【ジョジョ】ゼロの奇妙な使い魔【召喚91人目】

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931名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/01(日) 14:02:59.07 ID:UnR7AxBq
おまけとはいえ、ストーリーモードが・・・
せめて原作のコマ着色してカットインするくらいしてくれよ
932名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/05(木) 10:24:00.41 ID:mA8p8mzk
ゼロの兄貴の続きが見たい
933名無し 投下予告:2013/09/18(水) 10:32:40.65 ID:JFG/AV8g
特に問題がないのでしたら、本日11:00ごろに投稿予定。
主人公は『ヴィネガー・ドッピオ』、タイトルは『ゼロの奇妙な腹心』です。
934ゼロの奇妙な腹心:2013/09/18(水) 11:00:12.43 ID:JFG/AV8g
――とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。
 とても暗いどこかの中で、その着信音は突然聞こえてきた。
 やった。ついに。ついにきたんだ。
 どこから聞こえてきたんだろう、この音は。
 今までずっと待ちわびていた、たった一本の電話。
 あの日から、あの人は連絡も何も寄越さず、僕はそれをただただ待ち続けていた。
 急いで出なきゃ。そう思って電話を探すけれど、見つからない。

 ――とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。
 わかってる。わかってるよ。
 僕だってすぐに出たいんだ。
 でも電話が見つからない。どこにもないんだよ。
 待っててください。今すぐ、今すぐ見つけて出ますから。
 ……おかしいなぁ、ここらへんに何かあった気がしたんだけど……

 ――とおるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるん。
 ああ、ちくしょう。
 さっきから手探りで暗闇の中、音だけを頼りにしてるってのに、どこにも電話なんて見当たらない。
 どうして。いつもあの人からかかってきたときは、すぐ見つかるってのに。どうして今日に限って。どうして。
 願っていた日がやってきたのに。
 願っていた時がやってきたのに。
 焦って僕はがむしゃらに手を振り回した。
 手に電話があたることを期待しているが、それでも電話にはぶち当たらなかった。
 音からしてここにあるはずなのに、どうして見つからないんだ。

 ――とおるるるるる………………
 ……え?
 いきなり、電話の着信音が切れてしまった。
 それから、もう電話はならなくなってしまった。

 ――嘘だ。
 そんな。
 どうして。
 待って。
 ここにいるんだ。
 聞こえてるよ。
 今出るんだ。
 待って。
 だから。
 もう一度。
 もう一度だけ。
 電話かけてください。
 すぐに見つけます。
 ずっと待ってたんだ。
 もう少し待ったっていいじゃないか。
 だから……だから……

 ……でも、どれだけ願っても、もう電話がかかってくることはなかった。
 待ち望んだその一時がやってきたとき、僕はそれに応えることができなかった。

「……寂しいよぉ……ボス……」
 音がなくなったその暗闇の中に、僕の小さなささやきは飲み込まれていった……


僕の名前はドッピオ。
イタリアの一大組織、パッショーネのボスの側近だ。
935ゼロの奇妙な腹心:2013/09/18(水) 11:07:13.25 ID:JFG/AV8g
「――?」
 ドッピオの目は、不意に光を感じた。
 ボスとともに裏切り者のブチャラティチームの抹殺に向かったあの日……
 銃弾で撃ち抜かれたあの時を境に、無音の暗闇しかない空間へと閉じ込められた彼にとって、それは奇妙なものだった。
 あまり強くない光なのだろうが、ずっと光のない場所にいた彼にとっては十分すぎる刺激だ。
「――う、ぅ……」
 まるで恐ろしいものにでも怯えるかのように、ゆっくり、ゆっくりと瞼を開けるドッピオ。
 あの日から初めて光を受けた彼の目が映したのは……桃色の綺麗な髪をした、一人の少女だった。
「――ッ! 先生!」
「う、うわっ!?」
 ドッピオが目を覚ましたことをその少女が確認したとたん、彼女は大きな声で誰かに呼びかけた。
 その声も、無音の場所にいたドッピオにとっては大きな刺激で、思わずビクリと震えてしまう。
「ミス・ヴァリエール。彼は目を覚ましたのかね?」
 すると――ここはどこかの医務室だったのだろうか――仕切りの向こうから、髪の少ない性格の穏やかそうな男の人が一人、やってきた。
 なんだ?
 なんなんだ?
 頭の中で疑問がいくつも浮上するが、どれもこれもが今は何もわからないことだらけで、ドッピオは余計と混乱するだけだった。
 ボスからの電話に出ることができなかったとき。
 あれから自分は後悔して長いこと泣き続け、それに疲れて眠っていた。
 そして起きてみれば、眼前には人がいる。ついさっきまでいたはずのあの真っ暗な空間とも違う場所にいるようで、わけがわからない。
 混乱しているドッピオを気にかけてか、男の人がドッピオに話しかけてきた。
「ああ、お体の具合はよろしいですか? いえ、こちらが呼びかけても全く反応もなく、目覚めてくれなかったものでしたので……医務室にまで運んだのです」
「は、はぁ……どうも……」
 ドッピオは感謝の言葉を述べるとともに、心密かに安堵した。
 どうもまだわからないが、この人たちは意識がなかった自分を、わざわざ看護してくれたらしい。
 どんな人にも弱腰になってしまうドッピオだが、こう見えても彼はボスの側近(実際は違うのだが)だ。
 ボスの命令で、彼は何度か任務をこなしていた。
 そのどれもが組織の運命を左右しかねないもので、もちろん他の団員が受けるようなものとは段違いに危険が多い。
(とはいえその度にボスに助力してもらってたんだけど……)
 いつどこから敵がやってくるかわからなかったので、本来臆病なことも相まって彼は一際警戒心が強くなっていたのだ。
 今近づいてきた彼らだって、ドッピオは最初こそ警戒していたのだが、様子を見るとどうやら自分に危害を与えるつもりはないらしい。全面的に、というまではいかないが、ある程度信用してもいいだろう。
「あの、ここってどこですか? イタリアのどこかなんでしょうか?」
「イタリア? そんな場所は聞いたことはないが……ここはハルケギニアにある国、トリステイン。そこでも貴族の子供たちが、魔法と貴族としての作法を学ぶトリステイン魔法学院です」
「……はい?」
 
