あの作品のキャラがルイズに召喚されました part275

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?
そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part274
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1272635567/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:30:09 ID:e+iyw2dF
>>1
乙です。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:35:21 ID:6voA81Jb
>>1乙です。
4萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:52:00 ID:e+iyw2dF
それではいきます。


「申し上げます!先程ニューカッスル城に再び翼人が舞い降りました!」
 ニューカッスル城郭を睥睨する巨大戦列艦『レキシントン』号の指揮所に
伝令が飛び込んだ。プープデッキ(船尾楼甲板)にある指揮所は、旗艦設備を
有する『レキシントン』号だけあって並のフネの数倍の広さを誇る。
伝令に真っ先に反応したのは、艦長のサー・ホレイショ・ネルソンだった。
「また翼人か……王党派は先住魔法にすがるつもりかね?」
 そう言ってネルソンはそのでっぷりとした腹を揺らす。ネルソンは
もとより貴族派に心酔しているわけではない。ただ単に上官が貴族派に
寝返り、それに従って彼も『レコン・キスタ』の三色旗の下で戦うことに
なったに過ぎない。レキシントンの戦いにおいて本国艦隊の巡洋艦の
艦長だった彼は、その戦略と勇気をもって空を駆け抜け、今の地位に
上り詰めたのだ。
「さてね。司令官どのを起こすかい?ぼくは夜明けのニューカッスルに
流星のように舞い降りた翼人を見てから嫌な予感が消えないんだ」
 そう言ったのは、ネルソンの副官を務めるサー・ヘンリ・ボーウッド。
彼もネルソンと同じ艦隊に所属する巡洋艦の艦長だったが、同じような
経緯でここに立っている。巡洋艦艦長時代に敵艦を2隻撃破する功績を
立てており、この『革命戦争』(『レコン・キスタ』側のこの叛乱の呼び名)
終結後の『レキシントン』号改装の際に艤装主任に命じられることが
内定している。ちなみに艦隊司令長官であるサー・ジョンストンは、
その聞き覚えのない音を立てる流星――つまり舞い降りたふがく――を
見て寝込んでしまっていた。
 ネルソンやボーウッドの感覚、いや一般的なハルケギニアにおいて
翼人はエルフと並んで先住魔法の使い手とされている。だが、この圧倒的な
劣勢で、たった二人の翼人の力で何ができるというのか……そう考えたとき、
二人の考えを打ち消す声がした。
「……あれはそんなものじゃないわ。ルーデルよ♪」
「そうそう。フガクに続いてルーデルまで……楽しいことになりそうだね♪」
 それは指揮所に舞い降りた二人の銀の翼。片翼の鉄の翼と風車がついた
奇妙な冠のようなものをかぶり、藤色の長い髪をその脇で結んで背中に
なにやら背負っている――というところまでは同じなのだが、それ以外は
すべて対照的な双子の少女。左手をすっぽりと覆う銃を持ち、右脚に
太ももまで覆う白銀の脚甲、左脚に同じ丈の黒いオーバーニーソックスを
履き、黒を基調とした、腹部を隠さない水兵服にワインレッドのスカートを
はいた少女と、対照的に右手をすっぽりと覆う銃を持ち、左脚に太もも
まで覆う白銀の脚甲、右脚に同じ丈の藤色のオーバーニーソックスを履き、
白を基調とした、こちらはワンピースの水兵服に似た格好の少女。
目の前に現れたこの二人を、ネルソンもボーウッドも生理的に受け付けられずに
いた。二人とも、元の世界では『双胴の悪魔』、『悪魔の双子』と
呼ばれていた、その少女の姿からあふれ出す昏い狂気を感じていたのかも
しれない。
「……きみたちはいったい誰かね?」
 ネルソンの問いかけに、双子が答える。
「ボクはP-38ライトニングのクラレンス。こっちは妹のアリス。
アンタたちのボスに頼まれて手伝いに来たのさ♪」
「そうそう。行きがけにフガクに銃撃して……しばらく待っていたら
変なフネがあのお城の中に入っていくところも見ちゃったわね。くすくす♪」
「何!?まさか、きみたちは……」
 アリスの言葉に反応したのはボーウッド。アルビオン空軍でも一部の
士官しか知らず、今まで見つけられずにいたニューカッスル秘密港の
入り口を見つけたというのか……。それに、この二人はあの翼人について
何かを知っているようだと、ボーウッドは嫌悪感を表に出さないように
気をつけながら二人からさらに情報を引き出そうとする。
5萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:53:31 ID:e+iyw2dF
「あー無理無理。アンタたちじゃ止めた方が身のため。死にたいなら
止めないけどね♪」
「そうね姉さん。レーダーも装備してないこんなぼろ船、雲に隠れた
岩に当たって粉々ね。くすくす♪」
 いちいち癇に障る……ネルソンはそう思いつつも、とにかく双子が
今の装備と人員では無理だと言っていることは理解した。
「ところで、きみたちはあの翼人……『フガク』と『ルーデル』だったか?
その二人を知っているようだが、いったいどの程度の戦力になるのかね?」
 ネルソンの言葉に奇妙な薄ら笑いを浮かべる双子。そして……
「死にたくなかったら今すぐしっぽ巻いて逃げることだね。くすくす♪」
「そうね姉さん。でも、そうなっちゃうとおもしろくないわね。くすくす♪」
「ば、バカにしているのかね?きみたちは!」
 思わず声を荒げるボーウッド。その目の前にクラレンスの左手の銃が
突きつけられる。その顔は愉悦に歪んでいる。
「ボクたちは別にアンタたちがどうなろうと知ったことじゃないんだよ。
 ただボクたちを起こしたシェフィールドがアンタたちのボスを手伝って
やれって言うから、仕方なく顔を出したに過ぎないんだ。アンタたちを
無視してあんな城ぶっ潰してもいいんだよ?くすくす♪」
「そうね姉さん。むしろそっちの方が簡単。フガクが動き出すとやっかい
だもの。ルーデルもだけど。くすくす♪」
「わ、わかった。貴重な情報を提供してくれたことに感謝する。とにかく、
きみたちは我々の指揮下に入る、ということでいいのかね?」
「ボクたちの前に立たなければね。くすくす♪」
「そうね姉さん。お話くらいは聞いてあげてもいいわね。戯言はごめん
だけど。くすくす♪」
「わかった。部屋を用意しよう。艦長、それで?」
「あ、ああ。かまわない。司令官どのにはあとでぼくから話をしておくよ」

 そうして従兵に案内されて艦内に消えた双子。その後ろ姿が消えてから、
二人は深く溜息をついた。


 そうしたやりとりを知らぬニューカッスル城にも夜の帳が降りて――
パーティは城のホールで行われていた。上座に簡易の玉座が置かれ、
その玉座にはアルビオンの王、年老いたジェームズ一世が腰掛け、
集まった貴族や臣下を目を細めて見守っていた。
 最後の晩餐――そう呼ぶのがふさわしいのに、誰の顔にも悲壮感は
かけらもない。明日の総攻撃で自分たちは滅びるというのに、ずいぶんと
華やかなパーティ。王党派の貴族たちはまるで園遊会のように着飾り、
テーブルの上にはこの日のために取っておかれた様々なごちそうが
並べられている。
 ふがくとルーデルは、大急ぎで正装して参加したルイズやギーシュと
離れて会場の隅に立ち、この華やかなパーティを見つめていた。
「みんな覚悟を決めているのね」
 ふがくがそう言うと、ルーデルは頷きながら言った。
「そうねえ。終わりだと思っているからこそ、あんな風に明るく
振る舞えるのよ。
 でも私好みの女の子が少ないのが、お姉さんちょっと残念」
 その言葉にふがくががっくりと肩を落とす。そうしているうちに、
会場にウェールズ皇太子が現れる。貴婦人たちの間から歓声がとんだ。
若く凛々しい王子は、どこでも人気があるもの。彼は玉座に近づくと、
父王に何かを耳打ちする。
 ジェームズ一世は、すっくと立ち上がろうとして――かなりの老齢で
あることがたたり、よろけて倒れそうになった。ホールのあちこちから
屈託のない失笑が漏れる。
「陛下!お倒れになるのはまだ早いですぞ!」
「そうですとも!せめて明日まではお立ちになってもらわねば我々が困る!」
 ジェームズ一世はそんな軽口に気分を害した風もなく、にかっと
人懐こい笑みを浮かべる。
「あいやおのおのがた。座っていてちと、足が痺れただけじゃ」
6萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:55:11 ID:e+iyw2dF
 ウェールズ皇太子が父王に寄り添うようにして立ち、その体を支える。
王がこほんと軽く咳をすると、ホールの貴族、貴婦人たちが一斉に直立した。
ふがく、ルーデルもこれに倣う。
「諸君。忠勇なる臣下の諸君に告げる。
 いよいよ明日、このニューカッスル城郭に立てこもった我ら王軍に、
叛乱軍『レコン・キスタ』の総攻撃が行われる。この無能な王に、諸君らは
よく従い、よく戦ってくれた」
 そこで老王は言葉を切り、ホールを見渡す。多くの貴族に裏切られ、
敗走を続けた自分に、最後まで従ってくれた忠臣たちの顔をまぶたの裡に
焼き付けるかのように。そして、ホールの隅に立つふがくとルーデルの
姿を見ると、意を決したように言葉を続ける。
「だが、偉大なる始祖はまだ我々をお見捨てにはならなかった。
トリステインより大使殿を運んだフガク殿、そして義によって我らに
力を貸してくれることを約束してくれたルーデル殿の二人の鋼の乙女が
明日の戦いの参加してくれることとなった!」
 『ハガネノオトメ』?なんだそれは?――ざわめきに包まれるホール。
老王はそこに力強く言葉を発した。
「朕はかつて、あの忌まわしきレキシントンの戦いにおいて孤立し、
しかる後に無傷で皆と合流したことは覚えておろう。あの絶望的な戦場に
おいて、朕を助けたものこそ、鋼の乙女と自らを呼びしもの。たった
一人で数千の兵を相手に引けを取らぬ鋼の乙女が二人も助力してくれると
あらば、朕はここに一つの決断をしたことを伝えよう」
 ホールのざわめきが大きくなる。ふがくも、ルーデルも、老王の一挙
一動に注目していた。
「明日、我らは叛乱軍の追撃を断ち、しかる後に、この忌まわしき大陸を
離れ、トリステインへ亡命する!」
 ざわめきは最高潮となった。老いたる王はそれを手をかざして抑える。
「これは栄光ある敗北であり、そして、やがてつかみ取る勝利への第一歩と
なるのだ!
 我らは始祖より続く王家、そして朕に仕える真のアルビオン貴族を
絶やさぬため、この地を離れる。しかし、いつの日か、そう、いつの日か
必ず、この地へ還ってくることを約束する!」
 一人の貴族が、大声で王に告げる。
「では陛下。その殿、是非ともこの私に命じられますよう」
「あいや待たれよ。いかにマールバラ公といえどもこの名誉は譲れませぬぞ!」
 その勇ましい言葉に次々と名乗りを上げる貴族たち。老王は目頭を
ぬぐい、ばかものどもめ……、と短くつぶやくと、杖を掲げた。
「よかろう!しからば、この王に続くがよい!しかし、決して死ぬことは
許さぬぞ!
 さて、諸君!今宵は遠路はるばるいらしたトリステインからの大使も
同席されている。重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく、
飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」
 ホールは喧噪に包まれる。こんなときにやってきたトリステインからの
客が珍しいらしく、王党派の貴族たちが、代わる代わるルイズたちの元へと
やってきた。貴族たちはルイズとギーシュのみならずふがくとルーデルにも
明るく料理を勧め、酒を勧め、冗談を言ってきた。
「大使殿!このワインを試されなされ!お国のものより上等と思いますぞ!」
「なに!いかん!そのようなものをお出ししたのでは、アルビオンの恥と
申すもの!このハチミツが塗られた鳥を食してごらんなさい!うまくて、
頬が落ちますぞ!」
「まあ、どう見ても人間そっくりね!ささ、このタフィーを召し上がれ。
お国のキャラメルと違い、アルビオンの長き伝統の味がしますわよ」
 そして皆最後に必ず『アルビオン万歳!』と高らかに宣言して去って
いくのだ。それは消えゆく祖国への愛着の念か。それがこの上なく悲しく、
しかもそれが自分の言葉に端を発していると知っているルイズは、顔を
振ると、この場の雰囲気に耐えきれず、外に出て行ってしまった。ふがくは
ギーシュを促してその後を追わせる。ルーデルがその美貌と胸にぶら下げた
多くの勲章を貴族たちから賞賛されている(ルーデル本人は男と話すのを
いやがってはいたが)のを見て、溜息をつくとその輪から離れた。
7萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:56:55 ID:e+iyw2dF
 ふがくがそんな風にしているのを見て、座の真ん中で歓談していた
ウェールズ皇太子が近寄ってくる。
「ふがく……この発音で良かったかな?東方の発音は難しくてね。
ラ・ヴァリエール嬢から訂正を求められたよ」
 ウェールズ皇太子はそう言うと、笑った。
「明日の戦い、あなたたちの出る幕はないでしょうね。私たちだけで
すべてが終わる」
 ふがくは疲れた声で言う。
「だろうね。パーティが始まる直前、父王にきみたちのことを話したとき、
そう思ったよ」
 ふがくはウェールズ皇太子とまっすぐ向き合うと、尋ねる。
「失礼ですが……国王陛下を助けた、という鋼の乙女は?」
「やはり気になるかな?」
 ふがくが首肯すると、ウェールズ皇太子はゆっくりと話し始める。
「私も詳しいことは知らない。だが、2年前、『レコン・キスタ』が蜂起して
最初の戦いとなったレキシントンの戦いで、王立陸軍を指揮していた
父王が突然の近衛部隊の裏切りで孤立するという最悪の事態が発生した
とき……離反した軍の包囲から脱して何とか集結した生き残りが少し
離れた丘の上で花火が上がったの見た。王軍がその丘に到着すると、
そこには無傷の父王がしっかりと大地を踏みしめ丘の向こう側を
見つめていた、ということだ。
 今まで父王はそれを『始祖の加護』だとしか言わなかったが、きみたちの
ことを聞いてようやく真実を話してくれた、ということさ」
「名前は聞かなかったのですか?国王陛下は」
「それが、こう答えたそうだ。

 ――ボクは、本来ここにはいないはずの鋼の乙女。陛下は、ご自身で
危機を脱せられたのです――

 その姿は、父王が言うには大輪の薔薇を模したヘアバンドと萌えるような
若草色のエプロンドレスを着た乙女、だったそうだ。戦場を駆けるためか
スカートの裾を詰め、駿馬の速度で走る鉄のブーツを履き、鉄の背嚢を
背負い、左手をすっぽりと覆う丸い鉄の盾と、そこに取り付けられた
戦列艦の主砲以上の威力を持つ銃をもって、父王を抱えて戦場を単騎で
突破したそうだ。なるほど、父王が『始祖の加護』と言うのも分からなくも
ない」
 それを聞いてふがくはそれが戦車型の鋼の乙女だと理解した。だが、
エプロンドレス――メイド服を着る鋼の乙女はイギリス軍。ふがくが
知る中でイギリス軍の戦車型鋼の乙女でメイド服を着ている者は記憶に
なかった。

(歩兵戦車マチルダIIのマチルダは胸元が大きく開いたドレスだし……誰?)

 そう考えるふがくに、ウェールズ皇太子から紅い羅紗の小箱を手渡される。
ふがくがそれを開けると、そこには切れた鎖が修理された金の額飾りが
入っていた。
「きみに返さなければならないものだからね。
 修理を頼んだ我が軍のメイジが驚いていたよ。それほど高純度な黄金は
見たことがない、とね。『錬金』でつないだため元の黄金より質は落ちるが、
許してほしい」
「いえ……それよりも良かったのですか?
 私が聞いた話では、黄金の『錬金』はスクウェアメイジでも難しいと」
 戦の前に無駄な疲弊を招いたのではないか――そう言いたげなふがくに、
ウェールズ皇太子は笑ってみせる。
「案じてくれているのか。私たちを。きみは優しいな。きみのような
優しい心を持ったガーゴイルを制作したメイジも、さぞ心優しい人物
だったのだな」
8萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:58:30 ID:e+iyw2dF
 ウェールズ皇太子は、そう言うと、遠くを見るような目で語り始めた。
「我々の敵である貴族派『レコン・キスタ』は、ハルケギニアを統一
しようとしている。『聖地』を取り戻すという、理想を掲げてな。
 理想を掲げるのはよい。しかし、あやつらはそのために流されるで
あろう民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう国土のことを考えぬ」
「だから、せめて勇気と名誉の片鱗を見せつけるために、全滅するまで
戦うつもりだった?」
「そのとおりだ。ハルケギニアの王家は、決して弱敵ではないことを
示さねばならぬ。やつらがそれで『統一』と『聖地の回復』などという
野望を捨てるとは思えぬが、それでも我らは勇気を示さねばならなかった」
「『高貴なる者の義務』、ということですね」
 そうだ、とウェールズ皇太子が頷くと、ふがくはそれに言葉をつなげる。
「……私が本来なすべきことは、祖国に仇なす敵を滅ぼし、天皇陛下と
臣民を安んじること。
 将兵は、それこそこちらでいうところの平民の一兵卒から貴族どころか
皇族まで、祖国を守るために戦い、多くの血が流されました。だから
私は、絶対に戦うべきではなかった敵国を破壊し、勝利するために
生み出されたのです。国家予算に匹敵する開発費と資材を投じて」
 それだけのものが一人の貴族の子女の使い魔として存在していることの
意味が分からぬウェールズ皇太子ではない。始祖の奇跡であり、
トリステイン王国では魔法学院において学生の進級条件としてある意味
軽々しく行われている『サモン・サーヴァント』の罪深さを見たような
気がしていた。
「きみは、帰りたいかい?」
 ふがくは無言で首肯した。
「私も今の話を聞いて、きみはここにいるべきではないと思った。
 ……しかし、私もきみたちを元の国に返す魔法は聞いたことがない。
すまない」
「お顔を上げて下さい。殿下。私は兵器。そのようなことをするべきでは
ありません。
 それよりも、明日の戦いの後をお考え下さい」
「……そうだな。
 我々が亡命すれば、トリステインは……アンリエッタは、戦いの矢面に
立たされる。彼女は可憐な花のようだ。できることなら、彼女の悲しむ
顔は見たくない。
 本来なら、私は本当にここで勇敢に戦い、そして勇敢に死ぬべきなん
だろうがね……」
 ウェールズ皇太子の顔には苦悩の影が浮かぶ。ルイズに押し通された
結果、ふがくとルーデルが叛乱軍を退ければ亡命すると約束してしまった。
ふがくもそれは間違いだと思っている。ルーデルが協力すると言わなければ、
ルイズの頭を冷やさせることができたかもしれない。しかし、それらは
すべて結果論だ。
「だが、それよりも私は心配していることがある。
 きみたちが五万の叛乱軍を退けたとき……ラ・ヴァリエール嬢はその
現実に耐えられるのだろうか、とね。きみたちの戦いとは、そういう
ものではないのかな?」
 ウェールズ皇太子はそう言ってふがくをまっすぐ見つめた。彼は戦略
爆撃を知らない。そのような概念はまだハルケギニアには芽生えていない
からだ。それは同時に戦略爆撃が持つ非情な側面を知らないと言うことに
なる。しかし、ウェールズ皇太子のその言葉は、ふがくに明日起こるで
あろう現実を予想しきっていると理解させた。
「……ルイズ……いえ、ご主人様には、自身の言葉が呼び寄せた結果を
理解してもらいます。たぶん、『こんなはずじゃなかった』と、言うと
思います……けれど……」
「『こんなはずじゃなかった』、か……。世界は、いつだってこんなはず
じゃなかったことばかりだよ。それが現実だ。
 だが、王族であれ、貴族であれ、一度口にしたことの責任は果たさ
なければならない。それが義務だ。逃れることのできぬ、最後まで
課せられる義務なのだ」
9萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 22:01:19 ID:e+iyw2dF
 毅然と言い切るウェールズ皇太子。その直後、その表情が唐突に陰った。
「……明日の戦いは、きっと歴史に残るだろうね。私たちが死ぬにせよ、
生き残るにせよ。きっと……」
 それだけ言うと、ウェールズ皇太子は再びパーティの座に戻っていく。
その顔には、先程の陰りは見えない。残されたふがくは、懐から
デルフリンガーを取り出し、ホールの立派な窓から夜空を見上げる。
「ぷはあ。もうあれっきりお蔵入りかと思ったぜ。相棒の懐は広くて
暗くて暖かいからな。物騒なものも多いし」
 久しぶりに話せるのがうれしいのか、鍔をカタカタと鳴らしてしゃべり
始めるデルフ。ふがくはそれをそっと壁に立てかけた。そして、自分も
翼を痛めない程度に壁により掛かる。
「……話し相手になってくれない?デルフ」
「んあ?どした?相棒?」
「………………」
 満天の星空。そこには重なった双月が冷たくふがくを見下ろしていた。
10萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 22:03:48 ID:e+iyw2dF
以上です。
予定では次回いよいよ戦闘開始。
アルビオン編はあと2回で終了予定ですが……予定どおり終わるかな?です。
思ったよりルイズの出番が減ってます(汗

それでは。
11ゼロの戦闘妖精:2010/05/13(木) 22:41:28 ID:B9NWx6ZZ
萌えゼロさん、乙っす!
前スレで ウチの雪風の『速さ』に触れてらっしゃいましたが、コチラとしては
ふがくの『対地攻撃能力』が羨ましいです。(雪風は 対空装備しか積んでないし…)
12パラベラム:2010/05/13(木) 23:44:30 ID:Oj9b+ocO
萌え萌えの人乙ですっ
や、つい戦闘妖精様につられて・・・・・・

両作品とも大好きなんで、お二人とも頑張ってください
13名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 22:53:16 ID:8KukSBEz
おお、この板だったのか
いつもwikiで読んでてどこなのか分からなかったw
いつも萌え萌え楽しみに読んでるよー

萌え2次chuは予備知識全くなしでプレイしたけど
てっきりふがくの声は釘宮だと思ってたらエンドロールで
全く知らない人だと分かってびっくりしたわw
14萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/14(金) 23:35:09 ID:OjB/R6dZ
>>11-12
お二人ともありがとうございます。
ふがくの対地対艦攻撃力はADVパートとSLGパートで全然違うという
仕様がありましてw
萌え2次UDXのADVパートではミッドウェイで日本軍を包囲する米軍
『全部』を高高度から一気に爆撃するという離れ業もやっていたり
します。
SLGパートでは最大が爆心地と周辺6ヘックスなんですけどね。

次回の戦闘シーンはすでに何度も書き直ししてますが、参考資料が
手持ちの書籍以外では広島原爆資料館の展示だとか『ガラスのうさぎ』と
いうところでお察し下さいです。

>>13
楽しんでいただけてなによりです。
あのゲームのCVはギャルゲー(というかエ○ゲ)界隈では有名な方ばかりですね。
chu〜♪では一部キャラデザとCVが変更になったのでちょっと違和感が、でした。


今週末は出せないっぽいので、早ければ来週お目にかかれるかも、です。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 09:40:28 ID:7toMTjch
>14
「ガラスのうさぎ」……アレから誰を呼んで来ようと言うのですか。
16名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:42:19 ID:HAoXwiZL
ガラスのうぎぎに見えた俺はもう駄目だと思う
17名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 01:03:48 ID:dSZt1n3a
前スレ>>490>>491
ありがとう!おかげで今夜は良い夢見れそうだ
18名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 14:10:23 ID:9pm8XoCY
そういえばウルトラ五番目の使い魔の人は、少し休暇をとられるんだったっけな…。
まさか、こんな寂しい日曜日がくるだなんて、思ってもいなかった。
19 ◆qtfp0iDgnk :2010/05/16(日) 16:20:19 ID:1F749X9P
小編ですが書いたのでupしたいと思います。
投下予告は1625ででいきたいと思います。
20 ◆qtfp0iDgnk :2010/05/16(日) 16:26:52 ID:1F749X9P
予告時間になりましたので投下したいと思います。
尚、拙作には一部の方には不快に思われる表現があるかもしれませんがどうか寛大な目でみてやってください……。


---------------

 シルクに包まれた長卓、その中央には季節を迎えた花が瓶に活けられ、白亜の食卓に彩
りを添えている。並べられた食器は四組。ホストが一人、ゲストは三人だ。
 既に晩餐は佳境を終え、静かな食後の一服を愉しむ時間を迎えていた。皿の上には梨を
香草と蜂蜜で煮た質素ながら手の込まれたデザートが配られ、ワインはセラーから厳選し
た赤を供することにした。渋味が梨の甘さと調和する事を料理を用意した人物は確信して
いた。
 ホストは従者の、いや使い魔の用意した料理の数々にすっかり満足していた。
「タルブの35年物なんてなかなか飲めないけれど、地物は地元で飲むに限るわね」
 深い緋色の髪と褐色の肌を持つ彼女は、舌に渋味を僅かに残したまま梨の欠片を口に運
ぶ。その組み合わせに年相応に頬がほころんだ。
「でも、タバサには少し量が少なかったかもしれないわね」
「そんなことはない。とても興味深い料理だった」
「だそうよ。良かったわね?」
 皺を刻みながら内からにじむ活力が、若々しさを与えている顔を柔和に微笑ませ、彼は
カートの上でカクテルを準備する。
 そんな和やかな中、ゲストの内二人が神妙な顔つきでワインを口に運んでいた。
 チェリーブロンドの少女は彼へ好奇心と羨望を混在させた視線を盗み見るたびに投げ、
その後すぐ口にワインを運んで渋味に軽く唸った。
「お子様なルイズにはその赤はまだ早かったかしらね」
「そんなんじゃないわよ。変わった使い魔を引いたからって調子に乗らないで」
 梨の一欠をフォークで刺し、ジャクジャクと咀嚼してルイズは黙った。自分の使い魔で
は逆立ちしたってこんな料理の数々を用意することはできないだろう。この食卓にしても
そうだ。部屋置きの家具のはずなのに、敷かれたテーブルクロスと置かれた花瓶の調和で
シンプルだが美々しく飾られて一流レストラン並みの品格が生まれている。食器だって食堂で
普段見慣れているものとは違うし、一体どこから調達したのだろう。
 一方、金髪を後ろに撫でつけカールさせている少女は虚空に視線を漂わせながら何事か
に思いを馳せているようだった。
「ねぇキュルケ、メインで出してくれたチャップは一体何の肉だったの?」
「さっきからそんなこと考えてたの?モンモランシー」
「これでも水のメイジだもの、舌先の感度にはちょっと自信があったのに、いくら考えても
全然分かんないんだもの」
 モンモランシーはそう言ってグラスに残ったワインを干した。見れば全員のグラスが空
になっている。
 彼は二の杯を配った。これまた見慣れないデザインのグラスに、綺麗な色のカクテルが
注がれて目の前に置かれる。見れば四人とも色が違う。
「皆様の御髪の色に合わせて作らせてもらいました」
 やや高い彼の声がゆっくり紡がれた。こういう凝った趣向を貴族は好む。
「今日の夕食は何から何まで面白い事ばかりで楽しくなっちゃうわ。あのギーシュに舐め
られたままなのがまったく気に食わないけれど……なんていうと、貴方に失礼かしら、モンモランシー」
「別にいいわよ、あんな浮気者」
 カクテルを舐めてモンモランシーは昼間のやりとりを思い出すのだった。
 
 
21「ゼロ達の沈黙」 ◆qtfp0iDgnk :2010/05/16(日) 16:29:45 ID:1F749X9P
(タイトル発表忘れてました、すみません)
----------------
 そもそもの始まりはキュルケが奇妙な使い魔を召喚したところから始まる。それは身な
りの小奇麗な初老の男だった。
 自らをフェルと名乗ったその男は、はじめキュルケとのコミュニケーションを何も取ろ
うとしない黙然とした態度を取っていたという。
 だがある日、キュルケが自室に戻ってみるとフェルがそこに置いてあった自身の竪琴を
弾いていたのである。
 上手ね、と何気なく声をかけると、彼は曲調の異なる調べを返して答えたという。
 
 音楽の才を見せただけであれば凡庸な平民の域をでなかっただろうが、ある日食堂へ連
れて行った時の行動が周囲を驚かせた。
 彼は入るなりゆっくりと目を瞑り鼻をつき出して空気を嗅いだ。その後一直線に厨房へ
と歩いて行き、料理長のマルトーに向かって仔細な食材と調味料の名前を言い連ねてから、
こう言った。
「あと一つ、酸味の強いアルコールが入っているはずだが、それが何か教えてもらえるだ
ろうか」
 こと料理に際しては貴族の歴々の前であっても膝を折らないマルトーがそのやりとりで
フェル老人に頭を垂らしてしまっていた。
 彼は漂う香気からその日のディナーに出すメニューの材料を当てていたのだった。
 
 その後、マルトーはキュルケの承諾の元、フェル老人に厨房で働いてもらう事にした。
 フェル老人はその体躯からは意外なほど精力的な料理の手腕を披露し、マルトーは彼と
友誼を結ぶ事に成功したのである。
 ただ、以上の様に学園に居場所を作ったフェル老人だが、いくつかの奇癖を持っていた。
 そのひとつは、ランチの後など特定の時間になると食堂の隅に立ち、テーブルを囲む生
徒達のやりとりや、教師らの振る舞いをじっと注視するというものだった。
 
 ある日の出来事も、その奇癖から端を発する。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 16:31:22 ID:dhP1zxAz
……余計な事かもしれんが
グロ入ってるなら避難所でな?
23「ゼロ達の沈黙」 ◆qtfp0iDgnk :2010/05/16(日) 16:31:45 ID:1F749X9P
 その日、テーブルの一角を陣取っていたのは、二年生青銅のギーシュと、その取り巻き
だった。フェル老人は彼らを一瞥しただけで見はしなかった。彼が目を注いでいたのはそ
の奥で友人とケーキをつまみながら談笑する少女達だった。
 しかし、足先に何かが当たる感触を得て、フェル老人はつま先が小さな瓶を蹴ったこと
を知った。
 それは薄紫色の液体の入った本当に小さな瓶だった。彼はその口を締めるコルクに鼻
を当ててゆっくりと息を吸った。
 それから、足を少女達へと向けた。床を叩く足音は小さく、周囲の人は彼が近くを通る
のを認識できなかった。足音は一人の少女の前で止まった。
「お嬢様、こちらの物を落とされたのでは?」
 洗いざらしの木綿のハンケチーフで表面を拭われた小瓶をそっと机に置いて、フェル老
人は傍から離れた。
 彼はその後、奇癖を満足させたのか厨房へと戻ろうとしていた。だが、厨房の扉を開け
ようと伸ばした腕が誰かに掴まれ、彼は止まった。
「君、ちょっと待ちたまえ」
 素直にフェル老人は振り向いた。
「何か御用ですか」
「君がモンモランシーに香水瓶を渡したのかね」
 要点を削った問いかけに、僅かに首を傾いでから、老人は優雅に頭を垂れた。
「そこのお嬢様に落し物をお渡ししました。……もうお部屋に帰られたようですが」
「あれは彼女が僕に渡してくれたものなんだ。先程彼女から平手をもらったよ。人の贈り
物を何だと思っているのかってね」
 再び要点の少ない言葉に、この少年は自分に何を期待しているのかと、フェル老人は思
った。
 そんな時に、彼の奇癖として白い前歯を爪先でコツコツ、と叩く癖を見せる。マルトー
曰く、あれは多分何かを考えている時の仕草なんだろうな、という。
 すると突然、少年は大仰に手を振り仰いで食堂へ振り返った。
「キュルケ!君の使い魔らしいご老人は随分と耄碌しているらしいな!貴族に恥をかかせ
て謝りもしないとは」
 それを聞いて彼はやっと理解した。この少年は自分が贈り物を粗雑に扱ったことで送り
主の機嫌を損ねた事を自分の責任だと考えているのだ。
 キュルケは養豚場で明日には精肉店に並ぶ豚を見るような眼で少年を見返した。
「恋人のプレゼントを落とすような奴が悪いのよ。人の使い魔に当たらないでちょうだい」
 濁りきった表情で少年はフェル老人に向き直った。
「さぁ、君の主人は野蛮なゲルマニア人であるからあのような事を言っているが、君はど
うおもうかね。貴族に恥をかかせた平民は杖を抜かれても文句は言えないのは世の習いと
いうものだ。そうだろう?」
 フェル老人は歯を叩いていた爪をエプロンで拭いて少年の目をじっと見返した。
 赤く光る瞳の炎が虹彩の中で己を燃やしているのが見えて少年は一瞬怯んだ。
 しかし次の瞬間に、老人は背中を丸めて深く深く頭を垂れることにした。
「ふふん。恐怖で言葉も出ないと見える。安心したまえ御老体、僕は平民をいたぶる趣味
は無いんだ」
 一人納得して少年――青銅のギーシュは食堂を後にした。
24 ◆qtfp0iDgnk :2010/05/16(日) 16:35:09 ID:1F749X9P
では、残りの部分は避難所で投下することにします。
どうもお騒がせしました。
興味をもたれた方は避難所の方で感想など頂けると嬉しいです。
では、失礼します。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 17:04:22 ID:Vid40uFk
こういうのってスレのルール的にどうなの?
26名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 17:19:02 ID:HCEDNdUR
こういうのってどういうの?
27名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 17:23:17 ID:wM+9tCIG
グロ、エロなどの要素が強い作品は避難所投下がセオリーだったはず。
過去例ではプレデター召喚なども避難所でやっていた。
28名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 17:39:26 ID:HCEDNdUR
そーだね。>>24の人もそうしてるね。


いやまぁ半年ROMれば確実に分かるようなことに引っかかっちゃうのはどうかとは思うけどさ
29名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 17:55:49 ID:q9v/VIP8
そーしてるっつーか、指摘されてそーしたっつーか、微妙に違うと思う。
それにしても、これまで何度かあると思うのにテンプレへの追加はされないもんなんだな。

>>26
たぶん途中まで本スレで投下してグロ部分から避難所へ投下とかそういうことだと思う。
俺も>>22での指摘を受けて避難所に移行したのを見落としてたから、最初はそう思っていた。
30名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 18:01:15 ID:q9v/VIP8
タイトルだけ確認して「特殊部隊あがりのコック」かと思ったそこのあなた!
その人とは違いますけど、この人も料理は得意ですよ。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 18:02:36 ID:dhP1zxAz
やめれw
32名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 18:31:05 ID:XYAtotqz
自分で自分のことを「寛大な目で見てやって」と言った、その傲慢さは評価しよう
33名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 18:49:10 ID:HCEDNdUR
少なくとも俺やおまいさんよりゃ謙虚だろうさ
34名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 18:52:00 ID:q9v/VIP8
>>31
すいません、ちょっと違いましたね。
セガールが得意な料理はテロリストが食材ですもんね。
一般人でも平気で食っちまう人とはちょっと違いますよね。
同じ「マグロ」に分類されていても、環境によって味も変わりますよね。
35名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 19:59:58 ID:Jh+VygHx
>>30
いや、それだったら、「沈黙のゼロ」だろ。
36名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 20:39:37 ID:5YYHFC6m
いや、沈黙の学院になるんじゃね?
37名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 20:40:27 ID:DwxNdj0j
さて、何を召喚させるべきか
38名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 20:57:16 ID:uDibP2C5
今ゴッドイータープレイしてたけど
プリティヴィ・マータとか
ディアウス・ピターとか召喚してみたらどう反応するじゃろ

タバサが
39名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 21:23:39 ID:V4fqzVtO
>>38
アイツら一応ぬこ似だし、案外

「……………カワイイ」

かもしれんぜ? まあ、その異常な食欲にどう対応するかまでは分からんが。
40名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 22:29:00 ID:Y+cQi7hM
きゅいきゅいだって沢山食ってるから大丈夫だろう。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 22:36:54 ID:9bcRn5j9
猫を?
42名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 22:51:46 ID:Jh+VygHx
アルフ召喚か。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 23:07:51 ID:VK9c2SCq
ハァーハッハッハッハッハッハッ
44名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 23:07:55 ID:BSx2VsId
ようやく規制とけたぜ
作者さんも規制されてんのかねー
運営マジ勘弁してくれよ
45名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 23:52:14 ID:V4fqzVtO
>>40
アイツらは食べるために生きてるようなモンだぞ………うまく手懐けないと、他の使い魔はまだしも人や学園を食う恐れがある。

タバサにはやはりマータかね。
46名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 00:16:07 ID:5VAzPKUn
特に被らなければ、25分くらいから投下行きます。
47ゼロと電流 第十三話:2010/05/17(月) 00:25:30 ID:5VAzPKUn
 ろくな怪我もしないうちから負けを認め、無様に許しを請う。
 ワルドは、二つの状況に微笑んでいた。
 今の自分と、そして彼女の今。
 つまり彼女は、どうしようもなく貴族なのだ。
 姫殿下の命令を受けたわけではない。
 言外に頼まれたわけでもない。
 困っている姫を見て義憤に駆られたと言えば聞こえは良い。だが、それも、成功してからの結果論だろう。
このまま事破れて死ねば、ただの愚か者である。
 だが、それがどうしたとワルドは思う。
 動く事のできない、いや、おのれの保身のためだけに汲々として動く貴族共に比べて、どれほど貴族らしいのか。
 少なくとも、彼女は前を向いて走ろうとしているではないか。それが覚束ない足下であろうとも、小気味良いではないか。
 愚かだと誹るならば誹れ。自分は彼女を認めよう。
 嘲笑うならば嘲笑え。自分は彼女を認めよう。
 願わくば、彼女が我と共にあらんことを。
 残念ながら、その望みは薄いだろう。彼女が自分のかつて求めた真の貴族に近ければ近いほど、彼女は自分に幻滅するのだろうから。

「何がおかしいんです?」

 不愉快な口調ではなかった。真剣にこちらを案じている口調だ。
 口だけの男だと侮辱されても仕方のない醜態を晒したというのに。
 それでも、彼女の言葉はこちらの身を案じるものだった。
 貴族を志す心ゆえか、それとも、婚約者という立場を慮ってのものか。どちらにしろ、その口調はこの身には心地よすぎる。
 これでは、口が滑ってしまうではないか。

「ルイズ。僕の身は、既にレコン・キスタにあるんだよ」
 
 そう言えば、この気高い少女はどんな反応を示すのだろう。
 試してみたい誘惑に駆られながら、ワルドはせめてもの威厳で答える。

「君の使い魔の実力を見抜けなかった、自分の間抜け加減を笑っているのさ」

 チェーンパンチ、ブーメランカッター。
 壁を砕き、柱を切り裂いた二つの技を見せられただけで、ワルドは白旗を揚げたのだ。
 決闘という言葉を使ったところで、元より命を懸ける気も懸けさせる気もなかった、と。
 ごめんなさい、と何故かルイズは謝った。
 力試しは殿方同士の試し。ならば、仕方がないとはいえ手加減できぬ力のザボーガーが不調法ではあるまいかと。
 いや、使い魔のせいにするなど主失格だ。手加減を命じる術を持たない自分の不器量が恥だと。
48ゼロと電流 第十三話:2010/05/17(月) 00:26:17 ID:5VAzPKUn
「しかし、君のアルビオン行きには断固反対する」
「ワルド様、約束が違います」
「そうだな。約束が違う。僕は、約束を破る恥知らずだ。しかし、そこまでしても僕は君の身を不安に思っている」

 姫殿下のためという理由はもう消えている。その任は、すでにワルドが宰相より受けているのだ。
 あとはルイズの心だけ。
 だから、ルイズはイタズラをするように笑った。

「我が侭を言いますよ?」
「婚約者の器量を試す気かい? 行く末が怖いな、君は」
「私を、アルビオンに連れて行ってくださいませ」

 いっぱしの男なら、騎士なら、隊長と呼ばれる身なら、婚約者の身一つくらい守って見せろ。
 それがルイズの言葉。
 なるほど、あの二人の娘だ、とワルドは内心喝采を送る。それでこそ、ヴァリエールの名に相応しいと。
 ならば応えねばなるまい。その期待に。いや、それ以上のモノを見せねばなるまい。
 それが例え、別れに繋がろうとも。
 閃光の二つ名は、伊達ではないのだ。そして、秘めたこの野望も。

同じ頃、レコン・キスタの野戦司令本部。その奥に設えられた司令官室には四人の男女がいた。
 本部中央に設えられた天幕の中、正面を見据えて動かない男オリヴァー・クロムウェル。
 横に侍るは二人のメイジ。背後に控えるは不詳の少女。その三人ともが、通じていたわけではないが素顔を隠している。
メイジ二人は仮面を被り、少女は顔まで覆う派手な兜を。
 もっとも、クロムウェルは全員の素顔を知っているはずだった。一応彼は、レコン・キスタの総司令官である。
 しかし、実につまらない男だ。
 と、二人のメイジの内一人であるフーケは思う。
 彼女の見る限り、クロムウェルからは風采の上がらない男が衣装で誤魔化しているといった雰囲気が拭えない。
 威張るだけしか能がない貴族のほうが、まだしも見た目はマシだろう。何しろ向こうは威張り慣れている。
 こちらは、威張る事に慣れていない。慣れているように見せかけようとはしているが、うすらみっともないのだ。
 万事がこうなのだろう。要は、立ち位地があまりにも分不相応なのだ。
 もっとも、それですら有り難がるような無能の傀儡ばかりを身の回りに侍らせているところからして、本人も自覚があるようだが。
 これが総司令官だというのだ。レコン・キスタという組織も程度が知れる。少なくとも、自分が身を寄せていたいと思うような集団ではない。
フーケはそう考えていた。
 それでもしかし、自分はここにいなければならない。

「ミス・サウスゴータは、退屈そうですね」
「流浪の身でしたから。このような場所には慣れておりません」
「気になさる事はない。正義の戦はすぐに終わります。新生アルビオン生誕の暁には、サウスゴータ領は再び貴方のものとなるでしょう」
「過分なお言葉、有難く思いますわ」

 ここでは、フーケはマチルダ・サウスゴータ。かつての名前を名乗らされている。
 対アルビオンと考えれば、この方が都合が良いのだろう。その理屈はよくわかる。

「それでよいですね。ミス・シェフィールド」

 クロムウェルは、マチルダから視線を逸らすと自らの背後の少女に尋ねる。
 
「司令官殿の良いように」
「では、サウスゴータ領はそのようにするとしましょうか」

 シェフィールドと呼ばれている仮面の少女には、微かだがガリア訛りがある。それも、田舎訛りではなく洗練された都会の訛りが。
49ゼロと電流 第十三話:2010/05/17(月) 00:27:05 ID:5VAzPKUn
「私は助言するだけです。アルビオンの新たなる皇帝よ」

 フーケは微かに顔をしかめた。シェフィールドの物言いは好きになれない。
 言外に、「好きにすればいい。どうせお前は傀儡だ」と匂わす言動が多すぎるのだ。さらに、それにクロムウェルは気付いていない。
 今にして思えば、確かにオールド・オスマンは一廉の人物であった。あのセクハラ老人ならば、このような腹芸など鼻息一つで吹き飛ばしてみせるだろう。
 ある意味、シェフィールドの言動も稚拙だった。ただ、クロムウェルがそれに輪をかけて愚かなのだ。
 どうしてこんな男が総司令官の器なのか。初めて会ったときの疑問は、殆どその直後に解消された。
 力だ。それすらこの男の力ではない。この男の持つアイテムの力だった。

「アンドバリの指輪だな」

 フーケとクロムウェルを初めて引き合わせた後に、ワルドは言った。
 水の精霊の力を秘めた指輪。偽りの命を人に与える力を秘めた神秘の指輪。それがアンドバリの指輪だ。
 クロムウェルには過ぎた力だと、フーケは素直に感想を述べた。
 するとワルドは笑いながら頷いたのだ。
 その指輪すら、実際はクロムウェルのモノではないと。おそらくは、その黒幕であるシェフィールドから与えられたモノだろうと。
 いや、シェフィールドすら、おそらくは真の黒幕ではあるまい。

「ガリアかい」

 ガリア訛りに既に気付いていたフーケを、ワルドは感心した眼で見ていた。

「さすがだな」
「あそこの国王が本物の無能なら、とっくにガリアは滅びてるよ」

 無能王。それは、魔法が全く使えないと言われている現ガリア国王、ジョゼフを揶揄する言葉だった。
 そしてフーケは知っている。
 王家の血筋を引きつつも魔法の使えない者が、その代償として普通でない別の力を得るかもしれないということを。
 おそらくは無能王はそれだ。そしてもう一人、フーケは知っている。
 アルビオンの王家の血を引きながら、系統魔法の使えぬ少女を。
 そしてもしかすると、ルイズも。

「妹の事を考えているのか?」

 ワルドの言葉に、フーケは睨みを返す。

「そう尖るな。俺にも思い出すこどある、それだけのことだ。王家の血……すなわちブリミルの末裔でありながら、魔法という力に見放された娘のことをな」
「何処まで知っているんだい?」
「さあな? だが、貴様は俺に従い続けろ。貴族を捨てたのが事実なら、悪いようにはせん」
「妹に手を出すようなら、只じゃ済まないよ」
「貴様が俺に従っている限り、約束は守る。第一、俺の敵でないのなら、手を出す理由はない」
50ゼロと電流 第十三話:2010/05/17(月) 00:27:51 ID:5VAzPKUn
 そのワルドは、今はアルビオンから下りている。フーケの隣で白い仮面を付けて立っているのは遍在だ。
 三人を見回すように眺めていたクロムウェルが、感に堪えないという様子で静かに笑っていた。

「あと少しでアルビオン王党派は滅びる。その時こそ、我ら新生アルビオン、レコン・キスタの栄光が始まるのだ」

 違う。
 フーケは心の中でクロムウェルの言葉に異を唱えていた。
 あんたが始めたがっているのはレコン・キスタの栄光じゃない。アルビオン新皇帝、オリヴァー・クロムウェルの栄光さ。
 それは、来やしないんだよ。
 フーケの視線が上がると、そこにはシェフィールド。
 微かに頷く少女、その赤と黄色の奇妙な兜からフーケは目をそらしていた。
 何故か、その兜は思い出させるのだ。ルイズの奇妙な兜を。
その連想も当然だろう。
 シェフィールド……イザベラが被っているのはマシンバッハ用のヘルメットである。ある意味、ルイズの被るザボーガー用ヘルメットとは対になるものなのだ。
 そして、ワルドの目にもそのヘルメットは映っている。
 遍在の見たものは、本体へと伝えられる。
今もワルドの本体は見ているのだ。ルイズの隣で、この様子を。
 
「婚約者の我が侭を叶えるのも、男の甲斐性と言うわけかい?」

 アルビオン行きをねだる婚約者。困ってみせる男。
 戦火が近づいていないのであれば、それは微笑ましい光景だっただろう。
 この状況でワルドがルイズを置いていく事は、誰が見ても正当だろう。責める者などいない。
 だが、ルイズが諦めないであろう事にワルドは気付いていた。
 ルイズはウェールズに会わなければならない。アンリエッタの言外の望みを叶えなければならない。
 既にそれは強迫観念かも知れない。それとも、王女に最も近しい貴族としての義務感か、あるいは親友としての想いか。
 どちらにしろ、理屈では間違っているが、思いとしては間違っていない。
 叶えられるものなら叶えたい、というのも衆目の一致するところだろう。
 そして、ワルドにとっても実はその方が都合がいいのだ。
 実質レコン・キスタに与した身にとって、戦火の中でルイズ一人の身の安全を保証する事は容易いだろう。
それこそ、レコン・キスタ側に連れ去ってしまえば片が付く話なのだ。
万が一ルイズがワルドの目論見に気付いた場合でも、使い魔ザボーガーさえ封じればどうにでもなる。
ガンダールヴの力だけなら、正面からの戦闘で打ち倒せる。
 ルイズをトリステインに返す必要はないのだ。そうすれば、虚無とアルビオンを同時に手に入れることができる。

「ただし、アルビオンにいる間は僕の指示に従ってもらうよ」
「それはわかっているわ」
「いいだろう」

 ワルドの心中の笑みに、ルイズが気付く事はなかった。
51ゼロと電流:2010/05/17(月) 00:29:01 ID:5VAzPKUn
以上お粗末様でした。

なんとかあと数回でアルビオン編を終わらせようと……
52名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 00:41:05 ID:GejJTpez
乙です。
ここまで黒いワルドとシェフィールドを名乗るイザベラですか。
次回も期待してます。
53ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 02:54:21 ID:GWMRNzqS
こんばんは
今回はマスターシーンでちょい短めなのではやく出来ました
空いてるようなので3時ぐらいから投下します
54ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 02:57:28 ID:GWMRNzqS
 

 『彼』の叔父は『ミーゲ社』というドイツに本社をおく大手掃除機メーカーの開発部に勤めている。
 彼は小さい頃、気のいい叔父に連れられて何度も研究所を見学し、様々な珍しいものを見てきた。
 例えば発売予定の新型掃除機だったりとか告知されてすらいない企画開発中の商品だったりとかヘンテコな形のホウキだったりとか、と

にかく色々なものだ。
 今更にして思えばたかが掃除機なのではあるが、当時の幼い彼の眼にはそれらは宝の山のように見えていたのだ。
 流石に成長して子供なりに知識が増えてくると社外秘とかで見学する事はできなくなってしまったが、彼の好奇心旺盛な所はそんな経験

から培われていたのかもしれない。
 そんな性格が災いしてか、彼はその叔父の伝手で超格安の修理を終えたノートパソコンを手に家へと戻る途中で遭遇した奇妙な鏡を潜っ

てしまった。
 全身に奔った痛みに意識を失い、次に眼を開けた時。
 彼の目の前に広がった光景は、深い木々に囲まれた小さな広場だった。
 訳がわからずに辺りを見回すと、そこに二人の女がいた。
 やや厳しそうな顔の大人っぽい女が何事かを言い、ややおっとりした少女が首を振って何事かを言った。
 そして少女はこちらを警戒するようにおそるおそる近づいてきた。
 次第にはっきりとしてくる少女の造形に思わず彼は息を呑む。
(やべえ、可愛い)
 正に森の妖精とも言うべき愛らしい少女だった。
 透き通るほどに白い肌、陽光を孕んで揺れ輝く金糸の髪。
 そこから覗く尖った耳なんてそれはもういわゆるお約束的な呼称で言う所の――
「エルフ?」
 口に出した途端、少女がびくっと震えた。
 しかし彼としてはさほど驚かなかった。
 何しろ、彼はついこの間秋葉原に行った時に、エルフの美少女を見た事があったからだ。
 何やら新作のゲームの宣伝とかで、コスプレとは思えないほど堂に入ったファンタジックな衣装を纏っていて、付け耳とは思えないほど

自然な造形の少女だった。
 他にもそのエルフと同じようなファンタジックな衣装を着てにょーにょー鳴いてる美少女もいたし、明らかに堅気ではない気配を纏わせ

て剣を持つバンダナの男もいた。
 あと何故かわからないが、輝明学園の制服を着た男子生徒がぎゃあぎゃあ騒ぎまくっていた。
 どうやらその宣伝は無許可だったらしく、警官がやってきて大騒ぎになり慌てて逃げ出していったのをよく覚えている。
 そんな事を思い出して、彼は今回もまたその手の類に遭遇したのかと思った。
 カメラはどこだと辺りを見渡して、彼はようやく自分の置かれた境遇を把握した。
「……って、ここどこだ!?」
 街中を歩いていたはずなのに、いつの間にか知らない場所にいた。

 ――『知らない場所』どころか、『知らない世界』だと知ったのは、その後少ししての事だった。


 ※ ※ ※


55ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 02:59:31 ID:GWMRNzqS
 

 宝物庫の襲撃に失敗してフーケが捕縛されてから、約三日。
 彼女はお役所仕事でのんびりとやってきた王国衛士隊に引き渡され王都へ連行される事になった。
 外の様子を見られぬよう窓が取り払われた荷車の中、フーケは壁に背を預ける形で座り込んで瞑目していた。
 捕まって部屋に監禁されていた時もそうだが、現在でも特に取り乱すという事はない。
 盗賊などという稼業をやりはじめた時点で、捕まった後の末路は既に把握していたからだ。
 王都に辿り着いた後はチェルノボグの監獄に放り込まれ、形ばかりの裁判を受けた後わかりきった判決が下され執行されるだろう。
 十中八九命はない。仮に生き延びたとしたら海側に島流しかサハラ辺りに放逐だろうか。
 いずれにせよ彼女の人生は終了が決定していた。
 未練はない、と言えば嘘になる。
 が、どうしても生き延びなければならない、とは思っていなかった。
 そこでフーケは思わず薄い笑みを浮かべてしまった。
 ――まったく皮肉というしかない。
 『一年前』まではそう思っていたのに、それが薄れた途端に転げ落ちるようにこんな事になってしまった。

 彼女がトリステインに渡って王都を荒らし始めたのは半年ほど前になる。
 本当なら一年前にそうする予定だったのだが、『予定外』の事が起きて半年遅れる羽目になったのだ。
 もっとも、そのせいで……否、そのおかげで今の彼女の心境があるわけなのだが。

「……まあ、ひっそりと生きてく分には『あいつ』がいれば大丈夫だろ」
 彼女はそんな事をつぶやいた。
 その声に答える者は誰もいなかったが――代わりに、荷車が大きく揺れて動きを止めた。
 王都に着くには早すぎる。
 フーケは眉を僅かに潜めて眼を開いたが、窓もない荷車の中は薄暗闇に覆われている。
 一応外から中を覗くための窓は添えつけられているが開く気配もない。
 外から衛士達の喚き声が聞こえた。
 続いて剣戟の音が響き渡る。
 彼女は思わず身を起こしかけたが、小さく鼻で笑うと再び腰を下ろした。
 ここは恐らく街道沿いなので魔物が出ることはまずありえない。
 衛士隊を相手に襲撃を試みる馬鹿な盗賊もいないだろう。
 襲撃を試みる盗賊はいないだろうが――襲撃をかける賊自体には心当たりがあった。
 何しろ彼女は数多のトリスタニア貴族達からお宝を頂戴し続けてきたのだ。
 その中には表沙汰に出来ない禁制の代物も少なからずあった。
 裁判を待ちきれず……むしろ裁判で余計な事を言われないように口封じがしたい輩の仕業なのだろう。
 剣戟は激しさを増し、破砕音や風切りの音まで聞こえ始めた。
 恐らく魔法も使っているのだろう、相手はかなりの手錬のようだ。
 しかしフーケは全く取り乱さなかった。
 魔法を使おうにも杖は取り上げられているし、逃げられぬように手も足も縛られている。
 仮に手足が自由であったとしても、王国の衛士隊に襲撃をかけてこれを退け、自分の前に辿り着けるような相手に心得程度の体術が通じるとは思えない。
 要するに、残された時間が短くなっただけの話だ。
 やがて剣戟がやみ、静寂が訪れた。
 荷車の扉ががたがたと動き、そして乱暴に錠を破壊する音が聞こえた。
 これで勝ったのが襲撃してきた賊の方だと確定した。
 フーケは身を起こし、僅かに身を沈める。
 半ば無駄な抵抗とわかっていたが、実際に差し迫ってくればやはり生きる本能というものが蠢くのだ。
 扉が開かれ、光が差し込んだ。
 入ってきたのはローブを纏い、包帯を巻いた左手に剣を握った男だった。
 フードを深く被って顔を隠しているが、その所作は男のものだ。
 体躯は少々頼りない感じでどちらかと言えば少年といった風情なのだが――開かれた扉の向こうには倒れた衛士達が転がっていた。
 いくらか怪我をしているようだが、殺してはいないようだ。
 そして他に人の姿は確認できない。おそらく襲撃をかけたのはこの少年ただ一人。
 つまりこの少年は一人で衛士隊を相手取り、殺さずに倒しきるだけの力量があるという事だ。
 刺客のくせに殺さないのは不可解だが、この際彼女にとってはどうでもいいことだった。
 少年は僅かに顔を上げてフーケを認めると――大きく肩を揺らして盛大に溜息を吐き出した。
 場にそぐわない、明らかに気の抜けきったその行動にフーケは眉を潜め――不意に小さく呻き声を漏らして驚愕に眼を見開いた。


56ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 03:01:54 ID:GWMRNzqS
 

「お、お前……っ!?」
「……」
 少年はフーケを声を無視して歩み寄ると手にした剣で彼女を拘束する縄を断ち切った。
 そして彼はやや乱暴に彼女の手を取ると、呆気にとられたままの彼女を引き摺るようにして荷車から連れ出した。


 ※ ※ ※


「ま……まて……!」
 フーケは少年に手を引かれたままその場を後にした。
 近場にあった林の中まで逃げ込んで現場から十分に離れた後、ようやくと言った感じで少年に向かって声を投げかけた。
「待てったら!」
 乱暴に少年の手を振り払い足を止めると、少年も立ち止まって彼女を振り返った。
 フーケは確認するように少年を上から下までまじまじと眺めやった後、怒りを露にして顔を歪めた。
「なんで……なんでお前がこんなところにいるんだ、サイト!!」
 サイトと呼ばれた少年はフードを取り払い顔を露にすると、面倒くさそうに頭をかいてからぼやくように口を開く。
「なんで、って助けに来たんだろ?」
「違う! なんでお前がトリステインにいるんだ! テファはどうした!?」
 詰め寄るフーケにサイトはばつが悪そうな表情を浮かべた後、溜息をつきながら答えた。
「……そのテファに頼まれたんだよ。あんたが何やってんのかどうしても知りたい……って」
「なっ……」
 サイトの言葉にフーケは表情を固まらせ、絶句してしまった。
 言葉を失った彼女をよそに、サイトはそのまま言葉を続けた。
「あんたが村を出たあと、テファに頼まれて金渡されて、そんで追っかけてきたの。酒場で給仕とかやってんの見た時は笑わせてもらったけどな」
「……っ!」
「まー相当笑えたけど、別に給仕でもいいじゃん。少ししてから変なジジイに連れてかれて先生とかもやってたらしいけど、それも別にいいよ」
 サイトはそこで言葉を切って小さく溜息をついた。
 そして彼は僅かに表情を翳らせて、凝固しているフーケを睨みつけた。
「けど、フーケって何なんだよ。盗賊とか何やってんだよ。おまけに捕まっちまってよ……あんたがいなくなったら、テファはどうなるんだよ!」

 昼間の仕事に満足しきって夜間の行動を完全に見落としていたサイトにも落ち度はあっただろう。
 そんな程度の仕事で『彼女』の生活費を賄えるはずがない、と気付かなかったのも落ち度と言えば落ち度だろう。
 だが、それらの点に関して彼を責めるのはいささか酷というものだった。
 何しろ彼はこんな素行調査じみた真似をやったのは初めてだったし、何より『ハルケギニア』の金銭感覚をまだあまり理解していないのだ。
 何故なら彼は――

「……っ、使い魔のお前に言われる筋合いなんてないんだよ!!」

 ――『ハルケギニア』に来て一年程度しか過ごしていない異邦人だった。


 ※ ※ ※


57ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 03:04:24 ID:GWMRNzqS
 

 約一年前。
 『仕事』のためにトリステインに向かうにあたり、フーケ――本来の名をマチルダ・オブ・サウスゴータという――には一つ懸念すべき問題があった。
 それは彼女が保護し面倒を見ているハーフエルフの少女、ティファニアの事である。
 ハルケギニアにおいてエルフはある意味魔物たちよりも恐れられる存在であり、それに対する人間の風当たりは激しいなどというものではない。
 ……具体的に言ってしまえばエルフと通じていたが故に投獄の対象となり、それを庇った家はまとめて粛清されてしまうほど。
 つまりティファニアはそういう事情の少女であり、マチルダはそういう事情で名を喪ったのだった。
 表沙汰にはできない彼女を置いていく事に関してはこれが初めてという訳ではないのだが、今回に限ってはかなり事情が違った。
 当時のアルビオンにおいて、大規模な内乱が起きるという情報が裏の筋で出回っていたのである。
 もしも内乱が起これば交通の要衝ともいえるシティ・オブ・サウスゴータはほぼ間違いなく戦火に見舞われることになる。
 そうなればそこに程近い森にあるウェストウッド村も――隠れ住んでいるティファニアにも、その累が及びかねない。
 そこでマチルダは彼女を守るため、楯を用意する事にした。
 ティファニアに使い魔を召喚させたのである。
 彼女個人はお世辞にも強いとは言いがたい、ひ弱と言っていい少女だったが、彼女はれっきとしたエルフの血を引く者である。
 さぞ強力な幻獣が召喚されるだろうと思っていたが――果たして召喚されたのは幻獣ではなく『人間』だった。
 これで現れたのが屈強な戦士だったり威厳を漂わせるメイジであったなら、いささか予想外ではあるがマチルダは構わず契約させただろう。
 格式ばった貴族達ならともかく、今の彼女はそんな事にいちいち頓着しない。
 だが現れたのはただの平民だった。戦闘はおろか喧嘩もあまりしたことのなさそうな、生っちょろい空気を漂わせた少年だった。
 当然ながらマチルダは契約に反対したが、ティファニアは彼と契約すると言った。
 召喚した主人がそう言うのなら、立会人でしかないマチルダが我を通すことなどできようはずもなかった。

 ――こうしてヒラガ サイトという奇妙な名前の少年は、ティファニアの使い魔となった。

 契約して後、サイトの素性を知ってマチルダは契約を止めなかったことを後悔した。
 ティファニアを守るほどの力量を持ち合わせていないド素人という事は初見で見抜いていた。
 しかし彼は力量どころかハルケギニアの常識すら持ち合わせていなかった。
 挙句の果てに『ハルケギニアではない、違う世界から来た』などと正気とは思えないことをのたまった。
 この点に関しては召喚された際に彼が持っていた奇妙な箱を見せられた事で百万歩ほど譲って信じることにしたが、目下の問題はサイトが何者かという事ではない。
 ティファニアを守ることができるか、ただこの一点だ。
 マチルダはトリステイン行きを延期して、サイトにハルケギニアの常識と戦い方を半年間がっちり叩き込んだ。
 そしてどうにか生きていくに十分な知識と力量をサイトが手に入れると、彼にティファニアを任せて彼女はトリステインへと赴いたのである。


 ※ ※ ※


58ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 03:07:01 ID:GWMRNzqS
 

「……あー、そうかよ」
 マチルダの声にサイトは低く唸り、頬をひくつかせた。
 そして彼は自分を睨みつけてくるマチルダを睨み返し、素早くその腕を取って最初と同じように歩き出した。
「な、何を……!?」
「決まってんだろ、ウエストウッド村に帰るんだよ」
 振りほどこうとするマチルダをしかし彼は決して離そうとはせず引き摺るようにずんずんと進んでいく。
 彼女を振り返ろうともせず、サイトは言葉を続けた。
「俺に言われる筋合いねーんなら、テファに言ってもらう。帰って報告しなきゃなんねえしな。俺、テファの使い魔だから」
「……!」
 そこで初めて、マチルダの表情が激しく変わった。
 怒りに紅潮していた顔が一瞬で蒼白になり、体に僅かな震えが走った。
 柊に破れ衛兵達に囚われた後でも、荷車に乗せられ王都に連行される時でも見せたことのない、怯えた表情だった。
「は、離せ!」
 彼女は今までにも増してめちゃくちゃに暴れ始めた。
 その光景はもはやだだをこねる子供とそれを無視して手を引く保護者のようにも見えた。
「……言っとくけど、」
 サイトは空いた手で剣を握り締めてから肩越しにマチルダを睨んだ。
 握った左手――巻かれた包帯の奥から、淡い光が零れた。
「杖を持ってない今のアンタにはぜってぇ負けねえし、絶対逃がさねえからな」
「……っ」
 マチルダは歯を噛んでその事実を受け止めるしかなかった。
 何しろそれだけの力量に鍛え上げたのは彼女自身なのだ。
 加えて言えばそれは――今サイトの左手で光っている、使い魔のルーンのお陰でもある。
 マチルダはしばし屈辱に燃える瞳でサイトを睨み続け……やがて大きく肩を落とした。
 彼女が諦めたことを悟ったのか、サイトも彼女から手を離して再び歩き出す。
 そして二人はしばらく無言で林の中を歩き続けた。
 林を抜けても二人は何も言葉をかけず、草原を進んでいく。
 ちなみにサイトは勿論マチルダも街道を外れたこの辺りの地理はいまいち詳しくないので、どこに向かっているのかわからない。
 もっとも街道に近づくと彼女に逃げられた衛士隊と鉢合わせる可能性があるのでしばらくはこのままだろうが。
 マチルダは先を歩くサイトの背中をずっと眺めながら後を追い……ふと思い立ってサイトに歩み寄ると、彼の左手を取った。
「な、なんだよ」
 派手に身体を揺らして振り返るサイトをよそに、マチルダは彼の左手にまかれている包帯を剥ぐとそこに刻まれているルーンをまじまじと観察した。
「……やっぱり」
「なんだよ。ルーンがどうかしたのか?」
「せっかく魔法学院に行ったんでね。ついでにあんたのルーンの事も調べてみたんだよ」
 マチルダの言葉に興味を引かれたのか、サイトは立ち止まって彼女の顔を覗き込んだ。
「も、もしかして俺のために?」
「そんな訳あるか。テファの使い魔に意味のわからないルーンが刻まれてるのが気持ち悪かっただけさ」
「……デスヨネー」
 遠い眼をしてサイトは呟いた。
 サイトは自分がマチルダから嫌われていることは半年間の共同生活の際に身に沁みていた。
 その最たるものが日課のごとく行われていた戦闘訓練である。
 剣の扱い方など知るはずもない彼女にサイトが教わったのはただ一つ、ひたすらの実戦だけだった。
 トライアングルメイジ謹製のゴーレムによる百人組み手。
 しかもぶっ倒れても水魔法で治癒されて無理矢理続行させられるデスマーチだ。
 正直このルーンがなければ百回ぐらいは死んでいたかもしれない。


59ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 03:10:57 ID:GWMRNzqS
 
「で。このルーンが何だって?」
「『ガンダールヴ』。かつて始祖ブリミルが従えたっていう伝説の使い魔のルーンだってさ」
「……伝説ぅ?」
 サイトは胡散臭げに漏らした。
 確かに、このルーンの効果は絶大なものだ。
 初めての戦闘訓練の際、武器を使ったことがないと打ち明けたサイトに呆れ果てた表情を見せてマチルダが投げ渡した"錬金"製の剣。
 それを握った時左手に刻まれたルーンが光り輝き、身体が異様に軽くなり使った事もない剣を手足のように操れたのだ。
 このルーンが凄いというのは認めるが、やはり『伝説』とか言われるとどうにもむずがゆい。
 それは言った当人のマチルダも同様だったようで、彼女は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「まったく笑える話じゃないか。あんたみたいなド素人が伝説――」
 不意にマチルダの言葉が途切れ、表情も凍りついた。
 サイトは訝しげに彼女を覗き込んだが、マチルダは取り憑かれたように左手のルーンを凝視している。
「……どうしたんだ?」
「……」
 サイトの声も彼女の耳には入ってこなかった。
 ただじっとガンダールヴのルーンを見つめる。
 ――実物を目の前にして、ようやく疑念が確信に変わった。
 このルーンと似たルーンを、つい最近眼にしたのだ。
 そう、このルーンは細かい部分こそ違うものの、志宝エリスの胸に刻まれたルーンに酷似していた。
 ガンダールヴを調べた時に見た資料に、あのルーンもあったのだろうか。
 あの時は対象がガンダールヴだけだったので他のものは覚えていないし、エリスのルーンをいちいち調べるほどの義理もなかったのでいまいち覚えていない。
 だが、こうして実物を目の当たりにしてみれば確かにあのルーンはこの『ガンダールヴ』に似ていた。
「――」
 マチルダはあの夜に感じた畏怖を思い出して身を震わせた。
 あの時の彼女と彼女の纏う光は確かに伝説を謳うに相応しい威容だった。
 ……だとしたら、彼女の持つルーンに酷似するこのガンダールヴも、それが刻まれているこの少年も、同類なのか。
 そしてもう一つ。
 彼女に応ずるように光を纏ったその主も、同類なのだろうか。
 ティファニアは系統魔法では類を見ない奇妙な魔法を使うことができる。
 マチルダは先住魔法の一種かと思っていた(ティファニア本人はわからないらしい)が、アレも『伝説』の片鱗なのかもしれない――
「どうしたんだよ?」
 黙り込んだマチルダを窺うように覗き込んできたサイトの声で、マチルダは我に返った。
 彼としてはそうでもなかったのだろうが、彼女にとっては唐突にかけられた声に驚いて身を離した。
 眉を潜めて首を傾げるサイトを見て、マチルダは大きく深呼吸して粟立った気持ちを落ち着かせた。
「……あんたのソレと似たようなルーンを持ってる子を思い出しただけだよ」
「……は?」
 誤魔化すために吐き出した言葉だったが、サイトはそれを聞いて更に首を捻った。
「『子』? 子、ってもしかして人間なのか? 使い魔って動物とか幻獣とかじゃなかったの?」
「学院の生徒が人間を二人も召喚してね。そいつ等もあんたみたく違う世界から来たって言ってたっけ」
 コルベールのような学者肌でもないマチルダがエリス達の発言に対してかろうじてまともに対応できたのも、偏にサイトという前例があったためだ。
 まさか人間に加えて『異世界から来た』などというところまで前例通りだとは思わなかったが。
「はあァッ!?」
 サイトは素っ頓狂な声を上げてマチルダに詰め寄った。
 驚いて身をひきかけた彼女の肩を掴み、サイトは一気にまくし立てた。
「嘘、マジ!? 他にも地球から来た奴がいんの!? しかも二人ってナニ!! 今もまだあの学校にいるの!?」
「お、落ち着けって!」
 額が接触しそうなほどに接近してきたサイトをマチルダは乱暴に振り払った。
 それでもなお食い下がろうとする彼に、彼女は嘆息を漏らしつつ言った。
「アンタの同郷かどうかなんて知らないよ。なんかファー・ジ・アースって世界から来たらしいけど」
 するとサイトの動きがぴたりと止まった。
 彼女の言葉を頭の中で反芻するかのようにしばし沈黙を保ち、やがてその場にへなへなと崩れ落ちて頭を抱えた。
「なんだよそれ。ファージなんとかとか知らねえよ。俺が来たのは『地球』だっつうの……!」
「私に言われたって知るもんか。仮にその地球ってトコから来てたとしても、今更戻ることなんてできないだろ。アンタだけで入れるはずもないし」
「……ぐあー、なんだよぬか喜びさせやがってぇ……!」
60ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 03:13:19 ID:GWMRNzqS
 

 サイトはぼやきながら頭をがしがしと掻き毟った。
 そして力なく立ち上がると空を見上げ、大きな溜息をついてから再びがっくりと肩を落とす。
「そりゃハルケギニアなんつう異世界があるんだから他にも異世界があったってもう驚きゃしないんだけどさぁ……はあ、まじかよ……」
 ぶつぶつと愚痴を零しながらサイトは再び歩き出した。
 しょんぼりと遠ざかっていく彼の背中をマチルダは追わず、じっと見つめていた。
 何度か口を開きかけては思いとどまり、そして小さく頭を左右に振る。
 そして彼女は呟くように、言った。
「サイト」
「あー?」
「……あんた、良かったのかい?」
「良かったって何が?」
 振り返りもせずに応えるサイトの背中を見ながら彼女はほんの僅かに沈黙を保ち、そして意を決したように言葉を続けた。
「……。テファの使い魔になったこと……」
「……、」
 そこでサイトは足を止め、マチルダを振り返った。
 彼はいぶかしむように見つめると彼女は顔を逸らし、表情を歪めて舌打ちした。
 エリスと彼女のルーンの事を思い出したついでに、ルーンの確認をした際に交わした会話も思い出してしまったのだ。
 彼女は自分の意思でルイズと使い魔の契約を交わした。
 だがマチルダがティファニアにサイトと契約をさせたとき、"ちょっとした事情"で彼は気を失っていたのだ。
 その時はティファニアを守る事が第一だったし使い魔の事情なんぞ知ったことではなかったのだが、エリスを見て何となく気になってしまったのだ。
「嫌だっつったって契約は解除できないんだろ? 今更じゃん」
 サイトはマチルダをまじまじと見つめた後、軽く頭をかきながら答えた。
 その声に僅かにマチルダの表情が翳ったのを見て取ると、サイトは眉を顰めてから口を尖らせる。
「……俺、地球にいた時はなんとなく学校行って、適当に友達と遊んで、なあなあで生きてきて……あんたの事をテファに頼まれた時みてえに、あんな必死に頼まれた事もなくってさ」
 言ってからその生活の事を思い出したのか、サイトは遠くを見るように僅かに眼を細めた。
 そして彼は小さく頭を振って郷愁を追い払うと、小さく息を吐いて苦笑を浮かべる。
「だからまあ、なんつうか。誰かに必要にされて、誰かの役に立つってのも悪かねえな、みたいな……」
「……そう」
 エリスと似たような事を言う少年に、マチルダはわずかに顔を俯かせて呟いた。
 少しの沈黙の後、サイトははっとしてマチルダを見やり慌てたような声で言った。
「……あ、でもそれと一生ここで暮らすってのは別だかんな! 地球に帰る方法が見つかるまでの間だぞ!?」
「はいはい。もっともその日が来るのはいつになるかわかんないけどね。なにしろ――」
 魔法学院の図書室を調べて見ても――生徒の閲覧が禁じられているフェニアのライブラリィも含めて、だ――異世界に渡る方法など全く見つからなかったのだ。
 流石に隅々まで調べ尽くしたという訳ではないが、それでもそんな荒唐無稽なモノが早々見つかるはずもないだろう。
 同じく元の世界に戻ろうとしている柊の前途も多難と言ったところだ。
「なにしろ、何?」
「何でもないよ。っていうか、そこまで格好つけるんならこんなトコにいないでテファの傍にいろっていうんだよ」
「何言ってんだ。あんたが死んじまったら、あいつ悲しむどころの話じゃなくなっちまうだろ。だからこれもちゃんとテファを護るってことだ」
「……だったら、私の事も黙っといてくれ。こんな事知ったら、テファが悲しむ」
「ヤだね。俺はあいつの使い魔だから、テファを泣かすような真似する奴を放っておくわけにはいかねえ」
 行こうぜ、とサイトは再び歩き出した。
 振り返る気配はない。どころか、自分の動きに警戒する気配すらない。
 もっとも逃げ出したところで"今の"サイトからは逃げられはしないだろうし、逃げおおせた所で彼に自分の仕事を知られた以上事態が好転することなどない。
 ウエストウッド村に戻ってティファニアに再会し事情を打ち明けたとき、彼女が一体どんな表情を浮かべてどんな言葉を紡ぐのか、それを考えると震えが止まらなかった。
 そこでようやく彼女は盗賊稼業を始めた事に大きな後悔を覚え、まるで絞首台に向かう死刑囚のような心境で先を行くサイトの後を追うのだった。

61ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/17(月) 03:15:28 ID:GWMRNzqS
ぐわっ、改行ミスりまくっている・・・
ともかく今回は以上です。サイト参戦と超ニアミス
これまでおマチさんにそれとなく匂わせていたのですが誰にも突っ込まれなかった……突っ込む価値すらなかったのか
彼は基本一途なのでテファの他にヒロインがいないあの場に呼ばれれば即フラグ成立しちゃう感じ
レモンちゃんにけたぐられつつ瞬間最大風速的なデレを垣間見るのと、革命的なおっぱいに全面的な好意を寄せられながら姑にフルボッコにされるのはどちらが幸せなのでしょう
なお、サイトの叔父の設定はゼロ魔の設定ではなくNWの設定を繋げたものです。ヒントは『平賀』。きくたけグッジョブだ
62名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 03:40:02 ID:59jLA++7
うおいつの間にか来てる、夜闇の人乙!

