移動してみせたあの芸当は。 少年の発言が確かだと仮定するなら、既存の能力と手加減からして、消去法により身体能力制御で何かを起こしたとしか思えない。 計算上、不可能だ。対十五倍速の反作用処理では、亜音速で直進する銃弾の上を歩ける訳が―― ……十五倍じゃ、ない? 研究者、プレシアの閃き。前提が間違っているのか。 数十倍、予想するに三十倍近い加速を発揮し、魔力弾を足場に空中を移動したと仮定すれば、辻褄は合う。 対策の内に考慮せねばならない事は、他にもある。 模擬戦後の質問から得た重要な情報が二つ。 一つ。情報の側から魔法士に“干渉”できる魔法士は常識的に考えてまず存在しない、という事。 数ヵ月後に“特定の例外・一番目”の二名に遭遇するなど、この時のディーには知る由も無い。言わずもがな、敵側の魔法士である。 二つ。身体能力制御は反作用処理付きの加速であり、加速ではなく肉体強化を行う魔法士は聞いた事も無い、との事。 その事件から更に二週間後、言った通りの能力を持つ“特定の例外・二番目”と戦う羽目になるなど、この時のディーには知る由もない。 あげく大苦戦させられる。想像もつくまい。 更に更に、肺結核の事まで知られてしまった。 気遣う声ばかりの少年に、何も聞かないのかと問えば。 ――疑問には思ってました。何故貴女自身が行かず、フェイト達に任せるのかと。……時間が、ないんですね? 治す術はないと。余命はもう殆ど残っていないのだと。 病気で動けないからですか、という言葉を通り越して突かれるその核心に、肯定の意を示せば。 ――分かりました。フェイト達には言いませんので、安心して下さい。その代わり、どういう病気か位は教えて下さいね? 前にもこんな経験があったと言わんばかりの対応。 しかし詮索した所でメリットがあるとは到底思えない。結局聞かなかった。
143 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 22:05:03 ID:uH7K7W08
次に、本人の自己評価。曰く、“騎士という範疇でもかなり高い方”。 手加減しておいて高いと評価――いや、バレている事を前提に話しているのだろうか。 更に高いだけで最高とか最強とか言わない。上がいると理解しているのか、ただの謙遜か。 自惚れがない事はいい事である。本当に謙遜だとしたらどう反応しろと言うのか。 一番扱いに困るのは、少年の信念そのものだ。 組織や契約の枷を全く気にせず、必要なら敵対する、そんなスタンス。 部外者故に犯罪者にも管理局にも属さない為、半中立と言っても過言ではない。 更にこちらは、少年を元の世界へ送るつもりも余裕も無い。用が済んだらさっさと管理局に丸投げする気満々だ。 緊急用武力貸与と衣食住で成り立っているだけの、薄い関係。 探し人の少女を見つけたなら、どんな手を使ってでも合流を図るだろう。 プレシアとの契約を、切ってでも。 一応、根底への揺さ振りはかけてみた。 共に巻き込まれた少女が、安全な場所へ転移しているとは限らないと。 見つからず終いかもしれないし、見つかった所で無事ではないかもしれないと。 硬直の時間は如何程だったか。ご心配なくと騎士は前置きした。 ――セラは、強い子ですから。 戦闘能力か、性根の問題か。その寂しげな笑みからは、真偽すら読み取れなかった。 自分も藁へ縋るように信じているものがある以上、これまた理由を聞けなかった。 結論。どうやら自分は、あらゆる意味でとんでもないものを拾ってしまったらしい。 個人戦……特に対魔導師戦において、絶大な戦闘能力を発揮できるということ。 敵に回った際は非常に危険な存在となるが、味方になってこれ程有効な駒はまず考えられない。 念入りに対策を打っておかねば、Sランク魔導師であっても勝ちの目はまずないと見ていい。 というか、このまま対策を練らずにいると限定SSの自分でも負けてしまう。 「何か……何か方法は……」 戦闘や魔導、デバイスなどのデータから脳内で対策を練り、次々と棄却されていく。 確実な有効策が見つからずに焦る中、ある一つのデータが目に留まった。 「これは……」 何の事はない、計器の観測データだった。研究の為には重要な代物、しかし少年から勝利をもぎ取るには関係がないとしか思えない代物だった。
144 :
LB氏代理 :2011/01/30(日) 22:06:37 ID:uH7K7W08
有り得ない反応。有り得ない数値。記録されたそれらは、もう少し引き上がれば危険域を突破していたと容易に語っている。 一体いつ、どんな理由で? 「――まさか」 不意に浮かんだ、心当たり。同時に見出した、一筋の光明。 直後、飛びつくようにそれを調べ始めた。 フェイトが持ち帰ってきた、ジュエルシードを。 おまけ 対魔法士の騎士その1:空間トラップ 空間発動型のバインドや機雷など。視認されないバインドがお勧め。 相手にばれないよう仕込めば、並騎士の対策は万全。ただし、カテゴリーA騎士相手だと強引に突破されてしまう。 この場合、空戦に持ち込む等で自己領域を使わせるのが得策。 身体能力制御への切り替えタイムラグも手伝って、あっさり仕留める事ができる。 引っ掛かったとしてもバインドの幾つかは破壊しかねない為、多めに設置するべし。 弱点1:設置の際、微かに情報制御の反応はある為、気付かれる可能性はある。 弱点2:仕掛けられた空間そのものを情報解体されると、トラップ自体無効化される。 無論、並列処理発動中のディーには素で通用しない。 /// 投下終了。 というわけで、初の魔法士戦闘&設定擦り合わせ回でした まる 六章は海上戦までの空白期に相当しますので、全っ然話が進みません。 理詰めの結果とはいえディー有利になった感は否めませんが、後悔なぞ皆無です。 ディーは存在が出鱈目、それがデフォルト。そうじゃないディー君なんて只の優男ですから(ぉ 七巻ディーの惚気発言には2828した。状況次第では賢人会議にも敵対しかねないと断言したも同然なディー君ぱねぇです。 因みに、開始数十秒分の戦闘シーンなら、手元にテキストがあります。長過ぎるので省略しました(←執筆が長引いた原因) まあ、今まで戦闘書けなかった鬱憤は晴らしたので良しとします(ぉ 当初の予定だとこの後に幕間が入る筈だったのですが、改訂作業の副次効果で省かれました。 よって次回は第七章。 ……まだ七章……しかも前にある程度書いて消えてたやつだorz 以上。 BGM:(妖)広有射怪鳥事 〜 Till When? ―――――――――― 代理投下終了
言い忘れていた LB氏投下乙です ただ今度からもう少し短くした方が代理投下してもらえやすくなると思います
LB氏、代理の方 乙乙!!
LB氏、代理投下の方、乙です。 これはプレシアがディーの出身に気づきましたかね? ジュエルシードのデータからひっぱりだぜる、有効な情報って、ほかに思いつかないですし。 でも、コレがどう攻略の足がかりになるのかはまったく想像がつきません。 なのはに対してなら、揺さぶりに使えるかもしれませんが…… 基本魔導士は騎士にまず勝てないですか。 クロノの負担がでかいですね。 一歩間違えたら、ディーに文字通り殲滅される…… 質問を二つよろしいでしょうか? 一つ目に、「記憶転写による死者蘇生は不可能」ということですが、 2巻の龍使いたちは蘇生しているのではないでしょうか? 記憶が戻るまで7年ほどかかった、ファンメイとシャオロンは迷いますが、 ルーティとカイはほぼ同一人物のように描写されていますが…… 二つ目は、二人は「魔導技術を持ち帰ろう」とは考えていないのでしょうか? 情報制御がたやすいのなら、ノイズメイカーや雲の影響が少ないのではないでしょうか? また、次元転移魔法をつかって、2億人を異世界に移住というという事も考えられます。 データを持ち帰れば、サクラが魔導用のデーモンを作れるかもしれませんし、 演算能力は演算機関でも十分でしょうから、量産することも可能でしょう。 いろいろと書きましたがコレで失礼して、wikiに登録に生かせていただきます。
なのはVSアシュラマン
>>147 質問1について
新しい肉体に記憶転写しただけで死者蘇生と呼んでしまったら、アリシアの記憶を持って生まれたフェイトはどうなんだっていう
死者蘇生であるか否かの線引きは倫理的議論になるから、あまり深く突っ込めませんけど……
>>149 記憶だけでなく、人格とかも再現されていたみたいだったので、同一人物と思いましたね。
フェイトの場合、アリシアとは性格などが違うようですし……
確かに何を持って使者蘇生というかは哲学的な問題ですし、
プレシアが納得するかどうかの問題という気もしますが。
死者蘇生なんて電気ショックでOKだぜ。
| お、お久しぶりです |Д`) ダレモイナイ…投下するなら今のうち |⊂ |
なのは達が戦っている頃、ゆりかごの外では相も変わらず巨大な二匹の怪獣が窮屈そうに街中で身じろぎをしていた。 ちょっと肘があたったビルが崩れて瓦礫が落ち、無数にいるガジェット・ドローンが潰されたのか爆発が起こる。 召喚士達に何か言われたのか肩を落とす怪獣の片方―黒い怪獣の皮膚の上をセッテを乗せたバイクが駆け上る。 ガジェット・ドローンがセッテの尻を追いかけていく。 誘蛾灯に蛾が群がるように。 姿を隠しているW型を探し、周囲へ最低限のブーメランブレードを浮遊させながら、セッテは砲撃を繰り返した。 バイクにAIがなければ、困難な作業だろうがスカリエッティ手製のバイクはなのは達のデバイスと同じく、セッテのサポートを行うに足る知性を有していた。 器具で体を固定したセッテは、背後を向き近づいてくる敵を撃ち続けた。 嫌な予感に従って、不自然に空いた空間をブーメランブレードで斬りつけたが、それでも収まらない警鐘に従いセッテはバイクの上に体を寝かせる。 空気が裂かれ、何かが胴のあった場所を通り過ぎたのをセッテは肌で感じた。 勘で拳を叩き込み、そのW型を破壊する。 召喚士の命令か、怪獣たちがセッテを守るように回りこもうとするガジェットへ向けて腕を振り回し始めた。 だが同時に、ゆりかごからトーレとディードが落ちてくるとバイクがセッテに囁いた。 『逃げ回ってていいのーっ? 二人が来たら、あなたに勝ち目はなくなっちゃうわよ!?』 何処かから、クアットロの喧しい声が聞こえる。 焦りを押さえ、セッテは引き続きバイクで怪獣の体を登っていった。 主人の意思に従い、バイクは加速していく。 黒い怪獣の皮膚の上にタイヤの跡を残しながら、背筋を撫でる様に滑っていく。 包囲し、襲い掛かるガジェットを破壊しながらバイクは走り続けた。 セッテは姿が確認できなくなったクアットロの姿を探しながら、四方へ射撃とブーメランブレードによる斬撃を放ち続けるしかない。 攻防は続き直ぐにも肩甲骨の間辺りへ差し掛かる…ガジェットは変わらずセッテを包囲しようと追いかけ、セッテはバイクで逃れながら打ち落としていく。 (相変わらずISのせいでクアットロの姿は見えない……それに、W型も) だがこのままでは、いつかステルス機能を持ったW型に今バイクの熱が伝わってくる辺り(背中)からグサリとやられてしまうような予感がした。 何か別の手を打たなければならないような気がする。 (困った。今はまだ……手を止められそうにない) バイクが首の付根へと至り、突如怪獣が体を震わせてセッテ達を振るい落としにかかる。 今まで我慢していたのか、周囲のビルも巻き込んで巨大な腕が振り回された。 堪らずセッテのバイクも空中へ投げ出され、飛行魔法で腕が通り過ぎた場所を抜けていく。 空中に浮かぶ多数のガジェットから放たれる射撃を物ともせずにセッテは地面へ着地した。 今度は道路へ場所を変えて、セッテは移動を続けた。嫌な感じはまだ続いている。 多数のW型が道路の先に姿を現した。 刃で構成されたような体が光を反射させキラキラと光っていた。 バイクを捨てることもセッテの頭に浮びあがった…クアットロは得意げな顔をしているだろう。 高笑いが実際にセッテの耳に聞こえるように発せられたかもしれなかった。 セッテは近づいてくるW型へ対処で、意識を割く余裕は無かった。
だが、そんな二人の空気と待ち構えたW型が粉々になって宙を飛んだ。 弾き飛ばしたのは、運悪く真正面にいた一体を顎で挟み、砕いた一台の車だった。 ライドロンもどき…敢えてまた述べるまでも無い理由によって所々傷んだその車は、セッテのバイクに追いつき、路面との摩擦で煙を上げながら彼女の周囲を縦横無尽に走り続けた。 通り道にいたガジェットは残らず弾き飛ばされるかひき潰されて爆発する。 それでも止まらず、周囲を十分に走ったライドロンもどきは、今度は後退しながらセッテのバイクと並走を始めた。 ライドロンもどきのドアが開く。あっけに取られたセッテだったが、誰が乗っているかはわかっていた。 心あれば触れないであげて欲しい理由から稀有なドライビングテクニックを身に着けていたザフィーラがハンドルを握っていた。 「ザフィーラ…さん?」 「主の命で援護に来た」 人型を取ったザフィーラはそう言うとライドロンもどきの上に飛び乗り、拳を握り締めた。 「シャマルと通信をつないでくれ。クアットロの居場所を調べさせている」 「わかりました」 「それと、コイツも使ってやってくれ。バイクと同じようにコントロールできるな?」 「出来ますが、ザフィーラさんが困るのでは…」 ザフィーラが潰した以上の数を補充して数で押しつぶそうとするクアットロの兵器群の動きを警戒しながら、セッテは戸惑っったような声を出す。 「この状況なら大丈夫だ。俊敏さに賭けるなら、俺は…」 セッテはザフィーラの声を最後まで聞くことは出来なかった。 運転が自分以外の手に分かったのを感じ、座席を飛び出したザフィーラの姿は、ライドロンもどきの装甲を蹴って、当にガジェットの群れの中に消えていた。 足場にされ、蹴り潰されたガジェットが群れから落ちていった。 「私も負けていられませんね」 そう呟いたセッテにバイクとライドロンもどきがライトを点滅させて応える。 二機を180度回転させ、無理やり急停止させた。 追いかけてくるガジェットは多かったが、ザフィーラに負けているわけにはいかない。 未だ遠く雷鳴が鳴り響いていることを思い出してセッテは闘志を燃やした。 突き破り、隠れるクアットロを炙り出さねばならなかった。 そう決意してバイクを、今受け取ったライドロンもどきを走り出させる。 周囲を飛ばしていたブーメランブレードの内二本を握り締めたセッテの脇を射撃魔法が通り抜けた。 辛うじてセッテより早くガジェットに到達したそれの威力は弱く、ガジェットのAMFを波立たせて消えた。 後からセッテのブーメランブレードがAMFを無視して容易くガジェットを切り捨てて爆発四散させる。 同じような弱弱しい射撃が迫ろうとしていたガジェットのAMFに触れた。 気付いたセッテはその一体を無視して先へ行く。 横を通り抜けようとするセッテに、ガジェットは触手のようなケーブルを伸ばそうとした。 貧弱な横槍が加えられ、ケーブルはセッテから僅かに逸れる。 更に二つ、三つとガジェットを射撃魔法が襲った。 それらにはAMFを貫く為に別の魔法で包まれており、光弾がガジェットのセンサーを貫いて行動不能へと陥らせていった。
予想外な方向からガジェットが地面に落ちる音を聞いて、セッテが振り向くと遮蔽物の陰から陸士達のデバイスや髪が見えた。 普段犯人へ突入する際に援護を行っていた者達だとあっさり気付いた。 標準装備のデバイスの端っこやよくある色の髪の一房だが、見間違えようがなかった。 ガジェットを仕留めた事だけは二度見してしまったが、六課の隊長にでも訓練を受けたのだろう。 振り向いた間に迫ったガジェットに撃ち込まれる魔法が、セッテのボディスーツやバイクの装甲を照らすのを見てセッテはそう信じた。 彼らが危険を犯してくるほど頼りないだろうかと言う気には不思議とならなかった。 彼らが持ちこたえられないような数のガジェットが向かわないようにセッテはよりリスクの高い動きを強いられる。 だが怪獣の背を走っていたほんの少し前より面白くなっていた。 彼らと、一人この空間に馴染み過ぎて自由過ぎる感はあるザフィーラ。 そしてセッテの三者へ向かうガジェットの動きからクアットロの居場所を探ることだってセッテには出来る。 「シャマルさん。早く見つけてくださらないと、我々でここは終わらせてしまいます」 『やってます! 陸士の人達には逃げるように言ってください!! W型が来たら…』 「大丈夫でしょう。あの場所は、本部の防御をうまく使うつもりですね」 いつの間にか近づいてきたそのW型の刃をギリギリで砕きながら、セッテはバイクを走らせ…辛うじてブーメランブレードを自分の眼前で交差させた。 バイクの上から落ちないよう、体に力をこめ遅れてきた衝撃波がセッテの周囲に散らばっていたW型の破片を吹き飛ばしていった。 ソニックフォームのフェイト並に速い一撃を防げたのは運が良かった。 以前より早くなっていたが、何度も耐えた経験のお陰だとセッテは感謝した。 状況が変わりつつあることをクアットロが告げたのだろう…肩越しに振り向いたセッテの目に、姉の姿が映った。 恐らく姉妹の中で最も早く、強いトーレ。 また姿が消え、セッテは冷静にそれを防いだ。 トーレがいるということは妹のディードもいるだろうとセッテは考え、姿を探した。 またトーレの姿が消えた。 ISで加速したトーレの腕についた刃を切り払う。瞬時に距離を詰め、通り過ぎたトーレが戻ってくる。 『セッテ!?』 「シャマルさん…! 他に妹が居ませんか!?」 『すぐに探してみる… シャマルの声はトーレとセッテの獲物が衝突した音にまぎれて消えた。 U型の光線がセッテの太ももに当る U型程度なら余り支障はないが、V型・W型やそれに気を取られ姉妹たちの攻撃を受けると危険だ。 セッテの顔に冷や汗が流れた。妹を探す暇も、ガジェット・ドローンに対処する隙がなかった。 ガジェット・ドローンの群れの中を抜けて囲みを抜けようとするセッテを狙うことは困難な作業のはずだが、トーレに取っては容易いことなのか? 切り返しの速さに舌を巻くセッテを何処からか砲撃が襲った。 セッテはディードの仕業だとすぐにわかったが、着弾で起こされた爆風の中気にすべきなのは、この爆風をかき乱して現れるトーレと姿の見えないW型だった。 最大限に集中し、不意打ちに備えようとするセッテをトーレは空中で見下ろしていた。 手足の羽根が光を強め、彼女の体を加速さる。 トーレは妹の急所目掛けて、空を駆けた。 だがその一撃は、突然壁から生えた岩に衝突して未遂に終わった。 体勢を立て直そうとするトーレをザフィーラの蹴りが襲う。 両腕で防いだトーレに、ガジェットを蹴って加速したザフィーラが再び襲い掛かる。 再びISを使用するより早く、拳が叩き込まれ空中に浮かぶ魔方陣から伸びた石の槍に体を叩き込まれる。 痛みを堪えるトーレより先に石の方が砕けた。 ザフィーラは全く気にせず逃げ道を塞ぐように彼女の四肢を砕いていく。
人の姿に形を変えたザフィーラと比べると、彼女の手足は柔らかく、鍛えあげられ、人工物が入っているとはいえ、脆いように感じた。 加速しようとするトーレのボディを打ち、ビルへと埋めながら、ザフィーラはトーレを助ける為にディードが近づいてくるのを感じ取っていた。 そちらに注意を向けたのを察して、トーレが近づきすぎたザフィーラの横っ面に光刃のついた腕を叩き込もうとする。 ザフィーラはまるで来るのがわかっていたようにそれをかわし、ガードの空いた肋骨を砕いた。 この状況から逃れる方法としては、無意識に対処が出来るほど古典的すぎた。 拳を叩き込んだザフィーラの背後にディードが迫る。 「ライドロンッ」 ザフィーラは叫んでいた。 呼ばれたライドロンが、ビルに傷跡を残しながらザフィーラを跳ね、ついでにトーレを顎に加えて引きずっていく。 空振りしたディードのツインブレードが赤い装甲に傷をつけていたが、跳ね飛ばされてたった今砕いた骨と同じ骨を砕かれたザフィーラはそんなことまで気にしていられるような状態ではなかった。 若干引きながらも、セッテが動きを止めなかったのは今までライドロンもどきがどういった使われ方をしていたか知っていたからだろう。 『セッテ!! クアットロを見つけたわ!!』 こちらも、まるで気にした様子の無いシャマルの声でセッテは虚空を睨んだ。 ブーメランブレードが指示された空間へ向けて飛ぶ。 シャマルの言う場所は少しずつ範囲を狭めていく。 弧を描きながら襲い来るブーメランブレードに追い込まれ、逃げるクアットロの影が、セッテの目には見えだした。 両手に構えたブーメランブレードで行く手を遮るガジェットを切り裂きながら、セッテはそこへ向かった。 ディードがライドロンもどきを追いかけて行くのが見えた。 十分に距離を狭めて、セッテは構えていたブーメランブレードをクアットロへ向け投げつけた。 だがそれはクアットロが姿を現し、撃ち落される。 バイクによって加速されたセッテは、撃ち落されたブーメランブレードの後に続きクアットロへ迫っていた。 クアットロが魔法を放つ。 構わず突っ込んだセッテは体を捻った。 回転し、繰り出された足がクアットロの胴を真っ二つにする。 「あ」 瞬間的にやり過ぎたなと思ったが、足を振りぬいて着地を決めるとセッテは気にしないことにした。
* 一方で本部付近に残った六課の人間達を狙い、残りのナンバーズ数名が彼女等の前に姿を見せていた。 怪獣達に命令を下し、あるいはお願いする召喚士二人を狙ってのことなのか。 隊長であるはやてか…本部に集まった重要人物の誰かか。 それは不明だったが、はやて達は迎撃に移っていく。 ナンバーズの先頭に立つのは少女の姿をしたチンクだった。 ライディングボード…妹のウェンディがいつも使っている盾でもあり、砲撃装置でもあり、移動手段でもある汎用性の高い大型プレートに彼女は乗っている。 それまでは半ば専用だったが、製作にはガジェットと同系統の技術を使用しており誰でも使うことが出来た。 悪いがウェンディは居残り遠距離攻撃用のイノーメスカノンを扱うディエチが途中で別れ、オットーがその後を付いていく。 赤髪の少女が脚につけたローラーブレードを使ってチンクの後を付いてくる。 「ノーヴェ、適当なところで投降しろ」 「ええ!? やっと出番が来たのに、それはないだろ!?」 「守護騎士二人に六課の隊長だけでも私達より戦力は大きいんだ。文句を言うなら姉がお前達を陸に引き渡すぞ」 チンクがため息を付いていると、そのタイプゼロ二人…ギンガとスバルが行く手に立ち塞がった。 「全く、今投降すればお前達は簡単な更正プログラムだけで終わらせられるのに…」 「わかったよ!! でもコイツら位は倒させてもらうよ。一度も戦わないで投降するなんて、タイプゼロ達にナメられるだけじゃないか!!」 対抗心を剥き出しにするノーヴェに、どこかで教育を間違ったのではないかと、教育を担当したチンクは若干気が滅入った。 立ちふさがる二人の目は完全にチンク一人に注がれており、殺気立っている。 更には虫型の亜人…アギトの羽音が聞こえてきた。 空から襲いかかってくるのだろう。 彼女等の母親とゼスト・グランガイツの部隊を全滅させた時、ガジェットを率いていたのがチンクだと誰かから聞いたのだ。 そうチンクが察する間に、まずアギトが空から飛来した。 チンクは素早くラインディングボードから飛び降りて射撃への盾とした。 衝撃はほぼ無い。チンクは慌てて盾を放棄してその場から逃げていた。 既にしなやかに宙を舞うアギトはラインディングボードに手を引っ掛け、後ろへと回りこもうとしていた。 残されていたガジェットドローンW型のステルスを解かせて、アギトに組み付かせる。 不意を撃たれたはずのアギトは、そのW型の頭部を蹴って追いすがろうとするが、隠れていたW型が二機、三機とアギトに襲いかかった。 それさえアギトは巧みにかわしてしまう。 だが、突然アギト周辺の空間が爆発を起こした。 同じ空間にいたW型の残骸と共にアギトは路面へ投げ出される。 そこへ集中的にドローンが攻撃を加えて、戦闘不能へと追い込んでいった。 早速虎の子のW型を数機使い捨ててしまったチンクは、ため息を付く間も与えられずに殺気立つタイプゼロ二名…スバルとギンガに襲われる。 遠くへ配置したディエチの射撃が、意識しない角度から襲い掛かろうとしていた射撃魔法を打ち落とし、舌打ちするティアナへ射撃を加える。 冷や冷やしながら、チンクはコートの中に収めていたナイフを抜き、投げつけた。 チンクの能力はエネルギーを込めて物質を爆破すること。 当然ナイフも爆発したが、二人はそんなことでは止まらなかった。 左右の乱打。空中に作り出した道を通り、上空からもラッシュが見舞われる。 伸ばした髪を歯車のような輪っかがついた拳が突き抜けていく。チンクは髪に手をやって痛まないか心配していた。
もう一人、赤毛の少年エリオが回り込もうとしていたが、それは素無視されたノーヴェに任せチンクは目の前の二人に集中した。 足払いを踊るように、ステップを刻みながらかわす。追いかけて来たギンガの突きがコートに絡まって小柄なチンクを後ろへ引きずろうとした。 だがそれを何度繰り返されても、ティアナの精密な射撃による援護を受け、キャロのブーストで一時的に二人の速度が増しても…チンクの体には当たらなかった。 追いかけるスバルが通る路面が、空中に作った道の傍で壁に刺さっていたナイフが爆発して二人の足を鈍らせる。 そして、スバルはまた拳をかわされ、ふとドローンや街のと違う残り香に気付いた瞬間……目の前が弾けた。 動きが止まり、チンクからも離れるとすぐに超長距離から行われるディエチの援護狙撃がスバルを遠くへ弾き飛ばし、更にガジェットの群れが集中砲火を行った。 流石に警戒してギンガが、エリオとスバルを回収して下がっていく。 「この様子だと、余り積極的に攻めずに済みそうだな」 「チンク姉って、そんな強かったのか?」 「姉を舐めるなと言いたいが、ガジェットやノーヴェが適度に邪魔をしてくれるお陰だよ」 感心する妹にちょっと得意げになりながらチンクは答える。 「Sランク魔導師+αでもこの布陣ならやれるぞ?」 「てかナイフ…」 「それはジョ○ョ読んで練習した」 「何それ…」 説明されてもまだもの言いたげな顔をするノーヴェに困り顔で応じたチンクは、適度に攻め込み投降する機会を待つことにした。 ガジェット・ドローンが無数にいるこの状況ならかなりいいところまでやる自信はあったが、追い詰めて形振り構わず大規模魔法を使われても困る。 「何年も前にあの二人より数段上の陸士を捌いた姉だ。お前にもフィードバックされてるんだからこれくらいは出来るさ」 そうチンクとノーヴェが軽口を叩いていたその時、桜色の光が『聖王のゆりかご』から漏れた。 同時に彼女等の体はある者は壁にめり込み、地面を滑り、宙から落下した。 彼女等の認識が追いつかないほどの一時、街に風が吹いた。 *
全てのガジェット・ドローンがいつの間にか空中に押し上げられ爆発した。 T型・U型・巨大なV型・透明になり空間に溶け込んでいたW型まで全ての機動兵器が、一体残らず空に消えて行く。 地上から空へ向かう雨粒のようなものを見て取った怪獣達がゆりかごを見上げた。 ガジェット・ドローンを連れ去った風の余波が、街にいた者達を皆巻き込んで横たわらせていた。 雲は遠くへ流れたり、爆発に巻き込まれ四散した。 ゆりかごまでが揺れる。 その内部、傾いたゆりかごの床になのはが落ちていく。 また体を壊してしまうかもしれないほどの無理をした彼女の体は、空中に浮かび続けることも出来ずに落下していった。 聖王ヴィヴィオは、ボディスーツの所々から煙が上がっていたものの、五体満足で突如傾いた床に立っていた。 「…ミッドチルダ式の魔導師一人にやられるなんて」 虹色の光に包まれ表情は誰の目にも触れることはなかった……悔しげな声音でヴィヴィオは腕をなのはに向ける。 だが床に叩きつけられようとしているなのはを攻撃する暇は与えられなかった。 「そこまでだ」 何処からか声が響いた。ヴィヴィオの腕に宝石や、空を彩る星々のように輝くゲルがまとわりつき、男性の手が生まれていく。 「やっぱり」 桜色の光線がヴィヴィオを押し潰そうとした時に、一瞬だけ彼女の魔法が途切れてしまったことを聖王ヴィヴィオはわかっていた。 一介のミッドチルダ式の魔導師一人に手痛いダメージを負うかRXをほんの一瞬自由にするか…どちらにするか生まれたばかりの聖王は判断を下せなかったせいだった。 掴まれた手を見つめて、ヴィヴィオが諦めの混じった声で言った。強引に手が引かれて、聖王ヴィヴィオは一瞬痛みに顔をしかめさせながら背後を振り向かされる。 反射的になのはの全力全開を防ぎきった虹色の光…聖王のみが扱う防御能力である『聖王の鎧』を全身から放った。 傾いていた聖王のゆりかごがゆっくりと水平に戻っていく。何事もなかったように、強く手は引かれていた。 なのはの桜色破壊光線でえぐり取られた床に、虚空に生まれた足が下ろされた。 何処かから集まってきた眼に見えないほどの粒が集まっていく。 徐々に、凄まじい速さで全身が形成される。 「RX…もうすぐ私の存在を教会が認める」 「ヴィヴィオを犠牲にし、家族を引き裂いて復活を果たすなどこのRXが許さんッ!!」 バイオライダーが叫ぶと、感情も露に聖王ヴィヴィオが叫ぼうとする。 「私のことは…!」 私もヴィヴィオだと訴えかけながら、聖王ヴィヴィオは全力で抗う。 虹色の光、『聖王の鎧』が攻撃のために集められ、今なのはから盗みとった魔法さえも展開される。
だがそれらを、間違いなく今聖王ヴィヴィオに出来る全力で抗おうととった行動すべて、まるで無いもののように無視して、同時に光りだしたバイオライダーの体を橙と黒、太陽の色をした鎧が覆い尽くす。 間近で見上げたその仮面は頼もしさなど微塵も感じられない。冷たく硬い恐怖を与えるものだった。 魔法が全力を注いで仮面を砕こうとしたが、クリーニング程度の効果しか得ることは出来なかった。 突き出された甲冑の拳が魔法を打ち砕き、『聖王の鎧』を打ち払って聖王ヴィヴィオの体へ突き刺さった。 スカリエッティの手によって聖王ヴィヴィオの体内に埋め込まれたレリックが砕け散り、破片が聖王ヴィヴィオの後方、体外へと散らばっていく。 ゲルに受け止められ、床に寝かされたなのはの上に破片は散らばり、破片は空気に溶けるようにして消えていく。 聖王ヴィヴィオの体がくの字に折れてこちらも虹色の光となって空気に溶け消えていく。 RXのよく知る幼いヴィヴィオが光の中から落ちる。RXの姿に戻りながら、RXは寸前で体を掬い上げた。 時を同じくして、鼻血や他の負傷もそのままのフェイトから通信が開かれる。 「RX、よかった。こちらはスカリエッティの身柄を確保しました。そちらは大丈夫ですか!?」 「あ、ああ。でもすぐに三人を病院に運ばないと…フェイトも大丈夫かい?」 言いながらRXははえぐり取られた室内を見渡し、転がる三人を素早く集める。 特にダメージの深い二人を見てフェイトが顔を青くする。 『ひどい怪我……シグナム達がこんなになるなんて』 「君もひどい怪我だ。すぐに戻ったほうがいい」 『え…は、はい!! ゆりかごは、後から来る部隊(クロノ達に)に任せましょう』 慌てて顔を手で隠すフェイトにRXは少し緊張を解す。 新しい画面が空中に開いた。 新しい画面が空中に開いた。 はやて達だ。こちらは特に怪我もなく、心配したりガジェットへの対処や怪獣が不意に起こす被害を気にして神経をすり減らして疲れた顔だった。 『みんな無事っ…とはいかんけど、大丈夫みたいやね。突然皆吹き飛ばされたりしたんやけどあれってやっぱり』 「すまない」 『ええんやって。ゲル化して皆を連れて戻ってくれます? 後のことは、うちらの手を離れてしもたから…』 はやては安堵した後、言葉を濁した。 『はやて?』 『えっと、先に皆を移動させてください。その後にちゃんと説明しますから』 言い捨てて画面が閉じられた。 RXとフェイトは画面越しに目を合わせて、首をかしげる。 すると、新たな通信画面が空中に開いてよく知った顔が映った。 『お久しぶりね』 「ウーノ!?」 スカリエッティの所へ戻ったはずのウーノが、スカリエッティ譲りの邪悪な笑顔を浮かべてRX達を見ていた。 どこかで事件を見ていたらしく、状況は把握しているようだった。 『RX、ゆりかごは教会と管理局で最低限の話はついたわ。ゆりかごは教会のものよ』 「どこに…!?」 姿を消した時と変わらない態度のウーノに、足元や手の中で呻く皆を見て言う。 『RXッ! 耳を傾けちゃダメです!!』 「…話なら、皆を病院に運ぶのが先だ」 『貴方なら一瞬よね。それくらいなら待つわ』
フェイトが何事か言おうとする。 しかしそれはゲル化によって遮られ、彼女等は皆病院や管理局地上本部へと瞬時に移動を果たした。 フェイトとの通信は開いたままだが、RXは一先ず話を聴くことにした。 『何を言うかなんて知りませんけど、絶対にいいことじゃありません!!』 『何いってるの。RXを助けようとしてるのに…!』 画面ごと迫ってくるフェイトに少し身を引くRXをウーノは面白くなさそうに見てから言う。 『『聖王のゆりかご』からヴィヴィオには辿りつく。ドクターの戦闘機人等の技術もある程度は手に入るわ』 「ヴィヴィオをまた…」 『またヴィヴィオを聖王にしようとするかはわからないけど、聖王陛下となる為の教育は求められてくるでしょうね。ドクターの技術は単に聖王様の力を強制的に引き出しただけだし』 「『ゆりかご』は破壊する…!」 RXが動き出そうとすると、はやてが通せんぼするように目の前に通信画面を開いた。 『ま、待ってーや! カリム…教会にはコネがあるからそんなことにはならんから…!! 協会が管理する事になったんやで!? 聖遺物なんて壊してもうた重罪に問』 「すまない。皆のことを頼む」 『RX、壊すならハラオウン執務官がいた部屋のクリスタルを破壊すればゆりかごは壊れるわ』 『そそのかすんはやめって!!』 ウーノの指示を聞きながら、RXは首をひねってフェイトに顔を向けた。 「…フェイト。セッテやヴィヴィオを頼んでいいか?」 『は、はい…!』 『フェイトちゃんも何言ってるんよ!? あー…!! もう消えとる!?』 フェイトとスカリエッティが争った部屋に、RXは既に移動し終えていた。 まだ血などが残された部屋の中央で、『聖王のゆりかご』を動かすエネルギー源である巨大なクリスタルが赤い光を放っていた。 『こら! 陰険なアンタのことや!! なんか止めるようなネタないん!?』 『え、私かい? 『早く!!』…そうだな。以前『ゆりかご』はRXの故郷に攻め込んだという伝承があるから調べれば故郷に変える手が見つかるとかかなぁ?』 玉座近く、先程までRXが立っていた辺りからするはやてやスカリエッティの声を聞きながら、RXは腰の中央で左手を握りしめた。 『どうせ聞いてるんやろ!? 聞いた!? 私達も協力して情報はとり出すから! 早まったことはせん…』 バックルに埋め込まれた宝玉から白い光が伸びた。眩い光は部屋中を埋め尽くしていた赤い光を払いながら線となり、空間を埋めて物質へと変わっていく。 光から生み出された柄を握り締め、残りの部分を生み出しながらRXは杖を引き抜く。 リボルケインを構えた右手で床を叩き、RXは自分の体より巨大なクリスタルへ向かって飛んだ。 空中で突き出されたリボルケインがクリスタルを保護していた障壁を割り、そのまま杖の先端がクリスタルへ突き刺さる。 RXが両手で柄を握り締め、杖は先端を捻りながら深く、クリスタルの中へ深く突き刺さっていった。 突き刺したのと同時に送り始めたエネルギーの一部が、火花となって反対側から吹き出していく。 送り込まれたエネルギーが、クリスタルを、そして『ゆりかご』の内部を駆け巡り、船体を突き破って白い光が船内のあちこちから飛び出した。 ミッドチルダの街や、『ゆりかご』内部、エネルギーを送り込むRXの仮面が照らされる。 RXがリボルケインを抜いた。
支援
てつをキタ━━━(゜∀゜)━━━!!
