1 :
名無しさん@お腹いっぱい。:
スレ立て乙ー
保守
前スレ末期はあんなに雑談が伸びてたのに…
なんというか、実に悲しいな。作品の投下を待つしか無いのだろうか
ヴィンダールヴのルーンと獣王の笛ってある意味相性よすぎだよね
……ルーンあったら笛いらなくね?
笛で呼び出す→戦闘なしでルーンで洗脳
これを繰り返すだけで大軍団が!
それはヴィンダールブのポジションがチウになるという…
いやぁ、全然役に立たなそうだ…教皇的に考えて。
ヒュウゥゥンケルーーッ 君がッ SSの主役になるまで 妄想するのをやめないッ!
アバン復讐失敗後、ミストバーンに拾われずそのまま召喚される少年ヒュンケル
ってのは無理があるかな?
魔物に囲まれて育ったからどっちかっていうとガンダよりヴィンダの方が少年ヒュンケルに
似合いそうだ。
ガンダヒュンケルにヴィンダヒュンケル・・・・・・
妄想がとまらNEEEEEEEEEEEEEEEEEE
つーか前スレの最後に召喚されてなかったっけ?
冒頭だけだったが、あれはいいな<ヒュンケル召喚
気に入った
続きを希望したいくらいだ、真面目に読みたい
ヒュンケル待ち保守
グランドクルス保守
小ネタのつもりだったけど、続き書いてみた<ヒュンケルネタ。
題名はまだ考えていないが、とりあえずフーケ討伐まではやりたいと思う。
前回投下したのを読んでない人は前スレの最後らへんを見てほしい。
では投下。
自分の部屋、自分のベッドを目の前にして、少女は肩を震わせていた。
薄桃色の長い髪は肩の動きと共に波打ち、
怒りとも悲しみともつかぬ感情の揺れが、涙となって瞳に溜まる。
少女の名はルイズ・フランソワ―ズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
『ゼロ』といういささか不名誉な二つ名を持つメイジだったが、彼女は今日、ある魔法を成功させた。
サモン・サーヴァント――使い魔召喚の儀である。
そのおかげで昨夜、少々不安に思いながらも用意した使い魔用の寝床も無駄にせずに済むはずだった。
今頃は大好きな姉に向けて、どんな使い魔を召喚したか、喜々として手紙を書いているはずだった。
しかし――藁で作ったその寝床には今、彼女の夢想した美しくも強力な使い魔など存在せず、
代わりにボロボロに傷ついた1人の男が彼女自身のベッドで横たわっていた。
「一体、この状況はなんなのよ……?」
ルイズは本日何十回目かの自問を再び繰り返し、また頭を抱える。
彼女がサモン・サーヴァントで呼び出したのは1人の男。
それもボロボロに傷ついて瀕死になった、ただの平民だった。
召喚される使い魔は主の力量を示唆すると言われるが、これは彼女にとってあまりに残酷な現実。
コルベールは、この男は身なりから見て傭兵かもしれないなどと言っていたが、それがなんだというのか?
傭兵と言えど、平民がメイジに勝つなどありえない。
実際キュルケなど、「このヤケドは火のメイジにやられたのかもね〜」などとやけに誇らしげにのたまって……。
「どうして? どうして私だけ……」
泣き言を言っても、どこからも返事は帰ってこなかった。
治療をしたとはいえ、この男はまだ立派な重傷人。
しばらくは寝たきりのままだろう。
明日、新しい使い魔で溢れる教室に1人で入っていくのかと思うと
ルイズはひどくみじめな気持になって、溜まっていた涙が遂にぽろりと落ちた。
最初の涙がこぼれると、あとはもうと止めようもない。
少女はただ声を押し殺し、まるで吐くような格好で泣きじゃくった。
結局その日、ルイズは新しい使い魔と一言も声を交わすことなく、最悪の気分のまま眠りを迎えた。
――翌朝
「ここは、どこだ……?」
目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋だった。
魔剣戦士ヒュンケル、ハルケギニアに来て初の覚醒である。
痛みを堪えて身を起こし、辺りを見回すと、明け方の微かな光の中で、淡いピンクの色が目を引いた。
目をこらすと、床に誰かが横たわっているのだと分かる。
「マアム? ……いや、人違いか」
床に敷かれた藁の上で、見知らぬ少女が寝息を立てていた。
状況から見て、どうやらこの少女が看病をしてくれたらしい。
少女は回復呪文の使い手なのか、致命的だったはずの傷も、かなりの部分が治っていた。
いや、実際には未だ常人には耐えがたい怪我なのだが、この男にとっては「まあ動けるかな」程度には回復していた。
おそらくヒュンケルが眠っていたベッドも、本来は少女のものに違いない。
「感謝しなくてはならないのだろうな」
目を伏せてつぶやくと、ヒュンケルは少女をそっと抱えあげ、ベッドの上に運んだ。
少女は少し身じろぎしたが、すぐにまた寝息を立て始める。
起こして事情を聞くことも考えたが、ヒュンケルは魔王軍の軍団長をしていた男である。
普通の少女が関わりを持ってためになるような人間では決してないという自覚が彼にはあった。
もしかするとヒュンケルは、少女の親や、友人の仇でさえあるかもしれないのだ。
すぐに立ち去った方が無難だろう。
ヒュンケルは壁に立てかけてあった魔剣を見つけると、それを手に取り、部屋から出て行こうとした。
しかし――
「ここは、パプニカではない……?」
窓からふと見えた光景が、ヒュンケルをたじろがせた。
最初は民家だと思っていたこの部屋だったが、実際は草原にそびえる小城の一室。
ヒュンケルがダイと死闘を繰り広げた場所はパプニカの地底魔城だったが、
パプニカの主たる拠点はヒュンケル自身がのきなみ潰してしまっていた。
こんなに目立つ城を魔王軍の諜報部隊が見逃しているはずもないし、なによりも……
「月が、二つ……!?」
霞みはじめた空に浮かぶは双月。
やはり自分は死んでいて、黄泉の国にいるのかと疑うほど現実味のない光景だった。
「やはり、この子を起こした方がいいか……。
……む、あれは?」
ヒュンケルの目が窓の下、薄暗がりの中を動く影を捉える。
服装から見て、どうやらこの城のメイドのようだ。
ヒュンケルはもう一度かたわらで眠る少女を見据えると、静かに部屋から出て行った。
というわけで、半端かもしれないけど一話というか二話というかは投下終了。
まだ会話ないけど許してほしい。
書きためてるから続きは数日以内に投下できると思う。
では感想待ってます。
乙です。
おおおおお
キター!!
ありがとう、ありがとう
続き読みたかったんだよ
超wktk、すげー嬉しい
本当に乙!!
自分も続き読みたかったからすごく嬉しい。
いやあ、いいなあ
ルイズのがっかりぶりが何とも言えずいい。
なんたってボロボロで死にかけだもんなw
平民がメイジに勝つなどあり得ないって
大丈夫、こいつの強さ異常だからw
それを知ってる身には本当この先の展開がワクテカ
ルイズがヒュンケルを見る目が変わる瞬間が楽しみで仕方ない。
乙です、続き楽しみにしてます。
異世界となると鎧の魔剣はさすがに来れないだろうし、デルフ涙目は無いのかな?
いや、召還時点でヒュンケルを追ってゲートをくぐったみたいで来てるよ。
まだ鎧の部分が修復されていない抜身の状態だけどそのうち直るだろう。
ところで・・・どうやってヒュンケルを運んだんだ?
28 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 04:21:40 ID:snNfc39a
うおおおおおおお!?まじで来た!!!
ありがとう!超楽しみにしてたんだ!
やべええええええええテンション上がる!!
行動が先走ってしまった、ごめん
sage忘れてた・・・・・・
ゼロの使い魔は知らんがとりあえずヒュンケルの不死身っぷりに期待がおさまらん。
31 :
15:2010/11/01(月) 21:22:10 ID:UIladLHC
それじゃ、ヒュンケル話の続きを投下します。
32 :
15:2010/11/01(月) 21:26:43 ID:UIladLHC
中庭を少し探すと、目当ての人物はすぐに見つかった。
探していたメイドは、水場で大量の洗濯ものを前に格闘している。
「……すまないが、少しいいか?」
一心不乱なその様子に躊躇いつつも後ろから声をかけると、
メイドは驚いたのか「きゃっ」と小さな悲鳴をあげて、おそるおそる振り返った。
黒髪黒目のメイドは最初不審げにヒュンケルの姿を見ていたが、すぐに何か思いついたようにパッと目を見開いた。
「失礼ですが、ミス・ヴァリエールに召喚された使い魔さんですか?」
「……使い魔?」
メイドの言うことは、すぐには意味の掴めぬ言葉だった。
無意識に拳を握りしめながら、ヒュンケルは否が応にも話を聞かねばなるまいと覚悟を決める。
「俺の名はヒュンケル。 すまないが、一から説明してくれないか?
さっきまでずっと気を失っていて、何も覚えていないんだ」
「あっ、そうなんですか、すいません。
私はこの学院で貴族の方々のお世話をさせていただいている、シエスタと申します。
あの、お体の方はもう大丈夫なんですか……?」
メイド――シエスタはそう自己紹介すると、ヒュンケルに促されて説明を始めた。
ここがトリステインという国の魔法学院であること。
授業の一環として行われたサモン・サーヴァントでヒュンケルが召喚されたこと。
ヒュンケルが瀕死の状態だったので治療したこと。
そして、ヒュンケルを召喚したのが、ルイズという名の少女だということ――。
33 :
15:2010/11/01(月) 21:31:01 ID:UIladLHC
「あの、ミス・ヴァリエールはちょっと気が強いところがありますけど、悪い人じゃないと思います。
えっと、平民のヒュンケルさんを呼び出したことにショックを受けてたようですけど、結局は高価な秘薬まで使って治療されましたし……」
暗い顔をしたヒュンケルを見て、シエスタは彼が「ルイズの使い魔」という境遇に不安を感じていると思ったらしい。
四苦八苦しながらルイズの美点を挙げるシエスタの言葉を聞きながら、ヒュンケルはしかし、まったく別のことを考えていた。
メイジ、使い魔、トリステイン、ハルケギニア……。
シエスタが少し訝しげな顔をしながら教えてくれた「常識」は、ヒュンケルのそれとはまったく異なるものだった。
二つの月を見た時から思っていたことだが、どうやら自分は、本当に異世界とやらに来てしまったらしい。
いつのまにか左手に刻まれていた使い魔のルーンを見つめ、ヒュンケルは深く、重い溜息をついた。
その後、洗濯を終えたシエスタは「そろそろ行かなきゃ」と言って腰を上げた。
話し始めた時には薄暗かった空は既に、だいぶ明るくなっている。
太陽は一つなのだなと思いながら、ヒュンケルはシエスタに礼を述べた。
口ぶりからして、彼女もヒュンケルの治療を少し手伝ったのだろうと気づいていたので、そのことも言い添えた。
面と向かって礼を言われたシエスタは照れたのか、頬を染めて慌てていたが、
「そろそろ部屋に戻ってミス・ヴァリエールを起こした方がいいですよ」と忠告して、小走りで去って行った。
34 :
15:2010/11/01(月) 21:40:47 ID:UIladLHC
部屋に戻ってみるとシエスタの推測通り、少女――ルイズという名だと判明した――はまだ眠っていた。
ヒュンケルはしばらくその寝顔を眺めながら、これから自分がどうするかを考える。
正直言って、今のヒュンケルには死ぬ理由はあれど、生きる理由など見当たらなかった。
普通に元の世界で目覚めたのなら、贖罪のためにダイ達の盾となる道もあっただろうが、
この世界で目覚めてしまった自分は、ただ生き恥を晒し続けるしかないように思えた。
血塗られた魔剣以外何も持たぬ自分に、この左手のルーンはどんな意味をもたらすというのか。
この少女は自分に、何を期待しているというのか。
あてどない思考は同じところをぐるぐると回り続け、ヒュンケルの気を沈ませた。
「……とりあえずは、この子次第か」
何はともあれ、自分がルイズに命を救われたという事実は変わらない。
しばらくは彼女の使い魔とやらをやるしかないのではないかとヒュンケルは思う。
あるいはそれは答えの先延ばしにすぎないのかもしれないが――。
「となると、まずは……」
未だルイズに起きる気配がしないのを見てとって、ヒュンケルはため息を吐いた。
ここも学院というからには、たぶん朝から授業があるのだろう。
放っておいて遅刻させるわけにもいくまい。
そうしてヒュンケルはこの世界に来て初めて、己の召喚主である少女に声をかけることとなった。
35 :
15:2010/11/01(月) 21:51:16 ID:UIladLHC
ちまちました量で申し訳ないが、以上で今回は終了。
ルイズとの初会話は次で、投下は週末ぐらいかな。
題名は「ゼロの魔剣戦士」と一応考えたけど、語呂が微妙なので絶賛募集中です。
キタ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(゚∀゚)゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!
乙です。
キタワァw
乙!!
次回の会話が楽しみで仕方ない。
題名は「ゼロの魔剣士」じゃ駄目かな
乙です。
原作ではアバンの使徒に目覚め、ダイ達を救った時点で称号が「魔剣戦士」から「戦士」になったはずだから・・・
魔剣戦士は使わないほうがいいかも
乙です、楽しみすぎる
さあ、どうなるやら
さすがヒュンケル、状況把握早い
久しぶりに来たら新作が来てた。
ただ前レスがログ落ちしてる。
申し訳ありませんが
作者さん、ウィキに登録してください。
元からヒュンケルはシリアスキャラだけど呼ばれた時期がこれだけに、
ちょっと重そうな雰囲気になりそうだな。
この当時のこの人。ある意味死にたがりだからねぇ。
この時期のヒュンケルが会得している技は
大地斬
海波斬
ブラッディースクライド
闘魔傀儡掌
知っているが使った経験がないもの
グランドクルス
空烈斬
知らないもの
アバン流殺法のうち剣術以外すべて
槍より剣が得手だから剣以外を無理に持たせなくても良いだろうが
鎧の魔剣の鎧部分がいつ直るかで展開が大きく変わるな。
確か原作ではクロコダインに元気付けられて、元気だしたヒュンケルの闘志に呼応して復元したんだよな
ここではどうなるか楽しみ
あれ?復活だっけ?
手元に無かったのが飛んできただけだと思ってた
原作読んで確かめてみたけど、ヒュンケルが「完璧に復元している……!!」とか言ってた
飛んできたのはヒュンケルの闘志に呼応したからだけど。
鎧の修復の方はヒュンケルとは関係なしに自動的にされてたのではって意味じゃないか?
>>44>>45>>46 ロンベルクが俺が作った武器は勝手に自己修復くらいするって言ってた。
ところでこの世界だと、鎧の魔剣喋る?
ヒュンケルを守るためにボロボロになっても何度も自己修復する健気な鎧の魔剣。
女の子がいい。
もうすでに擬人化した鎧の魔剣が脳内に出来ている自分は病気。
それは確実に病気だなw
我々の業界では正常です。
待てよ、、、
鎧の魔剣が可愛い女の子だったとしてだ。
魔剣が喋るって事は、たとえ喋るのが刀身の方だとしても、
額につけてる状態のまま喋ったらヒュンケルの性格が誤解されるかもしれん!
それもいいけど。
とりあえずこっちの世界の女の子といい具合になりそうな時は
容赦なく鎧化して遮断するといい。
見える、見えるぞ、、、「私以外に触らせないんだからっ!」と
涙声で訴える美少女の姿が!!!
完全に病気だ。
ああ、それとも長門系のクールな様でちょっと不思議系美少女でもいいかもしれん。
どうしたらいいんだ、、、
擬人化なら他でやれよw
完全にオリジナルじゃねえかよw
>>52 擬人化はしてない。
俺の頭の中にいて見えるだけの話。
ただ鎧の魔剣が喋るかどうか気になるだけだ(`・ω・´)キリッ
でもそれが武骨な男の声よりも可愛い女の子の声の方が夢があるだろ?
ロマンがあるやろ?
俺はうp主の感性を信じる。
喋らないから安心しろ
>>53 考えた事もなかったな・・・その発想。
外見はどんな姿なんだい?
ポニテ?ショート?ボブカット?
可愛いってどんな風に可愛いか気になるだろう、教えてくれ
>>53 どっちにしろオリキャラじゃねえかよw
他でやれw
57 :
53:2010/11/06(土) 21:28:41 ID:xXZqq6Gk
>>54>>55>>56 OK。ちょっと自分の書き込みを読んで軽い自己嫌悪に陥っていた所だ。
丁度よく鼻の穴もしぼんだ所で素直に謝っておく。すまなんだ。
まあ、ただ、あえていえば、童顔で黒髪でちょっとたれ目の巨乳かな。
髪の長さは肩にかかるくらいか、腰にまで伸びてるか、前髪ぱっつんもすてがたい。
ああ、気にしないでくれ。オリキャラの話だ、、、。
主役はヒュンケル。忘れてないとも!
58 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/06(土) 21:35:01 ID:YdMUZVpg
>>57 俺はこの書き込みをみてレスしようと思った。
ただ鎧の魔剣が喋るかどうか気になるだけだ(`・ω・´)キリッ
>>47 この世界で喋る剣は予めそう作られたものだけです
この世界に来たからと言って、元々喋ることの無い剣が喋ることはありません
ここではスレ違いなので、VIP等でスレ立てするか、外部のサイトに投稿するなりしてください
トリップつけてみた。
今日は用事あるので明日の夜に投下します。
wikiの件はおいおいやろうと思いますが、もう暫くお待ちください。
魔剣はまあ、デルフと意思疎通させるくらいならネタとしてはいいかもね。
まずはデルフを出さなきゃならないけど。
それでは投下します。
その時彼女は夢の中、今よりもっと小さな体を震わせて泣いていた。
ここは彼女の秘密の場所。
中庭の湖面に浮かべた、舟の中。
魔法を失敗させて叱られると、いつも彼女はここに逃げ込んで、隠れて泣いていた。
「……ィズ、ルイズ」
どこからか、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
しかし今の少女には、その呼び声に応える元気もなかった。
――わたしはいらない子なんじゃないか?
そんな不安と焦燥感が、幼い心を満たしていた。
「……ィズ、ルイズ」
呼び声はまだ続いている。
その声が誰のものなのか、ルイズにはうまく思い出せなかった。
大好きなちいねえさまのものとも、憧れの人のものとも、その声は違って聞こえた。
――あなたは誰? わたしを叱りにきたの?
ルイズはおそるおそる顔をあげ、涙で曇った目を見開いた。
「起きろ。朝だぞ」
「……アンタ誰?」
しょぼしょぼと目を開けたそこには、銀髪の青年が立っていた。
まず最初に目を引くのは細身ながらがっしりした体躯と、腰に下げられた抜き身の長剣。
正直、あまり穏やかな印象を与えるものではなく、ルイズはその身を少し竦ませた。
(わたしを夜這いしにきた変態かしら?)
キュルケが聞いたら身の程知らずだと笑いそうなことを思うルイズを余所に、青年は重々しく口を開いた。
「俺の名はヒュンケル。君に召喚された使い魔……らしい」
言われてみればなるほど、寝ぼけまなこをこすり、改めて顔を見てみると、たしかに男は昨日召喚した平民だった。
男の左手を見てみると、コルベールが珍しがっていたルーンもたしかにある。
ルイズは「ああ、そうだったわ。瀕死の平民を呼んでしまうなんて……」と
再び鬱モードに突入しかけたが、そこではたと重大なことに気がついた。
(なんでコイツ、平気そうな顔で突っ立っているの?)
「アンタ、体は平気なの? 普通なら死ぬほどの怪我だったんだけど」
袖口から見える包帯が痛々しかったが、
男――ヒュンケルは特に気にした風もなく、「大丈夫だ。ありがとう」とだけ応えた。
大丈夫なはずがない。
半ば茫然としながらも、治療の一部始終を見ていたルイズには分かっていた。
水の秘薬まで使ったとはいえ、あと半月は寝込んでいてもおかしくない傷だったはず……なのだが、
実際に支障なさそうに動くヒュンケルを見ると何も言えないのもまた事実だ。
自分の認識と現実との隔たりに、ルイズはなんだかわけがわからなくなってきた。
「ま、まあいいわ……。
私はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール! アンタのご主人様よ!」
昨夜までの落ち込みと、現在進行形の困惑と、身にしみついた貴族としてのプライド。
三者の争いは最後の者がかろうじて勝利し、ルイズはともかくも名乗りを上げた。
――ネグリジェ姿で目ヤニをつけたままという、いささか間の抜けた格好ではあったがともかく。
***
結局のところ、会話の主導権を握ろうとするルイズの努力はことごとく徒労に終わった。
「アンタは知らないでしょうけど」という前置きと共にありがたくもルイズが教えてやろうとしたことの殆どは、
「シエスタから大体のことは聞いた」の一言で封殺されてしまった。
聞くにはヒュンケルは、学院のメイドから事情を既に聞いていたらしい。
「ご主人様より先にメイドと口を聞くなんて!」と文句を言ったのも束の間、
「ご主人様は気持ちよさそうに寝てたんでな」と真顔で返されると、ルイズは口をもぐもぐさせるしかなくなった。
(なんかコイツ、やけに堂々としているわね……)
ヒュンケルがルイズに対して持つ敬意は、平民が貴族に対して持つそれではなく、一個人が恩人に対して持つものでしかない。
はっきり言葉にして理解したわけではなかったが、感覚的にルイズはそれを察した。
なんとなく見過ごしていたが、貴族である自分に対してタメ口をきいていること自体その証でもある。
(ご主人様としてナメられちゃいけないわ!)
そこで彼女は貴族と平民の差を思い知らせるべく、新たな作戦に出る。
「着替えるから手伝いなさい」
『所詮,平民など貴族の小間使いにすぎないのよ』とアピールする作戦である。
この作戦は当初、ヒュンケルが思いのほか従順にルイズの言うことに従ったことで成功を納めたかに見えたが、
着替え終わって最後に彼が、「大きくなったら一人でするんだぞ」と告げたことで台無しにあいなった。
言ったヒュンケルはさっさと部屋を出て行ってしまい、後に残るは怒りに震える小ルイズ。
彼女は使い魔のその発言を皮肉と捉えるか、本心と捉えるかという難しい問題に迫られたが、
結局「あいつは瀕死だから」というよく分からない結論を採用してぺったんこな我が身を慰めた。
実際のところ、もはや「使い魔瀕死説」は迷信の類にも思えてきたけれど……。
魔法成功率ゼロの地位を取り戻した杖を懐にしまった時、ルイズはふと、ヒュンケルの言葉を思い出した。
「元の場所に俺を帰すことができるか?」
どこか覇気のない様子だったヒュンケルだが、その質問にルイズが否と答えると、「そうか」とだけ言って少し目を落としていた。
――彼はやはり、元いた場所に帰りたいのだろうか?
思えば朝の慌ただしさに紛れて、ルイズはヒュンケル自身の話を殆ど聞いていなかった。
どこで、何をして生きてきたのか。何故あんな怪我をしていたのか。
ルイズはそんなことも聞きそびれた自分がおかしく思えた。
あるいはそれは――彼自身が暗黙のうちに、そう聞かれることを拒んでいたからかもしれない。
ルイズはふと思い、そう思った自分に何故か動揺した。
「……そういえばコレ、あいつのものかしら」
そうつぶやいたルイズの手には、小さな石のペンダントが握られていた。
***
一方ヒュンケルは、扉の外でルイズを待っていた。
ヒュンケルから見た「ご主人様」の第一印象は、子供っぽいの一言に尽きた。
マアムと同じ色の髪をしたルイズの気性は、マアムのそれよりずっと荒々しかったが、
その威勢の良さが逆にどこか滑稽さを醸し出し、唇をヘの字にした仏頂面も彼女の幼さをかえって強調していた。
「抜き身の剣なんか持ち歩いてたら、貴族への不敬になるわよ?」
講釈を垂れるようにそう言って魔剣を取り上げたルイズの顔を思い返し、ヒュンケルは本日何度目かの溜息をついた。
これに関してはルイズの言うことはもっともなことだったが、見知らぬ世界で丸腰はいささか落ち着かない。
(……それにしても遅いな)
一人手持無沙汰にしていると、おもむろに隣室のドアが開いて、一人の少女が出てきた。
燃えるような赤い髪と、褐色の肌。
ルイズと同じ制服を着た彼女はキュルケと名乗り、下から覗きこむようにしてヒュンケルの顔を見つめた。
意図的なのかどうか知らないが、前かがみになったために豊満な胸がひどく強調された格好である。
「昨日はよく分からなかったけど、いい男じゃない。あなたにキスできたなんて役得ね、ルイズも」
「……キス?」
「召喚した使い魔と契約する時にキスするのよ。まあ、あれはキスというより人工呼吸に見えたけど」
ヒュンケルはさほど社交的なタイプではなかったが、そう言ってクスクスと笑うキュルケとの会話は気を紛らわしてくれた。
彼女は今度は連れていたモンスターの頭を撫で、「使い魔のフレイムよ」と自慢した。
「火竜山脈のサラマンダ―ね。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
見たことのない生き物だったが、主人に従順そうなその様子にヒュンケルは感心を覚える。
脳裏にちらりと、獣王と呼ばれた男の姿が瞬いた。
「使い魔は普通……そういうものなのか? 人間が呼ばれるということは?」
「そうねえ、少なくとも私は聞いたことないわ。
あなたが現れた時、先生もすっごく驚いていたし、滅多に起こることじゃないわね」
キュルケはさほど考えることもなく答えると、「あなたも災難ね」と肩をすくめた。
ヒュンケルは再び何かを尋ねようとしたが、そこでまた扉が勢いよく開き、言葉が途切れた。
自称ヒュンケルのご主人様、ルイズの登場である。
「ヒュンケル! ツェルプスト―なんかとなに話してるのよ!」
「あ〜らルイズ、遅かったわね。ちょうどダーリンと今夜の約束を取り付けたところよ」
悪戯っぽく目を輝かせると、キュルケはさっそくルイズをからかい始めた。
対するルイズはというとキュルケの思惑通り、顔を真っ赤にして怒っている。
昨夜から落ち込みがちな気分も、キュルケを前にしては条件反射でフルスロットルである。
「ダ、ダ、ダーリンですって!?
こいつは私の使い魔なの! 瀕死なの! ちょっかい出すんじゃないわよ!」
とにかくこのルイズ、キュルケとの会話にはエクスクラメーションマークを欠かせない。
涼しげな顔で瀕死をしているヒュンケルと、その横で番犬のように唸るルイズを見て、
キュルケは「どっちが使い魔なんだか」と笑うと、手を振ってその場を離れて行った。
苛立たしげに喚くルイズには聞こえなかったろうが、ヒュンケルの耳には
去り際のキュルケが「まっ、思ったより元気そうでよかったわ」と呟くのがしっかり入っていた。
(人間はいいぞ、か……)
ヒュンケルはこの世界に来て初めてかすかに微笑むと、ルイズの小言と共に歩き始めた。
以上で終了です。
タイトルは「ゼロの剣士」としました。
魔剣戦士はたしかに魔王軍時代というイメージが強いかもしれないので。
意見してくれた方々、ありがとうございます。
次回の投下は水曜か木曜の夜辺りを予定しています。
ヒュンケル無双は次々回辺り。
待ってました!!!
流石の不死身のヒュンケルさん・・・・・・マジパネェッす
そしてヒュンケル無双が超楽しみ!!
乙です!
さっそくぴんぴんしてるヒュンケル流石。
順応性高いな。
>ぺったんこな我が身
そういえばルイズってマァムと同い年だったやうな、、、ゲフゲフッ!
乙です。
堂々としてるヒュンケルが笑いを誘うw
あと細かいですけど、マ「ア」ムじゃなくって
マ「ァ」ムじゃないでしょうか?
ルイズ完全に子供のカテゴリに入れられてるな……まあしょうがないけどw
乙です。
この時点のヒュンケルはアバンのしるしの性能(輝聖石)は知らないはず。
コルベールや土メイジが勘付くかな?
>>67 乙です!
スレに新たな光が・・・!!
ところで、wikiのほうへメンバー申請来てたんですがメンバー登録ってなんか必要だろうか?
登録編集にはメンバー登録必要ないので、保留にしてるんですが・・・
とりあえずwikiへは3話分登録しときました
いきなりですが、
今日明日は時間が取れるか怪しくなってしまったので今から投下しちゃいます。
朝食を食べ、授業が始まっても、ルイズの苛立ちは収まっていなかった。
食堂に向かう道すがら小言を垂れるルイズにもヒュンケルはどこ吹く風で、
シエスタとの約束があるからといって厨房に行ってしまったからだ。
聞くには、貴族用の重い食事ではまだ体に障るのでは心配したシエスタがヒュンケルを招いたらしい。
(なによ、シエスタやキュルケとばっかり仲良くしちゃって。あんなの胸ばっかりじゃない!)
ルイズとて鬼ではない。
本来なら平民の使い魔なぞ床に座らせて固いパンでも渡すところだが、病み上がりの今回は、特別にちゃんと食事させてやるつもりだったのに……。
昨夜予期した悲劇――使い魔なしで教室に行くという不名誉こそ免れたが、そのことへのささやか感謝の念もとうに消えうせていた。
主人である自分より先にメイドと知り合っていたことといい、キュルケと話していたことといい、ルイズには何もかも気に入らなかった。
使い魔の集団の中にいるヒュンケルは今、何を思っているのか。
ルイズのことをどう見ているのか。
そんな弱気が心の底にある自分自身も、ルイズは気に入らなかった。
そしてそんな様子は――つまり授業を全く聞いていないルイズの様子は――傍目から見ても丸わかりだったのだろう。
ミセス・シュヴルーズは軽い叱責と共にルイズに小石を錬金するよう命じた。
それは簡単な、初歩の魔法。
けれども、一度も成功させたことのない魔法。
「先生、やめてください!」「先生、代わりに私が!」「無理するなゼロのルイズ!」
必死に押しとどめる級友の言葉を振り払って、ルイズは完璧な発音で魔法を詠唱し――
例のごとく完璧に小石を爆散してのけた。
「イオラ級の威力だな」
意味不明な使い魔の言葉を背に、ルイズはがっくり肩を落としてうなだれた。
***
二人だけしかいない教室に、椅子や机をひく音だけが響いている。
ルイズとヒュンケルは今、ルイズがやらかした爆発の後片付けをしていた。
罰として魔法を使ってはいけないと言われたが、
元からろくに魔法を使えないルイズにとって、それはちょっとした嫌味にしか聞こえなかった。
教室の雰囲気は、果てしなく重い。
倒れていた椅子を机に収めると、ルイズはついに耐えきれなくなって口を開いた。
「……『ゼロのルイズ』」
「……」
「聞いたでしょ? みんながわたしのことを『ゼロ』って呼んだのを。魔法成功率ゼロのメイジ。それがわたしよ……」
ヒュンケルはただ黙ってルイズを見つめていた。
きっと彼はこれまで、ルイズが自分を助けたのだと思っていたのだろう。
だから、嫌々ながらもルイズに従っていたのだろう。
しかし、事実はそれとは違うのだ。
「アンタが死にかけていた時だってわたしは何もできなかったわ。
だって、アンタを医務室まで運ぶことさえ一人じゃできないんだもん。
わたしがしたことはただ財布から金貨を出して、水の秘薬を買っただけ。
メイジが聞いて呆れちゃうわよね?」
自虐は止められなかった。
言葉と共にとめどなく涙が流れ、メイジの証であるマントを濡らす。
これまでずっと蓄積されてきた負の感情が、昨日からのあれこれで爆発した形だった。
たかが平民の使い魔になんでこんなことをと思う自分がいたが、
そう思えば思うほど、「たかが平民」と大して変わらない自分がたまらなく悲しかった。
尚も続けようとするルイズだったが、ヒュンケルが突然その肩を力強く掴み、それを押しとどめた。
思わず顔を上げたルイズの涙の跡を、ヒュンケルは指先でそっと拭ってみせ、そして言った。
「俺の命を救ったのはお前だ、ルイズ。
そもそもお前に召喚されなければ、俺はあのまま死んでいた。お前の魔法が俺を救ったのだ」
そう告げるとヒュンケルは、ルイズの眼前に左手をかざした。
涙で曇った視界に、不思議な文字が滲んで映る。
使い魔のルーン。
ルイズが、「ゼロ」じゃなくなった証。
「力があっても、使い方を間違えれば何にもならない。
お前が成功させた最初の魔法が人の命を救ったということ。それを忘れるな」
「……たとえ救ったのが俺のような人間でもな」
ヒュンケルはそう付け加えて微笑むと、教室から出て行った。
思えばそれは、ルイズが初めて見た使い魔の笑顔。
初めてルイズに向かって発せられた、心のこもった言葉だった。
後に残されたルイズは、さっきとは別の種類の涙がこぼれそうになるのを堪えながら、
「ご主人様をお前呼ばわりするんじゃないわよ使い魔!」と怒鳴ってみせた。
かくしてヒュンケルの特技――「ピンチに助っ人」属性は、ルイズの心を救うという形でささやかなお披露目を見た。
支援
以上で投下終了です。次は予告通りヒュンケル無双。
これを超えたらルイズをもっと元気にできるかなって感じです。
>>70 指摘ありがとうございます。
あまりに基本的なことで逆に見落としてました。恥ずかしすぎる。
>>72 不慣れなもので勘違いしていました。
そういうことでしたら申請の件はなかったことにしてください。
お手数かけてすいません。
このゼロの剣士は前スレの最後のほうに第1話が投下されているんだが・・・
前スレを読めない環境か?
過去ログ読める人は作業をお願いします。
>>79 やっべ・・・すまんかった
てっきりこのスレのが1話だと思っちまった
ページ名変更して修正します
と思ったらどなたかが中身入れ替えで修正してくれてた模様
4~5話追加したいんだが被りそうなので様子見
僕の方でやっときました。
いや、重ね重ねすいません。
投下キタ─ ̄─_─ ̄─(゚∀゚)─ ̄─_─ ̄─ !!!!
惚れてまうやろー!!!
ヒュンケルは天然のタラシか。
ルイズもかわいくて思わずニヨニヨしてしまった。
しかし、まさかヒュンケルが溶岩の中に沈んでたなんて誰も信じないだろうな。
ヒュンケルさんマジイケメン
女をフルという最大の難関すら軽くクリアするヒュンケルだから
格好よくはげますくらい楽勝だな。
いつリア充になってもおかしくないスペックを持ちながら
童貞疑惑がぬぐえない21歳。
そんなアンバランスさがヒュンケルの魅力。
87 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/13(土) 20:33:20 ID:u5z1S4DE
30歳になったら魔法使いに転職しそうな不安感
>>87 ポップあたりが冗談で吹き込んだら本気で信じそうだから怖い。
ヒュンケルって実は密かに魔法使いに憧れていそう。
信じたら信じたで阻止する方向に進む気もする。
光と闇の闘気が中途半端になった経験から、戦士と魔法使いで同じ過ちを繰り返すのを避けようとしてさ。
今回のは闘気と違って無茶な強化とか出来ないだろうしね。
そしてそんな目的でするのでは相手に悪いということでそこらの娼婦で済ますけれども、
それを聞いたポップから「素人童貞」に転職しただけという驚愕の情報を知らされるとw
童貞問題程度で壮大すぎる
ダイとの邂逅後なら「コレで俺も魔法剣士だ!」だろ
>>89 素人童貞に転職www
ヒュンケルが凄いショックを受けている様子が想像できる。
どうすれば童貞から脱け出せるんだと苦悶してる様子がwww
アバン先生あたりに聞けば教えてくれるだろうか。
それともネタとして遊ばれるか。
>>91 そのためには魔法使いからさらに戦士に転職しなおさないといけない
話の内容が素でわからない
魔法使いに転職って何?
>>95 30歳まで童貞だったら魔法使いになれる、という伝説があってだな・・・
>>95 ちなみに日本人男性は義務教育で忍者か侍の選択授業があるんだぜ!
>>96 20歳過ぎても童貞だったら妖精だったっけ。
さて次のヒュンケル無双だが、
鎧の魔剣でゴーレムを真っ二つにしていくのか、
マキシマム戦の様に丸腰状態でゴーレムを粉々にするのか・・・
ヒュンケルさんは素手でオリハルコンを砕く素質を秘めてるチートマン。
青銅が殴ったら逆に砕けちゃうレベル。
召喚された時期を考えると、今後は中途半端コースだよね?
オリハルコンとかはまだまだ無理じゃないかな。
だが・・・それでブラッディスクライドなら・・・
読んだことないんだけど、オリハルコンってゼロ魔に出てくるの?
今夜十時頃に投下予定です。
緊張するぜ……
105 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/16(火) 16:18:12 ID:x98EpoAY
遅れてすいません。今から投下を始めます。
――ヴェストリの広場。
五つの外塔と中央の本塔からなる魔法学院の中で、火の塔と風の塔の間に位置するこの中庭は、一種異様な雰囲気に犯されていた。
昼下がりのこの時間、普段なら腹ごなしに学生達が遊ぶここは今、二人の人間のために存在している。
一人は金髪のキザったらしいメイジの少年、ギ―シュ・ド・グラモン。
もう一人は銀髪のキザったらしいルイズの使い魔、ヒュンケル。
遠巻きに見物する学生の一人が、遅れてやってきた友人に急かすように叫んだ。
「早く来い! 決闘が始まるぞ!」、と。
***
事の起こりは半刻ほどさかのぼる。
教室の片付けをし終わった後、ヒュンケルは厨房で食事を取っていた。
メニューは栄養満点の、野菜を柔らかく煮込んだミルクスープ。
完璧に傷病人向けの流動食だったが、その味は食に関心の薄いヒュンケルさえ唸らせるほどのものだった。
料理長のマルト―は強面だが気のいい男で、ヒュンケルが礼代わりに何か手伝おうと言っても笑って取り合わなかった。
彼曰く、「けが人はよく食ってよく寝るのが仕事」ということらしい。
そこでヒュンケルは再度マルト―に礼を言い、午後の予定を聞くために食堂でルイズを探すことにしたのだが、どうにも様子がおかしかった。
探し人はフォークの先にクックベリーパイを刺したまま、あらぬ方向を睨んでいる。
視線の先には――メイドのシエスタ。
どういうわけか、彼女は目の前の金髪の少年に何度も頭を下げていた。
「どうしてくれるんだね? 君のおかげで二人のレディが傷ついてしまったじゃないか?」
「も、申し訳ありません! 私の気が回らないばっかりに……!」
朝に会った時は明るい笑顔を見せていたシエスタが、哀れなほど縮こまっていた。
ルイズに事情を聞いてみると、シエスタが拾った香水の小瓶が元で、ギ―シュという少年の二股がバレてしまい、責められているのだという。
頭を下げるシエスタの拳は恐怖のためか、悔しさのためか震えている。
ギ―シュの行いはただの八つ当たりにすぎなかったが、立場的にも実力的にも下の平民が逆らえるはずもなかった。
思えば、これが自分の所属していた場所――魔王軍の理念の典型なのかもしれない。
そう考えると、ヒュンケルの心持はいささか複雑になった。
そして――
「ヒュ、ヒュンケル? なにする気?」
戸惑うルイズの声を背に、ヒュンケルはなおも頭を下げるシエスタへと歩み寄った。
さて、朝と昼の食事の礼はこれで足りるだろうかと考えながら。
***
――そして場面は戻り、ヴェストリの広場。
結局話は巡り巡って、ヒュンケルは今、剣を握っていた。
力を振りかざす者を力で抑えつけるとは本末転倒にも思えたが、
へそを曲げた貴族が「平民」のヒュンケルの言葉に耳を貸すわけもなく、どちらが初めに求めたか、決闘で白黒つけることに話は落ち着いた。
ギ―シュは格好の腹いせができると見込んで、ヒュンケルとは対照的に意気揚々と振る舞っている。
「諸君! 僕、ギ―シュ・ド・グラモンはこの平民に名誉を汚された!
よって今、この広場にて決闘により勝負をつける!」
芝居がかったギ―シュの言葉に、取り巻きの学生たちが歓声をあげた。
男女の修羅場だろうが決闘だろうが、彼らにはどちらでもいいようだった。
肝要なのは刺激的であること。それに尽きる。
彼らは滅多に見れない暴力沙汰に興奮し、眼を輝かせていた。
色めき立つ観衆の中、ただルイズとシエスタだけが、青い顔をしてヒュンケルを見つめている。
「ヒュンケルさんやめて! メイジに逆らったら死んじゃうわ!」
「アンタまだ怪我も治ってないのよ! つまんない意地張ってないでギ―シュに謝って……!」
ルイズやシエスタが必死にそう言うのを振り払って、彼はこの決闘に臨んでいた。
心配してくれるルイズ達には悪いが、ヒュンケルはこの決闘をある意味ではちょうどいい機会だと捉えてもいた。
ルイズが馬鹿にされる原因の一つには、「平民」のヒュンケルを召喚したことが間違いなく含まれる。
平民はメイジより弱い。
だから恥だ。だから貴族には逆らえない。
ルイズやシエスタが抱えるそんな鬱屈を、少しでも取り除いてやりたかったのだ。
「心配するな。俺は不死身だ」
ヒュンケルはそう言うと、涙混じりのルイズの罵声を背に、魔剣を強く握りしめた。
すると奇妙なことに傷の痛みが引いて、体が軽くなった。
見れば、左手のルーンが輝きを放っている。
この不思議な力は、そこを起点にして流れてくるかのようだ。
(これは「使い魔」としての能力なのか?)
ヒュンケルはそう疑問に思いつつ、敵と向かい合った。
脳内で、決闘の目的に「腕試し」の項目を付け加える。
ギ―シュは相変わらず芝居がかった姿勢を崩さず、余裕を見せていた。
「僕の二つ名は『青銅』。『青銅のギ―シュ』だ。
したがって青銅のゴーレム、ワルキューレが君の相手をするよ。
君はまあ、せいぜいその剣で頑張りたまえ」
言って薔薇の形をした杖を振ると、地面から剣を持った甲冑騎士が湧き出した。
ヒュンケルは授業で四系統魔法の基礎を聞いてはいたが、本格的なものを実際に見るのは初めてである。
繊細な造形をしたワルキューレに少し感心し、「見事だな」と呟いた。
ワルキューレはまるで、芸術家の作った工芸品のようだ。
しかし――
「おほめにあずかり光栄だ、とでも言っておこう。では、覚悟はいいな? いけ、ワルキューレ!」
ギ―シュが命令すると、ワルキューレは猛烈な勢いでヒュンケルに突進した。
まともに直撃すれば、四肢の骨も砕けんばかりのスピード。
剣を振り上げる戦乙女の姿に観客は黄色い声を上げ、ルイズとシエスタは思わず目を瞑りかけ――
「脆いな」
次の瞬間、言葉と共に剣を持ったワルキューレの腕が宙を舞っていた。
片腕をなくしたゴーレムを、ヒュンケルは木偶人形でも斬るようにそのまま両断してみせる。
「これは観賞用の人形か? 俺を倒したければ全力で来い」
そう言ったヒュンケルは、開始から今まで1メイルとして動いていなかった。
眼を疑うような早業に観客が静まり返る中、恐ろしくなめらかな切断面を晒した青銅が、ガシャンと音を立てた。
支援
茫然としていたギ―シュはその音でハッと我に帰り、慌てて杖を振り上げる。
「お、おのれ、僕のワルキューレを!」
怒りにまなじりを上げたギ―シュは、目の前にいるのが無力な平民であるという認識を頭から拭いさった。
再び振るわれた杖からはらはらと花が落ち、新たに五体のワルキューレがそこから湧き出した。
「戦乙女が奏でる三重奏、しのぐことはできるかな!」
そう叫ぶとギ―シュは二体を手元に残し、三体のワルキューレでヒュンケルを攻めたてた。
直線的に攻めた先ほどとは違い、三体で円を描くようにヒュンケルに攻撃を仕掛ける。
これにはヒュンケルも防戦一方で、黙りこくっていた見物人たちも再び威勢を盛り返し始めた。
「さすがギ―シュ! 腐ってもメイジだ!」
「その平民のイケメン顔を台無しにしてやれ!」
時には同時に、時には時間差で、ワルキューレはヒュンケルに剣を振るった。
ヒュンケルは防ぐのに手いっぱいで、手も足も出せないでいる。
……少なくともぱっと見は、そう見えた。
所詮は平民。貴族がちょっと本気を出せば敵わない。
ルイズやシエスタも含め、殆どの観客はそう考えた。
しかし、そこで誰かがぼそっと呟く。
彼は遊んでる、と小さな声で。
***
「……なかなかしぶといね」
圧倒的優位と周囲に見られるのと裏腹に、ギ―シュは苛立っていた。
あらゆる角度から攻撃を仕掛けているのに、ヒュンケルはその全てを防いでいるのだ。
防戦一方に追い込んでいるといえば聞こえがいいが、髪の毛一本たりともヒュンケルの体は傷ついていない。
ヒュンケルはワルキューレの攻撃を時には受け、時にはそらし、あるいは微妙に重心をずらすだけでかわしていた、
観客の中には、ギ―シュご自慢のゴーレムなどそっちのけで、ヒュンケルの動きを注視する者も出始めている。
(このままでは僕の沽券にかかわるな)
いい加減、じれったくなったギ―シュは、ついに護衛用のワルキューレまで前線に追いやった。
これで五対一。
さっきよりもさらに倍近くのワルキューレをヒュンケルは相手することになる。
ワルキューレは素早くヒュンケルを包囲すると、少しずつその輪を縮め始めた。
前方に二体。後方に一体。左右双方に一体。
逃げ場はない。
「多少はやるようだけど、これで終わりさ。せめてもの情けに、医務室へは僕が送ってやろう。
レビテーションも使えない、君の主人の代わりにね」
無言のヒュンケルを、ギ―シュと観客が嘲り笑う。
普段なら怒り狂うはずのルイズは、顔を青くしてヒュンケルを見つめるばかりだった。
そして……
「行け、ワルキューレ! 奴を一気に叩きのめせ!!」
裂帛の気迫と共に叫んだギ―シュ。
しかし、次の瞬間にはその目は驚きに見開かれていた。
それもそのはず、今まで待ちの構えを崩さなかったヒュンケルが、突如として走り出していたのだ。
標的はもちろん、ワルキューレの錬成者であるギ―シュ自身。
ヒュンケルは四方から来るワルキューレのうち三体を無視し、正面の二体を瞬時に斬り伏せた。
すれ違ったと思ったら斬れていた。そんなスピードだ。
他のワルキューレはギ―シュの動揺がうつったのか突然の動きに対応できず、ヒュンケルの後方で互いに衝突している。
ヒュンケルはワルキューレを斬ったそのままの勢いでギ―シュに迫りくる――!
「今だ! 錬金!!」
間一髪、ギ―シュは杖を振り上げ、ヒュンケルの背後に新たなゴーレムを出現させた。
ギ―シュが錬成できるのは七体のワルキューレ。
これが最後に残しておいたとびっきりの一体だ。
もはや、ギ―シュに余裕はない。
「斬り捨てろワルキューレ!」
ワルキューレは完璧なタイミングで不意をつき、ヒュンケルに背後から斬りつけた。
ヒュンケルの体は剣を受けて真っ二つに割れると、跡形もなく消えうせ――消えうせ?
「残像だ」
「ひぃッ!」
思わず悲鳴を上げたギ―シュのすぐ後ろ、涼しい顔をしてヒュンケルが立っていた。
慌てて振り返った刹那、ヒュンケルの手元が閃き、ギ―シュの薔薇を模した杖の花弁が全て斬り落とされた。
はらはらと花が落ち、ギ―シュとヒュンケルの間に赤い線が引かれる。
その瞬間、ギ―シュの目には点々と落ちた薔薇の一線が、彼我の越え難い実力を示しているように映った。
あるいは、ワルキューレを十体出せたってこの男には敵わないのかもしれないとギ―シュは悟った。
「こ、降参だ。僕の負けを認めるよ。杖を失っては何もできない。
まさか、『ゼロ』の使い魔に負けるとはね……」
言い終えると力が抜けてしまったのか、ギ―シュはその場にへたりこんだ。
ヒュンケルと、彼に走り寄って来た「ご主人様」を、思い出したかのように歓声が包み込んだ。
***
――ところかわって中央の塔。
四つの瞳がこの戦いを見つめていた。
トリステイン魔法学院の長であるオールド・オスマンと、『炎蛇』の二つ名を取るコルベール教師である。
オスマンは鏡に映った広場の映像を消すと、興奮した面持ちのコルベールに向き合った。
彼の手元には「始祖プリミルの使い魔達」という年代物の書物が握られている。
「あの剣の冴え、彼こそまさにガンダ―ルヴに相違ありません! まさかこの目で伝説の使い魔を見れるとは……!」
大発見とばかりに息巻くコルベールとは対照的に、
オールド・オスマンは普段の様子からは信じられぬほど険しい表情で黙考していた。
興奮していたコルベールもオスマンのその様子にただならぬものを感じ、齢300とも言われる老メイジを注視する。
オスマンはもしやポックリ逝ってしまっているのではないかと思うほど黙りこくった後、ようやく口を開きこう言った。
「コルベール君、彼がガンダ―ルヴかもしれんことは内密にするんじゃ。
王宮の連中が聞きつけたらミス・ヴァリエール共々どうなるか分かったもんじゃないわい」
コルベールもそれを聞くと心当たりがあるのか、暗い顔になった。
ガンダ―ルヴの異名は「神の盾」。
幾千の軍にも匹敵した、戦闘に特化した使い魔だと伝えられている。
目的のためには手段を選ばぬところのある政治家達がその存在を掴んだら利用されるか、あるいは……。
「分かりました。彼のことは内密にしておきましょう。
それにしてもあの動き、本調子だったらと思うと空恐ろしいですな。
……いや、昨日の今日で普通に歩いてるのを見た瞬間から私は戦慄しましたが」
「伝説もさもあらんというもんじゃな。わしもあれほどの使い手は滅多に見たことがないわ」
比較的平静を保っていたオスマンも、内心では興奮していたのだろう。
彼らは気付かなかった。
学院長室の扉の裏、こっそりと盗み聞きをしている人影の存在を。
影はサイレントの魔法で足音を消すと、誰にも気取られぬままその場を離れて行った。
以上で終了。支援ありがとうございました。
大地斬一発な展開を避けたらやたらと長く地味目に…。
最初に書きためていた分は大体ここまでなので、
これからは7〜10日に一回程度のペースになると思います。
乙です!
面白かったです
読んでてワクワクしました
やっぱり無双は楽しい
乙です。
これでシエスタがエイミの様にヒュンケルさんに猛烈アタックするのか・・・
なんという・・・事だ
乙です!
