あの作品のキャラがルイズに召喚されました part285
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?
そんなifを語るスレ。
(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part283
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1288521867/l50 (実質part284だそうです)
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/ 避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/ _ ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
〃 ` ヽ . ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
l lf小从} l / ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,. ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
((/} )犬({つ' ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
/ '"/_jl〉` j, ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
ヽ_/ィヘ_)〜′ ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
_
〃 ^ヽ ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
J{ ハ从{_, ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
ノルノー゚ノjし 内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
/く{ {丈} }つ ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
l く/_jlム! | ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
レ-ヘじフ〜l ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。
. ,ィ =个=、 ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
〈_/´ ̄ `ヽ ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
{ {_jイ」/j」j〉 ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
ヽl| ゚ヮ゚ノj| ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
⊂j{不}lつ ・次スレは
>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
く7 {_}ハ> ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
‘ーrtァー’ ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2 :
ゼロの戦闘妖精:2010/11/23(火) 15:13:12 ID:dAtbnqez
前スレを容量オーバーさせてしまい、すいませんでした。
以後 注意しますので ご勘弁願います。
3 :
ゼロの戦闘妖精:2010/11/23(火) 15:18:47 ID:dAtbnqez
(前スレ 続き)
翌日 王城の議事堂に参議等が集う。二日目の会議を始める為に。
だが 未だ来場しない者達がいる。それも多数。全体の三分の一にも達しようかという人数だ。
『出席しなければ 爵位剥奪も!』と厳命された会議に来ないとは、如何なる事か。不安と猜疑が 議場を包んでいた。
やがて アンリエッタ妃殿下が来場し 開会を宣言、
「なお 昨晩、反乱軍レコンキスタと内通し、トリステインを滅ぼさんと策動する逆賊に対し、一斉捕縛を実施いたしました。
リッシュモン元・最高法院長官以下、この場に現れぬ者は 全て亡国の徒であったと思っていただいて結構です。」
『『『『『!!!!!』』』』』
議事堂に衝撃が走る。場内をどよめきが埋め尽くす。余りの驚きに 皆 まともな言葉が出ない。
「このような事態に至りましたのも、私ども王家の不徳によるもの。始祖に 民に、どう言って詫びれば良いのかすら思い浮かびませぬ。
されど 今は国家存亡の時、獅子身中の虫を一掃出来ました事を善しとして 我等一丸となりて国難に当たらねばなりません!」
妃殿下の力強い言葉に 場内は幾分か落ち着きを取り戻す。続き ワルドが声を上げる。
「皆様 御心配めさるな。姫様の仰るとおり、この場から悪党共が居なくなりましたのは 僥倖。
そして、良き知らせも届いております。
同じく昨夜 アルビオンにおいて ニューカッスル城を取り囲んでおりましたレコンキスタの艦隊が、全滅いたしました。」
………『『『『『!!!!!』』』』』
二度目の衝撃。
「報告によりますと、何処からともなく現れた一匹の幻獣が レコンキスタの艦隊を襲い、全てのフネを撃墜したそうです。
墜落した艦艇の破片により 地上部隊も大打撃を受けたとの事。
この幻獣の姿は、紅蓮の炎を纏った巨大な鳥のようであったとか。まさしく神の使徒 聖獣フェニックスに他なりますまい。
これこそ始祖の御導き、レコンキスタに正義なき証でございますな。」
戸惑いと興奮 不信と歓喜、当初のものに輪をかけた混乱。アンリエッタすら唖然としている。
その為、「飛行幻獣を使っても、片道だけで丸一日掛かるアルビオンの情報を なぜワルドが知っている」のか、そこまで気が回る者は居なかった。
4 :
ゼロの戦闘妖精:2010/11/23(火) 15:21:21 ID:dAtbnqez
「一同に告げる!」
混乱を収めるため マザリーニが立つ。
「今しがた 国家運営に関わる重大な知らせを二つも聞かされ、皆それぞれに思うところもあるだろう。
自分の考えをまとめるのに しばしの時間が必要である者もおろう。
よって 一刻ほど休会しようと思う。その間 自由闊達な論議があることを期待する。」
マザリーニは、アンリエッタとワルドを促して 議場を離れた。
そして 人払いをした部屋で 問う。
「ワルド子爵。先ほどの話は 真の事なのか!?」
「ええ、間違いございません。
何しろ 我が遍在が、その目で見て参りました事ですから。」
「なんと!」
「それにつきまして、我が隊の見習い騎士より アンリエッタ様宛の書状を預かってきておるのですが、お読みいただけますか?」
「!」
ワルドが取り出した手紙を 奪い取るように手にするアンリエッタ。手紙の文字は 予想どおりの相手のもの。
『とりあえず 時間稼ぎは出来たと思います。
あっ、もう一回やれって言われても出来ませんよ。奇跡は一回だけ、もう 弾切れです。
今回のコレは、ちょっと早い 結婚祝いだと思ってください。
もちろん 姫様とウェールズ様の。
ゲルマニアへの違約金は、『フェニックスの正体 及びその共同調査』で どうでしょう?
貴女の おともだち より。 』
(あぁ ルイズ、私は貴女に どうやって感謝したら良いの?どうしたら この気持ちを伝えられるの?)
手紙を読み 困難を極めるであろう 対レコンキスタ戦への決意を新たにするアンリエッタだった。
そして 再開された会議において 『アルビオン救援派遣軍』の計画が正式決定し、直ちに出兵準備が開始された。
昨夜の 二つの歴史的事件、『フェニックスの神罰』と『アンリエッタの大獄』に続き、ハルキゲニアの歴史は大きく動こうとしていた。
《 続く 》
5 :
ゼロの戦闘妖精:2010/11/23(火) 15:26:48 ID:dAtbnqez
終わりです。
残り容量を確認せず ご迷惑をおかけしてしまいました。
今回は 見事に『ずっとワルドのターン』でした。(ルイズの出番は 手紙だけ?!)
おもいっきり 時代劇のノリで書いたので、だんだんトリスタニアが江戸の町とダブってきてます。
牢屋がチェルノボークでないのは、伝馬町は『拘置所』でチェルノボークは『刑務所』ってことにしといて下さい。
次回は、Intermission 04 〜ワル平犯科帳『密偵』〜 の予定です。
また しばらくお待ちください(遅筆でゴメンなさい!)
乙。
ワル平最大のピンチは、アニエスにキスされる瞬間をルイズに見られる事だな。
戦闘妖精の人乙。
相変わらず面白いのう。
ワルドが騎士じゃなくて岡っ引きの格好で再生されるのが玉に瑕だがw
>8
お大事に……って、片手間の仕事ですか、これwww
ラピュタを見るたびにロボット兵を大暴れさせたくなる
>>8 お大事に
こんばんは
空いてるようなので45分頃から投下したいと思います
「アルビオンか……」
空に向かって昇り始めた朝日を全身で受けながら、柊は切り立った崖の端に立っていた。
眼下に広がっているのは霧のように立ち込めた雲と、その隙間に垣間見える青色。
この崖の底は存在しない。
あるのは今彼の天上を覆っているのと同じ空であり、そこから更に数千メートル下にある海面が底と言えば底なのだろう。
浮遊大陸アルビオン。
ファンタジー世界ここに極まれりといったそれを実際眼にしそこにたっている事に、柊は少なからずの感動と興奮を覚えていた。
「凄えな――」
嘆息交じりに柊はそう呟き、
「――シルフィードは」
振り返って少し離れた場所にぶっ倒れているシルフィードを見やった。
結局あれからシルフィードは何かに取り憑かれたように空を走り続け、ついには柊達の駆る箒の後塵を拝する事なくアルビオンまで到達したのだ。
……もっともそれは柊の方が一旦性能の差を見せ付けて溜飲を下げたので、あえて抜こうともしなかっただけなのだが。
ともかく箒との勝負に勝利を収めたシルフィードではあったが、その代償は大きかった。
一時も速度を緩める事なくアルビオンまでの距離・高度を一気に飛んできたため疲労の困憊具合が著しく、柊が遠目から見てもそれとわかるくらい激しく身体が上下している。
ひゅうひゅうと掠れた呼吸音まで聞こえる始末だ。
「スピードの向こう側にあるゼロの領域を垣間見たのね、きゅいぎゅっ……ダメ、吐きそう……」
「……馬鹿」
息も絶え絶えに小さく漏らすシルフィードに、すぐ傍に腰を下ろしていたタバサは嘆息しつつもどこか嬉しそうに言って頭を軽く撫でる。
くすぐったそうに眼を細めて主人の労りを受けるシルフィードの下に、柊がゆっくりと歩み寄ってきた。
「大丈夫か?」
「……!」
するとシルフィードは途端に牙を向き出し、威嚇するように尻尾を振り回して柊を睨みつけた。
そして彼女は小さく唸りを上げた後、柊に向かって言った。
「……あんたなんかにお姉様は渡さないのね」
「いや、取りゃしねえって……」
嘆息交じりに柊は返したが、シルフィードはそれでも収まりがつかないらしく翼を手足のようにばさばさとバタつかせて叫んだ。
「あんな棒っきれよりシルフィードの方がずっと速いんだから! お姉様の使い魔はシルフィードなのね! お姉様が乗っていいのはシルフィードだけなんだから!!」
「わかったわかった、俺が悪かったよ……!」
頭をかきながら柊がそう言うと、シルフィードは満足気にふんと鼻を鳴らして再び身体を大地に横たえた。
そんな彼女を見ながら、柊がぽつりと漏らす。
「なあシルフィード、一つだけ言っていいか?」
「きゅい?」
「……お前、喋れたのな」
「……………………あっ」
シルフィードがはっとして呻いた。
沈黙がしばし場を支配し、ややあってシルフィードは厳かに口を開いた。
「……あ、あっしはお姉様に作られたガーゴイルなのでやんす」
「なんで三下口調になるんだよっ!?」
柊が思わず突っ込んだが、次の瞬間シルフィードから視線を反らしてうっと息をのんで黙り込んだ。
それにつられてシルフィードもそちらに眼を向ける。
そこには、
「……」
恐ろしいまでの無表情でシルフィードを睨みつけるタバサがいた。
「ヒぃっ、ひぃ!? あ、お、お姉様っ、これは違うのね! やむにやまれぬ事情というか、言っておかなきゃいけないというか!! とにかくそんな感じで……!!」
「……」
「お、落ち着いてお姉様!! あっしの話を聞いて欲しいでやんすのね!!!」
「混ざってる混ざってる、三下口調が混ざってる!」
柊の突っ込みも聞こえないらしくシルフィードはガタガタと震えながらタバサに擦り寄った。
タバサはそんなシルフィードを今までにないほどの完璧な無表情で見据えた後、杖を手にゆらりと立ち上がる。
シルフィードの顔が恐怖に染まった。
※ ※ ※
きゅおぉーーーーーーーーん……
シルフィードの悲痛な叫びを背後に受けながら柊とタバサは箒でアルビオンの上空を走っていた。
「いいのか、置いてきて……」
「構わない。回復すれば勝手に来るだろうから」
タバサはシルフィードに何もしなかった。何もせずに完全放置して柊を促し出発したのだ。
シルフィードはタバサにかなりご執心のようだったので恐らく一番キツい仕打ちだともいえよう。
主がそうするといった以上柊としてはそれ以上何も言えなかった。
ともかく、柊達はそうして哀れな風竜を置き去りにしてその場を離れ、辿り着いた現在地を知るために近隣の村なり町なりを探し始めた。
「……シルフィードが喋れること、他の人には言わないで欲しい」
眼下に広がる山野を眺めていると、タバサが柊に向かって声をかけた。
「喋る竜は珍しいのか?」
使い魔になった犬やら猫やらは人語を解し一部は喋れるようになるらしいという事は柊も知っている。
アルビオンに行くまでと違いさほど速度を必要としないため、今は柊の後ろに同乗しているタバサは小さく頷いてから言葉を続ける。
「絶滅した、とされているくらいに珍しい。だから、知られれば面倒な事になる」
「なるほどな。わかったよ」
「ありがとう」
ぽつりと呟いた彼女に軽く頷いて答えると、柊は改めて周囲を見渡した。
この場所はアルビオンの完全に端であり、流石に空に浮かぶ断崖絶壁の周辺で生活を営む村落などはないようで見渡す限り緑ばかりだ。
内陸に入ってしまった後で岸壁沿いに行けば港に辿り着いただろうことに気付き、柊は小さく舌打ちした。
「引き返すか……」
箒なら引き返して改めて岸壁沿いに向かうのもそう手間ではない。
するとタバサが背中を軽く叩いて遠目に見える大きな山を指差した。
「あの山沿いに北に向かって。そうしたらおそらく北西に向かう街道にあたる。後は道なりに進めば主街道に合流する」
「わかるのか?」
「地図でしか見たことないけど、多分合ってる。かなり南の方に着いてる……と思う」
「了解」
言って柊は機首を回して少し速度を上げると、タバサの指示通りの進路へと向かう。
やがて彼女の言った通りの街道を遠くに見つけると、なるべくそちらに寄らないようにして道に沿うように箒を走らせる。
人がさほどいない山野ならばともかく街道ではそれなりに人が通るため、自分達の立場を考えるとあまり人目につかない方がいい。
まして飛んでいるのが竜などといった騎獣ではなく箒ならなおさらだ。
更にもう少し進んで今までのそれより更に広い主街道が確認できる場所まで行くと、柊は一旦箒を止めて上空で浮遊したままタバサを振り返った。
声をかけるまでもなく柊の意図を察したタバサが遠目の主街道をなぞるように指を動かす。
「西に行くと工廠の港町ロサイス。北に行けばシティ・オブ・サウスゴータ。そこから北東に首都のロンディニウムがあって、ニューカッスルはその更に北」
「てことはこのまま真っ直ぐ北に行けばニューカッスルには行けるか……?」
アンリエッタから依頼を受けた際に、王党派は現在ニューカッスルに追い詰められているという情報を得ている。
だが、この世界の情報伝達とその誤差がどの程度あるのか定かではない。
戦地を移しているのかもしれないし――あるいは既に敗北し戦争が終結してしまっている可能性もゼロではないだろう。
ならばまずやるべきは現地での情報収集だ。
「……そのシティ・オブ・サウスゴータ辺りか?」
戦地直近のニューカッスルと王都だけに現状ではレコン・キスタの本拠地となっているだろうロンディニウムは色々調べ回るにはかなり危険度が高い。
適度に離れているシティ・オブ・サウスゴータならばいくらか動きやすいはずだ。
柊が尋ねるとタバサはさほど間をおくでもなく「妥当」と頷いた。
やはり彼女はルイズやキュルケと毛色が違って『現場』向きであるらしく、柊としても非常にやりやすい。
二人を乗せた箒は光の尾を引いてアルビオンの空を北に駆けていった。
※ ※ ※
「もうだめだっ!!」
陽が中天を過ぎた頃、サウスゴータの中央広場にある噴水を臨むベンチに座り込んで柊は頭を抱えた。
数時間前にこの街に辿り着いた二人は、街の手前で箒から降りると別々の入り口から街へ入り手分けして情報収集をすることにしたのである。
そして柊が得た情報は要約すると二つ。
戦況はレコン・キスタ――国内では貴族派と呼ばれている――が圧倒的に優勢なこと。
王党派はニューカッスルに追い詰められていること。
……つまり、学院でアンリエッタから得た情報以外は何もわからなかった。
「やっぱシティアドベンチャーにはシーフ職なりエクスプローラー職が必須だったか………」
などと意味不明な事をぶつぶつ呟きながら地面を見つめていると、ふとそこに影が差した。
見上げればそこにタバサが立っていた。
眠たいのか呆れているのか半眼で見つめてくる彼女に、柊はおずおずと尋ねる。
「ど、どうだった?」
「……それなりに」
タバサが言うと柊は歓喜の表情を浮かべて立ち上がり彼女の諸手を取ってぶんぶんと振り回した。
「よくやった! 助かった、ありがとう! お前がいてくれてよかった、マジで!」
「……」
今度こそ呆れた表情を浮かべたタバサは小さく嘆息すると、彼の隣に腰を下ろして得てきた情報を話し始めた。
話が進むにつれようやく柊も本来の表情を取り戻し、彼女が報告を終えると少しの間沈黙してから呟いた。
「……それはおかしいな」
「おかしい」
柊の呟きにタバサも首肯する。
仕入れた情報によると王党派は一週間ほど前にニューカッスルの外れ、大陸の端にある城にまで追い詰められたという事だ。
一週間も持ちこたえているのだから存外に王党派が食い下がっている――と言いたいところなのだが。
情報を仕入れていくほどに明らかにこの状況はおかしい事がわかったのだ。
追い詰められた王党派の戦力は現在恐らく五百は上回らないだろうという話だ。
一方追い詰めている側のレコン・キスタ――貴族派は反乱を起こして以来国の内外から無節操に戦力を取り入れ、今では三万とも四万とも言われている。
……もはや趨勢を語るのが馬鹿々々しいほどの戦力差だ。
極端な話突撃命令を下しさえすれば、後は指揮官が寝ていても勝利が転がってくるレベルの話である。
にも関わらず依然として王党派は今だ残存しており戦況が膠着している。
「万単位の軍隊なんて維持するだけでも馬鹿にならねえってのにな……」
タバサが話を聞いた傭兵達などは何もしないで食い扶持が稼げると深く考えもせずに喜んでいたそうだが、生憎彼女と柊にとっては喜べる状況ではない。
「……つまり、そんな馬鹿にならない事をやってでも王党派を残しておく意味がある、ということ」
彼女の言葉を否定する材料がないため柊は嘆息を返す他になかった。
自分達が今ここにいる理由を鑑みればその意味は簡単に行き当たってしまうからだ。
このアルビオンでの勝利はもはや覆ることはない。ゆえに彼等の視線はその先――対トリステインを見据えているのだろう。
ゲルマニアとの同盟を阻止するために必要とされる、アンリエッタの手紙。
ものがものだけに王党派を攻め落としてその残骸から探し出すのは極めて不確かで効率が悪い。
よってあえて攻めることをせず、潜入なり何なりをやってどうにか入手しようと策を練っているといった所だろうか。
「そうなるとこっちとしても急がないといけねえんだけど……」
こちらには入手そのものに関してはアドバンテージがあるとはいえ、向こうは既に状況を構築して約一週間が経過している。
できる限り急いで王党派に接触するべきなのだろうが、柊が調べた限り彼等の尻尾すら見出すことができなかった。
期待交じりにタバサをちらりと見たが、やはりというべきか彼女も首を左右に振った。
「……陣中突破しかねえか」
ある意味依頼を受けた時点でほぼ唯一の方法ではあるのだが、正直情報を仕入れた今では更に気が進まない手法だ。
箒の機動性があれば戦陣を抜くことも追っ手を振り切ることもさほど難しい事ではない。
問題はそれによって自分達――外部の者が王党派に接触したことがレコン・キスタに知れてしまうという点である。
この状況でそんな事態が起こればその接触の意味は悟るに十分だろうし、そうなると下手をすれば敵の攻勢を招く恐れすらあるのだ。
「夜になって?」
「いや、飛ぶ時の魔力光は隠せねえから逆にバレる。もうちょっと経って夕陽に紛れて行くのが一番いいだろ。まあ遅かれ早かれってレベルだけどな……」
嘆息交じりに言って柊はベンチから立ち上がり噴水で軽く手を洗った後、タバサを振り返った。
見やれば彼女はベンチに座ったまま、僅かに表情を硬くしてじっと柊を見やっている。
――いや、正確には柊を見ているのではない。
柊の後ろにある噴水、その更に向こうにある露天の雑踏を見据えていた。
「どうした?」
「……」
柊が尋ねるとタバサは音もなく立ち上がり、その露天通りの方へと歩き出した。
付いて来い、とでも言う風に袖を引かれて柊も彼女の後に続く。
この大陸で起きている戦争ももはや終結に近いというだけに街の露天はさほど重たい空気はなく多くの街人達が賑わっていた。
中には傭兵然とした者達やフードを被り素性を隠している者も少なくない。
どうやらタバサはそんな素性の知れない何者かの後を追っているようだった。
尾行を始めて間もなくタバサが追っている相手がほぼ特定できた。
フードを目深に被って顔を隠し、ローブを着込んでいる人間。
その動きや所作からして、おそらく女。
先を行く彼女は向こうから歩いてきたガタイのいい傭兵と肩がぶつかり、僅かによろめく。
ぶつかった事にも気付かずに歩いていくその傭兵に、彼女は振り返りざまに睨みつけて小さく舌打ちした。
「……!」
その時に僅かに覗いた女の顔を垣間見て、柊はタバサが彼女を追っていた理由を理解した。
その女は眼鏡をかけていた。振り返るときにちらりと、翡翠色の髪が覗いた。
改めてみれば、確かにその動作には見覚えがある。
と、女は不意に脇道にそれて路地裏の方に入っていった。
「バレた」
「だな」
言って二人は頷きあい、歩を速めて路地裏へと足を踏み入れた。
路地裏の常というべきか、表の喧騒が別世界のように静まり返ったその道の奥。
待ち受けるように女がそこに立っていた。
彼女はかけていた眼鏡を外すと、猛禽のような鋭い視線を柊達に向け――
「あ?」
少し間の抜けた声を出した。
次いで彼女は見るからに動揺を露にし、信じられないものを見るような表情で口をぱくぱくさせた。
「な、なんでお前がここに……!」
「それはこっちの台詞だ。なんであんたがここにいるんだよ、ロングビル先生……いや、フーケって言った方がいいのか?」
深く息を吐きながら言った柊に、彼女――フーケは忌々しそうに顔を歪めた。
※ ※ ※
「……どうやら私を追ってきたって訳じゃなさそうだね」
「まあ別件でな」
柊達から一定の距離を保ったまま、壁に背を預けたフーケがそう言うと、柊は軽く頷いた。
柊が捕縛した後のフーケについて知っているのは、彼女を王都に連行する際に護衛の衛士隊が何者かに襲撃され、その犯人と共に逃走したという事くらいだ。
そのごたごたで上の方ではなにやら揉めたり手配書が国中に出回ったりしたらしいが、その後の音沙汰は全くないといってよかった。
まあこうしてフーケはアルビオンにいるのだからトリステインで音沙汰がないのも当然だろうが。
「……で、こっちに高飛びしてきて火事場泥棒でもやろうってのか?」
個人的に多少の縁があるとはいえ、一応彼女は逃亡中の犯罪者である。
とりあえず尋ねてみると、彼女は何故か顔を顰めて黙り込んでしまった。
柊とタバサが互いに顔を見合わせ、改めてフーケを見やると、彼女は肩を落として大きな溜息をつき、手を頬に軽く添える。
「……盗賊は廃業したよ。出頭するつもりはないけど、もうああいう仕事はやらない」
フーケは呟くようにそう漏らし、頬の手を離すと残滓を惜しむように指を擦った。
そんな彼女の様子をじっと見ていた柊が、確認するように口を開く。
「本当だな?」
「信じる信じないはそっちの勝手だよ。捕まえようってんなら抵抗するけどね」
ふんと鼻を鳴らしてフーケが返すと、柊はしばし何事かを考えるように腕を組んだ。
そして彼はフーケから踵を返し、その場から離れながら懐から何かを取り出す。
手の平大の小さな箱を指で弄くってから耳に寄せると、ややあって虚空に向かって話し始めた。
「ああ、俺だけど。今大丈夫か? ……あぁ、アルビオンには着いた。今サウスゴータってトコに来ててな、実は――」
誰を向いているでもないのにまるで会話をしているようにぼそぼそと話す柊を見て、フーケは訝しげに首を捻って脇に佇んでいたタバサに眼を向けた。
「アイツ、何をやってるんだ?」
「……知らない」
タバサにとっても柊の行動は謎だった。
柊の行動は少なくともハルケギニアの人間から見れば十中八九はちょっと残念な人に映っているだろう。
実際そのような視線を向けているフーケを他所に、柊は虚空に向かって喋り続けた。
そして彼はようやくといった感じで会話(?)を打ち切って二人を振り返ると、フーケの方へと歩み寄った。
「あんた、大丈夫? そっちのケがあったのかい?」
「そんなのねえよ。それよりな」
言いながら柊は手に持っていた何かフーケに手渡した。
意図が読めずに首を捻るばかりの彼女に、彼はそれを耳に充てるように促す。
訳のわからないまま指示通りに彼女がそれを耳にあてると――箱から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『――ロングビル先生?』
「っ!?」
フーケはぎょっと眼をむいて周囲を見回したが当然その声の少女――志宝エリスはこの場にいない。
声が聞こえてきた箱……0-Phoneを凝視して、次いで柊を見やると、彼はにやりとした笑みを浮かべて
「遠くの奴と話ができるマジックアイテム」
とだけ言った。
呆然とするフーケの手元で、再び呼びかけるエリスの声が小さく響く。
慌てて彼女は0-Phoneを耳に充て、にやにやとした笑みを浮かべる柊と興味深げに見やるタバサの二人から隠れるように背を向けて語りかけた。
「あ、ああ、大丈夫だよ。ちゃんと聞こえてる。……元気にしてたかい?」
『はい、私の方は。先生は大丈夫だったんですか? あれから、その……』
「こっちも問題はないよ。おかげさまで牢屋に入らずにすんだからね」
『……ごめんなさい、私……』
「なんであんたが謝るのさ。悪さをしでかしたのはこっちなんだから、あんたが謝ったり気に病んだりする必要なんてないんだよ。――うん、うん。ああ……」
それなりに付き合いがあり、捕縛以降は一切会話ができなかったこともあって話すことがあるのだろう、0-Phoneごしにエリスとフーケは語り合う。
そんな彼女の後姿を見ながら、柊はちらりとタバサに目を向けて囁いた。
「あの分だと本当に大丈夫みたいだな」
「……悪辣」
「エリスが気にかけてたのは本当なんだからいいだろ、これくらい」
ぼそりと呟いたタバサに柊は言い返してから表路地の方を指差し、頷いた彼女と共に裏路地を後にした。
※ ※ ※
フーケが路地裏から姿を現したのはそれからしばらく経ってのことだった。
適当に露天を見物していた柊とタバサを見つけた彼女は、やや肩を怒らせて二人の下へと歩み寄った。
フーケの接近に気付いた柊は開口一番、口の端を意地悪く歪めて言う。
「生徒に心配かけちゃいけねえな、センセイ?」
「……やってくれるじゃないか」
言われた彼女は屈辱と怒りがない交ぜになった顔で柊を睨みつけた後、手にしていた0-Phoneを乱暴に彼に向かって放り投げた。
慌ててそれを取る柊にフーケは言う。
「エリスのこと、気付いたかい?」
「エリス? あいつがどうかしたのか?」
「なんだかあんたと話したい事があるようだったよ。途中でご主人のあの子が横槍入れてきたけどね」
「……あー」
察しがついて柊は0-Phoneで額をかきつつ唸った。
置いてけぼりを食わされて怒り心頭のルイズ(と多分キュルケも)が手におえないのだろう。
柊は連絡を入れてみるかどうか少し迷ったが、ここはあえて放置することにした。
ここで下手に彼女を刺激するとややこしいことになりかねない。
……放置すれば放置したで後のややこしさが膨れ上がるだけというのもわかっているが、現行の状況を片付けるのを優先しておいた方がいい。
「喧嘩別れして傭兵にでもなったのかい?」
「いや、違う。ちょっと野暮用でな……」
尋ねてきたフーケに、柊は誤魔化すように手の中の0-Phoneを弄くりながら答える。
と、そこでフーケはようやくある事に気付いた。
柊が手に持っている奇妙な箱。
最初に渡された時はエリスの事で気が回らなかったが、改めてみればそれは彼女の知っているあるモノに似ているのだ。
大きさが全然違うのだが、作りや雰囲気などが酷似している。
「なんだよ。やらねえぞ」
フーケがまじまじと0-Phoneを見やっているのに気付いて、柊は眉を潜めて言った。
しかし彼女は顎に手を添えたままじっと柊を見つめていた。
雰囲気が違うことに気付いて柊が首を捻るのと、彼女がぽつりと声を漏らしたのはほぼ同時だった。
「……あんた、『チキュウ』って知ってる?」
「……!」
フーケから飛び出したその言葉に柊は肩を揺らし眼を見開く。
「……エリスから聞いたのか?」
「いや……って事は、知ってるんだね?」
フーケが重ねて尋ねると、柊は黙り込んで彼女を見やった。
そして少しの沈黙の後、嘆息して彼は答える。
「知ってるも何も。俺達が来たファー・ジ・アースってのがその『地球』だ。細かい説明は省くが、そういう事なんだよ」
二つの呼称の違いを説明するためには世界結界による常識・非常識の二重構造から説明しなければならないため、柊はとりあえずそう返した。
フーケはその返答を受けて眉を潜め、何事かを考え始めた。
ややあって彼女は柊に再び尋ねる。
「あんた達、時間はあいてるか?」
「悪い、纏まった時間は取れねえ。もうちょっとしたら出発するつもりだし……」
地球の事を切り出してきたのだから柊としては気になる所ではある。
ただ、今はアンリエッタから受けた依頼を片付けるのが筋というものだろう。
決行は夕刻だが、早めに出発して遠目からでも戦陣を確認しておきたいのだ。
「別件とか野暮用とか……あんた等、一体何しに来たのさ。このご時勢で観光って訳でもないんだろ?」
半ば呆れ顔でそんな事を呟いたフーケを見ながら柊は小さく苦笑を返すことしかできなかった。
確かに安穏としたトリステインから戦時下のアルビオンに飛び込んでくる理由など推測はできないだろう。
……王女殿下から密命を帯びてきている、など柊達自身からしても想像の埒外と言っていいくらいのものだ。
と、ここで今まで黙り込んでいたタバサが唐突に口を開いた。
「ニューカッスル城に行って王党派の人間と接触する」
「タバサ!?」
いきなりの発言とその内容に柊は驚いて彼女を見やった。
フーケは一瞬台詞の内容が理解しきれずぽかんとタバサを見つめ、はっとして周囲を見回した後改めて彼女を覗き込んだ。
タバサは二人の様子を意にも介さず、どこか冷めた視線を向けて言葉を継ぐ。
「城に潜入する方法か、それができそうな王党派側の人間に心当たりがあるなら教えてほしい。……『土くれ』のフーケ」
「……」
検めるようにその名を言うと、フーケは目を細めてタバサを睨みつけ――そして薄く笑った。
「なるほど。どうやらあんたは学院の馬鹿貴族共よりは賢いようだね」
「心臓に悪いな、おい……」
タバサの意図に気付いた柊が嘆息交じりに漏らし、二人を先程出てきた路地裏に促した。
流石にこれからの話はそれなりに人通りのある表路地ですべきではない。
再び人気のない路地裏に入り込むと、柊は表通りを監視するように入り口付近に陣取った後壁に背を預けた。
「で、実際心当たりはあるのか?」
タバサがフーケにあんな事を言ったのは盗賊としての彼女の『裏の筋』を見越しての事である。
二人もこの街に入ってそれなりに情報収集はしたが、所詮それは表に出回る程度のもの。
この国に来たばかりの柊達では込み入った『裏側』にまで踏み入ることができようはずもない。
トリステインで活動していたとはいえ貴族相手に盗賊をやっていた『土くれのフーケ』ならばそれなりに顔が通ってもおかしくはないだろう。
「教えてくれるならちゃんと払うもんは払うぞ……タバサが」
幾分申し訳なさそうに柊が言った。
柊はこの任務においてルイズがアルビオンに行く必要性は皆無だと判断して置いてきた訳だが、たった一つだけルイズが一緒にいる意味がある事を思い知った。
……柊は路銀を全く持っていなかったのである。
サウスゴータに到着していざ情報収集という段になってようやくその事実に気付き愕然としたが、それを賄ってくれたのがタバサだった。
服やデルフリンガー購入の代金に続いてタバサにまで負債を背負ってしまう羽目になった柊は、この任務が終わったら傭兵だの商隊の護衛だのをして金を稼ごうと心に決めたのだった。
それはともかく。
柊は探るようにフーケを見たが、彼女はさほど迷うでもなく軽く笑うと肩をすくめて見せた。
「確かにこっちの方にも通じちゃいるが、残念だけど心当たりはないよ。というか、今のこの情勢で王党派に付く裏の人間なんていないだろ。
むしろあんた達を貴族派に売る方が確実に稼げるよ。……あんた達みたいな半端者が一番のカモだってこと、覚えておくんだね」
「……肝に銘じます」
ぐうの音の出ない正論(?)に柊は思わず肩を落として呻いた。
切り出した当のタバサもこころなしかしゅんとしている。
どうやら彼女もこの手のやり方はさほど経験がなかったようだ。
そんな二人を見ていくらか気をよくしたのか、フーケはまるで教師が生徒を諭すように言葉を続ける。
「大体ねえ、ちゃんと下調べすればいちいち聞くまでもなく無理なのはわかりきってるだろう。
ニューカッスル城といえば岬の袋小路、平地の城と違って陸路が限定されるから貴族派も封鎖しやすいし、空からは侵入するのが丸わかりだ。強行突破ならまだしも潜入なんて――」
と、そこまで言ってフーケは不意に口を噤んだ。
まるで時間を止めたように固まってしまった彼女に、柊とタバサはお互いに顔を見合わせた。
ややあってフーケは顔を傾け、何事かを考えるかのような仕草を見せた後タバサに眼を向けた。
「……あんた、確か風竜を召喚した生徒だったね? てことは、その風竜でここに来たのかい?」
「まあ似たようなもんだけど……」
箒の事を言うまでもないと柊が先んじてそう答えると、再びフーケは今までになく思案顔で眼をそらした。
口の中で何事かを呟き、小さく頭を振って――そして眼を細めて言った。
「……あるよ。ニューカッスル城に潜入するルート。おそらく、貴族派の連中は知らない」
「本当か?」
思わず身を乗り出して尋ねる柊に、フーケははっきりと頷いた。
「ああ。その子の持ってる風竜の能力次第だがね」
「それなら問題ない」
逡巡することもなくタバサは即答した。
もしシルフィードがそれを聞いていたら狂喜乱舞していただろう。
「頼む、そのルートを教えてくれ。見返りが必要ならちゃんと用意する」
「……金は要らない。その代わり、あたしも一緒に行く。……もっとも、聞いただけじゃ行けないだろうから道案内は必要だろうがね」
「いいのかよ。戦場のど真ん中だぞ」
意外といえば意外な彼女の提案に柊は眉を潜めて尋ねる。
すると彼女は僅かに顔を傾け――薄く嗤った。
「……いいよ」
冷笑でも嘲笑でもない、どこか歪な笑み。
今まで見たことがないフーケの表情に柊は表情を険しくし……そしてタバサは息を呑んだ。
何故かはわからないが、彼女のその顔を見た瞬間に激しく心臓を突き動かされたような気がしたのだ。
「……お前」
「今出ると着くのは夜になるからまずい。だから出発は明日陽が昇ってからだ」
問い質そうとした柊を拒絶するかのようにフーケは踵を返して表路地の方へと歩き出す。
先程の表情に関して答えてくれそうな気配はなかったので、柊は軽く息を吐いて彼女に言った。
「白昼堂々忍び込むのかよ」
「あたしも知ってるだけで行ったことはないからね。聞いた通りの場所なら明るい方がいいはずだ」
行ってフーケは背中越しに柊を振り返り――顔は既に元の彼女に戻っていた――更に続ける。
「これで時間が空いたろ。ついでだからさっきの続きだよヒイラギ。
――あんたに会わせたい奴がいる」
※ ※ ※
――ほんの少しだけ時間は遡る。
フーケ……ロングビルとの会話を終わらせたエリスは安堵した表情を浮かべて0-Phoneを胸に抱いた。
余韻を少しばかり堪能した後彼女は一つ深呼吸して振り返る。
その視線の先にはほんの少し表情を険しくしたルイズが待ち受けていた。
「話は終わったの?」
「……はい」
エリスが答えるとルイズはそう、とだけ言って手を差し出す。
有無を言わせぬといった彼女の態度にエリスは僅かに逡巡しながらも、持っていた0-Phoneを手渡した。
「旅が終わるまでこれは没収ね。持たせてるといつアイツと連絡を取るか知れたもんじゃないもの」
「……」
口に出して反論はしないものの不満そうな表情を垣間見せるエリスを、しかしルイズはあえて無視して踵を返した。
二人は連れ立って近くにある大振りな木へと歩を進めた。
その木陰にいるのは見るからに立派な幻獣――グリフォンと、一人の男。
ルイズ達が戻ってきたことに気付いたグリフォンが首をもたげると、男もまた二人を振り返って口を開いた。
「話は終わったかい?」
「ええ、お待たせしてごめんなさい」
「構わないよ。ラ・ローシェルまで中ごろといった所だし、休憩には丁度いいだろう」
男が闊達と笑うと、ルイズは少し気恥ずかしげに頬を染めた。
しかしエリスの表情は優れない。
何故なら彼女は、この男の事が苦手だった。
彼の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。
貴族達の憧れであり戦場の華たる魔法衛士隊、その中の一つグリフォン隊の隊長を勤めており――ルイズの婚約者だという。
なるほど確かに彼は肩書きに相応しい威厳があり、その割には気さくで(ハルケギニアの見地では)平民であるエリスに対してもそこまで威圧的ではない。
要するに好人物であり、悪い印象はほとんどと言っていいほどなかった。
……だが、それでもエリスはワルドの事は苦手だった。
そんな彼女の心境を知ってか知らずか、ワルドは興味深そうにエリス見やって口を開く。
「しかし、便利なマジックアイテムを持っているものだね。アル・ロバ・カリイエでは平民でもそのようなものを持っているのか?」
「はい……いえ、ほとんど持っていないんじゃないかと……」
少なくともアル・ロバ・カリイエにこれを持っている人間は存在しないだろう。
エリスがややぎこちなく答えるとワルドはふむ、と頷いてからエリスを観察するように眺めやると、軽く頭を振った。
「まあよいか……それで、その彼等はどこにいると?」
「アルビオンのサウスゴータっていう街だそうです」
するとワルドに僅かばかりの驚きが混ざる。
彼は顎に手を添えながら、思案顔で呟くように漏らした。
「深夜に出発してサウスゴータ? 連れ合いの風竜は随分と優秀なのだな……軍の成竜でもそこまで速くはない」
一概に比較できる訳ではないが、とワルドが言うと、ルイズがどこか焦ったように口を開いた。
「だったら急いで行かないと。下手に陣中突破なんて企まれたら捕まえられないわ」
「そうだな。では出発するとしよう」
言ってワルドが促し、ルイズは彼の手を借りて地に伏せたグリフォンの背中に跨る。
次いで彼はエリスにも手を差し出したが、彼女はその場に立ち止まったままおずおずと語りかけた。
「あの……本当にアルビオンに行くんですか?」
夜が明けて出発予定の時間になった折、学院の前で柊とタバサの二人が既にアルビオンへ向かった事を知らされたルイズとキュルケは予想通りというべきか、激しく怒り狂った。
朝もやに向けてさんざっぱら悪態をつきまくった挙句やはり予想通りに追いかけようという方向性になりかけもした。
が、相手が風竜(とキュルケは思っている)ではいくら行き先がわかっていたとしても無謀な追跡でしかない。
柊に後詰を任されたエリスは全力で二人を説得し、どうにかこうにか『帰ってきたらツケを払わせる』という形で収めたのである。
……少なくともルイズとキュルケの二人を相手にこの形で収めたのは大成功というべきだろう。
キュルケは「まさかあの子が人の恋人を寝取るだなんて!」などとのたまいながら憤懣やる方なく学院へと戻って行ったが、ルイズはその後も学院の入口でアルビオンの方角を睨み続けていた。
そこに現れたのがグリフォンに乗ったワルドなのである。
お互いに紹介を――彼がルイズの婚約者である事も含めて――終えた後エリスが柊達の事を伝えると、ワルドは驚いた表情を浮かべながらもややあってルイズに告げた。
「王女殿下より任務を賜った以上、おめおめと帰る訳には行かない。僕は彼等を追ってアルビオンに行くが……キミはどうする?」
ルイズの返答は今更語るほどの事ではなかった。
ワルドは彼女の答えを待ち望んでいたかのように快く受け入れ、自ら手を引いてルイズをグリフォンへと乗り込ませた。
エリスは最後まで躊躇したが、二人の乗ったグリフォンが空へと飛び上がろうとした段になって半ば反射的に自分も同行すると言ったのである。
もはやルイズを止めることなどできないだろうし、一緒に行って自分が何かできると思った訳でもない。
ただ単純に、放っておけなかっただけだった。
エリスの言葉を聞いた騎上のルイズは憤懣も露にしてエリスに向かって言った。
「当たり前よ。姫様から賜った重大な密命をあいつらだけに任せておくなんてできないわ」
「で、でも、実際もうアルビオンまで行ってるんだし、ちゃんとやれてるじゃないですか」
「……それは」
ルイズは思わず口ごもってしまった。
しかしそれはエリスに説き伏せられたのではなく、自分の言いたい事が上手く伝えられないからだ。
そもそもエリスは根本的に彼女の心情を履き違えている。
ヒイラギならそれなりに上手く立ち回って任務を果たす事もできるかもしれない。
それはエリスに言われずともルイズはちゃんと理解していた。
だが彼女がアルビオンへと行きたいのはそういう事ではないのだ。
それを伝えられないまま――そしてその帰結として当然のように、エリスは意気込んでルイズに訴えた。
「それに親書も指輪も柊先輩が持ってるんだし、今更追いかけたってきっと間に合いません。ルイズさんが行く意味なんて――」
「それは違うな、ミス・シホウ」
そこで割って入ったのは今まで二人のやりとりを黙ってみていたワルドだった。
闖入に思わず身を硬くしたエリスに、彼はあえて態度は軟化させず彼女に向かって言う。
「意味、というならルイズが行く事そのものに意味があるのだよ。
なるほど確かにヒイラギとやらの採ったやり方は効率的だろう。彼はそれなりに優秀な傭兵なのかもしれん。
だが我々は傭兵ではない、『貴族』なのだ。密命とはいえ王女殿下より賜った大任、なればこそ相応しき者が果たさねばならぬ。
古来より我等貴族はそうやって国と王に報い、己が身と家名に名誉と誇りを刻み続けてきたのだよ」
「ワルド……」
彼の言葉にルイズは感じ入ると同時、胸のつかえが下りたような気がした。
彼が語ったとおり、これは単純に依頼された事を果たせばいいという類のものではないのだ。
アンリエッタより願いを託された事に意味があり、託された自分が赴くことに意味がある。
王宮にいる他の誰でもなく、自分を頼ってきてくれた事にルイズはささやかな誇りを感じていたのだ。
しかし目の前のエリスにはそれを理解されず、柊に至ってはあろうことか部外者と共に任務を掻っ攫っていった。
ルイズはそれに憤りと失望を感じると同時、やはり彼女等は自分とは違う『平民』であると再認識してしまう。
自分の気持ちを代弁してくれた同じ『貴族』であるワルドの背がどこか頼もしく見えた。
「……」
一方のエリスは、それ以上何も言い返す事ができなくなってしまった。
ただ、不満の表情は顔に出ていてしまったのだろう、それを見たワルドが小さく溜息をつくと諭すように言った。
「それが貴族というものなのだよ。平民のキミにはわからないだろうがね」
その台詞を耳にいれ、エリスの肩が僅かに揺れた。
――エリスがワルドを苦手な理由は、まさにこの一点といってもよかった。
今の台詞にしても別に彼は平民を殊更卑下した風に言った訳ではない。
逆に貴族である事を意気高々にひけらかしている風でもなかった。
しかし彼は『平民と貴族が別種の存在である』という厳然な認識を持っていて、それを揺ぎ無いほどに体現しているのだ。
彼のような人物が貴族というものであるのなら、普段学院で見ている生徒達も長ずれば彼のようになるのだろうか――ルイズもまた。
それは違う、と否定するほどエリスはこの世界の貴族を理解できていない。
だから貴族とはそういうものだ、と言われればエリスは何もいう事が出来なくなってしまう。
いっそ厨房で働いているコック長のマルトーのように『いけすかない奴等だ』と嫌ってしまえれば楽だったのだろうが、彼女は簡単に割り切ることができなかった。
……だからエリスはワルドが好きでも嫌いでもなく、単純にどうしていいかわからないぐらい『苦手』なのだ。
「そんなに行きたくないんだったら、あんただけ学院に帰ってもいいのよ。ここから歩いて帰すのは酷だからラ・ローシェルまでは一緒に行って、後は馬車でも手配してあげるわ」
渋るエリスに焦れてきたのか、グリフォンの上のルイズが肩を怒らせて声を投げかけた。
エリスは少し迷った後、顔を俯かせて返答する。
「……いえ、行きます」
「では行こうか」
恭しく差し出されたワルドの手を半瞬逡巡してから取り、それに助けを借りてグリフォンの同乗する。
最後にワルドがグリフォンに跨り、三人を乗せた幻獣は翼を翻して空へと飛び上がった。
流れていく眼下の景色を見やりながら、エリスはルイズにせめてもの提案を持ちかける。
「……せめて柊先輩に連絡をとりませんか? 目的は同じなんだから合流した方が――」
「それはダメ。あいつのことだから、きっとなんだかんだと難癖つけて反対するに決まってるもの。下手したら逃げるかもしれないわ」
「そんなこと……」
「そんなことあるわよ! アイツからすればわたしは足手まといなんだから!」
語気を荒らげてルイズがエリスを振り返ると、グリフォンがぐらりと揺れた。
箒で落ちかけたことを思い出してルイズが身を強張らせると、脇からワルドが腕を添えて彼女を支えグリフォンの体勢を整える。
「すまない。だが、三人乗った上であまり動かれると流石に危ない……速度も結構出しているしね」
「ご、ごめんなさい……」
「すみません……」
しゅんとなって謝る二人を見やるとワルドはに軽く笑った。
「この旅の主導はルイズなのだから、彼女の良いようにするといい。
確かに合流した方が安全ではあるが、何、一人二人守り抜くだけの力は持っているよ。伊達で魔法衛士隊隊長の肩書きを戴いている訳ではないからな」
柊から無碍に置き去りにされた後だけにルイズは一層頼もしそうにワルドを見やって深く頷き、そしてエリスは逆にいっそ困惑といってもいい程の表情を浮かべて顔を俯けてしまった。
とりあえず事態が収拾した事にワルドは一つ頷くと、手綱を引いてグリフォンの速度を増した。
勢いを増した風切りに彼は片手で器用に帽子を深く被る。
帽子の鍔で目元を隠すと、ワルドは小さく囁いた。
「……サウスゴータ、か」
呟きは傍にいる二人に届く事すらなく、風に掠れて消えていった。
今回は以上。
GM:じゃあ情報収集という事で知力でジャッジしようか
柊:やっぱ知力か(ダイスを振る)……ってファンブル!?(一同爆笑)
えー、よくわかんなかったので広場のベンチで頭を抱えつつ鳩に餌とかやってます……(笑)
柊はダイスさえ関わらなければクレバーなんです!(中の人補正)
まあともかく、オリジナルルートと(ほぼ)テンプレルートに分かれましたがやはり別行動は文量が増えます。
そしてルイズが色々すれ違い。根本的に思考がスレ違いというか
マチルダさん関連についてはまた次回、ということで続きます
>>8 一人陣形にくそ噴いた(w`
この発想は無かった
あれ?前スレの283で元に戻ったから、
そのまま今回のスレ番号は284なんじゃないの?
ということはpart285(実質284)という扱いかな。
ほんとgdgdだな
偏在と暗黒妖籠陣って似てるよな
しかも陣形がワールウィンドww
>ワールウィンド
ああ、フォーゲルシュメーラになぶり殺しにされた雑魚か
「そらおと」のイカロス。すいかなでなで。
こんばんは。
進路クリアなら21:50ごろより第40話 過去編そのさんを投下します。
事前支援
それではいきます。
「あなた……日本人ね」
そう言って微笑むあかぎに、武雄は信じられないものを見るような顔をした。
「まさか、君……いや、あなたは……」
武雄はあかぎと面識はない。開戦前から聯合艦隊司令長官の副官を
務めていたあかぎと、開戦後に少尉任官してラバウルに進出した武雄では、
接点がなかった。しかし、彼女のことを知らない帝国海軍軍人はいない。
それだけではない。公式には事実を偽りミッドウェイ海戦で重傷を負い
戦線を離脱したとされているが、鋼の乙女であるということは防諜上の
理由で日米開戦まで伏せられて(そのために日本最初の鋼の乙女は制式
採用前に日華事変に参加した零式艦上戦闘機・レイだと思われていた)
いても、優秀な能力と同性ですらうらやむ美貌とスタイルを兼ね備えた
彼女の名は、報道機関などを通じて日本中が知るところだったからだ。
「……何をしている、タケオ?」
外の様子がおかしいことに気づいたルーリーが庵から出てくる。
その顔を見て、あかぎは驚きを隠しきれなかった。
それは――自分を沈めた鋼の乙女を、あり得ないが大人にしたら
そうなるという姿だった。眼鏡をかけていないなどの差異こそあれど、
その風貌は別人というにはあまりにも似すぎていた。
それでも、あかぎはその驚きを瞬時に押し込める。そして、努めて
意識して笑みを作ると、こう言った。
「そちらはあなたの奥さんかしら?」
「え?あ?……い、いや……違う」
「な……。お、お前は誰だ!?」
赤面して歯切れも悪く否定する武雄と、同じく赤面してあかぎに誰何する
ルーリー。その不器用な二人の反応を、あかぎはほほえましく思う。
一方で、ルーリーは初対面のあかぎの風体を異質なものと見ていた。
ハルケギニアにはほとんどいないつややかで黒く長い髪と黄色い肌。
紺色のインナーの上に前あわせの白い異国の服に丈の短い朱色のキュロット
スカート。スカートの丈が短いのは足に白いニーソックスを履いて
さらに鈍く光る脚甲を装着しているためだろうと彼女は考えた。
それに、何より目立つのは右肩だけの塔のような肩当てと、両腕を覆い
隠す巨大な盾。そのどれもが異質で、ルーリーに警戒心を抱かせた。
そんな二人を前に、あかぎは警戒心を解きほぐすかのように柔らかい
笑みを向ける。
「私は大日本帝国の鋼の乙女、あかぎ。こんな夜にごめんなさいね」
「ああ、知っている。あなたは有名だからな。俺はラバウルの第一五一
海軍航空隊所属、佐々木武雄少尉。彼女は俺たちの帰還のために協力して
もらっている、ルーリー・エンタープライズさんだ」
「アルビオン王国の貴族、エンタープライズ家のルーリーだ。タケオ、
彼女を知っているのか?」
「ああ。大日本帝国海軍聯合艦隊司令長官の副官だ。
二年前のミッドウェイ海戦で重傷を負った……いや、噂では壊滅した
南雲機動部隊とともにミッドウェイの海に沈んだと聞いていた」
「なんだって!?」
武雄の言葉に驚くルーリー。その驚きは目の前の女がそんな高官だとは
思えなかったことと、そんな噂が流れたほどの傷を負ったようには
見えなかったからだ。
一方、あかぎも二人、特にルーリーを見て、こんな偶然もあるのね、と
心の中でつぶやく。容姿だけでなく名前までも似ている。そして、あかぎは
武雄の言葉を聞き逃さなかった。
「二年……私が目覚めるまでそんなに経っちゃってたのね。それとも、
ここに召喚されるときに時間がずれちゃったのかしら。どちらにしても、
私がここに来たことは間違いなかったみたい」
あかぎはそう言うと、懐から白い布で包まれた白木の箱を取り出す。
どこにそんなものが入っていたのかとルーリーは思ったが、日本人である
武雄にはその包みが意味するものが容易に想像できた。
「まさか……」
震える指で包みを指さす武雄に、あかぎは無言で頷いた。
「水島一郎整備兵長よ。この名前に聞き覚えはあるかしら?」
「な……。おい、タケオ、どういうことだ?あれはイチローだって!?」
風習の違いが理解できずに武雄に問いかけるルーリー。武雄はそれに
答えず背を向けると、ぽつりと言った。
「……中で話そう。ここはもう寒い」
そう言って庵に戻る武雄。その後をルーリーが慌てて追いかける。
あかぎは二人の足跡をなぞるように、静かに歩き出す。改めて庵の横に
安置された複座零戦を見て、あかぎは一瞬複雑な顔を見せた。
「……なるほどね。そういうことだったの」
ランプに照らされた庵の中。三人もいればその狭さが際立つ。
あかぎが武雄に水島整備兵長を看取ったときのことを話し、武雄が
あかぎに自分たちがここに来たときのことを話した後で、あかぎは微妙な
顔をする。ルーリーにしても武雄たちがそんな理由で飛び立ったことを
初めて聞いてどう言っていいのか分からない状態だ。
「日米開戦前から、私は精神論の空砲じゃ敵は倒せないって言い続けて
きたけれど、とうとうそんなことになっちゃってたのね。
内南洋を失った時点でもう勝てないっていうことは理解できていた
でしょうけど、開戦と同じで面目にこだわっちゃったのね。うちの司令官、
いいえ、お上はどう思われていたでしょうね……」
北九州空襲がよほどショックだったのか、上層部が鋼の乙女を帝都に
近い木更津基地に集めてレイテ決戦への投入を渋ったと言うことは、
おそらく決戦には敗北しただろうとあかぎは想像する。その上特攻などとは……
自分が仕えていた司令官の苦悩が見えるようだ。あの司令官は普段は
おちゃらけているが、部下のことを何よりも大事にする。彼の心境を
慮ると、あかぎの表情は知らず複雑になった。
「それは上が考えることで、俺たちにできることは一機でも多く敵機を
墜とし、一隻でも多く敵艦を沈めることだけだ。だからどうしても帰還する
必要がある」
武雄にしても、一介の少尉にできることを口にするしかない。
あかぎほどの立場にはいないのだ。
だが、武雄の言葉に対するあかぎの返事は、彼の希望を打ち砕くには
十分だものだった。
「そのめどは立っているのかしら?佐々木少尉、私には水島整備兵長が
絶望した理由も分かるわ。
だって、私たちが召喚されたあの場所をエルフたちは『悪魔の門』って
呼んでいるけれど、あそこに戻っても元の世界には帰れないもの」
「なんだって!?それはどういう意味だ!?」
武雄は立ち上がってあかぎの両肩を掴む。鋼の乙女であるあかぎは
その程度の力では揺らぐこともなく、武雄をまっすぐに見つめ、彼に
冷徹な最後の一言を突きつける。
「私はエルフの国『ネフテス』で少しだけどそのあたりの事情を聞いたわ。
『悪魔の門』、人間は『聖地』と呼んでいる場所は、一方通行なの。
つまり、私たちの世界から聖者アヌビスの武器、彼らは『アヌビスの長槍』と
呼び、人間は『場違いな工芸品』と呼ぶ武器、いいえ、兵器って言った方が
いいかしら。とにかくそれらを召喚するためだけの場所。
要するに、あなたたちは、外にある零戦のおまけでこっちに連れて
こられただけなのよ。私と違ってね」
「なんて……こった……」
あかぎの言葉に、武雄はがっくりと膝をつく。そこにルーリーが寄り添い、
あかぎに言う。
「私には今の言葉の半分も理解できないが……要するに、あなたはエルフと
対話したということか?そこで事情を聞いたと?」
相手が武雄の国の高官だと聞いてルーリーの言葉遣いもそれなりに
敬意を払ったものになる。だが、それだけの話を聞ける相手と言えば、
ルーリーにはエルフの王しか思いつかなかった。
支援
(あのエルフの、しかも王と同じテーブルにつこうとすると、いったい
目の前の女はどれだけのエルフと対峙したんだ?たった一人で!)
ルーリーの視線に恐怖にも似た畏怖が混じることに気づいたあかぎは、
それを解きほぐそうとするように柔らかく微笑んでみせる。
「私はこのハルケギニアの人たちがどういう風にエルフたちを見ているか、
それは話を聞いただけでしかないわ。でも、ネフテスの統領様も、
あのネフテスの国に暮らすエルフたちも、あなたたちハルケギニアの
人たちから聞いたような、得体の知れない『敵』では決してない。
それだけは自信を持って言えるわ」
「統領様、か。私はエルフの王をそう呼ぶとは聞いたこともなかった。
いったいどんな魔法を使えばそんなことになる?」
「私は魔法なんて使えないわよ。私が目覚めた後、任務行動をしていた
ファーリスのシャジャルちゃんたちとお話しする前にちょっと小競り合いが
あって、その後で彼女たちの国の首都アディールまで連れて行って
もらっただけ。統領様から事情を聞いた後は、贈り物をしてここに
来るまでの水と食料を分けてもらったのよ」
「『ファーリス』?」
「彼女たちの国の称号で、『騎士』を意味するそうよ。こっちでは何が
近いかしら」
「それならば『シュヴァリエ』だな。それで、いったい何人殺せば向こうは
テーブルについてくれたんだ?」
長年の闘争の歴史が、ルーリーの言葉に見える。話していないこと
こそあれ、あかぎの言葉に嘘はないが、それを簡単に信じられるほど、
ハルケギニアの人間とエルフの歴史は甘いものではなかったのだ。
だが、あかぎの言葉は、ルーリーの予想を覆すものだ。
「一人も殺していないわよ。ちょっとちくっとしたくらいかしらね?」
「でまかせだ!あのエルフ相手に、一人も殺さずそんなことができるはずが……」
「殺そうと思えばできたわね。主砲を使うまでもなく、対空砲だけで
人間なんて消し飛んじゃうから」
そう言ってあかぎは左手の盾――飛行甲板――に装備された放列を
見せる。その顔には、さっきまでの笑みはない。
「私はこの地の歴史はよく知らないけれど、それでも、人間も、エルフも、
何一つかけがえのない大切な命だと思うわ。だからできれば傷つけたく
なかったけれど、落ち着いて話を聞いてもらえる状況じゃなかったから、
しかたなく無力化させてもらったの」
あかぎはその豊かな胸に手を当てて、そう言った。その言葉で少し
落ち着きを取り戻せたルーリーは、裏切られたという視線で武雄を見る。
武雄はその視線をまっすぐに受け止めた。
「……私に東方から来たと言ったことは、嘘だったんだな」
「嘘は言っていない。ラバウル基地からレイテを目指して海上を飛行中に
奇妙な魔法陣にぶつかり、気がついたら砂漠を飛んでいた。だから地図を
見せられたときに砂漠を指した。
別の世界かもしれないと思ったのは、空に浮かぶ月を見たときだ。
それを告げなかったことについては謝る」
「私も気がついたら砂漠に横たわっていたわ。海に沈んだはずだったのにね」
「それじゃあ何か?あのサハラの向こう側は異世界だっていうのか?
それを信じろと?」
ルーリーは混乱していた。無理もない。信じろと言われて即座に
信じられるはずもない。では二人が共謀して嘘をついているのか?
ありえない。少なくとも、自分は武雄とずっと一緒だった。あかぎが
来たのはついさっき。それでも、二人は同じ黒い髪と黄色い肌。
同じ国から来たという言葉に嘘はないだろう。ルーリーはおぼつかない
足取りで土間の水桶から水をすくうと、一息で飲み干した。
「……東方へ帰ることだって難しいのに、異世界なんて……そんな話、
今まで聞いたこともないぞ。『ガショリン』の生成の端緒もつかめないのに……
『土』のトライアングルだって胸を張って生きてきたのが、自信をなくしそうだ」
「航空用ガソリンの精製には石油が必要よ。それか、難しいけど松根油か
石炭ね。傘松の樹だったらネフテスの国の国境線で見たから、統領様に
事情を話したら古い切り株から油を取ることを許してもらえるかもしれないわね」
「作り方を知っているのか!?」
驚いてあかぎを見るルーリー。そんな彼女にあかぎは静かに告げる。
「ええ。でも、私は知っているだけ。実際に精製するには機材も設備も
何もかも足りないわ」
「素材が分かっただけでも大きな前進だ。石炭なら製鉄で使うから私なら
入手可能だ。『ショウコンユ』……今の話からすると松の根の油か?
『セキユ』は……もしかして砂漠や沼地でまれに見つかる『黒い泉』のことか?
とにかくそれさえ手に入れば『錬金』で何とかなるかもしれない」
根っからの研究者肌なのか、それまでとは一変してやる気に満ちる
ルーリー。そんな彼女に、武雄は申し訳なさそうに声をかける。
「……いいのか?今の話を聞いても、それでもやってくれるのか?」
「何を言っている。私は約束は守る。とにかくあの『竜の羽衣』が
飛べなければ話にならないだろう?別の世界への道があるかあるか
どうかなんて、ここの領主や……まぁ気は進まないがエルフの知恵を
借りるとか、とにかく古い伝承を当たってみれば手がかりがつかめるかも
しれないだろう?召喚ができるなら送還もできないとおかしいんだ」
今更何を言うか、という顔で武雄に向かい合うルーリー。この三人の
中で唯一のハルケギニアの人間で、しかもメイジだけあってか、二人が
気づかない点を指摘する。やる気にあふれるルーリーの顔を見て、武雄も
表情を引き締めた。
「そうだな。やってみる価値はあるな。水島整備兵長が死んだ今、
うまくいけばあのゼロ戦であなたも帰れる」
そう言ってあかぎを見る武雄。それに対してあかぎは不満をあらわにした。
「『あなた』、なんて他人行儀ね。確かに帝国海軍だと私の方が階級が
上だけど、ここじゃそんなもの何の意味もないわ。だから私のことは
あかぎって呼んでちょうだい。私も、あなたたちのことを武雄さんと
ルリちゃんって呼ぶから〜」
「は?」
「な……なんだその呼び方は!?」
あかぎの提案に間の抜けた声を出してしまった武雄と、いきなりのことに
怒り出すルーリー。そんな二人を前にあかぎは茶目っ気のある笑みを向けた。
「あらいいじゃない。私は、お友達には他人行儀にしたくないのよ〜」
「お、お友達……なあ、タケオ、この人は前からこんななのか?