>>160 コピペミスして画面二回ひらいてます。すいませんOTZ
床に降りながらRXは血を振り払うようにリボルケインを振るう。
杖に残った破壊エネルギーがほんの僅かな間虚空に残り、RXと署名して消えた。
署名が消え、RXを内部に残したまま『聖王のゆりかご』は爆発した。
突然光を放ちだした『聖王のゆりかご』を見上げていた人々は突然の強い光に目を閉じ、爆発が収まるのを待とうとした。
どうなるか予想していたはやてとそれに習った者達が、サングラスをして見続ける中…RXらしき点が、爆発の中から落ちていく。
はやてのサングラスから光る何かが零れたような気がしたが気にする者は一人としていなかった。
まだ爆音が響く中で誰かがRXを呼んだ。
巨大な怪獣達が手を伸ばし、フェイトがいつかのようにRXを抱えるために飛び出した。
だが―RXの体は突如出現した何かに挟まれて、次元の壁を突き破って姿を消した。
「「「「「「「え…っ」」」」」」」
何が起こったか見えた者達は、すぐに気をとり直して呆れたり怒ったり、様々な反応を見せる。
『はやてごめん! 私、RXを助けに行ってくるから!』
『いや、アカンて。後始末あるんやから』
『そんな…セッテ!! 貴方はわからない!?』
『どうでしょうか…?』
『んもう…!』
・
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幾つかの次元を突き抜けてから、ライドロンはアゴを緩めてRXを開放した。
加えられていたRXが、連行されたことなどに悪態をつきながら車内に乗り込む。
「拾ってあげたし、情報も教えてあげたでしょ。感謝の言葉は?」
「こんな真似が必要だったとは思えないぞ。ライドロンもだ! なんでウーノに協力してるんだ!?」
運転席にはウーノがいた。RXがドアを閉めるとウーノはライドロンを更に加速させ、更に追跡を困難にするために別の管理世界へとライドロンを走らせようとする。
南光太郎の姿に戻りながらRX・光太郎はライドロンの車内を叩いた。
「あのままあそこに残っていた方が面倒なことになるんだから、よかったでしょう?」
「それは否定しないけどさっ」
シートにもたれ掛かる光太郎に、ウーノが勝ち誇ったような顔で言う。
「予め『ゆりかご』からデータは取っておいたわ。ギリギリだったし、まだどれがどれだかわからないけど多分貴方の故郷に行くのに必要なデータもあるはずよ」
「どうして、そんな用意がしてあるんだ」
「退職金代わりに色々なデータを貰っただけよ。貴方との取引にも使えそうなデータが他にもあると面白いんだけど…」
ハンドルを握ったまま、ウーノは光太郎に流し目を送った。 光太郎は返事を返さずに座っているシートを後ろへ倒そうとしていた。 車内にため息が漏れる。ライドロンが次元の壁を超える。 次の管理世界は時間が少しずれているのか、辺りは暗く、静かだった。 「……セッテや六課のお友達のことを確認したくても、教会と管理局の反応を待ってからにするのね」 「わかった。わかってるけど、何かあれば俺は皆を助けに行くぞ!」 「チッ………それは諦めてるわ」 舌打ちがやけに大きく車内に響き、そこで会話は途切れた。 空気を読んでライドロンは静かに走り続ける。 故郷の地球へ向かうデータを探しながらの逃亡生活を考えて光太郎は少し憂鬱になった。 無表情でウーノは運転を続け、光太郎は早々と目を閉じていた。 車内は暖かく、微かな振動が二人の体を揺さぶった。少しすると、光太郎の寝息が聞こえ始めた。ため息がまた漏れた。 落胆からではなかった。 こうなるとわかっていてやったとはいえ落胆するかと思っていた自分が、奇妙な気持ちにウーノは襲われたことに対して、ウーノはもう一つため息をついた。 元々ライドロンが自走することも出来る為運転を任せてウーノは視線を向け、次に手を向けて助手席の光太郎が眠っているのを確認して唇を開いた。 「ホントに世話がやけるんだから………」 寝具を取ってやろうか迷って体が動いたが、それを決める前にウーノは不思議なことを思った。 普段なら考えもしないことで、後でかなり長い間後悔することは確実だったが、どういうわけかウーノはもう一度光太郎が眠っているかどうかを確認した。 念入りに手で肩に触れて、顔を近づけても寝息が変わらないことや反射的に顔を顰めるだけだということを確かめ…耳元に唇を寄せた。 「…………〜〜……………っ……………………………………………………あ……………………………………………………………………………愛してるわ」 車内灯は付いておらず、顔色は誰にも見えなかった。 ライドロンがふざけて蛇行し、ウーノが叱った。 光太郎の眠りが薄くなる前に彼女は運転に戻った。 目覚める頃には、窓から入る光に照らされた顔も普段どおりの白さに戻さなければならなかった。 「…? 今揺れなかったか?」 「道が、悪かっただけよ」 ED 以上でりりかるな黒い太陽は完結とさせていただきます もう少し引き伸ばす予定だったけど間が開くばかりで進まないし内容的には増えるわけでもry 拙作にも関わらず投下時感想を下さった方やまとめページにコメントしていただいた皆様に感謝を どうにか投下出来たのは皆様のお陰です。最初は創世王とか出てもっと酷い事になる分岐も考えていたので……内容についてもかなりいい意味で影響されたと思います RXの性格が変わったことについては考えた上でのことだったのですが、最終話も含めなのは側のキャラをちゃんとかけなかった点については申し訳ありません クロスなのになのは勢はスカが調子に乗っただけだったような…
最後はやはりリボルクラッシュで締め あとは後日談みたいなのが見てみたいですね
黒い太陽氏乙です
お・・・終わったのですか?
職人の皆さま投下乙です。 自分もクウガの最新話を投下しようと思うのですが、 特に投下の予約も無いようなのでこのまま投下しても大丈夫かな……? それでは、次のレスから投下を開始します。
海鳴市、八神家―――03:54 p.m. 雄介はキッチンで包丁を握り、はやてはお茶を啜りながらテレビを見つめ。 ヴィータは二画面の携帯ゲーム機を操りながら、脚を伸ばしてソファでだらける。 シャマルは夕飯の買いだしの最中で、シグナムは剣道の道場に行っている最中。 ザフィーラは何をするでもなく、子犬の姿のままでリビングで横たわって居た。 それは何処の家庭にもある、日常的な午後の光景であった。 「雄介ー」 「んー?」 不意にヴィータが、ゲーム画面から目を逸らした。 「今何してんだ?」 「ああ、最近暑くなって来たから冷ややっこ作ろうと思って」 「おおー、冷ややっこか! 食べる食べる!」 嬉々として返事を返した。 子供らしく脚をばたつかせるヴィータを見て、雄介も笑顔になる。 雄介が今言った通り、最近は夏に向かって徐々に暑くなってきている。 初夏なのにこれ程暑いのは、雄介の世界でも懸念されていた地球温暖化による為か。 何はともあれ、はやての言い付けで真夏になるまでクーラーの使用は禁止されている。 それ故に、少しでも暑さを紛らわせようと雄介が考えたのが、冷ややっこという手段であった。 「確かに、最近は急に暑くなってきた気ぃするなぁ」 テーブルの上に誰かが放置した団扇を手に取り、はやてが言った。 恐らくシャマルあたりが使ったのであろう、駅前で配られている団扇であった。 団扇で軽くぱたぱたと仰ぎながら、気だるげに告げるはやてに雄介が返す。 「聞いた話じゃ、このままだといつか日本も夏と冬だけになっちゃうらしいですしね」 「そうなのか!? それって大変な事なんじゃないのかよ!?」 「うーん、確かに夏と冬しかないって国も結構あるんだけど…… 春夏秋冬は日本の特徴の一つだから、それが無くなっちゃうのは、やっぱり寂しいよね」 その言葉に、はやてとヴィータが項垂れた。 豆腐に包丁を入れながら、そんな光景を眺める。 人為的な事件ならまだしも、環境問題は流石にどうしようもない。 一人一人が地球の環境の事を考えて、少しでもエコを心がけるくらいしかないのだ。 雄介も極力気を配っては居るが、こればかりはすぐに変わる事柄でもない。 そんな時であった。 はやてが見ていたワイドショーで、司会が話題を変えた。 今最も話題になっている、未確認生命体による殺人事件についてであった。 実際には話題の原因となった42号は雄介が倒したのだが、そんな情報が公開される訳もない。 それ故に世間では42号はまだ何処かに潜伏していると考えられており、今でも警戒は解かれて居なかった。 雄介もテレビ画面に視線を移し、現在の話題に耳を傾ける。 『――相次ぐ未確認生命体による殺人事件に対し、警視庁は未確認生命体対策本部を設立し――』 この世界でもこうなってしまったのか、と雄介は思う。 雄介が元々居た世界でも、人を殺して回る未確認生命体に対処する為、警視庁が動き出した。 社会的に危険な存在と認識されたのであればそうなるのは当然なのだが、やはり素直に喜べない。 未確認が居ない、平和な世界だと思っていたこの世界は、ふとした事で大きく変わってしまった。 最早この世界も雄介の居た世界と大きな変わりは無い、未確認事件が発生する世界となってしまったのだ。 ただ違うのは、46号はこの世界では第1号。42号が目撃情報から、第2号として認識されている、という事だが。 幸いクウガが戦ったのは結界の中であった為に、未だ世間にその存在を知られてはいない。
そうこうしていると、不意に呼び鈴の音がリビングに鳴り響いた。 包丁を握る手を休め、どうするべきかを考える。目の前に居るのははやてとヴィータ。 大人がいない現状、来客を出迎えるのは否応なしに大人である自分になるだろう。 「あ、冷ややっこは私がやるから、雄介君出てきてくれる?」 その言葉に軽く返答し、雄介は身に着けていたエプロンを外した。 入れ違いにはやてがキッチンへと入り、雄介が置いたクウガマークのエプロンを身につける。 はやてははやてで、冷ややっこを食べた後で、少しだけ外出する予定がある。 故に、早い所冷ややっこを食べてしまいたいと思っていたのだろう。 合理的な判断であった。 EPISODE.22 消失 海鳴市、月村邸―――04:00 p.m. 42号との戦いが終わってから数日後、ある日の放課後の出来事。 場所はアリサ・バニングスが住まう豪邸に勝るとも劣らぬ大豪邸――月村邸。 アリサとすずかがテーブルに向かい合って、柔らかな微笑みを浮かべて談笑していた。 そんな中、月村家のメイドであるノエルがテーブルに並んだカップに紅茶を注いでゆく。 二人の少女は、ノエルに軽く礼を告げて、そのまま後方へと下がらせた。 「やっぱりノエルさんの紅茶は美味しいわね」 と、アリサ。 友人に仕えるメイドを、まるで自分の事の様に誇らしげに告げた。 そもそもメイドや使用人を雇っている家など、海鳴市でもアリサとすずかの二件だけだ。 アリサも普段自分の家で仕えるメイドを見慣れているし、それ故に使用人を評価することも慣れている。 褒められたノエルは後方で、僅かに微笑みを浮かべ、一礼。感謝の気持ちを体現した。 「それで本題なんだけど、未確認生命体はアリサちゃんにかけらを渡せって言ったの?」 「うん、一応なのは達にも伝えたんだけど」 ことん、と音を立て、テーブルに金色の物体を置いた。 照明の光を受けて黄金に輝くそれは、何処か禍々しく思える。 今となっては、欠片を見るアリサの視線も、何処か不安げであった。 「私もね、あの未確認に言われて、暫くの間は何の事だかわかんなかったのよ。 けど、なのは達の話を聞いて、心当たりがあるならやっぱりこれかなって思って」 「うーん……私はこういうの見ても、何にもわかんないけど、何かあったら大変だもんね」 力になれない事を申し訳なく思い、すずかは僅かに俯いた。 だけど、なのは達も、その欠片は危ないかもしれないと言っていた。 と言っても、42号が起こした殺人事件の影響で、今現在学校は「未確認」という言葉に敏感になっている。 表向きには42号が死んだという情報も公表されて居ない(というよりも出来ない)為に、未だ脅える子供もいるのだ。 そんな生徒が大勢居る学校で不用意に未確認の話も出来ず、放課後もう一度集まろうという事になった。 以上の経緯があって、二人は今なのは達魔道師組を待って居た所だ。 「「あ」」 不意に、すずかとアリサが呟いた。 二人のポケットの中で、携帯電話が振動していたのだ。 二人揃って携帯を取り出し、同時に送られてきたメールを読む。 それから一拍の間をおいて、アリサとすずかは向き合った。
『ごめん、みんな! 私もみんなと一緒にすずかちゃんの家に行きたかってんけど、 さっき家に警察の人が来て、私は暫く家から出られへん感じになってもうたんよ。 だから未確認の欠片の話はなのはちゃんとフェイトちゃんに任せる形になるけど、 話が纏まったら私にも教えてな。今日はほんまにごめんな〜……』 との事であった。 差出人は言うまでもなく八神はやて。 送信先はアリサ、すずか、なのは、フェイトの四人。 一斉送信だった。 「警察って……はやての奴、今度は何やらかしたのよ」 「今度はって……誤解される様な事言っちゃ駄目だよ、アリサちゃん?」 すずかのツッコミに、アリサはにししと笑った。 軽い冗談を交えて、二人の間に再び笑顔が戻ってゆく。 とりあえず、はやては今日来れなくなってしまったらしい。 何故家に警察が来たのかは明日聞くとして、今日は四人での集会だ。 一応「はやてを責める気はないから気にしないで」、とのメールを返しておく。 ぱたん、と音を立てて携帯を閉じると、気付けば足元に一匹の猫が寄り添っていた。 グレーの毛並みのその猫は、この屋敷に住まう大量の猫の中で、最もすずかとの付き合いが長い。 幼少の頃に初めて両親に買って貰ったブリティッシュショートヘアの猫の名を呼び、両手を広げる。 「ミック、おいで」 「にゃあ〜」 可愛らしい泣き声と共に、ミックがすずかの膝に跳び乗った。 グレーの美しい毛並みは「永遠の傑作」とも呼ばれるブリティッシュブルーの証。 当然安い買い物では無い品種であるが、富豪である月村家からすればそれ程問題では無い。 初めてのペットであるミックを、すずかは家族のように愛していた。 「その子、最初は全然私に懐いてくれなかったのよね〜」 「あはは、でも今ではアリサちゃんも、ミックのお友達だもんね」 「まあね。ほら、ミックー?」 名を呼んで、アリサがお茶菓子のスプーンを数度振った。 それを見届けたミックはすたっと跳び下りて、アリサの足元にお座りした。 今し方アリサが見せたのは、きちんとしつけられたミックだからこそ出来る儀式。 ミックに特別なご褒美を与える時にこの仕種をすれば、ミックは大人しく従うのだ。 指示に従ったミックを褒めながら、アリサはお茶菓子を一つ、ミックに与えた。 「もう、あんまり与え過ぎないでね? 太ったら色んな病気の原因になるんだから」 「わかってるわかってる、たまにしか会えないんだから、ちょっと遊んでみただけよ」 すずかの家には、このミックを筆頭に、拾って来た大量の猫が居る。 それというのもすずかが大の猫好きで、捨て猫を見付ける度に拾って来るからなのだが。 拾うだけなら誰でも出来る。凄いのは、大量の猫全てをきちんとしつけ、栄養管理も怠らないことだ。 猫の飼い方に関してはこだわりがあるらしく、すずかとしてもそれだけは譲れないらしい。 それこそが、すずかの猫への愛情の現れであった。 それから三十分程の時間が経過して―― 不意に、屋敷の中へと呼び鈴の音が鳴り響いた。 すずかとアリサ、二人の目線が交差して、たちまち笑顔になる。 玄関へと向かおうとするノエルを引き止めて、二人が席を立った。 「迎えに行こっか、アリサちゃん」 「そうね、折角来てくれたんだから、私達がお出迎えしないと」
友達が来てくれたのに、出迎えをメイドに任せきりというのも酷い話だ。 笑顔で立ち上がった二人の意思を汲み取ったノエルは、部屋を後にする二人に追随。 一応メイドたるもの、仕事を何もしないというのも問題なのだろう。 友達を迎えに行ったアリサ達と共に、ノエルはこの部屋を出た。 「にゃあ〜……」 誰も居なくなった部屋で、泣き声が響いた。 確かにこの部屋に人はもう居ないが、正確には誰も居なくなった訳ではない。 その場に残されたミックが、眠そうな目でテーブルの上に飛び乗った。 ミックの目を引いたのは、テーブルの上に置かれた金色の何か。 光ものだからか、本能的にそれに興味を惹かれたミックは、それへと手を伸ばし―― 次の瞬間には金の欠片を口に咥え、何処かへと走り去っていた。 ◆ 海鳴市、八神家―――04:02 p.m. 八神家の玄関先で、五代雄介は一人の人間と対峙していた。 黒のスーツをきちっと着こなす長身の男。髪の毛は黒の長髪。 慣れた手付きで警察手帳を差し出す男が醸し出すは、出来る男の空気。 エリート風のイメージを抱かせる、若手の刑事であった。 「突然お邪魔してすみません。私は未確認生命体対策本部の氷川と申す者ですが」 差し出された名刺を受取って、雄介は否応なしに一人の男を思い出す。 元の世界で、未確認生命体合同捜査本部に所属していた、最も信頼出来る相棒。 市民を守る警察官として、エリートの道を歩んで来た、若手の刑事――一条薫。 氷川誠と名乗った男は、図らずも雄介にあの戦いの日々を思い出させた。 黙ってしまった雄介を心配したのか、氷川が顔を覗き込み、告げる。 「あのー……どうかしましたか?」 「あ、いえいえ! 何でもないですよ。で、今日はどうしたんですか、刑事さん」 慌てて返す雄介に、氷川は気を取り直した様子で続けた。 「未確認生命体が小学生を連続で殺害した事件に関しては、当然ご存知ですよね」 「ええまぁ……ご存じ、ですねぇ」 「それについてなんですが、またいつ第2号が現れるか解ったものではありません。 幸い今のところ八神さんのお子さんは無事の様なので、本人から当時の状況を窺いたいのですが」 「あぁ、なるほど……えーっと……」 暫しの沈黙が流れて、 「……あっ! 無論、強制はしません! 事件が事件ですし、拒否する家庭も少なくありませんので」 慌てて氷川が付け足した。 それはそうだ。未だに42号に脅えて暮らしている子供だって少なくないのだ。 友達を殺された子供のトラウマを抉るような真似をする訳には行かない。 それ故に、事情聴取を断った家庭に関しては、それ以上の関与はしない。 警察たるもの、当然と言えば当然の措置であった。 「目撃情報とか、当時の話とか、何でもいいんです」 真摯な態度で雄介に訴える氷川。 この態度を見るに、氷川誠というは人間はよっぽど真面目なのだろう。 初対面の雄介がそう思う程、氷川の視線は熱意に満ちていた。 しかし、そんな雄介のイメージが壊れるのは、次の瞬間。
――ぐぅ〜。 と、鳴り響いたのは、腹の虫。 雄介の胃袋が鳴らした訳ではない。 となると、その犯人は目の前にいる男のみ。 雄介の眼前、氷川が恥ずかしそうに俯いていた。 「ほな、話ついでに、うちで冷ややっこ食べて行きます?」 「え?」 気付けば雄介の背後、はやてが微笑みを浮かべていた。 海鳴市、八神家―――04:12 p.m. テーブルを囲むのは、向かい合って座るはやてと氷川に、ヴィータと雄介。 四人の前に小さな取り皿が置かれて、氷川が申し訳なさそうに視線を落とす。 ここまで氷川ははやてと二人で事件当時の話をしていたのだが、当然有益な情報など聞き出せる訳もなく。 はやてははやてで、魔法やクウガの事など説明も出来ないので、ただ知らないと言う事しか出来なかった。 成果が無いだけでなく、ここまで気を遣わせた事に気を落としているであろう氷川を気遣って、雄介が笑顔で告げた。 「はい、氷川さん。お腹は膨れないかも知れないけど、美味しいですよ、冷ややっこ!」 ごとり、と音を立てて、冷ややっこがテーブルに出された。 綺麗な四角に切られた豆腐は、空腹時にはより食欲を刺激する。 だが、氷川の事を事を考えた雄介の笑顔も、氷川にとっては素直に喜べる事では無く。 「いえ、私は勤務中の身であって、決してこの冷ややっこを食べたいなどとは――」 ――ぐぅ〜。 言葉を遮り、鳴り響く腹の虫。 次いでごくりと、生唾を飲み込む音が聞こえた。 「ま、まぁまぁ……難しい話だけっていうのも何ですし、折角なんやし、遠慮せずに!」 「……仕方ありませんね。八神さんがそこまで言うなら、頂く事も吝かではありません」 「素直に食いたいって言えよ、面倒くさい奴だな」 ぽつりと呟いたヴィータに、 「こらヴィータ、刑事さんにそんな事言うたら逮捕されるよ」 「えー!?」 はやての言葉を信じたヴィータが絶叫した。 そんな光景に、氷川は何も言わずに顔を顰める。 それから箸を取り、両手を合わせて短く合掌。 氷川は黙々と冷ややっこへと手を伸ばした。 「「「頂きまーす」」」 雄介とはやて、ヴィータの声が揃った。 それぞれが自分の箸で、自分の分の豆腐を掴む。 口に運んで、ひんやりと触感を楽しみ……笑顔になる。 「美味しい! やっぱり夏はこれやなぁ〜」 と、笑顔ではやて。 黙々と豆腐を頬張るヴィータも満面の笑みであった。 それを見ている雄介も、自ずと笑顔になってゆく。 そこで不意に思いだしたように、
「あ、どうですか氷川さん、美味しいでしょ――ッ!!!」 言いかけて、止まった。 雄介の眼前に広がって居たのは、酷く無惨な光景。 豆腐は一口たりとも氷川の口へと運ばれてはいない。 そこに居るのは難しい表情で箸を握る氷川と―― 「うわ……豆腐がぐちゃぐちゃ」 思わずヴィータが呟いた。 そこにあるのは、箸で掴み切れず、細かく挟み千切れた豆腐。 何度も豆腐を落とした事で、撥ねた水がテーブルを濡らしていた。 それを見るはやての表情は――笑顔。どう見ても、笑いを堪えていた。 流石に気まずくなった雄介は、笑いを堪えながら告げた。 「あぁ〜、もう、駄目ですよ氷川さん、無駄な力入れちゃ」 「無駄な……力……?」 「ほら、俺が取りますから」 「! 余計な御世話はやめてください!」 氷川が声を荒げた。 軽く箸を雄介に向けて、 「君は、黙って見てればいいんだ」 もう一度、冷ややっこを箸で掴んだ。 今度は慎重に、ゆっくり、ゆっくりと。 少しずつ箸が豆腐に食い込んで、徐々に持ち上げてゆく。 緊迫の空気が流れ――次の瞬間には、冷ややっこを自分の取り皿へと移す事に成功していた。 一つの難題を成し遂げた事による満足感か、氷川の表情に浮かぶは満面の笑み。 それはまさに一つの事柄をやり遂げた、男のそれであった。 「どうです。まさに、完っ璧だ!」 「……甘いなぁ〜」 腕を組み、やれやれとばかりに告げたのは雄介。 困惑した様子で、氷川は雄介を見遣った。 「あ、甘い? 何が……」 「これは木綿豆腐だから上手く行ったんです」 「も、もめっ!?」 うろたえる氷川に、 「「木綿。」」 ヴィータとはやてが声を揃えた。 次いで雄介が、豆腐を指差して、笑顔のまま告げる。 「今の手付きじゃあ、絹ごし豆腐は取れませんよ」 何の他意も無い雄介の言葉。 されど、それは氷川という人間に火を付けるには十分であった。 氷川誠という人間は、目の前の敵から“逃げ出す”という事を絶対にしない。 そこに壁があるなら、どんなに困難であろうと努力を重ね、やがて乗り越える。 それが氷川誠の生き様であり、絶対に譲れないポリシーであった。 周囲の視線から、乗り越えるべき壁がそこにあると判断。 一拍の間を置いて、氷川は声を荒げる。
「では、絹ごし豆腐を出して下さい!」 「いえ、うちにはありませんけど……」 困惑した様子で告げる雄介に、 「わかりました!」 箸を勢いよくテーブルに叩き付けた。 これは試練だ。自分に課された、試練の壁だ。 乗り越えずして何とする。氷川誠は、絶対に逃げない男なのだ。 故に―― 「買ってきましょう!!!」 怒涛の勢いで立ち上がり、急ぎ足で部屋を出て行った。 最早自分を見る周囲の目が“呆れ”に変わって居る事など、気にも留めずに。 そうだ。周囲の目など関係無い。他者から押し付けられた価値観など、知った事じゃない。 例えどんな目で見られようと、自分は自分だけの道を貫き、どんな無理も己が力でこじ開ける。 氷川誠は、紛れもない漢であった。 海鳴市、八神家―――04:57 p.m. ここに再び、氷川誠という一人の男の戦いが始まった。 テーブルを囲むは、雄介とはやて、ヴィータにシャマル。 先程よりもギャラリーが増えた事で、氷川にも自ずと熱意が込もる。 目の前に置かれた皿。そこに顕在する強敵「絹ごし豆腐」。 これを攻略してこそ、自分の威厳が保たれるのだ。 「ねぇちょっとヴィータちゃん、この人何してるの……?」 「こいつ、刑事の癖に豆腐を箸で掴めねーんだってよ」 「黙りたまえ。豆腐を掴めない事と刑事である事は何の関係もない」 周囲の雑音などシャットアウトしてしまえばいい。 そうだ。今は全ての雑念を忘れ、目の前の豆腐に集中するのだ。 黙々と箸を掴み、皿の上に置かれた絹ごし豆腐へと手を伸ばす。 ゆっくりと掴み―― 「あっ」 次の瞬間には、箸が豆腐をねじ切っていた。 だが、豆腐はある。たかが一つの失敗で、立ち止まりはしない。 続けて二つ目の豆腐へと箸を伸ばし、 「あっ」 二つ目の豆腐が無惨に千切れた。 それから先は、同じ事の繰り返しであった。 掴もうとすれば掴もうとする程に、豆腐は小さくなってゆく。 氷川が箸で掴む度、箸によって挟みきられた豆腐の残骸が皿へ落下する。 その結果、撥ねた水がテーブルを汚して、最早氷川以外の人間は嘆息するしか出来なかった。 「これは……酷いわね」 「やっぱりなぁ〜……」 シャマルとはやてが、呆れた様に続ける。 そもそも氷川に絹ごし豆腐が掴めないと言うのは、最初に雄介が指摘した事だ。 最初からこの場に居る誰しもが、どうせ掴めないだろうとは思っていた事。 それ故に驚きもしないし、ただただ呆れる事しか出来なかった。 頭を抱えてうろたえる氷川を嘲笑う様に、ヴィータが言う。
「お前本当に刑事かよ。豆腐くらいあたしだって掴めるぞ」 「……ちょっと待って下さい!!!」 ばしっ! と音を立てて、箸をテーブルに叩きつけた。 先程家を出た時と同じ勢いで椅子から立ち上がり、氷川がヴィータを指差す。 「豆腐を取れないから私は刑事ではないと言うんですか! 納得出来ません!」 それから、先程までの鬱憤を晴らすかの様に、 「第一っ……! 何ですか豆腐なんて!! こんな物は、スプーンで掬えばいい話だ!!!」 無惨に千切れた豆腐を指差し、絶叫した。 これには流石の雄介含む八神家一同も呆れるしか無く。 「氷川さんがやろうって言いだしたんじゃないですか」 雄介を筆頭に、八神家一同が微妙な視線で氷川を見る。 雄介とはやては苦笑い。シャマルはどうしていいものかと困惑した瞳で。 ヴィータに至っては最早笑いを堪える気すら無く、堂々と氷川を笑っていた。 流石に居心地が悪くなってきた氷川を救うのは、携帯電話の着信音。 失礼、と一言告げ、ポケットの中で鳴り響く携帯を手に取る。 「どうしました、北条さん……? はい……はい……解りました、すぐそちらに向かいます」 それだけ言って、氷川は携帯電話を再びポケットにしまった。 黙ってリビングの入り口まで歩を進めると、一度振り返り、 「まだ第2号の脅威が無くなった訳ではありません。くれぐれも気をつけて、何かあればすぐに連絡してください」 そう言って、軽く一礼しようとした――その刹那。 両手を後頭部で組んで座っていたヴィータが、 「第2号って、もうクウガに倒されたんじゃねーのかよ?」 何の気無しにそう告げた。 瞬間、周囲の空気が緊迫する。 クウガの存在は、この世界ではまだ誰も知らない。 それ故に警察は未だ第42号(=第2号)の件で動き回っているのだ。 いけない、忘れていた、と。ヴィータもすぐに自分の失言に気付き、自ら口を塞ぐ。 しかし、当然氷川がその言葉を聞き逃す訳も無かった。 「クウガ? 何ですか、それは」 「あ、いや、今のはあたしの勘違いっていうか……」 「こらヴィータ、またゲームの話ばっかりして、刑事さんを困らせたらあかんよ」 「そ、そうそう……あたしが今やってるゲーム話なんだよ。ごめん、はやて」 はやての機転だった。 それに上手く合わせたヴィータが、恐る恐る氷川の表情を見る。 二人のやり取りを見た氷川は、その答えに安心した様子であった。 どうやらただの子供達のゲーム話だと信じてくれたらしい。 胸を撫で下ろすはやて達をよそに、氷川は一例した。 「それでは、私はこれで失礼します」
こうして一人の刑事が八神家を後にした。 幸い、今回は相手がすんなりと話を信じてくれたから良かったものの。 もしも勘の鋭い、切れ者の刑事が相手だったなら、何か勘付かれて居たかも知れない。 そういう反省も込めて、この後ヴィータは、はやてとシャマルに軽く説教される事となった。 ――そんな中、八神家のテーブルの上、一つの皿の中身。 説教にかまけている間、どう触れていいものか解らなかったそれが……。 小さく千切られた豆腐の残骸が、この日の夕飯時までずっと残って居たという。 同刻、海鳴市、月村邸。 先程までアリサとすずかが談笑していた一室で、少女達が所せましと駆け回る。 慌てた様子で、テーブルの下や家具の物影、ありとあらゆる場所を覗いて回るアリサ。 同様に、なのはやフェイトも、慌てた様子で部屋中あらゆる場所を物色する。 そんな中で、アリサが珍しく冷や汗を浮かべ、絶叫した。 「ない! ない! 何処にもない!」 テーブルの上に置いた筈の物体が、無くなった。 つい先程まですずかと一緒に話題にしていた筈のものが。 そう。第42号が求めていた、金色の欠片が。 この部屋から、消え去っていたのだ。 「落ち着いて、アリサちゃん。本当にこのテーブルに置いたの?」 「それは間違いないよ。私もここに欠片が置かれてるのを見たから」 なのはの問いに、すずかが答える。 確かにこのテーブルの上に、金の欠片は置かれていたのだ。 それなのに、なのはとフェイトを迎えに行ったほんの数分の間に、それは消えた。 正確な時間は計っていないものの、時間にして五分も経過していなかった筈だ。 何の気無しにテーブルの上に置いたものが、こんなにも短時間で消え去るなどと、誰が想像出来ようか。 こんな事なら最初から自分で持って居れば良かった、とアリサは酷く後悔する。 だけど、今更そんな事を言っても始まらず―― とにかく今は、欠片を探すしか無かった。 ///////////////////////////////////////////////////////////////////////// 投下終了です。結構詰め込んだけど、多分さるさんギリギリなんじゃないでしょうか。 皆さんお久しぶりです、マスカレードです。クウガの更新は多分1年ぶりくらいでしょうか。 ちょっと色々ありまして、どうしてもモチベーションが上がらずにクウガが書けずに居たのですが、 とあるきっかけがありまして、こうしてクウガの方を更新する事が出来ました。 今回の話についてですが、氷川さんは一応最初から登場させる予定でした。 初期の方でアギト、555のキャラをゲスト出演させる、と言っていたのは、ズバリ氷川さんの事です。 ですがG3を出すつもりはありません。あくまでこの世界の刑事の一人として、氷川さんに出演して頂きました。 今後は警察が絡んで来ることも多くなってくると思いますので、警察側代表キャラとして準レギュラー的扱いになる、のかな? 何はともあれ、ジャラジ撃破でひと段落、今後はクライマックスに向けて新章突入、といった感じになるかと思います。 といっても、まだやりたい事はいくつか残ってるので、少し長びく可能性もあるんですけどね。 だいたいそんな感じです。それでは、また次の機会によろしくお願いします。
お久しぶりです、待ってました。 情報の公開・共有ができないゆえこの世界の住人を安心させられないのは歯がゆいですね。 警察がどのように絡んでくるか楽しみです。
亀だけど、黒い太陽氏完結乙! ウーノが全部持ってったwww
GJ! RX完結おめ!
