あの作品のキャラがルイズに召喚されました part283

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?
そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part282
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1285769648/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 15:33:11 ID:D+Kl8SaB
あーーー誘導しようと思ったら埋まった……

前スレみたいなことが起きないように立てたのに
3名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 15:35:02 ID:JY8v7oPk
>>2
乙です
4名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 15:41:11 ID:IE3Obgo+
>>2スレ立て、前スレウル魔の人、二人とも乙でした
5名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 18:05:06 ID:wP8a07Qj
スレ立て乙
ウルトラ乙
6名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 18:58:11 ID:uOwcUOFI
スレタテ乙。

そしてウルトラの人も乙
7名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 20:17:29 ID:wP8a07Qj
そういやウルトラでまだ出てきてないのも結構居るな。

ジョーニアス
グレート
パワード(ドラコだけ登場)
ネクサス
マックス
ナイス
ネオス
ゼアス
コスモス(ジャスティスだけ登場)
ゼロ

もう全部出せって方が無理なレベルだ。
主役じゃない奴までふくめりゃこの倍は余裕だな。

スレ的希望一番人気がネクサスで、次がゼロ、コスモスってとこか。
ネクサスは相性的に悪いんだろうけど
コスモスはでてこないって言うより出せないんだろうな万能すぎて。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/17(日) 20:37:55 ID:WbW5p1rj


長女、アニエス・シュヴァリエ・ド・ミラン
次女、ミシェル・シュヴァリエ・ド・ミラン
長男、サイト・ヒラガ・ミラン

三銃士と思ってたら三姉弟になるとは

この世界ではサイト・シュヴァリエ・ド・ヒラガ・ド・オルニエールは生まれそうにないな
9機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:10:32 ID:WuYXULsN
こんばんは。スレ立て、ウルトラの方、乙です。

ウルトラマンといえば、リアルタイムで見ていたのはティガですねぇ。
と言っても、かなり記憶がおぼろげではありますが…。でも、やはりウルトラマンは、何時までも色褪せないヒーローです。

予約がなければ、4話を0時20分頃から投下しようと思います。
今回からシエスタが登場しますが、私個人としては、一番クロちゃんと絡ませやすいですね。
10機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:21:52 ID:WuYXULsN
機械仕掛けの使い魔 第4話


 再びぬいぐるみを着込んだところに、轟音に驚きやって来た、近くの部屋に住む女生徒たち。
彼らをお得意の猫スタイルでかわしたクロは、洗濯物を放り込んだ籠を背中に乗せ、器用にバランスをとりつつ、中庭に来ていた。
「あなた喋れたでしょ!」
と、召喚の儀式の場にいた女生徒全員からのツッコミ重奏が響いたが、完全にシカトを決め込み、澄ました顔でここまでやって来た、
というワケだ。余談だが、背中の籠はジェスチャーを駆使し、褐色の肌に燃えるような赤い髪、ナイスバディの生徒に乗せてもらった。

「…困った」
 周囲の様子から、洗濯機がないのは解っていた。そして、使い魔に頼む仕事となると、手段として魔法が使われる事は、まずないはず。
という事は、洗濯の手段は手洗いとなる。さらにジーサンバーサンと一緒に見ていた時代劇では、洗濯場所は井戸端と相場が決まっていた。
 だが、肝心の井戸が見当たらない。クロのいる場所からは死角になっている場所もあるが、クロの身体の大きさに比して、この中庭はあまりにも広すぎる。
「虱潰ししかねーかなぁ…。メンドくせー…」

 バランスをとりつつ、ゆっくりとした足取りで中庭を歩くクロ。
 ちなみにここトリステイン魔法学院は、その構造上、鬼のように中庭が広い。
中央の本塔と、学院外壁の頂点にそびえ立つ各塔を結んだエリアに、個別に名前が付いているレベルである。
クロの体躯に比して、学院の中庭はあまりにも広大すぎるのだ。
 クロが女子寮のある寮塔を出た時点で足を踏み入れていたのは、本塔・土の塔・寮塔・水の塔を結んだ、アウストリの広場。
クロがハルケギニアに召喚された場所でもある。

「お、案外近くにあるじゃねーか」
 結論から言えば、クロは最短ルートで井戸――と言うよりも、水場を発見出来た。
たまたま寮塔を出て左方向へ歩いたからであるが、もし逆方向の左へ歩き出したとしたら…1時間以上は経過していたであろう。
恐るべし、トリステイン魔法学院。
11機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:23:36 ID:WuYXULsN
 
    +     +     +     +     +     +    
 
「あら? あれは…」
 1時間半くらい前に、ルイズに紅茶を入れたメイド『シエスタ』は、同僚のメイドと共に、世にも珍しい光景を目の当たりにしていた。
 2人は、寮内の生徒達から頼まれていた紅茶を届けた帰りであった。寮塔から中庭に出て、ふと土の塔方面に目を向けると、水汲み場の傍に座り込む黒猫がいたのである。
シエスタも見覚えのある、桃色の髪の生徒が連れていた使い魔のようだ。
 黒猫の横には、籠が1つ。よく見ると、黒猫は何度も首を傾げている。
「ごめんなさいアイナ、先に厨房に戻ってもらっていい?」
「え、それは別に良いけど…。どうしたの?」
「あの黒猫さん、何か困ってるみたいなの」「黒猫ぉ?」
アイナの返事も聞かず、シエスタは駆け出した。後には、アイナのぼやきだけが残っていた。

 ゆっくり、こっそりと黒猫に近づくシエスタ。ここで気づいたが、籠の中身はどうやら、あの生徒が着ていた制服のようだ。
彼女が、この黒猫に洗濯を頼んだのだろう。
「黒猫さん、お洗濯ですか?」
「あぁ、ルイズのヤツに頼まれてよ」「…へ?」
 何の気なしに、ただ聞いてみただけだった。もちろん、返事が返って来ない事など解り切っている。
しかし、シエスタの問いかけに、誰かが応えた。
「だっ…誰ですか!?」
シエスタが辺りを見渡すが、黒猫と自分以外には、誰もいない。
「オイラだよ」「おいら…?」
先程は驚きのあまり、声のした方向も解らなかったが、今度はハッキリと解った。
自分の足元から聞こえる。そして今、自分の足元にいるのは…
「さっきはありがとな、メイドの姉ちゃん。紅茶、うまかったぜ」
「黒猫さんが…喋った…?」
 足元にいた黒猫は、シエスタの目を見ながら、二本足で立っていた。
 
    +     +     +     +     +     +    

「噂は本当だったんですねぇ…」
 仕事場から運んだ桶に水を溜め、ルイズのシャツを洗いながら、シエスタはまじまじとクロを見つめた。
「噂?」「はい、ミス・ヴァリエールが喋る猫を召喚したって…」
クロも同じ桶に手を突っ込んで、スカートを洗っていた。夕闇の中、洗濯をしているメイドと黒猫。なかなかに異様な光景である。
「そうだ、自己紹介がまだでしたね。私はこの学院で、貴族の方々のお世話をさせていただいています、シエスタと言います」
ニッコリと笑うシエスタ。鼻のてっぺんに付いた泡が、そこはかとなくキュートだった。
「オイラ、クロってんだ。…鼻に泡付いてっぞ」「あら、いけないっ」
こしこしと鼻をこするシエスタ。頷くクロを見て、また顔を綻ばせた。
「喋る猫さんなんて、初めて見ました…」
「そうかぁ? オイラのいたトコだと…最低でも100匹くらいはいたぜ?」
「ひゃくっ!?」
無論、その大半がサイボーグだが、修行して喋れるようになった猫も2匹ほどいる。
どんな修行かは…ここで語る事ではない為、原作あるいはアニメ参照の事。
「喋る猫さんがいっぱい…。素敵な場所なんですねぇ」
「しょっちゅう喧嘩売られる程度にはなー」
目を輝かせるシエスタとは裏腹に、クロはうんざりしたような表情を作っていた。
12機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:24:54 ID:WuYXULsN
 
 洗った制服を十分に脱水し、籠に戻す。石鹸のいい匂いが立ち上り、クロの心にも、わずかながらの充足感が顔を見せた。
「助かったぜ。オイラ1人だったら、どうしていいか解んなかったわ」
「いえいえ。ミス・ヴァリエールのお部屋に干すまで、私もお手伝いしますよ」
「おぅ、何から何まで済まねーな」
クロは先程までの2本足ではなく、普通の猫同様の4本足で立ち上がり、身体をブルンブルンと振って、洗濯の際に濡れた身体を軽く脱水した。
「よっし、それじゃよろしく頼むわ」「はいっ」
元気一杯に返事したシエスタと共に、クロはルイズの部屋へと向かった。

 行きと違い、籠はシエスタが抱えている。道中、彼女は何度かクロに話しかけたが、返事は猫語ばかりだった。例えば。
「お洗濯物、綺麗になりましたねー」「ニャっ!」
「部屋干しでも大丈夫なように、普段とは違う石鹸なんですよー」「ウニャ?」
「ミス・ヴァリエールのお部屋、覚えてますか?」「に、ニャア…」
「くすっ、私が覚えてますから、安心して下さい」「ニャンニャンっ!」
 シエスタも何となくだが、クロの心情を察していた。
 生徒が行き来する寮塔の廊下。もうじき夕飯だから、それほど人がいるわけではない。
だが、この少ない人の前であっても、自分が喋れる猫だという事を、明かしたくないのだろう。
 と、ここで1つ疑問が起こる。なぜ私の前では、あんなに簡単に話してくれたのだろうか。私が平民のメイドだから…?
「洗濯の仕方、解んなかったからな」「え?」
唐突に、クロが喋った。シエスタの顔を見ている。辺りに人影は、なくなっていた。
「それに――紅茶、うまかったから」
ぶっきらぼうに言葉を続けるクロ。
 シエスタにとっては、貴族である生徒に紅茶を淹れるのは当然の仕事だった。
だが例え当然の事であっても、クロにとっては、”恩”であった。”恩”は必ず返す。
それがクロの――オス猫の、誇りであった。
「…はいっ!」
なぜか無性に嬉しくなったシエスタは、笑顔でクロの礼に応えたのだった。
13機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:26:59 ID:WuYXULsN
 
 ルイズの部屋。そのドアの前には、2人の女生徒がいた。
「はぁい、猫ちゃん」「…」
1人は、先程クロの背中に籠を乗せた赤髪の女生徒、
もう1人は、ルイズとさほど変わらない身長の、青い髪とメガネ、長い杖が目を引く女生徒だった。
「ミス・ツェルプストーに…ミス・タバサ?」
「あら、メイドも一緒なのね」
コツコツと足音を響かせ、ミス・ツェルプストーと呼ばれた女性とは、クロに近づいた。
そして、前後左右、視点を変えて、クロを観察し始めた。
「どこからどう見ても、普通の猫よねぇ…」
顎に右手の指を添えるミス・ツェルプストー。そんな彼女をよそに、ミス・タバサは分厚い本を読みふけっている。

「そう言えばオメーら2人って、さっき広場にいたよな?」
「あら、やっと喋ってくれたのね?」「…!」
クロの発言を受け、待ちくたびれた、といった様子で髪を掻き上げるミス・ツェルプストーと、パッと見では解らない規模で目を見開いたミス・タバサ。
見る者が見れば、ミス・タバサは怯えていると取っただろう。
「どうしたの、タバサ?」
『見る者』がここにいた。横目で見ただけで、タバサの異変に気づいたのだ。
「ば…化け猫…」
よーく見ると、ミス・タバサはうっすらと汗をかき、小刻みに震えている。そしてその瞳は、クロに釘付けだった。
「化け猫ぉ? 何だ、こっちの世界にも化け猫なんていんのか?」
「聞いた事ないわねぇ。メイド、あなたは?」
「祖父から聞いた事はありますが、さすがに見た事は…」
「これ…」
ほんのりと青ざめた顔で、ミス・タバサが、持っていた本の題名を指さした。
「何て書いてあんだ?」
「『ハルケギニア妖怪伝承』…。ほとんど古文書じゃないの。よくこんな骨董品、見つけたわね」
「妖怪は…、人類の敵…」
震える声で言いながら、杖をクロに向けるミス・タバサ。よくよく見てみると、眼の焦点が合っていない。
「ちょっ…! タバサ!?」
「おいおい、この嬢ちゃん、目がマジだぞ…」
そうこう言っている間に、ミス・タバサがルーンの詠唱を始めた。

「ラグーズ・ウォータル…」
 ここまで聞いた時点で、ミス・ツェルプストーは、ミス・タバサが本気だという事に気づいた。
 ミス・タバサは風のメイジ。しかし彼女の詠唱には、水のルーンが組み込まれている。
つまり、単純な風の魔法ではなく、風と水を組み合わせた氷の魔法。氷の魔法は、そのいずれもが高い殺傷能力を有している。
ミス・タバサは…殺る気だ。
「やめなさい、タバ「ホイ、っと」サ…?」
 ミス・ツェルプストーが、その詠唱を止めようとした矢先…クロの右手が”ポンッ”と軽快な音と共に射出され、杖を持つタバサの手に命中、その杖を弾き飛ばした。
「や〜れやれ…」
 呆気にとられる3名をよそに、クロはミス・タバサの足元に落ちていた右手を拾い上げ、再び装着した。
「あ、あなた…ててて手が…今…」
「くくくクロちゃん…? 見間違えかもしれないですけど、手が…ととと取れませんでした…?」
「や…やっぱり化け猫…!」
驚き、怯える3人。とっさの事とはいえ、ロケットパンチはまずかったか、と思いつつ、クロは頭をポリポリと掻いた。
「わーった、わーったよ。オメーらにも説明してやっから、その前に洗濯物干すの手伝ってくれ」
14機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:28:23 ID:WuYXULsN
 
    +     +     +     +     +     +    

 眠っていたルイズは、不機嫌極まりない表情で目を覚ました。先程まで静かだった自室が、やにわに騒々しくなった為だ。
「アンタたち…何やってんの?」
眠りについてから、3時間程度経っているだろうか。外は夜の帳を下ろしている。
「ミス・ヴァリエール! すみません、騒々しかったですか!?」
「あぁ、いいのよ気にしなくて。こんな時間からグースカ寝ていたヴァリエールが悪いんだから」
「って、何でアンタまでいるのよ、ツェルプストー!」
 学院の中でも視界に入れたくない人間ダントツ1位のミス・ツェルプストーの姿を認めたルイズは、顔を真赤にして怒鳴りつけた。
「何でって…、あなたの制服を干すために決まってるでしょ? そこの猫ちゃんに頼まれて、ね」
「おぅ、起きたかルイズ」
ミス・ツェルプストーの指差す先を見てみれば、カーペットに寝そべっている使い魔の姿が。呑気に耳掃除などやっている。
「まぁ、気にすんな。オイラの身長じゃ、ロープもかけれねーからな」
「気にするわよ、このバカ猫っ!」
「誰がバカだってんだ!」
「あー、もうヴァリエール! あなたも手伝いなさい! 自分の制服でしょう!?」
「化け猫…退治しなきゃ…」
「あ、ミス・ツェルプストー、シャツはもうちょっと張って頂けますか?」
「こんな感じかしら?」「はい、ありがとうございます」
「ア ン タ た ち は ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ルイズも加わり、寮塔の一室は、過去類を見ないほどの喧騒に包まれたのであった。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 00:38:13 ID:RguCDsGW
支援
16機械仕掛けの使い魔:2010/10/18(月) 00:38:58 ID:WuYXULsN
以上で、4話終了とさせて頂きます。

見返してみると、ここもやはり短いですね…。各話の長さは、今後の課題とします。
キュルケ、タバサの両名も、ここで本格的な登場ですが、なるべくストーリーに絡ませていきたいと思っています。

現在製作中の11話ですが、もしかすると「反則」じゃないか、と思われる点があります。
クロちゃんの代名詞をなるべく活用する為の、私なりの苦肉の策なのですが、その後の流れも決めてしまっている為、
その点についてはご容赦頂けると幸いです。
17名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 02:14:12 ID:KSf2T8Kt
乙。

クロは心の壁ってやつが全くないからなぁ
もういいムードになってやがるぜ、大した奴だw
18名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 08:21:01 ID:mPZ0gzIt
>>7
ボンボンからのあのウルトラマンも喚ばれてないしな

超闘士?いいえ、ウル忍です
19名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 10:21:01 ID:/TVtCpwS
クロちゃん乙
スカッと男らしいのがクロちゃんのいいとこだぜ。
でも毎日投下してくれるのはうれしいけど、いくらストックがあるといってもこのペースじゃすぐ息切れしないかな。

>>7
>コスモスはでてこないっていうより出せないんだろうな万能すぎて
ウルトラ銀河伝説でもコスモスがいたらゼロ以下ウルトラ兄弟いらないだろっていわれるくらい最強でなんでもありなウルトラマンだからな
20名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 12:51:09 ID:vdLVQG0a
問題なければ、13時から投下したいと思います。
21ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:00:17 ID:vdLVQG0a
 雑談に見せかけた査問。ワルドとの会話を、マチルダはいつもそう感じている。
 今もそうだ。任務の確認に続く雑談で、ワルドはティファニアの話題を持ち出しているのだ。

「そうだね。あの子は虚無かも知れない」

 しばらくの逡巡の後、マチルダはワルドの言葉を認めた。
 否定しても始まらない。いや、否定すれば、否定を許さない証拠をワルドは目の前に出そうとするだろう。
 それは避けなければならない。
 
「まともな魔法は使えないよ。ああ、確かに。それに関してはヴァリエールの小娘と一緒だね」

 相手の望んでいるであろう答えを返す。それが出来ている限り、自分は疑われない。
 策を講じる者には、策が当たっているのかそれとも当たっていると思わされているのか、見分けを付けることなど出来ない。
 だから、当たっていると思わせる。そうすべきだとも忠告されている。

「ただ、ちょっとね」

 そしてほんの少しだけ、相手の疑念をかき立てる。ワルドのような相手では、策が通じきっていると思わせるのも危うい。
何処かで策の破れている箇所を示さなければならない。
 それこそが、策の成功している証拠なのだから。
 このタイプの人間は完璧な成功など信じない。破綻し、繕ってこその成功だと考えているだろう。

「知っての通り、あの子はハーフエルフ。系統魔法もコモンマジックもまともには使えない子だけれど、先住魔法は少しばかり使えるってわけだよ」

 ティファニアは虚無魔法を使うことが出来る。
 しかしワルドは、ティファニアが始祖の秘宝を目にする機会があったわけなどないと思いこみ、それ故に虚無には目覚めていないと判断している。
 実際には、財務監督官であったティファニアの父が秘宝の一部を屋敷に置いていたのだ。その中に、始祖のオルゴールはあった。
 そしてティファニアは、そのオルゴールと同じように置かれていた指輪により、偶然とはいえ虚無の力に目覚めていたのだ。
 秘宝がそのように、ある意味ぞんざいに扱われていたなど、直接の血族たちですら知っているかどうかの話題だ。
マチルダ自身とて、直接虚無魔法を見て、ティファニアに顛末を聞かなければ知らずにいただろう。
マチルダは、出来うる限り虚無を隠匿すると決めていた。そしてそれを後押しもされている。
 ワルドが虚無魔法を何らかの理由で警戒しているのは確かだ。少なくとも、自分の邪魔になるものだと認識している。
だからこそ、ルイズを手中に収めようとし、それが不可能ならば不具にしてでもその身柄を拘束しようとした。
虚無を殺してはならない。とワルドは考えているらしい。
 理由はわからない。わからないが、ワルドはそのように行動している。
 ルイズを殺さないのではなく、虚無を殺さないのだ。
 虚無はアルビオン、トリステイン、ロマリア、ガリアに生まれると言う。
 ならば、ルイズを殺せば次の虚無が生まれるのか。
 そう考えれば、ワルドがルイズを殺さなかった理由は想像できる。虚無をルイズに固定するためだ。
 そして、アルビオンの虚無は現在ワルドにとっては不明である。
 最大候補は今のところティファニアだろうが、他に王の血筋がいないとは言い切れない。貴族王族の落とし種など、珍しくもない。
しかし、このままティファニアの正体を隠し続けることが容易に可能だとは、さすがにマチルダも考えてはいない。
 時間の問題だろうということもわかる。そして隠しきれなくなったとき、自分の裏切りも露見するのだ。
 打てる手は全て打つ。マチルダはそう考えていた。
22ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:01:14 ID:vdLVQG0a

「その子が虚無に目覚めるのなら、諸手をあげて出迎えたいくらいだよ」
「目覚めるには、始祖の秘宝とやらがいるんだろう? アルビオンに伝わってたそれは、今やトリステインさ。どうしようもないね」
「その通りだ。しかし、虚無に目覚める可能性のある者をむざと見逃すつもりもない」
「それもわかってる。覚悟はしているよ。忠告してくれるなら、恩の字さ」

 この男に、エルフへの禁忌はない。あるのはただの、未知への好奇心だけだ。あるいは、未知への警戒心か。
 どちらにしろ、そこに恐怖心はない。
 ゆえに、この男は恐ろしい。
 だが、引き返すことはできない。自分のやったことが知られれば、間違いなく背信と受け取られるだろう。
 ティファニアが虚無使いであることを隠し、あろう事か使い魔まで喚びだしているのだ。
 今のマチルダは、密偵として各地を飛び回っている事が多い。その中でも暇を見つけて、ウェストウッドを訪れることもある。
 それも限界が近づいているとマチルダは感じていた。そもそも、無理があるのだ。ワルドは最初からウェストウッドのことを知っている。
当然、何らかの監視は付けているだろう。
 逆に考えれば、マチルダがティファニアを気にするのは当たり前だからこそ、ワルドはそれを見逃していると考えることも出来るのだ。
 だからマチルダはティファニアを焚きつけた。使い魔を喚べと。
 彼女を守るに足る使い魔を喚び出すことが出来れば、マチルダは動きやすくなる。ワルドの手から抜け出すことも不可能ではないかも知れないのだ。
 そしてティファニアは使い魔を召喚した。
 そこに現れた少女の姿にマチルダは息を呑み、慌てて姿を隠す。
 何故? 何故、ここに学院のメイドが?
 しかも、よりによってあのルイズに一番近かったメイドではないか。
 そして、彼女が跨っているのはザボーガーのようなもの。
 飛び出したいのを堪え、マチルダはその様子を見続ける。覚えている限り、シエスタは乱暴な性格ではない。この状態とは言え、ティファニアに危害を加えるとは思えない。
 案の定、二人のやりとりは平和なものとなったようだ。
 マチルダは息をつき、二人の元へ姿を見せようと一歩動く。その瞬間、振り向いて杖を構え……
 マチルダの杖は弾かれ、地に落ちた。

「無駄なことはやめなさい。フーケ、それともロングビル? ここではマチルダの方が良いかしら?」

 貴様、と言いかけたマチルダは、目の前の姿に絶句する。
 そこには、一人の騎士の姿があった。
 かつて、烈風カリンと呼ばれた騎士の姿が。
23ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:01:58 ID:vdLVQG0a

 そしてカリンは今、ティファニアとシエスタの関係のみをルイズたちに告げていた。
 シエスタに刻まれたルーンはヴィンダールヴ。
 これでトリステインに虚無の使い魔が二人揃ったことになる。
 何故カリーヌがシエスタの存在を知ることが出来たのか、その問いにカリーヌは口を噤む。

「いずれお伝えします。しかし、今はどうかお許しください」

 言葉の内容とは裏腹に、それは依願ではなく事実上の命令だった。
 どちらにしろ、烈風カリンに強制できる者などトリステインにはいない。彼女が否と言えばそれは覆せないのだ。

「虚無は合計で四人でしたな」

 マザリーニが話題を換えた。
 虚無は四人。一人はルイズ。一人はティファニア。
 では、残る二人は。

「烈風殿はアルビオンからその娘を連れてきたと。ならばその主たる虚無はアルビオン王家の血を引く者」

 それは疑問ではなく断定。
 王家の血を引く者が市井にいる。それ自体は充分にあり得ることだ。
 そして、虚無の条件が始祖の血筋ならば、のこるはロマリアとガリア。
 ガリア王家と言えば無能王。ガリア王が魔法を使えぬ事は有名であった。
 そう、まるで、ルイズがゼロと呼ばれていたかのように。

「ガリア王自身が虚無……?」
「おそらくは」
「ならば、ロマリアは」

 アンリエッタに問われたマザリーニが記憶を探るように顔をしかめた時、突如兵士達の騒ぎが聞こえる。
 アニエスが確認しようと動き出すと同時に、銃士隊の一人が駆け込んでくる。
24ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:02:45 ID:vdLVQG0a

「何がありました?」
「迷い龍が周辺で発見されたとのことです」
「龍? 被害はどうなっています?」
「それが、見失ったと」
「それでは、去ったのですか?」
「未確認のままで、警戒は続いています」

 龍が忽然と消えるわけはない。見失うような大きさでもないだろう。
 そこへ別の銃士が。

「ミス・ヴァリエールに面会をしたいという者が来ております」

 ルイズが尋ねるより早く、カリーヌが告げる。

「ツェルプストー、グラモン、モンモランシ、加えてもう一人ではありませんか?」
「母さま?」

 ルイズには取り合わず、今度はカリーヌはアンリエッタへと目を向ける。

「お許しいただけるならば、四名をここに」
「説明は、しますね?」
「勿論です」

 はたして、銃士に先導されて来たのはキュルケ、ギーシュ、モンモランシー。そしてタバサとよく似た髪の色の、初めて見る少女である。
 アンリエッタの姿に、慌てて膝をつくギーシュとモンモランシー。そしてやや遅れて、これは儀礼的にキュルケ。
 一人残ってきょとんとしている少女を、モンモランシーが慌てて跪かせる。

「何があったのです?」

 直接に問うアンリエッタだが、ギーシュたちは王宮へと来たものの、さすがに姫本人にすぐさま目通りできるとは思っていなかった。
そのため、話すべきかどうかの判断に迷う。
 もともとは、ルイズ一人に話す予定だったのだから。
 救いを求めてやってきた少女の正体が風韻竜シルフィードであること。
 タバサが拉致された場所がガリアであること。
 拉致したのは、風韻竜すら恐れる存在、三ッ首竜と呼ばれるものであること。
 どれ一つとっても、気軽に話せる内容ではない。
25ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:03:30 ID:vdLVQG0a

「話しなさい」

 カリーヌの言葉にギーシュは躊躇い、首を振る。

「ならば私から話しましょうか?」

 そこでカリーヌは、視線をずらす。
 シルフィードへと。

「どうします? イルククゥ」
「どうして!? どうしてシルフィの名前を知ってるのね」
「それは後ほどわかるでしょう。しかし、貴方達が来た理由を私は知っています。貴方達自身が話すか、私が話すか、それを貴方達が決めなさい」

 キュルケが立ち上がる。
 彼女にとって、トリステインの誰が相手であろうと関係ない。礼儀は守るが、盲目的に無条件で相手を敬うつもりもさらさら無い。
 筋が通るならば、相手が平民であろうと従おう。通らないと思えば、王家であろうと逆らう。それがツェルプストー、いや、キュルケのやり方。

「その前に、貴女が知っている理由を、お聞かせ願えますか?」

 ギーシュとモンモランシーが驚いたようにキュルケを見る。
 カリーヌは笑った。それは、キュルケを認めるような笑み。
 立場が逆ならば、言い方こそ違えど自分もそうするだろうとカリーヌは認めていた。

「ルイズ。そのマシンホークをよく見なさい。見覚えがあるはずです」

 ルイズは素直に従う。
 ザボーガーの好敵手でもあったマシンホークだ。ザボーガーの記憶を覗いたルイズに見覚えがあるのは当然だろう。
 だが、しかし。
 ルイズは気付いた。
 マシンホークがタルブに現れたのはシエスタのおじいさんの代。そして、ザボーガーがルイズの前に現れたのはつい最近。
 ホークとザボーガーが争っていた頃から、ザボーガーがハルケギニアに現れるまで、数年と経っていないのだ。
 それを、ルイズは室内の者に告げる。
26ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:04:19 ID:vdLVQG0a

「サモンサーヴァントが異世界に通じたのは虚無の力故でしょうか? ならば、同時に時間を超えることは不可能ですか?」

 不可能、と言える者は室内にはいない。そもそも、状況証拠だけを見れば可能という結論しか出ないではないか。

「ルイズ、貴方はいずれザボーガーを元の世界に帰さなければならない。そのとき、ザボーガーが自分の来た時代より前に帰ったとしたら?」

 シエスタが突然カリーヌを見上げた。

「……タルブを救った騎士様に、お爺ちゃんは何かを託したと聞きました。まさか……」
「ザボーガーは私がタルブでホークに出会うことを知っていた。だから、ホークに手紙を託していた」

 つまり、

「全て知っていた、ということですか」

 鼻白んだようにキュルケは言う。

「ザボーガーが召喚されることも、アルビオンの動乱も、タバサがいなくなることも!」

 並みの男なら気押されるような烈火のごとく熾った瞳を、カリーヌは涼しげに受け止める。

「知っていました。しかし、一つ歯車が狂えばどのような結末になるかは予測できません。託された言葉に従うしかなかったのです」

 悩んだ。とは言わない。現在見える結果だけをカリーヌは告げていた。
 理屈ではその通りだ。そしてその結果が今。それは覆しようのない事実だ。
 マザリーニはそう理解している。そしてアンリエッタも。
 それでも、理解と了承は別だ。
 カリーヌの冷たい眼差しを、キュルケは真っ向から受け止めている。
 ギーシュとモンモランシー、そしてルイズは慌てて両者の間に入った。するとキュルケは、唐突に言葉のトーンを下げる。

「理屈では理解できますわ。だけど、私には真似できないでしょうね」
「素早い理解に感謝します。伊達にヴァリエールと競ってはいませんね」
「娘さんには、連勝させてもらっていますわ」

 なに? とまなじりを上げるルイズ。
 それをキュルケはあっさりと無視。

「ですが、私の親友をそのまま見殺しにするおつもりなら、それなりの覚悟を決めていただきますわ」
「元より、娘の友人を救わぬなど言語道断」
27ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:05:03 ID:vdLVQG0a

 烈風カリンとして、カリーヌはタルブを救ったことがある。

「俺にホークを預けてくれた博士からだ。烈風と名乗る者がいたら渡してくれと言われたが、まさか本当に出会うとはな」

 そこで共に戦った秋月玄から託されたのは、キャベツのように幾層にもくるまれた紙の塊だった。
 一番外側にはしっかりと「烈風カリンへ」と書かれている。
 そして、その下にはかなり崩されてはいるが辛うじてギリギリ読める文字で「カリーヌならば、一層を剥がしなさい」と。
 自分の正体を知っている者がいる。
 カリーヌは慌てず、一層を剥がした。

「貴女が夫を得たとき、一層を剥がしなさい」
「貴女が娘を得、名前を付けた後に、一層を剥がしなさい」
「貴女が二人目の娘を得、名前を付けた後に、一層を剥がしなさい」
「貴女が三人目の娘を得、名前を付けた後に、一層を剥がしなさい」

 カリーヌはそれぞれを、指示された時期に従って剥がした。
 それぞれに書かれていた答えは、

「ヴァリエール」
「エレオノール」
「カトレア」
「ルイズ」

 最初の一層は酔狂で、しかし二層目からは恐れと期待で。
 そして気付いた。これは自分の筆跡。それも烈風カリンとしてではなく、夫を得、娘を得、公爵夫人として落ち着いた自分の筆跡。
 手段はわからないが、これは未来の自分から過去の自分へと宛てた手紙。
 ルイズが産まれた後、伝えられる内容は詳細になっていった。
 しかし、その殆どが起こるべき事を傍観せよと書かれている。
カリーヌは何も出来ぬ自分を嘆いた。娘が命を懸けているときに何も出来ない自分を嘆いた。
 だが、それももう終わる。
 後少しで、塊は無くなる。そこからは、未知が待っているのだろう。

「ルイズ」

 カリーヌは、伝えられた最後の指示を果たすため、娘を呼ぶ。

「デルフリンガーを借りますよ」 
28ゼロと電流 第20話:2010/10/18(月) 13:06:26 ID:vdLVQG0a
以上、20話でした。
とにかく完結だけはさせよう。折角粗筋は作ってるんだから。
と思ってます。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 15:16:21 ID:irtbILGA
電流さん投下乙!
カリンちゃんは、ザボーガーはこれからどうなってしまうんだろう?
楽しみにしてます!!
30名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 17:38:42 ID:qCHlmJd5
乙、未来からの支援ってドラえもんののびたの大魔境を思い出しました。

>>18
タロウならキメラドラゴンに解剖バラバラの術でホルマリン漬けの標本を作るな
31名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 20:55:59 ID:Rt2HNcWk
復刊記念で、ラジヲマンなんてどうだ?
奴こそ四番目の使い魔にふさわしい。
32名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 20:59:41 ID:vdLVQG0a
マジですか。
ここでそんな情報が入るとは。
本屋に行かねば。
33名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 21:11:27 ID:RBOWBLyU
復刊記念なら、ハーフエルフの嫁がいる魚屋も・・・・・・
34名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 21:46:58 ID:IJnLDT5B
>>31
おっ 恐ろしい。
あのラジヲマンが、コッパゲと手を組んだら…
トリステインが、あっという間に 『原子力の王国』に!
35名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 22:32:04 ID:oEM9g2SO
第4の使い魔は生け贄ポジションらしいから、ワン・フォー・ワンで黄泉ガエルを特殊召喚
36名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/18(月) 23:13:03 ID:XMssSI3i
>35
ならば『忠犬ハチ公』を召喚!固有能力《忠義の死》発動!!
37機械仕掛けの使い魔:2010/10/19(火) 00:05:45 ID:kkWaeDSg
こんばんは。電流の方、乙です。
ザボーガーは一度も見た事がありませんが、この名前を見聞きすると、
サイボーグクロちゃんの公式サイト「電人サイボーガー」を思い出しますね…。

>>19
御懸念、ごもっともだと私も感じています。
微力ながら、このスレを盛り上げたいと思っての毎晩の投稿でしたが、
私自身、ストックに不安を覚えてきたところでした。
場合によっては、出来上がっている所まで全部投下しようと考えていましたが、
お陰さまでブレーキを掛けるきっかけが出来ました。
ありがとうございます。

ですので、クロちゃんが召喚された初日の終了となる、今回の5話で一旦連投をやめ、
しばらく作成に専念しようと思います。
予約がないのでしたら、0時10分頃から投下します。

38機械仕掛けの使い魔:2010/10/19(火) 00:11:29 ID:kkWaeDSg
機械仕掛けの使い魔 第5話


「じゃあ、まずは自己紹介ね。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
キュルケでいいわ」
 ベッドに腰掛け、足を組んでいるキュルケ。スタイルも相まって、非常に様になっている。
「で、そこにいるのが私の使い魔、サラマンダーの『フレイム』よ」
「きゅるきゅるっ」
紹介されたフレイムは、ロープにかけて干してある制服の下にいる。尻尾に灯っている炎で、制服を乾かしている。
なかなかに器用だった。

「彼女はタバサ。ちょっと無口だけど、悪い子じゃないの。さっきの件は、私が代わりに謝罪するわ」
 そう言って、優雅に頭を下げる。当のタバサと言えば、テーブルを挟んでルイズと向い合いに座り、
カタカタと震えながら俯いて、何やらブツブツと呟いていた。耳を澄ましてみると、
「…射程は解った…今度はその外から…ウィンディ・アイシクルで串刺しに…」
と、物騒極まりない内容である。耳を澄ましたルイズは、タバサに対して震えるのであった。
「洗濯に使ったのは、雨の日に使う部屋干し用の石鹸なので、室内で干しても問題ありませんよ、ミス・ヴァリエール」
 シエスタはルイズの傍らに立ち、ニコニコとしていた。貴族たちの会話に参加させてもらっているのが嬉しいのか、
はたまたクロの秘密を聞けるのが嬉しいのか、知るのは本人のみである。

一通りの人間組の紹介が済んだところで、寝そべっていたクロが立ち上がった。
「オイラはクロ。…先に言っとくけど、化け猫なんかじゃねーぞ」
「サイボーグ、だってさ。やる事なす事化け物じみてるけど、妖怪とかじゃないみたいよ」
「「「さいぼぉぐ?」」」
 事情を知らないキュルケ、タバサ、シエスタの声が重なる。ご丁寧に頭上には、”?”マークが浮かんでいる。
「見せた方が早いんじゃないの?」「だな」

 ここからは、概ねルイズの場合とほぼ同様の展開だった。頭部のぬいぐるみを脱いだ時点で3人とも目を伏せ、
ぬいぐるみを投げ渡されたキュルケのリアクションで、ようやくクロのメタルボディを直視する。…もう、ずっと脱いでた方がいいんじゃなかろうか、とも思えた。
39機械仕掛けの使い魔:2010/10/19(火) 00:13:45 ID:kkWaeDSg
「そう言えばクロ、さっき聞きそびれた事があったのよ」
 頬杖を突きながら、ルイズが尋ねる。
「そのゴーって人、何でアンタをサイボーグにしたの?」
「世界征服、だってよ。今じゃすっかり諦めたみてーだけどな」
「「「「世界征服…?」」」」
見事にハモった。驚く者もいれば、呆れる者もいる。要は、三者三様の受け取り方であった。
「世界征服って…いくら機械の身体って言っても、たった1匹で?」
「いや、オイラの他にも100匹くらいいたぜ。その日の内にほとんど潰しちまったけど」
 クロは思案する。あの日叩きのめしたネコ型サイボーグは、一体何匹いたのだろうか。最初の乱闘の時点で、恐らく50匹前後はいたはずだが…。
やめた、数えんのメンドくせぇ。
「あぁ、それでさっき、100匹いるっておっしゃったんですか」
シエスタの疑問が1つ解けた。しかし、やや残念そうなのは、生身の猫が喋る、というワケではなかったからだろうか。
いや、2匹ほどいるにはいるが。
「にしても、アンタ1匹に潰されるって…どんだけ弱いのよ、そのサイボーグたちって…」
「いや、弱くはねーぞ」
「何それ、自慢かしら? 案外かわいいとこあるのねぇ」
妖艶な笑みを浮かべるキュルケ。コイツは本当にルイズと同じ学年なのか…。クロには、とてもそうは思えなかった。
逆にタバサについては、妙に納得出来るものがあったのだが。
「想像してみな? 馬なんかより遥かに足の速ぇ猫が、鋼鉄だって切り裂く長ぇ爪振り回して追っかけてくる。
おまけに水の中でも自由に動けるし、中には空を飛べるヤツもいる」
 4人は、クロの言う通りの光景を頭に思い浮かべてみた。そして間を置かず、顔を引き攣らせる。
爪を振り回す、の時点でやや限界を迎えたらしい。タバサに至っては、怨嗟の声をあげる化け猫で想像してしまったようで、誰が見ても分かるレベルで顔を青ざめさせていた。
まだ化け猫を引きずっているようだ。
「ま、そんだけじゃねーんだけどな。他にも幾つか武器使えるんだが、オイラも使える武器だし、その内見せてやるよ…その内、な」
最後に見せたのは、悪役と言っても過言ではない、素晴らしく邪悪な笑顔だった。

 一通りの説明――相変わらずかなりの部分を端折ってはいたが――を終えたクロは、「メンドくせーから、後は適当に」とそっぽを向き、自分の身体をいじり始めた。
ドライバーなどの工具がないため、本格的なメンテナンスは不可能であったが、手でやれる部分などはやらないに越した事はない。
 その間、ルイズたちはクロについて、あーだこーだと議論を展開していた。

40機械仕掛けの使い魔:2010/10/19(火) 00:15:08 ID:kkWaeDSg
「義手義足ってレベルじゃないわよ、あの猫ちゃん。新種のゴーレムか何か?」
「全身が機械なんですよね…?」
「触ったけど、硬いし冷たいしで、間違いなく、生き物じゃないわね」
「機械の…化け猫…」「化け猫はもういいってば、タバサ」
化け猫ネタを引っ張るタバサを窘るキュルケ。その傍らで、シエスタはクロを眺めていた。
 性格は猫そのものだ。説明を始めたかと思えばあまりにも抽象的で、気まぐれに過ぎる。
だけど、シエスタにとっては些細な事だった紅茶の件。そこから解るのは、これまた猫のような義理堅さ。
シエスタの中で、クロへの興味が、枯れることのない泉のように湧き出るのだった。

「そう言えばヴァリエール、さっきのあの音は何だったの?」「音?」
 キュルケから投げかけられた質問に、ルイズは記憶を探った。そして、ある一つの出来事に思い至る。
「あぁ…。クロがそのベッド持ち上げた時ね」
「その…ベッド?」「アンタが座ってる、そのベッドよ」
ルイズの指先が示すのは、キュルケが腰掛けている、ダブルベッドだった。
 改めて、ルイズのベッドを見てみよう。外見はそこそこ質素だが、天蓋付きで、作りもしっかりとした物である。
彼女一人が寝るには、あまりにも大き過ぎる。重量は、100kgは下らないだろう。
「ちょっと待ってヴァリエール…あの子、コレを持ち上げたの?」
「しかも片手で軽々とね。アンタ…いや、私たち全員が乗ってても、余裕なんじゃない?」
「み、ミス・ヴァリエール…、私たち全員が乗ると、多分300kg前後になるんじゃないかと…」
「クロ、いける?」「さーな」

 とぼけてみせたクロだが、実はやれるという確信があったりする。
 以前、ミーくんと共に巻き込まれた、ロミオ主催の鬼ごっこ(敗北時は桜町消滅)において、クロは改造車『鈴木GM2』を持ち上げ、大遠投をやってのけたのだ。
 しかもこの改造車、大量の武装やブースター(ウルトラミノフスキーマッハエンジン)を搭載しており、恐らくその重量は、軽く1tを超えていたはずだ。
「ま、やってみるわ。さー、乗った乗った」
ちょいちょい、と手を動かして促すクロ。それにしたがって、キュルケを除く3人はベッドに乗った。なぜか、正座である。
41機械仕掛けの使い魔:2010/10/19(火) 00:17:24 ID:kkWaeDSg
 
 ベッドの上で落ち着かない4人。持ち上がるかどうか疑ってはいるが、仮に持ち上がったとしたら…? と言うか、持ち上がったとしたら、本気で怖い。
「そーら、よっと」
「あー…」「ひっ!?」「…!?」「きゃっ!?」
 嫌な方向に事実が提示された。クロは、持ち上げてしまったのだ。先程のように、軽々と、女性4人を乗せた天蓋付きダブルベッドを、片手で。
しかも持ち上げている位置がベッドの縁である辺り、重心が作用点からズレていても、何ら問題はないようだ。
 ルイズは脱力し、呆けた顔で天蓋を見上げていた。残りの3人は、姿勢を崩し、慌ててベッドシーツにひっ掴まった。クロは、相変わらず涼しげな顔だ。
と言うか、手持ち無沙汰な左手で鼻をほじっている。本格的に余裕らしい。

「降ろしていいわよー…」「あいよー」
気の抜けたやりとりの直後に響くは、寮塔を揺るがす轟音。衝撃は寮塔を震わせるに留まらず、ベッド上の4人を1メイルほど打ち上げた。

マットレスに着地した4人は、何かこう、全てがどうでも良くなってしまっていた。
互いに視線を交わし、その思いが共通のものであることを悟った彼女たちは、そのままベッドに身体を投げ出した。
「ヴァリエール、悪いけど今日はここで寝かせて…」
「気持ちは解るわ、ツェルプストー…今日は特別よ…」
「私も…ここがいい…」
「ミス・ヴァリエール…ごめんなさい…」
 間を置かず、寝息の4重奏が始まった。ダブルベッドとは言え、4人で寝るには狭いだろう。
しかし、それすらも気にならない程の倦怠感と疲労が、彼女たちを襲っていたのだった。

「ったく、またかよ…」
 呆れ返りながら、クロは窓から夜空を見上げた。
「月が2つ、ねぇ…」
 桜町…いや、地球上では絶対にありえない光景だった。だが、クロにとっては驚く事でもない。
偽りの砂漠の大地、偽りの空、偽りの太陽と月。それらに比べて、この月のなんと幻想的な事か。
柄にもなく、クロは月を見上げ、心打たれていたのであった。
「新世界、か…」
 タブーが打ち破った偽りの空の向こうに広がっていた、光溢るる新世界。
あの世界を思い出した時、決まってクロの記憶から蘇るのは、タブーを守る1体の戦闘ロボットだった。
サイボーグの体になってから、初めて『本当の名前』を打ち明けた相手。
仮に。仮にアイツが、人々と共に新世界に辿り着いたとしたら…アイツは、死に場所を探すのを諦めただろうか。
…別の道を歩んだだろうか。
「お前は新世界を見たくなかったのか…? なぁ、『バイス』…」
 ランプとフレイムの尻尾の炎が揺らめく室内で双月を見つめ、クロは誰に言うでもない…届くわけもない呟きを漏らした。
42機械仕掛けの使い魔:2010/10/19(火) 00:23:06 ID:kkWaeDSg
5話、投下終了しました。

クロちゃんファンにとってはお馴染みのキャラ、バイスですが、先日改めて調べてみると、
やはり玩具化されただけあり、かなり人気だったようですね。
かく言う私も、バイスはかなり心に残る、好きなキャラです。

なぜバイスの名を出したかは…予想のつく方もいらっしゃるかと思います。
あるいは、バレバレかも知れませんが…。

では、今回投下した5話をもって、しばらくストック貯めに精を出す事にします。
重ね重ね、>>19様、ありがとうございました。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 00:32:32 ID:9+et696Y
機会仕掛けの人乙!

あと>>36は型月ネタは専用スレがあるのでそっちでな。
44名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 00:43:17 ID:H1f0+IdQ
クロちゃん乙。続きwktkだしエターならずに頑張って欲しい。

>>35で遊戯王からも面白そうと思ったけど、アニメから召喚は幾つかあるっぽいが
OCGだとデュエルターミナルや通常モンスター以外は設定が書かれて無いから厳しそうだなぁ
45名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 01:58:22 ID:JySNxdub
クロちゃんは読み切りの二話辺りから読んでたけどバイスとかもう覚えてないなー
それはそうとゼロ魔世界で普通に機械って言葉が通じるのは微妙な違和感があるな。原作やアニメでどれくらい触れられてたっけ?
46名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 03:27:14 ID:wOZjyOQu
クロ乙!
常識吹っ飛ぶからな、クロの周りの連中ww

異世界サバイバル編は単行本5巻だったかね。
8巻位までは追っかけてたんだが……
47名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 10:26:08 ID:K71vg5Du
ズラの人…もとい「ズラ」のロボットだよねバイスは。
ロボットと言えば凄まじく爽やかにイラッとする電柱二人組(+α)もいたなぁ…
48名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 13:17:34 ID:qeUQhgpS

バイスか、あいつの名を聞くと切ないぜぃ
>>9
おれもティガ世代です。ヤナカーギーの話はビデオにとってすりきれるまで見たなあ
>>47
ロミオとジュエットとベイビーちゃんか。あいつじーさんばーさんを水爆で人質にしてオニごっこやるからな
クロちゃんといえば、キッドの過去編のグレーもかっこよかったな
49名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 18:03:29 ID:O3K5gV/4
「まもって!守護月天」の支天輪と黒天筒召喚。
中からシャオとルーアンが。
50名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 18:46:15 ID:zon8Jn+D
ルイズ「宇宙の果てのどこかにいる……わたしの僕よ。神聖で美しく!そして、強力な使い魔よ!
私は心より求め、訴えるわ!…我が導きに、応えよっ!」
(大爆発)
???「西京の俺様wwwww居間個々に後輪wwwwwwwうはwwwwwwここwwwwどこwww?」

盾は無理でもキャラのウザさで囮の役目は果たせる様な気もしないでもない。
おマチさんのゴーレムを前にして「無理wwwwサポシwwww」とか言って逃げるかもだけど…
51名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 18:56:13 ID:v5SP42JE
きたか・・・

  ( ゚д゚ ) ガタッ
  r   ヾ
__|_| / ̄ ̄ ̄/_
  \/    /
オレはクロちゃんが召還されるのを待っていた・・・!
52名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 19:25:14 ID:AwV1IuMa
>>50
内藤かよw
むしろザイドの兄貴呼んでやったら?w
53名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 20:14:23 ID:ZFlTkL03
今更1話の話ですまんが猫召喚してやり直させろはさすがにないわルイズ…
54名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 20:17:34 ID:WkQVHx6t
>>44
エリア、ヒータ、ウィン、アウス、ダルク、ライナの6霊使いを召喚しようと思ったことはあった
でも性格とかをオリ設定で書いたら絶対文句つけられるだろうな
55名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 20:35:06 ID:wOZjyOQu
>>54
霊使いを生かすための専用デッキを組んだ
デュエリストを……ってのもやっぱオリキャラかな。

そういう奴が原作で居たならいいんだが
56名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 20:38:53 ID:1RxgM+tG
>>53
ルイズは犬が好きだから仕方ない
57名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 20:55:09 ID:Ke6kR/06
>>49
age無いでsageてください

>>51
AAやめてください
58萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:33:08 ID:nSA5CFrU
投下された皆様乙でした。

進路クリアなら21:40ごろより36話の投下を行います。
59名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 21:33:38 ID:n4mUtlCU
PC規制されて書き込めん…。
携帯で書き込むのは面倒臭いので避難所で大丈夫?
何かあそこめっちゃ過疎ってるんだが
60萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:40:34 ID:nSA5CFrU
それではいきます。

 タルブの村に鎮魂の鐘と空砲の音が鳴り響く。
 メンヌヴィル小隊の襲撃は、駐留している銃士隊に大きな被害をもたらした。
駐留五個小隊中二個小隊が壊滅し、他の二個小隊も損耗が激しい。
だが、ほとんどの隊員が初めての実戦、しかも完全な奇襲にもかかわらず
村人の死者は一人もいないという功績がなしえたことは、記録されなければ
ならない。
 しかし、この戦いの記録を知る者は、そこに奇妙な記述があることに
気づくだろう。
 そう。最初の奇襲で居住区を警邏していた第五小隊が自らの命を省みず
村人を守る中、そして休養中だった第四小隊が即時集結して反撃と占拠された
村長の館などの奪還を試みる中、彼女たちを陰から支える異国の軍服に
身を包んだ男たちの姿があった、という記述に――


61名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 21:41:11 ID:WkQVHx6t
支援用意、全艦戦闘配備
一番主砲、炉号弾装填!
二番主砲、Z弾装填!
62萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:41:33 ID:nSA5CFrU
「やっぱり、掩体壕がなまってそう言われるようになったんだ」
「そう。武雄さんの発音が村のみんなにはそう聞こえちゃったみたいで。
私を含めて誰も正そうとしなかったし〜」
 太陽が中天に昇る頃。銃士隊による後片付けもまだ終わらぬうちに、
あかぎとシエスタはルイズたちを『竜の羽衣』が安置されている
『イェンタイ』こと掩体壕に案内していた。
 二つある掩体壕のうち、最初に作られた規模の小さい方は、今は倉庫として
使われているということで、彼女たちがいるのは三十年前に作られたという
大きい方の前。巨大な鉄の防爆扉や人が出入りするサイズの鉄の扉には、
今朝までの戦闘の傷跡が生々しく残っている。とりわけ目立つのが、
ふがくの機関短銃の弾痕だった。
「あっちは大日本帝国式の掩体壕だからそれほど大きくないけれど、
こっちはブリゥショウ中将が監修したドイツ第三帝国式。そもそも格納する
数が違うから、比べてもあまり意味はないかもしれないわね」
「それにしても驚きの連続ですな。我々からは、すでにここまでベトンを
使いこなす技は失われています。劣化防止の『固定化』以外で魔法が
使われていないというのがまだ信じられません」
「私たちの歴史でベトン……コンクリートが使われなくなった時期が
あったのと、同じ理由でしょうね。きっと。でも、あまり吹聴されても
困りますから……」
「分かっていますよ。あ、ははは」
 あかぎの説明に一番聞き入っているのはコルベールだ。
そもそも二千リーブルを超える重さの砲弾の直撃に耐える施設など、
魔法を使ってもそうそうあるものではない。フル装備のあかぎと
さえない風貌のコルベールを見比べて、タバサが神妙な顔をする。
「……信じられない」
「どうしたの、タバサ?」
「今朝とギャップが激しすぎる」
「ああ……でも、そのギャップがいいわ。影のある殿方って、惹かれると
思わない?」
 親友の熱っぽい視線の先に、タバサは再び「信じられない」とつぶやいた。

63萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:43:22 ID:nSA5CFrU
 あかぎが飾り気のない鉄の鍵で扉を開ける。中は薄暗く、奥に何かあると
いうことがかろうじて分かる程度。コンクリートで固められた床が独特の
靴音を立てる。あかぎは入ってすぐの壁に取り付けられたレバーを上に
引き揚げる。その動作で天井付近にあるトーチカのような形状の明かり窓から
光が差し込み、掩体壕の中を明らかにする。
「それじゃあシエスタちゃん、お願いね」
「はい。いい運動になるんですよね、これ」
 シエスタはそう言うと、掩体壕奥の小部屋に入っていく。前回キュルケたちが
ここを見たときには入らなかった小部屋に、全員が興味を持った。
「三十分ほど待ってもらうことになるけど、いいかしら」
「どういうこと?」
 あかぎのその言葉に、ルイズが問い返した。
「今シエスタちゃんに発電機を回してもらっているの。入り口の防爆扉と
奥の昇降機を動かすのに必要だから」
 そう言って、あかぎは入り口に目を向ける。今入ってきた扉と違い、
とても人の手で開けられそうにない巨大な鉄の扉が、説得力を持って
立ちふさがっていた。
「『ハツデンキ』?それに『ショウコウキ』って……何?この前見せて
もらったあの『竜の羽衣』のほかに、何かあるわけ?」
 キュルケはそう言って掩体壕の中央に鎮座する『竜の羽衣』――濃緑色と
銀色に塗り分けられ、胴体と翼に日の丸が描かれた大型の四発機――を
指さす。がらんとした中にただ一機だけ鎮座するそれは、見方によっては
奇妙にも映る。まだ見たことのないルイズがそれに興味を示した。
「あれが『竜の羽衣』なの?言われてみれば色といい形といいふがくの
翼に似ているけど、知らない人が見たらこれが飛ぶなんて絶対思わないわね。
大きな鳥のおもちゃと思ったりして」
「あたしたちもそう思ったわよ。ふがくを知っているからこそ、
飛ぶんだろうなーって」
「ふがくちゃんにはこれが何か判るわね?」
「ええ。十八試陸上攻撃機『連山』。大日本帝国で開発中だった、
大型爆撃機。完成していたのね」
 ふがくはそう言って『連山』を見る。大日本帝国では実現が難しかった
陸上四発機。それが完璧に整備された状態でたたずんでいた。
「そう。武内少将と加藤中佐がこれに乗ってこの村に来たのよ。三十年前にね。
 …………で、普通はこれを見せただけでお仕舞い、ってなるのよね〜。
 ふがくちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
 あかぎはそう言ってふがくを掩体壕の奥に連れて行く。そこにはワインを
詰める木箱が山積みされており、あかぎとふがくは手分けしてそれを
除いていった。
「これ、全部空箱?」
「擬装のためのものだから〜。さあ、ちゃちゃっと横に片付けちゃいましょう」
 ルイズたちはあかぎとふがくが大量の木箱を片付ける様子を、真剣に
見つけている。そうして全部片付けたとき、ふがくが驚きの声を上げた。
「……なんで、こんなものがここに……?」
 それは黄色で描かれた、いわゆる表示帯だった。横十六メイル、
縦十三メイルの角を丸められた長方形を縁取るそれに、ふがくは驚きを
隠せなかった。
 そこに、シエスタが汗をタオルで拭きながらやってくる。
「あかぎおばあちゃん、準備できました」
 上気したシエスタの頭を優しくなでながら、あかぎはルイズたちに
向き直った。その表情はそれまでと違い、真剣そのもの。ルイズたちには、
あかぎの左腕の盾に配置された高角砲群が鈍く光ったように見えた。
何故彼女がフル装備でここにいるのか、その理由が分かった気がする。
「さて、ここから先は本来部外者立ち入り禁止。特に外国の方には防諜上の
理由で本当ならここに昇降機があることすら知らせたくはありません」
64萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:44:42 ID:nSA5CFrU
「あかぎおばあちゃん?」
 シエスタが驚きの声を上げる。
「今はなきフィリップ三世陛下やヘンリー陛下。それにマリアンヌ太后陛下と
アンリエッタ姫殿下、タルブ領主アストン伯爵閣下の許可が必要なのよ。
本当はね」
 挙げられた面々にルイズたちは思わず息をのむ。その様子をひとしきり
眺めた後、あかぎは相好を崩す。
「で・も〜、今回はと・く・べ・つ・に、お見せしちゃいま〜す。
もし咎められたら『あかぎが許可した』って言えばいいことだから〜。
ささ、みなさ〜ん、こっちに集まって〜」
「な……び、びっくりさせないでよね、まったく」
 胸をなで下ろしたルイズを先頭に、手を振るあかぎがいるところに
集まる。何が起こるのかと思っていれば、シエスタが表示帯の角の一つに
跪き、隠された蓋を開けて中にある赤青のボタンのうち、赤いボタンを押す。
すると小さく揺れたかと思うと、チン……チン……と軽快な音とともに
ゆっくりと床が沈み始めた。
「何?何?」
 慌ててふがくにしがみつくルイズ。タバサも驚きながらも表情には
出さず、床とすれ違って上がっていく錘に目を奪われた。
 時間にして一分ちょっと。真っ暗闇に特殊な塗料で描かれた足下の
表示帯だけが淡く光る中に昇降機が降り立っても、ルイズたちは動けずに
いた。
「これは……」
 驚くコルベールに、あかぎが答える。
「これが昇降機。私の飛行甲板に付いているものと構造は同じね。
 私が模型を組み立てて、それを参考に設計図を起こして職人さんたちに
作ってもらったの。部品ごとに発注したから、これの全体像を知っているのは、
組み立てた私とルリちゃん、それに職人さんたちを手配していただいた
フィリップ三世陛下だけね。
 表示帯の蓄光塗料は私の持ち合わせ。さすがにこれはこっちじゃ再現
できなかったわ」
「確かに……これだけのものは『錬金』では出せませんが……しかし……」
 絶句するコルベール。『土』メイジであるギーシュなど、自分など
足下にも及ばない高度な技術にさっきから声も出せない。モンモランシーも
未知なるものと暗闇の恐怖からか、先程まで自分を助けなかったと
けんもほろろだったギーシュにしがみついたままだった。
 あかぎはそんな様子を楽しむように眺めた後、まるで見えるかのように
壁に向かって歩き、ぱちんと音を立ててスイッチを動かす。天井に設置された
明かりが灯り、そこにあるものに、ルイズたちは驚きのあまり声も出せなかった。

65萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:46:49 ID:nSA5CFrU
「……何……これ。これ、全部『竜の羽衣』なの?それにこの明かりは
ランプとも違う……?」
「電球ね。こっちでも作れたんだ……」
 ルイズとふがくのつぶやきに、あかぎが答えた。
「タングステンなんて手に入らないから、サハラのオアシスに自生している
竹をエルフの統領様とお話しして分けてもらったの。不活性ガスも簡単に
手に入らないからエジソン式の電球よ。球自体はランプ職人さんの手作りね。
 不活性ガスはルリちゃんに空気を『錬金』して窒素ガスを抽出して
もらおうとしたけれど、うまくいかなくて諦めたの」
「でも、こんなのここ以外で見たことないわ。……まさか、その職人って……」
 ルイズの問いかけにあかぎは笑みを浮かべるだけ。それですべてを
悟ったキュルケがあきれるように言う。
「……この村がワインと秘薬の村なんて、とんだカムフラージュね。
魔法衛士隊や銃士隊が駐屯する本当の理由が分かった気がするわ」
「いいの?わたしたちはこの国の人間じゃない」
 タバサの言葉にあかぎは笑顔で即答する。
「ひ孫が信頼する人たちですもの。それに、私にもあなたたちが悪い
人間だとは見えないわね。誰にも話さないって信じてるから」
 その言葉がタバサには痛かった。そんな心情を知らないルイズは、
シエスタを連れて『竜の羽衣』を見て回る。

 地上にあった『竜の羽衣』――『連山』とは異なり、ここに安置されている
四機はすべて単発機だった。ちょっとしたホールのような広い空間に
並べられ、昇降機に機首を向けたそれらの機体形状はすべて異なり、
特に奇抜な色で塗られたものはルイズの興味を強く引いた。
「ほかのは全部灰色とか緑とかの地味な色だけど、これだけ真っ赤ね」
「モモ隊長……モモヤマ飛曹長の『シデンカイ』ですね。どうして
こんな色に塗っているのか詳しい理由は聞けませんでしたが、いつも
『オレは誰かを守るために生かされている』って言って、その通りに
行動する人でした。
 あ、『モモ隊長』っていうのは、私が教えを請う時にそう呼べって
言われていたんです。名前のヨウジ先生って呼ぼうとしたら怒られて。
でも、半年前、暴走した貴族の馬車から子供を守って……」
「ふうん。シエスタの先生だった人か……会ってみたかったわね。
あっちの灰色のは?」
「あれはブリゥショウ中将の『グスタフ』です。…………」
 シエスタの説明を熱心に聞くルイズをほほえましく見ながら、あかぎは
コルベールたちを濃緑色に塗られた別の機体の前に案内していた。
黒く塗られたエンジンカウルに書かれた真っ白い『辰』の文字が、
それを読めないコルベールたちには神秘的に感じられる。
「これだけ椅子が二つあるわね。二人乗りってこと?」
 キュルケの問いかけに、あかぎは懐かしむように答える。
「これは複座零戦。一人乗りの零戦をラバウル基地で二人乗りに改造
したもので、武雄さん……佐々木少尉と、水島整備兵長が乗っていた
機体よ。これだけが六十年前からこの村にあるのよ」
「なるほど。『レイセン』というのがこの『竜の羽衣』の名前で、
二人乗りだから複座、ということですか。上にあった『レンザン』も
そうですが、名前の付け方が神秘的な響きですな。
 ところで、どうして士官と整備兵長が同じ機体に?あなたたちの国では、
整備兵も前線に出るのですか?」
 従軍経験のあるコルベールの問いかけに、あかぎの表情が曇る。
それから躊躇う様子で、静かに語り始めた。
66萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:48:57 ID:nSA5CFrU
「機上整備員って言って、搭乗員と一緒に乗り込んで作戦行動中の故障や
被弾の修理をするのが建前。でも、実際には搭乗員と一緒にそのまま
敵艦に体当たりすることになったそうよ」
 コルベールは言葉を失う。キュルケは理解できないと言わんばかりに
あかぎに問う。
「敵艦に体当たりって……それじゃこれは空飛ぶ棺桶だったってこと?
特に機上整備員って……あたしの国じゃ、そういうのは無駄死にって
いうのよ!」
 キュルケの剣幕を聞きつけたルイズたちも複座零戦の前に集まってくる。
二人が目の前に来るのを待って、あかぎは言葉を継いだ。
「最初からその目的のために造られたとしたら、そんな不幸なことは
ないわね。
 私がミッドウェイで沈んで、その後に行われたことだから、武雄さんたちに
聞いた以上のことは知らないのだけれど、『特別攻撃』として行われた
その一度きりだけだったはずが、敗色濃厚になって常態化したそうよ。
武雄さんと水島整備兵長も、ラバウル基地が敵の攻撃で孤立化した後、
ある参謀の命令でレイテ島奪回の大作戦を行う聯合艦隊を支援するために
死んでこいって言われたそうよ。いくら零戦が航続距離が長いからって、
届くわけもないのに。
 精神論の空砲で敵は倒せないって、開戦前から私はそう言い続けてきた
けれど、精神論を声高に唱えて拳を振り上げる人で実際にそれに参加した人は
ほとんどいなかったって。私が副官を務めていた司令官殿は、決戦の時に
志願して部隊を率いたそうだけれど、それは例外だったみたい。
 ……けれど、経緯はどうあれ実際に敵艦に突入した人たちは、みんな
祖国を守りたいから、愛する人たちを守りたいからって思っていたはずよ。
きっとね」
「だけど、それって悲しすぎるわ。死んだら、もう何も守れなくなるじゃない」
「ルイズ……」
 悲しげに語るあかぎの言葉に、ウェールズ皇太子を思い出しぽつりと
漏らすルイズ。ふがくはそんな彼女にかける言葉が見つからなかった。
あかぎはそんなルイズを見て、寂しげに、そして慈しむように言った。
「確かに、そうかもしれないわね」
 あかぎの言葉に空気が沈む。それを破ったのは、佐々木少尉たちの
愛機の横に安置されている機体の向きを奇妙に感じたタバサだった。
67萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:50:37 ID:nSA5CFrU
「……あの『竜の羽衣』だけ、反対向きに置かれている」
 タバサが指さした先には、プロペラが後ろにある、やけに脚が長い
『竜の羽衣』があった。尾翼が前、主翼が後ろにあるため、確かにこれだけ
前後逆に安置されているようにも見える。他の機体と異なりコルベールの
背丈よりも高い位置にある操縦席に乗り込むために、はしごがかけられていた。
あかぎはゆっくりと首を振り、タバサの言葉を否定する。
「あれで向きは間違っていないわ。あれはエンテ式の航空機で、
『震電』。ここだとカナール式って言う方が通じるかしらね。
 三十年前に白田技術大尉が乗ってきた機体で……そうね、ここにある中で
高高度を全速で飛ぶふがくちゃんを撃墜できる可能性が一番高い機体かしら。
桃山飛曹長の紫電改や武雄さんの零戦だと高高度はちょっと厳しいし、
ブリゥショウ中将のFw190G『グスタフ』は地上攻撃用の戦闘爆撃機だから」
 あかぎのその言葉にあかぎとふがく以外の全員が目を丸くした。
その中で最も早く現実に戻ったのは、誰の手も借りずに独学で初歩的な
レシプロエンジンを完成させた、コルベールだった。
「……なるほど。『エンテ』はゲルマニアの、『カナール』はトリステインや
ガリアの古語でどちらも『鴨』を意味します。『シンデン』でしたか、
この優美な『竜の羽衣』にふさわしい名前ですな。シラタ技術大尉には、
個人的に一度お話を伺ってみたい。
 ところで、これらの『竜の羽衣』はまだ飛べるのですか?」
 コルベールの問いかけに、あかぎは首を振った。
「空母型鋼の乙女の私が行った整備は完璧だし、ルリちゃんに『固定化』を
かけてもらっているから機体そのものは問題ありません。けれど、彼らは
もういないの。武雄さんが五年前に死んで、最後に残っていた桃山飛曹長も、
シエスタちゃんの話だと半年前に亡くなったそうだから」
 コルベールは、その言葉に三十年という時間の長さを思い知る。
キュルケも小さく肩を落とした。
「あたしたちの最初の目的は『竜の羽衣』を譲ってもらうことだったけど、
こんな風に隠してあるんじゃねぇ……上にある『レンザン』は大きすぎるし」
「そうね。その要求にはお応えできかねます。
 さて、これで『竜の羽衣』のお披露目はお仕舞い。ここで見たことは
あなたたちの胸の内だけにしまっておいてね。今朝の一件から解るように
そう簡単には制圧や強奪はできないでしょうけど、私はあなたたちに
砲口を向けたくないから。
 それから、ふがくちゃんはもう一晩この村に泊まって行きなさい。
整備してあげる」
 あかぎはそう言って見学を終了させる。傭兵メイジを消し飛ばした
あかぎの主砲の威力を彼らは見ていない。それでも、ふがくの機関短銃より
遙かに威力が高いと思われるあかぎの装備は、笑顔の裏で彼らに言外の
プレッシャーを感じさせていた。
 ルイズはあかぎの言葉を聞いて、コルベールを見る。自分たちが
ここに来たのはタバサの助命のためだ。あまり長居をしていいものでも
ない。
 コルベールはルイズの視線に気づくと、彼女が言葉を発する前に
こう言った。
「わたしたちが馬で学院に戻るより、ふがく君が飛んで帰る方が遙かに早い。
せっかくの機会だから、お言葉に甘えなさい。わたしたちが先に学院に
着いたら、わたしから学院長に話をしておこう」


68萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:52:28 ID:nSA5CFrU
 そうして。コルベールたちを見送ったルイズたちは、シエスタとともに
彼女の家にいた。なお、タバサは実家に戻る途中だったので、彼女の
使い魔である風竜シルフィードに乗ってコルベールたちとは逆の方向に
飛んでいった。飛び立つときにシルフィードの機嫌が悪いように見えたのは、
たぶん気のせいだろう。
 ルイズとふがくは、あかぎが手料理を振る舞ってくれるということで
食堂のテーブルについている。シエスタはあかぎを手伝うために台所へ。
シエスタの家族は今朝の後片付けに出かけており、家には彼女たちしか
いなかった。
「いったいどんな料理なのかしらね?『ヨーショク』って」
「一銭洋食って言ってね、あかぎの生まれた帝国海軍の拠点、日本一の
工廠都市呉でよく食べられていた料理よ。水で溶いた小麦粉を焼いて、
その上にうどん……小麦粉で作った麺と肉とたっぷりの刻みネギを乗せて
焼くの。それが焼けたらひっくり返して鉄板に割った卵の上に乗せて、
いい感じに焼き上がったらもう一度ひっくり返して半分に折って、
ソースを塗って食べるのよ」
「へぇ。なんか、すごい料理ね。そんな食材使ってたら平民じゃ口に
できなかったでしょう?」
 ルイズは興味深そうな顔で台所に視線を送る。言われたふがくは一瞬
何のことか理解できなかったが、ああそうか、と思い立った。

(こっちじゃ卵もさらさらの真っ白い小麦粉も、庶民の口にはなかなか
入らなかったっけ……向こうじゃ庶民の味なんだけどね)

 食堂でそんなほほえましい会話が行われている頃、台所ではシエスタが
真剣な表情で鉄板と格闘していた。
「えいっ!」
 気合い一閃。鉄のへらで鉄板から浮き上がった一銭洋食が綺麗に裏返る。
シエスタはへらを握りしめたまま感極まった表情であかぎに向き直った。
「あかぎおばあちゃん!わたしにもできたよ!」
「ええ。うまいわ〜シエスタちゃん。五年前はすごかったものね〜」
 そう言ってあかぎは思い出す。一銭洋食はひっくり返すのに失敗すると
大惨事になる。小さい頃からおやつに食べていたシエスタは見よう見まねで
幾度となく挑戦し……結果は推して知るべしであった。
なお『ヨシェナヴェ』と違って『ヨーショク』がタルブ名物にならなかったのも、
貴族向けの上質の小麦粉を使ったりと食材が高い上にうまくひっくり返せないと
いう『事故』が多発したためだった。
「ジェシカちゃんはうまかったのよね〜。大きくなったでしょうし、
今は魅惑の妖精亭の看板娘でしょうね、きっと」
 あかぎは懐かしそうに思い出す。ちなみにシエスタの母方の従妹で
あるジェシカがあかぎにせがんで覚えた一銭洋食はそのまま『ヨーショク』として
事前予約なしでは食べられない魅惑の妖精亭の知る人ぞ知る
高級裏メニューになっていることは、余談である。
「……ごめんなさいね。せっかく帰ってきたのに」
「え?」
 突然のあかぎの言葉に頭に『?』を浮かべるシエスタ。しかしその
理由に思い当たると、隣のあかぎにだけ聞こえるように言った。
「仕方ないです。貴族の皆様がいらっしゃるのに、『竜の羽衣』に
乗れることを知られたくないし。でも、補助発電機に乗るのも
いい運動になったし、全然気にしてないから」
「それならよかったわ。それに、基礎訓練も欠かしていないみたいだし。
 でも、まさか水飴製造所の水車の一部が水力発電機で、掩体壕の動力も
本来はそこから取っている――このことに思い当たる人なんてそうそう
いないわ。それを知っているのは私たち以外ではトリステイン王家と
ごく一部の方々だけで十分。本当は水飴製造所も全部電化したいところ
だけど、出力が足りないから仕方ないわね」
 あかぎは嘆息する。

69萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 21:53:24 ID:nSA5CFrU
 これこそが、タルブの村最大の秘密。海軍士官である前に飴屋の
三男坊だった武雄と鋼の乙女であるあかぎは、『土』のトライアングル
メイジであるルーリーとともにこの地で『ミジュアメ』と呼ばれる水飴を
製造、献上し、その利益で村に大規模な治水工事などを行ったが、
それらはあかぎが武雄やルーリーたち、自分を愛する者たちの生活が
苦しくならないようにするためだった。それは時を経て変貌したものの、
三十年前のある事件をきっかけにトリステイン王家の利害と一致し、
その秘密はより強固に守られていく。
 今回はシエスタの頼みもあって大幅に手の内を明かしはしたものの、
巧みな誘導と即応性がないと見せかけることで、秘密の根幹はその片鱗すら
垣間見せることはなかったのである。

「さて、料理もできたし、シエスタちゃんの新しいご主人様に食べて
もらいましょうね〜」
 あかぎのその言葉に、シエスタは赤面した。
「そんな、ご、ご主人様って」
「あら、いいじゃない。私から見ても、いい娘だと思うわよ。素直じゃ
なさそうなところも、あの娘にそっくり」
 血のつながらないひ孫娘のシエスタをいじりながら、あかぎは一銭洋食が
載せられた皿をテーブルに運ぶ。
 目の前に並べられた『ヨーショク』にルイズがご満悦になるのは、
それからすぐのことだった。
70萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/19(火) 22:00:20 ID:nSA5CFrU
以上です。
やっと『竜の羽衣』が出せました。
イーグル号をコミック版にするために技術的なプロットを膨らませると、
アルビオンには近代的な巨砲が製造できるだけの技術力があることに
なるので、トリステイン側としてもこんな感じになってしまいました。
こういうときに包容力(という名の収容力)があるあかぎは便利です。
何しろ空母ですし(何

ゼロ戦のマーキングはコミック版はありませんが、ここは原作やアニメ版と
同じマーキングがあるとしてます。
ちなみに複座零戦の実機は、撃墜されたものが修復されて日本に里帰り
していたりします。


三十年前の『事件』については、次回をお楽しみに、ということに。
それでは。次回も早くお目にかかれるよう頑張ります。
71名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 22:39:06 ID:WkQVHx6t
乙でした
掩体壕は実物を見に行ったことがありますが、乗ると高いし中はけっこう広かったのを覚えてます
上に草が生えてても平然と建ってたし、コンクリート製の建物って頑丈なものですね
なるほどエジソン式の電球ならハルケでも作れますね。次回も楽しみにしています
72名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/19(火) 23:47:28 ID:rYCTpZz/
このタバサにはかなり痛い目にあってもらいたいな
73名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 00:44:25 ID:BpFzWtlx
久しぶりに来てみたらクロちゃんが召喚されてて懐かしさがヤバい
応援してます、マイペースでいいからがんばってくだせえ

ところで、サガフロキャラ召喚とかって需要あるかね?
投下しようと思ってプロット切ってるんだが、どうも不安で
74名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 00:55:01 ID:Rj+Bobi9
次のシーズンが始まるまでには復活したいと思いながら、
気がついたらもう明日(というか今日)シーズン9開始という現実…
75名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 01:00:38 ID:A2DZ8QvV
>>73
ここと理想郷とにじファンを合わせたら、ほとんどの主要キャラは召喚されてる
ほど人気のジャンルだから心配ないと思うよ。
まだ召喚されたことのないサガフロキャラなら済王とかおもしろそうだ。
76名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 01:01:03 ID:xNdeCxo1
>>73
需要がどうこうじゃなくて書きたいかどうかだと思うよ
77名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 01:07:22 ID:7E7/Fvsd
>>76
真理
78名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 01:26:07 ID:BpFzWtlx
おk、がんばってみる
期待しないで待っててくれたらうれしい
79名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 01:26:32 ID:sAOISMbi
ここだと3人称がメインだけど、1人称でもいいのかな?