いや、これがお前の国の海軍実戦部隊のナンバー2か?!」
「いや……俺に言われてもな……酒保でブロマイドが売られてるほどの
有名人だったけど、実際に会ったことなんてないし」
こめかみを押さえるルーリーと、困惑する武雄。結局、二人はあかぎの
押しの強さに負けてしまい、そう呼ぶことを承諾してしまうことになって
しまうのだった……
「……お前はここで機体を守ってくれ。絶対に帰る方法を探して戻ってくる」
出発の日、武雄は水島整備兵長の遺骨が入った白木の箱を複座零戦の
操縦席後席に置いた。前席には自分の飛行服を畳んで置いてある。
今回の旅は長丁場だ。動けない複座零戦を持って行くことはできず、
また帰還のために必要なこの機体を放置することもできないため、機体の
周囲を土で覆い魔法で手出しができないようにしてもらうことにした。
風防を閉め、名残を振り切るように機体から離れる武雄。だが彼は迷いを
振り切ると、彼を待つ二人の元に歩き出す。
「やってくれ」
ルーリーは頷くと、『錬金』、その中でも『クリエイト・ゴーレム』と
呼ばれるゴーレム生成のための魔法を唱える。本来はその名の通り土から
ゴーレムを作成する魔法なのだが、今回は使い方を変え、複座零戦に
覆い被さるようにした状態で、さらに『錬金』、そして『固定化』をかける。
小山のような土団子がちょうど複座零戦に触れない程度で鉄に変わり、
『固定化』の影響で錆びることもなく、魔法が解除されるまで機体を
守り続けるようになった。
「便利ね〜」
「このくらい朝飯前だ。少なくとも、盗賊程度に解除されることはないだろう。
トライアングルクラスの盗賊でもいれば別だが」
目を丸くするあかぎに、ちょっとだけ気をよくしたルーリー。二人を
横に見ながら、武雄は旅の荷物を詰めた背嚢を背負い、腰に佩いた軍刀と
拳銃を確かめる。武雄の服や背嚢、荷物は村で調達したものだ。さすがに
飛行服では目立ちすぎる。その点で言えばあかぎの格好など目立つ以外の
なにものでもないが、戦艦の主砲の直撃にも耐えるほどの防御面でこれに
勝るものがないため、傍目には奇妙な三人組と言えた。
「さて、行くか」
庵の扉に鍵をかけ、武雄が言う。まずは領主に会い、それでもダメなら
エルフの国ネフテスへ――長い旅になりそうだ、と武雄は気を引き締めた。
支援
それからの旅は、今思い出しても楽しかったわ――あかぎはふがくたちに
そう語った。
最初に向かったタルブ領主アストン伯のところでは何の収穫もなかった
けれど、これはこちらの素性を明かさなかったから仕方のないこと。
川岸の村でボートを手配し、あかぎが引っ張っていくかたちで川を上って
ゲルマニアからガリアの国境を行く。そこまで何度か亜人などに襲われたが、
三人の連携の前にはそれらは障害とはなり得なかった。
そうしてサハラへ向かう最後の宿としてアーハンブラの城下町に旅装を解く。
エルフとの国境、最前線のはずが、長い休戦状態のためか、町そのものに
緊張感は薄かった。
「やっとここまで来たわね〜」
宿に荷物を置き、一階の食堂でテーブルを囲む三人。ここまで二週間の間、
ほとんどの行程をあかぎがボートを引っ張ったため、武雄たちの消耗は
少ない。馬を借りて陸路という案もあったが、川を上った方が魔物に
出会う確率が非常に低かったのだ。
「まぁ、途中寄り道しながらだったがな。翼人……だっけ?あかぎが
ほっとけなかったからな」
「こっちはひやひやしていたんだぞ。亜人の中でも翼人はエルフと同じく
先住魔法を使う。しかも相手の領域の中だ。戦闘になったら不利なんて
ものじゃない」
「いいじゃない。私は最初から戦闘になるなんて考えてなかったわよ。
私たちは怪我してはぐれた子供を送っていっただけだし〜」
「はぁ……お前は本当に変わらないな。この二週間でよく分かった」
にこにこと笑うあかぎにルーリーが溜息をつく。『黒い森』の中での
出来事だが、武雄やルーリーに影響を及ぼさないように出力を弱めた
あかぎの電探が捉えた不明な存在に、ルーリーが止めるのも聞かずボートを
岸に着けて探しに行ってしまったのだ。最終的には誤解も解けて感謝されたとは
いえ、そうでなければ子供を奪われたと勘違いした翼人たちとの戦闘が
発生していた可能性があったのだ。
「だが、あかぎ。本当に疲れていないのか?水路を選んだのも驚いたが、
私たち二人が乗ったボートをずっと曳きっぱなしだったんだぞ?」
「別にたいしたことじゃないわ。私は空母型鋼の乙女よ。地面を走るより
水の上を走った方が楽なの。むしろこれから砂漠を歩く方が厳しいかも」
「確かにな。砂漠の近くだからってラクダを売ってるわけでもなさそう
だったしな」
「ラクダ?なんだそれは」
聞き覚えのない単語にルーリーが聞き返す。その反応に、武雄とあかぎは
「なるほどね」と二人同時に頷いた。
「……その反応からすると、こっちにはラクダはいないようだな」
「そうね。『東方』からこっちに来る行商人がどうやって荷物を運んでるのか、
逆に興味がわくわ。やっぱり馬かしら?」
「…………。その言い方でよく分かった。要するに、お前たちの国には、
馬よりも砂漠に適した生き物がいる、ということだな。もっとも、私も
実際にサハラで行商人に出会ったことなどないしな。そもそもサハラに
まともに足を踏み入れるのもこれが初めてだ」
「へえ。あんたたち、サハラに行くのか?」
やや憮然とした顔になるルーリー。そこに声がかかる。
見ると、いかつい傭兵風の男が、ワインのジョッキ片手に立っている。
荷物を降ろしたとはいえ得物は手放していないあかぎたち三人に話しかける
人間はいなかったが、目の前の男は酔っているのか、それとも儲け話に
なりそうだと思ったのか。もしかするとタイプは違えど美人の範疇に
入る女二人を連れた組み合わせに良からぬことを考えたのか。
そんな男を前に、あかぎは極上の笑みで迎え撃った。
「ええ。捜し物があるの」
「『場違いな工芸品』かい?サハラは危険だぜ?エルフに出会ったりしたら
一巻の終わりだ。そっちのにいちゃんの剣、作りは良さそうだが細くて
頼りねえ。どうだ?俺たちを雇わねえか?俺たちは『東方』の行商人の
護衛もしたことがある。腕は確かだぜ」
そう言って、男は親指で奥のテーブルを指さす。そこにはメイジらしい
鉄の杖を持った男と、背中に大剣を背負った大男がいた。
(へっ。女メイジにでかい盾を持った奇妙な格好のねえちゃんか。
こんな上玉、独り占めたぁよくねえなぁ、おい)
そんな男の心の声が伝わったのか、あかぎはにこやかな笑みを絶やさぬまま言う。
「そーねー。遠慮しておくわ〜」
「そうそう。……へっ?」
予想外の答えに驚く傭兵風の男。間の抜けた顔を前に、あかぎは続ける。
「だって、あなたたち強そうに見えないんですもの。それに、私たちは
エルフと事を構える気なんて全くないから」
「バカ言っちゃいけねえ。エルフがそんな甘い敵だと思ったら大きなまちが……
あいででで」
言いながらあかぎに触れようとするその手を、あかぎは笑ったまま
握りしめる。鋼の乙女の腕力で握られたのだ。加減しているとはいえ
骨が嫌なきしみを立て始めた。
「おいおい。俺たちは必要ないって言ったんだぜ?そろそろお引き取り
願おうか」
武雄が立ち上がり男の肩にぽんと手を置く。それを見たテーブルの
二人が立ち上がった。
「てめえら、下手に出れば調子に乗りやがって!」
テーブルを蹴倒し、大男が武雄につかみかかる。武雄はその懐に素早く
入り込み、背負い投げを決める。テーブルを豪快になぎ倒して床に
叩き付けられた大男。大の字になって何が起こったのか理解できぬままに
大男は気絶する。そこに残った傭兵メイジが襲いかかった。
「てめえ!今何をしやが……むぐっ」
その言葉は最後まで言えなかった。懐から粘土玉を取り出したルーリーが
杖を振り、それを媒介に傭兵メイジの口を赤土の塊でふさいだのだ。
「まったく騒々しい。ここは食事をするところであって喧嘩をするところではないぞ」
そう言って、ルーリーは悶絶する傭兵メイジの頭に杖を振り下ろす。
すかぽーんと小気味よい音を立ててあっという間に二人が倒されたのを
見て、あかぎに手を握りしめられたままの男が震える声で言った。
「……な……なんなんだ、おまえら……」
「相手の力量も推し量れないで、よく今まで生きてこられたわね。
さて、これで分かったでしょうから、もうお引き取り下さいな」
そう言ってあかぎは男の手を離した。痛む手を押さえつつ、捨て台詞を
吐く余裕すらなく男は仲間を置いて逃げていった。
「おーおー。一人でトンズラかよ。ったく。大丈夫か?……って、聞くまでもないか」
「ええ。私は大丈夫。でも、本当に薄情な人ね〜」
「まったくだ。仕方ない。店主、すまないがこれで後片付けを頼めるか?」
ルーリーはそう言って宿の主人に金貨の袋を渡す。武雄とあかぎは
ハルケギニアの金銭価値に疎いため、こういうことはもっぱら彼女の
役回りだ。宿の主人は袋の中身を確かめると、恭しく頭を下げてボーイに
指示を出し始めた。
「すまないな、ルーリー」
「タケオたちに任せると金がいくらあっても足りないからな。二人とも、
もう少しこっちの相場というものを勉強しないとな」
そうは言ったものの、今渡した金貨もさっき砂漠を歩くための装備を
買うときにあかぎが持っていた宝石を換金したものだ。足下を見られないようにする
交渉も、ルーリーが受け持っていた。もしかすると、今の傭兵はそのときから
こっちをカモにしようとしていたのかもしれなかった。
支援
そうしてアーハンブラで一泊した翌日。三人はサハラに入っていく。
目指すはエルフの国ネフテスの首都、アディール。
道筋はあかぎがシャジャルの水竜でたどった道を逆に進むことにする。
その途中で、武雄は立ち止まり軍刀に手をかけた。あかぎが声をかけようと
した矢先のことだ
「……黙って行かせてくれる、ってわけにはいかなさそうな気配だな」
「シャジャルちゃん、じゃないわね。誰かしら?」
二人の言葉でルーリーも杖を構える。砂の丘の向こう側から三人の前に
姿を現したのは、肌を見せない服装に焦げ茶色の外套をまとった、一人の
エルフの少年だ。
「私は『ネフテス』のビダーシャル。蛮人よ、ここは我らの地。
すぐに立ち去るがよい。そして、何故シャジャルという名を知っている?」
「ビダーシャル君か。いい名前ね。私はあかぎ。私たちはあなたに危害を
加えるつもりはないわ。あなたたちの統領様にお願い事とお話を伺いたくて
ここまで来たの」
「何?お前が!?」
ビダーシャルと名乗ったエルフの少年の顔が驚きに変わる。
話の分からない武雄とルーリーはそれを見守ることしかできない。
「ファーリスのシャジャルちゃんには、私を国境線まで送ってもらった
ことがあるの。よかったら、私たちをアディールまで案内してもらえないかしら?」
あかぎの言葉にビダーシャルは沈黙する。しばしの後、「いいだろう」と
承諾の意を示してくれた。
「またまみえることになろうとはな。『アヌビスの長槍』よ。
これも大いなる意思の導きか」
アディールの評議会本部で、あかぎたちは彼らの統領と面会する。
あかぎは二度目だが、武雄とルーリーは初対面の相手に警戒と緊張が
ない交ぜになったかたちだ。そもそも、ここに平和的にやってこれる
人間が、今まで何人いたことか。
あかぎは統領と丁寧な挨拶を交わした後、本題に入る。
「……というわけで、国境線に生えている傘松の樹の、古い切り株を
分けて欲しいんです。もちろん、対価はお支払いします」
「なるほど。そちらの人間も、お前と同じ『アヌビスの長槍』、
いやその乗り手ということか。だが、すでに役目を終え自然に帰るだけの
ものをほしがるとは……」
統領は半ばあきれるような目であかぎを見た。武雄たちは気づいて
いなかったが、統領は前回あかぎと話したときのように『蛮人』という
言葉を使わなかった。
「まだ役目を終えていませんわ。最後のおつとめが残っていますもの。
自然に帰ってもらうのは、それからということに」
「わからぬな。わからぬが、必要だと言うことは、それも大いなる意思が
導いたことだろう。しかし、持ち帰れるのか?そうは見えぬが」
「私の格納庫にはまだまだ余裕がありますから。それから、もう一つ
お願い、というか、お伺いしたいことがあるんですけど」
「何だ?」
「あなたたちエルフの伝承に、異世界へ行く方法は伝わっていませんか?
私たちは異界の人間。あまりこの地に長く留まるべきではないと思うんです。
戻る方法があるなのら、私たちはすぐにこの地を去ります。傘松の樹の根は、
そのために必要になったんです」
あかぎの言葉に、統領はしばし瞑目する。どれだけの時間が流れたか、
わずかな時間が無限に思える重い空気が流れた後、統領は口を開いた。
「……我ら、そして人間たちの古い伝承にこうある。『双月がともに
太陽を隠すとき、異界への扉が開かれん』とな。三十年に一度、太陽と
双月が直列に並ぶ。その黄金の環が、異界につながっていると言われている。
古い伝承故、さだかではないがな」
「それは、次にいつ起こるかわかりますか?」
「三十年後だ」
「え?」
統領の言葉に、あかぎは思わず聞き返した。
「つい先月のことだ。太陽が隠れ昼が夜になり黄金の環が現れたのは。
故に、次は三十年後だ」
武雄はルーリーを見る。彼女は、苦い顔で頷いた。
帰路、ボートに乗る武雄たちは言葉少なげだ。確かにエルフから持てるだけの
傘松の切り株を分けてもらった(それは掘り起こしていい切り株を知らせるために
案内させられたビダーシャルが目を見開くほどの量だ)。だが……
「……あの黄金の環に、そんな意味があったなんて」
「ルリちゃんのせいじゃないわ。誰も知らなかったんですもの。
どうやれば帰れるかもしれないかって、わかったんだし、いいじゃない」
「そうだ。次があるんだ。待てばいいのさ」
ぽつりと口にしたルーリーを、二人が慰める。だが、それでも彼女は
自分を責めた。
「なにがメイジだ。そんなことも知らなかったなんて。三十年だぞ!
そんな時間……」
「だったら、何か生計を立てたらいいのよ。武雄さん、何かいい案は
ないかしら」
「そうは言うがな……俺は飴屋の三男坊だし。軍人になったのも、兄弟が
多くて食えないからだぞ」
武雄の言葉に、あかぎはぽんと手を打った。
「それよ。水飴なんていいんじゃないかしら」
「水飴か……確かに日本のとは違うが米と麦はあるし、あとは生きた
麦芽があればできるな」
「ミジュ……アメ?なんだそれは」
聞き慣れない言葉にルーリーが顔を上げた。
「戻ったら作ってみましょう。こっちにはないみたいだし、うまくやれば
十分生計が立てられるわ〜」
ボートを曳きながら楽しそうに歌うあかぎ。顔を上げたルーリーの
肩を武雄がそっと抱き寄せた。
sienn
途中、川岸の村で宿を取った夜。ルーリーはあかぎだけを夜の川岸に呼んだ。
「お話って、何かしら」
「……『ガショリン』ができあがったら、私は旅に戻ろうと思う」
どうして?という顔のあかぎ。ルーリーは続ける。
「……最初は、興味だけだった。タケオとイチロー、二人の異邦人への。
でも、イチローがいなくなって、タケオと二人で過ごすうちに、それが
好意へと変わっていったのを自覚した。誰かの側にいてあれだけ落ち着いた
気持ちになったのは、初めてだ」
あかぎはルーリーの言葉に耳を傾ける。誰かが誰かを好きになることは、
応援したい。けれど、そう簡単なことではないことも、理解していた。
「だけど、アイツは一度も私を求めてこなかった。じ、自分で言うのも
何だが、そんなに残念ではないと思うぞ。結婚していてもおかしくない年だし。
それに、あかぎ、お前が来てからタケオは……自覚してないかもしれないが、
タケオはお前ばかり見ていた。やっぱり、同じ国の、黒い髪が、アイツの
好みなんだろうな」
「そんなことはないと思うけど。それに、私は、武雄さんを受け入れられても、
あの人の子供を産むことはできないわよ」
「それは、お前が『ハガネノオトメ』だからか?」
あかぎは肯定する。
「私は、少女の器に入った兵器。とはいえ、私はもう少女って年でもないわね。
大日本帝国の最初の鋼の乙女だから、実験的な要素が強かったし。
だから……」
「だったら、私がお前たちの子供を産んでやる。その子を二人で育てたらいい」
「え、ええ〜?ルリちゃん?」
目を丸くするあかぎ。ルーリーも真っ赤な顔だ。
「と、とにかく、そういう理由ならそうしてやる!三十年もいれば、
絶対気が変わる。タケオがこのハルケギニアにいる理由を、私がお前たちに
作ってやる!」
「…………で、なんでこうなるんだ?」
それからしばらくして。武雄は宿のベッドに縛り付けられていた。
褌一丁で。
「ええ〜。だって、こうしないと武雄さん逃げちゃうでしょ?」
「当たり前だ!女同士の内緒話が終わったと思ったら、いきなりふんじばって
ひんむきやがって!ていうか、ルーリー!お前も降りて服着ろ!」
怒りと羞恥で真っ赤になる武雄。真っ赤な顔で武雄の上に跨るルーリーも、
いつもの露出の少ない外套を脱ぎ髪も解いて下着同然の姿。
その様子を、あかぎが心底楽しそうな笑みで見ている。
「そんなこと言って〜しっかり『合戦用意よし』なくせに〜」
「いや、この状況でそうならなかったら男としてダメだろ。生理現象だ……って、おい」
あかぎにからかわれた武雄がふと見上げると、ルーリーが真っ赤な顔で
ぽろぽろと涙をこぼしていた。
「ちょっと刺激がきつすぎたかしら?武雄さんの、見かけによらずこんなだし」
「うるせえ……ったく。しょうがねえなあ」
武雄はそう言うと、手首を鳴らして戒めを抜け出し、上半身を起こす。
そして、力強くルーリーを抱きしめた。
「え……タケオ?腕が……」
「帝国軍人なめんな。こんくらいどうってこたあねえ。
あのな、泣くぐらいだったら最初から無理すんなよな」
「無理なんか……私は……」
ふと気がつくと、部屋にはあかぎの姿がなかった。そろいもそろって……と、
タケオは覚悟を決めた。
(ったく。そろいもそろって素直じゃねえ!ああ、俺もな!
いいだろう。たかが三十年、ここで生きてやるよ!)
――そうして。タルブの村に戻り、しばらく経った頃。武雄はあかぎから
「さすが音に聞こえたラバウル航空隊ね〜一発必中なんて」とからかわれることに
なるのだった。
以上です。
最後のシーンのレーティングはアニメ版第2期準拠です(何
やっとこのシーンが書けた、というのが正直なところです。
Wiki登録の容量の都合上、途中の冒険はばっさりカットでしたが…
なお、今回書いてる途中は頭の中で『笑顔の約束』がエンドレスで流れてましたw
あと、以前に武雄さんの軍刀について書かれていた人がいましたが、
武雄さんが持っているのはゴボウ剣(銃剣)ではなく、航空兵や軍艦
乗り組みの士官が持っていた士官刀です。
大和ミュージアムなどで展示されているものと同様だと考えてもらえると
助かります。
次回は烈風の騎士姫の時代に。カリンちゃんたちゼロ魔関連キャラも
登場します。
それでは。次回も早めにお目にかかれるよう頑張ります。
乙
51 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/25(木) 03:29:35 ID:aMdE8E89
乙!!!!!!!
萌え萌えの人乙です
>>25 285で合ってるはずです
数を減らす必要ないんじゃない
夜闇のひと萌え萌えの人おつです
>夜闇の人
ルイズの虚無どうすんだと思ったらそんなパーティーでアルビオン行くことになるとは・・・
不安だw
>萌え萌えの人
ふぅ……
54 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/25(木) 22:35:36 ID:BBz+5pIc
ドラクエものって需要あるかな?
あるなら投稿したいんだけど。
既にいくつもあるんだし、そりゃないことはなかろうよ
最近も一つ始まったしね
あと、sage
迷うより投下してみることが大事
ヘイトや蹂躙など、作品に悪意があるものでなければ欠点はきちんと注意してくれる人がいる
あとは書きながら上手くなっていけばよい
なお、作家は毒吐きは見ないほうが吉
>54
ただ、『ダイの大冒険』は別。
というのは、そちらは専用スレがあるので。
個人的にはドラクエは全部そっちな気がしないでもない。
ドラクエものいいですね
だれが召喚されるか気になるぜ
ダイ大スレのを含めると、DQ系の新作が3つも増えたことになるのか。
俺得だな。
61 :
ゼロの賢王:2010/11/26(金) 01:54:14 ID:HfwKuFAX
第3話が仕上がったのと、誰も予約していないみたいなので投下します。
翌日の朝、ポロンの目が覚めると何時の間にか体に毛布が掛かっていることに気が付いた。
どうやらポロンが寝ている間にルイズが掛けてくれたものらしい。
(ったく、本当に素直じゃねえんだからよ)
心の中ではそう言いながらもポロンの顔は自然とはにかんでいた。
ポロンはよっこらせと身を起こすと、ベッドの上のルイズの顔を覗き込んでみた。
ルイズはまだくーかーと眠っている。
(幸せそうな顔して寝ていやがるぜ・・・ん?)
ふと床の方を見ると積まれた洗濯物が目に入った。
(そういやあ、洗濯しといてくれって頼まれてたっけなあ。やれやれ・・・)
ポロンは洗濯物を籠の中に入れると、それを抱えてなるべく音を立てない様に部屋を出た。
そのまま暫く歩いたところで、自分が洗い場の場所を知らないことに気が付いて立ち止まる。
(・・・とと、そういや何処に何があるか知らなかったな。ドジったね、俺としたことが。
昨日の内にルイズに聞いときゃ良かったぜ)
かと言って、今から部屋へ戻ってルイズに聞くのも躊躇われる。
あれだけ気持ち良さそうに寝ているのだ。
こんなことで起こせば、昨日の癇癪玉が再び爆発しかねない。
(さて、どうしたものか)
その時、ポロンの体に誰かがぶつかって来た。
「きゃあ!」
「おっと!」
気が付くと、メイド姿の少女が倒れていた。
辺りに散乱した洗濯物を見る限り、どうやら大量の洗濯物を抱えていて前が見えなかったらしい。
ポロンはルイズの洗濯物が入った籠を床に置くと、少女を助け起こす。
「すまねえ、大丈夫か?」
「あ、は、ハイ!」
少女はポロンの姿を見るなり、急に畏まって頭を下げた。
「も、も、申し訳ございません!私が注意していなかったばかりにこんな・・・」
「んあ?いや、俺が道の真ん中でボーっと突っ立ってたのが悪かったんだ。俺こそすまねえな」
「い、いえ!悪いのは私なんです!わ、私ったら貴族の方に何てことを!!」
「ん、貴族?誰が?」
「え?いや、え〜と・・・え?」
少女は困った様な顔をしている。
ポロンはそんな彼女の表情を見て、ピーンと来た。
(・・・ははあ、この子は俺のことを貴族と勘違いしてビビっているんだな)
それならば誤解を解いておこうと思い、ポロンは辺りに散乱した洗濯物を拾い始めた。
少女はポロンの突然の行動に思わず慌てる。
「あ、そんな!貴族の方のお手を煩わせるなんて・・・」
「いいっていいって」
ポロンはそう言うと、テキパキと洗濯物を拾い集めている。
最後の一枚を拾い終えると、それらをまとめて少女に渡した。
「ほら、悪かったな。」
「本当に申し訳ございませんでした・・・。まさか貴族の方にこんな・・・」
「どうやら勘違いしているようだから言っておくけど、俺は貴族じゃ無い。だからそんな頭下げなくて大丈夫だぞ」
「ええ!?そうなんですか!?」
少女は思わず目を丸くする。
「格好や雰囲気から、てっきりこの学院に新しく来られた先生かと思っていました」
ポロンは今、聖なる衣を着ている。
とは言え、長旅の影響で聖なる衣はボロボロになっており、見た目的にはみすぼらしく見えてしまう。
しかし、目の前の平民と思われる少女にとっては、そんなポロンの格好も他の貴族と変わらなく見えたのであった。
無論、年季を重ねたポロンの賢王としての風格の様なものがそう見せていたという部分も多少はあるのだろうが。
(そういや、服なんか着替える暇無かったもんなあ・・・。ま、この先着替えられるかも分からんがね)
「あ、もしかして!」
「ん?」
少女は何かを思い出したかの様にポンと手を叩いた。
「あの・・・間違えていたら大変申し訳ないのですが、貴方様はその、ミス・ヴァリエールの・・・?」
「おお、よく分かったな」
「やっぱり!学院中の噂でしたもの!『ミス・ヴァリエールが平民を使い魔にした』と。・・・あ!も、申し訳ありません!」
「あー、いいって別に。まあ、事実だしな」
(学院中の噂、か。まあ十中八九いい噂では無いんだろうが・・・な)
ポロンは昨日のことを思い出す。
ルイズに呼び出されて使い魔の契約を交わしたあの時、
ルイズの学友と思われる少年少女たちは口々に彼女を『ゼロのルイズ』と揶揄し、罵倒していた。
言われた本人は目に涙を溜め、その拳を微かに震わせながらも必死に耐え、気丈に振舞っていた。
ポロンは内心舌打ちする。
こういったことは、どの世界でも変わらない。
ふと、ポロンは先程のルイズの幸せそうな寝顔を思い出した。
とても昨日、あれだけのことを言われた風には見えない。
(『ゼロのルイズ』・・・か)
「ところで、こんな道の真ん中で何をしていらしたんですか?」
ポロンが思案に暮れていると、少女が訊ねてきた。
「ん?ああ、うちのご主人様に洗濯を頼まれてな。でも洗い場の場所が分からなくて困ってたんだよ」
「まあ、そうでしたか。では私がご案内いたします。え〜と」
「ああ、俺はポロンって言うんだ」
「ポロン様、ですか。私はこの学院で下働きをしておりますシエスタと申します。今後ともよろしくお願いいたします」
シエスタはそう言うと丁寧に頭を下げた。
「そうか。じゃあシエスタ、洗い場まで案内頼むわ」
「はい、分かりました」
ポロンはシエスタに連れられて洗い場へに到着した。
洗い場へ着くなり、ポロンは慣れた手付きで洗濯を開始する。
その様子を見て、思わずシエスタはポロンに声を掛けた。
「ポロン様はお洗濯がお上手なんですね」
「ん?ああ、たまにサクヤの代わりにやってたからなー」
「奥様ですか?」
「ああ、最高の女房だな」
「ポロン様がそこまでおっしゃるならば、きっと素晴らしい方なんでしょうね」
「・・・何かそうやってポロン様ポロン様って言われると、昔のサクヤを思い出すなあ」
(あいつも最初の頃は俺のことをポロン様、ポロン様って言ってたっけか)
ポロンは初めてサクヤと出逢った時のことを思い出した。
ふと、シエスタの顔を見る。
(シエスタ・・・だっけ?何となくサクヤに似ている気がするな。髪や瞳の色も同じだし)
ポロンはシエスタの純朴そうな雰囲気や黒曜石の様な髪と瞳を見て、サクヤを連想していた。
シエスタはポロンの視線に気が付くと、頬を赤く染め、思わず顔を背けてしまう。
「あ、すまねえ。こんなオッサンに見つめられたら、あまりいい気分はしねえよな」
「い、いえ!決して嫌なワケじゃ・・・!!」
ポロンがそう言うと、シエスタは慌てて否定する。
「は、早くお洗濯を済ませましょう!」
「あ、ああ、そうだな」
その後、無言で2人は洗濯を終わらせた。
「ふう、終わった。いやあ、すまなかったな」
「いえ、困った時はお互い様ですもの」
「じゃあ、俺はこれで」
「ハイ、ポロン様」
洗った洗濯物を干し終え、ポロンは洗い場を後にした。
遠目に洗濯をしているシエスタを見る。
大量の洗濯物をテキパキと洗い、干していく様もサクヤに似ている様な気がした。
(・・・とと、俺としたことが。軽いホームシックにでもなってんのか?)
ポロンは自嘲気味に笑うと、来た道を戻りルイズの部屋へと向かった。
部屋へ戻ると、まだルイズはくーかーと眠っている。
そのあまりに幸せそうな表情にこのまま寝かせておきたいところだったが、
残念ながら昨晩の内に「朝になったら起こせ」と言われている。
ポロンはルイズの体を揺すった。
「おい、起きろ」
「むにゃむにゃ・・・」
「起きろって!」
「むにゃむにゃ・・・ちい姉さま大好き・・・」
「こいつぁ手強いな・・・」
ザメハでも使えたら楽なんだが、とポロンは思ったが、取り敢えず布団を引っぺがす。
するとルイズが「う〜ん」と唸った後、ゆっくりと身を起こし始めた。
「ん〜・・・何よぉ・・・」
「お目覚めですか、ご主人様?」
「・・・キャッ!だ、誰!?」
「寝惚けてやがるな・・・」
「ん・・・?ああ・・・ポロンじゃないの」
ルイズは「ふぁ〜」と大あくびした後、ベッドから起き上がった。
「ん!」
「ん!って何だよ?」
「着替え」
「ああ?着替えだあ?お前、いくら何でも1人で着替えられない様なガ・・・年齢じゃないだろ?」
「貴族は自分で着替えなんてしないものよ」
「へーへー、そうですか。ったく・・・」
ポロンは不満を言いながらもルイズの寝巻きを脱がしに掛かる。
こういうことは自分の子供たちが小さい時にはよくやっていた為、ポロンは意外と手馴れていた。
流石に下着はルイズ自身に脱着させたが、その後ブラウスとスカートを着させて着替えは完了した。
ポロンの一連の作業を見てルイズはフン、と鼻を鳴らす。
「まずまずね。取り敢えず合格点はあげとくわ」
「それはどうも、お褒めに与り光栄です」
「フン、じゃあ食堂へ行くわよ」
そう言ってルイズがドアを開けると、そこには1人の少女が立っていた。
その少女は浅黒い肌に赤い髪、そして思わず見てしまいそうになるボディスタイルが特徴的であった。
顔も体のプロポーションに負けず整っており、可愛いというより美しいという印象を与える。
少女はニヤリと笑ってルイズに話掛けた。
「おはようルイズ」
「・・・何か用?」
ルイズは目の前の少女を見るなり、急に不機嫌になる。
そんなルイズの様子を楽しげに見ながら少女は会話を続けた。
「あら、つれないお返事ね」
「アンタと交わす言葉なんてないわ。行くわよ、ポロン!」
少女はポロンの顔をチラっと見る。
「あなたの使い魔って、それ?」
女性はポロンを指差して、まるで馬鹿にしたかの様な口調でルイズに問い掛けた。
「・・・そうよ」
「アッハッハッハ!本当に人間なのね!凄いじゃない!『サモン・サーヴァント』で平民を召喚しちゃうなんて・・・、
本当にあなたらしいわ。流石は『ゼロのルイズ』ね!アッハッハッハ」
ルイズは目の前の少女をキッと睨み付ける。
ポロンもあまりいい気分では無かったが、取り敢えず平静を装っていた。
少女は一通り笑い終えると、再びポロンの顔を見た。
「アタシも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発で呪文成功したの。
どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよねぇ〜。ねえ、フレイム?」
少女がそう声を掛けると、少女の後ろから大きな赤いトカゲの様な生き物が現れた。
尻尾の先に火を灯らせている。
「この子は間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ?好事家に見せたら値段なんかつかないわ」
「うるさ!「そっかー、そんなこと言ってたのかー。へー、見かけによらないんだなー」
何時の間にかポロンがフレイムと呼ばれたサラマンダーの頭を撫でていた。
フレイムも気持ち良さそうにポロンへ頭を摺り寄せる。
少女はその様子を見て、首を傾げた。
「あら?この子が私以外に懐くなんて」
「ちょっとポロン!何してんのよ!?」
「何って、こいつから話を聞いてたんだよ」
「話、ですって〜?」
ルイズが訝しげにポロンを睨め付ける。
「ああ、俺はモンスター・・・いや、こういう生き物と心を通わせることが出来るんだ」
「何よそれ、嘘臭いわね!」
「いや、こいつの話によると、この子は昨日の夜からお前のことがしんぱ・・・」
「あー!!あー!!あー!!」
少女は突如大声を上げてポロンの言葉を遮ると、大急ぎでフレイムを連れてそそくさとその場を去って行った。
その様子をポカンとした顔でルイズは見ていた。
「何なの・・・?」
「さてね」
ポロンはニヤニヤしながら去って行く少女の背中を見つめた。
暫くした後、ルイズは再び不機嫌な面持ちで先程の少女のことを話し始めた。
少女の名は、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ ツェルプストー。
彼女の家柄とルイズの家柄には浅からぬ因縁があり、当人同士もお互いを敵視しているとルイズはポロンに語った。
その話を聞き、ポロンはかつてアルスに聞いた話を思い出していた。
勇者アルスと剣王キラは今でこそ仲間であり、無二の親友であるが、
彼らが幼い頃はお互い口喧嘩の絶えることが無かったという。
だが、いざという時は助け合い、そして認め合い、友情を育んで来て今に繋がっているんだ。
と、アルスはポロンに語ってくれた。
さっきのルイズとキュルケはあの2人の関係に似ているな、とポロンは1人微笑んでいた。
フレイムから聞いた話では、キュルケはルイズが今回のことで落ち込んでいないかとても心配だったという。
(あの子・・・キュルケも悪い奴じゃないんだな。ただ不器用っつーか、その、素直じゃねーんだ)
ルイズの周りにも、ルイズをちゃんと思ってくれる人がいるんだ。ということがポロンを安心させた。
「ほら、ポロン。早く行かないと朝食抜くわよ?」
「おっと、それは勘弁してくれよな」
2人は食堂へと向かって行った。
67 :
ゼロの賢王:2010/11/26(金) 02:04:24 ID:HfwKuFAX
以上で3話終了です。
一部誤字が・・・。
こういうのは投稿した後じゃないと気が付かないもんですねえ。
久々に昨日、ブック○フで復習も兼ねて初代ロト紋を立ち読みしましたが、
この頃のサクヤは滅茶苦茶可愛いですね。
続編の紋継ぐでは肝っ玉母ちゃんみたいになってましたが。
OCNなので規制に脅えながら、また次回もよろしくお願いします。
後れ馳せながらロト紋乙。
そういやポロンもメドローア級の呪文いくつも使えるんだったな
うろ覚えだが、最初に使ったのはメラとギラでメギラだっけ? なんか怪獣みたいな名前だ
>>54で書き込みした者です。sage忘れてすんません。
様々な意見ありがとう。
それと、投下中の『ゼロの賢王』がドラクエ系とは知らず(ドラクエ小説は未読)、
失礼なコメだったと反省してます。作者の方すんません。
重複するのもあれなんでFF2のフリオニールで投稿しようと思います。
一から書き直す為少々お時間下さい。
では。
>71
訂正が一つ。
『ゼロの賢王』の元ネタ作品は小説ではなくマンガです。
ディケイド放送中はそれとのクロスが二作平行(プリキュアクロスにゲスト出演した事も)あったくらいだし、『ダイの大冒険』でないならここでやっても問題ないと思うよ?
クラウザーさん召還の長編はないのか
>>73 レッグトマホークで責め立てるルイズか、胸熱だな
>73
今は清盛ですよ。
某TRPGで言うところの“禿の使い魔”。
ドラクエといえばマルモの人もまた見たいな。
ワイバーンに向かって「ザキ」は忘れられん。
アバン先生やポップなんかの話はここのまとめサイトに登録されてるが、
あれらはダイの方のスレが無かったころに始まった話だからこっちになってるんだったかな
>>71です。
第1話完成したので投稿します。
タイトルは『ゼロのチェリーな使い魔』です。
よろしく。
遥か彼方の世界において長く続いていた平和が今終わりを告げた。
パラメキア帝国の皇帝は魔界から魔物を呼び出し世界征服に乗り出したのである。
これに対し反乱軍はフィン王国で立ち上ったが敵の総攻撃にあい城を奪われ
辺境の街アルテアへと撤退しなければならかった。
のだが、
反乱軍に新たに加わったフィン王国出身の3人の若者の活躍により圧され始めた帝国軍。
反乱軍は帝国軍と死闘を繰り広げた末、みごとフィン城の奪還に成功したのであった。
そして、
3人の若者と仲間の女海賊は新たなミッションを完遂すべくフィン王国の秘法『しろいかめん』を
探し出す為フィン城大広間の隅に立っていた。
先頭に立つリーダーらしき青年は一呼吸置いて、隠し扉を出現させる合言葉を言おうと
したその瞬間、目の前に1枚の鏡が出現し青年を吸い込んでしまった。
呆然と立ち尽くす取り残された二人の女性と大男。
静寂が空間を支配した。
(う〜ん・・・あれ?いつの間に寝てたんだ?)
明るい日差しを浴びて目を覚ました青年。ゆっくりと起き上がるとそこは何故か屋外で
しかも人だかりができていた。寝ぼけているのだろうかと思い目をこすると、急に
人だかりが騒がしくなった。
「フ・・・ハハハハッ!見ろよ。平民!平民だぜ!」
「あーはっはっはっ!人間の使い魔とは!さすがは『ゼロ』のルイズ!」
「俺達の予想の斜め上を行き過ぎだろ!」
はやし立てる観衆にあっけにとられる青年の前に、『ゼロ』のルイズと呼ばれた少女が
仏頂面でズカズカと近づいてきた。
腕を組み尊大な態度で青年を一瞥すると、人だかりの方へ振り返り先頭にいる頭頂部が
禿げ上がった壮年に向けて言い放った。
「ミスタ・コルベール!もう一度召還の儀式を・・・」
「駄目です、ミス・ヴァリエール。春の使い魔召喚は神聖な儀式なので一度きりです」
コルベールの宣告にがっくりと肩を落とすルイズ。そのやり取りを見ていた青年は
意識がはっきりしてくると、
「こ、ここはどこだ?はっ!みんなは無事なのか?マリ」
「あんた、名前は?」
ルイズは青年が叫ぶのを遮って質問した。
「えっ?名前?フリオニールだけど・・・」
「どこの国の平民?」
「・・・フィン王国。今は反乱軍に参加してるんだ」
「フィン王国?聞いたことないわね」
「聞いたことないって・・・『のばら』」
「貴様ら反乱軍・・・ってなに言ってるのかしら、わたし」
平民を召還して気が動転しているのだろうと思いルイズは深呼吸をすると、
「あ、あんた。か、感謝しなさいよね。平民が貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから! 」
「???」
困惑するフリオニールを尻目に杖を自身の額に当てるルイズ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を
司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
ルイズはフリオニールに口付けを交わし使い魔の儀式を終わらせた。
フリオニールは自身の頬をつねってみた。痛い。これは夢ではない。自身のファースト
キスが目の前にいる可憐な美少女であることに喜びを感じる反面、見知らぬの土地へ突然
放り出されたことに一抹の不安が芽生えるのであった。
幸福感と不安感の狭間を漂っているフリオニールの左手に突然激痛が走った。
「な、なんだっ!」
激痛と共に左手には激しい熱が拡がる。あまりの痛みの為フリオニールは急いで『ケアル』
の魔法をかけようとした。
「慌てなくて大丈夫よ。『使い魔のルーン』が刻まれるだけだから」
ルイズは淡々とした口調で言った。
「そんなこと言われても。すごく痛いんだけど」
不安に駆られるフリオニール。痛みが引いてくるかわりに左手の甲には紋章が浮かび上がってきた。
「も、紋章が刻まれてる!」
「そう。これであんたは正式にわたしの使い魔になったってわけ」
「これは珍しいルーンですね」
ルイズとフリオニールのやり取りを見ていたコルベールが近づいてきて言った。
「しかも平民だし!」
「『ゼロ』にはお似合いだな!」
コルベールの発言を聞いた人だかりから野次がとんできた。
「うるさいわね!『サモン・サーヴァント』はちゃんと成功したじゃない!」
必死に反論するルイズ。
「オホン!貴族はお互いを尊重しあうものです。これで全員終わりましたね。
それでは皆さん学院内に戻りましょう」
咳払いをしてコルベールは解散を告げると人だかりは三々五々飛び立っていった。
(?人が空を飛んでいるぞ!)
『フライ』の魔法を目の当たりにし呆然とするフリオニールであった。
第1話は以上です。
失礼しました。
うわおなんか変だと思ったら新スレ立ってた
皆様乙ですー!
>>23 ワロタw
萌え萌えの人乙
>一発必中
うむ、男子の鏡だ
しかし、このことを思えば才人もあのとき万一操をもらってたらどういう結果になったことか…
フリオニール・・・ウェポンマスター登場か
これは是非とも魔法の本を使ってもらわなくてわ
フリオニールか。小説とゲームで性格が違った筈だけど、どっちのフリオだろう。
“地獄先生ぬ〜ベ〜”より鵺野鳴介(ぬ〜べ〜)召喚。
ルイズ、キュルケたちが魔法を放つも、ビダーシャル卿と名乗ったエルフは身動き一つしない。
それどころか、炎や爆風は相手に届く前に全て動きを止め、逆にこちらへと跳ね返ってきた。
慌てたギーシュがワルキューレを錬金し、盾を持たせて防壁となるように展開させる。その様を
つまらなそうに見ながら、敵のエルフは何事かをつぶやき始めた。
「岩は大いなる腕(かいな)となりて、我に仇為す者たちを薙ぎ払うなり」
すると、ルイズたちとエルフの中間の石畳が俄かに隆起を始め、やがて巨大な腕と化す。
20メイルはあるだろうその石製の腕にルイズたちの魔法が飛ぶが、やはり跳ね返されるだけでまるで
通用しない。それを黙って見ていた鳴介が、水晶玉を手にしてそれ越しに岩の巨腕を見据えた。
「南無大慈大悲、あの腕を形為す精霊たちよ、我が前にその姿を見せよ!」
砦に鳴介の叫びが響いた瞬間、ルイズたちは目を見開く。エルフが生み出した腕の周囲に、何か影の
ようなものがまとわりついているのが見え始めたのだ。
「馬鹿な、蛮人が精霊の姿を顕現させただと?」
巨腕の向こうでビダーシャルが驚きの混じる声をあげているが、しかし次に聞こえてきた越えは落ち
着きを取り戻したそれだった。
「だが、姿が見えたところでどうにもなるまい」
言いながら、エルフが腕を高く掲げ、拳を握る。それに倣う様に、岩の腕もその拳を天へと
仰がせた。いかにも、これから叩き潰してやると言わんばかりの体勢。それを見て取れば、鳴介が
おもむろに腕へ向かって足を進めていった。
「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音……」
ハルケギニアの人間には意味不明な言葉を羅列しながら、圧倒的な力へと向かっていく鳴介。その
様子にビダーシャルが一瞬眉をひそめるが、その次の瞬間にはその腕を無造作に振り下ろした。
「我が左手に封じられし鬼よ……」
エルフの動きに合わせて、岩の拳がルイズたちへと襲いかかるが、鳴介はそれを見ながら左手を
構えるだけだ。
「今こそその力を」
そして、今正にルイズたちが叩き潰されんとしていたその刹那――
「示せええぇぇ!!」
――巨大な岩が、粉微塵となって四散した。
後に残っているのは、茫然としたルイズたちと、異形の左手を構えた鳴介の姿。それを見て、
ビダーシャルがこんどこそ驚愕する。
「馬鹿な、精霊の力を……、いや、精霊自体を倒したというのか!?」
「驚いているようだな、なら教えてやる。この鬼の手は精霊と同じ霊体なのさ!」
言いながら、鳴介が異形の左手、鬼の手を敵へと向けた。
「だから精霊のような霊体に対して物理的な攻撃を加えることができる。切ることも、殴ることも、
そして、倒すこともな!」
言い切るが早いか、鳴介は既にエルフの許へと駆け出していた。
「いくぞ、ビダーシャルとやら!」
そして、次にルイズたちが目にしたのは、ルイズたちの魔法を跳ね返し続けた敵の防御を潜り抜け、
エルフに一撃を与えている黒髪の青年の姿だった。
こんな感じで、霊視と鬼の手を使えば先住魔法限定で無敵な気がする。ぬ〜べ〜が悪霊以外の霊体に
鬼の手使うかどうかは微妙だけど。
>>89 必要なら使いますよ
いつものようにいらん事しでかした美樹の記憶を消すのに「鬼の手」使ってます
あと殺人鬼な人間の魂を引き剥がし「殺す」のに使った事も
>>90 そういえば赤いマントに使ってましたね、結局失敗してましたけど。
92 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/27(土) 21:14:03 ID:T9iFD5Ua
虎眼先生の召還でお願いします。
>>89 面白いです。
長編かいてくれると非常にありがたいです。
>>89 ことあるごとにヒゲとボインがあのマークで隠れる素敵シーンが満載ですね
フリオニールの第2話できました。
ちなみに、性格はゲーム版準拠です。巧く書けるか自信ありませんが
お付き合いよろしく。
本装備は今のところ出す予定はないです。アイテム欄(ふくろ)は
ガイが持っている設定にしたいので。
その日の夜、ルイズの部屋にて
ルイズによってトリステインへ召還されたフリオニールはとりあえずトリステインから
フィンへの道順を把握しておこうと地図を借りて調べていた。
しかし
その地図は普段フリオニールが見慣れているものと全く違うばかりか、記載されている
文字も見たことがないものだった。
(そ、そんなバカな。ひょっとして俺は異世界へ来てしまったのか?)
そんなことは認めたくないとばかりにかぶりを振り、視線をゆっくりとルイズへ向けて
「ねぇ。この国では独自の文字を使ってるんだね」
「は?文字なんてハルケギニア共通でしょ。・・・っていうかあんた、ご主人様には
ちゃんと敬語を使いなさい」
「はぁ」
フリオニールは得心がいかないように生返事をした。人を勝手に召還して召使いに
するなんてこの国の貴族は何を考えているのか?パラメキア皇帝顔負けだ。
しかし、そのことよりも仲間のもとへ戻ることが予想以上に困難になっていることに
フリオニールは焦り始めていた。
どうしたものかと思案にくれて、ふと窓に目線をやると外には人知を超えた風景があった。
「つ、つつつ月がふたつ!?・・・ありえん」
夜空に浮かぶ二つの月がフリオニールを異世界へ飛ばしたことを雄弁に証明した。
(俺はいろんなことを知りすぎた・・・もう昔には帰れない)
落胆の表情がありありと浮かぶフリオニール。それでも諦めずに
「ルイズ!・・・さん。召還された使い魔って元の世界に戻れるの?・・・ですか?」
「元の世界?元もなにも普通はハルケギニアに生息するモンスターを召還するものだけど、
・ ・・あんた確かフィン王国出身って言ってたわね」
「そうですけど・・・」
「そんな国聞いたことないし、東方にでもあるんじゃない?知らないけど」
「いや、そうじゃなくて、たぶん俺は異世界から・・・」
「もういいでしょ。とりあえず、明日からあんたには掃除洗濯とか雑用をやってもらうわ。
平民じゃ秘薬探しなんてできないでしょうし」
ルイズは一方的にフリオニールに告げると、目の前で着替え始め着衣を乱暴な手つきで渡した。
「明日ちゃんと洗濯しておきなさいよ。わたしはもう寝るわ。今日はいろいろあったから疲れちゃった」
「いろいろあったのは俺も同じなんですけど・・・ところで、俺の寝床は?」
フリオニールは部屋を見渡しながらルイズに質問した。
すると、ルイズは無言で床に敷かれている粗末な毛布を指差した。
(お、王女。そ、そんな・・・)
フリオニールは半ばパニックに陥ったが、なんとか平静を保つと渋々寝床につくのであった。
翌朝
フリオニールは目を覚ますと身支度を整え、主人(?)であるルイズを起こそうと
ベッドに近づき声をかけた。
「ルイズさん。朝ですよ」
ルイズは寝起きが悪いのか中々起きようとしない。
(ああ、『バスナ』の魔法憶えておけばよかった)
フリオニールは後悔したが、気を取り直してルイズの肩を軽くゆすりながら再度声をかけた。
「う〜ん・・・」
ようやく目を覚ましたルイズはフリオニールに制服を持ってくるように命じた。
フリオニールはあたふたと部屋の中を駆け回りやっと制服を見つけるとルイズの元へ持ってきた。
「着替えを手伝いなさい」
「へ?」
「聞こえなかったの?着替えを手伝いなさいって言ったの!」
「・・・まさか、ラミアクィーン!?」
「???寝ぼけてるの?まったく、愚図なんだから」
ああ何という果報者であろうか。昨日のキスから今度は一気に着替えの手伝いだ。
ひょっとして自分に気があるのではないか?と、桃色の綺麗な髪を携えネグリジェ姿で
立っているルイズをチラ見して思うフリオニール。
「ゴクッ」
フルオニールは股間が元気になりそうなのを懸命に抑えると、生唾を飲み込みルイズの
着替えに取り掛かる。
「いいんですか?男子の俺が女子の着替えを・・・」
「あんたはわたしの使い魔なんだからそんなの関係ないの!ほら、さっさとしなさい」
「そういうことか」
フリオニールの男子としての自信は音をたてて崩れるのであった。
フリオニールの第2話は以上です。
失礼しました。
乙!
でも短くね?
乙、区切り方が微妙な焦らされ方してるみたいで・・・続きが楽しみになるじゃないのぉぉぉぉ
それはそうと『バスナ』て・・・また懐かしい魔法だなぁ
言われても具体的な効果思い出せないYO!!
ああ、あの頃から消えた魔法の多いことよ・・・クラウダとか
長さ短めで投下の間隔短めってのもアリだと思う
初めて書いてるみたいだし短いのはしょうがないんじゃないか
>>89 ぬ〜べ〜は経典だか使って炎防いだり相手を拘束してたりもしてたし色々戦闘シーンに幅が出せそう。 メイジでも対処出来ない幽霊やら妖怪やらが学園に出て、それを除霊とかもなかなか熱い
とにかく長編楽しみにしてます
幽霊と聞くとタバサにしょんべんちびらせてやりたくなるよね。え?公式設定なんて無いよ
覇鬼と和解前か後かで大幅にストーリーが変わるだろうな
眠鬼が鬼の手やってるときに呼び出したら、もうあーんなことやこーんなことに
にゃんだー仮面よりニャーゴを召喚
普段は何の変哲も無い猫の亜人として生活を送りつつ
助けを求める声あればにゃんだー仮面に変身し、人助けを行う
にゃんだー仮面の原作とあんま変わらんな・・・
>>89 クレーンゲーム内に鬼の手突っ込んで景品落とすズルとかもやってるぜ……
>>109 一応あれは霊体の鬼の手なら体をすり抜けて体の中に手を突っ込めるけど、中の病巣を引きずり出せない。
やったらこうなってしまうって考え込んでた時だけどな。
>>88 小説版のフリオニールだと、そもそもチェリーじゃなかったような
今手元にないので確認できないけど、村の祭でエロスあふるる行為をしてなかったっけ?
112 :
ゼロの賢王:2010/11/28(日) 06:52:12 ID:/EweX8it
第4話が仕上がりました。
投下をさせていただきます。
「着いたわ」
食堂へ到着すると、ポロンはその広さと豪華さに目を見開いた。
山の様に積まれた料理から食欲をくすぐるいい匂いがしてくる。
最初に食堂と聞いた時は、町の片隅にある様な質素なものを想像していただけに、
自身の想像とあまりにかけ離れた目の前の光景にポロンはただただ驚くばかりであった。
「こいつぁ凄えなあ。ここは本当に学生食堂なのかよ?」
この魔法学院自体が下手をすれば一国の城と大差無い程の規模があるだけに、
その内装も学校という範疇を軽く超えたものであった。
物珍しそうに食堂内を見回すポロンを見て、ルイズは得意げに胸を張った。
「ここは本来平民は勿論、使い魔だって入ることは許されない場所なのよ。
アンタは私の計らいで特別に入ることを許されたんだから感謝しなさいよね!」
「そういやあ、確かに他の使い魔を見ねえなあ」
ポロンは食堂内で先程ルイズの部屋の前から慌てて立ち去ったキュルケの姿を確認したが、
その近くにフレイムの姿は無かった。
代わりに鮮やかな空色の髪をしたメガネの少女と何やら談笑していた。
メガネの少女の方は食堂内なのに本を読みながら適当に相槌を打っている。
「何しているの?早くこっちへ来なさい!」
見ると、ルイズは既に席へ着いていた。
ポロンがルイズの隣の席に座ろうとすると、ルイズは無言でそれを制した。
「?何だよ?」
「そこは貴族だけが座れる席よ。アンタはここ」
ルイズはそう言いながら地面を指差した。
そこには固そうなパンと何も入っていない色の薄いスープの入った皿が置かれている。
それを見るなり、ポロンの表情が変わった。
「ああ?これは何だ?」
ポロンは不機嫌を隠さずに言った。
しかし、ルイズはただ首を横に振るだけで取り合おうともしない。
ポロンは渋々地面に座り込んだ。
それを見て、ルイズは内心ほくそ笑む。
(ウフフ・・・。使い魔とご主人様との差が身に染みて分かったかしら?)
そうしている間に食前の祈りの時間となった。
ルイズは目を閉じると、唱和を始める。
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を与えたもうたことを感謝いたします」
(ささやか・・・ねえ。俺らの世界の言葉と意味が違わねえなら、こりゃ皮肉って奴だな)
ポロンは手にパンを持ちながら、心の中でそう呟いた。
(まあ、旅している時はパンどころか水すらろくに飲めないこともあったし、
それに比べりゃマシだ、と思うしかねえな)
目の前に積まれたご馳走を睨み付けながら、ポロンはパンを千切って口の中に放り入れた。
ふとルイズの方を見ると、彼女の前には鳥のローストにサラダ、パイにワインなど
朝から食べるにはあまりそぐわないものが並べられている。
ポロンの視線に気が付くと、ルイズは鳥のローストから皮をナイフで切り取り、それをポロンの皿へ落とした。
「ほら、肉は癖になるからダメよ」
「へーへー、ご主人様のあまりに慈悲深き行いに涙が止まんねーよ」
ポロンはそう言うと、鳥の皮をパンに乗せて食べる。
ルイズは満足そうな顔をして再び自分の食事に戻った。
大した量が無かった為、ポロンの食事はすぐに終わってしまった。
ルイズの方を見ると、何やら果物が乗ったパイを味わっている様で、食事はまだまだ終わりそうに無い。
これ以上人が食べてるところを見るのは目に毒なので、ポロンは食堂を後にすることにした。
ルイズの許可は取っていないが、そもそもここに自分みたいなものがいるのは本来はいけないことらしいのだから、
出て行ったところでお咎めは無いだろうと判断する。
「本当にささやかな糧だったな。空腹で死ぬってことは無いが全然満たされてねえし。
何かもう少し腹に入れたいところだな」
これから先、使い魔として何かやらされるならもう少し体力をつけておきたいところである。
「厨房にでも行ってみるか?でも、厨房の場所知らねえしなあ・・・」
「あら?ポロン様!」
声が聞こえた方へ振り返ると、そこにはシエスタがいた。
見ると、空になった皿を運んでいる様である。
「お、丁度いいところに来たな!なあ、シエスタ。厨房が何処だか教えてくれないか?」
「厨房ですか?今から戻るところなのでご案内することは問題ありませんが・・・、厨房に何か御用でも?」
「実はなあ、うちのご主人様が恵んで下さった朝飯があまりにもささやかだったんで、ちょっと何か他に腹に入れたくてさ。
空腹状態だと使い魔の仕事にも支障が出るかも知れないし・・・ダメか?」
「まあ、そうだったんですか。分かりました。そういうことなら私、マルトーさんに頼んでみます!
では、厨房まで案内いたしますので私の後について来て下さいね」
「おお、サンキューな!」
ポロンはシエスタに案内されて厨房へとやって来た。
厨房の中はまるで戦場の様に怒号が飛び交っている。
シエスタは皿を洗い場へ持って行くと、奥の方で料理をしている中年の男に話し掛けた。
どうやらその中年の男がマルトーという男らしい。
暫くシエスタと話していたマルトーだったが、話が終わると料理の手を止め、ポロンの方へと歩いて来た。
目の前まで来ると、ポロンの肩をポンと叩く。
「おめえも苦労してんだな。賄いでよけりゃ食って行け」
「話が早くて助かる。恩に着るぜ!あんたがマルトーか?」
「ああ、ここではコック長なんて呼ばれているが、別にマルトーで構わねえや。歳もそう変わらないみたいだしな」
「そうか、じゃあマルトー!改めて有難うな!」
ポロンはマルトーと握手した。
すると、シエスタが何やら皿を持って来た。
「ポロン様、熱い内に召し上がって下さい」
見ると、何やらシチューの様なものであった。
賄いというだけあって肉や魚の類は入っていないみたいであったが、先程飲んだスープに比べると匂いから何まで段違いである。
シエスタから皿とスプーンを受け取り、一口食べる。
濃厚かつマイルドな味が舌の上に広がる。
「お、こいつぁ美味え!マルトー、あんたなかなかの腕だな!」
「だろ?」
「まあ、うちのサクヤの料理には負けるがね」
「ほほう、そいつは何処のどいつだ?」
「俺の女房さ」
「か〜、そいつは俺にも勝てねえな!そんなんで良ければお代わりもあるぞ」
「そいつは有難いが、あんまり腹いっぱいになっても後でご主人様に怪しまれるからな。
取り敢えずこの一杯を有難く頂かせていただくぜ」
「そうかい」
マルトーやシエスタと談笑しながら、ポロンは賄いを食べ終えた。
料理の味自体も素晴らしいが、やはりこうやって誰かと楽しく喋りながら食べるとより一層美味しく感じる。
ポロンはふとルイズのことを思い出した。
(そういや、アイツ・・・。食堂でも独りだったな)
料理にばかり気がいっていたが、ルイズはあの場で誰かと楽しくお喋りしながら食事をしている風では無く、独り黙々と食事をしていた。
無論、独り静かに食事をするのが好きな人もいるが、ルイズの表情は何処か寂しそうだった気がする。
(食事が終わるまでは一緒にいてやってもいいか・・・な)
ポロンはマルトーとシエスタに礼を言うと、厨房から出て行った。
暫く廊下を歩いていると、ルイズに出会う。
どうやらついさっき食事を終えた様であった。
「ちょっと、いきなりいなくなるからしんぱ・・・探したのよ!!」
「すまねえ、便所へ行ってたんだ」
(厨房に行っていたことは出さない方がいいな。何言われるか分かんねえし)
「食事中にそんな話されても嫌だと思ったから言わなかったんだが・・・不味かったか?」
「・・・せめていつ戻るかくらいは言いなさいよね?」
「ああ、そうするよ」
「・・・まったく、さあ行くわよ!」
「?何処へだ?」
「教室よ。使い魔を呼び出して初めての授業だから、使い魔も同伴しなきゃダメなの」
「教室・・・ねえ」
(どうも勉強ってのは好きじゃねえが、この世界をより知るチャンスって考えたら悪くは無いか)
ポロンは頷くとルイズの後を追って教室へと向かった。
教室へ辿り着くと、ルイズはすぐに自分の席へ座ったが、ポロンは座らずに立っている。
そんなポロンを見てルイズはにっこりと笑った。
「よく学習したようね?」
「御蔭様で。で、俺は何処にいればいい?」
「使い魔は後ろに立っていなさい!と言いたいところだけど、いいわ。隣へ座りなさい」
「こりゃ、有難いことで」
そう言われて、ポロンはルイズの隣に座った。
周りを見ると、他の生徒たちは皆何かしらの使い魔を連れていた。
暫くすると、中年の女性が入って来るのが見えた。
紫色のローブに身を包み、ふくよかな体型をしている。
どうやらあの女性が教師の様だ。
女性はコホンと軽く咳をした。
「お早うございます。初めましての方は初めまして。私、シュヴルーズと申します。
私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。土系統の魔法をこれから一年間、皆さんに講義します。
よろしくお願いしますね」
彼女はそう言うと、教室を一通り見回すと満足そうに微笑んだ。
「皆さん、使い魔の召喚は大成功の様ですわね。私はこうやって春の新学期に皆さんの使い魔を見るのが、
毎年とても楽しみなのですよ。中には変わった使い魔を召喚した者もおりますが・・・」
シュヴルーズがポロンをチラっと見てそう言うと、教室中が笑い声に包まれた。
ルイズは思わず俯く。
そんなルイズの様子を見ると、ポロンは再び不機嫌になる。
(あのシュヴルーズとか言う教師、こんなこと言ったらルイズが笑い者になるって分かってんのか?
分かって言ってんならいい性格していやがるが・・・)
ポロンが心の中でシュヴルーズを批判していると、太った少年が立ち上がり更に囃し立てる。
「『ゼロのルイズ』!召喚出来なかったからってその辺の平民を連れて来るなよ!」
再び教室中が笑い声で包まれた。
ルイズは思わず立ち上がり、その少年に対して怒鳴った。
「違うわ!きちんと召喚したもの!こいつが来ちゃっただけよ!」
「嘘吐くな!『サモン・サーヴァント』が出来なかったんだろう!」
「ミセス・シュヴルーズ!これは侮辱です!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱しました!」
「風邪っぴきだと!?僕は『風上のマリコルヌ』だ!!」
「アンタ自分の声聞いたことある?無いでしょうね。アンタの声はガラガラで、まるで風邪をひいてるみたいなのよ。知らなかった?」
「何だとお!?」
シュヴルーズはやれやれと首を振ると、小ぶりな杖を振った。
すると、今まで立っていた2人が急にすとんと座った。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はお止めなさい。
2人ともお友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではいけません。分かりましたか?」
マリコルヌと呼ばれた少年はシュヴルーズにそう言われると憎々しそうな顔でルイズの方を見る。
「ミセス・シュヴルーズ。僕に対する風邪っぴきは只の中傷ですが、ルイズの『ゼロ』は事実です」
その一言に、くすくすと笑い声が起き始める。
シュヴルーズは穏やかだった顔を厳しくして教室内を見回した。
そして杖を振ると何処からか赤い粘土が現れてくすくす笑いをする生徒達の口を塞いでいく。
「お友達を笑うとは何事ですか。罰としてあなたたちは、その格好で授業を受けなさい」
こうして教室内から笑い声は収まった。
それを見て満足した様にシュヴルーズは微笑む。
一連の流れを見ていて、ポロンは思った。
(てめえの不始末をてめえで片付けただけじゃねえか。何、ひと仕事した。って顔してやがんだ。
・・・それにしても、生徒を座らせたり赤い粘土を飛ばしたりと、ここの呪文は俺らの世界の呪文とは違うんだな
ま、俺らの世界にも神仙術とか似たようなことが出来るものもあるっちゃあるんだが)
授業が始まった様で、シュヴルーズが何か話している。
ポロンは一先ずその話に耳を傾けた。
シュヴルーズはまず、系統魔法についてルイズに質問を投げ掛けた。
「はい、ミセス・シュヴルーズ。系統魔法の種類は『火』、『水』、『土』、『風』の4つです」
ルイズが答えるとシュヴルーズはにこりと笑う。
「はい、その通りです。そして、今は失われた系統魔法である『虚無』と合わせて、全部で5つの系統があることは皆さんも知っての通りです。その5つの系統の中で『土』は、最も重要なポジションを占めていると私は考えています。
何故なら、土系統の魔法は万物の組成を司る重要な魔法なのです。土系統の魔法は皆さんの生活にも密接に関係しているのですよ」
そして土系統の魔法の特長が説明された。
(ふーん。なるほどな。こっちの呪文・・・おっと魔法か?まあ別にどっちでもいいが、そいつは人々の生活に根ざしたものなんだな)
シュヴルーズは魔法で石を呼び出すと、土系統の魔法の基本である錬金を見せる為にその石に向けて何かを唱える。
すると石が光りだし、金色の物体へと変わっていた。
それを見るなりキュルケが思わず身を乗り出す。
「ご、ゴールドですか?」
「違います。これはただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの『トライアングル』ですから」
シュヴルーズの言葉を聞くと、ポロンはルイズの肩を叩いた。
「おい」
「・・・何よ。授業中よ?」
「『スクウェア』とか『トライアングル』って何だ?」
「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの。1つの系統に他の系統を足したり、同じ系統を足したりして魔法を強化することが出来るわ」
「ほう・・・」
「足せる数によって下から『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクウェア』と上がっていくのよ。
「あー、ミス・ヴァリエール?授業中にお喋りは感心しませんね」
「!?あ、す、すみません」
「では、その罰も兼ねてミス・ヴァリエールには錬金の実演を行ってもらいましょう」
「ええ〜〜!?」
ルイズは思わずポロンの顔を睨む。
ポロンも自分に原因があるので、取り敢えず「悪い悪い」と謝罪する。
渋々ルイズは立ち上がると、キュルケが口を開いた。
「・・・危険です」
「?危険とはどういうことですか?」
「危険だから危険なんです。ミセス・シュヴルーズは確か、ルイズを教えるのは初めてでしたよね?」
「ええ。でも、彼女が努力家であるということは私の耳にも届いていますよ」
シュヴルーズがそう言ってにこっと笑うと、キュルケは頭を抱えた。
そんなキュルケを不思議そうに見た後、シュヴルーズはルイズの方へ向き直った。
「さぁ、ミス・ヴァリエール。気にせずに前に出て来なさい。失敗を恐れていては前に進むことも出来ませんよ」
当のルイズは、キュルケに水を差されたことに腹を立てていた様で、「やるわ」と一言だけ口にし、緊張した面持ちで教壇へと向かった。
教壇へと辿り着くと、シュヴルーズはルイズに向かって二言三言何かを伝える。
ルイズはこくりと頷くと目をつむり手に持った杖を振り上げた。
そして何かを呟くと、杖を思い切り振り下ろす。
その瞬間、強烈な光が辺りを包み大爆発が起きた。
「!?な、何だ!!?」
ポロンは思わず伏せるが、間に合わず教室の後ろの方まで吹っ飛ばされた。
壁に叩きつけられたものの、思ったよりはダメージが無くポロンは何とか立ち上がることが出来た。
教室を見回すと、そこは見るも無残な姿へ変わっていた。
爆発に驚いた使い魔達が暴れ出し、教室内は大パニックとなっている。
「・・・ルイズは大丈夫か!?」
教壇の方を見ると、爆心地の間近にいたシュヴルーズが黒板に叩き付けられたのかもたれ掛かりながら気絶している。
この爆発の原因であるルイズもすぐそこで立っていた。
煤にまみれて真っ黒になっており、服の至る所が破れているのが見える。
ルイズは意外と冷静にハンカチを取り出し、顔の煤を拭いた。
そして一言だけ呟く。
「ちょっと失敗みたいね」
ポロンは何故彼女が『ゼロのルイズ』と揶揄され、馬鹿にされているのかをこの時理解した。
119 :
ゼロの賢王:2010/11/28(日) 07:14:06 ID:/EweX8it
これで第4話は終了です。
本当は食堂と教室で二つに分ける予定でしたが、一部削って一緒にしちゃいました。
年末が近付いているということでそろそろOCNが再び規制されそうなんですが
それまでお付き合いよろしくお願いします。
CMキャラ召喚なんて代物を考えてしまった。
懐かしいところでせがた三四郎とか。
賢王の方、投下乙です
CMキャラ召喚ねぇ・・・やっぱお父さん呼ぶしかないでしょ
ちょっと考えてみるか
投下乙です。
毎回楽しみにしてます
てすと
CMキャラクターか
ウルトラマンHotto、ウルトラマンMotto、ウルトラマンKittoを召喚
そこはウルトマランゼアスでしょう
ちょいと古いがペプシマンとか
PC漁ってたら前に書いて投下しなかったのが出てきたんだけど投下してもいいですか?
つーか書き過ぎて超長いんですけど…txtをどこかに上げるっていうのはアリですか?