マスカレードさんおかえりなさい! G3が存在しない氷川さんがどのような活躍をするのか、今後事件がどう展開するのか、先が楽しみです。
感想ありがとうございます。執筆のエネルギーになります。 さて、えーっとですね、今回は書き貯めていたストック分がありますので、 22話に引き続いて23話の方をを投下しようと思います。 今回も予約は無い感じなので大丈夫……ですよね? それでは次のレスから投下を開始します。
月村すずかは、幼い頃から猫が大好きだった。 物心つく前から、テレビや本の中の猫に憧れていて。 身につける衣装やアクセサリも、猫を象ったものばかり。 いつかは本物の猫を飼ってみたいと、幼少の頃からずっと思っていた。 「誕生日おめでとう、すずか」 「いい子にしてたすずかに、誕生日プレゼントがあるの」 あの日の両親の言葉を、すずかは今でもはっきりと覚えている。 何を貰えるのかとわくわくするすずかにプレゼントされたのは――一匹の仔猫。 すずかが初めて出会ったその猫は、まだ小さくて、生まれて間もなかった。 両親が猫を買ってくれたのは、すずかが猫を好きで好きで堪らないと、知って居たから。 だから、すずかならばこの子を大切に育てる事が出来るだろうと、そう判断したかららしい。 5歳の誕生日に買い与えられたその猫を、初めて抱いた時の事を、すずかは決して忘れない。 灰色の毛並みのブリティッシュショートヘアーを抱き締めるすずかに、父親は問うた。 「すずか、この子の名前は何にするんだ?」 「あのね、最初に飼う子の名前は、ずっと前から決めてあったの」 「へえ、流石すずかだ。何て名前なんだい?」 幼き日のすずかは、嬉々として答えた。 「この子の名前はね、ミックっていうの」 その瞬間から、その子は掛け替えの無い家族となった。 ブリティッシュショートヘアーの可愛い仔猫。名前はミック。 すずか自信が名付けた、すずかの初めてのペットにして、妹とも言える程の存在。 家に居ない事が多い両親の代わりにすずかと遊んでくれる、大切な大切なお友達。 内向的で、中々友達が出来ずに居たすずかにとって、ミックは唯一無二の存在だった。 それは親友と呼べる程の友達と出会った今でも変わること無く、ミックへの愛情は決して揺るがない。 幼き頃から思い出を共にしてきた家族だから。いつか別れの日が来るまで、愛し続けようと誓ったから。 EPISODE.23 侵食 海鳴市、月村邸―――07:17 p.m. 霊石の欠片と思しき物質が消失してから、既に二時間以上が経過していた。 なのは、フェイト、アリサ、すずか。四人で手分けして、屋敷中を探す。 だけど、何処を探しても、どんなに歩き回っても、欠片は出てはこなかった。 日の長い初夏とは言え、もうそろそろ太陽も完全に沈み、夜になる頃だ。 なのは達もまだ子供だ。遅くなる前に帰らなければ、親が心配する。 解散の為に一度広場に集まった彼女らは、すっかり疲れ切った様子だった。 「ごめんね、なのは……折角来て貰ったのに」 「大丈夫だよ、アリサちゃん。また明日も皆で探そう?」 意気消沈するアリサを元気づける様に、なのはが肩を叩く。 その言葉に安心したのか、笑顔を浮かべて、アリサが親指を立てる。 これだけ無駄に探し回らされたのに、友を元気づけようとするなのはへの感謝の気持ち。 アリサが出会った中で、誰よりも立派な大人に教わった方法で、それを伝える。 なのはもまた、笑顔を浮かべて親指を立て返した。 「それじゃあ皆、また明日。明日こそ見付けようね」 月村邸のエントランスホールまで脚を運んで、なのはが言った。 帰り支度を済ませた少女達が、自分の鞄を持ってすずかに向き直る。 今日は色々ありがとう、と。皆ですずかにお礼を言おうとした、その時。 最初に異変に気付いたのは、なのはだった。
「すずかちゃん……どうかしたの? 元気がないよ」 「えっ……あ、ご、ごめんね、何でもないよ」 言葉とは裏腹に、すずかの態度は解り易かった。 まるで図星を突かれた様に、正直者のすずかは慌てて答える。 アリサとフェイトも、すずかの動揺に気付いたのだろう。 心配した様子で、すずかの顔を覗き込んだ。 「まーたあんたは一人で抱え込んで……隠し事なんて水臭いわよ」 「力になれるかは解らないけど、何かあったのなら、話くらいは聞くよ」 不安に表情を曇らせるすずかとは真逆、二人の笑顔は眩かった。 友達同士の間で隠し事はしない。友達なんだから、迷惑をかけたっていい。 自分の気持ちに嘘は吐かずに、正直に全てを打ち明けよう、と。 アリサとはやてとの一件で、彼女らはそう誓い合った筈だ。 それを思い出したすずかは、友の優しさに感謝しながら、口を開いた。 「あの、ね……心配し過ぎかもしれないけど、ミックが、何処にも居ないの」 「ミックが……? あー、そういえばさっきから見掛けないわね」 思い出した様にアリサが言った。 「いつもなら呼んだらすぐ来てくれるのに……あのね、私、結構呼び回ったの。けど、何処にも居なくて」 「……ねぇ、ちょっと待ってすずか。確かミック、あの時欠片と一緒に部屋に残らなかった?」 「うん、だから心配で……あれがもし、なのはちゃんが言う様な凄いものだったらって」 脅えた様な口調で、すずかが俯いた。 霊石は、五代雄介の身体をクウガへと作り変えた。 未確認の身体もクウガと同じ様なものだとするなら、つまり、欠片も、そういうものだ。 なのは達は知らないが、かつて同じ欠片が、一人の未確認生命体の身体を大幅に作り変えた事がある。 それによって、元々は取るに足らない存在だった未確認が、圧倒的なまでの強さを手にしたのだ。 それほどまでに強力な力を内包した霊石が、もしも何かの間違いでミックに取り込まれたなら。 「なら、尚更見付けなきゃいけないね」 言いながら、なのはが鞄を足元に置いた。 それに続いて、フェイトとアリサも、鞄を置いた。 遅くなる前に帰らなければ親が心配する。そう言っていた筈なのに。 彼女らは、まだ欠片を、ひいてはミックを探し回るつもりだった。 「ありがとう……みんな!」 すずかは、心からの感謝を伝える。 対するなのは達は、眩しいくらいの笑顔と共に、サムズアップを送って居た。 大丈夫、心配するな、と。彼女らはそうすずかに伝えようとしているのだ。 諦めず、皆で探すなら、今度こそ見つかるかも知れない。 そう思える程、すずかの心は勇気づけられた。
◆ 警視庁、未確認生命体対策本部―――07:29 p.m. 人もまばらな一室で、氷川誠は黙々とデスクに向かい合う。 ペンを片手に、目の前に広げたのは、小学生の名簿と、小さなメモ帳。 名簿の中には既にチェックを付けられた八神はやての名前も見受けられる。 脇に置かれたメモ帳には、これまでに聞き出した情報がびっしりと記されていた。 未確認生命体第2号の特徴。第2号の目撃情報から、その発言、行動まで。 所せましと書き込まれたメモ帳を片手に、氷川は嘆息した。 「今日は午後からずっと聞き込み捜査ですか……精が出ますね」 「ええ、ここ暫く第2号が出現していないとは言え、安心は出来ませんから」 隣から氷川のメモ帳を覗き込む刑事に、氷川は向き直る。 北条透。氷川と同じ未確認生命体対策本部に配属されたエリート刑事だ。 時たま棘のある発言をする事もあるが、彼もまた正義感の強い刑事の一人。 味方としては誰よりも心強い、氷川も認める立派で尊敬出来る刑事であった。 そんな北条が、こと、と音を立てて、氷川のデスクに冷たい缶コーヒーを置く。 「少しは息抜きも必要ですよ。根を詰め過ぎて、重要な時に動けないでは話になりませんからね」 「ありがとうございます、北条さん」 一言礼を告げて、貰った缶コーヒーを開ける。 午後からろくに食事を取らずに聞き込みを続けていた氷川にとっては、ありがたい恵みであった。 口に含んだ冷たいコーヒーの美味しさは、気の所為か、いつもの倍くらいに感じられる。 暑さも相俟って、自分の身体が想像以上に疲れて居た事を思い知らされた。 一気にコーヒーを飲みほした氷川は、口元を拭って続ける。 「ですが北条さん……第2号に脅えて、未だに学校に来れない小学生も少なくないんです。 市民を安心させるのも我々警察の義務です。少しでも早くこの件を解決して、子供達を安心させないと」 「貴方ならそう言うと思っていましたよ、氷川さん」 氷川誠は、誰よりも正義感が強い。 真っ当に生きるに人間が、ましてや小学生が、理不尽に命を奪われるなど、絶対に許せなかった。 故に氷川は、第2号が現れてからというもの、寝る間も惜しんで第2号の捜査を続けていたのだ。 このまま現れないのなら、それでもいい。だが、それならば絶対に現れないという確証が欲しい。 例えば、第2号の死体が発見される、とか。それだけでも、子供たちはどれ程安心するだろうか。 その為に、何とかして第2号の情報を得る為に、この日も終始聞き込み捜査を続けていたのだ。 と言っても、今日も特に収穫は無かったのだが。 ふと、思い出した様に、氷川が口を開いた。 「……そうだ、少しお尋ねしたいんですが、北条さんは“クウガ”という単語に聞き覚えはありませんか?」 「クウガ、ですか。……いや、聞いた事のない単語だ。それが未確認生命体と何か関係でも?」 「いえ、ただの思い過ごしだとは思うんですが、少し気になる事があって」 それから氷川は、今日の出来事を語った。 今日の聞き込み捜査で、八神はやてという少女の家に行った事。 大した情報は何も得られなかったが、そこに住む少女が、“第2号はクウガに倒された”と言った事。 少女はすぐにただのゲームの話だと続けたし、その時は氷川もそれ以上の詮索はしなかった。 だけれど、ここまで捜査に行き詰ると、少しでも何らかの情報と関連付けたくもなるものだ。 時に捜査は、他愛もない噂や都市伝説から解決の糸口を発見する事だってある。 「成程……少し待ってて下さい」
北条が、自前のノートパソコンを開いた。 起動までやや待って、それからキーボードを叩く。 開かれている画面は、インターネットの検索エンジン。 検索キーワードは「クウガ 第2号」や「クウガ 2号」など。 しかし。 「見ての通りです。クウガなどという単語は、検索しても掛かりませんね」 北条の答えに、氷川は驚愕する。 確かに、一般的に発売されているゲームなら、ネットで検索すれば出る筈だ。 普通に考えれば、そのゲームの単語を入れるだけで十分ヒットし得る筈の情報。 だのに、クウガという単語では何一つ引っかからない。それに関する驚愕と―― ついでに言うと、北条程の刑事が、こんな憶測に付き合ってくれた事が驚きだった。 「そんな……でも、あの少女は確かにゲームの話だと」 「現場に居合わせていないので何とも言い難いですが、少なくとも、一般的に発売されているゲームでは無いでしょう。 あまり出回らない同人ゲームなどの可能性もあるにはある。ですが、小学生がそんなゲームをやるとはとても思えない」 「となると……ただの創作話か、もしかしたら、本当に“クウガなる者”が第2号を倒したか……?」 「仮にもしも“クウガなる者”が第2号を倒したとするなら、とんだ英雄話だ。我々警察の努力が馬鹿馬鹿しく思えて来る」 面白くなさそうな表情で、北条は乾いた笑いを漏らした。 クウガなる者の存在がまるで気に入らない、とでも言いたげに嘲笑う。 確かに北条の言う通りだ。クウガなる者が我々警察に隠れて未確認を退治しているなら、それでもいい。 だが、その反面対策本部まで設置し、現場を駆けずり回っている警察の努力はまるで意味の無いものとなる。 どうせ倒すなら、市民を安心させる所まできちんと英雄を貫き通して欲しい、とは氷川も思う。 しかし、今はそんな事を言って居ても仕方がないと言う事は解るし、自分に出来る事だって限られている。 「今後の聞き込みで、一応子供たちにも“クウガなる者”の存在について窺ってみようと思います」 「我々未確認生命体対策本部も、今では公の存在です。我々の顔に泥を塗る様な事の無い様、期待していますよ」 氷川の肩に手を置き、不敵に笑った。 いつも体裁を気にしている北条らしい言葉であった。 聞き込みは好きにしてもいいが、やるならば成果を上げろ、と。そう言いたいのだろう。 北条の言い分は尤もだし、現在では各種メディアで未確認生命体対策本部の存在も公表されている。 態々未確認生命体に対処する為の武装まで支給されたのだ。何の成果も上げられないでは話にならない。 ともすれば、マスコミだって「成果の上がらない対策本部、税金の無駄遣い」などと揶揄する事だろう。 それくらいの想像は氷川にだって出来るし、だからこそもっと頑張ろうと思える。 「ええ、お互い頑張りましょう」 「ここに来たのはコネではないという事、照明出来るといいんですがね」 「はい、ありがとうございます、北条さん」 北条の言葉が嫌味だという事にすら気付かずに礼を告げる。 自分の実力が本物である事を証明する様に、と応援されている。 人の良い氷川は、北条の言葉をそう前向きに捉えたのだ。 では、一体何のコネクションがあって、氷川が今ここに居るのか。 何のコネクションがあって、氷川が今の地位を手に入れたと北条は思っているのか。 氷川はかつて、とあるフェリーボートの海難事故に遭遇し、大勢の要救助者をたった一人で救出した。 それは上層部からも表彰されるだけの偉業で、一時は「嵐の中、たった一人で要救助者を救った英雄」とまで呼ばれた。 その一件もあって、氷川は香川県警から警視庁捜査一課へと配属され、今現在の地位まで上り詰めた様なもの。 北条やその他の刑事からすれば、コネで昇級した氷川が気に入らないというのも、少なからずあるのだろう。 だけど幸か不幸か、どんなに嫌味を言われようが氷川はそれを嫌味だとは受け取らない。 と言っても、それは氷川の精神衛生上、かえって有益な事なのだろうが。
◆ 海鳴市、月村邸、庭園―――07:58 p.m. その辺のちょっとした豪邸などとは、一線を画する巨大な庭園。 常に美しく手入れされた芝生に、外見上計画的に配置された数々の植物。 作った者のセンスの良さが際立つ、立派な庭園であった。 「出ておいで、ミックー!」 そんな中、庭園のあちこちで声が響く。 なのはやアリサ達が、こんな時間までずっとミックを探してくれているのだ。 金の欠片を持ち出したのはミックで間違いないだろうから、それは合理的な事ではあるのだが。 それでも、その事実にすずかは胸が締め付けられるような思いを感じると共に、多大な感謝を抱く。 彼女らと友達で居て良かった、と。心からそう思いながらも、光もまばらな庭園を歩。 「ミック、晩御飯の時間だよー」 いくつかの外灯に照らされては居るが、それでも夜の庭園は暗い。 すずかが歩けば、それに釣られる様にすずかの家に住む猫達が集まって来る。 三毛猫。虎猫。白い猫や、黒い猫。あちこちで拾って来た元野良猫達が、すずかの足元にすり寄る。 だけど、その中にブリティッシュショートヘアーであるミックの姿は見受けられない。 意気消沈しながらも、寄って来た猫達の頭や顎を優しく撫でる。 「ねぇカザリ、ミックを見掛けなかった?」 「にゃあ」 鳴き声で返すが、当然その声に意味などは無い。 カザリと呼ばれたその虎猫も、元々はすずかに拾われた野良猫だ。 すずかの事は命の恩人だと思っているだろうし、だからこそこれ程までに懐いている。 だけど悲しいかな、ミックの様に幼い頃からずっと一緒に居た訳では無い為、そこまで賢くはない。 故にそれ以上すずかの役に立つ事も無いし、それが解って居るから、すずかもそっと立ち上がった。 「ごめんね、知らないよね」 苦笑しながら、その場にいる猫達を解散させる。 カザリを筆頭に、元野良猫達が庭園の茂みの中へと消えて行く。 これだけ探しているのに、ミックは一向に姿を現さない。 本当にミックの身に何かあったのではなかろうか。 焦燥が、すずかの心を蝕んでゆく。 一方で、そんなすずかの声に応えようとしている者が一匹。 庭園の茂みの中で、蹲るブリティッシュショートヘアー――ミックであった。 自分が家族と認めた少女と、その友達が、こんなにも自分を探してくれている。 出来る事なら今すぐにでも飛び出していきたいと思うが―― 「 !!!」 声にならない嗚咽が漏れる。 動こうとすれば、言い様のない痛みに襲われる。 人間の様に言葉を発する事が出来たなら、どんなに楽だっただろう。 自分は猫であるが故に、人間の様にすずかの言葉に応える事は出来ない。 だから、せめて飼い猫としてすずかと遊んであげられるなら、それだけで良かった。 だのに、今のミックにはそれすら叶わない。
「にゃあ……」 自分を心配した猫達が、ミックに寄り添う。 皆すずかが拾って来た家族。ミックと共に暮らしてきた猫達だ。 その声に応えようとするが、それすら叶わず……次第にミックを襲う痛みが強くなっていく。 痛みの源は、腹部。腹部で金色の何かが怪しく輝いて、全身へとその痛みが拡がって行く。 そもそも何故こんな事になってしまったのか。 全ての原因は、先程何の気なしに持ち出した金色の何かの欠片だ。 欠片を転がして遊んでいたミックは、偶然脚を滑らせて、転んでしまった。 これまた偶然欠片の上に倒れてしまったミックの身体に、欠片の角が減り込み―― それからというもの、生まれて初めて経験する痛みが、ミックの身体を蝕むようになった。 ともすれば、まるで力が溢れて来るような。 そんな錯覚さえ覚える痛みを味わい続け……やがてその痛みはピークに達した。 「グゥゥ……――」 ミックの体毛が、変色していく。 灰色の毛は、神々しい黄金色の毛色へと。 小さな身体は、身の丈2メートル程の大きさへと膨れ上がり。 腕が、脚が、全身が。強靭な筋肉に作り変えられ、肥大化してゆく。 一撃で獲物を仕留める為に進化した、鋭利な爪。口元から生えるは、まるで血の様に赤い二本の牙。 最強たるグロンギの王の力を取り込んでしまったその姿は、最早猫と呼ぶには無理があった。 「グゥゥァァァァァッ!!」 何を思ってか、月下に咆哮する。 全身の毛穴が逆立って、醸し出されるは強烈なまでの威圧感。 当然周囲の猫たちは一匹残らず散り散りとなって逃げ、ミックだけが取り残される。 グロンギの怪人と遜色ない獰猛な瞳で周囲を見渡し、次いで自分の両手を、身体を確認。 最早この身体はただの猫の身体では無い。近い生物を挙げるなら、既に絶滅した肉食動物。 ミックは知る由も無いが……この体躯は、スミロドンと呼ばれるサーベルタイガーに似通っていた。 強靭なスミロドンの肉体で大地を踏み締め、剥き出された牙の隙間から、吐息を吐き出す。 化け物となってしまったミックの眼前に佇んでいるのは――一人の少女。 「え……――」 両手を胸に合わせて、一歩後じさる。 紫色の髪を揺らして、大きな瞳で此方を見詰める。 彼女の名は――月村すずか。
今回はここまでです。 とりあえず次のストックもあるので、次回投下までにそれ程時間は掛からないのではないかと。 霊石で猫が凶暴化、というネタは去年劇場版のなのはを見に行ったときに思い付いたネタです。 あのジュエルシードで暴走してしまった犬です。仕組みは違うけど、霊石もまた既存の生物の身体を作り変えるもの。 そんでもって、いつかすずかの話も掘り下げなければいけないな、と思っていたので、ずっと猫でこれをやろうと。 で、どうせ怪物化させるならライダー的な怪物キャラにしよう、って事で元ネタはスミロドンドーパントです。 賛否両論あるとは思いますが、クウガ以外のヒーローを出す予定はありませんので、その辺は安心して下さい。 それでは、また次の投下時によろしくお願いします。
カザリw次グロンギ化するのはコイツだなww
ΖガンダムNANOHAを見て感動しました! 悪あってこその正義!! 才能に嫉妬してなのは達をさんざん馬鹿にしてきたレジアスはどんどん堕ちていってほしいです!!
>192 堕落はあざなえる縄のごとし 堕ち切ってしまえばゾンバルトやエンダースさんのようにいつまでも愛されるよw
何十年も管理局勤めておいて今更魔法の才能に嫉妬するなんてあるのか? そんなんだったら端から管理局なんざ入らんと思うけど。
非魔導士組の星じゃね?ある意味。しかしZとのクロスかー ガンダムって常に持つものと持たざる者の対立構造で入れ子状になってて 主人公側もなんだかんだで持たざる者の側なんだが
職人のみなさんGJ! リリカルな黒い太陽氏は完結お疲れ様です!後日談や次回作にも期待しています! さて、11時ぐらいからマクロスなのは第16話を投下しますのでご協力お願いします!
それでは時間になったので投下を開始します! マクロスなのは第16話「大宴会 前編」 総合火力演習は結局、ガジェット・ゴースト連合の介入によって中止となってしまった。 しかしこの演習によって魔導士、バルキリー両方の長所と短所が世間一般に露呈した。 万能に思えるVFシリーズだが、低空時の機動性は魔導士と互角。小回りにおいては技量の関係で劣っている。それに転送魔法や様々なスキル の存在する魔導士に分があった。 また、地上部隊として多い地上での治安維持活動はその大きさが枷となるため不向きだ。 だが高空での高機動性と、バリアジャケットより圧倒的に強靭な装甲。そして無限大の航続能力と高い生存性。 ガウォーク形態による制空権の確保、維持の信頼性。 高性能かつ大規模な各種センサー、強力なECM(電子攻撃)及び対AMF能力。 そして災害時、マニピュレーターによるレスキュー能力など魔導士では望んでも得難い物が多数あった。 しかし空戦魔導士部隊全てをバルキリーに転換するのは予算はともかく、訓練時間がないためAランク以上の慣れていない者が乗っても逆に戦 力低下を招くだけだった。 また両者の合同作戦の有効性も証明されたこともあって世論も各隊員も共存を望んだ。そして保守派の者も、最低限の利権の確保のために 「共存なら・・・・・・」 と譲歩した。 (*) 演習から3日後 クラナガンの中央に位置する本部ビルからそうはなれていない所に、巨大なドーム型の建物『クラナガンドーム』があった。 そこは普段ミッドチルダ及び隣国のベルカなどの公式野球チームが平和的に試合をする場だった。 しかし今日は予定された試合がないにも関わらずドーム内の照明は明々と灯っている。 そして野球で本来ライトのポジションの者が立つであろう人工芝の上には仮設のステージが据えられていた。そこには横断幕が掲げられていて 地上の平和は任せとけ!≠ニ書かれている。 センターには大人数用の長机がズラリと並べられ、300を超える人が腰掛けていていた。 またレフト付近には第一管理世界だけでなく各次元世界の報道陣が詰めかけており、時折シャッターが焚かれる。 彼らのカメラは全てステージに向けられており、今まさにあの記者会見に次ぐ歴史的な事が行われようとしていることを示唆していた。 ステージ上には地上部隊と本局の旗が掲げられ、地上部隊の礼服姿のレジアス中将、そして本局の礼服℃pの八神はやての姿があった。 レジアスは壇上のマイクの前に立つと演説を始める。 『ミッドチルダ、及び各次元世界の皆さん。私は時空管理局、地上部隊最高司令官のレジアス・ゲイズ中将です。 現在ミッドチルダはガジェットと呼ばれる魔導兵器によって、時空管理局始まって以来の危機に直面しております。彼らは管理局の戦闘員のみなら ず、非戦闘員である民間人にすら躊躇わず攻撃してきます。現在の死者は40人にも及び、負傷者は民間人を含めると600人を超えます。彼らの 正体は未だに不明ですが、平和を脅かす敵≠ナある事は間違いありません!そして我々は決して彼らに屈伏する訳には行かないのです!』 力強く訴えかける俗に言うレジアス調が始まり、センターに座る人々もそれに同調して 「「そうだ、そうだ!!」」 と囃し立てる。 『なおも禍々しい力を使おうとする者達には正義の鉄拳が振り下ろされるだろう!我々の鉄の意志と団結によって!!』 民族大虐殺を実行した第97管理外世界のヨーロッパ辺りに出現したちょび髭%ニ裁者のようなその力強い演説に、フラッシュが数多く瞬いた。 だが彼がその独裁者と違うのは、持ちうる大きいが有限な権力を少数(ゲルマン民族)の幸福と多数(ユダヤ民族に代表される他民族)の非幸 福≠ノ使うか、最大多数の幸福≠ノ全力を注ぐか。の違いであった。
『テレビの前の皆さん。今日我々時空管理局は、長きに渡る海(本局)と陸(地上部隊)の反目。そして魔導士部隊とバルキリー隊の対立乗り越え、 一致団結する事をここに宣言します。 その礎として空戦魔導士部隊及び時空管理局本局代表の八神はやて二佐と─────』 はやてがコクリと頭を下げる。 『─────バルキリー隊及び時空管理局地上部隊代表である私とが、肩を並べ、手を取り合う姿をご覧いただきたい』 実は2人とも地上部隊所属だが、そこはご愛嬌。 地上部隊と本局の最高司令である両文民大臣は、これに類する法案整備が忙しく出席を辞退。元々バルキリーと魔導士部隊の連携を誓うつもり だった2人に代理を押しつけたのが真実だったりする。 ともかく、親子ほどの歳の差がある2人が固い握手を交わした。 その光景にセンターにいた人々─────空戦演習に参加した空戦魔導士部隊全員、フロンティア基地航空隊の参加者、そしてクロノ提督やリン ディ統括官など本局からのゲストも大きな歓声をあげた。 またマスコミも待ってましたとばかりに一斉にフラッシュを焚き、ドームを真っ白に照らした。 この時、本局と地上部隊、そしてバルキリー隊と魔導士達は真にお互いを受け入れたのだった。 (*) その歴史的瞬間からすぐ、天井の屋根がスルスルと動き出した。 開いていく屋根からは青い空が望む。そこを横切るは6つの航跡。 桜色、金色、赤色の魔力光を放つ光跡は、機動六課のなのは、フェイト、ヴィータのものだ。残る青、緑、白の航跡は、スモークディスチャージャー (煙幕発生機)を起動したVF−11SGとS、そしてVF−25だ。それぞれミシェルとライアン、そしてアルトが乗り込んでいる。 6人は中央でパッと六方に散ると、3人ずつ時間差でUターンして再び中央に戻って来る。 六課の3人は対になるように3方向からアプローチし、ドーム中央を軸に回転しながら急上昇する。それによって3色の光跡は綺麗に螺旋模様を描 いた。 バルキリー隊の3機も、さっきと同様に螺旋模様を描きつつ上昇する。 その時会場に音楽が流れ始めた。その歌声は紛れもなく超時空シンデレラのものだった。 <ここより先は『私の彼はパイロット ミスマクロス2059』をBGMにするとより楽しめます> その歌声に合わせて6人が舞う。 キラリと光ったかどうかはそれぞれの主観によるが、6人は綺麗な編隊を組んだまま歌に合わせて会場にかすめるほど急降下。そして急上昇しな がら六課とバルキリーとで二手に別れた。 上昇を続けるバルキリー編隊と六課編隊はそれぞれが特徴的な円を描きつつ合流する。その軌跡は大きなハートを描き出していた。 続いて六課編隊からフェイトが抜け、高速移動魔法によってバルキリー編隊を掠めるようにニアミスして反転、離脱しようとする。しかし3機は ガウォークを使った鋭いターンでそれを追うと、マイクロハイマニューバミサイルを放つ。 ロックされたフェイトを追尾してミサイルが直線に並びながらハートの真ん中へとさしかかる。 『ディバイン・・・・・・バスタァーーー!』 フェイトの目前で放たれたなのはの砲撃がハートを貫く。その桜色の光跡は瞬時に消えてしまうが、ミサイルの誘爆によってその爆煙が綺麗な矢 を形成。ハートを貫く矢というラブサインを描き出した。 そしてなのはにはミシェル、フェイトにはアルト、ヴィータにはライアンとそれぞれ別れて2機編隊で宙返りなどアクロバットする。 だけど彼ったら 私より 自分の飛行機に お熱なの 組同士仲良く編隊を組んでいたが一転、六課側が砲撃などの攻撃を敢行。攻撃はそれぞれの相方の機体に直撃し、機体は煙を上げながらキリ モミ落下した。 会場はその行為と、ほんとにヤバそうなバルキリーのキリモミ落下に息を呑む。 しかし落下する3機はほぼ同時に機位を立て直すと六課側と合流。そのまま仲良く編隊を組んで会場をかすめ飛ぶ。
他5人がそのまま横切って行く中、VF−25のみがガウォーク形態に可変し減速。ステージ前に降り立った。そしてキャノピーを開けると、後部座 席の少女をステージ上に降ろした。 きゅーん、きゅーん きゅーん、きゅーん 私の彼はパイロット ランカはステージ上で歌を完結させると、声援とフラッシュに応えた。 (*) 30分後 ドームはまるで優勝の決まった野球チームのようなどんちゃん騒ぎになっていた。 「今日は無礼講、階級は忘れて大いに飲んでくれ!」 というレジアスの言の下、空戦魔導士、フロンティア基地航空隊員入り乱れての酒盛りやシャンパンファイトという光景も見られた。 しかし今は比較的沈静化し、楽しく談笑しながら出されている料理を食べる事が主流になりつつある。 アルトもそんな主流派の1人だ。彼も適当に見繕ってきた食材を皿に並べ、それらをつついている。 彼の周りにはすでに機動六課の面々(隊長陣とフォワード4人組)やサジタリウス小隊のさくら。そしてミシェルと机を囲んでいる。ちなみにランカと はやて達は、マスコミに連行されたっきりだ。 (大変だなぁ・・・・・・) アルトは他人事のように考えながらよく煮えたポークを口に頬張った。 「しかし、まさか両方の戦勝パーティーに出られるとは思わなかったな」 アルトは周りを見ながら呟く。 比較的オープンな六課では感じなかったが、地上部隊では魔導士ランクですべて決まり、ほとんどの場合で同じランクの者としか付き合わなかった。 また、魔導士とバルキリーパイロットも異質なものとして原隊でもなければ互いに接点を持たなかった。 しかし今はどうだろう。 地上部隊の茶色い制服を着た(魔導士ランクが)高ランクの局員と、フロンティア航空基地のフライトジャケットを着た低ランクのバルキリーパイ ロットが仲良く談笑していた。 演習前にこの光景を誰が予想しただろうか。 少なくともアルトは現状に満足していた。『どちらかが路頭に迷うことなど、ない方がいい』と考えていたからだった。 そしてアルトの呟きに、いつもの和食ではなくパーティ料理をつついていたなのはが応える。 「そうだよねぇ。でもこっちはほとんど必勝のつもりだったんだけどなぁ〜」 そう言うなのははちょっと悔しそうだ。確かにあのAランク魔導士を全力投入した物量作戦では勝ちを確信してもおかしくなかっただろう。バルキリー 隊の生存率が高いのはその装甲によるものだけではない。大量に搭載された撃ちっぱなし式ミサイルが抑止力として魔導士達の接近を拒んだから だ。あのまま長引いていれば弾薬切れで確実に負けていた。 「確かに。はやて部隊長、なんかすっごい張り切ってましたもんね〜」 こちらは何故か甘いもので埋め尽くされているスバルが言った。今彼女の目の前には20cm程に高くそびえ立つアイスクリームボールを積んで 作ったタワーがあった。 (あんなのどうやって食べるんだよ・・・・・・)
アルトはそれを見て胸の内で呟いた。 「こっちだって六課対策で猛特訓したんだぜ。なぁ、アルト?」 「・・・・・・うわっ!」 ミシェルが突然肩を叩いたため、アイスクリームに意識が集中していたアルトは前につんのめる。その拍子に机を揺らしてしまった。それによって ギリギリの均衡を保っていたアイスクリームタワーはグラリと揺れ、最上部の1個が落ちた。 「あ?」 それに気づいたスバルの対応は早かった。 彼女はコンマ数秒の間に小型のウィングロードを落ちる先に展開すると、アイスの地面への落下を防ぐ。そして更に驚嘆すべきことに直径4センチ を超えていたであろうアイスクリームボールをそのまま口に滑り込ませてしまったのである。 「・・・・・・」 彼女は口を閉じたきり動かない。 人の口の大きさを超えるようなものを一呑みしてさらに動かないとなると、さすがにヤバイかと思い始めて駆け寄ろうと腰を浮かせる。 「おい、スバル? だい─────」 大丈夫か?と、最後までいえなかった。なぜなら彼女はブルリと震えたかと思えば、目を輝かせて一言。 「美味しい!」 出鼻を挫かれたアルトはその場に転んでしまった。 「あぁ、アルト隊長、大丈夫ですか?」 さくらがズッコケたこちらへと手を差し出し、助け起こしてくれる。 「・・・・・・あぁ。っておい、お前ら!あれを見てどうも思わないのか!?」 しかし、六課メンバーは一様にいつもの事だ。という顔をした。 ティアナが唯一 「あんた、食べ過ぎるとお腹壊すわよ」 と注意していた。 (いや、そんなレベルじゃないだろ・・・・・・) アルトはやはり胸の内で呟いた。 (*) 「お代わり行きますんで、皆さん欲しいものありませんかぁ?」
スバルはまたアイスクリームを食べるつもりらしい。手にはさっきのアイスが入っていた大皿が乗っている。 彼女はなのは達からお茶等の注文を受けると、注文が多かったため運び係を志願したエリオを伴って人混みに消えていった。 「それでアルト、さっき聞いてたか?」 ミシェルの問いに今度は落ち着いて答える。 「ああ、あん時あと1週間しかなかったからな。陣形の選定とかしなきゃいけなかったし、参戦してくるであろう機動六課戦力への対策に1番時間を 費やしたな」 アルトはあの日々を思い出しながら言う。まさにそれは月月火水木金金≠ニ呼べるほどのハードスケジュールだった。 「そういえば演習1週間前に、突然アルト隊長が私達の小隊を集めて『お前達がフロンティア基地航空隊の切り札だ!』なーんて言い出すんです よ。びっくりしちゃった」 さくらがアルトの声色を真似て言う。 そう、サジタリウス小隊のさくらと天城の両名とも珍しくクラスオーバーAのリンカーコアを保有していた。そのため訓練次第では超音速可能なハイ マニューバ誘導弾の使用が、そしてMMリアクターの補助でSクラスの出力を持った魔力砲撃ができたのだ。 ─────しかしなぜ2人はこれほどの出力を持ちながらバルキリー隊に配属されたのだろうか? 実は天城の方はこのクラスのリンカーコアを持ちながら飛行魔法が大の苦手であった。しかし空戦に必要な空間把握能力などのセンスが高く、実 績も十分評価できる立派なもの(なんでも部隊の数人でテロを計画する次元海賊の本拠に突入。そこで暴れまくり、対応の遅れた本隊の到着まで の時間稼ぎをしたらしい)だったため、原隊の部隊長が陸で果てるには惜しい人材と判断し推薦したという。 またさくらもヘッドハンティング(引き抜き)でなく推薦だ。しかし推薦主は特秘事項に該当≠キるとかで判明しなかった。 話は戻るが魔力砲撃のSクラス出力は戦闘の上では必須条件であり、音速を軽く突破してくるオーバーSランク魔導士に追随できるハイマニュー バ誘導弾もまた必須であった。 そのため彼らには対六課戦力用の特訓が施された。結果的に2人は格段に進歩し、それぞれに小隊を与えてもよい程の技量に到達していた。 「─────でも負けてしまいました。すいません・・・・・・」 シュンとするさくらに対戦したフェイトがフォローする。 「さくら、もしあれが演習用の模擬弾じゃなくて、実体の徹甲弾だったら私のシールドは全部破られていたよ」 「そうだ気にするな。お前の砲撃を受けきるなんて誰も予想してなかったんだ。おまえ達は十分やったよ」 「はい!ありがとうございます!」 さくらは2人にペコリと頭を下げた。この素直な所が彼女の持ち味だ。きっとどんな困難にぶち当たっても挫けないだろう。 「やっぱりお前達を選んでよかった。・・・・・・しかし俺は教官だからな。またすぐ他の奴を教えなきゃいけないのが、なんだか寂しいもんだな」 2人の頑張る姿がフラッシュバックする。 総火演までの7日間、シミュレーターでAIF-7F『ゴースト』とのタイマン勝負を朝飯前の日課とし、VF−25を仮想六課戦力に見立てて2機一組によ る連携訓練。そして戦術について深夜まで話し合ったあの日々が。 さくらにもこちらの思いが伝わったのか 「そこまで私達の事を・・・・・・!」 と感極まった様子だ。
「アルトくんの気持ち、よくわかるなぁ〜」 なのはは続ける。 「私も教導隊だからね。同じ子は大体1ヶ月ぐらいしか見てあげられないの。だから『まだ教え足りない!』、『もう少し時間があれば・・・・・・!』って 何度も思ったな。だからいつも教える時は全力をかけて、後悔しないように。だからアルトくんも後悔しないように頑張ってね!」 「ああ。サンキュー」 なのはの激励を授かったちょうどその時、今まで沈黙を守っていたステージに光が戻った。 『これより新春隠し芸大会を開催いたします!』 壇上でマイクを握っているのは天城だ。姿が見えないと思ったら裏企画に参加していたらしい。 周囲からはブーイングの嵐だ。 曰く、 「テレビが来てるんだぞ!」 や 「新春って今7月末だぞ!」 等々。 天城は地声で 「こういうのは新春って決まってんだよ!」 などと怒鳴り返すと、マイクを握りなおす。 『こういう展開になると予想していた俺は、すでにエントリーナンバー1番を予約しておいたのだ!それでは先生、ガツンと一発お願いします!』 天城と立ち代わりにやってきたのはランカだった。 『1番、ランカ・リー、歌います!』 ランカがニコッ≠ニ、笑顔の矢を放つと場が一斉に盛り上がった。 冷静に 「これって隠し芸?本業じゃね?」 とつっこむ者もいたが、大半が肯定側に寝返った。 ランカの衣装がバリアジャケットであるステージ衣装に変わる。 そして彼女はお決まりのマイク型デバイスをその手に握ると、力いっぱい叫んだ。 「みんな、抱きしめて!銀河の果てまでぇー!」 大音量のイントロと共にランカのライブが始まった。 客席が水面のように揺れて、大気振るわす歓声が輪になって広がっていく。 恋する少女のときめく心を綴ったファンシーな歌詞を、ノリのいいビートと快活なメロディに乗せたランカ最大の必殺歌(?)『星間飛行』。