試しに書いているんだけど、サイトの1人称がらしくないというか妙に書きづらい。
ルイズとかキュルケとかギーシュは、書きやすいのになんでだろ?
80名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 01:32:45 ID:dhawuCMZ
乙です。

メカ物を召還したときに一番のネックになるのが、
整備補給をどうするかってことなんですよねぇ……
81名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 02:12:30 ID:fIrWJ0qm
>>79
申し訳ないんですが、ここは三人称じゃないSSはちょっと……なんてことは無いですw
サイトも召喚される話は結構好きなので楽しみにさせてもらっちゃいますw
82名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 08:10:29 ID:wuexVYxO
>>80
ガンダかミョズの力でなんとか。
ぐらいかな。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 09:55:29 ID:A2DZ8QvV
>>80
元の世界から補充
無限アイテム
自己再生能力
ハルケをある程度工業化
宝物庫やタルブで補充
徹底して節約
しだいに弱体化していく
使い切ったらハルケの武器を使う

先人たちのとった手段はまあこんなとこかな
84名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 15:17:43 ID:uAU2NZXy
乙でした
富嶽の征けぬ空はなし
>私が副官を務めていた司令官殿は、決戦の時に志願して部隊を率いたそうだけれど、それは例外だったみたい
原作は知らないけど、宇垣司令のことかな?
85名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 16:09:13 ID:oBUkdmvP
>>84
ゲームの太平洋戦線編でしょ。
日本敗戦ルート(無印とDX,UDXのノーマルルート)だと、最終マップの
レイテ決戦で司令官が特攻に志願する。
なのでエンディングには鋼の乙女だけで司令官がいない…

あかぎは開始直後から司令官の副官って設定で、司令官の性格の問題で
司令官じゃなくてあかぎにだけ作戦司令が来るなんてこともあるw
86名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 17:01:43 ID:uAU2NZXy
>>85
ありがとう
特攻の成否はともかく、最後の特攻機として散った宇垣纏参謀や、腹を切った大西司令はその責任感に尊敬の念を禁じえない。
阿南陸軍大臣や神大佐らも、あの当時の日本人にはまだ失敗を死でつぐなう武士道があったんだよな。
87名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 19:56:34 ID:FySkOi4j
そのような話は軍事関係のスレで語りなされ
88名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 20:29:48 ID:A2DZ8QvV
ゲゾラ・ガニメ・砲亀兵・虎街道の大決闘
89名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 21:24:11 ID:Lnn2IBge
>>75
モンスター能力や技能が書き手次第というのは、どこまで大丈夫なのか不安になるもんだ。
リュートとか、剣も拳も銃も術も使おうと思えばだいたいできるし。

サガフロに限らないが、キャラの技能が書き手次第って難しい気がする。メタルマックスとか。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 21:26:44 ID:Be5aOG7P
ベア・グリルスを召喚してハルケギニアでサバイバル
91名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 21:30:55 ID:o2tyvkfH
避難所でバトルテックネタを振ったら釣れてしまった。

記念に何か書きたいが、男爵つながりで三輪先生召喚に飛んでしまった。

まぁ、料理は出来るだろう。
食べた人たちが揃って「とても、おいしいです」と、棒読みになるけど。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 21:49:25 ID:fIrWJ0qm
>>90
あの人さ、わざと「ぶちゅ」って感じに噛むよねw
93名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 21:52:36 ID:WpePsnps
ノムは精神的に追い込んでいたが
わしは肉体的にも追い込むからな
94名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 22:01:19 ID:WpePsnps
誤爆した
95名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 22:06:34 ID:o2tyvkfH
>93
ちょwwwwwwww

まあ、ホントにあの人たちがきたらどうなるんだか。
ノムさんと契約しようとしたら、サッチーが乗り込んでくるとか。
96名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 22:07:11 ID:Be5aOG7P
幻獣扱いされるんですねw
97名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 22:16:05 ID:A2DZ8QvV
じゃあ番長かゴジラ
もしくは四角い顔の悪魔男を召喚
98名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 22:37:27 ID:rJ7zHwEo
そこで悪魔男(実写版)召喚ですよ
99名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 22:49:44 ID:Sk2FQmO6
>>89

メタルマックス…フル装備ポチ召喚。
武器の全てがコスモガン状態。ただ飛行機乗れないよな…
タルブにマスドラ研でも置くべきか?
100名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/20(水) 23:15:10 ID:XjaS4TAP
番長・・・喧嘩番長2フルスロットルから狂犬召喚
破壊の杖は蛍光灯(一回きりの使い捨てだから)
タルブに安置されるバイク
そして聖地から取り寄せた最終兵器自転車
101名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/21(木) 00:05:48 ID:zdDEOIec
>>97
偏在とか使ったら正々堂々と勝負しろって切れそうだなw
102TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 01:43:16 ID:czBbOazp
こんばんは、夜遅くですが9話の前半を投稿したいと思います
よろしければ、55分より開始します
103TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 01:56:48 ID:czBbOazp
第9話 モット伯邸の攻防 前編


どうして、物事はこうも上手くいかないのだろう
モット伯に『召喚されし書物』を渡して、シエスタを連れて帰る
それだけで良い筈だったのに…
「何でこうなるんだよ!!!」
目の前の光景に、才人はそう叫ぶしか出来なかった
破壊される屋敷、武器を手に戦う兵士達、そして…
「アオーーーン!!!」
何匹もの狼達が屋敷の中庭に解き放たれていた
ウルフというこの魔物達はモット伯の物ではなく、警備の兵士や番犬達を襲っている
その時、近くで番犬に喰らいついていた一匹が、口から獲物の血を垂れ流しながら才人を見据える
彼を次の獲物と認定し、こちらに向かって走りだした
「わっ、こっちに来る。」
慌てて武器を手にしようと思ったが、デルフはクラースに返していた事を思い出す
相手が丸腰でも、ウルフは容赦なくその喉笛目掛けて飛び掛った
「うわあっ!?」
思わず目を瞑る才人…しかし、噛み付かれる寸前に銃声が響き渡った
それから少し時間が経ってもウルフが襲ってくる事はなく、才人は恐る恐る目を開ける
するとと、自分を襲おうとしたウルフが近くに倒れていた…頭部を銃撃され、絶命している
「忠告した筈だぞ、無謀な真似は何時か命を落すと。」
振り返ると、少し離れた所でライフルを構えるリカルドの姿があった
彼はその場から狙撃を続け、射程範囲内のウルフ達を射殺していく
全て急所を撃ち抜かれており、恐ろしいまでの狙撃能力を見せる
「才人、これを使え。」
追いついたクラースが、持っていたロングソードを才人に向かって投げる
才人が反射的に受け取ったと同時に、またウルフ達が襲ってきた
「わわっ、また来た!?」
「焦るな、冷静に対処しろ。」
クラースの言葉に、兎に角冷静になって剣を鞘から抜いた
ルーンが輝く…才人は剣を構え、飛び掛ってくるウルフ達を見据え…
「でやっ!!」
剣を振り払い、向かってきたウルフを切り捨てた
それでも、ウルフ達は次々と襲い掛かってくる…才人は必死に応戦する
その後ろではクラースが詠唱を行っている
「お前達にはこれで十分だ…バースト!!!」
光弾を連射し、才人に群がるウルフ達を攻撃する
才人の剣技、クラースの術、リカルドの銃撃…それらによって、ウルフ達は次々と倒される
数分後には、クラース達は自分達の周りの敵を倒す事に成功した
「ふぅ、ふぅ…へへっ、余裕だぜ。」
「調子に乗るんじゃない。」
「イテッ!?」
少し息を整えてから、才人がそう言うとクラースがその頭を本で軽く叩いた
「武器も持たずに真っ先に向かうとは、君は私の話を聞いていなかったのか!?」
「す、すいません…シエスタが危ないと思うと、いてもたってもいられなくて…。」
「全く、君という奴は…。」
才人の行動に呆れながらも、彼の人の良さにクラースはある意味感心した
104TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:03:53 ID:czBbOazp
「こんな所で話をしている暇はないぞ、まだ周囲には敵がいる。」
リカルドの言うとおり、この広い中庭ではまだ兵士達が戦っている
一匹一匹は大した事無いが、相手は群れて攻撃しているので苦戦しているようだ
「それに、本命は既に館の中だろう…早く行かねば手遅れになる。」
「そうだな、急ごう……才人、君は此処から離れるんだ。」
「はい…って、何で!?」
その言葉に、二人に続こうと思っていた才人は驚く
それはつまり、自分はシエスタを助けにいけないという事だ
「此処から先何があるか解らん、下手をすれば命を落とす危険性もある。」
現状からでは、敵の正体が完全に把握できていない…それに、この魔物の数だ
こんな所に才人を放り込むような真似をしたくない、保護者としての意見である
「だから、君を連れて行く事は出来ない…シエスタの事は私達に任せて、早く此処から離れるんだ。」
「そんな…そんなの、あんまりじゃないですか。」
当然である、此処まで来てクラースは自分だけ逃げろと言ったのだ
そんな事、才人の性分から納得出来るものではなかった
「クラースさんはこういう時の為に、俺に剣の稽古をさせていたんじゃないんですか?」
「あくまで君が自分自身を守る力を培ってもらう為にだ…君を危険に晒す為じゃない。」
「けど、俺だって…。」
両者は互いの意見を主張し、一歩もひこうとしない
才人がどうにか同行を許可してもらおうとする中、新手のウルフが此方に向かってきた
「ちっ、こんな所で無駄話をするから、また一匹来たぞ。」
舌打ちしながら、リカルドは向かってくるウルフに向かって照準を合わせようとする
だが、その前にいきなり才人が飛び出し、ロングソードを構えた
「魔神剣!!!」
向かってくるウルフに向けて、才人は剣圧を放った
放たれた魔神剣はウルフに命中し、吹き飛ばされる
「クラースさん、俺だって戦えます…戦えるのに、此処から逃げるなんてできません。」
「才人…。」
「それにシエスタは待っている筈なんです、俺が戻ってくるのを…だから、俺は絶対行きます。」
何と言われようと…その言葉と共に、才人は真剣な眼差しをクラースに向ける
その目からも、これ以上何を言っても才人が此処から離れない事を悟った
「…リカルド殿、貴方はどう思う?」
「こいつを連れて行く事か?俺は賛同しかねるな。戦場を知らない者を連れて行けば、俺達の足元をすくわれかねん。」
傭兵として、才人は足手まといなると踏んでの判断だった
反論しようする才人だが、その前にリカルドが続きを口にする
「だが…此処から先、自分のケツは自分でふくというのなら構わんがな。」
それは何かあったとしても助けはしないし、自分で対処しろという事だ
その言葉に才人は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに自分の答えを口にする
「それでも構いません。足手まといにならないよう頑張りますから…連れて行ってください。」
お願いします…と、才人は二人に向かって頭を下げた
そんな才人に、クラースが出した結論は…
「言っても聞かないようだな………解った、君を連れて行こう。だが、絶対に無理はしない事…これも条件だからな。」
「はい、解りました…約束します。」
「話が終わったならさっさと行くぞ、大分時間をロスしたからな。」
才人が誓いを立て、リカルドが二人を急かす
急いで屋敷の方へ向かおうとする三人だが、その矢先に……
「などと急いでいるらしい雰囲気など気にせず、唐突に登場する俺。」
突然の声が、三人の足を止める
その声はこの場には全く似合わない、妙に爽快なものだった
クラース達が声の方を振り返ると、槍を持った男が此方に近づいてきた
105TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:07:08 ID:czBbOazp
その男は実に奇妙だった…何が奇妙かというと、その全てがだ
こんな状況でもヘラヘラしており、才人にも解るほど奇妙な気を放っている
「やあやあ皆さん、お急ぎのようですがどちらまで?もしかして、夜遅くの新聞配達?」
「な、何だよあんたは?」
「それとも牛乳配達?だとしたら、こんな夜遅くにゴクローサマです。」
才人の言葉を無視して棒読みで言葉を発する男…もとい、変人
こいつも傭兵だろうか…それをリカルドに尋ねようとしたが、それは出来なかった
何故なら、リカルドは殺気と憎悪を放ちながら、男を睨みつけていたからだ
「貴様…何故貴様が此処にいる。」
彼にとって男の存在は予想外の何者でもなかったらしい
リカルドの問いかけに、男は相変わらずヘラヘラしながら口を開く
「おや?まさかそこにいるのはリカルドs…。」
相手が喋り終える前に、リカルドが男に向かってライフルの引き金を引いた
銃声と共に男は背を後ろに曲げて、ブリッジ状態になる
「ちょ、いきなり撃つなんて…。」
「答えろ、何故貴様が此処にいる!?」
才人の言葉を無視し、リカルドは再度疑問を投げられる
ブリッジ状態の男はすぐに体勢を戻した…当たった振りをしていたらしい
「久しぶりにあったリカルド氏は人の口上を遮る馬鹿になっていたのでした…うーん、残念!!」
「…そうだったな、貴様には我々の言葉は通用しなかった。」
槍を持ってクネクネと動く男に、リカルドは呆れるように言った
死んでも治らなかったようだな、この男は…
「誰なんだ、この男は?」
「…ハスタ・エクステルミ、俺が以前仲間と共に倒した殺人鬼だ。」
殺人鬼…その言葉にギョッとなる才人だが、何となく理解は出来た
何故なら、このハスタという男は狂気が一人歩きしているように見えるからだ
「お前はあの時確かに息の根を止めた筈…何故生きて、此処にいる。」
「何故?それはね、きっと俺の生前の行いが宜しかったからだポン。」
「よく言う、赤子も喜んで殺すこの殺人鬼が。」
リカルドの言葉に対し、相変わらずヘラヘラとハスタは笑っている
「リカルド氏と再会を喜ぶ俺…しかし、すぐに別れと悲しみがやってくるのでした。」
そう言うと、突然殺気と共にハスタは槍をリカルドに向けた
先ほどとは違って、持っている槍同様突き刺すような気を放っている
「何故なら、此処でリカルド氏は俺との再会パーティのメインディッシュとなるからです。」
「やる気か、ならば容赦はせん…するつもりもないがな。」
ライフルで狙いを定め、リカルドはハスタを狙い撃つ
放たれた弾を、ハスタは悉く避けた…妙に凝ったポーズで
「すまんが、俺はこいつにもう一度引導を渡す必要がある…お前達は先に行け。」
「えっ、でも…。」
「リカルド氏の串焼き、一丁!!!」
そんな時、ハスタが一瞬の隙をついて槍を突き出してきた
恐ろしく早く、命を奪う突きをリカルドは避け、再度発砲するが避けられてしまう
相手の性格はあれだが、その実力が本物である事が伺える
「…事情は解らんが、此処は任せた方がよさそうだな…行くぞ、才人。」
「えっ…あ、はい。」
リカルドにこの場を任せ、クラースは屋敷へと向かった
屋敷に向かう前に、才人はもう一度リカルドの方を振り返る
「…リカルドさん、気をつけてください。」
「人の心配をする暇があるなら、自分の心配をしろ…此処は戦場だぞ。」
戦場で油断すれば死ぬ…その意味を込めての言葉だった
解りました、と答えると才人はクラースを追って屋敷の中へと向かった
「さて、貴様と再び相見えるとは…これも、前世からの縁か。」
もう終わったと思っていた、あの因縁…しかし、まだ終わってはいなかったようだ
「ならば、今度こそその縁、断ち切ってくれる。」
「ぴょろーん、行くんだプー。」
狙いを定めるリカルド、相変わらずふざけながら槍を振り回して襲い掛かるハスタ…
二人の死闘は始まった
106TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:11:09 ID:czBbOazp
リカルドにハスタの相手を任せ、才人とクラースは屋敷の中へと入った
屋敷のエントランスでも、兵士達と侵入者達との戦闘が始まっていた
「ぐわっ!?」
屋敷内に溢れる魔物達…今、一人の兵士が魔物に襲われ、倒される
魔物は先程のウルフの他にも、巨大カエルのゲコゲコ、植物モンスターのプチプリ…
それに棍棒を持った亜人のバグベアなどがいた
「魔物が…こんなに沢山…。」
「恐らく、侵入者が持ち込んだのだろうが…。」
何処からこれだけの魔物を…恐らく、犯人は土くれのフーケではないだろう
それどころか…その時、兵士を倒したバグベアが、此方に向かって走り出した
「考えている暇はないか…才人、応戦するぞ。」
「は、はい。」
才人が剣を抜いたと同時にバクベアが棍棒を振り上げ、襲い掛かった
それを避けると、才人はすぐに剣を振り払いバグベアを切り倒す
「へっ、大した事ないぜ…ってうわっ!?」
バグベアを倒した直後、ゲコゲコが才人に向かって飛び掛ってきた
体当たりを受けた才人は尻餅をつき、その隙をついてゲコゲコが再度襲い掛かる
「てぇい。」
クラースは才人とゲコゲコの間に入り込むと、本でゲコゲコを攻撃する
本の角を脳天に受け、ゲコゲコは目を回してその場に倒れた
「油断するな、才人…常に間合いに気をつけ、攻撃と防御を使い分けるんだ。」
「わ、解りました。」
クラースの助言を受け入れて立ち上がると、才人は辺りを見回した
周囲は魔物とそれに応戦する兵士がいるが、シエスタの姿は見えない
「シエスタ…一体何処にいるんだ?」
「恐らく、まだ屋敷の中にいる筈だ…魔物を倒しながら、隈なく探そう。」
魔物は自分達も襲ってくる…二人は魔物を蹴散らしながら先へ進んだ
シエスタを探して屋敷の中を回り、その際危険に陥っている兵士や使用人達を助ける
だが、屋敷は広く、中々シエスタは見つからなかった
「シエスタ、何処だ〜〜〜!!!」
襲い掛かってきたバグベアを倒し、才人が彼女の名前を叫ぶ
何度も彼女を呼んだが、返事は返ってこない…段々才人は不安になってくる
「シエスタ…まさか、魔物に襲われて…。」
「無事だと信じよう…そんな事を考える暇があるなら、もっと捜索を…。」
「だ、誰かお助けを〜。」
その時、近くの部屋から助けを呼ぶ声が聞こえた…二人は声がした一室へと入り込む
そこには、この部屋に逃げ込んだメイド達が魔物に襲われようとしていた
「オオオオオッ!!!!」
「な、なんだコイツ!?」
それは、土色をした巨大な人有らざるもの…ゴーレムだった
後ろに才人とクラースが現れた事に気付き、ゴーレムはメイド達から二人に振り向く
ゴーレムは腕を振り上げ、才人は咄嗟に剣を構えた
107TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:15:56 ID:czBbOazp
「こいつは、ゴーレムか…才人、避けろ。」
応戦しようと思っていた才人の耳に、クラースの指示が入る
その言葉に従ってバックステップをすると、その直後にゴーレムの腕が振り下ろされた
その腕から放たれた一撃は、床を大きくへこませる
「でぇい!!!」
相手の攻撃後、即座に才人が攻撃を仕掛ける
カキィン、キィン、と剣でゴーレムの体を斬った時に金属音が響く
体に僅かな傷と手が痺れただけで、ゴーレムを倒す事は出来なかった
「こいつ、無茶苦茶かてぇ…ギーシュのゴーレムはバッサリと斬れたのに。」
このゴーレムは、あの青銅のワルキューレ以上の硬度を持っているようだ
続いてゴーレムは腕を伸ばして、グルグルと回転して才人を攻撃する
しゃがんで攻撃を避けると、もう一度ゴーレムに飛び掛る
「飛燕連脚……いってぇ〜〜〜!?」
今度はとび蹴りを放ったが、逆に足を痛める結果となった
そんな才人にゴーレムが殴りかかった…このタイミングでは避けられない
剣を盾代わりに攻撃を受け止め、才人は吹き飛ばされるが何とか無事に済んだ
「俺の攻撃が効かない…どうしましょう、クラースさん?」
困った才人は、クラースに攻略法を尋ねる
後ろでは、クラースが何やら変わった虫眼鏡のような物でゴーレムを見ていた
それは、敵の情報を収集する特殊レンズ、スペクタクルスである
「慌てるな…あのゴーレムは土属性か、土と来れば…。」
「えっと…風、ですか?」
敵が属性を持っている場合、得意属性と相反する属性が弱点である事が多い
火には水、土には風、光には闇と…逆もまたしかりである
「そうだ、だから………シルフ!!!」
クラースはすぐに詠唱を唱え、シルフを召喚した
三姉妹はゴーレムを囲むように、その姿を現す
「シルフ、頼むぞ!!」
『解りました』
クラースの指示に頷くと、三姉妹はゴーレムの周囲で風を巻き起こした
風は無数の刃となり、ゴーレムの身体を切り裂いた
才人の剣では傷つかなかったその身体に、次々と傷跡と罅割れが出来ていく
「今だ才人、トドメを。」
「はい…でやっ!!!」
才人はロングソードを構え、ゴーレムに向かって飛び掛った
ゴーレムはシルフの風によるダメージで思うように動けず、そこに才人の一撃がヒットする
先程は効かなかった攻撃も、今の一撃が致命傷となった
「オオオオオ…オオ…。」
罅割れていた箇所から更に全体へと罅割れが進行し、ゴーレムの身体が崩れていく
それでもゴーレムは戦おうとするが、それは適う事無く完全に崩れ落ちた
「俺達の勝ちだ!!!」
クルクルと剣を回し、鞘に納める才人…二人の連係プレーによる勝利だ
メイド達も二人が魔物を倒したので、落ち着きを取り戻して感謝の言葉を口にする
「あ、ありがとうございます、もう少し遅ければ私達はあのゴーレムに…。」
「礼なら良い…それより、シエスタというメイドを知らないか?」
この中にはシエスタがいないので、クラースが彼女の行方を尋ねる
メイド達が顔を見合わせる中、老年のメイドが口を開く
「シエスタさんでしたら…確か、襲撃前に湯浴みを…。」
「湯浴み…浴場か、場所は?」
「はい、此処を出て左の突き当りがそうですが…。」
もしかしたら、まだそこにいるかもしれない
二人はメイド達に此処にいるよう伝えると、浴場へと向かった
108TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:27:35 ID:czBbOazp
「………ふぅ。」
その頃、シエスタは湯船に浸かってこれからの事を考えていた
この浴場は防音対策がしっかりと行き届いており、外の騒ぎは全く届かなかった
外で大騒ぎになっているとも知らず、シエスタはずっと考えている
「(湯浴みが終わったら、寝室にこいだなんて…やっぱり、モット伯爵は私を…。)」
彼は才人が成功するとは思っておらず、手っ取り早く事に運ぶつもりらしい
湯船に浸かっているのに体が震える…シエスタは自身の体を支える
「(才人さん…ごめんなさい。)」
折角私の為に頑張ってくれているのに…シエスタはブラックオニキスを見つめる
胸が締め付けられる想いに彼女は涙を流し、その一滴が黒い宝石を濡らした
その時、突然ガシャンと大きな音が浴室に響いてきた
「な、何!?」
突然の事に驚きながらシエスタが入り口の方を向くと、何かがやってくる
3匹のウルフ達が浴室内に侵入し、シエスタの前に現れた
「ひっ…狼!?」
どうしてこんな所に…と思ったが、そんな事を考える余裕はない
シエスタは逃げようとしたが、恐怖に体を縛られてその場から動けなかった
3匹のウルフ達はゆっくりと、シエスタに向かって歩み寄ってくる
「こ、来ないで…私、美味しくないから…。」
震えながらのシエスタの言葉を、ウルフ達が理解する筈がない
先頭の一匹が舌なめずりすると、シエスタに向かって飛び掛った
「きゃあああああああ!!!!!」
悲鳴をあげるシエスタ…ブラックオニキスを握り締め、助けを求めた
才人さん、助けて…と
「ギャン!?」
その時、光弾がシエスタに襲いかかろうとしたウルフに命中した
ウルフは大きく吹き飛ばされ、壁に叩きつけられて絶命する
「えっ…今のは…。」
「シエスタ!!!」
続いて浴室に誰かが飛び込んできた…この辺りでは見ない服装に剣を持っている
それが誰なのか、シエスタはすぐに解った…才人だと
「才人さん!?」
来てくれた、才人さんが…私を助けに来てくれた
残ったウルフ達はシエスタから才人の方を振り向き、彼に狙いを定めて襲い掛かる
才人は落ち着いて剣を構え、ウルフ達を待ち構える
「でやっ!!!」
才人はロングソードを振り払い、二太刀でウルフ達を倒した
剣を振るって血を払い、剣を鞘に納める
「シエスタ、大丈夫か!?」
そしてすぐに、彼女の無事を確認する為、浴槽へと駆け寄る
すると、シエスタは浴槽から飛び出して、才人に抱きついた
「ああ、才人さん…才人さんなんですね。」
「し、シエスタ…。」
「怖かった…怖かったんです…。」
シエスタは泣きじゃくりながら、才人にしっかりと抱きつく
彼が助けに来てくれた事を、神様に感謝しながら…
109TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:31:08 ID:czBbOazp
「シエスタ…良かった、間に合って。」
シエスタに抱きつかれて戸惑った才人だが、彼女をあやすようにその頭を撫でた
本当に良かった…シエスタを守れた事を才人は喜んだ
そんな時、シエスタから良い香りがするのに気付いた…お風呂に入っていたからだろう
「(ん、待てよ…此処は風呂場で、今シエスタは風呂に入ってたわけだから…。)」
此処で、才人は冷静になって今の状況を分析する
これが確かなら彼女は裸で、今自分の胸板に当たっているのは…
「…ぶはっ!?」
「きゃあ、才人さん!?」
この状況は今の才人には刺激が強すぎたらしく、突然鼻血を吹いて倒れてしまった
「才人さん、しっかり…まさか私を助ける時に何処か…。」
自分に原因があるとは気付かず、おろおろするシエスタ
そんなシエスタに、クラースが布を持ってきて羽織らせる
「クラースさん…。」
「君が無事だったのは良かった…が、喜ぶのは服を着てからにしよう。」
クラースの言葉に、自分が裸である事を思い出す
シエスタは顔を真っ赤にして、クラースがくれた布をしっかり羽織る
「す、すいません…私、気が動転していて…。」
「まあ、こんな状況だからな。私達は外を見張っているから早くしなさい。」
クラースは鼻血を出して失神している才人を引っ張って浴場を出て行く
シエスタはまだ顔を赤くしつつも、急いで着替える事にした

………………

「クラースさん、才人さん…本当に、ありがとうございました。」
浴場前で、メイド服に着替え終えたシエスタは改めて礼を言った
あの後気を取り戻した才人は、鼻の穴にティッシュを詰め込んでいる
「いや、俺もあんな良い思い…じゃない、シエスタが無事でよかったよ。」
あはははは、と本音を言おうとした才人だったが、笑ってごまかした
「それにしても…まさか、外がこんな事になっているなんて。」
シエスタは未だ聞こえる争いの音に身を震わせた
モット伯邸の攻防戦は未だ続いており、屋敷内は慌しい
「やっぱり、土くれのフーケがモット伯の『水のアクアマリン』を狙ってやってきたんですね?」
「水のアクアマリン?」
「はい、モット伯が左手に嵌めている指輪で…水の魔法の力をあげる効果があるそうです。」
モット伯が指輪を見せながら自分に話していた事を、二人に教える
才人も、あの左手の指輪か…とモット伯と面会した時の事を思い出す
「『恐らく土くれが狙うのであれば、この指輪だろう』って…違うんですか?」
「いや、そうなのかは解らんが…もしかしたら…。」
水のアクアマリン…キュルケの持っていた火のガーネットと似たような効果だ
結局は、火のガーネットはイフリートと契約するのに必要なガーネットの指輪だった
だったら、その水のアクアマリンも…
「契約の指輪かもしれないな。」
水の精霊ウンディーネとの契約に必要な、アクアマリンの指輪
そうだとしたら、襲撃犯に奪われるわけにはいかない
「才人、急いでモット伯の所に行こう…場所は解るな?」
「は、はい、解りますけど…シエスタはどうするんですか?」
「先程のメイド達がいた部屋で匿って貰おう…それで良いか、シエスタ?」
クラースの言葉にシエスタは頷く…早速彼女を先程の部屋へと連れて行った
先程の部屋戻ると、他に避難したした使用人達が来ており、それを守る兵士達もいた
これなら、シエスタも大丈夫だろう…守りの兵士達に彼女の事を任せる
「クラースさん、才人さん…気をつけてください。」
「うん、大丈夫…行ってくるよ。」
シエスタに見送られ、二人は急遽モット伯の部屋に向かった
110TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 02:37:55 ID:czBbOazp
前半部終了、今回は短めの投稿です
話が少し長くなったため、一話分を半分にしての投稿となりました
後編については、今日の夕方辺りに投稿させて頂こうかと思います

そして今回、念願のハスタを登場させる事が出来ました
テイルズオブイノセンスの登場キャラであるこの男は、独特の口調と性格で随分と気に入っています
今回、その魅力を十分に再現出来たかは自身ないですけど…
今後もこのハスタは物語にちょくちょく登場し、クラース達と敵対していく予定です
それでは、また夕方にお会いしましょう
111名無しさん@お腹いっぱい:2010/10/21(木) 08:09:51 ID:+GOllz6y
 
112名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/21(木) 08:22:27 ID:oCMj9a+6
乙です。窓辺のマーガレットさんキター!
113名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/21(木) 17:55:51 ID:meJ/PlcJ
そういや、本編でも度々出てたなハスタさん
114TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 18:43:14 ID:czBbOazp
こんばんは、少し遅れましたが後半部を投稿したいと思います
よろしければ55分より開始させて頂きます
115TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 18:55:24 ID:czBbOazp
第9話 モット伯邸の攻防 後編


「ふん!!!」
モット伯の寝室では、主であるモット伯が戦っていた
『波濤のモット』の二つ名を持つ彼はトライアングルのメイジで、水の魔法の使い手である
花瓶の中の水を操り、襲ってくる魔物達を薙ぎ払う
「あら、中々やるじゃない。」
そんな彼の奮闘を眺めるのは、男女の二人組だった
女の方は、幼い少女のように見える外見と服装で、手には乗馬用の鞭を持っている
男の方は、長い青髪と白のジャケットを着込み、手には大きな棺のようなものを携えている
「この程度、私の敵ではないぞ、土くれのフーケめ。」
「あら、残念だけど私はそんなこそ泥じゃないのよね♪」
女はニコニコしながら、モット伯の事にそう答える
相手は今世間を騒がせている盗賊ではないらしい
「土くれでなかろうが、私の館を荒らす不届き者は例え女であっても容赦せんぞ。」
モット伯は操っている水を氷のダーツに変え、女に向かって放った
数本のダーツが狙い通り向かう中、男が割って入ってくる
「アリスちゃんを傷つける奴は許さないぜ!!」
即座に男は棺を開け、中から大剣を取り出した
すぐにその剣を振り払い、一太刀でダーツを全て叩き割った
「ぐっ、私の魔法を…。」
「ねぇ、モット伯爵…私達、貴方の持ってるマジックアイテムってのが欲しいの。」
焦るモット伯に対し、アリスと呼ばれた女はくすくすと笑いながら自分達の目的を話す
「水のアクアマリンだっけ、水の魔力を高める指輪…それを渡してくれたら命だけは助けてあげる。」
「貴様等、やはりこの指輪が狙いか…賊如きにこの指輪は渡さんぞ。」
左手に嵌めている指輪を庇う様にして、モット伯は杖を構える
「それが水のアクアマリンか…渡さないってんなら、力ずくで奪い取る!!!」
「ぬかせ、卑しい賊如きが!!」
モット伯が再び水を操り、水は竜となって二人の賊に襲い掛かる
水の竜が襲ってくるのに対し、男は大剣を構えて突進する
「こんなもん…でやっ!!!」
「なんと!?」
モット伯の放った水の竜は、男の一太刀でまたもや打ち砕かれる
そればかりか剣の衝撃で床が割れ、その破片がモット伯の腹部に突き刺さる
「ぐおっ、馬鹿な!?」
「喰らいやがれ!!!」
思わぬ傷によろめくモット伯に、賊の容赦ない一撃が襲い掛かる
大剣がモット伯を切り裂こうとした…その時だった
「魔神剣!!!」
「何!?」
その直前、横から男に向かって剣圧が飛んできた
横からの突然の攻撃に対処できず、男は剣圧に吹き飛ばされる
モット伯が入り口の方を見ると、そこには剣を構える才人とクラースの姿があった
「お、お前は…何しに此処に来た!?」
「何しにって、あんたがシエスタとの交換条件に出した本持ってきたら、この騒動に巻き込まれたんだっての。」
そう言いながら、二人はモット伯を庇うように彼の前に立つ
此処で彼に倒れられたら、折角の苦労が水の泡になる
「あんたの事、ちゃんと守ってやっから…必ずシエスタを返せよな。」
「何を、私が平民なんぞに助けられるなど…あたたたた。」
体を起そうとしたモット伯だが、傷が痛くて戦い処ではない
破片が刺さった腹部からは、血が流れていく
「モット伯、貴方は傷を治す事に専念しろ…賊は私達が抑える。」
「くっ…無念だが、此処は恥を飲むしかないか。」
クラースの言葉に従い、モット伯は破片を抜いて癒しの魔法を唱えた
ゆっくりとだが、彼が受けた傷は癒えていく
それを確認すると、二人は改めて賊である男女と対峙した
116TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 18:57:16 ID:czBbOazp
「いてて…畜生、やりやがったな。」
才人に吹き飛ばされた男は、仰向けの状態からすぐに起き上がった
先程の一撃は効いたが、致命傷という程のものではない
「デクス、大丈夫?」
そんな男…デクスを心配したアリスが彼の元に駆け寄る
デクスはまるで自分の聞いた事が信じられないといった表情で彼女を見る
「アリスちゃん…俺の事を心配してくれるのかい?」
「い、一応ね…あんたがいなくなっちゃ、私の盾が無くなっちゃうし。」
少し顔を赤らめながら、本音とは少し違う事を口にする
だが、それだけでもデクスのテンションを上げるのには十分だった
「アリスちゃんが俺の事を心配してくれるなんて……うおおおお、感激だああああああ!!!!!!」
余程嬉しかったらしく、感激のあまり絶叫するデクス
館中に響くのではとも思える絶叫に、才人達は唖然とする
「な、何だこいつ?」
才人は思った…こいつ、キモイしキショイ…それに何か臭いし
そんなデクスは感激の絶叫の後、才人とクラースを睨みつけた
「アリスちゃんのお陰で俺の元気は百倍、こんな奴等俺一人で片付けてやる!!!」
男は軽々と自分の大剣を振るうと、二人の前へと歩き出す
そして、一度後ろに振り返って、アリスに向けてポーズを決める
「見ててくれアリスちゃん、俺の勇姿を!!!」
「あ、そう…そんだけやる気あるなら、あんた一人で十分そうね。」
アリスは呆れながらそう言うと、後ろに下がった…事態を傍観するつもりらしい
そんな光景に呆然とする才人に対し、クラースは気を引き締めて構えを取る
「才人、気をつけろ…見かけはあれだが、相手はかなりの使い手だぞ。」
「えっ…は、はい。」
さっきのハスタといい、変人は強敵なのかもしれない
クラースの言葉で我に返り、才人は剣を構えた
「少年、さっきは不覚を取ったが…今度は本気でいかせてもらうぜ。」
剣を構えるデクス…そして、一気に才人に向かって切りかかった
反射的に攻撃を避けると、デクスの一撃は床をぶち抜いた
「あ、あぶな…防御しようと思ったけど、してたらやばかったな。」
「よく避けたな、少年…だが、次はどうだ?」
デクスは床から剣を引き抜くと、再び才人に向かって攻撃を開始する
今度はパワーがない分スピードのある攻撃で、才人はそれを剣で受け流した
しかし、相手が大剣使いな為、受け流すだけでも手が痺れる
「そらそらどうした、防御ばっかりだぞ。」
「わっ、うおっ!?」
デクスの容赦ない攻撃が続く…反撃したいが、受け流すので精一杯だ
何とか攻撃を…と思った時、デクスが大きく剣を振りかぶった
チャンス、と才人は素早くデクスの一撃を避け、後ろに回りこんだ
「これで!!」
「甘い!!」
後ろからの一撃を、デクスは大剣で即座に受け止める
鍔迫り合いが始まるが、此方が片手剣に対して相手は両手剣…分の悪いものだった
デクスは容赦なくぐいぐいと押すので、才人は押されっぱなしだ
「く、くそ…。」
「はっはっはっ、どうした少年、これで終わり…かぁ!?」
押し切られる…そう思った時、突然デクスの動きが鈍った
その隙をついて才人は剣の柄でデクスを殴り倒すと、すぐに間合いをあける
倒れたデクスの背中には、魔法で受けた傷があった
「私もいる事を忘れてもらっては困るな。」
「クラースさん。」
後ろに待機していたクラースが、術で援護してくれたのだ
デクスは剣を杖代わりに立ち上がると、二人をにらみつけた
117TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 18:59:28 ID:czBbOazp
「ちっ、中々やるな…だが、それ位で。」
起き上がったデクスは再び剣を構え、才人に襲い掛かった
才人は相手の攻撃を避けつつ、剣を振るう
「はっ、てやっ!!!」
振り払った剣は受け止められ、再び大剣による攻撃が繰り出される
才人がバックステップで避けると同時に、クラースが魔法を唱える
「バースト!!」
「うおっ!?」
光弾をギリギリでかわすデクス…そこへ再び才人が斬りかかってきた
すんでの所で防御するが、才人の攻撃は続く
徐々に…徐々にだが、クラースと才人の連携によってデクスは押されていく
「く、くそ、俺が押されてる…やっぱまだ本調子じゃないからか?」
「デクス、そんな奴等に押されて…大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、アリスちゃん。アリスちゃんの手を煩わせるまでもないよ。」
後ろで観戦するアリスにそう言うと、向かってくる才人を振り払った
後退する才人とクラースに向かって、デクスは不敵な笑みを浮かべる
「何てったって俺には奥の手があるんだからな。」
「えっ、奥の手!?」
一体どんな手を…そう思う才人に対し、デクスが胸元に手を入れる
クラースも用心する中、デクスは胸元からある物を取り出した
「これぞ、俺の奥の手…愛しいアリスちゃんのブロマイドだ!!!」
高々と掲げた先には、デクスの言う通り後ろの少女が可愛らしく写ったブロマイドがあった
それが奥の手…あまりに予想外な展開に、二人は止まった
そんな二人に構わず、デクスは取り出したブロマイドに見惚れる
「ふっふーん、やっぱりアリスちゃんはこのアングルが一番だな。」
「……バースト。」
「ぐほっ!?」
やがて、クラースが魔法をデクスのアホ面に向けて放った
ブロマイドに見惚れていたデクスは避ける事が出来ず、まともに受けた
「何が奥の手だよ、びっくりさせやがって。」
「ぐぐぐ、不意打ちとは卑怯な…って、ああああっ!!!!!」
デクスが体勢を立て直そうとした時、持っているブロマイドを見て大声を出す
彼が持っていたブロマイドが、先ほどの攻撃で上半分が消失してしまったからだ
「お、俺の…俺のアリスちゃんのブロマイドが…。」
「こんな時に、そんなの見てるからだろ。」
クラースのもっともな意見…それは才人も同意していた
「そんなの…俺のアリスちゃんをそんなのだって?」
だが、そのクラースの言葉でデクスの中の『何か』が切れた
体を震わせ、彼の中に怒りが満ち溢れていく
「うおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
「な、なんだ!?」
突然天井に向かって叫び出し、才人とクラースは驚く
そして叫び声と共に、デクスは大剣を片手に突っ込んできた
慌てて防御する才人だが、今までとは比較にならない重い剣撃だ
「うっ、これは…。」
相手の剣は奇妙な軌跡を生み出しながら、此方を攻撃する
L、O、V、E、と…間違いなければ、そのように見える
これは彼の…デクスのLOVE、つまり『愛』による攻撃だ
それを何とか耐え切った才人だったが…

「ア・リ・ス・ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっっ!!!!!!!!!!!!」

デクスの絶叫と共に、彼を中心にエネルギーの渦が巻き起こる
それは才人を、クラースを、寝室のありとあらゆるものを巻き込んでいく
そして、それらは全て吹き飛ばされた
118TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 19:01:09 ID:czBbOazp
「わ、私の寝室が…私のコレクションが………。」
部屋の隅で自身を治療し、難を逃れたモット伯が目の前の光景に唖然となる
自身の寝室が、見る影も無く変わり果ててしまった事に…
そんな荒れ果ててしまった寝室の中心で、愛を叫んだデクスがいる
「ゼーハー、ゼーハー…ど、どうだい、アリスちゃん?」
少し息切れしながら、デクスはアリスの方を振り向く
俺の勇姿に、アリスちゃんは惚れ直したに違いない…と思っていたが
「デクス……やっぱりあんたキモイ。」
アリスの容赦ない一言が、デクスの胸に突き刺さる
そりゃないぜ、アリスちゃん…と、デクスは悲しさのあまり天を仰いだ
「それに、アンタあいつ等倒せてないし。」
「へっ?」
その言葉にデクスが向こうを見ると、乱雑した本達があった
小山のように積み重なったその中から、クラースと才人が姿を現す
「ぐっ…才人、大丈夫か?」
「く、クラースさん……。」
クラースは才人を抱え、何とか立ち上がる
二人とも無傷ではなく、あの攻撃で手痛いダメージを負っていた
特に才人は傍にいたので怪我が酷く、支えなしでは立てない程である
クラースは道具袋からアップルグミを取り出し、才人の口に入れる
「才人、アップルグミだ…回復を…。」
「そんな悠長に待ってると思うのか!!」
デクスは傷ついた二人に、容赦なく襲い掛かってきた
咄嗟に才人を向こうに突き飛ばし、クラースもデクスの攻撃を避ける
「しぶとい奴等だな…けど、その怪我じゃこれ以上は戦えないだろ。」
「くっ……。」
デクスはクラースをターゲットに、剣を振り回す
回復する間もなく、傷ついた体でクラースは攻撃を回避する
だが、それにも限度があり、回避し損ねて腕や足を剣が掠り、血が流れる
更に散らばっていた家具の残骸に足を引っ掛け、仰向けに倒れてしまう
「しまった…。」
「これでトドメだ!!!」
起き上がろうとするが、力が入らない…そこへデクスが剣を振り上げる
万事休す…その時、デクスの頭に分厚い本がぶつかった
「イテッ!?」
一瞬怯むデクス…その間にクラースは立ち上がってその場から離れた
よく見ると、回復した才人が近くにある物をデクスに投げているのが解った
「クラースさん、こいつは俺が抑えますから…召喚術を!!」
この状況を打破するには、召喚術を使うしかない
才人は傍に落ちていた剣を拾うと、デクスに向かって再び向かっていった
攻撃はすぐに受け止められ、弾かれるが諦めずに戦いを続ける
「才人……解った、すまん。」
ミックスグミを取り出し、口の中に放り込む…体力と精神力が少し回復した
クラースは立ち上がると、契約の指輪を嵌めて本を開き、詠唱に入る
「我が名はクラース・F・レスター…指輪の盟約に従い、この儀式を司りし者なり…。」
嵌めた指輪はガーネット…荒ぶる炎の化身、イフリートを呼び出そうとした
119TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 19:15:04 ID:czBbOazp
「はっ、てやっ!!」
ロングソードを振るい、才人は必死にデクスに攻撃を仕掛ける
クラースの詠唱が完了するまで、時間稼ぎをする為に
だが、剣を振るう手に力が入らない
「(駄目だ、さっきのせいでまだ体が…。)」
グミで回復したとはいえ、デクスの大技を受けた体は完全に回復していない
ふらふらで、身体が思うように動かない…が、此処で倒れるわけにはいかない
「どうした少年、そんなんで俺は倒せないぞ。」
そんな才人に、デクスは容赦なく反撃してくる
相手の大剣による攻撃で振り回され、更に足を引っ掛けられて床に倒れる
デクスは剣を才人に向かって振り下ろすが、床を転がってそれを避ける
起き上がり様にデクスに切り込むが、その攻撃は軽く受け止められる
「ちょこまかとうっとおしいな…そろそろ倒れろよ。」
「くっ…。」
再び鍔迫り合いになるが、気を抜けばすぐに押し返されそうになる
チラッと後ろを見ると、クラースはまだ詠唱を続けている
「(まだだ、もう少し…もう少し頑張らないと…。)」
両手で剣を握り、自分に残っている全身の力を引き出そうとする
此処で…こんな所で……
「負けて…たまるか!!!」
「何!?」
その時、才人の闘気が急激に上昇した
彼は気付いていないが、使用者の力を一時的に上げる技…剛招来を使ったのだ
渾身の力を込めて、デクスの剣を弾く
「うおっ…こいつ、何処にこんな力が!?」
驚くデクスに対し、才人は次の行動…突きの構えを取った
脳裏に浮かぶのは、あの時リカルドが自分に使った技、瞬迅槍
なら、その剣バージョンは…
「瞬迅剣!!!」
デクスに向かって、鋭い突きを放つ
防御はされたが、その一撃で相手を突き放す事は出来た
「クラースさん!!!」
「ああ、準備は出来た…出でよ、イフリート!!!」
詠唱を完了させたクラースは、イフリートを召喚する
彼等の前に巨大な炎が現れ、それは形となって具現する
炎の化身、イフリートの登場だ
「えっ、精霊!?」
「嘘だろ!?」
イフリートが出現した事にデクスだけでなく、後ろにいるアリスも驚く
クラースは予想が的中したと思いながら、イフリートに指示を出す
「いけ、イフリート!!!」
『承知した!!』
イフリートはクラースの指示に従い、その炎の豪腕を振り上げた
その状態のまま、デクスに向かって突進する
「せ、精霊相手って…此処は避けるしか…。」
向かってくるイフリートの攻撃をかわそうと、デクスは足を動かそうとした
だが、その足が動かない…まるで床に縫い合わされたかのように
動かない足を見ると、自分の足が凍っている事に気付いた
「な、なんじゃこりゃ、俺の脚が凍って…。」
「よくも…私のコレクションを…。」
慌てるデクスの耳に、か細いモット伯の声が聞こえた
見ると、回復中だったモット伯がデクスに向けて杖を構え、魔法を使っていた
モット伯の魔法で身動きが出来ないデクスに、イフリートの強烈なパンチが炸裂する
「ぐほぉわっ!!?」
その一撃をまともに受け、デクスの体は大きく吹き飛ばされた
窓を突き破り、屋敷の外へと吹き飛んだ
120TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 19:18:32 ID:czBbOazp
「デクス!!」
アリスが慌てて窓に駆け寄ると、地面に横たわるデクスの姿があった
ピクピクと動いている…どうやら、生きているようだ
安堵するアリスだが、そんな彼女に才人は剣を突きつける
「あんた達の負けだ…降参しろ。」
「……残念だけど、そうみたいね。」
そう言うと、アリスは窓に腰掛けて才人達を眺める
才人の後ろには、未だイフリートがおり、此方を見ている
この状況では分が悪い…そう判断しての白旗だった
「デクスを負かすなんてあんた達中々やるじゃない…流石異世界の人ね。」
「えっ、どうして…。」
「だって、あんなのこの世界の人間には出来ない芸当でしょ。それにあんた達からは同じ匂いがするし。」
「やはり、お前達も異世界からの来訪者だったか…。」
クラースはアリスに近寄ると、尋問を始める
「どうやらモット伯が持つ指輪を狙っていたらしいが…何故だ。」
「それは、そういう命令で動いているからよ…珍しいアイテムを取ってくるのが私達の仕事だから。」
その言葉から、彼女達の後ろには組織があるらしい
恐らく、強大なものが…あのディザイアン達とも関係があるかもしれない
「一体誰の命令で動いているんだ?」
「それは言えないわ、アンタ達に教える義理もないし。」
そう答えると、アリスはジッと才人・クラースの両名の顔を見る
「才人くんにクラースくんかしら?あんた達の顔、覚えたから。」
邪悪な笑みを浮かべるアリス、口元の八重歯が輝く
すると、彼女はそのまま後ろに倒れ、窓の外へと落ちてしまった
「お、落ちた!?」
驚いた才人が窓に駆け寄るが、その時何かが視界を通り過ぎていった
よく見ると、小さな鯨のような魔物が空に向かって飛んでいく
その背には、アリスとデクスの姿があった
「今度あった時は今日みたいにはいかないからね。」
捨て台詞を残し、去っていくアリス達…やがて夜の闇へと消えていった
空に逃げられては追う事は出来ない、才人はその場に座り込んだ
「逃げられた…けど、何とかなったな。」
終わった…安心したらどっと疲れが押し寄せてくる
そんな才人の肩に、クラースはポンと手を置いた
「頑張ったな、才人…君が頑張ったからあの二人を撃退する事が出来た。」
「クラースさん…いえ、クラースさんがいたから俺頑張れたんですよ。」
互いを賞賛しあうと、クラースは回復の為にグミを才人に与えた
それを食べる才人、今度はモット伯へと歩み寄る
「モット伯爵、あなたの援護で賊は撃退できた…感謝する。」
「ふん、この傷さえ負っていなければ、私一人で撃退出来たのだ。」
伯爵としてのプライドか、満足に戦えなかった事に苛立つモット伯
クラースは少し休憩しようと、その場に座り込んだ


その後、統率者だったアリス達が撤退した事で、魔物達の攻勢は衰えた

兵士達の活躍によって屋敷内の魔物達は撃退され、屋敷に平穏が戻る

とりあえずは、今回の襲撃事件は終わりを迎える事となった
121TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 19:23:32 ID:czBbOazp
「これが、召喚されし書物です。」
「うむ。」
その後、屋敷がある程度落ち着きを取り戻した所で場所をモット伯の執務室へ移し、取引が行われた
此処には才人とクラース、シエスタ、モット伯、それにリカルドの姿があった
本を受け取ったモット伯は鍵をあけ、ケースの中から召喚されし書物を取り出す
「おお、これが噂に聞く召喚されし書物か!!」
今回の事で手痛い思いをしたというのに、子どものようにはしゃぐモット伯
念願の本を手に入れ、ページを開いた事で更に喚起する
そんなモット伯の様子を見て、才人とクラースはこそこそと話し出した
「それにしても…召喚されし書物がただのエロ本だったなんて…。」
「ああ、世の中何があるか本当に解らん。」
そう、召喚されし書物の正体は、才人の世界にある只のすけべ本だったのだ
それも、随分と昔の…だが、これで約束は果たしたのは確かだ
「こっちは約束守ったんだからな…シエスタを返して貰うぜ。」
「ああ、構わん…シエスタ、お前はもう学院に帰っていいぞ。」
エロ本を読みながら、モット伯はシエスタに指示を出す
それを聞いたシエスタは喜んで、才人達へと駆け寄る
「ありがとうございます、クラースさん、才人さん。」
「本当、良かったよシエスタ…イテテ。」
感謝の抱擁を受ける才人だが、まだ完全に傷が治ってなかったので痛みも少し訴える
そんな二人を温かく見つめるクラース、やがてモット伯の傍へと歩み寄った
「モット伯…貴方に一つお願いがある。」
「ん、何だ?まだ何かあるのか?」
「貴方が持つ水のアクアマリン…よろしければ譲っていただきたい。」
その言葉に後ろにいた才人とシエスタが驚く
本を読み耽っていたモット伯も、自身の家宝を譲れとの言葉に立ち上がる
「貴様、この我が家の家宝である水のアクアマリンを要求するとは…図々しいにも程があるぞ。」
幾ら彼等が恩人でこの本を持ってきたと言っても、家宝を譲れとは
怒ったモット伯は杖を取り出して、クラースに突きつけようとするが…
「無論、只でとは言わない…私が持つ召喚されし書物と同じ位価値がある本を渡します。」
「何だと、本当か!?」
その言葉にモット伯の気持ちが揺らぐ
クラースが頷くと、彼は一冊の本を胸元から取り出してモット伯に渡した
悩ましい女性のポーズが表紙を飾っている本を、モット伯は開く
「おお、これは…何と、素晴らしい…。」
本の内容は召喚されし書物に勝るとも劣らないものだった…モット伯は食い入るように見つめる
「それだけで足りないと言うのでしたら、もう2冊追加しましょう。」
「な、なんと!?」
そう言って本当に本を二冊取り出し、テーブルの上におく
モット伯は夢中になって、本を読んだ
「うおおおおおおおおおっ、こ、ここここれは……ぶ、ブラボーーーーーーーー!!!!!!!」
興奮のあまり、意味不明な言葉を叫んでしまうモット伯
鼻血が出そうな程興奮している彼の顔を見て、思わず才人とシエスタは一歩下がる
「どうでしょう、この三冊と水のアクアマリン…交換してはいただけませんか?」
「う、うむ、そうだな………よし、その話了承しよう。」
こんな物、ハルケギニアを探し回っても手に入るものではない
交渉は成立し、モット伯は左手に嵌めていた水のアクアマリンを外した
「実はこの指輪は家宝でもなんでもない…以前ラグドリアン湖で拾った物なのだ。」
「そうですか…では遠慮なく。」
真実を聞かされても関係なく、差し出された指輪をモット伯から受け取った
交渉が上手くいき、笑顔でクラースは二人の元へと帰っていく
「よし、これで全部終わった…帰るぞ二人とも。」
「クラースさん…あれ何時も持ってたんですか?」
「ああ、あれは私の秘蔵品だったが…背に腹は代えられんからな。」
すけべ本とピンナップマグを装備できる召喚術師に不可能はなかった
才人は心の中でクラースに「すけべオヤジ」の称号を贈ろうかなと考えた
122TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 19:29:29 ID:czBbOazp
「そうか、結局あのハスタという男は逃げたのか。」
執務室での交渉後、クラース達はモット伯の厚意で用意された馬車で帰る事となった
一頭の馬に三人も乗れないし、そもそもその馬が今回の騒ぎで逃げ出してしまったからだ
その際、見送りに来たリカルドからハスタの話を聞かされる
「ああ、あと一歩という所でな…相変わらずの逃げっぷりだった。」
「そうか…奴から何か情報を得られなかったか?」
「あんな奴から何かを聞きだせると思うか?」
確かに…あんな奴とまともに話が出来るとは思えない
「何にせよ、次にあったら今度こそ倒す…何度蘇ろうとな。」
「そうか…やはり君は私達と同じ……。」
「クラースさーん、早く行きましょうよ。」
クラースが問いかけようとすると、才人が後ろから呼びかけてくる
才人としては、早く帰って横になって休みたいという思いがあったからだ
「今日はもう遅い…話の続きは、今度あった時にするとしよう。場所は……。」
「ああ、解った…それでは、失礼する。」
リカルドに一礼し、クラースは馬車に乗り込んだ
それを確認した御者が馬に手綱を打ち込み、馬は動き出す
真夜中の学院への短い道を、馬車はゆっくりと進み始めた

………………

「はぁーあ、今日はすげぇ戦いがあったってのに、おれっちの出番は殆ど無かったな。」
ある程度時間が経った頃、馬車の中でデルフリンガーが愚痴をこぼしていた
才人がクラースに自分を返してから、ずっと道具袋の中にいたからだ
「悪いな、お前を使う暇が無かったものでな。」
「おれっちだって武器なんだからよ、こういう時に活躍させてくれよ。」
デルフはクラースに不満をぶつけ、そんな剣にクラースは苦笑する
正面の席に座る才人とシエスタは、肩を寄せ合って眠っている
今回の事で疲れたのだろう、よく眠っている
「まー、よく眠るもんだわ…あれだけ色々あったら当然か。」
「ああ、彼はよくやってくれたよ…本当に。」
クラースは才人を賞賛するが、その反面複雑な思いを抱いていた
それに気付いたデルフが、クラースに問いかける
「ん、どうした相棒?」
「いや、私は彼に危険を冒して欲しくないと思っていたが…今回十分すぎる程彼を危険に晒してしまった。」
一歩間違えれば、あのデクスという賊にやられていたかもしれない
それを考えると、彼を同行させたのは間違いだったとも思えてくる
「まあ、仕方ねぇよ。この坊主は止めたって聞きゃしねぇのは今日の事でよく解った事だし。」
「しかし、これでは保護者としての立場がないんだが…。」
「それに、坊主がいなかったら相棒もやばかった所もあったしな。」
そう、デクスの大技を受けた時も、自分一人では危なかった
才人がいたから勝てた…そのせいもあって、こんなにも歯痒く感じる
思い悩むクラースに、デルフは助言を与える
「相棒、おめぇが坊主の保護者ってんなら、こいつが無茶しないようにちゃんと見てれば良いじゃねぇか。」
「それは十分承知しているが………まあ、それしかないだろうな。」
才人はまだまだ若い…勇気と無謀を履き違え、今後も色々と無茶をやらかすだろう
それが若者の特権というものだから…自分にもそんな時期があったので、よく解る
だからこそ、彼を見守る保護者として自分がいる必要がある
彼を無事に元の世界に返し、親御さんに無事な姿を見せるまで…
「まあ、肝心なのはこれからだな…これから…。」
クラースは疲れからそれ以上の会話を止めて、背を凭れる
揺れる馬車に身を任せながら、クラースは学院に到着するまで休んだ
123TALES OF ZERO:2010/10/21(木) 19:39:24 ID:czBbOazp
後半部投稿終了、遅くなりましたがこれで完了です
後半からはテイルズオブシンフォニア ラタトスクの騎士より敵役のアリス&デクスの登場です
設定としてはED後、ハスタ同様ある方法で生き返ってこの世界にやってきたというものです
この二人もハスタ同様、度々物語に登場してクラース達と敵対します
因みに、今回デクスが使った技は彼の秘奥義『シュトルム・ウント・ドランク』です
内容は上記の通りでかなりふざけているようですが、デクスのアリスへの想いが解る秘奥義です

次回はサブシナリオとして、キュルケが主役のストーリーとなります
タイトルは『迷いの森のシャーリィ』あの兄妹が登場します
では、また次回まで
124名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/21(木) 21:54:29 ID:JqLEwnjw
スケベおやじ、乙です。
125虚無の王:2010/10/21(木) 23:00:25 ID:EFm0FF3J
こんばんは。
宜しければ2305時辺りから投下させて下さい。
126虚無の王 Trick28 1/4:2010/10/21(木) 23:05:08 ID:EFm0FF3J
 踏みしめた大地は、雲の頼りなさで膝を揺さぶった。
 いつもより数p高い重心が、足の運びを妨げた。
 冷たい感触が背筋を這い落ちる。真夏の太陽も、凍り付いた顔を溶かすには及ばない。
 視野の片隅を、空に良く似た車椅子の男が通り過ぎた時も、フーケは峡谷の合間にくすむラ・ロシェールの街を通じて、のんびりと漂う雲を見つめていた。
 麻痺した神経に火が付き、脳が感情を思い出したのは、車椅子の上で笑い声が漏れた時だ。

「空!あんたねえ!」

 怒りと苛立ちが、声の中で入り交じった。
 激情の火花が見せる波紋は、水面に浮かぶ柔らかい物とは違う。薄鉄を幾重にも折り曲げ、重ねた東方の刃に浮く、冷たく鋭い斑模様だ。
 学園でルイズと合流し、ラ・ロシェールを目指すワルドに先んじる為、二人は竜に跨った。
 いかに風竜の快速とは言え、先行するグリフォン、それも魔法衛士が騎乗する幻獣を捉えるのは至難の業だ。
 だが、あちらには思わぬ附属品、魔法学院の紳士達が同行すると言う。
 その事実を知ると、まず空が昼寝を始めた。
 フーケは絵入り新聞を片手に、近頃東方から渡来したばかりの茶を楽しんだ。
 追いつき、追い抜かなければならないのは高々騎馬だ。そう慌てる事は無い。
 二人が揃って騎竜の術と縁が無いと知れたのは、風の王操る風竜が風に巻かれて錐もみ状態に陥った時だった。
 幸い、風竜は無事だった。体中の打ち身と、重たく垂れた手綱が、王都と港街とを結ぶ航路を知恵の輪に変えた。
 何事も思い通りにならないと気が済まない、少年の心を忘れない男が、同乗者ともども竜の背から飛び降りたのは、地平線から石造りの街が頭を覗かせた時だ。

「ああ、スマン。ったく、ワルドの奴みたいにはいかへんわ」

 車椅子の上で、言葉だけが頭を下げると、フーケの肩からも力が抜け落ちた。
 一○○○メイル上空から生身で滑空。ささやかな気配りと下心が体を抱え込んだものだから、杖を振るう事も出来ない。
 ほんの数秒間の落下劇に肝を冷やしたと見られるのは癪だった。

「ったく、目立つ真似するんじゃないよ」

 右拳に残った苛立ちを一言で払い捨てると、フーケは車椅子の轍を踏んだ。
 深緑のタルブ草原を縫って弧を描く街道は、真夏の太陽を弾いて真っ白に輝いている。
 峡谷の隙間には、石造りの尖塔が白い顔を覗かせている。
 街道に沿って視線を上らせると、雲一つ無い空に巨大な岩盤が白く霞む。
 異邦人の脳裏からニュートンの功績を霞ませるのは、白の大陸の別名で呼ばれる浮遊大陸アルビオンだ。

「ええ所や」
「ふん。そうかね」
「なんちゅうても、世界はどこもかしこも皆、空の下やさかい」
「あんた、世界征服でもする気かい?」
「この世界には興味あらへん。せやけど、色々面白い物も見れたし、手にも入りよったからなあ。礼言うんもなんやけど、ルイズにくれたる」

 フーケは今度こそ呆れ返った。
 女が目にする世界がどれほど小さく慎ましいものか。この年になっても、まだ分からないのだろうか。

「お前にも世話になるし、なんなら都市の一つくらいくれたろか?サウスゴータなんてどや?」
「興味無いね。空手形じゃ尚更だよ。世の中そうそう、あんたの思い通りになるとは限らないんだからさ」
「海洋文明と大陸文明がぶつかって、大陸側が勝った例は有らへん。空の国ともなれば無敵やわ」
「だから、その空の国が、いつ、あんたの物になったんだい?」
「もうじきや。そのためにも準備急がな。ワルドの奴、超特急でこっち来とる筈やからな」