それともチビチビ切り貼りしたほうがいいのか…
>>126 ゼアスは主役作品有るしなあ
PSのゲームはずいぶん楽しみました
>>128 小分けにして貼っていった方がいいんじゃないでしょうか。
フリオニールの第3話できました。
1話あたりの長さに関しては正直どのくらいが適切なのか掴めてません。
他の作品との兼ね合いもあるし。
投稿したいなんて言っておきながらまだギーシュとの決闘を書いているところです。すまぬ。
>>102 FF2では使う魔法ってそんな多くないんだよね。アルテマはアレだし。
本当は強いみたいだけど普通そこまでやらんよなぁ。
ルイズの身支度が終わると、二人は『アルヴィーズの食堂』へ向かった。
食堂に到着すると、三列の食卓には豪華な飾りつけと食事が所狭しと並べられていた。
豪華絢爛なテーブルを目の当たりにして目を輝かすフリオニール。
その様子を横目で見ていたルイズは
「あんたはあっち」
勝ち誇ったように指をさす。
フリオニールがその方向へ目線を移すと、床の上に具のないスープと硬そうなパンが置いてあった。
(いいじゃないか!ただ、だし)
フリオニールは自分にそう言い聞かせるが顔で笑って心で泣いた。
「使い魔がご主人様と同じものを食べられるとでも思ったの? 本当なら使い魔は外で
食事をするところをこのわたしが『特別に』中で食べさせてあげるんだから感謝しなさい」
傷心のフリオニールにルイズは恩着せがましく言った。フリオニールの表情を見るに
使い魔教育第一弾は大成功のようだ、とルイズは満足した。
フリオニールはとぼとぼと歩き出し食事の置いてある床に座るのであった。
朝食後、ルイズとフリオニールは教室へ向かった。
大学の講堂のような広い教室の中に入ると、生徒達が様々な使い魔を引き連れていた。
どうやら人間の使い魔を連れているのはルイズだけらしく、それをネタにルイズは他の
生徒達にからかわれていた。
顔を赤くして反論するルイズ。ルイズへの嘲笑はフリオニールにも向けられているのだが、
フリオニールは心ここにあらずの心境で思考を巡らせていた。
(一緒に授業に参加すれば元の世界へ帰られるヒントを得られるかも)
「さぁ、授業を始めるわよ」
女性教師が教室へ入ってくると、喧々諤々と騒いでいた生徒達は各々席へとついた。
「絶対に許さないんだから。ツェルプストーの奴・・・」
初対面の時と同じくらいに不機嫌になって独り言を呟くルイズにフリオニールはダメ元で
「あの〜、俺の席はないですよね?」
「当たり前でしょ!」
ルイズの一喝にフリオニールはビクンと反応すると諦めて床に座った。
「皆さん、春の使い魔召還は大成功のようですね。このシュヴルーズ、みなさんの使い魔を
見るのを毎年楽しみにしているのですよ」
シェヴルーズは生徒達の労をねぎらうと、教室を見渡しフリオニールに眼をとめた。
「ミス・ヴァリエール、また変わった使い魔を召喚したようですね」
シュヴルーズの発言に教室中から笑い声がおこった。
顔を真っ赤にして俯くルイズ。
その様子を気の毒そうに見上げるフリオニールを尻目に授業は始まった。
『系統魔法』と呼ばれるこの世界の魔法は土・水・火・風の四系統に加え、伝説の
系統として『虚無』が伝えられている。メイジは最低でもどれか1つの系統の
魔法が使え、メイジが魔法の杖を振るい、ルーン(魔法語)を唱え、精神力を消費
する事で魔法は発動する。
(あ〜、魔法の説明か。魔法は専門じゃないしつまんないな)
さらに講義は続き
メイジの能力は「(同系統の重複も含め)各系統を幾つ足せるか」で示される。
また、メイジには『ドット』『ライン』『トライアングル』『スクウェア』の4階級
があり、ランクが1つ上がるごとに魔法の消費精神力は約半分になり、魔法の
ランクが1つ上がるごとに精神力の消耗は約2倍になる。
(熟練度が上がれば使うエネルギーも増す、か。俺の住む世界とあまり変わらないみたいだな)
メイジにはそれぞれ、その特性を顕す二つ名がついている。
(うちの「ご主人様」の二つ名は確か・・・)
フリオニールは思い出そうとしたが、答えが出てこないので小声でルイズに問いかけた。
「ルイズさんの二つ名ってなんでしたっけ?」
「えっ!?」
ルイズは使い魔の質問に思わず素っ頓狂な声を出した。
「ミス・ヴァリエール。ではあなたにこの『錬金』をやってもらいましょう」
ルイズの声を挙手と勘違いしたシェヴルーズは魔法の実践をするのに彼女を指名した。
ざわめく教室。
「先生。それは止めておいた方がいいと思います」
「そうです!無茶ですよ。『ゼロ』に魔法を使わせるなんて・・・」
「また教室が滅茶苦茶にされる!」
シェヴルーズはコホンと咳払いをひとつして
「失敗を恐れていては進歩はありません。さぁ、ミス・ヴァリエール。こちらへ」
「はい」
ルイズは意を決して教壇へ向かう。すると、他の生徒と使い魔達は机の下に潜り込んだり
教室からそそくさと出て行った。
嫌な予感がしたフリオニールは、背中にかけていたアイスシールド(オーガチーフから
入手したおたから)を素早くはずして左手に持つと防御の体勢をとった。
(何が起こるんだ!?)
ルイズは教壇に立つと杖を掲げてルーンを詠唱した。
すると次の瞬間、ルイズの目の前にあった石が爆発を起こした。
ちりとほこりが教室中に蔓延する。
フリオニールは防御していたこともあり被害はほとんどなかったが、至近距離にいた
シェヴルーズは爆風をまともに受けて倒れていた。詠唱者であるルイズは無傷で
あったが呆然と立ちすくしている。
(大変だ!)
フリオニールは急いでシェヴルーズの元へ駆け寄り、『ケアル』の魔法を唱えた。
すると、意識を取り戻したシェヴルーズはゆらゆらと立ち上がり、ルイズに後片付けを
命じるとダメージが残っているのか重い足取りで保健室へと向かっていった。
懸命に教室の掃除をするフリオニール。作業をしながら気落ちしているルイズを励まそうと声をかける。
「先生が無事でなによりでしたね。ところで、ルイズさんの魔法すごい破壊力ですね」
「は?」
「俺の住む世界にはあんな魔法ないですよ。ルイズさんは立派な魔法使いなんですね」
「・・・それ、嫌味で言ってるわけ?」
「とんでもない!あの魔法を駆使すればモンスターの大群もイチコロですよ」
「魔法も使えない平民に同情される筋合いなんてないわ!」
「少しは使えるんですけど・・・」
「杖も持っていないくせに!貴族を愚弄するなんて言語道断だわ!」
気まずいムードになる二人の前に赤い髪をなびかせた一人の女性が近づいてきた。
「派手にやってくれたじゃない。ミス・ヴァリエール」
「冷やかしにきたならあっちに行ってちょうだい。ミス・ツェルプストー」
「あら、私は授業が自習になったお礼を言いにきただけよ」
「お礼なんて結構よ!」
火花を散らすルイズとツェルプストー。
ツェルプストーはふとフリオニールの方へ視線を変え、
「あなたがミス・ヴァリエールの使い魔君ね」
「はじめまして。フリオニールです!」
掃除をしていた手を休め挨拶するフリオニール。
(きれいなひとだなぁ)
豊満なバストにすらっとした長身。ほのかな甘い香りを漂わす美人を前にフリオニールは
思わず鼻の下を伸ばした。
「フリオニールね。私のことはキュルケと呼んでいただいて結構よ」
「ありがとう」
「ところであなた。さっき倒れていたミス・シェヴルーズを介抱したとき、かざしていた
手が光っていたようだけど?」
「ああ、あれ。魔法はあまり得意じゃないんだけど」
「あなたメイジなの?」
「いいえ、ロッテっす」
「???シャルロッテ?」
ナイスバディのキュルケを前にして舞い上がるフリオニール。そのやり取りをジト目で
見ていたルイズは堪忍袋の緒が切れたのかキュルケに突っかかり始めた。
「人の使い魔にちょっかい出さないでいただけるかしら」
「ちょっかいとは心外だわ。あなたの使い魔、ひょっとするとすごい能力の持ち主かも
しれなくてよ?」
「使い魔のことは主人であるわたしが一番知っているのでお気遣いなく」
「その言葉、確かに聞いたわよ・・・まぁ、好青年みたいだし害はないと思うけど」
キュルケはフリオニールに向けてウインクし
「私にはもっと気軽に話していただいてよくてよ?何ならそんな人使いの荒い主人を
捨てて私のところに来てもいいんだから」
と言い残すと悠然と去っていった。
フリオニール第3話は以上です。
失礼しました。
>>128 スレ投下でいいと思うよ! wktkして待ってる
>>128 長過ぎて猿が怖いとかだったら、避難所でもいいかも
・・・避難所には猿いないよね?
CMキャラクターなら、ナ・ナ・ナイスなあのヒーローもぜひ入れてほしいですね。
主題歌がお気に入りで、執筆中もけっこうよく聞いてたりします。
さてウルトラ5番目の使い魔、24話の投下準備できました。
問題がなければ、10分おいて14:50より開始いたしますのでよろしくお願いします。
第二十四話
地底の秘密書庫
大ぐも タランチュラ 登場!
オスマンから許可をもらったアニエスとエレオノールは、さっそくミスタ・コルベールに会おうと本塔を降りた。
途中すれちがった何人かの生徒に居場所を聞くと、研究所にしている小屋にいるとのことであった。
しかし、いざ小屋の近くまで行くと、見たこともない鉄の塊の上に乗ったコルベールが二人を出迎えた。
「おお! これはこれはミス・エレオノール教諭! こんな狭苦しいところに来ていただけると光栄ですな」
二人の姿を見るや、ゼロ戦の翼の上から飛び降りてきたコルベールは手を叩かんばかりに喜んだ。
何を隠そう、コルベールもエレオノールファンクラブの一員なのである。この人、前にロングビルを
デートに誘ったことはあるがあっさりとあしらわれ、一応嫁がいないことを気にしているのであった。
アニエスはコルベールに事情を説明して、鍵の貸与を申し出た。しかし以外にもコルベールは
しぶった態度を見せた。
「地下へですか? それはあまりおすすめできませんね。あそこは泥棒避けに防犯の強力な魔法が
仕掛けられていて、うかつに入ると大変危険なのです」
「私は騎士だ。危険などは恐れん。そのためにミス・エレオノールに同行を頼んである。それに、これは
王女殿下の命令であるし学院長の許可も下りた。貴方に拒否権はない」
ここまで来ながらアニエスに引き返す選択肢はなかった。危険だというのであれば、それ以上に
危険なことを少し前にもしてきている。今更魔法のトラップごときにおたおたしてはいられない。
コルベールはなおも不服そうな様子を見せたけれど、やがて観念したようにため息をついた。
「わかりました。鍵を開けましょう。ですが、私の権限で開ける以上、安全のために私も同行いたします。
よろしいですね?」
「了解した。参考までに、貴方のメイジのクラスは?」
「一応、火のトライアングルだ」
「そうか……」
そのときコルベールは、アニエスの顔にわずかにかげりが見えたような気がした。
「アニエスくん、なにか私は気に障ったことをしたかね?」
「……いや、個人的なことだ。公務に差し支えはない。それではいくぞ、ミス・エレオノール……あれ?」
と、出かけようとエレオノールに声をかけようとしたアニエスだったが、いつのまにやらその本人は
さっきまでいた場所から消えていた。
どこに行ったのか? きょろきょろと首を回してアニエスはエレオノールの姿を探した。すると、
エレオノールはゼロ戦の翼の上に乗って、その胴体を興味深そうに撫で回していた。
「ミスタ・コルベール、これはいったいなんですの? こんな金属、今まで見たこともありませんわ!」
エレオノールの目が、まるで少女のように嬉々としてきらめいていた。ハルケギニアにはまだ
存在しない、ゼロ戦の超超ジュラルミン板が、土系統のメイジと、研究者としての両方の好奇心を
存分にくすぐっていたのだ。
コルベールのほうも、あこがれのエレオノールに声をかけてもらったことと、ゼロ戦に自分以外に
興味を持つ人間が現れたことに感激して、喜んで説明を始めた。
「よくぞ聞いてくれました! これは『ひこうき』といいまして、はるか異国の……」
こうなったらもう止まらなかった。コルベールから説明を受け、その分解図を見せてもらったエレオノールは
驚き興奮して、自らもコクピットやエンジン部を興味深そうにのぞいたり叩いたりする。研究者と呼ばれる
人種にとって、自分の知らないものがあるということは、本能的に確かめずにはいられないものなのだ。
「これが飛ぶというの? 風石の力も借りずに、しかもこの羽根は羽ばたけるようにはできていないじゃない」
「いえ、飛ぶ仕組みが風石とはまったく違うのです。それに、鳥も常に羽ばたいているわけではありません。
風を受けているときには翼を静止しているでしょう。これの場合はこのプロペラという風車を……」
「なるほど、しかしこれほど重そうなものが……」
「そのために、まず地上を滑走して助走をつけるそうです。そのために……」
「それで、これだけ薄い鋼板を使っているのですね。それに、この首のところの『えんじん』というものの
精巧さは……」
水を得た魚とはこのことだろう。研究バカ同士、見事なまでに息が合っていた。エレオノールが
問題点を指摘すると、コルベールはそれに論理的な解説を返す。
アニエスは二人の会話についていけず、しばらく唖然として見守っていた。だが、二人の話が延々と、
いつまで経っても終わる兆しを見せなかったので、いらだってついに怒鳴った。
「お前たちいい加減にしろ!! 日が暮れるまでそうしているつもりか!」
ゼロ戦の胴体を平手でどんと叩き、せかすアニエスにエレオノールとコルベールはそろっていやそうな顔をした。
けれど、仕事は仕事なので仕方がない。二人はしぶしぶゼロ戦から離れると、名残惜しそうにアニエスに
続いて地下への秘密通路へと歩いていった。
しかし、その後姿をひっそりと見守っている者がいることに、そのときの三人はまだ気がついていなかった。
「あれはいつかの銃士隊のお姉さん? それにミス・エレオノールにミスタ・コルベール? ずいぶんと
変わった組み合わせねえ。うふふ、なんか面白そうな予感がしてきたわ。フレイム、あの人たちが
どこへ行くか見張っててちょうだい」
口元に愉快そうな笑みを浮かべつつ、『フライ』でこっそりとその人影は飛び去っていった。
一方、地下道へと向かったコルベールたちは、いくつかの魔法の扉をくぐって、薄暗い洞穴に入っていた。
「まさか、あんなところに入り口があるなんて、誰も思わないでしょうね」
たいまつを掲げるコルベールの背中を見ながら、エレオノールは感心したようにつぶやいた。
コルベールに案内されてついた地下道の入り口とは、なんと女子トイレの壁にカモフラージュされていた。
なるほどあれでは一般生活で見つかることはまずあるまい。男はそもそも入れないし、女にしても
長居したい場所ではない。姑息だが、よく考えたものだ。
「ミスタ・コルベール、書庫へはどれくらいかかりますの?」
「普通に歩いて、およそ十分というところでしょう。ここから先はもう仕掛けはありませんが、足元が
すべりやすいのでお気をつけくださいね」
「はい、ありがとうございますね」
親切に警告してくれたコルベールに、エレオノールは優雅に会釈した。すると、彼がたいまつの灯りでも
わかるくらいに赤面したので、エレオノールはこんなものでもそれなりに効果があるのねと、ちょっといい気になった。
”ふむ、こういうのも悪くないかもね”
なんとなくだけど、ご先祖さまから代々にかけて、ヴァリエール家の恋人を寝取ってきた仇敵ツェルプストーの
気持ちが少しわかったような気がする。難しく考えていたが、男というものは案外単純なものらしい。
もっとも、あまりやると横目で見ているアニエスに笑われかねないので、話題を転じることにした。
「こほん、ところでミスタ・コルベール。あなたのことは、以前よりアカデミーに論文を持ち込んでくるので
名前くらいは存じていました」
「おお! 名だたるエレオノール女史に記憶いただけるとは、光栄のいたりですな」
「残念ながら、大半は考慮する価値なしとして破棄されましたがね。神学一筋の以前のアカデミーでは、
実用主義のあなたの研究は異端以外の何者でもなかったですから」
「はは、まあわかってはいましたが……」
苦笑するコルベールは、認められないことは慣れっこですよと、かぶりをふった。エレオノールは、
そんな彼を冷ややかに眺めていたが、続いて言った。
「……ですが、その内容の精密さについては一目置いていました。先程も、あれほどの精密機械を
分析する知識と技術、いったいどこで?」
「いや、ただ趣味が高じただけですよ。二十を超えてこの道に入りましたが、私には後ろ盾になってくれる
家がなかったもので、最初はあれこれやって食い扶持を稼いでいました。そのうちオスマン学院長の
ご好意でこちらで教鞭をとらせてもらいながら、好きに発明をやらせてもらっているうちに自然と」
「と、いうことはそれほどの知識と技術を独学で!?」
ええまあ、と後ろ頭をかきながら答えたコルベールに、エレオノールは絶句した。主席研究員である
自分ですら、アカデミーでそれだけの地位を得るには並ならぬ努力があったというのに。ゼロ戦の構造を
即座に理解したときに才人が驚いていたように、コルベールの技術力は天才的と評してよかった。
「たいしたものですわね。ですが、あなたほどの技術があれば、アカデミーでも相当な地位と名誉を
得られるでしょうに」
「……まあ、貴女から見ればそう見えるかもしれませんが、私にも信念というものがありまして」
コルベールは、先日才人に語ったとおりのことをエレオノールにも語った。彼女は、その話を
しばらくじっと聞いていたが、やがてため息をつくと言った。
「つまりませんわね。あなたの言うような、火の力でひとりでに動くような装置は、魔法を使えば
すぐにできるではありませんの?」
「ははっ、まあ生徒たちからもよくそう言われます。ですが、魔法に頼らないで魔法と同じような
ことができるようになれば、平民が楽になり、ひいては貴族も楽になって、大勢が幸せになる。
そうは思いませんか?」
「神の御業である魔法をそんな下賎なことといっしょにするなど、とんでもありませんわ。異端と
までは言いませんが、あなた相当変わってらっしゃいますわね」
エレオノールは軽蔑する様子を隠そうともしなかった。彼女も、神学一辺倒のアカデミーの方針に
うんざりしていたのには違いないけれど、貴族に一般的な『魔法は神聖なものなのだから、それを
平民のために使うのは下劣なこと』という思考と無縁ではない。むしろ、コルベールとは貴族の
階級の差で頭ごなしに怒鳴りつけないだけましなほうである。
しかし、コルベールの信念も、それで曲がるほどやわではなかった。
「私はこのとおり、貴族としての身分も低いし、見た目もさえません。この歳で嫁のきてもなく、
私の家系は私の代で絶えるかもしれません……ですが、こんな私でも人の役に立てることが
あれば、死ぬときまで誰かのために尽くして生きたい。そして、私にできることは、教師として
働くことと、そうしたこざかしい発明を考えることくらいなのです」
熱く、熱くコルベールは語った。
「平民のために尽くすですか。私にはわかりませんわ」
「いいえ、それは違います。私は貴族とか平民とかではなく、人々のために尽くしたいのです。
この命が続く限り……いや、私のことはいいでしょう。私には私、ミス・エレオノールにはそれぞれの
信念があり、それが結果的にトリステインのためにつながっていくならば」
「そうですわね。こうして議論をしていても、互いに妥協点が見つかるとは思えませんわ」
「いつかはわかりあいたいものですがね……では、互いに興味のある話題に戻りましょうか。
貴女もさっき見たとおり、私は最近、あの『ひこうき』の研究に打ち込んでおりましてね。いやはや、
調べれば調べるほど興味深いものでして、楽しくてたまらないのです」
すると、気難しそうな表情をしていたエレオノールも、それには同感だと顔の筋肉をほころばせた。
「確かに……私も仕事柄、古代のアイテムを扱うことはありますけれど、あれほどに精巧に組まれた
装置はいまだかつて見たことがありませんわ。あなたはあれを、どこで手に入れなさったのです?」
「生徒の使い魔……いえ、友人からの預かり物でして。はるか遠くの異国からやってきたものだそうです」
「異国……使い魔……? それはもしかして、黒髪の剣をたずさえた少年ではありませんか?」
ピンときたエレオノールが尋ねると、コルベールは意外そうな顔をしてうなずいた。
「おや、サイトくんをご存知でしたか。これは奇遇……いやいや失敬、ミス・エレオノールはルイズくんの
お姉さんでしたな。ならば知っていて当然ですな」
「ええ……あの駄犬が」
「は? なんですと?」
「あ! いえいえなんでもありませんことよ!」
思わず漏らしてしまったつぶやきを、エレオノールは慌ててごまかした。彼女にとって、いまだ才人は
妹をたぶらかした不埒な平民なのである。才人はまったく意識していないけれど、自分がいまだに恋人の
一人もできないことへの苛立ちも含めて、逆恨みの激しさははらわたが煮えくり返るようだ。
と、そのとき。それまで二人の話を興味無げに前で聞いているだけだったアニエスが振り返った。
「ほお、なんとも珍妙なものがあるなと思ったら、やっぱりサイトが絡んでいたか。まったく、あいつは
相変わらずところかまわずに騒動のタネを撒いているようだな」
「おや、アニエスくんはサイトくんとお知り合いなのですか?」
意外そうに驚いたコルベールに、アニエスはそうだとうなずいた。目立つことを嫌った才人が隠しているので、
ツルク星人やワイルド星人、それにアルビオンや先日のトリスタニアでのことも、一般には才人のことは
知られていないのである。
アニエスは、才人との関係を、前にトリスタニアですりを捕まえるときに手伝ってもらい、その縁で剣の
指南などをしているうちに親しくなったと語った。あながち嘘でもない。
「あいつはあの歳でなかなかたいした奴だ。剣の腕はそこそこだが、性格はまっすぐで心に強い芯を
呑んでいる。私は任務やいろいろな戦いの中で、散々悪党やろくでもない奴らを見てきたが、あいつと
見てたらこの世もなかなか捨てたものじゃないなと思えてくる」
「そうですな。ん? そういえば、サイトくんはこのあいだトリステインの戸籍を取得したと、学院長のところに
登録に来ましたが、ミランという名前はもしかしたら?」
すると、アニエスはご名答とばかりに微笑んだ。
「サイトとは、貸し借りも増えてきて他人とは思えなくなってきたので、その縁で身元の引き受け人をね。
ミスタ・コルベール、よろしければ私のかわいい弟をこれからも頼みます」
「あっ! い、いえこちらこそ彼には色々と教えられています。あなたこそ、彼は危なっかしいところが
多いので、助けてあげてください」
二人とも、自分の見ていないところでは才人をよろしくと、誠意を込めて相手に頼んだ。
だが、逆にエレオノールの不愉快度は上昇の一途をたどった。
気に入らないの二乗となって、清楚の殻の下で怒りのマグマが煮えたぎる。あの平民は、妹を
たぶらかしただけでも許しがたいのに、それが今をときめく平民の英雄の弟になったとは。これでは、
身分いやしきものとして結婚に反対する大義名分が崩れてしまう。お母さまも元はといえば下級貴族の
出身なのだから、これだけあれば身分には拘泥するまい。いや、万一にもあの平民とルイズが結婚
するようなことになれば、自分とこの女とは親戚どうしになる。
「エレオノールお姉さん」
ならまだいいが。
「エレオノールおばさん」
冗談ではない! 未婚のままおばさんにされてたまるものか。
理性のたががずれて、地の暴言が喉の奥まで湧いてくる。「平民が調子に乗るんじゃないの!
トリステインの上流階級に、魔法も使えないものが入ってこれるなんて思わないことね」と。
けれど幸いに、エレオノールの理性が外れる前に、メイジの本能がそれを上書きした。
ふと、足の裏から伝わってきた異様な振動。普通の人間では感じ取れないような微細なそれも、
土のトライアングルメイジである彼女になら感じ取れる。
「お二方!」
「はい」
「ええ……」
話しかけると、コルベールとアニエスも足を止め、目つきを鋭く変えて振り向いた。エレオノールとは別に、
アニエスは歴戦の経験から異様な気配を感じ、火のメイジであるコルベールも、後ろから流れてくる
空気の温度の微妙な変化を感じ取ったようである。
”つけられている……”
自分たち三人以外の別の誰かが、この地下通路にいる。しかも、気配からして一人ではなく複数だ。
何者だろうか……ここまで自分たちに気づかれなかったということは、向こうも気配を殺していたのだろう。
ならばまさか! 当たりをつけたアニエスは素早く銃を取り出すと、後ろに向かって撃った。
「出て来い! そこにいるのはわかっている!」
銃声が通路の壁に反響し、地上より強烈に耳を痛めつける。
しかし警告にも関わらずに相手が動かないと、今度はエレオノールが叫んだ。
「出ていらっしゃい! 不平貴族どもの残党ですか!? 隠れていると、丸ごと生き埋めにしますよ!」
それは脅しでもなんでもなく、明白な最後通告だった。もしもあと数秒、なにも反応がなかったら
エレオノールは本気で通路を崩していただろう。
だが、緊張して相手の出方をうかがっていたら、通路の奥から聞こえてきたのは、完全に想像外の
間の抜けた声であった。
「まままま! 待ってくださいエレオノール先生! 埋めないで!」
ん? この声は……? この、すっとぼけた軽い男の声は。三人とも、どこかで聞いたような気が。
ピンときて思い出そうとしていると、通路の奥からさらに聞き覚えのある声が響いてきた。
「このバカギーシュ! あんたが石にけつまずいてこけたりするから気づかれちゃったじゃない!」
「そうよ。せっかく話が面白くなってきたってとこだったのに!」
「いやいや! それよりもやることあるだろ君たち! 生き埋めにされたらたまらないよ」
「ギーシュ隊長! 隊長のせいなんだから、先陣きってお願いします」
がやがやとにぎやかな声がこだまして、アニエスたちはあっけに取られた。そして、たいまつの灯りに
照らされて、まずは金髪の少年が、それから赤髪の少女やよく見知った少年少女たちがぞろぞろと
出てくると、三人とも唖然としていた。
「ギーシュくん……それにミス・ツェルプストーにミス・モンモランシ。レイナールくんとギムリくんまで……」
コルベールが一人一人名前を告げたとおり、頭をかいたりごまかし笑いをしたりしながら現れたのは、
何を隠すまでもない、彼らの教え子達であった。
「あなたたち、いったいこんなところで何をしているの?」
すっかり気が抜けて、杖を持った手を下ろしたエレオノールが聞くと、一同からいっせいに視線を
向けられたキュルケが空笑いしながら答えた。
「あははは。実はさっき、先生方が『ひこうき』のところでなにかお話しているのをたまたま見かけて。
コルベール先生がエレオノール先生と連れ立ってどこか行くなんて、ねえ」
すると、ギーシュもモンモランシーに突っつかれて言った。
「ま、まあキュルケに面白そうなものが見れるかもよと言われて……つい」
「なに言ってるのよ。我らの女神、ミス・エレオノールがあのコッパゲと逢引などと許せん、なんて気勢
吐いてたのはあなたたちじゃない」
「だったら君はなんでついてきたんだね?」
「え、そりゃあ……」
モンモランシーが口ごもると、キュルケがわざと独り言のようにささやいた。
「いつも目の届くところにあの人がいないと、落ち着かないのよね」
「ちょ、キュルケ! わ、わたしはギーシュやこの男たちが思い余って馬鹿なことしないか見張ってるだけよ」
するとギムリとレイナールも。
「いや、我々はギーシュ隊長の指示に従っただけであります」
「おいギムリ! ああもう、だから尾行なんかやめようって言ったのに」
どうやら、ことのあらましがわかってきた。
彼らの言ったことを端的にまとめると、ゼロ戦の前でのコルベールたちの話を立ち聞きしたキュルケが、
面白そうだと言ってギーシュたちに伝えた。それでエレオノールのファンであるギーシュが悪友の
ギムリとレイナールを誘って、ギーシュが心配になったモンモランシーもついてきたというわけだ。
コルベールとエレオノールは「まったく君たちは……」と呆れた。年頃から、そういうことに興味が
深いのはわかるけれども、逢引とはいくらなんでも。
しかし、二人に代わってアニエスが口を開くと、ギーシュたちの愛想笑いも消えることとなった。
「ほお、お前らは。久しぶりだな、まだ生きていたか」
「あ、はい……その節は、お世話になりまして」
アニエスとギーシュたちは、以前一度だけ、王宮で顔を合わせたことがある。あれは、もうずいぶんと
前になるか、ホタルンガの事件のおかげで国内の貴族などが召集されたとき。あのとき、王宮が
広すぎたせいで情けないが迷子になり、銃士隊と出会い頭にぶつかってえらい目にあってしまった。
「前は銃を突きつけられただけで腰を抜かしかけていたな。学生の騎士ごっこはまだ続けているのか?」
「あ、ま、まあ……」
せせら笑うようなアニエスに、ギーシュはそのときのことを思い出して冷や汗をかいた。王宮に
呼ばれたということで浮かれあがり、不審者と間違われて銃を突きつけられたときは死ぬかと思った。
だが、悠然と見下してくるアニエスの視線に晒されていると、威圧感と並んで屈辱感も湧いてくる。
「どうした? 顔色が悪いぞ。そうか、騎士ごっこは怖くなったから、今ではままごとをしてるのか?」
「くっ……」
侮蔑を隠そうともしないアニエスに笑われても、すぐには反論の言葉が喉を通らない。たとえるならば、
子供が立派な大人になっても、よぼよぼになった母親の一喝にかなわないようなものだ。
確かに、近衛部隊である銃士隊に比べれば、一応ギーシュたちはヤプールによる内部侵攻に対する
ための軍の一員として認められているものの、実体は魔法学院の防備のみを任された自警団にすぎない。
それでも、ちっぽけでも譲れない誇りはある。
「あ、あまり馬鹿にしないでもらえるか! ぼくらだって、これでも何度も学院を襲った怪獣と戦ってるんだ」
ギーシュがアニエスの眼光に負けないように、勇気を振り絞って叫ぶと、ギムリとレイナールも
いわれない侮辱は許さないぞとアニエスを睨みつけた。
「ほお、言うことは立派になったな……なら、試してみるか?」
不敵な笑いを浮かべ、拳を顔の高さまで上げたアニエスにギーシュたち三人は明らかに気圧された。
普通に考えたら、平民一人がメイジ三人にかなうはずはない。が、アニエスは剣どころか素手でも
三人を倒して見せるといわんばかりの迫力を見せている。
コルベールとモンモランシーは、よしてくださいとアニエスを止めるがアニエスは一瞥もしない。
そして、どうするかと選択を迫られたギーシュは、軽く息を吐き出して言った。
「よしておきましょう。平民でも、婦女子に向ける杖をぼくは持ちません」
「ふ、臆病風に吹かれたか?」
「……」
挑発するようなアニエスの言葉に、ギーシュは答えずにじっとアニエスを見返した。
数秒か数十秒、睨みあいが続いた。アニエスの眼光は、気の弱いものなら失神してしまいそうなほど鋭い。
それでもギーシュが目を離さずにいると、やがてアニエスは表情を緩めてふっと笑った。
「なかなかいい顔ができるようになったな。見ないあいだに、立派になったようだ」
「へ?」
唐突なアニエスからの褒め言葉に、ギーシュたちは思わず目を丸くした。
「ふふ、共に肩を並べて戦った戦友は忘れんさ。すまんな、お前たちが腑抜けていないか気になって、
少しばかり葉っぱをかけてみた。許してくれよ」
深く頭を下げて謝罪するアニエスに、ギーシュたちは驚いた。でも、戦友という言葉に気がつくと、
照れくさそうに頬を染めた。バム星人が王宮に侵入したとき、銃士隊とギーシュたちは一度だけだが
力を合わせて戦ったのだ。
「えーっと……どうか、頭を上げてください。我ら一同も、あのときの銃士隊の皆様との共闘を忘れては
いません。その勇猛さは、噂が伝わってくるたびに尊敬していたほどです」
その言葉は嘘ではない。数々の経験を積んで、ギーシュたちの器も昔よりは大きく成長していた。
それに、ギーシュの見るところ、アニエスもあのときに比べたらだいぶとげがとれたように思える。
むろん、それに才人がいろいろと関係しているのを彼らが知る由もないが、冷や冷やしながら
見守っていたコルベールとモンモランシーは、ほっと胸をなでおろした。
それからアニエスとギーシュたちは、主にそれぞれが体験した怪獣や宇宙人との戦いなど、懐かしい話を
いろいろと交わした。特にアニエスと才人が姉弟になったことはギーシュたちを驚かせたのはいうまでもない。
「しかしまあ、任務中の我らをつけるとは大胆な真似をしてくれたな」
「ああ、そうだ! 話はそこそこ聞いてましたが、任務ってなんなんですか?」
「ん? まあ隠すことでもないが」
どうせもう事後処理の段階なのだからと、アニエスは地下書庫へ行くことを教えた。
そして、資料探しは時間がかかるだろうので、人手は多いほうがいいから、お前たちも手伝えと告げた。
もっとも、これはどうせ貴族がそんな雑用みたいなことできるかと断られると思っていた。ところが、
アニエスの要請に、ギーシュたちは意外にも「はいっ!」と、あっさりと了承して、拍子抜けしてしまった。
いや、それどころか彼らの顔はむしろ真逆に期待に震えているように見える。
「なにかうれしそうに見えるな……」
「あ、いやそんなことないですよ!」
ギーシュたちは慌てて否定したけれど、もちろん裏はある。古代の図書館と聞いて、ギーシュやギムリは
発禁になった艶本があるかもと考え、モンモランシーは特殊なポーションの調合書、キュルケはタバサが
喜びそうなものを探してみようかなと思ったのだ。
やがて、思いもよらずに大所帯になってしまった一行が歩いていくと、巨大な地下空洞に出た。
「あれが、秘密書庫か」
「うわぁ……こりゃ、とんでもないところにあるな」
たどり着いてみて、この場所のことを知らなかった者は一様に慄然とした。
石造りのギリシャ建築のような書庫の建物は、彼らのいる地下空洞の反対側にあり、その地下空洞は
下が見えないほど深い断崖になっていたのだ。
「これはよく作ったものね。土のメイジの傑作だわ」
書庫へと続く一本橋を渡りながら、エレオノールはつぶやいた。この光景だけでも、一つの芸術品としての
価値はありそうだ。しかし、魔法の研究者としては垂涎ものの光景を見ながら、コルベールが憂鬱そうな
顔をしているのに気づいて、エレオノールは尋ねてみた。
「どうしたのですか? 何か気になることでも」
「いえ……ここまでは無事に来れましたが……実は、数ヶ月前や一年ほど前にも、ここを調査したいという
アカデミーの……あ、もちろん擬態だったのでしょうが、そういう人たちがここに入って、帰ってこなかった
ことがあったのです」
地上にいたときも話したコルベールの懸念は、ここに来てもなおぬぐわれてはいなかった。実は彼が
ここの管理を任されるようになる前からも、地下通路に入ったまま帰ってこなかった人間の話はあり、
ここが完全に閉鎖される理由もそれがあった。しかし、早く資料を閲覧したいとはやっているエレオノールは、
彼の懸念を一笑にふした。
「あなたが出てくるのを見落としただけでしょう。あまり変なことをおっしゃらないでください」
「はぁ……」
その言葉にコルベールもとりあえずはうなずいた。だが、それだけでは片付けられない不安と悪寒を、
彼の六感は感じていた。数百年、貴族の悪事と欲望の数々を飲み込んできた書庫。古さだけではない
禍々しい気配が漂っているように思えてならない。
入り口には、『施設内での一切の魔法の使用。及び資料の持ち出しと改変を禁ずる。これを犯したるとき、
死の制裁が下るであろう』というただし書きがついていた。それを見てエレオノールは「ただの脅し文句ね」と
鼻で笑ったが、アニエスは懐から手形のようなものを取り出した。
「賊軍の貴族の一人から押収したものだ。これをもっていれば、資料の持ち出しはできる。ただし、中で
魔法を使うとトラップが発動するそうだから、皆注意しろ」
生徒たちは「はい」と、元気よく答え、勘が外れたエレオノールはやや不愉快そうな顔をした。
屋内はひんやりとした空気に包まれ、足を踏み入れた彼らの頬を冷たくなでていった。
「うわぁ、こりゃすごい。ロマリアの宗教図書館並みだな」
館内を見渡したレイナールが、眼鏡を持ち上げながら、館内の広大さに感心してつぶやいた。
薄暗い館内は二階に分かれて、それぞれ何百という本棚が延々と続いている。収められている
本は大小合わせて何十万冊にのぼるか見当もつかない。
「これは予想以上に大変そうだ」
本来一人で探すつもりだったアニエスは、アクシデントとはいえ人手を得れた幸運にほっとした。
そして、一同はアニエスに探して欲しい資料の題名が書かれたメモを一瞥すると、おのおの好きに
本棚の奥へと散っていった。だが、ひとりコルベールだけが残っていたので、あなたは行かないのかと
尋ねると、
「私は責任者としてあなたを見張る義務がありますからね。お供しますよ」
そう言われたので無理に断るわけにもいかず、アニエスも誰もいなくなったのを確認すると、コルベールと
別の一角へと向かった。しかし、彼女には皆に見せた資料のほかにもう一冊、どうしても探さなければ
いけない資料があるのを、誰にも言ってはいなかった。
そしてもう一つ……これは確証ではなく、戦士としてのいわば勘なのだが、ここに入ったときから
皮膚にざわざわとなでられるような感触がしてならない。
「誰かに見られているような気がする……」
そんなはずがあるわけないと思いながらも、アニエスの手はいつでも剣を取り出せるように身構える
姿勢から動くことはなかった。
書庫は物音一つなく、ただ足音のみが古い床板をきしませる。
歩くたびに降り積もったほこりが舞い上がり、足跡が雪上のように残されていく。
見渡す限り、本、本、本……これだけの書物を貯蔵するのには、いったい何百年の歳月を必要としたのだろう。
ある偉人は、本を読むことは本を書いた人と会話をしているに等しいと言ったそうだが、そうするとここに
いったい何十万人の人がいることになるのだろうか?
増して、人に見せたくない記録ばかりを収集してきたこの書庫のよどんだ空気は、まるで流動せずに
形を持っているかのように闇の中に沈殿する。
やがて、今日またやってきた入館者たちが館内に散ると、闇の中からそれはゆっくりと姿を現した。
入り口ホールの天井に吊るされた古びたシャンデリアから、音もなく一匹のクモが降り立つと、
毛むくじゃらの足を動かして床を這い始めた。まるで、怒っているかのように。まるで、喜んでいるかのように……
カサカサというわずかな足音がホールに響き、やがて消えていった。
館内の思い思いの場所に散った一行は、それぞれの思惑を胸に秘めて、高い本棚を見上げながら歩いている。
エレオノールは、アカデミー関連の資料が収められている一階の奥へと進んだ。
ギーシュたちは、探し物が人に言えるようなものではないので、三人でひそひそ話しながら
左右の本棚を見渡していく。
「うーん、小難しい本ばかりだなあ。ここじゃないのかなあ」
「ねえ、こんなことやっぱりよさない? アニエスさんにバレたら大変だよ」
「なにを言う。レイナール、君は知りたくないのかい? この世の心理が記されているという伝説の
古文書を! ぼくらは貴族だ、騎士だ。いつ国のためにこの命を散らせるかもしれない。そんなとき、
真理を得ぬままに、ヴァルハラへと旅立てるのかい!?」
最低なことを熱く語るギーシュと、ノリノリなギムリに、レイナールはそんな奴がヴァルハラに行けるの
だろうか? と、はなはだ疑問に思わざるを得なかった。本当に我ながら、よくもまあこんな友人と
いまだに付き合っているなと感心する。でもギーシュもギムリも女性に手招きされたら鬼女でもホイホイ
ついていくような奴である。レイナールも、これは何を言っても無駄だと悟るしかなかった。
「わかったよ。こうなったら毒を食らわば皿までだ」
「そうだレイナール! それでこそ、君も立派な騎士だ」
褒められても少しもうれしくない。むしろ人には隠したい光景である。レイナールはため息をつき、
本をあさる手をひと時も休めない友人二人に、それでもなにか苦言を呈しようと思ったが、先の
ギーシュの一言が、最近忘れていたある単語を思い出させた。
「騎士ねえ……そういえばギーシュ、覚えてるか? ぼくたちが自分たちの騎士隊につけた名前」
「ああ、そういえば最近使ってなかったな。水精霊騎士隊とつけたかったけど、学生が名乗るには
立派過ぎるってんで、才人がつけてくれたのが……」
キュルケは、あまり本には興味がないので、とりあえずは頼まれた資料を探しながら、適当な本を
見繕おうとぶらぶらしていた。が、彼女は運が悪く、数百年に渡って張り巡らされていた自然のトラップに
行く手を遮られていた。
「面白そうだと思ったけど、書庫ってけっこう退屈なものね。それにほこりっぽいし、なによこれ!
どこもかしこもひどいクモの巣!」
人の入らない建物の多くがたどる運命は、この書庫とて例外ではなかった。薄暗い室内は、細い
クモの巣は視認しにくく、うっかりすると顔にベタベタと張り付いてくる。クモの巣というものは意外と
強度が強く、巣の主がいなくなってもかなりのあいだ残るのだ。
「もう! せっかくのセットが台無しだわ」
美容を気にするキュルケは、髪にへばりついたクモの巣を引っぺがしながら怒りを吐き出していた。
興味本位でここまで来たものの、こんなことなら適当に男を見繕って遊んでおけばよかった。でも、
珍しい書物を手に入れてタバサを驚かそうという考えも捨てきれない。あの無口無表情なタバサから
礼を言われたことは、親友と自負している自分でさえもめったにないのだ。
「ま……あの子のためと思えばいいか」
気を取り直したキュルケは、左右の本棚を見渡しながら少しは面白そうなものがないかと探していく。
しかしそこは何百年も前の、今はもう存在しない領地の生産高を報告したような書類ばかりで、
学術的な書物の類はなかった。
やがて通路が行き止まり、目の前が大きな本棚に閉ざされると、キュルケは大きく息をついた。
骨折り損か、仕方がない引き返そうと思ったとき、ふと突き当たりの床にほかの書類とは表紙の
デザインが違う厚めの本が落ちているのを見つけて、手にとってみた。
「『ハルケギニア亜人便覧、及び先住魔法についての概要と考察』、うん。小難しそうなところがタバサには
ぴったりかもね」
ようやくそれらしい本を見つけたことに満足して、キュルケは本のほこりを掃うとペラペラとページをめくった。
中身は題名どおり亜人の説明と考察がぎっしりと書き込まれていて少しも面白くないけれど、タバサなら
喜んでくれるだろう。
しかし、なんでこの本だけが場違いにこんなところに落ちていたのだろうか? 誰かが前にここに来て
落としていったのだろうか……? なんとなくそんなことを思ったキュルケは、突き当りの壁にまだ何かが
落ちているのに気がついて拾い上げてみた。だが、それは……
「何これ? メガネに入れ歯、それに短剣……なんでこんなものが落ちてるの?」
ほこりの中から取り上げられたものは、明らかにこの場には不似合いな代物だった。おまけに、短剣には
さびと同化しかかっているが、明らかに血の跡がある。
薄気味が悪くなってきたキュルケは、さっさと立ち去ろうと腰を上げかけた。しかし、突き当りの本棚に、
爪で引っかいたように残されていた文字を見て、思わず立ちすくんだ。
「タスケテ……タベラレル」
一方、生物書庫欄へと向かったモンモランシーは、さっそく珍しいマジックポーションの調合の
作り方を記した本を見つけて、熱中して読んでいた。
「ふむふむ、このポーションにこんな配合の仕方があったなんて。こうすれば、より少ない材料で
効果を倍増できるのね」
すっかり目的を忘れて、モンモランシーはめぼしい配合の方法をメモに書き写すのに忙しかった。
だが、そうして一人で本に向き合っているうちに、モンモランシーの背後に、天井から音もなく
何かが降りてきていた。
「んー、この材料は現在じゃ入手不可能ね。でも、これならマンドレイクで……ん?」
そのときモンモランシーは、後ろから肩を軽く叩かれたことに気がついた。
「なに? ギーシュでしょ。今忙しいの、話なら後にして」
どうせ二人きりで愛の本を探そうとか、そういう話だと思ってモンモランシーは相手にしなかった。
けれど、無視しているとさらに数度、それでも無視しているとさらに数度肩を叩かれた。
「んもう! しつこいわねぇ! 今それどころじゃないって言って……」
続く
以上です。
アニメには、オリジナルストーリーがいくつか挿入されていますが、この地底の秘密文書編もその一つで、
原作では同じシーンにいても会話のないアニエスとエレオノールがいっしょにいる数少ない場面なので、
かなり前から企画していた一つです。
そしてタランチュラ、TV版のクモンガとでもいうべき操演の名怪獣です。ウルトラQは元々は
怪奇SFだったといことはそこそこ知られた事実ですが、この話は中でも怪奇が強烈でした。
同時に、ウルトラマンなどヒーローが登場してからは活躍の場を失ってしまったのですが、
この作中でならと思い、登場させてみました。
では、次は12月ですね。11月も支援やご感想どうもありがとうございました。
>>151 ウルトラ乙でし…! 逃げてー!モンモン逃げてー!
ウルトラ乙
隠し部屋とか隠し扉とかになんかロマンを感じる俺
遅かれながらウルトラ乙
失礼、投下を。
作者、実はこういう投下は初めてなので緊張気味。
色々と不備がありまくりでしょうが笑って許して下さると有難いす。
ドマイナーもいいとこですが、皆川亮二作「ARMS」で登場した「EXAMY」の死亡グループ三人集です。
需要とか、たぶんないかも……。ていうか誰も知らない。でも我慢できなかった。ついカッとなってやった。反省はしていない。
もしよければ、15分からぶん投げます。
>>130 ありがとう
そうします
あ!遊園地で戦った連中ですか
新作大歓迎、事前支援します
「あんた達、誰?」
急速に開いた視界に映ったのは、抜けるような青空と、一人の少女の怪訝な顔だった。
まだ若い。十代のなかば程度だろうか。不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいる。
少女は美しかった。特徴的な桃色のブロンド。透き通るような白く細い首筋、整った顔立ち。丸く大きめな鳶色の瞳が印象に残る。
「……はい?」
クリフ・ギルバートの口から間の抜けた声が出た。
どこかで春を告げる鳥の鳴き声。柔らかな風が頬を撫でる。穏やかな陽光が心地よい。
?
脳内にクエスチョンマークが大量に浮かぶ。眼前の光景が理解できない。先ほどまで自分がいた場所との大きな落差に、処理が追
いつかない。
自分は仰向けに寝転んでいるのだろうか。起き上がり、あたりを見回す。少女と同じ服装をした大勢の子供達が、物珍しそうにこ
ちらを窺っている。
豊かな草原が視界いっぱいに広がっていた。遠くに、歴史のありそうな城が見える。尖塔の形がバロックの様式に似ている気がし
た。
ここはどこだ、ヨーロッパの田舎のどこかだろうか。随分とのどかな風景だ。
脳裏に、闘いの記憶が浮かんだ。はっとして足元を見る。
微塵に吹き飛ばされ失ったはずの下半身が、何事もなかったかのように横たわっていた。動かす。痛みすら走らない。
口元に手をやる。感覚が、唇と手のひらにある。ほんのりと、熱があるのが分かる。頭ははっきりしている、と思う。
「ねえ、ちょっと。名前はなに?」
無視されたと感じたのか、少女が不満げな声を漏らした。
「え? ええと……僕、は、クリ……フだ」
「どこの平民よ?」
「平……?」
平民とはなんだ? ピープル? よく分からない。次から次へと疑問が湧く。なんで僕はここにいる?
周囲の少年少女たちは、みな謎のステッキを持っていた。
服装が同じ、ということは何かの制服だろうか。雰囲気が、まるで学生のように思える。ここはハイ・スクールか?
「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民達を呼び出してどうするの?」
誰かがそういうと、クリフを見つめていた少女以外の全員が笑った。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
沸き起こった爆笑に、少女は顔を高潮させて怒りを表す。
この子達はなんだろうか?周囲を見る限りでは、どうやらここはどこかの学校の構内ではないようだ。
そもそも、校舎が見当たらない。何かの課外授業か? それと平民、とはなんだろうか。彼らだけに通じるスラング?
いや、それよりも気になるのは、自分がここにいる理由が分からないことだ。
というよりも、なぜ自分が生きているのか。キースから喰らった一撃は、間違いなく致命傷だったはずだ。
あの時、薄れていく意識の中ではっきりと死を感じた。例え迅速な治療を受けたとしても、あの状況で下半身をまるまる吹き飛ば
された人間が生きていられるわけがない。
それにも関わらず、腹部にも両足に異変は感じない。まともに歩くこともできるかもしれない。いや、これこそが異変だろうか?
「ミスタ・コルベール!」
たまりかねたように少女が叫ぶと、人垣の中から一人の中年男性があらわれた。真っ黒なローブに身を包み、大きな木の杖を持っ
ている。
まさに魔法使い、としか見えないような風体に、クリフは面食らった。
ちゃんとした造りのローブなら聖職者にも見えるが、ダボダボで真っ黒、手には杖とは。まるで仮装だ。異端を奉じる過激な宗教
組織の類か?
少女は男性に向かって何事かをまくし立てている。腕を可愛らしく振りながら、もう一回やらせて下さい、お願いです、などとな
にかを訴えていた。
その時、クリフの後ろで何かの気配がした。
振り返ったクリフの両目に、信じられない光景が映った。
頭にピンクの髪を乗せた、巌のように大きな巨体の男が倒れていた。
その体がむくり、と持ち上がった。寝ぼけたようなその顔はスラヴ系の彫りの深い面構え、鼻の下に立派な筆髭を蓄えている。
その隣で、ロングコートから無迷彩のアーミーパンツが覗く、一回り小さい男が、伏した頭をあげた。
目に装着した暗視スコープが赤い燐光を放っていた。わずかに身動ぎをすると、ふともものケースに下げたナイフがかちゃりと鳴
った。
見忘れるわけもなかった。ヴォルフ、そしてキュクロプス。
超人部隊『エグザミィ』のメンバーであり志を共にした、力及ばず殺されてしまった二人の仲間が、けだるそうに頭を振りながら
起き上がってきていた。
「うう……ん、……あら、リーダーじゃない。……あら? ここはどこ?」
ヴォルフと目が合う。キュクロプスが、空を見上げて呆然としていた。
……!?
そんなバカな。生きている、二人が生きている。なんだこれは。
確かに彼らは死んでいたはずだ。自分もそれを確認した。
間違いなく呼吸と心臓は止まっていたし、ナイフで刻まれた頚動脈から血があふれ出していた。なによりも、あの青白い顔が死を
雄弁に語っていたはずだ。
「……なによ、真昼に幽霊に出会ったみたいな顔して。……なんでアタシたちここにいるの?」
髭をいじりながら、きょとん、とした顔で疑問の声を上げるヴォルフ。
何が起きたのか。だが、生きている。生きているように見える。これは幻覚か。
「ちょっとどうしたのよリーダー。アタシたちは……あぁァアアアアアア!!」
急激にトーンの下がった野太い声を響かせ、ヴォルフが猛然と立ち上がった。
唐突な凄まじい怒声にクリフはのけぞった。背後から、周囲をとりまく子供達のざわっ、としたどよめきが聞こえた。
「あのチビジジイ野郎!! どこへいきやがった、出てこい!! ぶち殺してくれる!!」
いきなり戦闘態勢をとるヴォルフ。憤怒の形相を浮かべ、全身から闘気を滲み出す。
「よくもキュクロプスをやってくれたな!! ズタズタにしてネズミの餌に……餌に……餌……キュク、ロプス? なんで生きてる
の?」
足元のキュクロプスがぴんぴんしている姿を見て、急速にヴォルフの怒りが萎んでいく。
頭の上にクエスチョンが出ているようだ。拳を下ろし、首を傾げながら変な目でキュクロプスを見つめた。
「おかしいわね……? 確かにさっくりやられた上に吊るされたと思ったんだけど。ってあら? ちょっと待って、アタシも……そ
うよ、やられたはずよ?首をきゅー、ってされたはずだし……」
ヴォルフの記憶は混乱していた。キュクロプスも、何が起こったのか分かっていないらしい。
そこに、さっきの黒いローブの、コルベールと呼ばれていた男性が近づいてきた。持った杖をこちらに向けている。表情から、こ
ちらを警戒しているように見える。
「……あなたがたは?」
どこか声に厳しいものを含ませつつ、男性は尋ねた。
「なによハゲ、あんたこそ誰よ」
つまらなそうに聞き返すヴォルフの言葉に、男性の顔がピシリと硬直した。
「お、おいヴォルフ。初対面の人に失礼だぞ。すいませんが、どちら様で……?」
少し慌ててクリフはフォローに入った。
男はこほん、と咳を一つつくと気を取り直し、口を開く。
「私はトリステイン魔法学園で教師をしています、コルベールと申すものです」
「トリステイン魔法……? 私は、クリフ・ギルバートと申します。後ろの大きいほうはヴォルフ、座っている方はキュクロプスと
いいます」
魔法。マジック? やはりそういった団体の会合だろうか。だが、話が全く通じないというわけではなさそうだ。
「はぁ? なにすっとぼけた事言ってんのよ。なにここ?」
ヴォルフがコルベールと名乗る男性に向かって横から挑発的な言葉を飛ばす。
クリフはヴォルフを手で制した。状況が全く分からない以上、無闇に怒らせることは得策ではない。
「失礼。彼は少しばかり空腹で気が立っているようで。ところでここはどこですか?差し支えなければ教えて頂きたいのですが……」
「別にお腹なんか減ってないわよ」
支援
「いいからここは俺に任せろ。……我々は混乱しています。どうかお願いできますか?」
コルベールはこちらを眺めながら思案するように顎に手をやる。上から下へとクリフ達に視線を走らせると、やがて緊急の害意は
ないと判断したのか質問に答えはじめた。
「先ほども申した通り、ここはトリステイン魔法学園、そこから少し離れた場所です。ほら、向こうに見えるのがそれです」
そういってコルベールは視界の端にある、城と思われた建物を指差す。
あの大きな城が? ということは、この人達は、いや、この団体はよほどの資産家なのだろうか。
「……なるほど。では、我々はなぜここにいるのでしょうか? 見たところ、我々はあまり歓迎された客のようには思えませんが……」
ちらちらとこちらを不躾に見ながら、こそこそ内緒話をするおそらくは生徒達と思われる子供達を眺める。
「あなた達は春の使い魔召喚の儀式、『サモン・サーヴァント』でこの場に呼び出されたのです。こちらの、一人の生徒の呪文で」
意味不明な事を口走るコルベール。召喚? 儀式? クリフの内心の疑問に構わず、男性は続ける。
「本来『サモン・サーヴァント』では人間を呼び出すはずはないのですが……。それも、三人もの人間を……。こんなことがあるも
のなのか……こちらとしても、少々手違いなのです」
コルベールの後ろからあの桃色の髪をした少女が顔を出した。
「そうよ! あんた達なんて間違って呼んじゃっただけなのよ! 帰っていいわ!」
子犬が吠え立てるように、騒ぐ少女。今度は男性が、こらこら、となだめるように少女を抑える。
「ふむ。……ではなぜ我々は生きているのでしょうか? それどころか、怪我一つしていない。あの状況で助かるのは不可能だった
はずです」
「? 生きている、ですか? あなたがたは、命の危険に晒されていたと? こちらにあなたがたが現れた際は、その姿でしたが」
予想外な質問を受けたのか、わずかに目を丸くした。なんとなく、嘘をついているようには思えない。それに、手当しておいて隠
す必要があるのだろうか?
「……そうですか。……」
腕を組んで思考する。正直、聞き出した情報では何の答えにもなってないのと同じだ。言語は通じるし、発音もネイティブなので
英語圏らしいが。
今のところ、命の危険はないようではある。ともかく、自分達は生きているようだ。少なくとも、その実感はある。
「これよりあなたがたには、こちらの少女から『コントラクト・サーヴァント』を受け、契約してもらおうと思います」
「契約、ですか? それは何の契約ですか?」
飛び出してきた言葉に、少し警戒感が湧いた。話した限りではお互い相手が何者かも分からないのに、いきなり契約とはなんだろ
うか?
「使い魔の契約です。あなたがたはそのためにここに呼び出されたのですから」
「ちょ、ちょっと待ってください、ミスタ・コルベール! やり直しをお願いしますって言ったじゃないですか!」
少女が抗議する。さっきもそうだが、どうやらこの少女には特に歓迎されていないようだ。
「それはいけません、ミス・ヴァリエール」
「どうしてですか!」
「決まりだからです。一度呼び出した使い魔を変更することはできない。好むと好まざるにかかわらず、彼らを使い魔にするしかな
い。これは神聖な伝統なんですよ、ミス・ヴ
ァリエール。例外は認められません。確かに……」
コルベールはクリフ達を一瞥した。
「三人もの人間を召喚するなど前例がないが、春の使い魔召喚の儀式はあらゆるルールに優先する。呼び出された以上、彼らには君
の使い魔になってもらわなくては」
「っ……! ……そんな……」
「さて、では儀式を続けなさい」
「Mr.コルベール。少し待って頂けませんか?」
あずかり知らぬところで話が進んでいく展開に、クリフは口を挟んだ。使い魔などという言葉はよく理解できないが、勝手に全て
が決まってはたまらない。
「なんでしょう?」
少し聞きなれない発音だったのか、わずかに遅れてコルベールがこちらを向いた。敬称、Mr.だけは少し違うらしい。
「使い魔というのはなんでしょう? どうも聞きなれない単語が多くて、こちらには話が見えないのですが」
「……使い魔とは、メイジが使役する存在です。ドラゴン、グリフォン、マンティコアやバグベアーなどの幻獣、あらゆる動物や植
物などを対象として呼び出し、契約します」
お伽話の中の怪物の名前が挙がるのに少し眩暈がしたが、さっきから気になることがあった。
あの子供達の中に、見慣れない生き物がいくらか顔を覗かせていた。あんな生き物は見たことがない。
最後の作戦の前、こっそりとハッキングをかけたエグリゴリのデータベースに絶滅動物プロジェクト、というものに覚えがあった
が、それとは明らかに違う。
特に、人垣の一段高いところから見下ろす、トカゲのようなヘビのようなあれは、どう見てもドラゴン、としか形容できないので
はないか……。
「契約を行うことにより、呼び出されたものはメイジに従うことになります。あなたがたはその為にここに呼ばれたのです」
驚いていても、クリフはその剣呑な一言を聞き逃さなかった。
「……従う、ですか。それはまた……」
「使い魔の召喚とは、そうしたものです」
そういうコルベールの瞳に冗談の色は一切なかった。
「……推測ですが、話の流れから考えて、こちらに拒否権はない……ようですね?」
「お気の毒ではありますが、残念ながら」
「どうあっても、ですか?」
「はい」
どうやら交渉の余地はないようだ。無理に反発すれば、宗教的なこういった人々は、どのような対応をとってくるのか想像に難く
ない。
自分がその気になればいくらでも力ずくで黙らせることもできるが、それは本意ではなかった。
情報も足りないし、なによりエグリゴリに追われている自分達が、無意味に目立ってはしょうがない。なぜ生きているかは分から
ないが、そうである限り命を狙われ続けるからだ。
こんな辺鄙な田舎でも不用意に「力」を目撃されれば、奴らの情報網にかかる恐れがある。ついでに、自分達が化物を見る目で見
られるのは好みではない。
しかし、計算するクリフの前に、黙っていたヴォルフが割って入ってきた。
「んもう、なにやってるのよ。まどろっこしいわね、こういう手合いはこうするのよ」
そう言うとヴォルフはコルベールの胸倉を掴みあげ、乱暴に引き寄せた。
「いい? あんたはここが地球のどこの国のなんて地方で、どこに行けばタクシーが捕まえられる街があるかだけ答えればいいの。
契約だかなんだか知らないけど、そういうのはお仲間のあいだで勝手にやりなさい。でないとアタシのキッツーイおしおきパンチが
あんたの禿げ上がった頭を真っ赤に染めるわ。OK?」
筋肉をモリモリと躍動させて、ウインクしながら脅しかける。
「お、おいヴォルフ。やめろ、勝手なことはするな!」
慌ててとめようとするが、大きなヴォルフは二人の間に立ちはだかるように動かない。
首を絞められたコルベールは苦しそうに呻きながら、右手に持った杖を掲げた。
すると、ヴォルフの体が宙に浮き、一回転して地面に叩きつけられた。
(!?)
ヴォルフの手が離れたコルベールは激しく咳き込みながら、杖をヴォルフに向けようとする。
瞬間、鈍い輝きが煌いた。
クリフの後ろから電光石火で飛び出したキュクロプスが、鞘から引き抜いた超振動ナイフをコルベールの喉元に突きつけていた。
あまりの早業にコルベールが動けなくなる。
「やだもう……ひどいわクリフ、そこまですることないじゃない」
ぶつくさと文句を言いながら起き上がるヴォルフ。頑丈な体は、頭から落ちたにもかかわらず大した痛痒も受けていないらしい。
「……違う、今のは僕じゃない」
「はぁ? 他の誰があんな真似できるってのよ」
「おそらく……そこのMr.コルベールだ。キュクロプスは分かったようだが」
妙な念力の使い方だった。まるで一度力を集結させてから発動しているような……。
「……え?嘘でしょ?それじゃこのおっさん、まさか念動力者?」
その質問には答えず、クリフは一歩踏み出す。浅慮な行動が頭に来ていた。何を考えているのか、後先も考えずに。
「いい加減にしろ!! キュクロプス、ナイフをしまえ! ヴォルフ、もう余計な真似をするな!」
クリフの怒声が飛ぶ。キュクロプスは素直にナイフを鞘に収め、ヴォルフは少し言葉にトゲを出しながら「分かったわよ」と呟いた。
「……僕の仲間が大変失礼な真似をしました。申し訳ありません。どこかお怪我は?」
「い、いえ……大丈夫です」
軽く喉を鳴らし、服を調えるコルベール。
「それは良かった、重ねて謝罪いたします。……使い魔の契約のお話について、一つだけ確認を頂きたいのですが」
「……はい」
コルベールはこちらを計りかねているようだ。怪訝な目でこちらを窺っている、しかしこれ以上こちらになにかをするつもりもない
らしい。
「従う、というからにはしもべというわけでしょう? その際、我々に基本的人権は保障されるのでしょうか?」
「基本的、ですか? まあ、人間としては扱うはずでしょうが……」
チラリ、と事の成り行きを呆然として見守っていた少女を見る。
「……。……なるほど。お話はよく分かりました。使い魔の件、お受けいたしましょう」
そう言うと、ヴォルフが驚きの声を上げた。キュクロプスも驚いたらしく、こちらを見つめている。
「ちょっとリーダー、正気!?なんでそんなのに付き合わなきゃなんないのよ?」
「いいから静かに。後で説明する」
ここで相手に口先だけでも従っておく手は悪くない。なにより、情報がこちらにはない。多少意味の分からない文言が出るが、この
状況についておそらく向こうは何かしら知っているはずだ。出来る限り情報を集め分析する必要がある。
下僕となる契約をするにしても、相手がそれを本気で執行するには強制力が足りない。こちらのメンバーは誰一人として戸籍すらな
いし、そもそも裏社会の人間だ。もし理不尽な命令をされても、あのキースのようなとんでもない化物でもいない限り、自分が本気
を出せばいつでも逃げられるはず。そうすれば、もう相手はこちらを追うこともできない。
万が一に相手がエグリゴリの一機関であることも考えたが、どうにもそうは思えない。奴らがわざわざこんな接触をする意味がない。
そうであるならむしろ、こっちが気を失っていた間に攻撃を仕掛けてきていたはずだ。
「実は、我々はとても危機的な状況にいました。経緯は分かりませんが、少なくとも命を救われたようです。それぐらいのことなら
ば、構いません」
「それはよかった。では、ただちに儀式を再開しましょう。さあ、ミス・ヴァリエール」
明るい顔で言うコルベールに、企みを含んだ邪さは感じられない。
コルベールの言葉に、渋々と、どこか不服そうにピンク髪の少女が前に出た。
「本当に、この平民達とですか?」
嫌そうな声を上げる少女。乱暴を見せたせいで、少し怯えさせてしまったかもしれないとクリフは心配した。
「そうだ。早く。もう、次の授業ははじまってしまっている時間なんだ。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね?何回
も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く契約したまえ」
少女は困ったように、クリフ達を見つめた。
なんだろう、彼女は杖以外何も持っていなそうだ。契約とは、ただの口約束のようなものなのだろうか?
「ねえ」
躊躇いがちに、少女が口を開いた。
「はい?」
「あんた達、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
貴族? 彼女は立派な家柄の子女なのだろうか。それとも、この団体での話なのだろうか。まるで子供のおままごとみたいだ、とつい
クリフは失礼なことを思う。
「はい、それじゃかかんで。届かないわ」
何が届かないのか分からないのか、クリフは従う。キュクロプスも覚悟を決めたのか、その場に腰を下ろした。ヴォルフは先ほど
転んだ時から、すでに足を投げ出して座ったままだ。
少女は何か諦めたように目をつぶると、手に持った小さな杖をふるった。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の
使い魔となせ」
朗々と、呪文のような言葉を唱える少女。すっ、と杖をクリフの額に置く。そして、ゆっくりと顔を近づけてくる。
「え、ちょっと、君」
「いいからじっとしてなさい」
「いや、何をする気だい?分からないんだが……」
「ああもう!じっとしてなさいって言ってるじゃない!」
少女は左手でクリフの頭を掴み、その唇をクリフの口に重ねた。
「……!?」
キスをされた。なぜ、この場面で。契約とは、これのことか?
少女はすぐに唇を離して、立ち上がった。顔が真っ赤だ。照れているのだろうか。
「……よし! 次!」
憤然と言い放つと、大股でヴォルフの方へ近づいていく。突然の少女の行動に目を丸くしていたヴォルフが慌てた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まさか、アタシにも?」
「動かないの!」
少女の両手がヴォルフの顔を捉える。
「や、やめなさいよ! 私にそっちの趣味は……うぶっ!」
問答無用の接吻に、大した抵抗もできない。少女はすぐに向き直り、今度はキュクロプスに視線を走らせた。
「……よし! 次!」
事態を把握したのか、困った顔で自分を指差しながらクリフを見るキュクロプス。声こそ出さないが、その顔は雄弁に語っていた。
クリフはどうにもできないので、とりあえずわずかに頷くしかなかった。
観念したかのように動かないキュクロプスに、少女は素早くキスを済ませる。
「……終わりました」
赤い顔をしたまま、コルベールに報告する。それを見ていたコルベールは、満足そうに頷いた。
「『サモン・サーヴァント』は何度も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」
クリフは、ちょっとびっくりして唇を押さえていた。別にどうということはないが、契約というのが少女のキスとは予想外だった。
ヴォルフは変な物でも食べたかのような顔をしている。
てっきり契約とはなんらかの雇用的な約束事、もしくは書類に判を押すようなものかと思っていたのだが……。
その時、驚いていたクリフの左手に鋭い痛みが走った。
「ぐっ!? ぐあっ……!」
左手の甲が熱い。謎の模様のような文字が浮かび上がりはじめた。
「どしたのクリフ。あら? アタシの左手にも……」
実験の結果で痛みを感じなくなっているヴォルフは、不思議な顔をして自分の手を眺めている。見れば、キュクロプスも同じだっ
た。彼も声が出せないが、急に現れた左手の熱に戸惑っているようだ。
「……すぐ終わるわよ。待ってなさいよ。使い魔のルーンが刻まれているだけよ」
つまらなそうに呟く少女。
刻まれるだと? 何か、未知の力を使っているのか。今のキスにはそういう意味があったらしい。
突然、ヴォルフが慌てだした。驚きに目を見開いている。
「た、大変、大変よクリフ! 見て、ちょっと見てよ! 「熱い」わ! 今あた、アタシ、熱さを感じてる!! 嘘!!」
クリフに衝撃が走った。熱いだって?そんなはずはない、ヴォルフは熱さでも痛みでも、心臓を貫かれてさえ苦痛の類を一切感じ
られない体になってしまったはずだ。
「そりゃ熱いぐらいは感じるんじゃない?どうしたのよそれが」
ヴォルフの体を知らない少女は、変な目でヴォルフを見る。
「黙ってなさいこの小娘! あんたに言ってないわ! ク、クリフ! アタシ、アタシ、今「痛い」の! 「痛い」のよ!すごい、
すごいわ!」
自分で頬を引っ張り、つねりながらヴォルフは言う。感動に涙を浮かべていた。
「……グ、ア……」
渋い顔をしたキュクロプスから、搾り出したような声が漏れた。それに気づいた声の本人は、はっとして自分の喉を押さえる。
「…………!? ……こ、え……が……!? ……声が、出る……!」
信じられない顔で、キュクロプスが呆然とした
クリフの目の前で、奇跡が起こっていた。絶対に取り戻すことは不可能だと思われていたものが、彼らの体に蘇っていた。
「なんだ? 何が起きた?」
クリフは混乱した。なぜ、いきなり? どうしてこんなことが?