ニアミスっていうかこう……ニアミスってレベルじゃねーw

あと個人的には後者の方がいいです。おっぱいもエルフも大好きです。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 08:00:14 ID:J9fw9pRn
夜闇の人乙です。
でもこのサイト「ファージなんたら」て何故アースに反応しない?
もしかしてアースって知らない?
それともおマチさんの発音が悪かったのか?
64名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 08:49:05 ID:BOSuo590
>それとなく匂わせ
ふつーに気づかなかったフシアナさんですよ。

んにしてもサイト、フレイスの時に寄って来たヤツらかよw
精霊獣なんかも見たんかな
65名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 10:50:43 ID:8uXt0Ta7
GJでした

もしかしたらサイトには「ファージアス」と聞こえたのかな?

>叔父の伝手で超格安の修理
一体どんな魔改造が加えられているのだろう
変形してBKにでもなったら吹く
66名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 11:02:45 ID:BOSuo590
ラノベ的お約束、と言ってしまえばそれまでな気も。

「主人公に決断力があって、適材適所な判断をくだすラブコメ」とかそうそうないだらふ
67名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 12:45:59 ID:1RGt68RY
英語は魔法の名称や艦名なんかにも使われてるし、「ファージ・アース」も
似て異なる世界だろうと思ったのでは?
少なくとも地球人は地球のことそうは呼ばないわけだし。
68名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 13:05:32 ID:eCvMYCBu
もっと輝けと囁いてくる方がまだ身近だよな
あ、でもアースはアースで割りと最近に映画のタイトルで使われてたりするか
69名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 13:50:23 ID:gJR+rbM/

リプで最初にファー・ジ・アースって見た時、地球だとは思わん買ったよ
70名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 14:21:50 ID:bZEzQJmA
アースが生んだ、正義のマグマ
えーと、それで平賀ときたら…
71名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 16:20:41 ID:PoyCtaBB
夜闇の人乙です
こっからどうやってルイズとエリスにサイトへのフラグを立てるか楽しみです
72名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 16:22:20 ID:J1G7dprC
バカだなぁ、既に姉妹丼のフラグが立ってるだろ?
73名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 16:24:03 ID:PoyCtaBB
>>72
二人だけじゃ足りないだろ
74名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 17:54:17 ID:PY3mDWE4
最強の特殊部隊上がりのコックってまだ召喚されてなかったっけ?
75名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 18:31:50 ID:bZEzQJmA
小ネタならある。
「沈黙の魔法学院」
ttp://www35.atwiki.jp/anozero/pages/6914.html
76名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 19:45:39 ID:NglO86rU
>75
まさか、保守代わりに昔書いた予告編風駄文がUPされていようとは・・・

ジルの人の方でライバック大活躍だったから本編書くつもりはないですけど。
やはり最強コックの前では手首は捻られる運命らしいw
77名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 21:16:22 ID:0M7YPebe
vipかなんかで続きものとしてなかったっけ?
イチロー召喚で脇役で出ただけか?
78名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/17(月) 22:08:29 ID:3pIeufuN
夜闇の人、GJです。

うおぉぅ………む、むずがゆい………wwwなんか色々むずがゆいぞニブチン才人!wwwww
しかし、デルフが「使い手」が別の方にいると知ったら、アイツの立場はどうなるんだか。

おマチさんの伏線は素で気づかなかったんだぜ。
79名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 00:20:19 ID:T9v+1u55
>>74
じつはマルトーさんが…
ってのはIFスレにあったネタだっけ?
80名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 01:19:59 ID:C5ywfdc1
来た!メイン盾来た!!これで柊も生死判定いかなくてすむ?

サイト君はいったい何のクラスか今から楽しみ。データ的にはガンダールブは魔剣使いの『魔鎧』持ちっぽいけど、サイト君は勇者が似合うと思う。
ダブル・ヒーローにそれぞれヒロイン2人………にはなりそうにないのがゼロ魔クオリティ。サイト君とタバサやアンアンとか、柊避けてるシエスタの謎とか、他のヒロインも気になるところ。

まあ、とりあえずメイン張るPCは

PC1:ルイズ/キャスター(発動魔法)
PC2:エリス/キャスター(魔装)
PC3:柊蓮司/アタッカー
PC4:サイト/ディフェンダー
PC5:テファ/ヒーラー
な感じかな?

サイト叔父は色物キャラと予想させておいて渋くて厚くてカッコいい上に優秀な盾役だったから、彼にも大いに期待。

あと、おじで思い出したが、キュルケのエリスの恋愛に関しての予想って半分だけ当たっているんだよね。
恋に恋した初恋は、信じてたおじ様の裏切りというひどい結果。だから実はキュルケよりもこっちの面ではタフそうなんだよね。
しかし、本気で一生もんの恋の相手は『あの』鈍感フラグクラッシュ生物:柊蓮司………もしかしなくてもかなり恋愛運悪いぞエリス嬢。
せめてこの作品では少しは報われてほしい。

夜闇の人、乙でした。
81名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 01:24:54 ID:VpoSvZAD
夜闇の人乙です。

ファー・ジ・アースって聞くと、その昔PCエンジンで『ファージアスの邪皇帝』っつーRPGがあったのを
思い出すなぁ。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 01:35:09 ID:kCXbv+J0
なんだと柊はくれはの嫁
83名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 01:37:33 ID:HrqcfYkW
>81
そのファー・ジ・アースからもってこられてますよ。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 02:09:10 ID:VpoSvZAD
>>83
やっぱりそうでしたか。

同系統のネーミングだと、WAシリーズの惑星ファルガイア(far-Gaia)がありますね。
……アースガルズの人、帰ってこないかなぁ…………

ついでに、あの世界観破壊しまくりな二匹をどなたか召喚してみてはくれないものかとw
85名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 05:07:02 ID:QD/Kslao
アルガス騎士団とゼロガンダムの人に続きマダー??
もう数カ月も全裸で待ってるぜ!
86名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 07:42:33 ID:sz3X54bE
夜闇の人おつです!

サイトがテファに召喚されてることは薄々と想定してました(伏線には全く気付かずorz)けど、
炎砦の秋葉原ギャラリーのモブだったとは想定外でしたw
あの頃の柊連司は、天然系変態ハンター・天真爛漫の食欲魔人・世界を股にかける女たらしのトリオの
お守りというかツッコミで大変でしたからねぇ、今作は常識のあるエリスがいるからまだ楽でしょうが。



>>80

蝿の女王召喚でもゼロ魔キャラのクラス考察が感想でチラっとありましたが、
こっちのサイトはガンダールヴの瞬間的な爆発力と継続戦闘能力への難点を考えれば、
勇者/デフェンダー相当……が一番近いかも。
87名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 14:10:39 ID:U7EDl/ml
案外バーニングナイトかもしれん
88名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 17:30:06 ID:+oWq6PMG
蒼の人と毒の爪の人が帰ってきてくれたら・・・
89名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 20:55:03 ID:WkjdFCf8
ASSASSIN’S CREED II の人も帰ってきてくれないかな〜。

主人公がいい味出してて好きなんだけどね。
90名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 23:22:01 ID:6Yzkfgv6
日替わりの人といぬかみっの人が帰ってきてくれたら……
91名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 23:45:18 ID:Bd05yHIy
>>81
ファージアスの邪皇帝か。
4人の虚無の使い手それぞれがそれぞれのディメオラを召喚したらどうなるだろう?
最終的にはチートな使い魔が誕生しそうだけどね。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 00:43:20 ID:/wUBEVk9
俺はアプトムの人に帰ってきてほしいなあ
93名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 01:48:20 ID:3xm8mI5k
あのアプトムはギガンティックが出る前のアプトムって感じだったな。
今のアプトムだと速水の遺志を受け継いでるから結構熱血漢なんだよな。
94名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 02:18:48 ID:1TGpyidQ
俺としてはカービィとグゥの人に帰って来て貰いたい
ああいう雰囲気が好きなんだよなあ……
95名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 02:58:17 ID:mym9afTB
毒の爪の人とエルクゥの人も帰ってきて欲しいなぁ…
96名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 12:12:16 ID:5KYPzfCg
電流の人も帰ってきてほしいなあ
最後の更新から二日以上も経つのに
97名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 12:30:50 ID:f7OzQg5r
二日でそんな扱いなのかよw
98名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 13:08:17 ID:5ejJ2O8r
”舵輪”の人を待っている。ああ言うSFテイストなのが好きだ。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 13:18:21 ID:u5kLJA7F
使い魔の達人と、虚無と十七属性の人も続き見たいな。
はらわたぶちまけられフラグ立てたカズキとか、先が気になる。
100名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 16:19:20 ID:Ix5zkWpG
風の使い魔さん。
続きはまだですか〜
個人的に、風助とワルドの戦いが早くみたいです。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 16:53:49 ID:3A0PJ7ap
もうすぐ1年になるが聖樹の人、楽しみに待ってるぜー
102名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 18:10:16 ID:9nw0Ah76
ブータの人を、ワタシは待ち続ける
103名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 18:23:54 ID:BgUU82Ue
>101
暴君と兵士もな
極悪子猫相手にギーシュがどうなるか
気になってオヤツも喉を通らんじゃないか
104名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 18:28:14 ID:OfO18Lod
LFOの続き見たいです
ミーちゃんがアンリエッタに表彰されるとこ見たいです!
105名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 18:39:14 ID:BgUU82Ue
LFOというからてっきり交響詩篇から召喚かと
ZEROじゃなくてTHE END呼ばれた小ネタはオチが想像付いても笑えてしまったわ
106名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 18:43:41 ID:pmbhp8Bv
使い魔はじめましたを待っている

…風助はタバサの使い魔だからなあ
ワルドと戦うとは限らないかも…
107名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 18:50:17 ID:VbxFVe8o
零魔娘娘の続きはまだかぃのぅ?
最近クロス元の方読んでるけど、地味に面白いや。地味に
108名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 19:01:38 ID:8RUWtsXQ
サイヤ早く来てくれぇええ
最近俺の中でDBブームが再来してるから読みたいのよ
109名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 19:07:52 ID:E/Wd056W
この流れでブラスレイター・コンシート氏を待ってると言ってみる。

>>100
風助対ワルドは確かに気になる。他の干支忍も。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 19:53:10 ID:wFXvUCO5
なのはの人は来ないのかな
ようやく華僑っぽいのに
111名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 20:06:52 ID:cZQfV2ox
ゼロのガンパレードォォォ
良質な芝村分が補充したいんだ、ルイズ症候群の培地を分けてくれ。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 20:11:38 ID:VjKzMWxV
ゼロ・HiME!!!!!

静留さんはどうなるんだあああ。そして遥ちゃんはぁっ!!
113名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 20:17:29 ID:JJtCDb1f
虚無のパズルの続きを今でも待ち続けています
もう一年か
114名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 20:34:56 ID:jYIlFONC
日替わりの人の続きを待ち続けてる
あれ楽しみだったんだよなぁ
115名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 20:55:19 ID:WtgC8Ih0
まだかなまだかなー
学研の おばちゃんまだかなー
116名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 21:01:03 ID:mym9afTB
イザベラ管理人の人、帰ってきてくれ…
117名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 23:43:48 ID:dhoJKjh+
たっちゃんの人もまってるぜ
118名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/19(水) 23:45:05 ID:0rSX22n9
李逵が召喚されました
119名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 00:44:22 ID:s0PNj4xm
黒蟻の使い魔早く更新プリーズ・・・

あの後一体どういう経緯で監禁状態になったのか、****はやはり“彼”なのか、
そしてモッカニアの『本』だけでは分からないあの世界の真実をルイズが知る日が来るのか?

いつでもいいです、ずっと待ってます。黒蟻の人カムバック!
120名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 01:36:24 ID:RAJYLhId
日替わりと氷竜の人はマダカナー
121名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 02:03:54 ID:TFMHiAu0
赤目の人もだ
待ってるZE
122名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 03:06:46 ID:UabRmexp
三重の人も待ってますよー
123名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 07:29:05 ID:SVpOh+tk
>>108
奇遇だな、俺もナッパ戦のクリリンの気分で
悟空早く来てくれぇっ! とサイヤの人を待ってる
124名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 10:15:08 ID:mGKr4+Q0
魔砲を待っているのだが、忙しいのかな?
125名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 11:25:40 ID:kBQuJt6P
瀟洒の人も待ってるんだぜ
126名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 11:53:37 ID:WLhrEeeO
>>119
投下のあった時期はまだ原作未読でそれでも引き込まれたんだが、
今はアニメ見た後だから余計続きが気になってしまった。

後は相棒の人、Season9が始まる前に戻ってきて下さい…。
127名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 14:07:03 ID:rd2YiKYT
*************【 急 募!! 】*************
仕事内容
作者さんへの燃料投下 (主に感想や応援レスを書き込むお仕事、軽作業です)

期 間
作者さんの連載開始〜連載終了まで

勤 務 地
本スレ・応援スレ(採用決定後、現地へ直行していただきます)

給 与
作者さんによる投下(結果に応じてボーナスあり)

採用条件
ネット環境を持つ、2ちゃんねるまたはしたらば利用者者
文句を言わない方
他の作品を貶すような書き込みをしない方
空気が読めるまたは半年以上ROMった方
やる気のある方
書き込みに魂を注入できる方
『First kiss』を熱唱できる方
投下からどれだけ時間が経過していようとも果敢に書き込める方
TT(True Through)の称号を持っている方
細部まで読み込んでいる方、作品から何かを感じていたり考えていたりする方は特に優遇
※未経験者大歓迎!喜ばない作者さんはいらっしゃらないので大至急ご応募を!
尚、長編への一話から最新話または最終話までの感想マラソンの際には連投規制にご注意ください
感想代理スレは今のところご用意できておりません

申込み先
あの作品のキャラがルイズに召喚されましたスレの本スレ、または避難所の応援スレ(担当:名無し)
尚、採用結果は書き込みの完了をもって代えさせていただきます
128名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 16:24:00 ID:7qMegHOo
おお。夜闇の人来てた。乙です。
サイト来てるのは素で気付きませんでした……。
にしても、サイトの頭がいくら悪くても、ファー・ジ・『アース』の意味くらい分かるのではないかと、オレも思った。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 17:33:10 ID:ZcrLr67N
>たっちゃんの人もまってるぜ
一瞬
だっちゃの人もまってるぜ
に見えて
何時の間にラムちゃんが召喚されてたのかと思ったじゃない
130名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 18:01:24 ID:2HThpLjf
俺は「三重の人」という記述を見て、三重県から誰か召喚されたのかと思っちまったぜ
131名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 18:36:41 ID:e+BZyOY+
>130
五霊闘士ルイズ伝と申したか
132名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 20:06:53 ID:Li7P51NM
サンゴット…
133名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 21:34:19 ID:6i+7voqJ
ここまで名前が出なかった底辺作家は挙手ノ
134名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 21:46:32 ID:dwBv5ops
挙手厨きもい^^
135名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 21:54:24 ID:Kvj1XRcV
俺は社長の人をずっと待ってる
136名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 23:26:18 ID:WiIlJdUY
一日放置してたら、あっという間にクレクレ状態に。

と言っても俺も達人の人が待ち遠しくてしょうがないんだぜ!
137名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/20(木) 23:51:41 ID:uFOoZIS4
GTAってもう召喚されてた?
138名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 00:04:53 ID:aTiSAnNt
ジパングの草加拓海海軍少佐が
召喚されたらってのがないな
召喚された時期は、原作最終回近くで
大和の沈没に巻き込まれた所をルイズに召喚される
召喚の影響で失った右目の回復をして
ルイズと共に新しい国を作るって話になりそうだな
139名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 00:07:03 ID:voV4FXXI
帝国軍人に日本じゃない国の為に戦えって、かなり酷いと思うんだ。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 00:33:22 ID:BjEq27M1
秋山何某みたいになってグダグダでござる
141名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 00:37:00 ID:H2jBDQLW
アルビオンの大軍団をAC-130が殲滅する話で一つ
ハッハー
142名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 01:43:51 ID:fmNVmQqQ
ヴァリャーグの誰かが召喚したバックファイアがエルフ領やブリミル系諸国を蹂躙する話でお願いします
143名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 02:41:47 ID:OpY97VS3
>>142
そんなものを投下すればこのスレが汚染されるぞ!
144名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 10:30:32 ID:ixAZb0kw
>>143
\(^o^)/うわぁーっ!
145名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 10:43:16 ID:4d8OPDYl
       _
    ┌─┴┴─┐
    | AA 禁止 .|
    └─┬┬─┘
    .∧∧.| |
    ( ゚д゚)| |
    / づ Φ

        ∧∧  ミ _ ドスッ
        (   ,,)┌─┴┴─┐
       /   つ AA 禁止 |
     〜′ /´ └─┬┬─┘
      ∪ ∪      ││ _ε3
               ゛゛'゛'゛
146名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 10:46:15 ID:8Mk/EyTO
>>139
終戦後に国に帰らず東南アジアの独立戦争に加わった人らも結構いる
確か慰霊碑立ってる
つかよく考えたら原作でも国に帰れず、世話になった場所で頑張った帝国軍人がいる訳で
147名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 10:54:45 ID:Hrnh2Ef7
>>146
ゼロ戦で迷い込んじゃったのと、特定個人に召喚されたのじゃ受け取り方が違うと思うが。

まぁ、元ネタで死ぬはずだった人間が召喚されて、どうせ死んでたんだからってことで第二の人生歩んでる場合も多いので導入しだいだよね。
148名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 13:12:00 ID:+vN7Txov
>>137
wiki見れば分かるがIIIとLCSは召喚されてる
149名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:28:17 ID:6HOIHnh0
なあ、俺ゼロ魔一巻しか持ってないのに、SS書こうとしてるんだぜ…
どう考えても設定で爆死しそうなんだぜ…

書きあげたら投下してもいい?
150名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:35:22 ID:LIsrlzud
駄目だ。
151名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:36:36 ID:IWAYi6tw
フーケ戦だけで終わるんなら問題ない……かな?
152名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:38:39 ID:myObX3I3
せめて、既刊原作全てか、アニメとその関連資料のどちらかだけでも押さえてから書いてくれ。
153名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:40:58 ID:g+iuJQrC
奇術師ヒソカを召喚
154名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:44:21 ID:sjPHf9ak
>>152
ほとんど零からスタートするなら、ツッコミ所のあるアニメより原作でお願いしたいわ
155名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 15:55:33 ID:6HOIHnh0
で、でも俺もう…はぁはぁ
ヒャア、もう我慢できねぇ!い、行くしかねぇ…
いやダメだ落ち着け俺。クールダウンするんだ…
それもこれも魅力的なSSがいっぱいあるのがいけないんだ…
156名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 16:01:30 ID:myObX3I3
>>154
設定集みたいなのがあればいいんだけど、物語の性質と展開の都合上難しいんだろうねぇ。
157名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 16:03:31 ID:g+iuJQrC
情熱があるのはいい。
ただし、その情熱を決闘とフーケ編を終えた後も持続させられてこそ立派。
それと、原作とアニメには3シリーズとも差異がかなりあるから知らないと恥をかく羽目になるぞ。
158名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 16:13:21 ID:sjPHf9ak
>>155
ウザイよ
159名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 16:31:08 ID:VQzg4h5Y
原作ろくに読んでない、ってのを言い訳にして予防線張ってるようじゃ、
「駄目」って言われるのは目に見えてるだろ、聞くまでもなく

結局どうしたいんだよ、>>149
160名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 16:36:32 ID:MWOgNQY9
気持ち悪いので丁重にお断りします
161名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:05:36 ID:5bfl8J01
ハルケの揉め事は全て味勝負で決めることにして味吉陽一を召喚
料理の知識なしにやるのはさすがに危険か
162名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:05:50 ID:d8j4DGER
いやむしろ逆に、迷走気味の原作に翻弄される原作が多い中、一巻までの設定で書いたほうが自由なシロモノが見れるかもしれないぞ。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:23:43 ID:6HOIHnh0
>>159
予防線ってわけじゃないんだけどさ
内容に詳しい人だらけの中でテキトーに書いたら怒らせるかなぁって思って…
スレのノリが分からない初心者だからな、わざわざ怒らせることはないかなーと
SSはいくらか読んだんだけどね
164名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:24:20 ID:YEJyqBQ7
設定どうこう、作品の出来どうこう言う以前の、原作に対する敬意の問題だろう。
他人様が考えて作ったキャラや設定を使う以上、
原作既刊に目を通すくらいの努力はしてもらいたいなぁ。
165名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:30:51 ID:6HOIHnh0
>>164
うむ、ぐぅの音も出ない
その通りすぎるので俺は本屋に行ってくるとしよう
166名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:32:05 ID:egKPgEIG
>>163
もういいからチラシの裏か、自分のサイトか、VIPでやれ
ちなみに挙げた順に批判が少ないと思うぞ
167名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:39:49 ID:kx2Q1tYl
>>164
つよきすCool×Sweetのスタッフdisってんのか?
アニメは・・・続編はありません・・・
168名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:40:51 ID:vY72rr4H
>>163
嘘くせー、最初の聞き方がふざけてる時点で嘘くせー
ノリが分からない初心者がわざわざ怒らせないようにした結果が>>149>>155って・・・
1人を除いて断ったのに155って、どう見ても163は嘘じゃん
169名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 17:49:23 ID:6HOIHnh0
>>168
うむ、嘘だな
バレたらしかたないな…
とりあえず今ソッコーで五巻まで買ってきたのでじっくり読むとする
投下はしないからおちついてくれ
170名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 18:29:54 ID:rfo8NjXS
とりあえず「テキトーに書いたら」と自分で言うような奴がどんなのを書くのか、見てみようじゃないか。

ってワケで、いつになるのか分からんが待ってるぜ。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 19:36:49 ID:ynQhdGth
スレ汚しはいらん

もうレスからして荒らし目的としか思えない
172名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 20:01:54 ID:iWS/8pXt
>>161
味皇の方は来てなかったか?小ネタの方で
「うーまーいーぞー」と叫びながらレコンキスタをぶっ飛ばしてるヤツ
173名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 20:56:31 ID:6fdiflc7
変なテンション…
なんかこのままの性格の主人公持ってきそうだな
174名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 21:44:49 ID:AKZGjET0
作ってる側だけが楽しくて、見る側はそれが分かるから更に白けるんだよな
175名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 22:27:04 ID:Y0H/hNWh
>>173
まぁまぁ、とりあえず此処に持ってくるって事はクロスなんだろ?
そんな面白おかしく原作蹂躙するようなオリ主みたいなのが
主人公になるわけ無いじゃないか
えーと、こういうテンションのキャラって何がいただろ…
176名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 22:55:48 ID:n0stpXvM
> ヒャア、もう我慢できねぇ!
妖怪腐れ外道?
177名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 23:22:52 ID:SYkF4QAy
>>174
利益度外視の同人や自分のサイト、ブログ、あるいはその行為が許されている投下場所ならともかく、
ここは便所落書きといえどトイレマナーのある場だからな。>>1のルールに従って欲しい。
178名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 23:29:11 ID:OpY97VS3
>>176
ガンハザードのビショップ
あれ?フロントミッションだったっけ?
179名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 23:41:33 ID:lBu5vtSU
>>177
トイレマナーって言い方がいいなw
たしかにトイレのしつけすらできてないなら馬鹿にされてもしかたがねえ
180名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/21(金) 23:54:11 ID:krgARIF1
トレマーズに見えた
3までは確実に見たんだが、さて4は見たかどうか……
181名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:02:36 ID:Qj9AKErB
トレマーズがトレーズに見えた
182名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:03:13 ID:PKgz3spl
まあ、その蹂躙SSに関しても、よっぽど一方的ならいざ知らず、ある程度互いを尊重したものの場合は、読み手毎に
クロス先が自分の好きな作品なら「良い蹂躙」、嫌いな作品なら「悪い蹂躙」って評価になっちゃう可能性もあるけど。

>>180
グラボイズ召喚してギーシュが大活躍するSSとか読みてーなぁ。
グラボイズ→シュリーカーに分裂増殖する際は、あれは「変態」に近いものだから使い魔のルーンも継承されるだろうし。
第三形態であるアスブラスターは空も飛べるし、火炎はコンクリを溶かすほどだから結構強力なんだよな。
183名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:06:23 ID:yZxGGv4m
ていうかあんな化物を御せられるか?w
184名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:16:17 ID:pXXJPkvA
ふと思ったんだが。

「見せ場がある」くらいならともかく「大活躍する」ギーシュって、それはギーシュなんだろうか。
185名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:17:47 ID:dI+tg2GD
大活躍というとどのくらいの活躍なのか

ワルド分身じゃなく本体を倒したりフーケを撃退したりアルビオン7万を追い払うほど…だったらたしかにもうギーシュじゃねえなwwww
186名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:27:05 ID:PKgz3spl
『ワルドマンが倒せない』にある通り、クロスの強キャラいれば楽に敵を倒せる。
裏を返せば強キャラを召喚したのがギーシュなら、彼だって活躍できるはずだ!

確かにそれが「ギーシュ」というキャラに合ってるかどうかは別だけど。
187名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:40:58 ID:pXXJPkvA
フーケのゴーレムと戦い、これを力押しで粉砕するギーシュ。
ワルドと正面きって戦い、偏在4体を含めて撃退するギーシュ。
オーク鬼の群れを難なく蹴散らすギーシュ。
水の精霊に依頼されたので、かかってくるタバキュルをそうとは知らずに圧倒するギーシュ。


……自分で書いといて何だが、物凄い違和感だ。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:46:26 ID:mZ83O0LG
それでもゲッター線なら・・・ゲッター線ならきっとなんとかしてくれる
189名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:48:04 ID:G5V418y7
トレマーズ4は、主人公とクリーチャーの成長物語だと今でも思ってる
190名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 00:53:03 ID:kWbFYaiX
ギーシュを見てるとギルバート・エゼンを思い出すのは俺だけで良い
191名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 01:07:38 ID:9yQRgpHq
オレは…スーパーギーシュだ
192名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 01:09:01 ID:b+taxHbH
>>191
ま、まさかあれは伝説のスーパートリステイン人……。
193名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 01:11:10 ID:6CFl3FmN
どこぞの人形遣いみたいに小型の特攻ゴーレムで爆破させたりやればいいのに
194名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 01:19:27 ID:KEj6h7em
>>191
そしてワルドに逆転され「ふっふっふ、超ギーシュか……どうしたのだ先ほどまでの勢いは。笑えよギーシュ」と言われるわけか。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 01:34:44 ID:dHTAw3J6
程良く蹂躙して世界征服を進めさせておいて、最後の最後で大失敗お疲れッスって言うのをしたいんだけども
蹂躙できるようなキャラクターをどうやって転落させるかがすごく難しいわ
196名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 01:42:29 ID:pXXJPkvA
>>195
世界征服なんてことを考えつく時点でそんなに頭がいいキャラとは思えないので(何を目的として征服するのかにもよるけど)、
いくらでも付け入る隙はあるんじゃないの。
197名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 03:41:14 ID:eqKkfUUL
>トレマーズ

この場合だと、タバサがミッキーとキュルケがアールかねえ。
さしあたってバートがルイズか?

あるいは、ジュリオとジョゼットがバート夫妻よろしく、
ヴィーットーリオのとこから大量の重火器持ち出してくるのもありか。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 04:27:40 ID:a988rPm6
>>178
「フロントミッション:ガンハザード」だ。

>>196
>何を目的として
もちろん、
「くだらん国境を取り払い、世界をひとつに結び、疑いやいがみ合いや傷つけ合うことなく、
 格差をなくし、誰の子供も自分の子供の様に愛する世界にする」
あるいは
「バカどもに新しい宗教を与え貧困と不潔と労苦に終止符を打ち、大気汚染をなくして鯨を救う」
ためですよ。
199名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 07:29:54 ID:HKDOM/tz
数レス前のDB的なネタ見てたら、なぜか『カリン塔の烈風カリンちゃん』なんてものが脳裏をよぎったw
200名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 08:39:54 ID:G93M1d24
血が増えるピンクの豚なんですね。わかります。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 08:47:16 ID:MlMt/LBG
飛びますか? 飛びませんか?
202名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 10:47:46 ID:x5quhMas
203名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 12:02:23 ID:6NUJp2ov
>>191
エヴァのスパシンに次ぐメジャーなジャンルになりそうな予感…!
204名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:03:02 ID:dI+tg2GD
ギーシュ「知らなかったのか?土属性のメイジからは逃げられない・・・」
205名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:04:11 ID:oYgtUVgC
>>161
じゃあ国同士の戦争はおろか種の存続、次元間闘争まで80年代前半のTVゲームで
決着つけるべく石野あらし召喚


リアルタイムなオサーン沢山いそうだ  俺も含めて
206名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:05:43 ID:pSqn+Oc5
ギーシュ「おまえ、もしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」
207名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:05:46 ID:cPm200ZB
>>195
やはり、ルルーシュではないか?
基本的に上手く事を運んで行くが、最後の最後で相手に出し抜かれる才能を持っている。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:07:47 ID:dI+tg2GD
>>207を見て思ったが地盤崩しが得意なルルーシュとギーシュならなんだか活躍しそうな気がしてきた
209名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:21:36 ID:dHTAw3J6
貴族派軍をなんとかするために地盤崩しをしようとして、勢い余ってアルビオン崩壊脂肪か・・・
210ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:35:49 ID:7h++JwKA
1カ月ぶりほどです。どうも皆さま、お久しぶりです。
知らない方ははじめまして。ゼロの黒魔道士なんつーもんを書いている阿呆でございます。

言い訳をするならば、社員寮の祭りの企画運営だとか、増えた残業だとか、FF9アーカイブ配信だとかがあるのですが、
どうでも良い理由でしばらく来れずに申し訳ございませんでした。

久々すぎてスレの流れを理解しておりませぬが、投下させていただきとうございます。
13:50頃より失礼いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。
211名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:46:05 ID:oYgtUVgC
支援するのでありまするー
212ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:50:02 ID:7h++JwKA
投下を開始いたします。

----------------------------------
未だ小さなルイズは、走った。
走った。走った。

「僕の小さなルイズちゃぁ〜ん♪破壊の力を見せておくれよぅ〜!」
「ハァ、ハァ、ハァ」

必要なものは距離、あるいは時間、あるいは味方。
未だ小さなルイズには、足りない物が多すぎて、
彼女は走った。走った。走った。

「何をとまどっているんだい?
 君の望みを叶えなよ!」
「私はッ……」
「力が欲しかったんだろ?
 その力を見せつけたかったんだろう?」

逃れようとするたびに、風の手が伸びてくる。
首へ、手へ、足へ、小さいその背中へ。
かつての憧れが、真っ黒けの悪夢に塗りつぶされて襲ってくる。
彼女は走った。走った。走った。

「私は、そんなつもりは……」

踏みしめる石畳は幻の中、トリステイン魔法学院のもの。
少しばかり小奇麗なのはワルドが通っていた頃のものだからだろうか。

廊下の突き当たりを右。
それが罠。
増改築による細かな差異に引っかかる。
教室へ繋がる近道は、かつては袋小路のどん詰まり。

「馬鹿にされ続けて、メーソメソ泣いて暮らしててさぁ!」
「私は……」

逃げられない。
ならば、対峙するのみ。
必要なのは覚悟。彼女が唯一持つ、足りる物。

景色は過去、問いかけられるは現在。
未だに小さいルイズは、壁を背にし、かつての憧れであった者に向き直った。
すなわち、未来に。



ゼロの黒魔道士
〜幕間劇ノ八〜 一即是全、全即是一


憧れだった背中は、追いついて、追い越して見れば醜悪な面をしていた。
未だ小さいルイズは、ワルドの変貌ぶりに改めて愕然となる。
理想と現実の溝、その深みに嵌り、顔が強張った。
213ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:51:06 ID:7h++JwKA
「ほぅら、ごらんよっ!」

「きゃっ!?」

道化の姿が腕を振る。
弾けるように舞い上がる風。
それがパッチワークの布を引きちぎっていくように、ベリベリと幻の風景を吹き飛ばす。

新たな景色も、また幻。
完全な、空の上。
神々の視点。
眼下には雲が広がり、
その下にはハルケギニアの全てが、手に納まりそうな大きさで小じんまりといる。
太陽も2つの月も、数多の星々も手を伸ばせば、容易くもぎ取れてしまいそうな高み。

小さなルイズが漠然と思い描いていた『世界』というものが、その足下に、
なんと弱々しく脆そうに転がっていることか。

「今、君には全てを壊す力がある!
 君を虚仮にし続けた、ロクでもない世界を!」

囁くは悪魔の声。
くすぐられるは、人間なら誰しも持つ暴力性。
小さなルイズ自身、ずっとずっと積み上げてきた、恨みという名の導火線。

かつての彼女ならば、すぐにでも自ら火打石を打ち付けたのだろうか。
だが、今ここにいるのは、『かつて』では無く『今の』彼女。
だから、彼女は悪魔に問い返す。

「ロクでもない?」

「だってそうだろう?
 誰も君を必要としていない。
 誰も君のことなんて気にしない。
 “ゼロ”の居場所なんてどこにもない。
 そんな世界、ロクでもないだろう?」

「――誰も?」

小さなルイズは、幻惑的な神の視点から、彼女の内側へとその意識を向け直した。
すなわち、目を閉じて、思い返した。
『誰も』、を探す意識の中への小旅行だ。

馬鹿ばっかりやっているギーシュ、
自慢話ばっかりのキュルケ、
いつも無口で何考えてるか分からないタバサ、
恐ろしいおかあさまにエレオノールおねえさま、
厳しいお顔のおとうさま、
いつも優しいちいねえさま……

それと、彼女の、彼女よりもっと小さな、だけど大きな使い魔。

「だけど、僕は知っていた。
 君の持つ力を。君の本当の価値を。
 だから、ほら。僕の手をとって。
 一緒にブッ怖そうよ。こんな世界」

悪魔はまだ続ける。
過去からの声が、本能を揺さぶる甘言が彼女を取り込もうと囁き続ける。
214名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 13:52:04 ID:rVemYtVf
支援
215ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:52:31 ID:7h++JwKA
「ワルド、私はッ――」

ルイズは、目を開けた。
一つ一つの顔が、彼女にとっての『世界』に満ちていき、彼女に力を与える。
あぁ、確かにロクでも無い。
ロクでも無いけど、なんて素晴らしい世界なんだろう!

「ルイズ……ぅぉっ!?」

「私は、いつまでも『ちっちゃいルイズ』なんかじゃない!!」

過去との決別という決意が、彼女に杖を振るわせた。
かつての憧れにも、自ら杖を振って立ち向かう。

「――夢じゃなかったのかい?
 力を持つことが。あいつらを見返すことが。
 一人ぼっちの船から降りることが」

「私は――」

小さな船で泣いていたちっちゃなルイズと、今のルイズ。
何が違うか?
虚無の力?
そんなものは大した違いではない。
一番大きな違い、それは。

「――私は、独りなんかじゃないっ!!」

迫るワルドの手、それよりも速く、呪文を紡ぐ。
この呪文は、彼女が友を助けるために、
彼女が友と見出した、その呪文。
彼女が、決して『独りじゃない』ことを証明するための、歌。

「『ディスペル』っ!!」

唱えた魔力は、流星のように一直線に飛ぶ。
そのように願ったから、そのように唱えたから、
彼女を苦しめる過去を切り裂くように、
幻の世界を貫いて真っ直ぐとワルドへと飛んでいく。

「あーぁ、君にはがっかりだよぉ、ルイズ……」

吊り上がった道化の唇が、真逆の方向へぐぃっと下げられて、
ワルドは溜息混じりにその手を引っ込めた。
壊れてしまったおもちゃなんて、もういらない。とでも言わんばかりに。

「俺様がこんな攻撃、避けれないとでも?」

ワルドの動きは、風そのもの。
捕え所も無く、ふわりと避ける。
虚無魔法の矢は、当たらずそのまま後方へ……

「――言ったでしょ?」
216ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:54:14 ID:7h++JwKA
「ルイズおねえちゃんっ!!」

「なぁっ!?」

「ぎぇっ!?」

『ディスペル』の矢に当たったところから、
ワルドの狂った記憶の世界に綻びが生まれ、
開いた隙間の向こうには、『風の遍在』のワルドとルイズの使い魔。

「『独りなんかじゃない』、って!!」

「行くぜ相棒っっ!!」

「『ディスペル剣』っ!!」

使い魔の手には輝く剣。
剣が受け取り纏うは、ロクでもない世界を素晴らしい世界へと戻すための虚無魔法の矢。
輝きは合わさって、さらに眩いばかりの光となる。
光の欠片に当たっただけで、『遍在』のワルドは一瞬で煙と消える。
まやかしが消え、残るは真の姿のみ。
風の防護など、破邪の剣の前にはそよ風にもならない。
悪しき者を打ち滅ぼす剣は、確実のその姿を捕えた。

「ウブァァァァァァァァァァ――」

----

「――ァァァァァァァ!?

 なーんて、言うと思った?思っちゃった?
 はい残念〜!!オルちゃん無傷ぅ!」

水の攻撃など、無意味。
蛸入道の目が一層ニタリと垂れ下がる。
降り注ぐ水飛沫、打ち付けられた平鍋の音。
いずれもトリステインを襲った大蛸にとっては、
のれんに腕押し、糠に釘といった有り様であった。

「タコの嬌声など聞きたくもない。
 黙って逝ねぃっ!!」

それでもなお、モット伯は執拗に、水流を繰り出した。
縦横無尽とも言える蛸足に対抗するべくグネグネと。
まさに『波濤』。その勢いだけは互角とも言える。

だが、

「せやからぁ〜……あんたばかぁ?ちゅう話しやん?
 タコに水も打撃も効かへん――ってタコちゃうわっ!?」

べしんっと羽虫がたたき落とされるように、
エプロン姿の男が地に落つる。
蛸足は8本、2人の男は腕足を合わせて同数。
オルトロスは対多数の戦を手数では互角とし、その防御力では上回っていた。

「くっ……なるほど。ホンット、タコってわけね――」

「せやから、タコちゃうわ!?」
217ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:55:53 ID:7h++JwKA
エプロン姿の男は、立ちあがりこそはしたものの、立ち向かわない。
オルトロスから背を向けて、
首をこきんと鳴らしながら大きな声で語りはじめた。

「――タコのさばき方。
 その1:ぬるぬるした表皮が邪魔なので、塩でもんだり、たたいておきます」

「塩ぉ?……うわしょっぱっ!?」

オルトロスのニヤケ顔が、塩辛さで引き締まる。
フライパンの後ろにでも塗りつけていたのか、あるいは水流に隠れながら撒かれていたか、
確かにオルトロスの体は気付かぬうちに塩にまみれていた。

「その2:タコの急所は目と目の間です。包丁を立てるようにしながら皮を剥ぐと良いでしょう」
「なんや。オッサン、フライパンでオルちゃんオロすつもりか?
 アホも大概にしてくれへんと、ツッコミおいつけへんわ!やめさせてもらうで!?」

鼻こそないが、フンッと小さく笑うオルトロス。
阿呆なことを抜かすわ、である。
よしんば包丁があったとしても、オルトロスの体は引き裂けまい。
この巨体を捌けるとするならば、正に屠るために作られた刃物、それこそ騎士剣ぐらいの大きさが無ければ――


「その3:あとは酢と合えてマリネ、唐揚げてフリットなどとお楽しみください。


 ……覚えたかしら、妖精さん達?」
「はいっ!もうばっちりとっ!!」
「感謝する、店長……と、ミスタ・モット……」
「んなぁっ!?」

オルトロスは垂れ下がった目を点にした。
苦労して己の粘液で弱らせて手篭めにしたはずの、自分の嫁達が立ちあがっている。
彼の好みのタイプであるちょっと気の強そうな美人達が、冷たい目でこっちを見ている。
手にはそれぞれの獲物……すなわち騎士剣を握り締めて。

「ノンノンノーン!ミ・マドモワゼルと呼んでちょうだいなっ!」
「わ、ワイの嫁達が……
 ぁあっ!?ヒゲちゃびん!?おどれ、まさかっ!?」

オルトロスは気付く。
水魔法が、本来得手とする分野。
それは水流による攻撃では無く、水による治癒であるということを。

「ハハハ、礼にはおよばんさ!
 真のジェントルメンは、レディを救うためにこそ存在するのだよっ!」

髭の男の狙いは、自分への攻撃ではなく、弱った剣士達を回復させること。
それに気付かなかったことが、オルトロスの敗因。
気付いたときにはもう遅い。

「行くぞミシェルっ!」
「はいっ!」

鎧のこすれ合う金属音が、風よりも速く近づいてくる。
それはオルトロスにとって死の音そのもの。

「ちょ、ま、え、待って、待ってまってまってまって!?」
218ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:57:22 ID:7h++JwKA
「はぁっ!!」
「つぇぃっ!!!」

「――鍋の準備でもしようかしらね」
「手伝おうか、店長」

「ユデダコいやぁあああああ!?ってタコちゃうわぁあああああああ――」

----
「タコじゃなきゃ、イカ以下ね。
 青くて不味い血の!血の通って無いあんたなんてねぇ!」

吸血鬼の振るった先住魔法は、確かにレイスウォール共同墓地の一画を切り裂いた。
しかし、

「害獣が何を言ったところで――」

墓土が幾度目か持ち上がる。
腐った手が地中から生える度に、墓場キノコの胞子が空気を満たす。

「あぁ〜〜!!もうっ!!うっとうしいっ!!」
「同意だな、鬱陶しい」
「死人と判ってる分やりやすいですけどねぇ、数が……」

無限と言える陣容が、変わらずたった3人の戦士たちを取り囲んでいた。
毒の沼にはまったように、もがけどももがけども、抜け出せる可能性は低くなる。
質よりも量の戦。
いかな牛鬼や吸血鬼と言えども、疲労の色は隠せない。

「貴様ら程度では、我の使命を邪魔することはできんぞ」

唯一突破口があるとするならば、術者を屠る、それしかない。
すなわち、幾体もの土人形達の中から、
『ビダーシャルの血を取りこんだ偽者』の本物を見つけ出すこと――
文面にしても分かりにくいのだ。
それを見分けられるなど、首まで死人の群れに埋まった3人に分かろうものではない。

「――では、我程度ではどうだ?」

「む……」

「ビダおにいちゃんっ!!」

陣容の復旧が、やや遅れる。
エルザは、唱えた蔦の先住魔法のその向こうに、2人のエルフが対峙するのを見た。

「やはり、お前が本体か……存外、判り易かったぞ。
 冷静に見てみるものだな」

沼に陥ったならば、騒がぬこと。抗わぬこと。
そうすれば、やがて浮くことができる。
ビダーシャルは、自然の理を知るエルフとして、それを実践したまでだ。
仲間が暴れてくれている内に、自分は相手を見ることに徹した。
そして、見つけ出す。何十という自身の偽者の中から、動きの異なる術者の姿を。

「――良いのか?崇高なる我らエルフが、
 蛮人や牛鬼、あろうことか吸血鬼までと手を組んで」
219ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:58:34 ID:7h++JwKA
「約束だからな」

「約束が、我らの理念を越えるとでも?」

ジョゼフとの約束。クジャとの約束。
所詮は蛮人との口約束。
ビダーシャルの行動を正当化するものは、たったそれだけ。
だが一方で、今の彼の行動を否定するものは?
エルフの掟?エルフの誇り?

「――エルフが、どれだけのものと言うのだ?」

蛮人、吸血鬼、牛鬼……数多の種族が息づくこの地で、
エルフが何を威張っているというのか。
ビダーシャルはハルケギニアを訪れ、
多くと触れ、多くと語り、
そして今、感じるのだ。

自分がまた、この地と繋がる命の一つに過ぎないということを。

「何っ――」

「大地よっ!」

ビダーシャルは、ごくごく短く、口語で唱えた。
非常に単純な一言。それで充分。
大地との繋がりを密にし、それを感じとれる者に、長い呪文は不要。

「我をとりま……ぐわああああぁあああああああぁぁああぁぁアアアアアアァァァァッ――」

大地は隆起し、大地は飲み込む。
偽った者を、命を擬するという愚行を犯した者を。
地より生れし者は、滅びの断末魔と共に再び土塊と塵に帰した。

「感謝する。我の偽者よ。
 高慢たる己に気付かせてくれたことに」

術者が消えることは、
操られていた死体や人形達が無限の回復力を失うことを意味する。

やがて、最後まで立っていた骸が、臭気を巻きながら牛鬼が一斧で沈黙する。

「――んー、一件落着、ですかね?」
「だな」
「疲れたぁ〜……おなかすいたぁああ〜!!」

レイスウォール共同墓地、死者は全て地に眠り、
立つは今と未来を生きる命ある身。

「感謝する。ヒトとして――」

ビダーシャルは、そっと感謝した。
この地に生きる命の一つとして。
220ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 13:59:56 ID:7h++JwKA
----

「ヒトじゃなくてバケモノつったっけ、えぇ?ホメてくれてありがとよぉっ!!」

フシュルルルル、と火炎を伴った唸りが、整えられた花壇を消し炭にする。
トリステイン魔法学院の中庭は、さながら炉の中のようであった。
戦いの邪魔をされたこと、自分の武を馬鹿にされたこと、
そうしたものが、メンヌヴィルの憤りに油を注ぐ。
今や、火龍の姿となったメンヌヴィルは、吐く息一つですら必殺の炎となる凶器となっていた。

「成り下がっておるのう、ほんに……」

オールド・オスマンは辛うじて、といった風情で後ろに下がり続ける。
ヒトとしての姿を捨て、バケモノとなったメンヌヴィルを憐れみの目で見つめながら。

「進化だっつってんだろうがっ!
 力こそ全てなんだよっ!そうだろ?だろ?だろぉお!?」

轟、剛、豪と空気が震える。
メンヌヴィルの尻尾だ。
空気すら焼きつくす炎が、弧を描いて何度も何度も大地に振り下ろされる。
鈍、重い音。
オスマンがいた大地が、次々と潰されていく。

「なるほど。
 確かに無駄に力いっぱいじゃのう、お主」

オスマンはこれに対し、意外な呪文で対抗した。
土魔法の基本中の基本、『アース・ハンド』。
大地を少しばかり手の形状に隆起させる、ごくごく初歩的な技。
一度に出した数やオスマンの背丈ほどもある大きさこそは、流石に年季を感じさせるものの、
戦闘における『アース・ハンド』はせいぜいが足止め用の防護壁。

所詮は基本技なのだ。
普通、土メイジはこれを発展させ、『錬金』やゴーレムの作成へとその技量を進める。
意表をつくならいざ知らず、このような状況で『アース・ハンド』など、愚の骨頂と言えた。
あるいは、その大きさからすると、その中に逃げ込むことを想定したとでもいうのだろうか。

「爺ぃにしちゃいい動きじゃねぇかっ!」

当然、メンヌイヴィルにこれは効かない。
彼は盲者。目では無く、匂いや熱で物を見る。
一笑のもとに、覇と息を吐く。
ある土塊は灰と化し、別の土塊は血よりも紅くドロドロに溶ける。
残った土の塊の中に、オスマンの熱があることを、メンヌヴィルは確認し、
獰猛な口を、額に届かんばかりに釣り上げた。

「だがツメが甘ぇんだよっ!囮にひっかかるわけねぇだろ、えぇ!?
 古臭ぇことしやがって!これだから爺ぃはよ、えぇ!?」」

チェックメイト、なんと呆気なく、詰まらない。
せめて怯えろ、せめて感じさせろ、俺の脳味噌を湧き立たせろよと、
メンヌヴィルはそのバケモノの体を、じっくりと見せつけるように近づけていった。
221ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 14:00:53 ID:7h++JwKA
「――じゃがな、暴力だけが力じゃないんじゃぞい?」

これに対し、オスマンが取った行動は、合掌。
洋の東西を問わず『祈り』を示す仕草。
パンッという小さな柏手の音。
それが、合図。
それが、メンヌヴィルの終わりの音。

「んなっ!?」

特大級の『アース・ハンド』。
家一軒を飲み干すほどの大地の塊。

「たゆまぬ積み重ねもまた、力じゃて――」

両手の形状をしたそれは、菩薩や神といった威圧感と慈悲深さを伴っていた。
分厚く重いその全容を見切る前に、メンヌヴィルはその掌に、飲み込まれていった。

「『バケモノは岩に封じられる』……古典どおりじゃろ?」


――オールド・オスマン。
  彼はそもそも、落ちこぼれとも言える人間であった。
  通常の土メイジは、『錬金』やゴーレムの生成、あるいは建築学といった、
  より華やかで必要とされる技法を学んでいくものだ。

  だが、若き日のオスマンはそれができなかった。
  彼にはそのような別種の魔法を行使するだけの才覚が無かったのだ。
  いつまでたっても、土魔法の基礎中
  故に、土魔法の基礎、古典ばかりを繰り返す彼を、周囲はこう呼んだ。
  『オールド(古臭い)・オスマン』と――

「へっ、こんな岩っ――」

閉じ込められたメンヌヴィルは、自分がまだ潰されていないことに、些か戸惑いつつもほくそ笑んだ。
本気であの爺、耄碌しきってやがる。閉じ込められた程度で勝ちだ、とでも?
メンヌヴィルは暗闇の中、気炎を上げた。
とっとと、この馬鹿ほどにでかい岩の塊を溶かしてあの爺を葬って……

「(なんだ?くる……し……)」

ぐらり、メンヌヴィルの意識が揺れる。
自分の炎が小さくなる。
自分の武が、折角手に入れた自分の力が、どんどん小さくなる。
慌てて取り戻そうと力を入れようとするたび、苦しさが強くなる。
なんだ、これはなんだ。
メンヌヴィルは暗闇の中、どんどん狼狽していった。

「伊達にコルベール君の話を聞かされておらんよ」
222ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2010/05/22(土) 14:01:38 ID:7h++JwKA
――だが、若きオスマンは、揶揄の言葉をむしろ励みとした。
  基本しかできないのなら、古臭い技しかできないのなら、
  それを極限まで極めてしまえば良いのではないか。

  古臭いとも言える根性論。
  努力と言う名の幾千、幾奥の繰り返し。
  賞金稼ぎまがいの無茶な武者修行。
  それらがオスマンを磨き上げ、彼の『アース・ハンド』を強くした。

  いつの日にか、彼の呼称である『オールド・オスマン』は蔑視の言葉ではなく、
  尊敬と畏怖の言葉として響くようになる。
  すなわち、『オールド(偉大なる)・オスマン』と――

コルベールの話、とはいつぞやの一席で彼が熱心に語った『ジョウキキカン』なるものの話のこと。
閉じ込められた炎や熱気がそれほどまでに力を秘めるならば、
完全に密封してしまえば良いのでは?というオスマンの問いに、
コルベールはかぶりを振ってこう答えたのだ。
『物が燃え続けるには、条件が必要なのだ』、と。
曰く、一に燃料、二に温度、そして三に、生きる者ならば吸わねばならない空気である、と。
これらのいずれかが削られたら、炎は成り立たぬということをオスマンは聞いていた。

オスマンは、この話を元に戦を組み立てた。
必要なものは、メンヌヴィルに溶かされぬ種類の土と、それが埋まる場所の確認。
しかる後、最大の機会に、最大の『アース・ハンド』を。
積み上げてきた物を誇るからこそ、
自分の友の知識を信じるからこそできる、戦略であった。

「ちく……ちくしょぉお……」

まるで蝋燭の炎が、自分の力で蝋燭そのものを溶かし切ってしまったかのように、
メンヌヴィルはその体を、自分の力そのもので消耗し尽くし、やがて動かなくなっていった。

それは、『バケモノ』に相応しい最後であった。

------
本日は以上です。
前回から間が開いて本当に申し訳ございません。
次回はなるべく早く……できるといいなぁ……
お待ちの間に、もしよろしければ拙作のクロス元でございますFF9、
こちらのアーカイブが1500円で配信中で、、
PS3&PSPでプレイ可能ですので、楽しんでいただければなーと、
1ファンとして願う次第でございます。

それでは、お目汚し失礼いたしました。
223名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 15:04:53 ID:oYgtUVgC
こういう腕っ節とか正面からのパワーではなく
ちょっとした工夫で恐るべき強敵を倒すって大好き

次も期待しておりますです、はい
224名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 15:14:36 ID:Q0Jo56Lp
各々の台詞の繋がりといい、
決着方法といい最高に楽しませていただきました 乙です
225名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 15:16:33 ID:kWbFYaiX
個人的に日常が一番好きなので話に決着ついても、もうちょっとだけ続いて欲しいんじゃよ(亀仙人ボイス)
226名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 15:28:02 ID:g3gK5EHu
乙です。
たゆまぬ努力、いい言葉ですね。
227萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 18:47:50 ID:g3gK5EHu
こんばんは。
進路クリアなら19:00ごろより22話の投下を開始します。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 18:51:22 ID:TUQWM1fU
こちら旭日艦隊旗艦、超戦艦日本武尊、ただいまより友軍の投下を援護すべく支援砲撃を開始する。
229萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:00:00 ID:g3gK5EHu
それではいきます。


 パーティも終わり、夜も更けたニューカッスル城郭。夜明けもまだ遠く、
重なった双月と星明かりだけが頼りの天守に、3人の人影があった。
「それでは殿下、これをおあずけします」
 そう言って信号銃を取り出したのは、ルーデル。ハルケギニアの最新型
火打ち石式短銃よりも小型でありながら堅牢かつ精緻なドイツ製信号銃に、
ウェールズ皇太子は目を見張る。
「……ここをこう動かして、この信号弾を装填して下さい。装填が
終わったら、ここの安全装置のレバーを動かして。準備ができたら空に
向けて撃つ。これだけですわ」
 ルーデルがそう説明した後、装填済みの信号銃と一緒に信号弾1発を
手渡す。それを受け取ったウェールズ皇太子は、動作を確認しながら
言った。
「分かった。それでは攻撃開始時には1発、中止時にはもう1発。
しかし、本当にこれが空の上から見えるのかい?」
「問題ありません。私は高度15000で待機。本当なら偏西風の下の8000に
いたいところだけど……」
 ふがくはウェールズ皇太子の心配を打ち消すように頷く。だが、
ふがくも投弾時の風の影響はなるべく減らしたいと考えていた。
「高度が低いと敵に見つかっちゃう可能性があるわ。ふがくちゃん。
ここが高度3000メイルの浮遊大陸だって忘れちゃ駄目よ?それに、一度
攻撃されてるんでしょ?13000付近で。
 第一、ふがくちゃんだったらそれくらいの計算楽勝でしょ?」
「まぁ、そうだけど……
 あ、忘れるところだった。ルーデルにも、これ1本あげる」
 そう言ってふがくは懐から油紙とコルク栓の上からさらに『キケン』と
ハルケギニア語で刻印してある蝋封までされた、彼女の腕ほどのガラス瓶を
取り出す。中には緑の透明感のある液体が入っており、それはルーデル
だけでなくウェールズ皇太子の興味も引いた。
「ガソリンよ。作戦行動だし、ルーデルもこっちに来てから一度も補給
してないんじゃないかな?って」
「ガソリン?何だね?それは?」
 聞き慣れない言葉に首をかしげるウェールズ皇太子。対照的にルーデルが
喜色を浮かべる。
「嘘!?本当に?お姉さんうれしいわぁ。ありがたく、いただくわね」
 そう言うが早いか、ルーデルは鋼の乙女の膂力でジュースの栓でも
抜くかのように苦もなく封蝋ごと栓を抜き、中の液体でのどを潤す。
「はぁ。いいわぁ。合成だけど、どこか懐かしい味ね。オクタン価も
結構いい感じだし。アルコールよりずっと体のキレがいいわ。
 ね、ふがくちゃん。これ、どこで手に入れたの?」
「それは内緒。もらい物だし」
 ふがくはそう言って出所を明らかにしなかった。シエスタからもらった
木箱の中に大量のおがくずに埋もれるように4本入っていたので、嘘は
ついてない。それに、何故かタルブの村のことをルーデルに話す気が
起きなったのだ。その様子を見たウェールズ皇太子が、不思議なものを
見るような目で二人を見ていた。
「……それは、東方の飲み物なのかい?ルーデル君が封を開けたとたん、
かいだこともない刺激臭がしたが……」
「駄目です。殿下。これは私たち航空機型鋼の乙女や飛行機械の燃料です。
人間が飲んだら鉛中毒を起こします」
「そ、そうなのか?」
 強い口調でいさめるふがく。それに気圧されるウェールズ皇太子。
さらにそれに続くようにルーデルも楽しそうに言う。
230萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:01:23 ID:g3gK5EHu
「そうねぇ。こっちのワインにはサパみたいな危ない甘味料は使って
ないみたいだし。殿下の前で飲んだのはちょっと軽率だったわ」
「ぜんっぜん反省してないでしょ?アンタ」
 ジト目でルーデルをにらみつけるふがく。だが一向に意に介さない
様子のルーデルに、ふがくは溜息をついた。
「はぁ。まぁいいわ。
 とにかく、私は敵が私を視認しにくいうちに上空待機。日の出とともに
国王陛下から叛乱軍に降伏勧告を行い、従わない場合は攻撃開始……
これでよろしいですね?」
「ああ、それでかまわない。ふがく君の攻撃が終了後、ルーデル君による
艦船攻撃、それでも残っている敵を我々が掃蕩する……わけだが、
たぶんそこまで残っている敵はいないだろうね。
 しかし……高度15000メイルか。かつてガリアの竜騎士が高度8000
メイルに挑んで始祖の罰を受けたと聞いたことからすると、まさに雲の
上の話のようだよ」
 ウェールズ皇太子はそう言って、笑った。


 その頃、大使としての役目を終えつつあるルイズは、包囲された戦場と
いう緊張よりも強い疲労感に負け、深い眠りについていた――

 ――あれ?