 弧を縦に変えた街道を、自在輪が掴んだ。
 峡谷の上には、逃げ水が揺れている。
 重力を肩から払い落とすと、空の車椅子は山道を平地の軽快で伝って行った。
127虚無の王 Trick28 2/4:2010/10/21(木) 23:06:43 ID:EFm0FF3J
 街道をゆるり、ゆるりと這う風が、生ぬるい指先で首筋を撫でて行く。
 鍔広の旅行者帽子の上では、飾り羽根がゆらり、ゆらりと細い身をくねらせている。
 足下では薄い影が、ゆらり、ゆらりと揺れている。
 日傘が落とす影。薄く削り取られた紋様が、トリスタニアの一角で商いを営む貸し傘屋の物である事を、ギーシュは良く知っている。
 雨傘にしろ、日傘にしろ、どうして高貴なる紳士、淑女が傘を持参し、馬車の用意が無いと喧伝しながら歩く事が出来るだろう。
 どうやら、その辺りの事情は、しがない学生ばかりでなく、子爵位を持つ魔法衛士と雖も変わらないらしい。
 太陽と重なる有翼獅子に目を細めながら、ギーシュは幾許かの共感と、失望とを一つの息に託して吐き出した。

「なあ、ギーシュ」

 馬蹄の響きが、隣に並んだ。

「大丈夫なのか?こんなにゆっくりとしていて。今夜はスヴェルの月夜。月が重なる夜だ」
「ああ。翌朝はアルビオンが最もラ・ロシェールに近付く時。大方のフネはその時を待って出航するだろうな」
「その大切な朝を、道中の駅舎で過ごす羽目になるのだな。このままでいたら」

 眼鏡のレンズが、鏡の煌めきを放った。
 真剣な話をする時、レイナールが見せる常の癖は、却て真剣味を疑わせる類の物だ。

「子爵には何か御考えが有るのだろう。僕達には知らされていない計画だって有るかも知れない」
「それよりも、僕には気になる事が有るのだけれど」

 反対の隣に、自重で潰れた息と、西瓜にも似た臭気が浮いた。
 のんびりとした騎乗とは言え、20sもの錘を背負わされては誰しも息を切らす。
 だが、その苦しみは、大抵の人には分からない。

「あの二人、くっつき過ぎじゃないか?」

 そんな自分の不幸を嘆く様子も無く、マリコルヌは目尻を下げた。
 グリフォンの騎上に、ルイズの小さな影が覗く。
 少年の様な肢体を、少年の装いで包んでいる。
 一種、倒錯的な変装は、武内空の手勢の目を欺かんと言うレイナールの発案だ。

「まあ、ワルド子爵は紳士だと言う事だろうな」
「レイナール。それは、どう言う事だい?」
「恐らく、ルイズの正体に気付いておられないのだ」
「なるほど」

 ギーシュは頷いた。頷きかけた。
 反射的に頷きかけた顎を、頭の片隅から常識が釣り上げた。

「いやいや。待て待て、待ち給え、レイナール。君の言っている事はおかしい。何かを間違えている。子爵は婚約者の正体に気付いておられるのだろう」
「なるほど。君には分からない事だな」
「それはどう言う意味だね」
「君には一生、分からない事さ。気にするなよ。世の中、分からない方がいい事だってある」
「愉快になれない言い方だな。まるで、自分だけは何もかもを分かっているかの様だ」
「全てを掌中に出来るのは神だけさ。取り敢えず、僕に分かっているのは、仮に何かが起きた所で、あの二人は婚約者だと言う事だけだ」
「なるほど。気にする必要は無い、と言う事だな」
「興味深くはあるけどね」

 左右の馬上で、二つの目が濁った光を交換した。
 生まれが良く、育ちが悪い少年にとっては決して不愉快な色では無い筈だが、それも、自身の首の後を生温い感触を残して素通りするとあっては、話は別だった。
128虚無の王 Trick28 3/4:2010/10/21(木) 23:08:44 ID:EFm0FF3J
 中天から落ちる陽は、刃物の鋭さを帯びていた。
 少なくとも、凶器であると言う一点において、初夏の陽光は刃物と変わらない。
 焼けた風が腐臭を運び、瓦礫の中で蜷局を巻いた。
 褐色の掌が、天から零れる炎を掬い上げた。
 太陽ほど豊かな色彩を与える物は無い。
 赤い瞳が、紅鋼玉の深さで虹彩を放つ。
 両掌が解かれた。
 光と健康的な肢体が同時に弾け、黒いマントが翼と踊る。短いスカートを払い、羚羊の脚が旋風を巻き起こす。
 ウィールが動きを止めた時、炎の波が地を駆けた。
 呑み込む息に陽の味を覚えて、シエスタは思わず目を見開いた。
 下生えが濃い緑でそよいだ時も、魔法の力を持たないメイドの娘は自身の錯覚に気付かなかった。
 人間離れした速度と、摩擦で歪んだ風が見せる炎の幻覚。
 だが、微熱の二つ名を冠し、夜ごと人間を火にくべて来た貴族が、足下に炎を従え、廃墟を炭に変えてしまったからと言って、なんの不思議が有るだろう。

「悪くないわね」

 燃える吐息が、豊かな胸元に零れ落ちた。
 褐色の体奥で疼く熾き火は、貴族なら誰しも知っている物だ。
 炎の玉璽〈レガリア〉が伝える微かな振動は、キュルケに初めて杖を手にした夜を思い起こさせた。

「力が消えてしまわずに、いつまでも燃え続けている感じ」
「エアトレックの本質は、力の回生機構だそうだよ」

 枠の向こうで涸れた声が言った。
 明るい額が覗くそこを、窓と呼ぶ事は躊躇われた。
 少なくとも、ゲルマニア貴族の少女にとって、窓とは家屋に付いている物だ。
 壁も天井も破れ落ち、梁が老醜を晒す木材の積み木を、どうして家屋などと呼べるだろう。
 急拵えの寝台には、コルベールがひび割れた体を沈めていた。
 教え子を守らんと異世界からの侵略者に立ち向かった勇敢なる教師は、つい今朝方、一週間ぶりの意識を取り戻した。
 だが、秒速80mで石壁に叩き付けられた肉体は、未だ脳の呼びかけに応答していない。
 目線と声だけが、日当たりの良い広場を窺った。
 半ば失われた本塔と、火の塔の残骸から延びる影だけが、陰気者で知られたヴェストリの広場に残る痕跡の全てだった。
 炎の環が弾けた。
 火線が石壁を舐め、丸屋根を削り、褐色の肢体が太陽の中で一転する。
 シエスタが反射的に空を仰いだ時、黒いマントが地に舞い降りた。
 豊かな胸と、足下のサスが同時に弾んだ。
 滑らかな喉が恍惚の息を漏らす。
 口元の綻びは、明日の武勳を確信する騎士の物だ。

「炎とは自由な物だ。風と同じくね」

 窓越しの声が、笑みに割り入った。

「だからこそ、火の術者は、その力を鎮め、自由を束縛する術を会得しなければならない。さもなくば、何もかもを焼き尽くしてしまう」
「興味ありませんわ」

 残り物の温野菜を見る目が言った。

「それこそ、火の本領。何もかもを焼き尽くして御覧にいれますわ」

 炎が爆ぜ、膨張した風にスカートとマントがはためいた。
 物憂い目線と、小さな悲鳴を背に中屋根を一蹴り、弾力に富む肢体が風に乗る。
 情熱的な口元に、薄い笑みが浮いた。
 年若い貴族の辞書に、抑制や、まして聞き分けが美徳の意味合いで載っている訳が無い。
129虚無の王 Trick28 4/4:2010/10/21(木) 23:10:45 ID:EFm0FF3J
 高い天井が、冷たい指先で瞳を撫でた。
 ピエール・ショードで組まれた天井も、化粧台も、背丈より高い本棚も、全ては薄闇にくるまれて眠っていた。
 窓の外には月が見えた。
 重く凶暴な空を産み落とし、石組みの学園と六○○○年の歴史を踏み潰した二つの月も、今は優しかった。
 赤と青の月が頬に触れた時、タバサは漸く自分の名前を思い出した。
 あの時もそうだった。身体の機能を失った少女は、目線一つで空を追っていた。
 傷を負い、飛ぶことを忘れた風竜を、長い脚が見下ろした。
 瀕死の使い魔を救う手だては、麻痺した体のどこにも見つからなかった。
 土塊を蹴り飛ばしながら現れた脚は、他ならぬ空自身が捕らえた盗賊の物だ。
 もう一つの脚には見覚えが有った。
 白い仮面の下を脳裏に探そうとした時、意外な声が聞こえた。

「こいつ、治療しといたれ」

 目線と顎先が、シルフィードを指した。
 全く、意外だった。傷付いた韻竜を前に、空の声は、遊び飽きて壊した玩具程度の価値も認めていない。
 気付くと、言っていた。

「あの時の約束……まだ有効?」

 笑みだけが、返って来た。
 無力感が両手足にぶら下がった。夜が水の冷たさで体を這った。
 タバサは目線一つで、雲の流れを追っていた。
 風は自由な存在だ。
 そして、何物からも自由でいたいなら、何物とも無縁でいるか、何物をも独占してしまうしか無い。
 自由の危険とおぞましさが、そこに有る。
 だが、危険や業と無縁のまま手に出来るほど、王族の少女が小さな胸に秘める宿願は穏やかな物では無い。
 あの男は、まだ自分の味方となり得るのではないか。
 そんな考えが脳裏を過ぎる。
 空に怨恨は無い。寧ろ、恩が多い。そして、数十人の貴族を子供の如くあしらった“王”の力。
 空が見せた笑顔の意味を、タバサは捉えかねていた。
 幼いながら、歴戦の騎士だ。だが、歴戦の騎士と雖も、幼い少女に違いは無い。
 未熟な心で図るには、風の奔放も、思春期の心理も、複雑が過ぎる。
 雲の隙間を、影が過ぎった。
 眼鏡はテーブルに置かれていた。
 滲んだ視野でも、風竜の一団である事だけは見て取れた。それ以上の事は一つも判らなかった。
 仮に判ったとしても、出来る事は何もなかっただろう。
 床石を叩く靴音に、麻痺した体が強張った。
 聞き慣れた足音を特定するのは、風メイジならずとも難しくは無い。よく聞き慣れた天敵の気配となれば尚更だ。
 心臓に這い寄る足音が、部屋の前で止まった。
 施錠された扉は、諂う様な軋みを一つ、守るべき主人を売り渡した。
 冷たい闇が渦を巻いて漏れ出し、開け放たれた扉から、祖国が蒼いドレスを纏って顔を覗かせた。

「サリュ。お人形」

 薄闇に三つ目の三日月を浮かべたのは、この場に居る筈の無い人物だった。


 ――――To be continued
130虚無の王:2010/10/21(木) 23:13:13 ID:EFm0FF3J
お久しぶりです。
また、時々お邪魔させて頂きたいと思います。
その時は何卒宜しくお願い致します。
131名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/21(木) 23:39:50 ID:qo4Kvqx7
ひゃっほおおおおおおう! 乙です!
132名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 08:12:58 ID:63H/W7GY


連載中の作品から、それもまだ活躍してるキャラを召喚するのって難しいよね
133名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 10:59:56 ID:+wE0dm/X
ヘルシングとかはうまくくまとまってたな。
完結までの本編最後のあたりは記憶が飛んでることになってたり
134名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 17:17:01 ID:7qowTuwn
小ネタのモンハンからの召喚を見て、ギーシュがディアブロスを召喚とか浮かんだ。
サボテンを片手に「ヴェルダンテ〜ご飯だぞ〜」と呼ぶと轟音と共に飛び出してくる使い魔。
ギーシュ君ふっとばされたーの後、血塗れになりながらも「相変わらずヤンチャだなぁ〜ヴェルダンテ〜…げふっ」とか…
135名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 17:59:24 ID:2Y/qdicb
食生活が偏った使い魔呼んだらメシをどうするか問題だよなあ
銀魂の土方なんか、マヨネーズなしの世界で生きていけるのか?
136名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:01:28 ID:uLQb0+4W
>>135
マヨネーズなんて作るの簡単だよ。
卵、油、酢ぐらい手に入るでしょ。
137名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:11:38 ID:2Y/qdicb
へ? そんな簡単に作れたの? 知らなかった。
138名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:12:03 ID:fDG9uCNf
>>136
どれも高価なものばかりだな
139名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:19:09 ID:FdBpTiGG
かくしてルイズやキュルケ、タバサを巻き込んだ土方のマヨネーズを作る旅が始まる
140名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:21:54 ID:uLQb0+4W
卵はともかく油と酢は錬金でいけそうな気がする。
酢なんて放置プレイでも作れるような代物だし。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:25:56 ID:fDG9uCNf
食べ物の錬金は難しいんじゃなかったか?
142名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:39:45 ID:63H/W7GY
しかし偏食キャラってワンピースのフランキーとポパイとアンパンマンしか知らないや
あとはせいぜい好物止りだし
143名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:48:49 ID:SD8P8Epd
殺した相手を喰わずにはいられない人とかも厄介
144名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 18:56:41 ID:HjO4BZ7n
>>143
独覚兵呼ぼうぜ!
145名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 19:05:21 ID:+wE0dm/X
>>143
どこぞの喰奴達を呼ぼうか。

人間喰ったらZ指定になっちゃうけど
146名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 19:10:05 ID:ogP8Rnaa
子供喰らいのアリオーシュ
147名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 19:15:06 ID:wY8bEiGy
オーフェンなら塩と水で生活できるから経済的だな
148名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 19:53:04 ID:nrBg3cfB
”これはハルケギニアにカレーと言う新たな食文化を根付かせたとある人間の物語である・・・!”
149名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 19:53:58 ID:JK32g0ge
>>138
貴族なら簡単に揃えられるでしょ?
150名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 20:05:19 ID:gGi6hd4u
>>147
魔導探偵も収入ゼロ時代には塩と水で生き抜いてたな
最終的にそれすら尽きて別ゲームのED曲鳴らして教会にたかりに行くわけだが

そして時に猫もタンパク源にしてたそうで

メルマック星人を召喚
何処からとも無く響く笑い声も
151名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 20:37:35 ID:UuxU/NS2
>142
アンパンマンは偏食の意味が違うwww
つか、勇気の花がないとチキンだし。
>148
「ミワセンセイノかれーハ、トテモオイシイデス」と、食べた人は皆棒読みで誉め称えるのか。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 20:44:42 ID:gl3my1YS
コロ助「コロッケが食べたいナリ!」
153名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 20:59:34 ID:f1uy130X
偏食家……

美食屋の中ではトリコのサニーだな。
美しい食材じゃないと食べないとか。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 21:24:00 ID:gGi6hd4u
そういやナディアと綾波レイも菜食主義者という名の偏食家
監督は呼ばんでよろし

まぁナディアはジャンと結婚して子供出来てからは魚料理するようにもなったけれど
(ただし味見をしない)
155名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 21:37:28 ID:sKRLUZm3
パタリロのバンコランも超偏食じゃなかったか?

確かマライヒがステーキとワインしか口にしないとか愚痴ってた記憶がある。
あと命を狙われて保護施設に軟禁された際に「魚は死んでも食わんぞ」とか言ってた。
156名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 21:42:16 ID:dvCqGhxx
そいつらにトニオさんの飯を食わさせてやりたい
157名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 22:01:46 ID:+ZvRJXda
食う対象の数が多くて食うに困らない人肉食の奴がくれば問題ないな
158名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 22:19:53 ID:gl3my1YS
おじゃる丸はプリンがないのをどうするべきか
159名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 22:21:10 ID:+wE0dm/X
>>155
バンコランの体はそれとタバコで出来てる。
栄養学のえの字も知らないらしいとはパタリロの弁だが
160名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 22:23:01 ID:+ZvRJXda
性的な意味でも偏食だからな
161名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 22:23:53 ID:qXlZBPFZ
デスノートの竜崎
奴は甘い物さえあればいいだろ
162名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 22:28:16 ID:UuxU/NS2
あ、その真逆の意味で偏食というか変食がいたが、美綴ではスレ違いか。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/22(金) 23:23:31 ID:8dS3JhhC
異世界?ゴルゴムの仕業か!
宝物庫が荒らされた?ゴルゴムの仕業か!
ミスロングビルが犯人?ゴルゴムに操られているに違いない!
おのれゴルゴムの怪人め!夜中に忍び込んでくるとは俺が許さん!
164名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 08:03:48 ID:5dTmmcye
マグロ食ってるあいつなら
使い魔としては当たりのようで大ハズレかな
165名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 08:32:51 ID:fgyEa8FN
やたら子供を産んで 殖えまくるペットって、すごく厄介だよ。
166名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 08:43:23 ID:NATLn6yl
ならコックさん呼ぼうぜ
マルトーさんいらなくなるけどな
167名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 08:48:27 ID:6SwkeF5u
沈黙のコックですね、わかります
168名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 08:54:17 ID:z3TkYlth
HARELUYAII BOYにもいたなぁ……闘うコックさん
169名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 09:28:44 ID:sjBhHhzC
魔導探偵という字で思い出した。ジャンプでやってた某魔人探偵も極度の偏食じゃないか。
170名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 09:35:57 ID:qXu5FMUQ
魔導探偵だの魔神人探偵だの魔探偵だの
171名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 09:52:58 ID:5dTmmcye
食い物じゃないが、こち亀の左近寺 竜之介を呼んだらゲームができなくて泣くな
特にアニメだと生身の女はまったくだめだからなああいつは…
似た理由でボルボもキュルケの誘惑あたりで失血死しかねん
172名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 10:11:06 ID:4HkKyBMY
ギーシュ「ワルキューr(カァン)「HAHAHAHA…(げしげし)」」
「学生の身で決闘とは感心しませんな。全く近頃の若者はやんちゃで困る。」

某最強の尖兵を喚んだらガチでメイジ殺しだよな。
無敵の瞬間移動で背後をとられるし…w
173名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 11:48:41 ID:/+tWP1SP
アイツは何気に紳士だからまだマシじゃあないか
なんだかんだで順応しそうだし
174名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 11:51:40 ID:O/MfKiOk
問題はガチバトルが全く描けなくなることだな
175名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 11:54:09 ID:cE06ks4g
>>130
遅ればせながら最大限の乙を!!
ファルコのレベルとか茨のレガリアの所在とか、作者さんの意図しない設定の齟齬が頻発しまくっちゃうから
グレ太の気まぐれ後出し設定が全部出揃いきるまで更新は無いのかもと思ってただけに嬉しすぎるのだわ
176名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 14:32:28 ID:eDOo8z5u
信じてください、俺は見たんです!あの巨乳のエルフ、あれはヤプールが化けた姿に違いないんだ!
177名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 15:23:50 ID:ZsfEr/hc
♪おまえはおまえを信じなさい ほれ信じなさい♪

あれ、そういえば、せっかくのエースなのに、このネタはウルトラでやってないんだな。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 18:09:24 ID:TvpE1Hbe
ジャギが召喚されて、なぜか正義の味方になるという
クロスオーバー小説を見たことがある。
最後は7万人の軍勢に単身で特攻して、ガソリンに引火させて自爆。
179名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 18:29:03 ID:5WJvQ0du
避難所に投下された奴を代理で投下します。

18:30からやります。
180ゼロの怪盗 第3話:2010/10/23(土) 18:31:51 ID:5WJvQ0du
ルイズの焦燥は並大抵のものではなかった。
同級生に『ゼロのルイズ』と揶揄され、不当な辱めを受け続けてきた彼女にとってこの召喚の儀は、
彼女を馬鹿にしてきた連中を見返す最大のチャンスでもあったのだ。
それが、召喚には何度も失敗し、ようやく成功したと思ったら、現れたのは平民の男。
しかも、使い魔の契約を結んだにも関わらず、男はすぐに自分の元から去っていったのだ。
ルイズにとっては、人生最大の恥といっても過言ではなかった。

「何処!?何処なの!!?」

その苛立ちは言葉となり、自然にルイズの口をついて出た。

「アイツ……いや、もうアイツなんて人呼ばわりしないわ!!
 犬よ!それもバカ犬!!……犬だって少しは主人を慕うものよ?全く……」

ルイズの口元が歪む。

「ふっふっふっ……どうやら躾が必要なようね。ふっふっふっ……」

そんな風にブツブツと言いながら歩いていると、宝物庫の近くで海東を発見した。
ミス・ロングビルとイチャついている。……様にルイズの目には見えた。

「あのバカ犬ッ!!私がこんなに苦労しているのに!!」

ルイズは怒りに身を任せて、杖を海東の背中へと向ける。
すると次の瞬間、ルイズの目の前に何か光の弾のようなものが飛んできた。
地面へ着弾すると、土埃を高らかに舞い上げ、魔法を唱えようとしたルイズの手を止めた。

「……………………へ?」

一瞬の出来事にルイズの体が固まる。
目の前で何が起きたのか理解出来ない。
散漫していた瞳を海東へ移すと、海東はこちらに背を向けながら何かをルイズの方へ向けていた。
それは鉄砲のようにも見えたが、あんな鉄砲はこの世界には存在しない。

「やれやれ、とんだ邪魔が入ったね」

海東はそう言うと、ルイズの方へゆっくりと振り返った。
そして、その鉄砲のようなものをルイズへ向けた。

「え?え?な、何?」

ルイズは目の前の出来事に、頭が真っ白になる。

「僕は自分が邪魔されるのはあまり好きじゃないんだ」

海東は表情を変えずにそう言い放つと、引き金に指をかける。
181ゼロの怪盗 第3話:2010/10/23(土) 18:33:51 ID:5WJvQ0du
「ちょ、ちょっとお待ちください!」

ロングビルは慌てて海東を制止する。
彼女にとって、魔法の使えないゼロのルイズなどどうでもよかったが、
仮にも学院長の秘書である立場の自分が彼女を見捨てるのはあまりに不自然であった。

「彼女はミス・ヴァリエール。ヴァリエール公爵家の三女です。
 それを傷付けた、或いは殺したなどあったら政治的問題になります!」

「関係ないね。興味もない」

海東は冷たくそう言い放つ。
そんな海東を見て、ロングビルは戦慄した。

(何て奴だい……)

ロングビルは海東の視線の先を見つめる。

(本当に興味が無いんだねえ…。まるでそこに何もいないみたいじゃないか)

そこには怒りなのか恐怖なのか、わなわなと震えるルイズがいたが、
海東の目にちゃんと彼女が映っているかは甚だ疑問であった。

「ま、いっか。お宝に障害はつきものだしね」

海東は感情のこもってない笑顔を浮かべると、ルイズに向けていたそれを下ろす。
と、同時にルイズはその場にへたり込んだ。
どうやら腰が抜けたようである。

「じゃあ僕はこれで失礼させて頂くよ」

そう言うと、素早く海東はその場から立ち去った。

「あ……。ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

ルイズは追いかけようとするが、足が動かない。
再び自分の元から去っていく海東の背中をただ見つめることしか出来なかった。

「…………!!」

ルイズは声にならない声を上げて地面を叩いた。
使い魔に対して恐怖を抱いたことへの屈辱、そして二度も使い魔に逃げられたことの悲しみ。
様々なものがない交ぜになり、自然と涙がこぼれている。

そんなルイズを気にも止めず、ロングビルは怪盗『土くれのフーケ』として海東の背中を見送った。

(あの身のこなし……あいつがただ者で無いのは確かだねえ。
 それに、あのヴァリエールの嬢ちゃんが現れた時……。
 背中に目でも付いてるかのような動きだった。……敵には回したくないねえ
 …………さて!)

ごくり、と唾を飲み込むと、今度はミス・ロングビルとして泣き崩れるルイズの元へと向かった。
182ゼロの怪盗 第3話:2010/10/23(土) 18:35:33 ID:5WJvQ0du
「……また、印が輝いてる」

海東は森の中で身を隠しながら、発光する自身の右手を見つめた。

(今のところ害は無いみたいだけど……このままにしておくわけにもいかない……か)

この印は何なのか、また自身の体に何が起きてるのか。
知らないということがいかに危険なことだということを海東はよく知っている。
今後の為にも、この印のことを知っておく必要を海東は感じた。
その時、海東の脳裏にルイズの顔が浮かぶ。

(全てはあの子から……か)

やれやれ、といった感じで海東を首を振る。

「……仕方ないね」

そう呟くと、海東は森の中へと消えていった。



ルイズはどうやって学院内へ戻ってきたのか覚えていなかった。
気付いた時には、コルベールの使い魔の捜索についての話が終わっていた。
当然、コルベールの話など1ミリも覚えていない。
半ば茫然自失のまま、ふらふらとした足付きで自室へ戻る。

(はははは……。もう、何が何やら……)

取り敢えず寝よう。
寝て起きたら、きっと悪い夢も覚めるだろう。
ルイズはもう他に何も考えたく無かった。
力無く自室の扉を開く。

「やあ」

「えっ?」

誰もいない筈の部屋から声がする。
ルイズは急いで中へ入る。
すると、 そこには飄々とした顔でベッドに腰掛ける男がいた。
その男はルイズが呼び出したあの使い魔、海東大樹であった。
183名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/23(土) 18:36:28 ID:5WJvQ0du
投下終了です。
184虚無の王:2010/10/23(土) 21:42:15 ID:nVupU90N
こんばんは。
2145時くらいから投下させて下さい。
今回も短目です。
185虚無の王 Trick29 1/4:2010/10/23(土) 21:45:13 ID:nVupU90N
「久しぶりだねえ」
「大丈夫だったかい?」
「一体、何が起きたんだい?」
「心配していたんだよ」

 夜の部屋に、気遣いの言葉が転び落ちた。
 本心では無かった。
 本当に優しい性根による物ならば、言葉の度に、ベッドの上で跳ね上がる柳の腰を、どう説明すればいいだろう。
 幼い肢体から、灼けた吐息と蒸気が浮いた。
 しなる杖先が、硬さを残した体に不可視の傷を刻んでいた。
 神経弾。非殺傷とは言え、慈悲深さとは無縁の水魔法だ。
 対象の神経に直接作用、激痛と快楽を交互にねじ込み、その精神を掻き毟る。
 蒼いドレスの上で、弧月の歯並びが釣り上がった。
 イザベラは自身の創意と嗜虐心から生まれたオリジナルスペルを大層気に入っている。
 この小さな魔法は、少ない精神力の損耗で、いつまでもいつまでも相手を嬲る事が出来る。
 王女らしからぬ趣味と言うべきだろうか。
 だが、武門の娘が冷酷であってはならない理由は無い。
 汚れ仕事を専門とする影の騎士団を統べる長が、冷酷でなくとも良い理由など有る訳が無い。

「どうも、お前は自分の立場が判っていない様だねえ」

 涙の向こうで鎖が鳴った時、タバサの細い首は呼吸を忘れた。
 背筋が悲鳴を上げ、冷たい革の感触が喉を絞る。
 二つの吐息が鼻先で絡み合った。
 裸眼の視野が、よく知っている目に吸い込まれた。
 慈愛、寛厚、柔和、典雅。その美しさを除いては、そうした姫君らしさと無縁の目。
 ガリアの第一王女は、そうした人物だった。

「お前は私の物なんだよ。勝手に捕まってるんじゃないよ、愚図」

 首輪から伸びる鎖が、幼い体をベッドの上に放り出した。
 月明かりが石床を掃いた。
 小さなテーブルも、整理の行き届いた書棚も、簡素なベッドも、夜の部屋は全てが冷たかった。

「全く、いいザマじゃないか」

 夜の様に冷たい声が、貝殻の耳朶を舐め上げた。

「そうだ、いい考えが浮かんだよ。この格好でリュティスの中央通りを散歩したら、素敵だと思わないかい?」

 答えよりも早く杖が撓り、波打つベッドに汗が落ちた。
 小さな唇が、シーツの中に苦鳴をそっと吐き出した。
 イザベラは喉の奥で笑った。端々に、侮蔑と苛立ちとが溶けた笑みだ。
 事実、その胸中には絶えず憎悪と軽蔑が渦を巻いている。
 誰に対して?
 プチトロワの外に出た、全てに対してだ。
 北花壇騎士が、自身がガリアの貴族共にどう評されているのかを知らない程、彼女は鈍くは無い。
 全く、呆れた話ではないか。
 奴等が名誉だ騎士道だと、三門芝居に興じていられるのは何故か。連中の代わりに手を汚し、泥を被る者が居るからではないか。
 その程度にも知恵の回らない手合いだから、宮廷の裏の裏にまで踏み込む汚れ仕事が、我が儘な王女のお遊びで片が付くと思いこむ。
 自身、無能王と蔑む相手が、絶対の忠誠と、時として無条件の犠牲すら要求される地位に娘を据えた理由を考えようともしない。
 小さな背中が、眼下で上下する。汗に透ける白い肌には、力の無い手足がぶら下がってる。
 杖先で、シーツに埋もれた細い顎を掘り起こした。現れたのは人形の目だ。
 イザベラが最も忌み嫌う目だ。
 この娘はこの有様でも、自分が御綺麗なままだと信じている。
 無反応、無関心を貫けば、本当の自分は穢れの無いままでいられる夢でも見ているのだろう。
186虚無の王 Trick29 2/4:2010/10/23(土) 21:46:52 ID:nVupU90N
「そうそう。行き掛けに厩舎を覗いて来たよ」

 まあ、いい――――イザベラは杖を引いた。無反応は苛立たしいが、無抵抗は憂さ晴らしに都合が良い。
 ここは一つ、その平たい体と同様に、幼稚な精神も犯してやるとしよう。

「お前の使い魔。可哀相に。痛い、痛い、と泣いていたね」

 幼い頬が、初めて引きつった。
 それとない発音の違いに下僕が見せた反応は、イザベラを大きく満足させた。
 無反応を装いながら、このお人形はいつでも自分の一挙一投足、一言一句に深く注意を払っている。
 天敵を前にした時、草食の小動物がどうして無関心でいられるだろう。

「お前、私に隠し事をしていたね」

 タバサの使い魔シルフィードは韻竜と呼ばれる種族だ。
 高度な知性を持ち、言葉と先住魔法を操り、人間への擬態すら可能とする。
 報告では単なる風竜となっていた。
 深い意味はあるまい。
 自分だけの特別を、この年頃の小娘らしく隠したがった。それだけだ。
 だが、周りがどう解釈するかとなれば話が違う。
 それに考えが及ぶ程度には、この小娘も小賢しい。
 薄い体が跳ね起きた。本人はそのつもりだった。
 だが、身体の奥にまで深刻な故障を抱えた騎士の動きは、実戦を事としないイザベラにとってさえ、鋭い物では無かった。
 鎖が鳴った。
 白い太股がドレスを割り、固い感触が幼い下腹を貫いた時、ベビードールが風を孕んで床へ叩き付けられた。
 衝撃が体の奥底を割り、細い鼻梁が鉄の味に潰れた。
 この時、タバサの鈍った感覚は、初めてイザベラの背後に立つ騎士の存在を捉えた。
 杖へと伸びた手が掴んだのは、鉄の格子だけだ。

「ハウス・マイペット」

 鋼鉄の響きが、背後の空間を断ち落とした。
 現れたのはタバサがよく知っている世界だ。
 間隔が開いた格子の隙間からは、何もかもがよく見える。
 そして、何もかもに手が届かない。
 騎士が杖を一振りすると、堅固な鉄檻は重さを忘れて浮き上がった。
 握りしめた小さな掌には、単純な鋼鉄の感触が返って来た。
 獣用の檻だ。魔法を妨害する様な措置は全く施されていない。
 その必要は無いのだ。
 世界の向こうで、蒼いドレスの袖がクルークを弄ぶ。
 手にすべき者の手に渡れば、岩を断ち、空を裂く凶器は、ドットメイジにとって、先が潰れた羽根ペンほどの危険も持っていない。
 例え、それが囚人の手に渡ったとしても同じ事なのだ。
 檻の中の小動物が、決して自分の手を咬みはしない事を、ガリアの姫君はよく知っている。
187虚無の王 Trick29 3/4:2010/10/23(土) 21:48:53 ID:nVupU90N
 開け放たれたドアが、三つの影を呑み込んだ。
 石組みの廊下には、うっすらと光が積もっていた。赤と青の月明かりが、一つの支柱を二つの影に割って床に貼り付けた。

「誰?何をしているの?」

 誰何の声は、廊下に出るのと同時だった。
 一人、石床を踏む令嬢は、学院が半壊する惨事を目にして尚、勇気と正義感とを忘れずにいる様だった。
 潔い愚かさに同情するよりも早く、歴戦の北花壇騎士にとっては聞き慣れた声が上がった。
 獣に良く似た声だった。
 亜人からも聞いたし、どこかの平民や貴族とも似通っている。多分、自分とも、どこか似ているのだろう。
 限度を超えた苦痛に強い人間など、そうは居ない。

「下手な考えを起こすんじゃないよ。この黒いタクトが物言うよ」

 品の良い身のこなしと、顔つきとが同時に崩れ落ちた。
 立ち込める湯気に、アンモニアが臭った。
 薄い唇が笑みを作った。
 地位、名誉、誇り。層の深さと厚みはともあれ、虚飾を剥ぎ取ってやった時、栄えある貴族がその下に隠している本性は、獣と変わる所が無い。
 それがなんとも、おかしかった。
 先を進むイザベラの足取りは、放心の令嬢にいかなる価値も認めてはいなかった。
 一瞥すら与える事が無かった。その口元は、さも退屈そうに結ばれている。
 さて、哀れな貴族の娘を笑ったのは誰だろう。
 同じ世界の住人が似ているからと言って、何の不思議も無い。
 それは、従姉妹同士が似ているのと同じくらい、当然の事だ。
 タバサは抵抗を忘れ、自分の役割を思い出した。魔法人形は命令が無い限りは動かない物だ。
 塔の門扉が閉じ、風竜が羽ばたく。
 夜が明ける頃には、国境を越えるだろう。
 学院生活の夢は醒め、いつもの仕事、いつもの毎日がやって来る。
 石の様に冷たい心が、夢の舞台を見下ろした。
 そこには巨人の鎌で切り取られ、抉られた無惨な廃墟しか見つからなかった。
188虚無の王 Trick29 4/4:2010/10/23(土) 21:52:14 ID:nVupU90N
 暴風族〈ストームライダー〉は夜の住人だ。
 時速80qのスピードに、人間の脚力が許す程度のブレーキとなれば、人出も自動車も邪魔になる。
 公道を走る遊具に形ばかりの注意を払う警官も、原動機付きとなれば目つきが変わる。
 火線が石壁を嘗めた。
 一本、二本。
 三本目までには間が有った。
 短いスカートが風を孕み、星明かりの最中にしなやかな影が蒼く浮かぶ。
 キュルケが夜間の練習に勤しむ理由も、日本と似た様な物だ。
 城壁の隙間に窒息する学園は、二つの塔を失って尚、決して広くは無い。
 貴族の子弟を形ばかりの礼節で囲う騎士共の目線もまた、日本の警官ほど柔和な物では無い。
 王政府はいつまで学生を軟禁しているつもりだろう。
 いつまで、事態を壊れた城壁の中に隠しておけるつもりなのだろう。
 その優柔不断を嗤いはすまい。
 寄る辺を失った人の心は弱い。容易く熟慮と先送りを錯誤する。
 やがて、彼等は真実に直面するだろう。
 不安と猜疑と絶え間無く交換される噂話の末に、事実とはかけ離れた所に産み落とされる類の真実だ。
 後輪のサスが三角屋根の天辺を捉えた。
 月影に潜んで降り立った風竜の一群は、いかなる紋章も掲げてはいなかった。
 ガリアから来た蒼髪の留学生と王家との尋常ならざる関係を知る身としては、その正体を知るのは容易い事だ。
 ウィールを転がしながら、闇夜に佇立する塔を見守った。
 事の深刻大小は別として、魔法学院に通う貴族ともなれば、誰しもそれなりに複雑な事情を抱えている。
 大抵の場合、そうした事情は余人の介入を許さない。
 恋と情熱に生きる少女は、それ故に割り切りが出来ている。
 風竜の一団が、月の中に現れた。
 キュルケは目を瞠った。
 呑み込む唾は石の硬さを帯びていた。
 石塔を離れ、しなやかな肢体が風に舞う。
 手出しをする必要は無い。その筈だ。
 追う必要は無い。その筈だ。
 だが、連れ去られようとしている友人が、ベビードール一枚、檻に捕らわれているとあっては話が変わる。
 いかなる事情、いかなる罪が有るとは知れないが、これは到底、貴族を遇する道では無い。
 ウィールが地面を捉える。モーターが唸る。奥歯と王璽で炎が爆ぜる。
 赤い光が城壁を越えて帯を曳いた。


 ――――To be continued
189虚無の王:2010/10/23(土) 21:53:59 ID:nVupU90N
以上です。
また近々失礼します。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 00:12:12 ID:aNiDngO9
>>170

最近はミルキィホームズというのがあってだな。
…トイズが先住魔法扱いされそうだ。
191名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 00:29:15 ID:HlGBTc8R
怪盗の人、虚無の王の人、投下乙! そしてGJ!
つかこのイザベラ様エロいなw
192名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 01:10:11 ID:hGiKxrxh
Wikiの小ネタと丸被りの展開とか出すのは無しだよな、やっぱり
193名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 04:20:25 ID:AFTc4ojL
そらそうよ
194名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 04:26:23 ID:Ia3eSIAt
この剣呑な雰囲気が好きすぎる…
さて炎の王としてはカズ以下の見習いレベルでしかないとはいえ、機動力のあるトライアングルメイジ相手に
イザベラ様自身には何かしらの対抗手段はあるのかしらん
195少女人形使い魔代理:2010/10/24(日) 12:02:28 ID:ftysCzX1
12:05から小ネタを代理投下します。
漫画「少女人形店」から「メグ」召喚との事です。
196少女人形使い魔代理@:2010/10/24(日) 12:05:17 ID:ftysCzX1
「少女人形使い魔(ドールサーバント)」

(あ……、ブリジッタ、髪がさらさらしてる)
 視線の先にいる少女・ブリジッタの艶やかな長髪を、ルイズは羨望の眼差しで見つめていた。
(ベアトリスは頭が小さくて肖像画のモデルみたい……)
 続いて、壁に寄りかかって女子生達と何やら話している長身の少女・ベアトリスに目を向ける。
(ミス・ロングビル……、この間クラスの男子が話してた……。やっぱり綺麗ね……)
 心の中でそう呟いて、ルイズはひとつ溜め息を吐いた。
(それに比べて私って……)
197少女人形使い魔代理A:2010/10/24(日) 12:08:33 ID:ftysCzX1
「じゃね、ルイズ。バイバーイ」
「また明日ね」
「バイバイ」
 校舎を出たところでルイズはキュルケ・モンモランシーと別れ、自室がある女子寮への帰路に着く。
(今日もいつも通りの帰り道。そして窓に映るいつもの私……)
 教室の窓に映るルイズの上半身は、胸元から腹部にかけてなだらかな曲線を描いていた。
「せめてこの胸が洗濯板じゃなかったらいいのに……。パッドを入れててはみたけれど不自然なだけだもの」
 溜め息をついて歩き出すと、女子寮玄関近くの長椅子に少女用にアレンジされた水兵服姿に長い黒髪の少女が目を閉じて座っていた。
 ルイズが召喚した少女・メグだ。
「うわあ……、いつ見ても可愛いわね……。こんな可愛い……ううん、綺麗なの使い魔どころか人間にだって見た事無いわ……」
 ルイズがしばらく見とれていると、メグはルイズの接近を感知したかのように目を開けた。
「ガラスみたいな黒い瞳……」
 無言のまま立ち上がったメグだったが、その足取りがおぼつかない。
 すぐにふらついてルイズの肩にしがみつく。
「ね、ねえ、何か具合悪そうだけど、大丈夫なの?」
 ルイズがそう声をかけると、メグは木立の中からわずかに見えている小さな建物の方向を指差した。
「あの建物に連れていけばいいのね」
 メグを連れて向かったその建物は少々大きめの小屋程度の大きさで、扉の横に大振りの窓があった。
「あんな建物、あったかしら……? 今まで気が付いた事無かったわ。いつも通る道なのに」
 扉の前に置かれている黒板にただ一言「Doll Shop」と書かれている事に気付いて、ルイズは訝しがる。
「『Doll Shop』……人形屋? 学院内に?」
198少女人形使い魔代理B:2010/10/24(日) 12:11:10 ID:ftysCzX1
 ――チリン……
 扉を開けると、ドアベルが涼やかな音を立てた。
「ちょっといいかしら」
「いらっしゃいませ」
 ルイズが声をかけると、人形でいっぱいの店の奥から1人の若者が姿を現した。
「あ、私の使い魔が具合悪そうにしてて……」
「それは大変です。きっと外の空気にあてられたのでしょう」
 若者はルイズから受け取ったメグを抱きかかえ、手近にあったソファーに横たわらせた。
 そこで若者はルイズの顔をちらりと眺め、
「……何かお悩みのようですね。ここで会ったのも何かの縁です。私に相談に乗らせてください」
「いえ、いいのよ、そんな」
 と固辞したルイズだったが、店内にずらりと並んだ人形を眺めて溜め息を吐く。
「人形、可愛いわね……」
「僕がカスタムした人形達なんです」
「胸も大きいし、綺麗な目。手も足も細くて小さい顔。こんな風になりたいっていう女の子の理想が、みんな詰まってるわ。私の使い魔みたい……」
 そう言ってドレスを纏った人形を1体抱き上げたルイズに、若者は予想外の言葉をかける。
「あなたの望み、少しだけ叶えてあげましょうか?」
「えっ?」
「さあ、望みを言ってください」
「私の望みは――」


――願いを叶えるドール・ショップ とても美しいドール達
大きな瞳に綺麗な髪 誰もが心を奪われる――
199少女人形使い魔代理C:2010/10/24(日) 12:14:24 ID:ftysCzX1
「ルイズ! 早く準備しなさいよーっ」
 部屋の外からキュルケが声をかけてきた。
「うーん……、わかってるわよ……」
 上半身だけを起こしたルイズは、目を擦りつつ昨日の奇妙な店での記憶を思い返した。
「……あれ、朝じゃない? あの店って夢だったのかしら? 私いつ部屋で寝たのかしら」
 ぼんやりしつつも制服に着替えるべく寝間着の上着を脱ごうと胸元に手を伸ばして、ふと違和感を覚えた。
 視線を下に向けると、ルイズの胸が寝間着に2つの大きな膨らみを形成していた。
「えっ、これ、私の胸!? あの店、夢じゃなかったんだわ!」
 ルイズの脳裏に、若者の言葉が蘇る。
 ――あなたの望み、少しだけ叶えてあげましょう。
 制服に着替えてからも、ルイズは胸が変わった自分の姿を姿見に映して何度も微笑んだ。
(こんな事信じられる? ずっと夢見てた大きな胸。大きさが変わっただけで、何だかいつもよりちょっと可愛く見えるのは気のせい?)
200少女人形使い魔代理D:2010/10/24(日) 12:17:26 ID:ftysCzX1
「ルイズ!! どうしたの、その胸!?」
「シリコン入れた!?」
 教室に入ってきたルイズの胸に、キュルケ・モンモランシーは驚愕の声を上げた。
「うふふ、内緒よ」
「ずるーい!!」
「ごめんごめん、ほんとはよくわからないのよ」
 自分でも上手く説明できる自身が無かったため適当にあしらおうとしたルイズだったが、その返答にキュルケは激しく抗議した。
 そこにモンモランシーから、予想外の言葉がかけられる。
「ルイズって、結構可愛いよね」
「え……、そ……、そうかしら?」
「絶対胸元開けてた方が可愛いって!」
 思ってもいなかった言葉に嬉しさ半分困惑半分といった表情になるルイズだったが、モンモランシーに続いてキュルケも、
「うん、その方がいいわ!」
 その直後の授業が終わった後の休み時間、
「今まで思わなかった事なのに……」
 女子トイレの鏡の前でじっと自分の顔を見つめているルイズの姿があった。
(ダイエットしてみようとか、薬用リップを色付きに変えてみようとか、いつもと違う服を選んでみようとか。私を少しだけ変えるには十分な魔法の言葉。少しだけ可愛くなれる魔法ね)

 それから半月ほど経って……。
「ルイズって最近変わったよね」
「うん」
「ちょっと痩せた?」
「そうでもないわよ」
 軽く否定したルイズだったが、その表情には隠しきれない喜びが色濃く出ている。
(本当は5リーブルダイエットしたわ。シャンプーもちょっと高いのにしてみたし、お小遣いだって洋服と化粧品で全部使っちゃってる)
201少女人形使い魔代理E:2010/10/24(日) 12:20:18 ID:ftysCzX1
「もっと頑張れば、もっと『可愛く』なれるのかしら……。もっと、もっと……」
 ふと気付くと、ルイズの目の前に1つの扉があった。
「……あれ? この扉……、あの人形屋(ドールショップ)の扉? いつの間にこんな所に……」
 不審に思って周囲を見回すと、まるで霧に閉ざされているかのように白くぼんやりとしていた。
 そこでようやくルイズはつい先程ベッドに入った事を思い出した。
「ああそうか、私夢を見てるんだわ」
「その扉を開けちゃ駄目。そこは『ドールショップ』なのよ」
 聞こえてきた声に振り向くと、そこにはメグが立っていた。
 その表情は召喚以来の無表情ではなく、深い悲しみが色濃く出ていたものだった。
「メグ……、なぜそんな悲しそうな目で私を見るの? 怖いくらいに綺麗な瞳……。何が悲しいの?」
202少女人形使い魔代理F:2010/10/24(日) 12:23:44 ID:ftysCzX1
 その翌日、ルイズがキュルケ・モンモランシーと共に談笑しつつ廊下を歩いていると、
「あ!! ミス・ロングビル!! クラスの男子に大人気なのよね」
「うわー!! 隣の人、ワルド子爵じゃない!!」
 突然2人が上げた声に、ルイズははっとしてキュルケ達が見ている方向に視線を向ける。
 するとそこには羽飾りを付けた帽子を被った青年と眼鏡の女性が、楽しげに微笑み合っていた。
「何かあの2人、凄くお似合いね」
「2人並んでると別世界って感じ」
「別世界……」
 モンモランシーの何気無い一言に、ルイズは硬直した。
(私も少し憧れたわ……。ただの憧れだったのは、私じゃつり合わないのがわかっていたから。
何でミス・ロングビルはあんなに綺麗なのかしら。私がどんなに頑張っても、あの子みたいにはなれない……。でも……、あと少し目がぱちっとしてれば? 口元が……、鼻が……。あと、少しだけ……)
 そんな事を考えていたルイズが顔を上げた時、彼女の目の前に昨夜夢で見た扉がいつの間にか存在していた。
「あの扉、『Doll Shop』? 何で校舎(ここ)に!? ねえ、みんなっ……」
 ルイズは慌てて後方を振り返りキュルケ達を呼んだ。
 しかしその時既にルイズの周囲からは人影が1人残らず消えていた。
「いない!?」
『――あなたの望み、少しだけ叶えてあげましょうか?』
 ルイズの脳裏に、メグを抱きかかえた若者の姿と言葉がフラッシュバックした。
『――さあ、望みを言ってください』
『――その扉を開けちゃ駄目』
 若者の声がルイズを誘い、メグの声がルイズを止める。
 わずかな躊躇の後、ルイズはその扉を開けた。
 ――チリン……
 扉を開けると、ドアベルが涼やかな音を立てた。
「お待ちしていましたよ、お客様……」
 扉の向こうでは、ティーセットを載せたトレイを持った若者がにこやかにルイズを出迎えた。
(私が来る事知ってたみたい……)


――願いを叶えるドール・ショップ 今日もドアが開く音がする
店に訪れた少女たちは たちまちドール達の虜――
203少女人形使い魔代理F:2010/10/24(日) 12:26:11 ID:ftysCzX1
「――そうですか……。女の子というのはそれだけで宝石のように素晴らしいと思うのですが……」
 ルイズの話を聞いた若者は、慣れた手付きでティーカップに紅茶を注いでそう答えた。
「でも可愛くないとやっぱり駄目なのよ! その人形達みたいに……」
 若者の言葉を強い口調で否定したルイズは、テーブル上に座らされている人形に視線を向ける。
 すると次の瞬間、
 ――ざわ……
 突然店内がざわめいたようにルイズには感じられた。
 ――ざわ……ざわ……ざわ……
 気のせいかとも思ったがそうではなかった。
 そのような事などありえないにもかかわらず、店内の人形達がざわめいているかのように奇妙な気配を放っていた。
「え……? 何これ……。人形が騒いでるの?」
 事ここに至り、ルイズにもようやくこの「Doll Shop」が尋常ならざる場所である事が理解できた。
 理屈ではなく本能的にここから離れなければと考え、慌てて立ち上がる。
「わ……、私そろそろ帰らないとっ……!!」
 しかしその行動を封じるように、いつの間にかルイズの背後に回っていた若者が彼女の肩に手を置く。
(……いつの間に私の後ろに!?)
「普通彼女達は言葉を持ちません。でもいろいろな事を考え、感じています。店にいる娘(こ)達は特にです」
 若者の続ける言葉は異様なまでに淡々としていて、明らかにルイズに……いや、誰かに聞かせるような口調ではなかった。
「私は彼女達の『望み』を叶えて、カスタムしてあげました」
「何の事を言ってるのよ?」
204少女人形使い魔代理H:2010/10/24(日) 12:28:40 ID:ftysCzX1
 ――クスクス……クスクスクス……
「新しいお友達?」
「そうみたい」
「お友達ね……」
 突然聞こえてきた笑い声に周囲を見回すと、いつの間にか店内には何人もの少女が微笑みを浮かべつつルイズ・青年を見つめていた。
 ある少女は東方風の服を、またある少女は豪華なドレスを、さらに別の少女は**を……。
「この店人形しかいなかったのに、いつからこんなに人が!? ……わ、私やっぱり帰るわ!(この店、変よっ!)」
 店内の異様な雰囲気に怯え、踵を返すルイズ。
 しかし扉の所に立っていた見覚えある少女の姿に、思わず立ち竦む。
「メグ……」
「なぜまた『お店(ここ)』に来てしまったの? 駄目って言ったのに……」
「え……?」
 メグの言葉を不審がるルイズ。しかしそこに、
「あなたの望みは、『もっと可愛く』『もっと綺麗に』でしたね」
「!!」
 自分の心の中を見透かしたかのような青年の言葉に、ルイズは驚愕の表情で振り返った。
「お友達よりも、肖像画よりも、あの男性の隣にいた女性よりも。この人形達のように……」
「『この人形達のように』……」
 ルイズが虚ろな視線で青年の言葉の最後を反復すると青年は怪しげな笑みを浮かべ、
「僕が叶えてあげますね」
「もっと可愛くなりたい、もっと……」
 羨望を込めて見ていた、ブリジッタ・ベアトリス・ロングビルの姿がルイズの脳裏を過ぎる。
「もっと……」
 ルイズの手から握っていた杖が落ち、床に転がって音を立てた。


――ガラスの様な綺麗な瞳 惹かれたならばもう帰れない
店員が耳元で囁く 「貴女も綺麗になりませんか?」――
205少女人形使い魔代理の代理 :2010/10/24(日) 12:50:32 ID:WdRnIT/k
最後の最後でさるさんくらいました。


「知ってる? この辺で生徒が行方不明になったんだって」
「うちのクラスでも……」
「嘘ー」
「えー、プチ脱走じゃないの?」
「真面目な子だったんだよー」
 ルイズが行方不明になってから数日後、噂話に興じる少女達を気にも留めず「Doll Shop」のショーウィンドーを覗いているタバサの姿があった。
「……可愛い……」
「ありがとうございます。この娘(こ)はカスタムが終わったばかりなんですよ」
 人形の可憐さに、タバサの表情にかすかな羨望が宿る。
「……私も……こんな風になりたかった……」
「その望み、少しだけ叶えてあげましょうか?」
 そんな2人の視線の先にいる人形は、美しい桃髪と豊かな胸を持ち魔法学院の制服を纏っていた……。

――願いを叶えるドール・ショップ 次々と増えるドール達
店に訪れた少女達の 行き先を知る者はいない

甘く誘う魅惑の言葉 頷いたならもう逃げられない

もしも私の店に来た時は 「貴女もドールにしてあげましょう」――


以上投下終了です。
wikiには作者さんが投下済みとの事です。
206ウルトラ5番目の使い魔 ◆213pT8BiCc :2010/10/24(日) 13:41:15 ID:lPx4CDxw
ウルトラ5番目の使い魔、19話の投下準備できました。
問題がなければ、10分間隔をつけて13:50より開始いたしますのでよろしくお願いします。
今週は、ウルトラシリーズで1・2を争うほど別名の長い、あの怪獣が登場します。
 第十九話
 混戦始末記、おいでませ魅惑の妖精亭!
 
 知略宇宙人 ミジー星人
 特殊戦闘用超小型メカニックモンスター ぽちガラオン 登場!
 
 
 無限に広がる大宇宙、そこには様々な生命が満ち溢れている。
 死に逝く星、生まれくる星。
 命から命に受け継がれる大宇宙の息吹は、永遠に終わることはない。
 
 しかし今、我々の住むハルケギニアに、恐るべき侵略の魔の手が迫りつつあった。
 人々は、まだその脅威を知らない。
 
 
 アブドラールスとの戦いが終わった日の夜、銃士隊全員は戦勝祝いもかねて大宴会を開こうとしていた。
「それでは、銃士隊全員の無事生還と、ミシェル副長の復帰。そして、新しい隊長たちミランご姉妹の
誕生を祝して、乾杯!」
 アメリーが音頭をとり、店を埋め尽くした銃士隊員たち全員がグラスを高くかかげて乾杯と叫ぶ。
 ここは、トリスタニアのチクトンネ街にある魅惑の妖精亭。アンリエッタ王女から祝福を受けたあの後、
格別のおはからいと、たいして活躍できなかったことで責任を感じていたド・ゼッサールが事後処理を
すべて引き受けてくれたおかげで、銃士隊は全員休暇をもらえた。そして、彼女たちは才人の紹介で、
アルビオンに旅立つ前に彼らがお世話になったここを借り切ってパーティを開いたのだった。
 主賓は、隊長アニエス・シュヴァリエ・ド・ミランと、帰ってきた副長にしてアニエスの新しい妹、
ミシェル・シュヴァリエ・ド・ミラン。それから、今回の影の大功労者で二人の弟にされてしまった
サイト・ヒラガ・ミラン。
 店の奥側に急造された段に並んで立たされた三人は、それぞれ照れながらもこんなパーティを
開いてくれた仲間たちに感謝の言葉を送った。
 
「ごほん。皆、今日はよく戦ってくれた。本来なら、陛下の近衛隊である我々がこのような
パーティを開くのはけしからんことだが、今日は姫殿下のお許しもある。存分に楽しめ!」
「みんな、実を言うとまだ自分がここにこうしているのが夢みたいだ。みなのおかげで、まだ
この世の中は捨てたものじゃないと思うことができた。これからもよろしく頼む」
「えーっと……なんて言えばいいのかな。あ、そうだ。皆さん、これからもアニエスさん……
いや……まだちょっと実感わかないけど、姉さんたちをよろしくお願いします」
 
 アニエスは固さのなかに柔らかさを、ミシェルは素直に仲間たちへの感謝を、才人は二人の
姉への心遣いを見せて、店中からの割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
 続いて、隊員たちのあいだから口々に「隊長、あんまりサイトをいじめちゃだめですよ」とか、
「副長、もういなくならないでくださいね」「サイト、姉弟はいっしょに風呂入っていいんだよ」
「いつまでも仲良くね」などの声があがる。それらの優しい声を聞いて、才人は銃士隊が単なる
軍の一部隊などではなく、ウルトラ警備隊やMATのような厳しさの中に、ZATやGUYSのような
優しさをもった、すばらしい組織なのだと思った。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 13:52:49 ID:gqZsAP0f
支援
「さあ、今日は副長の復帰祝いだ。全員思う存分飲んでいいぞ!」
 おおーっ! と歓声があがり、続いて何十もの乾杯の音が響いてパーティが始まった。
 魅惑の妖精亭の自慢の料理や酒が次々と運ばれてきて、激務で疲れていた隊員たちは舌鼓を
打って胃袋に食物を送り込んでいく。まあ、うら若き乙女たちが肉や酒にかぶりついていく光景は
少々圧巻で、さすがはアニエスの部下たちだと才人は感心した。
 妖精亭の店員の少女たちは、普段はこの時間にはむさい男たちを相手にしてるので、いつもと
違う層の客たちに最初はとまどっていたものの、そこは鍛えられた接客の名人ばかりである。すぐに
適応すると、武勲の自慢を聞いたり、店員も女性であるから隊内での恋愛談義の相談に乗ったり
しながら隊員たちに酒をついで、話に聞き入り場を盛り上げていく。
 そこへ響き渡る野太い声。
 
「トレビア〜ン! 今日はこんなにうるわしいお客さんがいっぱいおいでくださってうれしいわあ。
しかも来てくださったのが、姫殿下の覚えめでたく今をときめく銃士隊のみなさまでしたなんて、
こんな名誉は二度とありません。妖精さんたち、今日はいつもの五割り増しでサービスして
あげてちょうだいね」
「はい! ミ・マドモアゼル!」
「トレビアン」
 
 十メートル離れていてもすぐにわかる巨体を左右にくねくねと腰を動かすオカマ、この店の
店長のスカロンのあいさつに才人は思わず吐きそうになった。いい人だとわかってはいるけど、
この人のこのかっこうはいまだに慣れない。グドンの前のツインテールのように本能が
拒否反応を起こしてしまうのだ。
「あれさえなきゃいい店なんだけどなあ」
 パーティが自由時間になったので、才人はアニエスとミシェルといっしょに、三人でテーブルを
囲んで話をはずませていた。
 テーブルの周りでは、料理や酒を盆に乗せた店員の少女たちがいそがしそうに駆け回っている。
 ただ、才人にとって意外だったのはアニエスやミシェルをはじめ、銃士隊の隊員たちのほとんどが
スカロンの容姿に対して平然としていたことである。
「あんなものより気持ち悪いものなどいくらでもある」
 それとなく尋ねてみて、アニエスから帰ってきた答えがこれだった。
 考えてみたら、銃士隊も立派な軍隊なので、戦場では死体や見るに耐えない汚物を眼にする
ことも多いだろう。やはり彼女たちは並ではない。アニエスはスカロンのパフォーマンスにも
むしろ拍手を送る様子で、才人の肩を叩いた。
「サイト、見たくないものがあるならミシェルの顔でも見ててやれ。この子もそのほうが喜ぶぞ」
「いっ?」
「ちょ、姉さん!」
 二人はまだ酒がまわっていないのに頬を染め、アニエスはそれが面白いというふうに笑った。
どうやら妹や弟をからかう楽しみに目覚めてきているようだ。
「ははは、照れるな。さあて、二人とも今日は疲れたろ、たっぷり食べて飲んでいけ。おーい! 
酒と料理の追加、早くしろ」
「あっ、はーい! ただいまぁ」
 アニエスが怒鳴ると、奥の厨房から盆に酒と料理を乗せた男たちが駆けてきた。一人はがたいの
いい大男、もう一人は厚化粧のスカロンとは別方向のオカマだ。
「まいど、置いておきますね」
「はーいお待たせ。ゆっくりしていってねん」
 二人は料理を運び終えると、また厨房のほうへと走っていった。よく見たら、厨房ではもう一人
恰幅のいい男が皿洗いをしているのが見える。才人は記憶を辿って、あれは確か行き倒れていたのを
スカロンが拾った三人組だったなと思い出した。名前はドル、ウド、カマとかいったっけか。まだここで
アルバイトしていたんだな。
「おーい、こっちも追加オーダー頼む」
「こっちもだ! お酒が足りないよ」
「はーい、たっだいまあ!」
 ウドとカマはオーダーが出るたびに素早く駆け回って、料理を運んだり皿を片付けたりしている。
その接客態度はけっこう様になっていて、隊員たちからのウケも悪くないようだ。
 もっとも、耳をすませてみたら厨房のほうからは「ほらドルちゃん! お皿たまってるよ、
グズグズしないの」と、叱る声が聞こえてくるのであいつだけはまだ適応してないようだ。
 
 
 さて、そんな店内の喧騒から少しばかり離れ。けっこう広い店内を銃士隊員たちが埋め尽くす中、
一人だけはじかれたルイズはふてくされるように隅っこのテーブルで、一人ワインのグラスをかたむけていた。
「なによもう、バカみたいにうかれちゃって。功績あげたからって調子に乗りすぎじゃないの? 
そんなんで、いざというときに戦えるのかしら」
「まぁまぁルイズ、せっかくのお祝いなんだし、喜べるときには喜ばしてあげなさいよ」
 飲んだくれのおやじみたいにくだをまくルイズを、ジェシカが慣れた手つきで空瓶を片付けながら慰めている。
「ジェシカ! あんたは人事だからそんなのんきに言えるのよ。それにね……はぁ」
 ため息をついたルイズは、そばに置いていたかばんの中から古びた羊皮紙の本を取り出した。
「なに? このボロボロの本?」
 表紙は題名が書いてあったのすらわからないほど擦り切れて、しかも中の茶色くくすんだ紙には
一ページたりともただの一字も書かれてはいない。これでは何の本だかさっぱりだとジェシカが
首をかしげると、ルイズはつまらなさそうに言った。
「トリステイン王家に伝わる『始祖の祈祷書』よ」
「始祖の祈祷書? あの国宝の?」
 王家に伝わる伝説の書物。それをなぜルイズが持っているのかとジェシカはまた首をかしげた。
「実はね、来月にとりおこなわれるアンリエッタ姫と、アルビオンのウェールズ皇太子の結婚式のために、
式の詔を考えてくれって頼まれちゃったのよ」
 ルイズは、銃士隊の表彰式の後でアンリエッタに呼び出されて頼まれたことを聞かせた。
 
「ルイズ、聞いてちょうだい。ついに先日ウェールズさまとの正式な婚約の日取りが決まりましたの」
「本当ですか! おめでとうございます。姫さまとウェールズさまなら、きっとよいご夫婦になられますわ」
「ありがとうルイズ。これもみんなあなたたちのおかげよ。それでねルイズ、あなたに折り入って
お願いがあるんだけど。わたしとウェールズさまとの婚礼の折に、式の詔を読み上げる巫女に、
あなたになってもらいたいの」
 
 それで、涙を流さんばかりに喜んだルイズは即座に引き受けた。王家の結婚式の巫女とは
国中にその名が知れ渡ることになる、この上ない名誉な役割である。父や母、姉たちもきっと
喜んでくれるはずだ。そのときはそう思った。
「へえ、それは大変な名誉じゃない!」
「そう思う? でもね、世の中そんなに甘くないのよね」
 ため息をつくと、ルイズは指でペラペラとページをめくりながらぼやいた。
「なんていったって、王家の結婚式の詔でしょ。いくら公爵家の子女だからって、わたしが作ったものを
おいそれとは採用されないわ。候補者はほかにもいて、それらの中から一番優秀な詔を作った人が
巫女として認められるそうなのよ」
 つまりは、いくつかの貴族から選ばれた巫女候補の娘たちが詔作りでその座を争うということらしい。
それも、あとで聞いたことだがルイズ以外の候補者はすでに祈祷書を借りて詔を作ってしまって、
あとはルイズが一人だけ。
「多分姫さまのことだから、わたしに巫女になってもらおうと無理に候補者に入れてくれたのね。
そのお心には応えたいのだけど。でも、いったいなんて作ったらいいのかしら……」
 少々不可解に思えることだが、座学においては学年一の成績を誇るルイズは、紙数にしたら
せいぜい二〜三枚分ほどの詔をどう作成すればいいのかと本気で悩んでいた。むろん、過去に
使われた詔を参考にするという手もあるし、アンリエッタもそこまで完璧は求めていないのだけれど、
負けず嫌いを地でいくルイズの性格が、人真似は嫌だと妙なプライドを燃やさせていた。
「ほかの貴族の娘なんかに負けたら、ヴァリエール家の名折れだわ。けど、わたしは作文だけは
苦手なのよねえ……」
「はぁ、人間意外なところに弱点を持っているものね。だったら、誰か友だちに相談してみたら?」
「それができれば苦労はないんだけど……」
 プライドにひっかかるけど白紙答案だけは嫌なので、その方面はルイズも考えた。しかし、
脳裏に浮かんだ名簿に、早々に挫折を強いられた。なぜなら、才人やギーシュをはじめ男連中は
アホばっかりで、女もキュルケやシエスタのような色ボケは論外、タバサは定型文しか
作ってきそうにない。先生方も、詩的な才能ではロングビルやコルベールはだめそうだ。
 総じて、頼りになりそうなのがいないので、ルイズは行き詰っていた。
「なんとかしないと、名誉どころか大恥だわ……ああもう! ジェシカ、もう一杯」
「はーい、追加オーダーね。カマちゃーん、ルイズにもう一本ね!」
「はぁーい! たっだいまお持ちしまーす」
 すかさずカマちゃんが新しいワインをテーブルにおいて、にこやかにウィンクして去っていった。
そのスカロンに勝るとも劣らずの横顔に、思わずルイズからも嗚咽が漏れる。
「うぇーっ、あんたたち、あんなのよくいまだに雇ってるわねえ」
「そうでもないわよ。前にもオカマバーで働いてたこともあるってんで接客態度は悪くないし、
今じゃ普通のお客さんも慣れて、けっこう人気あるんだから」
 そんなものか、男っていうのは訳のわからない生き物だとルイズは思った。けれど、そこがこの店の
営業戦略なのである。たとえば甘いお菓子を作るときにほんの少し砂糖に塩を混ぜておけば甘みが
増すように、美少女たちの中にスカロンのようなのを混ぜておけば、両者を対比することでお客は
いつでも新鮮な癒しを得ることができるのだ。
 ともかくも、ルイズは口直しのつもりでワインを無造作にグラスに注いだ。と、そこに才人がアニエスや
ミシェルと仲良く会話してるのが映って、思わず席を立ちかけたところをジェシカは引きとめられた。
「野暮はやめておきなさいよ。どうせ学院に帰ったらあんたがサイトを独占できるんでしょ。
余裕のない女はもてないわよ」
 と言われて、ルイズはしぶしぶ腰を下ろした。

 一方、ルイズにしっかりと見張られているとは思わず、才人は若者らしく食欲を本能のままに
満たす作業に没頭していた。居酒屋とはいえ、魅惑の妖精亭の料理は充分に標準以上を
満たしている。まだ若く、酒より肉のほうに美味を感じる才人は酔いもせずに空になった皿を
増やしながら、アニエスやミシェルと、王宮で初めて会ったときからの思い出を語り合っていた。
「早いものだな月日が経つのは。初めて会ったときは、見ている方向も望んでいるものも
バラバラだった我々が、今はこうして同じ名を背負って姉弟になるなんて……」
 感慨深くつぶやいたアニエスと、才人とミシェルは同じ気持ちだった。
「ギーシュの奴が道に迷ったおかげで鉢合わせすることになったんだよな。うーん、思えば
アホらしい出会いだったな」
「ははっ、でもそのおかげでサイトと出会えた。そして、あのトリスタニアを震撼させた
ツルクセイジンとの戦いのとき、サイトが駆けつけてくれなかったら、わたしを含めて銃士隊は
皆殺しにされていただろう」
「それいうんだったら、その前にバム星人に撃たれかかってたとき、おれはアニエスさんたちに
助けられてますからおあいこですよ」
 互いに、助け助けられて、大変な戦いを生き延びてきたのだと彼らはあらためて感じた。
 いくらすごい力を持っていようと、一人でできることなどたかが知れている。ウルトラマンだって
ひとりじゃあない。兄弟たちや大勢の人々に支えられてきたからこそ、恐るべき怪獣や侵略者と
戦い抜くことができたのだ。
 思い出話はそれからもじっくりと続いた。時系列は時を進め、やがて現代にまでたどり着くと、
ミシェルは一呼吸をおいて才人の耳元で小さくつぶやいた。
「実は、わたしの体の傷、消そうと思うんだ」
 才人ははっとすると、食べる手をやめてうなずいた。
 ミシェルの体には、奴隷だったころにつけられた無数の傷跡がまだ残っている。リッシュモンを
倒したとしても、それが消えることはない。でもそれは、誰にも言ってはいない秘密なのではと、
才人がアニエスを見ると、アニエスは驚いた様子もなくうなずいた。
「実はもうアニエス姉さんには話したんだ。サイトが受け入れてくれたんなら、姉さんも受け入れて
くれると思って……」
 答えは、ミシェルの肩を優しく抱くアニエスを見れば一目瞭然だった。お前が何を抱えていようと、
無条件でいっしょに背負ってやる。それが家族というものだろうと、アニエスは小さい頃に
父と母から受け取った愛情をミシェルに注いだ。そしてミシェルはその愛情を受けて、これまでは
忌まわしいものとしてひた隠しに隠してきた傷に、勇気を出して向き合うことに決めたのだった。
「できるんですか? 傷を消すなんて」
「水の秘薬を使って時間をかければ可能だそうだ。お前は気にしないと言ってくれたけど、
この体じゃわたしの子供がびっくりするからな」
 お腹をさすって、ミシェルはいつかそこに宿るはずの未来の息子か娘の幻想に思いをはせた。
 才人は、そうして前向きに生き始めようとしているミシェルをうれしそうに見つめた。けれど、
才人も多少なりとてハルケギニアで過ごしてきた以上、魔法の薬の価値は知っている。
それで、お金かかるんじゃないですかと尋ねると、ミシェルは軽く苦笑した。
「貴族の屋敷が庭付きで買えるくらいはいるそうだ。でも、何年かかっても稼いでみせるさ」
 そうは言っても、それが容易なものではないことくらい才人にもわかる。銃士隊の給金は
決して安くはないが、それでもサラリーマンがフェラーリを買おうとするようなものだ。
無理だと思った才人は、何か補助になれるものはないかと考えて、ふとあることを思い出して
パーカーのポケットの中を探ると、奥から玉砂利ほどの大きさの透明な結晶を取り出した。
「じゃあこれ、足しになるようでしたら差し上げます」
「ん? ガラス玉……?」
 アニエスは、才人がテーブルの上に置いたそれを見つめて首をかしげた。
 しかし、ミシェルも意味がわからないと不思議そうにしていると、才人はいたずらっぽく
笑って言った。
「覚えてませんか? ほら、アルビオンで雲の中に吸い込まれたとき」
「あっ! ああっ!」
 はっとしたミシェルは、アルビオンで才人たちと行動しているときに、四次元怪獣トドラや
超力怪獣ゴルドラスが生息していた異空間に迷い込んだときのことを思い出した。
「あのとき拾ったダイヤモンドか」
「ええ、持って帰って金に換えようと思ってたけどすっかり忘れてた。でもまあ、どうせおれが
金持ってても使い道がないし、使ってください」
 惜しげもなく、才人はポケットからつかみ出したダイヤを無造作にテーブルの上にばらまいた。
 それらの価値は、ざっと換算しても、どれだけ安く買い叩いたとしても、これほど大きく質のよい
結晶なら二万エキューは軽くするだろう。水の秘薬の代金を払っても山のようにおつりが来る。
ミシェルはいくらなんでも受け取れないと遠慮しようとしたけれど、才人はまったく未練はないようだった。
「いいですよ遠慮なんかしなくても。どうせ拾ったものなんだし、役に立てる機会があるなら
使わなくちゃ。それに、弟が姉を助けようと思うのは普通でしょ。姉さん」
「う……」
 それを言われたら返す言葉がなかった。アニエスも「もらっておけ」と微笑んでいる。それは、
はやく傷を治してきれいになった体を見せてやれというアニエスの姉心だった。ミシェルは姉さんと
呼ばれたことにぽっとして、少し頬を染めると、迷った結果、中くらいのダイヤを一つ選んで仕舞った。
 残ったダイヤは、一番小さいものをアニエスが万一の際に隊の運営資金に当てるとして
もらうことにして、あとはまた才人のポケットに仕舞われた。
「まったく、お前は少し目を離すとどこでなにをしてるかわからんな。それにしても、それだけの
宝石があれば大金持ちどころか、ゲルマニアだったら爵位や領地も買えるぞ。少しはもったいないと
思わないのか?」
「全然」
 呆れたようなアニエスの質問に、才人は即答した。自分が大金を持っていたところで使い道は
ないし、やたらと貯金する趣味もない。
 ダイヤを異空間で拾ったときもそうだったが、才人の長所であり欠点は金欲や物欲がとぼしい
といった点である。衣食住はルイズに保障してもらってるから充分、金貨のプールで泳ぐなどといった
下種な夢はない、そんなことより本当に必要としている人に使うべきだと、才人は考えていた。
 しかしそのとき、ポケットから零れ落ちたダイヤが一つ転がって、こっそりと摘み上げられたことに
才人は気づいていなかった。
 