936ゼロの奇妙な腹心:2013/09/18(水) 11:09:56.66 ID:JFG/AV8g
ドッピオは驚きを隠せなかった。
 この男、いったい今何と言った?
 貴族? ハルケギニア? トリステイン?
 これまで様々な国へと渡ったことのあるドッピオだったが、そんな場所や国の名前なんて聞いたこともなかったし、まずイタリアを知らないということからしておかしかった。
 いや、それ以上に彼がひっかかったのは――男がさりげなく言った、『魔法』、という単語のことだった。
「あのォすいません。今、魔法っておっしゃいましたか?」
「? ええ、そうですが」
 ドッピオがふっかけた問いかけにも、男は平然と肯定してみせた。
 仮にも彼はギャングの一員だ。
 裏切り者のブチャラティや、暗殺チームリーダーのリゾットなどが嘘を見分けることに優れていたように、ドッピオも相手が嘘をついているかは判断できる。
 だが、そのドッピオから見ても、男は嘘をついているように見えなかった。
「やだなァ〜魔法なんてあるわけがないじゃないですか。こう見えても僕、大人ですよ? 常識くらいあるし、新手の宗教の勧誘とかならお断りなんですけど……」
 表面上はヘラヘラと笑って見せるドッピオ。
 だがその表情とは裏腹に、彼の中ではますます混乱が激しくなっていく。
(なんだっていうんだよォ〜〜〜、助けてくれた人をこんなふうに思うのもなんだけど頭ぶっ飛んでんじゃないのかァ〜〜〜〜〜〜?)
 ドッピオの言葉を受け取って、男は困ったような顔をした。
「ふんっ、何よ! 魔法も知らないだなんて、あんたどこの田舎からやってきたのよ平民!」
 と、突然今まで黙っていたはずの桃色の髪の少女が口を挟んできた。
 鳶色の目でキッとこちらを見据えてくる少女に気圧されて、ドッピオは少したじろぐ。
「な、なんだよ、こっちは大事な話してんだから割り込んでくるなよッ」
「はぁ!? ご主人様に向かってその口のきき方はなによ、やっぱり平民は作法がなってないわね!」
 いきなり会話に横やりを入れてきたくせになに言ってやがんだこのガキッ! とドッピオは返そうとした。
 だが、またもや少女がおかしなことを口走っていたのが気になった。
937ゼロの奇妙な腹心:2013/09/18(水) 11:11:29.29 ID:JFG/AV8g
「……え? ご、ご主人様ァ〜〜〜?」
 聞き間違いでなければ、確かにこいつは『ご主人様に向かって』と言った。
 いや、でもきっとなにかの間違いだと信じたい。
 だが、ドッピオの願いはすぐに否定されてしまうこととなった。
「そうよ! あんたにはこれから私の手足になってキビキビ動いてもらうんだから、覚悟しなさいよねっ!」
 厚顔無恥とは、まさしくこの少女のことを言うのだろう。
 何の説明もなく突然現れたこの小娘は、自分に従者となって働けといってきているのだ。
 これにはさすがのドッピオもキレた。
「おいッ、さっきからグダグダとわけわかんねーことばっか言ってんじゃねーぞッ! いつから俺がテメーの従者になったっつーんだァッ!? このマヌケッ!!」
「うるさいわね! もうこれは決まったことよ、反論なんて認めないわ!」
「やかましいッ、誰がテメーみたいなガキに仕えてやるかよッ! 俺が仕えるのは……」
 と、不意にそこでドッピオは言葉を詰まらせた。
 いつからかずっと自分が仕えていたボス。
 自分がピンチに陥るとすぐに電話をかけて助言してくれ、能力も分け与えてくれたボス。
 いざってときには自分なんかのために駆けつけてくれたりもした。
 そのボスは……あれから、電話をかけてきてくれない。
 それが何を意味するのか、ドッピオにはわからない。
 考えられるのは……ボスに自分のことを忘れ去られてしまったのか……それとも……
「――――ッ」
 そんなドッピオの様子を見て、言い返す言葉もなくなったと考えた少女はふふん、と鼻で笑った。
「何よ、誰に自分は仕えるっていうの?」
「…………………………………………何でもない」
 するといよいよ相手は調子に乗り出して、見ていて悲しくなってくるほど平坦な胸を張りだした。
 本人としては威張っているつもりなのだろうが、そこに威厳はまったくない。
「でもマジで待ってくれ。いきなり仕えろっていったいどういうことなんだ? せめて理由くらいは説明してくれよ」
 理由くらいは、こちらでも聞かせてもらわなければ『納得』できない。
 『納得』もできないまま仕えるだなんてまっぴらごめんだ。
 今はともかくそれを優先する。ドッピオはそう考えて自分の疑問を少女に投げかけた。
「え、そ、その……それは……」
 さっきまでの威張った様子はどこへやら、いきなりしおらしくなって少女はどもりだした。
 まさか何もないのにそんな暴挙に出やがったのか、と考えたそのとき、今度は男の方が話をし始めた。
「……そのことなんですが、こちらもいろいろと頭を抱えていましてね。なにぶん、今までこんなことは聞いたこともないことでしたから……」
 男は難しい顔をして目を閉じていたが、何かを決意したかのように目を見開く。
「とにかく、何が起こったかについては単刀直入に申しあげましょう。あなたは彼女――ミス・ヴァリエールに召喚されたのです」


「――へっ?」
 思わずドッピオは、間抜けな声を出して目を丸くした。
938ゼロの奇妙な腹心:2013/09/18(水) 11:12:37.79 ID:JFG/AV8g
 とりあえずここまでです。
 書くのが遅いので、次回はどのくらいのときにできるかわかりません(汗)
 支援していただけたら幸いです。
939名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/18(水) 11:33:58.24 ID:Rx5mQzB1
新作キター!

ところでドッピオのフルネーム初めて知ったわw
940名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/18(水) 15:35:10.74 ID:XKdqozvs
うわーーーーッ新作だああああーーーッ ドッピオだーーーーッ
941名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/18(水) 21:28:10.45 ID:tpaRYbp8
ついにっ!ついにっ新作がっ!
942名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/19(木) 03:36:17.26 ID:ocgUDPFh
ボス抜きのドッピオ召喚か!
先の展開が読めないぜ・・・続きに期待するッ!
943ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:46:09.53 ID:XpKvoEw6
 投下します
944ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:47:05.29 ID:XpKvoEw6
 「月が……二つ?」
 ドッピオは、驚嘆せずにはいられなかった。
 何気なく夜空を眺めてみれば、そこには自分の知る黄色い月はなく、赤と青の二つの月が存在していたのだから。
「月は二つあるものでしょ? 何をそんなに不思議そうに眺めてるのよ」
「え、ええ? これが普通、なの? 1つじゃ……ないの?」
「……あんたホントにどこからやってきたっていうのよ……」
 呆れてモノも言えない、という様子で少女――ルイズという名前らしい――はため息を吐く。
 それに対してドッピオは何とも言えず、困ったように俯くだけだった。
(やっぱり僕……イタリアとは……いや、地球とは違う場所にいる、のかなぁ……)
 未だに信じることができないでいたドッピオは、頭を抱えた。
 あの禿げた男――コルベールという名前で、この学院の教師らしい――によれば、ここはトリステイン王国という国の、魔法学院らしい。
 他国から留学生がやってくるほどの伝統ある学院であるらしく、確かに施設のあちこちは素晴らしい装飾が施されている。
 しかし、彼自身そんな学院があるなどというふざけた話は聞いたことがない。
 イタリアをはじめに、ヨーロッパやアジア、アフリカや南北アメリカまで渡った経験がドッピオにはある。
 しかしどこにもトリステイン王国などという国はなかったし……まして、魔法などという文化はなかった。

 ……もちろん、そのことを話している最中も、コルベールが嘘をついているサインは一切なかった。
 薬物中毒者を相手にしているのかとも思ったが、それにしては言動や行動が中毒者独特のものとは違うし、もうマジで何がなんだかわからない。
945ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:48:12.26 ID:XpKvoEw6
(あ〜、頭痛くなりそう……)
 まだ、信じられない。
 いや、そのこと自体が真実であるということは認めているのだが、心がまだそれを受け入れきれていないのだ。
 だが、そんなドッピオの心境とは裏腹に、様々な証拠が彼の目の前に突き付けられていった。
 この二つの月もそうである。
 そして……
「これ、ホントになんなのかなァ〜〜」
 ドッピオは自分の左手の甲に刻まれたルーンを眺める。
 彼の全く知らない言語(らしきもの)が書かれているが、当然のことドッピオにはさっぱりわからない。
 こちらの人間のはずのコルベールやルイズもわからなかったらしく。

『とりあえずスケッチさせてください。調べておきます』

 と言って、コルベールは左手のルーンを描いてそのまま退室していった。
 どうやらこれが使い魔のルーンというものらしく、ルイズとドッピオの間に主従関係をつくっている代物らしい。
 タトゥーではないというのも確認済み。どうやって付けたのか、まずその方法自体がドッピオでも判別できなかった。

(……今のところなんともないんだけど……それが逆に不気味だなァ〜〜なんか……)

