あの作品のキャラがルイズに召喚されました part274

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?
そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part273
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1271322982/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/30(金) 23:09:55 ID:7kIP/mO0
>>1
3名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 00:57:34 ID:vFP5ujrB
>>1
4ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 20:45:55 ID:YyspWoZT
>>1
新スレ乙です

ザボーガーの人と代理の人、お疲れさまでした。
そしてこんばんは、無重力の人です。
遅れてしまいましたが、50分頃に投稿をしたいと思います。

出来るのであれば支援の方、何卒よろしく御願いします。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 20:50:00 ID:AKAt6XKw
霊夢の人ktkr
支援
6ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 20:50:21 ID:YyspWoZT
トリステイン魔法学院――――――――

太陽が沈み始め、ようやく赤と青の双月が空へ上ろうとしている時間帯。
もうすぐ夜になろとうしているが、夕食までまだ大分時間がある。
その間まで生徒達は各々の自室で授業で出された課題をしたりするのだが、そんな生徒は殆どいない。
例えば…キュルケは授業で出された課題を自分に惚れている男子生徒達に全て押しつけて化粧をしていたり、
モンモランシーはテーブルに課題ではなく香水などを作る道具を広げて新しい調合を試していて、
ギーシュは薔薇の造花を手で弄くり回しつつ彼女に送る詩を考え、
タバサに至っては使い魔である風竜のシルフィードに乗って何処かへ出かけていた。

このように、トリステイン魔法学院の生徒達は各々の時間を趣味に費やしているのだ。
最も、光あれば必ず影が存在するように、ちゃんと課題に取り組む生徒もいる。
将来この国を支える者になりたいと思う者達はどんどんと知識を取り込み賢くなって行く。
そして今、女子寮にある自室でルイズもまた課題と格闘していた。
他の生徒達と比べてみればその量は明らかに多かったが無理もないであろう。何故なら――

「す、数日分のツケがこんなにしんどいものだなんて…!」
―――――――学院にいなかった分、堪りに堪っていたのだから。

ルイズは苦しそうな独り言を言いつつ「クラスごとに違う、水系統の威力の違いについて」の課題に取り組んでいる。
これの他に暖炉の上には学院にいなかった間の課題がまだまだ残っている。
恐らく持ってきたのはキュルケ、又はあまり仲の良くない女子生徒達辺りであろう。
全く嫌みな事してくれるわね。と思いつつも基本真面目であるルイズには「課題を片づける」という選択しかない。
座学に関しては学年トップの座をタバサと共に独占している彼女にとって出されている課題のレベルならば大した驚異にはならない。
ただ問題は一つ、それは「出された課題が難しい」のではなく、「出された課題の量が多すぎる」という事であった。
今まで出されていた課題はほんの少しであったし、夕食前か就寝前に片づけていた彼女にとっては余りにも過酷すぎるものである。
誰かを頼ろうにも頼る人がおらず、居候することになった霊夢と魔理沙の二人も今はいない。
正に孤軍奮闘状態のルイズは、ふと鏡台の上に置かれたボロボロの本を一瞥した。

「もう…、姫様から゛始祖の祈祷書゛を貰ったのに…これじゃあ詩を考える暇もないわね…」
ルイズは溜め息交じりにそう呟いた後、課題のことは一時忘れて今日の出来事を思い返すことにした。
そうする事で自分が今どれ程「責任重大な役目」を請け負っているのか改めて自覚するためである。
ならそれをするより課題を片づけた方が良いのでは?と思うが生憎今のルイズにはそれが考えられなかった。
ここ最近連続して身に起こる衝撃的な出来事の所為で頭がうまく回っていないのだ。

ルイズは手に持っていた羽ペンをひとまずは机の上に置き、目を瞑って頭の中に蓄積された記憶を映し始める。
最初の方こそは何も映らないが、数秒後には瞼の裏でボンヤリとイメージが浮かんできた。
7ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 20:55:05 ID:YyspWoZT




事はお昼を過ぎた頃の時間帯にまで遡る。

妖精亭で軽食を貰ったルイズ達はそのまま真っ直ぐに王宮へと向かう事にした。
ただチクトンネ街から直接行くので、結構な時間が掛かってしまう。
更には、人混みの多い大通りで三人がバラバラになってしまったり。
魔理沙が通りに出された屋台や商店などに興味を示していたため更に時間が掛かってしまったのだ。
ようやく王宮への入り口にたどり着いたときには、既に午後二時を回っていた。

「…ようやくついたわ。ここが王宮への入り口よ」
ルイズは疲れた顔で王宮の衛士が数人ほどいる詰め所と目の前にそびえ立つ大きな門を指さした。
「…飛んできた方が早かったんじゃないの」
霊夢の口から出た賞賛とは程遠いその言葉には、僅かばかりの疲れが滲み出ていた。
そんな彼女とは対照的に、ルイズの指さしたそれらを見て喜んだのは魔理沙であった。
「おぉ、意外とでかいんだな!紅魔館よりデッカイ建物なんて初めて見たぜ!」
一方の魔理沙は紅魔館等とはレベルが違うサイズの建築物を見て、目を輝かせて喜んでいた。
幻想郷で生まれ、育ってきた魔理沙にはハルケギニアで見る物全てが珍しいのである。
それこそ正に、子供の頃に読んだ絵本に出てくる御伽の国そのものなのだ。

「「…………はぁ〜」」
はしゃいでる魔理沙を見て、霊夢とルイズは二人同時に溜め息をついた。

詰め所の衛士にアンリエッタとの面会がある事を伝えた後、魔理沙の箒は詰め所で預けられる事となった。
魔理沙本人は「この世界じゃあ箒は危険な道具に入るのか?」と首を傾げていたが。

その後、3人はすぐに許可を貰い宮殿の中へと入った。
ルイズは霊夢と魔理沙を連れ、ただひたすらアンリエッタのいる寝室へと向かう。
その途中、魔理沙が辺りを見回して「意外と広いんだなぁ…」と呟いたのを見逃さなかったルイズはフフン♪、と自信満々に微笑んだ。
「凄いでしょ?ハルケギニア大陸においてもこれ程広くて素晴らしい宮殿は指を数えるくらいしかないのよ」
「へぇ〜…そんなに広いのか」
頼んでもいないルイズの自慢が耳に入ってきた魔理沙は突然喋り始めたルイズにキョトンとしつつも、そう言った。
そんな魔理沙の様子を見てルイズの自信がドンドン急上昇していく。
ルイズは霊夢達に背を向け、まるで自分の家を紹介するかのように喋り始める。

「そうよ。…もしかしてアンタ、こんなに大きい廊下を渡るのとか初めてじゃ―――…ってアレ?」
この宮殿がどれ程素晴らしい者かを説明しつつルイズが再び振り返ったとき、魔理沙と霊夢が既に話を聞いていない事に気が付いた。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 20:57:52 ID:9uPpxbf1
支援
9ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 20:59:56 ID:YyspWoZT
「外見は結構大きいが、廊下の大きさじゃあ紅魔館に負けてるよな」
魔理沙の言葉に霊夢は頷きつつ、口を開く。
「あっちはあっちで色々と危ないけどね」
「あぁ、確かに私も一度図書館で騒いでたら危うく猫にされかけたぜ」
「それって単なる自業自得なんじゃないの?」
そんな会話を少し離れた位置から見ていたルイズは、ムッとした表情をその顔に浮かべる。
自分の話を聞いていない事は勿論、最初から無視するのは流石に許したくは無かった。
ルイズの表情は段々と険しくなっていく、それに伴い怒りのボルテージも上がっていく。
その事に気が付いたのは魔理沙であった。なんでルイズが険しい表情をしているのかは知らないが。
魔理沙は霊夢との会話を中断し、ルイズもとへ近づき声を掛けた。
「おいおいどうしたんだよルイズ、そんなに怖い顔するなって」
「…別に、なんでもないわよ」
今更声を掛けてももう遅いと言わんばかりにルイズは呟いた。


そんなこんなで宮殿の廊下歩き続けて数分が経った頃だろうか…
ようやく三人はアンリエッタの居室のすぐ近くにまでたどり着いた。
綺麗な装飾が施された白い扉の側には華やかな装備の魔法衛士隊の隊員が立っていた。
恐らくここの警護を担当している者だろう、エメラルド色の目からは常に緊張感が漂っている。
隊員は此方に近づいてきたルイズや霊夢達を見ても、「学生が何用だ」とか、「貴族でない者達が何しに来た」という風な声を掛けようとはしなかった。
今日は魔法学院からのお客が一、二人来ると王女直々に伝えられていた彼は彼女たちの姿を見ても訝しむ事は無い。
(しかし一、二人はともかくとして、三人も来るとは)
隊員の視線は、一瞬だけ肌の露出が多い霊夢を一瞥した後魔理沙の方へと移った。
一見すれば貴族のような出で立ちをしているが、マントをしていないところを見ると没落貴族の子供か何かであろうと彼は思った。
事実隊員の目から見れば、物珍しそうに辺りを見回している魔理沙は正に「今まで田舎で暮らしていて初めて王宮に来たメイジ」という表現がピッタリと当てはまっている。
「おぉ〜!いかにも御伽の国の御姫さまのお部屋に続くドアって感じだな!」
アンリエッタの部屋へと繋がるドアを見て、魔理沙が物珍しそうに言った。
宮殿内にも拘わらず大声で喋る魔理沙に、しかし隊員はどなる事無くすぐにその目を逸らした。
魔法衛士隊であるからして貴族ではあるが、どうやら彼には平民や没落貴族の子供を見下す趣味はないらしい。


ルイズはアンリエッタに用事があると隊員に言う前に、後ろにいる二人の方へ向き直った。
いきなり自分達の方へ向き直ったルイズを見て、霊夢は怪訝な表情を浮かべつつ声を掛ける。
「…どうしたのいきなり?」
「イヤ、部屋に入る前に一応約束だけは守って頂戴」
「おいおいどうしたんだよいきなり?…まぁ守れる約束なら最低限守るぜ」
魔理沙もまた騒ぐのをやめて、ルイズの口から出るであろう約束とやらに耳を傾けることにした。
10ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 21:05:48 ID:YyspWoZT
ルイズは軽く咳払いをし、改まった感じで喋り始めた。
「良い?これからこの国の姫殿下に会うのだから出来るだけ優しく接してあげてちょうだい
 霊夢とは一度会ってるらしいからまぁ良しとして、一番の問題は――――」
ルイズは一旦言葉を句切り、魔理沙の方へと人差し指を向けて言った。
「―――――特にマリサ、アンタよ」
思いっきり御指名された魔理沙は少しだけムッとした表情を浮かべた。
「ちょ…、何で私に言うんだよ?」
「そりゃアンタの今日の街中での行動を見てたら。ルイズだって釘も刺したくなるわよ」
そんな魔理沙に、霊夢はここの来るまでの間にあった事を思い出しつつ言った。
霊夢の言葉にルイズはウンウンと頷きつつも、再び喋り始める。
「まぁそういう事よ。…まぁ姫殿下は優しいからちょっとやそっとの事じゃ怒らないけど…
もしもからかったり泣かせる様な事をしたら、この私がタダで済まさないから」
まるで自分をいじめっ子として見ているかのようなルイズの言葉に、
流石の魔理沙も何か言ってやろうかと思ったが、彼女の表情を見てその気が失せた。
今のルイズの表情は、自分の中で一番大切な存在を守ろうとしている時の顔だ。
そんな表情を真剣に出す今のルイズに抗議する性格を、魔理沙は持ち合わせてはいない。


「わぁーった、わぁーったって……要はおとなしくしてればいいんだろ?」
参った、と言わんばかりに両手を軽く上げて言う魔理沙に、ルイズは何故か拍子抜けしてしまった。
てっきり霊夢のように辛辣に言葉を一言二言投げかけてくるのかと思っていたのである。

「案外レイムより素直に聞けるのね…アンタ」
「……アンタ、もしかして私の事をちょっと冷たい人間としか見てないでしょう?」
そんな事を呟くルイズに霊夢が素早く突っ込んだが、一方の魔理沙はルイズの言葉に肯定するかのように言った。

「ハハッ、…でもそうだろ?お前さんは誰にもかかわらず同じような態度で接してるからな」
笑いの混じった魔理沙の言葉に、「余計なお世話よ」と霊夢は不機嫌そうな表情を浮かべて顔を横に逸らした。


……
………



………………
…………………

――つまで寝て――のよア――タは?さっ――と――起きなさい」

「ふぇっ…?」
目を瞑って記憶を掘り返していつの間にか眠っていたルイズは、間抜けそうな声と共に目を覚ました。
ほんの少しだけ思い瞼をゴシゴシとこすり、すぐさま自分の側に霊夢がいる事に気が付いた。
どうやら起こしてくれたのは霊夢らしく、両手を腰に当てて呆れたと言いたげな目でこちらを見ている。
「……あぁレイムぅ…起こしてくれたのねぇ…」
瞼をゴシゴシこすりながら眠たそうな声で喋るルイズに、霊夢はやれやれと言いたげに首を横に振った。
「全く、私としちゃあアンタの健康なんか気にもしないけど。いくらなんでも寝過ぎじゃないかしら?」
霊夢の言葉にルイズは「どういう意味よ?」と首を傾げつつも、立派な壁掛け式の振り子時計へと視線を向けた。
11ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 21:11:07 ID:YyspWoZT
今二本あるなかで短い方の時計の針はちょうど「10」の所を指しており、長い方の針は丁度「0」の真下側にある「6」を指していた。

「あぁもうこんな時間なのね…本当に寝過ぎちゃったわね――――

ルイズは自分が寝過ぎたことを後悔しつつ、ブツブツと呟きながら席を立った瞬間―――

                                ――――って、ウソォッ!?夕食の時間とっくに過ぎてるじゃない!」

―――とっくに夕食の時間を過ぎている事にすぐ気が付き、驚愕した。

「なんでぇ…!なんでこんな事に!…夕食時に寝過ごすなんてぇ!」
もうこの時間帯に行っても食堂には誰もいないし、料理も出してはくれないだろう。
一応夜食があるのだが、それでも夕食程腹は膨れない。
それに、今日の夕食には大好物のクックベリーパイが出るとも聞いていた。
ルイズは自分の大好物を味わえなかったことに後悔しながらも、今更起こしてくれた霊夢を恨めしげに睨んだ。
「言っておくけど、私は夕食前に起こしたわよ。アンタは起きなかったけどね」
今にも蛙を襲わんとする蛇のような視線で睨まれても霊夢は全く動じず、両手を横に広げてそう言った。
罪悪感を全く感じさせない紅白巫女の表情に、ルイズは悲しそうな顔で盛大な溜め息をつく。
霊夢の話から察すれば、要は夕食時に起きなかった自分が悪いのだ。
それでも、やはり夕食抜きとなると、ぐっすりと眠れないのは間違い無しである。

項垂れているルイズを霊夢は冷たい目で見つめていると、ふと誰かがドアを開けて部屋に入ってきた。
「よぉルイズ。今頃になって起きたのか」
頭の中を空っぽにしたような脳天気そうな声で部屋に入ってきたのは魔理沙であった。
「…あ、マリサ」
体からはうっすらと湯気が出て、三つ編みを解いている金髪のロングヘアーは少し水気を帯びている。
それに気が付いた霊夢は、呆れた顔で魔理沙を睨みつつ軽い溜め息をついた。
「結局入ってきたのね…拷問道具だ何だ言ってた癖に」
少々の嫌悪が混じる霊夢の言葉に、魔理沙は悪気の無い笑顔でこう言った。
「試しに火をつけたらすぐに沸いたし星空がキレイだったからな。…五右衛門風呂は思ったより最高だったぜ」
二人の会話から察するに、どうやら魔理沙はお風呂に入ってきたらしい。
ただその話の中に出てきた「拷問道具」や「星空がキレイ」という言葉に、ルイズは怪訝な表情を浮かべた。
(拷問道具って…っていうかウチの学院には星空が見える風呂なんて無いはずだけど?)
どういうことなのよ…とルイズが訝しんだ時、今度は誰かがドアをノックする音が耳に入ってきた。
「あ、もう来てくれたのか。意外と早かったわね」
何かを知っている風に霊夢がそう言うと、魔理沙がドアを開け、廊下にいた人物を部屋の中に招き入れた。
部屋に入ってきたのはメイド服を着た学院の給士らしく、その手には料理が載ったお盆を持っている。
「…?あれって…」
ルイズは、自分の鼻腔をくすぐる料理の匂いにおもわず目を丸くする。
丁度夕食を食べ損なっていたルイズにとっては、この上ない匂いであった
次いで、メイドの髪の色が黒だと気づいたルイズはすぐにメイドの名前を思い出す。

「あっ…シエスタ」
「夜分遅くに失礼しますミス・ヴァリエール。ただいま夕食をお持ちしました」
ルイズに名前を呼ばれた彼女は軽く頭を下げて恭しく言うと、お盆に載った料理をテーブルの上に置き始めた。
12名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 21:11:37 ID:kn3l2lPZ
支援
13ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 21:16:16 ID:YyspWoZT
湯気が立つクリームシチューに焼きたての白パン、それに小さな器に入ったサラダ。
貴族達からしてみればそれ等の数々は「賄い」であった。
一日三食と夜食を作ったコックやメイド達が寝る前に食べるそれ程豪華ではない食事。
しかし、今のルイズからしてみれば賄いであろうとも「腹がちゃんと膨れる夕食」であった。
シエスタが料理をテーブルの上に置いていく様子を見つめながらも、霊夢がルイズに話し始めた。
「実はね、シエスタが今日私たちに助けられた事をマルトーに話したらしいのよ」
今にも口の箸からよだれが出そうなルイズはハッとした顔になると霊夢の方へと視線を向けた。
マルトーという人物が学院で料理長として働いている事を知っているルイズは目を丸くする。
あの料理長は大の貴族嫌いだと聞いていた事もあって、内心はかなり驚愕していた。
そんなルイズには気づかず、尚も霊夢は喋り続ける。
「そんでもって。マルトーが今日のお礼にとアンタが食べ忘れた夕食と、後ほんのちょっとしたお礼を私たちに出してくれたらしいわよ」
霊夢がそこまで話した時、料理を並べ終えたシエスタが部屋の入り口に置いていた大きめバスケットを手に持ってやってきた。
バスケットの中に何かが入っていることだけ確認できるが、上から被せられたナプキンの所為で良くわからない。
だがしかし、霊夢の話を聞いていたルイズには、例え見えなくともバスケットの中に何が入っているのかある程度わかっていた。

「そのバスケットの中身って…もしかすると」
「はい、夕食を食べ終えた後に皆で仲良く食べてくれってマルトーさんが言ってました!」
シエスタは明るい笑顔で言うと、バスケットを手に取って勢いよくナプキンを取った。
同時にナプキンの下で溜まっていた甘く、高貴な香りを放つお菓子がその姿を現す。

「……うわぁ…」
それを見たルイズの表情は驚愕に満ちていたが、それは段々と喜びのものへと変貌していく。
ナプキンの下にあった食べ物はテーブルに置かれた夕食を含め、今のルイズを喜ばせるのに充分すぎた。
それは彼女が幼年の頃から気に入り、今に至るまで好物として週に最低五切れは食べているもの。
決して自分から切り離していけない存在。ルイズはそう思っている。
例えればそれは霊夢にとっての緑茶、魔理沙にとっては蒐集、それと同等の価値をルイズはその食べ物に与えていた。

段々と表情を嬉しそうなものへと変えていくルイズを見て、シエスタは元気な声で言った。
「マルトー料理長特製のクックベリーパイが、私を助けてくれた皆さんへのお礼だそうです!」




深夜―――

ブルドンネ街の一角に、上流階級の貴族達が寝泊まりしているホテルがある。
比較的王宮から近いそこは、激務のあまり宮殿からなるべく離れられない者達が利用している。
彼らは皆それなりに名高い家の生まれで、金も自分の生活に困らない程持っていた。