 また一方、ルイズは離れた席で今日は酌をする必要のないジェシカを相手にして、才人が
ミシェルと仲良くしてるのを歯がゆく見つめていた。
「あのバカ、あのバカ、あのバカ……」
「落ち着きなさいよルイズ。焼きもちを焼く女は可愛いけれど、度を越えたら嫌われるわよ」
 注がれたワインをちびちびと飲みながら、ルイズはジェシカになだめられていた。
「うー……でも、サイトはわたしのものなのよ。あいつ、わたしのこと好きって言ったのに、
わたし以外の女とベタベタして」
「ま、姉弟になったそうだしそのへんは大目に見て上げなさいよ。心配しなくても、サイトは
あんたのこと好きって言ってくれたんでしょ。だったらどっしりかまえてなさいよ。それに、
あんたは人の不幸を見てみぬふりをする人を好きになったの?」
 ルイズは人一倍独占欲の強いタイプなので、才人がほかの女と仲良くするのを見ていると
たまらなく腹が立った。でも、ジェシカの言うことが的を射ているので、大きく深呼吸して自分を
落ち着かせた。
「そうね。サイトは嘘なんかつかないわよね。うん、そうよね。だったらわたしも大人のレディー
として対応しましょう。あんな女に、わたしが負けるはずはないんだから!」
「そうその調子よ! さすが大貴族は器がでっかいわ。さっ、でしたら景気づけに乾杯しましょう」
「ええ、ぐっとつぎなさい」
 ジェシカに持ち上げられていい気分になったルイズは、自分が言われるままに店で一番
高いワインを買わされたことに気づいていない。ルイズを慰め励ましつつ、ちゃっかり
商売に持ち込むジェシカがすごいのである。
 なんといっても、ジェシカは貴族に対して物怖じしない。むろんルイズが親戚であるシエスタの
知り合いだからというのもあるけれど、それを差し引いても、一秒で親友のように陽気に
話しかけてくる。しかも、普通なら貴族に対して無礼なと思われるような台詞でも、彼女が
言うと悪意をまったく感じず、むしろ楽しくなるのは天性の人柄というべきか。
「ぷはーっ! もう一杯」
「おお、さすがいい飲みっぷりね」
 自分がもろにカモにされているのに気づかず、ルイズの酔いはまわっていった。もっとも、
別にジェシカもルイズに悪気があるわけではない。ルイズの悩みには真摯に対応していたし、
腹が立ったときには思いっきり飲んで忘れてしまったことがいいこともあるのである。ルイズの
場合は不満を内にこもらせるタイプなので、発散できる機会に全部吐き出させたほうが
ルイズのためだとジェシカは考えていた。お金はもらうけれど、それに見合った幸せはきちんと
サービスする。それがジェシカのプライドであった。
 むろん、商売のことも忘れていないが、いかに高級ワインといえどもルイズの小遣いからすれば
微々たるものなので、気兼ねせずにボトルをあけると、ルイズはグラスに注いで一気に飲み干した。
 
 と、そのときだった。店の入り口の羽扉が開いて、新しい客が店内に入ってきた。
一人だけだが、貴族と思しきマントを身につけた中年の男性である。
 その貴族が入ってくると、貸し切りだと思っていた隊員たちは突然の来客に驚いて店中から
視線を集中させた。それから、スカロンが腰をクネクネさせた例の動きで、意外にも素早く
駆け寄っていった。
「これはこれはチュレンヌさま。ようこそ、魅惑の妖精亭へ!」
 チュレンヌと呼ばれた貴族は、自分より頭二つくらい大きいスカロンを見上げてにこやかに笑った。
「こんばんわ店長。今日はいつにも増して繁盛しているようだな。まことにけっこう」
「はい、おかげさまで景気よく商売させていただいています。本日はお仕事で?」
「いやいや、今日はプライベートでな。普通に客としてまいったのだ」
「ああ、申し訳ございませんが本日は貸し切りでして」
「なんと! ああそうか、入り口になにやら看板があったようだがうっかり見落としてしまっていた。
いやどうも皆の衆、お騒がせしてすまん。わしのことはかまわずに続けてくだされ」
 チュレンヌがさわやかに笑って手を振ったので、怪訝な顔をしていた隊員たちも、とりあえずは
またワイングラスやフォークを手に取った。
「では、わしはこのへんで退散しようか。ご迷惑をかけてすまなかった」
「いえいえとんでもない! あなたさまのおかげで私どもは安心して商売ができるのです! 
立ち話でよろしければ少しいかがでしょうか? タルブの新酒が手に入りましたもので」
 スカロンは立ち去ろうとしていたチュレンヌを引き止めて、ほかの客の邪魔にならないように
世間話をしながらもてなした。けれど、大半の隊員たちは彼の顔を知っていたので、
食事に戻りながらも横目でチュレンヌを見ていた。
「あいつは……」
 さらに、そのスカロンと話しているチュレンヌの顔を見て、アニエスとミシェルが不快そうな顔をしたので、
才人はそっと耳元で尋ねてみた。
「あれ、誰です?」
「この区域の徴税官をしているチュレンヌという男だ。すこぶる評判の悪い奴で、脱税や贈賄の
噂も耐えない。平民にたかって袖の下をほしがる、典型的な小役人というところだな」
 吐き捨てるようにミシェルが言ったので、才人もまじまじとチュレンヌの様子を観察してみた。
こじんまりとした寸詰まりの胴体に、薄くなった頭髪が油で頭に張り付いて、ちょこんとしたなまずヒゲ、
絵に描いたようなエロ中年だ。
 しかし、見た目はそのとおりなのだが才人はどうもミシェルの説明に納得できなかった。
「ふーん、でもそんなふうには見えないけどなあ」
 才人の見たところ、貴族の居丈高さは見られないし、スカロンとは友人のように話をしているように
見える。これなら会ったばかりのころのアニエスたちのほうがまだ傲慢さがあった。物腰も柔らかで、
むしろあっちのほうが頭を下げているような雰囲気に、才人はとてもそんな悪徳役人とは思えなかったのだ。
 するとそこへ、ジェシカが才人の後ろにやってきて三人に耳打ちした。
「そうなのよ。前は副隊長さんの言うとおり、一銭も払わないくせに店にたかってくるひどい奴
だったんだけど、一ヶ月くらい前かな。突然人が変わったみたいにいい奴になっちゃったの」
「どういうことだ?」
「どういうことだも、見てのとおりよ。急に腰が低くなって、税金を下げてくれるようになったり、
いばってた貴族たちを抑えてくれるようになったりと、まるで以前とは別人みたい」
 ジェシカの言うとおりなら、チュレンヌという奴は過去は相当な嫌われ者だったのだろう。
「どこの世界にも庶民にたかるセコいやつはいるもんだな。ん? そういえばルイズは?」
「ほらあそこ、酔いつぶれて寝ちゃったわよ」
 見ると、ルイズはテーブルにつっぷしてすやすやと寝息を立てていた。そういえば、ルイズも
かなり疲れてたんだろう。おれのわがままに付き合わせて悪かったなと、才人はその可愛い寝顔に
心の中で頭を下げた。
 しかし、チュレンヌに対しては、突然人が変わったということに関して、職務柄アニエスが怪しんだ。
「ふん、ああいうやからは芝居がうまいからな。本来は、奴も今回の戦いで始末してしまう予定
だったんだが、確かに一ヶ月前ほどから贈賄を送っていた貴族との関わりが消えてしまってな。
我々の探索に気がついてなりをひそめたのではというのが隊の見解だ。もしくは、奴に恨みを
もつ何者かが魔法の薬で人格を変えたか……」
 それについてはジェシカも同感だったらしく、軽くうなずいてはくれた。だが、首を横に振ると
その意見をはっきりと否定した。
「誰かが魔法で成り代わってるんじゃないかって、彼の部下たちも怪しんだそうだけど、
結局魔法の形跡は見つからなかったそうよ」
「では、本当に人が変わったということか……フン……」
 むろん、納得したわけではないけれど、魔法の薬を使わずに人格を急に変えることは難しい。
ならば本当に改心したのか? いや、アニエスやミシェルは多くの悪党を相手にしてきた経験上、
チュレンヌの変貌をまったく信用していなかった。
「ともかく、奴はしばらくマークしておく必要があるな。ミシェル、頼むぞ」
「はい」
 隊長と副長の目に戻って、アニエスとミシェルはうなずきあった。
 チュレンヌは、すぐそばでそんな会話がかわされているとは知らず、スカロンと親しげに会話していた。
「おっと、少し長居してしまったか。歩いて帰れるうちにやめておくとしよう」
 空になったワイングラスをスカロンに返し、スカロンはそれをボトルといっしょに受け取りに来た
カマちゃんに手渡した。
「ありがとうございましたぁ。これからもどうか、ごひいきに、お・ね・が・い・しますぅ!」
 オカマがウィンクしてのあいさつは、遠目で見ていた才人でも吐き気がしてくるほどキモかった。
でも、さすがにこれは無礼うちになるのではとアニエスたちは身構えたけれど。
「うむ、君も商売がんばりたまえよ。美しいお嬢さん」
「んなっ!?」
 想像もしていなかったチュレンヌの反応に、さしものアニエスやミシェルもずっこける寸前まで行った。
あのオカマが美しいお嬢さん!? どういう美意識をしてればそんな言葉が出てくるんだ? というか、
お前はほんとに人類か? 
216名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 14:01:02 ID:HOCgGOUv
ウルトラ支援
「ではさらばだ。楽しかったよ」
 最後まで場の雰囲気には気がつかないまま、チュレンヌは帰っていった。残された隊員たちは、
別に彼は何もしていないというのに緊張からくる気疲れで、そろってため息をついた。
 でも、パーティは終わりではなく、飲みなおしだとばかりにまだ酔いのまわっていない隊員たちは
さらにボトルをあけていく。酒豪ぞろいの銃士隊のパーティは、女性にたいへん失礼なことながら
酔っぱらい怪獣ベロンと飲み比べができるんじゃないかと思ったくらいだった。
 やがて三人で飲んでいたアニエスたちも酔いのまわった隊員たちに引っ張り出された。
 なにをしんみりしてるんですか! 隊長たちもいっしょに楽しみましょう。
 スカロンが特別に許可してくれて、飲めや踊れと宴会はまだまだ遠慮なく続いた。
 
 
 パーティは夕暮れから深夜にもつれ込んでいき、日付が変わりそうな時刻になってようやく終わった。
 才人は酔いつぶれてしまったルイズを背中に背負い、アニエスたちは学院に帰る二人を馬車駅まで見送った。
「それじゃ、また」
 才人は借り上げたガーゴイル操縦の自動馬車の座席にルイズを横たえると、簡潔にあいさつをした。
「またいつでも来い。銃士隊は男子禁制だが、お前だけは例外だ。というより、準隊員にしてやろうか?」
「サイト、次に会えるのを楽しみにしてるからな……また、姉弟三人でいっしょに飲もう」
 アニエスとミシェルも、にっと笑って手を振ってくれた。才人は、姉弟に見送ってもらえるということに、
なんとなく気恥ずかしさとうれしさを感じた。M78星雲から旅立つウルトラマンも、こんな気持ちなのだろうか。
 馬車の中では、ぐっすり眠ったルイズが、いい夢を見ているのかなにやら寝言を言っている。
「あははは、サイトー、待ってえ。もう、待たないとひどいんだぞぉー」
 夕日の砂浜で追いかけっこでもやっているのだろうか? もしかしたらジェシカが吹き込んだことかも
しれないけれど、幸せなものだ。でも、ルイズも才人に付き合って疲れたのだろう。なんだかんだと
いっても、ルイズもけっこうお人よしなのだ。
 才人がルイズの横の席に座ると、ルイズは無意識にわかるのだろうか才人のひざに頭を乗せてきた。
「サイトー」
 しかもその寝顔が無邪気で可愛いものだから、才人もついつい顔が緩んでしまう。
 そんな二人にミシェルは少し寂しそうな表情を見せたけれど、馬車のドアを閉めるとガラスごしに
才人に手を振った。
「じゃあなサイト、道中気をつけてな」
「はい。姉さんたちも、無理はしないで頑張ってくださいね」
 ひづめと車輪の音を残して、馬車は夜の闇の中へと去っていった。
 アニエスたちは、車輪の音が聞こえなくなるまで見送り、静かになるとアニエスは全員を見渡して告げた。
「ようし、では本日はこれで解散する。明日は完全休暇にするから、おのおの宿舎に帰ってゆっくり
疲れをとるように。では、解散!」
「はっ!」
 夜空に全隊員の声が響き渡り、銃士隊の最大の戦いはようやく幕を下ろしたのだった。
 
 
 街は寝ぼすけな子供もベッドの上で夢を見て、満天の星々の中に双子の月が仲良く輝いている。
 
 
 だが、光あるところに影がある。平和を取り戻した街の暗い闇の中で、今恐怖の計画が始まろうとしていた。
 
「ふっふっふ、ついにきた。この世界にやってきて苦節二ヶ月! ついにこの星が我々のものになるときが
やってきたのだ!」
 
 暗がりの中に高らかに侵略者の声が響き渡る。月明かりだけがわずかに照らすこの室内に、赤いマスクの
ような頭部をした宇宙人が、ハルケギニアを我が物にしようという、恐るべき企みを育てつつあった。
「かつて、この世界にも様々な侵略者が現れたが、すべて失敗した。だがしかし、我々は詰めを誤って
失敗した彼らのようにはいかない。綿密な計算を立てて、誰にも気づかれずに作戦を遂行するのだ」
 自らの計画に絶対の自信を持つ宇宙人は、すぐそばで話を聞いている仲間に力強く宣言した。
なんと宇宙人は三人もいた。それが、いつの間にかトリスタニアに潜入していたのだ。なんと恐ろしいことだろう。
「でも、この星にもウルトラマンがいますよ。昨日見たあいつ、けっこう強そうだったし」
「はっはっはっ! ウルトラマンなど恐れるに足らず、覚えているだろう。あのときのダイナのように
やっつけてくれるわ!」
 ウルトラマンAの存在を危惧する仲間の心配を意に介さずに、リーダーは高らかな笑い声を響き渡らせた。
 ウルトラマンすら恐れないとは、なんとふてぶてしい奴だろう。その自信の根拠はなにか?
 
 だがそこへ、闇を切り裂く雷鳴のごとき声が階下から響き渡った!
 
「うるさーい! 今何時だと思ってるの、早く寝なさーい!」
「うわぁっ! す、すみませんジェシカさん」
 彼らはぽんと手を叩いて人間の姿になると、階段の下を見下ろした。そこには寝巻きを着て、
すごく怒った様子のジェシカがぎろりとこちらを見上げている。
「ドルちゃん、近所迷惑だっていつも言ってるでしょう。いい加減にしないと給料下げてもらうわよ」
「す、すいません。すぐ寝ますんで」
 へこへこ謝った彼らは、なんとかジェシカが許してくれるとほっとして部屋の中に戻った。
 なんとここは魅惑の妖精亭の天井裏の部屋だった。実は、ドル、ウド、カマの三人の正体は、
この世界の侵略をもくろむ凶悪な宇宙人、ミジー星人だったのだ。
 リーダーのドルことミジー・ドルチェンコ。その手下のミジー・カマチェンコとミジー・ウドチェンコ。
 彼らはかつて別の世界で地球侵略を数度にわたってもくろんだものの、そのすべてに失敗して、
ついに何をどう間違ったのか、ハルケギニアに来てしまったのだった。
 でも、人間に変身できる以外はたいした能力を持たない彼らは、食べていくために偶然拾ってくれた
スカロンの下で住み込みでバイトしていたのだった。だが、たとえ異世界に来てしまったとしても、
彼らは凶悪宇宙人である。
「もうミジー星どころか地球に戻ることもできない。しかーし! 我々の進んだ科学力があれば、こんな
未開の星なんぞ、あっという間に征服することができる」
 ドルチェンコは高らかに宣言して、屋根裏部屋を占領している鉄くずの山を見渡した。
 飽くことのない彼の野望は、この世界にあっても侵略用のロボット兵器を作るべく、給料を侵略資金に
金属を買い集めたりして連日実験を繰り返していた。しかし、ハルケギニアで手に入る金属や工具では
たいしたことはできず失敗ばかり。前に才人たちが来たときの爆発もその失敗の一つだった。
 が、今ドルチェンコには秘策があった。
「見よ! とうとう宇宙の神は我々に味方した。このダイヤモンドがあれば、高名な土のメイジに部品の
作成を依頼する資金を得ることができる」
 なんと才人のダイヤが一個、彼らにくすねられていたのだ。そして、ハルケギニア征服のための
ミジー星人の切り札とは!?
「ふっふっふ、今のうちに平和を満喫するがいい人間たちめ。この特殊戦闘用超小型メカニックモンスター・
ぽちガラオンが完成したときこそ、この世界の最後となるのだ!」
 ドルチェンコの手のひらの上には、ピンポン球くらいの大きさの、小さな小さなロボットがちょこんと乗っかっていた。
このちびっこロボットで、いったいドルチェンコはどんな侵略計画を立てようとしているのだろう? 知略宇宙人と
異名をとるミジー星人の頭脳は、人間には図りがたい。
 しかし、意気上がるドルチェンコとは裏腹に、カマチェンコとウドチェンコは後ろを向いてひそひそと話し合っていた。
「そんなお金が手に入るんだったら、あたしは新しいアクセサリーやコスメがほしいわ」
「それより、安くていいから自分たちの家をもちたいって。ここの人たちは親切だけど、いつまでも借家暮らしはなあ」
 どうやらこの二人は今の生活にあんまり不満はないようだ。でも、地球征服がだめならばと野心を
燃やすドルチェンコは、二人の頭をつかむとビビビビっ! と電流を流した。
「あばばばばば!」
「目的を見失った、バカどもめが!」
 悪の宇宙人のリーダーらしく、おもいっきり居丈高にドルチェンコはブスブスと煙を吹く二人を叱り付けた。
 でも、この世には上には上がいる。
「こらーっ! いつまで騒いでるの!! いい加減にしないと外に放り出すよ!」
「はいぃっ!」
 ジェシカに怒鳴られて、ドル、ウド、カマは慌ててせんべい布団に潜り込んだ。
 おのれ見ていろ、今にこの星は我々のものになるのだ! 
 この夜ミジー星人たちは、仕事の疲れとハルケギニア侵略の甘い夢に酔いしれて、ぐっすりと眠った。
 
 
 そして翌日とてとてと、アルバイトをこなしながらハルケギニアを侵略すべく、ミジー星人は街を歩く。
 恐るべき侵略ロボットを完成させるために、まずはダイヤを換金するのだ!
「ねえ店長さんのおつかいさぼって大丈夫なの? 怒られてお給料下げられたら大変よ」
「不良にからまれていたおばあさんを助けていたとでも言っておけばいいさ。ハルケギニア征服のためなら、
おつかいの一つや二つ!」
 お給料日が近いので心配するカマチェンコをよそに、ドルチェンコは栄光の未来を夢見て、肩をいからせる。
これまでコツコツ貯めてきたお金を使って身なりを整え、少しでも高くダイヤを売って、侵略資金を確保するのだ。
 チクトンネ街の裏店では買い叩かれるので、ブルドンネ街の専門店が目的地だ。
 買い物に出ているほかの店員たちや、知り合いに会ったらまずいのでこっそりと、きょろきょろ辺りを
見回しながら、三人は進んだ。でも、そんな努力も虚しく三人に後ろから声がかけられた。
「おや? 君たちは魅惑の妖精亭の店員じゃないかね」
「ひゃあっ!?」
 宇宙人のくせに注意力不足。この世の終わりのように振り向いた彼らの前では、チュレンヌがさらにびっくりしていた。
「ど、どうしたね?」
「チ、チュレンヌさま! ど、どうしてこんな早朝から?」
「い、いや、昼食を終えて役所に帰る途中なのだが……悪かったか」
「いえそんなことは! わ、わたしたち急ぎますので、失礼しマース!」
 大慌てで、ミジー星人の三人組は逃げていった。チュレンヌは呆然としてそれを見守る。
 なにか悪いことをしてしまったか……? 訳を知るはずもないチュレンヌは、しばらく考え込んでいたが、
やがて苦笑すると自分も自分の仕事場に向けて歩き始めた。
「まあいいか……しかし、やはりこの星はいいな。どことなく地球に似ているし、人々は明るくて親切だ。
まぁたこ焼きがないのは残念だけど、もうしばらくいることにしようかな」
 ぽつりと意味ありげなことをつぶやいて、チュレンヌも昼の雑踏の中へと消えていく。
 やがて魅惑の妖精亭の屋根裏からまた爆発音が響き、ジェシカの怒鳴り声がこだまする。
 ミジー星人の野望が成就する日は、まだ遠かった。
 
 
 続く
220ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2010/10/24(日) 14:05:54 ID:lPx4CDxw
以上です。支援したくださったお二方どうもありがとうございました。
 
これでこのミラン三姉弟シリーズは本当に終了となります。
前回までシリアスで通してきたので、明るく書いてみましたが、お楽しみいただけていたら幸いです。
それで、一部からの伏線の一つでありましたミジー星人たちも登場といきました。
いやはや、こんな宇宙人ばかりなら平和なのですがねぇ。ちなみに、どうして彼らがハルケギニアに
来たのかについては、後に説明するつもりですがとりあえず「ミジー星人だから」と、思ってください。
 
では、次回からもどんな怪獣がどんな事件を起こすのか、皆さんといっしょに怪獣冒険ファンタジーを
楽しんでいこうと思います。
221名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 16:16:36 ID:RXAvUfVo
>>220
ウルトラ乙でした
ただのエピローグに見えて色々伏線張ってありそうだが、さてどうなるのかな?
222名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 16:32:31 ID:HOCgGOUv
ウルトラの方乙!
223名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 16:32:41 ID:e7YyWG3q
ウルトラ乙。
224名無しさん@お腹いっぱい:2010/10/24(日) 18:52:41 ID:WW/asC6E
 ウルトラの人、乙でした。

 何か、ミジー星人たちの計画とやら、
盛大に失敗しそうな気がするのは、気のせいかな?
225名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 19:19:40 ID:0tFPj5Ls
代理乙どす。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 19:25:10 ID:bKT+comB
>>224
最後の二行で既に失敗してるみたいだぞ。
227名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/24(日) 21:20:06 ID:Y8GbNWvm
しかしチュレンヌに取り憑いてるのは一体何者なんだ。
どうやらたこ焼き好きらしいって事しか分からんけど。
誰かもう少し詳しくググるためのヒントを・・・。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 05:33:58 ID:H7pNqv56
>>227
もしかするとダイナに登場した宇宙人かもしれない。
ネタバレに配慮して全部は言わんが、出てきたのは「ン」で始まるタイトルの話だったかと。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 09:19:19 ID:yesccb5K
ンジャメナという国があってだな
230名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 10:16:33 ID:ubcNUJX3
ペガッサ市を召喚
231名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 10:18:10 ID:etUykQRX
めがっさ女を召喚
232名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 12:02:59 ID:ZXGCR1kO
>229
あ、賀東先生の故郷だっけ?
233名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 13:42:06 ID:8Oi0Tdwb
>>231
ルイズさんルイズさん、スモークチーズはあるかい?
234名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 15:09:12 ID:u8FDPxqz
たこ焼きか、ウルトラQのスダールを見て、たこ焼き何人前できるかなと考えたのはおれだけじゃあるまい
235名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 16:17:55 ID:WmrxgG7U
木枯らし紋次郎を召喚
236名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 17:09:34 ID:0Kd/lS9Y
寝起きのルイズを「おい、そこに座れ」と座らせるジャギ様(AC北斗の拳仕様)とか思いついた。

そして「何だこの髪は!!ボサボサじゃねぇか!!」と、ブラシを片手に悪魔が微笑む時代の動きで髪を梳かすみたいな。
237名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 17:36:07 ID:QKlZzz43
ギャグ作品だがべジータを召喚した。
ルイズにしぶしぶ従う。
キュルケの誘惑にうろたえる。
ギーシュとの決闘で、ビッグバンアタックでギーシュを吹き飛ばす。
(驚くことにギーシュは生きていた!)
238名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 17:55:34 ID:u8FDPxqz
DBからなら18号を召喚したなら。
「金貨400枚で使い魔になってやる」
「金貨1000枚で手紙をとってきてやるよ」
「レコン・キスタ? はっ、金貨一万枚とひきかえにぶっ飛ばしてきてやってもいいよ」
239名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 17:58:10 ID:6lIwN/xj
>>236
悪魔が微笑む時代の動きにくそ吹いたwwww
240名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 18:05:02 ID:k7Fdql1D
DBだと戦闘力が違い過ぎてほのぼの路線になりそうだな
241名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 18:06:58 ID:60D3yxrf
>>236
ちょっとルーンの効果が過剰気味だなw
242名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 18:34:26 ID:Ir5ILPQa
まあ極悪ノ華を見る限りジャギさんは根っからの外道って訳でもないしな
あれはどう考えてもリュウケンが悪い
243名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 19:02:57 ID:U4O7X8S1
ジャギでなんとなく思い出したのがストリートファイターのダンだった
才能はあるが復讐心があることを見破られて破門された
ことごとくネタキャラ化してるが
244名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 19:04:46 ID:8kXL5iv+
>>240
バトルよりも人間ドラマが面白いよ。
「そんなことねえよ。落ちこぼれだって努力すればエリートに勝てるさ!」
245名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 19:45:00 ID:k7Fdql1D
>>244
そして肩を叩かれ吹っ飛んでいくルイズ
246名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 20:03:05 ID:aQlNacff
ヤムチャだって努力すれば悟空に勝てるさ!

あれ?
247名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 20:34:57 ID:pMTUdmBg
努力って言ってもDBの努力は死んでおかしくないどころか
死んだ後もぶっ続けで修行し続けて強くなるという代物だからな
悟空みたいに強い奴と楽しい戦いさえ出来ればあの世でも別にいいというぶっ壊れた性格じゃないと無理
248名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:05:03 ID:U4O7X8S1
野菜人は殆ど戦闘狂だからな
他に楽しみは無いのかっていうぐらい修行と戦闘しかしてないし
249名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:13:29 ID:k7Fdql1D
ちょろちょろ子づくりに励んでるだろ
250名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:34:30 ID:txtpdUu+
悟空は2人で、王子は1人だからな
つーか、修行と戦闘に性交が加わっても微妙というか更にアレな感じがw
251名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:37:21 ID:Pa3hKLDs
王子にも娘がも1人いる件
252名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:37:45 ID:mXyYqAuB
王子もトランクスの妹を作ってたぜ。

ひょっとしたらGTよりも前に。
253名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:44:50 ID:txtpdUu+
ブラだっけ、すっかり忘れてたw
254名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:55:39 ID:ubcNUJX3
才人も修業すればクリリンくらいにはなれるかな?
255名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 21:57:08 ID:pMTUdmBg
クリリンはあれで地球人最強クラスだぞw
256名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:04:31 ID:GHiZhi2r
クリリン、亀仙人のところに来た時点で相当の身体能力だったからな
257名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:07:54 ID:zpYsUqT8
>>256
虎を肘打ち一発で倒してたな確か。
258名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:10:05 ID:ubcNUJX3
じゃあミスターサタンくらいなら行けるかな? そういえばかめはめ波は修業すれば誰でも撃てるんだっけか?
259名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:12:18 ID:GHiZhi2r
サタンはあれで格闘技ぶっちぎりの世界チャンピオンなわけで
260名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:13:39 ID:yesccb5K
才人もそのうちヤムチャみたいになるぞ
261名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:18:32 ID:U4O7X8S1
サタンとか10mは軽く飛べるような奴とか岩を砕けるような奴を抑えて普通に世界チャンプだったわけで
出てきた当時のクリリンが実は馬鹿にされてるようなレベルだった頃よりも確実に強いだろうと思われるわけで

サタンもマシンガン持ってる一般人相手なら普通に倒せるレベルなんだよな…
262名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:47:34 ID:jL8GQEqH
サタンは気を使わない純人間の中でなら間違いなく最強だよな
ちょっとビビリな面はあるけど大事なところではキッチリ決めてくれそうだし
263名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:48:46 ID:ubcNUJX3
ハルケと相性がいい奴なら桃白白かな。北花壇騎士として大活躍するかも。
264名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:50:01 ID:6394Md65
しかしサタンがチャパ王とかナムとかよりつえーようには見えんぞ…
単にサタンが優勝した時の武闘会にはナムとかチャパ王とか出てなかっただけなのでは…
ナムはもう出場する理由ない(アニメでは出てたけど天さんに負けてたな…)しチャパさんは予選敗退で自信無くして引退とか
265名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:52:54 ID:6394Md65
とゆーか亀仙人に修行してもらう前のゴクウの時点で既にレンガ数枚を指一本で粉砕している件
266名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:55:27 ID:U4O7X8S1
>>264
アニメ限定だったか忘れたが10mぐらい飛べる男(イケメン)とマッチョがサタンの弟子として出てきてたんだぜ?
星一つとは言え全世界で信頼を集めるほど人望がある男には見えなくても実際はそうなんだから恐ろしい
267名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 22:57:36 ID:ukinxvks
北斗羅漢撃のモーションで走りながら、乾してある洗濯物を回収のもアリな気がしてきた。
あとゼロ戦の給油は214+Dの「ニゲラレンゾー」でバッチリだな。
268名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:00:38 ID:6394Md65
ビーデルは何時の間にかサタンよりずっと強くなっていたが、
サタンが修行とかをサボってゴロゴロしてるせいかそれに気付いてなくて、
御飯くんも強いけどパパには劣るかなーなどとヌケサクなことをいっていたぞ
つまり…
サタンの弟子2人も実は既にサタンより強くなっているが気付いてないだけなんだよ!

まーそいつは冗談半分?として
10mくらいジャンプできる奴よりはサタンでも強いかもね
ナムさんなんか雲より高くジャンプしてるし
269名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:05:44 ID:GHiZhi2r
セルやトランクスの攻撃で死なず、ブウの攻撃を避けるんだぜサタン
ナムやチャパ王だったら死んでただろう
270名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:10:14 ID:6394Md65
セルやトランクスの攻撃ではピッコロ大魔王やラディッツでも死ぬと思うが
勿論部ブウの本気攻撃を避けるのもその2人にゃ無理だね
だからといってサタンはラディッツより強いと結論していいのか?

ぶっちゃけていえば
ナムやチャパ王やピッコロ大魔王やラディッツとサタンの違いは強いの弱いのではなく
ギャグキャラだということだろ
ギャグキャラは不死身なのだ
パタリロやスーパースターマンみたいなもんだ
271名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:12:26 ID:m0MIeQGn
つかDBスレじゃねーべよw
272名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:12:29 ID:ubcNUJX3
サタンはむしろペンギン村の住人がふさわしいかもな
273名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:21:51 ID:xafG3XKm
携帯なので対応できないんだが代理に依頼がある
274名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:24:10 ID:txtpdUu+
>>272
スゲー馴染みそうだけど、スッパマンと被るなw
275名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/25(月) 23:59:27 ID:YeTilDhw
避難所の奴を代理投下します。
0:05くらいから開始します
276名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 00:01:30 ID:kVFou6RL
しえn
277ゼロの怪盗 第4話:2010/10/26(火) 00:09:28 ID:9sOoB+It
ルイズは憤慨する。
召喚に成功した!と思ったら、平民の男だった。
決死の思いで契約を交わしたら、すぐに使い魔が去って行った。
去って行った使い魔を追いかけたら、今度は使い魔に攻撃された。
そして使い魔は再びルイズの元から去って行った。
絶望の中、自室へ戻るとその使い魔が今目の前にいる。


人をおちょくってるのか?


嬉しさよりも何よりも怒りが込み上げてくる。
ルイズはどちらかと言えば気は短い方だが、
同じことをされたら、例えルイズでなくても強い怒りを覚えるだろう。
なのに、目の前の使い魔ときたら、反省するどころか笑ってくつろいでいるのだ。
ルイズは胸元から杖を取りだそうとして、ハッと思い止まる。
先程は自分に背を向けた状態なのに、こちらが杖を振ろうとした瞬間に攻撃された。
それもこちらを見ずに、である。
およそまともな戦闘を行ったことのない彼女でも、目の前の使い魔がただ者ではないことは察せられた。
こちらが何か攻撃またはそれに準じる動きを仕掛ければ、先程の様な反撃を受けるかも知れない。
いや、確実に受けるだろう。
その時、向こうが先程の様に外してくれる保証はないのだ。

ルイズは乾いた笑いを浮かべそうになる。
自分は自分の使い魔相手にささやかな信頼関係すら築けていないのだ。

「何で…戻って来たのよ?」

ルイズは平静を装って、それだけ言うのが精一杯であった。

「勘違いしてもらっちゃ困るなあ。全てはお宝の為さ」

しかし、そんなルイズの想いを汲み取る素振りもなく、目の前の使い魔はあっけらかんと言ってのけた。
278ゼロの怪盗 第4話:2010/10/26(火) 00:11:57 ID:9sOoB+It
前半のセリフはどちらかと言えば自分が言うセリフだろ!
と更に憤慨しそうになってルイズは地団駄を踏む。

(ハァ、ハァ……、れ、冷静になるのよルイズ!相手のペースに乗せられてはダメ!)

ルイズは近くにあった水差しから水を汲むと、すぐにカラカラの喉を潤した。
心なしか、落ち着いてきたような気がする。
フーッと一息つくと、ルイズは再び目の前の使い魔と目を合わす。

「アンタ……」

流石に今、相手を犬扱いする程空気の読めなくはないルイズである。
だが、いざ改めて何か聞こうとしても、パッと思い付く程、冷静沈着でもなかった。
その時、ルイズは目の前の使い魔の名前すら知らないことに思い当たった。

「アンタの名前……、そう名前!アンタの名前を教えなさいよ!」

「そんなこと聞いてどうするんだい?」

「う、うるさい!いいから答えなさいよ!」

「……海東大樹」

やや間を開けてから面倒臭そうに答える。

「カイトーダイキ?ここらじゃ珍しい名前ね。そうそう、私はル……」

「興味ないね」

ルイズが名乗ろうとして、すぐに海東はそれを遮った。
あまりなタイミングにルイズは再び怒りのボルテージが上がるが、
僅かに残った理性で何とかそれを抑え込む。

「……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」

「フーン。で、この印についてなんだけど……」

ルイズの名乗りを聞いているのか聞いていないのか、そう言って海東は右手の甲をルイズへ向けた。

「何か知らないかい?」

ルイズは太腿の辺りを抓って、今にもキレてしまいそうな自分をこらえつつ

(いずれ私から説明することだしね。べ、別にあいつに聞かれたから答えるんじゃないんだから!)

と自分に言い聞かせてから海東の質問に答えた。

「……それは使い魔の印よ。使い魔ってのは主人の目や耳の代わりになって……」

「僕が聞きたいのはそういうことじゃない」

またもルイズの言葉が遮られる。
279ゼロの怪盗 第4話:2010/10/26(火) 00:17:08 ID:9sOoB+It
ルイズは怒りのあまり絶句するが、海東は我関せずと言った感じで続けた。

「これが僕にどう影響を与えるのか、それを教えたまえ」

「たまえ……って。ま、まあいいわ。それがあると主人に対しての忠誠心が生まれる……筈なんだけど」

目の前の使い魔が自分に対して忠誠心を持っている様にはとても見えない。

「……洗濯とかしてくれる?」

「嫌だね」

「……やっぱり」

ルイズはハーッとため息をついた。そんなルイズを見て海東は不思議そうな顔をする。

「何をそんなにイラついてるんだい?」

「……………………」

「いけないなあ、君はカルシウム足りてないんじゃない?」

「……………………」

ややあってから、遂にルイズの堪忍袋の尾が切れた。

「あ、あ、アンタねえ!へ、平民のくせして何よその態度!?自分の立場分かってんの!?
 大体、アンタが腰掛けてるベッドはあたしのよ!?本来なら平民であるアンタなんかが触れていいものじゃないわ!!」

「へー、そうなんだー」

海東は何の感情も込めずにそう言うと、ベッドの上へ寝転んだ。
これには流石のルイズもキレてしまった。
ルイズは胸元から杖を取り出して海東へと向ける。

「ファイアボール!!」

呪文を唱えると、轟音とともに目の前が爆発した。
本来ならばこの魔法はそういう魔法では無いのだが、ルイズが使うといつもこうなる。
他の魔法でも同様である。
ベッドは見るも無残な姿となり、部屋中に上質な羽根がはらはらと舞う。

「凄いねー」

ハァハァと肩で息をするルイズの背後から声がした。
280ゼロの怪盗 第4話:2010/10/26(火) 00:21:03 ID:9sOoB+It
振り返ると、海東が壁にもたれ掛かりながらパチパチとまばらな拍手をしている。

「ハァ、ハァ……。い、いつの間に?」

爆発の寸前までベッドの上にふんぞり返っていたのに、

「ちょ、ちょっとルイズ!一体何事よ!?」

勢い良く扉が開くと、露出度の高いネグリジェを纏った豊満な肢体の少女が現れた。
彼女の名はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。
ルイズの隣人であり、また彼女にとって因縁浅からぬ相手である。

「ハァ、ハァ、あ、アンタには関係ないでしょ!ハァ、ハァ……えぐっ!」

息も絶え絶えにルイズはキュルケに対しても強い不快感を露わにする。
目には涙を浮かべ、吐く息に軽い嗚咽が混じる。
キュルケはルイズに会う度に挨拶代わりに皮肉や軽口を叩いていたが、
この時ばかりはルイズのあまりに無残な形相にそれも忘れていた。

唖然としていると、キュルケの肩に何かがぶつかる。

「キャッ!」

「おっと、失礼」

キュルケは声のする方を振り向いた。
すると、そこには襟足の長い黒髪のイケメンが立っている。

(あら、なかなかいい男じゃない)

どうやら海東はキュルケのお眼鏡にかなったらしい。
281ゼロの怪盗 第4話:2010/10/26(火) 00:21:57 ID:9sOoB+It
だが、そんな彼女には見向きもせず、海東は部屋の中で恨めしそうに自分を見つめるルイズに向けて、お馴染みの指鉄砲のポーズを取った。

「君じゃ僕の欲しい情報は得られない。だから別の人に聞くよ。じゃあね、大豆」

「だ、誰が……」

ルイズの目がカッと見開く。

「誰がタンパク質豊富な畑の肉じゃあああああ!」

ルイズの怒号は去っていく海東の耳には届くことはなかった。





学院の外へと出た海東は内心がっかりしていた。
得られた情報があまりに少ない。
そして恐らく、いや確実にあの少女はあれ以上の情報を知らない。

(振り出し……か)

海東はふと夜空を見上げる。
空には綺麗な月が浮かんでいた。
それも2つ。
だが、それに対して海東は特に感想も抱かなかった。
とは言え、いつも訪れるような世界とはあまりに違うこの世界には流石の海東もわずかな戸惑いがあるのも事実であった。
海東は考える。
そして、一つの答えを導き出す。

(……僕としたことが、慣れない世界で少し消極的になっていたみたいだね)

海東は月明かりの下、薄く笑う。

(欲しい情報が得られないなら……、奪えばいい!)

海東は踵を返すと、来た道を戻って再び学院内へと足を踏み入れた。
282名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 00:24:41 ID:9sOoB+It
投下完了です

作者の人、次は改行を考えてくれ…疲れた
283名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 00:49:21 ID:R7qy/bxA
サタンの丈夫さはビーデルにも受け継がれてるよね
ブロリーのラリアットモロに喰らって耐え切ったし
284名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 01:10:56 ID:qtW+0CRz
ビーデル?
スポポビッチとかいうザコにボコられて死にそうになってたけど…
285名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 01:20:22 ID:qtW+0CRz
スプリンガルドのバネ足ジャックを召喚…してほしいな
でも小ネタが関の山かなあ
286名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 01:29:34 ID:Al/Z3VES
才人とルイズがフュージョンしたらサイズ? それともサイエール?
287名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 01:30:30 ID:8KZp8214
性別がまず問題だ。俺的には両方がいいけど
288名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 02:22:53 ID:B+wHyPa/
遅ればせながら、ウルトラの人乙。

今回もまた面白かったです。
あ、とりあえず今回のチュレンヌ見てこれだけ言いますね。ねばるっしょ!

…できればあいつにはミラクル星人の様に生きていてほしい。
289名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 02:34:21 ID:DdsXp15r
>>286
平賀才人とルイズ以下略で平井
290名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 02:44:08 ID:BuwaqAED
>>262
でも作者が言うにはボブサップより弱いらしいぜ
291名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 02:52:28 ID:BQqiiHR7
>>290
俺の漫画のキャラボブサップよりつえーしとか言う訳ないだろ
292名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 03:16:19 ID:DdsXp15r
神コロ様のところにでも居そうだな
293名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 04:07:00 ID:TUoqmFmY
>>286
それなんてユベルor阿修羅男爵?
294名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 08:58:28 ID:RUswasB/
ナイとライダーとのコラボは渋い作品だ。
戦闘能力もそうだけど、ルイズが変わっていくとこがよかった。
少佐になるところで終了していたけれど続きが楽しみだ。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 09:22:15 ID:HlrGFHaB
>>ナイとライダー
一瞬、デモンペインとfateのダブル召還かと思ったじゃねえかw
296名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 10:26:20 ID:WmqsrC9q
ロバーとデニーロみたいなもんか……
297名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 11:35:03 ID:u4ePu99/
千とジョージ
298名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 12:28:48 ID:RZtgceyB
千政夫と山本譲二かw
299名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 14:01:20 ID:2dePKdfI
>297
“道化の真実”千城寺薫か。
300名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 14:57:59 ID:C9mMGUBE
>>293
いっそ前半分が才人で後ろ半分がルイズ。それで才人がダメージを受けたら回れ右してルイズが戦う。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 15:31:25 ID:ZJjhva2B
アシュラマンの家庭教師だったサムソン・ティーチャーみたいになるとか?
302名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 15:39:26 ID:7yofHvKr
むしろジャンクマンみたいな
303名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 16:09:26 ID:ElNinPZd
>>300
それなんてリボーンズガンダム?
304名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 16:33:58 ID:A7JdNFve
第9地区見た。ハルケギニアに難民宇宙人(超科学力で見た目がエビ、船員は瀕死)が来たらやっぱ黒人奴隷みたいになっちまうのだろうか

バルタン星人だとハルケギニアは広そうだからアイツらなら勝手に暮らしてしまいそうだし
305名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 16:36:09 ID:RntXdziP
>>300
さっすが! 正義の使者ね?
306名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 18:15:23 ID:Al/Z3VES
バカンス中のクズ子さんを召喚
307名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 19:34:01 ID:u5dRg6kU
ここは2chだ、理想郷作品の3次創作がしたいならチラシの裏にでも書いてろ
308名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 20:35:01 ID:u7LT+EAm
しかしアレだね
何を持ってくるとしても、召喚したのと同じ世界観から敵を持ってこないと
バランスがとりにくいな
仮面ライダー系や、ウルトラマン系などが特にそうかな?
しかし、そうすると今度は何でゼロ魔の世界でやるのだ?
と言う疑問がつきまとう
剣と魔法の世界でも、チートキャラ多いけれどなw
309名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 21:05:41 ID:u4ePu99/
ライダー:ゴルゴムの仕業、大首領が事業拡大でハルケギニアへ進出
ウルトラ:宇宙人がハルケギニアを狙った、昔から怪獣が居た

これじゃダメなの?
310機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:08:44 ID:Nh+h1C1h
こんばんは、各作品の作者様方、乙です。

内容がどうにも気に入らなくて、12話全削除して書き直しやら、
VANQUISHにちょっと夢中になってしまったりやらありましたが、
12話がようやく8割程度完成しましたので、前回までの続きを投下します。
予約等なければ、21時20分頃の投下を予定しています。
311名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 21:12:51 ID:A7JdNFve
>>308
イチロー召喚みたいなハチャメチャギャグもあったなあ
ここのまとめじゃ変態仮面のギャグテンポと召喚側キャラの生きた描写が好きだった

実際ゼロ魔キャラの個性を生かしすぎると“理想的な三次創作キャラを作っているだけだろ”みたいに言われてしまうけど
召喚側キャラを生かしすぎれば“何故ゼロ魔で〜”となってしまって難しいんだよな

結局、>>1のテンプレに則った上で面白いと感じる人がいればそれでよかろうなのだ
312名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 21:14:20 ID:A7JdNFve
おお、投下応援します
313機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:21:23 ID:Nh+h1C1h
機械仕掛けの使い魔 第6話
 
 
 翌日。目を覚ましたクロは、ベッドを見やった。ルイズ、キュルケ、タバサ、シエスタが眠っているのだが、ダブルサイズのベッドに4人も横になっている為、
手や足が互いに乗っかり合い、さながら壁や地面に張り付くツタのような様相を呈していた。と言うか、この状況でよく誰1人落ちないものだ。妙に感心するクロであった。
 
 太陽の昇り具合でおおよその時間を把握したクロは、一般的な学生の1日のスケジュールと照らし合わせてみた。
始業時間から逆算すると、そろそろ朝食を摂らないと間に合わない計算になる。
「どうすっかねー…、なぁ、フレイムちゃんよ」「きゅるっ?」
試しに、フレイムに聞いてみるクロ。だが当然のように、返事はない。そもそも、言葉が通じているかどうかすら怪しい。
 ここで、2通りのパターンをシミュレートしてみよう。
 
1:ルイズたちを起こした場合
 ギリギリで始業時間に間に合い、つつがない1日が経過する。何ら問題なく、クロにとってもデメリットらしいデメリットはない。
2:無視を決め込んだ場合
 自力で起床した時間によっては、朝食を摂れないどころか、授業にすら遅刻する可能性が高い。となれば、使い魔たる自身に、何かしらの危険が及ぶ事もあり得る。
 
「しゃーねーな…。おいコラ、起きろオメーら!」
 面倒はゴメンだと、クロはルイズたちを起こしにかかった。しかしベッド脇に移動して声を荒らげても、誰一人起きようとしない。
何やら幸せそうな顔で、惰眠を貪っている。
「遅刻すっぞ! さっさと起きやがれ!」
さらに声を大きくする。しかし、誰も目を覚まさない。むしろ、寝言が返ってきた。
「いい加減に…」
 クロの頭に、青筋が浮かび上がった。歯を結び、ギリギリと音を立てながら、足を高く振り上げる。そして――
「起きろっつの!!」
踵を、マットレスに叩き込んだ。かなり手加減した一撃だったが、その衝撃で4人は、そのままの姿勢で、また1メイルほど浮き上がった。
 着地と同時に、慌てて起き上がり、辺りを見渡す4人。そんな彼女たちに、クロは怒りを隠さない表情で詰め寄り、窓の外を指さした。
「今、何時だオイ? 起こしてやってんだから、一発で起きやがれッ!」
「だからって、今のは何よッ!? もっと優しく起こしなさいバカ猫!」
「それで起きなかったのはどこのどいつらだ、あン!?」
 クロは何1つ嘘をついていない。1度目と2度目のトライでは、彼には珍しく一切手を出していないのだ。
2度目までに起きなかったルイズたちに非があると言ってもいいだろう。
314名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 21:23:38 ID:J8GS+YUi
支援
315機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:24:11 ID:Nh+h1C1h
 
「とにかく! オメーら、これからやる事あんじゃねーのか?」
「やる事…あっ!」
 ここに至り、ようやくルイズたちは理解した。ルイズ、キュルケ、タバサはこれから学生としての1日が、シエスタはメイドとしての1日が始まるのだ。
と言うか、シエスタはもはや遅刻確定である。
「朝ごはん朝ごはん! 早く行かないと午前の授業が始まっちゃう!」
「その前に制服よ制服! シワだらけじゃないの!」
「朝ごはん、大事…」
「アイナにまたイタズラされちゃいます…」
 にわかに、蜂の巣をつついたような騒ぎとなったルイズ私室。呆れた目で見つめるクロであったが、
その騒々しさに辟易し、誰にも気づかれる事なく、部屋を出ていったのだった。
 
    +     +     +     +     +     +     
 
 部屋を出たクロは、そのまま寮塔を後にし、中庭へ足を踏み入れた。中庭には昨日も来ていたのだが、
その時は洗濯の出来る水場を探しており、しかも割と速攻で見つけたので、ほとんど見て回ることが出来なかったのだ。
「どっか、日当たりのいい場所はないかねー、っと」
 目下、目的はただ一つ。フジ井家の縁側に匹敵する昼寝スポットの探索である。日当たりのいいフジ井家の縁側は、クロのお気に入りの場所だった。
今後、いつ帰れるか解らないこの世界で、昼寝に最適な場所を探すのは、彼にとっては当然といえば当然である。
 
 反時計回りに、中庭を歩いてみる。前述のように、トリステイン魔法学院の中庭は広い。
その中央にそびえ立つ本塔を見上げながら、クロはその広さに舌を巻いていた。
「おいおい、学校ってレベルの広さじゃねーだろ、コレは…」
敷地の広さで言えば、大学と遜色ないように感じられる。もっとも、クロは大学など入った事がない為、あくまでもテレビドラマやCMで得た程度の知識ではあったが。
「ファンタジーだねー…いやはや」
何やら妙に感心しているクロだった。
 
 2つ目の塔を過ぎた辺り。そこで、クロの身体に異変が起こった。
  プスンっ キュルルルルルル…
 クロの身体から、妙に軽い音が鳴った。徐々に小さくなっていくその音と共に、力なくその場に倒れるクロ。
(しまった…燃料切れか…!)
内心で、クロは大きく舌打ちした。召喚される直前、朝食から例の爆発までは数時間が経過していた。
しかもこちらの世界に喚び出されてから、口にしたものといえば紅茶だけ。
 サイボーグと言っても、クロのエネルギー源として最も効率が良い物は、ジェット燃料やガソリンなど、大型の機械を動作させる為の燃料類だ。
他にも剛の改良によって、通常の食物でも、効率は落ちるが、それなりに量を摂れば十分なエネルギーを確保できるようになっている。
他作品のサイボーグのように、核エンジンや永久機関など、都合の良い代物は搭載されていないのだった。
 クロはほぼ24時間、ろくにエネルギーの補給を行っていなかったのだ。ガス欠になるのも無理はない。
 
 残り僅かな燃料を消費しながら、必死に本塔を目指すクロ。倒れた位置からでも、本塔からは生徒や教師たちの喧騒が聞こえる。
あそこまで行けば、燃料は絶望的でも、何かしらの食物はもらえるかもしれない。震える身体で匍匐前進しながら、クロはほんの少しの希望に賭けた。
316機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:26:21 ID:Nh+h1C1h
 
    +     +     +     +     +     +
 
 場所は変わって、ここは風の塔と水の塔の中間に位置する使用人宿舎。2階の自室で、シエスタはアイナからのセクハラを受けていた。
「ちょっと、アイナ! やめてってば…んっ!」
「なーに言ってるのよサボり魔っ! 昨日も今日も仕事ほっぽらかして、どこ行ってたの?」
後ろからアイナが、シエスタの乳房を揉みしだいていた。女性同士だから許される行為ではあるが、どことなく背徳的な雰囲気も見え隠れする。
と言うか、なぜアイナは敵意を剥き出しにしているのか。それほど大きな胸が憎いのか。
「だからっ、昨日はミス・ヴァリエールのお部屋で…!」
「ミス・ヴァリエールの部屋で何してたの? 昨日の黒猫がらみ?」
詰問する間にも、指を休めないアイナ。むしろ、さっきより揉む力が強くなっているように見える。
それほど妬ましいのか、巨乳が。
 
「それは…って、あれは…」
 アイナの手から逃げ出そうと身を捩っていたシエスタは、ふと窓の外の一点に視線が釘付けになった。
慌てて全力でアイナの拘束から逃れ、窓に張り付く。ただならぬ様子に、アイナも倣って窓の外を見やった。
「…クロちゃん!?」「クロちゃん?」
 火の塔、風の塔、本塔に囲まれたヴェストリの広場。シエスタは目を凝らし、風の塔付近でもぞもぞと動くクロを見つけた。
昨日までの、軽々とダブルベッドを持ち上げていた時とは、遠目で見ても明らかに様子が違う。
 
「ッ!!」
 クロの様子を認識したシエスタの行動は早かった。矢のように部屋を、使用人宿舎を飛び出し、脇目もふらずにクロのもとに走り寄り、その身体を抱き上げた。
手足はダランと垂れ下がり、耳も寝てしまっている。
「クロちゃんっ、どうしたんですか!?」
ほとんど閉じかけているクロの目を覗き込み、シエスタは大声で呼びかけた。
「ね、燃料が…切れ、た…」
「ねんりょう…ですか?」
 燃料と言われても、シエスタには何のことか解らなかった。それに、切れた、という表現にも首を傾げる。
 恐らく、機械仕掛けの身体という点に関係しているのだろうが、何せ未だかつて、機械仕掛けの猫など、見たことも聞いたこともないシエスタだ。
クロの身体に何が起きているのか、想像もつかない。
「何か…食い物…食わせてくれ…」
「食べ物ですね? 解りました!」
「あと…油があるなら、一緒に頼む…」
「料理用の油ならいくらでもあります、とにかく、厨房へ!」
クロを抱え、シエスタは全速力で厨房へ向かった。

 余談だが、それから十数秒経って現場へ到着したアイナは、またも置いてけぼりを食らったのだった。
317機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:30:58 ID:Nh+h1C1h
 
    +     +     +     +     +     +
 
 厨房へ飛び込んだシエスタは、突然の登場に驚くコック長たちを尻目に、手近な椅子にクロを座らせると、大急ぎで余った賄い料理をかき集めた。
そして、適当な皿にそれらを盛り付け、ボトルからコップに注いだ料理用油と共に、机の上に並べた。
ざっと数えても10枚以上ある皿の上に、こんもりと料理が盛られている。
コック長たちは、シエスタの奇怪な行動に、ただただ呆然とするばかりだった。
「お、おいシエスタ、どうしたってんだ…?」
「さぁクロちゃん、どんどん食べて下さい!」
 想像してみて欲しい。
突然、自分の目の前に並べられる満漢全席一式を。本来ならば何日もかけて堪能する料理を、今すぐ完食しろと言わんばかりに並べられる光景を。
常人ならば、まずその時点で食欲を失うだろう。
 だが、クロは違った。戦闘サイボーグとして生まれ変わったクロは、その桁外れのパワーを維持する為に、膨大なエネルギーを必要とする。
剛によって食物でもエネルギーを摂取できるよう改良を施されたが、エネルギー源としてはジェット燃料などに劣る、
その為、食物に頼る場合は、人間よりも遥かに大量に、カロリー価の高い物を食べなければならない。
 今のクロには知る由もないが、目の前に並べられた料理は、生徒たちの朝食を作る際に出た、余り物の食材を調理した物である。
高価な部位のみを切り取られた食材で作られた賄い料理は、その条件を完全に満たしていた。加えて、コップに注がれた料理用油。完璧である。
クロは律儀に手を合わせると、あっという間に全ての料理を平らげてしまった。
 
「助かったぜ、シエスタ。あと少しで動けなくなるとこだったぜ」
 出された食事を残さず頂いたクロは、かれこれ5杯目になる料理用油を傾けていた。
その周りでコックたちは、平気な顔をして料理用油を飲み、しかも喋るクロに、ひたすら唖然としていた。
「し、シエスタ…? この黒猫ちゃんは何なの…?」
食事の途中で追いついたアイナが、プルプルと震えながらクロを指さす。コックたちも、息を呑んでシエスタの答えを待った。
「この子はミス・ヴァリエールの使い魔さん、クロちゃんです。見た目はどこにでもいそうな黒猫さんですけど、喋ったり出来るんですよ」
まるで自分の事のように、自慢げに話すシエスタ。当のクロは、相変わらずちびちびと料理用油をあおっている。
どうやら、これ以上の身の上話は面倒なようだ。昨日の夕方と夜、2回も同じような事を話している為、無理もないが。
 
「ごっそさん!」
 コップを空にしたクロは、勢い良く椅子から飛び降りた。力強く床を踏みしめ、耳もピンと張り詰めている。
「お粗末様でした。またお腹が減ったら、いつでも来て下さいね」
「おぅ、そん時は厄介になるぜ」
 強気な笑顔で手を振り、厨房を後にしようとするクロ。その背中に、コックの1人が声をかけた。
「なぁクロちゃんよ、おめぇのご主人…ミス・ヴァリエールだっけか。その嬢ちゃんは、飯も用意してくれねぇのか?」
コックたちの中でも、一際体格がよく、立派な髭をたくわえた男だ。どこか不満げな顔をしている。
「貴族ってのはやっぱりひでぇ連中だぜ。自分の使い魔にも飯食わせてやらねぇなんてよ」
「あ、あの、マルトーさん。今回はそういうワケでは…」
シエスタが控えめに意見しようとしたが、クロが遮った。
「今回はちょいとワケありなんだよ。別にルイズのヤツが悪いわけじゃねー」
苦笑しながら、ルイズのフォローを入れるクロ。そんなクロに、マルトーは豪快な笑顔を見せた。
「ガハハ、おめぇも悪いヤツじゃねぇみたいだな! 昨日の今日だってのに、貴族様を庇えるなんてよぉ!」
「そんなんじゃねーよ。オイラにも原因はあるみてーだからな…」
「アレはショックでしたもの…」
昨日の一件を思い出したのか、シエスタの顔がやや青ざめた。
その場に立ちあっていないマルトーは、そんなシエスタを不思議に思いながらも、クロに親指を立てて見せた。
「まぁいい。とにかくクロちゃん。シエスタの言った通り、腹が減った時はいつでもここに来な。飯なんていくらでも食わせてやるよ!」
「おぅ、ありがとな、おっちゃん」
クロも親指を立て返し、そのまま厨房を出て行った。
 
318機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:32:34 ID:Nh+h1C1h
 
「さて、シエスタぁ…?」
「へ? あ、アイナ…?」
 背後に立つアイナの気配を感じたシエスタは、背中を汗が伝う感触を味わった。
そしてアイナだけではなく、マルトーを含めた厨房スタッフ全員から質問攻めに遭うのだが、それはまた別のお話。
 
    +     +     +     +     +     +
 
  ドカァァァァァンッ
「んぁ?」
 当てもなく本塔内を散策していたクロは、突如鳴り響いた爆音と、ちょっとした地震とも思える振動に足を止めた。
手近な窓から顔を出し、周囲の様子を探ってみると、学院東側に位置する塔『風の塔』の窓から、黒煙が勢い良く噴き出しているのが見えた。
「コイツは…もしかして?」
ニヤリ、とクロは笑い、階段を探して駆け出した。爆発=ただ事ではない何か。昨日は退屈な毎日が続くかと軽く絶望していたが、早速現れた火種に、彼は邪悪な笑顔を隠せなかった。
 
「コイツはまた…ひっでーな…」
 爆音と振動の元は、石造りの教室だった。到着したクロが見たのは、机の影に隠れて暴言を飛ばしている生徒たちと、大騒ぎしている化け物の群れ。
元々は壮観な教室だったのだろうが、その面影はない。あたり一面が黒く煤け、床や机の上には瓦礫が散らばり、最奥の教壇は見るも無残に吹き飛んでいる。
 そしてその教壇では、ボロボロの制服を着ている生徒――ルイズが、杖を振った姿勢のまま立ち尽くし、黒板の下では、ふくよかな体型の中年の女性が、これまたボロボロの状態で倒れていた。
「何があったんだよ、ルイズ?」
「………」
 主の足元まで歩み寄り、この惨状の経緯を尋ねたクロだったが、返ってきたのは沈黙であった。
 
 誰もいなくなった教室。ルイズとクロは、その惨憺たる有様の教室の掃除を、黙々と進めていた。ルイズは箒で瓦礫を集め、クロは雑巾で煤けた壁や机を磨いている。
「…何でよ」「ぁん?」
 ルイズの声にクロが振り向くと、彼女は手を止め、俯いていた。2人の距離は2メイルほどだが、クロにはルイズの肩が震えているのが、ハッキリと見て取れた。
「何で…何も聞かないのよ…!」
「さっき聞いたじゃねーか、何があったんだよ、って」
「違うわ! 何でそれ以上、聞こうとしないのよッ!?」
ルイズは涙声だった。足元に、水が滴っている。それは、彼女の涙だった。
「教室がこんなになって…明らかに私がやったって解ってるはずなのに…。どうしてアンタは、そんなに黙ってるのよ!」
 クロは、ルイズの涙の意味を理解した。この少女は、きっと怖かったのだろう。
何かしらの理由で教室で爆発を起こし、生徒たちから罵詈雑言を浴びせられ、その上、自分の使い魔に理由を話して笑われるのが。
惨めな姿を、己の使い魔に晒すのが。
「うぅ、ひっく…アンタも、きっと笑うでしょ…? わ、私が、何で『ゼロのルイズ』って呼ばれてるのか、知ったら…」
しゃくり上げるルイズ。そこにいるのは、今までの高圧的な態度の貴族ではなく、年相応の、繊細な、か弱い少女だった。
319機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:34:55 ID:Nh+h1C1h
 
「そいつは、話さなきゃいけねぇ事なのか?」
クロも机を磨く手を止め、体ごとルイズと向き合った。その目は、今までの斜に構えたような物ではなく、真剣そのものだった。
「話して、オメーは楽になるのか? それとも、オイラでも何とか出来る事なのか?」
ルイズは無言だ。いつの間にか箒を取り落とし、目元を何度も擦っている。
「話したくねぇんなら、オイラも無理に聞かねぇよ。泣くほど怖かったんだろ? だったら無理すんな」
クロの瞳が、ルイズの瞳を見据える。そこに冗談は一欠片もない。その、不器用な優しさを湛えた瞳を信じ、ルイズはポツリポツリと語り始めた。
 
 名門の出なのに、これまで一度も魔法が成功した試しがない事。魔法を成功させる為に、他の生徒の何倍も勉強し、努力を重ねた事。なのに、その努力が一切実を結ばなかった事。
クラスメイトたちの視線が冷たくなり、いつしか魔法成功率0%、『ゼロのルイズ』と呼ばれるようになり、クラスでも孤立するようになった事…。
 
 全てを語ったルイズは、溢れ出る涙を止めようともしなかった。その場に座り込み、ただただ嗚咽している。
 クロはため息を1つ吐くと、ルイズに語りかけた。
「オイラは何で、オメーに喚び出されたんだろうな?」
「何でって…それは…私がサモン・サーヴァントで…」
「そうじゃねぇ、理由だ」「理由…?」
クロは記憶を探り、1人の少年を思い浮かべていた。ルイズのように行き詰まり、壁の前に立ち竦み、ついには暴走してしまった少年を。
 似ている、と思った。行き詰まって、どうしようもなくなって、心の底で悲鳴をあげていたルイズを、少年と重ね合わせていた。
そして、クロなりに理解した。自分がなぜ、この世界に召喚されたのかを。
「困ってたんだろ?」
 ルイズがハッとする。クロの目は、機械のそれとは思えないほどに澄み渡り、弱々しい姿の自身を映していた。
「誰よりも頑張って、頑張って、それでもどうしようもなくて、道を見失って、ホントのホントに困ってたんだろ?」
 ルイズは頷いた。なぜかは解らなかったが、今この瞬間、ルイズはクロに、心の底から素直に、本心を打ち明けていた。
「だから、オイラが喚び出された。オメーがホントに困ってたからだ」
「私が困ってた…。それだけの理由で…?」
「十分過ぎる理由だぜ? オイラを召喚するにはよ。オメーの魔法がどうのなんて、10年後に判断しても遅くはねぇだろ?」
 ただ暴れたいが為に使い魔の契約を結んだ。だが、もう1つ理由があった。それは――
「オメーは今まで、1人で目一杯頑張った。ここから先は、オイラも一緒だ。道なんていくらでもこじ開けてやらァ」
 右手を差し出すクロ。それは、クロがルイズを認めた証。本当の意味での、使い魔の契約。
「助けて…くれるの…?」
 虚ろな瞳で、差し出された右手を見つめながら問う。クロはその問いに、力強い頷きをもって返した。
「ありがとう…!」
 右の袖でぐいっと目元を拭う。もう涙は流れない。代わりに鳶色の瞳に宿るのは、強い意志の光。
 
 交わされる握手。ここにルイズとクロの、真の契約が成立した。
 
「一緒に感動のフィナーレ、見てやろうぜ!」
320機械仕掛けの使い魔:2010/10/26(火) 21:42:40 ID:Nh+h1C1h
以上で、6話終了です。

燃料切れの件ですが、私の解釈によるものです。
原作初期の読み切り時代は、ラジコン飛行機の燃料や、大王デパートに展示されている車のガソリンを飲んでいましたが、
同じく読み切り時代やその後の連載中に、普通に食事をしているシーンがありましたので、
ジェット燃料、ガソリン>通常の食料、としました。

余談ですが、私が中学生だった頃、人生初の恋愛SLG、ときメモ2をやったのですが、
自分の名前でプレイするのが恥ずかしくて、『フジ井 クロ』という名前でプレイしていましたね。
ヒロインの女の子が『クロくん』と普通に読んでくれたのは、かなりの驚きでした。
321名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 21:43:41 ID:A7JdNFve
322名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:03:19 ID:LWFGsXPR

楽しかったよ
323名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:24:29 ID:Kee2VWt5
ベルセルクのガッツを召喚。