そこに、少女がすっと近づいてきた。
「ねえ」
ヴォルフを見上げて、少女が話しかける。
「なによ。アタシは今忙しいの!」
「小娘ですって? 平民が貴族にそんな口利いていいと思ってるの?」
「……はぁ? なんだか知らないけどいっぱしの口叩くんじゃないわよガキんちょ」
ぴくり、と少女の眉が跳ね上がる。
「なんですって?」
「なによ、文句あるの? 人の唇勝手に奪って、なによあんたは。変態なの?」
ぴしぴしと、少女の顔が歪んでいく。
少女との間にはじまろうとしたケンカは、一人の男に割って入られたことでタイミングを失った。コルベールだ。
「ほう、これは……珍しいルーンだな」
クリフの左手を確かめながら、興味深そうに呟く。さらさらとメモに左手に写った図形を書き込むと、ヴォルフやキュクロプスの
ルーンを確認する。
「全て同じもの、か……面白い」
そう言ってメモ帳をしまうと、振り返って生徒達に呼びかけた。
「さてと、じゃあ皆。教室に戻ろうか」
コルベールはぱんぱん、と手を打って周囲を促すと、歩き出した。そしてそのまま、階段を登るように宙に浮いていく。
「ありゃりゃ、ホントに念動力者なのね……ってええ!?」
ヴォルフはまた目を見開いた。他の生徒達も一斉に浮かびはじめたからだ。
「この子達も全員そうなの? 超能力者の育成でもしてるわけ?」
空に浮かんだ集団は、音もなく滑るように石造りの「学園」へ向かって飛んでいく。
「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」
「その平民、あんたにお似合いよ!」
少女を小馬鹿にするセリフを口々に残しながら、生徒達は飛び去っていった。
その場には、少女と三人の異邦人が残された。
以上です。ありがとうございました。
で、問題点
・このSSは当時数巻しか持ってないときにカッとなって書いた。整合性とかない
・なので、そこに書いてない設定とか勝手に入ってるかも。大丈夫かな……変なこと言ってたらそれは間違いなのでぶっ叩いて下さい 即直します
・EXARY側に勝手に色々。だって広がりなさすぎて書けない……じゃあ書くなよという話ですけど
・あと、クリフが綺麗なクリフになってる。一応、理由はあることにはありますが
・長い。冗長。でも供養したかった。
それでは失礼します。
懐かしいなあ。スナークハント手前の人たちだよね
目から熱線が記憶に深い
乙
ジャバに砕かれた顎も治ってるのね
乙!
某ssを思い出したぜ
ウルトラの人、乙です。
GUYSの装備を見たら、エライ事になりそうですね、両教諭(笑)
乙でした
キースレッドとレッドキャップスにやられた彼ら、いいキャラだっただけに復活はうれしいです
でもあれに唇うんぬんは言われたくないわな
171 :
hiro:2010/11/29(月) 00:30:22 ID:DC7q1dT1
>>151 ウル魔の人乙です。
気になっていたんですがギムリの口調って友達同士のタメ口じゃなかったですか?
>>165 乙!
ARMSは好きだしキャラのチョイスも良い感じなので続くと嬉しいな。
ということで需要はバッチリだぜ!w
173 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/29(月) 03:14:36 ID:1Bh+jMWw
パンティ&ストッキングが召喚されるのも見てみたいな
X-ARMYだと!?続き楽しみにしてます
あれ、千里眼の人はキクロプスじゃなかったっけかな・・
……他のところにキースシリーズいねえだろな、おい……
そういえば、ARMS本人達のネタもあったな。あれどうなったんだろ。
>165
あ、よく見たらタイトルが、3,2,1,0か。
177 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/29(月) 16:04:33 ID:YrAwOr/B
5D'sのニートキングことジャック・アトラスを召喚
1杯3000エキューのコーヒーを飲みまくる毎日を送ります
使い魔の仕事?するわけないじゃないですか…
ちょっと待て、3000エキューってド・オルニエールの税収の1/4だろ。そんなコーヒーがあるかい。せめて3000スゥにしろよ。
遊星やクロウだったら自力でゼロ戦の修理もやってのけそうだな。ライディングデュエルならぬフライングデュエルか。
社長の人も続き投下してくれないかな…
>>178 ルイズ本人かルイズの実家名義でつけにしているとか
>>177 「俺に合った使い魔の役目がないのだからしかたあるまい」
盗賊王バクラを召喚、破壊の杖は俺様のもの
流れをぶった切るようですまんが、フリオニールの第4話を
10分後に投稿させていただきます。
昼食時も半ばを過ぎようかという頃
キュルケと楽しそうに会話した罰としてフリオニールはルイズから昼食抜きを命じられた。
どうやら「ご主人様」はキュルケとあまり仲が良くないようだ。
(会話しただけでメシ抜きって!そんなんだからクラスメイトに嫌われるんだろ!)
憤慨するフリオニールであったが、ようやく掃除を終えるとルイズを迎えに渋々食堂へ向かった。
食堂に到着しルイズがいないか辺りを見回すと、談笑している生徒のポケットから
小瓶が落ちるのをフリオニールは目撃した。
当人は気付いていないようなので、小瓶の落ちているところへ行き屈んで拾い上げると
持ち主に差し出した。
「落ちてたよ」
「ん?何だいそれは?僕のじゃないよ」
ウェーブのかかった金髪の男子生徒は素っ気ない返事をした。薔薇の造花をシャツの
胸ポケットに挿したいかにもキザな風体だ。
二人のやり取りを見ていた薔薇男の仲間達が会話を始める。
「ん?それはモンモランシーの作っている香水じゃないか?」
「この特徴的な色合いは間違いないな。彼女のだ」
「ということはギーシュ、君は今モンモランシーと付き合っているのかい?」
「い、いや違うんだ。それは・・・」
ギーシュが何かを言いかけようとしたとき、近くの席に座っていた茶色のマントを
羽織った少女が突然立ち上がりギーシュの元へやってきた。
「ケ、ケティ、これには深いわけが・・・」
弁明しようと慌てふためくギーシュ。一方、ケティと呼ばれた少女は涙を流すと
ギーシュの頬を思いっきり引っ叩いた。
「はぅ」
頬をおさえて涙目になるギーシュ。すると、そこへカールを巻いた金髪の少女が
肩を怒らせギーシュに近づく。
「モ、モンモランシー!」
モンモランシーはギーシュに罵詈雑言を浴びせると、テーブルの上のワイン瓶を掴み取り
中身をギーシュの頭上にぶちまけた。
そして、とどめに絶縁を告げたかと思うと足早に去っていった。
呆気にとられる一同。フリオニールは湧き上がる笑いを堪えて小瓶をテーブルに置くと、
「災難だったね。まぁ、なんとかなるさ!」
ギーシュの肩をポンと叩き、きびすを返して立ち去ろうとした。
「待ちたまえ!」
ギーシュはこめかみに青筋を立てながらフリオニールを呼び止めた。
「君の不注意で二人のレディのハートが傷ついた」
「えっ?俺のせい?」
「そうだ」
「(プッ!ひょっとして八つ当たり?)え〜っと、俺は小瓶を拾って」
「その後何をした?」
「二股かけてた色男に返しましたよっと」
フリオニールの発言に周囲からは失笑が漏れる。
激しい怒りに肩をワナワナと震わせるギーシュ。
「!君は確かミス・ヴァリエールの使い魔・・・平民が貴族を侮辱するとどうなるか
もちろんわかっているな?」
「俺はありのままに起こったことを話しただけだけど?」
「黙れ!ミス・ヴァリエールは使い魔のしつけもなっていないようだね。わかった。
僕が貴族に対する礼儀というものを叩き込んであげよう」
「えっ!?女の子にモテる方法教えてくれるの?」
フリオニールの勘違いにギーシュの仲間達は冷笑を浮かべる。一方、フリオニールは
どこ吹く風の涼しげな表情だ。
「ふざけるな!・・・土下座したまえ」
「土下座するのはあんたの方だろ」
「平民に土下座する貴族がどこにいるんだい」
「いや、俺にじゃなくて彼女たちにさ」
「君には関係ない!さぁ、早くどげ」
「だが断る」
「断るだと?・・・君はこの僕をとことん侮辱する気だな。わかった。その生意気な
口が利けないよう懲らしめてやる。決闘だ!」
ギーシュの宣言にざわめく周りの生徒達。すると、フリオニールはためらいがちに
「二股が仲間の前でばれて恥ずかしいのはわかるけど、人に八つ当たりした上に決闘だなんて・・・」
「ふん!怖気づいたのか?」
「いや、その上負けたらもっと恥ずかしいと思うよ?」
「な、なんだと?・・・平民がメイジに勝てると思っているのか?」
「やってみないとわからないんじゃないかな?」
「!!!まぁ、いいだろう。せいぜいほざいているんだな。20分後に『ヴェストリの広場』に来い!逃げるなよ!」
ギーシュは捨て台詞を吐くと憤然と去って言った。
入れ替わるように席を外していたルイズ(恐らくトイレか?)が食堂へ戻ってくると、
フリオニールを見つけてやってきた。
「掃除はちゃんと終わった?」
「ばっちりです」
すると、ギーシュの仲間達が
「君の使い魔、ギーシュと決闘だって」
「せっかく召還したのに使い物にならなくなるなんて残念だね、ミス・ヴァリエール」
同情するそぶりを見せてルイズに説明した。
「ちょっとあんた!ギーシュに何やったの?」
「落し物を渡しただけですけど?」
「それで決闘になるわけないじゃない!」
「二股がばれたのを俺のせいにされました」
ルイズは事情を把握すると、
「・・・まぁ、いいわ。とりあえずギーシュに謝りに行きましょう」
「は?なんで俺が謝らなきゃいけないんですか!」
「あんたは平民でしょ!メイジに勝てるわけないじゃない」
「そんなのやってみなけりゃわからないでしょ!それに悪いことをしたのはあいつだ。
・・・二股なんてちょっと羨ましいけどさ」
「これはご主人様の命令よ!さ、謝りに行きましょう」
フリオニールの腕をつかんで歩き出そうとするルイズ。すると、フリオニールはその手を
振りほどき、
「戦う前に負けること考えるバカいるかよ」
「ご、ご主人様に向かってバ、バカとはなによ!このバカ犬!」
「とにかく、俺は行きますから」
ひとり歩き出すフリオニール。
「・・・もう!どうなっても知らないんだから!」
不安な表情でフリオニールの後ろ姿を見つめるルイズであった。
それから少し時が経ち
すれ違う人から『ヴェストリの広場』を聞き出し何とか到着したフリオニール。
広場には既に大勢のギャラリーが集まっていた。
フリオニールはギーシュの姿を見つけると、ゆったりとした歩調で進み対峙した。
「のこのこやってくるとはね。まぁ、逃げなかっただけ良しとするか」
「お前相手に『逃げる』コマンドはないさ」
「僕はメイジだ。魔法を使わせてもらうが異存はないね?」
「いいよ?俺も使うから」
「くっ!この・・・君とはこれ以上話しても無駄のようだ。さぁ、お仕置きの時間だ」
ギーシュは不敵な笑みを浮かべると、胸に挿した造花の花びらを一枚抜き取り宙に投げた。
そして、ルーンを詠唱すると花びらは見る見るうちに一体のゴーレムに変化した。
(この世界の魔法は人形を作れるのか。昨日も空飛んでたし。すごいなぁ)
「行け!僕のワルキューレ!」
ギーシュの号令と共にワルキューレはフリオニールの元に突進してきた。
拳を振り上げ殴りかかるワルキューレ。フリオニールはギリギリのところでそれを
避けると、己の両拳をワルキューレの全身に叩き込んだ。
すると、ぴしぴしと音を立てたかと思うとワルキューレの肢体はバラバラになった。
「な、なんだってーっ!」
騒然とするギャラリー。
(何なんだ、あの人形。金属性か?硬いぞ!)
ヨーゼフに影響されて素手の熟練度を上げた時期もあるフリオニール。しかし、途中で
やめてしまった為に素手熟練度は4になったところで止まっていた。
両手で叩いたから砕くことができたものの、片手では正直厳しいだろうとフリオニールは感じていた。
「そんなバカな!素手で僕のワルキューレを砕くなんて・・・なるほど。君の妙な自信は
そういうことだったのか。では、この『青銅』のギーシュ、遠慮なくやらせてもらうよ」
ギーシュは凛とした表情を作ると、残りの造花の花びらを全て抜き取り6体のワルキューレを作った。
今度は見事な槍も装備していた。
フリオニールの第4話は以上です。
失礼しました。
乙!
しかしギーシュ戦も一回で終わらないとは予想外
投下乙です。
素手はあまり鍛えてないのか
フリオニール乙。
いい感じにライトな構成でサクサク進む。
ペースを維持しつつ続けて頂けると嬉しい。
FFらしくていいよね。最近のはアレだがw
こんにちは、機械仕掛けの使い魔です。
ウルトラの方、チェリーな使い魔の方、乙です。
微妙な時間で申し訳ありませんが、問題なければ、11時40分頃に第12話を投下しようと思います。
前スレ
>>302 ご意見ありがとうございます。
どうにも私の悪癖で、製作中のテンションに文章が影響されるところがあるようで、11話の「作者としては〜」の件も、
例に漏れず「ミーくんが登場する」ということで恥ずかしながらテンションが上がってしまい、あのような一文を入れました。
今後は可能な限り、作成時はフラットなテンションで臨む事とします。
書き込み後に今更といった感じでレスを読んでいましたが、ARMSの方、乙です。
>>191で、投稿の順序としてウルトラの方とチェリーな使い魔の方の間だったのに、
乙を入れずに真に申し訳ありませんでした…。
機械仕掛けの使い魔 第12話
サイボーグキャット1号、ミー。ドクター剛がその生涯で初めて生み出した、ネコ型サイボーグ。
当初は、とある事情で瀕死の重傷を負った、生身のミーを救う為の処置であったがゆえに、武装は爪のみであったが(それでも、その爪と、サイボーグ体のパワーによる斬撃は極めて強力である)、
後の事件をきっかけに戦闘サイボーグとして強化され、そのスペックはクロに勝るとも劣らない。
ドクター剛の野望を叶える為に尽力する、ニャンニャンアーミーリーダー。人間に徹底的に牙を剥く、沈着冷静、冷酷非情のサイボーグである!
…だが、しかし。現在ではすっかり丸くなり、元来の面倒見の良さ、温和で優しい性格も相まって、みんなの人気者、といった状態である。
階段で様子を見ていた4人も合流し、5人と2匹は、ルイズの部屋に入った。幽霊の件はまだ完全には解決していないが、キュルケが改めて事情を話すと、
「あぁ、それなら大丈夫だよ」と、ミーに部屋へと招かれたのだ。部屋の主人であるルイズはやや憮然としていたが、その場の流れには逆らえず、他の者と一緒にミーに招き入れられた。
「で、何でオメーがここにいるんだ?」
開口一番、クロがミーに問い質した。ややイラつきが感じられる口調だったが、ミーは平然と受け流し、答える。
「そりゃ、あの爆発の後、いきなり消えたお前を探す為に決まってるじゃないか」
「いらねー世話だっての…」
溜息をつくクロに、ミーがにじり寄った。
「そう言うお前は、何やってるんだよ? 外でドンパチやってたみたいだけどさ」
「オメ、見てたのか!?」
驚くクロに、ミーが「うんっ!」と、親指を立てて見せた。
「いやー、凄い物見せてもらったけどさ、あのくらいならお前だけでも大丈夫かなー、って」
ぐぅの音も出ないクロ。知り合いに無様な姿を見られたのが悔しいのだろうか。
と、ここでようやく、人間組が口を挟んだ。筆頭はキュルケである。
「あなたたちが仲いいのは解ったから。とりあえず自己紹介くらいしてくれないかしら?」
「誰と誰の仲がいいってんだよ!」
声を荒らげてクロが反論したが、呆れたようにキュルケが、クロとミーを順番に指さした。不本意そうだが仕方ない。いいコンビなのは事実なのだから。
「ボクはミー。クロと同じ、サイボーグだよ」
「あなたは、ぬいぐるみ着込んでないのねぇ」
ミーの首根っこをつまみ、持ち上げるキュルケ。
…ミーは重量60kg、おまけに完全にメタルボディ丸出しなのだから、つまみ上げるなどどう考えても不可能なのだが、そこは気にしてはいけない。猫だから。
「わぁ、やめて、離してよ!」
「あら、ごめんなさいね」
抗議の声と共に暴れるミーを開放したキュルケは、自分の指を眺めている。恐らく、不思議なのだろう。普通の猫と同様に、ミーをつまみ上げられた事が。
気にしてはいけない。
「失礼したわ。私はキュルケよ。私の後ろにいるのが、タバサ。で、そこの優男がギーシュ、メイドのシエスタ。そして…」
全員を代表して名前を言うキュルケ。最後に、この部屋の主、ルイズの名を言おうとしたが、目をやると、なぜかそのルイズは、腰に手を添え、踏ん反りがえっていた。
得意げな顔をして、ルイズはクロをビシィっと指さした。
「さぁクロ! 私の名前を教えてあげなさい! この部屋の主の、私の名前を!」
頭痛を感じ、キュルケは頭を抑えた。どうやら、自分の部屋だというのに、正体不明の猫っぽい何かに招き入れられたのが不服だったらしく、その辺をアピールしたいようだ。
「…クロ、お前、何したんだ?」
「色々あってよ…」
ルイズの剣幕に、クロに説明を求めようとするミーだが、クロは語ろうとしない。ルイズの本質は認めたものの、その性格と言うか、日頃の態度に関しては、やや疲れるものがあるのだろう。
クロは天井を見上げながら、ルイズの名前を思い出そうとしていた。
何しろ、長いのだ。日本人と比較して。ファミリーネーム、ファーストネーム以外にも、立場や領地の名前まで入っている。
しかも、1度しか聞いていない。これを一発で覚えろというのは、日本人の名前に慣れたクロには少々厳しいだろう。
(ルイズ、ってのは合ってるよな、間違いなく。で、その次だ…。ふら…フランソア…? こんな感じだな)
雲行きが怪しい。
(ぶらん…? いや、違うな。ブランドだ、うん、ブランド)
微妙に軌道がズレて来た。『ブラン』と『ド』をごっちゃにしている。
(ばりえーる…? 何かおかしいな。んじゃあ…)
発音としては限りなく近いのだが、納得行かなかったのか、勝手に脳内変換が進んでいく。すでに取り返しがつかないようにも思える。
そして、クロはルイズの名前(推測)を口にした。
「ミーくん、こいつは、『ルイズ・フランソアブランドのアリエール』だ!」
「へー、パンだけじゃなくて洗剤も作ってるのかぁ」
盛大な間違い方に、ルイズは姿勢を維持し、不敵な表情のまま、前のめりに倒れた。結構痛そうな音がしたが、痛がる様子はない。
慌ててシエスタが駆け寄り、ルイズを助け起こしたが、その手を振り払い、やりきったような顔のクロに捲し立てた。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールっ!! 主人の名前くらいちゃんと覚えてなさいよっ!!!」
「長ぇんだよっ! だいたい合ってたろーが!」
「一言一句、間違えずに覚えなさいって言ってるの!」
ここでようやく、額と鼻をさすり始めた。怒りのあまり、痛みを忘れていたのだろう。
「理由はとりあえず解った。でも、どーやってここに来たんだよ?」
部屋に入って、すぐに理由は聞き出した。だがクロには、ミーがここに来た“手段”が、どうにも思いつかなかったのだ。
「どうやって、って…。クロ、忘れたのか?」
「忘れたのか、って言われてもよー…」
呆れたようにクロを見やるミーだったが、思い当たるフシがないクロは、何度も首を傾げている。
「全くもう…。コレだよ、コレ!」
そう言いながらミーくんが突き出した指の先には――幽霊騒ぎの原因となっている、鏡台があった。
その場にいた、ミーとギーシュを除く全員が動揺した。
それもそうだ。この時間にここに集まった女性陣とクロは、この鏡から幽霊の声が聞こえる、というキュルケの話がきっかけで集まったのだから。
「剛くん、クロ見つけたよ!」
ててて、と鏡台に走り寄り、鏡面に向かって声をかけた。すると…
『うーん、むにゃむにゃ…。ミーくん、ワシもう食べられないよ…』
もはやテンプレートの如き寝言が返って来た。
ミーが何度も呼びかけ、ようやく剛と呼ばれた寝言の主が覚醒した。しかし、声はまだ気だるげで、まさに寝起きといった様子だ。
「なるほどねぇ…。例の転送装置を使ったってワケか」
『うむ。あの家から取り外した装置を利用して、こちらの世界とそっちの世界を繋げた、というワケじゃ』
理由は解らんが映像だけが送受信出来ん、と付け加えた剛は、大きな欠伸をした。
「お前が消えちゃってから、剛くん、ほとんど寝ないで、コタローくんと装置の調整やってたからね」
クロがよーく耳を澄ませると、なるほど微かに、獣のいびきに混じって、子供のものと思われる寝息が聞こえる。
という事は、繋がっているのは剛のボロ小屋と、ルイズの私室だろうか。
「ねぇ、さっきからあんたたちだけで話してるけど、私たちにも教えてくれない?」
まだ鼻をさすっているルイズが割り込んだ。自分の使い魔が、知らない者たちと、知らない話題で妙に盛り上がっているのが、面白くないのだろう。
クロはそんなルイズの心境を知ってか知らずか、肩をすくめてみせると、彼女に向き直った。
「そう言や、オイラが別の世界から来た、ってのも話してなかったんだっけな」
「別の世界? 何よそれ?」
聞きなれない単語にキョトンとするルイズ。いまいち理解が追いつかないらしい。実際に異世界への転移を体験した者と、していない者との差だろう。
まして、ファンタジーやSFなどの、架空の物語がほとんど作られていないハルケギニアである。
その住人であるルイズたちに、歴史や文化体系が全く異なる世界の概念がないのも、頷ける。
どう説明していいか、とクロが悩んでいると、意外なところから助け舟が来た。
「簡単に言うと、天国や地獄も異世界」
タバサだった。いつの間にか、興味深げに鏡を眺めている。正体が幽霊ではないと知り、いつもの調子を取り戻したようだ。
「…じゃあ、クロやこの…えっと、ミーも、天国か地獄から来たっての?」
「違う、あくまでも例え。たぶんクロたちは、私たちとは全く文化の異なる世界の住人」
珍しくよく喋るタバサに、普段一緒に行動しているキュルケも驚く。この子、こんなに長く喋れたのか、と。
常日頃から、学術書や物語などの書物に触れているタバサ。その中には、前述のような架空の世界を舞台とした本もあったようだ。
そのおかげか、異世界の概念も、割とすんなり受け入れられたらしい。
…と言うか、クロやミーが本当に天国か地獄の住人だったなら、今頃タバサは卒倒しているだろう。
難しい顔をしながら、ルイズがまとめてみる。
「つまりクロやミー、そして鏡の向こうのゴーは――」
『剛博士と呼べ! ワシは天才科学者、ドク――』「黙ってなさい!」
ルイズの呼び捨てが気に入らなかった剛がツッコミを入れようとしたが、ルイズの高圧的な静止に、「はい…」と、しょんぼりした声を上げた。
クロがニシシと笑っているが、ルイズはそれにも構わず続ける。
「とにかく、アンタたちは、こことは全く別の世界から来たってワケね。よく解んないけど」
「少なくとも、オイラたちの世界じゃ、魔法ってのは架空の物語じゃないと出て来ねーな」
「昔の事はボクたちも知らないけど、キュルケちゃんやタバサちゃんが使ってたみたいな、火の玉とか見えない衝撃とかは、本当に存在するなら、今でも残ってると思うなぁ」
ミーが言っているのは、ゴーレムの右腕を攻撃していた、キュルケとタバサの魔法だ。興味本位で覗いていた割には、こういった話題において引用出来る辺り、しっかりと観察していたのだろう。
「で、私がクロを召喚したから、ゴーはクロを連れ戻すためにその、世界と世界を繋げられる何かで、私の部屋と、そこを行き来出来るようにした、と」
『うむ。装置の原理はワシにも解らんけど!』
自信満々の剛に、その場の全員がズッコケた。
「何でオメーが知らねーんだよ!?」
立ち直ったクロが鏡に向かって蹴りを繰り出した。すると、どういうワケかクロの足が伸び、そのまま鏡の中に吸い込まれた。同時に、鏡から鈍い音が聞こえる。
『ムギュ!?』
どうやらクロの足が、鏡の向こうの剛の顔面に直撃したらしい。
『だって、あの時のワシ、大怪我してたんだもん! ツインキャノンだって、ほとんど構造覚えてないもん!』
剛の言い分は、こうだった。
砂漠の世界に移動した際に、フジ井家の下敷きとなった事で右肩脱臼、肋骨4本骨折、出血多量の大怪我を負った上、まともな治療を受けていなかった為、意識が朦朧としていた。
当然、当時の記憶もおぼろげである。
砂漠の世界で、ガトリング砲を失ったクロの為にツインキャノンを作ったが、現地特有の金属をどのように加工して、どのような構造で作ったのかも、同様の理由で覚えていない。
無論、転送装置に至っては言わずもがな。
『――という訳で、転送装置のコアはほとんどブラックボックスみたいなものじゃったが、他の部分はすぐに解析出来たのでな。
お前に取り付けてある発信機の受信端末を装置に繋いで、ようやく別の世界…まぁ、そこにおるお前を発見したのじゃ』
「メンテの時に外しときゃよかったぜ…」
己の迂闊さを心底呪うクロだった。
「…ま、まぁいいわ。それで、鏡の向こうからクロに声をかけてたら、そこの色ボケツェルプストーが聞いて、幽霊と早とちりした、と」
『そのようじゃな。いや、もう眠くて眠くて、半分意識なかったわい』
ジト目でキュルケをにらむルイズ。キュルケはプイっとそっぽを向いた。じゃあ、あなたも聞いてみなさいよ、と言わんばかりの素振だ。
その続きを、ミーが引き継いだ。
「せっかく現地の人と話せると思ったら、あっという間に叫びながら逃げちゃってさ。剛くんもその場で力尽きて眠っちゃったし、仕方ないから、ボクが直接、この世界に来たんだよ」
ほとんどがブラックボックスである事は知らなかったようだが、逆に、そんな得体の知れない代物に迷いなく飛び込む辺り、ミーの、剛への愛が窺い知れる。
以前に使って元の世界に戻った、という経験もあるだろうが。
「で、お前を探してここを歩いてたら、何かデカイのが暴れててさ。お前がいたからボクは手出ししなかったけど…」
「せめて、逃げたアイツを追いかけるとかしろよ!」
「ヤだよ。ボク、この世界の事ほとんど知らないし。あのデカブツを追っかけて迷子になっちゃったら、どうすんのさ」
クロが抗議するも、ミーは当然と言わんばかりに返す。まぁ、その懸念ももっともだ。どうにも暖簾に腕押しなミーの態度に頭を抱えたクロだが、ここでふと思い至る。
「ん? ミーくんがここにいるって事は、そっちからこっちに来れるって事か?」
『うむ。お前の反応を見つけた後は、その反応を追跡するように設定して、コアを起動させたんじゃ。
安定して動作しとるし、自由に行き来出来るはずじゃぞ』
クロの目が怪しく光った。この目は、何か企んでいる目である
「よっしゃ剛! ガトリングの弾をこっちに送れ!」
『何、ガトリングの弾じゃと? そりゃ、送れることは送れるが…』
「グダグダ言ってんじゃねぇ! とにかく、ありったけ全部持って来い!」
『ぜ、全部!?』
鏡に写っているのは、ルイズの部屋と、そこにいる5人と2匹のみだ。剛の姿は一切見えない。だが、明らかに狼狽しているのが伺える。
『この前も6000発フルに装填しておったろう! もう弾切れになったのか!?』
「足りねーんだよ、6000発程度じゃな!」
平然と、6000発では足りないと言う。どれだけ暴れるつもりだ。
『と、とにかくかき集めて来る。少し待っておれ…』
「あ、ついでにミサイルとメンテ道具も持って来いよー!」
こんな事をのたまったクロに驚いたのは、ミーだった。
「ちょ、クロ! お前まさか…」
「あン? 戻らねーに決まってるじゃねーか」
ニヤニヤと笑いながらガトリング砲を取り出したクロだが、対照的にミーは、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「何考えてるんだよお前! 早く戻らないと、ジーサンバーサンも寂しがるぞ!?」
「縁側の下にスペアのぬいぐるみが隠してあるから、マタタビにでも被らせとけ」
ジーサンバーサンの家に、クロと共に住んでいるトラ猫・マタタビ。ミーもそうだが、クロとはほとんど体格が変わらない。
クロのメタルボディを完全に覆ってしまうぬいぐるみを着れば、傍目にはクロにしか見えないのだ。
この手段を用い、マタタビは後日、ある事態を乗り切るのだが、それは原作及びアニメを参照のこと。
「だいたい、オメーもマタタビもいるんだ、ジーサンバーサンも安全だろ」
「そんな無責任な事ってあるかぁ! ただ暴れたいだけだろ!」
無言のクロ。代わりに返って来るのは、カラカラと手動で回るガトリング砲の音。
苛立つミーだったが、ここでようやく、クロから返事があった。
鋭い目つきで、ミーを見る。おちゃらけた様子は、ない。
「契約したんだよ、ルイズと。コイツが困ってたからな」
目を見開くルイズ。そして、その目からクロの意を読み取るミー。落ち着いた声で、問うた。
「…そっちが本音か?」
またも答えないクロ。だが、ミーはそれで、納得した。
「解った。ジーサンバーサンの家は、オレが面倒見てやるよ」
「言われなくたって、そのつもりだったっての」
この契約とは言うまでもなく、爆発した教室で交わされた、盟約とも言えるものだ。
使い魔のルーンを刻むコントラクト・サーヴァントではなく、心から互いを認めた、あの瞬間。
無論、クロもこの見知らぬ世界で、思う存分暴れたいという願望はある。
しかしそれと同じくらい、泣くほどに困っていたルイズを何とかしてやりたい、という気持ちも大きいのだ。
口ではなんだかんだと言っていても、根っこは面倒見のいい、頼れる兄貴的存在なのである。
このやり取りで、ルイズは胸を撫で下ろしていた。
一緒に感動のフィナーレを見ると約束したクロだが、現にこうして迎えが来ており、さらに話の内容から察するに、元の世界にも、守らなければならない人がいるようだ。
ミーの説得次第では、クロは元の世界に帰ってしまうかも知れない。
しかし、それは杞憂であった。言葉は少ないが、クロは契約を守ると言った。何の迷いもなく、さも当然であるかのように。
普段はどうにも不真面目と言うか、主人で、貴族たるルイズにも従順な態度を見せないクロだが、その心中では、ルイズを認め、共に歩こうとしてくれているのだろう。
クロの心意気に感動を憶えたルイズだったが、やはりルイズである。素直になれない性格ゆえに、偉ぶった態度は、どうにも崩せなかった。
「さ、さすがは私の使い魔ね! いい心がけよ!」
「なぁクロ、あの子、いつもあんな感じなのか…?」
「結構疲れるだろ…?」
ルイズの心境を知らず、クロとミーはげんなりしている。ルイズとて、この性格には歯噛みしているだろうに。
そうこうしていると、鏡の向こうからガチャガチャとやかましい音が聞こえてきた。剛がガトリング砲の弾その他を運んで来たようだ。
『とりあえず、ここにあるだけ持ってきたぞい…。全く、力仕事はあまりしたくないと言うに…』
「おう、ご苦労さん。こっちに送ってくれー」
労いの言葉もそこそこに、弾を要求するクロ。もう少し感謝してくれても…、と聞こえるが、意に介す様子はない。
間を置かず、鏡から金属製の大きなケースが、にゅるんと飛び出した。クロは危なげなくそれを受け取り、床に並べていく。
見た目には普通の鏡から、何かが飛び出す光景に驚く人間組一同だったが、クロとミーは、至って平然としていた。
物理法則を完全無視した武器庫を腹の中に収めているのだ、この程度では驚きもしないのだろう。
『次は予備のミサイルじゃ、ホレ』
続いて、先ほどの物より大人しめなサイズのケースが出て来た。半ば放り投げられたそれをキャッチして、先ほどの物同様、床に置いていく。
「あ、そうだ剛。そこ、お前のボロ小屋なんだろ?」
『『剛博士の研究所』と言わんか! いつかはもっと立派な建物を作るわい!』
ボロ小屋呼ばわりに怒鳴る剛だが、やはりクロは無視する。
「メンテ道具のついでに、ゴミの山からガラクタも適当に見繕って、送ってくれや。ここじゃ部品の調達も出来ねーんだよ」
『そういう事は先に言ってくれんかの…。ワシもうヘトヘトなんじゃが…』
「いーから、さっさと行け」
再び鏡に伸びるクロの右足。そして鏡の向こうから聞こえる鈍い音。さらに重なるミーの批難。
もはや、いつもの剛のボロ小屋と、同じような状況になっていた。
剛の足音が遠のくのを確認したクロは、ひとまずケースを1つ開けた。中には弾帯が、びっしりと詰まっている。
「3ケース…18000発か。これならしばらくは困らねーな」
「え、これが弾なのかい?」
横から見ていたギーシュが、弾帯の端っこを摘んで、持ち上げてみる。
「弾以外の何だってんだよ。クソガキ、オメー見た事ねーのか?」
「いや、あるにはあるんだが…、こんな弾は見た事ないよ」
無理もない。ハルケギニアの銃と言えば、火縄式かフリントロック式なのだ。クロのガトリング砲からすれば、型遅れもいいところの、骨董品である。
ガトリング砲に装填される、弾丸、火薬、雷管が1つにまとまった実包など、この世界には存在しない。
ギーシュが見た事のある、先込め式銃の鉛弾とは、隔世の差があると言っても過言ではない。
ルイズたちも集まって、興味深げに弾帯を触り始めた。少々触った程度では暴発する事もない為、クロはそちらを放っておき、2つ目のケースから弾帯を取り出し、腹に収め始めた。
「んじゃ、ボクも今のうちに装填しとこっと」
「おいミーくん、そりゃオイラの弾だぞ!」
ドサクサ紛れに3つ目のケースを開けたミーに、クロが食いつく。しかし構わず、腹のハッチを開けるミー。
「硬い事言うなよ、まだ1ケースあるじゃん」
「向こうに戻ってから補給すりゃいいじゃねーか!」
「ここにある分で、ストックなくなっちゃってるんだよ? 独り占めなんてズルいぞー」
まるで子供の喧嘩だ。
6000発を装填し終えたクロが予備のミサイルに手を伸ばしたところで、剛が戻って来た。
『ゼェ、ゼェ…。何でワシがこんな事を…』
「文句は電柱に言いな。それより、あんまり待たせんじゃねーよ」
いろいろと鬼のような事をのたまったクロだが、剛にはもう言い返す気力もないようだ。無言のまま、鏡から工具箱と、ガラクタが3つほど送られて来る。
「ま、こんなモンか。メンテくらいなら余裕だろ」
送られてきたガラクタは、電子レンジ、テレビ、小型発電機の3つ。
下半身バラバラの状態からでも、数さえあれば、粗大ゴミで完全に修理できるクロだ。これだけあれば、日常のメンテナンスには事欠かないだろう。
「それじゃクロ、ボクは戻るよ」
同じく装填を終えたミーが、クロに向き直った。ガラクタを眺めていたクロだが、その声に振り返る。
「ジーサンバーサンの事、頼んだぜ」
「解ってるよ。ボクもあの2人は好きだしね」
「誘拐までしたヤツのセリフかぁ?」
「昔の事じゃないかよぉ…」
若気の至り、と言いたげに顔を染めるミーだが、すぐにいつもの調子を取り戻し、ルイズに歩み寄った。
「ねぇ、ルイズちゃん」
「へ? 私?」
弾帯いじりに夢中だったルイズだが、突然横から名前を呼ばれ、驚いたようにミーを見返した。
「クロは暴れん坊の聞かん坊で、やる事なす事無茶苦茶なヤツだけど…」
「うん、それは私も知ってる」
うんうんと頷くルイズ。クロはミサイルの装填に気を取られている為、気づいていない。聞こえていたらまた騒ぎ出すだろう。
「…だけどさ、筋はちゃんと通すヤツだよ。絶対に、ルイズちゃんを裏切ったりしない。オス猫の誇りを、持ってるからね」
「…うん、私も知ってるわ」
何だか嬉しくなって、微笑を浮かべるルイズ。そして、
「私の、使い魔だからね」
不思議と、素直に、そんな言葉が口を突いて出た。
その言葉に満足そうに頷いたミーは、鏡の前に立った。
「剛くん、今日の晩御飯は何にするー?」
『うん、ミーくんの作る物なら、何でもいいよ!』
新婚夫婦のようなやり取りである。
「それじゃ今日は、アツアツでホッカホカのチーズフォンデュにしよう!」
元気よく言いながら、クロを睨むミー。昔、チーズフォンデュをクロに台無しにされたのを、まだ根に持っているらしい。
「じゃあねクロ、また来るよ」
「もう来なくていーぞ」
悪態をつくクロに肩を竦め、ミーはルイズに、親指を立てて見せた。それに気づき、同じように親指を立て返すルイズ。クロを通して、1つ絆が生まれたようだ。
キュルケたちに手を振って別れを伝え、鏡に向かってジャンプするミー。そして−―
ガァンッ
思いっきり、顔面を鏡面にぶつけた。その光景に盛大に噴出すクロ。
…どうやら、今回もアツアツでホッカホカのチーズフォンデュは、お預けのようだ。
あれ?クロのミーくんの呼び方って「くん」ついてたっけ?
とりあえず支援
以上で第12話、終了です。
転送装置やツインキャノンに関する設定は、私が勝手に設定しました。
クロちゃん自身に、元の世界に戻らない理由を作りはしましたが、ミーくんをハルケギニア側に残すためには、転送装置が可逆的な物だと都合が悪いので、
異世界編での剛くんの怪我を理由にして、転送装置は怪我によって意識が朦朧とした状態で作った、としています。
そんな状態でなぜ転送装置なんて大層な物を作れたか、という点に関しては、剛くんが天才科学者だから、という事で…w
ルイズたちの別世界の解釈等は、私もかなりの力技のように思えますが、どうかご容赦頂けると幸いです…・
>>200 蛇足かもしれませんが、クロちゃんは大王デパートで初めてミーくんと戦った時、「ミーくんとやら」と言ってます。
細かい呼称に関しては私もチェックを入れていなかったので、私のイメージが先行している感はありますが、
普段は「ミーくん」としております。
時折「ミー」と呼び捨てにはしていましたが、その辺は今後使い分けられたらいいなー、と考えてます。
機械仕掛けの方、投下乙です。
サイヤの使い魔を楽しみに待ってるのは俺だけじゃないはず
>>200 割と状況によりけりだったような気がするぞ
乙乙!
ミーくんやっぱかわええなー
六千発で足りないって、どんだけ暴れるつもりだよ。まあロミオとジュリエットよりかはマシだが。
クロちゃん乙!
ちょw 帰れねえ単一方向ワロスw
まじかるたるるーと召喚
クロちゃん乙
なつい
オスカルでも召喚してお貴族な感じを…
シエスタがロザリー役か
おフランスでは貴族だけど、
召喚されたら平民扱いされるオスカルさん。
紆余曲折を経て、女王陛下の銃士隊の隊長にでもなっちゃう感じ。
おフランスと聞いてイヤミを連想してしまうのは俺だけかな?
頭におをつけるとどうしてもそうなるよなw
ですよねー
216 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/30(火) 21:18:01 ID:f21Afcqn
大運動会のあかりが召喚された!
このネタは見たことがないけど、二人は案外、気が合うんじゃないかなあ。
>>190 サッズとサボテンだけは許してやって!
しかし、使い魔の契約もルシの呪いも受ける側の迷惑という点で似るが
・・・駄目だな、ルシたちを召喚しても下手したら召喚された瞬間にシ骸だわ
長持ちしても、召喚されて「還す方法なんて無いわよ!」→「絶望したー!使命を果たせないことに絶望したー!!」でシ骸だろうし・・・
やるならルーン効果で呪いを上書きとかそんな設定にするか
エンディング後じゃないとな
クロちゃんの人乙。
ミーくん可愛いよミーくん
フリオニールの第5話できました。10分後に投稿します。
いきなりだけど、自分がFF2を通常プレイする際、
1.フリオには弓以外の全ての種類の武器を使わせる+白魔法少々
2.宝箱回収禁止(重要アイテム以外)で買い物とドロップアイテム使用はOK
3.ABキャンセル、パーティアタック禁止
でやっていて、召還されたフリオもそれに合わせています。重装備はしてません。
それはガイの担当なので。
>>191 乙です。新参者ですがよろしくお願いします。
「ギーシュが本気を出したぞ!」
熱狂するギャラリー。
ワルキューレが槍を装備しているのを目の当たりにしたフリオニールは
「武器を使うのか!?」
「これは決闘だよ?まぁ、生きるか死ぬかは君次第だがね」
勝敗は決したといわんばかりにギーシュは言い放つ。
「人間同士が殺しあっていいものか!お前といい皇帝といい人の命を何だと思っているんだ!」
「平民風情が貴族であるこの僕に説教かい?相変わらず無駄口の多い男だよ君は」
「人の命を粗末に扱う奴は許さない。絶対にだ!」
フリオニールは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の・・・とフリオニールは歯を食いしばり
両方の拳を力強く握り締めた。その時、左手に浮かぶ紋章が微かに光を帯びたがフリオニールは気付かない。
すると、息を切らせて走ってきたルイズが2人の間に割って入った。
「ギーシュ!バカな真似は止めて!決闘は禁止されているはずよ!」
「それは貴族同士の決闘だろう?ミス・ヴァリエール。これは貴族と平民の決闘だ。それに・・・」
ギーシュはフリオニールが破壊したワルキューレを指差し、
「君の使い魔はものすごい馬鹿力のようだ。災いの芽は摘んでおいた方が良い。
メイジ殺しになられても厄介だからね」
冷たく言い放った。
地面に転がるワルキューレの残骸を見て驚愕するルイズ。
「これ・・・あんたがやったの?」
「ええ。硬かったけど」
「あんたが強いのはわかったわ。けど、相手はゴーレム6体よ。いくらなんでも無茶だわ」
「あいつは人の命を軽んじている。俺はそれを正したい。どいて下さい「ご主人様」」
フリオニールは厳しい表情を変えることなく言うとルイズに下がるよう促した。
「いい?やばくなったら逃げるのよ。後はわたしが何とかするから」
何だかんだで自分のことを気にかけてくれているんだな、と嬉しい気持ちになる
フリオニールであったが、ルイズが引き下がるのを合図に決闘は再開した。
6体のワルキューレは二手に分かれてフリオニールを囲い込み槍を構えた。すると、フリオニールは
一呼吸置いて『ブリンク』の魔法を唱えた。すると、分身が作り出されフリオニールは
計3人となった。(成功した!よかったぁ、と心で安堵するフリオニール。熟練度は2前半)。
「なに!『偏在』だと!」
「奴は『風のスクウェア』なのか!?」
「いや待て!あいつは杖を持っていない!」
「『先住魔法』か!?」
フリオニールの『ブリンク』を目の当たりにしたギャラリーは騒然となった。
『ブリンク』に一瞬戸惑ったギーシュであったが、気を取り直してワルキューレに号令を
かけるとワルキューレ達は一斉に槍を突き出した。その内4本の槍は2人のフリオニールを
捕らえたがそのまま透過した。
残りの2本。フリオニール本体は1本を避けたが最後の1本を避けきれず左腕を切りつけられた。
フリオニールは痛みに顔をしかめたが、猛スピードで自身を傷つけたワルキューレに
接近すると拳の連打で砕いた。
すると、残りのワルキューレ5体は素早く槍を構え直して本体のフリオニールを狙う。
だが、同時にフリオニールの分身2体も本体に近づき高速でシャッフルを始めた後
ファイティングポーズをとる。
5対3の攻防。今度は幸いにも本体を狙った槍は1本のみだった為、フリオニールは
難なく突きを避けてワルキューレに拳を見舞った。
4対3。徐々に差を詰められるギーシュ。
フリオニール達(?)を眺め「ゴクッ」と生唾を飲むギーシュ。
(まさかここまでとは!落ち着け、落ち着くんだ)
辛うじて平静を保ち、深呼吸をしてフリオニールをじっくり観察すると、
(!!!よく見ると2体だけ若干色合いが薄いぞ!)
「見破った!」
ギーシュは興奮して叫び、すぐさまワルキューレに号令をかけフリオニール達を取り囲む。
そして、突き出された4本の槍は1人のフリオニールに狙いを定めていた。
(しまった!)
それでもフリオニールは諦めることなく瞬時にリッパーナイフ(ゴートスのおたから)
を抜刀し、
1回転することによって全ての槍をなぎ払うことを試みた。
すると、フリオニールの左手の紋章がまばゆい光を放ちナイフを持つ右手に力がみなぎると、
渾身の太刀で前方、右方、後方の槍の柄を切り落とすことに成功した。
しかし、左方の槍には間に合わずフリオニールの右腕を突き刺した。鮮血がだらだらと
流れ落ちフリオニールの顔は苦痛に歪むが、熟練度1でここまで出来たのは上出来だと思った。
命を繋いだのだから。
「小賢しい真似を!」
あと一歩のところでチャンスを逸してしまったギーシュは地団駄を踏んだ。
「危なかったぜ。俺の『ブリンク』を見破るなんてやるじゃないか(本当は熟練度が低いだけなんだけど)」
フリオニールは激痛をやせ我慢してドヤ顔を作ると、リッパーナイフを左手に持ち替え
右腕に刺さった槍を切断した。
「ふん!それでは自慢のパンチを出せまい」
槍を失ったとはいえワルキューレは4体ある。分身の判別方法も判っている。左右の腕を
傷つけることもできた。まだ流れはこっちにあるとギーシュは分析する。
「そうか、そんなに素手がいいのか」
フリオニールはリッパーナイフを上空へ投げ右手でキャッチして左腰につけている
鞘に納めると、左手で刺さった槍頭を引き抜いた。出血が一段と酷くなる。
「もう充分でしょ!やめなさい!」
フリオニールの出血を悲痛な面持ちで見つめ叫ぶルイズであったが、お構いなしに最終ラウンドは始まった。
柄のみとなった槍を棒代わりにしてフリオニールの全身を叩きつける4体のワルキューレ。
フリオニールは頭部をガードしながら打撃に耐え、隙を見つけては1体また1体と両腕の
痛みに耐えてよく頑張っ(ryワルキューレを砕いていった。
そして、残るはギーシュのみ。
フリオニールは打撃のダメージなのか貧血の為なのか、ふらふらとした歩調でゆっくりと
ギーシュに接近する。
「やばい!ギーシュが殺られる!」
ギャラリーは一斉にフリオニールに杖を向ける。
「待って!」
それを静止したのはギャラリーに紛れていたキュルケであった。
「ギーシュがどうなってもいいのか!」
混乱するギャラリー。
「彼は大丈夫よ。でなきゃミス・シェヴルーズを助けたりなんてしない!」
キュルケは確信を込めて叫んだ。
(燃えたよ・・・まっ白に・・・燃えつきた・・・まっ白な灰に・・・)
自慢のワルキューレを全て素手の平民に破壊され(ナイフも使っていたが)自信を失った
ギーシュは膝をつくとorzの格好になった。
すると、フリオニールは
「むやみに人を殺めようとしないと誓え!」
「くっ!・・・」
ぎゅっ、と唇をかみ締め顔を上げるギーシュ。目の前のフリオニールはボロボロだ。
自身が殴り合っても今なら勝てるのではないかという思いが一瞬頭をよぎったが、
ワルキューレの残骸が視界に入るとその着想をすぐに捨てた。
「このギーシュ・ド・グラモン、武人の誉れ高いグラモン家の男だ!祖国の為なら
命は惜しくないし蹂躙する者あれば容赦なく切る!」
「よくぞ言った!って言いたいけど、これは祖国の為じゃないよね」
「・・・わかったよ、僕の負けだ。君にも彼女達にも謝るよ」
「俺も茶化したりして悪かった」
そして、フリオニールはギーシュに手を差し出した。ギーシュは戸惑ったがその手をとり
握手を交わすとゆっくりと立ち上がった。
その光景を見て呆気にとられるギャラリー。
「な、なんだ?終わったみたいだぞ?」
「結局どっちの勝ちなのよ?」
「平民の方だろ」
「いや、奴はボロボロでギーシュは無傷だ」
「でもギーシュのあの様子じゃ・・・」
困惑するギャラリーを傍目にルイズは急いでフリオニールに駆け寄る。
「もうバカバカバカ!このバカ犬!」
「いいじゃないか!タダ、じゃなかった済んだことだし」
フリオニールはルイズに微笑を浮かべると『ケアル』の魔法を自身に唱えた。
全身が淡い光に包まれフリオニールの傷を次々に塞いでいく。
しかし、突かれた右腕の傷だけは流血を多少抑えることができただけで塞ぐことが出来なかった。
全身には痛覚もまだ残っている。
「あ、あんた、いいいい今何したの?」
「これですか?後で説明しますよ。って「ご主人様」俺の話ぜんぜん聞いてくれないじゃないですか」
「う、うるさいうるさい!後でたっぷりお仕置きだわ」
「勘弁して下さいよ。そうだ、俺かなり出血してるから栄養取らせて下さい。栄養」
「誰がご褒美なんてやるもんですか!」
丁々発止のやり取りをしながら『ヴェストリの広場』を後にする主人と使い魔。
その後ろ姿を見てギャラリーは勝者がフリオニールであることを悟った。
(ああ、タフな上に『先住魔法』(?)まで駆使する使い魔なんて、ちょっと羨ましい)
相手が悪かったなぁ、とぼやくギーシュであった。
フリオニールの第5話は以上です。
失礼しました。
乙です。
自分のを投下する前に、規制中で避難所に投下された『ルイズと無重力巫女さん』の
投下を23:10ごろから開始します。
夜の帳に包まれた魔法学院の中庭を飛び始めてから丁度二分ぐらい経つだろうか。
今夜の闇に目が慣れた霊夢は、目指していた建物の近くへとたどり着くことが出来た。
その建物には灯りがついていなかった為、常人ならばある程度近づかなければその建物に気づかなかったであろう。
二分ぶりに緑の芝生へと足をつけた霊夢は、手に持っていた御幣を使ってトントンと右肩を軽く叩き始めた。
今彼女の目の前にある建物は学院の警備をする衛士達の宿舎であり、ここでは宝物庫に次いでかなり厳重な所である。
最も、その゛厳重゛という意味は『警備が厳重な場所』というのではなく『衛士達が密集する厳重な場所』と言った方が正しいであろう。
朝、昼、夜、どの時間帯にも必ず何人かの衛士達がいるため、学院へ盗みにはいるような連中はならばまず避けるべき所である。
霊夢はその建物の中から、嫌な気配を感じていた。
(この無機質的な殺意…間違いないわね)
そう呟いた後、霊夢は今朝の庭園で戦ったクワガタの化けものを思い出した。
人を殺すことに対して歓喜や怒り、憎しみ、悲しみ。 つまりは殺意と付加する喜怒哀楽の感情。
それ等の全てが欠落してしまったかのような、何も生み出さない殺意。
理性が無さそうな虫の化けものという事を抜きにして、その殺意はあまりにも生物らしくない。
一体どんな事をある程度すれば、こんな殺意を芽生えさせる事が出来るのであろうか?
学者やある知識豊富な魔法使いならば調べたくなるような事であったが、生憎霊夢はそういう事に関して一切興味はなかった。
むしろ今彼女の頭の中にあるのは―『その殺意が目の前にある宿舎から漂ってくる』という事だけだ。
「元がクワガタムシだから夜行性なのか…それとも誘っているのか」
前者ならばまだ虫頭の化けものという事で済むが、後者ならば恐らく一筋縄ではいかないであろう。
もしも誘っている存在が今朝戦った化けものと同じならば、このような頭の良いことは出来ないはずである。
そこまで考えて、ふと頭の中で胡散臭いスキマ妖怪の言葉を思い出してしまった、
――――そうよ。…キッカケとはいえ、幻想郷とハルケギニアを繋いだ力を持った彼女の力は凄まじい。
「…恐らくは今後、そんな彼女を狙って色んな連中がやって来る――」
ポツリ、と霊夢はスキマ妖怪の言っていた言葉をひとり復唱する。
――そしてその中に、もしかしたら今回の異変の黒幕が関わってくるのは間違いないわ。
「―…そんな彼女の傍にいれば自ずと黒幕の方からにじり寄ってくるわよ……か」
再び呟いた後、霊夢は本日何度目になるかわからない溜め息をついた。
一方その頃…ルイズの部屋―――――
「――さぁ、話を始めましょうか」
「……」
胡散臭いスキマ妖怪こと八雲紫の言葉とは対照的に、今のルイズは僅かに動揺していた。
二人を離す壁と呼べる存在はテーブルのみで、いわゆる゛テーブルを挟んでの話゛というものである。
つい先程までベッドの上にいたルイズは驚きつつも、ついで自分たちを囲う周りの空間が闇に包まれているのに気が付く。
部屋の暗さとは明らかに違う、光すら通さない完璧な闇というのは正にこれであろうとルイズは思った。
次にルイズは自分と紫、テーブルと座っている椅子、そしてその回りを囲うように天井から光に当てられている事に気が付いた。
部屋に備え付けているシャンデリアとは違う、まるで劇場で使うサーチライトのような光にルイズは目を細めながら天井へと視線を向けるがそれらしいものは何処にもない。
(というか、ここって私の部屋よね…一体どうなってるのよ)
今使っているテーブルと椅子は間違いなく自分の部屋の物だと知っているルイズは、薄ら寒さを感じた。
そんなルイズを見てか、紫はその緊張をほぐすかのようにこう言った。
「ご心配なく。ちょっと明暗の境界を弄くって話しやすい環境を整えただけよ」
紫はそう言うと人差し指をルイズの背後へと向けると、円を描くようにグルグルと回し始めた。
するとどうだろうか、ルイズの背後にあった闇はまるでストローでかき混ぜるかのように回転しながら消えていくではないか。
そして闇が消えた先には、こちらに背を向けてベッドで熟眠している魔理沙がいた。
ルイズは背後の方へと視線を向け、ここは自分の部屋なのだと改めて確認することが出来た。
「ホイ!」
とりあえずこれで良いだろうと思ったのか、紫は回し続けていた人差し指をピン!と勢いよく止める。
それを合図に消えていた闇が再び元に戻り、魔理沙の姿は見えなくなってしまった。
ルイズは自分の部屋だとわかって安堵したのか、最初の時より大分表情が緩くなっている。
「さて、あなたも安心したことだし。話したいことをちゃっちゃと話すわね」
紫の言葉にルイズはゆっくりと頷き、真夜中の話が始まった。
☆
首都トリスタニアの地下はその構造上、かなり複雑な造りとなっている。
下水道をはじめとして有事の際の避難通路として幾つもの場所へと繋がる地下道やシェルターがあるのだ。
今でもその工事は昔ほどではないが細々と進められており、時が進むと共にどんどんと拡大していく。
ここ二十年ほど前に作られたものなどはまだ王宮の監視下にあるが、更に昔のものとなると全くその目が行き届いていない。
王宮にある資料の通りならば作られてから数百年が経つものも存在し、その数は実に百もある。
しかもその当時はハルケギニア大陸が戦争のまっただ中ということもあってか、資料には載っていない秘密の場所も幾つか存在している。
ただ、その殆どが現在に至るまで残っているとは限らず、最近の調査で約六割の地下通路が塞がっていたという事実が判明した。
そして残りの四割の内1割には、表に出れぬ者達の住処として機能している。
所謂―――「地下生活」をせざるを得ない人々の家として…
その扉は、トリスタニアの郊外の更に外れにある。
度重なる開発によりゴーストタウンと化したそこは、かつて教会や町人達の集会場所だった所だ。
当時の人々はそこで談笑したり、今日も良い一日を過ごせるようにと始祖に手を合わせていた。
しかし、その場所もやがてトリスタニアの中央に寄せられてしまい、今ではすっかり過去の物となってしまっている。
そんな場所のとある一角に、まるで人目を避けるかのように分厚い鉄扉がある。
狭く入り組んだ路地の奥にあるそれは、地上からでも上空からでも見つけることは困難を極める。
更にその扉が設置されてから大分年月が経っている所為か、素手で触れるのを躊躇わせるほどに錆びていた。
まるで皮膚病患者の肌みたいにボロボロな扉の傍には、同じくらいに錆びてしまっている壊れた錠前とドアノブが放置されている。
そしてかすれてはいるものの、錆び付いた扉の表面には白いペンキでこんな文字が刻まれていた。
『我々の望む世界は、どんな事があろうと何時の日か必ず訪れる』―――と。
※
双月が姿を隠し闇が支配する今宵、そのドアへと近づく四つの人影があった。
一目で最下層の者だとわかるみすぼらしい身なりの老人と、その後ろには頭からフードを被った一人の男と二人の女性だ。
老人は別として、三人の男女が体から発している雰囲気は明らかに一般市民が出せないような刺々しいものである。
そんな三人を後ろに引き連れているおかげか、老人の歩みからは辺りを支配する闇に恐怖している感じはない。
やがて老人はドアの前にまで来ると足を止めると同時に、後ろにいた一人の女性が小さな声で傍にいる男へ話し掛けた。
「ここが隊長の言うある場所へと続く道…ですか?」
男に話し掛けた女性―――ミシェルは、前方にあるドアと老人を交互に見比べつつ怪訝な表情を浮かべている。
ミシェルの言葉にもう一人の女性――アニエスも少しだけ頷いてから言った。
「確かにこういう人気のない場所だとわからないが…それにしてはありきたりな…」
二人の言葉を聞きながらこの場所を知っていた隊長も否定する気にはなれなかった。
何故なら彼自身も来るのは初めてで、尚かつここの情報自体も風の噂程度でしかなかったのだから。
◆
時を少し遡り、時間が夜の九時丁度になろうとしている時――――
隊長の残したメモを頼りに、ミシェルと共に人気のない郊外へと訪れていた。
役人の手が届かぬ所為ですっかり寂れてしまい、灯り一つ無い闇の中に二人は佇んでいる。
その眼光は鋭く、いつでも抜刀できるよう自然と身構えていた。
「もうそろそろ、九時丁度だな…」
暗闇越しに辺りの気配を探っていたミシェルが誰に言うとでもなくひとり呟き、アニエスは無意識的に頷く。
先程時刻を確認してみたら後五分といったところだったので、もうそろそろ九時になるだろう。
せっかくなのでもう一度確認しようかと懐に手を伸ばした時、ふと背後から男性が声を掛けてきた。
「やぁ、どうやら約束通り二人だけで来てくれたようだな」
少なくとも一日一回以上は聞いているその声に、アニエスとミシェルの二人は同時に後ろを振り向く。
そこにいたのは、自分たちと同じフードを頭からすっぽり被ったガタイの良い男であった。
男は二人が振り返ったのを見ると懐からアニエスが持っているのと同じデザインの懐中時計を取り出す。
そして先程の彼女と同じく時計を軽く叩き、ボゥッ…と光る時計の針を灯りにして自分の顔を照した。
光に照らされたその顔が、いつも自分たちが見ている上司の顔だと知り、ミシェルは若干安堵したかのような表情を浮かべた
一方のアニエスはミシェルとは対照的に訝しむような表情で目の前にいる隊長に話し掛けた。
「一体どうしたというのです?わざわざ手紙にしてまであんな回りくどい事をさせるなんて…」
「あぁアレか…まぁ一応の警戒だ。これから会える゛かもしれない゛人物を探してる輩が出るかどうかな」
自分の机に置いていた手紙の事を指摘された隊長は、さも簡単そうに言った。
それを聞いたアニエスは、彼の言った「会える゛かもしれない゛人物」という言葉に疑問を抱く。
「会えるかもしれない人物…?それに話からして何やらワケありの人間と思えますが…」
「まぁ大体そんなところだが、実を言うと俺もその人物の事については風の噂程度にしか知らないからな」
でも本当にいるのならばコレを見て貰いたいんだよ。と隊長はそう言って懐から小さな袋を取り出した。
手のひらに収まるサイズのその革袋には、あるモノが入っていた。
◆
ドアの前にいる老人は懐を探り、一見すればタダの棒きれにも見える杖を取り出した。
そして他人には空耳とも思える程のかぼそい声で呪文を詠唱すると、それをドアに向けて振り下ろす。
ギ、ギィ…―――
すっかり錆び付いてしまったドアを無理矢理開けるかのような嫌な音が辺り一帯に響き渡った。
ドアノブが壊れているドアがひとりでに開き、四人の前に今居る場所よりも更に濃い闇を見せている。
「ここから先の通路は…このトリステインが建国された時に作られたと言われております…」
開け放たれたドアの前にいる老人は三人に聞かせるかのように喋りつつ、再度杖を振る。
すると目の前にある闇の中でポッ…と温かそうなひとつの灯りが生まれた。
まるで生まれたての赤ん坊のように小さい灯りは二つ三つと増えていき、目の前の闇を喰らってゆく。
「当時は王族同士の小さな身内争いがあり、その際に何者かが有事の時に使う避難通路として作らせたのでしょう」
どんどんと数を増やしていく小さな灯りに顔を照らされつつ、老人は杖を振りながら喋り続ける。
そしてドアを開けてから丁度一分が経った後――左右の壁から幾つもの小さな灯りに照らされた階段がそこにあった。
地面の下へと続く階段の奥は灯りが届かず、その長さを知らしめている。
隊長、アニエス、ミシェルの三人はこんなところに地下へと続く階段があることを知り、目を丸くしていた。
トリスタニアの地理を完璧に把握していると豪語する衛士隊の者達ですら、このような場所は全く知らなかったのである。
「しかし結局は使用されず、十年前から我が主の住まいとして機能しております…」
老人はそこまで言うと口を閉じて三人の方へと向き直ると、ゆっくり頭を下げてこう言った。
「今宵は、我が主の経営する鑑定屋へと足を運んで頂きまことに有り難うございます」
一方、その頃――――
魔法学院でも一人の少女がある建物へと足を運ぼうとしていた。
★
「お邪魔するわよ〜っ…と」
暢気そうな感じでそう言いつつ、霊夢は灯り一つ無い宿舎の入り口を通った。
いつもなら常時灯りが付いているというのに、不思議と今日に限って灯りは付いていない。
今日は偶々そういう日だったのか、それとも゛誰かが゛意図して灯りを消したのか…
どっちにしても、霊夢にとってはどうでも良いことであるのだが。
ただ外と比べれば屋内は暗く、目が慣れるまで霊夢は直ぐ横にあるレンガ造りの壁を手でさわりながら歩き始めた。
もうすぐ夏が訪れるらしいのだが夜中の気温は冷たく、霊夢の肌をピリピリと刺激する。
壁伝いで入り口から歩いてきた霊夢は、そのまま食堂の方へと入った。
宿舎の食堂は割と大きく、衛士達の部屋がある二階へと続く階段と裏口へと続く入り口はこの部屋にある。
食事などは給士達が作った物を運んでくるため、厨房といったものはない。
一応ワインや水などの飲料を保管するための倉庫などがあり、チーズや干し肉と言った酒の肴は衛士達が自前で買っている物である。
ここもまた暗かったが、屋内の暗さに目が慣れてきた霊夢はふと食堂の出入り口付近である物を見つけた。
それは大きな蝋燭が設置された燭台であった。
蝋燭には火がついており、小さいながらも頼りになる綺麗な明かりで霊夢の顔を照らしている。
(まぁ…暗闇の中で変な物を踏んだりするのもあれだしね)
霊夢は心の中でそう呟くと右手に持っていたお札をしまう代わりに燭台の下に付いている持ち手を握り、ヒョイッと燭台を持ち上げた。
手に持ったところで食堂の中へと入り、とりあえずは傍にあるテーブルの上を蝋燭の明かりで照らしてみた。
見たところ変わったところはなく、幾つもあるテーブルの上には皿や空のワイン瓶が大量に放置されている。
もっとも、霊夢や他の女性からしてみれば「散らかりすぎている」という言葉がピッタリなほど酷い状況であるが。
毎日朝と昼に担当の給士達が掃除しに来るのだが、勿論霊夢はそんなことは知りもしない。
「床だけ綺麗なのは、ある種の救いなのかしらね…」
足下を照らしながら歩きつつも、霊夢は嫌悪感たっぷりの表情で呟いた。
早足で歩いた所為かわずか十秒くらいで食堂を通り抜けた霊夢はそのまま裏口へと続く入り口へと入った。
裏口のドアは開きっぱなしなのか、冷たい夜風が容赦なく霊夢の顔を撫でていく。
「もうすぐ夏の筈なのに、どうしてこう寒いのかしらねぇ…」
幻想郷とは違うトリステイン気候を相手に、霊夢はひとり愚痴を漏らす。
本当なら今すぐにでもルイズの部屋に帰って寝たいのだがそんなことをするワケにもいかない。
何故なら、こんな場所へと来ることになった最大の゛理由゛が、ここにいるからである。
(気配が段々と強くなってるし動く気配もない…、やっぱり私が来るのを待ってたわね)
今日感じた気配の中で一番嫌な気配を察している相手がこの先にいることを知り、ふと足を止めた。
彼女が今いる位置から約一メイル先には、半開きのドアが風に揺られてキィキィと音を立てて動いている。
ドアの向こうは裏口となっており、文字通りのこの宿舎の裏側で出られようになっている。
霊夢はその場に燭台をそっと置くと、懐にしまっていたお札を取り出した。
最後に大きく深呼吸した後、勢いよく足を一歩前に出そうとした直後――――
バンッ!