最近の心の潤いだ。
相変わらずヒュンケルつええ。
こっそりと投下。
「ようこそ!『我らが剣』!!」
厨房へやってきたヒュンケルにかけられた第一声はそんな大唱和だった。
あの決闘の後、ヒュンケルは涙目のルイズに怒られ、キュルケを始めとする惚れっぽい女子に囲まれ、
それを見たギ―シュに弟子入り志願され、何故かさらにまたルイズに怒られた。
そしてようやく夕食の時間になって落ち着くと思った矢先に冒頭の一言である。
見ると、料理長のマルト―やシエスタをはじめ、厨房の全員がヒュンケルを英雄でも見るような顔で見つめていた。
朝や昼に来た時は「メイジに召喚された気の毒な病人」的な扱いでしかなかったのだが、さっそく決闘の効果が出ているらしい。
予想を超えた状況にたじろぐヒュンケルを、使用人達は口々に「我らが剣」だとか「平民の希望」だとかいう言葉を使って囃したてた。
特に興奮した様子のマルト―などは、ヒュンケルが昨日まで半死人だったことも忘れたのか、ばんばんと豪勢なディナーを出してくる。
「どんどん食べてくれ、我らが剣! いやあ、貴族を剣一本でノシちまうなんて信じられん! こんないい気分になったのは初めてだぜ!!」
マルト―はそう言いながらヒュンケルのグラスに酒を注ぐと、「ほれほれ」と急かして自分のそれと乾杯させた。
よく見ると、マルト―の後ろには使用人達が酒を片手にぞろぞろと列をなしている。
もしかしなくてもこれは、ヒュンケルと杯を交わすために違いない。
正直、さほど社交的とはいえないヒュンケルにとってはあまり歓迎できない状況だったが、
無意識に逃げ場を探すように振り向いた先にはシエスタが立ちふさがっていて、目が合うと顔を赤らめて微笑んだ。
「ヒュンケルさん、今日は私のためにありがとうございました。それであの、お礼にお菓子を作ったのでよかったら食べてください……!」
シエスタは大皿に盛ったお菓子を、おずおずとヒュンケルに差し出してくる。
実際のところそのお菓子の山はヒュンケル一人で食べきれる量ではなかったが、
シエスタの目には昼間のギ―シュ以上の気迫がみなぎっていて、ヒュンケルの本能が「断ってはまずい」と警報を鳴らしていた。
ヒュンケルはとうとうこの圧倒的庶民的空間から脱出することを諦め、また新しく注がれた酒を呷った。
***
――2時間後、ようやくヒュンケルは酒宴という名のカオスから解放された。
普段あまり嗜まない酒を大量に飲んだせいか、少し足がおぼつかなくなっている。
さすがのヒュンケルも今日はさすがに疲れていたが、千鳥足で帰ったらルイズに何を言われるか分かったものではなかった。
罵られて喜ぶ性質でもなし、酔い醒ましをしてから帰った方が無難だろう。
(月夜の散歩でもしてくるか……)
散歩とは言っても、ヒュンケルは学院の構造をさほど分かっていない。
自然、足は昼に訪れたヴェストリの広場に伸びた。
夜の広場は静まりかえり、月光が芝生に奇妙に幻想的なコントラストを描いていた。
ヒュンケルはしばらくその風景に見とれていたが、やがて振り返ると夜の沈黙を破った。
「何か用か?」
言葉の先、月明かりの中で、青髪の少女が立っていた。
ルイズよりもさらに幼い容貌の彼女は、無機質な瞳でヒュンケルを見ている。
感情を窺わせないその表情と、直前まで自分に気配を悟らせなかったその動きから、ヒュンケルは少女にそれ相応の腕を認めた。
また、少女の視線は、ヒュンケルにとって馴染みのあるものでもあった。
「昼間の決闘、見ていたな?」
ヒュンケルがそう問うと、少女は小さく頷いた。
少女は自分の顔を指さし、「タバサ」と名乗る。
「タバサ、お前は俺に勝てたか?」
昼間の決闘の時にかすかに感じた異質な視線。
その中には値踏みするような色と、かすかな戦意が感じられた。
おそらく目の前の少女は、ヒュンケルの実力を測ると同時に「自分が戦ったのなら」とシミュレートしていたに違いない。
タバサはしばらく黙っていたが、必要最低限に音量を絞った声で返答した。
「分からない。あなたはあの時、手を抜いていた。なぜ?」
どうやらタバサは、それが聞きたくてここまで来たようだった。
ヒュンケルが適切な言葉を探す様子を、眼鏡越しの瞳で見つめている。
「手を抜いた、というわけではないさ。あれは腕試しだった」
「……ギ―シュの?」
「いや、俺自身のだ。剣を握った時、この使い魔のルーンから不思議な力を感じた。
傷の痛みを感じなくなり、体が本調子に近い状態になったのだ。
なにより……これ以上ないほど磨いたと思っていた剣の腕が、今まで以上に高まるのを感じた」
そう、ギ―シュのゴーレムなどやろうと思えばいつでも粉砕できた。
いや、正確に言えば即座に粉砕すべきだった。
いかに当代随一の剣の腕を誇るヒュンケルとはいえ生身の人間。
ギ―シュのゴーレムの動きはそれなりのものではあったし、複数を相手に延々打ち続ければ手傷を負う可能性もなくはない。
しかしそれでもなお、敢えてわざわざ時間をかけたのは、今までになく剣と一体になって動く自分を発見したためだった。
ギ―シュとの決闘はそういう意味では格好の機会だったし、存分に腕を振るうことができたとも思う。
タバサは説明するヒュンケルを黙って見ていたが、やがて「ガンダ―ルヴ」と一言呟いた。
耳慣れない言葉にヒュンケルが眉を潜めると、スポンジに水を染み込ますようにもう一度言いなおし、説明した。
「伝説の使い魔の名。あらゆる武器を自在に操ったと伝えられている」
「……タバサは俺がその『ガンダ―ルヴ』だと?」
「分からない。ただ頭に浮かんだだけ」
タバサはそう言うと、ヒュンケルに背を向けて歩き出した。
もうだいぶ夜もふけっている。
月が動いたせいか、芝生からは先ほどの不思議な美しさが消えていた。
女子寮である火の塔に入る前、タバサは足を止めて振り返った。
「さっきの言葉は訂正する」
「なんだ?」
「もしあなたが本気を出したら、たぶん私は敵わない。それだけ」
言い終わるとタバサは携えていた本を抱えなおし、建物の中に消えていった。
ヒュンケルは少女のかすかな足音に耳を傾け、左手のルーンを指先でなぞった。
いつのまにか、酔いは醒めていた。
投下終了。本当はルイズパートを付けて一話分だったんだけど、
雰囲気が違いすぎるので切って分けました。
なので次の投下は三日後くらいで。
おお、寝る前に覗いたら思いがけなく投下されてたw嬉しい
乙!!ついにタバサ登場
ワクテカするなあ
投稿乙
久しぶりに来てみたら、新作が!
作者乙!!
乙です。
7〜10日で投下ってことだったから驚いた。
ヒュンケルはコルベールやアニエスなんかと絡ませても面白そうだな。
ヒュンケルの指導でアバン流刀殺法を習得した銃士隊とか
アニエスにヒュンケルさんの過去知られたら・・・・・・
ヒュンケルはアニエスとコルペールどっちの立場でもある感じだしな。
どんな反応受けるんだろ。
オリハルコンも単なる槍投げで貫通してしまう武器それがロンベルク製
(マキシマムのドタマは単なる魔槍の投擲でブチ抜かれた)
ぶっちゃけノヴァでも通常オーラ剣でオリハルコン斬れるし、
オリハルコン壊せないなんていってるのは素手で戦うマァムとか除けば、
ロモス大会の強豪とかベンガーナの精鋭軍団程度のレヴェルでしょうねえ
まあ魔法には非常に強いのでメイジ相手ならオリハルコン兵は無双しそうですが
勇者アバンが倒した魔王ハドラーの時点で既に、
仮にも世界を支配しかかっているし、
列国最強のカール王城をアバンさえいなければ一晩で落とすところだったし、
そこらへん探せば何人でもいるスクウェアメイジなんかより明らかにずっと強いだろうね
烈風カリンとかなら別かも知れんが
まあこの時点のヒュンはイオナズン防げないしスクライドも完全版アバストには劣りそうだから、
魔王ハドラーには鎧なしでは勝てないかも知れないが…
タバサには余裕で勝てるだろーな
あでも何気にガンダールヴ効果でパワーアップしてるのか
ヒュンケル「s.CRY.ed」
相当強いメイジすら恐れるハルケギニア最強幻獣のドラゴンはゼロ戦の機銃で穴だらけになって死ぬ
ダイ世界のドラゴンは顔面以外は大地斬でも斬れない鋼の強度を誇る
そのダイ世界ドラゴンのブレスをアバンの修行三日目の初期レベルダイは海波斬は真正面から斬り裂くことができ、
ベンガーナ時点のまだまだ弱かったポップはベタンで数匹まとめてぶっ殺せる
そのポップのベタンはボラホーンには全く効果がなく、
にもかかわらずボラホーンは魔剣戦士時代のヒュンケルより遥かに弱い
まーワルキューレはさまよう鎧より弱そうだからなぁ(材質が青銅だし。さまよう鎧は多分鉄でしょ)
さまよう鎧一体ならチウでも倒せるところからすると…ギーシュはチウに勝てるかどーかくらいか?
チウ「この間ワルキューレにからまれた時に(薬草を)全部使ってしまったんだった」
ルイズ「ワルキューレ相手に薬草5つも使ってんじゃないわよ!」
違和感0だなw
チウ「さてこの世界でも獣王の笛で仲間を増やすとするか…
フレイムやシルフィードは…(チラッ)、強そう…いや主人がいるから駄目だな
ルイズさん、このあたりにモンスターは出ませんかね?」
ルイズ「モンスター? 妖魔ならオーク鬼とかがたまにでるけど」
チウ「(身長2mくらいの怪力モンスターか…グリちゃんみたいなもんだな。よし勝てる!)」
ピィ〜〜………
オークおに があらわれた!(7体)
チウ「ふ…複数でやってくるモンスターだったのね…」
ギャグっぽくいってたがその元ねたの軍隊アリとかチウと
同じサイズだったから普通に考えたらかなり怖いよな
なぜこの世界に鎧は飛んでなくて剣だけあるか不思議だ
ダイ戦でぶっこわれたのがまだ再生してないんだろうよ<鎧
こんばんは。今から投下を始めます。
ヒュンケルがタバサと話している頃、ルイズは所在なさげに部屋を歩き回っていた。
その幼くも美しい顔はくしゃみをこらえたネコのような面相で、なんともむず痒い微妙な雰囲気を漂わせている。
ルイズが考えているのは無論、使い魔のヒュンケルのことだった。
思えばあの平民を呼んで以来、ルイズの心は平常心という言葉からはかけ離れたところにあった。
ルイズにとってヒュンケルという人間との関わりは、予想外の連続だったのである。
彼は瀕死かと思えばすぐに回復し、冷たいやつかと思えば意外と優しくて、ただの平民かと思えばとても強くて――。
こうまでコロコロ変わられると評価のしようもなく、ルイズはヒュンケルに対する態度を決めかねていた。
もちろん彼女はご主人様で、ヒュンケルはその使い魔だという前提は変わらない。
変わらないのだがなんというかその、予定よりもう少し待遇を良くしてやってもいいかなぁと思ったりもする。
例えばそれは、やらせるつもりだった家事雑事を免除するとか、食事をルイズの隣の席でする権利をあげるとか、
その他おおよそヒュンケルにとっては意味のなさそうなものだったが、彼女は大真面目に頭を悩ませていた。
目下ルイズの課題は、帰って来たヒュンケルにかける第一声についてである。
ご主人様としての威厳を保持しつつ、ヒュンケルへの親密さをアピールする必要がこれには求められる。
「おかえりなさい……はダメね。ま、まるで、同棲してるカップルみたいだし……。
『遅かったわね』はなんだか嫌味だし、『よくぞここまで来た』は大魔王みたいだし……」
すっかり自分の世界に入ってしまったルイズは気がつかなかった。
背後のドアがそっと開き、そこから誰かが入ってきたことを。
ルイズは相も変わらずぶつぶつ呟きながら、台詞に合わせた百面相に忙しい。
「や、やっぱりインパクトが大事かしら。ご主人様の威厳をビシッと感じさせるような……」
「そんなんじゃだめよお。レディは威厳なんかより色気よ色気」
「そう言われても私のお乳じゃあ……ってその声まさかっ……!?」
ごく自然に一人言に割り込んできた声にぎりぎりと振り向くと、そこにはヴァリエール家累代の敵が立っていた。
キュルケ・フォン・ツェルプスト―はルイズを見て小馬鹿にしたように笑うと、ここがさも自分の部屋であるかのような自然さで椅子に座った。
落ち着いた様子のキュルケとは対照的に、なにか致命的なところを見られてしまった気がするルイズの顔は青くなったり赤くなったり、
もしや魔法でも使ってるんじゃないかというほどの形相を呈している。
「どどどどどうしてアンタがこの部屋にいんのよ! さささささっさと出ていきなさいよ!!」
ここ半年の中でも、このドモリっぷりはナンバーワンかもしれない。
吹き出しそうになるのを堪えながら、キュルケは椅子の上で形のいい脚を組みかえた。
「あら、別にいいわよ? せっかくだから風上のマリコルヌのところにでも遊びに行こうかしら。
話題は……そうね。 『ゼロのルイズが部屋で何をしていたか』、なんて面白そうじゃない?」
キュルケの出した名は、ルイズと特に馬の合わない同級生のそれだった。
気弱なくせにお調子者で小太りで風邪っぴきなアイツがこんなことを知ったらと思うと、サーっと顔から血の気が引いていく。
「よ、要求はなに? お金? 宿題?
言っておくけどヒュンケルの治療に秘薬を使っちゃったから、お小遣いなんてそんなにないわよ」
うっすらと涙を浮かべているルイズの顔は世にも哀れなものだった。
「仇敵に弱みを握られるとは一生の不覚!」ってなもんである。
キュルケはルイズのその様子に満足そうに頷くと、杖を振るって紅茶をティーカップに注ぎ、喉を潤した。
「要求なんて別にないわよ。フレイムに廊下を探させてたんだけど、なかなかダーリンが捕まらないからこっちに来ただけ。
まあ、おかげでいいものが見れちゃったけど」
キュルケがクフフと笑うのを、ルイズは今度は赤くなった顔で睨んだ。
「なにヌケヌケと人の使い魔をたぶらかそうとしてんのよ! い、言っておくけど、あいつのご主人様はわたしなんだからねっ!」
「あ〜ら、別にあたしはご主人様になろうなんて思ってないわよ? あたしが彼に求めているのはそんなんじゃなくて、身を焦がすような情熱よ!
……というわけで、ルイズがご主人様で、あたしが恋人ってことでいいじゃない?」
それで大円団よ、と手を上げるキュルケをルイズは睨んでいたが、しばらく経つと溜め息をついて力を抜いた。
「ねえ、真面目な話し、アンタはヒュンケルのことどう思ってる?」
「どうって、いい男じゃない。 クールだし強いし、あたし好きよ、ああいう殿方」
「……アンタはそればっかりね。昼の授業の後に色々聞いてみたんだけど、
アイツ、遠い国から来たとか溶岩に落ちて怪我したとか適当なことばっか言って誤魔化すのよ。
悪いヤツじゃないと思うけど、何か後ろ暗いところでもあるのかしら?」
呆れたように首を振りつつルイズが言うと、キュルケは唇に指を当てて考えた。
どうでもいいことだが、一つ一つのしぐさがいちいち色っぽいのがルイズの癪に障る。
「あたしには分からないわ、ルイズ。でもね、アンタが今言ったとおり彼は悪い人じゃないわ。
ギ―シュに、アンタに対しても謝らせたんでしょう?」
言われたルイズは顔を赤らめてうつむいた。
キュルケの言うとおり、決闘の後、ギ―シュはシエスタとルイズの双方に詫びを入れに来た。
シエスタには理不尽に当たったことに、ルイズには公衆の面前で侮辱して笑ったことに、ギ―シュはそれぞれ謝罪した。
それは頭の冷えたギ―シュが半ば自発的にしたことでもあったが、ヒュンケルが関与していたことは疑いない。
――使い魔はメイジの力に比例する。
決闘後、同級生が自分を見る目に変化が起こったことに気付いた時、ルイズはひそかに喜んだ。
もしかしたらヒュンケルは、シエスタのためばかりじゃなく、ルイズのためにも戦ってくれたのかもしれない。
それは勝手な推測にすぎなかったが、そう考えると胸の辺りがなにか温かいもので満たされた。
「……それにしてもこの剣、凄い業物ね。彼の腕前もあるんでしょうけど、青銅のゴーレムを斬って刃こぼれ一つないわよコレ」
物想いに耽ったルイズの気分を変えるように、キュルケは壁にかけられた剣を話題に出した。
抜き身の魔剣は魔法のランプの明かりを受けて、妖しく輝いていた。
キュルケも剣の相場など詳しくないが、これを買ったなら相当の金額になるのではないかということはよく分かる。
少なくとも、普通の平民の身で持てるものではない。
キュルケはますますヒュンケルに興味を惹かれる自分を感じた。
支援
「これだけの剣を飾っておくだけなのも、あれだけの剣士を丸腰にしておくのも、両方もったいないわね。
抜き身だから持ち歩けないっていうんなら、私がダーリンに鞘をプレゼントしてあげようかしら?」
言ってからこれは名案と思ったのか、キュルケは指を鳴らしてにんまり笑った。
ちょうど虚無の日も近いし、デートの準備をしなきゃと立ちあがる。
はしゃいで部屋を出て行くキュルケを不思議に静かに見送った後、ルイズはいそいそと財布を取り出して中身をぶちまけた。
大公爵家の娘であるルイズがいう「金欠」など、一般庶民のそれとはまったく違う。
ヒュンケルのために高価な秘薬を買ったとはいえ、金貨はたんまりとあった。
「悪いわね、キュルケ。アンタの計画はご主人様と使い魔の絆を深めるという、崇高な目的のために使わせてもらうわ!」
もはや部屋にはいない仇敵へうそぶいたルイズの目がキュピ〜ンと光る。
ご褒美という名目のプレゼント。
ご主人様として上の立場を誇示しつつ使い魔を喜ばせる方法として、これ以上のものがあろうか?
ルイズは予定表を取り出してぱらぱらとめくると、次の休日の欄にでっかく「お買いもの」と書き上げた。
以上で投下終了です。支援と感想ありがとうございました。
どうも自分の中でも安定しないんですが、会話文は一行開けた方がいいですかね?
改行で空白が多いのもどうかと思うけど、ぎっしり文字が詰まってると見づらいかなと悩み中です。
乙です!
これも一種のガールズトーク?
個人的にこういうノリの会話大好きなのでとても楽しく読ませてもらいました
ルイズ可愛いなあw
乙です、個人的には一行空けてもらった方がありがたいです。
ヒュンケル……早々と女性陣のハートつかんじゃってるな。
まあ、そうなるよなあ、なると思ったよw
乙です。
流石長兄ヒュンケル、女の子が憧れる憧れる・・・ッチ
投稿乙です
すぐにフラグ立てるヒュンケルかっこよすぎ
フラグは建てても回収どころか自分でへし折るのがヒュンケルさんでもあるけどな
黙ってても女の方から勝手にバシバシフラグ立ってくれてしまうスペックの持ち主だけど
本人が発展させたがらないで片っ端からへし折るからね
乙です。
地の文と台詞の間は1行空けたほうが読みやすいと思うけど、台詞のやり取りは空ける必要はないと思う。
亀だが、
>>42 あと知らないものに無刀陣がある。アバンの書に書かれていたはずだ。
>>156 必要ないと思った〜というセリフがあるから、存在と大まかな理屈は知っているはず。
同じように聞き流していたグランドクロスが土壇場で会得するぐらいだし、追い詰められたら覚醒してもおかしくはないな。
無難に使えるようになるにはアバンの書が必要……とも言い切れんのよ。
原作のように、半年にも満たない期間で会得したければ必要だろうけど、
教本があるとはいえ、その期間で会得できる人間は、概略さえ知ってればそのうち再現する。
本があって半年のものを仮にヒュンケルの能力に期待して一年で行けるとしてだ…
ゼロ魔の冒険で一年後って話どの辺まで進んでるんだよ
クロスは追い詰められて土壇場で使用したものだがヒュンがこの世界で追い詰められるのって何時の話だ
魔槍はないしデルフも剣だから剣以外の闘技を習得する必要性はなさそうだし…
無刀陣は話の流れからするとどうもアバンの書を読むまで存在自体知らなかったみたいな感じだったが
作中時間は半年どころか3ヶ月だった件
そして、「物語の始まり」(要はダイがデルムリン島で勇者修業受けるところから)〜「最終決戦」までが3ヶ月だから
ヒュンケルがアバンの書を手にしてから習得に費やした期間は
……どれだけ多く見積もっても一ヶ月かかってないんじゃないの?
数週間、下手したら数日
アバンの書が宝物庫に保管か、はたまた始祖の書だったら、無理矢理臭いけど見つける事は可能か
どうもよくわからねーんだが
なんでアバンの書で槍技覚える期間の話なんかしてるんだ?
この世界魔槍はないしデルフも剣だし覚える必要性がないと思うんだが
クロスの習得にアバンの書は関係ないし、覚えるとしたら無刀陣くらいだが…
ハドラーやバラン級の強敵と戦いでもしないかぎり…
クロスはおマチさんのゴーレム壊すのに便利そうではあるが、便利ってだけで習得できるもんでもないしおマチさんごときを相手にってのもちょっとな…
個人的には空技習得なりクロスなりはヨルムンあたりまでとっとくのがいいと思う
ダイのフレイ・鎧フレイ粉砕イベントをヒュンでヨルムンども相手にやるとか
空技やクロスはアンドバリのゾンビやヘキサゴンスペル相手に使うってのもいいか
まあそうすると大分先までおあずけになるが…
大文字だとsageの効果が出ないってアバンの書に書いてあったよ、マジで
久しぶりに来たんだけど獣王の人最近投下した?
最近というのが此処半年以内という事なら投下したと思う
予想より随分さくさく書けてしまったので、今日の夕方過ぎに投下予定です。
前に一週間一話ペースと言ったけど、あれは我ながら当てにならないようなので
参考程度に留めておいてください。
それでは投下します。
「起きなさいヒュンケル! すぐに出かけるわよ!」
その日の朝は、ルイズのそんな言葉から始まった。
まだ眠っていたヒュンケルが気だるげに目を開けると、ルイズはとっくに制服を着こんで彼を見下ろしていた。
部屋はまだ薄暗い。
宵っ張りで朝に弱いルイズにしては異常な早起きである。
「どうした? 今日は休みではなかったのか?」
今日は虚無の日――ハルケギニアの休日のはずだった。
額に手を当てながらヒュンケルが聞くと、ルイズはひっくりかえりそうなほどふんぞり返って答えた。
「休みだから出かけるのよ! さあ準備して!」
ルイズは、早くしないとキュルケが云々とぶつぶつ言っているが、
殆ど身一つで召喚されたヒュンケルにはさほど用意することもなかった。
軽く身づくろいをし、「では行くか」と言って部屋を出て行こうとすると、ルイズに慌てた声で呼び止められた。
「忘れ物よ」と言ってルイズは、ヒュンケルに楽器のケースのようなものを渡してくる。
「この中にアンタの剣が入ってるわ。しっかり護衛してよね!」
そう言うとルイズはヒュンケルの背を押して、早く早くと急き立てた。
***
トリステイン魔法学院には大きな厩舎がある。
王都トリスタニアに行くのに徒歩で二日はかかるここでは、移動に馬の存在が不可欠なのだ。
そんなわけで何処かに出かける段にあっては、同じ目的でここに来た者と遭遇することはそう珍しいことではない。
今朝も例のごとく、厩舎に近づくルイズ達に向かって先客が手を上げた。
「御機嫌よう。君もお出かけかね?ミス・ヴァリエール」
「おはようございます。オールド・オスマン」
厩舎の前にいたのはこの学院の長、オールド・オスマンだった。
傍らには緑髪の美人秘書、ミス・ロングビルも立っている。
オスマンは馬車の御者に少し待つよう命じると、いそいそと二人のところにやってきた。
「そちらが噂の使い魔君かな、ミス・ヴァリエール?」
オスマンはちらりとヒュンケルを見ると、ルイズに聞いた。
ヒュンケルの目にはオスマンの瞳が、不思議な親密さを漂わせているような気がした。
「ええ、こちらが使い魔のヒュンケルです。オールド・オスマンもこんなに早くにお出かけですか?」
ルイズはまだ太陽も昇りきっていない空を見上げて言った。
先に述べたように厩舎で人と会うこと自体は珍しくないが、この場合は時と相手がいささか特殊だ。
ルイズが言うのもなんだが、学院長がこんなに早く出かけるとは火急の用かといぶかしむ。
しかしオスマンは、眉をハの字にして子供のような表情を作ると、少年が友人にするような調子で愚痴った。
「それがのう、『土くれのフーケ』対策がどうので王宮の連中に呼び出されちまったんじゃよ。
あいつら忙しいとかなんとか言って昼前には来いとか言ってきおった。おかげでこんな早起きする羽目に……」
そこまで言ってオスマンはオヨヨと泣くと、ミス・ロングビルの胸に抱きついた。
そのままオスマンは「かわいそうなワシ……」などと泣き真似をして頬をスリスリしている。
ルイズはおそるおそるロングビルの顔を見上げたが、
かの辣腕秘書はピクリとも眉を動かさずにオスマンを張り手で一蹴すると、眼鏡を掛け直して通告するように言った。
「オールド・オスマン。駄々をこねてないで早く行ってください。遅刻しますよ」
どうやらロングビルの方は王宮に行かず、学院に残るらしい。
彼女は害虫を追い払うように手を振って急かしたが、オスマンがいなくなるのが嬉しいのか、その口元はほころんでいた。
まあ、あんなセクハラされてりゃそうなるわよねとルイズも内心同情する。
片頬を腫らしたオスマンは「つれないのう」と嘆きながら馬車に乗りかけたが、思いついたようにぴたりと足を止めた。
「そうじゃ、ミス・ヴァリエール。もしや君も王都に行くのかね?」
「え、ええ。そのつもりですけど?」
なんだか悪い予感を感じつつルイズが答えると、オスマンはにやりと笑って言った。
「それならせっかくじゃから、ワシと一緒に行かない?」
***
馬車で街へ向かう道中、ルイズはどうにも落ち着かずにモジモジしていた。
――オールド・オスマン。
齢三百とも言われるこの老メイジは、ある意味貴族の位階などを超越した偉大なメイジだ。
オスマンは気さくなエロジジイとしても有名であるが、重々しい肩書きと裏腹のそんな振る舞いがルイズにとってはまた妙な緊張を強いた。
オスマンは今、ルイズの隣で両の頬を赤く腫らして使い魔のネズミを撫でていた。
馬車に乗りこむ際に、使い魔の目を通してロングビルの下着を覗いていたのがバレたのだ。
ロングビルの必殺の張り手を二発も食らったオスマンはそれでもさほど堪えた様子も見せず、
ネズミ――モートソグニルに「白かあ。黒の方が似合うのにのう」などと呟いている。
ちなみにこの馬車は一つの席に二人ずつ乗れる四人乗りなのだが、
オスマンの希望でルイズとオスマンが隣同士、ヒュンケルは一人で座っていた。
ルイズにとってなんとなく気に入らない配置だったが、
学院長に異議を唱えるもはばかられ、ルイズはそわそわと膝を動かしていた。
「ところでオールド・オスマン。『土くれのフーケ』とは?」
意外なことに、最初に話題を出したのはヒュンケルだった。
土くれのフーケ。
それはオスマンが王都に行く理由として挙げた人物だ。
どうやらヒュンケルが学院長の相手をしてくれそうだと安堵の吐息をつくルイズの横で、オスマンがその白眉を持ち上げた。
「フーケといえば有名な盗賊よ。巨大なゴーレムを操り、強力な防御魔法がかけられた壁をも錬金して
土くれに変えてしまうことからその二つ名が来ておる。なんじゃ、君は新聞を読まんのか?」
長い顎鬚を揉みながらからかうように笑うオスマンに、ヒュンケルは文字が読めぬことを伝えた。
ヒュンケルは不思議なことにこの世界の言葉は使えたが、文字の読み書きまではできなかった。
当然新聞も読めず、この世界にきて日が浅いこともあってまだまだ世事には疎い。
そしてそんなヒュンケルを、オスマンは珍獣でも眺めるようにまじまじと見つめた。
「学がなさそうな顔でもないがのう。一体、君はどこから召喚されてきたんじゃ?」
「……遠いところです」
ヒュンケルは未だ誰にも、自分が異世界から召喚されたことを告げていなかった。
言って信じてもらえるか疑わしかったこともあるが、本心のところは自分でも分からない。
あるいはまだ、自分の過去と向き合う覚悟ができていないからだとも思う。
それきり沈黙したヒュンケルの様子をどう感じたか、オスマンは話題を変えるように明るく言った。
「そういえば君は、ミスタ・グラモンを剣で一蹴したそうじゃな。
随分な名剣だぞうじゃが、ちょっとワシにも見せてくれんか?」
無邪気に両手で拝んでみせるオスマンに、ヒュンケルはルイズの様子を窺った。
安心したら今度は退屈になったのか、ルイズは心なしか苛々している様子だった。
自分の愛剣を見世物のように扱うのは気が引けたが、ルイズの手前、学院長の頼みを断るのも角が立つ。
ヒュンケルは魔剣を入れていたケースを開けると、オスマンにそれを差し出した。
「ほうほう、コレがその剣か。見たことのない、珍しい金属で出来ているのう。
それに土メイジの魔法とも違う、不思議な力を感じるが?」
土系統のメイジは物の材質の見極めに秀でている。
卓越した土のスクウェアであるオスマンは、魔剣を少し触っただけでその特異性を言い当てた。
心なしかこちらを見つめる目にも鋭いものを感じて、ヒュンケルはその身を引き締めた。
オスマンが言う不思議な力、それは魔剣に潜む能力「鎧化」の力に他ならないだろう。
さて、なんと答えたものかとヒュンケルは頭を悩ませたが、なにを考えたかオスマンはまたネズミの方に耳を傾けた。
「なんじゃモートソグニル。ん、ピンク? いやいや、見るのはバスト80サント以上に限ると言ったじゃろうに」
つい先ほど閃かせた眼光はどこへやら、オスマンは再びただの好々爺に戻っていた。
一体、この小さな使い魔は何を見たのか?
ささやかな謎はすぐに暴かれる。
こいつめーなどと言ってネズミをツンツンつつくオスマンの隣で、何かがぶちりと切れる音が聞こえたから――。
「こ、こ、こ、このエロジジイ〜〜っ!!!」
沈黙を守っていたルイズが、顔を真っ赤にしてぶちぎれた。
初めこそ緊張で忘れていたが、ルイズからしてみれば今日は使い魔との初めてのお出かけ。
絶対口に出したりはしない――というより、
彼女自身そう思う自分を目いっぱい否定していたが、ルイズは今日という日を楽しみにしていたのだ。
乗っていく馬も事前にチェックし、道中の会話もシミュレーションし、
ルイズの手綱さばきに感心するヒュンケルの声まで脳内で再生されていたのに、
オスマンはそれを初っ端から邪魔したばかりかルイズのNGワード「お乳」を見事に踏みつけた。
――この恨み、晴らさでおくべきか。
もはやルイズは、立場も場所も失念していた。
馬車の中、誤解じゃ〜と喚く声と同時に、爆発音がヒュンケルの耳をつんざいた。
***
どこかから愉快な音が聞こえた気がして、キュルケは髪をいじっていた手を止めた。
少しメイクに力を入れすぎて、予定より遅い時間になってしまった。
そろそろ寝ぼすけのルイズも起きてしまうかもしれない。
キュルケはマントを羽織ると使い魔のフレイムを撫で、「今日はお留守番よ」と言いつけた。
忠実な使い魔は少し寂しげな声をあげたが、結局またのそのそと寝床に戻って二度寝を始めた。
キュルケは部屋から出ると、慣れた手つきで隣室に解錠の魔法をかけた。
鍵が開いたのを確かめ、ルイズを起こさぬよう静かにドアを開ける。
「ヒュンケル〜? 起きてる〜?」
ドアから顔だけ出したキュルケは、そのままの姿勢で固まった。
阿修羅のごとく怒り狂うルイズが待ち伏せしていたならまだマシだったが――部屋はもぬけの殻になっていた。
ルイズもヒュンケルもおらず、壁にかかっていた剣もない。
まさかと思いつつ部屋に入ったキュルケは、テーブルの上に自分宛ての置き手紙を見つけた。
震える手で取って読んでみるとそこには、
「や〜いや〜いバ〜カ!ヒュンケルはわたしのものよお!」といった趣旨のことが
ルイズ独特の高慢ちきさで書いてあった。
キュルケは手紙をグシャッと潰してついでに焼き払うと、猛ダッシュで外へ駆けだした。
投下終了。感想と質問へのアドバイスありがとうございました。
励みになります。
それからwikiの方で過去話をちょっといじりますが、
誤字など細かいとこを修正するだけなので気になされずに。
投下乙です。
乙です!
いやあ、ルイズ可愛いなあw
魔剣の話題が少し出て来たのにワクワク
秘密の多いキャラはこうやって少しずつ確信に近付いていく感じが醍醐味だな
ヒュンケルの秘密ったって読者にはとっくにネタバレだけどw
ルイズ目線だと全てが謎なので
何か新鮮というか楽しい
魔剣はヒュンケルの氏素性を、一軍団を率いる将軍だったことを明らかにするヒントだったのに・・・
ルイズのお馬鹿
>ルイズの手綱さばきに感心するヒュンケルの声まで脳内で再生されていたのに
可愛すぎるw
ヒュンケルの方、お疲れさまでした
まったくもって久しぶりなのですが、最新話を投下したいと思います
虚無と獣王
33 虚無と伝説の剣
クロコダインはルイズをその背に隠すような形のポジションを確保すると、4人のワルドをその隻眼で睨みつけた。
肩に乗っていたフレイムはブレスを吐いた後、素早く床へと降り立ち、床に座り込んでいたキュルケのもとへと駆けつけている。
途中まで同行していたサンドリオンの『遍在』は、現在レコンキスタ艦隊所属の竜騎士たちを相手にしている筈だ。
礼拝堂へと急ぐ道筋において、時間最優先でいくつかのフネをフライパスしてきたのだが、相手がこちらを見逃してくれる訳がない。
不用意に近付いてきたメイジを通常の3倍近い長さのブレイドで斬って落としたサンドリオンは、なんとそのまま主のない火竜に飛び移った挙げ句、気性の荒い事で知られるそれを尋常ではない目の力だけで服従させた。
「必ず追いつく。先に礼拝堂へ!」
短く告げる言葉の中に焦りの様なものと、それを押さえつけて最善を尽くそうとする意志を感じ取ったクロコダインは、短く「恩に着る」とだけ言い残してその場を後にする。
その後、礼拝堂の大きさからして翼竜は身動きが取りにくく敵の的になると判断し、ワイバーンを『魔法の筒』に格納した上で屋根を突き破り──現在に至るという訳である。
ルイズの目を通して大体の事情は把握していたクロコダインだが、視界が同調していたからこそ判らない事もあった。
ルイズの心身状態である。
ざっと見たところ大きな怪我はなさそうで密かに胸を撫で下ろすクロコダインだが、だからといって裏切りを働いた男を許す理由にはならない。
体の怪我はある程度見れば判るが、心の傷は外からは判らないからだ。
ワルドを露ほども疑っていなかったルイズにとって、この背信はいかほどの衝撃であったかは想像に難くない。
故にクロコダインは無言のまま腰のデルフリンガーを抜き放ち、その切っ先をワルドへと向けた。
「相棒といると飽きなくていいねえ、今度のお相手はスクエアメイジかい!」
カタカタと陽気な声で鍔を震わせる大剣は、既に刀身を輝かせた実戦モードだ。
「フレイム、キュルケをルイズたちと合流させろ。そこの御仁、すまんがまだ戦えるだろうか?」
ウェールズとはこれが初対面となるクロコダインである。
「この程度で音を上げる様では物笑いの種となってしまうな。父や部下たちに指を指して笑われるのが目に浮かぶよ」
余りにも突然現れた見た事もない獣人に最初は驚き警戒した王子だったが、『遍在』の一人を鮮やかに消滅させた手並みを見れば味方であるのは瞭然だ。
正直に言えば精神力の限界が近いのだが、ウェールズにも意地というものがある。
「無理はして下さるな。身を守るのが最優先でいい」
一旦言葉を区切り、クロコダインはルイズに語りかけた。
「後はオレの仕事だ。遅れてしまった分は、戦働きで返そう」
ルイズは己の使い魔に、何を言えばいいのか判らなかった。
純白のマントは黒く焼け焦げ、身を覆う防具もよく見れば欠けたりひび割れたりしている。
ラ・ロシェールでフネから見えたライトニング・クラウドは、やはりクロコダインに対するものだったらしい。
鎧の下の体がどうなっているかは判らないが、無傷であろう筈がなかった。そんな状態の彼が遅参を詫び、更に戦おうとしているのである。
これ以上傷ついてほしくない自分と、クロコダインの言葉を聞いて確かに安堵している自分がいる事に、ルイズは自己嫌悪を覚えていた。
クロコダインの宣言が終わるのとほぼ同時に、3方向から絶妙にタイミングをずらした『エア・カッター』が襲いかかる。
どの方向にかわしても一つは必ず直撃するコースで、うち2つは避ければルイズやウェールズに当たりかねない。
「唸れ、疾風!」
グレイトアックスから放たれた呪文は風の刃の2つを相殺し、残りの1つは敢えてかわさずそのままその身で受け止めた。
既に罅が入っていた鎧の左胴部分が砕けるが、その下の鱗にはうっすらと傷が浮かび上がるに留まっている。
「唸れ、炎よ!」
お返しとばかりに大戦斧からラインスペルに相当する炎熱系呪文が発動しワルドへと向かったが、これは2人分のエア・ハンマーによって軌道が逸らされてしまった。
更に一瞬の間をおいてフレイムのブレス攻撃があったが、こちらはレビテーションで回避される。
そのまま浮かび上がったワルドと正面に立っているワルド、こちらから見て左手側にいるワルドが同時にエア・ハンマーを放つが、標的となったクロコダインは『気』を防御に回してブロック、文字通りその身を盾にしてルイズを庇った。
しかし間髪入れず一番奥、ブリミル像の真下に陣取ったワルドが『マジック・アロー』を唱える。
直撃すれば屈強な戦士でも即死する強力な呪文を立て続けに5発、飛竜すら撃墜可能な魔法攻撃だった。
『閃光』の二つ名は伊達ではないと言わんばかりの詠唱速度である。
対して、クロコダインに攻撃をかわすという選択肢は存在しない。背後にルイズやキュルケたちがいる限りは。
今までの風魔法とは異なり、『マジック・アロー』は熱量を矢として相手にぶつける魔法である。クロコダインの防御力がいくら高くとも確実にダメージを与える事が出来ると踏んだ上での攻撃だ。
とっさに急所のみをガードしようとするクロコダインだったが、そこへ異を唱える声が上がった。左手に握られたデルフリンガーである。
「大丈夫だ相棒、そのまま俺をかざしな!」
反射的に大剣を前に突き出すと、あろうことか魔法の矢は淡く光るデルフリンガーの刀身に吸い込まれ、跡形もなく消滅しまった。
「いや、すっかり忘れてたぜ! こいつが俺の力の一つよ! 『ガンダールヴの左手』デルフリンガー様のなぁ!」
「デルフ、まさか、魔法を吸収できるのか!?」
「おうよ! ちゃちな魔法なんぞどうという事もねぇさ。大船に乗った気分でいいぜ、相棒!」
ノリノリな大剣の返答に、クロコダインは素直に感心する。
元いた世界には雷系以外の魔法を完全無効化する攻防一体型の武器が存在したが、魔法そのものを吸収してしまう剣というのは見た事も聞いた事もない。
ともあれ、これは予想外の幸運であった。思えばラ・ロシェールの戦いで2度のライトニング・クラウドの直撃に耐えられたのも、デルフリンガーがある程度威力を緩和していたからであろう。
なんにせよ、メイジにとっては天敵といえる剣を前に、これまでほとんど無表情だったワルドは微妙に顔を歪めていた。
逆に後ろで見ていたルイズは胸を撫で下ろしている。
先程の攻防では『エア・カッター』や『エア・ハンマー』が己の使い魔に直撃するたび、生きた心地がしなかったのだ。
いくらクロコダインがタフであっても、自分を守るために傷ついているのは紛れもない事実である。
しかしデルフリンガーの能力があれば、もうそんな心配も必要ない。
全く、よくも武器屋からこの剣を賭けチェスの賞金代わりに巻き上げてくれたものだと、ルイズはオールド・オスマンに感謝した。
しかし、ルイズのそんな心情を知ってか知らずか、クロコダインはワルドを目で牽制しつつデルフリンガーを逆手に持ち、そのまま後方──即ちウェールズの足下へ投擲した。
「デルフ、すまんが皆のことを頼むぞ」
「ってちょっと待て! そりゃあねぇだろ、相棒!」
「クロコダイン!?」
「そんな、無茶よ!」
一瞬の間も置かず、剣と2人の少女が叫ぶ。
デルフリンガーはやっと巡り会えた相棒、神の盾ガンダールヴにこれから振るわれるのだとばかり思っていたし、ルイズとキュルケはどうしてクロコダインが自分に不利となる行動に出たのか判らなかったのだ。
一方、ウェールズは、床に刺さった大剣を右腕で引き抜くと、左肩の痛みを無視してゆっくりと構えを取った。
「……確か、デルフリンガーと言ったね。すまないが協力してくれないかな」
ウェールズには朧気ながらクロコダインの真意が見えている。
クロコダインに魔法が効かないとなれば、ワルドは確実に自分たちを標的としてくるだろう。元々ウェールズ殺害が目的の様であったし、ルイズやキュルケが人質に取られたらその時点でチェックメイトだ。
それを防ぐには先程までのようにクロコダインが防御に専念しなければならず、しかしそれでは攻撃に移れない。
だが、こちらに魔法吸収能力などというレアな能力持ちのインテリジェンス・ソードがあれば、また話は変わってくる。
相手がこちらへの魔法攻撃は無駄だと判断すれば、クロコダインが足を止めて盾役に徹する必要もなくなるのだ。
とはいえ懸念がない訳ではない。
少なくとも風系の遠距離魔法は吸収できていたが、デルフリンガーがどこまでの性能を持っているかは未知数だ。
またウェールズには剣の心得があるのだが、それはあくまで近距離戦闘魔法のブレイドを用いるのが前提である。
実体剣などはあくまで平民が使う武器であり、しかも150サントもあるデルフリンガーを自在に操る自信など彼の内には存在していなかった。
もっとも、これが自分の役目であるという事をウェールズは認識している。剣と同じくらいの身長のルイズは論外としても、キュルケにも大剣が扱えるとは思えなかったからだ。
まあ仮に彼女らがメイジ殺しの様な実力の持ち主だったとしても、戦いを押しつける様な真似などできはしなかっただろうが。
「ああ、もう仕方ねえ! 魔法はこっちに任しとけ、隙があったら斬りかかってもいいからな!?」
ウェールズの手に収まったデルフリンガーはそんな愚痴めいた台詞をこぼした。
手に取った者の能力を読み取れる能力を持ったこの剣はウェールズに対してさほど期待を抱いてはいなかったが、床に刺さったままよりは遙かにましであろう。
6000年の長き時を経ているせいか、普段は昔の事や自分の能力等には霞がかかった様な状態であるのだが、今日は違う。何故かはわからないが絶好調と言っていい。
だから、デルフリンガーは敵であるワルドに対してどこか違和感を覚え、手負いのウェールズをフォローするべく自分の柄を握ったルイズの能力を自動でスキャンし、結果として心の底から驚いたのだった。
ルイズという少女は、心の中にひとつの理想像を持っている。それは魔法に熟達し、弱き者を助け、敵に決して背を向けない立派な貴族の姿だ。
それは『貴族とはかくあるべし』という両親の教育の成果であり、また両親の背から自分で学び取ったものでもある。
しかし幼い頃はルイズにとっての目標であったそれが、魔法発動率が限りなくゼロに近いと揶揄される様になってからは重圧となっていた。
故に彼女は座学においては常に学年トップの座を譲り渡さぬ位熱心に勉強してきたし、実技においても『どうせ失敗するのだから』などという理由を付けて手を抜く様な事など考えもしなかったものである。
クロコダインの召還に成功してからは些かその重圧も薄れていたが、先日のフーケ討伐において人質になってからは自分の魔法について再考せざるを得ない状態となっていた。
ルイズにとって、誰かの足手まといになるのは最大の禁忌であり、敵に対しては何としてでも一矢を報いたいと思う。
──それが、10年前から心の支えの一つであった婚約者であったとしても。
クロコダインは敢えて自分に攻撃を集中させようとしている。
それはこのメンバーの中で耐久力が一番高いのが己であるという自覚があったからだが、他にもいくつかの理由があった。
今、彼の心の中には怒りが満ちている。
それはよりにもよって主であるルイズを裏切ったワルドに向けたものでもあるが、ルイズを危険に晒した自分に向けたものでもあった。
もしキュルケがこの場にいなかったら、もし自分の到着がほんの少し遅れていたら、間違いなくルイズの命はなかっただろう。
それを考えれば、自分が魔法吸収能力を持つデルフリンガーを使える道理がなかった。
少しはこの身が痛い目に合わねばルイズに申し訳が立たないと、無骨な獣人は本気で思っていたのである。
ワルドからは『エア・ハンマー』『マジック・アロー』といった攻撃魔法が矢継ぎ早に放たれていたが、クロコダインは全く防御せずに全ての『闘気』を攻撃に割り振った。
怒りは力に変換され、不可視の槌は一瞬の足止めにすらならず、魔法の矢が鎧を砕き鱗に突き刺さってもまるで意に介さず、大戦斧の一撃が『遍在』の一体を両断する。
鈍重な印象を受けがちな巨体は恐ろしく俊敏に動き回り、『エア・カッター』の半分以上は彼の体を掠める事も出来なかった。
流れ弾の様にルイズたちの方へ向かった魔法は、全てデルフリンガーに吸収されている。
ウェールズが残り少ない精神力で発動させた水系統魔法によって、彼らの周囲にはごく薄い霧が立ちこめており、目に見えない風魔法を捕らえやすくしていたのだ。
左肩の傷が響く王子をフォローするべく、ルイズはインテリジェンス・ソードを彼が取り落とさないよう必死に握りしめていた。
キュルケとフレイムはワルドが格闘戦を挑んできた時に備え、それぞれ本体とも『遍在』ともしれぬ姿から目を離さず警戒する。
こちらからも攻撃を仕掛けたいのは山々なのだが、目まぐるしく動き回るワルドに対する有効な魔法が無かった。
追尾能力がある『フレイム・ボール』は精神力不足で唱えられず、『マジック・アロー』や『ファイヤー・ボール』は風メイジに対しては相性が悪すぎる。
回避されるだけならまだしも、軌道を反らすことでクロコダインに当てられでもしたら目も当てられない。
臍を噛むとはこのことか、と血の気の多いキュルケは美しい顔を歪ませる。
そしてルイズもまた、悪友と同様の思いにとらわれていた。
2体の『遍在』を潰されたワルドは新たに1体の分身を生み出している。1体しか出てこないのはさしもの彼も精神力の限界が近いのか、それとも油断を誘う為の擬態か。
倒した筈の敵が無傷で再び現れるのというのは、精神面において大きなダメージとなる。しかし、ルイズの目に映るクロコダインは臆する素振りなど欠片も見せてはいなかった。
むしろワルドが4人がかりでようやく互角の戦いに持ち込んでいる印象すら受ける。なればこそ、ここで加勢できていれば一気に勝負をつけらける筈なのだ。
唇を噛みしめるルイズに、先程から何故か無言だったデルフリンガーがぼそりと呟いた。
「なあ娘っ子、相棒を助けてぇか」
「当たり前でしょ!」
喰ってかかる様な少女の返答には全く怯まず、そのままの口調であっさりと剣は鍔を鳴らす。
「だったら話は簡単だ。後生大事に抱え込んでるオルゴールの蓋を開けりゃいい。それで全部解決だ」
怪訝な顔をするルイズに、デルフリンガーは言葉を重ねた。
「いいか、相棒は間違いなく『ガンダールヴ』だ。じゃあその相棒を召還したお前さんは何者だ? かつて神の盾を召還したのは一体誰で、どんな魔法が使えたと思う?」
「ちょっと待ってくれ! 君は、ミス・ヴァリエールが虚無の使い手だと、そう言っているのか!?」
周辺への警戒をしながらも、ウェールズの声は上擦っている。もっとも、始祖ブリミルの死後6000年もの間途絶えたとされていた虚無魔法の使い手が自分の隣にいるとなれば、それも無理のない話であった。
「デルフ……それ、本当なの?」
ルイズにしてもまさかという想いの方が強い。確かに自分が虚無の担い手ならば、常に魔法を失敗してしまう現象にも一応の説明はつく。
しかしさしものルイズも自分と始祖を同列に考えてしまえるほど神経が太くはなかった。
「だからよ、オルゴールを鳴らしてみりゃあ分かる話だって。ちゃんと『風のルビー』は填めてるし、『水のルビー』も持ってるだろ?」
どうやらこの剣、自分に触れた者の力量や能力を読みとる力があるらしい。
また『風のルビー』はともかく、『水のルビー』や『始祖のオルゴール』を持っているのに気が付いている辺り、装備品に関しても同様の力が発揮できる様だった。
「ラ・ヴァリエール嬢、残念ながら議論している暇はない。ここは彼の言う通り『始祖のオルゴール』を使ってみてはくれないか」
幸いクロコダインが攻めに転じている為、ウェールズやルイズに対する攻撃は収まっている。
6000年もの間、その使い手がいなかったとされる虚無魔法にどんな効果があるのか全くの未知数ではあるのだが、少なくとも状況が悪化する事はあるまい。
「しかしまあなんだな、あの兄ちゃんも操られて相棒と戦う羽目になるなんざぁ、余っ程ツいてねえんだろうなあ」
王子に促され半信半疑のまま懐のオルゴールに手を伸ばしたルイズは、あ、「また一体やられた」と感心しているデルフリンガーの独白に思わず動きを止めた。
「操られて……って、今そう言ったわね!?」
「ああ、なんてーか今日の俺ぁちょっと冴えててな、色んな事を思い出してんのよ。だからあの風メイジが俺と同じ先住の魔法で動いてんのも判る」
先住魔法。人間のメイジが使う系統魔法とは異なりエルフや翼人などの亜人が得意とする、精霊を使役する術だ。
「もっとも完全に操られている訳じゃねえみたいだがね。いいとこ8割ってとこか?」
細かい理屈はともかく、裏切りが本人の意思ではないとしたら事態はより複雑で対応が困難となった。
これまでクロコダインが倒したワルドは幸か不幸か全て『遍在』だったが、彼が操られていると判明した以上うかつな攻撃はできなくなるのだ。
更に『遍在』は当然本体と瓜二つであり、おまけに戦闘の常として激しく動き回っている。分身だけを潰すのは至難の業であるとルイズなどには思われた。
只でさえ不利な条件で戦っている使い魔になんと声をかけるべきか判らず口ごもるルイズに、しかしクロコダインから背中越しに声が掛けられる。
「大丈夫だ、任せておけ」と。
体が軽い。
フーケ戦の時に感じた、戦闘補助呪文を掛けられたかの様な身体能力の向上効果を、再びクロコダインは感じていた。
しかも、今回は前にも増して力が湧き上がってくるのが分かる。無尽蔵に『闘気』が溢れ出ていると言っても過言ではない。
だがその力を考えなしに揮う訳にはいかなくなった。
ワルドが操られているというデルフリンガーの指摘が彼の耳にも届いていたからだ。
目の前にいる『ワルドたち』は、外見においては全く見分けが付かない。
どれが本体か分からなければ取り押さえる事が出来ず、うっかり『遍在』と思って攻撃したら本体でしたでは笑い話にもならないだろう。
ワルド、もしくは彼を操っている者もそれが分かっているのか、戦いの最中にも巧みに体の位置を換える事で特定されるのを防いでいた。
否、ここは防いでいるつもりだったと言うべきだろう。
なんとなれば、ラ・ロシェールで白い仮面の男と戦った時の様に、クロコダインはワルドの気を探っていたからだ。
本体と同一の姿と能力を生み出す『遍在』の魔法であるが、ハルケギニアでは未知の存在である『気』を模倣するには至らなかった様だった。
本体を見分けられるのは大きなアドバンテージと言えるが、それでも相手を生け捕りにするのは簡単ではない。
普段より速く動けるのは確かだが、残念ながら本領を発揮した風メイジには及ばない。
何体かの『遍在』を倒せたのも、相手の虚を突いたという面が大きいとクロコダインは捉えていた。
決して少なくない戦歴を持っている彼であったが、ここまで動きの良い魔法使いと争ったのは初めてである。
かつて仕えていたが、後に袂を分かった魔王や大魔王、同僚であった竜魔人は体技にも魔法にも秀でていたが、いずれも戦士が基本となっていた感は否めない。
しかし唱える呪文や効果に差はあるものの、共通する部分もまた存在している。クロコダインはそれをルイズと共に出ていた学院の授業で学んでいた。
それを踏まえた上で、彼は以前おそるべき強敵に対して選択した戦術を使うべく、口元に凄絶な笑みを浮かべてこう言い放った。
「ワルド、あの『雷の魔法』で来い……!」
うでもしなければこのオレの首はとれないぞ。
キュルケはそんなセリフを聞いた時、まず自分の耳を疑い、次にこの獣人の正気を疑った。
雷の魔法とは間違いなく『ライトニング・クラウド』の事だろう。
キュルケはお世辞にも真面目な学生ではなかったが、スクエア・クラスのメイジが放つそれがどんな威力を持っているか分からぬ程、愚かでもなかった。
しかもワルドは本体を含めあと3人。残りの精神力がどれくらい残っているかは未知数だが、雷撃が単発で終わると考えるなどという楽観的な予想は出来ない。
ならば、1人でも倒そうと少ない精神力に鞭打って炎球を作り出す彼女だったが、それを放つ前にワルドの呪文は完成していた。
刹那、耳をつんざく様な轟音と目映い光が広い礼拝堂を満たす。
雷は同時に3発がクロコダインに直撃し、更に間を置かず次々と襲いかかった。
『ライトニング・クラウド』の猛威は周囲にも及び、デルフリンガーに守られたルイズやウェールズはともかく、キュルケは危険を察知したフレイムに半分引きずられる形で距離を取らざるを得ない。当然『フレイム・ボール』は中断されている。
放たれた雷は計10発。頑強なトロール鬼を一撃で屠る力を持つ魔法がクロコダインに降り注いだのである。
通常、1体の獣人にここまで魔法が使われる事はない。戦場ではオグル鬼やコボルト鬼の群れ、また砲亀兵を擁した敵軍に使用される場合はあるのだが。
結果、当然の事ながら絨毯が敷かれた床は粉砕され、熱とまだ僅かに残る放電、床石材の土煙で周囲の視界は閉ざされてしまった。
あまりにも速い魔法の連打に思わず言葉を失うキュルケとウェールズだったが、しかし、そうはならなかった者が1人いる。
「ラ・ヴァリエール嬢……?」
当初、ウェールズはこの少女が精神の均衡を崩したのかと思った。
己の使い魔の危機になど意にも介さず、ただ虚空に耳を傾けている様に見えたからである。
しかしすぐにそれは間違いだと悟った。彼女の口からは今まで聞いたことがなく、どの系統魔法にも属さない、けれどしっかりとした文脈の呪文が紡がれていたからだ。
その手には蓋の開けられた『始祖のオルゴール』がある。
ウェールズの耳には何も聞こえないが、もし、デルフリンガーの推測が当たっているとすれば──。
濛々たる土煙の中で、何かが動く気配がした。
ほぼ同時に2人のワルドが反応する。
1人は最短距離を地面スレスレの『フライ』で飛び、もう1人は大きく廻り込む軌跡を描く。
そして後方にいる最後のワルドは、視界を確保し現状を把握する為『ウインド・ブレイク』を放った。
荒々しい風が埃を吹き飛ばすと、そこには顔の前で両手をクロスさせたクロコダインの姿が見える。
頭部、肩、腕の鎧は完全に砕かれマントなどもはや跡形もない。オレンジ色の鱗は黒く焼け焦げ、あちこちから煙を漂わせている。
元の姿を保っているだけでも驚嘆すべき事ではあるが、そのダメージが深刻なのは確かだった。
好機と捉えたのか、正面のワルドは『フライ』を解除し、その勢いのまま『ブレイド』で彼に斬りかかり──クロコダインが投げつけたグレイト・アックスの直撃を受け霞と消えた。
時間差で左側、すなわちクロコダインの死角へと回り込んだワルドは、得物を手放した獣人のリーチ外から攻撃すべく『ブレイド』の長さを延長させ──それを振るう間もないまま淡く輝く闘気弾を頭部に喰らい、『遍在』としての生涯を終えた。
クロコダインの左目はまだルイズと視覚がリンクしており、虚を突いたつもりのワルドの動きは完全に捉えられていたのだ。
更に言えば放出系の闘気は今まで使ってこなかった技であり、いかにスクエア・メイジとて初見で対応はできなかったのである。
残るは本体のワルドのみ、もはや己を守る盾はないこの状態で、グリフォン隊の隊長は敢えて矢面に立つ事を選択していた。
1体目のワルドが撃破された直後、ワルドは風の魔法を応用して天井近くまで跳びあがる。そのまま『ブレイド』を形成すると落下の力を加えた上で勢い良くクロコダインへと突き出した。
杖剣を中心に魔法力を集めて作られた刃はガードしたクロコダインの右掌を容易く貫き、更に肩にまで達したところでようやく止まった。
オルゴールから男のものとも女のものともしれぬ不思議な声が聞こえてくる。
古代語である。ルイズはこれまで自分が真面目に勉強してきて良かったと心から思った。
序文から始まるその声は、デルフリンガーの推測が正解であった証でもある。正直まだ実感が湧かないのだが、どうやら自分は虚無の担い手であるらしい。
眼はクロコダインとワルドを追っているのだが、彼女の神経は完全にオルゴールの声に集中している。
虚無魔法の説明と聖地に関する願い、そして注意事項を告げた後で始祖の名と共に序文は終了した。続いてオルゴールはルイズの一番強い願いを読み取ったかの如く、1つの呪文を紡ぐ。
『ディスペル・マジック(解除)』、それがその呪文の名前だった。
『ブレイド』は魔力で編まれている特性上、実体剣の様に切れ味が落ちたりする事はない。後は肩に食い込んだ刃をそのまま横に薙げばそれでこの戦いは終わる。
しかし、ワルド、もしくはワルドの操り主の予測は脆くも砕け散った。
クロコダインは『ブレイド』に貫かれた右手を引き抜かず、逆に押し込む様に前進しワルドの上腕部を鷲掴みにしたのである。
鍛えられた腕を4本指の右腕が握り潰さんばかりに引っ掴み、驚愕に見開かれる双眸をたった1つの瞳が睨む。
「ようやく捕まえたぞ」
口の端に笑みを浮かべた鰐頭の獣人は、思い切り息を吸い込み──そして吐き出した。クロコダインの奥の手のひとつ、零距離からの『焼けつく息』を。
避ける間もなくワルドの体は高熱で包まれ、しかし熱傷による痛みを無視して後退しようとする。自分の体を守ろうとする意志に欠けた、人形のような動きだ。
ところが意に反して長駆は全く動こうとしない。否、動けないのだ。それは『焼けつく息』に含まれた麻痺成分による効果だった。
ワルドを生かしたまま捕らえるにはこの技しかない。
そう考えたクロコダインはワルドを挑発する事で精神力を消費させ、更に『ライトニング・クラウド』を耐え切りさえすれば相手が接近戦を挑むと踏み、そのように戦いの流れを誘導したのである。
体の中に何かが渦巻いていた。
最初は小さな波の様だったそれは、詠唱が続くにつれ大きくなり、一定のリズムと共に溢れかえりそうになる。
生まれて初めての感覚だったが、ルイズは直感的にそれが呪文が完成する兆しだと確信していた。
得意な系統の呪文を唱えた時に術者が感じる独特のリズムについては彼女も両親や姉たちから聞き及んでいたが、つまりこれがそうなのだろう。
系統魔法のそれに比べかなり長い呪文が完成するのと同時に、ルイズはその魔法の効果を知った。
系統、先住を選ばず、全ての魔法効果を無に帰す虚無呪文。今の自分ならこの礼拝堂はおろかもっと広い範囲にまで効果を与えられるが、そこまでする必要はない。
故に彼女は出来うる限り効果範囲を絞り込み、ワルドの体だけに『ディスペル・マジック』を発動させた。
投下終了です。
最初の方の名前欄がグダグダで申し訳ありませんでした。次回でアルビオン編は終了予定です。
前回感想や某所でのレビュー、ありがとうございました。
おお、お久しぶりです、乙です!!