 ドッピオは、(強制的にだが)新たな主人となったルイズについていきながら、ふとあることを考えた。
この世界の文化のレベルがドッピオの生きていた場所と違う。
 建築物などを見ると、中世のヨーロッパといったところだろうか?
 まだ他の場所を見たわけではないのだが、明かりにろうそくを使っていたり、服装も化学繊維は一切使っていなかった。
 魔法という技術が発達した結果かもしれない。一方で科学技術はあまり進歩していないようだ。
エンジン音なんかも全く聞こえないことから、きっと車すら存在しないのだろう。
ルイズの話によると、ここはかなり都心部に近いようだ。
ならば文化の本拠地となっているここに車がないなら、きっとどこにもない。
946ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:49:32.04 ID:XpKvoEw6
(……待てよ? じゃあ……『あれ』は……?)
 嫌な汗が、ドッピオの背に流れる。
 考えたくもないことだった。
 いや、しかし……ここまでくると、もはやドッピオの仮説はかなり高い可能性であり得ることだ。
「…………………………………………………………」
「ちょっと、なに立ち止まってるのよ」
 ルイズは、急に足を止めた使い魔を叱責する。
 だが当のドッピオは、そこから進もうとしなかった。
「……あの……少し、聞いていいですか? ご主人……様……」
「……? な、なによ?」
 不意に、かしこまってドッピオがルイズに訊ねかけてきた。
医務室ではかなり自分に対して無礼な口をきいてきたものだから、突然の変化にルイズはたじろいでしまう。
 ドッピオは言い出しにくそうにまごまごしていたが、やがてその重い口を開いて、

「……電話って、ありますか?」

 そう、言った。

「デンワ? なによそれ?」
 即答だった。
 ドッピオは、それだけで理解してしまった。
 この世界に、電話はない。
 そのことがわかっただけで……彼の中で、ほんの少しだけ残っていた希望が、消えた。

 元々、ここが異世界であるという点で、ボスと接触する機会など存在しないことくらいドッピオにも理解できている。
 しかしそれでも……『もしかしたら』という気持ちだけは、捨てきれなかった。
 『もしかしたら』ボスもここへとやってくることがあるかもしれない。
 『もしかしたら』そのときボスは僕の存在を見つけ出してくれるかもしれない。
 『もしかしたら』ボスは僕に電話をしてきてくれるかもしれない。
 『もしかしたら』、『もしかしたら』……

 それは途轍もなく可能性の低いものだと、ドッピオだってわかっている。
 だが、その残った可能性すら、たった今消え去ってしまったのだ。
 ドッピオは、ボスとは電話でしかやりとりを行ったことがない。
 しかもそれは道端の公衆電話だったりと、ケータイや通信機なんかは一切使用していなかった。
 手紙やメールは一切利用していない。
組織の命運を背負った任務の遂行中に、そんなものを使ってしまえばボスのことを調べられてしまう。
 必然的に、彼らのやりとりは電話と決まっていたのだ。
 だが……唯一のつながりであるそれすらも。ここには存在しない。
 もう……ボスからの電話は、こない。
「…………………………………………………」
「わけわかんないことばっかり聞いてくるわよね、あんた。いい加減疲れちゃうわ」
 そう言いながら、ルイズはいつまでも歩き出そうとしないドッピオを置いて先に進んでいく。
 落ち込んでいる暇はない。とにかく今は現状把握だ。
 そう思って、だがドッピオは重い足取りでルイズについていった。
947ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:50:30.15 ID:XpKvoEw6
「さてと。あんたにはこれから使い魔としての使命について話すわ」
 自室に入るとルイズはベッドに座って話をし始め、ドッピオは床に三角座りをして聞くこととなった(本当は椅子に座りたかったが、ルイズに睨まれたのでやめた)。

「まず、使い魔には主人の目となり耳となる能力が与えられるのよ」
「……なんか見えたり、聞こえたりします? 僕はさっぱりですけど」
 説明されて、ドッピオは自分の感覚に意識を集中させてみたのだが、これといった変化は見当たらない。
 問いかけられたルイズにも変化はなかったらしく、首を横に振る。
「……次に、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。秘薬とか」
「そんな知識持ってるように見えます?」
「もうっ! あんた、ホントに役に立たないわね!」
「……すいませんね」
 ルイズの最後の一言にはカチンときたらしく、ドッピオは目をそらして彼女に聞こえないよう小さく舌打ちする。

「……それで最後に、使い魔は主人を守る存在でもある……んだけどねぇ……」
 ルイズはじろじろとドッピオのあちこちを見やった。
 どこからどう見ても、彼が自分をあらゆる危険から守ってくれる存在には見えなかったからだ。
普通の平民よりはちょっぴりとだけ筋力が上かもしれないが、しょせんそれまでだ。
 襲い掛かってくる脅威というのは、平民だけに限ったものではない。メイジやその使い魔、幻獣など、そんなものよりももっと上の脅威がある。
 それらの脅威から、たかが平民ごときが主人を守ることができるのか?
 その問いの答えは、NOだ。
 絶対に。
「……弱そうな使い魔ですいませんね」
「本当よ。まったくなんでこんな使い魔が……」
 ドッピオも彼女の思考を読んだのか、全然すまなそうに思ってない口調で言ってやる。
 それに対してルイズは否定することもなく、本人の目の前で愚痴を漏らした。

「まぁいいわ。あんたの当面の仕事は雑用だから」
 そう言うと、ルイズは立ち上がってドッピオの眼前でとんでもない行動に出た。
948ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:51:26.93 ID:XpKvoEw6
 なんとッ! 突然ッ! 服を脱ぎ始めたのだッッ!
 バァ――――――――z_________ン!!

「………………えっ!! ちょっ、何を………………!!」
 これにはドッピオも驚愕せずにはいられなかった。
 このメスッ、男であるドッピオの目の前でいきなりなにしてやがるッ!?
 ドッピオの頭の中は『理解不能! 理解不能!』の文字でぎっしりと埋め尽くされた。
「なにって、着替えだけど」
「それは見ればわかるんだよアホがッ! 俺が言いたいのは男の前でなに着替えてんだってことだよーーーーーーーッ!!」
「オトコぉ? あんたは平民で、しかも使い魔でしょうが」
 マジでなんなんだその理屈は。貴族でなけりゃあ男として見られないってことか?
 いや、そんなことは今はどうでもいい。この阿呆の行動をなんとかしなければッ!
(つってもよォ〜〜〜、どうせ俺の言うことなんか聞いてくれねぇぞ? しかたねぇ、ここは耐えるしか……)
 と、なんとか落ち着きを取り戻そうとルイズから目を逸らしたドッピオだったが。
 このルイズとかいう女は、ドッピオのド胆を抜くような恐ろしい行動に出やがったのだッ!!

「はいこれ。あんたこれ明日の朝までに洗っといて」
 と、ドッピオの顔になにか布らしきものが投げつけられる。
 いったいなんだと思ってドッピオは『それ』を手に取った。
 上着かなにかかと思ったドッピオだったが、『それ』は彼の予想のはるか上を行く代物だったのだ……

 意外ッ! それはパンティッ!
949ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:52:03.17 ID:XpKvoEw6
「……………………………………………………」
 しばしの沈黙と、硬直。
一方でルイズは寝間着のネグリジェに着替え終えていた。
「なんなんだテメェーーーーーッ! さっきからマジでふざけてんのかァーーーーーッ!」
 ブチ切れるドッピオ。しかし、ルイズはそれを見ても涼しい顔でいた。
 そのためドッピオの中でさらなるストレスがたまったことは言うまでもない。

「うるっさいわね、黙って言うこと聞きなさいよこの犬……あ、あとあんたは床で寝てよ?」
 そう言うと、ルイズはベッドに寝転がってふとんをかぶった。
 そのまま彼女は何もドッピオには言わず、眠りについてしまった。

「……………………………………………………」
 マジで頭いてぇよ、ボス。
 半ば涙目になりながら、ドッピオは顔も知らないかつての主人に心の中で泣き言を言った。
950名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/19(木) 12:52:22.18 ID:zJ/tzTSY
sien
951ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 12:52:55.79 ID:XpKvoEw6
 ここまでです。また出来次第投下します。
952名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/19(木) 14:16:26.74 ID:j+v6hmJF
乙です