先程まで風に揺られていたドアが、もの凄い音を立てて開いた。
まるで霊夢が動くのを見計らってたかのように開いた先から、何者かが飛び出してきた。
ソイツは疾風の如き素早さをもって霊夢の傍へと駆け寄り、手に持っていたナイフで斬りかかってきた。
しかし霊夢はその鈍い銀色の刃を持った武器に怯えることなく、ナイフの軌道から外れる下をかいくぐって避けた。
斬り刻む相手がいなくなったナイフは風を切るだけに留まり、それを持っている相手は霊夢に対して大きな隙を与えてしまうこととなった。
当然それを見逃す筈が無く、霊夢は相手の足下でしゃがみこんだ姿勢のまま、左手で持っていった御幣を勢いよく突き上げる。
素早い動作で繰り出された御幣の突きは見事相手のアゴに当たり、そのショックで相手の顔に貼り付いていた小さな物体が音もなく剥がれた。
物体はベチャリと不愉快な音を立てて地面に置いた燭台の傍に落ち、それと同時に襲いかかった来た相手は糸の切れた人形のように地面に倒れ込んだ。
持ち主の手から離れたナイフを勢いよく蹴り飛ばした後、霊夢は燭台の傍に落ちた物体へと顔を向ける。
案の定そこにいたのは、先程ミセス・シュヴルーズの目に貼り付いていたナメクジもどきであった。
霊夢は今日何度目になるかもわからない溜め息をつくと、右手に持っていたお札を一枚そのナメクジもどきに投げつけた。
お札は一寸の狂いもなくナメクジもどきに貼り付くと、すぐに燃え始めた。
先程焼いたナメクジもどきと同じようにソイツもまたそのを無茶苦茶に振り回しつつ、あの世に送り飛ばされた。
とりあえず目に良くないサイケデリックな虫けらを消した霊夢は、後ろで気絶している相手の方へと顔を向ける。
霊夢を襲ってきた相手の正体は、なんとシュヴルーズと一緒の部屋にいた女性教師であった。
(あの時の悲鳴は、もしかしてコイツの悲鳴だったのかしら?)
先程ルイズの部屋で聞いた悲鳴の事を思い出そうとしたとき…
フ…フフフフフ…――――
外から流れ込んでくる風に紛れて、笑い声が聞こえてきた。
まるで籠の中にいる鳥の動きを見て、喜んでいるかのような笑い声。
しかしその声はまるでガラスを引っ掻くかのようにように甲高く、あまりにも人外地味たものであった。
その笑い声に何かを感じた霊夢は、キッと目を鋭く光らせると勢いよく外へと飛び出した。
扉の向こうは丁度宿舎の裏側であり、衛士達の訓練場も兼ねているのか小さな庭がある。
防犯上のためかその庭を囲うかのように立てられた立派な鉄柵が、物々しい雰囲気を放っている。
入り口の傍には【タルブで作られた最高の赤ワイン】というラベルが貼られた大きな樽が数個ほど放置されている。
その他には花壇も噴水も何もなく、とても殺風景で寂しい雰囲気を纏った庭であった。
魔法学院の広場や庭は基本華やかではあるが、ここはそんな場所とは一切無縁の場所だ。
屋内とは違って容赦なく冷たい夜風が霊夢の肌を撫で、自然と身を強ばらせる。
フフフ…フフフフフフ…――――
その風に混じって、何処からともなく甲高い笑い声が霊夢の耳に入ってくる。
霊夢は耳を澄ませて声の出所を探ろうとするが、なかなか場所を掴ませてはくれない。
後ろから聞こえてくると思えば次の瞬間には右から聞こえ、すぐに同じ笑い声が頭上から聞こえてくる。
まるで鍾乳洞の中にいるかのように笑い声は辺りに木霊して霊夢の聴覚を鈍らせようとする。
「そんな小細工が通じると思ったら…大間違いよ」
霊夢は面倒くさそうに呟くと右手に持っているお札を一枚、ある方向に投げつけた。
勢いよく放たれたお札は…
一直線にその先にある゛樽の山゛へと突っ込み、
――――ボグンッ!
小さな音を立てて爆ぜた。
爆発自体は小さいものの、それより大きな樽を壊すのには十分であった。
木っ端微塵に弾けた樽は木片を辺りに撒き散らすが、その中にワインは入っていなかった。
―――ホゥ…まさかこうも簡単に見つけるとは、予想以上じゃな。
まぁアイツ等をいとも簡単に屠れる時点で大体の検討はついておったが…
先程まで樽が置かれていた場所には、仮面をつけた一人の貴族が佇んでいたのだ。
闇に溶け込むかのようなマントを付けており、その上から覆い被さるかのようにマントと同じ色のフードを羽織っている。
来ている服やズボンは全体的に地味な色合いであり、記憶に残りそうにないものであった。
そしてその貴族の声はかなりしわがれていることから、恐らくかなりの老齢であるに違いない。
しかし今の霊夢には、それらの事よりも今最も気になっている事があった。
それは今目の前にいる貴族の姿が゛やけに朧気゛であるということだ。
まるで空気中に漂う霧のように、その存在はあまりにも希薄過ぎる。
「こんな夜中に呼びだしたうえに直接顔を合わせないなんて…いったいどういうつもりかしら?」
霊夢は目の前にいる゛幻影゛に向かってとりあえず御幣を突きつけながら言った。
そう言われた瞬間、貴族は両手をあげると慌ててこう言った。
―――ま、待ちたまえ!私は非暴力主義なんじゃよ!?
そんな私に、君はそんな危なっかしいモノを突きつけるのかね!?
「別に良いじゃないの?武器を突きつけるのは私の勝手よ。というかその場にいない癖して何言ってるのよ」
先程の雰囲気とは全くかけ離れた弱気な対応に対して、霊夢はばっさりと言い放つ。
その言葉に貴族はハッとしたかのような動作をした後、あっさりと両手を下げた。
――あぁ、そうじゃったな…いかんいかん、まだ作ったばかりじゃから慣れていないのぉ…
全く威厳を感じさせない貴族に舌打ちしつつ霊夢は目の前にいる゛幻影゛が先程呟いを頭の中で。
《―まぁアイツ等をいとも簡単に屠れる時点で大体の検討はついておったが…》
既に霊夢の中では゛アイツ等゛=クワガタやナメクジの化けものという考えに至っていた。
(まさかコイツがあの化けものを…だとしたら相当ヤバそうなヤツね)
霊夢はそんな事を思いつつもとりあえず質問してみようと言う結論に至り、話し掛ける。
「それはそうとして、まさか今朝と今夜の化けものはアンタの…―― ――…ッ!?」
言い終える前に、突如自分の背後から大きくて歪んだ殺意が漂ってきた事に霊夢はすぐに気が付いた。
まるで人を殺すためだけに作られた人形がいま無抵抗の子供向かってナイフを振り下ろす直前のような無機質な殺意。
瞬間、霊夢はあのクワガタムシの形をした化けものの姿を思い浮かべた。
「ギ ィ ッ ギ ィ ィ ィ ィ ッ ! !」
霊夢反射的にその場で伏せた瞬間、。背後にいた゛何かが゛金切り声と共に黒い鎌状の爪で霊夢の頭上を切り裂いたのである。
その威力は空気を切る音がハッキリと霊夢の耳に聞こえるほど凄まじく、そのまま立っていたら背中を切り裂かれていたに違いない。
伏せた状態の霊夢は僅かに体を浮かせるとホバーリングと同じ要領で移動して急いで距離を取ろうとする。
しかしかぎ爪の持ち主は何が何でも接近戦に持ち込ませたいのか、霊夢目がけてダッシュしてきた。
人のそれと酷似している足から出るとは思えないその速さに、霊夢は舌打ちしつつ右手に持っていたお札を相手に投げつける。
しかし相手も一筋縄ではいかず、片足だけで地面を蹴って跳躍し、お札のみで構成された弾幕を避けたのだ。
「…ちっ!」
まさか避けられると思っていなかった霊夢は再び舌打ちしつつも、呪文とも思える言葉を急いで唱えた。
するとお札はその先にある宿舎の壁に貼り付きはしたが、爆発まではしなかった。
そのまま爆発させても良かったが、今霊夢の懐に入っているお札は残り数枚ほどである。
いつもなら大量に携帯しているのだが、これまで行ってきた数々の戦闘で使い果たしていたのだ。
(まぁ回収する分も含めば何とかなるわね…)
そんな事を考えながらも霊夢はホバリング移動のまま壁に貼り付いたお札を素早く回収すると奇襲を仕掛けてきた敵が何処にいるのか周囲を探った。
先程霊夢の攻撃を跳躍して避けたキメラはかなり跳んでしまったらしく、ゆっくりと地面に向かって落ちてくる。
襲ってきた相手と十分な距離をとっているのを確認すると、その場に着地した。
―――うぅむ予想通り奇襲は通用せんかったか…。まぁここで倒れても面白くは無い
ふと自分の背後から聞こえてきた貴族の声に霊夢は苛立ちを覚えつつも、前方にいる゛敵゛に警戒していた。
霊夢が着地してからすぐにソイツも地面に降り立ち、左手の甲から生えた爪をガチャガチャとやかましく鳴らし始めた。
鎌の形をしているその爪は艶めかしい黒色をしており、クワガタムシのアゴと非常に似ている。
そしてその全体は、今朝戦ったクワガタムシのキメラよりも更に不快感を煽る姿をしていた。
左手は人間のそれと似ているが、それとは対照的に右手のほうはサソリの尻尾となっている。
それは余りにも長い所為かとぐろを巻いて地面に垂れており、時折思い出したかのような尻尾の先端がピクリと動く。
体の模様は黒を下地に、ハチ彷彿させる黄色の縞模様が走っている。
そして頭部はイナゴそのものであり、しきり動く口から黄色とも緑色とも言える気味の悪い液体を出している。
――さぁ…行きなさい
「ゲ ッ ! ゲ ゲ ゲ ゲ ゲ ッ ゲ ッ ゲ ッ ! !」
ボシュウゥウゥウゥ…!
バッとマントをはためかして叫んだ貴族に反応して、そのキメラもまた甲高い声で叫んだ。
間接の隙間から、黒い霧を放出させながら…
これにて、37話の投下は終了です。
次の投下する日は丁度大晦日ですね。なんだかドキドキしてきます。
では今夜はこれにて、また会いましょう。ではノシ
↑
上記の後書きも含めて代理投稿の方。
よろしく御願いします。
---- ここまで ----
以上、代理投下でした。30分ほど時間を空けて、進路クリアなら23:55ごろより
41話(かこへんそのよん)を投下します。
それではいきます。
オレは……沖縄で死んだはずだ
桃山飛曹長は混乱していた。かつてソロモン上空で高田司令長官が乗る
一式陸攻を撃墜した憎き米国陸軍航空隊を叩き、単機で特攻を命じられた
櫻花とそれを運搬する一式陸攻を護って、敵空母航空隊の只中に突撃したはずが――
気がつくと見知らぬ砂漠を飛んでいた。しかも、被弾も自身の怪我も、
すべてなかったかのように。
桃山飛曹長は、愛機である深紅の紫電改を北西に飛ばす。理由は分からない。
何故かこっちに友軍がいるような気がしたのだ。その途中、広大な森の
上空にさしかかったとき、彼は異質なものを見た。
「……何だ?恐竜?そんなバカな」
雲の隙間から見えたそれは子供向けの冒険小説のようだった。巨大な
肉食恐竜に、飛竜に乗った騎士たちが立ち向かう――高度差から、こちらには
気づいていないらしい。気になりはしたが、燃料に余裕があるとはいえない。
桃山飛曹長はその集団を無視して飛び続けた。
「そろそろ燃料がつきるな。どこか村があれば不時着するしかないか……」
桃山飛曹長は、それまで見た風景から、ここは欧州のどこかだと推測していた。
友軍の姿はどこにもない。それどころか、敵機の姿すらない。こんな平和な空を
飛ぶとは思いもしなかった、そう思ったとき、それまで何の反応もなかった
通信機から女の声がした。
『…………聞こえますか?こちらタルブ飛行場。聞こえますか?』
「日本語だと?こちら三〇三飛行隊第四小隊長の桃山飛曹長だ。
タルブ?どういうことだ?」
『ああよかった。そのまままっすぐ飛んで下さい。あなたの位置からだと、
もうまもなく滑走路が見えるはずです』
「滑走路?…………あれか。視認した。誘導に感謝する」
『どういたしまして。地上で会いましょう』
どこまでも続く平原の真ん中に、一本の滑走路があった。近くには
堀で囲まれた村があり……いや、村に滑走路が併設されているのだ。
タルブ飛行場とは聞いたこともない飛行場だが、もう燃料がない。
さっきの日本語が罠とは思いたくないが、ここがどこかも分からない。
ままよ、と桃山飛曹長は着陸態勢に入った。
タルブの村は、ここ三十年で大きく様変わりした。
きっかけは、三十年前にこの村に住み着いた一人のアルビオン貴族と、
『竜の羽衣』と呼ばれるもので東方からやって来た男、そして女。
どういういきさつかはもう覚えている者も少ない。
しかし、彼らがもたらしたものはこの村を大きく変えた。
『ミジュアメ』という、幻の東方の秘薬『コーイ』によく似た秘薬を、
彼らはこの地で作り出したのだ。それはこのタルブ領主アストン伯に
献上され、それがまたトリステイン王家にも献上された。
『ミジュアメ』は莫大な利益を生み出し、その利益を彼らは惜しげもなく
村に還元した。税としてのみならず王家と国軍からの大量注文に応えるべく
村外れにミジュアメ製造所が建築されると同時に堀と水路が整備され、
村の生活水準は一気に向上した。元々貴族向けの高級ワインの産地で
知られるこの村だが、それすら今とは比べるべくもない。
そして、それら故に、彼らが村外れに奇妙な『竜の道』や『イェンタイ』
『オヤシロ』と呼ばれる奇妙な建物を造っても、誰も反対することはなかった。
月日が流れ、男と貴族は年を経たが、女は変わらぬ美貌を保ち続けている。
それは『ミジュアメ』の力だと、村人は信じて疑わなかった――
陽が傾き始めた『竜の道』に、鋼の乙女あかぎは一人たたずんでいた。
耳を澄ますように、時折そこにいない誰かに話しかけるように。
あかぎがそうしている間は、誰も近づかないのが約束事だ。そうしている
彼女に近づくと見えない力で目がつぶれると言われており、自分の体で
それを試そうとする愚か者もいなかった。
あかぎは通信を終えると、ゆっくりとした足取りで『竜の道』――
滑走路を空ける。この地でベトンと呼ばれるコンクリートを敷き詰めた
そこは、今月に入ってもう三機もの友軍機を受け入れている。
いや、彼女たちにとって、ここに迷い込むものはすべて友軍だった。
「……終わったか?」
そんなあかぎに、壮年の男が話しかける。佐々木武雄少尉――迷い込んだ
この地で出会ったあかぎやルーリーとともに、彼の訛りの強さから
『ミジュアメ』と呼ばれる水飴を製造して財を築いた男は、陽に焼けた
顔ににかりと笑みを浮かべる。
「ええ。三〇三飛行隊の桃山飛曹長だって。もう見える頃よ。あっちは
視認したって言っていたから」
「何だって?そりゃまた……」
「あかぎ大姐!五時の方向に真っ赤な航空機!日の丸……日本機だよ!」
広域電探による誘導を終えたあかぎと武雄の会話に、トーンの高い
少女の声がかぶる。滑走路脇の櫓から監視していた、シニヨンでまとめた
お団子頭に袖無しで丈の短い緑のチャイナ服と肘から先だけの同色の
薄い付け袖、そして膝まで覆うカーキグリーンの脚甲を身につけた少女が、
小さく見える飛行機を指さした。それを聞いて、あかぎと武雄のところに
複数の人間が集まった。
「ありゃJ改か。乙戦がよくここまでこれたの」
そう言ったのは、小柄な老人――武内少将。
「私の震電でもぎりぎりでしたから。正規の搭乗員なら十分でしょう」
その横で、理知的な青年――白田技術大尉が答える。
「その通り。航続距離の短い私の『グスタフ』でさえ届いた。どうやら、
我らには特別な『神の加護』とでも言うべき何かが働いているらしい」
老いてなお精悍さを失わない長身のドイツ軍人――ブリゥショウ中将は、
そう言ってアプローチに入った機体を見上げる。
「さて、今度はどんな地獄からここにやって来たのですかね」
ひょうひょうとした雰囲気の男――加藤中佐が肩をすくめる。
そんな彼らの前に、深紅の紫電改はするりと滑走路に滑り込む。
局地戦闘機らしい速い着陸速度ながらもぴたりとあかぎたちの近くに
停止させるあたり、乗っている人間の腕前を見た気がした。
一方で、着陸した桃山飛曹長も驚きを隠せなかった。
コンクリートで舗装された滑走路の横には、小さいながらもコンクリート製の
掩体壕が一つあり、その横には大型の四発陸攻と単発の戦闘機が二機露天
駐機している。しかも戦闘機は見たこともない機体と、ドイツ機だ。
見張りの櫓に日の丸こそ翻っていないが陸攻や戦闘機には日の丸が描いて
あるからここは日本海軍の基地なのかもしれない、と思ったが……
発動機を停止させ機体から降りた彼は目を見開いた。
「あなたたちは……!」
「三〇三空『陸軍機狩り』の桃山飛曹長……じゃな。深紅のJ改に乗る
君の噂は聞いておったよ」
武内少将はそう言って桃山飛曹長を見る。そんなはずはない、そう思いながらも、
桃山飛曹長は反射的に敬礼した。少将の後ろから、あかぎがにこやかに
微笑んだ。
「ようこそ。タルブへ。私はあかぎ。あなたを歓迎するわ」
「その声……あなただったのか。ですが、あなたはミッドウェイで死んだはずでは……」
「定期広域走査をしていたときにあなたの機体を見つけたから、呼びかけてみたの。
運が良かったわね」
あかぎは桃山飛曹長の言葉に答えず、そう言って笑った。実際にあかぎは
対空電探に風竜並の反応があったときには日本語、ドイツ語、英語、
ロシア語、フランス語、イタリア語、中国語の七カ国語で呼びかけを
行っていた。しかも、それらはあかぎが知っている各軍のチャンネルに
向けて。もちろんあかぎの知らない大戦後期にはチャンネル変更されている
可能性は高かったが、古いチャンネルでも受信してくれるのではないか、
という期待を込めていた。
あかぎの横に立つ武雄は、桃山飛曹長に返礼しつつ言う。
「三〇三空の桃山飛曹長か。腕っこきが来たもんだな。俺は一五一空の
佐々木少尉……と言っても、ここじゃ階級なんて飾りだが。
それにしても、今月に入って四機目か。あの子らも入れたら六機。
三十年誰も来なかったのにこの様子、こりゃ何かありそうだな」
「そーねー。『門』が開く時期が迫っているのも関係しているのかも」
「いったい何のことですか?それにここは……」
桃山飛曹長の言葉を、櫓にいる少女がかき消す。
「……あかぎ大姐!七時の方向から誰か来る!……少女兵器?あの国籍
マークは!?」
少女が驚きの声を上げた。見ると、それほど高出力ではないエンジン音が
聞こえてくる。息吐きながらふらふらと飛ぶ少女が……あかぎたちが
見守る中べしゃりと滑走路脇の草地に落ちた。あの高度からコンクリートに
キスしなかっただけマシだろう。
それを見て、武雄が頭をかく。
「……七機目、か?」
「あらあら大変〜。大丈夫かしら〜」
あかぎが大慌てで墜落した少女に駆け寄る。武雄たちもその後を追った。
この墜落から少し時間をさかのぼる――中華民国の鋼の乙女、戦闘機
I-16・燕はガス欠でふらふらになりながら飛び続けていた。
「おなかすいたアル……」
電探を搭載していない燕は自分の勘だけで飛び続ける。
西暦1942年10月に重慶で行われた英米中ソ対日作戦会議で連合国各国の
いっそうの支援を取り付けた祖国の失地挽回は確実となったが、さらに
日本軍の非道を訴えるため飛んでいたらいきなり奇妙な魔法陣にぶつかって、
気がつけば砂漠の上。いつの間にゴビ砂漠に来たのかと思って飛び続けたら、
どうやら中国ではなく欧州みたいな風景。しかも少し前に化け物に襲われていた
老人を助けたときに全力を出したのも空腹に拍車をかけていた。
「それにしても、ここはどこアルか?欧州みたいだけど、ちっとも見覚えが
ないアル」
欧州、ヨーロッパ戦線なら、どこでも砲火の音が聞こえて当然なのに
それもない。敵機も友軍機も影すら見えない。おまけにさっきの化け物――
だが、もう燕の空腹も限界に近づいていた。どこか村でもあれば食料でも
分けてもらおう、友軍基地なら燃料を……そう思った矢先に、燕は遠くに
滑走路らしき人工構造物を見つけた。
「……あれは滑走路。小さいけれど空軍基地アルか?村と一緒になってるのが
奇妙アルけど……」
軍の施設にしては、奇妙だと、燕は思った。滑走路と居住区の文明度が
明らかに違うのだ。滑走路は近代的だが、居住区はまるで中近世だ。
だが、中国も山奥は大して変わらないので、そのまま接近を続ける――
そのとき、燕は別方向から接近する機体に気づいた。
「……!?真っ赤な航空機……どこの国アルか?国籍マークがよく見えないアル……」
それは桃山飛曹長の紫電改。だが、紫電改は燕がハルケギニアに飛ばされた
1942年後半当時にはまだ初飛行もしておらず、また深紅に塗られた機体に
描かれた日の丸を、燕は見落とした。
紫電改は滑走路に降りていく。見たこともない機体が真っ赤に塗られていた
ことから、燕はそこがどこかの国の試験場だと思った。試験場なら、
技術者たちの住む居住区が真横にあっても不思議ではない。そこが平原の
ど真ん中というのも、機密保持のためだろうと燕は想像した。
「どこの国アルかね……少なくとも、日本にはあんなのはないアル。
ドイツとかの枢軸だったら……いや、連合国に違いないネ。
ここがドイツだったら、今頃私を撃墜するためにわんさか上がってきて
いるはずネ」
とんだ自信である。が、燕の空腹ももう限界で、とうとう滑走路を
目前にして目を回して墜落してしまったのだった……
「大丈夫〜怪我してない〜?」
あかぎが駆け寄ると、草地に頭から突っ込んでいるのは、大胆な
スリットが入った真っ赤なチャイナドレスの少女だった。背中に背負った
翼には青天白日旗。中国の鋼の乙女だとあかぎにはすぐ分かった。
「う……うう。酷い目にあったアル……」
なんとか地面にめり込んだ頭を抜き出す燕。そこにあかぎが声をかける。
「どうやら大丈夫みたいね。いきなり落ちちゃうからお姉さん心配したのよ〜」
あかぎが燕に気づかなかったのは、桃山飛曹長の管制を行っていたためではない。
単に遅すぎてあかぎのふるい分けから漏れただけなのだ。もちろん、通常の
巡航速度ならあかぎも見逃さなかったのだが、空腹でふらふらのまま
飛んでいたのが徒になった。
だが、燕はあかぎと目が合うと、それまでの動きが嘘のように敏捷に
飛び退いた。
「お、お前は、日本の空母あかぎ!アイヤー!私は日本軍の基地に降りて
しまったアルか〜?!」
「お、落ち着いて。私は、別にあなたをどうにかするわけじゃないわ〜」
「信じられないアル!日本軍は、中国でたくさん酷いことをしてきたアル!
そんな連中の言うことが信じられるわけが……」
「あれ?ひょっとして……燕姐姐?」
何とか燕をなだめようとわたわたするあかぎの後ろから、カーキと
カーキグリーンの二色迷彩柄の脚甲を履いた赤いチャイナドレスの少女が
顔を出した。大人びた容姿と左上腕だけに嵌めた翡翠の腕輪と肘上まで
覆う朱色の長手袋が目を引き、背中に届く金髪が風になびく。
その声を聞いて、燕の動きが止まる。ゆっくりと顔を声の方向に向け、
目をめいっぱい見開いた。
「……お前は……まさか……そんなはずないアル。私は、確かに見たネ。
研究所が日本軍に破壊され、区別も付かないほどにバラバラにされたのを」
燕はふるふると頭を振る。信じられないものを見た、とその目は雄弁に
物語る。そんな燕にどう言えば納得してもらえるのか、という顔の金髪
チャイナドレスの少女の後ろから、櫓から飛んできた少女が声をかけた。
「綻英(テンエイ)姐、どうしたの?……って、やっぱりそっちにいるの
燕姐姐?」
「裴綻英(ヒ・テンエイ)どころか霍可可(ホゥ・ココ)まで!アイヤー!
私は夢を見ているアル〜」
チャイナ少女二人を見た燕は、そう言い残すと目を回して倒れてしまう。
その様子に、二人は顔を見合わせた。そんな彼女たちに、あかぎは苦笑いを
浮かべる。
「しかたないわ〜。だって、燕ちゃんはあなたたちが生きてるって
知らなかったんだから〜。とにかく、私たちの家まで運びましょう」
――燕が信じられなかったのも無理はない。
第一次世界大戦のさなか、ドイツで開発された最初の鋼の乙女フォッカーDR.I・
アンジェリカの登場とその成功により、世界の列強各国は大艦巨砲主義と
並列してある意味正反対の技術である鋼の乙女開発にいそしんだ。
それはアジアの盟主を自負する清国、そしてその後に興った中華民国も
例外ではなかった。
だが、日清戦争に敗北後、隣国大日本帝国に後れを取り始めた中華民国では
鋼の乙女の独力開発も難航し、長く続く日本との戦いに勝利すべく同盟国である
ソ連、そしてアメリカからの技術援助を受けることにした。それが戦闘機
I-16・燕と、戦闘爆撃機ホークIII・霍可可である。どちらも両国では
技術試験機レベルの旧型であったが、やがて現れるであろう日本の鋼の乙女に
対抗するべく、国内の頭脳を集めそれぞれソ連の技術を担当する「龍」隊、
アメリカの技術を担当する「虎」隊の二チーム体制にて開発に着手した。
しかし、「龍」隊の燕は何とか八年抗戦(日華事変の中国側呼称)に
間に合ったが、「虎」隊の霍可可は『鋼の乙女』の国内呼称を『少女兵器』と
する、と国民党上層部が定めた後でも完成のめどが立たず、燕も航続距離の
問題で護衛戦闘機なしで侵攻してくる大日本帝国の重爆および陸攻隊
迎撃に成果を上げてはいたが完成時点ですでに欧米列強の一線級鋼の乙女に
見劣りする有様であり、国民党上層部はさらなる決断を迫られることになった。
より強力な鋼の乙女、もとい少女兵器を求める上層部は、在ソ、在米華僑
ネットワークを通じてソ連とアメリカに再度の技術支援を求め、ソ連の
新鋭機である攻撃機Il-2・カチューシャや戦闘機yak-9・リーリャの獲得には
失敗したものの、多額の資金援助と引き替えにアメリカ陸軍の主力鋼の乙女、
戦闘機P-40・クレアの大規模修理用予備素体の獲得に成功した。
素体はそれこそ宝のように大切に本国に空輸されたが、アメリカにしても
すでにより高性能な戦闘機P-51・ムスタングの完成のめどが立っており、
そのために決定されたようなものであった。
そんな事情があったとはいえ、国民党上層部はアメリカの主力鋼の乙女の
素体が提供されたことに歓喜した。アメリカ系技術を担当していた
「虎」隊は素体を受領するとすぐに解析を開始し、素体の不足部分を
これまで開発していた霍可可の技術流用を行うことで早期の完成を目指した。
それが中美合作ともいわれる少女兵器、戦闘機P-40・裴綻英であり、
同時に解析した技術のフィードバックから完成が遅れに遅れていた霍可可も
そのめどが立った。
裴綻英は霍可可と同様に武装以外のユニットが単体で完結していない
(霍可可は飛行用の艇体に跨る必要があり、裴綻英は大型のエンジン
ユニットが必要であった)など一部古めかしいところがあったが、登場間近で
あった大日本帝国の航空機型鋼の乙女、零式艦上戦闘機・レイと一式戦闘機・
はやぶさに十分対抗できる性能であり、その完成を今か今かと待ち望まれた
のであるが――中国軍の新鋭鋼の乙女完成間近の情報を得た大日本帝国陸軍は
虎の子の落下傘部隊、精鋭の第一挺進団を投入して研究所を奇襲。
ロールアウト直前だった裴綻英と霍可可、そして名前さえない未完成の
少女兵器たちをすべて破壊した、と公式に記録されることになるのであった。
……だが、事実は異なっていた。爆破される直前、未だ目覚めぬ裴綻英と
霍可可を金色の魔法陣が吸い込んだのだ。それは誰にも知られることなく、
日本軍による破壊が行われた後の瓦礫の山に降り立った燕も、その事実を
知らないままだったのである――
武雄とあかぎ、そして二人が育てた子供たちの家は、かつてルーリーが
建てた庵とは離れた場所にある。武雄とルーリーの子供が生まれた後、
ルーリーが二人と一緒に暮らすことを拒否したためだ。彼女は武雄たちの
家を自分の庵から離れた場所に建てて、自分は庵に引っ込んでしまった。
その後武雄たちの家の側にミジュアメ製造所を建設し、家族が増えるに
従って家も増築されていったが、ルーリーはよほどのことがない限り
武雄たちの家に近づこうとはしなかった。
「……ということで、私と可可は気がついたら砂漠に転がっていた、
というわけ。目覚めても本調子じゃなかったし、いきなりエルフに
襲われたしで、とにかく逃げ出して……何となくこっちの方に飛んでたら、
あかぎ大姐に誘導されてこの村にたどり着いたのよ。
未調整だった部分もあかぎ大姐に調整してもらったから、もう大丈夫よ」
気絶した燕が回復してから、綻英がことのあらましを説明する。
説明を聞いてもまだ納得していないようだが、それでも燕はあかぎに
向き直ると、深々と頭を下げた。
「従妹たちを助けてくれたことには感謝するアル。それに、ここが中国でも
日本でも欧州でもないことは、私も薄々気がついていたネ。中国にも、
日本にも、欧州にも、あんな化け物はいないアル」
礼には礼で応える――それが燕のけじめのつけ方だった。たとえ、それが
憎い敵であっても。『中華民国』という国を背負って戦い続けた燕に
とって、それを穢すことなど考えられない。だから燕はあかぎに頭を下げた。
そしてあかぎは、最初から燕を『敵』などという得体の知れない存在だとは
考えもしなかった。
「そうね。ここはハルケギニア。地球じゃない別の場所よ。
それに、綻英ちゃんと可可ちゃんは、二人とも半分以上アメリカ製だから
私でも何とかできたの。燕ちゃんのようにソ連製だとちょっと難しかったかも」
「私は中国製アル。綻英も可可もアメリカ製じゃないアルよ。
中国の技術者たちが、心血を注いで生み出したアル」
憮然とする燕。何が気に障ったのかを遅まきながら理解したあかぎは
素直に謝った。それで少し気が晴れた燕は、あかぎに尋ねる。
「……ところで、お前はずいぶん長いことこっちで暮らしているようアルが、
日本に帰ることは諦めたアルか?」
「日本、というか、あっちに戻るための『門』が開くのが三十年に一度だけ。
前回は間に合わなかったから、それからずっとここにいるわね。
でも、ルリちゃんが星の動きを調べてくれているから、もう半月も
しないうちに『門』が開くことが分かってるの。そうすれば帰れるわよ」
「三十年アルか……って、アメリカ軍からお前が死んだと聞いてから、
まだ半年しか経ってないアルよ!?どういうことネ?」
燕は驚いた顔であかぎを見る。本人はあまり変わっていないように
見えるが、身につけている装甲、つまり服は手入れされてはいるものの
ところどころあせて、かなりの年月を経ているように思えた。
燕の疑問に、あかぎは静かに答える。
「私たちの世界とこのハルケギニアの間には、時空のゆがみがあるみたいなの。
サハラにある『悪魔の門』に召喚されるのは私たちの世界の強力な武器。
でも、こっちに現れるのは必ずしも時系列に沿ってはいないみたいで、
私たちが生まれる前の兵器が私たちが召喚された後にこっちに現れることも
あるわね」
そう言って、あかぎは二十五年前に見た、巡洋艦『畝傍』を思い出す。
畝傍は回航中の明治十九年にシンガポールを出航後謎の亡失を遂げた艦だ。
それが自分たちが召喚されてから五年後にサハラに現れた。
だが、『場違いな工芸品』としてのそれの保有権を得たアルビオン王国では
その正体がつかめず(不明な文字を読む『リードランゲージ』の魔法も、
それが文字であると認識できなければ効果がなく、またハルケギニアにない
語彙は翻訳されないのだ)、困り果てた王立空軍から秘密裏にあかぎたちに
接触があり、武雄とルーリーの三人でそれを見たのだった。
「そうアルか。だけど、今もうすぐ『門』が開くと言ったネ。
どこに開くアルか?」
「伝説では、この世界の双月が両方とも太陽と直列する、つまり金環皆既
日食の黄金の環に飛び込めば、異世界に行けるそうよ」
それを聞いて、燕はがっくりと肩を落とす。
「……私はそんなに高く飛べないアル」
「諦めちゃダメよ。どこまで飛べばいいか、なんてまだ分からないんだから。
それに、飛べないとダメ、なんてこともないと思うの。帰りたいんでしょう?
元の世界に」
あかぎはそう言って、燕の手を優しく包み込む。燕はうつむいたまま、
ぽつりと「帰りたいアル」とこぼした。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「どなた〜?」
あかぎが扉を開けると、そこに立っていたのはピンクブロンドの長い髪を
ポニーテールにした少年?騎士。中性的な美しい顔立ちが少女のようにも見え、
またその出立ちも背中にマンティコアが刺繍された魔法衛士隊隊長のマントを
胸元の大きなリボン状の留め具付きでまとい、おへそが見える上等な生地の
白い上着に丈の短いホットパンツ、それに黒いニーソックスにブーツ。
腰に佩いたレイピア様式の杖はこしらえは上等とは言い難いが、使い込まれ
歴戦をくぐり抜けた傷が自身の戦歴を物語っていた。
「あら、カリンちゃん」
「ド・マイヤール隊長だ!ぼくをなれなれしく名前で呼ぶな!まったく」
そこにいたのはトリステイン王国魔法衛士隊マンティコア隊隊長の
カリン・ド・マイヤール。『ミジュアメ』をタルブ領主アストン伯経由で
王家に献上した後、王家から王都トリスタニアの中心街ブルドンネに
店を開く許可が下ったのだが、ギルドが条件として『ミジュアメ』の
製造法の開示を求めたことに対してあかぎが拒否の姿勢で臨んだため、
結果、王都に店を開くことはなかった。しかし、滋養が高く秘薬として
のみならず軍の栄養食として『ミジュアメ』の戦略物資としての価値を
見いだした王家の意向により、その保護と技術流出を防ぐために近衛の
魔法衛士隊より交代で分隊が派遣されることになっていたのである。
もっとも、普通は隊長自らがこの分隊を率いたりはしないのだが。
カリンの抗議を受け流したあかぎだが、カリンの様子がいつもと違うことに
気づいた。
「何かあったのかしら?」
「さっき降りた妙ちくりんな格好の女はそこにいるな?話を聞きたい」
「どういうことかしら」
あかぎの質問には答えず、カリンは部屋に入ってくる。
「さっきそこで真っ赤な『龍の羽衣』の乗り手からは話を聞いた。
ガリアとゲルマニアの国境、アルデンの森のあたりで何か見なかったか?」
「森、アルか?私は南の方から飛んできたから……森で空を飛ぶ三体の
化け物に襲われていた老人を助けただけネ」
「アルデンの森はここから南東にある広大な森よ。燕ちゃんが見たのは
別の森ね」
あかぎの補足に、カリンは小さく溜息をつく。「こっちは無駄足か」と
漏らしたのを、燕は聞き逃さなかった。
「無駄足とはどういう意味アルか!?あかぎ、この女は誰アルか?」
「ぼくは男だ!」
「こちらはトリステイン王国魔法衛士隊マンティコア隊隊長の、
カリン・ド・マイヤール様よ。可愛いでしょ?」
「可愛いは余計だ!……まあいい。どうせここが戦場になることもない
だろうし、お前たちなら下手な吹聴もしないだろうからな。
……させないよな?」
そう言って、カリンはじろりとあかぎを見る。あかぎはにっこりと
笑っただけだ。カリンはその様子にもう一度小さく溜息をついた。
「……二週間ほど前だ。『聖地』方面より出現した謎の鉄の竜が、
こっちに向かっている。馬より速く走り、立ちふさがるものをまばゆく
輝く炎で焼き尽くしながら、ガリアの東薔薇花壇騎士団、ゲルマニアの
鋼鉄装甲騎士団(シュタール・パンツァー・リッター)の攻撃にも、
その足を止めないらしい」
「まあ」
「ガリアもゲルマニアも被害は甚大らしいが、それを公表せず、我が国の
問い合わせにも応じない。クルデンホルフにも確認したが、あっちにも
ゲルマニアからの情報は来ていないらしい。このまま進めばゲルマニア
国境からラ・ヴァリエール公爵領に来るか、それともガリア国境から
クロステルマン伯爵領に来るか……」
「それで、桃山飛曹長はなんて言ったの?」
「ミスタ・モモヤマは森の中で上空から竜騎士が攻撃を仕掛けるところしか
見ていないそうだ。場所を確認したが、ガリア国境、東薔薇花壇騎士団の
再攻撃だろうな」
また薄皮一枚はげたら関の山だろうな、とカリンは言う。
トリステイン王国が、その謎の竜が鉄でできていると知ったのは偶然だ。
タルブの高級ワインやミジュアメなどの贅沢品をガリアに売りに行く商隊が、
帰路の途中でその竜に遭遇したのだ。幸運にも攻撃されることはなく、
しかも竜はそれまでの攻撃で皮が一部はがれており、そこから鉄の地肌が
見えた、と商人は言った。ガリアの国境警備隊の追求にしらを切り通してまで
国境を越えてきた情報だ。トリステイン王家は多額の褒賞を商人に与えると
同時に、彼の身の安全を守るため、王城の座敷牢に丁重に『保護』していた。
「とにかく、今言ったことは他言無用。国境にヤツが迫ったらぼくも出る。
『烈風』の二つ名が伊達じゃないことを見せてやる」
カリンはそう言い残すと、部屋を後にした。
カリンがいなくなってから、あかぎは考え込むような仕草をする。
しばらくそうしてから、あかぎは部屋を出て、食堂で武内少将らと
話していた武雄に尋ねる。
「武雄さんの零戦に積んである航空写真機、まだ使えたわよね?」
複座零戦は元々偵察任務に多用されていた機体だ。そして、特攻を
命じられたとき、武雄の『どうせなら敵艦隊撮して拾ったヤツに見て
もらおう』という理由で、命令に反して搭載された陸軍の置き土産こと
九九式極小航空写真機は、そのまま降ろされることなくこのハルケギニアに
存在していた。
「あ?どうだろうな……ルーリーに機体ごと『固定化』かけてもらってるから
フィルムも生きてるとは思うが……。第一、現像どうするんだ?」
「そっちは任せて。私の方でもルリちゃんに『固定化』をかけてもらったけど、
あまり手持ちがないから今まで使わなかったんだけどね。
それじゃあ、それが使えなかったら私のカメラを使うわね。そっちが
使えた方が危険が少ないんだけど」
「何をする気だ?」
いぶかしがる武雄に、あかぎはちょっとそこまで、とでも言うような
顔をした。
「写・真・偵・察。私のカメラを使うなら、ぶつかるくらいまで接近
してもらうから〜」
243 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/01(水) 00:14:42 ID:VuUeNdrg
以上です。
中華民国の鋼の乙女は燕以外すべて破壊されたとしかゲームには出てこないので、
同じ国からゲストを呼びました。
……海の向こうからクレーム付いたらごめんなさいしますですはい。
世界観すりあわせのための設定は私のオリジナルですが、書いていると
某行政刷新担当大臣の「2番じゃダメなんですか」がダメな理由が
書けたかな、ということで(謎
次回も早めにお目にかかれるよう頑張ります。
萌え萌えさん、乙でした
中華娘が出てくるとは思わなかったw
投下された皆さん乙です
フリオニールがギーシュに若干でも苦戦するとは予想外だな
なんせ原作ではボンクラ高校生ベースのサイトでさえ紋章発動後は一方的に勝ってるし
ワルキューレなんて単体ではゴブリンよりは強い、って程度かと思ったが…
でも一方的にフルボッコにするより見ごたえはありますね
ともあれ今後の展開を愉しみにしております
247 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/01(水) 11:22:36 ID:X+okHvfL
フリオの人乙です
のばらー
やべ、sage忘れてたぜ
萌え萌えの人 乙!
燕がアルの語尾で釘宮声に変換されてしまった。
日本軍の戦闘機は局戦でも他国の侵攻戦闘機に相当する航続力があったというから驚きですよね。
紫電改はいいよな。紫電改のタカから召喚といっても、今の子はわからないか。
あとは原爆実験で沈んだ紀伊が召喚されるとか。撃沈寸前のヴァツーチンや、引渡し寸前の土佐とかできないものかな。
原爆(水爆?)実験で沈んだ艦ときて、長門を忘れるとは……!!
うっかりマラートを呼んでしまう。
その一、ルーデルがとどめを刺しにくる。
その二、シャルノブスキー達が死なず、ルーデルが魔王になり損なう。
うっかりマラを呼ぶだと?
ご立派なお方なら既に殿堂入りしているが・・・・
神の手を持つ男かもしれん
>>249 P-51とかになると普通に零戦並みの航続距離ですぜ
>>251 その三、ルーデルの師であるステーンがルーデルと共に魔王化
マラって5人抜きの?
というわけで、フリオニールの第6話を10分後に投稿いたします。
ワルキューレの強さに関してはブロンズ装備をしたソルジャーをイメージしました。
素手の熟練度を当初2〜3にしようと思ったけど、4にすることでたまには
ギーシュが活躍する話を考えてみたかった。
>>247 貴様ら反乱(ry
フリオニールは決闘の後、ルイズの部屋に戻り床に座ると『ケアル』の重ね掛けをして養生した。
右腕の傷は次第に塞がれ全身の痛みも引いていくと全快になった。
『ケアル』を再度見せられ驚くルイズであったが、フリオニールの身を案じているようで
「本当に大丈夫?なんなら『水』のメイジに頼んでもいいんだけど・・・」
「これで完全復活です!」
「そう・・・それでは説明してもらいましょうかしら」
すると、フリオニールは真剣な表情を作り説明を始めた。
己が異世界の人間で、そこでは反乱軍に参加し帝国軍と死闘を繰り広げていてその中で
突然この世界に召還されたこと。従って、本音を言えばすぐにでも元の世界に帰りたいこと。
そして、自身の住む世界では魔法屋で売っている本を購入し憶えることによって
(1回使用すると本は消滅するが)杖を使わずとも誰でも魔法を唱えることが出来ること。
フリオニールの説明に二重のショックを受けるルイズ。特に「誰でも」魔法を使えることに言葉を失った。
「まぁ、俺も多少魔法を使えるけど、やっぱり特訓とセンスは必要なんです」
フリオニールは一人ミシディアへ旅立ったミンウの顔を懐かしむ。
「ひ、ひょっとしてあんた、ま、魔法の本を今持っていたりするの?」
ルイズは『ゼロ』の二つ名返上のチャンスがきたとショックから立ち直り目を輝かす。
「すんません。道具をしまってある袋(アイテム欄)はその時仲間が持ってまして・・・」
フリオニールは残念そうな顔で言った。
「・・・そうよね。言われてみればあんたを召還したとき着の身着ままだったものね」
ルイズはがっくりと肩を落とした。
「ルイズさんには爆発魔法があるじゃないですか。俺の住む世界にはあんな爆発を
おこせる魔法はありませんよ」
ルイズを励ますフリオニール(幸運(?)にもフリニールはパラメキア闘技場とフィン城で
ウィザートと対戦する機会がなかったのと勉強不足でルイズの魔法に似た『フレアー』の
存在を知らない。第3話でそのことを説明し忘れたのでここにて補足。)であったが、
「あんたの素性を知った以上、その言葉は哀れみにしか聞こえないわ!」
「そんなことはない!俺だってちょっと前まで非力だったんだ。帝国軍の騎士に襲われ、
瀕死のところを王女に助けてもらって・・・」
苦しそうな表情を浮かべお互いの目を見つめる二人。沈黙がルイズの部屋に流れるが、
先に目を逸らしたのはフリオニールであった。
「とにかく、俺は「ご主人様」がすごい魔法使いだと信じてますから。ミンウも真っ青なくらいの」
「な、ななな何言ってくれるのかしら、こ、ここここのボケ犬は!と、とにかく、あんたの
素性は他言無用よ!」
ルイズは顔を真っ赤にして腰掛けていたベッドから立ち上がると、そそくさと部屋を出て行った。
(ああ、帰る方法があるか聞きたいんですけど・・・)
バタン、とドアの閉まる音が響いた後、フリオニールのお腹は空腹の限界突破をしたと
ばかりに音を鳴らすのであった。
(とにかく腹ごしらえだな。洗濯はその後でいいや)
ルイズの後を追うように部屋を出て食堂へ向かったフリオニール。
到着し、中を覗くと黒髪のメイドが夕食の準備に取り掛かっていた。
「あの〜、すみません」
「はい?」
メイドはテーブルを懸命に拭く手を休め、声のした方を振り返る。
「ちょっとご相談が・・・」
「?あなた、ひょっとしてミス・ヴァリエールの・・・」
「フリオニールです。よろしく」
「きゃっ!」
メイドは嬉しさのあまり素っ頓狂な声をあげたが、すぐに居住まいを正しフリオニールに近づくと
「シエスタと申します。お声かけいただき光栄ですわ。それで、ご相談というのは?」
「食事を分けて欲しいんだ。もちろん、タダで、とは言わないよ」
「そうですか!それでしたら厨房へご案内します」
シエスタは嬉々としてフリオニールと共に厨房へ向かった。
二人は厨房に入ると、シエスタがはつらつとした声で
「みなさん!「我らが剣」がお見えになりました!」
忙しく手を動かしていた料理人たちは一斉に動きを止め、
「おお!君がミス・ヴァリエールの!」
「あの憎ったらしい貴族の小僧を懲らしめた!」
「『先住魔法』の使い手!」
「鬼の拳を持つ男!」
歓迎ムードとなった。何かあらぬ尾ひれがついてるなぁ、と思いつつも照れるフルオニールの
前に一人の男がやって来た。
「俺がコック長のマルトーだ。よろしくな!」
「あなたがコック長ですか!フリオニールです。よろしく!」
マルトーとフリオニールは握手を交わし、、
「マルトーさん、いきなりですがお願いです!食事を分けて下さい!」
「へっ?・・・なんだそんなことか。たらふく食っていけ!」
がっちりと抱き合うのであった。
その後、用意された食事に取り掛かっているフリオニールにマルトーは
「しかし、平民なのに魔法を使える上、素手でメイジのゴーレムを壊すなんてよ、
お前さん一体何者だい?」
「ごほっ!い、いや、まぁ、あれです。東方の出身です」
「するとエルフってか?」
「俺は人間です」
「そうか。なんにしたって俺はお前さんを気に入ったぜ。明るくて気分の良い若者じゃねぇか!」
「そう言ってもらえると嬉しいです!」
会話が弾む。すると、フリオニールは突如ナイフとフォークをテーブルに置き、腰に提げた
リッパーナイフを鞘ごとワルトーの前に差し出し、
「これは食事のお礼です。受け取って下さい」
「?これって小僧のゴーレムをギッタギッタに切り刻んだナイフだろ?さすがにそれを
貰うわけにはいかねぇよ」
「これはあなたが持っていて下さい。勇気あるものに相応しいリング、じゃなかったナイフです」
「まぁ、お前さんがそこまで言うなら。確かに受け取ったぜ!」
フリオニールの楽しいひとときは過ぎていった。
しかし、その夜、洗濯を忘れルイズにひどく叱られるフリオニールであった。
ギーシュとの決闘の翌朝。
ルイズとフリオニールはトリステイン魔法学院の院長に呼び出された。
決闘の噂は昨日の内に学院内に広まり、フリオニールの並外れた力と得体の知れない
魔法を使ったことが波紋を呼んでいた。
ゴーレムを素手で破壊する拳の威力。亜人なのか?
杖なしで魔法を使った。エルフなのか?
食堂で朝食をとる際にも二人にからかいの言葉をかける者はなく、態度が急によそよそしくなった。
ルイズは昨日まで自身を『ゼロ』と蔑んでいたクラスメイト達の急変に閉口したが、
肝心のフリオニールは朝食が昨日からワンランクアップ(具有りスープとロールパン)
したことに喜んでいた為(ルイズの指図かワルトーとシエスタが気を利かせたのかは不明)、
周囲の冷たい目線は気にならかった。
院長室の前に立つ二人。
「失礼のないようにするのよ」
「わかってますって」
コンコンとドアをノックするルイズ。どうぞ、と言う女性の声を聞いてゆっくりとドアを開けた。
部屋の中には見事な白髭を生やした老人とコルベール、秘書の女性が緊張した面持ちで迎えた。
「それでは、私はお茶を煎れてきますわ」
秘書が思いついたように言うと、
「おお、すまんのぅ。ミス・ロングビル」
老人はロングビルに笑顔を送った。
ロングビルはそれを合図に部屋を出る。その時、ロングビルはフリオニールを値踏みする
ような目線で一瞥したが本人は爽やかなスマイルでそれに応えた。
ルイズはドアの閉まる音を確認すると老人に
「ミスタ・オスマン。ここへ私が呼ばれたのはやっぱり・・・」
「うむ。そこの使い魔君のことじゃ」
オスマンは髭をさすりながらフリオニールをガン見した。
フリオニールは作り笑いをして自己紹介した。なぜなら、基本的に髭を蓄えた老人が苦手だからだ。
そのような風貌の老人と対面すると反乱軍の作戦会議室にいる年老いた参謀役を脊髄反射で思い出す。
彼には散々苦渋を舐めさせられた。
ミンウが仲間に加わっているにもかかわらず自分達のことをひよっこ呼ばわり。
大戦艦完成の責任のなすり付け(それ以前に反乱軍はミスリル入手にさえてこずっていたのは棚上げ)。
ヒルダ王女救出の際の挑発的発言。
大戦艦爆破後の手のひら返しetc
フリオニールはオスマンの顔を見るたびに、当時のことを思い出しイライラするのであった。
「あの、彼には事情がありまして・・・」
逡巡するルイズ。
「ああ、俺、異世界から召還されたんです」
ルイズの心配を余所にフリオニールはあっさりと答えた。
(ちょっと!そのことは他言無用って言ったじゃない!)
ルイズは心で叫び肘でフリオニールの腕を突付くが、フリオニールはさっさと話を終わらせたい。
「なんと!異世界とな」
目を丸くするオスマン。
「そうか。それでか・・・。院長。彼の『使い魔のルーン』は非常に珍しいものでして」
ようやくコルベールは口を開いた。
「ふむ。どれどれ」
オスマンはフリオニールの左手をとり、まじまじと見つめる。
「確かに変わっておるのぅ。どうじゃろう、ミスタ・コルベール。一つ調べてはもらえんかの」
「承知致しました。しかし、異世界から召還されたとは驚きでした」
「ふむ。ごく稀に異世界の人や物などがハルケギニアに召還されることはあるのじゃよ」
オスマンは数十年前に出会った命の恩人がそれらしいこと。その人物から譲り受けたものが
このトリステイン魔法学院の秘法として所蔵されていることを語った。
フリオニールはようやく話のわかる人間に出会えたと思い(老人ではあるが)、
「院長!元の世界に帰る方法はあるんですか?」
「すまんのぅ。それはわしにもわからんわ」
「そんな・・・」
「そう気落ちしなさんな。わしらも出来る限り調べてはみるつもりじゃ」
「お願いします!」
フリオニールとオスマンの会話を聞いていたコルベールは
「そこまでして帰りたいとは抜き差しならない事情があるとは思いますが、それまでは
ミス・ヴァリエールの使い魔として精進して下さい」
「わかりました」
「それと、院長。他の生徒達には彼のことを何と説明すればよろしいでしょうか?」
「そうじゃのう・・・『使い魔のルーン』のこともあるしのぅ・・・そうじゃ、とりあえず
ロバ・カル・アリイエ出身ということにしておこうかの」
「それは名案です!」
「これでこの話はひとまずじゃな」
オスマンの解散宣言を潮にルイズとフリオニールは院長室を退室した。
フリオニールの第6話は以上です。
失礼しました。
乙です
ああ、俺も思い出すわぁ、あのジジィ・・・連鎖反応的にロマサガ3の町長思い出しちゃった
こんばんわ。もし大丈夫みたいなら、十分後に3210の二話を投下します。
3210ってうまい通称だな。
では支援しよう。私?なに、通りすがりのサラリーマンさ
「ふんだ。そんな嘘信じないわ」
夜食のパンをほおばりながら、ルイズはそっぽを向いた。
クリフとルイズはテーブルを挟んで、椅子に腰掛けていた。ヴォルフは壁にもたれかかって腕を組んでおり、キクロプスはそのま
ま床に座り込んでいる。
ここはルイズの部屋だ。二十平米ほどの広めにとられた部屋に、彼女のベッドやタンスなどが並べられていた。
あれからクリフ達はルイズに連れられて、学院内にある彼女の部屋まで来ていた。
「生き返った話のくだりは、僕も正直なところ半信半疑なんだけどね……」
頭をポリポリと掻きながら、クリフはそう言うしかなかった。
自分達は日本の東京・藍空市というところにいた事。そこで襲われ、命を失った事。気づいたら、草原にいてなぜか蘇っていた事。
そこまでをクリフはルイズに話していた。自分達が超人的能力者で結成された特殊部隊であることは、当然ながら漏らしていない。
もちろん、エグリゴリの話などはどうせ信じられもしないが話さなかった。
「死体が生き返るわけないじゃない。ばっかじゃないの」
ルイズはからかわれているとでも思っているらしい。苛立ちを隠そうともしていない。
「だいたい、そのニホンノトーキョーってどこよ? なにそれ? どこの国?」
「いや、どこの国っていうか……」
どうも様子がおかしかった。地図での位置はともかく、日本と言えば以前はステイツに次いでいたほどの、大抵どこの国でも知ら
れている極東の経済大国なのだが。
少女も含む周囲の人間の風貌からしてまずヨーロッパである、とクリフはあたりをつけていたのだが、少なくともEU圏の人間で
知らないというのはよほどのことである。
クリフの横にいるヴォルフも、少し怪訝な顔をして少女を見ていた。
「日本も知らないなんて。ロシアじゃシベリアの田舎でだって知ってるわよ?」
「悪いけど、そんな国聞いたこともないわ。その、ロシアジャシベリアってのも」
「うん? ……ふーん、じゃ、ここ東欧のどこかですらないのね。アタシてっきりそのへんかと思ったけど」
いやヴォルフ、東欧は英語圏じゃないぞ。……しかしこいつ、こんなに英語上手かったっけ。ずいぶんネイティブな発音するな…
…?などと思いつつ、クリフは先ほどルイズから聞き出した地名について再び確認をとる。
「君、ここはトリステイン……でいいんだね?」
「君ってなによ。ご主人様って呼びなさい。ええ、トリステインよ。そしてここはかの有名なトリステイン魔法学園」
「うーん……」
聞いたことのない国名だった。フランス系言語の響きを感じるが、この国の隣国は西にガリア、東にゲルマニアという国があると
いう。
ガリア、というのはケルト系ガリア人の居住地から来た西ヨーロッパの広域もしくはイタリア北部の地域を指す言葉だし、ゲルマ
ニアもドイツ地域を表す古称だ。国ではなく、むしろ地方全体のことである。
北部が海に面しているなどの話を総合すると、どうもベネルクス周辺のように思えるのだが、いまいち判然としない。それに、オ
ランダ語もしくはフランス語圏やドイツ語圏のはずだ。
「まったく、どこの田舎から来たのか知らないけど、トリステインも知らないなんて」
そう言われてもなぁ……。なんだがすごい齟齬だな……?
「なに言ってるのかしらこの小娘は……。どんだけ不勉強なのよ。それにこーんなのどかな風景のが珍しいわよ。車すら走ってない
じゃない」
ヴォルフが肩をすくめて呟く。そう、問題は車の一つどころか電線すら見当たらないのである。多少程度の金はあるが、これでは
電話でタクシーを呼ぶこともできない。
「はぁ? 馬車ぐらい使うに決まってるじゃない、貴族をなんだと思ってるのかしら」
「馬車……? ええ? 何言ってんの?」
変な顔をしてヴォルフがルイズを見る。ルイズはさっきから、ズレたことをよく言う。
「ホントに変な子ねぇ……。どうしちゃってるのかしら」
「なによ、馬に乗るより走る方が得意そうなくせに」
「そんな経験そうそうあるわけないじゃない、コサック兵じゃないんだから。何言ってるのよ?」
「あっきれた。馬にも乗らないなんてどれだけ野蛮なのかしら」
「……なによこのガキ。口悪いわねー。おバカなのかしら」
「そっちこそなによ。これみよがしにゴテゴテして、筋肉ダルマ。変な筆髭しちゃって」
「大きなお世話よ、桃色の髪した頭の軽いガキがよく言うわ。まんまパープリンじゃない」
「……あんただって同じような色でしょ。人のこと言えた義理じゃないわ、ばっかじゃないの」
「アタシはいいのよ、知性溢るるピンクだし、あんたみたいな下品なブロンドじゃないしー」
「下品ですって? ……もう一度言ってごらんなさい、下僕」
ケンカをはじめようとする二人を、クリフは仲裁した。
「ちょっと止めてくれ。ヴォルフ、落ち着いて話せ」
「生意気はいいけどむやみに偉そうなガキは嫌いなのよ。特に女は」
「止めろって。話が進まないだろ。まったく……」
こんな下らないことで口ゲンカなんかして何になるというのやら……。それに、何が知性溢るるだよ。
「誰がガキよ、なんなのよこの肉ダルマは、もう。だいたいね。そんな文明の進んだ場所なんて、東方にもエルフの住むサハラの先
にもあるわけないじゃないの。300メイル以上の赤い塔? 『びる』? 『えすかれーたー』に『えれべーたー』? 空を飛ぶ鉄の
機械がいっぱい飛び回って、挙句の果てに『宇宙ろけっと』で月まで進出? 子供だってもっとマシなお話考えるわよ」
憤然としてルイズは言う。日本を説明した際のやり取りを、ルイズは露ほども信じていない。
(……うーん。これは……)
ルイズに冗談を言っている様子はなかった。
アームストロング船長を知らなくても、人類が月に立ったことなどはアフリカのマサイ族ですら伝聞で知っていることだ。信じて
いるかどうかはともかくとして。だが、少女は誰もが知っている常識的な事柄が知識になかった。
それに、彼女の言うメイルなどという単位に覚えはない。メートル法と変わらない尺度のようではあるが、もちろんそんな表記は
存在しない。
(フフッ……まるで、異世界にでも飛ばされたみたいだな)
それこそ御伽噺みたいな事を思う。
「こら、あなたもなに笑ってるのよ、わたしをからかってるの? もう、なんなのかしら。……それで? あんた達は使い魔になる
って言うの?」
ルイズが話題を切り替えた。
「……ああ。とにかくどうしようもないみたいだし。それに、色々知りたいことがある。ぜひお願いするよ」
クリフは首肯した。方針を決めた以上、少しの間だけここに留まることに決めていた。
内心で、まあ長くはないが、と付け足す。
この子には悪いが、逃亡者である自分達がここに長く居れば迷惑をかける恐れもある。エグリゴリのやり方からいって、その公算
はかなり高いだろう。我々がここにいたということも出来れば知られるべきではない。情報を集めたらできるだけ早く、とりあえず
アフリカか南米にでも飛ばなければ。
「ふーん、そう。ま、しょうがないわ。わたしの使い魔にしてあげる。わたしが呼び出しちゃったんだしね。そう言うんなら認めて
あげるわ」
「ああ。よろしく頼む」
クリフがそう言うと、ルイズは機嫌を直したようだ。
「ちょっと口調が気に入らないけど、それはおいおい教え込めばいいわね。他はともかく、あなたの態度はちょっとマシみたいだし。
よろしくね、わたしがご主人様よ」
椅子から立ち上がると、小さな胸をそらして宣言する。……なんでこの子はわざわざ居丈高にするんだろか?
「……うん。それで……使い魔、っていうのは何をすればいいんだい?」
「まず。使い魔は主人の目となり耳となる能力を持つわ」
「目となり耳となる、能力。どういうことだい?」
「使い魔が見たものは主人も見ることができるの。でも、ちょっとあんた達は無理みたいね……何も見えないし」
「ふむ。僕達はちょっと珍しい? らしいしね」
「そうね。まあそれはいいわ。次に、使い魔は秘薬の触媒を探してきたりするの。例えば硫黄とか、コケとか」
「硫黄か。……僕はちょっと難しそうだな。キクロプスはできるか?」
「…………簡単な火薬の調合ぐらいならできるが。探すとなると、さすがにな……」
「無理に決まってんじゃないそんなの。てゆーか、地面掘り返すのならあんたの専売特許みたいなもんでしょ」
ヴォルフが口を挟む。だからこっちの『力』を簡単に漏らそうとするな。あとでよく言い含めておかないと……。
「……鉱夫でもやってたの? そうは見えないんだけど……」
ルイズが意外そうにこちらを見る。
「ああ、いや、似たようなものさ。それで、他には……」
「んー、無理ならしょうがないわね……それで、これが一番大事なんだけど。使い魔はね、主人を守るのよ。その能力で、主人を守
るのが一番の役目! ……なんだけど」
言葉を途切ると、部屋にいる三人の男をざっと眺めた。
「うーん、あなたちょっとそういうの苦手そうよね……そこのオカマ男は強いかもしんないけど、腹立つからわたしはやだし。とな
るとそこの妙ちくりんなメガネかしら」
そう言って、キクロプスを指名するルイズ。
「…………俺か」
「ええ。あなたもけっこう大きいし。適任でしょ?」
「…………ボディーガードは苦手な方なんだが」
軽くヴォルフに視線を送るキクロプス。護衛役なら本当は『不死身』であるヴォルフこそが適任なのだが、それは口に出せないこと
をクリフが言わずとも承知しているようだ。
「わがまま言わないの! あんたは今日からわたしの護衛よ。……ところでそのメガネ、マジックアイテム? あとで見てもいい?」
キクロプスがつけているのはサングラスのように光線を遮断する特殊改造の超小型暗視スコープである。とは言っても、一般人が
触ったところで使い方など分からないが。
「…………壊さなければ構わんが」
キクロプスはスコープを外すと、念の為に電源を切った。もし動作不良を起こしたらあらゆる光線を拾ってしまうキクロプスの目は、
日中では半日もすればひどく痛むようになってしまうのだ。
「壊すわけないでしょ。じゃ、決まりね。あとは……」
くるりとクリフに振り返り、にこりと可愛らしく笑いかける。
「あなたはもろもろの雑用。なにか用事があったら呼ぶわ。それまで待機!」
うんうんと頷くルイズ。雑用か、ちょっと面倒かもなぁ……とクリフは思った。
「で。そ・れ・で!」
つかつかとヴォルフの前まで歩くと、びしぃ! とその顔に向かって力強く指差した。
「あんた! あんたは掃除洗濯ベッドメイクにわたしの夜食の用意、靴の手入れからランプの整備に何から何までやってもらうわよ!」
「ええ? クリフがやるんじゃないの?今そう言ったじゃない」
「うるさーい! あんたの仕事はそれ! ご主人様に逆らうの!?」
「なによもう」
「ヴォルフ。お前なら適任だろ、手伝うからさ」
クリフがそう言うと、やれやれとばかりに肩をすくめた。
「しょうがないわね。ま、いいわ。アタシ家事好きだし」
「……ずいぶん意外ね。まるで見た目とはかけ離れてるように思えるけど」
「人は見かけによらないものよ、お嬢ちゃん」
ウインクするヴォルフ。
「……ふん。変なことしたら許さないからね」
「するわけないでしょ。やるんだったらあんたの首根っこでも掴んで外に放り投げちゃった方が早いし」
「……それこそただじゃおかないんだから」
ルイズは踵を返すと、ベットにぽん、と腰掛けた。そうして、大きく伸びをしながらあくびをする。
「さてと。しゃべったら眠くなっちゃったわ、もういい時間みたいだし。あとはもう明日ね。ああそうそう、さっきのマジックアイ
テムのメガネ……どうしたのよ?」
ルイズの言葉に、周囲の視線がキクロプスに集まった。
見れば、キクロプスは手にスコープを握り締めて、大量の脂汗を流していた。
「? なんか悪いものでも食べたのキクロプス。なんかすごく顔色が悪いわよ?」
ヴォルフが心配する声をかけるが、それには答えずただ窓に向かって虚空を睨むキクロプス。こころなしか、手が震えている。
「ねえちょっとってば。どしたのよ? 風邪でもひいた?」
キクロプスはゆっくりと窓を指差し、呟いた。
「…………そこからでは、見えない。……カーテンを開けろ。……窓の外を見るんだ」
窓の外になにかあるのか、キクロプスの『千里眼』は何かを捉えているらしい。クリフは窓に近づいて、カーテンを開いた。
見下ろしても、外の景色に特に変わった様子はない。さきほど、自分達が転がっていた草原と、鬱蒼と生い茂る大きな森が暗闇の
中に横たわっているだけだ。
「特に変わったところはないが……?」
「…………違う。上だ。月を……見ろ」
「月?」
空を見上げたクリフの目に、あり得ない光景が映った。
「……な!?」
……月が……二つ、輝いている。
……ふ、二つだと? なんだ、なんだこれは!?