相変わらずクロコダイン格好いい
乙!
この場でルイズが虚無に目覚めるとは予想外。
そしてクロコダインはなんというかまあ、相変わらず鋼鉄の肉体っぷりを発揮してるねw
おお、待ってました!
ワルドはやはり操られていましたか、完全に、では無いようですが。
アルビオンでルイズが覚醒、というのはありますがデルフが察知するというのは初めてみました。
次回、どのように決着がつくか楽しみに待っています。
ギガブレイク二度も食らってまだ死なないって人だからねぇ
ガンダールヴとしての能力強化もあるだろうけど、
バラン戦のギガブレイクではベホマ無しで戦闘継続不可能だったことを考えるとライトニングクラウド10発はギガブレイクの1激よりは弱いってことか
そして、闘気とヒートブレス。どちらもハルキゲニアに存在しない本邦初公開の技。
お見事!
ライトニングクラウドはライデインくらいのものではないかねぇ
魔剣戦士ヒュンケルくらいなら鎧なしでも耐えるが普通の人間が食らったら命がない呪文
まあアバンがイオナズンとかベギラマとか喰らいながら戦い続けてたのを見てただろーに、
ヒュンケルはライデイン一発で倒せると考えていた当時のダイ・ポップのなんとおめでたいことか
ワルドの動きがいくらいいといっても、
魔法も使わず剣を振っただけで真空波を起こしドラゴンのブレスでも斬り裂いてしまうような、
そんな剣技を使うダイ世界の戦士たちとは基本的な動きのレベルが違うだろうな
とはいっても純粋魔法使いよりは動きはいいだろうし、
クロコダインも速い方ではないし
5対1というのも大きいか
ともあれ、素晴らしい話をありがとうございます
次回も愉しみにしております
乙!
しかし、いまだに獣王会心撃が出ていないのはオレの気のせいでしょうか?
虚無と獣王の人、乙です
ここで虚無覚醒とは、なんという熱い展開
この後のワルドの処遇がどうなるか、期待大
投下乙です。
確かに闘気は使っても獣王会心撃でてませんね
スクウェアクラスの倍以上の威力ありそう
乙です
レモンちゃんここで覚醒か
ワルドさんは無事に生き残れるかな
>>194 おっさんむしろ早くね?
なんだかんだで防御は間に合っているし
特にヒュンケルからダイを助けた際にはあの巨体なのにどこからともなく現れていた
キャスリングか!?
おっさんは初期のダイにも割とひっかきまわされ気味な程度の動きであった
まあおっさんだって強くはなってるしそのときよりはいくらか速くなってるかもしれないけど
防御が間に合っているのは初めから耐えることだけが目的とかで守勢に回っている時だからね
少なくとも設定上はおっさんはどちらかといえば遅いパワータイプってことなんだと思う
マァムはパワーも結構あるがポップからはスピードタイプ扱いされている
(おっさんはシグマをパワーで抑え込みマァムはブロックをスピードでひっかきまわせと指示されてる)
巨体なのにどっからともなく現れたのは速さとかとは関係ないんだろう
単にヒュンケルが上空不注意だった(おっさんはガルーダに捕まって空から降ってきたぽい)だけかと思われ
ガルーダは筒の中から出したからそれはないだろう…と反論されるかもしれないが、
おっさんに従う獣はたくさんいるのでガルーダ(ないしは何か別種の空を飛ぶ部下)がもう一匹いても不思議はない
長距離おっさんの巨体を運んで疲労困憊だったからポップとダイには新しいのを出したとか
あの時のおっさんは負傷がひどかったし長距離移動は部下に運ばせてやってきたと考える方が自然でしょ
おっさんは動作が速いというよりは待ち受けての防御やカウンターが得意、という印象を受ける
バランに対しても初戦ではまともに正面から戦って素手でさえボコボコにされていたところを、
ギガブレイクで来るよう挑発して誘導しあらかじめ防御のみに集中することでどうにか受けていたし
ダイとの初戦でも海波斬でやられひるんだように見せて引きつけてのヒートブレスで迎撃している
自分の方から攻めかかっても動きが遅くて捕えきれないが、
頑強な肉体を生かし敵の方から攻め込ませて懐に呼び込み攻撃を当てる、といった感じかな
もしくは自分で飛びかかるのではなく大きな闘気の渦(会心、激烈)を放ち敵を捕えるか
実際おっさんが自分の方から斧で斬りかかっていったりしたシーンではろくな戦果が無いが、
受けに回ったり会心を放つ場合には活躍している
MMO的なタンクだね、完全に
すばやさというパラメータの問題として見ると、
確かにおっさんはダイのパーティの中ではチウとポップについで遅いだろうけど、
それでも、一般人と比べたら圧倒的に速いだろうしな。
世界観のベースになったDQ3だって、レベル1の武道家よりレベル10の戦士の方がすばやいし。
獣王の人、おつかれさまです。
いつも楽しく読ませてもらってます。
ヒュンケル話の続き、今から投下します。
馬車が王都に着いた時、太陽は既にだいぶ高く昇っていた。
ルイズの癇癪やらなにやらで予定よりも若干遅い到着だったがオスマンは慌てる素振りも見せず、
乗ってきた馬車はルイズ達で使っていいと告げると、ヒュンケルに顔を寄せて囁いた。
「もしかしたら近いうちに君に頼み事をすることがあるやもしれん。その時はよろしくの?」
言うとオスマンは踵を返し、ヒュンケルが答えるのを待たずに飄々と歩き去って行く。
ヒュンケルはいぶかしげに首をかしげたが、そこでルイズがジト目でこっちを見ていることに気がついた。
ご主人様はどうやら、自分の使い魔と学院長の内緒話――というにはあまりに一方的だったけれど――が気に食わないらしかった。
「もういいでしょ、早く行くわよ!」
ルイズは仏頂面でそう言うと、ずんずん歩きはじめた。
仲間外れにされて拗ねた子供のような様子に苦笑しつつ、ヒュンケルは急ぎ足でルイズの後を付いて行く。
休日のトリスタニアは人通りが多く、穏やかな活気に満ちていた。
その雰囲気にあてられてルイズも次第に機嫌を直し、白を基調とした美しい街並みをヒュンケルに自慢し始めた。
「ここがブルドンネ街よ!この街で一番の大通り!」
まるで自分が造ったかのような調子で誇るルイズに頷くと、ヒュンケルは何処に行くつもりなのかと尋ねてみた。
思えば彼は、何が目的でここまで来たのかも聞いていなかったのだ。
しかしルイズはその質問を華麗に無視し、きょろきょろと首を巡らした。
「たしかピエモンの秘薬屋の近くだったから……こっちの方かしら?」
いつのまにかヒュンケル達は、小さな路地裏に入っていた。
大通りとは違ってここは薄暗く、時折柄の悪い連中が通り過ぎるルイズをじろじろ見つめた。
ヒュンケルはルイズを庇うように横を歩いたが、ルイズは下々の者など興味がないのか、無頓着な様子で探し物を続けた。
やがて――
「あったわ!あそこよ!」
ルイズは目当ての店を見つけ、嬉しそうにヒュンケルに指し示した。
剣を模した看板――そこは武器屋のようだ。
ルイズはヒュンケルの顔を見上げてフフンと笑うと、威勢よく扉を開いて中に入った。
するとすかさず店員らしき女の声が、「いらっしゃいませ〜」とルイズ達を迎える。
商売熱心なその様子にうんうん頷くルイズだったが、件の「女店員」は棚の影からひょっこり顔を出すと、いきなりヒュンケルにしなだれかかった。
あまりに唐突な出来事に目をむくルイズを完璧に無視し、赤髪の「女店員」は潤んだ瞳をヒュンケルに向ける。
「本日は何をお求め? 剣? 盾? それともア・タ・シ?」
「あ、アンタまさか……キュルケ!?」
女店員の正体は赤髪の魔女、キュルケ・フォン・ツェルプストー。
驚きと怒りで口をパクパクさせるルイズに向かって、キュルケは勝ち誇るように笑った。
「計算が狂ったようねえ、ヴァリエール?
あたしを出し抜いたつもりだったんでしょうけど、こっちには頼もしい味方がいるのよ?」
そう言ったキュルケの視線の先には、店の片隅で置物のように座っている少女がいた。
決闘の夜にヒュンケルのもとに訪れた少女、タバサだ。
タバサは読んでいた本からちらっと目を上げてルイズ達を見ると、片手に持った長い杖を少し持ち上げた。
どうやらそれが挨拶代わりということらしい。
「……そういえばこの子の使い魔、ウィンドドラゴンだったわね」
タバサの使い魔――風竜は、学生達が召喚した中でも一際立派なものだったのでルイズも覚えていた。
察するにキュルケは、タバサに頼んで風竜に乗せてもらってきたのだろう。
ルイズ達が乗った馬車はさして急いで走っていたわけでもないし、風竜の速度ならば多少の遅れなど挽回して余りある。
歯噛みするルイズの前で、キュルケは声を上げて高笑いをした。
「ところでキュルケ、お前はなんでルイズがここに来ると分かったんだ?」
聞いたのはまだ状況が掴めていないヒュンケルである。
そもそも彼は、何故ルイズが武器屋に来たのかも聞かされていなかった。
そして質問されたキュルケよりも、何故かルイズの方が動揺するのをヒュンケルは不思議そうに眺めた。
「それはねえヒュンケル、この前の晩にあたしが話したからよルイズに。今度あなたに剣の鞘をプレゼントするつもりだってね。
この子ったら、あなたがあたしに取られるのが怖いもんだから、あたしの計画をパクッて自分の手柄にしようとしたのよ」
口をふさごうとして躍起になるルイズの腕をかいくぐりながら、キュルケがおかしくって仕方ないといった顔で話した。
「そうなのか?」と目線で問うと、ルイズは顔を真っ赤にして首をぶんぶん横に振った。
「そそそ、そんなんじゃないわよ! た、ただ、使い魔に必要なものを買い与えるのは主人の勤めだからわたしは、わたしは――」
そこまで言うとルイズは言葉を失ったようにうつむいて、足のつま先で「の」の字を書き始める。
動機の方はともかくして、ルイズが魔剣の鞘をヒュンケルに買い与える目的で来たのは確からしい。
ヒュンケルは魔剣の特殊な鞘に未練があったが、抜き身のままでは不便といえば不便だった。
「あ、あの〜、お求めの方はいかがしやすか?」
そこで頃合いを見計らったように、別の声がヒュンケル達に呼びかけた。
見ると、オスマンの使い魔とよく似た顔をした中年の男が、店の奥からヒュンケル達を窺っていた。
どうやらこのネズミ顔の男が店主らしい。
キュルケ達に居座られ、今は三人の風変わりなメイジを前にした気の毒な店主はそれでも商魂たくましく、
疲れた顔に精いっぱい愛想笑いを浮かべてヒュンケル達に近づいてきた。
「聞かせてもらった話じゃあ、鞘をお求めだとか? 剣を見せてもらってもいいですかい?」
正直な話し、店主としては貴族が三人いて買うのが鞘だけというのは不満たらたらだった。
せめて、せいぜい豪奢な装飾が施されたものでも売りつけてやろうと内心息巻く。
ヒュンケルはそんな店主の内心を知ってか知らずか、無言で魔剣を入れたケースを開いた。
「こ、これはなかなかの業物で……」
店主は魔剣を手に取ると、唸るような声を漏らして言った。
その剣は華美な装飾こそなかったが、繊細さと剛直さが同居した魅力的なフォルムをなしていた。
触れた感じでは武器としての切れ味も申し分ない。
刀剣マニアの中でも特に玄人好みの逸品だと言えるだろう。
これを得意先の貴族に売りつけたら、どれだけの金になることか見当もつかなかった。
店主はゴクリと唾を飲み込むと、剣をケースの中にそっと置き直した
店主の見るところ、メイジの女連中は剣の目利きに関しては素人だ。
男の方はよく分からぬが、話を聞いた感じではメイジの護衛か何かだろう。
主人の方を落とせばどうにでもなるに違いない。
店主はこのチャンスをどう活かすか、頭をひねって考えた。
「え、え〜とですなあ。残念ながら、この剣に合う鞘はありませんな。
入れるだけなら入れられますが、剣に合わない鞘は刀身を傷めますからなあ」
誠に申し訳ないという顔をした店主に、ルイズとキュルケが口をとがらせた。
肝心のヒュンケルは鞘を買うことに元々あまり気乗りしないため、無感動な表情だ。
タバサはというと、こちらはもう話しを聞いてすらいなかった。
「本当にないの?」と聞いてくるキュルケを手で制し、店主は言った。
店主にとってはここからが本題なのである。
「合う鞘はありませんが、見たところこの剣はなかなかの一品。
剣を扱い、剣を愛する一商人としてわたしゃあこの剣に惚れました。
そ、そこで如何です? 当店自慢のこの名剣と交換しませんかい?
もちろんこっちには絢爛豪華な鞘もついてきますぜ?」
店主が差し出したのは細身の長剣で、鞘は宝石が散りばめられた豪奢なものだった。
もし貴族に帯剣する習わしがあったなら、こういうものを選ぶだろうといった感じの外見だ。
派手好みの貴族なら飛びつきそうなものだったが、
ルイズは「なんでそんな話になるのよ」と眉を寄せ、ヒュンケルはにべもなく首を振った。
「それは剣ではなく、美術品だ。俺には必要ない」
「合う鞘がないなら特注してもいいわよ?」
ヒュンケルの言葉にルイズが横から付け加える。
当たり前と言えば当たり前の反応だったが、店主はぐぬぬと詰まると別の剣を取りだした。
煌めく金の鞘に納められた自慢の一振りだ。
「こ、こちらの剣では如何です?
ゲルマニアの錬金術師ジュベー卿が鍛えし一振り! 鉄をも両断する業物でさあ!」
「へえ、これゲルマニア産なの?」
ゲルマニアという言葉にキュルケが反応する。
実はゲルマニアの留学生である彼女にとって、この剣は祖国の生産品ということになる。
思わぬところから好感触を得て、店主は大いに気勢を上げた。
このゲルマニア製の剣、鉄をも斬るとは誇大広告だが、かなり高価であるのは事実だった。
ヒュンケルの持ってきた剣が、これと同等以上の価値を持つかは店主にもにわかには分からない。
ただ武器屋としての勘が、この選択は間違っていないと告げていた。
「その通り! 武器と言ったらゲルマニア産が一番でさあ!
この剣はその中でも至高の一振りと謳われた剣で――」
女房を口説いた時でもこれほど舌は回らなかったろう。
店主は思いつくかぎりの美辞麗句を駆使してゲルマニアとこの剣を称えようと大きく息を吸う。
しかし店主が虹色に煌めく言葉の数々を吐きだす直前、まったく別のところから声が割り込んだ。
「けッ! そんなナマクラとその剣が釣り合うわけねえだろうが。ぼったくろうとしてんじゃねえよ親爺!」
唐突に響いた新しい声にきょろきょろ辺りを見回すルイズ達を尻目に、店主は慌てて声の主に向かって抗議した。
「商売の邪魔すんなデル公! 熔かして鉄クズにしちまうぞ!」
「やれるもんならやってみろい! こちとら生まれてこのかた六千年、いい加減生き飽きてたところだ!」
呆気に取られるルイズ達。
それもそのはず、店主と言い争っている声の主は一振りの剣だったのだ。
古ぼけて錆びの浮き出た剣は、鍔の金具の部分をカチカチ言わせて、辛辣な言葉を店主に投げていた。
「……インテリジェンス・ソード?」
呆けたようにルイズがつぶやいた。
意志を持つ剣があることは知識として知ってはいたが、実物を見るのは初めてだ。
剣はルイズの声を聞きつけて、「俺様が魔剣デルフリンガーよ!」と口上を上げた。
もし人間の体があったなら、エヘンと胸を張っていただろうと想像できる声色だ。
「へっ、喋るしか能のない剣でさあ。剣に喋らすなんて物好きな貴族様もいたことで」
ぶつぶつ言う店主を無視して、デルフリンガ―は今度はヒュンケルに向かって声を放った。
「おい、そこの兄ちゃん! 俺っちにもその剣を見せてくんねえか? そう、もっと近づけて」
喋る剣という珍品に感心していたヒュンケルは、デルフリンガ―の言うことに素直に従った。
魔剣を手に取り、その刀身をデルフリンガーのそれと触れ合わせてみる。
すると何故かデルフリンガ―はぴたりと押し黙り、やがて興奮したように歓声を上げた。
「これはおでれーた! この剣も俺っちと同じように意思を持ってるぜ!
おい兄ちゃん、鞘を買うって話だが、その必要はねえってこの剣は言ってるぞ」
「魔剣が……どういうことだ?」
その問いは魔剣が意思を持っていること、鞘はいらないということ、二つの意味を指していた。
デルフリンガ―はじれったそうにさらに金具をカチカチ言わせてヒュンケルにまくしたてた。
「だからよ、俺っちみてえに人間の声は出せねえけど意思は持ってんだよこの剣は。
そんでもって、鞘は自分で再生するから新しいのは買わないでほしいっつってんの」
鞘――鎧となる部分――が復活するのは願ってもないことだったが、魔剣に自己修復の能力なんてあったのだろうか。
地底魔城でダイと戦うまで、鎧を傷つけられたことなど一度もなかったヒュンケルには分からなかった。
ただ目の前のもう一振りの魔剣、デルフリンガ―が嘘を言う理由は見当たらない。
どうやらデルフリンガ―は、触れ合うことで魔剣から意思を汲み上げることができるようだった。
物珍しさから何気なく手に取ってみると、デルフリンガ―はさっき以上に興奮し、また叫んだ。
「おでれーた! 今度こそホントにおでれーた!
なんなんだ今日はもう! おめえ『使い手』じゃねえか!!」
「使い手?」
狂ったようにカチカチ金具を鳴らす剣に閉口しながら、ヒュンケルは再び剣に尋ねた。
武器屋の中の視線は今や、ヒュンケルとデルフリンガ―に集中していた。
タバサさえ、本を置いてこちらを見つめている。
しかしデルフリンガ―は質問を無視し、「俺を買え!」とひたすら喚いた。
正直なところヒュンケルは鎧の魔剣さえあればそれで十分だったが、デルフリンガ―の言った「使い手」という言葉が気になった。
あるいはそれはヒュンケルが体感し、タバサがほのめかした使い魔のルーンの謎に関係しているかもしれない。
「ルイズ。鞘の代わりといってはなんだが……この剣を買ってくれないか?」
いくら錆びて古ぼけた剣でも、鞘よりは高いだろう。
さすがにヒュンケルは気が引けて遠慮がちに尋ねたが、ルイズは値段などとはまったく別次元のことを考えていた。
思えばこれは、ヒュンケルがルイズにした初めてのお願い――またの名はおねだり――なのだった。
召喚して以来ここ数日、ヒュンケルの泰然とした様子に
「ご主人様」的な気分がまったく味わえなかったルイズからしてみれば、このシチュエーションはまさに理想的。
「頼むルイズ。頼れるのはお前だけなんだ」などと、言われてもいない言葉まで頭の中でリフレインした。
「わ、わわ、分かったわ。そこまで言うんなら買ってあげる。ご、ご主人様として! ご主人様として!」
大事なことなので二回言いました。
キュルケが歌うようにそう言った後で自分も金貨を出すと言い出したので、また女二人の口論が始まった。
ともあれ流れは、デルフリンガ―を買う方向にまとまりつつあるらしい。
「――ということはデル公とあの剣で交換ということで?」
どさくさに紛れてしょうもない提案をしてくる店主を呆れて見ながら、
ヒュンケルは剣とその使い手の出会いについて思いを馳せていた。
鎧の魔剣をヒュンケルに渡した人物は、言葉を交わすだけでも肌が泡立つような存在だったが、
今まさに得意げな顔をして古ぼけた剣を自分に渡そうとしている少女はとても――。
両者のあまりのギャップに少しくおかしみを覚えつつ、こうしてヒュンケルは二振りの魔剣の所有者となった。
うわ、何故かトリップ書きちがえてた……。
次回から上のを使います。恥ずかしすぎる……。
次回分は大体書きあがってるので土日辺りに投下します。
フーケ編です。トリップについてはスル―してね。お願いね。
投下乙でした
ああ、デルフが魔剣の通訳するというのはいいなあ
乙です!!
デルフきた、相変わらずうるさい奴めw
この先のヒュンケルとのやり取りが楽しみ
ヒュンケルが泰然としてるせいか、一見合わないようでいて
結構良い組み合わせになりそうな不思議
ふむ。
しかし魔法の通じない鎧が再生したのではデルフの存在意義が…。
いやワルドの電撃を吸収するシーンでは活躍可能だがそれ以降は……。
ともあれ投下乙であります
魔剣の意志を通訳する係というのは目からウロコでした
でぇじょうぶだまだディスペル剣という使い道が残ってる
魔剣を兜から外した状態はダイに狙われたように顔の防御が甘くなるから・・・
魔剣とデルフリンガーを必要に応じて使い分けることになりそうだな。
二刀流で戦うこともあるかもしれないが・・・
ベースとなるVまでのドラクエは同時期に発売されていたファイナルファンタジー2と異なり、二刀流の概念がない
ヒュンケルもアバンから習っていないかも。
投下乙です。
やはり鎧は復元しますか楽しみですね
それに二刀流は男のロマン。
224 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/03(金) 00:40:19 ID:yFiWhtf8
今回の話で
>>50の夢が少しくらいは叶ったのかな?
投下乙です。
二刀流のヒュンケルか・・・イイ!
そうかアバンの書で二刀流を習得すればいいのか
二刀流ですか。
宮元武蔵の二天一流は刀には拘らず様々な武器を用いていたとか。そしてヒュンケルの、というかアバンの残した技の数々は武器を選ばない……色々な可能性があるな。
誤字があったのでWikiのほうを一箇所直しておくね。
肌が泡立つ→粟立つ
そういえば初代ガンダールヴだかイーヴァルディだかは片手に剣片手に槍だったか
魔剣魔槍二刀流またはデルフ魔槍二刀流で再現できるな…
でもまあ、やるにしても相当先の話になるだろうし当分おあずけだな
先日は見苦しいところを見せましてすいません、
朝っぱらですが、今から次話を投下します。
#1
ギ―シュ・ド・グラモンはその日、遊びに興じる仲間達を尻目に特訓に明け暮れていた。
汗の滲む手に青銅の剣を握りしめ、ひたすら同じ動きを繰り返す。
毎日セットを怠らない髪は今や汗に濡れ、前髪が額に張り付いていた。
彼お気に入りの造花の杖は脱いだマントの上に置かれ、今はただじっと主が剣を振るう姿を見つめている。
ヴェストリの広場での敗北は、彼のこれまでの思想を根底から覆すような重大事だった。
ギ―シュはこれまで魔法の力を絶対のものと考え、自らの肉体を以って戦うことを軽視していた。
剣を振り回し、汗を流して戦うことを野蛮なこととさえ考え、そんなものは杖の一振りで一蹴できるものと思いこんでいたのだ。
しかしそこで――あの『ゼロ』の使い魔。
一介の剣士であるヒュンケルが、ギ―シュの思いこみを粉々にぶち壊した。
流れるようなあの動き。
多方向からの攻撃も華麗にいなすあの技術。
そして何より超人的な運動神経。
鍛えたからといって、自分があのようになれるとは思わない。
自分がメイジであるという誇りだって失ってはいない。
しかしそれでも……最後に頼れるのは己の身一つであることをギ―シュは痛感したのだ。
自分を負かしたヒュンケルに対する悪感情はもはやない。
ギ―シュはあの後、ヒュンケルに剣を教えてくれと頼んだが、その願いは言下に断られた。
剣の技量以前に、基本的な筋力を鍛えてこいとヒュンケルは指摘したのだ。
そこでギ―シュはひとまず自分で青銅の剣を錬金し、ひたすら素振りを繰り返すことから訓練を始めた。
八体目のワルキューレ。
ギ―シュは、自分自身がそれになるべく歩み始めた。
「ふう、今日はここまでにしておこうかな。モンモランシ―も退屈して行っちゃったし……」
今日のノルマを達成すると、ギ―シュは濡れた前髪を掻き上げてひとりごちた。
恋人のモンモランシーは最初こそギ―シュの特訓を見ていたが、そのうち退屈して帰ってしまった。
基本的にずっと同じことを繰り返すばかりだったのだから仕方ないが、ちょっとばかりの寂しさは感じる。
どうせ三日坊主で終わるでしょなんて言ってたモンモランシ―の顔を思い返し、
ギ―シュは「彼女も僕が構ってくれなくて寂しがってるのだ」と思って――というか願って、自分を慰めた。
疲れで軋む腕をさすりながら、ギ―シュは後で彼女をお茶にでも誘おうと心に決める。
木陰に置いておいたマントを羽織り、杖を手に取った時、ギ―シュは見慣れない感覚を覚えた。
足元が安定しないこの感じ、地震だろうか?
しかし遠くから聞こえる、奇妙は地響きは――。
不意にギ―シュは、辺りが急に薄暗くなったことに気がついた。
視線を上げた彼は、落ちかかった太陽を巨大な『何か』が隠しているのを目撃した。
#2
「それにしても随分買いこんじゃったわねえ」
王都からの帰りの道中、馬車に揺られながらキュルケが言った。
ルイズやキュルケの足元には、ぱんぱんに膨れ上がった袋がそれぞれ二つ。
主にヒュンケルの洋服が詰まったものが置かれていた。
ルイズの隣りに座ったヒュンケルは、珍しく疲れた顔で目を閉じている。
武器屋を出た後、あれこれ仕立て屋を連れ回され、これを着ろだのこっちがいいだの着せ替え人形のような目にあわされたのだ。
初めは使い魔を甘やかすのはどうとか言っていたルイズも次第に熱くなり、結局こんな大荷物になってしまった。
ちなみにデルフリンガ―、愛称デルフは結局ルイズが買ったが、
キュルケの魅惑の交渉術のおかげで、買い叩いたも同然の出費で抑えられていた。
我に帰ってヒュンケル達を見送る店主の顔を思い出し、ヒュンケルは一つ、同情の溜め息をついた。
「気にすることないぜ相棒。別に食いっぱぐれるでもないし、小ずるいあの親爺にはいい薬だぜ!」
ヒュンケルの心情を察したのか、デルフがそう言った。
この陽気な剣は今、鎧の魔剣と並んでケースの中に鎮座している。
今日一番の収穫と言えば、このワケありそうな剣に出会ったこと。
そしてこの剣を通じて、鎧の魔剣が完全復活することが分かったことだろう。
不死身の異名をとっていたヒュンケルだったが、まさか愛用の武器までそうだとは思わなかった。
魔剣に向かって何故か「俺の方が年上なんだぞ」と喚くデルフを見ながら、
そんなことをヒュンケルは思い、笑みを浮かべた。
しかしそこで――
「あっ、学院が見えたわよ! でも……なにか変ね」
外を眺めていたルイズが振り返ってそう言い、少し眉根を寄せた。
気になったヒュンケル達がそれぞれ馬車の小窓から顔を出して覗いてみると、遠目に魔法学院の姿が映った。
ヒュンケルにとってはまだ見慣れない場所ではあったが、たしかにルイズの言うように様子がおかしい。
出発した時とは何かが――学院にそびえる塔の数が違っているように見えた。
「――あれはゴーレム。巨大なゴーレムが学院に侵入しようとしてる」
遠見の魔法を使ったタバサが、そう呟いた。
馬車が学院に近づくにつれ、ヒュンケル達の目にもそれが手足を持った巨大なゴーレムであることがはっきり分かる。
30メイルはあろうかというそれは学院の外壁をのっそりと跨いで、まさに今学院を襲おうとしていた。
「まさか、土くれのフーケ?」
キュルケが囁くようにその名を口にし、ヒュンケルはオスマンの言葉を思い出した。
土くれのフーケ。
それは巨大なゴーレムを使役する、凄腕の盗賊の名だったはずだ。
「急いで学院に向かって!」
ルイズが馬車の御者を急かし、一行は全速力で学院に向かった。
#3
馬車が学院に着いた時、ゴーレムは既に中央の本塔の前に達していた。
ゴーレムの目標を素早く察したタバサが一言、「宝物庫」とつぶやく。
どうやらあそこに学院の宝は眠っているらしい。
となると、やはりゴーレムを操っている犯人は土くれのフーケか。
よく見れば、ゴーレムの上にはフードをかぶった、見るからに怪しい人物が佇んでいる。
「あそこ! 誰かいるわよ!」
ルイズの指さす方を見ると、ゴーレムの陰に金髪の少年が立ち尽くしていた。
ヒュンケルとヴェストリの広場で戦ったメイジ、ギ―シュ・ド・グラモンだ。
妙にゴーレムがまごついていると思ったが、それは進路上にあのギ―シュがいたせいかもしれない。
ゴーレムが立ち止まったのは、ギ―シュに逃げる猶予を与えるためだとヒュンケルには思えたが、
恐怖したギ―シュは逆にそれを自分が標的にされたからだと受け取った。
ギ―シュは震える手で杖を振るうと、巨大なゴーレムに対抗して
大きなワルキューレを錬金してみせたが、それは如何にも無謀なことだった。
錬金されたワルキューレは大きく見積もってもせいぜい5メイル。
フーケのゴーレムとは子供と大人以上の差があるそれは、
剣を片手に果敢に斬りかかったものの、文字通り即座に蹴散らされた。
ギ―シュの背後の壁にぶち当たり、粉々に壊れる大きなワルキューレ。
もはやギ―シュは足が震えて逃げることも叶わず、へっぴり腰で青銅の剣を構えた。
ゴーレムの巨体を前にしては、ギ―シュの剣など針みたいなものだ。
やはり選択を間違えたかなと自信をなくすギ―シュに向かって、ゴーレムが虫を振り払うかの如く腕を動かした。
良くて骨折、悪ければ――。
「貸しだからねギ―シュ!!」
死を覚悟しかけたギ―シュに、ルイズが叫んだ。
キュルケ、タバサと共に、ルイズはゴーレムに向かって杖を振りかざす。
しかし三人の杖の先から魔法が発射された時、ゴーレムの巨大な腕はそこにはなかった。
――アバン流刀殺法・海波斬。
アバン流最速の秘剣によって巻き起こった剣圧が、ゴーレムの腕を既に撥ね飛ばしていたからである。
「さっそく俺っちのお披露目かと思ったら、そいつを使うのかよ……」
魔剣を構えたヒュンケルの後ろで、馬車に置いてけぼりにされたデルフリンガ―がぶうたれた。
そして哀れ、無傷で助かったはずのギ―シュは、
目標を見失って壁にぶつかった三種の魔法――特にルイズの爆発の余波を食らって吹っ飛ばされた。
紙きれのように中空に浮かんだギ―シュは、地面に激突しようかという寸前、ヒュンケルにキャッチされる。
「ヒュ、ヒュンケル……ぼ、僕がレディだったら、君にほ、惚れる……ところだね。
しかし君の主人の失敗魔法はし、しどい……」
ギ―シュはそこまで言うとグフッと呻いてそのまま気を失った。
ま、まあ死ぬよりかはマシよねと目顔で頷き合ったルイズとキュルケは、すぐにきょろきょろ辺りを見回し始める。
少し目を離した隙に、さっきまでゴーレムの肩口にいたフーケが姿を消していた。
「あれ、フーケは?」と困惑するルイズ達に、タバサが本塔の壁を指し示す。
強力な固定化の魔法をかけられていたはずの壁は、三人の魔法を受けて大穴を空けていた。
「……もしかしてあそこ、宝物庫の壁?」
顔を引きつらせるルイズとキュルケに、タバサがこくりと頷く。
やっちまったとばかりに天を仰いだ二人は慌てて宝物庫に駆け寄ろうとしたが、
ゴーレムが穴をふさぐようにしてその前に立ちはだかっていた。
もはやフーケはルイズ達のことを完璧に敵だと認識したのか、
ゴーレムは無防備に近づいたルイズとキュルケに向かって、大木のような腕を容赦なく振り下ろした。
ルイズ達の目前に大質量の塊が迫る――。
「くっ、ルイズ!!」
インパクトの瞬間、すんでのところでヒュンケルが二人の前に割り込んだ。
合わさった魔剣と拳の力は一瞬拮抗したが、不安定な体勢もあってさすがにかなわず、
ヒュンケルは背後の二人を巻き込んで吹っ飛ばされる。
平衡感覚を失ったルイズ達の前に地面だか壁だかが迫り、ルイズは自分の見目麗しい顔がハニワになるさまを想像した。
(わたしは胸のみならず、顔までぺったんこになるのね……)
ルイズが想像だけで気を失いそうになった瞬間、タバサが咄嗟に魔法で風のクッションを作った。
衝撃を和らげられたルイズ達は、なんとか打ち見程度の怪我でことなきを得る。
しかしルイズ達が立ちあがったその時、既にフーケは用事を済ませ、学院の外壁をまたぐゴーレムの上にいた。
大きな歩幅でどんどん遠ざかるゴーレム。
もはや追いつけはしないだろう。
いや、追いつけたとしても、あんな巨大なものをどう壊せばいいのか――。
悠然と去っていくゴーレムを睨みつけるしかないルイズの横を、タバサとヒュンケルが駆け抜けた。
宝物庫に入った彼らはやがてそこから出てくると、一枚の紙を手にして戻ってくる。
ヒュンケルが手渡してくる紙を見てみると、そこにはこんな言葉が書かれてあった。
『悟りの書、たしかに領収致しました。 土くれのフーケ』
そのふざけた領収書をびりびりに破いてやりたい衝動を堪え、ルイズは沈んでいく太陽を見つめた。
楽あれば苦あり。
今日という一日を振り返り、ルイズはそんなことを思った。
支援
以上で終わりです。
前座試合みたいなものなので今回はあっさり気味にしました。
小出しにしてるようで申し訳ないけれど、次回の投下も2、3日中になると思います。
>>227 修正ありがとうございました。
気をつけてるつもりでも結構見落としてたりしてて恐縮です。
投下乙です!!
ギーシュ哀れ
投下乙です。
ギーシュ涙目
まさかこのギーシュがポップのように成長するとはこのときはまだ誰も予想だにしなかったのだ
まさかこのギーシュがロン・ベルクのような名匠になるとはこの時はまだ誰も予想谷しなかったのだ
まさかこのギーシュが後にヒュンケルに
「まさかお前に庇われるようになるとはな…」
と礼を言われるようになるとはこのときはまだ誰も予想だにしなかったのだ
魔剣とデルフリンガーの両刀装備……グランド・クルスの十字構えフラグだな!
まさかこのギーシュが後に数万の軍勢を前に
「・・・知らなかったのか? ギーシュ・ド・グラモンからは逃げられない!!」
と言いながら立ちはだかるようになるとはこのときはまだ誰も予想だにしなかったのだ・・・
まさかこのギーシュが悟りを開いて、頭をカールさせ、メガネをかけ、丁寧口調になり、某勇者育成家庭教師みたいになってヒュンケルを意識させるとはこのときはまだ誰も予想だにしなかったのだ
おマチさんのゴーレムはスクライドか、
下手すりゃ大地斬でも充分なくらいだろうしクルスは勿体ねーな
多分悟りの書推定アバンの書を読んで二刀流を学び出してからデルフを併用し始め、
そのうちどっかで十字に剣をクロスさせて使用すると見た
ワルド…はデルフの能力解除とマヌーサ闘気読みの応用当たりでいいとして、
ヘクサゴンスペルにはデルフと鎧で対フェニックスの仁王立ちかな
対七万かレキシントン撃墜のあたりで使うのがいいか?
アバンの書が宝物庫にあって悟りの書などと呼ばれてるということは、
アバンが昔やってきてそして帰ったということかねえ
たしかに何とか帰れそうな人だが…そうなると本の中に帰る方法とか書き残してるかも
魔法が使えないヒュンケルに実行できるかどうかは分からないが
まさかこのギーシュが後に稀代の名工となるとは、このときはまだ誰も予想だにしていなかったのだ……
剣士の方、投下乙でした
虚無と獣王最新話を45分頃から投下します
今回はちょっと短めですが…
虚無と獣王
34 王子と獣王
クロコダインの肩を貫いていた『ブレイド』の刃が、突然消失した。
それはルイズの『ディスペル』がもたらしたものであったが、効果はそれだけに留まらなかった。
杖剣にかけられた『硬化』及び『固定化』の魔法はおろか、契約儀式による魔法発動の為のアイテムとしての効果も解除されている。
ただの杖剣になってしまっているので、仮に今呪文を唱えたとしても発動しないだろう。
そしてルイズの一番の望みである、ワルドの体を操っていた先住の魔法も完全に消え去っていた。とはいえ、ワルドが体を自分の意志で動かす事はまだ叶わない。
『焼けつく息』に含まれる麻痺成分は魔法とは無縁である。当然『ディスペル』でその効果が消える訳がなかった。
自分の魔法が発動したのを確認したルイズは、その余韻に浸る間もなくクロコダインに駆け寄る。
体中傷だらけの使い魔に、彼女は半泣きで頭を下げた。
「ごめんなさい、ごめんね、クロコダイン! ああ、どうしよう、こんなに火傷して……!」
元々クロコダインはこの世界には縁のない存在である。それが隣国の内乱騒ぎに巻き込まれたあげく、こんな傷を負ったのは全て自分のせいであると、彼女はそう思った。
「なに、この程度の傷など蚊に刺された様なものだ。どうという事もないさ」
そう言ってクロコダインは笑うのだが、『ライトニング・クラウド』10発を含め多くの風魔法を喰らっている以上、説得力には欠けた。
「それより謝らねばならんのはこちらの方だ。肝心な時に側にいれず、危ない目に遭わせてしまったな。本当にすまない」
「そんな事……!」
律儀な使い魔の言葉に、泣くまいと我慢していたルイズの涙腺がついに決壊した。
泣きじゃくる少女を前にしたクロコダインは、どうしたものかと困惑する。
多くの戦いを経てきた彼にとって分身する魔法使いと闘う事は別段苦にもならないのだが、自分の事を心配して泣く少女という存在はどうにも手が余る。
そんな中、天井に開いた大穴からひとつの影が飛び降りてきた。
その影はワルドの姿を捕捉すると、躊躇とか逡巡とか全くない感じで『ブレイド』を突き刺そうとしたので、クロコダインは慌てて制止する。
「待ってくれ、サンドリオン殿! 彼は単に操られていただけだ!」
その声のお陰か、『ブレイド』は硬直したままのワルドの首を皮1枚斬ったところでギリギリ停止した。
あと数秒声かけが遅かったら華麗に首が宙を舞っていたかもしれない。
体は麻痺しているが意識はある為、ワルドは内心冷や汗にまみれまくっているのだが、残念ながら外からそれが判る訳もなかった。
とりあえず刃を納めたサンドリオンはルイズの無事を確認し、仮面の奥で表情を緩ませる。
もっとも、目立った怪我がないのはルイズだけだ。
ウェールズは傷は塞がっているものの左肩には夥しい血痕が残っているし、キュルケも細かい擦過傷や小さな火傷は数知れず、髪も不自然に斬り落とされている。
なによりルイズが抱きついて離れないクロコダインは全身に火傷を負い、上半身の鎧はほとんど砕け散っている有様だ。
傷からの流血は止まりつつあるが、落雷の影響で体からは未だ小さな煙が上がっている。人間ならば生きているのが不思議なくらいの重傷であった。
「こちらは何とかなったが、上の様子は?」
怪我を意にも介さぬ様子のクロコダインの問いに、サンドリオンは敬意と畏怖を感じながらもそれを表には出さずに答える。
「差し当たって追ってきた竜騎士たちは全て墜としておいた。だがフネがこちらに侵攻しつつある。早く離脱するに越した事はないだろう」
さらっと言ってのけたが、実は追っ手の竜騎士は10を軽く越えている。それを短時間で全滅させているのだからサンドリオンの実力は相当なものだと言えた。
「失礼だが、そちらは……?」
デルフリンガーを杖の如く支えにしているウェールズの問いに軽く自己紹介する仮面のメイジを見て、クロコダインはそっと一息ついた。
いつの間にかルイズは泣きやんでくれている。後はギーシュ、タバサ達となんとか合流すればいい。
実を言うと、先刻から尋常ではない倦怠感と疲労が彼の体を襲っている。戦闘中に感じた身の軽さや汲めども尽きぬ様な闘気は、とある大魔王の空中宮殿の如く空の彼方へ消え去った様に思えた。
出来ればこの場で大の字になって寝てしまいたい位なのだが、これ以上ルイズに心配を掛ける訳にはいかないという一心で、クロコダインは努めて平静を装い続けた。
実はルイズが泣きやんだのには理由がある。
サンドリオンと名乗ったメイジがその理由な訳だが、ルイズにしてみればもう泣いている場合ではなかった。
背丈や体格、声、竜騎士を墜としたという話、そして顔の下半分を覆う仮面。
(な、ななな、なななんで母様がここここに!?)