そして遂に幾多の戦闘を止めたこの曲最大のポイントに突入する! 「「「キラッ!☆」」」 ドームに唱和する全員の声。 続くサビに場は完璧にランカの生み出す世界に呑まれ、誰もが興奮のるつぼへと飛び込んだ。 (*) そうして長いようで短いライブは終わった。 『ありがとうございました!』 ランカがペコリと頭を下げ、舞台袖に引っ込んだ。既に会場は最高潮の盛り上がりをみせている。 そして再び舞台袖から天城が姿を現した。 『ランカちゃんありがとうございました。では2番をどなたかお願いします!』 天城がマイクを客席に向かって突き出す。 レベルの高かったランカの後だ。なかなか名乗りを挙げるのは難しいだろう。アルトはそう思ったが、案外早く見つかった。 「はーい、わたしやるですぅ!」 聞こえたのは遥か後ろ、ちょうどマスコミのど真ん中あたりからだった。 そして彼女は自分達を飛び越えてステージに一直線に向かっていき、天城は彼女のためにマイクの台を残すと舞台から退いた。 『2番、リインフォースU(ツヴァイ)、歌います!』 彼女はマイクの前で宣言すると、歌いはじめた。 トゥエ レイ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ───── さっきとはうって変わってなんだか荘厳な雰囲気だだよう曲だ。それにア・カペラであるはずなのになぜかパイプオルガン伴奏が聞こえてくるようだ。 また、彼女の足下にミッドチルダ式でもベルカ式でもない魔法陣が展開されている。あれは一体? しかしその時、後ろから来た疾風が自分の横を駆け抜けていった。ちょうど歌が終わる。 「こぅら、リィィィン!!」 満場の拍手に混じって八神はやての怒声が会場に響き渡った。そして次の瞬間には舞台に現れ、リィンにハリセンの一撃を加える。 「ひたい(痛い)!」 「中の人ネタ≠竄チたらいかんってあれほど言ったのに!」 「だって、隠し芸って─────」 「中の人ネタは隠し芸って言わんのや!」
はやてはそう言って彼女を叱りつけると 「すいませんでした!」 とこちらに一礼。舞台袖にリィンを連行していった。 「ええっと・・・・・・それでは3番行ってみようか!!」 はやての乱入によくわからなかった一同だが、天城の強引な司会進行によってなんとか盛り上がりを取り戻した。 周囲に祭り上げられて名乗りを上げた3番手が上がる舞台を眺めながらアルトは気づいた。フェイトの舞台に投げる熱い視線に。 「そういやフェイト、歌完成したんだって?いい機会だし歌ってきたらどうだ?」 しかし彼女は笑顔見せると、 「私の歌なんて、こんなところで披露するような大層なものじゃないよ」 否定する彼女の面影はどこか見たことがあるような哀愁を漂わせている。 (この表情、どこかで・・・・・・?) 見た覚えは強烈にするのにどうしても思い出せない。しかしそれは少なくともフェイトではなかった。 「・・・・・・ん、そうか」 とりあえずそう応答するが、それがどこか気にかかってアルトの心をかき乱した。 (*) 10分後 舞台はすっかり通常の隠し芸大会の様相を呈していた。さっきまで酔った管理局の一佐がカラオケを披露していた。 今は空戦魔導士と基地航空隊の男女十数人ほどが動く死人、いわゆるゾンビに扮装し、どこかで聞いたような英語の曲に合わせ 「スリラー!」 などと叫びながら踊っている。 また、ホロディスプレイのテロップにはM.J.追悼慰霊祭≠ニ書かれていた。 (ゾンビの意味あるのか?) 元を知らないアルトはそう思ったが、他人の芸に口出しするのもはばかられたので気にしない事にした。 さてアルト達はというと、変装したランカやはやて達を加えてあるゲームをしていた。 机の中心には人数分のカレーパンが積んである。 持ってきたスバルによれば、この中に1つだけ『爆裂・ゴッドカレーパン』というどこかの必殺技のようなカレーパンがあり、ものすごい辛いらしい。 それを食べた幸運(?)の持ち主を残りの人が当てるという単純明快なゲームだ。 「そうねぇ・・・・・・これにしよっと!」
ティアナが早速と、ひとつのパンを掴み上げた。そこにスバルが茶々を入れる。 「あぁ!ティアそれでいいの!?」 「なに?まさかこれ!?」 「ヒヒヒ、わたしも分かんな〜い」 「む〜!」 膨らむティアナにスバルはしてやったりとクスクス笑う。 「じゃあぼくはこれ」 2人に続いてパンに手を伸ばしたのはエリオだ。 「あ、エリオくん、わたしのも取って」 席が遠くて手が届かないキャロがこれ幸いと頼む。 「いいよ。うーん・・・・・・これでいい?」 「うん。ありがとう」 キャロはパンを受け取ると、笑顔を返した。 字面だけみていると仲のいいカップルのように聞こえる。しかし本人達に自覚はないし、周囲からみても仲のいい兄妹≠ノしか見えなかった。 いろいろありながらも、パンは1人1人に渡っていった。 アルトもあと5つ程になった時に 「ままよ!」 と3つとり、1つをさくらに渡した。 「え?ああ、ありがとうございます」 どうやら扱い慣れていないナイフとフォークで、ビフテキと格闘していたようだ。 「・・・・・・えっとだな、さくら」 「はい?」 「利き手がナイフだぞ」 さくらは顔を真っ赤にして持ち変える。そんな彼女を横目に、ランカにもう1つを渡した。 「ありがとう、アルトくん」 ニコッと微笑むランカ。今彼女の髪は黒になっている。 それだけでアルトも最初彼女がランカとは分からぬほど印象が変わっていた。なんでもデバイスの簡易ホログラム機能を使って髪を黒に見せてい るという。
「みんな取ったね?」 スバルが最後に残ったパンを手に確認する。 ちなみにミシェルはさっきウィラン達とどこかへ行っていた。 (チッ、運のいい奴め) スバルが周囲を見渡して確認を終えると、開始の合図を放つ。 「それでは始めぇ!」 パクッ そんな擬音が聞こえてきそうなほど全員一斉にパンを口に頬張った。 モグモグ なんてことはない。確かに辛いが普通のカレーパンだ。 ランカやさくらも普通に食べていく。どうやら3人とも当たり≠ナはないらしい。 周りを見渡すと他も普通に食べて・・・・・・いや、キャロは先にフリードリヒに食べさせて毒味≠ウせているようだ。 (うーん、見かけによらず計算高いヤツなんだな・・・・・・) 彼女はフリードリヒが問題なく食べるのを確認したのか今度こそその愛らしい小さな口でパンをほうばった。 「からーい!!」 ・・・・・・どうやら普通のカレーパンでも十分辛かったらしい。 苦笑しながら見回していると、今度はなのはと視線があった。 「どうした?」 「うん、ちょっとみんなの反応を見てただけ。アルトくんは?」 「俺も同じだ」 そう言うと2口目を口に運んだ。 しかしアルトは既に気づいていた。彼女の額にうっすらと浮かび上がっていた汗。そして声に混ざる小さな緊張のスパイス。これによってなのはが ホシに違いないと。 しかしそこまで考えなくとも彼女はすぐにシッポを出し始めた。 食べていくうちになのはの顔色が赤にそして青に変わっていく。 ルールでは水が飲めないことになっているため相当きつそうだ。 全員が食べ終わった時、なのはは必死に笑顔を作っていた。しかしそれはひきつり、顔は真っ青だった。 (まったく、無理するのが好きなやっちゃ・・・・・・) 頑張りは認めるがあれでは誰の目にも明らかだろう。 投票が行われ、アルトは用紙になのは以外の名を書いた。
(お前の頑張りに乾杯!) 心の中で呟いた。 しかし正直者が多かったようだ。投票は、なのは:5。他バラバラ:5で、なのはが圧勝した。残り4票はなのは自身とアルトのような同情票だろう。 「はい!わたしです!だから・・・・・・早くお水を・・・・・・!」 負けたなのはがもはや息も絶え絶えに言う。 スバルは即座に席を立って飲み物の調達に走る。そして水を取ってくると、なのはに渡した。 ゴク、ゴク・・・・・・ その豪快な飲みっぷりに透明な液体はすぐになくなった。 しかし様子がおかしい。今度はフラフラし始めた。その目の焦点は定まっておらず、トロンとしている。 「ちょっとなのは、大丈夫?」 彼女の隣に座るフェイトがなのはを揺する。 「むにゃ・・・・・・フェイトひゃん、らんか、ろれつが、まわららないの・・・・・・」 なのはがえらく色っぽく言う。そしてそのままフェイトに倒れ込んで抱きついてしまった。 「ちょっと、スバル? なにを飲ましたんや?」 はやてが席を立って、現場に急行しようとする。 そこに外部から介入が入った。 「おい君、アレ、飲んじゃったのかい?」 魔導士部隊と基地航空隊の隊員数人がスバルに問い詰める。 「は、はい・・・・・・ダメでしたか?」 「いやあれは罰ゲームに使うつもりだったアルコール度数が60%の酒のスポーツ飲料割りだぞ!」 それを聞いたなのは以外の全員が 「「「え〜!」」」 と声をあげる。 どうやら急いでいたスバルが、水と間違えて酒をなのはに渡したらしい。 それも悪いことにスポーツ飲料割りと来た。スポーツ飲料は水分などの体内への吸収を良くするため、同時に摂取してしまうとアルコールの回りがもの すごく速くなる。 つまりあれは急性アルコール中毒者製造飲料とも呼べる兵器と化していたのだ! なのはも急いでいたし、カレーパンに味覚、嗅覚をマヒさせられていたので気づかずに飲み干してしまったようだ。 現在当のなのははフェイトの腕の中でイノセントな寝息をたてている。 さすが一杯で物凄い即効性だった。しかしこの程度で済んでいるのは実は酒に強いのだろうか? ともかくこのままでは風邪をひいてしまう。仕方ないのでなのはは同じように酔いつぶれた人が集う休憩所で寝かせてもらうこととなった。
(*) 「でもそんなに辛かったのかなぁ?」 ランカの素朴な疑問に、なのはを持って″sって不在のフェイトとはやてを除く全員が同調する。 『エース・オブ・エースをノックアウトしてしまう神なるパンはいかほどのものだろう』と。 その疑問に最初に耐えられなくなったのはやはり好奇心旺盛なスバルだった。 「じゃあ人数分持ってきますね!エリオも行こ!」 「はい!」 「あ、2人とも私の分はいいからね」 まるで解き放たれた矢のように飛び出して行きそうな2人にランカがマイクを片手に喉を示しながら言う。 『商売道具である喉に負担をかけたくない』ということなのだろう。 「「はーい!」」 スバルたちは頷くと、人混みに紛れていった。それと入れ違いに次元航行部隊の上級将校の制服を着た女性1人と護衛艦隊(次元航行艦隊)の制 服を着た男性がこちらにやって来た。 男の方はこの世界に来てばかりの時に会ったクロノ・ハラオウン提督で、女性の方は聖王教会で見た写真に写っていたリンディ・ハラオウン統括官だ。 「こんにちは。あなたが早乙女アルト君?」 「ああ、そうだ」 「クロノは知ってるわね」 一礼するクロノを横目に頷く。 「私はフェイトの母のリンディ・ハラオウンです。あなたの噂は息子と娘から聞いています」 「・・・・・・そりぁ、ご贔屓にどうも」 しかしリンディは周囲をキョロキョロしはじめた。 「ところでなのはちゃんとはやてちゃん、それとうちの娘を見ませんでしたか?」 今までマスコミの取材攻勢にさらされていて・・・・・・と続ける。 アルトを含め席の者達は口ごもった。 まさか泥酔したなのはを休憩所に持っていったと言うわけにもいかない。忘れてしまいそうになるが、まだ彼女らは未成年だ。 「・・・・・・さぁ、さっきまでいたんだがなぁ・・・・・・そうだろ、ランカ?」 「えっ、う、うん。そうだね。どこいっちゃったのかなぁ〜」 アルトにならってランカもとぼけ、周囲も追随した。 「そう? 仕方ない子達ねぇ・・・・・・」
リンディにとってみれば3人はまだ子供らしい。そこにスバル達が戻ってきた。 「持ってきましたよ〜カレーパン」 その皿の上には都合のいいことに、リンディ達の分もある人数分のカレーパンと、それであることをダブルチェックしたというお茶があった。 (*) 試食した神のカレーパンはそれはもう激烈な辛さだった。 水があっても半分がやっとだ。アルトは改めて水なしで頑張ったなのはに感服した。 周囲では犠牲者が多発しているらしい。 「グワァァァ!」 などと叫びながら青白い火を吹いている者もいる。 ・・・・・・いや?あれは隠し芸大会か。よくみると怪獣のような着ぐるみを着て舞台上に作られた町を破壊していた。 「なにこのパン、罰ゲーム・・・・・・?」 パンを食べたリンディが鼻を摘まんで目に涙をためている。そう、これには少なくともわさびが入っている。 (いったい何を入れればこんなに辛くできるんだよ。下手すりゃ死人が出そうだな・・・・・・ってかまずカレーの味がしねぇよ!ただひたすら辛い・・・・・・ いや激痛がするだけじゃねぇか!) しかし更に驚くべき事態が発生した。 リンディがどこかから砂糖を取り出したかと思えば、湯飲みに次々入れていくのだ。確か熱い抹茶が入っていたはずだ。 驚愕していると、念話が入る。クロノからだ。 『(すまん、かーさん大甘党なんだ。見なかった事にしてくれ)』 『(・・・あ、あぁ)』 アルトは頷く事しかできなかった。 (まったくどうなってんだ!リンディといい、このカレーパンといい、常軌を逸してやがる!) しかし「どんな奴がこのカレーパンを作ったのだろうか?」と、気になったアルトはスバルに問う。 「おいスバル、これをどこから持ってきた?」 舌を出して痛がっているスバルは、ある一角を指差した。 そこはバイキング形式で料理の並んでいる普通のエリアではなく、民間の店舗が宣伝のために展開しているエリアで、『古河パン』という店らしい。 少し興味のわいたアルトは、食べれなくて指をくわえるランカを伴い行ってみることにした。 (*) 「いらっしゃい」
『古河パン』の仮設の店舗は屋台形式だが、なかなか品揃え豊富でどれも美味しそうだった。 屋台をやっている店主はまだ30代ぐらいのたばこをくわえた男だ。しかし彼の目からは子供のような元気さ、溌剌さが漂ってくる。 つまりいい意味で『心は子供のまま』というやつだ。 それに古河パンは結構有名店らしい。たくさんの人がパンを買っていく。買いにきた大口の魔導士達。どうやら常連らしい。仲良く話し込んでいた。 「わぁ〜、見て見てアルトくん!光ってるよ!」 ランカの指差した先には『レインボーパン』とある。確かにそれはどういう理屈か七色に光輝き、非常に美味しそうだ。 しかし───── 「そいつは止めたほうがいいぜ、少年」 店主が突然後ろから声をかけ、驚くアルトを無視して名札の一角を指差した。 そこは早苗パン≠ニ書かれている。 よく見るとゴッドなカレーパンにも同じ表示があり、値段は他が7割オフなのに対し、その名がついた物は定価となっていた。 「早苗パンってなんなんだよ?」 アルトの素朴な質問に店主は驚く。 「おまえ、早苗パンを知らないのか!?」 頷くアルトとランカ。 「そうか初めてなのか・・・・・・仕方がねぇ、教えといてやる・・・・・・このパンはなぁ─────!」 店主は神のカレーパンを1つ掴みあげると無造作に頬張る。そして比喩でなく本当に火を吹いた。 「きゃあ!」 その圧倒的な熱量に、ランカはサッとアルトの後ろに逃げ込んだ。 アルトもアルトで驚き戦(おのの)くことしかできない。 店主は火炎放射をやめると、得意気な顔で言い放つ。 「ガッハッハッハ!このパンはこうして、サーカスで火を吹くためにあるのさ!」 豪快に高笑いする店主の背後でトレーを落とす音がした。そのトレーにはパンが載せられていたようで、大量に転がっている。 落とした本人は、二十歳前ぐらいに若く見える¥乱ォだ。どうやらバイト・・・・・・なのかな?目に涙をためている。 しかし、彼女の口から出た言葉は落としてしまったパンの謝罪ではなかった。 「わたしのパンは、わたしのパンは・・・・・・サーカスで使う・・・・・・燃料だったんですねぇ!!」 彼女は言いっぱなしで泣きながら走り去った。店主はかじった残りのパンをくわえたかと思うと 「俺は大好きだぁぁぁ!早苗ぇ〜!」 と叫びながら屋台を飛び出していった。 「なんだったんだ・・・・・・?」
そこには呆然としたアルトとランカだけが残された。 (*) 帰りの駄賃にと、あんパンとメロンパンをせしめた(無論、代金は置いていった)2人は元の席に戻って来た。 しかし、まだフェイト達3人は戻っていないようだった。 だが、すぐに彼女達の声を聞くこととなる。それも、最悪の形で。 TO BE COUNTINUE・・・・・・ 以上で投下終了です。ありがとうございました
感想は本スレでおkなの?
おk
規制が相当長引きそうだった為、元々は避難所の代行スレに投下して 誰かに代行してもらおうと思ったんですが、誰もやってくれそうに無い雰囲気だった… と言うか、あんまり長々待っていると時期を逃してしまうネタなので 態々金払ってp2導入してまで規制問題をかわして自分でこっちに投下する事にしました。 ハートキャッチプリキュアの完結と、スイートプリキュアの開始を記念して プリキュアクロス(でもクロスと言えるのかな? これ…)をやりたいと思います。 ユーノが色んな意味で壊れてるので注意(ユーノスレに投下すると九分九厘アンチ扱いされる位)
ある月曜日の朝、ユーノが鬱病になって入院した。その報告を聞いたなのはは思わず飛び出し ユーノが入院されていると言う病院へ走っていた。 「ユーノ君!」 「やあ…なのは……。」 「え…ユーノ君…なの……………?」 病室のベッドに横たわるユーノの姿を見た時、なのはは絶句してしまった。鬱病と話には聞いていたが 何があったのかユーノは別人の様にやつれ痩せこけてしまっていた。あらかじめユーノであると聞かされていなかったら なのはですらユーノとは気付かない程。もはや鬱病と言うレベルの話では無い。一体何が彼をここまで追い詰めてしまったと言うのか…。 「ユーノ君どうしてこんな事に…。まさかアンチの誹謗中傷!? それとも男好きの司書からのセクハラ!?」 ユーノをここまで追い詰めてしまった原因に関して、なのはの頭ではその二つしか思い付かなかった。 なのはに最も近い男として嫉妬したアンチからの根強い叩きと、一方でユーノを嫁にしたがる男好きの司書からのセクハラと言う 二重の攻撃にユーノの精神は限界に達し、ここまで追い詰められたと考えたのだが… 「ははは…そんな事くらいで僕がへこたれるわけないじゃないか…。」 「えぇ!? じゃ…じゃあ…どうしてこんな事に…。」 アンチの叩きでも司書からのセクハラでも無いとユーノは言う。なのはは分からなかった。 ならば一体何がユーノをここまで追い詰めてしまったと言うのか? 「ハートキャッチプリキュアが……。」 「え? ハートキャッチプリキュア…確かにうちでもヴィヴィオがストライクアーツの 参考になるとか言って毎週楽しんで見てたけど、それがどうかしたの?」 「ハートキャッチプリキュアが完結しちゃったよ〜……僕はこれから一体何を 楽しみに生きていけば良いんだ〜? もう希望も何もあったものじゃないよ〜…………。」 「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッ」 なのはの全身に衝撃が走った。何と言う事か、ユーノは大友…つまり大きなお友達だったのである!! そしてユーノは息も絶え絶えながらに語り始めていた。 「だって考えても見てご覧よ…。キュアマリンもキュアサンシャインもキュアムーンライトもキュアフラワーも シプレもコフレもコッペ様も皆僕の嫁だったのに……彼女達とはもう二度と会えないんだ……そう思うと……生きていくのが辛くて……。 僕の心の花はすっかり萎れる所か完全に枯れてしまったよ…。今の僕がデザトリアンにされたら多分無限シルエットにも勝てるね…。」 「……………………………。」 悲しみの余りなのはの目に涙が零れ落ちた。しかしそれは決してユーノが大友だった事実に呆れたわけでは無い。 ここ数年におけるユーノを取り巻く環境を考えればこうなってしまう事も無理な話では無いと考えたのだ。 モンスタークレーマーのごときアンチの激しい叩きと、それに屈してユーノの本編登場を自粛した公式。 まるでウルトラセブン第12話の様に、語る事自体が禁忌にも等しい事にされてしまった今と言う状況を考えれば ユーノがプリキュアに逃避…もとい心の支えを見出すのも仕方の無い事だとなのはは考えていた。
「笑うなら笑うが良いさ…所詮タンパク質とカルシウムの呪縛に縛られた俗人に今の僕の気持ちは分からないのさ…。」 「そんな…元気出してよユーノ君! 来月の三月には映画もあるし、フィギュアーツだって発売されるじゃない!」 「来月の三月…ね……。僕はその時まで果たして生きていられるかな…。と言うか、フィギュアーツも本当なら 1月に発売されていなければならない物だったんだよ…。それを三月に延期するなんて………うぅぅぅ………。」 「ユーノ君! ユーノ君しっかりして!」 呻き声を上げ苦しみ始めたユーノ。なのはは思わず駆け寄りユーノを支えようとしていたが、 ユーノはまるで枯れ枝の様に細く痩せこけた腕を小刻みに震わせながら天井へと伸ばしていた。 「ディ……ディケイドォォォ〜〜〜……お願いだから僕のこの命の炎が尽きる前に……どうか僕を ハートキャッチプリキュアの世界に連れてっておくれぇぇぇ〜〜〜………。そこで僕はキュアマリンも キュアサンシャインもキュアムーンライトもキュアフラワーもシプレもコフレもコッペ様も皆僕の物にするんだ〜……。」 「………………………………。」 なのはは涙しながらユーノの延々続くプリキュアに関しての想い語りをずっと聞いていた。 こうして聞いてあげる事が今のユーノにとっての何よりの薬になると考えたのだから。 なのは病院を出た後、本屋で売れ残っていたハートキャッチプリキュアの絵本や、玩具屋で 在庫処分セールが始まっていたハートキャッチプリキュアの玩具等を探しては買い集めユーノに送り、 時には自分自身がその絵本を読み聞かせたりもしたが…焼け石に水。ユーノは日に日に衰弱していく。 なのはは今回程自分の無力さを思い知った事は無かった。かつて世界を救うとすら言われた事のある 彼女だが、こうして目の前にいるユーノ一人救えないじゃないかと………悔やんだ。 しかし翌週の月曜日、そこには何事も無かったかの様に元気に無限書庫へ出勤するユーノの姿があった。 九十歳以上の老人と言われても信じるであろうと思われる程にまでやつれ痩せこけていたはずのユーノの身体は かつての様な若々しく瑞々しい健康さを取り戻し、はつらつとしていた。 「ユーノ…君?」 「おはようなのは! どうしたんだい?」 確かにユーノが元気になったのは良い事だが、こうまであっさり元気になり過ぎるのも何処か不気味さを感じた。 一体彼の身に何が起こったと言うのだろうか? 「ユーノ君…元気になったんだね…。」 「うん。何時までもくよくよしていられないしね。今まで無限書庫の皆に迷惑をかけてしまった分バリバリ働くつもりさ!」 「そ…そう…頑張ってね…?」 こうして、元気に無限書庫へ向け走り去るユーノをなのはは呆然と見つめ見送っていた。 だが、このユーノの変わり様は一体何故…と、やはり気になっていたなのはは 昼休みを利用してユーノのいる無限書庫を訪ねてみる事にした。 昼休みの無限書庫。そこでなのはは驚愕の事実を垣間見る事になる。
「ユーノ=スクライア司書長はいらっしゃいますか〜? って……うぇぇぇ!!」 なのはは思わず叫んでいた。そこには昼休みを利用して弁当を食べながらニヤニヤしながらビデオ録画していた分を 再生する形でアニメを見るユーノの姿があったのである。しかもそれはただのアニメでは無かった。 「あ…あ…あれは…昨日ヴィヴィオが見てた…確か…スイーツプリキュア!」 「違うよ! スイートプリキュア!」 「あ…ごめん…。」 アニメ視聴をしながらもなのはの存在に気付いていたユーノに指摘され、思わずなのはは謝っていた。 そう。ユーノが見ていたのはハートキャッチプリキュアの後番組、スイートプリキュアだったのである。 そしてユーノが弁当を食べ終わると共に、スイートプリキュアの方も次回予告が終わった所だった。 「まさか…ユーノ君が元気になった原因…。」 ユーノが鬱病になった原因がハートキャッチプリキュアの完結によって生きる希望を失った事にあった様に、 彼を回復させたのもまたその後番組に当たるスイートプリキュアの開始によって生きる希望を見出したからであった。 「はっ! そ…そう言えば…去年やその前にも同じ事があった様な…。」 なのははここである事実を思い出していた。それは、去年の今頃にもフレッシュプリキュアが終わったとか言って キュアピーチもキュアパッションも僕の嫁なのに〜とかうわごとの様に呟きながら鬱病になるも、後番組の ハートキャッチプリキュア開始と共に元気になっていたし、さらにその前年の今頃にもプリキュア5GOGOが 終わったとか言って、キュアドリームは僕の嫁、ココは氏ねとかうわごとの様に呟きながら鬱病になるも 後番組のフレッシュプリキュアの開始と共に元気になっていた。この繰り返しだった事に今更気付いていたのだった。 「なのは…。キュアメロディこと響ちゃんは僕の嫁って事で良いよね? なのははどうしたら良いと思う?」 「仮面ライダー響鬼の音撃でも喰らって死んでしまえば良いと思うの。」 「ハハハハハ! 冗談キツイねなのはも!」 ユーノは笑っていたが、そんな時…ふとフェイトが彼の前に現れていた。 「あ、フェイトちゃん。」 「ねえユーノ…誰か一人忘れてない?」 「え? 別に忘れ物はしてないよ。」 「いや、大切なのを一人忘れてる。」 「?」 現れて早々に変な事を訪ねるフェイトにユーノもなのはも首を傾げる。しかし彼女の目は真剣だった。 「いや絶対忘れてる。ほら、最初に『ブロッ』って付く人がいるでしょ?」 「ブロッケン伯爵? それともブロッケンjr?」 「なのは…私も堪忍袋の尾を切っても良いかなぁ?」 END
やっぱりこのネタはこのタイミングじゃないとダメだと思いました。 ちなみに今も以前予告したディケイドクロスをちまちまと書き溜めてる最中で、 もう少し…と言う所まで来てます。 本当なら1月発売のはずのフィギュアーツを三月に延期したバンダイゥェェ……。
最後のフェイトさんに笑ったw
>>219 あはははははははッッ
GJ!
久しぶりに大笑いさせていただきましたw
222 :
一尉 :2011/02/07(月) 19:55:35 ID:DIngULi2
おいおいこれは面白いよ。
ヴィヴィオがおしりパンチやからだパンチをやるのか…胸が熱くなるな
やっとディケイドクロスが書き上がったのでちまちまと投下させていただきます。
辺り一面に広がる広大な荒野…その中になのはとユーノの二人が風に乗って舞う砂埃を 浴びながら立ち尽くしていた。しかし、直後に突如として彼方此方で爆発が起こった。 そして戦闘が始まった。地平線の彼方から続々と現れる大軍団。第一作目魔法少女リリカルなのはから 最新の魔法戦記リリカルなのはForceまで、なのはとユーノの二人を除いた全シリーズのキャラクター… 戦闘・非戦闘キャラを問わず、敵・味方を問わず、過去・未来を問わずに全てが徒党を組み、一方へ向けて 一斉攻撃を仕掛けていたのだった。 なのはとユーノの二人があたふたする中、大勢のモブ武装局員…ジュエルシードで巨大化した猫の背に 乗ったすずか…A'sに色々出て来た巨大生物…ガジェットT〜W…日本刀持った恭也やら美由希やら… バイクに乗ったティアナ…フッケバインの皆さん…等々、シリーズや時代の分け隔てなく、 様々なキャラが一斉に一つの方向へ向けて突撃して行く…が…相手側からの反撃によって次々に倒されていく。 上空ではアースラ・時の庭園・聖王のゆりかごが横に並び激しい砲撃を加えて行くが… これも相手側からの反撃によってあっという間に轟沈させられ、中からそれぞれリンディ&クロノ、 プレシア、聖王ヴィヴィオが飛び出して突撃して行く。 なのはとユーノの二人が不安げな表情で何もせず見つめて行く中、次々に倒れされ屍の山が築かれて行く。 最終的には戦いに加わらなかったなのはとユーノの二人を除く全てのリリカルなのはシリーズキャラが 倒されてしまい、同じく倒され崩れ落ちたヴォルテールの向こう側に見える、屍の山の上に立つ者の姿を なのはとユーノの二人は呆然と見つめていた… 「ディケイド…………。」 魔法少女リリカルなのは&仮面ライダーディケイド 超百合大戦 1:クラナガンの異変編 仮面ライダーディケイド本編が終了した後も門矢士の旅は続いていた…のだが…実はその途中で 旅の仲間とはぐれてしまい一人になってしまっていたのだった。 「海東の奴はともかく…夏みかんとユウスケは一体何処へ行ってしまったんだ? まあ良いか… 下手に探し回るよりもこのまま進もう…。いずれ合流出来るだろ。」 彼は旅の中で一人になった事が今まで無かったわけでも無い。故に探し回らず、いずれ合流出来る事を 考え、あえて自身の愛用バイクであるマシンディケイダーを走らせ前進させるのであった。 そうして旅を続ける中、士が世界と世界を繋ぐオーロラを通ってとある世界に辿り着く。 「ここは…リリカルなのはの世界か…。」 士を乗せたマシンディケイダーが到着した先は丁度ミッドチルダ時空管理局地上本部前の道路だった。 故にここが『リリカルなのはの世界』である事を確信していたのであったが…何か違和感を感じていた。
「にしては…少し物々しい雰囲気だな…。」 周囲を見渡してみると、戦闘服を着用しデバイスで武装した局員や釘バットや木刀を持った一般人が 彼方此方におり、まるでこれから戦争でもしようと言わんばかりの物々しい雰囲気を放っていた。 そして彼らの会話に耳を傾けて見ると… 「おい! そっちにはいたか?」 「いや、こっちもまだ発見出来ない。」 「畜生…俺達を裏切る様な真似しやがって…絶対ぶち殺してやる…。」 やっぱり物騒な会話が聞こえて来る。これは何かがおかしいと士も考えるのであったが、 間も無くその予感が確信に変わる発見をする事になるのである。 士が何気なく通りすがった先に立っていた一本の電柱。そこに一枚の張り紙が貼られていたのである。 それは良くある『この顔にピンと来たら110番』って言う指名手配書だったのだが、 その紙に印刷されていた写真と文字が問題であった。 「なん…だと…?」 士は絶句した。何と言う事であろう。高町なのはとユーノ=スクライア。 この二人が指名手配されていたのである! 「これは明らかに変だぞ…。探りを入れて見る必要があるかもしれないな…。」 なのはとユーノの二人が一体何をして指名手配される事になったのかは分からない。 しかし、それでもこの二人が指名手配されると言う事実は異常事態である。 故に士としても黙って見ている事は出来ず、これに関して探って見る事にしたのだった。 クラナガン郊外の廃業都市。既に寂れて無人となったその中の一つの建物の中に二人が座り込んでいた。 それはなのはとユーノの二人だった。 「はぁ…はぁ…。ここならしばらくは追っ手は来ないよ…。」 「ごめんよなのは…僕の為に…。」 「そんな事言わないで…。」 何故追われる身となったのかは依然として謎であるが、なのはは変身魔法で子供の姿に、 ユーノはフェレットの姿になる事で消耗を抑えねばならない程にまで疲弊していた。 そして廃業都市のボロボロの建物の陰に隠れ、追っ手の脅威に震えながら わずかなレーションを分け合って食べていたのだったが…ついにここにまで 非情な追っ手が迫って来ていたのだった。 「いたぞー!」 「見付けた見付けたぞー!」 「あ!!」 一度見付かってしまった途端、廃業都市に続々と追っ手が雪崩れ込んで来ていた。 デバイスを装備した武装局員のみならず、木刀やら釘バットやらで武装した一般人にしか見えない者達が 大勢で一斉に迫って来ていたのである。なのははフェレットの姿になっていたユーノを守るべく右手で抱き、 左手でレイジングハートを握り締めようとしていたのだが、その時だった。
「ちょっと待った!」 まるで追っ手を遮るかの様に一台のバイクが猛烈な速度で駆け寄せ、なのはとユーノの前に止まっていたのである。 それはマシンディケイダーに乗った士であった。 「貴様! 何故邪魔をする!?」 「そっちこそ大勢でよって集って何故この二人を狙うんだ?」 士の乱入によって追っ手の進撃が止まった。突然の乱入者になのはとユーノの二人も何が起こったのかと 困惑した表情で立ち尽くすばかりだった。 建物の中のみならず、その外にまで…。廃業都市を埋め尽くさんばかりの勢いで無数に雪崩れ込んで来ていた 武装集団に臆する事無く士は問う。 「一体この二人が何をしたと言うんだ? こんな大勢で追うなんてやりすぎだろう?」 「なのはは俺達を裏切ったんだ! 信じてたのに…。」 「裏切った? 一体どう裏切ったんだ?」 「なのははフェイトを捨てて淫獣と逃げたんだ! これは我々ファンに対する裏切り行為だ!」 「何…だと…?」 一体何故こんな事になったのか…その理由が明かされた時、思わず士は絶句していた。 「違う! 捨てたんじゃない! 私はもうファンに媚びたレズビアンの真似事に嫌気が差しただけだよ!」 「百合とレズは違う!」 「もう何を言っても無駄だ。フェイトを捨てて淫獣に股開いた時点で俺達のなのはは死んだんだ。 今目の前にいるのはただのビッチなんだ!」 「なるほど……お前らか…噂に聞く百合厨と呼ばれる人種は…。」 なのはとユーノの追われる理由が余りにも突拍子が無さ過ぎて暫し絶句していた士であったが、これで納得がいった。 世の中には『百合厨』と言う女性キャラ同士の百合をもっとも至高とする者達がいる。そしてリリカルなのはの 世界においてはこの百合厨が一番力が強く、そして百合厨の力を利用して発展して来た。 しかし、確かに少女時代においては友情の発展系としてなのはとフェイトの百合に疑問は無かったが、 やがて大人になるに従ってそれはエスカレートし、ついにはレズビアンまがいな行為を連発する様になった。 それはなのは個人にとってもはや我慢出来る物では無くなっていた。なのはとてフェイトの事は好きだが 百合厨が求める物とはまた違う形であり、百合厨に媚びたレズビアン行為に嫌気が差していたなのはは 本編で描かれていない所でこっそり幼馴染のユーノと付き合っていたのだったがそれさえも百合厨に察知されてしまい、 掌を返した百合厨に反逆され、この様に追われる身となっていたのだった。 「俺も旅の中で色々見て来た…。彼氏が出来たり、実は元彼がいた事が発覚した途端にお前達百合厨に よって追い立てられる女をな…。例えばかんなぎの世界とか凄かった。そして今この二人さえ狙おうと言うのか?」 百合厨は女性キャラ同士の百合を尊ぶと同時に女性キャラに彼氏が出来た途端に掌を返し、 ビッチだの何だのと叩きまくる。この光景を士も様々な世界で見て来ていたのだった。 「それの何がいけないんだ!? なのフェイの百合こそ世界の真理だ! なのフェイの百合があったからこそ リリカルなのはと言う作品はここまでの人気作となったのだぞ!」 「別に百合自体を否定してるわけじゃない。百合たい奴は勝手に百合ってれば良い。だが…アイツは違うだろ!? アイツは百合を嫌がっているじゃないか!! それなのに百合を無理やりに押し付けようと言うのなら… 俺はお前ら百合厨からあいつ等を守る!!」 武装集団=百合厨の大軍に向けて啖呵を切った士。これには百合厨も腹を立てていた。
「貴様! いきなり出て来た上に偉そうに………一体何者だ!!」 「俺は通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」 士はディケイドライバーを腰に巻き、さらにライドブッカーから取り出した一枚のカードをディケイドライバーへ差し込んだ。 「変身!」 『カメンライド! ディケーイド!』 その様な電子音と共にディケイドライバーから放たれたエネルギー状の何かが士の全身を纏い、その姿を 仮面ライダーディケイドへと変えていたのだった。 「ディケイドだー!! ディケイドが出たぞー!! さてはリリカルなのはの世界を破壊しに来たなー!?」 「うおー!! ぶっ殺せー!!」 「出来るもんならやってみろー!!」 こうして戦いが始まった。ディケイドは単身百合厨の大軍へ向けて突っかかり、ライドブッカー・ソードモードで 辺り一面に展開された百合厨を次々に斬って斬って斬り倒しまくるのであった。 百合の破壊者ディケイド。百合の世界を巡り、その瞳は何を見る。 そして…そんなディケイドの大暴れをなのはとユーノの二人が呆然と見つめていた。 「ディケイド…。」 「彼が…噂に聞く……破壊者…。」 一度は歴代ライダーを全滅させた事もあるディケイドの暴れぶりは目を見張る物があった。 リリカルなのはと言う世界観…そして作品の人気を支えているも同然の屈強なる百合厨の大軍を ばったばったと倒しまくり…廃業都市は忽ちの内に屍の山に……なってはいたのだが… しかし百合厨はその間も続々と数を増やし、次から次へと廃業都市へ雪崩れ込んでいたのだった。 「何だこいつ等…キリが無い。」 「それだけなのフェイの百合を大勢の人々が支持していると言う事だ! 貴様の存在はなのフェイのみならず リリカルなのはの世界そのものを消滅に導く! 今ここで百合厨の手にかかって死ぬのだ!」 「貴様…鳴滝…!?」 何と言う事だろう。百合厨の大軍の中に一人の薄茶色のコートに身を包んだメガネの中年男の姿……。 それこそ彼方此方の世界でディケイドを世界を破壊する悪魔と言いふらしまくっている反ディケイドの 特攻隊長とも言える男…鳴滝だった。 「鳴滝ー! 百合厨になってまでディケイドを倒したいか?」 「黙れ! 貴様は今度こそここで死ぬのだー!! 行けー!!」 「うおおおおお!!」 鳴滝がディケイドを指差すと共に大勢の百合厨が一斉にディケイド目掛け突撃する。 これは非常にまずいと感じたディケイドは一度マシンディケイダーの所へ駆け戻っていた。 そして座席に座りハンドルを握ると共になのはとユーノの方へ話しかけていた。 「おい、お前らも乗れ! とりあえずここは逃げるぞ!」 「え? で…でも…。」 「でもじゃない! 死にたいのか!?」 「いや…ほら…だってノーヘルは良くないって…。」 「だからそういう事言ってる場合じゃないだろ!! 良いから乗れ!!」 「はっハイ!」 ノーヘルでバイクに乗るのは如何な物か…とマシンディケイダーに乗る事に 躊躇していたなのはであったが、今はそんな事を気にしている場合では無かった。 百合厨の大軍はすぐそこまで迫っているのだから。故に大急ぎでなのはは ディケイドに抱き付く形でマシンディケイダーの後部座席に乗っていたのだった。