ドッピオの胃に穴開きそうだなw
953名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/19(木) 16:37:17.18 ID:ZHMeFz9l
呆れてこの世はアホだらけなのかァー不発か
954ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:32:09.30 ID:pPawv9ns
 どんどん書きたい! 露伴モード的なものに突入。
 今なら速いペースで更新させることができそう。
 投下します。
955ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:32:52.84 ID:pPawv9ns
「おい……これ、マジにやべーぞ」
 召喚されてここ、トリステイン魔法学院で生活をし始めてから、初めての朝を迎えるドッピオ。
 そんな中、ドッピオは危機的な状況に陥っていた。
 どれほどかといえば、たぶんリゾットのメタリカで口からカミソリ吐き出しちまったときくらいのレベルだ。
(クソッ、なんで俺は毎回こんな目に遭っちまうんだッ! クソッ!)
 冷汗がだらだらとドッピオの顔を流れる。
 今直面している問題は、できる限り早々に解決しなければ面倒なことになってしまう。
 だが解決したくとも、その方法を先ほどからずっと詮索しているのに見つからないのだ。
 打開案の一つも思いつかないド低能な自分の脳ミソに毒つくドッピオ。
 ヤバい。マジにヤバい。
 このままでは……

「ここはいったいどこなんだよォーーーーーーーーッ!!」
956ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:33:50.33 ID:pPawv9ns
 彼がどういう状況にいるのかというと……簡潔に言えば、寮内をさまよっている。
 彼は主人であるルイズから、彼女の衣服を今日の朝までに洗濯するよう命じられているのだ。
 普段の生活が規則正しいものだったために早起きするのは特に問題にはならなかったのだが……この施設、元々が貴族御用達の施設なだけにバカでかく、地図でもなければ道がさっぱりわからない。
 おかげでドッピオは部屋から出て早々に迷ってしまった。
「ちくしょ〜〜〜、あのガキあとで覚えてろよ〜〜〜ッ」
 愚痴をこぼさずにはいられないドッピオ。
 このまま歩き回っても、さらに迷い込んでしまうだけで意味はない。
 道を聞こうにも、まだ早朝である今の時間にここを通る人はいないのだから、不可能だ。

 いや、まだそれは僥倖であると思わなければならないだろう。
 最悪なことに、ここは女子寮だ。下手すると道を聞く前に貴族の女性に不審者扱いされてしまう。
 魔法なんていう未知の技術に襲われれば、キング・クリムゾンの両手と『エピタフ』がない今は立ち向かうことすらできない。
 逃げることができればいいが、よくて半殺しの目に遭うだろう。
 社会的、物理的に。二重の意味で抹殺される可能性があるのだ。
957ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:35:10.28 ID:pPawv9ns
「あぁ……帰りたい……ボスのいるヴェネツィアに……帰りたい……マルガリータ・ピッツァが食べたい……」
 ドッピオの人生の中でも最高に下らない理由で、彼は追いつめられてしまっていた。
 今まで遂行してきた任務の中でもこれほどどうでもいい内容のものはなかったし、理不尽なほどいろんな危機を背負ったものもなかった。
 自分はどちらかといえば運のないほうだと理解しているドッピオだったが、今回はいつにもまして不幸な目に遭っている。
 どうしよう。
 豪奢に飾られた廊下の中で惑うドッピオ。

 そのときッ!
 彼の、背後から、何者かがやってきたッ!
「あのぉ〜どうしたんですか?」
 ビクッ! と肩を震わせ、ドッピオは恐る恐る振り返る。
 まずい。ディモールトディモールト(とてもとても)まずい。
 ついに学生の誰かがここへやってきちまったかッ!? と顔面を真っ青にするドッピオだったが……
 そこにいたのは、ルイズやコルベールのようなマントを着た者ではなく……これでもかというほどに大量の洗濯物が入った籠を抱えた、メイド服を着た女性だった。
「あ、あれ? えっと、あなたは……?」
「私はこの学院でお仕事をさせていただいているメイドです。何かお困りのようですが、いったいどうしたんですか?」
 なんという幸運ッ! なんという数奇な運命ッ!
 貴族ではなく使用人と遭遇することができるなんてッ!
 ドッピオは、この幸運に心の底から感謝した。
「ええと、その……水洗い場って、どこにあるんでしょうか?」
「あ、それでしたらこちらです。私もそこへ行く途中でしたので。ついてきてください」
「助かるなァ〜〜ありがとうございます」
 一瞬ドッピオはそのメイドを天使かなにかと見間違うほどだった。
 そのメイドはそのままドッピオの先を歩いていき、ドッピオもまさしく軽い足取りでそれについていった。
958ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:36:52.00 ID:pPawv9ns
「ん、と……あれ? どうすんだ、これ?」
「あ、その衣服でしたら、ここをこうして……」
「あ、ホントだ! スッゲー洗いやすい!」
 水洗い場にたどり着いてからも、ドッピオはメイド服の女性に助けられてばかりだった。
 よくよく考えてみれば、彼は手洗いの洗濯などというものはやったことがない。
 ほとんど洗濯機であるとか、コインランドリーを使っていたのだ。
 当然ドッピオは初めての手洗い洗濯のやり方などわからなかったが、それはすべてメイド服の女性が教えてくれた。
 その教え方ときたら、どこぞの自称ご主人様がするものよりもずっと優しくて丁寧なものだった。
(やっとまともな人と会えた……なんか、ほっとしたというか、カンドーだなぁ)
 ここに来てあった人間など、わがままで話を聞こうとしない自称貴族の小娘に、魔法のことやありもしない国のことばかりを言い聞かせてくる禿げたおっさ……男のみ。
 まだ三人目だというのに、まともに自分を人間扱いしてくれる人と出会ったことがこんなにも心に響くだなんて……
 話をしているだけで心が安らぐ人がいるだなんて……
 と、これまたどこぞの吸血鬼よろしくドッピオは感動を禁じ得なかった。
「……君って、女神様?」
「ふえっ!? な、なんですかいきなり!」
「あ、いや……その……」
 しまった。つい思ったことを口にしちまった。
 バツが悪そうにドッピオは頭をかく。
「あの、ホントにありがとうございます。えーっと……」
「あ、シエスタです。いえいえ、平民どうし困ったときはお互い様ですから……えと……」
「僕はドッピオです。ヴィネガー・ドッピオ」
「よろしくお願いしますね、ドッピオさん」
「やだなァ〜〜さん付けなんて、なんかくすぐったいや。僕のことは普通にドッピオでいいですよ、僕もあなたのことをシエスタと呼びますし」
「あ、はい。わかりました、ドッピオ」
 お互いの名前を教え合い、言い合うシエスタとドッピオ。
 見ていてとてもほほえましい気持ちになる平民同士のやりとりが、女子寮の水洗い場でひそかに行われていた。
 当のドッピオにしてみれば、大げさかもしれないがもう泣いてしまいたいほどに素晴らしい出来事である。
959ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:38:06.28 ID:pPawv9ns
「あの、ひょっとしてドッピオって……ミス・ヴァリエールに召喚されたっていう……」
「ミス・ヴァリエールって……? ああ、ルイズのことか。うん、そうだよ。ほら。これが使い魔のルーン」
 問いかけてきたシエスタに対して、一瞬首をひねるドッピオだったが、すぐに肯定した。
 ドッピオは自分の左手にあるルーンをシエスタに見せる。
「わぁ……ホントだったんだ。平民の使い魔が召喚されたって……」
「……やっぱり珍しいことなの?」
 今度はドッピオが訊ねかける番だった。
 シエスタは首を縦に振ると、続けて話をする。
「みなさんは使い魔を召喚すると、大抵が幻獣であるとか、そうでなくても他の動物らしいですから……私も初めて聞きましたよ。平民が召喚された、だなんて」
「……そうですか」
 話を聞いて、ドッピオは肩を落とした。
 本来使い魔の召喚というのは、やはり動物やら幻獣やらを召喚するためにあるものであって、人間を召喚するためのものではないのだ。
 そう聞くと、やはり気分が落ち込む。
 どうして自分なんかがここへと召喚されてしまったのか。
 百歩譲って召喚してしまったとしても、どうして他の誰かではなかったのか。
 他の誰かであったなら、またボスからの電話を待つことができたかもしれなかったのに――。
(……あれからボス、電話をしてくれてるのかな……)
 自分がこんなところへと呼ばれていることも知らず、もしかしたらボスはドッピオに電話をずっと送っているのかもしれない。
 いつまでも電話に出ない側近を、ボスは怒るのだろうか……それとも、心配してくれるのだろうか。
 そう思うと、ドッピオはやりきれない気持ちになる。
 と同時に、憤りを感じる。
 あのとき電話に出ることができなかった自分の不甲斐なさに。
 そんな状況で自分をここへとやってこさせた、魔法に。
 主人である、ルイズに。
 そして……運命に。
960ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:38:41.91 ID:pPawv9ns
「……………………………………………………」
「あ、ド、ドッピオさんっ!」
 と、シエスタの切羽詰まった呼びかけで、ドッピオは自分の手に異常なほど力が込められていることに気づいた。
 彼は今、洗濯の途中であるルイズのマントを持ったままだ。
 ハッとしてドッピオは手を離したが、シエスタが止めてくれなかったらそのままマントは真っ二つになっていただろう。
「あっ……ご、ごめん、シエスタ……」
 別に、これで不始末を行えば怒られるのはドッピオだけなのだが、なんだか雰囲気でドッピオはシエスタに謝ってしまう。
「いえ、私は大丈夫なんですけど……貴族の方の服をダメにしてしまったら、どんなひどい目に遭うかわかりませんよ?」
 シエスタはそう言っていたが、まだその表情には怯えのようなものが残っている。
 大丈夫、と答えてくれたことにほっとするとともに……ドッピオは首をかしげた。
 何なのだろう、このシエスタの、猫に睨まれたネズミのように不安になっている様子は。
 この世界では、平民にとって貴族はそんなにも怖いものなのか?
「たかが服くらいで大げさだなァ〜〜。そんなに怯えることないですよ、こんなの」
 呆れるようにドッピオは笑っていたが、シエスタはそんなドッピオを見て安心するどころか、逆に驚いているようだった。
「……あの、ドッピオさんは、貴族が怖くないんですか?」
「? なんで怖がる必要があるんです?」
「え? なんでって、それは、あの……」
 と、何を言おうかと口をモゴモゴさせるシエスタ。
 身分の差というのもあるかもしれないが、それにしてはいささか過剰な気もする。
 なんだ? とドッピオが疑問に思ったそのとき、後ろから声がかかった。
961ゼロの奇妙な腹心:2013/09/19(木) 21:39:43.59 ID:pPawv9ns
「シエスタ! あんたまだこんなところで洗濯なんかしてたの!?」
 肩越しに振り返るドッピオとシエスタ。
 彼らの背後に立っていたのは、シエスタと同じメイド服に身を包んだ女性だった。
 どうやらシエスタの同僚らしい。
「もう貴族の方が学校に向かわれる時間よ! 急いで仕事にかかりなさい!」
 同僚がそう叱責するとシエスタは顔をサァッと青ざめさせて、あたふたと慌てて洗濯物を籠の中に放り込んだ。
「すいませんドッピオさん、またあとで!」
「え? あ、ちょ、ちょっと!」
 ドッピオの質問に答えることもないまま、シエスタはその場を後にする。
 一人ドッピオは取り残されることとなったが、シエスタの同僚が言っていたように今が学生が起きる時間なのだというのなら、こちらも急いだ方がいいだろう。
 ドッピオは洗濯物をまとめて、部屋へと戻ることにした。
(なんだ? あのシエスタのビビった顔……貴族っつーのはそんなにヤバい奴らなのか?)
 貴族のことを話題にしたときの、あのシエスタの豹変ぶりはかなりドッピオには気にかかった。
 いろいろと貴族について早めに知っておいた方がいいかもしれない……そう考えたところで、