昔も今もトリステインを代表する最強のメイジ、烈風カリン。
火竜山脈のドラゴンをまとめて吹き飛ばし、大規模な反乱をたった一人で鎮圧したとされる、ある種伝説じみた活躍で知られる存在だが、実はその正体がヴァリエール公爵夫人である事実はごく少数の人間にしか知られていなかった。
由来は不明だが『眠り男』などというあからさまな偽名を名乗っている以上、正体を開かすつもりはないのだろう。
しかしルイズにしてみれば家庭内ヒエラルキーの頂点にいる人物が突然前触れもなしに現れたのだから、そりゃあ涙も止まろうというものである。
ちなみにその母がアルビオンにいる理由であるが、公爵家の人間として厳しく接してきたものの実際には可愛くて仕方ない、眼に入れても痛くないと断言できる末娘が心配で心配で仕方なかったからだ。
その点では、オスマン学院長らにルイズの護衛を依頼されたのは渡りに船だった。依頼がなければ単独で後を追っていたところである。
内心における娘への溺愛という面においては夫に負けずとも劣らないヴァリエール公夫人であり、実に似た者夫婦であるといえよう。
しかしながら、当然表面上にそんな思いは出した事がない為、ルイズがそんな理由に気付く訳もなかった。
ウェールズと少しの間話していたサンドリオンがこちらを向くのに気付いたルイズは、我知らず背筋を伸ばしていた。
「大使殿、ワルド子爵の扱いは如何なさるおつもりだろうか」
母もルイズに自分の正体がばれていないなどとは思っていいないのだろうが、この場では私事より公の立場(とは言え偽名なのだが)を優先させた様であった。
「い、いい、いつからかは不明ですが、操られていたのは確かな様です。その術も今は解けたので、トリステインまで一緒に帰るつもりでしたが……」
ふむ、とサンドリオンは考え込む素振りを見せる。
ルイズの後ろではフレイムに寄りかかったキュルケが「いっそここで後顧の憂いを断っといた方がいいんじゃない?」などと不穏な事をつぶやいていたが、んな事できるかと思う。
「操られていたにせよ、何らかの情報を知っている可能性は捨てきれないのではないかな。どのみち暫くは動けないのだ、途中で暴れる事もないし連れていってもいいだろう」
主の意を汲み取ったのか、クロコダインも援護を飛ばす。
結局共に脱出するという結論に至ったのだが、念の為にとサンドリオンが外套の後ろから取り出したロープで麻痺状態のまま拘束されるワルドだった。
「では、すまないが地下港までご足労願おう」
残っていた秘薬とサンドリオンの『治癒』でとりあえずの応急処置をした一行に、ウェールズはそう言った。
自分が乗る『イーグル』号も、非戦闘員を乗せた『マリー・ガラント』号も地下の秘密港に係留されているのだ。
サンドリオンの話によればレコン・キスタの軍勢はまだ上陸していない。連中の最終通告を信じるなら戦闘開始は正午。まだ時間は残されているが、あの貴族派がそんな約束を守るという保証もなかった。
「……いや、大丈夫だ。このままここにいてくれ」
そう答えたのはサンドリオンである。
早く脱出するべきだと唱えていたのにどういう事かとキュルケが言おうとした時、突然『ライトニング・クラウド』で砕かれた床がぼこりと盛り上がった。
「な、なに!?」
大量の土を押し退けて現れたのは熊ほどの大きさもある巨大なモグラである。モグラは辺りを見渡すと、まっしぐらにルイズに向かっていく。
「わ、ちょ、ちょっと!?」
デジャヴを覚えつつルイズは仰け反った。正確にはこのモグラ、ルイズではなく彼女が持っている『風のルビー』『水のルビー』に反応しているのだが。
「やや、ほんとに辿り着いたのか! 凄いぞヴェルダンデ、流石は僕の使い魔だな!」
そんな台詞を吐きつつ床の穴から顔を出したのはギーシュであった。少年が級友に襲いかかろうとする自分の使い魔を止めている間に、穴からはタバサともう一人のサンドリオンが続けて姿を現す。
「なるほど、地下から最短距離で来たのか」
宝石を好物とするジャイアント・モールの嗅覚を頼りに、港から一直線に掘り進んできたらしい。
「うわ! 何かねクロコダインのその怪我は! ワルド子爵も何か焦げた上に縛られてるし!」
状況がさっぱり飲み込めないギーシュをよそにタバサはキュルケから事の次第を聞き、サンドリオンは『遍在』(空から降りてきた方だ)を解除して情報を共有化した。
「さあ、時間がない。急ぐとしよう」
クロコダインはそう言って、ぐるぐる巻きにされたワルドを抱えあげた。
ヴェルダンデの掘った穴はなんとかクロコダインでも通れる程の大きさだった。戦闘時の緊急回避や移動の時に地下を利用するのは、かつての自分を彷彿とさせる。
キュルケとタバサはフレイムに跨り、ルイズはクロコダインの肩に座る。動けぬワルドは反対側の肩に担ぐ事で一行はかなりのスピードで地下へと進んでいった。
「よし、着いたか」
やがて光る苔に覆われた鍾乳洞へ辿り着いたウェールズたちは、岸壁にまだ2隻のフネが止まっているのを確認し安堵の笑みを浮かべる。
「ここでお別れだ、ラ・ヴァリエール嬢。短い間だったが、迷惑をかけて済まなかったね。……本当に、ありがとう」
「ウェールズ様……」
「このまま我々は『イーグル』号で出撃する。敵の目を引きつけている間に君たちは脱出するんだ」
差し出された右手をおずおずと握り返しながら、ルイズは何と声を掛ければいいか悩んだ。
最早引き留める事が出来ないのは、昨日の時点で判っている。彼らは誇りを抱いたまま死出の旅に出る為ここにいるのだ。
「何か、姫様にお伝えする事はございますか……?」
結局思いついたのは、そんなありふれた質問だった。
「そうだな……。ウェールズは勇敢に戦い、そして死んでいったと、伝えて貰えるかな」
返答もどこかありふれた台詞だったが、その時のウェールズの表情を、ルイズは忘れまいと心に誓った。
「そんな顔をしないでくれ、ラ・ヴァリエール嬢。君のような貴族がアンの近くにいてくれるのなら、きっとトリステインは大丈夫だろう」
再び泣き出しそうになったルイズの頭を軽く撫でた後、亡国の王子はクロコダインに向き直る。
「貴方がいなければきっと私は礼拝堂で死んでいただろう。実に見事な戦い振りだった。出来る事なら、もっと早くに逢いたかったな」
ぐ、と右の拳を突き出すウェールズに、クロコダインもまた握り拳を合わせた。
「誰に何を言われようと、男が信じた道を進めるならばそれでいいとオレは思う。だからこそ、最後まで抗ってみてくれ。──こんな時に言う台詞ではないかもしれんが、ウェールズ殿の武運を祈っている」
「ありがとう」
一瞬、ウェールズが名残惜しそうな顔をした様な気がしたが、それを確認する間もなく彼は『イーグル』号へと駆け寄っていった。
打ち合わせ通りに『イーグル』号が出航する。アルビオンの下から姿を現したフネはたちまちスピードを上げてレコン・キスタ艦隊へと突き進み、それを迎撃すべく敵艦からは火竜や風竜に乗った騎士たちが緊急出動していた。
『マリー・ガラント』号には女官や王党派メイジたちの家族が乗り込んでいたが、その中の1人が鳥の使い魔を斥候代わりに出している。脱出するタイミングを見計らう必要があるからだ。
『イーグル』号が更にスピードを上げたという報告を聞いた船長は、部下たちに出航を命じた。
この港に来る時はガイドが必要だったが、流石は熟練の船乗りたちと言うべきか『マリー・ガラント』号は問題なく濃い雲の中を進んでいく。
船長には王党派が最期にどんな戦法を取るか、おおよその見当がついていた。その考えに間違いがなければ、なるべく早くにこの空域を離れなければならなかった。
幸いというべきか、往路と同じ様に風のスクエアメイジが風石替わりの推進力になってくれている。
その時とは別人だったが文句などあろうはずがない。仮面を付けていようが呪文を唱えたら分身しようが、この非常時には些細な事だ。
それほど時を置かず、フネは雲を抜けた。『イーグル』号が向かったのとは逆方向、最短距離とはいかないが風向きを考えればラ・ロシェールまで行くのに支障はないだろう。
見た限りレコン・キスタ勢が近くに陣取ってはいなかったが、念の為にと風竜に乗った青髪のメイジとマンティコアに乗った仮面のメイジが直掩に当たっていた。
満身創痍の獣人が「ならば自分も」と言い出していたが、主らしいピーチブロンドの少女を始めとした全員に止められていたのはご愛嬌と言ったところか。
後甲板には避難民たちが『白の国』を泣きながら見つめていた。
故国をこんな形で去る事になろうとは、暫く前までは考えてもみなかったのだから、それも無理はない話である。
浮遊大陸がどんどん小さくなっていくと、突然眩い閃光と共に轟音が響き渡った。
衝撃波が軽くフネを揺るがし、副長の指示で船員たちが帆を確認したり乗客たちを落ち着かせる中、船長は帽子を目深に被りそっと黙祷を捧げる。
あの閃光こそが王党派の最期の輝きであると、船乗りとしての直感がそう告げていた。
空に響き渡るその音は、甲板に居るルイズの耳にも届いていた。
傍らには応急措置を施されたクロコダインが座ったままその目を彼方へと向けている。
「クロコダイン……」
ルイズは王女が学院に来た日の朝に見た夢をふと思い出した。
この頼れる使い魔が、自分の手の届かない危険な場所に独りで向かっていく夢。
不安そうな顔をするルイズに、クロコダインは包帯の巻かれた掌でそっと頭を撫でた。
「大丈夫だ、オレはちゃんとここにいる。疲れているだろう? 今は、少し休んだ方がいい」
確かにここ数日は身も心も休まる事はなかった。
久し振りの幼馴染であるアンリエッタ姫との再会、アルビオンへの非公式訪問、突然同行する事になった婚約者、襲撃に次ぐ襲撃、そして虚無の使い手としての覚醒。
大丈夫だという言葉に安堵を覚えたのか、ルイズはそのままクロコダインにもたれかかる。眼を閉じた彼女から寝息が溢れるのに、それほど時間はかからなかった。
せめて、今この時くらいはいい夢を見て欲しいものだと、クロコダインは人間の神に祈るのだった。
アルビオン、ニューカッスル城。
無人と化した筈の城の中に、指に大振りの指輪を嵌めた1人の女が立っていた。フードを目深に被っている為、その表情は窺い知れない。
「はい……はい、そうです。確かに始祖の秘宝を使い、虚無の呪文を発動させていました。ええ、予測通り、彼女がトリステインの『使い手』に間違いありません」
その手には小さな鏡が握られている。マジックアイテムであるそれには、先程まで礼拝堂での死闘がリアルタイムで映しだされていた。
虚空に向けて何者かと話している様子のその女は、やがて深々と頭を下げる。
「はい、では暫くの間は干渉せずに置くのですね……。わかりました。それでは失礼します、ジョセフさま……」
以上で投下終了です
前回感想ありがとうございました
最初のプロットでは、ワルドはここで獣王会心撃により命を落とす予定でした
ところがうっかり「ワルドバリアー」などという単語を書いてしまったばっかりに生き残る事に
まあ彼にとってはここからが大変なのですが
次回は王党派最後の戦いになるか、ルイズの報告を聞いて頭を抱える中年トリオになるか、まだ不明です
それでは
投下乙です
ジョセフの暗躍が始まったようですな
ウェールズは利用されないように死ねたんだろうか
乙です。
王党派の最後の輝きに涙が出そうです。
>由来は不明だが『眠り男』などというあからさまな偽名
原作というか、烈風の騎士姫ではサンドリオンという偽名は
「灰かぶり」という意味だったはずだが。
それとも作者の意図的な何かがあるのか。
>>257 すみません、間違えました orz
ウィキ訂正します…
アルビオン編もいよいよ終わりかあ。
ルイズがここで虚無に開眼したならタルブではどうなるか今から楽しみだ。
ディスペルで貴族派の洗脳された者達の洗脳を解くかとも思ったけどそれは無かったか。
ルイズやクロコダインがどうなるかも気になりますが大人達が後始末にどう動くかも楽しみです。
獣王の人乙です。
今から12話を投下します。
#1
学院から遠く離れた森でゴーレムを土に還すと、フーケは顔を隠していたフードを払って大きく息をついた。
オールド・オスマンの留守をついた今日の計画だったが、
まさかその真っ只中に『ガンダ―ルヴ』が現れるとは予想だにしなかった。
フーケ自慢のゴーレムの巨腕を刎ね飛ばしたあの斬撃には、今思い返しても冷や汗が流れる。
あれは風メイジのエアカッタ―のような感じに見えたが、もしやあの剣もまたマジックアイテムの一種なのだろうか。
「まったく、わけがわからないね……」
ともあれ非常の事態があったにせよ、無事に盗みが成功したことにフーケは満足していた。
苦戦すると思っていたあの壁があっさり崩れたことは僥倖だったとさえ言えるかもしれない。
強力な魔法をいくつも重ねられたあの宝物庫は小手先の技も通じず、
ゴーレムによる物理的な破壊という強硬手段でもいけるかどうかという、盗賊泣かせの代物だったのだ。
視界のきくゴーレムの上にいたフーケにはよく見えていたが、あの強固な壁を崩した魔法は――。
「もしかしたらあの娘は本当にアレかもしれないね……」
フーケはそう一人ごちて肩をすくめると、懐からそっと戦利品を取り出した。
――『悟りの書』。
噂ではそれは選ばれし者にしか解読できない、幻の書と呼ばれていた。
嘘か真か、異界の書であるとか、不逞の輩が読むと呪われるとかいう話しもある。
ディテクトマジックなどかけずとも、そこに何か不思議な魔力がこもっていることは疑いようもなかった。
「どれ、私もちょっと試してみるかね」
あいにくフーケは呪いなどを恐れるタマではない。
なにはともあれ計画が成功した高揚感のままに適当に本を開いたが――。
「な、なんだいコレは……!?」
ある意味予想通りと言うべきか、フーケの見た先にはわけの分からぬものが広がっていた。
困惑したフーケは思わず偽物を掴まされたと思ったが、たしかにこの本には不思議な力を感じる。
しかし念のためにディテクトマジックをかけてみると、そこには何の反応もなかった。
魔力があると思ったのは自分の錯覚だったのか。
それともメイジの魔法とは別系統の、まったく異なる力であるのか。
混乱したフーケにはにわかには分からなかった。
それにしても、いくらなんでもこの内容はなんなのだ?
噂の通り、選ばれし者にしか真の内容は現れないのか、
それとは関係なしに、正しく読むのに決まった手順でもあるのか――。
真偽の分からぬものは扱いに困るし、万一これが偽物だったなら、それはフーケの盗賊としての涸券に関わった。
どうにかしてこの本の正体を知らねばなるまい。
フーケは苛立たしげに髪をいじくると、新しく計画を練り始めた。
#2
『悟りの書』盗難の翌朝、闇も払われぬうちにルイズ達は学院長室に呼び出された。
二日連続の早起きに目をしょぼしょぼさせるルイズの横には、キュルケとタバサ、そしてヒュンケルがいる。
真の第一発見者であるギ―シュだけは昨日の怪我が治らず、この場には来ていなかった。
今頃はまだ、ベッドの上でうんうん唸っていることだろう。
学院長室には急報を聞いて帰ってきたオスマンはじめ、多くの教師がひしめいていた。
国内でも有数の堅さを誇る宝物庫に賊が入ったことに誰もが驚き恐れ、ぴりぴりした空気を発散している。
「ミセス・シュヴルース! あなたがちゃんと見張っていなかったから!」
「ゴーレムが宝物庫を破っている最中、自室で眠りこけていたとはなんたる失態!!」
教師達は責任の所在を自分以外の誰かに求めて、当日の警護をサボっていたシュヴルース一人にそれを押し付けていた。
実際には彼ら自身、真面目に当直の任を果たしたことなど数えるほどしかないのだが、完全に棚に上げている。
ルイズからしてみれば、学院の中にいて巨大なゴーレムを目撃していたはずなのに何もしなかったという点では
彼らもシュヴルースも無責任さにおいては何の違いも感じなかった。
「それにしても学院長の不在を狙うなど、フーケは学院の内情に詳しいのですかな……?」
ヒステリックな周囲とは無縁にそれまで黙っていたコルベールが、思いついたようにポツリと言った。
オスマンが学院を空けることなどそんなにあるでもないし、その日に限って盗賊が入ったのは偶然だとは考えにくい。
コルペールのその言葉に教師達はハッと顔を見合わせ、すぐに互いに視線をそらせた。
それからまた疑惑の矛先を、半泣きのシュヴルース一人に定める。
「ミセス・シュヴルース。眠っていたというのは方便で、実は貴女が手引きしたんじゃないですか?」
「フーケは宝物庫からすぐに目当ての物を見つけたようです。
誰かがあらかじめ宝物庫の内情を教えていたに違いない!」
半泣きのミセス・シュヴルースは自分の不手際を責められるばかりか、
あらぬ疑いまでかけられたことにショックを受けて、魚のように口をパクパクさせていた。
多少自業自得の感はあるにせよ、普段温厚なシュヴルースのそんな姿は気の毒過ぎて見ていられない。
思わずルイズは彼女の弁護をしようと口を開きかけたが、そこで別の声が、さらに言い募ろうとする教師達を遮った。
「いいかげんにせんか!!!」
学院長室に、威厳のある声が響き渡った。
声の源はこの部屋の主、オールド・オスマン。
初めて聞く学院長の怒声に、ルイズの肩がびくっと跳ねた。
オスマンは静まりかえった部屋を見渡すと、腰かけていた椅子から立ち上がった。
「まったく、自分を棚に上げて人を批判することばかりうまくなりおって……嘆かわしいわい」
「し、しかしオールド・オスマン、ミセス・シュヴルースは女性です!」
嘆くオスマンに教師の一人、ギド―が食い下がった。
奇妙といえば奇妙なその反論にルイズは目を点にし、キュルケは眉を吊り上げる。
男尊女卑。
ギド―の発言をその最たるものと見たのだろう。
「あら、ミスタ・ギド―。あなたはフーケが女性だと御存知ですの?
私の聞くところでは件の盗賊は性別不明とのことでしたが?
それともなにか、トリステインでは『女を見たら泥棒だと思え』なんて格言でもあるのかしら?」
たたみかけるように詰問するキュルケに、ギド―は「い、いや私は……」と口ごもった。
しかしそこでまたオスマンが床に杖をつき、一同の注目を集める。
「もうよい。問題はこの一大事をどう解決するかじゃ。
『悟りの書』紛失のことは遠からず外に漏れるじゃろう。学院の威信にかけて我らの手で取り戻さねばならん」
そう言ってオスマンは教師達の顔を見たが、教師達は誰も自分が行こうとは名乗り出なかった。
これまで平静な様子を崩さなかったコルペールでさえ、歯痒そうな顔で押し黙っている。
しかしオスマンは最初からコルペールは当てにしていないのか、彼の方は見向きもしなかった。
「なんじゃ、誰もおらんのか? 土くれのフーケを討伐して名を上げようという勇者は?」
じれったくなったオスマンが、それでは自分が行こうと言うと教師達は制止したが、
ならば誰が行くという段になると元の木阿弥に戻った。
気まずい空気が部屋に充満しかけた時、思わぬ方向から一本の杖がすっと上がった。
「わたしが行きます、オールド・オスマン!」
杖を上げたのはルイズだった。
彼女は昨日作った擦り傷を顔に張り付けたまま、敢然とオスマンのことを見つめた。
正直言って、あの巨大なゴーレムと相対するのはルイズとて怖い。
とても怖いが、怖気づく教師達の姿がルイズの中の貴族の誇りを逆に奮い起した。
フーケの記憶に残る学院の、そして自分の姿が弱っちょろいままではいられない。
それにもしもフーケを捕らえることができたなら、もう誰にも馬鹿にされないで済むはずだ。
ルイズは爛々と瞳を輝かせてオスマンに訴え、そんなルイズに触発されてキュルケが、そしてタバサが続いて杖を上げた。
「ヴァリエールだけに手柄をやるなんて許せませんわ」
「……二人だけじゃ心配」
級友の言葉にルイズの頬が知らず知らずのうちに火照った。
ヒュンケルの顔を見ると、かの使い魔もしっかりルイズの目を見て頷いてくれる。
杖を掲げる生徒達を教師陣は制止したが、オスマンが一睨みすると彼らは黙った。
そもそも自分が行こうとは言えない彼らには、ルイズ達を止める資格などないのだ。
オスマンは改めて三人の学生と一人の使い魔に『悟りの書』奪還を命じ、四人は謹んでその任務を受けた。
「――しかし、肝心のフーケはどこにいるんでしょうな?」
いざ出陣といった態の雰囲気を見ながらコルペールが言うと、ちょうどその時部屋の扉が開かれた。
皆の注目が集まる中をオスマンの秘書、ミス・ロングビルがつかつかと歩く。
その姿を見て初めてルイズは、さっきまでロングビルがここにいなかったことに気がついた。
ロングビルはオスマンの前まで来ると、どこに行っていたのだという声に応えて、おごそかにこう言った。
「オールド・オスマン。フーケの隠れ家を発見しました」と――。
#3
学院長室から出てすぐ、ルイズ達は昨日と同じように馬車に揺られていた。
ただし馬車の御者は昨日とは違い、ミス・ロングビルが担当している。
あの後、フーケの潜伏場所の調査情報をオスマンに報告したロングビルは、
『悟りの書』奪還に向かうルイズ達に同行すると申し出て即座に受諾された。
教師達からすれば生徒だけを危険な目にあわせるという体面の悪さも誤魔化せるし、
ルイズ達にしても明敏そうなロングビルの加入は渡りに舟といった感じで歓迎するべきものだった。
聞くところによればロングビルはメイジではあるものの正式な意味での貴族ではないらしく、
道案内も兼ねてと言うと、率先して馬車の御者を買って出た。
一行は今、木々の間を抜けて森の奥深くへ向かっている。
「それにしてもよう、相棒。お前さん、今朝俺を置いていこうとしなかったか?」
急な襲撃がないか目を光らせているヒュンケルの背中、ベルトで括られているデルフが言った。
ちなみに魔剣の方は今回は抜き身のままで、腰に下げられている。
昨日といい、今朝といい、お前はなんのつもりで俺を買ったのだと尋ねるデルフにヒュンケルは少し考えた。
二刀流の覚えなどないヒュンケルにとって、戦闘には鎧の魔剣一本で充分。
そもそもデルフを買ったのは、『使い手』の情報を聞き出すためだったのだから――
「話しをするため、だろうか?」
ヒュンケルが率直にそう言うと、デルフは重いものを飲み込んだように押し黙った。
何故か、それまでくだらない言い合いをしていたルイズとキュルケもぴたりと話し
をやめてこっちを見ている。
「……俺が言うのもなんだが相棒。話し相手に剣を買うくらいなら人間の友達を作った方がいいぞ?」
「そうよねえ、ルイズと話すくらいなら剣と話した方がマシよねえ……」
「そ、そんなわけないでしょツェルプスト―! ヒュンケルもヒュンケルよ!
寂しいんならご主人様のわたしとお喋りしなさいわたしと!」
三者三様の言葉を聞いてヒュンケルは妙な誤解に気付いたが、訂正する気も起きずに溜め息をついた。
勝手に言ってろと言いたげな顔をするヒュンケルにロングビルが笑いかける。
そして話題を変えるように彼に向かって尋ねた。
「そういえばヒュンケルさん。馬車に乗る前に学院長と話されていましたが、何の用でしたの?」
ロングビルの言うとおり、ヒュンケルは出発の直前、オスマンに一人だけ呼び出されていた。
オスマンに耳打ちされたことを思い出し、少し間を置くヒュンケル。
ルイズ達も興味しんしんといった様子でヒュンケルを見つめたが、彼の答えは無難なものだった。
「ルイズ達が無茶をしないよう頼まれた。そんなところです」
なあんだと興味をなくすルイズとキュルケに、ヒュンケルは微笑んだ。
しかし、最初の質問者であるロングビルの方は納得がいかないのか、意外なしぶとさで食い下がる。
「それだけですか? 他にはどうです?」
「他には……そうだな。『悟りの書』を取り戻しても、ルイズ達には中を見せてはいけないと、そう言っていたよ」
ヒュンケルの言葉に、本を読みふけっていたタバサがぴくりと眉を動かした。
読書家の彼女はひそかに『悟りの書』にも興味があったらしい。
残念だったわねえとからかってくるキュルケに、タバサはこくりと頷いた。
「それにしても、あたし達は読んじゃいけないってどういうことかしら?
せっかく取り返してやろうっていうのにつまんないじゃないの」
「それだけ大変なことが書かれてるってことじゃないの? 噂が本当なら選ばれし者にしか読めないって話しだけど」
「読むと呪いを受けるという噂もある……」
ミス・ロングビルは三人の議論を無言で聞いていた。
眼鏡の奥の瞳が、考え深げに揺れている。
少し急ぎますよとヒュンケル達に告げると、ロングビルは強く手綱をひいて馬の脚を速めた。
以上で今回の投下は終わりです。
感想ありがとうございました。
乙です
おお、悟りの書はアバン先生の本ではないのかな…?
となるとなんだろう、ダイ世界の呪文書とか?
乙です
何ヶ所かコルペールとなっていたんですが、コルベールではないでしょうか…?
>>271 人名を書き間違えるとはまた致命的なミスを……。
wikiの方で訂正しておきます。失礼しました。
わお、確認してみたらギト―もギド―になっていた。
どうも濁点とか細かなとこを勘違いをしたまま覚えていたようです。
お許しください。
ギドーだとボスの名前みたいだな
>274
○ドーですね、わかります。
ゲド―でも外道をいじくった感じでよさげ。
ともあれ投下乙です。
悟りの書の正体に期待。
逆に濁点なくしてキトーにしてみると、下品な名前になってしまう
全国のキトウ(鬼頭・木藤・木頭・その他)さんに失礼だ
亀「おっと、俺の事忘れt(自主規制
支援
今更だけどヒュンケルはオスマンの声を聞いて何か思うところは無いのだろうか?
声優ネタは人を選ぶからなぁ
今から13話を投下します。
ダイ大のアニメは随分見ていないから、
オスマンの声がハドラーと同じとか全然気付かなかったぜ。
#1
森の中を走って一時間も経った頃、ロングビルは馬車から降りるようルイズ達に告げた。
彼女が言うには、この近くにフーケの隠れ家があるらしい。
馬車で近づくのは色々と目立つし、ここからは歩いていこうとロングビルは提案した。
「なにやってんのヒュンケル? 早く行くわよ!」
馬車の前で靴紐を結ぶように屈んでいたヒュンケルをルイズが急かした。
ヒュンケルはすぐに立ちあがると、ルイズ達と並んで歩く。
フーケの隠れ家は、馬車を置いた場所から十数分のところ、木々が少し開けた場所にあった。
それは打ち捨てられたような小さなボロ小屋で、人の気配がまったく感じられない。
「フーケは留守なのかしら? それとももう逃げちゃったとか?」
そう言って無用心に廃屋に近づこうとするルイズを、ヒュンケルが制止した。
昨日のことといい、どうにもこの娘は勇み足でいけない。
ヒュンケルが見た感じ、ルイズはどこか急き立てられているような印象を受けた。
「落ちつけルイズ。偵察には俺と……タバサで行こう。お前はここで待っているんだ」
しかしルイズは、ヒュンケルの言葉に不満そうに頬を膨らませた。
「嫌よ! 使い魔が行くっていうのになんで主人のわたしが留守番なのよ?」
「……主人を守るのが使い魔の役目。そう言っていたのはルイズではなかったか?
危険がないか見に行くだけだ。少し待っていてくれ」
渋々頷くルイズの頭を、ヒュンケルがなだめるようにぽんぽんと叩いた。
そうしてから、また子供扱いしてとぶうたれるルイズをスル―し、キュルケとロングビルの意見を確かめる。
キュルケは肩をすくめると、ここでルイズの子守りをしていると言い、
ロングビルは用心のために周囲を見回ってみると言って森の方へ歩いて行った。
それぞれの役割を確認し終えると、ヒュンケルはタバサに頷きかけた。
「念のため、『静寂』をかける」
タバサはそう言うと杖を振るい、二人の足音を消した。
恨めしげなルイズをその場に残し、ヒュンケルとタバサは慎重かつ素早く廃屋に接近したが、
相変わらずそこからは物音ひとつせず、人の気配もしなかった。
「思いきって中に入ってみるか」
ヒュンケルはタバサに小声で言うと扉に手をかけ、ゆっくりとそれを開けた。
二人は音もなくするりと室内に入ったが、やはり人の姿はない。
廃屋は一部屋のみの構造で家具も少なく、隠れられそうな場所はありそうもなかった。
埃の積もった様子を見るに、ここでフーケが生活しているとはとても思えない。
もしや、ロングビルの掴んだ情報は誤ったものだったのだろうか。
ヒュンケルが嫌な予感を感じた時、タバサが「これ」と囁いた。
タバサはテーブルの上に無造作に置かれていた本を手に取って、何かを確かめるようにじっと見つめた。
「まさか、それが『悟りの書』か?」
ヒュンケルの言葉にタバサは「たぶん」と頷くと、自然な動作で本を開こうとした。
どうやら彼女はまだ『悟りの書』を読むことに未練があるらしい。
ヒュンケルが溜め息をついてその手を掴むと、
タバサは相変わらずの無表情で「冗談」と一言言って、『悟りの書』をヒュンケルに差し出した。
どうにも変った娘だと苦笑してヒュンケルがその本を手に取った時――そのことは起こった。
「ヒュンケル! タバサ! 小屋から離れて!!」
外からまずルイズの叫び声が聞こえ、次いで頭上の屋根が砕ける音が耳をつんざいた。
間一髪、窓から外へ飛び出した二人の背後で、廃屋は杖を失くした老人のように呆気なく崩れ落ちた。
ヒュンケルはタバサを助け起こすと、廃屋を叩き潰した張本人をぎらりと睨んだ。
襲撃者の正体は言うまでもない。
ヒュンケル達の目線の遥か上、フーケの巨大なゴーレムが、ヒュンケル達を見下ろしていた。
「小屋に人がいた形跡はなかったが――もしや情報自体が罠だったか?」
つぶやくヒュンケルの横で、タバサが真っ先に魔法を唱えた。
少女の、背丈ほどもある杖から強力な竜巻が巻き起こる。
生身の人間なら造作なく吹っ飛ばせる魔法だが、巨大なゴーレムはびくともしないでその場に留まり続けた。
タバサに続いてキュルケが炎の魔法を、ルイズが例の爆発魔法を使うが、ゴーレムの巨体からすれば効果は微々たるものだ。
「こんなのかないっこないわよ!」
呻くキュルケの横でタバサが「退却」とつぶやき、口笛を吹いて風竜シルフィードを呼び出した。
即座に空から現れた使い魔に乗って、タバサはキュルケやヒュンケル達に手招きする。
肝心の『悟りの書』は取り返せたのだから、タバサの判断は賢明なものだと言えるだろう。
ヒュンケルとキュルケは彼女に従おうとしたが、しかし何故かルイズだけは頑としてそこを動こうとしなかった。
ルイズは何度も何度もゴーレムの表面に爆発を起こし、巨大な質量を砕こうと躍起になっている。
早く乗れと急かすキュルケの声に、ルイズは「嫌よ!」と、振り返りもせずに拒絶した。
「嫌よ! ここで逃げたら『ゼロ』だから逃げたってまた笑われちゃうじゃない!!そんなのできっこないわ!!」
「そんなこと言ったってあなた……ロクな魔法も使えないじゃないの!」
キュルケの言うことにルイズは言葉に詰まるが、それでも一歩も退こうとはしなかった。
「魔法を使える者を貴族と呼ぶんじゃないわ……! 敵に背を向けない者を貴族と呼ぶのよ! 邪魔しないで!」
そう言って攻撃を続けるルイズにキュルケは「あのバカ」と唇を噛んだ。
人一倍誇り高いルイズが『ゼロ』と蔑まれ、どれだけ悔しい思いをしてきたかキュルケはよく知っていた。
ルイズは汚名を晴らそうとひたすら努力し、それでも駄目で、また頑張って、どうしようもなくて――。
ルイズの気持ちは分かるが、それでもこんなところで死なれては目覚めが悪い。
強引にでもルイズを逃がすため駆け寄ろうとしたキュルケだったが、ゴーレムがその腕を振るう方が先だった。
肩を震わし、目を見開くルイズに近づく巨椀。
ルイズのちっぽけな体などバラバラにしてしまうであろう凶器。
昨日の再現のようなその攻撃はしかし、昨日と同じ人物によって受け止められた。
ただし今回の結果は昨日と違って、その人物はゴーレムに押し負けずにそのまま踏みとどまっている。
「……無事か、ルイズ?」
ルイズの目の前、ヒュンケルが魔剣でゴーレムの一撃を食い止めていた。
衝撃で数メイル後ずさり、足は地面に埋まってしまっているが、ヒュンケルは渾身の力でゴーレムの腕を押しのけた。
そしてすかさずルイズを抱えると、シルフィードの前まで連れて行く。
「離してヒュンケル!これは命令よ! わたしは戦うの!」
腕の中で暴れるルイズに、ヒュンケルは無言で頷いた。
てっきり反対されるとばかり思っていたルイズは虚をつかれ、振り上げた拳の行き場をなくす。
しかしヒュンケルは嘘をつくでも誤魔化すでもなく、真剣にルイズの望みに応えようとしていた。
「そこまで言うなら俺も共に戦おう。しかしルイズ、戦いにはやり方というものがある。
お前はゴーレムの攻撃が届かぬところから攻撃しろ。あのデカブツと直接やり合うのは俺の役目だ」
さっきまで失念していたが、周囲の偵察に出たロングビルの姿がまだ見えなかった。
彼女の無事が確認できない以上、一目散に逃げることも憚られる。
それになにより、敵わずとも立ち向かおうというルイズの言葉にヒュンケルは心打たれていた。
自棄になっているような面もあるのだろうが、ルイズの横顔には凛とした気高さが浮かんでいた。
魔法が使えなくとも――いや、魔法が使えないからこそ育まれた、魂の力のようなものがそこには根付いていた。
ヒュンケルはルイズのことをただ守るべき対象としか見ていなかった己の認識を改め、
できることならルイズの望みを叶え、自信を与えてやりたいと、そう思った。
「タバサ、キュルケ。お前達は上空から援護しながらロングビルを探してくれ
あるいは怪しい人影を見つけたらそいつを捕らえろ。フーケを倒せばゴーレムも消えるだろう?」
言ったヒュンケルに、キュルケがやれやれと首を振った。
一緒に逃げられないとあれば、キュルケのやることも一つしかありえない。
「しかたない、付き合ってやるわよ……デ―ト1回分と引き換えで。もちろん費用はルイズ持ちよ?」
キュルケはそう言うとタバサと目配せし合い、風竜で飛び立った。
ゴーレムはそれを見てのそりと動いたが、タバサとルイズ達のどちらを狙うか迷ったように、少し首をかしげている。
ヒュンケルはタバサ達を見送ると、ルイズの顔を見た。
マァムと同じ色の髪をした少女は、緊張と興奮で頬を紅潮させていた。
「ルイズ、これを持っていてくれ。なくすんじゃないぞ?」
そう言うとヒュンケルは懐から『悟りの書』を取り出してルイズに押し付けた。
――共に戦うのはいいが、絶対にやられるな。
この任務の一番の目的、学院から盗まれた秘宝を託すことで、ヒュンケルはルイズにその意を伝えた。
ルイズはしっかり本を服の中に仕舞い込み、ヒュンケルに向かって頷いてみせる。
ヒュンケルだけを前線で戦わせることに不安も不満も感じるが、
それが一番の布陣だということはルイズも分かっていたし、ルイズはこの偉そうな使い魔の力を信じたかった。
「ご主人様に指図するなんて使い魔失格なんだからね! 後で説教してやるんだから……死ぬんじゃないわよ!」
ルイズはようやくいつもの調子に戻るとそう言った。
直後、ゴーレムの巨大な足が振り下ろされ、ルイズとヒュンケルは前後に分かれる。
ルイズは森の方から後衛を務め、ヒュンケルはゴーレムのそばで前衛を担当する――。
主人と使い魔の、初めてのパーティーバトルが今始まった。
#2
振り下ろされた足をかいくぐり、そのままの勢いで斬りつける。
土くれでできたゴーレムの足はたやすく裂けたが、すぐに地面から土を補給して体を再生しはじめた。
ルイズも今は手数よりも威力を意識し、なるべく大きな失敗――もとい、
爆発を起こそうと努めたが、その傷も瞬く間に再生されてしまっている。
ヒュンケルはいつのまにか鋼鉄製に変わったゴーレムの腕を大きく飛びのいてかわし、息を整えた。
するとその隙を見計らったようにゴーレムは足まで鋼鉄製に変わり、ヒュンケルは思わず舌打ちをする。
戦いは長期戦の様相を呈していた。
ヒュンケルはまだまだ動ける自信があるが、
失敗魔法とはいえ爆発という形で魔法力――この世界では精神力――を放出しているルイズはそろそろ限界のはずだ。
上空にいるタバサ達が術者のフーケを探しているが、森の木々に遮られてそちらの状況も芳しくない。
フーケがゴーレムの維持にどれほど精神力を消費しているのか分からないが、
このまま戦いが長引けば消耗したルイズを抱えて戦うか――あるいは逃げることになる。
ルイズの安全と心境を思えば、それはできようはずもなかった。
かくなれば、再生の暇もないほど早く切り刻むか、一撃必殺で倒すほかない。
「アバン流刀殺法――海波斬!」
ヒュンケルは昨日ゴーレムの腕を斬り飛ばした技を連続して放ったが、
今やみっちりと鋼鉄で固められたゴーレムの腕は、半ばのところでその斬撃を食い止めた。
スピード重視の海波斬では一撃の威力において少々心もとない。
とはいえ、速さの技に対して力の技――大地斬では手数が足りない。
となれば……
「おい相棒! いいかげん俺を抜けよ!」
ヒュンケルが必殺の剣を構えようとした時、すっかり忘れていた声がその動きを呼び止めた。
背中から、デルフリンガーがすねた声でヒュンケルに訴えかける。
「俺っちだって剣だぜ!? そっちばっかり使ってないで俺も使ってくれよ。頼むからさあ……」
戦いの緊迫した雰囲気からはかけ離れたその様子に、ヒュンケルは思わず笑みをこぼした。
とはいえ、自分には二刀流の心得はないし、一刀で戦うなら使い慣れた魔剣の方がいい。
ヒュンケルは率直にそう言いかけたが、デルフが憤慨したようにそれを遮った。
「心得も何もねえって! 相棒は『使い手』だろう? 剣を握りゃ勝手に体が動くんだよ!」
「使い手とは――『ガンダールヴ』の――ことか?」
ゴーレムの攻撃をかわしながら聞くと、デルフはあったりめえだろと一笑に付した。
むしろ、素でその力を出せてる方がおかしいぜと呆れ半分の調子で続ける。
ヒュンケルは頭上のタバサをちらりと見上げると、ようやくデルフの柄に手をかけた。
何故か懐かしい感触を覚え、ルーンを刻まれた左手を見やった。
もしもタバサやデルフの言うように自分が本当に『ガンダールヴ』ならば――
そしてもしあの決闘の時感じた感覚が本物ならば――
剣を二刀使うくらい、俺には容易いはずだと自分に言い聞かせた。
目の前のゴーレムを倒し、ルイズに誇らしい記憶をつくってやる。
それだけを胸に置き、懸念も何も体から追い出した。
闘志が体の奥から、ふつふつと溢れだしてくる。
「相棒! 俺を抜け! ガンダ―ルヴは心の震えで強くなる! 闘志をみなぎらせ、剣に伝えろ!!」
声に応え、ヒュンケルはついにデルフリンガ―を抜き放った。
ゴーレムは今、タバサとキュルケが風竜の速さを活かして翻弄している。
ヒュンケルは両の手に二刀の魔剣を携えて目を閉じ、リラックスするように肩の力を抜いた。
瞼の裏に、無駄な力や動作を省いた必殺の軌跡を心に描く。
そしてゆらりと剣を持った両手を上げると、あらかじめそれが決まっていたような自然さで上段に構えた。
「アバン流刀殺法――二刀!」
ここまで意識を集中させてこの技を使うのは何年振りか。
ヒュンケルは初めてこの技を成功させた時のことをふと思い出した。
今振るうはアバン流の初歩にして、大地をも割る力の剣――
「大地斬!!!」
カッと目を見開き、ヒュンケルは二対の魔剣を振り下ろした。
二柱の斬撃は強烈な衝撃波を生み出し、ゴーレムの鋼鉄の四肢をVの字に斬り裂いた。
刹那の瞬間、手足を失ったゴーレムの胴体が宙に浮く。
――好機。
「タバサ! ゴーレムを浮かせろ! キュルケはヤツの頭を攻撃するんだ!!」
ヒュンケルの言葉に応え、タバサが即座に詠唱を完成させた。
あらかじめ力を蓄えていたのだろう、今までの比ではない威力の竜巻が、四肢を失い軽くなったゴーレムを持ち上げる。
ゴーレムの再生のために地面から巻きあがっていた土くれも、風の力で吹き飛ばされた。
次いでキュルケのとっておきの火炎の魔法が、ゴーレムの頭を超高熱で焼きつくす。
今やゴーレムは、ただの大きな土の塊でしかなかった。
ヒュンケルは鎧の魔剣を地面に突き刺すと、左手のデルフリンガ―に語りかけて言った。
「デルフ、お前が俺の相棒を名乗るなら、この魔剣に劣らぬところをみせてみろ。
俺の最強の一撃を、こいつと遜色ない威力で出してみせるのだ」
ヒュンケルの言葉を、デルフは威勢よく笑い飛ばした。
ガンダ―ルヴの左手、デルフリンガ―にしてみれば、そんな挑発は望むところである。
ヒュンケルの腕から流れる闘気に身を任せ、デルフは己の内にそれを蓄えた。
「任せろ相棒! あの魔剣に新参者となめられねえよう、俺もいいとこ見せちゃるゼ!」
叫ぶデルフの刀身が、錆びの浮き出たそれから、魔剣にも劣らぬ白銀の輝きに満ちたものへと変わった。
しかしヒュンケルはその変化を何故か当然のようにして受け入れ、浮き上がって再生力を失ったゴーレムを見つめた。
タバサの竜巻の力は徐々に弱まってきている。
ここはもう、一撃で決めるほかあるまい。
「ルイズ! 俺の技に合わせろ!」
ヒュンケルは片手を前に突き出し、デルフを握った方の腕を弓のように引いて力を溜めこんだ。
背後からはルイズがヒュンケルの声に応え、早口で魔法を詠唱する声が聞こえてくる。
師を襲い、弟弟子を傷つけた必殺剣を今、別の何かのために使う。
奇妙な感慨が、ヒュンケルの胸に去来した。
背後のルイズが、詠唱を完了させて杖を振り上げる。
「やれ!!」とデルフが叫び、ヒュンケルは裂帛の勢いで剣を突き出した。
「ブラッディースクライドォ!!!」
回転力を加えたその突きは螺旋の渦を描き、ゴーレムの胴体部分に大きな風穴を開けた。
そして次の瞬間、でかでかと広がった空洞から大きな爆音が響き渡った。
ルイズの失敗魔法と言う名の強力な爆発が、内部からゴーレムを爆散させたのだ。
タバサが生み出した竜巻が消えた時、地面にこぼれ落ちたのはもはやただの塵芥に過ぎなかった。
ヒュンケルは一応身構えたが、ゴーレムの残骸はそのまま動くことなく、ただの土くれのままそこにある。
おそらくフーケの精神力も既に限界なのだろう。
「終わったな」
からから笑うデルフに向かって、ヒュンケルはそう言った。
あとはフーケ本人を探して捕まえるか、『悟りの書』を持ってそのまま帰ればいい。
ルイズもあのゴーレムを倒したことで自信はついたろうし、ヒュンケル個人としてはフーケの捕縄には特に興味もなかった。
タバサやキュルケも風竜から降りてきて、安堵の笑顔でヒュンケルの手を握った。
――しかし、そんな油断がいけなかったのだろう。
突然、ルイズの悲鳴が背後で響いた。
声の源を辿ればそこにはルイズともう一人――
最後の同伴者、ミス・ロングビルがナイフを構えて立っていた。
以上で投下終了です。
ルイズ達も活躍させたくて魔法を強めに書いたつもりだったんだけど、
全体的にどうにも地味な感じになってしまった。
次回の投下はたぶん週の半ばになると思います。
15話でキリよくフーケ編を終わらせる予定です。
ゼロの剣士の作者さん、乙でした。
待ってましたのブラッディー・スクライド! デルフと鎧の魔剣の二刀流も
見れたし、今回は個人的に大盤振る舞いですね。
乙ですー
まあフーケに苦戦するわけがないので仕方ないというか
ベースがボンクラ高校生な原作主人公ですら大して苦戦もしていないですからねえ…
初期のダイですら自分の体よりでかい岩をバターのように斬り、
それだけの斬撃でさえ司令の指一本で止められてしまうという世界の召喚モノでは…
296 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/13(月) 04:48:06 ID:kLHOBV0C
乙です。
二刀流はできない、残念。そう思ってた時期が俺にもありました。
・・・そうじゃん!ガンダールヴじゃん!武器何でも使えるじゃん!
ヒュンケルさんのチートっぷりにすっかりその設定忘れてたぜ。
今から14話を投下します。
#1
「お前が土くれのフーケだったのか」
眼鏡を外し、ナイフを握ったロングビルにヒュンケルがそう言った。
人質に取られたルイズは恐怖よりも混乱が先立ち、目を白黒させている。
ロングビルは盾に取ったルイズの肩越しにヒュンケルを注意深く見つめつつ、笑みをこぼした。
これまで見せてきた上品なものではなく、猛禽類のように凶暴で、それでいてどこか妖絶な女の笑みだ。
「そう、私が『土くれのフーケ』よ。さあ、この娘の命が惜しければ全員武器を捨てな。
ちょっとでも怪しい動きを見せたらこいつの命はないよ? 」
杖を失ったメイジは無力だが、それは剣を失ったガンダ―ルヴも同じだろう。
キュルケとタバサは目を見合わせ、次いで同時にヒュンケルの方を見た。
ヒュンケルは隙を窺うようにフーケを注視していたが、やがて無造作に剣を遠くに投げた。
キュルケ達もそれを見ると観念したのか、自分達も杖を手放す。
満足げに鼻を鳴らすフーケに、抑えつけられたルイズが少し声を震わせながら尋ねた。
ちなみにこっちの方はとっくのとうに、力ずくで杖を奪われている。
「それで、ど、どういうつもりなのよ。あんたがフーケなら、どうしてこんなとこにわたし達を誘いだしたの?」
そう、土くれのフーケがここに潜伏していると情報を出したのはロングビル――当のフーケ本人だった。
一体なんのつもりで追っ手をわざわざおびき出し、どうぞとばかりに『悟りの書』を放置していたのか。
人質として囚われた小娘としては随分まともな問いに、フーケは口笛を吹いて感心してみせた。
フーケの腕の中で、かえって馬鹿にされたような気になったルイズが顔を赤らめた。
「別にあんた達を誘った覚えはないんだけどね、まあいいさ。
あんた、あの使い魔から『悟りの書』を受け取っただろう? 早く出しな」
「い、嫌よ、出さないわ――ひッ!」
拒んだルイズの頬の上で、フーケがナイフを滑らせた。
傷こそつかなかったが、冷たく鋭い感触を覚えてルイズは悲鳴を上げる。
ルイズは思いきり目をつむったが、そこで不思議に穏やかな声がルイズを呼んだ。
目を開けると、ヒュンケルがルイズに向かって頷きかけた。
「ルイズ、『悟りの書』を出すんだ」
ヒュンケルの言葉にも躊躇ったが、フーケがまたナイフをちらつかし、ルイズは震える手で『悟りの書』を取り出した。
そのまま後ろ手でフーケに本を渡そうとするが、何故か彼女は受け取らない。
本をよこせという意味ではないのか。
ルイズが目に疑問を浮かべると、フーケは忌々しげに答えた。
「さっきの質問、何故あんた達を誘い出したかだったね。あんた達もこの本の噂を知っているだろう?
正しく読む者は悟りを開く……不届き者が読むと呪われる……選ばれし者にしか読めない……そんな噂を?」
「だからそれがどうしたってのよ?」
苛立たしげにキュルケが聞いたが、その答えはフーケではなく、キュルケのすぐ隣の少女が答えた。
タバサが、眼鏡を直して言った。
「……つまり、フーケには悟りの書が本物かどうか分からなかったということ」
タバサの言葉に、フーケはフンと鼻を鳴らした。
そして口をポカンと開けるルイズとキュルケに言い含めるように教えた。
「そっちのお嬢ちゃんの言う通り。私としたことがウッカリしていたのさ。
正しい手順で読むか、選ばれし者が読むかしないと本の効果は現れない。
効果が出ないんじゃ、これが本物かどうかも分からない。
教師達の様子から偽物ではないと思ったけど、使い方が分かんないんじゃどうもね」
フーケの言葉にルイズ達は呆れたが、それで彼女の狙いは分かった。
おそらくフーケは、本当はオスマンや学院の教師など、『悟りの書』の秘密を知っていそうな人を誘い出したかったのだ。
そしてロングビルの顔をして隙をつき、脅すかどうかして秘密を聞き出したら改めて逃げる。
そんな計画だったに違いない。
ルイズは自分が捜索隊に名乗り出たことでフーケの計画を挫けたのだと思って溜飲を下げたが、
何故かフーケは微塵も焦りを感じさせない顔で言葉を続けた。
「持ち主が危機に陥った時に発現するタイプのものかと思ったが、どうも当てが外れたようだね。
だけど、そこの使い魔の戦いぶりを見て確信したよ。ガンダ―ルヴを召喚したあんたにならその本を読む資格があるってね!」
「ガ、ガンダ―ルヴ……?」
目を丸くしてヒュンケルを見るルイズに、フーケは「さあ本を開きな!」とナイフを突きつけた。
フーケは何故か、ルイズが読めば『悟りの書』の謎が解けると思っているらしい。
不安そうな顔をするキュルケ達の前で、ルイズはわけもわからぬまま両手に抱えた本を見つめた。
もしかしたら噂の通り、読んだら呪いを受けるのではないかと思って手が震えた。
ルイズはゆっくりと本を開くと、ついに学院の至宝――『悟りの書』の秘密を目の当たりにした。
「こ、これが『悟りの書』……!?」
一瞬ルイズは、それがなんなのか理解できなかった。
呆けたようにその『絵』をじっと見つめること十秒後、
ルイズは突然顔を真っ赤にし、両手で目をふさいでうずくまろうとした。
ルイズの手から、『悟りの書』がこぼれて地面に落ちる。
キュルケ達は慌ててルイズに走り寄ろうとしたが、興奮したフーケの声に遮られた。
「近づくんじゃないよ! さあ、どうだい? 『悟りの書』の効果は? これはどうやって使うんだい!?」
「つ、使い方って言ったって……」
ルイズは体をブルブル言わせたままそこで言葉を切った。
そして固唾を呑んで見守るキュルケ達とフーケに応えて、耐えかねたように叫んだ。
「これ……これ……ただのエロ本じゃないの!!!!」
「エ、エロ本!?」
ルイズの突飛な発言に驚いたキュルケ達は、咄嗟に地面に落ちた『悟りの書』に視線を落とした。
ルイズが落としたその本は開いたままで――そこにはめくるめく桃色の世界が映し出されていた。
具体的に言えば僧侶の姿をした女性が――いや、よそう。
ともかく、うら若き乙女が目にするにはあまりに刺激が強すぎる代物だ。
エロ本……アダルト……春画……18禁……。
そんな言葉が頭の中を駆け巡り、とりあえずキュルケはタバサの目を手でふさいだ。
タバサは本を目にした瞬間に思考停止したのか、顔を真っ赤にしたままされるがままになっている。
「フーケ、この本の使い道を知りたいなんて――あなたって意外とウブなのかしら?」
寒々しい沈黙の後、比較的早く回復したキュルケがそう言った。
しかし当然のことながら、フーケの質問の意図はそんなものではない。
二十代前半独身の盗賊は、計算違いの動揺と怒りに頬を染めてかぶりを振った。
「そ、そんなわけあるかい! お前たちだってこの本に魔力を感じるだろう? この本がただのエロ本なはずがない!
そうだガンダ―ルヴ、あんたはオスマンと何か話してたね? あいつから本の正しい見方を聞いたんじゃないか!?」
たしかにフーケの言うとおり、キュルケも『悟りの書』からは不思議な魔力を感じた。
『エロ本』という姿は『悟りの書』の真の姿を隠すカモフラージュ。
そう思い込んでも仕方ない力を感じた。
そしてルイズが読めば、そのかりそめの姿が剥ぎとられると何故か確信していたフーケは、
ひどく動揺した様子で手にしたナイフをヒュンケルに向けた。
再び緊張が高まり、ヒュンケルが躊躇った様子で口を開きかけたが――まったく別のところから返事は届いた。
『そんなものありゃあせん。それは単なるエロ本じゃよ。エロ本』
「オ、オールド・オスマン……!?」
声の主は学院の長、オールド・オスマン。
声がしたのはフーケのすぐ近く――股の下だ。
フーケが仰天して足元を覗きこんでみると、そこには一匹のハツカネズミがいた。
オスマンの使い魔の、モ―トソグニルがいた。
その背中に括りつけられた小さな人形から、再びオスマンの声が漏れ聞こえる。
『やっぱり君は白より黒が似合うのう、ミス・ロングビル?』
その瞬間、フーケの注意は完全にルイズ達から逸れていた。
ルイズは思いきりフーケの足を踏んづけると、彼女の腕からもがれ出た。
フーケは咄嗟にナイフを振り上げ、ルイズを攻撃しようとしたが――すんでのところでその腕は止められる。
何か強靭な糸で縛りつけられたかのように、体の自由が利かない。
自分を拘束する力の源を見て、フーケは思わず悲鳴を上げた。
丸腰のヒュンケルの腕から、何か黒い霧のようなものが湧き出して、フーケの体にまとわりついていた。
「せ、先住魔法……!?」
ハルケギニアには杖を媒介とするメイジの魔法とは別に、先住魔法と呼ばれるものがある。
フーケの目に、精霊の強力な魔法を行使するエルフの姿が、ヒュンケルのそれと重なった。
しかし普通の人間の耳をしたヒュンケルは、これは魔法ではないと言うと、氷のように冷徹な瞳でフーケを睨んだ。
「闘魔傀儡掌。練り上げられた暗黒闘気は糸となり、敵の動きを封じる。
あまり使いたい技ではないが――躊躇っている場合でもあるまい」
そしてヒュンケルは、フーケに向けた手の中指をクイっと動かした。
するとナイフを持ったフーケの腕が、意思に反してありえない方向に曲がろうとする。
フーケは耐えがたい痛みに必死に抗いながら、今度こそ己の認識の甘さを後悔した。
剣を失ったガンダ―ルヴ――ヒュンケルを、杖を失ったメイジと同列に見ていた自分を心底呪った。
ヒュンケルがもう一度指を動かした時、固く握りしめていたフーケの手がぎこちなく開いた。
その手に握られていたナイフが、ぽとりと地面に落ちた。
#2
「それで――説明していただけますかしら、オールド・オスマン?」
ルイズ達の視線の先、机に座ったオールド・オスマンが重々しく頷いた。
ここはトリステイン魔法学院・学院長室。
フーケを捕らえた一行は衛兵にその身柄を渡すと、まっすぐこの部屋にやってきた。
オスマンの机の上には例の『悟りの書』が鎮座しており、
ルイズ達は努めてそれを見ぬよう老メイジの顔の皺に意識を集中させた。
オスマンは傷でもないか確かめるように『悟りの書』を撫でながら、四人に質問を返した。
「それで、何から話せばよいかな? 君達の方から質問してくれると助かるんじゃが」
オスマンの言葉に、ルイズ達は顔を見合わせた。
正直言って、聞きたいことが多すぎる。
ルイズ達は考えをまとめるためにしばらく愚図愚図していたが、やがてルイズがオスマンに質問を始めた。
「あの――それ、本当にその本が『悟りの書』なんですか?」
ルイズはそう言って、忌々しそうに机の上に置かれた本を指さした。
あの時見た衝撃の映像は未だ頭を離れない。
これが学院の秘宝だなんて嘘ではないか?
半ば祈るような気持ちでルイズは言ったが、オスマンはコイツは何を言ってるのだという顔つきで首をかしげた。
「もちろんそうじゃとも。これは紛れもなく学院の秘宝『悟りの書』じゃ。取り返してくれて感謝しとるぞ」
さも当たり前のごとく言うオスマンを見てルイズはくじけかけたが、そこで選手交代。
今度はキュルケが慎重に言葉を選びながら質問を続けた。
「でもそれなんていうか……ただの春画じゃありません?」
キュルケが言うと、オスマンはとんでもないとばかりにかぶりを振った。
ただの春画なわけがなかろうという憤慨の声を聞き、ルイズ達の胸は希望にまたたいた。
ああ、やっぱりフーケは正しかったのね。
わたし達が命懸けで取り返したものがただのエロ本なはずないのよと、ルイズ達は帰ってきて初めて達成感を味わった。
しかし直後のオスマンの言葉は、そんな幻想を壊して余りある破壊力を持っていた。
「これが『ただの』春画じゃと!? 見たまえ、このリアルな質感、色遣い、淫靡なオーラ!これほど見事な絵は見たことがない!
これこそまさに二次元に舞い降りし天使の書! バイブルじゃ!何人の紳士がこれを欲したことか――」
『悟りの書』をふりかざして力説しはじめたオスマンは、そこで言葉を止めた。
室内にはしら〜っとした空気が流れており、オスマンは孤立無援の果てしない寂しさを覚えた。
コルベール辺りでも同席させればよかったと後悔したが、後の祭りである。
オスマンは同性のよしみで助けを乞うようにヒュンケルを見つめたが、彼は処置なしという風に目を閉じていた。
「う、うむ、君達にはなにか褒美を――」
「じゃあミスタ・ギト―の言っていた女性云々っていうのは、そういうことでしたの?