その一室で、四十代後半の貴族の男が鞄の中から取りだした書類を流し読みしていた。
慣れた手つきで読んでいるそれは、トリステイン王国現在の財政や各地域で異なる税の額を事細かく記したものであった。
写し取りではあるものの、無論それは彼が扱える代物ではない。そしてそれと同じレベルの機密書類が大量にその鞄の中に入っている。
「フン…あの狸め、まさかこんな大事な書類をレコン・キスタに横流すってことか…」
彼は怪しい笑みを浮かべつつ「狂ってるな…」と呟き、自分に書類を渡した男の下卑た笑顔を思い出した。
同時に、明日にはこの書類の山をレコン・キスタからの使者に渡すのだという事も思い出す。
「そういえば明日だったな。…ようやく、俺もそれなりの地位と金が貰えるのか…!」
書類を渡してくれた男は言っていた「この書類をレコン・キスタの奴等に渡せば、いずれお前はそれ相応の褒美を貰える」と。
彼はこの高級ホテルに泊まっている土地持ちの貴族であるが、実を言うと土地から取れる収入に満足いかなくなってきたのだ。
初めて土地を貰った時は喜んだものの、一生遊んで暮らせる程の税をとる事ができなかった。
手に入れれば贅沢三昧が出来ると思っていた彼にとって、逆にその土地が足かせとなってしまったのである。
14ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 21:20:25 ID:YyspWoZT
土地の経営や王宮での勤務が辛くなってきたそんな時、
自分と比べれば月とスッポン程の権力と金を持つ男が大量の機密書類の写し取りを持ってきたのだ。
「どうじゃ、この書類をワシの代わりとしてレコン・キスタからの使者に売ってはくれんかのう?」
男の言葉に、最初は「国を売るとは何事か!?」と激昂した彼であったが、結局は男の出した前払い金で屈した。
前払いだけでも平民の家族が丸々一年遊んで暮らせるその額を貰えれば無理もないだろう。
それに、今のトリステイン王国は事実上本当に危ない状況なのだ。
王になることを放棄してだんまりを決め込んでいる后と夢見気分の王女様は今のところ政務から目を背けている。
そんな彼女らの代わりに融通のきかない古参貴族達やお人好しの財務卿、…そしてあのマザリーニ枢機卿が身を粉にして働いていた。
王族が自ら動かず家臣達だけが空しく頑張っている、そんな国大陸の何処を捜したって見つかりはしないだろう。
「この書類がアルビオンに流れたら…トリステインはお終いだな…」
彼は書類を読みながら悲しそうに呟いた後、「ま、俺はそのおかげで幸せになれるがな」と嬉しそうに言った。
金と権力にしか目が眩まなくなった彼の心は、まだ見ぬ褒美を用意してくれているレコン・キスタの方へと惹かれていた。

…〜♪〜♪…♪

その時、ふと彼の後ろから音楽が聞こえてきた。
ギスギスした心をしずませ、冷やしてくれるかのようなそのメロディーに彼はハッとして顔になり、振り向いた。
そして、音の出所がすぐにわかったのか、彼の表情が安堵したものへと変わって行く。
「…なんだ、アレだったか」
彼の視線の先にあったモノ、それは天蓋つきの大きなベッドの真ん中に置かれた水晶玉であった。
マジックアイテムだがどういうギミックなのか、ふとこうして水晶玉の中から音楽が突然聞こえてくるのだ。
まぁ心地よいメロディーの曲だからとして彼も気に入っているだが、ふと気になっている事が一つだけあった。
実はこの水晶玉、つい最近になって貴族達の間で出回りはじめたのである。
一体何時、何処で、誰が流行らせたのかはわからない。だがそれは彼にとってはどうでも良い事であった。

「さてと…寝るまえにちょっと暇潰しに読んでおくか」
彼は背後の水晶玉から聞こえてくる音楽をBGMに、機密書類の写し取りを読むことにした。





彼の泊まっているホテルの廊下を、一人の青年給士が黙々とモップで清掃をしていた。
既に時間は丑三つ時を過ぎた辺りで、見開いている瞼もいよいよ重くなって来ている。
「やっぱり、夜中に仕事なんかするもんじゃねーよ、俺。……ふぁぁ〜」
給料が良いという事で深夜の仕事を担当したものの、初日から後悔する羽目になっていた。
彼は夜勤を請け負った自分自身に愚痴りつつも、おおきな欠伸をひとつかました。
15ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 21:25:17 ID:YyspWoZT
そして欠伸した後、ハッとした顔になり辺りを見回す。
周りに上司や宿泊客である貴族達がいない事を確認し、安堵の溜め息をつく。
もしも仕事中に欠伸したところを見られたら、大目玉を喰らっていたところだろう。
「ま、良く考えりゃあ夜中まで起きてる奴なんていないよな…?」
彼はひとり呟き、さっさとこんな仕事終わらせて仮眠室で眠ってやろう決意した瞬間――――

ドン…!ドスッ…!
「ギャッ…!」
突如、背後のドアを通じて激しい物音と誰かの悲鳴が彼の耳に入ってきた。
このホテルは客のプライベートを優先している為か、ドアや壁は全て防音仕様である。
しかし、耳の良さが自慢である青年は壁よりも若干防音効果が薄いドアを通じて悲鳴に気づき、驚いた。


「!?……。な、なんだ!」
まるで心臓をえぐり取られたかのような悲鳴を聞いた彼は、今すぐにもその場から逃げ出したかった。
しかし、悲鳴を聞いたまま何もせずに逃げるという事も、青年には出来なかった。
(もしも何かあったとしたら。このまま逃げることは出来ないし…)
何より、こういうのはスリルがあって最高さ。とぼやきつつも体中を震わせながら青年は、背後のドアへと近づく。
先程の悲鳴と物音が聞こえて以降、ドアを通じて何も聞こえてこない。
もしもの時を考え、青年は右手で持っているモップを手放さず、左手でドアを軽くノックした。
普通なら三回ノックした後に客からの返事がくるものだが、案の定返事は返ってこない。
返事が無いという事は熟睡しているのか、それとも何かあったに違いないと青年は確認し、今度はドア越しに声を掛けてみた。
「すいません、お客さま。…どうかなさいましたか?」
しかし声を掛けようとも、この部屋に泊まっている客からの返事は一切無い。
このドアは魔法の仕掛けが施された特殊なドアであり、ノックやドア越しからの声が良く聞こえるようになっている。
いよいよもっとコリャ何かあるなと思った青年は目を細めながら、ドアノブを掴む。
「お客さま。誠に失礼ですがドアを開けさせてもらいますよ…」
とりあえず何かあったのかと思って…と言い訳を考えつつ、青年はドアを開けて部屋の中に入った。

やはりというかなんというか、部屋の中には灯りひとつ無かった。
ベッドの側に置かれたカンテラも、天井に備え付けられたシャンデリアも、光を灯してはいない。
「うわぁ…今更ながら怖くなってきたよ」
小さな声でブツブツ言いつつ、部屋の中に一歩踏み出すと、まずは辺りを見回した。
この部屋は他と比べれば大分大きい方で、ワインや酒のつまみもクーラーボックスに常備されている。
いわゆるVIPルームと呼ばれるその部屋の空気は、窓から入ってくる風のせいでひんやりとしていた。
夏が近づいて来るというのに未だ肌を刺す程の冷たい空気は、青年の身を無意識的に震わせる。
「あのぉ〜…お客さまぁ…?」
青年は震えた声で客をよびつつ、一歩一歩確実に部屋の中へと入っていく。
窓から入ってくる風がレースのカーテンを揺らし、青年の心の不安を刻ませていく。
やがて部屋の真ん中まで来たとき、ふと何か柔らかいモノが足先に触れた。
「なんだ…コレ?」
靴を通して足先に伝わってきた感触に、青年は怪訝な顔つきになった。
まるで中途半端に固くなった肉に触れるかのような柔らかそうで意外と固い微妙な感触。
何だと思いふと足下を見てみると、何か黒くて大きな物体が足下に転がっていた。
青年の体よりも大きい黒い物体が、地面に横たわっているのだ。
彼が目を見開き後退った瞬間、待っていたと言わんばかりにシャンデリアに光が灯った。
突然ついた天井からの明かりに一瞬だけ青年の視界を遮った後、足下にあった物体の正体を彼は目にした。



人気が無い深夜のブルドンネ街の一角で、青年の絶叫が響き渡った。
16名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 21:41:29 ID:cDsnbl/0
…さるった?
17ルイズと無重力巫女さん:2010/05/01(土) 21:41:41 ID:YyspWoZT
これで今回の投稿は終わりです。
支援してくださった方々、大変有り難うございました。

前回と比べれば割と短めだったと思いました。
今までシエスタとの絡みが無かった分、今回から大分シエスタが出てくると思います。
というか霊夢の性格上、キュルケやタバサが殆ど活躍していません…orz
しかし、魔理沙が幻想入りならぬハルケギニア入りしたことで今まで活躍が無かった人達が出てくるかも知れません。
個人的に霊夢、早苗、紫、天子に次いで好きなキャラなので書いてて楽しいです。

また、アンリエッタとの会話等も出来れば今後の話に回想という形で書くと思います。
今回の話の終盤の展開においては、前回言っていた街でのお話へと続きます。
アルビオンのことはひとまず置いて、怪奇的(?)な事件に霊夢とルイズ、それに魔理沙が何らかの形で関わっていきます。
そして今考えている構想の段階では、アニエスさんやらミシェルさんも登場すると思います。
んでもって、早すぎますが○色卿も(ry

とりあえず、これからも月1間隔で投稿していきたいと思いますので。
これからもよろしく御願いします。ではノシ

追伸
figmaの霊夢と魔理沙、二人揃うと色々楽しいです
出来るならルイズもfiうわおまえなにを
18BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 21:45:49 ID:45Y9Kdq+
霊夢の人乙です。
魔理沙の必殺技がぶっぱされる日を楽しみにしてます。
いいトリオになりそうです、なんとなく。
そしてこちらも50分頃に投下をさせていただきます。
月イチペースすら危うい拙作ですがどうかご容赦を。
19BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 21:53:12 ID:45Y9Kdq+




第一章〜旅立ち〜

その4 登場!宿敵(?)ギーシュ




 荒れ果てた教室、煤けたピンクブロンド。
ミセス・シュヴルーズから“錬金”をするように指示されたルイズが起こした惨状である。
ムサシと手分けして教室を片付けているが、その表情は暗い。
主が塞ぎ込んでいるのを見たムサシは、そのあまりに沈んだ様子を見て気を効かせ声をかける。

「なあルイズ。一度や二度失敗したくらいで、クヨクヨすんな」
「……何よ」
「魔法だってたくさん修行すりゃそのうちできるようになるはずさ」
「ッ、あんたみたいな子供に、何がわかるのよ!」
 ルイズが奥歯をギリリ、と噛み締める。
持っていた箒を足下に叩きつけた。
あまりの剣幕に驚くムサシは、きょとんとした眼でルイズを見つめる。

「そりゃおいら魔法のことはてんで知らねえけどよ。
 学校で皆がやってることなら、なんべんも修行して─」
「……勉強なら誰よりやってる、練習だって何回もしてる!
 練習でいつも傷だらけ、血だって流したわ!なのに全ッ然成功しないの!!」
 溢れんばかりの涙を瞳に溜めて、ルイズは怒鳴った。
荒い息を抑えようともせず、尚も続ける。

「何をしても爆発!使える魔法なし!成功率ゼロ!だから“ゼロ”のルイズ!」
「……」
「それでやっと使い魔召喚が成功したと思ったら、あんた、みたいな、子供、だしっ……」
 いつしかルイズの眼からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出す。
誰にも言えない、そんな感情をルイズは涙といっしょに零してしまったのだ。
もう、嫌だった。
全身の力ががくり、と抜ける。

「もう……いいわよ……どうせ、私は死ぬまでずっと、ゼロのまま……」
「何言ってんだ、皆にあのまま言われっぱなしでいいのかよ、ルイズ!」
「……もう、ダメよ私なんて……!!……運命には、逆らえないわ」
20BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 21:54:48 ID:45Y9Kdq+

「─そんな運命なんて、クソくらえだっ!!!」
 力なくへたりこむルイズの言葉を、今まで黙っていたムサシが遮る。
顔を上げると、そこには眉を釣り上げるムサシの顔があった。

「おいらが、なんとかしてやる」
 ムサシは、刃を抱いて生きる兵法者だ。
大人でもまして色男でも無い、女性の気持ちなど理解できようもない。
出てきた言葉は、少々強引で不恰好だった。

「……チビのあんたに……何が、できるのよ!
 どうせ……皆といっしょに、私が失敗するたび……影で嘲笑う、そうに決まってる!」
「がんばる奴を、どうして笑わなきゃなんねえんだ!!」

 半ば怒声に近いムサシの声が再び教室に響く。
しかしムサシの強い言葉に、ルイズはどこか心が落ち着いき、涙が引っ込んだ。
ぐしぐしと顔をこする主人に向き直り、とりあえずムサシはその場にあぐらをかく。
そうして、持っていた箒をぶんっ、と振りおろす。

「いいかルイズ」
「……何?」
 ぴた、とこちらに向けられた箒にルイズは何と言えばいいか、威圧されて押し黙った。
膝を抱えて、目線を合わせるように座り込む。
いつのまにか、ルイズはムサシの目を見て話すようになっていた。

「おいらに技を教えてくれたヤツの一人に、ニックって騎士がいたんだ」
「?」
「そいつは、来る日も来る日も薪割りしてやっと騎士になった。騎士になってからも、薪割りばっかりしてた」
「……薪割りが何だっていうのよ」
「毎日してた薪割りが、ニックに“技”を編み出させたんだ」
「……技?」
 言うと、ムサシはおもむろに立ち上がりルイズに歩み寄る。
叩きつけられた足下の箒を手に取り、両手に一本ずつ握りしめた。

“二天一流”

ムサシの編み出した極意、俗に言う二刀流の構えであった。
その構えをとったムサシに、ルイズは言い知れぬ気迫を感じる。
虚空に向けて剣をゆらり、と動かす。
その刹那、右手で一閃、二閃と箒が唸った。
傍らのルイズに、その勢いがビリリと伝わる。

「……せいっ!」
 そして、左手の一撃。
目の前の薪を、ささくれ一つ残さず完膚無きまでに両断するまでに極められた剣。
曰く、薪割りダイナマイト。
ルイズの髪が勢いでふわりと巻い上がった。
その余りの剣気に、いつしか悲しみはどこかに吹っ飛んでしまっていた。

「薪割りが、この技を生み出させた」
「……あ、う、うん」
「その騎士も、おいらも毎日剣を振ってる。ルイズは振るのをやめるのか?」
 ムサシの言葉に、ルイズはハッとする。
自分が成してきた努力を、少年はその手に振るう剣に例えて肯定している。
ルイズに精一杯の激励を贈っているのだと。
21名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 21:56:00 ID:1TvHY0cH
しえん
22BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 21:56:45 ID:45Y9Kdq+
「おいらは剣しか知らないし、魔法はどうだかわからねえけどさ。
 毎日修行して、ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!」
「……ムサシ」
 ずっと、そういう言葉を求めていたのかもしれない。
自分の努力を家族以外にこうして面と向かって肯定してくれる人がいる。
一緒に。
その言葉を投げかけ、側に居てくれる。
それだけで、ルイズの胸がじんわり温かくなった。
目頭もまた、かっと熱くなる。

「……あ、あんた、私より、ち、小さいくせに、生意気言ってんじゃないの!」
「顔くらい拭けよ、眼真っ赤じゃねえか」
「うるさーい!……ほら片付ける!」
 ムサシの顔を見ていられなくてごしごしと顔をこする。
空気の読めない奴ねとぶつくさ言うも、その顔はどこか嬉しそうだった。

「何だよまったく、おてんばめ。やっぱ姫みてえだ」
 ぶつくさ言いながらもせっせと一所懸命片付けるムサシ。
自分の部屋もフィギュアで散らかさないし、歳の割にはマメなのだ。

「……あ、あと……みっともない所を見せたわね……忘れなさい!今のは!」
「気にすんなって、生きてりゃいろいろあるさ」
「……あんたって。子供とは思えないこと言うわね、ホント」
 目の前の少年が急に自分の姉達と同年代ほどにも思えて、ルイズは不思議な感覚を覚えた。
まったく、大人ぶっちゃってとぶつくさ言いながら




 教室を二人で整えるころには、昼休み開始の時間になっていた。
ムサシはルイズの後に続くようにして食堂へ向かった。
今朝と同じく賑わう食堂には大勢の生徒が既に着いている。

「じゃ、おいらはちょっとメシ食ってくらあ」
「え、ちょっと。あんたどこ行くつもりよ」
「料理人のおっさんと仲良くなったんだー!」
 嬉しそうな顔をして厨房へ駆けていくムサシに、ルイズは声をかけられなかった。
よくよく考えてみれば使い魔の単独行動を許してしまった。

「……大人っぽいと思ったらこういうところが子供なんだから!勝手ばっかり!もー!」
 先程の功もあるとは言え、主従関係をはっきりさせておかねばならないだろう。
ルイズは話を聞かない使い魔に地団駄を踏んだ。

「……せっかく分けてあげようと思ったのに……」
 ムサシも罪な男である。
23名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 21:57:47 ID:YyspWoZT
支援
24BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 21:59:24 ID:45Y9Kdq+
>>22 抜けがありました。申し訳ない。>23が正しいです。

「おいらは剣しか知らないし、魔法はどうだかわからねえけどさ。
 毎日修行して、ルイズもおいらと一緒にもっと、強くなろうぜ!」
「……ムサシ」
 ずっと、そういう言葉を求めていたのかもしれない。
自分の努力を家族以外にこうして面と向かって肯定してくれる人がいる。
一緒に。
その言葉を投げかけ、側に居てくれる。
それだけで、ルイズの胸がじんわり温かくなった。
目頭もまた、かっと熱くなる。

「……あ、あんた、私より、ち、小さいくせに、生意気言ってんじゃないの!」
「顔くらい拭けよ、眼真っ赤じゃねえか」
「うるさーい!……ほら片付ける!」
 ムサシの顔を見ていられなくてごしごしと顔をこする。
空気の読めない奴ねとぶつくさ言うも、その顔はどこか嬉しそうだった。

「何だよまったく、おてんばめ。やっぱ姫みてえだ」
 ぶつくさ言いながらもせっせと一所懸命片付けるムサシ。
自分の部屋もフィギュアで散らかさないし、歳の割にはマメなのだ。

「……あ、あと……みっともない所を見せたわね……忘れなさい!今のは!」
「気にすんなって、生きてりゃいろいろあるさ」
「……あんたって。子供とは思えないこと言うわね、ホント」
 目の前の少年が急に自分の姉達と同年代ほどにも思えて、ルイズは不思議な感覚を覚えた。
まったく、大人ぶっちゃってとぶつくさ言いながら教室の片付けを済ませて扉を閉める。
時間を見ると、急いで食堂へと向かった。

「……子供とは思えない、か」




 教室を二人で整えるころには、昼休み開始の時間になっていた。
ムサシはルイズの後に続くようにして食堂へ向かった。
今朝と同じく賑わう食堂には大勢の生徒が既に着いている。

「じゃ、おいらはちょっとメシ食ってくらあ」
「え、ちょっと。あんたどこ行くつもりよ」
「料理人のおっさんと仲良くなったんだー!」
 嬉しそうな顔をして厨房へ駆けていくムサシに、ルイズは声をかけられなかった。
よくよく考えてみれば使い魔の単独行動を許してしまった。

「……大人っぽいと思ったらこういうところが子供なんだから!勝手ばっかり!もー!」
 先程の功もあるとは言え、主従関係をはっきりさせておかねばならないだろう。
ルイズは話を聞かない使い魔に地団駄を踏んだ。

「……せっかく分けてあげようと思ったのに……」
 ムサシも罪な男である。
25BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 22:04:24 ID:45Y9Kdq+


「うめえ、やっぱりシエスタが作った握り飯は最高だぜ!」
「ふふ、そう言ってくれるとうれしいな」
「まったくだ!明日からのメニューに追加するしかねえな!ガッハッハ!!」
 むしゃむしゃと最高水準純白のお米を貪るムサシ。 
シエスタが振る舞ったおにぎりで厨房は一大米ブームとなった。
そして、翌日からの食卓に並んだ白い塊に、生徒たちは大熱狂。
後の米騒動である。

「ごちそうさん!……さてと、タダ飯食らいじゃおいらの気がすまねえ!何か手伝える事はないかい?」
「そんな、いいのよムサシくん」
「おおよ!子供が気を使うもんじゃないぜ!」
 豪快に笑うマルトーだが、ムサシは首を横に振る。

「いや、男として、武士として!恩を貰いっぱなしってワケにはいかないぜ」
「ブシ……?でもムサシくん、あなたは」
「偉いっ!いやあ子供だなんて言って悪かった、ようし。シエスタ!ボウズと一緒に─」



「まったく、ご主人様以外に餌付けされて……あれでも使い魔かしら」
 ぷりぷり怒りながら食事を済ませるルイズ。
近くで座っていたマリコルヌが豚の姿焼きをかすめ取られて泣いていた。

「……?何か騒がしいわね」
 ルイズが辺りを見回すとなにやら騒々しい。
人混みの中心に向かう。
そこに居たのは、泣きそうなメイドとキザったらしい同級生。
そして彼女の使い魔だった。


「子供のやったこととは言え、許しておけることではないよ!君!
 二人のレディの名誉が、傷ついたんだ!」
「申し訳ありません!」
「シエスタ!謝ることないぜ!」
 もう人ごみを掻き分けて行く途中で頭が痛くなった。
あの生意気極まりない使い魔は一日一度はルイズの頭痛のタネになる決まりでもあるのか。
ムサシとギーシュは、真っ向から睨み合いをしていた。