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……………

「……帰り道、どっちだっけ……」

 再び窮地に立たされてしまったことに気付くドッピオだった。
962名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/19(木) 21:57:17.89 ID:ZHMeFz9l
頑張れドッピオ きみなら一人でエピタフくらい出せるはずさ
963名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/19(木) 22:25:12.59 ID:cidTdvqa
書き込みすぎて規制かけられた、ゼロの奇妙な腹心の作者です^^;
投下は以上となります。
かなり飛ばしてますが、まぁばてないよう気をつけます(・ω・)
964名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/20(金) 10:03:32.25 ID:LUFtRDO+
このテンションがいつまで続くかが心配
965ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 17:43:10.72 ID:JbgXbtNE
 投下します。
966ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 17:43:51.70 ID:JbgXbtNE
「あんたホントになにしてんのよ! もっとまじめにやりなさいよ!」
「しかたねーだろうがッ!! こんなこと初めてやるんだからよォ――――ッ!」
「うるっさいわね、それくらいちゃんと把握してなさいよ! 使い魔のくせに――――っ!」
「クソやかましいぞッ! このちっぽけなガキがァ――――ッッ!!」

 朝から互いを怒鳴りののしり合うドッピオとルイズ。
 水洗い場から己の記憶力だけを頼りにして、なんとドッピオはルイズの部屋まで戻ってくることができたのだ。
 さんざん迷いまくったあげく、水洗い場に一人取り残されたときはマジでもうダメかと思った。
 どれくらいかってーと、ブチャラティによって走行中の列車の外へ放り出されたプロシュート兄貴くらいに。
 ボスのサポートすら受けられない今、最悪のケースすら覚悟したというのに……ここぞという土壇場で成功をしてみせたというのは素晴らしいことじゃないだろうか?
 奇跡だ。今日ばかりは自分のことを褒め称えよう。
 そう思いながら部屋へと入り、ベッドの上でうずくまってるルイズを起こしたドッピオだったが――

「ンだよッ!? 突然テメーの服を着替えさせろだのなんだのよォ――――ッ!! 自分のことくらい自分でしやがれッ! マンモーニ(ママっ子)かテメーはッ!!」
「召使いがいるときは、貴族はそいつに身の回りのことを全部させるものなのよ! こんなこともできないだなんて、このド低能!」

 起こして早々、ルイズに彼女の着替えをさせろと意味不明の命令をされ、ドッピオは始終困惑していたのだ。
 幼児体型とはいえ相手は女性。しかも聞けば16歳だという(これはマジでドッピオもビビった)。
 年頃の女性の着替えを――下着も含めて、すべて思春期まっただ中のドッピオにやらせようとしたのである。
 そりゃもう恥ずかしかったし、当然最初は断ったのだが……
ルイズはルイズで『貴族というのは――』だの『自分は貴族であんたは平民なんだから――』だの、云々かんぬん。
 何かと『貴族』という単語で理由をつけて強制的にドッピオを行動させようとした。
 こうなったらテコでも動かないというのは、たった一晩でドッピオは嫌というほど理解していた。
 仕方なく、羞恥心をかなぐり捨てて拙い手つきながらルイズを着替えさせたのだが……

「それでどんだけ時間かけてるのよ! こんなんじゃもう朝食に遅れちゃうじゃない!」
「あぁクソッ、いいか! おめーが俺のことを人間じゃないみたいに扱ってもよ、俺はホモ・サピエンスっつー人類の仲間で! しかも男だッ! これだけはおめーがどんだけ否定しても変わらない事実なんだよボケッ!」
「なにわけわかんないこと言ってんのよ! そんなのあんたがろくに雑用もできないことの理由なんかじゃあないじゃない! 役立たずの犬っ!」
「ちくしょお―――――ッ!! 世の中こんなアホばかりなのかァ――――――――ッ!!」

