【IF系】もしゼロの使い魔の○○が××だったら25
前スレサイズ超過なので勝手に立てました。
テンプレ調整は各種スレの更新のみな。
乙
まぁ、なんだ、代理するなら容量も確認しておくれと
>>1 乙
代理も乙
投下中にダメ〜って言われちゃうと焦っちゃうよなw
まとめにゃ原文で載るだろうし、そんな気にすんなよw
スレ立て乙
投下が増えるといいな〜
>>1乙
それと前スレの代理人の人。
容量が超過しそうなら先にスレを立てて欲しかったですな。
次スレ立てるの人は気を付けて。
もし虚無と銃士で、家族再会後も平民のままを選んだら。
公爵家がほっとくとは思えないので……
銃士隊にあからさまに偽名な水使いと風使いが参加
ルイズにアカデミー研究員の家庭教師がつく
女装少年ギーシュが女の子からお姉さまと慕われる
今、もしもサイトがティファニアに召喚されたらか、
もしもキュルケが虚無だったらのどちらかを書こうか考え中
どっちが良いかなあ?
キュルケが虚無の理由付けの構想はできてるんだけどね
そこは是非とも後者でいってもらいたいなぁ
あれだろ恋人の取り合いで血が混じったんだろ。
>>11 「せっかくだから、俺は『もしもサイトがティファニアに召喚された上にキュルケが虚無だったら』を選ぶぜ!」
まあどちらにしろ、ただでさえ投下数少ないから、もう大歓迎だ
ジョゼフがジョゼットを使い魔にしていたら、
自分が王に選ばれた事に納得してシャルル暗殺が無くなるかも。
ルイズが召喚したのがキュルケだったら、
キュルケ自体、ルイズの使い魔を楽しんでやりそうだけど、家はそれでは済まないだろうな。
そこは流れ的にも「キュルケが虚無でルイズを召喚」で
……二代目烈風にガンダチートなルイズ
なんでだろう、調子にのってご主人様に折檻される孫悟空なルイズしかイメージできないや
キュルケに性的にお仕置きされるルイズだと・・・
ていうか、キュルケが虚無だったらどんな性格になるんだ?
ゲルマニアの風潮を考えると、ルイズほど追い詰められないような気もするけど。
ツェルプトーの家風がいまいち分からんしなぁ。
もうあっさりとメイジの道を捨てて商売かなにかやっててもおかしくない気もする。
老伯爵と結婚させられるくらいだから、ツェルスプトー家は子供に困ってなさそう。
いっそ家を飛び出して、20の言うとおり商人をやっていて、たまたま魔法学院にやってきたところから話が始まるとか
エロい下着を売りに来るのか
LイズさんとかMンモンさんがこっそり買うんだな
>>22 異世界に召喚されて高級ランジェリーショップの店員になる平賀才人(17才)か
現代知識を生かした商品開発だとか、店主(兼ご主人様)や常連客のあれやそれと、採寸だの試着だの、それなんてエロゲ展開はできそうだが……
とりあえず親は泣くなw
もしもエレオノールが永遠の17才だったら
おいおいw
そんなんだから結婚ができ
キュルケが虚無だったら、魔法学園で下働きの総取締りのような仕事をやっているかも。
オスマンのセクハラや貴族の無茶を流し、平民から一目置かれる存在になっているとか。
才人を召喚した時でも、まさか上手くいくとは思っていなかったと言いそうだけど、
責任を感じて才人の為にフーケ討伐に名乗りを上げそう。
でもキュルケみたいな性格だと虚無用のマイナスな精神力はたまらなさそうではあるがな。
キュルケの場合、虚無を覚醒させるタイミングが難しい
ルイズと違って覚醒に必要な道具の確保がしにくい
ルイズ経由で手に入れるのが自然かな?
ルイズが普通に母親譲りの実力あるメイジならアンアンからの依頼もありうるだろうし…
ツェルプストー家がヴァリエール家から奪ったのはあくまでも
ヴァリエール家の「恋人」・「婚約者」・「奥さん」ですから、
ツェルプストー家に「ヴァリエール家の血そのもの」は入っていないのでは。
そこからのifじゃない?
もしかしたら王家の血筋を持つほうが駆け落ちするかもだし
奥さんを妊娠してる状態で奪う
どっちの子か分からない
婚約者、恋人に混じるのは限りなくゼロに近いけど、奥さんならば可能性は高いよ。
某SSではないが、少し突っ込んで考えれば思いつく設定だからなー
ルイズの言によれば、奥さんをとられたのは『ひいおじいさんのサフラン・ド・ヴァリエール』だな。
とったのはキュルケの『ひいおじいさんのマクシミリ・フォン・ツェルプストー』あるいは『弟のディードィッセ男爵』
キュルケに始祖の血が入るのなら前者でないと。
ただ虚無の覚醒にどれだけ血の濃さが必要かだな。
ハプスブルグ家の血友病並みに親族間の婚姻が必要ならば、ツェルプストーの家にかなりの割合で始祖の血を持つ者が
いないとキュルケは虚無にならないだろう。
ま、上で言うとおり、キュルケの性格なら虚無用の高速怨念増殖炉には適さないけどな。
虚無の使い手の条件は血統とあと育った環境とか。
ルイズやジョセフに似たようなのもいたけど、
あっさり諦めて平民になっちゃったとか、
そこまで行かないまでも適当なとこで妥協した人生送ったとか。
血筋だけはいいから嫁に行くなり、養子に行くなり何とかなりそうだし。
「この決闘で僕に勝てたら彼女たちに謝ろう
だがもし君が負けたら僕の物になってもらおうか」
「お前まさか・・・・・そっちの趣味が」
「いやそういう意味じゃなくって」
38 :
代理:2010/07/09(金) 18:02:59 ID:Z+L06rjV
名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/07/08(木) 23:30:28 ID:kf1G/8pw0
どうも、虚無と銃士の中の人です。
本スレ、虚無キュルケで盛り上がっていますね。いいなぁ、没落ヴァリエールの時もそうですが、俺も参加したい。
これで投下が増えれば良いなぁ…。
まあ私の場合、そういう心配の前に完結しろですね、わかります。
というわけで23話のほうを投稿したいと思います。規制もまだまだ長引きそうです…。
よければ、代理投稿をお願いいたします。
39 :
代理:2010/07/09(金) 18:04:39 ID:Z+L06rjV
『……あー……夜空が綺麗ね』
『この状態で言うこと?』
そう呟くのはぷかぷかと池に浮かんでいるエレオノールと、同じような状態になっているロングビルだった。
ここはラ・ヴァリエール家の練兵所、ではなく中庭の池だった。先ほどまで彼女たちは練兵所で決闘を行っていたはずだったが、
いつの間にかここにまで吹き飛ばされてしまっていた。彼女達の服はボロボロになっているのは、その名残である。
ルイズの個人的な客として招待されたロングビルは、それはそれはもう大歓迎された。
手紙で君の事は知っている、あのじゃじゃ馬をよく世話をしてくれたと両親には感謝され、
何と言うか、元々は貴族とはいえただの秘書相手にする歓迎の仕方ではない。それほど二人はルイズの事が心配だったのだろう。
次姉には動物達と共にルイズの友達でしょう? と歓迎された。蛇や虎に絡まれたときは流石に参ったが。
そして三姉にも色々と話を聞かされたり、ルイズ自慢されたり、ルイズが最近冷たいと愚痴を聞かされたり、ロングビルはうんざりした。
彼女は筋金入りの妹馬鹿だろうな、とその時彼女は思ったものだ。
そして最後に話したのは気難しそうな長姉だったが、意外や意外、話が合うのだ。
彼女もまた上司のセクハラだとか、やりたくもないデスクワークだとか。色々と悩みがあり、それが自分のものと共通していた。
また、秘薬の作り方だとか、土魔法の使い方など、可能な限りでお互いの事の情報交換をしたりした。
アカデミーの研究員と言うことあって、理に適った説明をしてくれたり、今まで知ることのなかった方法を知れたりと、なかなか興味深い。
流石に話せる範囲の事しか話してくれなかったが。それは自分だって同じだ。
しかし、酒が入りお互い酔いが回ってくると、エレオノールがとんでもないことを言い出した。
『あんたと私はおんなじ匂いがするわ!』
『あっはっは、どんな匂いだよ!』
『えっとね、うんとね、男にもてなさそうな匂い! あ、でもあんたのほうがもてなさそうね! がさつそうだものね、あっはっは!』
その一言にカチン、と来たロングビルは顔を引きつかせながら挑発し返した。
『はん! そういうあんただって、ヒック、もう26のオバハンじゃないか! 何時まで独身を気取ってるつもりなんだよ』
『な、なんですとー!』
と、こんな遣り取りがあり、お互い罵声を浴びせあった結果、決闘をする事になったのだ。
しかし、こんなに酔っていても、ロングビルはある種冷静だった。彼女はフーケだと悟られないよう、力を抑えてエレオノールと戦った。
だがお互い酒で酷い戦いとなり、ついには精神力も切れて、殴り合いひっかき合いにまで発展した。
そうしていると、どこからともなく笑顔の公爵夫人が来て、二人まとめて仲良く吹き飛ばした。魔法を使わず、宙高く空を舞い飛ぶなんて、
今後経験することなどないだろう。そして、二人は頭を冷やすようにとそのまま池にぶち込まれた。
そんなこんなを経て、ロングビルは夜空を見上げながら、エレオノールに話しかけた。
『……あんたのところの母親、とんでもない人だね。私、客よ?』
『そうでしょ。自慢の母よ。私なんかには勿体無いわ。というか、娘を傷ものにする人は客じゃないでしょ』
『……羨ましいね。あたしのところは、もうどっちもいないから。血の繋がっていない妹しかね。いや、あの子は娘みたいなもんか』
懐かしそうにロングビルは呟いた。暫く会っていないが、この空の何処かを流れているアルビオンで、妹は元気にしているだろうか。
そんなことを考えながら、彼女は星空を眺めている。
『……故郷はアルビオンって言ってたかしら?』
『ああ、そうさね。飯は不味いし、空に浮かんでいるから色々と不便だし。でも、その子といられる時間は、そんなのを忘れられるぐらい楽しかった。
……ははっ、何話してるんだろうね、私は。こんなこと、誰にも話したことないのに』
自嘲気味に笑うロングビルを、エレオノールはちらっとだけ見た後、恥ずかしそうに顔を赤めながら言った。
『……きっと、似てるからよ。自分にそっくりだけど、ちょっと違う人間。それは一番嫌いになるか、
一番好きになるかのどっちかじゃない?』
『……かもしれないね。思えば、あのアニエスって子も私にそっくりだわ。妹可愛がりが過ぎるところとかね』
『そうなの? ふふ、あんたも可愛いところあるのね。……ねぇ』
『何?』
40 :
代理:2010/07/09(金) 18:05:55 ID:Z+L06rjV
エレオノールの問いに、ロングビルは身体を起こし、彼女の顔を見つめながら言葉を待った。
エレオノールは言葉を探しているように、あの、だとか、その、だとか色々と呟きながら、一度咳き込んだ後、意を決したように言った。
『その、友達になってくれない? 私、こんな性格でしょ? あまり友達いないのよ……。でも、ここまで話せる人に会ったの初めてだから。……だから』
『……』
『身分とか関係なく、物怖じせず、色んな事を言い合える人なんて、貴女が初めてだから』
突然の言葉に、ロングビルは呆れたように黙ってしまった。
そんな彼女を見て、残念そうながら、慌ててエレオノールは誤魔化すように、恥ずかしそうに顔を赤らめながら水の中に沈んでいった。
『……だ、駄目なら良いわ。そうよね、会ったばかりだし、私みたいなのが友達じゃ、迷惑よね、うん、あぶぶぶ……』
『全く子供っぽい26歳ねぇ。……いいわよ』
『へ?』
ロングビルはそんな彼女に、苦笑しながら、そしてそっぽを向きながら頷いた。何を言ってるんだ、私は。
こんな関係なんてすぐに壊れてしまうだろうに。だが、彼女は気が付いたらそう答えていた。
それを聞いたエレオノールはすぐに水中から顔を出し、ぽかんとしていた。そんな彼女にもう一度ロングビルは言った。
『なろう、友達に』
『……あ、あ、ありがとう、ロングビル』
『どういたしまして、エレオノール。……そらっ!』
ロングビルは手で水を掬い上げると、それをエレオノールにぶちまけた。
『うぶは!? こ、この、やったわね!』
『はっはっは、あんたと違ってね、私は身体を鍛えてるんだよ! ほぉら!』
『ちょ、ちょっと眼鏡が!』
『はっはっは! ほらほら!』
『こ、このやったわね!』
『何やってるんですか、姉上、ロングビル殿』
『あんたも喰らいなさい!』
『うわっ!』
そうして、二人は仲良くなって、王都の酒場でも時々顔を合わせてはお互い愚痴を言い合って、楽しい日々を過ごした。
だが、それは幻だ。土くれのフーケにとって、ただの夢に過ぎない。
第23話
そう、全てはもう幻だ。
そう思いながらも苦痛の表情を浮かべてフーケは馬を走らせる。学院へと戻るためだ。
何故戻るのか。今頃フーケの話で持ちきりだろう。公爵家の娘を攫ったとなれば相当の騒ぎになっているはずだ。
自分がフーケだとばれている可能性も否定できない。しかし、彼女には戻らなくてはならない理由があった。破壊の杖の使用方法についてだ。
あの特殊な杖は、アジトで眺めてみても、どういうマジックアイテムかもわからなかった。
いや、ディティクト・マジックにも反応しない事から、もっと別のアイテム、東方から伝わったものなのではないかと彼女は睨んでいる。
その使用方法は学院の誰かが知っているのではないか、そういう淡い期待感が彼女の中にはあった。
その中でも特に彼女が目をつけているのはルイズの使い魔、サイト・ヒラガという少年だった。
見たことのない格好、そして変わった髪色に異世界から来たと言う変わった少年。
ルイズからあれこれ話を聞いていなければ思いつきもしなかっただろう。
異端である彼ならば、異端である破壊の杖の使用法もわかるのではないか。そう彼女は推測している。
しかし、やはり戻るのは危険でもあった。
時間をかければ王家やあの恐ろしい母親が、そしてアニエスやエレオノールが動いてくるかもしれない。
そうすれば自分の命はおろか、友の目の前で裏切ることになりかねない。それだけは嫌だった。
だからこそ、戻るのは一度きり、それでわからなければ諦めるしかないだろう。それがルイズにとっても自分にとっても一番の選択肢だ。
……本来ならば、直ぐに逃げるべきだった。しかし、彼女にはそうできない。何かが彼女をそうさせるような強い衝動に駆られていた。
とにかく、フーケは、いやマチルダ・オブ・サウスゴータは焦っていたのだった。
41 :
代理:2010/07/09(金) 18:07:00 ID:Z+L06rjV
「止まれ!」
と、門に辿り着くと、衛士に制止された。何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせ、フーケは下馬した。
「これはミス・ロングビル。今までどちらへ?」
「フーケの調査に行っておりました」
「それはそれは……しかしここを通り抜けた記憶はないのですが?」
「城壁を直接乗り越えましたから。馬は近隣の農民にお借りしましたの。それで、学院長は何処に?」
「現在本塔の宝庫で教師陣や一部の生徒を呼んで、会議をしている模様です。ミスもお早めに」
「承知いたしました。ありがとう、お勤めご苦労様です」
フーケはねぎらいの言葉を衛士にかけると、そのまま馬を預けて足早に本塔へと向かっていった。
「私はロングビルだ、私はロングビル……よし、私はロングビルだぞ」
その間、ぶつぶつと呟きながら辺りを見渡す。生徒達やメイド達が噂話をしている。まるで蜂の巣をつついたようだ。
だが、それを聞く限りでは、まだフーケの正体がばれている様な雰囲気ではない。
ただ、流石にルイズが攫われたことは薄々と広まっているようだ。
あのゼロは自分の実力をわきまえずに、功績を挙げようとして失敗しただとか、
あのキュルケと共闘して今一歩のところまで追い込んだが、ゴーレムの攻撃にやられて攫われただとか、好き勝手に言われている。
と、本塔の入り口の近くで、一人のメイド、シエスタがおろおろと歩き回り、その側ではモンモランシーとギーシュが彼女を落ち着かせていた。
ギーシュの首に首輪が付けられているのは、何時もの光景だが。
「うう、うう……」
「落ち着きたまえ、メイドくん。そんなに焦ったところで状況は変わらないだろう?
公爵家に仕えている身なのだから、もっと昂然と振舞いたまえ」
「し、しかし……ああうう」
「もう、これは駄目ね……。全く、あの子も心配させるんだから……。自分はあの平民に心配させるなって言ってるくせに。
あ、ミス・ロングビル、おはようございます」
「ええ、おはようございます」
と、モンモランシーがロングビルに気が付いた。ロングビルは軽く会釈をして、急いでいる素振りで本塔へと入ろうとする。
すると、シエスタはロングビルに飛びつき、彼女の身体をゆすりながら、錯乱したように彼女に縋りついた。
「だ、大丈夫ですよね?! ル、ルイズは大丈夫ですよね!?」
「あ……」
「ルイズ、あの子優しいですし、だいじょうぶ……」
そんな彼女の顔に雲がかかると、突然力なく倒れた。どうやら水の魔法『スリープ・クラウド』のようだ。
使ったのはモンモランシーだろう。
「もう、最初からこうすればよかったわね。大丈夫ですか? ミス・ロングビル」
「え、ええ。ありがとう……。申し訳ないけれど、この子を連れて行ってもらえませんか?」
「仕方ないですね。ほらギーシュ! あんたの魔法の練習も兼ねて、ワルキューレで運ぶのよ! 全速前進!」
「あらほらさっさ! ……って何を言わせるんだよ、愛しのモンモランシー。まあ君の頼みとあれば、仕方ないね」
そう言うと、ギーシュは優雅にゴーレムを錬成すると、シエスタを優しく抱きかかえさせた。
そして二人はロングビルに軽く会釈すると、その場からいなくなっていった。
妙にノリの良い二人だったが、そんなことを気にしている余裕はない。
ロングビルはシエスタを運んでいく彼女たちを横目に本塔へと入り、宝庫へと目指していく。
だがその最中で、先ほどのシエスタの言葉が妙に心へ突き刺さるような気分を味わい、そしてどうしようもない苦痛が彼女を襲った。
だが、それでも表情を崩さず、彼女は宝庫へと辿り着き、どうやら白熱している会議の中へと飛び込んだ。
こんなつもりではなかった。いや、別に今更、誰が悲しもうが関係ないじゃないか。それに、今回の事はルイズの自業自得なのだから。
そう考え込むことで、必死に苦痛から眼を背けながら。
42 :
代理:2010/07/09(金) 18:07:46 ID:Z+L06rjV
さて、ロングビルが戻ってくる少し前。魔法学院の宝庫では教師達が集まっていた。
捜索に出ていた教師たちの一部もここに戻り、彼らは騒然としていた。
無理もない、魔法学院始まって以来の大事件なのだ。
秘宝『破壊の杖』が盗まれただけではなく、ラ・ヴァリエール公爵家の令嬢が攫われたのだから。
しかもその手口がゴーレムを使った大胆な方法だ。これでは彼らの面子も丸つぶれである。
しかし、教師全員は土くれのフーケが開けていった穴を呆れた表情で見ていた。
そして冷静になった、いや現実が見えなくなってきた教師たちは次々と好き勝手なことを喚き始めた。
「土くれのフーケ! 貴族達の財宝を荒らしまくっているという不届き者か! 随分ナメた真似をしおって、あまつさえ生徒を攫うだと?」
「衛兵は何をしておったのだね?」
「平民などあてにできるか! それよりも、ミセス・シュヴルーズ、昨日の当直は貴方だったのではないですかな?」
と、一人の教師の言葉にシュヴルーズは震え上がった。教師の指摘の通り、昨日の当直は彼女だった。
当直を任された教師は、門の詰め所で夜通し、見張りをしなければならない。
しかし彼女は昨日の夜ぐうぐうと寝息を立ててさぼってしまったのだ。
事の責任の重さに耐えがたくなったのだろう、彼女はボロボロと泣き出してしまった。
「も、申し訳ございません……」
「申し訳ございませんで済むと思っておるのかね? 泣いたところで生徒やお宝が戻ってくるとでも?
おお、これが王家やヴァリエール公に知れ渡ったらどうなることでしょうなぁ?」
しかし、それで教師たちの追及は止まる事はなかった。
まだこの場にいない学院長オスマンが来る前に、責任の所在を明らかにしようとしているのだろう。
自分の名誉を守るために。こんな緊急事態の時にも責任の擦り付け合いをする。
名誉を重んじるトリステイン王国の貴族の悪い部分が露見した瞬間だった。
「そ、それは……! そもそも当直を不真面目にやっていたのは私だけではないでしょう!」
「これこれ、見苦しい言い争いはやめんか」
と、そんなところへオールド・オスマンがやってきた。彼は冷静な言葉遣いでその場を諌めた。
彼の後ろには遠方まで調査に向かっていたギトーとコルベール、そして当事者だったキュルケ、タバサそしてサイトが連れられている。
サイトは、不甲斐ない大人たちに対し、明らかに怒りを露にした表情を浮かべていた。
キュルケやタバサも表情には出していないものの、この大人たちの情けないやり取りに呆れているようだ。
コルベールは申し訳なさそうにサイトの背中を見つめている。
そしてギトーはなにやら頭を抱えながら、何かに集中しているようにぶつぶつと呟きながら眼を閉じていた。
「しかし、オールド・オスマン……」
「確かに当直をせず、寝ていた彼女にも責任はある。しかし、ここにいる者の中で、真面目に当直をしていたものはおるかな?」
オスマンの言葉に、教師達は揃って口を閉ざした。それを見て、オスマンは長く伸びた白い髭を撫でながら杖を地面に付きたてて言った。
「うむ、その通りじゃ。誰もフーケなどという怪盗が、わざわざこの魔法学院を襲撃するとは思っておらんかった。
何せ、ここには多くのメイジがおるのじゃからな。好き好んで虎穴に入り込むものなどおるまい。
皆そう思っていたじゃろう。しかし、奴はやってきた。それを止められなかったのは、この場にいる全員の責任じゃろうて」
「お、オールド・オスマン……あ、貴方のお慈悲に感謝いたします! 私はこれより貴方様の事を父と呼ばせていただきます!」
と、オスマンの言葉に安堵と感激を覚えたシュヴルーズはオスマンに抱きついた。その様子を見て、サイトは小声で悪態をつく。
「何なんだよ、この空気はよ……」
「平和ボケしたトリステイン人らしいわね……。これじゃ、私たちが探したほうがまだマシよ」
キュルケも呆れた表情で答えた。
と、その声が聞こえていたのか、オスマンは気を取り直すようにごほん、と大きく咳き込むと、
抱きつきながらおいおいと泣くシュヴルーズを離しながら言った。
43 :
代理:2010/07/09(金) 18:08:41 ID:Z+L06rjV
「さて、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ。そして少年……」
「……サイトです」
「ごほん、サイト君。君達は現場を見ていたようじゃが、詳しく説明してくれるかの?」
「はい」
オスマンに催促され、代表してキュルケが畏まった態度で説明を始めた。
「私たちは、私の部屋で小さな宴を行っていました。彼、ミス・ヴァリエールにより遠い土地から召喚されたサイト・ヒラガ氏の歓迎を祝う宴です。
そんな折、突如大きな揺れが我々を襲いかかり、そして巨大なゴーレムが宝庫を襲っているのをミス・ヴァリエールが見つけ、
一人現場に駆けつけました。私たちもその後を追っていったのですが、サイトが辿り着いた時には、フーケはミス・ヴァリエールを攫い、
そして筒状のもの、恐らくは破壊の杖でしょうが、それを抱えてゴーレムの肩へ乗っておりましたわ」
「それで?」
「ミス・タバサとサイトが風竜で追いかけましたが、一瞬眼を離した瞬間にゴーレムは土の山になり、
そしてフーケは姿を晦ましていました」
「なるほどのぅ……」
オスマンは考え込むように髭を撫でた。その横で、教師の一人がまた勝手な事を言い出した。
「生徒一人で突っ込んでいったというのか! 実力も弁えず馬鹿なことを……それでは攫われて当然ではないか!
あの問題児は、何処へ行っても我々に問題を抱えさせますな!」
「五月蝿い! ただ偉そうに言うだけで、何にもしなかったあんたたちよりかは全然良い!」
と、とうとう堪忍の緒が切れたのか、その身勝手な言葉に反発するように、サイトは叫んだ。
その場にいた全員は、呆気に取られたように彼に目線を送った。
そして、先ほどの教師は顔に青筋を立てて、サイトに怒りを露にした。
「ぶ、無礼な平民め! 貴様、そのような口答えをしてただで済むと思ってるのか!」
「はっ! 何が貴族だよ、何が教師だよ、偉そうにしやがって! あんたたちが加勢してたら、
ルイズはな、ルイズは今頃攫われずに済んだんだよ!」
「き、き、貴様……! 言わせておけば……!」
「カァー! 落ち着かんか!」
一触即発の雰囲気に、オスマンの制止が入った。
何時もの飄々とした彼からは考えられないほどの威圧感に、サイトも教師も、周りの人間も気圧されて静寂に包まれた。
「少年よ、気持ちは分かるが、そのように怒鳴ったところで状況は変わらん。そこの……誰じゃったか、まあ良い。
君も、勇気を持ってフーケに立ち向かったミス・ヴァリエールを称えこそすれど蔑むなど言語道断じゃ。反省せい。
さてと、ギトー君や、先ほどから何をしているのかね?」
「……」
「む? 聞こえておらんのか? おーい、ギトー君や」
オールド・オスマンの言葉にもギトーは反応する事はなかった。なにやら集中しているようだった。
そんな彼にコルベールは肩を叩きながら呼びかけた。
「ミスタ・ギトー、オールド・オスマンがお呼びですぞ」
「ええい、集中できん! あ、いや申し訳ない。我が遍在が少々気になる情報を得ましてな。
そのまとめをしておりましたのです」
オスマンはギトーの言葉に興味深そうに眼を見開いた。
「おお、そうか」
「オールド・オスマン!」
と、そんなところにロングビルが飛んできた。コルベールは驚いたように彼女にまくり立てた。
「ミス・ロングビル! 今まで何処へ行っていたのですか!? 大事件ですぞ!」
「申し訳ございません、私も調査を行っていたのです」
「お、おお……なんとも仕事が早い」
44 :
代理:2010/07/09(金) 18:09:42 ID:Z+L06rjV
コルベールは驚きを隠せないまま感心する。そんな彼とは対照的に、落ち着いた様子でオスマンは尋ねた。
「ふむ、それで何か分かったのかな? ロングビルや」
「はい。フーケの目撃証言を取れました。恐らく居場所もそこでしょう」
「な、なんと!」
宝庫の中が騒然とした。コルベールも素っ頓狂な声を上げた。ギトーも驚いた様子で彼女の事を見つめていた。
「それは誰に聞いたのかね?」
「はい、近隣の農民に聞いたところ、近くの森の廃屋に入っていった黒ずくめのローブの人間を見たそうです。
男か女かはわかりませんでしたが……しかし桃色の髪の少女を抱えていたと」
「それだ! それがフーケだ!」
サイトが叫んだ。
「ふむ……ところでギトー君も何か掴んだようだが、そちらはどうかね?」
「概ね彼女の情報と同じです。しかし、よく情報をつかめましたな?」
「ふふ、こういうことにはコツがあるのですよ」
ギトーはオスマンに頷いた。その側で、なにやらロングビルは安心したようにため息をついてるが、それに気が付くものはいない。
そして、その前にはドキッと身体を強張らせたことも。
「そうか……。距離は近いのかね?」
オスマンの言葉にロングビルは頷いた。
「はい、徒歩で半日ほど、馬で4時間ほどでしょうか」
「すぐに王室に報告しましょう! 公爵家の娘が攫われたとなれば、もはや我々だけの問題ではないですぞ!
王室衛士隊に頼み、兵隊を動かしてもらわなければ」
コルベールが叫んだ。オスマンは髭を撫でながら、静かに頷きつつも彼に反論した。
「しかし、王室なんぞに報告している間にもフーケは逃げ出してしまうかもしれん。それこそミス・ヴァリエールの危機に繋がる。
そのうえ、身にかかる火の粉を己で振り払えんで何が貴族じゃ! ここは我々から捜索隊を結成する。
魔法学院の秘宝が盗まれた。そのうえ生徒が攫われてしまった。これは我々魔法学院が解決する問題じゃ」
そう言ってオスマンは咳払いをして有志を募った。
「では捜索隊を編成する。我こそはと思う者は杖を挙げよ」
「はい!」
真っ先に手を挙げたのはサイトだ。そして声を出してはいないが、キュルケとタバサも杖を挙げていた。
その様子に、驚いたように慌ててシュヴルーズが諌めた。
「何をしているのです! 貴方たちは生徒ではありませんか! それに貴方は平民でしょう! ここは教師に任せなさい!」
「あら、ではミセス・シュヴルーズ。貴方様が行かれますか?」
「う……あ、いえ、私は、体調が優れないので、他の方に……」
「それでは他の方々は如何ですか?」
キュルケはまるで挑発するような言葉遣いで周りに問いかけるが、ほとんどの教師が眼を背けていた。
彼女は威風堂々とふん、と鼻であしらうと、オスマンのほうを向いて微笑んだ。
オスマンはやれやれと苦笑しながら彼女に問いかけた。
「危険じゃぞ?」
「わかっておりますわ。ただ、私の宿敵が危機とあって、このまま黙っていられるほど臆病ではございませんので」
「ミス・タバサは?」
「心配」
「ふふ。ありがとう、タバサ」
その言葉に感激したキュルケはタバサの頭を軽く撫でた。お互い、短い言葉であっても通じ合えるほど信頼しあっているようだ。
45 :
代理:2010/07/09(金) 18:10:36 ID:Z+L06rjV
「そしてサイト君」
オスマンの言葉に、サイトは眼を瞑り暫く沈黙した後、決意を固めた表情で答えた。
「……俺はあいつの、ルイズの使い魔です。色々と沢山文句を言ってやりたいし、それにあいつを心配してくれている人がいるんです。
俺自身が取り戻します!」
「ふむ、意志は堅い様じゃ。それに、君たちは敵をしっかり見据えておる。任せてもよいじゃろう」
「少々お待ちを。オールド・オスマン、その任務、私にもお任せいただきたい」
「ふむ?」
と、一人杖を挙げる人物が増えた。その様子を目の当たりにして、教師陣はおろかキュルケ達も驚愕を隠せなかった。
一番驚いているのは何故かロングビルのようだったが。杖を挙げたのはなんとギトーだった。
「おお、ギトー君行ってくれるかね?」
「留学生はおろか平民まで志願しているのですぞ? 教師である私が行かずしてどうするのですか。最初に情報を掴んだのも私です。
……それに黙っておれば好き勝手言いおって」
そう言ってギトーはキュルケをにらみつけた。キュルケは顔をそらしながら、悪戯っぽく舌を出した。
「うむ、ギトー君は風邪のスクウェアだったな」
「オールド・オスマン、なんだか少しニュアンスがおかしいですぞ」
「気のせいじゃって。優秀とはいえ、生徒だけでは心もとなかろうし、君も同伴することを許可しよう。
情報を得ていることだしのう。他のものも異論はないな?」
オスマンは教師達のほうを向いて問う。その場にいた全員が沈黙で答えた。オスマンはサイト達のほうを向き直った。
「魔法学院は諸君らの努力と貴族の義務に期待する」
その言葉に答えるように、キュルケとタバサ、そしてギトーは直立すると、「杖にかけて!」と同時に唱和した。
そしてキュルケとタバサはスカートの裾を軽くつまんで恭しく礼をする。
ギトーも右手を身体に添えながら礼をした。サイトもそれを慌てて真似て礼をする。
「それでは馬車を用意しよう。目的地に着くまで魔法は節約するがよい。ミス・ロングビル!」
「はい」
「君も彼女たちを手伝ってあげたまえ」
「もとよりそのつもりですわ。私も、ミス・ヴァリエールの事は心配ですから」
「うむ、君は彼女から豪く信頼されておったからのう……」
「……ええ」
ロングビルは沈痛な表情で俯いた。その表情を見て、キュルケも少しばかり悲しげな表情を浮かべた。
魔法が使えないルイズが、一番に信頼していたのがこのロングビルだ。
その時、一緒にいたキュルケも、心のそこから楽しそうなルイズと満更ではないロングビルを見ている。
彼女もルイズが攫われて悲しみと怒りを感じているのだろう。
そうして捜索隊に選ばれた者達はそれぞれ準備を始めるのだった。
46 :
代理:2010/07/09(金) 18:11:38 ID:Z+L06rjV
どうやら泣き疲れて眠っていたらしい。柱を背もたれにして、寝ていたルイズは眼を開け、辺りを見渡してみる。
あのロングビルとの遣り取りは夢だったのではないか。
そんな淡い期待を抱いていたが、周りの光景はその時と変わらなかった。
あれは夢じゃなかった。それを改めて認めてしまうことで、再びルイズは泣きそうになった。
だが、彼女は嗚咽を出しながらもその涙を必死に堪えて、ロングビルの言葉を思い出していた。
『五月蝿いんだよ! ルイズ、それはお前が勝手に作り上げた私だ。そんなの私じゃない!』
確かにそうだった。これは、私が勝手に描いていたロングビルだ。
勝手に思い描いて、彼女を苦しめていたのではないか。そう思うと、ルイズは心が苦しくなった。
『はん。じゃあ今のあんたの状況はどうなんだい? 弱いくせに飛び込んで、掴まって。周りに迷惑ばかりかけている。
皆のためにと口では言っても、あんたは自分の事しか考えていない、あの馬鹿な貴族達と同じだ!』
確かにそうだった。皆の制止を聞かず、己の実力を顧みずに無茶をした結果がこれだ。
今頃、シエスタは心配しているだろう。タバサやサイト、キュルケは呆れているだろう。
特にサイトには自分のほうから勝手に出歩くなとか行っていたのに、結局自分が無茶し、彼に迷惑をかけている。
見放されてしまっているかもしれない。それも自業自得だった。
「……はは」
そう思うと、悲しさを通り越して、ルイズには笑いしか出てこなかった。
「何が騎士になる、よ……。何が姉さんや母さんみたいになる、よ……。そうだわ、ロングビルさんの言うとおりよ。
ただ単に私は認められたかっただけだわ……ただ、自分の事ばかり考えて、他の人の事なんて考えずに……
ただ力を振り回すだけの……ただの……ひっく……」
信じていた人から言われるからこそ、自分の身勝手さが理解できる。
惨めな気分が再び湧き上がってきて、涙が溢れてきた。そして孤独感もまた湧き上がってくる。
全ての記憶の失った時、盗賊に攫われて、一人武器庫で泣きじゃくっていた頃の気持ちだった。
こんな時、あの時のようにアニエスが助けてくれたら。
だが、ここに自分を助けてくれる人なんて誰もいない。
「……ロングビルさん」
ルイズはロングビルの名を呼んだ。もはやその名は嘘の名前だが、彼女にとってかけがえのないものだ。
学院で勉強が出来ない自分に、たくさんの事を教えてくれた。
魔法が使えない自分を励ましてくれた。
あんただったら立派な騎士になれるよ。そう言ってくれたのも彼女だった。
あんただったら、立派なあんたならすごい使い魔を出せるさ。そう背中を押してくれたのも彼女だ。
嬉しかった。でも、そんな日常も、嘘だったのか?
いや、違う。ルイズにはそうは思えない。やはりルイズには彼女がそんなに悪い人間だとは思えないのだ。
それに、もし、彼女が本心でそう言っていなかったとしても、彼女には大事な思い出だ。
何かを隠している。そして、余計な心配をさせないために、それを告げていないのではないか。
これも、自分の勝手な想像かもしれない。それでいい、それだけで十分だ。彼女を、疑わない。彼女を信じてみる。
そう思った瞬間、ルイズは唇をかみ締め、泣くのをやめた。そして柱を背もたれに、何とか立ち上がってみせる。
目線の先には、台の上に置かれた包丁だ。何とかあれを取ることができれば、縄を切ることが出来る。
そうすればここから抜け出すことが出来る。自分がこの状況を打破するのだ。もう誰にも迷惑はかけたくない。
「私だって、もう、大人だもの……もう、誰にも、ロングビルさんにも、迷惑なんて……きゃあ! くっ……」
だが上手く動けず、その場に倒れてしまう。
「私、立派な人間になるよ……。ロングビルさんが、心配しなくてもいいような、姉さんにも母さんにも負けない、立派な人間になる……!
ロングビルさんにも、負けない……!」
だがルイズは必死にまた立ち上がり、包丁を何とか取ろうとする。
顔が埃まみれになっても、鼻をぶつけて血が出てきても、彼女は何度も挑戦したのだった。
47 :
代理:2010/07/09(金) 18:12:32 ID:Z+L06rjV
「よし、では諸君出発だ!」
高らかに杖を掲げて、ギトーはそう唱和した。
そして彼ら捜索隊を乗せた馬車は、ロングビルが手綱を取って進んでいった。
その様子を呆れた表情でキュルケは見上げつつ、一本のレイピアを眺めているサイトのほうに顔を向ける。
このレイピアは現場に残されていたらしい。ルイズが大事にしているものだ。攫われる際に落としたのだろう。
彼女はこれを掲げて、キュルケに私は大事なものを守って、立派な貴族になり、騎士になる。そう言っていた。
魔法を使えない彼女が何を言っているのだか、と普通の人間なら考えるだろうが、
キュルケには不思議とその言葉を信じられた。根拠はないが、馬鹿にできるような事ではなかった。
そう、そこまで言えてこそ、私のライバルなのだ。そう彼女は考えていた。
「……あいつさ」
「ん?」
と、不意にサイトがキュルケに声をかけた。キュルケは相棒であるフレイムの身体を撫でながら、首をかしげた。
先ほどからずっと本に集中していたタバサも顔を上げて、話に聞き耳を立てていた。
「女の子なのに、こんなレイピアを持って、怖い奴らに立ち向かっていくなんてさ。俺なんかより余程無茶してるじゃねぇか……」
「……そうね。私もそう思うわ。でも、そうする理由があるのよ」
「あいつの姉ちゃんだろ? 聞いた。すっげぇ強くて、かっこいいんだろ? 散々聞かされたよ」
「妹想いが過ぎる人だけどね。魔法を使わなくても、メイジに対抗出来る人。幼少の頃、あの人に助けられて、それからずっと憧れだそうよ
そんなあの人に、少しでも近づきたいのね」
「……そうなのか。もしもさ、俺も……その人みたいに頼られていて、一緒に戦う事が出来てたら……」
「過去を悔やむなんて男らしくないわよ。これからのことを考えるべきよ」
「……うん」
「ルイズ、絶対助けましょう? 大丈夫、今頃必死に喚いているわよ。ここから出しなさい! とか」
「……はは、そうだな。……絶対、助けてやる。あの化け物鳥から助けてくれた時みたいに。今度は俺がルイズを助ける番だ。シエスタのためにも、絶対」
サイトはレイピアの柄を強く握る。まるでルイズの無事を祈るように、強く握った。キュルケも、そしてタバサも同じ想いだ。
「待っていろよ、ルイズ」
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以上となります。
毎度ご感想ありがとうございます。今しばらくマチルダ姉さんのテンパリを
ごらんください。
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中世なら男色当たり前で
美形設定でお前の尻の穴がやばいだぜ
>>48 > 美形設定でお前の尻の穴がやばいだぜ
今何故か
サイト「呑み込んで、僕のデルフリンガー・・・」
ジョゼフ「あぁ、私のヨルムンガルドの中に」
ウェールズ「 し な い か 」
というBL本できゃあきゃあ言う「ゼロの使い魔みな腐女子」
という悪夢ががが
もしも虚無の操る小さな粒が菌のことで、担い手には菌が視認できたら
錬金のたびに謎の発酵物作成し、召喚した才人の口元についていた見知らぬ菌(納豆菌、朝飯の残り)と契約するルイズ
てす
もしルイズがヴァリエール3姉妹の長女だったら
というifを考えていたんだが、
この場合原作開始時点での年齢を16才にするか2●才にするかで迷う
・ルイズが16才の場合
次女カトレア(14?)=病弱、今にも消えそうな儚げな美少女。この妹を守らなきゃ、とルイズは原作よりもしっかりした性格に
三女エレオノール(6?)=魔法ゼロの長女と病弱な次女に対して特に瑕疵が無く、周囲から期待をかけられている、天才ツンデレ幼女。ルイズも生意気と言いつつ、可愛がっている
・ルイズが2●才の場合
長年ゼロとして扱われ、当人も周囲も諦めモード。公爵家跡取としての役目は放棄し、現在は学生時代に召喚した平民の使い魔と仲良く領地に引きこもっている
優秀な末妹エレオノール(16)の学院での武勇伝(なんでも賞金首の盗賊を捕まえたらしい)を聞きながら、のほほんとお茶をするのがマイブーム
……どっち(のエレオノール)がいいだろう?
エレ姉かいw
物語的にも人としても前者かねぇ。こうしゃはただのちぃ姉様のような気がする。
ルイズ本人の話としては前者を押したいな。
また〜りとした話を希望。
使い魔も執事キャラで。
おお〜レスサンクス
前者かぁ。再構成だと原作との差が出なそうなんだよね
学院に入れないってのも手か……
ちなみに、
>エレ姉かいw
最重要ポイントです(キリッ
とりあえずHDDの肥やし作ってくる ノ
どうも、本スレではお久しぶりです。
特に予約がなければ0時15分より投下したいと思います。
>>56 うおお、頑張れ。作品がドンドン増えてほしいなぁ。
鬱蒼とした森の中を馬車が走っていた。昼でも薄暗い森の中は、その気味の悪い雰囲気で一行の恐怖心を煽る。
才人は、まるで御伽噺に出てくる『魔女の森』だなぁと思いつつ、冷や汗を掻きながら辺りを見渡した。ここが魔女の森だとすれば、魔女は土くれのフーケだろうか。
「き、気味悪いな」
「何だ、平民よ。宝庫での威勢の良さはないのか? この程度で怖気づいていては、フーケなんぞ倒せんぞ。
戦士とはいかなる時にも恐怖心を表に出さぬものだ。それが出来ないのであれば戦士ではないからな。
そんな調子では、帰ったほうがヴァリエールのためにも、そして己の身のためだぞ」
「んだ……」
と、そんな彼に皮肉の言葉をぶつけるギトー。
才人はかっとなって彼に掴みかかろうとしたが、そんな彼もよく見ると震えているのに気が付く。
呆れてものが言えず、才人は無視を決め込むことにした。
このタイプは相手にしないのが一番だ。あのギーシュと同じ臭いがする。そう思ったからだ。
その態度で自分の言葉を受け入れたと勘違いしたギトーは満足げに座席に座った。が、やはり、足は震えていた。
あれだけ見栄を張っているのは、結局のところ自分の恐怖心を無くすために過ぎないのだろう。何が戦士、だか。
才人はため息をつきながら、キュルケに声をかけた。
「……キュルケは怖くないのか?」
「え? ああ、気味悪いとは思うけどそんなには、かしら。このぐらいで怖気づいていたら、ルイズに笑われるわ」
「そうなのか。タバサは?」
タバサは顔を上げて、無表情のまま答えた。
「……昔は、別に怖くなかった。今は、ちょっと怖い」
しかし、何処か色白の肌が更に白くなっている気がする。
「へぇ、意外と可愛いところあるな。オバケとか苦手?」
才人の軽口に、タバサはそれ以上答えず、読書へと再び戻っていった。
彼は少しばかりやりすぎたかな、と思いつつ頭を掻いた。そんな彼にキュルケが耳打ちする。
「半年前ぐらいに、彼女本物見ちゃったのよ。トリスタニアでね」
「え?」
「ふふ、今度詳しく話してあげるわ」
ぽかんとしている才人に悪戯っぽい笑みを向けると、キュルケは座席に戻った。
その横では少しだけだが、珍しく感情を剥き出しにして、キュルケを睨みつけているタバサの姿があった。どうやら話してはいけないことだったらしい。
とても気になることなのだが、今聞くと魔法が飛んできそうだから、才人はそれ以上の追究をやめた。
そんな二人に才人は呆れつつも感謝した。微笑ましい光景に、先ほどの恐怖心が何処かへと飛んでいった。
後は、ここにルイズがいればもっとよかったのだが。彼女がいるだけでもっと和やかになるからだ。彼女を取り戻せたら、なんて言ってやろうか。
やはり、何で俺に無茶するなって言ったのに、お前が無茶するんだよ、馬鹿! とかと言って叱ってやろうか。
それとも、大丈夫か、ご主人様。俺が助けに来てやったぜ、と格好つけてみようか。いや、そんな気分じゃないだろう。
とりあえず、色々と言ってやりたい事はあるが、まずは彼女が無事であることを彼は何より、心から願った。と、馬車が突然止まった。
「ここからは徒歩で行きましょう」
と、ロングビルは言って、手綱を下ろして馬車を降りた。他のものたちも続いて、彼女の後を追った。
森を通る道から、小道を彼女たちは進んでいく。才人は彼女たちの前を歩き、剣で茂みを切って通りやすくしていった。
「そういえば、ミスタ・ギトーの遍在は今何処に?」
才人の真後ろを歩くロングビルがギトーに尋ねた。ギトーは一瞬困ったような表情を浮かべたが、すぐに虚勢を張って言った。
「え、あ、そうだな。もうすでに役目は終えたからな、後を追うことも出来なかったゆえ、消したぞ。
なあに、遍在はもう出せないが、残った精神力でも私の切り札はあるからな。大船に乗ったつもりでいたまえ、ミス」
「……泥舟じゃなきゃいいけどな……」
と、才人がぼそりと呟くが、ギトーには聞こえていないようで、静かに笑っていた。大声を上げないあたりは、一応状況をわきまえているようだ。
と、暫く歩いていくと、急に開けた場所に出た。そして、目の前には確かにロングビルの情報どおりの廃屋があった。
第24話
そこは森の空き地と言ったような場所だ。広さは魔法学院の中庭と同じぐらいだろうか、かなり広かった。
その中心に立つように、廃屋は建てられていた。元は木こりの小屋だったのだろう。その面影が残っている。
しかし、人が住んでいる様子はなさそうだった。辺りはひっそりとしている。鳥の声も動物の鳴き声もあまり聞こえない。
才人達は森の茂みに隠れながら、その廃屋を見つめていた。
才人は今すぐにでも飛び出していきたいが、かといってここでフーケの罠に引っかかるわけにもいかないと思いとどまっている。
彼らはこそこそと小さな声で相談を始めた。
「さて、どうしたものかな」
ギトーが首をかしげた。このまま突っ込めば当然フーケに感づかれるだろう。
それに、罠が仕掛けられているかもしれないから、慎重に行くべきだ。
そしてあの中にいるのであれば、ゴーレムを出される前に奇襲を仕掛けてしまうのが一番である。
寝ていれば御の字だが、ルイズや破壊の杖と共にいる以上、派手に攻撃するのは危険だ。
そこで彼らは偵察を立てることにした。勿論その要員として選ばれたのは。
「俺かい」
彼、才人だった。才人は剣を抜きながら、木の陰から廃屋を眺めている。
キュルケはその肩を優しく叩いて励ました。
「貴方が一番素早いからね。クリル鳥と互角に渡り合えたんだから大丈夫よ。
まあ本当はギトー先生の遍在が使えれば良いんでしょうけど、一つしか作れないんじゃ話になりませんからね」
「おい、ツェルプストー。そろそろ暴言が過ぎているぞ。減点されたいのか?」
「あら、私は事実を言ったまでですわ」
「もう、喧嘩するなよな! んじゃ、行って来る」
才人は一足跳びに廃屋へと近づいていった。
あの怪物鳥、クリル鳥と戦った時のように、剣を抜いている間はまるで羽根のように体が軽い。
不思議な力だなぁと暢気に考えつつ、恐る恐る窓から中を覗き込んだ。
そこにフーケがいれば、挑発して外に引き釣り出す。そして、ゴーレムを出される前に、一斉攻撃で叩き伏せる。これが作戦だったからだ。
しかし、中には誰もいないようだ。一つしかない部屋の中にはにはフーケの姿もルイズの姿も見えない。
埃が溜まったテーブル、転がった椅子に、崩れた暖炉。積み重なった薪。その隣にチェストが置いてあるのを彼は見つけた。
ルイズが見つからないことに彼はため息をつく。フーケとルイズは何処へ行ってしまったのだろうか。
ここにはもういないのだろうか。そんな考えも浮かんできたが、とりあえずサイトは頭を横に振った。
気を取り直して頭の上で腕を交差させてキュルケたちに知らせる。フーケがいないという印である。
それを見て、キュルケ達も身を低くしながら廃屋へと近づいてきた。
「誰もいない……ルイズもだ」
「とりあえず中へ入ってみましょう、タバサ」
「……罠はないみたい」
「よし、じゃあ入るわよ」
「私たちは外を見張ろう」
タバサが魔法で罠がない事を確認すると、キュルケは扉を開き、素早く中へと入って杖を構えた。
それを守るように才人も中へと入り、辺りを見渡す。ロングビルとギトーは外を見張っていた。
「……」
ロングビルはだんまりと、森の奥を見つめている。それに気が付いたギトーは声をかけた。
「ミス・ロングビル? どうしたのだ?」
「いえ、今ちょっと気になるものがありまして。少し調べてきますわ」
「そうか、では生徒は任せたまえ」
ロングビルはよろしくお願いいたしますと、ギトーに告げて森の中へと消えていった。
そして、杖を取り出し、ゆっくりと詠唱を始める。
小屋の中に入った三人は部屋の中の探索をする。しかし、何処にもルイズの気配はない。
本当にここであっているのだろうか。そう不安が過ぎったとき、タバサがチェストの中身を取り出し、無造作にキュルケと才人に見せた。
「破壊の杖」
キュルケと才人は驚いたようにそれを見た。そして、キュルケは納得するように頷く。
これがあるということは、やはりここがフーケのアジトなのだろう。と、才人は眼を丸くして破壊の杖を指差した。
「……それが、破壊の杖?」
「ええ、そうよ。私、宝庫の見学で見たことがあるもの」
才人はまじまじと破壊の杖を見た。これは、杖なんかじゃない。
そう、見間違えではなければ、自分の世界では『兵器』として名を馳せているものじゃないか。
と、そんなことを考えている才人を尻目に、キュルケがはっと気が付いたように言った。
「……ねぇ、何でここに『破壊の杖』があって『ルイズ』がいないの?」
「いやわからないけど……ま、まさか殺されたとか?!」
「それはないわね。大事な人質でしょ? 殺されるわけないじゃない。
……でも、どっちも大事なはずよ? それなのに、何で破壊の杖はこうして放置してあるの?」
「……まさか」
その時、ギトーとロングビルの悲鳴が外から聞こえてきた。ロングビルの悲鳴は遠くから聞こえてくる。
「う、うおお!?」
「きゃああ!?」
才人達はすぐに小屋から飛び出そうとすると、その前に屋根が吹き飛び、青空が広がった。
それを背景に、土くれのフーケの巨大なゴーレムが彼らを睨みつけていた。
「……はぁ、はぁ……んくぅ……はぁ」
一方ルイズは彼らがいる小屋の地下室で息を荒げていた。
この地下室の扉はフーケが崩れた暖炉を置いて隠しているため、彼らは見つけることが出来なかった。音もなかなか届きにくい。
先ほどから散々暴れまわったが、包丁を取ることができず、その前に彼女の体力が尽きてしまった。
何とか足を動かして取ろうとしたした拍子に、台の奥に戻ってしまうという失態だ。
彼らがいたときに暴れていれば、もしかしたら声が聞こえて、彼女を見つけていたかもしれないが、それは叶わなかった。
朝食と昼食を取っていないせいで余計に力が出ない。情けない。
縛られた手首と足首が痛い。暴れたせいで、ロープが食い込み、肌を傷つけたのだろう。
血が出ているのだろうか。よくはわからないが、とにかく痛かった。
「あーもう、ロングビルさんドンだけきつく縛ってるのよ。それに包丁も取れないし……はぁ」
言ったところで仕方のない愚痴をこぼしつつ、ルイズはため息をついた。その瞬間、地下室全体が揺れ始めた。
「うわわわ!?」
ルイズは驚いたように体を起こした。ぱらぱらと土埃や物が落ちてくる。
もしかしたら、外で戦闘が始まっているのかもしれない。
と、ルイズは台の上の包丁を見る。先ほどの揺れで位置がずれたようだ。柄の部分がより台からはみ出た。
あれだったら取れるかもしれない。ルイズは残る力を振り絞って、体を動かし、包丁の柄を足で挟もうとする。
しかし、まだ上手くつかめない。もっと大きな揺れが起これば、包丁が落ちてくるのに。
ルイズはそう思いながら、何とか掴もうとした。
「ゴーレム!」
キュルケが悲鳴を上げた。
いち早く反応し、タバサが詠唱を始め、巨大な竜巻でゴーレムを包み込んだ。しかし、ゴーレムはビクともしない。
キュルケも杖を取り出し、その先から炎を噴出してゴーレムを包み込む。だが、それでもゴーレムは少し煤が付くだけで平然としていた。
「こんなの無理よ!」
「一時退却」
勝ち目がないと考えたキュルケとタバサはそう言って、散り散りと小屋から離れた。
才人は辺りを見渡して、ルイズを探そうとするが、その前にキュルケに手をつかまれ、強引に外へと連れ出された。
ゴーレムは小屋を破壊するのをやめ、彼女たちのほうへ体を向けた。
「ま、待てよ!」
「これはフーケの罠よ!」
キュルケが叫ぶ。サイトは訳がわからないと喚いた。
「どういう!?」
「わからないけど、向かってこようとする人間を消して、脅そうだとか、ああもうよくわからないわよ!とにかく、退散、退散!」
「ルイズはどうするんだよ!」
「あの子を助ける前に、私たちが死んじゃうわよ!」
と、そんな彼女たちにゴーレムが巨大な拳を振り下げた。
二人は大きく前へ倒れるように跳んで避けた。しかし、拳は彼女たちごと近くの地面を吹き飛ばした。
ごろごろと二人は転がっていく。サイトは何とか立ち上がって、姿勢を低くして勢いを殺し、キュルケも体勢を整えようとした。
そんな二人へもう一度拳が振り下げられそうになった。完全に体勢を戻せない二人は眼を瞑った。
とその時、ゴーレムの片腕に大きな穴が開き、自重に耐えられなくなり、ぽろりと落ちた。
ドシン、と大きな音を立てて片腕が落ち、地面が激しく揺れる。
「ふはは! これが私の魔法! エア・スピアーに竜巻の螺旋を組み合わせた『エア・ドリル』! 土くれなど一ひねりだ!」
と、30メイルほど離れた場所で、ギトーが大声で叫んでいた。どうやら彼の魔法のおかげのようだ。
伊達にスクウェアを名乗っていないようで、タバサの風の魔法よりも幾分強力だ。
キュルケもサイトも驚きつつも希望が出てきたような気がした。
「さあ、もう一発……ってどああ!?」
しかし、油断しきった彼をゴーレムは残った拳で応酬して、大きく吹き飛ばした。
ギトーは森の茂みへと吹き飛ばされ、そして気絶してしまった。
「ああ、もう! もうちょっと頑張りなさいよ! 肝心な時に!」
「ああもう、逃げるぞ!」
「きゃ!」
ゴーレムは気絶したギトーから再び二人に狙いを絞った。才人はキュルケを抱きかかえて走っていく。
ゴーレムも地面を大きく揺らしながら追いかけてきた。図体は大きいが、動きはそんなに早くなく、才人の走る速度と同じだった。
「乗って!」
と、彼らの前に、いつの間にかシルフィードを呼んでいたタバサが降り立ってきた。タバサは叫んで、彼らを促す。
才人はキュルケをシルフィードに乗せて、自分は剣を構えてゴーレムに体を向けた。
「貴方も早く乗って!」
タバサは彼に手を差し伸べる。だが、才人はその手を制止した。
「いや、俺は戦う……。ルイズがまだ何処にいるかわからないんだ。
ここでフーケとか言う奴をたおさねぇと! 二人はそれを持って逃げろ!」
「サイト!」
キュルケは彼を呼び止めようとするが、ゴーレムが拳を振り上げているのを見て、タバサはやむを得ずシルフィードを飛ばした。
才人は振り下げたゴーレムの拳を大きく跳んで避ける。
凄まじい風圧が才人を襲い掛かってくるが、彼は怯むことなくゴーレムを睨みつけた。そして小さく呟く。
「女の子のあいつだって勇気出して立ち向かったんだ。無茶かも知れねぇけど、男の俺が逃げてちゃ格好悪いじゃねぇか……!
ただの土っくれだろ、この平賀才人様をナメるんじゃねぇ!」
才人は剣を振り下げ、ゴーレムに向かって走っていった。ゴーレムは彼を踏み潰そうとした
だが動きが緩慢だ。才人はその瞬間を狙って、横跳びし、隙だらけの軸足を剣で切りかかった。
僅かに傷がつくが、それが決定的な一打にはならない。ゴーレムは振り向きざまに拳を振り下ろす。才人はそれを難なく避ける。
不思議だ。とても体が軽い。先ほどよりもずっと軽かった。恐怖心も不思議と消えている。
本当ならばあんな巨大な人形相手にするのだったら、あのギトーのように震えて動けなくなるはずなのに、不思議と勝てるような気分だった。
先ほどのギトーが腕を落とした拍子に落ちた包丁を使って、何とか縄を切ったルイズは戸を蹴飛ばし、強引に開けた。
そして崩れた屋根の合間を縫って、地上へと出た。すると、少し離れた場所でゴーレムが暴れまわっているではないか。
恐らくこの小屋の屋根を破壊したのは、きっとあのゴーレムだ。
そして、それを操っているのは、土くれのフーケ、いやロングビルだろう。
その上にはタバサのシルフィードが飛んでいる。ゴーレムの足元で戦っているのは。
「てやああ!」
サイトだった。ゴーレムに踏まれそうになっても何度も切りかかり、果敢に戦っている。
皆、土くれのフーケと戦っている。自分を助けに来てくれたのか。そう思うと、心が熱くなってくる。
自分も何かしたい。だからと言って、ゴーレムに立ち向かうことなんて出来ない。自分の手には包丁しかない。
ルイズは自分の無力さに唇をかみ締める。仲間たちが戦っているのに、何も出来ないのか。
と、ルイズは崩れた屋根の間から森の茂みを覗き込むと、そこにはロングビルの姿があった。
真剣な眼差しでゴーレムを眺めている。逃げ出したこちらに気が付く様子はなかった。
そうだ、ロングビルを倒せばゴーレムもただの土くれに戻るだろう。
しかし、勝てるのか。本塔では手も足も出なかった。
『弱いくせに、甘ちゃんのくせに出張りやがって……!』
ロングビルの言葉が彼女の心に突き刺さる。だけど、何もできない自分のほうが嫌だ。
蛮勇と罵られるかもしれない。いろんな人に恨まれるかもしれない。いろんな人を悲しませるかもしれない。
それでも、ロングビルと決着をつけなければいけない。立ち向かわなければならない。
それが仲間を救うことなのだ。
ルイズはロングビルに感づかれないよう、瓦礫を影に彼女の死角へと回る。
そして、タイミングを計り、ロングビルへと向かって走っていった。
サイトが戦っている様子をキュルケとタバサはシルフィードの上で眺めているしかいなかった。
すぐにキュルケはタバサの肩を揺らしながら叫んだ。
「サイトが危ないわ! 助けないと!」
「でも、魔法が効かない」
「それでもやるしかないわ!」
キュルケは杖を振るい、空中に火の球を作り出して、ゴーレムに向けて飛ばす。
ゴーレムの表面が爆発し、土を抉るがダメージにはなっていないようだ。
それでもキュルケはサイトを援護するべく魔法を唱え続けた。
そんな彼女をタバサは驚いたように見ていた。彼女がここまで焦って、興奮しているのは初めて見るからだ。
彼、サイトの事をどれだけ大事に思っているのだろうか。昨夜のあれはドッキリだから、本気ではないだろうし、
本気そうだったとしても、何時もの男遊びかと思っていた。
しかし、彼女は真剣だった。それはルイズのためなのか、それともあの男のためなのか。きっと、両方なんだろう。
ともかく、友が必死に戦っているのだから、自分もそれに答えなければいけない。ルイズだってまだ取り戻せていないのだ。
小説だって、まだまだ彼女に買ってもらわなければ。
と、彼女は自分が抱きかかえている破壊の杖を見つめる。破壊の杖、というからには相当の威力があるマジックアイテムなのではないか。
秘宝を勝手に使うのは忍びないが、今はそんなことを言っている余裕はない。
「破壊の杖を使う」
「……!? 使い方、わかるの?」
「……」
タバサはひとまず破壊の杖をゴーレムに向けて振ってみる。が、何かが起こる様子はない。
そもそもこれは杖なのだろうか。そこから疑問に感じる。こんなもの、見たことがない。
と不意に、始めてサイトと出会ったときの事を思い出した。彼は異世界から来たと言っていた。
もしかしたら、これは異世界の杖なのではないか。
それをどうやってオールド・オスマンが手に入れたかはわからない。
しかし、手掛かりになりそうなのはサイトぐらいしかいないだろう。
だが当人は下でゴーレムと戦闘中だ。これを手渡す暇はない。タバサは爪を噛みながら、何か手立てはないかと思考した。
その間にも、サイトはどんどん追い込まれていく。
サイトの動きが段々と緩慢になり始めたのだ。先ほどとは大違いだ。着地するごとにふらついている。
よく見れば、彼は止まるごとに肩で息をしている。まるで、あの動きに体がついていっていないようだ。
終に彼は剣を地面に付き刺し、息を荒げて止まってしまった。それを見計らって、ゴーレムが拳を振り上げる。
「サイト、逃げて!」
「サイト!」
キュルケが叫んだ。タバサも同じように叫ぶ。しかし、サイトは動けない。もはや絶体絶命か。
そんな時、ゴーレムの動きが止まった。そして、何処からともなく叫び声が聞こえてくる。
――うああああ!
「ルイズの声だわ!」
「サイト!」
キュルケが叫んだ。タバサはサイトの名を呼び、そして彼に破壊の杖をレビテーションを使って落下させて渡した。
サイトはそれを受け取ると、驚いたように体を強張らせたが、すぐにガチャガチャと色んな操作を始め、そして肩にかけると、何かを引いた。
しゅこっと栓抜きのような音を立て、そして白煙を引いた何かがゴーレムに向かって飛んでいく。
そして凄まじい爆発音と共に、ゴーレムの上半身が吹き飛んだ。
「やったか!?」
サイトは破壊の杖を投げ捨てて、剣を構えなおす。まだ油断は出来ない。しかし、剣はぼろぼろになっている。体力も限界だ。もう戦えない。
しかし、爆煙が収まると、ぱらぱらと崩れていくゴーレムの姿があった。それを見て、安心しきったのか、ふらっと腰を下ろした。
その傍にシルフィードが着地し、キュルケとタバサが降り立ってサイトの体を支えた。
「大丈夫? すっごいじゃない! 今の魔法?」
「さっきよりも軽くなった。恐らく、大砲のようなものだと思われる」
「まあ、そんな感じ……はぁ、はぁ……あ、それよりもさっきルイズの声が聞こえなかったか!?」
「あ、そうよ! 確か、あっちのほうだわ」
フーケは焦れていた。早くその破壊の杖をサイトに渡せ。そう心の中で考える。
その破壊の杖の使用方法こそわかれば、こんな場所からおさらばするのだ。
しかし、ゴーレムの攻撃を緩めれば、自分のその意図を感づかれてしまうかもしれない。
だからこそ全力で戦わなければいけない。だからこそ歯がゆい。
「さあ、早く……!」
「フーケぇぇぇ!!」
と、何処からともなく、自分に向けた叫び声が聞こえてきた。誰だ、誰が自分を呼んでいる。
と、フーケが辺りを見渡した瞬間、誰かに体当たりされ、自分の体が大きく跳ぶ感覚を覚えた。
地面に叩きつけられながらも、杖を放さずに済んだ。放してしまえばゴーレムが崩れてしまうからだ。
フーケは顔を上げ、目の前を睨みつける。そこには息を荒げ、包丁を構えるルイズの姿があった。
「ルイズ!」
「私は、もう貴方に負けない!」
しまった、あの場所にあったのを使って拘束を解いたのか。
まさかあそこから抜け出し、自分に再度向かってくる勇気があるとは思わなかったフーケは歯を食いしばる。
また、またお前が邪魔をするのか。何故歯向かう。大人しくしていれば全て丸く済むはずなのに。
だが、2人の距離はゴーレムから十分に離れている。ここで彼女を押さえ込むことができれば。
だが、ルイズの様子が可笑しい。地下室に閉じ込めていた時の弱弱しさも、本塔で自分に向かってきた時の甘さもない。
敵意をむき出しにし、荒々しく呼吸をしていた。この少女に、フーケはぞく、と恐怖を感じた。自分を敵としか見ていない、そんな眼だ。
そんな眼など幾らでも向けられた。もう怖くないはずなのに。何故この少女から向けられたら、これほどに怖いのだろう。
「うああああ!!」
ルイズは雄たけびを上げながらフーケに切りかかる。
フーケは体を反らし、何とか避けるが、ルイズは体を捻って、空中を回転するように彼女を蹴った。
彼女の足はフーケの太ももに当たり、フーケは軽く喘ぎながら後ろへと下がった。
ルイズは更に追撃する。包丁をナイフのように軽々と扱い、フーケに魔法を使わせる暇を与えない。
まるで動きが違う。ルイズの動きは別人のようにしなやかになっていた。何が彼女をここまで変えたのか。
だが、そんな追い込まれている中でも、フーケは笑みをこぼした。何故笑ったかは分からない。だが笑ってしまった。
ルイズがフーケの肩に踵を落とす。フーケはそれを避けることができない。
左肩に一撃を喰らったフーケは、痛みを堪えながらも何歩か下がって距離を取って構えなおし、突撃するルイズを迎える。
だがその時、ゴーレムから爆発音が聞こえてきた。まるで炎のスクウェア・メイジが魔法を使ったような爆音だ。
フーケは思わずゴーレムのほうを見た。上半身がぽっかりと吹き飛ばされてしまっている。
しまった彼女に気を取られ、絶好のタイミングを逃してしまった。
だが、それが更に彼女の油断を誘った。ルイズはその一瞬にフーケの懐へと入り込み、彼女の杖を切り落とした。
フーケはしまった、と眼を見開き、ルイズを蹴飛ばしながら懐をまさぐり、予備の杖を取り出そうとした。
契約できる杖は基本的に一本までだが、質が悪くてもよければ複数の杖とも契約が出来る。
彼女はそれを取り出し、何とかこの状況を打破しようと足掻こうとした。
だが、すでに再度懐へ飛び込んでいたルイズはフーケに向かって、真直ぐ向けた刃を脇に添えるようにしながら体をぶつけ、そのままフーケの体を木にぶつけた。
「ルイズ、何処だ!」
才人は叫んだ。聞き間違いでなければ、ルイズはこの森の茂みの辺りにいるはずだ。
それに先ほどから彼女の声が聞こえている。何かと戦っているような、そんな声だ。
「きっとあっちのほう」
と、タバサが指を差して方向を示す。風のメイジである彼女はルイズの声がはっきりと聞こえる。
因みにギトーはレビテーションでぐったりとした状態で運ばれていた。
「間違いないのね?」
キュルケの言葉にタバサは頷いた。それを見て、才人は急いでタバサが示した方角へ走っていった。
そして、しばらく走り続けると、そこにはルイズが確かにいた。だが、ルイズの様子がおかしい。
「る、ルイズ?」
しかし、才人が見つけたルイズは、木を背にしているロングビルに体を預けるように押し付けていた。
ルイズは泣いている。ロングビルは眼を見開いて虚空を見つめていた。
そしてロングビルと彼女の体の間には鋭利な刃物が突き刺さっているように見えた。
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予想外にフーケ戦、長くなってしまいました。ギトー先生の活躍は次回に。エ、エアドリルがやりたかっただけじゃないんだからね!