「しっかり掴まってろよ!」 ディケイドは猛烈な速度でマシンディケイダーを走らせた。マシンディケイダーは その辺のバイクとは馬力から何まで桁違いの性能であり、忽ちの内に時速数百キロにまで加速する。 なのはもやろうと思えばその位の速度で飛ぶ事が出来る事は出来るが、他人が運転するバイクに 乗った状態でその速度を出されるのはそれとは全く違った感覚であり、振り飛ばされない様に ディケイドに力一杯しがみついており、フェレットの姿になっているユーノもまた なのはの左肩に力一杯しがみついていた。 さしもの百合厨の大軍もマシンディケイダーの速度には追い付けなかった。そしてクラナガンから 離れた田舎道に入った所でディケイドはマシンディケイダーを一度止め、変身を解いて士に戻っていた。 「ここまで来ればしばらくは追って来ないだろう…。」 「あ…あの…ありがとうございます…。」 「礼はいらん。当然の事をしたまでだ。」 なのはとユーノは見ず知らずも同然の二人に対して何故士がここまでしてくれるのか不思議でならない。 だが、その後でユーノは申し訳なさそうになのはに対し謝っていたのだった。 「ごめんよなのは…僕なんかの為に…世界そのものを敵に回させてしまって…。」 「だからそんな事言わないで。ユーノ君一人が悪者にされて叩かれるなんて間違ってるし…私も嫌だよ。」 なのはとフェイトの百合と言う名のレズビアンまがいな行為が大勢の百合厨に支持される陰で ユーノはなのはに最も近くにいる男として百合厨の怒りを買い、淫獣と罵られ叩かれていた。 それがなのはにとっては嫌だった。なのはが世界を敵に回してでもユーノと共に逃げたのはそこも要因であった。 「私とフェイトちゃんがレズみたいな事をして…ユーノ君一人が憎まれ役になって迫害されなきゃ 『魔法少女リリカルなのは』って作品が維持出来ないのなら…いっそ破壊して欲しい……。 お願いです! 貴方が噂通りに破壊者だと言うのなら…いっその事一思いに破壊して下さい!」 「なん…だと…?」 これには士も戸惑った。確かに今まで旅の中で『破壊者』『悪魔』と罵られ攻撃された事は 多々あったが、この様にむしろ破壊を乞われる事は非常に珍しい事だったからである。 とは言え、士にもまだ分からない部分があった。 「しかし、まだ解せない部分もある。そもそも百合厨なんて所詮はヲタの集まりだろ? それが何故あそこまで組織的に動けるんだ?」 「そ…そう言われてみれば…。」 「これは裏で糸を引いてる奴がいると見たな…。」 確かに言われてみれば士の言う通りかもしれないと言えた。いくら百合厨の発言力が強いと言っても 言い換えれば発言力が強いだけに過ぎない。それがこの様に大勢で直接実力行使に出て来る事は異常事態であると言えた。 「じゃ…じゃあ…もしかしてあの…確か…鳴滝って人とか…?」 「いや、あれはただ単に百合厨の流れに乗って俺を倒そうとしてるだけに過ぎん。もっと別にいるな。」 「一体誰が………。」 百合厨が組織的に動ける様になった理由は何か…。三人はそれぞれ考えを膨らませ、暫し沈黙が起こるが それで特に何が起こるでも無し、士は再びマシンディケイダーのハンドルを握っていた。 「ま、こんな所で考え込んでいても仕方が無い。お前ら二人とも行く当てが無いんなら俺に付いて来い。俺が匿ってやる。」 「あ…ありがとうございます…。」 士はなのはとユーノを匿うと言う。それには逃げる当ての無かった二人も思わず礼を言い、 三人を乗せたマシンディケイダーは再び発進するのであった。
士が向かった先は、実質彼の家とも言える光写真館。そこでなのはとユーノの二人を匿おうとしていたのだったが… 不思議な事に光写真館は人っ子一人いない無人だった。 「ここにもいないか…皆何処に行ったんだ? 爺さんまでいないなんて…。まあいい…とにかく上がってくれ。」 「あ…はい…。」 なのはと、その左肩に乗ったフェレット形態のユーノは申し訳なさそうに玄関から光写真館の中に入り用意された椅子に座っていた。 「ここ…写真館なんですね?」 「まあな。」 とりあえず士はなのはとユーノに光写真館の中にあった飲み物・食い物を出しつつテレビのスイッチを入れるのであったが、 丁度何か特別報道番組が組まれ放送されている様だった。 「これは………。」 明らかに何かが起こっている事を悟った三人は思わずテレビ画面に注目した。 『大変です! つい先程、謎の武装集団によって時空管理局ミッド地上本部が占拠されました! あ! カメラさん! あちらに向けて下さい! 犯人側からの声明が行われる様子です!』 「謎の武装集団…。」 「いつの間にかに凄い事が起こってる…。」 なのはとユーノの二人が追われる身となっていた間にさりげなく管理局ミッド地上本部が 謎の武装集団によって占拠されると言う異常事態。彼らは一体何者なのか… そしてミッド地上本部の方では、時空管理局のマークが描かれた旗が降ろされ、代わりに 彼ら武装集団のシンボルと思しき旗が上げられていた。 『時空管理局ミッド地上本部は我々百合ショッカーが占拠した!』 「百合ショッカー!?」 占拠された時空管理局ミッド地上本部から続々と出て来た如何にも怪しい男達の中心に立つ 科学者風の老人がその様にテレビ局のカメラに向けて高々とそう宣言していたのだった。 だがそれのみならず、百合ショッカーと名乗る組織の幹部と思しき彼らが一人一人自己紹介をしていく。 『私は死神博士改め…百合神博士である!!』 「じ…爺さん…ま…またこのパターンか……。」 死神博士改め百合神博士。その姿を見た士は頭を抱えてしまった。実は彼の正体は光写真館の主人、光栄次郎である。 しかし、死神博士のメモリの入ったガイアメモリによって死神博士・スーパー死神博士ドーパントになっていた事があった。 そして今回も死神博士改め百合神博士となっていたのであった。 『私は百合ショッカー百合幹部、地獄大使改めガチ百合大使!』 『私はドクトルG(ゲー)改めドクトルY(ユリー)である!』 百合神博士を筆頭として様々な幹部が自己紹介をしていく。そして彼らを称える様に 彼ら側の兵隊と思しき全身タイツ姿の戦闘員達が手を上げ叫んでいたのであった。
『ユリー!!』 『ユリー!!』 『これより我々百合ショッカーは百合の理想郷建設の名の下に世界征服を宣言する!』 これには士・なのは・ユーノの三人は暫し沈黙していたのだったが、ここでユーノが なのはの左肩からテーブルの上に飛び降り、士に話しかけていた。 「あの…士さん…。ショッカーって…あのショッカー?」 「多分そのショッカーだ。少し変わっている様だがな。」 士の言う通りだった。百合ショッカーはその名の通りショッカーが百合の力で強化復活した組織。 例えばショッカーの戦闘員は「イー! イー!」と叫ぶ事は周知の事実であるが、 この百合ショッカーの戦闘員は「ユリー! ユリー!」と叫ぶ程にまで百合に染まっていた。 「まさか鳴滝のみならずショッカーまで百合厨になってるなんて…一体どうしてこうなった…。」 士は頭が痛くなりそうに頭を手で押さえていたのだったが、それだけに留まらなかった。 『諸君! 見よ! このお方が我々百合ショッカーの百合首領! フェイト=T=ハラオウンである!』 「ええ!?」 ここでまたも異常事態。何と言う事か、あのフェイトが百合ショッカーの百合首領となって 彼ら百合ショッカーの百合幹部達の中心に立っていたのである。これにはなのはとユーノもビックリ。 「そんな…フェイトちゃんがどうしてショッカーなんかに…?」 なのはとユーノの二人が愕然とする中、テレビの映像の向こう側では、百合ショッカー百合首領となった フェイトが百合厨と思しき人々から賞賛の声を浴びせられていた。 「おそらくこの為だな。フェイトはリリカルなのはキャラの中でも特に人気があるのだろう? それが百合ショッカーの首領となれば人々は百合ショッカーを賞賛する。これが奴らの狙いなんだ。 フェイトは洗脳でもされた上で首領に祭り上げられているだけに過ぎん。」 「そ…そうなんですか…?」 「俺も一度は大ショッカーの大首領をやってた事があったからな…。」 士もかつて百合ショッカーの前身たる大ショッカーの大首領をやっていた事があった。 しかしそれも単に祭り上げられていただけの事。それと同じ様にフェイトも祭り上げられているだけであると 士は悟っていたのであった。 百合ショッカーの存在はリリカルなのは世界に大勢いる百合厨達には熱烈な支持歓迎を受けていた。 『我々百合ショッカーが世界を征服した暁には、世界各地のゲーム屋から恋愛ゲーを撤去させ、 代わりに百合ショッカー製作の百合ゲー『ユリプラス』を発売させる。』 「おー!!」 「百合ショッカー万歳!!」 「ユリー! ユリー!」 百合ショッカーの志に賛同した百合厨達は続々と百合ショッカーに入り、百合ショッカーは 彼らを百合戦闘員・百合怪人に改造して兵力を続々と増強して行くのであった。
時空管理局とて百合ショッカーの暴挙を黙って見ているわけでは無かった。間も無く本局は 高ランク魔導師で構成された精鋭を百合ショッカーへ向け送り込むのだが…彼らが帰って来る事は無かった。 それどころか… 「ユリー!」 「ユリー!」 「うわー! 百合ショッカーの襲撃だー!!」 逆に百合ショッカーの百合怪人・百合戦闘員達が本局に雪崩れ込み、瞬く間に本局までも陥落させられていたのだった。 「そんな…本局まで……。」 「無限書庫の皆は無事だろうか…。」 百合ショッカーの手によって本局が陥落させられていく様子もテレビで放送されており、 その光景を目の当たりにしたなのはとユーノは愕然とするのみだった。 しかし百合ショッカーが本局を襲撃・陥落させる理由は別にあった。本局を陥落させて間も無く、 百合神博士が複数の百合怪人・百合戦闘員を引き連れて直々に管理世界における犯罪者が拘束されている 軌道拘置所へ向かっていたのだった。 そして軌道拘置所で一人の男が牢から出された。それはかつてJS事件を引き起こした天才科学者 ジェイル=スカリエッティであった! 「ジェイル=スカリエッティだな?」 「おお…貴方は怪人作りの名人と名高い死神博士!」 「如何にも。もっとも…今は百合神博士と名乗っているがな。」 生命操作・人体改造を主に研究していたスカリエッティにとって死神博士はその道の大先輩。 それ故に彼が直々に会いに来ると言う事態は相当な衝撃であった。 「私が現在進めている百合生命体の製作には君の力が必要だ。強力してくれるな?」 「他でも無い死神…いや百合神博士の頼み…。協力しましょう。」 こうして百合神博士とジェイル=スカリエッティ。二人の天才が手を組んだ。 そして二人が作ると言う『百合生命体』とは一体何なのであろうか…………? 一方光写真館では、なのは・ユーノ・士の三人が考え込んでいた。 「これは真剣に何とかしないと不味いぞ…。こんな時に皆何処へ行ってしまったんだ? せめてユウスケくらい帰ってくれば良いのに…。」 百合ショッカーに対し何か行動を起こそうにも、三人だけでは流石に頭数が足りなかった。 なのはとユーノは依然として疲弊した体力・魔力は回復しきっておらずそれぞれに子供・フェレットの 姿のままであったし、士と離れ離れになった旅の仲間も帰って来ない状況では中々辛い部分があった。 だがそんな時だった。突然呼び鈴が鳴ったのである。
「誰だこんな時に…。」 と、文句を言いながら士が玄関へ向かっていたのだが、そこに現れたのは意外な人物であった。 「南光太郎!」 彼は南光太郎。『仮面ライダーBLACKの世界』にて、暗黒結社ゴルゴムによって次期創世王候補、 世紀王ブラックサンとして改造されてしまったが脳改造を受ける前に脱出、以後仮面ライダーBLACKと 名乗りゴルゴムと戦い続ける男。士もかつてBLACKの世界に行き彼と共闘したり、ライダーバトルで 戦ったりと色々な事があった。 「大変な事になってしまったな。百合ショッカーは様々な世界の百合厨のみならず腐女子をも 味方に付けて日増しに兵力と勢力を伸ばし続けている。」 「腐女子までだと!?」 腐女子とは、早い話が百合厨の逆を行く人間。百合厨が女性キャラ同士の百合を至高とする様に 腐女子は男性キャラ同士の801を至高とする者達。それが何故百合ショッカーに味方をすると言うのか? 「考えても見ろ。百合厨が女性キャラに男性キャラが近付く事を嫌う様に、腐女子は男性キャラに女性キャラが 近付く事を嫌う。つまり、百合ショッカーによってあらゆる女性キャラが百合になる事は腐女子にとって見れば 自分達の好きな男性キャラに女性キャラが近付かなくなると言う大きなメリットがある。つまり利害が一致しているのだ。」 「な……なんと恐ろしい事を………。」 一見馬鹿らしい様に思えるが、当人達は真剣である。いずれにせよ百合ショッカーが腐女子までをも 味方に付けてしまったと言う事態は脅威である。その内腐女子で構成された801戦闘員とか801怪人とか出て来てしまいそうだ。 「しかも百合ショッカーにはゴルゴムから信彦までもが参加しているらしい。これはもはや黙って見ている事は出来ない。」 「あの…信彦って誰?」 「………………。」 凄い真面目な話をしている時に真顔で問われて光太郎も困った。 「つまりシャドームーンだよシャドームーン。」 「ああ…月影の事か…。」 ゴルゴムによって作られたもう一人の世紀王シャドームーン。その正体は南光太郎と兄弟の様に育った秋月信彦。 そして彼は『月影ノブヒコ』と名乗り士の家の執事を装っていた事もあったし、大ショッカー大首領の座から士を追い落として 代わりに大首領になって大暴れした事もあった。しかし…ここで一つの問題が… 「あの…私達はライダーの世界の事情には詳しくないから良く分からないんですけど…。」 「無限書庫に行けばそれ関係の資料も出て来ると思うけど、もう既に百合ショッカーに制圧されてしまってるはずだし…。」 「あ…ごめん……。」 久々に台詞の機会が回ってきたなのはとユーノの言葉に光太郎も士も思わず謝ってしまうのだった。 何しろこれは一応はリリカルなのはSSの体裁を取っているのだから、ライダー側だけで話を進めても仕方が無い。 とりあえず、百合ショッカーにはシャドームーンもまた参加している事で脅威が増えたと言えるが、 それと同時に仮面ライダーBLACKこと南光太郎が士達に協力してくれる事はささやかな救いと言えた。
とりあえず第一章はここまで。 ちなみに仮面ライダーBLACKにおける南光太郎の一人称って「僕」なんですけど ディケイドにおけるBLACKの世界の光太郎は、演じるてつをさんが歳取って貫禄付いたからなのか 「俺」に変わってたんですよね。だからそっち基準でお願いします。 小さい頃はRXのが新しくて強い事もあってRXのが好きだったんですけど 今になって改めて見比べるとBLACKのが格好良く見える不思議。 おかげで今更BLACK関連を色々買っちゃいましたよ。 それはそうと、さるやさんはp2を使っても回避出来ないんですね〜。また一つ勉強になりました。 このSSのメインであるはずのなのはとディケイド関連の事柄何も書いて無いし…orz
なんちゅー世界だw とりあえずデンライナー使ってオールライダー集めて来いっていいたくなる レッツゴーの前哨戦やってこいと 続きが気になる
超百合大戦の続き書きます。
2:ナフコの世界激闘編 こうしてなのは・ユーノ・士・光太郎の四人は打倒百合ショッカーの為に再び旅立つ事になったのだが、 その前にやる事があった。とりあえず移動の際にはなのはは士及び光太郎が持ってるバイクの後に乗せてもらう形に なるのではあるが、問題はなのは用のヘルメットが無いと言う事である。流石にこのままノーヘルのまま バイクに乗り続けるのは色々と問題が起こりかねない。しかしバイク屋のヘルメットは結構値段が張り、現状の 限られた予算の中では意外に大きな負担となる。…と言う事で、皆は旅立つ前にまず近所のホームセンターに 寄っていたのであった。ホームセンターなら安いヘルメットもあるし、その他旅に必要な道具も揃えそうだしね。 「ここがナフコの世界か…。」 「いや…世界とかそんなんじゃないと思うんだけど…。」 一口にホームセンターと言っても色々あるけど、近所にあったホームセンターはナフコだったのでそこへ行っていた。 ナフコって昔は家具屋ってイメージがあったんだけど、今ではホームセンターとして色々な物を置いていると言うのだから 時代も変わったな〜と思わせてくれる。とりあえず何か良さげな物を探しに店内に入ろうとしたのであったが… 「大変だー! 百合ショッカーの襲撃だー!!」 「え!?」 突然彼方此方で悲鳴が湧き上がった。そして店内駐車場に全身タイツの男達が大勢雪崩れ込んで来ていたのだった。 「ユリー!」 「ユリー!」 「うわー! 助けてくれー!」 百合ショッカーの百合戦闘員がナフコの世界で従業員やショッピングを楽しんでいた客を見境無く襲い、彼方此方で悲鳴が響く。 とりあえず殆どが戦闘員で強そうな怪人はいない様子であったが、それでも一般市民にとっては脅威である。 「これはもう買い物どころじゃないぞ!」 「うん!」 これ以上百合ショッカーによって罪無き一般市民が虐げられる光景を黙って見ているわけには行かない。 フェレット形態のユーノを左肩に乗せたなのは・士・光太郎の三人がそれぞれ百合ショッカー戦闘員の軍団に対し横に並ぶ形で相対した。 「セーットアーップ!」 なのはの首に下げる宝石状のレイジングハートが桃色の光を放ち、杖へ変化すると共になのは自身にもバリアジャケットが装着された。 「変身!」 『カメンライド! ディケーイド!』 士がディケイドライバーを腰に巻き、ライドブッカーから取り出したカードを差し込む事によってディケイドライバーから 放たれたエネルギーが士の全身を纏い、仮面ライダーディケイドへ変身した。 「変…身! 仮面ライダーBLACK!!」 光太郎が両腕に力を込め、変身ポーズを取ると共に腰に変身ベルトが現れ、その内部に埋め込まれたキングストーンの光によって 光太郎の姿がバッタ男へ変化し、さらにその上を強化皮膚リプラスフォームが覆う事によって仮面ライダーBLACKへと変身するのだった。
「行くぞ!」 「うん!」 「おお!」 こうしてナフコの世界の駐車場で戦闘が始まった。駐車場の彼方此方に展開する百合ショッカー百合戦闘員の軍団に対し、 ディケイド・なのは&ユーノ・BLACKがそれぞれに飛び出し攻めかかっていた。 「ユリー! ユリー!」 「とお! たあ!」 数で迫る百合戦闘員であったが、BLACKのパンチや蹴り、投げによって次々に倒されて行き、 ディケイドもライドブッカー・ソードモードで次々に斬り倒していく。 なのはもまた宙を飛び回り、左肩に乗ったユーノの援護の下でシューター系魔法によってナフコの世界を傷付けない様に 上手く百合戦闘員だけを撃ち落していたのだったが、少し心傷む部分があった。 「あの百合ショッカーの人達の中には元々私達のファンだった人も大勢いるかもしれないって事を考えると ちょっと心苦しいかな…。」 「確かに…ちょっと微妙な気分だね。」 しかし、ここでなのはとユーノにとってさらに心傷む事態が発生するのであった。 「敵後方に何かどう見ても戦闘員とは違う奴がいるぞ!」 「え!?」 ナフコの駐車場中に展開する百合戦闘員の大軍の奥に明らかに百合戦闘員とは違う者が混じっている事に BLACKが気付いていた。それにはなのは・ユーノ・ディケイドも百合戦闘員と戦いながらも彼の視線の先に目を向けていた。 「戦闘員ばかりかと思ったらちゃんと怪人もいるのか?」 「違うよ! あれは………。」 百合戦闘員の大軍に混じる別の存在…それは決して百合怪人の類では無かった。 そして百合戦闘員達が道を明けると共に『それ』が前に出て来ていたのだった。 「なのはさん、百合ショッカーに抗う様な真似はやめて帰って来なさい。フェイトさんも彼方と会いたがってますよ。」 「リンディさん!」 「リインとアギトもいる!」 何と言う事であろうか。百合戦闘員の大軍の中から現れたのはリンディ=ハラオウン、そしてリインフォースUとアギトだったのである! 「あのエトナっぽい娘もアギトと言うのか…一瞬仮面ライダーアギトが敵に回ったのかと思って焦ったぞ。」 BLACKがアギトの方を見つめその様な事を言っていたが、なのは・ユーノは真剣な面持ちで リンディ・リイン・アギトと相対していたのだった。 「どうして! どうしてそんな所にいるんですか!?」 「どうしてって…見れば分かる事でしょう? 私達も百合ショッカーに入ったんですよ。」 「そんな………。」 リンディ・リイン・アギトが百合ショッカーに入ってなのは・ユーノと敵対する事になった事実になのはとユーノは愕然としてしまった。
「彼方達も良く考えて御覧なさい。TVアニメの放送が終わってもなおリリカルなのはシリーズが 人気を保ち続けているのは元より百合のおかげなのですよ。だから帰って来て下さい。フェイトさんも 貴女と会いたがっています。二人が揃えばますますファンは喜んでリリカルなのはと言う作品の人気は不動の物になるんですよ?」 確かにその通りかもしれなかった。放送開始前は誰からも見向きのされなかったリリカルなのはシリーズが こうも人気を得る様になったのはなのはとフェイトの百合が大勢のファンの心を掴んだから。 その為になのはにはフェイトの所に帰って来て欲しい様子だったのだが… 「それって…フェイトちゃんの友達として…帰って来て欲しいと言う意味で言ってるの? 言っておくけど、百合と称してレズビアンの真似事をさせる為に言っているのなら…私は帰らないよ! 私は知ってる…私とフェイトちゃんがファンから賞賛を受けてる陰でユーノ君が色々酷い目にあわされてる事… 私はそんなの嫌だよ! だから私はユーノ君を守るから!」 なのはは未だフェレット形態の姿にあるユーノを守る様に抱きながらそう啖呵を切っており、 それにはリンディ・リイン・アギトの三人も悲しげな顔となっていた。 「そう…ならば仕方がありません…力ずくで行くしかありませんね…。」 「覚悟するです!」 「容赦はしねぇぞ!」 リインは冷凍魔法、そしてアギトは高熱魔法をなのはとユーノへ放とうとしていた。しかし、なのはとユーノは とりあえず啖呵は切って見たものの、かつての仲間に攻撃するのはどこか気が引ける部分があり躊躇していた。 しかし、そんな二人の気持ちを察してか、ディケイドが前に出ていたのだった。 「ユウスケの奴ならこう言うだろうな。二人の笑顔を守る為に戦うと…。」 「士さん?」 「お前達も元々仲間だった奴と戦うのは気が引けるだろう。ここは俺に任せろ。試してみたいカードもある事だしな。」 ディケイドはライドブッカーから何かカードを取り出しかざしていた。ディケイドは本編終了後も 様々な世界を旅しており、その度に新たなカードを手にしていた。その内の一つを試すつもりでもあった。 「何ブツクサ言ってんだぁぁぁ!?」 アギトの高熱魔法がディケイドに襲い掛かるが…それと同時にディケイドはカードをディケイドライバーに差し込んでいた。 「炎には水だ。」 『プリキュアラーイド! アクアー!』 「えええええええええ!? プリキュアライドォォォ!?」 何と言う事であろう。次の瞬間、ディケイドの姿がキュアアクアの姿になっていたのであった。 確かにディケイドはカメンライドする事によって他の仮面ライダーの姿になりその力を使う事が 出来る事は知られている。しかし、カメンライドならぬプリキュアライドでプリキュアにも なれるなんて流石に聞いてないのでBLACKもビックリだった。しかし、ディケイドアクアは 構わずライドブッカーからまた別のカードをディケイドライバーに差し込んでいた。 『アタックラーイド! サファイアアロー!』 次の瞬間だった。ディケイドアクアは水で出来た弓矢を作り出し、そこから放たれる 水で出来た矢でアギトの高熱魔法を打ち消していたのであった。
「どうだ? 『プリキュア5の世界』に行った時に手に入れたカードだ。」 「うわ! 声は士さんのままだから凄い違和感だ!」 姿はキュアアクアでも、声はディケイド=士のままであるが故、その凄まじい違和感に なのは・ユーノ・BLACKは滅茶苦茶に引いてしまっていた。しかし、今度はリインの冷凍魔法が襲い掛かる。 「水なんて凍らしてしまえば良いんです!」 キュアアクアは水の力を持ったプリキュアであるが、それ故に凍らされてしまえば身動きが取れなくなる。 そう言う意味ではリインフォースUは相性の悪い相手と言える。しかし、ディケイドアクアは 構わずまた新たなカードを取り出していた。 「ゆかなにはゆかなだ。」 『プリキュアラーイド! ホワイトー!』 何と今度はキュアホワイトの姿に変わった。ディケイドは『ふたりはプリキュアの世界』にも行っていた様である。 そしてディケイドホワイトは冷凍魔法を回避しながらリインに向けて急接近し、その腕を掴んでいた。 「あっ!」 次の瞬間だった。ディケイドホワイトがリインの腕を掴むと共に、リインの体が回転して地面に叩き付けられていたのである。 キュアホワイトは単独での必殺技を持たない代わりにプリキュアの中でも特に優れた柔法を持つと言われている。 その柔の力によってリインを投げ倒していたのだった。 残るはリンディただ一人。それに対しディケイドホワイトはまたも新たなカードを取り出していた。 「久川綾には久川綾だな。」 『プリキュアラーイド! ムーンラーイト!』 今度はキュアムーンライトに変わった! 流石ディケイド、『ハートキャッチプリキュアの世界』も見逃してはいなかった。 そしてディケイドムーンライトは猛烈な速度でリンディへ向けて突撃して行く。 「残るはあんただ!」 「あれこれと姿が変わって鬱陶しい!」 姿はキュアムーンライトでも声は士のままだから相変わらず凄い違和感だっつの。それにはリンディも鬱陶しさを感じ、 背中から妖精の羽を思わせる光の翼を展開させ宙に飛び上がると共にディケイドムーンライトの攻撃を回避していた。 流石リンディ=ハラオウン。歳は取っていても彼女は優秀な魔導師なのだ。リインやアギトの様には上手く行かない。 「空を飛ぶか! ならこちらも飛ぶまで!」 リンディが空中から攻撃を仕掛けるならばと、ディケイドムーンライトも光のマントを作り出し飛び上がった。 そしてナフコ上空で熾烈な空中戦が繰り広げられるのであった。 空中を猛烈な速度で飛び回り何度もぶつかり合って行くリンディとディケイドムーンライト。 それは地上から見ている者の目からは、二つの光の塊同士が衝突を繰り返して行く様にすら見えた。 リンディは確かに強いが、単体の戦闘力と言う意味ではプリキュア屈指の力を持つと言われるムーンライトの力と 能力を再現したディケイドムーンライトも強かった。そしてリンディが一瞬怯んだ隙にディケイドムーンライトは またさらなるカードをディケイドライバーに差し込んでいたのだった。 『アタックラーイド! フローラルパワー・フォルティシモー!』 ディケイドムーンライトはムーンタクトを右手で握り締め、その先端から現れたエネルギーを纏い ディケイドムーンライトが猛烈な速度でリンディへ向けて突っ込み、弾き飛ばしていた。 そしてリンディは思い切りリイン・アギトの真上に落下していたのだった。
「ま…まだまだ…。」 「おいおいまだやる気か?」 結構なダメージを与えてもなお立ち上がろうとするリンディ・リイン・アギトの姿に 元の姿に戻ったディケイドも呆れていたのだったが、そこへBLACKが前に出て来た。 「ここは俺に任せろ。キングストーンフラッシュ!!」 BLACKの変身ベルトの中心部に埋め込まれたキングストーンから放たれる光を 直接照射する技、キングストーンフラッシュが三人目掛けて照射された。 キングストーンフラッシュは攻撃以外にも相手の特殊能力を無力化したり等、様々な 奇跡を起こして来た力である。今度は一体如何なる効果を見せると言うのか…? 「うっまぶし!」 キングストーンフラッシュの眩い輝きの前には流石のリンディ・リイン・アギトの三人も 思わず顔を背けてしまうが…… 「はっ…私達は一体何を!?」 「と言うかここは何処ですか!?」 「確か百合ショッカーの奴らに捕まって…その後が思い出せねぇ…。」 三人は突如呆気に取られた顔になり、その様な事を言い出していた。その姿を見てBLACKは軽く頷いていた。 「思った通り、奴らに洗脳されていたか。」 「良かった…三人とも本心で百合ショッカーに協力してたわけじゃないんだね?」 なのはとユーノは安心した。リンディ・リイン・アギトの三人はあくまでも百合ショッカーに協力する様に 洗脳されていただけであり、BLACKのキングストーンフラッシュによってその洗脳も解かれ元に戻った事に。 「ユリー!」 「ユリー!」 まだナフコの世界の駐車場には相当数の百合戦闘員が残っていたのだが、三人が元に戻った事で 焦りが生じたのか、彼らは散り散りになって撤退していた。そしてディケイドはその様を見送りながら 変身を解き、門矢士に戻るのだった。 「ひとまずはこちらの勝利か。とりあえずこれで合点が行ったな。この三人を見れば分かる通り、 フェイトも奴らに洗脳された上で百合ショッカーの首領に祭り上げられている可能性は高い。」 「ですが私達以外にも百合ショッカーには沢山の人達が捕らえられました。彼方達も気を付けて下さい。」 洗脳の解かれたリンディ・リイン・アギトの三人は洗脳後の事は一切記憶に無く、百合ショッカーの一員として ナフコの世界に攻め入りなのは達と敵対したと言う事をなのはとユーノから説明され、そのショックと罪悪感に 苛まれながらも士に対しそう忠告していた。 こうしてなのは・ユーノ・士・光太郎の活躍によって百合ショッカーの部隊を退け、ナフコの世界は平穏を取り戻した。 ここで安心してナフコの世界で旅立つ為に必要な道具を揃え、いざ本格的な百合ショッカー打倒の旅へ出発するのだった。 「よし、行くぞ。」 「うん。」 なのははナフコの世界で購入した安いヘルメットを被りマシンディケイダーの後部座席に乗っていた。 そして未だ回復が完了せずフェレット形態のユーノには振り飛ばされない様にハーネスとヒモを買って巻き、 なのはに括り付ける形としていた。勿論ユーノの回復が完了して人間に戻れた時に備えたメットも購入。 その上でなのは・ユーノを乗せた士のマシンディケイダー、そして光太郎の所有する世紀王専用マシンとして 作られた生体メカとも言えるバトルホッパーは走り出すのだった。
ディケイドがプリキュアライドした時点で早くもこのSSの雲行きが怪しくなってまいりました。 けれど、これも所詮は序章に過ぎなかったのです…。 ちなみに仮面ライダーBLACK本編だと光太郎は常日頃からバトルホッパーを使ってるわけじゃなく、 普段は市販のバイクを使って、変身・戦闘時にバトルホッパーを呼び寄せる形を取ってたんですが (光太郎としてバトルホッパーに乗るシーンは1話のゴルゴムのアジトからの脱出シーンくらい?) 一々乗り換えるのが面倒なので最初からバトルホッパーに乗ってるという事で考えてください。 バトルホッパー同様に常日頃から使われてたわけじゃないRXのアクロバッターも ディケイドにおけるRXの世界では常日頃から使われてる様な感じになってましたし。
つーか、このスレでやる必要あるのか?
地獄の四兄弟さんといい、ディケイドクロスは他のスレでやってもらいたい
どうも皆様こんばんは そして、◆e4ZoADcJ/6氏投下乙です まさかかれんさんやゆりさんが、ここで見れるとはw 思わず笑いましたねw それでは自分も、10時30分より投下をします 今回は、仮面ライダーカブトレボリューション第一話と ディケイドFORCEの二本立てになります どちらも、そんなに長くならないと思います。
>>245 ディケイドもここで投下し続けるのですか?
正直もうなのはのなの字も見当たらなくなっているのでそろそろスレ違いだと思います
それでは、時間になりましたので投下します まずは、レボリューションの方からで 人という存在は、自らと違う存在に異常なまでの嫌悪を見せる。 皮膚の色、手足の欠如、生まれついてから持つ障害。 そしてその事実は、時としてどんなに鋭い武器よりもその心を深く傷つける。 もしも動物や昆虫のように、本来持つ姿が根本的に人間と違うならばそれほどの感情は抱かないかもしれない。 だが外見上は人の形をしておきながら、その皮の下が人の形を持たなければどうなるだろう。 答えは簡単だ、化け物と呼ばれて嫌悪される以外にない。 例え争いを好まなくとも関係ない、平和的共存を望もうとも関係ない、人間的思考を持とうとも関係ない。 スバル・ナカジマもそうだった。 何も知らない者から見れば、普通の人間と認識するかもしれない。 しかしその身体の中には、人間が生体機能を働く為に必要な臓器は存在しておらず、異形の機械が蠢いている。 出来ることなら、戦闘機人であることは誰にも知られたくなかった。 それを知られた先にあるのは拒絶しかないから。 共に戦った仲間達は違ったが、忘れることは出来ない。 忘れることは出来なかった。 スバルは物静かで、落ち着いた雰囲気の少女だった。 聞こえは良いが消極的な面が強く、実際の所は根暗に等しい。 ただ弱いだけで、泣き虫で、ノロマで、何か得意なことがあるわけでもなくて、誰かに頼って生きていくしかできなかった。 積極的で明るい姉と違って一人じゃ何も出来ないし、ましてや誰かを守る為に動こうなんて思ったこともない。 それでも誰かを気遣える優しさは持っていた。 幼かった彼女は気弱な一面を持っていていたが、初めは仲良くできていた。 周りにいた彼らとの交流、暖かい言葉。 沢山遊んだこともあった。 お互いに無垢に、無邪気に。 ただそれだけでよかった。 でも、終わりはあっけなく来てしまう。 「あの子の腕、変じゃない?」 「何か怖い……」 「正直、気持ち悪い……」 どこからかともなく声が聞こえる。それはスバルにとって忘れることの出来ない物だった。 その声から感じられるのは恐怖、嫌悪、拒絶―― 振り向くと、そこにはいつも共に遊んでいたみんなが立っていた。 しかし彼らは、まるで病原菌でも見るかのような冷たい視線を突き刺さしてきて、全てを拒絶するような言葉をぶつけてくる。 彼女には何故そのように言われるのか理解出来なかった。 一体何を言っているの、どうしてそんなことを言うの。 言葉を出そうとしても出ない。 嗚咽が動かない、唇が震えてしまう。 背を向けるかのように去っていこうとする彼らに手を差し伸ばしたが、パチンと乾いた音を立てながら勢いよく払いのけられてしまう。 「来ないでよ!」 「え……?」 「あっち行って!」 嫌悪の表情を浮かべながら、乱暴な言葉をぶつける。 その言葉は、スバルの背筋を凍らせるのに充分な威力を持っていた。 掌の痛みすらも感じさせないくらいに。 突き刺された言葉の意味が分からず、叩かれたという事実を受け入れるのに数秒の時間が必要だった。 ふと、痛みを感じる手に視線を落とす。 その途端、視界に飛び込んできた物によってスバルの顔が青ざめてしまった。
「こ、これは……その……」 震える口からは掠れたような声しか出ない。 スバルの両腕は、いつも見慣れているそれではなかった。 そこには肌色の皮膚は存在せず、この世に存在する物とは思えない程、複雑に絡み合った金属回路が指先までに剥き出しとなっている。 無数の色を持つケーブルの中には、鉄のような臭いを放つ赤い液体が、音を立てながら流れていた。 腕からは鼻を覆いたくなるような鉛の匂いと、酷い重量感が彼女に襲いかかり、一層彼女の顔を恐怖に歪めてしまう。 不気味な駆動音を上げながら生き物のように蠢いているそれは、彼女が異形の存在であることの証。 普通の人間と違うことは誰が見ても明白だった。 スバルは分かっていた、これが本当の自分だと。 けれど認めなかった、認めたくない。 「みんな、もう行こうよ……」 「そうだね……」 「あたしもあんなお化けと一緒にいたくない……」 不意に聞こえてきた彼らの言葉により、スバルは顔を上げる。 気がつくと、彼らは皆自分から逃げるように去っていこうとしていた。 「ま、待って……みんな待って……!」 無意識のうちに、大きく見開いた彼女の瞳からは涙が溢れていた。 大粒の涙によって視界が遮られても、前が見えなくなっても必死に跡を追いながら機械仕掛けの腕を伸ばした。 しかし、その思いを裏切るかのように彼らは自分から遠ざかっていく。 必死に足を進めても、一向に追いつく気配がしない。 私は何もしないよ、怖くないよ。 だから置いていかないで、独りにしないで。 搾り出すように胸の中に宿る思いを何とか形にしようとするが、口が全く動かず、言葉が出ない。 気がつくと、霧がかかったかのように辺りの景色が不鮮明になり、スバルは足を止めてしまう。 同時に、辺りの空気が凍り付いたような感じがした。 世界から温度が消えて、あらゆる音が消滅したかのように錯覚する。 それによって彼女は一瞬だけ呆気にとられてしまうが、動揺しながらも周囲を見渡す。 しかし、そこには虚無が広がるだけで一切の気配が感じられない。 まるで自分一人を残して、世界の全てが消えていってしまうような恐怖をスバルは感じてしまい、身震いしてしまう。 彼女は叫んだ。 父の名前を、姉の名前を、自分と親しい彼らの名を。 けれど何も返ってこない。いくら必死に声を出しても誰も答えてくれない。 その恐怖から逃れようと彼女は再び走り出す。 しかしどれだけ進んでも虚無が続くだけで、何も見えてこない。 けれど足を進める。 しかしその最中、地面に足を躓いてしまい勢いよく転んでしまう。 両膝が痛い。 それでも彼女は起き上がろうとするが、タールのような辺りの暗黒はスバルの身体にねっとりとまとわりつき、口や鼻から体内へと流れ込む。 息が出来ない、苦しい、痛い、寒い―― 虚無はスバルの身体からぬくもりを奪い、鉛のように重く押し潰そうとする。 ここから離れようともがいても、どうすることも出来ない。 誰も助けてくれない。 寂しい、辛い、怖い、こんなの嫌だ、死にたくない、帰りたい―― 彼女は救いを求めながら重く感じる手を伸ばすが、涙で歪む視界の先には虚無があるだけで何もない。 やがて立つのも億劫になってしまい、泣き疲れたスバルは瞳を閉じてしまう。 けれど独りになりたくなかった、みんなに会いたかった。 また、笑顔で語り合いたかった。 たったそれだけでいい。 誰か……助けて――!