 ……まぁこの通り、ディモールトディモールト(とてもとても)手間がかかってしまっているのである。
 どうやら朝食の時間というものはきっかり決まっているらしく、それに間に合わなかった場合はご飯抜きで授業に出なければならないのだという。
 確かに手際が悪いというのは認めよう。
 しかしいくらドッピオがギャングの一員だからといって、まさか女性の着替えを一から終わりまですべてやってのけなければならないような任務というものは、未だかつてなかったのだ。
 ドッピオに非はない。全くと言っていいほど。
むしろ場所すらわからぬ水洗い場になんとかたどり着き、そこから部屋へと帰還して主人を起こすなど、初日にしてはよくやったと褒めてもらうべき立場にあるはずだ。
なのに主人からもらうのは罵詈雑言ばかり。
 もう何度目かわからないが、ドッピオはまたブチキレた。
 そうして現在――ドッピオとルイズの罵声浴びせ合い合戦が進行しているのである。
967ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 17:47:12.46 ID:JbgXbtNE
 と、そこでガチャリ、と部屋の扉が開け放たれた。
「ちょっとルイズー、あんた朝からとってもうるさいわよ? もう少し静かにできないの?」
 イラついた口調でルイズの部屋に入ってきたのは、燃えるような赤い髪をした一人の女性だった。
 ルイズなどとは違い、至る所が成長していて『大人の女性』のような雰囲気を醸し出している。
「ちょっとキュルケ! あんた勝手に扉の鍵を開けないでよ!」
「しょうがないでしょ? 隣の部屋で早朝から怒鳴り声が何度も聞こえてきたら誰だって気にしちゃうわよ」
 赤い髪の女性を見ると、ルイズは途端に標的をドッピオからその人に変える。
 だが、相手はルイズの怒声も意に介さず飄々とした態度を崩さない。
 そのことがさらにまた腹立たしいらしく、ルイズは『う〜〜〜〜〜〜〜っ!』と唸っている。
 ふと女性はルイズから視線を移して、ドッピオを見た。
「あら? あなたがルイズの召喚した平民ね? 私の名前はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アルハンツ・ツェルプストー。キュルケと呼んでくれていいわ」
「あ……僕の名前はドッピオ。ヴィネガー・ドッピオ、です……すいません、うるさくしてしまって……」
 自己紹介をされて、ドッピオは自分も名前を名乗る。
 さすがにドッピオも喧しくしすぎたかと思い、キュルケに対して謝罪した。
 すると相手は驚いたように目を丸くした。
「隣から聞こえてきた罵声の内容から、どんなにか乱暴な平民なんだろうって思ったら……なんかおとなしいじゃない」
「ふんっ、おとなしいですって? こいつは平民のくせにすっごく生意気なヤツよ」
 どっちがだよこのガキが、と心の中でルイズに毒つくドッピオ。

「ふ〜ん……でも、使い魔にするのなら人間なんかより、こういうのがいいわよね〜。フレイムー」
 と、キュルケは廊下にいる何かに声をかけて呼ぶ。
 すると、ドアから巨大で赤い何かが、ゆっくりと入ってくるのをドッピオは見た。
「――ッ!?」
 思わずドッピオはルイズの前に立って臨戦体勢を取った。
 なにせドアから入ってきたのは、虎ほどの大きさはあろうかというトカゲだったのだから。
 全身からは熱気が放たれていることが見て取れ、吐息は火がちろちろとほとばしっており、しっぽには火がついている。
「あなたも、サラマンダーを見るのは初めてかしら? 大丈夫よ、私の命令でもない限り襲ってこないから、安心していいわよ」
「あ……そ、そう、なんですか?」
 キュルケがそういうと、危険はないということを理解したドッピオは警戒を解く。
 別にドッピオはフレイムの姿形に対して驚いたというわけではないだが、任務のときのくせでつい体が動いてしまったのである。
 これまで数多のスタンド使いと相対してきたドッピオだが、その中には、今のフレイムのように動物の姿を取るスタンドもいた。
 そのためフレイムを見たときも、ドッピオは新たな刺客――スタンドがやってきたのだと思い、無意識に身構えてしまったのだ。
「なによあんた。あんだけ大口叩いておいて、サラマンダーを見てビビっちゃって」
 が、ルイズには『幻獣を目の前にして怯えた』と見られたようだ。
 ふん、と鼻をならすルイズだったが、キュルケはクスクスと口元を手で隠して笑っている。
「あら? 使い魔としてきちんとあなたを守るために、前に立ってくれたのにその言い草はないんじゃない?」
 うっ、と言葉を詰まらせるルイズ。
 それでもキュルケは言葉を続ける。
「それに未知のものに対しては警戒をすべきよ。何が起こるか、何をされるかもわかったもんじゃないんだから。そんな中でもあんたの護衛を優先して行動した彼はむしろ褒めるべきだわ」
 次々とキュルケに正論を述べられ、ルイズはぐぅの音も出なくなった。
 その一方で、ドッピオはキュルケを高く評価する。
 初見の人物であっても、キュルケはきっちりと行動を観察して客観的な評価をしてみせたからだ。
(戦いの場においても冷静に動き、戦果をあげることができるだろうな……)
 身なりは少し破廉恥ではあるが、かなりいい資質の持ち主だと、ドッピオはキュルケを認識した。
968ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 17:47:46.29 ID:JbgXbtNE
「いいでしょ、この子。ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾を持ってるんだから、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? 好事家に見せたら値段なんかつかないわ」
「ぐぬぬ……」
 ルイズとは違う、大きな胸を張るキュルケ。
 ルイズは悔しげに歯噛みしながら、忌々しげにフレイムを見る。

「素敵でしょ。相性だってぴったりだもの」
「ああ。あんたは『火』属性だものね」
 そうよ、とキュルケはルイズの言葉に相槌を打つ。
「ええ、『微熱』のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は『微熱』。でも男の子はそれでも私の熱で燃え盛るのよ……あなたとは違って、ね?」
 あ、とドッピオは思わず声をあげた。
 この女言いやがった。あっさりと言ってのけやがった。
 ドッピオは冷汗を流しながら、流し目でルイズの方を見る。
 顔はうつむいているためよく見えないが――わなわなと小さな体を震わせるその姿は、今にも目の前で爆発しそうな炸裂弾を彷彿とさせる。