というか、結局原作とそう変わらない結果になってしまって申し訳ないです。もっと捻れたかなぁ…
ちょっと視点が変わりすぎましたかね。色々と実験していますが、どうなんだろうなぁ……
おまけでアニエスが助けに来て無双しまくるとかやろうと思ったんですけど、何か空気ぶち壊しになりそうなので自嘲、もとい自重します。
タイトルが少し地味だから、変えようかなぁと、少しだけ考えています。
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虚無と銃士の人乙……これは、ハード展開か?
それと
>>56のヒト 自分が言う『前者』はルイズ2●才の方の『前者』ね。
自領でまったり過ごす2●才の令嬢ルイズさん たまにジョゼフや教皇の手のものが
侵入するけど、有能な執事のサイトが主人も知らない影で人知れずゴミ掃除してます、
みたいな。
……まちるださぁん(T-T) うぅ
銃士さん投下乙でした。次も待ってます
フーケとギトー(出番的な意味で)の運命やいかに!?
それと、
>>65さん
56ッス。把握しましたd
才人超有能w
乙です。
これは、なんだ。かなりハードな展開か?
マチルダさんにどういう結果が待っているのであれ、なごやかなオチにはなりそうもないなぁ。
というか、マチルダさんが正体を明かした時点で、ほのぼの大団円はなくなってたっぽいけど。
エレ姉やアニエス姉にとっても、色々しんどい展開になりそうな気が。
もし使い魔のダメージが主人にフィードバックしたら?
使い魔を食われた奴は・・・・・・ガクガクブルブル
もしもタバサがグラサンだったら
今の私はタバサ・・・それ以上でもそれ以下でもない
どうもです。25話のほう完成しました。
サルさんの対策も兼ねて、55分ぐらいに投稿したいと思います。
では行きます。
――ズルリ
ロングビルは虚空を見上げながら、ゆっくりと体を沈めていく。
ゆっくりと静かに、しかし不規則な呼吸をしながら、体を木に預けていった。
右手に持っていた杖も、ぽろりと力無く地面に落とす。もはや戦う気力は残っていないらしい。
「ル、ルイズ……?」
才人が見たルイズの姿は、まるですぐに消えてしまいそうなぐらいに儚かった。
包丁の柄を握り締めながら、嗚咽を吐き、そして瞳からまるで滝のように涙を流している。
その様子を才人は、いやキュルケもタバサも遠目から伺うしか出来なかった。彼女がここにいる。
そして、彼女がロングビルに突き刺した包丁を意味するのは、それは、ロングビルが土くれのフーケであることに他ならない。
「うぐっ、あぐ……」
ルイズの嗚咽が強くなっていく。そして、静かに柄を放して、一歩、二歩と後ろに下がると、そのまま地面に座り込んでしまった。
それでもまだ彼女は泣き続けていた。まるで子供のように。自分がしでかしたことに後悔するように泣いていた。
「ルイズ!」
才人はすぐにルイズの許へと駆け寄っていく。キュルケもタバサも彼女の許へと走った。
その拍子でギトーのレビテーションが切れ、地面に叩きつけられたが、誰も気が付きはしなかった。
「ルイズ、大丈夫か、怪我は!? ない? いや、手首とか、酷いことになってるじゃねぇか……」
才人はルイズを優しく抱きかかえて体を支えた。そして、優しく声をかける。
ルイズは言葉がまだ出せないのか、代わりにぶんぶんと言葉なく首を横に振って答えた。
だが、彼女の手は足首は、めり込んだ縄で傷つけられ、痛々しくその痕が残っていた。
才人は少し戸惑いながらも、シエスタにやったように、彼女を優しく抱きしめて、安心させようとした。
「大丈夫か?」
「うん……」
「そうか、よかった。……でも、フーケは?」
「……」
才人は恐る恐る後ろを向いた。キュルケも、タバサも、ゆっくりと顔を向けてみる。
ルイズが刺した包丁は、フーケの体の丁度横を数サントずれて、木にだけ突き刺さっていた。フーケの体には傷一つも付いていない。
才人たちが刺さったように見えたのは、真横から見たために、まるで彼女の体を突き刺しているように見えただけだった。
包丁を脇に添えて、フーケを突き刺そうとしたルイズだったが、寸前のところで思いとどまり、狙いがずれてくれたのだった。
フーケも自分が刺されたと錯覚してしまったのだろう、その恐怖で呆然としてしまっていた。
「私……」
「いや、いい。何も言わなくていいって。よかった、本当に良かった」
「ええ、本当に」
「……ありがとう……」
何かを呟こうとするルイズに対し、才人はぎゅっと抱きしめて制止した。そして、背中をとんとんと優しく叩いてあげる。
キュルケも安堵のせいで少し泣きそうになりながら、ルイズの頭を撫でてやった。
そんな二人の温かさにルイズは大きな声を上げながら、ひたすら泣いた。
自分がしようとしたことへの恐怖感から解放され、また皆と出会えたことに安堵しながら。
その様子をタバサは遠めで見つめていた。少し羨ましそうにしながらも、ルイズが無事だったことに軽く笑みを浮かべた。
そして彼女はフーケのほうを見た。フーケは力なく項垂れ、手元にある杖も握ろうともしなかった。
タバサは一瞬彼女を拘束しようか迷ったが、フーケは首を力なく縦に振ったのを見て、
彼女が逃げる意志も力もないのだとわかると、杖を回収して、そのまま彼女を眺めていたのだった。
フーケは、はっとため息をつくと、苦笑をこぼしていた。
第25話
「う、うおお……背中、背中が痛い……。ぬ、これはどういう状況なのだ?」
と、暫くしてギトーが目覚め、頭を振り、先ほど地面に落とされたときの背中の痛みに耐えながらサイト達を見た。
いつの間にか森の茂みから出ていて、しかもロングビルを囲うように彼らが立っている。ロングビルは力なく項垂れていた。
そんな彼にキュルケが気が付き、皮肉を込めた口調で言った。
「あら、ギトー先生、遅いお目覚めで。もう決着は付いてましてよ」
「ぬ? どういう……。まさか、彼女が? おい、ヴァリエール。そうなのか?」
まだはっきりと意識を取り戻していない彼だったが、少しずつ状況が見えてきたらしい。
しかし、信じられないような表情でルイズを見つめていた。ルイズは力なく何度も頷く。
それでも信じられないギトーはゆっくりとロングビル、いやフーケを見つめた。
フーケは否定することも肯定することもなく、ただ木の根元に座り込んでいるだけだ。それが、彼女がフーケであることを証明していた。
「ミスが、フーケ……。……まさか。いや、そうか、だからか」
「何がですか?」
信じられないと言う表情を浮かべていたギトーも何かが思い当たったのか、はっと表情を変えた。
「私とヴァリエールが決闘をして、本塔にヒビを入れただろう?
そのことをオールド・オスマンは一言も私を問いつめることはなかった。こんな大騒ぎになっているのにもかかわらずだ。
あの方が知らなかったとしか思えない。それに……私が得た情報と彼女が得たという情報、タイミングがよすぎるとは少しは思ったが……。
本当に貴方が?」
「……ああ、そうさ」
再度ギトーが問いかけると、ついにフーケも口を開き肯定した。
その口調は秘書であるロングビルの丁寧な口調ではなく、男勝りなものだった。
しかし、それはルイズが良く知っている。素の彼女だった。
「どうして……」
「ルイズ?」
「どうして、泥棒をやっていたの……?」
そんな彼女に、今度はルイズが問いかけた。だが、フーケは顔を逸らし、答えようとはしなかった。
彼女にもプライドがあるのだろう。
「……ミス。私が君にこんなことを言うのもなんだが、ただ破壊の杖を盗むためとはいえ、一人の生徒を世話をしてきた身なのだ。
君は全てを話す義務があるんじゃないのか? そうでなければ、この娘だってこれから安心して暮らせはしないだろう?」
そんな彼女に優しく促したのは、なんとギトーだった。
彼はそんな彼女たちの様子を見ながら、少し迷った後、頭を掻きながら恥ずかしそうに問いかけた。
どうやら自分でも柄でもないことは分かっているようだ。
「あら、予想外の優しいお言葉。頭を打ちましたか?」
「ぐっ……ツェルプストー、お前減点な。あと、そこの平民、お前指導決定」
「あ、職権濫用とか汚いわ!」
「卑怯だ卑怯だ! あれ、つか俺生徒じゃないんだけど?」
「だまらっしゃい!」
突然の豹変振りにキュルケとサイトは呆れた表情で見ていた。ギトーは更に顔を赤らめながら誤魔化す。それにキュルケとサイトはブーイングした。
そんな緊張感のないやり取りを見て、フーケはこんな奴らに負けたのか、と情けない思いと呆れで思わず笑みがこぼれた。そして、ぽつりと語り始めた。
もう、どうにでもなれと、少しばかりの自棄も含めて。
「どうして、か……。昨日あんたに話したとおり、馬鹿な貴族の慌てる姿が面白かったから。私をここまで陥れた貴族達に復讐するためだよ」
「そんな……」
ルイズは俯いた。また、彼女に嘘をつかれた、本心を話してもらえなかったと思ったからだ。
そんな彼女を慰めるように、フーケは微笑みかけた。
「嘘じゃないさ」
「では、その盗んだ金は何に使ったのだ? ミスが裕福に暮らしているとは思えないが? まさか壊したとかは言うまいな?」
「……」
フーケは答えない。それでもギトーは続けた。
「その、もしかして家族とか友人のためなのか? 土くれのフーケの盗んだ物はどれも高価なものばかりだ。
それを売り払えば人一人ぐらい一生遊んで暮らせるだろう。ゲルマニアであれば貴族に戻る事だって出来るだろう。
しかし、ミスはそうしないのは……」
「……」
やはりフーケは答えなかった。それは彼女の意地なのか、それとも別の何かがそうしているのか。
それはこの場にいる誰にもわからなかった。
「あぁ、うん。……しかし! 罪は罪である。貴族に対し、泥棒を働いていた事は許されることではない。
例えそれがどんな事情であろうともな」
「……ああ、罪は償う。元々そういうつもりだったからね」
ギトーは大きく咳き込みながら場の雰囲気を変えて取り仕切った。フーケもそれに従うように立ち上がった。まだ肩が痛むのか、ふらついている。
すると、彼女とギトーの間に入り込むようにルイズが割り込んで、彼女の体を抱きとめた。
「駄目よ!」
「ルイズ!?」
「お、おい! ルイズ……」
「ヴァリエール、何をしている! まさか、彼女を庇うつもりか?」
キュルケとルイズは思わず声を出して驚き、ギトーは彼女の行動に叱るように怒鳴った。
タバサも驚いたような表情を浮かべている。だが、ルイズはフーケの体に顔を埋めながら、顔を横にぶんぶんと振った。
フーケは戸惑うように言った。
「ル、ルイズ。あんたねぇ……」
「だって、このままロングビルさんが捕まれば、死刑になっちゃうんでしょ?」
「……まあ、そうだろうね。貴族への侮辱とか色々とあるだろうし、軽い刑じゃすまないでしょうね。
でも、それだけの事を私はしたのさ」
フーケの淡々とした言葉にルイズは言葉を失う。フーケは更に戸惑ったように、彼女へ尋ねた。
「あんたは……なんで私にそこまでするんだい? 私はあんたにひどいことをしただろう?」
「……私ね、皆を助けようと思ったのよ。私を助けに来てくれた皆を。何も出来ない自分が嫌だったから。
ロングビルさんをこの手で殺めてでも、皆を助けようと思った。止めようと思った。
貴方に甘えている自分から別れたかった。でも、私、できなかった……」
ルイズの瞳に涙が浮かぶ。そして嗚咽を吐きながらぽつりぽつりと言った。
「ロングビルさんと戦っている時、ずっと過ごしていた時の事を思い出してた……。
貴方は捨てて、私と別れようとしていたから、私も必死に忘れようと思っていたのに。それを捨てることなんて、できなかった。
……皆が大事なように、私にとって貴方も同じぐらい大事なんだわ」
その言葉に、フーケははっと顔を上げる。そして、心の奥底から上げるものを感じたが、それを必死に我慢してルイズの言葉を聞き続けた。
「私、姉さんに言われたもの。お前は、人を守れるような剣を目指せって……。
皆を守りたいように、ロングビルさんも守りたいの……。それに気が付いちゃったから……。
それに罪なんて、死んで償うことなんてないじゃない。償い方なんて、一杯あるわよ……だから……」
ルイズはサイト達のほうを向いて、大きく頭を下げた。それを彼らは戸惑った表情で見ていた。
ルイズがフーケに対し、ここまで尽くすとは思わなかったから。彼女はルイズに酷いことをした。沢山怖がらせた。仲間を騙そうとした。仲間を殺そうとした。
それなのに、その仲間の前で彼女を弁護した。
「お願いします! ロングビルさんを見逃してあげてください!」
「な、馬鹿! あんた、何てことを言ってるのよ!」
ルイズの突然の言葉に、フーケは戸惑ったように言った。まさかここまで言うとは思わなかったからだ。
サイトもキュルケもタバサも言葉を失っていた。ただ一人、ギトーだけが厳しい表情のままだった。
「ロングビルさんの言うとおり、私は甘ちゃんで、自分の事しか考えることの出来ない馬鹿な人間だと思う……。
それでも、私……わたし……わたし……」
ついにルイズは膝をつき、その場に座り込んで項垂れた。そんな彼女を見て、フーケは狼狽した。
「ルイズ……」
「ごめん、わたし、立派な人間になんてなれない……。本当なら、こんなのいけないことだって分かってるのに……。
私嫌なの……ロングビルさんが黙って死んじゃうなんて、嫌なのよ……」
「……本当、あんたは甘ちゃんのガキだよ……。ガキは、本当に嫌いよ。
短絡的で、人の心にずけずけと入ってくる……あんたは本当に大概だよ。あんたさっき私を殺そうとしてたじゃない」
「ご、ごめんなさい……」
フーケの身の蓋もない言葉にルイズは申し訳なさそうに、更に項垂れた。
その顔をフーケは優しく抱いてやった。この時は優しいロングビルの顔に戻って。
「……なあ」
「なあに?」
その様子を見て、サイトは腕を組みながら暫く考え込んだ後、キュルケ達に提案した。
「……俺からも、頼めないかな」
「はあ?」
「いや、なんつうか、罰せられなきゃいけないっていうのは、うん、わかるけどさ。
俺だって、ルイズを攫ったのは許せないけどよ。……この人がそれほど悪い人間には見えないんだよ、俺も。上手くは言えないけど……。
ここまで潔くしているし。ルイズも破壊の杖も無事に戻ってきたんだしさ。二度と盗みをやらないっていうんなら、逃がしても良いんじゃないかな」
「サイト……」
「あんたねぇ……もう」
キュルケは呆れてものが言えなかったが、なんとも彼女たちらしいと苦笑した。だが、そんな中、ギトーの表情だけ厳しい。
「私は反対だ」
「ギ、ギトー先生!」
ルイズがはっと彼の顔を見上げる。だが彼の表情は変わることなく、淡々と説明した。
「フーケを見逃すという事は、それまでの罪を見逃せということである。それが何のためであろうとも、罪は罰せられなければいけない。
それは貴族の沽券だとか以前の問題だ。一つの罪を許せば、全ての罪を許さなければならぬ。だから『フーケ』は罰せられるべきだ」
「で、でも……それでロングビルさんが死ぬことなんて……」
「やれやれ、風のメイジである私がトリステインの法について教鞭を振るわなければいけないのか? ……まあその点、貴方は理解しているな? ミス」
「……ああ、そうさね」
フーケはギトーの言葉に賛同した。彼女自身は端からそのつもりだった。
しかし、ここでギトーは突然フーケの眼鏡を取り上げ、それを持って空き地のほうへと歩いていく。
「先生……?」
「しかしだな。私には目の前に居る女性がどうにもフーケには思えんのだ。
こんな優しい聖母のような女性が、極悪非道の土くれのフーケなわけがなかろう? そういうわけでだ」
と、ギトーは眼鏡を放り投げ、地面に落とした。そして杖を取り出して詠唱し、眼鏡に『エア・ハンマー』を放った。
スクウェア・クラスの彼の全力のエア・ハンマーは、まるでゴーレムが踏みつけたように地面を抉った。
そして、眼鏡はぐしゃりと潰れ、レンズは割れてしまった。
それを拾い上げると、ギトーは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、ルイズ達に背を向けたまま言った。
「……ミス・ロングビルは罠にかかった我々を助けるためにフーケと勇敢に戦い、二人とも行方知れずになってしまった。
そこの女性はヴァリエールと一緒に捕まっていた。それを我々が助けた。それ以上の事は知らん」
「ギ、ギトー先生……」
「あの……やっぱり頭打ちました? 何か出発前と性格が違うんですけど?」
ルイズは感動したように、目に涙を浮かべながら手を組んで、嬉しそうな表情を浮かべた。
キュルケはギトーの豹変振りに呆気に取られていた。そんな彼女に、ギトーは居心地悪そうに言った。
「……やかましい。確かに私だって功績は欲しい。だが、こんな状態になってまで、欲しいとは言わん。
彼女の罪は、彼女自身に償ってもらうことにする。その監視は、始祖ブリミルにお願いするとしてな」
「あら、まあ……。だけど、今回ばかりは私も賛成ね。別にここで彼女を捕まえて、功績が欲しいだなんて思ってないし。
別にトリステインから貰ってもねぇ? だったら、私は貴方という人のほうを大事にしたいと思うわ。タバサは?」
「任務は『破壊の杖とルイズの奪還』。それは果たしたからそれ以上興味はない」
「だそうで」
「……ったく、甘ちゃんはルイズだけじゃないようね」
フーケは呆れたように笑いながら、地面に座った。
「あ、ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「うお!? き、貴様は私の事を嫌っているのか、そうじゃないのか、はっきりとしろ!
な、泣くな、泣き虫が! 貴族がこれぐらいの事で泣くんじゃない!」
ルイズもぱあっと嬉しそうな表情を浮かべて、ギトーの腕を掴み、何度も頭を下げた。
ギトーは突然の事に顔を赤く染めたが、そうしているうちにぼろぼろと泣き始めたルイズにうろたえてしまった。
「……ミスタ。どうして私を見逃してくれるんだい?」
と、フーケはそんな彼に尋ねた。ギトーはルイズを腕から解きながら、フーケから背を向けながら言った。
「……ミスには借りがあるからな」
「借り?」
「私とヴァリエールとの決闘の時に本塔に入ったヒビのことだ。あれを学院長に報告しなかっただろう?
まあ、ミスはあれを自分の仕事をするために隠したのだろうが、結果的に言えば私も罪から見逃されたのだ。
……つまりだ、人の事は言えない、というわけだな。それにどんなことであれ、恩は恩である!それを無碍にする事は、最強の系統、風使いが廃るというものだ!」
「はは、そういうことかい」
フーケは苦笑した。そんな彼女に、今度はギトーから問いかけた。
「……こちらからも、もう一点お伺いしたい。何故戻ってきたのだ? 破壊の杖を得たのだ、すぐに逃げるべきだったのではないのか?
ヴァリエールだってそのまま攫えばよかろうに」
「……使い方、わかんなきゃ金にならないだろ? ……それと、多分この子を連れ戻してもらいたかったのかもしれないね」
「ん? 最後の方が聞こえなかったが」
「なんでもないよ」
「……ふむ、まあそう言うことにしておこう。では、ここでお別れだ、ミス。だが私は罪を赦した訳ではない。
……この先、貴女がまたフーケとして働く時は、地の果てだろうと私自身が成敗しに行こう」
「……ふふ、楽しみにしています」
「……本当、トリステインの貴族って口だけは達者ねぇ。ま、私達も行きましょう。……ミス、お達者でね」
フーケはギトーに笑いかけた。それを小恥ずかしいのか、ギトーは一瞥することなく、そそくさとその場から去っていった。
その背中をキュルケは口元を手で押さえながら、くすくすと笑いつつ、フーケに一瞥してからその場を去った。タバサもその後を追っていった。
「待ちな」
サイトとルイズもその場を去ろうとしたが、その前にフーケに呼び止められた。
フーケはふらつきながら立ち上がると、ルイズとの頭を軽くこつきながら叱るように言った。
「ったく、馬鹿だね、本当に。あんたまで犯罪者扱いされるところだったのよ?」
「……ご、ごめんなさい、でも」
「さっきから謝りっぱなしなのも駄目だ。もう自分のした事には堂々としな。
ったく、私がいなくて大丈夫なんだろうね。心配だよ、本当。本当に貴族らしくないよ、あんた」
「う、うん」
「苛められたりしても、堂々としてるんだよ。……あんたは私が見込んだとおり、すごい使い魔、召喚したんだからさ」
「……うん」
フーケの言葉にルイズは顔を赤らめながら頷いた。端で聞いていたサイトもそっぽを向きながら、頬を掻いている。
「……昨晩は悪かったね。あんなこと言って」
「……ううん、私も色々とごめんなさい。私、色々と思い込んだりして、えっとその、傷つけたりとか、してたんだよね、きっと……」
「私のほうが大人気なかっただけさ。仕事が上手く行かなかったからって、あんたに当たってただけ。
……馬鹿やってるのも、無茶するのも、まあ度が過ぎれば駄目だけどさ。そこはあんたの良いところだって、私は思うよ。
それに誰かに認められたいなんて、誰でも持ってる感情さ。気にする事はない」
「ほ、褒められてるのかなぁ」
ルイズは複雑そうな表情を浮かべているが、フーケは悪戯っぽく笑みを浮かべながらウインクした。
「当たり前だろ? あんたは自分が思ったようにやれば良い。……でももっと人に頼ることを覚えるんだね。
若いうちは、親や友達がいるうちは色々と迷惑かけなさい。それが、私からの最後の教鞭さね」
「……ありがとう、ございます。ロングビルさん」
「……マチルダだよ」
「え?」
「本当の名前、マチルダって言うんだ。流石に家名は言えないけどさ。今度からそう呼びな」
「うん、マチルダさん。あのさ……」
ルイズはそれ以上何も言えなかった。自分の口にマチルダの指が当てられたからだ。
マチルダはその指をそっとはずすと、ルイズを諭すように言った。
「その続きは駄目よ。あんたみたいな子供に、そう簡単に大人が心配されるわけには行かないんだ。
……自分が決めた生き方だからね。でも、助けて欲しい時は、ちゃんと言うよ」
「……そ、その時は私何処からでも駆けつけるわ! だ、だって私は、大切な人を助けたいから。
……だから、もう泥棒とかやっちゃ駄目なんだからね……」
「……ん、ありがとう、ルイズ。さてと、ちょっとそこの、耳貸しな」
「え? うわっと!」
と、ぼぅっと二人の会話を聞いていたサイトは急にマチルダに体を引き寄せられ、ルイズに聞こえないように耳打ちをされた。
ルイズは怪訝そうに二人を見ていたが、サイトが真剣に聞いているのを見て、問い詰めようにもできなかった。
そして、彼らの会話が終わると、サイトは少し恥ずかしそうに頭を抱えながらも、わかったと頷いていた。
それを見て、マチルダは満足そうに笑みを浮かべながら、その場を後にしようとする。
「マチルダさん!」
ルイズはその背中に声をかけた。マチルダは天高く腕を上げて振って、その言葉に答えた。
ルイズもそれに答えるように腕を振った。サイトも腕を軽く振って見送った。
しばらく歩いて、マチルダは笑みを浮かべながら、空を見上げた。
「……全く、土くれのフーケ様とあろうもんが、あんな小娘一人にねぇ……」
情けない、そう呟く言葉とは裏腹に清清しかった。まるでこの結末を望んでいたかのような、そんな表情だった。
「……ははは、一番の甘ったれは私か。結局、普通の生活をしたかったのは私自身だったんだ。
いや、『ロングビル』も『フーケ』も、どっちも私だったんだね、結局」
彼女は乾いた笑い声を上げながら、森の小道を歩いていく。
「ありがとう、ルイズ」
今、ここに命がある事を感謝しながら。
「さて、これからどうしようかね。銭無しか、まあ仕方ないね。傭兵か、また酒場のウェイトレスに戻るか……。
まあ、あの子にも言われたことだし、泥棒よりは堅気な生活には戻って……。お金が溜まったら、テファの傍でゆっくりとしようかね」
「そうか、ミス・ロングビルがのう……」
「……おお、ミス・ロングビル……何故貴女が……」
オスマンとコルベールは、沈痛な表情で、破壊された眼鏡を見つめていた。
学院に戻った彼らは早速オスマンに報告へと戻った。
そして、ルイズと破壊の杖を奪還できたことを報告し、『ミス・ロングビルの遺品』である壊れた眼鏡を提出したのだった。
因みにこの場にルイズはいなかった。
彼女は正直すぎるから、嘘がばれてしまうし、何よりシエスタを安心させるほうが優先だからと考えられたからだ。
ルイズ自身も体を休めたほうが良いだろうと判断され、それは許可されている。
ギトーは一歩前へと歩み、右手を体に添えながら恭しく進言した。
「ただ、乱戦であったため、彼女が死んだとは限りませぬ。死体は見つけられなかった故。
しかし、今回の事件、全てはミス・ロングビルのお陰で解決できたようなもの。何卒彼女へのご配慮いただく存じます」
ギトーの言葉に、暫く髭を撫でながら考えていたオスマンは、静かに頷いた。
「そうじゃのう、彼女は勇敢に戦い、生徒や君を守ったのじゃ。彼女に対してできる限りの事はしてやろう。
それがせめてもの慰めじゃな……。今は、彼女が生きていることを祈るしかないじゃろう」
「ありがとうございます、オールド・オスマン」
「うむ……。何はともあれ、『破壊の杖』は取り戻せたのじゃ。よくぞ、生きて任務を果たしてきてくれた。
君たちには感謝の言葉も言い切れん。わしから何かできればよいのじゃがな……ふむ」
「いいえ、オールド・オスマン。我々だけではフーケを倒せませんでした。
もし、我々に褒美あるのだとすれば、それはミス・ロングビルに向けてはいただけませんか?」
悩むオスマンに対し、キュルケは率先して進言した。オスマンは少しばかり苦笑しながら頷いた。
「……君たちはまさに貴族の鑑じゃな。そこまで言うのであればそうするとしよう。
では、せめてもの褒美になるかわからんが、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。
ミス・ロングビルへの想いは色々とあるじゃろうが、今日は楽しむと良かろう。……彼女もそれを望んでいるじゃろうて。
彼女の事も、まだ生存している可能性もあるから、我々だけの中で留めておくことにする」
「まあ! そういえば、今日はその日でしたわね。すっかり忘れていましたわ」
キュルケは手を叩きながら、ぱあっと表情を明るくした。
「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。せいぜい、着飾るのじゃぞ。ああ、そうじゃ。
サイト君、君は残ってくれんかのう? コルベール君も席をはずしてくれぃ」
三人は礼をすると、扉へと向いた。コルベールもオスマンに一礼した後、部屋を後にする。
そんな中、オスマンに引き止められた才人一人はその場に残った。オスマンは杖を一振りすると、何かの魔法を部屋中にかけた。
「ええっと、俺に何か用ですか?」
才人は戸惑ったように尋ねる。オスマンは飄々とした表情で言った。
「ふむ。率直に言おう。さっきの話、嘘じゃろ?」
「え!? あ、いやそんな事は」
才人は驚いたように体を強張らせながらも、必死に誤魔化そうとした。
だがそんな彼に対し、何の悪意もない笑顔でオスマンは続けた。
「ほほ、隠さなくてよいぞ。長年生きておるとな、人がどういうときに嘘を付くか、何となくわかってしまうのじゃ。
特に、ギトー君のような嘘がへたっぴの男は特にのう。ずうっと顔が強張りぱなしじゃ。あれじゃすぐにばれてしまうよ。
……ああ、因みに部屋には『サイレント』という魔法を掛けておる。この会話は外には漏れんよ」
「は、はぁ。……じゃあ、ロングビルさんがフーケだったことも最初から?」
才人の疑問に、オスマンは頭を掻きながら申し訳なさそうに答えた。
「まあ、正直に言えばそっちはわからんかった。
彼女の場合は、顔に出ていた心の焦燥がミス・ヴァリエールが攫われた事からなのか、それとも攫ってしまったことなのか。
そこまではわからんかった。情報を得た時期が都合が良すぎることも、普段の彼女の働きを見れば不自然ではないと言える。そこまで周到に用意しておったのじゃろう。
まあ、結果的には、わしの不手際で生徒を危ない目に合わせてしもうた。学院を束ねる者としては、情けない話じゃよ」
オスマンは大きくため息をついた。
「もう過ぎたことっすから。……でも、そこまでわかっていて、何にも言わないんですね」
「嘘とは、意味のある嘘とそうでない嘘にわかれておる。君達がついた嘘は前者で、しかも悪い意味ではないじゃろう?
じゃったら、それ以上はわしは何も言わんよ。それに、君の言葉を借りるとすれば、これは過ぎたことじゃ」
「そうっすか……」
才人は安心したようにため息をついた。自分が何か問い詰められるのではないかと心配していたからだ。
しかし疑問がある。何故自分なのだろうか。
「何で俺にこの話を?」
「一番正直そうじゃからのう。それに、君はわしに聞きたいことがあるのではないかね?」
「……何から何までお見通しなんっすね」
「ほっほっほ」
食えない爺さんだなぁと、目の前で笑うオスマンに、才人はそんな感情を抱きつつも、彼に対し、色々と説明を加えながら質問をした。
自分が異世界から来たこと。自分のルーンについての事。あの破壊の杖の事。聞けるだけの事は聞いた。
しかし、才人に帰ってきた回答は、残念ながら彼が元の世界に戻れるだけの材料にはなりはしなかった。
あの破壊の杖の持ち主は30年前に亡くなったらしく、その人物も才人と同じく地球の人間なのだろうが、何処から来たなどは全く分からなかったようだ。
だが分かったこともあった。
「そのルーンの事は知っておるよ。伝説の使い魔、ガンダールヴのものじゃ」
「ガンダー……ルヴ?」
「そう。ありとあらゆる武器を使いこなすという伝説の使い魔。君が破壊の杖を使いこなせたのもそれが原因じゃろう」
「そんなのになんで俺が?」
「詳しくはわからん。しかし、面白い見解があるのじゃ。それがこの手紙に書かれておる」
そう言ってオスマンは机の中から一通の手紙を取り出す。それは何時の日か、コルベールに見せたものだった。
それを魔法で浮かせて、才人に手渡してやった。しかし、才人はそれをわざわざオスマンの許へと歩いていって返した。
「……すんません、俺こっちの言葉、読めないんです」
「ほ、それは失礼した。まあ説明するとだな、これはミス・ヴァリエールの姉エレオノール嬢から、彼女の入学前に届いたものなのじゃ。
彼女の魔法が使えない原因への考察、そしてそれに対する配慮の願い。……そして、そのことをどうか内密にしてほしいとも書かれておる。
全ては彼女個人の推察に過ぎなかったが、君という存在がこの手紙の信憑を深めたのじゃよ」
「それは……あの、何で内密になんですか?」
「彼女は、強い力を誰か心のない者に利用されることを恐れておるのじゃろう。
そんなのには頼らず、妹には普通の人生を歩んで欲しい。わしも同じ考えじゃ。
もしこれが本当で、王室にでも知れ渡れば、暇を持て余しているボンクラ共に利用されかねんからのう」
「そういうの、何処の世界にもあるんっすね」
「そういうもんじゃ。そう言うことで、ガンダールヴの事は、ミス・ヴァリエールには内密に頼む。
さて、サイト君よ。これからどうするかね?」
オスマンの問いかけに、才人は俯きながら考えた。彼自身、できるならば元の世界に戻りたいと思っている。
家族だって心配しているのだろう。その手掛かりはこれからも探そうと彼は考えていた。だが、ルイズを置いて帰れるのだろうか。
だから、彼は正直に答えた。
「……ひとまず、元の世界に帰る手立ては探しますよ。でも、帰るかどうかは……まだ、よくわかりません」
「そうか。まあ住めば都とも言うしのう。わしも君がどういう理屈でこちらに来たのか、色々と調べてみるよ。
出来る限りの手伝いはする。それがせめてものお礼じゃ」
「ありがとうございます」
と、オスマンは不意に立ち上がり、そして才人の体を軽く抱きしめながら、彼をねぎらった。
「まあ何はともあれ、恩人の品を取り戻してくれてありがとう。今日はミス・ヴァリエールと一緒に、ゆっくり体を休めておくれ」
「はい、ありがとうございます」
手掛かりはすっぽりなくなった。だが、今は考えないようにしよう。
才人はそう思いながら、オスマンにもう一度礼を言ったのだった。
そして、夜になって。アルヴィーズの食堂の上の階にある大ホールでは、舞踏会が行われていた。
そんな中、シエスタはルイズとサイトを探して、ホールを歩き回っていた。
ルイズが帰ってきてから、シエスタは優しく抱きしめ、慰めてあげようと思った。
だが、その前に感極まってしまって、自分がおいおいと泣いてしまったのだ。
その後は逆にルイズに慰められた後、しばらく一人にして欲しいと言われてしまい、部屋から追い出されてしまった。
満足に慰めることも出来なかった彼女は、そのことを後悔し、せめて今回の舞踏会で慰めてあげられればと気合を入れて、
手伝いなどを頑張り、早めに仕事を切り上げたのだが、肝心のルイズもそしてサイトも見つけられていなかった。
「どこへ行ったんだろう……はぁ……」
シエスタはバルコニーに寄りかかりながらため息を吐いた。そんなところへ、キュルケとタバサが現れた。
タバサは自分の皿に料理を山盛りにしている。
「はぁい、シエスタ。楽しんでる……様子じゃないわね」
「はい……」
キュルケの言葉に、シエスタは力なく頷いた。
「何、ルイズの事?」
「はい……」
「……そういえばあの子、来てないわね。まあ、色々と考えたいこともあるんでしょ?」
「そう、なんでしょうね。色々とあったんですよね。一応……事情は聞きました」
「じゃあ放ってあげたら? こういうときはね、下手に慰めてあげるよりも、一人で考えさせてあげたほうが良いわよ」
「……」
確かにその通りだ。攫われたことやロングビルがフーケだったこと。
色々と突然起こってしまったのだから、気持ちの整理も必要なのだろう。それはわかるのだが、やはりシエスタは心配だった。
そんな彼女を見かねたキュルケは、呆れたようにため息をつきながら、彼女の肩を抱きながら言った。
「なら、行ってみる? 私、あの子が行きそうな場所知っているわよ?」
「え!?」
「そろそろ男共を相手にするのも飽きてきたし、私も付いていっていいわよ?」
「私も別に構わない」
「皆さん……」
二人の言葉に、シエスタは感動したように顔をぱあっと明るくした。しかし、キュルケは意地悪な笑みを浮かべながら言った。
「でも嫌われちゃうかもしれないわよ?」
「う。うう……ミ、ミス・ツェルプストーは意地悪です」
「ふふ、よく言われるわ。さあどうする?」
「……い、行きます!」
「そう、じゃあ行きましょう? あ、そうね、あの子達も誘いましょうか? ちょっと、ギーシュ、モンモランシー!」
覚悟を決めたシエスタの顔を見て、満足そうに笑ったキュルケは、近くを通りかかったギーシュとモンモランシーも巻き込み、
また噂を聞きつけたケティも付いてきて、6人は会場を後にした。
一方、才人は一人女性寮塔の階段を上っていた。ここに居る生徒は全員舞踏会に参加しているため、閑散としてしまっている。
そんなところを、彼は歩いていた。ルイズの部屋に戻るためでもない。屋上へと行くためだ。
あの時、マチルダから耳打ちされた言葉。それは、きっと彼女は落ち込むだろうから、慰めてやれと。
そして何時も悩む時、彼女は女性寮塔の屋上へと行くのだという。
才人は彼女の言葉に従い、舞踏会に来ることがなかった彼女を迎えに来たのだった。
そしてその通りに、ルイズは屋上の壁に寄りかかり、一人夜空を眺めていた。
「……あ、サイト……。こ、こんばんわ」
才人に気が付いたルイズは、ぎこちない言葉遣いで挨拶をした。
先ほどまで、また泣いていたのか、彼女の目元は腫れていて、涙の筋が見えた。
それに気が付いた才人だったが、気が付いていない不利をして少し苦笑しながら挨拶を返した。
「おう、こんばんわ」
「い、いいの? 舞踏会……楽しいでしょ、きっと」
「いいって。俺平民だから、誰にも相手にされないだろうしな」
「キュルケとか、ケティとか……」
「あ、うんまあ……でもいいって。隣、座って良いか?」
「う、うん」
才人はルイズの隣に座って、同じように夜空を見上げた。そんな彼に、ルイズはぽつりと声を掛けた。
「……綺麗ね」
「そうだなぁ」
「ロングビルさん、じゃないや……マチルダさんも今頃この夜空を見上げているのかしら」
「そうじゃないかな」
才人は静かに頷く。
「そう、よね……私、あれで正しかったのかなぁ」
「……マチルダさんを逃がしたこと?」
「うん」
「……わかんねぇ」
「そうだよね……」
才人は正直に答えた。それに対し、ルイズも頷いた。
「……」
「……」
「……」
「サイトの世界ってさ」
「ん?」
「……お月様、一つしかないんだっけ」
「うん」
「そ、そっか……変わってるね」
「そうかな」
「そうよ」
ぎこちない会話が続いて、そしてまた二人は沈黙した。
ルイズは彼から顔を逸らしながら、色々と言葉を探していた。それを黙って才人は待っている。
彼もまた何かを言おうと思っていたのだが、言葉が見つからず、ルイズの言葉を待とうと思ったからだ。
「……その、帰りたい、よね。元の世界に」
ルイズは顔を背けながら、恐る恐ると言った。才人は夜空を見上げながら、うん、と頷いた。
「そっか、そうよね。家族とか、いるもんね」
ルイズは俯いた。言葉にし難い寂しさが、彼女を包み込もうとしていた。そんな時、才人が笑いかけながら、でも、と言葉を続けた。
「帰る方法、わからないしさ。それに俺、ルイズの事をもっと知りたいから。ここに居るよ。……俺、ルイズに呼ばれてよかった」
その言葉に、ルイズははっと顔を上げて才人の顔を見つめる。彼は恥ずかしそうに顔を赤らめていた。
そしてルイズも恥ずかしそうに顔を赤らめながら、そっぽを向いてしまう。
「こ、こんな我侭で能無しのメイジと一緒なんて、つ、疲れるんじゃない?」
「……そんなことねぇよ。いや、確かに疲れるけどさ。すげぇ楽しいと思うぜ」
「……変わってるのね、貴方」
「よく言われるよ」
「私も、言われる」
「ああ、知ってるってあだ!」
遠慮なく頷く才人を、恥ずかしそうにルイズはポカッと叩いた。才人は、わけわからねぇ! と喚きつつ、呆れた様子で言った。
「……本当、お前って素直なのかそうじゃないのか、よくわかんないのな」
「……」
「もっと、俺の事頼ってくれていいんだぜ? なんだって、俺はお前の使い魔だし……相棒、だしな」
「……うん」
「もう、一人で突っ込むなよな?」
「うん」
「うん、それでいい」
才人はルイズの頭を優しく撫でてやった。男の子っぽい、無骨で大きな手。
そんな彼の手に撫でられて、少し恥ずかしそうに顔を赤く染めながらも、ルイズはその手に身をゆだねた。
「色々と悩むことあるだろうけどさ。もう終わっちまったことだし、気にするなって。俺はルイズの選んだ道だから、良いって思う」
「そう?」
「ああ。だからもっと胸を張ってれば良いって」
「張る胸なんてないもの」
「そ、そこで自虐するなよな。とにかく、さ。何時までも、とはいえないけど。俺、お前の傍にいようと思う。一人じゃないからさ」
「……うん」
「そうだよな、お前ら?」
「え?」
と、サイトの突然の言葉に驚いて、顔を上げながら階段のほうを見つめる。すると、そこからぞろぞろと人が現れた。
キュルケにタバサ、モンモランシーにギーシュにケティ。そしてシエスタだった。
6人はにやにやしていたり、申し訳なさそうに顔を背けていたりしている。どうやら立ち聞きしていたようだ。
「あ、あんた達いつの間に……居るなら居るっていいなさいよ!」
ルイズは顔を真っ赤にしながら立ち上がって喚いた。そんな彼女に悪びれることなく、キュルケはにやにやしたまま言った。
「だって余りに良い雰囲気だったんだもの。でも何でばれたの?」
「んなもん、あんだけギーシュとシエスタが騒いでいたら気がつくっつの」
「ほら、やっぱりあんたのせいじゃない」
「いや、日和見を決め込もうといったのは君たちじゃないか! しかし、君たちはあれだね。
まるで兄妹のようなだと思っていたが、いやはや! 今宵は恋人のようじゃないか!
双子の月に祝福される中、二人は愛を深める。いやぁ隅に置けないなぁ、この平民め!」
ギーシュの言葉に、才人とルイズはぽかんと一瞬思考を止めながら、お互いの顔を見つめた。
そして、やっと我に返った瞬間、ルイズはギーシュの脛を蹴飛ばしながら怒鳴った。
「ぎゃん!?」
「ば、ば、馬鹿じゃないの!? な、何で才人と私が恋人同士なのよ!」
「うわぁ、すげぇ痛そう。そしてすげぇ否定された」
「う、うおお……ぼ、僕の脛が、まるで散る薔薇のようにはかないことにぃ……」
「何でって、あんな会話してるなんて、恋人同士以外の何なのよ? 全く、落ち込んでいるって聞いたのに、元気そうじゃない。ねぇ、ケティ?」
「はい。先輩とても嬉しそうでしたね! 特にお兄様に頭撫でられている時とか」
「いや、ちょ違うっての!」
「あれ、そこまで否定しなくてよくね? よくね?」
「さ、さっき相棒って言ったばかりじゃない!」
「シエスタなんて大変だったんだから。顔赤く染めて、ワーワー騒ぎながら羨ましげに見てたのよ?」
「わ、私はそんな目で見てません! ただ、才人さんが不埒なことしないようにと……」
「そういえば貴方も才人に抱かれたことあったんだっけ? もしかして嫉妬かしら!」
「わ、ワーワー! それはその、違います! あ、ルイズ、そんな目で見ないで、私、私、才人さんと何にもないんだから!
ただ慰められただけだからね、ね?」
シエスタは冷めた目つきで睨むルイズに、腕をぶんぶんと振りながら必死に否定した。
だが、ルイズの猜疑心は留まることがなく、そんな二人を見てケティは頬を両手で押さえながら、煽るように言った。
「わ、まさか修羅場ですか? むむむ」
「違います!」
「おおう……俺の心がブレイクしそうだ……」
「……君も災難だねぇ」
――ぐきゅるるる
と、白熱する輪の中、突如あたり一体に緊張感のない腹の音が鳴り響いた。
そして、音が鳴ってきた方向には、タバサが不機嫌そうな表情で腹を押さえていた。
「おなかすいた」
「……ぷ、ぷははは! タ、タバサ、あんたもうちょっとこういう話に入ってきたほうが良いわよ」
「興味なし」
「も、もう……あははは! まあ、いいわ。今日はもうここで祝宴を挙げちゃいましょ!
ルイズとサイトとシエスタと私の恋の行方を案じつつ! ほら、ギーシュ、さっさとテーブルを錬金しなさい!」
そう言って、大笑いをしているキュルケは、階段の影から料理を盛った皿を運んできた。
そして、ギーシュが作った簡易テーブルに置く。そんな彼女に対し、ルイズは喚いて全否定する。
「だからちげぇっつの! って、さりげなくあんたまでなんで入ってるのよ! このチビ、元チビキュルケ!」
「何でって、面白そうだし。サイトってば結構良い男じゃない? って、ああ! あんたね、それ人前で言うんじゃないわよ!」
「うっさい、チビキュルケ! 調子に乗りすぎて男並みにでかくて、そこがちょっと……とか言って振られたことあるくせに!」
「キィィ!! 言わせておけば!」
「ああ〜もうわけわからん。どうせ俺の事なんて誰も好きじゃないんだろ? もういいや、タバサ、飯食おうぜ」
「賛成」
「あ、お兄様。ワインをどうぞ」
「ケティは優しいなぁ。癒し系だなぁ。お兄様嬉しいよ」
「あ、ちょっと! 少なくとも私は本気よ? ちょっぴり」
もはや収拾が付かない状態になり、先ほどまで静寂だった女性寮塔は大きく盛り上がった。
不貞腐れていた才人も段々と楽しくなり、ギーシュと肩を組みながら馬鹿騒ぎを始めた。
頬を膨らませて恥ずかしそうにそっぽを向いていたルイズも、いつの間にか楽しそうに盛り上がり始めた。
そして、そんな中で不意に夜空を見上げて、笑みを浮かべながらぽつりと呟く。
「ありがとう、サイト。ありがとう、マチルダさん」
-----------------------------------------------------------------------------
ギトーがいきなりGITOになったでござる。
ということでフーケ編、もといマチルダさん編は終わりです。
ルイズが刺したと予想された方やマチルダさんが死んじゃったと予想された方が
多数で、欝展開をご予想された方がほとんどでしたね。いや、本当申し訳ない。
本当はこういう展開なんだよ、と何処かで匂わせて置けばよかったんですが……。
ちょっと不自然で、安直な展開かもしれませんが、やはりここはハッピーに行きたいなぁと思います。
全員が全員ハッピーになれるとは限らないんですが……そこはまあ、最善を尽くします。
次回はアルビオン編、の前にアニエスとエレオノールの二人旅編です。
タイトル変更案は、まだまだ考え中…
-----------------------------------------------------------------------------
乙でしたー
いつもながらにやにやさせてくれる出来ですな
まあ、GITOに関しては前々回あたりからこそこそ動いてたしなぁ
あと、マチルダさんはさっさと帰ってテファを安心させてやるべきだと思う
乙です。
GITOがGTOに見えた。
まあ今回のギトーさんは確かにグレートだったと思うけど。
やっぱり鬱展開よりはハッピー展開の方がいいですよねー。
Great Teacher Ossan
このスレって潜在的に書いている人ってどのぐらいいるんだろう?
>>53 >>・ルイズが2●才の場合
とりあえず、ルイズの胸が成長したのかしてないのか
そこが最大の問題だ!!!
>>90 むしろ今住人はどのくらいいるんだろう???
>>91 長女三女が入れ替わっても血筋は変わらんからなー
でも才人が頑張れば……もしかしたら……ゴクッ
前回はご感想ありがとうございました。これからもGTO、いやギトー先生をよろしくお願いします。
このスレに色んな作品が投下されますことを願いつつ、26輪を20分ぐらいから投下したいと思います。
>>92 いや、アニメ版のカリンちゃんは胸が(それなりに)大きい。それに才人の頑張りを足せば…?
エレ姉? アレは個性じゃあべし
カリーヌさまとカリンちゃんを一緒にするとは不敬だなテメー支援
こんなはずではない。
そう何度も心の中で、いや自然と呟きながら、一人の男が洞窟の中を必死に走っていた。
右手に握られている剣の刀身は、根元でぽっきりと折れてしまっている。
左腕は折れてしまっているのか、ぶらぶらと力なくぶら下っていた。
そして頭からは血が流れているが、男はそれを全く気にすることはなかった。それほどまでに彼は疲労し、憔悴しきっているのだ。
こんなはずではない。恐怖で震える口を我慢しながら、もう一度呟いた。息が荒くなってくる。何度も転びそうになる。
彼には仲間がいた。同じ傭兵仲間だ。しかし、彼ら全員があの男一人にやられてしまった。
メイジの仲間もいた。だが、魔法を当てる、いや唱えることすら出来なかった。メイジが杖を取り出した瞬間、その身は壁に埋まってしまった。
何が起こったのか、彼には全く理解できなかった。気が付けば、男の隣には巨体の男が立っていたのだ。
2メイルほどあるであろう身長に、まるでトロール鬼のように鍛え抜かれた鋼の肉体。
顔には地竜を模したような形の仮面。そして、まるで白銀のように真っ白な髪は、まるで龍の鬣のようだった。
人間とは思えない、まるで化け物だ。
そうか、あれはこの地に封印されたという地竜なのではないか? 男の頭の中にそんな事が過ぎる。
この洞窟、いや遺跡にはかつて土地神として崇められた地竜がいたのだと言う。
その地竜は数年前、突如として暴走し、奥地へと封印されたと聞かされていたが、
まさかあの男はその人間に封印された恨みを晴らさんとする地竜の使い、もしくはそのものなのではないか。
ともかく、この土地の領主から渡された報酬金では割りに合わない。いや、もはや命すら危うい。
置いてきた仲間たちには悪いが、生きてこの場から出られればそれで良い。
広い場所に出た。男は水溜りに足を取られ、ばしゃん、と水を弾きながら転んでしまった。
その拍子で左腕を強打し、全身に電撃のような痛みが響いてきた。
ぎゃあ、と男は悲鳴を上げながらも、必死に立ち上がろうともがく。
だが、その前に、急に体が浮き上がり、男は言葉にならない悲鳴を上げた。
来た。追いつかれた。
男は恐怖のあまり必死に暴れまわるが、突然宙へと勢いよく投げ出されると、そのまま壁にぶつかった。
そのまま地面に落ち、意識が朦朧とする中、男は目の前を見た。そこにはあの化け物がいた。
もはや抵抗する力もない。だが、それでも化け物は彼に近づく。
「ま、待ってくれ、やめてくれ……」
男は両手を前に突き出し、命乞いをした。こんなことで助かるとは思えないが、それでもそれにすがるしかなかった。
男にも家族はいる。帰るべき場所もあるのだ。
「俺は、か、金で雇われただけなんだ、まさか神様を相手にするなんて、思ってもいなかったんだよ!
た、助けてください……お願いします……」
だが、化け物は人の言葉など理解していないかのように、歩幅を狭めることなく男の目の前に立った。そして、ゆっくりと胸倉を掴む。
「ひっ!」
男も小柄ではない。寧ろ体格はいいほうだ。だが、その男の体が軽々と浮かび上がる。
ばたばたと足を動かし、化け物を蹴飛ばそうとするが、ビクともしない。
そうこうしているうちに、男の胸倉を掴む力が強くなり、息が出来なくなる。そして、段々と男の意識が薄れていった。
「ひぅ……や、やべでぐ……」
男は最後にもう一度だけ命乞いをしようとするが、その前に気絶してしまった。
化け物は男が気絶したのを確認して地面に落とした。
そして、ゆっくりと男の背中を掴むと、それを持って、遺跡の出口へと向かう。そこには、小柄な少女のような人間がたたずんでいた。
化け物の腰ぐらいしか身長がない。そして彼女もまた仮面を被っている。
髑髏を模した様な、不気味な仮面は少女の可愛らしさとまるで合わさることないが、一種の釣り合いのようなものすら感じる。
「その人は?」
「多分殺してない。他は?」
「……一人、死んでしまったわ。当たり所が悪かったのね」
そう言って、少女は背後で無造作に倒されている男を見つめる。
その中の一人は、もうすでに事切れているようだ。だが化け物のほうは全く気にすることなく、冷徹に言った。
「仕方ない。そういうのは時の運だろ? 何も知らず、ただ金を貰ってここに侵入するほうが悪いんだよ」
「そう簡単に割り切れないわよ」
「俺は割り切るね。でもよ、そろそろ手厳しくなってきやがったな」
「そうね……」
少女は俯きながら、考え込む。そして男に提案をした。
「……ねぇ、やっぱり王立アカデミーに頼みましょう。私たち二人だけじゃ、土地神様を抑え付ける事しか出来ないわ」
「国なんか当てになんねぇだろうが! あんな野郎を領主にするやつだぞ?」
「知り合いもいるし、それに原因が分からないんじゃ……」
――グルァアア!
と、遺跡の奥のほうから、まるで悲鳴のような猛り狂う龍の鳴き声が聞こえてきた。
以前と違い、知性など感じることができない。化け物と少女はその声を聴いた瞬間、言い争いをやめた。
「……今はこうするしかねぇ。治療を続けりゃ、何時かは元に戻ってくれるよ。そうすりゃ、お前だって」
「……」
「……わりぃ、俺、頭悪いからさ。良い方法なんてわからねぇ……。お前に苦労かけるな……」
「ううん、いいわよ。貴方がしたいようにする。私は、その横にいられれば幸せだから。
さあ、土地神様の許へ行きましょう? 早くまた楽にしてあげないと……」
「……そうだな」
化け物と少女はまた遺跡の奥へと戻っていた。
第26話
「アニエス、そっちにはあった?」
「無いです。もう少し整理してくださいよ、姉上。アイシャ、見つかったか?」
「無いです……。アミアスさんは?」
「無いですよぉ。ふう、エレちゃんも女の子なんだから、もっと片付けたほうがいいですよ!」
「そ、その呼び方やめて、お願い!」
「エレちゃん……」
「アニエス、後でぶっ飛ばすわよ」
「ちょ、何で私が!」
トリステイン王国、王都トリスタニアの貴族街の一角にラ・ヴァリエール家の屋敷がある。
普段は公爵が王都で仕事をする際に使われたり、家族が王都へ旅行に訪れる時の別荘代わりに使われているが、
今はアカデミーで働くエレオノールとアニエスの拠点として使われていた。
その一室、エレオノールの個人研究室は、研究のための書類やら本やら実験器具やら生活用品やら色々と散らばっており、とても女性らしいとはいえないような状態になっている。
その中をエレオノールとアニエス、そしてメイドのアイシャに、なにやらエレオノールに狎れた口調で話す黒髪の少女が探索していた。
彼女たちが探しているのはある一枚のメモ書きだった。
「もう、やっぱり秘書を雇いましょうよ。お金とかあるわけですから。絶対そのほうがいいですって」
「そんなの要らないわよ。あんたがいるんだから」
「私一人じゃ無理です。絶対無理。……そういえば、ロングビル殿が学院の秘書をお辞めになられると聞きましたよ」
「あー言ってたわね」
「ぎゃああ!」
「あ、アミアスさん!」
エレオノールは思い出したように頷いた。と、同時に黒上の少女アミアスが本の雪崩に飲み込まれた。
アイシャはすぐさま彼女を救い出そうとし、アニエスもその手を貸しながら続けた。
「ご家族が心配でアルビオンに帰省されると言っていましたが、落ち着いたら彼女を雇っては如何ですか?
あとご家族もこちらに来ていただければ問題もないでしょう」
「あんたねぇ、簡単に言うけど、そういうの結構めんどくさいんだからね」
「今更だと思うけどなぁ……。あ、ありました、よ……」
と、雪崩れた本の隙間から一枚のメモを見つけたアニエスだったが、不意に別のメモにも気が付いた。
それを手に取ると、先ほどの和やかな表情を一変させて陰りを見せた。
「どうしたの?」
「あ、いえ。はい、見つけましたよ」
「ありがとう……」
エレオノールから心配そうに声を掛けられ、アニエスははっと我に変えると、慌てて目的のメモを渡した。
そして、もう一つのメモのほうを見つめた。
そこには自分の汚い文字が書かれている。作法だなんだと綺麗な字を書けるように躾けられてきたが、これだけはどうにも直らなかった。
そんな文字で、メモには自分がチェックした書類についての詳細が書かれている。
エレオノールからの好意で、何とかアカデミー内部の資料庫を調べる機会を得ていた彼女は、暇があればエレオノールの資料探しと言う名目で探索を行っていた。
そのたびの成果をそこに記していたが、彼女にとって目ぼしい成果は挙げられていない。
ただ一つ、手掛かりがあるとすればミシェルなのだろうが。あれ以来、ミシェルの姿は見ていない。
古い知り合いによれば、何処かへとまた旅立ったという話を聞いたが、確証を得る事は出来なかった。
「……あるとしたら、王軍資料庫かしらねぇ」
と、不意にエレオノールが言った。どうやらアニエスの表情で何となく察したようだ。
アニエスは驚くこともなく、彼女の言葉を反芻した。
「王軍資料庫ですか」
「ええ、そうよ。アカデミー所属の実験小隊とはいえ、その管理は王軍にあったのかもしれないし。
……あそこは元帥並の権力が無ければ入れないから、隠すにも好都合だわ」
「だとすれば、我々では手の出しようがない……」
「……当てがあるとすれば、現元帥閣下であられるミスタ・グラモンか姫君でしょうね」
トリステイン王国の元帥は現在ナルシス・ド・グラモンが任命されている。
彼は父ヴァリエール公やカリーヌと親交が深く、エレオノールとアニエスも何度か顔を合わせたことがある。
特にエレオノールはグラモン家と深い因縁があるのだが、それはさておき。
しかし、そんな関係にあるグラモン家でも、『メイジに対する復讐のため』に王軍資料庫の入室を許可してくれるのだろうか。
いや、それは許されないだろう。事情を話さなければ、余計に許可はもらえない。
さて、あとは姫君アンリエッタだが、彼女にはそんな権威があるのだろうか? と正直に思ってしまう。
「まあ……ほとんど駄目元ね。真正面から頼んだってあの『鳥の骨』殿が絶対に許しそうもないから、
個人的に会いに行ったときにこっそり頼み込むぐらいかしら」
「なるほど」
今、国の実権を握っているのはロマリアから来たマザリーニ枢機卿だ。
先王が崩御し、現在空位になっているトリステイン王国は彼の手腕によって支えられているといっていいだろう。
しかし、同時に彼は妬まれる存在でもあった。平民とメイジとの間に生まれた子とも言われ、『鳥の骨』なんて仇名すら付けられ、
平民にも貴族にも人気がなかった。エレオノールもそんな彼をあまり好んでいない。
だから、彼を介さずに出会う事など、アンリエッタと個人的にお茶でも飲みに行くしかないだろう。
「そうね、じゃあ、これに行く前に王城に行ってみる? と言っても、会える時間なんてものの五分も無いと思うけれど。
殿下とは個人的な付き合いもあるから、もしかしたらいけるかもしれないわよ」
エレオノールはメモをチラつかせながら提案した。そのメモにはある土地の名前が書かれている。
そう、彼女が探していたのは風石が大量に見つかったと言われている山の名前だった。
以前アカデミーの知り合いからこの情報を得ていたエレオノールは、その情報の代わりに、山村の様子を見てきて欲しいと頼まれていたのだ。
「そう」
「ちょっと待った!」
「ですね?」
アニエスは了解したと頷こうとした時、それをさえぎる様にアミアスがエレオノールの前に進み出た。
そして、十代の少女に見える顔立ちに相応ではない、その豊満な胸をエレオノールのそれに当てながら言った。
エレオノールの表情が少しだけ怒りにゆがんだ。
「エレちゃん、そろそろ実家に戻りましょうよ。カリンさんも心配してたし、きっとバーガンディさんだってわかってくれますよ」
さて、このアミアスという少女。全くエレオノールに怖気づいて、いや実は怖気づいているが、畏怖を持って接していないのには訳がある。
それは、彼女がエレオノールよりもずっと年上であること。そして亜人、吸血鬼であるのだ。
当時の事を詳しくは聞かせてはくれなかったが、エスターシュ公に捕まっていたアミアスと双子の姉ダルシニをカリーヌとヴァリエール公が救い出し、それから二人を影から支えてきたのだという。
その正体を知るのは、ごく僅かの人間だけだ。
二人は吸血鬼ではあるが、その中でも人間を殺せない”異端”であり、敵に回さない限りは安全な存在である。
そもそも性格自体、戦いに向いていないのだ。実際、アミアスは散々ルイズに悪戯されるという被害にあっている。
やり返そうにも恩人の娘である以上手出しが出来ないというのもあるが。
因みにアミアスの姉ダルシニは現在、領地のほうの屋敷で庭師を営み、実に平和に暮らしていた。
太陽は苦手だが、帽子などをかぶればなんとでもなるからだ。
「あらあら、アミアス。私は戻らないわよ」
「何で?」
「それは……意地ね!」
「何ですか、それぇ。早く戻らないと、私がカリンさんに怒られるんですからぁ」
「そう、じゃあ怒られなさい」
エレオノールが冷たく言い放つ言葉に、アミアスはガンッとショックを受けながら、今度はアニエスにすがりついた。
「酷い! アニーさん、アニーさんからも何か言ってあげて!」
「あ、アニー……。あいや、私も今の生活には満足していますので。
別にもう少しぐらい様子を見てあげて良いのではないでしょうか?」
アニエスはアミアスの頭を撫でつつ、エレオノールをフォローしていた。
その言葉を聞いて、アミアスはやはりショックを受け、涙目になりながら彼女はドアの前まで走った。
「わかったわ! そこまで頑固に帰らないって言うなら、私にも考えがあります! さようなら!」
そう捨て台詞を吐くと、アミアスは部屋を出て行った。
部屋に残された三人は呆然とその様子を見ていたが、エレオノールは一人勝ち誇ったように笑みをこぼすと、挑発するように叫んだ。
「悔しかったら母様でも連れてきなさいっての! ったく、母様よりも長生きしているのに、子供っぽいんだから……」
「まあ吸血鬼、いえ亜人は基本長寿ですから。精神の成長もそれ相応なのでは?」
「かもしれないわねぇ。あれ、何であんた、アミアスが吸血鬼だって知ってるの?」
「私、一時期彼女の食事係だったんです」
「なるほどね」
エレオノールは納得して頷いた。
「それで、行かれるのですか?」
「ええ」
「アニエス様も?」
「助手だからな。それに、まだまだ知りたいことがある」
「わかりました。では竜のほう、手配しておきますね」
「助かるわ」
アイシャはくすり、と小さく笑みを浮かべると丁寧に頭を下げて、その場から去っていった。
二人はその背中を見送った後、背伸びをしながら、それぞれの準備を始めた。
お土産に、東方から流れてきたという茶を持って、彼女たちは王城へと向かっていった。
一方、ラ・ヴァリエール領の屋敷では、ヴァリエール公とバーガンディ伯による食事会が行われていた。
エレオノールは散々自分はもう駄目だと嘆いていたが、こういう様子を見る限りでは拠り所はまだ残されているようだ。
「いやぁ、すまんな。娘はまだ帰ってこないのだよ。使いをよこして散々帰る様に言っているんだがなぁ……」
ヴァリエール公は申し訳ないように良いながらお茶を啜った。
バーガンディ伯は彼以上に申し訳なさそうな顔で頭を下げた。
「いえ、こちらこそ本当に申し訳ない。その、まさかアレを見られるとは思わず、全くこちらの不届きです」
どうやら原因となった小説に関して、自分に非があると感じているようだ。ヴァリエール公はうんうんと頷きながら、彼を慰めた。
「いや、わかる。気持ちは分かる。私もカリンと付き合い始めた頃はなぁ……。
いや、この話はやめよう。しかし、こうして態々うちに来るのに、何故直接会いに行かないのだ?
居場所ぐらい分かっているだろう?」
「はぁ……」
と、バーガンディ伯はヴァリエール公の言葉に、恥ずかしそうに頬を染めながら頭を撫でた。
その様子に、ふむ、とヴァリエール公は唸った。どうやら、エレオノールもそうだが、この男も素直になりきれない部分があるようだ。
しかし、別居状態とはいえ、エレオノールと長く付き合えた数少ない人材である。
ここで逃がしては二度とチャンスは来ないだろう。ヴァリエール公はごほん、と咳き込んだ後、敢えて話題を帰ることにした。
「しかし、エレオノールも以前に比べて大分素直になったほうなんだがなぁ……。気の強いところはカリンに似てしまってな」
「なるほど。しかし、エレオノール殿はとても良い方だと思いますよ」
「ほほう?」
「普段は厳しい人と思いますが、影では人知れず努力をし、他人に対して気遣える人でしょう」
「フィリップ君、君は本当良い人間だな」
「……ははっ、それに気が付いたのはスコーンのお陰ですが。
アレがなければ、危うく私は『もう限界』などと言って破棄してしまっていたところでしょうなぁ」
「またまた、君は言葉が上手いな、はっはっは!」
「いやいやあっはっは!」
バーガンディ伯の冗談になっていない冗談で笑いあう二人だったが、
花の位置を直すために通りすがったダルシニがごほん、と咳き込むと、彼らも同じように咳き込んで誤魔化して続けた。
「そうだなぁ、折角だ、少し昔話をしようか」
「ほう、昔話ですか?」
「そう、エレオノールとカトレアの話だ。ルイズの生まれる前の話なんだがな」
「ええ」
「実は、性格が全く逆だったのだよ」
「逆……とは? つまりカトレア殿が素直ではなく、エレオノール殿がおっとりしていたと?」
「いや、逆、という言い方は少し違うか。つまりはだな……」
顔つきを少しだけ真剣なものに変えて、苦笑をしながらヴァリエール公は昔の事を語り始めた。
「姫殿下はいらっしゃらない?」
「は、はくちゅ!」
「姉上……もうちょっと緊張感をですね」
「失礼。誰かが噂してるのかしら……。これは、父様?」
しかし、現実はそう上手くは行かないものだ。王城へと赴き、兵士に取り次いでもらおうとした二人だったが、帰ってきた答えはそれだった。
どうやら今アンリエッタはゲルマニアへと出向いているらしい。
アルビオンの情勢がいよいよ怪しくなってきた。そのため、小国であるトリステインを守るのに、軍事的に強大な国であるゲルマニアと軍事同盟を組む必要が出た。
ゲルマニアは、その条件として現皇帝であるアルブレヒト3世とアンリエッタとの結婚を案に出した。
野蛮な成り上がり国家の王との婚約など、と嘆きつつも、もはや選択肢などないトリステインはこれを承諾し、その会談へと向かっていたのだ。
「でも、そういえばそうだったわね……。何時かは、まではわかってなかったけれど」
「王家に生まれた運命とはいえ、少し可哀想な気がしますね」
「そうも言ってられないのが貴族よ。平民や物語のように、恋をしてそれを成就なんて、稀中の稀。
……あれ、私結構幸せなのかしら? あ、いやもう縁が切れてた……」
「だからまだ大丈夫ですって」
色々と旅に出ている二人はそういう情報には何処か疎いところがあった。兵士は困ったような表情で彼女たちに尋ねる。
「どのようなご用件だったのでしょうか?」
「いえ、そんな大した事ではないわ。東方より流れてきた珍品である茶を、良ければご一緒にと思っていただけです」
「左様ですか。連絡によれば、現在ご帰還中であります。
しかし、その前に魔法学院へご訪問されるとお聞きしましたから、もう二日、三日はご帰還されないでしょう」
「流石にそこまでは待てないわね……。仕方ないわ、今は諦めましょう」
「……そうですね。申し訳ない、よろしければ姫殿下にこれを渡してもらえないか?