男性教師達はこれがただの春画だと知っているから、命を賭けてまで盗んだりはしないと?」
ご機嫌を取るように言いかけたオスマンの言葉を、キュルケが遮った。
意識的か無意識的か、キュルケは杖を握って、それで誰かを丸焼きにしたそうな顔をしていた。
見れば、隣りのルイズもいつのまにか杖を取り出して、今にも魔法の実践練習を始めようとしている。
オスマンは冷や汗をかきながら頷いた。
「う、うむ。そういうことじゃろう。 ワシもさすがに女性には見せておらんかったし、彼らも女性には口外せんかったろう。す、少しばかりハードな内容じゃからな」
「それじゃ、選ばれし者にしか読めないとか、呪いを受けるとかいう噂は?」
「それはあれじゃ。この本があまりに魅惑的なもんで、学業を疎かにするもんが続出してな、
こいつなら大丈夫と思った者にしか見せないことにしたんじゃ。
かのモット伯などはのめりこみすぎてしもうて、未だにこういった本の収集に私財を投じているようだしのう」
しかたのないヤツじゃと溜め息をついたオスマンに反論したいのをグッと堪えて、ルイズは達は質問を続けた。
「この本は何か魔力がこめられているようだけど?」
もはやタメ口が自然になっていたが、今のオスマンに文句が言えるはずもない。
オスマンは一つ頷くと、自身もその正体は分かっていないのだと白状した。
「しかしな、道を踏み外す者が続出する一方で、この本を読んでからグイッと実力が上がった者も沢山いたんじゃ。
もしかしたらこの本から感じる不思議な力がそうさせているのかもしれんな」
オスマンはそう言うと、まだ質問はあるかと首をかしげた。
ルイズ達はまた顔を見合わせると、最後に一つだけ問いかけた。
「あのネズミの使い魔はどうやってあそこまで? 学院長はロングビルがフーケだと御存じでしたの?」
オスマンはその質問を聞くと頭を掻いて、ちらりとヒュンケルの顔を見た。
意味ありげなその仕草にルイズ達が疑問を浮かべると、閉じていた目を開いてヒュンケルが答えた。
「あのネズミを連れてきたのは俺だ。出発前にオールド・オスマンに頼まれてな、懐に入れてきたのだ」
ヒュンケルの言葉を聞いて、ルイズは森に到着した時にヒュンケルが何かしゃがみこんでいたことを思い出した。
おそらくあの時にヒュンケルは、懐に入れていたモ―トソグニルを森に放していたのに違いない。
ヒュンケルは窓の外を見るともなしに眺めながら説明を続けた。
「オールド・オスマンはネズミを俺に渡しながらこう言った。
『危険を感じたら逃げてもいい。最低限、フーケの正体だけでも自分の方で掴むから』とな」
「――内部の者が手引きしたとは思っておったが、それが誰かまでは分からなかったんじゃ。
ミスタ・ギト―はああ言っておったが、実際のとこはどうだか断言できんかったしな。
まさかミス・ロングビルがそうだとはワシも思っておらんかった」
スタイルのいい優秀な秘書だったのにのうと嘆くオスマンに、一同は冷ややかな視線を送った。
オスマンはコホンと咳をつくと、居住まいを正してルイズ達に告げた。
「ともあれ、諸君の活躍には報いねばならん。
ミス・ヴァリエールとミス・ツェルプスト―にはシュヴァリエの、ミス・タバサには精霊勲章を申請しておこう」
ルイズとキュルケはその言葉に歓声を上げた。
シュヴァリエとは武勲に対して贈られる爵位。
純粋に功績と実力を認められた証だ。
タバサは何故かこの称号を既に持っていたようだが、学生の身でこれを得るのは並大抵ではない。
『ゼロ』と蔑まされてきたルイズは感激に目を潤ませたが、そこで何かに気付いて顔を曇らした。
オスマンの言う恩賞の中に、ヒュンケルの名が入っていないのだ。
「オールド・オスマン。ヒュンケルには恩賞はないんですか?」
ルイズが聞くと、オスマンは申し訳なさそうに首を横に振った。
例え申請しても、平民のヒュンケルが爵位を受けるのは難しいだろうとオスマンは言った。
ルイズやキュルケは納得がいかなくて口をとがらせたが、当のヒュンケル自身が宥めることで落ち着いた。
「まあ代わりと言ってはなんじゃが、わしが一個人としてお礼を差し上げよう。
さて、今夜はフリッグの舞踏会じゃ。今宵は食って踊って、心身共に疲れを癒すがよい」
オスマンが言うと、ちょうど誰かのお腹がぐうっと鳴った。
音の出所を見ると、それまで黙っていたタバサが少し頬を赤らめ、「空腹」とつぶやいた。
普段無表情な彼女の意外な顔にルイズ達は吹き出し、意気揚々とパーティーの準備に出ていこうとする。
しかしそこで再びオスマンが、思い出したように一同に声をかけた。
部屋の扉にさしかかっていたルイズ達は怪訝そうに振り返り、オスマンの顔を見た。
ちょっとだけと手を合わせるオスマンは、相変わらずただの気さくな老人のようだったが、その目は真剣味を帯びている。
ヒュンケルはルイズ達に先に行くよう伝えると扉を閉め、オスマンと向き合った。
オスマンは両手を組んでヒュンケルを見ていたが、やがて真面目な顔をして口を開いた。
「今日は御苦労じゃったなヒュンケル君。
フーケを捕らえたことはもちろん、生徒達を守ってくれたことに本当に感謝しておるよ」
そう言って頭を下げるオスマンを、ヒュンケルは口を閉ざしたまま見つめた。
ただ礼を言うためだけにオスマンが自分を呼びとめたとは思えなかったからだ。
「話しとはなんですか、オールド・オスマン?」
「うむ、君も疲れているじゃろうから用件は早く済ませたいが、その前に……ほれ!」
「……きゃっ!」
オスマンが杖を振ると部屋の扉がひとりでに開き、可愛らしい悲鳴と共にルイズが部屋になだれ込んだ。
ルイズはヒュンケルのことがどうにも気になって、ドアごしに聞き耳を立てていたのだ。
床に転んだルイズは鼻を赤くして立ち上がり、ヒュンケルとオスマンの顔を見てしどろもどろに言い訳をした。
しかしオスマンは狼狽するルイズを叱るでもなく、優しく椅子を勧めて言った。
「まあそんなに慌てんでもいい、ミス・ヴァリエール。
メイジと使い魔は一心同体と言ったのはわしじゃからな、君をさしおいて内緒話をしようとはこっちも悪かった」
オスマンが宥めると、ルイズは決まり悪げにうつむいた。
ルイズはどうしてオスマンがこうもヒュンケルを特別視しているのか知りたかったのだが、
さすがに盗み聞きは貴族のすることではなかったと改めて恥じ入った。
そろりと窺うようにヒュンケルを見ると、彼もルイズがここにいてもいいと頷いた。
「それで本題じゃがヒュンケル君。先に言ったように君には公的に何の褒賞もあげられん。
そこで君にはわし個人のお礼として、これを読む権利をさしあげよう」
言うとオスマンは、一冊の本を差し出した。
ついさきほど話題に上がった問題の本、『悟りの書』だ。
白い目で見てくるルイズを気にしつつ、ヒュンケルはオスマンの申し出を断った。
ぽよ
さるさんを食らってます。
申し訳ないけどしばらく書きこめないので、ウィキの方に先に載せときます。
309 :
だいり:2010/12/15(水) 22:17:18 ID:QG6ACUsb
「せっかくですが俺は……代わりにギーシュにでも見せてやってください」
「おお、たしかにミスタ・グラモンにも滋養のために見せんとのう。しかしそれとこれとは別じゃ。一目でも見るがよい」
ヒュンケルはここにいないギーシュに押し付けようとしたが、オスマンは意外な強さで粘った。
困惑したようにヒュンケルがその目を見てみると、いつぞやのようにその眼光は鋭い。
どうやら、冗談や酔狂で言ってるわけではなさそうだった。
ちょっと本当に見るの、と抗議するルイズの声を尻目に、ヒュンケルはゆっくり『悟りの書』に手を掛けた。
「痴の章――192ページを見るがよい」
早くも自分の判断に疑問を抱きながら、ヒュンケルは言われた通りのページを開いた。
そしてそれを見たとたん、目を見開いて驚きの表情を浮かべた。
ルイズはヒュンケルが驚いたことに逆に驚き、どんな絵が描かれているのかしらと内心妄想をたくましくした。
しかしオスマンはルイズとは対照的に、どこか悟ったような顔でヒュンケルに語りかけた。
「やはり君には読めるのか、その『文字』を。なんて書かれておるのじゃ、そこには?」
「『マリリンの日記 ○月×日 今日もあの人は来ないの……? あたしはまたひとりさみしく……』」
「ちょ、ちょっと待ちなさいヒュンケル!なに素直に読んでんのよ!」
どうやら『悟りの書』には絵だけでなく、官能小説もついているらしい。
呆然としたまま素直に音読するヒュンケルの腕から、ルイズは思わず『悟りの書』を奪い取った。
もちろんヒュンケルより先に本を読みたかったからではなかったが、
ルイズはなんとなく、なんとなくチラチラとそこを見てから、整った眉をひそめた。
そこに書かれている言語は、勉強熱心なルイズでも見たことのないものだったのだ。
「ヒュンケル、あんた何でこんなの読めるのよ? 普通の文字だって読めないって言ってたじゃない」
ルイズが聞くと、ヒュンケルはばつが悪そうに視線をそらした。
ほほう、まだ言ってなかったのかとオスマンが髭をひねり、ヒュンケルに代わって答えを寄越した。
「それはのう、ミス・ヴァリエール。彼がこの本と同じ世界から来たからじゃよ」
「同じ世界?」
奇妙な言葉にルイズが首をかしげると、オスマンはそうじゃと言って頷いた。
「彼もこの本もきっと異世界――ハルケギニアの外の世界から来たんじゃよ」
「い、いせかい?」
ルイズにはオスマンの発言の意味が、にわかには分からなかった。
いせかい、イセカイ、異世界……。
ルイズは頭の中でオウムのようにその言葉を繰り返し、ヒュンケルの顔を見た。
しかしヒュンケルはオスマンの言葉を否定せず、逆にそれを肯定するように頷いた。
「オールド・オスマン、この『悟りの書』はどこで手に入れたのですか?」
ヒュンケルが聞くと、オスマンは焦らすように微笑んだ。
皺の奥、懐かしさがまたたいているような瞳で、オスマンは『悟りの書』を眺めた。
「この『悟りの書』の本当の名は『神竜のエロ本』という。嘘か真か、竜の神から賜ったものだとその青年は言っておった」
「……青年? これは貰い物なのですか?」
頷くオスマンに、ヒュンケルは先を急ぐようにその名を問い詰めた。
オスマンは大事な秘密を打ち明けるような口調で、こう言った。
「青年の名はロト。異世界より来たりし冒険者――勇者ロトと名乗っておった」
ここでまさかのロト伝説
投下乙です
ダイの世界ではアバン=ロトだっけ?
そろそろ書き込めるかな?
代理投下の方、ありがとうございます。
「破壊の杖」役やその持ち主はDQ3からの出典です。
詳しくは次の話で書きますが、DQ3をプレイ済みじゃなきゃいけないって内容でもないので
その辺は未プレイの方も安心して読んでもらえると嬉しいです。
ほう、ロトは神竜からエロ本を貰うような男だったのか…
そういえば傀儡掌もあったんだったね、すっかり忘れてた
確かに闘気とか使わないハルケのメイジなら弱体化した傀儡掌でも束縛できるな
乙です。
ハルキゲニアには存在しないであろう未知の技術、闘気。
オスマンですら初見と思われるのに、この場面で言及がなかったのはちょっと残念。
次回で描かれると期待します。
>>315 >> ダイの世界ではアバン=ロトだっけ?
>kwsk!!
回想シーンでのハドラーの服装が、竜王と酷似していただけ。
アバンの過去話とか世界地図とか、相違点の方が圧倒的に多い。
>>316 確かに、アバン先生はIの勇者がモデルだから、言っていることは基本的に正しいけど、
仮にそうだとしても、それはロトじゃなくてロトの子孫だぞ?
まあアバン先生は能力的にはDQ1勇者というよりはDQ3の全職業を兼業してるみたいな人だが…
魔王を倒す(勇者)
武芸百般(戦士)
アバン流には素手戦闘も含まれる(武闘家)
攻撃魔法やドラゴラムなどを使う(魔法使い)
回復・補助魔法も使う(僧侶)
各種アイテムを作成する技術と魔法の罠なども含む広範な知識(賢者)
10Gで買いたたいた剣を勇者の剣と偽る話術(商人)
ギャグを飛ばす(遊び人)
なるほどDQ3ネタ!
それに痴の章って官能小説かい!てっきり隠された何かがとか思ってしまった・・・
それにしてもオスマンが無能の爺さんじゃないのが凄い面白いですね。
ヒュンケルに読ませてこの世界の住人じゃない事と本の内容の把握なんて・・・・・・この爺さん、出来るっ・・・!
投下乙です!!
おい、ロトw
誰かは知らんが仮にも勇者が何をやっとるw
でも、ロトの名が出るだけでやっぱりwktk、楽しみです
そういえばヒュンケル傀儡掌使えるんだったな、相手がミストみたいのでない限り有効だろうし
本人使いたがらないだろうけど便利ですね
ミストの滅砕陣でもダイの空裂や昇格ヒムの踏みつけで簡単に破られてしまうことからして、
今のヒュンケルの傀儡掌では多少でも闘気技を心得た相手には殆ど効果無いんじゃないかな
無意識状態の当時のダイには紋章も無しで力任せに破られてしまったし、
まあ殆どのメイジには効くと思うけど、ミノタウロスとかには束縛を破られるかも…
大地斬や海波斬やスクライドだって見た目魔法だか何だかわからん剣技だし、
それらに言及ないのに傀儡掌にだけ言及されるというのも不自然、か?
まあ剣を使う技に関しては武器がマジックアイテムかまたはガンダールヴの特殊能力の一環と思われてるのかも知れんが
もしかしてエロ本の不思議な魔力とか読んだ人間の能力上がるとかって
性格システムかネタが細かいなwwww
むっつりスケベなヒュンケルw
>>323 ダイの空裂や昇格ヒムの踏みつけって相当なもんだと思うが
魔王と呼ばれる連中の攻撃より上だろこれ
たしか強かったもんなぁ、むっつりスケベとセクシーギャル。
っていうか、仮にも読んでしまったルイズとヒュンケルは
能力補正の恩恵を受ける代わりに性格が変わってしまうのか。
>>326 ミストの滅砕陣を破ったのは鬼岩城の時点のダイの空裂
パプニカナイフで出したやつで、紋章は使用してない
魔王と呼ばれる連中の攻撃云々については攻撃の種類とかにもよるからなんともいえん
どうあれ今のヒュンの傀儡はミストのそれより遥かに弱い
光の闘気にも目覚めてなかった時期のダイに力任せて破られてしまう程度のもの
ミノタウロスのような怪力モンスターには破られかねないだろうな
まあ、この時期のダイでも自分の体よりでかい岩をバターのように切るくらいのパワーがあるわけだけど
しかしガンダのルーンはボンクラ高校生をテンション次第でスクウェアメイジに勝てるくらい強くしてしまうわけだが
パワーアップの割合的には竜の紋章とどっちが上だろうね
ま、ガンダのルーンはチートな防御力の闘気とかは出ないし総合的には竜紋のほうが上かな?
>>329 元々岩を安物の剣で切り倒せる腕力持った少年が
半年くらいで天地魔界に敵無しな大魔王を倒せるのが竜の紋章
普通の人間がメイジに勝てるようになるのがガンダルーン
瞬間的なブーストだけで見るとガンダは結構強いと思うんだが
長期的視点で見ると紋章は経験値の蓄積率がハンパ無い上に
正式な紋章であれば過去の経験値の蓄積も継承者の物と出来るというまさに神の作った兵器だし
チートオーラによる地形変形レベルの攻撃が連打可能なわけで
上限もえらいことになってる
リスクについても比べようぜ!
ガンダルは未熟だと筋肉痛とかも凄いけど、鍛えれば抑えられて
竜の紋章はベホマとかが効きにくくなるくらいだっけ?
体動かしたあと筋肉痛とかってそれはルーンのリスクと言っていいんだろうか
まあ一応普通ならそうそうリミッター超えて動けないからリスクでいいのか
竜の紋章は竜闘気を全開でブン回して、尚且つ体に負担が掛かった時は回復が効きにくくなるね
あと、竜魔人化してる間は人間性が失われる
消耗が激しいので考え無しに戦うとすぐガス欠とかもそうだな
ガンダは持久力という意味では底なしっぽいよな
底なしか、やはりきんにk
>>332 いや、ガンダールヴの効力には時間制限があると2巻でデルフが言ってる。
>>334 あ、一応あるのか
作中ではルーンがガス欠起こしてピチンって話とんと見た覚えないから
てっきり時間制限は肉体依存なのかと思ってたけど
ピチンか、やはりきんにk
制限時間というより、MPっぽい感じだと思う。
魂を揺さぶって発動させるという点を考えれば、精神力(MP)次第でその制限時間の上限も変わるかと。
>>327 読み返してて気づいたんだが、フーケのパンツの色が変わってたwww
エロ本盗んだ日は白だったのに今回は黒になってるw
悟りって賢者タイム的な意味だと思ってたら性格の変更なのか・・・
ワンダーランドを思い出すなぁ。
これでヒュンケルの性格がむっつりスケベになったから
ラブコメ展開に切り込めるという伏線なわけだ。やるねぇ
!!
ちょくちょくマァムの名前が出てくるのは
ルイズ達女キャラが本気になった時、それ理由に身をかわす伏線なのだろうかと思ってたぜ
343 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/12/21(火) 08:55:10 ID:sABvFP/+
>>342 身をかわすまでもない。
立ったフラグは全て叩き折るのがヒュンケルさん。
こんばんは。今から15話を投下します。
支援
我らの剣がきよったでぇ
#1
「青年の名はロト。異世界より来たりし冒険者――勇者ロトと名乗っておった」
オスマンの言葉に、ルイズとヒュンケルは顔を見合わせた。
その名はルイズにとってはもちろん、ヒュンケルにも聞き覚えのないものだったのだ。
しかし――勇者ロト。
その名前はなにかとても印象深い響きをもって二人の耳に入ってきた。
勇者という言葉でルイズが連想するのは、タバサがよく抱えている『イーヴァルディの勇者』という本だったが、
ヒュンケルが思い浮かべるそれはかつての勇者である師・アバンと、未熟ながらも世界を救おうと奮闘する弟弟子・ダイの姿だった。
ロトという青年も彼らと同じように、世界のため戦った英雄なのだろうか。
想像を膨らますヒュンケルを余所に、オスマンは懐かしげに思い出語りを始めた。
「あれは何十年前のことだったかのう。たぶん百年はいってないと思うが、まあそんくらい前のことじゃ。
ある日森に出かけたわしは、そこでとても大きなワイパーンに襲われたのじゃ。
不意を食らったわしは杖を失ってしもうてな、そこで命を落とすことを半ば覚悟した」
そこまで言って、オスマンは過去の情景を瞼の裏に思い浮かべるように目をつむった。
話の流れから考えるに、おそらくそこで勇者ロトが現れたのだろう。
物語の中の王子様みたいね、とルイズは思った。
もっともロトは、助ける相手を大いに間違えたようだが――。
「突然のことじゃった。ワイパーンが牙を剥き、今にもわしに襲いかかろうという時、剣を持った青年が颯爽と現れた。
青年は剣でワイパーンの巨大な鉤爪を受け止めると、天に指をかざし、魔法を唱えた。
……なんという名前じゃったかな。ザムディン……いや、違うのう」
オスマンはまるで便秘中のようにウンウン唸った。
ルイズはいいところで話を切られてもどかしかったが、そこでヒュンケルが口を挟んだ。
「もしや……ライデインでは?」
ライデイン――それはヒュンケルの世界で、勇者のみが使える神聖な雷の呪文である。
まさかと思いつつ聞くと、オスマンはそうじゃそうじゃと陽気に頷いて話を続けた。
「青年がライデインと唱えると、天から物凄い雷が降り注ぎ、ワイパーンは一瞬で巨大な焼き鳥になってしもうた。
わしも随分と色々な魔法を見てきたが、あれほどのものは滅多にお目にかかったことがない。
そしてなによりわしを驚かせたのは――その青年が杖を持っていなかったことじゃ」
「ということは……彼はエルフだったんですか?」
エルフは杖なしで魔法を使える異端の種族。
人間とは敵対している者達でもある。
ルイズはオスマンの話を聞いて真っ先に彼らを思い浮かべたが、オスマンは言下にその推測を否定した。
「いや、彼は少なくとも外見上は、我々とまったく同じ人間じゃったよ。
わしも最初はまさかと思ったが、彼自身も自分は普通の人間だと言っておった。
ただ、『普通の』の前に『異世界から来た』が付け加えてあったがの」
そう言ってオスマンは思い出し笑いをした。
ルイズはどこからツッコミを入れればいいのかも分からず、とりあえず続きを促した。
オスマンは笑いを収めて真面目な顔を作ると、また語り始めた。
「杖なしで使われる見たことのない魔法。身一つでワイパーンの巨躯に耐える身体能力。
珍奇なアイテムの数々と、彼自身が纏う独特の雰囲気。
彼――ロトが異界の勇者と名乗った時、わしは疑うよりもむしろ奇妙に納得した。それほど彼は異質な存在だったのじゃ。
――そう、ヒュンケル君、きみのようにな」
オスマンはそこでちらりとヒュンケルを見た。
ヒュンケルは何も言わず、無言で続きを促したが、そこで横からルイズがおずおずと、オスマンに疑問を唱えた。
「オールド・オスマン、ヒュンケルがその……異世界から来たっていつ気づかれたんですか?」
ずっと一緒にいたわたしでも気づかなかったのに、と半ば不満そうに言うルイズに、オスマンは優しく微笑んだ。
「気づく気づかないというより、これは発想の問題じゃな。
ロトとの出会いがなければ、わしも異世界などという突飛なことは思いつかんかったじゃろう。
実際、最初ヒュンケル君がミスタ・グラモンを倒した時は、わしもそのルーンの力のおかげだと思っておった。
しかしどうにも気になって彼を観察しているうちに、だんだんそれだけでは説明がつかぬように思えてきたのじゃ」
ルーンの力と聞いてルイズは不意に、フーケがヒュンケルを『ガンダ―ルヴ』と呼んだことを思い出した。
ガンダ―ルヴと言えば始祖プリミルを守り抜いたとされる伝説の使い魔だ。
一説によればかの使い魔は右手に長槍、左手に大剣を持ち、あらゆる武器を操ったという。
信じがたい話だが、もしもヒュンケルがそれなら、ギ―シュを倒せたことくらい当然のことではないか?
異世界やら伝説やら、なんだか頭がクラクラしつつも尋ねるルイズに、オスマンは大真面目な顔で頷いた。
「たしかにヒュンケル君は、かの使い魔の再来なのかもしれん。
実はヒュンケル君のルーンの形は、ガンダ―ルヴのそれと酷似しているのじゃ。
一騎当千と謳われたガンダ―ルヴなら、たしかに並みのメイジじゃ相手にならんじゃろう。
――しかしところでミス・ヴァリエール、きみは突然自分がエルフの魔法を使えるようになったらどう思う?」
「どう思うって言われても……ありえません、そんなこと」
唐突な質問に面食らって応えると、オスマンはまさしくそれが正解だというように頷いた。
「そうじゃ。これまでなかった強大な力が突然手に入ったとあれば、戸惑うのが自然なことじゃ。
しかし、彼はまるでその力が元からあったかの如く受け入れておった。
ドットとはいえメイジを一人倒しておいて、なんの感慨も抱いていないようじゃった。
その抜き身の剣や常識の欠如なんかも疑う要因にはなったが、一番の理由はそこじゃな。
わしは、ヒュンケル君が元からメイジを凌駕する実力を備えていたのではないかと思ったのじゃ。
そしてフーケの巨大なゴーレムを倒したのを見た時、疑いは確信になった」
「――それでは、その使い魔を寄越したのはフーケを探すためでなく、俺の観察を?」
ひさしぶりに口を開いたヒュンケルの視線の先には、オスマンの肩口に居座るハツカネズミがいた。
モ―トソグニルは愛嬌のある目をヒュンケルに向けて、さえずるような鳴き声をあげた。
「まあ、きみに言ったことも嘘ではない。理由としては半々じゃな。
ロトは彼の世界ではメイジ――『魔法使い』と肩を並べて戦う、『戦士』という職業があると教えてくれた。
前衛として武器一つで魔法と同じか、それ以上に強力な攻撃を繰り出す、頼もしい仲間としてな。
わしは最初、きみがそれなんじゃないかと思ったが――フーケに使ったのは魔法ではないのかね?」
オスマンが聞いたのは、フーケに使った闘魔傀儡掌のことであった。
ハルケギニアにはない概念なので少してこずったが、ヒュンケルは攻撃的生命エネルギー、闘気のことを説明し、あれは魔法ではないと教えた。
オスマンは身を乗り出すようにしてふむふむと頷くと、嘆息して言った。
「なにかというと魔法と思いたがるのはメイジの悪い癖だと思っておったが、まさかそんな力があったとはのう。
ロトも君に劣らぬ剣の使い手だったが、彼もまたその闘気を使っておったのかな?」
オスマンが聞いたが、ロトと会ったことのないヒュンケルに分かるはずもない。
ただヒュンケルは、闘気は多かれ少なかれ誰の中にでもあるとだけ答え、ロトの話の続きをするよう頼んだ。
オスマンはルイズの顔を見て、彼女が頷くのを確かめると中断していた昔話を続けた。
「たしか、ロトがワイパーンを倒したところまで話したんじゃな?
――うむ、なにはともあれ命を救われたわしは、しばらくロトの生活の世話をすることにした。
わし自身が彼に興味を覚えたからでもあるが、彼の方もまだこの世界に不慣れな様子だったんじゃ。
彼の滞在中、わしはこの世界の魔法や地理の知識をロトに教え、ロトの方も彼の世界のことをわしに聞かせた。
ロトは好んで自慢話をする人間ではなかったが、彼が物語る話の端々から、彼が並々ならぬ英雄であることが窺えた。
わしとロトは年の離れた友人としてよく親しみ合った。背景は違えど、わしらには共通の趣味があった――そう、読書じゃ」
そう言ってオスマンは感慨深げに『悟りの書』改め『神竜のエロ本』を見つめた。
本の内容さえ知らなければ哀愁溢れる姿に見えなくもなかったが、ルイズは内心ドン引きした。
オスマンは思い出の詰まったエロ本から目を上げると、話を続けた。
「わしらは互いに秘蔵の本を照覧し合った。
この道を究めたと思っていたわしじゃが、わしの蔵書で彼に勝るのは量だけであり、質では完全に負けておった。
打ちひしがれるわしを見かねてか、彼はこの『神竜のエロ本』をわしに差し出した。
わしはもちろんこれほどの名著はもらえぬと言ったが、彼はもう暗記しているからと言って……」
『神竜のエロ本』贈与の感動秘話はそれから五分ばかり続いたが、
二人がまったく呆れた顔をしているのを見て、オスマンは渋々その話を切り上げた。
ヒュンケルは再びロトのその後についての話を促した。
しかし、オスマンの返答は芳しいものではなかった。
「うむ、『神竜のエロ本』をわしに渡してしばらく経った後、ロトはまた冒険の旅に出て行った。
一度だけわしのところに戻ってきて、色々な国を見て回ったと報告してきたが――それっきりじゃ。
ロトはもうここには来なかった。もしかしたら元の世界に帰ってしまったのかもしれん」
そう言ったオスマンの顔は、思いのほか寂しさの滲んだものだった。
誰よりも長く生きてきたオスマンは、誰よりも別れを繰り返してきたのだと不意にルイズは思った。
もしもヒュンケルがいなくなったら――自分はどうなるだろうか。
「ロトはどうやってこの世界に来たのだろうか……。 彼は一人だったのですか?」
嫌な想像図に顔をしかめるルイズの横で、ヒュンケルはある意味ピンポイントな質問をオスマンにぶつけた。
もしロトが世界を行き来した方法が分かったなら、自分も元の世界に帰れるかもしれない。
一見普段と変わらぬヒュンケルの表情に、そんな期待が滲んでいるのをルイズは見てとった。
しかしルイズにとって幸か不幸か、オスマンは記憶を辿るように唸るとこう答えた。
「ロトはきみのように召喚されたわけではなく、自分の意思でこの世界に来たようじゃったが……方法は分からぬな。
なにかアイテムを見せてくれたような気もするんじゃが、なにしろ『神竜のエロ本』のインパクトが強すぎてのう」
のほほんと応えるオスマンを見て、ヒュンケルはため息をついた。
もしかしたらそのアイテムをオスマンが持っているのではないかと思ったが、もらったのは『神竜のエロ本』だけだという。
落胆するヒュンケルに、オスマンは自分の方でも元の世界に帰れる方法を探しておくと約束をした。
オスマンの言葉はとても頼りがいのあるものではあったが、その後に続けた言葉がまたどうにもオスマンらしかった。
「それで代わりと言ってはなんじゃがな、ヒュンケル君。この『神竜のエロ本』の小説を翻訳してくれんかの?
いや、ロトは途中までは読んでくれたんじゃが、読み終える前に出てってしまって……」
ヒュンケルとルイズは顔を見合わせると、深く、とても長いため息を同時に吐きだした・
モ―トソグニルが餌をせがむように、ちゅうちゅう鳴いた。
#2
フリッグの舞踏会。
学院長室を出たルイズは、大急ぎでおめかしを済ませパーティーに出ていた。
桃色の髪をバレットでまとめ、ホワイトのドレスを着こんだその姿は、
日頃ルイズを馬鹿にしている男子達をもってしても文句のつけようもない美しさをたたえていた。
魔法が使えないことや口が悪いことや胸がないことを差し引いても、今のルイズはとても魅力ある少女である。
当然、ダンスの誘いをひっきりなしに受けたが、ルイズは気のない返事をしてぼんやりワインを飲んでいた。
実際には単に今日起こった様々なことに混乱してわけがわからなくなっているだけなのだが、
ドレスアップした今のルイズが大人しくしている姿はまたとても清楚に見えて、男子達は心中で身を悶えさせた。
と、そこへ大量の男を引き連れたキュルケが通りがかった。
「あらルイズ、馬子にも衣装ね」
「なによキュルケ、なにか用?」
つれない様子のルイズに、キュルケは少しつまらなそうな顔をした。
「別にあなたに用はないわよ。ヒュンケルはどこ? 一曲お相手願いたいんだけれど」
「あんたは後ろの金魚のフンと踊ってりゃいいじゃないの」
言いつつルイズはさっきまでヒュンケルがいたところを見たが、そこに彼はいなかった。
食事でもしているのかと思ってテーブルの方を見たが、タバサが大きな肉を食べているのが目に入るばかりだ。
ならばまたオスマンと一緒かと思ったが、オスマンの隣りには袖口から包帯を覗かせたギ―シュがいるだけだった。
ちなみに何故かギ―シュは顔を真っ赤にさせて鼻を押さえている。
「先に帰っちゃったのかしら?」
残念そうに言うキュルケの言葉を聞いて、ルイズはなんとなく不安になってきた。
そんなはずはないと思いつつ、ヒュンケルがもういなくなってしまったような気がした。
「ちょっと、ルイズ! どこ行くの!?」
呼び止めるキュルケの声を無視し、ルイズは長いドレスの裾を持ち上げてホールから出て行った。
#3
二つの月が、煌々と輝いている。
本塔の方からはパーティーを彩るワルツの調べが微かに漏れ聞こえてきた。
ここはヴェストリの広場。
人気のないこの場所で、ヒュンケルは一人たたずんでいた。
「なにもよう相棒、こんなとこで一人酒食らう必要はねえじゃねえか。会場に戻ろうぜ、な?」
「なんだデルフ、パーティーに参加できなくて寂しいのか?」
「そんなことないけどよ、なんつうかこう……相棒も結構な変わりもんだな」
子供をなだめすかすようなデルフの声を聞いて、ヒュンケルは口の端で少し笑った。
華やかな雰囲気に馴染めず出てきてしまったが、少し子供じみていたかもしれないと思い返す。
「そういえば、ルイズに何も言わずに出てきてしまったな。怒っているだろうか?」
ヒュンケルが聞くと、デルフはくすくす笑って言った。
「なんだ相棒、あんなゴーレムを倒せるのにあの嬢ちゃんが怖いのか?」
「いや、そうではないが――ドレスを褒めるくらいしてもよかったかもな」
「だったら言ってやんなよ、ほれ」
デルフの言葉に顔を上げると、暗がりの中を白い影が猛スピードでやってくるのが目に入った。
ドレスを着こんでいるとは思えない速さで、ルイズが息切らせて走ってきたのだ。
ルイズはヒュンケルの前まで来ると二の腕を掴み、荒い息を整えた。
どうかしたのかと聞きかけたが、ヒュンケルは賢くもそれが地雷になりうると気づいて口を閉じた。
しかし哀しいかな、ヒュンケルはとっくのとうにルイズの地雷を踏んでいたのだった。
「バカ! カバ! なんでご主人様をほっぽって出て行っちゃうのよ! あんたがいないと、その、あの……とにかく困るのよ!」
若干、後半が尻すぼみになっていたが、ルイズはどうにも尋常じゃなく拗ねていた。
怒りのためか、涙で潤んでいるのか、ルイズの目はぎらぎら光ってヒュンケルを見つめていた。
ヒュンケルが謝り、デルフが取りなし、ルイズが気を落ちつかせた時には、
舞踏会から漏れ聞こえる音楽はワルツからバラード調のものに変わっていた。
ルイズはドレスを着ているのも意に介さず芝生に座ると、ヒュンケルに問いかけた。
「ねえヒュンケル、あんたの世界ってどんなとこ?」
「――まず思いつくのは、月が一つしかないことだな」
「それ本当? ヘンな世界ね」
ルイズは言って笑うと、空に浮かぶ双月を見た。
月が一つしかない世界があるなんて、今まで考えたこともなかった。
しかしそれを言うならば、今隣りにいるヒュンケルだって、考えたこともない存在なのである。
月の他には何かないの、と聞くと、ヒュンケルは少し視線をさまよわせ、力なく首を振った。
「分からないな。俺はあの世界を当たり前のように思って生きてきた。
いや、それどころか憎んでさえ生きてきた。 だからルイズに聞かせて楽しませるような事柄が浮かばないのだ」
「憎んで……ってどういうこと?」
気になってルイズが聞いたが、ヒュンケルは何も言わなかった。
ただその目が、見捨てられた野良犬のようなものに見えて、ルイズはそれが何故かとても気に入らなかった。
なによ、あんたはわたしの使い魔なんだからそんな目をしないでよ、とルイズは内心思った。
そこでルイズは、自分の使い魔にちゃんと首輪を付けてあげることにした。
「そういえば今日、わたしをその、助けてくれたわよね。だから、ご主人様として御褒美をあげるわ」
言ってルイズはパーティー用の小さなバッグをごそごそすると、そこから一つのペンダントを取りだした。
それは鎖に涙形の石をつけた質素なものだったが、ヒュンケルはそれを見て大きく目を見開いた。
思えば今日は、ヒュンケルの色々な表情を見れたわね、とルイズはふと思った。
「ルイズ、どこでそれを?」
「あんたが召喚された日に、近くの地面に落ちてたのよ。ずっと忘れてたんだけど、さっき衣装箱を開けた時に見つけたの」
差し出されたそれを、ヒュンケルは宝物に触れるような手つきで受け取った。
いや、それは間違いなくヒュンケルにとって一番の宝物だったのだ。
喜色を浮かべるヒュンケルを見て、ルイズはなんだ、元の世界にも大事なものがあったんじゃないのと拍子抜けした。
それはルイズにとって何故だか少し寂しいことでもあったが、なにもないよりは百倍もマシなのもまた確かだった。
「ねえヒュンケル、そのペンダントに何か思い出でもあるの?」
もしかしたら女から貰ったものだろうかとちょっとドギマギしながらルイズは聞いてみた。
しかし幸運なことに、ヒュンケルの答えはまったく違うものだった。
「これはアバンのしるし。俺の先生がくれた、卒業の証だ。 死んでも手放したくないと思っていたが……ありがとう、ルイズ」
正面きって礼を言われ、顔を赤らめたルイズは、それをごまかすように立ちあがった。
舞踏会から聞こえる音楽は、もう終わりにさしかかっている。
今から戻っても間に合わないわね、うん、絶対確実に間違いなく、とルイズは思った。
だからしょうがないから、純論理的に考えて、目の前にいる使い魔で間に合わせるしかないのである。
まったくもって残念ではありますが――。
「ヒュ、ヒュンケル。わたし、あんたのせいで一曲も踊ってないの。だから、責任持って、踊りなさいよ?」
一言一言区切るように言いながら、ルイズはヒュンケルの腕をとって立ち上がらせた。
かのストイックな使い魔は自分は踊れないだのなんだの言ったが、意にも介さない。
少しぎこちないステップを踏むヒュンケルに体を預けて、ルイズが消え入るような声で囁いた。
今日は助けてくれてありがとう、と小さく可愛い声で。
「こりゃおでれーた。!主人のダンスの相手をする使い魔なんて初めて見たぜ!」
そう言ったデルフは鎧の魔剣を見て、俺達にも手足があったらなあと嘆いてみせた。
二つの月と二振りの魔剣が見つめる中で、ルイズとヒュンケルはいつまでも踊り続けていた。
以上で投下終了です。前回はたくさんの感想ありがとうございました。
今回、オスマンが異世界人に会った時期をかなり大幅に変えましたが仕様です。
次回からはアルビオン編に入ることになると思います。
オツ
乙でしたー。
……ザムディン……読み飛ばしかけた……なんと懐かしいネタだろう。
乙ですー
ふーむ、つまりワイバーンクラスの魔物でもライデイン一発で倒せる程度なわけか
ハルケギニアの魔法との威力比較の参考になるかな
まあロトのライデインなら少なくともダイがポップと協力で使ったやつよりは威力高そうだけど
しかしエロ本集めとはロトは結構なスケベ…
いや彼の所持してるエロ本は一冊だけであとは関係ない本かな
懐かしいね。思い出したよ。
「ゆうべはおたのしみでしたね」
まあ、これはロト本人ではなく直系の子孫だけど
おつです。
今後の展開が気になってきますね。
そしてメリークリマス。
ただの勇者ロトじゃなくて最低でも一度は神竜を倒している勇者ロトだからな。
ダイ大の世界観に従えば今のはギガデインではない、ライデインだ、ぐらいの
威力があっても不思議ではないな。
乙
神竜のエロ本は小説だったのか
自作だったりするんだろうか
まがりなりにも神のエロ本なんだから絵から小説まですべて兼ね備えてるだろうな
実際に読んだ時のメッセージでは色々出てくる。
エッチな絵や小説はもちろん、セクシーな服のカタログまで入ってるらしい。
神龍のエロ本って事は鳥山先生が龍玉のタッチで書いた感じの挿し絵だらけと妄想
昔……スレきってしまった今では何とも思えない様な絵を見て騒いだあの頃を思い返してみる……なるほど、漫画文化の無いだろうハルケギニアでは鳥山絵でも十分問題になるレベルの未熟さだとか。
今年はもう投下ないかな?
獣王の人、剣士の人、来年も応援してるぜ。
なんとか年内に間に合いました
最新話を投下したいと思います
虚無と獣王
35 公爵と獣王
トリステイン魔法衛士隊は、ここ数日多忙を極めていた。
隣国の内乱が貴族派の勝利に終わりつつある今、首都トリスタニア近辺には厳戒態勢が敷かれ始めている。
例え王宮御用達の職人であっても荷物及び身体検査は厳重に行われ、『ディテクト・マジック』による敵メイジの操作の有無についても調べられた。
当然王宮上空はフネ・幻獣の区別なく飛行禁止令が出されている。
魔法衛士隊はグリフォン、マンティコア・ヒポグリフの3隊から構成されていた。
グリフォン隊はゲルマニアからの帰国後から休暇という扱いになっている。もっとも『レコン・キスタ』の侵攻に備え城の宿舎にて待機中ではあったのだが。
ヒポグリフ隊は訓練期間に入っており、郊外の練兵場にて腕を磨いていた。
という訳で、現在首都の警備に当たっているのはマンティコア隊という事になる。
この隊の長はド・ゼッサールといった。鍛えぬかれた体躯、厳めしい顔に髭をたくわえた姿は威厳に溢れている。先代隊長から受け継がれている『鋼鉄の規律』を体現している人物だった。
そのド・ゼッサールに非常事態が告げられたのは昼を幾らか過ぎた頃である。
「王宮に向かってくる幻獣を2体確認! 風竜とワイバーンです! 双方騎乗あり、迎撃出ます!」
マンティコアに跨った5人の隊員が、素早く空へと舞い上がった。
日頃の訓練の賜物か、5騎はあっという間に件の侵入者を取り囲む。2騎は前方、1騎は後方、上下に各1騎。当然全員が杖剣を抜いていた。
「この区域は現在飛行禁止令が施行されている! 直ちに進路を変更されたし!」
リーダー格のメイジが風魔法で声を相手に届かせるが、相手からの返答はない。
ここは多少強引な手段を取るべきかと衛士たちが判断しかけた時、ふいに幻獣たちが動き出した。
指示とは逆に、王宮の方へと。
「ッ、このっ!」
下方にいたメイジがとっさに『エア・ハンマー』を放つが、急加速した風竜の尾を掠めただけに終わった。
マンティコアは小回りと持久力に優れているが加速という点では他の飛行幻獣に劣る。
それでも後を追いながら魔法を放つ衛士たちであったが、それらは全て風の防壁で弾かれるか、また火の呪文で迎撃されていった。
距離も時間も短いが真剣な追走劇は、ほどなく侵入者の王宮中庭への緊急着陸という形で終わる事となる。
中庭に駆けつけたド・ゼッサールは、注意深く侵入者を観察した。既に抜杖しており、いつでも呪文を唱えられる状態である。
表情を険しくしたまま、しかし彼は内心で困惑していた。
城への強行着陸という乱暴な手段を取った者たちが、20歳にも満たない様に見えたからである。
風竜に乗っていたのは青髪に眼鏡をかけた、まだ12・3であろう少女。燃える様な赤髪の、こちらは19歳くらいと覚しき少女。そして同じく10代の金髪の少年であった。
更に虎ほどの大きさのサラマンダー、それより一回り以上大きなジャイアント・モールがいる。
一方ワイバーンに乗っていたのはピーチブロンドが印象的な13・4の少女と、見た事のない3メイルほどの大きさの鰐頭の獣人だった。
なかなか個性的なメンツであったが、彼女たちの共通点としてなぜか一様に土埃にまみれているという事が上げられる。
また獣人を初めとして幾人かは怪我をしているのがわかった。
まるでどこかの戦場を駆け抜けてきたかの様な姿に、歴戦のメイジである魔法衛士たちも息を飲んでいる。
しかし、ド・ゼッサールは他の隊員たちとは別の意味で息を飲んだ。
動きやすさを重視したのか乗馬服を着た桃色の髪の少女の姿に、激しい既視感を覚えたからである。
中庭は緊迫した空気に満ち溢れていた。
魔法衛士たちが周囲を取り囲む中、ワイバーンから降りたルイズは敢えて胸を張り声を上げる。
「私はラ・ヴァリエール公爵が3女、ルイズ・フランソワーズと申します。大至急、姫殿下もしくはマザリーニ卿にお取り次ぎ下さい!」
ピクリ、とマンティコア隊隊長の表情が動いた気がした。
「──ラ・ヴァリエール公爵のご息女、と申されたか」
「はい」
「なるほど、目元が母上によく似ておられる」
「そちらはマンティコア隊のド・ゼッサール様とお見受けします。両親からお話はよく聞かされておりました」
傍目にはどうという事のない会話であったが、2人の間ではアイ・コンタクトで様々な感情が行き来している。
ああ、『烈風カリン』殿のご息女ですか。大変でしょうなあ、こう、いろんな意味で。
いえいえ、ゼッサール様も母様の全盛期に部下をなされていたのでしょう? 心中お察しします。
とまあ、文にすると大体こんな感じになる。つまるところ、同病相哀れむという良い見本であった。
どうやらレコン・キスタの手の者ではないらしい、それどころか公爵家の令嬢である様だという事で、衛士たちは戦闘態勢を1ランク下げた。
流石に杖を降ろしたりはしないものの、隊員同士で素早くアイ・コンタクトや小さなジェスチャーが交わされ、意志の疎通が図られていく。
(赤髪の巨乳1択)(同意)(激しく同意)(同感)(お前は俺か)
(わかってねえなあお前等)(ふくらみかけこそが至高)(つまりピーチブロンドの娘こそが最高)
(貴様等は雅というものを理解できんようだ)(スレンダー=究極は世の常識だろう)(巨乳より微乳、微乳より無乳)(という訳で青髪が勝者)
(寄んな変態思考)(いやでも将来的には垂れるだろ巨乳)(大切なのは今だ)(可能性を考慮すればふくらみかけは夢がある)(そこはむしろこのままで)(寄んな変態思考)
一応念の為に記しておくと、トリステイン魔法衛士隊はメイジの中でも特に優秀な者が厳しい選抜を経た上で入隊をも許されるエリート集団であり、少年少女たちの憧れの的である。
なお只の衛士ならともかく、魔法衛士隊は女性の入隊が未だ許されていない。
端からは決して判らない無言の論争を繰り広げる隊員たち(全員独身)をよそに、ルイズとゼッサールは交渉を続けていた。
「姫殿下にお会いしたいと言われるが、用件をお教え願いたい」
「申し訳ありませんが機密性が非常に高い内容なのです。更に言えば、早く報告しなければならないものでもあります」
ルイズの返答は切羽詰まったものであったが、立場上鵜呑みにできるものでもない。
「残念だがそれでは話にならぬ。お分かりかと思うが、現在トリスタニアは厳戒態勢が敷かれているのだ。その中で用件も告げられない者を姫殿下に取り次ぐ事など出来ないぞ」
「ゼッサール殿の懸念は私にも判ります。では『ディテクト・マジック』での探査の後、貴方だけにお話するというのは?」
ゼッサールは部下にアイ・コンタクトで、
(いつまで乳談義続けてる! そういうのは結論出ないんだから飲みの席だけにしとけ。それと大切なのは乳じゃなくて尻だ!)