ガッツとワルドの戦いは、剛の拳と柔の拳の戦いと表現されている。

アルビオンの戦いでワルドは上半身を斬り飛ばされたがまだ生きていた!
そして薄れ行く意識の中で手にしたのは覇王の卵だった!
324名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:25:10 ID:8KZp8214
普通にあるだろ
325名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:31:15 ID:u4ePu99/
既出の召喚キャラはダメだなんて決まりは無いんだぜ?
さすがに展開が被ってたらダメだろうけどw
326名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:43:26 ID:U0L2n0As
既出ネタがダメって言うなら、ちゃんと完結させて欲しいんだがな・・・
当然と言えば当然なんだが、放置物が多すぎるは
327名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:46:27 ID:yaXmFGwn
つーか最初の方は性格改変されず、しっかり原作に沿ったキャラの性格展開をしたら被らざるを得ない
328名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:52:51 ID:u4ePu99/
ごめんごめん、テンプレ展開じゃなくて独自展開な!
329名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 22:58:37 ID:XEpwNUWS
つーか最初の方は性格改変されず、しっかり原作に沿ったキャラの性格展開をしたら被らざるを得ないんだから被ってると文句を言う奴なんていねえだろw
330名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:03:14 ID:hqzXJyJM
あれだ。ほら、ワルドの性格は被りまくってるw
331名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:07:08 ID:XEpwNUWS
なるほどw
332名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:36:58 ID:GVefl5qW
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%B7%E3%83%90%E3%83%9F
ふと気になったんだが、タバサが好むハシバミってこれで良いのか?
wikiだと葉はともかく実は食えるみたいなんだが…ハルケギニア人は食う部位を間違えてるのだろうかw
333名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:38:47 ID:Al/Z3VES
マーラさまは絶対被らないよな
334名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:40:16 ID:TOXAqYgc
呼称が同じでも実際に同じ植物かは疑わしいな
335名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:42:04 ID:7yofHvKr
毒を持つ植物でも地域によって毒性を持たないものがあったりするしな
336名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:43:14 ID:ElNinPZd
>>332
まぁそのWikiにも書いてあるけど日本でハシバミというとヘーゼルナッツのことだし。
でも、こっちも実は食べるけど葉は食べないよな…
337名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/26(火) 23:51:25 ID:u4ePu99/
>>334
エロマンガ島とかサムイ島みたいなもんか
338名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 00:00:46 ID:GRHPN2ea
ふとフロシャイムのヴァンプ将軍ならハシバミも美味しくサッと一品してくれるんじゃね?と思った。
アニメ版みたく厨房で頭をカクカク揺らして、後ろで試食したタバサが親指立ててるの。

Part2にシエスタとヴァンプのサッと一品コーナーとか…
339名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 00:02:50 ID:6INPISAn
タバサは普段から美味しく頂いてるじゃないですかー!
340名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 00:08:24 ID:GnwaOekT
タバサ「美味しいに上限は無い。更に美味しくなればなおよし」
341名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 00:12:25 ID:LYfMjTSR
タバサ「食べろ」
しろう「このハシバミはニセモノだ食べられないよ」
タバサは杖でしろうを叩いた
しろう「何するのね!」
つまり、偽物はしろうだったのだ
342名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 00:41:26 ID:gTCd1lpf
植物系の使い魔ならブレスオブファイア2のアスパーとか
ブレス3に登場しなかったのはルイズに召喚されてたから
343名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 00:45:25 ID:BBqa5GBZ
モルボル が あらわれた ▼

ルイズ「タバサ!」
タバサ「はい」

ルイズ「全部食べなさい!」
タバサ「…」
344名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 01:02:26 ID:Wwjpoi0f
ジュラン
グリーンモンス
ケロニア
スフラン
ワイアール星人
345名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 01:04:41 ID:Wwjpoi0f
346名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 01:09:03 ID:2hIUusrk
天竜人に砲撃されて死んだと思ったけど、ルイズに召喚されていたのか
347名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 08:59:40 ID:8rlrBNVZ
クロスオーバー先の作中で最強クラスのキャラが
ルイズの爆発程度でダメージ喰らったり、それでルイズを見直す
って展開は何か無理あって個人的に好きじゃない
例えば、DBのフリーザがルイズたちに敗北するとか、
苦汁を飲まされるとか絶対に有り得ないでしょ?
そういう展開を見ると萎える
348名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 09:22:45 ID:fu49HCp7
>>wikiだと葉はともかく実は食えるみたいなんだが…ハルケギニア人は食う部位を間違えてるのだろうかw

日本人だってサツマイモの実は食べるけれど、高知の人は芋の茎までたべるそうじゃないですか。
349名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 09:51:30 ID:nXmKNGd6
だって、タバサが食べてるのはハシバミじゃなくてハシバミ草。
かきふらいとえびふらいとたこふらいくらいに違う。
350名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 10:01:23 ID:iv43s6PC
>>347
前者と後者がいろんな意味で隔たりすぎだろ。
後者みたいなSSなんてあったか?
351名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 10:41:58 ID:P6WuDE2f
>>349
どんふらいは?
352名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 10:46:00 ID:gTCd1lpf
>>347
DBはボスキャラの次のシリーズでの弱体化が著しいからなあ。
ピッコロもセルもあっというまに戦闘力インフレにおいていかれた。
メカフリーザのザマを見たらフリーザがアニエスに両断されてもおかしくない。
タルブに誰か修業つけてくれるやつがいたらとかの話だが。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 10:46:52 ID:meEhYrmV
まぁもともとギャグマンガですしおすし
354名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 11:47:40 ID:yFPDcy76
>348

サツマイモの実って・・・普通あれは実とはいわないと思うが・・・
355名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 12:11:32 ID:2hIUusrk
>>349
> だって、タバサが食べてるのはハシバミじゃなくてハシバミ草。
狼と狼男、雪と雪男、蠍と蠍座と蠍座の女と蠍座の女を歌う男みたいなもんか
356名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 12:23:05 ID:Si1wzES7
>>347
聖帝様を侮辱する奴は消毒だヒャッハー
357名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 15:59:24 ID:rj9MreSH
ルイズの失敗魔法にしたってゼロ魔世界でも特別な位置づけで
単純な属性攻撃でもないんだから、あの爆発見て何か思うってのは
寧ろそのキャラの慧眼の証明みたいなもんだと思ってたよ。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 16:46:35 ID:rZT43S8F
モンク「えー、ハルケギニアには火、水、土、風の四系統魔法がありましてー」
レイド「そんなことは知ってる。次」
モンク「ルイズの爆発はヘンな魔法です。終わり」
359名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 18:22:20 ID:albED4Ex
>>357
魔法が存在しない作品の人物もそれを指摘している。
例えば相棒の杉下なんかがそうだ。
360名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 18:43:15 ID:BZ0oYlE5
>>357
> ルイズの失敗魔法にしたってゼロ魔世界でも特別な位置づけで

これ自体二次設定じゃないの?そもそも他の失敗事例の描写が無いから、前提として成立しない気がするんだが
普通の失敗じゃないんじゃ、って気付いた(上でさらっと流したが)の、宝物庫の時のフーケぐらいじゃ無いっけ

むしろ、それ以外の人間がみんなそういうもんだと思ってる辺り、周りの人間がみんな盲目的な思考の持ち主、と考えるより、
全部そうなるのは異常だとしても爆発自体は失敗の結果として普通にありえる、って方が自然では
361名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 18:44:49 ID:OGu5NyNJ
鋼鉄入りの朴念仁も色々な面から観察してただの爆発じゃないとか言ってたな
362名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 18:52:20 ID:qyODkYDw
怪しい薬品を混ぜる→爆発
魔法の出力ミスる→森や家が全焼
室内でポケモンバトル→部屋が悲惨
練金を人間に→人を金塊にしたり、向こう側に体を捕られれる

よくあるよな
363名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 18:52:35 ID:rj9MreSH
>>360
ゼロ魔の登場人物がルイズの失敗についてどう思ってたかじゃなくて
爆発の性質そのものが単純な爆発現象とは違うって意味だよ。
誰もあれの異常性に気付かない所を気付けるから
クロス先の人物の鑑識眼が高いって方向に繋がるんだろ。
364名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:05:03 ID:fnoKE3/I
魔法で起こる普通の爆発現象の性質って何?
365名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:08:02 ID:nj+N8G8p
火で着火したり、燃焼現象からの爆破とかそんなんじゃないの
虚無は分子・原子ごとバーンって
366名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:09:01 ID:VNZg93Wg
>>364
石ころが吹き飛ぶような爆発が起こったら目の前のルイズは足首しか
残らないとかじゃないか?
367名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:11:25 ID:xXW90v6e
ハルケ世界の魔法に詳しくないはずなのに、よく他の魔法の爆発と違うって気付けるな。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:22:08 ID:fu49HCp7
ルイズに他の四属性ではおこらない、って話を聞いてから考察したり、
キュルケ、タバサ、ギーシュ、モンモンの魔法を見てから、結論だしたりの
パターンがあるな。

まあ、ハルケの連中は異世界的な発想もてないから気づけなくて当然ではあるけど。
369名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:49:45 ID:qyODkYDw
血液型がA B O ABしかないと思ってる子供に特殊な血液型が原因の病気に気づけといってるようなもの?
370名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:51:04 ID:DNLZXjTZ
こっちから見れば魔法の世界とかないだろwなのが
向こうから見れば魔法がない世界とかないだろwだからな
371名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 19:57:19 ID:gTCd1lpf
じゃいFF6やブレスオブファイア3のように魔法と科学の両方が存在している世界ならどんなものかな
372名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 20:00:03 ID:DNLZXjTZ
FF6の世界じゃ魔法はむしろ廃れてるぞ
373名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 20:12:01 ID:nXmKNGd6
例えばアルシャードだと、ウィザードとソーサラーとアルケミストでバラバラな見解が出そうだな。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 20:16:11 ID:gTCd1lpf
じゃあスターオーシャンの世界では?
魔法じゃなくて紋章術だけど、惑星ネーデは完全に科学と魔法の融合文明だろう
375名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 21:22:22 ID:qyODkYDw
未開惑星保護条約の縛りでさらにめんどいことに
376機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:26:40 ID:mmTXEGCh
こんばんは、機械仕掛けの使い魔です。
第7話を、21時35分頃から投下したいと思います。

今回の第7話は、ゼロの使い魔最初の山場、ギーシュとの決闘を扱っております。
皆様のお眼鏡にかなうかどうか、自信はありませんが、付き合って頂けると幸いです。
377機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:34:17 ID:mmTXEGCh
機械仕掛けの使い魔 第7話
 
 
 クロとの2度目の契約後のルイズは、見違えるほど気力が充実していた。どこにそんな力があったのか、と思わせる速さで、教室の掃除を進める。
「ふぇー…。やるじゃねーか、ルイズ」
「当たり前よ! 今回は…いえ、今回も失敗したけど、その尻拭いも満足に出来ないんじゃ、先に進む事なんて出来ないわ!」
 その瞳には炎。泣いた烏がもう笑った、とは言い過ぎであろうが、それほどの変わり様だった。
「まぁ、そんくらいじゃねーと、オイラも張り合いがねーな」
 
 心の加速装置を全開にしたルイズの活躍もあり、掃除は昼食前に何とか完了。そして今、ルイズとクロは、昼食を摂るために、食堂へ向かっていた。
「今から向かうのは、アルヴィーズの食堂。本来なら使い魔は入れないんだけど、私が掛け合って、アンタの分も用意してもらうわ」
「アルヴィーズって…何だ?」
「小人の名前よ。食堂の壁に彫像が飾ってあるの」
「学校の彫像…二宮金次郎みてーなもんか?」
「ニノミヤ…誰よそれ?」「気にすんな、こっちの話だ」
 二宮金次郎といえば、クロのいた世界に限らず、我々の世界でも非常に有名だ。本人は働きながらも勉強を怠らない勤勉家として。そしてその銅像は、夜な夜な動く学校の怪談として。
 ちなみに、アルヴィーの彫像は、夜中になると動くどころか踊り始めるらしいのだが、それはここで語る事ではないだろう。
 
    +     +     +     +     +     +
 
 食堂に入ると、まず目を引くのは長大な3つの机だ。1つの机には椅子が100席ほど並んでいる。限られた食堂の面積で、学院の生徒全員の席を準備するには、最も効率が良い配置なのだろう。
その机に料理を運ぶ給仕たちの苦労は、推して知るべし、であるが。
 そして壁を見ると、なるほどルイズの言う通り、様々なポーズを取る小人の彫像が、大量に並んでいた。
コレが一斉に踊り始めるとなると、二宮金次郎以上のホラーだろう。
 
「コレが…昼飯だってのか?」
「えぇ、そうよ。それじゃ、アンタの分の食事も用意してもらうよう頼んでくるから、待っててね」
 給仕の控えている厨房へ行ったルイズを見送ったクロは、長卓に並ぶ昼食を眺め、目を丸くした。
 どう見ても、昼食という量ではない。貴族という身分である以上、その質は問うべきではないのだろうが、量に関しては完全にツッコミの余地がある。
と言うか、クロから見れば、「ツッコんでくれ!」と言わんばかりであった。
 ローストチキンの居座る大皿がいくつも並び、各席の前には4種類のパン、スープ、前菜、ワイングラスが置かれている。
恐らく、この後もさらに料理が運ばれてくるのであろう。
「こんなモン毎日食ってんのか、ここの連中は…」
 
「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。ささやかな糧を我に与えたもうことを感謝いたします」
 厨房から戻ってきたルイズが席につき、ややあって、生徒がみな手を組んで、食前のお祈りを始めた。
(コレがささやかなら、オイラの昼飯は残飯以下なんだろーな…)
クロの席は、ルイズの隣に急遽用意された。そこに並ぶのは、他の生徒と同じ4種類のパンと、野菜や肉の入ったシチュー。
昼食直前だった為、他の生徒と同じ料理を用意するのは、さすがに不可能だったらしい。しかし、朝に10皿以上の食事を摂っていたクロとしても、あれほどの量の出されてもどうしようもなかった。
むしろ、シエスタが気を利かせて用意してくれたのであろう、ワイングラスに注がれた料理用油が、何よりもありがたかったのだ。
378名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 21:35:56 ID:rClaSSIU
支援
379機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:36:36 ID:mmTXEGCh
 
 早々にパンとシチューを食べ終えたクロ。ルイズの食事を見ながら、3杯目の料理用油を空けていた。
「アンタ…それ油でしょ? よくそんなモノ飲めるわね」
「一番、じゃねーけど、オイラにはご馳走なんだぜ?」
ワイングラスで揺れる、ドロッとした料理用油に、ルイズは胃の辺りにムカつきを覚えていた。
そして平気な顔でそれを飲み干すクロを、信じられないといった目で見るのであった。
 
 食事を終え、デザートが運ばれてくる頃に、事件は起きた。
「おいルイズ、ありゃ何だ? 何かのイベントか?」
「人がずいぶん集まってるわね…何かしら?」
 2年生の座る中央の長卓、その中程で、人だかりが出来ていた。ルイズたちの座る位置からは、その輪の中の様子は見えない。
「なーんか、面白そーだな…」
椅子から飛び降り、生徒たちの足元をすり抜け、輪の最前列に入るクロ、そこで見たのは、ふんぞり返る金髪の巻き毛、開襟シャツ、手にバラを持った生徒と、その生徒にひたすら頭を下げるシエスタの姿だった。
 
「君が無粋な真似をしてくれたおかげで、2人のレディの名誉が傷ついてしまった。どう責任を取る気だい?」
「本当に申し訳ありません…」
 よくよく金髪の生徒の顔を見ると、その両頬にモミジが描かれていた。耳を済ませると、輪を作る生徒の囁きが聞こえる。
「ギーシュ…二股…」「メイドに…八つ当たり…」「女たらし…」
囁きの内容を要約すると、こうなる。
シエスタが何かをした事で、ギーシュという生徒の二股が発覚した。結果、二股をかけられた女生徒2人から、ギーシュはビンタの制裁を受け、周囲の笑いものになった。
そして今、彼はその憂さを晴らすために、シエスタに詰め寄っている、と。
 
「おい、二股野郎!」
「何っ?」「えっ…?」
 金髪の生徒『ギーシュ・ド・グラモン』にとっては聞き覚えのない、だがシエスタには聞き慣れた声が、足元から聞こえた。
「情けねぇと思わねーか? 男が女に当り散らすなんてよ!」
「クロちゃん!? なんて事を言うんですか!」
声の主に小走りで寄り、大急ぎでその口を塞ごうとする。だがクロはその手を跳ね除け、なおも続けた。
「何かと思えば痴話喧嘩かよ。二股バレて騒ぐなんて、みっともねーぜ?」
嘲笑うように言葉を紡ぐクロ。周囲の生徒たちも、クロのおちょくりにドッと沸く。ニヤニヤ顔のクロとは裏腹に、ギーシュの顔は、怒りで赤く染まっていった。
「喋る猫…君は確か、『ゼロのルイズ』の使い魔だったな?」「あ?」
 ギーシュが、くつくつと笑いながらクロを睨みつける。
「喋る猫。驚いたよ、全く。だがそれだけじゃないのかい? 『ゼロのルイズ』の使い魔の君は!」
歪んだ笑みを浮かべるギーシュ、対照的に、クロの顔から、笑みが消えた。
「傑作の主従じゃないか! 主は魔法成功率0! 使い魔も非力な猫!」
 
 俯き、ゆっくりと立ち上がるクロ。その表情は、見下ろす形となっているギーシュからは読み取れない。
周囲の、クロが2本足で立てる事実を知らない生徒たちは驚きの声を上げるが、そんな声に構うつもりなどない。
「おい…もっぺん言ってみろや…」
「何度でも言ってやるさ! 君たち主従は、どうしようもない『ゼロ』だとね!」
 キザったらしいポーズと共に、決定的な一言が放たれた。クロは無言のまま、ゆっくりと、顔を上げた。
「アッタマ来た…。上等だてめぇ、表に出やがれッ!」
こみ上げる怒りを隠そうともしない、般若の如きクロの顔。その顔にギーシュは一瞬たじろぐも、即座に落ち着き、ポケットからバラの造花を取り出した。
「いいだろう! 先程から思っていたが、君は貴族に対する礼を知らないようだ。この僕が『ゼロのルイズ』に代わって躾てあげよう! ヴェストリの広場へ来たまえ!」
 そう言い残し、華麗な足取りでギーシュは食堂を去った。周りの使徒たちは嬉々とした顔でその後を追い、未だ憤懣やるかたないクロ、そして青ざめるシエスタが、その場に取り残された。
380機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:37:57 ID:mmTXEGCh
 
「ちょっとクロ! アンタ何してんのよ!」
 輪の外側にいたルイズは、ようやくといった様子で駆け寄って来た。
「クロちゃん、あなた…殺されちゃいます…」
ガタガタと震えながら口元を抑えるシエスタ。そんな2人を無視し、クロはギーシュたちの後を追おうとした。
「クロ、待ちなさ…」「まず1つ」
ルイズの静止を遮り、クロが人差し指を立てた。
「シエスタにゃあ、朝に受けた恩がある。そいつを返す」
立てた人差し指を、シエスタに向けた。
「2つ目、アイツはオイラだけじゃなく、ルイズも馬鹿にした。反撃は、真っ当な、オイラの仕事だ」
親指を伸ばし、シエスタに向けていた人差し指をルイズの方へ動かし、続いて、親指でクロ自身を指した。
「そして3つ目…同じ男として、アイツにゃ我慢がならねぇ」
最後に突き出された中指を、親指、人差し指とまとめて、食堂の出入口に突きつけた。
「…ってワケだ。適当に焚き付けて怒らせるつもりだったけど、逆になっちまった。ちょいと行ってくるぜ」
「だからクロ、待ちなさいっての!」
 慌ててクロの肩を引っ掴むルイズ。しかしその歩みを止められるほどの力は、ルイズにはなかった。委細構わず、ずんずんと前進するクロ。
「確かにアンタは馬鹿力を持ってるわ。私もそれは知ってる。でもそれだけじゃ、メイジには勝てないのよ!」
「そうです! 本気のメイジが相手では、いくらクロちゃんでも…!」
ルイズとシエスタが、クロの正面に回りこんで詰め寄った。シエスタなどは、目に涙まで浮かべている。
「恩を売った覚えなんて、私にはありません! だから…ミスタ・グラモンに謝って下さい!」
「今ならまだ、ギーシュだって聞いてくれるはずよ。だから、さっさと謝っちゃいなさいって!」
「やなこった」
ルイズとシエスタの願いに対し、クロは頑として譲らなかった。そして、ルイズの瞳を見つめる。
「ルイズ、ちったぁ自分の使い魔を信じてみろや」
ニヒルに笑うクロ。ルイズはただ、クロの瞳を見返す事しか出来ない。
「オイラは、オメーが召喚した使い魔だろ? そのオイラが、あんなクソガキに負けるとでも思ってんのか?」
「それは…」
「いーから、オメーらは黙って見てな。それに…」
表情が、徐々に変わっていく。その顔は、召喚直後に見せた、喜悦に満ちたものだった。
 
    +     +     +     +     +     +
 
「諸君! 決闘だ!」
造花のバラを頭上に掲げたギーシュが、高らかに宣言する。周りには、すでに人だかりが出来ていた。
「2年生のギーシュが決闘するぞ! 相手は『ゼロのルイズ』の黒猫だ!」
 貴族として上品な振る舞いを求められる彼らは、暴力的な欲求が満たされる場を求めていた。今回の決闘は、まさにその欲求を満たす格好のイベントだ。
ゆえに、ヴェストリの広場に集まっていた観衆は、普段の上品さを忘れ、この見世物に期待を寄せていたのだった。
 
 その輪から、やや離れた一角に、キュルケとタバサは陣取っていた。
「ねぇタバサ、どっちが勝つと思う?」
読んでいる本から目を離さず、タバサが答える。
「解らない」
「あら、私はクロが勝つと思うんだけど」
「単純な力勝負なら、ギーシュは勝てない。でも」
言いつつ、タバサが杖を軽く振る。
「クロは魔法を使えない」
それは暗に、この世界において魔法が絶対的な力を持っている、という事実を示していた。
381機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:40:18 ID:mmTXEGCh
 
「おーおー、すげぇギャラリーだな」
 観衆の足元を縫って、クロが広場中央に到着した。トリステイン魔法学院の北側に位置する、火の塔、風の塔、本塔に囲まれたこのヴェストリの広場は、本塔が影になって、昼間でも薄暗い。
そのロケーションがまたアンダーグラウンド的な雰囲気を醸し出し、観衆はより一層、この空気に酔っていた。
 
 10メイルほどの間合いでギーシュと向かい合い、すっくと立ち上がるクロ。腰に手をやり、ギーシュを睨みつける。
「そう怒らないでくれたまえ、猫くん。これは暇つぶしの、単なる余興なのだから、ね」
「御託はいらねぇ。ルールはどうなってんだ?」
「これは驚いた。猫にもルールの概念があるとはね」
 大げさに肩を竦めながら失笑するギーシュ。周りの生徒達も笑っていた。
「ルールは簡単だ。僕がこのバラを取り落とすか、「参った」と言えば君の勝ち。君が「参った」と言えば、僕の勝ちだ。どうかね?」
「ずいぶん余裕じゃねぇか、オイラが死ぬまで、じゃなくてよかったのか?」
「誤解しないでほしいな。この決闘は、あくまでも君の躾だ。殺すつもりなどないさ」
 クロの感じた通り、ギーシュは余裕を隠そうともしない。それもそうだろう。これから戦うのは、ただ喋るだけの猫なのだ。
そして自分は、ドットクラスとは言え、メイジ。負ける要素など何1つない。
 だが、ギーシュは1つだけ忘れていた。召喚直後に、クロが雄叫びをあげながら、何をしたか。そしてそれが、ギーシュにとって致命的な見落としであった。
 
「では、始めようか」
 華麗な挙動でバラを振るギーシュ。その花びらが一枚、ゆらゆらと宙を舞い、ギーシュのすぐ横の地面に落ちた。すると、その花びらが光り輝き、人間大の”何か”に変化を始めた。
「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」
“何か”が、その輪郭を顕にしていく。2本足で手があり、頭がある。大まかな形状は、正しく人間だ。だがそれだけではない。全身の至る箇所が、尖り、丸まっている。
そのいずれもが、人体ではありえない部分だ。
「僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお――ガァンッ!――相…手す…?」
 ギーシュの台詞が終わろうとする瞬間、耳をつんざく破裂音が、ヴェストリの広場に響いた。そして同時に、ギーシュのすぐ横で、何か金属質の物が砕け散る音が。
 観衆も一様に、何が起きたのか解らない、といった顔だ。だが、結果だけは解る。その目に、しっかりとその結果が刻み込まれているから。
 ギーシュが恐る恐る、自分の左手側――ワルキューレの立っている側に視線を向けた。そこにあったのは、首から上が綺麗に吹き飛ばされた、ワルキューレの姿だった。
 
 この場において、一番混乱していたのは、ギーシュだった。ワルキューレを錬金したと思ったら、破裂音と共にその頭が吹き飛ばされていたのだ。
「な…何をしたっ!?」
「何って…なぁ? オメーが魔法を使うように、オイラも『武器』を使っただけだぜ?」
ギーシュがクロを見やると、その右腕には、以前に見た覚えのある、鈍い緑色の円柱が装着されていた。その際には見えなかったが、円柱の上面、ギーシュの側に向いている面には、5つの黒い穴が空き、その1つから煙があがっている。
 クロは、ギーシュのワルキューレが完全にその姿を表した瞬間、目にも留まらぬ速さで腹部から緑色の円柱――ガトリング砲を取り出し、ワルキューレの頭部に向けて、1発撃ち込んだのだ。
「柔けぇな、そのガラクタ。まさか1発で頭が吹っ飛ぶとは思わなかったわ」
「銃を隠し持っていたのか…だが、その大事な1発で頭しか壊せなかったのは、残念としか言いようがないね!」
382名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 21:40:50 ID:zkQqypEl
ギーシュの冥福を祈りつつ支援
383機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:42:28 ID:mmTXEGCh
 
 強がりながらも、ギーシュは内心冷や汗をかいていた。
 普段の行動やその服装からは信じられないが、ギーシュは武門の誉れ高い、グラモン家の四男。
一家の英才教育もあり、恐らくこの学院においては、戦略を始めとした戦の知識に関して、彼の右に出る者はいないだろう。
 そしてその知識は、メイジ同士の戦に限定したものではない。平民が使う武器、すなわち刀剣類や弓、銃に関しての知識も豊富であった。
ゆえに、クロの使用した銃に、驚きを禁じ得なかったのだ。
 クロの銃は、この距離で、ワルキューレの頭部を破壊して見せた。ここから得られる仮説は2つ。
 1つは、通常より多く込めた火薬によって、この距離でも威力を落とさなかった弾丸が、たまたまワルキューレの頭部に命中した。
 もう1つは、クロの持つ銃が、常識では考えられない破壊力と命中精度を有している。
 前者の場合、下手をすればワルキューレではなく、ギーシュに命中していた可能性もある。ハルケギニアの銃は、中距離以遠では命中精度がガタ落ちになる代物なのだから。
そして後者の場合、あの1発がギーシュではなくワルキューレを狙って放たれた事に、安堵する他ない。何しろ、攻撃する瞬間が見えなかったのだ。
下手をすれば、頭を吹き飛ばされて死んだ事にも、気付けなかったかもしれない。
 いずれにせよ言える事は1つ。1発だけだとしても、あの銃は規格外の破壊力を持っており、ともすれば自分は死んでいた、という事だ。
 
 対するクロも、心中では顔を顰めていた。
 青銅製のワルキューレに対し、ガトリング砲は威力が高すぎるのだ。例え6000発の装弾数を誇るガトリング砲も、いつかは弾切れを起こす。
弾薬の補給が期待できないこの世界において、無駄な発砲はご法度と言えよう。
 ワルキューレとの戦闘は、その顕著な例である。とてもではないが、この程度の防御能力しか持たない相手にガトリング砲をぶち込むなど、まさに弾の無駄遣いだ。
 
「ま、オメーのそのガラクタも、まともに準備出来てなかったみてぇだしな。詫び代わりだ、1発待ってやんよ」
 腹部にガトリング砲をしまうと、「おいでおいで」のジェスチャーを見せるクロ。
あまりにも自身を舐めたような態度を取るクロに、冷や汗も忘れ、ギーシュの怒りは頂点に達した。
「猫ごときが…貴族たるこの僕を舐めるのかぁッ!!」
裂帛の気合と共に、ギーシュはバラを振るった。その気合に応えるように、頭を失ったワルキューレが、凄まじい速度で跳び出した。
「へー、頭吹っ飛んでも動けんのか。すげぇな」
手にした青銅の剣を振りかぶり、クロに肉薄する。宣言通り、近づかれてもクロは動かない。その様子に、ルイズやシエスタを含む観衆たちは息を呑んだ。
このままではワルキューレの手にかかり、クロは真っ二つにされてしまう。
「だけどよ――」
 
  ガキィィンッ
 
 金属の砕ける音がこだまする。観衆は青銅の剣が振り下ろされる直前、避けられない凄惨な光景を見ぬよう、目を逸らした。
だから、その瞬間を見たのは――驚愕に顔を歪ませるギーシュのみであった。
「――青銅じゃ、オイラは殺せねぇよッ!」――ザンッ!――
クロの一喝に、観衆が広場の中央に目を向ける。そこには、どこに隠していたかも解らない、身長の優に2倍はある剣を下から上に斬り上げた姿勢のクロと、
中程から砕けた青銅の剣を持ち、身体の中心線から綺麗に真っ二つにされ倒れ伏す、ワルキューレ”だった物”、があった。
384機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:44:21 ID:mmTXEGCh
 
    +     +     +     +     +     +
 
 クロがワルキューレを切り捨てたほんの少し前、コルベールは1冊の本を小脇に抱え、本塔最上階にある学院長室へ急いでいた。
 
 クロの左手に刻まれたルーンを書き写したコルベールは、そのまま図書館に篭もり、該当するルーンを調査していたのだ。
コルベール自身は、使い魔のルーンに関する書物を漁り、必死の形相の彼に渋々協力を承諾した司書は、あらゆる生物、幻獣、魔獣についての書物のページをめくっていた。
 しかし、夜通し行われた調査にもかかわらず、どちらにも該当する記述は見つからない。過去、そのようなルーンが使い魔に刻み込まれた記録はないし、喋る猫に該当する資料も見つからない。
 
「ミスタ・コルベール、図書館内の資料は全て目を通しましたが、あなたの仰る…喋る猫、ですか? そんな存在は載っていませんでしたよ」
 欠伸を隠そうともせずに、『レビテーション』で書架上部の本を取り出しているコルベールに報告するが、彼は聞く耳を持たないようだ。開いている書物に、目が釘付けになっている。
「ミスタ・コルベール…?」
司書が訝しむが、どこ吹く風だ。ただただ、ある見開きページと、その前後のページを繰り返し読んでいる。
 
「これは…一大事だ!」
 音もなく着地したコルベールは、本を閉じ、すぐさま図書館を出た。
「あっ、ミスタ・コルベール!? ちょっと待って下さいよ!」
司書の静止も、もはやコルベールの耳には届かない。コルベールの探し当てた書物――始祖ブリミルの使い魔たち――には、彼の最悪の予想を塗り替える事実が記載されていたのだから。
 
 そして今、コルベールは学院長室の前に立っていた。中がやや騒がしいが、収まるまで待つのももどかしい。コルベールはノックもそこそこに、学院長室に跳び込んだ。
 
「オールド・オスマン! 失礼しますぞ!」
 ドアを開け、まず目に入る正面の執務机には、誰も座っていない。視線を横に向けると、秘書が頭を抱えて蹲る老人に、何度も蹴りを入れていた。
「おや、ミス・ロングビル。またオールド・オスマンが何か?」
ミス・ロングビルと呼ばれた秘書は、コルベールの姿を認めると蹴る足を止め、息とやや乱れた服を整えた。
「いえ、食後の軽い運動ですわ、ミスタ・コルベール」
「わしはサンドバッグか何かか…?」
 腰を摩りながら、情けない格好で蹴りを受けていたオールド・オスマンが立ち上がる。深い皺が刻まれた顔が、彼の生きてきた年月を物語る。
100歳とも、300歳以上とも言われているが、真偽の程は定かではない。
と言うか、本人が記憶しているかどうかさえ、謎である。
 
 ほんの少しホンワカしたコルベールだったが、要件を思い出し、また先程までのように慌て始める。
「そんな事よりオールド・オスマン! 大変な事が起きました!」
「わしがサンドバッグにされておるのは、君にとっては小事なのかの…。まぁよい、全ては小事じゃ、落ち着きなさい」
「落ち着いてなどいられません! ここ、これをご覧下さい!」
コルベールが差し出した書物のタイトルを確認したオールド・オスマンは、うんざりしたような顔を作った。
「『始祖ブリミルの使い魔たち』とは…また随分と古臭い本を持ってきたもんじゃて。この部屋が埃臭くならんかのぅ…」
わざと咳払いし、手で顔の前の空気を払うようなジェスチャーを見せる。
「そのような冗談を言っている場合ではありません! このページを…!」
開かれたページを見やり、長い白鬚を撫で付けるオールド・オスマン。これがどうした、と言わんばかりの表情だが、
続いてコルベールが差し出した、クロのルーンのスケッチを見ると、その目付きが険しい物に変わった。
「ミス・ロングビル。席を外しなさい」
 威厳を感じさせる言葉を受け、ミス・ロングビルが席を立ち、学院長室から出て行った。それを見届けると、改めて口を開いた。
「詳しく説明するんじゃ、ミスタ・コルベール」
385機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:47:00 ID:mmTXEGCh
 
 コルベールは、クロの召喚からここに到るまでの全てを話した。
喋る猫、狂戦士の目、ルイズとの契約、そしてその結果、書物に描かれているルーンが刻まれた事を。
「にわかには信じられん話じゃが…」
「確証はありません。ですがあの目は、危険な瞳を宿していたように思います」
「それは、『炎蛇』としての勘かの?」
コルベールの顔が曇る。オールド・オスマンは苦笑しながら、コルベールの肩を叩いた。
「や、すまんかった。その名前はもう、捨てたのじゃったな」
「捨てても捨てられる物ではありませんが…お気遣い、感謝いたします」
 
「しかし、よりによって『ガンダールヴ』とはのぅ…」
 しばしの沈黙を破ったのは、オールド・オスマンだった。
「始祖ブリミルの盾、あらゆる『武器』を自在に操る伝説の使い魔、神の左手…」
「オールド・オスマン、この件に関しては、王室に判断を委ねるのが最善かと思われますが…」
 現代に蘇った伝説の使い魔『ガンダールヴ』。これだけならば、コルベールも諸手を上げて喜んでいただろう。
しかし、そのルーンが刻まれたのが、狂戦士の目を持つ猫となると、そのような気も失せる。
伝説まで格上げされた使い魔の力が、どれほどの災厄を持たらすか、解ったものではない。
「いや、この件はわしが預かる」
「学院で処置する、という事ですか?」「うむ」
 窓の外を見やるオールド・オスマン。この老人には、解せない部分があったのだ。
「話を聞く限りでは、喋るとは言え、相手はただの猫ではないか。それほど目くじらを立てる必要もあるまいて」
「ですが…」
「まだ静観の時期じゃろう。話が通じるのであれば、理性もあるはずじゃ。今の段階でかの猫の処分を考えるのは、時期尚早ではないかね?」
 立て続けに起こった出来事で、自身も焦ってしまっていたのだろう。コルベールは、落ち着き払ったオールド・オスマンの背中を見ながら、1つ深呼吸した。
 
 コンコン、とノック音。
「ロングビルです。生徒たちに少々問題が発生した模様です」
「入りたまえ」
ドアを開け、ロングビルが入室した。問題が発生した、という割には落ち着き払っている。
このように常に冷静でいられるようにありたい、と、コルベールは心中で呟くのだった。
「問題というのは何じゃ?」
「ヴェストリの広場で、生徒が決闘騒ぎを起こしました。教師陣が数名止めに入ろうとしたようですが、殺到している生徒たちに阻まれて、どうにもならないようです」
「決闘とは穏やかじゃないのぅ…。騒ぎの中心は誰じゃ?」
「1人はギーシュ・ド・グラモン。2年生のドット・メイジです」
「あぁ、グラモン家のバカ息子か。親父に似て女好きなようじゃが、それが高じてこの騒ぎかの。して、相手は?」
 ここで、ロングビルが言い淀んだ。何と報告すればいいのか解らない、といった様子だ。
「それが…生徒でも、平民の使用人でもなく、ミス・ヴァリエールの使い魔の黒猫です」
ピクリ、とコルベールの耳が動いた。しかしそれ以上は表に出さない。深呼吸の効果だろうか。
「教師陣は決闘を止めるために、『眠りの鐘』の使用許可を求めていますが…」
オールド・オスマンの目が、コルベールの目と合う。互いに同じ意見と認め、頷く。
「アホか。たかが子供の喧嘩を止めるのに、秘宝を使う必要などなかろうが。放っておきなさい」
「解りました」
 再び、ロングビルが部屋を出たのを確認し、オールド・オスマンは杖を振るった。その場の空間に、ヴェストリの広場の様子が映し出される。
「さて、お手並み拝見と行こうかの」
386機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:49:31 ID:mmTXEGCh
 
    +     +     +     +     +     +
 
 転がるワルキューレの残骸を足で払い除け、クロがギーシュにゆっくりと近づく。
「これで終わり、ってワケじゃねぇよな? もっと楽しもうぜぇ?」
その顔は、召喚されて初めての戦闘の、悦びに歪んでいた。
「きっ、貴様…、その剣はどこから…!」
 生徒たちは歓声を上げるわけでも、罵倒するわけでもなく、ヒソヒソとクロの剣に憶測を並べるだけだった。
剣を錬金しただの、芝の中に隠していただの、腹から引き抜いただの…。
 正解は3つ目の、『腹から引き抜いた』なのだが、ここで疑問が生じる。クロの腹のどこに、あんな長大な剣を収納していたのか――
「”ここから”、だぜ?」
クロが自分の腹を指さすと、その部分が『カシャンッ』と音を立てて四角く開いた。中には、漆黒の闇が広がっている。
その闇に、クロは手に持った剣を2、3度出し入れした。その合間に、先程使ったガトリング砲も出し入れしていた。
「さて、どうすんだクソガキ。膝が笑ってるぜ?」
 
 ギーシュは、ようやく理解した。この猫は、ただ喋るだけの猫ではない、と。
青銅の剣が頭に当たったのに、逆に剣が砕けてしまったり、腹が開いて剣だの銃だのが出てくる猫など、いるわけがない、と。
 ゆっくりと、ニヤニヤ笑いながら歩み寄る黒猫に、大鎌を担いだ死神の姿が重なる。ギーシュの理性が、弾けた。
「うわぁぁァぁぁァぁッ!!」
恥も外聞もなく、無様にバラを振り、6体のワルキューレを錬金した。手駒はこれで打ち止め。
そもそも、青銅で出来たワルキューレが何体束になってかかろうと、勝てる見込みは0に近いと、弾けて粉々になったほんの僅かな理性が語るが、そんな事は関係ない。
ギーシュにはもう、こうするしかなかったのだ。
「そうそう、そう来なくっちゃ…なあッ!」
対するクロは、破壊対象がさらに増えた事に悦びを隠そうともせず、大剣を構え、ワルキューレたちの懐に跳び込んだ。
その左手に刻まれたルーンが、煌々と輝くのに気づかぬまま。
 
 そこから先は、クロによるワルキューレの解体ショーだった。
 真ん中のワルキューレを、動き出す前に右肩から左腰にかけて袈裟斬りに両断、返す刃で、左肩から右腰へ切り裂いた。
ようやく動き出したワルキューレがクロの右側に回り、青銅のハルバード突き出すが、跳躍してかわすと、その上に着地。ハルバード上を駆けて、その勢いのままに飛び蹴りで頭部を砕き、振り返りざまに縦に一刀両断。
隣にいたワルキューレが、振り返りながらハンドアックスを振り下ろすも、刃を中程から、胴体ごと両断され、その場にくずおれた。
 残りの3体がクロを包囲するが、1歩目で最高速度に達したクロは、速度を乗せた大剣で正面のワルキューレの胸を突き刺し、高らかに持ち上げると、他の1体に全力でぶつけた。
残像さえ見える速度で叩き付けられ、2体が完全に砕け散る。もはや原型は留めていない。
最後の1体がクロの背後から果敢に挑むが、振り返りながら放たれた斬撃によって腰の辺りを両断され、さらに目にも留まらぬ速度で何度も振るわれた大剣により、細切れにされてしまった。
 全てのワルキューレが、10秒程度の短時間で、ヴェストリの広場に屍を晒した。想像を裏切るその結末に、観衆は沈黙するのみであった。
 
 その中には、タバサも含まれていた。ガトリング砲の発砲音で思わず本を取り落としてしまい、その後の展開に、本を拾う事すら忘れて、あまりにも一方的すぎる勝負に見入ってしまっていたのだ。
「ほら、私の言った通りじゃない。クロが勝つ、って」
まぁ、あの銃と剣は予想外だったけどね、とキュルケが付け加えるが、それはタバサも同じだった。
 力だけでなく、あの武器も、クロ自身の身体も、常識を完全に逸脱している。あれがクロの本気なのかとも考えたが、そう決め付けるのは不可能に思えた。
 歴戦の戦士の瞳で、タバサはクロから、あるモノを感じたのだ。力が強い、武器が強力、確かにこれらは、クロの戦闘能力向上に一役買っているだろう。だが、それだけではない。
クロの戦い方は、明らかに、手練のそれだ。クロと対峙し、見た目に騙されては、命はない。
相当数の場数を、しかもかなりの修羅場を、くぐり抜けてきたのだろう、と。
387機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 21:51:46 ID:mmTXEGCh
 
「その様子じゃ、もうお終いみてぇだな」
退屈そうに欠伸しながら、クロはギーシュの前に立った。ギーシュは、というと、尻餅をついた姿勢で、声にならない呻き声をあげながら、必死で後ずさろうとしていた。
しかし、手も足もガタガタと震えているため、その場からろくに動けないでいる。造花のバラは、既にギーシュの手を離れていた。
「き、ききき君は…一体…」
「オイラの名前聞く前に、やる事があんだろ?」
恐怖に染まったギーシュの言葉を遮り、クロが大剣を、ギーシュの喉元に突き付けた。
「ヒィッ!?」
顔を引き攣らせ、言葉を詰まらせるギーシュ。クロは大きく息を吸い、怒鳴りつけた。
「てめぇが男なら! 二股なんざかけずに1人の女を愛してみせやがれッ!」
「は、はいィ!」
その有無を言わさぬ剣幕に、思わずギーシュは頷いた。
「それと…」
クルリと振り返り、大剣を手先で器用に回転させ、流れるような動作で腹に収める。その背中が、ギーシュにはなぜだか、とてつもなく大きな物に見えた。
「ルイズとシエスタ、あと二股かけた相手に謝っとけ。ケジメはキッチリつけな」
それだけ言い残し、クロは立ち去った。クロが近づくと、観衆は誰からともなく、道を開ける。その様は、まるでモーゼの十戒のようであった。
 
 輪の外に出たところで、クロはルイズとシエスタを見つけた。
「あ、アンタ…、馬鹿力だけじゃなかったのね…」
「すごいですクロちゃん! まさか貴族様に勝っちゃうなんて!」
ルイズとシエスタの賞賛の声を浴びながらも、クロはあっけらかんと答えた。
「あの程度じゃ、オイラとやり合おうなんざ100年早ぇよ」
 馬鹿力だけではなく、強力な武器と戦闘技術、そして頑丈な身体を併せ持つこの使い魔。今までゼロと呼ばれた自分がなぜ、こんなに強力な使い魔を召喚できたのかは解らない。
だが、きっとクロは、立ちふさがる壁を全て破壊してくれるだろう。そして、いつか魔法を使えるようになるその日まで、私の隣にいてくれるんだろう。ルイズは、そう、確信した。
 
    +     +     +     +     +     +
 
 クロがギーシュから離れたところで、オールド・オスマンは杖を振った。ヴェストリの広場の映像は途絶え、見えるのは学院長室の内装のみとなる。
「圧倒…しておったな」
「これも、ガンダールヴの力のなせる業なのでしょうか…」
オールド・オスマンは目を瞑り、何かを考えている様子だ。そして、おもむろに口を開いた。
「気づいたかね、コルベール君。小僧のゴーレムと戦っている間、ガンダールヴのルーンが輝いておったのに」
「はい。確かミスタ・グラモンと対峙していた時は、光などは発していなかったように記憶していますが」
「ガンダールヴはあらゆる武器を自在に操る使い魔。であれば、あの大剣を振るっていた時にルーンが光っていたのも、辻褄が合うのぅ」
遠い昔、ブリミルに付き従い、その盾となり戦った伝説のガンダールヴに、想いを馳せるオールド・オスマン。
得てして神格化された伝説というのは、その細部は伝承通りかなど、解らないものである。
「始祖ブリミルのガンダールヴがどのような生き物か、などは解らぬが…。猫では、なかったであろうの」
「普通の猫は、武器など使いませんからな」
 ほぅ、と溜息をつく2人。
「しかし、じゃ。あの黒猫が、本当に狂戦士なら、あの小僧の命はなかったじゃろう――愛など説く前に、あの大剣でバッサリじゃったろうな」
「愛を説く狂戦士などいない、と?」
「そこまで完全に否定はせん。じゃが…やはり判断は早かろう」
「解りました。私はもう少し、ガンダールヴについて調査してみます。と言っても、図書館の書物では限界もあるでしょうが…」
「ふむ。では今度の虚無の曜日にでも、王立図書館へ行ってみるとよいじゃろう。休日手当も付けるぞ?」
虚無の曜日、辺りで露骨に嫌そうな顔をしたコルベールだが、休日手当で目が光った。やはり金の力は偉大である。
388名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 22:01:22 ID:GnwaOekT
キャークロチャーン支援
389機械仕掛けの使い魔:2010/10/27(水) 22:01:47 ID:mmTXEGCh
以上で第7話、終了です。

今回はかなり長くなりましたが、どう描写しようかと考えている間に、こんな量に…。
この話に限らず、私の書くクロちゃんの行動が、原作のクロちゃんに沿ったものかどうかは、正直自信がないです。
ですが、私なりのクロちゃんと、皆様の考えるクロちゃんが少しでも近しいのであれば、嬉しいです。

ちなみに、当初は各話のサブタイトルとして、アニメ各話のサブタイトルを流用していましたが、
途中あたりからかなり微妙になってきたので、断念しました。
さすがに、適切なアニメサブタイと、内容に沿った改変に数時間考え込むのは、
今後を考えてもかなり厳しいので…。
390名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 23:11:15 ID:2rc9Y+GL
これで、ミー君もきて合体なんかしたらどうなんだろうね。
391名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 23:14:20 ID:0ScUxZqR
支援
392名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 23:30:13 ID:vR/uzQjU
ウルトラマンはいいけど仮面ライダーとかは需要ないんかな?
393名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 23:31:39 ID:9lmOckBq
ワンピ、2部に突入したし誰か召喚されてほしい
394名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/27(水) 23:59:47 ID:dF8FMNly
最終回は元の世界に戻るという展開でしょうか?
395名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:04:15 ID:BQ+7m0qP
>>393
ワンピはゼロ魔と相性が悪いぞ
貴族によって自分の体に契約の証を刻まれるあたりが
396名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:04:39 ID:2SN7vdqH
>>392
ライダーはV3・ディケイドが長編(中断中)、その他平成系が召喚されたところ、もしくはギーシュとの決闘で打ち切りが多数

ぶっちゃけ需要はあると思うよ。供給されないだけで。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:08:20 ID:87S/+i3K
奴隷に焼印なんて結構ざらにあると思うがな
相性悪いの意味も良く解らんが
398名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:30:13 ID:0AdkuhMt
海を船で航海ということが無いからじゃね? 本編であったっけ?
原作の肝の部分が生かしにくい。完全オリジナルの流れで海に出るでもしないと。
399名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:36:07 ID:4tfokXh5
別に航海メインって訳でも無いようなw
無かったら無かったで特に問題は無いんじゃない?
400名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:45:38 ID:vHDZczMm
私見だけど、ウルトラが続いてライダーが続かないのは敵が怪獣か怪人かの差があると思う。
よく敵役も相手側から持ってくればよいといわれるが、怪獣と怪人は存在意義がまったく違う。
怪獣は一体ずつ独立したキャラクターで、必ずしもヒーローを必要としない(実際ウルトラシリーズでは
人間が怪獣を倒したり、ウルトラマンが出なくてよかった話も多い)ために、怪獣対ゼロ魔キャラの話も自然に作れる。
また、怪獣は現れる理由をあまり考えなくてすむ。
しかし怪人は悪の組織××に属する歯車の一つであるので、どうしても出現理由が限られ、ゼロ魔とからめる自由度が制限されてしまう。
行動原理も侵略一択で対話や友好などドラマ性が少ない。
これは怪獣が「人知を超えた生物」怪人は「特殊能力と異形の姿を持つ悪人」の差だと思う。
極論、怪獣はウルトラQみたいにウルトラマンなしでも成り立つが、怪人はライダーなしでは話が作りにくい。

異論は認める。
401名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 00:52:29 ID:/7e16EEa
むしろ世界観的に共通点があるからやりやすいとも取れる

海軍とか海賊以外なら航海なくても問題ないし
402名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 01:00:07 ID:ueTBjwkp
テイルズの人改行が少なすぎね
403名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 01:00:42 ID:sE2JVS0h
航海メインではないが、航海は必須要素だと思うよ。
最近はそうでもないけど、一応冒険物だし。変な島とかないと魅力に欠けるかも。
個人的意見だけど、ワンピは特に世界や仲間、サブキャラ含めての面白さが大きい気がする。ルフィやゾロ単体で放り込んでも、なんか盛り上がりに欠けるような……
404名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 02:41:46 ID:TnSLG2tH
>>389
機械仕掛けの人乙! 何となくギーシュが鈴木ポジに収まりそうな気がしてきたw

>>392
哀しみを背負ったワルドとチートなウェールズが見られるのはもう一人の左手だけ!

個人的にはあの話が一番「ゼロ魔世界の」男をちゃんと書いてくれてるように思えた。
基本男は召喚先からの輸入頼りなのが多いから余計に嬉しく思う。
405名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 03:51:38 ID:7NEMNSLg
振りなさ〜い、振りなさい メイジなら杖振りなさい
406名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 04:37:08 ID:SxpUknYM
ジェイ・ランカードが額冠もってゼロ魔に来たらどういう反応するんだろうか?
大人しく契約してくれそうもないし、契約できたとしても、何れ乗っ取られそうなんだけれど
407名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 05:02:11 ID:UGqXYf6Y
>>400
>>怪人は悪の組織××に属する歯車の一つ
この辺の問題は、
ある程度 自然発生する『魔化妄(漢字忘れた)』や、平民に混じって生活する『ワーム』、
総当たり戦で あまり組織立った行動をしない『アンデッド』あたりなら 回避できるかも。

ライダー系の設定で ストーリーを作るなら、
・響の『猛士』に相当する平民組織がある。
 (鬼の力は、系統魔法とは別で、貴族に対して秘匿されている)
とか
・『虚無の系統』=『アギトの力』として、ガリアかロマリアに『黒の青年』が復活している。
なんてのは どうでしょう?
408名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 07:16:58 ID:FRJ0Xa0s
>>403
ハルケギニアという日常的に魔法が使われている世界(島)が舞台だから大丈夫じゃね?
あとほら、空島とか普通にあるしさw
409名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 08:34:11 ID:xrlfUUfd
ふと思ったんだが、まとめWikiに載ってる奴で更新止まってる作品の中で
実際は続きがあるのに、Wikiに載ってないって作品どれだけあんのかな?
Wikiの更新って簡単に見えて意外と知らない人には難しいから
作者自身が登録出来てないパターンも少なくないだろうし
410名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 10:14:11 ID:dJhREAQS
つまりFTからナツを召喚しようぜ
411名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 11:03:59 ID:UfrgZoWQ
志々雄真実を召喚する。

「姫さんはわかっちゃいないようだな。所詮この世は弱肉強食。
 強ければ生き、弱ければ死ぬ。ただそれだけのことだ。」
412アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 14:47:39 ID:8m1UfBfK
投下します。時間かかるかも。
413名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 14:50:41 ID:4Zgu2aku
こんにちわああああああ
414アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 14:52:11 ID:8m1UfBfK
ウェールズと固い握手を交わした人修羅は、一人、バルコニーで風に当たっていた。
ビルに囲まれた都会の風とも違い、ボルテクス界の命を感じられぬ風とも違う自然の風は、心地良く頬をなでていく。

ところで、アルビオンは富士山より高いのだろうか?確認してはいないが、かなりの高度に浮かんでいるのは確かだ。
それなのに下界との温度差に乏しい、それが不思議だ。

「魔法の世界か」

視界を遮るビルもなく、夜空を照らさんとする町の明かりもない。二つの月は地球の満月よりも少し明るく雲を照らしているが、それでも星はよく見える。
人修羅はバルコニーの手すりに手を置くと、軽く身を乗り出すようにして城下町を見つめた。
ニューカッスル城を囲む外壁の、更に向こうには街道が見え、その街道を囲うようにして扇状に城下町が広がっている。
トリスタニアにも負けぬ、美しい石造りの町並みは見事の一言であった。だが明かりは少なく、人のが息を押し殺しているような印象を受ける。
時々ランプの明かりが街道に見え隠れするのが見えた、たぶんニューカッスル城周辺を見張る貴族派の明かりだろう。

さらに遠くへと視線を移す、暗くて遠くまでは見通せないが、かすかに松明の明かりが見えた。松明を持って集団で疎開したか?違うだろう、貴族派の一団が野営しているのだ。
「1カ所、2、3、………何人ぐらい潜んでいるんだろうな、町に」
…もし魔力の槍を雨のように降らせば、城下町ごと貴族派を消し飛ばせるんじゃないか?
人修羅は両手で頭を抱えた、ウェールズは『あやつらはそのために流されるであろう民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう、国土のことを考えぬ』と言っていた、人修羅が力を使えば非戦闘員はおろか国土を荒廃させてしまう。

「どうすりゃいいんだ」

仮に、この国を荒廃させずに戦うとしたら、単騎で敵陣に乗り込み、貴族派の首魁を生け捕って連れてくる程度のことしか思いつかない。
仮にそれが出来たとしても、その後は平穏では居られない、いずれ誰かがアクマの力に目を付け、俺とルイズを利用しようとする人々が現れるだろう。

その時ルイズはどうなる。
俺に頼り切ってしまうのだろうか?それだけは避けたい。


人修羅は、空を見上げた。

ルイズは”ゼロのルイズ”と呼ばれ続けながらも、努力を怠らず、貴族として如何に生きるべきかを学んでいた。
逆境の中で生きる人間は美しく、強い。
魔法に失敗し、泥を被りながら練習を続けるルイズは輝いていた。
ひたむきに努力したからこそ、努力が実ることも、努力が実らないことも知ることができるはずだ。

その輝かしさを忘れずに育ってほしい。
いつか今以上の困難に立ち向かう日が来たとしても、残酷な決断を迫られた時が来るとしても、それまでの生き様がひたむきであれば毅然として生きられるはずだ。
ルイズが人としての輝かしさを失う姿など、見たくない。

だから今は、ウェールズ皇太子の選択を見届けるべき…かもしれない。


人修羅は、ふと城内の楽しげな声に心を惹かれた。
パーティに顔を出すべきかと思ったが、あることを思い出し、パーティー会場とは別の場所に歩いて行った。


◇◇◇◇◇◇◇◇

415アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 14:54:06 ID:8m1UfBfK

「なんか雰囲気が似ていると思ったら、国会議事堂か。あれも雰囲気は石造りの城みたいなものだったな…」

人修羅は、鏡のように磨かれた石造りの城内を見回しながら、ロングビルの寝かされている部屋に向かった。
衛兵に話を聞き、ロングビルの部屋を教えてもらうと、パーティの席から分けてもらった食料を手に部屋へと訪問した。
ロングビルにあてがわれた部屋は、ゲストルームの体裁を保ってはいるが、ルイズ達の部屋とは雰囲気が異なっている。
特に、扉の前に立つ衛兵の雰囲気が違うのだ、ロングビルが望まれない客であることは明白であった。

衛兵にロングビルとの面会を頼むと、衛兵は扉をノックして中のメイドを呼び出した。
メイドに促され、ゲストルームに入室すると、さらに奥にあるベッドルームへと通される。
ロングビルはベッドの上で上半身を起こし、静かに窓の外を見つめていた。

「ロングビルさん」
人修羅が声をかけると、ロングビルは気怠そうに人修羅の方を向いた。
「…あんたか」
「飯、持ってきましょうか」
「さっき食べたよ」

そう言うと、ロングビルは視線を窓に移した。

「ここは、ニューカッスル城だってね。こんな形でニューカッスルの城に入るなんて、想像もしていなかったよ。
明日は決戦だって?」
「そうらしいですね」
「…殺し合って、みんな死んでしまえばいいのさ。王党派も貴族派も、みんな…」
ロングビルの横顔は悲哀に満ちていた。
「余計なことを話したのは、あんたかい」
船室での事を思い出し、人修羅は首を横に振った。
「何も聞かれてませんよ。それにロングビルさんは魔法学院の秘書、でしょう?」
「そっか、じゃあ、あたしのことを知ってる奴が居たんだ。目が覚めて驚いたよ、メイドはあたしをマチルダって呼ぶしさ。どう見ても軟禁向けのゲストルームだしね…」
「…船室でも聞いたけど、どうして、名前を隠してるんですか?」
人修羅がベッドの脇に立ち、そう質問すると、ロングビルは悔しそうに目を細めた。

「没落した貴族の名前なんか出して働けるものか、何処の国にだって『情けをやろう』って、近づいてくる奴はいるんだ。自分より格上のメイジを囲いたいだけなんだ、そういう奴らは」
吐き捨てるように言って、顔を伏せる。
「あたしはどうなってもいいんだ、今更、でも、巻き添えを食って親が処刑された奴らはそうじゃない。子供なんて奉公に出たっきり慰み者になるかもしれないんだ。没落するってのはね、そういう事なんだよ」
嗚咽の混じる言葉には、偽りなど欠片も感じられない。

その時、不意にノックの音が聞こえた。
扉を開けて現れたのは、ウェールズ皇太子であった、ウェールズはベッドに座るロングビルを見つめる。
「久しぶりだね、マチルダ」
ウェールズは懐かしさと悲しみを含んだ目で、ロングビルを見ている。
「何の用…」
「朝早く、非戦闘民を乗せた船が出る。君にはそれに乗ってほしい」
「あたしを殺すんじゃないのかい」
「どうしてそんな事をしなければならないんだ。僕は、モード大公と、領地の者達が処刑されたと聞いただけで、何も聞かされてない。
自分で調べようにも誰も彼も口を閉ざしている。教えてほしい…なぜ叔父は、大公は処刑されたんだ、なぜサウスゴータの家まで不名誉印など与えられたのか!」
「何も知らないのか!今更知って、今更、いまさら!」

体を起こしてウェールズに飛びかかろうとするが、人修羅がそれを止めた。
「離せ!ちくしょう、ちくしょう!」
ロングビルの腕と肩を掴み、動きを封じた人修羅に向けて、ウェールズが首を横に振った。
「いいんだ。離してやってくれ」
「…わかった」
人修羅はゆっくりとロングビルから手を離す。
だが、解放されても暴れる様子はない、ロングビルはただウェールズを睨み付けてるばかりで、手を出そうとはしなかった。
「護衛も杖も持たずに来るなんて、不用心だね。あたしを侮ってるのか、哀れんでるつもりか、ええ?」
「ちがう。 僕は本当のことを知りたいんだ。だから君がここに居ることも王は知らない」

人修羅もこの会話には参った。やはり自分は席を外すべきだろうかと思い始めたところで、ウェールズが人修羅の方を向く。
416アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 14:55:12 ID:8m1UfBfK
「すまないが…」
「いや、いい。外に出ているよ」
とだけ答えて、すぐに部屋の外へ出た。
が、人修羅の耳は普通の人間とも、使い魔ともちがう。意識を集中すれば二人の会話を聞くことぐらいたやすい。

『どうか教えて貰えないだろうか。僕には従姉妹が居たかもしれないんだ、若き日の王が如何に苛烈だったとはいえ、アルビオンの財務と宝庫を司るモード大公が家族共々処刑されるほどの罪があったのか、調べれば調べるほど疑問なのだ』
『…教えてやるよ、あんたらが、何をしたのか…』

人修羅は無言で、その場を離れた。

◇◇◇◇◇◇◇◇


しばらく後、人修羅はバルコニーから城内へと入り、給仕をしていたメイドに声をかけて寝所の場所を聞くと、メイドは気を利かせてロウソクの燭台を持たせてくれた。
夜目が利くから必要ないのだが、いちいち断るのも失礼だと思い、受け取る。

真っ暗な廊下をロウソクの明かりだけで歩いていると、廊下の途中に大きな窓が開いていてた。そこには月を見上げて涙ぐんでいる少女がいた。
桃色がかったストロベリーブロンドの髪と、幼さ残る白い頬に伝う涙……。人修羅は息をのんだ。

人の気配に気がついたのか、ルイズが振り向いた。ロウソクを持った人修羅に気がつくと、目頭をごしごしとぬぐったが、ルイズの顔はまた泣きしそうにくずれた。
人修羅が近づくと、ルイズは力が抜けたように人修羅の体にもたれかった。

「…………」
人修羅は、自分の胸に顔を押し当てるルイズを見て狼狽えそうになったが、何とか肩を抱きしめることを思いついた。
ルイズが人修羅の体を抱きしめると同時に、ルイズの肩をやさしく抱きしめる。

泣きながら、ルイズが心中を吐露した。
「ウェールズ皇太子も、陛下も、みんなどうして死を選ぶの?どうして……」
「…どうしてだろうな。正直言って、俺だって彼らを逃がしたい。でも彼らは死のうとしている」
「なによそれ。どうしてなの、愛する人より、大事なものがこの世にあるっていうの?」
抱きついたままのルイズの肩に手を置き、優しく背中に回した手を解く、そして人修羅は体をかがめてルイズに視線を合わせた。

「ルイズに願いはあるか?」
「願いって…」
「そのままの意味だ、カトレアさんの病気が治るとか、家族を守るとか、貴族として責任を果たすために自分が死ぬことを考えたことはあるか?」
「…あるわ」
答えにくい質問だったが、ルイズは正直に答えた。
「彼らにとって、今がその時なんだろう」

ルイズは、黙って人修羅の言葉を反芻していた。
貴族としていかなる死に様があったか、歴史を学べば嫌でも知識として蓄えられていく。しかし彼らの心中を見せつけられたことは一度もなかった。文章で語られる英雄譚への憧れは、ウェールズ皇太子をはじめとするアルビオン王党派を目の当たりにして崩れ去った。

「…だとしても、納得なんかできない…わよ…」
ルイズがそう答えると、人修羅は燭台を床に置いた。
「海賊に変装した皇太子達の前で、殺すなら殺せと言ったじゃないか。あの言葉が嘘だったとは思えない。あれは死に向かう覚悟を知った人でないと言えない言葉だ」
「でも、あれは、人修羅が居たし…」
人修羅は左手の甲を見せた。

「どうしても納得できないのなら、俺を使え」
「使えって…」
「俺は、この程度のルーンなら何時でもかき消せる。俺はルーンの力でルイズに従ってる訳じゃないんだ。このルーンさえ消えれば、俺はルイズの使い魔じゃなくなる。
使い魔でも何でもないアクマが皇太子を連れ去っても、貴族派を殺しても問題ないだろう。必要なら、俺に命令すればいい。ウェールズを連れ出せと…」

ルイズは顔を上げ、正面に見える人修羅に目を合わせた。
「だめ、だめよ!あなたは私の使い魔なんだから!そんな…絶対に、だめ!」
「それなら、これからどうする? このまま彼らを見殺しにするのか」
人修羅の視線はルイズを睨んでいるかに見えたが、ルイズにしてみれば、どこか懐かしさを感じるものであった。
気づいては居ないが、幼い頃のルイズはその瞳を何度も見ていた。
何の魔法を唱えても爆発させてしまうルイズを見守っていた、ヴァリエール公爵の瞳によく似た雰囲気なのだ。
公爵はルイズを不憫に思っていたが、蔑むような哀れみはかけなかった。己の責任に於いて魔法を行使するという責任感を育てるため、厳しく接してきた。
417アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 14:58:17 ID:8m1UfBfK

人修羅もまた、ルイズを甘やかしたかったが、辛い決断を促さずにはいられなかった。
この決断がルイズの血肉になってくれれば…そう思って、人修羅はルイズに選択を迫った。

「……もう一度、説得するわ。だって、あの人達に死んで欲しくないもの。」
それを聞いた人修羅は、にっこりと笑ってルイズの頭を撫でた。
「俺にはその答えが正しいか解らない。でも、俺も同じ考えだ。彼らに死んで欲しくないルイズも…あ、ルイズさんと一緒に、彼らを説得しに行くよ」

ルイズはくすぐったそうに身をよじると、頭に置かれた手を掴み、ぎゅっと握りしめた。
「もう…いちいち言い直さなくて良いわ。呼び捨てにして」
「えっ」
「いいの!」
「解ったよ、ルイズ……さん」
「……………」
「ル、ルイズ」
「それで良いのよ」

ルイズは満足したようにふんぞり返ると、人修羅の手を取って歩き出した。
「行きましょ、パーティの最中でも構わないわ、皇太子様に姫様の思いをもう一度伝えてみる」
「ああ、行こう」

人修羅は手をつないだままルイズの脇をすり抜け、ロウソクの燭台で廊下を照らした。
重い責任に潰されかけていた少女は、力強い足取りで歩みを進めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「殿下」
パーティの会場から一人離れ、バルコニーで城下を見つめていたウェールズは、背後からかけられた声に気がついた。
「おや、大使殿。楽しんでおられるかな」
「礼を失するのを承知で殿下に申し上げます。殿下、どうかトリステインに亡命なされませ。このパーティで笑っている方々を、死ぬと解っていて見捨てることはできません」

跪いて亡命を懇願するルイズを見て、ウェールズの表情が優しくほころんだ。
「案じてくれてるのか、私たちを。船の上でもそうだったが、きみは優しいのだな」
「…私は、貴族派の叛徒と如何にして戦ったのか、いかなる驚異なのかを一番ご存じな、皇太子殿下に亡命していただきたいのです」
「ふむ…、いずれ叛徒どもがトリステインへと牙をむくことをお恐れて、せめてその手口を知るためか?」
「それだけではありません。王家の血をここで絶やすのは、始祖ブリミルへの冒涜ではありませんか、せめて……せめて」

ルイズは頭を下げたまま懇願するが、ウェールズは動じない。
人修羅を見ると、そっと目を閉じて黙礼をした。ウェールズはこの主従に最後のはなむけをしてやりたくなった。
「もういい。君は私を説得するために色々と言葉を考えてくれたようだが、私の決心は変わらない」
その言葉を聞いたルイズは顔を上げ、ウェールズを見上げた。
「どうして、どうしてですか!姫様に一目会うことも、叶わないのですか!」
「守るべきものがあるからだ。守るべきものの大きさが、私を突き動かす。死の恐怖に愛情が麻痺しているわけではないし、アンリエッタをないがしろする気もないのだ」
「…殿下が、名誉のため死ぬのは解ります、ですが」
「それは違う」
ウェールズが語気を強めて言った。

「アンリエッタはいつまでも少女のままでは居られないのだ。大使殿よ、一つ伺いたいが…先ほどの言葉はすべて君の考えか?」
「は、はい」
「ならば、尚更私は君の言葉を聞くことはできない。君は非公式とはいえ大使としてウェールズ・テューダーの前にいる。国家から全責任を預けられているのだ、君の言葉はトリステインの言葉なのだよ」
「…………」
「ウェールズは勇敢に戦って死んだと伝えてくれないか。そして、一人の少女としてではなく、王女として理不尽に立ち向かえるようにと、彼女を守ってやってくれないか」
「……はい」
ルイズはもう、何も言うことができなかった。
自分が想像していたよりも、ずっとこの人達は大人だったのだから、少女である自分には何も言うことができなかった。

「今日はもう休みなさい。明朝にはなむけを渡そう。私はまだパーティに参加しなければならないのでね」
ウェールズはそう言ってバルコニーを離れ、パーティーの輪に入っていったが、すれ違いざまに人修羅へ視線を向ける。
418アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 14:59:50 ID:8m1UfBfK

「いいのか?」
人修羅がルイズの肩に手を乗せ呟くと、少しの間があって答えが返ってきた。
「うん…」
ぐしっ、と涙を拭き、ルイズは顔を上げて歩き出した。
涙こそ流しているものの、弱々しさは感じられない足取りで歩き出した。
「今日はもう休みましょう、明日は早いから…」
宴の席には混ざらず、今日はこのまま眠るつもりだろう。人修羅は「ああ」と返事をし、燭台を持ってルイズの後を追った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


ルイズを部屋に送り届けた人修羅は、眠る気になれず、バルコニーに向かって歩いていた。
明日には敵の総攻撃が始まる…そう言われて『なら明日の朝まで安全ですね』と言えるほど楽観的ではない。
奇襲に対処できるように、いつでも飛び出せるように、明朝まで外を見るつもりだった。

ふと気がつくと、後ろから誰かが近づいてくる気配がした。
殺気は感じられなかったので、無視して歩を進めていると、後ろから肩を叩かれる。
「きみ、明日は早いぞ」
「解っているつもりですが、なかなか眠れなくて」
人修羅に声をかけたのはワルドだった、ワルドは冷たい目つきで人修羅を見る。
「きみに言っておかねばならぬことがある」
冷たい声で言った。
「なんですか?」
「明日、僕とルイズはウェールズ皇太子殿下を媒酌人として、婚姻の誓いをする」
「え?」
人修羅は呆気にとられた。
「あの勇敢なウェールズ皇太子は、快く引き受けてくれた。この決戦の前に、僕たちは式を挙げる」
「ルイズさんは何と?」
「先ほど確認をした。ウェールズ皇太子の華々しい最後の仕事として相応だろうと言うと、良い返事を貰えたよ」
「そうですか…」
結婚を悩んでいたはずのルイズが、ウェールズ皇太子と話をしたことで、ヴァリエール家を守ろうと決断したのだろうか。
だとしても、あまりにも急だ。
「私たちはグリフォンに乗って、ラ・ロシェールまで下りるつもりだ、君は一足先に船でここを出発するといい」
「グリフォンで?」
「なに、二人が乗って滑空するだけなら問題ない」
「…ルイズさんがそう望むのなら、構いませんよ」
「では君とはここでお別れだな、明日は早い。寝ておきなさい」
「ええ」

そう言って別れはしたものの、人修羅に眠る気などなかった。
城下を一望できるバルコニーに出て、ひたすら外を見続けていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇

翌朝。

ニューカッスルから疎開する人々が、鍾乳洞に作られた港に停泊している『イーグル』号に列をなして乗り込んでいた。
硫黄を詰んでいた輸送船『マリー・ガラント』号にも、脱出する人々が乗り込んでいる。
そこにはロングビルの姿があった、艦に乗り込む順番が回ってきても船には乗ろうとせず、踵を返して外へと歩いて行く。
「おい、あんた」
「…なにさ」
「何処へ行くんだ、もう船は出ちまうんだぞ、これが最後なんだぞ」
「忘れ物しているんだよ」
ふらふらと歩いているロングビルに、誰かが声をかけるが、別の者がそれを止めた。
「よせやい、もう気がおかしくなってるんだ」
「でもよ、あんな別嬪さん」
「別嬪さんだから何かあったんだろ、俺達だって他人に構ってる暇はねえぞ、残りたい奴は放っておけ」
419アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 15:01:15 ID:8m1UfBfK

ロングビルは疎開する人々の声を振り払うように鍾乳洞の外へと歩いて行った。


鍾乳洞の外へ出ると、空の眩しさに思わず目を細めてしまう。
そんな彼女の耳に、聞き慣れた少年の声が聞こえてきた。
「ロングビルさん」
「人修羅…? ミスタ、何の用だい。悪いけど私は船には乗らないよ」
「…そう言うと思ってました。杖もない今、身を守るすべも無いでしょう」

人修羅が近づこうとすると、ロングビルはビクッ、と驚いて後ずさった。
「あ、何かしようってんじゃないです。それに、皇太子から何か聞いたわけでもありません」
そう言って、一本の剣と、『メディアラハン』の封じ込められた石を、ロングビルに渡そうとした。

「行くんでしょう。大事な人のもとへ」
ロングビルは警戒しているのか、人修羅から視線を外そうとはしない。
「あいつらが何か喋ったのか、どこまで聞いたんだい…」
「なにも聞いちゃいません。ただ、俺は船室で『ティファニア』って呟いたときから、ロングビルさんがその人に会いに行くだろうと思ってました」
「…あれは気のせいじゃなかったんだね」
「ええ」

剣を手に取ると、ロングビルは人修羅の顔をじっと見つめた。

「なんで…、あんたは私を気にかけるのさ」
人修羅はその時、ほんの少しだけ表情を変えた。胸にちくりとした痛みを感じ、思わず顔をしかめたのだ。
「俺はそれなりに平和なところで生まれたから、家族仲は悪くなかったし、友達もいた。でも戦争になって、友達とは生き別れて…再会は敵同士だった。
ロングビルさんの事情は知らないが、家族が大事ならできるだけ一緒にいるべきだと思ったんだ」

その言葉に感じるものがあったのか、ロングビルもまた、辛そうに顔を背けた。
「それと、これもやっておかなきゃな… 『スクカジャ』」
人修羅が何かを唱えると、ロングビルは体が軽くなるのを感じた。
「なんだい、これ」
「今のは身軽になる魔法。一日は保つはず…。それと『ラクカジャ』」
今度は体が何かに包まれ、力が沸いてくる気がした。
「これは?」
「剣で切られても、これなら傷一つつかないはずだ。効果はおそらく明日の今頃まで。その間に何とか危険な場所を抜けてくれ」
「ふうん…硬化とは違うんだね」

ロングビルは何かを考え、人修羅の方を向いた。
「…礼は言わないよ」
「ああ」


人修羅は、ロングビルを見送ると、鍾乳洞の方を向いた。
もう船は出航したのだろう、洞窟の奥に人間の気配は感じられない。

『なあ相棒、いいのかい』
背中のデルフリンガーが、心配そうに呟く。
「仕方ないさ、見捨てるわけにもいかないだろ」
『この間みたいに、敵の戦艦でもぶんどって帰るかね』
「それもいいが、もっと穏便に済ませたい。出来るなら血を流させたく無いし…」
『不思議だなあ』
「何が?」
『それだけの力があって、嬢ちゃんの事を大事に思ってるなら、これぐらいの戦争ひっくり返すかと思ったのさ』
「ああ…そうだな、ひっくり返しても良かった。ウェールズ皇太子には死んで欲しくない。 …本音を言えば俺がどこまで手を出していいのか、悩んでる」
『相棒はよう、どうしてそんなに悩むんだ、悩むのが悪いって訳じゃねえけどさ』
「そうだなあ、そうだ…。きっと、悩まないと”人間らしくない”から…?」

人修羅はふと空を見上げた、空にはまだ竜騎士の姿は見えない。
もし見つけたら、一匹捕まえてトリステインまで飛んでいこう、とりあえず行けば何とかなるだろう。
420アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 15:02:17 ID:8m1UfBfK

やれやれと頭をかきながら、ニューカッスル城に向けて歩き出した…その時。
人修羅の心に、じくじくとした何かが流れ込んできた。
「…なんだ?」
『どうした?』
「いや、ルーンが光って…」

 (いや!)