アニエス・ミラン・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌとエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールが
姫殿下へ献上したく存じ上げますとお伝えいただきたい。そして、機会があれば一緒にお茶会を開きましょうとも」
「了解いたしました。おい!」
と、兵士は近くを歩いていた一人のメイドを呼び止めた。癖の無い真直ぐなブロンド髪にきっちりとした顔つき。鋭い眼光。
とてもメイドとは見えない。よく見ると耳が何故か変な形をしていた。
「何でございましょう」
「この品をミス・フォンティーヌとミス・ヴァリエールが殿下に献上したいと仰せである。それと、伝言もこのようにな。すぐに取り次いでおいてくれ」
「承知いたしました。すぐに行って参りまする」
しかし、メイドはしっかりとした態度で応対すると、アニエスとエレオノールにも一礼して、茶の入った袋を持ってその場を後にした。
それを見届けた二人は、兵士に一瞥した後、城を後にし、トリスタニアの門のほうへと歩いていく。
「しかし、変わったメイドでしたね」
「そう?」
「口調、というか言葉のなまりがひどくありませんでしたか?」
「ああ、確かにそれは感じたわね。何処の出身かしら?」
「アルビオンではないでしょうけど。あと、耳の形が不自然でしたね」
「そこは普通じゃなかった?」
「そうかなぁ……。なんか、切り取ったような、変な形だったんだよなぁ……」
アニエスは首を傾げながら、メイドの姿に不自然さを感じていた。
王都トリスタニアから少し離れた街路の端で、蒼髪の剣士ミシェルは静かに岩の上で一人、手元の何かを見つめながら佇んでいた。
彼女の手にあるもの、それは一本の杖だった。
指揮棒型の小さなもので、無骨な彼女の手には不釣合いなものだが、彼女にとってかけがえのない大事なものだった。
忘れもしない。これは幼き頃、魔法の練習をしようと彼女の父が買ってきたものだった。
ミシェルは主に司法の仕事行っていた、宮仕えの下級貴族だった。
法務院の参事官といえば聞こえは良いが、貴族街に住んでいたとはいえ、暮らしはそんなに裕福ではなく、使用人の数だって周りと比べて少ない。
しかし、ミシェルはそんな生活の中でも父や母を誇りに思っていた。仕事が忙しく、家を空ける事が多い父だったが、
正義感が強く、どんな悪事や不平も許さない清純な人間だった。そんな父を支えてきた母もまた、優しく逞しい人だった。
そんな両親が、忙しい時間の合間を縫って、また決して裕福でもない財産のやりくりをして、自分に高価な杖を買ってきてくれたのだ。
いつかこれを平民のため、友のために振るい、トリステインの貴族に相応しい立派な人間になりなさい。そう言われた。
嬉しかった。幼いながらも、その日は両親の苦労を感じ取りつつ、その杖を大事に見つめながら、興奮のせいで眠れなかったぐらいだ。
さっそくその杖に契約を結び、ミシェルは必死に魔法の練習をした。
決して才能があったわけではないが、レビテーションや発火、錬金などの基本的な魔法を習得し、母を喜ばせていた。
そして、夜に帰ってきた父にそれを報告すると、そりゃあすごい、ミシェルは立派なメイジになるぞ、と普段の威厳など何処へやら、親馬鹿振りを見せて彼女を困らせた。
それから数年して。そんな父が喜ばしい知らせを持って帰ってきた。なんと出世できるということだったのだ。
今よりもずっと忙しくなるが、それ以上に裕福になるぞと、父は家族や使用人に胸を張った。
そうだ、大きくなったら魔法学院へ通ってみようか。あそこで素敵なお婿も見つけられるといいな、と父は提案した。
ミシェルは嬉しそうにしながらも、お婿と言う言葉に恥ずかしそうに顔を赤らめた。
幸せだった、そんなはずだったのに。突如としてその生活は急に不幸のどん底へと落とされてしまった。
清純派として名を挙げていた父が汚職事件を起こし、投獄されたというのだ。
誰よりも悪事や不平を許さなかった父は、その実、裏では賄賂を受け取って都合の悪い事件を隠したり、逆に自分が出世できるように賄賂を渡していたのだという。
今回の出世がその発覚に繋がったという。
それから孤独に生きた彼女は、旅を続け、杖を封印し、そして剣の腕を鍛えた。
全ては父と母を裏切った国へ復讐するため。剣で殺される事は、貴族としてメイジとして最高の侮辱だと考えたから。
それに、もはや魔法を振るうための家族も友もいない。
彼女にとって魔法は、もはや力以外の価値などなかった。
しかし、それでも父と母との思い出は捨てきれず、今でもこの杖を持ち歩いていたのだった。
「父上、母上……」
ミシェルは空に向かって、嘆くように呟いた。今頃両親は始祖ブリミルの許に召されて、自分を見守っていてくれているだろうか。
それとも、汚い道を歩む自分を蔑んでいるだろうか。
どちらにしろ、自分が行くのは地獄だ。もう、両親には会えないだろう。
「おおい、ミシェルさんよ、どうしたぁ?」
と、突如彼女を誰かが声を掛けてきた。ミシェルははっと体を強張らせると、急いで腰のポーチに杖を隠し、後ろを振り向いた。
そこには彼女が雇った衛士であるダンという男が立っていた。
気さくな男で、自称最強というよく分からない男だが、とりあえず腕は立つため、役には立っている。
「いや、なんでもない。どうかしたか?」
「いや、そろそろ出発しないかって。休憩時間、終わったぜ」
「そうか。では行こう」
今回もミシェルの雇い主からの依頼だった。数年前より、その雇い主の下で働いている。
その雇い主は、父の古い友人であり、ミシェルと同じく国に対し憂いを感じているのだという。
父が投獄された時もその潔癖を信じ弁護をしたが、虚しくそれは受理されなかったのだと。
そして、敵討ちに手を貸そうと。この腐った国に天罰を与えようと。
その男も、清純な男とは言い難い。しかし、手段など選んでいる暇などないのだ。
と、そんなことを考えながら歩いていると、前方から竜篭が飛んできた。それを横目に歩いていくと、竜篭が突然舞い降りてきた。
「ミシェル! ……ってなんでダンがいるんだ?」
そして背後からは聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向いてみると、そこにはアニエスとエレオノールが竜篭から降りてきたのだった。
二人とも旅装束を身にまとっている。何処かへと旅行だろうか。
「アニエス……」
「おーアニエスじゃねぇか。どしたぁ、今日はあの可愛らしいドレスは着て」
「ふんっ!」
突然の再会に驚くミシェルを尻目に、ダンはからかいながらアニエスに近づいた。
すると、アニエスはすぐさま足を振りかぶり、ダンの急所目掛けて蹴りをお見舞いした。
「ぎゃあ!? て、てめぇ……俺の、俺の大事な部分……」
完全に油断していたダンは、男の尊厳を押さえながらその場に倒れこんだ。アニエスはふんっ、と鼻を鳴らした。
「迂闊な事を言う奴が悪い。ミシェル、また会ったな」
「え、ええ、偶然ですね」
と、アニエスは表情を一変させ、さわやかな笑顔でミシェルに挨拶をした。
そんな彼女に気圧されながらも、ミシェルも挨拶を返した。
「これからお出かけですか?」
「ああ、少しラ・ロシェールのほうへと姉上と一緒に調査だ。ミシェルは?」
「この先に盗賊の被害は出ているという村がありまして。そこへ討伐に参ります」
「そうか……。また旅に出た、という噂を聞いたが、遠征でいなかっただけか」
「ええ、そうでしょうね。……アニエスは」
「ん?」
「あ、いや……すみません、何でもありません」
「そうか?」
「ちょっと貴方」
と、少しぎこちない会話が続いた二人の間に、エレオノールが割って入ってきた。
そしてミシェルの顔をまじまじと見つめる。ミシェルは思わず後ずさりしながら、エレオノールに尋ねた。
「な、何か?」
「いえね、貴方……何処かで会わなかったかしら?」
「姉上……。つい先日会ったばかりでしょう。ボケましたいったぁ!?」
「違うわよ、そういうことじゃないわ!」
突然のエレオノールの言葉にアニエスは突っ込みを入れようとしたが、その前に足を踏まれ、ぴょんぴょん痛がりながら撥ねてしまった。
今のエレオノールの靴は登山用の頑丈なブーツだ。そのヒールの部分で踏まれれば、相当痛いだろう。終に、足を抑えながら地面に倒れてた。
「子供の頃、一度会った気がするわ」
「……そうでしょうか?」
「ええ、でも思い出せないのよねぇ……。何処であったのかしら?」
エレオノールはじっとミシェルの瞳を見つめた。以前出会った時の、釣りあがった眼鏡ではなく、
細めの真直ぐなサングラスをつけていたが、それ越しの目の余りの凄みに、思わずミシェルは目を逸らして否定した。
そして、彼女は知っている。本当はエレオノールに出会ったことがあったのだ。
それは貴族としての位を剥奪されるもっと以前。幼い頃、王城の中庭で開かれた園遊会で、父がヴァリエール公に挨拶に向かった際、
ミシェルはエレオノールと確かに出会ったのだ。そのときと、今の彼女と印象は全く違った気がするが。
それはともかく、ミシェルは自分の正体を明かされるのを防ぐために誤魔化すことに下。
「きっと、人違いだと思いますよ。私のような顔立ちなど、沢山いますでしょうに」
「ふむ、そうかもしれないわね……。失礼したわ。さて、時間もないのでこちらは失礼します。アニエス、さっさと行くわよ!」
「ちょ、姉上、首根っこ掴んで引き摺り、あだだだ!」
ミシェルの言葉に納得したエレオノールは顔を引っ込めて頷くと、そのまま地面に倒れていたアニエスの首袖を掴み、引き摺りながら竜篭へと戻っていった。
その途中でアニエスは必死に足で地面を踏ん張りながら、ミシェルに手を振って言った。
「じゃ、じゃあな! また今度飲もうな! 達者でな!」
そう言って、アニエスはエレオノールに竜篭の中に放り投げられた。
中から悲鳴が聞こえてくるが、心配する間もなく竜篭は行ってしまった。
「はぁ……なんだったんだ、あいつら」
「さあ……」
ダンとミシェルは呆れながら、その竜篭を見送っていった。
達者でな、か。そんな中でミシェルは心の中でアニエスの言葉を反芻する。
そんな言葉を聞いたのは何時以来だっただろうか。しかし、彼女にとってアニエスの言葉は素直には聞けないものだ。
身分を失い、あてもなく彷徨っていた自分に対し、一方で幸せな家庭を得て、すっかり牙をなくしたアニエス。あの時の瞳はもう見れないのか。
裏切られた気分だった。あの人だけは、自分と仲間だと思っていたはずなのに。
いや、それは自分が勝手に思い描いていた幻だったのだろう。そうミシェルは考え込み、そしてその場を後にした。
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「あの、姉上」
「何よ?」
「……なんでサングラスなんですか?」
「……眼鏡を変えればもてると思って」
「……(ただのやくざにしか見えないけどなぁ)」
というわけでアニエスとエレオノールとの二人旅です。話の都合上、オリキャラばかりでますが、今更ですよね、はい。
アミアスに関しては烈風の姫騎士からですが、設定自体は捏造してます。3巻で死んでたり別れたりしても知らんよ!
ミシェルも拡大解釈しています。
>>94 うるせーカリーヌ様は永遠の16歳なんだよ支援ありがとう
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投下乙です!
オリ展開だなぁワクワク。次回も期待してます
それと後書きで思い出したが、
永遠の16才カリンちゃんネタはいつ投下されるんだ…っ
ルイズの双子の『兄』として一緒に学院に通わせたろと思ってたこともあるんだけどな、カリンちゃん
見た目は美少年、中身は年輪ちゃんと刻んでるから女子にモテまくりとか
荒療治としてルイズに剣を教えたり、タバサが弟子に志願してきたりとか
『烈風』を名乗るわけにはいかないのに、別に二つ名考えるのを忘れていたうっカリンちゃんとか
お風呂はわざわざ時間ずらして入ってたのに変態ぽっちゃりとエンカウントして、さあどうするとか
そして大したオリ展開が膨らまず、妄想力が枯渇した
ミーハーなケティちゃんはギーシュ(笑)をほっぽってカリンちゃんを追っかけ→二股がないので決闘イベント回避
武器を買いにいこうという発想すら浮かばないだろうからデルフイベント回避→ルイズとキュルケの勝負もないからフーケイベント回避
ワルドは家の付き合いがあって正体しってるのでアルビオンへの旅の途中で命ほしさに行動を起こせずに何事もなく終了
二巻までは楽に進められそうだな
虚無と銃士の人乙でしたー
またダン登場
こいつ、「虚無と銃士」に欠かせない脇役だな
ところであの吸血鬼姉妹の食事って確かアレだよねぇ
…ゴクリ
ちぃ姉さまとエレ姉の性格が逆、ていうところが気になるところだよな。
>>104 むりにオリ展開せずとも、アレンジぐらいでいいんでない?
それか淡々と学園生活を綴る短編集とか。
それでも俺は読む。いや読ませてください。
どうも、前話ではご感想ありがとうございました。
ダンの人気に嫉妬、虚無と銃士です。第二十七話が完成しましたので、
15時25分より投稿させていただきます。
オーク鬼のワ・タ・ナベールは、今年で53歳を迎える。ラ・ロシェールと人間が名づけた土地の近くに住む、中年のオーク鬼だ。
彼は今、幸せの絶頂期にある。彼是10年前、人間や他の種族との戦争だのなんだのに参加していたせいで行き送れてしまった彼に、美人の奥さんが出来たのである。
人間を何人もぶちのめし、東の部族の一番の兵を捻り潰した彼に一目ぼれした集落一番のその雌のオーク鬼は、早速ナベールと結ばれ、そして三人の子供を産んだ。
その子供も大きくなり、雄の二人はそろそろ狩りを覚えるような時期になった。今日はその初日である。
息子二人は人間から奪った立派な剣と弓矢を持っている。
「いいか、子供たち。狩りとは己との戦いだ。闇雲に得物を振り回したり、矢を撃てばよいというわけではない。
身を隠し、気配を消し、じっと機会を待ち、一瞬で得物を仕留めるのだ。時には仲間たちと共に相手を追い込むの良かろう」
「わけわからねぇよ父ちゃん」
「そうだそうだー」
憎まれ口も生意気口も彼にとっては心地が良い。ああ、これこそ俺が望んだ幸せな家庭生活だ。
これで親の威厳さえ兼ねることができれば最高だろう。
そのためにも、今日一日、息子たちには好きなように狩りをやらせるつもりだった。
恐らく何も捕まえる事は出来ないだろう。そこで彼が華麗に、鍛え上げた弓の腕で獲物を撃ち抜き、息子から賛美を得る。
妙に俗っぽいオーク鬼だった。
「ふむ、では子供たちよ。お前たちの好きなように狩りをしてくるが良い。
しかし、無理をしないこと、そしてあまり遠くへ行かないことだ。分からないことがあれば、何時でも俺の所まで戻ってきなさい」
「へへへ、お前には負けねぇよ」
「何だとぉ。俺だってまけねぇよ!」
二人の息子たちはふごふごと美しく鼻を鳴らしながら、森の中へと消えていった。
下調べしたところ、この時間には人間二人が道を無防備に歩いているはずだった。
それを捕まえることが出来れば上等。だが先ほどの予想通り、逃げられてしまうだろう。
そんなことをしみじみ、ナベールは考えながら、自分の顎を撫でた。
――ぎゃあああ!
と、暫くその場で待機していると、人間の悲鳴が聞こえてきた。
おやおや、息子たちは元気に狩りを始めたようだ。
しかし、なかなか上手く行かないのか、彼の耳にはまだまだ人間の声が聞こえてくる。
――プギィィィ!
と、なにやら変な悲鳴が聞こえてきた。まるで我が種族の子供のような悲鳴。
はて、人間はこんな声を出しただろうか。いやいや、可笑しい。これは息子たちの悲鳴ではないか。
「と、父ちゃぁぁあん!」
「た、助けてぇぇぇえ!」
向こうから子供たちが逃げてきた。そしてその一人は後ろを指差している。
どうやら人間は手練の兵士でも雇ったのだろうか。いくら脆い人間とはいえ、まだまだ戦闘に慣れていない子供たちだけでは倒せなかったのだろう。
よしよし、怪我もしていないようだし、ここは父の威厳を見せる絶好の機会である。
ナベールは弓を引き、追ってきているのであろうその人間を狙おうとする。
――ふははは、ふはははははははははははは!!!
と、突然聞こえてきた不気味な笑い声に思わずナベールに戦慄が走った。
どう考えても正常とは思えないその笑い声。こんな笑い声を上げる人間に出会うのは初めてだ。
子供たちの後ろには目を真っ赤に光らせ、不気味に、そして狂ったように高らかと笑いながら追いかけている人間がいた。
手にはその人間と同じぐらいの大きさの剣を持っている。
「ふははははは! のいあうぁうhわjmんひゃw!」
人間の言葉はわからないため、何と言っているか分からないが恐ろしいことを言っているような気がする。
そもそもあれは人間か? ともかく、息子の危機に父が逃げるわけにはいかない。
「や、やってやる、やってやるぞぉ!」
ナベールは矢を放った。だが人間はひょい、と首を動かして避けてしまった。
彼は呆然とその様子を見つめて、そして数秒固まった後。
「ぷ、プギィィィィ!!」
息子たちを抱えて一目散に逃げていった。だがそれでも追ってくる。
ついには追いつかれ、右腕を斬られたが、何とか軽傷で済み、何とか集落まで逃げ延びた。
後に彼は言う。アレは悪魔だ。人間の皮を被った、恐ろしい悪魔だ。俺もう狩りなんてしたくねぇよ、と。
第27話
「退治してまいりました」
「……」
さて、悪魔の正体アニエスは適当にオーク鬼を追い回した後、何食わぬ顔で山道へと戻ってきた。
デルフを背中の鞘に戻し、懐のポッケから眼鏡を取り出してかけた。それをエレオノールや先ほど襲われていた農民は呆れた表情で見つめていた。
そんな彼女たちに、アニエスは首をかしげながら尋ねた。
「何か?」
「いや、何かじゃなくて……。何よ、さっきの」
「ああ、あれですか」
どうやら先ほどの凶変振りにすっかり引いてしまったらしい。そんな三人に気にすることなく、アニエスは淡々と説明をした。
「命がけの戦場において、笑い声や叫び声は、相手に効率よく恐怖心を与えることが出来ます。
今回は何時もの鬱憤晴らしも兼ねて、思い切りやらせてもらいました」
「……そう」
『張り切りすぎなんだよ、相棒は』
「そうか?」
あまりの爽やかなアニエスの表情に、エレオノールはそれ以上のツッコミを諦めた。
と、そんな二人に対し、農民達は地面に伏し、アニエス達に礼を言った。
「いやいや、貴族様に助けていただけるとは何とお礼を申し上げたらよいか……。本当、ありがとうごぜぇます」
「もう少しで食われちまうところでした。ありがとうごぜぇます」
「いやいや、当然の事をしたまで。感謝されるようなことではない」
「妹の言う通りよ。民が苦しんでいるところをそう易々と見逃せるわけがないじゃない。
貴族はこういう時にこそ力を見せるものよ。私は何もしてないけど」
「ああ、本当にありがとうごぜぇます」
農民たちにとっては寛大な態度を取るアニエスとエレオノールに、二人はペコペコとうろたえつつ頭を下げ続けた。
いまどき、平民に対し、こんな態度を取る貴族は珍しいのだろうか。
さて、アニエスとエレオノールはラ・ロシェールの町まで龍籠でやってきた後、一晩宿泊して、目的地である山村へと足を運んでいった。
馬車を使って山道を登っていたが、その途中でオーク鬼の子供に襲われている農民達を見つけ、アニエスが飛び出したのだった。
「ところで……貴方たちは”地竜の村”の住民かしら? 地竜を土地の神様と拝めているっていう」
「へぇ。地竜の村、というのは我らが名づけたもの。良くご存知で」
「知り合いに訪問した人がいるのよ。そう、よければ村の中を案内してくれない?」
「へぇへぇ。こんな下賤な農民でよろしければ」
「よし、じゃあ馬車に乗ってくれるかしら? 村まではこれで連れていってあげられるわ」
エレオノール達は目的地に農民達を馬車に乗せ、目的地へと向かっていった。その途中で、農民たちに再び話を聞く。
「確か、あそこでは良質な風石が採れると聞いたけど」
「へぇ……。ですが、最近ではすっかり採れなくなってしまったのです、はい」
「あら……。それはどうして?」
「いやぁ……それが……」
農民は答えづらそうに、困惑した表情でもう一人の農民と顔を合わせた。
その様子を見て、アニエスとエレオノールも不審そうな表情でお互いの顔を合わせた。そして更に尋ねる。
「我々でよければ力を貸すが、事情を話してくれないか?」
『何だ、相棒。今日は気前が良いな』
「私は何時もどおりだ」
「へぇ、珍しい剣をお持ちで」
「ただ、やかましい奴だよ。それで?」
「ううん、それがですねぇ。どこから話せばよいのか……」
「ふむ。じゃあ、まず地竜の村と呼ばれる由縁から教えてもらえないだろうか?」
アニエスの提案に、農民は了解して頷いた。
「へぇ。この辺では、とある遺跡に地竜が住み込んでおりまして、長きに渡って、土地神様として崇められておりました」
「それは何故?」
「我々を守ってくださるからです。さかのぼること数百年前、この領地を開拓した当時の貴族様がオーク鬼や亜人達に悩まされている際に、力をお貸しなさったのが地龍様でごぜぇます。
貴族様や開拓民はその地竜を土地神様として拝みました。また貧窮に苦しんだ我々をお救いになられたのも、地龍様なのでした。
作物が不作で、お供え物どころかもはや食うに困った我々を、あの方は遺跡に眠る風石を分け与えてくれたのです。
人間はこれを売り物にするのだろうと。これで金を作るがよいと」
農民はアニエス達に明るい表情で説明をした。本来ならば人間に畏怖の感情を与えるような竜がここまで人間に奉仕するのは珍しい。
いや、長い人生のひと時の気まぐれなのかもしれないが。比較的人間に近しい王軍の風竜隊でさえ、風竜が人間に心を許すのに時間が掛かるのだ。
「へぇ……珍しい竜もいるものね。普通なら、誇り高く、人間と交わることなどしないというのに。その地竜は、人間が大好きなのね」
『まあ竜の中には、人間に興味がある奴とかもいるらしいぜ』
「地竜様のお言葉によれば、今までの事は『友との約束』なのだといっておりました」
「友との約束?」
『何だ、なんか盛大な話になったな?』
「詳しいことはぁ、私たちにもわかりません。しかし……」
「しかし?」
と、突然農民の表情が一転して暗くなった。
「ここ2年ほど前でしょうか。領主様の次男オリヴィエ様が地龍様にお供えものを渡し、それを口にした瞬間、まるで猛獣のように怒り狂い、オリヴィエ様を食っちまいました。
それから遺跡から飛び出して暴れまわってしまったのです。領主様たちのお陰で何とか遺跡の奥地へ封印をしましたが……」
「そうか、それで今まで地竜を恐れていたオーク鬼達が住み込んだのね」
「へぇ。領主様は地竜様との交渉の責任を問われ、その任を下ろされてしまいました。
今はその秘書様が領主をやっております。その秘書様は風石の採石を取り出すことを積極的にやっておりました。
ですが、一年前、突然遺跡にまるでトロール鬼のような大男が現れましてぇ」
「大男?」
「へぇ。あ、着いたみたいです。……これ以上詳しくは、今の領主様か前の領主様に聞いてみると良いと思います」
外を覗き込んでみると、確かに彼らの言うとおり、山道が開け、目的地の地竜の村に辿り着いた。
開拓が進んでいるのか、建物が所々見えてそれなりに大きな村ではあるが、それにしては人が少ない。
ぽつりぽつりと、農作業道具を持つ年寄りや、織物をしている女性が外に出ているだけだ。
丁度昼時であれば、山に作業に出ているだろうから、人が少ないのは仕方ないのだろうが、それにしては生活感がないのだ。
なるほど、突然人間が増え、そして突然去っていた。そのような雰囲気なのだろうか。
馬車から降りつつ、アニエスは心の中でそう思いながら、エレオノールに尋ねた。
「まずはどちらにお会いしましょうか?」
「そりゃあ現領主殿に決まっているでしょ? 失礼に当たるわ」
「それもそうか。では、すまないが案内頼めないか?」
「へぇ、お安い御用です」
アニエス達は農民の案内で村の中を歩き、領主の館へと向かった。
村の中を歩くと、やはり風石を掘り当てたことによって賑わっていたような痕跡がある。
酒場や宿屋、運搬に使う牛馬や荷台が目に付くが、それが動いているような様子はない。
客が来なくて暇なのか、酒場の主人は別の店の主人とチェスを楽しんでいるようだ。
2個並んでいる宿屋は片方が閉じてしまっている。
「これでも一年前までは外から大勢の人が来ていたんですがねぇ。すっかり寂れてしまいましたわ」
と、そんな村の様子を眺めているアニエス達の心情に気が付いたのか、不意に農民が声を掛けた。
だが、言葉と裏腹に農民の表情は何処か嬉しそうだった。エレオノールは不審に思いながら尋ねる。
「あら、その割には別に寂しそうじゃないのね?」
「もともとはこういう村なのです。寂しいといえば寂しいですし、若い連中の一部はぁ、
もっと盛り上げるべきだとか言っていますが、静かなほうが良いですよ」
「ふぅん……」
「あ、ここですよ」
農民が指差した先には他の建物に比べ、立派な作りの屋敷が建っていた。
建物の状態を見る限りでは、どうやら作られて間もないのだろうか。
貴族の屋敷としては規模は小さいが、十分に立派な屋敷だ。門の前では屈強な男が槍を立ててふんぞり返って番人をしている。
「ふむ、まあまあかしらね」
「何がですか?」
「屋敷よ。悪い趣味ではないわね。門番も強そうなのを雇ってるわ。
貴族って言うのは自分の力を示すために、こういう形式も大事なのよ。
それがたとえ見栄であってもね。貴方はボロボロの家に住む偉い人を守りたいと思うかしら?」
「ううむ、まあその人物にもよりますが。まあ普通の人であれば、そうは思わないのではないでしょうか?」
「人はね、予想よりも遥かに第一印象で物事を決めたがるわ。それは仕方のないことよ。
……ああ、そうそうこれ以上つき合わせるのも面倒くさいでしょうから。前の領主殿の屋敷はどこかしら?」
「ああのぅ、遺跡に向かう道の途中に山小屋がありまして、そこが今お屋敷となっております」
「そう、わかったわ。ありがとう」
「へぇ、とんでもございません。それではそれでは」
と、農民たちはペコペコと何度も頭を下げた後、その場からそそくさと去っていった。
何か申し訳なさそうな、複雑な気分だったようだが。どうしたのだろうか。
エレオノールは首をかしげながらアニエスに尋ねる。
「……私何か言ったかしら?」
「屋敷うんぬんではありませんか? ほら、責任を追及されたと言われましたから、今はあまり裕福ではないのでは?」
「あら……。それはまあ、えっと、うん。さあ行きましょう!」
「あ、誤魔化しましたね」
突っ込みを入れたアニエスに対し、エレオノールは無視を決め込んで屋敷へと歩いていった。
やれやれ、とアニエスはくいっと眼鏡の位置を直しながら、その後を追った。
姉エレオノールに、少しでも知的に見えるよう、と付け始めたが、未だに馴染んでいなかった。
「ん、あれは?」
と、その途中、アニエスは森の中に奇妙な物を見つけた。それは一本のキノコだった。
奇妙な形をしているから、恐らく毒キノコだろうか。そして真っ赤な色が特徴的だ。
アニエスは何処かでそのキノコを見たことあるような気がしていた。
「アニエス、何やってるの!」
「あ、はい!」
と、エレオノールに怒鳴られ、アニエスはその疑問をとりあえず捨てて、慌てて彼女の後を追った。
「いやいや、旅のお方。ようこそ地竜の村へ。当領主のトマ・ド・アスレーテと申します」
門番に取り次いでもらい、アニエス達は屋敷の中へと案内された。
そして、客間に連れて行かれ、暫くの間待っていると、領主らしき男が部屋に入ってきた。
まだ30代を過ぎたぐらいの年齢だろうか。口髭を生やし、上へと撥ねさせているが、それでもまだ若さを感じるような顔立ちだ。
エレオノールは座っていた椅子から立ち上がり、トマに近づいて手を差し出した。トマはその手を、紳士らしく優雅に取り、握手した。
「エレオノール・ド・マイヤールと申します。こちらは妹のアニエス・ド・マイヤール」
「始めまして、アニエス・ド・マイヤールと申します」
紹介を預かり、アニエスもトマに一礼する。
マイヤールとは母の旧姓である。お忍びで旅をしている時は何時もこうして偽名を名乗っている。
アカデミーでの研究のためとはいえ、まさか嫁入り前の公爵家の娘たちがこうして気ままな旅をしているのを世間体に知られるわけにはいかない。
そこでヴァリエール公が偽名を名乗ることを提案した。カリーヌの実家、マイヤール家も協力しようと了承している。
アカデミーにもその事情は話しているため、身分証も偽名用の物を作ってもらっているのだ。
その場しのぎにしかならないが、無いよりはましだ。後ろ盾はなくなるが、公爵家の娘だと知って狙う人間も少なくなるし、柵も減る。
特に、こういう気心の知れない男には身分を隠しておいたほうが得なのだ。
3人はそれぞれ椅子に座り、そしてトマから話を切り出した。
「王立アカデミーからお越しと耳にしましたが?」
「はい。身分証もありますわ」
エレオノールは魔法による文字が記されている羊皮紙を渡すと、トマはそれをさらりと目を通す。そして、頷きながらそれを返却した。
「……確かに。どのようなご用件ですかな?」
「この辺りは良質な風石が採掘されていると噂に聞きました。是非とも、その風石を使った研究をしたく思っております。
ですが、ここの風石は一般には売り出していないとお聞きしましたから」
「なるほど、直接取りに来たというわけですか。それはそれは剛毅なお嬢様方だ」
はっはっは、とトマは髭を弄くりながら人の良さそうな表情で笑った。
とりあえず悪人には見えない顔だ。領主としては少々頼りない雰囲気を出しているが、本当にこの男は伝統を捨て、村の拡大をしようとしたのだろうか。
その度胸があるとは思えないが、人は見た目によらないのが常である。と、その笑みを消し、表情を暗くして、彼は言った。
「しかし……。この村に来られたという事は、あの噂をお聞きしましたかな?」
「あの噂?」
来た、とエレオノールは気を取り直しつつ、姿勢を正した。トマは一度咳き込んだ後、説明を続けた。
「はい。近年、風石が採掘できる遺跡を何者かに乗っ取られましてな。
あれを領民は地龍様の使者だ、怨念だと騒いでおりまして。大変手を焼いているのです」
「地竜様というのは、この村で拝められているという土地神のことですか?」
「左様です。しかし、土地神と言っても、正体はただの韻龍ですからな。近頃では、あの龍に関しては退治するべきだという意見も出ていたのです。
何時気まぐれを起こし、我々に危害を加えるかわかりませぬと。私は外から来た人間ですので、それには賛成でした。しかし、反対意見も多く、結局どうするかも決まらず……」
トマの表情が更に暗くなる。先ほどの農民からは聞いていない事だが、嘘はついていないようだ。
「その地竜は突然暴れだし、前領主であるミスタ・マルタンの次男オリヴィエ様が犠牲になってしまったのです。
村にも被害が出て、ミスタ・マルタンはその責任を追求され、領主の任を追われてしまいました」
「ミスタ・アスレーテはその後任を国から?」
「いえ、ミスタ・マルタンから直々に推薦を受けました。その後、国から正式な任命状が届き、領主の任を承っております」
アニエスは頷き、更に彼に尋ねた。
「なるほど。それで、先ほどの遺跡を乗っ取っているという人物については?」
「はい。私めが雇った傭兵の生き残りの話によれば、2メイルほどの大男で、拳で岩を砕き、蹴れば烈風を起こすという。
なんとも化け物染みていましてな。地竜を模した仮面をつけていまして、それを見た傭兵や領民が地竜の使者と勘違いしているわけです」
「ふ、ふうん……」
トマの言葉に、エレオノールは冷や汗を掻きつつも平静を装った。
烈風、という言葉に母を思い出してしまったからだ。それに対し、アニエスは頷きつつ、冷静に話を聞いていた。
「わが領地はそれほど裕福ではないため、ほいほいと兵士たちを動かすわけにはいかぬのです。
数少ない財産を削って、傭兵を雇ったのはいいのですが、全く効果がなく……。全く情けない話ですな」
トマは情けなさそうに頭を掻いた。どうやらかなり頭を悩ましているようだ。
それもそうだろう。ハルケギニアでは、フネの動力源ともなる風石は貴重な産業資源だ。発掘できれば領地をもっと大きくできる。
しかし、領地の主な資金源であるその風石を採掘できなければ、領地をこれ以上拡大することも出来なければ、維持することも難しいのだろう。
「亡きオリヴィエ様を想い、ミスタ・マルタンの意志を受け継ぎ、ここまで領地を大きくしてきました。
しかし、このままでは領地を維持することも間々ならないわけです。
そういうわけで申し訳ないですが、風石の採掘は諦めたほうが良いと思いますぞ」
「でもこれからどうするおつもりなんですか?」
「これも情けない話ではありますが、国に要請し、軍を動かせないか打診してもらうつもりです」
「ふむ、ではその前に私たちに調査をさせていただけませんか?」
「何と! いや、しかし、女性二人では……」
トマは困惑したように二人を制止しようとするが、エレオノールは自信で満ちた笑みで応えた。
「大丈夫、これでも腕は立つつもりです。私はトライアングルのメイジですし、妹は魔法の才能こそなけれど、
その代わりに剣の腕は並のメイジにも劣らぬ腕を持っておりますので、そう簡単にはやられませぬ」
「いや、しかし……」
トマは困ったように暫く考え込んだ後、静かに頷いて言った。
「……わかりました、ではよろしくお願いいたします。何のお手伝いもできませぬが、無理をなさらぬよう」
トマから調査の許しを得て、エレオノールとアニエスはお互いに顔を見合いながら、笑みを浮かべて頷き合った。
「さてと、どう思う?」
さて屋敷から去り、彼女たちは村の宿屋で部屋を借り、そこで作戦会議を開いていた。
せめてお泊りしませぬか、とトマに提案されたが、気遣い結構と彼女たちは断っていた。
「筋は通っていると思います。地竜に関しても、領地を守る身というではそういう風に考えても致し方ないと思いますね。
今の状態では判断材料が少ない。少しアルビオン訛りがある兵士などがいるのが気になりましたが」
二人は農民の話から、元秘書の彼が何か怪しいと踏んでいたが、話を聞く分には怪しいところはなさそうだった。
確かに地竜に対しての感情も仕方ないことなのだろう。領地を大きくしたい、という気持ちも誰もが思うことだ。
問題は手段としてどのようなことをとったか、という点にあったが、その辺りはまだまだ調べてみる必要があるようだ。
「ともかく、前領主に会ってみることと、あと手掛かりはその『地竜の仮面の男』ですかね……。まるで風石を守っているような素振りだ」
「なるほどね、確かに。だけど、話を聞く限りじゃ、問答無用で攻撃してくるみたいだけど、大丈夫?」
「……正直に言えば、少し自信がないですね。ですが」
アニエスは不意にサスペンダーに取り付けてある鞘からナイフを取り出すと、それを器用に回し、何度か遊ぶように空を切ったりすると戻した。
そして、デルフリンガーを抜き、自分の荷物にあったハルバートを持つと、それを掲げてエレオノールに言った。
「自分の実力を試してみたいとは思いますね」
様々な武器を用い、様々な場面に備える。アニエスはこういうときのためにも槍などの修練も怠らなかった。
そんな彼女を見て、エレオノールは呆れた表情で言った。
「あんたね、こんな狭いところでそんなもん振り回さないで。全く、まるで貴方は『ガンダールヴ』みたいね」
「あらゆる武器を使いこなしたという伝説の使い魔ですか、悪くない。ご主人は姉上ですか?」
『ガンダールヴねぇ。確かに相棒がそんなんなら、俺っちも振られて嬉しいんだけど』
「……皮肉なんだけど」
エレオノールは呆れたように言うが、全てがわかっていたかのようにアニエスは何も気にすることなく笑みを浮かべた。
「知ってますよ。では明日は姉上は前領主のところへ、私は遺跡に、ですか」
「別行動はあまりしたくないわね。一緒に行きましょう」
「了解です。しかし、自分の身は自分で守ってくださいよ? 話を聞く限りでは姉上を守る余裕はないかもしれませんから」
「わかってるわよ。メイジを舐めないでもらいたいわね。それに、こういうときのために私も秘密兵器を持ってきているのよ」
「秘密兵器?」
「これよ」
そう言ってエレオノールが取り出したのは一本の槍だった。豪く装飾が施され、実戦では使えなさそうだが、これの何処が秘密兵器なのだろうか。
「槍ですか?」
「まあ刃が付いているから一応槍ね。でもこれはどちらかといえば杖よ。それもこういう使い方ができる、ね!」
「? あぎゃああ!?」
と、エレオノールが突然アニエスに槍の刃の部分を当てて、柄を持つ手の力を強めると、一瞬アニエスの体に激しい電流が走った。
そして、アニエスはしびれながら地面に倒れ、少しの間ピクピクと体を痙攣させると、すぐに立ち上がってエレオノールに詰め寄った。
「な、何をするのですか!! し、死ぬかと思った!」
「大げさねぇ」
「大げさとかそうじゃないとか……。ああもういいや、こういう人だったな、この人は。で、何ですか? それは」
「魔法の拘束具を応用して作った私特性の杖、その名も『トールの杖』よ! 勿論普通の魔法も使えるわ。どう、素敵でしょ?」
「……ええ、とても素敵ですね。いやぁ、持ってみたいなぁ。持ってみたい」
「どうぞどうぞ」
「どうもどうも。……えい」
「ぎゃあ!?」
アニエスはエレオノールからまんまとそのトールの杖を貰うと、同じようにエレオノールに刃を当てて、力を込めた。
するとエレオノールも軽く痺れて、体を反らせながら地面に倒れた。そして直ぐに立ち上がると、アニエスの胸倉を掴んで怒鳴った。
「あんたいきなり何するのよ!」
「うわ、自分の事に棚に上げて言ってる! 姉上、外道って言われません?」
「たまに。……ってあれはこんなところで武器を振り回したおしおきよ。……あれ、でも何でアニエスが使って電撃が流れるのよ?」
「え、そうなんですか?」
アニエスはエレオノールに解放されて、杖を返しながら尋ねた。エレオノールは落ち着いた表情で頷く。
「これ、メイジの精神力を電撃に変換して打ち込むっていう護身用の武器なのよ。
出来たとしても人を気絶させるぐらいが限界、あいやあまりからだが強くない人にとか、母様ぐらいの人が使えば十分人を殺めるぐらいできるでしょうし。
だからメイジ以外は使えないはずだけれど……」
「杖に姉上の精神力が残っていたのでは?」
「ああ、そうかもしれないわね。ううん、設計を間違えたかしら? 安全性にも……」
エレオノールはトールの杖を見つめながら、ぶつぶつと呟き、自分の世界の中へと入ってしまった。
こうなると彼女は暫く止まらなくなる。アニエスはため息を付きつつ、自分の手を眺めてみる。
「……まさかな」
途方もない願望を一瞬でも描いた自分を嘲いつつ、アニエスは窓から外を眺めた。
そこには遺跡があるという山のほうを眺めてみる。明日戦う相手はどんな者なのか。
アニエスは自分の闘争本能をふつふつと目覚めさせながら、不適な笑みを浮かべた。
「はぁ、はぁ!」
ところ変わって、王都トリスタニアより10リーグほど離れた森の中で、一人の盗賊が息を上げながら逃げていた。
後ろからは、彼の半分も生きていないのではないかと言う金髪の少女が、嬉々とした表情で彼を追いかけている。
その手には、血で全体が赤く染まった剣が収まっていた。
男は猛スピードで追いかけてくる少女から必死に逃げる。この先へ逃げ込めば、弓を構えて、木の茂みに隠れている仲間がいるはずだ。
弓の名手であるその仲間に掛かれば、あの少女など一ひねりだろう。そう彼は思っていた。
ほとんどの仲間たちは、突然やってきた傭兵団の襲撃によって死んでいった。どうやら派手にやりすぎたため、トリステイン王国に目を付けられてしまったらしい。
もはや彼らに助かる道はないだろう。だが、彼にも盗賊の意地がある。せめて一人でも地獄への道連れにし、一矢報いようと考えていた。
だが、少女はそのマチェットを速度をそのままに前へ蹴飛ばす。
そしてそれを掴むと、くるりと、まるで一流の舞踏家のように優雅にターンを決めて、その勢いでマチェットを木の中へと投げ込んだ。
すると、木の枝の上で弓を構えていた盗賊が、首から血を噴出しながら地面へと落ちていった。まるで、始めからわかっていたかのように。
逃げていた盗賊は死に物狂いの表情のまま振り返ってみる。
すると、そこには少女が剣を振り上げながら、狂気の笑みを浮かべながら飛び掛ってきている様子が見えた。
それが、彼が見た最期の光景となったのだった。
「呆気ないわね、つまらないわ……」
少女は剣についた血糊を舐めとると、その味を確かめるように舌を転がせた。そして、笑みを浮かべながら剣を振り払った。
「……悪趣味な女だな」
と、そんな彼女の元に蒼髪の女剣士ミシェルがやってきた。顔を嫌悪感でゆがませ、少女を睨みつけている。
彼女も敵を打ち倒してきたのか、返り血を浴びているが、それでも少女に比べれば少ないほうである。
他の傭兵たちは敵を打ち倒し、今集合場所へと集まっている。後は敵を追い掛け回していたこの少女だけだった。
少女はミシェルの顔を見て、首をかしげながら言った。
「ふふ、ありがとう」
「……」
ミシェルはその狂気を含んだ笑みを見て、思わず顔を逸らした。
表情、仕草、全てがまるであの人とは全く違うはずなのに、声や顔でどうしても思い浮かべてしまう。
それが彼女にとって一番気に食わなかった。
「あの方も全く詰まらない任務を下さるものね。ああ、早く、早く面白い事がしたいわ」
「黙れ。あの方を愚弄する事は許さんぞ」
「ふふふ……。何をそんなに怒っているんだ、ミシェル?」
「う……! そ、その喋り方はやめろ……」
「ふふ、ごめんなさいね。でもこの子の体は馴染むわね。さすが、私が剣を教えただけはあるわ」
少女は、いや『剣士』は自分の顔、体、四肢をゆっくりと触りながら悦を含んだ笑みを浮かべた。
ミシェルは嫌気が差した。何故あの方は、こんな正気ではない女を雇っているのか。
それにこの姿はまるで幼いアニエスそのものではないか。
任務とはいえ、こんな得体の知れない人間とともにいるのはミシェルにとって苦痛でしかなかった。
「ふふ、何故私があの子の姿になっているか、知りたいって顔をしてるわよ?」
と、そんなミシェルの心を読み取っているかのように、『剣士』はニタニタと笑いながら指摘した。
ミシェルは慌ててすぐに彼女のほうを向き、必死に首を横に振った。
「……! そ、そんな事は……」
「そうねぇ、じゃあ……」
だがそんな彼女の意志などお構い無しに、『剣士』はミシェルの懐へと飛び込むと、剣を振り上げた。
少女の力では出しえない、凄まじい速度で切り上げられた剣は、ミシェルの頬を軽く切り裂いた。
そこから血がにじみ出てくる。それを『剣士』は舐めとると、味を確かめるように舐め回した。
「な、何をするんだ!? き、貴様……!?」
一瞬の出来事に呆気に取られていたミシェルは慌てて剣を抜こうとしたが、目の前に起こった現象に思わずその手が固まった。
『剣士』の体は半透明になる。そしてまるで桶から勢いよく落とされた水のように、バシャンと地面に散らばる。
そして突風が吹いたかと思うと、また半透明になった体はぐにゃぐにゃと形を形成していった。
そうまるで、水の精霊が体を作るかのように。そしてしばらくすると、ミシェルの前には『ミシェル』が立っていた。
「あ、ああ……」
「どうかしら? 面白い能力でしょう? これも、アカデミーの闇の部分という奴よ。
フェイス・チェンジを体全体に適応させ、亜人のような完全なる変身能力を得る実験……。
その被験者がこの私というわけ。まあそのお陰で、実験前の私の記憶は全て消え去り、
『私自身』の体は失われたわけだけど。それに変身するには相手の血が必要になる。ふふ、まさに人間スキルニルね」
「……ば、化け物か……」
「平民にとってのメイジだって同じようなものでしょ? 亜人もそう。そこに差なんてないわ。
……さて、貴方の過去を覘かせてもらおうかしら?」
「な、何!?」
『剣士』の言葉に、ミシェルは思わず狼狽した。彼女は過去を覘くことすらできるのか。
「あらあら、色々と面白い過去があるみたいね。ふふふ……」
「くっ……。それ以上勝手な真似をしてみろ。例えあの方の駒であろうと、私が切り刻み、二度と戻らなくしてやるぞ……!」
「あらぁ、怖い怖い。じゃあ戻りましょう」
ミシェルは剣を抜き、『剣士』に刃を向けた。
その様子に、『剣士』は言葉とは裏腹にまるで恐れていない様子でまた体を崩すと、また再び幼いアニエスの姿に戻った。
それをみたミシェルは剣を収め、彼女から顔を逸らす。剣士は剣を捨てると、集合場所へと戻りながら言った。
「過去なんて意味などないわ。だって、皆都合の良いように過去を作って、都合の良いように解釈するのだから。この子も一緒よ」
そう言って、茂みの中へと姿を消していった。ミシェルはその後姿を見送りながら、どっと疲れたようにため息をつく。
そして、夜空を見上げながら考え込んだ。このような得体の知れない者は他にもいる。
あの方の親衛隊も黒いローブに身を包んだ怪しい連中だ。そんな連中の中で、私は何をしているのか。
いや、それでも私はやらなければいけない。この腐った国を変えるために。父と母を死に追いやった国に復讐するために。
聖地奪還を志すレコン・キスタに、悪魔に魂を売ってでも。やらなければいけないのだ。
この明日。ミシェルは『剣士』と共にラ・ロシェールに出向く。城を抜け出したというアンリエッタ姫の『調査』へ向かうために――
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おまけ
「母様。この杖の試験をしたいので、試しに使ってみてくださいませんか?」
「ふむいいでしょう。えい!」
「わあ、数十メイル離れた岩が消し飛んだー」
「ふむ、良いですね。これは決戦兵器ですか?」
「護身用です」
というわけで、『剣士』の能力を公開です。
オリジナル展開は書いてて楽しいのですが、その分遅くなっちゃうのががが…。
最新刊出ましたね。最近の話を読んでも、これを書き始めた頃と大分展開が広がったなぁ……。
ちょっとその辺りとの整合とかは正直取れそうもないので、もう自分なりのゼロ魔で突っ切りたいと思います。
あ、いや今更ですねはい。
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乙
もしハルケの貴族階級がメイジではなく吸血鬼だったら…
合法ロリルイズ(実年齢200才)と『携帯食糧』才人の
ファーストバイトから始まるスプラッタラブコメディ
「か、かかか感謝しなさいよ!
いまどき貴族が平民の首から直接血を吸うことなんて滅多にないんだからね!!」
「だ〜!たまには合成血液でも飲んでくれよ〜っ!!」
Dやないか!!
>>119 それはすでにゼロ魔ではなく別の何かだ。
面白そうだけど。
>>119 ロザリオとバンパイアだなそれは。
そういえば雪女は釘宮だっけ。
そして銃士の人、乙
元ネタはわからないがオーク鬼に感情移入したのは初めてだ。
あとミシェルさん、絶対転職したほうがいいよ……心配だ。
123 :
119:2010/07/25(日) 12:34:26 ID:+f+IZMpq
やっぱアリガチすぎかw
才人に「ユアマイサンシャイン〜」とか歌わせたかったんだがww
ゼロ魔の吸血鬼を活躍させるなら単純に、
ルイズの使い魔がエルザだったら、とか考えた方が楽しいかな?
『剣士』の能力、なんかブルースワットのスペースマフィアを思い出した
>>119 まあエルザもありだし、烈風のダルシニあたりもありなんじゃね?
>>119 ギャオスルイズ
つかギャオスの名前の由来って、「ギャオーッ」って鳴くからだっていうから、ルイズにぴったんこだな。
『剣士』の変身って、服はどうなってるんだ? まさかすっ裸のミシェ……
「ゼロの使い魔」原作の最新刊を読んでみたが、どうも、『ハルケギニアが滅びるか、エルフが滅びるか、その二つに一つ』である可能性が高くなってきた。
第19巻、P129、「6千年前に、ブリミルのせいで、当時のエルフの半分が死んだ」という記述。
P172・P173の、ブリミルが「生命」と名付けた大魔法に関する記述と、ヴィットーリオの独白。
P224〜P226の、「ブリミルを殺したのは、初代ガンタールヴだったエルフの女性、サーシャだった」という記述。
それらを総合すれば、『ブリミルが6千年前にやろうとしたことは、ハルケギニアには救いをもたらす一方で、エルフには滅びをもたらすものだった』という推論が、ごく自然に得られる。
もしこの推測が当たっていた場合、大魔法「生命」がその通りのものだった場合、そのことを才人やルイズやティファニアが知った場合、彼らはどうするだろうか?
ただ、可能性としてロマリアのご先祖側がなにか一枚噛んでるきがするんだよねえ
そういうSSを書くなら大歓迎だ。ネタバレだけなら相応のスレで。
もしアンリエッタが烈風カリンのような騎士に憧れていたら。
レイピアを常に持ち歩き、甲冑で身を固めている。可憐な騎士。
銃士隊は彼女を隊長とした私設部隊。
でもウェールズに恋文を送ったりして自分でとりに行くような迂闊なアホの子。
無駄に行動的で素敵w
姫騎士アンリエッタ〜こ、この無礼者! そこはウェールズ様だけのものです!〜
それでカリンちゃんが姫様の尻ぬぐいやらなんやらで
娘や旦那の相手が出来ずにヴァリエール家がなんだかヤンデレ気味
という電波が・・・・
暴れん坊姫様
さしずめマザリーニがじいで、大岡越前がアニエスで、め組が銃士隊ってとこか。
んで、公儀隠密がサイトとルイズ。
カリンちゃんに手を出そうとするツェルプストーさんってあんまでてこないね
風車のカリンとか想像した
ヒュカッ
「この風車は!?」
「アンリエッタ、人質は私に任せるんだ!」
「タ騎士ード仮面様!」
ポジション的に仮面かぶって活躍するのはジョゼットかタバサ
ユニコーンに乗って砂浜を走るアンリエッタ姫ですね
ルイズ「この指輪が目に入らぬか!! ここにおわすお方をどなたと心得る。恐れ多くもトリステイン王国の姫君、アンリエッタ・ド・トリステイン様にあらせられるぞ。」
こんな電波が
>>134 近いものなら、理想郷の「わたしのかんがえたかっこいいるいずさま」にあります。
んー暴れん坊将軍とか水戸黄門よりもDQ4のようなおてんば王女の冒険のほうが雰囲気的には良い気がする。
そうするとアンリエッタが拳で全てを片付けるようなアグレッシブ姫になるわけだがw
前レスに仕事人ネタもあったし、みんな結構時代劇好きなのねw
というわけで
サイトが時代劇オタでPCに時代劇の動画が満載だったら
どうも、虚無と銃士です。すでに理想郷のほうでは投稿済みでしたが、
こちらも鯖移動が終わったようなので投下したいと思います。50分ごろ行きます。
あ、やべ『剣士』が変身した時の格好考えてなかった……いいや、裸のミシェ
「……もういないだろうね」
「ジェーンちゃん、そんなところで何やってるの?」
アニエス達が村に辿り着く一日前。ラ・ロシェールの酒場のカウンターの影で、マチルダ・オブ・サウスゴーダは身を隠していた。
そんな彼女を呆れたマスターが声を掛けてきているが、彼女は全く反応しようとしていない。
彼女が何故こんなの事をしているのか、それは先ほどまでこの店にはアニエスとエレオノールがやってきたからだ。
魔法学院の秘書を辞め、まさかウェイトレスの格好をして店番をしているところを見られたら、絶対に彼女たち、いやエレオノールに馬鹿にされると思われたからだ。
それに色々と面倒なことになる。彼女たちと接触するのは少なくしたほうが良い。そう思いながらそろり、とカウンターから顔を出すと、二人の姿はもうなくなっていた。
それを確認して、マチルダはため息を吐きながらゆっくりと立ち上がる。
ルイズ達に解放された後、何度か村などを転々とたどりながら、ラ・ロシェールまで何とか辿り着いた。
だがしかし、肝心のアルビオンまでの旅費が足りず、こうして昔世話になった酒場で何とかまた働かせてもらっているのだが。
「はぁ……。ああ、テファ、愛しのテファ……。わたしゃもう疲れたよ……」
そこで働いてわかる魔法学院での待遇のよさ。あのスケベな学院長一人をあしらっていればよかったのに比べ、酒場では下品な傭兵たちや偉そうにふんぞり返る貴族の相手をしてやらなければいけない。
セクハラなどされたりするが、金のため、自分の正体を隠すためにも笑顔で対応しなければいけない。それが彼女のプライドを傷つけていた。
以前秘書になるためにオスマンに働いていた時はその目的のために頑張れたが、今回は流石に嫌気が差してきた。これが罰だとしたら、なんとも情けない話だ。
「ジェーンちゃん、おぅい」
「は、はぁい!」
「サボってると給料出さないよ。ほら、皿洗い皿洗い」
「わかってます!」
マスターの言葉に従い、マチルダは溜まっている皿洗いを始めた。
やれやれ、土くれのフーケ様が、今ではこんなチンケな仕事をしているとは、情けないような、複雑な気分だった。
ルイズとの別れ際であんな格好つけたことを呟いてみたが、実際のところは半分ぐらい後悔している。
故郷への仕送りのメドなども付いていないのだ。もう少し抵抗してみるべきだったが。
いや、テファの許に帰ることを考えたら、もっと抵抗するべきだったのではないか。
「どうして、抵抗しなかったかねぇ……」
マチルダはキュっと皿を拭きながら思い浮かべてみる。
あの時、酷い脱力でもはや何もすることが出来なかった。正直に言えば死んだ、と思ってしまったのである。
それに、ルイズが悲しんでいる姿を見て、何処かテファの事を思い出してしまった。妹に殺されそうになったと思って、何も出来なくなってしまった。
大事なものなどテファしかいないと思っていたが、何かと情が移ってしまったのだろうか。
まあ、色々とあったが、結果的には命があってよかった。マチルダはそう思う。まだこれならテファに会う事だって出来るのだ。
しかし、今はそんな路銀がないのが彼女の悲しい運命なのだが。
「……いっそ、エレオノールにでも雇ってもらおうかねぇ……。あいつらからはなんかお宝の匂いがしたんだけど。いや、それよりも先に帰ってあの子を安心させてあげないとね」
マチルダは色々なことを思い描きつつ、皿を片付ける。まだまだ店に客は来ない。麗らかな昼下がりだ。
「ん?」
と、彼女は店先の路地に何かを発見し、確かめるように眼鏡の位置を直す仕草をする。
しかし、彼女の手は空振りしてしまう。ああ、そうか、眼鏡は売り払ったんだと恥ずかしそうに彼女は頬を赤らめた。
確かに彼女の視力はそんなに良くはないが、別に眼鏡自体無くても平気なのだ。
もう一度路地のほうを見つめてみると、その何かはもういなくなっていた。
「……あんな怪しい仮面なんか被って、なにもんだ?」
彼女が見たもの。それは長身の男で、目元を隠すような仮面を被っていた。
明らかに不審者だったが、マントをつけていることから貴族だろうから、まあそういう趣味の男なのだろう。
「はぁ。刺激か安らぎ、どちらかが欲しいねぇ……」
どうでもいいと、マチルダはため息を吐きながら皿洗いを続けつつ、ぼやいているのだった。
第28話
「ここがそうかしら?」
さて、一日宿泊したアニエス達は、遺跡へと続く道へと足を運んでいた。
その途中に山小屋を見つけ、その目の前に立っている。情報によれば、ここが前の領主ド・マルタンが住んでいるはずだ。
なるほど、責任を取らされたとはいえ、貴族の屋敷というには少々老朽している。木造の壁にはコケが生えていたりしていた。
エレオノールの言葉で農民たちが困るのは仕方なかったのだろう。彼女は少しだけ迂闊なことを言った自分に反省していた。
ただ、生活している形跡はあり、ここに人が住んでいるのは間違いないようだ。アニエスは小屋に近づきながら頷いた。
「恐らくそうでしょう」
「ふむ、ちょっとこれは酷いわね……。同じようなミスを犯したド・モンモランシ家だって、こんな貧乏な生活をしていないわよ」
魔法学院の2年生モンモランシーの実家であるド・モンモランシ家も水の精霊との交渉役を担っていた。
だが干拓を行おうとした際、彼女の父が水の精霊に対し無礼な言葉を発したために交渉は決裂し、今はその役を他の貴族に取られてしまっている。
今は僅かな領地を経営するのにも苦しいようだ。しかし、目の前の小屋は、もはや貴族の領地や屋敷ではなく、まるで木こりのようだ。
「どちらかといえば、元々あった場所をそのまま使っているのではないでしょうか? とりあえず訪ねてみましょう」
「まあこんなところで立ち止まっているのも迷惑ね」
そう言って、二人は玄関ドアの前へと歩み寄った。そして、アニエスは軽くドアをノックし、その場で中へと話しかけた。
「もし。私、王立アカデミーから参りましたアニエス・ド・マイヤールと申します。ミスタ・マルタンは居られませぬか?」
しかし、中からの返事はなかった。しぃんと辺りは静まり返り、アニエスは首をかしげた。
「留守か?」
「まだ朝早いから、寝ているとか?」
「ううん……」
エレオノールの言葉にアニエスは顎を摩りながら、窓から山小屋の中を覗き込む。あまり褒められた行動ではないが、致し方ない。
しかし、やはりというか、中に誰もいないようだ。アニエスはエレオノールの所に戻りながら言った。
「やはり誰もいないようですね。出直しますか?」
「でも次に行くのは遺跡でしょう? その前にミスタ・マルタンの話を聞いたほうが良いと思うわ」
「それもそうか……」
「ちょっと邪魔かもしれないけれど、ここで待たせてもらいましょう」
そう言って、エレオノールは玄関の近くにあった切り株に腰掛けた。アニエスもそれに倣って岩場に腰掛けた。
辺りは静かな森に囲まれている。人通りもない。隠居するのであればこのような場所に住むのも悪くは無いかもしれない。
もしかしたらド・マルタンはそういう想いがあってここに住んでいるのだろうか。
と、そんな二人にデルフが不意に提案をした。
『今のうちに情報の整理でもしたらどうだ? 昨日、村の連中に話を聞きに回ったんだろ?』
「そうね、デルフの言うとおりだわ」
その提案にエレオノールは頷いた。二人は先日宿屋について休憩をした後、村中を歩き回り情報を集めていたのだった。
「まずは遺跡の地竜についてかしら」
「地竜は大人しい性格ではなかったみたいですが、やはり突然人間を襲うような様子ではなかったみたいですね。
村人の話を聞いたり、迷子になった子供を助けたりと、人に近しい存在だったみたいです。ただ、かなりの老龍だったようですが」
「そのせいか、大きさはかなりあったみたいね。それと、本当にオリヴィエ殿がお供え物を献上するときに暴れたみたいだわ。
考えられるのはその供え物に何かを仕込まれたということだけど……。まあ事故かもしれないし、なんともいえないわね」
「その供え物を献上したオリヴィエ殿ですけれど。彼はどちらかといえば地竜排除には賛成の人間だったみたいですね」
「理由はなんだったかしら?」
「えっと、どうだったかな……」
アニエスが自分の記憶を呼び覚まそうとしていると、その代わりにデルフが答えた。
『あれだ。こんな古臭い伝統なんて捨てちまおう。こんな貧乏な暮らしをするのは嫌だって言ってたんじゃなかったか? 都会に憧れてたり、結構派手な奴だったみたいじゃねぇか』
「ああ、それだ」
その言葉にアニエスは大きく頷いた。マルタンの次男オリヴィエは田舎暮らしに嫌気を差していたらしい。
伝統を重んじるような村人やマルタン家主サイラスにも嫌われているような人物だったが、閉鎖的な村の中に、都会の風を吹かせていたとして、逆に若者などにチヤホヤされていたようだ。
性格も豪快で、乱暴者ではあるが悪い人間ではなかったようだ。ガキ大将、という雰囲気だったのだろうか。
「まあ田舎には絶対に一人いる人間よねぇ。そんなに都会って良い場所じゃないけれど」
「きっと我々が自然の長閑さに憧れるのと同じなのでしょう」
「そういうものかしらね。さてと、その情報によると、そのオリヴィエ殿自身が怪しいような気もするけど……」
「でも、もし暗殺しようとしたとしても、父であるサイラス殿が許さないのでは?」
エレオノールの言葉にアニエスは疑問を投げかけた。エレオノールもううん、と唸りながら腕を組む。
「そうよねぇ……。どうするつもりだったのかしら?」
「そうですね……。後、気になる情報っていうのは、そのド・マルタンのご息女……」
――きゃあああ!