事の顛末はこうだ。
ムサシは昼食を済ませた後、忙しい中食事を用意してくれた恩としてデザートを配膳する手伝いをしていた。
そこでシエスタと言うメイドと一緒に食堂をうろつく途中、ムサシが香水のビンを拾い上げたのだという。
落とし主はギーシュ。
親切心から拾い上げたそれを、彼は突っぱねたのだと言う。
しかしその事が切っ掛けにギーシュの浮気が発覚。
下級生のケティと、同級生のモンモランシー二人の女子が登場。
ギーシュの両頬には真っ赤な椛が刻まれたらしい。
そしてその理不尽な怒りの矛先は、平民の小僧の分際でお節介にも落としたビンを拾った─
26BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 22:05:59 ID:45Y9Kdq+
「君のせいだよ!?謝ったって許されることじゃあない!」
「はっ!おいらに謝るつもりはねえぜ!女にだらしねえお前が悪いんじゃあねえか!」
「その小僧の言うとおりだギーシュ!」
「お前が悪い!」
 あたりはどっと笑いで包まれた。
ギーシュの頬が熱いのは、殴られただけが理由では無い。

「く!君、年長者ならしっかりと子供のやることに眼を……」
「まちな!また女に手を出すつもりか?シエスタは関係ないぜ!」
「ムサシくん、だめ!貴族にそんな言葉を─」
 群がった生徒達はもう膝を叩いて笑う者までいた。
この鼻持ちならない子供、何者─
と、ほんの少しの冷静さを取り戻し考え、そしてギーシュは薄く笑った。
ムサシの片眉が釣り上がる。

「思い出したよ……あの"ゼロ"の召喚した、の物乞いか」
「なんだって?」
「いやなに、確かにこちらもゼロのルイズ"ごとき"の使い魔にカッとなるなんて……恥ずべきかもしれないね。
 なにせあの主人だ、使い魔への躾もまともにできるわけがない。取り合うほうが愚かだったということさ。
 もっとも、魔法一つ使えない"貴族の恥"にはピッタリの使い魔なのかもしれないがね」
 ルイズは自分にまで悪口が飛び火し始めたのを見て、顔を顰める。
本人がいるとは露知らずなギーシュのその罵詈雑言、いつもよりもことさら辛辣だ。
しかしその言葉に、ルイズは怒りよりも悲しみが先立った。
言うとおりなのかもしれない。
先程までの自分も言っていたように─

(私は死ぬまでずっと、ゼロのまま)

しかし、その考えをやはり打ち砕くのは彼女の小さき使い魔だった。

「ふざけんなっ!!」
「……何だね?」
 ムサシは激昂した。
貴族がどうのではない、ムサシは感情を抑えきれなかった。
目の前の男は、自分と共に修行をし、変わりたいと願うルイズを愚弄したのだ。

「あいつが貴族の恥だって!?冗談じゃねえ、おいらから見りゃ、立派な貴族ってのはルイズのほうさ!!」
「ほう、君が貴族を語るのか!?面白い!せいぜい主人の肩を持つがいい!」
 ムサシが思い浮かべたのは自分を召喚した二人の貴族。
どちらもその高潔な魂はを汚すはいけないとムサシに行動させた。

「あいつはお前なんかよりずっと真剣に貴族をやってらい!馬鹿にするっていうなら、許さねえ!!」
 自分のことで真剣に怒っている。
そんなムサシを見て、ルイズは居ても立ってもいられない。

「ムサシ、やめなさい!」
「ルイズ!」
「……だいたい聞いてたから。馬鹿にされるなんて、いつものことだから……いいから。
 ……だから、ギーシュに謝んなさい、怪我するだけよ」
 ルイズは静かに言い放つ。
確かに悔しかった、唇をぎゅっと噛み締める。
だが、この優しくて、まっすぐな使い魔を、今は傷つけたくなかった。
ドットとは言えメイジのギーシュに眼をつけられては、どうなるか。
自分一人傷つけばいいと、ルイズは悲しみを堪えてムサシを制した。
その顔を見て、囃し立てていた連中も、ギーシュでさえも押し黙る。
もっとも、ギーシュはここまで来た手前今更引き下がりそうもなかったが。
しかし、ムサシはルイズの制する手を、ゆっくりと払う。

「うっせえ!!決闘だ!!ルイズに謝れ!!」
27名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 22:06:29 ID:kn3l2lPZ
決闘支援
28BRAVEMAGEルイズ伝:2010/05/01(土) 22:10:54 ID:45Y9Kdq+
以上で本日の投下は終了です。
決闘を申込む仕事が始まるかと思ったギーシュには悪かった。
今回はこっちから申込むんだ。すまない。
次回はムサシの大好き決闘です。ここを面白くするのがムサシファンだと思います。不安です。
思えばフィーレ姫はツンデレなのかもしれない。なんか違う気もするけど。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/01(土) 22:18:37 ID:kn3l2lPZ
乙です
ムサシの台詞が脳内再生されるから困る
クリア後のムサシと決闘とか……ギーシュ哀れ
30代理:2010/05/01(土) 22:40:06 ID:kn3l2lPZ
573  :疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6:2010/05 /01(土) 22:32:09 ID:iP6R0ne.
    >>1、無重力の人、ムサシの人乙です。
    原作六巻が発売されたので記念といってはなんですが
    幕間を投下したいと思います。
    幕間なんでいつもの四分の一以下と短いですが。
    問題なければ22:40から投下します。

    と行きたいところでしたが、見事に規制です。HAHAHA。
    もはや常連のような感じですが今回もどなたか代理投下お願いいたします。
31代理:2010/05/01(土) 22:41:34 ID:kn3l2lPZ
幕間 ――ある少女の渇望

 驚いた。
 少女はただ、親友である少女に付き合ってここに来ただけだ。決闘にも騒動にも大した興味も無かった。
 だが。
「紹介するわ、これが私の『使い魔』よ」
『ゼロ』と呼ばれた少女の『使い魔』。
『彼女』はあっという間にワルキューレとの距離を詰め、破壊した。
 目で追うのがやっとの凄まじいスピード。青銅のゴーレムを容易く砕いたパワー。
 彼女はその力を振るって、次々とゴーレムを破壊していく。

――あんな『力』が欲しい。

 少女は優れたメイジだ。風と水のトライアングルクラスで、実戦経験も豊富。
 それでも足りない。
 力が足りない。だから憧れる。種類を問わず、善悪を問わず、強大な力を。
 それがあれば、守れた人がいた。それさえあれば、守れた大切な人がいた。
 これ以上、大切な人が傷つかない為に力が必要だ。
 そして復習を遂げる為に。少女の大切な人を傷つけた報いを受けさせる為に。
32代理:2010/05/01(土) 22:44:16 ID:kn3l2lPZ
 彼女が何かを『錬金』で作り出し、『使い魔』に取り付ける。
 次の瞬間、彼女の『使い魔』が青い火を噴出し、何かを打ち出す。
 ジャベリン。打ち出されたそれは、あっという間にゴーレムの形を変える。
 空気が震えるほどの轟音の中に立つ彼女は紛れも無い『強者』だ。
 もしも、もしも少女にもあれほどの力があれば、大切な人を守れただろうか。
 決闘は終わりだ。どう足掻いても結末は変わらないだろう。
 彼女は勝ち、彼は負けた。それだけだ。
 そのはずなのに、結末は少女が想像していたものと少し違ったものになった。

「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い!
だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ! それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う?
『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」
  驚いた。彼女は今まで『ゼロ』と呼ばれ蔑まれていた。そして今は力を手に入れたのに、彼女はそれに溺れることなく、誇り高かった。

「僕は・・・・・・僕は誰かを守れる貴族になりたい。手に届く範囲なんてことは言わない。大切な全てを守る、そんな貴族を僕は目指そう」
 彼女の問いかけに、決闘の相手である彼はそう答えた。まるで誓いを立てる騎士のような姿だ。

――彼女たちはどうしてあそこまで誇り高く在れるのだろう。

 少女にはわからなかった。少女はただ今まで生きる為に幾度の戦いを生き抜いてきた。
 不意を打ち、騙して生きてきた。そうするしか、なかった。
 ふと、見下ろした本は赤い色に染まって見えた。
 もちろん、錯覚だ。本は汚れてなどいない。
 でも、あの赤は、血の色だ。何度も見たその色は間違えようがない。

――ああ、力が欲しい。
33代理:2010/05/01(土) 22:45:58 ID:kn3l2lPZ
>>32のルイズの台詞は長すぎたので勝手な判断で改行しました。申し訳ありません。


576  :疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6:2010/05 /01(土) 22:39:04 ID:iP6R0ne.
    と、ここまで終了です。
    今回は原作の雰囲気重視でかなり短めになっています。
    幕間なんで一章とするには抵抗があり、ということで
    とりあえずスレの盛り上げにでもなればいいかなと。

    以上です。アトガキはいつもの通り代理してくださる方の裁量で。
    今回は私自身少々短すぎると思っていますので
    ここに書き込んだものの投下するかも代理の方にお任せいたします。
    GW中にスレが過疎りそうになったら暇つぶしにでもどうぞ。
    投下されませんでしたら、次回まとめて投下しますので。
34ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/05/02(日) 15:39:36 ID:zSdbgzbR
皆さんこんにちは、98話投下準備完了しましたので進路よろしいでしょうか。
今回はクライマックスが近いのでいつもより少々長めです。
10分おきまして問題なければ15:50より開始いたします。
 第98話
 本当のウルトラタッチ
 
 ウルトラマンメビウス
 ウルトラマンヒカリ
 彗星怪獣 ドラコ
 吸電怪獣 エレドータス 登場!
 
 
「ウルトラマンが三人がかりで敵わないなんて、なんて化け物なの!?」
 空高くまで舞い上がった戦塵で髪と頬を薄黒く染めて、キュルケの叫びが
シルフィードの背の上から恐ろしげに響く。
 ウルトラマンA、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリの三人は今、たった
一体の怪獣によって窮地に陥れられていた。その怪獣の名は彗星怪獣ドラコ、
かつて初代ウルトラマンの時代にレッドキングやギガスと戦い、怪獣酋長
ジェロニモンによって蘇生して科学特捜隊に倒されたことでも知られる。
だが、いずれも別の怪獣や人間の手によって倒され、強豪というイメージとは
程遠いが、ガディバのもたらした生体改造と大量のマイナスエネルギーの
投与はヤプールにも予想外だった超強化を、この怪獣にもたらした。
 
「光線技が、跳ね返されるっ!」
「ナイトビームブレードでも切れないとは……」
「以前のドラゴリーのときと同じだ……マイナスエネルギーが付加された怪獣は、
元よりもはるかに強化される」
 
 パワーアップしたドラコは、体格が巨大になり、容姿が昆虫然とした凶悪な
ものになっただけではなく、そのポテンシャル全体が比較にならないほど
強化されていた。腕力、瞬発力に優れているのはもちろんのこと、得意武器の
両手の鎌はグドンの皮膚すらやすやすと切り裂くほどに鋭く研ぎ澄まされている。
 しかし、それらに加えて何よりも恐ろしかったのが、防御力の超強化であった。
ウルトラマン三人の格闘技が効かないのはもちろんのこと、メビュームシュートの
ような光線技、ウルトラスラッシュのようなカッター光線、さらにはナイトビーム
ブレードの斬撃をもってしても傷一つつけることができない。この、まさに不死身と
いっていい能力を得たドラコには、残存エネルギーの全てを与えたヤプールも
大満足した。
「ふははは! まさか、あの怪獣にこれほどの素質が隠されていたとは、
とんだ拾い物だが、これで貴様らの最後は決まったな。ウルトラ兄弟、
そこで死んでいけ! ウワッハッハッハ!」
 もはや勝利は疑いなしと、満足の哄笑を残してヤプールは次元の裂け目に消えていく。
 ドラコは、ウルトラマン三人の必殺技をなんなく受けきり、悠々と鎌で反撃を
していく悪夢のような光景には、空から見守るGUYSクルーたちも戦慄を
禁じえない。
「テッペイ、あいつの体はいったいどうなってるんだ!?」
「全身が、リフレクト星人の誘電体多層膜ミラーのような、光線の吸収性の
ない物質に変わってる上に、強度はキングジョーのペダニウム装甲並です。
つまり……」
「つまりなんだ?」
「つまり、僕らの兵器はもちろん、ウルトラマンの必殺技もほとんど通用しなく
なっちゃったってことです」
 その結論は、リュウをもってしても平然と受け入れるというものではなかった。
光線も、打撃もどちらに対しても完全無欠、むろんウルトラ兄弟のパワーを
集結させたメビウスインフィニティーのコスモミラクルアタッククラスの
超々破壊力をもってすれば話は別かもしれないが、今いるのは三人だけで、
これにガンフェニックスのパワーをあわせたところで到底及ばない。
「何か弱点はねえのか?」
「フェニックスネストに分析を依頼してますが、はたして間に合うかどうか……」
 そのころ、ガンフェニックスからデータを送られたフェニックスネストでは、
ゲートが閉じる時間が間近に迫る中、コノミやカナタがうろたえるばかりで
役に立たないでいるトリヤマ補佐官の見ている前で、大急ぎでドラコの
外骨格に弱点がないかと分析していたが、いくらGUYSのスーパー
コンピューターを使っても、残り少ない時間で間に合うかどうか。
 そして、GUYSと同様にドラコの頭抜けた強化に悪寒が止まらないでいる
才人は、戦いに何の関与もできずにいる自分の無力さに、握ったこぶしに
汗をためながら見守り続けていた。
「エース……ルイズ、頑張れ……頑張れよ」
 三人のカラータイマーの点滅が響く中で、ただ一匹ドラコの勝ち誇った
遠吠えだけが響き渡る。
 
 だが、相手がいくら強かろうとひざを屈するわけにはいかない。自分たちの
後ろにはルイズたちの母校、トリステイン魔法学院がある。この国の、ひいては
この世界の未来をになうべき若者たちの明日を育てる、この大切な学び舎を、
壊させるわけには絶対いかなかった。
「テヤッ!」
「ヌゥン!」
 一人ずつではだめならと、メビウスとヒカリが同時にドラコの右腕と左腕に
掴みかかり、組み付いて動きを封じようとする。
「くっ、すごい力だ!」
「だが、エース今だ!」
 六〇メートルの今のドラコの巨体の前にはウルトラマンさえ小さく見える。
両側から押さえ込んだメビウスとヒカリを、それぞれ腕一本の力で押し返そうと
するドラコは、細かな牙をいっぱいに生やした口を横に開いて、甲高い声で
空気を揺さぶって正面に立つエースを威嚇してきて、そのバッタを捕食するときの
カマキリのようなドラコの口の奥から垂れる唾液を見て、ルイズは思わず雷に
怯える幼児のように無意識に訴えかける恐怖感に襲われた。
(……ひっ!)
 自分に向けられてくる圧倒的な敵意と悪意に、ルイズの心は氷結してしまった
かのごとく熱を失っていく。いや、いつもならば相手がどんなに強大であろうと、
臆することはなかった。なぜなら、いつでも襲い掛かってくる恐怖や悪意から、
神の盾のように守ってくれた頼もしい人がいたから……なのに、自分はそれが
失われた後のことなんかを……
(怖いか?)
(こ、怖くなんてないもの!)
 今のルイズには、案じてくれているエースの声もとがめるようにしか聞こえずに、
虚勢を張ることしかできず、その怯えがまたエースの力をそいでいく。けれども、
メビウスとヒカリの作ってくれたチャンスを無駄にするわけにはいかない。
 しかし打撃、光線、斬撃もだめ……ならば!
『エースブレード!』
 ウルトラ念力で構成した剣を握り締めたエースは、切り裂くのではなく、
切っ先をドラコの腹に向けて構えた。
「テェーイ!」
 刃物を使用した攻撃で、もっとも殺傷力の高いのは斬撃ではなく刺突だ。
いくら強固な外骨格を誇るとて、その力を一点に集中するのであれば、
鉄板をアイスピックの一撃で貫けるように貫通も不可能ではないものと
エースは判断したのだ。しかし!
 