 ふと気がつくと、ルイズは制服姿で見慣れぬ場所に立っていた。
いや、それは正確ではない。ルイズはこの場所に一度来たことがあった。

(ここ、ふがくの元いた場所……)

 そこは、前にふがくともう一人の女性がいた部屋。だんだんと音が
聞こえるようになってくる。最初に飛び込んできたのは、聞き慣れた
乙女の怒鳴り声だった。
「なんで出撃できないのよ!レイたちの攻撃で、ミッドウェー島そのものが
罠だって分からないの?
 敵は機動部隊、いいえ、あかぎを狙ってる!アタシが出撃すれば、
あんな奴ら、一気に爆砕してやるわ!」
 それは鋼の乙女、ふがく。その顔は怒りに震え、今にも爆発しそうな
勢いだ。彼女の前には、真っ黒い眼鏡をかけて白いつば付きの帽子を
かぶり白い上着とズボンの制服を着た、黒髪に白髪交じりの男がいた。
「落ち着け、ふがく!おめえさんの出撃は、司令官殿から禁止されてるんだ。
未完成のおめえを、今出すわけにはいかないんだよ!」
 熟練した雰囲気をまとったその男は困った顔をするが、それでもふがくの
怒りは収まらない。
「アタシはもう完成してる!
 今ならミッドウェー上空に間に合う!時間との戦いなのよ!整備長も、
あの司令官も、それを分かってるの!?」
 整備長と呼ばれたその男は、ふがくに指をびしっと突きつけられても
動じる気配はない。
「落ち着け!確かに機体的にはおめえさんは問題ないが、一度でも戦闘
訓練やったのか?おめえは秘密兵器で決戦兵器だ。ここはこらえろ!」
「そんなの関係ない!アタシは……!」
 肩をつかむ整備長の手を振り払い、外に出ようとするふがく。そのとき、
部屋に置かれた奇妙な鉄の箱が耳障りな雑音を発し始めた。
『……ちゃん。ゆきかぜちゃん、聞こえる……かしら?』
「あかぎ!?」
 雑音の後に聞こえたそれは以前聞いたことのある声。だが、それは
ひどく苦しそうで……『ゆきかぜ』という知らない名前を呼ぶ声は、
今にも消えてしまいそうだった。
231萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:02:42 ID:g3gK5EHu
『この声……あかぎさんですか?!』
 箱の中から波の音をバックに聞いたことのない少女の声がする。これが
『ゆきかぜ』なんだろう。ゆきかぜはあかぎをとても心配しているのが
手に取るように分かる。ふがくも、その箱にかじりつくように声に耳を
傾けていた。
『そう、よかった……その声なら、無事そうね』
『あ、あかぎさん、何があったんですか……?!』
 あかぎの声に混じって何かが飛び去るような音や爆発音が聞こえる。
これはルイズにも分かる。戦場であかぎが危ない目に――いや、死ぬ
ような目に遭っているのだ。
『こっちは、大変だけど……そっちには、敵はいないみたいね』
『はい……!私たちは大丈夫です。あかぎさん、私、今そちらに……!』
「……アタシも出る!レイやゆきかぜだけに任せておけない!」
 箱から聞こえるあかぎとゆきかぜの会話に業を煮やしたふがくが
飛び出そうとする。だが……

『ダメよ』

 その言葉にふがくの足が止まる。その否定の言葉は短くて、とても
強い響きを持っていた。ゆきかぜもそれにあらがうことができずに息を
のむ音が聞こえる。
「……どうして……あかぎ、どうして……」
 箱の中からはまだゆきかぜ以外の、他の知らない鋼の乙女たちのあかぎを
呼ぶ涙混じりの声が聞こえている。さっきふがくが言っていた罠に、
あかぎたちが絡め取られてしまったのだ。
「……くっ!」
 涙がこぼれそうになるのを振り切って、ふがくは外に出ようとする。
しかし、その前に一人の男が立ちはだかった。
「……困るな。きみは最強の鋼の乙女となるためにここにいるんだ。
まだ改造も始まっていないのに、どこに行くつもりだね?」
 以前見かけた高官たちが着ていた制服ではなく、整備長の着ているような
制服でもなく。ここの誰とも違うフォーマルな印象の服装の上から白衣を
まとい、眼鏡をかけた、金髪の長身の男。妙に偏執狂的な雰囲気を漂わせた
その男は、冷たくふがくを見下ろしていた。
「え、M博士。どうしてここに?」
 整備長がふがくをかばうようにM博士と呼ばれた男の間に立つ。黒髪の
人間ばかりのこの場所で、金髪のM博士は非常に異質に見えた。
「ミッドウェーの趨勢は決した。このまま日本は敗北の坂道を転がり
落ちるだろう。無能なる上層部が己の無能に気づくことはあるまい」
「それはちょっと……聞き捨てなりませんな。司令官殿の許可はお取りで?」
 言葉の端に怒りをにじませながら整備長はM博士と向き合う。だが、
彼はそんなことは意にも介さなかった。自分はこの男よりも偉いのだ、
という傲岸不遜な態度だ。
「あんな男の許可を得る必要はない。私は大本営の懇願でこの大日本帝国を
勝利へと導くため、ドイツからやって来たのだからな!……そうとも!
アメリカを、世界を灰燼に帰し、勝利するのだ!
 さあ、フガク。こっちに来るんだ!」
 そう言ってM博士はふがくの手を強引につかむ。ふがくは……ふるふると
頭を振り、彼女にはあり得ないほど珍しくおびえた表情を見せる。
「い……いや……。助けて……あかぎ。あかぎぃ!」

 ルイズはベッドから飛び起きる。体中を嫌な汗が濡らしている。
激しい動悸を抑えつつ、ルイズは荒く息をついた。
232萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:04:12 ID:g3gK5EHu
「はぁっ。はあっ……」
 ようやく息を整えたルイズは、窓から外を見る。まだ夜明け前。
しかし、夜明けとともに王軍が反撃を開始することは、昨日ルイズも
聞いている。ルイズは脇机に置かれた金銀銅のベルに目をやった。
 『固定化』でもかかっているかのようにサビどころかシミひとつない
それは古いマジックアイテムで、それぞれのベルを鳴らすとベルに呼応した
メイドが呼び出されるという。一日に一つのベルしか使えないということ
だが、一揃えしかない貴重なもので、普段は体の弱った国王ジェームズ一世が
使っているものを、大使であり、公爵家令嬢であるルイズに貸し与え
られていた。
 ルイズは何となく手にした銀のベルを鳴らした。澄んだ音が響き、
程なくしてドアがノックされる。
「入って」
 ルイズが入室を許可すると、ルイズと同い年くらいの、長い金髪に
青いリボンを結んだ、緑色の瞳の勝ち気な感じのメイドが現れた。昨日の
パーティや、寝る前までは見なかったメイドだ。
「お呼びですか?」
「体を拭きたいの」
「かしこまりました。大使さま。しばらくお待ち下さい」
 そう言ってにこやかに微笑むとメイドは一度部屋を辞した。だが、
それも数分。再びドアがノックされ、失礼します、との言葉に続いて
開けられたドアから、先程のメイドが湯が張られた銀の洗面器とタオルや
香油などを載せたワゴンを押して入ってきた。
「それでは、失礼します」
 ベッドの上で背中を向けるルイズに、メイドはそう断ってからゆっくりと
汗を拭き始める。本来は準備してもらうだけで後は自分でするつもり
だったのだが、さすが国王陛下のお世話をしているだけある。最初は
そこまで気にしなかったが、メイドというより侍女……いや女官と呼んだ
方がしっくりくるようなその気品と手さばきに、気がつくと全身の汗を
拭かれたばかりか香油まで塗られていた。
「あー。わたしはここまでしてもらうつもりはなかったんだけど……」
「ご迷惑でしたか?」
「ううん。そんなことはないんだけど……」
「?」
 ルイズが指定した、学院の制服を着付けるメイド。そのきれいな声は
ルイズの心の奥までしみ通り、その顔は終始にこやか。公爵家令嬢であり、
こういう待遇には慣れているはずのルイズが、何故か、本来やらせては
いけない相手にこんなことをしてもらっているような……たとえれば、
アンリエッタ姫殿下にメイドのマネをさせているような……そんな居心地の
悪さがつきまとっていた。
「はい。終わりました」
 そう言って、メイドは鏡を持ってルイズの前に立つ。髪を梳き、薄く
化粧まで施された自分の顔は、はっきり言って普段自分がするより
かわいらしくきれいに見えた。
「あ、ありがとう」
「それでは、失礼します。また御用の際にはお呼び下さい」
 メイドはにこやかに言うと、ワゴンを押して部屋を辞した。メイドが
いなくなってから、ルイズはあのメイドの名前を聞き忘れたことに気づいた。
「……国王陛下のお世話をするんだから、それなりの貴族の令嬢ってことも……」
 だが、ふがくの様子を見に行く傍らそのメイドのことを通りがかった
メイドに聞いても、どういうわけか皆曖昧な答えしか返さなかった。


 ニューカッスルから少し離れた丘に広がる森の中。貴族派が陣を展開する
最後尾に近いところに、小さな集落があった。ニューカッスルで生産される
毛織物のボタンや装飾に使うガラス職人が暮らす集落で、彼らは王党派にも
貴族派にも荷担せず、日々の自分たちの暮らしを精一杯生きていた。
233萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:05:52 ID:g3gK5EHu
「……ねえお父さん。これから、どうなっちゃうの?」
 自宅に併設された工房の窓から、少女が父親に話しかける。夜中から
今まで聞いたこともないような低いうなりのような音が空から聞こえ、
窓の外には、『レコン・キスタ』の三色旗を掲げた貴族派の軍勢が
ニューカッスル城郭を包囲しているのが見える。
 娘の問いかけに、父親は窯から目を離さず答える。
「何も変わらないさ。王様がいなくなっても、神聖皇帝とか名乗ってる
王様みたいなのがそこに座るだけ。俺たちには何の関係もないのさ」
 娘は父親の言葉に「ふうん」と頷いてみせる。そうして、また窓の外の
景色に目を移した――


 ルイズがニューカッスル城の天守に上がると、そこにはすでに国王
ジェームズ一世とウェールズ皇太子、それにギーシュとルーデルがいた。
城下に目を移すと、城門の前に王党派の最後の軍団がすでに杖を並べて
いつでも出撃できる体制を整えつつある。自分が一番遅かったと気づいた
ルイズは、恥じ入るように顔を赤くした。
「あ……と、おはよう、ルイズ。今日は、一段ときれいだね……」
 最初にルイズに話しかけてきたのはギーシュだった。あのメイドの手に
よる今日のルイズはいつもと勝手が違うのか、ギーシュの顔も心なしか
赤いような気がする。モンモランシーには悪いが、異性にほめられて
悪い気はしない。
「国王陛下のメイド……っていうか女官?に寝汗を拭いてもらおうとしたら、
こうなっちゃったのよ。
 ところで、ふがくは?」
 ルイズが辺りを見回すが、ふがくの姿はない。ルイズの問いかけには
ルーデルが答えた。
「ふがくちゃんはもうお空の上よ。ルイズちゃんたちがここにいるって
バレないように、服を着せた藁束を抱えていったん東に飛んで見せてね。
今は上空待機で合図待ちよ」
 言われてみれば、ここに上がったときから空から低いうなりのような
音が聞こえていた。ふがくがいったん東に飛んだというなら、敵はルイズたちが
用を済ませて帰ったとだまされてくれたのだろうか?
「ルーデル君の言うとおり。ラ・ヴァリエール嬢とド・グラモン君は
あまり前に出ないように。敵に見つかると良くないからね」
 ウェールズ皇太子が言葉を継ぐ。だが、「よく眠れたかな?」との
言葉には、ルイズはごまかすことしかできなかった。
 そうしているうちに太陽が東の空から顔を出し――ジェームズ一世が
城郭を取り囲む叛乱軍を射貫くようににらみつけた。


「……降伏勧告だと?」
 『レキシントン』号の指揮所は騒然となった。夜明けとともに行われた、
王党派による貴族派への降伏勧告――魔法で拡声された老王ジェームズ一世の
確固とした声は布陣した貴族派の隅々まで響き渡り、動揺と憶測を呼んでいた。
 ニューカッスル包囲軍総司令官であり、艦隊司令長官でもある
サー・ジョンストンは、それを一蹴した。同時に艦隊の左砲戦および
隷下の五万の陸上戦力に総攻撃を命じる。
ここに、歴史に残る『ニューカッスル攻防戦』が開始されたのである――

「……やはりこうなるのか……」
 敵艦隊の動きを見て、ウェールズ皇太子は懐から信号銃を取り出す。
事前に確認したとおりにセーフティロックを外し、高く掲げた状態で
引き金を引いた。
「……始祖ブリミルよ。せめて、彼らに安息を与え給え」
 『レキシントン』号指揮所で、ネルソンとボーウッドは夜明けの空に
おいても光り輝く、天高く上げられた花火を見た。それは二人には
あのレキシントンの戦いにおいて見た花火を連想させ……同時に背筋を
駆け上る悪寒に、総司令官を差し置いて命令を発していた。
234萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:07:16 ID:g3gK5EHu
「……いかん!全艦退避!」
 二人はあの双子の姿が見えないことに気づかなかった。

 そして、信号弾を確認したふがくは……瞑目した後、眼下に広がる
軍勢をその両目にとらえた。
「目標確認。投弾弾種収束焼夷弾。これより爆撃を開始する」
 ふがくは懐から大きなドラム缶のような爆弾を取り出した。そして、
自分自身に言い聞かせるようにもう一度瞑目してそれを投下する。
「ルイズ。これが……アンタの命令の結果よ!」


 その頃。トリステイン魔法学院――

 夜明けのテラスで、ワルドが1冊の雑誌に目を通している。
そこにエレオノールが現れた。
「やあ。早いね」
「ジャンこそ。……何を読んでるの?」
 エレオノールはワルドが手にしている雑誌を見て……眉間にしわを
寄せた。
「アンタねぇ……」
「僕が『MoreMoe』を読んでいるのがそんなにおかしいかい?」
 ワルドが読んでいた雑誌『MoreMoe』とは、トリスタニアで発行されて
いる青年向け雑誌。常備軍や王立機関で働く若い貴族の女性を、出版社
お抱え絵師が場合によっては当人の許可を得ずに隠し撮り的に描いた絵を
中心にして特集する雑誌なのだが、誇張はあっても嘘やでっち上げが
一切ないためか主な読者層の青年貴族以外に、決まった特集に限り何故か
平民の少女達にも売れていることで知られる。エレオノールは読んだ
ことはなかったが、ワルドが愛読者だとは知らず思わず溜息を漏らしたの
だった。
 ――だが、エレオノールが知らなかったことは幸運なのかもしれない。
毎号行われる読者アンケートで、現在エレオノールは二冠を達成している
のであるが……それが『知的美女』はいいとして『踏みつけられたい
理想の委員長』でもダントツのトップ。現在集計中の『冷たい目で
見下ろされながら蔑みの言葉を浴びせられたい美人秘書』でもアニエスと
激しいトップ争いのデッドヒートの真っ最中だったのだから……
「それで、どうしたのかな?」
 ワルドは『MoreMoe』をエレオノールの視線から外すように閉じて
まっすぐ向き合った。エレオノールがテーブルにつくと、エレオノールの
お付きを命じられているシエスタがやって来て素早く二人分の紅茶を
淹れた。
「ちょっと、ね。胸騒ぎがするのよ」
「胸騒ぎ?」
「ええ。おちび、これ以上余計なことに首を突っ込んではいないかしら、
と思ったのよ」
 そう言ってエレオノールは西の空を見る。ルイズの行き先は聞いて
いなかったが、鋭い姉の勘は見事に妹の居場所を見据えていた。


 そして……異世界大日本帝国製の地獄が、ここアルビオン王国ニューカッスルに顕現した。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 19:09:01 ID:TUQWM1fU
こちら、超々ド級戦艦土佐、遼艦の浮沈要塞播磨、氷山空母ハボクックとともに戦線に参加する。
続けて超ド級空母大和、不沈戦艦紀伊、航空母艦鋼龍も参戦予定。全力を持って支援せよ。
236萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:10:03 ID:g3gK5EHu
 それは最初は小さな光だった。薄雲が浮かぶだけの晴れ上がった空に
いくつもの光輝が出現し、それがばあっと広がって炎の雨となった。
炎の雨は瞬く間に五万の軍勢を覆い尽くし、城郭の外の草原を炎の海に
変える。
「火がっ!火が消えねぇ!」
 ある傭兵は30メイル向こうで起きた爆発から飛び散った炎が、自分の
右肩にへばりついたまま、地面に転がっても消えないことに悲鳴を上げた。
その横では、炎の雨に首筋を直撃された哀れな民兵が生きたまま松明に
なっている。水メイジが『凝縮』(コンデンセイション)や『ウォーター・シールド』の
魔法で火を消そうと躍起になるが、ふがくが投下した油脂焼夷弾、
エレクトロン焼夷弾、黄燐焼夷弾のどれも、その程度で消えるような
代物ではない。ただ、『ウォーター・シールド』がかけられた草原には
火が燃え移らなかったため、少しでも被害を減らそうと懸命な努力が
続けられたが……その上からさらに無慈悲な炎の雨が降り注ぎそれらを
炎の海に消し去った。
「水ではダメだ!土を!土砂で埋めてしまえ!」
 水メイジに代わって土メイジが『アース・ハンド』で焼夷弾を包み込み
無力化を図るが、温度が高すぎてぼろぼろと崩れていく。中には『錬金』で
焼夷弾ごと泥の海に変えてしまい無力化に成功した者もいたが、それらすら
次々と投下される炎の雨に消えていく。城壁に伝わる劫火の熱と立ち上る
黒煙、外から聞こえる阿鼻叫喚は、突撃の号を待つ王党派の戦意すら
挫きかけていた。

「これは……焼夷榴散弾か!?完成させていたのか……」
 猛烈な回避運動を取る『レキシントン』号の指揮所から、ボーウッドは
うめくような声を上げる。それはロサイスの王立空軍技術廠で開発が
進められていた『人道にもとる兵器』。木造船であるフネを艦隊単位で
焼き払うことを目的として開発された砲弾だが、対地攻撃に使えばメイジ、
平民の区別なく焼き払うことが可能だと当初より言われていた。
 もっとも、当時巡洋艦の艦長だった二人はそこまでは知り得なかった。
そして技術廠は貴族派がロサイスを占領した際には真っ先に接収された
施設だったが、王党派が脱出する際に『イーグル』号と搭載された
新型機関や新型砲、そして『イーグル』号を拡大発展させた計画中の
新型艦の資料とともにこの砲弾に関する資料もほとんどが持ち去られていた。
「あの石炭を『錬金』した油を詰めた砲弾か……。ニューカッスルには
造船所や新型機関を製造する工廠がある。ぼくたちは、王党派を追い詰め
すぎたのかもしれないね……」
 ネルソンは回避運動を指示しながら言う。そう。今までニューカッスルは
包囲するだけでほとんど攻撃が加えられなかったのは、貴族派がここに
しかない施設を可能な限り無傷で確保したかったというのが大きい。
しかし、二人は知らなかった。ふがくが投下した焼夷弾は、それらを
遙かに上回る凶悪な兵器だったのだ。
「そんなことはいい!それよりもこの砲撃を行っているフネはどこだね!?
早く見つけて撃沈しないか!」
 遠慮仮借なしの三次元回避運動に船酔いしたサー・ジョンストンが、
口元をハンカチで押さえながら二人を叱責する。所詮、この男は軍人では
なく、政治家でしかない。この攻撃に砲撃の音が伴わないことに気づかず、
またフネの姿すら見えないことが理解できていない。見張りが望遠鏡や
巨大な据え付け式の最新式双眼鏡で上空を探しているが、いまだそれらしき
ものは発見できずにいた。
 そこに上空から急降下を仕掛ける影があった。それは誰であろうルーデル。
急降下爆撃機Ju87スツーカの特徴であるダイブブレーキからのサイレンの
ような音をかき鳴らしつつ、『レキシントン』号に肉薄する。
「本艦直上!急降下ぁ!!」
 カンカンカンカン!攻撃を知らせる鐘が鳴り響き『レキシントン』号が
ゆっくりと進路を変える。その様子を、ルーデルは舌なめずりをする
猛禽のような視線で見下ろしていた。
「ふふっ。もう遅いわよ。悪魔のサイレンの二つ名は伊達じゃないのよん♪」
237萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:11:54 ID:g3gK5EHu
 ルーデルの両目は、自分と目を合わせておびえた表情の貴族派水兵の姿を
とらえていた。その姿にルーデルは満足し、爆撃を敢行する。
 ルーデルの必殺技『ゼクスィグラナーテ』――かつて、地中海のマルタ島を
巡るエクセス作戦において、イギリス王立海軍が誇る装甲空母イラストリアスを
一撃で大破せしめた、本来は空ではなく海の艦船に行う攻撃を、
『レキシントン』号は余すところなく受ける。10発を超える爆弾が全弾
直撃したことにルーデルは満足したが、その表情がとたんに一変する。
「じゃあね、バイバ〜イ♪……って、あら?ひょっとして本当にナカまで
全部木造だったの?」
 爆発の大半は『レキシントン』号を突き抜け、地上で起こっていた。
対艦攻撃を想定した徹甲爆弾だったため、装甲材が存在しないフネを
最上甲板から船底まで突き抜けてしまったのだ。爆撃は大地を揺らし、
炎の海から逃げ惑う哀れな将兵を吹き飛ばした。
「ああん。ふがくちゃんみたいに焼夷弾の持ち合わせはないのよねえ。
こんなんじゃ爆弾はもったいないし……仕方ないか。ふがくちゃん、
悪いけど逃げた艦隊に一発お見舞いできない?」
『了解。まかせて』
 ふがくの声が通信機から届くのを待たず、ルーデルはそう言って
重機関銃を構え後続のフネに向かっていく。その姿を見上げつつ、
『レキシントン』号の破壊された指揮所でネルソンとボーウッドは
命拾いしたことを始祖に感謝し天を仰いだ。
「……撤退する。全艦に通達。すべての艦艇は速やかに当戦域を離脱し
後方の補給艦隊に合流せよ!」
「陸兵は……。救助は……どうする?」
「何ができる?ボーウッド?あの陸兵を覆い尽くす炎の海と、艦隊を
高速で襲撃する悪魔のような鉄の翼を持つ翼人……今のぼくたちに、
撤退以外の何ができる?!」
 ネルソンの問いかけにボーウッドは答えを持たなかった。だが……
「このままおめおめと逃げ帰る?そんなことができるか!艦長、突撃したまえ!」
 サー・ジョンストンは口から泡を吹きながらニューカッスル城郭を
指さす。ネルソンは従兵に静かに命じた。
「総司令官どのは錯乱された。お休みいただけ」
「は、放せ!くぁwせdrftgyふじこlp!」
 従兵に取り囲まれ指揮所から連れ出されるサー・ジョンストンを横目に、
ネルソンはつぶやいた。
「すべての責任はこのぼくにある。化け物どもめ……」
「……ホレイショ……。きみは……」
 そうして、メインマストに損傷を受け、甲板から船底まで大穴がいくつも
開いた『レキシントン』号は、艦体のあちこちから炎と煙を噴き上げ
ながらゆっくりと戦線を離脱していった――


「……陛下!これは、貴族の名誉も何もありませぬ!袂を分かったとは
いえ同じアルビオン貴族。これはあまりにも不憫でございます!」
「そのとおり!これでは……。どうか攻撃を中止させ、せめて我らと
杖を交える名誉を彼らにお与え下さい!」
 ニューカッスル城郭の中。城門の前で貴族たちは国王に懇願した。
今も城門の外からはうめき声や城門を叩き、爪を立てる音が聞こえる。
ふがくたちの攻撃終了後、残敵を掃蕩する手はずだが、かつて経験した
ことのない惨状に老王も判断を迷っていた。
238萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:13:16 ID:g3gK5EHu
「……こ、降伏する!だから城門を開けてくれ!開門!開門!」
「た、助けてくれ……助けてくれ……火が……火が!!」
 ガリガリと城門を叩き、爪でひっかき、懇願する声。だが、それは
唐突に連続して発生した爆風と爆発音にかき消された。
「な、なんということを……」
「城壁に迫る炎を、爆発で吹き飛ばしたというのか……。しかしっ……!」
 ニューカッスル城郭への類焼を防ぐため、ふがくが上空から連続爆撃で
消火を行ったことに王党派の貴族たちは言葉を失う。ふがくが爆風消火を
行った場所には、炎の海から逃げ城門を叩いていた貴族派将兵たちが
いたのだ。彼らから見て火の秘薬で消火を行うということも前代未聞なら、
降伏しようとしていた敵まで巻き込むこともまた、彼らの想像の埒外だった。
ただ、ふがくには、白旗も掲げずに城門に取り付く将兵が降伏しようと
していたとは分からなかったのだ。
 事ここに至り、老王ジェームズ一世は天守に立つ皇太子ウェールズに
顔を向ける。ウェールズ皇太子の横ではルイズが口元に手を当て震えが
止まらないまま立ち尽くしている。その体を、ギーシュが自身も震えながら
何とか支えていた。
「……もう、十分だ。ラ・ヴァリエール嬢。攻撃中止を命じるが、いいかね?」
 ウェールズ皇太子の問いかけに、ルイズはただ頷くことしかできなかった。
ウェールズ皇太子は新しい信号弾を装填し、信号銃を空に向けて引き金を
引いた。

「……な?!」

 ――何も起きなかった。信号銃から信号弾が発射されることはなく。
銃は沈黙したまま。
「不発だと?!こんなときに!」
「それじゃ……ふがくを止めることは……」
「できない。予備の弾がなく、所定の合図ができない以上、当初の計画通り、
二人とも敵を殲滅するまで攻撃の手を休めることはないだろう。
なんということだ……」
 ウェールズ皇太子は天を仰いだ。ルイズもギーシュも、燃え盛る草原と、
炎が迫りつつある森から目が離せなかった。


「こりゃまずいな。火の手がこっちに迫ってる。母さんを呼んできなさい。
逃げる準備をするぞ」
 森の集落で、ガラス職人の父親が娘に命じる。そして娘が工房の扉を
開けるのと、その遙か上空で一人の乙女が「しまった!」と悲痛な叫びを
上げたのは、ほぼ同時だった――


 ――そうして、空からの炎の雨が降り止んだ……
239萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:14:35 ID:g3gK5EHu
*

 攻撃開始からから現在まで、たった1時間も経っていない。
だが、その短い時間で、ニューカッスル城郭の外の景色は一変した。
脂が燃える臭いは消えず、黒煙を噴き上げる炎は依然として衰えず。
炎の海の向こう側には墜落し焼け落ちたフネが搭載した弾薬の誘爆を
起こしながらさらに燃え盛り、墜落の衝撃で暴走した風石がそれに拍車を
かける。城郭に流れる川にも川上から焼けた水死体が流れ着き始め、
ふがくの爆風消火で消火帯ができた城郭城壁周辺がそのまま残っているのが
逆に嘘みたいに思える光景に、王党派はことごとく言葉を失った。
 ニューカッスル城の天守で、ルイズたちもまた言葉を失っていた。
「……これが……ふがくたちの本当の戦いなんだね……」
 ギーシュが絞り出すように言葉を口にする。思えば、あのとき決闘なんて
馬鹿なマネができたものだと今更ながらに思う。ふがくがその気になれば、
魔法学院などいつでもこんな風にできたのだと思い知り、ぞっとした。
「敵国を破壊する……か。確かに、五万の軍勢と2隻のフネを1時間で
焼き尽くせるならば、このアルビオン浮遊大陸全土を焼き尽くすには
3日とかからないだろう。加えて迎撃不能なあの高度……アンリエッタが
このことを知れば、ゲルマニアとの同盟など無用になるな……」
 ウェールズ皇太子の言葉にも諦観が混じっている。昨夜のパーティでの
言葉に嘘はない。だが、現実は予想を遙かに超えていた。
 そして、ルイズは唇をかみしめ無言のまま炎の海から視線を離せずにいた。
黒煙に包まれた空は曇り、今まで見たことのない黒い雨が降り始める。
そこにルーデルとふがくが舞い降りた。
「ゴメン……誤爆した……。それに敵艦も3隻逃したし、敵兵もごくわずか
だけど逃げたのがいるみたいだから、追撃の必要が……」
「……らない」
「え?」
「いらないって言ったのよ!」
 黒い雨が降る中。申し訳なさそうなふがくの報告を遮り、ルイズは
ふがくの千早の袖にしがみついた。
「……こんな……こんなはずじゃなかったのに……。こんなはずじゃ
なかったのにぃっ!!」
 堰を切った涙の中で赦しを請うように。『こんなはずじゃなかったのに』
『ごめんなさい』と何度も口にしながら。
 ギーシュはルイズに手をさしのべようとして……触れることも声を
かけることもできなかった。
 そしてふがくもまた、すがりつくルイズを払いのけることも、抱き
しめることもできず、その場に立ち続ける。

 降り続ける黒い雨は、そんな3人の涙を覆い隠してはくれなかった――
240萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/22(土) 19:18:45 ID:g3gK5EHu
以上です。
今回は全編通してもトップクラスの重い話になるのでかなり書き直しました。
避難所行きになるようなエピソードや、そういう表現も使わないように
努力してます。

予定では次回でアルビオン編を終わるつもりです。
それでは、また近いうちにお目にかかれるよう頑張ります。


P.S.
Wikiへ登録をして下さる方、いつもありがとうございます。
お手数をおかけして申し訳ありません。
241名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 19:29:11 ID:TUQWM1fU
乙でした。徹甲弾で船体をぶち抜いてしまうとは、サマール海戦で大和が砲撃した護衛空母カリーニン・ベイみたいですね。
それとルイズ、戦争じゃあ水に落ちた犬は徹底的に叩きのめさないとダメですよ。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 19:33:53 ID:QicBJNe4
重い……。
どうなるんだ、これ。

次回が楽しみです
243ゼロの戦闘妖精:2010/05/22(土) 20:37:07 ID:E3V1UPIl
うわぁぁぁ! 乙っす。凄いっす!
お陰で ウチの話がこの辺りに差し掛かったときのハードルが 思いっきり高くなったような…
負けていられないっす!
244名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 21:11:45 ID:5ifnY64k
雨を見たかい
245名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 22:05:36 ID:8eYpz2Xh
>>190
黄金土竜海嘯召喚とかか?
ぶっちゃけギルバートは異常な程強いぞ、底抜けの馬鹿だけど
246名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 22:32:28 ID:qUEgmDtl
この大殺戮、小ネタにある聖剣とルイズを思い出した。あれも続きが読みたいな
247名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 22:34:24 ID:qUEgmDtl
あ、乙を忘れてた。というわけで乙!
248名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/22(土) 23:17:17 ID:t2Zwi59x
乙でございます。
249アノンの法則:2010/05/23(日) 00:33:05 ID:DwCIJiaK
アノンの法則です
予定が無いようなら投下させていただきます
250アノンの法則:2010/05/23(日) 00:35:32 ID:DwCIJiaK
ワルドを先頭に、アノンたちは桟橋へと走る。
幸い月のおかげで道は明るい。とある建物の間の階段にワルドは駆け込むと、そこを上りはじめた。
(桟橋なのに山を登るのか?)
疑問を感じたアノンだったが、迷い無く走るワルドと、それについていくルイズに黙って従った。
長い長い階段を上りきり、現れた光景を見てアノンは目を見張った。
山ほどもある巨大な樹が、四方八方に太い枝を伸ばし、まるで巨大な木の実のように船を枝からぶら下げている。
「コレが『桟僑』? アレが『船』?」
「そうよ。あんたの世界じゃ違うの?」
「船は海を渡るもので、空は飛ばないよ」
「海を渡る船もあれば、空を渡る船もあるわ」
こともなげに言うルイズ。アノンはそういえば、と、天界人が編み笠に乗って空を飛んでいた事を思い出した。
編み笠が飛ぶのなら、船だって飛ぶのかも知れない。
ワルドは大樹の根元に駆け寄り、空洞になった幹から各枝に通じる階段の一つを上り始めた。
それにルイズが続き、アノンは最後尾につく。
三人は木でできた、しなる階段を駆け上がる。
途中の踊り場で、アノンは何かが風を切る音を聞いた。
突如、マントを翻し、仮面で顔を隠したメイジの男が、踊り場に降り立った。
フーケと一緒にいた男だ。
ワルドの物に似た杖剣を持っており、『フライ』で一気にここまで上がってきたらしい。
アノンは男を認めると、デルフリンガーを抜き、いきなり斬りかかった。
男はなぎ払われた剣を飛び上がってかわし、そのままアノンの頭上を飛び越えてルイズの目の前に着地する。
男がルイズの腕を掴んだ。
「きゃあ!」
「しまった!」
男の狙いは最初からルイズだった。
だが、男はルイズを連れ去る間もなく、風の槌で吹き飛ばされた。
ワルドが『エア・ハンマー』を放ったのだ。
放り出されたルイズを、ワルドが受け止める。
「子爵様、ルイズを連れて先に船へ!」
「承知した」
「アノン!」
ワルドが叫ぶルイズの手を引き、階段を駆け上がっていく。
アノンは、なおもルイズを狙おうとする男の前に立ちはだかり、再度斬りかかった。
今度は避けずに、男は杖で斬撃を受け流し、後ろに飛びずさる。
アノンは深追いせず、距離を置いて様子をうかがう。
251アノンの法則:2010/05/23(日) 00:36:14 ID:DwCIJiaK
ほぼ不意打ちだった一撃目から、すでに動きを見切られていた。杖ごと叩き切るつもりだった今の攻撃も、あっさり流された。
それなのに、まだ相手の使う系統すらわかっていない。無闇に斬り掛かるのは危険に思えた。
なら、出し惜しみしている暇はない。アノンは気づかれないよう自然な動作で、背中に隠し持っている杖に手を伸ばした。
だが、背中の杖を抜く前に男が杖を振った。同時に、ひやりとした感覚。
直感的なものではない。実際に辺りの空気が冷えたのだ。
(冷気! 氷の魔法!?)
さらに男は呪文を唱える。
ざわ、と嫌な予感がアノンを襲った。
今度は完全にアノンの直感だったが、それを肯定するようにデルフリンガーが叫ぶ。
「相棒! 構えろ!」
言われるまでも無く、アノンはデルフリンガーを盾の様に掲げていた。
「『ライトニング・クラウド』!」
一瞬の閃光。
「ッ!」
稲妻がアノンの体を走り抜け、意識が飛びそうになる。
アノンはよろめき、その場にガクリと膝をついた。
雷に焼かれ、爛れた傷が大きく左腕に走っている。
さらに男は『エア・ハンマー』をアノンに打ち込む。
アノンはダメージを受けた体を無理矢理動かし、地面を転がってそれを避け、腕の痛みを無視して、転がった勢いのまま跳ね起きた。
間を置かずに、男に向かって突進する。
流石にこれは予測できなかったのか、男は突進と共に繰り出された突きは何とか杖で逸らしたものの、アノンの体当たりをまともに喰らった。
よろめいた男の背中が、踊り場の手すりにぶつかる。
アノンは密着した状態から、男の体を力いっぱい蹴り飛ばした。
脆い作りの手すりは簡単に壊れ、男は地面へと真っ逆さまに落ちていった。
「おい、大丈夫か。相棒」
荒く息をするアノンは、下を確認せず、すぐに船へと続く階段へ向かう。
男はすぐにでも『フライ』で戻ってくるだろう。
その前に、船を出航させてしまわなければ。
アノンは一気に階段を駆け上がった。
252アノンの法則:2010/05/23(日) 00:36:55 ID:DwCIJiaK
 
「出航ーーー!」
アノンが桟橋までたどり着くと同時に、船が出ることを告げる船員の声が響いた。
ルイズたちは、ずいぶん迅速に出航の手はずを整えた様だ。
船はもう桟橋から離れ始めている。
電撃を受けた腕が痛んだが、ここに置いていかれるわけには行かない。
アノンは全速力で桟橋を駆け抜け、すで桟橋から離れた船に向かって、走り幅跳びを敢行した。
それでも船は速度を上げ、どんどん桟橋から遠ざかっていく。
甲板まであと数メイル、というところで、アノンの体が勢いを失って落下を始めた。
アノンは背中から、杖を引っ張り出し、『フライ』で飛距離を水増しして、何とか船の上まで辿り着く。
「フゥ……」
甲板に降り立ったアノンは、息をついて、杖を背中にしまう。
出航してから乗船してきた少年に、何人かの船員が集まってきた。
「お、おい。あんた一体……」
「この船に貴族が二人乗ってるだろ? 彼らの知り合いなんだ。案内してくれないかな」
253アノンの法則:2010/05/23(日) 00:37:36 ID:DwCIJiaK
 


「それは『ライトニング・クラウド』だな」
船室で合流したアノンの話を聞いて、ワルドが言った。
「しかし、腕ですんでよかった。本来なら、命を奪うほどの呪文だぞ」
「それでもひどい火傷じゃない。すぐに薬をもらってくるわ」
痛々しいアノンの腕を見て、ルイズは船員を探しに、部屋を飛び出して行った。
それを見送って、ワルドが船で集めた情報をアノンに話し始めた。
「船長の話では、ニューカッスル付近に陣を配置した王軍は、包囲されて苦戦中のようだ」
「ウェールズ皇太子は?」
アノンの質問に、ワルドは首を振った。
「わからん。生きてはいるようだが……」
「どうやって王党派と連絡を取るんです? その様子だと、港町なんて全部押さえられてるんじゃ?」
「陣中突破しかあるまいな。スカボローから、ニューカッスルまでは馬で一日だ」
「反乱軍の間をすり抜けて?」
「そうだ。それしかないだろう。まあ、反乱軍も公然とトリステインの貴族に手出しはできない。隙を見て、包囲線を突破し、ニューカッスルの陣へと向かう。ただ、夜の闇には気をつけないといけないがな」
「甲板に子爵様のグリフォンがいました。ラ・ロシェールからアルビオンまでは無理でも、アレで一気にお城まで飛んだりはできないんですか?」
「難しいな。空にも警戒線が張られているだろうし、かえって目立ってしまう」
「結局、力技になるのか…」
話しているうちに、ルイズが包帯と薬を持って戻ってきた。
「もらってきたわ。ホントは水のメイジがいたら良かったんだけど…」
「客船じゃないんだから、仕方ないよ」
「ほら、腕みせなさい」
ルイズは痛がるアノンの腕を強引に巻くり上げ、もらってきた軟膏を塗り込む。
「こんなになって……」
痛々しい傷に、泣きそうな顔をするルイズ。
「何でキミが泣くんだい?」
「泣いてなんかないもん。使い魔の前で泣く主人なんかいないもん」
ルイズはアノンの腕に不器用に包帯を巻きつけると、ぷいっと顔を逸らしてしまった。
ルイズが塗ってくれた薬が、熱をもった火傷にひんやりと気持ちいい。
だが、後で自分でも魔法で治療しておく必要もありそうだ。
ルイズとワルドは今後についてなにやら話始めたが、アノンは、今のうちに休んでおこうと、船室の床で横になって目を閉じた。
254アノンの法則:2010/05/23(日) 00:40:15 ID:DwCIJiaK
 


朝、アノンは、甲板を慌しく動き回る船員達を眺めていた。
視線を船の外に移すと、どこまでも白い海が広がっている。船は雲の上を進んでいた。
「アルビオンが見えたぞ!」
船員の声が聞こえ、アノンは船の縁から身を乗り出して下を眺めたが、いくら探しても船の下には白い雲があるばかり。
「どこ見てんのよ」
船員の声を聞いたのか、いつの間にかルイズが船室から甲板に上がって来ていた。
きょろきょろしているアノンに、あっちよ、と空中を指差す。
ルイズが指差す方を振り仰いで、アノンは思わず、ほう、と息を吐いた。
そこには巨大な、巨大な大陸が、雲の間に浮かんでいた。
そういえば、天界もこんな感じだった。
あっちは世界丸ごとだったが、それでも大陸が浮かんでいるというのは驚くべき光景だ。
「浮遊大陸アルビオン。ああやって、空中を浮遊して、主に大洋の上をさ迷っているわ。でも、月に何度か、ハルケギニアの上にやってくる。大きさはトリステインの国土ほどもあるわ。通称『白の国』よ」
大陸から溢れるように空に落ちる水が、真白い霧になって大陸の下半分を包み込んでいる。
「なるほど、『白の国』か」
納得した様に、アノンが言った。
「いやあ、疲れた」
二人でアルビオン大陸を見上げていると、ワルドが甲板に上がってきた。
「ワルド。お疲れ様」
「子爵様。ああ、風石の代わりだっけ」
「ああ、急な出発で風石が足りなかったとは言え、大変だったよ。もう僕の精神力は空っぽだ」
その時、鐘楼に上った見張りの船員が、大声をあげた。
「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
アノンたちがそのほうを見ると、確かに、この船より一回りほど大きい船が、こちらに向かってきている。
船の横腹からは、大砲の砲門がいくつも見えた。
「へえ、魔法の世界にも大砲があるんだな」
「いやだわ。反乱勢……、貴族派の軍艦かしら」
船長が近づいてくる船を見て、船員に指示を出した。
「アルビオンの貴族派か? お前たちのために荷を運んでいる船だと、教えてやれ」
見張りの船員は、船長の指示通りに手旗を振った。だが、相手の船からはなんの反応もない。
船員が叫んだ。
「あの船は旗を掲げておりません!」
「く、空賊か?」
「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから……」
「逃げろ! 取り舵いっぱい!」
だが、空賊船はこちらの針路に砲弾を撃ち込むと、停船を命じる信号を送ってきた。
「停船命令です、船長」
船長は苦悩の表情を浮かべた後、助けを求めるようにワルドを見た。
「魔法は、この船を浮かべるために打ち止めだよ。あの船に従うんだな」
船長は頭を振って、「これで破産だ」と呟いた。
255アノンの法則:2010/05/23(日) 00:40:58 ID:DwCIJiaK
 

それぞれ武器を手にした男達が、次々と乗り移ってくる。
「空賊だ! 抵抗するな!」
「空賊ですって?」
驚くルイズ。
最後に、連中の頭らしい男が甲板に降り立ち、荒っぽい口調で尋ねた
「船長はどこでぇ」
「私だが」
「船名と積荷を言いな」
「トリステインの『マリー・ガラント』号。積荷は硫黄だ」
おお、と空賊たちから声が上がる。空賊の頭らしい男は、にやりと笑って言った。
「船ごと全部買った。料金はてめえらの命だ」
船長の帽子を取って自分の頭に乗せ、頭の男は甲板にいるルイズたちに気づいた。
「おや、貴族の客まで乗せてるのか」
「下がりなさい。下郎!」
近づく男を跳ね除けるように、ルイズが言い放つ。
「驚いた! 下郎ときたもんだ!」
頭の男は大きな声で笑う。
「な、何がおかしいって……!」
「待つんだ、ルイズ」
頭の男に噛み付くルイズを、ワルドが止めた。
「僕の魔法は打ち止め、あっちの大砲もこちらを狙っている。抵抗はできない」
ルイズは唇をかんだ。
頭の男が、ルイズたちを差して言った。
「てめえら。こいつらも運びな。そうだな…船倉にでも閉じ込めとけ」
256アノンの法則:2010/05/23(日) 00:44:39 ID:DwCIJiaK
 


「海に出たら海賊…空に出たら空賊か」
何か使えるものはないかと、船蔵の荷物を漁るワルドの横で、酒樽やら砲弾やらを興味深げに眺めていたアノンが、そんなことを言った。
「こんな状況でくだらないこと言わないで」
アノンたちは、それぞれ杖と剣を取り上げられ、今まで乗っていた船の船倉に放り込まれていた。
当然、杖がなくては魔法は使えない。
しかし、アノンの杖は無事だった。
背負っていた長剣が隠れ蓑になったのか、空賊たちはデルフリンガーだけを取り上げ、背中に隠し持った杖に気づかなかった。
つまり、その気になれば『アンロック』でドアを破って、ここを脱出できるわけだ。
だが、それはあまり意味が無い。
たった一人でこの船の空賊を制圧するのは骨が折れるだろうし、いざとなれば、空賊たちはこの船を沈めて逃げればいいのだから、ここを抜け出したところで、それこそ頭を人質に取るくらいはしないと、結局は“詰み”になってしまう。
アノンは一通り船蔵の荷物を見学し終えて、ルイズの隣に腰を下ろした。
ルイズはさっきから膝を抱えて、俯いている。
「この船、アルビオンに向かってるみたいだよ」
ルイズが顔を上げた。
「うまくすれば、任務を続けられる?」
「そう言うこと」
ふさぎこんでいたルイズの顔が少し明るくなった。
「しかし…デルフ、余計なこと喋って捨てられたりしてないかな」
「…あのボロ剣なら、賊の怒りを買って空の海に放り出されててもおかしくないわね」
「まあ、そうなってないことを祈ろうか」
とにかく、今は待つしかない。
周りは雲の海。脱出するにしても、アルビオンの港についてからだ。
「そういえば、あんた傷は大丈夫なの?」
ルイズがアノンの腕に巻かれた包帯を見て言った。
「薬は取り上げられてないから…」
「ああ、もう大丈夫だよ」
アノンは包帯を解いて見せる。
あれだけ酷かった火傷は、うっすら跡が見える程度で、ほぼ完治していた。
「あんた、どういう体してんの!? 一晩で治るような傷じゃ無かったわよ!?」
「生まれつきそういう体なんだよ」
驚くルイズに、こともなげに言うアノン。だが、本当はこっそり魔法で治療したからだった。
完治にまでこぎつける事ができたのは、自身の回復力の高さからであったが。
ばたん、と扉が開き、スープの入った皿を持った男が入ってきた。
「飯だ」
アノンが手を伸ばしたが、男はひょいっと皿を持ち上げた。
「ただし、質問に答えてからだ」
「質問?」
「お前たち、アルビオンに何の用なんだ?」
「旅行だよ」
アノンは即座に答えた。
「トリステイン貴族が、いまどきのアルビオンに旅行? いったい、なにを見物するつもりだい?」
「戦争さ」
「なに?」
男が、眉をしかめる。
「戦争を間近で見るなんて、なかなかできないだろ? 貴族派の勝ちは決まった様なものだって言うし、一度見物してみようってね」
アノンは、でたらめな目的を淀みなく答える。
「けっ、トリステインの貴族は趣味が悪すぎるぜ」
男は不愉快気に言って、乱暴に皿を置くと叩きつけるようにドアを閉めて出て行った。
257アノンの法則:2010/05/23(日) 00:45:20 ID:DwCIJiaK
「あんた! なんてこと言うのよ! よりにもよって戦争を見物に行くだなんて!」
男が出て行くと、ルイズはアノンを思い切り怒鳴りつけた。
「いいじゃないか。ごまかせたみたいだし」
アノンは早速スープに手をつけながら言ったが、いくらなんでも不謹慎すぎる、とルイズは怒る。
ワルドも、流石に苦い顔をしている。
しばらくルイズに怒鳴られながらスープを啜っていると、ドアが開けられ、男が顔を出した。
さっきの男とは違う、やせぎすの男だった。
男はじろりと三人を見回すと、意外なことを尋ねてきた。
「お前らは、もしかしてアルビオンの貴族派かい?」
その言葉に、ルイズが立ち上がる。
「何ですって?」
「いや、そうだったら悪いことしたな。俺たちは、貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。王党派に味方しようとする酔狂な連中がいてな。そいつらを捕まえる密命を帯びてるのさ」
「じゃあ、この船はやっぱり、反乱軍の軍艦なのね?」
「いやいや、俺たちは雇われてるわけじゃあねえ。あくまで対等な関係で協力しあってるのさ。まあ、お前らには関係ねえことだがな。で、貴族派なんだろ? この戦況で、戦争を見物に行く、なんて言うんだからよ」
(へー…そういうこともあるのか)
アノンは、声に出さず呟く。
空賊が反乱軍と繋がっているとは意外だった。
しかし、これは好都合だ。
ここで自分たちは貴族派だと言ってしまえば、脱出する必要もなく、港で解放してもらえるだろう。
「ああ、ボクたちは貴族派……」
「バカ言っちゃいけないわ」
答えようとしたアノンに被せて、ルイズが言い放った。
「誰が薄汚いアルビオンの反乱軍なものですか。さっきはこのバカがあんな事言ったけど、私は王党派への使いよ。まだ、あんたたちが勝ったわけじゃないんだから、アルビオンは王国だし、正統なる政府は、アルビオンの王室ね。
 私はトリステインを代表してそこに向かう貴族なのだから、つまりは大使よ。だから、大使としての扱いをあんたたちに要求するわ」
そう言って胸を張るルイズ。
男は一瞬ポカンとした後、思わず噴き出した。
「正直なのは確かに美徳だが、お前たち、ただじゃ済まないぞ」
「あんたたちに嘘ついて頭を下げるぐらいなら、死んだほうがマシよ」
「…頭に報告してくる。その間にゆっくり考えるんだな」
男が立ち去った後、アノンは呆れたように言った。
「ルイズ。なんであんなことを言ったんだい?」
「嘘ついて、頭下げろっていうの? あんな連中に!」
「あのままなら無事港まで行けたって言うのに。ほんと…馬鹿だね」
「ばっ、馬鹿ですってえ!?」
アノンの暴言に真っ赤になって怒り出すルイズに、ワルドが寄ってきて肩を叩く。
「いいぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ」
小言の一つでも言うのかと思ったアノンは呆れ返った。
しばらくして、再び扉が開き、先ほどの男が顔を覗かせた。
「頭がお呼びだ」
アノンはため息をついて、自分だけでも逃げ出す方法はないか考え始めた。
258名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 00:49:25 ID:ThK15B5f
さるさん喰らったのでp2からです


ルイズたち三人を前に、空賊の頭は、船長室の机に偉そうに腰掛けていた。
その手には大きな水晶のついた杖。頭はメイジであるらしかった。
頭の周りには、ガラの悪い連中が控えている。
「大使としての扱いを要求するわ」
頭を前にしても、毅然とした態度を崩さないルイズ。
しかし、頭はその言葉を無視した。
「王党派と言ったな?」
「ええ、言ったわ」
「なにしに行くんだ? あいつらは、明日にでも消えちまうよ」
「あんたたちに言うことじゃないわ」
頭は面白がるように、ルイズに言った。
「貴族派につく気はないかね? あいつらは、メイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」
「死んでもイヤよ」
もう少し駆け引きをしても良いだろうに。
アノンはそう思ったが、それはルイズには無理なことだと分かっていた。
だが、空賊の頭と直接会えたのは好機だ。
とりあえず、隙を見て杖を奪う。そのまま人質にして船も取り返せればベストだが……。
「おかしな真似するんじゃねえぞ」
後ろについていた男に釘を刺された。それなりの腕利きが揃っているらしい。
「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」
「お断りよ」
ルイズは真っ向から拒否するように、頭を睨み返した。
いよいよまずい。強引にでも頭を抑えにいったほうがいいかもしれない。
アノンが動こうとした時、頭が大声で笑い出した。
「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」
そのあまりの豹変振りに、アノンたちは思わず顔を見合せる。
「失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」
頭がそう言うと、周りの空賊たちが、一斉に直立した。
統制の取れた動きは、軍隊のそれである。
頭は髪に手をかけると、その縮れた黒髪をはいだ。
眼帯を外し、続けて作り物のヒゲを剥ぎ取ると、そこに現れたのは、凛々しい金髪の若者であった。
「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……、本国艦隊といっても、すでに『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊だがね。まあ、その肩書きよりこちらのほうが通りがいいだろう」
金髪の若者は胸を張って、堂々と名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
三人はぽかんと、突如姿を現した皇太子を見つめた。
魔法顔負けの変装っぷりだ。
「その顔は、どうして空賊風情に身をやつしているのだ? といった顔だね。いや、金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれる。敵の補給路を絶つのは戦の基本。
 しかしながら、堂々と王軍の軍艦旗を掲げたのでは、あっという間に反乱軍の船に囲まれてしまう。まあ、空賊を装うのも、いたしかたない」
そう言って、ウェールズはイタズラっぽく笑う。
「いや、大使殿には、誠に失礼をいたした。しかしながら、君たちが王党派ということが、なかなか信じられなくてね。外国に我々の味方の貴族がいるなどとは、夢にも思わなかった。試すような真似をしてすまない」
突然の事態に固まってしまっているルイズに代わって、ワルドが進み出た。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」
「ふむ、姫殿下とな。君は?」
「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔の少年にございます。殿下」
「なるほど! 君のように立派な貴族が、私の親衛隊にあと十人ばかりいたら、このような惨めな今日を迎えることもなかったろうに! して、その密書とやらは?」
そう言われて、ルイズはようやく我に返って、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。
259名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 00:52:16 ID:ThK15B5f
「待って。ルイズ」
恭しくウェールズに近づくルイズを、アノンが呼び止める。
「控えなさい。殿下の御前よ」
「この人、本当に皇太子様?」
はっとするルイズ。
空賊の頭からの、あまりの変わり様に流されていたが、実際のところ、目の前の青年が本物のウェールズだと言う確証がない。
だがウェールズは笑って言った。
「まあ、さっきまでの顔を見れば、無理もない。僕はウェールズだよ。正真正銘の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」
ウェールズは、ルイズの指に水のルビーを認めて、自分の薬指の指輪を近づけた。
二つの宝石は、共鳴しあい、虹色の光を振りまいた。
「この指輪は、アルビオン王家に伝わる、風のルビーだ。きみが嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」
ルイズは頷いた。
「水と風は、虹を作る。王家の間にかかる虹さ」
「失礼しました」
アノンはペコリと頭を下げた。
ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡す。
ウェールズは、その手紙を見つめると、愛おしそうに口づけした。それから慎重に封を開き、読み始めた。
「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」
ワルドが無言で頭を下げる。
ウェールズは最後の一行まで手紙を読むと、微笑んだ。
「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫から貰った手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」
ルイズの顔が輝いた。
「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね」
ウェールズは笑って言った。
「多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい」
260名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 00:53:00 ID:ThK15B5f
以上です
ではまた
261名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 10:32:24 ID:cdkf7GBH
乙でした。

>190
>245
ルナヴァルガーシリーズですか、懐かしいですね。
アレなら どのキャラを召喚しても面白そう。
主人公なら、敵の五万や七万は余裕だし、無謀戦士一族とかもいたし。
カトレアさんとルナの姉(名前忘れた)や、無能王と鳥頭皇太子 出産後のルナとカリン母様 
ワルドとジャック海務卿 マルトー親方と謎の中華シェフ等が出会ったら、いったいどうなるか。
262名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 11:16:07 ID:T03jg9zN
ルナヴァルガーなんて懐かしすぎて内容覚えてねー
本屋に売ってもいないだろうし
263使い魔はじめました ◆8KmVfUYwBs :2010/05/23(日) 14:45:52 ID:YYhrAD+n
テスト
264使い魔はじめました ◆8KmVfUYwBs :2010/05/23(日) 14:49:51 ID:YYhrAD+n
規制解除きた! コレでいける!
そんなわけで投下させていただきます



使い魔はじめました──第20話──


仮面の男以外の追っ手が来ることもなく、サララ達はフネに乗り込んでいた。
フネを動かす風石が足りない分は、ワルドが魔法で助力することで、
どうにか貨物船を一隻、出航させることが出来た。
「サララ、えっと、怪我とかない?」
心配そうに問いかけるルイズに、大丈夫です、と笑みを返す。
「……サララは強いわね。私、人質にとられても、何も出来なかった」
しょんぼりとした顔を見せるルイズ。
自分は何も出来ない、サララの邪魔かもしれない、その事実が辛かった。
サララは、そんな彼女の表情に見覚えがあった。
時々、本当に極稀にだが、彼女だってまともに魔法が使いたかった。
箒にまたがって空を飛ぶ友人達を見ては、羨ましいと思っていたことがあって、
そんな時、自分はきっとこんな顔をしていたのだろう、と。
だから、彼女は笑って見せることにした。
大丈夫です、いつかきっと、ルイズさんも魔法が使えるようになりますよ、と。
「……ありがとう、サララ」
いつも、この笑みに救われているわね、とルイズは思う。
サララの笑顔は何だか彼女をホッとさせるのだ。
自分より背も低いし、同じように魔法が使えないのに、
大体いつも笑っていて、オマケに下手な相手じゃ到底太刀打ち出来ない。
そんな彼女を召喚したのだから、もう少し自信を持ってもいいのかな、と。
「ねー、そういえば、ルイズって、魔力がないわけじゃないよね」
ひょいと、チョコがそんなことを言い出した。
「魔力?」
「あ、えーっと、魔法を使うための力。こっちでいうと、
 精神力、ってのに近い、のかな?」
ふむふむと主従二人は首を縦に振った。
「んーと、ルイズには魔力はあるんだけど、使う魔法が、
 どれもこれも全部、ルイズには合ってない気がするんだよね」
「何よそれ。結局ダメってことじゃない。あんたそんなことが言いたいわけ?」
口を尖らせたルイズを、まあまあ、とサララは宥める。
それから、あ、と小さく呟いて彼女は袋をがさごそと漁る。
一本の杖を取り出して、それをルイズに手渡す。
「杖? これが何だっていうのよ」
それを受け取って、ルイズはくるくると手の中で回してみる。
何処にでもありそうな、普通の杖だ。
それに、魔法の力を通すようなイメージをしてみてください、と
サララにそう言われても、首を傾げるばかりだ。
265使い魔はじめました ◆8KmVfUYwBs :2010/05/23(日) 14:50:58 ID:YYhrAD+n
「そんなこと言われたって、イメージなんか出来やしないわよ。
 大体、こんな杖一本でどうなるものでもないでしょうに」
そう告げるルイズに、サララは説明する。
その杖は、杖自体が魔法の道具、こちらでいうマジックアイテムなのだ、と。
故に、上手く魔力を通せればその先から雷が出せると。
ほら、こんな風に、とサララがひょいと杖を取ると、
部屋の片隅あった空樽へ向ける。
バチリ、と音を立てて、杖の先端から雷が飛んだ。
「嘘……」
ルイズは目を瞬かせて、焦げた樽と杖とサララの顔を交互に見やる。
はい、と手渡された杖。ルイズはそれをしっかと握る。
「魔法を込めるイメージ、魔法を込めるイメージ……」
目を閉じ、ぶつぶつと呟きながら、自分の中にある魔法の力を、
杖へと移動させるよう意識してみる。
意識してみると、確かに杖に魔力が溜まっていくような感覚があった。
「……えい!」
「二人とも、そろそろアルビオンが見えて」
ルイズが、勢いよく杖を振り下ろすのと、ワルド子爵が
部屋に入ってくるのは、ほぼ同時だった。
杖の先端は、サララが振った時よりも激しく火花を発しており、
マズい、と思った彼女が止めるより早く爆発した。
暴れるエネルギーの奔流は空樽を破壊し、その破片をワルドの顔にぶち当てる。
「おごふ」
「きゃああああ! し、子爵様、ごめんなさあああいい!!」
杖を放り投げて、ルイズは慌ててワルドに駆け寄り、
赤く腫れ上がった頬を必死でさすった。
「……今の、魔力量……」
チョコはサララを見上げる。サララも、今のはおかしい、と思った。
上手くイメージできなかったからと言って、
あんな量の魔力は、おいそれと出せるものではない。
ましてや、あれだけ出してピンピンしているというのも、
常人程の魔力量では考えられないことである。
「……ルイズって、ひょっとしたら物凄い、のかも」
チョコの言葉に、サララはじっとルイズを見つめた。
彼女は、目に涙を浮かべながら謝っている。
その背中に、何かとてつもないものを背負っているような予感がした。
266使い魔はじめました ◆8KmVfUYwBs :2010/05/23(日) 14:51:59 ID:YYhrAD+n
もうすぐアルビオンが見える、というワルドの言葉を聞いて、甲板に出た。
「うわあああああ! すっごい、何あれ、何あれ!」
見上げたチョコが、歓声を上げる。
雲の切れ間から、黒々と大陸が覗いていた。大陸ははるか視界の続く限り伸びている。
地表には山がそびえ、川が流れていた。
大河から溢れた水は空へ落ち込み、白い霧となって大陸の下半分を包んでいた。
これが、『白の国』と呼ばれる由来か、と思いながら、
余りの美しさにサララはほぉ、と息を吐いた。
やはり、冒険はいい。通い慣れたダンジョンも悪くないが、
こうやって見たこともないものに触れるのもまた格別だ。
……竜使いの一族と共に空を翔けたという遠い先祖でも、
こんな光景を見たことはなかったに違いない。
「ねえねえ、あれ、どうやって飛んでるの?!」
「ええっと、確か地下に大量の風石……、フネを飛ばすのと同じ、
 風の力がこもった石が埋まってるとかなんとか。
 うっかり掘り返して落ちたら大変だから、詳しくは分かってないけど」
チョコの質問に、ルイズはそう答えた。
その答えにサララはふと、じゃあ地上の何処かに風石がたくさん埋まってたら、
そこもあんな風に浮かびあがるのかな? と想像してみた。
空に浮かぶたくさんの島々。楽しそうだな、と笑った。
突然背中に悪寒が走る。ぶるりと身震いすれば、ワルドがそれに気づいた。
「おや、空の上は寒かったかな?」
そうじゃないです、とだけ答えて、サララは空を見上げた。
白い雲の中に一点、他とは全く違う色がある。
「船長! あのフネ、旗を揚げてません! 空賊だぁ!!」
見張りの男が叫んで、たちまちフネは慌しくなった。
さて、どうやら冒険というのは何かしら邪魔が入るものだ。
ため息を吐きながらも、ワクワクしている自分をサララは認めざるを得ない。
267名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 14:52:58 ID:TsWVMFs1
支援
268使い魔はじめました ◆8KmVfUYwBs :2010/05/23(日) 14:54:01 ID:YYhrAD+n
フネに乗り込んできたのは、いかにも『賊ですよ』という格好の男達だった。
下卑たニヤニヤ笑いを貼り付けて、派手な服をまとって、船長を何やらおどしている。
ワルドのグリフォンが眠らされたことから、メイジも居るに違いなく、
迂闊に手を出すことも出来ずにじっと様子を見守っていた。
「よし! 今からこのフネは積荷ごと俺らのもんだ!
 そちらの貴族のお客さんも、丁寧に運んで差し上げろ!」
頭らしい男が叫ぶ。その声にしたがって、空賊はサララ達に近寄ってきた。
「戦うにも、彼らが人質にとられているのではな……」
ワルドが苦い声を出したので、ルイズは構えていた杖を下ろした。
少なくとも、今すぐ殺されることはあるまい、と。
「うーん、確かにちょっと厳しいかな。ね、どうする、サララ?」
チョコがサララを見上げる。サララは、笑っていた。
あ、またなんかアレなこと考えてるな、と長い付き合いのパートナーは理解した。
「お嬢ちゃん、何をニヤニヤ笑ってるんだ?」
いひひ、と笑いながら近寄ってきた賊の手を、サララはがっしりと掴む。
「お……?」
そのまま、勢いをつけて、ぶん投げた。
投げられた賊に、他の男達が慌てて治癒魔法をかける。
「さ、サララ?! 何やってるの、子爵様の話、聞いてなかったの?!」
うろたえたルイズが、がくんがくんと揺さぶるが、彼女は笑ったままだ。
素敵なお芝居ですね、とその笑顔のままに告げる。
「芝居、だぁ? ははは、嬢ちゃん、あんた冗談が上手いな」
頭の言葉は笑っていたが、顔は笑っていない。
賊達が何名か杖を構えてこちらを睨みつける。
それでも、サララは動じない。賊に動じるようでは、あの町一番の商人などやれないのだ。
大丈夫ですよ、とルイズに笑いかけてから、頭に向き直る。
私の知ってる悪い賊は、とサララは臆することなく語りだす。
もし、仲間がやられたら、頭に血が上って突っ込んでくるような人ばっかりです。
それなのに、あなた達はまず仲間の怪我を治しました。
それに、投げた時、咄嗟に魔法を使って、ダメージを軽減しようとしましたよね?
こういうのって、訓練された兵士じゃなきゃ出来ないんじゃないですか?
スラスラと語るサララの姿に、一同はしん、と黙り込む。
なおかつ、貴族派に荷物を運ぶフネを襲ったんですから、
王党派の兵士なんじゃないですか?
サララがそう言葉をしめて、頭を見据える。
269使い魔はじめました ◆8KmVfUYwBs :2010/05/23(日) 14:55:45 ID:YYhrAD+n
「はは……いやはや、否定しようと思ったのだが、何故だろうね。
 君が相手では、どんなことを言っても看破されそうな気がするよ」
頭は、今度こそ本当に笑い出した。周りの賊、否、兵士達も釣られて笑う。
どうやら、サララの読みは当たっていたようだった。
「さ、サララ、あんたいつの間にそんなことに気づいたのよ」
成り行きを見守りながら、震えていたルイズは、
とりあえず軽くサララの頭を叩いた。
「サララ、盗賊とやり合ったこともあるからねー、
 何となく気づいて、はったりかましたんじゃないのー?」
チョコに言われて、ぺろり、とサララは舌を出す。
確証など無くても、分かったような顔をしていると、
相手が勝手に勘違いしてくれる、という現象が彼女にはよく起こる。
それに加えて適当な言葉を紡いでみたら、見事に向こうがバラしてくれたわけだ。
「……まあいいわ」
突っ込む気力もなく、ルイズは肩をすくめた。
それから、サララの後ろから歩み出て、頭と向かい合う。
「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 王党派の、ウェールズ皇太子への大使として、アンリエッタ王女から任ぜられました。
 皇太子陛下への、お目通りを望みます」
スカートの裾を持ち、恭しく一礼をする。
頭は、目を丸くしていた。
「アンリエッタから……それに、ヴァリエールといえば、公爵家だね。
 ふむ、分かった。城で詳しく話を聞かせてもらおう」
「え?」
べりり、と付け髭と鬘をはいでいく。
そこに現れたのは、黄金色の髪をした凛々しい若者だった。
「私が、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
おや、予想以上の結果になった、とサララは目を丸くした。
その隣で、ワルドがニヤリと笑みを浮かべたことに気づいたものは、誰も居なかった。


以上で投下終了です。いい加減趣味がとっちらかる自分の脳みそを何とかしたい。
待ってます、と言ってもらえてとても嬉しかったです。
270名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 14:59:33 ID:u9DGqHdh
乙です。
こういうびっくりパターンもいいですね。
271名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 18:30:39 ID:Wxjp8A/+
特になければ40分から投下します
272ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:40:17 ID:Wxjp8A/+
 アルビオンが最も近づく日。言い換えれば、燃料費が一番安くつく日。
 結局は、その日を待つことなく船は出た。
 船賃とは別に、余計な燃料費を出す。それがワルドが船長へと申し出た条件。
単純と言えば単純な申し出。ルイズも同じ事を考えなかったわけではない。
 しかしワルドはそこにさらに手を重ねる。

「僕は風のスクウェアだ。さらに風石を節約できるだろう。勿論、僕が節約した分も払おうじゃないか」

 実質の運賃二重取りである。その提案に船長は頷いた。そもそも燃料が余分にかかるという事にさえ目を瞑れば、飛ばない理由は他にないのだ。
 そしてルイズとワルドは船上の人となった。

「怖くない」

 ルイズは景色を眺めて呟いた。
 マシンザボーガーで学院の塔の壁にくっついていたときは身動きできないほど怖かった覚えがある。
 しかし今は怖くない。
 船の甲板上の安定感はさすがだった。ザボーガーに跨っているだけで一切他の助けがない状況とは違う。
二本の足でしっかりと立っている、それだけで全く違うのだ。
 いや。
 それはどうか、とルイズは思い直す。
 使い魔を信じなければ。ザボーガーに「落とすな」と命令すれば絶対に落ちないのだから。
 船は壊れるかも知れない。落ちるかも知れない。
 ザボーガーは壊れない。落ちない。
 ザボーガーは信頼できる。頼り切るのは拙いが、信頼しないのも拙い。
 そんな事を考えていると、背後に人の気配。
 やや疲れの見えるワルドだ。

「景色を見ているのかい」
「ワルド様。もう、良いんですか?」
「もう僕の力は使い果たしたよ。あとは船任せだ」
「部屋でゆっくり休んだ方がいいのでは」
「なに、君の隣にいるほうが心が休まるというものさ」

 臆面もない言葉にルイズはやや頬を染め、少し身体をずらして場所を空ける。

「僕はね、少しでも相応しくなろうとしていたんだ」
「何にですか?」
「公爵家の三女を娶る男としてさ」
「ワルド様?」

 あまりにもストレートな、そして急な言葉にルイズは思わず聞き返す。
273ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:41:06 ID:Wxjp8A/+

「何を言っているんですか」
「家の格には大きな差があったからね。せめて、軍人として名をあげるなら、少しはマシかと思ったのさ。だから、こうやってここにいる」

 甲板の手すりを握るルイズの手。そのすぐ横に、その気になれば手を握る事のできる場所に、ワルドは自分の手を置いた。

「僕は合格だろうか? 君のお眼鏡に適う男かな?」

 ルイズは無言で、手すりから手を放した。

「ルイズ?」
「私には、ワルド様を量るなんて事は到底出来そうにないわ。その資格だってきっとまだない」

 逆に、自分が相応しいのかどうか。
 好き嫌いではない。婚約者として扱われるに自分は相応しいのか。そもそも貴族として自分に疑念があるから、こうしているのだ。
 貴族としての自分を確立させたいがためにこうしているのだ。
 ワルドに応える言葉など、今の自分にはない。
 ただ、もう一度自分を自分で認められるように、自分を見つめたいから。

「だから、今の私こそ、ワルド様には届かないのよ」

 ワルドが自分の力で今の地位にある事を否定できる者などいないだろう。実戦に弱ければ決して務まる事のない地位だ。

「届こうとしてくれている。そう思うのは僕の自惚れだろうか?」
「私は、自分の望む姿になりたいだけ。それがワルド様の望まれる姿と同じなら、そうなのでしょうね」
「同じさ」
「それなら」

 答えようとしたルイズの言葉を、当直船員の叫びがかき消した。

「右舷下方より接近する船有り! 予定にはありません!」

 左舷にいた二人は右舷へと走る。その目に映るのは一隻の船だ。二人が乗っているこの船よりも一回り大きく、武装も充実しているのが遠目でもわかる。

「……軍艦?」
「いや、制空権はすでに貴族派のものだと聞いている。第一、艦隊戦は既に決着がついたに等しい状況だ。となると……空賊か」
「こんなときに……」
「こんなとき、だからこそだろうね。火事場泥棒はいつの世も下衆のならいさ」
274ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:41:52 ID:Wxjp8A/+
 しかし、ワルドは知っているのだ。この艦の正体を。
 ワルドはレコン・キスタからの情報を得ている。
 空賊は確かにいるが、今現れたのは空賊ではない。偽装しているが歴としたアルビオンの軍艦、イーグル号である。
 乗っているのはおそらく艦隊司令であるウェールズ王子。
 今のアルビオンに補給はない。本人たちは一つの城に押し込められ、近づく船は貴族派の艦に落とされる。
 この状況で出来る事と言えば、空賊を偽って貴族派の輸送船を襲い、必需品を奪うくらいだろう。その行動自体に間違いはない。
ただ、圧倒的戦力差の前では無駄に等しい努力というだけだ。
 ふと、ワルドは考える。
 ルイズの使い魔には、フーケのゴーレムを破壊した技がある。その技をイーグルに対してふるえば落ちるだろうか?
せめて、ウェールズだけでもここで殺す事が出来れば。
 ルイズの使い魔により殺害されるウェールズ。
 ある意味、完璧だ。
 ルイズの帰るところはなくなる。アルビオンの王子をその手にかけながら、どうして再びアンリエッタに顔を見せる事が出来るか。
そのルイズにつけ込めば、手札とする事も可能だろう。いや、それが無理だとしても、手元に置いておく事は容易くなる。
 虚無を味方に出来なくとも、敵に回さなければそれで良い。殺してしまえば、次に現れるだろう虚無に一から対処しなければならない。
 だから生かさず殺さず、飼い殺す。それが一番の対処法だ。

「他の人は逃がせないかしら」
「逃がす?」
「ここにいるのが私たちだけなら、多分戦える」
「ふむ」
「私の使い魔には、空賊を倒す力はあっても皆を守るような力はないの」

 一撃で決めなければ、被害が余所へと及ぶ。ということか。

「ならば、おとなしく捕まるか。僕たちの家から身代金が取れると知れば、向こうも無茶はしまい」

 そして、内部から切り崩す。
 ルイズはヘルメットを被り、マウスカーとヘリキャットを射出させる。
 訝しげなワルドに向かい、ルイズは手近に浮かび始めたヘリキャットを示す。

「ザボーガーに付属している空飛ぶ機械よ。この子が見たり聞いたりした事が、私にも見聞きできるようになっているの」

 残るマウスカーについてルイズが説明しようとした寸前、大きな音に二人は視線を向ける。
 砲撃が、船の針路を塞ぐように放たれていた。

「停戦命令か。ルイズ、捕まるまでは大人しくだ。いいね」
「はい」
275ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:42:37 ID:Wxjp8A/+
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 この時期にここを行く船。認めたくはないがほぼ間違いなく貴族派のシンパだろう。少なくとも、貴族派の貨物を積んでいる船だ。
 奪う事に躊躇いはない。無駄な人死には極力避けたいが、だからといって貴族派への運送を座視するほどの余裕はとうになくなっている。
 空賊の頭の姿で、ウェールズは拿捕した船の甲板に降り立つ。

「これで全員か?」
「へい」

 見たところ、ごく平凡な船乗りたちだ。細かい事は何も知らない、ただの雇われだろう。
 
「ほう、貴族までいるのか」

 二人。一人は油断ならない雰囲気の男。一対一では極力出会いたくない……特に戦場では……タイプの男。
 そしてもう一人は年若い少女……
 奇妙な形の兜に内心首を傾げるが、その姿には見覚えがあった。
 数年前の夜、ラグドリアンで出会った少女。
 トリステイン王国が太后マリアンヌの誕生日を祝って催した大園遊会。ウェールズとアンリエッタが出会い、誓い合ったあの夜。
 アンリエッタの影武者として、彼女のベッドで寝たふりをしていた子。
 ピンクブロンドの髪を、彼女と同じ栗色に染めてまで変装していた子。
 まさか。
 ウェールズは自分の想いを抑えつける。
 まさか。
 彼女の代理として、この子はやってきたのか。それとも、これは只の偶然、始祖の導きによる残酷な悪戯なのか。
ここに来て、可憐な従妹の姿を思い出させるなど。
それとも……これもまた、レコン・キスタの悪辣な企みなのか。嫌と言うほど舐めてきた裏切りという苦渋。あの思い出すら汚されようというのか。

「お前、なにしにアルビオンくんだりまで行く気だ?」

 だから、尋ねる。
 背後の部下たちから驚いたような視線を感じるが気にしない。
 髭の男の機先を制し、少女が前に出る。

「空賊に話す事は何もないわ」
「はっ。そういうな。貴族派なら、送ってやっても良いぜ。渡りを付けたいと思ってたんだ」
「王党派なら?」
「歓迎するぜ。身代金が出るんならな」
「それなら、せいぜい綺麗な字で手紙を書きなさい。お父さまに失礼の無いようにね」
「ほっ、父さまとやらがケチでないことを祈るんだな」
「それは安心して良いわよ」
「ならいい。身代金が出るまでは身の安全は保証してやるよ」
「信じられるの?」
「誓って保証するともさ」
276ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:43:39 ID:Wxjp8A/+
 ウェールズは一旦、言葉を切った。

「ラグドリアンに住むという、髪を栗色に染めた精霊に誓ってな」

 妙な言い回しに、ルイズは首を傾げる。ややあって、その表情に驚きの色が。

「……その精霊は、とある未亡人の誕生日にのみ現れると聞いています」
「この女を俺の部屋まで連れていけ。くれぐれも、丁寧にな」

 部屋で扮装を剥ぐウェールズにルイズは再度驚き、二人は改めて挨拶を交わした。
 ルイズの言葉によりワルドも呼ばれ、三人は今後について話し合う。
 ワルドの目的とルイズの目的の共通点は、アンリエッタの差し出した手紙に関する件である。
 手紙はニューカッスルの城だとウェールズは言い、二人を城へ招く。
 どちらにしろ、ここから自分たちだけで戻る事の出来ない二人に選択肢はない。
二人はそのまま、ニューカッスルへ同行する事となった。
 そして到着次第、ワルドは言う。

「僕は正式に任務を受けている。君は安心して部屋で待っていればいい」

 ワルドの言葉に反論はしたいが、指示には従うとも約束している。
 ルイズは、部屋で待っているしかない。
 しかし。
 戦の状況を聞く限り、王党派に勝ち目はない。
 味方は三百、敵は五万。単純な兵数だけでこの差である。しかも、王党派への補給はないに等しい状況である。
 勝ち目どころか、逃げ出す事すら至難の業だろう。
 では、ウェールズが為すべき事とは。
 少なくとも、逃げる事ではない。
 最後まで勝ちに行く。例えそれが限りなく不可能であるにしても。
 例え逃げたとして、何処へ逃げる?
 ガリア? ゲルマニア? 論外だ。
 ロマリア? 始祖に関わらない限り、ロマリアは不干渉を貫く。
 トリステイン? かくまう事が出来るくらいなら、姫のゲルマニアへの輿入れの話しすらなくなっているだろう。

「殿下が逃げ出せば、レコン・キスタはその事実を楯に自らの正当性を言い立てるだろうね。
例え戦に負けるとしても、それだけは絶対に譲れない。王党派が間違ってはいないと伝えるために戦い続ける。そういうことだ」
277ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:44:23 ID:Wxjp8A/+
 冷たくも聞こえる口調で、ワルドはそう言った。
 実際に、二人にウェールズが語った言葉も似たようなものだ。
 勝ちは捨てている。いや、命は捨てている。それがウェールズの宣言だった。
 もう、姫殿下とウェールズを会わせる事は不可能だ。
 いや。
 会う事は不可能でも。
 ルイズは座っていたベッドから立ち上がると、ヘリキャットをもう一度呼びだした。
 手に取り、ヘルメットを被り、確認する。
 やはり。
 理屈はわからないが、これが見たり聞いたりしたものはある程度記録できるのだ。
 その機能を使えば、ウェールズの言葉をアンリエッタに直接伝える事も出来る。

「ワルド様、これを」
「それは、ヘリキャットだったか。一体どうしようと? 僕たちの話し合いを見たいのかい?」
「それもないとは言わないけれど」

 ルイズは、ヘリキャットの録画機能について語る。
 ウェールズの最後の言葉を、せめてアンリエッタに直接伝えたいのだと。

「わかった。しかし、これは殿下にとって得体の知れないものだ。断られた場合は、素直に部屋の外に置くよ」
「その時は仕方ないわ。だけど、最後の言葉を残すためならきっと」
「そうかもしれないね。わかった、これは僕が持っていこう。準備をしてくるから待っていてくれ」

 一旦部屋を出たワルドは、衣服を整えてすぐに戻ってくると、ヘリキャットを受け取った。

「おっと、飛ばすのは止めてくれ。不必要に驚かせる事もないだろう」
278ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:45:08 ID:Wxjp8A/+
 ワルドはヘリキャットを左腕に抱え、部屋を出る。
 ルイズは、その姿を見送ると素直に部屋に戻った。そして、用意されていたお茶を飲もうとしてはたと気付く。
 マウスカーにも同じ事が出来るのだ。
 二台あれば、別方向からの録画が出来るのではないだろうか。
 ルイズはすぐにマウスカーを呼びだし、ワルドの後を追わせる。
 視界を繋げて少し探すと、殿下の部屋らしき場所に入ろうとしているワルドの姿が見えた。
 何かおかしい。
 そうだ。ヘリキャットの姿がない。
 ワルドの手にヘリキャットがないのだ。即座に断られたか、それとも、何処かに置き去りにしたか。
 ルイズはヘリキャットと視界を繋げる。ワルドの顔が見えた。
 もう一度マウスカーの視界を確認する。やはりヘリキャットは持っていない。
 では、ヘリキャットが見ているワルドは?