「ルイズ?」

左手のルーンを見ると、寿命を迎えたネオン管のように明滅している、そこから感じる僅かな魔力は、人修羅に何かを伝えようとしていた。
「ルイズの声だ」
耳を澄ませて、気を落ち着けて、弱々しいその魔力に耳を傾けた。
するとそこから何かが聞こえてくる、

 (やだっ、やめて!  どうして… ワルドさま どうして!)

悲痛な叫びと、脳内に伝わる血の色…血に染まったウェールズの姿…
「!」
瞬間、地面が爆ぜた。


◇◇◇◇◇◇◇◇


同じ頃、ニューカッスル城を取り囲む、王党派防衛線の一角にある礼拝堂。
ここには一般の者達も使うことはできる礼拝堂があり、ウェールズ皇太子は新郎と新婦の登場を待っていた。
この礼拝堂はアルビオンでも古くから使われている由緒正しい礼拝堂であるため、きらびやかな装飾こそ無いものの、王族の儀式に相応しい荘厳さがある。

アルビオン王族の礼服である、王族の象徴たる明るい紫のマントと、七色の羽がついた帽子を被ったウェールズが、扉の開く音を聞いた。

ルイズとワルドが礼拝堂へ入る、ルイズはその荘厳な雰囲気に気圧されることなくワルドと共に足を進め、ウェールズの前に並んだ。

ルイズの心は、驚くほど平静だった。
ラ・ロシェールでワルドに求婚された時とは違い、結婚を決意したわけではないものの、結婚を否定するほどではなかった。
朝早くワルドに起こされ、結婚式の装束を借りた時は驚いたが、感慨深い訳ではなくただ驚いただけだった。
そんな何処か冷めた気持ちが、今の自分なのだと気がついた。


ワルドの格好は、いつもの魔法衛士隊の制服である。
ワルドはルイズの服装を変えようと、アルビオン王家から借り受けた新婦の冠をルイズの頭に乗せようとしたが、ルイズはその手を遮った。
「新婦?」
「ルイズ?」
二人がルイズの顔を覗き込む、するとルイズははっきりと首を振った。
「どうしたんだ、ルイズ。気分でも悪いのかい?」
「違うの」
「日が悪いなら、改めて……」
「そうじゃない、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、今の私は何もできない、なんの力もない。それに、結婚を迷ってる私が、こんな気持ちで新婦の衣装を着るなんて、できない…」
ウェールズは首をかしげたが、すぐに笑顔を見せた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「はい。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、私は学生の身で、メイジとしても未熟なのです。ワルド様に相応しいメイジではないのです。」

ワルドは驚きこそしたものの、戸惑いは見せずにルイズを見つめた。
ウェールズはさてどうしたものかと考え、残念そうにワルドに告げた。
「子爵、この度の婚姻、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」
「仕方がありませぬ」
ワルドはそう呟くと、ポケットから小さな木箱を取り出した。
421アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 15:03:20 ID:8m1UfBfK

「……ルイズ、魔法衛士として王宮に仕えてから、君に会いに行かなかった僕の不誠実を許して欲しい。結婚は叶わぬまでも、せめてこの婚約の証として指輪を受け取ってくれないか」
「婚約の、あかし?」
「そうだ」
ルイズは驚きワルドを見た、ちらりとウェールズを見ると、仕方がないなといった感じで笑顔を浮かべている。
「ずうっと君に渡そうと思っていたんだ、トリステインの水精霊より深い、ラピスラズリの指輪を…」

ワルドはそう言うと、指輪をルイズに手渡した。ルイズは戸惑いながらも、その指輪を左手の薬指にはめる。
「ちょうど良いかな、どれ」
貴族の指輪は、一定以上のものであれば魔法による調節が効く、ワルドはルイズの手を取ってルーンを唱えた。

「……」
並の者なら聞き流してしまうであろう、その短い一言に、ウェールズが気づいた。
「子爵、君は!」
ウェールズは咄嗟に杖を構え、呪文を詠唱したが、『閃光』の二つ名を持つワルドはそれ以上に素早く杖を引き抜いて、『エア・ニードル』の詠唱を完成させた。

ウェールズの胸を、青白く光るワルドの杖が貫く。

「がっ、はっ…………貴様っ」
ウェールズの口から、先決が溢れ出る。ワルドは念入りにウェールズの胸をえぐると、杖を引き抜いた。

「僕には三つの目的があった。 一つはルイズ。一つは手紙…もう一つは君の命だ。ウェールズ」
冷たい瞳でウェールズを見下した後、ワルドはルイズに向き直った。
「さあ、ミ・レディ。グリフォンに乗って旅をしよう、手紙はちゃんと持っているかい?僕に貸しておくれ」
「はい」
ルイズは人形のように返事をし、手紙を渡した。
「…ここに、ございます」
「良い子だ」


◇◇◇◇◇◇◇◇


「ルイズ!」
人修羅が礼拝堂にたどり着いた時、すべては終わっていた。
開けっ放しのから中に入ると、ウェールズの親衛隊と思しきメイジが、ウェールズを治癒しながら必死に呼びかけている。

「殿下!」
「ウェールズ様!」
「何てことだ、決戦を前にして、こんな…」

人修羅はその場に近づこうとして、兵士に止められる。
「待て!これ以上近づいてはならん!」
「ウェールズは、皇太子はどうしたんだ」
「貴殿の知ったことではない!」

鼻につく血の臭い、そして怨念とも言うべき残留思念が、人修羅の五感を刺激した。
「どいてくれ」
「これ以上近づくなと…ぬおっ!?」

人修羅は兵士達の制止をふりほどき、ウェールズのそばに跪いた。
「間に合うか…『メディアラハン』」
詠唱と共に、ウェールズの体を人修羅の魔力が包み込む、すると胸の傷は一瞬でふさがり、周囲に飛び散っていた血液は光の粒子となってウェールズの体に還元されていった。

「水系統のメイジは誰だ? 殿下の傷は塞がったはずだ、見てくれ」
はたして人修羅の言葉は真実だった、水系統のメイジがウェールズの体を観ると、傷跡すら残らない完璧な治癒を施されており、傷ついたはずの心臓も完全に再生している。

「ばかな!そんな…いったい、今のは何なのだ、完全な治癒なんて、そんな事が」
水系統のメイジが人修羅を見て、そう叫んだ。
「それより、ここに居たはずのワルド子爵と、ルイズさんを…トリステインからの大使を見なかったか?」
422アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 15:04:19 ID:8m1UfBfK

人修羅がこの場にいる面々を見渡す、だが、誰も行方を知らないのか、返事は無かった。
諦めて立ち去ろうとしたその時、ウェールズが突然咳き込んだ。
「が、がふっ、は、はあっ、はあっ…」
「殿下!」
水系統のメイジがウェールズを抱き起こそうとする、ウェールズはその手を取って、先ほどまで大量の血を流し、心臓をえぐられていたとは思えぬ動きで立ち上がった。

「……傷が、傷がない」
「そちらの方が、見たこともない治癒をかけて下さいました」
水系統のメイジが言う、”そちらの方”を見て、ウェールズは驚いた。
「君は!脱出したはずではなかったのか」
「ルイズの身に何かが起こった、”嫌だ”とか”助けて”って声が、ルーンを通して聞こえたんだ。だから俺はここにいる」

ウェールズははっとして、辺りを見た。新婦の着るマントは踏まれ、冠は無造作に転げられている。

「しまった…ワルド子爵は裏切り者だったんだ、私の命と、大使殿と、手紙が目的だと言っていた」
「なに…?」
人修羅の目が鋭く、細められた。
「婚約の指輪を渡し、私はそれを見届けた、指輪のルーンは普通のルーンと違っていた、確か、土系統のルーンではなく、水系統のルーンだ。おかしいと思った私が問いただそうとして、ワルドに胸を貫かれた…」

ウェールズは自分の胸をさすり、傷口のあたりを押さえた。
完全に治癒されたとはいえ、先ほど胸を貫かれた感覚を忘れられはしない。

「痛みはない…君は治癒のメイジだったのか?」
「違う。治癒の力を持ったアイテムのおかげだ。…そういうことにしておいてくれ」
「…わかった」
「それよりも、二人が何処へ行ったのか心当たりはないか?」
ウェールズは少しの間考え込むと、はっとして顔を上げた。

「鍾乳洞だ、たしか子爵はグリフォンに乗って帰ると言っていた、トリステインに戻るとは限らないが、外はこれから戦場になる、ニューカッスルからの出口はあの港しかない」
「鍾乳洞か…わかった。 そして、すまない。」
人修羅はウェールズに礼を言うと、左手でデルフリンガーの柄を掴んだ。次の瞬間、ウェールズの顎に右拳がかすめ、ウェールズの脳は揺れて意識を刈り取った。

「何をする!」
一人のメイジが人修羅に杖を向けた。
「この人を死なせたくない。頼む、あんた達で殿下を連れ出してくれ」
その言葉に一同が驚く。
「しかし…」
「やりましょう、やりましょうよ、せっかく拾った命です」
迷っている兵達のうち、年のいった者がそう言って歩み出た。続いて若い親衛隊も口を開く。
「やりましょう、ニューカッスルの出口はもう一カ所あります。『フライ』が使えるメイジ三人も居ればなんとかなるでしょう」

「ミスタ、すぐに二人を追って下さい。私たちは殿下を逃がして見せます」
「…わかった」
人修羅は小さく頷くと、デルフリンガーの柄を掴んでルーンの力を引き出しつつ、礼拝堂の外へと飛び出した。


◇◇◇◇◇◇◇◇


鍾乳洞の中で、ルイズはワルドに手を引かれ、大穴の前で待つグリフォンに乗り込もうとしていた。

「さあルイズ、乗るんだ」
「はい」(いやだ…)

魔法学院を出た時と同じように、ルイズを前に乗せた。
「さて…ルイズ、しばらくはトリステインに帰れなくなるが、心配することはない。君の魔法は特別なものだ。きっとレコン・キスタでも君を重用してくれるだろう」
「はい」(嫌だ、嫌だ、嫌だ、嘘だと言ってよ…助けて)

ルイズが頷くと、ワルドは邪悪な笑みを浮かべた。
423アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 15:05:49 ID:8m1UfBfK

ルイズが頷くと、ワルドは邪悪な笑みを浮かべた。

「クァァァァァーッ」
「ん?」
と、突然グリフォンが雄叫びを上げた、ばさばさと翼を動かし、落ち着かない様子を見せる。
「何だ?…まさか」

グリフォンの様子は、明らかにおかしい。今までに見たこともない怯えを見せている。
ふと気がつくと、ワルドにも感じられる剣呑な気配が、鍾乳洞の入り口か港へと近づいてくる。これは戦場の臭いだと判断したワルドは、即座に『フライ』を唱えてグリフォンから飛び退く。

瞬間、閃光の二つ名を持つワルドでも反応できぬ速度で、何かかが飛び込んできた。
ズドンォン!という爆発音と共に、秘密港の入り口が吹き飛び、一瞬遅れて剣閃がグリフォンを掠める。
グリフォンは殺気に当てられ「ギィィ!」と悲鳴を上げた、主人を置いて船のいない穴へと逃げ出す。
「ちぃ…臆病な」
それを見たワルドが舌打ちをした。
ワルドに抱きかかえられたルイズは、うつろな目で人修羅を見、人修羅もまたルイズを見つめた。

(たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて、たすけて……)

「ルイズが嫌がってる」
人修羅が呟くと、ワルドが鋭く人修羅を睨み付けた。
「何? ルイズはこの通り、僕を選んだんだ、使い魔ふぜいが何を言うか」
「嫌がってる、と言ってるんだ」

ワルドは、ふん、と鼻を鳴らし、笑みを浮かべた。
ウェールズの乗る海賊船に拿捕された時、人修羅は空を飛べないから心配だと、ルイズが漏らしていた。
その言葉は本当のことらしく、大穴の上に浮かぶワルドに対して、人修羅は手が出せずにいた。
それを察したワルドは、位置的な余裕からか、ルイズに向かってこう呟く。

「なあルイズ、君は僕についてくる、だろう?」
「はい」
「使い魔がそれを邪魔してはいけない、そうだろう?」
「はい」
「さあ、使い魔に命令するんだ、邪魔をするなとね」
「はい。 人修羅、ワルド様の、じゃまを、しないで」

ルイズの言葉と同時に、人修羅の心に叫び声が聞こえてきた。体を操られ、心にもない言葉を放つ苦痛が、泣き声となって人修羅の心に伝わる。

「ははは、どうだ使い魔くん、君は「黙れ」
ワルドの言葉を遮り、じわりと、人修羅の体が輝く。
「ち、逆効果か。まあいい、ルイズ、君の魔法で彼を打ち倒すんだ、彼は僕たちを殺すつもりだぞ」
「はい」
「子供の時に見せてくれた練金のように、吹き飛ばしてやるんだ」
「はい」
そうしてルイズは杖を手に取り、人修羅に向けた。

424アクマがこんにちわ:2010/10/28(木) 15:08:40 ID:8m1UfBfK


(いやだ、いやだ、いやだ!)
(どうして、どうして、どうして)
(やめて、やめて!私の体はどうなってもいいから、人修羅!ワルドを倒して!)
ルーンから聞こえる声に、焦りを感じながらも、人修羅は隙をうかがっていた。
ルイズの魔法は閃光と衝撃を伴う、そのショックは人修羅が受けるばかりではない、ワルドも閃光に目をやられ音に気を散らされるはずだ。
ルイズを人質に取られている状態では、下手にワルドを混乱させることもできない、隙を突いて、ダンテの使っていた『スティンガー』か、ライドウの『的殺』が使うしかない。
ワルドの体を貫き、ルイズを抱き留めて、そのままの勢いで対岸の壁にデルフリンガーを突き刺せるはず…。
乱暴だがそれぐらいしか手は無かった。

そんな人修羅の覚悟を知ってか知らずか、ルイズは心の中で必死の抵抗を続けていた。
ルイズが練金のルーンを詠唱する、魔法は失敗し、爆発するだろう。
その爆発こそが、ルイズにひらめきを与えた。

(人修羅を傷つけたくない)

(どうか私の魔法、私の”意思”に従って)

(もう二度と魔法が使えなくてもいい、このまま死んでもいい)

(だから『爆発』よ、私を…)



詠唱の完了と同時に、ルイズの体から、系統魔法とは違う『力』が放たれた。

その流れは人修羅の予想に反し、人修羅を害すことなく周囲に散らばり、渦を巻いてある一カ所に集まっていった。

渦の中心には、ルイズが…


「やめろおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


人修羅が飛び出すと同時に、ルイズの体がはじけた。


◇◇◇◇◇◇◇◇
今回はここまでです。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 15:51:12 ID:SGd7P4LM
乙!!!
426名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 18:20:41 ID:CqOKgeGe
乙!
何時も楽しみにしてますぜ!
427名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 18:24:53 ID:7S6h/bRp
「空のおとしもの」のイカロス召喚。
428名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 19:20:34 ID:1zphL9SC
アクマの人乙!!

待ち続けた甲斐があった!
429名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 19:25:54 ID:FK8GRyPU
乙!
430名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 19:53:19 ID:HdVHipf5
ワルド乙
目的の全部を達成できそうに無いぜ
431名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 19:54:40 ID:65ZLbl7E
どう足掻いても勝てない相手だ…
ワルドが若干可哀想になった
432名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 20:18:45 ID:HdVHipf5
ふと思ったけどワンピースならシャンクスがいいかもね


ゼロのルイズが幾度もの失敗の末召喚できたのは何と片手落ちの赤い髪の平民だったのだ!

「ゲラゲラ!剣を持ってるみたいだけど片手の平民なんて役立たずもいいところじゃん!」
「まったくだぜ!貴族としてクソの役にも立たないゼロのルイズには平民としてクソの役にも立たない片手落ちがピッタリってか!」
「ププー!ル、ルイズあなた魔法の才能や貴族としての能力はゼロだけどお笑いの才能だけはあるわね、ゲルマニアに来てお笑いでお金稼いで貴族になったら?」
「役立たず同士、お似合い」
「う、うるさいわよ!平民!アンタのせいで高貴な私がいわれの無い誹りを受けてるのよ!土下座して地面を舐めて謝罪しなさ・・・」

しかしルイズが癇癪を起こして片手落ちの平民に掴みかかろうとした所でルイズはばたりと倒れた
ルイズだけではない
なんと周りでルイズを馬鹿にした生徒達、さらにはその使い魔たちまでもが白目をむき泡を吹いて気絶してしまったのだ
幸か不幸か若い頃から潜り抜けた修羅場の数が多いコルベールはなんとか意識を保っていられるが自分以外で意識を保っているのは目の前の平民だけ
恐らくこの状況を作り出したのはこの目の前の平民だろうが一体何故こんなことを・・・

「失礼、見知らぬ土地ゆえに多少威嚇してしまったが害意は無い」


しかし覇気は便利すぎて7万居ても歩いてるだけで気絶しちゃうから話にならんか
433名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 20:25:29 ID:PnFw6VdS
そこはシャンクス、土下座すんじゃね?
434名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 20:32:39 ID:DVXE1WzL
んでおマチさん相手にマジモードと
435名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 20:50:47 ID:vHDZczMm
キャプテンクロなら執事モードでおさまるんじゃね?
まあ頭いいからヴァリエール家の乗っ取りなど制度的に不可能だと知ればリッシュモンあたりに取り入るかもしれんが
436名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 21:40:50 ID:4tfokXh5
>>427
ここsage進行のスレだからageないでくれ
437名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 21:46:03 ID:FRJ0Xa0s
>>432
お前それ失礼云々を使いたかっただけだろw
438名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 21:49:39 ID:6BuTwjxV
一足遅れたが、アクマの人乙!
待ってたよ、ずっとね
439名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 21:52:34 ID:irsg9dGd
アクマの人、乙です
待ってて良かった
損失実験体の人、帰ってこないかなあ
440名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/28(木) 22:52:05 ID:dJhREAQS
ワンピースといえばキュルケがエースを召喚する話を書くと言った人はどうなったん?
441名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 00:33:55 ID:hF5j+c63
カードキャプターさくらの苺鈴を召喚。
なんだか似たような境遇だと思う。
442名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 02:54:24 ID:h0mxDZsm
>>424
龍の眼光

マカカジャ

マカカジャ

マカカジャ

443名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 03:01:04 ID:0nePHTjL
メギドラオンが抜け取るぞ
444名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 03:05:01 ID:td5XXKdH
たまにあるキャラの能力封印、または能力低下みたいな設定を見ると萎える
ゼロ魔世界との強さのバランスを考えてるのかも知れんが、
だからといって得意技が使えなかったり、使えても限定だったりで本領発揮出来ないなら
ぶっちゃけクロスオーバーする必要ないと思うし
445名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 03:28:48 ID:eJC6BfzX
うおおアクマの人が来てるじゃないか
原作とも差が出てきてますます楽しみだぜ

さて、次までに献花用の花を準備しておくか…
446名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 07:39:39 ID:ZHiFvLUM
あの作品のキャラがルイズに召喚されましたスレ控え室ってのが何故か浮かんだ。


ワルド「えーと次のシナリオは…(脚本を確認)…また死ぬのか私」
ウェールズ「いやぁ子爵殿は色んな死に方を体験できて退屈しなさそうだねぇ(ざまぁw)」

ジョゼフ「戦闘シーンがあるだけ良いじゃないか」
ヴィットーリオ「出番があるだけ(ry」
447名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 09:02:29 ID:/mTx9bbY
ギーシュ「実質ラスボスです」
448名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 09:03:59 ID:LdxFpJG4
で今まで犠牲になったギーシュは何人だね
449名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 09:08:59 ID:kJbSogRG
なんか自分の名前が一人称で心情まで喋ってくれちゃうクローン軍団でも出てきそうだなw
450名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 09:11:51 ID:kJbSogRG
>>440
たぶん火を焼き尽くすマグマの人と戦ってる
わしを主人公にして海軍のいめえじあっぷじゃとか何とか言われて
451名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 09:12:33 ID:0nePHTjL
ルイズがこれまでに召喚された使い魔に倒されたギーシュを使い魔にするというメタな小ネタを考え付いたんだが

ギーシュがいきなり強くなったりするのはあんまり無かったような気がするという問題点が発覚した
452名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 09:16:51 ID:obGOxisH
>>448
聞きたいか? 昨日までの時点で99822人だ
453名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 11:13:16 ID:8xQ7IOxh
>>447
噴いたwww
454名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 11:45:30 ID:leiOIxWN
ジーンダイバーから召喚でルイズの遺伝子を採取してブリミルまでジーンダイブ、歴史問題がすぐに解決するという展開が思いついた
勿論原作が完結してないからなんとも…だけど
455名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 12:59:25 ID:1ByKNWpe
>444
長編ドラえもんでまっさきに封印されるのが、もしもボックス、タイムマシン、どこでもドア
あるいは四次元ポケットそのものだと考えれば、別段おかしいともおもわんけどな。
456名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 13:56:16 ID:9v0qoWOI
ナノセイバーがカトレアの体内から治療するという話は考えたことがある
457名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 14:21:36 ID:vmibJNq3
>>452
トレーズ閣下何やってんすかw
458名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 14:31:18 ID:IRt0LRH9
>>455
その作品の世界で能力が封印されるのと
クロスオーバーの世界で能力が封印されるのとはやはり違うでしょ。
459名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 14:55:54 ID:G5SKnXYF
どっちもご都合主義には変わりないと思うけどな
460名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 15:05:37 ID:9v0qoWOI
>>444
だからこそ能力解禁できたときのカタルシスがでかいんだろう
姉妹スレだが、ミストバーンが召喚されたときのやつはスカっとした
461名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 15:25:11 ID:gQq9mibG
>>444
得意技っつーか必殺技がハルケの事情にあわなくて一度も使ってない
キャラもいるよな。
対艦番長のふがくとか。
それでもニューカッスルは通常爆撃だけで地獄絵図になってたがね。
462名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 15:51:41 ID:TfySKf/5
召喚されたキャラが戦闘力を持たない場合は、バトルよりも人物の交流を
楽しむことにしている。

極端な例だとコードギアスのナナリーが召喚されたときは
ルイズたちがナナリーの世話をしているというのがあったので
なかなか面白かったよ。そしてルイズはこういう人物なんだと思った。
463名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 16:30:00 ID:leiOIxWN
>>456
奴らに治せない病気はあるのだろうかw

なんだかんだ話の都合上というのは
クロスオーバーキャラでゼロの使い魔をやるのか、ハルケギニアでクロスオーバーキャラが冒険するのか
という作者の方向性の違いで生まれるのだと思う
464名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 17:27:22 ID:has/eeDF
実はギーシュはどこかの世界でゴールドエクスペリエンス・レクイエムを既に受けており、挙句ショックで死ぬたびに記憶を失ってまた二股騒動を起こしているとか。
465名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 17:30:08 ID:xFJ5WXnO
>>464
一発ネタとしては有りだったかもしれんな
ここに書いたからもう使えないけど
466名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 17:35:56 ID:9v0qoWOI
>>463
遺伝子の組み換えすらやってたんだから、少なくとも今ある病気で対応できないものはないだろうな
467名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 17:39:20 ID:Ay51CHcq
>>465
ジョジョネタだからこっちではノーカンにして
>>464が書いてむこうに投下すればいいじゃない
468萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:39:03 ID:5Sk9r19E
こんばんは。
進路クリアなら19:45ごろより37話の投下を行いたいと思います。

…一部の板で規制が入っていたのでこれが書き込めていれば、ですが。
469萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:45:24 ID:5Sk9r19E
書き込めたようですので投下します。

「ふがく!入るわ……よ……?」
「ちょ、ルイズ?まだ入っちゃダメー!」
 その日の夕方。シエスタたちとは離れた場所に庵を編んでいるルーリーを
呼んでのふがくの整備中。自分だけ蚊帳の外に置かれたルイズはちょっとした
悪戯心と興味本位であかぎの部屋の扉を開けて――すぐに回れ右した。
 勢いよく閉まった扉を見て、あかぎの部屋の壁に立てかけられた
デルフリンガーがカタカタと鍔を鳴らす。
「……あーあ。娘っ子、しばらく肉食えねーぞ、ありゃ」
「失礼ね!整備中だって言ってるのに勝手に入ってくる方が悪いのよ!」
 首も動かせないふがくが声を荒げる。そんな掛け合いにあかぎは微笑んだ。
「仕方ないわよね〜。ルイズちゃんも相手にしてくれなくて寂しいのよ〜。
 ……ところでルリちゃん、そっちはどう?」
「お前さんのと勝手が違うが、こんなところだろうね。電探の素子なんて
部品がないから切れた線を迂回する程度の応急修理だけど、これで後ろが
感知できないってのは少しは軽減されると思うよ」
「そうね〜生体部品も換えがないから傷んでいるところは表面を整える
くらいでそのままにしておくしかないわね。ルリちゃんも頑張ってくれたんだけど……」
 あかぎの言葉に、ルーリーは肩をすくめた。
「もっとも、アタシはお前さんのを作ろうとしたんだがね。あかぎ。
お前さんがここに来てからずっとアタシはその整備を手伝ってきたけれど、
ほとんど調整と部品の延命しかできてないじゃないか。鋼の乙女の稼働
年数が何年かは知らないが、そのままだともうとっくに稼働限界が来てるんじゃ
ないかい?
 でも、だからといって、ここに腰を落ち着けてからのその研究は無駄じゃ
なかったけどね。人の役には立ったし」
 ルーリーの言葉に、あかぎは興味津々とばかりに尋ねる。
「人の役?何かあったの?」
「ん?ああ、一昨年だったか、ガリアから家出娘が訪ねてきたんだよ。
リュリュって言ったかな?美食の探求で家を飛び出して放浪してるって、
方向性は違うがまるで昔のアタシを見てるようでね。
 で、どこで聞いたか知らないが、アタシが豚の肉からあかぎの生体部品……
まぁ、あの娘の話だともっと別の肉だったそうだけど、とにかくそれを
作ろうとした研究を聞いたらしく、食べられる『錬金』の使い方を教えて
欲しいってね」
「へぇ〜。すごいわね〜、その娘」
「それで、食べられる研究はしてないって言ったら落胆されてね。まぁ、せっかく来たんだしと食事を勧めたら、トーフの油焼きを口に
したとたんいきなり『これっ!』って目を輝かせたんだよ」

 『トーフ』とは、『豆腐』のことで、タルブの村では『ヨシェナヴェ』の
具の一つとして使われる。『ミジュアメ』と並んであかぎが作り出した
食べ物なのだが、ハルケギニアでは『にがり』を使うという発想が出なかった
らしく、またそれだけ食べてもほとんど味がしない(というより豆腐の
うまみが未体験で理解しづらい)、さらに作るのが手間で日持ちがしないと
いうことで外に広まらなかった食べ物である。トーフの油焼きは
大日本帝国陸海軍で患者食として供される挽肉油焼き(いわゆるハンバーグステーキ)の
豆腐版で、産後の肥立ちが良すぎたルーリーのダイエット食としてあかぎが
作ったものを、ルーリーが気に入ってしまったという代物であった。

「肉がほとんど入ってないのにおいしいって言ってくれてね。トーフが
何からできているかまで熱心に聞かれたよ。あれから顔を見てないけど、
元気にやってるかね、あの娘」
 そう言ってルーリーは遠くにいるリュリュに思いを馳せる。そんな
ルーリーにふがくは素直に感心した。
470名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 19:47:06 ID:5Sk9r19E
「へぇ〜私が寝ている間にそんなことがあったのね。……あら?」
 ルーリーの話からふがくの整備へと視線を戻したあかぎは、ふがくの
体内に奇妙なものがあるのを見つけた。
「どうしたの?あかぎ」
「……ふがくちゃん、どうしてあなたの体内に神経毒のカプセルなんて
ものがあるのかしら?しかも接合部位が微妙で、下手に外すとふがくちゃんが
大変なことになるわ」
 あかぎがふがくの体内、心臓と脊柱に挟まれた危険な場所に設置された
カプセルに眉をひそめる。ヒューズのような形状で、脳からの電気的な
刺激が引き金となって心臓と脊髄の神経系統を破壊するように設置された
それを、あかぎは不審に思った。
「そんなものがあったの?……うーん、私が造られたときにはなかった
はずだし……たぶん、超長距離単独渡洋爆撃が私の任務になるはず
だったから、失敗したときの自決用……かな?」
「それにしては変よ。できれば外したいけれど、私が持っている工具じゃ
無理ね。嫌な感じがするわ……」
 あかぎはそのカプセルに悪意を感じた。自分が日本にいたときに大本営が
招聘したあの男の影がよぎったのは、気のせいではあるまい。
「外せないならそのままでいいわよ。どうせ起動は私の意思でできるんでしょ?
外から強制的に起動させられるわけじゃないなら問題ないって」
「ならいいんだけど……。それから、ふがくちゃん、こっちに来てから
無茶な飛び方ばかりしたでしょ?自分である程度の整備はやっていたよう
だけど、本来あなたはたくさんの整備士と技術者が飛行ごとに整備や
調整をしないといけないくらいだって、忘れちゃダメよ?」
 そう言ってあかぎは調整と整備が終わったふがくの体を元に戻し、
服を着せる。ようやく動けるようになったふがくは、手や足の動きを
確認した後、ルーリーに少し離れるよう告げた。
 何が起こるか理解しているルーリーが一番距離が取れる部屋の反対側に
移動したのを見計らって、ふがくは扉に背を向けて電探を起動させる。
「……ルイズ、そこにいるんでしょう?もう入ってきてもいいわよ」
 整備してもらう前には感知できなくなっていた方向が多少もやが
かかったようであっても正しく感知できることにふがくが嬉しそうな
声を出す。もちろん万全ではないが、ろくな設備もないこのハルケギニアで
ここまで修復できれば御の字だ。
「おー。相棒直ったな。で、なんであのばーさんだけ離れるように
言ったんだ?」
「電探の探知電波出力の問題よ。試しにそれなりの強度を出すと、間近に
いる人間にはあまり良くないのよ。ルイズを抱えて飛んだときとかは
探知範囲が狭まってもそれなりの強度で抑えてるけど」
「なるほどな。で、俺っちもこれまで相棒に握られてるとき微妙に
熱かったりする覚えがあるんだが、これはやっぱりそれか?」
「アンタはいいでしょ?剣だし」
「ひでーな」
 ふがくとデルフリンガーがそんなやりとりをしているところに、ルイズが
入ってくる。まだ片付けが終わってないベッド周辺を無意識に視界の外に
追い出しているのは、詮無いことだ。
471萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:47:53 ID:5Sk9r19E
「も、もういいの?」
 やはり遠慮がちに聞くルイズ。そんなルイズの不安を解消するためか、
ふがくは意識的に胸を張る。
「問題ないわ。完璧、とは言えないけど、ここでできる最善を尽くして
もらったから」
「そ〜ね〜。時々遊びにいらっしゃいな。そのときにまた整備してあげるわ」
 あかぎもルイズの不安を打ち消すように微笑む。その様子を見た
ルーリーが、あかぎに言う。
「ここの片付けはアタシがしておくよ。ふがくも整備で流れ出た人工血液の
自己充填が終わるまで無茶な動きはしない方がいいから、みんなで茶でも
飲んできな」
「そうね。出血が多すぎた場合は補充が必要だけど、あれくらいだったら
自己充填できるわね。……でも、いいの?」
 確かに設備の整った場所での本格的な整備と違い、ここでの整備は
最前線での野戦整備よりもさらに条件が悪い。生体部品の維持のために
人工血液を止めることができず、ふがくは泣き言一つ口にしなかったが、
機能を停止せずに整備を受けることは苦痛を伴うのだ。そのある種の
惨状を一人で片付けるというルーリーにあかぎはそう言ったが、
ルーリーは気にするなと手を振る。そのすすめに従い、あかぎたちは
食堂に移動した。

472萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:49:17 ID:5Sk9r19E
 食堂では、シエスタの両親が食事の支度をしている途中だった。
昨夜に続いて貴族が泊まること、それにもう目覚めないと思っていた
あかぎと、普段はあえて距離を置いているルーリーまで来てくれたとあり、
雰囲気はいつも以上に暖かかった。
「さて、私も手伝おうかな〜?」
「あ、あかぎおばあちゃん。もう終わったの?」
 食堂に入ってきたあかぎたちを見つけたシエスタが駆け寄ってくる。
心なしか言葉が弾んでいる。
「ええ。今ルリちゃんが後片付けをしてくれているわ。私たちはお茶でも
飲んでなさい、って」
「それならわたしが淹れよう。ちょうど聞きたいこともあるしな」
 そう言ったのは、テーブルについていたアニエスだった。予想もしない
人物に、ルイズは驚く。
「な……なんで銃士隊の隊長がここにいるのよ?」
「詰所のわたしの部屋が丸焼けにされたからな。公私混同はしたく
なかったが、この家にはわたしの部屋もある」
 何を言っているんだお前はと言わんばかりの顔でそう言うと、アニエスは
立ち上がりお茶の支度をする。凛とした風体からは想像できなかったが、
その手際は細やかだ。
 やがてあかぎたちの前には湯気を立てる緑茶が並べられる。平民には
高価すぎる代物だが、この家が『ミジュアメ』の専売で裕福なことと、
ルイズがいるために用意されていたのだろう。かぐわしい香りに、
あかぎは安心したように言う。
「うーん。いい香り」
「わたしにお茶の淹れ方を教えてくれたのはあなただ。あかぎ母さん」
「ええ。ルリちゃんがいて、アニエスちゃんもいる。ジュリアンちゃんが
出仕していていないのが残念ね」
 ジュリアンはシエスタの弟で、今はトリステイン王国空軍に志願して
少年兵(ボーイ)だという。彼がその道を選んだのも、身近に空の勇者たちが
集っていたことが理由だと、想像に難くなかった。
 テーブルについた全員がお茶を一口含み終わるのを待ってから、
アニエスが口を開いた。
「まずは、ふがく。敵の攻撃を事前に察知しフネを爆破してくれたことに、
銃士隊を代表して感謝する。あれがなければ完全な奇襲となり、フネの
落着と同時に敵部隊に音もなく潜入されていれば殉職者はさらに増えていた。
当然、非戦闘員の被害も数多く出ただろう」
「殉職……ね。戦死とはしないんだ」
「敵の正体が判明していないからな。現状では貴族くずれの武装勢力による
襲撃とするしかない。まあおおよその見当は付くが、見込みで国際問題になる
報告書は書けんしな。それに姫殿下への報告には書いたが、公式の報告書には
お前のことを含めて公にされないことも多いだろう」
 それはアニエスによる精一杯の温情だったが、同時に『アカデミー』に
貸しを作ることにもなっていた。コルベールの告白など、その最たるものだ。
それ以外にも実戦投入された新型長銃やふがくやあかぎのような鋼の乙女の
ことも、歴史からは秘されることになる。
「なるほどね」
473萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:51:00 ID:5Sk9r19E
「それで、だ。わたしが聞きたいのは、お前のような鋼の乙女が、現状
あと何人こっちにいるか、ということだ。状況によっては姫殿下にご報告し、
対策を打つ必要がある」
 アニエスの表情は真剣そのもの。今回は味方に付いてくれたが、敵に
回った場合にどうするかを考えているのだろう。ふがくはルイズに目配せし、
ルイズが頷くのを見てから、話し始めた。
「私が知っているのは、今もどこかを飛び回ってるはずの急降下爆撃機型
鋼の乙女、Ju87スツーカのルーデルと、アルビオン脱出時に遭遇した
戦闘爆撃機型の双子の鋼の乙女よ。こっちは初めて見るから名前も
知らないわね」
「アルビオンだと?いったい何を……」
「それは言えないわね。密命だったから。とにかく、その双子のおかげで
任務は失敗。かろうじて出航前に私が預かっていたものを持ち帰ることが
できただけだったわ」
 ふがくの言葉に、アニエスはうなる。確かに、ここしばらくの王宮は
慌ただしい。先日シンら第八小隊から引き受けたアルビオン王党派の
残党を秘密裏に政治亡命させたことをきっかけに、本来このタルブを
含む空域を担当している竜騎士隊第二大隊が姫殿下の特命で移動し、
それが今回の奇襲を呼び込んだとも言えなくないとアニエスは考えていた。
自分の代わりに王宮にいるミシェルからの定期連絡では、アルビオンへ
艦隊を派遣する可能性があるともあり、タバサの一件がなければ、今頃は
自分も王宮に戻っていたはずだったのだから。
 そして、ふがくの言葉に、あかぎも目を丸くした。
「ルーちゃんがこっちに来てるの?それに、ふがくちゃんたちが遭遇した
その双子は、たぶんアメリカの鋼の乙女ね。黒いセーラー服と白いセーラー服を
着ていなかった?」
 ふがくが頷くと、あかぎはやっぱり、と溜息をつく。
「……彼女たちはP-38ライトニングのクラレンスちゃんとアリスちゃんね。
黒い服がクラレンスちゃん、白い服がアリスちゃん。アメリカ合衆国の
鋼の乙女だけど、空母エンタープライズのルリちゃんをリーダーとする
部隊とは指揮系統が異なる、偵察と諜報を主に行っていた鋼の乙女よ。
日米開戦前からその存在は知られていたんだけど、あまり表に出てこない
任務ばかりだったから、日本でもその動向には注目していたの。
表に出せない任務ばかりなせいか性格もあんまり良くないって聞いていたわね」
「クラレンスと、アリス……」
 あかぎの言葉を、ルイズはかみしめる。『イーグル』号を沈め、
老王ジェームズ一世やウェールズ皇太子を死に至らしめた双子――
その名前はルイズの脳裏に深く刻み込まれた。
「ルーデルに遭遇したのはトリスタニアとラ・ロシェール上空だから、
ひょっとしたらまだトリステイン王国にいるかも。双子の方は分からないわね。
『レコン・キスタ』に協力しているだけなのか、私みたいに誰かに召喚
されたのか」
「召喚?ふがくちゃんは私やエミリーちゃんみたいに、気づいたらサハラの
砂漠にいました〜♪じゃなかったの〜?」
 驚くあかぎ。ふがくは無言で左手のルーンを見せる。
「私はルイズに使い魔として召喚されたわ。でも、ルーデルもそんなこと
言っていたわね。ドーバー海峡を飛んでいたはずが、いつの間にか砂漠に
いたって」
「ちょっと待て。今『エミリー』も、と言わなかったか?」
 聞き捨てならない名前にアニエスが話に割って入る。何故かそのこめかみからは
汗が伝っている。だが、あかぎはそんなことは気にせずにさらっと言ってのけた。
474萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:52:22 ID:5Sk9r19E
「そうよ〜。そういえばアニエスちゃんは眠ってるエミリーちゃんしか
知らなかったわね。
 エミリーちゃんはアメリカ軍の重戦車型鋼の乙女。M26パーシングの
エミリーっていうの。砂漠に飛ばされる前はかなり酷い目にあったみたいで、
私たちが見つけたときには装備どころか全身バラバラになりそうなくらい
酷い怪我をしていたわ。とりあえず私の『癒しの抱擁』で修復したけれど、
こっちには専用の設備もないから意識が戻るまで十年かかっちゃったわね。
そうね、ちょうどアニエスちゃんがアンリエッタ姫殿下から銃士隊の
隊長を拝命した頃かしら。
 それで、エミリーちゃんにアニエスちゃんのことを話したら、
『私も力になりたいです』って飛び出しちゃったの。余計な騒動に
巻き込まれないようにって、装備は私が預かったんだけどね」
「あ、あれがあかぎ母さんやふがくと同じ鋼の乙女だと……?あれが……?
いや、確かに十年経っても容姿に変わりはないし常人より頑丈だし
腕っ節は十人力だし……いや、しかし……」
 椅子から立ち上がりよろよろと壁により掛かって頭を抱えるアニエス。
そのあまりの様子に、ルイズが心配になってあかぎに問う。
「……アレ、どういうこと?」
「う〜ん。確かにエミリーちゃんは性格が軍人には向いてないってゆ〜か〜。
ねぇ、ふがくちゃん?」
「私に聞かないでよ!まったく。
 ……それにしても、日本、ドイツ、アメリカの鋼の乙女がこんなにいるなんて。
だけど、特定の誰かに召喚されたのは私だけって……どういうことかしらね?」
 ふがくのその疑問に答えたのは、デルフリンガーだった。
「そりゃ相棒が『ガンダールヴ』だからじゃねーか。聖地に召喚されるのは
世界最強の武器、ガンダールヴの右手の長槍さね」
「『ガンダールヴ』ですって?!ふがくちゃん、『ガンダールヴ』なの!?」
 今度はあかぎが驚きの声を上げた。その視線はルイズとふがくを交互に
行ったり来たり。そうやってしばらくおたおたしたと思ったら、いきなり
大きく溜息をついて椅子に座り込み神妙な顔をした。その様子がよほどの
ことだったのか、アニエスも気を取り直して椅子に腰を下ろす。
「……そっか。そうだったのね。だとすると、この時期にルーちゃんや
ライトニングの双子たちが召喚されたのは、ルイズちゃんとふがくちゃんの
ためね。エミリーちゃんもぎりぎりそうかしら。
 でも、良くないわね」
「え?」
「いったい、何がどうなっているんだ?わたしにも理解できるように
説明してくれ」
「わ、わたしに聞かれても困るわよ!それに、そのことはウェールズ
皇太子殿下から絶対に誰にも言わないように、って言われてたのに……
この駄剣!」
 不意を突かれたような顔のふがく、混乱のるつぼにあるアニエス、
そして困惑するルイズ。ルイズの怒りの矛先がデルフリンガーに向くが、
当人(剣?)は呵々と笑うだけだ。
 あかぎはそんな三人を見て、やや表情を和らげる。
「そ〜ね〜。話してあげた方がいいわね〜。でも、長くなるから食事の
後にしましょうか」

475萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:53:32 ID:5Sk9r19E
 そうして――もう訪れる日は来ないとシエスタの家族が思っていた、
来客を交え家族のほとんどが揃った暖かく和やかな夕食の後、食堂の
テーブルに残ったのは、あかぎを中心にルイズ、ふがく、アニエス、
それに早々に片付けを終わらせたシエスタ。ルーリーは「余計なこと
言うんじゃないよ!」と釘を刺すと、自分の庵に戻ってしまう。
あかぎは四人を前に、ゆっくりとした口調で語り始めた。

 そう。三十年前のあの日につながる、自分たちのたどった道から……
476萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/10/29(金) 19:55:54 ID:5Sk9r19E
以上です。
今回はふがくのセクシー?シーンとタルブ編の種明かしでした。

ちなみに鋼の乙女の整備シーンはゲーム中では主にチハのエピソード
くらいしかないので、ちょっとサイバー風味にしてみました。

次回からは数回の予定でカリンちゃんも登場する過去編に入ります。

次回もなるべく早くお目にかかれるよう頑張ります。
477名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 19:57:32 ID:6FlezmIC
どんなキャラが召喚されるかにより原作とストーリーが
変わってくるのが面白い。
ウェールズ、ワルド、フーケにそれぞれ生存ルートと死亡ルートが
あるなどしていい。
478名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 20:07:27 ID:+W307mma
ウェールズ生存ルートと聞いて、一番にご立派様が浮かんでくるのだが…
479名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 20:10:23 ID:+xO9jrWN
藤○弘探検隊、アルビオンの奥地に迫ります!
480名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 20:14:55 ID:oXoXagpU
無能王がハチワンダイバーの谷生を召喚
何だか意気投合して将棋の勝ち負けだけがルールな世界を作るために二人で活動開始

というのを思いついたがルイズ側が脳筋ばかりで将棋で止めれそうな奴がいないことに気付いた
481名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/29(金) 23:44:26 ID:wP3kVMZ+
>>477
ワルドは死亡ルートの場合は120%悪ルートだけど、
生存ルートの場合は善ルートである事がタマにある。
482名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 00:22:58 ID:DvaKn9zk
萌え萌えの人、乙でした
そういえば日本の電探は後期にはかなりの性能まで上がってたそうですね
メザシの姉妹のこととか、暗雲たちこめてるようですが、やっぱアニエスはシリアスとギャグのギャップがかわいいな
ところで先日歴史秘話ヒストリアで初代金剛や比叡、トルコ艦エルトゥールル号を見ましたが、
ああいった蒸気帆船軍艦が鋼の乙女になったらどうなるんでしょうかねえ?
483名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 00:30:35 ID:PMFgF9ev
>>481
ワルドが味方になるルートはなのは召喚であった。
確か二重スパイで、どちらにつくか迷っていたが最終的に
トリスティンにつくことになった。

作品によるけど、召喚されたキャラがいた世界とつながりが
あるパターンもある。
484名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 00:45:57 ID:KSsINvfo
最近一日一回は必ずageる人がいるな
485名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 00:58:48 ID:egwPs4Zw
>>1に目を通していなくて知らない人も混じってるんじゃないかと思ってしまうわ
486名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 01:11:20 ID:Oy/07qXO
何かたまにワルドを超過大評価してる作者いるよな
ここじゃないけど、ワルドが超魔ハドラーに勝利してるSSを見た時は
流石に続きを読む気無くしたわ
487名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 01:25:55 ID:uFomlyFd
>>486
ワルドはメイジの最高位であるスクエアで偏在で増える事もできるから高レベルの勇者が大人数でかかったから勝てる
と、そういう考え方があるのかもしれない

でもワルドの魔法がライデインやバギクロスよりメチャ強いって訳でもなければやっぱ無理か

そのSSを知らんからワルドに負けるハドラーのコンディションもわからんし
488名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 06:43:45 ID:A3QNqnjI
>>487
戦いには相性というものがある、とヒュンケルさんも言ってるしな!
具体的には精神耐性がないからテファの精神操作で1発だろ、とか思う。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 07:13:18 ID:pwHDnSzJ
>>481
マスターチーフ、戦闘妖精、ゼロの花嫁なんかもワルド味方ルートだよね。
そう考えると けっこう多いかな。
ウルトラのワルドは?
ヤプールに憑依されてたり 怪獣化したりしてるけど、自分の意思で裏切ってはいないような。
490名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 08:05:44 ID:4MxEX7Bo
>489
蓮根に付いたのとブロッケンに憑依されたのは全く別の話ですぜ。
491名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 09:06:42 ID:yFZ3S08t
まったく空気読まずに発言するぜ

アイマスDSから秋月涼が召還されたりする話誰か書いてくんないかな?

あと美味しんぼから山岡士郎が召還、なんでも料理で解決してしまうとか
唐突に思いついてみた
492名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 09:20:43 ID:egwPs4Zw
アンキモ、アンキモ、アンキモ!

そいつを召喚しようとしてたけど、需要があるか迷ってる人が居たら書いてくれるんじゃない?
あとsageてね。
493名無しさん@お腹いっぱい:2010/10/30(土) 09:45:33 ID:sHc9Mu3p
某獅子帝の赤毛の親友が、新帝国の元帥服姿で招喚されたら
どうなるんだろう?
494名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 10:11:16 ID:ikeYERdB
リュウセイさん「みんな争うのはやめろ!決着ならこれでつけろ!」
ワルド「カブトボーグ・・・!」
ウェールズ「建設的な解決方法だね」
495名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 10:35:28 ID:FOXe5K2M
綾波レイを召喚。

ルイズ
「アルビオンで私を助けてくれたでしょ?」
レイ
「そう?あなたを助けたの?」
ルイズ
「覚えていないの?」
レイ
「いえ。知らないの。私はたぶん3人目だと思うから。」
496名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 11:50:12 ID:OonAWCFN
アニメ化も決まった事だしレベルEからツインテールマーメイド召喚

召喚の翌日、キュルケにゼロと呼ばれてから変われたルイズに対して
「ゼロってどういう意味?」
「あんたには関係無いわ」
ドスッ
「嘘つき」

昼食、ギーシュの落とした小瓶を拾って
「落としたわよ」
「ん?それは僕のじゃ無いよ」
ドスッ
「嘘つき」

土くれのフーケに破壊の杖を盗まれててんやわんやの大騒ぎにやってくるロングビル
「土くれのフーケを追っていました」
ドスッ
「嘘つき」

「ほんと嘘つきの多い国ね、まさか一巻の内に3人も殺すとは思わなかったわ」
497名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 11:52:11 ID:GuI6D4wn
???「アルビオンの一つや二つ!ワイのワイルドワイバーンで押し返したる!!」
498名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 11:59:52 ID:/0mttuvE
>「あんたには関係無いわ」
これは嘘というわけじゃないと思うんだが
499名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 12:20:18 ID:OonAWCFN
>>498
ルイズが自分が魔法を使えないことを大して気にして無いならそうだけど
実際にはその事をとても気にしてて、それが「一生のパートナー」である使い魔に関係の無い事とは思えなかったんで
ごめん
500名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 12:38:42 ID:DvaKn9zk
迷犬バウを召喚、文字通りのバカ犬
501名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 15:57:35 ID:y6aJGEpZ
>>497
ガンマさんあんたタマゴさんが居ないとヤラレ要員じゃないですか
502名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 17:34:17 ID:NlvYSAtd
締め撃ちがもてはやされていると聞いて
503名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 19:22:31 ID:fZPUcJ4d
野沢さん追悼の意味を込めて誰かコブラ呼ぼうぜ
504名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:00:55 ID:DvaKn9zk
遊戯王GXからプロフェッサー・コブラ召喚というなら考えた。
ユベルに騙されてたことでずっとふて腐れてたけど、ルイズの前向きな態度に少しずつ感化されていく。

対7万戦
「毒蛇の沼に沈め!ヴェノムスワンプ発動」
505名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:16:40 ID:Gi/jWmEk
ラストはどういうパターンになるだろうかな?
リリカルなのはだったら時空管理局が迎えに来てもとの世界に
帰るというふうになるだろうか。

本来は才人が召喚されるはずだったが他のキャラが召喚されることで
原作と内容が変わるというのは、過去にタイムスリップして介入すること
により本来の歴史が変わったというのと似ているだろうか?
506名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:21:44 ID:Oy/07qXO
そういや、意外にロト紋キャラっていないよなあ
ポロンの合体魔法とかキラの怪我が塞がらない奴(名前失念)とか面白そうなのに
507名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:27:57 ID:RdCrG7ID
幻魔剣だな。
劇中では傷口ごと噛み千切って対処したりとか、再生を封じる魔剣術を上回る超再生能力で対処されたり味方に使い手が来た時点で目立たなくなっちまったが。
508名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:29:47 ID:uYvaUkC2
だったら兄さんの人食いサーベルを

剣使うキャラならともかく剣そのもの呼んだらデルフの出番が消滅しかねないな
509名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:54:12 ID:rEX/z9b/
>>503
某動画でルイズがコブラ呼び出すってのがあったなw
サイコガン撃つ時に左腕の義手外さにゃならんが
510名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 20:55:05 ID:KkqKPxl4
むしろ兄さんを。
511名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 21:01:22 ID:REWyDqG8
>510
『頭が燃える使い魔』か。

【兄さん違い】
512名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 21:11:01 ID:NBu3n/pL
私の主人は凶暴です
513名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 21:16:37 ID:BSN7FHa4
兄さん…

ガンダム主人公で一番シスコンなシンアスカを召喚!
ルイズとは終止喧嘩するは、ゼロの悩みで選択ミスったり、ギーシュを一刀両断したり、
姫さんの頼みに噛み付いたりするアンチ主人公な光景しかおもいつかねぇ。何故だろう?

いざヴァリエール夫妻と喧嘩するときや、ちい姉様の体心配するときは目立つかな?
514名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 21:21:20 ID:M/ybB5cl
>姫さんの頼みに噛み付いたりする
まあアホな国王(というか首長)のせいで家族全部失ったという過去持ちだから
私情バリバリな序盤のアンアンとは絶対上手くいかないだろう
515名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 21:21:54 ID:VgWi4S5a
>兄さん
氷刀使いのブラコン少佐が何だって?
516名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 21:39:05 ID:DvaKn9zk
>>513
カトレアがステラをよんで、二人揃っての闘病生活
517名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 22:00:07 ID:vjAjOFeT
ガイア・ギアのアフランシ・シャアを召喚
南の島で暮らしてきた分サバイバル能力はあるし
ルイズの世話は出来そう
カトレアさんには甘えて言い寄るシエスタにはウザがりそう
そして知らん内にレコンキスタの総帥に収まりそう
518名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 22:07:13 ID:aplvPAIS
あれ黒御大時代の作品じゃなかったっけ。

鬱御大時代のVよりはマシかもしれんが。
519名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 22:08:37 ID:F9qhXGco
黒犬騎士団心得ぇー!
520名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 22:16:58 ID:ie20oZG7
>>515
( ◇)
521名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 22:53:29 ID:72nlpZ8w
>兄さん
いいツンデレだ、感動的だな。
だが無意味だ
522名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 22:56:07 ID:y6aJGEpZ
ギンガナムを召喚
ガンダールヴの効果で生身でターンXのスキルを使用可能
良い歳したおっさんが高笑いしつつ七色の蝶の翅で飛び回る

・・・・キモいな
523名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:02:02 ID:uYvaUkC2
どうやったらターンXの機構を再現できんだよ…
しかも普通に武人だろ大将は
524名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:07:56 ID:0Zxco34O
>>506
ロト紋は続編関係がちょっとあれすぎるので難しい気が
525名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:21:29 ID:x/toTUci
最近の兄キャラといえば、高坂京介が思い浮かぶ。
妹みたいに不機嫌オーラ常時展開するルイズに、京介は一体どんな対応するのかね。
もっとも京介が召喚された場合、京介本人よりも地球に残された連中の方が気になるわけだが。特に妹。
526名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:23:54 ID:ccrV/uvY
>>523
あの人なんで白兵戦でロランに負けちゃうんだろう。
527名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:27:37 ID:uYvaUkC2
>>526
負けたんじゃなくて剣が折れただけというか逆手に持ってたからあのままだったらギムが勝ってたよとかいう説とか
ロランは剣をパッと捨てられたから繭に巻きこまれなかったよとか色々と聞きはする
528名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:42:38 ID:o9qsug/r
あれはわたす剣間違えて自分のが折れちゃったから負けたんだよ
529名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:44:15 ID:s+U94cNa
素人がむしゃら剣術いなして斬り捨てようとしたら刀折られたとです、鉱山夫の馬鹿力には参ったとです
おまけになんか後ろから変なのに絡み取られてこの様です
530名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:53:28 ID:BSN7FHa4
>>524
キラとヤオと勇者二人が消失して、ポロンだけ役立たずになって残る。
しかもアルスは行方不明(でもドラクエ7の漫画見る限りでは、家族に見守られた老後を過ごして老衰死だっけ?

あの世界は何故か魔法消失だったな。ハレルヤと違っていろんな人が困ってたけど
531名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:59:39 ID:K1Q2PXcM
遊戯王5D'sよりアキさんこと十六夜アキ召喚。

魔法が使えないせいで周りから蔑まされているルイズに、
サイコデュエル能力を持っていたせいで周囲から疎んじられていたかつての自分を重ねて、
そんな自分に手を差し伸べてくれた仲間達のように、ルイズに手を差し伸べるアキさん。

同性で年齢も同じ、境遇も近いものがあるから極めて打ち解け易い。
おまけに現在まとめwikiにはゴッズ単体または主体のクロスオーバーは長編・小ネタ共に無し。

結構アリじゃね?
532名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/30(土) 23:59:43 ID:DvaKn9zk
まあガンダム系だったら「レディ・ゴー」の連中が究極なんだが
533名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 00:04:12 ID:x/FTYGAt
Gガンといえば、確か師匠が召喚されてた奴あったな。

ルイズのケツ引っ叩いて脅えさせるとか、良い意味で笑える内容だったんだが
3話くらいで更新止まってるんだよな。

続き読みたいなぁ。
534名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 00:18:19 ID:cvj9JOj3
よし、とある魔術のインデックスからアニェーゼさんを召喚しよう。

ギーシュ戦はSM的な意味で18禁です。もちろんギーシュがMでアソコを足で踏まれます。
535名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 00:33:04 ID:ETmr+p1Q
使い魔に作って貰ったお子様ランチを食べるルイズの図というのが浮かんだんだが…
名前を伏せられたままの料理を至福の表情で食すルイズと、料理の名前を聞いて後方で腹筋崩壊してるキュルケみたいな。

料理の名前をバラさない代わりに、タバサにもご馳走してあげて頂戴とか言いそう。
536名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 00:52:42 ID:twFBFuKW
>>531
遊星「今わかったぜ、ルイズ!お前は自分の力に愉悦を感じている!自分の破壊魔法で他人を傷つける事を楽しんでいる!」
ルイズ「ええそうよ!それの何が悪いの!」


>>533
俺もあれ面白かったからちゃんと続いて欲しかった
537名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 00:58:21 ID:I9avW4v/
>>530
続編のポロンの海賊キャラは個人的には好きだがな
あれで魔法使えたら最強キャラなのに勿体無い

続編の世界は世界中にマホトーンかけられてるみたいなもんだから
ゼロ魔の世界なら魔法使えてもおかしくない気がする
538名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 01:00:58 ID:zxWa5QIi
>>519
友情!努力!勝利!
539名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 01:12:31 ID:DukltH3Y
Gガンの師匠ってあのスレの東方不敗召喚?
先に出てたドモン召喚SSの「タルで洗濯」をパクった挙句、
「師匠なら気合でドライまで出来るんだぜ!」と手から気功出して水分蒸発させてたヤツ?

アレを許したらあのスレがなろうレベルになるだろ
540名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 01:55:36 ID:JB8jiZJ+
大豆「分かんないわ、姫さまが逃げてって言ってるのに……、恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶのよ?」

???「・・・(平民を家畜同然に扱ってきた報いだというのに、ルイズはまだそんな事を。こんなルイズを、ハルケギニア守る価値があるのか?)」
541名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 02:46:36 ID:FOr0BYS+
>>530
まあ…後付けだからなあ。紋章が沼に落ちてTに続く、というエンドにしたけど再びロト紋の続編を描くことになったわけだし
一応続編で魔法が使えなくなったのはドラクエV→Tの時系列で魔法が減ったことをネタに、魔法の失われた歴史を現しているらしい
542名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 03:30:24 ID:rmQ6VVV+
今更だが>>519
エンジョイ&エキサイティング!!

ベルセルクの使徒を召喚するとしたら誰が一番物語成り立つだろう。
E&Eな黒犬さんとか惨劇が目に見えてるし、ゾッドさんはルイズになんか従わず飛び去って強い相手探し始めるだろうし。
まだマトモそうなのは新生鷹の団幹のロクスさん狩人さんグルンさん辺り?
543名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 08:44:25 ID:FOr0BYS+
殆どの使徒は一番大切なものを捨てた怪物だから、まだ本性が現れてないだけで新生鷹の団の連中もいろいろ怪しくはあるかも
しかしワイアルドレベルの使徒の体力はゼロ魔だと削りきれるのだろうか
544名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 09:02:24 ID:EHfkWe2o
>>530
それよりも続編連載開始してから6年くらいたつのに
謎とかがまったく解明されず、トーナメント展開を一年以上やったりとグダグダ過ぎるのが…
下手にクロスさせると設定矛盾が大量に発生しかねない
545名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 11:44:26 ID:rmQ6VVV+
ゼロ魔世界なら魔法つかえばまあガッツのできる以上の破壊力は出せるだろうし、トライアングル以上が複数寄ってたかって攻撃すればある程度の使徒は倒せると思う。
ワイアルド、ゾッドクラスの超回復使徒は……まあ虚無とかなら倒せるんじゃないかな。
ガニシュカはもはやどうやって倒すのレベル。
ゴッドハンドクラスも幽界に届く攻撃手段が無さそうなゼロ魔じゃ無理そう。
546名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 12:53:54 ID:cvj9JOj3
超回復能力は細胞の働きを活性化させるために熱が必要になるから、
風と水の使い手がいればなんとかなると思うんだ。

剣もまともに使わん化物よりは、もっと人間じみた奴がよくね?
よし、1/Nゆらぎから剣士カミッツ召喚しよう。一応最強の剣士設定があるし。
547名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 12:59:42 ID:Tkq/nGHb
「そらのおとしもの」のエンジェロイド一味を呼べば面白いのに。
イカロス&ルイズ、ニンフ&ジョゼフ、アストレア&テファコンビなら
髪の色もほとんど同じだし。
548名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 13:02:08 ID:AFyz+5WT
多重人格ルイズ
西園伸二とか霊界探偵とかを脳の中に召喚したルイズ
549名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 14:08:54 ID:SBs4+aA3
>>548
西園伸二とかカズヤみたいのばかりだとバランス悪いから
善のサガと善のマティウス皇帝とダークブレイン(偽関西弁)とテューディも加えてくれ
あとはフィリアとランティス博士
550名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 14:51:32 ID:hbL2WUmq
>>526
御大将が負けた理由の一つに月と地球の重力の差って考察あったな
あれだけムキムキなのに腕力負けてたっていう
551ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/10/31(日) 15:42:09 ID:DW8t3Tlj
皆さんこんにちは。ウルトラ5番目の使い魔、20話の投下準備できました。
問題がなければ、10分おいて15:50より開始いたしますのでよろしくお願いします。
552疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 15:42:52 ID:b7fhJ+Xg
ご無沙汰してます。
もし問題なければ15:50より14章投下します。
553疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 15:44:12 ID:b7fhJ+Xg
あちゃあ・・・・・・なんという無駄な奇跡
引っ込みます。この場合、ウルトラの人の後でいいのですかね?
554名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 15:45:37 ID:+QFefbxD
後でいいんじゃないだろうか
555ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/10/31(日) 15:50:26 ID:DW8t3Tlj
ではお先させていただきます。
 二十話
 ウルトラ大相撲! 百番勝負
 
 すもう怪獣 ジヒビキラン 登場!
 