「そんなっ!? エースの剣が、折れた」
 
 なんと、ウルトラ念力で作られた、この世のあらゆる刃物よりも鋭いはずの
エースブレードがドラコの外骨格にはじき返されたばかりではなく、柄元から
乾いた金属音を立てて真っ二つにへし折れてしまったのだ。
 まったく無傷のドラコは、メビウスとヒカリを振り払うと、巨体からは想像しがたい
俊敏さでエースに突進し、体当たりだけで大きく弾き飛ばして学院の城壁に
叩きつけてしまった。
「グッ、ォォォッ!」
 崩れた瓦礫の中になかばうずめられながら、エースは起き上がることさえ
できずにもだえる。そこへ、ドラコは鎌を殺人鬼がナイフを舌なめずりして
もてあそぶように振り回しながら、とどめを刺そうと近づく。
「エース兄さん!」
「いかん、今のエースにはあれは避けられん!」
 グドンの皮膚をもたやすく切り裂いた今のドラコの鎌ならば、ウルトラマンの
体でも無事で済むとは思えない。メビウスとヒカリはドラコに後方から
メビュームスラッシュとブレードスラッシュを撃ち込み、気を逸らして方向
転換させることに成功したが、両腕の鎌を使って二刀流で挑んでくるドラコは
まるで全身を鎧で固めた宮本武蔵も同然で、二人がかりでもまるで太刀打ち
することができない。
 それに、かろうじて難を逃れたと思っていたエースにも、次の脅威が迫っていた。
瓦礫を押しのけて起き上がろうとするエースに突然襲い掛かる圧迫感、それが
もう一度瓦礫の上にエースを押し付け、打ちのめしていく。
「ウォォッ!」
 まるで体の上で大岩がダンスしているようなこの感触、間違いない。それに
気づいたキュルケとタバサがエースの上に攻撃を仕掛けると、案の定透明化を
解除してエレドータスが姿を現した。
「あいつ、逃げたんじゃなかったのね!」
 ドラコに恐れをなして、尻に帆かけて逃げ出していたはずのエレドータスが
戻ってきたことにキュルケとタバサだけでなく、シルフィードも強い憤りを覚えた。
奴は二人のウルトラマンが助けに入れないことをいいことに、抵抗力が衰えた
エースにのしかかるだけでなく、口から吐く電撃光線で追い討ちをかけていく。
相手が強ければ逃げ出すくせに、自分より弱いと見れば喜んで襲い掛かっていく、
しかもこそこそと姿を消してふいまでうって、人間に例えるまでもなく、こういう
ことをするやつを好きである理由は一欠けらもなかった。
「お姉さま! あんな卑怯者、やっつけちゃってなのね!」
「シルフィードの言うとおりよ。あいつだけは、生かしておけないわ」
 タバサも一度だけうなずくと、シルフィードとキュルケに即席で考えた作戦を
指示して、自らも精神を集中して呪文の詠唱を始めた。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース……」
 『氷嵐』、現在のタバサが使える最強のトライアングルスペルが、彼女の膨大な
魔力を得て節くれだった杖に集中していき、さらにキュルケも可能な限りの
熱量を集中させた『炎弾』を構築していく。
 だが、普通に放てばハルケギニア最強の幻獣であるドラゴンにさえ致命傷を
与えられるであろう二人の魔法でも、相手は生物の常識を超えた存在である
怪獣である。ケムラー、スコーピス、ガギら強敵と渡り合ってきたタバサには、
これでもたいしたダメージはいかないものと予想していた。かといって、数で
勝負しようにも、時間をかければこちらが奴の破壊光線にやられる。
 ならば、勝負は一撃でかけるしかない。
「お姉さま、いくのね!」
 奴の目の死角から急接近していくシルフィードの背から、まずキュルケが先手をとった。
「炎よ!」
 発射された火炎は流星のように尾を引いてエレドータスに向かう。しかし、相手は
全身を強固な甲羅に覆った亀の怪獣、胴体を狙ったところで意味は無い。キュルケの
炎は亀の最大の急所である首筋にまとわりつくと勢いよく燃え上がった。
「やった! これであいつはもう首を引っ込められないのね!」
 亀型怪獣のやっかいなところは甲羅の中に頭と手足を引っ込めると鉄壁の
ガードとなって一切の攻撃が効かなくなることだが、首筋に炎のネックレスを
あしらわれたエレドータスはその熱さのあまりに首を甲羅に戻せないでいる。
「今がチャンスよ! タバサ、頼んだわよ!」
 キュルケの激励を受けて、タバサは首筋を焼く炎を振り払おうとして、悲鳴を
あげながら頭を振り回しているエレドータスが、ひときわ大きい叫び声をあげた
その瞬間、巨大な口の中に渾身の『アイス・ストーム』を叩き込んだ! すると、
極低温の吹雪が口内で荒れ狂い、エレドータスの唾液から、口内の薄い皮膚の
下の毛細血管の水分も一瞬にして凍りつかせ、それらは細胞を破壊する無数の
槍となってエレドータスを一瞬にして凍死に追い込んだのだ。
「やったやった! さすがお姉さまなのね!」
「やった……すごいわ、タバサ!」
 地面に崩れ落ちて完全に絶命したエレドータスを見下ろして、シルフィードと
キュルケは躍り上がるようにして喜んだ。
「見事よタバサ、けど硬い体を避けて体内を直接狙うなんて、よく思いついたわね」
「たまたま気づいた」
 そう、タバサの立てた作戦とは、体の外からの攻撃に強いのならば、逆に体内から
攻撃すればいいというものであった。これまでの戦いから、『烈風』カリンほどの
超攻撃力をいまだもてない自分が、怪獣と戦うにはどうすればよいかと考えた結果、
行き着いた答えがこれであった。
 ようやく起き上がったエースの眼前を通り過ぎて、シルフィードはまた舞い上がっていく。
(すごい友だちだな)
(ええ、認めたくないけど、キュルケたちは強いわ)
 手を振りながら飛び去っていったキュルケたちに、エースが惜しみない賞賛を
送るのに、ルイズも認めざるを得ないというふうに答えた。
 はじめは、ハルケギニアの人間は怪獣に対して軍隊をもってしてもまったく
なすすべはなく、累々と死山血河を築き上げるだけであったのに、努力を重ねて
かつて初代ウルトラマンを苦しめた怪獣ザラガスを独力で撃破するまでに
短期間で成長し、今でもヤプールをはじめとする侵略者と戦い続けている。
もしも、彼らの奮闘がなければウルトラマンAだけではヤプールの侵攻は
防ぎきれなかったに違いない。それは、ハルケギニアも地球も変わりなく、
強大な悪意に対抗し、守るべきものを守るためならば人は限りなく進化を
続けていく。
(我々も、負けてはられないぞ)
(ええ、サイトに……みっともないところは見せられないもの)
 自分だけが、ずっと同じところにとどまっているわけにはいかないと、ルイズは
からっぽの心に風を吹き込むように、キュルケたちからもらった一欠けらの闘志を
燃え上がらせ、その心を受け取ったエースは力を振り絞って立ち上がり、
メビウスとヒカリを相手に暴虐を振るうドラコに立ち向かっていく。
「デャアッ!」
 ドラコの背中から飛び掛り、翼を掴んで引っこ抜こうとするが、スチールより
硬くてビニールより薄くて柔軟なドラコの翼も、同様にパワーアップされていて、
奴が軽く羽ばたかせただけでエースは振り払われてしまった。
「エース兄さん、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ。しかし、このままでは我らの力を結集したとしても、奴には勝てない」
「ああ、何か弱点を見つけなければ……」
 ウルトラマン三人と、ガンフェニックスの総攻撃を受けてもいまだドラコには
かすり傷一つつけられていない。それほどに、ドラコの全身をくまなく覆った
外骨格の強度は並はずれで、カラータイマーを鳴らす三人とは裏腹に、奴は
疲れたそぶりさえ見せていない。
 けれど、この世に存在するものに完全無欠などということは絶対にない。
金城鉄壁を誇る外骨格に唯一存在したアキレス腱を、フェニックスネストで
必死の努力で分析していたコノミたちがついに見つけ出したのだ。
「リュウさん、わかりました。ドラコの右肩の頂上部に、わずかですが亀裂が
あります!」
「なにっ!? そうか、奴が強化する前にメビウスにつけられた刀傷が残ってたのか。
なら、そこを攻撃すればいいんだな」
 ギリシャ神話の英雄アキレスは、冥府の不死身の川の水を全身に浴びたときに
かかとだけが隠されて浴びそこない、そこを射抜かれて倒されてしまったというが、
ドラコにとってはメビウスから受けた深手が、ガディバの生体再構築をもってしても
再生しきれず、場所は違うがアキレスのかかととなったらしい。
 ただ、ドラコの弱点は右の肩だということはわかったが、それには大変な
難題がいっしょについていた。
「はい……ですけど」
 なんとコノミから伝えられた結果は、そのドラコの外骨格の唯一の亀裂は、ほんの
一〇センチに満たない小ささで、それも時間が経つにつれて徐々に小さくなって
いっているというのだ。
「一〇センチだって、そんなもんカラスの足跡みたいなもんじゃねえか!」
 口で言えば簡単だが、相手は全長六〇メートルの巨大怪獣であり、しかも
当たり前のことではあるが、動き回るために照準は一定することはない。
いくらガンフェニックスの性能をもってしても、そこまでの超精密ピンポイント射撃は
不可能だ。
 期待が大きかっただけに、それに対する落胆もまた彼らを打ちのめしたが、
それでも勝率ゼロが、一パーセントにも二パーセントにもなったのは事実である。
「行くぞ、ドラコの弱点は……右の、肩だ!」
「はい!」
「おうっ!」
 エースを先頭に、三人のウルトラマンはドラコの唯一の急所をめがけて飛び掛っていく。
 エースのパンチが、メビュームブレードが、ナイトビームブレードがドラコの右肩
のみを狙って何度も攻撃を仕掛けては、そのたびにハエを払うように無造作に
弾き飛ばされる。
「なんて強いやつなんだっ!」
 むろん、ガンウィンガー、ガンローダー、ガンブースターの三機もチャンスが
あるたびに射撃を繰り返すが、的が小さすぎるためにいくら撃ってもヒットを
得ることができないでいる。メテオールも、今回ばかりはブリンガーファンも
スパイラルウォールも役には立たないし、唯一効果がありそうなスペシウム弾頭弾は
昨日の戦いで使い果たしてそのままなので、残念ながら使えない。
 そのとき、才人は時間ばかりが無意味に過ぎていく絶望的な状況で、これまで
戦いをどうすることもできずに見守り続けていたが、ついにたまりかねて意見を
口にした。
「ガンローダーの機動性なら、ギリギリまで接近して攻撃できるんじゃないですか?」
 確かに、三機中もっとも安定性の高いガンローダーの性能ならば、直接照準が
できる場所まで接近して攻撃できるかもしれなかったが、それは大変な危険も
はらんでいた。
「つまり、ギリギリまで肉薄してゼロ距離射撃に賭けろってことか」
「ちょっとあんた! それは危険すぎるわよ」
「マリナの言うとおりだ、下手すれば特攻になっちまうぞ」
 ジョージとマリナの言うとおり、蜂に刺されるとわかっているのに飛んでくる
のを黙っている人間がいないように、奴は暴れて接近しようとするガンローダーを
撃ち落そうとしてくるに違いない。
「す、すいません……素人考えで口をだしちゃって」
「いや、このままじり貧でエネルギーを削られていくよりかは成功率がある。
悪い考えじゃねえかもしれん」
 才人は謝ったがリュウは虎穴にいらずんば虎子を得ず、危険を恐れていては
なにも成し遂げられないと、むしろこの無謀な案に強い興味を示していた。
それに、才人は半年ものあいだこの世界で怪獣や宇宙人を相手にエースを
サポートして戦ってきたのだ、実戦経験という点では万金の価値がある。
 ただし、才人はあくまでも一般人という立場であることを忘れてはならない。
ジョージはその作戦は、可能だとすればガンローダーくらいだが、才人を乗せた
ままで怪獣に肉薄する気かと問うてきたが、才人は決然とリュウより先に答えた。
「おれのことは気にしないでください。だてに怪獣と戦ってきてません! それに、
ウルトラマンたちや、ルイズやキュルケたちも必死に戦ってるのに、おれだけ
何もしないでいるなんて耐えられません」
「そうか、よく言ったぜ。その勇気、あの嬢ちゃんたちに見せてやろうぜ。さあて
一瞬でも、奴の動きを止められれば」
 そうすれば、一撃でけりをつけてやるのにとリュウは才人の案に一筋の
光明を見たような気がした。ともかく、一瞬でも奴の動きが止まれば。
それができるのは、彼らしかいなかった。
 
「リュウ、作戦は決まったようだな。なら、そのチャンスを俺たちが作ってやる」
「僕たちが、全力で奴を押さえつけます。その隙にお願いします」
「恐らく、我々の残りの力では数秒も持つまい。チャンスは一度きりだ、頼むぞ」
 
 ヒカリ、メビウス、エースは活動時間のリミットがすぐそばまで迫っている中で、
最後の希望を人間たちにたくそうと、残された力を振り絞ってドラコに向かっていく。
「テァッ!」
「ヘヤッ!」
 ヒカリがドラコの右腕に、メビウスが左腕に組み付いて、先程と同じように
動きを封じようとし、エースもドラコの首筋にねじ上げるようにするが、奴の
強靭な体は関節技も通じないらしく、三人がかりでもさきほどより消耗した
状態ではドラコのパワーには負けてしまう。
「リュウさん!」
「リュウ、いまだ!」
「G・I・G!」
 ドラコの動きが止まった、仲間が作ってくれたこのチャンスを逃してなるかと
リュウはガンローダーをドラコに向かって急接近させ、照準をオートから
マニュアルに変更し、照準機に映し出されたドラコの右肩にあるという、
外骨格の亀裂を撃とうとトリガーに指をかけた。
 しかし……
 それは、リュウが照準機の中に拡大されたドラコの右肩に、針の穴のように
かすかに見える傷跡を捉えて、意識をトリガーに集中したその一瞬の隙の
ことだった。メビウスとヒカリに両腕を、エースに首根っこを押さえつけられて
動けないでいたドラコの、その昆虫型の赤い複眼だけは接近してくるガンローダーの
姿を克明に捉えていた。奴はガンローダーがなにをしようとしているのかを瞬時に
把握すると、身動きできない状況からも右腕だけを上に向かって振り、
鎌を手先から外して飛ばして、ガンローダーに襲い掛かからせたのである。
「なにっ!?」
 思いもよらぬ攻撃に、リュウはとっさに回避しきることができなかった。回転して
飛んでくるドラコの鎌はガンローダーの左上面をなめるようにすれ違っていくと、
グドンの皮膚をも切り裂いた鋭さでガンローダーの装甲をたやすく切り裂いた。
「うわあっ!」
「ぐあっ!」
 被弾の衝撃で左翼から煙を吹き、コクピットの内部にも激しく火花が散って
リュウと才人に襲い掛かる。
「リュウ!」
「サイト!」
 GUYSクルーやキュルケたちの絶叫が響き、損傷したガンローダーは煙を吹きながら
墜落していく。
「リュウ、機体を立て直せ!」
「ああ、ぐっ! 腕が」
 リュウの利き腕は被弾のショックで負傷し、とても操縦桿を握れる状態では
なくなっていた。このままでは地面に激突して粉々になってしまうだろう。
そのとき、才人は自らも火花で負った火傷をおして操縦桿を手にした。とたんに、
もう二度と使うこともあるまいと思っていたガンダールヴのルーンが輝き、
ガンローダーの操縦方法が頭の中に流れ込んでくる。
「操縦切り替え完了! 上がれぇぇぇっ!」
 渾身の力で操縦桿を引いた才人のルーンの輝きに応えるように、ガンローダーは
地面とほんの数メートルのところで機首を立て直し、地面をはいずるようにして
機体を持ち直させた。しかし、才人の力をもってしてもそこまでが限界で、メビウスと
ヒカリと、エースを弾き飛ばしたドラコは今の投げナイフのように使えるようになった
鎌をさらにガンローダーに向けて投げつけてきた。
「くそぉぉっ!」
 ちょっとでも操作を間違えばすぐ失速してしまう状態で、才人はなんとかドラコの
左腕からの鎌を回避することに成功したが、それすら予測していたらしい右腕からの
鎌は一直線にガンローダーのコクピットに向かって飛んでくる。
 
「サイト!」
「リュウ!」
 
 シルフィードの背から、ガンウィンガーとガンブースターからの仲間たちの声が
響くが、もはやどうしても間に合わず、才人も自分に向かって回転しながら
飛んでくる鎌を振り返って、見つめるしかできない。
”ああ……草刈りで、すっぽ抜けた鎌が飛んでくるのってこんなもんなのかな”
 死神が肩を叩きに来るときまで来ているというのに、才人の脳裏にはそんな
つまらないことしか浮かんでこなかった。ちくしょう、おれは結局最後までみんなに
迷惑かけっぱなしかよ。
 だが、最後の瞬間に才人に届いたのは、死の宣告ではなかった。
 
「サイトーッ!」
「っ!? ルイズ?」
 
 耳にではなく、頭の中に直接響いてきた声は、才人にとって忘れようとしても
忘れられなかった彼女のものに、間違いはなかった。
 そして、眼前に迫った死神の鎌の前に立ちはだかってさえぎった銀色の影。
 
「グアアッ!」
 
 あの瞬間、ただ一人エースだけが驚異的な瞬発力を発揮して、跳ね飛ばされた
状態から起き上がり、ドラコの鎌からその身を盾にして、ガンローダーを守ったのだ。
そう、その身を盾にして。
 
「ウルトラマンA!」
「エース兄さん!」
 
 人間たちと、メビウスの絶叫が響いたときエースはゆっくりと前のめりに倒れた。
その背には、ドラコの鎌が深々と突き刺さっている。ガンローダーの身代わりと
なったエースは、彼らの死を自らを犠牲にして防いだ代わりに、その力を全て
使い果たして、カラータイマーの点滅を消した。
 
「あっ……あああ!」
 
 才人の、皆の見ている前でエースの体が透き通っていき、やがてその巨体が
空気に溶け込むように消滅したとき、そこには草原の上に倒れているルイズの
姿だけが残っていた。
44名無しさん@支援いっぱい:2010/05/02(日) 15:59:42 ID:QuqYglzO
 
「ウルトラマンAが!」
「エネルギーを、使い果たしたんだ……」
 ジョージの、テッペイの悲嘆にあふれた声がガンフェニックスに、さらに
フェニックスネストに流れ、CREW GUYSに絶望が流れる。
「エース兄さん!」
「エース……くっ、おのれえっ!」
 カラータイマーの点滅を早めさせ、息苦しそうにひざを突くメビウスとヒカリも
自分の無力さをなげく。
「ル、ルイズ? な、なんであの子が!」
「まさか……ルイズが」
 キュルケとタバサも、目の前で起きた信じられない出来事に自分の目を疑い、
そして……
 
「ルイズ……ばかやろうが……」
 
 涙で襟元まで濡らしながら、才人はルイズへの感謝と、自らへの怒りで
身を焼いていた。あの瞬間、ウルトラマンAが飛び込んできてくれなかったら、
自分たちは間違いなく死んでいた。けれど、力を失っていたはずのエースが
発揮したにしては信じられない速さ、それを呼び起こしたのはあのときの
ルイズの声に違いない。
「ちっきしょうおっ!」
 ドラコの急所を狙った瞬間、奴の鎌攻撃を、照準に集中していたリュウは
ともかく、自由だった自分は気づくことができたはずだ。もしも半瞬早く気づいて、
リュウに知らせていたら、結果は逆だったかもしれない。結果的に勝利を
逃してエースとルイズに迷惑をかけたのは、おれのせいなんだと、才人は
自分を責めた。
「おい! 悔しがるのはあとにしろ、まだ戦いは終わってねえぞ」
 無理矢理止血して、我を取り戻したリュウが才人を激しく叱咤して、はっとした
才人はどうにかコントロールをある程度回復させたガンローダーを上昇させた。
 
 しかし、残酷なヤプールは倒れ消えたエースに歓喜の声をあげるだけでなく、
勝利と、復讐をより完璧なものにするために、さらに残虐な命令をドラコに下した。
 
「ふっはっはははは! 勝った、とうとう我らはエースを倒したぞ。だが、
まさかそんな小娘に憑依していたとはな! さあ、ゆけ怪獣ドラコよ、その小娘を
踏み潰し、エースに完全にとどめを刺すのだぁーっ!」
 
 異次元からの凶悪な思念波がドラコを動かし、ドラコはヤプールの命令に
従って倒れ伏しているルイズを、その巨体の下敷きにしようと前進を始めた。
「まずいっ!」
「行かせるか! ウィングレッドブラスター!」
 ドラコの意図を悟ったGUYSは阻止しようと正面から攻撃を加えるが、やはり
まったく通用しない。
「ルイズ! 起きるんだ、ルイズーッ!」
 才人の必死の叫びが、喉も枯れんとばかりにコクピットに響く。普通に
考えたら、そんな声が届くはずは無く、二人だけに通じていたテレパシーも
今はない状態では、才人の叫びも無駄でしかなかっただろう。なのに、
奇跡は起こった。
「う、ううん……サイ、ト? ひっ!?」
 ルイズは、すぐそばまで迫ってきていたドラコの巨体を見上げたとき、
奴から明らかな自分に対する悪意と殺意を感じて、全身を貫く寒気に襲われた。
「逃げろぉ! ルイズ」
「サイト? ひっ、ひゃぁぁっ!」
 聞こえるはずのない才人の声に突き動かされたように、ルイズは眼前に
迫ったドラコから逃げ出した。それこそ、泥にまみれて、涙と鼻水を垂れ流して、
無様に、みっともなく。
「助け、たすけてぇぇっ!」
 嬉々として蟻を踏み潰す幼児のように迫り来るドラコから、ルイズは何度も
転びながら、それでもときには四つんばいになりながらも逃げ続けた。
死にたくない、死にたくない、死にたくない! 生への純粋な渇望が、
ひたすらに彼女を突き動かしていた。
「ヘヤァッ!」
「セアッ!」
 メビウスとヒカリが特攻同然で体当たりをかけ、押しとどめようとしても
ドラコは軽々と彼らを退け、一時の時間稼ぎにしかならない。だが、その
わずかな隙をついて、キュルケとタバサがルイズを救い出そうと、シルフィードを
急降下させた。
「ルイズ! 今助けるわ」
「キュルケ、タバサ!」
 そのときのキュルケには、いつものルイズをからかって遊ぶ小悪魔的な
雰囲気は微塵もなく、タバサとともに友達を助けたいという一心のみがあった。
降下するシルフィードからタバサの杖が伸び、ルイズに『レビテーション』を
かける用意に入る。しかし、複眼でシルフィードの姿を捉えたドラコは、
口を大きく開くと、そこから壊れたスピーカーの音を数百倍にしたような
破壊超音波を放ってきた。
「きゃぁぁっ! あ、頭がぁっ!」
「うぁっ! いゃああっ」
「いっ!? ああぐっ!」
 キュルケとタバサは耳を押さえてもだえ、シルフィードも頭を万力で締め上げられる
ような激痛に耐えられずに、きりもみしながら墜落していった。
「やろう、まだこんな隠し技を!」
 宇宙空間でも飛行できるガンフェニックスの各コクピットの中はまだ無事だが、
常人がこれを聞き続けたら聴力を失ってしまうかもしれない。最後の希望が
打ち砕かれたルイズは、耳を押さえて苦しみながら、あと数歩で間違いなく
自分を踏み潰して跡形もなくするであろうドラコの足を、地面にあおむけに倒れて
眺めていた。
「あ……ぅ、た、た」
 あと二歩、ドラコはぼやける風景の中でゆっくりと迫ってくる。舌ももつれて、
悲鳴さえもまともに発音することはできない。なのに、ルイズの心はある一点に
集中して恐ろしいまでに研ぎ澄まされて、確実にやってくる死にあらがうかの
ように、たった一つの言葉を吐き出させた。
 
「助けて、サイトぉ!」
 
 それが、メイジと使い魔につながるという魔法のせいなのかはわからない。
 分離したとはいえ、長期間ウルトラマンAを通じてつながっていたなごりが
あったのかもわからない。
 いや、無粋な詮索をやめて一言でそれを表現するのならば、『奇跡』と、
人は呼ぶだろう。
 