「どしたのよ? ……はぁ!? ちょ、ちょっと。なにこれ、どして?」
クリフの横から頭を出したヴォルフが、紅と蒼を帯びた二つの満月に、唖然とした。
「……こんな月見たことないわよ? ……え、これ、実はすっごいレアな光景? 何百年に一度とか?」
脳天気なヴォルフのセリフに、平然とルイズが答える。
「月が二つなんて当たり前じゃないの。何を驚いてるのよ?」
「なにその冗談。……え、でもなんで? こんな風に見えることなんてあるの、クリフ?」
そんなことが……。
「そんなこと、あるわけないだろ! 地球上のどこに行ったって、月は一つだ! 一つしかない!!」
急いで、クリフは窓の外の周囲に『魔王』を展開して周辺の状況を捜索した。
クリフの『魔王』は視界内の力学的物理法則を支配するほどの強力なサイコキネシスである。支配する、ということは同時に、物体
の状況を知覚できるということでもある。
人が手で物を触り持ち上げる時、その物体が固いのか柔らかいのか、重いのか軽いのか、尖っているのか丸いのか、握れば潰れる
感触など、それと同じように物の状態を知ることができる。
捜索の結果に、クリフは愕然とした。
周囲の物全ては、双方向からの月光とおぼしき光の照射を受けている。この木々も、この草原も、この建物も。
あの月は。
あの月は、本物だ。プロジェクターや幻像の類ではない。間違いなく、あの月はおそらくかなりの高度から、太陽光を反射した光を、
それも別方向から照らしている……!
「なん……だと……! そんな馬鹿な……! あり得ない、あれは……月だ……!」
ありえない。こんな現象が存在できるわけがない。
しかし、眼前の双月はその考えを真っ向から否定するかの如く、爛々と輝いていた。
「……ええ? でも月が二つあるって……つまり、どういうこと?」
本物の月が二つ。これの意味するところは何か。
「つまり……こんな光景は、地球上には……存在しない!!」
天地がさかさまになったって、こんな月は存在しない。では、自分達はどこにいる。
「でも、なんかふつーに目の前にあるんだけど……どっかで、アメリカあたりが変な実験でもやって……そう見えるとか?」
「違う……! 違うぞ、違うんだヴォルフ。あれは……本物の、正真正銘の月だ……! 「僕には」分かるんだ……知ってるだろ……!」
「……え?そんなわけ、ないでしょ?」
「わけもないも、あるか!! あれは、月だ!! なんで二つある!?」
「お、落ち着いてよクリフ。アタシが知るわけないじゃない」
「くそっ!何故だ!? なんだ、なにがあったんだ!?」
「ちょっと、ヒートアップしないでよ。……なんだかわかんないけど、えーと……増えたとか?」
「増えるわけないだろ!!」
「そ、そんなの分かんないじゃない。げ、現にあるんだし、さ」
「だから困ってる!!」
「知らないわよぅ」
ヴォルフに食いかかりながら、クリフは思い出した。この学園の門をくぐった時の、妙な違和感。
慌ててドアに向かって走る。鍵を開きドアを開け、廊下に出た。
「ちょ、ちょっと!? どうしたのよ急に?」
急な行動を起こしたクリフにルイズが後ろから声をかけるが、構わずに学園内が一望できる窓に走り寄る。夜の闇に、古びた城の
ような学園の外観が見えた。
そうだ、おかしい。これはあまりにもおかしい。思えばあの時、なぜ気づかなかった。
最初は、バロック後期の建築かと思った。だがよく目を凝らせば、そうでないことに気づく。
クリフはその能力をより発揮し巨大な建造物をより効率的に破壊するために、建築について多少程度の知識は持っている。この建
物の「形」は、自分の記憶の中にない。
これは、この建物は、ルネッサンス以降のあらゆる時代の建築様式が用いられて建てられていた。
軒棟ごと、階層ごとに違う時代の建築様式が用いられている、ということは何度も増改築を行った歴史のある聖堂などに稀に存在
する。その時代ごとの職工が、自分の建築手法で建て増しを行うからである。
しかしこの学院は、あらゆる時代の建築様式が、まるでパーツ取りでもしたみたいに、そして寸分の狂いすらなく、「これで一つ
の様式」として全てが統一されていた。
似てはいるが、こんな様式は存在しない。それどころか、ものによっては近現代の技法も一部混じっている。
「……嘘だろ?」
これはあきらかにおかしい。こんな歴史的オーパーツがあれば、世界的に有名になるからだ。自分が知らないはずがない。
ゆっくりと展開している『魔王』がさらなる異常をクリフに知らせる。
変な『力』を感じた。この学園全体に、自分が感じたことのない力のオーラのようななにかを。
建物の中、廊下や天井や壁、その全体をなぞるように調べてみる。
クリフに衝撃が走った。
ありえないことに、建物そのものが、なんらかの力学的運動に近い『力の支え』を行っていた。
いや、建物というよりも、それを構成する石材や木材が自身が自壊しないように、つっかえでも入ったかのように「保護」されて
いる。ただの無機物自体が、重量や重力による軋みや劣化を無視して、その場に停止するように建物に収まっていた。
試しに、近くの壁のレンガを『魔王』で調べてみる。普段はここまではしないが、じっくりと詳しくチェックをする。
間違いない。完全に空間のその場所に停止して、謎の不思議な『力』でレンガ自身を支えている。
なんだこの『力』は。イメージするために両眼に力を込め、よく目を凝らす。物体の物理的強度自体を補填している? いや、違
うな。正確ではない。では時間を止めている? バカな、ナンセンスだ。だいたい光まで遮断してしまう。……よく見ろ、深く。も
っと深く。もっともっと深く……。
クリフの意識は人体の持つ目の能力をはるかに飛び越え、さらなるレンガの詳細を探っていく。
両目の周りに、血管がびしびしと浮き出してきた。脳内に漠然とした分子の構造イメージがおぼろげに湧き出る。
これは……表面の分子構成に無茶な割り込み、をかけて……崩れもせずに、安定している、だと? しかも、それ自身に重量が、
存在……しない……!? な、なんで……!! いや待て、それより……物理法則を、完全に無視している……!?
こんなことをすれば、通常分子はただちに崩壊を起こすはずだ。そもそも、重量がないとはなんだ!?
「ねえー……リーダー、そんな固まられても……」
ふと顔を上げると、ヴォルフがこちらを覗きこんでいた。
「どうしたのよ急に。なにかあったの?」
「……あ、あ……」
足の力が抜け、クリフはその場にへたり込んだ。
「ちょ、ちょっと! だいじょぶ?」
崩壊しない分子といい、摩訶不思議な『力』を持つ重量のない何かといい。
月も建築も謎の『力』も、こんなものは地球上には存在しない。
地球上には存在しない場所に自分達がいる。ので、あるならば。
いや、信じられない。そんなはずはない。馬鹿な、ありえない、そんな馬鹿な。子供の御伽噺じゃないんだ、これは現実だ。
昼間の記憶が蘇る。見た事のない生物、コルベールが用いた妙な念動力の使い方。そして、ヴォルフやキクロプスが治癒した理由。
自分達が死んでいないこと。
いくつもの傍証が、下らない仮説を裏付けていく。
まさか。本当に。そんなことが?
「ヴォ……ルフ。……落ち着いて、聞いてくれ」
「アタシはずっと落ち着いてるわよぅ」
「……ヴォルフ。僕達は……僕達は今、ひょっとした、ら……」
「ひょっとしたら……?」
「……異世界に、いるかもしれない」
「……はぁ?……なにそれ? ……マジ? マジなの?」
「多……分、間違い……ない……」
「……嘘、でしょ……!」
くっくっく、と噛み殺したような笑いが聞こえた。戸口に立つルイズの後ろで、キクロプスが静かに笑っていた。
「……キクロプス、何がおかしいんだ」
キクロプスの笑いは止まらない。やがて、声を上げて大きく笑いはじめた。
「笑い事じゃないぞ! とんでもないことだ!」
クリフが責めると、可笑しそうに腹を押さえながら手を振る。
「クククッ…………いや、すまん。しかしな……異世界、か。なるほどな……ハハッ……」
「僕は冗談を言ってるつもりはない! 間違いなく、ここは地球上のどこでもない!」
「…………悪かった。クック……疑ってるわけじゃないんだ。……俺も、そうとしか思えない。確かに月からの光線は二つあるみた
いだしな。……だが、ククク……」
「……何を笑ってるんだ?」
「…………笑うしか、ないだろう。……死んだはずが生きていて、異世界の子供の従者に? ……こんなにおかしなことはないな…
…ハハハ……」
そう言って目頭を拭う。
「全然笑えないぞ!」
「笑えないわねぇ……」
「…………いやしかし……ちょっとな……本当に悪い、しかし……ククク……」
そこで三人のやり取りに、ルイズが水をかけた。
「……ねえちょっと。よく分かんないんだけど。とにかく、中に入ってもらっていい? 寒いしもう夜中だから迷惑かかるし」
「え……あ、ああ。……すまない」
促され、ルイズの部屋に戻るクリフ達。
全員が入ると、ルイズはかちゃり、と鍵をかけ直した。
「何よ急にみんなして慌てて。びっくりしたわ」
「……すまない、驚かせて」
「何があったのよ。異世界がどーのこーのって……」
「……」
「ほら、座って。立っててもしょうがないでしょ」
そう言って、再びルイズはベットの上に腰を下ろした。クリフも椅子に戻る。
「……信じられないかも、しれないけど」
クリフはルイズに向き直り、居ずまいを正した。
「僕も、嘘だと信じたい。こんな……いや、うん。僕達は君とは違う……別の、世界から。……異世界からきた、らしい」
しごく真面目な顔をして、クリフは言った。キクロプスもすでに笑うのをやめ、鋭い視線を送っている。
「……なによそれ。さっきの話より信じらんない」
疑わしそうな目を向けるルイズ。当然だ。
「僕も信じられない。だが、そうとしか思えない……こんなことがあるのか?」
「知らないわ」
「ううむ……」
ルイズも何も知らないらしい。確かに、この子は現代の文明を知らなかった。
「ねえ、また明日にしてもいい? もう眠いわ……」
「え? あ……でも、その……」
「目もしょぼしょぼするし……明日も授業があるのよわたし」
「そ、そうかい……いや、でも……」
「なにがあったか知らないけど……大丈夫よ、明日だって時間はいくらでもあるわよ」
「……本当に、何も知らないのかい?」
「知らないってば。とにかく、朝になったらまた話しましょ。ふわああ……」
釈然としないまま、クリフは納得するしかなかった。どうすればいいんだ……何故こんなことに。
思わず頭を抱える。溜め息がついて出た。訳が分からないとはこの事だ。
ルイズは立ち上がると、ブラウスのボタンに手をかけた。一個ずつボタンを外していき、するりという音を出して脱いだ。下着が
露になる。
「え、ちょっと。なんでいきなりここで脱いでるのよ?」
突然の奇行にヴォルフが驚いて声を上げるが、きょとんとした顔でルイズは答えた。
「なんでって、寝るから着替えるのよ」
「着替えるって……」
キクロプスも落ち込んでいたクリフも、顔を上げてぽかんとした。
「ちょ、ちょっとストップ。ストップよ!」
「なんで?」
「なんでって、あんた恥じらいってもんがないの!? まずいでしょ」
「まずくないわよ」
「ええー。嘘でしょあんた、目の前に男がゴロゴロいるのよ?」
「男? そうは言っても、使い魔じゃないの。別に気にしないわ」
「気にしなさいよ! ああもうちょっと……」
さっとルイズの前に背中を向けて立ち、クリフ達の方を睨む。ヴォルフの巨体がルイズの姿を覆い隠した。
「あんた達、なにレディの着替えをジロジロ見てるのよ。目を伏せる!」
そう言い放たれ、すぐにクリフは目を伏せた。キクロプスは後ろを向く。
「別に見られても平気なのに」
「なに言ってるのよ。男は狼なのよ、気をつけないと取って食われちゃうわよ」
「あんただって男じゃない」
「アタシは女には興味ないのよ」
「なにそれ、本当にそっちの趣味なの?」
「悪い? 心は乙女で体は男だから、オカマは最強なのよ?」
「最強ね……」
「ええ、最強。いずれあんたにも分かる日がくるわ」
「別に分かりたくない……」
「あら、つれないわね」
いつの間にか、ルイズは着替え終わっていた。大きめのネグリジェをすっぽりとかぶっている。
「はい、これ下着。心が女なら気にしないでしょ、明日になったら洗濯しといて」
ぽん、とヴォルフの肩の上に下着が投げられた。
「気にしないけどね……ちょっとムカつくわ」
「いいからやりなさい。わたしは授業があるんだから」
「はいはい。しょうがないわね、もう」
ルイズはばふ、とベッドに飛び込んだ。そのまま布団に潜り込んでいく。
「ちょっと。アタシ達はどこで寝ればいいのよ?」
「あんたは床。他のも、今日のところはそこで我慢しといて」
「なによそれ。扱い悪くない?」
「しょうがないでしょ、ベッドは一つしかないんだから。……はい、毛布ぐらいはあげるわ」
「……嘘でしょー。いやねーもう」
ぶつぶつと文句をこぼしつつ、着替えから目を背けていた二人に話しかけた。
「だってさ。どうする?」
ひらひらと手渡された毛布を空中で泳がせるヴォルフ。毛布は普通のサイズに比べればかなり大きめとはいえ、彼の体は二mを越
すのだ。
「…………俺はいらん」
キクロプスは部屋の隅に座り込むと、壁に背をもたらせて目をつぶった。
「ええと、僕もいいかな……一応、屋内ではあるし。ヴォルフが使いなよ」
どう考えても二人で分けきれそうにないと、クリフは断ろうとした。もちろんそれは口実で、別の問題が非常に大きい。
「ダーメよ。あんた一番体弱いんだから。風邪でも引いたらどうすんの。アタシと一緒に寝ましょ」
そうしてクリフの肩を叩く。
「大丈夫よ? アタシはクリフ、そこまでタイプってほどじゃないし。それに若い男の子でなきゃ」
「……分かったよ、それでいい」
どうせ断りきれないだろう、とクリフは諦めて頷いた。さすがにこんな時に手を出してくるなんてことはしないだろう。
クリフはスーツの上着とネクタイだけを椅子にかけて、寝転がった。うーん、床が意外に冷たい……。
「はーい。んじゃ、仲良く分けましょ」
毛布を半分だけクリフにかけつつ、自分も床に転がるヴォルフ。
「おやすみなさーい」
「……明かり消すわよ」
ルイズがぱちり、と指を鳴らした。途端にランプの灯火が消え、部屋は暗闇に包まれた。
へえ、便利なものだなぁ。あれもあの不思議な『力』みたいなものだろうか? 相変わらず、原理や物理的な力の流れが全然分か
らない。
窓の外には二つの月が光っていた。信じられないが、現実だ。確かにある。その周りを、数多くの星が瞬いていた。自分は天文に
は疎いが、見たことがない星空に見えた。
これからどうしようか。本当に参った、まさかこんなことが起きるだなんて。信じたくはないが、信じるしかない。全ての現象は
これが現実だと言っている。
このまま、このルイズという子の使い魔とやらになるしかないのか。それしか手段はない。自分達は何も知らない世界に、いきな
り放り出されたのだから。
エグリゴリからの追っ手から逃亡するのも、いずれ復讐を遂げるのもとりあえずはご破算だ。まあ、そもそも生きていただけで儲
けものではあるのだが……。
まず、情報を集めなければ。とにかくは地理。自分達の位置を知りたい。何かの間違いであってほしいと願う。
ユーゴー。今頃はどうしているのか。兄さんは生きていたよ。彼女の顔が見たい。死んだはずの自分の姿を見せたら、どんな顔を
するだろうか? 喜んでくれるだろうか。あの子のことだ、気絶してしまうかもしれないな。そもそも、また会うことはできるのだ
ろうか。
キャロル。タカツキとの戦いの中で、あの子にもひどいことをしてしまったな。ちゃんと謝ることもなく自分はキースの前に斃れ
てしまった。無事でいてくれるといいんだが。
隣では背を向けたヴォルフから、すやすやとした寝息が聞こえてきた。早い……。本当に順応性高いなぁ。こいつのこういうとこ
ろは羨ましい。僕はあまり眠れそうにない。
毛布にくるまって目を閉じる。目が覚めたら、全て悪い夢だったことにならないかな。起きたら、ユーゴーとキャロルがいたら。
僕の話を聞いて、可笑しそうに笑ってくれたら。隣でそれを聞いていたヴォルフがいつものように合いの手を入れ、キクロプスが静
かに隅でナイフを研いでいたら。
とりとめのない思いの中、眠れない夜はただ過ぎていった。
ありがとうございました。今日はここまでです。
本当は連夜で失礼してダーッと張っていこうと思ってたんですが、もう一度見直してみたらあまりにも……
それでひどいなーと思う所をちょこちょこ直したり切り貼りしてみたんですが……余計テンポ悪くなったかもしれないのは勘弁してください。
それで、本日の問題点です。
・作者がヨーロッパ史を知らないので、地名等に問題があるかも。……すいません。大丈夫だと思うんだけど……
・クリフに勝手に新能力が。いや、だって、物理法則を支配するって自分で言ってたし……支配するなら知覚も当然しないとだし……すいません……
・普通の? 大人が異世界だと認める説得力のために色々でっちあげました。だってそうしないと話がなかなか進んでくれなくてめんどくせえ……
それでは失礼します。
あ、混乱する方がいるかもしれないので……いないか? すごく要らないまめちしき。ほんとにいらない
80年代、バブル絶頂期日本の経済規模の異常っぷりは英仏独の三国を足してちょっとだけ足りないくらいでした。頭おかしいくらいの繁栄です。
なので、普通外国の人は日本の国名くらいは知ってます。ある程度以上の教育を受けていて日本の存在自体知らないっていうのは相当パーな人なんです。
たとえるなら、英仏独や米露を知らないレベルと言ったらいいでしょうか。さすがにどんな日本人でも知ってますしね、このあたりの国名は。
以上でした。
PS:皆様方、反響ありがとうございます。他の作者さん方、いつも楽しく読ませて頂いております。本当は乙したいんですが、以前それでゼロ魔ではなく
全く別のコミュニティで馴れ合いがどうのと難癖つけられて大荒れになったことがありまして、それがトラウマ気味なので敢えて携帯の方からこっそり乙させて
頂きます。お許し下さい。
>>175 ネタばれになりますが、一応アームズなど元の世界のものはこれ以上出現しません。今のところは。
代わりと言ってはなんですが、黒髪青いパーカーの彼がそのうち出てくると思います。
あ、そうだすいません。
キュクロプスじゃなくキクロプスですよね。すいませんその通りでございます…
乙
そうよぅ、オカマは最強なのよぉ
所詮、この世は男と女〜♪
だけどオカマは男で女〜
だーから最強! 最強!
オ〜カマウェイ!
277 :
ゼロの賢王:2010/12/02(木) 04:15:21 ID:kin+8PgD
投下が続いている中で恐縮ですが、5話が完成したので、私も投下します!
あの爆発からそれ程時間も掛からぬ内に、騒ぎを聞きつけて何人かの教師らしき者たちが教室内へやって来た。
彼らは暴れ出した使い魔たちを大人しくし、気絶していたシュヴルーズに治療を施す。
幸い他に怪我人は無く、生徒たちは口々にルイズに対しての不平不満を言いながら教室を後にして行った。
当のルイズは気絶から回復したシュヴルーズに罰を言い渡され、教室内の片付けをする為に残されていた。
当然、ポロンもその場に残っている。
(魔法を使わずにここを片付ける、ねえ)
ポロンはルイズがシュヴルーズに言われたことを心の中で復唱しながら教室内を見回した。
あれ程の爆発があったとは思えないくらい、教室内の大部分は無事であった。
(あの爆発。ありゃあ、イオラくらいの破壊力はあったな。よくこんだけの被害で済んだもんだ。
これもこの世界の魔法のおかげなのかねえ?)
ポロンは改めてこの世界の魔法に感心する。
ルイズの方を見ると、何か言いたそうな感じでこちらを睨み付けていた。
(とと・・・さあて、ご主人様の癇癪玉が破裂する前にとっとと片付けますかねえ。・・・さっき賄い貰っといて良かったわ)
ポロンは教室内の片付けを始めた。
暫く2人で黙々と作業をしていると、ルイズがぽつりと呟く。
「・・・失望した?」
「ん?」
それは注意深く聞かなければ聞こえない程か細い声であった。
今度はハッキリとした声で聞いて来る。
「私に失望したんでしょ?・・・ええ、言わなくても分かるわ」
「どうした急に?」
ポロンは思わずルイズの方へ目を向けた。
ルイズは立ち止まり、目に涙を溜めている。
「貴族だのご主人様だの偉そうに言っておいてこのザマよ。私、魔法が使えないの。
魔法を使おうとすると、いつもこうやって爆発が起こるの。魔法の成功確率ゼロ、才能ゼロ。
・・・それがゼロのルイズの由縁よ。笑っちゃうでしょ?」
「んなことはねえよ。お前、俺を召喚したじゃないか」
「でも、平民を召喚するなんて私聞いたこともないわ。もしかしたらそれすらも失敗なのかも知れない・・・」
それきりルイズは押し黙ってしまった。
ルイズは下を向いて床を見つめたままである。
ポロンは無言でルイズの側に近寄った。
「なあ、ルイズ」
「・・・何よ?」
「お前腹減ってないか?」
「・・・え?」
「もう昼時だもんなあ・・・。それにこんな力仕事してたら腹も減って当然だ」
「・・・何を言ってるの?」
「腹が減ってるからそんな後ろ向きなことをついつい言っちまうんだよ。だから早く片付けて飯食おうぜ?」
そして、優しい笑みを浮かべてルイズの髪をわしゃわしゃと撫でる。
「・・・!!な、何するのよ!?」
「お前らしくねえぞ、ルイズ!元気出せ!」
「ポロン・・・」
「お前には間違いなく才能があるさ!何たって他でもないこの俺様を呼んだんだからな!」
ポロンはそう言って真剣な顔で自分を指差した。
そんなポロンを見て、ルイズは呆れた様にため息を吐く。
「そうね、アンタ見てると悩んでるのが馬鹿らしくなったわ」
「だろ?悩むのは悪いことじゃないが、悩み過ぎるのは体にも心にも良くないぜ?」
「・・・考えとくわ」
ルイズはそう言って教室内の片付けを再開し出した。
先程よりは表情がいくらか明るくなった様に見える。
ポロンは取り敢えずそんなルイズを見て安心し再び作業に取り掛かった。
片付けの最中、ポロンはルイズが先程言った言葉を思い出していた。
『魔法の成功確率ゼロ、才能ゼロ。・・・それがゼロのルイズの由縁よ。笑っちゃうでしょ?』
(でも、本当にそうなのか・・・?)
ポロンはルイズの言葉に疑問を持つ。
ポロンの世界の呪文にはあの様な爆発をもたらすものがある。
イオ系と呼ばれるその呪文はポロンの世界ではポピュラーな呪文である。
だが、ルイズの発言からすればあの爆発はそもそも魔法としては認められていない様に聞こえる。
仮にこの世界の魔法に爆発を起こすものが無いとしても、あれだけの魔力が放たれたのだから
失敗であったとしても、彼女に才能が無いなどとはとても思えない。
ポロンも賢王として目覚める前は、自分の意志で魔力を放つことさえ出来なかったのだから。
(何か切っ掛けでもあったら吹っ切れるのかも知れねえが・・・。生憎こちらの魔法には詳しくないからなあ)
それは自身の呪文についても同様であった。
魔力もあるし、呪文も覚えている。
だが、一部の呪文しか使用出来ない。
この不可解な現象にポロンは戸惑っていた。
(俺も・・・何か切っ掛けがあれば、また前みたいに呪文を使うことが出来る様になるのだろうか?)
そう思いながらも、出て来たその考えを一笑する。
(俺らの世界は『失われし日』でもう呪文が使えねーんだぞ?前みたいに呪文が使えても、それはこの世界だけだ。
根本的な問題の解決にはなってねえ。なってはねえが・・・)
ポロンは再びルイズの顔を見る。
(それでもこの世界にいる間はそれでいいじゃねえか!アイツを守る為には今のままじゃきっと足りねえ・・・)
ポロンは次に自分の右手を見た。
船の上で見た時の右手は既に賢王ではなく船大工の手であった。
しかし、今は賢王の手になりつつあるのだ。
(切っ掛け・・・か)
「こ・・・これは!?信じられん!!まさか・・・彼は・・・」
その頃、図書室ではコルベールがポロンの左手のルーンに関して調べていた。
「これは大変だ・・・!早くオールド・オスマンに報告しなくては!!」
そこが図書室であることも忘れてコルベールは大きな声を上げる。
周囲の生徒の冷たい視線にも気付かぬまま、コルベールは1冊の本を持って図書室を出て行った。
コルベールが学院長室に辿り着くと、入れ違いで緑色の髪をした妙齢の女性が部屋から出て来た。
「あ、ミス・ロングビル!オールド・オスマンは中にいますか?」
「ええ、いますけど・・・何か御用ですか?」
「有難うございます!」
そう言ってコルベールは転がる様に学院長室の中へと入って行った。
ロングビルは首を傾げながら、その場を後にした。
「失礼します!オールド・オスマン!!」
学院長室の扉を慌しく開けたコルベールにオスマンは何事かと驚いた。
「一体どうしたのかね?ミスタ・コルベール。いつになく興奮しているようだが・・・」
「は、はい。話すと長くなりますので取り敢えずはこの本を見て下さい!」
コルベールは先程図書室から持って来た1冊の本を開いて、オスマンに見せた。
そして、胸元から1枚の紙を取り出してその本のとあるページと見比べさせる。
その2つを交互に見比べたオスマンはすぐに目を見開いた。
「こ、これは!?」
「これが本当だとしたら、これはとてつもないことですぞオールド・オスマン!!」
片付けを終えた2人は昼食の為に食堂へ来ていた。
相変わらずポロンの食事はささやかなものだったが、何も文句言わずに平らげる。
(しかし、力仕事の後だってのにこれじゃあやっぱ足りんわな。仕方ない、また厨房にお世話になるとするか)
「ルイズ、ちょっと席離れていいか?すぐに戻るから」
「何?またトイレ?」
「まあ、そんなところだ」
「すぐに戻りなさいね?」
「ああ」
ポロンも今回は早く食事を済ませて戻るつもりであったので頷く。
食堂を出てから、先程シエスタに案内された通りに歩くと、無事に厨房へと辿り着いた。
中へ入ると、マルトー以下厨房で働く人々は皆ポロンを歓迎した。
同じ平民としてのよしみじゃねえかと、今度はワインまで注ごうとしてくれている。
ポロンも流石にそれは断り、パンを半分に切ってドレッシングを和えた野菜を挟んだもの(いわゆるサンドイッチ)だけを貰って頬張った。
そうしていると、シエスタがワイングラスに水を注いで持って来てくれた。
ポロンはそれを一気に飲み干す。
「ぷはー、いやーわざわざ有難うなシエスタ」
「いえ、私が好きでやっていることなので、ポロン様はお気になさらないで下さい」
「いや、何かシエスタには面倒掛けっぱなしだからな。今朝の礼もしてねえし」
「本当に大丈夫ですから」
「そうだ。シエスタに何か困ったことがあった時、このポロン様が必ず助けに行ってやるよ!」
「ポロン様・・・」
そう言うと、シエスタの頬は紅潮して瞳が潤み始めた。
「有難うございます」
シエスタは深々と頭を下げた。
その後、何かを思い出したかの様に手を叩く。
「あ、私はこれからデザートの配膳がありますのでこれで失礼させて頂きますね」
「おお、頑張れよシエスタ!」
ポロンはシエスタを手伝おうかとも思ったが、これは彼女たちに与えられた仕事なのである。
それを好意とは言え、少しでも奪ってしまうのは野暮な気がした。
それにすぐに戻るとルイズに伝えてあるのであまりゆっくりも出来ない。
(早く戻らないとご主人様のへそが曲がっちまうな)
ポロンはマルトーにお礼を言った後、厨房を後にした。
ルイズの席に戻ってくると早速ルイズは不機嫌を隠さない表情でポロンを見つめる。
「遅かったわね?」
「いやー、すまねえ。歳食うと長くなっちまって仕方ねえ」
「私はまだ食事中よ?汚い話は止めて頂戴」
「おっと、こいつぁ失礼」
そう言うと、ポロンは床に座った。
その後、ポロンはルイズと特に何か会話をした訳ではなかったが、
側にいるだけで、ルイズの寂しげだった表情は少し和らいでいる様な気がする。
ふと食堂内を見ると、シエスタがデザートのケーキを配っていた。
テキパキと働くシエスタを見て、ポロンは妻サクヤの姿を重ねる。
(サクヤは元気でやってるかね?チビどもも)
この世界へやって来てまだ1日しか経っていないが、やはり次元の違う世界へ来てしまったと思うと望郷の念が強くなる。
果たして自分は元の世界へ、そしてサクヤと子供たちが待つ家へと帰れるんだろうか。
ポロンはそんな思いに駆られていた。
「どうしてくれるんだ!?」
その時、食堂内に怒号が響き渡った。
ポロンが声のした方を見ると、キザっぽい少年が1人のメイドを怒鳴りつけているのが目に入った。
その少年に向けて必死に頭を下げて謝っているのはシエスタだった。
(何があったんだ?)
ポロンは思わず立ち上がる。
ルイズはそんなポロンを横目に言った。
「どうせあの平民が何か粗相でもしたんでしょ?止めなさい。野次馬なんてみっともないから」
「いや、アイツがそんなヘマするわけがねえし、仮にしたところであんなに怒鳴りつけられる様なことなんて・・・」
「ちょ、待ちなさい!」
ルイズが止めるのも聞かずにポロンはシエスタの方へと向かった。
「まったく!これだから平民は」
少年はそう言い捨てると高慢な態度を振りかざしながらシエスタを見下している。
思わずポロンは声を掛けた。
「おい、これは一体どういうことだ?何があった?」
「ポ、ポロン様?」
シエスタは突然のポロンの闖入に目を見開いた。
その目には涙が浮かんでいる。
少年はポロンの顔も見ずに答えた。
「どうしたもこうしたもない。この平民の愚かな行為で2人のレディの名誉が傷付けられたんだ!」
「だから何がどうなってそんなことになったんだよ?まずはそれから聞かせろよ!」
ポロンがそう言うと、近くにいた気の弱そうな少年がこれまでの経緯を教えてくれた。
ポロンのことを教師と勘違いしたのか、その少年は終始敬語であった。
「ハァ?それは全部ひっくるめてお前が悪いんじゃねえか!」
全てを聞き終えたポロンの口から真っ先に出て来たのはその言葉だった。
ことの経緯を簡単にまとめると、シエスタが彼の落とした小瓶を拾ったことで二股がばれ、2人の少女にひっぱたかられたという。
それで、その原因をシエスタが小瓶を拾ったこととして八つ当たりしていたのであった。
「てめえは二股をかけて、バレたら責任転嫁ってそっちの方がその子たちの名誉を傷付けてるだろ?」
周りの男子もポロンの言葉に同調して「そうだ!そうだ!」と囃し立てた。
やはりそこは思春期の男子で二股をかけた少年の行動に対し、嫉妬心からかあまりいい感情を抱いていない様であった。
当の少年は顔を真っ赤にしてポロンを睨み付ける。
暫くポロンの顔を見ていた少年は、目の前の男が何者なのかを思い出すと見下す様な笑みを浮かべた。
「誰かと思えば君はゼロのルイズが呼び出した平民の使い魔じゃないか。ただの平民風情が貴族に楯突くなんて許されると思っているのかね?」
「てめーのケツをてめーで拭けねえで、挙げ句の果てに弱い奴に八つ当たりするのが立派な貴族たあ、こりゃあ初耳だね」
ポロンがそう言うと、少年は舌打ちし、憎悪に満ちた目でポロンを睨み付けた。
しかし、すぐにやれやれといった感じで肩をすくめた。
「ふう、流石はゼロのルイズの使い魔だ。主人が無能なら使い魔も愚かだということかな?」
「何だとてめえ?」
「フン、君みたいな出自も分からない平民は知らないと思うが『使い魔を見ればそのメイジが分かる』と言ってね。なるほど、確かにその通りだよ」
少年は再び見下した様な笑みを浮かべた。
今度はポロンが少年を睨み付ける。
「何だい?事実を言われたことがそんなに悔しいのかい?」
「俺のことは別にいい。だが、ルイズのことを言うのは許せねえな。大体てめーみたいなゲス野郎にルイズを詰る資格はねえよ」
「・・・言ってくれるじゃないか。今の言葉、すぐに訂正するなら許してやる。僕は寛大だからねえ」
「けっ、シエスタに当たり散らしてた奴の何処が寛大だって言うんだ?全く、親の顔が見てみたいね。
まあその親もきっとろくでも無いゲス野郎なんだろうな。『子供を見れば、その親が分かる』って言うからなあ」
ポロンが先程少年から言われたことをそのまま返してやると、少年は怒りに身を震わせている。
「こんな屈辱は初めてだ。よりによって我が両親まで愚弄するとは・・・。決闘だ!貴族の誇りをかけて貴様と決闘する!」
「ハァ?言うに事欠いて決闘?」
「ヴェストリ広場へ来たまえ!そこで待っている!!」
言うだけ言うと、少年はさっさとその場から去っていった。ポロンはぽかんとした表情でその背中を見つめていた。
ふとシエスタの顔を見ると、その顔はまるで死んだ人間を見たみたいに青ざめていた。
「ポロン様、殺されちゃう・・・。貴族を本気で怒らせたら・・・」
「シエスタ・・・?」
「ぽ、ポロン様!わ、私のことはいいんです!で、ですからあの御方に謝って下さい!そ、そうすれば命までは・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
ポロンはシエスタの脅える顔を見て、決心を固めた。
そしてシエスタの震える肩を抱きしめる。
「ぽ、ポロン様!?」
突然のことにシエスタは驚く。しかし、ポロンは意に介さずシエスタの耳元で呟いた。
「大丈夫だ。俺は死なねえ」
「ポロン様・・・」
「それに言ったろ?何か困ったことがあった時はこのポロン様が必ず助けに行ってやるってさ」
「・・・はい」
すっかり震えが治まったシエスタを確認するとポロンは体を離す。
ルイズはその様子を唖然としながら見つめていた。傍から見れば、とても間抜けな表情をしていただろう。
「ルイズ!」
ポロンの声で、ルイズはハッと気が付く。
「な、何よ?」
「ヴェストリ広場って何処だ?」
「え?アンタ本当に行くの?」
「当たり前だ」
そう言ったポロンの表情はいつになく真面目で真剣そのものであった。
284 :
ゼロの賢王:2010/12/02(木) 04:37:57 ID:kin+8PgD
という感じで5話終了です。
片付けの下りは何度も手直ししました。
結構最初に考えてたプロットから異なって来ているので、一旦練り直そうかな?
と思ってます。
次回もOCNが規制される前になるはやで投稿したいと思います。
スレ汚し申し訳ございませんでした。
>>274 乙! 一話が投下されてから毎日楽しみにしてるw
キクロプスが双月を見て驚愕しているシーンなんかは皆川絵で再生されてしまったw
ついでに召喚元作品inハルケギニア系じゃない方が好みなので、ARMS側が出ない方向ってのも嬉しい展開だ。
タルブ村ネタは好きなんだけどねw 曾爺さんの影響でシエスタがハルケギニア最高の頭脳を名乗ってたりとかw
あっ、でも後書きとかで長々と解説するんじゃなくて作品で語った方がいいですよw
そんなんで難癖つけられたって言われてもそうは見えなかったりw
つーか2ちゃんねるなんてそれこそ殺伐としてたり、難癖をつけるようなのがいっぱいいるところですからねw
ぶっちゃけ、
>>274なんて一行目だけで良かったんじゃないっすかねw
ロードスからディードリット召喚とか
……単にカウンターがないエルフか
賢王のかた、Armsのかた投下乙です。
賢王乙です!練り直しですか…楽しみに待ってます
代理スレに投下がありましたので、17:30ごろより
『Call of duty Undiscovered Country Torisutein』
(元ネタCoD:MW2 soap mactavish大尉)の
代理投下を行います。
Code black
……
……shepherd online
「――やぁ、大尉。崖から戻ってきたな」
「フライパンから、と言った方が妥当ですよ、将軍。私が極寒の地で寒さに耐えている間に、世界はずいぶん暖かくなったようですが。」
ちなみに、フライパンから〜は、フライパンから落ちて地獄に落ちる。という意味になる。
この大尉という男は、英国特殊部隊SASの元隊員で、現在ではTask force141に軍籍を置くことになった男だ。特徴といえば、迷彩のテンガロンハットに逞しい髭だろう。
「うむ、我々はイワンからACSをクラックされる前に奪還した……と、思っていた」
そして、この男のいる世界の状況は。
まさに最悪だった。
「――が、それは間違いだった。奴はアメリカを身代わりにして……、そこからは君も知っている通り、そこら中火の中だ」
file uploading --%
「君の送ってくるこの画像は何かね」
将軍といわれる男の目の前のモニターには、潜水艦の画像が写っていた。
将軍といわれる男の目の前のモニターには、潜水艦の画像が写っていた。
「火を消すには大火をおこせばいいのです。酸素がなくなれば火は消えるんですから」
「プライス大尉、極寒の地に住まい過ぎたようだな、気をしっかり持て。」
プライスといわれる男は、前回の事件でロシアのある収容所。
そう、世界からゴースト扱いされている人物や、政治犯が収容される場所。
そこに抑留されていた。
「既に我々は大火事の中に居るんです。大きな爆発が必要だ。」
「大尉、グラグに長く居すぎたんだ、プライス大尉。奴を排除する事に集中しろ。」
「時間が無いのです。この戦争は今日終わらせなければ。」
「頼んでいるのではない、Price。これは命令だ!貴...う...。」
「………?。将軍、将軍?――通信が切れた。」
Contingency
Day 5 - 11:22:35
作戦開始から1時間と30分後
上空で情報伝達と指揮をしていたソープが
作戦の終わったプライスに通信をまわした。
「……大尉、さっきからシェパード将軍と通信が取れない」
「EMPで通信機が破壊されるには速い時間だな、それに奴の回線がEMPでショートするとも思えん」
この一時間の間で起こった事は、プライス率いる141が敵の基地を強行突破し潜水艦を強奪、潜水艦に積んであった戦術核をアメリカに向けて発射したという事であった。
今、ミサイルは大気圏上を飛んで行ってる頃だろう。
「貴方には一生敵う気がしませんよ。」
「TF141に不可能は無いんだろう?ソープ、敵部隊は殲滅した、ヘリを寄越してくれ。」
「今輸送ヘリを向かわせました。にしても、シェパードがいないなら俺等次からどうすりゃいいんです」
「さぁな、しかしスタウトを飲む事が出来るくらいに暇にはなりそうだ。」
タスクフォース141はシェパードの専属部隊、そのシェパードがいなくなったら、解散もしくは他部隊に編入される可能性が高い、が、それは平時での話だ。後数分もすればアメリカ政府の機能は一時的に麻痺する、保留になったら、いったいどうなるのか。
「どうでしょうかね、羊飼いからヤンキーに指揮権がうつって、余計働かされるかも――ん、どうした?……あー、ロッキードめ、プライス。」
「どうした?」
「エンジントラブルです、このでかぶつを降ろせる場所に着陸させます。」
「応援が要りそうだな。」
「敵の警戒地域には下ろさないから大丈夫でしょうが、迎えを頼みます。
今日は重い装備を抱え込まなくていいと思っていたんですがね」
「すぐ向かう、プライスアウト。」
ソープは、無線が切れた事を確認するとアーマーベストを身に付ける、次にチェストリグに弾倉を入れ、最後に武器の動作を確認する、M14EBRのレバーを引き、トリガーを押す、すると、ハンマーが可動した音がした。
それを聞くと、次に弾倉を装填してバックパックに装備した、M9にも弾倉を装填して太腿のポーチに装備する。
「そういや、あん時は無数の敵に包囲されてたな。」
あん時、とは先の大規模作戦の時、敵の首領格であったアルアサドと呼ばれる男を射殺した翌日の日の事である。その男の軍隊が、ソープ達のいたSASを包囲し、殲滅しようとしていたのである。が、奇跡的にも味方のヘリに乗り込む事ができ命からがら逃げる事が出来た訳である。
「パイロット、首尾はどうだ。」
「SAMが無ければ問題なく降りる事が出来ますよ、ただの雪原に着陸するので、その可能性も無いでしょうが。」
「着陸したのを見られたら敵が来るぞ」
「一応味方制圧地域付近に下ろしますが、もし見られたら、こいつの出番ですよ。」
パイロットは座席の横にあるMP5Kを片手で軽く二度叩いた。
一応この輸送機は小銃弾は貫通しない、一時鎬になるとはいえ、敵がRPGを持ってくればいとも簡単に破壊されてしまう。
そして、周りは雪原この輸送機から出れば隠れる場所は無い。
確かに問題だろう、タスクフォース以外では。
ソープは何時でも着陸出来るように、貨物ブロックにある座席に座ってシートベルトを締めようとした。しかし次の瞬間、目の前がいきなり眩い光で包まれた
そして、光が収まるとそこには鏡が置いてあった。
突然の出来事に周りを見渡す、他に異変は無い。
座席からもう一度立ちあがって、裏側を見てみる。
鏡の裏側になっているだけ、どこも危険そうな所は無い。
もう一度目の前に立って、装飾を触れる、まったく問題は無い。
ソープが正面に鏡を凝視しながらパイロットに通信しようとした時、輸送機が大きく揺れた。
「糞!燃料が足りないせいで操縦桿が少し重くなってやがる。」
「……、マクタヴィッシュ大尉!予定より早く着陸します……大尉?」
Unknown world
Day 5 - q@:4a:t/
「……誰よ、このオッサン。」
場所は草原、規律よく整列された子供達が並んでいる。
その列から少し前に出て、ピンク色の髪の子が杖を持って立っていた
「あー……、成功だ。」
その列から斜め前の位置に立っていた、頭の禿げている大人は。
そう告げると、目の前の羊皮紙にペンを走らせる。
整列された子供達にはちらほら笑っている者もいた。
「先生!やり直しをしたいのですが!」
桃色の髪の子は、杖を持っていないほうの腕を挙げ、先生と言われる男に要求をする。
「ルイズ君、今このトリステインは危機に瀕しているのだ、それにサモンは成功している、やり直しは出来ない。」
「そんな……。」
彼女は、手に持っていた杖を落とした
「さ、君は時間をかなり使っている、すぐに儀式を済ませなさい。」
こんな馬鹿な……、そう思いながらルイズと言われる娘は。
倒れている男に近寄った。
すでに気がついていたが倒れているソープは動けずにいた、何が起こったのかが分からない、状況の把握が出来ない。
無闇に動いても無駄と、本能がそう告げていた。
寝ながら脳を高回転させ、状況把握に全力を注いだ。
桃色の髪の女は、ソープの隣に膝を付けると、突然ソープにキスをした。
「こんなオッサンに……」
桃色の髪の女は、肩をがくりと落として、項垂れた。
ソープは体の中から来る熱に動じず、結論を出した。
「輸送機の中で頭をぶつけたんだな、直にパイロットが起こしに来るだろう。」
禿げている男は、手際よく、ソープの右手に刻まれたルーンを写すと、すぐに立ち上がり桃色の髪の女の前に行った。
「では君は今日から学院から仮卒業とし、明日からニ週間までの間、トリステイン第三尉官候補として、空海軍兵学校にて勉学に励み、王国の為に勤める事。」
列の中から、小言戯言が聞こえてくる。
第三って、一番後方のお手伝いさんみたいなもんだろ……。
さすが、お家が違うからなあ。
たんに能力が無いからだろう。
その言は桃色の髪の子の耳に入るには十分の声量であった
肩を震わせ、悔しさに震えてながら先生の前に立った。
「その任を拝命いたします。」
「よし、次。」
使い魔の襟首を掴み引っ張ろうとしたのだが、いかんせん重く、動かない。
「くっ、立ちなさい、何でこんなのを召喚してしまったの私は!」
「……。」
ソープは喋らない、目の前の女の素性が分からないのである。
「使えないわね!あぁもう!せめて使い魔さえよければ、前線勤めになれたのに!情けない、あの憎いゲルマニアの好色ボケに鉄槌を下したかったのに!
ドットの優秀生なら四週間の訓練で前線に、ラインの優秀生なら最低二週間!トライアングルクラスなら、即前線に回されるってのに!」
「まったく、あんた何者?その格好は何?屈強さを見たら軍人みたいね!いいとこ、ガリアの傭兵?」
「名乗るならまず自分から、というのはこの国での常識ではないのか」
ソープがようやく喋った、とりあえず黙っていても事は進展しないと分かったからだ。
「傭兵の癖に語るわね、いいわ。使い魔なんだし名乗ったって損はしない
でも全部の名前は言わない、私の名前はルイズ。トリステイン王国の誇り高きヴァリエール家の三女よ、さ。あなたの名前は?」
「トリステイン……、ここは何処の大陸だ?」
「ハルケギニアよ、貴方本当に何処の国の出身?というか名前は?」
急かしい娘だとM9とM14を拾いながら思った。
軽く装備点検をして立ち上がる
「名前か……マック、ある国の軍人をやってる、以上。」
「マックねぇ、本当何処の国の軍人よ、そんなの見た事無いわ。」
ルイズはソープの肩に掛かっている銃を指差して、言葉を続けた。
「ちなみにね、この国は今存亡の危機が近づいているの。
なんと、隣の好色大国ゲルマニアが攻め込んできたの。」
「つまり、戦争中か。」
夢の中でも戦争の話を見るとは、相当疲れているのかと。
自身でも休暇の必要性を感じたが、今寝てる事が休暇でないかと考えると、考える気も無くなった。
「そう、戦争中。しかも休戦にも応じない、だから我が誇り高き王国は徹底抗戦を決意、相手が疲弊した所を反撃という作戦を講じているのよ。お父様は国力の差から無理だって言ってたけど、トリステインがまけるはずが無いわ。」
「愛国心は様々だ、高貴な献身から、道徳的狂気まで。こんな名言があったな」
何処で聞いたのかは忘れたが、勝手に脳裏に浮かんだのだ。
「すまない、この世界の情勢を細かく教えてくれ、そして、あの子達がああやってみた事もない生物を何処から出してるのかとか、分からない事がありすぎる。」
「貴方、本当に何処から来たのよ……、いいわ、部屋の整理なんかもあるから一度寮で全部話すわ。」
寮に着く間に、これが夢ではない事に気づいたのは言うまでも無かった。
投下終了です
---- ここまで ----
以上、代理投下でした。
>>284 私もOCNですが、田舎なためか規制喰らったのって、以前のバカみたいな
無能が無能をさらした無差別規制の時だけですね。
規制されても代理投下に投下されたら誰かがこっちに転載するので
遠慮なく投下して下さい。
とりあえず代理乙
実は俺もそれの代理投下しようか迷ったんだけどさ
もしかすると、こっちに投下する気は無かったんじゃないかな
141ってのがよく分からないけど、CERO云々を言ってるし、こっち(代理兼練習スレもしくは避難所)に投下しますって言ってるしさ
避難所用SS投下スレにしなかったのは、間違えたか知らなかったか練習だったかでさ
68 :Call of duty Undiscovered Country Torisutein:2010/12/01(水) 19:39:11 ID:U/kMZUlM
新作投下します、一応元がCERO:Zで規制かかってて141向きじゃないと思ったので、こっちに投下します。
元ネタCoD:MW2 soap mactavish大尉
避難所で投下確認したってレスが来てるけど、代理しちゃって良かったってことなのかな?
誤解ってのがどれを指すのかよく分からんわ
>翻訳ミスしました、CeroZでも内容18じゃないんで本文投下の方でお願いします。
この辺のくだりじゃねぇの?
本スレ投下でお願いしますって言いたかったんだろう、多分
げっ、俺が本文に書いてある訂正を見逃しただけじゃん
代理さん、作者さん、申し訳ありません
303 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/02(木) 18:53:52 ID:Zb2PhFn4 BE:451481524-2BP(1527)
ついにCoDとのクロスが来たか
おっと
CoDならステンバーイ・・・ステンバーイと只を小ネタで召喚ぐらいしか思いつかなかった
召喚したら目の前にクレイモアとか嫌すぎる
ルイズ「何これ?」
カチッ
ズドーン
皆さん投下乙っす。
クレイモア……でネタないから別の話題。
禁書クロスが多くなってきたけれど、ほんとのレベル0ってすくねえなっと思う。
どうせなら、佐天さんとか、シスコン軍曹とか、ってわがままだな俺!
なんだろう。無才能者がすくねえよねクロス系だと。
>307
軍曹と言えば、『メックウォーリアRPGシナリオ集 奪われたシャドウホーク』を代表するNPC、“グンソウ”の出番かな?
投下乙です。 生乾きの服を着ているような気分になれるのかな?
>>307 無才能者だとサイトとの差別化が難しい。
フリオニールの第7話を10分後に投稿いたします。
前回、オールド・オスマンをミスタ・オスマンと間違えて打ってしまいました。
すんません。
オスマン院長との話し合いから数日が経過した。
フリオニールは学院内で孤高の存在となっていた。
コルベールの尽力によって、自身が非人間である疑いは晴れたものの、豪腕な魔法使い
であるという認識までは覆せなかった。
学院内でフリオニールに気さくに話しかけることができるものは「ご主人様」以外に
キュルケ、ギーシュ、事情を知っているオスマンとコルベール、使用人達のみであった。
それと引き換えに、ルイズに対するからかいがごく一部の間で復活してきていた。
特に『風上』のマリコヌルという太っちょカウボーイばりの立派な(?)腹をした少年の
口撃は執拗だった。
「強力な使い魔を引き連れている割には魔法の方は相変わらずだね、ミス・ヴァリエール」
「うるさいわね!風邪っぴきのマリコヌル!」
「俺は『風上』のマリコヌルだ!」
フリオニールはまた始まった、とうんざりしながら
「君、うちの「ご主人様」に気があるんだね。わかるよ、可愛いもんね」
「な、何を言っているのかね、君は。東方の人間の思考回路はよくわからない。難しいものだな、ははは!」
と言って黙らせた。マリコヌルもフリオニールの実力は知っているのでそれ以上の挑発はしない。
すると、すかさずルイズから
「平民が貴族の世界に口出ししないでちょうだい!」
とお叱りの言葉が返ってきた。
確かにフリオニールの出自は平民だ。しかし、己の住む世界での王族や貴族の体たらくを
嫌というほど見てきた(ヒルダ王女やスコット王子のような人格者は少数派だ)。
帝国との戦争が開始すると、あれよあれよという間に城を追われ、挙句にボーゲン伯爵の裏切り。
そして、自分の家(城)の案内もできないというアホ王子の世話役(潜在能力の高さは
さすが王族だけあるというのはフリオニールも認めるところであったが、やはり貧弱貧弱ゥと
思わざるを得ない)をするにつれ、ああ、この戦争は敗れるべくして敗れたのだなと痛感した。
(この国も戦争に巻き込まれたらフィンやカシュオーンの様になってしまうのだろうか)
とトリステインの行く末を案じるフリオニールにルイズはボソっと
「ああ、わたしもあんたの世界に生まれればよかったわ。お金を出せば魔法が使えるんだもの」
「ルイズさん。自分の故郷を焼かれたいですか?平和が一番ですよ」
ルイズはフリオニールから生い立ちを聞いてはいた。孤児、義理の両親との死別、
行方不明の幼馴染、そして帝国軍の跳梁跋扈。
歳が大して違わないのに自身と正反対の過酷な生を歩む一人の青年。果たして自身が
その環境に置かれたらフリオニールのように目が濁ることなく明るく振舞えるだろうか。
その世界に身を置きたい、なんて口に出してはいけないことであるとルイズは重々承知であるが、
自身の置かれている環境と魔法の才能の無さを鑑みるとつい愚痴が出てしまった。
(自分の使い魔、しかも平民に愚痴をこぼすなんてヴァリエール家の名折れだわ。しっかりしないと!)
ルイズは心を奮い立たせ勉学に勤しむのであった。
そんなことがあった日の午後
フリオニールは朝に洗濯したルイズの服(と自分の服。乾いたらシエスタに決闘で破れた
箇所を補修してもらうことになっている。今着ている服はコルベールから借りたもの)を
取り込みに向かうところであった。
廊下を歩いていると、キュルケの使い魔であるサラマンダーがフリオニールの前に立ちはだかった。
「やぁ」
「きゅるきゅる」
フリオニールの住む世界にもサラマンダーは生息しているが、フィン城奪還時の
フリオニールにはその知識は無い。本能的に刺激しない方が良いと判断し笑顔を送ると、
サラマンダーはフリオニールの袖を噛んで引っ張った。
(?どこかへ連れて行こうとしているのか?)
サラマンダーに促されついて行くとそこはキュルケの部屋の前だった。ドアは開いている
「入れ、ってこと?」
「きゅるきゅる」
「わかった・・・失礼します」
フリオニールは一声かけて部屋の中に入った。中は真っ暗だ。
「いらっしゃい」
挨拶と共にベッドサイドランプが点いた。ベッドの上にはベビードール姿のキュルケが横たわっている。
「・・・やぁ。何のようだい?」
フリオニールはキュルケの姿態を見て彼女に飛びつきそうになるのを必死に理性で抑えた。
キュルケとは関わらないようにルイズから口を酸っぱくして言われている。またメシ抜きに
されるのは嫌なので要件をさっさと済ませようと思った。残念だが今は色気より食い気だ。
「フリオニール。貴方に話があるの」
(またか!)
「何かな?」
「どうしたの?傍に来て」
「・・・」
「早く来て。じらさないで」
「もう騙されないぞ!」
「???うふふ。貴方、ひょっとしてチェリーボ」
「さぁ!用がないなら失礼しよっかな!」
受け入れたくない現実を指摘されそうになったのでフリオニールは大声で遮った。
すると、キュルケはきょとんとした表情をすると、クスクスと笑い出した。
「ごめんなさい。純情なのね、貴方って。でも、戦っている時とのギャップが堪らないわ。
ああ、私の『微熱』が今にも燃え上がりそう」
「俺も正直に好意を持ってもらってうれしいよ。ラミアクイーンじゃないみたいだし。
けど、とても残念だけどダメなんだ」
「あら?どうして?」
「う〜ん・・・色々あるんだけど」
「ミス・ヴァリエールのこと?」
「それもあるし・・・」
「他には?」
「まぁ、それは内緒」
「秘密にされるのだけはイヤ」
キュルケは悲しそうな顔を作りベッドから起き上がると、フリオニールに接近し指先で
フリオニールの胸元を円を描くように撫でた。例によって「ゴクッ」をするフリオニール。
「私は決闘より前から貴方が只者じゃないってわかってたわ。これはきっと運命よ」
「・・・運命か。俺の運命は一体どうなっているんだろう」
鼻息を荒くし、1回くらいいいじゃないか!誰にもばれやしないさ、きっと!と思いかけていた
フリオニールであったが、キュルケの運命の一言に反乱軍のメンバーを思い出し我にかえる。
そして、膝をつきキュルケの手の甲を取って軽く唇をあてたかと思うと、きびすを返して部屋を出た。
「もう・・・いくじなし」
キュルケの『微熱』は『情熱』へと変化していくのであった。
一方、キュルケの部屋から出たフリオニールは偶然にもルイズと鉢合わせてしまった。
ルイズとキュルケの部屋は隣同士。よく考えればこのようなシチュエーションになることは
想定できるのだが若さゆえの過ちか。
ルイズは能面のような表情でフリオニールの前にやってくると、無言で腕を掴み自室へと
引き入れた。
そして、能面は一気に般若へと変貌し
「あんた・・・ツェルプストーの部屋で何をしてたの?」
「なにもしてないです!」
「う、ううう嘘をおっしゃい!こ、ここここの変態バター犬!」
(やばいぞこれは!ヒルダ王女がアホ王子・・・じゃなかったゴードンを叱った時なんて
目じゃないくらいに怒っている!)
身の危険を感じたフリオニールは懸命に誤解を解こうと試みる。
「だから誤解ですって!俺が何者か聞いてきただけなんです!」
「よ、よよよよくも、そ、そそそそんな下手な言い訳を言えたものだわ!」
いきり立ったルイズは机から鞭を取り出すと、
「そこに這いつくばりなさい!わたしがあんたの腐った性根を叩き直してあげるわ!」
「俺にはそんな趣味はないですよ!」
「この期に及んでまだそんなことを!しかも、よ、よりにもよってツェルプストーの女と!
こ、この性病コレクター!」
(厄日だ。チェリー扱いされたり性病持ち扱いされたり)
フリオニールは無我の境地に達するも振り下ろされる鞭を避けつつルイズの説得を続け、
数時間かけてやっと怒りを抑えることには成功したが3日間の食事抜きを宣告された。
(ああ、こうなるんだったらキュルケとこんなこととかあんなことをしておけば・・・)
後悔するフリオニールであった。
フリオニールの第7話は以上です。
失礼しました。
フリオニールの人乙!
自分のペースでやっちゃってくらはいー
>>308 ストォォォップ!! このハッター軍曹を忘れてもらっては困るッ!! ぞッ!!!
まあ人間サイズにリバースコンバートできるかが問題だが
軍曹といえばハートマン軍曹だ!
わかったか、ウジ虫ども!
投下乙です。
スペックはどのくらいですかね
>>317 ハッターは中の人がちゃんといるぞ。
まあ、重傷を負った為に機体と一体化したサイボーグと化しているという説もあるけどな。
>>320 フェイ・イェンなら人間サイズへのリバースコンバートもお茶の子サイサイ!
…駄目だ、二人の発する高周波で周囲の鼓膜が破れるw
>317
あ、あの人軍曹やってん?もうちょい上だと思ってたわ。
まあ、軍曹物の原点はハインラインの『宇宙の戦士』のズィム軍曹だな。最後には大尉になったけど。
後、相※軍曹やケ□□軍曹もか。
音響系の技で呪文の発動を妨害するようなキャラって、どんなのが居るかな。
軍曹なら名前にちなんでゼロ軍曹はいかがでしょう。
>>323 ギャオス・・・は音響だけじゃなく物理的にも危険だな
タバサが平成ギャオス召喚する奴はあったが序盤で止まったっきりなんだよなあ
アノシラス…………
響鬼系は…
前線で戦ってる人たちは無茶苦茶な鍛え方をしてる人たちだけど
>>323 俺の歌を聞け!
小ネタにあったけどなw
チェリーの使い魔ってFF2だったのか
うる星の錯乱坊を召喚した話だとばかり
>>333 そういえばアニメ版だが、あたるに襲い掛かる面倒家の数百のツワモノ達を
爆発一回で(本人も)吹っ飛ばした事を思い出したw
これなら7万戦もなんとかなるかも
パワードスーツ眼鏡思い出したじゃないか。
失礼します、もしよろしければ55分から投下を開始します。
プロテクトギアもどきですね、わかります
水の心で支援
「うう……ん」
妙な寝苦しさに、意識が覚醒しはじめた。
やたらと背中が痛む。ベッドが、変に硬い。まるで床の上にでも寝ているようだ。
ごろり寝返りを打つと、なにかにぶつかった。
表面は柔らかいが、奥にちょっとした固さと質量感がある。なんだこれは?
うっすらと目を開ける。大きな何かが目の前にあった。
なんだろうか、頭の方にピンク色の毛があって、その下に肌が覗き、白いのはTシャツ……。
「……うおおっ!?」
クリフは驚いて飛び起きた。隣で、ヴォルフが眠っていた。
なんでこいつはこんなところで寝ている。ここは僕のベッドでは?
ふと、ベッドについた手に冷たさと硬質感を感じた。下を見ると、ベッドではなく床の上に眠っていたことに気づいた。
ああ、そうか。そうだった。
僕は、僕達は昨日……見知らぬ異世界へと、飛ばされたんだった。
異世界……。
頭の中で、その単語がぐるぐると渦巻く。悪夢ではなかった。
目覚めて早々に気分が大きく落ち込む。右手で顔を覆い、嘆息した。なんてことだ……。
横で口を開けて眠るヴォルフは、クリフが飛び起きた衝撃にも意を介さずに寝息を立てていた。
クリフは寝不足のしぱしぱとする目を擦りつつ、室内を眺めた。柔らかそうなベッドの上で、桃色の髪をした少女―――ルイズが、
あどけない顔で静かに眠っていた。ちょっとだけ羨ましい。しかし、その寝顔がずいぶんと綺麗だった。ヴォルフのごつい寝顔を見
た後だと、余計にそう感じる。
部屋の隅で、うずくまるようにして寝ていたキクロプスの姿は見えなかった。どこかに出かけたのだろうか、そういえば彼は朝が
早い。大方、腹ごなしのトレーニングにでも行ったのだろう。
クリフはゆっくりと立ち上がった。ひどい倦怠感が身を包む。睡眠不足に加えて、慣れていない一晩の床での雑魚寝は、意外に体
へダメージを与えていた。
大きく伸びをすると、ゴキゴキと背中の骨が鳴る。窓の外を眺めた。朝の光は少し柔らかで、清清しいほどに晴れ渡っていた。窓
に寄り、鍵を外して開けると、気持ちのいい爽快な空気が室内に吹き込んできた。
朝の輝きに、クリフは少しだけ気分が良くなった。とにかく、あれこれと一人で考えてもしかたがない。ルイズから、また話を聞
かなければ。
チラリとルイズの寝顔を見る。
そうだ、そういえばルイズは自分が僕達を呼び出した、などと言っていた。呼び出したというのが召喚というのを指すのならば、
当然戻すこともできるのではないだろうか。そうだ、何故僕はこんな単純なことに気がつかなかったんだ。後で聞いてみよう。
とりあえず、まだ気楽に寝ているヴォルフに近づいた。すごい勢いでよく寝ている。その暢気な寝顔が少々勘に触る。よくもまあ、
こんなに安眠できるものだ。
その肩を揺らして起こすことにした。
「……んが」
間抜けな声を出して、ヴォルフが目を覚ました。
「ずいぶんとよく眠っていたな」
ついでにチクリと嫌味を言っておく。
「……あら、クリフ。おはよー。……んんー、良い朝ねー。ふあ〜あ」
ヴォルフが伸びをしながら起き上がってくる。自分とは比べ物にならないほど大きな音を体中から出して、巨大なあくびをした。
嫌味にすら気づいていないようだ。
「……あら? ここってどこかしら」
ヴォルフは少し寝惚けた声で辺りを見回した。そのうち、ポンと手を打つ。
「ああそうそう、異世界異世界。……ってなによそれ」
いや、知らないよ。
「あー、夢じゃなかったのねぇ。ちょっとビックリしたわ」
「……僕もさ」
「ま、しょうがないわね。さぁーてとっ」
軽やかにヴォルフは起き上がると、窓の外の朝日を眺める。
「ワーオ、気持ちのいい朝ねー。とっても空気がおいしいわ。絶好の洗濯日和ね」
本当に気楽な奴だなぁ、とクリフは思う。その気楽さには何度も助けられたこともあるのだが、時々悲愴感とは無縁にも思えてし
まう。
ヴォルフが振り向き、視線をさっきまで寝ていた場所に向けた。その先に、ルイズに昨日渡されていた白いパンツが落ちていた。
「こ〜の小娘のパンツも洗わなきゃね。んじゃ、ちゃっちゃと行きましょう」
そう言うと、ルイズのベッドへと向かう。
「起きなさーい。朝よー」
「……んー……」
「ほらほら、寝てないで。授業があるとか言ってたでしょ」
「……ん……むにゃ……」
ぐっすりと眠ったルイズは、ちょっとやそっとの声では目を覚まさなかった。
「あーもうめんどくさいわねー。ほら、起きる!」
がばっとルイズの毛布をめくると、朝の冷気にルイズが驚いて飛び起きた。
「きゃっ! なになに、なにごと?」
「朝よお嬢ちゃん。今日はよく晴れてるわよー」
「はへ? そ、そうなの……。ってだ、だれよあんた!?」
寝起きの頭に巨躯の大男を見たルイズが慌てた。確かに、朝一番でこれを見たら誰でも少しは驚く。
「使い魔ちゃんのミス・ヴォルフよ? 忘れたかしら」
「え、ああ、つかいま。使い魔ね。そうだわ、昨日召喚したんだっけ」
ふあーあ、と可愛らしいあくびをあげる。ヴォルフのでかいあくびとは大違いだった。はたと、ルイズは何かに気づいてぼんやり
と周囲を見回す。まだ眠いのか、目頭を擦った。
「……あれー? ひとりー……すくないわね……?」
「あら、そう言えばそうね。クリフ、キクロプス知ってる?」
今頃気づいたかのように、ヴォルフが振り向く。
「さあ? いつもの朝のトレーニングじゃないか?」
クリフの言葉に、ルイズはぷくー、と頬を膨らませた。
「んもー。かってに出歩いちゃダメなのにー。ごしゅじんさまをおこしもせずにー……」
うつらうつらと文句を呟きながら、のそのそとネグリジェを脱ぎ始めるルイズ。
「あーちょっとちょっと。はいはいストップ。ちょっと待ちなさい」
ヴォルフはルイズを手で押し止めると、クリフに向かって命じた。
「はい、野郎は出る! お嬢様のお着替えタイムよ。さっさと出た出た!」
そうして一も二もなく、クリフは上着とネクタイを手に廊下に追い出された。
部屋から追い出されたクリフが扉の前で何をするでもなく立っていると、曲がり角からキクロプスが現れた。
上着を手に持ちピッタリとしたアンダーシャツといういでたちで、白いタオルで汗を拭いている。
「…………どうしたクリフ、そんなところで」
「……追い出された」
「…………? ……ああ、嬢ちゃんが着替えでもしてるのか」
「うん、それだ……あれ、お前そのタオルはどうした?」
「…………メイドに貰った」
「メイド?」
「…………学園付き、とかなんとか……」
「へえ」
貴族だとかなんだとかと聞いたが、使用人もちゃんといるのか。本格的だなぁ。
クリフの後ろでは、閉じた扉からルイズとヴォルフの騒がしい声が聞こえてくる。また何か言い合いでもしてるらしい。
「…………立ち往生だな」
「着替えが終わるまでは入れないな……そのうち出てくるだろ。それより、顔が洗いたいな」
「…………水道はないぞ」
「……嘘だろ?」
「…………本当だ。……井戸から汲まなければ水はない」
「参ったな」
異世界かぁ……。水道がないだなんて。ってことは……トイレも汲み取り式だったらやだな……。
その時、廊下に並ぶ木で出来たドアの一つが開いた。中から、赤い髪の褐色の少女が現れる。
「ん?」
ルイズが昨日着ていた制服と同じだが、はるかに背が高くクリフと大して身長が変わらない。色気のある香水が鼻腔をくすぐった。
出るところが出て、ずいぶんと発育のいい娘だ。
「……あら? あなたたち、確か……」
こちらに気づいて珍しいものを見るような目で眺める。
「昨日ルイズが召喚してた、平民じゃない? どうしたのよ、廊下で」
「ああ、はじめまして、かな?」
クリフが挨拶すると、軽く手をあげて気安く振り返した。
「違うわよ? 昨日はアタシもそこにいたわよ?」
「そうか、それは失礼。僕はクリフ・ギルバート。こっちは……」
「…………キクロプスだ」
「あら、礼儀正しいわね。あたしはキュルケ。微熱のキュルケよ。よろしくね?」
「ああ、よろしく。……僕達はちょっと、追い出されちゃって」
「どうして?」
「それは……ぐわっ!?」
キュルケの疑問に答えようとした時、クリフの背後で扉の開く音がし、後頭部に硬いものがぶつかった。目から火花が散る。
「あ、ごめんなさい。大丈夫?」
声に振り向くと、ルイズがドアノブを握って戸口に立っていた。着替えが終わったのか、ドアの前にクリフが立っていたことに気
づかなかったらしい。クリフはわりと強かにぶつけた頭をさすった。いたた・・。
ちょこちょこと歩いてルイズが外に出ると、続いてヴォルフがぬっ、と多少窮屈そうに扉をくぐる。
「そんなとこにボケーッっと突っ立ってたら危ないわよクリフ? あ、キクロプスも帰ってきたのね。ちょうど良かった、これから
朝ご飯らしいわよ。……あら、どなたかしら?」
突如隣人の部屋から抜け出てきたヴォルフの威容に、キュルケは少し驚いた眼差しを向けた。身長というよりも、大量についた筋
肉でヴォルフは横にも大きい。それが見る者に圧力を与える。
それでもキュルケはニコッと笑いかけてひらひらと手を振った。
それから視線を下に落としルイズを見ると、少し質の違ったニヤッとした笑みを浮かべる。
「おはよう。ルイズ」
ルイズは嫌そうに顔をしかめると、平坦な声で挨拶を返した。
「おはよう。キュルケ」
「これがあなたの使い魔?」
「そうよ」
「あっはっは! すごいじゃない、本当に人間なのね! こんなにいっぱい呼んでどうするの?」
「うるさいわね」
「あたしも昨日使い魔を召喚したのよ。どこかのゼロさんと違って、一発でね。フレイム〜」
ドアが開け放されたままのキュルケの部屋から、赤い何かが現れた。
「わっなにこれ!? お、大きいわね」
ヴォルフが驚いた声を上げた。
「おっほっほ! あなたサラマンダーをみるのははじめて?」
「そりゃそうよ。だいじょぶなの、首輪もしないで?」
「あたしが命令しなきゃ動かないわ。あなた体大きいのに臆病ね」
「本当にだいじょぶなのー?」
サラマンダーは最大サイズの大型犬よりも二周り以上の大きさがあった。舌先からチロチロと火を出しながら、スッとキクロプス
に近づいてきた。
「…………む? ……なぜ俺に近づく? ……いかん、火が……」
「あら? どうしたのかしら、はじめて見た人にフレイムが懐くなんて……」
「ちょっとー、勝手に動いてるじゃなーい。やめてよーアタシトカゲとかヘビはダメなのよー」
体を摺り寄せるフレイムにキクロプスが慌てるが、服に引火はしない。
「…………うん? ……この火は……」
「ああ、大丈夫よ。この子の火は点けようと思わなければ点かないわ」
「…………便利だな」
「でしょう?」
「……そんなの大したことないわ」
そっぽを向きながらけちをつけたのはルイズだ。
「あーらルイズ。そんなに羨ましいの? そうよねーこんな立派な火トカゲだものねー。ほら、この尻尾なんかすごいでしょ。これ
は火竜山脈のサラマンダーよー。この尻尾を好事家に見せたら、値段なんかつかないぐらいよー」
「……あっそ」
「ふっふーん。素直に嫉妬してもいいのよ? それじゃお先に失礼するわ。おいでフレイムー」
そう言うと、颯爽とキュルケは立ち去っていった。その後を、少し名残惜しそうにフレイムがぺたぺたとついていく。
「…………動物にはわりと好かれる性質だがな……」
ぼそりと呟くキクロプス。
うーん、火か……発火……パイロキネシス……。
あの大きな火トカゲは何か見抜いたのだろうか……などとクリフが考えている脇で、ルイズが真っ赤な顔で地団太を踏みはじめた。
「う〜、悔しい〜! なによ、いい気になっちゃって! あの女!!」
「まあまあ、そんな怒んないの。しょうがないでしょ」
ヴォルフが宥めるが、お構いなしにルイズは興奮する。
「しょうがなくないわよ! いい? 『メイジの実力を計るには、使い魔を見ろ』って言われてるくらいなのよ! なんでわたしが
あんた達なのよ!」
「知らないわよそんなの。あんたのせいでしょ?」
「それこそ知らないわよ! ちょっと間違っただけよ!」
「どっちよ」
「知らないわよ!」
「それはどういう意味の知らないなの? どうしてアタシ達が呼ばれたのか、それとも自分が今言い間違えたから?」
「あーもう知らない知らないー!」
ばたばたと腕を振り、ぷんすかしながらルイズは歩いていってしまった。
「あはは、ホントにからかい甲斐のある子ねぇ」
あ、ヴォルフ。こいつ楽しみはじめてるな?