と伝え、ついでに『ディテクト・マジック』をかけさせる。
複数の衛士からルイズ一行に探査魔法が飛ぶが、いずれも反応はなかった。
ただこれは水魔法による『洗脳』や『強制』などがないというだけで、自分の意志で行動している場合は厄介な事になる。
ルイズは率先して自分の杖を手放し、ギーシュらもそれに続いた。キュルケはちょっと抵抗があった様だが、タバサの「王宮」という一言に仕方ないという顔をする。
クロコダインもグレイトアックスを石畳の上に置いて両手を後ろに回した。フレイム、ヴェルダンデ、シルフィードは地に伏せる。
攻撃の意志なし、と取った隊長はルイズへと歩み寄っていった。
先程の『ディテクト・マジック』でマジックアイテムの類を持っていないのも明らかになった以上、この辺りが妥協点であろう。
後は『静寂』の呪文を掛けて唇の動きを隠せば会話の内容は漏れまい。
そんなこんなで話が纏まりかけたその時、これまでの交渉や段取りを一気にひっくり返す一声が中庭に響いた。
「ルイズ! ああ、ルイズ・フランソワーズ!」
透き通った声の持ち主は、紫のマントとローブに身を包んだ見目麗しき乙女、アンリエッタ姫であった。
宮殿から全速力で駆けてきたアンリエッタは、その勢いのままルイズに抱きついた。
小柄なルイズは王女を受け止めきれず倒れ込みそうになるが、後ろにいたクロコダインが片手で支えたので事なきを得る。
「無事だったんですのね、本当に、本当に良かった……!」
目に大粒の涙を浮かべて力一杯しがみつくアンリエッタに、ルイズは嬉しさを覚えた。よく見れば王女の顔には薄化粧では隠しきれない隈がうっすらと見える。
ルイズたちを送り出してから禄に寝ていないのだと思われた。ただ、学友や魔法衛士隊が注視している中でのこの体勢は気恥ずかしさが先に立つ。
「ひ、姫様、ちょっと落ち着いて下さい。大丈夫ですから」
しかしアンリエッタはルイズの言葉が届いていないのかしがみついて離れようとせず、ルイズとしても無理に引き剥がせる訳がなかった。
どうしようかと思っていると、前触れもなく空から救いの主が現れた。
「ご無事で何よりです、ラ・ヴァリエール嬢」
中庭に面した建物のどこかから『レビテーション』で音もなく降りてきたのはマザリーニだ。手に羽根ペンを持ったままなのは、騒動を耳にして慌てて政務を中断したのだろう。
「マザリーニ殿、これは一体……?」
困惑した面持ちで問いを発したのはゼッサールである。
トリステイン王国の重要人物が立て続けに現れたせいだろう、どう対応するべきか判断に苦慮しているのがありありと判る。
「彼女らの身の証は私が立てましょう。お騒がせして申し訳ありませんでしたな」
この一件は自分が預かる、という答えにゼッサールはとりあえず納得する事にした。
王女と事実上の宰相が関わっているのが判明した以上、余程の事態と見るべきであり、近衛隊隊長の身でも現時点では知るべきではない事なのだろう。
これまでの経験から、知るべき事ならいずれ嫌でも耳に入るだろうとゼッサールは一種の悟りを開いていた。
部下に合図し再び持ち場へと戻る中で、あっさり包囲を抜かれた事への対応策と、マンティコア隊として乳と尻のどちらが重要かを考える彼であった。
人気の無くなった中庭で、マザリーニは深々と溜息をついた。
確かにアルビオンからどうやって帰還するかについては前もって決めていた訳ではない。また、出来るだけ早く事の次第を報告しようとするのは判る。
判るのだが、あんなド派手な帰還をされてしまっては困るというのが彼の本音であった。
マンティコア隊は『ディテクト・マジック』によって操られていない事が判明しており、なおかつ口も堅い。
しかし庭に面した建物の窓からこちらを伺っている貴族たちや宮廷婦人らの口からは、あっと言う間にこの一件が広まっていくだろう。
「人の口に『ロック』は掛けられない」ということわざがあるが、余り広まって欲しくない話題ではあるのだ。
考えなければならない事案がまたひとつ増えた、とマザリーニは暗鬱になっていたが、この後のルイズの報告でその様な些事は吹っ飛んでしまう事に、当然彼は気付いていなかった。
一行はとりあえず謁見の間へ移動する事となった。
とは言え、実際に報告するのはルイズとクロコダインのみである。
ギーシュは一応王女直々に手紙回収の任を依頼されていたが、ラ・ロシェールで別行動をとってからの流れは把握していなかった。
タバサもほぼ同様ではあるが、依頼を受けている訳ではない上にガリア出身であるという事実もあって、控え室までという対応となる。
キュルケはラ・ロシェールからずっとルイズと行動を共にしてきたが、ゲルマニアの、しかもヴァリエール公爵家とは因縁の深いツェルプストーの人間である事が大きなネックとなった。
加えて彼女は打ち身や切り傷が非常に多く、水メイジの治療が必要と判断されたのである。もっとも怪我の度合いからすればクロコダインの方が深手であったのだが、当の本人からは
「オレのは見た目ほど酷くはない。それよりキュルケを治してやってくれ」
などという返事が帰ってきていた。
ともあれ、小柄な主と大柄な使い魔が豪奢な謁見室に足を踏み入れると、そこには既に1人の先客があった。やや白いものが混じった金髪に見た目は細身だがその実鍛えぬかれた体を持った初老の美丈夫である。
「もうおいででしたか、グラモン元帥」
「正体不明のメイジが魔法衛士隊の包囲を抜いて中庭に着陸するような騒ぎがあれば、嫌でも体は動くものです」
涼しい顔で言い放った元帥は、更に付け加えた。
「その中に女神もかくやと言わんばかりの絶世の美少女が居るとなれば、尚更ですよ」
気の知れた者達にしか使わないべらんめえ口調こそ出てはいないが、ぶっちゃけ言ってるのはただのくどき文句である。
(ああ、ギーシュのお父様だけの事はあるわ)
ルイズが変なところで感心していると、ふいに扉の向こうが騒がしくなった。
す、とさりげなくクロコダインがルイズの前へ出る。どんな攻撃があっても盾となって主を守る為だ。
だが、扉から現れたのはルイズに仇為す者ではなかった。
「父、様……?」
そう、勢いよく扉を開け放ったのはラ・ヴァリエール公爵その人だった。
ただ、一瞬ではあるがルイズが戸惑ったのは、いつも綺麗に髪を整え服装も一分の隙もない印象の父が、髪や服は乱れ、片眼鏡は落ちそうになっており、普段の威厳さが遠いサハラを越えて東方まで旅に出ているような有様だったからである。
公爵は早足でルイズの前まで行き、その両肩をぐっと握り積めた。
「大丈夫だったか? どこも怪我などしてはいないな? 私の小さなかわいいルイズ……!」
「は、はい! 大丈夫です」
ルイズの返事と、その間に短く呪文を唱え愛娘の身体におかしな水の流れがないのを確認し、ようやく公爵は安堵の息を吐いた。
親子の対面に涙を滲ませるアンリエッタはともかく、にやにや笑いを隠そうともしない悪友2人を睨み付けた後で、ようやく普段の表情を取り戻した彼はクロコダインに向け頭を下げた。
「クロコダイン殿、ですな。貴方の事はオスマン学院長などから伺っております。幾度も娘を助けて頂いたそうで、感謝の言葉もありません」
そう言いつつ、公爵は杖を取り出し『治癒』の呪文を唱える。
すると応急処置しかしておらず、火傷の痕も生々しかったクロコダインの身体が見る見るうちに回復していった。
通常、この手の呪文は秘薬を併用するのが常識であり、それがない場合術の効果は著しく下がる。それを単独呪文のみでここまで効果を引き出しているのだから、公爵の腕は相当なものであると言えるだろう。
そこへ更にオールド・オスマンがゆっくりと現れた。学院にはまだ帰っておらず、図書館と王宮と『魅惑の妖精亭』を往復していたのが幸いした形だ。
これでヴァリエール公爵夫人を除けば、今回の一件を知っている王室関係者がここに揃った訳である。
ひとつ咳払いをした後で、こういう場所では司会進行役になりやすいマザリーニが口を開いた。
「では、旅の成果を聞かせて頂けますかな?」
ルイズは学院を出発してから今までの事を包み隠さず報告した。
ただ一点、サンドリオンの正体については伏せている。父からアイ・コンタクトで「それは言わなくていい」という指示が飛んだからだ。
もっとも、マザリーニたちの表情を見る限り明らかに正体について知っている感じだったので、これはアンリエッタには知らせなくともよいという判断なのだろう。
一方で、虚無魔法についてはありのままを話していた。
未だ実感がないというのもあるが、隠し立てするには余りに事が大きく、またここにいる面子ならばきちんとした対応を考えてくれるだろうと思ったのである。
アンリエッタは己の血の気が引く音を聞いた様な気がした。
いかに自分が考えなしに行動していたか、ルイズの報告で思い知らされたのである。
ウェールズへの恋文は渡した翌日に当人の手によって処分されていたという。
一週間前にこの事実を知っていたら、アンリエッタはウェールズを恨んでいたかもしれない。
しかし今なら、何故愛しい従兄がそんな選択をしたのかがよく判る。始祖の名まで記した懸想文など、王族が出すには不注意にも程があると。
現にただの手紙一通で国家観の軍事同盟が反故の危機を迎え、幼馴染が死地を何度も潜りぬけて手紙の所在を確認しに危険極まりない任務に就くことになったのだ。
見事に彼女はその任を果たしてくれたが、土埃にまみれたその姿や使い魔である獣人が傷だらけになっている所からして、簡単な任務ではなかったのは一目瞭然である。
ラ・ロシェールに着く直前に傭兵たちに襲撃され、街では脱獄した『土くれ』のフーケを始めとした傭兵集団との戦闘があり、『遍在』すら扱うメイジとの戦いも経験した。
フネで出港すれば空賊に拿捕され、それが王太子の偽装であったのは良かったが、アルビオンでは操られたワルド子爵と死闘を繰り広げている。
王子には亡命を勧めたがそれは拒否され、代わりに信を得た結果として彼の国の秘宝『風のルビー』と『始祖のオルゴール』を預けられたルイズは『虚無の使い手』として覚醒した。
正しく波乱万丈の旅である。仮に自分とルイズの立場が入れ替わっていたとしたら、正直ここまでの結果を引き出せていたとは到底思えなかった。
どう考えても途中で命を落としている。
そんな場所に幼なじみを送り出した事を、アンリエッタは後悔していた。
ワルドを後から護衛に選んだのを含め、この一件での自分の行動は全て裏目にでていたと言える。
詰まるところ、王族の一挙手一投足がダイレクトに誰かの死に繋がるという事実に、今更ながら気が付いたという訳だ。
これは蝶よ花よと育てられたアンリエッタが初めて味わった挫折であり、世の中は決して自分の思うようには運ばないという現実を思い知った瞬間でもあった。
そんな、放っておけば止めどなくマイナス方向へ落ち込んでいくアンリエッタの思考を救ったのは、報告を終えたルイズの言葉である。
もっとも、これは救ったというよりは一時停止させたという方が適切であるだろう。
なんとなれば、彼女の『大切なおともだち』は報告を終えたその足で「学院へ戻る」と言い出したからである。
「……はい?」
「ルイズ!?」
「まあ待て、待て待て待て」
上から順にアンリエッタ、ヴァリエール公爵、グラモン元帥の発言を受け、ルイズは目を丸くした。
任務をなんとか終えて報告も済んだ以上、理由もなく王城に留まる訳にはいかない。学生である以上、学院へ戻るのは自明の理であり、ルイズとしてはそんな反応をされるなどとは夢想だにしていなかったのだ。
ある意味学生の鑑とも言うべき言動ではあったが、魔法学院最高責任者のオールド・オスマンなどは「いやそれは真面目すぎじゃろ」と、教育者にあるまじきツッコミを敢行している。
ちなみにこの少女、ワイバーンを飛ばせば午後最後の授業には間に合うねなどと考えていた。
そんなルイズに、何故かひどく疲れた表情のマザリーニが苦笑を浮かべながら言う。
「まずはお礼を言わせて下さい、ミス・ヴァリエール。貴女のお陰で最悪の危機を免れる事ができました。そればかりか、大変重要な情報をもたらして頂き、本当にありがとうございます」
事実上の宰相にここまでストレートに礼を言われるとは思っていなかったルイズは慌てて頭を下げた。
マザリーニは更に続ける。
「私が貴女の年齢の時、同じ条件でアルビオンに赴いたとしても、ここまで事を上手くは運べなかったでしょう。
この旅でどれだけの苦難を乗り越えてきたか、想像しただけでも頭が下がる想いです」
最高級の賛辞にルイズは顔を赤くした。『ゼロ』などという不名誉な二つ名を付けられている彼女は、誉められるという行為自体に慣れていないのだ。
「表立った任務ではありませんでしたので、報酬や勲章を出す訳にもいきません。ですが、せめて暫くの間、この城で歓待させて頂けないですかな?」
本来なら爵位と領地付きの城くらい与えなければならないところですが、というマザリーニにルイズはぶんぶんと首を横に振った。
「そそそ、そそそそんな、滅相もありません! 私ひとりでは何もできませんでしたし!」
「では、協力して頂いた方々にも一緒に過ごして貰いましょう」
よろしいですかな、と言うマザリーニに他の大人たちもあっさり承認した。
「ま、出席日数なんぞどうとでも誤魔化せるしの、立場上」
「あ、うちのギーシュはあまり歓待しなくてもいいですぞ。誰に似たのか知らんが図に乗りやすくていけない」
これが魔法学院長と国家元帥の言う事なのだからどうかしている。
え、ええと、と反応に困るルイズに、横にいたクロコダインが彼女の頭を優しく撫でながら言った。
「勉強に熱心なのはいい事だが、今のルイズに一番必要なのは休息だと思うがな」
休める時に体を休められてこそ一人前だ、という使い魔に、少女はうぅむと考え込む。
「お願いですから少し休んでいって、ルイズ」
結局クロコダインやアンリエッタらに説得される形で、ルイズは王宮に滞在する事になった。
差し当たって湯浴みでもしてきなさいと言われ、ルイズは案内役の侍女と共に退席した。続いてアンリエッタも心身の不調を訴え自室へと戻っていく。
少女2人を見送った大人たちは、扉が閉じられるのと同時に揃って頭を抱え込んだ。
「……問題が1つ解決したと思ったら違う問題が山積していくのは、呪いにでもかかっているのですかな」
「爆弾発言多すぎだろ。特に虚無関係」
「予想してはおったが、マジで『虚無の使い手』じゃとはなあ……。長生きはしてみるもんじゃの」
「暢気な事を……。まあそれはそれとして、色々と確認しなければならない事案がありますな」
公爵の言葉に頷いたマザリーニは、クロコダインに問う。
「操られたワルド子爵をヴァリエール嬢が解放したそうですが、件の子爵どのはどちらにおいでなのですかな?」
対してクロコダインは、腰から下げていたマジックアイテムを取り出して振ってみせた。
「彼はこの中だ」
この面子で『魔法の筒』の効果を熟知しているのはオスマンとクロコダインのみである。
『焼けつく息』で麻痺したワルドをロープで縛り上げたキュルケとサンドリオンは、更に荒縄を『練金』で鋼鉄に変えるという豪快さを遺憾なく発揮していた。
まあ操られていたとはいえワルドのした事を考えれば無理もない対応ではあるが、若干の私情が入っているのは否めない話である。
しかし、流石にそのままの格好で王宮に入れる訳がない。事情を知らない者からすれば、下手したら魔法衛士隊隊長を人質に取った悪党とも取られかねないからだ。
また、杖は無効化されているものの、剣として使う事も出来るので油断は禁物だ。
とまあ様々な要因が重なりあった結果、斯様な対応となった次第である。
「成る程、よくわかりました」
「まあ筒から出すのは後でもよかろ。こっちもそれなりの準備をしてから尋問せにゃならん」
マザリーニらの調べでは、レコン・キスタとワルドの繋がりは1年以上前からあったらしい。禁制の魔法薬でも何でも使って情報を聞き出さねばならなかった。
「それと『虚無魔法』の取り扱いだな」
もちろんその使い手を含めてだがな、と次の事案を提示したのはグラモン元帥だった。
「疑うつもりはありませんが、神学者としては実際に行使する所を是が非でも見せて貰いたいですな。あとは『始祖の祈祷書』の真贋確認も出来るでしょう」
トリステイン王家に伝わる秘宝『始祖の祈祷書』は全頁全て白紙という、ある意味漢らしい仕様となっている。
しかしルイズによれば、鳴らない筈の『始祖のオルゴール』から先祖にあたるブリミルのメッセージが聞こえたのだという。
凡人には感じ取れずとも、ルイズなら何事かを感じ取れるかもしれなかった。
「あとはこの事を公表するかどうかじゃが……」
一応確認だけはしてみる、といった口調のオスマンに、元教え子たちは口を揃えて「時期尚早」と答えた。
「まあ最低でも『大掃除』が終わってからです」
現在トリステインでは少なくない数の貴族が他国に通じている状態だ。そんな中で『始祖の再来』などと宣伝するのは百害あって一理なし、というのが3人の共通見解であった。
「いずれロマリアとも内々に接触しなければならないでしょうが、これはまあその時に考えましょう」
そん時ゃお前がパイプ役な、という元帥の言葉にマザリーニは溜息をつく。丸投げですか、などとは思わない。いつもの事だからだ。
溜息の理由はロマリアという国についてである。辞退はしたものの他国にずっと居た者(つまり自分の事だ)をコンクラーベに選出するというのは正直どうなのか。
しかしロマリアもあまり人材がいないのだろう、などとは思わないマザリーニだった。
現在の教皇、聖エイジス32世は20歳前後という若さでロマリアの頂点に立った人物だが、そんな年齢でこの地位にいるという時点で只者ではないと考えるべきなのだ。
どう話を持って行っても厄介な事になる予感がするのは多分おそらく気のせいだ、と若干現実逃避気味の『鳥の骨』だった。
「ロマリアに関してはそれなりにパイプがあるのでなんとかしましょう。それより先に解決しておかなければならない事があります」
マザリーニの言葉に苦々しい表情で答えたのはヴァリエール公爵である。
「ツェルプストーの娘、だな」
ルイズが『虚無の使い手』であるのを知っている人間は少なければ少ない程良いのだが、よりにもよって実際に虚無魔法使っているところを隣国の貴族にばっちり目撃されてしまっているのは、どう考えても問題だ。
しかも国境を挟んで度々衝突し、それ以外にもヴァリエール家とは様々な『因縁』のあるツェルプストー家の娘である。
ただでさえゲルマニアとは軍事同盟が結ばれていたりアンリエッタ姫が嫁ぐ事となったりしているのに、というかそれらの話をご破算にしない為の任務だったというのに、別方向から問題が発生している現状である。
だが一方で、彼女の働きがなければルイズやウェールズが命を落としている可能性が高かったのも、また事実であった。
「んで、肝心の娘はそういうのをポロッポロ喋っちゃうような性格なのか? あと胸はでかいのか」
などと言うのはグラモン元帥だ。対してオールド・オスマン曰く。
「ん! 胸はでかいぞ!」
そうじゃねぇだろ、と他全員が突っ込みを入れた。
わざとらしい咳払いの後、重い雰囲気を払うためのオチャメじゃないかなどと言い訳しつつオスマンは答える。
「まあ口ではなんのかのと言ってはおるが、ありゃ結構お主の娘に入れ込んどるぞ。そうでもなきゃフーケ追跡だの今回のアレだのに同行したりはせん」
複雑そうな面持ちの公爵に、クロコダインが更に口添えした。
「何か事情があるようですが、理を持って話せばルイズの不利になる様な事はしないでしょうな。何でしたらこちらから他言無用と伝えておきますが」
「実家との仲もそれ程良くはない様じゃし、そうペラペラと漏らしたりはせんと思うがの」
何せ親の用意した見合い話が嫌で半ば強引に留学したなどという噂のある少女である。我が強いのは確かだが説得方法を間違えなければ話は通じそうだった。
「他の面々は虚無について知ってそうですかな?」
「サンドリオンに関しては知られていると思って間違いないでしょうな。ギーシュやタバサには知られていないとは思いますが」
ちなみにサンドリオンとはラ・ロシェールの街で別れていた。避難民たちとの話があるのだと言っていたが、王宮に顔を出すのはまずいという判断もあったようだ。
「ま、ギーシュにはこっちから重々伝えておこう。まあ常から『ヤバげな物事には近づくな、考えもするな』とは教えてあるがね」
胸を張るグラモン元帥に、教育方針としてそれはどうかと皆は思った。
「そのタバサという少女に関してはどうですかな」
ヴァリエール公爵の質問に、眉を寄せたのはオールド・オスマンである。その顔を見たマザリーニは、1年ほど前の事をふと思い出していた。
「老師、ひょっとしてその少女は……」
ふぅ、と溜息を付いてオスマンは頷く。
「そういえばお主には入学前に話しておいたの。ひょっとしなくともオルレアン公の忘れ形見じゃ」
公爵と元帥が、タイミングよく口に含んでいた水差しの水を思い切り噴いた。
「ちょっと待ってくれ先生、オルレアン公ってなあ、『あの』オルレアン公かよ!?」
「ガリア王の姪がルイズのクラスメイトで、しかも今回の任務に同道していたと!?」
大慌てな2人に対し、事態が全く飲み込めないのがクロコダインである。ハルケギニアの国際事情に通じていないのだから当たり前なのだが。
「ああ、失礼しました。詳しくはいずれ説明致しますが、要はフォン・ツェルプストー嬢と同じくいささか厄介な事情がある娘なのですよ」
実際にはいささかどころではない位に厄介な事情が存在していたが、それは言っても始まらない。
結局のところ、オスマンやクロコダインがそれとなく探りを入れて、知らないようならそのまま、知っていたらその時に考えようという消極案が採られた。
問題が多すぎてここにいる面子の一部には投げやり感が漂いつつあり、後回しにできる事案は考えないようにする流れだった。
「まあこの場で思いつくのはこれくらいでしょうか。とりあえず我々も何か腹に入れて、後はそれから考えましょう」
マザリーニはそんな言葉でこの臨時会議を終了させた。
ルイズが案内された来賓用の浴室に入ると、そこには既に先客がいた。
「お、やっと来たわね。お先に頂いてるわよー」
湯船の中でご機嫌な挨拶をしてきたのは言わずと知れたキュルケである。
その横でタバサが無言のまま右手を上げた。どうやら挨拶のつもりらしい。
「あんたたちねえ……」
どっと疲れの出たルイズだったが、めげずに髪を洗いに向かう。服を脱いだ時にも結構な砂埃が落ちていたのだ。ここは念入りに洗っておきたかった。
「なによ、付き合い悪いわねー」
ちぇー、と口を尖らせるキュルケは一部だけ短くなってしまった髪を指先で弄んでいる。
「ね、いっそタバサくらい短くしちゃおうかしら」
「ダメ」
「あら、どうして? 似合わないかしら」
「なんとなくだけどダメ」
級友たちの他愛のない会話を聞きながら、ルイズはこれからの事を考える。
さしあたって湯船の2人に礼を言わなければならないのだが、いざ改まってみるとどう話を切り出して良いかわからないものだ。
これがクロコダインなら素直に言えるのだが。
髪を洗いつつ内心頭を抱えていると、何の前触れもなく後ろから胸を鷲掴みにされた。
「!!!!!!!!」
声にならない悲鳴を上げて体をのけぞらせるルイズに、犯人であるところのキュルケがそっと溜息をつく。
「ああ……相変わらず残念な胸ね……。アルビオンではちょっと憧れたけど、やっぱこれはないわ……」
「な、ななな、なにを失礼な! どどどんだけツッコミ入れ放題な言動かましてるのよツェルプストー!」
ちなみにルイズがキュルケをツェルプストーと呼ぶ時は大抵立腹している。すごく立腹している時はこれがゲルマニアンになるが。
「いやね、あのワルドと戦ってる時に胸が嫌ってほど揺れちゃってさー。あれって無駄に痛いのよ、マジで」
ほほうそんな経験などついぞした事のないあたしに対する挑戦か、とルイズは思った。
「考えてみると胸が薄いほうが敵の攻撃にも当たりづらいでしょ? 体積的な意味で」
(落ち着いて、落ち着くのよルイズ! 一応これは見た目落ち込んでる風にも見える可憐な私をコイツなりの方法で慰めようとしているの! 多分だけど!)
鎌女の脳内では、『清らかなルイズ』が説得を開始していた。
しかし抵抗しないのをいい事に右右左左上下な感じでルイズの胸を揉んでいるキュルケの勢いは留まることを知らない。
「あと普通に生活してても肩は凝るしでいい事ないとおもってたけど、実際こうしてみるとやっぱりあったほうがいいわね胸」
(OKわかったわ今あたしはキレていいブリミル様だってそうする筈よルイズ)
『清らかなルイズ』はあっさりと自説を変更した。
(ああ、コイツの胸が魔法で大きくなっているなら虚無魔法でツルペタにしてやるのに!)
始祖も6000年後に子孫が自分の魔法をそんな事に使おうとするとは夢にも思っていなかっただろう。
どう反撃しようかと思ったところで、今度は突然キュルケの方が声にならない悲鳴を上げて体をのけぞらせる。
見れば、湯殿ではばっちり持ち込んでいた古風な大振りの杖を抱えたタバサがこちらに向けて親指を立てていた。
どうやら魔法でお湯を氷水にしてキュルケの背中にかけたらしい。
流石シュヴァリエ良い仕事をする。ルイズは笑顔で親指を立てのだった。
「ちょ、タ、タバサ!そりゃ貴女的にも聞き捨てならなかったかもだけど、今のはマジ心臓止まりそうになったわよ!?」
「てや」
背を向けたキュルケの後ろから、お返しとばかりにルイズが胸を揉みしだく。
「……なに、この、なに……? このふざけた塊……」
想像以上のボリュームと弾力に、心が折れそうになる虚無の使い手だった。
以上で投下終了です。
前回感想ありがとうございました。
本当はワルドさんの尋問まで入れるつもりだったのですが、おっさん会議が長くなったので断念しました。
ワルドさんにはもうしばらく筒の中にいてもらうことになりそうです。
それでは皆様、良いお年を!
なんという今年最後のプレゼント…!
乙であります!!
乙です
キュルケ危ない!
レモンちゃんが虚乳魔法に目覚めてしまう!
あけましておめでとうございます。
年内に気づかないとは不覚でしたが相変わらずGJです。
いつもながら大人達がちゃんと働いていてかっこいいですね。
そしてマンティコア隊は自重しろ。
獣王の作者さん、乙でした。
人間の男で馬鹿というか、アホじゃない奴レイナールくらいな気がする、この作品。
獣王乙
みな変態すぎる
獣王の人、乙でした!
おっさん会議はいつも色々な意味で素晴らしいですね!
>>387 男女の括りを無くしても、きっとレイナールくらい
解説役というかツッコミ役というか、むしろ作者さんの代弁者に近い?
まあ、モンモンとケティのバストサイズはしっかりチェック済みだったり
裁判ごっこにノリノリで参加したりはしてたけど
保守
獣王さん乙。
この世界の野郎どもは変態ばっかりかw
カリンが隊長やってた頃はもう少しマシだったんだろうか。
そういえばふと気になったんだが、もしビィトのSSを書いた場合、
ここじゃなくて他所のほうがいいのかな?
俺が書こうとしてるわけじゃないけど、なんとなく気になった。
ジョジョスレにバオーが投下されてるしここでいいんじゃね
>>393 なのかな。ただあれって下手に人間呼んでくると原作の進行に差し支えるし、
魔人呼んだら呼んだで大惨事になりそうな気がしないでもないけど。
紳士だけど切れると凄いカブトムシな魔人とか呼べばいいじゃない
それこそ超のつく程ヤバい相手じゃないかw
でもその腹心の団子虫ならまだしも真っ当かもしれない。
喋るし、執事だし、なによりルイズの折檻も平気そうだしな。
博士や卿はだめ?ほかの魔人よりはマシそう…
と思ったがハルケには赤い月と青い月が毎日昇るから卿は無理だな
鮮烈の紅弾はルイズが圏内かどうかで百八十度変わるな
博士はルイズに興味を抱くかどうかかなあ。
ルイズの特異性に目をつければいけるかもしれん。
しかしまあ、フラウスキーが一番想像しやすいかな。
子供好きだし、ルイズはどう見ても子供の範疇だろう。
ビィトも外見だけなら圏内だったし。
逆にいえばルイズが成長して大人になったら魔人として敵に回るわけか
ほんとロリコンの鏡やで〜
保守?
401 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/12(水) 06:21:55 ID:xKwQazzX
剣士さん気長に待ってますで〜
保守
ほしゅ
敗北とは スレが倒れることをいうのではありません…
そうした時に 支援する気持ちを見失った時のことを言うのです
業魔軍師ガルヴァスを召喚
とりあえず「あんた誰?」が似合いそうだ
このスレでもわかる人いるかな
ガルヴァス…ハドラーの影武者だった『豪』魔軍師か。
原作初期('92)の映画だっただけに新生六大将軍が弱くて、海波斬や空裂斬で
倒される奴とか、本来の六大将軍より格下過ぎて…ガルヴァス自身も初期の
ハドラーより酷かった記憶が…。
ジャンプアニメの劇場版なんて出来の悪いssみたいなもんだな
お約束で固めてあるから悪くはないんだが…キャラ魅力に乏しかったなぁ。
それでもJC映画に失礼だろうよw良い作品だって結構あったぜ?>>出来の悪いSS
あけましてと言うには時機を逸した感がありますが、今から投下します。
#1
地平線から太陽が顔を出し始めた頃、ルイズは眠りの中で奇妙な音を耳にした。
金属質で、規則的。
あるいは足音のようにも聞こえる物音だ。
一体この音はなんだろう?
ネコのような唸り声をあげながら、ルイズは寝返りを打った。
大してうるさい音でもなかったが、いったん気になりだすとその音はますます耳触りになてくる。
ルイズは目を開けるのももどかしく、枕に顔を突っ伏したままぼやけた声を吐き出した。
「ユンケル〜、うるしゃいわよぉ……」
その声を合図に、金属音はぴたりと鳴りやんだ。
使い魔が従順に命令に従ったことにルイズは気をよくしたが、
唐突に訪れた静寂はむしろ場違いな客人が来たかのような居心地の悪さを感じさせた。
静かにしろと言っておきながら、いざ静かになってみれば逆に落ちつかないとは面倒な性分ではある。
ルイズは仕方なく体を起こし、使い魔が朝っぱらから何をしていたのか確かめようとした。
窓から差し込む明け方の光は、部屋の中を薄暗く照らし出し、ルイズの目に見慣れた風景を映し出す。
いつも勉強に使っている机と椅子。服や下着の入った品のいい洋タンス。ベッド脇に落ちた読みかけの本。
そして問題のルイズの使い魔といえば……いつも通り、藁の上で眠りこんでいた。
「えっ、あの音を立てていたのってヒュンケルじゃないの……?」
呆けたようにつぶやいたルイズの顔は、少し青ざめていた。
物音がした辺りには誰の姿も見えず、代わりに魔剣が鎮座しているばかりであった。
謎の音はヒュンケルが立てたものではない。
そしてこの部屋には自分とヒュンケルの他には誰もいない。
いや、喋る剣という珍妙なものがいるにはいるが、今は固く鞘の中に仕舞われている。
となると……。
ルイズはもう一度床の辺りに視線を這わせ、結局なにも聞かなかったことにしようと心に決めた。
きっと寝ぼけてたのよと自分に言い聞かせ、再び寝床に向かう。
ただし向かった先は自分のベッドではなく、ヒュンケルの寝床であったが、それは些細な問題に過ぎないだろう。
……たぶん、おそらく、きっと。
#2
「最強の系統はなにか知っているかね、ミス・ツェルプスト―?」
「虚無じゃないんですか?」
「私は伝説の話しをしているのではない。現実のことを聞いているんだ」
眠い。眠すぎる。
ミスタ・ギト―の授業を、ルイズはとろんとした目で眺めていた。
あの後無理矢理にヒュンケルの寝床に入ったはよかったが、そこからが彼女の誤算。
乙女の事情で詳しくは言えないが、別の意味で眠れなくなってしまい、結局寝不足のまま朝を迎えてしまったのだ。
目前では今、キュルケがなにやら火の玉を作っていたが、ルイズはそのことすら気に留めずにボーっとしていた。
頭の中でただ交互に、奇妙な金属音とヒュンケルの体温を思い浮かべ――、吹っ飛んできたキュルケと衝突した。
「ひでぶ!! いったぁ……、なにしてんのよツェルプスト―!」
鼻を押さえてルイズは抗議したが、キュルケはルイズの言葉など右から左、視線は教壇の方を向いていた。
つられて見ると、ミスタ・ギト―が杖を握りしめ、悠然とそこに立っていた。
周りに少しばかり焼け焦げがあるのを見るに、キュルケを相手にちょっとばかり過激な実践講義をしたらしい。
ミスタ・ギト―は自慢げな表情を隠しきれない様子で、芝居臭い口調で風系統の強さを称賛しはじめた。
無論、言うまでもないことだが、風系統は『疾風』の二つ名を取るギト―の得意系統でもある。
いささかの誇張を含んで語られる風系統の説明に、ルイズのまぶたはまた下がり始めたが、
今度は教室のドアが大きな音を立ててルイズの居眠りは妨げられた。
眠気の討伐者は金髪の妙なカツラをつけた変質者――、もとい、ミスタ・コルベールだったが、妙に慌てた様子である。
コルベールは頭も変、服も変、全体的に大いに変といった珍妙な出で立ちをしていたが、
生徒の失笑には目もくれず、まっすぐギト―のところにいって何か耳打ちをした。
最初はいいところを遮られて不満げな顔をしていたギト―だったが、
話を聞いているうちにコルベールと同じように慌てた様子で部屋を出て行ってしまった。
すわ何事かと騒ぎ始める生徒達に負けじと、コルベールも大きな声を出して自分に注意を惹きつけた。
「静かに! 静かに! えー、今日の授業は全て中止であります! なんせ、とても大事な用事ができましたのでな」
コルベールはもったいぶった様子で言うと、のけぞるように大きく胸を張った。
教師としての威厳と、ビッグニュースを抱えた発表者としての演出を狙ったのだろうが、
のけぞった拍子にヅラがずれたため、その効果は少々疑わしいものになっている。
自分の頭が少し涼しくなったことに気づかないコルベールは、
笑いをこらえて顔を真っ赤にする生徒達をどう解釈したか、満足そうにうんうん頷いて口を開いた。
「皆さん、本日はトリステイン魔法学院にとって大変よい日であります。
始祖プリミルの降臨際に並ぶ、めでたい日といえましょう」
そこでコルベールは舞台でいう「間」を取るように、えへんと咳払いをし、そしてまた口を開いた
「なんと本日、恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、アンリエッタ姫殿下が、この魔法学院に行幸されることになりました!」
教室がざわめくと同時に、今度こそ本当に、ルイズの眠気が吹っ飛んだ。
短めですが、今回の投下は以上です。
いきなり投下間隔が開いてしまい、すいませんでした。
言い訳になりますが、正月早々に帯状疱疹にかかり、
体と財布に大打撃を受けておりました。
今月はちょっと難しいですが、来月から元のペースに戻れると思います。
乙です、お大事に
それにしても、今更だがヒュンケルって藁の上で寝てるんだなw
まあ、平気で眠りそうだけどさw
保守
保守
418 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/25(火) 00:32:12 ID:J/IrcO1R
まあ、不死騎団長時代もふかふかベッドで寝ていたとは思えないし、良くても軍用の簡素な堅いベッドだったんじゃないの?
マミーは棺桶が必要かもしれないがゾンビやスケルトンは寝床などいらんだろう。
ヒュンケルは椅子に座りながらでも平気で寝そうなイメージあるな。
ダイの仲間になってもおっさんとのふたり旅か
山奥で一人で修行みたいにとても文明的な生活してたとは思えんしな
アバンスト保ッ守!!
お久しぶりです。
20:50頃から最新話を投下します。
虚無と獣王
36 尋問者と獣王
浴室で一通り騒いだ後、ルイズたちはそれぞれ用意された客室へと戻った。
結局キュルケへ礼は言えず仕舞いだったが、着替えの時にさり気無く近づいてきたタバサが言うには、
「気にしなくていい、キュルケのアレは照れ隠しみたいなもの」
との事である。
よく見ているのね、と頭の片隅で考えながら、ルイズは小声でタバサにやっと礼を言う事ができた。相手は無表情のままに見えたが、ほんのりと頬が染まっていたのは果たして湯上りのせいだけだろうか。
ちなみに入浴中『学院に戻るつもりだった』と言ったところ、学友2人には心の底から呆れられた。
「貴女ねぇ……。半日前に殺されかける様な戦闘経験したでしょうが。帰ったら授業に出るとか、普通ないでしょ」
「1週間くらい休んでも誰も文句を言わないレベル」
誰か味方はいないのかと思ったものである。
閑話休題。
ルイズが部屋に入って程なくして昼食が運ばれてきた。
量は普段のキャパシティを考えるとやや多めだったが、流石は王宮というべきか味が絶品なのと朝食抜きだったのもあって、デザートのクックベリー・パイまで平らげてしまうルイズである。
ほぅ、と満足感に浸る彼女であったが、そうなると次にやってくるのは睡魔だった。
入浴で体を温めた後でお腹いっぱい食べたのだから、眠気に襲われるのはごく自然な流れだ。
が、ルイズとしてはフーケ撃退に一役買ったというギーシュにも礼を言わねばと考えていたし、何より無性にクロコダインの元へ行きたかった。
自分の我儘に近い任務志願に嫌な顔ひとつせず付き合ってくれ、文字通りその身を盾にして守ってくれた頼もしい使い魔。
まだろくに謝ってもいなければ、きちんとした礼もしていない。
6000年もの間途絶えていた伝説の系統に目覚めたと言ったら、彼は一体どんな顔をするだろうか?
そんなとりとめのない思いを胸に、いつしかルイズは眠りの園へと誘われていった。
キュルケもほぼ同様の状態で、まさに今は夢の中にいる。
ルイズに比べ格段に体を動かしており、さらに精神力も先程のシルフィード急降下の折にマンティコア隊の攻撃を迎撃した魔法で使い切っていた。
実を言えば浴室でも半分沈没しかかっていたのだが、ルイズが変な方向に気を回しそうな気がしたので無理やりハイなテンションにしていたのだ。
普段は健啖家なキュルケであったが、「あー、もうダメ。マジ限界」と誰に言ってるのかわからない独り言と共に、食事もろくに摂らぬままベッドへとダイブしたものである。
トライアングル・メイジとはいえ、戦いといえば決闘とは名ばかりの喧嘩程度の経験しか無かったのだから、むしろここまで良く持ったと言うべきであった。
一方、簡単には眠れなかった者もいる。
ギーシュ・ド・グラモンはルイズらと同じく、侍女に案内されて賓客用の浴室に案内されていた。
当然男性用である。そもそも混浴などありえない話である。
だだっ広い豪華な浴槽にぽつんと独りで入るというのは想像以上の侘しさをギーシュに感じさせた。
当初は今回の脱出の主役とも言える使い魔のジャイアント・モールと共に入ろうとしていたのだが、やんわりと、しかしきっぱりと侍女に断られた為、涙を飲んで断念したギーシュである。
シルフィードは無理だとしても、この際クロコダインやフレイムが一緒に来てくれないかと思ったがそんな気配は微塵もなく、結局彼は1人ぼっちのままで入浴を終えた。
さて、途中『魔法の筒』内にいたとはいえ、ほとんど寝ずにラ・ロシェールからニューカッスルまでの距離をシルフィードの背に乗ってきたのだから、当然眠りたくなるのが人情というものだ。
与えられた客室でさっさと食事を終え、よーし一眠りしようかぁとベッドへ向かったその時、突然ノックもなしに部屋の扉が勢い良く開け放たれた。
「おう、ちゃんと生きてやがるなギーシュ!」
「ち、父上!?」
そう、マナー度外視で現れたのはギーシュの父である所のグラモン元帥その人であった。
「極上美少女3人としっぽりアルビオンまで旅行たあ流石は俺の息子だな! 判決死刑だコノヤロウ」
「父上! 父上! 異義の申し立てをしてもいいですか! ダメでもするけど! これは麗しのアンリエッタ姫から直々に依頼された極秘任務であってしっぽりとかそういうのは全くないですから!」
「ああ、そういや姫殿下にも会ってるんだったな。ったくふてぶてしいにも程があるぞ、親の顔が見てみてえもんだな!」
「誰か! 誰か鏡持ってきてー!?」
黙っていれば長身のナイスミドルと細面の美少年なのだが、している会話は素人劇団の道化劇に近いものがある。
「ちっ、もう昼飯食べ終わってんのか。オレもまだ喰ってないってのに生意気な息子だ、父親の為に食べずに取っておくのが常識だろ」
「さっきからムチャ振り凄いですね父上。そんなに忙しいのですか?」
大抵の場合、父がこんなテンションの時は仕事が多いと昔から相場が決まっていた。
「応よ、誰だか知らねえが飛行禁止令がでてる王宮上空をカッ飛んだ挙句、マンティコア隊降りきって中庭に降りた連中がいやがってな」
「完ッ璧誰だか判ってて言ってますよね父上! 直接的なボケはヤメましょうよ!」
うるせえな、と元帥は末息子の言葉を一蹴した。
「まあンな事ぁどうでもいいんだ。オレが昼飯も食べずにお前に会いに来たのは訳がある」
そりゃそうだろうなあ、とギーシュは思った。言動はアレだが名門伯爵家の当主なのである。ただ息子が心配なだけでこれほどタイミングよく現れるのには理由があって然るべきだ。
「今回の一件は一切合切他言無用だ。誰を人質に取られても絶対に口外するな」
ギーシュは父の言葉に眉根を寄せる。極秘の任務である以上、秘密にするというのは武門の出として当たり前の様に考えていたし、この先誰にも話すつもりなどなかった。
しかしわざわざ父が念を押しにくるという事は、今回のアルビオン行きには自分が考える以上に裏の事情があったのかもしれない。
うわめんどくさそうだなあ、というのがギーシュの偽らざる本音であった。
伯爵家の生まれとはいえ4男坊なのだ。政治系の陰険宮廷劇には近づきたくないし、近づく必要性もない。
そういうのは父や一番上の兄に任せておいて可愛い女の子とキャッキャウフフしていたい。
健全なのか不健全なのか判別しがたい事を考えていると、父がふと思い出した様に言った。
「そういやお前は何か脱出手伝ったそうだが、その前にはもうワルド子爵は捕まってたのか?」
「え、ええ。僕やヴェルダンデが地下から礼拝堂に辿りついた時には、もう」
「んじゃ誰が奴を戦闘不能にしたのかは見てねえのか」
「クロコダインでしょう? あの時のメンバーでそれが出来るのは彼だけですし」
ルイズたちからその時の事情は聞いている筈なのに、何故そんな事を訪ねてくるのだろう。
一瞬そんな疑問が脳裏を過ぎったが、『まあいいか』とギーシュはスルーを決め込んだ。下手に突っ込むと『めんどくさい』事になりそうな気がしたからである。
「そんな事よりちょっと聞いて下さいよ父上、今後のトリステイン服飾史に名を残してしまいそうな新発見があったんですが!」
この新発見とは当然ラ・ロシェールにおいてワルドと共に熱く語り合ったアレの事だ。
具体的に言うと『女子学生にセーラー服(上のみ)とミニスカを着せるとボクたちの目にも心にも快いから学院の制服にしよう』計画の発端となった、キュルケプロデュースによるタバサのセーラー服&キュロットの事だ。
最初は『何バカな事を言い出しやがったんだこのバカは』という顔を隠そうともしない元帥だったが、話が進むにつれ真剣に、身を乗り出して息子の熱弁を傾聴し始める。
そんな訳で最初の眠気はどこへやら、何かヤバい脳内物質でも分泌してんのかという勢いで情熱を発散するギーシュだった。
実はタバサも眠れない組の1人である。
理由はただ1つ、己の素性に関する懸念であった。
とはいえ自分の背景については魔法学院入学時に、オールド・オスマンに知られている。そうでなければ『タバサ』などというあからさまな偽名で留学などできる筈もないのだ。
自分が度々授業を休む理由も、おそらく学院長には察知されているだろう。
従姉姫であるイザベラから北花壇警護騎士として様々な任務に就いているのがその理由であるが、おそらく具体的な内容まで知られてはいまい。
実は問題はそこにある。
今回アルビオンまで同行したのは北花壇騎士としての立場とは全く無関係の行動だった。
きっかけは親友のキュルケに半ば強引に引っ張られたからで、ラ・ロシェールからは友人たちが心配だったからだ。
しかし、それを果たして信じてもらえるのか。
家紋に不名誉印を押されているとはいえ、身分からすればガリア王族である事に変わりなく、故国にはまだそれなりの数の『オルレアン派』が存在している。
自身は病の母が人質同然になっている事もあり、心情はともかく表面上はガリア王に従っている形であるが、ニュー・カッスルまでの旅がジョセフやイザベラの命令によるものと捉えられては困るのだ。
逆に、現時点では任務外の事に叔父や従姉が口出しをしてきてはいないが、この一件が彼らに知られるというのも後で問題になりそうな気がする。
どう立ち回れば良いか考えるが、最善の選択をするには情報が足りない。ではどこからそれを手に入れれば良いか。
差し当たって、心当たりは1人しかいなかった。
他国の王宮である以上、勝手に動く訳にもいかない。だが、タバサは近いうちにコンタクトが取れると踏んでいた。こちらが苦慮しているという事は、あちらとしても悩みの種となっているだろう。
丁度そこへドアの向こうからノックの音が響いた。
どうぞ、と短く答えると静かに扉が開く。
「失礼するぞい」
そう言って笑みを浮かべたのはタバサの『心当たり』である人物、つまりはオールド・オスマン学院長だった。
「すまん、待たせたか」
中庭に戻ったクロコダインは仲間の使い魔たちに声をかける。
ヴェルダンデ、フレイム、シルフィード、そして使い魔ではないがワイバーン。
一番小さなフレイムでも虎並の体躯である以上、城の中へと入る訳にはいかなかった。
クロコダインはシルフィードやワイバーンに括り付けられていた荷物の一部を解き、地面へと降ろす。
「ごはんなのねー」
とシルフィードが嬉しそうに鳴く様に、それらはラ・ロシェールの町でワルドが交渉の末に仕入れてきた大量の保存食であった。
流石に王宮といえど多種多様な使い魔に対し、即座に食事を提供するのは不可能である。
元々クロコダイン自身が余り凝った歓待を望まない性質というのもあり、余らせておくのも何だろうという訳で保存食に白羽の矢が立ったのだ。
使い魔たちも主人と同様、昨夜から食事をする暇など殆どない状態であった為、遠慮はいらぬとばかりに保存食の山はたちまち消費されていく。
「それにしても、皆よく頑張ってくれたな」
干し肉の塊を口にしながらクロコダインは頭を下げた。
シルフィードは一晩中ルイズらを追って飛び続けていたし、ワイバーンは更にクロコダインを乗せてレコン・キスタ艦隊を強行突破している。
フレイムは視覚の同調でキュルケに自分たちの情報を知らせ、また対フーケ戦や礼拝堂での戦いでは主やクロコダインらのサポートを堅実にこなしていた
ヴゥルダンデはニュー・カッスルの秘密地下港からルイズ(正確には身につけていた宝石)を探り当て、おまけに地下をそのまま掘り進み脱出路を作り上げている。
もし、誰か一体でもこの旅に参加していなければこうしてトリステインに帰る事はできなかったかもしれない。
それを思えば、自然と頭も下がろうというものだった。
「気にする事ないのねー、シルフィはお姉さまの言う事聞いただけだしー」
「そもそも一番活躍したのは王様でしょう。あんな雷を何度も受けて、よく無事でいられるものです」
「穴を掘っただけでそんな誉められても。ところでここでドバドバミミズ食べるのに土をほじったら駄目ですかね」
「ちょっと早く飛んだだけだ。大体ニンゲンどものフネだの細い竜なんぞにそうそう遅れはとらんよ。で、こっちの肉も食べちまっていいのか?」
「そこはシルフィの陣地なのねー!」
「だから勝手に縄張り主張するなと言うんだ、青いの!」
彼らは彼らなりの言葉でクロコダインに答え、再び食事へと戻っていく。
結局、保存食は一気に喰い尽くされた。
各自満足そうな表情で一息つく。
もっとも、シルフィードなどは、
「後は肉汁が滴り落ちそうな肉の塊が怖いのねー」
などと、どこで覚えたのか古典文学の一節をひねった様な事をつぶやいていたが。
「やあ、食事が用意できず、すみませんでしたな」
そんな事を言って現れたのはマザリーニである。
「いや、どうかお気になされるな。ところで何か御用ですかな」
「ええ、先ほど話していた『例の事』の準備ができましたのでな。少し御足労願えれば、と」
「もちろん」
『例の事』とはおそらくワルドの件であろう。
実は会議が終わった後、クロコダインはヴァリエール公爵の頼みで『焼けつく息』を吐いていた。
その中に含まれる麻痺成分を分析し、解毒剤を作るのだそうだ。
今呼びに来たという事は、既にそれらの作業が終わっていると考えていいだろう。
それにしても、とクロコダインは思う。
自分の負傷を癒した時にも感じたものだが、この短時間で分析と解毒剤の作成できる公爵はかなりの凄腕なのだろう、と。
マザリーニは出来るだけ人目に付かないルートでクロコダインを案内した。
ちなみにこの使い魔を迎えに来る前、マザリーニは『偶然』ヴァリエール公爵に人通りの多い通路で出会い、口論というか陰険合戦というか、とにかく仲の悪さを周囲にアピールしている。
只でさえレコン・キスタの噂で持ちきりな昨今であるが、今日は中庭への強行ダイブ事件があり、有閑貴族や宮廷のお喋り雀たちが格好のネタにしていた。
それを封殺するのは無理なので、せめて話題を増やす事で噂の拡散頻度を押さえようという狙いである。
後は某なんちゃって元帥と某なんちゃって学院長のエロ師弟コンビがなんとかすると言っていたので、そちらに丸投げする事にした。
どうせあの2人がやるのは『美少女メイドスカートめくり10分で連続30人斬り新記録に大・挑・戦!』とかだろうが、話題が逸れるなら何だっていい。
結果として彼らの評判が下がるだろうが元々高くはない評判であるし、別にこちらの懐が痛くなる訳でもないので問題ないだろう。
バッサリ恩師と旧友を切り捨てつつ辿り着いたのは王宮の裏手にあたる一角だった。
普段から人気のない場所であるが、周囲に誰もいないのを確認したマザリーニは敷かれている石畳の一枚を『念力』で動かす。
すると、石畳は音も立てずに地下へと沈み込んだ。続けて周りの石畳も連動する。
あれよあれよという間に5メイル程はある地下への通路がクロコダインの目の前に現れた。
感心する獣人にマザリーニは「先々代の王の時代に発見されたものです。誰が作ったのかは資料も残っていないのですがね」と説明しつつ、魔法の灯りを杖の先に宿して階段を降りる。
15メイル程も下ると階段は終わり、その先は通路へと続いていた。幅は大体4メイルといったところか。
彼らが歩を進める度に壁の灯りが自動的に点いていく。随分凝った造りなのだな、とクロコダインは小さく呟いた。
「何せ我が国の建国は6000年前と言われておりますからな。この王宮も増改築を繰り返していますし、時の王や宰相が極秘に脱出経路や秘密の小部屋を作るといった事もあるのですよ」
「そして秘密を知る者がいなくなれば、自然と通路や部屋も忘れ去られていくという訳ですか」
然り、とマザリーニは頷いた。
「ここもそんな歴史の間に埋もれたものの1つでしょう。しかし今の我々にはお誂え向きの場所です」
気付けば通路は終わりを迎えようとしている。一見行き止まりの様に見えたが、マザリーニが再び『念力』で壁を押すと、今度はその一角が横にスライドした。
中を覗き込むと、そこには魔法学院長室くらいの大きさの部屋がある。床には立派な絨毯が敷かれ、壁際にも上等な調度品が並んでいた。
そこには既に先客がおり、こちらを見てソファーから立ち上がる。
「おや、もう一杯くらい空けていると思ったのですが」
「今から尋問をするというのに、飲んでなぞいられまいよ」
マザリーニの軽口に渋面で答えたのは、ヴァリエール公爵であった。
突然目の前の光景が変わった事にワルドは驚く。
さっきまでニューカッスルの礼拝堂で身体を操られ、クロコダインらに完膚なきまでに叩きのめされた挙句、ロープで縛られていた筈だ。
体が麻痺しているので感触はわからないが、どうやら絨毯の上にいるのは間違いない。礼拝堂では『ライトニング・クラウド』の影響で絨毯の大半は吹き飛んでおり、自分が床に横倒しになった時も下の石材が見えていた。
無論これは『魔法の筒』に入っていた影響なのだが、そんな事情を想像できる訳も無く、ただワルドは呆然とするばかりだ。
と、そこへ何者かが自分の体を無理やり仰向けにし、口に液体を流しこみ始めた。ほぼ同時に呪文がワルドの耳に入る。
(これは、水系統の呪文か……?)
察するところ麻痺を癒す為のものの様だが、詠唱の声に聞き覚えがあった。
はて、一体誰だったかと思いを巡らすうちに呪文の効果が現れ、ワルドは身体の自由を取り戻す。
「って、痛い痛い! なんだこれアイタタタタタ!」
なんだこれも何も、ニューカッスルの戦いでキュルケ、クロコダインらによって与えられたダメージである。
操られていた時は痛覚がカットされていたのか痛みを覚える事はなく、またルイズの『解除』で身体操作から脱したときは『焼けつく息』の影響で麻痺していたので痛みは感じなかったのだ。
当然、麻痺が無くなれば痛みは復活する。耳元で爆竹の様な小爆発起こされたり全身に軽〜中度の火傷を負ったりすれば、痛みに悲鳴をあげるのも無理はない話ではあった。
「ふむ、意外と元気だな」
「暢気な事を言ってないで『治癒』をして下さい。これでは尋問にもならないでしょうに」
「私の可愛い小さなルイズを裏切った男だぞ。実際の所、あと1時間くらいはこのままで良くはないか」
「1時間は長すぎるでしょう。見ていて楽しい物でもありませんし、せめて30分くらいにはなりませんか?」
「む。お前に頼まれたのでは仕方あるまいな……。では、24時間で手を打つとしよう」
「もはや義務感だけで突っ込みますが、伸びているではありませんか……」
(な!? この声は、マザリーニ枢機卿とヴァリエール公爵か!?)
痛みに苦しみながら、ワルドは自分の推測に驚く。
この2人は不倶戴天の敵同士の筈であり、仲良く並んで会話をするなど有り得ない話だ。
まだ『始祖は実はエルフと友好的だった!』『ロマニアにハルケギニア製のものではない謎の超兵器が!』などといった不信心な平民向けの新聞1面の方が信憑性がある。
それが一体、何故、どうして。
「公爵殿。気持ちはわからなくもないのですが、ここはどうか」
疑問の尽きぬワルドだが、更に聞こえてきたのは苦笑気味のクロコダインの声であった。
仕方ありませんな、という公爵が呪文を唱えると嘘の様に痛みが引いていくのがわかる。
(助かった)とワルドは一瞬そう思い、しかし(そうでもないな)と考えを修正した。
自分はあの戦いの後で武装解除されており、精神力もとうに尽きている。一方ここにいるのはヴァリエール公爵にマザリーニ、そしてクロコダインといった実力者だ。
長らく政治の世界に身を置き続けているマザリーニはまだしも、公爵は戦闘向きではないと言われる水系統の使い手であるにも関わらず数々の武勇伝を残している。
クロコダインの強さはもう嫌というほど骨身に染みていた。
礼拝堂での戦いは、実のところ自分の持てる力を全て出したものである。例え操られていなくとも、あれ以上の動きは出来ないと言っていい。
業腹ではあるが、あの忌々しい『操り主』はワルドの体を実に効率よく動かしていたのだ。
トリステインでもトップクラスの実力を持つと自負する自分が全力を出し切った上で、しかし完敗を喫したのだから、最早抵抗する気など起きよう筈もなかった。
これまで積み上げてきた自負は脆くも崩れ去る。だが不思議な事に悔しさや恨みなどといった感情はなかった。いっそ清々しさすら感じている。
何せ相手はわざわざ自分を生かして捕らえる為に『麻痺』という手段を選択したくらいだ。余程の実力差がなければ取れない手段であるのは明白であろう。
こちらの生死を気にしなければ、『遍在』にした様に手加減なしの攻撃をすればそれで済むのだから。
まあそれはさておき、問題はこれからの事だ。普通に考えて死刑は確実なのだが、チャンスがあるとしたら自分が操られていたという事実をどう扱うかに掛かっている。
公爵らにもルイズやクロコダインの口からその事は伝わっている筈だ。しかしいつから操られているかまでは解っていないと思われる。
タイミング的に『実はアンリエッタ姫から依頼を受けた直後に謎の女の魔の手によって操り人形に!』とか言い逃れはできないだろうか。
ほらレコン・キスタのシンパは実際トリステインの王宮にもいる訳だし!