「ルイズ、聞こえているかい?」

 ヘリキャットの視界はワルドのマントらしきもので囲まれた。周囲の様子は見えない。

「どうやら、何かあったようで、少し待たされるようだ。ちょっと待っていてくれないか」

 一方、マウスカーのほうのワルドはウェールズと一緒にいる。
 これは一体どういうことなのか。
ワルドが手紙の件を伝えると、ウェールズは手紙を取りだしその場で焼き捨てた。
 任務は完了だね、とウェールズが笑い、ルイズを送り届けるまでが任務のつもりだとワ
ルドが答える。
 そしてワルドは言う。
 せめて、アルビオン王家に伝わる風のルビーと始祖のオルゴールだけでも、トリステインに送ればどうかと。
 始祖ブリミルより伝わると言われる秘宝である。レコン・キスタに渡すにはあまりにも惜しいものだと。

「我らは明日を待ってレコン・キスタの総攻撃を受ける。その前に、非戦闘員と望む者をイーグル号に乗せて脱出させるつもりだ。
君たちはそれに乗るがいい。そのときに、始祖のオルゴールを預けよう」
「風のルビーもですか?」

 急くような物言いにウェールズは少し鼻白むが、気を取り直して頷いた。
 
「それでは、少し遅すぎますな」

 その瞬間、ルイズは信じられないものを見た。
 ワルドの杖が、ウェールズの胸を逆袈裟に斬り上げるように貫いた瞬間を。
279ゼロと電流 第十四話:2010/05/23(日) 18:46:24 ID:Wxjp8A/+
以上、お粗末様でした。

あと一回か二回でアルビオン編終了、のはず。
280名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 21:19:53 ID:6Pu2x2av
投下乙です。
ルイズの怒りの電流が、フーケ戦のように見事に迸る時を心待ちにしております。
281名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 21:35:27 ID:HGCaoeVe
誰かおるちゅばんエビちゅのエビちゅを召喚してくれ。
282名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 21:42:58 ID:jSFXeLUb
いや今のお勧めは僕僕先生召喚だな
283名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 21:47:03 ID:xMDlpfni
どっちかというと僕僕先生はルイズがむこうに行った方が面白そうだと思う
284名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 21:48:04 ID:RDSXnOYT
Tomakからエビアン召喚。もちろん首だけで。
……知ってる人、どれぐらいいるかなぁ。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 22:27:35 ID:jSFXeLUb
懐かしいな
10年位前か?
286名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 22:45:42 ID:NrcxigQp
ショウ・ザマがハルキゲニアに召喚され、
平賀才人がバイストン・ウェルに召喚されるという
プロローグ逆転ネタを探してみたがさすがに無いか…
287名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/23(日) 22:49:51 ID:bf2gykGc
>>261
>>262
ルナヴァルガー・・・・・・
世界観が細かく設定されたコメディ系ファンタジーと言う点ではゼロ魔の大御先祖様かもしんない
288名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 00:01:28 ID:kVPlYljo
>>287
新鉱魔獣グレゴールや新白蛇魔獣ローラ召喚・・・。
とか考えたけど、ゼロ魔世界では、ジョゼフでさえも人として、王としては狂って
いても「魔術師」ないし「真理探究者」として狂っていないので、協力する理由が
浮かばん。

グレゴールにいたっては、全ての問題をやる気になればあっさり解決出来るぐらいの
超越存在になってるし。
289名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 00:19:37 ID:8FgNEloA
>>288
グレゴールならアンデッドになる前のを召喚すればスクエアメイジや虚無の担い手の脳みそを狙って大活躍してくれるな

どうでもいいが、当時グレゴールが出てくるたびにゾアノイドが頭に浮かんで困った
290名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 00:23:01 ID:HFfs2bzy
>>286
ダンバインは皆殺しだからなぁ
291名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 00:34:47 ID:sVFPoVky
予定なければ5分後くらいから代理投下
292三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:40:03 ID:sVFPoVky
〜第3話 今日から使い魔、道連れ2名〜

 魔法学院内にある、30メイル四方の空き教室。階段状になっている他の教室とは異なり、8脚の机が
2列に同じ高さで並んでいるだけの小さな部屋。その真ん中辺りの席に座りながら、キュルケ・アウグスタ・
フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは頭を悩ませていた。おいてきぼりを喰らって拗ねている
フレイムの頭を撫でてあげながら、親友であるタバサの召喚した使い魔たちを見比べていく。

 そう、使い魔ではなく、使い魔「たち」だ。
普通、何らかの生物を1体召喚するのがサモン・サーヴァントである。それにも関らず、彼女の青い髪の
友人は、3名――人格を有する存在のため、体と呼ぶのははばかられる――もの使い魔を呼びだして
しまっていた。

――友達ながら変わったコとは思うけど、こんなところまでやらかさなくてもねえ

 ちょこんと隣に座る小さな少女に視線を移し、思わず苦笑が漏れる。それに、向かい合って席について
いる――といっても、実際に座っているのは1名のみだが――その使い魔たち自身も、かなり奇妙な存在だ。

 まずは、光の塊に羽が生えたような姿の、1番小さな使い魔を見る。ナビィと名乗った、口調から恐らく
少女と思われる彼女は、これまでキュルケが見てきたどんな生き物とも違った。
 そのトンボとチョウの中間のような羽だけを見れば虫のようだが、じっと見てみればすぐに違和感に
気付く。この羽、まるで羽ばたいてるという気配がないのだ。完全に停止しているというわけではない。
ちゃんと動かしてはいる。しかし、それは精々揺らしている程度の域を出ておらず、とても浮力を生み出せる
ような動きとは思えなかった。
 それに、その身にまとう輝きも無視できなかい。眩いわけではなく、むしろ穏やかな優しい光。森の木々の
木漏れ日のような、美しく、それでいて神秘的な煌めき。どんな高価な宝石でも、この幻想的な輝きを
模することはできまい。
 そしてなにより、彼女は自分を妖精だというのだ。このハルケギニアでは、妖精とは架空の存在、絵本や
おとぎ話で語られるだけのもののはず。それなのに、彼女は自分を「コキリの森の妖精」と称していた。
まるで、森の妖精という存在が、それだけで人間に理解してもらえると言わんばかりに。
 神秘的な、そして不可解な少女。いささか頼りな気ではあるものの、ミステリアスで色々と謎の多いタバサの
使い魔としては、ある意味似合った使い魔といえなくもない。

 次は、ヒラガサイトと名乗った平民の少年だ。聞き慣れない響きの名前に見慣れない服装、黒い髪に瞳、
黄色がかった色の肌、造りは平凡なものの自分たちとはどこか印象を異にする顔立ち。それらの比較的珍しい
要素を除けば、何処にでもいそうな男の子。仮にもしルイズに召喚されていたのなら、いつもの失敗の一種と
でも思ってそれほど注意深く見なかったかもしれないが、親友であるタバサが召喚したとあってはそうも
いかない。そして、よくよく観察してみれば、彼の格好がただ珍しいだけのものではないことに気が付く。
293三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:40:32 ID:sVFPoVky
 キュルケの生まれであるゲルマニアは、他の国々とは違って資金や能力があれば魔法が使えない者でも貴族に
なりあがることができる国。そのため、他国からは野蛮だなんだと揶揄されることも多いが、その分各方面で
有能な人材が登用されており、技術力だけを見るならば大陸でもトップクラスを誇っている。
 しかし、サイトの着ている服は、そのゲルマニア出身の彼女の眼から見ても未知のものだった。来る途中、
少し触らせてもらったが、木綿とも麻とも、ましてや絹とも違う、見たことのない質感を持つ生地。靴の方も、
柔らかそうでいて固くあるべきところはきちんと頑丈そうな、皮とは違う奇妙な素材でできている。
 特に驚かされたのは、あの板状の道具だ。耳障りな音がし始めたと思えば黒一色だった部分に光が灯り始め、
なにやら美麗な絵や光がそこに映っていったのである。そして、あろうことかそれは、月が1つしかない
絵とは思えないほど鮮明な絵を映し出し、その上に魔法が一切使われていない機械なのだという。
 技術先進国であるゲルマニアを始め、他のどの国家でもこの道具はもちろん、彼の衣服でさえ複製することは
不可能だろう。外見は平凡、しかしその実、驚くほど技術が進んだ土地から彼が来たことは明白だった。

 最後は、見るからに1番底が知れない、異形の仮面である。なにせムジュラの仮面というこの仮面、自律的に
行動し、会話することを可能としているのだ。
 ハルケギニアにおいて、そういう仮面が存在することそれ自体はおかしなことではない。魔力によって動く
人形であるガーゴイルはある程度の自由意思を以って行動するよう作られているし、知性を宿された魔道具で
あるインテリジェンス・アイテムもざらにある。
しかし、これらは普通無機的な印象が付きものだ。
 どんなに精巧に作られたガーゴイルでも、所詮人間によって作られた感情である以上、やはり喜怒哀楽の中に
生命を感じさせる温度を持ちえない。インテリジェンス・アイテムは人間が使う系統魔法に加え、異種族が使う
様な先住の魔力を用いていることがあるために意思の面ではガーゴイルに優るが、やはり物や道具に吹き込まれて
いる以上生き物とは明確に区別される。
 しかし、この仮面はそれらのどれとも違っていた。いかにも人工的な道具然とした外見をしているにもかかわらず、
まるで生きているかのような生々しい気配を放っている。ましてや、あの肥大化して触手をうごめかせた姿。あの
不気味なまでに命の脈動を感じさせる姿は、間違っても人の手で生み出せるような代物ではない。その上、
系統魔法でも先住魔法でもない魔法を操り、被った者にその力を貸し与えるマジック・アイテムなど、聞いた
ことがなかった。

 それぞれがそれぞれの理由でキュルケの理解を超えており、キュルケは僅かばかりの警戒を以って親友が
呼び寄せた3名の話を聞いていく。
294三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:41:14 ID:sVFPoVky
「つまり、貴方たちはみんな異世界の、それもそれぞれ別の世界の住人だってわけ?」
 そして、彼らの話を聞き終わってみれば、キュルケは溜息交じりにそう聞き返すこととなった。理解できない
部分も多々あるが、まとめてみるとどうやらそういうことらしい。それにサイトたちの方は揃って頷いているが、
キュルケとしては半信半疑というのが本音だ。確かに、彼らがハルケギニアで生まれ育ったと考えるには無理が
あるとは思う。しかし、いくらなんでも違う世界というのは流石に絵空事にしか聞こえなかった。とはいえ、
嘘をついている風ではなさそうだし、こんな突拍子もない妄言を使う理由もないだろう。
 キュルケは彼らの言葉を自分なりに整理しようとするが、やがてさじを投げる。知恵に関しては自信がある
ものの、知識量の方は生憎と人並み。異世界とやらの存在の如何については、はっきりと言及することは
できなかった。

 そこでと、キュルケは隣のタバサを見やる。この小柄な少女は読書が好きで、その知識の量は膨大という
言葉でさえ表わしがたい程だ。彼女なら、なにか彼らのいたという世界について心当たりがあるかもしれない。
そう思って視線を向けてみれば、キュルケは僅かに眉をひそめた。

 沈黙し、表情なく座っているタバサ。それだけを見るなら、いつもと同じだ。タバサと親しくない者ならば、
特に気にすることさえないだろう。雪風のように冷たい雰囲気で、人形のように無表情、無感動、無口な少女。
それが周囲の人間のタバサに抱いているイメージだったからだ。
 しかし、キュルケの眼には、それが「いつものタバサ」には見えなかった。表情自体は、ほとんど動いて
いない。けれど僅かに、本当にごく僅かに、タバサのまとう空気が、普段と違うように感じられた。暗いような、
重いような、固いような雰囲気。それは、いつも彼女が持っている静かな、それでいて落ち着く空気とは、絶対に
違うものだ。

「あの、さ」
 キュルケが訝っていると、やがてサイトが声を掛けてくる。
「それで、俺たちがタバサさんに召喚されたってのは判ったけど……」
 何処か不安がっているような声でサイトは言葉を続けていき、やがて意を決したように問いを投げてきた。
「俺たち、帰れるのかな? 俺、親に何にも言えずこっち来ちゃったし、せめて連絡取りたいんだけど……」
 その言葉を聞いた瞬間、タバサの体が小さく震える。それにもやはりキュルケは驚くが、同時になんとなく
タバサの様子に察しが付いた。
295三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:41:45 ID:sVFPoVky
 タバサは、きっと彼らに負い目を感じているのだ。
 考えてみると、他人に対してタバサに全面的な非がある事態を、キュルケは目にしたことがない。この少女と
友人となって1年近くになるが、問題があったとしても精々つまらない言いがかりの類で、彼女が後ろめたく
思う必要があるものは皆無だった。元々彼女がほとんど他人とかかわろうとしないのだから当然ともいえるが、
今回のように相手の人生にかかわるようなことをしてしまったことは、キュルケの知る限りで初めてだった。

 キュルケは溜息を1つつくと、タバサに代わって説明しようとする。しかし、それは当のタバサの手で制された。
「私がすべきこと」
 僅かに辛そうに、けれど毅然と短く答える親友。その小さな頭を軽く撫でてあげ、キュルケは頷き返した。

「正直に言うと、私では貴方たちを元いた場所へ帰してあげることはできない」
「なっ!?」
 タバサの言葉に、サイトとナビィが悲鳴じみた声を上げる。ムジュラの仮面は、まるで意に介しない様だったが。
「サモン・サーヴァントは、あくまで使い魔を呼び出すだけの呪文……反対に、使い魔を送り返すという呪文は、
聞いたことがない。それに、異世界へ移動する方法なんて、それこそあるかどうか判らない」
「そんな……」
「マジかよ……」
 愕然とした様子で、うなだれるのは羽のある少女と黒髪の少年。それを見て、タバサが震える声を出した。
「ごめんなさい……」
 タバサが、苦し気に謝罪の言葉を口にしていく。
「こんなことになるとは、思っていなかった……」
 心底からのものだろう、申し訳なさが滲みでた声音。それを横で聞きながら、キュルケは内心驚愕の声を上げて
いた。タバサが、自分の親友がこれほど感情を見せたのは、初めてのことだったからだ。日頃キュルケがどんなに
話しかけても、ろくに眉1つ動かさずにいたというのに。
「あ、いえ……」
「わざとじゃないんだし、ええと……」
 一方、謝られた側はというと、気まずそうに視線を泳がせていた。無論、帰れないということは簡単に納得できる
話ではないだろうが、こう素直に謝罪されては責めるに責められないのだろう。その様子に、キュルケは少なくとも
この2名が相当なお人好しであることを理解した。

「まあ、どちらもそう悲観的になる必要もないだろうよ」
 そこへ、1名だけ落ち着いた風のムジュラの仮面が話に入ってくる。
「直接送り返す呪文がないにせよ、異界へ通じる方法に心当たりがないにせよ、現にオレたちはこの場へこの世界の
魔力でやってきた。既に道ができているなら、再び開く術も何かしらあると見た方が自然だろう」
 その言葉に、俯きがちだったタバサ、サイト、ナビィは顔を上げた。
296三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:42:16 ID:sVFPoVky
「確かに、一理ある」
 考えるように間をおいた後、タバサは自分が召喚した3名を真っ直ぐに見つめて言う。
「貴方たちを召喚したのは私の責任。貴方たちを返す方法は、見つけてみせる」
 抑揚のない声で、それでいて鋭い程に真剣な声で誓いの言葉が放たれた。一種迫力さえ感じられるその宣誓に、
思わずキュルケは息を飲む。そして、直接それを向けられた者たちはといえば、ムジュラの仮面を除いてやはり
気圧されたような感を漂わせていた。
 張り詰めたような空気が流れる中、仕切り直すように咳ばらいをしたのはサイトだ。
「まあ、事故みたいなもんだし、そうしてくれるなら俺はそれでいいよ」
「ええ、ワタシも」
 受け入れるようなサイトの言葉にナビィも続き、少しその場の空気が和らぐ。それとともに、タバサも少し
気持ちが浮きあがってきたように、キュルケには見えた。

「にしてもよ」
 と、そこでサイトが不思議そうにムジュラの仮面に声を掛ける。
「お前、やけに落ち着いてるよな? 帰れないかもしれないって聞いて、全然驚かなかったのか?」
 その質問に、ムジュラの仮面は余裕あり気に答えてみせた。
「オレたち魔族は、社会とやらに縛られている人間や、精霊どもの眷族である妖精とは違う。自分がどんな
世界に所属しているかなどに対して興味はない」
 だから一歩引いた目で現状を認識できるのさ、と付け加えてムジュラの仮面は笑う。
「それから」
 言いながら、ムジュラの仮面はタバサの方に向き直った。
「お前は、オレを自分の使い魔とするために呼んだのだろう?」
「そう」
 ――正確には、もうしてるじゃない
 既に使い魔の契約を済ませてある仮面の疑問に短く答える友人に、キュルケは内心つっこんだ。その間にも、
ムジュラの仮面は得たりとばかりににやりと笑う。無論、仮面なので表情は動いていないが、眼の光の変化で
なんとなくそうと判ったのだ。

「この世界の人間が使い魔に何を担わせるかは知らんが、オレはそれを受けてもいいぞ」
 その言葉に、タバサは意外そうに聞き返した。
「……それでいいの?」
 無表情に聞き返すタバサに対して、ムジュラの仮面はますます笑みを強める。仮面のようにポーカー・
フェイスなタバサと、仮面のくせに表情を感じさせるムジュラの仮面、なかなか対称的な2名であった。
「さっきも言ったが、以前いた世界に未練はない(なにせ自分で滅ぼそうとしてたからな)。それに召喚される
直前行っていた計画も失敗に終わって、特にやりたいこともないんでね。この世界の魔法にも興味があるし、
人間の寿命分程度なら仕えてみるのも悪くはないさ」
 途中小声で聞き取れない部分もあったが、あっさりとムジュラの仮面は言い切った。聞こえなかった部分を
タバサに尋ねると、彼女も首を横に振る。聴覚に優れた風のメイジであるタバサにも聞き取れない声となると、
どうやら今聞こえてる声も何らかの魔法の類なのかもしれない。そもそも、口もないのに発声していること自体
おかしいとも言えるのだし。
297三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:42:49 ID:sVFPoVky
 そんな彼――仮面をこう呼ぶべきか否かはおいておく――に、ナビィが言う。
「人間に使役されるモンスターはいるから意外とは言わないけど、魔族がよく簡単に人間に仕える気に
なったね?」
 不思議そうな様子で聞く彼女に、ムジュラは少し間を置いてから言葉を返した。
「少し戦いがあってな、それで人間というものを、じっくり見ていきたくなったんだよ」
 どこか物憂げにムジュラの仮面は答え、次いでサイトとナビィを見比べる。
「それはともかくだ。お前たちの方は? どうするんだ?」
 そう問われると、才人たち2名は顔を見合わせ、やがてどちらともなく頷き合った。
「俺も、使い魔ってのをやってみようかな。地球に帰れるまではお世話になるわけだし、ちょっと興味も
あるしね」
「ワタシもそうね。やりましょう」
 召喚された3名全員から同意の言葉が出されると、タバサは大きく息をつく。これもまた彼女にしては
珍しいことで、キュルケはそんな珍しい様子の親友に温かな視線を送った。

「それで、具体的に俺たちは何すりゃいいの?」
 感情をいつもよりもずっと見せてくれる友人を嬉しく思っていると、サイトの疑問がそれを遮ってきた。
僅かに水を差されたという苛立ちが湧くが、彼の疑問も当然ではある。それに対し、いつもの涼しげな
態度を取り戻したタバサが答えていった。
「基本的に、使い魔の役割は3つある」
 言いながら、タバサは片手を上げ、指を1本立てる。
「1つ目は、主の目と耳となること」
「目と耳に?」
「諜報活動という意味か?」
 聞き返すナビィとムジュラの仮面に、タバサは首を横に振った。
「メイジは使い魔に刻んだルーンを通じて、使い魔の視覚と聴覚を共有することができる」
「つまり、ワタシたちが見ているものや聞いているものを、タバサ様も見聞きできるということですか?」
「凄いな……って、そんなプライバシー無視な!」
 ナビィが感心したように、サイトが焦った風で言えば、再度首を横に振るタバサ。それにサイトたち、
そしてキュルケが首を傾げる前に、タバサは言葉を続ける。
「3名も召喚されたせいなのかは判らないけれど、貴方たちとは感覚共有ができない」
「そうなの?」
 キュルケは思わず声を出していた。確かに複数召喚された例は聞いたことがないとはいえ、コモンマジックで
ある使い魔との契約でタバサが正しい効果を発揮できないとは思わなかったからだ。
――ルイズならともかく、タバサに限って……
 この眼鏡の少女の優秀さはよく心得ているだけに、尚更タバサの発言は信じがたい。そしてそのことを
自分のことのように悩みだす羽目になってしまった。当のタバサはといえば、特に気にした風もないのだが。
298三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:43:19 ID:sVFPoVky
「でも、目と耳になることでしたら、元々ワタシの得意技ですよ」
 そして親友の代わりに顎に手を当てて考えていると、さらりとそんな声が耳に入ってくる。キュルケが顔を
上げれば、近くまで飛んできたナビィが2人を見下ろしていた。
「お手数ですけれど、タバサ様にキュルケ様、少々ご協力いただけますか?」
 柔らかな声で丁寧になされる依頼に、キュルケとタバサはとりあえず了承する。
「では、まずお2人ともお互いに少し距離を取っていただけますか」
 妙な頼みに2人は一瞬首を傾げるが、言われた通り互いに部屋の隅と隅、30メイルばかりの距離で向かい
合った。すると、ナビィがキュルケの方に飛んでくる。体の輝きを、藍色がかった白から青一色に変えて。
「では、タバサ様はワタシが「Look」と合図をしたら、キュルケ様に普通の声で話しかけてくださーい!」
 タバサに聞こえるようにナビィが大きめの声で呼びかけると、タバサが頷くのが見えた。
「では、Look!」
 その言葉が放たれると、遠目にタバサの口が動くのを確認できる。
「キュルケ?」
 すると、その動きの通りに、タバサの声が耳に届けられる。
「え、タバサ!?」
「そう」
 驚いて聞き返すと、タバサの声がしっかり返ってきた。それなりに距離を取っているのに、まるで聞きにくい
ところがない。それに驚いていると、ナビィが笑い声混じりに言葉を挟む。
「ふふ、驚かれました? ワタシはこうやって、ヒトとヒトの会話を仲介することができるんです」
 耳と同時に口の役割もしてますね、とナビィは付け加えた。
「それから目ですが、本かなにか、字の書かれたものはございますか?」
 問い掛けてくるナビィに、キュルケは少し考える。
「本じゃないけど、手紙でもいい?」
 確か、下級生の男子から送られてきた恋の詩がつづられたラブレターがあったはずだ。受け取った恋文を他人に
読ませるなど本来無作法とされるが、キュルケの常識としては特に問題ない。読ませる相手がタバサならば尚の
ことだ。
「では、それを机の上に置いてください」
 言われた通り、取り出した手紙を開いて机に置くと、今度はナビィの色が緑色に変化する。
「ではもう1度、Look!」
 そう合図すると、教室の向こうからタバサが大きめの声でキュルケに問い掛けてきた。
「これ、キュルケ宛てのラブレター?」
「そうよー、なんて書いてあるか、読めるー?」
 同じようにキュルケが聞き返せば、タバサは頷いて答える。
「恥ずかしい文句で詩が書いてある。声に出す価値はない」
「……辛辣ね、同意見だけど」
 身も蓋もオブラートもない言い様に、キュルケは苦笑する。普段閉じてばかりの口で、開けばさっくりと毒舌が
飛び出すのが、この少女の面白い特徴の1つだ。周囲の人間から見れば、ありがたくない特徴かもしれないが。
「これは、視覚はともかく、聴覚に影響しているように思えない」
 キュルケたちの方へと近づいてきながらタバサが言うと、ナビィがそうですねと同意を示す。
「ですが、音を聞く必要があればそれを伝えることはできますよ」
 その返答を受けてみれば、タバサの眼鏡が僅かに光った気がした。
「興味深い」
「ふふ、これは『Z注目』と呼ばれる技です」
 最近では『L注目』とも呼ばれますが、と付け加えてナビィは笑った。
299三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:44:01 ID:sVFPoVky
「Z注目使いか、では癒しの技は使えないのか?」
 そこで、ムジュラの仮面が口を挟み、ナビィがその問いに頷いてみせる。
「そうか、まあ治癒使いは力を使う度にしぼんでしばらく消えるからな。Z注目の方が利便性はあるが」
 そこで、それにしてもとばかりにムジュラの仮面がナビィに近寄る。
「お前、妖精のくせにいやに世俗的だな? 大妖精や高位の精霊ならまだしも、人間の王侯貴族に敬語を使うのか?」
「あはは……、ワタシの場合、王族やら部族の長さんやらとお会いする機会が多かったから……」
「変わった妖精だな」
 呆れとも感心ともとれる態度で、ムジュラの仮面が呟く。そして、黙って座っていたサイトが腕組みをしながら
呟いた。
「ナビィが最初からそういう能力持ってたから、ルールが狂って感覚の共有ってのがうまくいかなかったのかな?」
「わからない。けれどその可能性はある」
 サイトの疑問に答えると、タバサは指を2本立てた手を上げる。

「2つ目は、主の望むものを見つけること。秘薬の原料となる硫黄や苔等を取ってくる役目」
 それを聞き、ナビィは困ったように言った。
「見つけてくることはできると思いますけど、取ってくることは無理かしら」
「それは俺とムジュラの仮面でできるんじゃないか? 探すのはナビィで、運ぶのは俺らってことで」
 ムジュラの仮面被れば俺も飛べるしな、とサイトは笑いながら、キュルケたちの許へやってくる。

 そして全員が一ヶ所に集まると、タバサは3本目の指を立てた。
「3つ目が1番重要。その能力で主を護ること」
 そう言うと、ナビィとサイトが顔を見合わせる。
「うーん、戦闘補助はできても、ワタシは直接闘うことはできないわ」
「俺も、精々喧嘩を2、3回したことある程度だしなー」
 弱気な言葉を口にすると、2人はムジュラの仮面に視線を向けた。自然、キュルケとタバサの目も彼に移る。
4対の視線を浴びながら、色々と得体の知れない仮面は僅かな間をおいて言葉を発した。
「オレ1人では、正直厳しいかもしれないな」
 意外な言葉に一同が驚くより早く、ムジュラの仮面は先を続ける。
「さっきも少し言ったが、オレは以前の力を大分失っているんだ。なにより、オレは自分で自分の力を使うのが
苦手でね」
「どういう意味?」
 怪訝とキュルケが聞くと、ムジュラの仮面は少し恥ずかしそうに声を紡ぎ始めた。
「オレは見ての通り仮面だからな。つまり本来使われる側だ。情けない告白になるが、オレはオレを被る他者の
意思から力を使うことはできても、自分単体ではどう力を使っていいのかよく判らないのさ」
 そこまで言うと、声が自嘲じみたものに変わった。
「さもなければ、あんな子鬼を利用する意味はなかったし、あるいはあの決戦の行方も変わっていただろうに」
 独白のような呟きにキュルケたちが首を傾げれば、ムジュラの仮面はこっちの話だと苦い声で応じる。
「まあ、そういうわけでな。オレが戦うには、オレの力を引き出す被り手がいるのさ」
 言って、ムジュラの仮面はサイトを見据える。
「被り手って、俺か?」
 自身を指差すサイトに、ムジュラの仮面は頷いた。
「ふうん。まあ、お前を被った時は確かに力が湧いたけど、どこまでのことができるのかはよく判んないよ」
 不安気にサイトが言うと、ムジュラの仮面はさもありなんといった風に笑う。
「なら、表に出てオレを被れ。どこまでできるか、自分で証明してみせろ」
300三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:44:32 ID:sVFPoVky
 ムジュラの仮面に促され、才人たちはヴェストリの広場というところに来ていた。城の中庭にあたるその場は
日当たりが悪く、景観は整えられているが雰囲気はどこか物寂しい。そのためなのか、それとも今が本来授業の
時間だからか、今その場には彼らの他に誰もいなかった。
「んで、具体的にどうすりゃいいんだよ?」
 その広場の中央辺りに立ちながら、才人は手に持つムジュラの仮面に問い掛ける。
「いいから、とりあえず被れ」
 急かすような返答に、才人は肩を1つすくめて彼を顔に押し付ける。
「デュワッ!」
「なんだ、その掛け声?」
「俺の故郷で、顔につけて強くなるものの代表的掛け声」
 ムジュラの仮面の疑問に、笑い声混じりに答えた。そういえば、タバサの眼鏡も赤フレームだな、と思い
ながら。
 それから半瞬遅れ、先程感じたのと同じ力の奔流と、同じ精神の昂りが脳天を貫き、全身を駆け巡る。
「ふう、マジこれでパワーダウンしてんのか?」
「残念ながらな」
 ムジュラの仮面を通し流れてくる力を感じながら、才人は感嘆の息を漏らした。本来の自分では到底
あり得ない、迸るようなエネルギーの流れ。これで弱体化しているとは、とても思えない強大さだ。
「信じらんねえ。元々はどんだけ強かったんだよ」
「そう感じるのは、お前がオレから力を引き出してくれているからだ。上手にな」
 賞賛の声が、顔面から耳許へと届けられる。それが昂った心に心地よく響き、元々お調子者の才人は
悦に入った。
「はは、うまいこと言って、俺をいいように使おうとか思ってない?」
 図に乗りついでに冗談めかして言うと、ムジュラの仮面は沈黙で応じてくる。
「いや、黙られると不安なんだけど……」
「ちょっとした茶目っ気だ」
「……本当か、おい」
 何やら不安が立ち上ってくるが、本当に自分をどうこうする気ならこんな警戒を煽るようなことは言わない
だろう。気を取り直して、才人は力を使おうとする。
「そんで、この後はどうするんだ?」
「好きなようにすればいいさ。思った通りに力を振るえ」
 簡単な返事に、才人は軽く頭を掻いた。
「いや、好きなようにったって、どうすりゃいいんだよ」
「とりあえず、なにか戦わなければならない場面でも想像してみろ。そうすれば、自ずと見えてくる」
 お前みたいに好奇心が強い奴は、えてして想像力もあるからな、と付け加えられた言葉を聞きつつ、才人は
両の手の平を見下ろしてみる。

――戦わなければならない場面、か……
 正直、ぴんとこない。近頃治安が悪化してきたとはいえ、平和ボケした現代日本で育った才人には、戦闘など
縁遠い言葉だ。

 しかし、と才人はタバサの方に目を向ける。才人たちから校舎側に20メートル程離れて、キュルケ、
ナビィと共に立つ青い髪の少女。自分を、突然この異世界に連れてきた人物。家から、友から、家族から、
地球から才人を切り離した者。それを考えれば、彼女は仇とも呼べる存在だ。
 けれど、才人はタバサを責める気には、あまりなれなかった。せいぜい12か13歳程度と思われる、
あどけない美少女。そんな自分より4つか5つも年下の女の子に頭を下げられて、尚恨み言を言える程、
才人は狭量なつもりはない。勝手に召喚などして使い魔になれなどふざけるな、という気持ちはないでも
ないが、召喚のゲートをくぐってしまった才人にも非はあるし、彼女1人に責任を押し付けるような真似は
したくなかった。
301三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:44:59 ID:sVFPoVky
 それに、彼女は自分たちを帰すと約束してくれたのだ。彼女が、才人たち3名を召喚した責任として。
 立場的には被害者かもしれないが、あんな小さな少女にそんな気を遣わせてしまっていては、年上の男として
何か情けない。何か変な考え方という気もするものの、できる限り彼女の力になりたいと、そう思っていた。
彼女が危険な目にあっている時は、守れるものならば守ってやりたい。あんな小さな女の子にどんな危険が
あるのかと内心ツッコミが入るが、なにせファンタジーの世界である。先程の桃色の髪の少女が乗っていた
ドラゴンや、キュルケの召喚したサラマンダー――ナビィとムジュラの仮面は新種のドドンゴかと尋ねていた――
のような幻獣と呼ばれる存在が普通に存在しているらしいので、そういったものから守る場面はあるかもしれない。

――怪物に襲われる、うん、これだな
 そこで、才人はその方向でイメージを固めていった。角が生えて二足歩行する、特撮の怪獣じみたフォルムの
化け物。それが、タバサを追いかけている。タバサは魔法で応戦するも、効果は見られず徐々に追い詰められて
いった。鋭い牙の生え揃った顎から涎が滴り、今にも食いつかんと開かれた。そこまで想像するだけで、才人の
内に何とかしないとという気持ちが膨れ上がる。

 では、どう何とかするべきか。ムジュラの仮面のおかげで、何とかする力はある。問題は、それをどう使うかだ。
 まず考え付いたのは、武器だった。剣や槍を使うべきか、いや、もっと強力なもの、銃火器の類はどうだろう。
拳銃や猟銃程度では駄目だ。もっと強力な武器、そう、大砲の類がいい。

 そこまで考えると、我知れず才人の体は浮き上がっていた。足が地から離れた浮遊感を感じながら、イメージを
続けていく。

 大砲を使うといっても、その場にいちいち大砲を出現させるわけにはいかないだろう。そんなスペースがない
場合だってある。
 物を生み出す様な考えが普通に浮かんできたことに一瞬驚くが、すぐに気持ちが切り替わって想像を練り続けた。
これもムジュラの仮面を被っている影響なのかもしれない。
 大砲を作り出さず、大砲を使う。そうするにはどうすべきか。僅かに頭を悩ませると、すぐに答えは出た。
 その考えに、才人はムジュラの仮面の下で笑みを浮かべる。簡単なことだ、笑いながら、才人は拳を握った。
 大砲がないなら、『自分がそうなればいい』。思いながら、右手を開き高く掲げた。どうせなるなら、ただの
金属塊を撃ちだすだけの大砲とは、違うことがしたい。折角ムジュラの仮面に魔法の力を借りているのだから、
魔法の力を砲弾にする方が面白い。

 どんな魔法がいいだろう。炎はどうか、焼くことはできても打撃力に欠ける気がする。雷はどうか、あるか
どうかは不明だが、絶縁体には無効化されてしまう。しかし、どちらも悪くない。炎の熱気と、雷の速度と破壊力。
その両者の強みを併せ持っているものは何だろうか。

 思いながら、掲げた右の拳を開く。必要なものは、光だ。高熱を持ち、何よりも速く飛び、破壊力を持つ程に
凝縮された光の砲弾。その想像を固めていくにつれ、自然と右手に力が込められていった。
302三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:45:30 ID:sVFPoVky
雷電に似たエネルギーが右手に集い、やがて飴細工のように形を為していく。イメージに従って作り上げ
られていく光の砲弾を手にしながら、才人の心は興奮と不安で渦巻いた。自分の思いのままに強大な力を
操ることができる興奮と、自分の思った通りに破壊の力が生み出せてしまう不安だ。

「恐れているのか?」
 その才人の思いを読み取ったのか、ムジュラの仮面が尋ねてくる。
「ああ、正直、ちょっと怖いよ」
 その問いに、才人はやや恥ずかし気に肯定した。何かを破壊できる力、それは好奇心を刺激するとともに、
恐怖も与える。物を壊す、傷つけるということは、平和に生まれ育った者には大きな責任に思えるのだ。
「恐れることはない」
 徐々に膨れていく不安感の中、ムジュラの仮面の声が染み入っていく。
「今のお前は強い。強さは責任に繋がるが、同時に責任を取る力にも繋がる。恐れるな、たとえ失敗したと
しても、今のお前ならばどんなミスも取り戻せる」
 諭す様な穏やかな声が、心を落ち着けていく。それとともに、影をひそめていた力への興奮が湧き興って
くる。
 その興奮のまま、才人は眼下の地面に右手を向けた。タバサたちを巻き込むようなことのないよう、
離れた地点へ照準を定める。
「うおおぉぉ……!!」
 咆哮と共に、才人は右手に握った力を解放した。その刹那、光の砲弾が迅雷さながらに手の平から飛び出す。
矢よりも早く飛ぶ一撃は瞬く間に大地との距離を縮めていき、一瞬の後には目標へと達する。そして、光の
砲弾はその威力を示した。閃光が爆ぜ、その残骸が細かな粒子となって火花と共に舞い散る。赤く焼けた土が
弾け、濛々と土煙が上がった。そして、それらが晴れたその様を見て、才人は息を飲む。つい先程までは
淋し気ながら整えられた景色を見せていた広場には、直径5メートルにも及ぶクレーターが穿たれていた。

「ふう、こんな手下の仮面に使わせていたような力を使われるとは心外だが、まあ威力は上々か」
 ムジュラの仮面が何処かつまらなそうに言い、それに才人は聞き返した。
「仮面が仮面手下にしてたのか?」
「同類を部下に持つのはおかしなことではないだろう」
 その返答に、それもそうかと頷いた。それから、改めて地上の戦果を見やる。
「しかし、ホントにすげーな、お前の力」
「正確には、オレのではない」
 才人がその言葉に首を傾げる前に、ムジュラの仮面は続けた。
「オレとお前の力だ」
 優し気なその声は、才人の自尊心を刺激した。これ程の力が、自分の成果でもあるのだと言われ、
達成感に似た感慨が湧く。次いで、僅かながら疑問も湧いた。
「失礼なこと聞くけどさ」
「?」
「なんかさっきからおだてるようなこと言ってるけど、ホントに他意はないんだよな?」
 やはり、ムジュラの仮面は沈黙で返す。
「だから、黙んなよ! 気になるだろ!」
「では、使えない道具はタダのゴミでしかないとだけ言っておく」
「意味判んねーよ!」
  顔面を覆う相手に怒鳴り返しながら、才人はとんでもない相手と手を組んでしまった予感がふつふつと
沸いてくるのだった。

 そして、まだ誰も気付いていない。
 ムジュラの仮面を被っているその瞬間、ムジュラの仮面に刻まれていた使い魔のルーンが、才人の左手に
浮かんでいるということに。
 まだ気付いている者は、誰もいないのである。
303三重の異界の使い魔たち 代理:2010/05/24(月) 00:46:08 ID:sVFPoVky
 以上、今回はここまでです。

 今回、タバサの態度に違和感を持たれた方は多いかと思われますが、タバサが異世界の人物を
召喚したら、自分としてはこういう態度になるかと思ってます。

 タバサの場合、ジョゼフによって家族を奪われた状態にありますので、自分が誰かにそうして
しまったら、罪の意識にさいなまれると思うんです。任務中にそういう事態に陥ったとしても
それは仕事だからということができますが、使い魔召喚は学院の試験とは言え自己責任による
ものが大きいでしょうから。
 シルフィードの場合はハルケギニアの存在で、召喚には彼女も同意していたようなものなので
それほど罪悪感はなかったのかと自己弁護。

 ナビィのZ注目ですが、本来戦闘以外だと掛け声はないのですが、あった方がそれらしいので
付け加えました。

 ムジュラの仮面については、前作まででも描かれている通り、原作ゲームのエンディングで
いう邪気がなくなった状態で、ついでにかなりパワーダウンしてもらっています。流石に月を
動かすような奴にフルパワーで来られてもまともな話にならなそうなので。

 以上、説明というか自己弁護でした。次回はシルフィードことイルククゥ視点からスタート
です。



ここまで、代理終了
304名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 00:53:35 ID:Ru4SLbtB
投下乙です
Z注目が懐かしくて吹いたw
この組み合わせは中々どうして面白いですね〜次回も期待しています
305名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 09:30:12 ID:FfKBpYIo
投下Z

>>290
でもシエスタが「ヤエーッ!!」とか言っちゃうかもよ?
306名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 11:41:28 ID:le2a3neF
>>290
俺は……人は、殺さないっ! 怨念を殺すっ!
307名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 11:57:41 ID:BbCcqceO
上!?いや、正面かっ!
308名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 12:18:32 ID:lTnexayG
絶望がお前のゴールだ
309名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 14:50:28 ID:eJXKkrcV
???「こんなワルキューレじゃ○×□△舐めたくならないよ!」
310名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 15:18:49 ID:EmYuHWl1
>>309
お禿御大自重
311名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 17:17:09 ID:hHydsPGg
わるきゅーれを召喚して、そのせいで毎度死にまくるルイズ
312名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 21:38:00 ID:5OYIufqK
>305
ダブルクロス・リプレイ・トワイライトよりメイドのヤエさんを召喚ですか。
313名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:35:43 ID:QzmB2fCp
>ワルキューレ

ナムコの緑鎧はまだないんだよな。
ナムカプ版か藤原版かで色々変わりそうだ。

そうすっとシェフィールドが黒ワルあたりになりそうだ。
314名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:43:28 ID:vpt1O64e
>>313
> ワルキューレ
ぜひとも冨士宏版でおねがいします。
315名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:51:49 ID:nxwe8DmY
第一期テレビアニメ版 鋼の錬金術師からエドワード・エルリックを召喚します。
折角書いてみたので、予定がなければ 2300あたりから投下してみます。
316アノンの法則:2010/05/24(月) 22:54:12 ID:C8izD+1a
ハガレンのエド召喚はリンクにあった気が
317名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:56:50 ID:7PgQaRlS
ヨッシャコーщ(゚Д゚щ)ヨッシャコー
318名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:57:47 ID:nxwe8DmY
掲載されてるのが かなり昔のだったのでスレがあるのか確認してませんでした。
別所に落とせということならば 中止します。
319名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:59:03 ID:C8izD+1a
いや別にいいんじゃないの
っていうか読みたいです
320名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:59:08 ID:BFpoe5Hj
ハガレンは別スレじゃなかった?

落ちてて進行してないってなら別にこっちでもいいんじゃないかとも思うが
321名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 22:59:30 ID:htZT/jpp
あのリンクから入れないので、あってなきがごとしだ。
だからここに投下しておくれ
322名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:01:39 ID:eIjJI44F
同じのは駄目ってルールあったっけ。ウィキに複数あるのあったような
323虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:01:39 ID:nxwe8DmY
ありがとうございます。ではいきます。


0話 扉の向こう側へ

遠くで、赤子が泣いている。
目前に突如現れ、宙に浮かぶものに視線が釘付けになる。
それは4年間の厳しく辛かった旅の切っ掛けとなったもの。
禁忌を冒した代償に右手と左足、そして弟の身体を奪っていったもの。
この世界の全ての知識が内側に詰まっているといわれる『真理の扉』だった。
その重い扉がギギィっと軋みを響かせゆっくり開く。
中から無数の目がこちらを覗き見ていた。
闇の中から不定形のうねうね動く厚みのまるでない無数の手が、エドワードを誘うように招くように伸びてくる。
そしてあっという間に、抗うすべもなく体中に絡みつき、飲み込もうとする尋常ならざる力で扉へと引き寄せられた。
我に帰ったエドワードは見開く目で扉の向こうを睨みつけながら、必死で踏ん張り抵抗を試みるも、不意に背から胸に抜ける鈍い衝撃に突き飛ばされて宙に浮く。
全身から力がぬけ、ずぶりと何かが胸から背に抜け落ちる感触とともに、鉄錆の臭いが鼻についた。
状況を理解する前にエドワードは真理の扉に引き込まれ、意識が遠のいていく。
扉の外側から「エド!?」と自分を呼ぶ女の声が聞こえた気がした。
324虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:02:55 ID:nxwe8DmY
意識がもどり、エドワードが目を開けばそこは、古びたボロ井戸の前だった。
先ほどまで滑車を回し、水を汲みあげていた様で、手から落ちて足下に転がる桶からこぼれる水が、石畳を濡らし広がっていく。
水溜りに覚えの無いボロキレのような服をきた、普段見慣れたものとはどことなく雰囲気の違う顔が、やけに明るい月灯りに映りこみ、こちらを覗き見ている。
「だ、だれだこれ。」
呆然と水溜りを透かした向こう側の人物に気をとられていると、耳に痛く響く警鐘が、突如背後から打ち鳴らされる。
ハッと音のほうに振り向けば、赤く染まった空に今まで見たこともないほど大きな月が二つ、鐘を釣った櫓の背後に半分重なって浮かんでいた。
驚きの余りあんぐりと口をあけ、信じられないものを見る目で仰ぎ見れば、風にのって流れてきた焦げ臭く濁った空気をまともに吸い込んでしまい、溜まらずその場にしゃがみこみ咳き込む。
いっきに緊迫した雰囲気に支配される小さな集落の、寄せ集めの掘っ建て小屋に囲まれた広場の真ん中に座り込んで、逃げ惑う人々を目の端に浮かんだ涙を拭い見回す。
いきなり放り出された状況について行けず、エドワードはしばし唖然として、他人事のようにその情景を眺めていた。
すると横から焦りを帯びた声をかけられる。
「エドワード君、何をしている!襲撃だ、早くしろ!」
急に手を掴まれ引きずられる。
溜まらずエドワードは、掴まれた手を振り払い、声の主を睨み返した。
「待てよ!……お、親父? なんであんたがいるんだ!ここはどこだ?!」
「オヤジ?エドワード君、何を言っているんだ?」
睨みつけられた男、エドワードの父ホーエンハイム・エルリックに瓜二つの顔を持った男は、いきなり思ってもみない疑問をぶつけられ、戸惑った顔でエドワードをうかがう。
「あんた、ダンテのところにいたんじゃないのか?なんなんだここは!俺はどうしちまったんだ!?この顔は?手は?」
エドワードは錯乱する頭で状況を整理しようと、目の前に持ってきた生身で在るはずのない、失ったはずの右手をまじまじと再確認する。
するとにじり寄ってきた父に良く似た男に顎を掴まれ、瞳の奥を覗き込まれる。
「おまえ、俺の息子のエドワード・エルリックか?」
父によく似た男が紛れも無い父親ホーエンハイムであると確信し、エドワードは目前に掲げた右腕で突き放しながら、何を今更と噛み付いた。
「あたりまえだろ!!」
「どうしてここに居る。」
「そんなの知るか!?」
さまざまな複雑な事情が絡んで、決して仲の良いとは言えない親子は、鬼気迫る周りの雰囲気も相まって、戸惑いはさらに混乱の度合いを強めていく。
そんな中、どこからとも無く飛んできた火球が、近くにあったボロボロの井戸をあっけなく打ち砕くのを目の当たりにした父に、強引に腕を引かれエドワードはその場から駆け出した。
「逃げるぞ、奴らだ。」
「奴らって?」
エドワードは、先を行く父の背後に問いかける。
「力による粛正『新教徒狩り』だ。」
325虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:05:40 ID:nxwe8DmY
エドワード達は人気の無い裏通りへと逃げ込み、狭く薄暗い通りを進んでいく
その途中、エドワードは突然脳裏に響く声にギョっとする。
『だれ…君は誰?』
同時に頭痛とめまいが襲いその場に倒れ伏す。
心配げに振りかえり駆け寄ってきたホーエンハイムが、危険を感じ取り、エドワードを引きずり通りの物陰に隠れた。
その様子をぼやけた視界を通してもうひとりのエドワードが、自分の倒れた込んだ位置に突っ立って眺めていた。
(あ、あれは、俺の身体じゃない……!)
物陰に押し込められ仰向けになっていたエドワードの視界がダブって見えた。裏通りの建物に切り取られた空を、黒尽くめの集団が飛んでいく、その一部がエドワードたちの隠れた建物の屋根に降り立ち、手に持った棒状の物を周囲の建物に突き出す。
すると棒先からいくつもの炎の球が飛び出し、大きく膨らみながら対象に激突し盛大に炸裂する。
一瞬にして周囲は炎に包まれた。
「人が、空を、あんなに自在に飛ぶなんて?」
「この世界では錬金術の代わりに、世界に満ちるエネルギーを効率よく体内に取り込み利用できる、特殊体質の人間に特化した『魔法』が発展した。そのため限られたものにしか扱えないが、物理法則を超えた、我々の知りえない高次元の現象を発生させることできるらしい。」
「この世界?」
「気付かなかったのか?ここは、扉の向こう側だ」
ずれた視界から見つめる視線に、ホーエンハイムは視線を絡め小声でつぶやいた。
まっすぐ見つめ返された瞳の中に、吸い込まれるような錯覚に陥るエドワード、『真理の扉』に引きずりこまれた後の記憶が脳裏に閃き、フラッシュバックとして蘇る。
無数に流れ込んでくる大量の情報、それは見覚えのある『全は一、一は全』で形容される世界の成り立ち、生命のつながりの映像から、いつしか初めて見る、エドワードの生まれた世界の史実とは異なる、別の時を刻む異世界の歴史を辿るものになっていった。
途方も無い情報の濁流に精神が軋み悲鳴をあげる。
眩む視界に白い雲海に包まれ、深い青の海洋に浮かぶ大陸が映る。
エドワードはその端に向かって急速に落下していく、そして井戸で水汲みをしていてふと空を仰ぎ見て驚く、こちら側のエドワードの瞳の中へと吸い込まれた。
326虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:08:02 ID:nxwe8DmY
1話 死

そこは何処かの部屋の中だった。
エドワードは暖炉の中に半ば押し込まれたような形状態で我に帰る。
エドワードが目を覚ましたことに気付いたホーエンハイムは、焼け焦げたカーテンで申し訳程度に隠された窓の外を伺うのを止め、こちらに視線をよこす。
「この世界には死が満ちている。力有るものが、その他の命をまるで草花や果実のように簡単に摘み取る。国々のいさかいは絶えず、大量に命を奪う殺戮兵器も使われた。未来では、もっと効率よく人が死ぬ。お前もみただろう?」 
エドワードの脳裏に分断されて宙に浮く大陸と、その狭い領土で終りなき争いを行う人々の光景が脳裏に蘇る。
「その過去から未来に至る全ての命がこの世界を満たし、こちらの言葉で『精霊』と呼ばれる強大なエネルギー体として濃縮される。それが扉から漏れ出し、錬金術の源となる。」
「みなもと?何の話だ!錬金術は、」
「等価交換か?しかし、壊れたラジオを戻すために必要なのは、同じ質量だけじゃない。復元するエネルギーが必要になるはずだ。それを無視して等価交換などありえない。」
「この世界で死んでいく命が、俺達の錬金術のエネルギーになると」
エドワードは神妙な面持ちでホーエンハイムの言葉を繰り返す。
「我々はここに、肉体と魂を繋ぐ精神の狭間に小さな扉をもっている。錬金術師はその扉をあけて、この世界につながり、そこから命を搾取して力に変えている。」
ホーエンハイムは胸に手をあてて、エドワードに講義するように静かに語り掛ける。それに対しエドワードは、絶対の法則を何とか覆そうと喰らいつく。
扉をくぐりまざまざと真理を見せられ、まごうことなき事実だと頭で理解しながらも、感情が納得しなかった。
「はっ、やっぱりあの女の仲間だな!等価交換はないか、同じ事を言う」
「ダンテにあったのか?」
「400年前のラブレターも見た。あんたら二人は身体を乗り換え、他人の命を糧に生きながらえてきた、そうだろ!?……どうして母さんと結婚した。子供をつくる遊びをしてみたくなったのか?!」
「愛していたからだ。母さん、トリシャを愛していた。初めて愛を知った。」
「嘘だ!?、だったらなんで!?俺達の、母さんの前から姿を消した!!」
ホーエンハイムは溜息一つつくと、着ていた服の袖をめくる。腕の一部が見るからにどす黒く腐っていた。
エドワードは目を見開き、息を呑む。
「禁忌を破り続け、背負った代償が魂を蝕み、身体が生きながらに腐っていくのを、見せたくなかった。」
抜け落ちていたピースが見当たらず、いつしかその隙間が父を拒絶する大きな溝となっていたところに、今までの旅で得た何かがすとんとはまり込む、母親や自分達兄弟を捨てた父親と思い込んでいたエドワードを締め上げる頑なな心が、少しだけ緩んだ気がした。
しばし無言だった親子の間で、いつしかポツリポツリと言葉が交わされ始める。長らく空白だったお互いの時間を埋めていくように。
道を別ちあってからのこと、旅の途中で出会ったものたちのこと、こちらの世界に飛ばされた経緯、全ての元凶となったダンテという練金術師のこと、繰り返される過ちの連鎖を断ち切るためにとってきた選択の一部始終。
隔てるものが無くなり、それは流れる水のように、お互いの口からこぼれ出た。
「ダンテは自分一人の力では、賢者の石を作れない。だから私は姿をくらまし、カゲから計画を邪魔してきた、しかし、お前達に目を付けた事を知って、焦りすぎた。」
「それで、あんたもこちら側に飛ばされたのか」 
「ダンテはこちら側の事を知らない。扉を呼ぶのに魂と肉体のつながりの弱い赤子を触媒に使ったことから、真理の扉を生と死を別つ輪廻の境と仮定したのだろう。」
「ゆえに私が扉の内側で肉体と精神、魂を分離させられ、彷徨っていると思っているはずだ。だが私は、扉の向こう側にこうして抜けることができた。」
「この身体は?」
「この世界は、錬金術が発達しなかった点、精霊という高エネルギーに満たされたことによる環境や生態系の変化などいくつか違いはあるが、私達が居た世界と根幹は殆どは同じだ。だから、お前そっくりの子供もいた。たぶん、アルそっくりの子供も何処かにいるだろう。」
「だからこの子の傍に住んでいたのか。」
「お前の肉体は、まだあの扉の内側にある。魂と精神だけが、そのエドワードの身体に魅かれて宿ったのだろう。む?」
親子に与えられた会合の時間は唐突に終りを迎える。
327名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:09:17 ID:7PgQaRlS
支援
328虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:12:03 ID:nxwe8DmY
建物の外で複数の足跡と爆音が迫ってきていた。
「ロマリアの女がいたぞ」という声が窓から聞こえる。
それを聞き止めたホーエンハイムの顔色が厳しいものに変わる。
「自分の中の扉を開け、扉の中で自分の身体を探せ」
「あんたも帰るんだろ?」
「私は帰れない、私の肉体はすでに扉を通り抜けてしまった。こちらの世界では錬金術は使えないんだ。扉を開いたとしてもエネルギー密度の違いで、こちらからあちらにしか力は流れない。だがお前は、その流れに乗ればまだ間に合う。」
「何とかしてやるさ」
エドワードがとっさに掴んだ服の裾を、そっと外しながらホーエンハイムは寂しそうに、何処か嬉しそうに微笑んだ。
「私はここで、この身体で死んでいく。トリシャが愛してくれたこの顔かたちで。私は、等価交換が世界の真理、絶対の法則じゃないと知ってホッとしている。何かを得るために必ず、代価が必要だとは限らない。親が子を愛する時、代価も報酬もそこにはありえない。」
ホーエンハイムは窓を乗り越えエドワードのもとを去っていく。ちらりと見えた父の最後の面影には、こちらの世界で見つけた何かを護ろうとする強い意志が、その瞳に宿っていた。
(俺はそれでも、頑張ったらそれだけ何かが得られる。努力したらそれだけ公平に報われる。代価を払えば、平等に幸せを掴める。そんな等価交換を信じたい!)
自分の身体でない齟齬が現れたのか、手足が震えて思い通りに動いてくれない。
(でも現実は……)
(現実は……そうじゃない。だから子供の理屈だというなら、俺は子供でいい。代価を払っても報われないことがあるなんて、思いたくない!)
己の道を行くと決めた。四年前の旅立ちの決意に似た強い意思が、こちら側のエドワードの心に響く。ふっと振るえが遠のき、身体が軽くなる。父の後を追おうと立ち上がると、急に扉が開き、3歳ぐらいの幼い女の子がエドワードの隠れていた家に逃げ込んできた。
「あぅ、エドお兄ちゃん!お父さんが、お母さんが、お家が燃えちゃった!うわーん!!」
女の子はエドワードの姿を見つけると、大粒の涙を流し胸に飛び込んでくる。
開け放たれた扉の向こう側から「全て燃やせ、跡形も残すな!」という声が響き何人かの黒ずくめの男達が部屋に飛び込んでくる。
エドワードはとっさに女の子を、先ほどまで自分が座り込んでいた暖炉の奥に押しやると、男達に向き直り立ちはだかる。
呪文のような重い詠唱が部屋の中に響き、怯えた女の子の引きつった泣き声がエドワードの耳に届く。
「何が新教徒狩りだ、軽々しく人の命を奪いやがって!」
「なんだと?これは伝染病の拡大阻止のための、」
黒づくめの男達の一人がエドワードの怒声に詠唱を止め、小さく疑問を漏らしたが、パン!と手を打ち鳴らす音にかき消されエドの耳には届いていなかった。
エドワードは両手を胸の前で打ち合わせ、そのまま石畳の床にしゃがみ両手を押し付ける。
呪文を唱える男達の口元がニヤリといやらしく歪む。立ちふさがりながら強がりを言っていた獲物が手のひらを返して、命乞いをするかのように見えたのかもしれない。
しかし現実は違った。
詠唱を止め、部下達の行動を止めようとエドワードの前に立った黒尽くめの男は信じられない現象を目の当たりにして絶句した。
少年のついた両手に青白い光が閃いた瞬間、詠唱を続けていた男達の足下も同じように青白い光に包まれいっきにせり上がったのだ。
「ぐはっ!」
「な、なんだ?ぶべっ」
地面から競りあがった石畳は巨大な人間の拳のような形に変化し、男達を殴り飛ばしたのだ。
エドワードに一歩近づいた男が、先ほどまで立っていた場所にも石の腕が突き出しており、難を逃れた男は背中に冷や汗をかいた。
そして生き残った男へとこの現象を引き起こしたと思しき――だがどう見ても平民にしか思えない、しかも驚くべきことに、魔法を使うために必要な杖も持たない――少年が倒れこんでくる。はっと反射的に抱きとめたものの、少年はすでに事切れて息をしていなかった。
329名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:12:40 ID:C8izD+1a
シエソ
330虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:15:35 ID:nxwe8DmY
2話 終幕、そして始まり

「兄さんは死んでない、ほらこんなに暖かい、魂はまだ扉の中にある。それを取り戻してこればいいんだ、兄さんが僕にしてくれたみたいに。」
「止めなさい、そんなことしたら!」
「僕は!多くの犠牲のお陰で賢者の石になった。いや、もともと僕はあの日に、死んでいたのかもしれない。だから、兄さん……」