「……ほどほどにしとけよ」
クリフは一応釘を刺しておく。ルイズが本当に機嫌を損ねたら、落ち着かせるのはおそらく自分にお鉢が回る。
「はいはい。だいじょぶよ」
「お前の大丈夫は信用できないからな……」
「あら、心外ね」
はぁ……。よく言えたもんだよ、元の世界でもどれだけサイボーグ部隊の連中とのトラブルを引っぱってきた前科があると思って
るんだ。自覚なしはいつもだけど……。
「…………いいのか?」
ぼそ、とキクロプスが言葉を挟んだ。
「なにがだ?」
「…………俺達は食堂の場所を知らない。……置いていかれたら、朝食を食い損なうぞ?」
三人は慌ててルイズの後を追った。
食堂は学園で一番背の高い中央の本塔、その中にあった。
「この『アルヴィーズの食堂』は、メイジであると同時に貴族でもある生徒のために作られたのよ。あんた達平民なんか本当は入れ
ないんだから、感謝しなさいよ」
ルイズの説明を聞きながら、クリフは周囲を見回した。
ふんだんに用いられた大理石や見事な壁の彫刻、高級な拵えの長い机が三つ並んでいる。使っているテーブルクロスから燭台に至
るまで、えらく豪奢な食卓だ。なるほど、貴族か。
テーブルの上には大きな七面鳥のロースト、金粉の浮いたスープや鱒のパイ、マッシュサラダや香ばしい香りのパン、上等そうな
ワインなどが所狭しと並べられている。
「うっひょー、こりゃ豪華だわ。おいしそうねー。うーんいい香りー」
早速、席につこうとするヴォルフ。それを、ルイズが裾を引っ張って止めた。
「? なによ」
「ご主人様より先に座らない。先にやることあるでしょ」
「ないわよ?」
「ある!! なに勝手に決めてるのよ、もう! ほら、椅子を引いてちょうだい、勝手なことしないの」
「……んもぅ、手がかかるわねー」
ヴォルフは渋々としながらも、ルイズの前の椅子を引く。腕を組んだまま、ルイズが腰掛けた。
「さて、それじゃ……」
自分も座ろうと、隣の椅子を引こうとしたヴォルフの手を、またもルイズが押さえた。
「ダメよ。勝手に座らないって言ってるでしょ」
「今度はなによ?」
「あんたはこっち」
ちょい、と下を指差すルイズ。そこには、平たい皿が三枚置いてあった。それぞれ、スープと固そうなパンが少量だけ載っている。
「なにこれ? ワンちゃんでもいるの?」
「そんなわけないでしょ。ここは貴族の食堂よ。だから、あんたは床よ」
……。……えっ?
「……はぁ? ……なんですって?」
「本当は貴族しか入れないのよここは。使い魔だってダメなんだけど、わたしの特別な計らいで床。ありがたく思いなさい」
「……ああん!? アタシ達犬と同じ扱いだってーの?」
ピキッと額に血管を浮き出すヴォルフ。
「犬より少しは上よ。食堂には入れないんだし」
「……ケンカ売ってんのかしらこの小娘」
「口を弁えない使い魔にはちょうどいいわ」
そこでルイズはくるりとクリフに顔を向ける。
「あなたはまだマシだから、椅子を使っていいわ。ただし、向こうの厨房から借りてらっしゃい。背もたれのないやつよ。でも、食
べるものは一緒。差別しちゃダメだからね」
……。これを、食えと。……。こういうのは……子供のすることとはいえ、ちょっと。
「……アッホくさ。大人をなめてるのかしら」
「なに、文句あるの?」
「あるに決まってるでしょ。やってられないわ」
ヴォルフはひょい、と勝手にテーブルの上の鱒のパイに手を出し、口に運んだ。
「あっ! こら、ちょっと!」
「あらおいしい。お、このワイン良さそうね。さ、みんな行きましょ」
大きな手でいくつかのパンを鷲づかみ、脇にワインを挟むとスタスタと歩いていってしまう。ついでに、右手には先ほど食べたパ
イが載った大皿を持っていた。流れるような動きはさすがだ。やるなあ。
「ああー! こらー!! 待ちなさーい!!」
「…………俺もいらん」
呟き、キクロプスもヴォルフの後について行ってしまう。
「あ! 勝手な真似はしないでってば! ちょっと、待ちなさいよ! こら!」
怒声を張り上げるルイズを、意にも介さない。
「無視するなー!! 言うこと聞きなさーい!! 何よ勝手にー!!」
「ええと……」
うーん、参ったな。こんな仕打ちを受けるとは。昨日からあまり機嫌は良くなかったみたいだけど、そんなに怒らせることをした
かな……。
クリフはコホン、と一つ咳をつくと、
「……悪いけど、僕も遠慮するよ。これはさすがに、ね」
そう言って、出て行った二人を追った。
「えっ? あっ、ちょ、ちょっと待って! ねえ!」
ルイズの声が背中に浴びせられたが、構わずに外へ向かった。
食堂を出た三人は、中庭の芝生に座ってかっぱらってきた朝食を摂っていた。
「あ〜もう! ムカつくクソガキね! コケにするにも程があるわ!」
憤慨しながら鱒のパイを咀嚼するヴォルフ。気分はともかく、味は気に入ったらしい。すでに半分以上一人で食べてしまっている。
「うーん。どうしたのかな……ヴォルフ、何か癪に障ることでも言ったのか?」
寝床はまだしも、ここまでされる謂れはないのだが、とクリフは思う。
「知らないわよ。だいたい、朝だって着替えさせろとかふざけたこと言うし。グダグダうるさいからやってやったけどさ、赤ちゃん
かってーのよ」
「ううむ……」
平民がどうのと言っていたが、そういえばここは封建社会なのだろうか。そうだな、異世界なんだし。そのへんに理由があるのか
もしれない。
「それにしてもこれ、おいしいわねー。レシピ知りたいわ」
ヴォルフは次々とパイを口に運ぶ。常人より体が大きいので、当然口も大きい。かなりのハイペースで食べてしまう。あまり僕は
食べてないんだけど……。
そうだ、そういえば、元の世界に戻す召喚について、ルイズに話を聞きそびれて飛び出してきてしまった。まあ、あのコルベール
とかいう教師もいたし、どこかで聞くチャンスもあるだろうが。
「ふむ……まあ、それはいいとしてだ」
それより、当座の問題が浮上している。
「昼食から、どうするか……?」
ルイズの「施し」を断ったので、次の食事からは自分達で探さなければならない。どこかでありつけるといいんだが、学園の中す
ら不案内の自分達では少々難しい。
「アタシはあのガキから貰うのはやーよ。冗談じゃないわ」
「…………そうだな」
すでに食べ終わり、芝生に寝転んだキクロプスも同意を示す。
ヴォルフ達はさすがにムッとしていた。誰だって、あんなことされれば怒る。そうでなくても、自分達は化け物や実験動物と呼ば
れ蔑まれてきた過去があった。ルイズはそれを知らないが、誰にでも我慢ならないことというものはある。極端な差別的蔑視には、
少し耐えがたいものがあった。
いくら異世界の権威に属する貴族であっても、あの態度に頭を下げるのはいくらなんでも自分もご免ではある。
「じゃあなんとか探さないとな。なにかアイディアはあるか?」
クリフがそう言うと、ヴォルフは口を動かしたまま手を組んで首をひねった。
「ううん……どうしたもんかしら。何かいい手は……?」
クリフとしては、子供の頃から実験場での生活だったので食べ物に困るという状況はあまり経験がなく、こういう時に手段がいま
いち思いつかない。
この中では、唯一まともに市井で暮らしていたヴォルフに意見を期待したいところなのだが……。
「いい手……いい手……そーねー、……どうしましょ?」
ぽかんとした顔でこちらを見てくる。
ダメかな……。
そこでふと、キクロプスが起き上がった。自分達が出てきた本塔の方を眺める。
「どうした、なにか思いついたか?」
「…………あれだけの食堂だ、当然……厨房も大きいだろう。……そこで働けばいい」
「あ、なるほど。それがあったじゃないのー。食べ物はいくらでもあるし、人手が足りてないなんてこともありそうじゃない。それ
でいきましょ」
ふむ、その通りだ。やはりキクロプスは誰かと違って頼りになる。
「…………最悪断られても、残飯くらい出るだろう。……あれだけの量だ」
「……残飯は嫌ねぇ」
「僕もちょっと……」
……確かに腹は膨れることは膨れるが。戦場の男の発想、というか。
「…………大丈夫だ、食えないことはない」
「そりゃそうかもしんないけど。生理的にやーよ……」
「とにかく……聞いてみようか」
三人は立ち上がった。その時クリフの視界の端に、塔の玄関からひょいと桃色の髪が顔を出した。ルイズだ。
きょろきょろとあたりを見回し、こちらに気づくと少し躊躇うように近づいてきた。
「あ〜ら、クソ生意気な小娘が来たわよ」
ルイズに気づいたヴォルフが意地悪そうな声を出す。
ルイズはクリフ達の前まで来ると、じっと上目遣いにこちらを見て、呟いた。
「……あの……その、勝手に、……動いちゃ、ダメじゃないの……」
「ああん? そんなの知らないっての。なんであんたに断らなきゃいけないのよ?」
「それはっ! ……その……わたしの、使い魔だから……」
「あーはいはい使い魔ね。アホらしいわ、ガキのお遊びに付き合ってられるかっての」
「ガ、ガキの……! なによその言い方! 減らない口ね! わたしをなんだと思ってるのよ!」
「そっくりそのまま返すわよクソガキ。何しに来たのよ?」
「ほんっとに……! ……こ、これから授業なのよ!」
「あ、そう。行ってくれば?」
「あんた達も来るのよ! さっさと来なさい! こんなところでクダ巻いてないで!」
「悪いけどお断りよ」
「なんでよ!」
「イヤだから」
「はあ!? あんた達、使い魔でしょ! わたしの!」
「メシもまともに出せない主に仕えるなんて冗談じゃないわ。もうちょっと考えてものを言いなさい」
「じゃ、じゃあどうするのよ! 使い魔やるって昨日言ったじゃない! あんなに頼んだから認めてやったのよ!」
「残念だけど廃業ね。アタシ達これから食堂で働くつもりだから。あんたは別のやつ探したら?」
いやヴォルフ、談判に行くだけでまだ決まったわけじゃ……。
「食堂!? 何よそれ!! ダメよ、使い魔は呼んだのが死ぬまで次のは呼べないんだから! 勝手なこと言わないで!」
「あらそうなの? でも勝手なのはそっちじゃない。あんたの都合なんて知ったこっちゃないわ」
「ダメったらダメ!! とにかくダメよ!! ダメダメダメ!!」
「はいはい、そこでワガママ言ってなさい。さ、行くわよー」
ルイズとの会話を切り上げて行ってしまおうとするヴォルフ。その姿にカッとしたルイズが、ヴォルフの背中に思い切りケリを入
れた。
「きっかないわよ〜。なにそれ、蚊が刺したみたい。アタシを止めたきゃバズーカでも持ってきなさい。あーっはっは!」
「止まりなさーい!! 止まれ、この! この!!」
叩いたり蹴ったり引っ張ったりしても、ルイズの力ではヴォルフをとても阻めない。まるで重戦車に挑むアリだ。飛びついても、
笑いながら進撃するヴォルフに引き摺られるだけだった。
「止まれー!! 止まるのー!! と、ま、る、のー!! わ、わたしは貴族なのよ! 貴族の命令が聞けないの!? 聞けないん
なら、しょ、処刑しちゃうわよ!?」
「やってみたらどう? アタシ達相手に出来たらだけど」
「ほ、本当にしちゃうわよ!? ギロチンでどーんよ!? 嘘じゃないわよ、怖くないの!?」
「はいはいムダムダ。軍隊が来たって怖くないわね」
「止ぉまぁれー!! んぐぎー!!」
ルイズは全力でヴォルフの腰を引っ張って踏ん張るが、何の効果ももたらさない。そのうち、手が滑って勢いよく後ろ向きに転倒
した。
「きゃあ!! いったぁ!!」
地面に頭を打つ。よほど強烈に入ったのか、その場にうずくまった。
「あら、だいじょぶ? 間抜けねぇ」
「おいおい、大丈夫かい?」
クリフは思わずルイズに駆け寄った。かなり痛かったらしく、プルプルと震えている。
「いたいぃ……! うう〜……!」
「あー、これはタンコブになるなぁ……。危ないぞ、あんなことしちゃ」
「う〜……! 勝手に、動くな〜……!」
ルイズはもうホコリまみれで半泣きだ。少しチクリと胸が痛む。
「ほら、もうだいじょぶでしょ。行くわよクリフ」
「動くなー!!!」
ルイズは立ち上がると腰から杖を取り出して、背を向けたヴォルフに向かって振った。
「『ファイアーボール』!」
その時、クリフは妙な力の収束を感じた。感じたことのない、しかも異様に濃密なエネルギーの塊。なんだこれは、あ、まずい、
障壁を!
ドカン!! という爆発音が響いた。
本日は以上です。それでは失礼します
>>286 その通りです……
投下乙
化け物扱いされてきたから流石に怒りますね。続きがきになる
乙でした。
やっぱり平和っていいなあ、レッドキャップスの連中もう少し空気読んでくればよかったのに…
乙。
クリフがガード出来たかどうかで変わってきそうだ。
>>349 いや〜、それは無理な注文だろう・・・。
だってお爺ちゃんたち若い体を手に入れてはしゃぎまくりだろうからなw
きっとアドレナリンとか凄いことになってるよw
たぶん興奮しすぎて死にかけた奴とかいるね。
351 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/04(土) 00:23:15 ID:pfsG2yF/
sr
352 :
ゼロの賢王:2010/12/04(土) 06:01:44 ID:nj5mS8x0
誰もいないみたいなので投下いたします。
「決闘なんて今すぐ止めなさい。これは命令よ」
ルイズは目の前の使い魔にビシッと言い放つ。
食堂での一件から何故か決闘する流れとなってしまったが、平民であるポロンがメイジである貴族に勝てる筈が無い。
それに体つきこそ多少はがっちりとしているみたいだが、それでもポロンはお世辞にも強そうには見えなかった。
このまま負けると分かってる戦いに使い魔を向かわせるのは、その主としても望ましいことではない。
だが・・・
「悪ぃなルイズ。その命令だけは聞けねえ」
ポロンはそう言ってヴェストリの広場へ向かおうとするのである。
ルイズは憤慨した。
「何よ!?ご主人様の命令が聞けないの!?それとも」
(それともあんなメイドの何処がいいの!?)
喉まで出掛かったその言葉を言わない様にするのに精一杯であった。
それを言ってしまうと、ポロンを引き止める理由が自分の中で変わってしまう気がしたからだ。
あのシエスタというメイドをポロンが抱き締めたのを見た時は胸の何処かにチクリと針が刺さった様な痛みを感じた。
そのことが頭の中に残っているから、こんなに必死になって決闘を止めようとしているのかも知れない。
「もう一度言うわ。決闘なんて止めて彼に謝りなさい!」
しかし、ポロンはそれでも目を閉じて、ただ首を振るだけだった。
ルイズはポロンの顔を睨み付けることしか出来ない。
ふとポロンは優しく微笑み、先程教室内でしたようにルイズの髪をわしゃわしゃと撫でた。
「キャッ!な、何するのよ!?」
「お前は優しいな」
「・・・お願いだから止めて。今なら謝れば許してくれるわ」
ルイズは何時の間にか涙声になっている自分に気が付いた。
ポロンは笑いながら、再び首を振った。
「何度でも言うが、いくらルイズの頼みでもそいつは出来ねえ」
「どうしてよ!?やっぱりあのメ・・・」
「アイツはルイズを虚仮にしやがった・・・。俺をダシにしてな」
「え?」
ルイズはポロンの言葉に思わず耳を奪われた。
頬がどんどん紅潮していくのが自分でも分かる。
「ポ、ポロンはあのメイドを守ろうとしたんじゃないの?それで・・・」
「勿論、それもある。だがよ・・・」
ポロンの目は途端に厳しいものになった。
「俺はそれ以上に俺自身が許せねえんだ!俺のせいでお前が必死こいて大事に守ってきたものが傷付けられそうになっちまってることが!!」
ルイズは気が付いた。
ポロンは怒っているのだ。
それも普段の様な不平不満による怒りではなく、純粋に大切なものを守る為の怒り。
あの少年はルイズの貴族としてのプライドを貶めようとしていた。
それもポロンという存在を使って。
自分のせいでルイズが悪く言われてしまう。
ポロンにはそれが何よりも許せなかった。
「だからよ・・・俺は証明しなきゃなんねえ。お前が『無能』でも『ゼロ』でも無いってな」
ルイズはこれ以上何も言えなかった。
ポロンは再び優しく微笑むと、そのまま背を向けてヴェストリの広場へと歩き出した。
「諸君、決闘だ!」
まるでオペラ劇の主人公の様に大袈裟な身振り手振りを交えて少年は声を上げた。
少年は酔っていた。
雰囲気に、そして自分に。
広場にはこの騒ぎを聞きつけ、既に多数の生徒たちが集まっていた。
「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」
周りから歓声か上がり始めるとギーシュと呼ばれた少年は腕を振ってそれに応える。
ポロンがその場に現れると、すぐに彼の方へと向き直った。
「平民風情が・・・逃げずにここへ来たことは誉めてやろうじゃないか」
「てめえに誉められても嬉しくねえな。寧ろ虫唾が走るぜ」
「相変わらず口だけは達者だな・・・!!」
ポロンの言葉で不機嫌な顔になるが、すぐに気を取り直すと再び大仰な動きで、
「僕の名はギーシュ!ギーシュ・ド・グラモン。二つ名は『青銅』!! 」
と名乗り上げた。
観客たちはギーシュに歓声を送る。
「で、決闘のルールは?」
ポロンはその様子を興味無さそうに見つめながら言った。
ギーシュはフンと面白く無さそうに鼻を鳴らす。
「基本的には相手に“参った”と言わせたら勝ちだ。だが、君は平民だからね。普通にやれば君に勝ち目は無い。
それでは面白くないからハンデを付けてあげよう。僕のこの薔薇を取り上げるか地面へ落とすかすれば君の勝ちとしようじゃないか」
そう言うと、ギーシュは一輪の薔薇をポロンへと向けた。
ポロンはペッと唾を吐いた。
「そうか・・・。じゃあ追加ルールだ。勝者は敗者の言うことを何でも聞くってのはどうだ?
そうでもしねえと盛り上がんねーだろ?」
「ほう・・・平民にしては気の利く提案だ。悪くない。それで行こう」
「言ったな?てめえも一応は男だし、二言はねえな?」
「くどい!君が勝ったら、僕は何でも君の言うことを聞いてやる!」
(まあ、勝てるわけがないのだけどね)
ギーシュは内心ほくそ笑んでいた。
これは決闘ではない。
ただ一方的に平民をいたぶるだけのショーなのだ。
ある程度嬲った後に土下座でもさせて、二度と逆らえないようにしてやる。
ギーシュの目には最早その未来しか見えていなかった。
「最初に言っておくよ」
「何だよ?」
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。・・・よもや文句はあるまいね?」
「決闘だろ?いちいち相手にお伺い立ててんじゃねえよ」
「フン、減らず口が聞けるのもそれまでだ!!」
ギーシュは手に持った薔薇を振った。
「ワルキューレ!」
そう言うと、宙に舞った一枚の花弁がその姿を変えていく。
するとその場に女戦士を模った青銅のゴーレムが現れた。
「これが僕の魔法さ」
ギーシュはニヤリと笑う。
ポロンは何も言わずにじっとその様子を見ていた。
(・・・まるでジパングで見た神仙術みたいだな)
ギーシュのワルキューレを見たポロンが抱いた印象はそれだった。
かつて、神の金属オリハルコンを求めて向かったジパングにてポロンは神仙術を目の当たりにした。
それは神社の狛犬をまるで本物の犬の様に動かしたり、巨大な岩をまるで小石の様に投げ飛ばしたりと、
人智を超えた正に神の術であった。
それらを見てきたポロンにとって、ギーシュのワルキューレは特に驚く様なものではなかった。
一方のギーシュも余裕の笑みを絶やさない。
(驚いて声も出ない。といったところかな?ククク)
そんな風にポロンを見下していた。
「行け!ワルキューレ!」
ギーシュの号令と同時にワルキューレはポロンへ向かって突進していく。
ポロンは素早く右側へ飛んでそれを交わした。
ワルキューレは一旦停止すると、すぐに向きを変えて再びポロンへと突進する。
ポロンもまたそれを見て取ると、先程と同様に交わしていく。
(思ったより速くねえな。それに動きも単調だ。これなら・・・)
「へー、ルイズの使い魔もなかなかやるじゃない。ねえタバサ?」
その様子を遠くから見ていたキュルケが髪をいじりながら言った。
キュルケの隣には食堂でも一緒だった空色の髪をしたメガネの少女もいる。
タバサと呼ばれた少女は本を読みながらチラチラと決闘の様子を伺っていた。
「彼はただの平民じゃない」
「あら?タバサがそんなこと言うなんて珍しいじゃない?まあ、確かにただの平民なら貴族と決闘なんて起こす気も無いでしょうけどね」
「(こくっ)・・・でも、このままなら彼は負ける」
タバサはそう呟くと、興味なさそうに本のページをめくった。
タバサの言った通り、戦況はギーシュに傾きつつあった。
ワルキューレの単調な攻撃がポロンに当たることは無かったものの、それは確実にポロンの体力を削っていった。
持久戦になれば体力に限りのあるポロンの方が不利である。
(こいつぁ、あまり旗色が良くねえな)
ポロンの当初の計画としてはワルキューレの攻撃を交わしつつギーシュの元へ向かい、隙を見て杖を奪うというものだった。
だが、そういった動きが出来る程ポロンの身体能力は高くなく、寧ろギーシュとの距離は遠ざかっていた。
(ヤオなら簡単に実行してアイツから杖を奪っただろうな。いや、ヤオならそもそも素手であの人形を壊せるか)
ポロンは心の中でそう愚痴ると、再び目の前まで迫って来るワルキューレを紙一重で避けた。
「ポロン・・・」
ルイズも遠くからこの決闘を見守っていた。
ルイズはただ祈っていた。
自分の使い魔が・・・ポロンが無事に自分の元へ帰って来ることを。
(始祖ブリミルよ・・・ポロンをどうか、どうか守って!!)
その時であった。
周りの観客からの歓声が大きくなる。
ルイズは慌てて確認すると、そこには倒れたポロンとそれに遅い掛かろうとするワルキューレの姿があった。
「ポロン!!」
「・・・失礼します」
「誰じゃ?」
オスマンが訊ねると、扉の向こう側から声が聞こえて来た。
「私です。ロングビルです。オールド・オスマン」
「入りなさい」
オスマンの言葉と同時に扉が開かれ、ロングビルの姿が現れた。
ロングビルの姿を見とめるとオスマンは吸っていた水キセルを置いた。
「どうしたんじゃ?」
「ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がおられる様です。止めに入った教師も生徒たちに邪魔されて止められない様です」
「フム・・・しょうがないのう。で、誰と誰が決闘なんぞをしとるのかね?」
ロングビルは掛けていたメガネの位置を直す。
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン」
「・・・ああ、あのグラモンとこのバカ息子か。で、相手は誰じゃ?」
「相手はミス・ヴァリエールの使い魔の男だそうです」
オスマンの顔色が変わる。
ロングビルはそれに気付きながらも淡々と報告を続けた。
「・・・教師たちは、決闘を止めるために『眠りの鐘』の使用許可を求めておりますが?」
「『眠りの鐘』・・・?わざわざ秘法を使う様なことでもない。放っておきなさい」
「分かりました」
ロングビルはオスマンに一礼すると、そのまま去ろうとする。
オスマンはロングビルを呼び止めた。
「ああ、そうだ。ミス・ロングビル。ついでと言っちゃなんじゃが、コルベール君をここへ呼んで来て貰ってもいいかね?」
「ミスタ・コルベールをですか?・・・はい、分かりました」
ロングビルは再び一礼をすると、今度こそ学院長室から出て行った。
オスマンはそれを確認すると杖を取り出して振った。
すると、壁に掛かっている大きな鏡の鏡面が変化し、ヴェストリの広場の様子が映し出される。
オスマンは水キセルを掴むと、それを咥えて鏡の中の映像を見つめた。
(やべえ!!)
ポロンはしくじったと歯軋りする。
目の前に迫るワルキューレを避けようとして、足がもつれてそのままこけてしまったのだ。
倒れて無防備となったポロンへワルキューレが容赦なく襲い掛かってくる。
ポロンは自分の右手を見つめた。
(くそ、使えるかどうか分からねえものだから、使うつもりは無かったけどよ・・・。
この状況じゃ四の五の言ってられねえよな!!ぶっつけ本番だこの野郎!!)
ポロンは覚悟を決め、素早く構える。
「バギマ!!」
しかし、何も起こらない。
それを見たギーシュが嘲笑う。
「ハーハッハッハ。それは何かのまじないかい?・・・貰ったぞ平民!」
ワルキューレはすぐ目の前まで来ている。
「チッ!ならば・・・」
ポロンは再び構える。
「バギ!!」
すると、ポロンの右手から真空の刃が放たれた。
次の瞬間、ポロンの目前にまで迫っていたワルキューレは真ん中から真っ二つに割れ、そのまま地面へ倒れた。
「な、何だって!?」
驚いたのはギーシュだけでは無かった。
観客席にいた他の生徒たちも色めき立ち、広場は騒然となった。
キュルケも感心した様に手を叩く。
「驚いたわ・・・平民が魔法を使うなんて。まさかあんな隠し玉があったなんてね。・・・あれはウインド・カッターかしら?」
「違う。あれはウインド・カッターじゃない」
タバサが即座に否定する。
「それに・・・」
(それに彼は杖を使用していない)
タバサは風の魔法の使い手として、今のポロンの魔法が自分たちの使うそれとは性質が違うものだと感覚的に見抜いていた。
するとタバサは読んでいた本を閉じ、決闘を食い入る様に見つめ始める。
そんな今まで見たこと無い友人の様子にキュルケは面食らっていた。
(この子がこんなに興味津々に・・・?なるほど、彼は確実にただの平民ではないわね)
キュルケは自分の胸の中に何か昂ぶるものを感じ始めていた。
ルイズもまた今の様子に面食らった者の1人であった。
「嘘・・・でしょ?」
今までただの平民とばかり思っていたポロンが魔法を使用した。
あまりの衝撃に頭が回らなかった。
(ポロン・・・どうして黙っていたの?私が『ゼロ』だから?)
突如湧き上がる感情にルイズはポロンの顔を見るのが辛くなっていた。
それでも、目を逸らそうとはしない。
(見届けなくっちゃ・・・。主として、この決闘を見届けなくちゃ!!)
「く、クソ!これは何かの間違いだ!」
そう言うと、ギーシュは再び花弁を宙に舞わせて、新たに1体のワルキューレを作り出す。
「行くんだ、ワルキューレ!」
再びワルキューレがポロンへ向かって直進する。
ポロンは今度はその場から動かずに右手を突き出した。
「ベキラマ!」
また何も起こらない。
「ならギラだ!」
ポロンの右手から熱を帯びた閃光が放たれた。
ワルキューレはそれに飲み込まれると、上半身を砕かれてその場へ崩れ落ちる。
「ぐ、ぐぬぬ・・・」
ギーシュは歯軋りする。
ただの平民だと思っていた男が魔法を使ったのだ。
これは明らかな想定外の出来事であった。
「・・・なるほどな、貴族崩れの平民だったというわけか」
貴族の中にはその地位を剥奪され平民にまで落ちぶれた者も少なくない。
彼らは平民でありながら、当然魔法を使うことが出来る。
ポロンもそういった連中と同じなのだろうとギーシュは当たりをつけた。
杖を使っていない様にも見えたが、それも気のせいだろうと決めつける。
「君も魔法を使うならば、遠慮はいらないな!」
そう言うとギーシュは7枚の花弁を宙に舞わせた。
すると、それらは全てワルキューレと化し、7体のワルキューレがポロンの目の前に立ちはだかった。
「このギーシュ・ド・グラモン、全力を以って貴様を潰す!」
「・・・なるほど、数で攻めやがるか」
ポロンは舌打ちする。
(こんなんじゃ、当然ヒャダルコもイオラも使えねえと見た方がいいな。
今の手持ちの呪文じゃ火力が足りなさ過ぎる・・・。1体ずつ破壊していくなんて
チンタラしたことやってたら確実に他のにやられるぜ!)
「どうした?魔法が使えるからといっていい気になるなよ平民が!!」
ギーシュが薔薇を振ると、ワルキューレが一斉に襲い掛かってきた。
ポロンは必死に打開策を考える。
その時、この世界へ来る少し前に酒場で知人と交わした会話を思い出した。
「・・・師匠、覚えていますか?俺たちがガキだった時、アリアハンの森の中でゴールドオークに会ったこと」
「ああ、あったなあ、んなこと」
「あの時、師匠は俺とアスリーンを置いて真っ先に逃げたんですよね」
「んだよ、今更その時のこと責めんのか?」
「まさか!・・・あの時の師匠は本当にカッコ良かったなあって話ですよ」
「つまり、今はカッコ良くないってことだな?」
「アハハハ・・・勘弁して下さいよ師匠」
「ったくよお」
「実は、あの時のこと俺あまりよく覚えてねえんだよなあ」
「本当ですか?何か凄い呪文使ったことも?」
「呪文?」
「そうですよ、こう右手から・・・」
(・・・そうか!!)
ポロンは打開策を思いついた。
(ちっ、何時までも若いつもりだったけど俺も相当耄碌してやがったな。
たかだか3年呪文が使えなくなっただけでこんなことを失念してたなんてよ!!)
「おい、てめえ」
ポロンはギーシュに声を掛ける。
「何だい?命乞いかい?」
「・・・避けろよ」
「はあ?」
ギーシュはポロンが何を言っているのか理解出来なかった。
ポロンは目を閉じた。
次の瞬間、ポロンの両手に魔力が集中し始める。
「右手にバギ・・・」
「左手にギラ・・・」
ポロンは目を見開き、両の手を合わせた。
「合体呪文、バギラ!!」
360 :
ゼロの賢王:2010/12/04(土) 06:13:27 ID:nj5mS8x0
といったところで今回は終了です。
ようやく合体呪文使えました!
もっと使いたいですねえ。
ではまたよろしくお願いします。
乙!
合体呪文のドキドキ感は異常
ポロン乙。
しかし、DQもFFもつくづく
80〜90年代の文化だったんだなぁ、と
痛感するぜ。面白かったよなぁ(シミジミ)
363 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/04(土) 07:47:35 ID:Lo3F4CSB
あの頃に比べて、FFもDQも随分変わったよな〜・・・
童帝乙
のばらの運命はどうなるのか
ポロンの人乙!
燃えるね、続きが気になるぜ
フリオニールの第8話を5分後に投稿いたします。
DQは3,4,5が好きだす。6以降は1回クリアして2周目はやってないです。
ちなみに9は未プレイ。DS持ってないし。カルチョビットの新作が出れば
(出るか怪しいけど)買おうかと思ってます。
FFは1,2、3、10しかプレイしていないけど、2は寂しい雰囲気がいいよね。
フリオニールが召還されてから始めて『虚無の曜日』が訪れた。
「買い物に行くわよ」
「いってらっしゃい」
一瞬の沈黙が流れる。するとルイズはため息混じりに
「はぁ。あんたはわたしの何?」
「使い魔でしょ?」
「だったらしっかり護衛をしなさい!」
「わかりましたよ(面倒くさいなぁ)」
「まったく、人が優しくすればすぐ調子に乗って。今日はあんたの剣を買いに行くのよ」
「えっ!武器屋に行くんですか!?」
「あんた、持っていたナイフいつの間にか失くしているでしょ」
「ああ、あれは恩人に感謝の証としてプレゼントしました」
フリオニールはマルトーとの邂逅以来、食事の面で何かとお世話になっている。
3日間の断食を言い渡された時もこっそり厨房へ赴きまかない料理を分けてもらっていた。
フリオニールは当然、そのお礼として厨房を手伝うつもりでいたが、
「「我らが剣」にこんなことをさせる訳にはいかねぇ。それに、お前さんから貰ったナイフ。
目利きのダチに見せたらかなりの珍品みてぇじゃねぇか。メシはおつりだ。遠慮なく喰ってくれ!」
とはばかられた。フリオニールは恐縮しながらもその好意に甘えた。ありがとう、マルトーとゴートス。
それとシエスタ。彼女にもまた色々とお世話になっている。破れた一張羅を補修してくれた
お礼をしたいと考えているが、チェリーなフリオニールにはレディが何に喜ぶのかわからない。
フリオニールは買い物に行くのはチャンスだと思った。町を散策すればシエスタが喜びそうな
物を見つけることが出来るかもしれない。
一転して出かける気満々のフリオニール。
「あんたって本当に単純ね。まぁ、感謝しなさい。新しい武器を買ってあげるんだから。
ちゃんと稽古に励んで「ご主人様」を守るのよ」
ルイズは呆れ顔で言うと部屋を出た。慌ててアイスシールドを背中に掛け追従するフリオニール。
そして、二人は馬に乗り学院を出るのであった。
「あのふたり、どこへ行くのかしら?」
ルイズとフリオニールが部屋を出て馬に乗るところを目撃したキュルケ。
「こうしちゃいられないわ!」
キュルケは遅れをとるまいと駆け足で親友の部屋へ向かう。
ドアが施錠されているので、コモン・マジック『アンロック』を使い部屋の中へ入ると、
青髪のショートカットヘアの少女がベッドに横たわり読書をしていた。
「タバサ!今から出かけるわよ!」
「今日は『虚無の曜日』。それと『アンロック』は校則違反」
勢い込むキュルケとは対照的に表情一つ変えずに本から目を離さず注意するタバサ。
「ごめんなさい。でも、事は急を要するの!ああ、私のダーリンが悪女の毒牙に!」
「・・・ミス・ヴァリエールの使い魔?」
「そう!あなたも彼の魔法に興味があるって言ってたじゃない!」
「彼が身の危険に陥るとは思えない」
「甘いわ!彼は純情よ。私が一番よく知っているんだから!」
「・・・・・・」
キュルケとフリオニールの間に何があったかは知らないが、確かに彼の使う魔法には
並々ならぬ興味がある。あいにく彼とギーシュの決闘には関心が無く見物していなかったが、
それを実際にこの目で確かめる良い機会だとタバサは思った(彼の身に何が起こっているのかは不明だが)。
『虚無の曜日』には一日中読書をすると決めているタバサであるが、譲歩する価値はあると判断した。
そして、タバサは意を決すると口笛を吹き、自身の使い魔である風竜を呼び出したのであった。
数時間後
ルイズとフリオニールはトリステインの首都トリスタニアに到着した。
(綺麗な町だなぁ。フィンを思い出しちゃうな。マリア、ガイ、レイラは元気かな?)
トリスタニアの町並みを眺め望郷の念に駆られるフリオニール。トリステインにやってきて
一週間程経過した。
(仲間達は無事なのか?『かめん』は探し出せたか?ミンウの所在は?厳重に管理されている
『アルテマ』とは一体どのような魔法なのか?)
急に真剣な表情を見せたフリオニールに、ルイズはおのぼりさんをからかうように、
「美しい町でしょ。恐れ入った?」
「・・・恐れ入りました。『かめん』で封印とは本当に」
「?また始まったわね。まぁ、いいわ。「チクトンネ街」に行くわよ」
言うのであったが、使い魔の悪い(?)癖であるぼやきが始まったので、それを無視するように
先導してメインストリートから裏路地へと入って行った。
そして、十字路へ出るとルイズは辺りを見回し、
「ピエモンの秘薬屋の近くだからこの辺りのはずなんだけど・・・」
「武器屋ですよね。こういうときは・・・」
フリオニールは駆け足で1件1件中へ入って確認し始めた。まるで刑事の聞き込み捜査のようだ。
(あいつ、町人には一人一人話しかけるタイプなのね。きっと、ひとマスひとマス
「しらべる」もやっているに違いないわ!)
ルイズの心に疑念が沸き起こっているところにフリオニールが呼び声が聞こえた。
「「ご主人様」ありましたよ!」
二人は揃って武器屋へと入っていった。中は薄暗く、所狭しと武器が並べられていた。
(まさか、トブールじいさんが出てきたりして)
反乱軍一の鍛冶屋(自称)トブールの顔を思い出し苦笑いするフリオニール。彼にもまた
苦渋を舐めさせられた。
死線を潜り抜けミスリルを奪取してきたのに、タダ、で武器防具を寄越すわけでもなく
店で買え宣言。ああ、ボケが始まったのか、との結論で自身とマリア、ガイ(こいつは
状況を理解しているのか不明だが)は納得したのだが(ミンウの申し訳なさそうな顔が
印象的ではあった)、やはり老人は苦手である。
すると、店の奥からマスターが顔を出した。じいさんではなくほっとするフリオニール。
「いらっしゃい」
「剣を買いにきたよ」
マスターはフリオニールをガン見して、こいつは中々の手練だな、と見極めた。
武器屋としての経験と勘である。
しかも、付き添いの少女の紐留めには五芒星が付いている。貴族だ。
久しぶりの上客に気分の良くなったマスターは笑顔で揉み手をして、
「左様ですか。それでは、当店一番のおすすめを・・・」
「いや、いいよ。俺、色々見てみたいからさ」
フリオニールはマスターの言葉を遮り店内を物色する。
(ちっ、相手が悪いか。カモがネギを背負ってやってきたと思ったのに・・・)
としかめっ面をするマスター。
(あまりいい品揃えじゃないなぁ。これからしばらくは素手を鍛えるしかないか・・・)
としかめっ面をするフリオニール。
「気に入ったのはあった?」
態度が決まらないフリオニールに若干イラつきながら問いかけるルイズ。
「う〜ん、ここの武器を使うくらいなら素手の方が・・・」
言うか言うまいか逡巡するフリオニールであったがつい口が滑ってしまった。
「ちょっとお客さん!あんまりじゃねぇか!」
気色ばむマスター。緊迫する店内に突如、低い笑い声が響いた。
フリオニールの第8話は以上です。
夜に続きを投稿できればと思います。
失礼しました。
みなさん灯火乙
>>360 そっか、最初に合体呪文使った時のやつか。
オークが漫画肉になってたきがするべ。
フバーハ×2のハイバーハの名前がなんとなく好きだった記憶がある
投下ラッシュが嬉しくて乙です
>>323 イカデックスさんが「他者の詠唱に割り込んでその発動や効果を阻害する「強制詠唱(スペルインターセプト)」
という魔術を使用しています。
この魔術は魔力を使用しないのでルイズや平民すら使用可能・・・・・かもしれない
ちなみにわたしの思いつく「軍曹」つったらチップ・サンダース軍曹かな
まさかモデルがあのチキン野郎たぁ意表を突かれた
>>323 遅レスだが「少年ジェット」、「花のピュンピュン丸」のチビ丸
>>373 バイバーハな
敵の魔法系攻撃を倍の威力にして反射するエルフ涙目のチート呪文
属性的に呪文は跳ね返せない筈なのに普通に跳ね返してたよな・・・
チェリー乙
RPGの常識だよね!
昨今は町人を見落としたり話すこと自体が面倒だったりするけどさ!!
しかし実際のところ、RPGで王子だの国公認の勇者だのが
旅立ちにあたっておそらく雑兵以下の装備しか貰えず送り出されたり
新装備の素材を入手したりしても金出せとか・・・酷すぎるよな
財政事情の厳しいであろう反乱軍はともかく
勇者ロトの血を引く少年に至っては竹やりだぞ
>>373 何その文明復興しつつある島みたいな名前
コナンのバイタリティは半端無いが、あいつがルーン強化されたら・・・
>>377 ヒロインの名前が思い出せねえ、ボケるには早いのになあ
未来少年コナンのヒロインはラナ
>>379 おお、それだそれ
のび太(旧版)の声で思い出せたよ、ありがとう
そういや旧ジャイ子も出てたっけな、アレ
>>377 その辺り、FFIVではセシル、カインとも最初から王国の軍人でそれなりの装備を最初から
支給されてて初期レベルが10だったのに当時地味に感心した記憶がある。
セシルは職を変えてから一から出直しになった挙句
スキル的に微妙になったな・・・
そういやW関連って呼ばれないな
ガリが呼ばれてなかったっけ?
ダースベイダー召喚があるんだからダークヘルメット召喚があってもいいんじゃないかって思った
385 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 17:50:54 ID:ykk/8dL4
前回の投下から半年以上経ってしまいましたね。
待っていてくれたお方がいたらお待たせしてすいません。
誰?ってお方はこれからよろしくお願いします。
5分後くらいに投下させていただきます。
386 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 17:57:40 ID:ykk/8dL4
第一章〜旅立ち〜
その4 チャンバラ・バトル
「諸君……決闘だ!」
ギーシュの極限まで格好つけた宣言に、集まった生徒たちは大いに沸き立った。
女子生徒の黄色い声援、男子生徒の興奮した雄叫びに広場は一時騒然となる。
だが騒乱の中心であるムサシはまるで動じることもなく、仁王立ちしていた。
圧倒的な自信を掲げ、ギーシュはそんな彼を一睨みする。
「『ごめんなさい』と言えば……まだ間に合うよ?」
「御託はいい、さっさとやろうぜ」
ムサシはそんな挑発には乗らず、にべもなく応じる。
立派な眉は釣り上がり、口元を引き締めたまま、腰の真雷光丸を抜き放つ。
そんな態度にギーシュはやれやれ、と肩をすくめた。
「まったく聞き分けの無い子どもだ……平民と貴族の絶対的な差というものがわかっていないらしい」
ギーシュが薔薇を振り、花びらがひらりと舞い落ちる。
その花びらはみるみるうちに鎧兜を纏い、剣を掲げた女性像へと変化した。
「二つ名は『青銅』!土のメイジである僕にとって……このゴーレムが君の剣に相当する。
ああ、僕は戦わないから二対一では無い、卑怯とは言わないでもらうよ。
だがそれでも君のようなちっぽけな子どもが楯突いてどうにかなるわけでも─」
「御託はいいって言ってるだろ、おしゃべりだなあお前」
こういう長ったらしく講釈を垂れる奴にロクな奴はいない。
ムサシは剣豪らしく、バッサリと前口上を切り捨てる。
ギーシュの余裕たっぷりの笑みが、引きつった。
「……行け!ワルキューレ!」
「大変です、オールド・オスマン!」
「なんじゃね騒々しい」
学長室にてオスマンと呼ばれた立派な髭の老人が、厳格な佇まいでコルベール教師を待っていた。
この人物が普段は傍らの秘書にセクハラを咎められ続けているなどと、知らぬ人が見れば誰が信じられようか。
「これはミス・ヴァリエールの召喚した使い魔に刻まれたルーンです。
そして、こちらが『ガンダールヴ』のルーン……見てください、一致しています!」
「ほー……」
普段の冷静な物言いが影を潜め、捲し立てる。
よほどの興奮なのだろう。
「それで……君の結論は?」
「つまりですね、あの少年は『伝説の使い魔』であったのです!一大事でしょう」
興奮してツバが飛ぶコルベールをしっしっと手でおいやって、オスマンはハンカチで顔を拭いた。
そしてため息を一つ。
「のうコルベール君。ワシも話でしか聞き及んでおらんが、10かそこらの子どもらしいのう。
本当に『あらゆる武器を使いこなした』と言われるガンダールヴなのか?
それが分かるのは、あの子がせめて生徒たちと同じくらいに大きくなってからじゃろう」
「ハッ……確かに、こんなに小さい子どもでしたね」
コルベールが手を地面と水平にし、自分の腰から少し上ほどで止めた。
使い魔の少年の背丈は、大柄ではないオスマンよりもさらに小さい。
まったく騒ぎおって、と髭を揺らして肩をすくめた。
すると、またしても来訪者が訪れる。
387 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 18:00:00 ID:ykk/8dL4
「オールド・オスマン」
「おおなんじゃねミス・ロングビル」
コルベールよりもやや軟化した態度で応じるオスマン。
ロングビルと呼ばれた美女はさほど気にした様子も無く続けた。
「ヴェストリの広場にて決闘騒ぎが起きています。『眠りの鐘』の使用許可を求める声も教師たちから」
「たんなる子供のケンカに秘宝じゃと?よせよせ放っておいてもかまわんよ。で、誰が騒ぎの中心に?」
「ええ、ギーシュ・ド・グラモンが発端とのことで」
「あーあーあの女好きか、よう覚えておるよ、まったく親子揃って」
「もう一人は……その、ミス・ヴァリエールの召喚した少年……のようです」
「なんと」
オスマンの髭を撫でる手が止まった。
コルベール共々顔を見合わせる。
秘書に礼を言い下がらせて、『遠見の鏡』に向き直った。
「ったく、あの馬鹿!チビ!トンガリもみあげ!!」
口からまるでふたご山山頂からの激流のように溢れ出る悪態を垂れ流しながらルイズは走った。
もちろん彼女は必死で止めた、シエスタだって必死で引き止めた。
だけどムサシは止まらなかった、その小さな身体に怒りを込めて。
勝手にしろ、と怒鳴りつけてしまったら本当に勝手にしてしまった。
頭に血が登ってしまったルイズは、しばらくして泣き崩れたシエスタを見てようやく気がついたのだ。
このまま放っておいては、使い魔を失うことになると。
「始まって、ないでしょうね……?」
使い魔の安否を確かめる為、息急き駆けるルイズ。
主人の名誉を守るため、確かにその気持ちは嬉しかった。
しかし平民が貴族と決闘して生き残れるかと言えば、答えは否。
ギーシュも命を奪うまではしないだろうが、タダで済むはずがなかった。
「頼むから、間に合ってよ……!?」
388 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 18:03:21 ID:ykk/8dL4
「……」
「おいおいどうした貴族様!?」
広場は静まりかえっていた。
無論、決着がついたからではない。
襲い来るワルキューレに対し、ムサシが飛び出した。
そこまではよかった、誰もが倒れ伏す少年の姿を想像しただろう。
「ば……馬鹿な!?」
「へン!どっちが馬鹿かは……もうすぐ分かるぜ!」
ムサシが放った突きが、倍ほども差があるワルキューレの体をふっ飛ばした。
ギーシュの目が見開かれ、皆が息を飲む。
そのまま青銅の体は広場に叩きつけられ、たんなるくず金属へと成り果てる。
そして、その真ん中にはまあるい穴が空いていた。
「わ、ワルキューレ!!」
現状にいち早く気づいたギーシュが、ワルキューレを限界の6体まで出現させる。
今度は槍、斧、メイスなど様々な武器を携えていた。
「おいおい、ギーシュが本気だ!」
「まぐれで一体倒されたとは言え、子どもだぞ?大人気無いな!」
ちらほらと聞こえる野次に反論する余裕すらなかった。
曲り形にも武人の血を引く彼は察したのだ。
まぐれなどではない、目の前のこの少年は自分など簡単に切り伏せられる実力を隠していると。
「おい、一対一はどうしたんだ!?」
「かかれッ!!」
この子どもは只者では無い。
ギーシュは自分の額がじわりと汗で濡れるのを感じ取った。
もはや自分の手がいかに卑怯かなど、考える余裕を無くすくらいに。
「ああ、あんなに小さい子に6体も?ひどいわねえ……しかしあなたがこういうの見るなんて珍しい」
「……無謀」
観衆の後ろの方、キュルケとタバサもまた観戦していた。
キュルケの方はムサシをいくらか気に入っているらしく、いざとなったら介入する腹積もりでいた。
しかし、ルイズのやっと手に入れたパートナーをみすみす失わせたくないという気持ちもある。
本人は認めないだろうが、彼女もまたタバサと同じく放っておけない存在なのだ。
そのタバサも、どういうつもりかこの決闘を見つめている。
その手の本を閉じてまで。
「まあ無謀、よね。一度に6体なんてそこらのドットどころかラインレベルでも苦戦……」
「ちがう」
「へ?」
「あの子に挑むことが、無謀と言った」
タバサが発した久しぶりの10文字以上発言を理解するのに、若干時間がかかる。
キュルケがぽかんとしたその瞬間、再びどよめきが沸いた。
走るルイズ、途中どこかで転んだかヒザからは血が滲んでいた。
ずいぶん遠く感じた広場が、そして人だかりがやっと見えてきた。
騒がしい、まさか既にムサシは。
>>379 未来少年コナンのヒロインはモンスリーだと思うんだけどどうよ?
390 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 18:07:06 ID:ykk/8dL4
「ちょ……どいて!どきなさい!!」
人並みを必死でかき分け、最前列を目指した。
ようやく見えたのは、ピンと跳ねたムサシのちょんまげ。
今まさにその周囲に、ギーシュのワルキューレが見えた。
それも、四方を囲まれて。
「ふ、はっはっは!さっきまでの自信はどうしたんだね!?」
「ちくしょー、汚いぜ!」
四方から一斉に打ち掛かられ、さすがの剣豪も防御に徹せざるを得ない。
腰に巻かれた汚い帯『ゲイシャベルト』の力でこの包囲網を飛び越えることも確かに可能だろう。
だがこれでは、防御を解いた瞬間に武器の一撃を食らってしまう。
先程までの不安を振り払ったようでギーシュはにやついている。
この状況をさてどうするか、と考えるムサシの脳裏には一つの技が浮かんだ。
(二天一流斬!ああ、レイガンドがここにありゃあなあ……)
ムサシの持つ最強の必殺剣、二天一流斬。
真・雷光丸での防御から転ずる全てを切り裂く一撃だ。
しかしそれを放つには、もう一本の愛刀が欠けている。
その背に下がる空の鞘が、それを物語っていた。
「ギーシュ、弱いものいじめはそろそろよせよ!」
「やめてあげてよ!」
「ムサシーーーーーーーッ!!!」
様々な声が飛び交う喧騒の中で、ルイズは必死に叫んだ。
ムサシを傷つけて欲しくなかった。
ムサシに傷ついて、欲しくなかったから。
と、ルイズは傍に砕け散ったワルキューレが転がっているのに気がついた。
「……?これ、ギーシュの……」
ここまで砕けているとは、ギーシュはワルキューレ同士をぶつけでもしたのだろうか?
だがしかし、重要なのはそこではない。
気づいたときには、群衆から飛び出していた。
ムサシの背には空の鞘。
教室で見せた、両手で振るう箒の凄まじさ。
(もう一本……あれば!!)
周りが止めるのも聞かず、転がるワルキューレの剣へと駆け寄った。
ルイズの腕には少々重たく、精一杯の力でその剣を持ち上げる。
こんな物が自分より小さなムサシに扱えるのか、という考えには思い当たらなかった。
わからない、わからないが、二振り揃ったムサシに適う奴なんかいない。
なぜかそう思えたのだ。
「重、た……い、のよっ!!この!!」
半ば転びそうになりながら、剣を全力でムサシの足元まで滑らせた。
(お願い、届いて!!)
391 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 18:11:41 ID:ykk/8dL4
ルイズの切なる思いは、声にもならない。
ここまで形振り構わず走ってきた。
どうしてこんなに一生懸命になるのか?
馬鹿で言うこともきかない使い魔なんて放っておけばよかったのでは?
自問自答は、無駄だった。
答えがすぐに、出たからだ。
「私と一緒に……強く、なるんでしょ!!」
誰もいない教室、二人きりの約束。
「だから……」
それは傲慢かもしれない、だけれど主人から使い魔への指令。
いや違う、「たった一人のともだち」への強い願いだった。
「勝って!!」
その願いは、4体のワルキューレが真っ二つになることで叶えられた。
水平に流れた剣筋は、鋼をも容易く切り裂くだろう。
レイガンドでは無いものの、気合一閃の回転斬りだ。
「……っ!?」
ギーシュは眼を今まで以上に白黒させた。
呼吸が喉に引っかかってうまくできない。
何が起こったのか、まだ整理できない。
「ルイズ!待たせたな!」
下半身だけになったワルキューレをぴょんと飛び越え現れたムサシは、あちこち傷だらけだった。
しかしその眼に宿る気迫は、いつものままだ。
「これが……ムサシ様の二刀流だ!!」
右手には刀、左手に西洋剣。
『武蔵伝説』に語られるその姿そのものだった。
「両手に、剣?見たこともありません」
「何を言うとる、ガンダールヴは両手に武器を持ってたんじゃろう」
「はッ!?確かに!」
遠見の鏡で観戦していた二人は、ムサシの秘めたる力にただただ驚いていた。
否定的だったオスマンも目の当たりにしては色濃くなった可能性を認めざるを得ない。
しかし、何かが引っかかっていた。
「しかしのう……ワシはああいう奴の別の呼び名をいくつか知っとるよ」
「なんですと?」
「彼は……『サムライ』と呼ばれる。そのなかでも類稀な強さを持つものを『剣豪』と呼ぶらしい……」
「なんと!?お詳しいではありませんか、オールド・オスマン!」
「なに、昔の命の恩人の受け売りじゃよ。そのなかでも一番小洒落た呼び名は……そうじゃな」
懐かしそうに髭を撫で思案し、笑った。
かつての思い出の中で出会った彼の面影が、確かにその少年にはあったからだ。
「勇敢なる剣士『ブレイブフェンサー』と。そう、言われているそうじゃよ」
392 :
ルイズ伝:2010/12/04(土) 18:17:07 ID:ykk/8dL4
投下は終了しました。
諸事情で久しぶりに戻ってきたらゴクッや賢王などスクエニ系列のSSが充実していますね。
お二方も皆様ともども応援しています、がんばってください。
読み返させてもらいまして、サクサクいただけました。
一応これも旧スクウェアの隠れた名作ですので知らない方はぜひアーカイブスでも。
半年も間が開かないように頑張ります。
ルイズ伝作者さん、乙でした。
武蔵伝は自分もプレイしてたので、クロスは嬉しいですね。雷光丸あるなら、
是非ゲット・インも使ってほしい。
皆様お久しぶりです。
というかひょっとするともう初めましての人が多いのか。
ともあれSeeDの書き手です。何とか停止から1年経たずにガリア編を書き上げられました。
他にいらっしゃらなければ21:00から続きを投下したいと思います。
mission17 虚無の騎士、始末の剣
スコールの意見に従い、かの巨大建造物ルナティック・パンドラへと飛ぶラグナロクは、目的地よりも遙か手前でその物体を発見した。
「もう見えた?……何でルナティック・パンドラが動いてるんだ」
砂漠の空、異質な直方体の黒い物体が西へ西へとゆっくり飛んでいく。
「どうする?何かあったのかも知れないぞ」
「……それも確かめなくちゃ判らない。ラグナロク、突入する」
通算3度目となるルナティック・パンドラへの突入は、前回と同じく何の妨害もなくすんなりと成った。
「お前達は、あの時の傭兵か?」
タラップから降りたスコール達の前に現れたのは、前回の突入の時にも見たことのある騎士だった。
「ああ。オダイン博士への面会を希望したい」
「……まぁ、博士が来たら会うと言っていたから別に構わん。だが傭兵、ルナティック・パンドラが動いていることは外部に漏らすなよ」
スコールの要求に少し戸惑いながらも首を縦には振ってくれた。
そんな騎士の案内で、ルナティック・パンドラの一室。いまはオダインのラボと化している部屋へと通された。
「むむっ。ラグナの息子でおじゃるか!?良いところに来たのでおじゃる!こちらの魔法を応用してオダインは新しい擬似魔法を作り出したのでおじゃる。傭兵をやっているお前達なら使う機会も多いはずでおじゃる。実際に使ってみて欲しいのでおじゃる!」
会うなりいきなりそうまくし立てるオダインは相変わらずの様だった。
「虚無のメイジでおじゃるか?」
とりあえずその新しい擬似魔法とやらを空きのあるアニエスにドロー、ストックしてもらっておいて、こちらの話を振る。
「そうだ。アニエスも、詳しいことは知らないらしい。王族に近くて、研究しているあんたなら知ってもいるんじゃないか?」
「知っているも何も、オダインを呼んだジョゼフが虚無でおじゃるよ」
「ガリア王も!?」
あっさりと告げられた事実にアニエスは目を剥いた。
「さっき渡した擬似魔法、ヘイスガとインビジも虚無の系統魔法を参考に作った擬似魔法なのでおじゃる。
ヘイスガは名前の通りヘイストの上位種、虚無の『加速』の要素で強化されたのでおじゃる。インビジは虚無の『幻影』で姿を見えにくくし敵の狙いを定めなくさせるものでおじゃる」
全くもって予想外の事態だったが、これは助かる。
「オダイン博士、改めて聞きたい」
「何でおじゃるか?オダインが幾らでも説明してやるのでおじゃる」
魔法オタクが目を輝かせる。
「『虚無』の魔法はどれほどの強さなんだ?今度、トリステインの女王になるヴァリエールは、擬似魔法を相手にどれだけ戦える?」
「はっきり言って擬似魔法では相手にならないのでおじゃる」
これまたあっさりとオダインは返答した。
「『虚無』のありとあらゆる基本となる魔法、『爆発』でも、魔力量と使い手の技量に依るでおじゃるが……このルナティック・パンドラそのものを一撃で吹き飛ばすことすら可能なのでおじゃる」
「……冗談だろう?」
二人とも青い顔になって尋ねるが、オダインからその点については訂正がない。
「そんなつまらない冗談を言ってもオダインに何の得も無いのでおじゃる!まぁ、弱点は存在するのでおじゃるが」
「それは?」
そこに、光明を見出したい。
「先程言った通りの魔力量と、詠唱時間なのでおじゃる。
普通のメイジは一週間もあればその精神力の容量全体分のを回復出来るのでおじゃるが、虚無は精神力のゲージがとんでもなく大きくて十数年に渡りため込める代わりに一度に消耗する量もとんでもないのでおじゃる。
それこそ、ルナティック・パンドラを吹き飛ばす規模なら、百年生きたとしても人生に五度撃てれば良い方でおじゃる」
おおよそ二十年に一発の計算だ。威力に対して相応の代償があるということか。
「それから詠唱時間でおじゃるが、これはもう決定的でおじゃる。虚無のルーンは通常の系統魔法に比べて5,6倍は長くて詠唱中は隙だらけになるのでおじゃる。
虚無の使い魔であるガンダールヴ等はその隙を埋めるためなのではないかとオダインは推測しているのでおじゃる」
「ガンダールヴ?」
聞き覚えはあるが、何だったか。
「始祖の左手と呼ばれた使い魔なのでおじゃる。あらゆる武器を使いこなし、始祖を守ったと言われているのでおじゃる。
ここからはオダインの推測でおじゃるが、ガンダールヴ『として』喚ばれた使い魔なら、その左手にはガンダールヴのルーンが刻まれるはずでおじゃる」
「『として』?」
「虚無を継いだメイジも伝説上の始祖と同じでおじゃる。四つの使い魔をそれぞれに喚び、その能力も受け継がれると考えられるのでおじゃる」
「能力もか」
「そうでおじゃる。オダインが契約すれば多分『神の頭脳』ミョズニトニルンになったはずでおじゃる」
頭の良いオダインにはぴったりでおじゃる、とえらそうに胸を張るちっさいおっさん。
「何でそう言いきれるんだ?あんたにもルーンは見あたらないし、さっきの言い方だと契約もしてないんだろう」
「簡単でおじゃる。オダインを喚んだジョゼフからドロー出来たのがミョズニトニルンだったからでおじゃるよ」
「ドロー?その……使い魔の力……と言うのか、それもドロー出来るのか」
「ジャンクションシステムの枠組みで言うならG.F.に相当している様でおじゃる」
説明を聞く限り媒体となる人に能力を付加するようだから、成る程G.F.の様なものなのだろう。
「虚無の……使い魔か……」
そこでハッとした顔でアニエスはスコールを見た。
「? 何だ」
「虚無の使い魔だ!レオンハート、確かお前を喚んだメイジは」
「ヴァリエール……まさか、俺が?」
「そう!お前も虚無の使い魔として喚ばれたのでおじゃる。惜しかったのでおじゃる。ラグナの息子がきちんと契約をしていれば、ガンダールヴかヴィンダールヴか、ひょっとすると『憚られる』使い魔の事が詳しく知れたでおじゃる〜」
心底残念そうにオダインが落ち込む。
虚無のメイジであったジョゼフからG.F.がドロー出来たということは、ひょっとしてヴァリエールからも何かしらG.F.をドロー出来たのだろうか、とほんの一瞬考えた。
「お前達、他にオダイン達の世界の者を知らないでおじゃるか?オダインも、ラグナの息子もとなると、きっと他に来ている者も虚無の使い魔である可能性大なのでおじゃる」
オダインの問いかけに真っ先に思い浮かんだのは、スコールの幼なじみにしてライバルのあの男だった。
アルビオンへオダインを連れて行くことと、その身辺警護を正式に依頼されてラグナロクは飛ぶ。オダインが出ようとした時に、護衛に付いていた騎士が勝手に出て行かれては困るとオダインを押しとどめようとしていたが、
「ジョゼフに止められているわけではないし、ルナティック・パンドラを予定の位置に運ぶだけなら中にいる二人だけでも出来るのでおじゃる!」
と押し切ってしまっていた。些かの憐憫の情を騎士に覚えたが、まぁ依頼は依頼だ。
「ところでオダイン博士、ルナティック・パンドラはいったい何処へ動かしていたんだ」
ブリッジ後方のゲスト席に掛け、ラグナロクで収集していたハルケギニアの地形データを鑑賞しているオダインに尋ねる。
「ジョゼフの命令でゲルマニアへ持って行くように言われていたのでおじゃる。そのままルナティック・パンドラそのものをゲルマニアの反乱軍に渡すように言われたのでおじゃる」
「反乱軍に?確かその、ルナティック・パンドラとやらはハルケギニアでは使えんのだろう?何故わざわざ」
訝しげな眼でアニエスが顔を後ろに向ける。
「だからそんなことをオダインに聞かれてもオダインは知らんのでおじゃる。……おお、ここが火竜山脈でおじゃるか!ここもいつか行ってみたいところでおじゃる〜」
めんどくさそうに返していたかと思うと、出てきた地形図に眼を輝かせた。全くもってマイペースなおっさんである。
「……現状でのルナティック・パンドラの使い途は一つしかない」
眼を細め、進行方向を睨み付けながらスコールは唸るように言う。
「あの巨大さを利用した移動能力のある要塞にさせるつもりなんだろう」
ゼルからの報告によると、ルナティック・パンドラがエスタ市街に突入してきた際に、数名のガルバディア兵がルナティック・パンドラ下方のハッチから揚陸してきたという。
(加えてあの巨体……敵重要拠点をあの質量そのものを利用して体当たりで破壊することも出来るだろう)
いずれにしろ、強大な兵力となることは間違いあるまい。
(十年単位で魔力を溜めた虚無ならば、破壊出来るというのがオダイン博士の言だったか。だがもしどこかでそれを無駄遣いさせれば、例え虚無を擁するトリステインと言っても敗北は必至か)
これがもし、ジョゼフがルナティック・パンドラと相対したのであったら実はもう少し事態は違ってくる。
虚無にとって基礎であるエクスプロージョンを実に効果的に使ってみせるジョゼフならば、ルナティック・パンドラの完全破壊などはせずに内部の基部のみを的確に破壊して、効果的に無力化してみせるだろう。
だがそれを、厳密に言えば虚無に目覚めてすら居ないトリステインの新女王に求めるのは酷という物だ。先延ばしになっていたラグナロクの主砲修復。今後の情勢によっては必要となってくるやも知れない。
「……レオン、ちょっと待て」
「何だ?」
「あの一帯……火が……」
「火事か?」
アルビオンの上空にさしかかったところで、アニエスがたどたどしい手つきながら機外カメラを操作して進行方向から少しずれた森の一角を映す。
「人?いや、ゴーレムか?……ゴーレムだと!?」
燃える木々に照り映えるのは、巨大な人型。
これからスコール達が会いに行こうとしている者の仲間にいるのは、土くれのフーケ。
彼らの正確な居所は判らないから、明日の朝から森の中を探そうとしていたのだが、これはいきなりのアタリかもしれなかった。
ラグナロクを空中で停止させ、改めてカメラを操作する。
「メイジ達と戦っているのは……やはりサイファーか!」
ガンブレードを赤い炎で照らしながら、ロングコートの男が駆け回る。
「強行着陸するぞ」
少し離れた所の木々を押しつぶしながら、ラグナロクの巨体が降りた。
「オダイン博士はここに残っていてくれ。ジョーカーはラグナロクと博士の護衛を。アニエス、行くぞ!」
シートベルトを取っ払いながら、機内放送で呼びかけ、昇降口から相棒と共に飛び出して、そこからでも見える炎の方へと駆ける。
「ふんっ!」
轟、と火薬が炸裂しハイペリオンが震える。
「があああああっ!?」
獣に食い千切られたかのような傷跡を残しながら、メイジが倒れた。それは捨て置き、まだ元気に動き回る他の連中をサイファーは追う。
「マチルダ、上げろっ!」
呼びかけに応じて、心持ち昇りやすく傾けられた土くれのゴーレムの足を伝って上へ。
他の連中に任せた隙にフライでゴーレムの腕の中に匿われた子供達に近づこうとしていたメイジを捕捉する。
「すっこんでろぉっ!」
サイファーの叫びと共に目標のメイジの眼前にファイアが爆発する。怯んだ隙にハイペリオンを手の中で回転させ、斬檄を放つ。
得意の雑魚散らしで吹き飛ばしたところで地上に降り立ち、弓矢や銃でもってゴーレムの肩に乗るマチルダを狙おうとしている傭兵達へ腕を向ける。
「クエイク!」
大きく足下から突き上げられた連中の間を駆け抜けながら、ハイペリオンを振り回す。そして
ガギッ
ライオンハートの蒼い刀身とハイペリオンのメタリックな刀身が激突する。
「それで……?スコール、まさかお前も襲撃者の一人か?」
鍔迫り合いのまま、睨み付けるように幼なじみを見る。
「俺はつい今し方、別件でこの場に立ち寄ったに過ぎない。ロングビル……フーケが狙われでもしたか」
「いいや、連中の狙いはマチルダじゃねぇようだ。敵じゃないならすっこんでろ、スコール」
バッと鍔迫り合いの状況から離れて、再度駆け出す。
「ティファの騎士はこの俺だぁっ!」
そんな叫びと共にハイペリオンを振り回す。
「お前の幼なじみはいつもああか?」
「ああ、いつも通りのサイファーだ」
あまりにも乱暴な物言いに、あんぐりと口を開けながらアニエスが尋ねると、こちらも呆れ顔でスコールは頷いた。
「しかし、ここは……村、いや集落か?」
上空から見ていては判らなかったが、燃えているのは木々だけではなく、いくつかの家だったらしきものの炎上している状態も見れる。
それに踏み荒らされているモノの、炎によって照らされる地面の波模様は、あれは畑ではないだろうか?