 
 ハルケギニアにも秋が来る。
 例年にない猛暑が続いたブリミル暦六二四二年の夏もその暑さを減じ、蝉に変わって鈴虫が鳴く季節がやってくる。
 この地方は基本的に温暖で、日本ほどはっきりと四季が分かれているわけではないけれど、それでも季節は移ろいゆく。
 山では木の実がたわわに実り、海には丸々油ののった魚が群れをなして帰ってきた。
 これら、当たり前だといえばそうなのだが、地球とはまったく起源の違う惑星で、これほど自然環境が
似ているのは宇宙の神秘といえるだろう。
 トリステイン魔法学院でも、旬を迎えてやってくる食材の数々に、食堂のコックたちは腕を振るう。
 ああすばらしきかな食欲の秋。
 でも、彼ら学生にとっての本分はこれから。勉強しやすい季節になって、先生方はこぞって宿題を出し、
毎夜生徒たちはノートと教科書を前に悪戦苦闘。
 少々厳しい読書の秋。負けるな若者、この苦悩もまた青春だ。
 
 
 一方、トリステインで夏の終わりの長雨が終わった頃、空のかなたの浮遊大陸アルビオンでも季節の
変わり目をむかえていた。
 復興が進む各地方都市では、大陸各地からの名産品が集まってくるようになり、市場に活気の花が咲く。
アルビオンはトリステインなど下界に比べて寒冷で、冬になったら雪に閉ざされるから、今から年越しの
準備に余念がない。少し前に才人たちがお世話になっていたサウスゴータ地方のウェストウッド村でも、
森の木々が枯れ葉を散らし始めて、ティファニアはそろそろ薄着に肌寒さを感じ始めていた。
「はぁーっ、最近は急に冷え込むようになってきたわね」
 手のひらに息を吹きかけて暖めながら、ティファニアは行商人から買った品物を家の中に運び込んで一息をついた。
「最近は品物が安くなって助かるわ。これも戦争が終わったおかげね」
 家の中には、野菜や果物、穀物やパンのほかに生活雑貨が小さな山を作っている。長く続いた
アルビオンの内乱が夏に集結し、秋になるとその恩恵はこのウェストウッドにもやってきたのだった。
 思えば、あの王党派とレコン・キスタの内乱は、アルビオン全体が悪い夢を見ていたようなものだった。
戦艦ロイヤル・サブリン号の反乱から始まった内乱は、あれよあれよと広がって、気がついたときには
国を二分する決戦となっていた。始祖の血を守ろうとする王家と、ここ数百年おこなわれたことのない
はるか東方の聖地奪還戦争を再開しようとするレコン・キスタ。ぱっと見では華々しく華麗な戦争歌劇だが、
終わって思い起こせば、そんなことで戦争をしたのかと馬鹿馬鹿しく感じてしまう。
 でも、これを教訓としなければ、死んでいった者たちも浮かばれまい。
 先日国王に即位したウェールズ皇太子は、もう二度とヤプールなどに付け込まれないように、国の建て直しに
腐心しているようだ。噂では、トリステインを見習って平民や女性の登用を始めたり、戦時中にあぶれた大量の
傭兵が野盗に転じないようにいろいろ手を尽くしているらしい。詳しいことはティファニアにはわからなかったものの、
流通が安定したことで物価が安くなり、ロングビルの仕送りの範囲でもけっこう余裕をもって買い物ができる
ようになった。そのほかも、ウェールズ新国王は若さをいかして精力的に改革に取り組んでいるのだが、
とりあえずウェストウッドまで伝わってくるのはまだそれくらいである。
 ティファニアは、戦争中は戦火が及んでくるようなところではなかったので意識してなかったけれど、
やっぱり平和はいいものだとしみじみ思った。
「今日はお肉が手に入ったから、サイトから教えてもらったスキヤキというのをやってみようかしら? 
みんなもうすぐおなかをすかせて帰ってくるから、がんばらなくっちゃね」
 ティファニアはエプロンを結ぶと、日が暮れたらやってくる可愛い十数人の食欲魔神に立ち向かうために、
キッチンに立って、かまどに立ち向かい始めた。
 この、たいした娯楽のない森の中の村でも、子供たちにとってはこの上ない遊び場となる。
夏場は照りつける日差しが強すぎて木陰で伸びて、小川で水遊びをしていた彼らも、秋の涼しさの中では
存分に駆け回ることができる。
 特に、最近ウェストウッド村の子供たちのあいだでブームになっているものがあった。
「はっけよーい! のこった!」
 地面に引いた丸いわっかの中で、男の子二人ががっぷりと組み合って力の限りに踏ん張りあう。
「のこった! のこった!」
 周りの子供たちからは、顔を真っ赤にして組み合う二人に声援が送られる。
 そして、押し合い引き合いの駆け引きの末、片方の子が相手の一瞬の隙をついて投げ飛ばした。
「東ぃー、チックのやまー!」
 うちわで作った軍配をかざして、行司のアイが勝者の男の子の名前を高らかに呼び上げる。
 そう、今ウェストウッド村ではすもうが大ブームなのだ。
「よぉーし! 今度はおれが相手だ」
「ジムが相手か、返り討ちにしてやるぞ」
「言ったな。今日こそヨコヅナはおれのものだ!」
 また元気よく、土俵の中で二人の男の子がしこを踏んで向かい合う。
 もちろん、これを教えたのは才人である。夏休みにここで遊んでいた頃、なにか面白い遊びはないかと
聞かれて、考えた結果教えたのがこれであった。なにせ、すもうは野球やサッカーなどと違って道具は
一切必要ない。地面に輪を書けば土俵が出来上がる上に、ルールも相手を土俵の外に出すか、
殴る蹴る以外で相手を地面に触れさせればいいだけと極めてシンプルだ。
 子供たちも、最初はかっこ悪いとしぶっていたものの、すぐにその力強さが気に入ってしまった。
「がんばってチック!」
「なんの、今日こそジムが勝つんだからね!」
 女の子たちも、応援している男の子に声援を送る。
「よーっし! 見合って見合って」
 すっかりみんなになじんだアイが軍配を下げて、次なる勝負の始まりだ。
 これぞまさしくスポーツの秋。
 今日もまた、一日で一番強かった子に授けられるヨコヅナの称号をかけて、日が沈むまでのこったのこったと、
子供たちの掛け声がウェストウッド村に響き渡る。
 
 
 そして、時空のかなたの青い星でも、珍しい取り組みがおこなわれていた。
「えーい!」
「うわーっ!」
「リュウさん! 大丈夫ですか」
 思いっきり投げ飛ばされて宙を舞ったリュウ隊長に、慌てたミライが駆け寄った。
 ここは日本のとある地方の山間部。そこにある神社の境内で、リュウたちCREW GUYS JAPANの
メンバーは、今赤いちゃんちゃんこを身につけた小太りな少年と、すもうで対決をしていた。
「弱い弱い、さあもっとすもうとろうよ」
 リュウをあっさり投げ飛ばした少年は、境内に作った土俵の中で無邪気に笑って次の相手を待っている。
でも、GUYSで一番力持ちのリュウを軽々と投げ飛ばした少年に、カナタをはじめ新人隊員たちもたじたじだ。
 しかし、なぜ地球防衛組織であるGUYSが子供とすもうをとっているのだろうか? その答えは
数時間ほどさかのぼる。
 
 異世界での戦いからこちらでも一ヶ月半ほどが過ぎ、GUYSはヤプールの復活以来、地球でもまた
出現しはじめた怪獣の撃退に連日取り組んでいた。そんなある日、奇妙な情報がフェニックスネストに
寄せられてきた。
558名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 15:53:34 ID:b7fhJ+Xg
支援
「すもう小僧が山から下りてきた?」
 新人のオペレーターからその報告を受けたとき、リュウは最初なんのことやらさっぱりわからなかった。
これがテッペイだったら、わかりやすく資料をまとめて説明してくれるだろうけど、今彼は医者の勉強のために
大学に戻っている。マリナ、コノミ、ジョージも現在は本業に復帰中。旧メンバーで残っているのは自分と、
一度光の国に報告に帰って、また戻ってきたミライの二人だけだった。
 でも、いつまでもOBに頼るわけにはいかない。これからのGUYSを背負っていくのは彼ら新人たちなのだ。
報告をそのまま持ってきた隊員は軽くとがめられると、自分なりに資料をまとめてリュウに提出しなおした。
「ドキュメントUGMに記録があります。すもう小僧というのは、足柄秘境に住むすもうの神様と呼ばれている
少年で、数十年に一度山から下りてきてはすもうをとってくれると地元の子供たちからは親しまれています。
ですがその正体は、ジヒビキランという怪獣なんです」
「へーえ、相撲取りの怪獣か」
 怪獣といえば恐ろしい奴ばかりかと思っていたリュウは、そんなユニークなやつも中にはいるんだなと感心した。
「記録では、百番のすもうをとると満足して山に帰るそうです。しかし、万一怒らせてしまうと、手のつけられない
凶暴な怪獣になってしまうそうです」
「そりゃやっかいだな。だが、なんでまたそんな奴がやってきたんだ?」
「先日、足柄秘境の近くで地底怪獣マグラを撃破したときのことをご記憶でしょう。恐らくそのとき、奴が
起こした地震が原因ではないかと」
「やれやれ、迷惑なことしやがって」
 怪獣は怪獣を呼ぶ。ボガールのようにぞろぞろと目覚めさせてくるのもいれば、レッドキングのように
別の怪獣がいればとりあえず喧嘩をふっかけるために出てくるようなのまで様々だ。
 リュウは、相手が怪獣でもいつもとは違うにおいの事件に、前にファントン星人の落とした非常食料を
街中走り回って探したときのような、面倒さを感じた。しかし、人々の平和を守るGUYSとしては座視
するわけにはいかない。
「それで、まだそのすもう小僧というのは町に入ってないんだな?」
「はい、ですが過去にも誤って彼を怒らせてしまったために、近隣の町に少なからぬ被害が出ています。
ものすごい怪力の持ち主らしいので、怪獣化させたら大変ですよ」
 それを聞いた隊員たちは、怪獣になる前にやっつけてしまえばいいと主張した。しかし、ミライは
真っ向からそれを否定した。
「待ってください。怪獣でも、怒らせない限りはおとなしいやつなんでしょう。むやみに攻撃するなんて
かわいそうです。人間が宇宙の一員であるように、悪さをしない怪獣はこの地球で人間と共存する
権利があるのではないでしょうか」
 人間、ヒビノ・ミライとして、彼は主張した。宇宙には、悪さをしない善良な怪獣も数多くいる。
ボッチ村の歌好き怪獣オルフィ、宇宙で一番美しいといわれているローラン。それに兄である
ウルトラマンタロウは少年時代に怪獣の友達がいたそうだ。
 そしてリュウもまた。
「ミライの言うとおりだ。俺たちGUYSは殺し屋じゃない。相手が無害だとわかってるなら、攻撃する
必要はない。それに弱いものいじめは、俺の性にあわねえ」
 昔、ディノゾールに仲間を全滅させられ、怪獣に対する憎しみに凝り固まっていたころに比べて、
リュウも人間としてはるかに成長していた。隊員たちは、弱いものいじめといわれて自分たちの
好戦さを反省し、ミライも満足そうにうなづいた。
「しかし隊長、今はおとなしくても万が一ということもあります。GUYSとして黙って見ているというわけには」
「そうだ、出動するぞ。ただし武器は持たずにな」
「は? ですが武器なしでどうやって」
「ようはすもうをとれれば満足するんだろう? だったらやることは簡単だ。よっし、GUYS・サリー・GO!」
「G・I・G!」
 
 というわけで、リュウたちGUYSは現地に急行した。そして町に入る前のすもう小僧を見つけて、
正々堂々と勝負を申し込んだのだった。
 
「すもう小僧! 俺たちGUYSが相手になってやる。百番すもうをとったらおとなしく山へ帰るんだ」
「わかった。お前たち強そうだな。よーし、すもうとろうよ」
 こうして、すもう小僧VS新生GUYSのすもう合戦がはじまり、今にいたるというわけだ。
「まず一番手はカナタだ。相手が子供だからって油断するな。ああ見えても怪獣だぞ」
「わかってます。まかせてください!」
 リュウに指名されて、新生GUYSの期待の星、ハルザキ・カナタがまずは土俵入りした。
 地元の相撲部が使用している神社の土俵をお借りして、二人の力士が見合って塩を振る。
 行司はリュウ。ミライははじめて見る相撲とやらに興味深深で見学している。
 でも、いざ取り組もうとしてしこを踏む番になったら、すもう小僧がしこを踏むたびにすさまじい
地震が引き起こされた。
「どすこい、どすこい!」
 すもう小僧からしてみれば、軽くしこを踏んでいるだけなのだろうけれど、一歩ごとに森の木々から
鳥たちが逃げ出して、古い神社の建物がびりびりと震える。一同はそれだけでひっくり返ってびっくりだ。
 しかしそれでも気を取り直し、まずは一番。
「見合って見合って、待ったなし。はっけよい、のこった!」
 はじかれたように飛び出したカナタとすもう小僧ががっぷりと組み合う。
 けれど勝負はあっさり決まった。すもう小僧の頭上にカナタは軽々と持ち上げられて、ひょいと
放り投げられて勝負あり。まずはすもう小僧に白星ひとつ。カナタは目を回して早くも戦線離脱した。
「まだまだ。もっとすもうとろうよ」
 あっけにとられていた隊員たちは、すもう小僧の余裕しゃくしゃくな声で我に返った。
 正直、子供の姿なので油断していた。しかしこの金太郎のようなすさまじい怪力は、やっぱり怪獣だ。
 そこへ、人間離れしたすもう小僧のパワーに気おされて尻込みした隊員たちに、リュウの叱咤が火をつける。
「お前ら、いい大人がそろいもそろってびびってんじゃねえ! GUYSの隊員なら、根性見せやがれ!」
 マリナいわく、熱血バカの真骨頂がここで発揮された。スポ根、熱血、どんと来い。倒れるならば
前のめりに思いっきりこけろ。旧MACでは、素手で星人との格闘戦をやることが日常だったそうだ。
それに比べたらこのくらいでなんだ。それでもお前たちは男か!? 尻を蹴っ飛ばされた隊員たちは、
気合を入れなおしてすもう小僧に立ち向かう。
「よぉーし、隊長! 次は俺がいきます」
 だが、気合はどうあれ結果は散々だった。
 新人隊員たちは一人残らず投げ飛ばされ、みんな地面に転がってグロッキーになっている。
 最後に、こうなったらGUYSのプライドにかけてとリュウが挑んだが、やっぱり勝負にならなかった。
「あいたたた……くっそー、俺が負けるなんて」
 根性見せて、新人たちみたいに伸びはしなかったもののリュウのダメージも甚大だ。実はすもう小僧は
昔にも、勝負を挑んだUGMの隊員たちを全員あっさりと返り討ちにしたほど強いのだ。
「どうした? もう終わりかい」
「ちっくしょ……あいたた」
 まだまだ元気一杯のすもう小僧に対して、リュウたちはもうボロボロだ。一人だけミライが残っているけれど、
いくらミライが地球人以上の身体能力を持っているからといって、百番まであと九十番近くもあるのに
一人だけで取り組ませるわけにはいかない。
「なーんだもう終わりかあ。それじゃあ」
「ま、待て! いてて」
 立ち去ろうとしているすもう小僧をリュウは慌てて引き止めた。これはまずい、ここまで強いとは
思っていなかった。しかし、全員打撲で動けない上に、自分も腰が痛くてまともに立つことすらできない。
 ところが、ここで思わぬ援軍が神社の階段を昇って彼らのところにやってきた。
「あれぇ、リュウさんじゃないですか? どうしたんですかこんなところで」
「あっ、コ、コノミじゃないか!」
 なんと、幼稚園の仕事に戻っていたはずのコノミが子供たちを連れてやってきた。驚いたことに、
偶然にも幼稚園の遠足が、ここの山登りだったそうだ。彼女はリュウから事情を聞くと、ポンと
手を叩いて提案した。
「お相撲なら、みんな大好きですよ。この子たちに、すもう小僧さんの相手をしてもらえばいいんですよ」
「えっ! それは危険だ。子供に見えても、相手は怪獣だぞ」
 自分たちですら敵わなかったのに危なすぎると、リュウは当然ながら受け入れなかった。しかし、
話を聞いていた園児たちはリュウの言うことなどおかまいなしで、口々に「すもうとろうよ」と言い、
すもう小僧のほうもうれしそうに土俵で待っている。
 リュウは子供たちに怪我をさせては大変だと、腰が痛むのを我慢して止めに入ろうとした。けれど、
その前にミライがリュウを助け起こしながら言った。
「リュウさん。ここはコノミさんと皆さんにまかせてみましょうよ」
「おいミライ、何を言うんだ。お前もあいつがどれだけ怪力持ってるのか見ただろう」
「大丈夫です。すもう小僧は子供たちとすもうをとってくれる神様なんでしょう? ほら」
 見ると、すもう小僧はさっきリュウたちとすもうをとったときのパワフルさとは打って変わって、軽くこける
程度に手加減して相手をしている。子供たちは、投げられてもたいして痛くないのですぐに立ち上がって
泥をはたき、次の子が「今度はぼくの番だ」と元気にしこを踏む。
 ミライの言うとおり、すもう小僧は子供たちに乱暴したりはしなかった。そういえば、村の伝承では
すもう小僧は子供たちと仲良くすもうをとってくれると、アイドル的な伝わり方をしていた。きっと、
昔はすもう小僧が目覚めるたびに、村の子供たちがすもうをとって彼を眠らせていたのだろう。
 それにしても、ミライには相手が邪悪なものかそうでないかを感じ分ける不思議な力があるなと
リュウは思った。以前も、初めて見るボガールの映像を見ただけで、奴には邪悪な意思を感じると、
その脅威をいち早く見抜いている。
「どすこいどすこい」
「まだまだ。もう一回だ!」
「いいぞ、何度でもすもうとろう」
 子供たちは投げられても投げられてもへこたれずに向かっていき、すもう小僧も楽しそうに相手をしている。
 
 言い伝えでは、すもう小僧は昔は足柄秘境に住む普通の子供だったという。
 でも、力自慢で村のすもう大会の賞品をみんなかっさらっていってしまうので村人から疎まれ、
崖から突き落とされて怪獣になってしまったのだという。
 それが本当かは今となっては不明だが、目の前にいるすもう小僧はひたすら楽しくすもうをとっていて、
そんな悲しい過去があったとはとても見えない。
 
「さあみんな、そろそろお昼よ。お弁当にしましょう」
 次々に取り組んでいるうちに、いつの間にやら正午になっていたらしい。コノミの合図でいったん
取り組みは中断して、園児たちはシートを広げて弁当箱を開ける。おにぎりやら、ふりかけのかかった
ご飯、それにウィンナーや焼き魚など色とりどりなおかず。母親が腕によりをかけたおかずが、
子供たちの食欲をそそる。
 けれど、すもう小僧は当然食べ物なんか持っていない。すると、子供たちは物欲しげにしている
すもう小僧に、自分の弁当からおかずをわけてすもう小僧に差し出した。
「はい、これあげる」
「あたしも、おかあさんのタコさんウィンナー、どうぞ」
 たちまち、弁当箱のふたの上がおかずでいっぱいになる。それを受け取ったすもう小僧は、
満面の笑みを浮かべてぺこりと行儀よくおじぎした。
「ごっつあんです」
 腹が減ってはいくさはできぬ。否、子供たちは大きくなるためにいっぱい食べて、遊ばなければならない。
小さいころは遊ぶことが勉強だ。野を駆け山を駆け、多少の怪我なんかお構いなしで、自分の肌で
自然からいろいろなことを教わる。昔は誰でもできていたことだ。
 あっという間に弁当を平らげると、すもう大会の午後の部のスタートだ。午前と同じように、投げたり
押し出されたり、それでも子供たちはへこたれずにすもう小僧に向かっていく。むしろ鍛えてるはずの
リュウたちのほうが疲れた顔をしているから、子供たちのタフさというのはものすごい。
 そしてとうとう九九番の勝負が過ぎて、あと一番を残すのみとなった。これを終わればすもう小僧は山に帰る。
 最後はいったい誰が相手をするか? GUYSの隊員たちはまだあいたただし、子供たちもへとへと、
まさかコノミが相手をするわけにはいかない。
 すると、すもう小僧はまっすぐにミライを指差した。
「最後の一番は、お前ととりたい」
「えっ、僕と? いいよ」
 指名を受けたミライは怪訝な表情をしたが、彼だけはまだ勝負をしていなかったので快く受けた。
でも、土俵に上がろうとしたミライにすもう小僧は首を振った。
「お前とじゃなくて、ウルトラマンと勝負したい」
「えっ、メビウスと?」
「うん、お前の兄さんはすごく強かった。だから、80の弟がどれだけ強いのか、すごく興味がある」
 ミライは、すもう小僧からの挑戦に息を呑んだ。そうか、彼は昔、兄のウルトラマン80と勝負したのか。
そうと言われれば、メビウスもさすがに血が騒ぐ。
 子供たちはすでにウルトラマンメビウスと怪獣のすもう対決に大興奮している。リュウも、怪獣からの
挑戦状。しかも自分たちをこてんぱんにした相手からの指名にすっかり乗り気だ。
「ようしミライ、思いっきりぶん投げてやってこい!」
「G・I・G!」
 ミライも、みんなの九十九番までの相撲対決を見てきたので、自分もやってみたくてうずうずしていた。
幸いここは山の中、ウルトラマンと怪獣が暴れても人家に被害はでない。
 これでいよいよ千秋楽。対決表は、ウルトラ兄弟の新星・メビウス対怪獣界の横綱ジヒビキラン。
 ミライは土俵の中で、左手にメビウスブレスを出現させると、空高くかかげて変身する。
 
「メビウース!」
 
 金色の光の中から、ウルトラマンメビウスが銀色の雄姿を現す。
 そしてすもう小僧もメビウスを見るとニッと笑い、赤い光に包まれると見る見る巨大化した。
それは、すもう小僧の小柄な体型とは打って変わって、伝説の力士雷電のような全身筋肉の
真赤な巨躯。顔は逆立つ髪の下に仁王像のような威圧感にあふれ、大木のように太くて
がっしりとしたまわしをきりりと締めている。
 これぞジヒビキラン。まさしく、大横綱の大怪獣だ。
「ようし、勝負だジヒビキラン」
 両者気合充分。土俵はないけど投げられたら負けの時間無制限一本勝負。
 雄叫びをあげるジヒビキラン。対してメビウスも臆せずににらみ合う。次に両者は塩の代わりに谷川の
砂利をつかんで振りまき、四股をふむのだが、これがまたすさまじい地震を引き起こす。
「きゃああっ! ミライくん、ちょっと加減してよ!」
 しりもちをついたコノミがたまらず悲鳴をあげた。なにせメビウス三万五千トン、ジヒビキラン三万トンが
同時に四股を踏むのであるから、隕石が団体さんでいらっしゃったような衝撃が起こる。それでも
両者は腰を落として拳を地面につけて仕切りをとった。
 行司は、リュウがガンウィンガーで上空から見下ろしながらすることになった。
「ようしいくぞ! 両者見合って、はっけよーい……のこった!」
 スピーカーで増幅された声が響き渡り、いよいよ立会いが始まった。
 はじかれたように飛びだすメビウスとジヒビキラン。まずは両者ががっちりとよっつに組んで、
がちんこで力比べとあいなった。
「ヘヤッ!」
 全身の力を込めて、メビウスはジヒビキランを押していく。先手必勝、攻められるときに攻めろ。
小柄な分、素早さではメビウスの勝ちでジヒビキランは押されていく。
 でも、横綱が立会いに遅れたからといって早々やられるわけがない。ジヒビキランはうなり声をあげて
気合を入れると、足を踏ん張り、腹に力を込めてメビウスを押し返しはじめた。
「ウワッ!?」
 突然強くなったジヒビキランのパワーにメビウスは驚く間もなく、あっという間にどんどんと押し返されていく。
これはまずい、土俵がないとはいってもメビウスの後ろには山肌が近づいてきている。このままでは
押し倒されて負けになると、メビウスは組み合いから脱出していったん間合いをとった。
 でも相撲はとにかく押して押して押しまくれが基本だ。離れたメビウスに向かって、ジヒビキランの猛烈な
張り手攻撃が襲い掛かり、観戦しているカナタたちGUYSクルーたちから声があがる。
「すごい、なんという突っ張りだ!」
 かつて勢いのあまりにビルを木っ端微塵にしてしまった突進がメビウスに襲い来る。この突進力は
犀超獣ザイゴン? いや、キングザウルス三世か、古代怪獣ゴモラのようだ。
「メビウス! 避けろぉ」
 ウルトラマンでもこれは無理だ! メビウスも言われるまでもなく、ジャンプしてジヒビキランの頭上を
飛び越えてかわす。やはり身軽さではメビウスのほうが上だ。ジヒビキランは勢いが強すぎて急に
止まれずに、一キロほど無駄に突進してやっと止まった。
 その隙をついて、メビウスは反撃に出る。
「セヤァ!」
 助走して勢いをつけ、威力を増したメビウスのジャンプキックがジヒビキランの後頭部に炸裂する。
これにはさしものジヒビキランもこらえきれずに前のめりに転ばされた。でも……決まったのは
ジャンプキックなのだから当然……
「あーあ……」
 やっちゃったなと、カナタたちはため息をついた。子供たちも、「メビウスずるい」と口々に非難の
声があがっている。もちろん、転ばされたジヒビキランもメビウスを指差して明らかに起こった様子で
物言いをつけてきている。
「えっ? ぼ、ぼく、なにか間違ったことしましたか?」
 メビウスは勝ったと思ったのに、周り中から冷たい視線を投げかけられて戸惑っていた。すると、
ガンウィンガーからリュウの呆れた声が流れてきた。
「ミライ! 相撲ではパンチやキックは反則だ!」
「あっ!? そ、そうなんですか」
 ルール違反をしたことにやっと気づいたメビウスは、ジヒビキランに向かって頭を下げると、「ごめんなさい」と平謝りした。
 まったく、地球に来てけっこう年月が経ったけれどもミライが地球の文化にうといのは相変わらずだった。
でも、みんなが相撲をとっているのを傍から見ていただけなのだから、ルールを詳しく知らなくても仕方ない。
「ミライくんは相変わらずね」
 コノミが呆れながらも親しみを込めてつぶやいた。昔も、不用意な発言で正体をばらしそうになるミライを
フォローするのにいろいろ苦労したのも、今となってはいい思い出だ。
 その後なんとかメビウスにパンチやキックや光線などの相撲の禁じ手を教えて、ジヒビキランに許してもらうと、
あらためて立会いが再開された。
「タアッ!」
 突っ張り攻撃を仕掛けてくるジヒビキランに、今度はメビウスも正面からぶっつかる。その衝撃の勢いたるや、
周辺の山々の木々が震えて、木の実が冬眠前の熊の頭の上に降り注いだくらいだ。
 メビウスとジヒビキラン、組み合った両者のパワーとパワーが火花を散らす。
”どうしたどうした! ウルトラマン80はもっと強かったぞ”
”僕だって、まだまだあ!”
 ジヒビキランの言うとおり、兄に負けまいとメビウスも全力を尽くす。自分だって、タロウ教官やレオ兄さんの
厳しい特訓や、いろんな怪獣との戦いを乗り越えてきたんだ。
「がんばれー! メビウス」
「負けるなあ! ファイト」
「相撲は土俵際からが勝負だぞ」
 GUYSクルーたちから、メビウスへのエールが送られる。戦うことはできなくても、GUYSの心はいつでも
メビウスといっしょなのだ。
「タァァッ!」
 一二〇パーセントのウルトラパワーが発揮され、じりじりと押されていたメビウスの足が止まる。
メビウスとジヒビキランの力が釣り合って、一転してまったく動かなくなった。こうなると、少しでもバランスを
崩したほうが負ける。ここからは緻密な駆け引きと、精神力の勝負だ。
 両者とも彫像と化したようにぴくりともしない。しかし、メビウスには地球上の三分間という時間制限がある。
限界が近づいてカラータイマーが点滅を始める。
 メビウスが危ない! コノミは、手に汗握って見守っていた子供たちに言った。
「みんな! あともう少しよ。さあ、みんなでいっしょに応援しましょう」
 その瞬間、はじかれたように子供たちから歓声が響き渡った。
「がんばれメビウス」「負けるな」「いっけー」「ふんばれ」「ファイトだ」「ジヒビキランもがんばれ」
 声が入り乱れて誰が誰だかわからない。中にはジヒビキランを応援している子もいるけど、それはもう
すもう小僧が子供たちの友だちになったという証拠だろう。さあ、時間切れで水入りなどつまらない。
最後の勝負だ。
「ヘヤァァッ!」
 メビウスとジヒビキランが同時に声をあげ、決め技をかけようと力を込める。メビウスの体がジヒビキランに
押されて後ろにさがる。これは力任せの豪快な押し倒しだ。メビウスもふんばるが、じわじわとメビウスの
上半身が地面に近づいていく。
 危ない、メビウス! だがメビウスはこの瞬間を待っていた。ジヒビキランのまわしをしっかりとつかんだ
メビウスは、ジヒビキランの押してくる力を逆に利用して一気に持ち上げた。
「おおっ! 浮いた」
「吊り上げだあ!」
 力士の巨体をそのまま持ち上げるとんでもない大技が炸裂した。空中では、ジヒビキランがいくら
力持ちでも手も足も出ない。
「いまだ、いけぇー!」
 これで百番勝負もとうとう終わりだ。最後の一本、派手に決めてくれ! メビウスは、GUYSクルーや
子供たちの声を受けて、ジヒビキランを抱え込んだまま後ろに向かって思いっきり倒れこんだ。
『ウルトラバックドロップ!』
 頭から地面にぶっつけられて、これまでで最大の地響きを起こしながらジヒビキランはぶっ倒れた。
最後まで相撲がよくわかってないあたりメビウスらしいけれど、なにはともあれ土がついたのは
ジヒビキランだ。行司のリュウの高らかな声が、勝者の名を宣言する。
「ウルトラマン、メビウ〜ス!」
 見事、メビウスは勝利した。子供たちはメビウスに向かってうれしそうに手を振って祝福した。
 そして、百番勝負を終えたジヒビキランはすもう小僧の姿に戻ると、地面に大の字に寝転んで言った。
「まいった。お前、強いなあ」
「君もすごく強かったよ。さあ、山へ帰ろう」
「うん! 楽しかった」
 満足したすもう小僧は満面の笑みを浮かべて、お礼を言うようにメビウスに手を振った。
 
 こうして、CREW GUYS始まって以来の怪獣とのすもう合戦は幕を閉じた。
 満足したすもう小僧は、言い伝えどおりに山へと帰っていく。そんな彼を、GYUSクルーや子供たちは、
山道の途中まで見送っていった。
「じゃあ元気でな。これ、もっていけ」
 リュウが食べ物を詰め込んだ風呂敷包みを渡すと、すもう小僧はにっこりと笑って受け取った。
「ごっつあんです」
 風呂敷には子供たちのお菓子や、村の人たちがくれたおむすびなどがぎっしりと詰まっている。
相撲取りは大食いだけど、すもう小僧ももちろん例外ではない。これを平らげて、またいつか目覚める
日のためのパワーを補給するのだろう。しかしよく食べよく眠るとは、本当に子供そのものだ。
 すもう小僧は最後にぺこりとお辞儀をすると、笑いながら山の中へと駆けていった。
「さようならー」
「さようならー」
 見送る子供たちとすもう小僧の声が短く響くと、山の中は何事も無かったように静かに戻った。
 これで、また数十年は眠り続けるだろう。次に彼と相撲をとるのはこの子供たちの子供たちかもしれない。
きっとそのときも、すもう小僧は喜んで相手をしてくれるだろう。でも、リュウはまた自分が相手をするのは
ちょっと勘弁と苦笑した。
「やれやれ、嵐のような奴だったなあ」
「でも、気のいい奴でしたね」
 珍しくくたびれた様子を見せたリュウに、カナタが言った。リュウにしてもカナタたち新人たちにしても、
怪獣退治のために入隊したGUYSで、まさか相撲をとることになるとは夢にも思っていなかった。
怪獣と一口に言っても、こんな愉快なやつも中にはいるのかと目からうろこが落ちた思いをしていた。
 それを見ていたミライは、さわやかな疲れを額の汗ににじませながら言った。
「相撲って楽しいものですね。いつか、またあいつと勝負してみたいです」
「おいおい……でもまあ子供たちにとっては、あいつはアイドルみたいなものだな。それにしても、
怪獣と相撲をとったウルトラマンなんて、80とお前くらいじゃないか?」
「うーん。かもしれませんね」
 本当は、怪獣と相撲をとったウルトラマンはエースやタロウなど、ほかにもけっこういる。言ってしまえば、
怪獣とバレーをしたり、ボクシングや野球やサッカーをしたりしたウルトラマンもいるのだが、それはまた別の話。
 
 
 その後、GUYSのサコミズ総監は、この一風変わった事件の顛末を、ニューヨークの総本部から
帰る途中の専用機の中で、ミサキ総監代行から電話で聞いた。
「以後の調査で、ジヒビキランが完全に眠りについたことが確認されました。しかし、GUYSクルー全員が
筋肉痛で、しばらく役に立ちそうもありませんが」
「ふふふ、リュウらしいな。今日いっぱいは怪獣の監視に専念して、無理をせず休むよう伝えておいてくれ」
 サコミズ総監は、好物のコーヒーを飲みながら、立派にGUYSとして活躍しているリュウたちを頼もしく思った。
 でも、無理は禁物だ。リュウは防衛チームの隊長としては史上最年少なだけに、勢いのままに無理を
しすぎるところがある。一途で向こう見ずなところが彼の長所であり短所だった。
 それでなくてもリュウは、ハルケギニアから帰ってきて、怪獣対策に追われる毎日。それに、異世界に
残った平賀才人くんのご両親に、事情を説明しにうかがったときは、ミライと二人で数日憔悴しきって帰ってきた。
無理もない。子供がある日突然手の届かないところに行ってしまった親御さんの気持ちは想像するに余りある。
さらに通常勤務に並行して、次の日食の日に備えた新型メテオールの試作をフジサワ博士と打ち合わせねば
いけなかったり、異世界でも長時間戦えるようにGUYSメカやマケット怪獣の改良をおこなったりと、
ただの隊員だったころが懐かしいほど忙しいのである。
「今日のことは、彼らにとっていい気分転換になったんじゃないかな。それに、怪獣にも友達になれるような
善良なやつはいる。それを、みんなが知ってくれたのは大きい」
「そうですね。いつか人間と怪獣がいっしょに地球で暮らせる日が来る。そうすれば、この宇宙にも本当の
平和というものが来るかもしれませんね」
 敵対ではなく共存。怪獣はいったん怒らせると手に負えないけれど、人間が余計な手出しをしなければ
おとなしい奴だっていっぱいいるのだ。互いの住処に干渉せず、きちんと住み分けるだけでも怪獣災害は
ぐんと減るだろう。
「人類は、これからももっと賢くならなければいけない。でなければ、人知れず地球を守ってくれていた
ウルトラマンたちに、いつまでも恩を返すことはできない」
 サコミズ総監は、かつて最初の防衛チームだった科学特捜隊の亜光速実験船隊のキャップだった。
ウラシマ効果で地球とは時間の流れが違うその世界で、彼らは亜光速試験船イザナミを駆って、
人類が外宇宙に羽ばたくための実験に明け暮れていた。
 しかし、冥王星軌道に差し掛かり、サコミズキャップが搭載艇イカヅチで母船を離れたとき、どこかの星から
やってきた侵略円盤の大群に襲われた。
 そのとき、絶対絶命のサコミズを救ったのが宇宙警備隊の隊長ゾフィーだった。
 それ以来、地球が宇宙の中でいかに危うい存在であるかを知ったサコミズは、その人生を地球防衛と、
人知れず地球を守ってきてくれたウルトラマンたちの心に応えるためにささげてきたのである。
 光の国に報告をしにいったん帰っていたミライによれば、ウルトラ兄弟たちも次の機会にはヤプールの
率いる超獣軍団との決戦を決めたという。彼らを異世界で戦っているエースのもとへ送り届ける。
責任は果てしなく重大だ。
「まだ我々には、ウルトラマンと対等な力はない。それでも、彼らの助けになり、平和への架け橋に
なれるのなら全力を尽くそうではないか」
 来るべき戦いに備えて、サコミズ総監も人知れず努力していた。実は、GUYSが別の次元世界へと
出撃することに関しては、GUYS内部でも反対意見が強いのである。地球防衛を主眼としたGUYSの
行動目的を離反する。異星文化への干渉、侵略の引き金にならないか、未知の伝染病、さらなる
異世界からの侵略を招かないかなど、数え上げればきりがない。
 だが、最大限の慎重さをもってそれらの課題をクリアしなければならない。必ずやってくる、時空を
超えたウルトラ兄弟とヤプールとの決戦のために。各国GUYSとの会議はまだまだ続くだろう。それでも、
サコミズにはリュウという頼もしい後継者がいるから安心できる。
 
 この日、小さな事件を経てGUYSの隊員たちはまた大きく成長した。
 明日からは、また自然界のバランスが崩れて目覚めた怪獣たちや、宇宙からの脅威が地球に迫るかもしれない。
 そんなとき、彼らは必ず駆けつけるだろう。平和を守り、未来を切り開くために。
 
 平和を守るヒーローへのあこがれは、いつしか小さな芽となって人々の心に葉を茂らせはじめる。
 地球で、子供たちがそうするように、時空を超えたハルケギニアでもそれは変わらない。
 今日も、トリスタニアの一角では子供たちの遊び声がこだまする。
「がおー! おれは怪獣ザラガスだ。トリスタニアの街なんかぺっちゃんこにしてやるぞ」
「そうはいくか、このウルトラマンAが相手だ! くらえ、メタリウム光線だ」
 日が暮れるまで、子供たちはウルトラマンAごっこを楽しんで、やがて母親に呼ばれて家に帰っていく。
 こんな光景がある限り、世界が闇に閉ざされることはないに違いない。
 例え今日に百人の悪がはびころうと、明日には千人の善人がいればいい。
 誰にも知られず、記憶されることもない世界の片隅で、世界を変えていく希望の光は少しずつ育ちつつあった。
 
 
 続く
568名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 16:02:40 ID:xsBuui3j
乙乙
569ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2010/10/31(日) 16:03:31 ID:DW8t3Tlj
以上です。
>>558の方、支援ありがとうございました。
 
今回は以前地球に戻ったGUYSのその後のことを読みたいとおっしゃってくれた方がいらしたので、
第一部の後日談ということでテファたちのその後と並行して、久々に地球側のエピソードを書いてみました。
でも原作メビウスではGUYSは独力でムカデンダーやロベルガーを撃破できるくらい強くなってるし、
一風変わった話もいいかなと、一話完結でこの話を作ってみました。
年下の親戚の子と遊んであげたときのことを思い出して書いてみましたが、皆様にもそうした郷愁を
少しでもかんじていただけたら幸いです。
 
それでは、次回からはまたハルケギニアを舞台に新しい物語の始まりです。
570疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 16:07:20 ID:b7fhJ+Xg
ウルトラの人、乙でした。
はてさて、この場合はどれぐらい時間を空ければいいのでしょうかね?
571名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 16:25:33 ID:XYC1ZLrO
16:50辺りから始めればいいんじゃない?
さるよけにもなるし
572疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 16:28:32 ID:b7fhJ+Xg
>>571
ふむ、了解いたしました。
では問題なければ16:50より14章投下します。
573疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 16:50:01 ID:b7fhJ+Xg
第十四章 わしは思うのじゃ

   0

エレメント/[Elrment]――《パラベラム》のペア。攻撃担当、防御担当にわかれることで戦闘力が上がる。《エレメント》が集まると《フライト》になる。

フライト/[Flight]――《パラベラム》の戦闘集団。主人公の使い魔によって、ルイズの中心に《エレメント》が集まれば《フライト》になるだろう。
574疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 16:51:27 ID:b7fhJ+Xg
   1

 目の前の問題は解決した。ルイズたちは誇りを胸に戦い、フーケはその力の前に敗れた。今、確かに立っているルイズたちは勝者である。だが戦いが終わってもやるべきことはまだ残っている。
「キュルケ、タバサ、ギーシュ。この『破壊の杖』を学院へ届けて」
 今回の任務の本質は『破壊の杖』の奪還。フーケの捕獲は二の次だ。
「君たちは?」
「私たちは『土くれ』とミス・ロングビルを捜索します。両者共にそう遠くには行っていないでしょう」
 フーケは先ほどの戦いで消耗している。おそらくは身を守る最低限の魔力しか残っていないだろう。今ならばパラベラムであるルイズとシエスタならば捕らえるのは容易い筈だ。ルイズとシエスタはメイジであるフーケと違い、まだ余力を残していた。
 ロングビルの姿が見えないのも問題だ。あれだけ巨大なゴーレムだ、たとえ森の中にいたとしても視認は容易。ならばそれを打ち倒したのも確認できるのは道理である。それなのに未だ姿を見せないのは単純に遠くにいるためか、それとも動けないか。
 敵はかの『土くれ』のフーケである。最悪の場合もまた、想定しなければならないだろう。
 だが、どんな賽の目が出るとしてもここで全員が撤退するのは得策とはいえない。ロングビルが無事の可能性も少なからずあり、フーケを捕獲する唯一無二のチャンスでもある。
 フーケは百戦錬磨の盗賊だ。ここで逃がせば、次の好機が巡ってくるのはいつになるのかわからない。
「そんな・・・・・・危険よ! 『破壊の杖』は回収したわ! フーケを追いたいのならば全員の方が効率的じゃなくて?」
 キュルケの言うことも正しい。確かに人数が増えれば、その分だけ効率は上がるだろう。
「ダメよ。敵はあの『土くれ』。一筋縄で行くとは思わないわ」
 ルイズの言葉をシエスタが引き継ぐ。
「それならば個の力量で最低限、撤退が可能な私とルイズ様しかいないでしょう。ご安心を。ルイズ様は私が命に代えてもお守り致しますし、ミス・ロングビルを発見次第、私たちも学院に向かいます」
「おうよ。相棒たちの言う通りそれが一番だと思うぜ。坊主たちは先に帰って、事の次第を伝えるのが仕事だ」デルフリンガーもうまく口を合わせる。
 キュルケとギーシュはどうするべきかしばらく考えたが、ルイズの考えを認めシルフィードに乗った。『破壊の杖』はギーシュが大事に抱えている。タバサは相変わらずの無表情だったが、その視線はルイズとシエスタのP.V.Fに注がれていた。
「・・・・・・いい? 絶対に無理はしちゃダメよ! シエスタも危なくなったらルイズと一緒に逃げるの、いい?」
「もちろんでございます。ミス・ツェルプストー」
「危ない真似だけはしないでくれ、ルイズ。僕らは帰るんだ、みんなでね」
「相変わらず口は達者ね。大丈夫、無理なんてしないわよ。・・・・・・それじゃ、タバサ。二人を頼むわ」
 こくりとタバサは小さく頷いた。
 ルイズとシエスタが離れると、シルフィードは力強い羽ばたきと共に空に舞う。三人のメイジを乗せた風竜はあっという間に見えなくなった。
575疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 16:55:48 ID:b7fhJ+Xg
   2

「さてと・・・・・・準備はいい?」
 ルイズがマガジンを交換し、初弾を装填し安全装置をかける。これならば安全装置を外すだけですぐに撃つことができる。
 シエスタはスペシャル・ショットを撃ったばかりなので、弾丸を作ることができない。ハウンド・ドッグに切り替え、デルフリンガーを銃剣として扱う。並みのメイジならばこれで十分だ。フーケも今は消耗している。逃げるだけならこれでも十分だろう。
「こっちは大丈夫だぜ」シエスタもデルフリンガーの言葉に頷く。
 こちらへ、そう言ってシエスタが歩を進める。目当ての的はフーケ。居場所はシエスタのスペシャル・ショットでわかっている。
 シエスタのスペシャル・ショットは元型追撃。敵の核となる元型を追撃し、破壊する。シエスタはフーケのゴーレムと相対した時に魔力の繋がりを見ている。あとはそれを追走するだけだった。

 やがて小高い丘に出た。ここからならば小屋が良く見える。適度に木もあり、身を隠すのにもうってつけだ。フーケはここに潜み、ゴーレムを操っていたのだろう。そしてフーケは今も息を潜めている。
 一際大きなモミの木。その木陰に人影が見えた。木に体重を預けるその人影にルイズは静かに銃口を向けた。
「・・・・・・来たね」
 翡翠色の長い髪。知性を感じさせる眼鏡。整った顔立ち。見知った印象と違うのは眼鏡の奥に見える強い輝きだろうか。
「ミス・ロングビル・・・・・・」
「もうわかってるんだろう? 私が『土くれ』のフーケだと」
 土くれと呼ばれた一人の盗賊は木漏れ日の中で妖艶に微笑んで見せた。その姿は妖しく、艶やかで美しい。
「ええ、あのゴーレムを作る魔力はミス・ロングビル。あなたの物でした」シエスタがゆっくりと告げる。
 ロングビルが姿を消していた時間、ここまでの距離、破壊の杖の情報、全てロングビル自身がフーケだとすれば辻褄がピッタリと合う。
 まったく私もツイちゃあないね、とフーケはため息をついた。おもむろに眼鏡を外す仕草は艶っぽかった。
「アンタたち・・・・・・いったいナニモンだい? この『土くれ』フーケのゴーレムをこんな小娘がぶち壊してくれるたァね」
 眼鏡を外したフーケの眼光は鋭い。まるで猛禽類のようだ。それはフーケがその名が轟かせるまでに培ったものだろう。
「私たちはただの『小娘』よ、あなたの言うね」
「そんな小娘が命を賭けて、盗賊相手に大立ち回りとはね。やめときなよ、ギャンブルは。クセになるからね・・・・・・さて、茶化すのはそのくらいにしな。答えろ、何者なんだ?」
 射抜くような視線。目を見れば誤魔化しが通じないとわかった。
「・・・・・・私たちは《パラベラム》よ。私の使い魔によって目覚めた特殊な能力者。それが私たち」
 重い沈黙が落ちる。誰も口を開かなかった。小さな風が三人の間を吹きぬけ、それが沈黙を破る合図になる。
「ねぇ、ミス・ロ・・・・・・フーケは」
「呼びやすい方でいいさ」
「・・・・・・。ミス・ロングビルはどうして盗賊に?」
「言ったろ? 私は没落貴族。金も知識もコネも無いようなメスガキが生きていくには、身体を売るか、悪人になるしかないだろう。身体だって高値で売るには、それなりにコツがいる。私は魔法にはそれなりに自信があったからね」
身体の方も自信はあるけどさ。そんな風に言ってフーケはクツクツと笑いを漏らした。それは学院で見かけたロングビルの笑いとは違い、どこか自嘲しているような寂しい笑いだ。
「ならば傭兵などの道もあったのでは? 私の祖父は傭兵として生き、そして死んでいきましたが。それにメイジならば働き口はあるでしょう」
「最初は私もそう考えたさ。傭兵の仕事を探したよ。始めてだってンで、他の傭兵と一緒にロマリアの田舎にはるばるコボルト退治。そこまでは良かったさ。
けど年中女日照りのクソ野郎共は仕事が終わったんで、さっそく一発ヤろうとしやがった」そこまで話し、目線を外し背を向けた。ルイズが銃口を向けているのすら関係無いとでも言うような仕草。
 ルイズもシエスタもただ黙って聞いているしかない。当のフーケは何でも無い噂話でも語るかのように饒舌に話した。
576疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 16:57:24 ID:b7fhJ+Xg
「鼻息荒く近づいてきたデカい男の頭をゴーレムで潰した。仲間の背の低い男の首をゴーレムでへし折った。そこまでやったとこで、周りの連中に気づかれて散々に追い回されたよ。
クロスボウの矢も飛んできたし、投げ斧が近くの木に突き刺さったのもよ〜く覚えてる。ゴーレムに突き刺さってた誰のだか知らないロングソードはいい値で売れた。それからさ、私が盗みを始めたのは」
 話し始めた時と同じように、風が三人の髪を揺らした。カタカタと鍔を鳴らして今度はデルフリンガーが沈黙を破り、フーケに問いかける。
「フーケさんよ、あんた、なんで学院に戻って来たんだい? 目当てのもん手に入れたんなら、とっととトンズラすりゃいいだろ」
 デルフリンガーの言うとおりだ。フーケは一度、破壊の杖を手に入れている。手際から言っても最初から破壊の杖を狙っていたのだろう。
 目当ての破壊の杖を手に入れた以上、フーケがメイジばかりが集まっている学院に戻る理由は無いはずだ。
「間の抜けたことに使い方がわからくってねぇ・・・・・・マジック・アイテムなんてのは魔力を通せば動くって相場が決まってるモンだが、うんともすんとも言わないときた。フーケを餌にすればあのジジイが釣れると踏んでたんだが、とんだじゃじゃ馬が引っかかったのよ」
「どうしてそこまで?」
 明らかにリスクとメリットが見合っていない。一度は姿を消すチャンスがありながら、学院に戻ってくる。それがどれだけ危険かわからぬフーケでは無いだろうに。
「金さ」
 一息にそう言い切った。即答、だった。
「使い方がわかった方が高値で売れる。どんな使い道があるかわかればそれだけ高く売れるんだ。当たり前だろう?」
 でもそれは決して小さくないリスク。ギャンブルだろう。
「どうしてそこまでお金に執着するの?」
「・・・・・・」初めて。
 フーケとして会話を始めてから、初めて感情が表情に出た。今までの飄々とした『土くれ』ではなく、おそらくは本心の。酷く、悲痛で辛そうな色。
「私はね、一人で戦ってるんじゃあないんだよ」
 本当に辛そうに、搾り出すように言葉を吐き出していく。
「私はあの子たちを守ると誓ったんだ」
577疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:02:04 ID:b7fhJ+Xg
 一瞬だった。
 青白い閃光。P.V.F特有のマズル・フラッシュ。それはルイズのものではない。それはシエスタのものではない。それは振り向いたフーケの手に握られた、有り得ないはずのP.V.Fから放たれた。
 精神力で出来た弾丸はルイズの左肩を貫く。銃声は不思議とほとんど聞こえなかった。
 焼けるような激痛。出血は無い、が神経を削るかのような痛みが脳を麻痺させる。力が抜け、倒れる。
「ああァ、あ、ああッ!!」
 シエスタが吠えながら引き金を引く。だが弾が装填されていない以上、銃声は鳴らない。歯を剥き出しに、怒りのままにデルフリンガーを牙の如く突き立てようと踊りかかる。
 フーケは銃身の先に長い円筒型のパーツが取り付けられた黄銅色のP.V.Fを盾にし、受け止めた。二人の顔が息のかかる距離まで近づくが、刃は届かない。
「落ち着け! 落ち着くんだッ相棒!」
 デルフリンガーが必死に止めようとするが、シエスタは止まらない。
「この・・・・・・殺してやるッ! ルイズ様を、コイツはルイズ様をォ!!」
「上等だッ、やってみなよ! あァ!?」
 二人の、二匹の獣が吠える。

「やめろ」

 それだけを告げる。それだけで二人は止まった。
「シエスタ、やめなさい。ミス・ロングビルも・・・・・・銃を下げてください」
 シエスタの力が緩んだ一瞬に、フーケはデルフリンガーを弾き、銃口をルイズに向けた。狙いは眉間。
 すぐにシエスタも体勢を直し、デルフリンガーをフーケの首元に。怒りのあまりにカタカタと揺れる切っ先は、フーケの白い首筋に細い血の線を作った。
「娘っ子、大丈夫かよ?」
「そんなわけないでしょ・・・・・・痛くて泣きそう。でも当たったのは肩よ。シエスタも落ち着きなさい」
 左肩が動かない。神経がやられているのだろう。ルイズはシールド・オブ・ガンダールヴを杖代わりにしてなんとか起き上がった。静かに三つの銃口をフーケに向ける。
 被弾したのは肩だと知り、シエスタはいくらか落ち着いたようだ。当のフーケはといえば舌打ちをしている。
「ミス・ロングビル・・・・・・いえ、『土くれ』のフーケ。本来なら捕らえて衛兵に引き渡すつもりだったけれど、事情が変わったわ。いくつか質問に答えてもらう」
「自分がそんな事を言える立場かい? その出来のいいオツムに風穴開けてやろうか?」
「ふざけるな、殺すぞ」
 ギリリ、と歯を食いしばるような音が聞こえてきそうなシエスタが凄む。歯の隙間から怒りが漏れるようだ。ルイズが止めなければきっと、牙を向いているだろう。
「相棒、言葉遣いが・・・・・・ってンなこと言ってる場合じゃねぇな。フーケさんさぁ、相打ちになる気かよ。今の状況考えろって」
 フーケが仮にルイズを撃てば、シエスタに首を飛ばされる。シエスタを振りほどこうとすれば、ルイズが引き金を引く。
『誰か』が『誰か』を殺そうとすれば、残りの『誰か』に殺される。その時、立っているのは少なくともフーケではない。
「メリットもあるわよ。お互いに情報が得られ、答え次第ではあなたを見逃す」
「それを信じろってかい?」
 フーケは今、迷っている。この状況はどう転んでも互いの損にしかならない上に、このままでは一番バカを見るのはフーケなのだ。だがこちらが提示した餌に食らいついていいのかも判断しかねている。
「ええ、『信じなさい』。選択肢はあまり多くは無い。それにさっきの言葉。言い直すわ、返答次第では『私はあなたを見逃さなければならなくなる』。私はそう言っているのよ」
 互いに無言。この状況では言葉だけが力を持つ。あとはそれを信じるか、信じないか。
578疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:02:52 ID:b7fhJ+Xg
「わかった。何でも答えてやるよ。ただ『コイツ』は下ろさない」
「それでいいわ。嘘はつかないでね。意味が無いし、お互いにとって得は無いわ」
 とりあえずは交渉の場ができた。一種即発の雰囲気ではあるが、これでいい。この状況でこれ以上を望むのは欲張りだろう。
「一つ目、どうして《P.V.F》を?」
 わからないのはそれだ。このハルケギニアにパラベラムは存在しない。パラベラムになる為に必要な錠剤も『ゼロ』である自分が召還したイレギュラー。どうしてフーケがパラベラムなのか。
「忘れたかい? 私は『土くれ』のフーケさ。宝物庫にお邪魔する前にちょいと寄り道したの。あの決闘騒ぎでとんでもない代物ってのはわかってたしね。アンタも大事なモンならもう少し用心しな」
「つまり盗んだのね・・・・・・でもどんな物かわかってたの?」
 思わずため息が漏れた。この様子だと他にも被害者はたくさん居そうだ。
「だいたいね。盗み聞き、盗み見も慣れたモンだよ。情報ってのはいくら持っても重くならない上に高く売れる」
 どうやらこの前の学院長との話を聞かれていたらしい。しかし咎められると思い、錠剤の『リスク』を話さなかったのだが、こんな事になるとは。
 今思えば、最初のフーケの質問もただの好奇心からではなかったということが良くわかる。さすがは稀代の名泥棒といったところか。だが。
「今更だけどさ、あの薬ってパラベラムの適正が無い人間が飲むと心が死んじゃうのよね・・・・・・」
「ハァ!? そんなの聞いて無いわよ!?」
「だって言ってないもん。盗み聞きしてたんだったらわかるでしょ? あの状況でそんな事言ったら取り上げられるに決まってるじゃない。・・・・・・良かったわね、お互い運が良くて」
 フーケは何か言いたそうにしていたが、結局黙ってしまった。自分の知らないとこで命懸けのギャンブルをしていたというのはそれは、それは気分が悪いのだろうが、まぁ、自業自得だ。別にルイズは悪くない。
「・・・・・・で? 次の質問は? 早くしなよ」
「どこまでわかっているの? この力について」
 今度は少し返答まで時間がかかった。
「・・・・・・とりあえず系統魔法とは別モンだね、こりゃ。私だって土のトライアングルだ。こんな滅茶苦茶なモン作れるわけがない事くらいわかるよ。東方の魔法ってのも怪しいね」
「ご明察。察しが良いわね。この『力』はね、この世界じゃないどこか遠くの異世界の力よ」
「はん、何言っているんだか。そんな――「『そんなおとぎ話みたいな話、信じられるか』。そりゃそうよね。私だってこのルーンが無ければ信じちゃあないわ」
 上がらない左手の手の甲をフーケに示す。そこにある契約の証たるルーンは手袋に隠れて見えないが、フーケもその下に何があるかはわかっているはずだ。
「・・・・・・。それを私に話してどうする?」
「つまりね、私たち《パラベラム》はこの世界じゃ有り得ない存在なの。機会があれば、誰もいないところで試してみなさい。《P.V.F》の展開も発砲にも杖も『錬金』も必要無いから」
「・・・・・・信じる、しかないか。確かに『コレ』は異質だ。そっちのがしっくりと来る」
579名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 17:03:11 ID:AFyz+5WT
シエン
580名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 17:05:01 ID:DW8t3Tlj
支援
581疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:06:47 ID:b7fhJ+Xg
「それで、最後の質問なんだけどね。フーケ、私たちの仲間にならない?」
 フーケは《パラベラム》になった。それは仕方の無い事だ。今更、何を言っても変わりはしない。
「理由を聞かせてもらおうかい?」不信感を隠そうともせず、フーケは問いかける。
「ええ、もちろん。私たちは、《パラベラム》は存在しない、してはいけない。このハルケギニアは魔法とブリミル教が治める土地よ。私たちが生きて行こうと思えば、さっき話した内容は誰にも伝わってはいけないの」
「そりゃあね。バレれば即異端審問、エルフみたいな扱いでもされるかもね」その様子を想像したのか、フーケは不快そうに顔をしかめた。
「そう。だから私たちはお互いという駒を失ってはいけないのよ。幸い、学院長の有能な秘書『ミス・ロングビル』とトリステインを騒がす『土くれのフーケ』が同一人物だと知っているのは私たちだけよ。
そして私たちは同じ《パラベラム》、手を組むメリットはお互い一致しているはず」
 フーケは馬鹿じゃない。この状況でどう動けば一番得かわかっているはずだ。
「裏切りはしない。情報が漏れれば私たちは全員まとめてあの世行きよ」
 フーケはしばし考え、口を開いた。
「わかった、わかったよ。確かにそうするしかなさそうだ。でも条件がある。金だ。そうなりゃ盗賊家業をやるわけには行かないだろ? アタシにゃ金がいるんだよ」
「金、金、金って・・・・・・いったいなんでそんな必要なのよ。学院長秘書だって結構な高給取りでしょうに」
 トリステイン魔法学院はハルケギニア全土に名が知れるような名門だ。教師は粒揃いだし、学院長はかのオールド・オスマン。その秘書の給料が安いわけが無い。
「・・・・・・妹がアルビオンにいる。アタシはあの子を、テファさえ守れればそれでいい」
 そう語るフーケの顔は酷く辛そうで、決意に満ちていた。どれだけその『テファ』という妹を愛しているのか表情を見ればすぐにわかる。ただの盗賊ではない『フーケ』の誇りが垣間見えた気がした。
「・・・・・・今回の件で報酬をもらえばそれをあげるわ。俸給の増額も頼んでみる。それでも足りないなら私がなんとかしてみるわ。それでどう?」これがルイズにできる精一杯である。
「・・・・・・どうしてそこまでする?」
「私、末っ子なのよ。姉が二人いるわ。妹はね、姉に元気でいて欲しいの。それが家族でしょ」
 理由になってないよ、と口では言いながらフーケはP.V.Fを下ろした。僅かに呆れたように微笑んだフーケのそれを見てルイズも照準を外す。
シエスタはやや不満そうだったが、ルイズと視線が合うと渋々ながらもデルフリンガーを下げた。
「あいたた・・・・・・シエスタ、やり方は教えるから治療してくれない? 痛くて、泣きそうよ」
 肩を庇うようにしながら地面に寝転ぶ。必死に我慢していたが痛くて、痛くて仕方が無い。
「は、はい! もちろんです、ルイズ様」
「アタシがやるわ。自分のケツくらい自分で拭ける」
 フーケがシエスタを横に押しやり、ルイズの隣に座る。
「そう? じゃあ『フィールド・ストリッピング』のやり方を教えるわ。シエスタも聞いておいて、何かで役立つかもしれないわ」
「・・・・・・はい。わかりました」
 ルイズの指示に従って、フーケがてきぱきとシールド・オブ・ガンダールヴを分解していく。機関部のカバーを外すと、中から人形のようものが出てくる。P.V.Fを展開する時と似た光の粒子でできた人形。
 説明を聞くシエスタは珍しく不機嫌そうな顔をしているが、思い至る理由が無い。なぜだろうか。
「《P.V.F》の中身、機関部にあたる部分は、使用者の『精神・神経系』と直結しているの。だからそこを治せば使用者の精神ダメージも回復するわ」
 神経や血管が透けており、ルイズの撃たれた左肩の部分だけが赤くなっている。
 ルイズの指示でフーケが恐る恐るその赤い部分に触れると、ゆっくりとだが赤色が白い光へ変わっていく。痛みが和らぎ、消えていくのを感じた。
 気だるさは残っているが、もう痛みは無い。
「・・・・・・どうだい?」
「ええ、だいぶ楽になったわ。ありがと」
 立ち上がり、左腕を回すが痛みも無くいつも通りだ。もしかしたらフーケは治療に長けたパラベラムかもしれなかった。
「・・・・・・それでは帰りましょうか」
 鈍感なのは困るよなぁ相棒、というデルフリンガーの声はシエスタ以外には聞こえなかった。
582疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:08:39 ID:b7fhJ+Xg
   3

「君たちはよくやってくれた。よくぞ『破壊の杖』を取り戻してくれた。感謝している、ありがとう」
 そういってオスマンは頭を下げた。
 ロングビルをシエスタが背負い、内観還元力場を使い学院でギーシュたちと合流した。その足で直接、学院長室に報告に来たのだ。
「しかしフーケを捕り逃してしまいましたわ・・・・・・」
 いかにも残念無念といった様子でロングビルは学院長に報告。
「よいよい。目的は『破壊の杖』の奪還。トリステイン中が追いかけているかの『土くれ』に、一泡吹かせただけでも大したもんじゃて」
「ああ、オールド・オスマン。寛大なお心に感謝します」なんともまぁ、大した変わり身の速さである。
 フォッフォッフォッと笑うオスマンを見ているとちくりと罪悪感を感じるが、仕方が無い。
 ルイズとシエスタは森の中で気絶したロングビルを発見。話を聞けば周囲を探索している際に『サイレント』を使ったフーケらしき人物に薬品をかがされそのまま意識を失ったという。
シエスタを護衛に残し、周囲をルイズが探ったが、それらしき人物は見当たらず。ロングビルの消耗が激しい為、探索を諦め学院に戻ってきた。という筋書きである。
 実は一から十までロングビルが考えたものだったりする。なんというか、さすがといった手際だった。
「君たちの活躍により一件落着。本当にありがとう。わしは君たちのような誇り高き生徒がいることを嬉しく思う」
 オスマンは微笑み、ゆっくりとそれぞれの頭を撫でた。皺だらけだが大きな手は撫でられると不思議と安心した。
「君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう。といっても、ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っておるから、精霊勲章の授与を申請しておいた」
 四人の顔がそれぞれ喜びの色に染まる。
「本当ですか?」キュルケが驚いた声で尋ねる。
「ホントじゃ。いいのじゃ、君たちはそれほどの事をしたのじゃからな」
 ルイズは静かに隣で立つシエスタを見た。
「・・・・・・オールド・オスマン。シエスタとミス・ロングビルには何も無いんですか?」
「残念ながらシエスタは貴族ではない。ミス・ロングビルもすでに貴族の名を失ったものじゃ」
 ロングビルとシエスタは静かに首を振った。
「私は今回、何も役に立つことができませんでした。それに『シュヴァリエ』など・・・・・・私には過ぎた代物ですわ」
「私はルイズ様の従者として、当然のことをしただけです。報酬など無用でございます」
「爵位を授けることは出来んが、わしから少ないが報酬を渡そう。せめてものお礼じゃ。受け取ってくれ」
 二人は静かに頷いた。その様子を見てオスマンも満足げに頷き、ぽんぽんと手を叩く。
「さてと、今日の夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。このとおり、『破壊の杖』も戻ってきたし、予定通り執り行う」
 キュルケとギーシュの顔がパッと輝いた。
「そうでしたわ! フーケの騒ぎですっかり忘れていました!」
「僕もすっかり忘れてたよ! ああ、モンモランシーは僕と踊ってくれるだろうか!」
「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意してきたまえ。存分に着飾り、楽しむのじゃぞ」
 一行は礼をし、ドアに向かう。ギーシュとキュルケはすでに舞踏会の事を話している。
 ルイズが一人、立ち止まる。その様子に皆も気づき立ち止まる。
「先に行ってて。私もすぐに行くから」
「そ。さっさと来なさいよね」キュルケに続き、ほかのメンバーも後に続く。シエスタは心配そうに見つめていたが、微笑みかけると頷いて部屋を出て行った。
583疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:13:35 ID:b7fhJ+Xg
「何か、わしに聞きたいことでもあるのかね? ミス・ヴァリエール」
 オスマンは全てわかっているようだった。ルイズは頷く。
「言ってごらんなさい。出来る限り力になろう。わしに出来るのはそれぐらいじゃ」
コルベールとロングビルに退室を促す。人に聞かせる類の話ではないとわかっているのだ。二人が部屋を出たのを見て、ルイズは口を開いた。
「あの『破壊の杖』・・・・・・どうしてあんなものが?」
「君には使い方がわかったそうじゃな。これも始祖のお導きかのう・・・・・・少し年寄りの昔話に付き合ってくれるかね」
 机の上におかれた『破壊の杖』を愛おしそうに撫でながら、オスマンはゆっくりと語り始めた。
「もう三十年にもなるの・・・・・・秘薬の材料を探して森を散策していたわしは、ワイバーンに襲われた。そこを救ってくれたのがあの『破壊の杖』の持ち主じゃった。
彼はもう一本の『破壊の杖』でワイバーンを吹き飛ばすと、ばったりと倒れおった。見れば怪我をしていた。学院に運びこみ、必死に治療したが・・・・・・助からんかったよ」
 オスマンは辛そうに語った。ルイズに背中を向けて、語るオスマンは僅かに震えていた。
「すみません・・・・・・『破壊の杖』は単発式、使い捨てなんです。そんな大事なものだとわかっていれば・・・・・・」
「いや、気にするでない。わしにとってコレは大切な思い出の品じゃ。手元に戻ってきただけで十分じゃよ。あの時ほど無力を思い知った日は無かったからの。
これは戒めでもある・・・・・・それはさておき続きじゃ。わしは彼が使った一本を彼と共に墓に埋め、もう一本を『破壊の杖』とし、宝物庫にしまいこんだ。恩人の形見としてな・・・・・・」
 枯れた肌の上をわずかに光るものが流れていった。
「・・・・・・あれは『M72ロケットランチャー』と呼ばれる遠い国の武器です」
「ほぅ・・・・・・なぜそのような事がわかるのじゃ? あれはわしが必死に文献を探しても、それらしきものは見つからんかった代物じゃが」
「おそらくこのルーンの力でしょう。・・・・・・何か知っているのでは?」
 オスマンは、話そうかどうかしばし悩み、口を開いた。
「成績の優秀な君ならば、おおよその見当はついているのじゃろう。そしておそらくその予想は正しい。そのルーンは神の盾、ガンダールヴ。君の魔法と同じ名じゃよ」
「なぜ私にこんなに力が・・・・・・」
 わからない。ルイズは『ゼロ』だ。魔法の使えぬ『ゼロ』、そんな自分になぜこんな力があるのだろうか。なぜ自分なのか。
「それはわしにもわからん。『破壊の杖』の使い方がわかったのも、ありとあらゆる『武器』を使いこなしたと謳われるそのルーンの力じゃろう。・・・・・・ただのう、わしは思うのじゃ」
 オスマンは振り返り、ルイズを真っ直ぐに見つめる。それは愛しい孫娘を見るような優しい眼差しだった。
584疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:14:33 ID:b7fhJ+Xg
「大きな力には責任が伴い、大きすぎる力には悲しみが伴う。それはあまりに重く、辛い。ミス・ヴァリエール、『ゼロ』と呼ばれた君に、そのような力が与えられた事には何か意味があるとわしは思う」
 オスマンは静かにルイズの頭を撫でた。
「ミス・ヴァリエール・・・・・・いや、ルイズ。君はこれから様々な困難に出遭うじゃろうて。君は気高く誇り高い。傷つき、涙を流しながらも正しい道を見据え、進んでいけるじゃろう。
じゃがの、どうか忘れないで欲しい。君の周りには君を支えてくれる誇り高く尊い友人たちがいる。君は『ゼロ』などではありゃあせん。君ならその力が与えられた意味を見つけることができるとわしは信じておるよ」
 オスマンの言葉で皆の顔が浮かんだ。厳しい母、厳格な父、対照的な姉たち、情熱的なキュルケ、寡黙なタバサ、憎めないギーシュ、そしてルイズと共にいてくれるシエスタ。
 胸が熱くなり、涙が次から次へと溢れてくる。自分を『ゼロ』だと思っていた時、ずっと一人だと思っていた。
 涙を流すルイズをオスマンは優しく、包み込むように抱きしめた。
「今は泣きなさい。若い時は感情を我慢するもんじゃない。泣きたいときに泣き、笑いたい時に笑う。若者の特権じゃて。こんな老いぼれでも、若者が休む時に背中を預けられる役くらいはやりたいのじゃよ」
 涙がボロボロと零れ、嗚咽が止まらない。オスマンの体温はルイズを包み込むように温めてくれた。
 それは自分の傍にいる皆を感じさせるような心地よい温かさだった

――私は、寂しかったんだ。でも・・・・・・もう一人じゃない。

「落ち着いたかの?」
「・・・・・・はい」
 しばらくわんわんと赤子のように泣いたルイズは、こくりと頷いた。
「さぁ、今日のところは涙を流すのはそれくらいにしなさい。君は今日の主役じゃ。今は楽しみなさい。友人たちが待っておるぞ?」
「・・・・・・はい!」
 ルイズは涙を拭い、力強く返事をした。
585名無しさん@お腹いっぱい:2010/10/31(日) 17:20:12 ID:/x0TMQwg
支援
586疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/10/31(日) 17:21:06 ID:b7fhJ+Xg
以上で十四章は終わりです。
支援、ありがとうございました。
ずいぶんと間が空いてしまい、すみません。
今回は一巻部分のラストという事もあり、試行錯誤のすえの難産でした。
本来は今回で終幕とするつもりだったのですが、あまりに長くなりすぎてしまい二つに分けることに。
のちのちエレメントを組むためにフーケを仲間にしたのですがこれが難しい・・・・・・
とりあえずあのような展開になりました。
錠剤の成功率についてですが、どうやら結構高いようなのですよね。
というか錠剤を飲んだ人間が少ない上に、錠剤を飲んで廃人になった人間がほとんどいないという。
その辺りの事情も最終巻で明らかにならないような気もするので、とりあえず成功率は高めということで進めていきます。
なお上記の通りエピローグは書きあがってますので次回はそれほど間も空かないかと
587名無しさん@お腹いっぱい:2010/10/31(日) 17:25:55 ID:5y2aensR
 ウルトラの人、更新乙でした。

 リクエストに答えて下さり、有難う御座いました。

 着々とハルケギニア出発の準備が進んでいるようですね。
ミラン家末弟君の試験も、もう直ぐですね。
学院の皆様方(特に○熱嬢と炎○教諭)勉強の邪魔を
していなければ、良いのですが・・・

 次の更新、お待ちしております。
588名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 18:07:14 ID:O7VX7R+2
ウルトラ乙
パラベラムも乙

シエスタ怖いw
589名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 18:13:22 ID:NojqPE+2
シエスタがヤンデレ化しとるw
590名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 18:40:14 ID:FOr0BYS+
ベムスタ
591名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 18:46:01 ID:13/BFSzF
アントラーやバルタン二代目の時みたいに謎の引力で科特隊全員乗せたビートルがハルケに墜落
予備パーツも無い状況ではさしものイデも修理不可能
592無重力巫女の人:2010/10/31(日) 18:58:04 ID:faKT53Xa
ウルトラの人とパラベラムの人、投稿乙かれ様でした。
これからも頑張ってください。応援しています。

そして皆さん今晩は。無重力の人です。
もし何事も無ければ、19時5分から投稿を開始します。
出来るならば支援の方、御願いします。
593無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:05:00 ID:faKT53Xa
 
 夜の闇が段々と深くなってゆくトリステイン魔法学院…
その女子寮塔の上階にある部屋の窓から飛んで出てきた霊夢は、塔の出入り口へと降り立った。
持ってきた御幣は紙垂の付いている方を上にして担いでおり、体が動くたびに音を立てて揺れる。
(やっぱりというかなんというか。流石にこうまで暗いと見つけられるモノも見つけられないわね…)
地上へ降り立った霊夢は、外が余りにも暗いという事実に内心溜め息をつく。
既に辺りは闇に包まれており、少し離れたところにある城壁に置かれた燭台から出ている明かりがハッキリと見えている。
しかしそれはここを明るくするには至らず、仕方なく霊夢は自分の両目に神経を集中させて辺りの様子を探り始めた。
いかなる状況でも冷静に判断し、相手の攻撃や弾幕を避ける博麗の巫女にとってこれぐらい朝飯前の事である。
彼女の目はゆっくりと、しかし確実に夜の闇に慣れていく。
やがて数十秒もしないうちに辺りの風景が少しだけハッキリと見えたところで、霊夢は出入り口付近である物を見つけた。
朝と昼、それに夕方には多くの女子生徒達が出入りする女子寮塔の出入り口に、潰れたカンテラが放置されていたのである。
まるでハンマーで叩き付けられたかのようにカンテラ全体がひしゃげており、ガラスも粉々に割れて地面に散乱している。

これが霊夢が思っているほどの存在が起こした仕業でなくとも、確実にただ事でないのは確かだ。
「さてと、こんなことをした犯人は何処にいるのかしらね…」
一人呟くとそのまま足を一歩前に出して塔の出入り口からロビーへと入り、すぐ横にあるドアへと視線を向ける。
幸いドアの真上には壁に取り付けられた燭台があり、ドアとそのドアに取り付けられたプレートには【事務室】という文字が刻まれている。
霊夢にはその文字は当然読めないのではあるが、きっと学院の教師辺りが寝泊まりしているに違いないと直観した。
すぐさま霊夢は、そのドアへ近づこうとしたのだがその前にドアノブが回り、油の切れたような音をたててドアが開いた。
ドアが開いた先に佇んでいたのは…マントを外し、何も入っていない花瓶を右手に持ったミセス・シュヴルーズであった。
シュヴルーズは顔を真っ直ぐ地面を向けており、彼女の真正面にいる霊夢にその表情を見せはしない。
霊夢は一瞬誰かと疑問に思ったが、とりあえずここの教師だろうと判断して声を掛けた。

「ねぇ、アンタ学院の教師でしょう?さっきここからものすごい音が……!?」
言い終わる前に霊夢は、突如顔を上げた教師の゛顔゛を見て不覚にも言葉を失ってしまった。
しかし、今のミセス・シュヴルーズの゛顔゛を見れば誰もが驚愕するに違いないであろう。

いつも生徒達からは「優しいシュヴルーズ先生」と言われ、慕われているミセス・シュヴルーズ。
その彼女のふくよかな顔についている両目に覆い被さるかのように、アイマスクのような得体の知れない物体が貼り付いていた。
例えるならば「色鮮やかなはんぺん」というのがしっくり来るのであろうか。
はんぺん程の大きさもある薄い虹色の物体がミセス・シュヴルーズの目に貼り付いているのだ。
更にその物体はナメクジが地面を這うかのようにゆっくりと動いており、見る者に吐き気を催させる。
霊夢は吐き気とまではいかなかったものの、その場で体を硬直させてしまった。

それを隙ありと見てか、シュヴルーズ『らしきモノ』は右手に持っていた花瓶を振り上げた。
それに気づいた霊夢がしまったと言わんばかりの表情を浮かべた瞬間、無情にも花瓶は霊夢の頭に向けて振り下ろされる。
しかし黙ってやられる霊夢ではなく、持ち前の運動神経で振り下ろされた花瓶を両手で受け止めた。
あと一歩というところで止められたが、シュヴルーズ『らしきモノ』は振り下ろした花瓶をもう一度振り上げる。
霊夢はすかさず、シュヴルーズ『らしきモノ』の右手首を手刀で打った。
無駄のない動きで繰り出された手刀おかげで、シュヴルーズ『らしきモノ』の右手から花瓶を手放す事ができた。
床に落ちた花瓶は陶器が割れるかのような音と無数の破片を床一面にまき散らす。
武器を失ったシュヴルーズ『らしきモノ』は一瞬だけ動きが止めたが、それが命取りとなった。
594無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:10:50 ID:faKT53Xa
 
「ハァッ!」
覇気のある声と共に、霊夢は鋭い回し蹴りをシュヴルーズ『らしきモノ』の顔…否。
正確にはシュヴルーズの『目にはり付いている物体』へお見舞いした。

グチャ!……ベチョン!