「ルイズーッ!」
 
 はじかれたようにガンローダーの操縦桿を握りなおした才人は、リュウの
静止も聞かずに機体をドラコにめがけて降下させていく。なぜなら、才人は
聞いたのだ、ルイズが助けを呼ぶ声を、ルイズが自分を呼ぶ声を。
 そして、才人はコクピットの下にある黄色いレバーを手に取った。けれど
それを握り締めたとき、一瞬のとまどいが才人の心をよぎった。
”父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん、みんな……”
 才人の家族や地球の友達の顔が脳裏をよぎる。会いたい、会って「ただいま」
と言ってやりたい。しかし、これを引いてしまえば、それはもうかなわない
夢になってしまう。
”でも、ごめん。おれには、どうしても守りたい人ができたんだ!”
 意を決してレバーを引いたとき、ガンローダーの風防が吹き飛び、才人の体が
空中に投げ出される。
「ばっかやろーう!」
 リュウの叫びを背中にわずかに聞いて、空中に飛び出た才人の体は重力に
引かれてまっすぐに舞い降りていく。そう、彼が引いたのはガンローダーの
脱出レバーだった。
 猛烈な風圧が全身を襲い、等加速度直線運動の法則に従って、才人は絶対に
助からない速度にまで加速しながら頭から落ちていく。なのに、背中に背負った
パラシュートを才人は開かない。いや、あえて開かずに、ガンダールヴの力で
計算されて飛び出した彼の体の行く先には地面ではなく黒い壁が聳え立っていて、
そしてパラシュートから、ロープがからんだときにそれを切断するためのナイフを
取り出した才人の左手にルーンが輝き。
「でぇぃやぁぁっ!」
 ナイフは深々と、ドラコの肩にほんの五センチだけ残されていた傷口を貫いていた。
とたんに、激痛が全身を走ってドラコは苦しみだす。当然だ、人間とてつまようじで
刺しただけでも痛い。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 16:05:04 ID:nGH8e8BW
支援
「よくもルイズをやりやがったな、この野郎」
 ガンダールヴで強化された肉体でドラコの肩口にナイフを握り締めてとりついた才人は、
なおも傷口をえぐる。しかし、猛毒を持った蜂の一刺しは大熊を絶命させることもあるが、
才人のそれはまったくの自殺行為でしかなかった。
「あの馬鹿! なんてことを」
「サイト、やめて、逃げて!」
 ジョージとキュルケの悲鳴が響いたとき、まとわり付く害虫に怒りを燃やした
ドラコの鎌が、才人の前に迫っていた。
「えっ……?」
 空中に投げ出されたとき痛みはなかった。ただ、自分の体を妙な無重力感が
包んだかと思ったあとで、目の前が空の青から真っ赤に染まり、その後全身の
骨が砕ける不快な感触が伝わってきたあとで、彼の世界は真っ黒になった。
「サイト……? い、いゃああーっ!」
 引き裂くようなルイズの悲鳴がすべての惨劇を物語っていた。
 ルイズの目の前に落ちてきた才人の体は、両手両足がありえないところから
曲がって、愛用してきたパーカーとズボンの一箇所たりとも、赤く染まっていない
場所はないと見えるほどに、鮮血に彩られていた。
「畜生! おれたちがついていながら」
「なんて……こと」
 GUYSクルーたちや、超音波攻撃からようやく起き上がってきたキュルケたちも、
才人の惨状にがっくりと肩を落とした。彼らからは、二人は小さな人形のようにしか
見えないが、六〇メートルもの高さから転落して助かる人間などいない。
 いない、はずだった。
「ル、イズ……か?」
「はっ? サイト、サイト!」
 わずかに漏れた頼りなげな声を聞き取ったルイズは、才人の手をとって顔を
覗き込んだ。
「お、まえ……そこに、いる、のか?」
「そうよ、わたしはここにいるわ! わかる、聞こえてる?」
 生きている、才人はまだ生きているという喜びにルイズは才人の手を握り締めたが、
才人の手からぬめりとした生暖かい感触が伝わってきて、それがルイズのひじから
袖に達して、白いシャツを真紅に染めていく。
「ああ……お前の、手の、感触だな……けど……わりい、もう、目が見えねえんだ」
「バカ! なんて無茶をするのよ。ああ、血が、血が止まらないっ!」
 無駄とわかっていながら、ルイズはハンカチを取り出し、制服をズタズタの布切れに
しながらも才人の傷口に当てていくが、簡易の包帯は吸血鬼のように才人の血液を
吸い上げるだけで、いっこうにおさまる気配を見せない。
「やだ、やだやだ。止まって、止まってよお!」
 とび色の瞳から涙をこぼれ落ちさせながら、ルイズはこのときほど魔法の力が
ほしいと思ったことはなかった。百万の敵を倒すような、誰よりも速く空を飛ぶような、
黄金を錬金するようなものでなくていい。ただ一つ、才人の傷を治せる魔法があれば、
もう一生魔法なんて使えなくていい。
50名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 16:06:14 ID:7Zb0yIFj
ウルトラ支援
 けれども、もうどんな治療をしても手遅れと悟ったのか、才人は数回血反吐交じりの
せきを吐き出した後で、さっきより弱弱しい声でルイズに語りかけていった。
「もう……いい、それよりも、早く、逃げろ」
「バカッ! あんたをおいて逃げられるわけないじゃない。なんでよ……なんで、
故郷に帰って家族と平和に暮らせるはずだったのに、なんで戻ってくるのよ!」
「そりゃ……お前が心配ばっかり……かける、からだろう。だ、第一……た、
助けてって、言ったのは誰だよ?」
「うう……でも、そのせいであんたは……なんで、なんでここまでするのよ! 
死んだら、死んだら意味ないじゃない!」
 それは、半年前のルイズならば絶対に出てくるはずのない言葉だった。
 才人はルイズが、命の大切さに気づいてくれていたことに、しびれていく
顔の筋肉をわずかに動かして微笑を浮かべたが、あえてそれを否定する
言葉をつむいだ。
「命より、大切なものが……ある、からな」
 するとルイズは涙で顔をずぶぬれにしたままで、烈火のごとく怒った。
「なによそれ! ウルトラマンとの誓い? 平和を守る決意? ばっかじゃないの! 
誇りのために死ぬなんてバカらしいって言ったのはあんたじゃない! 誇りより、
命より大切なものってなによ! 答えなさい、このバカ犬ーっ!」
 そのとき、ふっと才人は悲しげな表情を見せて、ゆっくりと答えた。
「お前が……好きだから」
「えっ!? 今、なんて……」
 思いもかけない才人の言葉に、ルイズの心音が高鳴っていく。
「ルイズ、おれは……お前が好きだ……それじゃ、だめかな?」
「えっ! ええっ!?」
 それが、才人の最後に出した答えだった。
 ルイズが好きだ、だから守りたい。
 どんなにわがままを言われようと、どんなにつらくあたられようと、それでも
守ってやりたいという単純で純粋な願い。
 何もかも捨てても、これだけは手放したくないというどうしようもない思い。
 ただ、その気持ちにはずっと前から気づいていたが、告白する勇気だけが、
この土壇場にくるまで、情けないが湧かなかった。
「サイト、あなた」
「あーあ……とうとう、告っちまった……がっ! で、でも……おかげで、
なんかすっきりしたぜ」
 肺から血と、口の中で折れた歯を混ぜ合わせたものを吐き出す才人の
命が急速に失われていっているのは、誰の目から見ても明らかだったが、
意外にも才人の心はこれまでにないくらい晴れやかだった。
 はじめから、こうしておけばよかった。なんでこんな簡単なことが、いままで
できなかったんだろう。まったく自分はどうしようもない臆病者だ。おかげで、
もう誰にも会えないところに行っちまう。でも、ルイズを助けられたんだから
まあいいか……あと、思い残すことがあるとしたら。
「サイト、サイト……」
 才人は、どう答えていいのかわからずに、顔をぐしゃぐしゃにしながらあたふた
しているルイズの気持ちが、握られた手から伝ってくるのを感じると、心の中で
苦笑しながら、全身を覆う寒気と、急速にやってくる眠気に耐えて口を開いた。
「ルイズ」
「なに? なによ」
「答え……聞かせて、くれねえかな?」
 ルイズの心音が最大規模になるのと同時に、心を押し付けるような圧迫感が
包んでいく。
「そ、それは……」
「なん、だよ……おれにだけ、告らせといて、ずるいぜ……」
 不愉快そうに才人はつぶやいたが、ルイズにとってその言葉は、これまで
絶対に言ってはならない禁忌であった。貴族と平民、メイジと使い魔、
体裁、意地、家名、誇り、ルイズにとって捨て去ることのできない様々な
ものが強固なダムとなってそれを押さえつけ、本当の思いが流れ出すのを
せき止めてきた。
「わたしは、あんたのことを最高の……」
 使い魔だと言おうとしたところで、ルイズははっと気づいた。
「サイト……?」
 今まで荒い息を続けていた才人が、いつの間にか静かになっていた。
「ねえ、サイト……」
 返事はなかった。
「冗談でしょ、ねえ」
 肩を揺さぶると、横向きに転がった才人の口から大量の血が吐き出された。
「あたしをからかってるんでしょ。ねえ、起きてよ、起きなさいよ。ねえ、ねえ、
起きなさいって! 起きなかったら殺すわよ!」
 どんなにルイズが揺り起こそうとしても、もう才人の口から息が吐かれる
ことなかった。そして、涙と血で赤黒く汚れた才人の左手の甲から、
契約の日以来ずっと存在してきたガンダールヴのルーンが、一瞬鈍い
輝きを放って消えたとき、ルイズはその意味を知った。
「ルーンが……そんな」
 使い魔のしるしが消えるとき、それは主人か使い魔か、そのどちらかが
死んだときしかありえない。
「いや……いゃぁーっ! サイトぉーっ!」
 平賀才人は死んだ。
 彼のなきがらを抱いて、ルイズの慟哭が遠く響いても、もう才人の心臓に
鼓動が蘇ることはない。
 しかし、泣き叫ぶルイズにまでも彼のあとを追わせようと、悪魔の手は
残酷にも迫りつつあった。
「ルイズ! 逃げてぇ!」
 キュルケの声がルイズに届いたとき、ルイズの姿は才人ごと暗い影に
覆われた。才人によってルイズの抹殺を妨害されたドラコが、今度こそ
その命を餌食にしようとやってきたのだ。
 巨大な足が頭上に迫り、キュルケの血を吐くような叫びが響くが、もうルイズの
耳には届かない。
「ばか、ばかばかばかサイト……いくらあたしを助けても、あんたが死んだら
意味ないじゃない……あんたのいない世界に、わたしの生きる意味なんて
ないじゃない……だって、だって」
 確実に迫ってくる死など、もうどうでもいい。ようやくわかった。失ってようやく。
 こんなことになるくらいなら、言えばよかった。
 自分は、なんてバカだったのか、誇りや名誉など、才人とてんびんにかける
価値自体、ありはしなかったのに。
 涙といっしょに、自分の中のどろどろしたものが流れ出していくようにルイズは
感じた。もう、ほかのことなどどうでもいい。全部捨ててしまってかまわない。
 そのかわりに、今なら言える。
 才人に伝えたくて、伝えたくて、何度も胸をこがしたあの言葉を。
 もうどうしようもなく手遅れだが、今ならそれが言えた。
 
「わたしも、サイトのことが好きなんだからぁーっ!」
 
 その瞬間、ルイズと才人ごと、ドラコの足がすべてを踏みにじっていった。
 翼を広げ、両腕を広げたドラコの勝利の雄たけびが残酷に学院にこだまする。
「ふっはっはっははは! 勝った、とうとう我らは勝ったのだぁ! 見よ、
人間どもよ、ウルトラ戦士どもよ。ウルトラマンAの死を! さあドラコよ、
あとはメビウスどもと、目障りなものどもにとどめを刺すのだ」
 ヤプールの狂気に満ちた哄笑が、これほど残忍に人々の心を打ちのめした
ことはなかっただろう。メビウスもヒカリも、GUYSも、キュルケたちも、絶望と
悲嘆に打ちのめされていた。
 
 しかし、どんなに絶望の闇の中が深く濃く世界を覆い尽くそうとも、人がいる限り
どん底からでも、希望の光は生れ落ちる。
 
 それに、最初に気づいたのはメビウスだった。ルイズを踏み潰したはずのドラコの
足の下から、木の葉の隙間から木漏れ日が森の中に降り注いでくるように、
はじめは鈍く、やがてだんだんと金色の光があふれ出してくる。
「あの、光は……」
 金色の輝きは、急速に膨れ上がると、まるで足元に太陽が出現したように
ドラコを照らし出し、さらに輝きを増していく。
「これは……いったい!?」
 ドラコもヤプールも、何が起こったのかわからない。
「テッペイ、いったい何が!?」
「わかりません! 分析不能です」
 GUYSのスーパーメカニックをもってしても、解析結果はエラーを出すばかり。
「な、なんなの! なにが起こってるの?」
「わ、わからない」
 キュルケもタバサも、うろたえるしかできない。
 ただ、メビウスとヒカリだけはその輝きに確かな希望を見始めていた。
「メビウス……?」
「はい……あのときと、同じです」
 マイナスエネルギーが人間の心の闇の象徴ならば、この光はそれと
対を成す希望の光、かつてエンペラ星人との決戦のとき、フェニックスブレイブの
奇跡を生み、そして時空を超えた闇との決戦で、超八大戦士に究極の力を
もたらした輝き、それは!
 
「ウルトラ・ターッチ!」
 
 二つの声が一つに重なり、爆発した光芒がドラコを吹き飛ばす。
「なんだっ!」
「ジョージさん、見てください、あれは!」
54ウルトラの代理です:2010/05/02(日) 16:30:30 ID:RonZ+Nt5
579 :ウルトラ5番目の使い魔 第98話 (17/17) ◆213pT8BiCc:2010/05 /02(日) 16:15:56 ID:ra619DWU

 それはたとえるならば、古き星が滅び、新たな星の始まりを祝する超新星爆発。
「ウルトラマン……エース」
「生き返り、やがったのか」
 思いはめぐり、とまどい、やがて答えにいきつく。
「ルイズ」
「サイト……」
 仲間の思いを背に受けて、迷いを断ち切った願いは一つ。
「エース兄さん」
 闇を打ち払い、未来をつかむために、今こそ蘇れ光の戦士!
 
「ショワッチ!」
 
 光よ輝け、闇よ怯えろ!
 心の光と共に、超戦士立つ。
 
『ウルトラマンA・グリッターバージョン!』
 
 
 続く


今週は以上です。強規制の中での支援、どうもありがとうございました。
98話、我ながらよくここまで来たものです。連載期間はちょうどほぼ二年
そろそろ物書きとして少しは自信が持てるようになってきました。
さて、今回のテーマはずばり『告白』です。
原作でいえば6巻のボートのシーンに当たりますが、このときルイズが
きちんとした返事を返してれば、後々ややこしいことにならなかったものを
ってところです。なお、作者は昔同じように好きな子に迷いに迷って告白した結果、
見事に玉砕しました。
もっとも、このウル魔はすでに原作とは完全なパラレルワールドに
当たるので、原作のように二人をくっつけるには、様々な段取りを踏まねば
ならなかったので、話が長くなってしまったことはおわびいたします。
次回は、本当にアルビオン編のエンドです。少し早めですが、これまで
応援してくださった読者の方々、どうもありがとうございました。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 16:31:36 ID:nGH8e8BW
56名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 16:34:28 ID:7Zb0yIFj
ウルトラの人乙
57名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 16:53:26 ID:27EaReqv
というか、何気にエースの正体がバレてるな
58名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 20:39:33 ID:vy6dqHav
ウルトラの人乙
エース兄さん空気読める人やなー
59名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 21:07:34 ID:Kdkjs7CH
ウルトラ乙

まさかのグリッター
60名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 21:28:02 ID:HGLGeIUn
グリッドマンかと勘違いして糠喜びしちまった・・・
61名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 21:50:37 ID:PmNUYxrA
グリッドマン、自分も好きでした。アシストウエポンもカッコよかったなあ。
62名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/02(日) 22:03:49 ID:PmNUYxrA
すいません、乙を忘れてました。というわけでウルトラの人乙。
63名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 04:14:53 ID:3D3BYRuY
遅ればせながらウルトラ乙。ヤプールとクトゥルーのどっちが怨念的に強いか知らんが、
グリタリングシールドにグリッターメタリウム光線なら超強化ドラコにも勝つるw
いや、どうせならむしろ巨大化して欲しいかも?

……この後の二人の距離感が難しいと思うぞw
64ゼロと電流:2010/05/03(月) 13:09:07 ID:ZFHIHFhr
特に差し支えなければ、10分後に投下したいと思います。
65名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 13:12:33 ID:GZ2XTfrI
支援
進路クリーン、投下どうぞ
66ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:19:12 ID:ZFHIHFhr
 港町ラ・ロシェール。
 アルビオンとトリステインを結ぶ港である。街そのものの規模は小さいが、そこはアルビオンとの往来の要衝ということもあり、人の出入りは

非常に盛んで、住人の十倍以上の人間が常にたむろしている。
 治安を預かる者にとっては頭の痛いことだろうが、商売をする者にとってはこれほど嬉しい街もないだろう。ただし平和ならば、という注釈が

つくが。
 今の港町は、アルビオンの争乱を反映してか物騒な雰囲気の男たち……傭兵をはじめとする流れ者、脛に傷持つ者……であふれかえっている状

態だ。
 そのため、街の者にとっても多少の妙な風体はすでに見慣れていると言っていいだろう。『桟橋』の切符売りもその例外ではない。
 だとしても、その夜やってきた男はその中でも飛び抜けて奇妙だった。

「アルビオン行きの船はいつ出る?」
「客かい?」

 品定めするように男を見る。
 見るからに訳ありの格好。
 頭の先から足の先までをマントとフードで隠し、声までが何処かおかしい。確かに聞こえてはいるのだが、何となく声の出所が奇妙なのだ。
 まるで、男の口元ではなく胸元から聞こえてくるように。

「金は?」

 そう尋ねたのも仕方がないだろう。
 男は、無言で厚手の手袋に包まれた掌を開いてみせる。そこには、金貨が数枚。

「二人分だ」
「悪いが、船は出ないよ」
「足りんか?」
「いや、ま、あんたが風石も全部出すってんなら別だろうが」

 時期が悪い。数日後にはアルビオンが最も近づくのだ。その日ならば風石の消費も格段に抑えられるというのに、ノコノコとこの時期に船を出

す馬鹿はいない。

「わかった。また来る」
「宿の当てはあんのかい?」

 それには応えず、男は振り向くと歩いていく。
 全身鎧を着込んでいるようなぎこちない歩き方に、切符売りは首を傾げた。
 騎士か? それにしては従者も連れていないが。
 いや、全身鎧を着た騎士が一人でこんな所を彷徨いているなどと不自然以外の何者でもない。
 そもそも、鎧を着ているのならどうしてその上からマントとフードで隠しているのか。鎧姿よりも目立つではないか。
 肩を竦めるとそれ以上の詮索は止め、切符売りは再び自分の仕事に戻ることにした。男にそれ以上構う義理も理由もない。
67ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:19:58 ID:ZFHIHFhr
男は『桟橋』を出ると、そのまま町中へと歩いていく。そして、街一番の宿屋『女神の杵』亭へと。
 一見してわかる、貴族や金のある平民相手の酒場兼宿屋である。
 その一階の酒場で食事をしていた少女が男の帰りを認めて手をあげる。

「お帰り」

 それはルイズだった。真っ赤なヘルメットを被った姿は、酒場の中で妙に目立っている。

「どうだった?」
「船は出ねえってよ」
「出ないって……あ、そうか」
「なんでぇ、知ってたのかよ」
「忘れていたのよ。月で決まるのよね、確か」
「ああ、『桟橋』の兄ちゃんもそう言ってたわ」
「ご苦労様、デルフ、ザボーガー」
「じゃあ」
「ちょっと待って。それを脱ぐのは部屋に戻ってからよ。どちらにしても、私が脱がせるんだし」
「早くしてくれ、嬢ちゃん。どうもこういうのは好きじゃねえ」
「考えてみれば、貴方、普段は服なんて着ていないものね」
「裸だな。ま、相棒だってそこは同じだと思うぜ。さ、部屋だ部屋」
「ご飯は?」
「いらね。わかってて言ってるだろ、嬢ちゃん」

 食事の間預けていた鍵を受け取ると、ルイズは男の手を引くように階上の部屋へと向かった。
 怪しい風体で喋りが粗野な男と、育ちの良さそうな美少女。
 さらには脱ぐだの脱がせるだの裸だの。
 周りの客の目が微妙に妖しいものになっていたのだが、勿論ルイズは気付いていない。

「美女と野獣に違いない」
「羨ましい」
「いや、でもあの子、飯食いながらなんか兜に手かけてぶつぶつ呟いてたけど」
「うわ」
「ちょっと、可哀想な子?」
「それであの男が騙して連れ回してる?」
「なんと羨ま……いや、けしからん」
「つか、変な者同士のお似合いじゃね?」
68ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:20:51 ID:ZFHIHFhr
それらの視線や呟きを一切無視して部屋に入る二人。
 ルイズは目立つのを避けるために行動しているつもりだったが、はっきり言って裏目である。

「脱がしてくんね?」
「ええ」

 男のフードやマントを脱がせる、というより剥がすルイズ。
 その下から現れたのはザボーガーである。そして、ザボーガーの胸元にくくりつけられているデルフリンガー。
 よく見ると、ザボーガーの頭が少し開いていて、そこからヘリキャットが機体の鼻面を覗かせている。
 ヘリキャットの集音マイクや小型カメラと視覚聴覚を繋いだルイズが、ザボーガーに命令して身体を動かしていたのだ。
 勿論、ザボーガーの口代わりになっていたのはデルフリンガーである。

「しかしなぁ、嬢ちゃん。俺っちは剣なんだが。あんまりこういうのは柄じゃねえ」
「今は剣の出番じゃないもの」
「ま、嬢ちゃんのためって事なんで、相棒も嫌がってなかったけどよ」
「どうでも良いけどさっきから、相棒って誰の事よ」
「ザボーガーに決まってるだろ」
「ザボーガーの気持ちがわかるの?」