彼女の頬に一筋の涙が通じて、地面に零れ落ちた。 その途端、これまでの責め苦が嘘のように体が暖かくなり、軽さを取り戻していく。 何かがおかしい。 スバルは恐る恐る目を開く。 すると、虚無の中に朝日のように暖かい日差しが射し込んでいた。 そして突然、光は辺りの虚無を照らしていく。 あまりの眩しさに耐えきれず、彼女は再び目を閉じた。 一体これが何なのかは分からない。 けれど彼女から安心が生まれた、まるでそれはスバルの心から恐怖という感情を、一欠片も残さずに洗い流していくようだった。 光に慣れた彼女が目を開けると、そこは今まで広がっていた虚無ではない。 辺りからは鈴虫の鳴き声が多く響き渡り、穏やかな風が吹いている。 淡い夕日に照らされたその公園は、自分がよく知る場所だった。 「大丈夫だ」 ふと、どこからともなく優しげな声が聞こえる。 いつなのかは覚えていないけど、聞いたことがあるという確かな記憶があった。 後ろを振り向くと、そこに誰かが立っていた。 「――が言っていた……」 声がまた聞こえる。 男の人だろうけど、太陽を背に立っているせいで彼の顔はよく見えない。 声も微かながらにしか聞こえない。 けれども、声の主には敵意がないことを感じ取ることが出来る。 そして、絶対なる強さを秘める笑顔を浮かべていたことも確信出来た。 「人が歩むのは人の道、その道を切り開くのは――」 太陽を背にした彼は手を差し伸べてくる。 スバルも思わず手を伸ばした。 その手を掴もうと、その手を握ろうとして、必死に手を伸ばした。 先程の虚無の時とは違い、彼女の身体は軽やかに動く。 いつの間にか、周辺が朝日の如く強い光に包まれていくが、彼女はそれに気を止めなかった。 辿り着くまであと一歩。 「未来で待ってるぞ……」 やがてスバルは彼に届くと確信し、その手を掴もうとした瞬間だった――
「……!?」 その手を掴むことはなく、彼女は目を覚ました。 瞼を開けると、そこには薄暗い部屋の天井に目掛けて伸ばしている自分の腕しか見えない。 また、あの夢を見た。 ここは虚無の中でも、夕日に照らされた公園でもなく、自分が居候してる天道家の空き部屋の布団の中であることを確認しながら、スバルは起き上がる。 窓からは眺められる外は、太陽が昇り始めたばかりなのか薄暗い。 時計を見ると、午前六時という早い時間を指していた。 「何なんだろ、あの夢……」 ぽつりと呟きながら、スバルは先程見た夢を思い返す。 奇妙な夢だった。 ここ最近の彼女は眠りにつくと必ずと言っていいほど、あの夢を見る。 突如ミッドチルダから飛ばされ、この世界で暮らすようになってから。 そして、昔のことを思い出すようになっていた。 まだ魔導師になる前、紅蓮の炎に包まれた瓦礫の世界の中で尊敬する恩師、高町なのはと出会うよりずっと昔の自分。 戦闘機人であることを周りの友達に知られてしまい、気味悪がられ、いじめられていた―― いや、それはただの言い訳だ。あの頃の自分は弱くて、何も出来ずにみんなに迷惑ばかりかけていた。 それじゃあ嫌われても仕方がないかもしれない。 そして、あの夢の最後には決まって誰かが自分の後ろに立っていた。 顔はよく見えなかったけど、自分が知る人物な気がする。 何でそう言い切れるのかは自分でも分からない。 けれど確信を持てた。 夢に出てくる彼とはずっと昔、会ったことがあると。 そして、自分は彼と何か大事な約束を交わしていることを―― ある日何の前触れもなく、突然管理外世界に飛ばされてからもう随分経ちました。 まただ、また浮かび上がってきた。 最近思い浮かべるあの光景。 ただの夢かもしれないのに、どこか懐かしさを感じる。 まるで実際に経験してきたかのように。 強くて、優しくて、格好良かったあの人。 その出会いがあったから、今のあたしがある。 でも、その前に何か大事な出会いがあった気がする。 あたしに生きる意味ときっかけを与えてくれた出会いが…… 仮面ライダーカブト レボリューション 始まります 仮面ライダーカブト レボリューション 01 新章・開幕
閑静な住宅街の一角に佇む洋食店、Bistro la Salle。 そこは閑静な住宅街の中としては珍しく、連日多くの客で賑わっている一軒だった。 その日もスバル・ナカジマは、Salleで使われている花模様のアップリケが縫いつけられたエプロンを着て、キッチンの流し場で使い終えた食器の後片付けをしていた。 昼食の時間帯が過ぎていて、先程まで盛況だった店内はまるで嘘のように静寂に包まれている。 シェフである日下部ひよりが作るこの店の料理は、一品残らず一流レストランのそれに匹敵する物だ。 スバルはそれを納得していた。 現に彼女もこの店の賄い料理を食したことがあり、それを大いに絶賛した。 最初は天道から無理矢理課せられてしまったアルバイトだが、このような褒美があるのならむしろ大歓迎だ。 「頑張ってますね〜! スバルさん」 大量の皿洗いを続けていると、ほんわかとした柔らかい声をかけられる。 その言葉にスバルは振り向き、手を止めた。 長く整った長髪。歳相応に整い、生き生きとした顔立ち。 Salleの店員であることを証明する赤いエプロンを掛けた女性、高鳥蓮華が笑顔を浮かべながら厨房に入ってきた。 「あ、蓮華さん」 彼女は先輩としてひよりや竹宮弓子と共に、スバルにこの店で働くにおいて必要なことをレクチャーしてくれた女性だ。年齢はスバルとさほど変わらない。 そしてスバルは持ち前の明るさがあってか、樹花の時と同じように蓮華との意気投合をあっさりと果たす。 以来、スバルにとってSalleで働く時間は一種の安らぎにもなっていた。 人命救助のようにこの手で命を救うことは出来ないが、ここでは毎日のように数多く訪れる人々の笑顔を見ることが出来るので、元々の仕事とは違う意味でやり甲斐を感じている。 特に家族連れが、この店の料理を満面の笑みを浮かべながら食する様子は、見ていてとても気分が良くなる物だった。 出来ることなら手作りの料理をここに来る人達に作って喜ばせたいが、それはひよりや蓮華の役割であり、自分のやる事はこうした雑用だ。 「最初はどうなるかと思いましたが、やはり師匠の目に狂いはありませんでしたね! あなたが来てから結構楽になりましたよ」 「ありがとうございます!」 蓮華の言葉にスバルは満面の笑みで答える。ここで言う蓮華の師匠とは、天道総司その人だ。 スバルには詳しい経緯を聞くことは出来なかったが、かつて蓮華は天道に救われたことがあるらしい。 そして天道とひよりの指南の元、彼女はここで料理の修業を重ね続け、今に至る。 最も、蓮華が師と慕う天道にはそんなつもりは微塵も無いようだが。 しかしスバルは、にわかにその話を信じることが出来ない。 部屋を貸して貰っている相手に言うのは失礼極まりないが、彼の性格はとにかく唯我独尊の一言に相応しい物だ。 世界は自分を中心に回っていると思っているのか独善的な面が強く、何事も自分のルールに沿っての行動が多々見られる。 けれど、天道に対して悪い感情は抱けなかった。 言ってることはよく分からないし、こちらから話しかけても冷たく返されることもあった。 本来ならば好きになる要素など無いはずなのに。 何故そうなのかは彼女自身分からないが、少なくとも反感や嫌悪感を抱いたことは一度もなかった。 それどころか、ごく希に彼に惹かれることもある。 「いやいや、あなたがこんなに結果を残してくれるとは私も教えた甲斐があったものです。これからも頑張りに期待してますよ〜」 「そりゃあ勿論、バリバリ頑張りますよ!」 スバルは誇らしげに答えると、流し台に溜まっている大量の食器を洗うために両手を再び動かした。 左手で食用皿を支え、右手に持った食器用洗剤が染みこんだスポンジを食器に押し付けて、適度な力を込めながら上下左右に擦り寄せる。 スポンジは、Salle自慢の食用ソースと油が付着した洋食皿の上を抵抗もなく動き、次第に元の純白さを取り戻していく。 洗剤によって剥がれた汚れを水道水で洗い流した皿を邪魔にならない場所に置くと、次の皿を洗い始める。 元々、故郷のミッドチルダで数年間も一人暮らしをしてきた彼女にとって、この程度の作業など何てことも無かった。 集中していたお陰か、ようやく最後の食器も汚れが落ちた。 スバルはそれをタオルで拭いて、食器棚に戻す。 その直後、入り口のドアが音を立てながら開いた。 すると外から、四人の家族連れが現れる。
「「いらっしゃいませー!」」 キッチンから出てきたスバルと蓮華は、客に向けて眩い笑顔を向けた。 そのまま彼女達は、一家を素早くテーブルに案内する。 そして、それぞれの仕事に取りかかった。 スバルは、四人の注文を一つ一つメモに残す。 蓮華はキッチンに戻って、大量の氷で冷えた水の入ったポットと、人数分のコップをトレーに乗せた。 彼女はそれを、一家に差し出す。 「「それでは、ごゆっくりどうぞー!」」 快晴な笑顔を保ったまま、二人はキッチンに戻った。 彼女達はすぐさま、食材と調理器具を取り出す。 鍋に水を入れ、まな板に乗せた食材を包丁で切り、オリーブオイルを暖めたフライパンにかける。 スバルはスープを作るために、残った食材を鍋の中に軽い音を立てながら投入する。 蓮華は細切れとなった野菜を、フライパンに流し込んだ。 彼女達はそれぞれ、注文された料理を作るために、両手を動かした。 コンロから火が燃え上がる音。 包丁が食材を刻む軽やかな音。 フライパンの中で食材が熱される音。 多種多様の音が、まるでリズムを奏でるかのように、キッチンの中で広がっていた。 「お母さん、まだかな?」 そんな中、子どもの声が聞こえる。 不意にスバルはそれを聞き取って、キッチンから外を覗き込んだ。 視界の先では、小さな男の子が期待に満ちた笑顔を、母親と思われし女性に向けている。 「まだでしょ、もう少し待ちなさい」 「ええ〜……」 「わがまま言っちゃ、だめだよ」 男の子の不満を、一緒にいた女の子が咎めた。 少しだけ身長が高いから、姉と思われる。 彼女に合わせるかのように、父親に見える男性も口を開いた。 「お母さんとお姉ちゃんの言うとおりだよ。まだ注文したばっかりなんだから、お店の人も困っちゃうよ」 「……わかった! 僕、待つよ!」 「うん、偉いぞ!」 父親は、少年の頭を優しく撫でる。 他の二人は、それを笑顔で見つめていた。 その光景は、まさに幸せな一時と呼ぶに相応しい。 どこにでも見られるが、かけがえのない暖かい時間。 キッチンに立つスバルは、そんな一家の触れ合いを見守っていた。 いつの間にか手が止まっているが、彼女は気づかない。 (みんな、どうしてるんだろうなぁ…………) 店に訪れた一家を見て、スバルは故郷の事を思い出す。 この世界に流されてから、既に一ヶ月以上の時間が経った。 ゲンヤもギンガも、自分がいなくなった事を心配しているに違いない。 長らく共に戦ってきた相棒、マッハキャリバーも。 新しく姉妹となったナンバーズ達が、寂しさを埋めてくれているかもしれない。 でも、彼女達だって自分を心配しているだろう。 なのはもティアナも。
(…………会いたいなぁ) 故郷に残した親しい人達を思い出して、スバルは寂しげな表情を浮かべる。 何の前触れもなく、故郷から引き離された。 そして、見知らぬ世界に辿り着く。 無論、この世界には素敵な物がたくさんある。 この店でアルバイトをしたり、樹花と町へ出かけるのはとても楽しい。 なにより、気の良い人がたくさんいる。 だけど、それでも。 やっぱり、故郷のミッドチルダが恋しい。 今頃、みんなはどうしてるのか。 スバルにはそれが、何よりも気がかりとなっている。 マッハキャリバーがあれば連絡が出来るが、それも出来ない。 「スバルさん、何やってるんですか?」 「えっ?」 悲愁と罪悪感を感じていると、声がかかる。 振り向くと、蓮華が呆れたような表情を浮かべていた。 「今は仕事中なんですから、しっかりしてください!」 「は、はいっ! ごめんなさいっ!」 叱責を受けたスバルは、慌てて調理を再開する。 幸いにも、食材が駄目になっていることはなかった。 元々料理が得意だった事があって、すぐに遅れを取り戻す。 それから、注文のスープをすぐに完成させた。 彼女はそれを食器に盛りつけて、トレーに乗せる。 そしてすぐに客席へと向かった。 「お待たせ致しましたー!」 スバルは溌剌とした笑顔で、四人分のスープとスプーンをテーブルに置く。 一家は皆、期待に満ちた表情を見せてくれていた。 それに満足感を覚えて、スバルは先程の言葉を復唱する。 「それでは、ごゆっくりどうぞ!」 軽く会釈をしながら、キッチンへと戻った。 トレーを元に戻しながら、スバルは横目で一家を見つめる。 そこではファミリー全員が、注文したスープを嬉しそうに口にしていた。 自分の作った料理が喜んで貰う事に、スバルは満足感を覚える。 しかし、もう一つ。 彼女の中に、ある感情が芽生えていた。 羨望という思い。 (…………いいなぁ) その思いを胸に隠しながら、スバルは仕事に戻る。 今は仕事に集中すべき。 そうしないと、みんなに失礼だ。 やるべきことは、しっかりとやる。 ミッドでもこの世界でも、それは同じだ。 それでも、彼女の中では消えない。 遠く離れている、故郷への思いが。
これにて、カブトレボリューションの投下を終了します ここからは、ディケイドForceのターンとなります! アルハザードを覆う闇。 一切の光が差し込むことがない、漆黒の空間。 そこに存在するのは、黒一色。 あらゆる生物に、生理的恐怖を与えるような世界だった。 如何に百戦錬磨の存在といえども、ここに放り込まれれば畏怖に沈ませることは容易。 アンノウンハンドの名を持つこの暗闇は、とある存在によって生み出されていた。 幾千もの世界、幾千もの時代、幾千もの惑星、幾千もの次元、幾千もの宇宙、幾千もの銀河。 それらには、数え切れないほどの命が存在している。 希望を抱きながら、生き続ける者達。 しかし、それの影となるように命を脅かす絶望も存在する。 いくつもの時代で脅威となった、悪魔達。 その魂達が今、アンノウンハンドによって集められた。 宇宙を覆う暗闇の中心部である惑星、アルハザードへと。 闇は、宇宙の星々すらも飲み込んでいた。 色とりどりの輝きは一瞬の内に、黒で塗りつぶされていく。 既にこの宇宙の全ては、アンノウンハンドに飲み込まれていた。 無論、それだけで終わることはない。 この宇宙だけで、満足するわけがなかった。 果てにまで辿り着いた闇は、壁を突き破ろうとする。 しかし、それは出来なかった。 自らが生み出した闇を、拒む者達がいるため。 アルハザードに忍び込み、怪人を次々と倒す戦士達。 闇を切り裂き、アルハザードに近づいてくる光の巨人。 そしてこの宇宙を覆う邪魔な壁を、別の宇宙より作る者達。 邪魔者は、数え切れなかった。 だが、相手が抗えるのも時間の問題。 既にこちらから、別の宇宙に配下を送り込めるほどに進行が進んでいる。 この宇宙を覆う壁は、さほど意味を成さない。 (…………潰す時か) 鼓動が、鳴り響いている。 それは闇に包まれたこの宇宙だけでなく、外の銀河にも聞こえていた。
アンノウンハンドの中央にいる者は、冷たく決断をする。 かつてM80さそり座球状星団に住む住民達は、とある巨人を生み出した。 白銀の英雄、ウルトラマンノアを模した黒き巨人。 しかしある時より、宇宙の脅威と変貌した。 それから長き時が流れた末、ウルトラマンノアによって破壊される。 されどその精神は、潰えていなかった。 肉体が滅んだ後、自らの特性を使ってあらゆる場所から、エネルギーを取り込んだ。 そうして、ようやく全てを取り戻す。 かつて自分を滅ぼしたウルトラマンノア。 そしてそれと同等の存在を全て、滅ぼすために。 それは、このアンノウンハンドを生み出す存在。 それは、数多に存在する脅威の頂点に立つ存在。 それは、アルハザードが存在する宇宙の全てを闇で包んだ者。 それは、ダークサイドノアと呼ばれる者。 それは、邪悪なる暗黒破壊神。 冥王と呼ばれる、宇宙の闇。 それを中心として蠢く、アンノウンハンド。 異形の形を取ると、動き出す。 主の意志のまま、全てを滅ぼすために。 そんな中、冥王は一つの存在に目を向ける。 自身の邪魔をする存在の一つである『仮面ライダー』。 今より呼び出すのは、それと敵対してきた怪人達の中でも、特に高い能力を持つ者だ。 『クウガの世界』より魂を連れてきた、全てのグロンギの頂点に立つ王。 元々の能力に、更なる闇の力を加えてやった。 アルハザードに忍び込んだ鼠どもは、これに任せればいいだろう。 「クウガ…………」 グロンギは呟いた。 漆黒の空間では、明らかに異質さを醸し出している純白の身体。 しかしその内面は、アンノウンハンドを彷彿とさせるほどの、闇が蠢いていた。 この者の目的はただ一つ。 自分を倒した宿敵と同じ姿を持つ戦士と、戦うこと。 現に、先程から何度も見つめている。 アルハザードで戦う古代から蘇った戦士、仮面ライダークウガを。 その度に、圧倒的とも呼べる恐怖を与えた。 ならば、不足はないだろう。
(行け、貴様の出番だ) 冥王は指令を下す。 それに聞いたグロンギは、笑みを浮かべながら向かった。 侵入者が現れたアルハザードへと。 かつてこのグロンギは、自身のいた世界で三万人を超える人間を虐殺した。 それだけでなく、ズやメの位を持つ同族達すらも、一瞬で葬る狂気を併せ持つ。 ならば、不足はない。 グロンギがアルハザードへ降り立った一方で、アンノウンハンドからは次々と異形が生まれていく。 かつて『ウルトラマン』によって潰された、異形。 かつて『仮面ライダー』によって潰された、異形。 かつて『スーパー戦隊』によって潰された、異形。 かつて『プリキュア』によって潰された、異形。 それだけではない、希望を踏みにじってきた存在達。 それら全てを、冥王は手にした。 宇宙で輝く、星の数にも届くほどの兵隊達。 冥王が望むままに、数多の宇宙へと進行していた。 アンノウンハンドは、アルハザードが存在する宇宙の全てを飲み込んで未だ、蠢いている。 闇を司る、神となった暗黒の巨人によって。 破壊神が望むのは、ただ一つ。 平行して存在する全ての大宇宙を、飲む込むこと。 そして、全ての頂点に君臨すること。 邪悪なる暗黒破壊神 ダークザギは闇の中央で、その瞳を輝かせていた。 グロンギの王は、アルハザードへと向かう。 主より与えられた指令を果たすため。 グロンギという種族は、本来ならば誰かに従う性分ではない。 だが、ダークザギにとっては配下にさせることなど、造作もなかった。 その支配は、王すらも可能とする。 しかし彼が歩むのは、決して強制されたからではない。 自らが、そう願ったのだ。 異世界に存在する、もう一人のクウガと戦う。 その思いを胸に、王は笑っていた。 忘れもしないあの日。 吹雪の中で、血を吐き続けながらクウガと殴り合った。 あの時感じた、感情。 恐怖。 興奮。 歓喜。 数え切れないほどの思いを、感じた。 今度のクウガも、自分をきっと笑顔にしてくれる。 「待っててね、クウガ」 アンノウンハンドの中で、王は一人で呟いた。 それはとても穏やかなようで、周りの闇のようにどす黒い。 暖かみといった物は、一片たりとも感じ取れなかった。 そして、王は見つける。 アルハザードで戦うもう一人のクウガを。 彼の口元は、より一層歪んだ。
――アークルが、警告を伝えている グロンギの王は、ただ一人佇んでいた。 吹雪が荒れ狂っている、山の中を。 彼にはもう、自分以外の何も残されていない。 同族も、故郷も、世界も。 故に、誰かに振り向くことはしない。 ごく希に、同族が自分の元に訪れることがある。 しかしその目的は、自分ではない。 究極の力と、王の称号だ。 数え切れないほどの同族が、無謀にも挑みにやって来る。 だがその度に、葬ってやった。 そこに、感情は何一つとして込めていない。 自分を笑顔に出来ない愚か者など、消えたところで何も変わらないからだ。 同族など、蛆虫に等しい。 そんな王が関心を持つのは、これから現れる宿敵。 究極の力を持つ、クウガだけだった。 そして、ついに現れる。 自身と同じ存在となった、究極の戦士が。 辺りの光景に反するように、身体が黒い。 その瞳は、赤かった。 ――なれたんだね 王は、笑顔を浮かべる。 クウガから放たれる、圧倒的な存在感。 クウガから放たれる、圧倒的な恐怖。 クウガから放たれる、圧倒的な力。 それら全てが、王を笑顔にさせるには充分だった。 そして、王も全ての力を解き放つ。 ――究極の力を、持つ者に! 純白に染まった世界に、色が塗られていった。 究極の力を持つ者達が繰り広げる、死闘によって。 漆黒の鎧を纏うクウガは、拳を振るう。 純白の皮膚を纏ったグロンギは、拳を振るう。 その度に、鮮血が舞った。 夥しいほどの赤が、世界に広がる。 一度殴るたびに、戦士達の中である感情が強くなっていた。 クウガは、悲しみが。 グロンギは、喜びが。 相反する思いが、拳と共に激突している。 一体どれ程殴ったのか、誰にも分からない。 いや、気に止める者などいなかった。 それに意味など何一つとして、存在しない。 やがて彼らの身体は、人間の者へと変わった。 戦いによって、傷が刻まれたため。 クウガとグロンギは、互いの頬に拳を叩き込む。 それが、最後の一撃となる。 極寒の吹雪が荒れる中で、彼らは倒れた。 ――究極の闇をもたらす者
「――――ウガっ、クウガっ!」 何処からともなく、声が聞こえる。 それによって、頭に流れる光景に意識を向けていたクウガが、一気に覚醒した。 続いて、視界がぐらついてるのを感じる。 誰かが自分の身体を、揺さ振っているようだった。 「はっ!?」 「クウガっ!?」 目を覚ましたクウガは、辺りをキョロキョロと見渡す。 これでもう、三度目だった。 全身が凍り付くような感覚を感じて、何の前触れもなく奇妙な光景が脳裏に映る。 アルティメットフォームに変身したクウガが、白いグロンギと戦う場面。 一度見る度に、金縛りにあったかのように動けなくなってしまう。 そして、感じるのだ。 遠くで何者かが、自分を監視しているような目線を。 そんなクウガの様子を、キュアピーチは心配そうな表情で見つめていた。 「あの、大丈夫ですか?」 「えっ…………あ、ああ!」 上目遣いの少女を見て、クウガは惚けたように返答する。 言動に力を込めるも、やはり不自然さは隠しきれなかった。 そんなクウガを見たディケイドは、軽い溜息を吐く。 「ユウスケ……しっかりしろ」 「分かってるよ、士!」 「なら、ボサッとするな。行くぞ」 いつものように乱暴で、皮肉の混じった言葉を告げた。 そこに呆れはあるが、怒りはない。 長い旅の付き合いによって、クウガはそれを知っている。 故に、ディケイドの言葉に不快感を覚えることはなかった。 不意にクウガは、自分を心配してくれたキュアピーチに振り向く。 「ラブちゃん、ごめん! でも、俺は本当に大丈夫だから」 ハキハキと告げると、彼は前を向いた。 未だ現れるかもしれない、敵に立ち向かうために。 しかし、キュアピーチの違和感は消えなかった。 クウガのような立派な戦士が、こんな事になるなんておかしい。 絶対に、何かを隠している。 「クウガ……」 でも、こんな状況で無理に聞きだすことも出来ない。 今はやるべき事は、みんなと一緒にこの世界にいる敵と戦うことだ。 微かながらの不安を抱きながらも、キュアピーチも進む。 周辺の敵は、ひとまず全て撃破した。 それでも、誰一人として安堵していない。 周りを包む闇は、未だに濃いままだからだ。 敵の胃袋とも呼べるこのアルハザード。 そんな場所で、一瞬でも油断すれば敗北に繋がる。 故に、誰一人として気を抜いていない。 「どうやら、こんな場所なら相当のお宝が眠ってそうだな」 そんな中、緊張感を壊すような言葉が出る。 声の主であるディエンドは、鼻歌と共に呟いた。
「大ショッカーみたいに、多くの世界の化け物が蠢くアルハザード……やっぱり、来て正解だったかな」 「お前という奴は…………」 状況をまるで理解していないような言動に、シンケンレッドは呆れる。 以前、出会った時には分かっていたが、この男の行動原理は『お宝』とやらを手に入れることのみ。 それはそれで結構だが、こんな場面でそんな脳天気な言葉を吐けるなんて。 弱音よりはマシかもしれないが、これはこれで困る。 内心で毒を吐くシンケンレッドの前で、ディエンドは腕を広げた。 「何を言ってるんだい、殿様。こういう場所なら、相応のお宝が隠されてるに決まってるじゃないか」 「ふざけるな。お前は今の状況が分かってるのか?」 「当たり前じゃないか。邪魔する奴は倒すことでしょ?」 敵地で取るとは思えない、あまりにも脳天気な態度。 シンケンレッドは辟易して、溜息を吐いた。 だが、咎めたところで態度を改めるとも思えない。 諦めを抱いたシンケンレッドは、ディケイドとトーマの方に振り向いた。 「…………この男はいつもこうなのか?」 「今更、何言ってるんだ」 「そうですね…………はは」 片や鼻息を鳴らしながら、片や苦笑いと共に答える。 二人の対応を見て、シンケンレッドは同情心を感じた。 こんな胡散臭い男に、何度も振り回されるなんて。 戦力にはなるが、こんな態度を取られては困る。 しかし、ここで思っても仕方がない。 シンケンレッドは、辺りの闇に意識を向けた。 その瞬間、彼は歩みを止める。 闇の中より、新たなる気配を感じたため。 彼に合わせて、他の五人も足を止めた。 「やれやれ、新手か」 「予想は出来ていたがな」 「来るんですね……!」 ディケイドはぼやき、シンケンレッドは得物を握り、キュアピーチは構えを取る。 その瞬間、闇の中より人型のシルエットが、いくつも浮かび上がってきた。 新たなる敵が迫っていると、誰もが察する。 直後、それを掻き分けるかのように、何かが飛び出してきた。 禍々しい赤色が闇の中で輝く、高熱の球体。 それを見つけた六人は、同時に跳躍した。 すると、エネルギー弾は地面に激突し、爆発を起こす。 地面と大気が、轟音と共に震えた。 その際に生じた衝撃波に、誰もが吹き飛ばされそうになる。 それでも、体制を崩さずに全員は着地した。 そして、襲撃者達は闇の中より姿を現す。 「ククク、こんなゴキブリ六匹もロクに駆除できねえなんて……カスばっかだな!」 漆黒を掻き分けて出てきたのは、一人の男だった。 一切整っていない乱れた銀髪、猛獣のように鋭い瞳、百八十センチに到達する引き締まった巨体、それを包む黒のジャケットとレザーパンツ。 その右手には、トーマが握るディバイダーと酷似した、巨大な銃剣が握られていた。 側面には「928」の数字が刻まれている。 そして、もう片方の左手には金属製のグローブが、闇の中で輝いていた。 獰猛な笑い声を出す男を、トーマは知っている。 第23管理世界ルヴェラを初めとした、多くの世界で破壊活動を行っている凶悪犯罪者集団、フッケバイン。 その証拠である羽根を模した藍色のタトゥーが、左手首に刻まれていた。 フッケバイン構成員の一人、ヴェイロン。 続くように、暗闇の中から異形が次々と姿を現した。
「リントの戦士達か……!」 クウガの世界における古代の怪人、グロンギが呟く。 カブト虫の如く凛々しく伸びた角、鍛え抜かれた漆黒の肉体、身体の随所を覆う装甲、胸に飾られた装飾品、腹部に付属された金色のバックル。 その巨体からは、絶対なる威圧感が放たれていた。 警察から「未確認生命体第46号」と呼ばれたその異形は、かつて多くの警察官を殺害したグロンギ。 「ゴ」の中でも頂点に達するほどの実力を持ち、自らを「破壊のカリスマ」と称した未確認生命体、ゴ・ガドル・バ。 「ふふふふふ……面白そうだね、君達!」 龍を思わせる姿の灰色の怪人が、笑い声を漏らしている。 それは555の世界に存在する、オルフェノクと呼ばれる人類の進化系だった。 見る者全てを震え上がらせるような不気味な表情、頭部より大きく伸びた二本の角、異常に筋肉が発達した二メートルを超える巨体、龍の顔を模した両腕のかぎ爪。 言葉を発したオルフェノクの背後には、髪が乱れた細い身体の青年が、幽霊のように映し出されていた。 555の世界には、オルフェノクを束ねるスマートブレインと呼ばれる大企業が存在する。 そこには、ごく稀に「上の上」の実力を誇る者も現れ、ラッキークローバーの名を持つ四人組を結成していた。 現れたオルフェノクはその一角、北崎と呼ばれる青年。 しかし彼には、もう一つの呼称がある。 ドラゴンオルフェノクの名を持つ、圧倒的実力を誇るオルフェノクだった。 「流石は歴戦の戦士達……しかし、ここまでだ!」 恰幅のいい壮年の男性が、静かに口を開く。 前方がほんの少しだけ跳ねたオールバックの髪型、凛々しさを感じさせる口髭、両耳に二つずつ付けられた金色のピアス、風に揺れる漆黒のマント、胸元で輝くクリスタル、身体を守る軽量の装甲。 一見すると、紳士と呼ぶに相応しい穏やかな雰囲気を感じさせる。 しかしその瞳は、獲物を狙う鷹の如く鋭かった。 かつて、自身が満足できるお菓子を食べるためにデザート王国を支配し、プリキュア達をお菓子にしようと企んだ男。 ムシバーンは姿を現すのと同時に、マントと装甲を己の身体から剥ぎ取る。 彼はその腰よりエネルギーの刃を手に取り、力強く握り締めた。 「こんな所まで来るとは感動的だな……だが、目障りだ!」 ブレイドの世界に潜んでいた死神が、嘲笑を向ける。 カミキリムシの如く頭部から伸びた二本の触角、白い肉体の至る所から飛び出る棘、体の随所に塗られた赤、禍々しい表情を守る真紅のバイザー、血のように煌く胸の球体。 その手には、己の背丈ほど巨大な純白の鎌、デスサイズが握られていた。 かつてブレイドの世界を支配するために、人間の姿を借りてBOARDに進入して、邪神フォーティーンの力を狙ったもう一人のジョーカー。 志村純一。 またの名を、アルビノジョーカー。 「おやおや……随分と無礼なお客様達だなぁ!」 先程シンケンレッドが倒したスコルプと同じ、エターナルの構成員が邪悪な笑みを浮かべていた。 ムカデの物に酷似した長い触覚、腰にまで伸びた黄緑色の長髪、紫色の骨格に守られた肉体。 エターナルの中でも、屈指の実力者であるメンバー、ムカーディア。 「てめえら……少しは喰いがいがありそうじゃねえか!」 電王の世界で人類に牙を剥いていた悪のライダーが、獲物を狙う獣のように吼える。 金色に輝く全身の装甲、全てを喰らうワニを思わせる形状、胸から鋭く伸びた二本の角、鎧の下に存在する強化スーツ。 左手には、黄金色に煌めいている刃、ガオウガッシャーが握られている。 多くのイマジンを従えて、時の列車デンライナーをハイジャックした、強盗団の首領。 神の路線を狙い、全ての時間を消そうと企んだ狂える牙の王、牙王。 仮面ライダーガオウ。
「次から次へと……懲りない奴らだな!」 暗闇から現れた者達を見たディケイドは、仮面の下で顔を顰めた。 予想は出来ていたが、ここまで邪魔な連中を相手にさせられては辟易する。 だが、いつものように蹴散らせばいいだけの事。 ディケイドはそう思いながら、ライドブッカーを再び構えた。 「クックック、ようやく見つけたぜぇ……クソカスがぁ!」 「お前は……!」 ヴェイロンは鋭い歯をむき出しにするような笑みを、トーマに向ける。 その瞳は、肉食獣のような殺意に染まっていた。 血に飢えた視線を浴びるが、トーマは怯まずにECディバイダーを握り締める。 互いに敵意を向ける中、ヴェイロンは上着のポケットに手を入れた。 その中から、ピンポン球ほどのサイズに見えるボールが、取り出される。 表面が毒々しく塗られているそれらを見て、キュアピーチは驚愕で目を見開いた。 「まさか…………ソレワターセ! どうしてあなたが!?」 「ハッ、てめえみたいなメスガキが知る必要はねえよ!」 疑問の声は、乱暴に返される。 ヴェイロンがポケットより取り出した球体。 それは、キュアピーチにとって見覚えのある物だった。 かつてのラビリンスが、無限のメモリー・インフィニティとなったシフォンを奪う為に利用した、怪物を生み出すアイテムの中でも特に強い物。 ソレワターセが、ヴェイロンの手に握られていた。 「さあ……カスども、とっとと出てきやがれ!」 男は勢いよく、ボールを投げる。 その瞬間、空中を漂うソレワターセ達は、球体から人型に変えていった。 すると、闇に飲み込まれるように消えていく。 直後、轟音と共に地面が大きく揺れた。 そして暗闇の中から、巨大なシルエットが飛び出してくる。 「グアアアアアァァァァァァッ!」 咆吼と共に現れたのは、巨大な蠍だった。 二十メートルはあると思われる全身、それを守る朱色の骨格、異様な大きさを誇る二つの鋏、胴体から左右に三本ずつ生えた節足生物特有の足、尾部から高く反り曲がるように伸びた毒針。 不気味な頭部に付けられたバイザーからは、六つの瞳が怪しく煌めいていた。 顎には、無数の牙が鋭く尖っている。 そして背中には、枝葉が四つ生えた一つ目の紋章が、大きく刻まれていた。
「あれは……まさか!」 現れた蠍の姿に、シンケンレッドはデジャブを感じる。 つい先程、烈火大斬刀とブレイドブレードの二刀流で両断した怪物、スコルプと酷似していた。 彼は驚愕を覚えるも、うろたえない。 一度倒した敵が再び現れるのは、既に慣れきっている。 外道衆は一度倒しても、二の目というもう一つの命を持ち、それを使って巨大化していた。 あれと似たような力を持つソレワターセによって、スコルプが生き返ったのだろう。 しかし、こう呑気に構えてなどいられない。 あれだけのサイズならば、脅威も相当の物だろう。 猛獣すらも怯むような咆哮を続けるスコルプを睨みながら、シンケンレッドは刃を向けた。 「くっ……!」 復活したスコルプを見て、キュアピーチは顔を顰める。 ヴェイロンが投げたソレワターセによって、再び現れた怪人。 その力は、恐らく何倍にも増大しているだろう。 だが、それでも逃げる事なんてしない。 「さあてぇ……次はこいつを試してみるか!」 笑っているヴェイロンが、懐より取り出した物。 それは、USBメモリのような形だった。 灰色に彩色されて、中央には禍々しく書かれた「B」の単語が刻まれている。 Wの世界を象徴する、超人的なエネルギーが内蔵されている記憶装置。 ガイアメモリが、ヴェイロンの手中に収められていた。 「それはガイアメモリ……何故、お前が!?」 「イチイチ同じことを言わせるんじゃねえ!」 『BILGENIA』 ディケイドの疑問を、先程のようにヴェイロンは遮る。 ガイアメモリに付属された、スイッチを押すことによって。 すると、無機質な電子音声が発せられた。 ヴェイロンはそれに満足したのか、左腕の袖を捲る。 その下から見えるのは、タトゥーの中心に刻まれている、何かの差込口のような紋章。 ガイアメモリの力を体内に流し込むための刻印、生体コネクタ。 「今の俺は、ヴェイロンであってヴェイロンではない…………」 左腕のタトゥーを見せつけながら、ヴェイロンは大仰に語る。 そして、ガイアメモリをコネクタに差し込んだ。 するとヴェイロンの瞳から、不気味な輝きを発せられる。 直後、差し込まれたガイアメモリが、コネクタから体内へと沈み込んでいった。 それによって、ヴェイロンの全身はバキバキと音を鳴らしながら、変貌を始める。 皮膚が、毛根が、血管が、神経が、骨が、臓器が。 全てにガイアメモリの力が流れ、その機能を変えていく。 体内を駆け巡る膨大なエネルギーは、青白いオーラとなってヴェイロンの皮膚から漏れだした。 それは彼の全身を、瞬時に覆っていく。
「俺は更なる力を手に入れて、生まれ変わった!」 やがてヴェイロンはオーラを払うように、腕を大きく振るった。 するとその下から、異形の戦士が姿を現す。 ガイアメモリに内蔵された記憶を体内に注入して、膨大な力を手に入れた怪人。 Wの世界に存在する組織、ミュージアムが研究を重ねて誕生させた、町を泣かす悪魔。 ドーパントと呼ばれる超人へと、ヴェイロンは進化した。 絶滅した魚類の一種、ビルケニアの皮膚によく似た全身を守る鎧。 腹部で金色の輝きを放つベルト。 背中に羽織られた、風に棚引く赤いマント。 唯一露出している顔面の皮膚は白くなっており、瞼は紫に変色していた。 彼が差したガイアメモリは、とある世界の記憶を持つ。 遙か太古の時代より、地球に存在する暗黒結社ゴルゴムが、人類に牙を剥いてきた世界。 BLACKの世界にて、次期創世王の座を狙った大怪人の姿と、ヴェイロンは酷似していた。 「ハッハッハッハッハァッ! 俺は暗黒結社ゴルゴムの大怪人…………剣聖ビルゲニアの力を、手に入れたぁっ!」 剣聖ビルゲニア。 その記憶を流し込んだ事によって、ヴェイロンが得た姿。 二つの力が体内で溢れ出るのを感じて、空を掲げながら大きく笑った。 それに呼応するかのように、ビルゲニアの空いた左腕を位置する空間に、歪みが生じる。 刹那、虚空より一本の剣が現れた。 オリジナルのビルゲニアにとって、力の源と呼べる鋭い切れ味を持つ刃。 右手のディバイダー928に合わせるように、左手で魔剣ビルセイバーをビルゲニアは握った。 「君達……頑張って僕を楽しませてよ? そうじゃないと、生き返った意味がないんだから」 ドラゴンオルフェノクの背後に浮かび上がる北崎の虚像は、未だに嘲笑を浮かべている。 そこに込められている物。 弱者を如何に苦しめ、惨めな姿を晒させるかという愉悦。 そして、自信の絶対なる力を見せつけるという、歓喜。 ドラゴンオルフェノクにとって、この戦いはそれら二つを満たすための、ゲームに過ぎなかった。 ラッキークローバーに所属していた頃から、数え切れないほど繰り返してきた遊び。 それらと、何一つ変わらなかった。 「てめえら、まとめて潰してやるぜぇ!」 ヴェイロンの声でビルゲニアは、大きく吼える。 そのまま地面を蹴って、疾走を開始した。 それに続くように、他の七人も突進を開始する。 「チッ、ゾロゾロと来るな! お前ら、遅れるなよ!」 「分かり切った事を言うな!」 「はい、行きましょう!」 ディケイドは舌打ちと共に、シンケンレッドは咎めと共に、キュアピーチは活力と共に。 それぞれ、走り出した。 彼らについていくように、クウガとディエンドも地面を駆ける。 「わかりました!」 そしてトーマも、ディケイドの横で頷きながら敵の軍勢に向かっていった。 彼の瞳は、他の五人のように決意で燃え上がっている。 絶対に負けないという、闘志から生まれる炎が。
これにて、投下を完了です カブトレボリューションの更新は、久々となりましたが 今後ともよろしくお願いします。 今回はスバルメインとなり、天道の出番がありませんでしたが 次回増やそうと思います。 そしてディケイドForceは、トーマを初めとしたForceキャラを題材とした なのはクロスです。 今後、ヴェイロン以外のフッケバインメンバーももしかしたら、登場するかもしれません。 そして、皆様に告知をします 自作の仮面ライダーカブトレボリューションと マスカレード氏の作品 魔法少女リリカルなのは マスカレードのコラボSSを現在製作中です 概要は、それぞれの世界をディケイドが駆け抜ける 前後編の短編です。 ちなみにこのコラボSSに出てくるディケイドは ディケイドForceとは、別物です。 それでは皆様、今後ともよろしくお願いします。
>>264 マスカレード氏は了承されてるんですか?