エドワードは真理の扉を背にして立っている。
目の前には右腕を代償にして死の淵から連れ戻し、鎧の内に留め、四年の間ずっと共に旅してきた弟のアルフォンスが立っていた。
「アル?」
手を伸ばして触れようとした時、硬い鎧が光の粒子になって掻き消えていく、そして残った一際輝く光の球が、背後の扉を押し開き向こう側へと飛んでいく。 開いた扉をボーと眺めていたエドワードの背後に新たな存在が現れる。
幾何学模様を浮かべ黒服を着た生意気そうな顔の少年が、焦るように周囲を見回し、こちらに気付けば噛み付く勢いで迫ってきた。
「こ、ここはどこだ?!」
人の強い愛で扉の内から呼び出され、人に成りきれない身体に押し込まれ、憎しみのうちに捨てられ、人の欲望のために拾われ利用され続けた操り人形。ホムンクルスと呼ばれる人造生命体。
人になりたいという思いに駆り立てられ、賢者の石を作らせようと導き、そしてエドワードから大切なものを奪っていった対象にたいして、なぜか怒りよりも哀れみを感じてしまう。
「ここは、真理の扉の、前だ。」
「な!ど、どこに繋がっている?」
「確か、俺の時はトリステインの、ダングルテールとかいう場所だったな、親父が言うには。」
「親父だと?まさか光のホーエンハイムか?!」
「ああ」
「奴はまだ生きているのか!?ち…奴は俺が殺す!」
「止めた方がいい。何が起こるか解らない。」
「うるさい!いくんだホーエンハイムの下に!父さんの所に!?」
ホムンクルスの少年は自らの化身である蛇竜に姿を変えて。現れた時と同じように唐突に扉の中へと掻き消えた。
その後もいくつかの影がエドの背後から扉のうちへと消えていった。忌々しい顔、懐かしい顔、親しかった顔。
「うがぁああ!」
「やめなさいグラトニー!汚い手を離しなさい!この出来損ないが!?」
「エド、お前がこっち来るのはまだ早いぜ」
「鋼の、そのままいけば犬死だぞ。まだ遣り残したことがあるのだろう。さっさと目が覚まさないか」
最後に無性にムカつく顔の奴に襟首掴まれ、皆と反対の方向へ引きずられていく。
離れていく扉がゆっくりと閉まリはじめる。
無性に涙が込み上げ、声も無く泣いた。
そして……
331虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:18:13 ID:nxwe8DmY
目を開けば、心配そうに赤子を抱えた女性が覗き込んでいた。
ダンテという全ての黒幕であった錬金術師に、身体を乗っ取られかけた女性だった。
「エド、生きてるの?」
「ああ、ロゼか?ん、何で涙が、」
頬を伝う感触を袖で拭きながら起き上がる。ふと右手が、夢の続きであるかのように冷たい義手ではなく生身だった。
ロゼは気まずげにエドワードから視線を外して目を伏せる、そして正気を取り戻してから目の前で起こった一部始終を、ゆっくりと口にし始める。
それに耳を傾けていると、エドワードの中で断片的な記憶が一つ一つ繋がっていく。
「アルが、貴方を練成したの。ホムンクルスに心臓をつらぬかれて死んだ貴方を。」
「賢者の石で、魂と肉体を、復活させたっていうのか?それで、アルは?」
「アルは、消えたわ。止めようと割り込んだあの人と、ホムンクルス達も一緒に。」
「な!アルが?アル、アルフォンスー?!」
ロゼの言葉が信じられないと、エドワードは弟の名を叫びながら周囲を見回す。
しかし捜し求めるものはどこにもいない、ただ先ほどまで横たわっていた床に、複雑な練成陣の名残が黒く焼きついているだけだった。
ロゼの言葉で蘇った記憶どおりに、目に映る全てが、現実だと語っていた。
ロゼの抱く赤子が、エドワードの叫びに眠りから起こされ激しく泣いた。
術者が消滅したからか、赤子の鳴き声に引き寄せられ、真理の扉が現れることは無かった。
その場に重い空気が流れる。
「ロゼ、早く行け」
「エドは?」
「俺は、ここを破壊していく。もう二度と、誰も賢者の石なんか求めないように。」
「そうね、貴方は一人でも後からこれるわね。だって今はもう、立派な足がついているもの。」
「ああ、アルが残してくれたのがな」
ロゼの言葉に一瞬ハッとするも、ニコリと微笑み直す。
気遣わしげに心配するロゼの背を、そっと押し見送るエドワード。
彼女の後姿が、この悲劇の傷跡を残しす地下都市から消えたのを確認すると。
座り込み、足下に残る練成陣をやさしくなぞる。
「親父の言っていたことが正しければ、アルの魂と精神、肉体は門の内側にあるはず。こちら側に引き戻すには命の対価は他にない、俺の全てを捧げても無駄かもしれない。でも、お前が消えちまう必要はないんだ。戻って来い、アル」
パンっと手を打ち合わせる音が響き渡る。まばゆい青白い光が、400年間住むものもなくひっそりと隠されてきた都市を闇の中に照らし出した。
硬く閉ざされた筈の扉が口を開け、エドワードの目の前に再び現れたとき、アルの声が扉の向こう側から聞こえた気がした。必死に、エドを呼び求めるような。
「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ!強く、美しく、そして生命力に溢れた使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさい!」
ふと何処か違和感を感じた。
アルの声ではあるが、しゃべり方が女っぽい上に、意味不明な単語が並ぶ。
そして薄れる意識のなか、真理がエドワードに見せる二つの世界の繋がりを見比べ、不意に気がつく。
こちら側の時間の流れより、向こう側の時間の流れの方が圧倒的に速いことに。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:18:41 ID:SjmzUepK
支援
333虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:21:30 ID:nxwe8DmY
3話 弟(妹)の使い魔に

二つの大きな月が真昼の抜けるような青空にうっすらと浮かんでいる。ぼんやりと眺めながら、あんな高さから落ちてきてよく生きていたなとなんとなく思う。
そんなエドワードの顔をまじまじと覗き込んできた少女が、呆れたように話しかけてきた。
「あんた誰?」
聞き覚えのある声、エドワードと同い年ぐらいの、黒マントの下に白いブラウスを着た少女。
桃色がかったブロンドの髪と透き通るような白い肌の上にくりくりとした目が踊っている。
その瞳の色は鳶色と違うものの、よく知る人物の身体を失う前の面影と、エドワードの記憶の中で重なった。 
地面に仰向けで横たわっていた身体をおこし、顔を上げ辺りを見回す。
黒いマントをつけて、エドワードを物珍しそうに見ている人間がたくさんいた。
風を受けて波打つ草原の向こうに、石造りの大きな城が見える。何故だかあちらこちらに掘り起こされてからそうそう時間がたってないと思しき窪みがいくつも開いている。エドワードはその中で一番大きな窪みの中に倒れこんでいたようだ。
真理の見せる膨大な情報にさらされ未だ痛む頭を振り、エドワードは半ば朦朧としながらポツリと答える。
「アルなのか?俺だ、エドワード・エルリックだ。」
「アルってなに?っていうかどこの平民?」
平民ってなんだ?と首を傾げてまじまじ見てくる少女や周囲を見返すエドワード、目の前の娘も周りを囲む少年少女たちも、皆一様に同じような服装を着て、手に何か棒のようなものを持っていた。
最初に来た時に親父から聞いた情報が思い浮かぶ。ああ『魔法』をつかうメイジとかいう特異体質の限られた人間、ようは特権階級のお坊ちゃんやお嬢ちゃんがあつまる教育施設か何かに落ちてきてしまったのかとなんとなく理解する。
「ルイズ、サモン・サーヴァントで平民を呼び出しでどうするの?」
誰かが口にすれば、一人を除いてその場にいる全員が笑う。
「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」
笑わなかった一人が、耳慣れた声で怒鳴る。
「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」
「さすがゼロのルイズだ!」
周囲は更なる爆笑に包まれる。
334虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:24:11 ID:nxwe8DmY
じっと覗き込んでくる人物はルイズというらしい、しかし声といい、その瞳といい、弟のアルフォンスにそっくりだった。
『私達が居た世界と根幹は殆どは同じだ。だから、お前そっくりの子供もいた。たぶん、アルそっくりの子供も何処かにいるだろう。』
最初にこちら側へ迷い込んだ時に出会った父ホーエンハイムの言葉を思い出す。
(親父もこんな感じで、俺に似た子供の近くにおちてきたのか、肉体が扉をぬけちまったから、前と違ってアルに似た子供に引き寄せられたってことなのか?だけどなんで性別違うんだよ……。)
「ミスタ・コルベール!」
エドワードが黙考している間にも状況は刻々と移り変わる。
ルイズと呼ばれた弟アルフォンスにどことなく似た少女が怒鳴り、割れた人垣から中年の男性が現れる。
大きな木の杖を持ち、真っ黒なローブに身を包んでいる男は「なんだねミス・ヴァリエール」といいながらエドワード達のほうに歩み寄ってきたが、エドワードをその目に捉えると、なにやら目を見開き硬直する。
(何だ?何でそんなに俺を見て驚くんだよ。)
そんな男の様子にエドワードが眉を寄せて怪訝な顔をしてみせるも、ルイズはそんなこと気にする余裕もないようで、ぶんぶん腕を振りながら必死になってまくし立てる。
「お願いです。もう一回召喚させてください。ミスタ・コルベール?」
「ん…ああ…いや、それはダメだ。ミス・ヴァリエール」
エドワードを見て固まっていた黒いローブの男コルベールは、ルイズが執拗に問いかけると我に帰り首を振る。だがルイズはどうしても諦めきれないと、喰らいつく。
「どうしてですか!」
「決まりだよ。二年に進級する過程で召喚する『使い魔』で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない。」
「でも!平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」
ルイズの主張に再び周りがどっと笑う、キッとその人垣を睨みつけるが笑いは止まらない。
(召喚に使い魔?命を代価にアルを練成したのに、生きてこっち側に抜け出しちまったのは、こいつらのやってる何かの儀式が少なからず関係してるってことなのか?)
エドワードは困ったことに巻き込まれてしまったと溜息をつく。そして向こう側のアルの状態が気になり、空を見上げ思いをはせる。
「これは伝統なんだ、ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼は……」
立場的に儀式を取り仕切る指導者とおぼしきコルベールは、信じられないものを見るような、どこか悲しそうな、複雑な表情でエドワードを見ながら指をさし。
「ただの平民、なのかもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければならない。古今東西、人を使い魔にした例はないが、この儀式のルールはあらゆるルールに優先する。彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」
「そんな…」
「ちょ、ちょっと待て。使い魔ってなんだ?俺の意思はどうなる!俺はすぐにでも帰らなくちゃならないんだぞ?」
黙って様子を伺おうと思っていたエドワードだったが、聞き捨てなら無い状況に話が流れていると感じてルイズとコルベールの会話に割り込む。
しかし、立ち上がりかけてがくりと体勢を崩し、ルイズへと飛びかかるような形でのしかかってしまう。
「きゃあ!何をするのよ!」
「ま、待ちたまえミス・ヴァリエール。よく見れば彼はかなりの傷をおっている!動かさずにそのままでいるんだ!『治癒』を使える者は協力を!」
え?っと急激に血の気が引いて薄れる意識の中で、立ち上がろうと地面についた筈なのに、土の感触を感じられない右腕を見て愕然となる。
急激に身体をうごかしたことで、絶妙なバランスで塞がっていた傷がいっきに開いたのだ。
黒い得体の知れないものに撒きつかれた右腕の輪郭が跡形もなく崩れ去る。
さらさらと草原を渡る風に吹かれて消えていく。
「い、一体なんなのよっ。」
騒然となる周囲の慌しさの中に、青ざめたルイズが力なくつぶやいた声を耳にしながら、エドワードは失血により気絶した。

つづく
335虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/24(月) 23:26:06 ID:nxwe8DmY
以上、とりあえず出会いまでです。
アニメ版の アルフォンスとルイズの声優さんが同じところからこじつけました。
構想はあるものの 文にするのにちょっと時間がかかっているので またまとまったら投下しにきます。
336名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:33:23 ID:TkYKTGiG

アニメ一期はいろいろ言われてたけど、あれはあれで好きだったな
エドが助けた幼女ってやっぱり…
まったりと期待してます
337名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:50:19 ID:C5XPOJAb
>>313
VP2のアリーシャとかもどうだろうか。
OPのアーリィから逃げ出すところから召喚されて、後でジョゼフの召喚でアーリィ様も呼ばれるとか。
武器屋でデルフと一緒にディランの大剣見つけてマテリアライズしたり、宝物庫の破壊の杖がミトラのもので、
ゴーレムVSタイダルウェイブとかは考えたことはある。
338名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:54:51 ID:QyVV5tsl
乙です。
ツンデレの女王の異名のせいで忘れがちだけどアルフォンスも釘宮嬢なんだよな。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/24(月) 23:59:48 ID:fKkfwr2H
>>338
>アルフォンスも釘宮嬢
ドラマCD化が決定した騎士姫のカリン役は、まだ未定だが……いや、まさかな……。
340名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 00:11:12 ID:ET/6oTtX
カリンちゃんは世界一かわいいから声優も世界一かわいい人にやってもらいたい
341名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 00:13:30 ID:8CLQGoSr
ルイズ「サイト、虚無とは絆よ。誰かに受け継がれ、再び輝く」
342名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 00:39:40 ID:QsCqJL0k
>>339
青葉りんご嬢あたりがやったら吹くが…んなことぁないだろうな>カリン
343名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 00:54:03 ID:5BaZcap+
>>341
ゼロ魔でネクサスやるならそのセリフはコッパゲの方が適していそう
あとはカトレア→アニエス→サイトの順番か
344名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 01:09:52 ID:15f8KQ6d
>>343
つまり、ちい姉さまが地獄姉妹の妹になるんですね。分かります。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 01:24:15 ID:59Ogvg4F
コッパゲ「食わねえ生き物は殺さねえ」
346名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 04:45:02 ID:sQncMyab
なに、その両手がボロボロになってそうなコルベールは。
347名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 06:59:07 ID:Kj8aXUYq
>>343
コルベール「サイト、虚無とは絆だ。誰かに受け継がれ、再び輝く」
サイト「……(焦った表情で自分の頭を押さえる)」
コルベール「……そこが輝くとは言ってません」
348名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 08:47:41 ID:6vISpxS1
ゼロ達の沈黙 セガールかと思ってたらレクターかよw
349名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 12:08:23 ID:8CLQGoSr
上条当麻、マキ・イズミ、ジェリド・メサ、橘朔也、紅麗花、星飛雄馬、碇シンジ、秋津マサト
フロスト兄弟、シン・アスカ、Dボゥイ、野上良太郎、等の不幸キャラを一斉にハルケにブチ込んだら
350名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 12:31:39 ID:+6GzmRuj
秋津マサトが木原マサキに体乗っ取られて一人勝ちの予感
ゼオライマー呼び出してハルケギニア大王ルートだな
351名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 12:45:07 ID:0fAQ7mib
>>350
ハルケギニアの技術レベルでは次元連結システムの複製品すら作れない(原作版)
のを忘れてはいけない
352名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 13:34:27 ID:3S6qzKWp
そこらへんが無くても、あの脳みそだけで無双出来るんじゃない?
353名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 14:03:22 ID:WDej3/it
wikiのロリカード読んだ
終わり?
楽しませてもらいました
354名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 14:12:09 ID:q9Me7BSp
>>351
美久かゼオライマーどっちかだけでもあれば奴を呼び戻せ!で済みそうだなw
355名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 14:15:21 ID:tVFpq0jX
脳みそだけで無双とか、メトロイドのマザーブレインとか、魂斗羅の天王鬼ギャバとかなら可能だな
356名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 14:20:38 ID:SJaA9dic
脳みそだけで無双?
伝承族がいるじゃないか(小ネタにはすでに有るけど)
357名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 14:57:59 ID:+6GzmRuj
じゃあルパンに宇宙に飛ばされたマモーの巨大脳味噌召喚で
358名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 15:45:38 ID:yS0j7jGD
ふとニーアから白の書が召喚されたらを考えてみた
が、あの本、マモノ殺して文字ゲットしないとロクに魔法も使えん駄目魔道書と気付いた
359名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 15:56:04 ID:0fAQ7mib
>脳みそで無双
スマートブレイン・・・・・・・はちと違うな
魔法学園経営しそうだ
360名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 16:04:37 ID:sQncMyab
脳だけ・・・時空戦士・・・
361名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 16:27:28 ID:0fAQ7mib
ZXは「脳だけ」に分類されますか?
だとしたら彼の同類ってけっこ居ますが
362名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 16:48:23 ID:ODUpxpoI
漫画版の仮面ライダーも、1号は脳だけになってますが……
363名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 17:11:49 ID:tVFpq0jX
脳以外は人造物のキャラを召喚したら使い魔のルーンは、やっぱ脳に刻まれるのかねえ。洗脳そのまんまだな。
364名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 17:43:13 ID:q1w2k1Jx
脳みそを召喚か
じゃあクランゲと愉快な仲間たちを召喚だ
ぶつくさ言いながら家事をするするサワキちゃんにブタとサイ
365名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 18:14:23 ID:t7r+dMt8
おまえら脳だけといったらサイモン教授に決まってるジャマイカ
366名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 18:24:22 ID:q9Me7BSp
フューチャーメンならぬクォーターメンなら魔法関連も行けるなw
367名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 18:41:08 ID:sQncMyab
黒い幽霊とか。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 18:49:39 ID:ZpNEmFDr
管理局最高評議会とかリムーバーとか
369名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 19:10:04 ID:QsCqJL0k
脳みそといえば沙羅曼蛇軍のゴーレム以外にあるまいて。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 19:21:29 ID:t0cdh+Dg
脳だけ・・Dr.ウィローとか、悪魔医師メンゲレ(敗北後)とか
ネオ皇帝とか、ネッドとか、ガルインとか、アヤ(?)とか
OVA版シドとか、カレンとか
・・・↑のマモーもだが、半分近く呼んだ瞬間に死ぬな
機体ごととか保護ケースとかありゃいいけど
もしくは召喚に応じられませんとか
>リムーバー
小説全巻揃ってるの買う前に近所のブックマーケットが閉店して漫画版しか持ってねぇぇえええ!!!!
orz

っていうか、仮に召喚対象が召喚に応じる前に鏡の前で死んだりしたらどうなんだろ
瀕死召喚は多いケースだが、やっぱ消えるのかね
371名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 19:23:15 ID:72pmGfNw
>>368
リムーバーじゃない、アイツは、風間基樹は俺の兄貴だ! 人間だっ!
372名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 19:55:33 ID:mQi1MwWx
脳と言ったら「顔の無い悪魔」が…
373名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 20:15:09 ID:ET/6oTtX
武装錬金のくぎゅうのあ母さんも脳だな
374名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 20:19:03 ID:bW/lNInn
「むのう」なゼロだからのうな使い魔を呼び出す流れなんですね、わかります
375名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 20:44:16 ID:ZR8akc7S
脳キャラだと、タートルズで敵役の脳の博士(名前忘れた)を思い出します。
376名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 21:13:37 ID:udoLus/+
バレットウィッチの結界生み出すアイツ思い出した
377名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 21:17:29 ID:gn83zV2l
>>368
道楽ジジイのレゾルバーでいいんじゃね?
378名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 21:18:25 ID:YKMdWM6u
脳つながりで、黒い幽霊(ブラックゴースト)団(@サイボーグ009)の総統を召喚
379名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 21:46:26 ID:yfQuBTWZ
ゆうきまさみの『「ファンダム」大地に堕つ!!』で「ノーヒット脳乱」出してるサークルとか。
380名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:00:41 ID:+6GzmRuj
じゃあ総統つながりでビッグファイア様召喚しようぜ
似たような奴を召喚した作品があるような気がするけど
381名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:02:23 ID:8MEQmpIS
バビル二世「僕のことか」
超人ロック「いや、僕だろうね」
キース「…私は呼ばれたおぼえはないぞ」

先生、似たような奴がいっぱいいます
382名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:02:34 ID:+6GzmRuj
しまった、ビッグファイア様は総統じゃなくて首領だった
383名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:25:25 ID:ZazdtxR8
ダークブレインを忘れてないか

関西弁だったり
ドッヂボールで外野×3やったりしてるおちゃめな奴でもある
384名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:35:34 ID:sQncMyab
>>380
フーケ「流石のスクウェアもこうなってはお終いよね。助けてあげるわ」
ギーシュ「いくぞワルキューレ。ジャイアントワルキューレェエエエーーそいつをやっつけるんだぁああーー!!」
あと兵士が杖をグルグル回してヘリみたいに空飛んで生身で板野サーカスやります。
385名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:35:43 ID:WAZpXcfS
>>383
それも私だ、さんで呼ばれている。
386名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:43:21 ID:xPX0VyrE
>>380
スパロボの同人でビッグファイア様=バビル二世ってはっきり描いてたのがあったなぁ。
しかもバビルI一世=マーズって設定にして、十傑集&六神体の犠牲の末にガイアーを蘇らせるのよ。

ほんで明神タケルが六神合体ゴッドマーズ(=ガイアー&六神体レプリカ)を駆り
ライセ黄帝=ヨミ様と九大天王のバックアップを受けて最終決戦やってた。
387名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:46:01 ID:+6GzmRuj
なんか面白そうだなそれ
388名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 22:57:24 ID:WAZpXcfS
>>386
鋼の救世主描いてた富士原さんのか。
一応そのベースは今川GRのLDだかにあった今川監督の脳内設定。
389名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 23:10:21 ID:M3L8g/7s
>バビルI一世=マーズ
そこだけ聞くと知ってる人間はかえって混乱しそうだな
390名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 23:11:28 ID:15f8KQ6d
>>386
七神合体で真ゴッドマーズのやつだね。
391名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 23:23:37 ID:q1lXXkfw
富士原・長谷川・環の三択だな、と思ってたので笑った
392名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/25(火) 23:41:59 ID:7lnX0LJZ
>381
超能力似たもの同士なら、

超人ロック
ソルジャーブルー
ジャスティ
スターシマック

じゃね?
(超人ロックつながりでもあるがw)
393名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 00:07:05 ID:D5Jt5bst
>>392
そこでスターシマックが出るあたり、歳がばれるぞ?
いや、俺もだが。
394名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 00:17:05 ID:6H+b4B8X
ロックさんが召喚された場合、
物語終了までに何人生き残れることやら

たぶんルイズは死ぬ
395名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 00:22:38 ID:Pl7iH0vB
その前に掲載紙が生き残れるかを心配しないといけなくなる。
396名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 00:31:53 ID:cReIxMUf
コミックアライブなくなっちゃうの?
397名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 01:06:56 ID:kHQkLJzE
タバサのマトリクスをコピーしてエルフを返り討ちにしたり、
ルイズのマトリクスをコピーして虚無のことを超能力で誤魔化したりする
398名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 01:49:00 ID:MdyJiMZk
超人ロック召喚ネタならクライマックスで、

ワルドを中心とした、レコンキスタ全メイジによる同調魔法攻撃を受け、虫の息寸前のロック。
「このままいけば、あの化け物を倒せるぞ!!」と調子付くワルドだったが、突如、爆散消滅するアルビオン浮遊大陸。
核の冬状態のハルケギニアのタルブ村、なぜか盲目となったシエスタの元に桃色ブロンドの赤ん坊を預けるロック。
銀河をバックに、マントを翻したロックの後姿でキメ!!
-END-

というのを考えていたw

   
399名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 02:25:14 ID:0rCm5WCT
エド召喚の人乙でした。
くぎゅうつながりでアル召喚は考えたことありますが、結局没だったなぁ。
応援してますので頑張って
400名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 02:36:11 ID:L73xuaNt
よしじゃあ次はレト教の教主コーネロ猊下を召喚するんだ
401名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 02:56:40 ID:kHQkLJzE
超人ロック「ジョセフ王…? いや、お、お前は…」
ジョセフ「レイザーク…グルンベルク…ニオス、カル・ダーム。ミ・ロード。数え切れぬほど戦ってきた…」
402名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 07:21:53 ID:7bZqUs6d
タバサ「きさま!見ているなッ!」
403名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 08:00:26 ID:6H+b4B8X
>>398
まて。その展開だとシエスタが極貧の中で死亡し、
成長した赤子はロックさんと殺しあうじゃないか
404名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 12:16:09 ID:kjXkkcDw
親父の名はヴァン・ホーエンハイムだったよね
エルリックは母親の姓だった
一期は違ったのかね
405名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 13:19:52 ID:6fcFduAv
ホーエンハイムってどう見ても姓の方だから俺もおかしいと思ったw
原作は途中までしか知らないから黙ってたけどやっぱりおかしかったのか。
406名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 13:46:09 ID:32+CneOD
まあ有名な錬金術師の名前の一部からもってきてるんで仕方ないだろう。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 15:31:12 ID:zCdqLyXs
>>396
だったらゼロの使い魔をジャンプで連載しよう。
きっとToLoveるのように、お色気たっぷりの萌えバトル漫画になるはずだ。
408虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/26(水) 15:54:38 ID:D0b81x4r
ウィキペディア見る分には ホーエンハイム・エルリックってのってたのでそれを参考にしました。
アニメでその辺のこと言ってたか覚えてなかったのでそのまま採用を

ということで 途中だった3話を加筆したので その部分を16:00あたりから投下します。
409名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 15:58:03 ID:Ghyi9gpQ
>>407
じゃあ作者は河下水希ね
410虚無(ゼロ)と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:00:54 ID:D0b81x4r
では投下していきます。
___________

「こんな状況だが、だからこそ儀式の続きを、ミス・ヴァリエール」
「えっと、ここで?彼に?」
「そうだ。状況は急を要している。契約を通して、彼が使い魔へと変化する過程で、失われた生命力をルーンの魔力で補うことが出来るはずだ。」
ルイズは自分のベットの上で苦しげにうなされる、エドワードの顔を困ったように見つめた。
使い魔契約は対象が死ねば無効になる。
儀式をやり直したいルイズにとっては願ったり叶ったりの状況のはずだ。
どこぞから何かの間違いで呼び出してしまった平民の少年を不憫だとは思うが、一生に一度かもしれないチャンスを無駄にしてまで助ける義理は、正直ルイズにはない。
彼の傷はルイズの魔法で発生した爆発によるものではないと、医務室で当直をしていたシュヴルーズ先生も言っていた。
まるで刃物でスッパリやったように、傷口は綺麗に切断されていたらしい。
その腕も妙にこの少年にこだわるコルベール先生の頼みで、シュヴルーズ先生がしぶしぶ魔法の義手―ゴーレム製作の技術を応用した金属の腕―を取り付けていた。
「ねぇ」
ルイズはエドワードの耳元に話しかける。
荒い息を吐くエドワードを見ていて不思議な気持ちになる。まるでどこか自分の知らないところで、同じような状況を体験したような。
なぜか心のどこかで、この平民の少年を助けたいという強い思いが湧き上がってくる。
「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」
ルイズはふぅと小さく溜息一つ、諦めたように目をつむる。
その手に持った小さな杖を握り締め、自分の預かり知らぬところで大きくなる思いを込めて振った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。死に向かおうとするこの者に祝福をあたえ、我が使い魔としての新たなる生を与えよ!」
ルイズは呪文に自然と強調詠唱を交えながら、朗々と唱え始めた。
そして横たわる彼の唇に、ゆっくりと自分の唇を近づけて。
「ん……」

* * *
411虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:01:32 ID:D0b81x4r
なにやら口元にやわらかい感触を感じる。そして妙に体が熱くなった。
「っく、くはっ!」
塞がれていた口から何かが離れ、空気を貪るように吸い込むエドワード。あまりの出来事に眠りの淵から叩き起こされ思わず飛び起きた。
「サモン・サーヴァントは何回も失敗したが、コントラクト・サーヴァントはきちんとできましたな。」
ベットの横で心配そうに付き添っていたコルベールが、嬉しそうに言った。
「わたしだってたまにはうまくいきますわ。ミスタ・コルベール」
ルイズがぷくっと頬を膨らませて睨みつけながら顔を真っ赤にする。
「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ。相手が平民だから、『契約』できたんじゃないかしら?」
コルベールの横で『治癒』の補佐をしていた、見事な巻き髪とそばかすを持った女の子が、平民でしかも他人の使い魔のために魔法を使わされた腹いせに、ルイズをあざ笑う。
「ミスタ・コルベール!『洪水』のモンモランシーが私を侮辱しました!」
「だれが『洪水』ですって!」
「こらこら。怪我人の前で騒がない。貴族はお互いを尊重しあうものだ。」
コルベールが二人を宥めると、エドワードの左手の甲を確かめる。
そこには見慣れない文字が躍っていた。
真理を垣間見たエドワードにはそれが何を意味しているのかなんとなく読めた。
(ルーン文字…ガンダー、ルブ?魔法を使う妖精って、おいおいなんだこれ)
「ふむ、珍しいルーンだな。」
「使い魔契約っての、しちまったんだよな?」
「そうだね。君が現れた時から決まっていたことだが、ミス・ヴァリエールに感謝することだ。君と契約せずに見殺しにしても良かったのだから。死んでしまえば契約も何も全て無効になるからね。」
「ん、なんだ、まあ、助けてくれてありがとよ。でも契約がどうとか、認めたわけじゃないからな。」
ぶっきらぼうに頬をかきながらとりあえず礼をいうエドワード、それに対しルイズも火照った頬を隠すようにそっぽを向きながら強がりを口にする。
「あのね?平民が、貴族にそんな口聞いていいと思ってるの?」
「んだとっ?使い魔がどうとか説明もなしに勝手に話し進めといてよくいうぜ。」
「ったく、何処の田舎から来たか知らないけど、説明してあげるわよ!」
「さてと、あとは主であるミス・ヴァリエールに任せて、私達は戻ろう。」
コルベールはエドワードの容態を確認すると、きびすを返して部屋をでていく。
その後についてモンモランシーという巻き毛の女の子が、鼻でフンっと笑ってついてゆく。
「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」
ルイズは部屋に二人っきりになると、溜息をつきエドワードの方を向いてポツリとつぶやく。
「あんた、ほんとなんなのよ。」
「どうでもいいが、説明、してくれねぇのか?」
「うっさいわね。今しようと思ってたのよ。それよりあんたの事も教えなさいよね!」
「別に良いけどよ。理解できなくても文句言うなよ?」
「あんた私のこと馬鹿にしてる?」
412虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:03:46 ID:D0b81x4r
それからあーだこーだと言い合いながら時より脱線しつつ、お互いの事をそれとなく伝え合う二人。
途方も無い話に思ったよりも時間がかかり、窓の外はすでに日が沈んで暗くなっていた。
「それほんと?」
ルイズは疑わしげにエドワードを見つめながらいった。手に持った夜食のパンを食べながら。
二人はテーブルを挟んだ椅子に移動していた。エドワードは今朝方のことが嘘のように、すっかり体力を取り戻している。
「嘘なんてついてどうすんだ。」
「信じられないわ、ハルケギニアと隣り合うように別の世界があって、普通の方法では通り抜けられない扉を越えてこっちに来ただなんて、しかも私があんたの弟にそっくりだとか、なんで弟なのよ!」
「あーあー、うっせぇな、だから文句いうなっていったじゃねぇか。俺だって真理を垣間見てなけりゃ、声を上げて否定したいぜ。」
「なんなのその真理の扉って、どこにあるの?」
「俺の親父がいうには魂と肉体を結ぶ精神の狭間とかなんとか、どこだって言われたら空を突き抜けたずっと上としか言えねぇわな。どういう構造かとか、あのうねうねを説明しろと言われても、なんかすごいものとしか形容できねえしな。」
エドワードはうねうねと両手でジェスチャーしながら苦笑する。
「あんた、別の世界からきたわりに。驚かずによく平気いられるわね。普通とりみださない?」
「んだからこっちくるのは二回目なんだよ、しかも真理が頭の中に、こっちの世界のことを脈絡もなく大量にながしこみやがったから漠然と理解してるんだって。」
先程からこれの堂々巡りである。
体感したことをどれだけ丁寧な言葉に訳し時間をかけて説明したところで、体感してない相手にどうあがいても、その本質を理解させることはできないものである。それが現実離れしたものであればあるほど。
「分かったわ!信じるわ」
「ふぅ、ほんとかよ?」
もういい加減繰り返しに嫌気がさして、じと目でルイズを見るエドワード。反対にすくっと立ち上がり、見下ろす形で腕を組み、首をくいっとかしげて怒鳴るルイズ。
「だって、そう言わないと、あんたしつこいんだもん!」
おいおい、ずっと聞き返してきたのはお前だろうと呆れながら、エドワードもやれやれと立ち上がり、背をそらして身体を伸ばす。
「それにしてもあんた、私と同い年のわりにチビよね?」
「んな!誰が豆粒だ!てめぇに言われたくねぇ!歳の割りにぺったんこのお子ちゃま体型ミジンコ女が」
「なななな、なんですって、仮に主人に向かってその口のききかたはないわ!なんであんたみたいなのが使い魔なのよ!」
「てめぇの魔法の腕前がへなちょこだからだろ!、『ゼロ』ってのはそういう意味だろ?成功確立が限りなく0ってな!周りの反応見てりゃいくら威張り腐ったって丸分かりなんだよ!それに巻き込まれた俺はいい迷惑だ!」
売り言葉に買い言葉、次の言葉が帰ってくるかとエドワードは身構えたが、ルイズはわなわなと震えているだけで無言だった。
エドワードはあちゃ言い過ぎたかと少し反省する。
背が小さいことを指摘されて暴走するのはエドワードの悪い癖だった。
特に女の子に言われるのは幼馴染にばっさりふられたトラウマを抉られるに等しい。
でも目の前の少女は自分の命の恩人である。
使い魔だ契約だと現状は消して良いとは言えないが、向こう側に帰って、弟が無事であるかどうかを知るという希望をつなぎとめてくれた事実はたしかなのだ。
それに錬金術をまともに使えない今の自分を、使い魔にせざるを得なかったルイズの立場だったらと考えれば。
413虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:07:01 ID:D0b81x4r
「わ、悪かったよ。俺も向こうへの戻り方なんてしらねぇし、ここは高度な魔法を学ぶ為の学院だっていうじゃねぇか。色々調べるにも都合がいいしな。ずっとって訳にはいかねぇがしばらく、使い魔として働いてやるよ」
「なななな、なんなりとお申しつけください。ご主人さま、でしょ?」
ぴっと得意げに人差し指を立てて、ルイズは可愛らしく笑って振り返る。
「あーはいはい、ご主人様。んで俺は具体的になにすりゃいいんだ?」
返事は一回とか、誠意がたりないとかあーだこーだ言いながらも、すっかり機嫌はなおったようだ。
エドワードは強情だが案外単純なのかもなっと自分の弟の性格と比べて苦笑する。
あいつも変に強情なところがあったなと。
「使い魔ってのはね、まず主人と視覚や聴覚を共有する能力を与えられるわ。」
「今もできてるのか?」
「できてないわね。」
「契約失敗してんじゃねぇか?」
「へ、平民なんて特殊な例だからしょうがないのよ!きっと!」
「ふーむ、んで他には?」
「そ、それから主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば秘薬とかね。でも無理そうね。あんた細かい常識とか分からないぐらいだから」
「まあ、無理だな。魔法自体、いまいち仕組みが解らねぇ。てか普通の動物がそれを理解できるようになるんなら。知性を最初から持ってる人間ならなおさら、望んだ物の知識とか分かる様になってて当たり前なんじゃないのか?やっぱり契約が、」
「う、うるさいわね。色々教えてあげるから役に立ちなさいよね!」
「そりゃ願ったり叶ったりだな。」
ルイズはあきらめたようにため息をついて話を続ける。
「そして、これが一番なんだけど、使い魔は主人を守る存在なのよ!持ち合わせた能力で敵から守るのが一番の役目ね。でもあんたじゃ無理そうね。」
「どんな化け物と戦せるつもりかしらねぇが、望んで危ない橋は渡りたくないのは確かだな。むこうで何回死線をさ迷ったか。んでもここで普通に暮らしてる分には、死ぬような目にはあわないんだろ?」
「腕一本持ってかれるとかどんな世界なのよあんたの故郷は、まあアンタが他の貴族を怒らせなければ殺されることはないと思うわ。いろいろと慎むことね」
「ご忠告ありがとうよ。血なまぐさいところには見えないんだがなぁ。ひとつ聞くが、ご主人様も気に入らない平民とか平気で殺すのか?」
エドワードの視線が一瞬鋭いものになって、ルイズは生唾を飲み込みつつ怒鳴る。
「ば、バッカじゃないの!貴族は平民を守りはしても、虐げるものじゃないわ。けしからん平民にはそれなりの教育は必要だとは思うけど。」
「それ聴いて安心した、俺のご主人様は優しくておありだ。」
「そんなのあったりまえじゃない。ただしちゃんと遣えなきゃ、ご飯抜きだからね」
「それは勘弁、んで結局普段なにすりゃいいんだ?後ろにくっついて、ご主人様をからかって来る貴族様をなんとかするとか?」
「そんなことしなくていいわよ!いつか絶対、すごい魔法つかって見返してやるんだから!いいわ、あんたにも出来るような仕事をあげる。掃除。洗濯。その他雑用。」
「そんなんでいいのか?そんなの使用人とかがやってくれるんだろ。その仕事奪っていいのか?」
「だいたいの事は学院付きのメイドがやってくれるわね。でも使い魔がいるなら、やらせるのは当然じゃないの。あのこたちの給料は私が直接支払ったことなんてないし、学院から支払われてるんでしょ?あんたが働くぶん仕事が楽になっていいんじゃないの」
「ならいいけどよ」
414虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:10:32 ID:D0b81x4r
(なんだかんだ言っても結局は使いあぐねてるわけか。洗濯物、掃除、どーって事ないな。あとは空いた時間でルイズに付いて魔法とやらを研究しながら、親父の行方でも捜すか)
「さてと、しゃべり通しだったし、眠くなっちゃったわ」
エドワードが黙考していると、ルイズがふあぁと欠伸をする。
「俺は何処で寝ればいいんだ?使い魔専用の厩とかあるんだろ?」
ルイズは何を聞いていたんだと怪訝な顔をして、床を指差す。
「同じ部屋かよおい!貴族ってのはどこぞの馬の骨とも知らない男を部屋に置いておくものなんか?」
「男?誰が?さっきもいったでしょ、使い魔は主人を守るのが役目、四六時中ね。」
ルイズは毛布一枚を投げてよこし、それからエドワードの目の前でブラウスのボタンをはずしていく。下着が露になった。
「っておい!」
エドワードは頬を赤く染め、渡された毛布をかぶり、こちらが居ないかのような振る舞いで着替えるルイズに背を向け寝転がる。
「たくっ、ついてけねぇよ、根本的な常識までずれてるのかこっちの世界は」
ぶつぶつ言いながらも、耳まで真っ赤だったりする。
「じゃあ、これ、明日になったら洗濯しといて。」
頭の上にレースのついたキャミソールに、パンティが降ってきた。
エドワードは顔を真っ赤にして絶句した。
(新手の嫌がらせか、これ?ウィンリィの下着なんて、干してるの見ただけでスパナでガツーンっと)
昔の事を思い出して、少しホームシックにかかった。
(もう女と思わずに、アルだと思いこむか。それはそれで兄の威厳が、ふう。)
パチンとルイズが指を弾けば、部屋を照らしていたランプが消える。
個人の技量に関係なく効果をもたらす、魔法技術を応用した機械みたいなものもあるのかと、ルイズにとって失礼な事を思い浮かべながら、エドワードは眠りに落ちた。
その夜は異様に長く感じた。

* * *
415虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:12:50 ID:D0b81x4r

すがすがしい朝である。眩いばかりの光が部屋に差し込んで、ベットで寝ていたルイズの顔を照らす。
眉をひそめて目覚めるルイズ、起き上がって周りを見渡すと、足下に大の字で転がるおめでたい顔があった。
誰これっとのんびり首をかしげながら考えること数十秒、昨日呼び出した使い魔だと納得する。
そしてルイズの昨夜渡した下着を頭に乗せ、涎までたらして幸せそうに寝ている使い魔を見下ろしていると無性に腹が立ってきた。
ルイズはおもむろにエドワードのくるまった毛布を勢いよく剥ぐ。
中身はゴロゴロ転がって壁にしたたか頭をぶつけた。
エドワードは頭をさすりながら、限りなく糸目な顔でふらりと立ち上がり。
「つぅ、ああアルか、おはよう」
「兄さん、おはよう……って誰があんたの弟よっ」
ルイズは目を吊り上げてカリカリ怒るものの、欠伸をかみ殺しながら溜息ひとつエドワードに命じる。
「服」
「へ?服?すごそこにあるじゃねぇか。」
確かにエドワードが指差す椅子に制服がかけてある。エドワードよりも断然近い位置に。
ルイズはキッと睨みつけるも朝は比較的弱いのか、無視してけだるそうにネグリジェを脱ぎ始める。
エドワードは寝ぼけ眼でまじまじとその様子を見ていたが。ルイズは見られても何も感じないように次の指示を出す。
「下着」
「んだよっ、ずっと鎧生活してて着かたも忘れたのか?」
まだどこか夢見心地といった感じで床に落ちた下着を拾い、エドワードはフラフラ裸のルイズに近づく。
何の因果か、踏み出した足に引っかかるキャミソールが綺麗に両足に絡まる。
そしてこれまた何の因果か踏み出した二歩目の床に、丸まった毛布が放られていた。
ズルッという音がして視界が急激に滑る。
「……!?」
気付けばエドワードはベットにうつぶせに横たわっていた。目を大きく見開いて涙を浮かべるルイズを押し倒して。
(どうして、こうなった?)
エドワードは震えるルイズと目があったままお互いに硬直している。
ふと左手に暖かさを感じた。恐る恐る視線をずらしていけばそこには。
「硬い?」
「だだだ、誰が洗濯板かあ!!」
「痛ってえええぇぇぇええ!?」
その朝二つの悲鳴と怒声、乾いた炸裂音がトリステイン魔法学院の女子寮で、綺麗に重なり反響したという。

* * *
416名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 16:15:32 ID:+7D3TC6d
「」だらけ
417虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:15:59 ID:D0b81x4r
その燃えるような赤い髪と褐色の肌をもつ少女は、扉を開けたすぐ目の前に座り込む、とある少年を見つけ、色気たっぷりに首をかしげた。
少年が座り込んでいるのはいろいろと縁の深いヴァリエール家の三女ルイズの部屋と認識するやいな、ふーんと品定めしつつ、楽しい玩具見ーつけたと妖しく微笑んだ。
「あなた、お名前は?」
にっこりと微笑みながら、自慢の胸を強調し話しかける。
少年はちらりとこちらを見るも、すぐに視線を外してポソリとつぶやく
「エドワード・エルリックだ」
「そう、エドワードね。私は微熱のキュルケ。ところでルイズの部屋の前に座り込んで、何してるの?ここ女子寮よ?」
「そ、そんなの俺の勝手だろ。」
ぶっきらぼうにそっぽを向いたままのエドワードを、キュルケはあらあら可愛らしいこと、私の胸を直視できないなんてまだお子ちゃまねっと品定めする。
「あなた、ルイズが召喚したっていう平民の使い魔ね。さすがゼロのルイズだわ、ほんとに人間なのね。でも変ねー、あの子魔法殆ど成功しないから、珍しく成功した賜物を、ずっとはべらせてると思ったのに野放しにしておくだなんて…貴方、なにか粗相でもしたの?」
肩がピクリッと僅かに動いたのをキュルケは見逃さない、ああなるほどねっと納得し、ちょっかいをかけたくなる。
「ああ、そういえば朝方すごい声と音が響いたわね、魔法で火のない爆発なんて起こすの、学院内広しといえどルイズぐらいしかいないでしょうしねぇ」
エドワードが面白いほどにピクピク反応するものだから、キュルケはくすくすっと溜まらず笑いそうになる。
「だめよボウヤ、ルイズにオイタしちゃ。あの子そっち方面はとっても純情でデリケートなんだから。我慢できないなら私が遊んであげてもよろしくてよ?」
キュルケは胸の谷間をさらに強調して、座り込む少年の顔を覗き込む。
「だ、誰がボウヤだ。俺はれっきとした大人だ」
エドワードは言葉とは裏腹に頬を染めてガチガチに固くなりながらも、逆鱗にでも触れたのか、身を乗り出して過剰に反応してくる。
そこに扉の後ろでひかえていた大きな蜥蜴がキュルケをかばうように出てきて、エドワードを威嚇する。尻尾に灯る炎が揺らめき、廊下の気温が体感的に上がる。
「やん、いきなり人目ではだめよー」
「ば、そんなんじゃ、ってこれサラマンダーか?」
「あら、この子のことしってるのね。火竜山脈付近出身なのかしら、火蜥蜴のフレイム。貴方と同じ使い魔よ。」
「いや、見るのは初めてだな。知り合いの術者が練成陣に組み込んでる図柄で見ただけだ。」
思わぬところに興味をもたれ、ふーんと少し感心する。威嚇体勢の幻獣を前にして、取り乱さない平民など、平民と貴族の関係が肝要な故郷でも数少ないからだ。
「メイジのお知り合いが居るのね、それにしても練成陣って何かしら」
「ルーンやシンボルと同義だな」
などと話していると、バンと向かいの扉が開いて見るからにご機嫌斜めなルイズが顔をだす。
「あら、おはよう。ルイズ。」
「おはよう、キュルケ。」
「朝から騒がしかったわね、程ほどにしとかないと筒抜けよー?」
「ななな、何のことかしら?私お腹へってるの、お先に失礼。」
ルイズはキュルケに取り付くしまを与えるものかと早々に退散を決め込む、その後をエドワードが付いていこうとすると、キッと威嚇し、「飯抜き!」と言い残してスタスタ行ってしまう。
「ルイズ?彼ほっておいていいの?」
「そそそんな、ババ馬鹿犬、す、好きにするといいわ!」
「あらあら、ほんと何したの貴方。あんなにツンツンしてるの。珍しいわよ。」
「不可抗力、なんだけどなぁ」
「まぁ、がんばってねぇ。私も失礼するわ」
去り際ちらりとエドワード確認すると、彼は部屋の中から衣類の入った洗濯袋を持って階下へ降りていった。
「頑ななのねー」
キュルケは当分、暇しなくてすみそうねっと微笑んだ。

エドワードの長い一日が始まる
ぐぅぅぅと、切なげに腹の虫が鳴いた。
418虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 16:35:30 ID:B6U5jVov
投下終了です。

>>416
読みにくいところ 申し訳ありませんでした。
419名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 16:35:52 ID:Ghyi9gpQ
乙でありんす
420名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 17:24:16 ID:EDO85vm2
GJです。原作好きなので、続きも期待してます。

どうでもいいけど、ルイズとアルって顔はもちろん、声もそんなに似てないよね。同じ釘でも。
421名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 18:37:47 ID:SLZD8yAO
缶を口元に当ててたそうだしな初期の頃は

しかしエドって一期ならこの後身長が10センチ伸びることになるそうだが……
作品中の時間でそれを実感できるようになるのは当分先www
422名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 18:59:14 ID:brKUWklM
>>420
アルはもともと少年だからな
同じ釘でもおっぱいに差があるキャラもいるしゲロを吐くのもいるし
423名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 19:25:34 ID:cHMFpebK
神楽ちゃんはゲロなんか吐かないことアルね
424名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 19:35:26 ID:7ig6pNdZ
鋼の召喚、お疲れ様でした

でも、読みにくいのは大きく減点されますよ。
ぶっちゃけ、文字がギュウギュウに詰まって目が痛いです
文章を短く区切るとか、一行空けるとかの改善が必要です。

425名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 19:53:02 ID:1IFsMjm2
乙。

ただ、>>424や他の人と同意見だけどちょっと読みづらい。
このスレやまとめWikiの他の作品見てもうちょっと工夫してもらえると
読みやすくなるかと。
426名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 20:17:43 ID:cZyEaSF2
客商売の話になるが。
怒ってくれる客はむしろありがたく、一番怖いのは黙っていなくなる客だという。
427名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 20:53:26 ID:wvj4ybTh
まあ好きだからこそ言うわけだしね。
期待してる。
428名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 21:25:54 ID:ikMwOuTc
>>426
実際は怒る客のほうが…
真っ当に怒ってくれるならいいけどさ
429名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 21:44:51 ID:5djY4Tzm
客商売にはクレーマーなる連中もいるもんでな。
店側に非があろうとなかろうと、何かにつけてこじつけて怒鳴り散らす阿呆な奴らだ。
連中の主な行動原理は、愉快犯か八つ当たりのどちらからしい。
430名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 21:49:19 ID:+X/F6240
うちの近所はニートの社会復帰支援でも行ってるのか
どうにもなってないバイトだらけで
汁物惣菜を袋に縦置きした奴は流石に怒鳴ったぞ、案の定ビッチャビチャなったし
以降も色々あったが近所なのでやむなく使ってる
顔覚えた店員は睨んでおくけど

さぁ、ルイズの召喚に徹底してクレームつけまくる奴を召喚しよう
でも誰を・・・
431名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 21:50:58 ID:2MX2gdp4
ナルホドくん
…は結構流される方か
432名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 21:53:12 ID:Vg7KjBpY
猫柳田博士とか?
433名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 21:56:06 ID:XzbxC7Vo
そいつ呼ぶとゼロ魔世界が不条理極まりに世界になりそうなんだが・・・・
434虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 21:56:32 ID:B6U5jVov
自動端折れで書いた物 そのまま上げてたので
読みにくかったのでしょうか……
きまった行数でセルフ改行入れるようにしてみます。

次回から、一文に状況まとめる癖を改めつつ、
「」があまり重ならないように状況描写を交えるようにして見ます。

期待して頂き 感謝です。
435名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 22:13:37 ID:iL5xmBb2
クレーマーには何種類かあって、自分らの質的向上に役立てる意見をいうてくれるタイプもあるって、コンシェルジュって漫画で最上さんがいってた!

それはともかく虚無と心理の人乙。
地の文の一行目を一段落とすだけで大分読みやすくよるよ。
会話文だけで話が進んで行くのを嫌う人もたまにいるが、そっちは気にしなくてもいいと思う。
436名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 22:23:39 ID:jzo2m5v0
改行に付いてなら。で毎回改行するのが分かり易くて手っ取り早いかな
下手に文字数で改行すると逆に読みにくくなったりもするし
437虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 22:38:44 ID:2eYu2paE
エド ミーツ シエスタ 部分を試しに書き換えてみたので、
ギーシュ戦まえまでのつなぎとして試しに投下してみます。
22:45 予定です。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 22:38:58 ID:5mPTG166
>>195
亀ですまんが、「妖説太閤記」の秀吉。

女にもてるためとイケメンへの嫉妬から数々の大陰謀を張り巡らして成りあがる。
そして日本の覇王になるも、囲った女の一人からも愛されず、また秀頼も淀君との実子ではなく、
「俺の今までは何だったんだろう。俺はいったい何のために生まれてきたんだろう」と嘆く。
晩年は家康に敗北したことを感じつつ、苦しみのた打ち回り、ほぼ痴呆or発狂状態で死亡という、
すさまじい最期をとげる。

ロリコン、ブサイク、粗チンの三重苦を背負った喪男が、自分の頭脳と執念だけで成りあがっていくのは
ある意味爽快なんだが、その三重苦故に救われることなく死んで行く様は涙無しには読めない主人公。

まあ今際の際に、
「俺はもう一度あそこに帰るぞ。あの自分がもっとも輝いていた若い時代、駆け巡っていた野に」と、
救済された感じではあるが。死亡後にやっと淀君に愛されていたし。

魔法のあるハルケでどれだけ活躍できるかどうかは未知数だが、とりあえずイケメンに対する強烈な怨念から
間違いなくギーシュは酷い目に合い、ウェールズ王子は確実に見殺しにされ、ワルドは壮絶な最期を遂げそう。
んで、なんやかんやあってシエスタ辺りを最初に娶るも、最初から白眼視され、ルイズを何とかものにしようとも
ルイズの心はいつまでもワルドに向いている……という、悶絶展開になりそうだな。
439名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 22:42:09 ID:CJetqm04
>>437-438が繋がってると勘違いして、
「内容変わりすぎ!?」
と驚いたのは俺だけで良い。
440虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 22:45:05 ID:D0b81x4r
あはは では 投下させていただきます。
_________________

洗濯物を持って、廊下の窓から見つけた水場まで来たものの、そこから途方にくれていた。
エドワードは、どうしたものかと塔の壁にもたれ、よく晴れた空を仰いだ。

旅をしている間は錬金術で生活の細々していたことは済ましていたのだ。
朝からご機嫌斜めなご主人様から仰せつかった洗濯をしようにも、
それをするための道具のことなど頭からすっかり抜け落ちていた。
手で洗うにしてもそれらしい道具のありかもわからない。

そもそも特権階級が目にするような場所に、雑多な生活の裏方部分をさらけ出しておく訳がない。
そのことに気付き、その辺にいる使用人を捕まえて色々聞こうと
敷地をうろつくものの、歩けど歩けど下働きの者はおろか、生徒の姿さえ見当たらない。
そして、その理由を目撃することになる。

窓から覗くだだっ広い食堂らしき広間に、ずらりと並ぶ料理の乗った長机。
椅子には学年別に色の違うマントを羽織った生徒達すわる。
その間を忙しそうに銀のトレイをもって行き来するウェイターやメイド達。
そう、魔法学院はそこに済む人々が一同に会する朝食の時間を迎えていたのだ。

ぐぅぅとなる腹の虫に、昨晩から何も食べてないことに思い至りうなだれる。
やる気も何もあったもんじゃなく、はぁぁと長い溜息を吐きながらずるずると壁伝いに座り込んだ。

「ちくしょう!腹減ったな。」
文句を言ったところで状況が好転することもなく、地面に転がっていても拾うものなど……。
「どうなさいました?」
……いた。

振り向けば、メイド服を着た素朴な雰囲気の少女が立っていた。
空の銀トレイを小脇に抱えてこちらを心配そうに見ている。

「あぁ、とくになんも……いや、丁度いいや、ちょいと聞きたいことがあって」
情けないところ見られたなと、エドワードは左手で頭を掻きながら立ち上がる。
「あなた、もしかしてミス・ヴァリアエールの使い魔さん?」
上げた左腕の甲をまじまじと見つめつつ、黒髪のメイドさんは小首をかしげた。
「へ?何で知ってんだ。」
「学院中で噂になってますよ?さっきも生徒さんたちが言ってました。
召喚の魔法で平民を呼んでしまったって。」
メイドさんはにっこりと笑ってしばらくその場で佇む。
少女の笑顔に見とれるエドワード。
この世界にきて初めて出会う屈託のない笑顔だった。
441虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 22:47:57 ID:D0b81x4r
「聞きたいことってなんですか?」
「おっと、ご主人様の洗濯物、何処で洗えばいいか教えてくれないか?」
「あら、そういうことは私達のお仕事ですのに、使い魔さんはほら」
指差された方を見て、エドワードはがっくりと肩を落とす。
「あちらでお食事されたあと、貴族の方々のお声がかかるまで外で待機なさるんじゃ?」

貴族の配膳を終えた使用人がせっせと次の仕事をしていた。
餌といって過言でない調理の施されてないような食材をそのまま、
大きく立派な餌箱や、動物の餌皿に用意している。
その前でまだかまだかと行儀良く待つ、さまざまな生き物達がそこで群れていた。

「ははは、ペットか。俺、昨日から徹底的に人間扱いされてなかったってわけか。」
「あの、えっと……」
思わぬところで自分の立場を再認識させられ落ち込むエドワード。
メイドの少女はどう励ませばいいか戸惑った。
それに気付いたエドワードは苦笑いして手を振る
「ああ、悪い。俺、主人から飯抜き宣言されてるから、いいんだ。」
「そうなんですか?」
「洗い物もやり方教えてくれれば、こっちでやるからさ。使い魔として命令されちまっててね。」
「えっと、それでしたら、洗い場はですね。」
おもむろにエドワードの腹が盛大に鳴り、メイドさんの説明を中断させる。
あらまあとばかりに口を押さえるメイドさん。
くすくすっと可笑しそうにひとしきり笑うと、真っ赤になって居心地悪そうにしていた
エドワードの手をひいて歩き出す。
442虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 22:50:19 ID:D0b81x4r
「お腹すいてちゃお仕事できませんよ、こちらにいらしてくださいな。」
「へ?いや、ちょいと待ってくれ」
「待ちません。あなたにミス・ヴァリエールの命令が下っていたとしても」
目を白黒させつつも手を引かれるままについてくる使い魔の少年を、メイドの少女は振りかえる。
「私は聞いていませんから。」
小さく舌を出して微笑んだ。
「それに私達は学院長のオールド・オスマン氏に、
使い魔さんたちの健康管理も含めたお世話を命じられています。
お仕事させてくれないとお仕置きされちゃいます。」
目元に手を添えて、鳴いた振りをしてみせるメイドさん。
エドワードは頬を掻きながら一本とられたと笑った。

「私はシエスタって言います。あなたと同じ平民の、見ての通りのメイドです。」
「お、俺はエドワード・エルリックだ。昨日からミス・ヴァリエールの使い魔やってる。」
よろしくと、改めて二人は名乗りあった。

* * *

エドワードが連れてこられたのは、食堂の裏にある厨房だった。
大きな鍋や、オーブンの前をコックやメイドたちが忙しそうに行き来して料理を作っている。
その片隅にある従業員専用の休憩スペースにある椅子に座らされると、
ちょっと待っててくださいねとシエスタは小走りに厨房の奥へと行ってしまった。

所在無げに大人しく待っていると、シエスタはお皿を抱えて戻ってきた。
中身は暖かいシチューだった。

「貴族の方々にお出しする料理の余り物で作ったシチューです。よかったら食べてください。」
「おお!いいのか?ほんとうに。」
「ええ。賄い食ですけど。」
シエスタの優しさに感謝しながら、エドワードはスプーンを持って夢中にシチューを口に運んだ。
空腹もあいまって、元から旨いだろうシチューが、輪をかけて美味く感じる。
443虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 22:52:55 ID:D0b81x4r
「うまいぜこれ!コレつくった人は天才だな!
牛乳が入ってるってのこんなに旨いもんつくっちまうだなんて。」

絶賛するエドワードの様子に、厨房を仕切っていた中年のおじさんがやってくる。
おじさんはまるまると太った体に立派なあつらえの服を着込んでいた。
「そりゃそうだ。そのシチューは、貴族連中に出しているものと、殆ど同じもんさ。」
「おっさん魔法使いか?」
「くははは!おらぁ魔法学院の厨房を取り仕切ってるマルトーってただのコックさ。」
がしがしと豪快笑いながらにエドワードの頭を撫でるコック長のマルトー。
「俺の素材を選ばない絶妙な味付けを魔法だと?わかってるじゃねぇか坊主。」
喰え喰え、代わりならたくさんあるといいながら上機嫌に厨房の奥へと戻っていく。
そんな様子を、シエスタはニコニコしながら見つめていた。

「ここでのこと、ミス・ヴァリエールには内緒ということで。ばれると色々大変ですので。」
「ははは、ほんとありがとな。生き返った。」
「そんな大げさな。お腹が空いたら、いつでも来てくださいな。
 私達が食べているものでよかったら、お出ししますから。」

エドワードはホロリと感激する。
それと同時に世話になってばかりじゃ申し訳ないとスプーンをおく。
エドワードにとって何事も錬金術の基本原理の一つ、等価交換を守る事を心情としているからだ。
受けた恩は、必ず返すと言うぐあいに。

「ご馳走様。世話になってばかりじゃ悪いからな。」
「でも、ミス・ヴァリエールのお言いつけがあるって」
「俺に出来ることがあったら手伝わせてくれ。洗濯は今日中にってことだから、後でもいいしさ。」
「なら、デザートを運ぶのを手伝ってくださいな。丁度猫の手も借りたい時分になりますから。」
シエスタの力になりたいっと、真っ直ぐな瞳で見つめるエドワード。
それでしたらこちらにどうぞっとシエスタは微笑んだ。
「おぅ」とエドワードは頷き席を立つ。
渡されたウェイター服に早速着替えて、
エドワードは午前中、厨房でシエスタの後について働らくことになった。
444虚無と真理の狭間で:2010/05/26(水) 22:54:38 ID:D0b81x4r
以上です。
どうでしょう? 
少しは読みやすくなったでしょうか??