「ん!?」
と、何処からともなく少女の悲鳴が聞こえてきた。アニエスとエレオノールはすぐさま反応し、立ち上がる。
声が聞こえてきたのは遺跡へ向かう方角だ。アニエスはエレオノールを置いてその方向へと走っていった。
この辺りに生息している魔物に襲われているとすれば、小型の竜とオーク鬼、そしてコボルトやゴブリンだろう。
どれにしても、ただの少女であればひとたまりも無い。後ろからエレオノールが呼び止める声が聞こえてくるが、そんなものを今構うことなどできない。
アニエスが走っていくと、目の前には痩せた女性を抱えて必死に逃げる頭巾を被った少女と、その後ろをのし、のしと、まるで楽しんでいるかのようにわざとゆっくり追いかけるオーク鬼の姿があった。
「た、助けてぇ!」
その少女がアニエスを見つけて叫ぶ。アニエスはその言葉に小さくに頷くことで答え、デルフを抜いた。
一匹とはいえ、平民の傭兵よりも強いオーク鬼だ。昨日は奇襲して何とか追い払ったが、アニエスとて油断すれば命が危うい。
今回は昨日のように奇襲とは行かず、オーク鬼はアニエスを確認して、得物の木槌を構えだした。あれに潰されてしまえばひとたまりも無いだろう。
だがアニエスは敢えて正面から突っ込んでいく。オーク鬼はそのアニエス目掛けて木槌を振り下ろした。
アニエスがいた場所の地面に木槌がめり込む。だが彼女は右足を軸にひらりとその攻撃を間一髪で避けていた。振り下ろす瞬間さえ見極めれば、大振りになる木槌は避けられる。
オーク鬼は感触が無いことに気が付き、すぐさま木槌をなぎ払った。
アニエスはそのオーク鬼の強靭な腕を飛び越え、背後に回った。そして、デルフを構えると、そのまま真直ぐ心臓目掛けて突き刺した。
厚い脂肪に覆われているとはいえ、長いデルフの刃に掛かればそれも無意味だ。
オーク鬼は暫く暴れまわったが、アニエスが踏ん張り、そして捻りながらデルフを抜くと、大量の血を噴出しながら倒れた。
アニエスは返り血を拭いながら、少女たちのほうを向く。彼女たちはエレオノールによって助けられたようだ。
恐怖でおびえている少女をエレオノールが必死に宥めて、女性のほうを抱きかかえていた。
アニエスはふぅ、とため息をつくと、デルフが浴びた血を振り払い、オーク鬼を見る。これも地竜がいなくなったせいなのだろうか。
とりあえずこの死体を隠すなり燃やすなりしなければ。他のオーク鬼に見つかれば、彼らは報復に乗り込むだろう。そのぐらいの知恵はあるのだ。
「ジジ! ベネディクト!」
「お母様、ジジ!」
と、山道の奥から男の声が二人分聞こえてきた。そして、斧を抱えた体格の良い初老ぐらいの白髪雑じりの茶髪の男と、同じ髪のそれなりに体格の良い青年が杖を持って走ってきた。
「お父様!」
少女はエレオノールの腕から抜け出すと、二人の男の許に駆け寄り、そして青年のほうに抱きついて泣き始めた。
どうやら彼らがこの少女の家族のようだ。そしてあの痩せた女性は初老の男の妻、そして青年と少女の母親だった。
「おお、ジジ……。突然オーク鬼の鳴き声が聞こえたから、すぐに駆けつけたかったのだが……。
すまぬ、他のオーク鬼にも襲われてな。遅れてしまった。だが、無事でよかった。見知らぬご婦人よ。娘と妻を助けていただき、感謝いたす」
男はアニエスの手を取り、安堵した表情で礼を言った。だが、母親のほうはまだ安心できるような状態ではない。
アニエスは首を横に振りながら言った。
「いえ、それよりも御夫人の御容態がよろしくない。早くお家に連れて行かねば」
「確かにそのようだ。すまぬが、ご婦人方。この先の山小屋まで娘たちを連れて行ってくれまいか? 私はこれや上に残したオーク鬼の遺体を処理せねばなりませぬ」
「承知いたしましたが、もしかして貴方様はミスタ・マルタンですか?」
「……左様ですが、如何なさったのですかな?」
「こちらはリュシアン殿?」
「はい、そうですが」
アニエスが尋ねると初老の男は頷いた。どうやら彼がサイラス・ド・マルタンのようだ。
メイジでありながら、よく鍛え抜かれた体ではあるが、何処か顔色が悪い。
一方の息子もその父に負けないぐらいの立派な体つきだったが、何処か美青年を思わせる面影は残っている。
どうやら母親似なのだろうか。しかし、その母親ベネディクトはやつれきっていて、あまり体が強そうではなかった。
もしカトレアが病弱のまま大きくなったとしたら、こんな感じになったのだろうか。
一方の娘ジジはその顔立ちのまま健康になった雰囲気で、とても可愛らしいが、その顔立ちも今は悲しみと不安で一杯になっている。
「いえ、私のほうから参ろうと思っていたところで。ともかく彼女を運びましょう」
「そうですな、よろしくお願いいたす。リュシアン、案内してやれ」
「はっ、父上。さ、こちらへどうぞ」
アニエスとエレオノールは息子リュシアンに連れられ、先ほどの山小屋へと戻っていった。ともかく、今は母親が危ない状況だった。
カリーヌ・デジレは自室で優雅に紅茶を飲んでいた。その紅茶を入れたのは、彼女の長年の友人であり、吸血鬼であるダルシニだ。
ダルシニはカリーヌの隣でトレイを抱えながら、ニコニコと笑ってその様子を見ていた。カリーヌは苦笑しながら一瞥した。
「何? 私の頬に紅茶でも付いているかしら?」
「ううん、カリンさんとのんびりするのも久しぶりと思って」
「まあ、そうねぇ。この頃は色々とゴタゴタしてたから」
「一時期はどうなるかと思ったけど……」
ダルシニは苦笑しながら、カリーヌの眉間の傷を撫でた。くすぐったいのかカリーヌは軽く声を上げるが、それを咎める事はしなかった。
ルイズを失った際負った傷。それを残虐な盗賊狩りを行った自分への戒めとして残していた。
「……そうね。でも、全ては丸く収まってくれた。それだけで、私は幸せよ」
「うん、わかってます。ふふ、最近は昔のような輝いた瞳になっています。私たちが出会って間もない頃。騎士になって……サンドリオンさん、いえピエールさんに恋してた頃の貴女に」
「ぶっ!?」
ダルシニの言葉に思わずカリーヌは口に含んでいた紅茶を吹いてしまった。そして顔を真っ赤に染め上げて、ダルシニの肩を掴み、乱暴に揺らし始めた。
「だ、だだだ誰があの時恋をしていたって!? あの時の私はね、騎士として、誇り高く生きていたの!」
「あわわわ!」
「あんな奴に恋をしている暇なんてなかったわよ!」
「ふにゃあ!?」
子供だった頃を思い出しつつ、カリーヌは散々ダルシニを揺らした後、乱暴に突き放した。
ダルシニは目を回しながら地面に倒れる。そして上半身を起こしながら、くらくらと頭を揺らしていた。
「全くもう、この吸血鬼といったら……」
「はれひれはれ……う、ううん、何もそんな乱暴に否定しなくてもぉ」
頭を抱えながらダルシニは立ち上がる。だが、カリーヌはそっぽを向いている。
「……僕はあいつが結婚しようと言ったから、それを受けただけだ」
「あれ、昔の口調? うわぁ、懐かしいですね。あの時は女の子らしくしたほうが良いと思ってたけど……。凛とした声、昔のままです」
「そ、そう? 私もまだまだ若いわね。う、うほん! ……自分の中の"恐怖"から目を逸らすな。どうだ?」
「カッコいいです!」
「ふふふ、まだまだいけるぞ。次はあいつを危機から救った時の言葉だ」
カリーヌは自信満々に胸を張りながら、約40年ほど前の自分、騎士を目指していた自分。
騎士になり、様々な苦労をした自分を思い出しながら、それをまるで王都の劇場の団員のように演じる。
そのたびにダルシニが合いの手を入れるものだから、彼女は段々良い気分になり、声だけでなく仕草や動作すらも加えて演じ始めた。
「お姉ちゃん!」
「あ」
「サンドリオンめ! この僕が根性を叩きなおして……」
と、そんな二人の許にダルシニの妹アミアスが王都から帰還し、泣きながら飛び込んできた。
だが、部屋の中に入った瞬間、とんでもない光景が目の前に広がり、彼女は思わず表情を強張らせ、そして静かに外に出て行こうとした。
その彼女をすかさずカリーヌは風の魔法で拘束すると、中へと連れ込み、そして素早くサイレントとロックの魔法で部屋を密室に変えてしまう。
風のスクウェアとして恥じぬ早業だ。聊か、その理由が情けないが。
「ぎゃ、ぎぃいやああ! こ、殺されます! 私殺されちゃいます! ひぃ、ひぃい!」
アミアスは必死に叫んだが、カリーヌのサイレンスで外にはまるで伝わらない。ダルシニはカリーヌの体を抱きとめて、必死に懇願した。
「かかかかカリンさん! どうか妹は殺さないで!」
「誰が殺しますか。さて、アミアス。貴女が一人でいるという事は、そう言うことなんですね?」
と、カリーヌはすでにカリンから夫人に戻っていた。アミアスはがくがくと震えながら立ち上がると、彼女に泣きつきながら状況を説明した。
それを聞いたカリーヌは、はぁっとため息をつくと、彼女の頭を優しく撫でてやった。
「ふぇえん……カリンさぁん」
「ああ、よしよし。全くあの子にも困ったものです。誰に似たのやら……」
「カリンさんじゃないかな……」
「何か言いましたか?」
ダルシニの突っ込みに、カリーヌは笑顔で振り向きながら応えた。だが、ダルシニにとってその眩しい笑顔が恐ろしい。
必死に横に首を振り、その場を誤魔化した。カリーヌはそれを気にせず、何かを決心したかのように頷いた。
「わかりました。では、そこまで言うのであれば私自身が行こうではありませんか」
「へっ?」
「エレオノールがそう言っていたのでしょう? 最近は彼女を甘やかしてしまいましたからね。淑女として、もう一度アニエス共々教育しなおしてあげましょう。では早速準備をしますよ」
「え、あの行くって、その風石が採れる集落にですか?」
「そこに行く間に行き違いになっては困るでしょう。ゆっくりと、王都の屋敷で待たせてもらおうじゃありませんか、ふふ」
「う、うわぁ……」
とんでもない笑顔だった。それを見て、ダルシニは思わず顔を引きつらせながら体を引いた。
近頃、カリーヌの冷徹な仮面がはがれて、笑顔と言う恐ろしい仮面に付け替えられた。
そんな気がして、ダルシニとアミアスはエレオノールとアニエスの無事を、大いなる意志、ではなくとりあえずまだこの屋敷に滞在しているバーガンディ伯に祈ることにした。
「昔、か……」
ふと、そんな二人に気付かれないようにカリーヌは呟いた。西から曇り空がやってきそうだ。あれは雨になるのだろうか。
雨、そうあの時も雨だった。
―――はぁ……はぁ……
―――何故、こんなことを?
―――私は……そんなの、いらない……。
「ひっ!」
「はぅ!」
地竜の村のド・マルタンの山小屋の居間で紅茶を飲んでいたアニエスとエレオノールは何か言葉に表せぬ寒気を感じ、体を急に強張らせた。
事情を知らない家の主サイラスは首をかしげた。
「如何したか?」
「あ、いえ、何でもございません、おほほほ」
「そ、そうです、はい。あはは……」
「ふむ?」
エレオノールとアニエスは苦笑いをして誤魔化そうとしたが顔が引き攣ってしまっている。
遠い場所からの自分への危機を感知できてしまうほど、彼女たちは敏感になってしまっていた。
「私、今竜巻に巻き込まれて、アルビオンに行く幻想を見たわ……」
「奇遇ですね。私は異界の地へと流されましたよ……なんか大きく聳え立つ塔のような建物とか、鉄の馬とか」
「何よそれ……」
「私だって聞きたいですよ」
もっとも、アニエスにいたっては完全にとばっちりなのだが、それはさておき。
ひとまず目的の人物であるサイラスと接触が出来たアニエス達は、自分達について説明した。
王立アカデミーから来た事。ここの情報を教えてくれたのはアンダルシアという女性だということ。そして村に来てから得た情報の事。
それを話すたびにサイラスの表情が曇り始めた。やはりというか、余所者にここまで介入されてあまり良い気分ではないようだ。
エレオノールが全ての情報を話すと、サイラスは重い口を開いた。
「オリヴィエは……あやつは馬鹿な息子だった。土地神様を退治しようなどと、馬鹿なことを言っておった。この土地を大きくするためだなどと」
「しかし、若者は野心溢れるものだと思いますが……」
「ああ、確かにそうだ。だが、それが仇となる時があることを、愚かにもあいつは理解できなかったのだよ」
アニエスのフォローにも動じず、サイラスは冷たく言い放った。次男と父親の、親子の確執は深そうだ。
「……我がド・マルタン家には、男子は土地神様にお供え物を献上し、その心を覘いてもらう事で通わせる。そこに嘘などはつけない。
私も、そしてリュシアンもやってきたことだ」
サイラスはリュシアンを一瞥する。リュシアンはその頃を思い出しているのか、何処か表情を暗くしていた。
「……あやつは、その野心を土地神様に見破られた。その瘴気に駆られ、土地神は怒り狂ってしまわれた。
我が一族の名に懸けて、王家に任されたこの領地の民を守るため、土地神様への思いを押し殺し、何とか封印を施した。
だがその代わりにこの土地は荒れ果てた。全ては、私があやつの心を察しず、少しでも一族の心を分かっているはずだと信じたのが原因よ」
「そこまで申されなくとも……」
「お客人よ。これは我々一族の問題。他人には理解されない事は承知の上です」
頑固として表情を変えないサイラスの様子に、終にエレオノールもアニエスも何も言えなくなってしまった。
確かに一族の問題となっては二人が関われることなどあまりないのだろう。彼らには彼らの事情がある。
その中にホイホイと余所者が介入して良いわけではない。
だが、ここまで関わっておいて、このまま引き下がるのも気持ち悪い。アニエスは話題を変えつつ、話を続けた。
「そういえば、アンダルシア殿とはどのようなご関係で?」
「アンダルシア殿は王立アカデミーから参られた医者です。我が長女のパスカル……ふっ、長女か」
「どうかなさいましたか?」
と、突然何かを思い出すように話を中断したサイラスをエレオノールは訝しげに顔を覘きこんだ。
だがサイラスは頑なに何も言おうとはしなかった。まるで彼女らに知られたくない事実があるような、そんな素振りだ。
「……なんでもござらん。ともかく、土地神様の問題はこの領地の問題。余所から来られた貴女方には関係のないこと」
「では何故ミスタ・アスレーテに後継に任せられたのですか? 彼はオリヴィエ殿と同じようにこの地を大きくしていこうとしているではありませんか?」
「……奴はこの村の事を案じている。土地神様がいなくなられた以上、領地や領民を守っていくにはそれに頼らぬ新しい考えが必要だ。
その考えが、私にはできない。悔しいが、そういうことなのですよ」
「……簡単に割り切るのですね」
眼鏡のアーチを抑えながらかけたアニエスの言葉に少し目を細めたサイラスだが、すぐに眼を瞑りながら苦笑して頭を振った。
「交渉に失敗した私に文句を言う資格などない。それに土地神様がいなくなってしまわれた以上、私が生きる意味もなくなった。後は、未来をただ見守るのみよ」
「……」
「トマに頼まれて、遺跡の調査をしに行こうとしているのでしょうが、やめておいたほうがいい。
あそこには今、怒り狂った土地神様の瘴気に引き寄せられた悪魔が住んでいる。あれは触れてはいけないものだ」
「しかし、風石がなければこの地を維持できないのではないですか?」
「風石などなくとも、この村はやっていけます。トマはそう考えず、色々と手を施しているようだが。しかし、あの地を悪魔に居座らせるのは私としても不本意。
だからこそ、私がその悪魔を退治しに参る。それがせめてもの……ごほっごほごほ!」
と、突然サイラスの様子が可笑しくなった。咳き込み始め、机に突っ伏すように苦しみ始めた。
よく見れば、彼は吐血しているではないか。エレオノールはすぐに駆け寄り、杖を取り出した。
「し、心配ござらん! ただの持病ゆえ」
「父上……」
その彼女をサイラスは手でエレオノールを制すると、リュシアンが持ってきた水と薬を一気に飲み込んだ。
リュシアンはそんな彼の体を支えながら立ち上がらせる。
「父上、近頃は無理をしすぎました。今日はお休みください」
「……」
「ジジや母上にも心配をお掛けなさるつもりですか? これ以上は駄目です」
「うむ……」
一度は拒もうとしたサイラスだったが、娘や母を切り出されては何も言えず、半ば納得していない表情で頷いた。
「ジジ、父上をお部屋へお連れなさい」
「はい。お父様……」
リュシアンに催促され、ジジはサイラスの傍に立つと、彼の腰を支えて二階へと連れて行った。
リュシアンは心配そうな表情でその後姿を見送ると、アニエス達に頭を下げた。
「申し訳ない……。余計な心配をお掛けしてしまいました」
「いえ、お体が何処か悪いのですか?」
「……父は弟、オリヴィエの事を悪く言っておりますが、本当は愛されているのです。
その証拠に、オリヴィエが土地神様に襲われたとき、身を挺して守ったのは父上なのですから。結果的にはオリヴィエは土地神様に殺されてしまいましたが……。
その傷のせいで体を蝕まわれてしまっています。ですが、父は責任を感じられ、せめてものと体を再度鍛えられているのです」
「なるほど」
アニエスは納得して頷いた。先ほど山道でジジを助けた時に見たサイラスの肉体は老人のものとは思えなかった。だが、その彼も病には勝てないようだ。
「そのお陰で一時期よりは体を動かせるようにはなりましたが……。土地神様を完全に封印することや、その悪魔を倒すことなど到底無理な話。こんな時、姉上がいれば……」
「失踪されたご長女のことかしら?」
エレオノールの言葉にリュシアンは頷いた。二人は村でド・マルタンの長女が行方不明になっているという情報を得ていた。
その原因は誰も知らない、いや誰も語ろうとはしなかったが。現に今もここにはいないという事は、今も見つかっていないのだろうか。
「ええ、私より7歳年上の姉でして、パスカルと申します。弟とも心を通わせていた、心優しい方です。
少し発達に難がありますが、水魔法に関しては素晴らしい力を持っていました。ですが……」
と、リュシアンは何か説明しづらそうに突然口を閉ざし、俯いてしまった。アニエスは少し戸惑ったようにしながらも、彼を安心させるように優しく言葉をかけた。
「どうなさいましたか? もし、説明しづらいのであれば、無理に話す必要はないと思いますが」
アニエスの言葉に、リュシアンは情けなさそうに項垂れながら首を横に振った。
「……申し訳ございません。長男である私がもっとしっかりしなければいけないのに、この調子で。
ともかく、父が言っていた通り、遺跡には近づかないほうがいい。トマ殿に頼まれた、と仰っていましたが、恐らく彼が策を講じるくれているでしょうから。
そのまま任せておいたほうがよろしいと思います」
「お優しいのですね。お気遣いありがとうございます」
「……はぁ。その様子だと、御意志は曲げてはくれないようですね。わかりました、せめてものお守りに……これをお持ちください」
悪魔などの恐ろしい話を聞いても、あくまで遺跡を探索する気をなくそうとしないアニエスとエレオノールを見ると、リュシアンはため息をついた。
そして椅子から立ち上がると、近くの棚の中から一つのブローチを取り出し、それをエレオノールに手渡した。
それは龍を模した立派な銀のブローチだった。かなり使い古されているのか、傷だらけではあるがそれでも綺麗な光沢を発している不思議なものだった。
「それは我が一族に伝わる魔除けのブローチです。土地神様とお会いする際、代表者が身に着けるものです」
「まあ、そんな貴重なものをいいのかしら?」
「ええ、我が一族のご加護がありますよう、お祈りしております」
「ありがとうございます。なるほど、この瞳の部分は風石で出来ているのね。綺麗だわ」
「ええ、それもそのブローチが作られた時からずっと同じものだとか」
エレオノールは魔除けのブローチを少しの間眺めた後、服の胸の部分に取り付けた。
瞳の部分の風石が優しく光る。まるでエレオノールを守っているような、そんな雰囲気を出している。
そして二人はリュシアンたちと別れを告げると、遺跡へと向かっていった。
所変わり、地竜の村の領主の屋敷。トマは執務室で優雅に紅茶を飲みながら書類をまとめていた。
と言っても、これは王国へ渡す書類ではない。もっと大事で、そして機密な書類だ。誰にも知られてはいけない。彼だけが知るべき書類である。
その書類を舐めるように眺めながら、紅茶を一口含む。その時、ドアからノック音が聞こえてきた。
しかも、独特のリズムで、まるで中にいるトマに対する合図のようだ。
「入れ」
トマは眉を吊り上げると、静かにドアの向こうの人物に入室を催促する。すると、黒いローブを羽織った怪しい人物が中に入ってきた。
フード大きく被っているため、顔が判別できないが、トマは慣れたように彼と接した。
「ふっ……相変わらず怪しい格好だ」
「そういうな。ちゃんと誰にも見つからずに来たのだからな。それで? 風石の採掘に目処は立ちそうなのか? ここ一年、不振ではないか。
今までは貴様に任せてきたが、そろそろこちらとしてものんびりしている暇がなくなってきたのでな。そろそろ決着をつけてもらいたい。
まあそのために貴様は我らを呼んだのだろうが」
「ああ……色々と策は講じているのだが、あまり功を成さなくてな。しかし、折角あいつらをこき下ろしたのに、このままでは意味が無いからな。
……だが、勘違いしないで欲しいのはあくまでそなたたちとは商売相手だ。私には思想も信仰もない」
「まあ、よいだろう。我が主も同じようなものだ」
ローブの男は不敵に笑った。少しだが脅しをかけたのにもかかわらず、焦ることなくトマは平然としていた。
風のラインではあるが、あのサイラスを出し抜くだけの度胸はある。もっとも、トライアングルの実力があるとはいえ、サイラスは古い習わしに囚われただけのただの老人ではあるが。
「そういえば、色々と嗅ぎつけている奴がいるようだが」
「ああ、あれか。王立アカデミーから来たエレオノール・ド・マイヤールとアニエス・ド・マイヤールという奴ららしいが……」
「マイヤール? ヴァリエールとフォンティーヌではないのか?」
ローブの男が首を傾げる。彼の中でエレオノール、アニエスと言う名の貴族はヴァリエール家の姉妹だけだった。
しかし、トマは首を横に振って言った。
「いや……確かにそう名乗っていた。しかし、偽名を使うなどよくあるだろう。奴らは風石に入り込んだ賊を調査してくれるそうだ。まあ、全く期待はしていないがな」
「まあ、そやつらが何とかすればよし。遺跡で暗殺し、事故で死んだように見せかける手もできるだろう。出来なくとも、そのまま帰ってもらうだけだ。まあ、精々漁夫の利を得ることにしようか」
「ふむ……それもそうだな。その手配、頼んだぞ。奴らはきっと今頃遺跡にいるはずだ」
「承知した。地竜の亡霊共々退治してくれよう」
「ああ、あと手勢を一人貸してくれ。そろそろあの爺を消したい」
「ほうそうか、ついに消すか」
ローブの男は感心したように唸った。今まであのサイラスを殺すことを躊躇っていた男が、ついに重い腰を上げたようだ。トマは苦笑しながら言った。
「最近病気がちのようだし、ご隠居はご隠居らしく始祖ブリミルの許で安らかに暮らせばよい。
そもそも、過去に生きているような人間だからな。そのまま伝説にでもなれば彼としても本望だろう」
「ふふ、貴様、地獄に落ちるぞ?」
「そんなもの、最初から承知の上よ。それに死んだ時の事を考えてどうする?」
「それもそうだな。では、その手配もこちらで行おう。貴様は、ゆっくりとここで構えているが良い」
「……では、そうさせてもらおうか。よろしく頼むぞ」
「任せておけ」
ローブの男はそう言うと、窓から外へと出て部屋から姿を消した。物音も立てず、素早い動きだ。
トマはそんな風に感心しながら、窓のほうへと歩き外を眺める。そこから村を一望できる。
つい一年前までは、そこには人々が行き交うような光景が見えていたが、今では閑散とし、昔のような静かな光景が広がっていた。
しかし、それではダメなのだ。ここをもっと大きくする。そして、自分の力をもっと強大にし、世に知らしめる。それが彼の夢だった。
「……没落した我がアスレーテにとって、ここはまだ始まりにすぎぬ。折角掴んだ機会だ。
ここを更に強大にして我が城とし、アスレーテの名を歴史に残してくれる。そのためにも、マルタンもあいつらも、精々俺の踏み台にしてくれる」
アニエス達と出会ったときとはまるで正反対の鋭い目つきで、トマは外の光景を見つめていた。
その先には村など視界に入っておらず、もっと遠くの、そう王都の方角をじっと見つめていた。
「ここが遺跡かしら?」
山道を休憩を挟みながら歩き続け、やっとのことで二人は地竜が住む遺跡の前に辿り着いた。
目の前には石造りの柱や石像だったものが聳え立っている。どれも、ハルケギニアの文化には程遠い独特なものを思わせる形をしていた。
柱には絵が規則正しく並んでいた。これは文字を意味するのだろうか。しかし、その文化も滅んでもう長いのか、原形をとどめているものは殆どなかった。
エレオノールはゆっくりと石像に近づきながら、仄かに遺跡の中から流れてくる風の動きを感じ取る。その胸ではブローチが共鳴するかのように光っていた。
風のメイジとして、その風はまるで母に抱かれているようにとても優しく、気持ちが良かった。
「すごいわね、ここは。なんと言うか、ただこうして平然と立っているだけでも風の流れを感じることが出来る……。
なるほどね、確かにここを目を付けたくなる気持ちは分かるし、守りたい気持ちもわかるわ」
「……確かに、私も本当に僅かにですが感じられます」
アニエスもその広い入り口を眺めながら、風を感じ取るかのように、全身を伸ばした。
そんな彼女を見て、エレオノールは不思議に思う。確かにここから流れる風の力は大きい。
だが、それをただの平民であるアニエスが感じることなど出来るのだろうか? やはり彼女はメイジの血が流れているのか。
ルイズと家族となるために付いた嘘が、まさか本当になってしまったのだろうか。
「姉上?」
「あ、いえ、なんでもないわ」
と、アニエスが心配そうにエレオノールを見つめると、彼女はその疑問を振り払って誤魔化した。
どうやらアニエス自身も何も疑問に思っていないようだ。彼女の出生に何か秘密があるのだろうが、それは彼女の記憶にも残っていないようなことなのだろう。
それをこれ以上考える事は無駄なことだ。それにメイジによって故郷を滅ぼされた彼女にとって、魔法は本来忌み嫌うものだろう。
彼女ももう大人だ。自分から何かを言わない限り、エレオノールも何も言わないことにした。
ただ、もし魔法を使えるのだとしたら。そして魔法が使いたいと彼女が言うのであれば。
自分が教えてやろう。そう考えつつ、エレオノールはアニエスの肩を叩いた。
「さて、中に入りましょうか。護衛、ちゃんと頼むわよ?」
「わかっています。では参りましょう。デルフ、何か見つけたら知らせろ」
『へいへい。全く、久しぶりに喋れたと思えばこんなことかよ……』
「お前が喋ると空気が変になりそうなんだ」
アニエスもまたエレオノールにそれ以上追及することなく、デルフに声を掛けながら遺跡へと入っていった。
デルフはその彼女の背中で悪態をついている。エレオノールもアニエスの後を歩いた。
遺跡の入り口を通過すると広い空間へと出た。洞窟を切り開き、石造の壁で補強しているようだ。
だが、所々は土の壁が露出していたり、明らかに補強したような跡もある。壁には照明も取り付けられていた。
マジックアイテムのようで、その明かりは消えることなく、絶え間なく部屋をぼんやりと照らしていた。
中にはそこには興味深い巨大な石像があった。どうやらここに住んでいた民族の長を模した物のようだ。その形はエルフのようにも獣人のようにも見える。
「すごいわね……。これは、ここに住んでいたのは先住種族を模したものかしら? これは歴史的発見なんじゃないかしら?」
『でも今まであまり注目されてねぇんだろ? まああの爺さんの一族がずっと隠し続けてきたんじゃねぇかな。
それか、変に都合の悪い歴史を掘り返させないようにしているとかよ』
「まあ、そうかもしれないわね。今となってはこの遺跡が何を意味しているかというよりも、ここで採れる風石や地竜の事のほうが興味深いんでしょうね。
さて、遺跡の探索よりも『悪魔』もしくは『地竜の使い』についてだわ。私のほうは何も感じないけど、アニエスは?」
「……いや、気配はないようですね。しかし、メイジや傭兵を簡単に倒してしまうような輩。
気配を消すことなど容易いのでしょう。慎重に進みましょう。姉上は杖を構えて置いてください。私が先行します」
「頼むわね」
アニエスはデルフを抜き、慎重に先頭を歩き始める。エレオノールはその後ろをぴったりとくっつくように追従しながら、辺りを警戒しながら歩く。
その様子は普段の高圧的な彼女とは裏腹に不安そうな表情だった。今にでも恐怖に飲み込まれてしまうような、そんな雰囲気である。
恐怖心を持っているのは構わない。何時死ぬやも知れぬ状況において、恐怖心と向き合う事は死とも向き合い、潜り抜ける事だってできる。
それは義母カリーヌから、彼女の経験から基づいて教わったことだ。
しかし、恐怖に飲み込まれてしまえば正常な思考が出来ず、結果的に死に飲み込まれてしまう。
アニエスはそんなエレオノールの緊張を少しだけほぐすため、何か話題を探した。何が良いだろうか。
そうだ、ルイズのことでいいか。そう考え、アニエスは口を開いた。
「ルイズは元気にしてますかね?」
「な、何よ突然」
「いえ、少し気になりまして。ああ、この前はどうもすみません。なんか突然暴れてしまい……」
「そうよ! あれは大変だったんだから。突然ルイズに危険が! なんか盗賊に攫われて、それに助けられて、変な男に撫でられてる!
とか叫びだして。まああの時は二人して、酔っ払ってたからきっと夢でも見てたんでしょう、うん」
「いや、本当恥ずかしい。酒には自信があるんですけど」
『けっけっけ。妹の事になると見境ないからなぁ、相棒はよ。もうちょっと妹離れしたほうが良いぜ』
「何だとデルフ!」
「そうよ。さっさと妹離れしなさい」
「……はい、すみません」
デルフに反論しようとしたアニエスだったが、更にエレオノールから追い討ちを喰らって、終にしょげてしまった。
実際、妹に会えなくてアニエスはこの上なく寂しかった。ああ、こんなにも合えない時間が寂しいとは。
屋敷で暮らしていた頃、王都で暮らしていた頃はこんな思いにならなかったのに。
しかしとりあえず、当初の目的だった緊張の和らぎは果たせたようだ。エレオノールの表情もいくらかマシなものになっていた。
そして沈黙したまま、暫く歩くと、通路から抜け出してまた広い空間に出た。元々は祭壇だったのだろうか、そんな面影のある台座が殆ど朽ち果てた状態で残されている。
また物陰になりそうな壁の残骸や石像なども置かれていた。アニエスとエレオノールは慎重に歩きながら、その部屋の中央へと向かっていく。辺りは不気味なほど静寂に包まれている。
「……!?」
「ど、どうしたの?」
と、丁度中央に辿り着いた時、アニエスは言葉で表せないほどの緊張感に全身が包まれた。
いる。この近くに危険な存在がいる。僅かに覘かせている殺気はアニエスに危険であると直感で全身に伝わらせている。
しかし、場所が特定できない。アニエスは辺りを見渡しながら、デルフを握る力を強くする。全身からはじわじわと汗がにじんできた。
「な、何、いるの?」
「わかりません。ですが、警戒してください」
エレオノールも小さく呟きながら辺りを見渡している。先ほどの緊張の和らぎなど全く功をなさず、また恐怖に包まれた表情に戻ってしまっていた。
だが無理もない。実戦経験の多い戦士であるアニエスがこんな調子なのだから、本来戦闘が苦手なエレオノールはもっと不安な状況だろう。
しかし、それでも叫び散らさない辺りは何とかヴァリエールの矜持で自我を保てているようだ。
アニエスとエレオノールはぐるぐると景色を見渡しながら、息を荒げていく。何処から襲ってくるか分からない恐怖。
自分の心臓の音がまるで辺りから響き渡ってくるかのような錯覚まで覚え始めた。
と、エレオノールの前方の壁から黒い影が飛び出してきた。
「ひっ!?」
エレオノールは必死に悲鳴を抑えながら、杖を構えた。しかし突然、その恐怖が止んだ。
辺りは不穏な緊張がなくなり、再び静寂に包まれる。エレオノールが見たものは、ただの山ネズミだった。
ネズミはアニエス達に気が付くと、すぐさまその場から逃げ出してしまった。
「な、なによぉ……脅かすんじゃないわよ……」
エレオノールは一気に緊張感がとけ、へらっと笑いながらネズミに対し悪態をつく。
だが、アニエスは気が付いていた。もう一つ、物陰から何か大きな影が飛び出してきたのを。
「姉上危ない!」
「えっ?」
アニエスはエレオノールの袖を掴み、そして横方向へと投げ飛ばした。彼女はバランスを崩し地面に転がった。
しかし、そんな彼女を心配する暇もなく、飛び出してきた巨大な影はアニエスの目の前まで飛び出し、まさにその大きな拳をアニエスの体目掛けて振り下ろそうとした。
「アニエス!!」
エレオノールが叫ぶ。しかし、アニエスはその拳を避けられることが出来ず、大きく吹き飛ばされた。
その拍子でデルフを放り投げてしまう。そして、地面に転がり、倒れてしまった。エレオノールは震える体を抑えながら立ち上がり、影を見つめた。
そこには、龍の仮面を被った大男がアニエスを殴った拳を振り下げたままたたずんでいる。まるで、その姿は地竜が人間に変わったかのようだ。
守るための力でもなく、貴族が誇るような力でもない。そこには絶対的な暴力だけがあった。
それは、息を詰まらせるほどにエレオノールの体を固まらせるのに十分なほど、恐ろしくそして純粋なものだった。
以上です。次回はドラゴンマスク戦です。
最近マンネリ気味になってるんじゃないかと不安になっています。
何かご意見などありましたらどうぞよろしくお願いします。何処まで反映できるかわかりませんが…。
あと、姫騎士アンアンネタとか面白そうだなぁ…。
乙でした。
カリーヌさん、それは若いというんじゃなくて成長してないというのでは……?
ともかく、事件を解決してもなお安心できないムードにアーメン。
それと
>>144 >あ、やべ『剣士』が変身した時の格好考えてなかった……いいや、裸のミシェ
いいわけないでしょうが! なにその露出プレイ。風呂場のぞきのときのサイトのように「見るなー!」って叫びたくなったわ。
体格に合わせて伸び縮みするラバースーツとか着てるとしたら、それはそれでエロいし。
乙
目の前ですっ裸の自分に変身されたら、それはそれで精神的ダメージはでかいだろうな。
『剣士』「あら……貴方男かと思ったら女なのね? それとも去勢でもしたの?」
エレ姉「う、うぐおああ!?」
アニ姉「ああ、姉上が血反吐を吐きながらえびぞりしている!?」
エレ姉より下はタバサという、比べるのもはばかられる幼女しかいないからな。
その物言いは、それはそれでタバサに失礼千万だが。
どうもこんばんわ。第二十九話が完成しましたので、45分ごろ投稿したいと思います。
相変わらず長いので、ゆっくり目に行きたいと思います。
>>158 そういう精神攻撃も兼ね(ry
>>162 貴方の後ろに、エレ姉が…
地竜は苦しそうな息遣いで眠っている。その肌はひどく痛々しく爛れていた。まるで、大火傷を負ったかのようだ。
その側にいる少女が調合した薬で何とか暴れる彼を抑え込んでいるが、最近はその周期も短くなり、また段々と弱くなっていた。彼に施した封印もその一因なのだろうか。しかし、真相は分からないままだ。
その様子を巨体の男は、何も出来ない自分の無力さを感じながら拳を握り締めて見ていた。少女のお陰で何とか地竜は命を、心を繋ぎとめているようなものだ。
自分はといえば、ここに侵入し、自分たちや地竜を完全にしとめ、風石を貪り採ろうとせんとするアスレーテの人間を退治することしかできない。それも、彼女の魔法があってこそだ。
自ら言い出したことだが、結局は彼女に頼ざる得ない。それが歯がゆくて仕方ないのだ。
「……うん、お供え物もちゃんと食べてくれているみたいだし、まだきっと、この方は大丈夫だと思う」
「……」
「えっと、どうかしたの?」
「なんでもねぇ」
少女は心配そうに男の顔を覗き込んだ。男は頭を振りながら、その少女の肩を優しく叩いた。そして二人は、遺跡に創設した居住地へと向かった。
遠い過去にこの地で暮らしていた人間が使っていたのであろうが、今その部屋には簡素な寝床と机、そして食料しか置いていない。
「しかし、この生活を続けて一年か……」
「そうね……。一年、長いようで短いような。そんな一年ね」
「……すまねぇ。俺が無理にこんな方法を取ろうっていわなきゃ」
苦笑する少女に、男は申し訳なさそうな表情で頭を下げた。その様子に少女はくすりと更に苦笑しながら首を横に振った。
「ううん、いいのよ。確かに正しい方法じゃないかもしれない。でも、これ以外に私たちが執れる方法は無いと思うしね。
いつかはきっと報われるわ」
「……そうかな」
「そうよ。……ふふ、でも貴方の血筋のこと、地竜様から聞いた時は驚いちゃった」
「俺も、驚いたよ」
「4年前、この地に流れてきた貴方を助けて……。それから、地竜様と心を通わせて。そして、私が恋に落ちて……」
「……ぐ、む……」
少女の言葉に、今度は男の顔が真っ赤に染まった。男はこの地竜の村の出身ではない。遠い何処かの土地から流れてきたのだという。
彼の故郷は、この地竜の村のように山々に囲まれて、幻想的な光景が見える不思議な場所なのだという。そして、そこで彼は武術を習い、そして武者修行のために旅立った。
その途中、遠い海で遭難し、ハルケギニアの海岸に流れ着いて、そしてまた旅をした。言葉もその過程で覚えてしまったのだという。そんな彼がこの村、いやこの遺跡にやってきたのは何かの運命だったのだろうか。
「……ん?」
と、男は何かに気が付いたように遺跡の入り口の方角に顔を向けた。何かが遺跡に入ってきたようだ。
少女もその男の様子で気が付いたのか、眉を顰めながらため息をついた。
「またなのね……」
「ああ……。だが少しだけ何時もと雰囲気が違うな。まあ、今回も追い返すだけだ」
「……なるべく、死なせないようにね」
「わかっている。じゃあ、何時もの頼む」
男が少女に背を向けると、少女は杖を取り出し詠唱を始める。そして彼の体に魔法を施すと、その体が仄かに光った。
そして男は己の拳同士をぶつけ、そして静かにゆっくりと握り締める。自分の体に力が宿るのが分かった。これが、彼の強さの秘訣であった。
男は仮面を被ると、少女の肩を軽く叩いた。
「よし、じゃあ行ってくる。お前はここで休んでいろよ。疲れただろ?」
「うん。足手まといになっても仕方ないからね。でも、離れたところで見ているわ」
「……わかった、でも絶対出てくるなよ?」
「うん」
「じゃあ行くぞ」
だが、その前に仮面を被っていた少女の言葉に男は仕方ないな、と頷くと背中を差し出した。
少女はくすっと笑うと、その背中に乗る。そして、まるで疾風のように駆けてゆき、二人は侵入者、アニエスとエレオノールを待ち構えた。
第29話
「アニエスッ!」
竜の仮面の男に吹き飛ばされ、離れた場所にぐったりとうつ伏せに倒れているアニエスにエレオノールが悲鳴を上げるように叫んだ。
だがアニエスは反応を示さず、ただ動かないままだった。
「ふん……。なるほど、少しは出来るようだなぁ」
男はアニエスにぶつけた拳を何度も握る仕草を見せながら、感心したように呟く。だがその低い声に感情は含まれておらず、余計に不気味さを増していた。
「女ぁ。さっさとあの娘を連れてここから立ち去れぃ。そしてアスレーテに伝えろ。
この場所は地竜の眠る土地。お前のような欲深き人間が立ち入って良い場所ではないとな」
「くっ……。貴方、こんなことをして本当に良いと思っているわけ? 貴方の目的はなんなの?」
「……聞こえなかったか? 俺は、お前に、立ち去れと言ったんだ」
エレオノールは冷や汗を掻きながらも男の勧告に臆することなく問いただそうとしたが、それに対し男は呆れたように首を横に振りながら、手のジェスチャーを混ぜて再びエレオノールに勧告した。
それがまた憎たらしく、エレオノールは悔しそうに歯を食いしばる。情けないことに、目の前の男に対し恐怖心を抱いていた。その証拠に口元が、足元が、全身が震えてしまう。
しかし、彼女はアニエスのため、ヴァリエールの矜持で何とかその場に留まっていた。エレオノールは震える口元を無理やり吊り上げ、笑みを浮かべた。
「悪いけど、ここまで関わっておいてただで帰るなんてできないのよ!」
それと同時にエレオノールは密かにスペルを完成させると、エアカッターを男に向けて放った。だが男はそれを予測していたかのように、いとも簡単に見えない空気の刃を避けると、エレオノールに向けて腕を伸ばした。
まるでオーガ鬼のような巨大な手が迫ってくる。エレオノールはそれを後ろに跳んで避けようとするが、それのほうが早く彼女の体を捕らえようとしていた。
その様子が、エレオノールにはまるで時間の進みが遅くなったかのようにゆっくりとした動きで見えていた。指がエレオノールの服に触れる。
もうダメだ、そう考えた瞬間だった。何処からとも無く、火薬が爆発した音が鳴り響いた。その音に男が反応し、すぐさま後方へと飛ぶ。すると側にあった岩に何か小さなものが貫いた。
そして続けざまに、先ほどまで倒れていたはずのアニエスが男に向かって切りかかった。男が二人から離れると、アニエスはエレオノールを庇うように立ち、男にハルバートを向ける。
「アニエス! あんたねぇ、起きているならそう言いなさい!」
言葉とは裏腹に安堵したような表情のエレオノールに対し、やはり痛みがあるのかアニエスは気だるそうに首を回しながら答えた。
「言ったら奇襲にはならないでしょうに。それに、少しだけ気絶していましたよ。全く、何と言う怪力だ」
と、簡単に答えてみたが、実際にはもう少しタイミングが狂えば彼女は危なかったかもしれない。そのことが分かっている彼女の心臓は強く鳴り響いていたし、手の震えも止められなかった。
だがアニエスはそれを隠すことなく、はっきり見せ付けながらも男を睨みつけていた。
『おい、俺っち無視するなって!』
そんなアニエスに投げ出され、少し離れた地面に上手く突き刺さっていたデルフが叫んだ。アニエスはデルフを一瞥すると、後ろにいるエレオノールに告げる。
「姉上はデルフのほうへ離れてください。この男は何とか私が相手します」
「何を言ってるのよ! 私も戦うわ!」
「戦ったところで足手まといです。お願いします、後ろに下がってください」
エレオノールはアニエスの言葉に食って掛かるが、アニエスは首を横に振り、彼女を後ろに下がらせようとした。
エレオノールはまだ不満そうな表情を浮かべていたが、ゆっくりと男のほうを向いたまま下がり、デルフの許へと走った。アニエスはハルバートを構えなおし、男がエレオノールを襲い掛からないよう警戒した。
男も手を何度かこねた後、見たことのない不思議な構えを見せた。軍が兵士に教えるような正規なものではなく、しかし隙の無い構えだった。
そうして対峙している二人は、お互い逆方向にじりじりと様子を伺いながら歩く。そして3歩、4歩、5歩と歩いた瞬間、アニエスが先に仕掛けた。
「はっ!」
強く踏み込み、ハルバートを男の腕目掛けて突き出した。男はそれに反応して避け、ハルバートの柄を掴もうとするが、その前にアニエスは引き戻す。そしてまた突き出す。
今度は後ろに下がった男を追うように、更にアニエスは体を捻るように飛び、回転しながらハルバートを振り下ろす。
空気を切る音を発て、凄まじい速度で振り下ろされたそれを、男は紙一重のところで避け、そして大きく息を吐きながら掌を突き出した。
アニエスは何とかそれを体を逸らして避け距離を取り、くるりとハルバートを肩で回して構えなおす。
巨体に似合わず素早い。そう思いながらアニエスは息を整えながら男と対峙した。そして再びアニエスが切りかかっていく。
「す、すごいわね……」
その二人の様子を、デルフを抜き抱えて物陰で見守っていたエレオノールは目を見開いてその様子を見ていた。
とても男の動きは並の人間のものではないが、それに対応しているアニエスもどうなのか。なるほど、下手なメイジであれば彼らにやられるわけだった。
『相棒は何とか避けてるみたいだな。だが、あの仮面野郎、まだ本気を出しちゃいねぇな』
「あれで本気じゃないって言うの!?」
『だってそうだろう? いままで傭兵達が敵いもしなかった奴だ。まだまだ実力は隠しているはずだろ』
デルフの言葉にエレオノールは不安そうにアニエスを見つめた。何か、何か自分に出来ることは無いのか。
だが、自分が持っているのはこの電撃が放てる杖だけだ。それも、刃を相手に当てなければいけない。魔法で援護しようにも下手に動けば自分が男の餌食になるかもしれない。そうすれば余計に危機に陥ってしまう。
歯がゆい状況に苛立ちつつ、エレオノールは何とかアニエスを助けられないかを模索した。
そのアニエスもまたデルフの言うとおり、目の前の男が本気を出していないのを感じていた。自分の実力を測っているのだろうか。だが、そんな彼へ無闇に攻める事も出来ない。
拳法を用いる者は全身が凶器のようなものだ。素早い動きにあの強靭な体。一発でも貰えばアニエスは無事に済まないだろう。
どうすれば勝てるか、アニエスは考える。だがその前に男が突っ込んできた。男は飛びかかりながら横に薙ぐように二回空中で蹴りかかる。
そしてそれを何とか避けたアニエスへ、更に着地して直ぐに飛び掛り、もう一段蹴りをお見舞いする。避けきれず、アニエスは柄で受け止めるが、その衝撃で後ろに吹き飛ばされた。
何とか着地し体勢を整えるが、男はアニエスにすぐさま近づいて、顔面目掛けて拳を突く。
アニエスは体を反らしながらそれを避け、続けざまに男を柄で制そうとする。しかし男はそのハルバートを掴むと、そのまま掌底で折ってしまった。
「なっ」
アニエスはすぐさま折れたハルバートを放す。そして胸の二本のナイフを抜き、一本は男に投げつけた。そして高く飛んで男から離れる。
男は折れたハルバートを投げ捨て、腕に刺さったナイフを無造作に捨てると再び構えだした。
ハルバートで多少は傷つけたというのに、先ほどのナイフの傷にも、まるで痛みさえもないような、そんな素振りを見せている。まさに化け物に相応しい相手だった。
「結構高いハルバートだったんだけどな……。弁償しろよ、貴様」
アニエスの憎まれ口にも男は全く反応を示さず、ただ彼女を見据えている。
アニエスは肩で息をしながら、男の姿をじっと見つめていた。ナイフ一本では彼のテリトリーに入って戦わなければいけない。
かといってデルフを回収しに行こうとすればエレオノールが標的になるかもしれないし、下手をすれば彼を奪われる可能性だってある。
ナイフでどうにかするしかない。幸い、先ほどまで戦って分かったことだが、動きが早くとも巨体な分大振りになりやすいようだから、そこを突くしかないだろう。
彼女は覚悟を決めて男に向かって走る。男は迎え撃つようにその場から一歩も動かないまま構えた。
アニエスは体を捻りながら跳ぶと、その勢いを使った後ろ回し蹴りで男をけん制し、そしてそのままナイフで切りかかる。わずかに掠めた刃は男の仮面に傷をつけた。
男は裏拳でアニエスの背中を狙うが、アニエスはそれを潜り抜け、男の顎目掛けて蹴り上げた。男は仰け反り、仮面がはがれる。そこから彼の素顔が露になった。
だがそれに終わらず、アニエスは更に彼を何度も拳とナイフで突いたが、男は一撃目を素早く避け、更に二撃目、三撃目を捌くと、隙だらけになったアニエスの腹に拳を入れた。
何とか身を引いて衝撃を和らげようとしたアニエスだったが、それでも彼女に十分なダメージを与えた。アニエスは後ずさりながら地面に倒れる。何度も咳き込みながらも立ち上がろうとするが、
まるで金槌か何かで叩かれたような衝撃が彼女の体を駆け巡り、上手く立ち上がることが出来ない。
そうしているうちに男がやってきて、アニエスの腹を軽く蹴り上げて仰向けにすると、その彼女を足で抑え付けた。
「美人な顔に傷は付けたくないんだが、悪いな。この顔を見られたら、ただじゃ帰せないんだ」
「げほっ……美人か、初めて言われたよ」
「そうかぃ」
そして左腕を振り上げる。アニエスは朦朧とする意識で男の顔を見た。まるで銀のような輝きを見せる髪に、そして左右の色が違う言わば月目。そして、戦いに喜びを見出したような笑み。
とても、印象的な顔だった。本当に、化け物のような男だ。だがそんな男の腕に何かが絡まり、彼の動きを制止した。
「させはしないわ!」
「あ、姉上ッ!」
それは少しにごった色のした水の鞭だった。その鞭が伸びる先でエレオノールが体勢を低くし、杖をしっかり持って踏ん張っている。
彼女は水溜りを見つけ,それを媒体に水の鞭を作り上げたのだ。父親譲りのそれは常人であれば身動きすら出来ないだろう。
だが、男は鬱陶しそうな表情をしていたが、慌てている様子は全く無かった。
「チッ!」
男は絡まった腕を思い切り振り払う。水の鞭を逆に利用し、エレオノールを振り払おうとしているのだ。
体重の軽い彼女ではいとも簡単に浮かび上がってしまう。しかし、彼女は歯を食いしばり、悲鳴を上げるのを我慢して杖を握り締め、精神力を杖に流し込んだ。
「何、があああ!?」
「ぐあ!? くっ……うおおお!」
水の鞭に電撃が走り、それが男へと伝わって彼の体を襲い掛かった。男は全身を痺れさせ、体を仰け反らせながら悲鳴を上げた。
その電撃がアニエスにも伝り、彼女も軽く痺れてしまったが、拘束が取れたのを切欠に抜け出し、宙を飛ぶエレオノールの許に走った。
そして地面を滑りながら彼女の体を受け止めた。だが勢いを殺せず、そのまま岩にぶつかる。
「あいだッ!」
「きゃあ! くぅぅ……」
「あいてて……大丈夫ですか、姉上」
「ええ、ありがとう、アニエス」
二人は軽く悲鳴を上げつつ、ゆっくりと立ち上がった。すでにエレオノールの電撃は止んでいて、男は地面に拳を打ちたてながら、肩で息をして動かずにいる。
アニエスはエレオノールを連れながらデルフの許へと歩み、そして彼を抜いた。男が動く様子は無い。アニエスはデルフを構えながら、ホルスターから銃を取り出した。
『流石にあの電撃にゃあ大分応えているみたいだな』
「ああ、だが気絶しないのは流石というべきか……」
アニエスは装填をしながら銃を構え、ゆっくりと男に近づく。エレオノールもその後ろをゆっくりと付いていった。
男はじろり、とアニエスをその月目で睨みつけてくるが、どうやらそれ以上は動けないようだ。
体を動かそうにも、まだ痺れが残り、上手く動かせないでいる。それを確認して、アニエスは彼に問いかけた。
「さあ、チェックメイトだ。お前が何者か、何故ここに来たものを襲い掛かるのか。何が目的なのか。全てを話してもらうぞ」
だがアニエスの脅しにも屈することなく、男はただ睨みつけているだけだった。抵抗はもう出来ないが、言いなりになるのはごめんだ。そういう覚悟を決めた顔である。
「撃てよ、筋肉女」
「ぐっ、人が気にしていることを……。だがな、我々は……うおッ!?」
男の挑発にアニエスは眉間に皺を寄せて眉を顰めながらも、自分たちの正体を明かそうとした。そうすれば少しは話が通じるだろうと。
だがその前に彼女の銃が何者かの水の鞭によって絡めとられる。
銃は一気に宙へと舞い上がり、彼女はそれにつられるように体勢を崩してしまった。それを見計らって、男はアニエスの懐に飛び込み、デルフを掌底で吹き飛ばした。そして更に拳を突き出す。
アニエスはそれを何とか捌き、顔面目掛けて掌底を繰り出そうとするが、男はその腕を掴み取り、そして地面に叩き伏せた。
「うおわッ!」
「アニエスッ! わ、きゃあ!」
「姉上ッ!」
エレオノールはすぐさま詠唱を始めようとするが、その前に何かに背中からのしかかられ、強い力で抑えつけられた。その拍子で胸のブローチが外れ、地面に転がった。
地面に押さえつけられているアニエスがググッと何とか体を動かして彼女を見ると、エレオノールの上には髑髏の仮面を被った小さな人間がのしかかり、彼女の腕を拘束している。杖も彼女が奪い取っているようだ。
格好から見て幼い少女なのだろうか。先ほどの素早い動きの鞭は彼女が生み出したのだろうか。ともかく、二人目がいるとは完全に油断していた。アニエスは歯を食いしばりながら、何とか拘束を逃れようと暴れてみる。
だが少女はエレオノールが落とした魔除けのブローチをじっと見つめていた。
「うおおッ!」
「待って!」
と、男がアニエスに向けて拳を振り上げた瞬間、少女が大声で叫んで制した。その声は容姿に見合った幼い少女というよりも、少し高めの成熟した女性のものにも聞こえる。
少女はふらりとエレオノールの背中から立ち上がると、そのブローチを手に取った。
「い、今のうちに……!」
「待ってください!」
エレオノールは呆然とその様子を見ていたが、はっと慌てて立ち上がり、呆然としている少女から杖を取り戻そうとしたが、その前に彼女が呼び止める。
そして、その一回り大きなエレオノールに対し、背伸びをしながらブローチを見せつけて言った。
「これはどこで手に入れたのですか?」
「何処って……なんで」
「いいですから、早く!」
「……もらったのよ。ド・マルタンの長男リュシアン殿から」
少女の思いもよらない覇気に、エレオノールは戸惑ったような表情で答えた。
「リュシアン、から?」
少女は何か心苦しそうな声でその名を反芻した。その様子に戸惑いながらも、エレオノールは説明を続けた。
「そうよ。私たちはオーク鬼に襲われていた彼の母と妹さんを助けて、それを切欠に色々と聞かせてもらったわ。
オリヴィエ殿が地竜に襲われたとき、それを助けて彼の父サイラス殿が負傷されたこと。ここに悪魔が住んでいるっていうことも。
そして、サイラス殿は責任を感じ、その悪魔を退治しようとしているけど、傷が癒えずにいること。沢山聞いたわ」
「……そうですか。父が、そんなことを……」
「おい、真に受けるな!」
何かを呟く少女に対し、男が叫ぶ。だが彼女は首を横に振って言った。
「大丈夫、この人は嘘を言ってないわ。ううん、嘘をつけない人、だと思う」
「ぐっ……。それは私を馬鹿正直って言いたいのかしら?」
少女の言葉に口元をゆがませながらエレオノールが眉を顰めた。強情をはれるような状況ではないが、何とかここはそういう態度を取り、彼女たちに圧し負けないようにする。
少女は軽く頭を下げつつ、エレオノールに再び尋ねた。
「ここに来た訳はなんですか?」
「……その前に妹を解放してちょうだい」
「それはできません。このブローチの件はとりあえず納得しましたが、事情を話してもらえない限りはこちらとしても譲歩する事は出来ません」
「……風石を取りに来たのよ。ここでは良質な風石が取れるって聞いたから。後、ここの様子を見てきて欲しいって友人に頼まれたの」
「そのご友人のお名前は?」
「……アンダルシア。アンダルシア・ド・スカーレット」
その名を聞いた瞬間、仮面の奥の少女の目が見開かれた。その様子にその場にいた全員は不審そうに彼女を見つめていたが、不意に彼女が仮面をはずそうとして、慌てて男が駆け寄った。
拘束をはずされ、アニエスはゆっくりと立ち上がる。拘束されていた体が酷く痛み、ふらついてしまうが、その体をエレオノールが支えてくれた。
「おいッ!」
「大丈夫よ。貴女は、もしかしてエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール殿ですか?」
「そ、そうだけど……」
「そうですか。アンダルシアに聞いたとおり、正直で真直ぐな方ですね。お初にお目にかかります」
そう言って少女は仮面をはずした。長い茶色の髪が流れ、そしてあどけない少女の顔が露になった。その顔は、どこかで見たことがあった。
「私、パスカル・マドレーヌと申します」
「パスカル……ってえぇぇぇ!? も、もしかしてド・マルタンの長女って……」
「はい、私です。と言っても、もう勘当された身なので、マルタンの名は名乗れませんが」
と、少女パスカルは優しい笑顔で驚くエレオノールに答えた。だが、それでエレオノールが平静に戻る事はない。離れて見ていたアニエスも驚きを隠せなかった。
だが言われて見れば、確かに彼女はド・マルタンの次女ジジにそっくりだった。幾分大人びた雰囲気はあるが。
実はパスカルと言う、ド・マルタン家の長女についてはアンダルシアから聞いていたが、そのイメージとはかけ離れていた。大人しい人ではあるが、芯はしっかりとしていて、強い女性だと。
そして、アンダルシアの話ではパスカルと言う女性は今年で30歳を迎えるはずだ。しかし、目の前に居る少女はエレオノール、いやアニエスの半分も生きていないのではないかと言うぐらいに幼い容姿をしている。
身長に至っては近くに立っている男の腰ぐらいしかない。と、そこでアニエスはある一つの言葉を思い出した。
―――少し発達に難がありますが、水魔法に関しては素晴らしい力を持っていました。
「ああ、そうか! 発達に難があるって、こういうことだったのか」
「はい。私の体は幼い頃からずっとこのままです。アンダルシアさんには、それについて診ていただきました」
「な、なるほど……」
エレオノールは苦笑しながら、納得したように頷いた、ように見せかけてまた再び叫んだ。
「って、その勘当されて行方不明になったお嬢様がなんでここにいるわけ!?」
「話せば長くなるんですけれど……。あ、それと彼は私のこ……パートナーのチアン君です」
「……」
パスカルに紹介された竜の仮面の男はそっぽを向いた。そんな彼にエレオノールは不審そうに見つめながら言った。
「チアン? 変な名前ね。それに何よその月眼に白髪、狙ってるの?」
「うるせぇぞ、この女男! 俺の故郷ではな、この名前は強いって意味なんだよ! 白髪は親父譲りで月眼はお袋譲りだ! 文句あるか、ああッ?」
「お、お、女男ですって!? 私は女よ! なんでアニエスは女扱いで私が男なのよ! おかしいじゃないのよ!」
「うるせぇ! その平たい胸はどう見たって男ブベラッ!?」
まさに売り言葉に買い言葉という具合になった時、パスカルが軽くジャンプしてチアンの頬を引っ叩いた。その動きはとても素早く、まるで不健康そうなところなど感じさせない。
光景としては妙なものだが、相当痛いようで、チアンは先ほどまでの威勢をなくして、涙眼になりながら頬を押さえていた。
「チアン君! 女性に対して胸の事とか容姿の事を悪く言うのは侮辱ですよ!」
「ぐっ……だってよ……たく、何で俺だけ……」
「ごめんなさい、チアン君は本当は良い人なんですけど、不器用なんです。ただ、月眼の事とかも本人も気にしていることなので、あまり言ってあげないでくださいね」
「ああ、うん、私こそごめんなさい……。ちょっと展開についていけなくて苛立って、つい」
まるで掌を返したかのような展開にもはや付いていけず、呆れた表情でアニエスとエレオノールはお互いの顔を見合わせながら肩を竦めていた。
チアンを見張りとしてあの場に残し、二人はパスカルに連れられて彼らの居住地に辿り着いていた。
差し出された椅子に座り、アニエスとエレオノールはぽつんとパスカルを待っていた。どこからともなくピィィと高い音が響き渡ってくる。
「お待たせしました、山で取れたハーブで作ったお茶です。お口に合うかどうか分かりませんが……」
「い、いえ、お構いなく……」
パスカルはマジックアイテムで沸かしたお湯でハーブティーを作ると、二人に手渡した。アニエスは戸惑ったように遠慮しながらそのカップを受け取る。一方エレオノールは不審そうにそのカップを見つめていた。
そんな彼女たちにパスカルは優しく微笑みながら言った。
「大丈夫、毒は入っていません。アンダルシアやリュシアンのお知り合いにそのような真似などもってのほかですから」
「さっきと態度が全く違うのもそういうこと?」
「はい。正直、この魔除けのブローチが無ければ過ちを犯すところでした。ご先祖様に感謝せねばなりませんね」
「……もしあの時、このブローチが外れていなければ?」
「申し訳ないですけれど、腕を一本折っていたかもしれません」
少女は苦笑しながら、そのブローチを眺めていた。確かにこのブローチのお陰でアニエス達はパスカル達と話を交わすことが出来たのだろう。
もし無ければと思うとぞっとし、エレオノールは体を震わせていた。あのチアンと言う男も恐ろしいが、こんなことをサラッと言うパスカルのほうが実は恐ろしいのではないのだろうか。
「そ、それで? 貴女達の目的って何なのよ?」
エレオノールは気を取り直してパスカルに尋ねた。だがその声も何処か上擦ってしまっている。
パスカルは少し考え込んだ後、はっきりとした口調で言った。
「私たちの目的は打倒アスレーテと地竜様復活です」
「えっと、地竜様復活は良いとして。ミスタ・アスレーテの打倒は何故ですか?」
「彼はどうやら、あのレコン・キスタに加担しているようなんです」
「何ですって?」
突然露になった事実に、二人は驚きを隠せなかった。だが、パスカルはその事実を淡々と説明し続けた。
「彼はここで採れる風石をレコン・キスタへ横流しにしているようです。そこから得た資金を村の拡張に使用しているようですが……。
確かに村は大きくなりました。けれど、王家に仇名すレコン・キスタに加担する行為は許されることではありません」
「それは、そうだけれど……。その情報をどうやって知ったの?」
「……2年前。当時アルビオンで旅をしていた私とチアン君の許に、オリヴィエが土地神様に襲われて亡くなったという報せが届きました。
勘当された身ではありますが、血を分けた弟の死を無視できることが出来ず、私たちはこっそり村へと里帰りしました」
「あの、その前に申し訳ない。どうしてパスカル殿はサイラス殿に勘当されていたのですか?」
「……それは、私があの人、チアン君に恋をしたからです」
「恋!?」
また出てきた衝撃の事実にエレオノールは素っ頓狂な叫び声を挙げてしまった。平民と貴族の間での恋など夢物語も甚だしいのだ。
アニエスも驚きを隠せず、目を見開いてパスカルを見つめていた。
そんな二人に、パスカルは少し恥ずかしそうにしながら語り始めた。
「出会ったのは4年前」
彼女の話では、この地にやってきたとき、チアンは地竜をいきなり襲い掛かったらしい。
血だらけになった彼をパスカルが見つけた時は慌てたものだった。彼はこの地を荒らす悪い竜だと勘違いしたらしい。
「こんなでかい竜がいたら、麓の村でも襲いにいくのかと思ったぜ」
冷静な地竜に返り討ちにあった彼を治療し、その誤解も解けて、パスカルとチアンはそれを切欠に暫くの間心を通わせた。
結果的に地竜を襲ってしまった彼は村に行くことを拒み、遺跡の片隅で家を作って、そこに住み込んでしまった。
そんな彼の許にパスカルはこっそりと会いに行って、彼の旅の話をねだった。閉鎖的な村で育った彼女はその人生に疑問など感じていなかったが、アンダルシアの事もあり、外の事には興味を持っていた。
だからこそ、チアンの話は彼女にとって刺激的過ぎたのかもしれない。
「私も、貴方のようになれたらいいのに。まるで自由に旅する渡り鳥みたいに」
何時の日か、彼女は恋に落ちた。1年後、また旅に出るという彼についていきたいと考えるまでになった。
それがどれだけ自分の立場から考えれば無責任かは分かっていた。自分の歳を考えると、それがどれだけ子供染みたことなのかも。全ては分かっていた。だがそれでも彼女は彼と共に外の世界を見ることを願った。
そんなパスカルに対し、チアンは始め反対したが、ついにその熱意に負け、親に話して賛成ならばと許してくれた。今から二つ日が昇ったら出て行くと。その日までに賛成を貰えたら一緒に行こうといってくれた。
歓喜したパスカルは今まで秘密にしてきた彼を家族に打ち明け、家を出て行くことを告げた。
もちろん彼女には自分の名を捨てるだけの覚悟もあった。だが、やはりというべきか、家族はみな反対した。
特に激怒した父親からは体罰を受け、部屋に閉じ込められた。あんなに怒った父ははじめて見た。
パスカルは失意に陥り、部屋の中でじっとしているしか出来なかった。杖も取り上げられてはメイジも無力だ。
だが、その彼女を助けてくれたのは弟オリヴィエだった。ただ一人、彼女と同じ想いを持っていたオリヴィエは心の中で彼女に賛成をしていた。
だが、何も言う事はできなかった。叩かれ、部屋に放り投げられる彼女をただ見つめる事しか出来なかった。
その何も出来なかったことへの罪滅ぼしに、オリヴィエは彼女を解放しに来たのだった。ドアを開錠し、旅立つチアンまでの道のりを示してくれた。
オリヴィエはチアンにパスカルの事を頼むと、家に戻っていった。そんな彼にパスカルは大粒の涙を流しながら何度もありがとうと呟き、彼の想いに感謝した。
その後は旅の途中でド・マルタンの者に見つかり、正式にパスカルが勘当されたことを伝えられたのだという。だが、パスカルは後悔をしていなかった。
「それから私たちは色々な場所を旅しました」
何とも一見すればロマンチックな話ではあるが、貴族としての、いや村を守る一族の立場を考えればパスカルの行為は全く褒められたものではない。
だが、考えればヴァリエール家とて、自分たちの都合でアニエスという平民を家族として迎え入れている。その差がどこにあるのだろうか。そう思うと、自分たちからは何も言えなかった。
「身勝手なことだとは重々承知しています。ただ、それだけ彼との恋は本気だった。全てを投げ出してでも、私は彼について行きたかったのです」
「……まあ、本当に身勝手だわね」
エレオノールは呆れを含んだ言葉を投げかけた。それは自分に対してもぶつけているのだが。そうとも知らず、パスカルも仕方ないという風に静かにうなづいた。どうやら彼女の意思は強いようだ。
見た目に似合わず相当頑固らしい。自分の決めたことは絶対曲げない主義のようだ。なんと言うか、エレオノールには、境遇は違うが何処か自分に似ているような気がした。
「はい、わかってます。理解されるようなことでもないことも」
「……まあ、人の恋沙汰に口出すような立場じゃないから、それ以上は言わないわ。私だって……まあある意味、似たような立場だし。それで、あなたがつかんだ情報って?」
「里帰りをした、までは話してもらいましたが」
「はい。里帰りをして、オリヴィエの墓にお参りしました。本当はそれですぐに帰るつもりだったんです。家族に見つかっても厄介になるだけですし……。
でも、暴れた原因はオリヴィエにあるんじゃないかって話を聞いて驚いたんです。彼はそんなことをする子じゃないのに」
「オリヴィエ殿は、どのような方なのですか? 彼は地竜退治に前向きだったと聞きましたけど」
「彼は、皆が言うほど乱暴者ではありません。ただ、この閉鎖的な村で生まれて、そして死んでいく自分の運命が嫌で反発していただけ。
でも親に正面から反発する勇気がなかった。本当に運命を呪っていて、都会に憧れているのなら、家を出て行けばいいだけなのに。
ただふんぞり返って、それだけで満足していただけだった。地竜を退治するべきだって言ったのも、その反発心なだけだったって。
ただ俺は親父に反発したかっただけなんだって、そうあの子は私を逃がしてくれた時に告白してくれました。
私を逃がす事である意味、あの子が解放されるのと同じだったのかもしれません」
アニエスは軽く唸りながら、パスカルの話に耳を傾ける。どうやら、話を聞く限りではオリヴィエも悪い人間ではないようだが。
「去り際にあの子は言っていました。俺が姉さんの代わりになると。俺は、この村をずっと守っていくよと。だから何時でも帰ってきてくれって。
……嬉しかった。それと同時に、とても申し訳ない気持ちになりました。私の身勝手でこの子にこんな思いをさせてしまった。だけどその気持ちを無駄にはしたくなかった」
「……よい弟様をお持ちになられましたね」
アニエスが優しく微笑みながらそう言うと、パスカルは少し涙を浮かべ、それを拭いながら頷いた。感慨深いものがあったのだろうか。
「はい、自慢の弟です。だから、そんなあの子が地竜様に対して何かをするなんて考えられなかった。私は真相が知りたかった。もしかしたら、弟を利用した人間がいるんじゃないかって」
「それで、アスレーテに眼が行った」
「始めは半信半疑でしたけれど、調べていくうちに彼の過去が明らかになりました。普段は謙り、ただの小心者を装っていても、元々は没落した貴族の出で、家の復興を望んでいた野心家であった事。
そして彼の背後にはレコン・キスタがいること。一年間かけて調べ上げました。しかし、どれも彼を糾弾するには証拠としては薄いですし、私は貴族の名を捨てた身。
それを伝えようとも、父ともアンダルシアとも会うことも出来ませんでした」
「それは、彼や彼女が会うことを拒んだ?」
「……いえ、私自身が会うのが怖かったんです。今更どういう顔で会えばいいか分からなかったですし……。
そこで彼、チアン君が私に気を遣って提案してくれました。俺たちが地竜の代わりをしてやろう。
お前が地竜を治して、俺が遺跡に侵入してくる人間を打ち倒す。そうすれば、風石の採掘を止める事ができるって。
そして暫くすればアスレーテのほうから尻尾を出してくる。もし尻尾を出さなくても、お前の力なら地竜を治療することができるはずさ。そうしたら、あいつが真実を明かしてくれるはずさって」
パスカルはぐるぐるとカップを弄りながら、ぽつぽつと告白する。二人はハーブティーを飲むこともやめ、その話に耳を傾けていた。
「……上手くいく保証なんてありませんでした。ですが、私たちに出来ることといえばこのぐらいしかない。私は彼の提案に乗ることにしました。
しかし一年、私は地竜様の治療を完了させることが出来ず、ただ時間だけが過ぎていった。本当ならば、もっと早く誰かに頼るべきだったのかもしれない。
でも、それができなかった。……もしかしたら、その時間を過ごすことだけに満足していただけなんじゃないかって思い始めました」
「……そうね、貴女はもう少し他人を頼ることを考えたほうが良かったはず。でも、貴女は彼を信頼しすぎた。だから、彼が何とかしてくれると思っていた。
それは彼に寄りかかっている自分に酔っているだけよ」
虚しそうな表情を浮かべ、パスカルはため息をついた。それに対し、エレオノールは冷淡に指摘した。その言葉はさすがに冷たすぎるのではないかと、アニエスは諌めようとする。
「姉上」
「いえ、アニエスさん。エレオノールさんの言うとおりです。私は彼を今まで励ましてきましたが、それは結局、私への罪の意識を和らげるためのものだったんです。
彼に向けていたのではなく、ただ自分に向けていた。私は、卑怯者です」
「そこまで言わなくとも……。あの、ごめんなさい。私のほうが少し言い過ぎたわ」
「ううん、いいんです。貴女のように指摘してくれる方がいなければ、私はずっとその事実から逃げているだけだったかもしれない。本当にこの出会いを感謝せねばなりませんね」
ランプの光がゆらりと揺れる。それと同時に、また湯沸しアイテムがピィィと高い音を鳴らした。おもむろにパスカルは立ち上がり、苦笑しながら言った。
「ハーブティー、冷めちゃいましたね。今入れなおしますよ」
「さっきも鳴ってたけど、お湯が沸いたら音が鳴るマジックアイテムねぇ。なかなか便利じゃないの」
「ガリアに行った時に偶然手に入れたんです。とても便利なアイテムですよ」
パスカルはエレオノールとアニエスからカップを受け取ると、それを持って湯沸しのほうへと歩いていった。その背中を見つめながら、アニエスは呟いた。
「すごく強い方ですね。それに、あんなにすぐ自分の非を認められるなんて」
「外見は子供でも、内面は大人なんでしょうね。色々と歯がゆいことがあるけれど、なかなか頼れる人もいない。……父親と顔を合わせられないのだって、気持ちは分かるわ。
そんな状況でただひとつの事を信じ続けることなんて、相当タフじゃないと出来ないことだわ。そこは、認めてあげるべきね。あのチアンって奴も同じ思いなんでしょう」
「……何とか力になってあげられませんかね」
「そうね。これ以上彼女たちもこの生活を続けていたら、さすがに参ってしまうでしょうからね。せめてその地竜が暴れた原因なんかがわかればいいんでしょうけど……」
「はい、お茶が入りました。どうぞ」
と、そんな相談をしている二人のもとにパスカルはお茶を持って戻ってきた。アニエスとエレオノールは再びカップを受け取り、それを口づける。
「ありがとうございます」
「ありがとう……って、あ、ごめんなさい。そういえば貴女のほうが年上だって事、今まですっかり忘れてしまっていましたわ」
「気になさらないでください。私、こんな外見ですし、エレオノールさんのほうが大人っぽいですから。3歳の差なんて、余り関係ないですよ」
「そうかしら? じゃあお言葉に甘えて。……うん、美味しいわ」
香りは強いが、なかなか良い味のするハーブティーだ。不思議と力みなぎってくる気がする。
「ふふ、ありがとうございます。それはメイジにとって相性の良いハーブで、精神力を補ってくれる、らしいですよ」
「へぇ」
「と言っても、アンダルシアさんから聞いた話ですから、詳しいところは分かりませんが」
エレオノールはその話にへぇ、と感心しながらお茶を口に含んだ。アニエスもカップを少し遊ばせながら、口に含ませる。
そして、暫く沈黙が続いた後、アニエスのお茶が半分になった時、彼女は話を切り出した。
「あの、よければ地竜様のところへ連れて行ってくれませんか? 私は何も出来ませんが、姉上ならばなにかわかるかもしれませんので」
「私の妹が病気がちで、そのために医療の事で研究をしていたことがあったわ。専門のアンダルシアほどではないけれど、少しは分かると思うわよ」
エレオノールの言葉にパスカルは少しばかり考え込むと、大きく頷き、彼女たちに対し深々と頭を下げながら言った。
「……わかりました。こちらからも、いえむしろ私のほうからよろしくお願いいたします。この問題はもはや、私たち二人ではどうすることもできません。どうか、地竜様を診ていただけませんか?」
「ええ、任せて頂戴。頼れるお姉さんの力、見せてあげるわよ。……ところで」
「はい?」
と、エレオノールはどうしても気になっていることがあり、不意にパスカルに尋ねた。彼女は机の上に置かれている仮面を指差しながら言った。
「……なんで、髑髏なの?」
「ああ、あれですか?」
「うん」
「ああ、私も気になりました」
「だって」
「だって?」
「可愛いじゃないですか!」
「何処がよ!」
「あ、意外とぴったり」
「あんたも被ってるんじゃない!」
と、何処かセンスがずれているパスカルと変なところで能天気なアニエスであった。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
「じぃぃ……」
「ん、んだよ。何見つめてやがるんだ」
「……はぁ。せめてこんな筋肉だるまじゃなきゃ、月目でも白髪でもモテてたかもしれないのに。勿体無い」
「う、うるせぇんだよ! この強靭な体があってこその強さじゃないか!」
「そうですよ、この筋肉がいいんじゃないですか!」
「パスカル……」
「うわ、このバカップル、やっぱり何処かずれてる。何で私の周りは変人ばっかりなのよ……。うん、私まとも。きっとまともだわ!」
「(姉上も対外だと思うがなぁ……)」
オリキャラ祭り、お許しください!