ガコッガァーンッ
スコール達を敵と見たか、斧を振り上げて近づいてくる傭兵にアニエスが容赦なく一発をお見舞いする。
「……嫌な光景だ」
今にも燃え落ちそうになっている家を見ながら、彼女は呟く。その声を聞きながら、スコールは薄ぼんやりと相棒の素性を思い出していた。
「サイファーが守ろうとしているのは、ゴーレムの上にいる連中のようだ」
些かくたびれたコートの戦場での動きを目で追いながら、スコールはそう結論づける。
「……なら、もう住民は避難しているということだろ」
「そうだな……」
それで、幾分アニエスの気分が柔らかくなったように思えた。
「戦闘は、サイファーに任せて良いだろう。俺達は鎮火の方に」
G.F.リヴァイアサン、擬似魔法ウォータの使用準備をすると共に、それぞれが手近な火元へと駆けた。
復活一回目としては短めですが、今回はここまで。
それでは、また来週。
やべぇ……名前欄のタイトルスペルミスってた……恥ずかしっ!
SeeDの人乙
>>382 アルカディアの方だけどカイン召喚があったぐらいか
ディシディア背景にすればゴル兄とか呼べそうだけどなぁ
「今だルイズ、パワーを爆発に」「いいですとも!」
SeeD乙正直更新はもうあきらめてたよ
こんばんは。
フリオニールの第9話を21:45頃に投稿いたします。
>>377 DQで王様が二束三文の支援しかしてくれないのは、大人は汚いのだ、という
堀井御大からのメッセージであるかと。
安月給で従業員をコキ使うブラック企業経営者の暗喩だと思う今日この頃。
>>392 はじめまして。新入りですがよろしく。『武蔵伝』確かにおぼえました。
「えっ!?誰かいるの?」
「でも、俺と「ご主人様」と店のマスターしか・・・」
すると、フリオニールの目の前にあった剣がカタカタと音を鳴らして語りだした。
「よぉ、お前。中々の目利きみてぇだな。しかも相当場数を踏んでいるとみた」
「け、剣がしゃべってる!ああ、この世界は本当に驚くことばかりだ。人が空飛んだり
花びらで人形作ったり」
呆気にとられるフリオニール。そこへマスターが間髪入れず、
「おいデル公!今大事な商談中なんだ、邪魔するんじゃねぇ!」
厄介な客の失言の憂さ晴らしをデル公へ向けた。
しかし、デル公はマスターの言葉に一向に構う気配は無く、フリオニールに営業を始めた。
「この世界?まぁ、いいや。けどよ、この俺様を前にして素手の方がいいたぁ言ってくれるじゃねぇか」
「だって君はデカいから命中率悪そうだし」
「命中率?ほぉ、腕に覚えありってか。だったらなおさらだ。お前、この俺を買いな。後悔はさせねぇぜ」
「そうだなぁ・・・」
フリオニールはデル公に興味津々ではあるが、剣をメインに使用していたのは反乱軍に
参加してからミスリルを入手した頃までで、その後はミンウが推奨する修行場(フィン城
北部の湿地帯)で帝国軍と戯れていた時に手に入れた『まじゅつのつえ』を愛用していた
(例のリッパーナイフ登場で『まじゅつのつえ』はアイテム欄行きとなっている)。
本音を言えば使って一番自信のある武器は杖だ(メイジでもないのに)。リッパーナイフの
ような強力な武器であれば使って熟練度を上げようという気にもなるが、目の前にあるのは
錆びたロングソード。しかし、初心に帰るには良い機会かもしれない。会話もできる。
「わかった。「ご主人様」俺、これに決めた!」
「ええ!?ガラの悪い錆びたインテリジェンスソードにするっていうのかい!?」
使い魔の決断に「ご主人様」は思わずフグ田(ryの口調になってしまった。
すると、ルイズは恥ずかしさを紛らわす為にコホンと咳払いをひとつして、
「やめときなさいよそんなの。ひょっとして、遠慮してるの?」
「いや、違うんです。俺の住む世界には喋る剣はないし、使ってみたいなって」
「そう。あんたが安上がりな人間でよかったわ」
ルイズとフリオニールのやりとりを見ていたマスターは
(なんだよ。買うのは結局デル公1本かよ。この小僧の見立てを間違えたか?いや、奴の
背中に掛けている盾。あれは見たこともねぇ代物だ。やっぱり只者じゃねぇな)
デル公を売る際に値段を吹っかけてやろうかと考えたが、フリオニールのアイスシールドが
視界に入るとやはり相手が悪いと思い直して諦めた。
「これおいくら?」
「へぇ。デル公なら厄介払い込みで新金貨50枚で結構でさ」
ルイズは予算内に収まってよかった、と安堵して財布から新金貨を取り出て支払った。
新金貨を受け取るマスター。やっとこの面倒な客とうるさい剣が出て行ってくれると
思うと自然と笑みがこぼれる。
「っつーわけで、よろしくな相棒!そういや相棒の名前は何て言うんだ?」
「フリオニールだ。よろしく!」
「俺っちはデルフリンガーだ!これからしばらく楽しめそうだぜ!」
こうして3人(?)は武器屋をあとにするのであった。
ルイズ一行は武器屋を出るとキュルケ、タバサと鉢合わせた。
「あら?キュルケにタバサ・・・」
ルイズは思いがけないところで思いがけない人物に出会い目を丸くする。
「ご機嫌麗しゅう。ミス・ヴァリエール」
言葉使いは丁寧なものの顔は引きつっているキュルケ。タバサは読書に夢中。
「やぁ、君たちも武器を?」
フリオニールはデル公を購入してもらって上機嫌だ。
「そうよ。ダーリンにプレゼントする為よ」
キュルケは相好を崩してフリオニールの腕に抱きついた。
「ダ、ダーリンって・・・」
フリオニールは「ダーリン」の言葉に背筋を凍らせた。自身の腕に当たるキュルケの大きく
実った乳房の感触を味わう余裕はない。そして、恐る恐るルイズの様子を伺うと案の定、
癇癪玉破裂まで5秒前だった。
「残念だったわね、ミス・ツェルプストー。あなたの「ダーリン」は既に武器を購入済みよ」
「ヴァリエール家では自分の使い魔にボロい剣を渡すしきたりなのかしら?」
「あら?これはうちの使い魔が自分で選んだのよ」
「私だったらもう1本プレゼントするけどなぁ」
例によって激しい火花を散らす両人。この状況を幾度となく味わう内にフリオニールは
チェリーも悪くないんじゃないかと悟り始めている。
胃が痛くなるフリオニールは救いを求めるようにタバサに話しかけた。
「やぁ。君はうちの「ご主人様」のクラスメイトだよね。こうして面と向かって話すのは初めてだね」
「・・・・・・」
ああ、助けを求める相手を間違えたか、と観念したフリオニールであったが、
「あなたに聞きたいことがある」
「えっ?俺に?」
「『先住魔法』使えるの?」
「あっ!ああ、あれは俺の故郷のロボ・カラ・アルイテで流行っている手品で・・・」
「嘘」
「嘘?」
「あなた何かを隠している」
「うっ・・・」
図星を指されてうろたえるフリオニール。すると、デル公が
「そういや、相棒がさっき「この世界」とか「俺の住む世界」とか言ってたぜ」
「黙っててくれよデルフ!」
「なんでだよ。気になるじゃねぇか」
「俺は一体どうすりゃいいんだ」
額に手をあてて苦悩するフリオニール。すると、タバサがため息をひとつ吐き、
「わかった。無理に聞こうとはしない」
「ありがとう。でも、いつの日かきっと!」
フリオニールの一言にタバサは黙って頷くとその場から去っていった。
「今日はこの辺で勘弁してやるわ、ヴァリエール」
キュルケはフリオニールから腕を放し、ルイズに捨て台詞を吐くとタバサの後を追った。
もちろんフリオニールへの投げキッスは忘れていない。
「何が勘弁してやるよ。この色情魔!」
キュルケの後ろ姿に向けて悪態をつくルイズ。フリオニールはようやく自分の目的を
果たす番が回ってきたと思い、
「ルイズさん。ちょっとあそこの露店見てきていいですか?」
「露店?いいけどわたしはもうお金出さないわよ」
ルイズの許可をもらうと、急いで露店へ向かった。
「らっしゃい!」
「へぇ、ボタンか」
テーブルの上には様々な形をした色とりどりのボタンが沢山並べられている。
どれにしようかな、とテーブルにかじりつくように品定めするフリオニールにデルフが
「なんだ?どの娘っ子にや」
からかってくるので完全に鞘に納めた。
そして、ガラス製の黒い真ん丸ボタンに目を留めた。シエスタの瞳のようだ。4個一組。
「これ下さい」
「銀貨20枚ね」
フリオニールはヘソクリの1000ぎるをポケットから出した(マジシャンからかっぱらった
『クラウダのほん』を密かに売却し小遣いにしていたもの。ちなみにぎるはマリアが管理している)。
「お客さん。何だいそれは?」
「これだけあれば『ファイアのほん』、『ブリザドのほん』にもれなく『ケアルのほん』も
付いてくる・・・ってやっぱダメですよね」
そのヘソクリをハルケギニアで使おうという根性は大したものだが、落胆するフリオニールを傍目に
店主は珍しい鋳造物に興味を持ったようだ。
「へぇ、こりゃ初めて見るな・・・よし、わかった!今回は特別だぜ!」
「えっ!?いいんですか?」
「いいってことよ。ご覧の通り、俺は小物集めが仕事であり趣味なのさ」
「あ、ありがとうございます!」
フリオニールは店主に何度も頭を下げた。そして、ルイズの元へ戻り
「終わりました」
「何してたの?あんた、何度も謝っていたみたいだけど」
「プレゼントを買ってきました!」
「あら、悪いわね。あんたも気が利くじゃない。で何?」
「えっ?」
「えっ?」
顔を見合わせる二人。
「そ、そうなんですよ。日ごろの感謝を込めて」
とフリオニールはポケットから先程購入したボタン二つを取り出しルイズに渡した。
「ふ〜ん・・・まあまね。ま、受け取ってあげないこともないけど」
とルイズは満更でもない様子でボタンを受け取ると、さっと振り返り歩き出した。
(中々かわいいところあるじゃない。こいつ)
(それ、シエスタへのプレゼントなんですけど・・・仕方ないか。ルイズにも世話に
なってるし・・・ってあれ?世話してるの俺のほうじゃね?)
それぞれの思惑の中、帰路へと向かう二人であった。
フリオニールのその行いが後日、凄絶な炎上を引き起こすことになるとも知らずに。
フリオニールの第9話は以上です。
失礼しました。
乙です
クラウダのほんをギルに換金してるということは、クラウダ程度の魔法までは少なくとも習得してるのかな
しかしギルが銀貨なのか金貨なのかはしらんが、
換金レートがわからんとはいえ銀貨20枚のものを買うのに1000払うなんて絶対ぼられてるな
Yではサボテンダーを倒せば一万ギルだからよく経験値と魔法習得値稼ぎに利用した
が、同時に出てくる砂漠ミミズがまた強いから何回全滅くらったか
北斗無双の無法者が召喚されました
どこイってもないじゃないwwwwwww
ひさぶりにやりたくなったのにwwwwwwwww
次回入荷っていつだよwwwwwww
初回入荷からどのくらいでまた入荷されるもんなのwwwwwwwwww
SeeDとチェリー乙!
SeeDは特に前回あたりに中傷的レスが出てた気がしたり心配してたけど
続き読めて嬉しいッス!
オダインは契約免れてたんですね・・・誰も見たくないし想像もしたくないですが
>大人は汚いのだ
汚すぎるだろうw
DQTは証も持たない自己申告?の少年だからまだしも
Uは正当な王子様じゃないですかぁぁぁぁぁ
しかし、貨幣単位がひらがなとか、昔のスクウェアだなぁ、と思って感慨深い
デルフとの出会いからして魔界塔士第三世界の牢獄を思い出すことがあるのに・・・なんだかニヤリw
そして今回の個人的にツボにハマったのが
>「ありがとう。でも、いつの日かきっと!」
なんかフリオニールとタバサはこれっきりになりそうなんですけどw
>>Uは正当な王子様じゃないですかぁぁぁぁぁ
素手で充分だと思われたんだろ。
破壊神を破壊するんだから、当時からその片鱗があったんだろ。
>413-414
当時の攻略本に、「王子なので高級な銅の剣と革の鎧」と書いてあったよ。
そりゃ、竹竿と布の服から見れば……
ところで、(青)銅製の武具と言えば、トロイア戦争か。
この辺の勇士は大概が神の末裔なんだよなぁ。
特にゼウス。敵も味方もゼウスの子孫だらけ。ゼウス自重しろ。
神の子孫は差し障るからって、オデュッセウス呼ぶのもはばかられそう。
ムサシとか懐かしいな、昔よくやってたなぁ
皆さんこんにちは、師走に突入、うちの地方もめっきり寒くなってきました。でもスレは祭りの様相ですね。
皆さん乙でした。では私も参加させていただきます。
ウルトラ5番目の使い魔、25話の投下準備できました。
さるよけのために、10分おいて15:50より開始いたしますのでよろしくお願いします。
ウルトラ支援っす
まて、容量は大丈夫か?
第二十五話
愚か者の勇者
大ぐも タランチュラ 登場!
古来、蜘蛛は悪魔の使いだという。
八本の足で這い回り、網の目のような巣を貼って獲物を待ち受ける姿は人間の生理的な嫌悪感を刺激する。
また、中には恐るべき猛毒をもって音もなく忍び寄り、多くの命を殺めて恐れられる種類もある。
地球でも、東西を問わずにその不気味な容姿は様々な神話・民話で語られ、代表的な妖怪の一つとなっている。
しかしその反面、朝見る蜘蛛は神の使いと呼ばれ、殺してはいけないものとされている。
さらに、蜘蛛はその巣を使って蝿や蚊などの害虫を捕獲する益虫としても知られ、珍重される虫でもある。
悪魔と神、両極の顔を併せ持つ蜘蛛の本当の姿とは何なのであろうか……?
トリステイン魔法学院のはるか地下、秘密書庫にやってきたアニエスと二人の教師に五人の生徒。
彼らはこの書庫に隠されているという、貴族たちの不正の証拠を見つけ出すために、広大な書庫の
方々へと散っていった。
だが、まだ彼らはこの地下書庫のよどんだ空気に隠された、本当の秘密には気づいていない。
地下書庫の一角、「財務関連書・ブリミル暦六二〇〇〜」と分類された書棚の前にアニエスはいた。
数百年の年月でつもりに積もったほこりにまみれながら、古書を一冊ずつ手に取り、貴族たちの賄賂の
証拠の書類を捜す。しかし、苦労に見合うだけの成果は、アニエスに達成感を与えはしなかった。
「リキャード大橋修繕工事、正規見積もり六万エキューのところが七万エキューに増額。ゲルマニアの
シュルツ伯爵の歓迎式典も、下請けのユーノフのいう商店は実は存在しないか……」
ここ二十年ばかりの資料に絞って調べても、嘆息を抑えきれないほどに不正な金の動きに関する
証拠は出てきた。それに関わった貴族の名も、リッシュモンや前回捕らえた貴族を含め、まさか!? と
驚くような人物も散見している。
「姫様が言っておられたが、国よりも黄金を愛するものたちは……いや、むしろ我々のほうが異端
なのかもしれないな」
自嘲げな笑みを浮かべて、アニエスは証拠となるその本をかばんの中にしまい込んだ。
人間、誰しも欲はある。しかし、国の柱となるべき貴族たちの中に巣食っている白蟻の数は、こうして
見てみると、むしろ真面目に勤務に打ち込んでいる自分たちのほうが異常なのではないかと思えてしまう。
「ふっ」
だがアニエスは含み笑いをすると、馬鹿な幻想を頭から追い出した。周りが異常なものばかりだから、
真面目にしているのが馬鹿らしくなって、自分も不正をするようになる。この書類に記された貴族たちは、
そうした負の連鎖に呑まれて手を汚していったのだろう。それに、今は自分も下の下とはいえ、貴族の
一員であるのだ、彼らと同じ轍を踏むわけにはいかない。
「常に誇りを持ち、身分ではなく精神の高貴さで人を判断すれば、あなたは誰よりも貴族らしい貴族に
なれるでしょう……か」
アニエスはもう一つ、以前アンリエッタから教えられた言葉を繰り返した。
すると、後ろで書類探しを手伝っていたコルベールが振り返った。
「いい言葉ですな。誰の言葉です?」
「姫様だ」
「ほお、アンリエッタ姫殿下の……精神の高潔さですか。そうですな、私も生徒たちにはそうして
貴族のありかたというものを教えていきたいものです」
「ぜひそうしてくれ。私も、将来お前の生徒たちを切り捨てることになるのは愉快ではないからな」
「ははっ……これは、ご厳しいことで」
アニエスの苛烈な言葉に、コルベールは冷や汗をかきながら後頭部をなでた。
笑い事ではない。今の魔法学院には、このまま大成したら第二第三のリッシュモンになりかねない
ものがまだまだ多くいる。彼らがまだ感受性が高いうちに、人としてのありかたを教えなくては、
いつまでもトリステインはよい方向には向かえないだろう。
コルベールは、自分がまだまだ未熟な教師であることを痛感した。教師とは、生徒の将来を左右する。
半端な気持ちで勤まるような代物ではない。
しかし、財務関連から軍事作戦関連の計画書や報告書がまとめられた場所にやってきたときのことである。
コルベールはふと、アニエスが探している書類とは関連のない項目に視線を泳がせているのに気がついた。
「アニエスくん。ほかにまだなにか探し物が?」
「いや、これは私的なものだ。気にするな」
「まあそう言わずに、袖触れ合うも多少の縁というし、若者は素直に年配を頼りたまえ」
人のよさそうな笑顔を浮かべるコルベールを見て、嫌悪する人間はまれだろう。だが、アニエスがぽつりと、
しぼりだすように告げた名前を聞いたとき、コルベールの顔から笑顔は消えていた。
「ダングル……テール?」
「そうだ。今はもうない私の故郷の、それが名前だ」
アニエスはとつとつと、以前ミシェルにも語った滅んだ故郷と、自分とリッシュモンらとの因縁を語った。
三歳のころに肉親も親類も友も皆殺しにされ、それ以来復讐を果たすことを願って生きてきたと。
「リッシュモンは死んだが、まだ直接手を下した奴らは残っている。そいつらの記録がここにあるはずだ」
アニエスが、今回あえて一人でここまで来た本当の理由がここにあった。ミシェルにとっての敵討ちは
リッシュモンが死んだときに終わったけれど、自分の復讐するべき相手はまだ残っている。ようやく
人間らしい人生を取り戻した妹を、また得るもののない戦いに巻き込むわけにはいかなかった。
「それで、仇を見つけられたらどうするのです?」
「……答えなければわからんか」
アニエスの言外の意思は、少なからずコルベールの背筋を寒くした。でも、コルベールはそれで
黙らずに、悲しげに言った。
「せっかく助かった命を、復讐ですり減らすなんて」
「なんとでも言え。貴様のように、毎日のほほんと研究していればすむほど楽な生き方はしてこなかった」
ぞんざいにアニエスは吐き捨てた。他人の言葉で簡単に生き方を変えるには、二十年という歳月は
長すぎた。今復讐心を捨ててしまうことは、たとえできたとしても、高く積み上げた塔から柱を抜いて
しまうようなものだった。
「そういえば、何か顔色が悪いな。何か知っているのか」
「あ、いえ……若い時分にあの地方には立ち寄ったことがありましたので……まさか、そんなことに
なっていようとは」
「ふん……」
それっきり、アニエスはコルベールに背を向けて振り返ろうとはしなかった。
そうして、古書をあたっているうちに、アニエスは今から二十年前の資料。ブリミル暦六二二二年、
ダングルテール事件と書かれた本を見つけ、手に取った。
「これだ……」
表紙のほこりを払ってページを開いたその本は、事件の事後報告書としてまとめられたものだった。
背中のコルベールの視線を無視しつつ、アニエスはページを追う。リッシュモンによって、新教徒狩りと
銘打っておこなわれた虐殺の全容が、この中にあるのだ。
「命令書……疫病蔓延を阻止するため、ダングルテール一帯の人間を焼却処分せよ……疫病だと!?」
アニエスは、その命令書に書かれていた内容に愕然とした。これまではリッシュモンはロマリアからの
新教徒狩りの依頼を利用して虐殺を指示したと思っていた。だが実際に発行された命令は、書面を
読む限りでは、極めて致死性と伝染性が高い疫病が発生し、やむを得ずに人間ごと焼き払うことに
決めたという、苦渋の選択をうかがわせる内面になっていた。むろん、どこにも新教徒狩りの気配も
見せない。
間違いなく、リッシュモンの仕組んだ隠蔽工作の一環であった。対面を疫病対策としておけば、
涙を呑んで苦渋の決断をしたとして同情と、決断力の高さを評価される材料になる。ありとあらゆる
ものを私欲のために利用してきた奴らしいと、怨讐の炎がアニエスの中で燃え上がる。
だが、死んだ人間への復讐は不可能だ。その恨みを向ける相手は別にいる。そう、ダングルテールに
火をかけて焼き払った実行部隊だ。
ページを進めるうちに、作戦に携わったと思われる貴族の名が記された名簿に行き当たった。
『魔法研究所実験小隊』
その総勢三十人ほどの部隊が、アニエスの故郷を焼いた張本人であった。
名前を一人一人確認していくごとに手が震える。少数精鋭の部隊であったらしく、当時かなりの
年齢ですでに故人となっていたり、傭兵メイジで本名かどうかも怪しいものも混じっていて、
手出しのしようがないものも多い。
ならばせめて、虐殺の命令を下した指揮官だけでもと、ページをめくったアニエスの口から強い
歯軋りの音が漏れた。
なんと、小隊長の名前のところが破られていたのだ。自然に破けたものではなく、明らかに誰かの
手によって破られている。これでは、もっとも罪深い男の名がわからない。アニエスは、恐らくは
その小隊長に先手を打たれていたことを知って、思わず本を床に叩き付けた。
と、そこへ本棚の影から数冊の本を抱えたエレオノールがやってきた。
「あら、あなたたちここにいたの?」
ちょうどよかったと言って、エレオノールは抱えていた本のうちから数冊、アニエスに探すように頼まれていた
タイトルの本を手渡した。アニエスは受け取ると、こちらもちょうどよかったと言って、エレオノールに尋ねた。
「感謝する。ところでミス・エレオノール、貴女は王立アカデミーの主席研究員だそうだが、魔法研究所
実験小隊というものをご存じないか?」
「は? なんの話よ」
アニエスは、エレオノールに事情を説明した。
「そう、なるほどね。確かにざっと調べてみたけど、アカデミーも昔はかなりエグいことをしていたみたいね。
でも悪いけど、今その実験小隊とやらは存在していないわね。噂も聞いたこともないわ」
主席研究員であるエレオノールが言うのだから間違いはないだろう。考えてみれば、自分の悪事の
証拠となるような部隊をリッシュモンが長々と存続させておくはずもない。
また、エレオノールの顔にも皮肉な笑みが浮かんでいた。極秘の魔法実験の資料を閲覧したいと彼女は、
確かにそうした関連の書物をいくつか見つけていた。が、それには添付して、非道な実験の数々の記録も
残されていたのだ。
「罪人を利用してのポーションの人体実験。辺境の村の井戸水に薬品を混入しての観察……異端どころか
狂気とさえいえる実験。これなら少し前の、神学一辺倒のほうがまだましだったわ」
その当時在籍していなかった幸運を、エレオノールは感謝した。そういえば、よくよく思い出してみたら、
酒の席でヴァレリーから聞いた噂では、その昔非合法な魔法実験を専門にする闇の部隊があったとか……
そのときは、よくある与太話として気にも止めていなかったけれど、こうしてみると現実味が湧いてくる。
まさか……と、アニエスに睨まれると、エレオノールははっきりと首を横に振った。
「だーから! 今はやってないわよ。いくらなんでも、そんなことをやるところに私も籍を置くものですか。
それに、今のアカデミーの所長は保守的で小心な年寄りですから、うかつなことには手を出さないでしょう」
どうかな、とアニエスは思った。小心者ほど姑息な悪事をろうするものだ。自身へのリスクを最小限に、
隠れて何をしているのかは知れたものではない。けれど、今はそれを考えるときではないので、余計な
ことは言わずに、素直に書類を仕舞った。
そのときだった。
「きゃあぁぁぁーっ!」
突然、絹を引き裂くような女性の悲鳴が響き渡り、書庫に散っていた者たちは一斉に振り返った。
「今の声は!? ミス・モンモランシ」
生徒の声にとっさに反応したコルベールが真っ先に駆け出し、半歩遅れてアニエスとエレオノールも
走り出した。
一方、別所にいたギーシュたちも当然ながら駆けつけている。
「うぉぉぉ! モンランシー、今このぼくが行くからねえ!」
「おいギーシュ! あいつあんなに足が速かったけっか!?」
まるで迷路のようになっている書庫の本棚のあいだを、一同はモンモランシーの悲鳴だけを頼りに
走り抜けていく。
「いゃあ! 誰か! 誰か来てえ!」
「こっちだ!」
声が壁に反響して聞きにくいが、大まかに聞こえてくる方向を見当をつけて一行は走った。
そして、大きな本棚の角を曲がったところでモンモランシーを見つけた彼らは例外なく絶句した。
そこには、蜘蛛がいた。
蜘蛛、全長二メイル以上はあるような巨大なクモが、倒れこんでいるモンモランシーに覆いかぶさる
ようにして、口から吐き出す糸で絡みとろうとしている。
「ギーシュ! 助けて! は、早く!」
「ま、待ってろモンモランシー! 今助けるよ!」
恋人の悲鳴で我に返ったギーシュは懐から杖を取り出した。だが、魔法を唱えようとしたその手を
アニエスが抑えて怒鳴る。
「待て! ここで魔法を使うなと言ったのを忘れたか。それに、下手な魔法では彼女を巻き添えにするぞ」
はっとしたギーシュは呪文の詠唱を途中でやめた。大グモとモンモランシーがほぼ密着している
状態では、ギーシュの得意技のワルキューレは床から作り出せても、モンモランシーも踏み潰してしまう
恐れがある。
だが、メイジたちが魔法を使えずにとまどって、アニエスが剣を抜こうとした瞬間、はじかれるように
コルベールが飛び出して大クモに飛び掛った。
「このっ! 彼女から離れるんだ」
大グモの毛むくじゃらの胴体にためらいもなく掴みかかって、ひっぺがそうと力を込める。それを見た
ギーシュたちも、勇気を振り絞って大グモに向かっていった。
「化け物め! モンモランシーから離れろ!」
「ギ、ギーシュ隊長に続け!」
「うわぁぁっ!」
奇声を張り上げながら、ギーシュたちは大グモを蹴っ飛ばしたり、本棚から取り出した本を投げつけた。
しかし大グモも、巨体ゆえの重量と怪力でなかなかモンモランシーから離れようとはしない。それどころか、
巨大な口から粘着性の高い糸を吐いて反撃してきた。
「くそっ、こんな糸なんかに!」
ギーシュたちはすぐに振り払おうとするが、糸はへばりつくだけでなく意外に頑強で、引きちぎるにも
かなりの力を必要とした。日本の昔話にも、池のほとりで休んでいた旅人のわらじに糸を結びつけて
引きずり込もうとした水蜘蛛の話があるが、あれは実は単なるおとぎ話ではない。蜘蛛の糸は集めて
紐にすればワイヤーロープ並の強度を持つようにさえなるのだ。
しかし、糸で足止めされたギーシュたちが手を出せず、ついに大グモの牙がモンモランシーに
かかろうとした瞬間。
「いゃーっ!」
「どけっ!」
大グモの注意が逸れた一瞬の隙に、アニエスの剣が大グモの喉元に突き刺さった。その一撃で
大グモは激しくけいれんし、アニエスが剣をねじって引き抜くと、足をだらりとさせて動かなくなった。
そして、大グモの絶命を確認したギーシュたちは、急いで死骸に下敷きになっていたモンモランシーを
引きずり出した。コルベールが、彼女をがんじがらめにしていた糸をナイフで切って無事を確かめる。
「大丈夫か、怪我はないかね?」
「は、はい。ありがとうございます、先生」
自由になったモンモランシーは、立ち上がると傷一つないことを皆に見せて安心させた。
「よ、よかった! 君があんなクモの餌食になったらぼくはもう生きていられなかったよぉ!」
「ギーシュよしてよ。みんな見てるじゃないの! 第一、本当ならあなたが真っ先に助けに来てくれなきゃ
いけなかったのよ! なによ! コルベール先生に先を越されたりして」
「そ、そんなぁ」
情けない顔をするギーシュの前で、モンモランシーは腕組みをして怒った態度を見せたが、それは
彼女なりの照れ隠しだった。本当は、自分のためにギーシュが素手で怪物に挑んでくれたことが
うれしくてたまらないのである。
「わたしの騎士を気取るんだったら、もっと勇敢になりなさい」
「とほほ」
落ち込むギーシュを見て、ギムリやレイナール、アニエスからも笑いがこぼれた。
それともう一つ、モンモランシーは糸を切ってもらったとき、自分が無事だったことに、それならよかったと
安堵の表情を見せてくれたコルベールの顔に、なぜか自分が安心できていくのを感じていた。さえない
はげ頭の中年教師だけど、真っ先に助けに来てくれた先生の顔が、このときはとても頼もしく見えたのは
なぜだろうか。
しかし、そんななかで一人だけ何もせずに突っ立っていたエレオノールは、なにか物悲しさを感じていた。
頭では、あのとき自分が飛び込んだところで何の役にも立たず、むしろアニエスが剣を突き立てる
邪魔にしかならなかったと理性が主張している。しかし、今笑いの輪に加わっているのは、愚かにも
素手で怪物に挑んでいった馬鹿者達のほうで、正しい判断をしたはずの自分は見るからに阻害されて
しまっている。
「ミス・エレオノール」
結局、コルベールが声をかけてくれるまで、エレオノールは一人でじっと立ち続けるしかできなかった。
「はっ……なにかしら?」
「貴女は、アカデミーの主席研究員として、学内の他の研究にも多く携わっているとのこと。この巨大な
クモですが、貴女から見てどう思われますか」
その一言で、とにもかくにもエレオノールの頭脳は再回転を始めた。絶命した巨大なクモを見下ろし、
自分の頭の中にある生物学の知識と照らし合わせてみる。
「ロマリアに生息するという、ある種類の毒グモに似ていますね。ですが、それは大きくても十サント
前後しかないはず。突然変異か、新種か……どちらにしても、わたくしも初めて見ますわ」
「そうですか……」
一同はあらためて巨大グモの死骸を見下ろした。全身に針金のような毛を生やし、鋭い牙を隠した
口を持つ姿は、悪魔の化身と呼んでも差し支えはなかった。
「まさか、学院の地下にこんな奴がいたとは、夢にも思わなかったな」
ギムリがぽつりとつぶやくと、ギーシュとレイナールもそうだなとうなずいた。
モンモランシーは、もう見たくもないらしく、ギーシュに寄り添って目をそむけている。
そして、光を失ったクモの目をじっと見つめていたコルベールが、ぞっとするくらい重い声で言った。
「これまで、地下に入って帰ってこなかった人たちは、みんなこいつにやられたんでしょうな」
ギーシュたちは一様に身震いし、特に餌食になる寸前だったモンモランシーは短く悲鳴をあげた。
身の毛もよだつことだが、ほかに考えられない。アニエスは集めた書類を確認すると、簡潔に全員に
向かって告げた。
「長居は無用のようだ。さっさと引き上げるぞ」
反対意見は出なかった。まだ足りない本はあるけれど、ここは危険すぎる。書庫は逃げないのだから
いずれまた戦力を整えて来ればよい。
モンモランシーは言うに及ばず、ギーシュたちも下心はとうに吹き飛んでいた。
「は、早くこんなところから出ましょうよ!」
「落ち着きたまえよモンモランシー、これまでも君はぼくが守ってきたじゃないか」
「その度にわたしは死にそうな目に会ってたじゃないのよ!」
今にも二匹目のクモが出てくるのではと怯えるモンモランシーをギーシュがなだめるが、本能的な
恐怖が言わせてるのだからいかんともしがたい。
このままではヒステリーを起こしかねないモンモランシーに、困り果てたギーシュは助け舟を求める
ように周りを見渡した。しかし悪友二人は贅沢な悩みだと言わんばかりに目を逸らしていて、アニエスは
知らん顔、コルベールとエレオノールは「そういうのは恋人のあなたの仕事でしょう」と言わんばかりに
静観している。
まったく頼りにならない連中に、ギーシュはみんなの薄情者と心の中で叫んだ。
ああ、モンモランシーは可憐で美しいけれど、ちょっと怖がりなところが玉にキズだなあ。いやいや、
そんなところも可愛いんだ。これがキュルケだったら、こんなクモなんかは……
「ん? ちょっと待てよ。そういえばキュルケはどうした?」
皆はギーシュの一言ではっとした。慌しかったので気がついていなかったけれど、こんなときに
普通なら真っ先に駆けつけているはずのキュルケの姿がどこにも見えない。モンモランシーもそのことに
気がついて見渡すが、あの燃えるような赤毛だけがこの場から欠けている。
「まさか……」
悪い予感が場を駆け巡る。もしや、いやあのキュルケに限ってそんなはずはない。きっと、悲鳴を
聞き逃したか、まだたどり着いていないだけだろう。そんな楽観的な考えが浮かんだ、そのとき。
「うあぁぁーっ!」
絶叫が、断末魔の叫びにも似た絶叫が響き渡り、一同ははじかれたように振り返った。
「しまった!」
コルベールが真っ先に駆け出し、遅れてアニエス、ギーシュたちが続く。
こんな場所で、ちょっとでも気を緩めたのが間違いだった。コルベールは、生徒を助けられたことで
安堵し、その生徒のことを忘れていたことを深く悔いたが、今はそんなことを言っている場合ではない。
しかし、当然というべきであろう。逃げ場を塞ぐように、天井や本棚の上から新しい大グモが何匹も現れる。
「正面突破するしかない!」
立ちふさがる大グモを、コルベールとアニエスが先頭になって排除しながら彼らは走った。
そうして、なんとか入り口の玄関ホールまで戻ってくると、コルベールは皆に告げた。
「よし、ミス・ツェルプストーは私が助けに行く。皆は先に地上に逃げてくれ!」
「先生!? いや、一人では危険ですよ」
無茶だと、レイナールが抗議した。
「大丈夫、若い頃にはそれなりに場数も踏んできた。アニエスくん、ミス・エレオノール。すまないが、
生徒たちを頼む」
「わかった。気をつけろ」
アニエスは、ホールに入ってこようとする大グモにナイフを投げつけながら答えた。すでにあちこちの
通路から何十匹もの大グモが集まってきている。この調子では、あと数分もせずにここはクモで
埋め尽くされてしまうだろう。
だが、アニエスたちが入り口のドアを開け、コルベールが走り出そうとしたときだった。突然書庫全体が
地震のように身震いを始めて、不気味な地鳴りの音が書庫に響き渡り始めた。
「いかん! 防犯用の魔法が動き始めた」
コルベールの言ったとおり、書庫の本棚が動き始めて通路の幅を狭め始めている。中で違法な行為を
おこなったものを抹殺する、機密保持のための恐るべき仕掛けだ。しかし、この仕掛けが動き出すための
スイッチは、中で魔法を使うこと。この中の誰もが魔法を使っていないことを考えたら、答えは一つだ。
「そうか、キュルケが魔法を使ったんだ」
「ということは!」
「彼女はまだ無事だ!」
ギーシュたちの歓声が唱和された。正直、彼らもいくらキュルケでもこれほどの大グモに襲われたら、
もしかしたらと不安に思っていただけに、喜びも大きい。けれど、魔法を使ってはいけないとわかっているはずの
キュルケが魔法を使ったということは、それだけ追い詰められているかもしれないということだ。
猶予は無い。コルベールは『フライ』の魔法で飛び上がった。
「みんな、急いで! ここにいては命が危ない」
「待ってください先生、ぼくらも手伝います」
「馬鹿な! 危険すぎる」
「一人で行くほうが危険ですよ。それに、もう魔法を使ってもかまわないんだったら、ぼくらでも役に立てます」
ぐっと、コルベールは言葉に詰まった。確かに、この広い書庫のどこにいるかわからないキュルケを
探すのには人手がいる。しかし、一刻も早く立ち去りたいエレオノールは怒鳴った。
「あなたたち何を言っているの! あなたたちのようなひよっこが出て行っても、なにもできるわけ無いでしょう」
だが、ギーシュたちはひるまなかった。
「エレオノール先生、すみませんがお逆らいいたします。友を見捨てては騎士の恥! 先生はモンモランシーを
頼みます。では!」
あとはギーシュたちは振り向かなかった。『フライ』で生き物のように荒れ狂う本棚の上に飛び上がっていく。
「さあて、ギムリ、レイナール、久しぶりに三人で戦うとしようか」
薔薇の杖を杖を芝居臭く振るギーシュに、ギムリとレイナールも懐かしそうに笑った。この面子だけなのは、
スチール星人とヒマラのとき以来になるか。彼らの前には、本棚の上に上がってきた大グモどもが立ちふさがっている。
さっきはやってくれたが、今度はこっちの番である。
「レイナール、作戦を頼む」
「作戦って、コルベール先生を助けてキュルケを探し出す。バケモノ退治は二の次、それ以上あるかい?」
「上等だよ。ようし! 次期水精霊騎士隊、WEKC出撃!」
「了解!」
久々に名乗る自分たちの騎士隊の名を高らかに宣言し、三人は邪魔者をありったけの魔法で蹴散らして
突っ込んでいった。トリステイン王宮でバム星人と戦って以来の腐れ縁だが、隣に戦友がいるということは
限りなく勇気が湧いてくる。
エレオノールは、コルベールを先頭にして荒れ狂う書庫の奥へと飛んでいく四人の男たちを唖然として
眺めていた。
「馬鹿なんだから、ドットの駆け出しメイジができることなどないわ。黙ってトライアングルに任せておけばいいのに」
その評価は恐らく正しいだろう。メイジとしては最下級のドットメイジは使える魔法の威力も小さく、使える
精神力の量も少ない。あんなに派手に飛び回ったらあっという間に精神力切れを起こしてしまうのに。
でも、同じように彼らを見送ったモンモランシーは、そんなエレオノールに抗議するように、微笑んで言った。
「ええ、ギーシュもあの連中もたいしたバカですよね。でも、ああいう人たちを、”勇者”っていうんじゃないですか」
「ああいうのは蛮勇っていうのよ。考えなしで動く男は、早死にするだけよ」
口先だけで実のともなわない男を、エレオノールは山のように見てきた。戦争になったら真っ先に突撃
すると言い、そのとおりに戦死した馬鹿もいる。そんな男たちを知っているからこそ、エレオノールには
ギーシュたちの行動が愚かに見えた。
しかし、モンモランシーはそんなエレオノールの言葉に苦笑しながら。
「そうですね。おかげで、わたしはいつも冷や冷やさせられっぱなしで……でも、男ってのはそんな
バカなところが可愛いんじゃありませんの?」
モンモランシーの、その若いのに達観したような笑いに、エレオノールはため息をつくのと同時に、
「なるほど、だから女は苦労するのね」と、自身も悟ったような笑みを浮かべた。
お母さま……お母さまなら、こんなときどうなさいますか……?
だがそのころ、キュルケはまさに死の門のふちに片足をかけた状況に陥らされていた。
全身を糸でがんじがらめに巻き取られ、顔だけをかろうじて出して身動きひとつできない状態の彼女に、
大グモたちが我先にと群がってくる。モンモランシーが襲われたのとほぼ同時刻に、キュルケも大グモの
大群に襲われていたのだ。
「わたしとしたことが、こんな不覚をとるなんて! こ、こないでぇ!」
叫んでも、クモに言葉が通じるはずはない。杖だけはかろうじてまだ握っているけれど、振ることが
できなくては意味がない。今のキュルケには、逃げることも、抵抗する術も残されてはいなかった。
大グモに最初に襲われたとき、誇り高い彼女はモンモランシーとは違って助けを呼ぼうとはせずに、
自力で切り抜けようと考えた。でも、いくら強力な炎の使い手のキュルケでも、こんな狭くて可燃物が
あふれた場所では下手をすれば自分まで焼いてしまう。おまけに、魔法を使えば防犯用の魔法が
作動すると言われていたのが彼女の判断力を鈍らせた。走って逃れようとして、気がついたときには
四方八方を取り囲まれ、やっとファイヤーボールを一発使ったときには手遅れだった。
「ああっ……や、やだ」
抵抗できないということと、相手に言葉が通じないということが、炎の女王のような気丈なキュルケの
心の鎧の中に、恐怖という冷たい水を浸透させていく。
ミイラのようにされ、身をよじることもできないキュルケに向かって大グモが口から唾液を垂らしながら
迫ってくる。キュルケは、本棚に書き残されたメッセージの言葉を思い出した。
『タスケテ、タベラレル』
ああっ……こんなことなら変ないたずら心なんか起こさなければよかった。いつもなら窮地に陥ったとき
助けてくれるタバサもここにはいない。クモの口腔の奥までが覗けるようになり、捕食されるという、動物的な
恐怖がキュルケの胸を支配する。
毒の唾液が垂れる蜘蛛の牙が目の前に迫り、思わずキュルケは目をつぶった。
だが、クモの喉から突然うめき声が漏れ、おそるおそるキュルケは目を開いた。
そこには、クモの背に自分の杖を槍のように刺して、自分を見下ろしているコルベールの姿があった。
「大丈夫かね、ミス・ツェルプストー」
「せ、先生……」
キュルケは、それを口にするだけで精一杯だった。自分が涙目になっていることすら気づかずに、
火の魔法で自分を拘束している糸を焼ききるコルベールを見上げている。
「先生! 急いで!」
周りでは、ギーシュたちがクモの大群を相手に必死になって防戦しているのが見える。それで、
キュルケはやっと皆が助けに来てくれたのだと理解した。
「ミス・ツェルプストー、どこも怪我はないかい?」
「はい、でもみんな、どうやってここに?」
「なあに、クモが一番集まっている場所に君がいるなとギムリくんが気づいてくれただけだ。それより、
さあ早く私につかまって」
腰を抜かしているキュルケを背負おうと、コルベールは彼女の傍らにかがもうとした。しかしそのとき、
この場所でも防犯の魔法が作動し、彼らのそばの本棚から大量の本が吐き出されてきた。
「危ない!」
二メイルはある本棚から、二キロはある分厚い本が雨のように降り注ぐ。コルベールはとっさに
キュルケの上に覆いかぶさり、彼女の傘になった。その背や頭に、容赦なく鈍器と化した本が叩きつけられる。
「せ、先生!?」
「だ、大丈夫だ……それより、早く」
本の雨を耐え抜いたコルベールは、キュルケを担いで『フライ』で飛び立った。力が足りない分は、
ギーシュたちが途中立ち止まりながら、『レビテーション』で補佐しているが、コルベールの額は切れ、
血が垂れ落ちている。
「先生……苦しくないんですの……?」
「ん? そりゃあ、痛いし苦しいさ。でも、私の大切な生徒のためなら、なんてことはないさ」
空元気を張っていることくらい、声色でキュルケもわかる。けれど、こんな立派な、先生らしい先生が
ほかにいるだろうか。キュルケは思わず、ぎゅっとコルベールにしがみついた。
「先生、出口です!」
先行していたギムリの声が響く。あと少しで、この魔宮と化した書庫から脱出できるだろう。
けどそのとき、天井から落下してきた大グモがコルベールにのしかかり、キュルケを奪い取ろうとしてきた。
「くそぅ、みんな、彼女を頼む」
「先生!?」
背負ったキュルケをギーシュたちに放り投げ、コルベールは一人で組み付いてくる大グモに立ち向かう。
すぐにギーシュたちが駆け寄ってコルベールを救い出そうとするものの、大グモはまだこんなにいたのかと
思うくらいに集まってくるではないか。
「だめだギーシュ! これ以上の戦いは、もう精神力が持たない」
『フライ』を使いながら、断続的に攻撃魔法を使わざるを得ない戦いが、ドットの彼らから急速に
精神力を絞りつくさせていた。ギーシュに肩を借りたキュルケが、コルベールを救おうと杖を向けるが、
その手をギーシュが止める。
「だめだキュルケ! 炎の魔法では、どう撃っても先生を巻き添えにしてしまうぞ」
「そんな! じゃあどうしろってのよ」
助けられたまま、借りを返せずに終わるなどキュルケは許せなかった。そうしているうちにも、
大グモは糸を吐き出し、コルベールを奥へ奥へと引きずり込もうとしてくる。
「みんな! 私のことはかまうな! はやく出口に行くんだ!」
「先生! そんな、そんな卑劣なことぼくらにできると思ってるんですか!」
「行くんだ! 私は教師だ。生徒を道連れになどしては、地獄で私の肩身がなお狭くなる。早く!」
コルベールは大グモから逃れようとするどころか、自ら大グモを抱え込んで生徒たちに向かわないように
押さえつけて叫んでいた。
両手両足を糸で拘束され、連れ去られていくコルベールをギーシュやキュルケたちはどうすることも
できずに見守るしかできなかった。そう……あきらめかけたとき。
『念力!』
突然、本棚に納められていた書物が浮き上がり、弾丸と化して大グモたちを襲った。
群れはそれで隊列を崩し、ひるんだところにさらに本が叩きつけられて、コルベールを捕まえていた足が緩む。
ギーシュたちは何が起こったのか正確に理解する間もない。そこへ、間髪いれずに魔法の光が飛んだ。
『錬金!』
魔法の光がコルベールを拘束していた糸を砂に変え、それ以外の糸は鉄に変わって大グモたちの
動きが封じられる。魔力を飛ばしての遠隔地からの錬金。土系統の中でも高等なそれに、やっと
振り向いたギーシュたちは、その魔法を飛ばした張本人が誰かを知った。
「まったく、世話の焼ける生徒に先輩なんだから! 急ぎなさい! 早くこんなところからはおさらばするわよ!」
「エレオノール先生!」
歓喜の声がギーシュたちの口から飛び出る。エレオノールが、逆三角のメガネの下の顔を心底腹立たしげに
歪め、母から命じられた清楚の仮面を脱ぎ捨てることを承知で、それでも助けにきたのだ。
自由になったコルベールは残りの力で『フライ』を使って脱出し、皆も残りの精神力で飛んで続く。
そして、玄関ホールで持ちこたえていたアニエスたちと合流し、一行は今度こそ書庫からの脱出に成功した。
「ここからはもう走るしかない。みんな、急げ!」
精神力が尽き、あとは体力に頼るしかない。書庫と地下通路を隔てる谷間にかかる石橋を一行は
全力で走った。しかし、渡ろうとする人間に連動するかのように石橋はひび割れて、見る見る間に崩落をはじめる。
「わたしたちを帰さない気ね! どこまで意地の悪い仕掛けなのよ」
「駆け抜ける以外ない、走るんだ」
ここさえ突破すれば後はもう仕掛けはないはずだ。一行は必死で崩れ落ちていく橋を渡る。しかし、怪しい
気配を感じて後ろを振り返ったモンモランシーが叫んだ。
「クモ! クモが追ってくる」
「なに!?」
見ると、書庫から這い出てきた大グモたちが追いかけてくる。よく見たら、来るときは気づかなかったが
谷のあいだには糸が通してあって、連中はそれを伝って追いかけてくる。途中で捕まったら今度こそ助からない。
しかし、人間の走る速さよりクモが糸を這うスピードのほうが速い。魔法で迎撃しようにも、少しでも足を
緩めたら崩落に巻き込まれてしまう。
これまでか! だがその瞬間、谷の上から青い光芒が放たれてクモたちをなぎ払った。
『ナイトシュート!』
一瞬で、一行に追いすがっていたクモたちは吹き飛ばされ、残ったものも糸を断ち切られて谷底へと落下していく。
そのおかげで、コルベールたちは石橋が完全に崩落する前に、かろうじて渡りきることができた。
それを見届けると、彼らを救った何者かは青い光を残して幻のように消えて、洞穴には再び静けさが戻った。
地下書庫は谷の向こう側に蜃気楼のようにたたずみ、もうあそこに行く手段は無い。
ようやく、すべての罠から解き放たれたことを悟ったギーシュは、気が抜けたように地面にへたりこんだ。
「はぁ、死ぬかと思ったよ」
緊張から解き放たれて、大きく息をついたギーシュを見てギムリやレイナールも笑った。
エレオノールも軽く額の汗を拭き、コルベールも相貌を崩した。
もう大グモも追ってくることはできない。アニエスは、目的が失敗した悔しさよりも、窮地を切り抜けた
仲間たちが全員無事だったのに満足そうな笑みを浮かべ、先頭に立って宣言した。
「さあ、こんなところに長居は無用だ。地上に帰るぞ!」
「おーっ!」
全員そろって、こんな辛気臭いところには一秒も早くおさらばするために歩き出した。
道中は、ギーシュたちがそれぞれの活躍の自慢話をしたり、モンモランシーがそれに突っ込みを
入れたりして、あんな騒ぎの後だというのに行きと変わらないようなにぎやかさに包まれた。
そんな中で、生徒たちから一歩下がって歩いていたコルベールに、エレオノールが話しかけた。
「ミスタ・コルベール、少しよろしいかしら?」
「ああ、ミス・エレオノール、先程はどうもありがとうございました。あなたのおかげで助かりました」
「勘違いしないでくださる。わたくしはただ、ヴァリエール家のものとして、恥ずかしくない行動をしたまでです。
同僚を見殺しにしたなどとしたら、家名を剥奪されますわ。それよりも、なぜ貴方はあんな無茶を?
あなたには、やりたい研究や信念があるのではなかったのですか?」
エレオノールは、コルベールの才能を内心では認めていた。彼に匹敵する頭脳の持ち主は、めったに
いはしないだろうに、なぜその頭脳をむざむざ危険にさらすのか、自分なら何が何でも危険は避けようと
するだろう。すると、コルベールは照れたようにしながら、しかし口調は強く答えた。
「確かに、それも私の生涯をかけてやりたいことだと思っています。ですが、それ以前に私は教師なのです。
生徒を守るという、その義務を果たせずして何の信念でしょう」
「それで、あなたの研究が未完に終わってもよいと?」
「人の命に代えられるものなどありませんよ。特に若者はね。彼らは今はひよこですが、いずれ私よりも
大きなことをなせるようになるでしょう。そう、貴女にもあんな時期があったでしょう」
コルベールはそう言って生徒たちを指差した。そこには、バカ話を続けているギーシュたちがいる。
エレオノールは、そんな彼らをうとましく思いながらも、そういえば確かに私にもあんなころはあったかなと、
風化しかけていた学院生時代の記憶を呼び起こした。
いつの間にか忘れていた、心の赴くままに行動できた時期。それに、エレオノールは橋を渡りきった後で、
ギーシュたちや、モンモランシーから送られた言葉を思い出した。
「エレオノール先生、ありがとうございました!」
淑女として振舞うのを忘れ、気丈な本性を出してしまったというのに、彼らは恐れるどころか笑っていた。
なにか、利口ぶって気をはいていたのがバカみたいだ。さて、なにが悪かったのだろうか。
そして、エレオノールは、あなたは研究者としては二流ですわねと前置きをした上で、恐縮している
コルベールに言った。
「……でも、我が身を捨ててでも生徒を守ろうとする、教師としてのあなたの使命感には感心しました。
今度、お茶でもしながらお話でもしませんか?」
「は、はい! よ、喜んで!!」
男やもめ歴、四十とうん年。ミスタ・コルベールは、跳ね上がらんばかりに喜んだ。
しかし、そんなコルベールの背中を、キュルケが熱いまなざしで見つめていたのに、二人は気がついていない。
「ヴァリエールの女……ふふ、やはりこれは宿命なのかしらね」
人の気配が去り、地下書庫には物音一つしない静寂が蘇った。
アニエスは地上に上がると、太陽の光の中で、まるであれが夢だったように思えた。
広大な地下書庫も、凶悪な大グモたちも、現実のものだったのだろうか。
もしかしたら、あの大グモたちは、過去数百年に渡って地下に葬られてきた人間たちの怨念が形を
なしたものかもしれない……なかったことにされたものたちが、自分たちの存在を認めさせようとした。
あるいは、地の底への道連れを増やそうとしたのか……
アニエスは、ふとそんなことを考えると、首を振った。
「埒もないな……」
ぽつりとつぶやくと、アニエスは白昼夢に別れを告げた。
どうせいつかは地に帰るのなら、そのときまでは太陽の下で生きていたいなと、そう思うのだった。
続く
以上です。素早い支援ありがとうございました。
さて、アニメ版とはメンバーを変えての地底の秘密文書編、お楽しみいただけたでしょうか? ギーシュたち
悪友三人組を久々に活躍させられました。そういえばARMSの人のものを読んで思い出しましたが、
アルも「考えるだけの天才より行動する馬鹿が勝つ」と言っていましたね。私もせめて考えるだけの馬鹿に
ならないよう心がけたいものです。この三人はうまい具合に個性がからまっているので、今後も機会があれば
登場させたいと思います。
また、先週ギムリの口調について疑問を感じられていた方がおられたようですが、私の中ではギムリはアニメ版で
ギーシュを隊長と常に呼んでいた印象が強いのでその影響です。今後、彼らだけでもっと砕けた場面が
ありましたら友人どうしの会話も書かせて頂きますね。
それから、大切なお知らせというかお詫びがあります。
実はこれまで週一回ペースで投稿を続けてまいりましたが、11月に入ってから仕事のほうが年末の
追い込みに突入したようで急に忙しくなり、疲れがとれずに執筆ペースが落ちてきました。
そのため、申し訳ありませんが来週12日と再来週19日は冬休みということで休載させていただきます。
毎週楽しみにしていただける方々には本当にすまなく思いますが、このまま続けて質を落としては
なお申し訳ありませんのでご了承ください。
ウルトラさん乙!
仕事が忙しくなって執筆が遅れるのは仕方ないですよ。
休み明けをお待ちしております。
ウルトラ乙です
次スレあります? ないならやるけど
>>435 あ、ちょっとごめん俺あんまり2chのシステム詳しくないんだ
/l50を前スレ(このスレ)のアドのケツにつければいいのかな? それだけ教えて
あ、数字間違えたかも?wikiの方が実質284になってるね
ウルトラの人、乙でした。
お仕事、頑張ってください。
遅れたがSeeDの人乙
俺アンタの事信じてたぜ・・・・・・帰って来てくれてありがとう
ウルトラの人乙
休載宣言に、
スペシャル番組がよくやる時期に、楽しみにしてたアニメとかが見れなくなってガッカリしてた頃の気分を思い出したw
こんばんは。フリオニールを投稿している者です。
ぎるに関しては正直、適当に書いてしまいました。すまぬ。
>>413 小ネタでくすっと笑ってもらおうというのが投稿する際の主旨だったので
本懐です。ありがとう。
ああ、書き溜めをしないでここまできたけど、今日は間に合わなんだ。すまぬ。
明日以降に投稿できればと思います。
では。
次スレはえーなと思ったらもう480KB超えてたのか
500kbなら
何か書く
┌○┐ お断りします
│お|ハハ
│断|゚ω゚)
│り| //
└○┘ (⌒)
し⌒
2年前に匹敵する早さだったな
埋め
思ったけど
ルイズ→ゼロ魔ヒロイン。スレ名にもあるようにルイズがクロス先のキャラを召喚するSSがほとんど
タバサ→ゼロ魔外伝の主人公、トライアングルなのでかなりの使い手。本編でもイベントある。
シエスタ→よくクロス先のキャラに助けられる。祖父などがクロス先の世界の元住人
イザベラ→何故か一時期イザベラメインのSSをよく見掛けた、ような気がする
テファ→虚無の担い手なのでクロス先のキャラを召喚する事もある。メイン張ってるSSもある
アンリエッタ→ロイヤルビッチ。トリステイン、あるいはハルケの王族貴族の駄目な象徴的な何かとして重宝される。
ギーシュ、フーケ、ワルド→実質的なラスボスその1、2、3。
コルベール→わりと使い勝手が良い
とりあえずそれぞれのキャラの印象書いてみたけどキュルケって使い勝手が悪いよね
虚無の担い手じゃあないし、本編でも活躍の場があるわけでもない、というかもういない
ヒロインは何人もいるし、乳のデカさではテファに負けてるし
本当はロイヤルビッチよりもビッチだが向こうの方が濃い
戦闘面でもトライアングルでけっこうな使い手だがタバサより下で同じ系統には使い勝手の良いコルベールがいる
使い魔もいるかどうかわからない奴でどこぞの竜とかモグラに負けてる
こんな調子なのでキュルケが活躍してるSSが見つからないんだがどうしよう
という事で500取った奴、キュルケメインで何か書こうぜ
↓
キュルケメインのは読んでみたいけど自分でSS書こうとは思わないなぁ↑
/ `丶、
ト、 _/ / ヽ
(⌒⌒) ヽ._ .ィ / { l ヽ \ ,ハ
\/ , -、 l/{ { i 八 ∧ィ⌒ヽ ヽ ', , '⌒ヽ
r‐‐--rx、 (⌒ / i从八 { { ト、 l X=ミヽ| j 〉|{ ⌒ヽ
ノ厂j7} マ、`ヽ′ // iヽトト、{ \辷グ ル'l/lノ| ヽ、 _ノ
ゝイフニ八 い / / ∠j小. ' :::: / l/l i| )'"´
. |仁i::::::ヽ | ,/ /´ /j|ヘ. ` ´ ..ィ / l| { | _,r‐ 、
. 仁i::::::::::j V / i ,}/ ,' ハ} ´ {リ /zく ヽヽ、 ( 八、
. ノイ:::::::ノ、 V } / / ,/ ヽ ノ- { i {ニ{⌒ヽ \ `ヽ/ }ハ
{ス{´/ /∧ ∨>'" / , Vヽ ヽ\__! \ \__ノ }
`フ′/ 〉'"´ ,.ィ=チ`丶、 j/ __rヒ入 ミ=ー `ヽ \ヽ /
´ / / // / /{::jミフ::j`ヽ:::Y、ノヒフ.::::::ス ンーr ‐r=ミ V ヽ、_ . '′
ー=彡' / , / 人}ミj::::} Y´フ´ ̄j:::::::::jミフ::::ノ 「`ヽ ', ヽ
/ / {i,〈 ノヽ:ノー个个ーr'.:::::::::jミフ/ / ) i ハ
. i i |i ゝイ ∠. イ 川j {ー‐-くミi,′ / ___/ ハ }
! i i | | 7ニ厂「`ヽー'.::::::::jミ/ ∠´ / / ≧x、ノ
ノ { | V 、ノ仁/:::::| ヾ::::::::::{ムァ'ア>'" /__〈ィ `ヽ
( ヽ ヽ ヽ イニシ´::::::,′ \:::::彡 '" ,.イアア〈// }
ヽ \ \ \イ.::::::::::/ Y /.:::::::::::::::ゝ--イ\_ノ
\ ヽノハ. \_,ノ:/ l | / ̄`ヽ.:::::::::::::::仁jヽ.__ノ
x彡'´.:::::::::ゝ----‐''".:::/ | /.::::::::::::::::::Y:::::::::::::}ニ}
. /jニZ::::::::::::::::::::::::::::,. -‐'" l /.::::::::::::::::::::::!:::::::::::::}ニ}
.::::jニZ::::::::::>ー‐マ´ V {::::::::::::::::::::::::j::::::::::::::}ニ}
:::::jニZ:::/:/ \ / \:::::::::::::::::::::/.::::::::::::::}ニ}
:::::jニZ::i:::i ヽ / ヽ.::::::::::::/.:::::::::::::::::}ニ}