前あげたものも書き直して、編集の仕方わかったら
修正させてもらおうかなと思います。
445名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 22:59:51 ID:kd3CTmhP
段違いに読みやすくなった!
乙です
446名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 23:11:35 ID:5mPTG166
乙でした。投下前にカキコして申し訳ない。
447名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 23:35:29 ID:w8tI9LtP
>>439
俺もそう思ったからビビったw
448名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/26(水) 23:48:33 ID:0rCm5WCT
ふむ、だいぶ読みやすくなりますた。
ただエド召喚のようなある程度会話文と地の文がある程度行数をまとめて書いていくタイプの方には
タイプの方は「ゼロと電流」の作者氏のような切り方の方があってると思います。

会話と地の文の間で区切る区切り方ですね。
あくまで作者様の好き好きですので、自分に合った方使っていただければいいのですけれど
449名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 00:38:09 ID:8an9XdhX
あまり空行を入れすぎると返って読み難くなるんで
これ以上は勘弁してほしい。
450名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 01:42:14 ID:r3YmNK0G
素朴で馬鹿馬鹿しいかもしれない疑問。
GONZOアニメ版「ロミオ×ジュリエット」を視聴し終わって、
ゼロ魔と相性良さそうだし、クロスしてハッピーエンドに持って行けないかと思ったんだが、
この場合、三次創作に当たったりするんだろうか。
バジリスク……はちょっと違うか。こういうのは何て呼ぶんだろうかと。
451名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 01:45:33 ID:Er7xV5OO
Mydoをガソリンスタンドごと召還
452名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 03:00:24 ID:91bhkMRC
ベルばらのオスカル召喚、
もしくはサムスピのシャルロット(タバサと同じ名前だな)召喚というのはどうだ
革命で民衆の側に立った貴族の視点からルイズに教育というものを
453名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 03:11:26 ID:Pf3sNVin
ヘイトで説教な悪寒しか。
まぁ作者さん次第ではあるのだろうけど
454名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 03:18:02 ID:91bhkMRC
まあ多分使い魔に影響されてアンアンに逆らったりとかいう展開になりそうかな
ヘイトではなく原作とは違う方面で誇り高いルイズ、とかならないかな
455名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 03:18:20 ID:zVG5AjNi
革命ならぬkakumei
456名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 03:20:13 ID:91bhkMRC
もともとルイズ自体の元ネタがルイ王朝時代のフランス貴族だし、
オスカルとかその辺のフランス革命関連(創作だけど)の人物が今だに召喚されてないのはちょっと不思議
457名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 04:39:15 ID:uDAuOTJ8
458名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 07:14:58 ID:RSIHuclN
革命が絡んだ話だと幸せな男爵様/不幸せな友人たちが一番記憶に残ってるね
459名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 07:45:06 ID:9Zx10x4e
かなり亀ですが鋼さん乙です

見違えるように読みやすくなりましたよ

今後も期待しています
460名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 10:43:02 ID:j07JY5iB
じゃあエドモン・ダンテス君宜しくモンテ・クリスト伯呼ぼうぜ
461名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 14:20:55 ID:xA9O6l4u
なぜかヴェルダンデと仲良くなるモンテ・クリスト伯
462名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 14:27:57 ID:Er7xV5OO
ウルトラマンAの北斗星司召還
テファの村やタルブ村の子供達が一斉に消失したりトリステインに放射能の雨が降ったり
ワルドの悪巧みを早いうちから見抜くが周囲の誰一人として信用されない
463名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 14:34:23 ID:2oYvXA2d
>>462
北斗星召喚に見えて「ハルケギニアの人間で世紀末スポーツアクションをするのか」と素で思ってしまった。
464名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:05:24 ID:DhLQjD/N
姉より優れた妹など存在しないわ
465名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:22:12 ID:kcBJTZPi
しかし長女より胸の大きい次女が…
466名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:35:12 ID:LMqheYCc
父や兄は弟や息子に乗り越えられるために存在するようなもんだ

「勝った・・・よね、僕は、兄さんに勝ったんだ・・・嬉しいはずなのに・・・悲しい
 ずっと、兄さんと戦っていたかったのに・・・目標無くなっちゃったじゃないか・・・」
467名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:43:27 ID:aaD1sqAa
>>466
それなんの台詞だったっけ?
468名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:44:34 ID:8f8S797G
南斗シェルター拳
469名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:49:11 ID:ywCo7GQW
>>467
テッカマンブレードのエビルことシンヤ
470名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 18:56:20 ID:kOs6RZkT
>>451
とんねるずを召喚と申すか
471名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 19:14:07 ID:rsGQF4Mm
>>465
姉の方が優れてるじゃん、何言ってるんだ?
472名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 21:02:54 ID:ld62Vexe
急にすみません、新しくSSをここの投稿したいのですが、どうすればいいのでしょうか?
普通に予告してからで平気何ですかね?
473名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 21:03:54 ID:q2pyEkXN
まずはsageるんだ。話はそれからだ。
474名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 21:05:43 ID:5PwCNMbu
>>472
不安なら避難所の代理・練習スレに池
475名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 21:11:43 ID:qbqEuju/
>>472
テンプレを手のひらに三回書いて飲み込んだり、過去ログや現行ログを漁るのオススメ
476名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 21:53:10 ID:ld62Vexe
失礼致しました、参考にします。
477名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:01:55 ID:zB4fNXav
三重投稿とか頭おかしいんだろうか
478名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:19:11 ID:h4kLIm/p
別に本人確認が出来れば多重投稿だっていいさ、ただココの規則だとその辺の決まりあったっけ?
479名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:27:28 ID:o79TMuL0
どう見ても荒らし
480名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:27:39 ID:0are6Qmf
決まりはなかったと思うが、荒れそうな行為だなとは思う
481名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:27:51 ID:/CgHUZYI
多重投稿のきまりはないけどマルチポストを2chにして
どういう反応が帰ってくるか想像できないあたり
作品云々に語る前に作者読者ともに不幸になる気がしてならないな
482名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:35:58 ID:ld62Vexe
気分を害して申し訳ないです。空気の読めない発言、すみませんでした。
483名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/27(木) 22:36:54 ID:ld62Vexe
気分を害して申し訳ないです。空気の読めない発言、すみませんでした。

sage忘れてました。
484名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 00:06:55 ID:ugqszti7
>>462
 もう召喚されとりますぞ。
 エースとしてだけど北斗も1回出てたし。
485名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 00:09:32 ID:pS53Dms5
かぶってたっていいのよ
486名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 00:14:24 ID:lJib6tCL
>>485
モロに比較されるけどな。
487名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 01:12:28 ID:AgPB4oJV
>>483
消えてください
488名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 01:20:24 ID:+jJY7k+9
「本スレでは恐れ多いから代理を依頼」とか意味が分からない


655 :侍と一般人と魔法使い:2010/05/27(木) 22:03:10 ID:lI4Qxq.6
平気みたいなんで、投稿します。
私的には本スレでは恐れ多いので、代理お願い致します。手間取らせて申し訳ないです・・・

661 :侍と一般人と魔法使い:2010/05/27(木) 22:22:18 ID:lI4Qxq.6
そんなワケで【銀魂】から銀時、新八、神楽の三人がゼロ魔の世界に行きました。
初投稿ですが、絶対に間違ってるような気がしますがどうなんですかね?
指摘あればお願いします。


代理の方、お願い致します。手間を取らせて申し訳ないです。
レベル低い・・・


http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1259394601/647n-661
489名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 01:24:42 ID:QG7CUbkS
無駄なことでスレ消費しても仕方ないしここではこの辺にしとこう
どうせ誰も代理しないだろうし。
490「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 10:52:07 ID:5Dcizuk7
5話 練成術師

エドワードの持つ大きな銀のトレイに並ぶデザートも、その数が残り僅かになる。
シエスタはハサミでケーキをつまみ、慣れた手つきで一つずつ、貴族たちに配っていく。

途中ルイズがこっちを見ていることに気付くエドワード、
冷や汗かいてごまかし紛れに笑ってみたが、ふんっとそっぽを向かれて無視された。
その後はことごとく視線を外され、向こうから何も言ってくる気配はなかった。
(完全無視かい!まあ、シエスタに迷惑がかからなけりゃ、それでいいけどな)
手伝いを終えて、洗濯した後どうすっかと考えながら、
エドワードは心の中で溜息つきつつ、シエスタについてケーキを運ぶ。

ふと足下に何かが転がってきた。
ガラスでできた小瓶で、紫の液体が中で揺れていた。

転がってきた方をみて、エドワードはうわぁと目を丸くする。
金色の巻き髪にフリルのついたシャツを着た貴族が、
薔薇を持って周りの友人達と食後の語り合いに興じていた。
マントの色からルイズと同じ学年の貴族たちらしい。

「なぁ、ギーシュ!お前、今誰とつきあってんだ?」
「モンモランシーと歩いているのを見た奴がいるぞ?」
「いや、一年の女子にラブレター貰ってたって目撃情報もあるぜ!」

「まぁまぁ君達、薔薇は多くの人たちを楽しませる為に咲く、
 僕もそのようにありたいと常々考えているんだ。
 僕にそのような特定の女性をもつことは許されないんだよ。」

ギーシュという気障の塊のような少年は、冷やかす友人達の言葉を何処吹く風。
余裕たっぷりに、見ているこっちが恥ずかしくなるようなポーズまで決めて聞き流している。

自信たっぷりに語るギーシュに、エドワードは呆れて物が言えない。
そのうち気付くだろうと落し物など無視して突っ立っていると。
よく気が回るメイドの鏡のようなシエスタが、
エドワードの視線に気付いて転がる小瓶を拾い上げてしまう。

「落し物ですよ?ミスタ・グラモン」
しかしギーシュは振り向かない。
シエスタは無視された事を気にするでもなく、そっとテーブルの片隅に小瓶を置くとこちらに戻ってきた。
何事もなかったように仕事に戻るシエスタ、プロの気遣いに関心するエドワード。
しかし、背後ではなにやら小瓶の行方で騒がしく盛り上がっていた。

「おお?その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないか?」
「そうだ!その鮮やかな紫は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そうか!おまえの本命はモンモランシーか!!」
「違う。これは僕のじゃない。君達は何を言っているんだね?」

さっきまで余裕たっぷりに話していたギーシュの顔色が焦りに染まっていた。
ありゃ自分でそうですって肯定してるようなもんだなっと
エドワードが横目でちらりと観察しながら思う。

そうこうしているうちに、小瓶がギーシュのポケットから落ちた決定的瞬間をみたのは誰だ。
目撃者はメイドだ、そのメイドは何処だとギーシュの友人達が騒ぎ始める。

しどろもどろに弁解するギーシュが、たまらずこちら側に振り向いた。
エドワードはヤバっと本能的に厄介ごとの気配を感じる。
シエスタの袖を引いて知らせるべく、片手にトレイを持ち替えている間に、
どかどかと忙しなくギャラリーを引きつれやってきたギーシュが、シエスタに辿りついてしまう。
491「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 10:53:48 ID:5Dcizuk7
「き、君からも言ってくれないか?!これは僕のじゃないと!!」
「え?はぁ。そのとおりでございま……」
シエスタが何か言いかけたとき、近くのテーブルに座っていた茶色のマントを羽織る栗色の髪の少女が、
すくっと立ちあがると、ギーシュににじり寄りよりポロポロと泣き始めてしまう。
周囲を囲んでいたギャラリーの中から、あれはラブレターを渡していた一年だと解説が飛びかう。

「ギーシュさま、ひっく、やはり、ミスモンモランシーと、うっく……」
「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ・・・…」
すると遠くの席から、見覚えのある巻き毛の女の子がこちらにやってくる。
右腕の時に世話になったモンモランシーという少女だとエドワードは気付いた。
モンモランシーはエドワードとシエスタの前をいかめしい顔つきでカツカツ靴音鳴らしを通り過ぎると、
ギーシュの背後に怒りのオーラを発散させながら立ちはだかる。
ギャラリーが一歩、その圧力に耐え切れず全体的に後退した。

「モ、モンモン。誤解だ。彼女とはただいっしょに、ラ・ロシェールの森へ遠乗りをしただけで……」
ギーシュは、首を振りながら必死で言った。
彼は気付いて居ない、すでに逃げることが出来ない包囲網が完成していることに。
ギーシュの額から冷や汗が一滴伝って頬へと流れる。
静まり返るギャラリーの誰かが、ゴクリと生唾を飲み込む音まで聞こえる。
それだけ場の緊張感は高まっていた。

緊張が最高潮に達した時、パン!っと高らかな音が響き渡る。
ケティがまずはギーシュの頬をひっぱたいた。
流れる汗がきらりと宙を舞うほどの威力を持った一撃。
ギーシュがその場にしりもちをついてぶっ倒れた。どこか芝居がかっている。
続いてモンモランシーが近くにあったワインの瓶をグワシッっと掴む。
そしておもむろに、中身をギーシュの頭めがけてどぼどぼ注いだ。

「さようなら!」
「うそつき!」
二人の少女は別々の方向へと、怒鳴って去っていた。
「お願いだよ。香水のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を怒りにゆがめないでおくれ!」
右手を延ばして高らかに叫ぶ。
「ケティ、君の可愛らしい瞳に溢れる星をそれ以上流さないでおくれ!僕まで悲しくなるじゃないか!」
左手を同じように延ばす、口だけは気障な台詞を捲くし立てる。
本人は運命に翻弄され、恋に破れたいたいけな美少年を気取っているようだが。
ギャラリーには未練がましく顔をゆがめ、捨てられ地に這いつくばる情けない男としか見えていなかった。
ひそひそ声のあと、ギャラリーの視線が中心にあつまり、シーンとその場を沈黙が支配した。

ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくり顔を拭きながら立ち上がる。
もう片方の手で何処から取り出したのか手鏡を持ち出し、身だしなみを素早く確認する。
「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ。」
芝居がかった仕草でポーズを決めてのたまった。

エドワードはジト目で悦に浸るギーシュを一瞥すると、同じ目で固まるシエスタの袖をひっぱる。
今の内にここから抜け出だそうと、身振り手振りで伝えると、シエスタも神妙な面持ちでコクリと頷いた。
外側からぱらぱらと、何事もなかったように散っていくギャラリーに紛れようとする二人。
しかし、シエスタのフリルエプロンの端を握るものが居た。
「待ちたまえ」
周囲から黙殺され、放置されそうになった事に気付いたギーシュが、
この場を盛り上げえる格好の生贄として、平民のシエスタに目を付けたのだ。
「な、なんでございましょう。ミスタ・グラモン。」
シエスタの声が何処となく震えていた。
ギーシュは近くにあった椅子の上にすたっと立つと、食堂中をくるりと身体を回転させ見渡し、
スタッとポーズを決めてアピールすると、シエスタを見下しながら台詞を口ずさむ。
492「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 10:54:46 ID:5Dcizuk7
「君が軽率に、香水の瓶なんか拾い上げて、皆が見えるところに置いていったお陰で、
 二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね? ん??」

シエスタは口を押さえて、世界の終りのような顔をして震えていた。
貴族の恐ろしさを知らないエドワードは、首を傾げてシエスタとギーシュを見比べる。
おもむろにシエスタはその場に跪いて、頭を下げる。

「も、申し訳ありませんでした!私の気が回らないために、グラモン様にご迷惑をおかけして!」
「僕のことはどうでもいいんだ。傷ついてしまった二人のレディに対して、
 君はどう責任をとってくれるのかね?? ん??」

わらわらと再びギャラリーが集まり始める。
シエスタがこれ以上辱められるのを見ていられなくてエドワードはシエスタの前に立って口を挟んだ。
「二股かけたのはお前だろ、今すぐ謝りにいけよ。」
どっと周囲が笑う、確かにお前が悪い!早く謝っちまった方が身のためだと野次が飛んだ。
さっとギーシュの顔に赤みがさす。

「悪いけど君に用はないんだ。ん?どこかで見たと思ったら、あのゼロのルイズが呼び出した平民じゃないか。
 そんな格好をして、主人に似て役立たずで、使い魔首になったのかい?忠告しよう、さっさと服のサイズを測り直しにいきたまえ。」
サイズのあったものが無く、裾を折り曲げていることに気付いたギーシュが、鼻をならして言い返す。
そこに居るほぼ全員が、平民が手を出すはずがないと高をくくって完全に舐めていた。
ギャラリーは更なる笑いに包まれた。

「だ、だれがウルトラハイパードチビだこらぁ!!」
だからぶち切れたエドワードが、ギーシュの乗っている椅子を思いっきり蹴り倒したとき。
『浮遊』も『飛翔』も使えずに派手な音を響びかせ、ギーシュは再び無様な格好で床にしりもちをつく。
今度は芝居ではなく本当に腰から落ちた、グギッと痛そうな音がなる。
そんなギーシュを見下ろしながら、エドワードは怒気をはらんだ声で吐き捨てる。

「黙って聞いてりゃ好き放題しやがって、てめぇらも馬鹿笑いしてないでさっさと散れよ!ルイズの頑張りなめんじゃねぇ!」
エドワードは知っていた。
眠いといってベットにもぐりながらも、杖を持って魔法のスペルの間違いがないか復習をしている姿を。
使い魔の能力について、びっしり書きとめたノートを見直していた事を。
あの夜、使い魔の共感能力がルイズの無意識によって働いていたのだ。
お陰でエドワードは眠れず、寝坊したのだが。

一瞬あっけにとられるギャラリーの中から、怒りが混じった野次が飛ぶ
「平民が貴族に手を出したぞ!ギーシュ、だまってるなんてないよな!」
「平民!さっさと地面に這いつくばって謝れ!身のためだぞ!」

周囲の興味が自分に向いた事を確認すると、エドワードはシエスタをさっと立たせ、
この場から去るようにと視線で合図する。
「あ、あなた、殺されちゃう!貴族を本気で怒らせたら……!」
シエスタはフルフル首を振って後退りして人垣を抜けると、その場から走って逃げていく。

その間に友人の手を借りて立ち上がったギーシュが腰をさすりながら、
目を爛々と光らせて寄ってくる。
「君は、貴族に対する礼を知らないようだな」
「口が達者なだけかよ、女みたいなフリフリ着やがってこのオカマ野郎が!」
「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ。」
「いいからかかってこいよ。落としてきたか大事なもん。」
エドはフッと笑って挑発する。
ギーシュはわなわなと肩を震わせているが、ギャラリーの前で醜態を見せまいと余裕を演出していた。
くるりと身体を翻しさっと手を上げる。
493「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 10:55:52 ID:5Dcizuk7
「逃げんのか?」
「馬鹿な事を言わないでくれたまえ、貴族の食卓を下品な平民の血で穢せるか。
 ヴェストリの広場で待っている。遺言でも書き残したら、来たまえ。」

さっとギャラリーが割れて道を作る。
そこを手を振りながら余裕綽綽と歩いていくギーシュ。
友人達がそのあとに続き、ギャラリーも移動を開始する。
一同何かの余興が始まると、わくわくしているようだった。

そんな人の波を掻き分けて、ルイズが駆け寄ってきた。
「あんた!忠告した次の日から問題起こしてどうすんのよ!」
「ははは、ついやっちまった。悪いなルイズ、我慢できんかった。」
バツが悪そうに頭を掻くエドに、ルイズはやらやれと溜息をついて肩をすくめた。

「謝ってきなさいよ。腕一本ですまないわよ。」
「もう後戻りしないって決めてんだ。ここは譲れねぇ。それに丁度体がなまってたしな。いい運動だ。」
「馬鹿、あのね?平民はメイジに絶対勝てないのよ。それが世の中の絶対なの!」
「この世にあり得ないことなんて、あり得ない。まあ見てな。」
傍で逃げないように監視していたギーシュの友人の一人と目が合う。
こっちだと顎をしゃくってきた。
エドはその後について歩き出す、ルイズも小走りで付いてきた。
「ああもう!なんで使い魔のくせに勝手なことばかりするんだから!」


 * * *


エドワードたちはヴェストリの広場へやってきた。
そこは昼間だと言うのに、塔に日差しが隠され薄暗い、決闘場としては相応しい場所である。

しかしエドが、薔薇の造花を掲げ噂を聞きつけた観客達に答えているギーシュの前に立つ頃には、
そこは闘技場のような雰囲気をかもし出していた。
歓声が一際大きく、広場に溢れかえる。
エドが入ってきたときの退路は人垣に閉ざされていた。
心配そうにルイズがその一番前に立っている。

「やあルイズ、悪いね、君の使い魔を少しかりているよ。」
ギーシュが怒りに震えるルイズにウィンクしてみせる。
決闘は禁止とか、先生が許さないとかいうルイズの言葉を、
ギーシュは食堂で見せた口の上手さでやり過ごす。
エドはやれやれと頭を掻いた。

「これから負けるってのに、あんだけ馬鹿にしたうちのご主人を口説くんじゃねぇよ」
「何のことかな?とりあえず、逃げずに来た事は、誉めてやろうじゃないか。」
薔薇をいじりながら、歌うようにギーシュはエドを出迎えた。
「口上はいいから、さっさとやろうぜ。」
「まあ待ちたまえ、平民の君にハンデをあげよう。」

余裕の笑みを浮かべつつ薔薇をふると、宙に舞った一枚の花びらが光り輝く。
あっという間にそこに甲冑を着た女戦士の人形が現れるた。
背丈はエドより頭一つ分でかい。
「まるで手品だな」
「僕はメイジだ、平民のまやかしじゃない。魔法を舐めてかかると、死ぬでしまうよ?」
「で、それだけでいいのか?」
「一体で十分さ、言い忘れたね。僕は青銅のギーシュ。したがって青銅のゴーレム。ワルキューレがお相手するよ」
494「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 10:57:26 ID:5Dcizuk7
言うが早いか、ワルキューレがエドに突進する。
その右の拳が、エドの腹にめり込む、事はなかった。
唖然とするギーシュと観客の目の前で、半身に構えたエドの体がぶれた。
さっきまでそこにあったワルキューレの姿がなくなる。
エドの斜め後ろ、観客のすぐ傍にガシャンっという金属音が響き、
ワルキューレが地面に転がっていた。

「だから言ったじゃねぇか。それだけでいいのかって。アルのほうが断然手ごわい。準備運動にもなりゃしねぇ。」
ゆっくりとエドはギーシュに歩み寄った。
観客がわぁああと大番狂わせに沸いた。


 * * *


ギーシュは戸惑っていた、こんなことがある筈がない、まぐれであると。
そしてエドの挑発に乗り、自分の持つ力を全てさらけ出していた。
ゴーレム七体同時作成&操作、ゆっくりと近づいてきていたエドの周りに、
ギーシュの振るった薔薇から花びらが数枚ちぎれて舞う。
あっという間にエドを囲み出現したワルキューレ6体が、一斉に飛び掛った。
あるものは投げられる。あるものは足を払われすっころぶ。
挟み撃ちを狙えば、攻撃をそらされ同士討ちを決められる。

踊っているようにエドはその攻撃を難なくあしらっているが、
先ほどまでじりじりとギーシュに近づいていた歩みが止まっていた。
その事に気づき、ふっとギーシュは平民のからくりを暴いたと得意げに笑う。
少しでも怯んでしまった自分を恥じる。
そして、それ以上にギーシュは勝利を確信した。
「悪いね、君の脅しは僕には通用しないよ。君は気付いて居ないかもしれないけど、コレは僕の勝ちだ。」
ギーシュの余裕の勝利宣言に観客からひときわ大きな歓声があがる。

エドは内心冷たいものを感じていた、素手ならば師匠直伝の体術で何とかなると踏んでいた。
しかし相手は仮にも金属の塊である。
そして、投げても同士討ちに嵌めても、無生物ゆえにその勢いは衰える事を知らない。
そればかりか、エドワードの動きに慣れてきたギーシュが、
効果的な攻め方を組み始め、こちらのスタミナはガンガン削られていく。
石でも拾っておけばよかったと、エドは後悔する。
たかが喧嘩と侮ったのだ、今頃言ってもしょうがないが、遠距離攻撃の手段があれば
後ろでのうのうと軍師気分でいるギー主の戦術を崩すこともできただろうに。
余裕がなくなってきたエドに対して、ギーシュは観客に答えクルリと回りながらポーズを決めていた。
全力をださせれば、精神力は早々に切れると踏んだが、そんな様子さえ見せず、また一つ計画が没になる。

数十分たつ頃には、ワルキューレたちの攻撃がエドに当たるようになっていく。
直撃をすんでのところでずらしているものの、
受けるだけでも重い金属の一撃は、確実にエドを弱らせていく。
495「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 11:02:19 ID:5Dcizuk7
「お願い、もう止めて!」
背後でルイズが訴えている。鳶色の瞳が潤んでいた。
「忙しいってのに、無理なこと命令すんじゃねぇよ、ルイズ!」
「もういいじゃない、あんたよくやったわ。ここまでメイジに張り合えた平民なんて見たことないわよ」
体中擦り傷だらけ、肩で息をしているエド、それでも強がりをいう。
「ルイズ!お前は黙ってみてろ、俺がこいつの鼻っ面へし折るのをな!
 お前が召喚した使い魔が、メイジを超えるのをな!」

振り返ってにやりと微笑むエド、そのミエミエの隙を突いてワルキューレがエドを殴り飛ばす。
ガキンっと嫌な音が響いた。

ずさぁあっとエドが吹き飛ばされ、ルイズの下まで転がる。
「エド!」
ルイズが駆け寄る。
「はは、やーっと名前呼んでくれたな。」
「馬鹿!あんたはわたしの使い魔なんだからね!これ以上勝手なまねはゆるさない!」
ぽろぽろと、ルイズの瞳から流れた涙がエドの頬をぬらす。
「終わりかい?」
気障ったらしさ有頂天といった感じで、ギーシュがくねくねポーズを決めながら首をかしげる。
ワルキューレ達の攻撃を一時的に止めて。
「ちょっとまってろ、休憩だ。」
「エド!」
ギーシュが微笑んだ。手に持った薔薇を振るう。
一枚の花びらが新たに宙にまい、エドの足下に一振りの剣となって突き刺さった。

「剣を取りたまえ、それでなければ一言こういいたまえ、ごめんなさい、とな。それで手打ちにしようじゃないか」
「ふざけないで!」
ルイズが横たわるエドの前に立ち怒鳴る。
しかし、ギーシュはルイズをの言葉など無視して続ける。
「剣だ、わかるか?平民がメイジに一矢報いようと磨いた牙さ、まだ噛みつくきがあるならば……。」
「いらね」

ギーシュがかっこつけながら朗々と語る向上を、途中でばっさり切って捨てる。
「エド、やっと止める気になったのね。」
「いや、なくても勝てる。そのためにここまで練成を組んできたんだ」
「なにいってんのよ!意味わかんない!」
そこにいる一同、エドの気がふれてしまったと思った。
どう見てもギーシュの圧倒的有利の状況で、すごしぐらい体術が使える平民があがいたところで、
どうにもならないのは目に見えていたのだ。
強がりで命をかける平民がいるとは、それだけで驚きであるが、
貴族にとっては、暇をつぶす滑稽なひと時の道化でしかない。
496「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 11:02:57 ID:5Dcizuk7
エドがゆっくりと起き上がり、止めようとすがりつくルイズをやんわりと押しのける。
突き刺さった剣を生身の左手で貫いた。
愛用の手袋で隠された左腕のルーンが熱く輝いた。
ふと、眉を寄せるエドワード。
そのままギーシュの方へと、今までに見せた内で一番早い動きで投げつけた。
ザクッとギーシュの足下に深々と突き刺さる。
「なるほど、そういうことか……。」
ポツリとエドは何かをつぶやいたのを、ルイズは聞きとがめ、眉を寄せて首をかしげた。
状況が状況のため、意味不明なその言葉にたいして、エドがどこか狂ってしまったとしか思えなかった。

「お、驚かせてくれる、もう狙う体力も残ってないようだね。まずは誉めよう。
 ここまでメイジにたてつく平民が居ることに、素直に感激しよう。」

「おう、感激してくれたついでに一つ聞いてくれ。種明かしだ。
 青銅ってのは何で出来ているか知ってるか?」

「は?何をいっているんだい。そんなことどうでもいいじゃないか。」

「おもに胴と錫でできているんだ。錫の量が増えれば増えるほど、
 胴の赤みが消えて金のような艶をもち、さらに増えれば銀のように光り輝く。」

「まあそうだね、僕のワルキューレは美しく輝いている。そうなるように作ったさ。
 誉めてくれてありがたいが、そんなことで許すわけないじゃないか」

フンッと笑うギーシュに、同じように鼻で笑ってみせるエドワード。
「つづきだ、銀色に光る青銅は固いが、同時に脆くなる。そしてただでさえ酸化しやすい物質だ。」
「だから、なんだというんだ!」
だんだん苛立ちはじめるギーシュ、気が触れてしまった平民にこれ以上つきあっていられないと
薔薇をふるって、ワルキューレに包囲網を狭めさせるようと命令を下す。
それに対しエドはゆっくりとその包囲網の中心にあるきながら口を開く

「本来自ら動かない金属に無理やり激しい動きを続けさせ熱を蓄えさせる。それも重心が集まるその人形の腰の部分、
 上半身と下半身を結ぶ部分を細くしたのは、動きやすくするためだろうが…」

エドワードは一斉に飛び掛ってきたワルキューレを、先ほどと同じように転ばせていく、
ただ遠くにではなく丁度足下にくるように。
そして跳躍、全体重を乗せてワルキューレを踏みつけた。
バキッという音が響き、今までびくともしなかったゴーレムが真っ二つに折れた。

「こうして冷めてさらに脆くなったところに、衝撃を集中させれば、いずれ重みで自壊する。
 殴られながら、強度の劣化具合をしらべさせてもらったよ、このゴーレム、再生しねぇな。」
バキ、ベキと次々に急所となった継ぎ目へ右手の当身が綺麗にはいり、残りの5体もあっという間に腰をへし折られる。
ワルキューレの上半身と下半身がばらばらに転がり、ただジタバタ地面で動くだけの木偶と化した。
「ひっ」
あまりの出来事に動転するギーシュ、何が起こったのか解らずパニックに陥っていた。
そして、万が一の保険として残していた、使うつもりのないかった罠を発動させる。
最初に投げられピクリともせず、観衆にまぎれていたワルキューレが飛び出す。
いつの間にかギーシュの足下に突き刺さっていた剣がなくなっていた、
それは地中を移動し踊りかかるワルキューレの手に再生成され、その凶刃を輝かせていた。
「エド!危ない!?」
ルイズが叫ぶ、完全なエドの背後から、ワルキューレは剣を振り下ろしていた。
497「虚無と真理の狭間で」代理:2010/05/28(金) 11:04:16 ID:5Dcizuk7
ガキィン!
交錯する剣とエドの右手。
破れたウェイターの服のしたから、ミス・シュブリーズが付けてくれた金属の義手が覗く。
「錯乱して暴走するような分不相応な力、鞘にしまいきれるぐらいに自分を磨けよ!ルイズみたいに!!」
パンっと静まり返った広場に、手を打ち鳴らす音が響き渡る。
青白い光がそこに居る全ての人の目を焼いた。
気づけば義手の一部が、鋭い刃となって伸びていた。
ザシュ!
真っ二つになった最後のワルキューレが、ギーシュの前にぐしゃりと崩れ落ちる。
「ほれ、一回死んだ。」
ギロリと睨みつけて、音も無く薔薇の杖を切断したあと、ギーシュに腕から伸びる刃を突きつける。
「ま、参った。」
ギーシュはそれだけ言うと、力なく座り込みうなだれた。

「俺はルイズの使い魔で、錬金…」
最初に剣を握った時、脳裏に響いた言葉が思い浮かぶ、錬金術だけでない、
虚無と真理が出会って、ハルケギニアにきて花開いた新たな可能性…
「いや、練成術師だ! 戦いは腕っ節の強さで決まるわけじゃない、ここで戦うもんだ。」
とんとんと指で頭を指してにやりと笑った。

その場に居たもの全員からから歓声があがる。
平民だ貴族だと騒いでいたのが嘘のように。
目の前で起こった事を必死に分析するもの、ただただ叫びをあげて興奮するもの。
そんななかに、驚き、何か確信した目でエドを凝視するものがいた。
太陽の光を反射する立派な頭の、コルベールだった。

5話 END
498名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 11:19:16 ID:3LKUGcYe
作者様と代理乙!
錬金術師っていっても科学者みたいなもんだもんな、やっぱりハゲとのからみがあるのか
499名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 11:36:44 ID:9ORIb6TM
エド賢いw
500名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 11:57:59 ID:VWiz25mJ
錬金術って言ってみれば古代科学だしな。ニュートンだってやってたんだし。
馬鹿ではなれない。
501名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 12:24:52 ID:jwjRXMeu
投下乙です。
やっぱりエドは強いなw

>錬金術師
山師みたいなイメージがあるけど、当時の一流の知識人でもあるからね。
実験とその結果の検証を通じてオリジナルの理論を構築していた人は今で言う科学者そのものだし、
卑金属から貴金属を作ることを目指していた胡散臭い連中ですら侮れないほどの科学的ノウハウを蓄積していた。

>ミス・シュブリーズ
この人の親戚にはミス・ファブリーズがいるに違いない。
二つ名はもちろん「消臭」ェ……。
502名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 13:07:55 ID:9Amisib/
1320からとりあえず銀魂の万事屋三人と才人の投下します。
ご迷惑おかけしますが、みなさんよろしくお願い致します。
503名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 13:08:07 ID:ZUP6Yad4
エドは「知性ある乱暴者」だからな

老若男女の区別無く「男女平等」に暴力振るうし
しかし旅行記風に書かれたエドの研究ノートって読んでみたい
504侍と一般人と魔法使い:2010/05/28(金) 13:18:46 ID:9Amisib/
第一訓「危険な発明家の発明品は危険の塊だ」


 ――『侍の国』――
 
 僕らの国がそう呼ばれたのは、今は昔の話。

 数十年前、突如異世界から舞い降りた天人(あまんと)の台頭により侍は衰退の一途をたどった。

 かつて侍達が仰ぎ、夢を馳せた青い空には異郷の船が飛び交い、

 かつて侍達が肩で風を切り歩いた街には、今は異人がふんぞり返り歩く。
 
 それが僕らの世界。
 
 それが僕らの町、江戸である。


 ―――そんな世界の非日常―――

 ―――だが、この世界では日常の日々―――

 ―――だが今日は、彼らにとって最大の非日常が起こる日―――

 ―――それもどうやら……この世界で、というワケじゃないようです――――



 そんないつも通りの朝であった。
その三人はというと滅多に来ない依頼を受けて源外の家に来ている。
「ったくよ、じじいはこんな朝早くから呼びやがって、何のようだコノヤロー!!!」
 白髪の男が不機嫌そうに言う。
不機嫌そうにそう言った男。その名は仮にもこの世界の主人公"坂田銀時"である。
彼は、心底眠そうにさっきからごしごしと目をこすっている。
「だから、依頼ですよ銀さん。今月分はもう金欠という言葉が似合うほど家計がピンチなんですから、しっかりしてくださいよ」
 銀時の言葉にそう答えたのは、地味という表現が似合う少年。
眼鏡をくいっと直す少年のその名は万事屋にバイト?として入っている"志村新八"である。
「私も朝早く呼ばれたせいでメイクし忘れたアル」
 チャイナ服を着た女の子があくびをしながら言った。
この女の子は万事屋居候の"神楽"である。
いつもなら白くてかわいい外見の割にめちゃめちゃ大きな"定春"がいたりするのだが、今は万事屋でおねんね中である。
「いっつも、神楽ちゃんはメイクしてないでしょ」
「つーか、お前は心をメイクしやがれ!」
銀時と新八はそんな神楽にツッコミを入れた。
「てか、新八。お前こんなご時世に刀なんか持って平気かよ?捕まっちまうぞ。あのマヨラーに」
銀時の言うとおり、新八の腰にはいつもの木刀ではなく新品らしき刀が差してある。
銀時の質問に新八は苦笑いすると、こう答えた。
「コレ、父上の形見なんですけど、飾っておいたら埃と錆が目立っちゃって。それでさっき鉄子さんにまた研ぎ直してもらったんです。それで、今日研ぎ終わったみたいで受け取ってきたんです」
「ふ〜ん。ま、いっか」
「そうアル。どうでもいいヨ」
「尋ねといてその反応ですか!!」
 そんなやりとりを終えて銀時達一行は平賀源外の工場に着いたようである。
相変わらず、ガシャコンガシャコンうるさい。近隣の方々は今もこの騒音に頭を抱えている。

505侍と一般人と魔法使い:2010/05/28(金) 13:20:40 ID:9Amisib/
「おい、じじい来たぞ」

銀時はシャッターを叩くが、反応がない。
しかし、中からガシャコンガシャコンとカラクリを弄る音が聞こえるので、本人には聞こえていないようだった。
「おい!クソじじい!来てやったぞ!!」
銀時は再びシャッターをドンドン叩くが、やっぱり源外はカラクリを弄っているのだろうか聞こえていないようだ。
そのことに業を煮やした銀時が怒鳴り声をあげる。
「おい!いいかげんに出て来い!騒音じじい!帰るぞ!!帰っていい!!?ねえ!?」
 銀時が怒鳴った後でも、やはり反応は無かったので神楽がシャッターの前に立った。
「私に任せてアル」と言って、勢いをつけてシャッターを蹴破った。
シャッターを蹴破ったのはいいが、源外がシャッターの下敷きになっている。
源外が気絶しているのを見て、神楽は驚いたような声をあげて源外に駆け寄ってこう言った。
「誰アル!!?じいちゃんをこんなにした奴は!!?」
「「いや、おめェだから」」
 すぐに銀時と新八がツッコミを入れた。今日もツッコミは冴えていた。

   *

「で、依頼って何やればいいんですか?」

 新八が訊くと源外が思い出したように言った。
「おぉ!そうだった!忘れとった忘れとった。俺が昨日でやっと完成させた装置があるんだが、そのことだったわい」
 そんなことを言うと源外は後ろにある装置を指差した。
どうみても怪しさが漂う装置である。新八が不審な顔つきで源外に尋ねた。尋ねられた源外がこう説明する。
「俺が、やっとの思いで開発した傑作よォ。生体に電磁波をぶつけてなんやかんやで生体をテレポーテーションさせる装置だ。名前はまだ決めて無いがな」
 源外があっけらかんと言う。
新八から見て、この装置がそんなにすごい装置だとは思えない。
むしろ、傑作というよりは欠陥という感じがする。
そんなことを考えていると銀時は案の定こう言った。
506名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 13:23:01 ID:ABVeWsUA


                                消えろ荒らし

 
507名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 13:46:47 ID:rPcflnMb
うーん、本物だとは思うが、せめて小説家になろうとアルカディアの2箇所も同時連載してるのに、こちらにまで来た理由を説明してほしい。
508名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 13:52:54 ID:Drz/VoL0
どうやら途中で規制になって避難所に行ったようだな…
509名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 13:53:03 ID:CBTsUj9G
僕のSSは最高に面白いのでみんな見てください。いや見るべきです。見ろ。という気持ち
510名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 14:06:07 ID:ZUP6Yad4
いやまあ気持ちはわかるよ

とりあえず読んでくれ、あと出来れば感想くれくれくれ、くれっぺくりゃるかくれりゃんこー♪
という気持ちは痛いほどわかる。

あと感想がこない事とか誰もupしてくれない事とか十日くらいしてupされた時のイタさ・・・・・・・
げふんげふん、でもまあ常識的に考えて三重投稿ってのはマズいだろ
511名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 14:12:53 ID:iPGGHSJ7
>>510
あー分かるねぇその気持ち。
特に
> あと感想がこない事とか誰もupしてくれない事とか十日くらいしてupされた時のイタさ・・・・・・・

このくだり。
というかね、なんで渡り歩くようになったのか知らないけど、
叩かれるのがイヤってんならサイト作ってそっちでやった方が
幸せになれると思うよ。うん。
512名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 14:32:09 ID:wqGUA6yc
>>490-497
あのさ、それ代理しちゃって良かったの?
作者さんは練習って言ってるみたいだけど・・・

638 :虚無と真理の狭間で:2010/05/27(木) 14:49:31 ID:oOjh4DBw
練習でございます。

http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1259394601/638n-
513名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 14:39:30 ID:wqGUA6yc
>>511
たぶん逆じゃないかな。
発言や行動からして望んでいるように見える。
514名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 15:38:57 ID:5/GnAsVw
上の流れからまさかと思ったがその通りだったか
>>514
真性のMってことか・・・
515名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 15:41:21 ID:WgEJUnHj
>>514
これが真性のMか
516名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 15:41:47 ID:CBTsUj9G
>>514はM
517名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 15:46:27 ID:5/GnAsVw
アンカー間違えてた・・・別れたい・・・
518虚無と真理の狭間で:2010/05/28(金) 16:02:47 ID:Zf6O2zmA
>>490-497
>>512
代理ありがとうございます。
まだ誤字チェックとかしてなかったので練習のつもりでしたけど、

あげる手間が省けてとてもたすかりました。
まだ規制の度合いがわからなくて さるさん喰らいまくるので

まとめで少し文がふえてたりとか、語感変わってるかもしれませんが
そのへんはお許しを  
519名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 18:05:38 ID:rPcflnMb
うんうん、有望な新人が増えるのはうれしいことだ。
520名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 18:40:06 ID:WPututD5
まとめwikiのサーバー落ちているのかな?
メンテの予定とか書いていなかったけど
521名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/28(金) 23:55:19 ID:0BmbPCEE
新人ってどっからどこまでを言うんだろ
522虚無と真理の狭間で:2010/05/28(金) 23:59:36 ID:Zf6O2zmA
五話の補足を投下します。00:05当たりから

次回は設定の調整で間が開くかもしれません。
原作のイベントの順番がいったり来たりしそうです。
523虚無と真理の狭間で 5話エンド:2010/05/29(土) 00:05:20 ID:Xnb3FgPM
エドワードはギーシュに突きつけた刃をおろし、歩き出した。
「あれって何だ、魔法か?」
「いや杖持ってないし、まさか先住魔法か!」
「それがほんとなら、ギーシュが負けても不思議じゃないよ」
「人間にしか見えない妖魔の類も居るって聞くよ?ほんとに平民なの?」
「まさか、エルフが化けてるとか!」

見物していた連中の中から、ひそひそとささやきが漏れる。
歓声に紛れて、なにやら不穏な雰囲気が広がっていく
エドワードはふとそれらを耳に留めながら、なんだ?と眉をひそめる。
そこへ首を振りながら立ち上がったギーシュが、ささやく者たちの言葉を代弁する。

「君は何者なんだ?この僕のワルキューレを倒すなんて、
 君の使ったのは魔法なのか?ただの平民に、僕のゴーレムが負けるなんて思えない」
「負け惜しみは余所でしてくれ。魔法なんて不可思議なもんつかえねぇよ。
 ただ物の仕組みに少しばかし詳しいだけだ」
「エドはただの平民でしょ、あんたが弱かっただけじゃないの?」

ルイズが二人に近寄ってきて、ギーシュに手痛い言葉をぶつける。
再び愕然と固まるギーシュを余所に、ルイズはエドに詰め寄った。
「使い魔のくせに、勝手なことばかりして!」
ポカポカと頭を叩いてくるルイズ、ほっとしたらなんだか腹が立ってきたらしい。
苦笑しながら左手でいなすエドワード。
ふと右手に気付いたルイズが、義手から伸びた刃を見て言った。
「それ、どうしたのよ」
「ああ、俺も正直びっくりしてんだ、昨夜話したよな、こっちにきて使えなくなった錬金術」
「えっと、あんたの故郷で発展したっていうカガク技術?」
「そそ、それがさ、このルーンが光った時に忘れてた真理の一部を思い出してな。
 そこに使えるようになるかもしれないヒントがあって、勢いで試してみたら成功した。」
「もし失敗したら、どうするつもりだったのよ!」
エドワードはそんときゃギーシュ蹴り飛ばして気絶させてたよと
笑いながら再び手を合わせて義手を元にもどす、
するとブランと義手が肩から垂れさがった。
「あらま、エネルギー源はやっぱコレか、痛いなこの副作用、
 まだ仮説の粋でねぇし、制限もあるみたいだし、こりゃ問題山積みだ」
「また先生に付け直してもらわなくちゃ、誰が頭さげると思ってるのよ」
ぷりぷり怒るルイズと、笑ってごまかすエド。
そんなほんわかしたやり取りとは真逆の雰囲気が、
広場を包んでいることに二人は気付いていなかった。

事態を収拾しようとやってきた教職を含む周囲の者達は、
二人を奇異と畏怖の混じったの目で見ながら、
聞きなれない単語の混じる会話に耳をすましていた。
先住魔法の使い手、特にエルフは始祖ブリミルに仇なす敵なのだ。
それを使い魔に召喚したとなれば背徳のレッテルを押され、ただでは済むはずがないのだ。
524虚無と真理の狭間で 5話エンド:2010/05/29(土) 00:08:50 ID:Xnb3FgPM
そんな人垣を掻き分けながら、
薄暗い広場でもやたらと輝きを放っている一人の男がルイズ達に近づいていく。
トリステイン魔法学院で中堅をなす教員、コルベールである。
コルベールは、手に持つ杖を掲げながら周囲に高らかと宣言した。
「ミス・ヴァリエールの使い魔、名をエドワード君というが、
 彼は聖地の更に東にあるという地域、ロバ・アル・カリイエから召喚された技術者だ。
 エルフとの争いが絶えない土地でもあると聞く。
 エルフへの対抗の為、私達の知らないさまざまな技術を磨いているのだろう。
 呼び出されたときには、彼は右腕を失う大怪我をしていた。
 彼の義手はミス・シュブルーズに頼んで私がつけてもらった物だ。
 さっそく改造を施し、仕込み武器まで用意していたようだが調整が必要なようだ。
 私の研究室に来てくれ、必要な道具は揃っているはずだ。」

ルイズがそうなの?っとエドを見る。
エドワードは首を振りながらコルベールに近づき、一言文句を言おうと口を開けば
「おっさん、いい加減なことを……」
「私は君の使った術を見たことがある、今は私に話をあわせてくれないか、
 君の術は皆に刺激が強すぎる、厄介な事になる前にここを離れよう」
コルベールが小声で話す内容に、父の事を思い浮かべたエドワードは、大人しく従うことにした。
黙ってついていくエドワードに、ルイズも首を傾げながら寄り添った。

割れた人垣からひそひそとコルベールの言葉の審議を噂する声が聞こえてきた。
「ミスタ・コルベールの言ってることは確かよ、私も立ち会って、彼に治癒をかけたもの」
「ミス・ヴァリエールの召喚の儀式の担当はミスタ・コルベールだったな」
「ミスタ・コルベールの研究室は、わけ解らないガラクタの山だからな、向うの技術だったのか」
「向うにはメイジは居ないのか?物珍しげにみてたけど」
「だから手品とか何とかいってたのか、それに練成術師なんて聞いたことないもんな」
「ギーシュが負けるの当たり前だな。エルフと張り合ってるぐらいだしな」
「それでも右腕一本無くすだなんて、やはりエルフはやべぇよ」
「それにしてもルイズ、すごい使い魔召喚したな、僕の烏じゃ串焼きにされちゃうよ」 

古株のメイジであるコルベールは、学院内でそれなりに信頼の置ける存在らしく、
その場に集まった教員たちも彼の言葉を鵜呑みにし、
生徒達に解散するように指示を出し始める。
固まるギーシュの襟首掴んで引き釣りながら、
あの日立ち会ったモンモランシーも、コルベールの言葉を肯定する。
詳しく知りたいと野次馬が寄り集まり、ギーシュが誰かに踏まれぐげっと奇声を漏らした。
張り詰めた空気はすっかりほぐれ、集まった人ゴミは興奮冷めやらぬ余韻を残しながら
それぞれの場所に散っていく。
ルイズは優秀な使い魔を召喚したと知ってご機嫌だった。
魔法使いの力量は使い魔を見れば歴然だと言われているからだ。
一方コルベールは噂に眉をピクリと動かし、少しがっくりと肩を落とした。
自分の研究をガラクタと言われ少しこたえたのかもしれない。
エドワードはエドワードで、こんなにはやく父の行方を見つけたと、内心期待がたかまっていた。

________
以上です お粗末さまでした。
525名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 00:50:43 ID:+gAetmjQ
虚無と真理の作者様 投下乙です。
それにしても制限有りの練成か・・・
続きがとても気になります!
応援してます!
526虚無と真理の狭間で 5話エンド:2010/05/29(土) 00:51:48 ID:Xnb3FgPM
>>501
二つ名消臭…腹抱えて笑いましたw

>>521
私は完全な新人かもです。文書くなんて、最近ではTRPGのシナリオ組むくらいでしたし
ここに投下を決め込んだのも、ルイズ召喚のまとめWIKI見た家族が、
普段原作うんぬん言ってるぐらいなら、書いてみてよと言われて書いたのを
せっかくだからと手直ししてるだけなので。
一番のクレーマーは家族かもです。誤字とかエドはかっこよくしろとかw
飽きるまでなんとか頑張ってみます。
まとめて返す形になりますが、期待していただけたことに 改めて感謝です。
527虚無と真理の狭間で 5話エンド:2010/05/29(土) 00:55:42 ID:Xnb3FgPM
>>飽きるまでなんとか頑張ってみます。
言いだしっぺの家族が飽きたらということで。
単独の能力では、いっきにぐだりそうです。

リアルでさっそく突っ込みきました
528名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 00:59:09 ID:c/RZkAlj
シュヴルーズ先生はよく名前を間違えられるな
529名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 01:06:05 ID:6V35t35U
>>526
>>521はこのスレではどれくらいの期間が新人て言われるのかなと、ふと思っただけで
特に誰に向かって言ったわけでもなかったのです。どうでもいいですが。ともあれGJでした。
530サイヤの使い魔:2010/05/29(土) 06:27:51 ID:I5XSSrEx
亀ですが
>>108
>>123
申し訳ありません 
今月頭にHDDがクラッシュして書きかけのSSを含む全てのデータが吹っ飛んでしまい
暫く更新未定です

2008年以前に描いたCGとかサイトのデータとか
過去10年に渡り収集した諸々の英知が全て失われてしまいましたorz
531名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 07:46:57 ID:UWDluo5W
>>530
うわあああ
ご愁傷様です
ttp://www.lifehacker.jp/2010/04/100413freezetosave.html
最後の悪あがきで試してみてはいかがだろうか
532名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 08:07:27 ID:is659KFR
>>530
ご愁傷様です。

執筆意欲は残っていらっしゃるのが不幸中の幸いですが……
続きが投下される日と心待ちにしていますので、お疲れが出ないよう、ゆっくりと書き進めてください。
533サイヤの使い魔:2010/05/29(土) 09:20:56 ID:I5XSSrEx
>>531
既に試しましたが、ケーブルを繋ぐとヘッダが物理的に記録面と接触しているような異音がするだけで
一向に解決の兆しが見られず、断腸の思いで諦めました
皆様から頂いた感想なども逐一テキストファイルにコピペして創作の励みにしていたのですが、それも失われてしまいました
万に一つのケースだとは思いますが、私のようにポータブルHDDに重要なデータを保存していらっしゃるような作者の方は、くれぐれも丁重に取り扱ってください
「泥棒をみて縄を綯う」を地でいくような話ですが、私はこれを機にHDDを持ち歩くときは必ず耐衝撃ケースに入れるようにしました

>>532
普段使っているメモ帳のほうにプロット程度なら残っているので書き続けること自体は可能です
一応、ラストをどう締めるかは考えてあるので
本日は過去に書いた話を保存して持ち帰ろうとネットカフェに足を運んでいるのですが
どうにも纏めサイトの方に接続できず、難儀しています
534名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 11:27:15 ID:Y72KUk07
>>533
ぎゃぁぁぁ、ご愁傷様です……

自分もHDD死んだことあったなぁ。溜め込んでたものが
全部吹っ飛んだときのあの虚無感と絶望感はなんともいえない。

力尽きずに書いてくださるならありがたいです。お待ちしております……
535名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 13:21:21 ID:33OilrCi
最近のHDDは2TB買っても1万円もしないからなぁ
内蔵HDDならRAID0、外付けのポータブルHDDならバックアップツール使うか手動コピーってぐあいに
保険として予備のHDDを1台は余分に持っておくと精神衛生上的にも幸せになれるよ
536名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 14:27:48 ID:LnvRhown
>>530
ご愁傷様です。
私も今年初めにBD-RE6枚吹っ飛ばして過去15年分の創作データとか
蒐集した諸処の英知どころかリアルでお世話になった方々の名簿データまで
吹っ飛ばしてしばらく復旧の手がつけられない状態でしたが…

ぽっかり空いた心の穴も時間が多少は埋めてくれます。
しばらく充電と思って他のことをしてみるのもいいかもしれませんね。
537名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 15:31:51 ID:fxLEwNcD
ふと思ったが聖帝さんのサウザーって、二次創作界隈だと珍しく帝王してるよな。
余所の見てると大概ヘタレてるか、無駄に空回りしてるかのどっちかだし…
538「ゼロの黒魔道士 第73幕1/8」代理:2010/05/29(土) 16:30:18 ID:Z/IeL2QO
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今度こそ、捕えた。
アルビオンでは、左腕だけだった。
タルブ上空では、逃がしてしまった。
でも、今度こそ……

「うしっ!俺様大復活ぅっ!!」

今度こそ、デルフはワルドの胸元に突き刺さっている。
今度こそ、ワルドをやっつけた。
今度こそ、そのはずなのに……

「デルフッ!油断しないで!まだ終わって無いっ!!」

『終わっていない』。
まるで、ドロドロの沼地に足を取られたような、
飲み込まれていくって感触が、剣の先からボクの体に伝わってくる。
なんだろう、これ。
なんなんだ。嫌だ、怖い。
真っ暗闇を独りで歩くような怖さ。
飲まれる、飲み込まれていく。

「ビビっ!?」

ルイズおねえちゃんの声。
大丈夫、ボクは独りなんかじゃない。
でも、それなのに……いや、『だからこそ』?
真っ暗なドロドロの気配が、デルフの先、
ワルドの胸元からあふれ出すのを感じたんだ。

「はははは……ハハハハハハハハハハ!!!痛い、痛いよ、痛いじゃないかぁ!?」

黒が、ワルドの中から噴き出した。
瞬時に暗闇が、周囲を覆う。
ワルドの記憶の世界が、暗幕がかけられたように塗りつぶされる。
怖いぐらいの黒。
一色じゃなくて、いくつもの黒が蠢いて、
それが蟲のようにも、煙のようにも見える。

「くっ……?」

≪ねぇ、母さん、痛いよ?痛いよ、泣きそうだよ、僕、泣いちゃうよ?≫

「な、相棒っ!?気ぃつけろ!!」
「ワルドっ!?」

デルフの先から、体が消えた。
ボクは今、何も無いところを刺している。
逃げた?あの傷で?
この暗闇はワルドの物?
539「ゼロの黒魔道士 第73幕2/8 」代理:2010/05/29(土) 16:31:11 ID:Z/IeL2QO
≪母さん?≫
  ≪カアサン≫
    ≪かあさん≫
≪カアサン!≫ ≪――かあさん≫

≪母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん
 母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん
 母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん
 母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん
 母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん
 母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん
 母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん≫

壊れたバグパイプのような音の洪水だった。
同じワルドの声なのに、音の高さがどれも違っていて、
それが重なり合って、気持ちが悪くなるほどお腹に響いてくる。
音の高さの違い……うん、なんて言うんだろう……
まるで、『男の子』と『男の人』の声の違いみたいな……

≪カアサンダ!≫
  ≪かあさんだ!≫
「母さん?母さんだ……母さんだ母さんだ母さんだ!」

ワルドの声が、段々嬉しそうなものに変わっていく。
黒だけの世界に、別の色が加わったからかなぁ?

「光……?」

それは、ほんの僅かな一筋の光。
それが……ワルドの全てだったんだ。


ゼロの黒魔道士
〜第七十三幕〜 Game has Overed
540「ゼロの黒魔道士 第73幕3/8」代理:2010/05/29(土) 16:32:08 ID:Z/IeL2QO
それは、最初、文字の形だったんだ。
暗闇に浮かぶ、震えた字。

【ジャン・ジャック、聖地を目指すのよ】


ハルケギニアの文字は、ボクがいた世界のものとすごくは違わない。
なんとか、読める……っていうより、読もうとした途端、それが声になって聞こえてきたんだ。

≪ジャン・ジャック、聖地を目指すのよ!≫

震えるような、甲高い声。女の人?
文字が、だんだんと大きく、形を変えていく。
光が、何もかもを壊しかねない光が、自分を振り回しながら、暗闇を引き裂いていく。


≪ジャン・ジャック、ジャン・ジャック
 ジャックジャックジャンジャックジャクジャクジャンジャクジャンジャック
 聖地を聖地を聖地をセイチヲせいちを聖地を目指すめざめざメざ目指すのよよよよよヨよよ≫

「うぁっ!?」

弦の切れたピアノみたいに、調子はずれのまんま同じメロディーを繰り返す。
ボクは耳を塞いだ。でも、聞こえてくる。聞かされてしまう。
キラキラの光なのに、ドロドロの影が後ろからついてくるような、そんな不協和音。
やめて、お願いだから、やめて欲しい。

止まらない音の洪水が、だんだんと大きくなり、唐突に止まった。
光は、いつのまにかしっかりとした形になっていた。女の人の形に。
ルイズおねえちゃんに、似ている……?
ううん、もっとやつれて……なんか、病気でもしたみたいに……
その女の人が、横たわっている。
糸の切れた操り人形が、床に捨てられたように、横たわっている。
本当に、人?ボクは、ちょっと信じられそうになかった。
だって……この人の首、変な方向に曲がって……

≪母さん、母さん、母さん?ねぇ、なんで?なんでなんだい?≫

ワルドの声が、暗闇の上の方から聞こえてくる。
ワルドのお母さんって……この人?

「母さん、母さん、母さん母さん母さん……」

暗闇の一部が剥げ落ちて、記憶の世界が少しだけはっきり見える。
ここは家の中。大きな階段がある家。
階段の下には、女の人。今はもう立つこともない、横たわった女の人。
階段の上には、男の子。……ワルド?少しだけ、面影がある。ルイズおねえちゃんより、ずっと若い。

男の子は、震えてそこに立っていた。
立ち尽くしていた。
……何故だか、見ているだけのボクにも、その感覚やが伝わってくる。
その手に残る感触は、ほんの僅かなぬくもりと、
それが階段下まで転げていった虚しさが残っていた。

……ワルドは、自分のお母さんを、殺してしまった……?
541「ゼロの黒魔道士 第73幕4/8」代理:2010/05/29(土) 16:33:01 ID:Z/IeL2QO
≪ジャン・ジャック、聖地を目指すのよ≫

薪が燃えていくように、ワルドのお母さんの体が煙となって消えていく。
消えて……いったのかなぁ?
消えていくに従って、その煙がどんどんと大きくなって、また世界を覆っていく。
消えたからこそ、より一層、その黒さが残っていく。

「――力をつければ戻ってくるの?聖地に行けるだけの力を」

暗闇の中に取り残された、少年のワルドが呟いた。
真っ黒な煙に燻されながら、男の子は少しずつ、大きくなっていく。
まるで豆の成長を短時間で見ているみたいだ。
どんどん眼が鋭く、どんどんと煙に蝕まれていく。

「なんでなんで、ナンデ僕ハ生キテイルノ?
 母さんを殺しておいて、ナンデ僕ハ生キテイルノ?」

やがて男の子の声がより低いものに変わっていく。
今のワルド、ルイズおねえちゃんを裏切ったワルドの姿に、
そして……まるで道化師みたいな今の姿に変わっていって……

「滅ぶと分かっていて何故作る?
 死ぬと分かっていてなぜ生きようとする?」

本物のワルドが、そこに跪いていた。
丁度お祈りをするような格好で、石畳の上にいた。
もう周囲は暗闇に覆われていない。
元の『記憶の場所』だ。ルイズおねえちゃんの姿も見える。
ワルドの記憶の外、周りはみんな幻じゃなくて本物の世界。

「――命? 夢? 希望?
 どこから来て どこへ行く?」

ワルドの声は……もう消えそうなほど小さくなっていた。
弱々しい風の唸り声って感じだ。
ワルドの体から、煙が立ち上っていた。
真っ黒な、煙。
ワルドの記憶を覆っていた、あの煙が。

「そんなもので心満たされる事はない!」

ワルドが、胸をかきむしる。
その仕草があまりにも弱々しくて……
さっきまで敵だったはずなのに……
ほんのちょっとだけボクも悲しくなってしまったんだ。
542「ゼロの黒魔道士 第73幕5/8」代理:2010/05/29(土) 16:34:01 ID:Z/IeL2QO
「――母さん、母さん、母さん!全部壊せば、母さんは戻ってくるの?」

ワルドが、空を見上げる。
記憶の場所の、灰色の空。
苦しそうに喘ぐワルドが見る、最後の景色……

「破壊だ、破壊だ、破壊の力だ!ははっ!全部破壊だぁああああ――」

ワルドの体が、全部消えていく。
煙となって、風に流されていく。
後には、何も残っていなかった。体も、何も。

……これが、ワルドの望んだ結末、だったのかなぁ?
そう考えると……なんか、苦しくなりそうだった。
力を求めて、全部壊して、最後には消えてしまうのに……
それがワルドの望んだことなら……なんて悲しいんだろう……


「……とんだマザコンもあったもんだぁな」

「母親がいなくなった心の隙間を、埋めようとしていたのね……」

「……でも、そんなの、間違ってるよね?」

間違っている。ボクはそう思ったんだ。
破壊なんかで、心が埋まるわけなんてない。
そうだよ……ね?


「あぁ……相棒よ?どーも、ワルドの野郎から嫌な感じがしたの、分かったかい?」
「……うん、なんか、狂ったような、ドロドロしたような……」

それは、思った。
ワルドの記憶を覆っていた黒い煙。
あれは、ワルドの悲しさや、怒り、そんなものが詰まっただけのものじゃない。
なんかもっとこう……狂ったようなドロドロの沼、飲み込まれそうな気配がしていたんだ。

「あれ、ちぃっと覚えあるんだわ。つか、思い出したってぇのかなぁ……」
「まさか……」

嫌な、予感がした。

「そ。お察しのとおりさ。フォルサテの糞野郎の気配だわ」

やっぱり、フォルサテ。
ハルケギニアを支配したいためだけに、自分の欲のためだけにみんなを苦しめる人。
つまり……

「じゃぁ、ワルドは……」
「大方、『望み通り』、力を与えてやったんだろーぜ?壊れること承知でよぉ……」
「……」

まるで、道具みたいに、人の悲しみや辛い心を利用したってこと?
……壊れるまで?
……そんなのって……
543「ゼロの黒魔道士 第73幕6/8」代理:2010/05/29(土) 16:34:50 ID:Z/IeL2QO
「ビビくぅ〜ん!ルイズくぅ〜ん!無事かーい!?」
「おや、追いついてしまったか。苦戦していたのかな?」

聞こえてきたのは、タタタって駆け寄る足音と、
救われそうな明るい声だったんだ。

「ギーシュ!?あんたまで来たの!?」
「お、『現』ミョズの兄ちゃんも一緒か」
「おや、デルフ君……その様子だと、思い出しましたか?」
「ヘッ、お気づかいいらねぇよ。記憶は記憶、今は今だ!
 全部背負いこむってだけの腹ぁ括ったさ!背も腹も無ぇけどよ!」

……デルフは、自分の記憶、哀しいほどの記憶を受け止めて、闘うことを選んだ。
……ワルドは、自分の記憶、悲しいまでの記憶を利用されて、戦わさせられた。

全部、フォルサテの……

「ふむ、するとビビ君は?」
「……クジャ」
「ん?」

迷っている、場合じゃない。
全ての元を倒さなきゃ、終わりっこない。

「……ルイズおねえちゃん、ギーシュ、デルフも……」

ボクは帽子をぎゅっとかぶりなおした。
まだ、『終わっていない』んだ。

「行こう」


----
ピコン
ATE 〜タバサと???〜

「っ!!」
「お姉さま、大丈夫なのねっ!?」

相手を屠る風魔法と引き換えの銀竜の爪。
空を自在に操る者同士の戦、タバサとシルフィードは質でこそ上回っていたものの、
量ではるかに彼女達を上回る相手に少しばかり苦戦していた。

「平気」
「くぅ〜!いつまで戦えばいいのねっ!?」

終わりが見えないことは、極度の精神的苦痛となる。
その苛立ちが、青い風韻竜を苦しめていた。

だが、それとて無限ではない。
終わりはいつかくるものだ。
544名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 16:35:21 ID:C6LILfgU
っていうかそもそも帝王してないサウザーはサウザーって言えるのか?
他の読んだ事ないからわからんけど聖帝様の名前と設定借りただけのオリキャラだろどうせ。
545「ゼロの黒魔道士 第73幕7/8」代理:2010/05/29(土) 16:35:46 ID:Z/IeL2QO
「『タバサ嬢っ!!こちらブラック・ジャック号!たった今、巨人の沈黙化を完遂しましたっ!!』」

朗報が、艦外放送となって伝わる。
ブラック・ジャック号が、巨人バブ・イルの能力を、その艦底に備え付けられた装置でもって封じたのだ。
砂漠の中の塔のような巨体は、もう動かない。
とりあえず、一安心といったところか。
ハルケギニアを襲う直近の脅威は去ったこととなる。

「きゅい、やったぁ〜!!これでもう闘わなくて済むのねぇ〜!!」
「了解。安全区域まで護衛する」

次なる行動を、竜上から手信号で伝える。
任務さえ果たせば、長居は無用。
銀竜の源を断つのは、彼女の友人たちに任せるべき、と判断する。

「『ご協力、感謝いたします!青い戦士よ!』」

ゆるやかに旋回するブラック・ジャック号。
その艦橋の窓から、何人もの敬礼する男達の姿が見える。
それに返礼しながら、タバサは満足した気持ちになっていた。

友のために、為すべきことを為す。
今までの命令されるだけの任務と違い、なんと清々しいことか。
あとは、ブラック・ジャック号を安全区域まで護衛して……

「きゅいっ!?お姉さま、あれっ!?」

また、銀竜か?
自分の使い魔の竜にうながされ、視線を前方上へ。

「『あ、あれは……』」

それは、船。
ブラック・ジャック号よりもはるかに大きな船であった。
戦艦。いや、それにしては形が妙に長い。

「……!」

タバサは、その旗印を見て、身構えた。
先ほどまでの満足感が消し飛びそうなほど、
冷たい血が彼女の体の中を流れていった。

〜〜〜〜
にんぎょうげきは、ここからだ!
にんぎょうげきは、ここからだ!
ぼっちゃん、じょうちゃん おまちなさい!
にんぎょうげきは、ここからだ!

とつじょあらわる だいせんかん!
いったいタバサはなにをみた?

さあさにんぎょうげきはおおづめだ!
にんぎょうげきは、おわらない!
なんて うれしいことだろう!
にんぎょうげきは、おわらない……
546「ゼロの黒魔道士 第73幕8/8」代理:2010/05/29(土) 16:36:42 ID:Z/IeL2QO
本日は以上です。どうもありがとうございました。
しかし、最近は新人さんも増えたことで。また活気づいてきたんかなあと安心する次第です。
人の動きは、団扇の風。炎が燃え盛るにゃ必要不可欠でございます。
もうしばし、燃えてく気力がわいたところで、失礼いたします。
では、お目汚し失礼いたしました。

以上、代理お願いいたします。毎度ご迷惑をおかけいたします。
547名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 17:28:22 ID:W3vyrX8X
乙!
548名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 17:29:05 ID:9c3TUAww
549虚無と真理の狭間で 6話プロローグ:2010/05/29(土) 17:54:48 ID:Xnb3FgPM
時間がかかるといいながら ボチボチやってます。
まとめて落とすのもさる引っかかるので、区切りいいところで投下してきます。
550虚無と真理の狭間で 6話プロローグ:2010/05/29(土) 17:56:53 ID:Xnb3FgPM
6話 蛇竜の血晶

ミスタ・コルベールは、当年42歳になる。
トリステイン魔法学院に奉職してからは20年目、『炎蛇』の二つ名をもつメイジである。
彼の趣味、いや生きがいといっていい、人生の殆どを研究と発明に費やしていた。
二つ名に由来するように火の系統を得意とする彼は、
破壊以外の火の可能性を追求する余り、この世界では余り意味を成さないガラクタを
数多く生み出していた。

本塔と火の塔に挟まれた一角にある
みすぼらしい掘っ立て小屋へと案内されたエドワード達は、
中に入ってすぐに、埃ともカビともつかない妙な異臭に鼻をつまむ。
入り口で固まったルイズの拒否反応に、苦笑をもらしながらコルベールは口を開く
「ははは、なあに臭いはすぐになれる。初めは自分の居室で研究していたんだが、
 私の研究には異臭と騒音はつきものでね、とくに近隣のご婦人方から苦情がでて
 ここに避難したきたわけだ。ご婦人方はいつまでたっても慣れることはないらしい、
 お陰でこの通り私は未だに独り身だ。」

「別に付いて来なくたっていいんだぞ?俺はこのおっさんにちょっと用があっただけだしな」
「使い魔の事は、主人である私も知っておく必要があるわ!」
エドワードが気を使って諭すものの、ルイズは強情に言い張って、
ハンカチを口元に当てながら涙目でついてきた。

エドワードはコルベールの研究室をぐるりと見渡す。
目の前に木で出来た棚があり、薬品の瓶、試験管が雑然と並ぶ。
ほかの壁一面には本棚があり、びっしりと書物が詰まっていた。
書きかけの紙には図形や文字が書きなぐられ、べたべたとその辺に貼り付けられている。
その有様にエドワードは懐かしさを覚えた、父ホーエンハイムの部屋も、
こちらに来る前の旅で出会った錬金術師達の部屋も、皆似たようなものだった。
画期的な法則や発明は、こういった混沌とした部屋から生まれるものなのかもしれない。
それがその時代に、評価されるとは限らないが。

ふと、エドワードの視線があるものに釘付けになる。
こちら側は魔法が発達した為か、機械技術を初めとする
科学技術はかなり遅れているらしく
ゆえに久しく見ていなかった、向う側を彷彿とさせるそれに、
エドワードが当初の目的を忘れ、興味を魅かれるのは無理もなかった。

「こらまたえらく原始的な構造してるが、熱機関式原動機…エンジンだな。
 蒸気機関を通り越してこんなもんがあるなんて驚きだ。」

「なんと!ひと目で私の発明を理解するとは、あながち私の推論も
 間違って居ないようだ。これはまだ発火の魔法に頼っているが、
 たとえば火打石を利用して、断続的に点火する仕組みを確立できれば」
551虚無と真理の狭間で 6話プロローグ:2010/05/29(土) 18:00:19 ID:Xnb3FgPM
「俺の居た世界じゃ電気の火花を使ってるが、バッテリーの概念もないだろうしな、
 物を断続的に燃やして発生した熱を、密閉した容器内の水に移して水蒸気変え、
 蒸気の圧力をピストンに伝えるなり、直接羽根車に渡して動力に変えるほうがいいかもな」

「ほほう!君のいた世界はかなり技術が発展しているね!
 こちら側をはるかに上回っているようだ……ん?いた世界??」
 エドワードの言葉をしきりにメモしていたコルベールが、ふとペンを止めて顔をあげる。

「あー、まあすぐに信じられないだろうけど、俺はこの世界の人間じゃない。」
「なんと言ったね?」
「別の世界から来たんだ、真理の扉っていう認識外領域を超えてな」
まじまじとコルベールはエドワードを見つめると、神妙な顔つきで「なるほど」と頷いた。

「なんだ、あんま驚かないな、ルイズなんて怒鳴り散らして未だに半信半疑だってのに、いてっ」
男二人の会話についていけなくて、口と鼻を塞いで状況を伺っていたルイズが、
むっと睨みつけ、エドワードの足を踏みつける。
「そんなことよりエド、早く用件言いなさいよ。話聞きにきたんでしょ?」
「いつっ、っと、そうだったな」と目的を思い出し、
エドワードは改めてコルベールに向き合った。

「君の言動、行動、全てか常識から外れていると思えばそういうことだったのか、
 驚きの連続だ。ハルケギニアの理だけがすべてではないとはかなり興味がある。
 しかし、私は検討はずれをしていたかもしれないな
 ……君はダングルテールの生まれではないのだね?」

聞き覚えのある言葉に首を傾げるエドワード、コルベールはふむと頷き、話を続ける。
「わたしはこの学院に来る前に、ダングルテール地方で君に良く似た若者が、
 君と同じ術を使うところを目撃したんだ。いまから20年ぐらい昔のことだ。」

「そ、それ本当か?んでそいつは、今何処で何してる?」
 思わず身を乗り出して聞き入るエドワードに、コルベールは寂しそうに目を伏せて語る。

「亡くなったよ。事故だったのか、持病だったのか、死因は解らない。
 私が気付いた時にはすでに事切れていた、なにかをやり遂げた者の、綺麗な死顔だったよ。
 私は初めて君を見た時に、助けられなかった彼が目の前に現れたと思ってしまってね。
 それだけ君と彼は似ていたんだが、別世界となると話が変わってくるが」

「平行世界っていうのか、世界の根幹がおなじとかで、
 こっちとあっちじゃ、姿が似てる奴がそれぞれ一人づつ居るらしい
 性別が違うが、ルイズも俺の弟に何処となく似ているんだ。俺も魂と精神だけで、
 向うで死に掛けて幽霊状態でこっち側にきちまったとき、俺に似たやつの身体に誤って
 入っちまったことが……あ、そん時にそいつがいたのはダングルテールってところだ。」

「む?なんと!ではこのような顔に見覚えはないかね?」
おもむろに机を漁ったコルベールが、一枚の絵を取り出しエドワードに見せる。
それをみたエドワードは、思わず素っ頓狂に叫んでいた。
552虚無と真理の狭間で 6話プロローグ:2010/05/29(土) 18:03:40 ID:Xnb3FgPM
「ロイ・マスタング大佐?!なんでこんなとこに!
 って服装違うからこっちの空似か、でどこの誰だ?こいつ」

「ふむ、君のいた世界での知り合いに似ているのか、
 若干言いにくいことだが……20年前の私だ。自分でも変わり果てたと思うよ、
 あの頃が男として最盛期だったのかもしれない。」

「…………ぷっ」

間の抜けた顔で言葉を失っていたエドワードが、呆気に取られるルイズとコルベールの前で
腹を押さえてゴロゴロと研究室中を転げまわる姿があったことは、余談である。
(た、大佐!あんた未来は立派になるんだな!!いつも眉間にしわよせてたから
 ストレス溜まってたんだな……帰ったら忠告してやるかっ)

場か落ち着き、苦笑しつつコルベールは話を締めくくりにはいる。
エドワードに聞いた理論を、実験で試してみたくてうずうずしているのだ。
「何はともあれ、君の期待に添えなくて申し訳なかった。
 代わりといっては何だが、困ったことがあったら何でも私に相談したまえ。
 この炎蛇のコルベール、いつでも力になるぞ」

「んー、世話になってばかりってのもなんだしな」

「いやいや、君との交流は実に実り多い、新たな発見ばかりだ。
 そして、私の魔法の実験に新たな1ページを付け加えてくれることだろう。
 だからエドワード君、遠慮することはないんだ。」

「そんじゃ一つ、早速頼みたいことがあるんだ、
 この学院の図書館を閲覧する許可がほしい。かなりの蔵書があるって聞いた」

「ふむ、立場的に平民であり使い魔である君一人ではさすがに無理があるが、
 私が同行できるならば、もしくはミス・ヴァリエールと一緒ならばいつでも
 許可が通るだろう。ミス・ヴァリエールは勤勉だからね、良く利用しているのを見かけた。
 私から学院長に伝えておこう。うむ、丁度君の左手に現れたルーンについて
 調べている最中だったことを思い出した。今夜は少しばかし付き合えるかもしれん」

「そりゃありがてぇ。あとはルイズ、この通りだ!」
話がいい方向に転がり始めご機嫌なエドワードだったが、ルイズが自分の名前が呼ばれ
ピクリと眉を動くのを見て、一生のお願いだと手を合わせて頼み込んだ。
「べ、べつに付いて行ってもあげてもいいけど、
 使い魔として私に服従を誓うなら、考えないこともないわ」
厳しい交換条件を突きつけられる。
はあと溜息をつき、これも代価の一つだなと自分を納得させ
しぶしぶエドワードは、ルイズに頭をたれるのであった。

つづく
553虚無と真理の狭間で 6話プロローグ:2010/05/29(土) 18:07:46 ID:Xnb3FgPM
とりあえず 大佐ファンに誤りながら、また今度ー
554名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 18:35:02 ID:6V35t35U
基本、一時間に10レスまでなら規制には引っ掛からないと思います。経験則なので詳しい規定は知りませんが。
555名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 19:15:26 ID:p7XmPCJ5
真理の人、乙です
大佐ww
うん、炎だもんね