 ――あぁ、こりゃやっべえ――

 ドッピオが他人事のようにそんなことを考えたそのとき……ルイズは顔をあげてキュルケをキッと睨み、

「私は! あんたと違って! いちいち色気を振りまくほど! 暇じゃないのよっ!!」

 室内が、グラグラと揺れたかと錯覚するほどの大音量で怒鳴り、足早に部屋を出ていった。
「あ、ちょ、ちょっとルイズ! ……失礼します!」
 呆気にとられていたドッピオだったが、彼女を追わなければならないと気付くとキュルケに一礼して部屋を出る。
「またね〜ドッピオ〜」
 キュルケの方はこれでもかというくらい輝いた笑みを浮かべて手を振っていた。
 ああ。ありゃルイズで遊んでやがるな。
 そんなことを思いながら、ドッピオはルイズのあとを追うのだった。
969ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 17:48:48.38 ID:JbgXbtNE
いったんここまでとします。
まだ書けそうなので、今日の夜にでも再び投下します。
970名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/20(金) 18:09:37.17 ID:VevzOMuB
おいおいもっと小出しにしてもいいんだぜ
971ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 20:44:07.35 ID:JbgXbtNE
投下再開します。
972ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 20:45:53.76 ID:JbgXbtNE
「……ここが『アルヴィーズの食堂』よ」
 朝のキュルケの件をまだ引きずっているのか、ルイズは不機嫌そうにそう言った。
 あの後彼らは朝食をとるために、学院にある食堂へと向かっていたのだ。
「扉からして豪華だね」
 ドッピオの言う通り、食堂の扉は荘厳な飾りつけがされていて、かなり威圧感があった。
「貴族たるもの、マナーもきちんと学ばなきゃ。そのために貴族のための食堂にしてあるのよ」
 そういって、ルイズは扉を開ける。
 中に入るドッピオとルイズだったが……ドッピオは、中の様子を見て愕然とした。
「うわぁ……」
 優に数百人は中へ入ることができようかというほどの空間が広がり、その至る所に豪奢な装飾が施されており、どこも輝かんばかりの光を放っている。
 テーブルに置かれた朝食はどれもこれもが豪華なものばかり。ワインすらあると知ったときは驚いた。
 もうこの場に立っているだけで、ドッピオは見えない何かに圧倒されるようだった。
 てっきりドッピオは修道院なんかにある食堂のようなものを想像していたのだが、実際はその真逆。
 中世ヨーロッパの王族なんかが使うような、きらびやかな場所だった。
「ホントならあんたみたいな平民、入ることすらできないのよ。私の計らいで特別に許可されたんだから、感謝しなさいよね」
 と言って、ルイズはその桃色の髪をかきあげて自分の席まで移動する。
 配置されている三つの長いテーブルの中で、ルイズは真ん中のテーブルへとうつる。
 見たところ、どうやら学年ごとにわかれて座るらしい。
(ということは、ルイズは二年生、か……)
 ドッピオはそんなことを考えながらルイズとともに歩いていると、不意にどこかしこから変な話し声が聞こえてくる。
「見ろよ、『ゼロ』のルイズの使い魔……」
「ホントに平民なんだな、クスクス……」
「まぁ、お似合いよね、『ゼロ』のルイズには……」

「……………………………………………………」
 ドッピオはまだここに来て日が浅く、言っている内容については詳しくはわからなかった。
 だが、なんとなく、ルイズを侮辱しているということはわかる。
 彼女から聞いた話では、ここにいる生徒はほとんどが貴族の者だという。
 そのような高貴な者である彼らが、にもかかわらず平然と陰口を叩いているという事態を目撃して、ドッピオは眉をひそめた。
(……こいつらのどこが貴族だって言うんだよ……)
973ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 20:46:48.94 ID:JbgXbtNE
「なにしてんのよ」
 と、ふとルイズに声をかけられたドッピオは、彼女の方を向いた。
 見ると、椅子の前に突っ立っているのだが、それから動こうとしていない。
「? 座らないの?」
 問いかけてみるドッピオだったが、するとルイズはハァ〜ッと大きなため息をついた。
「こういうのは、従者が椅子を引くものなのよ」
「………………またですか」
 もはや諦めに近い境地にまで達してしまったドッピオ。
 椅子を引いてやると、それにルイズは優雅に座り、慣れた手つきで絢爛な朝食を開始する。
 そしてドッピオもルイズの隣に座ろうとしたが……
「ちょっと。そこはあんたの席じゃないわよ」
 と、ルイズに制止させられた。
 こちらも腹が減っているというのに、いちいちこう止められると中々にイライラとするものだ。
「じゃあどこに座るんですか」
 訊ねるドッピオに、ルイズは指をさして答える。
 指さした方の先を、ドッピオが見ると……
「…………………………うそだろ?」
 床に置かれた、パンとスープののった皿があった。

「文句があるわけ?」
 ルイズが睨みつけてくるが、ドッピオはもうそんなものはどうでもよかった。
 文句もクソもあったものではない。
 こんな粗末なものでいったいどうしろというのか。
 人間扱いされないのも、ここまでくるともはや呆れてしまう。
 ドッピオは皿を持つと、出口へ向かって歩き始める。
「ちょっと、あんたどこいくのよ」
「…………外で食います…………使い魔たちのいる広場にいるんで」
「使い魔は主人のそばにいて、常に危険から守らないといけないのよ?」
 腕を組み、足を交差させてそう言い放つルイズ。
 そんな彼女を、ドッピオは肩越しに振り向く。
 そのときルイズはドッピオの目を見てギョッとした。
 彼の目は、とても哀れなものでも見るかのような冷めきったものだったからだ。
「……人をさんざん『侮辱』しておいて、服従しろってんですか?」
 彼はそう吐き捨てて、そのまま食堂をあとにした。

 彼の所属していた組織、パッショーネの掟。
 その中に、『侮辱』した者には報いを与えろ、というものがある。
 人の美徳と呼ばれるものの中でも最も美しいもの。それは『尊敬』だ。
 友を『尊敬』するからこそ友情が生まれ。
 恋人を『尊敬』するからこそ愛情が生まれ。
 争いのない世界を『尊敬』するからこそ平和が生まれ。
 自分と戦う敵を『尊敬』するからこそ、勝利が生まれる。
 『尊敬』とはすべての栄光を掴むことを可能とする、誇りある崇高な行為なのだ。
 ならば逆に、最も恥ずべき悪徳とは何か? 『尊敬』と相反するもの、それが『侮辱』だ。
 『侮辱』には報いを与えなければならない。悪徳は、すべて根絶やしにされるべきだ。
 そのためならば、殺人すら許される。
 彼も、その信念を持つ人間の一人だ。
 だから、ルイズの命令に反して食堂を出て行っても、ドッピオの心の中には微塵も悪い気は起らなかった。
「……何なのよ、あの使い魔」
 ルイズは、自分の命令に従わない使い魔の後ろ姿を見ることしかできなかった。
974ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 20:48:17.67 ID:JbgXbtNE
「……ふぅ」
 食堂を出て、使い魔たちのいる広場までやってきたドッピオ。
 ここの広場は、フクロウなどの普通の動物から、今朝方見たフレイムのような幻獣まで、様々な生き物がうようよとしている。
だがそのようなものはある程度見慣れていたし、何より人は誰もいなかったため、彼の心は安らいだ。
 草むらに座り込んだ彼は、さっそくもらった朝食のパンとスープを口に運んだ。
 見た目こそルイズたちのものと比べれば貧相なものだが、なかなかどうしておいしいものだった。
 すぐにそれらを平らげるドッピオ。
量はまだまだ足りないが、無い物ねだりをしても仕方がない。
二度目のため息を吐きながら、ドッピオは草むらの上で横になった。
「あぁもう……どうして嫌なことばかりあるのかな、ここ最近」
 まだ一日もたっていないのに、もう愚痴を吐かずにはいられないほどにドッピオのむかつきは大きく膨らんでいた。
 このままこんな待遇が続くものならば、そう遠くないうちに胃に穴が開くだろう。
 こうなったのも、自分がルイズに召喚されてからというものだ。
「……………………………………………………」
 ドッピオはふと、考え事をし始めた。
 新しい主人となったルイズ。短気でプライドが高く、少し煽るだけですぐにくいついてしまう。
 我慢ということを知らないんじゃないのかと思うくらいの我が侭娘だ。いったいどんな生活を送ればあんなヤツに育ってしまうのだろう。気になる。