鋭い蹴りは見事その物体をシュヴルーズの顔から取り除く事が出来た。
無理矢理はぎ取られた物体は、生理的に嫌な音を立てて今度は地面に貼り付く。
そしてそれから数秒も経たないうちに、はんぺんを彷彿とさせる平べったくて丸い形から素早くその姿を変えていく。
グニョン…グニョン…と嫌な音を立てながら変貌したその姿は、ナメクジそのものである。
しかし、その見た目は見る者が恐怖を覚えるほどグロテスクなものであった。
赤から黒へ、黒から黄色へと…その体色は目まぐるしく変化していく。
ときにははんぺんの時と同じような虹色から数十色もの絵の具をバケツに入れてかき混ぜたような色まで…
そんな風に忙しく色を変えながら、ドクンドクンと体を震わせる。
常人ならばまず、その不気味さに全身の毛が逆立つほどであった。

しかし霊夢は、その生物に対し毛が逆立つどころか僅かな怒りを露わにして言った。
「気持ち悪いヤツね…さっさと死んでちょうだい」

すぐさま懐から一枚の小さなお札をとりだし、サイケデリックなナメクジに投げつける。
手を近づけたくない不気味なナメクジの体にそのお札が貼り付いた瞬間、ポッ…とお札に小さな火がついた。
だがそれも一瞬のことで、あっというまにその火は大きくなってナメクジの体を包み込んだ。
その身を炎に包まれたナメクジは体全体を無茶苦茶に振り回しつつ、消滅していった。
僅か数秒の出来事の後に残ったのは、元はお札だった小さな灰の山だけでナメクジがいた痕跡は全くない。
見ていて不愉快になる存在がいなくなったのを確認した霊夢は小さな溜め息をついた。
「ホント…この世界の生き物はよく私に絡んでくるわね。人間も含めて…」
イヤミにも聞こえるかのような事を呟いた後、床に倒れているシュヴルーズへと視線を向けた。
あの変なナメクジに寄生されていた彼女は何事も無かったのかの様に、幸せそうな表情を浮かべて寝ている。
それを見た霊夢は放っておいても大丈夫ね。と心の中で呟いてドアが開いたままの事務室へと入った。


夜の事務室には、生徒が寮塔を抜け出さないように二人の教師が部屋の中にいる。
しかし…今日に限ってその部屋には誰もおらず、代わりに凄惨な光景が広がっていた。
部屋に置いてある二つのベッドの内ひとつは、無惨にも切り裂かれている。
教師達が夜遅くに書類仕事をする為の机は横倒しになっていて、高そうな椅子は徹底的に破壊されていた。
そして綺麗なフローリングの床には、水とも血とも言えない不気味な液体が付着している。
595無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:15:00 ID:faKT53Xa
霊夢は部屋の中を見て目を細めた後、一歩ずつ足を進めて部屋の奥へと進んでゆく。
(さっきの悲鳴が聞こえてすぐにここへ来たというのに…よほど気が立っていたのかしら?)
心の中でそんなことを思いつつ、霊夢は前方にある窓の方へと歩み寄っていく。
開きっぱなしの窓はキィキィと音を立てて風に揺られており、恐怖をあおり立てている。
だがありとあらゆる怪異に立ち向かう博麗の巫女には、そんなもの等こけおどしにすらならない。
それでも用心に用心を重ね、深い闇に覆われた外が見える窓の方へとゆっくり近づいていく。
段々と近づくたびに窓を通して入ってくる生ぬるいのか冷たいのかわからない風が、霊夢の顔と黒髪を撫でる。
この部屋全体を包む得体の知れない恐怖よりもその風に鬱陶しさを覚えつつも、霊夢はゆっくりと窓から顔を出して外の様子を探る。

今夜は月が隠れているということもあってか、一メイル先の視界は闇に閉ざされてしまっている。
窓から顔を出して外の様子を確認していた霊夢は一回だけ頷くと、勢いよく開きっぱなしの窓を出口にして外へと飛び出した。
ガサッ…と靴が芝生に触れる音を出して外に出た霊夢は、目を瞑ってこの付近一帯の気配を探り始める。
(思った通りね…今朝の化けものと同じような気配の持ち主がここの何処かにいる…!)
予想していた通りの気配を察知できた霊夢は、次にその気配の持ち主が何処にいるのか探り始める。
それから数十秒後。パッと目を開けると、スッとある方角へと顔を向けた。
顔を向けた先に何があるのかある程度知っていた霊夢は、目を細める。
(場所からして、明らかに誘ってるわね…。かといって放っておけば何をしでかすかわからないわ…)
全く面倒なことになったわね。と呟いた後、霊夢は大きな溜め息をついた。

「結局、何処にいても博麗霊夢のすることは同じってコトなのね…ハァ」
溜め息の後に呟いた皮肉めいた言葉に、霊夢はやれやれと言いたげ表情を浮かべてまたも溜め息をついた。
結局、どんな所にいても自分は人の命を脅かす化けものを退治するしかない宿命にあるのだ。
今更悩んでも仕方ないのだが、こうも頻繁にこういうコトがあると頭を痛ませる要因となってしまう。
しかしこのまま悩んでいても勝てる相手には勝てないと知っている霊夢はすぐにその気持ちを切り替える。
(でもすぐに済ませれば早く寝れるし、さっさと片づけますか…)
頭を軽く振った後、キッと目を細めると背中に担いでいた御幣を左手で勢いよく引き抜いた。
シャラララン、と御幣の先端に付いた薄い銀板で作られた紙垂がハンドベルとよく似た綺麗な音を鳴らす。
黒一色に塗られた御幣の本体は長く、もしもの時には槍のような武器としても役に立ってくれるであろう。

次に右手でお札を何枚か握った霊夢はフワッと体を浮かばせると、そのまま闇の中へと向かって飛んでいった。
飛んでいった先にあるのは、先程顔を向けた方角にある衛士の宿舎であった。


霊夢が暗闇の中へと消えていって一分くらいした後、一人の少女が事務室へと入ってきた。
少女は部屋の凄惨な光景に一瞬足を止めたものの、すぐに何事もなかったかのように歩いて窓の方へと近づく。
先程、霊夢が出入り口として使用した窓から外の様子を覗いた後、ずれていた眼鏡を右の人差し指でクイッと持ち上げた。

「……見失った」
少女――タバサはそれだけ言うと踵をかえし、事務室を後にした。
596無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:20:07 ID:faKT53Xa



場所は変わって、ルイズの部屋――――
霊夢とタバサが部屋を出てから僅か数分後…
開きっぱなしの窓から入ってくる冷たい夜風で起きることなく、魔理沙とルイズは熟眠している。
いつもならば朝まで寝ているのだろうが、今夜に限ってそうはいかなかった。
突如、灯りのない暗い部屋の隅からボゥ…と黒い人影が現れたのだ。
そいつは自らが出てきた部屋の隅から音もなくルイズ達の寝ているベッドの傍へと移動する。
起きている者がいれば幽霊が出たと叫ぶであろうが、生憎そんな者はいない。

ベッドの傍へと近づいた人影は自身の懐をゴソゴソと漁り、小さな人形を取りだした。
次いで、手のひらサイズの人形の背中に付いているゼンマイをゆっくりと巻き始める。
キリキリキリ…キリキリキリ…と独特の音が静寂と闇に包まれた部屋の中に木霊する。
やがて十回近く回したところで人影は手を止め、人形をルイズの傍へと置いた。
人影の手から離れた直後、人形はルイズの方へトコトコと歩き始める。
既に深い眠りに落ちているルイズはそれに気づくこともなく、とうとう人形はルイズのすぐ目の前にまで来た。
そこで人形は急に動きを止めると、突然腕を上下に動かしながら人間でいう口の部分からこんな音声を発した。
『つるぺたって言うなぁー…!』
一体何処の誰から取った声かは知らないが、あまりにも悲惨な叫び声である。
そんなある種の女性に対して悲壮感を漂よわせる叫び声が、ルイズの耳に容赦なく入っていく。
「うぅ…ぅ…」
最初の方こそ悪夢にうなされるかのように悶えていたが、段々とその意識は覚醒していく。
何せ自分が今一番気にしている事を耳元で寝ている最中に呟かれているのだ、たまったものじゃない。
そして人形が動き始めてから数十秒が経った頃、遂にルイズは声の主に対して反逆を始めようとしていた…

「うぅ…だれが…だれが…――― 誰 が ツ ル ペ タ よ ぉ ! !」
思いっきり両目を見開いた大声でそう叫ぶと、枕元に置いていた杖を手にとった。
無論杖の先を向ける相手は自分の耳元で自分のコンプレックスの元を呟く相手である。
しかし、その相手があまりにも小さくしかも人間ではなかったということに気づいたのには、数秒ほどの時間を要した。
最初は部屋が暗くて良くわからなかったものの、目が部屋の暗さに慣れるとそれが人形だということに気が付いた。
「なによ…コレ。人形?」
意外な犯人の正体にルイズは何回か瞬きをした後、その人形を手にとってマジマジと見つめた。
その瞬間、ふと目の前でバッと何かが光り輝いてルイズの姿を照らし出す。
突然のことにルイズは呻き声を上げる暇もなく目を瞑ると、何処かで聞いたことのある声が聞こえてきた。

「こんばんはルイズ・フランソワーズ。良い夜をお楽しみかしら」
まるで世界の理を知り尽くした賢者ですら弄んでしまうかのような麗しき美少女の声。
ルイズはすぐにその声の主が誰なのか直感し、目を瞑りながらその名前を呼んだ。

「一体こんな時間に何の用なのよ…ヤクモユカリ!」
まるで彼女がその名を呼ぶのを待っていたかのように、光はフッと消える。
ルイズが恐る恐る目を開けてると案の定、目の前にはドア側の椅子に腰掛けている八雲紫がいた。
彼女は最初に会ったときに来ていた白い導師服ではなく、紫色のドレスを身につけている。
まるで自分のイメージカラーだとでも主張するかのように、そのドレスは彼女にとっても似合っていた。
597無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:24:54 ID:faKT53Xa
しかし、寝ている最中に嫌な起こし方をされたルイズはドレスなど眼中になく、この無礼な相手に対してどう落とし前をつけようか考えていた。
「熟眠している貴族を無理矢理起こすなんて、無礼にも程があるわよ…」
「御免あそばせ。でも私たち妖怪にとって、夜というのは人間でいう朝を意味しますのよ?」
起きたばかりのルイズは今の自分に出せる少しだけドスの利いた声でそう言ったが、紫には全く効いていない。
それどころか必死に睨み付けてくるルイズを、まるで可愛い仕草をする子猫を見つめるかのような目で見ていた。
人を夜中に起こしてニヤニヤと笑みを向けてくる紫に、ルイズは前に霊夢が言っていた言葉を思い出した。

―――コイツ相手にムキになっても意味ないわよ

(霊夢の言う通りね…まるで笑顔を浮かべた人形相手に怒鳴ってる感じがするわ…)
「はぁ…で、人を夜中に起こすほどの用事って何なのかしら?」
生きている相手に対してどうかと思う例えを心の中で呟いた後、ルイズは溜め息をつきながら話し掛けた。
どうせなら話し掛ける前に爆発の一つでもお見舞いしてやりたいところだが、結局はしないことにした。
こんな夜中に爆発を起こしたら他の生徒から翌朝嫌な目で見られるし、第一人の皮を被ったこの化けもの相手に正攻法が通じるとは思えない。
つまりルイズは、無意識的に八雲紫という境界の妖怪に対してある種の恐怖心を抱いていたのである。
「…無断で借りていた物を返しに来たのと、ちょっとした話をしにきたわ」
無断で借りていた物ですって?ルイズはその言葉にピクンと体を震わせて反応した。
貴族とかそういう物を抜きにして、人の物を何も言わずに持っていくとは何事だろうか。
いくら人よりも上をいく存在だからといって、少し厚かましいのではないか。
ルイズは心の中でそう思ったが、それを口に出す前に紫が頭を下げた。
「まぁ借り物の件についてはちょっと忙しくて言うのを忘れていたのよ。ごめんなさいね」
「え…?あ、あぁ…まぁ謝る気があるのなら別にいいわよ…」
絶対他人に頭を下げることはしないような相手に頭を下げられて、流石のルイズもあっさりと許してしまう。
まぁ寝起きということもあってか、ルイズもそれ以上追求することはなかった。

「ふわぁ〜…で、借りた物って何のよ?それが気になるんだけど」
欠伸をしつつもルイズは、そんなことを紫に聞いてみた。
ルイズの記憶では、自分が記憶している持ち物は大抵この部屋に今も置いている筈だ。
一体いつ紫は勝手に持っていったのであろうか。
そこが気になっていたものの、一方の紫はルイズの質問に対して紫は目を丸くした。
「あらら…その様子だとどうやら忘れちゃってるようね…」
よよよ…と紫は泣き真似をしつつも左手の甲で口元を隠して微笑んだ。
その態度にルイズはムッとしたのだが、またも霊夢の言葉を思い出して怒りを堪える。
「一体何を持っていったのよアンタは…?でも…とりあえずは返してくれるんでしょう」
「えぇ。…でもそれは後でも出来るからまずは話の方を済ませちゃいましょう?」
ルイズの言葉に紫はそう答えた後、パチン!…と指を景気よく鳴らした。その瞬間…

「さぁ、話を始めましょうか」

ベッドの上にいたルイズは一瞬にして――

「……!?」

――ベッド側の椅子に座らされていた。
598名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 19:32:24 ID:bSwFSk7Q
支援
599無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:33:29 ID:faKT53Xa
これにて、36話の後半部分の投稿を終わります。
では、今日はこれにて。ハッピーハロウィン
600無重力巫女の人:2010/10/31(日) 19:43:16 ID:faKT53Xa
どうやら450KBまでいったようなので、自分が次スレを立ててきます。

>>598
支援の方、ありがとうございます。
601名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 19:49:03 ID:faKT53Xa
新スレ建てました。
実質的にはpart283なので大丈夫か?

あの作品のキャラがルイズに召喚されました part283
http://yuzuru.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1288521867/

602名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 19:54:24 ID:1Nx4Gvp0
別に決まってないし、そういうのは聞いてから立てろよ
603名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 19:59:31 ID:oD8XytCA
無重力の方投稿、スレ立て乙です
次も楽しみにしてます
604名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 20:44:45 ID:gLzfFlMo
次スレは480kだぞ。
あと建てる前にひとこと言え。
605名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 20:48:19 ID:faKT53Xa
>>602
>>603
すいませんでした。
次があるのならば気をつけるようにします。
606名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:05:24 ID:OqW2eXNg
まだ投下可能な余裕はありそうだな
次スレまでにもう1〜2作品カモン!
607名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:09:12 ID:lHC3BTyF
>パチン!…と指を景気よく鳴らした。その瞬間…
>「さぁ、話を始めましょうか」
てっきり「あれは今から36万…いや、1万4千年前か。まぁいい」とでも続くのかとw
乙でした
608名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:22:22 ID:MALpBrbk
今日は久々に祭だな、めでたいことだ
609名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:23:10 ID:OLgiA4RQ
ルシフェル召喚…ダメだ、時間操作とかチートすぎる
610名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:37:17 ID:OqW2eXNg
どの作品のルシフェルかわかんねーよ
時間操作っつーと…バスタードかな
611名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:38:52 ID:4HF+Bb64
>>607のだろ
612名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/31(日) 23:38:59 ID:AFyz+5WT
男の子を召喚したと思って契約のキスしたら全裸のハンサムに変身するわけか
613名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 00:06:19 ID:ockhxbie
そういえば、ハンター×ハンターのキャラが呼び出されるパターンって
全然どころか皆無に近いな
原作自体有名だし、キャラや能力も豊富だし、需要も少なくないと思うが何でだろ?
特に作りにくそうな感じは見受けられないが…
614名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 00:07:55 ID:iJp0Pibz
そりゃあ縁起が悪いからな
完結する気がしねぇ
615名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 00:17:26 ID:Mo9ekMrr
メビウス外伝ゴーストリバースからメカザム召喚というのを考えた
きっと友情の大切さ、真の強さというものを教えてくれるだろう
616名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 00:27:29 ID:i+s8+d4Y
ハンター×ハンターよりもナルトの方が相性がいいと思う。

最初は落ちこぼれだけど、だんだんと最強になっていくし。
本人の才能が発芽していくところもいっしょだし。
617名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 00:28:36 ID:owXNA55F
>>609
「あいつ(ルイズ)は最初から話を聞かなかった…
 まあ、いい奴だったよ」

「そんな魔法で大丈夫か?」
「大丈夫よ、問題ないわ!」

ウッウッウッ(ギーシュとの決闘でフルボッコ)
グッグッグッ(フーケのゴーレムに為す術無く潰される)
アッアッアッ(ワルドにあっさり捕らえられる)

"ブリミルは言っている──
 ここで死ぬ運命ではないと──"

「ルイズ、そんな魔法で大丈夫か?」
「一番いい系統を頼む」
「そいつは始祖の祈祷書、上手く使いこなせよ」

(中略)

「ああ、やっぱり今回も駄目だったよ。あいつは話を聞かないからなぁ。
 そうだな、次はこれを読んでいる奴に続きを書いてもらうよ」
618ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:35:52 ID:IEMz77Vi
お久しぶりです
残り容量40kなら大丈夫だろう、という事でこちらに投下したいと思います
45分頃からいきます
619名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 01:44:56 ID:jsHfdqoa
ヨッシャコー!
620ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:45:24 ID:IEMz77Vi
 

「どうぞ」
「ありがとうございます」
 ややあってトリステインの未来予想図(妄想)から帰還した二人はエリスから水を手渡され、同時に息をついた。
 何故か満足そうな二人の一方で、柊はどこか疲れたように腕を組んで口を開く。
「……で、結局俺達に頼みたいことってなんなんだ」
「あぁ、はい。……どこまで話しましたっけ」
「同盟のために姫さんがゲルマニアに嫁ぐってとこ!」
 苛立たしげに柊がそう言うとアンリエッタは思い出したかのように手を叩いた。
 もはや王女に対する敬意も何もあったものではないがアンリエッタは気にした風もない。
「そう、トリステインはゲルマニアと同盟を結ぶのです。ですがそれは当然レコン・キスタにとっては好ましからざる事態……それゆえ同盟を妨げる材料を血眼になって探しているのです」
「……つまり、姫さんはその材料ってのに心当たりがあって、それをどうにかして欲しいって事だな?」
 この話の流れで秘密裏に頼みたい事がある、となればこれくらいは大体予想の範疇ではある。
 心なし低い声で柊が呟くと、アンリエッタははっとして彼を見やった後、気まずそうに顔を俯けた。
「そうなのですか、姫様?」
「……はい。以前わたくしがしたためた一通の手紙……それを確保して欲しいのです」
「手紙? どんな?」
「それは言えません。ですがもしそれが明るみに出れば、ゲルマニアはわたくしを許さず、同盟は破棄されるでしょう」
「そのようなものが……」
 ルイズは戦慄と共に呟いた。
 話が深刻なものになって流石にエリスもやや緊張した面持ちでアンリエッタを見つめている。
 それは柊もまた同様で、思案顔で顎に手を添えながら尋ねる。
「それで、その手紙ってのは何処にあるんだ?」
 手元にあるならさっさと処分してしまえばいいだけの話なのだから、その手紙は取り戻すことのできない場所にあるのだろう。
 問題はそれが何処にあるのか、だ。
「手紙はアルビオンにあります。今もレコン・キスタと闘っているアルビオン王家の皇太子……ウェールズ様がお持ちになっているでしょう」
「プリンス・オブ・ウェールズ……あの凛々しき王子様が」
「もはや王家……王党派の敗北は決定的とも言われています。そうなればあの方もいずれ囚われ手紙が明るみに出て……きっとゲルマニアの皇帝は『このビッチ!!』と怒り狂い同盟を破棄するでしょう!!」
「一国の姫さんがビッチとか言うなよっ!?」
 とりあえず突っ込んでおいてから柊は深く息を吐く。
 まあ既にレコン・キスタとやらの手中にあってそれを奪還して来い、などという事態にはならなかっただけマシというものだろう。
 だがいずれにしろ戦争中の国――それも災禍の中心に赴くという点ではあまり変わりはない。
 それに気付いているのかいないのか、ルイズはアンリエッタの前に進み出て恭しく跪いて見せた。
「委細は承りました。この件、土くれのフーケを捕らえたわたくしめにお任せ下さいますよう」
「ああ、ルイズ……本当にいいの? かの国は今や戦いの荒れ狂う混沌の地、しかも事が知れればレコン・キスタの者共が妨害に現れるでしょう。死地に赴くも同然なのですよ?」
「何をおっしゃいます! この身に流れるヴァリエールの血は祖国トリステインに捧げしもの、姫様に永遠の忠誠を誓っております!
 今だにわたくしなどをおともだちと言ってくださる姫様のためならば、地獄の釜の中であろうと竜のアギトの中であろうと喜んで参りましょう!!」
「ああ、忠誠……これがまことの忠誠なのですね! この天上にも昇る思いの丈を感動と呼ばず何と呼びましょう! わたくし、あなたの友情と忠誠を一生忘れません、ルイズ・フランソワーズ!」
 大仰な身振り手振りで二人はまくしあい手に手を取り合って語り合う。
 本人達はいたって大真面目なのだろうが、外から見ているエリスと柊からすればまるでどこぞの演劇でも見ているような気分だった。
「す、すごいですね……」
 呆れるを通り越してもはや感嘆の域に達してエリスがぽつりと呟くと、柊は頭が痛そうに眉を潜めてこめかみを指でかく。
「そーだな……けど」
 面倒臭そうに大きく息を吐いて、柊は最高潮の二人に向かって声をかけた。
「盛り上がってるところ悪いんだけど、ちょっといいか?」


621ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:47:32 ID:IEMz77Vi
 

「……何よ。まさか怖いからアルビオンに行きたくないなんて言い出すんじゃないでしょうね」
「いや。話も聞いちまったし、頼まれたんだから行くのは行くよ。けどな、」
 アンリエッタの手をしっかと握ったまま睨みつけてくるルイズに柊は再び溜息をつくと、静かに切り出した。
「なんでお前も行くことになってんだ?」
「……?」
 ルイズとアンリエッタの動きがぴたりと止まった。
 二人は同じような表情――言われた台詞の意味が理解できないといった感じでしばし柊を見つめる。
 ルイズが不思議そうに首を捻ると、柊は改めて言った。
「いや、だから。お前はアルビオンに連れて行かねえって言ってんだよ」
「………………なっ」
 まるで火山の噴火の兆候を思わせるような、そんな30秒ほどの間をおいてルイズは轟くような怒声を上げた。
「なによそれえぇっ!?」
 こうなるのは予想できていたし準備の時間もちゃんとあったので柊は耳を塞いでそれをやり過ごすと、腕を組んで言い聞かせるようにルイズに口を開く。
「お前が頼まれたのは俺を貸すことで、アルビオンに行くってのは俺が受ける依頼だろ。そうだよな、姫さん?」
「あ、はあ、それは……そうですが」
 柊が眼を向けるとぽかんとしたまま固まっていたアンリエッタが問われるままに頷いた。
 しかし勿論ルイズがそれで引き下がる訳がない。
「あんたはただのゲボクでしょ! これは小間使いじゃなくて王女殿下からの密命なの! ゲボク一人に任せられる訳がないじゃない!」
「その王女殿下が俺を指名してきたんだろうが……。大体な、アルビオンは今内戦中なんだぞ? タルブ村の時とは訳が違うんだ」
「危険だって言うんでしょ、そんなこと百も承知よ!」
「……承知なら言わせてもらうけどな。俺は侵――魔物とか相手の修羅場ならうんざりするほどくぐってきたが、人間同士の戦いに参加したことはそんなにねえ。
 無責任に守ってやるっていえるほど自信過剰じゃねえぞ」
「――ふっ」
 憤るルイズに対して憮然として柊が言うと、何故か脇で聞いていたエリスが小さく噴き出した。
「な、なんだ? どうした、エリス?」
「い、いえ。なんでもありません。ごめんなさい」
 不思議そうに見やる柊に、笑みを必死に押し殺しながらエリスが頭を下げた。
 彼はおそらく本気でそう言っているのだろうが、柊が実際に"そういった状況"になった時には躊躇なくそれを実行してしまう人間だという事をエリスは身をもって知っているのだ。
 柊はそんな彼女を怪訝そうに見つめた後、気を取り直すようにルイズに向き直る。
「……と、とにかく。最低限自分の身も守れない奴を連れて行くわけにはいかねえってことだよ」
「な、何よ。わたしが足手まといだとでも言うつもり……!?」
「端的に言うとその通り」
「!!」
 反応に詰まることでも期待していたのだろうか、しかし即座に断言されてルイズは絶句して固まってしまった。
 しかし柊としては特に理由もなく彼女を連れて行く道理などまったくない。
 ウィザードとして任務に赴く際には依頼主であるアンゼロットが戦力の調整などをやってくれるのだが、自分でやれと言うのならばこれくらいはやれるのである。
「そんな訳だから、エリスもここで留守番な」
「はい、わかりました。気をつけて下さいね」
 固まってしまったルイズを置いて柊がエリスに顔を向けて言うと、彼女の方はすんなりとすんなりと頷いた。
 エリスは一時期ウィザードとして柊達と共に戦いを潜り抜けた経験があるし、自分の力量を――ウィザードでなくなった事もちゃんわきまえていた。
 なのでこの状況で特に口を挟むことなど何もない。
 ……が、やはりもう一人の彼女はそうも行かないようだった。

622ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:49:06 ID:IEMz77Vi
 

「あ、あんたみたいな平民が一人で行ってどうしようっていうのよ!
 そりゃ王党派の所まで辿り着くことはできるかもしれないけど、そこで門前払いされるのがオチじゃない!」
 薄桃の髪を振り乱して詰め寄るルイズに、柊は僅かに眉を寄せて息を吐いた。
 別の方向からアプローチをしたようだが、そう来るのなら柊としてもやり方はある。
 彼は口を挟むことができず心配そうにやり取りを見守っているアンリエッタに振り返った。
「信用されりゃいいんだろ? 姫さん、そのウィールズ王子宛に手紙だか親書だかを書いてくれるか?」
「え、あ、はい」
 彼女は慌てたように周囲を見回すとルイズの机に向かい、そこでさらさらと所をしたため始める。
 それをいらいらとした表情で見つめながら、ルイズは柊に視線を移した。
「し、親書があるってだけじゃ身の証にはならないわよ。ちゃんとしかるべき人間が赴いて――」
「――って事なんで姫さん。何か身の証になるようなもの、ねえか?」
「えっ、はっ、はいっ」
 状況に押されてアンリエッタは年相応の少女のように慌てふためき、ペンを止めると探るように身体のあちこちに手を当てた。
 そして思いついたように顔を上げると、右手に嵌めていた指輪を抜き取り柊に歩み寄った。
「母より頂いた王家の秘宝たる『水のルビー』です。
 これを同じくアルビオン王家に伝わる『風のルビー』に近づければ虹の架け橋が浮かび上がる……何よりの身の証となりましょう」
 手渡されたルビーを確認して小さく頷き柊はルイズを見やる。
「これで文句ねえだろ……って、ルイズ?」
 と、何故かルイズは今までの剣幕がなかったように黙り込んでいた。
 訝しげに首を捻る柊を気にも留めず、彼女は柊の手元にある水のルビーを食い入るように見つめている。
「ルイズ? どうしたのですか?」
「ルイズさん?」
 少女二人の声もルイズの耳には届かない。
 今の彼女の頭の中に浮かんでいるのは、先だってのフール=ムールの言葉だ。
 始祖のルビーを手に始祖の秘宝と接触する事が正規の虚無覚醒の手順、と。
 巡り会わせがよければ始祖の遺産に辿り着くこともあるだろう、とも。
 ならばこれがその"巡りあわせ"というものではないのだろうか。
「……いやよ。わたしもアルビオンに行く! 絶対行くんだからー!!」
「お前なあ……っ」
 まるで癇癪を起こしたように叫んだルイズに流石にいらついてきて柊は唸った。
 何しろルイズがフール=ムールから得た情報は彼女自身半信半疑であったため柊やエリスには話していないので、彼らから見れば完全に駄々をこねているようにしか見えないのだ。
 彼女を諌めようとして柊が口を開き――かけた時。
 それを遮るように部屋の扉が勢い良く開け放たれた。

「話は全て聞かせてもらったわっ!!」

623ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:51:55 ID:IEMz77Vi
 

 バーンと威勢よく開いた扉と部屋に響き渡る声。
 燃えるような紅髪の少女――と、その彼女に続いて従者のように姿を現した青髪の少女の闖入に四人は完全に固まってしまった。
「つぇ、ツェルプストー……?」
「と、タバサ……?」
 呆然と掠れた声を漏らしたルイズと柊。
 凝固した場の空気と各々の表情を眺めやってキュルケは満足そうに笑みを浮かべると、つかつかとアンリエッタに歩み寄って恭しく膝を折った。
「恐れながら姫殿下、我が寮の壁は王宮のそれほど厚くはございませぬ。魔法を使わずとも聞き耳を立てる不埒者もおりますゆえ、お気をつけになられたほうがよろしいかと」
「…………」
 恭しく告げられた諫言にアンリエッタは眼を数度瞬かせた後、ふっとその場に倒れ伏した。
 どさりとアンリエッタの体がベッドに倒れこんだ音で部屋の中に時間が流れ始め、ルイズは烈火のような表情でキュルケに詰め寄った。
「ふ、ふふ不埒者のあんたがどの面下げて言ってるのよおぉぉっ!!!」
 しかし当のキュルケは一向に悪びれた様子はなく、むしろ不服だといわんばかりに息を吐いた。
「失礼ね、あたしはちゃんと放言して良いことと胸に秘すべき事の区別はわきまえてるわ。むしろ感謝されてもいいぐらいよ。"あんな不埒者"に聞かれたらどうなったことか」
 言いながらキュルケは顎で部屋の入り口のほうを示した。
 ルイズは怒りを露にしながらも、そして柊とエリスもそちらを見やる。
 その先にいたタバサが言葉もなく脇に動くと、その向こう――部屋の外の廊下。
 ……いい感じに丸焦げになったギーシュがぶっ倒れていた。
「ギーシュ……」
 返事がない。流石に生きてはいるようだが。
 無残な彼の遺体をよそに、キュルケは得意げになって鼻を鳴らしてルイズをねめつけた。
「それにあれだけおともだちだの何だの騒いでおいて誰にもばれないだなんて本気で考えていたの? それとも考えてすらなかったの?」
「くっ……!?」
 反論することができずにルイズは唇をぎゅっと噛み締めた。
 はっきり言ってキュルケ達の行為は出歯亀以外の何者でもないのだが、結果的には彼女達以外の誰にも漏れないように人払いをしてくれていたことになっていたという訳だ。
 黙り込んでしまったルイズを見てキュルケはふふんと勝ち誇ったように笑みを浮かべた後、改めて場の三人(アンリエッタは気を失っている)を見やってから自慢の紅髪を掻き揚げた。
「まあとにかく。そんな訳で話は全て聞かせてもらったわ」
「……ゲルマニア貴族のところも?」
「……ノーコメントにさせて頂きます」
 柊がおずおずと尋ねると、キュルケは珍しく穏便に――聞かれた瞬間こめかみに青筋が立ち拳を握り締めたが、それでも穏便に話を流した。
 いかな慇懃無礼の彼女とて、気を失ってはいるものの仮にもトリステイン国の王女であるアンリエッタに対して暴言を吐くことはできなかったのだろう。
 キュルケは平静を取り戻すよう努めて大きく深呼吸した後、改めて口を開いた。
「お偉方の決定だからその是非はおいておくとして、ゲルマニアとの同盟というならあたしにとっても無関係の話ではないわ」
 貴女だってそうでしょう? とキュルケはタバサに声を投げかけた。
 当のタバサは眠いのだろうか半分眼を閉じふらふらと頭を揺らしていて聞こえているかどうかすら定かではない。
 怪訝そうに声を上げたのはルイズだった。
「何? この子、ゲルマニアの人間だったの?」
 話の腰を折られて、そして更にゲルマニアの人間かもしれないという事でルイズの声音には明らかに不機嫌の色が浮かんでいる。
 しかしタバサは黙して語らず、キュルケは溜息をついて肩をすくめた。
「実はあたしも知らないのよ。トリステインのどこだかの貴族だと思ってるんだけど……ルイズ、あなたも知らないの?」
「知らないわよ。あんた、家名は?」
「……」
 ますます怪訝な表情になってルイズはタバサを覗き込む。
 視線を真正面から受けてタバサはようやく船をこぐのをやめたが、ルイズの質問自体はこれまで通りに黙殺――いや、一度だけルイズから眼を外してアンリエッタを見やった。
 タバサにとってアンリエッタが気を失っていたのは幸運だったかもしれない。
 もっとも、『彼女』がアンリエッタに逢ったのは一度だけであり、しかもそれは十年近く前の話だ。
 その時は"顔見せ"程度のもので会話らしい会話もなかったし、何より今の『タバサ』からは当時の『彼女』の印象や面影を見出すことはできないだろうが。

624ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:54:57 ID:IEMz77Vi
 

「まあいいわ。それより話を元に戻しましょう」
 タバサの微妙な空気の変化を読んでくれたのか、あるいはさほど興味がないことだったのか。
 キュルケは軽く手を叩いてから場にいる全員に顔を巡らせ、最後に柊に向かい合ってからにっこりと笑みを浮かべて口を開く。
「ダーリン、貴方アルビオンに一人で行くつもりなのよね?」
「なんだよそのダーリンってのはよ……」
「わたしも行くって行ってるでしょう!?」
 嘆息交じりに言いながらも柊は首肯し、そしてルイズが肩を怒らせてから口を挟む。
 しかしキュルケはルイズの怒号を委細気にせずに柊に向かって指を差し、軽く振って見せた。
「ダーリンなら力量は十分でしょうけど、王党派の拠点に行くまでの道程はどうするつもりなのかしら? こっちに来たばっかりでアルビオンどころかトリステインですら詳しくないでしょう?」
「……う」
 それを言われると流石に柊は口ごもらざるを得ない。
 ハルケギニアに着てから約一月程度しか経っておらず、しかもこの魔法学院からさほど離れたこともないのでキュルケの言う通り土地勘などないも同然だった。
 手当たり次第という手もあながち不可能ではないが、やはりある程度の前知識があるに越したことはない。
 するとルイズが嬉々として声を上げた。
「そ、そうよ。一刻を争う任務なのに迷子になったらどうするつもり? わたしなら一度アルビオンに行ったことあるから土地勘もあるわ。だから――むぎゅ」
 勢い込んだルイズの頭を押さえつけてキュルケが詰め寄った。
「そこであたし達の出番って訳よ。アルビオンには何度か行ったことあるからそれなりに土地勘もあるわ。それに何より……」
 言いながらキュルケはどこか蛇を髣髴とさせる、にやりとした笑みをルイズに向けた。
「ゼロのルイズと違ってあたしとタバサはれっきとしたトライアングル。自分の身は自分で守れるだけでなく、ダーリンの手助けもきっとできますわ。中々お買い得な取引だと思わない?」
「ツェルプストー、あんた……っ」
 ルイズは屈辱に顔を引きつらせ、頭を押さえつけているキュルケの手を払って睨みつけた。
 しかし当のキュルケは余裕綽々で敵意の視線を受け流して払われた手をひらひらと振っている。
 その態度がどうしても気に食わないが、ルイズはそれ以上に気に食わない事が一つあった。
 それは、キュルケの提言を聞いた柊が特に難癖(ルイズにとっては)をつけて断る訳ではなくそれを思案している事だった。
 理屈ではちゃんと理解していた。
 今のアルビオンが危険な場所であることも、そこへ向かうこの任務が危険なことも。
 魔法を使えない自分よりも魔法を使えるキュルケ達の方が戦力になることも、ちゃんと理解はしている。
 だが理屈でそう理解してはいても、感情がどうしても納得してくれなかった。
 柊が自分よりもキュルケ達を選ぼうとしている。
 それが間接的に自分がゼロで役立たずだと言われているようで、裏切られたような気がしたのだ。
 そして――それは"気がした"ではすまされなかった。
「……本当にいいのか?」
 柊がキュルケに向かって言ったその一言で、ルイズは完全に言葉を失い肩から力が抜けてしまった。
 そんな彼女の様子などお構いなしにキュルケは喜色を称えて柊に歩み寄り強引に手を取る。
「ええ、勿論よ! ダーリンの助けになるなら地獄の釜の中だろうと竜のアギトの中だろうとお供いたしますわ!」
「だからダーリンってのは……まあいいや。ただ、一つだけな」
「うん、なぁに? もしかしてタバサも一緒じゃなくて二人だけで行きたいの? ダーリンがそうしたいならあたしとしては心苦しいけどタバサには残ってもらうわ?」
「いや、そうじゃなくて……ある意味そうなんだけど」
 どんどんと詰め寄ってくるキュルケに柊はやや身体を仰け反らせながら、言った。

「連れてくのはタバサだけでいい」

625ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:56:57 ID:IEMz77Vi
 

 間。


「なンでタバサだけなのよぉォォォーーっ!?」
 まるで寮全体を震わせるようなキュルケの叫び声が響き渡った。
 直近でそれを受けた柊は顔を顰めながらも、彼女に向かって言う。
「いや、トライアングルっつってもピンキリだろうし、お前が実際どれほどのモンかわからねえし……」
 しかもデルフリンガーに『火遊びの達人』とまで言われてしまっては戦中の国――実戦の場所には連れて行きかねる。
 その点で言えばタバサはギーシュと初めての決闘をした際に少しだけ力量を垣間見ていた。
 魔法に関してはそこまで深くはわからなかったが、少なくとも身のこなしだけは相当なものだ。
 更に言うならタバサだけを――というより、『一人だけ』を選んだのにはもう一つ理由があるのだが、そこまでは彼女には言えなかった。
「どれほどですって!? だったらギーシュを見なさいよギーシュを!!」
 そんな柊の事情を知る由もないキュルケは怒りも露に廊下にぶっ倒れているギーシュを指差した。
「あんな風に生かさず殺さずミディアムレアに仕上げるのは並大抵の技量じゃできないのよ!!」
「……そうなのか?」
「そうなのよ!!」
「でもギーシュだしなあ」
「あんただってこないだ負けたじゃない!!」
「う、うるせえな!?」
 キュルケの怒りは収まるところを知らず、だんだんと床を踏み鳴らしながら苛立たしげに紅髪をかいてから次いでタバサを指差す。
「だ、大体ねえ! タバサは元々乗り気じゃないの! 今日のだってあたしが無理矢理連れてきただけなんだから! そのあたしが行かないのにこの子だけが行く訳がないでしょう!?」
 聞いている分には酷いいいようではあるが、タバサは一向に気にしている風はない。
 しかし話題が出てきて自然と注目がタバサに集まると、彼女は少しの沈黙のあと、ぼそりと呟いた。
「……行く」
「タバサ!?」
 出てきた肯定的な発言にキュルケは勿論のこと、この場にいる他の全員――提案した柊自身も含めて――が少なからずの驚きを浮かべた。
 しかしタバサは一切表情を変える事なく、僅かに眼を細めて柊を見据えて更に言葉を続けた。
「その代わり、教えて欲しいことがある」
「……」
 その表情と目つきで柊はそれが何なのかを理解した。
 彼女とのほぼ唯一の接点であったあの日に聞かれた事だ。
 柊は僅かに首を傾けると、諦めたかのように溜息を吐き出した。
「……わかったよ。けど、前にも言ったとおり知ったからってどうにかなるかはわからねえぞ」
「それで構わない」
「……もうっ、何なのよ一体!」
 お互いに頷きあった柊とタバサを見やっていたキュルケが溜まりかねた様に声を上げた。
 そして彼女は烈火のように柊を睨みつけると、タバサとの間を遮るように身を乗り出して床を蹴る。
「こんなの納得いかない! タバサが行くんならあたしだって行くわ!」
 すると今まで黙り込んでいたルイズが便乗して怒声を張り上げる。
「納得いかないのはこっちの方よ! ツェルプストーもヒイラギも、どいつもこいつもなんでわたしを無視して話を進めてるのよ!!
 これは姫様がわたしに持ってきた話なの! わたしがいなかったらそもそもこの話自体がなかったんだから!」
 言いながらルイズは感情任せにキュルケを突き押した。
 ルイズと同じく半分感情的になっている今のキュルケがそれを受け流せるはずもなく、顔を怒りに赤く染めてルイズに掴みかかった。
「戦力外通告されてんだから無視されて当然でしょう、引っ込んでなさいよゼロのルイズ!」
「な、なんですってぇ!?」
 そして二人の取っ組み合いが始まった。
 お互いの家名やら先祖やらを引き合いに出して口汚く罵りあう二人を眺めやりながら柊は本日何度目かの溜息をつく。
 タバサもそれをぼんやりと見ながら小さく息を吐いた。
 今まで完全に話しに入っていけなかったエリスは二人の喧嘩を止めることもできずおろおろとするしかない。
 どたばたとしたやりとりに流石に眼が覚めたのか、ベッドで気を失っていたアンリエッタが頭に手を当てながらふらふらと起き上がった。

626ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 01:59:05 ID:IEMz77Vi
 

 それを見やってから柊は苛立たしげに頭をかきむしり、押し合い圧し合いしている二人を制するように大きく声を上げた。
「ああもう、わかったよ! 連れて行けばいいんだろ!」
 その言葉に二人はぴたりと動きを止めて、同時に柊に眼を向けた。
「俺とキュルケとタバサ、そんでルイズも一緒に行く。それでいいな、姫さん?」
「え? あ、はい……よくわかりませんが、ヒイラギ殿のよろしいように……」
 起き抜けにいきなり話を向けられれば当然だが、アンリエッタはぼんやりとした調子で頷いた。
「なんでツェルプストーまで……」「なんでルイズまで……」
 予想通りの台詞を異口同音に吐き出した二人に、柊は首を捻りっぱなしのアンリエッタに視線を送ってから有無を言わせぬ態度で二人に言い放つ。
「王女殿下の認可は貰ったんだ、文句あるのか?」
「……」
 こういう形のやり方は正直好みではないが、こういう世界では一番効果的ではある。
 実際二人は顔には不満をありありと貼り付けていたが口答えするつもりはないようだ。
「そんで姫さん、腰折っちまったけどとりあえず親書を書き上げてくれねえか」
「は、はい。少々お待ちを」
 慌てて机に戻ってペンを手に取ったアンリエッタを見届けて、柊は次いでタバサに眼を向けた。
 完璧に我関せずといった調子で推移を見守っていたタバサに向かって、柊は口を開く。
「タバサも……それでいいな?」
 あえて念を押す形で問いかけた。
 すると彼女はしばし柊を見つめた後、はっきりと頷いた。
「あの……柊先輩?」
 と、おずおずとエリスから声をかけられて柊は彼女を振り返った。
 見つめてくる翠の瞳に込められた表情は「自分も行きたい」という風ではなく、むしろ柊の意図をなんとなく察しているようだ。
「……後でメール入れっから」
「はい、わかりました」
 エリスは特に何も聞くことなく小さく頷いた。
 それはそれで嬉しくはあるのだが、やはり彼女に対する申し訳なさも感じてしまう。
「悪いな、面倒ごと押し付ける風になっちまって……正直、この世界で一番頼りになるのはエリスだよ」
 すると彼女は眼を丸め、僅かに頬を染めて微笑んだ。
 頼りにされた嬉しさが半分、純粋に頼りにしかされていない寂しさが半分の、わかる人間にはわかる微妙な笑顔だったが生憎柊はわかる人間ではなかった。


 ※ ※ ※


627ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 02:01:19 ID:IEMz77Vi
 

 ややあってアンリエッタが書き上げた親書と託された水のルビーは柊が預かることとなった。
 これにはルイズが少し渋ったが、ものの重要性を考えれば事実上柊以外の人間には決して手が出せない月衣の中に入れておくのが一番安全――と言われては流石に引き下がるしかない。
 出発は翌明朝という事でこの場は一旦解散になり、柊も黒焦げになったギーシュを引き摺ってルイズの部屋を後にした。
 とりあえずギーシュを彼の部屋に放り込んでおいてから、柊はそのまま就寝はせずに寮の外へと赴く。
 そのまま学院の敷地から外へ出て、辺りを軽く見渡してから外壁に背を預け懐からO-PHONEを取り出した。
 エリスにメールを送信し終えると、彼はその場に座り込んで眼を瞑る。
 それから30分程経った頃合だろうか、柊の元に近づく気配があった。
 柊が眼を開いて訪れた相手に眼を向けると、それは果たして予想通り、タバサだった。
「通じてたみたいだな」
 安堵するように柊が息を吐いて言うと、タバサは答えるように小さく頷く。
「私も多分そうする」
 そうする、とは言うまでもなくルイズやキュルケを置いてアルビオンに出立することだ。
 端的に言ってしまって、国家間の同盟を左右するほどの任務に対して遊び半分――彼女等からすれば大真面目なのだろうが、だからこそ大問題だ――で参加しようとする人間など力量とか言う以前の段階で連れて行ける訳がない。
 なのであの場は妥協する形で収めておいて、こうしてすぐに出立することにしたのだ。
 柊としてはあまり面識のないタバサがそれを察してくれるか微妙なところだったので、もう30分ほど待って来なかったら本来の予定通り一人で行くつもりだった。
 だが幸い、彼女の気色はルイズ達より柊に近いらしい。
 翌朝になってルイズとキュルケは怒り狂うだろうが、必要なものはこちらが握っているので騒いでも後の祭りだ。
 ……二人の気性からして追いかけてすら来そうなのでエリスにメールで後詰を頼んでおいたのである。
「けど、本当にいいのか? そこまで知りたいってんなら別についてこなくても教えはするけど」
「それは公平じゃない。報酬に見合う対価は払う」
 一応改めて聞いてみたがにべもなくそう言われたので柊は黙り込むしかなかった。
 タバサは柊に背を向けて少し距離を取った後、空に向かって指笛を吹いた。
 静まり返った夜闇の中に刺すような音が響き渡り、ややあって大きな影――風竜が風を切って飛来してきた。
 風竜はタバサの側に降り立った後、その口を大きく開けてあくびを吐き出すと恨みがましげに彼女を見やる。
「アルビオンまで」
「……きゅい」
 幼体とはいえ仮にも竜であるその威容に見合わない、まるで愚痴を零すような鳴き声を漏らして風竜……シルフィードは頭を地面に下げる。
 その頭を軽く撫でてからタバサが振り返ると――柊は何故か微妙な顔つきでタバサとシルフィードを見やっていた。
「……その風竜ってお前の使い魔だったのか」
「……?」
 柊の言葉にタバサは首を捻ってしまった。
 てっきり彼が自分を選んだのは力量に加えて移動手段を確保するためだと思っていたのだが、その様子を見るとどうも違うらしい。
 柊は溜息を漏らした後困ったように頭をかいた。
「だったらキュルケはいてもよかったかもな……いや、まあ態度がちょっとアレだけど」
「……どういうこと?」
「コレで行こうと思ってたからよ」
 タバサの質問に柊は月衣からガンナーズブルームを取り出すことで答えた。
 何もない中空から現れた巨大なモノにタバサは眼を見開き、呟く。
「……破壊の杖?」
 タンデムシートなしでの三人乗りは非常に危険、という事は先日のタルブ村行きの際に嫌と言うほど体験していた。
 なのでこの箒でアルビオンに行くなら一人だけの方が望ましく、それならキュルケよりもタバサの方がいいだろう……というのが柊の思惑だったのだ。
 タバサはしばし破壊の杖を興味深げに眺めやった後、シルフィードに向き直ってから告げた。
「今回は留守番。帰っていい」
「きゅいっ!?」


628ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 02:03:01 ID:IEMz77Vi
 

 驚愕の声を上げて頭を持ち上げるシルフィード。
 しかしタバサは一方的な宣告を終えた後話は終わりとばかりにシルフィードから離れ柊の方へと歩き出す。
 するとシルフィードは大口を開けて背後から彼女を咥え込み、ぎょっと目をむいた柊をよそに翼を翻してその場からタバサを連れ去ってしまった。
 柊から十分に距離を取った後シルフィードはタバサを解放し、そしてひそひそ声で"喋った"。
「ちょ、ちょ、ちょ、お、お姉様! どういう事!? あんな棒っきれでアルビオンに行くとかホザくなんて頭が沸いてるに決まってるのね! そんな奴の言う事を聞くの!?」
「今回の私は同行者。だから指示には可能な限り従う。それに……破壊の杖にも興味がある」
 言ってタバサは再び柊の元に向かおうとするが、シルフィードの巨体がそれを行く手を遮った。
「ほ、本気で置いていくつもり!? シルフィードはお姉様の使い魔……いわば右腕のはず……っ!」
「……私の右腕はここにある」
「!!!」
 自らの右腕を軽く叩いてタバサがそう言うと、シルフィードは愕然とした表情を浮かべて固まってしまった。
 そんなシルフィードの脇を擦り抜けてタバサは柊の下へと歩いていく。
 彼女が柊の傍に辿り着くと、彼はおそるおそるといった感じで彼女に声をかけた。
「お、おい、なんかすっげえ睨んでるぞ……」
 学院のすぐ側とはいえ街灯もない暗闇の中、シルフィードの怒りに満ちた双眸が爛々と柊を射抜いていた。
 殺気すら纏わせてガチガチと牙を鳴り響かせているその様は、隙を見せれば襲ってくる魔物のそれに等しい。
「問題ない。それで、破壊の杖でどうするの」
「お、おう……」
 ただならぬシルフィードの様子を完全に無視したタバサの言葉に促されて柊は破壊の杖――ガンナーズブルームを起動させた。
 中空に浮かばせたそれに跨ってタバサを促すと、彼女は普段の無表情な顔に興味を浮かばせてしきりに何か頷きながら観察し、箒に同乗する。
 ゆっくりと機体を上昇させながら柊はタバサに言った。
「アルビオンって確かここから北西だったよな? ラ・ローシェルの更に先」
 タルブ村などといった局地的な地理はともかく、流石に国やその主要都市くらいの地理はこちらに来たときに既に仕入れている。
 確認に首肯で返した彼女を見て柊は一つ頷くと、出発しようと機首を返し、
「うおっ!?」
 下方から飛び出した影に僅かに姿勢を崩された。
 今まで沈黙を保っていたシルフィードが唐突に飛び上がり、柊達を掠めるように旋回した後高く一鳴きしてそのアルビオンの方向へと向かっていったのである。
 その行動の意図はもはや言うまでもなく『挑発』だった。
「……箒と勝負しようってのか? 上等じゃねえか」
 流石に風竜というべきか、あっという間に夜闇の中に消えていったシルフィードを見据えながら柊は獰猛な笑みを浮かべた。
 彼は手前に乗せていたタバサの身体を片腕で抱いて固定し、背中越しに振り返った彼女に向かって告げる。
「魔法で風圧……風を避けられるか?」
「度合いによる」
「よし、なら飛ばして行く。辛いようなら言うなり合図してくれ」
 柊のいいようにタバサは僅かに眉を動かした。
 メイジでない彼は知らないのかもしれないが、エア・シールドなりを使えば例え物理的なモノでもかなりの防御効果があるのだ。
 なのでどれほどの速度であっても風だけなら辛いという事態にはまず陥らない。
 特に指摘するような事でもないので彼女はあえて何も言わなかった。

 ――箒の尾部スラスターがまるで破裂するように閃光を迸らせ夜の闇を切り裂いた。
 回りの何もかもが一瞬で吹っ飛んだのと同時に、彼女は自分の『常識』も一緒に吹っ飛んだのを感じた。


 ※ ※ ※


629ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 02:04:26 ID:IEMz77Vi
 

「遅い! 遅すぎるのね!!」
 二つの月明かりが照らす夜空の中を飛翔しながら、シルフィードは歌うように声を上げた。
 出立した魔法学院は既に遥か遠く、幾つもの山の向こうに消え去っている。
 彼女にとってはわかりきったことではあったが、柊達の姿などどこにもありはしない。
 なんだか楽しくなってぐるぐると切りもみしはじめながら、シルフィードは完全なる勝利の余韻に酔いしれる。
 このままアルビオンまでひとっ飛びした後は三日ぐらいかけてひいこらやってくるだろう二人を優雅に待ち受けるつもりだった。
 そうすれば少々空に浮かぶ程度のみょうちきりんな棒を持ったあの馬鹿もシルフィードの偉大さを思い知るだろうし、そんな偉大なる使い魔をないがしろにした主も己の浅はかさを悔いるだろう。

 柊:うわーだめだー、シルフィード様はなんて凄いんだー! それに比べて俺はなんて無知蒙昧な豚野郎なんだー!!
 タバサ:ごめんなさい。やっぱり私には貴方しかいない。
 シルフィード:だめだ許さないのね。でもシルフィードは鬼というわけではありません。これからは待遇を改善して毎日お腹一杯お肉を食べられるようにしてくれれば全て水に流してあげるのね。
 タバサ:そんな事で許してくれるなんてなんて優しいの……素敵、抱いて!
 柊:一生ついていきます!

「コレなのね!! もう無敵の未来しか見えてこない!! あっははははは、きゅいきゅいぃぃっ!!」
 夜の静寂をぶち破る馬鹿笑いを上げながらふらふらと空中で踊りだす。
 まるで人生の絶頂のような喜びに浸るシルフィードだったが、ふと後方で何かが光ったのに気付いた。
 何かと首をめぐらせた瞬間、その光は尾を引いて彼女へ向かって一直線に突進してくる。
 眼を覆うばかりの輝線がシルフィードを掠めるように駆け抜けて消えて行き、一瞬遅れて強烈な風が身体を襲う。
「!? ……!?」
 数瞬の忘我の後、シルフィードは慌ててその光を追って空を駆けた。
 全力で飛ばしてもなお追いつけない。
 尾を引いて零れ、掠れて霧散する光を辿ることしかできず、それにすら追いすがる事ができない。
「そんな……嘘……!」
 必死に翼を動かしながら、シルフィードは愕然と呻いていた。
 光とすれ違った瞬間に垣間見たもの。それはあの妙な棒に乗った人間とタバサだった。
 信じたくない思いとどれほど死力を尽くしても追いかけることができない事実に打ちのめされながらシルフィードは夜空を疾走する。
 やがてようやく空の向こうに光が見えてくると、しかしシルフィードはむしろ屈辱感すら覚えてしまった。
 なぜならこれはシルフィードがあの光に追いついたのではなく、あちらの方が明らかに速度を緩めてこちらに近づいているからだった。
 光の先頭――柊とタバサがシルフィードの隣に並ぶ。
 そして彼はにやりとした笑みを浮かべて開口一番こう言った。
「……俺の勝ちだな」
「!!!!!」
 ぎりぃっ、とシルフィードは牙を砕かんばかりに歯を食いしばった。
 生まれて初めて殺意が生じた瞬間だった。
 ぶち殺すのねヒューマン、という言葉すら吐き出せないほどの怒りが彼女の中に渦巻いていた。
 おそらく今ブレスを吐き出したらガリアの王城であるリュティス城すら吹き飛ばすほどの威力を叩き出していたであろう。
 しかし主人であるタバサが一緒に乗っている以上巻き添えにする事はできない。
 ……その主人であるタバサが、感嘆したようにぼそりと呟いた。
「シルフィードより、ずっとはやい……」
「!!!!!!!!!!!!!」
 その瞬間、シルフィードの中で何かが弾け飛んだ。
「サ、サラマンダーなんかとは違うのねーっ!!」
「おぉっ!?」
 意味不明の咆哮と共にシルフィードはこれまでにないほどの速度で柊達を一気に引き離し夜空の向こうへぶっ飛んでいく。
 まるで裡に溜め込んだ衝動やら何やらを全て放出するかのような猛烈な勢いであった。
 慌てて柊は機首を駆ってシルフィードを追い夜闇を飛翔する。
 地上から見れば流れ星と見紛う光の軌跡が、ハルケギニアの夜空を過ぎ去っていった。

630ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/11/01(月) 02:05:17 ID:IEMz77Vi
ギリギリセーフで今回は以上。魔法学院発アルビオン行き直行便
ぶっちゃけ任務に積極的であった場合ルイズが行く必要って完全皆無だと思います
そしてエリスがやばいぐらい空気……むしろ柊が邪魔とさえ思ってしまうぐらいに
なお、箒の速さについては原作には特に設定がありません。公式小説で音速突破した描写があるのでそれぐらいは余裕だろう、ということで
ともかく、何故か依頼だけで二回も使いましたがようやく本格的にアルビオン編です
・・・ん? 何か忘れているような・・・
631名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 02:58:35 ID:Mo9ekMrr

おっかしいな。なぜかタバサが南斗爆殺拳のルイズとかぶって見える?
632名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 03:30:24 ID:GhwkIIap
ジャッカル乙
633名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 09:05:25 ID:i+s8+d4Y
投下乙

いと哀れルイズとキュルケ。
港まで追いつけるかなぁグリフォンで。その場合はキュルケだけ置いてけぼりだろうけど。

まあ、港で船を待つ必要もないかもしれんけどね。
634名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 10:54:52 ID:NY93MVVy
ワの人どころかルイズまで置いてけぼり……乙であります
このシルフィードは大畑さんか。てか柊の前で喋っちゃってるよw
635名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 12:26:21 ID:eAfphDx1
>>590
使い魔にできたらある意味理想だな。
力は強い、空は飛べるしビームも出せる。
体は頑丈だしエネルギー攻撃は吸収される。伊達にマケット怪獣有力候補だったわけじゃない。
636名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 15:24:10 ID:jsHfdqoa
M72ロケットランチャーなんぞ比較にもならないナパーム弾とか光線銃とかくらっても平然としてるウルトラ怪獣って時点で、
特殊能力とか関係なくべムスターだろうがべムラーだろうがゼロ魔世界ではほぼ無敵なような…
ゼロ魔世界最強幻獣のドラゴンはゼロ戦の機関銃ごときで死ぬ生物だし

まあ作品によってはウルトラ怪獣がメイジにやられたりしてることもあるが、普通に考えると勝ち目無いっしょ
637名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 15:37:59 ID:Mo9ekMrr
ナパーム弾で死んだマグラー涙目
638名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 15:43:12 ID:mE/LlNKP
塩水で死んだナメゴンェ
639名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 15:58:24 ID:ty/EpvaQ
ジャミラェ
640名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 16:16:42 ID:DJe0ozCC
>>586
防御フィールドの名前がトラウマシェル。主人公の所属するフライトの構成員は全員トラウマ持ち。
以上から、何らかのトラウマをもつものほど成功率は高まるのではないでしょうか。
641名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 17:02:28 ID:eAfphDx1
>>636
ベムスターはナイフでダメージを与えられるから、やりようによっては負けるかもしれないよ
642名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 18:33:49 ID:fF18dbx+
バルタン星人は核ミサイル(はげたか)食らっても分身脱皮でノーダメージだからねえ
テレスドンとかはナパーム弾効果なしだったね
ナイフでダメージって…、あああの格好悪い改造べムスターのことか

円谷プロの生物は核弾頭も効果ないけど蜂の毒にやられる宇宙怪獣…とか、
水に弱いジャミラとか、弱点突くと倒せるのも多い
単純な戦力では話にもならないがやりようによっては確かに倒せるかもしれないが
643名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 19:24:39 ID:M4fRr8e5
北斗の拳のケンシロウを召喚。

ギーシュ
「参った!降参すよ。助けてくれ〜」

ケンシロウ
「知らんな・・・。悪党の泣き声は聞こえんな。
 この足を話して10秒後に、お前は死ぬ!」

ギーシュ
「ひでぶー!」
644名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 19:37:54 ID:jZcnY/BI
サラマンダー・・・
そういえばエンディングでは主のビュウも乗り換えて・・・

じゃあバハムートはバハムートでも
MEGAZONE23のバハムートを召喚
MZ23が崩壊して余命間近だと思い外に出てみれば地球、かと思いきや異世界
ルイズは珍走団と難民を養うハメに
タルブにはヴィルデ=ザウとザーメ=ザウが大量に保管
・・・案外イケる気がしてきたが、気のせいだな
645名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 20:03:44 ID:Mo9ekMrr
>>642
蜂の毒……ドゴラか
だったらゴジラも渡り鳥で誘導できる修正を利用して、燕が使い魔のメイジを使って
火竜山脈の噴火口に誘導する倒しかたが使えるかもしれないな

スペースゴジラはハルケギニアにはタワーがないからエルフの首都に行ったりして
646名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 20:56:15 ID:ucDHq/NO
ところで広場で召喚儀式やってるけど魚などの水中でしか生きられない生物を召喚したらどうするんだろう?
ある程度のなら急げば大丈夫な気がするけど
647名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 21:08:59 ID:/ItoDEvu
水メイジがいれば何とかなるんじゃないかね。
648名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 21:23:43 ID:o5OmAlU8
ガンダム系(特にUC物)から呼ぶとすると宇宙に行かなきゃいけない時どうすんだろ?
649名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 21:28:58 ID:rHGy3HI4
ガンダムに限らず、ロボ系は難しそうだな
整備やら修理やらの問題に加えて、バトルがロボ対人になるからすげえやりにくそう
650名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 21:58:43 ID:mE/LlNKP
ゴーグあたりならまあメンテなしでも問題ないかと。
そらとべないけど
651名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 22:07:44 ID:HfsYBy7n
固定化かければ動力と故障以外のメンテは楽になんね?
652名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 22:15:06 ID:Mo9ekMrr
宇宙戦艦ウルトリアは100年は補給整備の必要はない
653名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 23:08:13 ID:Ex76idCw
夜闇の人乙。
なんというか、ハルケギニアが田中天に侵食されてる気がする
次回も楽しみにしてるぜ
654名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 23:14:30 ID:1cUtTDBJ
そろそろ500kか……

















500ならワンピースからロブ・ルッチたちCP9をルイズが召喚する話を書け
655名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 23:18:32 ID:0bOJKaoc
>>648
ガトーがノイエ・ジールごと召喚されて、戦闘でのダメージもあってノイエ・ジールがガラクタに成り下がったSSがまとめになかったっけ?
656名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/01(月) 23:38:58 ID:7nhf9D5Z
ターンエーなら自動修復だから問題ないな
月光超で七万秒殺か
657名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 00:31:09 ID:1G5Ib/SJ
俺がガンダムだ!!
658名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 00:53:03 ID:J7RyodRR
う〜ん、マンダム
659名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 01:07:23 ID:O6nva31h
ようこそ…『男の世界』へ…
660名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 01:12:34 ID:Z5jsmyFV
死ぬぐらいは、みんながやってきた事だ
僕にだって、ちゃんと出来るはずだ
661名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 01:44:40 ID:8V2sO7EQ
>>660
誰のセリフだっけ
662名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 01:45:24 ID:RV1xk82n
ノリスケさん
663名無しさん@お腹いっぱい。:2010/11/02(火) 03:49:02 ID:w/VU6Gu+
マジで?マジなら引くわ。
664名無しさん@お腹いっぱい。
手元に本が無いから確認できないが閃ハサのハサな気がする