二人の企画ならコラボだし、そうじゃないなら三次創作。 許可なし三次創作は許されない。 ま、常識的に考えて許可もなく一方的に書きますなんて言わないはずだから、 ちゃんと二人で話し合った新企画だと思われ。
超百合大戦書きます。
3:コミケの世界死闘編 次元のオーロラを越えてナフコの世界を後にしたなのは達が次に辿り着いた場所…それは丁度コミケが行われている会場前の道路だった。 「ここがコミケの世界か…。」 「いや…世界とかそんなんじゃないと思うんだけど…。」 士が『コミケの世界』と形容しただけあって、そこではコミケが開催され大勢の人達によって賑わっていた。 数々のサークルが参加し、各々が作った同人誌を販売し、それを多くの人々が購入して行く。 しかし、賑やかではあるが平和だったコミケの世界にも百合ショッカーの魔の手が伸びていたのだった。 「百合ショッカーだー! 百合ショッカーが出たぞー!」 「ユリー! ユリー!」 コミケに参加していた人々がざわめき始め、コミケ会場に百合ショッカーの戦闘員が大勢雪崩れ込んで来た。 「百合以外のジャンルの同人誌を作っているサークルを叩き壊せ!」 「ユリー! ユリー!」 コミケに乱入した百合ショッカーがやる事はまず百合以外のジャンルの同人誌を出しているサークルの排除だった。 コミケ会場中に百合戦闘員達が展開し、非百合系同人誌を出しているサークルを襲撃し、同人誌を没収、焼き捨てて行く。 特にリリカルなのは系で非常に少数派ながらもなのは×ユーノ等の純愛等の非百合系を出している者達が真っ先に狙われ、 そういう者達はグロンギから百合ショッカーに参加している怪人のゲゲルの標的とされ、コミケ会場は早くも 阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。 それだけでは無い。非百合サークルを排除して空いたスペースで百合ショッカーが自作・持参した百合同人誌を売り出していたのだった。 「百合ショッカー製作のなのは×フェイトの百合同人誌だ! 蜂女×タックルもあるよ!」 「おおー! 買う買う! なのフェイ最高!」 既に多くの人々が百合ショッカーによって殺されてしまったと言うのに、百合ショッカーがなのは×フェイトの 同人誌を出した途端に彼らは目の色を変え、我先にと百合ショッカーのサークルスペースへ向けて殺到していた。 このままコミケの世界は百合ショッカーによって制圧されてしまうのか…そう思われた時だった。 そこへやっとなのは・ユーノ・士・光太郎が到着していたのだった。 「こっ…これは!!」 「なんて酷い…。」 コミケ会場中ひ転がる非百合系同人誌を出していた者達の死骸…そして焼き捨てられた非百合系同人誌を見て なのは達は愕然としていた。しかし、ここでユーノはある事に気付いていた。 「待って! 一人まだ息がある人がいる!」 ユーノは自身となのはとを繋いでいるハーネスを外し、その息のある人の所へ駆けた。そこでさらなる事実に気付く。 「きっ君はユーノスレの世界の住人じゃないか!」 「あ……その声は…。」 『ユーノスレの世界』 ただでさえ百合の力が強いリリカルなのはにおいてユーノに対する風当たりは強い。それでも極少数派ではあるが ユーノにもファンが付いていたのだが、そんな彼らが百合厨の弾圧・迫害から逃れ独自のコミュニティーを作り上げたのが ユーノスレの世界であった。彼はその世界からコミケの世界にやって来た人間だと言うのであった。 しかしそれも百合ショッカーに参加していたグロンギのゲゲルの標的にされて…今や彼の命も風前の灯だった。
「うれしいな…念願のユーノ君に会えたんだ…。」 「そういう事言ってる場合じゃない! 今治療してあげるから…。」 ユーノはただでさえフェレット形態のままでい続けなければならない程にまで魔力を消耗していると言うのに 治療魔法を使って彼の傷を癒そうとする……しかし彼の傷は深すぎて…それでも間に合いそうに無かった。 その事は彼自身が良く知っていたのか、最後の力を振り絞ってユーノにある物を渡していたのだった。 「これは?」 「ぼ…自分が…作った同人誌…。他のは…皆…燃やされちゃったけど…これだけは…守って…。」 それは彼が作ったユーノ同人誌。その最後の一冊を彼は命を賭してでも守り通し、ユーノに託していたのだった。 「分かった。これは僕が受け取る事にする。」 「うれしいな…最後にユーノ君にそれを渡せて…………………。」 言葉はそれまでだった。彼はユーノに看取られながら安らかな表情でこの世を去って行った。しかし… 「ゲゲル! ゲゲル!」 「おいユーノ気を付けろ! グロンギが来たぞ!」 ユーノへ向けてグロンギが突撃して来ており、士達はとっさに戦闘態勢を取っていたのだったが…その直後だった。 グロンギの突撃が突如として現れた翠色に光る壁によって阻まれていたのである。だがそれだけでは無かった。 さらに現れた翠色に光る鎖がグロンギの全身に巻き付き、そのまま猛烈な勢いで降り飛ばされると共に地面に 強く叩き付けられていた。一体何が起こったのかと困惑するなのは達だったが…… 「百合ショッカー……許さない! 僕はもう怒ったぞ!!」 「ユーノ…君…?」 そこにいたのはフェレットでは無く…人間としてのユーノ。それも全身から翠色の輝きを発していた。 つい先程までフェレットの姿にならねばならない程にまで疲弊していたと言うのにこの変わり様… ユーノスレの世界の住人の死による悲しみと百合ショッカーへの怒りがそうさせていたと言うのか? あえて言うならば、ユーノ=スクライア激情態と呼んでも過言では無かろう。 「ユリー! ユリー!」 ここで百合ショッカー戦闘員達が次々になのは達の前に殺到して来ていた。これはもう戦闘は避けられないと なのははレイジングハートを起動させバリアジャケットを装着し、士はディケイドへ、光太郎はBLACKへ 変身し戦闘態勢を取っていた。 「来たな仮面ラーイダどもめ! このコミケの世界を貴様らの墓場にしてやる!」 百合戦闘員達が道を開け、まるで古代ローマか古代ギリシャ時代の戦士の様な格好をしたヒゲの男が現れていた。 どうやら彼が百合戦闘員達を指揮している者だと思われる。 「お前はデストロンのドクトルG(ゲー)だな?」 「勘違いしてもらっては困るな仮面ラーイダディケイドめ。私は百合ショッカー幹部の一人、ドクトルY(ユリー)だ。」 V3の世界で仮面ライダーV3と激闘を繰り広げたデストロン幹部にドクトルG(ゲー)と言う男がいた。 彼は仮面ライダーの事を『仮面ラーイダ』と呼ぶ事で有名だったのだが、彼は百合ショッカーに参加する事によって ドクトルY(ユリー)と改名していたのだった。
「貴様ら仮面ラーイダどもが我ら百合ショッカーの百合世界征服を邪魔する事は既に想定済みだ。 ここで貴様らを叩き潰してやる。怪人どもやれい!!」 ドクトルYが率いていたのは百合戦闘員だけでは無かった。先程のグロンギを初めとして様々な勢力から 百合ショッカーに参加していた怪人達が現れていたのだった。しかもやたらと数が多い。 「これは数が多いな…。」 「数が多くてもやるしか無いよ…士さん…。」 なのははレイジングハートを強く握り締め、その先端を百合ショッカー怪人軍団へ向けていたのだったが、 そこでディケイドはふとユーノの背後に回り込んでいた。 「ん? 何をするの?」 「お前に戦う力を与えてやろうと思ってな。」 ユーノの背後に立ったディケイドは何かカードを取り出し、ディケイドライバーに差し込んでいた。 『ファイナルフォームライド! ユユユユーノォ!』 「ちょっとくすぐったいぞ。」 「え? ああっ!」 ディケイドがユーノの背中に触れた直後だった。突如としてユーノの体が変形し、フェレットの姿になっていたのだった。 と…言っても、通常ユーノが見せる『変身魔法による変身』では無かった。まるでトランスフォーマー・ビースト戦士の トランスフォームの様にユーノの体が変形して行き、まるで大人のライオン以上の大きさはありそうな巨大フェレットに 姿を変えていたのだった。 「ええー!?」 「うわー!! 巨大淫獣だー!!」 ディケイドが他の仮面ライダーをファイナルフォームライドさせ、武器やら何やらに変形させる事は 知られているが、ユーノが巨大フェレットに変形した事実はなのはのみならず、離れた場所で様子を見守っていた 野次馬達をも大いに驚かせていたのだった。 「うろたえるな! やれー!」 「ユリー! ユリー!」 ドクトルYが右手に持つ斧を正面へ振りかざすと共に一斉に百合戦闘員や百合怪人達が突撃し襲い掛かった。 こうして戦いが始まった。大都市のど真ん中にあるコミケ会場で戦いが始まったはずなのに、何時の間にかに 戦場が特撮における戦場として昔から良く使われていた採石場へと移り、そこでなのは・ユーノ・ディケイド・BLACKと 百合ショッカー軍団との激闘が勃発したのであった。 「とぉ! たぁ!」 BLACKが一跳び30mの脚力で戦場を跳びまわり、必殺パンチを百合怪人目掛け決めて行く。 そしてさらには… 「バトルホッパー!」 BLACKの呼び声に応え何処からとも無く走り寄せて来たバトルホッパーに乗り、必殺のバイク轢き潰しアタックで 幾多の百合戦闘員や百合怪人達を蹴散らして行く。
ディケイドもまた近付く敵はライドブッカー・ソードモードで激しく斬り倒し、離れた敵に対してはライドブッカー・ガンモードで 撃ち倒して行く。さらには……… 「一人一人相手するのが面倒くさくなった。これで一気に蹴散らすか。」 『カメンライド! カブトォ!』 カブトのカードをディケイドライバーに差し込み、カメンライドで仮面ライダーカブトへ変身し、さらにもう一枚カードを… 『アタックライド! クロックアップ!』 カブトの世界におけるライダー持つ能力の一つ、『クロックアップ』をカメンライドで発動させた。 直後にディケイドカブトが目にも留まらぬ速度で百合怪人と百合戦闘員を蹴散らして行く。 クロックアップは単純な高速移動能力では無く、時間の流れる速度自体を変え、その鈍った時間流の中で 行動する事によって通常の時間流の中にいる者から見ればあたかも超高速で動いている様に見えると言う物である。 しかもこれは必殺技でも何でも無く、『カブトの世界』におけるライダー及び怪人に当たるワームが当たり前に持つ 能力だと言うのだから恐ろしい。 「僕が援護するからなのはは攻撃に専念して!」 「うん!」 ディケイドのファイナルフォームライドによって巨大フェレットに変形したユーノがその背になのはを背負って 採石場を駆け回り、行く手の百合怪人及び百合戦闘員を蹴散らしていた。なのはの方まだまだ変身魔法で子供の姿を 取って消耗を抑えねばならない位に回復が完全とは言えず、まともに接近されては百合戦闘員にも後れを取りかねない。 そこをカバーするのが巨大フェレット形態のユーノであった。 「うわー! 巨大淫獣強ええー!」 「巨大淫獣だー! 母ちゃん怖いよー!」 フェレットは小さく可愛いペットと言うイメージが強いが、これは実は近年になってやっと作られた価値観。 歴史的に考えれば元々フェレットはウサギ狩り等に使用する狩猟用動物として飼われていた期間の方が遥かに長い。 そう、フェレットは立派な猛獣…ハンターだったのである。 そしてそれを証明するかの様に巨大フェレット形態のユーノの鋭い爪が百合戦闘員や百合怪人を次々に切り倒し、 口の鋭い牙で噛み砕いて行くと言う仮面ライダーアマゾンばりの大暴れを見せていた。 「ユーノ君一度距離を取って!」 「うん! わかった!」 なのはを背に乗せたユーノは一度敵から駆け離れた。そうすれば当然百合怪人及び百合戦闘員が後を追って なのはとユーノの所へ一塊になって殺到するのだが…そこでなのははレイジングハートの先端を彼らへ向けていた。 「ユリー! ユリー!」 「行くよ! 全力全開! ディバイィィィンバスタァァァァァ!!」 出た。なのはの18番とも言える超高出力砲撃魔法ディバインバスター。レイジングハート先端から放たれた 極太かつ桃色の魔力光は射線上に存在する百合怪人及び百合戦闘員を次々に吹き飛ばして行くのだった。 「ユリィィィィィィ!!」 忽ちの内に上がる百合戦闘員・百合怪人の断末魔。巨大フェレット形態のユーノとその背に乗ったなのは… その姿はまさに動く要塞であった!
こうしてディケイド・BLACK・なのは・ユーノは次々に迫り来る百合戦闘員・百合怪人を蹴散らしていたのだが その光景を黙って見ている程ドクトルYも馬鹿では無かった。 「あの高町なーのはもユーノ=スークライアも仮面ラーイダに負けず劣らず中々やる…。しかしお前達の勢いもこれまでだ。 やれ! 大砲バッファロー!」 後方から戦闘の様子を見守っていたドクトルYの隣には、両肩に大砲を背負ったバッファロー型怪人の姿があった。 その名も大砲バッファロー。激しくそのまんまですね。そしてドクトルYは今なのは達が目の前の百合戦闘員・百合怪人の 相手に神経を集中させている隙にこの大砲バッファローの砲撃で一網打尽にしようとしていたのである。 「しかし、味方にも当たってしまいます。」 「構わん! 仮面ラーイダどもを倒せればそれで良いのだ! やれー!!」 味方の犠牲も構わない非情なドクトルYの命令により、大砲バッファローの背負う二門の大砲が火を吹いた。 激しい戦闘が繰り広げられる採石場の彼方此方で激しい爆発が巻き起こり、その爆風がなのは達、そして百合怪人・ 百合戦闘員を無差別に飲み込んで行く。 「これで終わったな。」 爆煙に包まれる採石場を見下ろし、ドクトルYは勝利を確信した…が…… 「何!?」 何と言う事であろうか。大砲バッファローの砲撃によって吹き飛ばされたと思われていたなのは達が 爆煙の中から何事も無かったかの様に現れていたのである。他の百合戦闘員や百合怪人は砲撃に巻き込まれ 吹き飛んでいたと言うのに…これは異常事態である。 「何故だ!? 何故あれだけの砲撃で平然としていられるのだ!? ええい! もう一度やれい!」 ドクトルYの命令により大砲バッファローの大砲が再び火を噴いた。しかしその直後だった。 『プリキュアラーイド! ミントー! アタックラーイド! エメラルドソーサー!』 ディケイドがプリキュアライドでキュアミントに変身し、さらにキュアミントの得意技である エメラルドソーサーで砲撃を防いでいたであった。エメラルドソーサーは敵の攻撃を防ぐ強力な盾であると同時に それを横向きにして投げ付ける事で敵を斬り裂く攻防一体の技であった。でもディケイドミントはそこまでする事無く 大砲バッファローの砲撃を防御したら防御したでさっさと変身を解除して元のディケイドに戻っていたのだった。 「くそー! こうなったらお前達もろとも自爆してやるー!」 自慢の砲撃を防がれ頭に血が上ったのか大砲バッファローが猛進を開始した。大砲を背負っていても 伊達にバッファロー型の怪人では無いと言わんばかりの勢いで猛烈な砂埃を巻き上げながら突進して行く。が… 「ライダーパーンチ!」 「ぐえぇ!」 出鼻を挫かれるも同然の形でBLACKのキングストーンエネルギーを拳に集中させて放つ技、ライダーパンチの 直撃を顔面に受けて大きく仰け反ってしまい…さらには… 「ライダーキィィック!」 「うああああ!」 同じくBLACKのキングストーンエネルギーを足先に集中させて放つ技、ライダーキックによって 大砲バッファローは大きく吹っ飛んで行き、そのまま大爆発を起こしてしまうのであった。
「ええいどいつもこいつも情けない奴らめ…。こうなったら私自らが仮面ラーイダどもを地獄に叩き落としてやる!」 ついにドクトルY自らが手に持つ斧を振り上げ直々に出陣した。その佇まいと内から放たれる気迫は 今までの百合怪人や百合戦闘員とは比べ物にならない強敵である事を予感させていた。 「とぉぉぉ!」 まずBLACKが跳びかかり拳をお見舞いしようとした。しかし… 「甘いわ!」 「うぉ!」 逆に右手に携える斧で斬り返されてしまった。BLACKの強化皮膚リプラスフォームに強烈な火花が散り倒れてしまう。 「光太郎さん! ならばアクセルシューター!」 『アタックライド! ブラスト!』 続いてなのはのアクセルシューターとディケイドのライドブッカー・ガンモードから放たれるディケイドブラストが ドクトルYへ襲い掛かるが、今度は左手に携える盾でそれを防いでしまった。 「な!?」 「この程度の攻撃で倒せると思うな! 仮面ラーイダどもめ!」 やはりドクトルYは伊達に百合ショッカーの幹部をやってはいない。なのは達もまた多数の百合怪人・百合戦闘員を 相手にして疲労していると言う事を踏まえても、ドクトルYの力は桁が外れていた。 「個別に攻撃しては奴を倒せない。全員で力を合わせるんだ。」 「力を合わせると言っても…並の攻撃では奴の盾で防がれてしまうぞ。」 全員で力を合わせて戦う事を提案するユーノにディケイドが反論する。ドクトルYの盾はそう簡単に 突破出来る物では無い事は確実であり、如何にして力を合わせると言うのだろうか? 「だから盾で防ぎたくても防げない様に仕向けるんだよ。」 「一体どうやって?」 「こうするんだよ。で、その後は…。」 「ふむふむ。」 なのは・ディケイド・BLACKがそれぞれにユーノに顔を近付け、話を聞きつつ頷いて行く。 その間もユーノは巨大フェレット形態のままなのだから、ぱっと見はシュールである。 しかし一見ふざけている様に見えても彼等は真剣だった。 「何ごちゃごちゃ言っているんだ! 何か小細工を弄しようとしても無駄だぞ仮面ラーイダどもめ!」 ドクトルYは再び斧を振り上げ襲い掛かった。しかし、それと共にディケイド達もまた一斉に分散し、 それぞれがドクトルYに対し戦闘体勢を取った。
「何が力を合わせるだ。結局分かれて戦っているでは無いか!」 「果たしてそれはどうかな? キングストーンフラッシュ!!」 「うっまぶしっ!」 BLACKのキングストーンフラッシュがドクトルYの顔面目掛け放たれた。猛烈な輝きの前に 流石のドクトルYも盾で顔面を覆いながら顔を背けてしまう。 「よし今だ! チェーンバインド!!」 『プリキュアラーイド! レモネード! アタックライド! プリズムチェーン!』 ドクトルYがキングストーンフラッシュの輝きに怯んだ隙を突き、今度はユーノのチェーンバインド、 そしてプリキュアライドでキュアレモネードの姿になったディケイドのプリズムチェーンが 同時にドクトルYを雁字搦めにしてしまうのだった。 「ぬお! なめるなぁ!」 翠と黄、二色の鎖によってドクトルYを縛り上げ動きを止めようとするユーノとディケイドレモネード。 しかし、ドクトルYは物凄い怪力でそれを強引に引きちぎろうとし、ユーノとディケイドレモネードさえ 逆に引っ張ろうとする程の凄まじい勢いだった。 「おいなのはぁ! そっちはまだなのかぁ!?」 ディケイドレモネードが天へ向けて叫ぶ。姿はキュアレモネードでも声色は門矢士のままなのだから やはり凄まじい違和感である。そしてその叫ぶ先にはなのはの姿があるわけだが、彼女の持つレイジングハートを 中心として猛烈な桃色の光が輝いていた。 「チャージ完了! 行くよ! これが私の全力全開! スターライト! ブレイカァァァァァァァ!!」 なのはがレイジングハートの先端をドクトルYに向けると共にディバインバスター以上に極太かつ 眩い桃色の魔力砲が放たれた。これもまた高町なのはを象徴する技の一つ、スターライトブレイカー。 周囲の魔力をかき集める事によってその威力は通常の魔力砲とは比べ物にならない。 「ぬおぉぉぉぉぉ!!」 巨大な魔力光の塊にドクトルYの目は大きく見開かれていた。そして忽ちの内に彼を飲み込んで行く。 しかもユーノのチェーンバインドとディケイドレモネードのプリズムチェーンで身動きの取れず盾で防御出来ない状況 だったのである。いや、ここまで来てしまったらもはや盾で防いでも無駄なのかもしれなかった。 「うおわぁぁぁぁぁ!!」 スターライトブレイカーの魔力光がドクトルYを飲み込むと同時に彼を縛っていたチェーンバインド・プリズムチェーンをも 消し飛ばし、彼を中心にして起こった大爆発と大爆風はディケイドレモネード・ユーノ・BLACKも吹き飛ばしてしまう程だった。
「あらら…やりすぎちゃった?」 「馬鹿野郎! こっちまで殺す気か!」 自分でもまさかここまでの爆発になるとは思っても見なかった様子で、困惑しながらなのはは降りて来ていたのだったが、 当然のごとくそこを咎められディケイドに怒られていた。だが、もう一つ確認しなければならない事があった。 「そんな事よりも、ドクトルG…いやドクトルYは倒せたのか?」 「……………。」 皆は未だ爆煙が立ち上り続けている爆心地を見つめていた。あれだけの爆発であるからドクトルYと言えども 一溜まりも無いはずであるが、もしかしたらと言う事もある。爆煙が晴れるまで四人は注意深く爆心地を直視していた。 すると、その爆煙を掻き分けてドクトルYがゆっくりと歩み出てきたでは無いか。 「何!? あれだけの攻撃で倒れないのか!?」 驚愕する四人であったが、ドクトルYのダメージも大きく全身が真っ黒焦げとなっていた。 「ふ…ふふ…。この戦いはお前達の勝ちと言う事にしておいてやろう…。しかし、この私に手こずっている様では 到底百合ショッカーには敵わんぞ…。私は先に地獄でお前達を待っているぞ…仮面ラーイダどもめ…。 はっはっはっはっはっはっはっはっはっ…………………。」 ドクトルYはそう言い残し、倒れると共に大爆発を起こすのだった。今度こそドクトルYの最期である。 「ふう…やっと終わったな。」 ディケイドはライドブッカー・ソードモードを地面に突き刺し、杖代わりにして疲れた身体を支えていたのだったが、 戦いはまだ完全に終わってはいなかった。 「本当、奴の言った通りだ。ドクトルY位で手こずってる様じゃ百合ショッカーには到底勝てないな。」 「え!?」 まだ誰かいるのか? 突然聞こえた謎の声の聞こえた方向へ一斉に皆が視線を向けた。 すると……そこには何とヴィータとシグナムの姿があったのだ。 「ヴィータちゃん!」 「シグナムさんまで! 無事だったんですか!?」 なのはは思わずヴィータとシグナムへ向け駆け出そうとしていたが、そこをBLACKに止められていた。 「待て! あの二人も百合ショッカーの洗脳を受けているかもしれないんだぞ!」 「安心しろ。洗脳なんてされてねーよ。もっとも、百合ショッカーに協力してはいるけどな。」 「え!?」 ヴィータの爆弾発言になのはとユーノは思わず絶句していた。そしてヴィータは続ける。 「あたし達は自分から百合ショッカーへの協力を申し出た。だが勘違いするな。あたし達は百合ショッカーの 世界征服とやらに協力してるわけじゃない。全ては『リリカルなのはシリーズ』を守る為なんだ。」 「え!? どういう事なの!?」 百合ショッカーに協力する事がリリカルなのはシリーズを守る結果になるとヴィータは言う。 これは一体どういう事なのか…
「考えても見ろ。アニメ放送が終わってリリカルなのはシリーズの人気にも陰りが見え始めて来ている。 このままじゃリリカルなのはシリーズ全体が近い内に破滅しちまう。だから百合ショッカーの力が必要なんだ。 逆に百合ショッカーを利用してやるんだよ。リリカルなのはシリーズの未来の為に…。」 「だからと言って別に百合が好きでなのはファンやってるわけじゃない奴を迫害するのは筋違いだと思うがな。」 「何!?」 ヴィータとシグナムの視線が口を挟んで来たディケイドへ向けられた。 「何が言いてぇんだ!」 「いくら百合が受けたからって言ってもなぁ…お前ら百合に頼りすぎなんだよ。それに百合以外の 要素が好きでファンになってる奴だって大勢いるのに…そいつ等を迫害して良いはずが無い。」 ヴィータの言う事は正論と思える部分もあるが、ディケイドの言う事も正論だった。 確かにリリカルなのはと言う作品はなのはとフェイトの百合が受けた事によって人気を博した。 しかし、その為に公式自らが百合厨に媚びる様になり、ユーノ等のなのはと親しい位置にいる男性キャラを 迫害し、百合以外を好む人々を弾圧して来た。これは立派な問題だと言いたいのである。 「百合のみに頼り続けなければリリカルなのはシリーズの人気が維持出来ないと言うのなら… どの道長くは持たん。いっそ一思いに俺が破壊してやる!」 「私も士さんの意見に賛成だよ。ユーノ君を嫌われ役、憎まれ役にしてまで人気を取ろうなんて思わない!」 「お前等……。」 ディケイドのみならずなのはからも真っ向から否定され、ヴィータの表情は豹変し四人を睨み付けていた。 それに対しディケイドもファイティングポーズを取る。 「来るなら来い! 俺がお前等を破壊してやる!」 「いや、今はまだその時では無い。今回は我々の意志を示しに来ただけだ。決着は次の機会に付ける。 だがその時には容赦はせん!」 シグナムもまた静かな怒りを灯らせた瞳で睨み、そう宣言すると共に二人は去って行った。 「何だ…やらないのか…。とは言え、少し安心したな。流石に連戦はキツイからな。」 「だが我々が戦わねばならない敵はまだまだいくらでもいる事は事実。安心は出来んぞ。」 とりあえずこの戦いはなのは達の勝利に終わった。しかし勝利の喜びに浸る事は出来なかった。 百合ショッカーの底知れぬ恐ろしさ…そして洗脳では無く本心から敵に回ったヴィータ・シグナムの 脅威に四人は戦慄していたのだから… 「そんな…ヴィータちゃんとシグナムさんが自分から百合ショッカーに協力してるなんて…。」 「本人に洗脳されている自覚が無いだけかもしれないよ。」 「だと良いがな…。」 やはり問題はヴィータ・シグナムが洗脳されているのでは無く、正気で百合ショッカーに協力している 可能性が出て来ている事である。ユーノの考える通り、本人に洗脳されている自覚が無いだけとも思われるが もしもそうでなかったら大変な事である。リンディ・リイン・アギトの様に洗脳を解けば良いと言うわけでは無いし 何よりも二人とも味方に付けると頼りないのに敵に回すと恐ろしいのだから。 とは言えここでグダグダと考えていても仕方が無い。四人はコミケの世界を後にし、再び百合ショッカー打倒の為の 旅を再開するのだった。
ドクトルGが仮面ライダーの事を「仮面ラーイダ」と呼んだ時の自分的な衝撃度は異常。思わず登場させちゃいました。
ライダー系フィギュアーツでカブトを買ったのでカブト出したいなと思いましたが
カブト本編見て無の為キャラが掴めないのでディケイドが変身したカブトと言う形での登場になりました。
巨大フェレットに変形した(変身にあらず)ユーノの大きさは、なのはをフィグマサイズとするなら
グッスマから出たぬいぐるみフェレットユーノ位の大きさと言う事で。
>>264 余りにも壮大で吹きました。
なのはいないとか言われてますけど、カブトの方はスバルが普通に出てますし大丈夫だと思いますよ。
>>243 >>244 >>246 アギト「おい聞いたか? あたしらリリカルなのはのキャラとして認められてねーんだってよ。」
リイン「酷いですよー! リイン達だって次元船ミッドチルダ号の一員ですよー!」
リンディ「まったく酷い話ね…。私なんか台詞も沢山あったのに。」
ユーノ「僕は存在を無視されるのに慣れてるから良いけど、なのは達まで無視ってのはあんまりだよ。」
なのは「特に今回はユーノ君が格好良い所見せたのに…。」
士「気にするな。全ての世界に否定されたと言う事は言い換えれば全ての世界を自分の物に出来ると言う事にもなるんだ。」
光太郎「その通り。余り考え込んではそれこそゴルゴムの思う壺だぞ。」
グロンギ「ゲゲル! ゲゲル!」
ユーノ「わぁビックリした! いきなり何だい!?」
士「気を付けろグロンギが出たぞ! またゲゲルを始めるつもりだ!」
なのは「あれ? でも私達の前を素通りして行っちゃったよ。」
士「つまり俺達とは別の誰かを狙ったゲゲルと言う事か?」
光太郎「しかしあの方向にいるのは確か…。」
士「はっ! おい
>>243 >>244 >>246 気を付けろ! お前等のいる所にグロンギが行ったぞー! 逃げろー!」
ヴィータ「今回はあたしらもいたしな。何故か敵キャラ扱いだけど。」
シグナム「言うな、騎士たる者黙って本懐を成し遂げるのみ。」
なんだこのなろう臭は
テスト。
>>277 愚痴の一つも言いたくなる気持ちも分からんでもないが、わざわざ反応して煽るなや
あと勘違いしているみたいだけど、別になのはキャラが出ていないって言いたいんじゃないと思うぞ
ディケイドメインっぽいから別スレ行った方がいいってことだと思われ
281 :
名無しさん@お腹いっぱい。 :2011/02/16(水) 02:49:21 ID:4WUjfkBf
カブトレヴォリューション乙
こんなふうに作者のやる気をなくさせて、このスレは衰退していくんだな。
◆e4ZoADcJ/6氏には気の毒だが、そう言われても仕方ないんじゃない なんというか痛い あと申し訳ないけどアンチと紙一重なイメージ 百合とか関係なしに
頭冷やして考え直したんですけど… >ディケイドメインっぽいから別スレ行った方がいいってことだと思われ クロス先のキャラをメインにするなとおっしゃりたいのでしょうが 過去にもクロス先のキャラのがメインになるSSはいくつもありましたし、 自分もそういうの書いた事ありますが、今回の様な非難は初めてなのであります。 これはどちらかと言うとディケイド個人を憎んでいるリアル鳴滝さん状態なのではと考えてしまいます。 そもそも自分は何ヶ月も前からディケイドクロスを書くと予告してましたし。 その時は自分的にこのスレには幾つもそういうのがあるだろうと考えてましたが むしろ「そんなにあったか?」と言う返答。なら別に良いじゃないでしょうか?