かすかに見えた光明にワルドが希望を抱き、如何にして話をそこまで持っていくか脳細胞を回転させようとしたその時。
「では遺言を聞こうか」
ヴァリエール公爵が一切の希望をも打ち砕く様な、結論最優先な一言をワルドに投げつけた。
「いえ、ですからいきなりエクストリームな結論を出すのはどうかと。気持ちはわかりますが」
溜息と共に突っ込むマザリーニに、さも心外という顔をした公爵は不満そうに述べる。
「ちゃんと尋問しているではないか。とはいえ遺言というのは確かに少しばかり行き過ぎだったかもしれんな。……ここは墓碑銘について尋ねるべきだったか」
「同じです」
律儀に突っ込み返してから、どこか疲れた表情のマザリーニはワルドに話しかけた。
「まあ公爵はあんな事を言ってますが、そう怯えなくともよろしい。貴方の事情はそれなりに理解していますしね」
ただ不明な部分もあるのでその辺りを説明して下さるとありがたいのですが、と続けるかつての上司にワルドは一度は消えた希望の光を再び見出す。
ああ、流石は先王の早過ぎる崩御から今までこの国を支え続けていただけの事はある、と。
実際問題、この痩せ細った男がいなければトリステインという国家は現在よりもっと窮地に立っていただろう。
逆に言えばマザリーニが辣腕を振るっていても貴族たちの腐敗を完全に防げはせず、それがワルドをレコン・キスタへ誘った一因ともなったのだが、これは言っても詮なき事だ。
ともかくここは謝罪と釈明の場面であろう。
どう話を切り出すかとワルドが考えた瞬間、先手を打つ様にマザリーニが爽やかな笑みを浮かべる。
「ああ、貴方が1年以上前からレコン・キスタと繋がっているのは証拠付きで判明していますので、その辺の事は省いてもいいですよ」
どうもこの人は上げてから落とすのが得意な様だと、ある種の諦観に包まれたワルドはぼんやりとそう思った。
マザリーニが当初考えていたより、ワルドは素直に事実を話し始めた。
まあ、ありがたい話ではある。拷問は趣味ではないし、あれはやる方もそれなりに体力を使うものだ。
それにしても、よく単独でここまで考えたものだとマザリーニはほんの少し前まで部下だった男を見下ろす。
彼の『計画』では、レコン・キスタがトリステイン侵攻を始めるまでに組織で重要なポストに就き、時期が来た所で先陣を任される様にするつもりだったらしい。
ワルドはこれまでにレコン・キスタに繋がっている貴族は勿論、他国と不正に手を結び私腹を肥やす者や地位を悪用し民を虐げている者などを調べ上げていた。
そして侵攻時は自分が遍在を使い、またそれまでに同士が見つかれば彼らにも協力を仰いで、それらの悪徳貴族達を鏖殺するつもりだったという。
ここまでは、現在マザリーニやヴァリエール公爵らが準備を進めている『大掃除』とさほど変わりはない。
実行可能かどうかは脇に置くとしても、こんな考えを持った上である程度計画を進めていたのにも関わらず誰にも疑われていなかったのだから、相当『使える』男なのだ。
ただ、ワルドの『計画』と『大掃除』を比較した時、決定的に異なる点があった。
マリアンヌ王妃及びアンリエッタ姫の暗殺である。
ワルドの告白に、ヴァリエール公爵は苦々しい表情を隠せずにいた。
若い貴族の間に現状を憂う声があるのは公爵も知っていた事である。しかしここまでのものだとは想像の外であった。
「で、王妃や王女を殺した後はどうするつもりだったのです。まさか自分が統治するとでも?」
一方、表面上は全く動じていない様子のマザリーニは更に質問を重ねている。もっとも、冷静そうに見えて内心物騒な事を考えているのがこの男の特徴なのだが。
「そんな不遜な事は思ってもいませんでしたよ」
「ではどうするつもりだったのだ。レコン・キスタに統治を委ねるのか」
公爵の問いにワルドは首を横に振った。
「いえ、ターゲットとした貴族と王族を排除した上で、レコン・キスタの上層部は一掃するつもりでした」
組織内で多大な戦果を上げれば、それだけ首領であるオリヴァー・クロムウェルに近付く機会も増える。
当然、それだけ暗殺の機会は増えるという訳だ。
しかしそれで納得がいく訳もなかった。ワルドの「計画」通りに事が運んだとしても、その後の展望が見えてこない。
「ではどうするつもりだったというのだ。トリステインを率いる者も、侵略しようとする者も殺しておいて、さりとて自分が王になる訳でもないと言う。まさか誰がトップに立っても構わないと言うつもりでもあるまい」
自制心を発揮しながら問う公爵に、ワルドは真剣な目を向けた。
「貴方がいるではありませんか、ヴァリエール公」
「なんだと!?」
思わず声を荒げる公爵とは対照的に、マザリーニは冷厳に事実のみを指摘する。
「確かに王位継承順からすればそうなるでしょうな」
実を言えば、先王崩御から時が経つにつれ、若い貴族や公爵の人柄を知る者達からそんな声が聞こえてきてはいたのだ。
王が死んで5年も経つのに未だ誰も即位しないというのは、国家的な自殺行為に等しい。
それでも何とかここまでやってこれたのは、この部屋にいる老練な2人のメイジが個別に(実は裏で連携していた訳だが)辣腕を振るってきていたからだが、それもどこまで続くかは不透明であった。
しかしその手の期待にはっきりと『否』を突きつけてきたのがヴァリエール公である。
自分はあくまで臣下だという立場を崩そうとしなかったからこそ、トリステインという国はこれまで平和を保ってきたと言っても過言ではない。
ただ、彼に惚れ込む者は決して少なくない。その能力を王として使って欲しいと望む声は無視できる数ではなかった。
そのうちの1人が目の前にいるワルド子爵だったのだ。
「そう、貴方がいれば頭を失った蛇に過ぎないレコン・キスタなど恐るるに値しない」
侵攻と同時に暗殺が行われる為、一時的な混乱は避けられないだろうが、そこは公爵やグラモン元帥が纏め上げるだろう。
「問題はマザリーニ殿が果たして協調してくれるかでしたが、どうやらそれは杞憂だった様です」
肩をすくめ、冗談めかしながらも、ワルドの顔は真剣そのものだ。
「これは亡き父が密かに抱いていた夢でもあります。……晩年は酒を飲む度にそればかり語っていた」
公爵とワルドの父は気の置けない親友同士だった。
目に入れても痛くないと公言してはばからない末娘を息子の許嫁として認める位なのだから、仲の良さは折り紙付きだ。
その親友の忘れ形見が語る内容は、少なからず公爵の心を揺さぶるものであった。
「では、ルイズに近付き信を得ようとしたのもその一環か?」
これまで沈黙を守っていたクロコダインが、ふいにワルドに話しかけた。
その問いに、ワルドは考え込む素振りを見せる。
父の死後、ワルドは魔法衛士隊に身を置き修行に励んでいた。
グリフォン隊の長となりレコン・キスタと接触してからは、通常任務に加え『計画』の為の下準備に掛かっており、ルイズと接する時間は皆無である。
ワルドとしても許嫁の存在は頭にあったのだが、いかんせんほったらかしにしていた期間が長すぎ、どう接触したものか迷っていた。
『計画』を実行する場合、ルイズの重要度は極めて高くなる。例えば公爵が王位を拒んだ場合などに彼を説得できる数少ない人材だからだ。
更に気になったのは、ルイズが土くれのフーケ捕縛に一役買ったという話である。
いくら仲間がいたとはいえ、魔法衛士隊を打ち破り金やお宝を強奪したほどの『土くれ』をあっさり捕えたのだから「何かある」とワルドは睨んだ。
調べてみると、どうやら進級時の召喚の儀で『正体不明の使い魔』を手に入れたとの事らしい。
さてはその使い魔の働きかと思い、もう少し詳しく調査しようとした所で姫の護衛としてゲルマニアへ向かう事となったのである。
その後、帰国してすぐアンリエッタに密命を受けたので調査は宙に浮いた状態だったが、実際会ってみると確かにクロコダインは他の使い魔と比べ、明らかに『異質』だった。
民に害をなす事があり、その一方で戦の折に戦力として登用されたりもする野生の亜人については軍人として精通しておかねばならないし、ワルドもその例に洩れない。
むしろ率先して対応法を練り、実戦で生かしていたのだが、その彼にしてクロコダインの様な亜人を見るのは初めてだったのだ。
人語を解し、精緻な武器と鎧を身につけた使い魔など聞いたことがない。
では、そんな使い魔を召喚したルイズは一体何者なのか。
メイジの実力を知りたくばまず使い魔を見よという。しかし魔法成功率がほぼゼロという、メイジとしては致命的な欠陥を持つ少女がそんな希少な獣人を果たして喚べるものだろうか。
ワルドは逆に、そんな使い魔を召喚可能なメイジとは一体どんな実力をもっているだろうかと考えた。
もちろん任務中であり、更に裏ではフーケや傭兵をけしかけたりしていたので真剣に考察する余裕などありはしなかったのだが、皮肉な事に操られた状態での戦闘時にそれは明らかになった。
6000年ぶりに確認された『虚無の使い手』と、その使い魔『ガンダールヴ』。
俄には信じ難い話だが、実際目の当たりにした身としてはそうも言っていられない。むしろ(あくまで結果論ではあるが)血統という点から観た場合、彼の『計画』が間違っていなかったという証でもあった。
過ぎた事に対して「もしも」と言っても仕方がないが、仮にワルドが操られていなかったとしたらルイズは彼に悪印象を抱かず婚約者としての立場を強化していただろう。
ワルドは彼女に対して恋愛感情を持っていなかったが、前述の様な理由もあっていたずらに傷つけるつもりもなかった。もっともそれは自分の行動を邪魔したりしないという前提での話ではあるが。
つらつらと考えては見たが、結局のところ彼女を利用しようとした事実に変わりはない。
故に、クロコダインの問いにワルドは「その通りだ」と答えるしかなかった。
自分でも驚くくらい、ワルドの口はよく回った。
とはいえ知る限りの粛清予定悪徳貴族の名を列挙したところで、もう話す事柄はなくなってしまったのだが。
何にせよ、自分に出来る事はもう無いだろう。生殺与奪の権利を持つのは相手側の方だった。
「僕の知る事は全てお話ししました。で、これからの処遇を教えて戴きたいのですが」
野望は潰えたとはいえ、トリステインの貴族がどこまで腐っているかは伝えるべき人間に伝わった。
後は必ず何とかしてくれるだろう。というか、そう思うしかない。
正直に言えば死にたくない。自分には母の遺した謎を解かねばならない義務があるのだから。
しかし、客観的に見て死罪を免れるとは思えなかった。そもそも王族暗殺計画の立案者を生かしておく理由がない。
生存の可能性があるとすれば、レコン・キスタの侵攻が間近に迫っているという事ぐらいか。ただ死刑にするよりは、『強制』でもかけて最前線に出すという判断になるかもしれない。
そんなワルドの問いに答えたのはマザリーニだった。
『鶏の骨』と揶揄される、しかし心に鋼鉄の芯が入っているかの様な男は、表情を全く変えぬままあっさりと言い放った。
「ああ、死刑ですな」
「なるほど、よくわかった」
一方、賓客用の部屋ではグラモン元帥が末息子の熱弁を聞き終えていた。
「わかって頂けましたか、流石は父上!」
顔を綻ばせるギーシュに元帥は鷹揚に頷く。
「応よ。んじゃ後はやる事ねえから学院に帰っとけ」
しっしっ、と追い払う仕草の父にギーシュは抗議の声を上げた。
「ええ!? なぜですか! これからアンリエッタ姫と面会して『ああ、よくやってくださいましたねギーシュ殿』とか言われてハグされて僕ヒャッホー! とかいうイベントがある筈でしょう!?」
「ねぇよ」
ギーシュの妄想を父は一蹴する。
「つかマジここに残っててもやる事ねえしなあお前。俺と違って」
「そりゃあ父上に比べればそうでしょうが……」
「まあな。なんといってもこれから『美少女メイドスカートめくり10分で連続30人斬り新記録に大・挑・戦!』なんて重要な公務をこなさにゃならん訳だし」
「トリステイン国民として突っ込みますがそれは公務じゃない!」
息子からの突っ込みに元帥は反論する。
「バッカお前、俺が好きでこんな事するとでも思ってんのか!? メイドの居場所を時間帯ごとに調べあげたり最短コースを進むにはどうしたらいいか城の構造調べたりとめんどくさい工程重ねて超苦労したんだぞ。
嫌で嫌で仕方なくて腕が鳴るわワクワクするわで大変なんだこっちは!」
胸を張る元帥にギーシュは頭を抱えた。これでいいのかトリステイン王国軍。
ああでもここまで出世すれはこういう阿呆なイベント立てても問題ないのか。なら大丈夫かとギーシュは自己完結した。ちょっと頑張って偉くなろうとも。
「よし、わかった様だからさっさと帰れ。使い魔もちゃんと連れていけよ」
「それは勿論」
はあ、と溜息をついて部屋を出るギーシュに、元帥は後ろを向いたまま言った。
「ま、今回の件はお前にしちゃあよくやった方だな。俺の息子としちゃまだまだだがよ」
その言葉に浮かれたギーシュは帰り道の馬とか竜籠を依頼するのを完璧に忘れ、結果としてジャイアント・モールにまたがって学院までの帰路についたという。
以上で投下終了です。
前回感想くださった方々、ありがとうございました。
ワルドがなぜこんな素直に話したのかは次回で明らかになると思います。
前話の感想で野郎どもが変態ばかりだという方が多かったので、今回はちょっと控えてみました。
あと前にうっかり書き忘れていたのですが、私自身は『ふくらみかけこそが至高にして究極派』です。異論は認めない。
ではまた。
ならば私は『女体はどのようなものであれ神秘と奇跡を内包している派』であると高らかと宣言しよう
獣王の人GJです。
毎回書いているような気もしますが大人達がちゃんと仕事をしていて好感が持てますね。
それと反比例してルイズたちの出番が少なくなってしまうのは残念ですが。
そして私は基本大きいのが好きだが小さいのもいいし尻もいけるといっておく。
乙です
ワルドはどうなってしまうのか
おっぱいは適度な大きさがいいよね!
胸革命とか大変そうだし
439 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/01/30(日) 12:46:09 ID:VawpnqF6
乙です。ルイズパパのはっちゃけぶりが相変わらずムチャクチャで安心しました。
それと自分は『くるぶしから腰にかけての曲線美には芸術的価値がある派』です。
ちょっと、一人くらいは美少年ハンターがいてもいいじゃない!
背中から腰へかけてのラインこそ至高
保守
保守
ここであえて女に用は無い、兄貴、漢こそ至高と言ってのける猛者はいないのか?
何気なく読み返してたらゼロの剣士でワイバーンがワイ「パ」ーンになってて吹いたw
エクスカリパーみたいなもんかw
「パーン様のお言葉は全てに優先する………!」
こういう事だな!
鬼眼の力でボインに進化するルイズとか、とっくに誰かが言ってるだろな
ついでに身長も伸ばしておいて
主人公なのに小ネタにしかダイがいないのは何故だろう
扱いづらいから
扱い辛いつーより王道過ぎて描き難いんじゃなかろーか。
ポップやヒュンケルみたいな良い意味悪い意味でのクセがないし、
ラーハルトやヒムといったところと比べて存在感がありすぎる。
バーン様やミストみたいに違和感が深刻になる事を皆わかってんだらう。
どのキャラのどの時点で召還するかが問題だよね。
大抵アバンの使途はほとんどが超人クラスだし。召還するとなると、弟子になる前の北の勇者とか、もしくは成長して拳聖になったチウとか?
パーン様「ハドラー! お前あんまり調子乗ってると、頭パーンするで!」
勇者でろりんマダー?
じいちゃんが召喚されたら、亜人が杖持ってるとか言われそうだな。
そんで、ルイズが初期のダイ並みに魔法の練習しごかれるとか。
チウあたりは終了後あたりの段階で召喚しても問題ないんじゃないかな。
そこそこ強いけどめっちゃ強いわけでもないし。
岩を砕くパワーが誇張じゃなければリーチを伸ばす意味でデルフを持てばそこそこ戦えそう。
上の方でも出てたけどヴィンダにしてハルケで新生獣王遊撃隊結成させるとか。
チウ&ヒムを一緒に召喚して、というのも割りと面白そうだ。
ヒムがチート極まりないが。
吸血鬼にイルククゥは隊員入り確実だなw
>>457 チウの体格であのサイズの剣を扱えるんだろうか
しかしそれでもガンダなら、ールヴならなんとかしてくれるんだろうか
YAIBAの風車みたく、窮鼠くるくる拳を応用した、窮鼠くるくる剣でもやればいいんでね?
入れ替え可能なんだし、先代が手甲にしたとか
なんなら最初から手甲だったことにしちゃうとか
>>461 場違いな工芸品として、ロマリアに魔甲拳が保管されてて、デルフが憑依みたいな
感じも可かな?
良いねそれ、デルフの吸収範囲も広くなる上にアイテムまでクロスしてる
あえて鎧の魔剣にして、頭にある剣をそのままにして窮鼠包包拳を使うってのもw
魔剣ドタマカナヅチンガー
どたまかなづちだけはやめてあげてw
余も使わせてもらうぞ…愛用の伝説の武器をな!!
…これが余の武器その名も"どた魔かなづち"だ!!
天地海魔闘!それは大魔王バーンの真の奥の手である!
右手の天!左手の地!そして呪文の魔に加えてさらに頭突きの海を加えたそれは
まさしく魔界の神に相応しい最終奥義!!
468 :
にきび王子:2011/03/05(土) 16:19:22.90 ID:glI4Jwrt
次回はいつ投下するんだごらあ!
楽しみでしょうがねえんだよごらあ!
469 :
かのもの:2011/03/09(水) 20:54:48.12 ID:uDp1wLs5
ゼロの剣士
虚無と獣王
この二作品の続きを期待します。
寝ながら待とう
お久しぶりです。
投下はもう少し先になりますが、一応生存報告です。
スレ住人の皆様が無事であるよう、心から祈っております。
皆無事だといいよね・・・
>>471 ホント無事で何よりなんだぜ…
落ち着いた頃に新作読めるのを楽しみにしてます。
ほしゅ
待つのが好きなんだよォォッ!!!
476 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/03/24(木) 22:37:41.17 ID:JVubqpQi
>>475 俺は待つのが嫌いだ。
こんなに待たされるなんて不愉快だ。
と、言ってみる
捕手
20巻の才人の状況読むと、それぞれ作品が違うとはいえこのスレでルイズと
テファの両方にクロコダインが召喚されてるのは、ある意味必然に思えてくる。
480 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/08(金) 13:45:44.64 ID:TFIssBhh
獣王の人が無事なのはこれ以上ない喜びだが他の作者さんは大丈夫だろうか…?
481 :
レグルス:2011/04/10(日) 20:59:35.42 ID:lrXkgXhK
三月は、更新がなかった。
やはり、今回の震災が影響しているのだろうか?
電気復旧してないところはPCも携帯も満足に使えないからな。
483 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/14(木) 11:12:56.31 ID:4zK3kA0W
久しぶりに覗きに来たけど、一月で10スレって・・・
過疎ってるなー
484 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/14(木) 21:20:39.25 ID:clG+j68J
ミルキィローズ=ザボエラ
486 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/04/21(木) 00:11:45.20 ID:wRHMwmQU
ほす
保守しておく
最大保守呪文!
ほしゅ
捕手
保守するだけの簡単なお仕事
少ないながらも定期的に投下があった頃が懐かしい
ほしゅ
493 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/15(水) 20:56:32.16 ID:M8goxUZ+
久しぶりに覗きに来たけど、二ヶ月で9スレって・・・
終わってるなー
そりゃ極一部の人が暴走して強引に立てたスレだから……
その一部が投げたら全く流れなくなる
3月以降さっぱりだね
スレができた経緯はよく知らんが、他では埋もれそうなキャラが呼ばれたりして楽しいんだけどなあ
本家スレでダイ大SSも投下されてて充分成り立ってたのに何故か強引に別スレ立てたんだよな
しかも立てるなり元スレの人気作品ディスる発言したりと何考えてるのかイミフだった
暗いと不平を言うよりは 進んで明かりを消しましょう 節電的に
498 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/23(木) 23:34:01.28 ID:w5RgqfnZ
ダイいぢめが見たい
性的な意味で
499 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/29(水) 02:17:48.97 ID:4Llx0ZXN
せめて生存報告だけでもいいから欲しいものですね。
500 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/06/29(水) 16:05:39.99 ID:/yxhu3ga
ゼロ魔の世界は勇者みたいなのは生き辛そうだ
さてはて、鰐の続編が先か原作者の訃報が先か・・・
酷いチキンレースになってきたな
そういえばダイの作画の人も重い病気になってリタイヤしてたな・・・
末期癌だったと告白が来たな・・・
奇跡的に手術と言っているが、転移している確率も高いし、
開いてみたらやっぱりダメだったというパターンも十分考えられる。
せいぜい数ヶ月の延命がいいところだろうな
>>504 別の手術で開いてみたら手術いけるじゃんって状況だよ
聞きかじりの情報で勝手に想像して絶望する前に、きっちり情報を精査してみろってことだな
かなりヤバい状況なのは変わらないが、ネガるのはまだ早いって程度には希望は残ってる
すいません、本当にお久しぶりです
20:50頃から投下予定です
虚無と獣王
37 虚無と姉
結局ワルドは再び『魔法の筒』の中へと入る事となった。
対外的には『単独任務中』という扱いになっている彼が、突然王宮内で目撃されてはいろんな意味で困る。
「しかしまあ、よく喋ったものです」
年頃の女学生でもあるまいに、と言うマザリーニにヴァリエール公爵はしれっとした顔で言った。
「ああ、麻痺解除薬に『ちょっと素直になるクスリ』を混ぜておいたからな」
有り体に言うと自白剤であり、媚薬と同じく立派な禁制品である。
「まぁどうせそんな事だろうとは思いましたがね……」
マザリーニも予測していたようで、溜息ひとつで流した。彼の娘への愛情を考えれば、毒が混ざっていなかっただけマシというものだ。
「クロコダイン殿、申し訳ありませんが暫くそのマジックアイテムを貸し出しては貰えませんかな」
一両日中には返却しますので、というマザリーニにクロコダインは鷹揚に頷いた。
「それはかまわんが、それまではここにいた方が良いのですかな」
「ええ、できれば。こちらとしてもルイズ嬢と共にお聞きしたい事柄が幾つかありますし」
ただそれは今すぐに、という訳にもいかない。特にルイズには、少なくとも明日までは休息が必要であろう。
「クロコダイン殿はこの部屋でお休みください。追って夕食を用意致します」
別に野宿でも構わないのだが、と遠慮するクロコダインをそういう訳にもいかないと2人がかりで説得する。
ワルドとは違った意味で、彼もまたあまり人目につかない方がいいのだ。
「では私は先に失礼しよう。もうすぐ客が来る頃だ」
そういって部屋を出たのは公爵である。
仇敵と周囲から認識されているマザリーニと仲良く秘密の出入り口から現れるのを目撃されては、これまでの苦労が水の泡だ。
「ああ、宜しくお伝え下さい」
「娘たちにもお前との仲は言ってないのに何をどう伝えろと言うのか」
クロコダインに「ではまた」と手を上げ足早に去る友人を見送り、マザリーニも腰を上げる。既にルイズには関係を明かしているとは言えなかった。
「私もいつもの仕事を片付けにいかねばなりませんが、その前に1つ」
マザリーニは目を輝かせながら言った。
「頼みごとばかりで心苦しいのですが、一度、その手に刻まれたルーンを拝見させては貰えませんかな?」
政治の世界に浸かって長くなるが、それは何ら信仰の妨げになっていない。
むしろ。政に関わってからの方が信仰は増している。
そんな時に現れた始祖の秘術を継ぐ者と、その使い魔なのだ。興味が湧かない方がどうかしていた。
「おお……!」
仮にも教皇候補にもなった身である。
始祖ブリミルに関する知識は基礎中の基礎であり、当然その中には彼の使い魔たちのルーンも含まれていた。
その知識に照らし合わせた結果、クロコダインに刻まれたルーンは間違いなくガンダールヴのものだった。
始祖の4人の使い魔の中でも一番活躍が多いとされる『神の盾』が目の前にいる。興奮するなというのが無理な相談だ。
もっと詳しく調べたいという欲求を抑え、マザリーニは「では」と部屋を出ていった。
トリスタニアを1台の馬車が駆ける。
いつぞや、ルイズたちがフーケ追撃の為に使用した物とは比べ物にならない程豪華なそれは、ヴァリエール公爵家別邸の中へと入っていった。
敷地内で停車した馬車から現れたのは妙齢の女性である。
普段は優雅な所作で知られるその女性は、しかし貴族としての作法などアルビオン浮遊大陸よりも高い空へ放り投げた感じで飛び降り、そのまま邸内へと突入した。
豪奢な長い金髪を揺らし、良く言えばスレンダーな、ストレートに言えば凹凸の控えめな体躯が風を切る。
美しい顔も今は厳しく引き締まり、眼鏡の奥の瞳は爛々と光を放っていた。
廊下をほとんど走り出す寸前の速度で踏破しつつ向かうのは、この別邸の主がいる筈の書斎である。
ここまでノンストップで進んできたその女性は目的地の扉の前で初めて立ち止まり、息を整える間も置かずにノックを2回、向こうからの返事を待たずズバンと開け放った。
「お父様! ルイズの『系統』が明らかになったというのは本当ですか!!」
女性の名はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・フラン・ド・ラ・ブロア・ド・ラ・ヴァリエール。
ヴァリエール公爵の長女であり、ルイズにとっては上の姉という事になる。
常になく大慌て状態なエレオノールに、公爵は「まあ落ち着きなさい」と声をかけた。
が、20代も半ばを過ぎた筈の娘はクールダウンの気配など露ほども見せず、「落ち着いてなどいられません!」と返してきた。
「あの! 何を唱えても爆発しか起こさなかったルイズが! ようやく一人前になったのでしょう!?」
その顔に隠しきれない喜びが溢れているのを見た公爵は、(これをもう少し素直に出していれば今頃は初孫とか抱けていたかもしれん)などと思う。
この世界の結婚適齢期は二十歳前後、その常識から考えるとエレオノールは相当スタートラインから遠ざかっている。
もっとも当人が最近『結婚は人生の墓場』などと口にしているのを知れば、公爵はその場で頭を抱えた事だろうが。
「それでルイズはどこにいるのですか? それに何の系統に目覚めたのです!?」
長く続いた家系は目覚める魔法の系統が偏るという傾向が多々みられる。
例えば武の名門として知られるグラモン伯爵家は土系統メイジを多く輩出しており、近年まで代々ラグドリアン湖の精霊との交渉役を勤めていたモンモランシ家の人間は水系統が生まれやすいといった具合だ。
これは別にトリステインに限った話ではなく、隣国であるゲルマニアでもツェルプストー家は火の家系と呼ばれ、キュルケもその例に漏れない。
しかしヴァリエール家は長く続いているにしては系統の固定化が見られていないという珍しい家系であった。
その証拠に先代の公爵は火、現公爵は水、そして娘のエレオノールは土系統のメイジなのである。
これではルイズの系統を予想など出来ない。
愛娘の問いに公爵は表情を厳しくした。
「それを知る前に、まずは落ち着いて欲しいのだ、エレオノール。その事に関し、若くして王立魔法研究所に勤めるお前の知恵を借りたいのだよ」
敬愛する父からの言葉は、エレオノールの心に不安という名のさざ波を走らせる。
魔法学院始まって以来の才媛と呼ばれ、卒業後すぐアカデミーに入った彼女はエリート中のエリートであったが、そのエレオノールの優秀さを持ってしても解けない謎があった。
1つは上の妹、カトレアの病の原因と治療方法。
もう1つが下の妹、ルイズの引き起こす失敗魔法の原因と根治方法である。
とは言え、自分以上にこれらを気に病んでいたのは両親であるのをエレオノールは痛いほど熟知していた。
そんな謎の1つがついに解消されたというのに、何故父は喜ぶ素振りを見せないのか。
表面上はルイズに厳しく接していたが、あれだけ猫可愛がりしたくて仕方なかったこの人が末娘の努力が実ったのを知ったのだから、大々的なパーティーの3つや4つ企画していてもおかしくはないというのに。
そして研究員である自分の知恵を借りたいとは、一体どういう事なのか?
それらの疑問は父からの一言で一気に解決された。
「ルイズは今、王宮で体を休めている。そしてあの子が目覚めたのは失われていた第5の系統──虚無魔法だ」
もっとも、その一言は新たな驚愕と疑問を生み出したのだが。
陽は沈み、双月が天に差し掛かる頃合いになったが、まだ眠る事を許されない者達がいた。
倍加した仕事に文字通り忙殺されるマザリーニ、ワルドへの尋問や長女への状況説明と協力依頼に加え『大掃除』の段取りを練るヴァリエール公爵。
この2人にとってはまだまだ宵の口という感覚だ。
新記録の樹立と同時に魔法衛士隊に捕縛され、中庭の大きな樹に逆さに吊されたグラモン元帥とオスマン学院長。
この2人にとっては割といつもの罰ゲームであり、こっそり助けてくれたド・ゼッサール隊長に礼を言って『魅惑の精霊亭』にでも繰り出そうかという時間である。
そして、普段ならとうに寝ている時間帯にも関わらず色々と説明を求められる少女がいた。
昼の中庭における騒動をいち早く耳にし、何がどうなっているのか自分の母親に問いつめられている人物。
すなわち、今回の騒動の発端であるところのアンリエッタ王女であった。
眠れない者にも熟睡した者にも平等に訪れるのが朝というものである。
普段は座学の予習復習で寝る時間と起きる時間が遅くなりがちなルイズであったが、今日はそうでもなかった。
昨日はかなり早く寝入ってしまったし、なにやら部屋の中で人らしき気配を感じたからである。
それでもまだ頭の半分以上は夢の中の領域であったため、ルイズはぼんやりと眼を開けた。
王宮の貴賓室という慣れない環境、実家では日常だったが寮生活では久しくなかった天蓋つきベッドでも熟睡できるのは余程疲れていたのか、それとも単に大物なのか。
ともあれ、彼女の瞳に最初に飛び込んできたのは黄金色の何かだった。
「ふに……?」
金色のそれは一旦ずざざとルイズから遠ざかり、しかし再び眼前へと立った。
「い、いつまで寝呆けているの! おちび!」
「ふぁい!?」
聞き覚えのある声に、ルイズは一気に目が覚めた。
学院の寮に入ってからはご無沙汰だったが、忘れる訳もない通った声の持ち主。
というか仮にも公爵家令嬢を『おちび』などと呼ぶ人間など、ハルケギニア広しと言えど1人しかいない。
「エ、エエエ、エレオノール姉様ッ!?」
ルイズが愛情と苦手意識を同時に持つ人物、上の姉にあたる才媛は金に輝く長髪をかきあげる。
どうしてこんなところにと混乱するルイズは、だから目覚める寸前まで心配そうに姉が自分を覗き込んでいたり、今も若干頬が赤く染まっている事など気づきようもなかった。
(ああびっくりしたああびっくりしたああびっくりした!)
突然(当人主観)妹が目を覚ましたものだから、それはもうエレオノールは動揺した。
が、ルイズにとって自分は厳しいが凛とした優秀で憧れの姉である(当人主観)。
動揺する姿など見せられる訳もない。とっさに叱責する事で誤魔化せたのは上出来だった(当人主観)。
実際には顔を覗き込む、動揺して飛びずさる、などといった行動を目撃されているのだが、ルイズの寝起きの悪さなどが幸いして認知されなかっただけなのだが。
ともあれ妹が見たところ特に異常はない事に、エレオノールは安堵した。
父から話は聞いていたものの、今回のアルビオン行きはあらゆる意味でイレギュラーづくしだった筈なのだ。
特に虚無魔法を使ったメイジは6000年以上いなかった。どんな副作用があるか知れたものではない。
エレオノールがここにいるのは、その辺りの事をひどく気にしたヴァリエール公爵が依頼したのもその一因だった。
「ようやく眼を覚ましたのね、全くもう……」
安堵のため息を、表向きは妹に呆れているというポーズにしてしまうのがエルオノールという女性の救われない部分である。もちろん自覚はない。
「さあ、早く着替えなさい。今日は忙しくなるのですから」
「は、ははははい! でも姉様、忙しくなるというのは?」
エレオノールの言葉に脊髄反射で返事をしたものの、なぜ急かされるのか分からない様子の妹に、彼女は今度こそ呆れ混じりのため息をついた。
父の話によれば昨日は報告の後、すぐに学院に戻ろうとしたという。全会一致で止められたものの、ルイズ的には今日こそ城を後にするつもりだったのだろう。
要は虚無の担い手という自分の重要性を全く認識していないのだ。
「我こそは虚無魔法の使い手であるぞ」などとふんぞり返られた日には余裕でひっぱたく自信のあるエレオノールだが、こうも自覚がないというのも困りものだった。
「いい? おちび。貴女はこの世界で唯一の『虚無』なのよ? 調べなきゃいけない事が山のようにあるの。
本当に使えるのか、『始祖の祈祷書』の真贋鑑定、指輪と秘宝の使い方、呪文の構成に魔法効果の実践、使い魔のルーン分析および使い魔自身の調査! 上げればまだまだ出てくるわよ」
今日中に終わるとも思えないスケジュールの羅列に眼を白黒させるルイズに、エレオノールはビシッと指を指す。
「分かった? 王立魔法研究所を休んできているのですからね、時間はスクウェア・メイジよりも貴重だと心得なさい」
部屋に運ばれてきた食事を2人で食べた後、姉妹が向かったのはクロコダインがいる隠し部屋であった。
虚無魔法の実演と検証についてはエレオノールの他にも参加する者達がいるのだが、いかんせん地位が高いだけに多忙を極める為、今日の夜に行う予定である。
従ってそれまでに使い魔やガンダールヴのルーンなどを調べなければならない。
ルイズは昨日の騒ぎで休廷内でも話題になっており、またエレオノールもヴァリエール公爵の長女という事で社交界に顔が知られている。
目立つのは極力避けねばならなかった。
幸い父からは、今くらいの時間にどのルートを使えば他人に見られる事なく件の部屋まで辿り着けるか聞かされている。
これは時間ごとにメイドがどの場所にいるのか丹念に調べ上げた某元帥と某魔法学院長の努力の結晶を応用したものであったが、当然そんな事実は知らされていない。
若干話がそれたが、エレオノールとルイズはメイドだの宮廷婦人だのに目撃される事なくクロコダインの元に到着したのだった。
ノックもそこそこに扉を勢いよく開けて、部屋の中心で胡座をかいていた鰐頭の獣人に駆け寄っていく妹を見て、エレオノールは愛玩犬を連想した。
どちらが使い魔かわからないわね、とも思う。絆が深いのは結構な事だが、とは言えこのまま阿呆の様に立ち尽くしていても仕方がない。
わざとらしく咳払いでもしようかと思ったところで、件の獣人から「ルイズ、そちらの御仁は?」との言葉が出た。
どうやら部屋に入った時にはエレオノールの存在に気がついていたようだ。
もっとも、正確には部屋に入る前の段階で気配を感じ取っていたのだが、流石にそこまでは判る筈もなかった。
エレオノールが自己紹介をすると、クロコダインもまた礼儀正しく返事をする。
(貴女の妹君にはとてもよくしてもらっています、ね……)
見た目からは想像の尽かない挨拶に、エレオノールは高い知性を感じ取った。
使い魔としてはかなり異質だが、何にせよ話が通じるのは結構な事だ。ただでさえ訊かなければならない事柄が多いのだから。
エレオノールの質問はまずクロコダイン自身に纏わるものから始まった。
どの様な場所で生まれ育ったのか、何歳くらいなのか、仲間はいるのか、等々である。
この際、彼が遙かサハラを越えた地に存在するという東方ではなく、ハルケギニアとは異なる世界から召還された事も明かされた。
これまでこの事を知っているのは召還主であるルイズとオスマン学院長、コルベール教師の3名であったが、ルイズの実姉であり、また王立魔法研究所の研究員という肩書きを持つエレオノールには話しておくべきだと判断したからである。
エレオノールとしてはにわかに信じ難い話だ。
しかしクロコダインと同種の生物はこれまで確認されておらず、またグレイトアックスに込められた魔法がハルケギニアのものとは若干異なる事、ロマリアや聖地の近辺で見つかる『場違いな聖遺物』の存在など、彼の話を裏付ける要素は幾つかある。
それに、このような嘘をついてもクロコダインにメリットはないと思われるのも事実だ。
となると、俄然探求心がわくのが人情というものである。
特にエレオノールは知識欲が旺盛であり、更に使命感も強い。
加えて現在の王立魔法研究所は始祖に纏わる事柄を研究のメインに据えている。『神の盾』たるクロコダインが異世界の出身であるなら、ブリミルが召喚した4人の使い魔もまた異世界からの来訪者だった可能性があるのだ。
自ずと質問に熱が入る。
月がひとつしかない世界。
天界・地上界・魔界の3つに分かれた世界。
メイジが特権階級ではない世界。
ざっと聞いただけでも異世界だと思わざるを得ない話だ。
凄まじい勢いで聞き取った事を書き残すエレオノールの横では、ルイズがこれもまた真剣な表情でクロコダインの説明を一言一句漏らさぬ様に傾聴していた。
出身が異世界であるのは知っているものの、今まで詳しい話はあまり聞けていなかったのだから無理もないが。
熱心なものだと、苦笑まじりに姉妹を見ていたクロコダインだったが、突然ドアの方へ顔を向けた。
「どうしたの?」
首を傾げるルイズに、頼もしい使い魔は「また来客のようだ」と答える。
直後、扉の向こうからノックの音が響いた。
どうぞと言う暇もあらばこそ、ドアの向こうから軽く手を挙げて現れたのは壮年の男性である。
「やあ、昨日はどうも。しかし、こんな美しい女性達から熱心に迫られるというのは実に羨ましい限りですな」
メイド達に文字通り吊された後で、全く懲りずにほぼ徹夜でしこたま痛飲したとは思えないトリステイン陸軍きっての伊達男、グラモン元帥であった。
元帥にとってルイズやクロコダインは昨日が初対面であったが、エレオノールはパーティー等で幾度となく顔を合わせている。
彼女が王立魔法研究所の研究員であるのもヴァリエール公爵から耳にしていた。というか聞き飽きるほど自慢話をリピートされていた。
流石にここにいるのは予想していなかったが、すぐに(ああ、何のかのと理由をつけて呼びつけたんだなあの親馬鹿)と結論付ける。
「お久しぶりです、グラモンのおじさま。昨年末の夜会以来でしょうか?」
エレオノールも聞き取りを一端中断し、立ち上がって優雅に会釈した。
「ええ。それにしても、ますます美しさに磨きがかかりましたな。こんなありきたりな言葉しか思いつかぬ自分の詩才のなさが恨めしい」
「おじさまも相変わらずお上手ですこと。ところでその台詞は一体何回目ですか?」
「これは心外ですな、初めてですよ ──今日の所は」
相手の皮肉を軽く受け流しながら、伯爵は思う。
気が強いのは母親譲りだが、ここでスクウェア・スペルが飛んでこないのは有り難いもんだ、と。
「昨日はどうも、ご面倒をお掛けしましたな。ギーシュは元気にしていますか」
エレオノールの向こう側からそんな声を発したのはクロコダインだ。
「なに、本来なら凱旋の宴でも開いた方がいい位の戦果を成し遂げておられるのです。面倒などとはとんでもない」
ただでさえ無茶振りにも程がある任務だった上、身内に裏切り者まで出ているのである。伯爵の言葉は全くの本心から出たものだった。
「それと愚息の事なら心配には及びません。碌に戦ってもいない上、肝心な時にはいなかった様ですからな。さっさと学院に戻しましたよ」
肩をすくめる伯爵に、クロコダインは真顔で応じる。
「いや、そんな事はありません。ラ・ロシェールではフーケの作った岩人形に果敢に挑んでいましたし、アルビオンからの脱出時も彼の存在は欠かせないものでしたからな」
事実、礼拝堂からの脱出はギーシュとその使い魔の力が大いに役立っていた。
クロコダインも地中を脱出手段に用いるのは十八番であったが、地下港へと正確にトンネルを掘れる訳ではない。
その点、ヴェルダンデ謹製の脱出路は大変重宝されるものだった。
これだけだと使い魔だけの功績に思われがちだが、ジャイアント・モールの特性を把握し、トンネルの落盤防止に所々を青銅で補強したギーシュも地味に任務に貢献しているのだ。
「そうですか。その言葉を聞けばきっと奴も喜ぶでしょう」
笑顔で答えるグラモン伯爵は、その表情のまま付け足した。
「ですが言う必要はありません。つけあがりますからな、最近のガキは」
ヴァリエール公爵夫人ほどではないが、割とスパルタンな教育方針であるらしい。
「それにしても、何かご用の向きがあるのではないのですか?」
と、これは今までなし崩し的に姉の助手のようになっていたルイズの質問だ。
「ああ、古い友人に公爵家令嬢の様子を見に行け但し俺の娘に手を出したら殺すマジ殺すと言われてましてね」
元気そうで何よりと笑う伯爵に、ルイズとエレオノールはすいませんスイマセンと頭を下げ、クロコダインは大声で笑うのだった。
近来稀にみる速度で仕事を終わらせたマザリーニが隠し部屋を訪れたのは、昼を些か過ぎた頃合いである。
(今回の『大掃除』が終わったら仕事を押しつけられる後継者を育成しなければ)
そんな決意を新たにしながら扉をノック、返事の後に部屋を覗いた彼の目に飛び込んできたのは夥しい数の刀剣類であった。
小は掌に納まる程のナイフから、大は3メイルは優にあるハルバートまでが無造作に床に転がっている。
「おう、早かったじゃねぇか。って手ぶらかよ、なんか手土産とかねえのか。メシとかメシとか、あとメシとか」
まるで部屋の主の様に声をかけるのはグラモン伯爵だ。いつもの事なのでいつもの様にスルーする。
クロコダインとヴァリエール家令嬢2人に一礼すると、マザリーニは残りの1人に声をかけてみた。
「一日来ないだけで素晴らしい部屋の惨状ですな。申し開きがあるなら聞きましょうか犯人」
「あっ、てめえなに人を武器マニアの散らかし屋扱いしてやがんだ! 謝罪と賠償請求すんぞコラ」
「訂正要求がない辺りで語るに落ちているのを自覚して下さい犯人」
社交用の仮面をノータイムでかなぐり捨てた伯爵にルイズとエレオノールは目を丸くしている。
「調べ物の一環とその結果、といったところですかな」
とフォローを入れたのはクロコダインだった。
ガンダールヴの能力は「あらゆる武器を使いこなす」ものだと言われている。
それは剣が得手ではないクロコダインがデルフリンガーを扱えている事からも明らかだった。そこで剣以外のものにも有効なのかと疑問を口にしたのがグラモン伯爵だ。
エレオノールとしては調査に横槍が入った形であるが、ガンダールヴの能力はこの後訪ねようとした事柄の一つであった。
更に伯爵とエレオノールは同レベルの土メイジであったが、こと武器というものに関しては彼に一日の長がある。
「成る程、そういう理由でしたか」
様々な材質の刀剣類を見渡して、マザリーニは納得の表情を浮かべた。
「それで有意義な結果は得られたのですか?」
「応よ。やっぱ馬鹿にしたもんじゃねえんだな、伝説ってのは」
グラモン伯爵の視線の先には、床に突き刺さった剣がある。
正確に言えば刺さっているのは刀身のみで、それも半ばから消失していた。
「そいつは鉄製なんだがな、同じく鉄製の短剣でスッパリ斬れやがった」
なかなか出来ることじゃねえや、と伯爵は感心しきりの様子だ。
エレオノールからすると、クロコダインは右手の指2本で短剣を挟み、無造作に横に薙いだだけにしか見えなかった。
無論クロコダインの技量の高さはあるのだが、それにしたところで指先に挟むしかない大きさの短剣を使い慣れているとは思えない。
ガンダールヴのルーン効果と考えて間違いはないだろう。
「どうよ」と胸を張るグラモン伯爵にはいはい偉いですねとおざなりな賞賛を送った後で、偉いからさっさと武器を片づけて下さいと告げるマザリーニだった。
ぶつぶつ言いながら刀剣類を真鍮製の薔薇に戻す伯爵を尻目に、エレオノールはマザリーニを交え調査を続行する。
「で、俺っちに聞きたい事があるって訳か」
どこか機嫌良さげにそう言ったのはインテリジェンス・ソードのデルフリンガーだった。
アルビオンの戦いではクロコダインに振るわれる事こそなかったものの、その魔法吸収能力などで勝利に貢献している。
その中でエレオノールが特に注目したのは、デルフリンガーがルイズを虚無の担い手と看破した件だった。
聞けばクロコダインの事も当初から
『使い手』と呼んでいたという。
あくまで自称ではあるが6000年も前に作られたというのは、ルイズはおろか前所有者であるオールド・オスマンですら眉に唾を塗るくらいの与太話だとばかり思っていたのだが、ここへきて俄然真実味が湧いてきた。
始祖ブリミルがこのおしゃべりな剣に関与しているならば、その能力にも納得がいく。
次期教皇候補であったマザリーニや始祖の業績を研究しているエレオノールにとっては、家屋敷を売り払ってでも手に入れたい、恐ろしく価値のある一品であった。
賭けチェスのカタにしたという武器屋の店主が聞けば血の涙を流していたかもしれない。
他方、「伝説の剣」という扱いで学院の宝物庫に放り込んでいたオスマンや、『神隠しの杖』と共にデルフリンガーを盗み出したフーケは結果的に見る目があったと言えるだろう。
実際には、両名ともこの剣に全く価値を見出していなかったのだが。
ともかく、これで伝説の彼方にあった始祖や使い魔たちの事が明らかになるかもしれないわけで、関係者が興奮するのは無理もない話だった。
ところが。
「それで、貴方を作ったのは始祖ブリミルだったのですか?」
「あー、どうだったかな……。その辺ちっと記憶が曖昧でなあ」
「では始祖に近しい他の誰かが作った可能性もあるの?」
「姉ちゃんだって生まれた時の事なんざ覚えてなかろ? ま、ガンダールヴの為に作られたのは間違いないんだがよ」
「始祖と会った事はあるのよね?」
「ああ、あるぜ。あんま覚えてないけど」
「彼の編み出した五系統魔法についてお聞きしても宜しいですかな」
「だからあんま覚えてないんだって……。なんでかね、嫌いな野菜とかは覚えてんのにな」
一事が万事こんな調子で、期待したほどの結果は得られなかったのである。
考えてみれば、幾らインテリジェンス・ソードとはいえ6000年前からの事を逐一覚えている訳もない。
そもそもクロコダインの手に渡った当初は、彼が『使い手』なのは判るのに『使い手』が何か思い出せないという状態だった訳で、それを考えれば記憶障害が回復しつつあるのかもしれない。
それに関してルイズやクロコダインに話を聞くと、どうもデルフリンガーは使い手の危機的状況に応じて、その都度自分の能力や必要な知識を『思い出している』傾向があるのが判った。
記憶の欠落があるのを考えれば魔法吸収や刀身の擬態化以外にも何か能力が隠されている可能性はあるが、だからといって人為的に彼らを危機に陥れる訳にもいかない。
それが妹の、親友の娘の使い魔となれば尚更だ。
それでも流石にガンダールヴの能力については色々な事が判明した。
能力が『心の震え』、つまり使い手の感情によって左右される事。
心の震えが大きいほど強い力を発揮できるが、その分持続時間は短くなる事。
これに関しては対ワルド戦においてクロコダインがその身を持って実証しているのだが、主からはお小言がでた。
あの時クロコダインは全くその様な素振りを見せていなかったのだが、ルイズ的にはそういう時はちゃんと不調である事を教えて欲しかったりするのである。
これは裏返すと使い魔のコンディションを見抜けなかったという自責の念からきている訳だが、実にわかりにくい事この上ない。
もっともかつてのパーティメンバーや同僚にも自分の感情を上手く出せなかったり、目的の為にあえて感情を偽ったりする者がいたので、クロコダインにとっては微笑ましい類の事ではあった。
話がそれたが、他にもガンダールヴは主が虚無魔法を詠唱している間だけ護衛できればいいという、ある意味で博打めいた能力設定になっている事なども判った。
詠唱時間こそ長いが、発動さえしてしまえば問答無用でカタがつくと考えれば、極端なコンセプトでも何とかなるのかもしれない。
現在判明している虚無魔法は『解除』ただ1つであるが、それでも有効範囲はニューカッスル城全体を覆っていたという。
更に恐るべき事に、ルイズは範囲内にある全ての魔法を認識し、なおかつワルド単体にのみ『解除』効果を適用させていた。
やろうと思えば範囲内全ての魔法効果を無効に出来たというのだから、専攻は違えど始祖の研究者たる2人が複雑な面持ちでため息をつくのも無理からぬ話である。
門外漢のグラモン元帥ですら、後日「ほら、ガキの時分に『火・水・風・土系統全てを融合させた極大超魔法』とか考えた事あるだろ。ぶっちゃけアレよりひでえ」と漏らした程だ。
ここまでくるとすぐにでもこの目で確認したいと思うのが普通であるが、残念ながらそういう訳にもいかなかった。
まだここに来ていない人物が、後で盛大に文句を言うのが目に見えていたからである。
その人物、つまりはヴァリエール公爵が現れたのは夕刻を少し過ぎた頃だ。
傍らにはオスマン学院長がおり、更にその後ろには夕食を持った数体のゴーレムが続いていた。
「すまない、遅くなってしまった」
遅参を詫びながら、公爵はマザリーニ及びグラモン元帥に視線を送る。
意味合いとしては、(私のいない間に小さな可愛いルイズの魔法を拝んだりはしていないだろうな? もししてたら決闘)というようなものだ。
対して友人たちは至って真面目な表情で視線を返した。
(うわめんどくせえ。あんま親馬鹿をこじらせるんじゃねえよバカ)
(そう言うと思って待ってましたよ。貸し1ですから今度また例の店で肉料理奢るように。有効期限は1年間です)
長い付き合いなだけあって、アイコンタクトでここまで意志疎通出来るのだが、当人たちは別に嬉しくもなかった。
もっとも、公爵としては末娘の魔法について10年以上も思い悩んでいた訳で、それが(予想外の形ではあるが)解消されたのだから一番に見たいと考えるのは無理もない話である。
ルイズが内外から言いたい様に言われ続け、それでも折れる事なく努力を続けていたのを知っているからこそでもあったが。
そんな外には漏れぬやりとりの後、ヴァリエール公爵は懐から2つの小瓶を取り出しテーブルに置いた。
同時にオールド・オスマンが大切に抱えていた『始祖のオルゴール』をルイズに差し出す。
「あの、なんでしょうか学院長」
「何って、呪文唱えるのに必要じゃろ」
聞いた話では、ルイズは『解除』を一度しか唱えていない。また他の系統魔法と比べ虚無魔法はスペルが長く、詠唱に時間がかかるようだった。
それもあって、オスマンはオルゴールのサポートがあった方が良いと考えたのだ。
「いえ、呪文ならもう覚えてます」
戸惑いながら答えるルイズに、大人たちは「ほぅ」と関心の表情を浮かべた。
それほど表には出していないが、公爵とエレオノールも内心ではかなり鼻が高くなっている。
自分だけでなく使い魔や学友、隣国の王族の命がかかった場面で、しかも敵は操られた婚約者という精神的に追いつめられた状況下での事だ。
よもやスペルを暗記しているとは思いも寄らなかった。
「それでは始めるとしましょう。ルイズ嬢、その小瓶の中には魔法薬が入っています。向かって右の小瓶だけに『解除』をかけて頂きたい」
マザリーニの言葉に、ルイズはコクリと頷き杖を掲げた。
神経を集中させると、自然と呪文が脳裏に浮かび上がる。
スペルを口にするにつれ自分の体内に一定のリズムが生じ、同時に感覚が研ぎ澄まされていくのが判った。
テーブルの小瓶だけではなく父や姉の持った杖やデルフリンガー、グレイトアックスなどのマジックアイテム、また隠し部屋だけではなく上の城内にまで認識は広がっていく。
今回はそこまで感じとる必要はないので敢えて目の前の小瓶に集中し、ルイズは最後の一節を唱え、杖を降り下ろした。
なるほど、これが虚無魔法か。
グラモン元帥は感心しながらも、どこか冷静に一部始終を捉えていた。
というのも、他の面子の大半がいい感じに感極まっているので、自然と冷静になってしまうのである。
マザリーニはブリミル教の信徒として、絶えたと考えられていた虚無魔法を目の当たりにしたのだから、感動するのは当然と言えるだろう。
オールド・オスマンはお世辞にも熱心なブリミル教徒とは言えなかったが、長い間魔法研究と指導、メイジ育成に関わってきていた。
またルイズは無論の事、その姉や、父親ですらがかつての教え子であり、彼らの苦悩や努力も知り得る立場にある。ルイズの魔法成功に感情を動かされるのも無理はない話だった。
エレオノールやヴァリエール公爵に至っては語るまでもない。ただ涙を堪えるのに必死といった風情だ。
クロコダインはこの中で一番ルイズとの付き合いが短いのだが、フーケ戦と今回のアルビオン行を経た今では主と使い魔以上の繋がりで結ばれている。
ルイズの虚無魔法を見るのは二回目とはいえ元より見かけによらず涙もろい彼の事、主の内心を慮んじてその隻眼に涙を浮かべるのも止むなしと言ったところだった。
そんな訳で、『皆が酔っぱらってしまったので冷静にならざるを得ない下戸』状態の元帥は、仕方ねえなあと内心でぼやきつつ小瓶に『ディテクト・マジック』をかける。
結果、指定された右の小瓶のみが探知魔法に反応しない事が判明した。魔法薬が完全に無効化され、只の水になっていたのである。
成功を告げられたルイズは、ほっと胸をなで下ろした。
あの時と同じように体内に独特のリズムが生まれていたし、スペルも一言一句間違えなかった。
しかしギャラリーがギャラリーだけに、緊張を強いられていたのは、まあ無理からぬ話ではあったのだった。
ともあれ上手くいって良かったと思った瞬間、彼女は父親に抱きしめられていた。
「と、ととと父様!?」
驚くルイズの声が聞こえているのかいないのか、謹厳でしられる公爵はお構いなしに末娘の小柄な体を抱き、その耳元に話しかける。
「良かった、よくやったなルイズ……! ついにこれまでの努力が実ったのだな……!」
流石は私とカリーヌの子だ、と手放しに喜ぶ父の言葉に、ルイズの涙腺が緩む。
「……はい、はい父様、ありがとうございます……っ」
これまで魔法が使えない事で家族から疎まれてきたのではないかという恐怖に、ルイズは常に晒されてきた。
だが、そんな長年の懸念は公爵の行動によって一瞬のうちに解消された。
ルイズは鳶色の瞳にいっぱいの涙を溜めながら、真夏に咲く花のような笑みを浮かべたのだった。
さて、そんなこんなで虚無魔法の実演は終了した。
ここで終われば感動的な話として美しい思い出になったのだろうが、そう上手く運ばないのが人生というものである。
続けて細かい条件を変えての『解除』をしたり、同時に複数の対象を『解除』できるか試したりとしていた訳だが、問題はこの後に起こった。
虚無という特殊極まりない属性とはいえ、系統魔法に目覚めたのだから他属性も使えるのではという推論をエレオノールが主張したのである。
確かにメイジは自分の属性以外の系統魔法も使う事ができる。無論属性外故、威力や効果は落ちる訳だが。
で、うきうき気分でルイズが小瓶に『練金』をかけたところ、ものの見事に失敗してテーブルごとずどんと爆発したのである。
「え、えええ? ななななんでどどうして」
これまでがトントン拍子に上手くいっていた為、ルイズの動揺もいつもより大きくなっていた。
あわあわと両手を上下させパニックになるルイズをクロコダインがやんわりと宥める。
その後ろではヴァリエール公爵が、難しい顔で友人と長女に尋ねていた。
「どう思う?」
「正直なところ、サンプルが少なすぎて何とも。しかし伝承では虚無を含めた5つの系統魔法は始祖が編み出したものとされています」
「当然始祖ブリミルはその全てを使いこなしていた筈なのですが……」
ふむ、と公爵は腕組みを解く。
「ミス・ヴァリエール。ひょっとしたら土系統の魔法は相性が良くないのかもしれぬ。違う系統魔法も試してみてはどうかの」
そう提案したのはオールド・オスマンであった。
確かに火系統の術者は水系統の魔法を苦手とする様に、属性と逆の系統は扱いにくい例がある。
それでは、と各系統のドットスペルを唱えてみたルイズであったが、結果は全て爆発というこれまで通りの現象を引き起こしていた。
しかし、駄目で元々とコモン・スペルを唱えてみた所、これが予想に反し爆発などせず見事に成功したのである。
『火竜山脈の天気とタニアっ子の流行』とはトリステインの格言で『変化がめまぐるしい』という意味だが、この時のルイズは正にそんな感じだった。
動揺していたのはどこへやら、ロック、アンロック、ロック、アンロックと繰り返しつつ、扉に向かってエヘヘヘヘヘ、と笑う彼女にエレオノールが「やめなさい、みっともない!」と制止するが、まあ気持ちは判らないでもない。
「虚無以外の系統魔法は全滅だが、コモン・マジックは成功する様になった、か」
「これまでは成功率0だった訳ですから、大きな進歩と言えなくもありませんな」
「使えるようになった理由はマジさっぱりだけどな」
「ところでそろそろ酒とか入れたくなってきたんじゃがの、わし」
真面目にやる気あんのか、と突っ込む元教え子たちに学院長は体育座りでこれみよがしにいじけてみせる。
いいじゃないか少しくらいボケても、真面目に考察とかして疲れんのかお前等、などとぶつくさ呟いているがいつものように総スルーであった。
一応この老人、トリステインでも有数のメイジなのだが。
「まあなんじゃ、自分の系統に目覚めた事によって精神的に何らかの『パス』が開いたのか、あるいはこれまでは力みすぎていて魔力が暴走していたのが成功体験によって落ち着いたというとこじゃろ、多分」
もっともさらりと的を射た指摘をしてみせるあたり、この老人油断がならない。
最初からそうしろという公爵・元帥・枢機卿の言葉は、当然いつものようにスルーされた。
コモン・マジックが成功したところでこの日の集まりはお開きとなったが、それで全て終わった訳ではない。
精神力の回復をしつつ、ルイズは様々な検証をする事となった。
検証は主にエレオノールが担当し、開いた時間にマザリーニや公爵が加わる形で行われ、たまに物見遊山気分の学院長や元帥が加わる場合もあった。
その間に『大掃除』の準備が着々と進んでいたり、娘から事情を聞き出したマリアンヌが密かにマザリーニに難題をふっかけたりしていたのだが、客人扱いのルイズにそんな事は知ろう由もない。
結局彼女が使い魔と共に学院へ戻れたのは、アルビオンを脱出してから丁度1週間が過ぎた頃になったのだった。
これにて投下終了です。前回感想ありがとうございました。
長らく投下できず、本当に申し訳ありません。
ヤマグチノボル先生の手術成功と快癒を、心から祈っています。
乙、待ってたぜ。
投下乙です、待ってましたよオッサン4人組
この世界で出てきそうな、場違いとまで言われるようなモノって何だろ
ダイ大世界って、突然ゲームのドラクエなアイテムが出たりするからなー。
気球とかどうよ?