パスカルのモチーフはドロヘドロの恵比寿です。そしてきっとこのメンバーで一番まともなのはチアン君。まともじゃないのはパスカル。
最近のめだかボックスを見て、愕然としたのは内緒。うん、12歳若いし。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------
乙です
こんな変な趣味の女の人って…
イイ!
まさかのロリバ、お姉さんか。まさに美女と野獣か?
今回も危ない戦いだったな。この話のアニエスはそんなに強くないのね。
乙でした。ロリバ、大いに結構。
なあに、マリコルヌだって彼女ができたんだからノーマルなほうさ。
それに、更新を途絶えさせずに毎回これだけの質と量を維持できる作者さんの技量には感服しています。
虚無と銃士の人、規制のようです
3ヶ月て
なので代理投下します
265 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/08/08(日) 21:36:59 ID:LY6d6zCk0 [1/4]
番外編投稿しようと思ったら、がっだめ・・・・・・・規制・・巻き添え・・・・!
今度は3ヶ月コースだそうです。はぁ……。
というわけで、またこちらにお世話になりたいと思います。
今回は番外編を投稿したいと思います。本編はもう少しばかりお待ちをば。
はぁい、こんばんわ。いやぁ、暑いわね。ちょっと眠れないのよ。少しだけお話に付き合ってくれないかしら?
そう。ありがとう。では、あるお話を一つ。これはあの子から聞いた話なんだけれど。
ええっと、これは王都での話。そう、王都トリスタニア。
その貧民街の一角にある廃虚となった教会でのお話よ。そこには心優しい修道女が、たった一人住んでいたと言われていたわ。
とある貴族の少女。まあ仮にフランと名づけるとしましょうか。彼女は幼少の頃、ある理由でよく平民と一緒に暮らすことが多かったの。
だから、彼女は平民の遊びをよく知っているわ。かくれんぼという遊びがあるのを貴方はご存知?知らない?そう。
かくれんぼっていうのはね、それは単純明快な遊びなの。誰か一人が鬼という役になって、隠れている友達を見つける。それだけの遊び。
そのかくれんぼで、彼女は不思議な体験をしたの。
ある日、その日も平民の友達と集まってフランはかくれんぼをすることになったわ。
でもその日は見慣れない男の子がいた。少し服装がぼろぼろで、ちょっと痩せこけているようだったわ。あまり健康そうじゃないわね。
その子供はかくれんぼで遊びたいと言って来たの。格好は気になるけど、別に怪しい子じゃないみたいだから、フラン達は仲間に入れてあげたわ。
鬼になったフランは十秒数えてから、隠れている友達を探した。樽の中、物陰の中。木の枝の上。
彼女はどんどん友達を見つけていく。でも、さっきの子供だけはどうしても見つからなかった。
どう探しても見つからないものだから、フランは友達にも手伝ってもらって色々と探し回ったの。それでも見つからなかった。
でもはじめの集合場所に戻ると、そこにはさっきの子供が佇んでいたわ。フランはその子に尋ねた。
――何処へ行っていたの? すごく探したんだよ?
すると男の子はこう寂しそうに叫んで、その場から逃げるように走り去っていったわ。
――どうして見つけてくれなかったんだ。僕"たち"はずっと待っていたのに
それ以降、その子が遊び場に現れることは無かった。それどころか、町の人々に聞いてもそんな子供見たことがないって言うのよ。
フランは気味悪がって、自分の思い出の中にしまい込んだわ。
でも、5年の月日が経ったある日のことよ。
フランは、彼女の友達……えっとどうしようかしらね。まあいいわ、適当にキュルコとでもしておきましょう。え、なんか適当すぎるって? いいのよ別に。
キュルコの付き添いで、彼女のもう一人の友達。えっと、彼女はどうしようかな……シャルロットがしっくり来るかしら。え? いや、何となくよ。
その二人と一緒に、王都へ行く機会があったの。その時、偶然再会した昔の友達から、ある噂を聞くことになるわ。
どんな噂か?それはね。五年前に出会った少年と同じことを言う子供が、かくれんぼをしていると現れるという噂よ。
単なる噂に聞こえるけれど、実際に体験した子供がいるの。その昔の友達の弟がそうよ。でもその弟が見たのは女の子。
やっぱり服装とかは貧相だったみたいだけれど、フランや昔の友達が見た子供とは別の子だった。
そう言うことが何度かあって、ついに町の子供の一人がかくれんぼをする振りをして、その不思議な子供を追いかけてみたの。でもその子供は思いのほか足が速くて、すぐに姿を消しちゃう。
そう、まるでその子なんて初めからいなかったかのように。
でもついにはその子が消えた場所がわかったの。それが、さっき言った廃虚となった教会なのね。
でもやっぱり隠れた場所までは分からなかった。そしてやっぱりはじめの場所にその子供は立っていたわ。そしてその子は言った。
――もう少しだね
って。
不思議に思ったフラン達はその教会に行ってみることにしたわ。やっぱり真相がわからないままだと気持ち悪いからね。
3人がその教会にやってくると、そこには焼け落ちた教会があった。どうやら火事があってそうなったらしいけれど、そのままずっと放置されていたらしいわ。
彼女たちはその教会を二手に分かれて調べることにしたわ。フランとキュルコは焼け落ちた教会の中を。シャルロットは外を探していたわ。
でも人らしい気配なんてなかった。それもそうよね。この辺りには人が住んでいないし、教会に住んでいた修道女は火事で亡くなったって話だもの。
でもそんな時にね、シャルロットに声を掛けてくる子供がいたの。その子は言ったわ。
――ねぇ、かくれんぼをしよう。お姉ちゃんが鬼ね
って。そう、まるで始めからそこに居たかのようにね。勿論、さっきまで教会の周りには誰もいなかったのに、突然その子は現れたの。
どう考えても怪しい子だった。でもシャルロットはその子供に頷いたの。そして手を顔に押し付けて、いーち、にーい、さーん、と小さな声で数えてあげた。
そして、十まで数えて、もういいかい? っと辺りに問いかけたわ。すると、もういいよ、って返事が返ってきた。それも、すごく近くから。
彼女は教会の残骸の下にある扉を見つけた。それは誰にも気が付かれることが無いぐらいに小さな扉。子供一人ぐらいが通れればいいぐらいね。
彼女はその扉を開いて、中に入っていったの。すると、そこには何十人もの白骨死体があったの。大きさは違うけれど、どれも子供のものだったわ。
シャルロットは言った。みぃつけた。すると、その死体しかない部屋から、
――やっと見つけてくれた
って声が返ってきたの。それはさっきの子供の声でもあったし、他の子供たちの声でもあったわ。
そう、フランや町の子供たちが見たのは、ここで見つけられることが無かった子供たちの霊だったのね。ここに閉じ込められていた彼らは誰かに見つけて欲しかったのよ。
ん?とりあえずは良い話じゃないですかって? あんたねぇ、まだこの話には続きがあるのよ。
そもそも、何でその子供達はそんなところにいたのか。疑問に思わない?
シャルロットはね、亡くなった子供達に祈りを捧げた後、天井に何か変な穴を見つけたの。何かを覗き込むような穴だった。
その穴を彼女が覗き込むと、まるでこちらを監視するかのような目が写りこんだ。血走っていて、とても恐ろしい目だった。
シャルロットは驚いて、慌てて地上に戻ったわ。そして、フランとキュルコに、穴を覗き込んだか、と聞いたの。
でも、二人はきょとんとした表情で、穴って何?と聞き返したわ。それもそのはず、彼女たちは穴なんて見つけてないのだから。
瓦礫をどかしてみると、確かに床には覗き穴があったわ。でも、フラン達はその場から離れていないから、別の誰かが覗き込んだわけじゃない。
じゃあ、シャルロットが見たその眼は一体誰のだったのかしらね?
「っというわけで以上終わり。まあ、こんなの非現実的だと思うけど。カトレアはどう思う?」
「どどど、どう思うって、べ、べべ別にどうも思っていませんわ、うふ、うふふ!」
「ふうん」
「……」
「ふふん」
「な、何ですか」
「じゃあもう一話。次はねー『見守る剣』という話だけれどー」
「ごめんなさい、姉様のケーキ食べた事は謝りますから、お願いですからもうやめて。私怖い話とかダメなんです、お願いしますから!」
「アニエスから沢山聞いたからね、怪談なら私に任せろー!」
「やめて!」
「まあそれは冗談として、ふぁあ……眠くなってきたわねぇ。それじゃ、私は満足したから、帰るとするわ」
「うわぁ、こちらの眠気を奪って去るとは、なんて身勝手なのでしょうか。ああ、何時から姉様はこんなに意地悪な方に……」
「何時からだったかしら? ああ、そうそう。カトレア」
「な、何でしょうか?」
「この話を聞いた人はね、その夜、絶対に夢で見るそうよ?」
「……何を?」
「眼」
「……はっ?」
「それじゃあ、おやすみなさい」
「あ、ちょ、姉様、姉様ぁぁ!
――バタン。
268 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/08/08(日) 21:41:27 ID:LY6d6zCk0 [4/4]
というわけで、一人称の練習もかねて書いてみました。前回感想して下さった方、ありがとございます!
本編とは余り関係ないです。暑い夜に、少しでも涼しげな空気を渡せられたらいいなぁ…。
以上で代理終わりです
いい話でも最後に何かあると怖くなるもんですねぇ
いや、マジで怖いって
銃士の人も代理の人も乙
しかし、以前聞いた人もいたけど、このスレ、銃士の人しかおらんの?
武器屋の人とかどうしたんだろ?心配だわ
もしギーシュのわるきゅーれが露理だったら?
銃士さん&代理さん乙です
夏だねー。そしてカトレアさんw食べちゃったのかww
他の書き手さん達の行方は自分も気になる…
武器屋さんもいいところで止まっちゃったし、お仕事とかもどうなったんだろ?
こっちも銃士さん&代理さん乙でした。
冒頭で、あのテーマソングとともに
「これから30分、あなたの目はあなたの体を離れて、この不思議な空間に入っていくのです」
のナレーションが聞こえてきました。
てか意地悪いなエレ姉さん。
もしスレをみてたら生存報告だけでもしてもらいたいなあ。
避難所に投下あり
代理投下します
269 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/08/13(金) 11:14:47 ID:LY6d6zCk0 [5/16]
はわわ、本スレみたら意外と反響が良かった。びっくりだわぁ…。前回代理してくださった方、ありがとうございました。
と言うわけで本編30話いきたいと思います。
「ったく、パスカルもすぐ信頼しやがって。知り合いの知り合いなんざ、どんな奴かもわからねぇ」
アニエス達が地竜の許へと案内されている一方で、チアンは腕を組んだまま、先ほどの広間でぼやいていた。
本当ならば、何処にいてもある程度気配は感じ取れるので、見張りなどいらないのだが。何となくあの空気に入り込むのが嫌で彼はここに突っ立っていることを選んだ。
彼が特に気に食わないのは、あのエレオノールとかいう女の事である。先ほどの戦いでは、こそこそと正面から戦わず、それに口だけは偉そうにして、その上、自分の容姿を散々扱き下ろしていったのだ。
気の強い女は嫌いではないが、あれは別だ。生理的に何か受け付けない部分がある。それに胸が小さいのはダメだ。パスカルはその姿こそ子供っぽいが、出ているところはちゃんと出ている。
アニエスという女はまあ、戦士としては認めても良いかもしれないが、やはり女としてはどうなんだという心境だ。強い女は嫌いではないが。
と、全くもって失礼なことを考えていると、彼は何処からとも無く人の気配を感じた。
「……6、いや4人か?」
チアンは仮面の位置を直しながら、感じ取った気配の数を確認する。始めは6人居るように感じたが、すぐに4人に気配が減ってしまった。
不審に思ったチアンだったが、その後も気配が感じ取れることはなかったため、何か小動物か偶然迷い込んだ人間と間違えたのだろうと考えることにした。
以前にも何度かこのような事はあったのだ。自分の能力にだって限界はある。彼の力は故郷で学んだことだ。彼の故郷はハルケギニアで言う東方の更に東方へ行った先にある、らしい。
その辺りの位置関係は彼自身も良く分かっていないが、旅を始めた時は西へ西へと向かっていたので、恐らく東のほうにあるのだろう。
彼の先祖の民族は古い時代に今の土地へと移住してきたのだという。そこで当時故郷の先住民と何かと戦争をしたり、言葉を介したりして、自然と混ざり合った。
その先祖が数多く持っていた力も、今では風の流れを読み、気配を感じ取るというものしか残っていないが、その代わりにもう片方の先祖から受け継いだ強靭な肉体はしっかりと残っている。
彼の父は故郷では戦士だった。そして何より、彼に武道を教えたのはその父である。
残念なことに、父は遊牧民族との戦争で戦死を遂げてしまったが、そんな父を今でも誇りに思っている。そしてそんな父に少しでも近づきたくて、故郷を離れ世界を見に旅へと出た。
その矢先で出会ったのがパスカルという、掛け替えのない大事なパートナーだ。だがそんな彼女の生活を壊してしまったのは余所者の自分である。
だからこそ責任を取らなければいけない。まずは彼女の故郷を守ることが自分の今の役割だと考えている。
「……でも、何処から入り込んだんだ?」
と、ふと彼は疑問に思った。先ほどアニエス達と戦っていた時も、神経を研ぎ澄ませて気配を感じとっていたはずなのだが、彼の見当とは全く違う方向にいる。
もしかしたら、この遺跡に別の入り口があるのかもしれない。後で調べてみるとするか、とチアンは考えつつ気合を入れなおす。
まあいい。相手が誰であろうとも、邪魔をするのであれば排除することにしよう。気配はこちらに向かってきている。チアンはじっとそこで待った。
そして、地竜の村とは違う通路の向こう側から、彼が気配を感じ取った4人の人間がのこのこと歩いてくる。旅装束を纏った二人の少女に、気障な格好の少年が一人、それに見慣れぬ格好の少年が一人だ。
どれも痩せっぽちのただの子供にも見える。迷い込んだのか。しかし、女の一人の腕には風石が抱えられていた。
「しっかし、雨宿りしてたら面白いもの見つかったわねぇ」
「でも、こんなドンドン奥に進んで大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ですよ、殿下! もし、魔物に襲われたとしても、この僕と、僕の精鋭であるワルキューレが! 貴方をお守りいたします!」
「まあ、心強いですわ、ミスタ・グラモン」
「……アホか」
「何だと、貴様! 今なんと言った!」
「アホかって言ったんだよ! そういう心配じゃないっての!」
「ちょっと! あんた達喧嘩はやめなさいよ! もう、旅立ってから何回目……」
と、チアンの目の前で漫才が始まったかと思えば、一人の少女が彼に気が付き、すぐに身構えた。チアンは呆れたように首を横に振りながらため息をつく。
殿下、と言う言葉を聞いたが。気障な格好の少年に庇われている、あのフードを大きく被った少女はそれほど偉い人物なのだろうか。
「な、何者!」
「お前らこそ何者だ。その風石、勝手に持っていっていいものだと思ってるのか?」
「あ……。えっと、これは貴方の物なのですか?」
と、フードの少女は戸惑ったように自分が抱えている風石をチアンに見せた。チアンは首を横に振ると、それを指差した。
「……いや、この地に生きる地竜のものだ」
「事情がよくわからないんだけれど」
「……いいから置いていけ。もし迷い込んだとするならば、ここで見たすべての事を忘れ、そして静かに立ち去ることだ」
「そう言って、僕たちから風石を掠め取ろうという魂胆なんじゃないのかい?」
が、チアンの忠告に気障な少年が前に躍り出て、薔薇のようなものを彼に向けた。チアンは仮面の奥の眉を顰めながら、肩をすくめた。
「餓鬼にゃあ、わからねぇわかっちゃいけねぇ事情ってもんがあるんだよ。これ以上そこに突っ立ってると本気で潰すぞ。あっちに出口があるから、さっさと風石を置いて出て行きやがれ」
「が、餓鬼だって!? 貴様、貴族に対しその物言いは許せないな!」
「ちっ……やれやれ。どうしても相手しなきゃならねぇんなら、いいぜ。掛かって来いよ、坊や。ちょっと苛々してたんでな」
そう言って、チアンは仮面の置くで笑みを浮かべながら、人差し指を動かして少年達を挑発した。
第30話
「つまりあれは、貴方の魔法による強化の賜物ということ?」
「そうですね。まあ、あそこまで効果が出るのは、チアン君のもともとの身体能力があったからですけれど」
一方アニエスとエレオノールの二人はパスカルに連れられ、今地竜が封印されている場所へと向かっていた。
その途中で、エレオノールはパスカルにチアンの強さについて尋ねていた。その話によれば、どうやらその秘訣は彼女の魔法にあるらしい。
パスカルは純粋な水のスクウェアのメイジなのだという。そのため、触れるだけでその人の水の流れを感じることができる。
その流れを自由に操ることで、人の力を増幅したり、逆に封じることも出来るのだという。つまりは『治癒』の応用だ。
しかし、彼女の言う水の流れと言うのは血液の流れの事だけではないらしい。もっと何か、精神に近いもののようだ。
「慣れれば誰でも出来ますよ」
「へぇ、私でも?」
「はい。ただ、水の流れを変えると言う事は、それだけ体の状態を無理やりに変えることですから。普段から鍛えていないとあまり多用は出来ませんよ。
私も私自身に掛ける事ができますが、ものの数分が限界です。あと流れを変化させすぎると、それだけ負担が大きくなります」
「ふうん……。強化するには、それに見合っただけの体が必要なのねぇ。この妹だとどうかしら?」
「私ですか?」
「アニエスさんであれば……」
エレオノールに振られ、パスカルはアニエスの体に触れた。突然の事にアニエスは驚いたが、パスカルは気にせず、体を摩って調べる。
そして静かに頷くと、再びエレオノールのほうを向いて答えた。
「彼女の筋肉量や水の流れであれば、チアン君ほどは無理でしょうけど、十分耐えられると思います」
「へぇ。あんたやっぱり鍛え方がすごいのね」
エレオノールはアニエスの体を叩きながら、なにやら悪戯な笑みを浮かべていった。確かに彼女の体は、チアンが「筋肉女」と称するぐらい、引き締まった筋肉を持っている。
ただ、決してそれで膨れ上がっているわけではないので、服を着込んでしまえば目立たなくなるが。
さらしを巻き男物の服を着れば男になりきることも出来る。アニエスはそんな体に対し、複雑な表情を浮かべながら言った。
「そりゃあ、あの母上に鍛えられましたから。それに耐えられるぐらいにはしなくては」
『まあ、その代わりに相棒は女らしさを捨てちまったけどな』
「うるさいよ」
「でも不思議な方。元々平民だったと先ほどお聞きしましたが、メイジの精神力を感じます」
「あー、そのことだけれどね。さっきも言ったとおり、アニエスは私たちヴァリエール家と血が繋がっていないのだけれど、でも遠い祖先にメイジがいるから、そのせいじゃない?」
「なるほど、それならば納得です」
パスカルはエレオノールの言葉に納得して頷き、さあこちらです、とまた歩き出した。
その言葉を、アニエスは足を止めて複雑そうに聞いていた。やはり自分の出生には何か秘密があるのだろうか。
両親がメイジであった様子などなかった。ただ、それは自分の記憶があやふやになっているせいかもしれないが。
嘘が真になった。ルイズと同じ存在である事を喜ぶ反面アニエスは怖かった。
今までの復讐は、魔法を使えない者として、持たざる者として行ってきた想いが強い。圧倒的な力で、まるで虫を潰すかのように故郷を滅ぼした者たちに力無き者達の牙を見せ付ける。そう願い続けた。
だが、そう思い続けてきた自分もその持つ者であったら? 今までやってきた事はなんだったのだろうか。もし、持つ者が持たざる者の振りをして……。その自分が否定されることを、彼女は怖くなった。
と、そんな彼女にエレオノールが優しく微笑みながら肩を叩いて励ました。
「大丈夫よ。あんたがどんな人間であっても、私の妹には変わりないんだから」
そうして、再び振り返ってエレオノールはぶつくさと何かを呟きながら歩き始めた。柄でもないことを言ってしまったと顔を赤らめながら文句を言っているのだろう。
少し違うんだけれどな、と思いつつも、その優しさに感謝しながらアニエスも後を追った。
そうだ、今はメイジの血が流れているかとかそう言う事は気にしないで置こう。自分が信じてきたことを否定することも。
そして暫く歩いていくと、今まで歩いていた大きな通路から更に大きな広場に出た。
「これが地竜様です」
「……ふぁぁ……」
「大きい……。はは、これに喧嘩を売ったチアン殿は本当に蛮勇だなぁ……」
『こいつぁ……。下手したら、俺っちよりも長く生きてるかも知れねぇな』
パスカルが示す先に、巨大な竜が横たわっていた。二人が見たことなどまるでない、例えるならば、まるで山のように大きな地竜だった。二人は、思わずため息を付きながら、彼の体を見上げる。
長く生きてきた証拠なのだろうか、体にはコケが生え、まるで何でも引き裂きさいてしまうような大きな鋭い爪を持っている。いや、手で押しつぶされてしまうだけで人などひとたまりもないだろう。
今は苦しそうに眠っているが、それでも神として崇められるのに相応しい威厳を発していた。
「韻竜、なんですよね?」
「ええ、人の言葉を話せますから。彼がどのぐらい長い月日を生きているかはわかりませんが……」
「姉上……」
「わ、わかっているわ。うん。お、起きて私を食べちゃったりしないわよね?」
「私の術と薬で眠らせていますから、大丈夫だとは思いますが。念のため注意をお願いします」
「そんなはっきり言わないでちょうだい……。余計怖くなってきたわ……」
エレオノールはげんなりした表情を浮かべつつ、覚悟を決めて地竜に近づく。と、突如地竜が彼女に反応したかのように鼻から息を吐いたため、軽く悲鳴を上げてしまったが、
暫く固まっていると、やはり苦しそうな寝息を立て始めたので、ため息を吐いて、彼の顔を刺激しないよう慎重に探り始めた。そしてある程度調べ終えると、今度はフライの魔法を使って体に上る。
「えっと、突然暴れだしたのよね?」
「ええ、そうです。食べてすぐ、というわけではないらしいですけれど、しばらく苦しんだ後に突然、とのことです」
「少し効果が遅いのかしら……。それとも、竜だから効き目が遅かったのかしら? 火傷みたいな傷も気になるけれど……」
「火傷に関しては、炎のメイジによって負わされたと聞きましたが」
「ううん、それにしては変な傷にも見えるけれど。それにこんな大規模にダメージを与えられる人、いるのかしら?」
エレオノールはその火傷に似た傷をそぉっと触った。確かにそれに似た感触ではあるが、やはり何か違和感がある。しかし、その正体が何であるかというまでは彼女にもわからなかった。
地上に降り立つと、彼女はアニエスの許に戻った。そして3人は地竜を刺激しないようその場から離れ、移住区へと戻った。
再び入れてもらったハーブティーをすすりながら、エレオノールはぼやき始めた。
「もしオリヴィエ殿が渡したというお供え物が何かが分かればいいんだけれど。結局そこなのよねぇ」
「毒、ということですか? しかし韻竜に効くほどとなると……」
「人間なら一瞬で死ぬぐらい、またはそれに近い効果のあるものか……」
「しかし、そんな強烈な毒であれば、地竜様はすぐに気が付くと思うのですが」
首をかしげながらパスカルが指摘を加えると、エレオノールはしばらく考えこむ。そしてゆっくりと顔を上げながら告げた。
「……あるとしたら、一つだけ考えられるわ」
「それは一体?」
「……屍人茸ってご存知かしら?」
「屍人茸?」
エレオノールの言葉にアニエスとパスカルは首をかしげながら反芻した。エレオノールは小さく頷きながら説明を続けた。
「ええ。別名天国茸。……見た目は何処にでもありそうな真っ赤な毒キノコそのものなのだけれど、それとは比較にならないほど恐ろしい毒を持っているの。
まるで吸血鬼が作りだす、理性の無い屍人(グール)のようになってしまうから、その名が付いたんだけれど。
全身の皮膚が爛れ、知性が無くなり、一日二日屍人のように暴れて、そして苦しみながら死んでいく。症状としては地竜と一致するわ」
「屍人……」
「……吸血鬼が人間を屍人にする時はね、不思議と人間は痛みとかを感じないそうよ。それどころか、最高の快楽が得られる。そうして気が付いた時には吸血鬼の虜になるわけ」
「それが、気が付かない毒?」
「最期の最期は夢を見させてあげる、ということかもしれないわね」
「その茸はどこでも手に入るのですか?」
「ううん、一般には流通してないわ。……この茸はね、死体を埋めた土にしか生えないの。なんともオカルト染みた話だけれど、実際に裏のルートでは高値で取引されている噂もあるわ。
……暗殺としての道具にしては最高じゃない?」
エレオノールの脅かすような言葉遣いに思わず二人は息を飲みながら黙ってしまった。傭兵の頃から『その手』の話に詳しいアニエスはアカデミーに入り込むようになってから、更に詳しくなってしまった。
そんな話をエレオノールへ面白半分に語っていたら、始めは非現実的だと馬鹿にされてしまったものの、最近になって彼女もハマり始めたらしい。
あくまで事故で彼女のオヤツを食べてしまったカトレアに対し、仕返しに話してきたとアニエスの元に泣きついてきた彼女から話を聞いた時は、すぐに叱りつけて喧嘩になりかけたものだ。
全く下らない思い出である。
「でもまあ、都市伝説のようなものよ。貴方がこの前話してくれた『見守る剣』のほうがまだ信憑性が高いぐらい」
「ああ、あれかぁ……。でもあれは実在する剣ですし」
「それと同じよ。世に出ている屍人茸は殆どが、ただの毒性の強い茸という偽者。たまに本物がある『らしい』という噂があるだけよ」
「つまり、本物は実在する?」
「……ううん無くはないけれど……。とりあえず心当たりがないか、もう一度リュシアン殿の許に戻って、色々と事情を聞いてみる必要があるかもしれないわね」
「そうですか……」
残念そうにパスカルは俯いた。彼女にとっては、真相がつかめる機会だと思ったのだろう。確かに少しは進んだが、推測の域は出ず、根本的な解決にはまだ至らない。そのもどかしさが彼女を焦らせていたのだ。
と、そんな彼女に対し、エレオノールは表情を冷たくし、ゆっくりと口を開いた。
「……それよりもね、貴女には残酷なことを伝えなければいけないと思うわ」
「何を、でしょうか?」
「……地竜の命はもう長くは無い。もって、恐らくはあと3ヶ月ぐらいが限界よ」
エレオノールの口から出た言葉に、パスカルの表情が固まる。突然の言葉にわけもわからず、アニエスはエレオノールに尋ねた。
「どういうことですか?」
「言葉の通りよ。軽く私が治療を施してみたけれど、酷く傷の治りが悪かったわ。それはもはや毒とかの以前の問題。いえ、恐らく封印と毒が止めになってしまった。
体はすでに回復することを拒んでいる。でもなまじ貴女の力が強いものだから、それを上回る回復力を強要してしまったのね。
……残念だけれど、あの地竜が苦しむ時間を長引かせていただけよ」
「そ、そんな……そんなに短いなんて……」
「……あなたの実力ならば気が付いていたと思ったのだけれど……。本当に、気が付かなかった?」
告げられた現実に、パスカルは顔を逸らした。初めて彼女が見せた非を認めない一面。それだけ一途に信じてきたことなのだろう。
水のメイジである彼女が、生命を司る水の異変に気が付かないわけがない。しかし、それでもすがりたくなるのもまた人間だ。
そう。それはエレオノール達にとってのカトレアに対する思いと同じなのだから。それがわかっていたからこそ、エレオノールは優しく微笑んで励ました。
「それでも少しの希望を信じて、貴女は治療を続けてきた。……それは悪いことじゃない。私だって気持ちは分かるから」
「……一度だけ」
「ん?」
「一度だけ、正気に戻られたことがあったんです。たった一言、ありがとうと言ってくださった。その言葉が嬉しくて、私は……。
少しずつ衰弱していくのをわかっていても、それは私の力がまだ及ばないからだと考えて、必死に彼に魔法を掛け続けてきました。
でも、心のどこかではわかっていたんです。彼がもう長くない事なんて、わかっていた……。それでも! それでも、たった少しの希望にでも、奇跡に縋り付くのはいけないことなんですか!?」
始めはポツリポツリと語っていたパスカルも、思わず感情が先走ってしまったのだろう。彼女の苦痛な叫びにアニエス達は言葉を失う。
ああ、わかるよ。アニエスは心の中で小さく呟いた。彼女の辛さもわかっているつもりだった。
きっと、エレオノールもわかっているつもりなのだろう。しかし誰かが現実を突きつけてやらなければ、前へ一歩歩けない。何時までもそこに留まってしまう。
何かしら、答えは出さなければいけないのだ。
「……すぐに答えを出せとは言わないわ。けれど、彼の治療を続けるにも、楽にしてあげるにしても。多分もっと人手がいると思う。今は事件の真相を明らかにすることに集中しましょう?」
「……すみません、私……」
「いいのよ。すぐに現実を認めて、答えを出せる人なんていないわよ。あなたがチアンと一緒にいるのも。そうして色々と苦悩した結果なんでしょう?」
『人はそんなに強くはできちゃあいねぇ、そうやって奇跡やら神様やらに縋るのは当然だぜ。じゃなきゃ、お前さんが参っちまうよ』
「……ありがとうございます。すいません、私一番年上なのに」
「あ、いえ……こちらこそごめんなさい。余所者がこんなずけずけと好き勝手に言ってしまって」
『年上っつうと、俺のほうが年上だけどな』
パスカルは申し訳なさそうに二人へ頭を下げた。本来ならば、年長でしっかりしなければいけないのに、と言う気持ちもあるのだろう。
そんな彼女に、エレオノールも申し訳なさそうに頭を下げた。
「ひあ!?」
と、そんなところに突然黒い影がエレオノールの目の前を通過した。彼女は驚いた勢いで後ろに倒れ、何事かと眼鏡を治しながら目の前を見ると、そこには大きなトカゲがいた。
6本足に背中には鋭い棘状の突起。間違いない、これは蜥蜴の王バジリスクだ。
「こら、バジルッ! お客様を驚かすんじゃありません! あ、私の使い魔ですので、警戒なさらずに」
しかし、その王も可愛い名前で呼ばれて、きゅう、と可愛らしい泣き声を挙げながらたじたじになっている。どうやらまだ子供のようだ。そのバジリスクのバジルが必死にパスカルへ何かを訴えかけていた。
パスカルはその意図を掴むと、すぐに仮面を被り、アニエス達に告げた。
「どうやらまた侵入者のようです。しかも今度は何処から迷い込んだのか分からない子供達のようで……。とりあえず縛り上げたから、お前から説得しろって」
「ふうん……」
「一人は桃色かかったブロンドの元気な貴族の子供みたいなんですけど……。ああ、お二人はこちらでお待ちください」
「ちょっと待って。桃色ブロンド? それに元気な? 髪の長さは?」
「どう? ……長いそうです。後頭部でまとめているらしいですが」
「瞳は鳶色?」
「鳶色……。えっと、鳶色はわかりませんが、土の色のようならしいです。多分近いんじゃないかな……」
バジルを介したパスカルの言葉に、アニエスとエレオノールは呆然とした表情でお互いを見つめあう。そして、引き攣った笑みを浮かべた。
「……ねぇ、アニエス」
「……ま、まさかぁ。まさかそんな。それこそ考えるのが馬鹿げているぐらいの確率じゃないですか」
「お知り合い、ですか?」
「か、可能性は高いわね。その可能性、あってなくてほしいけれど……。ともかく私たちも一緒に行くわ」
「もし知り合いじゃなかったらよし、知り合いだったら……」
「知り合いだったら?」
「……姉上、どうぞ」
「ぶちのめしてあげる」
「こぉらあぁ! この、離しなさいよ! 縄を、解き、な、さ、いッ!」
「うるせぇ餓鬼だ……」
チアンの許に駆けつけて、その目の前に広がる光景にアニエスは呆れた表情で見つめ、そしてエレオノールはしゃがんで顔を抑えた。
背中しか見えないが、声を荒げているあの髪の長い桃色がかったブロンド髪の少女は、紛れもなく自分たちの妹だった。その妹が3人の少年少女と、丁度円になるように一緒になって縛られている。
そんな彼女らを、仮面を被っていてもわかるぐらいに、チアンが呆れたような様子で見張っていた。腰には大きめの風石がぶら下げられている。
何故こんな場所に彼女がいるのかは謎だが、とりあえずそんな疑問よりも色々と突っ込まなければいけない事は色々とありそうだ。
「あの、やっぱりお知り合いですか?」
「……知り合いも何も、妹よ……」
「え、ふええ!?」
エレオノールの言葉に、パスカルも流石に素っ頓狂な声をあげて驚いてしまった。と、その声に気が付いたチアンが腰に手を当てながら、パスカルたちを手招きに呼んだ。
どうやら風のメイジ並に耳が良い彼にも聞こえたようだ。三人は呆れた様子のまま彼の許へと歩いていく。
「あっ!」
「あ……」
と、その3人に気が付いたのか、フードを被った少女と黒髪の少年は驚いたように声を上げようとしたが、すごい剣幕で歩いてくるエレオノールに気圧され、そのままガチガチと震えながら黙ってしまった。
「な、何だね、どうしたというんだね!?」
金髪の少年は縛られている方向から状況が把握できず、必死に首を動かしながら悲鳴を上げた。相変わらずルイズはチアンに対して文句を言い散らしている。
その背後からエレオノールがゆっくりと近づいた。そして、彼女の顎と頭を素早く掴んで固定した。
突然の出来事に状況が把握できないルイズは、なに、なに!? と叫びながらパニックになって暴れる。しかし、常人とは思えない力で掴んでくる腕は全く離れようとしなかった。
「こんなところで何をしているのよ、この馬鹿ちびルイズがッ!」
「ぴぎゃ」
「うわぁ!」
「きゃあ!」
「うおお!?」
エレオノールは怒りのままにルイズの首を捻った。変な悲鳴を上げながら、ルイズはその場に倒れる。そしてそれに巻き込まれるように他の3人も一緒に倒れてしまった。
「アニエス」
「はいはい……。フンッ!」
エレオノールはそのまま立ち上がって、何事もなかったかのようにアニエスを呼ぶと、彼女はため息をつきながら、呆れた表情でルイズの首を元に戻してやった。
気絶していた彼女は何がどうなったのか分からず、首を振って辺りの様子を見回した。だがその顔をエレオノールが再び掴み、そして無理やり自分の顔と引き合わせた。
その顔は笑っているが、眼は全く笑っていない。今まで見たことのないような怒りを放つエレオノールに、ルイズは再びパニックになった。
「え、エエエエレ姉ぇぇぇ!? なななな何でここにいるの!?」
「さあて、何ででしょうねぇ。ええ、何ででしょうねぇ!」
「ふぎゃああ!! いひゃい、いひゃいいい!」
「あんたこそこんなところで何をやっているのかしら、ああん!? 学院での授業はどうしたのかしらねぇ! 追試とか何だとか、勉強できないくせにこんなところで油売って! ああッ!」
「いやああ! 犯しゃれぇる、殺しゃりぇるぅ!」
「ヴァリエールの名を何処まで汚せば気が済むのかしら、あんたは! ぶちのめす!」
「ぎゃああ!」
「姉上、姉上! なんかヤクザみたいになってますよ! 止めませんけど」
「どうなってやがるんだ……」
「あはは……」
端から見ると訳の分からない展開に、チアンは呆れ果ててしまう。そんな彼に、ただパスカルは苦笑するしかなかった。
さて、エレオノールの怒りもひとまず収まり、事情をチアンに説明したことでルイズ達は解放された。だが、まだ逃げることを許されず、彼女たちは地面に座らされていた。
その目の前には、まだ怒りで顔が引き攣っているエレオノールと冷静な表情のアニエスが腕を組んで立っていた。エレオノールは杖を手にかけながら、口元をゆがませて言った。
「うーん、ビリビリさせたい」
「姉上、我慢ですよ。何でここにいるのか、まずは正さなければ。さて、ルイズのほかは……。君はド・グラモン家のギーシュか?」
アニエスが金髪の少年に尋ねると、彼は薔薇を銜えながら、気障たらしく名乗り上げた。
「その通りさ! 僕こそが、グラモン家のギーシュです! お久しぶりですね、ミス・フォンティーヌ、ミセ……ミ、ミス・ヴァリエール!」
「ああん? 今何て言った?」
「い、いやだなぁ。ミス・ヴァリエール、と申したのですよ。相変わらず美しいですね、あっはっは!」
「次言ったら、あんたの男の尊厳ぶっ潰すわよ。はい、次はその隣の黒い髪の冴えない男」
「だ、誰が冴えない男だよ! ……うっ」
と、続いてエレオノールが、まるでアミアスやシエスタのように見事な黒髪の少年に尋ねる。それに含まれている余計な一言に少年は食って掛かろうとしたが、
その前にアニエスが素早く彼の首もとにナイフを押し付けて制止させた。少年はまるで反応することが出来ず、ただ呆然とアニエスを見つめながら、再び座り込む。
アニエスはその様子を伺いながらナイフを収め、エレオノールを咎めた。
「姉上。あまり挑発するような事は控えてください」
「あら失礼。で? あんた誰よ」
「あの、エレオノールお姉様。この人はですね……」
「あんたに聞いてないわよ、ルイズ!」
少年の代わりに、何故か庇うようにルイズが答えようとしたが、それをエレオノールが睨みつけて制止させる。ルイズはその剣幕に負けて俯いてしまった。
そして再び少年のほうをエレオノールは向いた。少年は少し考え込んだ後、少しぎこちなく答えた。
「……俺は、俺はルイズの、相棒です。名前はサイトって言います」
「相棒? 平民の貴方が? ふうん、変な名前ねぇ」
「平民とか関係ないでしょ!」
「あんたは黙ってる! まあ、いいわ。話が進まないから、あとでゆっくりと聞かせてもらうわ。こっちもゆっくりしていられないし」
「さてと、あとはこっちか」
エレオノールが少年サイトを開放したのを尻目に、アニエスはもう一人の正体不明のフードの被った少女の前に立つ。少女は困ったように、落ち着かない様子で辺りを見わしながら、
必死にフードを押さえていた。アニエスがその少女の顔を覗き込むようにしゃがみ込むと、少女は視線をそらした。
「……」
「えっと、お、お姉ちゃぁん……そ、その子はね……」
「……ううん、お姉ちゃんか、久しぶりに聞いたなぁ……、たまらん。非常にたまらん」
「ちょっと、アニエス」
「しかしそれでやめる私ではない! とああッ!」
ルイズの甘い声に一瞬だけ悦に入った表情を浮かべたアニエスだったが、すぐに目を光らせると少女のフードを引っぺがした。それと同時に、そこからは良く見知った顔が出てきた。
土が付いてしまっているが、それでも隠しようのないぐらいに気品のある顔に、憂いが篭ったブルーの瞳。
「あ」
「アンリエッタ姫殿下!?」
そう、誰がどう見てもトリステイン王国の白百合と呼ばれるアンリエッタ・ド・トリステインだった。しかし彼女は再びフードを深く被ると、アニエスから視線をそらしながら言った。
「あ、アンリエッタなんて知りません。私は、アンナです」
「アンナ? い、いやしかしですね……」
「エレ姉! そ、その子は記憶喪失なのよ! 本当の名前を知らなくて、私たちが保護してあげたのよ! ねえ、ギーシュ、サイト。そうよね?」
「あ、ああ! ああ、そうだとも! いやぁ、あの麗しの姫殿下にそっくりな女性だから、いやあびっくりした! な、なあサイト君!」
「んあ? あ、そ、そうだな」
そのアンナを庇いたてるかのように、慌ててルイズ達は口裏を合わせ始めた。だがその慌て振りからか、まるで信憑性などない。
エレオノールとアニエスはお互いに眉間に皺を寄せた顔を合わせながら、肩をすくめた。と、そんな彼女たちにチアンがギーシュを指差しながら容赦なく指摘した。
「そいつ、さっき殿下ってその女のこと言ってたぜ」
「い、言いがかりはよしたまえ、君! 何時誰がそんなことを言ったか! それにどこぞのものか分からぬ平民如きがそいつだとぉ!?」
「まあ待て、落ち着け。ルイズ、この子は記憶喪失で、アンナと言う名前しか覚えていないのか?」
「そ、そうなのよぉ。昔の私と同じでさぁ。可哀想で可哀想で……」
「そうだなぁ……そりゃあ可哀想だ」
「ちょっと、アニエス」
「姉上。そういえば、アカデミーの書類にこのような記述がありましたね」
「ん?」
「記憶喪失はその原因こそ分かっていないが、外的な衝撃を与えることで治るという事例があると」
「……ああ、あったわね」
と、エレオノールの言葉になにやら嫌な予感がするルイズは、恐る恐るアニエスのほうを見る。すると彼女は、爽やかな笑顔でアンナの頭を両手で掴んでこう言った。
「記憶喪失、治したいよな? お前の過去、私の頭突きで蘇らせてあげよう!」
「ふえ、ふええええ!?」
あまりの爽やかな笑顔でとんでもない事を言ってきたため、アンナはぶるぶると頭を振って否定しようとしたが、アニエスが掴む力のほうが強くビクともしない。
それどころか無理やり縦に顔を振られて、まるで自分が肯定したかのような素振りをさせられた。
「そうか、やってほしいか! ははっ! 私な、実は頭突きでかぼちゃを粉砕できるんだ。多分そのぐらいの衝撃なら記憶も戻るだろう!」
「いやああ! い、いやです! や、やめてぇ! いやああ!」
「まあそう遠慮なされるな、さあイクゾー」
「わああ! 姉さん、やめて!!」
「ちょ、しゃれにならねぇぞ! めちゃくちゃだな、この人!」
「ミス・フォンティーヌ! その方は……」
「ごめんなさい、記憶喪失は嘘です! わ、私はアンリエッタ、アンリエッタ・ド・トリスタニアですわ!」
その恐ろしい言葉についにルイズ達が割って入り、何とかアニエスを押さえつけようとした。
だがしかしそれでも止まらないアニエスへの余りの恐怖に涙目となり、ぶるぶると震えてしまったアンナ、いやアンリエッタはついに自分から名乗り上げた。どうやら我慢し切れなかったようだ。
しかし、焦りすぎたせいか、自分の名前を間違ってしまっていた。アニエスは首をかしげながら指摘した。
「トリスタニア?」
「あ……。 とととトリステインです! おおおお久しぶりですね、アニエスさん、えへへ」
「うーん、まだ記憶が曖昧かな。やっぱり一発行きますか」
「結構です、結構ですからお願い!」
「アニエス、そろそろ不敬罪どころじゃなくなるわよ」
「そうですね、正直に吐きましたし、この辺にしましょうか、ちぇ」
アニエスはまるで一国の姫など何処吹く風のように、乱暴にアンリエッタを放した。アンリエッタはそのまま体をぶるぶると震わせ、ルイズにしがみついた。
「る、ルイズぅ……私、殺されてしまうのではないかとぉ……」
――後にアンリエッタはこの出会いに感謝しつつも、こういう立場でアニエスに再会した事を後悔した。弱味って、見せるもんじゃないですね。
「大丈夫よ、アン。うん、あの人は本当は良い人だから、多分」
ルイズは必死にそんな彼女を宥めた。この二人、5年前始めて出会い、ラ・ヴァリエール家に戻った後もしばらくルイズはアンリエッタの遊び相手を務めていたことがあった。
アンリエッタ自身から直々の指名があったのだ。初めは平民と貴族として出会った二人だったが、その関係は貴族として出会っても変わらなかった。
しかし、ルイズのお転婆ぶりがアンリエッタにも飛び火して、元々活発だったのが更に手を付けられなくなったのだという。
今回こうして城を抜け出しているのも、そういう性格が出てしまったからなのではないのだろうか。
「ほ、本当に姫殿下なのですか?」
と、戸惑った様子でパスカルがエレオノールに尋ねた。エレオノールは肩をすくめながら、そうらしいわよ、と短く答えた。彼女自身も信じられなかったが、
このやり取りを見る限りでは信じるしかないのだろう。しかし、それはそれで問題なのだ。
何故こんなところにいるのか。いささか恐れ多くはあるが、厳しく問いたださなければいけないだろう。
エレオノールはルイズの胸元で震えるアンリエッタの前に立ち、膝を突いて、胸に手を添える作法をとって敬意を表して彼女に問いかけた。
「姫殿下、ご機嫌麗しくございます。しかし、このような場所で、我が妹とその従者、そしてド・グラモンの子息を連れて一体何をなさるおつもりだったのですか?」
「そ、それは……」
「従者じゃなくて相棒なんだけど」
「うるさいわよ」
と、再びアンリエッタはエレオノールから顔を逸らした。どうやら話せないことのようだが、エレオノールやアニエスにとってそうは行かない。
しかし、そんな彼女の前に立ちふさがったのはルイズだった。ルイズは鼻を鳴らしながら主張した。
「雨宿りしてた洞窟を探索してたらこんな遺跡に繋がったの。後は極秘任務です。守秘義務を発動します」
「あんたに聞いていないわよ、ルイズ」
エレオノールは凄んでルイズを脅そうとするが、それでもルイズは態度を変えず、胸を張ったまま主張した。どうやら開き直ったらしい。
「極秘任務です」
「こ、この……どチビルイズがッ……!」
「おい」
ついに彼女は杖に手をかけようとしたが、その前にチアンが肩をつかんで制止した。しかし、この状況に呆れている様子もなく、なにやら警戒をしているようだった。
その様子に気が付いたアニエスも何かの気配に感づく。そして、警戒を強め、アニエスはデルフを抜きながらルイズの許に歩み寄った。チアンもパスカルの許へと走る。
「ルイズ、姫殿下を守れ」
「え、うん」
「お前たちもだ。殿下、杖をお持ちで?」
「も、申し訳ございません。もっていません」
「じゃあこれでも握ってください。あと、フードは深く被って」
アニエスはナイフを一本抜くと、それをアンリエッタに手渡した。アンリエッタはそのナイフを強く握り締めて持つが、意外と重量があり、少しだけよろけてしまう。
そのアニエスの突然の指示に戸惑いながらも、サイトとギーシュも各々の得物を取り出した。まだ敵は動かない。
「……さっき感じた二人に……いやもっとだな。くそ、大勢連れてきやがったか。いつの間に潜伏したんだ?」
「この騒ぎに乗じて、一気に仕留めようという魂胆だろうな。……やれやれ、我々ごとか」
「なるほど、蛇がやっと尻尾出してきやがったか。へへ、こりゃあいい」
「奴らが襲ってきたところで証拠にはならん。だが焦ってきているのも事実だな。ここは、共同戦線と行こうか」
アニエスが笑みを浮かべながらチアンの背中を叩く。チアンはただ拳をぶつけて答えた。先ほどまで敵同士だった二人だが、今回ばかりは協力し合うことに決めたようだ。
「ね、ねぇ、エレ姉。これどういうことなの?」
「あんたの言葉を借りるなら、極秘任務。まあ面倒ごとに巻き込まれたのよ。ついでだから、あんた達もしばらく付き合いなさい」
「ええ!? で、でもぉ……」
「……多分、そのほうが安全よ、きっと」
と、状況がさっぱり分からないルイズだが、エレオノールにはぐらかされつつもレイピアを構えて彼女と背中合わせになる。サイトはその横で剣を構え、ギーシュはワルキューレを召喚し、
それでアンリエッタを囲って守っている。アンリエッタは不安そうな表情でナイフを持ちながら、辺りをうかがっていた。
静寂が辺りを包み込む。だが、その静寂は何処か不気味だった。
「な、何だ、何も居ないじゃ……」
ギーシュが強がりを言って、恐怖を誤魔化そうとしたとき、岩の物陰から二体の黒い陰が飛び出してきた。
いち早くアニエスが反応し、銃を抜いてまず一体を撃つ。そしてくるりと回り、もう一体をデルフで地面に叩きつける。
「きゃあああ!」
目の前で人が死んで、アンリエッタが悲鳴を上げた。だがそんなものに構っている暇はない。チアンも一斉に飛び出してきた者たちの攻撃を避け、素早く撃退する。
と、パスカルは眼を見開き、杖を構えてスペルを綴った。そして、一気に放つとその場にいる全員を水の壁がドーム状に包み込む。それに風の槌がぶつかり、激しく水を撒き散らした。
「くっ!」
パスカルはその勢いに膝を突かされそうになるが、何とか耐え切って押し戻した。
「いまだ、散れ! ……と、遅かったか」
そして水の壁を辺りに撒き散らすと同時に、その場にいた全員は各々散らばろうとした。
だがそんな彼女たちを取り囲むように、黒いローブを纏い、仮面を被った得体の知れない者達が阻んだ。彼らは平民なのだろうか、各々剣や斧、槍などを持っている。だが、それでメイジではないと確信は出来ない。
そして、遺跡の石像の上から、拍手と共に呼びかける声が聞こえてきた。
「流石地竜の使いを騙る者。それなりに出来るようだ」
「何者だ!」
アニエスが叫ぶと、石像から何者かが飛び降りてきた。その数は二人。彼らもローブのフードをしっかりと被り、そして顔にはやはり仮面が付けられている。
彼らは魔法でふわり、と柔らかく着地すると、ゆらりとアニエス達の許へと近づいてきた。それに対し、アニエス達が身構えると、そのうち一人は短く詠唱する。
すると彼の目の前の土が盛り上がり、一気に人の形を作り出す。そして2体の鎧を纏ったゴーレムが現れた。大きさ、動きの機敏さ、そして作りのよさはワルキューレの比ではなかった。
なるほど、彼らが主犯格で、周りはさしずめその部下の兵士なのだろう。
「予想よりも少し数が多かったのでな。こちらも本気でいかせてもらおう。では、かかれ!」
土のメイジの合図で、取り囲んでいた一部の兵士たちが襲い掛かる。全てではない。一部はまだ取り囲み、退路を塞いでいた。
しかもその兵士たちはルイズやエレオノール、そしてアンリエッタを守るワルキューレを標的としていた。
「させるかっ!?」
チアンは素早く反応し、瞬時にそれを迎撃しようとしたが、その前にゴーレムが彼に襲い掛かる。彼ほどの大きさのあるゴーレムの一撃は地面を簡単に抉ってしまう。
チアンは何とかそれを避けて、拳を胸元にぶち込んだが、ゴーレムは軽く吹き飛んだだけで平然としている。そして更にもう一体のゴーレムが彼を襲い掛かった。
彼は大きく背面に跳んで避けると同時に距離を取った。
「今助けるわ!」
「お前は下がってろ! あの餓鬼ども守れ!」
パスカルが援護をしようとしたが、チアンに止められ、少し戸惑いながらも頷いた下がった。そして、すぐさまアンリエッタの許へと駆け、彼女の傍に立つ。
「姫様、私の後ろにお隠れください」
「は、はい……」
「大丈夫、すぐに終わります故。私の背中でお顔を……」
「そ、そんな隠せるほど大きくないです!」
「……そう言われますと、私困ります……」
「何をしてるのよ!」
「一体どういうことなんだ、この状況は!
緊張感のない会話をしている二人に、エレオノールとギーシュが下がりながらやってきた。
エレオノールはワルキューレを打ち砕いてきた兵士を一人ウィンドで吹き飛ばすと、続いて来たのを何とか避けて電撃を食らわした。
ギーシュも一体のワルキューレを使い、何とか自分への攻撃を防いでいる。だが、実戦経験の乏しい彼とその彼が制御するゴーレムでは、兵士たち相手に分が悪かった。
だがその彼をサイトが援護する。サイトはギーシュに襲い掛かる兵士の斧を捌くと、剣の柄で頭を殴り気絶させた。更に跳びこんできた者の鳩尾に柄を打ち込んだ。
そしてその人間を掴むと、少年の力とは思えない力で投げ飛ばし、向かってきた一人にぶつける。
「助かった!」
「ったく、何なんだよ、こいつら!」
「後で説明するわ! 今は姫、いえアンナ殿を守ることに専念しなさい!」
エレオノールはギーシュとサイトに指示を飛ばしながら、距離を取って様子を伺っている兵士たちと対峙する。
その一方でアニエスは別の兵士たちを相手にしていた。三人の兵士がアニエスを襲いかかったが、それをデルフで一度になぎ払う。
だが、その隙間から、兵士を切り裂いて飛んできた空気の刃に、彼女は体勢を崩しながら避けるしかない。
恐らくエアカッターだろう。一般的に眼には見えない、とされている魔法だが、実際には何とか視認するコツがある。しかし、それでも受け止める事は出来ない。
続けざまにエアカッターが飛び込み、更に避けたアニエスに襲い掛かってくる一つの影。しかしそれをルイズが横から体当たりを食らわせ、アニエスを救った。
ふわっと着地し、ルイズはアニエスのほうを向いた。
「ルイズ!」
「へへ、姉さん。私もやる……ッ!?」
ルイズは誇らしげに胸を張ろうとしたが,そんな隙だらけの彼女を兵士が襲いかかろうとした。しかし、それをアニエスが素早く銃で撃ち貫いて防ぐ。そして悪戯な笑みを浮かべてルイズに答えた。
「まだまだだな、ルイズも」
「むぅ……」
「さて……。何でお前がここにいるかとか、何処に行くのかとか。色々といいたい事はあるが」
アニエスはゆらりと立ち上がると、キッと瞳を鋭くして横を向く。そこには先ほどの風のメイジが口元だけ開いた仮面から、不敵な笑みを浮かべて歯を見せた。そして杖を構える。
「久しぶりに、姉妹の絆というものを見せてやろうじゃないか」
「うん!」
『へへっ、こりゃあ面白くなってきたな!』
それに対抗して、アニエスとルイズも同時に各々の得物を構えた。一緒に戦った経験がなくとも分かり合える。それは、ずっと幼い頃から一緒に暮らしてきた二人だからこそ出来るのだ。
――しかし、この戦いの裏で。
「さあて、見えてきたわよ。あぁあ、全く昔と違ってちゃっちい家に住んでるのねぇ。ま、んじゃあ、手早くやっちゃおうぜぇ」
「……」
二つの脅威がド・マルタンの山小屋へと近づいていたのだった。
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お待たせしました。若干超展開ですが、ついにアニエスとルイズ合流です。
前回の短編の反響が良かったので、今度また書いてみようかな……と思っています。オカルト?ほのぼの?どうしようかな?
それと、なんと言うか、行き過ぎたことかもしれませんが、もしかして私ばかり投稿して、他の人が投稿しづらい環境を作っているんじゃないか、と思ってしまってます。
1レスの軽いノリでもいいですし、是非他の人のifネタも読んでみたいですね!
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以上で代理投下完了です
他人が投下しづらい環境ってわけでもないような
ないよね? 単に過疎ってるだけだよね?
どっちにしろいいことじゃないけど
ほかの作者さん、生存報告だけでもPlease
銃士のひと&代理のひと投下乙です
そして、やっと規制解除だ自分オメ
ここでまさかの再会かー。才人の運命やいかに…と思ったら、すべてアンアンに持っていかれたw
はてさてどうなるのか…
次回も期待して待ってます
それと、自分も過疎ってるだけだと思う。最近規制多いし
規制解けたし、ネタ投下できればいいんだろうけど、特に思いつかないんだよな…
空気作品でも悩むことは無いと思う
最低系読者をちゃんと回避できてるんだ、と前向きに考えればいいよ
じゃあもし女性キャラの一部がオカマだったら?
特に貧乳連中ルイズとか
ルイズモンモンタバサルクシャナエルザが男の娘だったらそこは天国ですよ
もしもコルベールの立場にいたのがルクシャナだったら。
オスマン「ガンダールヴのことは秘密に」
ルクシャナ「いいえ! ぜひわたしがすみからすみまで研究をば」
>>202、203
某公爵家のジンクス“家を出るor性別を偽ると結婚できる”
というわけで、女装して入学を命じられる『ルイズ』
“同性の双子は禁忌だけど異性なら問題ないよ!”