00分をまたぐとさるさんがリセットされたはず。
それを狙ってやってみては?
引っかかったら避難所もあるし
556名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 19:19:44 ID:x2KGrM+Q
虚無と真理の人、乙でしたー。
……大佐、ガンバレ。
557名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 19:32:28 ID:LT9WaHus
虚無と真理の人乙でしたー
大佐ファンだけど笑っちゃったよwwww
とりあえず、噴いてしまった食後のお茶を返してもらおうかwwwwwww
558萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 21:42:56 ID:LnvRhown
こんばんは。
進路クリアなら21:55ごろより23話の投下を行いたいと思います。
今回はちょっと長いのでさるさん防止のため22:00ちょうどをまたぎます。
559名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 21:54:11 ID:79bL6Sq8
亀だけど聖帝様の作者さん乙
毎度楽しませて頂いとります
560萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 21:55:23 ID:LnvRhown
それではいきます。


 太陽が中天に昇る頃。ニューカッスル城郭に鎮魂の鐘が響き渡る。
本来は脱出の準備が進められていなければならないが、それに優先する形で
河に流れ着いた遺体の埋葬が行われていた。
 流れ着いた遺体は、ほとんどがまだそれが貴族だったのか、平民だったのか
判別することが可能だった。背中や腕、顔に火が燃え移った時点で河に
飛び込んだのだろう。だが、焼夷弾に用いられた焼夷剤であるテルミットは
燃え尽きるまで待つしかなく、油脂や黄燐は下手に水をかけると逆に
激しく燃え上がる。そのため、遺体はどれも酷く損傷しているところと
そうでないところの差が激しかった。それでも、まだ河に飛び込めただけ、
彼らは幸運だったのだ。
 ルイズとギーシュは黒い雨に濡れた体を湯で濯ぎ、新しい制服に着替えて
教会での葬儀に参列した。ここに埋葬されるのは貴族だけ。平民は城郭の
外の共同墓地に埋葬されていた。
「……わたしの、せいだ……」
「ルイズ……。きみのせいだけじゃない。ぼくたちの誰も、ふがくの本当の
力を知らなかったんだ。だからルイズ、あんまり自分を責めない方がいい」
 教会から地下洞窟の秘密港へ向かう途中。ルイズはそう言って自分を
責め続けた。葬儀に参列した王党派貴族からの無言の視線がそれに拍車をかける。
だが、ギーシュはそれを否定した。

 黒い雨が降り止み、燃えるものがなくなって火勢が衰えを見せ始め、
ニューカッスル城郭の城門が開かれたとき――そこに広がる光景に誰もが
絶句した。爆発で壕のように掘られた消火帯の先にくすぶる炎。その先には、
それがかつて自分たちと同じヒトだったことすら信じられぬような、
黒こげの消し炭が一面に広がっている。貴族だったか、平民だったか、
それすら無意味であるようなそれらを、今の彼らには回収して埋葬する
ことすら不可能だった。
 そのため、彼らは城郭に流れる河に流れ着いた遺体だけでも回収して
埋葬した。死骸が入ったままの水は呪われ流行病を生む――破壊工作で
敵の井戸に動物の死骸を投げ込むこととは次元が違う規模だが、
このニューカッスルの住人のためにもそれだけは最優先で行わなければ
ならなかった。このために脱出の準備は遅れ、『イーグル』号の出港は
今夜夜半になる見通しとなっていた。

 ルイズたちが秘密港の入り口となるニューカッスル城裏庭の隠された
入り口にさしかかったとき、突如足下を揺るがす轟音と城郭の外れから
煙が吹き上がるのを見た。国王ジェームズ一世やウェールズ皇太子、
他の貴族たちも何事かとざわめき始めたとき、そこにデルフリンガーを
背負ったふがくとルーデルが舞い降りる。ふがくは金モール付きの
アルビオン王立空軍士官服を着た中年のアルビオン貴族を抱えていた。
「陛下。工廠の処分、完了致しました」
 中年の貴族は敬礼してそう老王に報告する。そこにウェールズ皇太子が尋ねた。
「サー・スチーブンソン。……いったい、今のは何を?予定では、工廠の
処分は資料の持ち出しと施設の『錬金』による無力化だったはずだが……。
火の秘薬を使ったにしても……あれは……」
「ああ。殿下。こちらのレディたちに異国の火薬をご提供いただきまして。
『トリニトロアニソール』……でしたか。素晴らしいですな。ご提供いただいた
おおよそ1000リーブルの火薬であの工廠が外壁の一部を残すのみとなりました」
 それを聞いて貴族たちがざわめく。ほとんどの貴族が今朝の攻撃以来、
無慈悲な破壊者としてふがくとルーデルに恐怖の念を感じているにも
かかわらず、ニューカッスル空軍工廠の責任者であった
このサー・スチーブンソンという貴族はそんな気配を全く見せていなかった。
561名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 21:56:59 ID:J7ZzWjCU
支援
562萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 21:57:29 ID:LnvRhown
「そうねえ。ヘル・スチーブンソンが魔法で起爆するとは思ってなかったけど。
火薬の取り扱いにも慣れてるし」
「アンタが爆破持ちかけられたときに派手にやりたいなんて言うからでしょうが!
それに、結局自分の出さないで私に出させるし」
「だって、私の爆弾に使われてるTNTより、ふがくちゃんのに使われてる
TNAの方が、扱いやすいじゃない。ちょっとくらいじゃ爆発しないし」
「……つーか、俺っちあんなものと一緒にされてたのかよ……。
正直、俺、必要ないんじゃ……」
「はぁ。そんなことないわよ。危険物なのは変わらないけどね」
 そう言って溜息をつくふがく。サー・スチーブンソンが国王と皇太子と
一緒に歩き出したとき、ルイズがふがくに話しかけた。
「……あ、ふがく……。あの……」
「何?」
「……あの……今朝は……」
「……私に謝るんだったら、お門違いよ」
「え?」
 『ごめんなさい』――そう言おうとしたルイズを、ふがくは突き放す。
「アンタは私のご主人様。つまり司令官よ。司令官が、自分が発案した
作戦実行した兵器に謝ってどうするのよ?
 アンタが発案した作戦は完璧じゃないけど当初の目的を果たしたのよ。
作戦中に誤爆した私を責めるならとにかく、謝ってどうするのよ、
まったく。
 しっかりしてくれないと……こっちも困るんだから」
 最後の言葉はルイズに聞こえないように小さくなった。ふがくはルイズによる
作戦中止が命令された後、誤爆した集落上空を高高度偵察飛行している。
数戸の煉瓦造りの家からなる集落はほぼ破壊され、戦場を見ていて
巻き込まれたであろう多くの死体とそれを埋葬しているような数人の
人間が確認されたが、そこに降りることはできずにいた。そしてルイズも、
一般市民を対象とした無差別大空襲の命令者でありながら、後に空襲被害を
受けた国から勲章を賜ったとある司令官のような強烈な自己肯定は、
到底できずにいた。


 そうして降り立ったニューカッスル秘密港は、ルイズたちにとって
驚きでしかなかった。洞窟を大きくくりぬき、鋼鉄の黒い艦体を見せる
『イーグル』号が入港した桟橋を中心に櫛形に整備された港湾施設は、
ハルケギニアで一般的な立体的な桟橋と異なり最大4隻の大型艦の入港を
可能とする船渠型巨大秘密基地の様相を呈していた。
「……す、すごい……」
「まるで海の港……いや造船所みたいだね。これは……」
 ルイズとギーシュが初めて見る秘密港の全容に目を丸くする。
そこに後ろから声がかかった。
「ははっ。すごいだろう。ロサイス軍港やダーダルネスに比べれば桟橋の
数は劣るけど、ここは『イーグル』号や、建造予定の新型艦を入港させるために
拡張されているからね」
 そう言って片手を上げるのは、サー・スチーブンソン。彼はルイズたち
4人を荷物の積み込みが行われている『イーグル』号の前まで案内すると、
フネの前で両手を広げる。
「これが我が国の最新鋭戦列艦『イーグル』号だ!全長150メイル、
全幅20メイル。新型の蒸気機関を搭載したハルケギニア史上初の装甲艦で、
主砲も35口径24サント三連装砲塔と連装砲塔、それに艦体下部には
35口径15サント単装砲4門!我々の55年の研究の集大成!万全の体制で
砲撃戦をやれば、今は名を変えた『ロイヤル・ソヴリン』にだって
負けることはない!」
 ルイズたちが『イーグル』号を見上げる。黒光りする三連装と連装の
背負い式主砲塔の後ろには堂々たる5層の櫓檣が、その後ろに鋼鉄製の
巨大なマスト――帆が装備されつつあるので帆走用だったのだ――が
そそり立ち、今まで見たどのフネとも違う威容を見せている。ルイズと
ギーシュ、そしてふがくの3人は、サー・スチーブンソンによく知る
ある教師の姿を重ね合わせた。
563萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 21:59:48 ID:LnvRhown
だが、そこまで言ったサー・スチーブンソンの声は、急に弱くなる。
「……そうとも。こいつと、いずれ進空するはずだった『ライオン』級戦艦、
『ヒューリアス』級竜母艦さえそろえば……『レコン・キスタ』など……」
 『戦艦』と『竜母艦』――ルイズたちには耳慣れない言葉だが、
ふがくとルーデルはそれが自分たちが言うところの『戦艦』と『航空母艦』に
相当するのだろうと理解していた。そこにウェールズ皇太子が大きな
木箱を載せた台車を押す従者を連れて現れる。
「世界は、いつだって『こんなはずじゃなかった』、だよ。
サー・スチーブンソン」
 敬礼するサー・スチーブンソンに倣って、ふがくとルーデルも敬礼する。
3人の敬礼にウェールズ皇太子が返礼した後、ルイズに話しかけた。
「ラ・ヴァリエール嬢。きみたちにあずけたいものがある」
「わたしたちに……ですか?」
 目をぱちくりさせるルイズ。ウェールズ皇太子は従者に命じて木箱を
開けさせた。そこにあったのは……大量の図面だった。
「戦列艦『イーグル』、そして建造中だった戦艦『ライオン』、竜母艦
『ヒューリアス』と、『イーグル』号に搭載した新型機関と新型砲の
設計図だ。もっとも、『ライオン』と『ヒューリアス』の実物はロサイス
撤退時に船台から強制排出、自沈させてきたがね。
 アンリエッタに渡してほしい。きっと力になれるだろう」
「わかりました。おあずかりさせていただきます」
 ルイズはふがくに命じて懐に木箱をしまわせる。明らかに入らないものが
姿を消したことにウェールズ皇太子と従者は驚いたが、サー・スチーブンソンは
楽しいものでも見るかのように笑ってみせる。
「トリステインに帰ったら、タルブのササキ夫妻によろしくお伝え願いますよ。
大使どの」
「タルブの……ササキ夫妻?」
 ルイズとギーシュは顔を見合わせた。二人とも、タルブにそんな名前の
貴族がいたなど聞いたこともないからだ。そこに、サー・スチーブンソンが
昔話のように語り始める。

 ――今から55年前。聖地にほど近いサハラの砂漠で、探索行の途中だった
我が国の貴族、エンタープライズ家の者が見たこともない鋼鉄の軍艦を発見した。
エルフと人間は聖地近辺で見つかる『場違いな工芸品』について取り決めを交わしており、
どんなものも最初に見つけた者がその所有者となると決められていた。
 巨大な『場違いな工芸品』を見つけた彼は、力の限り『固定化』をかけた状態で
それを自らが忠誠を誓う国王へと献上した。
だが、下手なフネよりも巨大な鉄の塊であるその軍艦をアルビオンに
移動させることはできず、そして無人の艦に残されていた文献や艦名の
プレートを読むこともできなかった。
 そのとき、5年ほど前に探索行の途中でそのままトリステインのタルブの村に
住み着いたエンタープライズ家の者がおり、しかも彼女が東方からやって来た
ササキという夫妻と懇意にしているという話を耳にした。解析に難儀していた
空軍は一縷の望みを託して秘密裏に彼らと接触、実際に彼らにその軍艦がある
場所まで来てもらったという。そのもくろみは成功し、アルビオン空軍は
その軍艦がササキ夫妻の故郷の巡洋艦『ウネビ』という名前であること、
そして多くの貴重な情報を入手できたのだった――

「……エンタープライズ家は、一族全員がその家名のとおりに探求の旅に
出て新たな発見をもたらす者たちだった。3年前にある事件に連座して
取り潰されたがね。
 基本的な情報収集終了後、『ウネビ』はその場で解体されて重要部分だけ
アルビオンへ持ち帰った。
 そして、搭載されていた蒸気機関の研究をここニューカッスルに居を構える
我がスチーブンソン家が受け持ち、そこから50年かけてようやく
『イーグル』号の建造に着手できた、ということさ」
564名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 22:00:41 ID:Xnb3FgPM
支援
565萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:02:28 ID:LnvRhown
 意外な事実に驚くルイズとギーシュ。そして、ふがくもその事実に
驚きを隠せなかった。

(『ウネビ』って……あの『畝傍』?あの艦は私が生まれる60年近く前に
行方不明になった艦じゃない……。それにササキって……まさか……)

 3人の様子に、ウェールズ皇太子はにこやかに微笑む。
「驚いたようだね。トリステイン王家やタルブ領主アストン伯には
悪いことをしたと思っている。できれば、今聞いたことはこれからも
秘密にしてほしい。
 幸いにして『イーグル』号の装備やその実体を推測できる資料は
すべて破棄または回収できたからね。『ロイヤル・ソヴリン』――
いや『レキシントン』だな、これに搭載されている砲は旧態依然のもの。
ただの青銅の弾ではこの『イーグル』号に装備された装甲は貫けないから
安心して乗っていなさい」
 ウェールズ皇太子のその言葉にルイズとギーシュは安心した顔を見せるが、
ふがくだけはその言葉の裏に隠れた真実を見抜いていた。
そう。いくら装甲が厚くとも、攻撃によって人員が死傷すれば、
または装甲で守られていない推進機関などに被害を受ければ、
どんな強力な軍艦でもいつかは行動不能になるのだから。
そしてそれが現状で王党派が単艦反撃に出なかった理由でもあった。
 ふがくのその視線の意味に気づいたのか、ウェールズ皇太子は従者から
紅い絹布で包まれた箱状のものを受け取ると、そのまま従者を下がらせた。
そしてルイズの前に立つと、その目の前で布を取って包まれていたものを見せる。
「ラ・ヴァリエール嬢。これもきみにあずかってほしい。
だが……その前に、きみが持っている『水のルビー』をもう一度私に
見せてくれないか?」
 布の中にあったもの――それは香木を削り出して作られた古びた宝石箱の
ようなものだった。不似合いなほど飾り気のないそれは、それでいて
それ自身が見続けていた長い年月をルイズたちに語りかけているかの
ようだった。
 ルイズは言われるままに『水のルビー』を取り出した。
そこにウェールズ皇太子が自分の左手の薬指にはめている
『風のルビー』を近づけると、二つの指輪の間に虹の橋が架かった。
「水と風は虹を作る。王家の間に架かる橋さ。
 この虹の橋を渡って、『始祖のオルゴール』をトリステインへ」
 『始祖のオルゴール』――それはトリステイン、アルビオン、
ガリア、ロマリアの、始祖の子供と弟子に連なる王家と教皇に伝わる
秘宝のひとつ。
初めて見る秘宝にルイズがどうすればいいのか戸惑っていると、
ウェールズ皇太子がオルゴールの蓋を開いて見せた。
「……音が、鳴らない?」
「そう。アルビオン王家に伝わるこの『始祖のオルゴール』は、どういうわけか、
曲を奏でるどころか音も鳴らない。
トリステイン王家に伝わる『始祖の祈祷書』が、まったくの白紙であるように、ね」
 『始祖の祈祷書』のことはルイズやギーシュも聞いたことがある。
ただ、市井に複数存在するそれはどれも内容が異なり、持ち主は自分が
蔵するものこそホンモノだと主張しているためどれも真偽が疑われている。
さすがに王家所蔵のものは王族の婚姻の際に立ち会う巫女が儀礼的に
使う以外で公開されていないが、まさかそれが白紙だったとはルイズたちには
予想外だった。
 ルイズは『始祖のオルゴール』を両手で恭しく受け取る。そのとき、
ふがくの背中のデルフリンガーが懐かしむような声を発した。
「いやあ、懐かしいねえ。娘ッ子。そのオルゴールの蓋、『水のルビー』を
はめてから開けてみな」
「デルフ?……いったい何を……」
「いいからいいから。ちょっと思い出したんだ。六千年の言うこと、
ちょっとくらい信じても罰は当たらねえぜ?」
566萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:03:54 ID:LnvRhown
 その言葉にルイズとウェールズ皇太子は顔を見合わせた。しばしの後、
ルイズは半信半疑のまま『水のルビー』を指にはめて『始祖のオルゴール』の
蓋をゆっくりと開いた――
「……え?な、何?これ……」
 鳴らないはずのオルゴール――だが、『水のルビー』をはめたルイズには、
『始祖のオルゴール』が奏でる、綺麗で、懐かしい感じがする詩が聞こえていた。


 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人……。記すことさえはばかれる……。

 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。

 我が扱いし『虚無』の呪文。その初歩の初歩の初歩。『エクスプロージョン』(爆発)。
『虚無』は強力なり。またその詠唱は永きにわたり、多大な精神力を消耗する。

 詠唱者は注意せよ。時として、『虚無』はその強力により命を削るものなり……。


 その後に続いたのは古代語の呪文。ルイズはいつの間にか涙を流していた。
そして、はたと気づいた。ウェールズ皇太子は鳴らないオルゴールと言った。
そして、『水のルビー』をはめるまで、自分にもこの詩は聞こえなかった。
ということは……。
 自分は選ばれたのだろうか?
 よく分からないけれど……詩が聞こえた。聞こえたということは、
今聞いた呪文も効果を発するかもしれない。ルイズは、いつも自分が
呪文を唱えるとどんな呪文でも爆発していたことを思い出した。
あれは……ある意味、今聞いたばかりの『虚無』ではないだろうか?
 思えば、爆発する理由を誰も言えなかった。
 両親も、姉たちも、先生も……、友人たちも……、ただ『失敗』と
笑うだけで、その爆発の意味を深く考えなかった。
 すると、自分はやはり選ばれたのかもしれない。
 信じられないけど、そうなのかもしれない。
 でも……そうと分かったとき、いっそう涙があふれてきた。

567萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:05:45 ID:LnvRhown
「……ルイズ?」
 ふがくが心配そうに声をかける。ギーシュ、ウェールズ皇太子も、
サー・スチーブンソンも皆心配そうな顔をしている。
「バカみたい……。わたしがもっと早く自分の系統を知っていたら、
今朝みたいなことをさせなくてよかったのに……」
「……まさか……、聞こえたのか?きみは……この『始祖のオルゴール』の
奏でる詩が……」
 ウェールズ皇太子の言葉に、ルイズは小さく頷いた。その意味を知る
ウェールズ皇太子の顔が驚きの色に染まった。
「なんということだ……。トリステインに『虚無』が……。
サー・スチーブンソン、このことは……」
「分かっております。殿下。このことはここにいる6人の胸の内だけに。
よろしいかな?」
 そう言ってサー・スチーブンソンがギーシュとふがく、ルーデルを見る。
全員が無言で頷いたのを見て、ウェールズ皇太子はルイズの両肩に手を置いた。
「……おめでとう。ラ・ヴァリエール嬢。だが、このことは誰にも話しては
いけない。ご両親にも、アンリエッタにも。何故かは、分かるね?」
 ルイズはその言葉に小さく「はい」と答えた。その様子にふがくが
背中のデルフリンガーに尋ねる。
「……アンタ、よく分かったわね。あのオルゴールがルイズの封印……かな?
それを解く鍵だってこと」
「おうよ。なんたって俺っちは六千年だ。ついでにもうひとつ思い出したんだ。
相棒、俺っちを抜いてみな」
 その言葉にふがくはウェールズ皇太子に断ってからデルフリンガーを
背中から抜く。すると錆びた刀身が光を放ち、見る間に神々しい輝きを
帯びた大剣へと姿を変えた。
「これが本当の俺っちよ。ここ千年ばかりつまらねえヤツばかりだったからよ。
テメエで錆びた姿に変えていたのをすっかり忘れてた」
 その言葉にルイズがぽかんとした顔になる。そしてふがくから
「良かったわね。貴族の使い魔にふさわしい剣になって」と言われると、
むーと頬を膨らませた。


 そして夜半――アルビオンを離れる王族と貴族、そしてともに行くことを
決めた平民たちを乗せた『イーグル』号の出港の時が来た。

「汽罐全開」
 『イーグル』号の艦橋。通常のフネとは異なった5層の櫓のような艦橋の
最上階にある指揮所で、艦隊総司令官であるウェールズ皇太子が命じる。
それに艦長が応じる。ルイズとギーシュも、簡易の玉座に座すジェームズ一世と
ともに、指揮所の中でウェールズ皇太子たちのやりとりを見ていた。
「汽罐全開」
「汽罐全開、アイ・サー」
 艦長の命令を掌帆長が復唱する。本来ならばここにはサー・スチーブンソンが
いるのだが、彼は機関室にこもり罐の機嫌を取ることで手一杯だった。
伝声管で伝えられたその命令に、サー・スチーブンソンが目の前にある
2基の罐――蒸気機関を見上げる。
「さあ、晴れ舞台だ。今日は駄々こねるなよ」
 そう言って彼は部下たちに命じて汽罐の蒸気圧を上げるよう石炭を
くべさせる。彼の役職はこの蒸気機関を動かすために新設された機関長。
そしてまた彼の部下たちも純白の水兵服が煤で真っ黒になることを誇りとし、
今までのどの戦場よりも緊張した面持ちで自分の仕事をこなしていた。
「……よし。汽罐の蒸気圧が機関の起動圧力に達した。
 機関圧力正常。始動よろし」
 機関室からの返答。艦橋の後ろにある2本の煙突からうっすらと色づいた
白煙が上がるのを見て、艦長が大きく息を吸い込んでから命じた。
「舫いを解けえー!」
568萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:07:40 ID:LnvRhown
 艦長の声に岸壁に立つマールバラ公が自身の臣下たちとともに係船柱に
かけられた舫いを解く。すでに秘密港の入り口はまたもやふがくから
提供された爆薬によって塞がれ、その上から『錬金』をかけて崩れた
土砂を鉄に変え容易にここには到達できないようにされている。
岸壁に残っているのが貴族ばかりなのは、艦がこの秘密港を離れるときに
『フライ』で飛び移るため。そして昨夜のパーティで公言したとおり、
アルビオンでも有数の貴族であるマールバラ公は殿として港に立っていた。
「微速上昇」
「微速上昇、アイ・サー」
 その命令で風石がその力をゆっくりと解放し、『イーグル』号は
ゆっくりと上昇を開始する。
「本艦、船台を離れます」
 がこんという音とともに、『イーグル』号がその艦体を預けていた
船台を離れる。岸壁でその様子を確認したマールバラ公が手旗信号で
合図するのを確認すると、艦長はウェールズ皇太子に顔を向けた。
「よし。艦長。微速後進」
「微速後進」
「微速後進、アイ・サー」
 その命令で艦尾のプロペラが回り始める。蒸気機関を搭載したこの艦は、
風がなくとも後進が可能。それ故に、この秘密港もこれ以降の艦に
装備されるはずだった蒸気機関での運用を前提として整備されていた。
長い汽笛の音とともに『イーグル』号がゆっくりと後進を始め、桟橋から
完全に離れようとしたときに、港に残っていたマールバラ公たちが
『フライ』で艦にたどり着いた。
「……これでこの港も、いや、この大地も見納めだな」
 艦首に立つマールバラ公がつぶやく。それはこの艦に乗る全員の
気持ちでもあった。
 後進する『イーグル』号がぽっかりと空いた穴の上に達する。
下は雲が荒れ狂い、さながら荒海の様相を呈していた。
「微速下降」
「微速下降、アイ・サー」
 風石の力で自由落下を制御し、ゆっくりと下降する『イーグル』号。
直径300メイルほどの大穴であるが、見張りは全員注意を怠らない。
張り出した岩の突起に触れれば、それでおしまいだからだ。
 やがて穴から出た『イーグル』号は反転し、雲海を抜ける。そして進路を
トリステイン王国ラ・ロシェールへと向けた。空には双月が輝き、静かに
『イーグル』号を照らしていた。
「……ふう。何とかここまで来たわね。けど……電探も搭載してない
アンタがすいすい来れたことに疑問を感じるんだけど……」
 『イーグル』号の周囲を失速ぎりぎりで飛ぶふがくが、ちょうど対角線上の
位置にいるルーデルに通信で話しかける。それに対する返答はあっさりと
したものだ。
「別にあれくらいどうってことないわよ。敵地の真ん中に墜落した戦友を
着陸せずに助けることに比べれば、ね」
「どういう状況よ、それ……」
 想像できない状況にふがくが溜息をつく。その一瞬の隙に――
ルーデルの姿が見えなくなる。
「え?ルーデル?」
 ふがくの言葉に応答はなかった。

 ――その頃、ルーデルはふがくの遙か上空に舞い上がっていた。
本来のふがくであれば探知できる位置だが……今のふがくにそれは
できない。ルーデルはふがくと『イーグル』号を見下ろしたまま、
妖艶な笑みを浮かべる。
「……んふふ。さて、舞台に上がる役者もそろったし。お姉さんは退場するわね。
 じゃあね。ふがくちゃん。……生きていたらまた会いましょうね」
 その視線の先には……上空高度5000メイルから降下してくる二つの影があった。

569萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:09:23 ID:LnvRhown
「ルーデル!?ルーデル!?」
 呼び続けるふがく。だが、応答はない。そのとき、背中に背負った
デルフリンガーが叫んだ。
「相棒!上だ!!」
「え?」
 デルフリンガーの叫びに体ごと上を向くふがく。そこに銃弾の雨が
襲いかかった。
「うああっ!」
「ふがく?!」
 『イーグル』号の艦橋でふがくが銃撃されるところを目の当たりにした
ルイズが叫ぶ。そのまま甲板に銃撃する何か。その姿は……服の色以外を
鏡写しにしたような双子の少女――
「バ〜〜〜カ!くすくす♪」
「あら?まだ飛んでるわ。さすがフガクね、姉さん。くすくす♪」
 それはニューカッスル攻防戦開始直前にひそかに『レコン・キスタ』から
離れていた、クラレンスとアリスのライトニング姉妹だった。
一航過でふがくを『イーグル』号から引き離すことに成功した双子は、
そのまま『イーグル』号へ攻撃を開始する。甲板に攻撃を知らせる鐘が
鳴り響き、メイジたちの魔法、そして主砲の砲撃が加えられるが、
それらはハルケギニア最速の風竜の倍以上の速度、時速650リーグで
飛び回る双子をかすめることもできなかった。
「あはは、泣き顔、だーいすき♪」
「くすくす、歪んだ顔、だーいすき♪」
 クラレンスとアリスの銃撃を受けたメイジが血煙となって消える。
全金属製の航空機さえ墜とす12.7ミリ機銃をまともに受ければ、
人間など形も残さない。だから、双子は愉悦に顔を歪ませながら
ぎりぎり体が残るように攻撃を仕掛けていた。
「ああ、ひとつ教えてあげようか?君には足りてないことが、ある!」
 一度距離を離したクラレンスが冗談でも言うように、
「頭脳、性能、正確さ、そしてなによりもぉ……速さが足りない!……なんてね」
 その横にぴったりと寄り添ったアリスが、遊び飽きた人形を投げ捨てるかのように。
「「さあ、いくよ!ジョーカー・ペア!」」
 その言葉を合図に、双子が高速で位置を入れ替えながら『イーグル』号へ
銃撃を行う。攻撃は装甲が張られていない甲板と、甲板で双子を狙っていた
メイジへ。艦尾から艦首まで撃ち抜いた後、きりもみをするように上昇し……
クラレンスの左手の銃と右脚の尾翼、アリスの右手の銃と左脚の尾翼を
合体させる。文字どおりの『双胴の悪魔』となった双子の銃から、
『ライトニング・クラウド』以上の電光が発生し、『イーグル』号の
煙突めがけて打ち込まれた。
 『イーグル』号の艦橋の窓ガラスをすべて砕くほどの大爆発。
マストが折れ、黒煙を吐きながら高度を落とし始める『イーグル』号に、
双子の顔が愉悦に歪んだ。
「楽しいねぇ♪面白いねぇ♪」
「痛いかなぁ♪痛いよねぇ♪」
 双子の合体技『ジョーカー・ペア』を決めてもなお、子供が
虫をいたぶるようにさらに銃撃を加えようとする。それを遮るように
ふがくが叫んだ。
「アンタら……いいかげんにしなさいよね!」
 ふがくが上昇しつつ懐から3本の銃身がついた両手持ちの巨大な銃
――散弾機銃――を取り出す。ふがくが引き金を引くと、銃身が
高周波音を立てて高速回転を始めた。鋼の乙女であるふがくでさえ
反動をもてあますほどの銃から発射されたその銃弾は、双子の目の前で
破裂する。
570萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:10:59 ID:LnvRhown
「っ!いたーい!」
「アリス?アリス!」
 ふがくの銃弾はアリスの腕を貫いていた。赤いオイルが飛び散り、
クラレンスの瞳が怒りに染まる。瞳の先にいるふがくに向けられる言葉は
冷たく響いた。
「遊びはお仕舞い!お代は……わかるよね?」
 クラレンスの銃から弾丸ではなく金色の星形のものが5つ撃ち出される。
それはふがくを囲み、クラレンスが左手を振り上げるのに合わせて天から
落ちる雷をまとった。
「やべぇぞ!相棒、俺を構えろ!」
 デルフリンガーが異常事態に声を発する。ふがくはとっさに散弾機銃を
格納し、背中からデルフリンガーを抜いた。その様子をクラレンスは
冷笑する。
「そんな剣で何ができる?あははは!地獄へおちろー!」
 クラレンスが腕を振り下ろすと、5つの星から電撃の五芒星が生み出される。
それはクラレンスとアリスの必殺技『ライトニング・ボルト』――電撃が
嵐となり、周辺空気まで電離を始める。
「遊んだおもちゃは片付けなきゃ」
 クラレンスの手から小さなドクロの形の石が投げ込まれる。それを
合図に電撃の嵐はふがくを巻き込んで天を逆巻き、『イーグル』号
艦橋からその様子を見ていたルイズが悲痛な叫びを上げる――だが、
電撃の嵐が消えたとき、ふがくは輝くデルフリンガーを天高く掲げ、
全く損傷を受けぬままそこにとどまっていた。
「そんなバカな!ボクの『ライトニング・ボルト』が直撃して?!」
 驚くクラレンス。そこに帯電したままのデルフリンガーが声を発した。
「……いい心の震えだぜ、『ガンダールヴ』。ぎりぎりで思い出せて
よかったぜ。俺の力は魔力吸収。この技が先住魔法に近い感じがした
からよ、賭けてみた」
「そんなのインチキだ!」
「……何?まだやる気?」
 クラレンスの叫びを無視し、同高度まで上昇したふがくが、
デルフリンガーの切っ先をクラレンスに向けたまま双子と対峙する。
「ダメよ、姉さん。私は……大丈夫だから」
「くっ……。まぁ、ボクたちの目的は果たしたし、こんなところで
フガクと遊んでる暇なんてないしね。ここは退いてあげるよ。
慈悲深いボクたちに感謝するんだね。くすくす♪」
 そう言うとライトニング姉妹は急上昇してその場を離れる。ふがくは
双子を追おうとしたが、『イーグル』号の損害の方が気がかりとなり、
追撃を諦めた。

 そして……『イーグル』号は地獄の様相を呈していた――

 『ジョーカー・ペア』の衝撃から最初に行動したのは老王ジェームズ一世。
彼は艦橋にいた他の人間と同様に衝撃で簡易の玉座から投げ出されると、
臣下が助けようとする手を払いのけ、風石室へ向かう。
その姿に立ち上がったばかりのウェールズ皇太子が叫ぶ。
「被害報告!状況知らせ!」
 そして次々と舞い込む報告――それは絶望的なものだった。
「風石損壊!高度、維持できません!」
「第1主砲塔、沈黙!」
「右舷舵翼全壊!」
「……ふがくっ?!」
「機関室……ごほっ……機関員のほとんどが戦死ぃ……。第1罐損壊……
蒸気圧管破損のため主砲塔旋回不能……。左舷プロペラシャフトに損傷あるも、
推力に問題なし……。これより機能復旧に全力を尽く……」
 最後にそう報告してきたのは、機関室のサー・スチーブンソン。
伝声管を伝わるその声は、彼自身が酷く傷ついていることを物語っている。
そのとき、爆発音とともに艦が大きく揺れた。
571萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:12:22 ID:LnvRhown
「ルイズ!」
 そこに、破れた艦橋の窓からふがくが入ってくる。その姿を見て、
ウェールズ皇太子は安堵の溜息をついた。
「……きみだけでも無事だったか。さあ、ラ・ヴァリエール嬢と
ド・グラモン君を連れて脱出しなさい」
「そんな!」
 その言葉にルイズが悲痛な声を上げる。だが、ウェールズ皇太子を
はじめ、艦長や艦橋にいるすべての人間が二人に早く脱出するように
告げる。そのとき、ギーシュが頭を振った。
「ぼくは一緒には行けない。ルイズ、きみだけでも早くここから脱出するんだ」
「ギーシュ!?」
「ルイズとぼくを抱えれば、ふがくは武器を持つことができなくなる。
もし、さっきのがもう一度襲ってきたら……?
そんなことは、ぼくにはできない」
 ギーシュはそう言って頭を振る。
「ギーシュ……」
 その顔に覚悟を見たルイズが心配して声をかける。だが、ギーシュは
きっぱりと言った。
「ぼくはボートで脱出するよ。だから、先に行ってくれ」
「分かった。
ギーシュ、アンタもルイズと一緒に生きて帰らなきゃダメなんだからね。
私は近くにいるフネを探す。だから……」
「ああ。分かってるよ。ふがく。ぼくはモンモランシーのところに帰るんだ。
絶対に。だから、行ってくれ」
 ギーシュの言葉にふがくは軽く頷き、ルイズを抱えて窓から外に飛び出す。
その直後、伝声管から国王ジェームズ一世の声が聞こえた。
「……これより、朕の持てる力すべてを残った風石に注ぎ、高度を維持する。
その間に、全員この艦より脱出せよ。よいな、ウェールズ。総員退艦じゃ。
お前も、艦を離れよ」
「父王……」
 ウェールズ皇太子はうつむき、肩を震わせた。だがそれもつかの間。
しっかりと顔を上げると、帆船時代の船乗りらしい大きな声で宣言した。
「総員最上甲板!総員退艦!」
 その声に従兵たちが伝令に走る。連呼される『総員退艦!』の声が
遠くなる中、ウェールズ皇太子以下、艦長も、ギーシュも、いやこの場に
残った貴族の誰も、そこから離れようとはしなかった。

 総員退艦により脱出を開始した『イーグル』号のカッター(短艇)には、
婦人が優先して乗せられた。もとより定数を満たしていない今の『イーグル』号、
しかもライトニング姉妹の急襲でマールバラ公を筆頭に多くの貴族や
水兵が命を落としており、全員の脱出は可能かと思われたが……右舷に
搭載されていたものが全滅しており、残ったカッターでは足りず、攻撃で
穴が開いただけで奇跡的に機関部が無事だった長官艇を『錬金』で応急修理し、
砕けた風石は攻撃で使い物にならなくなったランチ(長艇)のものを持ち出して
使用することにした。
572萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:14:01 ID:LnvRhown
 風石で浮かび、起倒式のマストを立て、ヨットのような帆に風を受けて
カッターが次々と『イーグル号』を離れていく。その様子を見る艦橋で、
ウェールズ皇太子がギーシュに声をかける。
「ド・グラモン君。さあ、きみも早く脱出したまえ」
「ぼくは殿下とご一緒させていただきます。ルイズ……
いや、ミス・ヴァリエールが殿下をトリステインへお連れするために、
自分の使い魔を戦わせました。それなのに、ぼくだけ脱出する訳には
参りません」
 ギーシュの決意は変わらない。そこに艦橋から張り出したブルワークから
周囲を見張っていた掌帆長から報告が入る。
「本艦に接近する船舶あり!発光信号確認!
『ワレ『マリー・ガラント』。本船ニ救援ノ用意アリ』
以上です!」
「……これで救助は頼めるな。返答。
『我『イーグル』。航行不能。救助を頼む』
以上だ」
 ウェールズ皇太子の言葉を受けて、掌帆長がブルワークに立って
力の限りの『ライト』の魔法で発光信号を送る。
『フライ』では届かないほどまだ距離が遠いが、メイジが乗っていなければ
大型のカンテラと大きな鏡を使う発光信号も、それなりのメイジが
いれば魔法で事足りる。そこに、舷側から大きな声が上がった。

「……あと一人!あと一人いけるぞぉ!!」

 その声にウェールズ皇太子が真っ先に反応する。ブルワークに身を
乗り出し、言った。
「あと一人、いけるんだな!?」
「……殿下?!はい!いけます!」
 その言葉にウェールズ皇太子は艦橋に身を翻す。そしてギーシュの
両肩に手を置いた。
「ド・グラモン君。行きたまえ」
「……お言葉はありがたく。ですが、ここは殿下が……」
 ギーシュはその言葉を最後まで言えなかった。いきなりウェールズ皇太子が
「歯を食いしばりたまえ!」と言うが早いか、ギーシュを殴り倒していたからだ。
「……失礼。きみがあまりにも寝ぼけたことを言うものでね。
僭越ながらアルビオン空軍魂を叩き込ませてもらった」
「で、殿下…?」
 艦橋の床に敷き詰められた鉄のグレーチングに転がったまま、
ギーシュがウェールズ皇太子を見上げる。その瞳は怒りの色を帯びていた。
「きみは昨夜なんと言ったかね?『ぼくたちは本来はここにいないはずの人間だ』と
言ったのではないか?それならば、ラ・ヴァリエール嬢も、きみも、
ここで死ぬことは許されない」
 そう言った後、ウェールズ皇太子は優しくギーシュを助け起こす。
そして、微笑みながら左手の薬指から『風のルビー』を外すと、
ギーシュに手渡した。
「きみに任務を与える。この『風のルビー』を、アンリエッタに、渡してくれ。
 ウェールズは最後まで勇敢に戦い、勇敢に死んでいった、と伝えてほしい」
 ギーシュは『風のルビー』を両手で押し頂くように受け取ると、うつむいた。
床に涙がこぼれる。
「ヴァルハラで待っている。きみはできる限りゆっくりと来るといい。
そして、人生という名の戦果を添えて、任務達成を私に報告してくれ」
「は、はい……」
 ギーシュの声は涙に震えていた。
「さあ、行きたまえ!」
573萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:15:53 ID:LnvRhown
 ギーシュは振り返らなかった。その後ろ姿が消えてから、
艦長がウェールズ皇太子に話しかける。
「ギーシュ・ド・グラモン……でしたか。さすが、かつてトリステインに
この人ありと謳われたあのグラモン元帥の息子ですな。だが、任務の
優先度を取り違えるとは、まだ若い」
 そこに掌帆長が笑いながら言う。
「しかし、殿下直々にアルビオン空軍魂を叩き込まれるとは……我々は
そのような名誉に与ったことはありませんぞ」
「はは。違いない。願わくば、ともに舳先を並べて戦いたかったですな」
 艦長はそう言うと、思いを馳せる――トリステインで建造された、
全長300メイルの威容を誇る鋼鉄の竜母艦『ヒューリアス』の、帆走装備を
持たない全通甲板特有の艦影からわずかに突き出る煙突と一体化した艦橋から、
併走する自分に敬礼する若き艦長の姿に。だが、それは夢でしかない。
「そのためには、生き残らなければな。『イーグル』号を着水させる。
掌帆長、風石室に行き、父王の助けとなってくれ」
 ウェールズ皇太子の命令を受けて風石室に向かった掌帆長。血みどろの
通路を抜け風石室にたどり着いた彼は……思わずその場に立ち尽くした。

「……これは……」
 小さな劇場ほどの広さがある風石室。そこには部屋の空間のほとんどを
占める巨大な風石が収められ、過重なこの『イーグル』号に必要な浮力を
稼いでいた――はずだった。
 しかし、今この部屋に風石の姿は見えない。いや、床一面に広がった、
きらきらと輝く砂と、老王と、彼を囲むように力を注ぎ続ける貴族たちの
姿に隠されていたが、風石はあった。その姿を、大人の背丈くらいに減じて。
 老王は掌帆長の姿を見つけると、絞り出すように言う。
「……ウェールズは……皇太子は、脱出したか……?」
「……はい。先程、最後の艇が出ました」
 掌帆長がついたとっさの嘘。その言葉に、老王はふっと笑う。
「ばかものが……」


 ルイズとふがくは、飛び出して程なく見つけた『マリー・ガラント』号に
着艦し、その甲板から燃える『イーグル』号を見つめていた。
『マリー・ガラント』号は接近しつつ、自船に近寄るカッターを拾っている。
乗っているのは貴族婦人とその侍女がほとんど。カッターを操る下士官と
水兵以外の男の姿はほとんどなかった。
「船長!急いで!」
 フネの指揮所では、金髪を少年のように短く切った女性、シンが船長を
急かしている。同時に甲板では拾い上げたカッターを処分する水夫の声が響く。
救助する人間が多いため、甲板を開けるべく引き込んだカッターから
風石を抜いてそのまま空から海に投げ込んでいたのだ。
「ギーシュ……」
 ルイズは、まだ姿の見えないギーシュを心配していた。
ウェールズ皇太子の姿も見えない。
まさか、二人ともまだあの艦にいるのだろうか……そのとき、ふがくと
シンが同時に声を発した。
「プロペラを回して……フネ?」
「長官艇……?アレは帆走じゃない!捕まえるときには注意して!」
 それは『イーグル』号を小さくしたような、風石で浮き上がり小型の
内燃機関とプロペラで推進するフネ――『イーグル』号に搭載された
長官艇だった。長官艇は『マリー・ガラント』号に接触すると、プロペラを
停止させて艇内に格納すると引き込み用のロープを受け入れる。
やがて甲板に固定された長官艇から、婦人や傷ついた貴族と一緒に
ギーシュの姿が現れる。
「ギーシュ!」
574萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/29(土) 22:17:06 ID:LnvRhown
「やあ……ルイズ」
 ルイズはギーシュの顔を見て驚いた。
煤にまみれた顔に涙の跡が残り、酷い疲労感が見て取れたからだ。
「陛下は?皇太子さまは?」
 ルイズの言葉に、ギーシュは『イーグル』号を指さした。
「そんな……!」
「『イーグル』号が……沈むわ……」
 ふがくがそう言うと同時に、舷側に動ける貴族たちが集まる。
彼らに看取られるように、『イーグル』号はゆっくりと、徐々に速度を
増しながら高度を落とし……海上に巨大な水柱を立てる。
その直後、『マリー・ガラント』号を揺るがすような轟音が響き、
爆炎が立ち上った。まだかろうじて生きていた罐に水が入り、
同時に弾薬庫の主砲弾と装薬が衝撃で誘爆したためだった。
 ふがくはその様子を敬礼で見送った。その横で、ルイズは力なくへたり込んだ。

 ――こうして、世に言う『ニューカッスル攻防戦』は、夜明けとともに
王党派が旗艦『イーグル』号の新型砲による超遠距離砲撃により貴族派に
大打撃を与えるも、夜半に行われた艦隊戦により貴族派艦隊が『イーグル』号を
撃沈。国王ジェームズ一世、皇太子ウェールズら王党派全員が艦と運命を
ともにしたと歴史書に記録されることになる。
 だが、夜明けの戦いにおいて貴族派は戦列艦『コンステレーション』、
巡洋艦『バッファロー』を失い、旗艦『レキシントン』以下、戦列艦
『ロードアイランド』、巡洋艦『ファーゴ』ともに大破したともされており、
滅亡寸前の王党派にそれだけの戦力があったことと、そして誰が
『イーグル』号を葬ったのかが、歴史の謎となることになった……
575萌え萌えゼロ大戦(略) ◇E4H.3ljCaE:代理:2010/05/29(土) 22:47:55 ID:fyf0J49Z
 その頃、トリステイン王国のタルブの村――

 村に近い森の中を、一人の銃士が走っていた。その手には、布に包まれた
棒のようなものが大事に抱えられている。
「待ちなよ。それ、そこに置いて原隊復帰しな。そうすれば見なかったことに
してあげる」
 突然背後から声がかかり、銃士は足を止める。10メイル以上離れた
森の木陰から声は聞こえた。
「だ、誰?」
 銃士の声に応えるように、木陰から姿を現したのは……同じ銃士の格好を
した女だった。自分より年上、二十歳くらいだろうか、緑の、銃士隊では
禁止されているはずの長い髪にネコのような目で自分を見るその銃士は、
黄色の鎧下の上に布鎧を身につけ、自分と同じカーキ色のマントを
まとっている。だが、動物の耳がついたふわふわとしたファーの耳当てだけが
異様に浮いていた。
「あたしのことはどうだっていいさ。けどね、それ、まだ外に出す訳には
いかないんだよ」
 女の言葉に、布包みを抱えた銃士はふるふると首を振った。
「仕方ない……ねっ!」
 それを見た女が身を屈めたかと思うと……次の瞬間には銃士の目の前に
蹴り足が寸止めされていた。一瞬遅れて風が銃士の頬をなでる。
10メイル以上あった距離を一瞬で詰め、その気であれば今ので自分を
殺せたかと思うと、銃士は布包みを放り投げ、腰が抜けたまま這々の
体で逃げ出す。女はそれを追わなかった。
「やれやれ。連中の手、こんなとこまで伸びてたか……」
 女は愚痴りながら布包みを手に取る。そこに真横の木陰から声がかかった。
「こっちも終わったわ。ハーマン」
「シーナか。で、食事の前に情報収集したんだろうね?」
 ハーマンは木陰から出てきた青く長い髪の同じ銃士姿の女、シーナと
向き合う。シーナは言われなければ気づかないようなやや尖った耳を
わずかに垂れ、肩をすくめる。
「ガリアの北花壇警護騎士団よ。さすがに、ものがものだけにあちらも
相応のを出してきたみたいだわ」
「はぁ。そりゃそうだろうねぇ」
 そう言ってハーマンは布包みから布を取り去る。そこには今までの
ハルケギニアのものとは一線を画した長銃があった。黒光りする銃身の
基部には十六八重菊紋章と並んでトリステイン王家の百合の紋章が彫金され、
磨かれたボルトアクションのレバーにハーマンの顔が映り込む。
「……サンパチ……だっけ?こいつが本格的に量産されたら歴史変わるよ」
 そう言ってハーマンは鎧下の尻ポケットからスキットルを取り出し、
アルビオン産のエールを一口飲んでから天に向けて長銃を構える。
その照準に映った影が、二人の前に舞い降りた。
576萌え萌えゼロ大戦(略) ◇E4H.3ljCaE:代理:2010/05/29(土) 22:49:37 ID:fyf0J49Z
「カルナーサ……貴女、どうして?」
 驚くシーナに、カルナーサと呼ばれた銃士姿の女は連結式三節棍(ロッド)状の
杖を折りたたんでしまい込み、二人に向き合った。
「姫様からの命令だよ。アタシら3人、直ちにラ・ロシェールに向かって
小隊長と合流せよ、だって。今回の件の報告も後回しでいいそうだよ」
「シンと?ってことは、またこの前のワルド子爵の時みたいな?
……勘弁してよねぇ」
 そう言ってハーマンは溜息をついた。

 物好きな貴族と獣人の妾の間に生まれた酒好きのハーマン、千年以上前の
物好きなメイジが自分の血を吸わせたというスキルニルのカルナーサ、
それに物好きな吸血鬼のシーナ――彼女たちはシンと同じく『ゼロ機関』の
エージェントだった。
 そして、翌朝目覚めた銃士隊隊長アニエスの枕元に公にされないはずの
新型長銃が置かれていてちょっとした騒動になったことと、ある銃士が
歩哨の途中で物陰から覗いていた野良猫を見て発狂したことは、彼女たちの
知るところではなかった……
577名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 22:51:18 ID:17UxSC+W
しえん
578萌え萌えゼロ大戦(略) ◇E4H.3ljCaE:代理:2010/05/29(土) 22:51:34 ID:fyf0J49Z
以上です。
やっぱり2回に分割した方が良かったかな?と思いましたが、『イーグル』号
沈没のシーンまでは一気に終わらせたかったのでごらんのありさまだよ!と
相成りましたorz

それから元ネタスレに本人が書き込むのはアレかなーと思ったので
ここで。
ネルソン艦長の元ネタは元ネタスレ>>603で書かれたとおりです。
三銃士的には『ホレイショ』といえば『ハムレット』ですが、アルビオンの
軍人なので勝手に家名を作りました。
あと、三つのベルはとある日本のゲームが元ネタ。とはいえ私が北米版しか
プレイしてませんのでゼロ魔世界に合わせるべく勝手にマジックアイテムにしたほか
メイドの描写もそっち準拠です。
ルイズが恐縮するのも浦島太郎と乙姫の娘という元ネタ設定から引っ張りました。
雑誌『MoreMoe』は萌え萌え2次大戦(略)でアメリカの空母乙女ルリの
エピソードに登場する雑誌です。
同じ金髪眼鏡の優等生なのでネタに使いました。
あの妙なアンケートも実際にゲームに出てくるものですw

それでは。
次回は今回のに入りきらなかったエピローグとインターミッションの予定です。
579名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/29(土) 23:44:58 ID:sZGND5t9
乙ざます。
580名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 00:13:50 ID:lWVWtXJZ
581アノンの法則:2010/05/30(日) 00:25:38 ID:lWVWtXJZ
アノンの法則です
予定が無いようなら投下させていただきます
582アノンの法則:2010/05/30(日) 00:26:37 ID:lWVWtXJZ
空賊船に扮した『イーグル』号と、それに拿捕された『マリー・ガラント』号は、日の射さないアルビオン大陸の下側から回り、ニューカッスル城の地下に設けられた秘密の港へと到着した。
「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」
ルイズたちと共にタラップを降りたウェールズを、背の高い老メイジが労う。
「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」
ウェールズがそう叫ぶと、迎えに集まった兵達が歓声をあげた。
「おお! 硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も、守られるというものですな!」
「先の陛下よりおつかえして六十年……、こんな嬉しい日はありませぬぞ、殿下。反乱が起こってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、なに、これだけの硫黄があれば……」
老メイジに、ウェールズがにっこりと笑った。
「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北することができるだろう」
「栄光ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ。して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するとの旨、伝えて参りました。まったく、殿下が間に合って、よかったですわい」
「してみると間一髪とはまさにこのこと! 戦に間に合わぬは、これ武人の恥だからな!」
ウェールズたちは、自らの最後を心底楽しそうに話している。
洞窟の壁にびっしりと生えた光ゴケを物珍し気に削っていたアノンは、振り返ってウェールズを訝しげに見つめた。
彼は今、敗北、と言った。
この場合の敗北とはつまり、死ぬということだ。
自分が死ぬという話を、冗談でもなく楽しげに話すウェールズたちが、アノンは理解できなかった。
「して、その方たちは?」
パリーと呼ばれた老メイジが、ルイズたちを見て、ウェールズに尋ねる。
「トリステインからの大使殿だ。重要な用件で、王国に参られたのだ」
パリーは一瞬、疑問を感じた様だったが、すぐに微笑んだ。
「これはこれは大使殿。殿下の侍従を仰せつかっておりまする、パリーでございます。遠路はるばるようこそこのアルビオン王国へいらっしゃった。たいしたもてなしはできませぬが、今夜はささやかな祝宴が催されます。是非とも出席くださいませ」
583名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 00:27:50 ID:8/9qEL2i
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
584アノンの法則:2010/05/30(日) 00:27:54 ID:lWVWtXJZ
 

亡国最後の客人として招かれたルイズたち一行は、用意された城の一室で旅の疲れを癒した。
そして夜、ルイズとワルドはアンリエッタの手紙の件でウェールズの私室へ、アノンは手紙のことは二人に任せて、一足先にパーティー会場へと足を運んだ。
「大使殿のお連れの方! このワインを試されなされ! お国のものより上等と思いますぞ!」
「なに! いかん! そのようなものをお出ししたのでは、アルビオンの恥と申すもの! このハチミツが塗られた鳥を食してごらんなさい! うまくて、頬が落ちますぞ!」
「アルビオン万歳!」
華やかなホールで、最後まで王軍についてきた臣下たちが、次々にアノンに酒や料理を勧めては、最後に万歳を叫んで去っていく。
アノンは勧められるままに酒や料理を平らげつつ、最期の時を明日に控えながらも、明るく振る舞う者たちを不思議な気持ちで眺めていた。
ホールにウェールズが現れ、臣下たちから、歓声が上がった。
万歳の声が大きくなり、パーティーは賑やかさを増す。
「明日死ぬって言うのに、なんだってあんなに楽しそうなんだろ?」
「明日死ぬからこそ、ああも明るく振る舞っているのだ」
アノンの呟きに、いつの間にか隣にいたワルドが答えた。
「ああ、子爵様。手紙は返してもらえたんですか?」
「うむ。今はルイズが持っているはずだ」
これで任務の半分以上が終わった。後はトリステインまで帰るだけだ。
「ルイズは?」
「部屋にいる」
ルイズはパーティーには出ないつもりらしい。
ウェールズからアンリエッタの手紙を受け取る際、何かあったのだろうか。
不意にワルドが切り出した。
「君に言っておかねばならぬことがある」
「なんですか?」
「明日、僕とルイズはここで結婚式を挙げる」
アノンが、きょとんとして訪ねる。
「こんな時に、こんな所で?」
「是非とも、僕たちの婚姻の媒酌を、あの勇敢なウェールズ皇太子にお願いしたくなってね。皇太子も、快く引き受けてくれた。決戦の前に、僕たちは式を挙げる」
まだ、わからない、という顔をしているアノンに、ワルドが尋ねる。
「君は出席するかね?」
「えーと…まあ、使い魔ですから」
「……そうか」
そう言うと、ワルドはルイズを見てくる、と言い残し、ホールから出て行った。
そろそろ料理を勧めてくる者達もいなくなり、一人になったアノンは、なんとなく手持ち無沙汰にパーティーを眺めていると、そんなアノンを気遣ってか、臣下たちに囲まれて歓談していたウェールズが近寄ってきた。
585アノンの法則:2010/05/30(日) 00:29:34 ID:lWVWtXJZ
「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔の少年だね。しかし、人が使い魔とは珍しい。トリステインは変わった国だな」
ウェールズはそう笑った。
「トリステインでも珍しいですよ。使い魔に人が呼ばれたのはボクが初めてだとか」
「ほう! それはまた」
大げさに驚いてみせるウェールズを、アノンはじっと見つめた。
見つめ返すウェールズ。
「私の顔に何かついているかな?」
「なんで、戦うんですか?」
「なに?」
「勝ち目がないなら、逃げればいい。それをわざわざ死にに行くなんて」
「案じてくれてるのか! 私たちを! 君は優しい少年だな」
「いや、別にそういうわけじゃ…。ただ、わからなくて。ウェールズ様たちがなんで戦うのか。なんで死ぬってわかってて、そんな風に笑っているのか。ウェールズ様は死ぬために戦うんですか?」
その言葉に、ウェールズは微笑む。
「私だって、死にたくなどないよ。王族だって、貴族だって、死ぬのは怖い」
「じゃあ、どうして?」
「守るべきものがあるからだ。守るべきものの大きさが、死の恐怖を忘れさせてくれるのだ」
「守るってなにを? 貴族は名誉とか誇りが好きらしいけど。貴族ってそんなもののために生きてるんですか?」
ウェールズは堪えきれないように、声を出して笑った。
「君はずいぶんとはっきりとものを言うのだね」
それから、遠くを見るような目で、語り始めた。
「我々の敵である貴族派『レコン・キスタ』は、ハルケギニアを統一しようとしている。『聖地』を取り戻すという、理想を掲げてな。理想を掲げるのはよい。
しかし、あやつらはそのために流されるであろう民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう、国土のことを考えぬ」
「民のために戦うって言うんですか? でも、勝てないのなら意味がない。それこそ犬死じゃないか」
「いや、我らは勝てずとも、せめて勇気と名誉の片鱗を貴族派に見せつけ、ハルケギニアの王家たちは弱敵ではないことを示さねばならぬ。やつらがそれで、『統一』と『聖地の回復』などという野望を捨てるとも思えぬが、それでも我らは勇気を示さねばならぬ」
「どうして?」
ウェールズは、毅然として、言い放った。
「簡単だ、それは我らの義務なのだ。王家に生まれたものの義務なのだ。内憂を払えなかった王家に、最後に課せられた義務なのだ」
「……本当に、逃げようとは思わないんですか? 逃げる場所だって、ありそうなものなのに」
ウェールズは何かを思い出すように、微笑んで言った。
「私がトリステインへ……アンリエッタの国に亡命しても、貴族派が攻め入る格好の口実を与えるだけだ。愛するがゆえに、知らぬ振りをせねばならぬときがあるのだよ」
ウェールズは本当に、明日ここで死ぬつもりだ。きっと誰に何を言われても、それを翻すことはないだろう。
ウェールズはアノンの肩をつかんで、真っ直ぐに目を見つめた。
「今言ったことは、アンリエッタには告げないでくれたまえ。いらぬ心労は、美貌を害するからな。彼女は可憐な花のようだ。君もそう思うだろう?」
少しおどけたような文句をはさんでも、なお強いウェールズの口調。
「アルビオン王国最後の客人である君に、お願いしたい」
ウェールズは目をつむって、
「一言だけ、アンリエッタにはこう伝えてくれ。ウェールズは、勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと」
そう言うとウェールズは、再び座の中心に入っていった。
その背を見送るアノンの胸には、何かもやもやしたものが残った。
アノンは、使い魔として生活する中で、多少の心境の変化はあったものの、それでも、自分が生きるために他を切り捨てることは当然だと考えていた。
だから、アノンにはウェールズがわからない。
ウェールズが胸に秘めた、その『想い』がわからない。
ただ――ココにも植木くんに似たひとがいた、と思った。
586アノンの法則:2010/05/30(日) 00:31:13 ID:lWVWtXJZ
 


アノンが部屋に入ると、ルイズは開け放った窓から月を見上げ、一人泣いていた。
ルイズはアノンに気づくと、慌てて袖で目頭をぬぐった。
だが、その目からはすぐに涙が零れだす。
確かルイズは明日、結婚式を挙げるのではなかったか。
なら、もっと晴れやかな顔をしていてもいいはずだ。
「なんで泣いてるの?」
ルイズはふらりとアノンに近寄り、その胸に顔をうずめた。
「ルイズ? どうかしたの?」
その意図が読めず、アノンは尋ねた。
「いやだわ……、あの人たち……、どうして、どうして死を選ぶの? わけわかんない。姫さまが逃げてって言ってるのに……、恋人が逃げてって言ってるのに、どうしてウェールズ皇太子は死を選ぶの?」
明日に決戦を控えたウェールズたちのことについて、考えていたらしい。
ルイズはアノンの体を抱きしめて、肩を震わせる。
「大切なものを守るためだって言ってたよ」
「なによそれ。愛する人より、大事なものがこの世にあるっていうの?」
「キミがよく言ってる、名誉とか誇りって言うのはどうなんだい? ウェールズ様もレコン・キスタに、勇気と名誉の片鱗を見せ付けるって言ってたよ。それが王族の義務なんだって」
ルイズは顔を上げて、アノンをみた。
「名誉も…誇りも大事よ。王族の義務だって言うのもわかるわ。でも、姫さまに…恋人に助かってほしいって、また会いたいって…言われて…なんで……」
ルイズはまたアノンの胸に顔を押し付けた。
「もう説得に応じる風でもなかったし、キミは姫様に手紙を届けることだけ考えてればいいじゃないか」
「……早く帰りたい。トリステインに帰りたいわ。この国嫌い。イヤな人たちと、お馬鹿さんでいっぱい。誰も彼も、自分のことしか考えてない。あの王子さまもそうよ。残される人たちのことなんて、どうでもいいんだわ」
たぶん、違う。
アノンは思った。
ウェールズは、自分以外のために命を賭けられる人だ。
彼がどうして“そう”なのかは、アノンにはわからない。
だが、彼が植木と同じように、他の誰かのために死のうとしていることだけはわかった。
「ねえ、あんたにはいないの?」
アノンから離れて、涙を拭ったルイズが、赤い目でアノンを見つめた。
「あんた、初めて会った日に言ったわよね。帰ってやらなくちゃいけないことはないって。でも、会いたい人はいないの? 家族とか友達とか…あんたには、そういう大事な人はいないの?」
そう尋ねられて、アノンは考え込んでしまった。
自分にとって家族といえば、父親だけだ。だが、彼が大事な人かと聞かれたら、どうだろうか。
幼い頃から、大人しく従っているように見せて、内心彼の言う守人の一族代々の使命など果たす気は毛頭無く、最後には裏切った相手だ。
では、友達は――バロウチーム?
神を決める闘いにおいて、自分の駒として味方に取り込んだ、人間界に落とされた天界人たち。
彼らは、違う。
彼らは利用していただけだ。できもしない約束と偽りの目的で騙し、都合のいいように使っていただけ。
仲間ですらなかった。
――自分は一人だったのだ。
アノンはうっすらと、自分がウェールズたちを理解できない理由が、見えた気がした。
「いない…かな」
しばらく考え、アノンは答えた。
「いないの? 一人も?」
ルイズが驚いたように尋ねる。
「そうだね。ボクは、ずっと一人だったんだ……」
言葉にしてみると、なぜだか少しだけ、胸が苦しくなった。
587名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 00:34:10 ID:d2d/0mP/
支援
588アノンの法則:2010/05/30(日) 00:34:18 ID:lWVWtXJZ
 


『レコン・キスタ』が通告してきた決戦当日の早朝、アノンは昨夜パーティーが開かれたホールで、ワルドを待っていた。
「式を挙げる前に、君に話しておかねばならないことがある」
そうワルドに呼び出されたのだ。
王党派の貴族達は、すでに戦の準備に入っており、もうここに来ることはないだろう。
昨晩とは違い、誰もいないホールは静かなものだった。
「愛しているからこそ、知らぬふりをしなくてはならないときがある、か……」
背中のデルフリンガーが呟いた。
「なに?」
「いやね、あの皇太子様さ。あの姫様の手紙には、トリステインに亡命して下さいってあったに違いねえ。だけど、愛する姫のためには、亡命なんて出来ねえのさ」
「ウェールズ様、義務のためだって昨日言ってたけど?」
「そりゃ建前さ。いや、確かにそういう気持ちもあるんだろうよ。だけど、一番の理由は違うね」
「へえ?」
「王子様も言ってたろ? 『トリステインに亡命しても、貴族派が攻め入る格好の口実を与えるだけだ』ってよ」
デルフリンガーはしみじみと言った。
「愛する者のためには、自分はここで名誉を守って、討ち死にするしかねえのさ」
「ふーん」
わかったのかわかっていないのか。アノンは適当に相槌を打った。
そんな風にデルフと話していると、扉が開いてワルドが現れた。
「やあ、使い魔君」
「ああ、子爵様」
後ろ手に扉を閉め、ワルドは人のいい笑みで歩み寄ってくる。
「それで、話ってなんですか?」
「ああ、そのことなんだが…」
アノンの前まで来て、ワルドが言いよどんだ。
「その、少々言いにくいことなんだ……」
そう言って、ワルドはアノンに背を向ける。
「子爵様?」
アノンが不思議に思って、数歩近づいた時――。
突如マントを翻したワルドが、振り向きざまに杖剣を抜き、アノンの顔面に突きを放った。
「なッ!?」
手合わせのときとは違う、明らかに殺意の篭った攻撃。
辛うじてかわしたアノンの頬を、杖が薄く切り裂いた。
「子爵さ…!」
ワルドが自分を殺そうとする理由がわからず、アノンは一瞬戸惑う。
(まさか、裏切り!?)
濃密な殺意に、アノンはワルドが自分達を裏切ったのだと思い至る。
だが、背中に伸ばした手がデルフリンガーを掴む前に、ワルドの高速詠唱が完成した。
「『ウインド・ブレイク!』」
突風をもろに受け、アノンは壁に叩きつけられた。
背中を強く打ち、一瞬息が止まる。
ドン、という衝撃が、アノンを襲った。
視線を胸元に落すと、ワルドの杖剣から伸びた『ブレイド』の刃が、アノンの胸を貫いていた。
「し、子爵……」
ごぼっとアノンの口から、鮮血が溢れた。
「君とはここでお別れだな」
『ブレイド』の刃が消滅し、アノンはその場に倒れこむ。
流れ出した血が、上質な絨毯に吸い込まれ、黒い染みが広がっていく。
「これで、最大の邪魔者は片付いた」
杖の血を拭い、倒れたアノンにワルドは一言、
「さようなら、『ガンダールヴ』」
と言って、その場を後にした。
589アノンの法則:2010/05/30(日) 00:36:34 ID:lWVWtXJZ
 


「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、この者を敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
「誓います」
礼服に身を包んだウェールズとワルドの声を、ルイズはぼんやりと聞いていた。
今ルイズはワルドに言われるままに、ウェールズの媒酌のもと、礼拝堂で結婚式を挙げている。
式の前、ワルドに、アノンは『イーグル号』で先に帰る、と聞かされ、ルイズは、ああそうか、と思った。
アノンは孤独だ。自分が、この世界に連れてきてしまったから。
アノンは、元の世界でも一人だった、と言った。
だが、『別の世界』よりは、まだ救いがあったのではないだろうか。
自分は、ただでさえ孤独だった少年を、異世界と言う、絶対的な孤独の地獄に突き落としてしまったのだ。
なのに、自分はそれを詫びるどころか、アノンを使い魔として扱い、本人にその意思がないのをいいことに、送り還す方法を探すことすらしていない。
実際、昨日の夜まで、アノンの家族や友人のことなど、考えもしなかった。
――愛想を尽かされたって、仕方ない。
死を覚悟した男達の空気にあてられて酷く落ち込んだルイズは、自己嫌悪と悲観的な思考に埋もれ、自暴自棄になっていた。