>これはどちらかと言うとディケイド個人を憎んでいるリアル鳴滝さん状態なのではと考えてしまいます。 そこでそういう風に決めつけたら氏もリアル鳴滝さん状態ですよ 周囲の意見を聞き入れてどうするかは書き手の自由 意見なんて聞き入れずに無視するのも一つの手ですよ どんな作品を投稿しようとそれも書き手の自由 ただ氏の作品(最近の)はかなり内容が濃いというかアクが強いので受け入れられない人が多いのは理解して下さい 正直なところ私も今の氏の作品は好きにはなれない それと思っていた反応と違って戸惑っているようですが、たぶんスレの空気が変わったのでしょう
287 :
名無しさん@お腹いっぱい。 :2011/02/16(水) 16:51:59 ID:IbyCkihg
リリカルなのはのクロスオーバーなら 『銀魂×魔法少女リリカルなのは』?魔法少女と銀髪の侍? 続編の 『リリカル銀魂 StrikerS』?白夜叉鎮魂歌? が個人的には面白かった戦闘力は侍>魔導師になってて中盤以降(主に敵が)オリジナル展開だけど あと別の人が書いたものだと リリカル銀魂Another 〜魔法と少女とかぶき町ライフ〜 とか 銀魂×StrikerS 3年Z組銀八先生 〜悪いけどもっかい三年生頼むわ〜 も面白かった
ほいじゃボチボチ行きましょう。
4:秋葉原の世界乱戦編 こうして次にやって来た世界…そこは電気店やアニメショップやらメイド喫茶やらが彼方此方に並び 沢山のヲタっぽい人々で賑わっている世界だった。 「ここは…秋葉原の世界か…。」 「だから世界とかそういうんじゃないと思うんだけどな。」 そこは秋葉原の世界。電気街であり、また数多くのアニメショップ等で賑わう世界である。 ここはまだ百合ショッカーの被害が及んでない賑やかかつ平穏な世界である様子であり、 これならば普通に通り過ぎても問題は無いだろうと次の場所へ出発しようとした矢先だった。 「うあー! あれは何だー!?」 秋葉原の世界にいた一般人の一人がそう叫び、空間に開いた次元と次元を繋ぐ橋を通り恐るべき大軍団が 秋葉原の世界に雪崩れ込んで来ていたのだ。 「百合ショッカー!? でもあれは百合戦闘員や百合怪人じゃない!」 「ライオトルーパー…か…。」 秋葉原の世界に雪崩れ込んで来た大軍団。それは確かに百合ショッカーの軍勢であったが、今まで戦って来た 百合戦闘員や百合怪人の類では無かった。それは仮面ライダー555(ファイズ)の世界に存在した量産型ライダー ライオトルーパーの大軍団であった。 ライオトルーパー。555の世界においてスマートブレイン社が開発した555の量産型と言える存在。 そして今秋葉原に雪崩れ込んでいたのはそれの百合ショッカー仕様であり、名称もユリトルーパーと改められていた。 また、元になったライオトルーパー自体が555の世界における人類の進化形・オルフェノクしか変身出来ない仕様だったのだが ユリトルーパーも同様であり、その部隊編成はスマートブレインから百合ショッカーに参加した者以外にも 百合ショッカーによる検査でオルフェノク因子を持つ事が明らかになった百合厨で構成されていた。 「ユリー!」 「ユリー!」 ユリトルーパーも結局やってる事は百合戦闘員・百合怪人と変わらなかった。各アニメショップに押し入り 百合以外のジャンルに関連した物を破壊したり、百合以外のジャンルを好む人間を虐殺したりする。 中身は同じ百合厨なのだから仕方が無い。これはこれで一般人にとっては厄介ではあるが。 「これは見過ごしてはいられないな。」 「うん!」 ユリトルーパーの猛威から人々を守る為に士はディケイドへ、光太郎はBLACKへ変身し、なのははバリアジャケットを 装着していたのだが、その時だった。ユリトルーパー隊がやって来た方向とは逆方向から別の軍団が押し寄せて来ていたのである。
「うわ! 百合ショッカーの援軍か!?」 四人はそちら側にも向き構えていたのだったが、今度現れた軍団はG3及びG3−Xの軍団であった。 「今度はG3とG3−Xか?」 「しかしおかしい…。アレはアギトの世界の警察が作った物だぞ。流石に警察が百合ショッカーに協力してるとは思えない。」 G3及びG3−Xは仮面ライダーアギトの世界の警察が開発したパワードスーツ。 故にライオトルーパーと違い百合ショッカーに参加するのは余りにも不自然である。では彼等は一体何なのか? 「さしずめ百合ショッカーを鎮圧する為に出動した警官隊と言う所か?」 ディケイドはそう推理していたのだったが、その時だった。群集がざわめき始めていたのだ。 「うあー! 都条例の世界の奴らだー!」 「助けてくれー!」 「都条例の世界?」 秋葉原の世界にいた群衆がG3及びG3−Xの軍団を『都条例の世界』と呼び散り散りになって逃げ始めた。 しかし、G3及びG3−X軍団はその後を追い始めていたのだった。 「規制! 規制!」 「青少年の健全育成の為に有害情報を撒き散らすお前達を規制する!」 G3・G3−Xの軍団は秋葉原の世界に存在するアニメショップや、客として店内にいたヲタっぽい人達、 またヲタに人気ありそうな雰囲気の美少女キャラクター等、とにかく秋葉原の世界と言えばこいつ等と言う 感じの人々や場所へ襲い掛かり、『規制! 規制!』と叫びながら本来対未確認生命体用に開発された数々の 特殊兵器で射殺・破壊を繰り返していた。 「ひ…酷い…。」 「一体どうしてあんな事をするんだ? 百合ショッカーの方がまだマシじゃないか。」 なのはもユーノも思わず顔を背けてしまう程の惨状だったのだが、ここでBLACKが逃げようとしていた人々から話を聞いていた。 「一体何があったんだ? 都条例の世界とは一体何なんだ?」 「都条例の世界の連中は青少年の健全育成の為と称して、この世界にある物を有害物扱いして排除しようとしているんだ。 あんたらも逃げろ! あいつ等は何だって規制しようとするぞ! あっちにいる女の子と小動物なんか特に危ない!」 「な…何と言う事だ…。」 しかもそれだけでは無かった。G3及びG3−Xは如何にもヲタっぽい人のみならず、普通の親子連れにさえ襲い掛かり… 「規制! 規制! 有害情報は規制ー!」 「ああー! ママが買ってくれたばかりのキュアブロッサムのお人形がー! 返してよー!」 何と言う事であろうか。普通の親子連れの子供の方が玩具屋で母親から買ってもらったばかりと思われる 玩具を『規制』の名の下に没収していたのである。
「あんな小さい子まで…あれの一体何が青少年の健全育成になると言うんだ…。」 BLACKは愕然としていた。百合ショッカーのやっている事も確かに非道ではあるが、彼等は自分達の存在が 悪である事を認識した上で、世界征服を目指している組織である。しかし、都条例の世界の者達は 青少年の健全育成の為と言う一見聞こえの良い綺麗な言葉で飾りつつ人々を射殺しまくると言う恐るべき事をやっていたのである。 「奴らの背後には市民を守る為じゃなく、利権の為のポイント稼ぎとしてとにかく沢山の人を逮捕したいと考える腐敗した警察官僚がいる。」 「なるほど…だからG3とG3−Xをあんなに量産したのか…。」 BLACKは逃げなければいけない状況でありながらも親切に説明してくれた人に礼を言いつつ逃がした。 だが、この状況下で一体どうすれば良いのか判断しかねる物があるのも事実だった。 「百合ショッカーを叩かねばならないのは事実だが、都条例の世界の連中の行為を見過ごす事も出来ん。」 「うん。いくら青少年の健全育成の為と言ってても、あんな酷い事をするのは許されない事だよ。」 「放っとくと俺達の方も規制されてしまいかねないからな。全く…本来グロンギやアンノウンの脅威から 市民を守る為に作られたG3・G3−Xであんな事をするなんてな…。」 四人は百合ショッカーのユリトルーパー隊と都条例の世界のG3・G3−X隊の両方を倒し秋葉原の世界を 救う決意を固めていたのだったが、ここで事態はさらなる混迷へと向かう事になる。何故ならば… 「ユリー! ユリー!」 「規制! 規制!」 「ついにあいつ等が衝突を始めたぞ!」 百合ショッカーのユリトルーパー隊と都条例の世界のG3・G3−X隊がぶつかり、戦闘を開始していたのである。 確かに良く考えれば百合を推奨する百合ショッカーと、青少年の健全育成と称して若者の娯楽を有害扱いして 規制しようとする都条例の世界の者は決して相成れる事は出来ない。そう考えるならば双方の衝突は必至だった。 そして忽ちの内に秋葉原の世界全体でユリトルーパーとG3・G3−Xが入り乱れる乱戦へ突入していた。 「ユリー! ユリー!」 「規制! 規制!」 「うあー! こっちも巻き込まれるぞー!」 百合ショッカーと都条例の世界の連中が互いに潰し合うのは確かに良い事だと言えたが、なのは達四人までもが その乱戦に巻き込まれて離れ離れになってしまうのだった。 「ユリー! ユリー!」 「規制! 規制!」 「ユーノ君! 士さん! 光太郎さーん!」 「なのはー!」 「お前等とにかく生き残れ! 生き残れればいずれ合流出来る! 分かったなー!」 「お前達絶対に死ぬなよー!」 秋葉原の世界の各地で乱戦を繰り広げるユリトルーパー隊とG3・G3−X隊、そして逃げ惑う群集の波に押し流され それぞれが離れ離れになりながらも必死に互いの無事を祈り叫んでいた。
「規制! 規制! 有害情報は規制ー!」 「ユリー! ユリー!」 「ハァ…ハァ…。」 鳴り響く銃声や怒号の嵐の中、ユリトルーパー及びG3・G3−Xからなのはは必死に逃げ回っていた。 ユーノと一緒に逃げた時点でなのはも百合ショッカーのブラックリストに登録される事になったのは言うまでも無い事だが 都条例の世界の者から見ても『高町なのは』と言う存在そのものが青少年の健全育成を阻む有害情報でもあった。 360度あらゆる角度から飛び交う銃弾の嵐に対し、なのはは防御魔法を全周囲に張り巡らせながら飛び逃げた。 ユリトルーパー及びG3・G3−Xに飛行機能が無いのがせめてもの幸いであった。 とりあえず戦闘が行われている地域から離れた田舎道に降り立ち、そこでひとまずの休憩を取っていたのだが やはりなのはにとって皆がいないと言う状況は心細くもあったし、何より皆の無事が心配だった。 「みんな大丈夫かな…。」 しかし、そんな時だった。何者かが歩み寄る気配。なのははユリトルーパー及びG3・G3−Xがここにも いるのかと咄嗟に身構えていたのだったが、そこにいたのは… 「スバルにティアナ!」 「こんにちわなのはさん。」 「変身魔法で子供の姿を取ってるって話には聞いてましたが、本当だったんですね。」 スバルとティアナの二人と出会う事でなのはは無意識の内に安心しようとしていたのだったが、そこで彼女達は言った。 「百合ショッカーに投降して下さいよ。」 「フェイトさんがなのはさんに会いたがってますよ。」 「!!」 なのはは思わずレイジングハートを構えてその場から背後に跳び退いた。 「やっぱり二人も百合ショッカーに!?」 「当然じゃないですか。」 案の定スバルとティアナの二人も百合ショッカーに入っていた。もっとも、この二人が洗脳されているだけなのか はたまた本心で協力しているのかは流石に分からないが、今なのはが窮地に立たされている事は事実であった。 「あくまでも抵抗するつもりと言うのなら、こっちだって容赦はしませんよ。」 「貴女達二人が私に敵うとでも思ってるの?」 なのはは表面的には平静を装っていたが、それを悟ってか二人は鼻で笑っていた。 「それなら私達が敵と分かった時点で直ぐにバインドと砲撃をしてますよね?」 「でもそれをしないと言う事は、出来ない位に魔力が落ちてると言う事。違いますか?」 「……………。」 図星を突かれ、なのはは一瞬だけ表情が変わった。なのははユーノと共に百合厨から逃げていた時に疲弊した分の 回復が完全では無く、ましてや幾度も戦闘行為を繰り広げてきた。故に未だ変身魔法で魔力の消耗の少ない 子供の姿になってい続けなければならないのだが、そこの弱みをスバルとティアナに突かれていたのだった。
一方その頃、未だフェレットの姿のままであったユーノを肩に乗せたBLACKが行く手に立ちふさがる ユリトルーパー及びG3・G3−Xを殴り倒しながら走っていた。 「光太郎さん済みません。」 「君が謝る様な事じゃない。とにかく振り飛ばされない様にしっかり掴まっているんだ。」 降りかかる火の粉を払いのけながら逃げ走るBLACKにユーノは必死にしがみ付き続けていた。 その結果、どうにか一休みが出来そうな安全な場所に辿り付き、そこで一息付いて座り込んでいた。 「フゥ…とりあえずは逃げ切った…か…。」 「でも他の皆は大丈夫なんだろうか?」 「そう信じたいがな。」 やはりはぐれた皆の事を心配するユーノとBLACKであったが、次の瞬間だった。BLACKの改造人間としての センサーが敵性反応を持つ何かの接近を感知していたのだった。 「何か来るぞ。」 「あ…確かに…。」 精神・肉体両面での疲労の為に発見が遅れたが、ユーノもまた自身の探知魔法によって敵性反応を感知。 二人とも緊張し構えていたのだったが、そこに現れたのは… 「あれは…ガジェットじゃないか!」 「ガジェット!?」 二人の前に現れたのはユリトルーパーでもG3・G3−Xでも無かった。かのJS事件でジェイル=スカリエッティの 一派が使用した自動機械兵器・がジェットT型だったのである。しかもそのガジェットには百合ショッカーのマーキングが描かれていた。 「まさかガジェットまで持っているなんて。と言う事はジェイル=スカリエッティも百合ショッカーに協力しているのか!? いや…彼ならばああ言うのには喜んで参加しそうだから分からないでも無いけど…。ごめんなさい光太郎さん、 ガジェット周囲には僕達の魔法を阻害するAMFが展開されていて僕はお役に立てるとは思えません。」 「詳しい事は分からないが…いずれにせよ改造人間である俺ならば問題は無いと言う事だろ?」 ガジェットは魔力を阻害するAMF発生装置が標準で装備されている。その中でも戦うには、AMFにも屈しない 大魔力が必要となるのだが、それ故にパワーの無さをテクニックでカバーするユーノの魔法では対抗しにくい部分があった。 しかし、改造人間である仮面ライダーBLACKにはそんな事は関係無かった。 「行くぞ!!」 勢い良く飛びかかったBLACKの拳がガジェットへ打ち込まれた。
これを書いた当時は例の都条例問題騒動の真っ只中でした。 それを思い切り誇張しつつ風刺して描いてるという事で。 さて、そろそろ次スレの事も考えておいた方が良い時期になってきましたね。 どうしましょうか?
295 :
一尉 :2011/02/16(水) 21:02:09 ID:zhqyQ1ms
支援
超百合大戦はギャグにしては風刺が度を越えているから反応しづらい いろいろとかわいそう
典型的な書き手が書きたいから書いてるだけの作品 ハッキリつまらない、好きになれないと否定されてるのに 改善策を考えるわけでもなく無視して好き勝手に書き続ける
>>296 超百合大戦って
「嫌百合厨やユーノ厨ってこんなにも頭が悪いかわいそうな連中なんだぜ嫌百合やユーノageのためなら公式だって叩くぜ!」
という風刺じゃないの?
かなり気持ち悪い部類だね
>>297 二次創作に何言ってるの?
要望やら提案はしても良いだろうけど、強制はするべきじゃないと思うが。
>>301 そもそも二次創作で政治風刺や特定思想のプロパガンダを書くことが間違ってる
ここは子供の自由帳じゃないんだよ。人に見せる場である以上、仕方ないことだ
そういうのがやりたいなら自分の作品でやるべきだ。公式には良い迷惑なんだから
ここに書き込んだ内容で公式に迷惑ってそれは幾らなんでも無いかと。 むしろ2ちゃん全体が便所の壁の落書きだとかそんな事言われてんだから。
もうさすがに気になったのでコテ付きで。 クロス倉庫の管理人のラッコ男と申します。 現状の様子を見させていただきましたが、私の意見としては ◆e4ZoADcJ/6氏には大変失礼な発言になりかねませんが、 このままスレが続いても荒れる可能性があり、他の職人が 投下しずらい状況になりかねないので、次スレ立てる前に 避難所の運営議論スレでこのような事をなるべく防ぐ為の話を したいと考えています。 上記に関する案も考えており、この場で言うのも大変恐縮なのですが、 みなさま、いかがでしょうか?
もうこのスレを卒業し、 独立してハッテンする時期ではなイカと思った。
>>ラッコ氏 了解しました。 リリカル犬狼伝説改め224、参加させていただきます!!
もうディケイドクロススレ建てればよくね
>>307 というかライダークロススレだな。ガンダムだって分けてあるんだから、
ライダーを分けても問題はない。
いや、以前からいくつかライダーとのクロスあったけどあまりとやかく言われていないから問題なのはディケイドなのでは? 地獄の四兄弟氏のディケイドクロスもいろいろ言われていたから
ライダークロスだとかディケイドクロスだとかが問題なんじゃなく、作風が問題なんだよ。 四兄弟氏のはごちゃごちゃし過ぎでなのはクロスである必要性が感じられないってだけ。 同じディケイドクロスでもなのはが必要で尚且つ極端過ぎる風刺がなければまだ受けも良かった筈。 言っちゃ難だがここには偶々悪い例が二つ集まっちまったってだけ。
◆e4ZoADcJ/6もヤプールが百合厨利用するとか、百合厨にユーノ殺されて怒ったなのはが ウルトラマンベリアルと合体して百合厨に殺しまくりとかそういう話を前にも書いてたんだよな。 でもその時には特に何も起こらなかった訳で。
こうして、書き手はますますいなくなるんだよな。
>>311 口には出さなかったけど潜在的に何かしら思っていた層はいたんじゃない?
それが今回で爆発したとか
塵も積もれば山となるみたいな感じ
つまり怒ったのはそういう人達だからと
感想は言わないのに文句は言う それが彼らのジャスティス ずっと口閉じていればいいのに
気に食わない物を潰せればそれでいいんじゃないかな。
>>312 >こうして、書き手はますますいなくなるんだよな。
激しく同意
自分は◆e4ZoADcJ/6氏の作品に対して、
何度読んでも問題と思えないんですが……
大問題といえるようなほどエロくもグロくもないし
超百合大戦は残虐描写じゃないし
『なのはである理由がない』、という意見について自分はふとこう思ってしまいました。
「JOJOカオスSSを書いた自分って一体……」と
ところでラッコ氏にお聞きしたいのですが。
いつ話し合いをはじめるのでしょうか?
あ、自分はまったり待ち続けますので。
>>315-316 文句言ってる連中の大半は、頭の中で『自分が気に食わない物=皆が気に食わない物』になってるから、
あれこれといちゃもんつけて追い出すのは正しいことって認識になるんだよな。
>>318 同意。
昔からネタで盛り上がっても自分が分からないと文句言ってばっかだったしな。
クロス先が少しでも強かったりすると気に入らない奴等って大抵なのは=魔王厨だろ。
前々から思っていたこと言わせて貰うわ。
自分が気に入らないと文句言ったりする奴は「なのはシリーズをマンセーするクロスssスレ」でも作ってそっちに篭ってろよ。
必要以上に文句言ってんじゃねえ。◆e4ZoADcJ/6氏の作品はギャグといえば通る作風だろうが。
自分が気に入らないなら見なければいいだけの話だろうが。
文句言ってる奴等がやってることは、ゴジラやフリーザとかの他作品のキャラを馬鹿にして喜んでる糞動画を作った奴やそれに書き込んでなのは最強wとかやってる馬鹿と同じって言うことを理解しろ。
嫌なら見るな。
>>319 と同じく
俺も言わせていただきます。
ハッキリ申し上げますが、
作風が痛いとか、
風刺が気に入らないとか、
そういうレスが『荒らし』なんです!
非難レスを書いた皆様はわかっていらっしゃいますでしょうか!?
気に入らないならスルーしてください……
1レスくらいのネタ書き込みくらいスルーしてください……
昔はそうしていたんですから……
私は百合大戦は面白かったです。
私は面白いと思ったのです。
以上、最近の雰囲気が怖くて作品が投稿できない職人であった者より。
現在、避難所で今後どうするか、議論を始めています。 案も出しておりますが、他に案がございましたらご意見をお願いします。 あと差し出がましい事を承知で言いますが、 人は十人十色です。コレが好きだと言う人もいればアレが嫌いだと言う人もいます。 ただ、少し肌に合わないから、ちょっと意見する事はあっても過剰なバッシングは 良いとは思えません。他の人を巻き込むなら尚更です。 今、時間がないので簡単に言うと 『互い好きな物がある住人同士で潰し合うのような事はやめてほしい』 自分はそう思っています。 迷惑承知で失礼します。
>◆e4ZoADcJ/6氏の作品はギャグといえば通る作風だろうが。 >人は十人十色です。コレが好きだと言う人もいればアレが嫌いだと言う人もいます。 今回の問題の大元はここだよな 許容できるかどうかの限度を超えるかどうか つまり「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということだろうか でもしたらばの方でテンプレを修正して対応するで決着が付きそうだから一安心かな ところで純粋な疑問だが、百合厨云々とかある意味なのはを貶めるような内容を盛り込んで何が楽しいんだろう?
許容できないから、 一連の否定レスは書かれたのでしょうか? 百合厨をネタにしたから否定レスが書かれたのでしょうか? 許容できない、嫌いならば、 ならなおさらスルーしてはどうか……と自分は思います。
>>323 「俺」なのか、「私」なのか、「自分」なのかをハッキリしとけ。
それで職人とは片腹痛いぞ。
誠に申し訳ございません。
まさかこの様な事になってしまうなんて夢にも思いませんでした。
確かに
>>277 は自分的にはキャラに代弁させる形でマイルドに
やったつもりなんですけど、それが裏目に出たと言うのは反省しております。
ですが本編に関しては「悪の組織がそういうのを世界征服の手段として利用して来たら怖いよね〜」と言うテーマで書いておりますので
これを省いてしまうと根底からダメになってしまうので、そこの所ご了承いただきたい所存でございます。
もうこの件に関しては議論スレで言われてる通り、テンプレ追加でおしまいでいいんじゃないかな それはそうと、テンプレ追加するならするで次スレどうするんだ? 今のままじゃ投下した人がいても出来ないぞ
テンプレが決まるまで待ってもらうしかないだろ 2,3日ぐらいだからどうってことない
揉め事になるとどこからともなく沸いて出てくるよなここの住民はw
◆e4ZoADcJ/6 は当初は一緒に怒られてる立場にあった◆LuuKRM2PEg への非難も肩代わりさせられて一人悪者扱いされてる感じがするのが不憫だな。
なぜ◆LuuKRM2PEg氏への矛先が◆e4ZoADcJ/6氏に向くように誘導されたんだろう
どっちもディケイド・ライダークロスだし、返事してるのが◆e4ZoADcJ/6だけだからなー 「お前あいつの同類だろ、なんとか言ってやれよ」 って感じで一緒くたにされてるような気がする。
だって◆LuuKRM2PEg氏今平成ライダーロワにかかりきりだから こんな騒動になっているの知らないんじゃない?
なんかそれって少し無責任な気がする
ふざけんな。何の責任だよ そもそも勝手に作品への批評を始めたのは一部の常識の無い奴らだろうが そいつらが勝手に他の書き手に矛先変えたのに責任も糞もないだろ そもそもここで批評する事自体が間違い、我慢出来ないなら本音スレに行けって話 本来なら地獄の四兄弟氏みたくスルーして然るべきだろ
グヘヘヘ
ところで、次スレはどうする? もう立てても大丈夫かな?
まだスレ立ては待機
338 :
一尉 :2011/02/23(水) 22:28:31.31 ID:U2VVIqZR
・・・・
みなさま、次スレのテンプレに関する議題が終了しました。 一週間も長引いてしまって、本当に申し訳ありませんでした。 次スレ立ての待機を解除いたします。 次スレを立てる際は、次以降以下のテンプレでお願いします。
【書き手の方々ヘ】
(投下前の注意)
・作品投下時はコテトリ推奨。トリップは「名前#任意の文字列」で付きます。
・レスは60行、1行につき全角128文字まで。
・一度に書き込めるのは4096Byts、全角だと2048文字分。
・先頭行が改行だけで22行を超えると、投下した文章がエラー無しに削除されます。空白だけでも入れて下さい。
・専用ブラウザなら文字数、行数表示機能付きです。推奨。
・専用ブラウザはこちらのリンクからどうぞ
・ギコナビ(フリーソフト)
ttp://gikonavi.sourceforge.jp/top.html ・Jane Style(フリーソフト)
ttp://janestyle.s11.xrea.com/ ・投下時以外のコテトリでの発言は自己責任で、当局は一切の関与を致しません 。
・投下の際には予約を確認して二重予約などの問題が無いかどうかを前もって確認する事。
・鬱展開、グロテスク、政治ネタ等と言った要素が含まれる場合、一声だけでも良いので
軽く注意を呼びかけをすると望ましいです(強制ではありません)
・長編で一部のみに上記の要素が含まれる場合、その話の時にネタバレにならない程度に
注意書きをすると良いでしょう。(上記と同様に推奨ではありません)
・作品の投下は前の投下作品の感想レスが一通り終わった後にしてください。
前の作品投下終了から30分以上が目安です。
(投下後の注意)
・次の人のために、投下終了は明言を。
・元ネタについては極力明言するように。わからないと登録されないこともあります。
・投下した作品がまとめに登録されなくても泣かない。どうしてもすぐまとめで見て欲しいときは自力でどうぞ。
→参考URL>
ttp://www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3168.html 【読み手の方々ヘ】
・リアルタイム投下に遭遇したら、さるさん回避のため支援レスで援護しよう。
・投下直後以外の感想は、まとめWikiのコメント欄(作者による任意の実装のため、ついていない人もいます)でどうぞ。
・度を過ぎた展開予測・要望レスは控えましょう。
・過度の本編叩きはご法度なの。口で言って分からない人は悪魔らしいやり方で分かってもらうの。
・気に入らない作品・職人はスルーしよう。そのためのNG機能です。
不満があっても本スレで叩かない事。スレが荒れる上に他の人の迷惑になります。
・不満を言いたい場合は、「本音で語るスレ」でお願いします(まとめWikiから行けます)
・まとめに登録されていない作品を発見したら、ご協力お願いします。
【注意】
・運営に関する案が出た場合皆積極的に議論に参加しましょう。雑談で流すのはもってのほか。
議論が起こった際には必ず誘導があり、意見がまとまったらその旨の告知があるので、
皆さま是非ご参加ください。
・書き込みの際、とくにコテハンを付けての発言の際には、この場が衆目の前に在ることを自覚しましょう。
・youtubeやニコ動に代表される動画投稿サイトに嫌悪感を持つ方は多数いらっしゃいます。
著作権を侵害する動画もあり、スレが荒れる元になるのでリンクは止めましょう。
・盗作は卑劣な犯罪行為であり。物書きとして当然超えてはならぬ一線です。一切を固く禁じます。
いかなるソースからであっても、文章を無断でそのままコピーすることは盗作に当たります。
・盗作者は言わずもがな、盗作を助長・許容する類の発言もまた、断固としてこれを禁じます。
・盗作ではないかと証拠もなく無責任に疑う発言は、盗作と同じく罪深い行為です。
追及する際は必ず該当部分を併記して、誰もが納得する発言を心掛けてください。
・携帯からではまとめの編集は不可能ですのでご注意ください。
次スレ立ててきます
>>343 次すれ乙であります!
今回お願いしただけで、そんな暗黙は特にありませんよ。
………たぶん。
__ . : : : :、:/ヽ: :丶. ,、_ /:ヽ-..... /: :/ヽ´: : : : : :ヽ/ヽ. ,..‐-:/:::Y:::::::::::\::::::ヽ ′/: : :/!: : : : : : : : : : :. /::://::::::::::::::::::::::::::ヽ:::::::. ': /:-‐/‐ト、|: : !: :|: : : : :ヽ //:::,′!_:i:::::::ヽ:斗─:::ヽ:::i |: : |:ィf不ミ、ト、:.!ィ=xi: : : : ', ′i::!:ィV`\:::´ト、__ヽ::::::\ |Y`|:| ヒリ iノヒリ !: !: : :.| |::/|::|:::|x==、 \| '⌒` Y!´l__:> . |:.ヽ.|ト、 , イ:.ノ:/|!|! レ'|:! !:::!′ , ||,人\ . | : : :||:.、 ー..‐ イ:/|:/ ヽ|:::ハ v‐ ┐ ノ::ハ|. ,、 .. |: : : :|!ト、> , イ: :.|!:..|| ヽ|ゝ.. ー ' /∧!. // /) |:_:=/ヽ. >‐,ヘ、L : : : || 斗` ニ<ヘ、__ // // , < | \/〉〈`|\> 、_ -‐' ´/ | A / | /_/) ,ヘ f´ ヽ └‐、/.ヘ ヘ 〉 i.ハ /´i 〈 .!/∧∨ ノ.│ 〈 〈/´} { \ ./ Χ ̄l 〉 ! i f´ | / ', |⌒// | ノ `7 ! v⌒ヽ V i} ` 、 \.|/ ヽ. l / y 〉 |// rf二─'ト、! . ∧ ノ V `ヽ}i. ' l {. 〈 l/〉 |  ̄\/|| /: ∧l' , ..::::::::::::.. } ..::::::::/. 〉 !:::::::.......ヽ.〈....::::::::.... `lヽ、___!! ,': :,': ∧ .::::::::::::::: | :::::::::} |_ -‐'´ l::::::: : : ヘ: ::::::::::::: :: | |、! !: :i: ,':.∧ , ::::::: ゚.| / │ ! O O} /ノ ! 〉 !: :|:i : ':.∧ ヽ .| } / .| ! / / ヽ. / |: :|:|: :レ': :〈 ∨ ゚〉 〉 | / O O/ > `ー ' レ'.|:!: :|: : : [ヽ ∨[二] /. │ /` / ヽ !|: :.!: : / '. '. 〈 _ | /\/ / ヘ__/ ヽ !!: :.!: :.〉、 ヽ /ヽ/ `ヽ / ハ |! : !: / > ヘ./ 〉--、 ト、 / ヽ / | ヽ|:{ \ /Χ`ヽヽj| \ / \ イ l ¨、/ `ヽ/.│ ー ' l 〉 ゝ、 i |〉〈 | | ヽくlJJ' | 〉
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\ ヽ / | \ ‘, / ____ ‘, / / ,, ´ __ ` . l -─‐- ___ ,, -─‐─く__ /,, ´__ ` .: : : : \ /,, ´: : : : : : : : :`ヽ: : :.`>'´: : : : : ,, --‐'¨¨´ . // \ `ヽ \: : :/>: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :´ ̄ ̄ ̄` 、_ /: / \  ̄ ̄ X j/: : :/:.:.:. : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :⌒ 、: : : \\ : / >x 〃: :./: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : :.:.:. :\\ |:.l __// `ー─/′ /: : : : :/: : : :. :.:./:.:.ハ: : : : : : : ヽ: : ヽ: : : : \: :. : ト、:\ l: | ,, ´ /o `ー── l: :.:./:/: : : //: : : .:.:./:.:./ : : :.|: : : : |:.:.: :.|: : ヽ: : :',ヽ: l ヽ l:!:! / / ̄ \ /¨.|: :/:/┼‐<:/: : :.:./:.:./ |: : :l!: : : :.l: 、:.:.|:. :.:.:|: : : :.j/ \: : :‘, . 八l / / }\ ___,l_, |: l: l: : :.:.ハj/ \/j/ !:.:./!: : : /: :.l: :|: :.:.:.ト. :. :.| | /\/ ,, ´ ヽレ‐v: :ハ/,ィf示心x. x┼‐┼ ≠‐ ′:. :.:.:.| !: : :l |: : :| / / / l ハ/レ 《 ト:...:::ィリ x汽ミx' ! /l: /: : : :.l l.:.:./ |: : :l / 〃 O 丶}.:.:.l! 弋ュ_rシ rノ:::::/ 》 : /://: : : : //: / //′ . / .{{ /:./∧ ゞxシ イ/j//!: : :.:./// -‐ ´/ / _,ゞx_ ムイ/ 、 ′ /: : :/ : : :/ -‐ ´ ' | // \ ./ ! l>、 r_ヽ イ`¨l´ .//\ / | ///l \ \ /!. └ │ .> __ < ′:/ / } _ |o{ { ! .\ >ヘ. `¨/ > > 》 / ./ ____/ /j/ // . ヽヽ\、 `¨´ノ `¨T ´ ├─ 、V\xヘ/ { ._// ,, ´ イ l |てノ`¨¨¨´ │ _}__: : : : >‐v──<_l__ /`¨¨¨¨´ r'´.o | 、 ∧_: Y: : : :.{__人: : : : /_ノ ll ト、 / . \\ _ ____\./ }└─ / ト、 __,イ_> .ハ ___ノ/},〈 .. /\\__ >'´/ ̄ ̄\ `´ /\ l___ノ ./ 、三=彡く l l └く: : : : : :/ \/ .\}__/\ \X, ヘ /≫x . `ー─ヘ ,.x< / ト、 \ \ l〃.′ \\ / |: :\_/ .\ >、{ | ヽ \ / 人_/ {\ \xへ,, -┬ .、 . 、 \____ o ____,, '/ \\ .>'´,, ´ l ノ \____ `><´ ____ イ `Y ,, ,,¨´ `¨¨´ l/ /> ´ ̄` 、
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2011/02/25(金) 09:13:33.93 ID:8oExbkxJ ,.、 |_| ,ィ7'l:::Kス 〈_)-`'::::::ハ _ -−― - _ 〉、:::::/::::ハ / `丶 ヾ三ソ::::::::ト、 /, -=ニ三ミ、 ヽ \::::::::ノ!:ヘ // / i 、 `ヾヽ i. ', Y´ ! ト、 ./‐/ニA_ニi、=ハ ヾ::::! } {ヽ ∨ l ヘ ! l /Ll_\トj七メ l V ! ヾ::\ ∨ i ヘl !〈 ト'::l 7゚::ヽ!×! ! ,' /7 >:::\ヽノ __ 「`ト!、.ゞ' , 弋ソ.! ! ト、 ノ /::/ \:::::::ハ./, ' l l:::ハ. r‐ 、 ""| ! l、:X/:::::::7 〈::::::::::::l〉 .〉 〉:::トゝノ__,.ィー! l .K>、\::< ヾ_::::::::! / //テ、}][`7ヲヘ!イノ!∧トゝ::\:X´ レヘ:::ゝ _ y' _ -、 ! | lヾ'<`ー-,.、:::::::::::::_ル、} \::! 7/ ! ト、_ノイト、l::::::/|_|二_ ̄ `/ /〉 ! |:::|!|:::!| レ〈ヽ!:LLレ} / 〈/ / l:∧ソ::!| | `K:::::::ノ〉 /} レ´二_ー-'_/:《::::::/ノ l `ト、二ソ| /:::/ _>'<二ヾ´:::|ソ::::::>ヽ,イ ト、::::::::イ /::::::/ /  ̄/7ソ三`,>ヘ/-‐' .l /  ̄ .ト、 /::::::/!/ ノー'二7ニソ>‐y`/7 〉|\ ヽ /:::::\ ∠/!/ / /::://:::::/ソ>:::〈〈:::「ヾ,!:::::\ `ー-イ::r 、:::::\ /! / /:::::://:::::〈〈:::::::::::! |::「ヽゞ,::::::::ヽ ヾ! \ト- /:::::| / /二´/:::::::::[二]:::::::! |∧._ ̄ト、::::::丶、_ . /::::::/ / /{:::::`':::::::::::::::|!|:::::::::レイヽヽ ! l::::::::::::::`ヽ /:::/l/ `7::,イ::/二二,ニ,ニニニ=、!::ヘ∨ ヾ::::::::::ト、:::\ /:::/!/ /::::l::l/ / ∨| l:::::::l::ヽ .\ト、!  ̄ /::::/ !::::::!:::∨ !=! .l:::::::ヾ:::\_ // |::::::|::::::ヘ l::::! !:::::::::::\:::::`丶