ということで、王女として育てられた『シャルロット』
単なる趣味(?)の『キュルケ』
虚無と烈風氏、最終回だそうです
代理投下行きます
もうゴールしてもいいよね……投下します。
虚無と烈風――第十一話――
無能と呼ばれた王が、ある日使い魔召喚の呪文を唱えた。
現れた使い魔の力を使って、彼は世界を地獄に叩き落とそうとした。
そうすれば、自分が泣けるかもしれない、と彼は思ったからだ。
彼は、自分より才能が、人望が、優しさがある弟が、いつからか気に食わなかった。
せめて、彼が自分を妬んでくれればいいのに。醜い一面を見せてくれればいいのに。
それは、今となっては叶わぬ願いだった。王は、弟を殺してしまったから。
それ以来、王は泣いていない。だけど、泣きたかった。
だから、世界を壊すのだ。きっと、世界が壊れたら、自分も泣けるだろうから、と。
王は、その話を自らの使い魔にも伝えた。
彼女は震えながら、王の頬を打った。軽蔑したのだろう、と王は思った。
軽蔑されることには、侮蔑されることには、慣れている。
もう何も感じないのだから、問題は無い、とぼんやり思った。
「貴方は愚かです」
震える声で、そう告げられた。
「分かっているさ」
「……いいえ、分かっていません。どうして、その手にかける前に、
貴方は、弟君と話をなさらなかったのですか」
「……あいつの、顔も見たくなかったからだ。あの聖人の顔を」
また、頬を打たれた。そういえば、頬を打たれるなど何年ぶりだろう。
無能だと言われはしても、王族だ。手を上げられたことなど、記憶になかった。
「その聖人の顔の裏を、どうして考えなかったのですか!」
彼女は泣きながら、ある少女の話をした。
周りを心配させたくなくて、明るく振る舞う病弱な少女は、
本当は死にたくないと、死ぬのが怖いと、泣き喚きたいと、
でもそれが出来ないと、たった一人の姉の胸でだけ泣いた。
「親にも、誰にも言えぬことを、きょうだいだから、と話してくれました。
きょうだい、というのは、そうあるべきではないのですか」
金の髪を揺らし、頬から幾筋も涙を流しながら、彼女は叫んだ。
それだけ叫んで、何を言えばいいのか分からなくなって、彼女はひたすら嗚咽を漏らした。
その嗚咽を聞きながら、王は、問うた。
「我がミューズよ、お前は、何故泣くのだ。弟を、憐れんでか」
「解りません。とにかく、悲しいのです」
彼女は、何を悲しんで泣くのだろう、と王は思った。
そして、ふと心中から湧き上がる、ある衝動に気が付き、それを口にした。
「その、泣くな、ミューズ」
濡れた頬に、そっと手を当てた。
その涙の温かさを、彼はそれからずっと、忘れられないままだ。
気が付けば、彼は世界に地獄を作り出す遊戯の駒として働くことよりも、
城で自らの娘と共に過ごすことを、使い魔に命じることが多くなった。
彼女が何故泣いたのかを観察していく内に、自然、娘に目が行くようになった。
自分に良く似た、才のない娘。不快で、ずっと目をそらし続けてきた。
娘は言う。才のないのが辛い。誰からも見てもらえないのが寂しい。
ああ、まるで過去の己ではないか、と不快だった。
けれど、娘は諦めなかった。使い魔に聞いた、同じように才のない少女の話を聞いて、
使い魔が、自分を見てくれるのが嬉しくて、一生懸命だった。
これでは、自分と使い魔、どちらが親だか解らない、と呟いて、気が付いた。
「……なんだ。これではまるで、俺はミューズに嫉妬しているようではないか」
そう、彼は気が付いたのだ。使い魔を見る内に、娘を見る内に、
がらんどうだった自分の内側が、少しずつ、少しずつ、満たされていくことに。
しかし、それは同時に苦痛を彼にもたらした。
弟をこの手で殺めた時から、自分は悲しむことが出来なくなったと思っていた。
壊れてしまっていたはずなのに、使い魔の目を通して見る、
娘の成功や失敗に、一喜一憂するようになってしまっている。
これでは、弟を殺めたことを、忘れてしまうに等しいことで、
それが、酷く恐ろしいことのように思えた。
その感情を吐き出すことは、出来ない。認めることは出来ない。
だから、彼は世界を壊すことに躍起になろうとした。
自分は壊れているのだ、と、おかしいのだ、と、それを、誰かに認めて欲しかった。
そうして、認める相手として、一人の少女に白羽の矢を立てた。
自らと同じ、心の中に虚無を抱えた、少女。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
彼の使い魔、エレオノールの、実の妹であった。
揺れる城の中、逃げることもせず豪奢な椅子に座ったまま、ジョゼフはくつくつと笑った。
彼の眼には、エレオノールの視界が映っている。
眼前に立つ伝説に、臆する色すら見せぬ、壊れてしまった彼の娘イザベラ。
怒りも露わに、彼女に杖を向ける烈風カリン。
どうすればいいか解らず、姉に抱きつき震えているルイズの顔。
エレオノール自身も当惑しているのが、伝わってくる。
今しばらく、観客に徹そうと、成り行きを見守ることにした。
「初めまして、ミセス・ヴァリエール。イザベラと申します」
スカートの端を摘み、人形のような笑顔を浮かべ、礼をしてみせる。
「……ねえ、エレオノール! 今の見てくれたかい?! 完璧だっただろう?!」
くるりと振り向いて、アハハ、と渇いた声で笑う。
「イザ、ベラ」
「……そんな顔しないでおくれよ。ね。エレオノールにそんな顔されたら、
私、どうしたらいいかわからないんだ」
まるで踊るようにくるくるとその場で回りながら、イザベラは笑う。
その異様さに、誰も動くことが出来ない。
「ね、エレオノール。あんたの母親も、あんたの妹も、あんたの大事なもの、
全部、壊してあげる。そうしたら、あんたは、私だけを、見てくれるだろう?」
「イザベラ、おやめください、イザベラ!」
「……少し黙ってて」
イザベラが杖を振るう。足元に散らばっていた溶けた氷塊が、水のロープに変じる。
それが、エレオノールとルイズを壁と床にそれぞれ縫い付けた。
「貴様ッ、私の娘に何をするのですかッ!!」
激昂した、カリーヌの声と、唱えられた呪文。それが合図だった。
放たれた風の刃。直撃すれば、致死は避けられそうにない。
だが、イザベラは臆することなく笑みを浮かべたまま、ルーンを唱える。
水の壁が彼女を覆い、刃がその柔肌に触れることはなかった。
「ッ?!」
全力に近い攻撃が防がれたことに、カリーヌ達は動揺を隠せない。
「嘘……っ、なんで、母様の攻撃が……!」
「!! イザベラ、あなた、まさか……ッ!」
「うん。エレオノールの部屋にあった、ポーション。あれ、飲んだんだ」
「何てことを……」
エレオノールの顔が瞬時に青ざめる。
「姉様、そのポーションは、一体何なのですか?!」
「体内の水の流れを変えて、魔力を強めるポーションよ……」
そこで、一瞬言葉が止まる。嫌な予感をルイズは感じた。
「その代わり、使用者を、狂気に陥れるの」
エレオノールが、顔を俯け、血が出そうな程に唇を噛んだ。
「アハハハハハ! 今なら、何だって出来そうだよ、私は!」
イザベラの哄笑が部屋に響く。一筋縄ではいかぬ、とカリーヌは背を正した。
それから、ひらり、とマンティコアの背から飛び降りる。
広いとはいえ、マンティコアに乗ったまま動くにはその部屋は狭い。
部屋ごと攻撃しては、捉えられた娘たちに害が及ぶ。
故に、その身一つで戦わねばならない。
「さあ、来なよ、烈風カリン! あんたを殺して、エレオノールを私のものにするんだ!」
「……全く。男の影がないと思ったら、女性から好意を向けられるなど、
貴方は、本当にまあ、私の娘ですね、エレオノール」
軽口一つ呟いて、カリーヌはイザベラへと突進する。
「帰ったら、お仕置きです」
「駄目だよ! エレオノールは、ずっとここで暮らすんだから!!」
杖に水を纏わせたブレイドで、カリーヌのブレイドを受け止める。
戦闘には不慣れなようだが、何しろ今現在の彼女の魔力は桁違いだ。
舐めてかかれる相手ではない、とカリーヌは舌打ちした。
ジョゼフは、それをただじっと見ている。
「美貌のメイジ二人による戦い。見目良いものだな。歌劇の題材にでもなりそうだ」
ふむふむと、独りごちる。だが、その口元は笑っていない。
力だけでなく技も兼ね備えたカリーヌと、圧倒的な力だけでそれに相対するイザベラ。
後から追い付いてきたらしい二人の男達は、それを見ていることしか出来ないらしい。
カリーヌが風の槌を作る。イザベラはそれを避けてみせる。
イザベラが飛ばす氷の槍は、カリーヌの風に砕かれる。
懐に飛び込んだカリーヌの前に、カウンターになる形で氷結する氷の針。
すんでのところでそれをかわすカリーヌ。笑うイザベラ。
傍目から見れば、ハイレベルな一進一退の戦いだ。
だが、ジョゼフには解っていた。負けるのが、どちらか。
幾度目かの風の刃が放たれる。
「ハッ! それは効かないっての!」
それを防ぐために、水の壁を作り出したイザベラは、
その刃が彼女を避けるようにして飛んだことに、自らの失策を知った。
風の刃が向かった先は、イザベラの背後。二人の娘を縛る、水のロープ。
「……今です、ワルド子爵! 二人を!」
「任されました!」
機を窺っていたワルドが、呪文を唱え、即座に分身する。
彼が得意とする、『遍在』の魔法だ。
二人のワルドが、エレオノールとルイズ、それぞれを抱きかかえた。
「ヴナン!」
「あいよ!」
「喋った?!」
ワルドから二人を受け取ったヴナンが、離脱しようと大きく羽ばたく。
「い、いや、待って、いやだっ、行かないで、エレオノール!」
イザベラが目を大きく見開いて、涙を流して懇願する。
「……黙りなさい」
そんな彼女の前に立ちはだかって、カリーヌは告げる。
「エレオノールの前ですから、殺しは、しません。
ですが、それ相応の仕置きは、受けてもらいます」
杖をかざす。唱えられたのは、『カッタートルネード』
部屋の中にのみ被害が行くように、凝縮されたその風の刃は、
他と比較にならないほど、鋭いものだ。
「あ……、や、やだ、やだっ」
イザベラが、杖を取り落とす。エレオノールを取り戻されたことで
その狂った精神は、完全に弱り切ってしまった。
そんな彼女を見ても、カリーヌの動きは止まらない。
「やめろ、カリーヌ!」
「やめて、お母様!」
今撃てば、イザベラが危ないと察して、公爵とエレオノールが叫ぶ。
それでも、激昂した彼女は、止まらない。
その光景を見て、ジョゼフは衝動的に、一つの呪文を唱えていた。
イザベラは襲い来る苦痛を想像し、耐えきれず、悲鳴を上げ、目を閉じた。
しかし、いざ彼女の体を襲ったのは、予想よりも軽い痛みだった。
自分の体を、何か温かなものが包んでいるのを感じて、そっと目を開けた。
目に入ったのは、誰かの体だ。誰だろう、と思う。
自分を、こんな風に抱きしめてくれる相手に、エレオノール以外の心当たりはない。
けれど、コレは男の体だ。
いくらエレオノールに胸が無いからって、男の体とは間違えない。
だから、これはエレオノールじゃない。
じゃあ、コレは一体、何だろう。
「ジョゼフ様ぁあああああああああああッ!!」
荒れ狂う風の向こうから、エレオノールの悲鳴が、やけにはっきり聞こえた。
部屋の中をぐちゃぐちゃに掻きまわして、壊しつくした風が、止む。
「大、丈夫、か?」
声をかけられて、イザベラは自分を抱える男の顔を見上げた。
自分と同じ、青い髪。何度も聞いた、声。
「父、上?」
でも、知らない。こんなに温かい体をしていたなんて。
でも、知らない。こんな風に、自分達と同じ、赤い血が、流れていたなんて。
「無事、だな……よかった」
ぐらり、とその身が横に傾いだ。その体のあちこちから、血が流れている。
ジョゼフは、イザベラをかばい、
「いやあああああっ!」
ヴナンの背から、エレオノールがフライの呪文もかけずに飛び降りる。
ワルドがレビテーションをかけたことで、激突することだけは避けられた。
「……エレオノール、これは、父上、かい?」
床に座ったまま、ぼんやりと目の前で血塗れになった男を見て、問う。
その目の焦点は、未だ合わないままだ。
「父上が、私を守ってくれたのかい?」
傷ついたジョゼフの名を、狂ったように呼び続ける彼女の耳に、その問いは届かない。
「あ……」
ここへ至ってようやく、カリーヌは平素の落ち着きを取り戻した。
幾らなんでもやり過ぎた、ということに気が付く。
「カリーヌ」
「あな、た」
ぱしん、と渇いた音がした。
カリーヌが、赤くなった頬に手を当てる。
父が母に手を上げるのを始めて見て、そんな場合ではなかったが、ルイズは目を丸くした。
「昔から、お前はカッとなりやす過ぎる。悪い癖だ」
「すみ、ません」
「……娘が大事なのは解るが、それで、他人を傷つけて良いことにはならん」
眉をしかめて叱りつけ、ジョゼフの下へと足を進め、治癒の呪文を唱える。
「ミュー、ズ、いや、エレオ、ノール……、お前、は、いい、家族、に、恵まれた、な」
だが出血は激しく、中々止まらない。
「喋らないでください、ジョゼフ様!」
エレオノールが制するが、彼は言葉を続ける。
「もう、よい。秘薬も、なし、に、治る、傷、では、ない、無駄、だ」
「やめませぬよ、陛下。私は子煩悩で愛妻家でしてな」
冷や汗を流しながらもニヤリと笑い、公爵は答える。
「このまま貴方に死なれては、私の家族に、どのような責があるか解りませんでな」
敵ならば、殺すことも致し方ない。だが、こんな風に死なれては、困る。
事情があったとはいえ、他国の王族を手にかけたとあっては、
よくてお取りつぶし、最悪処刑だ。
「それに、同じ、娘を持つ父親に、死なれたくはないのです」
「……父親、か」
痛みの下からふうと息を吐き、ジョゼフは未だ茫然とするイザベラに目をやる。
「結局、俺も、人の、親、だった、という、ことか」
ジョゼフが唱えた呪文、それは『転移』であった。
イザベラが死ぬかもしれない、と感じた時、真っ先に彼が思ったのは、
彼女を守りたい、ということだった。
エレオノールの目を通して、イザベラを見ていた彼は、
人の親としての情に、目覚めていたのである。
「父、上」
その言葉を聞いたイザベラが、ジョゼフを呼ぶ。
「なんだ、娘よ」
激しい苦痛に苛まれているにも関わらず、彼は笑みを見せた。
「や、だ。やだ、やだ。父上、やだ、死んじゃ、やだ」
くしゃり、と歪ませた顔を胸に埋めて、悲鳴を上げる。
「死なないで、死なないで、父上。やだ、やだよぉ」
エレオノールも、顔を両手で覆って嘆く。
「せめてここに、あの指輪が……、水精霊の秘宝さえあれば……、
ジョゼフ様をお救い出来るのに……ッ!」
ルイズは、そんな光景を見て、悔しかった。伝説の担い手だといわれても、
目の前で絶えそうな命一つ、救うことすら出来ないのだ。
「あ」
突如上がる、その場にそぐわぬ間の抜けた声。
ワルドが、ごそごそと服の内ポケットをあさる。
「エレオノール殿、その指輪とは、これ、ですか?」
取り出したのは、クロムウェルより奪い、未だ持ったままだった指輪である。
「も、持ってるなら、早く出しなさいよ!」
エレオノールは立ちあがり、ワルドの腕から指輪をひったくる。
床にしゃがみ、青い宝石をジョゼフの体に近づけた。
額のルーン、神の本と呼ばれしミョズニトニルンのルーンが淡い光を放つ。
「死なせては、くれぬのだな」
体の傷が治っていくのを感じながら、ジョゼフが深く息を吐く。
「生きてくださいませ、ジョゼフ様。父親、なのですから」
エレオノールが泣き笑いで告げる。
指輪を持つのと反対の手を、そっと自らの下腹部に当てて。
「エレオノール、貴方、まさか」
カリーヌが、その行動の意味を察して、問う。
先程まで蒼白だったエレオノールの顔が、瞬時に赤く染まる。
「助けなきゃよかった」
娘のそんな顔を見て、公爵が舌打ちする。
イザベラも、ぴたり、と涙を止め、エレオノールを見て微笑む。
「何だい……こんなことしなくても、エレオノールは、
ここから、居なくなったりは、しなかったんだね……」
でもそれはそれとして殴らせろ、とジョゼフの頭をはたいた。
「やれ、生き残っても、大変そうだ」
「……何だか、私、蚊帳の外だわ」
怒涛の流れに、もうどうしていいかわからなくなって、ルイズは呟いた。
「うん、僕もだよ」
その傍らに寄り添って、ワルドが苦笑いを漏らす。
「でもまあ、いいんじゃないかな、めでたしめでたし、で」
「……そうね」
二人は、もう細かい事を考えることを放棄した。
使い魔召喚の儀式を行った瞬間に、ルイズが呼び出したもの。
それは、この世界の淀みをただ圧倒的な力で吹き飛ばす烈風だったのだ。
人災というよりも、最早天災に近いそれは、何だかルイズを中心に、
ものの見事なまでに全部を引っ掻き回していった。
怪盗を更生させ、王子様を助けて、魔法の使えない女の子に魔法を与えて、
王様とお姫様の仲を修復して、あとついでに嫁き遅れを一人、嫁に出すことに成功しそうだ。
エピローグ
イザベラから何やら任務を与えられていたというタバサは、
壊れた城を見て何事かとうろたえ、そこに同級生とその母他家族を見つけてうろたえ、
伯父王と従姉に謝罪された辺りで、考えることを放棄した。
烈風吹き荒れる前では、雪風も吹き飛ばされるだけだったのである。
それ以後、ジョゼフは憑きものが落ちたように穏やかになり、少しずつだが、
娘や姪と歩み寄り始めている。娘が中々素直にならないので大変らしい。
今回のガリアへの強襲は、ガリア王家とトリステイン王家、及びヴァリエール公爵家の間で、
どういう始末をつけたものか、膝を突き合わせて考えた結果、このような筋書きになった。
『魔法の失敗で記憶を失いガリアに転移したヴァリエールの令嬢が、
ガリア王に保護され、彼と親密な関係になった。
だが、彼女の行方を突き止めた過保護な父親が、娘は渡さぬ、と大暴れした。
これに対して裁きを求められた大后は、公爵に大事なものを以って、
ガリア王に対して賠償せよと命じた。かくして、令嬢は嫁に行く』
相当無茶だったが、王家と公爵家がこう発表したのだから、文句は出なかった。
それに、ヴァリエール公爵の親馬鹿ぶりと、ガリア王のおかしさは色んな意味で有名である。
『まあ、そんなこともあるんじゃないの?』と、納得したものが大半だった。
ハルケギニアは、色んな意味で平和である。
なお、この案が決まった時、大后は少女時代のようにころころと笑い転げた。
「まあ、カリン! あなたったら、相変わらず凄まじいのね!」
「……お恥ずかしい限りです……」
その前で小さくなる烈風カリンの姿を見て、公爵はニヤニヤした。
後で殴られた。
そして、数ヵ月後、トリステイン魔法学院。
ルイズの部屋でイザベラが水煙管を吸っている。
その隣で、少し髪の伸びたタバサが、黙々と本を読んでいる。
ぴきぴきと、青筋を立てながらルイズが叫ぶ。
「私の部屋で煙管を吸うのはやめてって言ってるでしょう!」
ひょい、とレビテーションを唱えてそれを取り上げる。
「何だい、ケチだねえ、ルイズオバさんは」
にやり、とイザベラが笑った。
タバサは、それを聞くと本を持って窓辺に向かった。
口笛を吹けば、シルフィードが寄ってくる。
その背に乗り、窓からキュルケに声をかけた。
「逃げた方がいい。また例の禁句をイザベラが言った」
「ああ、うん。乗せてちょうだい」
窓から顔を出したキュルケは、シルフィードの背に相乗りして、部屋から逃げ出す。
「だっ」
ルイズが顔を真っ赤にしている。イザベラはニヤニヤしている。
「誰が、オバさんよぉおおおおおおおお!!」
どがん、と凄まじい音が、学院を盛大に揺らした。
「……義理とはいえ、母親の妹なんだもの、叔母であることは間違いないのにね」
爆発に巻き込まれないよう、上空に退避したシルフィードの背で、
キュルケが、やれやれ、とため息をついた。
「解って、からかってる。……困った子よ、イザベラは」
本を読みながらも、タバサがそれに苦笑して答える。
ボロボロになった部屋の中では、二人がぎゃあぎゃあとまだ言い争いをしている。
烈風が吹き荒れた後の世界は、快晴。雲一つない、平和だった。
Fin.
スーパー無茶設定投げっぱなしジャーマン。
パトラッシュぼくもう疲れたんだ……。
ダラダラやっても仕方ないので、ざっくりさっぱり、終わらせました。
とにかく、これで虚無と烈風は終了です。
風石? 大隆起? 知ったこっちゃねえ。ご愛読ありがとうございました。
以上で代理投下完了
まったく、見事にまとまりましたなぁ
続けて読むとまさに烈風としか
>>205 そして、召喚したサイトにキスをする男ルイズか
うむ、いつぞやの作品の腐姫が鼻血を出して喜びそうだ
…サイトを女体化するとそれってどんな鬼畜ゲー?
(女の子を拉致った挙句強制隷属…)
うむ、いいネタだな。書いてみたい…けど、形にはなりそうもないな。
おおっ、烈風さん、完結おめでとうございます!
いやぁ、台風一過でエレ姉に春が来るとはww
素晴らしいハッピーエンドでした!
そして代理の方も乙です
それと、ネタの件で
>>215 その鬼畜ネタは是非エロパロでやってほしいので、
こっちでは「サイトも男の娘」説を推しとくw
お互いに相手が異性だと思ってドキドキしてる、
双方カンチガイ系とかどうよ?ww
>>217 倒錯しまくりだな
双方必死で局部を隠すさまが目に浮かぶようだ
男の娘とは真逆の男装の麗人ならすでにあるからな
あと
レズな様でいて実はホモとか
アッーになるか男の友情になるのかどっちだろう
アンリエッタ「ああ、ルイズ! わたくしのおほもだち!」
そんなアンからウェールズは必死で逃げるんだな
死んだふりしてでも・・・・・まさか男とは思ってなかったって理由で
テファは藤波竜之介ポジションでお願いしたいところだ
まさか男とは思っていなかった、恋人(しかもガチホモ)
まさか女とは思っていなかった、いとこ(しかも乳革命)か
ウェールズ南無……
しかしテファ男装はエルフの秘術か何か使わないと無理だな、
などと考えていたら、変なネタ思いついたのでちょっと投下
テファ「そこのひと!どうしたんですか、こんなにぼろぼろになって……」
才人「(ぐでんぐでんに酔っぱらって)放って置いてくれ、俺はもうダメだ、
もう立ち直れない……」
テ「そんなこと言わないでください!私で良ければ話を聞きますから」
才「ありがとう、君、優しいな」
テ「いったいどんな辛いことがあったんですか?」
才「実は俺のご主人様に……ついていたんだ……」
テ「え?」
才「かくかくしかじかで、可愛い子だと思ったから、これまでどんな酷い目に
あっても耐えてきたのに……。男だなんて!あんなに可愛いのに男なんて!畜
生、騙された!あんなにあんなに可愛いのにっ!O・TO・KOだなんてっ!
俺、俺、もう、どうしたらいいかわかんねーよっ!!(血涙)」
テ「……才人さん、事情はよくわかりました。どうぞ、この指輪を持って行って
ください。この指輪には不思議な力があって、これをつけていると肉体の性別だ
けが反転するんです」
才「え?」
テ「(自分の指から指輪を外して才人に渡す)さあ、どうぞ」
才「(指輪には目もやらず)…………えーっと、君、ソレなに?っているかそれ
……ナニ?」
テ「へ?あ、あの、どこか変ですか?私、子供のときからずっとコレをつけてい
たから……あ、今はもう『僕』って言わないといけないですよね……エヘヘ、や
だ、なんか恥ずかしい(照笑」
才「(急に天を仰ぎ)――神よ!」
テ「な、なんですか!?」
才「(焦点の合わない目でぶつぶつと)……わかりました、おれ、もうちょーわ
かっちゃいました、へいきんちとか、かわとか、かたちとか、ぼうちょうりつと
か、そんなものは悪魔の甘いいつわりでしかないのですね、天の国の真理はもっ
と厳粛で峻厳で、さながらその姿は富士山エベレスト、うふふふ……」
テ「し、しししっかりしてください!」
才「(ハッと我に返り)あ、ごめん。……せっかくだけど指輪は返すよ。これは
君がつけていてくれ」
テ「え、でも……」
才「いいんだ。俺、わかったから」
テ「何をですか?」
才「(朗らかな笑顔で)神の真理に比べたら、アレくらいゼロと一緒だって――
さあ、ルイズ、待ってろよ!最強の使い魔が今戻るからな!!(猛ダッシュで森
の外へ)」
テ「……ああ、いっちゃった。おかしなひとだったなぁ。……でも、ちょっとか
っこよかったかも……(ポ」
うわ、改行が変すぎて読みにくいな……
スレ汚しスマン
七万の軍への単騎突入理由が
ルイズが“男の娘”である事が発覚し、自暴自棄になって
とかだと、なんかイヤだなwww
もし原作がそんなんだったら焚書が起きてるよ。よかったなIFで。
テコ入れで、ヒロイン→男の娘化とか新しいな
変態紳士率の高そうな、このハルケギニア
エルフはさらにその上を行くのか、それとも倒錯メイジ達を文字通りの蛮人と蔑む賢者達なのか
もしメイジがすべて美男美女だったら?
当然まるこりぬも
ただし美形ピザ
補正されて、筋肉質巨漢になってんじゃね?
語るスレで見つけたんだが、興味深かったので。
もしルイズがデルフリンガーだったら。
あ、もちろんデルフは姉御か小動物系ね。口調はまんまで。
デルフ「に、人間が召喚された!こりゃあおでれーた!」
サイト「俺はおまえの口調におでれーたよ!」
ルイズ「あ、あんただったら私を使ってもいいんだからね!」
つまりルイズがだんだん空気化するのか。
タバサは地下水?
無口なインテリジェンスソードに意味はあるのだろうか?
ふと思ったがワルド召喚ものとかあったらタイトルは虚無と閃光ってなったりするのだろうか。
すごく厨くさくて逆に読みたくなりそうだから困る。
ギーシュ「美少年コンテストで勝負だ!!」
>>236 ジュリオに惨敗する結果しか待ってねーじゃねえか!
女装コンテストならギーシュが勝つよ
王弟オルレアン公フィリップは末娘アンリエッタと結婚。
新郎ルイ14世の弟フィリップは幼い頃より女の子として育てられた。
ルイ13世の弟オルレアン大公は兄から王位を奪おうと虎視眈々。
そんな前例から王座への野心を持たぬようにフィリップは女装させられた。
フランス最大の領地を持つオルレアン家を再興した。
この家系はたえず王位を狙う家風。
パリのパレ=ロワイヤルに住んでパリ市民の人気を集めていた。
結局オルレアン公の女装癖がなおらずに同性愛者となり、
ギーシュ伯爵アルマンや悪名高き犯罪者ギーズ侯シュヴァリエ・ド・ロレーヌらはムシュー(フィリップ)の寵を得た。
結婚後すぐにオルレアン公は元の男色に戻り新婚のアンリエッタ妃は不幸な結婚生活から憂愁のビィーナスと宮中で呼ばれた。
リボンとレースと賭博と男性をこよなく愛した。
ギーシュの元ネタは同性愛者・・・・
そういう話題は設定スレでやったらどうだ?
てか、萌えが抜けたゼロ魔になんの価値がある。
変態小説としてそこそこの価値がある
主人公がマルコメになるのか……
もし武器屋にあったのがデルフではなくゼロ戦だったら。
何に使うかわからない粗大ゴミとしてスクラップか
ロマリアの連中に接収されてるか
ルイズの小遣いじゃ買えない
というか武器屋にゼロ戦て
じゃあ、タルブにあるのがデルフリンガーでいいんじゃね?
魔法を使う度服が破れるゼロ魔
>>246 なんかデルフがマスターソードみたいに安置されてる様を想像してワロタ
ときどき、シエスタが遊びに行って、しょーもない昔話、聞いてるんだろうな
>>234 わかってないな!
ぼそっと少しだけしゃべるからそこに神秘が!
まあ、それでデルフみたいに物忘れが激しかったらいろいろ台無し何だけど
タバサ人格の地下水って、ナス長門の携帯ストラップのようだな。
296 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/08/18(水) 16:12:30 ID:fJzMq0zs0 [3/13]
こんにちわ。虚無と銃士第三十一話ができましたので投下したいと思います。
例によって代理投下開始です
※今回もちょっと残酷表現あり
「さて、今日のお仕事も終わりましたし、皆さんお食事にしましょう」
地竜の村の領主の屋敷。この中で今小さな晩餐会が行われようとしていた。と言っても、何時もと変わらぬ従者たちの夕食なのだが。
領主アスレーテへの奉仕も終わり、彼らも漸く休息が訪れるのだ。
彼らの殆どはアスレーテが就任してから雇われた者たちである。マルタンが治めていた頃からの従者も多少は残っているが、それは始めからアスレーテへの忠心があるものだけであった。
ほとんどはこの土地を離れて故郷に戻ったり、村で農作業をしたりしているようだ。アスレーテが統治する地竜の村には興味が無い、そういうことなのだろう。
しかし、それはトマにとっても好都合だった。邪魔になる様な者が居ないからだ。
さて、そんな事情を知らない従者たちは好き勝手に今日も噂をしていた。
「それにしても、ミスタ・アスレーテは良きお方ですね。少し気の弱そうなところもありますが、ハンサムだし、お優しいし」
「ええ、それに私たちへのお給料にもちゃんと気を配っていらっしゃいますし。少し怪しい方々やアルビオンの方と付き合いがありますけど、
そんなの平民の私たちには関係ない話よね」
「そうそう。良い働き口さえあれば私たちには関係ないわ。ああ、美味しい料理」
メイドの一人が料理に舌鼓を打つ。今日の料理は山の茸や山菜を使ったパスタだ。しかし、何時にも増して美味しい気がする。
それに何か幸せになれるような、そんな気分だ。
「ううん、美味しいぃ。ただの茸なのに、こんなに美味しいなんて。何て茸なのかしら?」
「さあ? ただ、メイドの一人が旦那様のお知り合いから戴いたと聞いたわ。くれぐれも旦那様にはご内緒にって」
「へぇ〜それは嬉しいわねぇ。ああん、やっぱりこの屋敷に勤めて良カッタぁ」
「ソウねぇ。あら、少し喋り方おかしくない?」
「そうカシラ? そう言う貴女も?」
と、何故か舌足らずな喋り方が入り込み、従者たちは首をかしげながら不思議に思った。しかし、疲れのせいだろう、と改めて思いなおし、ワインを口にした。
「それにシテモ、ミスタ・アスレーテ様は良きお方デスネ。少し気の弱そうなところもありますが、カッコイイだし、アマチャンだし。イッソ私をタベチャッテ欲しいですね」
「ええ、それに私たちへのお給料にもチャント気を配っていらしいますし。少し怪シイ方々やハルベオンの方と付き合いがありけど、
そなの平民の私たちには関係ない話ヨネ。ああ、タベテモラエナイカシラ」
「そうそう。オカネさえあればワタシには関係ナイネ。ああ、ウマイ料理」
繰り返される会話だが、その言葉遣いや態度が可笑しくなっていく。
それだけではない。段々と彼女たちの、いやその場にいる全員の様子が可笑しくなっていく。しかし、誰一人として気が付く事はない。
ついにフォークもナイフを使うこともやめ、手で料理を掻きこみ始めた。ぼろぼろと汚らしく、服を汚して、まるで知能の無い獣のように。
「何ですか、騒々しいです……よ……?」
と、仕事の完了のチェックを行っていたメイド長がその食堂に入り込む。しかし、そこで行われている地獄絵図を見て、思わずたじろいでしまった。
そのメイド長に気が付き、コックの一人が襲い掛かってきた。メイド長は悲鳴を上げながら逃げようとする。しかし、それを素早く正気を失ったメイドが捕まえた。
「いや、いや、いやあああああ!!」
必死に振り払って逃げようとするメイド長だが、食堂に引きずり込まれて、そのまま正気を失った従者たちに囲まれてしまった。そして、ゆっくりと扉が閉まり、悲鳴が聞こえなくなった。
その様子を影から眺める一つの人影。仮面を被り、露出している口元には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「順調順調。さて、後は……」
その影は、自分が羽織っているマントをバサッと翻した。そこにはあどけない少女が、瞳の光を失ったまま、ぼぅっと突っ立っていた。
「このジジちゃんをお届けしないとねー」
少女、ド・マルタンの山小屋にいるはずのジジをその影は満足そうに笑いながら、その頭を撫でてやった。
第31話
仲間たちが戦っている最中、アニエスとルイズは仮面を被った風のメイジと対峙していた。
メイジは猫背になり、ぶらぶらと腕を不気味な動きで振りながら、アニエス達の様子を伺っている。アニエスもまた、今にも掛かりそうなルイズを制止させながら、その男の動きを慎重に観察していた。
この男はただのメイジではないだろう。暗殺や汚れ仕事など、そういう類を専門とする者だ。だから、魔法に頼らずとも個人の戦闘能力は高いはずだ。
迂闊にかかればやられるかもしれない。しかし、その一方でアニエスの心の中には、故郷を焼いた人間と同類である目の前の男に対し、怒りと狂気に似た感情が浮かんできた。
すると、その感情を察してか、それとも別になんとも感じていないのか、再びメイジは狂気の笑みを浮かべると、腰に腕をやる。そして、一気に引き戻すと、腕には巨大な鍵爪が取り付けられていた。
「ケヒ」
メイジは短く笑うと、疾風のごとくアニエスに切りかかった。アニエスはタイミングを合わせて下がり、その爪をデルフで押さえた。メイジは続けざまに空いている右手の鍵爪を突き出す。
アニエスはくるりと体を回転させて避けながら、デルフの刃をつかみ、回転させて爪を折ろうと試みる。それを防ぐために、メイジはその回転に動きを任せて、空を舞った。
「てやああ!」
そのメイジにルイズが斬りかかった。レイピアを素早く真直ぐ突き出し、メイジの足を封じようとするが、彼はその動きに乗せてルイズのレイピアを蹴って弾いた。
そしてデルフから爪を放すと、そのままウィンドの魔法を素早く唱えてアニエス達を吹き飛ばした。
「くっそぉ、動きが早いわ……」
「焦るな、ルイズ。今のは、いい動きだった」
体勢を立て直しながら、悔しそうに呟くルイズに、アニエスは頭を軽く叩いて励ました。5年前まではただの少女だった彼女とは動きは大違いだ。
自分の動きに合わせてくれる。邪魔をするわけでもなく、かつ介入しないわけでもない。本当に自分の後ろ姿を見て育ってくれたのだとアニエスは嬉しそうに思った。
と、そんな彼女を余所にメイジは両腕の鍵爪をぶつけて甲高い音を鳴らしながら、アニエスの様子を伺っている。
彼女はメイジに注意を渡らせながらも、横目に他の仲間たちの様子を伺う。ゴーレムを相手にしているチアンは問題なさそうだ。無茶に攻めるわけではなく、冷静に対処している。
どちらかといえば、兵士たちを相手にしているエレオノール達がジリ貧になっているようだ。あちらに加勢したほうが良いだろうか。
そう思った瞬間、エレオノールが眼でそれを制止させた。どうやら秘策があるようだ。その彼女をサイトが守っている。アニエスから見れば、荒削りであれ素人とは思えない動きだ。
「うっ」
『相棒、油断するな!』
と、そんなアニエスにメイジが仕掛けてきた。少し反応が遅れた彼女は頬に傷を負ってしまうが、すかさず回し蹴りでメイジを牽制する。離れたメイジをルイズが追撃した。
彼女はレイピアを突き出し、そして更に、杖を突き出した腕の影にかぶせるように取り出して、メイジの足元に錬金を唱える。素早い連携の上、突如足元が爆発したのに反応しきれず、メイジは吹き飛ばされた。
アニエスはすかさず飛び上がり、デルフを突き刺そうとする。メイジは横に転がり、それを避けると、エア・カッターを唱えながら後ろに下がった。
アニエスは地面に突き刺したデルフを勢いよく抜いて空に舞わせると同時に、自分も転がって後ろに下がった。エア・カッターはデルフに吸収され、彼女達に届かない。
更にアニエスは空に舞ったデルフを足で引き寄せる。そしてまた構え、頬から流れた血を舌で絡めとった。
『ったく、剣の扱いが酷いなぁ、相変わらずよ』
「普通の使い方じゃ、お前も満足しなさそうだからな」
『いや、普通に使えよな……』
地下道の時の戦闘でもそうだが、アニエスはデルフを普通の武器としては使わない。魔法を吸収することが出来るという利点を活かしつつも、それには頼らないようにする。
吸収できる、ということは何処かに溜め込まなければいけないのだろう。何事にも限界はあるはずだ。
今のところ、その捌け口が分かっていない以上魔法を吸収させるのは最低限にしなければいけない。
そんな彼女の元にルイズが駆け寄ってきた。
「姉さん、大丈夫?」
「ああ、かすり傷だ。毒も塗られていないようだし、平気だろう。……とっ?」
と、突然仄かな風をアニエスは背後に感じた。後ろをちらり、と向くとエレオノールを中心に小さな竜巻が起こっていた。
吹き飛ばされるほどではないので、その中で兵士たちが踏ん張っているが、動きが取れないようだ。だが、不思議なのは竜巻の中がキラキラと光っていることだ。
と、突然その風の中を稲妻が走った。その稲妻に当たり、エレオノール達を取り囲んでいた兵士たちが一斉に痺れ始めた。
「うわ、すげ」
ルイズも傍目から見て、呆れたようにその様子を見ていた。竜巻の中からは、エレオノールがハイになっているのか、高々と笑う声を上げて、それをギーシュやパスカルが止めているようにも聞こえる。
と、そのルイズの体が、アニエスに抱きかかえられ、急に宙へ浮いた。メイジが攻撃を加えてきたのを、アニエスはルイズを抱きかかえて大きく跳び、距離を取ったのだ。
そして、アニエスが竜巻の中に巻き込まれそうになった瞬間、稲妻と風が止んだ。そして、中からはエレオノール達の姿が現れる。多少傷は負っているが、無事のようだ。
「姉上、大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっとハイになりすぎたわ」
「ルイズ、お前も大丈夫か?」
「うん、ありがとう、サイト」
「はう、あうあうあう……」
「殿下、しっかりしてください、殿下ぁ!」
「……姉上、後ろでアンナ殿が怯えていますよ」
「あ、いや、その、違います殿下。ごめんなさい」
「ふらッ!」
と、背後でがたがたと震えるアンリエッタに、エレオノールが誤魔化そうとしていた時、何処からとも無くチアンの叫び声が聞こえてきた。
チアンは掌底をゴーレムに打ち込むが、やはりゴーレムはビクともしない。そして逆に彼は背中に重い一撃を喰らい、嗚咽を吐いた。
そして、腹にもう一撃を喰らい、よろけたところにもう一撃、というところで体勢を立て直した。
チアンはゴーレムの腕を取ると、それに自らの足を絡め、そして勢いよく捻って地面に叩きつけた。精巧なゴーレムとて、間接部分の構造は人間と変わらない。つまり、一番柔らかい部分だ。
打撃が効かないのであれば、こうして関節技で破壊してしまうのが一番である。
腕を破壊されたゴーレムは更にチアンによって首もへし折られ、ついに動かなくなった。と、何処からともなく指を鳴らす音が聞こえてくると、もう一体は大きく飛翔し、主人の元へと戻る。生き残った兵士や、なんと気絶している兵士たちも一緒だ。
「ここまでやるとは……」
「はっ、私たちを甘く見ているんじゃないわよ! 誰だか知らないけど!」
「ふむ。確かに甘く見ていたな。換算には入っていないのもいるしな……」
と、言葉とは裏腹に土のメイジは余裕そうな声色でルイズ達を指差した。どうやらまだまだ本気を出していない様子であるが、それに気が付かず、ルイズは胸を張っている。
そんなところへ、もう一人の仮面を被ったローブの人間が姿を現し、素早く土の仮面の傍に立った。そして、なにやら耳打ちをすると、土のメイジが杖で肩を叩きながら、アニエス達を見やる。
「ふうむ、こっちは任務失敗か。まあ、いい。丁度良い遊び相手だったな」
「……貴様たちはアスレーテの手の者か」
「ふふ、まあそう言うことにしておこうか。さて、どうするかなぁ」
土のメイジはふざけたように頭を掻きながら思案する。しかし、その中でも彼らの取り巻きは警戒を緩めず、アニエス達が攻めることを防いでいた。
「まあ良いか。お前達が我等の障害になることもあるまい」
「んだと?」
「では全員撤退、また会おう。お姫様方」
食いかかろうとするチアンを無視して、土のメイジは兵士たちに号令を送る。すると一斉に彼らは出口へと走っていった。その速さは並の人間とは思えないほど素早い。
「逃がすかよ!」
チアンが追いかけようとするが、彼の目の前に空気の風が立ちはだかった。そして、続けざまに先ほどのゴーレムが彼らの頭上に飛び込んでくる。
しかし、それが攻撃してくるという様子は無い。まるで無防備だった。だが、それでアニエスは彼らの意図を察する。それと同時に、ゴーレムに向けてフレイムボールが飛んできた。
「爆弾だ! 皆、伏せろ!」
詠唱は間に合わない。アニエスがすぐさまルイズとサイトを抱きかかえて、地面に伏せた。エレオノールも近くに居たアンリエッタを抱きかかえて伏せ、他の仲間たちも同じように頭を抱えながら地面に伏せる。
そしてフレイムボールがゴーレムにぶつかった瞬間、閃光を放ちながらゴーレムは凄まじい爆音と共に爆発を起こした。しかし、不思議と爆風だけしか襲い掛かってこない。
ただの目晦ましだったらしい。静けさが辺りを包み込んだ。アニエス達が立ち上がり、目を見開くと、兵士たちや仮面のメイジたちの姿は無かった。
しかもよく見ると、出口が塞がれていた。恐らく錬金を使った壁なのだろう。アニエスはギリッと歯を食いしばりながら、その壁を見つめた。
「やられたな、目晦ましか。……しかし、いやな予感がする。これは早めにリュシアン殿の許へ戻ったほうが良さそうだが……」
「この壁か……」
チアンはその壁を摩った。どうやら分厚い岩壁のようで、かなり丈夫だ。水の魔法で強化したチアンの力を持ってしても、これを破壊できるかわからない。
「もう一個の出口は?」
「たぶんそっちに行って、戻ってくる時間はないだろ。どうする?」
「ふふん、ここは僕の出番のようだね」
と、そんな彼女たちにギーシュが薔薇の杖を掲げながら割って入ってきた。まるで事態の読めていないような様子の彼に、チアンは眉間の皺を寄せながら拳を鳴らす。
しかし、そんな彼の事など気にすることなく、ギーシュは高々と叫んだ。
「来たまえ、僕の愛しのヴェルダンデ!」
彼の声が遺跡中に響き渡る。しかし、特に何も起こらなかった。
「何も起きないじゃうおわ!?」
アニエスが呆れた表情になりかけた瞬間、彼女の足下の地面が急に盛り上がり、驚いてその場から離れた。そして、その地面から何かの鼻が飛び出してきたと思えば、巨大なモグラが飛び出してきた。
「な、なんだぁ?」
「おお、愛しのヴェルダンデ、君に逢えない日々がどれだけ寂しかったか……。そうかそうか、うんうんよしよし」
「立派なジャイアントモールね。バジルと同じぐらい大きいわ」
ギーシュはそのジャイアントモール、ヴェルダンデを愛おしそうに撫でたり抱擁したりした。気持ち悪い、とにかく気持ち悪い。チアンはそんな彼に後ずさりしながら怒鳴りつけた。
「良いから早くしろ!」
「何だと!? 僕とヴェルダンデとの時間を」
「良いから早くしなさい」
「はい、すみません」
ギーシュはそんなチアンに怒鳴り返そうとしたが、エレオノールから更に詰め寄られ、ギーシュはしぼみながらヴェルダンデに指示を送った。ヴェルダンデは鼻を何度か鳴らすと、そのまま地面を掘り始めた。
その速さはさすがのジャイアントモールだろう。あっという間に地面を掘り開け、出口への道を作り出して戻ってきた。
「よぉしよし、いいぞぉ。さあ、行こう。何処に行くか分からないけれどね」
「よし、じゃあ……」
と、アニエスが穴に入り込もうとしたそのときだった。突然地響きがなり始め、あたりが大きく揺れ始めた。天井から砂が落ちてきている。何事かとアニエス達が辺りを見回してみると、
突然地竜の叫び声が聞こえてきた。そして、地響きが段々と大きくなると、通路を派手に破壊しながら地竜は現れた。地面を爪で抉り、周りの石像や岩を破壊しながら暴れまわる。もはや止められない状態だ。
だが、その地竜の全身からは血が流れている。どうやら通路を通る際に自分の体も傷つけてしまったようだ。荒れ狂い暴れまわっているが、その体は明らかに弱っている。
いや、それだけではない。地竜の爪には、明らかに人間の血がべっとりと付けられている。布のようなものも絡まっていた。どうやら先ほどの兵士の一部が地竜の住処に入り込み、自らを犠牲にして彼を呼び起こしたのだ。
「わ、わわわ! な、何だね、あれは!?」
「で、でけぇえ! あんなんに襲われたら俺たち死んじしまうぞ!?」
「地龍様!」
「あ、君!」
と、慌てふためくギーシュたちを尻目に、パスカルは慌てて地竜の許へと駆けていこうとした。自分の魔法が解けてしまった。
せめて、せめて彼を静かに眠らせてあげたい。だからこんなところで暴れてはいけないのだ。そう思い、全身全霊の精神力を振り絞り、暴れまわる地竜に対し魔法を唱えようとするが、
その前に彼女はチアンの大きな腕に抱きかかえられ、出口のほうに引き戻された。
「チアン君!」
「パスカル! お前は家族の許へいけ!」
「で、でも……」
パスカルはチアンの言葉に戸惑う。地竜は辺りのものを破壊しつくし、ついにアニエス達を標的にした。そして、傷つき果てた体をずるずると動かし、向かってくる。
チアンは更にもがくパスカルをアニエスに放り投げると、地竜に拳を向けた。アニエスに抱きかかえられたパスカルは戸惑ったようにその様子を見る。
「お前はよく頑張った。だけど、もういいんだ」
「チ、チアン君……?」
「あんなん見りゃ、馬鹿な俺だって気が付くよ。だったら、最期はあいつも竜らしく、誇らしく戦って死んだほうがまだマシだ」
「そんなこと!」
「行け! 死にゆく者よりも、生きようとする人を見ろ! それとも、またオリヴィエみたいな奴を増やしたいのか!」
チアンの言葉に、パスカルははっとし、そして震えながら、開きかけた口を閉じた。そして、アニエスから放れて、髑髏の仮面を地面に置くと、彼の背中にそっと体を寄せながら呟いた。
そこで露になった、あどけなくも何処か寂しげな大人のパスカルの顔に、サイトとギーシュは思わず感嘆の声を上げてしまった。
「……お願い、地竜様を……」
「ああ、頼む」
「ごめんなさい、私ずっと隠していた……。地竜様が、長くないこと……チアン君に……」
「……お前は、優しすぎるんだ。でも、ありがとうな。さあ、早くしろ!」
「これが、きっと最後……!」
パスカルはチアンに強化の魔法を唱えてやる。仄かな光が彼を包み込む。その瞬間、チアンの体に力が湧いてくるのが分かる。しかし、同時に彼の体を、まるで火で焼かれたような痛みと熱が襲い掛かってくる。
三度目の強化魔法が彼を蝕んでいるのだ。しかし、彼は付きかけた膝を何とか保ち、仮面を剥ぎ取ると、また立ち上がって拳を構えた。
「チアン君」
「……さあ行け!」
「……生き残って……!」
「行けッ!」
チアンの叫びに、泣きそうになるのを我慢しながらパスカルは後ずさり、ヴェルダンデが掘った穴の中へと入っていった。エレオノールも戸惑っているルイズ達を引き連れて、穴の中へと入っていく。
アニエスはチアンの背中を軽く叩き、ここは任せる、と小さく呟くと穴へと向かっていった。
「待ってくれ」
と、そんな彼女にチアンは声を掛けた。そして、少しだけ間を空けた後、少し恥ずかしそうな声色でアニエスに言った。
「……パスカルを、頼む」
その言葉にアニエスは小さく頷きながら、また彼の背中を軽く叩いて、再び穴の中へと向かい、パスカルたちを追いかけていった。
その背中をチアンは振り向かないまま見送ると、地竜を睨みつける。地竜は苦しそうな息遣いで、息を整えながら、チアンと対峙していた。
以前戦った時のような威厳も恐怖感もない。ただそこにあるのは虚しさだけだ。だが、それでも彼は地竜に立ち向かう。地竜も、それに答えたかのように高らかと吼えた。
一瞬だけだが、まるでその声はかつて自分を完膚までに叩き伏せた時と同じだった。チアンは思わず笑みをこぼしながら、咆哮を挙げて地竜に向かっていった。
「これは、どういうことだ……」
トマは屋敷の中の惨劇を目の当たりにし、唖然とした表情のまま立ち尽くしていた。何だ、これは。心の中で思っていたことでもあり、そして口にも出しながらも、その言葉を何度も繰り返し出した。
使用人たちや衛士たちが無残な姿で死んでいる。ずたずたに無理やり引き裂かれたような傷や、誰かに噛み付かれ、引きちぎられた後。そして、廊下の奥ではまるで獣のような動きで衛士に飛び掛るコックの姿があった。
そのコックの姿も無残なものだ。まるで全身に火傷を負ったように水ぶくれのような。
と、そこでトマははっと何かに気が付いた。まさか、これは。
「はぁい、トマ君」
と、突如自分を呼ぶ馴れ馴れしい声が背後から聞こえてきた。トマは前方を親衛隊に任せつつ、後ろを振り向いてみると、そこには仮面を被ったローブの女性が立っていた。
まるで人を馬鹿にするかのような無邪気な笑みを浮かべている。仮面の奥にある瞳も、きっとそんな風なのだろうか。トマは怒りを抑えながら冷静を装い、彼女に問いかけた。
「これは、どういうことだ。これではまるで」
「素敵でしょ? ごめんなさいね、研究費貰うのにちょっとばかり成果が欲しかったから、実験しちゃった。でも、レポートもまとまったし、ありがとう、トマ君。
ま、従者なんか、また集めれば良いんじゃね?」
挑発するかのような口調で話しながら、女性はケラケラと笑った。その真意を理解し、トマはついに怒りを露にし、彼女に食って掛かった。
そう、この現象は紛れもなく屍人茸による毒だ。そして、それを彼女が作り出したのだろう。それをこの場にいる彼だけが瞬時に理解できた。だが、意図はわからない。
親衛隊たちは事態を飲み込めないまま、襲い掛かってきた従者たちに斬りかかりに行く。
「ぐっ、貴様、裏切りおったな!」
「裏切る? 何を言っているの? ただあんたとは同盟関係だっただけ。でも成果も出せず、我が主に盾突こうとするんだもの。これは"自衛"、もしくは"お仕置き"よん」
「くっ……」
「まあ、全部私とあいつが考えたことなんだけどねぇ。あの方は、最近たるんでいるあの馬鹿を焚きつけて来いって。ふふっ、最高のシチュエーションじゃないかしら?」
「……彼は私に何をさせたいのだ?」
「さあ? さっきも言ったとおり、焚きつけて来い、だそうよ。もしこの場面を生き残れれば、また援助してあげるって言ってるんじゃないかしらねぇ?」
と、女性がマントを翻すと、そこからド・マルタンの次女ジジが現れた。瞳からは光が失われ、呆然と立ち尽くしている。まるで物言わぬ人形のようだ。
女性がジジを真直ぐ前に突き出すと、ジジはふらりとトマに寄り添った。トマはそれを優しく抱きかかえると、女性を睨みつける。
「その娘は……」
「そろそろ来るかしら? あのサイラスって男、まだまだしぶといみたいだからね。後は貴方が止めを刺しなさいな」
「わざと、だな?」
「どうかしらん?」
「……こんなことをしたことを、後悔することになるぞ、アンダルシア」
「あら、本名で呼ばないでくれる? こんな仕事をしている以上、色々と不都合があるんだしさ。んじゃ、後はよろしくぅ」
「待てッ!」
女性、アンダルシアは悪戯っぽく舌を出しながら笑みを浮かべる。そして杖を振るい、床に錬金を唱えて水に変えてしまうと、そのまま下の階へと消えていった。
トマは慌ててその後を追おうとしたが、どこからともなく叫び声が聞こえてくる。雄たけびにも似たそれは、紛れも無くこのジジの父親サイラスのものだ。
どうするか、いや、もはや後には引けぬ状態にある。演技をするにも恐らくはもはや自分の正体などばれているのだろう。
ならば、どちらがこの領地に相応しいか、見せ付けてやるしかないだろう。
「いいさ、この下手糞な脚本に付き合ってやる……! ああ、そうだ。ただの駒では終わらんぞ……! 俺は、こんなところで終わる男ではない!」
トマは、親衛隊を数でなぎ倒しこちらに向かってくる狂った従者をウィンドで吹き飛ばすと、先ほどまでアンダルシアがいた通路の先を見る。
そこには血走った瞳でアスレーテを睨みつけ、手には斧を握られているサイラスの姿があった。彼は体に火傷を負っているようだ。
「トマァッ!!! 貴様ッ!!」
「さあ、お前の娘はここだ、サイラス! 付いて来い、お前に相応しい死に場所を与えてやる!」
「ぐっ……逃げるか、貴様! 待て、トマァ!」
トマはジジを抱きかかえると、そのまま通路の奥へと駆けていった。痛みに耐えつつ、怒りの形相を浮かべながら、サイラスもその後を追う。
その様子を付近の木の枝の上からアンダルシアは満足そうに眺めていた。そして、懐から一つの茸を取り出す。それはアニエスがここに来たばかりに見た、真っ赤な毒キノコだった。
「エレちゃんも惜しいねぇ。私が嘘を付いていたという可能性、考えてないんだもの。真に受けすぎ」
そう、エレオノールに、この屍人茸の情報を教えたのはこのアンダルシアだ。しかし、彼女は嘘をついていた。屍人茸は単なる毒茸ではない。
それは毒というよりももはや呪いに近いのだ。人間の死体の恨みによって成長するこの茸は、その恨みを毒に変えてしまう。
そして、この茸は何処にでもある。吸血鬼は、人の世界に入り込み、そして狡猾に獲物を狙うように。この茸も育て方を変えればただの食用茸になる。
「まあ、その恨みの毒が長続きしないのが弱点なんだけどねぇ」
「おい」
と、枝の上でぶらぶらと足を揺らしているアンダルシアの許に、先ほどまでアニエス達と戦っていた土のメイジがやってきた。
アンダルシアは小さく笑みを浮かべると、そのメイジの顔をそっと愛おしく撫でながら尋ねた。
「あら、ちょっと疲れている感じ?」
「予想以上に手間取ったが、作戦通り地竜は焚きつけておいた。今頃大暴れしているだろうが、まああの様子ではすぐに死ぬな。
別勢力は残念ながら片付けられなかった。まあ必要ならまた出直すことにしよう」
「そっかぁ。やっぱエレちゃん達手強かったのね」
感心したように呟くアンダルシアだったが、メイジは首を横に振ってその言葉を否定した。
「いや、よく分からんやつも一緒でな」
「よく分からないやつ?」
「一人は、どうやら姫殿下みたいだ」
「ありゃま、それは驚き。へぇ、抜け出した姫様がこっちにいるなんてねぇ。あの方の情報網も頼りにならないこと」
「まあそういう予想できない展開があってこそ面白いんだがな。ところでアンダルシア」
と、突然メイジはもじもじと何か恥ずかしそうに頭を掻きつつ、胸元から一つの牙を取り出した。そして、意を決したようにアンダルシアの手を取りながら告白した。
「その、結婚のことは……。ほら、地竜の牙ももってきたぞ」
「だぁめ」
だが、そんな彼の一世一代の告白もアンダルシアは満面の笑みで断った。メイジは思わず仮面を外し、それなりに整った顔をくしゃくしゃに涙でゆがませながらアンダルシアに詰め寄った。
「な、何ぁ故だぁ!? 君はこの作戦で牙を持ってくれば、私との婚約を考えてくれるって言ったじゃないか!」
「だって、想像してたよりも綺麗じゃないんだもの。これは、貴方が身に着けてなって」
「ぐぅ……私は諦めない。例え君が悪女であっても、君は私の理想のパートナーなのだから……そう、それは神の、始祖ブリミルのお告げ!」
「はぁ、つまんなぁいなぁ。あいつ元気でやってるかなぁ」
と、なにやら顔面を手で覆いながら天に向かって叫ぶメイジなど全く眼中になく、アンダルシアは言葉の通り、つまらなそうにラ・ロシェールの方角向いて呟いていた。
夕日が沈む中、アニエス達は遺跡を抜け、息を挙げながら山道を走っていた。彼女たちが遺跡から出て、村のほうを向くと、山小屋のほうから不審な煙が立っているのが確認できたのだ。
アニエスの悪い予感が的中した。彼女たちは急いで山小屋へと向かう。そんな彼女たちだが、アンリエッタだけはギーシュに背負われていた。
「も、申し訳ございません、ミスタ・グラモン……私を負ぶってくれて」
「ひぃ、殿下、これは、役得、という、ふぇ、もの、で、ごめんなさい、幸せです!」
「が、頑張ってください!」
息も絶え絶えなギーシュにアンリエッタが激励すると、彼は急に加速し始めた。そんな彼に呆れつつ、サイトは前方を走るアニエスに尋ねかけた。
「なあ、えっと、アニエスさん?」
「なんだ少年」
「事態が呑み込めないんだけど……。あいつらいったい何者なんだ、それとそこの女の子は一体?」
「いろいろと複雑な問題でな。すぐに説明することはできん! しかし、今言えることは、彼女、パスカル・マドレーヌのご家族が危ないことと、そして彼女は我々の誰よりも年上ということだ!」
「ええっ!?」
「だがそんなことはどうでもいい! 今は走れ!」
「こっちです!」
パスカルは素早く山道から横に外れると、獣道のような場所へと入り込む。アニエスたちもその後を追った。
さすがに地元に住んでいたことはあって、このあたりの道には詳しいようだ。迷いなく走り続けるパスカルに付いていくと、山小屋の手前までたどり着いた。
しかし、山小屋の姿はアニエスやエレオノールの知る姿の面影などまったくなかった。すべて燃やし尽くされ、あとは燻っている炎がところどころに見えるだけだ。
その姿に、アニエスは歯を食いしばり、拳を強く握った。そらした瞳は誰にも見えることがなかったが、そこには明らかに怒りの炎が上がっている。
「こりゃあ……ひでぇ……」
「見ろ、あそこに人が集まっているぞ」
ギーシュが指差したほうには、どうやらその火事を見つけた村人が一か所に集まっていた。パスカルがその輪を必死に潜り抜けると、そこにはリュシアンの姿、そして横たわっているベネディクトの姿があった。
全身が包帯でおおわれている。息をするのも苦しそうだ。パスカルは思わず言葉を失いながらも、すぐに彼女のもとへと駆け寄った。
「母様!!」
「あ、姉上!」
驚いた様子のリュシアンを尻目に、パスカルは必死に呼びかけた。
「母様、私です、パスカルです! わかりますか? しっかり、しっかりしてください!」
「……パ、ス……?」
「はいっ……パス、です。ただいま、家に帰りましたよ」
ベネディクトはわずかに目を開くと、震える体を必死に動かし、左手をパスカルの頬にあてようとする。
それを、パスカルが掴んで、自分の頬に寄せてやる。そのぬくもりを感じて、安心したかのようにベネディクトは涙を流しながら語りかけた。
「おお……パス……。よくぞ、元気な姿で、いてくれましたね……。母は、安心しましたよ……」
「母様、今まで親不孝に生きて、申し訳ございませんでした。今、お助けします。気をしっかり!」
「よいのです……。私は、もう……。それよりも、父を……ジジをあ、う……」
「父が、ジジがどうなさったの!?」
満身創痍のベネディクトの言葉を受け、パスカルは血走った様子でリュシアンに問う。リュシアンはうつむいたまま、彼女に説明した。
「この小屋を何者かに焼き払われたとき、水のメイジがジジを泡で包み込んで攫っていったのです……。彼らは、自らをアスレーテの使いだと名乗っていました。
かろうじて生き残った我々なのですが、父は母を私に預け、斧を持ってジジを一人助けに……」
「なんてことを……」
「あの子は、あの子は、私たちの、かけがえのない宝……。絶対に失っては……」
「わかりました、それ以上しゃべってはいけません」
パスカルは必死に訴えかけようとするベネディクトを諌める。しかし、その表情は曇ったままだ。どうすればいい。
今、父の許へと行かなければ、彼は返り討ちにあってしまうかもしれない。何せあのメイジ軍団が相手なのだから。しかし、このまま母を置いてもいけない。
と、そんな彼女の背中にアニエスがそっと手を添えた。そして、彼女を安堵させるように語りかける。
「サイラス殿とジジ殿は私に任せ、貴方は母君を」
「アニエスさん……」
「必ず無事に連れ戻してまいりますので。……それに、チアン殿にも頼まれましたからね。パスカルをよろしく、と。その貴女のご家族を守ることが私の今の役目でしょう」
「しかし、一人では」
「私も行く!」
と、一人で屋敷に向かおうとするアニエスを心配するパスカルに、ルイズが名乗り上げた。だが、その手を握り、エレオノールが首を横に振った。
「駄目よ! 貴女が一緒に行っても足手まといだわ」
「そんなことない!」
ルイズは必死にアニエスと一緒に行くことを望むが、そんな彼女をアニエス自身が諌めた。優しい笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でてやった。
「ルイズ。……私一人で行く。お前は、ここで姉上の手伝いをしてくれ」
「姉さん……でも」
「頼む」
それでも戸惑いながらも意思を変えようとしないルイズに、アニエスは頭を下げた。そこまでされてはルイズも引き下がるしかなくなり、不安な表情でアニエスから目線をそらした。
やっと尊敬する姉の背中に追いつけると思ったのに。それに、さっきのアニエスの表情は見ていて怖かった。そのままどこかへ消えてしまうんじゃないかと思えて。そんな想いがルイズの心の中に広がる。
そんな彼女に、アニエスはありがとうと背中に投げかけると、パスカルのほうを向いた。パスカルは不安な想いを心の奥底に仕舞い込み、力強く頷きながら彼女に言った。
「アニエスさん、父を、お願いします!」
「ああ、任せてください」
アニエスもそれに応え、屋敷に向かって駆けようとする。と、その彼女の服の裾をルイズが掴み、引き留めた。
「……ちゃんと、無事に戻ってきてね」
「ああ、わかってる。……ルイズ、すまない。いつも、心配ばかりかけるな」
「本当だよ、もう」
「……帰ったら、クックベリーパイでも一緒に食べよう。そうだな、できれば魅惑の妖精亭がいいな」
「約束だよ?」
「ああ!」
アニエスはルイズの背中を軽く叩いた。そして、ルイズが彼女を放してやると、そのまま駆けていってしまった。
その後ろ姿を見ながら、サイトはルイズにつぶやきかけた。
「……大事な人、なんだな」
「……うん。でも、時々すごく置いてかれそうな時があるのよ」
「大丈夫だよ、たぶん」
「……ありがとう、サイト」
不安そうな表情のルイズをサイトはそっと頭を撫でて励ましてやった。そんな様子をエレオノールは複雑そうな表情で見ながら、ふっとため息をつく。
さっさとアニエスがこの場から去ってくれてよかった。この光景を見られては、サイトはあのデルフの錆になっていたところだろう。
それにしてもなんて不敬な平民だ。これは、あとで問い詰めてやらねば。と、いろいろと考えつつ、エレオノールは表情を改め、パスカルの顔を見る。彼女は袖をまくり、気合を入れて言った。
「さあ、エレオノールさん、お手伝いをお願いします! リュシアンも!」
「わかったわ! リュシアン殿は治癒は使える?」
エレオノールは治療のため、ベネディクトに巻かれていた包帯を外しながら、リュシアンに尋ねたが、彼は申し訳なさそうな表情で答えた。
「い、いえ、申し訳ございません。火事の際に杖を……。一応は村の者の薬草で応急処置は取りましたが……」
「わかったわ、じゃあ下がっていて。秘薬は……ああ、もう! ひとつしかないじゃない……! これじゃ足りないわ」
「秘薬ならあります! これをお使いください」
「ありがとう、リシュアン!」
「エレ姉! 私が持ってきた分も使って! アン!」
「は、はい! エレオノールさん、これを」
「ありがとう! これで三つ……。これを飲めますか、ベネディクト殿」
パスが頭を支え、エレオノールが秘薬を差し出すと、ベネディクトはゆっくりと口を開いた。その口に、エレオノールはゆっくりと秘薬を注いだ。
ゆっくりと、ベネディクトが飲み込むのを待ちながら、ゆっくりと。ベネディクトは途中咳き込んで吐き出しそうになったが、それでも何とか飲み干した。
「よし、飲み込んだ。パスカル、同時に行くわよ」
「はい!」
それを確認したエレオノールはパスカルとタイミングを合わせ、同時に治癒の魔法を唱える。先ほどの戦闘でかなりの消費をしている二人だったが、それでも目の前の母を救うために力を合わせた。
エレオノールはふらつき、地面に手をつけるが、再びパスカルとタイミングを合わせて治癒の魔法を唱える。
そして、しばらく唱え続けるが、傷が完全に癒える前に秘薬の効果がなくなる。エレオノールは秘薬を手に取ろうとするが、その前にふらつき、手元が狂ってしまう。
精神力に限界が来はじめている。だが、大きく咳き込みながらも、何とか秘薬を掴もうとした。
「エレ姉……」
「エレオノールさん……」
ルイズ達は、その様子を傍から見て、呆然と立ち尽くしていた。あれまで必死な姉を見たことがなかったからだ。
意を決したように、ルイズは急いで彼女の傍に立ち、先ほどパスがやっていた時のようにベネディクトの頭を支えた。傍から見ていられる彼女ではない。
サイトもすぐに駆け寄って、エレオノールの代わりに秘薬を掴むと、それを恐る恐るベネディクトの口に注いでやった。
だが、おぼつかない手つきだったためかこぼしてしまい、ベネディクトが咳き込んでしまう。そんな彼に対し、エレオノールは思わず怒鳴りつけた。
「もっと慎重に注ぎなさい! ゆっくりと、肩の力を抜きなさい……!」
「は、はい!」
「……それと、二人ともありがとう」
と、叱りつつも、恥ずかしそうに感謝の言葉をかけた。ルイズとサイトはお互いに顔を合わせながら、うん、と強く頷くと、再び作業を始めた。
その様子を、アンリエッタはすごい、と感動しながら見ながらも、自分の無力さを呪った。もし、城に置いた杖さえあれば、彼女を助けてあげられるのに。
「奥方様は助かるんですかい!?」
「きゃ!」
「き、君! 無礼な!」
「ひっ!」
と、そんな彼女に農民の一人がアンリエッタに詰め寄ってきた。ギーシュはそんな彼を振り払おうとするが、
アンリエッタはギーシュを制止させると、その農民を落ち着かせようと、その手を握って優しく語りかけた。
「ええ、きっと大丈夫です。だから、安心してお声をおかけくださいまし。それが、ベネディクト様をお助けできる手助けになると思います」
「ほ、本当ですかい!?」
「ええ、だから優しく語りかけてあげてください」
「わ、わかりやした!」
農民はアンリエッタの言葉に勇気づけられたのか、意を決したような表情でベネディクトの傍により、彼女に必死に声をかけた。
それにつられ、その場にいた者達も彼女を必死に励まし続けた。それに応えるかのように、エレオノールとパスカルも必死に治癒の魔法を唱え続けた。
それを、アンリエッタはただ傍で見守ることしかできない。特別医療の知識を持つわけでも、魔法の力を持つわけでもない。
ただ無力な少女である彼女はただ、この場にいる者たちに始祖の加護があらんことを、祈ることしかできなかった。
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おまけ
アニエス「いやしかし」
エレオノール「何?」
アニエス「見ましたか? あのルイズの動き! いやぁあそこまで成長するなんて、お姉ちゃん鼻が高いなぁ!うん!」
エレオノール「……また始まったわね、姉バカが」
ルイズ「姉さん暑苦しいよぉ」
アニエス「うおお、ルイズぅ!お姉ちゃんはうれしいぞぉ!」
ルイズ「もう姉さんうっさい!というかうっとうしい!」
アニエス「!?」
エレオノール「……あ、固まった。まあ思春期の子って、大変よねぇ」
うーん、迫力のある戦闘シーンって難しいですね。あと魅力的なキャラクターとか。もっと演出とか頑張りたいです。
最近エレ姉が主人公なんじゃねぇかと思い始めました。でもこの作品の主人公、あくまでアニエスです。
語るスレやこちらのほう、そして本スレでアドバイスしてくださったや励ましてくださった方々、ありがとうございました。
いろいろと思い当るところもあり、すごく参考になりました。これからの展開に生かせればと思います。
それにちょっと贅沢な悩みだったみたいですね。
さて、そろそろシリアスが持たない。これは、また怪談でも書いて弄るべきか。カトレアさんかカリンちゃんを。
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以上で代理投下完了です
ちょっとエラーで弾かれたところがあったんで
改行&区切り変更
投下乙です。
しかしなんというバイオハザード。
ロケットランチャーとハーブが必要ですな。
しかし、オリジナル展開を突っ走りますなぁ。
いや、面白いから全然いいんですけど、原作展開に着陸できるのだろうか、これ。
もしラグドリアン湖でウェールズと出会ったのがアンアンではなくイザベラだったら?