524 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/18(月) 01:35:05.69 ID:PrUnt845
お帰りなさい、待っていた甲斐がありました。
>522
ん〜〜、意表をついてエクスカリパーとか?
>>522 金ぴか列車…あれは天使以外は見えなかったなw
このスレのタイトルをみて、まっさきにクロコダインを想像したけど、
やっぱり似たようなことを考えた人はすでにいたわけかw
ルイズ「洗濯もまともにできないの!この馬鹿犬!」
クロコダイン「俺は犬じゃない」
ルイズ「うるさい!うるさい!うるさーい!この馬鹿犬!!」
クロコダイン「だから俺は犬じゃない」
ルイズ「洗濯もまともにできない馬鹿犬のくせに、口答えだけは一人前ね!」
クロコダイン「…」
528 :
レグルス:2011/07/19(火) 00:06:23.41 ID:y7r6a5da
過疎ってたけど、ようやく更新。
ゼロの剣士の方は、著者様の生存報告がなかったので、心配ですが……。
とにかく、虚無と獣王が五ヶ月ぶりに更新されて良かった。
529 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/07/19(火) 17:14:15.82 ID:XIk2u6qP
死ぬ死ぬ詐欺のヒュンケルが1番使い勝手が悪いな
ネット上の知り合いで震災以来未だに連絡つかない人もいるから、
震災挟んで書き込みのない作者さんは本気で気になるよ。
一言だけでもいいから書きこんで欲しい。
>>523 気球はゼロ魔世界じゃ誰得アイテムとか思われるんだろうなw
コルベールあたりが見たら狂喜しそうだけど
飛行船くらいまで行きゃコスト的に有用じゃね
推進風石にしても船より少なくてすむだろうし、
強度的な問題は固定化あるからずいぶん軽減されるわけだし
でも確かアニメで出てなかったっけ?
534 :
533:2011/08/02(火) 23:53:02.61 ID:ZAI+iYcU
↑失礼、気球がってことです。
ほしゅ
保守
保守
ほっしゃんほほほ
539 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/09/11(日) 17:06:45.01 ID:yQ0oOqhg
保守age
ダイの大冒険とのクロスで才人も共演させた場合、ポップと案外話が合いそうな気がする。
どっちも平均以上にスケベだし。
マトリフの本で、才人が魔法使いとしての修行つまされるとか面白そうだ。
541 :
イケメン川端聖様(27歳):2011/09/11(日) 23:41:54.93 ID:CvNEK92o
オタッキーすぎてついていけないわw
つーか9月1日は何の日だったかわかるよなw
世界のリーダー美形美声パーフェクトボディの持ち主俺様の誕生日w
俺様凄すぎるw
美少年のブリーフ被りてーw
2ヶ月亀レスで申し訳ないけど獣王来たのか
久々にまとめて読んでくる
保守
保守&マダー?
保守
ザボエラって薬物で洗脳とかなんとか、生きたアンドバリの指輪だよな
どんな薬使おうともドラクエ世界だと場合によってはキアリーでどうにかならんかね
実際ポップがザボエラに何打たれたかわからないはずなのに
マトリフさんがキアリー一つでなんとかしてくれたしな
ドラクエ界にはリアル神が居るから、その力が異世界に及ぶかどうかだなあ
ドラクエ世界だと麻痺にはキアリクだから・・・・・・
麻痺を起こす毒はキアリーで対応できるがヒートブレス等はキアリーじゃ無理?
ザメハ「キアリクの野郎…」
「ねむり」はそのうち直るけど、「まひ」は治らないからなー。
キアリクを覚えにくい最近のシリーズだと本気で一番やばい。
「まひ」も戦闘終わってしばらく歩いてたら治らなかったか?
毒消し以外で治らないのが「どく」ってことか
戦闘中は治らないのがやばい。パーティー全員マヒるとそこで終わる。
ドラクエのソロプレイ縛り最大の敵だったな<マヒ
あっちで書くと迷惑になるからこちらで
獣王の人お疲れ様です
続き楽しみにしてます
保守
お久しぶりです
問題なければ23:45頃から投下開始します
虚無と獣王
38 虚無と学友
ルイズとクロコダインが学院に戻るのに1週間を要したのには理由がある。
虚無魔法の研究は勿論だが、他にもやるべき事が色々とあったからだ。
中でも一番やっかいだったのが、クロコダインの鎧の修復に関してである。
怪我は癒せるし、服は着替えればすむ。しかし鎧はそうもいかない。
彼が召喚された際にハルキゲニアへと持ち込めた数少ないもののひとつがこの鎧であったが、当然その辺の店で売っている様な代物ではなかった。
幸いというべきか、この世界にはクロコダインがいた世界には存在しない魔法があった。土系魔法の初歩、『錬金』である。
術者の実力にもよるが自在に物体の形状・性質を変化させるこの魔法は、修復には最適といえた。この場合は修復というより新造といった方が正確だが。
今回の件において、土メイジの協力者にはルイズの姉エレオノールやグラモン元帥がおり、しかもこの2人は数少ないスクウェア・メイジだった。
彼らの腕をもってすればものの数分で鎧を一から造り起こせる。ただし、それは元のデザインを知っていればの話だ。
クロコダインは今年召喚された使い魔の中では最も目立った存在で、学生たちもその姿をよく目にしている。
学院に戻った際、それまでと全く違う鎧を身につけていては、いらぬ勘繰りを受ける可能性があった。
で、着用者のクロコダインにどんな鎧だったか質問した土メイジ2名であったが、生憎この獣人は絵を描くという習慣が全くない生活を送ってきていた。
そんな者が上手く説明できる筈もなく、グラモン元帥はどうしたものかと頭を抱える。
一方エレオノールは打開策を打ち出した。使い魔が駄目なら召喚主に聞けばいいとばかり、ルイズにクロコダインがどんな鎧を身につけていたか尋ねたのだ。
確かにルイズはハルケギニアにおいて、一番クロコダインの近くにいた人物である。
更に自慢の使い魔であるが故に彼がどんなものを身に纏っていたか克明に記憶していた。
── しかし、記憶しているものを正確にアウトプットできる訳ではない。
大変残念なことに、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに絵心はなかった。
『こんな感じです、姉様』とドヤ顔で差し出された再現イラストを見てエレオノールは頭を抱える。そこには名状し難い何かが描かれていた。
当然、鎧の再現など夢のまた夢である。
考えて見れば公爵家の令嬢にイラスト技能などある訳がない。ソースは自分だ。
一応まだ城に残留していたキュルケやタバサにも確認してみたが、こちらも『ルイズよりはまし』といった感じの結果となった。
そもそもこの2人はさほど注意してクロコダインの鎧を観察などしていないのだから、無理も無い話ではある。
最終的に、一番先に学院へと帰還したギーシュが半ば拉致同然に城へと呼び出される事により事態は収束へと向かった。
自身の服のセンスこそアレなギーシュだが、実は造形力が非常に高いのである。ワルキューレなどはその最たる物と言えるだろう。
「正直あまり覚えていないのですが」と造花の薔薇の花弁を『錬金』で変化させたクロコダインのミニチュアは、誰が見ても及第点を与えるであろう出来だった。
それを参考にグラモン元帥らが鉄を素材に大まかな形を作り上げ、更にフィッティングなどの調整をし『固定化』と『硬化』をかける事でようやく完成したのである。
クロコダインは何もここまでと思っていたが、身を守るのに鎧は不可欠なのも事実であったので、結局ありがたく好意に甘える事にした。
ちなみに焼け焦げてしまった背のマントに関しては、耐刃・耐火性の高い繊維が使われたマントをヴァリエール公爵が贈っている。裏地には目立たないが公爵家の家紋も刺繍されていた。
これはクロコダインがヴァリエール家に連なる者として認められたという意味を含んでいる。使い魔としては異例の事と言えよう。
うひょー
まってたホイ
「おかえりなさいませ」
極力目立たぬように、と夜も更けてから魔法学院の女子寮に戻ったルイズを迎えたのは、メイドのシエスタだった。
「ただいま、シエスタ。でも、よく私が戻ってきたのがわかったわね?」
「学院長から教えて頂きましたから。お姉さまのお具合は良くなられたのですか?」
情報元はオールド・オスマンだったらしい。
ちなみに姉云々は今回の任務をごまかす為にオスマンらがでっちあげた、ルイズの欠席理由である。
「おかげさまでね。まあ『体の調子が良くない』というのもあるんだけど、本当の所はクロコダインと逢ってみたかったみたいなの」
「あら」
ルイズの返答は前持って準備されていたものだが、完全に嘘という訳ではない。
城に滞在中、ヴァリエール家の伝書フクロウが下の姉であるカトレアの手紙を届けていたのだが、そこには優しい筆跡で頼もしい使い魔さんを紹介してね、との一文が記されていた。
いずれ夏期休暇にでも帰省しなければなるまい。
そんな事を思いながら、ルイズは寝間着に着替えコインすら弾きそうなくらい完璧にメイキングされたベッドに腰掛ける。
「ね、私が休んでる間に何か変わったことあった?」
公爵家の一員とはいえ思春期の少女である。噂話が気になるのは当然の事だ。
んー、と考え込んだシエスタは、思いつくまま最近あった事を話し出す。
ルイズが帰省した同じ日に授業をさぼったミスタ・グラモンがしばらく後に帰ってきて、ミス・モンモランシに水魔法喰らっていた事。
ミス・ロングビルがいなくなって秘書職代理を強引に押しつけられていたコルベール教師の残り少ない髪資源がピンチな事。
何日か前に再び授業をさぼったミスタ・グラモンが翌日帰ってきたが、またミス・モンモランシに以下略。
日差しが強くなってきたせいか、メイドたちの間でサウナじゃなくて湯に浸かってみたいという欲求が溜まりつつある事。
まあ総じて変わりはなかったです、という結論に、ルイズは「そう」と答えた。
実を言えば、内心ではほっと胸をなで下ろしているのだが。
ひょっとしたら自分のアルビオン行きが噂になってはいないかと危惧していたのだが、話を聞く限りでは大丈夫な様だ。
しかし、メイドたちにまで噂が広がっていないだけという可能性もあるので、油断は禁物だと考え直す。
「とりあえず、今日はもう休むわね。シエスタもお疲れさま。遅くに悪かったわね」
「いえ、お気遣いなく」
律儀に一礼して退室するシエスタを見送って、ルイズは眠りにつくのだった。
翌朝、ルイズは食堂に顔を出した。随分久しぶりに感じるが、実際には二週間弱しか経っていない。感覚的には一ヶ月以上離れていた気すらするのだが。
ふと周囲を見渡せば、眠そうにしているキュルケやこんな時も本を手放さないタバサがこちらに手を振っている。
彼女たちはルイズよりも先に学院に戻ってきているのだが、特に変わりはない様だ。
キュルケに対してはおざなりに、タバサに対してはしっかりと手を振り返し、ルイズは自分の席に着いた。
周囲を見渡せば同級生たちが自分と同じように集まりつつある。
ギーシュはシエスタに聞いたような魔法攻撃を喰らったとは思えない、普段と変わりない姿をしていた。多分攻撃を喰らわせた犯人自らが治療したのであろう。
俗に言うところの犬も食べない何とやらで、周りの席の男子学生たちは
「ち、まだ生きてやがる」
「よそでやれよ。畜生、見せつけやがって」
「当たり障りのない様に直接表現避けるけど、ぴねばいいのに」
「もっと! もっと水の鞭を!」
と好き勝手な感想を隠そうともしなかった。そのせいか、彼の表情は些か以上に煤けていたが。
他、ギムリやレイナールがルイズを見て、お、という顔をしたり軽く挨拶してくる。
詰まる所、平常運転なのだなと実感しつつ、ルイズは運ばれてきた前菜に取りかかるのだった。
一方クロコダインは厩舎で数時間ほど仮眠した後、アルビオンに行く前の様に敷地内の巡回をしていた。
不眠番の衛兵には帰ってきた時に挨拶している。彼らはフーケの事件以降、共に巡回している教師と一緒に笑顔で迎えてくれていた。
厨房の裏手へ向かうと、既に朝食の準備が始まっている様で、慌ただしく人が動く気配がしている。
もっとも厨房内に用がある訳ではない。そもそも手伝おうと思っても出来る事がない。
クロコダインがここへ来たのは、薪を割るのが目的であった。
厨房には火の魔法を利用したオーブンなどもあるが、基本的には薪を使用している。使用人たちが使うサウナもそうだ。
クロコダインは召還されてから、この薪割りが日課となっていた。
普通の人間にとっては結構な重労働だが、この獣人にとってはいかほどのものでもない。
むしろ微妙な力加減を習得するのに重宝していた。
そんな訳で、日課を果たすべく腰に下げていた手斧を握りしめると、勝手口からマルトー料理長が顔を出した。
「おお、久しぶりだな『我らが斧』! 」
「ああ、全くだ。しかしその呼び名はそろそろ勘弁してくれないか」
苦笑混じりの訴えは今回も軽くスルーされる。
「朝飯はまだかい?」
「ああ、一仕事してからと思ってな」
マルトーは積み上げられた薪を一瞥した。
「ち、またサボってやがるな、当番の奴。アンタが来てから楽を覚えやがっていけねえ」
偏屈だが腕の良い料理長は、仕方ねえとつぶやく。
「悪いが頼むぜ、『我らが斧』。薪割ってる間にこっちも一仕事してくるからよ」
「それはこっちの台詞だ。後、できたら他の使い魔たちの分も頼みたい」
「勿論だ。あの喰いっちろの白いのもいるんだろ?」
言わずと知れたシルフィードの事である。
腕まくりをして厨房へ戻るマルトーの背中を見送って、クロコダインは薪の山を崩すべく、あらためて斧を握りしめた。
午前最初の授業はコルベールが担当していた。
彼は慣れない事務仕事のせいでギーシュとは違う意味で精神的に消耗していたが、それを表に出さないのは年の功と言うべきだろうか。
ストレス解消という訳ではないが、先日多忙を縫って作り上げた『魔法を使わずに動く蛇くん』を授業中に披露したのだが、想像以上に生徒たちには不評だった。
おまけに学院長には「まじめに仕事せい」と自分の事を棚に上げまくったお叱りを受けた挙げ句、事務仕事を更に押しつけられる始末である。
そんな事もあって「脱線は控えめにしよう」と誓う彼だったが、教室にルイズとクロコダインの姿を見つけ、思わず安堵の溜息がこぼれた。
コルベールは学院長を除き、ルイズたちの任務を知る唯一の教師である。
仮に自分が『現役』時代であっても、達成は困難と思われる任務を果たした彼女たちを見る目が柔らかくなるのは当然と言えた。
「さて、欠席者はいない様ですな。では授業を始めましょう。今日は『火』の力が『風』に与える影響について……」
休み時間、ルイズの元に一人の女学生が訪れた。
「久しぶりね、ルイズ」
「そうね、モンモランシー。何か用かしら」
軽く首を傾げて訪ねるルイズにモンモランシーは薄い(けれどルイズよりは存在感のある)胸を張って答える。
「単刀直入に聞くけれど、貴女がここのところ休んでいたのは、体調を崩された家族のお見舞いなのよね?」
「よく知ってるわね、その通りよ。その後お父様と一緒に王城にも行ったけれど」
ルイズがこう告げたのは、自分の姿がトリスタニアの城で目撃されているからだ。下手に嘘をついて後から追求されるよりは、自分から真実を明かしておいた方が良いと考えたのである。
もっとも全てを明かすつもりは毛頭ないのだが。
一方モンモランシーはルイズの言葉を聞いて、一度は消した疑念が再浮上してくるのを感じていた。
即ち、ルイズとギーシュがいい仲なのではないかと思ったのである。
城へ行ったのは結婚を前提にして互いの家族同士で会うためとか、そういうんじゃないの!? という訳だ。
勿論事実とはかけ離れているのだが、そんな事は知る由もない。
「あ、あら、そうなの。じゃあ一体何をしに行ったのかしら」
「一応コモン魔法が使えるようになったからその報告と、社交界デビューの打ち合わせね」
これはルイズが前もって用意しておいた理由だが、まあ嘘はついていない。
「ルイズ、貴女魔法が使えるようになったの!?」
これにはモンモランシーだけでなく、それとなく聞き耳を立てていた周囲の学生たちもどよめいた。
何せ相手は『ゼロ』のルイズである。良くも悪くも注目を集める存在なのだ。
「すごいじゃない、いつ判ったの?」
「あ、でもサモン・サーヴァントは使えてたんだからそれからなのか」
「でもその後やっぱり失敗してなかったっけ」
「それで系統は何になったの?」
矢継ぎ早の質問を前に、ルイズは目の前で手を打ち鳴らした。
「一気に言われてもわからないわよ! とりあえず判ったのは10日位前で、使えるのはコモン・マジック。4系統魔法は相変わらず使えないわ」
これも嘘ではない。土・水・火・風の系統魔法はこれまでの様に失敗してしまうのは確かだ。
使えるのはコモン・マジックと5番目、もしくは0番目と称される虚無魔法である。
失われたとされて久しい為、昨今は4系統魔法と考えられているのだが。
なるほどそうかと納得する同級生たちの中、ひとり質問を発する者がいた。
「それはそれとして、同時期にギーシュもお城へ行っているんだけど、それに関して一言」
発言者は言うまでもなくモンモランシーである。
約全員が「ブレがないにも程があるだろ」と思ったが口には出さなかった。
一方「私にも選ぶ権利がある」と喉元くらいまで出そうになったが、賢明にも堪えるルイズである。
「王城がどれだけ広いと思ってるの……。顔を会わす機会なんてなかったわ」
モンモランシーとしては自分でも気にし過ぎだと思わないでもないのだが気になるのだから仕方がない。
むしろ恋する乙女としてはこれくらい当然でありそうよ全部わたしに心配かけるギーシュが悪いのよという結論で終了した。
しかしまあルイズも嘘をついている様子はないし大丈夫かと胸をなで下ろした彼女であったが、「あ、でも噂にはなってたわね」と思い出した様にルイズが言うので再び心配が顔を出す。
「一応聞くけどどんな噂だったの?」
「なんかグラモン伯爵や学院長と一緒に『30分間でどれだけメイドのスカートの中が覗けるか勝負』に挑んで優勝したとかなんとか」
間髪入れずに教室内で突如水竜巻が発生し、噂の主である『青銅』の二つ名を持つ少年と、巻き込まれた変態系男子学生が
「違う、誤解だよモンモランシー! 僕は準優勝だったんだ!」
「冷たい水で身体全体をかき回される新・感・覚! これはこれで癖に! ああ、癖に!」
などと声を挙げていたが、一同はもれなくスルーしたという。
「ひどいじゃないか、ルイズ……。あんな根も葉もない噂を流すなんて、本気で死を覚悟したじゃないか……。ヴァリエール公爵家の娘としてあるまじき行為だとは思わないのかい……」
夕食後、くたびれた様子で恨み言をぶつけてきたのは、言わずと知れたギーシュ・ド・グラモンであった。
黙っていれば美形という評価の少年は、今日一日で3回程物理的に『水も滴るいい男』となっていたので、くたびれるのは無理もない話である。
「自業自得でしょ」
「自業自得よね」
「自業自得」
そう返したのはルイズ、キュルケ、タバサだった。
「君たちは血も涙もないのかね戦友に対して!?」
ヴェストリの広場でがっくりと膝をつくギーシュに、しかし戦友たちの反応は冷たい。
「そもそも根も葉もないなんて、それこそ大嘘じゃないの」
「何なら暖めてあげよっか? フレイム・ボールとかで」
「……エア・ハンマー」
僕が悪うございました、とギーシュは東方式と呼ばれる謝罪の型を取った。
正座して頭を地に付けるくらいまで下げるという、この一風変わった謝罪方法は、シエスタが同僚やルイズに世間話として伝えたものが学院に広がったという経緯がある。
ちなみにシエスタは曾祖父からこの『ドゲーザ』もしくは「ドゥゲイザ」を教わったとの事だった。
さておき、やや呆れ顔のクロコダインが仲裁するまでギーシュの謝罪の儀は続いたのだが、終わるのを見計らった様に現れたのがマルコリヌとギムリである。
メイジには珍しい肉体派を自他共に認めるギムリはともかく、ギーシュと同じ数の水魔法攻撃を受けているはずなのに元気一杯のマルコリヌは一体何なのか。
そんな疑問を持つルイズ達であったが、本人に尋ねる愚は犯さなかった。面倒な嗜好が出て面倒になるのが判りきっていたからだ。
「久しぶりだな、変わりはないか」
「そんなに長い間ここを留守にしていた訳じゃないだろ? ま、クロコダインがいなくてもレイナールと自主練はしてたからな。ちょっとは成長してるかもしれないぜ?」
握った拳を軽くぶつけ合う2人に、会話を聞いていたルイズが訪ねる。
「そのレイナールはどうしたの? 一緒にいないなんて珍しいのね」
「そういつもいつもつるんでやしないって。なんか学院長に呼び出しくらってたから、それで遅れてるんじゃないか」
ギムリの言葉に一同は首を傾げた。
それなりに優等生として通っているレイナールが呼び出される理由が判らなかったからだ。
これがこの場にいる他の面子ならば話は判るのだが、と全員が同じ感想を抱いている。もちろんナチュラルに自分自身は除外している所も一緒だ。
「魔法失敗して学院の備品壊したとか」
「まさか、ルイズじゃあるまいし」
「無節操に女生徒をナンパしまくったとか」
「ギーシュと一緒にしちゃダメ」
「意表を突いて男子学生に色目使ったとか」
「意表突けばいいってもんじゃないでしょ、キュルケとは違うのよ」
「授業中に関係ない本を読みあさっていたとか」
「ありそうだけど、それタバサの専売特許よ」
「座学の成績が悪かったとか」
「そりゃギムリなら判るけど、レイナールだしなあ」
「オンナノコに踏まれてハァハァしてたくらいじゃ呼び出されたりしないよね? ね!?」
「踏まれてそんな反応するのはお前だけだよマルコリヌ! あと呼び出されるのは水メイジの先生の所だ、お脳の具合的に考えて!」
一同は揃って自分以外の学友を睨みつけた。
「……別に呼び出されからといって、必ず叱責される訳でもないだろう。用があったり、賞賛される場合もあるのではないか?」
咳払いと共にクロコダインがフォローを入れたため、メイジ・バトルロイヤルは未然に回避された。
「ま、まあそれもそうね。本人が来たら訊いてみましょう」
気を取り直したルイズがそう言ったところで、当のレイナールがひょっこり顔を出した。
「……ああ、みんな揃ってるみたいだね」
「応よ。というか、どうしたそんな疲れた顔して」
ギムリの疑問はもっともなもので、この時のレイナールは疲労感を隠しきれずにいるように見えた。
「まあ、ちょっと色々無理難題を押しつけられてね……。ちょっとその事について相談したいんだけど、いいかい?」
当然、否やはなかった。
「結論から言うと、近いうちに僕たちのこの活動が選択式の授業として取り入れられるんだそうだ」
『静寂』の魔法をかけた上で、車座になった一同にレイナールはそう切り出した。
「活動って、『魔法でインファイトしようぜ』会の事か」
「え、『いかにブレイドをかっこよく使うか』研究会ではないのかい」
「こう、『外には聞こえないナイショバナシ』っていいよネ! 想像力次第でなんだか無駄にゾクゾクするヨ!」
「3連続でお約束のボケをありがとう。僕が土メイジだったら速攻で埋めてるところさ」
さらりと怖いことを言うレイナールにルイズが質問する。
「理由は、アルビオンの一件が関係してるのかしら」
「ああ、王党派が貴族派に破れたのが遠因だろうね。王党派は全員討ち死にしたと聞いたよ」
首を縦に振るレイナールは、ルイズの表情に陰を見て取った。
ほぼ同時にキュルケも表情を歪ませていたのだが、一瞬でそれを消し去りルイズの頭の上によいしょと胸を乗せる。
「ああ、ちょうどいい位置に台があって助かったわ。結構重いのよ、肩こるし」
「決闘ね? ワタシ決闘を申し込まれてるのよね?」
「加勢する」
こう見えて、キュルケはルイズを落ち込ませないようフォローしているのである。全くもって素直な表現ではないが。
尤もそれが微乳カテゴリの2人に通じているかは定かではない。
男性陣はルイズの頭上でむにゅうと形を変える桃林檎に釘付けになっていたが、いち早く頭を振って話題を戻したのはレイナールだった。
他の3名は、視線を外すという選択肢が最初から備わっていなかった。
「トリステインがどう対応するかなんて判らないけど、少なくともアルビオンの貴族派が我が国に侵攻してくるのは想定に入れているだろう。
戦の要となるメイジの数を揃える為にも、学院にいる内から鍛えておこう、というのは間違いじゃないだろうね」
「それに関しては少し補足があるんだが、いいかな」
口元に薔薇の造花を当てながら口を挟んだのはギーシュである。
彼はまだ微妙にキュルケの桃林檎から目が離せていなかったが、「口外無用だよ」と前置きした上で父親から聞いたという話を披露した。
「貴族派、と言うかレコン・キスタは今回の戦いで手酷い打撃をうけたらしい。旗艦である『レキシントン』号を始めとして少なくない数のフネが沈んだそうだ」
だから態勢を立て直すまでは他国に戦争をふっかける余裕はないだろう、とグラモン元帥を含めた軍上層部は考えているとの事だった。
旗艦にレコン・キスタの代表である男さえ乗っていればもっと話は簡単だったのだが、残念ながら地上にいて難を逃れたらしい。
「だから今日明日のうちに僕らが徴兵される様な事はないだろう。ただ卒業後の事を考えると、今から備えておいて損はないだろうね」
補足を終えたギーシュにレイナールが黙礼する。
「成る程ねえ、そんな事情があったのか。つうか、レイナールはともかくギーシュが物を考えてる事実に驚いたぞ俺は」
「僕も驚いた。実は偽物なんじゃないかな」
「決闘かね、決闘申し込みなのかねそれは」
「ハハハ埋めるよ君らマジで」
ギムリ、マルコリヌ、ギーシュは揃ってレイナールにドゲーザを実行した。
「正式な授業と言うけど、選択式なんでしょ? ぶっちゃけ選ぶ人いるのかしらこんなの」
と身も蓋もない事を口にしたのはキュルケである。
「いや、僕みたいに実家の格式が低い貴族の子弟は割と参加してくると思うよ。あと次男・三男あたりは軍への入隊を希望するのも多いからね」
「実を言えば、何人かにこの集まりに混ぜて欲しいと言われた事がある」
レイナール、ギムリの反論にキュルケはふぅんと返した。元々彼女はトリステインの生まれではない。それほど興味も湧かないのだろう。
「そういえば、どの先生が教える事になるの?」
学院に格闘系の技能を持った教師っていたかしら、と首を傾げるルイズに、レイナールは乾いた笑いを浮かべた。
「学院長もそこで頭を悩ませていてね。候補としては、まあ、某風のスクエアメイジの先生が挙がってるんだけど」
一同は揃って嫌な顔になる。
彼が言っているのは学院の中でも若手のギトーという教師であったが、実力はともかくお世辞にもいい性格とは言えなかったからだ。
「まあ本人がそれを許諾するかは不透明だし、外部から特別教師を招く案もあるそうなんだけど……」
言葉を濁すレイナールだが、きっぱり話せという周囲の無言の圧力に屈したのか、重々しく口を開いた。
「最悪の場合、僕らが自分でカリキュラムを組んで実行しなきゃならないらしい。なんかもう、それ授業じゃないだろって思うんだけどね」
ギーシュ、ギムリ、マルコリヌの3名は口を揃えて言った。
「頑張れ任せたぞレイナール」
「ああ、その反応は予想できてたよこん畜生。誰かスコップ錬成してくれないか、穴掘るから」
疲れた口調のレイナールを慰めたのはクロコダインだ。
「まあ戦い方を自分で考えるというのは悪い事ではないさ。学院長もお前なら出来ると思って呼びだしたんだろう。信頼されているという証だ」
そうだといいんだけど、とそれでも少し明るい顔になったレイナールの後ろで、他全員が輪になって話し始める。
「じゃあ何か、俺らが呼び出されなかったのは、つまりそういう事かオイ」
「何故かしらねぇ、厄介事を回避できたってのに微妙に腹立つのは」
「こういう案件は武門の一族たるこの僕にこそ相談するべきだろ……」
「なにクロコダインにフォローされてるのよワタシへの当てつけなのかしらそうに違いないわ」
「おなかすいた」
「話は変わるけど僕を罵ってくれる美少女が空から降ってくるにはどうしたらいいと思う?」
後半になるにつれどうでもいいというか、どうにもならない感じになっているのはどうしたものか。
「そう思うんなら最悪の事態に備えてちょっとは協力してくれよ……」
背中に冷や汗とも脂汗ともつかぬ汗をかきながら、レイナールは半目で答えた。
「具体的には?」
「教師が来ても来なくても、これまで通りクロコダインには模擬戦の相手とコーチングを努めてもらいたいんだ」
む、とクロコダインは腕を組み考え込む。
「ダメかい?」
「いや、オレ自身は別にかまわないのだがな」
苦笑混じりに鰐頭の獣人は答える。
「お前たち以外の生徒が納得するか判らないのさ。今のオレは一介の使い魔に過ぎん」
確かにその問題があるか、と今度はレイナールが考え込んだ。
自分を含め、貴族というものは総じてプライドが高い。それが良い方向に作用すれば問題ないのだが、得てしてマイナス面に向かいやすくなるのが人の常である。
クロコダインがコーチ役を務める事に不満を感じる輩は絶対にいるだろう。
「一回でも戦りあえば文句なんて出ねえだろ。そもそも文句を出すような奴が選択する授業かコレ」
と一刀両断するのはギムリであった。
メイジとしては珍しく体を鍛える事に喜びを見出すタイプの彼は、クロコダインの強さを一番素直に認めている少年でもある。
「そういう考えの連中ばかりだったら苦労はないさ……」
「そんなもんかね」
しかし、肩をすくめるレイナールの言葉にキムリはあっさり納得した。
彼としては、自分よりも頭がいい奴がそう言うんだから、まあ間違いはないだろうと思っているだけなのだが。
「『来る者は拒まず、去る者は追わず』、でいいんじゃない?」
気楽な口調でそんなことを言うのはキュルケである。
実際問題、女性であり、かつゲルマリアからの留学生という立場である彼女がこの選択授業に参加できる訳もない、一歩引いたところからの意見になるのは当然だった。
「示しがつかない気もするけど、まあ、そうするしかないか……」
最初は体験授業とでもしておいて、適正を見ながら随時こちらで判断すればいいだろう。
「そういえばギーシュ、おそらく君がこの授業の生徒代表みたいな立ち位置になるからそこのところよろしく」
ふと思い出した様に告げるレイナールの言葉に一同は顔を見合わせ、次の瞬間1人を除いて全員疑問の声を上げた。
「なんでギーシュ!?」
声を上げなかった唯一の人間、すなわち『青銅』のギーシュは気障な仕草で髪をかきあげながら、フ、と気障な笑みを浮かべる。
「優秀なメイジは優秀なメイジを見抜く、という事さ。学院長やラインメイジたるレイナールがこの僕に秘められたる真の才能を」
「男面子の中では一番実家の爵位が高いからね」
あっさり口調で理由を述べる眼鏡を、伯爵家四男は膝から崩れ落ちた状態で睨みつけた。ついでに言うなら半泣きであった。
「き、君は上げてから落とすのがそんなに好きかね!?」
「勝手に舞い上がった癖に」
「お前の二つ名、今度から『勘違い』な」
「え、『早とちり』の方がよくないかしら」
「というか馬鹿よね」
「……おなかすいた」
「ねえ、僕を可憐に踏んでくれるメロンちゃんな美少女ってどこにいれば降ってくるのかなあ」
このメンバーで授業を主導するのは至難の業ではないかとレイナールは思わざるをえない。
「まあ爵位は高いし武門の出だから、ギーシュが表に出る立場なのは判るけど、ここは話を振られた貴方が取り仕切ってもいいんじゃない?」
と真面目な顔で言うのはルイズである。
「正直柄じゃないよ。と言うか、ただでさえクラス代表みたいな扱いになっているんだ。男子寮では監督生を押し付けられそうな雰囲気だし、これ以上何か抱えたらパンクする」
とレイナールは肩を竦めた。
「本音は?」
「裏で色々画策するのがいいんじゃないか。何かあっても責任を取るのは代表者だしね」
半目のギムリの質問に笑顔で黒い返答をする眼鏡である。
「うっわ、完全に操り人形扱いだぞギーシュが」
「貴方の二つ名、明日から『黒幕』だから」
「え、『腹黒』の方がよくはないかね」
「というか頭が回るのもある意味問題よね」
「……人、それを『傀儡』という」
「ねえねえ、僕を手酷く罵ってくれるお姉さまはどうやったら召喚できると思う?」
レイナールは心外だという表情を隠そうともしなかった。
「随分酷い言われようだなあ……。自分の資質を客観的に判断した上で、参謀役がいいと言ってるだけなのに。大体上に責任を取らせる様なヘマをする気はないよ」
それもそうか、と一同は納得した。
「まあ上に立つ人間が気に食わなかったり、ちょっとムシャクシャした時には責任を取らせる程度の失敗を演出するけどさ」
「やっぱ黒いよお前!」
一同の突っ込みをレイナールはしれっと回避する。
なお、ここまでボケ発言を繰り返してきたにも関わらず総スルーされてきたぽっちゃり系変態紳士は、放置プレイも癖になるなあなどと1人ハァハァしていた。
この時、ルイズたちはまだこれまで通りの日常を謳歌していた。
隣国では王党派が敗北し、戦争が近いのではないかという空気を少しずつ感じながらも、卒業までこんな馬鹿話を続けていくのだろうと、そう思っていたのである。
そんな彼女たちが『現実』を知るのは、翌日の事だった。
長く高等法院の長を務め、トリステインでも有数の大貴族であるリッシュモン、若くして魔法衛士隊の隊長となったワルド子爵を始めとした有力な貴族たちが次々と捕らえられたのである。
贈賄、他国への機密漏洩、外患誘致等の証拠を突きつけられた彼らは、弁明する猶予など全く与えられずチェルノボーグの監獄へと移送された。
後世、『枢機卿の粛正劇』として歴史書に記される事件の、これが始まりである。
そして、貴族の子弟が集うトリステイン魔法学院にも、当然その余波は襲いかかるのだった。
以上で投下終了です
支援、前回感想、某所でのレビューや読んでいると言ってくださった方々、ありがとうございました
久々に学院メンバーが書けて楽しかったです
次回はアルビオン外伝になるか、不良中年たちの話になるか、学院の話になるか…
ではまた
きてたー!
乙でした!
おおお来てた! 乙です!
学院男子メンバーは安定した癒しだ……
しかし中年トリオががっちり肩組んでるここのトリステインは安心感あるなぁ
571 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/11(金) 20:49:29.43 ID:EsLizJ2P
虚無獣来たー!
これで年末年始も戦える!
キテターーーー! 乙!
「獣王の笛」をチゥにあげなければ…もっとorz
573 :
レグルス:2011/11/13(日) 16:52:48.35 ID:LmtTDbDQ
もう、虚無と獣王しか更新しないようですね。
ゼロの剣士の方は作者行方不明が確定か…!?
誰だよレグルスって、気持ち悪い
LC冥王神話でも読んでるの?
576 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/19(土) 23:59:40.50 ID:VmQL1Zdj
モンモンが作りだしたという水竜巻ってどう考えてもヘキサゴンスペルじゃないの?
577 :
レグルス:2011/11/20(日) 16:48:04.86 ID:biAPc4fJ
人のHNにけちをつけるなよ。
まあ、LCは勿論読んでいるが……。
コテハン使う場所じゃないんだから
そんな場所で使ってりゃ幾らでもケチ付けられるだろうさ
バラン召喚がみたい
580 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2011/11/30(水) 19:28:57.72 ID:Soa+UGj5
>574
くだらん事で荒れる原因を作るなよ。
人それぞれなんだから…。
(キリッ
>>579 存命中の召喚なら竜の紋章を使い魔のルーンと間違われる展開とか有りそう
誰かの使い魔召喚してしまったとかで波乱有りそうだ
竜の騎士は三人の神が作り出した使い魔みたいなもんだから当たってるっちゃ当たってるんだが
ここは異世界ハルケギニア。
今日の鰐男は、アルビオン大陸にあるウエストウッドの森から物語をはじめよう!
(ナレーション:政宗一成)
うららかな陽射しの下、小川の両岸に丸太を渡しただけの簡素な橋に腰を下ろし、ふと短い足と長い尻尾をぶらぶらさせなが
らのんびりと釣り糸を垂れる鰐が一匹。
我らが獣王クロコダインである。
その近くで野苺を摘んでいるのは革命的バストを持つ美貌のハーフエルフにして実はアルビオンの王位継承権者でもあるテ
ィファニアだ。
ティファニアが口ずさむ「ダニーボーイ」を聞きながら、草原に寝転んだマチルダは青空を横切る白い雲をぼんやりと眺めて
いた。
「平和だねえ…」
そのとき耳障りな羽音を響かせて、子牛ほどもある特大の雀蜂が飛んできた。
蜂はクロコダインの頭上でホバリングすると、大顎をカチカチと鳴らしながら何事かを告げる。
「どうしたんだい?」
「どうやら招かざる客のようだ」
そうマチルダに告げると釣竿を手放した右手にグレイトアックスを掴み、クロコダインは駆け出した。
「あたしも行くよ!」
飛び起きたマチルダは二、三歩走ったところで振り向いた。
「ティファ、あんたは家に戻ってな!ブルース、ティファを頼んだよ!」
緑色の巨大雀蜂は前脚を複眼の前にかざし、マチルダに向かって敬礼してみせる。
CGアニメなら加藤賢崇の声で「了解だブ〜ン」と言っているだろう。
鬱蒼とした森の中、鎧冑に身を固めた騎士の一団をモンスターの群れが囲んでいる。
サイクロプスがいる、グリフォンがいる、ヒドラがいる、笛のような声で“テケリ・リ!テケリ・リ!”と鳴くなんだかよく
わからないものがいる。
彼らはみなクロコダインに敗北し、軍門に下ったものたち−所謂ジャンプ方式である−であった。
「ええい近寄るでない下郎!」
円陣を組む騎士たちの中心でやたら偉そうな白髪白髭のジジイが喚いている。
「随分と元気なご老体だ」
モンスターたちの間から貫禄たっぷりに進み出る鰐。
「おお、会いたかったぞクロコダイン!」
「はて、どこぞでお会いしましたかな?」
首をかしげた鰐の背後から地響きが近づいてくる。
全力疾走から跳躍したマチルダはクロコダインを飛び越え、スカートが捲くれあがるのも構わず−黒のレースだった−老人の
顔面に渾身のドロップキックを叩き込んだ。
「何しにきやがったクソジジイ――――――――――ッ!!!」
ここはウエストウッドの森の奥深くにあるマチルダの家。
「するとご老人が…」
「アルビオン王ジェームズ1sぐぎゃあ!」
鰐に向かって威厳たっぷりに自己紹介をはじめたジジイの顔を、マチルダの杖が突いた。
「ティファの両親を処刑したクズ野郎さ!」
鼻の下の急所を打たれて悶絶する老人に唾を吐きかける悪女モード全開のおマチさん。
クロコダインを相棒に冒険者家業に転職して以来武術の研鑽を積んできたマチルダは、いまや明鏡流杖術の達人である。
その手に握られた長さ五尺の樫の木の棒がうなれば大の男でも頭蓋を叩き割られる。
「まあ落ち着け」
エキサイトしまくりな元女盗賊を諌めるクロコダイン。
「過去の遺恨を承知で尋ねてくるには相応の訳があろう、まずはそれを聞いてみるべきではないかね?」
なんと人間の出来た鰐であろうか。
「実は…」
ようやく立ち直った白ヒゲが語り始めたそのとき−
「ウッキ―――――ッ!」
ジェームス1世の隣に置かれたやたら豪勢なつくりの箱が開き、中から一匹の狒狒が飛び出した。
放物線を描いて宙を舞うエテ公の予想着地点はティファニアの胸だ。
「このエロ猿!」
すかさずマチルダの杖が一閃する。
「おお息子よ!」
したたかに背中を打たれて悲鳴をあげる狒狒に駆け寄り、ひしと抱きしめるジジイ。
「今、なんと言われた?」
鰐もおマチさんもメロンちゃんも、「お前は一体なにを言っているんだ?」という顔をしている。
「これは我が息子ウエールズなんじゃぁぁぁッ!」
「な、なんだってぇ――――――――――ッ!?!」
驚く一同。
「陰毛…いや、陰謀じゃ。ヨーク家の陰謀じゃ!わがテューダー家から王位を簒奪するためウエールズに呪いをかけよったん
じゃあああ!」
「王位を巡ってのテューダー家とヨーク家の争いか、まるで薔薇戦争だな」
「そりゃあこのハルケギニア自体中世ヨーロッパのパロディだからねえ」
メタな会話を交わすクロコダインとマチルダをよそに、涙と鼻水を垂れ流しながら泣き喚くジジイと狒狒。
威厳もへったくれもないがそのなりふり構わぬ悲しみと嘆きは、純粋すぎるハーフエルフの少女の魂を激しく揺さぶった。
「義姉さん…」
頼りになる義理の姉をじっと見つめる澄みきった瞳。
「あーもうわかったよ!どうせアタシと鰐の旦那にしかできない仕事なんだろ?」
なんだかんだでティファニアの“お願い”には勝てないのであった。
「スターボード!」
「スターボード、サー!」
引き締まった細い船体が、アルビオン大陸から剥がれて空中に浮遊する巨岩をひらりと避ける。
フリゲート艦ポートパトリックはジェイク・イースンスミス少佐の水際立った操艦により、スカパフローの狭隘な空路をすい
すいと進んでいった。
国王直々の密命を帯びたポートパトリックの目的地は幻の島カスガル。
宮廷占い師のマーリンによれば、ウエールズにかけられた呪いを解くカギはカスガルにあるというのだ。
乗組員はイースンスミス艦長以下134名、そして狒狒に姿を変えられてしまったウエールズ・テューダーとクロコダインに
マチルダ、さらにティファニアも一緒だった。
蛇蝎のごとく嫌っているジェームス1世に隠れ家を知られたからには、マチルダとしては大事な義妹を目の届くところに置い
ておかないと安心できないのであった。
幻惑の効果を持つアーティファクトを身につけ、エルフの血を引くことを示す長い耳を隠したティファニアは、素性を知らさ
れていない水兵たちに女神のように扱われている。
だが正体を知られたらタダでは済むまい。
そう考えると自然と険しい顔になってしまうマチルダであった。
そんなマチルダのもとにもう一つの頭痛のタネがやってくる。
「そんな難しい顔をしていては美人が台無しですよ」
ブロンドの長髪を風になびかせ、歯の浮くような台詞を臆面もなく口にするカマっぽいイケメンの名はヘンリー・テューダー。
ウエールズの又従兄弟であり、今回の冒険のオブザーバーということになってはいるが、早い話が監視役である。
ジェームズ1世の身内というだけで、マチルダが嫌うには十分だったし、クロコダインも単なる軽薄な若者と見える青年から、
魔王軍の同僚だった煮ても焼いても食えないジジイと同種の匂いを感じていた。
「そう思うんだったらアタシの視界に入らないどくれ」
あっちへ行けと言わんばかりに右手を振り、マチルダは甲板にテーブルとデッキチェアを並べてウエールズとチェスをしてい
るティファニアのほうに歩いていく。
「十時の方向より接近するものあり!」
見張りが発見した飛行物体は飛竜をはるかに凌ぐ速度でグングン近づいてくる。
「ありゃ一体なんです?」
「なんだろうと構わん、戦闘配置だ!」
目を丸くする副長を怒鳴りつけるイースンスミス。
それがカーチス・トマホークという第二次大戦期の戦闘機であり、機首に描かれたシャークマウスが傭兵飛行隊として名高い
「フライングタイガース」のトレードマークであることをハルケギニアの人間が知るはずもないが、イースンスミスの超能力
じみた危機察知能力がボリューム最大で警鐘を鳴らしている。
「下衆どもめ!その棺を下ろすのだ!さもなくば聖パウロに誓って言うが、言うことを聞かぬやつは血祭りにあげるぞ!」
シェイクスピア作「リチャード三世」第一幕第二場の台詞を唱えながら、トマホークの操縦桿を握るグロスター公リチャード
は戦闘機を巧みに操り空飛ぶ帆船と正対させる。
主翼と機首に装備された六挺の機関銃が一斉に火を吹いた。
ttp://tapo.xii.jp/ascii2d/src/1323069371803.jpg
お久しぶりー
相変わらずおマチさん好きだなあんたw
てs
ほしゅ
まだ終わらんよ
もう次スレいらないよな
世界がいらないか
自分がいらないか
のどちらかだな
久々の発言及びほっしゅー♪
虚無と獣王の続きを心からお待ちしています
月のはじめの保守
しかし、こうもスレの意義を疑うような無投稿の状況が続いていると先行き不安になるな。
まとめWikiの合流合併とか考えたくなる
ここは強引かつ攻撃的に分裂してしまったとこだから合流合併は荒らし行為になりかねないからそれは無い
うわぁ…
こんなに先人に唾を吐きかけたくなったのは生まれて初めてです…
正直この状態じゃ新たな作家さんの光臨どころか獣王さんがエタらない事を祈るしかない…
新たっつーか分裂元でダイ大の作品が既にあったりしてな
勝手に分裂した挙句強引にそれも誘致しようとして失敗とかあったな
>>596 大昔のことだろ。はっきり、ダイ大だけを分けるメリットはどちらのスレにもまったくない
ダイ大で新たに書きたい人が現れたとしても、本スレか理想郷かにじファンか、ここが選ばれることはない
>>599 大昔も何も元々ここで書くメリットは無かったんだ
残ったのはやらかしてしまって合流は無理って事実だけ
601 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/03/22(木) 11:08:28.87 ID:7yJDkwbf
もうゴールしてもいいんじゃないかな
こんな状態じゃ獣王さんも続投するのは不安だろうし
スレ自体はそう簡単に落ちるもんじゃないからいいだろ別に
それでも落ちたらこのスレの寿命だったということさ
とりあえず月がかわったので保守
ハドラー様が逝ってしまわれた・・・
アニメが中途半端に終わってしまったのが悔やまれるな
しかし、廃れたなこのスレ
ポップがラナリオンやベタンを始めてつかったとき詠唱してたけど
ダイ大の呪文ってハルケじゃ精霊魔法に区分されんじゃないのか
魔法契約をして
ラナリオン→大気に散らばる精霊
ベタン→大地の精霊
ってるから
作品が終わってだいぶ経ってしまっているのがなんともならないね。新規さんが入って来ない
ゲームでは今でも技や呪文が使われていたりするけれどもう元ネタ知らない人も多いのだろうな
いったいこのスレはどうなってしまうんだろう……
獣王はどんなかたちでアレ続いてほしい……
ごk……じゃなくて、獣王ー、早く来てくれー!!
337 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/07(火) 08:47:05.55 ID:xIsNppMG
ダイの大冒険のキャラがルイズに召喚されました8
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1287476881/ 338 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/08/07(火) 08:56:08.13 ID:x4anU5BL
そこは一部のやつが制止振りきって強引に立てたスレだから他と違って別に必ずそっちでって物ではないよ
コレは合流もアリなのではないだろうか?
いい加減作者の方も投稿しづらいだろ…この過疎っぷりは
昔の事は良く判らないが、この「一部のやつ」ってのはどの程度の範囲を指すんだ?
今の時点でスレ住人に更新を望まれている作者の方も入ってるの?
その一部のやつも今見てるのかわからんような状態だから、もう合流した方がいいのかもしれない
問題は、今までこっちに投下してた方が合流した後あっちに投下してくれるのかどうか。とにかく続きが読みたい
まあdat落ちしたら合流すればいいじゃないか
まだあと100KBくらいあるけど
作者にまで、規制が掛かってて、投稿できない。
という事態になってないか?
とりあえず、保守。
ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん
んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!
小説10巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!
アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!
コミック1巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!
ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…
ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!
この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる?
表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!
あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあアン様ぁあ!!シ、シエスタ!!タバサぁああああああ!!!ティファニアぁあああ!!
ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!
獣王そろそろ前回から一年か……
一年あっというまだね
617 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2012/12/19(水) 20:35:18.47 ID:hF27coT+
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします、というか今年は投下があるといいな……
時は速いな……
620 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/03/24(日) 17:30:15.02 ID:z/4d0/Cy
もう更新は望めないね
ゼロの使い魔×ウルトラマンゼロ
ウルトラマン一族舐めるな地球とファンタジー
獣王の人、いっそ改題リメイクして本スレのほうに来てください
ほ
624 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2013/05/15(水) 14:41:08.62 ID:fz4Hy378
拳聖ブロキーナ
保守
ほ
あけましておめでとうございます
ほしゅ
震災がなければな