 ゴーレムの癖に気持ちなんてあるのか、とはルイズも言わない。
 なんと言っても、ザボーガーは使い魔である。使い魔なのだから、どんな形にせよ心はある。ルイズはそう信じている。

「なんとなくわかる。多分嬢ちゃんがザボーガーの主人で俺の使い手だから、どっかで繋がってんだろ」
「それも、ルーンの力なの?」
「さあ、どうだろねぇ。主がそのまま使い手になってるなんて、初めてだからねぇ」
「じゃあ、他の人はどうだったのよ」
「忘れた」
「あのねぇ……」
「それで、どーすんだ? 船が出るまでは足止めだぞ」
「ザボーガー、さすがに飛べないわよね」
「そりゃあ、無理だろ」
「いいわ、待ちましょう。色々やってみたいこともあるし」

 この機会に、ザボーガーの性能をもう一度検証してみよう、とルイズは決める。
 そのときルイズは気付いていなかった。一階の客の中に、自分と旧知の者がいたことを。
69ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:21:39 ID:ZFHIHFhr
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 これは一体?
 タバサは首を捻った。
 どうして自分は姫殿下に呼ばれているのだろうか?
 横を見るとキュルケ。

「知らないわよ?」

 反対側にはギーシュとモンモランシー。

「僕も知らない」
「私も知らない」

 知らないのについてきているのはどういう事か。
 タバサについていくわけではない、と三人は言う。

「私たちも呼ばれたのよ」
「僕もだ」
「私も」

 タバサは一同を見渡して気付いた。

「ルイズ?」

 頷くキュルケ。

「そうね、どう考えても、この四人の共通点って、ルイズよね」
「いや、僕たちはそれぞれ魔法属性のトップクラスじゃないか。いわば魔法学園の四天王」
「ギーシュはドット」
「う」

 トライアングルのキュルケとタバサは良いとして、ギーシュとモンモランシーはドットである。
 とは言っても、それぞれゴーレム操作と秘薬造りに特化している状態なので、総合的に考えると並みのドットは遙かに超えているのだが。

「やっぱりルイズ絡みかしら」
「今更、あの決闘のことだろうか」
「闘ったのはギーシュ」
「そうね、ギーシュね」
「だからどーして君たちはいつも、僕にばっかり面倒を押しつけるんだね!」
「頑張ってね、ギーシュ」

 それでもモンモランシーに言われると頑張ってしまう自分が、ギーシュは少し恨めしかったりする。
70ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:22:35 ID:ZFHIHFhr
 ギーシュのどことなく嬉しそうでもある溜息を聞きつつ、先頭になっているタバサは学院長室のドアをノックする。

「ミス・タバサとミス・ツェルプストー、ミス・モンモランシじゃな? 入りたまえ」

 ノックだけでわかったのか、それとも予想していたのか。
 しかし、ギーシュは慌てている。

「あの、学院長、僕は」
「男を部屋に誘い入れる趣味など持っておらんわい」
「え」
「早く入ってきなさい。お客様もお待ちかねじゃ」

 お客様? と訝しげな顔になりつつも、四人はドアを開けて中へはいる。
 途端に、直立不動となるギーシュとモンモランシー。
 オスマンの隣で微笑んでいる客の姿に気付き、優雅に礼をするタバサ。一瞬遅れて、キュルケも。

「ここでの私はオールド・オスマンの客人に過ぎません。皆、楽にしなさい。」

 四人が想像もしていなかった第三者アンリエッタはそう言うが、ギーシュとモンモランシーはそうはいかない。
 二人とも、学院内では変わり者に分類されてはいるが、曲がりなりにも、いや、誇り高き生粋のトリステイン貴族なのだ。突然王族を目の前にして、普通でいろと言う方が無茶である。
 それに引き替えキュルケはゲルマニア貴族、タバサはガリア……隠してはいるが王族……貴族である。アンリエッタに対する敬意はあっても畏怖はない。

「これこれ、ミス・モンモランシ、楽にしなさい。そこまで緊張しては却って失礼じゃよ?」

 そしてこの期に及んで勘定に入ってないギーシュ。

「お前さんがたに聞きたいことがあってな」
「姫殿下が、私たちに、ですか?」
「いやいや、儂も聞きたいことがある」
71ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:23:37 ID:ZFHIHFhr
 モンモランシーは少し考え、ある事実を思い出す。

『ルイズは、姫殿下の幼馴染みかもしれない』

 忘れていた。というか、普段考えることなど無かった。
 しかし、トリステインでも屈指の名門ヴァリエール家の娘である。さらに年齢もちょうど良い。
 幼い頃の遊び相手とされていても何の不思議もない。
 そして膨らむモンモランシーの想像。

『ルイズが、姫殿下にあることないことチクった』

 いや、さすがにそれはない。それはないとモンモランシーは自分に言い聞かせる。
 しかし、だ。
 ただでさえモンモランシ家は、現当主であるモンモランシーの父親が代々続いた水精霊との交渉で大ポカをやらかし、睨まれているのだ。
 ここで自分が姫殿下に嫌われようものならば……
 さらに膨らむモンモン想像。 

『私のお友達に何をしてくれたのかしら?』

 何もしてません。私は見てただけです。やったのはギーシュ。唆したのはキュルケです。
 いや、駄目だ。それは駄目。ギーシュが罪に問われてしまう。それは嫌。ギーシュは大切なお友達。
 キュルケはいい。いや、良くはないけれど。最悪、ゲルマニアの貴族なんだからトリステインの王族に嫌われるのは諦めてもらおう。
 うん、それがいい。キュルケに全ての罪を……
 モンモン想像は広がる。

『なんですって、ゲルマニアの成り上がり貴族の分際で。戦争よ、戦争』

 駄目ーーーー。駄目、姫殿下、落ち着いてください。
 戦争はいけません、駄目です。個人的には水の秘薬の価値が上がるので嬉しいですけれど、実家の財産を殖やす機会ですけれど。
 でも、それはそれとしてやっぱり戦は駄目です。
 お願いですから落ち着いてください。
 この場合、落ち着くべきはモンモランシーである。
72ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:24:21 ID:ZFHIHFhr
 それでも、モンモン想像は続く。

『止めなかった貴方達も同罪よ。そっちのチビッ子、貴方は誰? ガリア? ガリアなの!? わかったわ、戦争よ、戦争よぉぉぉ!!』

 大変なことになってしまった。2カ国相手の大戦争が始まってしまう。
 モンモランシーは心から後悔していた。
 こんなことになるなんて……どうして、こんなことに……
 どうして……
 どうして?
 …………?
 よく考えると、まだ何も起きてない。
 顔を上げると、全員が自分を不思議そうに眺めている。

「どうしたんだい、モンモランシー。顔色が悪いようだが」

 ギーシュが心配そうな顔で尋ねていた。

「あ、えっと……」
「良いかね? 三人とも」

 オスマンが一同に尋ねた。相変わらずギーシュは員数外である。

「ミス・ヴァリエールのことなんじゃが」

 はうっ。
 その言葉で、モンモン魂は再び想像へと飛んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
73ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:25:19 ID:ZFHIHFhr
 ワルドはルイズを“見て”いた。
 妙な男と一緒にいるが、あれが例の使い魔たるゴーレムだろうか。
 フーケのゴーレムを手もなく打ち砕いたゴーレムである。警戒が必要だろうが、ワルドとて油断はしていない。
マザリーニの密命によりアルビオン探索を請け負ったのは、自分からそのように仕向けようとしていたとはいえ、やはり幸運だった。
 命じられることがなければ、立案し志願するか、あるいはトリステインとの縁切りを予定より早めなければならなかっただろう。
本当に自分は運が良い。これも、自ら選んだ正しき行いへの祝福か。
 ルイズの存在はそこに付け加えられたさらなる幸運、ちょっとしたボーナスのようなものだ。
 使い魔などは二の次でいい。
 どれほど強力な使い魔だろうが、ルイズの真の力が目覚めればそれどころの騒ぎではないのだから。
 そして、その力は自分が使う。ルイズには、いや、トリステインの貴族の娘には勿体ない力だ。
 ルイズならば、自分の言うことを聞くだろう。それが叶わないとしても、聞かせることはできるだろう。
 なに、最悪の場合は身動きできない状態にしてしまえばいい。
 足を失えば勝手に身動きはできまい。
 手を失えば抵抗はできまい。
 呪文の詠唱さえできればいい。杖はどうにでもなる。喉と舌さえあればいい。
 自由意思など、時間と手間さえかければいくらでも変えられる。

 ワルドの目に映っているのは、ルイズという名の少女ではなかった。
 ワルドの目に映っているのは、ルイズと呼ばれる魔法装置に過ぎない。
74ゼロと電流第11話:2010/05/03(月) 13:26:16 ID:ZFHIHFhr
以上、第十一話でした。
最初の投下、また改行ミスってしまいました、失礼。

ウチのワルドは真っ黒ワルド。
75名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 13:30:16 ID:KCJgZpxD


だめだこのモンモン早く何とかしないと
76ゼロと電流:2010/05/03(月) 13:31:42 ID:hi88EpBm
すいません。ID変わっているかも知れませんが。

>>69
 これは一体?
 タバサは首を捻った。
 どうして自分は姫殿下に呼ばれているのだろうか?
 横を見るとキュルケ。

は、

 これは一体?
 タバサは首を捻った。
 どうして自分は学院長に呼ばれているのだろうか?
 横を見るとキュルケ。

のミスです。
77名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 16:08:41 ID:zsnoei3E
電流の人、乙です。
十話から一気に読みましたけど、かっこいいアンリエッタが好きなのですっきり楽しめました。
なんか、モンモランシーがあばばばば状態になってますが、とりあえず頑張れ。
あと、「こ・れ・し・か・な・い!」は間違ってもやめとけ。
78名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 18:32:26 ID:cAnRf6XS
>>698
違うな・・・
オレはスーパーベジータだ!!
79名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 18:33:20 ID:cAnRf6XS
>>78
誤爆した
80名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 18:39:48 ID:mn7GmrWT
ベジータ召喚したら敵がいなすぎて欲求不満で地球ごと粉々にされそうだな
81名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 19:05:07 ID:NRoBQGMh
なら弱くして性格もスケベで馬鹿に変えたらええねん
82名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 19:10:46 ID:fx9+VTRz
あいつは厨二病SS御用達だから扱いが難しいぞ・・・・・
一応呼ばれているが絶賛エタ〜中。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 19:13:00 ID:mn7GmrWT
さらに特殊能力をなくして色黒に
84名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 19:16:25 ID:+oDydvXB
不安なうちは、避難所で練習のほうがいいかしら
85萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 20:48:10 ID:ROJh/flJ
こんばんは。
進路クリアなら20:55ごろより第20話を投下したいと思います。
86萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 20:54:59 ID:ROJh/flJ
それではいきます。


「……にわかには信じられませんわね。これは」
 学院長室でテーブルに置かれた砕けた煉瓦を前にして人差し指を額に
当てるエレオノール。その煉瓦はオスマンの言葉を信じなかった彼女に
真実を伝えるもの――厳重な『固定化』と『硬化』が施されていながら
中心を貫く一条の穴から真っ二つになっている。トリステイン王国が誇る
魔法研究の最先端を自負する王立魔法研究所、通称『アカデミー』の
主席研究員であり、そこで土魔法の研究を行っているエレオノールには、
それが常軌を逸する結果としか思えなかった。
「お前さんもアカデミーの主席を務めるならいい加減理解せんかい。
 お前さんの妹が呼び出した使い魔の持っとる銃は、スクウェアメイジが
束になってかかっても防げん。ワシが生徒を傷つけんよう約束させとらん
かったら、決闘をふっかけたミスタ・ロレーヌが蜂の巣になっとるところじゃ。
 ことがことだけに手紙には詳しく書くわけにはいかんかったが、
お前さんの妹の爆発はぐずぐずになったところの最後の一押しでしかないわい」
 そう言って溜息をつくオスマン。いったい何度目だろうか。
ヴァリエール家は決闘を受けて立った側に過ぎず、ルイズも故意に本塔を
破壊したわけではないことは理解してもらえたが、その原因を
エレオノールは頑として認めようとしなかった。

(まぁ、ワシでも実際にあの銃を見とらんかったら信じられんがの。
 しかし、妹は妹で頑強な理想家じゃが、姉も姉じゃったのぉ……
すっかり忘れとったわい)

 オスマンは内心嘆息する。それほどふがくが持つ機関短銃は、この
ハルケギニアにおいてオーバーテクノロジーなのだ。それこそ動作不良を
起こしている『破壊の杖』、そして聖地でまれに見つかる『場違いな
工芸品』が実際に稼働している状態だといえる。オスマンはエレオノールが
変な研究意識を出してふがくの機嫌を損ねないかだけを心配していた。
銃どころかふがくを解体して研究する、などと言い出したが最後、
この国はそこに住む人間ごと瓦礫の山にされかねない。
 そんなオスマンの心境を知ってか知らずか。エレオノールは小さく
溜息をつくと人差し指で眼鏡をついと持ち上げた。
「……とにかく、2、3日で戻ってくるらしい『姫殿下のお願い』で
出払っている妹が戻ってから直接話を聞くことにします。それまでここに
滞在させてもらいたいと思いますが……妹の部屋を使わせてもらっても?」
「まぁ、ミス・ヴァリエールの部屋はお前さんにとっては懐かしい部屋
じゃろうがの。
 姫殿下が使っていた貴賓室を使うとええじゃろう。今のお前さんは
ラ・ヴァリエール公爵の名代。誰も文句は言わんよ」
「ありがとうございます」
「世話には姫殿下からもご指名を受けたメイドをつけよう。お前さんの
妹とも懇意にしておるからの。暇があれば話を聞いてみるのもええじゃろ」
「おちびと……?」
 オスマンからその話を聞いたエレオノールは驚きの表情を隠せなかった。
彼女の妹、ルイズが平民と親しくするなど、ラ・ヴァリエール領にいた
ときには考えられなかったからだった。


 それから時をさかのぼり、払暁のニューカッスル――

 突如として城に舞い降りた3人に、城内は騒然となった。たちまちルイズたちは
杖を構えるアルビオン兵に取り囲まれ、その騒動は一人の年老いたメイジが
彼女たちの前に姿を現すまで続いた。
87萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 20:56:23 ID:ROJh/flJ
「……トリステイン王国よりの密使、とは貴殿らのことか?」
 ウェールズ皇太子の侍従を務めるパリーと名乗った老メイジは、ルイズの
言葉の真贋を確かめるような視線で3人を見る。
「証拠を!証拠をお見せします。
 ……これは、アンリエッタ姫殿下からお預かりした『水のルビー』です」
 そう言って、ルイズは制服の内ポケットから透き通った水色に輝く
大粒の宝石がついた指輪を取り出す。『水のルビー』を見たパリーの顔が
一変し、ルイズたちを包囲していた兵を直ちに下がらせた。
「戦時故、大変失礼を致しました。大使殿。
 皇太子殿下は現在不在にて、しばしお待ちいただくことになります。
ささ、こちらへ」
 礼を失したことを詫びるように深々と頭を下げるパリー。パリーに
案内されるまま歩を進めるルイズとギーシュ。しかし、ふがくがさっきの
騒動の最中から全く動かないことにルイズがようやく気づく。
「……ふがく?」
「……全部躱したと思っていたんだけど……一発掠ってたみたいね」
 ふがくがそう言うと、かしゃんと乾いた音を立てて金の額飾りが石の
床に落ちる。頬を伝う赤いオイル。がくりと膝をつくふがくに、ルイズたち
のみならずパリーたちも騒然となった。
「水メイジを!急ぐのだ!」


「……それで?大使殿は今どうしている?」
「大使殿を運んできた『フガク』というガーゴイルの側に。
 いやはや。人間そっくりなガーゴイルでして。『癒し』の魔法がある
程度は効果を及ぼしたようで出血……と言えばよいのでしょうか?
とにかく損傷も回復しつつあるようです」
 ニューカッスル城郭直下の秘密洞窟港より城内へ続く通路の途上。
侍従のパリーからウェールズ皇太子が不在中の状況について説明を受ける。
パリーの話から、東の空で自身が見たあの不可思議な流星群がその
『フガク』であると確信したウェールズ皇太子は、アンリエッタ姫からの
密書を携えたルイズたちについて考えを巡らす。
「トリステイン魔法学院からラ・ロシェール上空を経由してニューカッスルまでを
一晩で飛ぶ人間そっくりなガーゴイル、か。大使殿は確かにラ・ヴァリエール
公爵家の者だと?」
「はい。それにグラモン元帥のご子息も。密書の内容は殿下にお会いした
ときに明かす、とのことで」
「分かった。すぐに会おう」


「……もう大丈夫だって!掠ったのだってちょっと油断してただけだし!」
 頭に包帯を巻かれ強制的に椅子に座らされたふがくが抗議の声を上げる。
なお、翼は治療を受ける際に外している。オイルの流出自体は自動漏洩
防止装置の働きですぐに止まったが、ルイズたちにはほぼ同時にかけられた
治癒魔法の効果だと思われていた。
「し、心配したんだからね!いきなり血を流して膝をつくから……椅子
じゃなくてしばらく横になってなさい!」
「だからそんな必要ないってば!」
 言い合う二人。そんな二人に挟まれておたおたするしかないギーシュも、
ノックの後に部屋に入ってきた二人の人物の姿に気づかなかった。
「これはまた元気なことだな」
 唐突に聞こえたその声に背を向けていたルイズが振り返る。そこには
短銃を収めた革製のホルスターと長剣としての機能を併せ持った杖を佩き、
青を基調に金ボタンと金糸で飾られたアルビオン空軍の士官服を着た
金髪の青年と、先ほどの老メイジ、パリーがいた。
88萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 20:57:48 ID:ROJh/flJ
「遠路はるばるようこそ。ノックはしたが気づかなかったようでね。
入らせてもらった」
 そう言ってさわやかに笑う青年。整った顔立ちに青い瞳が涼風のような
印象を与える。ルイズは一瞬誰かと思ったが、今ここに来るべき人間に
思い当たって小さくあっと声を上げた。
「勝手に入った非礼を詫びよう。
 私は……アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……と言っても
本国艦隊はすでに戦列艦『イーグル』号しか存在しない、無力な艦隊
だがね。まぁ、その肩書きよりこちらの方が通りがいいだろう」
 そこまで言って、青年は一度言葉を切る。そして威風堂々、名乗った。
「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」
 ギーシュは口をあんぐりと開けた。ふがくは礼を失しない程度に興味
深そうに皇太子を見つめる。
 ウェールズ皇太子は、にっこりと魅力的な笑みを浮かべると、
ルイズたちに席を勧めた。
「改めて、アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向き伺おうか」
 唐突のことに心の準備ができていなかったルイズ。しかし、すぐに
気を取り直して制服の胸ポケットからアンリエッタ姫の手紙を取り出すと、
恭しくウェールズ皇太子に近づき、一礼をして手紙を手渡した。
 ウェールズ皇太子は、愛しそうにその手紙を見つめると、封蝋に接吻する。
それから慎重に封を開き、中の便箋を取り出して読み始めた。
 ウェールズ皇太子はしばし真剣な顔で手紙を読み、そのうちに顔を上げた。
「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」
「そ……そのとおりです。皇太子さま」
 ルイズの肯定の言葉を聞き、再びウェールズ皇太子は手紙に視線を落とす。
最後の一行まで読み終えると、ウェールズ皇太子はルイズたちに微笑んだ。
「了解した。姫は、以前渡した手紙を返して欲しいとこの私に告げている。
 何より大切な、姫からの手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのように
しよう」
 その言葉にルイズの顔が輝いた。
「手紙は私の部屋にある。一緒に来てもらいたい」

 ルイズたちは、ウェールズ皇太子に付き従って城内の彼の居室へと
向かった。城の一番高い天守の一角にあるウェールズ皇太子の居室は、
敗走する現状を反映してか、王子の部屋とは思えない質素な部屋だった。
 飾りの一つもない木製の粗末なベッドに、古ぼけた椅子と机が一組。
壁に飾られた、戦の様子を描いたタペストリーが、ほぼ唯一の装飾品とも
いえた部屋――それはルイズたちに『戦に負けるということ』の事実を
何よりも雄弁に語りかけている。
 ウェールズ皇太子は椅子に腰掛けると、古ぼけた机の引き出しを開いた。
そこに入っていたのは、この場には似つかわしくないとも思える宝石が
ちりばめられた小箱。ウェールズ皇太子は首にかけられたネックレスを
外し、小さな鍵になっているその先端部を小箱の鍵穴に差し込んだ。
 開かれた蓋の内側には、アンリエッタ姫の肖像画が描かれている。
今よりも少女らしさが残るその絵をルイズたちが覗き込んでいることに
気づいたウェールズ皇太子は、はにかんで言う。
「宝箱でね」
 箱の中には一通の手紙が入っていた。それがアンリエッタ姫のもので
あるらしい。ウェールズ皇太子はそれを取りだし、愛しそうに接吻する。
「アンリエッタ……」
 ルイズはその様子に胸が痛くなる。果たしてそれを受け取って良いもの
なのだろうか……いや、アンリエッタ姫があの密書に記したことは、
もっと他にあったのではないか?ルイズの思いをよそに、ウェールズ
皇太子は手紙をルイズに手渡す。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 20:57:58 ID:rxkqP7y6
支援
90萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 20:59:13 ID:ROJh/flJ
「さ……これが以前姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」
 ルイズは深々と頭を下げると、その手紙を受け取る。