 ――そういえば、彼女のことでもう一つ気になることがある。
「……『ゼロ』のルイズ、か……」
 なんとなく、引っかかっていたフレーズだ。
 さっき食堂でルイズを侮辱していた生徒が言っていたのだが、いったい何なのだろう。
 そういえば、今朝会ったキュルケが、自分は『微熱』だなどということを言っていた気がする。二つ名のようなものでもあるというのだろうか。
 だとしたらルイズは『ゼロ』という二つ名をつけられていることになる。
 『微熱』はわかる。火属性の魔法が得意だと言っていた。
 だが、『ゼロ』とはなんだ? これも、魔法が関係しているのだろうか?
 ……しばらく考えてみたが、やはりわからない。
 本人に聞いてみればいいのかもしれないが……あの生徒たちが言っていたことを考えると、なんだかそのことは触れない方がいい気がする。
 もしかしたら、彼女のことを『侮辱』し、深く傷つけてしまうものかもしれないのだから。
「……………………………………………………」
 そう考えてみると、彼女のことが気になり始めた。
 彼女は常日頃からああして『侮辱』を受けているのだろうか? 理由もわからないし、根拠もないが、もしそうなのだとしたら――どうなのだろう。
 そんな中、みんなが幻獣だの動物だのを召喚して使い魔にしているときに、自分は人間、しかも平民を召喚してしまい、あまつさえ使い魔にしてしまう。
 どれほどの屈辱なのだろうか。悲しいとか悔しいとか、もうそんな言葉では片づけられないほどに暗い感情が彼女の中で渦巻いているのでは?
 そうだとしたら――と思うと、ドッピオはルイズに少しばかり同情した。
 自分へのこの仕打ちも、その日頃の鬱憤を吐き出すようなものだったのかもしれない。
 だからといってすべて許容できるほどドッピオは寛大ではないが。
「……どうしたもんかなぁ……」
 これからの行く末が全く見えないドッピオは、本日三度目のため息を吐く。
975ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 20:49:10.08 ID:JbgXbtNE
 ドッピオが考え事にふけってしばらくたった後――広場にちょっとした変化が起こった。
 使い魔たちが全員、学院の方へと戻り始めたのである。
「あれ?」
 なんだろう、と思い首をかしげるドッピオだったが、すぐにそれは見当がついた。
 もうすぐ授業が始まる時間だ。
 きっと主人に命令され、彼らの元へ戻ろうとしているのだろう。
 ならば自分も動いた方がいいかもしれないな。
 そう思って、ドッピオは立ち上がって食堂まで戻ることにした。
(とはいっても、次からどんな顔して会えばいいやら)
 思案してみるが、なかなかいいものが思いつかない。
 頭をひねりながらルイズのもとへ向かうドッピオだったが、やはりダメだ。
 素直に謝るのが一番か……と、そんなことを考えていたとき。
「あ……」
 前方から、ルイズがやってきた。
 人が悩んでいるときにこれである。
 やはり自分は運がないなぁ……そんなことをふとドッピオは考えた。
「……ごはん、済ませたの?」
「あ……うん」
「そう。じゃあ、ついてきなさい。これから授業だし、あんたはそばにいるのよ」
 それだけ言うと、踵を返してルイズは歩き出した。
 ドッピオもルイズに並んで、学院の廊下を歩く。
 しばらく二人は何も話さなかった。
 が、不意に、

「――ねぇ」
 ルイズが、ドッピオに声をかけてきた。
「なに?」
 聞き返すドッピオだが、ルイズは言いづらそうに口をもごもごさせて『あの……』とか『その……』とかを繰り返している。
 やがて、顔を赤くしながら、ルイズは言った。

「……フレイムが来たとき、とっさにかばってくれて……その……ありがとう」
 一瞬。ドッピオは、耳を疑った。
「――え?」
「私のために動いてくれてたんだし……か、考えてみれば、そのことまだ褒めてなかったかなーって……そ、それだけ! 早く行くわよ!」
 早歩きで先へと行くルイズ。
 慌ててドッピオはそれを追いながら、くすりとほほ笑んだ。

 ドッピオはなんとなく、ルイズのことを少しだけ理解できた気がした。
976ゼロの奇妙な腹心:2013/09/20(金) 20:50:07.29 ID:JbgXbtNE
 以上になります。
 ちょっと今日はもう限界(笑)
 また後日、お会いしましょう。
977名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/20(金) 21:20:19.20 ID:VevzOMuB
いいぞー
978名無しさん@お腹いっぱい。:2013/09/20(金) 21:49:12.32 ID:wMYhk/Dt
乙だぜ
979ゼロの奇妙な腹心:2013/09/21(土) 18:17:46.91 ID:Kd11Mjaq
投下します。
980ゼロの奇妙な腹心
 ドッピオはこの世界に来て初めての授業を受けることとなった。
 いや、というより使い魔の使命として、授業を受けているルイズのそばにいることになった、というのが正しいだろう。
 どっちにしろ、彼にとっては自分が召喚された世界のことについて知る貴重な機会だ。
「ここが教室ですか?」
「そう。ここで今回は土系統の魔法について学ぶの」
 食堂もさることながら、やはり教室もバカみたいに広い。
 あちこちに目をやると、ふと男子生徒が群がっているのを見つけて、ドッピオは疑問に思った。
 その答えはすぐにわかった。その中心に、今朝会ったキュルケがいたからだ。
 やはり男性にはモテモテらしい。いろんな男子生徒が彼女と話そうと躍起になっていて、それにキュルケは笑いながら応えている。
「すっげぇな、やっぱり」
「これくらい当然よ。なんたってここは貴族達の学び舎なんだから」
 話し合いをしながら、ドッピオとルイズは席まで歩く。
 その途中、食堂のときと同じようにルイズやドッピオを見て嘲笑する者がいたが、今度はドッピオは無視することにした。
 いちいち相手をしていれば、それは体力の無駄になってしまうからだ。
 ストレスは、ためないようにする方がいい。
 もっとも、ルイズの方は律儀(?)に睨み返しているようだが。
「……ところで、僕の席って」
「……ないわ」
「やっぱりなァ〜〜」
 やれやれといったように首を振るドッピオだが、以前のように怒りがこみあげてくることはなかった。
 自分なりにルイズのことを考え、整理することができたからだろうか。
「はい、どうぞ」
 と、ドッピオはルイズの座る椅子を引く。
 するとルイズは目を点にしてドッピオを見た。
「き、気が利くわね……」
 ついさっきあんな風に自分に歯向かったはずのドッピオがそんなことをするものだから、ルイズは驚かずにはいられない。
「僕は床に座ればいいです? それとも教室の一番後ろで立ってましょうか?」
「えっ?」
 ドッピオは続いてこんなことを言ってきた。
 この使い魔、あの短時間の間にいったい何が起こったというのだろうか?
「あ……じゃ、じゃあ、そばにいるべきだし、床で……」
 そう命令すると、ドッピオはあぐらをかいてその場に座った。
 なんだろう。ここまで従順だと、逆に気味が悪い。
 ……なんだ? マジになにが起こった?
 スープとパンになにか変なものでも混じっていたのか?
 なんだか落ち着かないルイズだったが、そうしているうちに先生が教室に入ってきたので、授業に集中することにした。
 ちらと使い魔の方に目をやれば、ドッピオの方も授業に集中している。
 とりあえずはこのままにしておこうとルイズは決めた。

 教壇に立った教師は女性で、満足げな笑みを浮かべながら教室を見回している。
「みなさん、この春の使い魔召喚は大成功のようですね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期にみなさんが召喚した使い魔を見ることがとても楽しみなのですよ」
 と、そこでシュヴルーズはルイズのそばにいるドッピオを見て少し驚いた様子を見せる。
 が、すぐにニッコリとほほ笑んで、とても優しい口調でこう言った。
「まぁミス・ヴァリエール。とても変わった使い魔を召喚されたのですね」
 その言葉は、さっきルイズをあざ笑った貴族達のように皮肉をこめたものではなく、純粋に自分の気持ちを言ったものだとドッピオにはすぐわかった。
 それはルイズにもわかったようで、ほっとしたように胸をなでおろしている。
 だが、どこにもそういう発言者の意図がわからないアホはいるものだ。

「おい『ゼロ』のルイズ! 使い魔召喚ができなかったからってそこらへんの平民をつれてくるなよ!」
 
 どこからか、そんな罵声が聞こえてきた。
 声の聞こえた方向を見ると、そこには小太りの少年がニヤニヤと笑いながらこちらを見ている。
 その言葉につられてクスクスと笑い始める者もいた。
「なん――」
 ルイズが小太りの少年に言い返すべく席を立とうとしたとき、不意にルイズは腕を掴まれた。
 見ると、ドッピオがルイズの腕を引っ張っている。
 ドッピオは首を横に振った。
「授業中です。静かにしましょうよ」
 その声はとても静かなものだったが、とてつもない力強さを持ったものだった。
 最初こそルイズは反感をもったものの、今は喧嘩などしている場合ではないと理解して、しぶしぶ座り込む。