とりあえず覗きをしたウェールズに蹴りを入れるだろうな
ファーストキックから始まる二人の恋のヒストリー
ふたりの手紙のやりとりを仲介させられるタバサ
「さあ、この手紙をあの唐変木に届けるんだよ!」
「……了解」
むしろ
ファーストキックから始まる二人の恋はヒステリー
上手いなぁ、思わず本気で唸ってしまった。
というか、面倒くさいな「恋はヒステリー」ってww
ツンデレの恋は確かにそのまんまだけど。
イザベラ様が恋をしたら、キャラの方向性がルイズとだだ被りする気がする。
イザベラ様は下手に権力あるから、さらに過激な恋になりそう。
アルビオンが危なくなったらタバサにクロムウェルを暗殺してこいとか言いかねない。
意外とあっさりゴールするかもしれん
でも、これが2巻より前に起きてたら
2巻からの展開がかなりかわるかもしれん
いやウェールズ様を挟んでアンアンと恋の鞘当をしたりで引き伸ばしと見たね
どっちかが恋文を出そうとするたびに、水面下で北花壇騎士と銃士隊が手紙の争奪戦をするとか
北花壇相手じゃ銃士隊じゃ厳しいかも
たまにタバサがばれないようにイザベラの邪魔したりするんだろうか
同性相手でも微熱に火がついちゃったら止められないとか言って
キュルケがイザベラに夜這いかけたりとか
アルビオンを舞台にした父と娘の壮大な親子喧嘩とか
アルビオンよ、私は帰ってきた!
とか叫びながらトリスタニアに向けて巨大な火石を落とそうとするクロムウェル
>>274 それがきっかけでイザベラ様がガリア女王になる気を固めたりしたらすごい
浮遊大陸と言えば波動砲
アルビオンを跡形なく吹っ飛ばす気かよ。
てか、もしヤマトを手に入れたとしたらイザベラ様なら総統閣下のように波動砲に自分の名前をつけそうだな。
兵士「前方、20宇宙キロ。アルビオン大陸を確認」
イザベラ「ようし、イザベラ砲発射用意」
そんでもって虚無のテレポートを取得して
ヨルムンガンドをばかすか送り込むジョセフ王
「こ、これは!」
「虚無のテレポート……」
「ジョセフ戦法か!」
「まさか! ガリア王は死んだはずじゃなかったのか!?」
ジョゼフだった……吊って来るorz
もしギーシュが教師だったら?
立ち位置変更シリーズ
>>279 「はっはっは、久しぶりだね。トリステインの諸君、また会えて光栄のいたりだ」
ヴィットーリオ教皇にはこの台詞を言わせたい
「どうだ、これで分かっただろう。ハルケギニアの絶対者は私だ。私がハルケギニアの法であり、秩序なのだ。このハルケギニアに生きとし生けるものはその血の一滴まで俺のものだ」
ヴィットーリオ「やっときましたね。おめでとう! このゲームを かちぬいたのは きみたちがはじめてです
ルイズ「ゲーム?
ヴィットーリオ「わたしが つくった そうだいな ストーリーの ゲームです!
才人「どういうことだ?
ヴィットーリオ「わたしは へいわなせかいに あきあきしていました。 そこでジョセフをあおったのです
ギーシュ「なに かんがえてんだ!
ヴィットーリオ「ジョセフは せかいをみだし おもしろくしてくれました。
だが それもつかのまのこと かれにもたいくつしてきました。
マリコルヌ「そこで ゲーム‥か?
ヴィットーリオ「そう!そのとうり!! わたしは あくまを うちたおす ヒーローが ほしかったのです!
ルイズ「なにもかも あんたが かいたすじがきだったわけね
ヴィットーリオ「なかなか りかいが はやい。 おおくの モノたちが ヒーローになれずに きえていきました。
しすべき うんめいをせおった ちっぽけなそんざいが ひっしにいきぬいていく すがたは
わたしさえも かんどうさせるものがありました。わたしは このかんどうを
あたえてくれた きみたちにおれいがしたい! どんなのぞみでもかなえてあげましょう
才人「おまえのために ここまできたんじゃねえ!よくも おれたちを みんなをおもちゃにしてくれたな!
ヴィットーリオ「それが どうかしましたか?すべては わたしが つくった モノなのです
ルイズ「わたしたちは モノじゃない!
ヴィットーリオ「きょうこうに ケンカをうるとは‥‥どこまでも たのしい ひとたちだ!
どうしても やるつもりですね これも いきもののサガか‥‥
よろしい しぬまえに きょうこうのちから とくと めに やきつけておけ!!
308 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/08/23(月) 00:42:22 ID:fJzMq0zs0 [14/22]
こんばんわ、前回では調整&代理投稿をしていただきありがとうございました。
そしてご感想もありがとうございます。原作に、着地、できれば、いいな!
第三十二話が完成いたしましたので投稿したいと思います。
投下に今まで気づかないとわ!
2話分代理投下行きます
※今回もちょっと残酷表現あり
サイラスは肩で息をしながら、物陰に隠れて息を整えている。わき腹からは止めどなく血が流れていた。それを、何とか治癒の魔法で塞ぐ。
戦闘には向かない水のメイジである彼は、終始、トマに押されていた。武術だけでいえばサイラスは彼に勝っているが、
それ以上に魔法による実力の差は大きい。あんな弱気な男が、ここまで実力を隠していたとは、到底信じられなかった。
「どうしたぁ、サイラス! もうお終いか?」
机の影からトマが叫んできた。笑い雑じりのその言葉の中には疲労の色が見える。どうやら彼も、だいぶ消費しているようだ。
あの後、逃げるトマを追いかけ、サイラスが訪れたのは食堂だ。何人かの無残な死体が見え、正気を失った従者たちが襲いかかってきたが、
サイラスはそれを退け、台所の影に隠れた。狂人達はトマにも襲いかかっているようだ。
なぜこのような事態を彼は生み出したのか、それはわからないが、今のサイラスにとってはそんなことはどうでもいい。
サイラスにとって、我が家を焼き、妻を傷つけただけではなく、娘まで攫った張本人を許せなかった。それだけだ。
「トマぁ! ジジを、私の娘をどこにやった!?」
「安心しろ、傷はつけてはいない! あの娘は私が責任もって育ててやろう! だから、老人は逝けぃ!」
「悪いが、まだこの地を去るわけにはいかん! 貴様のような欲深き人間に、この土地をこれ以上好きにさせるものか!」
サイラスが痛みをこらえながら叫び返すと、隠れていた台所の一部が空気の槌で吹き飛ばされる。
そして、怒りが込められた叫び声があたりに響き渡った。
「欲深いだと!? はっ、ただ考えることを放棄した木偶の坊が何を言うか!」
「何!?」
「伝統だと何だと語っておきながら、その実は、貴様は何も考えずにただ仕来り通りに動いているだけだ!
地竜を崇めなければいけない。地竜を敬わなければいけない! ただ先祖がそうしてきたから、何も考えずに従属し、そして民にその生活を強いてきた!
その結果がこれだ! 時代の流れから置いてゆかれ、ただ痩せ行くだけの土地を立て直したのは誰だと思っている!」
「ああ、そうだ! しかし、それは貴様だけの功績ではない! 地竜と村の者達の努力のおかげだ! それがわからぬお前ではこの地は任せられん!」
「それが傲慢だと言っているのだ、サイラス・ド・マルタン!」
「貴様こそ、それが言える立場ではないだろうに!」
サイラスは物陰から飛び出し、さらに机や崩れた壁を盾にしながら、トマに接近する。そして、斧を振りかざし、特攻を仕掛けた。
防御などもはや考えていない。自分の命もろともトマを殺す。サイラスはそう考えていた。
命を懸けてまで仕掛けてくる攻撃ほど恐ろしいものはない。トマは相打ちを避けるために、あえて攻撃を加えず、地面を蹴って飛び、転がるように物陰に隠れた。
「水は流れ行くものだ。流れなければ、ただ汚れてしまう! はっ! その点を理解していた分、貴様の息子と娘は優秀だったな!」
「息子の名を出すか、貴様は! 貴様がやろうとしているのは、汚染した水を流し込もうとしているだけだ!」
「そうやってまた逃げるのか? 心の中では認めているのだろう? オリヴィエが正しいと、パスカルが正しいとな!」
「……二人は二人の生き方を見つけた。それが私の生き方と沿わなかっただけだ!」
この土地に新たな風を、時代を取り入れようとせんとするトマ。そして、村の伝統を守ろうとせんとするサイラス。
二人の主張はまさに平行線をたどったままだ。交わることなど一切ない。だから、彼らは戦うしかないのだ。
しかし、実際にはサイラスが不利だ。衰えた体に火傷の傷、そして持病。もはや気力だけで戦っているようなものである。
一方のトマには、まだ精神力も体力にも余裕がある。若き頃は軍部の下っ端としても働いていた彼には、しばらくはデスクワークのみだったとはいえ、
体力には自信がある。それに、ラインとはいえ、火と並び、戦いに優れた風のメイジである。
と、トマは何処からか気配を感じた。まるで自分たちを監視するかのような。しかし、そんなよそ見をする彼の腕に水の鞭が絡みつく。
しまった、そう思った瞬間、彼の体が宙に浮いた。そして、思い切り壁に叩きつけられ、思わず意識が飛びそうになる。
しかし、トマはそれを何とか耐えきり、エア・カッターで水の鞭を切断すると、そのままふらりと立ち上がった。
「やるな、サイラス……。貴様、その体、ただ鍛えただけではないな……」
「娘に魔法を教えたのは、この私だぞ、トマ。貴様も、なかなかの使い手じゃないか。ただの秘書にしておいたのは失敗だったな」
「はっ、私がどれだけ苦労して猫をかぶってたと思う」
お互い満身創痍となり、そして自然と笑いがこぼれてくる。もはや二人とも限界を超えた地点にいるのだ。
しかし、戦いは終わらない。二人は決着をつけなければいけないのだ。
第32話
「はぁ……はぁ……間に合ったか?」
息をあげながら、アニエスは目の前に立つアスレーテの屋敷を眺める。
以前訪れた時の、のどかな雰囲気など、もはや感じられない。目の前に立つ屋敷からはただ、不気味な静けさと血の匂いしか感じられなかった。まるで、戦場のような。
アニエスはまず、真っ直ぐ屋敷に入らず、彼女がここに初めて訪れた時に見つけた赤いキノコのほうを見つめる。しかし、今はそのキノコは見当たらない。
まさか、とアニエスは最悪の事態を思い描きながら、すでに番人すらいない門をくぐると、中庭を通りぬけ、入口まで走り抜けようとする。
しかし、草陰から何かに飛びつかれ、彼女は地面に叩きつけられた。何事かと、自分に掴みかかる何者かの腹を思い切り蹴り飛ばし、デルフを構える。
蹴り飛ばされた何者かはふらりと立ち上がると、まるで餓えた獣のような息遣いでこちらを見つめている。ぼろぼろになった服装や傷だらけの鎧から察するに、衛士だったのだろうか。
と、そんな彼に続くかのように草陰からメイドとコックが現れた。その二人も無残な姿に変わり果てている。
まるで全身に火傷を負ったような傷。自分のものか、それとも誰かを食らったのか、もはや判断することもできないぐらいになっている血だらけの姿。
そして、もはや人間の面影などない表情。直視することもつらくなる。やりきれない姿だった。
まるで、生ける屍ではないか。
「くっ……」
『相棒、こいつぁ……。まさかエレオノールの姉ちゃんが言ってた』
「……屍人茸だ。くそっ!」
もはや知性も何もない。ただ、獣の本能で生ける者に襲いかかっているだけだ。屍人と化した人間たちはアニエスへと、何かうめき声のようなものを挙げながら襲いかかってくる。
まるで怨恨に似たその声に、アニエスは耳をふさぎたくなるような気分に駆られながらも、せめて楽に死ねるよう、彼らにとどめを刺す。
それが一番だとアニエスは考えながら、彼らに刃を向けた。一人、また一人と切りつける。ここには恨みも想いも何もない。ただの殺戮だった。
そして、屍人から物言わぬ死体へと変わった彼らの瞳を閉じてやる。それでも、彼らの苦しそうな表情は変わらず、やり場のない怒りを拳に込めながら、アニエスは歯を食いしばった。
『なあ、思ったんだかよ』
「なんだ!」
『おわ、こわ。いや、落ち着けよ、相棒。なんか変じゃないか? あの野郎がこんなことをして何の得があるってんだ?』
「そりゃあ……」
諭すようなデルフの言葉に、アニエスは冷静さを取り戻して疑問を浮かべる。確かにそうだ。
従者たちをこのような姿に変えて、何の意味があるというのだ。少なくとも、あのトマという男は何も考えずに戯れるような男ではない。
むしろ損得勘定が得意な男にも思える。そんな男がこんなことをするのだろうか。
だがしかし、それを今考えて何が解決するというのだ。アニエスはゆっくり立ち上がると、屋敷のほうへと向いた。
「……本人に聞くしかないな」
『ちげぇねぇ。んじゃ、行くとしようぜ。止めて悪かったな』
「ああ……ありがとう」
アニエスはデルフに小さく感謝の言葉を投げかけつつ、屋敷のほうへと向かっていった。そして、正面玄関の前に立つと、デルフを収め、代わりに銃を握る。
残りは一発。少し心もとないが、仕方ない。アニエスは扉の前に立つと、ゆっくりと開き、そして素早く物音を立てずに入った。
そしてすぐそこにある石像に身を隠し、辺りの様子を窺う。しかし、彼女の眼に飛び込むのは、死体と荒れ果てた光景だけだ。思わず彼女はため息をついてしまう。
近くからは屍人の気配もしない。彼女は身を隠すのをやめ、警戒をしながら前へと出る。トマはどこだ。ジジはどこだ。サイラスはどこだ。
戦闘の音は聞こえない。ところところで叫び声、のような音も聞こえるが、それは屍人たちだろう。
と、突然アニエスの横から物音が聞こえてきた。彼女は銃を構えながら、そちらを向く。
そして静かに声のするほうへと歩み寄ると、階段の影に隠れた幼いメイドが恐怖で震えながらアニエスを見つめ、学者のような人物がその彼女をかばうように抱きかかえている。
しかし、アニエスの目から見ても、いや誰の目から見ても分かる通り、彼はもう事切れている。どうやら彼が身を挺して彼女を守ったようだ。
「ひっ……いやぁ……来ないでぇ」
メイドは完全に脅え切っているようだ。澄んだ青色の瞳でアニエスを見つめながら、死体の中に潜り込もうとする。
しかし、ただのメイドにしては品があるようにも見える。髪も平民にしては、妙に綺麗なブロンドを見せている。顔もよく整っていた。
アニエスは銃をホルスターに戻し、両手を挙げながら彼女に近づく。
「私は正気だ。大丈夫、助けに来た」
「ほ、本当に?」
怪訝そうに尋ねてくるメイドに、アニエスは精一杯の笑みを浮かべながら頷いた。
こうしていると11年前にルイズを助けた時を思い出すが、その時よりかは幾分マシな笑みを浮かべられるようになったのだろうか。
「ああ。君の名は?」
「ベルナデット……」
「そうか、綺麗な名だ」
「お、おばさんは……?」
「おば……」
メイド、ベルナデットからの思わぬ言葉の攻撃に、思わずアニエスは大人気もなく反応しそうになったが、何とか気持ちを落ち着かせ、彼女に名乗った。
「私は……地質学者だ。ここの風石について調べていたんだ。ほら、昨日金髪の髪の長い貴族を見かけなかったか?」
「き、昨日は私、ずっと、風邪で休んでいて」
「そうか。だったら見ていないかもしれないな。……体のほうは大丈夫か?」
「う、うん……。でも、この人が……」
ベルナデットはもぞもぞと学者の懐から出ると、彼をやさしく抱きかかえながら、アニエスに言う。
その学者の表情に苦しさはなさそうだ。このひとりの少女を守れて、それを誇りに死んでいったのかもしれない。
だが、死んではもう、何を得たかすら感じることもできない。
「……彼は、君を守れて誇りに思っているはずだ。その分、君は生きなければいけない」
そんな事を思いつつも、アニエスはせめてもの慰めの言葉をベルナデットにかけてやる。ベルナデットは悲しそうな表情を浮かべながら、学者の手を握った。
すでに生きた証のぬくもりなど感じられない。それはあまりにも冷たかったが、それでも、ベルナデットは感謝するようにずっと握っていた。
そんな彼女に、アニエスは優しく肩をたたき、少し慰めるようにしながら質問をした。
「……私は、今ここのご領主であられるトマ殿と、そして以前のご領主だったサイラス殿。その娘のジジ殿を探している。見かけなかったかい?」
「え……? え、えっと……」
彼女の突然の言葉に、ベルナデットは困惑しながら、必死に思い出そうと頭を抱える。そして、小さくうなづきながら答えた。
「ご、ご主人様は、一度二階の執務室から出た後に、食堂のほうへ走っていきました。私、一人で逃げているときに見たんです」
「そうか。その時にジジ殿は?」
「み、見なかったです。でも、執務室にいるのかも……」
ベルナデットの言葉にアニエスは考え込んだ。確かに可能性はありそうだ。しかし、食堂も執務室も場所がわからない。アニエスはさらに尋ねた。
「執務室と食堂はどこに?」
「どっちも二階にあります。そうだ、ジジちゃんが来ているなら、助けなきゃ……」
と、アニエスはこのベルナデットの言葉に違和感を覚えた。前の領主の娘であれば、もっと敬うような態度をとるはずだが、友人のような、そんな感覚を覚える。
「知り合いなのか?」
「は、はい。……私、あの子と友達なんです」
「そうだったのか……」
「私、執務室への道分かります。こっちです!」
「あっ、待て!」
ベルナデットは何を思ったのか、すくっと立ち上がるとすぐにアニエスから離れて、二階へと走り始めた。
さきほどまで脅えていた少女とは思えない行動力だ。アニエスはすぐに追いかけていく。
彼女の後を追った先には、そこには無残な姿の死体が散らばる通路があった。ベルナデットは思わず目をつぶり、死体から顔をそらした。
と、そんな彼女にアニエスは背中を差し出す。ベルナデットは少し戸惑いながらも、その背中におぶさり、アニエスの背中に顔をうずめた。
「分かれ道があったら尋ねる。それまではそうしているんだ」
「は、はい」
「よし、行くぞ!」
ベルナデットを抱きかかえたアニエスは通路を走り抜ける。途中屍人が襲い掛かってくるが、それを蹴散らしながら進んでいった。そこで思わず弾丸を使い、ついに最後の一発を使い果たしてしまう。
そして、彼女の案内を頼りに、どんどん進んでゆき、ついに執政室の前にたどり着いた。アニエスは一度ベルナデットを下ろし、背中からデルフを抜きながら尋ねた。
「ここか?」
「はい」
「よし……。くそっ鍵がかかってるな」
ベルナデットが頷いたのを見て、アニエスは扉を開けようとしたが、やはりというべきか鍵がかかっていた。
蹴破ることも考えたが、執政室となれば頑丈な作りになっているだろう。と、そんな事を考えている彼女にベルナデットが少し考え込んだ後、前に出た。
そして、エプロンドレスのポッケから、なんとタクトを取り出した。それは明らかにメイジが一般的に使う杖である。
「アン・ロック!」
ベルナデットが魔法を唱えると、目の前の部屋の鍵が開錠された音が聞こえてきた。アニエスが恐る恐る扉のノブに触れて回すと、
扉はゆっくりと、彼女の動きに合わせて開き始めた。
「驚いたな、メイジだったのか」
「父が、貴族なんです。……えっと、私、母と一緒に捨てられちゃいましたけど……」
「そうか……忌み子、というやつか」
「は、はい……」
「私も、同じようなものだよ、たぶん」
「え?」
悲しそうな声を絞り出すベルナデットに対し、アニエスは短く答えながら部屋の中へと入っていった。
その言葉を聞き取れず、呆然としていたベルナデットは慌てて後を追った。
暗い部屋の中に入ると、アニエスは指を鳴らした。すると燭台が反応し、明かりがつく。そして部屋の中央に、ジジが椅子に座らせられていた。
しかし、アニエスが出会ったときに比べ、まるで生気を感じられない。どうやら魔法による暗示を受けているようだ。
アニエスはデルフを収めながら、彼女にゆっくり近づき、体を軽く叩いてみるが、彼女は何も反応を示さない。
「ジジちゃん、私だよ? わかる?」
ベルナデットが声をかけてみるが、やはり何も反応を示さなかった。ただ吐息だけは感じるので、どうやら殺されているわけではないようだ。
ひとまずため息をついて安心をしつつ、彼女の解除はパスカルに任せるしかないだろうとアニエスは判断する。
水のメイジでなければこの状態を打開できないだろう。しかし、何を考えてトマはここにジジを残したのだろうか。
普通であれば人質にとっても不思議ではないが。しかし、考えるよりもまずは動くことだ。事態は一刻を争う。
アニエスは窓のほうへと駆け寄る。そして全開にして外をながめた。どうやら外に屍人たちはいないようだ。それを確認したアニエスはベルナデットのほうを向いて尋ねた。
「ベルナデット」
「は、はい」
「君はレビテーションかフライの魔法は使えるか?」
「使えます」
「よし、じゃあ君はジジ殿を連れてこの窓から脱出してくれ。ド・マルタンの山小屋はわかるな?」
「は、はい」
「よし、この……カンテラを持って行け。裏手から回れば誰からも見つからずに済むはずだが、気を付けていけよ」
「わかりました。あの、食堂はこの執政室を出た後、左手の奥です」
「ありがとう」
「はい、では……」
ベルナデットは戸惑いつつも、ジジを背負い、そして窓のほうへと歩く。メイドをやっているので、意外に力はあるようだ。
アニエスが彼女にカンテラを渡してあげると、そのままレビテーションの魔法で、ゆっくりと地面に下りて行った。
そしてアニエスに手を振ると、そのまま闇に消えて行った。アニエスはその様子を見送った後、デルフを抜いて再び部屋から出た。
『相棒よ。あんまり自分の生まれとか、気にするんじゃねぇぞ』
「……」
『おれぁ、妹のために戦っているお前さんが一番気に入ってるぜ。だからよ、お前さんが何者でも別にかまわねぇと思うよ』
「……ありがとう」
アニエスはただ、何も言うことはできない。ただ、優しく声をかけてくれたデルフに、感謝することぐらいしかできなかった。
アニエスは走り続け、食堂にたどり着くことができた。もうすでに屍人の気配もないが、不思議と食堂から人の気配も感じることができない。
すでに戦闘は終わったあとのだろうか。アニエスは静かに扉を開くと、まるで風のように、音も立てずに中へと入っていく。
そして、物陰からあたりを伺うが、戦闘の跡はあれど、それもすでに静寂に包まれてしまっている。
「遅かったか……」
ここにたどり着くまでにかなりの時間をかけてしまった。アニエスはデルフを構えつつ、身を乗り出し、辺りをうかがいながら奥へと進む。
無残に破壊されたテーブルや散らばった食器に装飾品。もはや、貴族の生活をしていたとは思えないほどの光景だ。
「アニエス殿か……?」
と、突如背後から声をかけられ、アニエスはすぐさま振り向いた。なんとそこには腹部から血を流し、今にも力尽きそうなサイラスが壁に寄りかかって座り込んでいた。
アニエスはすぐさまデルフを収めると、彼のもとに駆け寄った。顔色が悪い。瞳も虚ろだ。これは早くしなければ命が危うい。
「サイラス殿! 大丈夫ですか!?」
「はぁ……はぁ……アニエス殿。なぜ、ここに……。いや、それよりも、ジジは、無事か?」
「ご安心めされよ。ご息女はここから脱出させました。御夫人も今、姉上と……パスカル殿が必死に治療しております」
「パ、パスが……? そうか、あの子が帰ってきたのか……。ああ……よかった」
「ええ、貴方のことも心配しておられました。さあ、戻りましょう」
アニエスは近くのテーブルクロスを引きちぎり、サイラスの腹部に巻きつけようとしたが、それをサイラスが制止させた。
そして、その代わりに彼は、苦しそうにしながらも懐をまさぐると、一つのペンダントを取り出し、震える手を抑えながら、アニエスに手渡そうとした。
もう長くはない。それは、自分の体である彼が一番わかっていたのかもしれない。
「こ、れを……」
「これは……?」
「わが息子の、オリヴィエの形見だ。あいつが、逝く時に、パスに、渡してくれと……。ずっと渡せずに私は……。
はぁ……はぁ……すまぬが、これを……パスに渡してやってくれ……」
「何を……。それは貴方自身からお渡しください。私に、そのような資格など」
「いいや……いい。もう、私は駄目だ。精神力も、切れ、目もあまり見えぬ……。ははっ、情けない話だ。私一人で突出し、返り討ちに遭い……」
「喋りなさるな。必ず、パスカル殿のもとへとお連れいたします」
「……もはや私に、あの子に会う資格など……」
「しっかりなされよ! 貴方が娘様に会わずして、誰があの方を安心させられると思いか!」
アニエスは力を振り絞って言葉を出そうとするサイラスを諌め、励まそうとするが、彼はゆっくりと首を横に振りながら、アニエスの手を握った。
「パスに、伝えてくれ……。酷い事を言って、すまなかった……。素直に、お前を祝福できなかった、私を、許してくれ、と……
自分の、信じた道を、あゆ、め……」
「サイラス殿!」
「……しあわせに、なれよ、パス」
アニエスが必死に呼びかけるが、サイラスは静かに目を閉じ、そしてついに力尽きてしまった。
ぽろり、と手からオリヴィエのペンダントが虚しくこぼれる。アニエスはそれを拾い上げると、強く握りしめながら、近くの壁を八つ当たりするように殴った。
自分の無力さ、そして判断の悪さ、すべての行動を呪った。もう少し早くついていれば彼を助けられたかもしれない。自分が水のメイジであれば彼を治療できたかもしれない。
そんな後悔ばかりが彼女の中に募る。
「ふ、ふは、ふはははは! や、やっと逝ったか、爺が!」
と、どこからともなく、狂乱したトマの声が聞こえてきた。アニエスは、はっと顔をあげ、そして怒りをにじませる。
だが、アニエスが予想だにしていなかったトマの姿が、崩れた机の影から現れた。右腕には引きちぎられたテーブルクロスが乱暴に巻かれ、そして肘から先がなくなっている。
足にも傷を負っているのか、それともすでにもう瀕死だからなのか、もはや何かにすがりながらでなければ歩くことすらままならない。
しかし、彼は必死に自らの勝利を誇るように叫び散らした。
「は、ははは! これで、この地は私のものだ! 私が、この地を治めるのにふさわしい人間なのだ! ふふ、ふははは!」
もはやアニエスなど眼中にない。彼はただ勝利に酔っているだけだ。彼にも死が、近づきつつあるのかもしれない。
死は誰にもやってくる。死は誰に対しても平等だ。しかし、それはとても恐ろしいものだ。だからこそ目を背けたくなる。
そんなトマの様子を、アニエスは呆然と見つめている事しかできなかった。
しかし、その時だった。
トマの頭に、リング状の刃が突き刺さった。そして、彼は呆然とした表情で前のめりに倒れた。
「な、ぜ……だ。私は、勝ったんだ……ぞ」
小さくつぶやき、トマは絶命してしまう。アニエスはただ唖然としてその様子を見ていたが、背後から自分に向けられた殺気を感じとり、サイラスを抱きかかえたまま、その場から飛ぶ。
しかし、彼女の右足を先ほどの暗器が襲い掛かって切り裂いた。アニエスは喘ぎ声をあげながら、床に倒れこむ。しかし、彼女はすかさず先ほどまでトマが隠れていた机まで走り抜けると、
サイラスのために持っていた布を自分の足に巻きつけた。そして、デルフを抜きながらゆっくりと暗器が飛んできた方向を覗き込む。そこには、仮面のメイジが立っていた。
「仮面の……メイジッ!」
『あの野郎……。そうか、この状況を仕組んだのは、あの野郎共だったんだな』
デルフが冷静に解析する。あのリング状の刃、チャクラムを投げたのはあのメイジだろう。ルイズと一緒に戦った相手。
その仮面のメイジがこちらを見ながら、露出している口元に笑みを見せていた。
「獲物、見つけた。知ってる、その武器、魔法を吸い取る。だから、これを使う」
それがなぜここにいるのか。そう、それは最初から仕組まれていたことなのかもしれない。地竜が暴れだしたのも、山小屋が焼かれたのも、ジジが攫われたのも、サイラスとトマが死んだのも。
すべてはこの者たちが仕組んだことだった。アニエスは表情に怒りを表した。
しかし、迂闊に飛び出せば魔法かチャクラムの餌食となる。この足で接近できるかどうかも危うい。しかし、こちらに残っているこの距離からの攻撃手段はナイフだけだ。あとは火薬しか残っていない銃しかない。接近するしかない。
火薬……。アニエスは風のメイジの特徴を思い出す。うまくこれを使えば何とかなるかもしれない。そう思い、アニエスは銃に火薬を仕込む。
そしてアニエスは咄嗟に、近くに落ちていた花瓶を、メイジが見えるように放物線を描くように投げた。さらにアニエスは僅かに時間をおいて逆方向から飛び出す。
風のメイジの反応の良さが仇となり、まずはその花瓶に対し、魔法を唱えてしまう。花瓶が破裂する。アニエスはその隙に少しでも距離を稼ぐ。
だが、風のメイジはすぐさまチャクラムを構え、それをアニエスにめがけて投げつける。彼女はデルフでそれを捌こうとするが、右足の痛みに足を取られ、左腕に飛んできた一つを回避しきれなかった。
切り裂かれた腕を抑えながら、アニエスはその場に倒れこむ。そして、仰向けになった彼女を鉤爪で襲い掛かるメイジだったが、アニエスはすぐさま机の下に潜り込んで、それを避ける。
そして素早く机から出ると、それを支えに、回し蹴りをメイジのわき腹に打ち込んだ。メイジは嗚咽を吐きながら、吹き飛ばされる。
だがすぐに立ち上がると、苦悶な表情一つ浮かべることなく、口をぬぐいながらアニエスに対峙する。
それに対し、アニエスはふらりと立ち上がった。
「お前、平民の癖に、強いな。それに、炎、のような匂いが、する」
「ああ、そりゃどうも!」
アニエスは力任せにデルフを振り下ろした。風のメイジはそれを避けると、逆に切りかかる。
彼女は体を逸らし、何とか避けるが、体がうまい具合に動いてくれない。だが何とか足を踏み込み、片方の鉤爪を強引にデルフで破壊した。
メイジはそれでも残った鉤爪でアニエスを攻撃する。彼女の胸が切り裂かれた。だが浅い。さらに接近して密着し、メイジは詠唱をし、アニエスの腹めがけてエア・カッターを唱えようとする。
この近距離であれば、デルフで防ぐことも攻撃することもアニエスには不可能だ。たとえ体術で距離を取ろうとも、エアカッターを避けるすべはない。
だが、アニエスはここでメイジの予想に反した動きを見せた。詠唱を完成させられる前に、メイジの耳元で、すでに空になった銃の引き金を引く。
火薬の爆音があたりに響き渡る。アニエスが支えきれなかった銃が宙を飛ぶ。それと同時に、メイジは苦しむように悲鳴を上げながら転がった。
風のメイジは常人よりもずっと耳が良い。地下道でも真っ先にジャイアント・スコーピオンの足音に感づいたのは、風のメイジであるエレオノールだ。
だからこそ、常人ですら耐え難い火薬の爆音を、耳元で聞かされればひとたまりもないだろう。アニエスの読みは当たった。
しかし、彼女も満身創痍だ。胸の傷、腕から流れる血、無理をしたせいで傷が広がり、血がにじみ出て震える足。もはや、ここで決めなければアニエスに勝ち目はない。
アニエスはデルフを握りしめると、そのまま仰向けになったメイジの腕を踏み絞めて杖を落とさせ、そして体にデルフを突き刺す。
メイジは仰け反りながら、「ギャッ」と悲鳴を上げた。アニエスはそのまま剣を捻り、とどめを刺そうとするが、それをメイジはデルフの刃を強く握りしめて阻止する。
そして、笑みを浮かべると、血を吐きながらアニエスに囁き掛けた。
「お前、俺と、同じ」
「何ッ!?」
メイジの言葉にアニエスは声を荒げた。しかし、メイジは笑うことをやめない。
「同じ獣、いや、怪物の匂い。今、お前、どんな顔、しているか、わかるか? 戦っているときに、どんな表情、しているか、わかるか?」
「……やめろ」
「殺しを、楽しんでいる、笑みを、浮かべている。俺を、刺したとき、お前の顔、一番、喜んでいた」
「違う、そんなことはない!」
「ケヒ、お前は、俺たち、同じ。殺すことで、自分を満たす、かいぶ」
言葉の途中で、アニエスは強引にデルフを捻りあげ、とどめを刺した。まるでその先の言葉を拒否したかのように、アニエスはゆっくりとデルフを抜く。
事切れたかのように、彼はぐったりと地面に倒れた。
アニエスは後ずさりしながらデルフを地面に落とすと、頭を抱えながら、乱暴に頭を振る。
「私が、戦いを楽しんでいる? いや、殺しを、楽しんでいるだと? 違う、私は……」
違う。違う。違う! 必死に心の中でメイジの言葉を否定しようとする。だが、否定しようが、彼の言葉が頭に響き渡ってきた。
――殺すことで、自分を満たす怪物
自分は怪物なのか。自分は、あのメイジ達と一緒なのか。違う。絶対に、違う。
『相棒、しっかりしろ! いちいちこんなやつの言葉を真に受けるんじゃねぇ!』
そんな彼女をデルフは必死に呼びかける。だが、アニエスはそれを聞き入れようとしなかった。
もはや生きるものが居なくなった屋敷に、ただ虚しく、アニエスの叫び声が響き渡った。
カリーヌ「出番がないわ。いつまで屋敷に待たせるつもり?」
カトレア「そんなことを言ったら、私なんて、もはや出てないですけど」
公爵「そろそろ出番、あるらしいぞ? カトレアの」
カトレア「!」
公爵「……幼少時代の」
カトレア「……!?」
カリーヌ「……ここに喫茶店開こうかしら」
公爵「何を考えているんだ、お前は」
以上となります。
次回風石と地竜編の最後、の予定です。
そして、恋はヒステリーだとぉ……。つまりあれですね、ウェールズドM物語ですね、わかりま(ry
317 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/08/28(土) 01:32:57 ID:DpnV4Pcw0 [1/10]
こんばんわ。33話が出来上がりましたので、1時40分ごろに投下したいと思います。
続いて33話
「ここは……」
叫び散らした後、いつの間にか気絶していたのだろうか。気怠そうな表情でアニエスが顔をあげた。
自分はアスレーテの屋敷で仮面のメイジを倒し、しかし、殺しを楽しむ怪物だと言われ、そして自分は……。
そこまで思い出し、アニエスは頭を振り意識をはっきりさせようとする。しかし、なぜか夢を見ているかのような奇妙な感覚に襲われた。
彼女はふらつきながら窓に手を添えて、倒れそうになる体を支えた。雨音がする。何処からか雷鳴も聞こえてきた。
「……雨が降っているのか」
アニエスは窓から外を眺める。雨が当たっているせいで、外の光景がよく見えないが、周りには明かりがなく真っ暗な世界が続いている。
ただ、なぜか川の流れる音だけが聞こえてきた。川など何処かにあったのだろうか。それにどうやら夜のようだ。しかし、自分が来た時も夜だったから、そんなに時間は経っていないのだろうか。
「……な、なんだ、これ」
と、窓に映った自分にアニエスは驚き、思わず後ずさりしてしまう。そして、俯き際に見た自分の格好に彼女はさらに驚愕する。全身に何者かの血がべっとりと付いているのだ。
確かに戦闘を行った際に返り血は浴びた。だが、まるで桶に入れた水を頭からかぶったかのように、血が浴びせられている。
アニエスは戸惑ったようにその血を振り払おうとするが、染込んだそれはもはや消え去ることがない。
「デルフ、どこだ!」
と、気絶する前まで自分に呼びかけていたデルフがどこにも見当たらない。アニエスはくそっ、と悪態をつきながら、ふらつく足を動かし、食堂の中を探し回る。
しかし、何処にもデルフの姿は見当たらなかった。アニエスはため息をつきながら、不意に扉のほうを向いた。
サイラスやトマ、そして従者達の死体が転がっている。彼らを見た瞬間、死体達が一斉にアニエスを見たような錯覚に陥った。全身を虫が這うような感覚を覚える。アニエスは思わず息を荒げながら目を瞑って顔を振り、我に帰ろうとした。
そして恐る恐る目を開けてみると、死体はまた元の状態に戻っていた。幻覚か、とアニエスは顔の汗をぬぐいながら、息を整える。
疲れている、そうに決まっているんだ。アニエスはそう思い込むことで正気を保とうとした。
胸を抑え、アニエスはふらりと扉のほうへ歩いていく。まるで導かれるかのような、いや、実際にアニエスはそこに行かなくてはいけない、という一種の強迫観念に駆られていた。
ドアの前に立つ。ノブに手を触れようとする。だが、その手が、まるで金縛りにでもあったかのようにピクリとも動かなくなった。
開けてはいけない。このドアを開ければ、お前は後悔する。そんな気がした。
だがアニエスは息を飲み、意を決してその扉を開いた。すると、扉の先には彼女の記憶の通りの通路はなく、代わりにどこかの庭へと続いていた。
自分はこの場所を知っている。そうだ、ここは第二の故郷である、ラ・ヴァリエールの屋敷にある中庭の池。
背後の扉はいつの間にかなくなっていた。庭に降りしきる雨の中、アニエスはふらりと池に近づいていく。そして、はっと気が付いた。池が、紅い。まるで、血をため込んだかのような紅さだ。
池には一隻の小舟がゆらりゆらりと雨に揺られて浮かんでいた。アニエスは血の池の中に入り、腰ぐらいまで浸かりながらも少しずつ小舟に近づいていく。
小舟のそばにたどり着いた。アニエスはその中を覗き込む。そこにはドレスを着た、首のない死体が乗せられていた。
一体誰が? いや、一体誰だ? と、アニエスはその死体の胸元を見て戦慄する。息が荒くなる。そのペンダントには、こう記されていた。
――愛するルイズへ
そして、アニエスの手が急に重くなった。目の前の惨劇に呆然としながら、ゆっくりとその手を池から出す。
そこには若き頃、デルフを購入する前に使っていた剣が血を滴り落としながら姿を現した。アニエスはその剣に映る自分の顔を見て、
思わず後ろに倒れこんだ。池の血が彼女の口へ入りこんでくる。アニエスはもがき苦しみ、慌てて体を起こして吐き出した。
剣に映っていた自分は、ルイズに出会う前の復讐鬼の表情、冷たく、そして満足そうに歪んだ笑みを浮かべていた。
ルイズを殺したのは、自分なのか? アニエスは恐ろしくなり、剣を捨ててその場から逃げ出そうとした。だが、岸辺に何者かが立っているのを見つけ、思わず足を止めた。
何かを模した鉄仮面をかぶったその女はアニエスを指差した。女、なぜ女と分かったのだろうか。
『何を怖がっているんだ?』
アニエスはその女へ威嚇するように叫び散らす。誰かなんてわかっていた。だが認めたくない。しかし、女は平然とした声で答えながら、池の中に入ってきた。
『誰だ? お前が殺した? 何を言っているんだ』
「何を……」
『本当はわかっているはずだ、誰が殺したかなんて』
そしてアニエスの許にたどり着いた女は、先ほどまで彼女が握っていた剣を拾い上げると、それをすばやく彼女の喉に突き刺した。
ゴボッとアニエスの喉から、そして口から血があふれ出てくる。しかし、不思議と痛みはない。ただ苦しかった。声を上げることができない。アニエスは何とかそれを抜き取ろうともがき苦しんでいたが、目の前の女は不敵な笑みを浮かべて口を開いた。
『メイジは全て殺さなければいけない。それは自分も例外じゃない』
第33話
「うわああ!!」
アニエスは悲鳴を叫びながら飛び起きた。しかし、そこはアスレーテの屋敷でも血の池の中でもない。
殺風景な部屋にアニエスは寝かされていた。体の上に掛けられている毛布には滲みが見えた。どうやら大量の汗を掻いているようだ。玉粒のような汗が今も毛布に落ちていく。
夢、だったのだろうか。あの手の夢は久しぶりに見た気がする。自分が復讐のために戦い始めた頃もあんな夢を見たものだ。それと比べて不快感は半端ではないが。
自分の喉許を触れてみて、穴が開いていないところを見ると、やはりあれは悪夢だったようだ。安心したかのように彼女は深いため息をついた。
体には包帯が巻かれている。窓を見れば日が昇っている。自分は、あの屋敷から助け出されたのだろうか。
「う、ううん……」
と、自分の傍からなにやら寝苦しそうな声が聞こえてきた。アニエスが恐る恐る目をやると、そこにはルイズが椅子に座り、自分が寝かされているベッドに突っ伏して眠っていた。
どうやら彼女が自分を看病してくれたようだ。夢の中の出来事を思い出し、アニエスは思わず彼女を抱きしめようとしたが、その手が急に止まり、そして震えだした。
なぜだろう。このまま抱きしめたら、あの夢のように彼女を殺してしまうのではないか。そんな恐怖に駆られてしまう。
「う……ん。あ、姉さん! 目が覚めた?」
と、ルイズがアニエスの目覚めに気がつき、ぱぁっと明るい表情を浮かべて彼女の手を握った。その笑顔はアニエスの不安を晴らすのに十分だった。
アニエスは元気なルイズの声を聞いたことで安心しきり、ルイズの体をぎゅっと強く抱きしめた。ぽろりと瞳から涙が流れ落ちる。
温もりが感じられた。生きている証を感じることができた。それだけでアニエスの涙は止まらなかった。
「ちょ、姉さん、どうしたの? 怖い夢で見たの?」
「……ああ」
「もう、仕方ないわね」
ルイズはアニエスの突然の様子に戸惑ったが、すぐに苦笑しながら、彼女の頭をそっと抱き返してやった。
まるで母親が子供をあやすかのように、優しく。そのぬくもりを感じて、アニエスの心は安らいでいった。
「ルイズさん、お着替え持ってきま……あ……」
と、そんな雰囲気の部屋に着替えを持ってきたベルナデットが彼女たちに気が付くと、顔を少し赤らめてその場から去って行った。
ルイズはそれに気が付き、顔を赤らめながら思わずアニエスを突き放してしまう。そして、ごほん、と一度咳き込むとドアのほうを向いて声をかけた。
アニエスは少し残念そうな表情を浮かべていたが、とりあえず苦笑してその様子を見ていた。
「も、もういいわよ」
「し、失礼します」
ベルナデットは今度こそ着替えとタオル、そして包帯を持って部屋に入ってきた。そして、それを一生懸命机の上に置くと、そのまま一礼して去っていった。
アニエスはルイズから手渡されたタオルで全身の汗を拭き、包帯を取り換えて、服を着替えるとルイズに尋ねた。
「ルイズ、すまないが私が眠っていた時の事情を説明してくれないか?」
「え、あ、うん。そうね。えっと……」
ルイズは何処から説明したものか、と悩みつつ、順序立てて説明を始めた。アニエスはそれに黙って耳を傾ける。
彼女の話によれば、どうやらアニエスはあの叫び声をあげた後に気絶してしまったようだ。そのアニエスを、ベルナデットが知らせたお蔭でエレオノール達が助けてくれた。
ここはエレオノールとアニエスが滞在している宿のようだ。だが今は家をなくしたド・マルタンの家代わりをしているらしい。
ベルナデットとともに脱出したジジは、何とか意識を回復させた。だが暗示が強く、まだ体を自由に動かせるまでには至っていない。
彼女の母、ベネディクトも何とか峠を乗り越え、今は杖を使いながらではあるが動けるようになった。
だが、それでも痛々しい痕が体の所々に残っているようだ。
父、サイラスは……やはり助からなかったらしい。朝のうちに彼の葬儀を終え、今は彼が愛した地竜の遺跡に墓石が建てられ、眠りについている。
約束を守れなかった。アニエスに後悔の念が浮かんでくるが、もはやどうしようもない事だ。
「……地竜とチアンはどうなった?」
さらにルイズに尋ねる。ルイズはゆっくりと説明をした。それを聞いて、アニエスは酷く驚いた。
チアンは、ほとんど地竜と刺し違える形で決着をつけた。壮絶な戦いだったようだ。殴り切り裂かれの繰り返し。しかし、全身から血を噴き出しても、チアンは決して倒れなかった。
何とか地竜にとどめを刺し、彼を鎮めた。しかし、チアンもまた傷つき、限界を迎えてアニエスと同様に倒れた。そのまま放置されていれば彼の命はなかっただろう。
生きているのが不思議なぐらいにまで傷ついた彼を助けたのは、なんとルイズの友達であるキュルケと、タバサという少女、そして。
「ジャン・ジャックが何でいるんだ?」
アニエスは少し顔を顰めながら、チアンを助けた男の名を挙げた。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。トリステイン王国の魔法衛士の一つである『グリフォン隊』の隊長である。
ラ・ヴァリエールと領地は隣同士の関係であり、子爵の爵位を持っている。いわゆるエリートだ。年齢は26でアニエスよりも年上である。
そして何より、ルイズの許嫁である。5歳のころ、ルイズが家族と離ればなれになる前に約束されたことであり、彼女自身はその自覚がなかったが、
魔法衛士という立場はどうやら魅力的なようだ。ワルドの名をあげるだけで少し恥ずかしそうにする。騎士を目指しているものとしては当然だろう。それに老け顔だが美形で身長も高い。
貴族の女性たちが魔法衛士と結婚したがる、という話は理解できる。悔しいが、カリーヌの同伴をした時に見た彼の顔は確かに美形だった。老け顔だが。
悔しくなって、ついおじさん呼ばわりをした。カリーヌからひどく叱られた。
「その……アンが抜け出したこと、ばれちゃったみたいで。あ、騒ぎにはなってないみたいだよ。マザリーニさんが誤魔化しているみたいで。
それで、私達が遺跡に入る前に使ってた馬でわかっちゃったみたい」
「そうか。まあ、あいつは魔法衛士だからな。ったく、ルイズの許嫁が杜撰な仕事をしているな」
そんなワルドをアニエスは目の敵にしている。理由は、ただ単にルイズの許嫁だからということだけだが、彼女にとって理由などそれだけでいい。
「何か言った?」
「いいや、何も。で? 何で姫を連れているんだ? どうやってごまかした」
と、脱線してしまった。アニエスは気を取り直してルイズに更に説明を促した。
「えっと……。ど、どう連れ出したかはね、スキルニルを使ったの」
「なるほど、姫の複製を作ったのか。よく持っていたな、そんなもの」
「えへへ、友達のタバサからもらったの」
「ほぉ。彼女が杖を持っていないのは、そのスキルニルに持たせたからだな?」
「お忍びだからね。旅装束とかは、私とジェシカで急いで用意したの。魅惑の妖精亭で待ち合わせをして、そのまま」
「で、目的はなんだ? ただの遠出ではないだろう?」
アニエスが追及すると、ルイズは目を逸らした。どうやら話しづらいことのようだ。
遺跡でも極秘任務だと言い張り、説明をしようとはしなかった。だがそれが姫を連れていることの目的がどれだけ隠さなければいけないことか、自然と物語っている。
まあ、ただ怒られることを恐れているだけなのかもしれない。アニエスは少しため息をついた後、彼女の頭を撫でながら言った。
「怒りはしないよ。ただ、私の力になれることであればするだけだ」
「……ほ、本当?」
「ああ」
ルイズの不安そうな声にアニエスは笑みを浮かべながら頷いた。ルイズは少しばかり考え込んだ後、意を決して話し始めた。
「アルビオンに、行くの」
「何故?」
「王子様に会うために」
「プリンス・オブ・ウェールズか。……そういえば、姫様とウェールズ閣下はラグドリアンの湖で出会い、そして愛し合ったと、お前が教えてくれたな」
アニエスの言葉にルイズは静かに頷いた。入学する以前に、ルイズはアンリエッタの遊び相手を務めていた。務めていた、というよりも自分から遊びに行っているような感覚だが。
そんな時期にラグドリアン湖で園遊会が開かれた。各国の重鎮達が参加する大きな園遊会だ。もちろんアニエスもエレオノールも、この時ばかりはカトレアも、ラ・ヴァリエール家は家族総出で参加していた。
ルイズはそんな家族とは別に、アンリエッタの側にずっといたらしい。その時の体験を、アニエスは屋敷に帰った後、ルイズからこっそり聞かされていた。
自分が影武者をしていたこと。ウェールズとアンリエッタが密会していたこと、愛し合ったということ。愛を誓い合おうとしたが、彼に誤魔化されてしまったこと。
そんなウェールズは今、戦火の炎に焼かれ、命を落とそうとしている。
アンリエッタはそれが許せなかったのだろうか。死が近づく彼を助けたいと思っているのだろうか。亡命を進言したいと思っているのだろうか。
だが、それこそが許されないことだ。
「……婚約前だ。騒ぎになったら、同盟だとか何だとか以前の大問題になりかねない」
ルイズは黙った。そんなアンリエッタも、今はゲルマニア皇帝との婚約前の身だ。このような行動をとっていることが知られれば、それこそ大問題になりかねない。
それに今、レコン・キスタはすでにニューカッスル城にまで迫り、現アルビオン王政を取り囲んでいる。そんな場所に、どうやって入り込むのだろうか。
アニエスがそれらをゆっくりと指摘していくと、ルイズは悔しそうに唇をかみしめていた。
「でも、会わせたかったの。アン、すごく悲しそうな顔をしていたから」
学院に来訪したアンリエッタは、夜になってルイズの部屋に忍び込んだ。そして、思い出話などを語り合い、懐かしい日々を過ごした。
彼女にとってはそれだけで十分だったのかもしれない。もう、ウェールズとの思い出も、ルイズとの思い出も、過去になってしまう。
ここで終わればすべて諦めがついたのかもしれない。だが、彼女は語ってしまった。ウェールズとの思い出を語ってしまったのだ。
ルイズがその時にみた彼女の表情は酷く悲しそうなものだった。それが、彼女を突き動かしてしまった。
それは、一種の罪なのかもしれない。
「ゲルマニアの皇帝との結婚が嫌だっていうわけじゃない。でも……言葉もなく、別れたくもないって」
「それは、彼女が言ったこと?」
「……」
「お前が焚き付けたんだな?」
「……うん。でも、アンはそうしたいって……」
それも、罪だ。
「お前は優しすぎるし、思い立ったら行動が過ぎるところもあるな。いや、気持ちに正直すぎるというか」
「でも!」
「気持ちはわかるさ。でも、そういう気持ちに正直になる事が罪でもあるんだ。気持ちだけで動くだけじゃ駄目なんだよ」
何度目かのルイズの沈黙。そう、頭の中ではわかっていたのかもしれない。
成績は悪いが頭はいい子だ。理解も早く、自分の過ちは認めることもできる。アニエスはそんな妹を誇りに思っていた。
「……でも、子供のお前がすべての責任を負えはしないだろう?」
「そ、そんなことない!」
「本当にそうか? もしお前が死んで、怒りのあまりにラ・ヴァリエール家と王家との仲が裂かれたら、どうする?」
「わ、私死なないもの」
ルイズは強がっているが、言葉の中では何処か脅えの感情がある。アニエスがそれをわからないほど無関心でもない。
「戦場に行くということはな、死を覚悟していかなきゃならないんだよ。あり得ない話じゃない」
「……」
「だが、子供がした行動の責任はすべて大人の責任だ。大人には、それを負う義務がある。……私も、その旅についていくよ、ルイズ」
「姉さん……!」
「責任は私が負ってやるから、好きなようにしなさい」
アニエスの意外な言葉にルイズは驚きながら彼女を見つめた。申し訳なさそうに、そして少し恥ずかしそうに俯きながらつぶやく。
彼女に迷惑をかけてしまった事が半分、素直に感謝するのが恥ずかしいのことが少し。あとは嬉しい気持ちなのだろう。
「……ありがとう、姉さん」
「いいんだよ。それに、その様子じゃあ、ニューカッスル城へ行くあてもないんだろ?」
「……まあ、うん」
「その辺も私達がどうにかしよう。ただし、ちゃんと姉上に説明してきなさい。それが条件だ」
「え、ええぇ!?」
「当然だろう。ああ見えて、一番心配しているのは姉上なんだぞ? ちゃんと説明してきなさい」
「でもぉ」
「そうじゃなきゃ、すぐにでも母上に連絡して、連れ戻してもらうからな」
「うっ……」
母を話に切り出され、思わずルイズはたじろいでしまった。しかし、それでもルイズは乗り気ではないようだ。
そんな彼女に、アニエスはあくまで意地悪な顔で語り続けた。
「まあ私や姉上も一緒に打ち上げられることになるだろうが、まあ仕方ないな。それが責任を負う、ということだからな」
「そ、それだけは……駄目、絶対。でも、エレ姉がわかってもらえるとは思えないよ」
「……そうか?」
「うん……」
「家族なんだぞ?」
「……」
「大丈夫だよ、きっと」
「そう、かなぁ」
「うん」
そして優しく諭してあげる。アニエスは今までもそうしてきた。ルイズは少し考え込み、ぶらぶらと足を揺らしている。
そして、小さく頷いた。
「……わかった、話してくる」
「そうか、じゃあ行ってきなさい」
「はぁい」
ルイズはアニエスの言葉に、複雑そうな気持ちを込めながら返事すると、その場から立ち去ろうとした。
と、ドアの前に立った瞬間、何かを思って立ち止まり、アニエスのほうを向いた。
「そうそう、デルフはそこにあるからね。ほら、デルフも喋らないと!」
『うっせぇ。こういう姉妹会話にな、親父声なんて似合わねぇんだよ』
「とかいって淋しかったくせに。じゃあ行ってくるね!」
ルイズは元気そうな声でデルフをからかった後、足早にその場を後にした。そして部屋に残されたアニエスはベッドから起き上がると、
ゆっくりとデルフが立てかけられている壁際に歩み寄った。デルフは何もしゃべろうとしない。
「この、シャイな奴め」
『うるせぇ。空気を読んでやったんだ、感謝しろい』
「ああ、ありがとう」
アニエスは苦笑しながら、デルフを担ごうとした。しかし、左腕にあまり力が入らず、少しよろけてしまった。
『おいおい、無理はいけねぇよ、相棒。お前さん、結構無茶してたからな。今日は俺っちの事は気にせず、一人で散歩してきな』
「……まあ、そうだな。すまないな、気を遣わせて」
『別に。剣に気なんてねぇよ』
「はは、そうかもしれないな」
デルフの言葉にアニエスはさわやかに笑いながら、彼を置いて部屋の外にへと出て行った。
「……あ、これは」
と、その時ズボンのポッケに入れてあったオリヴィエのペンダントに気が付いた。
この宿の一階部分は酒場になっている。しかし、そもそも騒ぎで人がいない上に、こんな真昼間から来る客などいないため、アニエスの他には人の姿はなかった。
アニエスは辺りを見渡し、誰もいないことを確認して椅子に座った。そしてため息をついて疲れをあらわにする。
最初はジジのお見舞いにでも行こうかと考えた彼女だったが、どうやら眠っているらしく、それを邪魔するのも悪いので早々と立ち去ってきた。
時計を見ればもうすでに昼時だ。しかし、まったく腹が減らない。あまり食欲がないようだ。
「あら、貴女は……」
と、そんな彼女に対し、背後から一人の女性が声をかけてきた。それ同時に杖が地面を突く音がはっきりと聞こえてくる。
アニエスが振り向いてみると、そこにはベネディクトが立っていた。相変わらず細く弱弱しい体つきだったが、更に火傷の痕が彼女の体を痛々しくしている。
水の魔法だって万能ではない。この傷を消していくには、もっと長い年月がかかるだろう。
そんな心配をひとまず心の奥底に隠しつつ、アニエスは立ち上がって辞儀をしながら、彼女に答えた。
「ベネディクト殿、お体は大丈夫なのですか?」
「ええ、パスと貴女の姉上殿のお蔭様で。本当にありがとうございました、アニエス殿。貴女や皆様は命の恩人でございます」
「そんな、やめてください……。それに私は」
アニエスはベネディクトの感謝の言葉に対し目を逸らそうとしたが、彼女はアニエスの手をギュッと両手で握り締めると、
それをそっと体を前に倒しながら自分の額に当てた。
「そのように自分を責めなさらないで。夫は、ジジが生き残ってくれただけでも嬉しかったと思います。あの子を、私たちのかけがえない宝物を守ってくださって、本当にありがとう」
「……」
アニエスは手にわずかな温かみを感じた。たぶん、これは涙なのだろうか。その涙を受ける資格が、自分にあるのだろうか。
「ごめんなさい、思わず……」
「あ、いえ……お気になさらず」
と、戸惑ったアニエスを見て、ベネディクトは申し訳なさそうに離れた。そんな彼女に、アニエスもまた申し訳なさそうに答えた。
気まずい空気だ。アニエスは少しばかりその空気を誤魔化すように、彼女に尋ねかけた。
「あの、パスカル殿はどちらにいらっしゃるでしょうか?」
「パスですか? パスなら……外に出ているはずですけれど。喪服を着ているから、わかると思いますわ」
「喪服、ですか」
「……ええ、朝の葬儀を終えた後もずっと同じ格好していますから」
「そうですか……わかりました。ありがとうございます」
アニエスはベネディクトに礼を告げると、その場から立ち去って行った。その背中をベネディクトは少し心配そうな表情で見つめていた。
外を歩いていると、何とも不思議な光景にアニエスは出会った。
「おっほっほ! この娘を助けたければ、代わりのいけにえを用意するぞよ!」
「いやぁ、お母さん、助けてぇ!」
「マヤぁ!」
アンリエッタが何やら高笑いしながら不穏な言葉を叫び散らし、そしてその腕の中には村の子供がすっぽりと収まっている。
その彼女を、別の子供が膝をついて見つめていた。何かのなりきりごっこだろうか。にしては、気合が入りすぎているような気がするが。
と、そんな彼女たちの傍で、赤髪で褐色の肌を持つ少女と、青髪に小柄な少女が木箱などの上に座って観賞していた。
「あら、アニエスのお姉さんじゃない。お久しぶりぃ」
「えっと……もしかして、キュルケか?」
「そうよ。ふふ、どうかしら。より魅惑的になって帰ってきたわよ」
赤髪の少女、キュルケが立ち上がり、胸元を魅惑的に開いた学生服を揺らしながら、アニエスに迫る。
アニエスが知る彼女はもっと小さかったはずだ。それが今、アニエスよりも何もかもが大きくなっている。人間、不思議なものだ。
「……なんだ、その、大きくなったなぁ」
「ちょ、ちょっとなんで私の頭を撫でるのよ」
「いや、何かお前も私の妹みたいな気分で。ちょっと感慨深いな」
そんなキュルケにアニエスは思わず頭を撫でてしまった。その彼女の突然の行動にキュルケは顔を真っ赤にしてしまう。
と、そんな二人の許に青髪の少女が歩み寄ってきた。大きな杖を持っている。身のこなしもよい。学生の姿をした騎士のようだ。
ちなみにアンリエッタはまだ熱演していた。どうやらギーシュは彼女の部下役らしい。
「この子は?」
「同じ学院の生徒。私の親友。名前はタバサよ」
「タバサ? ああ、そうか君が」
アニエスは思い出したかのように頷いた。しかしそれと同時に疑問が浮かぶ。タバサ、という名前は犬か何かにつけるような名前だ。貴族につけられるような名前ではない。
偽名だろうか。しかし、それを追及する必要はない。アニエスは手を差し出した。それをタバサは握り返す。どうやら彼女は火のメイジではないようだ。
「アニエスだ。アニエス・ミラン・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。よろしく、ミス・タバサ」
「タバサでいい。ミス・フォンティーヌ」
「じゃあ私もアニエスでいいぞ」
アニエスは笑みを浮かべてタバサに接するが、彼女は無表情のままだ。まるで、冷たい仮面でもかぶっているかのような。
しかし、誰も寄せ付けないような雰囲気ではない。あくまで、一定の距離を保っているような気がする。
まるで、一時期の自分を見ているようだ。
「さあ、悪い雨の女王めッ! この僕が相手だ!」
と、アンリエッタと子供たちの即興劇が盛り上がり始めた。剣を模した枝を構え、元気そうな子供がアンリエッタに向かって名乗った。
アンリエッタは悪そうな笑みを浮かべ、そしてギーシュはその彼女を守っていた。しかし、何かぎこちない。
アニエスは呆れた表情を浮かべながら、その劇を眺めていた。
「何なんだ、これは」
「初めはねぇ、あのアンナって子とギーシュが子供の遊び相手をしていたみたいなんだけれど、それがそれが下手糞で。
あ、アンナって子はそれなりにうまいとは思うけれど、ギーシュがねぇ。それを見かねて、タバサが急に演技指導し始めたのよ。
いっつも冷静な子だったのに、どうしたのかしら。まあ私は面白かったからいいけれど」
「あまりに見ていられなかった。これは酷い」
「んで? 今の演技はタバサ先生から見て何点なんだ?」
「……55点」
「厳しいな」
「だってさー」
と、枝を持った少年が劇を中断し、ギーシュを指差しながら不平を言った。
「この兄ちゃんがなかなか倒れてくれないだぜ」
「お姉ちゃんも全然怖くないし……」
「貴族はそう簡単に倒れてはいけないのだよ!」
「こ、これでも頑張って怖い感じを出しているんですけど……」
そんな子供たちに対し、ギーシュはいつも通りの気障な振る舞いで言い訳して、アンリエッタも困惑したように苦笑していた。
そんな彼らに対し、タバサが眉間に皺を寄せて杖を突き出した。
「与えられた役目を演じてこそ一流」
「いや、タバサ君。君がなんでそこまで演技にこだわるか、僕には疑問なんだけど?」
「一流」
「……いや、うん。頑張るよ」
「大変なんですねぇ、役者方も」
普段は物静かで無関心なタバサがここまで乗り気なのに、ギーシュは思わずたじろいでしまった。そんな中、アンリエッタは呑気に他人事のようにつぶやいた。
「いや、で、うほん、アンナ殿。これは違うと思いますが。ああ、それにしても。子供達の遊戯の相手をする貴方も素敵だ……」
「ギーシュ。あんた、また別の女に色目向けていると、今度こそモンモランシーに殺されるわよ?」
「あぐっ、それは勘弁だ」
「相変わらずだな、ギーシュ少年。ところで……アンナ、ちょっといいか?」
「はい?」
「いいから。ちょっと借りるぞ」
と、アニエスは不意にアンリエッタの手を引き、物陰まで連れて行った。アンリエッタは訳も分からず彼女についていく。
そして人気のないところまで連れてこまれ、やっと解放されたかと思うと、アニエスは樽の上に座った。アンリエッタも近くの木箱に座り込む。
「……こういう場では、かしこまったほうがよろしいでしょうか? お姫様」
「……その割にはなんだか皮肉が籠っている気がするのですが」
「わかりますか?」
「あの、今の私はアンナです。普通にしていただければ結構です、アニエスさん。6年前と同じで結構ですよ」
「……そうか。じゃあ言うが、ルイズから事情は聞いた。アルビオンへの旅、私もついていくことにした」
「まあ! それは心強いですわ!」
「ルイズのためだからな。それ以上でも、それ以下でもない。……お前にとって、最後の思い出づくりだな、これが」
「……はい」
ぱぁっと明るい表情を浮かべていたアンリエッタだったが、アニエスのさらなる冷たい言葉に暗くなった。
確かにそうだ。この旅が終われば、自分はゲルマニアに嫁いでしまう。その現実を忘れ、まるで夢の中にいたかのような気分だったが、
それが一気に引き戻されたかのようだ。これが、少女としての我儘の最後。これから先は政治の道具として演じる日々を送らなければいけなくなるのだ。
「まあ、何だ。思い出は今のうちに作っておけよ。それだけはどこへ行ったって変わりはしない。自分を守ってくれる最後の殻だ」
「……え?」
「私も、そういう過去があるんだよ。まあ、事情はずいぶん違うけどな」
「えっと、どういうことなんでしょうか?」
訳も分からずアンリエッタは困惑した表情で首をかしげる。アニエスは恥ずかしそうに顔を赤らめながら頬を掻き、誤魔化すように彼女の背中を思い切り叩いた。
少しばかりの八つ当たりの意味も込めているのだが、それはそれとして。
「きゃう!」
「気にするな。今は思い切り羽を伸ばし、何もかも忘れて、『アンナ』としての思い出を作っておけ、ということだ」
「……はい。やっぱり、優しいんですね、アニエスさんって」
「お前がルイズの友達だからな。だが、やはり一国の姫がこうしているのは好ましくない。今後は控えることだな」
「はい、肝に銘じておきます。あの時といい、私は貴女にお世話になってばかりですわ。……もし、あの出会いがなければ、お互いどうしていたでしょうか?」
「さあな。案外、上司と部下だったんじゃないか?」
「あはは、そうかもしれませんね」
「へっくしゅ」
「陛下、お風邪ですか?」
「いえ、何でもございません、アニエス。さあ、参りますよ」
「御意」
「私からは以上。……いやそうだな、もう一つ言っておきたいことがある」
「なんでしょうか?」
「……彼の最期に伝えたい言葉を考えておけ。亡命を誘うとか、それだけはやめておいたほうがいいと私は進言しておく」
アニエスからの突然すぎる、自分の心を読みあてた言葉に、アンリエッタは思わず目を逸らした。図星、ということなのだろう。
この人はどこまで見通しているのだろうか。アンリエッタはアニエスの顔を恐る恐る覗き込もうとした。とても、悲しい顔をしているようにも見えた。
「……お見通し、なんですね」
「ルイズの姉貴だからな」
「それ、関係ありますか?」
「あるんだよ、結構。……あまり、後悔はさせたくはないと思ってる。こんなことを言うのもあれだが、戻るなら今だぞ?」
「いいえ、私はウェールズ様に会いたい。それだけは嘘偽りのないことです。いろんなことを、いいえあの方のお声を最後に聞けるだけでも十分。……ですが、最期の言葉は考えておきます。後悔をしないように」
「ああ、それがいい」
アニエスにとっては、大切な人を失ったものとしてのせめてもの助言だった。恐らくアンリエッタを待つ運命は過酷なものとなるだろう。
それを乗り越えられるかどうかは、もはや誰にもわかりやしない。まさに、神のみぞ知ると言ったところか。
だがそれも試練であり、もしかしたら彼女への罰なのかもしれない。アニエスはそう思いながら、彼女の顔を見つめた。
運命。彼女が王女として生まれた運命は、幸運だったのかそれとも、不幸だったのか。アニエスにはよくわからなかった。
故郷を焼かれ復讐に生き、ルイズという生きがいを見つけた自分と、どう違い、どう差があるのか。
案外そういう差はどこにもないのかもしれない。
「……貴族、いや王族も複雑だな」
「え?」
「あ、いやなんでもない。ところで、パスカル殿を見なかったか?」
「パスカル殿……。ああ、あのお人形さんのようなお方ですね。彼女であれば、確かお屋敷のほうに歩いて行ったのを見たような……」
「そうか、ありがとう。じゃあ、邪魔したな。もう戻っていいぞ」
「はい。あの、アニエスさん」
「なんだ?」
「……ありがとうございます」
「……どういたしまして」
以上となります。本当は一つにまとめるつもりでしたが、とりあえず容量も大きくなってきたので二つに分けます。
以上で代理投下完了です
銃士さん代理さん乙
やっぱりアニエス&ルイズの姉妹関係が前面に出てくるとよいな
そして案の定のワルドの扱いにわろた
エレオノールが許可を出すとは到底考えられんのだが……
それにイザベラが訳もわからず頭痛に悩まされてたりして。
だが、この調子でいくと剣士やミシェルと激突することになるかも。
ところで変身のときの服の問題はいいのか?