(すごいボロボロ。何度も読まれたのね……)

 トリステイン王家の百合の紋章が記されたその封筒は、何度も折り
返された上質な紙が傷み丁重に扱わないと破れてしまいそうだ。手紙を
丁寧に制服の内ポケットにしまい込んだルイズに、ウェールズ皇太子は
優しく語りかける。
「明日の朝、非戦闘員を乗せた『イーグル』号がここを出港する。それに
乗ってトリステインへ帰りなさい」
「あの、殿下……。王軍に勝ち目はないのですか?」
 ルイズは躊躇うように問うた。至極あっさりとウェールズ皇太子は答える。
「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もあり得ない。
 我々にできることは……はてさて、勇敢な死に様を連中に見せること
だけだな。討ち死にするときには真っ先に死ぬつもりだよ」
 はたでやりとりを見ていたふがくは溜息をついた。もはや抵抗ですら
なく、塗りつぶされるだけの最悪の玉砕戦。万歳突撃を敢行する指揮官で
あるウェールズ皇太子にいささかも取り乱した風がないのは、すでに
覚悟を決めているということ。非戦闘員にも玉砕を命じないだけ立派ね
……そう考えるふがくの横で、ルイズが深々と頭を垂れて一礼する。
言いたいことがあるらしい。
「畏れながら申し上げます!
 何故……負けと分かっているのに戦うのですか!?
 姫様の手紙には亡命してほしいと書かれているはず。姫様がご自分の
愛した人を見捨てるわけがございません!」
 ウェールズ皇太子は微笑んだ。ルイズが言いたいことを察したからだ。
「きみは……従妹のアンリエッタと、この私が恋仲……だと?」
 ルイズは頷く。
「そう想像いたしました。とんだご無礼を、お許し下さい」
 ウェールズ皇太子は額に手を当て、言おうか言うまいか、少し悩んだ
仕草をする。そして……静かに言った。
「愛し合っていた。そう。あの手紙はきみが想像しているとおりのものさ。
 確かにアンリエッタが手紙で知らせてきたように、この恋文がゲルマニアの
皇室に渡っては、まずいことになる。なにせ、彼女は始祖ブリミルの名に
おいて、永久の愛を私に誓っているのだからね。
 知ってのとおり、始祖に誓う愛は、婚姻の際の誓いでなければならない。
この手紙が白日の下にさらされたならば、彼女は重婚の罪を犯すことに
なってしまうだろう。ゲルマニアの皇帝からは、重婚を犯した姫との婚約は
取り消され、同盟相成らず……
 トリステインは一国にて、あの恐るべき貴族派に立ち向かわなければ
なるまい」
 ウェールズ皇太子は窓から外を見る。そこに見えるのはニューカッスル城と
大方の疎開も終わり人気の絶えた城下の街、そしてそれらを取り囲む城郭と、
そのすべてを包囲する叛徒の軍――だが、ルイズにはその向こうに
ウェールズ皇太子が別な姿を見ていると確信していた。
「……だが問題ないよ。始祖ブリミルの名において、永久の愛を私に
誓ったのはずいぶん前のこと。
 そう。昔の話さ」
「殿下、亡命なされませ!トリステインに亡命なされませ!」
 熱っぽい口調でウェールズ皇太子にそう言ったルイズ。そこにギーシュが
よってきて、すっとルイズの肩に手を置く。しかし、ルイズの剣幕は
収まらない。その様子に、ウェールズ皇太子は笑いながら言った。
91萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 21:00:41 ID:ROJh/flJ
「――それはできんよ。
 それに、そのようなことは、一行も書かれていない。
 私は王族だ。嘘はつかぬ。姫と、私の名誉に誓って言うが、ただの
一行たりとも、私に亡命を勧めるような文句は書かれていない。
 そして、アンリエッタは王女だ。自分の都合を、国の大事に優先させる
わけがない」
 その口調には苦しみがにじみ出ている。その口ぶりから、ルイズの
指摘が当たっていたことがうかがえた。ウェールズ皇太子は、そっと
ルイズの肩を叩く。
「きみは、正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。正直で、まっすぐで、
いい目をしている。
 一つ忠告しよう。そのように正直では大使は務まらぬよ。しっかり
しなさい」
 ウェールズ皇太子は微笑んでいる。白い歯がこぼれる、さわやかで
魅力的な笑み――アンリエッタ姫が心奪われた笑みだった。
「しかしながら、亡国への大使としては適任かもしれぬ。明日にも滅ぶ
政府は誰より正直だからね。何故なら、もはや名誉以外に守るものが
ないのだから」
 それから机の上に置かれた、ある意味ここには不似合いなほど精巧に
作られた水が張られた盆の上に載った針を見つめる。形からそれは時計
であるとふがくにも分かった。
「そろそろパーティの時間だ。きみたちは、我らが王国が迎える最後の
客だ。是非とも出席してほしい。
 さあ、広間へ案内しよう」
 そう言って扉を開けるウェールズ皇太子。だが、ルイズは一瞬ふがくに
目を向けた後、きっぱりと言った。
「……叛徒を退ければ、亡命していただけますか?」
「ルイズ?」
 ギーシュがそう口にするやいなや、ルイズは今度はしっかりとふがくに
向かい合う。
「ふがく、命令……」
「却下」
「な、どうして!」
 命令を途中で却下したふがくに憤るルイズ。だが、ふがくはそれには
お構いなしに言い切る。
「アンタね、ここで私たちが武力介入したらどうなると思っているの?
それも分からないの?」
「そうだよ、ルイズ。僕たちは、ここにいないことになっている人間なんだ。
まさかラ・ヴァリエールやグラモンの旗をここで掲げるわけにはいかないんだよ?」
 ギーシュもふがくと同様に、ルイズが何を言いたいのか理解していた。
 確かにふがくならば、5万の敵兵を焼き払うこともできるだろう。
だが、それは同時にトリステイン王国のアルビオン王国内乱への介入を
世間に知らしめることにもなる。ニューカッスルを包囲する軍勢が貴族派
――『レコン・キスタ』の全勢力であるはずがない。そして、それは
ゲルマニアとの同盟を果たさぬまま、トリステイン一国での宣戦布告に
他ならないのだ。しかし、それでもルイズは食い下がる。
「なら……すべて焼き払えばいいじゃない!敵兵も、あの艦隊も!報告
すらできないように!
 ふがく!」
 そう言ってルイズはふがくの千早の袖にしがみつく。顔を伏せ、その
声は涙混じりになっている。ふがくもルイズの言いたいことは分からない
でもない。だが、それでも実行してはならない命令はあるのだ。ふがくが
それを告げようとしたとき、扉の方から別の声がした。
「いいんじゃない?それ。私も手伝ってあ・げ・る」
 ルイズが振り返る。その視線の先には……
「ル、ルーデル!?」
 そこには――鋼の翼を背負い漆黒の軍服に身を包んだドイツの鋼の
乙女、急降下爆撃機Ju-87スツーカのルーデルが、にこやかに手を振っていた。
92萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/03(月) 21:03:10 ID:ROJh/flJ
以上です。
最後の晩餐まで入れてしまうと長すぎたので、もうちょっと膨らませて
次回に、ということにしました。
ウェールズ皇太子の格好はアニメ版をベースにコミック版と小説版を
加えた感じに……というか、小説版に生きてる頃の挿絵がなかったから
なんですけどね。

それでは。次回もなるべく早めに書き上げたいと思います。

P.S.
>>84
テンプレに違反してなければここでいいと思いますよ。
93五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:09:06 ID:rxkqP7y6
乙です

ルイズ殲滅発言キタコレ
ルイズの言葉でレコンがヤバい

>>84
自分なんて書いても書いても自信がつかないんだぜ
むしろ書くほどに自分の筆力の無さを思い知る
というわけで15分頃に投下しますよ。
明日書く、明日書く、と思い早一月。
94五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:15:01 ID:rxkqP7y6
  第9夜
  久しぶりだね


 オスマン、マルモ、ルイズは大通りを避け、人の少ない脇道を通って魔法衛士隊本部に向かう。
 三人が魔法衛士隊本部に駆け込んだとき、中のロビーにはテーブルで四人程の男が雑談していた。
身に付けているマントに幻獣の刺繍が見えることから、魔法衛士隊の隊員であることが伺えた。
「おや! オールド・オスマン。なんの御用ですかな」
 そのうちの一人が椅子から立ち上がって入り口の三人に声をかける。刺繍の模様から、グリフォン隊隊員だった。
 トリステインの貴族でオスマンの名を知らぬ者はいない。トリステイン貴族のほとんどは魔法学院の世話になるからである。
「巨大なワイバーンが出没したため、退治してほしい」
 息を整えたオスマンが簡潔に述べた。ワイバーンという言葉に、隊員たちの空気が変わる。
「ワイバーン、ですか……。場所は?」
「今のところは魔法学院から徒歩で二時間程度の森に潜んでおる。じゃが、いつ学院に飛んでくるともわからん」
「現段階での被害は?」
「森の動物が狩られまくっとるが……いつなんどき人里を襲ってもおかしくはない」
「わかりました。グリフォン隊隊長に報告して参ります。申し訳ありませんが、隊長への報告にもお付き合い願います」
「わかったわい」
「では早速。……ところで、そちらの小さなレディたちは?」
「学院の生徒じゃ。さて、事は一刻を争うんじゃが……」
 オスマンに急かされて隊員は階段を上って消えた。マルモのことを詮索されては堪らない心境である。
「お嬢さん方。こちらにお坐りになられるのはいかがですか?」
 残った三人の隊員がルイズとマルモに声をかけた。皆、グリフォン隊の一員である。二人はその言葉に従うことにした。
 二人がテーブルに着き、五人で一つのテーブルを囲う様子となった。三人の隊員は魔法衛士隊であるからして女には困らないが、
目の前に美少女が二人もいるともなれば話しかけられずにはいられない。
 ちなみに彼らの慧眼は、二人はいずれもマニア向けだが磨けばどんな男も言い寄ってくるようになるレベルだと踏んでいる。
 悟られぬように意気込んでいる彼らであるが、その努力が実ることは果たしてあるのだろうか。

 さて、場面は移ってグリフォン隊隊長の執務室。ここにいるのは先程報告に向かった二人と、それを受ける隊長。
「……以上が現在の状況じゃ」
 オールド・オスマンが言い終えると、隊長は頷いた。
 その隊長はワルド伯爵、フルネームはジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドという。
二十六歳の若さで魔法衛士隊グリフォン隊隊長の座を手にした『風』のスクウェアメイジ。ただしヒゲのせいでおじさんに見える。
「御報告感謝します、オールド・オスマン。それで、今動ける隊員は?」
「マンティコア隊は王宮の警護。ヒポグリフ隊はゲルマニアへ下見。わがグリフォン隊で動けるのは私を含めて四名です」
 三隊からなる魔法衛士隊は、ローテーションで王宮の警護に当たる。これが魔法衛士隊の本懐であり、誇りある任務だ。
 また、ヒポグリフ隊は来たるべきトリステインの王女アンリエッタとゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世の婚姻に向け、
現在ゲルマニアへ出払っている。ゲルマニアにおける警護の主体はヒポグリフ隊、トリステインにおける警護の主体はグリフォン隊
と分担され、今はどの隊も手一杯の状態であり、竜騎士も戦争が起こらない限り出動できない。
「つまりは我が隊が動くしかないというわけか」
 報告の通りであるならば、可及的速やかに解決しなければならない。一般にワイバーンはブレスこそ吐かないものの、
生命力や頑丈さはドラゴン並みである。しかも今回のは成竜よりも大きい個体であり、余計に厄介だ。
「私が行こう」
 驚く隊員を尻目に、ワルド子爵はかけてあった羽帽子を手に取った。
95五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:16:11 ID:rxkqP7y6
 一方、ルイズとマルモに粉かけようとしていた隊員三人は。
 鳶色の瞳に睨まれて無言に徹していた。
 順を追って説明すると、まず隊員の一人が声をかけようとした。マルモに。すかさずルイズが「あ」の音も言わせず封殺した。
殺気で。声をかけようとした男は黙った。そんなルイズに声をかける勇気もなく、他の二人もマルモに声をかけようとするも、
更なる殺気と邪気を感じ取り口を開けなかった。
 ちなみに当のマルモは最近のルイズの感情の起伏にも慣れ、『よくあること』として済ましている。
気持ちが冷めたとかではなく、むしろ数日で不安定なルイズに慣れたことに賞賛を受けるべきであろう。
 そんなこんなで重苦しい空気がロビーに沈滞していたのだが、階段を下りる音が伝わって、皆顔を見上げ、立ち上がった。
「隊長!」
 果たして現れたのは、グリフォンを象った刺繍のマントに身を包み、羽帽子を被ったワルドだった。
その後ろにはオスマンと。隊員が一人
 風のスクウェアであるワルドは音も立てずに歩くこともできるが、普段、特に部下の前ではわざと足音を立てて歩いている。
「諸君、ワイバーン討伐は我がグリフォン隊が行うところとなった」
 階段を下りきったとき、ワルドはそう言い放った。隊員たちは抗議の声を上げそうになったが、婦女子の前であるからして。
「討伐隊は私を含めてここにいるグリフォン隊五名。もちろん隊長は私が務める」
 ワルドはルイズたち三人を無視する形で具体的に話を進めていく。
 そんなワルドを見て、ルイズは落ち込んだ。
 ワルド子爵領とヴァリエール公爵領は隣接しており、ルイズが幼い頃はよく顔を合わせていたので、
ルイズと現ワルド子爵の親同士が戯れに二人の婚約を決めていた。つまり二人は婚約者同士であるが、現ワルド子爵が
魔法衛士隊に入隊したときを境に二人の連絡はほぼなくなった。せいぜいが儀礼的な手紙を交換する程度であった。
 ルイズはワルドが魔法衛士隊に勤めることは知っていたが、まさか隊長にまで上り詰めていたとは露とも知らず、
大変に驚いたが、そんなワルドが自分に気付かないような態度であるので、落胆したのである。
本当に気付いていないのか、気付いていて無視しているのかはわからないが、輝かしい道を行く婚約者を見て、
己の無力さと矮小さを自然と感じ取り、萎縮した。
 貴族たる者、強くあるべし。
 それこそがルイズの行動原理だ。
 だからこそ、ルイズは面を上げる。マルモの前で、婚約者の前で、人の前で。弱さを見せてはならぬ。それが貴族。
「以上だ、お前たちは装備を整えろ。それと、グリフォンを人数分用意しておけ。準備でき次第出発する。では走れ」
 話し終えると、隊員たちは弾かれたようにロビーから消え去った。即時行動は魔法衛士隊の基本である。
「ワルド様」
「久しぶりだね、ルイズ」
 ワルドの微笑みは、十年前と変わらぬ優しさであった。
「お久しぶりでございます」
「先に挨拶できなくて悪かったね。今は任務が最優先だから」
「承知いたしております」
 ルイズは、貴族らしく礼意を示す。
 オスマンは、ルイズの学院でのじゃじゃ馬っぷりを何度か目の当たりにしているので、貴族の女は怖いもんじゃのう、
と胸中で溜息を吐いた。もちろん己の態度を変える早さは忘れてしまっている。
 マルモは、ルイズの不安を感じ取ってはいたが、ルイズの性格からして人前で慰められるのは厭うと思い、
後で二人っきりのときに慰めるつもりであった。しかし、ルイズの気持ちが収まったのでその必要もなくなったのだが、
ルイズの心を揺さぶった目の前の男に良い感情を抱くのは難しかった。ちなみにマルモは自分もルイズの心を揺さぶっているのに
気付いていなかったりする。思春期の乙女心的な意味で。
96五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:17:04 ID:rxkqP7y6
「まさか、君がここに来るとは思いもよらなかったよ」
「子爵様も……誉れ高き魔法衛士隊隊長への御栄達、まことに……」
「堅苦しい挨拶はやめないか、ルイズ。ここは謁見の場でもパーティの会場でもない。それに、僕と君の仲じゃないか」
 ワルドは貴族たらんと相好を崩さぬ少女に破顔する。自分の爵位を持たないルイズは子爵位のワルドの態度に合わせるしかない。
それをわかっているからこそワルドは自ら身構えずに臨み、ルイズを楽にした。そしてルイズもそれを理解していた。
「彼らを紹介してくれたまえ」
「ええ……学院長のオールド・オスマンと、使い魔のマルモよ」
「……使い魔?」
 ワルドは今一つ飲み込めぬ様子であった。マルモの額に刻まれたルーンを見て、不思議そうな顔をしている。
「マルモは私の使い魔なんです、子爵様」
「なんと……いや、失礼。ミス・マルモ?」
「なに?」
「その格好からして、君はメイジなのかな?」
「私は賢者」
 ワルドの問いに、つっけんどんに答える。普段からして他人を寄せ付けぬような空気を纏うマルモであるが、
寄って来ても自分に害が及ばなければ放っておく性分であり、だからこそ、ワルドに対するこの反応は、
「何かある……」
 と思われるものだった。それは、マルモ自身にもわからぬ。
「賢者? それは二つ名かね?」
「ああ、マルモは東方から来たメイジなの。だから、こっちの言葉には疎くて……」
 混乱していたワルドにルイズは嘘の説明をし、マルモを庇った。ハルケギニアの地図にも表れているように、
東の世界はハルケギニアよりも『広がり』がある。聖地よりも向こうにある、未知の技術と魔法が使われている土地。
それが東の世界ロバ・アル・カリイエなのだ。
「なるほど、そういうことか。しかし、人間を使い魔にするとは……君は類稀なる才能の持ち主だよ、ルイズ!」
 ワルドはルイズを称えるつもりで言ったのだが、ルイズは『類稀なる才能』という言葉に顔を伏せた。
その言葉は散々学院で聞かされてきたのだ。
 類稀なる『ゼロ』の才能。
 そんな揶揄にも慣れ、さらにマルモから勇気を貰ったルイズではあるが、やはり未だに響くものがあった。
「ルイズ」
 だが傷心に染み渡るのは、暗い記憶ばかりではない。従の優しい呼びかけは主の心を癒し、力を与えるのだ。
 ルイズは、周りから見えないように、そっとマルモの手を握る。やはりマルモは私にとって必要なのだと、
それを再認識したゆえの行動。
 マルモは、ルイズの手を握り返す。そうすればルイズが安心するから。ルイズの安心はマルモの安心でもあるのだ。
「……そろそろ隊員たちが戻って来るようだな」
 優れた『風』のメイジであるワルドは、こちらに向かってくる音と空気の流れで悟った。
「もっと語っていたいが、任務を急がなくてはならないのでね。すまない、ルイズ」
「……心配だわ、ワルド。確かにあなたは魔法衛士隊の隊長だけど、あのワイバーンは……」
 ルイズはあの光景が忘れられない。森の獣が食い散らかされ、辺りが死肉で埋め尽くされた、凄惨の一言に尽きるあの光景が。
「心配してくれるのは嬉しいよ、ルイズ。でも、僕はグリフォン隊の隊長だ。幻獣の討伐も今回が初めてじゃない。
それに、うちの隊には腕利きの水メイジがいるんだ。腕の一本や二本が千切れても治せるよ」
「……ええ、そうね。ごめんなさい、ワルド」
 ルイズは丁寧に頭を下げた。一介の学生である自分が魔法衛士隊隊長を心配するなど、侮辱に等しい行為だ。
「いや、こちらこそ、せっかく婚約者が心配してくれているというのに……済まなかったね」
 ちょうどそのとき、隊員たちが用意を整えて来た。
「全員装備完了致しました。いつでも出発できます」
「御苦労」
 隊員たちに声をかけた後、ワルドはルイズたちの方に向き直る。
「魔法衛士隊として、御報告感謝致します。お気をつけてお帰り下さい」
「わかったわい。こちらとしても、早く解決してもらいたいからの」
「今日にも解決しますよ、オールド・オスマン」
 今まで口を挟まずにいたオスマンが応対した。やはりここは年長者である。
 話も短く終わり、グリフォン隊の面々は隊の名が示す通りグリフォンに跨って飛び立っていった。
ルイズたちもマルモのルーラで学院に帰還する。
97五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:19:44 ID:rxkqP7y6
 ルイズたちが学院の正門の前に一瞬で到着すると、オスマンがルイズとマルモの労を労い、
「とにかく今日は授業を休んでもよい」
 との言葉をルイズは頂戴し、オスマンは宝物庫に、ルイズたちは寮の自室に戻った。
 部屋に戻ると、クリオがルイズの胸に飛び込んできた。意外にもクリオはルイズにも懐いているのである。
 クリオをあやしながら、ルイズは口を開いた。
「ねえ……マルモ」
「なに? ルイズ」
「その、えっとね……『銀の竪琴』のことなんだけど」
 いつものルイズはマルモに対してもっとすらすらと言葉を紡げるが、今日のことによる精神的な疲れと、
マルモに対する申し訳なさから躊躇いがちになっている。
「その、わたしたちで取り戻さないかしら」
「……どうして?」
「どうして、って……」
 どうしてか、それを口で表すのはルイズにとって難しかった。
 今、感情や思考が渦巻いている。ワイバーンの恐怖が、ワルドへの心配が、そして……。
「……それは、貴族としての義務よ」
 学院が襲撃され、宝が盗まれた。賊は捕まらず、宝は見つけても幻獣に怯えて人任せ。
 果たしてこれが貴族のあるべき姿なのだろうか。
「マルモ。貴族はね、己の力が及ばずとも心だけは負けてはいけないの。自らを信じることが貴族の心なのよ」
 だからこそ、ルイズはめげずにずっと魔法を獲得しようとした。杖を握ったその日から絶えぬ情熱をたぎらせ、ただ一心に。
 情熱とは狂気であり、狂気とは我侭であり、我侭を貫けることこそが強さだ。
 だからこそルイズは弱いゆえに強い。受難より生まれる情熱が、ルイズを強くさせる。
「わかった」
 マルモは頷いた。
「『銀の竪琴』を取り戻す」
 ルイズの情熱が、マルモの心を動かした。マルモは外からも内の心を感ずることができるのである。
なればこそ、ルイズの情熱がひしひしと感じられ、マルモとしては、抗う理由などない。
 加えて、賊を捕り逃したのは自分のせいだとマルモは思っていた。
「それじゃあマルモ、案内してくれる?」
 マルモが頷くと、二人は厩へ向かった。クリオも、経験値を稼ぐためにマルモが連れて行こうとしたが、
魔法衛士隊に見つかると面倒ということでルイズに止められた。
 ルイズは馬二頭を用意したが、ここで問題が生じた。マルモは馬に乗ったことがないという。
 ルイズが困っていると、マルモは自分が持っていた手綱を放し、ルイズが乗った馬に近づいた。
「マルモ?」
「一緒に乗る」
 そう言って、マルモはルイズの前に横乗りし、馬の鬣を掴み、ルイズの身体に手を回した。
「ママママママママ、マルモ?!」
「こうすれば二人でも行ける」
 騎手の調子はそのまま馬にも影響する。ルイズの興奮は当然馬にも伝わったが、魔物使いのマルモが同乗しているので、
その影響は最小限に止められた。
 ルイズはというと、マルモの不意な行動に鼓動を高めさせていた。
 今、ルイズとマルモの顔の距離は鼻息がかかりそうなくらい近い。これだけ顔を近づけたのは、契約のキス以来だ。
 ルイズは心中嘆息した。
 現在の状況を説明すると、ルイズの腕の中にマルモが坐っており、かつマルモは片腕をルイズの背中に回している。
 つまり、抱き合っている形に近い。
 これがルイズに対してどれ程の破壊力を持っているかは、想像に難くないだろう。
互いの体温が感じられる程接近している状況である。思春期のルイズにとって、かなりの興奮材料といえた。
 だが、今は喜んでばかりもいられないと気を取り直し、ルイズは馬を駆った。ルイズは帰りの際に楽しもう、と思えるからこそ
今は我慢できるのだ。
98五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:20:57 ID:rxkqP7y6
 やがて、馬が走って三十分もしないうちに森に着き、馬を木に繋ぎ止めて二人は森に入った。徒歩で二時間程度であるから、
ルイズが手綱を握り、マルモが乗る馬なら早く着くのも道理である。
 マルモが先導して森の中を進んでいく。マルモは、既にワイバーンの居場所を把握しており、さらにその鋭敏な感覚から、
魔法衛士隊がワイバーンの近くにいることを感じ取っていた。
 さて、その魔法衛士隊であるが、馬よりも速いグリフォンに跨り、グリフォンの感覚と『遠見』の魔法を組み合わせて
マルモたちよりも先にワイバーンの居所を掴んだのはいいものの、どうやって仕留めるかが問題となっていた。
 現在、ワイバーンは森の中の開けた場所に陣取り、ワイバーンは周囲や上空を見渡せる状態である。それは、己の肉体の強さを
知っているからこその構えであった。全長二十メイル超の身体を覆う鱗は岩よりも硬い。
 魔法衛士隊は、そこから五十メイル程離れた所に集まり、相談して、とうとう作戦を決めた。