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
自分の名を呼ばれ、我に返るルイズ。それと同時に、急に結婚式の最中であるという実感が湧いてきた。
落ち込んだ気持ちのまま流されていたが、自分は今から結婚するのだ。
憧れていた、頼もしいワルド。親同士がが交わした、結婚の約束。幼いながらに、想像していた未来。
それが今、現実のものになろうとしている。
好きなはずのワルドとの結婚。彼はきっと自分を幸せにしてくれるだろう。
なのに、ルイズの気持ちは重く沈んでいる。
ふと、ルイズは思った。
(私、本当にこのまま結婚してもいいの?)
結婚したら、恐らく自分は学院をやめ、ヴァリエールの実家に帰ることになる。
(そうしたら、アノンは?)
結婚すれば、使い魔とはいえ、男をそばに置いておく事などできない。
(アノンは……一人ぼっちに?)
悲観と自棄で曇った頭が、はっきりしてくる。
この世界で、アノンとつながりがあるのは自分だけだ。
アノンを孤独にしたのが自分なら、せめて自分だけでも彼のそばにいてやるべきではないのか。
『ボクは、ずっと一人だったんだ……』
昨日のアノンの言葉が蘇る。
今ワルドと結婚したら、アノンは、あの寂しい少年は、本当に一人ぼっちになってしまう。
やっぱり、結婚などできない。
590アノンの法則:2010/05/30(日) 00:38:54 ID:lWVWtXJZ
「新婦?」
「ルイズ?」
ウェールズが不思議そうに呼びかけ、ワルドもルイズの顔を覗き込む。
ルイズは、首を振った。
「ごめんなさい、ワルド。私、あなたとは結婚できない」
ウェールズが驚いたように尋ねた。
「新婦は、この結婚を望まぬのか?」
「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、私はこの結婚を望みません」
柔らかだったワルドの表情が変わる。ウェールズは、残念そうにワルドに告げた。
「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」
しかし、ワルドはウェールズに見向きもしない。
「……緊張してるんだ。そうだろルイズ。君が、僕との結婚を拒むわけがない」
「ごめんなさい、ワルド。ずっと憧れていたわ。今回の旅だって、あなたはとても頼もしかった。でも…ダメなの」
ワルドが、ルイズの肩を強く掴んだ。
表情が、いつもの優しいものから、爬虫類じみた、固く冷たいものへと豹変する。
その表情とは裏腹に、熱い口調でワルドは叫んだ。
「世界だ、ルイズ。僕は世界を手に入れる! そのために君が必要なんだ!」
世界を手に入れる? 何を言っているのか分からない。
ルイズは熱く語るワルドに怯えながら、首を振った。
「……私、世界なんかいらないもの」
ワルドはさらにルイズに詰め寄り、手を握る。
「僕には君が必要なんだ! 君の能力が! 君の力が!」
「ワルド、あなた……」
ワルドの剣幕を見かねたウェールズが、割って入る。
「子爵……、君はフラれたのだ。いさぎよく……」
「黙っておれ!」
ワルドはウェールズを乱暴に押しのけた。
「ルイズ! 君の才能が僕には必要なんだ!」
「私は、そんな、才能のあるメイジじゃないわ」
「自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」
強く握られた手が痛い。苦痛に顔をゆがめて、ルイズは言った。
「そんな結婚、死んでも嫌よ。あなた、私をちっとも愛してないじゃない。わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたが私にあるという、在りもしない魔法の才能だけ。
 ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。こんな侮辱はないわ!」
ルイズはアノンとオスマンの話から、アノンが伝説の使い魔『ガンダールブ』であることは知っていたし、女神の杵亭では、ワルドからも話を聞かされた。
だが、そんな使い魔を持ったからと言って、自分まで伝説の存在であると考えるほど、ルイズは傲慢ではない。
コモン・スペルも使えない『ゼロ』のルイズ。
『ガンダールブ』の話も、どこかで、何かの間違いではないかと思っていた。
それなのに、ワルドはそんなおとぎ話から、自分を勘違いし、結婚しようと……。
ワルドは、これっぽちも自分を見てはいなかった。
それが悲しくて、悔しくて、ルイズはワルドの手を振りほどこうと暴れた。
ウェールズもワルドを引き離そうとしたが、今度は突き飛ばされる。
「うぬ、なんたる無礼! なんたる侮辱! 子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ! さもなくば、我が魔法の刃が君を切り裂くぞ!」
ウェールズに杖を向けられ、ワルドはやっとルイズから手を離した。
591アノンの法則:2010/05/30(日) 00:41:19 ID:lWVWtXJZ
「この旅で、君の気持ちをつかむために、随分努力したんだが……」
ワルドは、やれやれと頭を振った。
「こうなってはしかたない。ならば目的の一つは諦めよう」
「目的…?」
その言葉に、ルイズに嫌な予感が走る。
ワルドは口の端がつりあがった。
「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できただけでも、よしとしなければな」
「達成? 二つ? どういうこと?」
信じたくない不安が、ルイズの中で膨れ上がる。
「まず一つは君だ。ルイズ。君を手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」
「当然よ!」
「二つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
姫さまの手紙――。
ルイズは不安が、現実のものとなったことを悟った。
「ワルド、あなた……!」
「そして三つ目……」
「! ウェールズ様!」
ルイズがとっさに叫び、ウェールズも呪文を唱えたが、それよりも早く、ウェールズの胸を青白く光る魔法の刃が貫いた。
「き、貴様……、『レコン・キスタ』……」
ウェールズの口から、鮮血が溢れる。
ワルドは『ブレイド』をウェールズの胸から引き抜いた。
「三つ目、貴様の命だ。ウェールズ」
ルイズは悲鳴のように叫んで、倒れたウェールズに駆け寄る。
「ウェールズ様! ウェールズ様!」
倒れたウェールズは動かない。明らかな致命傷だった。
最悪。最悪の事態。
「貴族派! あなた、アルビオンの貴族派だったのね! ワルド!」
ルイズは、わななきながら、怒鳴った。
「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」
「どうして! トリステインの貴族であるあなたがどうして?」
「我々はハルケギニアの将来を憂い、国境を越えて繋がった貴族の連盟さ。我々に国境はない」
もう、彼は自分の知っているワルドではない。
ルイズは杖をワルドに向けようとしたが、腕を払われ、杖が床に転がった。
「あ……」
「無駄だ。わかるだろう?」
ワルドが冷たい目でルイズを見下ろす。
「た、助けて……」
震えながら、ルイズは後ずさる。
「……アノン」
絶望の中、口をついて出たのは、使い魔の名前だった。
592名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 00:46:15 ID:iEKkQUNp
さるさん喰らったのでp2から



ワルドは、ふっと笑って、残酷な事実を告げた。
「残念だが、ルイズ。彼はここには来ない。先に帰ったからではないよ。ここに来る前に、僕が殺しておいたからだ」
「え……?」
「一番の不確定要素は、君の使い魔だった。彼は使い魔にしては、あまり君に従順と言う風でもなかったし、戦闘能力においても、侮れないものを持っていた」
――アノンが、死んだ?
ルイズの足から力が抜け、その場にへたり込んでしまう。
「だから、大事を取って始末した」
ルイズの目から、涙がこぼれた。
勝手に召喚して、労うこともせず、この任務にも当然のように連れてきて――死なせてしまった。
ワルドが杖を振った。『ウインド・ブレイク』が、ルイズの体を紙切れのように吹き飛ばす。
床を転がり、壁に叩きつけられて、ルイズは涙を流しながら、呻くように呟いた。
「アノン…私の、せいで……」
「言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかないだろう? なあ、ルイズ」
ワルドが『ライトニング・クラウド』の詠唱を始める。
「残念だよ……。この手で、君の命を奪わねばならないとは……」
形だけの言葉を吐いて、ワルドが杖を振ろうとしたその時、
「『ジャベリン』!」
礼拝堂の扉を、氷の槍が突き破った。
593名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 00:47:59 ID:iEKkQUNp
以上です
ではまた
594名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 09:20:14 ID:hmL0lOra
アノンが弱体化し過ぎている気がするのは私だけでしょうか?
ロベルト相手に、地獄人としての身体能力だけで勝ったんだから、このやられようは酷過ぎるのでは?
それとも、何か設定あっての事なのでしょうか?
595名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 14:47:35 ID:2ASataLk
日曜のワクワクが無くなって寂しいなぁ
596名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 14:49:50 ID:IC49Kwp2
侍と一般人と魔法使いは代理投下していいのかどうか迷ってるんだが、いいのかな?
597名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 15:01:23 ID:zoPni0Zi
絶対に駄目
598名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 15:01:47 ID:cJK+h4fM
ありゃどう見ても荒らし
599名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 15:03:01 ID:IC49Kwp2
じゃあやめとくか。
それにしても、どの作品でも相変わらずマザコン子爵は愛されてるねえ。
600名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 15:06:02 ID:DL46NCbv
自覚がないだけの痛い子と荒らしは、やっぱり違うものだと思うけどなぁ。
あんまりイジメすぎるとガチ荒らしに化けるかも分からん

いやまぁ俺も代理する気はないし読んでもいないけど
601名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 15:15:35 ID:zoPni0Zi
テンプレやルール以前に、常識すらも無いのは痛いを通り越して、荒らしと変わらんだろ

迷惑という意味ではどちらも同じ
602名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 17:54:48 ID:0VfyY5bV
そもそもアレ投下したの本人なのか?
603名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 18:24:38 ID:jGmziwSY
本人だろうと偽者だろうとクズだろ
604名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 18:41:38 ID:A+ZXTS08
まだみたいなので18:45から無重力巫女の代理投下します。
605無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:45:27 ID:A+ZXTS08
――トリスタニア一の規模と伝統を誇る劇場、タニアリージュ・ロワイヤル座。


神殿を思わせるような豪華な石造りの立派な劇場に、今日も貴族平民問わず大勢の客が足を運んでいた。
劇場内にあるリストランテでは、フレンチトーストとホットミルクの匂いが漂い、
劇場のエントランスにある大きな売店ではポスターやアクセサリーといった、今月公演される劇のグッズが店頭で売り出されている。
更に劇のお供としてポップコーンやジュース、クッキーと言った軽い食べ物を出す準備も同時に始めていた。
チケット売り場の方ではどの劇を見ようかと、多くの客達が今日公演される劇の一覧表と睨めっこしている。
観賞一回分の料金は並の貴族達にとっては安い物だが、下級貴族や平民達にとっては月一の楽しみを提供してくれる魔法の紙である。
それに、今日最初の劇が始まるまで後数時間あるため、十分に選ぶ時間があった。

そんな客達の中でも、一際目立つ年老いた貴族がお供の騎士を連れてある場所を目指して歩いていた。
老貴族は立派な服にいくつもの勲章を着けており、一目見ただけでそれなりの地位を持つ者だと教えてくれる。
お供の騎士達もまたお揃いの黒いマントに黒い帽子、そして体から漂わせる雰囲気は見る者を圧倒させる。
そんな騎士達とは正反対に人の良さそうな顔つきの老貴族はすれ違い様に頭を下げてくる他の貴族達に対して丁寧に礼を返していく。
やがて老貴族とお供の騎士達は、人気の少ない、劇場の二階へときたところで足を止めた。
彼らの目の前には、国内でも有数の大貴族達しか利用できない鑑賞席へと続く大きな扉がある。
通称゛ボワット゛と呼ばれるその席の所為で、防犯上二階のスペースは狭く、リストランテや休憩場所といったエリアは全て一階に集中している。
老貴族は改まって自分の身なりを正すと、騎士達の方へ顔を向けて喋った。
「君たち、仮面はちゃんと持ってきているだろうね」
優しそうな雰囲気が漂ってくるその声に騎士達は全員頷くと、マントの中に隠していた仮面を取り出し、被った。
それを見て老貴族は満足そうに頷くと懐を探り騎士達と同じ仮面を取り出し、被る。
「いいかね?ここから先は失礼のないように頼むよ」
仮面を被った老貴族の声は、先程の優しそうな声は、まるでヘリウムガスを吸ったかのようなダミ声へと変化していた。
騎士達は老貴族の言葉に頷くと、彼の前にいた一人の騎士が゛ボワット゛へと続くドアを開け、中へと入っていった。

既に゛ボワット゛には幾人かの先客達と彼らのお供らしき騎士達がいたが、全員が全員同じデザインの仮面を被っていた。
そして彼らもまた、老貴族と同じように古くからこの国を支えてきた者達である。
老貴族は辺りを見回して自分のすぐ目の前に空いている席があるのに気づくと、そこへ腰を下ろした。
「なにをしていたのだ、あと一分遅ければ遅刻だったぞ?」
席に着いた瞬間、右の席に座っていた細身の貴族が怒ったようなダミ声で老貴族に言った。
「いやぁ〜すまない。何分馬車がトラブルを起こしてしまい…」
一方の老貴族はすまなさそうに頭を掻きながらも今日最も不幸だと思う出来事を口にする。
そんな老貴族に細身の貴族はやれやれと首を横に振った瞬間、ふと彼らの後ろに設置された大型のカンテラに火が灯った。
普通のカンテラとは桁が違うサイズのカンテラが灯す火は大きく、今まで暗かった゛ボワット゛をあっという間に明るくした。
突然の事に仮面の貴族達は一瞬驚いたものの、今度は頭上から声が聞こえてきた。

―――やぁ皆様、お忙しいところを、このような会合に付き合わせる事を深くお詫び致します

頭上からの声に貴族達は席を立ち、頭上へと視線を向ける。

―――…さて、実は昨日…この国を捨てようとした無礼な内通者が一人、亡くなったそうです

声は悲しそうに、だけど嘲笑うかのような感じで喋り始めた。
606無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:47:05 ID:A+ZXTS08
―――彼は、天誅を受けたのです。天誅を。
    王族を侮辱し、あまつさえ欲に走ったのだから当然とも言いましょうか?
    きっとこれから先しばらく、レコン・キスタという王族に杖を向ける愚か者共の刺客がやってくるでしょう。
    そして、その刺客共をこの国に入れる鼠もまた増えるに違いありません

そこまで言ったとき、ふと先程の細身の貴族が声を荒げて言った。
「ならば我々がする事は……レコン・キスタの刺客共と内通者の鼠たちを駆除するのみ!」
勇気溢れるその言葉に、周りの貴族達は頷き「そうだ、駆除しなければいけない」と呟く。
そして、頭上からの聞こえてくる声の主もそんな彼らに同調するかのような言葉を口にする。

――そうです、国を売る内通者とレコン・キスタの輩どもは駆除しなければなりません。
    その汚れ仕事は王族ではなく、現役を退こうとしている我々が請け負うべきものです!


何ヶ月か前に始まったこの会合に集う貴族達は皆、この声の主と同じ考えを持っていた。

゛王家の目に入らぬ場所で平然と悪行を繰り返す他の貴族達を何とかしたい゛

そんな願望を持つ者達だけが集まれば、次第と結束力は高まっていく。
最初は若い貴族はどうだのアイツは横領しただので、単なる愚痴のこぼしあいであった。
しかし、いつの頃からか次第に愚痴の内容が過激なものになっていった。
そしていつしか、彼らは自らの権力を使ってこの国を綺麗にしようと決意したのだ。

゛この国を食い物にする不届き者たちを、我らの手で裁いて行こう゛

単なる愚痴のこぼしあいが、裏社会で暗躍する小規模な組織へと変貌するのにはそれほど時間は掛からなかった。



―――敵は多い。されど私たちの結束力は幾億万の軍勢にも匹敵する。
     さぁ行きましょう皆さん。この私…゛灰色卿゛と共に栄えあるトリステイン王国を綺麗にする為の闇の戦いへ!
      掃除するのです!この国、そのものを!

声の主がそう言った瞬間、貴族達がワッと声を上げた。
「「「「「「「「灰色卿!灰色卿!灰色卿!灰色卿!」」」」」」」」  
彼ら以外にまだ人がいない劇場を、熱狂した貴族達の声が響く。

まるでアンコールをする劇の観客達のように、右手を振り上げて叫ぶ。
自分たちの手で始まろうとしている劇の開幕を喜ぶ観客達の如く。

王族は勿論、枢機卿達ですら詳しく知らない、愛国心溢れる古参貴族達の集まり…
それは、今まさに活躍の時と言わんばかりに動き出そうとしていた。
607無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:47:58 ID:A+ZXTS08




―――る始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を与えたもうことを感謝致します」

トリステイン魔法学院の大食堂では、朝食を摂る前の祈りが行われている。
それを耳に入れつつ、霊夢と魔理沙の二人は一足先に食堂入り口の右端に設けられている休憩場で朝食を食べていた。
本来ならそこで食事を摂ることは禁止されている。
しかし、ルイズと一緒に食堂へ入ってきた時、近くにいたシエスタがニコニコと笑いながら
「あの、床に座って食べるのなら是非ともあそこの休憩場を使ってくれって…料理長が言っていまして」
と言って二人をこの休憩場に案内したのだ。
ルイズは反対したものの、昨日の事もあってかすぐに了承した。
「まぁ二人も足下にいると鬱陶しいことこのうえないからね」
そっぽを向きながら言ったルイズに、シエスタは満面の笑みを顔に浮かべて頭を下げた。

一方の魔理沙は今まで霊夢が床に座って食べていた事を知り、呆れた目で霊夢を見ていた。
「普通大理石の床に座って食べるか?」
「立ったまま食べるのってなんか疲れるのよねぇ。それに座っても損することはないし」
608無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:48:51 ID:A+ZXTS08
こうして二人は床に座ることなく、朝食を食べる事が出来ていた。
メニュー自体は霊夢が食べていた物とほぼ同じボリュームの食事である。
キャベツや細切りのニンジン、薄切りベーコンが入ったコンソメスープに小さめのボールに入ったサラダ。
小皿の上には雑穀パンが二つと空のティーカップ。コップにはレモンの果汁が入った炭酸水。
シエスタ曰く「私たちが朝早くに食べる朝食と同じもの」らしい。
それと比べれば、生徒達が食べているメニューとでは雲泥の差があった。

「ささやか…ねぇ。じゃあ素晴らしい糧だとあれの倍くらい出るのか」
魔理沙はサッパリとしたドレッシングが掛かったサラダを食べながら、ようやく食べ始めた生徒や教師達の食卓を見つめていた。
仔牛のステーキに、鱒の形をした大きめのフィッシュパイや色とりどりの果物。
バスケットに溢れんばかりの白パン、そして極めつけは朝からボトル一本丸まるのワインである。
これは朝食ではなくディナーと言われたら、魔理沙は疑う事はしなかったであろう。
最も、魔理沙にとっては食事のことはどうでもよく、ワインボトルの方に目がいっていた。
「やれやれ…朝から酒とは、よっぽど飲兵衛が多いんだなこの世界って…――……――う…?」
一人呟きながらも魔理沙は出されていた水を一口飲み、顔を顰めた。
口の中に入れた瞬間、シュワシュワと音を立てて弾けていく感覚で口の中に入れたのが何なのか、すぐにわかった。
(この感じはラムネだ…でも、甘くない。しかも酸っぱい)
無糖の炭酸水を飲んだことが無い魔理沙にとって、それは甘くないラムネであった。
更にレモン果汁が入っているという事も気づかないでいた。
「どうしたのよ。腹でも壊した?」
雑穀パンに齧り付いていた霊夢が黙り込んでしまった魔理沙に気づき、声を掛けた。
魔理沙は霊夢の言葉に首を横に振りつつ、口の中に入れた炭酸水の感想を述べた。
「いや…てっきり普通の真水かと思ってたんだが…ラムネだったとは…しかも甘くないぜ…」
「え?ラムネェ…?」
数年前から幻想郷の人里で流行始めた変な甘い飲み物の名前が出た事に、霊夢は首を傾げた。
子供達の間で人気らしいが以前霊夢はチョビっとだけ飲んで、あの口の中で弾ける感触を味わって以来嫌になってしまった。

あの変な飲み物がこの世界にもあるのねぇ。と呟きつつ霊夢はコップに入った炭酸水を一瞥した。


やがて朝食の時間が終わり、腹を満たした生徒や教師達が食堂からぞろぞろと出てきた。
これから授業の準備をしなくてはいけない為、自室へと戻る最中なのである。
その光景は、正に蟻の行列と言っても差し支えはないであろう。
一足先に食べ終えて外に出ていた霊夢と魔理沙は食堂から少し離れた所でそれを眺めていた。
「いやはや、こんなに多いとある意味蟻の行列みたいだよな」
「あんだけ多いと食事を作る方も随分と大変ね」
大きなトンガリ帽子を人差し指で器用にクルクルと回している魔理沙の言葉に、霊夢も頷く。
今視界に映っている程の大行列は、幻想郷で暮らしていた魔理沙にとっては今まで見たことが無かったのである。
一方の霊夢は、人数分の料理を賄い含めて作れるマルトーやシエスタ達に改めて感心していた。

「―――…んなところにいたのね!二人とも!」
その時、ふと行列の中から聞き慣れた声と共に、生徒達の行列から一人の少女が出てきた。

行列を見つめていた二人はすぐさま、列から出てきて少女がこちらへ走ってくるのに気が付いた。
「…ん?あれって、ルイズの奴じゃないか。…おーい!」
速くもなく、また遅くもないスピードで走ってくる少女に魔理沙は手を振る。
魔理沙の言うとおり、その少女はピンクのブロンドが目立つルイズであった。
609無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:49:39 ID:A+ZXTS08
「確かに。あの髪の色は間違いなくルイズね」
霊夢もすぐさまルイズだとわかり、挨拶程度に手を軽く振った。
二年生の証である黒いマントをはためかせて走ってきたルイズは、すぐさま二人のもとへとたどり着いた。
走ってきたルイズは肩で息をしながら、霊夢と魔理沙に声を掛けた。
「…全く、いつの間にかいなくなったと思ったら…ハァ…こんなところで何してるのよ」
「蟻の行列を見てたぜ。でっかい蟻のな」
魔理沙の口から出たその言葉の意味を理解できず、ルイズは首を傾げた。
「…アリ?…そんなの見ていて楽しいの…?まぁそんな事より、ちょっとついてきて欲しいんだけど」
ついてきて欲しいという言葉に、霊夢はすぐさま次に「授業についてきて」という言葉を連想した。
以前この世界に来て最初の頃に断ったのにもう忘れたのかしらと思った霊夢は、溜め息をついた。
「授業なら私は行かないわよ。魔理沙でも連れて行けばいいんじゃない?」
「おぉ、魔法を学ぶ学校の授業か。それは興味あるな」
「授業」という単語に魔理沙はすぐに目を輝かせた。
しかし、霊夢の予想は珍しくも外れたようでルイズは首を横に振った。

「違うわよ。ミスタ・コルベールが朝食後、すぐに学院長室に来なさいって…」
「…学院長室に?」
「なんでも、アンタのルーンの事で話したい事があるそうよ」
ルイズは霊夢の左手の甲に刻まれているガンダールヴのルーンを指さしながらそう言った。




ブルドンネ街の一角にある高級ホテルの付近には、朝から多くの野次馬達が見物しに来ていた。
最初の方こそ数人程度であったが、時間が経つごとに人が増えていき今ではその数は三十人ほど増えている。
そんなとき、ホテルの方で何やら人だかりができているという話を聞いた一人の男が興味本位でやってきた。
話どおりホテルの前には大勢の人達がたむろしていて、何やらボソボソと話し合っているようだ。
来たばかりの男はとりあえずどうしようかと悩み、近くにいた別の男性に詳しい話を聞いてみることにした。
「なぁ…こんなに人が集まってるが…何かあったのか?」
彼の横にいた大柄な男性は突如そんなことを聞かれて目を丸くしたが、すぐに返事をした。
「何だよ、知らねぇのか?あのホテルでな、貴族が一人殺されたんだよ」
「えぇ…ま、まさか殺人事件…!それは本当かい…?」
男の口から出た゛殺された゛という言葉に彼は目を見開いて驚愕した。
治安がある程度にまで整っているブルドンネ街ではスリや詐欺はともかくとして、強盗や殺人といった類の事件は滅多に起こらないのだ。
「嘘なもんかい。俺がいつも使ってる道には検問が張られたるし、出入り口で待機してる衛士隊の連中が何よりの証拠だろう」
半信半疑な彼に呆れるかのように男は肩をすくめて言うと、ホテルの入り口を指さした。

ホテルの出入り口では、平民のみで構成された市中警邏の衛士隊数人が武器を持って佇んでいた。
立派な造りの槍とその体から出る緊張した雰囲気は周りにいる市民者達を威圧し、ホテル付近で釘付けにしている。
数人一組で街をパトロールし、犯罪者を見つければ訓練された動きで即時逮捕する彼らは、犯罪者達にとっては身近に潜む危険そのものであった。
ただメイジの犯罪者ともなれば殆ど魔法衛士隊の出番となるが、それでも彼らは犯罪者と日夜戦っている。
ある意味畏怖される存在でもあるがそれと同時に、頼れる存在でもあるのだ。

衛士が出入り口にいるのを確認した彼の顔は、みるみる真っ青になっていく。
「ホントだ…世の中って、おっかねーのな」
610無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:50:26 ID:A+ZXTS08


そんなホテル内の一室、今回の事件の被害者である貴族が宿泊していた客室。
部屋の真ん中に放置された貴族の死体を一人の隊員がスケッチをしている。
スケッチは身体全体から両手両足、そして苦痛に歪ませた顔など、細部にまで至った。
一方、その部屋の片隅では二人の女性隊員と衛士隊の隊長と思わしき男が鞄の中に入っていた書類を調べていた。
二人ともかなりの美人ではあるが、体から発せられる無骨な剣のような重苦しい雰囲気がそれを台無しにしている。
「…隊長、やはり被害者はレコン・キスタの内通者と見て間違いは無いでしょう」
書類の内容を流し読みしていた金髪の女性隊員が、傍にいる隊長にそう言った。
彼女の名はアニエス。衛士隊に入ってから既に一年と五ヶ月程度の月日が経っている。
この職に就く前は街の一角にある粉ひき屋で働いていたという。
武器の扱いには長けており。敵対する者に対して容赦のない性格はこの仕事にうってつけであった。
結果、女性隊員だというのにもかかわらず僅か一年で市中警邏のリーダーとなったのである。

隊長は彼女の言葉に頷くと、鞄の中に入っていた一枚の書類を手に取り、流し読みをする。
「…レコン・キスタめ、これをもとに一揆の煽動でもするつもりだったのか?」
その書類に書かれていたのは、首都から離れた地域の納税率をまとめたものであった。

納税率の小さい地域に住む者達はとても貧しく、税を減らしてくれと頼みに土地を収める領主ではなくわざわざ王宮にまで来るのだ。
当然その村に住む者達は王宮に対しての反逆心を抱いており、隙あらば小規模な運動を起こすのである。
歴代の王もそのような者達の活動に頭を悩ましていたのだ。

書類を手に取った隊長についで、青髪の女性隊員も鞄から書類を一枚手に取り、目を通し始めた。

彼女の名はミシェル。アニエスとほぼ同時期に入隊した女性隊員だ。
彼女に負けず劣らずの堅苦しい性格の持ち主で、右腕的存在でもある。
生真面目で勇敢な性格のおかげで周囲の者達からも信頼され、今ではアニエスの補佐として働いている。
ただ唯一不思議なことは、衛士隊に入るまで彼女が何処で何をしていたのか――それを誰も知らないという事だ。
「この書類の数々…写し取りではありますが、とてもじゃないが被害者の権限では扱えぬ代物です」
ミシェルは手に取った書類を流し見て、奇妙な死に方をしていた被害者の姿を思い出していた。



事の始まりは昨日の深夜にまで遡る…

衛士隊の詰め所に、ホテルの従業員と思われる青年が殺人事件だ!と叫びながら駆け込んできたのである。
突然の事にポーカーをしていた二人の隊員は驚きつつも、青年に連れられてとあるホテルの客室へと入った。
かなりの金持ちにしか入れないその部屋の真ん中に転がっていたのは、案の定貴族の死体であった。
とりあえずは未だに寝ているホテルのオーナーを起こしすよう青年に言った後、二人の内一人が王宮と市内に点在している詰め所に伝令を飛ばした。
伝書鳩の形をしたガリア製のガーゴイルを用いたお陰ですぐに伝令が伝わり、すぐさま市内中の詰め所から多数の隊員達が集まってきた。
集まってきた隊員達は宿泊していた他の客達を起こして理由を軽く説明して避難させた後、現場の判断ですぐさま緊急の検問が張られることになった。
思ったより貴族達の避難が遅く、検問を張り終えた頃には既に朝の八時頃になっていた。

本来なら殺人事件でここまでの事はしないのだが、これには理由がふたつほどある。
ひとつ、王宮で重要なポストにいる者達が何人かこの宿に泊まっているということ。
ふたつめ。これが今回の事件をかなり大きくさせる要因となっていた。

―――『殺された貴族が、機密性の高い書類を持っていた』ということ。
611無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:51:22 ID:A+ZXTS08
最初に現場へと来た隊員が偶然にも、機密性の高い書類の写し取りを見つけた事から被害者が内通者だとすぐに判明したのだ。
本来ならこの様な書類は写し取りはもちろん、持ち出す事すら禁止されているのである。
何時レコン・キスタとの戦争が始まってもおかしくない時期にそのような事をするなど、内通者でなければ命を捨てるという事と同義なのだ。
王宮では既に内通者が出ると前から予想していたのだが、最初に確認できた内通者は既に死んでしまっていたとは誰が予想できようか。
それが余計に緊急会議を長引かせ、朝になっても未だ王宮から魔法衛士隊が派遣されていないのだ。

「しかし隊長…今回の事件は、少し奇妙なところがありますね」
唐突なアニエスの言葉に隊長は頷き、振り返って床に転がっている死体の゛首筋゛の方へ視線を移す。
平均的な男性より少し細い首筋には…「虫に刺されたかのような人差し指程の大きさがある赤い斑点」がひとつあった。



これを見つけた当初は、寝ている最中かまたは殺された後に蚊にでもさされたのだと推測していた。
夏の訪れを感じるこの季節ならば、蚊にさされてもおかしくはないからである。
だが、スケッチ担当の隊員がこれを見た時、彼は驚いた表情を浮かべてこう言った。
「これが虫のさし傷だとすると…虫の形をした殺人鬼ですねぇ…」
苦笑交じりの言葉に、その場に居合わせた隊員達はまさかと思った。

だが驚くべき事に死体を調べてみると、首筋にある虫のさし傷しか目立った外傷が無かったのである。
そうなると、途端にスケッチ担当が言ったあの言葉に現実味が出てきた。



「虫の形をした…殺人鬼ねぇ…」
衛士隊随一の物知りであるスケッチ担当の言った言葉を呟き、隊長は手に持っていた書類を鞄の中にもどした。
それを見てアニエスとミシェルも持っていた書類をもどし、最後にミシェルが鞄の蓋を閉じた。
「ミシェル。とりあえずコレはロビーの方に持っていってくれ」
「了解しました」
隊長の命令にミシェルは敬礼をし、左手で鞄の取っ手を掴むと軽く腕に力を入れて持ち上げた。
この鞄、何も入っていなくとも相当重量のあるタイプではあるが、彼女は何とも思わず軽々と片手で持っている。
普通の男性隊員達と同じ訓練をしている所為か、その小さな体には今や素晴らしいほどの力が宿っていたのだ。

「――ふぁ…」
ミシェルが鞄を持って部屋を出た後、ふとアニエスの口から小さな欠伸が出た。
堅苦しい彼女には似合わない可愛らしいそれに、隊長は思わず微笑む。
「おいおい、そんなに寝たいのならロビーのソファで休んでもいいんだぞ?」
隊長の口から思わず労りの言葉が出たが無理もない。
実はアニエスの睡眠時間は、ほんの一時間程度程度だけであった。
夜中まで窃盗犯を追いかけて捕まえた挙げ句、取り調べと調書で大分時間が掛かってしまい、
ようやくひととおりの作業を終えてベッドに潜り込んで一時間後に招集を掛けられたのだ。
隊長の言葉に、アニエスは一瞬だけ顔を赤くした後口を開いた。
「あ…い、いえ!お気遣い感謝致しますが自分は平気です」
「だけどなぁアニエス、お前に倒れられちゃあコッチも困るしなぁ…」
強気のアニエスに隊長は苦笑しつつもなんとか彼女をすぐにでも休ませようと思っていた。
612無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:52:16 ID:A+ZXTS08


衛士隊に入隊してからの彼女は女性には少々辛い激務も幾度かこなしており、その身体には疲労が溜まっていた。
ミシェルは仕事がない合間にはいつも休んでいるのだが、それとは反対にアニエスは何かしらの仕事にいつも取り組んでいるのだ。
そんな彼女に隊長自身が一度長期休暇を取ってみたらどうだと言ったところ…

「私がしている数々の仕事は、自身を強くする為にしているのです」
彼女は強い信念の篭もった目でそう言った。

こういう目をした者には何を言っても聞かないというのは衛士隊の誰もが知っていた。
それに、彼女は非番の日にはちゃんと休んでいるのでそれ以上強く言うことも出来ないでいた。



「自分は大丈夫です。それよりも隊長の方こそ昨日はあんまり寝てないはz――「 う わ っ … ! ? 」
隊長の言葉にアニエスは首を振って立ち上がろうとしたその時、すぐ後ろから驚きに満ちた声が聞こえてきた。
声の主は被害者のスケッチをしていた隊員で、いつの間にかすぐ傍にまで寄ってきていた。
一体何なのかとアニエスが思ってふと被害者の方に視線を移した時、すぐにある事に気が付く。
(被害者の肌が…白くなっている)
そう、先程まで肌色だった被害者の肌がペンキで塗ったかのような白色に変わっていた。
死体は時間が経つことによって肌の色が変わるが、こんなに早く変色はしない。
では一体どうして、とアニエスが疑問に思った瞬間――――

…ュウ…シュゥ…シュウ…シュウ…シュウ…

ふと被害者の身体の真下から、耳に障る嫌な音が聞こえてきた。
「この音は…一体何だ?…何かが溶ける音にも聞こえるが」
その音にすぐさま気が付いた隊長は怪訝に表情を浮かべながら、被害者の傍へと近寄った。
「よ…こらっ…しょっとぉ!!」
隊長は耳を音のする方向へ傾けた後、被害者の身体に手を掛けると、勢いよく前へと転がした。

突然の行動に二人は目を丸くし、スケッチをしていた隊員は思わず声を上げた。
「なっ…!た、隊長…いったい何を…!?」
しかし、その声を無視して隊長はひとり呟くと、死体の真下に転がっていたある物体を手に掴んだ。
「成る程…。音の正体はこれだったってワケか」
何かを手に持った事に気が付いたアニエスはすぐさま隊長の傍に駆け寄った。
隊長が手に持っていたそれは、白煙を上げて溶けている青いガラス片のようなものであった
それは音をたてて゛内部から゛溶けていて、あと数十秒のすれば溶けて無くなってしまうであろう。

突如変色した内通者の死体…そしてこの溶けていく青いガラス片の物体。
今まで出会ってきた事件の中でも奇怪な事件だと、隊長は実感した。
「もしかするとこの事件…単なる殺人事件じゃあ無さそうだ」

ひとり呟く隊長の指先で、青いガラス片の物体は溶け続けていった。
613無重力巫女の人 代理:2010/05/30(日) 18:53:07 ID:A+ZXTS08
以上で投稿は終わりです。
今回は前回(31話)と次回(33話)の合間の様な存在だと思ってもらって結構です。
個人的には幾つか不満点も残していて、一時期スランプ気味陥っていたのが良くわかりました…orz
次の執筆にはなんとかこのスランプを脱し、スッキリとした気分で書いていきたいと思います。
ではまた来月にでも会いましょう。ノシ

追伸
あと、アニエスとミシェルさんの設定はオリジナルですのでご注意を。









以上で代理終了
614名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:01:50 ID:3lGJ+pSx
霊夢の人、代理の人、乙でした
615名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:04:26 ID:3lGJ+pSx
お、書き込めた
では代理投下行きたいと思います
さて、いつになったら規制は解けるのやら。

またもやこちらのお世話になってしまいました。
今回は書いていてちょっと切なくなったり。
普段よりたぶん深見成分濃い目のアレな描写があったりするかもですので、
一応閲覧注意してください。
616疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:06:12 ID:3lGJ+pSx
   0

イド・アームズ/[Id Arms]――接近戦用で口径は小さめ。主に拳銃。

エゴ・アームズ/[Ego Arms]――中・遠距離用で口径は大きい。マシンガン、ライフルなど。

   1

 ノックの音が部屋に響いた。ルイズは読んでいた本に栞を閉じる。もう呼んだことのある本だから、栞を挟む必要も無い。本を机の上に置き、ドアの鍵を開けた。ほかのメイジなら『アンロック』を唱えるだけでいいのだが、ルイズは使えない。
 ドアを開けると豪華な食事をカートに載せたシエスタがいた。
「お食事をお届けに参りました」
 シエスタの笑顔を見て、ルイズの顔も自然と綻ぶ。
「あら、シエスタ。あなたが持ってきてくれたの? ありがとう」
 ルイズはギーシュと決闘を行い、謹慎処分を受けていた。基本的には部屋から出れず、食事もメイドが部屋に個別に運んでくる。
 あの後、午後の授業には出られず、仕方が無しに部屋で本を読んでいたのだ。
 謹慎処分くらいなんでもないと思っていたけど、自室から出られないのは退屈で、退屈は思ったよりも辛かった。部屋にある本は数も種類も限られているし、勉強も自習でできる範囲にルイズの分からないところは無い。
「あ、あの、ミス・ヴァリエール! わ、私その、ミス・ヴァリエールのことが、その」
 なんだかシエスタの様子がおかしい。顔真っ赤だし、舌がもつれてうまく喋れていない。なんだか目も潤んでいるし、息も少し荒いようだ。
「シエスタ、ちょっと動かないでね」
 シエスタと自分の前髪をそっと上げ、額をくっつける。小さい頃、風邪を引いた時は姉がこうやって熱を測ってくれたのを思い出した。
 ぴったりと重なった額からはシエスタの体温が伝わってくる。ルイズの体温よりも少しだけ熱いようだ。
「あぅ・・・・・・みみ、ミス・ヴァリエール、おデコがぁ・・・・・・」
 咄嗟のことで驚いたのか、シエスタが慌てる。少し熱が上がったような気がする。顔もさっきより赤くなっていた。
「やっぱり少し熱いわね。シエスタ、少し私のベッドで横になっていきなさない。メイド長には私の話相手になっていたと言えばいいから」
 シエスタの手を引いて、ベッドに座らせる。気が抜けたのか、顔がさらに赤くなった。黒い大きな瞳もぐるぐると焦点が定まらないようだ。
「そんな、私がミス・ヴァリエールのベッドで寝るだなんて・・・・・・」
「別に遠慮しなくていいのよ?」
 これは本心だ。ベッドに他人を眠らせることには抵抗があるが、シエスタなら別に構わない。これがキュルケとかだったら許さないが。
「そういえば私がどうかした?」
 シエスタが部屋に入った時、何か言いたそうにしていたのを思い出す。
「あ、その・・・・・・」
 何か言いづらいような事なのだろうか。もし、シエスタが困っているのなら力になりたいと思う。
617疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:07:35 ID:3lGJ+pSx
「ミス・ヴァリエール、昼間はありがとうございました。私のような平民を助ける為にあんな・・・・・・それに私の――
「ストップ」
 ルイズはシエスタの言葉を遮った。たぶん、シエスタの言葉の続きはこうだろう。『私のせいで、謹慎処分を受けてしまった』――それは違う。
「シエスタ。あなたに責任は無いわ。この謹慎処分は、私が学院の規則を守らなかったから受けた正当な罰則よ。守る為に決闘をした。その為に学院の規則を破った。私は反省しているけど、後悔はしていない」
 シエスタの瞳を真っ直ぐ見つめ、伝える。自分の意思、そして想いを。
「私は信じるものの為に戦った。そして、私はシエスタを守りたかった。この話はそれだけの、シンプルな話よ」
「ミス・ヴァリエール・・・・・・」

 ルイズは決闘のことを思い出す。
 決闘の時、ルイズは一つの衝動に駆られた。
 ギーシュのゴーレムを全て破壊し、目を閉じたギーシュに引き金を引こうとしたのだ。ルイズはギーシュにとどめをさそうとした。
 ギーシュのことをルイズは嫌いだった。ギーシュだけじゃない。モンモランシーも、マリコルヌも、キュルケも嫌いだった。『ゼロ』と呼ばれるのが嫌だった。
 装填していた弾は対物弾だったから、引き金を引いたところでギーシュが傷つくことはなかった。せいぜい服が破れる程度だろう。《P.V.F》の弾丸は特殊で、人間の精神や神経だけを破壊する『精神系通常弾』とそれとは逆の『対構造物徹甲弾』の二種類がある。
精神系通常弾は『人間しか傷つけない』のに対して、対構造物徹甲弾は『人間以外のすべて』を破壊できる。
《パラベラム》は右腕に心の銃を持ち、左手で多種多様な弾丸を生み出すのだ。
ルイズの場合は通常弾には対応しておらず、その代わりに弾丸としてジャベリンを作り出す。あの時、目標はギーシュの青銅製のゴーレムだったので、対構造物用ジャベリンを装填していた。
 しかし問題なのはそこではない。ルイズはギーシュを傷つけようとした。そのつもりでギーシュに近づいて、ギーシュが震えていることに気づいた。
 ルイズはシエスタを守ろうとして決闘をした。それならばギーシュを傷つける必要は無い。
『私の勝ちね、ギーシュ?』
 ギーシュの上に倒れていたゴーレムをどかせて、ルイズはそう言った。それで良かったのだ。ルイズはシエスタを守るために決闘を申し込んだのだ、決闘はルイズの勝ち。それでいい。誰かを守るために戦う者が、誰かを傷つけるために戦うのでは本末転倒だ。
 力を持つものには相応の責任と相応の義務がある。
『『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ!
 それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ』
 あの言葉はルイズ自身に向けた言葉でもあった。

「ミス・ヴァリエール?」
「あ、ああ、少しぼうっとしていたわ」
 つい考え込んでいた。自分の手に入れた力のあり方について。また誰かを傷つけそうになるかもしれない。誰かを守るために、誰かを傷つけなければいけないかもしれない。
「シエスタ、あなたが無事で本当に良かった」

―― それでも、私はこの力を守ることに使いたい。

「ミス・ヴァリエール。私は貴女が好きです。貴女の傍に立ち、お仕えできることを誇りに思います」
 シエスタが静かにそう言った。なんだかくすぐったい。ルイズは自分の理想とする貴族に少しでも近づけているのだろうか。
「ありがとう、シエスタ」
618疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:13:08 ID:3lGJ+pSx
   2

  ルイズの朱に染まった顔には明らかな喜びが感じられる。沈む夕日を見ていたのだ。謹慎中、自室で暇な時間を過ごしていたルイズが夕日を見るのは、これで五度目。つまり、今夜が謹慎最終日の夜である。
「長かったわ・・・・・・」
 本当に長かった。五日間ぐらいどうってことない、そう思っていたが、退屈な時間というのは予想以上につらいものだった。
 授業を受けることができない。これだけでも、学生であるルイズの一日の大半が空白になる。さらに朝食、昼食、夕食。食事は全てメイドが部屋に運ぶため、部屋で一人で済ませる。
『ゼロ』と呼ばれ、馬鹿にされていたルイズには楽しく食事をする相手というのはいなかったが、それでも人が大勢いて広い食堂で食べるのと、狭い自室で一人で食べるのでは随分と心情が変わってくる。端的に言うと寂しいのだ。
 部屋で時間を潰そうにもすることが無い。ルイズの魔法は爆発するし、かといって部屋でシールド・オブ・ガンダールヴを展開するわけにもいかない。
 ならば勉強でもするか、といってもルイズの座学の成績は学年でもトップクラス。今更これといって勉強することもない。やるにしても教師に質問などをしないと進めない範囲である。
 自室に置いてある本もあらかた読み尽くしてしまっている。トリステイン魔法学院の図書室の蔵書は、国立図書館に匹敵するほどの数がある。魔法学院の生徒でいる限りにおいて、本で不自由することはほとんど無い。
一部の生徒は手元に本を置いておきたいらしく虚無の曜日になれば、本を買いに行く姿も見られるがルイズはそこまで愛好家ではない。
 唯一、部屋の外に出ることのできる入浴の時間さえほかの生徒とは時間をずらしてある。だがこれは悪くない。
同年代の生徒と一緒に入ると腹が立つのだ。むかつくのだ。詳しい理由は伏せるが、一言言うのならばルイズのある部分には山も谷もない。あるのは平原のみである。
一人で広い浴場を使えるのは、なかなかいい気分だった。普段はどの時間でも混み合っている。女の風呂は長い。
 娯楽といえば入浴ぐらいしかない、そんな謹慎期間がようやく終わる。そりゃあ気分も高揚するだろう。

――いえ、もう一つ楽しみはあったわね。

 謹慎期間のもう一つの楽しみ。それはシエスタだった。ルイズの部屋に食事を運ぶメイドは彼女だった。
 シエスタは毎日、ルイズの部屋に食事を運んでくる。食事を運んできた時に少し会話を交わす程度だが、シエスタとの話は楽しくて謹慎中の大きな楽しみだった。
 そういえば今日もそろそろ夕飯の時間だ。今日のシエスタはなんだか様子がおかしかった。
 ルイズは昼食を運んできた時のシエスタとの会話を思い出す。

――あの、ミス・ヴァリエール、ありがとうございます!
――いきなりどうしたの?
――何があっても諦めなくて、貴族なのに平民の為に戦ったり、そんなミス・ヴァリエールにたくさん勇気をいただきました。
――ミス・ヴァリエールのおかげで、私、これからも頑張れます。・・・・・・失礼します。
――待って!
――ミス・ヴァリエール?
――・・・・・・これを持っていきなさい。
――これは?
――・・・・・・私の『使い魔』よ。どうしても、本当にどうしようもなくなった時だけ、それを飲みなさい。命をベットに、たった一度だけ『賭け』ができるわ。
―― 『賭け』、ですか?
――ええ、『賭け』よ。勝ちは保障できないけど、逆転の可能性もある。でもね、チップは命と未来。使わないのが一番だけどね。・・・・・・お守り代わりに持っていきなさい。
――・・・・・・ありがとうございます。

 どうして錠剤を渡したのだろう。でも立ち去ろうとした時のシエスタの雰囲気はおかしかった。なんだか無理に明るく振舞おうとしているような、そんな笑顔だった。
 どうしても、あのまま行かせてはいけない、そう思ったのだ。それにしても錠剤を渡したのは間違いだったと思う。あの錠剤は危険だ。もしも《パラベラム》の素質が無ければ脳死。命をベットにするのとなんら変わりは無い。
 食堂の騒動の時に感じた違和感。シエスタの手をとった時に、少しだけ妙なモノを感じた。《P.V.F》を展開した時にも似たあの感覚。
 一体、アレはなんだったのだろうか。考えても答えは出ない。
 ノックの音が聞こえ、ルイズが扉を開けると、そこにいたのはコックの格好をした大柄の中年男性だった。
619名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:13:10 ID:TzN54KsR
・・・必要なのは支援、かな?
620疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:15:05 ID:3lGJ+pSx
   3

 シエスタは大きな浴槽に身を沈めた。湯の温度は少し高く、気持ちがいい。シエスタ程度の体格ならば泳ぐことだってできそうだ。
 もちろん、平民のシエスタにはこんな風呂は本来入れない。平民の風呂は蒸気を利用したサウナ式が主流である。このような大きく豪華な浴槽にたっぷりの綺麗なお湯を張ることができるのは貴族ならではの贅沢だ。
 そんな身分不相応な贅沢をしているにも関わらず、シエスタの気分は優れない。シエスタがこんな風呂に入れるのには当然、理由がある。それも吐き気のするような理由が。
 シエスタが今いるのは、トリステイン魔法学院ではない。そこから徒歩で一時間ほど離れたモット伯の屋敷である。豪華絢爛なその屋敷の一角、相当な金のかかった作りをした浴室にシエスタはいた。
 シエスタはモットに雇われた。一介のメイドであるシエスタを名指しで、それも本来の雇用主であるオスマンから強引に買い取るような形で。貴族が平民の女をこのような手段で雇う理由は大体決まっている。
 妾にするのだ。つまり肉体が目的である。
 この屋敷の主、ジュール・ド・モット伯爵は貴族の間でも好色家な事で知られている。シエスタがここに来てからはまだ仕事はしていないが、ほかのメイドたちの大きく胸元の開いたエプロン・ドレスを見れば、モットがどんな人物か分かるというものだ。
 シエスタだってこのような貴族に仕えるのは嫌だ。シエスタにとって仕えるべき主は、給金を払うだけのオスマンではない。身体が目的の下衆などでもない。誇り高き、仕えるに値する貴族だ。
 だが、それでもシエスタには断れない。シエスタは平民で、モット伯は貴族。そして故郷には家族と妹や弟たちがいる。シエスタに選択肢は無い。無いはずだった。

 シエスタは湯から上がる。滑らかな肢体は湯で温まり上気しており、ほんのりと赤い。身体の線をなぞるようにまだ暖かさを残した湯が伝う。顔に張り付いた髪を振り払うように首を振り、更衣室に向かう。
   そこには既にモットの悪趣味なエプロン・ドレスがあった。シエスタの私服はその脇に畳んである。
 身体を拭くこともせずに、自分の服のポケットの一つを漁る。そこには不思議な光沢と質感の真四角の皮に包まれた白い植物の種のようなものがあった。
 ルイズの部屋に食事を運ぶという最後の仕事の時に、ルイズから渡されたものだ。『お守り』、ルイズはそう言っていた。
 ルイズには悟られないように、できるだけ普段のように振舞ったのだが、大して効果は無かったようだ。自分に嘘をつく才能は無いらしい。

 本来は無いはずの選択肢。決められたはずの未来を打ち砕くかもしれない『賭け』。
 シエスタの心は決まっていた。
 爪を使い、皮を引き裂いて種を取り出す。指の先ほどの大きさも無い小さなそれを口に入れ、飲み込んだ。そこには躊躇いなど無い。
   シエスタが今、ここで死んでもモットからの見栄と面子を保つための見舞金が家族に届けられるだろう。親たちは悲しむだろうが、それだけだ。
 視界が揺れる。激しい頭痛がシエスタの頭を締め付け、全身を突き抜けるような衝撃が駆け抜ける。鼓動がルイズの顔を思い出した時のように激しくなる。息が乱れ、身体が熱を帯びるのを感じた。
 シエスタにはルイズ以外の主はいない。それに。
 ルイズのくれたチャンスで死ぬのならば、それもいい。シエスタはそう思った。
621疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:17:20 ID:3lGJ+pSx
   4

「ミス・ヴァリエール、夕食をお持ちいたしました」
 髭面の男がそういって頭を下げる。カートの上にはまだ湯気を立てる夕食が並んでいる。
「・・・・・・あんたは?」
 見覚えが無い。謹慎期間中、五日間の三食の食事を運んできたのはシエスタだった。
「コック長のマルトーでございます。シエスタはもう、いません」
 マルトーは頭を下げながら、そう言った。シエスタのことを話す時は肩が震えていた。
「・・・・・・どういうこと? 説明しなさい」
 信じたくない。シエスタがもう学院にいないなんて。
 マルトーはぽつり、ぽつりと話し始めた。
 ルイズが謹慎処分を受けている間に、王宮の勅使であるモット伯が学院を訪問したこと。オスマンとモットが話している学院長室に紅茶と茶菓子を手の空いたシエスタが届けに行ったこと。
シエスタを気に入ったモット伯が、強引に話を進め、自分の屋敷の使用人として雇い入れたこと。たぶん妾として奉仕させられること。
シエスタが学院に勤めるのは今日が最後で、ルイズの部屋に昼食を届けたのが最後の仕事だったこと。全てを終わってからルイズは聞いた。
「・・・・・・シエスタはあんたのことを慕ってた。俺たちだって平民の為に戦ってくれたあんたを感謝してた。それでも、こんなことになっちまった!」
 マルトーは話の途中から敬語ではなくなっていた。今は気にならないし、そんなことを気にしている場合でもない。
「ミス・ヴァリエール、シエスタから伝言を預かってる。『ありがとうございました。ミス・ヴァリエールと出会えて本当に良かったです』・・・・・・だと。なぁ、ミス・ヴァリエール。どうして世の中に貴族がいるんだ?
 どうして平民がいるんだ? どうしてみんなが幸せになれるような世界は作れないんだ? 自分の年の半分も無い女の子に聞くようなことじゃないが、聞かずにはいられねぇんだ」
「・・・・・・まだ間に合う」
「え?」
 ルイズはクローゼットを開け、一着のローブを取り出す。暗い緑のフードのついたローブだ。地味なそれはルイズの趣味ではないが、狩りの時や雨の中を馬で駆ける時などは役に立つので実家から持ってきたのだ。
 サッと被って窓を開く。地面は遠いが、パラベラムならば問題ない。モットの屋敷まではそんなに遠くない。まだ、間に合うのだ。
「ごめんなさい、私にその質問は答えられないわ。一つ、頼みたいことがあるの。もし誰かに聞かれたら、私はずっと部屋にいたと言って頂戴」
「そ、そりゃあ構わないねぇですけど、どうすんですかい?」
 マルトーが慌てた様子で訊ねる。
「わからない。でも放ってはおけないのよ」
 ルイズは窓から飛び降りた。右手を伸ばし、《P.V.F》を形成。光の粒子が弾け、ルイズの右手にシールド・オブ・ガンダールヴが形成される。
 内観還元力場で強化された身体能力を使い、地面に着地。着地とほぼ同時を体勢を立て直し、地面を蹴る。
 景色が凄い勢いで流れる。今のルイズは馬などとは比べようも無いほど速い。
 ルイズは疾走する。
622疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:18:32 ID:3lGJ+pSx
   5

 目を覚まして最初に感じたのは、背中の柔らかな感触だった。どうやらベッドに横になっているらしい。
「気がついたかね?」
 はっと身体を起こすとそこにはモットが座っていた。やや年のいった顔尽きと鬱陶しい髭が印象的だ。にやつきながら、シエスタの身体を嘗め回すようにして見ている。
「おそらく上せたのだろう。まぁ、平民にはあの風呂は慣れていないだろうから仕方が無いがね」
 シエスタはあの趣味の悪いエプロン・ドレスを着せられていた。この男がそんなことをするとは思えないし、たぶんメイドの誰かが着せてくれたのだろう。
「それにしても、よく似合っているよ。シエスタ」
 露骨な視線を隠そうともせずに、シエスタの身体を眺めながらモットはそう言った。モットの股間は布を大きく持ち上げていた。

 シエスタはおもむろに立ち上がり、右手を伸ばす。
 やり方はルイズのそれを見たことがあるし、祖父の使っていた魔法に似ていた。今の自分ならば使えるというのが、頭のどこかで理解できた。
 右手に祖父の使っていた魔法を思い浮かべる。シエスタの右手で閃光が弾け、装甲を生み出す。光の粒子はシエスタの手の中で、確かな質感を持って銃の形を作っていく。シエスタの手の中に一丁の拳銃が生まれた。
 ハルケギニアの常識では考えられないような現象を自分が起こしたとわかっていても、シエスタはあまり驚かなかった。
 銃口の下の部品が丸いその銃は、祖父のよく話してくれた物語の中でも軍人がよく使うと言っていた『コルト・ガバメント』という銃に似ている。
 全体が光沢のある黒い金属できていて、銃身が長い。グリップはシエスタの手によく馴染んだ。
 銃身には《cal50 Hound dog》と彫られている。
 シエスタは少し笑った。

――『猟犬』、そうだ。私はミス・ヴァリエールの猟犬でいい。私にはお似合いね。
「なッ!? 先住魔法!?」
 モットは驚き、腰の杖に手を伸ばす。しかし、それよりも早くシエスタは左手に弾倉を生み出し、ハウンド・ドッグに叩き込む。
 スライドを引いて初弾を薬室に送り込み、安全装置を外す。モットの杖を持った腕に狙いを定める。凸型のフロントサイトと凹型のリアサイトの二つを、一直線に並ぶよう狙いを定めて、引き金を引いた。内観還元力場で軽くなった鈍く重い反動がシエスタの腕に伝わる。
 銃声が響き、弾丸がモットの右手を打ち抜いた。精神だけを傷つける《P.V.F》特有の弾丸は、モットの右手の精神をずたずたにする。青いマズル・フラッシュがシエスタの顔を冷たく照らす。
 モットの口から流れていた詠唱は途切れ、代わりに聞くに堪えない悲鳴が上がる。物を握ることのできなくなった右手から杖が落ち、床に転がる。
 シエスタは蹴りをモットにいれた。強化された筋力で放たれた蹴りは、容易くモットを吹き飛ばす。
 床に転がるモットの身体の上に跨り、馬乗りの姿勢になる。その光景だけを見れば、モットの望んでいたものかもしれなかったが、おそらく想像とは程遠いシチュエーションで実現することになった。股の下から、醜い肉の感触が伝わってくる。
 シエスタはモットの耳元に口を寄せて囁く。
「モット伯、私は貴方に仕えたくありません。貴方のような人の皮を被った畜生以下の下衆野郎に頭を下げ、身体を捧げるなど考えるだけで反吐がでます。貴方は私の主には、全く相応しくない。ですが・・・・・・まぁ、その、プレゼントです。受け取ってください」
 ハウンド・ドッグの銃口をモットの股間に押し付ける。ぐにゃりとした不快な感触が伝わってきて、シエスタは舌打ちをした。モットはシエスタが何をしようとしているのか察したのか、必死に身体を動かして逃れようとする。それでもシエスタは逃がさない。
シエスタは、モットの耳に色気たっぷりに息を吐きかけながら、甘い声音と口の端を吊り上げた笑顔で告げた。
「イかせてあげます」
 引き金を二回、引く。弾丸は呆気無く発射された。
 モットは声にならない悲鳴を上げる。暴れるが、シエスタが力尽くで押さえつける。空薬莢がモットの見えないところで床に落ち、光の粒子になって消えた。
 今度はハウンド・ドッグをモットの眉間に押し付ける。
 シエスタはどこか冷めた思考で、下腹部のあたりで快感がうずくのを他人事のように感じた。
623疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:19:32 ID:3lGJ+pSx
   6

「そこまでよ、シエスタ」
 シエスタがその声に驚き、ハウンド・ドッグを声のした方へ向ける。
 そこには割られた窓と暗い色のローブにすっぽりと身を包んだ小柄な人影があった。フードを深く被っており、人相は分からないが、僅かに見える顎のラインと声でその人影がルイズだとシエスタには分かった。
「モット伯、夜分遅くに失礼します」
 ルイズは顔が見えないように注意しながら、部屋の中に降り立つ。右手にはシエスタのハウンド・ドッグとは比べ物にならないほど巨大な銃器、シールド・オブ・ガンダールヴがあった。
 モットは痛みからか、まともなことが喋れなくなっている。というかまず声が出ていない。掠れた声の成り損ないがひゅうひゅうと喉から漏れるだけだ。
まだ動く左腕で、精神が破壊されたせいで失禁が止まらない股間を抑える姿は無様だ。顔は苦痛に歪み、涙と鼻水と涎で酷い有様になっていた。
「・・・・・・シエスタ。飲んだのね?」ルイズはシエスタの手に握られたハウンド・ドッグを見ながらそう訊ねた。
「ええ、私は『賭け』に勝ちました」シエスタに後悔は、無い。
 フードの下から小さなため息が漏れた。
「モット伯、貴方は彼女の言った通り貴族の地位に値しない人間だ。私は彼女を放ってはおけない。だから今、ここにいる」
 ルイズがモットに近づきながら、話しかける。モットは焦点の定まらない目でルイズを見ていた。右手のシールド・オブ・ガンダールヴを凝視して、怯えている。滑稽だ。
「モット伯・・・・・・悪い事は言いません。彼女を解雇し、今日のことは全て忘れてください。その方がお互いの為ですよ?」
 モットは涙を流しなら、コクコクと壊れた人形のように頷いた。何度も何度も、頷いた。
「ご理解頂けて感謝します」
 ルイズは優雅な仕草で一礼した。シエスタはこんな人間に頭を下げる必要など無いのにと思ったが、主君が頭を下げているのに、臣下が頭を下げぬ道理は無い。
 ようやくモットに突きつけていたハウンド・ドッグを外し、ルイズに倣い一礼した。
「シエスタ、帰るわよ」
 ルイズが窓に近づきながらシエスタを促す。シエスタの荷物は次の虚無の曜日にこちらに送られる予定だったので、まだ学院にあるはずだ。服はどうせ安物だし、いいだろう。このエプロン・ドレスは、趣味は悪いがいい生地を使っている。売れば金になる。
「ああ、モット伯。これはご忠告ですが、シエスタの家族に報復しようとしたり、私たちについて他言しようとしない方がいいかと。今度、彼女を止める自信は、恥ずかしながら私にはありません」
「お、お前たちはッ、一体なんなんだッ!?」
 モットが息も絶え絶えにそう尋ねた。
 ルイズは後ろを振り向かず、一言だけ答えた。
「パラベラム」
 それだけを告げたルイズは窓から飛び出し、シエスタもそれに続く。
 部屋には一人、モットだけが残された。銃声を聞きつけ、衛士がモット伯の部屋のドアをノックしたのは、そのすぐ後のことだった。
624名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:21:17 ID:zccEY63W
しえん
625名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:21:57 ID:dYm6dHOF
容量限界が近いので次スレ立ててきます
626疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/05/30(日) 21:22:13 ID:3lGJ+pSx
   7

「ねぇ、シエスタ。あなたはどうして『賭け』に出ようと思ったの?」
「私は、私の認める以外の主に仕えたくなかった。それだけです」
「たとえ死んでも?」
「たとえ死んでも」
「困ったわね」
「困りましたね」
「使用人を一人、欲しがっている貴族がいるの」
「職を失った使用人が一人いるんです」
「正しいことを判断できて、主が道を誤った時は叱咤してくれるような使用人が欲しいらしいわ」
「正しいことを見据え、どこまでも誇り高く民の為に力を振るうような貴族に仕えたいらしいです」
「ねぇ、シエスタ?」
「なんでしょうか?」
「私、シエスタを雇いたいのだけど、どうかしら?」
「あら、偶然ですね。私もミス・ヴァリエールにお仕えしたいと思っていました」
「契約成立ね」
「契約成立ですね」
「これからよろしく。シエスタ」
「これからよろしくお願いします。ミス・ヴァリエール」

 二人のパラベラムが夜の森を疾走する。


以上で九章は終わりです。今回はちょっと遅れた分多目でお送りいたしました。
我々の業界でも体罰です、なんて声が聞こえてきそうですが、まぁ、モット伯だし。
あのシーンは書いてて切なくなりました。主に下半身が。
最初の予定では脳死させる予定でしたが、殺すことはないだろうとあんなことに。
あれ? 一思いにやったほうが楽だtt(ry

以下NGシーン
シエスタ「生者のために施しを」「死者のためには花束を」
    「正義のために剣を持ち」「悪漢共には死の制裁を」「しかして我ら、聖者の列に加わらん」
    「始祖ブリミルの名に誓い、全ての不義に鉄槌を」

以上で代理終了です
長すぎる行があるとはじかれたので、一部勝手に改行させていただきました
627名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:24:38 ID:dYm6dHOF
投下乙です。

スレ立て規制かかってましたorz
どなたか代わりにスレ立てお願いします。
628名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:30:10 ID:DL46NCbv
乙いいぞもっとやれw

スレ立て行ってみるーノシ
629名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:32:41 ID:DL46NCbv
だめだったー
630名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:49:41 ID:TylEOPOw
631名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:50:52 ID:JwGXY8m1
>>630
632名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 21:52:55 ID:K5urYz8R
そろそろモット伯の愛人に収まりつつ、モット伯を手玉にとってメインストーリーに絡んでる黒いシエシエが見たみたい気がする。
633名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 22:03:08 ID:6lALLuoB
パラベラム乙です。
ルイズがかっこよくて惚れそう。
634名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 22:03:52 ID:FzRJ/35Q
モット伯のところにいったけど散々にもてあそばれた後捨てられて、地獄兄弟みたいになったシエシエなら考えたことがある
635名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 22:49:12 ID:rVF1Sick
ルイズかっけー
636名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 22:50:21 ID:5i7q8/VD
投下&代理乙

あんすとっぱぶるちゃんばーめいどw
637名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 23:04:26 ID:ceBoFyj/
ときどき現れる綺麗なモット伯が結構好きだったりする。
638名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 23:09:05 ID:YGhWfqvx
しかしそれはモット泊ではありません。お気の毒ですが、別人なのです
639名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 23:13:50 ID:A+ZXTS08
この流れ……あなたが落としたのは綺麗なモット伯orシエスタ ですか? 
それとも汚いモット伯orシエスタですか?
640名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 23:30:39 ID:wyTrXO73
このデルフリンガーで きみらのこうげきは ふせぐぞ
641名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/30(日) 23:37:40 ID:wyTrXO73
おい はとうのモットと いいメイドと どっちがすきだ
きくまでも なかろうよ!

ま まて まってくれ な なにがほしいんだ
かねか? かねなら いくらでもだそう このメイドも ゆずろう
や やめろ ひー

やっちまった・・・
このむこうに あたらしいせかいが あるのかな?
ようこそ おとこのせかいへ
642名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 00:02:13 ID:f+UmNVAG
パラベラム、相変わらずカッケー。痺れるね、もう。
シエスタは賭けに勝ったけど、いずれは負けるヤツも出てくるのかな。
錠剤の数的に、失敗するヤツがゼロってのもなさそうだし。

そしてやっぱり作者氏はブラクラを嗜んでおられたかw
643名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 00:40:06 ID:UHoP+wv4
映画だけど戦国自衛隊から
伊庭三尉を中心とする小隊を
ルイズが召喚したらどうなるんだろう?
補給とかはコルベール経由ならなんとか出来そう

でも7万人のアルビオン軍との戦いで映画版での川中島の戦いみたく
全滅するって最後になる可能性も高くなるな

どうでもいいけど召喚された車両はこんなモン
61式戦車1台 73式小型トラック1台+1/4tトレーラー1台
2/5tトラック1台 M3A1装甲車1台 シコルスキーS-621機

映画版では海自の哨戒艇もいたけど魔法学院周辺には海がないから
省略した

644名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 00:55:57 ID:ItAWNFSS
>>626
パラベラムかっけー

NGシーン返し
「副官…我々のタルブ降下を見越して戦力が配置されてることを予想していたか?」
「予想? 予想だと? こんなコントをか? スクウェアメイジに率いられた飛竜騎士団の一個中隊が、
 ぶどう畑の農村で平民のメイドに皆殺しにされかけてるんだぞ。
 こいつは一体なんの冗談だ?」
645名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 18:43:37 ID:5WW1KBDT
埋めるか
646名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 18:45:35 ID:aG64m6UE
埋めよう
647名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 18:48:14 ID:wADWoJ8+
「埋めるか」
「埋めよう」
「埋めよう」
そういうことになった。
648名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 20:19:35 ID:2YpPkxog
「おお、貴族様、聞いてください
 実は恐ろしいものを掘り出してしまったのです!!」
649名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 20:21:16 ID:vfJwC1xM
埋めろ
650名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 20:28:17 ID:VzohbaHQ
何という柴田亜美のニセ勇者www
651名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 21:54:33 ID:qi1LD2yz
ゼロ魔世界で掘り出されるような恐ろしい物?
……『場違いな工芸品』で核弾頭とか。
652名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 22:00:45 ID:Y7lH/iAq
エレ姉さんのスリーサイズが書かれたメモだったりして>恐ろしい物
653名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 22:23:48 ID:9DCvWKDt
風石を掘り起こせ
654名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/31(月) 22:59:26 ID:oORnl6mj
カプル
655名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:00:41 ID:wEUjwFnw
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part276
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1275223740/
656名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:39:05 ID:8gJ25qpc
ほら、何か、音が聞こえますよ。
土を、掘り返すような音が・・・
657名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:40:16 ID:fyHJ3U3K
邪聖剣ネクロマンサーなんてマイナーなネタを埋めネタに使うなよw
658名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:48:24 ID:dw5exftP
た たかしくんがやろうっていったんだよ!
659名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:49:09 ID:iH9mxSA3
>>656
ようこそ破壊神様!
660名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:51:41 ID:dw5exftP
                  *     *
              +      +         +
                       /^l   *
               ,-‐-y'"゙"''゙゙"´  |         +
               ヽ、,;' * ´ ∀ ` * ミ      *      *
           +    ミ   つ と  ミ  *      +
                 ミ        ゙;;     ハ,_,ハ    +
                 ';,        ミ    ,; ´∀`';
                 `:;        ,:'    d゙  c ミ   *
                  U"゙'''~"゙''∪      u''゙"J


         ┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
         ┃もっさりさんたちが召喚された! 使い魔になりたそうに ┃  
         ┃こっちを見ている!                       ┃
         ┃                        .           ┃
         ┃使い魔に いれますか?          .  .        ┃
         ┃                             .     ┃
     ┏━━━━┓                               ┃
     ┃ |>はい  ┃━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
     ┃  いいえ.┃
     ┗━━━━┛
661名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:54:42 ID:dw5exftP
さて、俺たちが召喚されてやったわけだが。
          ∧_∧
    ∧_∧  (´<_`  ) 異世界でもネットに繋がるなんて流石だよな俺ら。
   ( ´_ゝ`) /   ⌒i
   /   \     | |
  /    / ̄ ̄ ̄ ̄/ |
__(__ニつ/  FMV  / .| .|____
    \/____/ (u ⊃
662名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 00:55:10 ID:vSrBCyzt
ニセ勇者ワロタw
えらく懐かしいネタを拾ってきたもんだなw
663名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/01(火) 02:25:06 ID:FZ4vDSRK
664名無しさん@お腹いっぱい。
 
             -― ̄ ̄ ` ―--  _        
          , ´         ,    ~  ̄、"ー 、 
        _/          / ,r    _   ヽ ノ
       , ´           / /    ●   i"
    ,/   ,|           / / _i⌒ l| i  | 疲れた寝る
   と,-‐ ´ ̄          / / (⊂ ● j'__   |  
  (´__   、       / /    ̄!,__,u●   |   
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          ,_  \           ノ(`'__ノ
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