パスカルとチアンの結婚式があったとして、ものすごく不自然な想像しかわいてこない…
ギーシュ「君程度相手に魔法はもったいない素手で相手してあげるよ」
サイト「この流れじゃこっちは武器使えねええ!?」
軍人の家系なめんな・・・・・・強いはずだよね・・・多分
もしも時間の箪笥で戻れなかったら
「剣は平民の武器」っていう世界だし、接近戦の心得は全くありません、でもおかしくない気もするけどなぁ。
烈風の姫騎士読んでないけど、父親もギーシュと同じ芸風らしいし。
現実での武将とかでも、個人としての武勇なんぞは匹夫の勇だ、といって軽んじてた人もいたらしいし。
ブレイドなんて魔法ある時点で心得が全くないってこたないだろう
というか結構接近戦しているよね>メイジ
今のサイトならまだしも初期なら素手でも普通に負けそうだ
軍人メイジが剣術や素手での格闘も重視しているなら、
もっと頻繁に『身体強化系』の魔法が使われそうなもんだけどなぁ。
該当するのは、ガンダと 元素の兄弟ぐらいか?
拾われた香水瓶に対して
「ああこれはミスモンモラシのだからモンモラシに渡しといてくれ給え」
と言うギーシュ
>>316 それでもギーシュ修羅場フラグにしか見えないwww
ラ・ラメー「この船では奴らには勝てない……」
ギーシュ「ち、違うそれはモンモランシーの香水ではない。お○水だ……間違わないでくれたまえ」
320 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/03(金) 20:53:46 ID:LkHuAg3d
2年生の使い魔召喚試験のその日、トリステイン魔法学院はすこしだけ暑苦しくなった。
「ぜ、ゼロのルイズがオカマを召喚したぞー!」
「オカマじゃないわ!私は愛の使者ミ・マドモワゼルよ!」
〜ゼロのオカマ〜
「ミスターコルベール、やり直しを要求します。いいですよね!いいといってください!!」
「あー、ミスヴァリエール。まことにもって、その・・・大変に気の毒なのだが…」
「あらタイプ♪」
(ギーシュ決闘)
「君のおかげでレディー二人が傷つ、あべし!」
「あんた私のかわいい姪っ子のシエスタに何してくれるのよ?ああ?!尻の穴から手入れて奥歯ガタガタいわせたろかぁ!」
「お、おじ様!男、男に戻ってます!」
(デルフ購入)
「いや〜、俺も色んな使い手見てきたけど、オカマの使い手は初めてだ」
「デルちゃん。私はオカマじゃないわ。私は愛の使者、ミ・マドモワゼルよ」
「いや、マドマワゼルって、お前さんだって男・・・」
「へし折るわよ」
「・・・」
321 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/03(金) 20:55:00 ID:LkHuAg3d
(姫様からの依頼)
「滅び行く国の王子との許されぬ恋路!う〜ん!トレビア〜ン!!」
「・・・ル、ルイズ。か・・・ユニークな使い魔さんですね」
「・・・もう嫌」
(ラ・ロシェールの宿屋にて)
「ルイズ、あの男は駄目よ。危険だわ。私の女としてのカンがそう私に囁くの」
「あんた男じゃない」
「私にはわかるわ。あの男は・・・」
「な、何よ?」
「ずばりマザコンよ」
「・・・はい?」
「そう、しかも貴方にプロポーズするってことはロリコンの疑いもあるわ。
本来ならこの二つは相反するものだけど、あの男はそれで平然としていられる。
つまり変態よ、変態。それも筋金入りのね。
そのうち赤色にこだわりだし、3倍3倍と呪文のように唱え始めるわ」
「・・・」
(アルビオン撤退戦)
モーセのごとく割れていくアルビオン軍。あるものは目を押さえ、あるものはうめき声を上げて気絶した。
その中央には「あの服」を着て華麗に舞うスカロンの姿が…
マルコリヌの隠れた素質を見抜き、ギトーから「魅惑の妖精亭」のツケを回収し
アニエスをお店にスカウトしながら、ミ・マドモアワゼルは今日もいく。お店はジェシカに丸投げだ。
いけいけ我らがミ・マドモアゼル。エルフとの決戦の日は近い。
「う〜ん、トレビア〜ン!」
終われ
ゼロの使い魔SSを語るスレの「アンリ3世がビスチェ送った娘と実は出来ていて、スカロンさんが虚無の血を引いていて・・・」という書き込みで妄想。書き込んだら少しだけうけたので加筆修正してこちらに書き込み。ちょっとはっちゃけ過ぎた。
>スカロンさんが虚無の血を引いていて・・・
てことはスカロンが虚無の担い手ってことだよな
で、これを使い魔として召喚したルイズは一体…?
なんかもう銀魂の西郷徳盛にしか見えんなぁ。
まあ原作の状態で相当近いと思うけど。どっちが先出だっけか。
きっと見せ場では白褌姿になって戦うんだろうな
スカロンさん、異世界の電波受信してますwww
一部規制が解除されたみたいで、無事こちらに書き込めるようなので、
今のうちに避難所に投稿した33話後編をこちらに転載したいと思います。
45分ぐらいにいきたいと思います。
あと、避難所でのご感想ありがとうございました。
>>服の問題について
強引ではありますが、一応改善案は浮かんだので、いつか明かそうと思います。
マジックアイテム超便利。
>>結婚式
ただのロリコン野郎にしか見えませんよね。でも両想いならいいんじゃないかな!
スカロン虚無がありならジェシカやシエスタもありだよね同じ血筋だし
では行きます。
「ううん……」
「あらまあ、もう昼よ」
ラ・ロシェールの宿の一室で、二人の女性が同じベッドで寝そべり、そのうち背の低い金髪の少女が懐中時計を見つめてつぶやいた。
「楽しかったわ、アンダルシア」
「いいえ、どういたしまして。ふふっ、貴女のその姿も素敵だねぇ。もっと滅茶苦茶にしてやりてぇ」
「あらあら。そうしたら逆に滅茶苦茶にしちゃおうかしら。それとも、次は男の姿で楽しむかい?」
背の高いほうの女性、アンダルシアはベッドから体を起こしながら、上品そうな顔立ちに似合わず、頭を掻き、物臭そうな表情を浮かべてあくびをした。
アンダルシアは変わった趣向を持っていた。そして、王立アカデミーの中でも異端児とも言われるほどの天才であり、変態なのだ。
彼女は主に医療関係の研究をしており、個人的な医療所も持っている。実力もさながら人当たりもよく、平民・貴族問わず、ある程度金を払えば等しく治療を施すため人気が高い。
しかし、それとは対照的に様々な裏の顔も持っているとも噂されていた。
もともと貧乏貴族に過ぎない彼女が莫大な研究費を貰っているのは、その実力ではなく多くの人間との肉体関係を持っているからだとか。
心を自在に操ることができ、その洗脳によって資金を得ているのではないか、とか。治療した人間の一部を自分の実験材料にしているのではないかとか。
はたまた、裏では暗殺者をしているのではないか、だとか。色々な噂が飛び交っているのだ。
その噂の事実の一部を裏付けるように、彼女の言動は時々艶かしく、そしてまるで誘うような言葉づかいだった。
彼女の後輩であるエレオノールも一度そういう風に誘われたこともあったが、エレオノールも含めて彼女の言動はすべて冗談で済まされている。誰もそれを本気に考える人はいなかった。
しかし、実際にはそんな噂のほとんどが彼女に当てはまっていた。有力貴族と肉体関係を持っているし、商人を洗脳して金を巻き上げたこともある。
捨て子や犯罪者などを実験材料にしたりと、表の顔とは対照的に外道な行いをしていた。そして、ある人物の下で暗殺者をしているのも事実だ。
全ては自分の研究のため。綺麗ごとだけでは世の中は生きてはいられないのだ。そして、先ほど噂を流しているのも彼女自身だ。
「それにしても、あんたの今の姿。何か見たことがあるのよねぇ」
「わかる? アニエスっていうんだけど」
「アニエス……。ああ、あのフォンティーヌの娘?」
「今はそうよ。でも、あの子を育てたのは私。あの子の記憶も心も体も全部私の物……」
「あらまぁ、相変わらずの独占欲。そうやって飲み込んだ人間、他にもいるのに」
「人間の欲に際限はないのよ。でも、やっぱり今のあの子のが欲しいわねぇ」
「それで? また入れ替わって中からぐちゃぐちゃにしちゃう?」
「それもいいかもしれないけれどねぇ。もうちょっと面白い遊びないかしら?」
アンダルシアの相手、『剣士』は寝返りを打ち、ほくそ笑みながら自分の手を見上げる。彼女がなぜここまでアニエスに固執するのか。それは誰にもわからない。
しかし、アンダルシアにとってそんなことはどうでもよかった。彼女も刺激が欲しいと思っていたところだ。しばらくはスポンサーよりもこっちに従うほうがいいだろう。
「おい、今草から……ぬあ!?」
と、彼女たちの部屋に青髪の剣士ミシェルがやってきた。だが、部屋の中の二人が裸でいたことに驚き、すぐに部屋から飛び出す。
『剣士』はくっく、と邪に笑いながら、恐らく廊下で顔を真っ赤にしているであろうミシェルに声をかけようとした。
しかし、その前にまるで悪戯を思いついたかのような子供の笑みを浮かべながら、自分の体を崩した。そしてその体をミシェルに変えて声をかける。
「ミシェルちゃん、こっちにおいで」
と、そんな彼女の側にあった花瓶が突如破裂した。ドアの前では、ミシェルが息を荒げながら銃を構えていた。その銃口からは煙が立ち込めている。
本来ならばこんなことをしていれば騒ぎになっているはずだが、辺りは静寂に包まれていた。この付近には彼女達以外の人間は僅かしかいない。
いや、いたとしても関わり合いになることを避けて日和見を決めたことだろう。
「貴様、私の姿になるなと言っただろうが!」
ミシェルは部屋に入るなり『剣士』の肩に掴みかかろうとしたが、それを簡単にあしらわれた。
そして余裕の表情を浮かべている『剣士』に、ミシェルは悔しそうな表情を浮かべつつ、壁を殴りつけて八つ当たりした。
「あらあら、女の子がそんな調子でどうするのかしら?」
「うるさい!」
「なんだ、何の騒ぎ……とうおわ!? ア、アンダルシア、何なんだ、その格好は! けしからん、私が食べてぐあ!?」
「あんたもうっせぇ」
と、何者かが部屋に飛び込んできては盛大にアンダルシアの蹴りを顔面に受けて、地面に倒れた。この男、アニエス達が戦った土のメイジなのだが、
今は仮面もかぶらず、いやもはや下着一枚しか身に着けていない。どうやら彼も寝起きのようだ。ミシェルは訳の分からない状況に、もはやあきれ返っている。
常識人が一人いたところで、この場においてそれは常識ではないのだ。
「……草から、というより彼から連絡があった。どうやらアンリエッタ姫はこちらに向かうそうだ。到着は明日」
「ふうん。じゃあ暗殺でもするの?」
「”確保”、だそうだ。ただし、生死は問わず」
「了解したわん」
「……いい加減、私の姿をやめろ」
「あら冷たい。でもそうねぇ」
ミシェルの姿をした『剣士』はゆっくりとベッドから体を起こし、そして不敵な笑みを浮かべながら窓の外を眺めて呟いた。
「次の体、もらえるかもしれないわね」
第三十三話 後編
「うっ……。なんか急に寒気が」
屋敷に向かって歩いているアニエスは、突如言葉にしがたい寒気が体中を這いまわる感覚に陥った。まるで突然雪を背中へ入れられたような、そんな感じだ。
しかし、あたりに怪しい視線を感じることもなかったので、とりあえず気のせいだと考えて、彼女は足を再び動かした。
村の中の雰囲気はいつもよりも暗そうだ。それもそうだろう。話を聞く限りでは、サイラスは厳格ではあるが敬われていたらしいし、トマも猫かぶりとはいえ人当たりがよかった。
途中でトマの墓に立ち寄ったが、そこには多くの供え物が添えられていた。真実を知らない者にとっては、彼が何をしていたかなど無関係なのだろう。
両人とも善政をしていたのは変わりない。その二人が死んだことによって彼らも不安になっている。だが、これ以上アニエス達が関われることなど何もなかった。
あとはリュシアン達がどうするかにかかっているのだろう。
屋敷にたどり着いた。まるで地獄絵図だった屋敷も今は平穏を取り戻している。多くの犠牲者達は共同墓地へ丁重に葬られていた。
そして今、この場所にいるのはわずかな人間だけだった。
「……ジャン・ジャックがいる……」
と、アニエスは露骨に不機嫌な表情になりつつ、その屋敷にいる人物を見つめた。
つばの大きい紺色の羽帽子に、同色に染められているグリフォン隊を象徴するマント。そしてそれに見合うだけの風貌。しかし、アニエスにとって、それらはルイズを狙う獣の擬態にしか見えない。
まあ完全にアニエスの理不尽な敵対心なのだがそれはさておき。アニエスはひとまず彼のほうへと歩いていく。ワルド以外にもリュシアンやエレオノールがいるようだ。現場検証のようなことをしているのだろうか。
エレオノールの格好、いや髪型が何時もと違うのが気になるのだが。あれは、あの歳ではちょっときついのではないだろうか。
それに頬が少しだけ赤くなっている気がする。まるで手形のようだが、ルイズとケンカしたのだろうか。そんなエレオノールがアニエスに気が付き、あいさつした。
「あら、アニエスじゃない」
「お、おはようございます、姉上、それにリュシアン殿。……それにワルドのおじさん」
「……出会い頭におじさん呼ばわりとは失礼だな、君は。義兄様だ。まあいい、よく眠れたかい、アニエス?」
「お蔭様で、貴方のそのむさ苦しい髭を見なぎゃあ!」
「いい加減にしなさい、アニエス」
と、ここぞとばかりに皮肉を言おうとしたアニエスの足にエレオノールのブーツが振り落された。固いヒール部分の一撃はアニエスを悶絶寸前に追い込むのに十分だ。
しかし、ここではアニエスが全面的に悪いために、誰からも弁護されることはなかった。まったくもって自業自得である。
アニエスはかすれた声で言った。
「ぐぁあ……。け、怪我人にこれですか」
「そんな元気なことを言える怪我人などいなくてよ。でもまあ、予想よりも立ち直っているようだからよかったわ」
「まあ、お蔭様で。……静かですね」
「ええ」
エレオノールとアニエスは屋敷を見上げた。彼女たちが初めて訪れた時も静かではあったが、今とは雰囲気が違う。
今は、ただ物寂しさだけが漂っているだけだ。生気など感じられない。まるで、一つの文明が滅んだ、あの遺跡のような静けさのようだ。
「しかし、事情を聴いた時はビックリしたよ。人間を屍人に化す茸も恐ろしいが……。しかし、よく君はメイジに勝てたな。さすがは、あの母上の弟子と言ったところか」
「それはどうも」
「魔法衛士の身としては是非とも一戦、と言いたいところだが。君も本調子ではないだろうからね」
「……私は構いませんが?」
「ほう」
「……今からデルフをぎゃあ!」
「エ、エレオノールどおぐぅ!」
「いい加減にしなさい。全く、馬鹿な妹と魔法衛士で申し訳ございません、リュシアン殿」
「い、いえ、そんなことは」
エレオノールはアニエスの足を再び踏み、そして空かさずワルドの腹に拳を入れて一触即発の雰囲気を無理やりぶち壊した。
その動きは単なる学者とは思えないものだったが、怒り、もしくは烈風カリンの血がそれを可能にさせているのだろう。
足を抑えながら悶え苦しむアニエスと、腹を抱えて地面に倒れるワルドを目にしながら、リュシアンは顔に青筋を立てて気圧されてしまった。
「……仲がよろしいようで」
「まあそうですわね」
「そ、それで、姉上たちはここで何を?」
「トマとレコン・キスタの繋がりがないか探していたところなんだけど、結局見つけられなかったわ。きっと全部処分された後ね。
まあ、トマ自身じゃなく、私たちと戦ったメイジ達が隠ぺいしたんじゃないかしらね、きっと。
地竜も死に、真実は闇の中。完全に私たちの敗北ね……。ただ、奴らもまたレコン・キスタに加担するものじゃないかしら?」
アニエスは体を起こし、屋敷を見つめる。エレオノールの言う通り、真相は闇の中。自分たちは、良いように扱われたのだ。
「仮面のメイジ達ですか?」
「ええ。貴女が倒した奴の死体は丁重に保存してあるわ。ここに人がたどりつき次第、引き渡すつもり。あとは残った奴らの正体だけれど……」
「そ、その件については我ら魔法衛士が調査をしておきましょう。もし事実としたら我が国の危機ともいえる状況。ここから先は我らにお任せください。引き取りも同時に行いますゆえ」
「……そうね。じゃあジャン君、お願い」
「承知しました、エレオノール殿。では……」
ワルドは殴られた腹を摩りながら、レイピア型の杖を取り出しゆっくりと詠唱を始めた。そして自分の遍在を作り出す。
「さあ、行け!」
ワルドの遍在は本体からの指示を受け、王国に報告するために動いて行った。それを彼らは見送っていく。そして、リュシアンがゆっくりとつぶやいた。
「……この先、この村にはまた新たな領主が送られてくるでしょう。もしかしたらまた、レコン・キスタの手のものかもしれない。
それでも私は、この村を守っていこうと思います。ありのまま、父が愛したこの村を」
「……そうですか。私も、もっと力になれればよろしいのですが」
「いいえ、アニエス殿達からは感謝しきれないほどのご助力をしていただきました。後は、我らが成すことです」
リュシアンは手を握り締め、決意を表して天を見上げた。
「私は……。今までいろんなことから目を背け続けてきました。自分など、跡継ぎに相応しくないからと、山小屋で木こりとして暮らす毎日に甘えていた。
ですが、これからは父にも負けない男になり、この地を見守っていこうと思います」
「そうですか……。もし私に何か力になれることがあれば仰ってください。また、駆けつけますゆえ」
「ありがとうございます、アニエス殿。……では、私はこれで」
リュシアンは深々と礼をすると、その場から立ち去って行った。その周りには、村の民が近づき、彼に声をかけていく。それを、リュシアンは一人一人丁寧に対応していった。
「あれならば、この村も安心かもしれませんね」
「そうだと良いわね。ところで」
「はい? あいだッ! うおお、今日4回目の被害……いだい! 姉上、姉上、いだいです! 踏まないでぇ!」
「まぁたルイズに変なこと吹き込んだのね、あんたは! もう、何が『アルビオンに行きたい』、よ! 戦場に行くなんて、それも姫様を連れて行くなんて、
ただのイカれた馬鹿じゃないのよ! この!」
「あ、アッー! だめ、目覚めちゃ、じゃない殺される! それになんですか、今の声! ちょっとルイズに似すぎ、あだだだだッ!」
「声帯模写よ、文句あるの!?」
一瞬だけ悦になったような表情を浮かべそうになったアニエスは、エレオノールの容赦ない踏みつけ制裁になすすべなく悲鳴を上げた。
そんな彼女を、ワルドは慌てて止めようと彼女の体をガシッと抑えた。だがエレオノールは荒い息遣いで、彼を睨みつけている。
「え、エレオノール殿! まあまあ、落ち着きください」
「フーッフーッ……。あんたもねぇ、ジャン君? 『大丈夫さ、この僕がいる限りは姫様も君も傷つけないよ。だから安心してくれ!』だぁ?
あんた、ちょっと調子に乗ってない? 乗ってるでしょ?」
「な、何で私の声も真似できるんですか……じゃなくて、い、いえそんなことはございません。しかし、少なくとも姫殿下は意思を曲げられないようですし、その意向であるならば、私たち軍人は命令に従うだけですので」
「止めなさいよ! 馬鹿じゃないの!? いや、この馬鹿がッ!」
「くそぉ……なんで私だけ踏まれて、ジャン・ジャックは何もされないんだ……不公平だ、不平等だ……」
散々な扱いの自分に対し、なぜか何も被害を受けていないワルドを見て、アニエスは地面をたたきながら悔しそうにつぶやいた。
そんな彼女にエレオノールはため息をつきつつ、顔をアニエスに近づけて言った。
「あんた、当てがあるの?」
「まあ、いろいろと」
「その当てって何よ」
「ちょっと耳を……」
アニエスに言われ、エレオノールは彼女に耳を近づける。その際、彼女が一度だけ耳に息を吹きかけて来たために驚き、飛び上がりそうになった。
エレオノールは彼女の頭をぶん殴り、再び近づけた。アニエスは涙目になりながら彼女に耳打ちをする。だが、それでも彼女の不機嫌で怪訝な表情は変わらなかった。
「それ、本当?」
「ええ、彼女だったら何かいい手を知ってるんじゃないかと思いまして。前から思っていましたけど、彼女、どう考えても堅気じゃないですから」
「……いや、ないわね」
「そうですか? まあ聞くだけタダですし。行ければ良し、駄目なら帰宅でいいんじゃないですかね?」
「……はぁ。たくもう、あんた、どうせルイズと一緒にいたいだけじゃないの?」
「……」
アニエスは黙った。そう、本音はそれだ。このまま家に連れ帰れば、アニエス達は実家に引き戻されるだろうし、ルイズ達はまた魔法学院に押し込まれるだろう。
またルイズ達と離ればなれになるのは嫌だ。しかしそれは、溺愛心からではなく、一種の恐怖心とも言ってもよかった。
離れたら、自分が自分でなくなるのではないか、そんなことまで考えていた。そんなアニエスを見て、エレオノールはあきれたように目をつぶりながら頭を掻き、そして言った。
「……私も行きますからね。本当は連れて帰りたいところだけど、あんた達は言うこと聞かなさそうだし、ルイズには引っ叩かれるし、もうさんざんだわ。
ああ、もうやだやだ。何が好きで戦場になんか行かなきゃいけないのかしら……もう」
「だったら家に帰ればいいのに」
「駄目よ」
「何でですか」
アニエスの言葉に、エレオノールは腰に手を添え、そして風に髪を揺らしながら言った。
「……なんか、今家に帰ると悪魔が居そうなのよ。9人ぐらいに増殖して、竜巻をまき散らし、私たちを笑顔で切り刻む悪魔が」
「……それ、早く帰ったほうがマシなんじゃ」
「いいえ、どうせそれ以上はないわ。たぶん、きっと、おそらく」
「へ、へくち!」
「あら、可愛いクシャミ。どうかなさいましたか?」
「いいえ、ダルシニ。恐らく胸がはかなく、釣りメガネで、ろくでなしの親不孝の学者が私の噂をしているだけです」
「……それ、エレちゃんのこと?」
「ぶぇっくしょん!」
「汚ッ!」
「……ああ、昔はあんなに淑女でいらしたのに、こんなガサツになられたとは嘆かわしい……」
「何か言った?」
盛大にクシャミをするエレオノールに、ワルドは天を見上げて大げさに嘆いた。そんなワルドをエレオノールは不思議そうな表情で見つめた。
「私、昔からこんなじゃなかったかしら?」
「まあ、厳しくなられたのは確かにそうですが、私が子供の頃お会いした時はもっとこう……」
「あ、思い出した! あんた、ルイズの許婚になる約束の時、先に私は? って聞かれて断ったって聞いたわよ」
と、何かを思い出そうとしたワルドだったが、その前にエレオノールが思い出して彼を睨みつけた。
しかし、ワルドが思い出そうとしたことはそんなことではなく、ただ戸惑うばかりである。
「え゛、あいや、そうではなくてですね」
「何で私はダメだったのよ!」
「ちょ、ご勘弁をッ!」
「待ちなさい、ゴラァ! グラモン家ともども、あんたの尊厳も消し去ってやる!」
エレオノールは叫び散らしながら逃げるワルドを追いかけ始めた。ワルドも何時もの余裕さをなくして、エレオノールから逃げ出した。
27歳と26歳。まったく、年上とは思いたくない二人だ。しかし、よくよく考えれば彼女たちは歳も近いし、いわば幼馴染みたいな関係なのだろうか。
そうすると、ワルドは過去のエレオノールを知っているはずだ。だが、それもどうでもよくなるほど、今、アニエスは猛烈に突っ込みたいことがあった。
「……なんでツインテールなんだ」
エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール。今年で晴れて28歳である。独身。
アニエスは追いかけっこを興じ始めたエレオノールとワルドを置いて、屋敷から離れた。そして再び村の探索に出る。
しかし、しばらく探してみたがパスカルやチアンの姿はないようだ。何処へ行ったのだろうか。
もしかしたら、帰りを待ったほうが賢明なのではないかと思っていた時、彼女は一人の少年を見つけた。
「おんどりゃあ!」
その少年は自称ルイズの相棒、サイトだった。声の気合いだけは十分に、剣を振り下ろしている。しかし、その動作こそ早いものの型は滅茶苦茶だ。
我流なのだろうか。その速度は素人とは思えない速さだ。
「精が出るな、少年」
アニエスはそんな彼に声をかけた。サイトは彼女に気が付き、汗をぬぐいながら答えた。
「あ……あなたはルイズのお姉さん?」
「そうだ。アニエス・ミラン。アニエスでいい」
「アニエスさん。あの、俺もサイトって呼んでください」
「そうか、少年」
「……あの、サイトって」
「どうした? 少年」
「いえ、なんでもないっす」
サイトは何が何でも名前を呼ぼうとはしないアニエスに項垂れながら、再び剣を振り始めた。
アニエスはサイトに笑みを向けているが、内心ではワルドと同じくルイズを狙う危険人物として見ているのだろう。
それほどまでに彼女の妹に対する溺愛ぶりは酷かった。いや、だんだんと異常性を増してきたのかもしれない。
そうとはつゆ知らず、アニエスはサイトの剣捌きを観察していた。やはり、振り方は素人同然だ。アニエスも我流ではあるが、数々の戦場を潜り抜けてきた。
それなりに剣の振り方などの知識に関しては自信がある。それに当てはめれば、サイトはまだまだ実戦経験のない動きだ。
だが遺跡での戦いでは、彼はアンリエッタ達を見事守り切っていた。それも、彼は人一人も殺してはいない。徹底して気絶させていた。
「君はどこでその動きを身に着けたんだ?」
「え?」
「素人なのかそうじゃないのか、不思議な動きだ。少なくとも動きの速さは素人じゃない」
アニエスはさりげなくサイトに尋ねた。サイトは返答に困ったように、何かを呟きながら辺りをきょろきょろと見渡していた。
何か怪しいな、とアニエスが思った瞬間、彼は誤魔化したような笑顔を浮かべて答えた。
「え、えっと、ルイズに教えてもらいました」
「ルイズ、だと? 貴様呼び捨てかッ!」
アニエスはくわっと目を見開いてサイトを睨みつけた。思わずサイトはたじろいでしまう。
「うわ、こっわ……。えっと、ルイズさんに教えてもらいました!」
「そうか。しかし、それだけじゃなさそうだがな」
と、さん付けをすると一転してアニエスは満足そうな笑みを浮かべた。その変わりように思わずサイトはため息をつきながら、顔をひきつらせる。
「な、なんでですか」
「ルイズに剣を教えたのは私。その私が教えた剣を、お前が引き継いだことになる。だが、動きはまだまだだ。素人以下だな」
「なっ……」
「しかし、先ほども言ったが動きなどは悪くはない。何処で得た?」
「……それは」
サイトは再びのアニエスの問いに答えられず、ただ戸惑った表情を浮かべて顔をそむけた。どうやら、その強さの秘密は話したくない、いや話せない事らしい。
そんなことをとやかく問い詰めるほどの野暮ことはアニエスはしない。ただ彼に問いかけた。
「じゃあ、何のために戦うんだ? 何のために剣を振る?」
「そりゃあ、ルイズを守るためです」
「何故?」
「何故って……」
サイトは返答に困ったように、挙動不審に辺りを見渡す。そんな彼を不審に思い、まさかとはっとした表情でアニエスは詰め寄った。
「好きなのか?」
「す、好きとか好きじゃないとか、そんなんじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」
「あいつのそばにいると、その……ドキドキするんだ、心が。理由なんてない。だけど、あいつは俺が守んなきゃって、そう思うんだ」
「……そうか」
「あ、いや……生意気なこと言ってすんません。……アニエスさん?」
アニエスはふっと笑みを浮かべる。何だ、ただのルイズに付く悪い虫かと思ったら、なかなか真っ直ぐな少年のようだ。瞳がそう言っている。
言葉には嘘が見られない。誤魔化しているようにも見えない。ただ単に、心の中では真っ直ぐにルイズを守ろうとしている。
なぜあの子にそこまでするのかはわからないが、そう、理由などなくたっていい。その心さえあればいいのだ。
この少年は、ある意味自分よりも強いのかもしれないな、とアニエスは思いつつ、その場を後にしようとした。その去り際、アニエスは彼にアドバイスを投げかける。
「もっと体全体の力を抜くんだ。そんなんじゃ、せっかくの素早い身のこなしも、固まって無駄になってしまうぞ。そう、風のようにしなやかに、だ」
「か、風?」
「わからないのなら、もっと素振りをすることだな。じゃあな、少年」
アニエスは最後までサイトの名を呼ばなかった。その名を呼ぶのは、彼の心が本当なのかどうか。ルイズにふさわしいかどうかを見極めてみてからだ。
ただ、彼の眩しくも真っ直ぐな心は、アニエスの心の深くまでにたどり着き、そして一つの疑問を浮かばせる。
自分は、彼ほどルイズを想っているのだろうか、と。
村人の情報をさらに集めると、どうやらパスカルは山のほうに向かったようだった。そこにはサイラスの墓が建てられている。
アニエスは遺跡のほうを目指し、村の人から借りた馬を走らせていた。その手には村で買った花束が握られている。そしてしばらく経った後、山道の出口にたどり着いた。
そこには立派な馬が二頭繋がれている。どうやら、ここであっているようだ。彼女も倣って馬をその隣につなげると、ゆっくりと遺跡の入り口のほうへと向かって歩き始めた。
風が吹く。気持ちのいい風だ。地竜の、そしてここに住む人々が愛した遺跡は変わらぬ姿でそこにある。
と、入口の方角からチアンが歩いてきた。何時もの変わった装束を身にまとっている。しかし、包帯だらけのその姿は少し痛々しかった。
「お前は……アニエスか」
「チアンか。……もう動けるのか?」
「ああ、頑丈さだけが俺の取り柄だからな……。お前こそ大丈夫なのか?」
「ああ……」
チアンの言葉にアニエスは短く答え、それ以上の言葉を出せなかった。チアンはそんな彼女を怪訝そうに見つめていた。
アニエスは彼の顔から視線を逸らした。そして、ゆっくりと口を開こうとした時、チアンの大きな手によってそれを塞がれた。
「うぐ……」
「それ以上は何も言うな。言ったら、その口をつぶす」
「ぶはっ! げほっ、げほっ。物騒なことを言うなよ。……」
アニエスは苦しそうに咳き込みながら、チアンに文句を言った。彼はそんな彼女の肩を叩いてその場を後にしようとした。
そんな彼をアニエスは呼び止めようと叫んだ。
「おい!」
「自分のやったことぐらい、誇りを持っておけ。……そうじゃなきゃ、死んでいった奴らに顔向けなんてできねぇよ」
チアンはそんな彼女に淡々と答える。しかし、その言葉は少しだけ震えているようにも思えた。
「……お前は、これからどうするんだ?」
「俺はあいつの側にいる。そして、あいつとこの村を守るよ。俺が殺した、地竜の代わりにな」
「村に残るのか?」
「ああ。パスカルの意志でな。そして、それは俺の意志でもある」
「……そうか」
「お前も、本当に守りたいもんだけは絶対に守れよ。……じゃあな」
チアンはそう言い残すと、その場から立ち去ってゆき、馬に跨ってすぐに見えなくなってしまった。
短い言葉だ。しかし、それでも彼の心がよく伝わってくる。彼もまた責任を感じている。しかし、それを決しておくびにも出そうとはしなかった。
未来に向かって何かを成し遂げようと、必死にもがいている。女々しく弱気な言葉ばかりを紡ぐ自分とは違かった。
アニエスは拳を握りしめながら前を見つめると、そのまま遺跡のほうへと歩いて行った。そして、入口にたどり着くと、瓦礫の上に一つの人影が見えてきた。
「パス……ッ」
彼女はその人影の名を呼ぼうとするが、その時不思議な光景が目に飛び込んできた。
黒い喪服で身をまとわれたパスカルの姿が、まるでベネディクトのように、儚く、一人の大人の女性として見えたのだ。
憂いを帯びたグリーンの瞳を墓石に向け、彼女は黄昏れている。アニエスが思わずその光景に見とれていると、彼女が気が付き、こちらを向いてきた。
「あ……アニエスさん。こんにちわ」
「あ、えっと、こんにちわ」
アニエスは気を取り直し、メガネの位置を直すふりをして誤魔化しながら、あいさつを交わす。その時にはもうすでにパスカルは元の子供のような姿に戻っていた。
まるで先ほどの光景は、おとぎ話のようだった。ずっと子供でいてしまう呪いをかけられた絶世の美女が、一瞬だけ元の姿に戻れたかのような。そんな姿だった。
パスカルは瓦礫から飛び降りると、服に付いた砂埃を払い、アニエスのもとへと歩み寄った。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いえ……その……」
「あ、もしかして父の墓参りに来てくださったのですか? それならば、こちらです」
と、アニエスが返答に困っていると、パスカルは優しく微笑みながら彼女を道案内しようと歩き出した。アニエスは突然のことに少し驚きつつ、彼女の後について行った。
遺跡の前には立派な墓石が建てられていた。そこには、サイラスの名が刻まれている。
「ギーシュさんが作ってくださったんです。最初はすごい派手なのを作っちゃって、それで皆に文句言われちゃってたんですよ」
「……はは、らしいですね」
「でも、立派な墓ができました。父も、安心して眠ることができると思います」
「……パスカル殿、あの」
アニエスは申し訳なさそうにパスカルに何かを伝えようとした。しかしパスカルはそんな彼女の気持ちを汲み取って、苦笑しながら首を横に振った。
「アニエスさんは優しいですね」
「……私が?」
「ええ。父の死こと、気にかけてくださっているのですね」
簡単に言い当てられてしまった。アニエスは俯き、それ以上の言葉を無くした。パスカルは笑っていた。ひどく悲しく笑っていた。
「お姉さんを甘く見ないでくださいね」
「……恐れ入ります」
アニエスは乾いた笑みを浮かべながら、持ってきた花束を墓に供えるとゆっくりと祈りをささげた。そしてゆっくりと後ろに下がり、再びパスカルの横に立つ。
パスカルはそんな彼女に静かに語りかけた。
「気にしないで、とは言いません。ですが、あまり心を病まないでください」
「……」
「でも、アニエスさんは責任感が強い方ですからね」
「よく、言われます」
「そうでしょうね」
風が吹いた。バサバサとパスカルのスカートが揺れる。二人の髪が優しく撫でられているかのように揺れた。
「良い風……。大好きな、風。私、この風を守っていこうと思います。父の愛した土地を」
「……」
「それに……やっぱりここが私の居場所なんだって、ようやく気が付けましたから」
「居場所……か」
アニエスはパスカルの言葉を小さく反芻した。居場所。自分の居場所は何処にあるのだろうか。
ヴァリエール家が本当に居場所でいいのだろうか。自分は、あの夢のようにはならないと本当に言えるのだろうか。
私は、本当にルイズの傍にいていいのだろうか。
そんなことを考えながら、アニエスはどうしてもパスカルに聞きたいことを尋ねた。
「……パスカル殿は、人を憎んだことはありますか?」
「……それは、たくさんあります」
「その人に復讐しようと思ったことは?」
「あります。ですが、本当にしたところで、きっと虚しいだけでしょうね」
「何故ッ!?」
パスカルの言葉を聞いて、アニエスは思わず声を荒げてしまった。山中に声が響き渡る。
だが、そんなアニエスにも臆せず、パスカルは彼女の顔を見つめた。悲しそうな表情を浮かべていた。それが誰に向けられた悲しみなのか、アニエスにはわからなかった。
「もう、過去は変えられない。復讐をしたところで、死んでしまった人は戻ってきませんから。それに……私にだって罪はある。
この地を守ろうとして、自分の身勝手で、たくさんの人を傷つけてきた。そんな私に復讐をする資格なんてない。結局、同じ罪を持つ人間ですから」
「……」
「だからね、アニエスさん。私はそんな過去を背負って、未来を守るために、今を生きようと思うんです。もし、この土地を、父が愛したこの土地を荒らそうとする人間が現れたら、
ううん、私の大事なものを傷つけようとしようとするならば、その時は絶対に私が守ってみせる。同じ過ちは絶対にしない。どんな罪を背負ってでも、私はこの地を守っていこうと思います。
それが、私の意志」
「過去を背負い、未来を守るため、今を生きる……」
「それに、今度はチアン君だけじゃないですから。きっとうまく行ってくれる。アニエスさんだって、エレオノールさんやルイズさんがいらっしゃる。
一人じゃないんですよ」
パスカルの言葉がアニエスの心の中に響き渡った。強い意志が込められていた。それを感じ取れるほど、彼女の言葉は暖かった。
だけど、その言葉でアニエスが救われる事はない。むしろ彼女の闇は深まるだけだ。何処かで納得することができない。彼女の言葉を、心の奥底から受け取ることができなかった。
復讐は彼女にとって生きる意味でもあった。それを否定されることは、過去を奪われるようなそんな想いにもなる。
過去。薄れゆく故郷の過去。ルイズとともに生き、たくさんの人々に囲まれていた過去。彼女にとってどれが本当の過去なのだろうか。
どれを背負い、どれを思って自分は今を生きなければいけない? 私の未来は、本当に訪れるのか?
殺しをすることで満たされるといわれた自分の未来など、存在していいのだろうか。
「ごめんなさい、私の考えを勝手につらつらと並べてしまって。私の世界があるようにアニエスさんの世界もありますから。それを大事にしてください。
それに、私、よく冷めているって人に言われますから。ちょっとみんなとは考え方が違うのかも。ただ強がっているだけかもしれませんし」
「あ、いえ……そんなことは。あ、そうだ……」
ふと、アニエスは思い出して、慌ててポケットの中を探った。そして、オリヴィエのペンダントを手に取ると、それをパスカルに差し出した。
「……これ」
パスカルはアニエスからそれを受け取り、じっと見つめた。心なしか、瞳には涙が浮かんでいるようだった。
「サイラス殿から、預かっておりました。酷い事を言ってすまなかった。素直にお前を祝福できなかった私を許してくれ、と……。
そして自分の信じた道を歩めと。そう、貴女への最期の言葉を、預かっておりました」
「そう、ですか……。父が、そのようなことを」
パスカルは懐かしそうにそのペンダントを握り締めて、胸に抱きしめた。ほろりと、涙が頬を落ちていった。
「……それは、オリヴィエ殿のペンダントと聞きました」
「はい……。これは、私があの子の誕生日に送ったものなのです。珍しく都会から行商人が来たときに、こっそりためておいたお金を使って、
誕生日にプレゼントしたんです。懐かしいな……ふふ、あの時のオリヴィエの顔はすごく恥ずかしそうにしていて、『こんな女々しいもん渡すんじゃねぇよ』って
でも、嬉しそうな顔で喜んでいたわ……」
「……」
「オリヴィエは、何を思って、これを父に預けたんでしょうかね……。父は……何を、思って、これを、持って……いたのかなぁ……。
もう……その、声も……心も……聞けないっ……」
みるみるうちに、パスカルの頬を涙が伝い落ちていく。ぼろぼろと、初めは小粒だった涙も大粒になっていって、彼女の笑顔も消えて行った。
心の堤防が決壊し、ついに耐えきれなくなったパスカルはペンダントを抱きしめたまま膝をついた。そして、嗚咽をはきながら地面を涙でぬらす。
たとえ割り切ったと言っていたとしても、心の中ではそれを認めたくはないのだろう。死は、そう簡単に割り切れるものではないのだ。
だが、アニエスはそんな彼女に対し、何もできなかった。抱きしめてやることも、励ましてやることも。
彼女の父の事は気にかけるなと言われた。それでも、自分にはそんな資格などないのだと、心のどこかで思ってしまって。
風が吹いた。まるで、アニエスの想いをどこかへと連れて行ってしまうかのように。その風はアニエスの髪を揺らしていった。
おまけ エレ姉の髪の訳と特技
「……この髪形も飽きたわね。もっとこう、大きく変えずにちょっと遊べないかしらね。たとえばぁ……」
ケース1 キュルケの場合
「ふうん、片目隠すだけでも結構変わるのねぇ。ふうん、これがあの子の言う魅惑的ってやつかしら?
あーあー……ごほん……。『おーほっほっほ! ヴァリエール家に遅れなど取らなくてよ!』
……うん、ちょっと似てたわね。私の声帯模写も捨てたもんじゃないわね。風と水のメイジだからできることだけど。
でもムカついてきたわ。やめましょう」
「……うっ、何か寒気がしたわ」
ケース2 ロングビル、もといマチルダの場合
「真ん中分けねぇ……。これもやったことないわね。デコだしなんて、私がやると余計に悪く見える気がするんだけど。
あーでも案外似てるかも。メガネもちょっと変えて……ごほん、ん、んん!
『うっさいわね、私は軟弱な男に興味がないだけよ! キリッ!』なんっちゃって」
「うわ、いますっごいむかついた。……これはエレオノールだね、全く。あの28歳児が」
ケース3 カトレアの場合
「わー、わーわーさすが姉妹ね、似てるわ。自分でもびっくりだわ……。これで目つきとねぇ、胸があれば私だって……。
……。『カトレア☆イヴェット、17歳です♪』 よし、満足」
「わ、わぁあ! お嬢様が、カトレアお嬢様が血を吐いて倒られておられるぞぉ!?」
「『は、犯人はエレオ』……? 犯人はエレオだそうだ! 探せ、探せぇ!」
「きっと男らしい奴だ!」
結論
「うーん……でも、どれもしっくりこないわねぇ。あ、そこの金髪のメイド!」
「は、はいぃ?」
「私の髪を整えなさいな」
「えっと……なんでもいいんですか?」
「いいから、早くしなさいな」
「は、はい。がんばります!」
ババァーン!
「ツインテール!」
「かわいいです!」
「え、ほ、本当に? あらまあ、これは見せに行くしかないわね」
某病んでる人のエレ姉がかわいすぎたので、こっちはこっちでバイオレンスエレ姉で対抗とかどうのこうの。
パスカルとアニエスの会話シーンが難産で、遅くなってしまいました。ごめんなさい。
結局、ベタなストーリーしか書けない私。長かった風石と地竜編も終わりました。ルイズの合流とともに、アニエスのターニングポイントでもあります。
パスカルとチアンは自分の中でもかなり気に入っているキャラなので、また登場させることができればいいな、と思います。
……誰か描いてくれないかなぁ。いや、何でもないです。
次回からはアルビオン編です。
研究などの関係で、二週間後か三週間後になると思います。それでは、また。
>>虚無スカロンとか
ガンダスカロン自重しろww
しかし、虚無シエスタはありな気がしますね。平民のメイジだから、いろいろと迫害はありそうですが、
才人を呼べばボーイミーツガールになりますし。
銃士さん乙です
エレ姉の特殊技能と茶目っ気にwこの後のエピで活躍しそう
それと、シエシエ虚無ifはよそにあるな。ルイズとの立場交換ネタの短編だけど
ど不器用メイドのルイズというのもなかなかよかった
>全く。あの28歳児が
そういえば地球とハルケギニアは一年の周期が違うから、地球でいえばエレオノールはすでに30過ぎになるな。
それがどうしたかと言われれば、野原みさえより年上だといえばわかると思う。
エレ姉もミサエもまだまだかわいいじゃないか
というか、エレ姉図太いなぁ。原作でツインテールなんてしたら羞恥心で死んじゃうと思うんだがww
まあ子供の頃はしてそうだけど。というか、カトレア大丈夫なのかww階段の時といい、最近不憫だなww
さて、もしもアンリエッタが怪盗だったらというifはどうだろう?泥棒お姫様って意外と良いと思うんだ
もちろん、盗むのは悪党の金持ちだけで、盗んだお金は貧しい人に与える義賊。
フーケはライバルであり、時には仲間とか
むしろ原作より更に貧乏で一家離散しちゃったモンモンとかのほうが
散逸してしまった家宝を集めてまわる怪盗モンモン
モンモランシー家崩壊にはリッシュモン卿の影がとか
てこれじゃミシェルか
税金泥棒リシュモン三世
アン様がもしも幼いころに誘拐されて行方不明になっていたら
>>343 さすらっていた頃のミシェルに出会って妹として育てられる。
しかしその後、ミシェルはアンリエッタが憎い王家の子だと知って愛と憎しみの狭間で葛藤することに。
銃士は数少ないミシェルがメインで登場する話だからなんとか幸せになってほしいな。
モンモンか、その発想はなかったわ。しかもおもしろそうだし
>>344 しかし、現状では変態外道に囲まれている罠
しかもおもしろそうだし
が
しまもおもらししそうだし
に見えた
誰だよしまって?
それにしてもエレ姉のコスプレは呪いのレベルだな。
気がついた。
呪われたの全員巨乳じゃね?
エレオノールが売れ残るのは胸の大きさとは関係ないと思う。
そういえばアニエスやマチルダもあまり余裕があるとは言えないな。
二人とも今のところそれどころじゃないから
気にしている余裕がないんじゃないかな・・・・手遅れフラグ?
おマチさんはもっとダメフラグが立っているみたいけど。
ふと思ったんだけど「もしゼロの使い魔を作家の○○が書いたら」
ってのもアリなのかな?
漫画家でもよかったらゼロの使い魔を松本零士が執筆。
壮大なSFファンタジーロマン、と言いたいが女性の顔がみんな同じなのはな。
そういえばデマかもしれんがヤマトの没シナリオにヤマトが魔法の星に行く
ってのがあったってどこかで読んだ。
夢枕獏北方謙三あたりが鉄板で魔法が使えないルイズの鬱っぷりが見たいなら十文字青で
より変態の道を究めたいなら長谷敏司、極悪なまでにツンデレを突き詰めたいならスズキヒサシでしょうか
もしもルイズのスタイルがカトレア並みによかったら
平山夢明か友成純一で。悪趣味全開に。
ノムリッシュでゲーム化
荒巻義雄で架空戦記化。ゼロ戦やタイガー戦車がトンデモないモノに!
集団逆行モノか
>>357 ゼロ戦が電征、タイガー戦車が蒙虎ってところか。
もしハルケギニアがハルキゲニアだったらー
エデンの檻みたくカンブリアな世界でサバイバルとか
なんかシエスタが大活躍しそうな世界だ
アノマロカリスなルイズなんてイヤ過ぎる
釘宮声でツンデレるアノマロカリスか、斬新だな。
しかし外見はアノマロカリスドーパントかアコーディオンハザードの2択。
>>360 コミックス版まで含めれば、イモ虫戦車や巨大ロボットなんかのヘンタイ兵器がよりどりみどり。
風石積めば 潜水戦艦『日本武尊』も空を飛ぶ?
うーんよくわからん。もっと具体的にどうなるかを書いてくれないと、元ネタわからん人は全くわからんぞ。
もしもカトレアさんが家の外に出ない理由は、病弱ではなくただ単なるお姫様願望だったら。
自分を迎えに来てくれる王子様がきっと来ると信じ、それが迎えに来るまで部屋を出ないよ!働かないよ!というある意味ニート思考。
部屋は動物ではなく妄想用の小説などが散らばっているとか。でも性格は原作そのままなので、ルイズも公爵も強く出れないとか。
カリーヌ「この偏屈妄想娘!早く部屋から出なさい!」
カトレア「いやです!きっと、私を迎えに来てくれる王子様が部屋に来てくださるもの!」
>>366 「もしハルケギニアがグロブローだったら」とかの方が
無茶出来るかも知れないな
要塞シリーズ的な感じでMG(メイジ)組とか
DH(亜人デミ・ヒューマン)組とかPM組とか
設定し放題だし
>>367 どこかの長身四姉妹の次女を思い出した。そのカトレアさんはきっと(妄想)恋愛小説の売れっ子作家になれるな
>>369のレスも受けて、ちょっとキャラ付してみる。
・カトレア
ヴァリエール家が誇るニート貴族。まるで駄目なカトレア、略してマダカ。夢見る24歳
エレオノールの研究により病気を克服するも、その反動でダメ人間化。ただのごくつぶしに。働きたくないですわ。たぶん父親のだめな部分が似た。
その影響で何か悟ったエレオノールが結婚しちゃったもんだから更に悪化。今では彼女の妄想の中の王子様が迎えに来るのを待っている。
しかし、その妄想力を活かして、実は小説を書いては出版している。そのため、一部のメイドには支持されて、いや世話されてしまっている。
魔法の才能もあるのに、実はいい人なのに。いろいろと人生を自分で破綻させている。
・エレオノール
大事な妹の病を治したら、ダメ人間化しちゃったのを見て、いろいろと悟っちゃった長女。
現在は研究もやめ、お家のためにバーガンディ伯のもとに嫁いでいる。なんだか性格もクールに。
時々実家に帰ってくるが、そのたびにカトレアを冷たい目で見つめる。でもカトレア気にしない、感じちゃ(ry
とはいえ、何だかんだでカトレアの世話をしたり、小説を買ってきたりするなど、妹想いなのは変わらない。
・カリーヌ
カトレアの母にして最大の敵。今日もカトレアを外に放り出そうと必死になる。
しかし、病弱には変わりないためにどうしても強く出れない。しかも最近カトレアは自由に吐血できるという特技ができた。何それ怖い。
そのため、更に強く出れなくなり、どうしたものかと頭を抱え中。しかも娘の小説、こっそり愛読中。
すまん、正直やりすぎた。でも反省はしていない。
罰としてその設定で投稿するように
なんか、サイトを王子様扱いしそうだね
おk、すでに難しい雰囲気があるが、小ネタぐらいにはまとめてみる。
でも、べ、別に他の人が書いてもいいんだからねっ!
まるでだめなおばさん。略してマダオでいいじゃんマダカってごろ悪いし
トリステイン魔法幼稚園
ルイズたん4歳!
カトレア魔改造ネタは珍しいな。マダ姉をルイズはどう思ってるのやら
今日中は無理だった、スマヌ…。ゆっくり書いてみるよ。
>>376 一番複雑な心境なんじゃないかなぁ…。理想的な姉が元気になる代わりに駄目になるって。
見ててつらいと思うwwそれか毒されるかのどっちかかな。
なるほどねー。いっそ、
「どんなに怠け者でイタイ妄想癖持ちでひきこもりのまるでダメなひとでも、ちい姉様はちい姉様よ!」
と甲斐甲斐しく世話を焼く、できた妹に変身したり……はしないかw
投下、期待して待ってる
小説書いて出版してるのは働いてるんじゃないのか?
カトレアにとっては妄想を吐けだしているだけだから、
働いているうちには入らんのじゃない?
食っていけるほど稼ぐならたいしたもんだよ。充分充分。
同人誌販売だって立派な仕事のうちだしな。
作者がカトレアをお仲間にしたいだけなんだよ
かわいそうなオナニーに突っ込み入れちゃだめ
もしもモット伯が平民の男を買いあさっていたら
スカロンが買われ……って書けるかぁ!
昔の国王と縁のあった人間の子孫……
意外とポイント高いのではないだろうかスカロンは
もしもモット伯が幼い頃のアニエスやミシェルを引き取って暖かく育てるような人だったら
モット伯「はぁはぁかわいいねアニエスちゃんおじさんとお風呂に入ろうかふぅふぅ」
こういうことですか?
まあ復讐の人生送ったり反逆者になるよりはましかな……?
たぶんアニエスのほうが引き取られる年齢が幼いから、変な知識を据え付けられて、ミシェルに突っ込まれるんじゃない?w
アニエス「な、何!? お風呂は一緒に入るものではないのか!?」
ミシェル「何処からその知識貰ったんだ!?」
アニエス「無論、お父、じゃないご主人様からだ!」
思春期アニエス「もう一緒にお風呂に入りたくないわ」
モット「はうっ…よ、よく聞こえなかったな。ももも、もう一回言ってくれるかな…」
思春期アニエス「くさいから一緒にお風呂に入りたくないの」
モット「ほうぅ…あふぅ…たまらん…」
思春期アニエス「きめーよ豚」
モット「んほぉぉおおおお!」
もしもアンリエッタがジョゼフの娘のガリア王女でイザベラがルイズのお友だちのトリステイン王女だったら
もしクロムウェルが清教徒革命のクロムウェルだったら
ツンデレコンビか・・・
もしミシェルが隊長でアニエスが副長だったら
もしルイズが馬鹿にされるのに慣れてマイペースな性格になったら
むしろドMだったら
馬鹿にされるとアヘアへ言い出しちゃったら
サイトに無理矢理鞭で叩かせるんだな
趣味がきっかけでマルコとは仲の良い友人になったりして
学院のみんなに飼われてるルイズか。興奮するな
ジョゼフが若いうちに世界扉でこちらの世界の科学技術に触れて、「近代科学サイコー!魔法ナニソレw」な感じになったら
家庭教師にリンゴを放り投げて、「どうしてリンゴは下に落ちるのか?」とか聞いたりして、家庭教師をあきれさせたりして
ゼロ魔のキャラデザを大張正己に
>>402 ギーシュがイチゴシメサバおにぎり食ってぶっ倒れるのか
>>402 足がメチャ長くてキツネ目のサイトや何故かガチムチで生々しいシルフィやフレイムが見れる
バリアレンジのヨルムンガンドと申されたか?
>>398 カトレアよりエレオノールに懐きそうなルイズだな
もし登場女性人物がが全員レイプ魔だったら・・・怖い。
>>406 ドMかどうかは別としてw、ルイズがエレオノールにべったりだったら、エレオノールもけっこうなシスコンになりそうだなー
それと二人の仲が良いと、
使い魔召喚した時点でルイズ即アカデミーに駆け込み→嬉々として成功報告→ガンダ発見、とかなりそう
ルイズがマッド博士だったら
サイトは犠牲になってしまうのだ
>>408 このばあい、エレオノールにサイトフラグたたないかそれ?
↑書いてて浮かんだ
もしもルイズとエレオノールの年齢及び属性が逆だったら(エレが虚無)
ワルドがヴァリエール三姉妹の師匠だったら
ワルドが女だったら
>>410 いやそれ普通にルイズじゃね?髪色違うだけでwww
えれおのーるさまがロリババァだったらもっと人気が出たのにね
いや、リアル年増であれだけ若いからいいんじゃないか
>>410 イヤイヤ、そこは妹を心配するあまり学院に臨時教員としてやってくるシスコンエレオノールにして、
コッパゲ、風最強厨、料理人とのフラグを土くれと争奪する未来をw
もしもアニエスが軍事教練のつもりが本気で教師になりたくなったら。
体育教師とかで、女性教師が増えるのはオスマン大歓迎だろ。
サイト「なんか学園長最近コブとか痣が増えてねぇっすか?」
コルやん「自業自得です。」
甘えん坊アニエスコルベールのことをパパと
召使いの才人だとアニエスはコルベールの娘だったな
パパと呼ばれるコルベールの方はアニエスの実父への申し訳なさでいっぱいな気がする
そこを越えて親子になるというのもいいか
オスマンをお爺様と呼びコルベールを師匠と呼ぶ
こんばんわ、銃士です。第三十四話が完成したのですが、板の容量が少し足りないので、
新スレを立てて、そちらに投降したいと思います、オーバー。
もしもブリミル教が信じない者は恐ろしい祟りに見舞われる宗教だったら?
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがまだゼロのルイズと呼ばれいた頃、
ハルゲニアにはブリミル教という妖しい宗教が信仰されていた、
それを信じない者は恐ろしい祟りに見舞われるという。その正体は何か?
ルイズはブリミル教の謎を解くべく、使い魔を呼んだ。
もしもルイズが史実のルイズだったら
トリステイン王がルイ十四世でギーシュがバイだったら
もしも銃士隊が全員隠れメイジだったら。
メンヌヴィル「所詮へいみ……」
銃士隊員×10「ライトニング・クラウド!!」
アンアン「もうお前ら信用ならんわ……」
銃士隊員×10「えー」
やはり信頼できるのはサイト殿だけですわ。昼夜を問わず護衛してくださいまし
銃士隊がゴレンジャイだったら
メンヌヴィル「ちょ待てやっ! ええからお前らそこ並べ!」
アカレンジャー・アニエス
アオレンジャー・ミシェル
てか銃士隊ってこの二人以外名前設定がねぇ!
銃死体
銃士隊がイスカリオテ13課武装神父隊のような素敵な狂信集団だったら
メンヌヴィル達が藁の様に死ぬだけか・・・
もしもアニエスだけが人間で、銃士隊が女性半亜人だらけのカオス部隊だったら。
銃士隊員A「実は私、吸血鬼とのハーフなんです…」
アニエス「え、ええ!?」
銃士隊員B「私は翼人との……」
アニエス「……よく見れば翼が……」
銃士隊員C「わ、私は(ry」
全銃士隊員「でも、私たち、アニエス様をお慕い申しております!」
アニエス「……あーうん、ありがとう、は、はは……」
アンアン「モテモテじゃないですか」
最近アニエス株上がったよね
もしもサイトが再召喚されるときにアニエスが稽古をつけていて勢い余って鏡に入ってしまったら
もしも銃士隊が零細組織だったら。
ミシェル「隊長、今月も赤字です。これでは銃の弾も買えません」
アニエス「うーむ仕方ない。不本意だが、またボディーガードのアルバイトでもするか」
ミシェル「モット伯が邸の警護を募集してますので、何人かまわしましょう」
アニエス「はぁ、貧乏暇なしか。もっと予算があったらみなに楽をさせてやれるんだが」
ミシェル「先月の野盗退治の賞金が入れば少しは余裕ができますよ。ですが
今年は不景気で新人騎士の内定をいくらか取り消さねばならないかもしれません」
アニエス「ぬぅ、銀行も借金を渋るし、これではそのうち成り上がりの水精霊騎士隊に抜かれるぞ!」
ミシェル「向こうは英雄ヒルガン・サイトーンの知名度がありますからねえ。
あ、それから私も来月から産休に入らせていただきます」
アニエス「なにぃー!」
>>436 誰の子!?
アンアンとウェールズの性別が逆だったら
ラグドリアンで会うときには既にウェールズは婿取ってそうだから不倫になるな
アニエス「男の名前かと思ったら…なんだ女か…」
ミシェル「ミシェルが女の名でなぜ悪い!私は女よ!」
>>438 オバマ大統領の奥さんがミシェルだぞ。
そういうわけで青髪つながりで、ミシェルがもしもガリア王家の血筋だったら。
アニエス「実はお前はガリア王家の隠し子で、私が密命を受けて預かっていたのだ」
タバサ「姉さん」
ミシェル「ええっ!?」
ルイズの魔法が危険だと思った両親が、ルイズを何不自由なく籠の中の鳥状態で暮らさせていたらとかありかな。
幸せそうな展開にする自身なんかないけど。
もしもトリステイン王がルイ十四世という名前で娘のアンリエッタやルイズに手を出していたら。
>>441 とりあえずルイズパパの謀反確定な気がする
トリステイン王国ヴァリエール朝のはじまりはじまりになるかも
>>440 完全箱入り状態で同年代の子供と比較されることもなかったら
自分の劣等ぶりを自覚しないし、むしろ幸せな状態なんじゃない?
ティファみたいに外への憧れは持つだろうけど
かなり素直なお嬢様になりそうな気がする
世間知らずのお嬢様が同年代の少年と出会って〜ってけっこう王道だし
それか逆に、虚無の特徴が密かに王家に伝承されていて
虚無候補は即座に確保、いざというときに王家の切り札になるよう
精神力が十分に溜まるような環境に意図的に置かれる、とか
そういう鬱な裏設定付でもそれはそれで面白そうだがw
>>443 実はルイズ以外にも虚無候補がいて、それぞれ別の方法で精神力の溜まりそうな環境に置かれてるんだな。
候補者一号……学院で苛められる
候補者二号……無実の罪で幽閉
候補者三号……天涯孤独の身となり放浪
「候補者一号が目覚めたようです」
「残りの候補者はすぐに始末しなさい」
てな感じで……
もしコルベールを追ってメンヌヴィルが魔法学院の教師になってたら
もしコルベールがアカデミーの創設者で重商主義を提唱していたら
>>445 そしてメンヌヴィルを追ってアニエスも教師になったら
さらにアニエスを追って銃士隊も入学してきたら
コルベール「いや、魔法学院はメイジでなければ入学は……」
オスマン「認める!」
コルベール(このエロジジイ……)
もしウェールズが禿ていたら
もしもアンアンのパパがアルビオン王家の人じゃなかったら
ゼロ魔の元ネタ的にそれはない。
何も変わらねえ気配がひしひしとするぜ
アンアンのパパが才人の親父でも展開が変わらない気がする。
アンアンがメイジ(貴族)が信用できないからと銃士隊を平民、亜人で構成していたら。
吸血鬼、翼人、ハーフエルフ、新教徒とロマリアに喧嘩を売っている面子で構成されていたらどうなったか。
理念や国とはなんなのか?と言うテーマを中心にしたIFを
考えてみた
ルイズが優秀な魔法が使えれば優遇される
貴族が不正をしても見逃され
魔法ばかり頼り自分の力の意味を忘れるメイジ達
がいると言う
ハルケギニアの政治の基準に疑問を持ち
そして才人を召喚し才人の世界の政治や
魔法がなくても成り立ち成長する国々
民主主義がもたらす物の大きさを知り
才人と一緒に世界を変えようとルイズが動く
なんて言う理念や異世界からきた者のがどんな世界の
変化をもたらすかなんて言うのはどうかな?
王権神授説うめえぇwwww
で終了。どこの馬の骨ともしれない子供に何が出来る。
民主主義なんてものはハルケギニアではまず成立しえない。
なぜなら貴族と平民には絶対的な能力差があるから。
支配階層がそんな簡単に権力を手放すか?
たかが小娘に世界を動かす力などない。
強権的に出れば支持など得られない。ド・ポワチエらのルイズに対する見解を見れば一目瞭然。
迷作から駄作まで色々とその分野のものは取り揃えてあるようですが
アニエス「整列、番号!!」
ミシェル「1!」
トマ「2!」
エルザ「3!」
ラルカス「4!」
ルクシャナ「5よ!」
ジル「6」
スカロン「7ぁ!」
ジェシカ「はーち」
キメラドラゴン「アンギャー!」
サイト「じ、じゅうでーす!」
ヨルムンガンド「グォォ……」
クロムウェル「ヒィィ……」
シルフィード「帰る! シルフィもう帰るのねーっ!」
ティファニア「……(気絶している)」
アイーシャ(飛んで逃げた)
まともに統率できてたらアニエスが一番のモンスターだな
アニエス「逃げるな!!」
アイーシャ「はイィィィ」
アイーシャ逃亡失敗。
クロムウェル(どうしてこうなった)
帰ろうとしてアニエスの修正を受け涙目のシルフィード「お姉さま助けてーーー」
ジョゼフ「俺の狂気はアンリエッタ王女と比べるとまだまだだったようだな」
ヴィダーシャル(それはそうだろ・・・)
ビダーシャル「我の名前は”ビ”ダーシャルであって”ヴィ”ダーシャルではないのだが」
ジョゼフ「発音の問題だ気にするな」
ゴトウやゴア的な
と見せかけて実は空手ねずみ。
「アニエス・レッド!」
「ミシェル・ブルー」
「ガンダールヴ・サイト!」
「ミョズニトニルン・シェフィールド!」
「ヴィンダールヴ・ジュリオ」
「「「「「五人合わせて、銃士戦隊アニエスファイブ!」」」」」
来年には謎の戦士、リーヴスラシルも加入予定だ。
みんな、応援よろしくな!
巨大ロボ戦ではヨルムンガンドの出番だな
敵は誰だよ、その戦隊。
最低系転生オリ主の蹂躙からハルケギニアを救え!
敵はオリ主・最低系
別に昔の特撮のノリで怪獣退治に巨大ロボット出しても良いじゃない。
少し前のアニメだけど地球防衛企業ダイ・ガードみたいな感じで。
魔法学院が変形して巨大ロボに
>471
まず、寸鯉学園が通った道だ。
>>464 日曜朝枠かよ、とか思ってたら、なんか、茶の間でこたつに入っておせんべいをかじりながら、
銃士&使い魔達の活躍をブラウン管越しに観戦する担い手達+α
というシュールな絵面が浮かんだ
遠見?の虚無魔法で中継しつつジュリオにダメだしするヴィットーリオとか
「使い魔のくせにご主人様を放って、なに遊んでるのよ!」とか言いながらくぎづけのルイズとか
敵役が足りないと聞いてアップを始めるジョゼフとか
使い魔がいないので代わりにひとりだけ人質役で出演しているテファとか
アンリエッタ「いずれ聖地でもロケを〜」
最低オリ主はなぜかテファを確保したがるからな
人質役もぴったりじゃないか
テファではなくティファを人質にしてしまいガロードにサテライトキャノンを浴びせられるオリ主
○________
これで終わりだー |:|\\:::::||.:.||::::://|
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