 まず、隊長のワルドが、自身を分身する『風』のスクウェアスペル『偏在』を用いて本体含め五体に分かれる。
 次に、風の流れを変えて気配を絶ち、ワルドたちと隊員たちがワイバーンを包囲する。
 そして、ワルドたちが高位の攻撃呪文で一斉に攻撃し、続いて隊員たちが『蜘蛛の糸』と呼ばれる魔法で拘束する。
 最後に、身動きの取れなくなったワイバーンにワルドが止めを刺す。

 以上が決定した作戦の内容であり、今まさにそれを実行しようとしていた。ちょうど、マルモたちが森に入った頃である。
「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
 ワルドが『偏在』のスペルを唱え、一体、二体、……と分身していき、本体と合わせて五体になった。
 作戦通りにワルドと隊員でワイバーンを囲む。改めて巨大なワイバーンを目前にして隊員たちに緊張が走った。
王国擁する竜騎士のドラゴンの中にも、これ程の巨体はいない。
 だが、ワルドは気負った様子もなく、ルーンを紡いでいく。さすがに場数を踏んでいた。
 すると、ワイバーンの周りの空気が冷えていく。それを感じ取ったワイバーンは周囲を警戒するが、遅かった。
 雷鳴が轟き、五方から伸びた稲妻がワイバーンの全身を捕らえる。
 『ライトニング・クラウド』。電撃を以って敵を殺す、『風』系統の上位呪文である。その威力は一撃で人一人の命を奪う。
それを、ワルドは偏在と合わせて五人分の『ライトニング・クラウド』をワイバーンに浴びさせた。
 しかし、これほどの攻撃をしてもなおワイバーンは事切れず、倒れなかった。いくら巨体とはいえ、肉を焼く電撃が
心臓にまで被害が達してもよかった呪文である。これ程までの化け物は、ハルケギニア広しといえども滅多にいない。
 だが、それを想定しての作戦である。隊員たちは間髪入れずに『蜘蛛の糸』をワイバーンに向けて射出した。
この呪文は大型の幻獣を抑えるためによく用いられるため、この規格外のワイバーンに対しても有効と思われた。
 まさに、『蜘蛛の糸』がワイバーンの身にかかろうとしたとき。
 炎のブレスが糸を焼き切った。
 それは、ワイバーンから吐き出されたもの。しかし、ワイバーンはドラゴンと違い、ブレスを吐かない。それが常識であり、
ブレスを吐くワイバーンなど、報告の例がなかった。
 けれども、この規格外の怪物は、どこまでも規格外だった。
 そして、それが隊員たちの思考を一瞬停止させた。
 ワイバーンの怒りに満ちた双眸が人間の姿を捉え、口が開いて炎が見えたときには、隊員の一人はもう逃げられない位置だった。
 呪文を唱えるのも忘れ、その隊員は、目の前の炎にただ見入っていた。死ぬ直前、人は走馬灯のように記憶を辿るという。
この隊員は、今この瞬間まさにその境地にあった。
「バカがっ!!」
 だが、ワルドの『ウィンド・ブレイク』が隊員を吹っ飛ばし、火炎からその身を守った。隊員はそのまま木にぶつかるまで飛び、
頭を打って気絶してしまった。何分、ワルドも威力を調節する余裕がなかったのである。
「全員退避!」
 ワルドの怒声に皆我に帰った隊員たちは、『フライ』を唱えて森の中を逃げる。いかに魔法衛士隊とはいえ、命は惜しい。
死中に活を見出す場は人と人が戦う戦場であって、このような化け物との戦いにおいてではない。
 隊員たちが逃げる中、ワルドはまだワイバーンから逃げ出さずにいた。気絶した一人の隊員のためである。
偏在は四体がワイバーンに立ち向かい、残る本体が隊員の回収に当たった。
99五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:22:02 ID:rxkqP7y6
 それからの偏在の戦いぶりは、見事の一言に尽きる。
 ワイバーンの攻撃を凌ぎつつ、ブレスによる森の延焼を防ぎ、全員が逃げ切れるように時間を稼いだ。
それらの働きは、偏在だからこそ可能であったのだろうが、術者の能力によるところも大きい。ワルドでなければ、
もっと被害が出ていたであろう。
 だが、奮闘も長くは続かず、ワルドは森の中を逃げながら自身の偏在が消えていくのを感じていた。
しかしここまで来れば、グリフォンが待機している場所まであと少しである。
 ワルドはそう思いながら森の中を飛行していると、前方から飛んでくる「何か」を感じた。
 咄嗟に『フライ』を止め、着地して身構える。すると、目の前からやって来たのは何とグリフォン隊のグリフォンたちであった。
その中にはワルドの乗っていたグリフォンも含まれる。
「どういうことだ?!」
 わけがわからずにワルドが混乱していると、あっという間にグリフォンはワルドの横を通り過ぎ、
ワルドが来た方向に向かっていく。すなわち、ワイバーンの方へと。
「一体なぜ…………そうか、『銀の竪琴』か!」
 報告にあった『銀の竪琴』。その効果は、モンスターを呼び寄せるという恐ろしいもの。それを利用してあのワイバーンは
この森で餌を食い散らかしていたという。
 ワルドは、未だ気絶していた隊員を叩き起こし、状況を説明して、二人でグリフォンを追いに森を戻った。
軍用の幻獣は高価であり、たとえワイバーンを討伐したとしても五頭もグリフォンを失ったとあっては損得が釣り合わない。
もしワイバーンを討伐できず、グリフォンが殺されたことになれば、免職の可能性が大きく見えてくる。
 ワルドは全速力の『フライ』でグリフォンの後を追った。グリフォンは馬よりも速い生物であり、全速力の『フライ』でなければ
追い付けない。隊員を引き離す程の『フライ』でワルドは突き進む。
 やがて、グリフォンの後姿を捉えたとき、さらに奥にはワイバーンの姿も確認できた。
 だが、様子がおかしい。グリフォンもワイバーンも。
 慎重にかつ素早く近付くと、グリフォンは眠っていた。そしてワイバーンは倒れ伏し、さらにその前に二人の少女が立っていた。
 ルイズとマルモが、眠るグリフォンと倒れるワイバーンの間に立っていた。
「……ルイズ?」
「子爵様……」
 ルイズが呟いた。

 さて、時を少し戻し、ワイバーンと偏在が戦っていたときから話そう。
 『ウィンド・ブレイク』が炎を散らし、『エア・ニードル』がワイバーンの牙を砕き、しかし奮闘空しく偏在が消えた頃。
 マルモとルイズはワイバーンの近くにまで迫っていた。
「あれ……本当にワイバーンなの? あんな、ブレスを吐くなんて…………」
 ルイズは、ワルドの偏在がブレスで掻き消えていくのを目の当たりにして呆然とした。
 ワイバーンを記述したどの本にも、ワイバーンはドラゴンと違ってブレスを吐かないことが明記されている。それが今覆された。
「それでも……やるしかないのが貴族なのよ」
 思わず杖を握る手に力が入る。
「待って、ルイズ」
「なによマルモ」
 緊張しているルイズに余裕はない。
「『銀の竪琴』が鳴っている」
「え?!」
 そう言われて、ルイズに耳にも『銀の竪琴』のメロディーが耳に入ってきた。
 ワイバーンは器用にも、尾先で弾いていたのである。
「楽器が演奏できるワイバーンなんて! 滅茶苦茶よ!」
 ルイズは知らなかったのだが、『銀の竪琴』は誰が弾いても一定のメロディーを弾き出すことができ、
音楽に心得のない者であったとしても演奏は可能なのだ。
「マルモ、確か『銀の竪琴』ってモンスターを呼び寄せるのよね?」
 マルモは頷く。
「それって、飼育された幻獣やメイジの使い魔もそうなの?」
「おそらく使い魔は大丈夫だけど……」
「『使い魔は』って、それじゃあ……」
 ルイズは嫌な予感がしていた。この森には、ワルド率いるグリフォン隊がいるはずだ。
 そして、その予感は当たった。
 グリフォンが五体、こちらに向かってくるのが見えた。
100五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:25:03 ID:rxkqP7y6
「マルモ、あのグリフォンは多分魔法衛士隊のよ! なんとか殺さずに止めることはできない?!」
 ルイズはグリフォンがワイバーンに敵うとは思っていなかった。このワイバーンに対抗できるグリフォンなど、
このハルケギニアには存在しないであろう。
「ラリホー」
 即座にマルモは杖をグリフォンに向けて催眠呪文ラリホーを唱える。この呪文は必ず効くわけではないが、
耐性のない者に対しては抜群の効果を発揮する。
 幸いにも、グリフォン全五体に効いたようで、皆眠ってしまった。
「やったわ! すごいわ、マルモ!」
 まさか、グリフォン複数体を一度に眠らせてしまうとは。
 これは秘薬でも使わぬ限り並のメイジにはできぬことで、相当な『水』の使い手であれば可能な芸当である。
「まだワイバーンがいる」
 浮かれていたルイズにマルモが釘を刺した。事実、獲物が来ないことを察したワイバーンは、近くのマルモに目を向けていた。
「そ、そうね。やってやるわ!」
 と、ルイズが意気込んだ瞬間、炎のブレスがルイズたちに吐かれる。ワイバーンとの距離は十メイル程あったが、
その間の木はブレスによって炭と化していた。
 炎はルイズたちには達していない。だが、それも時間の問題である。
「この……!」
 すっかり浮き足立ったルイズは呪文を唱えて杖をワイバーンに振るう。恐怖を昂揚に変え、貴族として敵に立ち向かう。
 再びブレスを吐こうとしたワイバーンであったが、口を開いた瞬間、ちょうど爆発が起こった。
 それは、顎の付け根辺りに炸裂し、一時でもワイバーンのブレスを封じるという僥倖をもたらした。
「やった! やったわ! 私の魔法が……!」
 しかしここでルイズの予想もしなかったことに、ワイバーンが怒りに任せてこちらに突進してきたのだ。
 巨体ゆえに、その瞬発力は計り知れない。しかも、今日の戦闘によって溜まった憤怒が、さらに加速させていた。
 あっという間に、彼我の距離は縮まる。ルイズの眼前にワイバーンの顔が占めていた。
 だが、主人の身を守るのが使い魔の役目。
「バギクロス!」
 風の激流が巻き起こった。
 その流れはワイバーンの突進に対して横からであった。
 突撃したワイバーンは、ルイズに触れるか触れないかで横に逸れ、いくつもの木を薙ぎ倒しながらも巨体が吹っ飛んでいく。
 真空呪文最上位呪文バギクロス。その威力は存分に発揮された。
 けれども、さすがは魔法衛士隊でも仕留め切れなかった怪物。マルモの大呪文を以ってしても、一撃では倒れない。
 怒りに狂ったワイバーンは、マルモとルイズを殺し切るまでは鎮まらないであろう。
 ワルドの『ライトニング・クラウド』やマルモのバギクロスを食らってなお、怒りでその身を持たせているのだ。
 しかし、賢者であるマルモは、このワイバーンを前にしても怯むことはない。賢者の呪文は、一匹のモンスターに遅れを取る程
脆弱ではない。神に選ばれし職業である賢者の呪文は、世界を救うためにあるのだ。その強さ推して知るべし。
 再びワイバーンが突進の構えを取ったとき、既にマルモは呪文を紡いでいた。
 ワイバーンが地を蹴り、その巨体がマルモに迫ろうとした瞬間、ワイバーンの身体に異変が起こる。
「ザキ」
 即死呪文ザキ。文字通り、敵を殺すための呪文である。僧侶などは『昇天呪文』と称しているが、時代によっては、
敵の血液を凝固させて死に到らしめる呪文であり、まさに『死の呪文』といえよう。
 その呪文がワイバーンにも効き、ワイバーンは倒れた。マルモにとってはそれだけのことだったが、傍らにいたルイズには
急にワイバーンが倒れただけにしか見えず、逆に混乱が増すばかりである。
 だが、マルモが歩き出したのを見て、堰を切ったように声を出した。
「ちょ、ちょっとマルモ?! 一体どうなったの?! ワイバーンは、どうして倒れたの?!」
「殺した」
 あっさりと答えたマルモに、ルイズは面食らった。
「こ、殺した、って……」
「そういう呪文がある」
 と言って、ザキについて説明した。
「…………」
 呪文の効果を聞いたルイズは、もう何も言えなかった。
 即死呪文。これほどわかりやすい呪文はない。必ずしも効くわけではないらしいが、それでも充分すぎる。
 ルイズは、初めてマルモの魔法に恐怖した。もちろん、マルモがルイズを襲うなどと考えてはいないが、その力は、
味方であっても恐ろしい。
 マルモは、ルイズが自分を見る目に恐怖が混じったことを感じ取った。それはかつて向けられた眼差しに似ている。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 21:44:59 ID:TZZ9QT7e
猿ったなら避難所に代理を出すだろうし、ルイズにでも召喚されたか・・・
羨ましいかは微妙なところだな
102五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:47:39 ID:rxkqP7y6
 しかし、決して同じでもない。
「マルモ」
 鳶色の瞳が、真っ直ぐエメラルドグリーンの瞳を射抜く。
 その声、その目は、マルモを拒絶するものではない。
「わたし、いつもマルモに助けられてばかりだけど、いつか……強くなったら。わたしが、マルモを守るから」
 確かに恐怖はある。けれども、それがマルモの力に対してだったら、わたしも同じくらい強くなればいい。
 それがルイズの結論だった。
「……うん」
 ルイズの新たな決意は、確かにマルモに伝わった。
 死臭の漂う森の中、爽やかであると言い切れない空気ではあるけれど、二人の雰囲気は以前よりも柔らかい。
それは、二人一緒だからこその……。
 と、そこに無粋な闖入者が一人。
「……ルイズ?」
「子爵様……」
 それは、グリフォンを追って戻ってきたワルド子爵だった。
「一体これは……」
「後で説明するわ、ワルド」
 かくして、この騒動は一応の結末を迎える。
 魔法衛士隊の隊員とグリフォンは全員無事。『銀の竪琴』は取り戻され、再び学院に戻ることになった。
 そしてワイバーンはトリステインのアカデミーに回され、研究対象となるようだ。
 ワルドは任務の状況を包み隠さずマザリーニ枢機卿に報告した。
 枢機卿は、先代の王から王国に使える重鎮であり、空位となった現在、実質王国の中心にある人物である。
 ワルドは、魔法衛士隊が無様にも学生に助けられた結果となったことに減俸も覚悟したが、枢機卿は、
ワルドが正直に話したことを称え、王室にはワルドの印象が悪くならないように上啓した。
 オスマンは、ルイズの危険な行動に罰を与えると同時に個人的な褒章を出し、学院の歴史に名を刻むことを約束した。
そして『銀の竪琴』の入手について語りだした。
「三十年前くらいにの、どこの国から来たとも知れぬ行商人が売りつけていきおったんじゃ。装飾も見事だったので、
ワシも買ってしもうたんじゃが、鳴らすとモンスターがうじゃうじゃ来よってのう。壊そうとも思ったんじゃが、こんな珍しい
アイテムは二つとないと思って、宝物庫の中にしまってあったのじゃ」
 だが、マルモの言葉にオスマンはがっかりした。曰く、『銀の竪琴』はある国では定価で売っている。
上級の冒険者ならばすぐに稼げる金額らしい。
 意気消沈したオスマンに、マルモは『銀の竪琴』を譲ってほしいと頼んだ。オスマンも自棄になり、
ミョズニトニルンなら大丈夫だろうと、マルモに譲った。使い道は、当然ルイズの修行である。
 後日、オスマンが宝物庫を点検していると、『眠りの鐘』が目に入り、
「ひょっとして、これを使っていれば最初からワシ一人でも行けたんじゃね?」
 と思ったが、虚しくなるだけだったので、胸の裡に秘めた。
 ミス・ロングビルこと土くれのフーケは正体もばれぬまま、秘書として学院に留まっている。
充分な額の労災が下りたので、次の活動のために学院で潜伏するようだ。労災の半分以上はどこかに送金するらしい。


>>101
すまん電話してた
103五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:49:25 ID:rxkqP7y6
 さて、唐突だが場所は宗教国家ロマリアへと移る。
 この国は都市国家が集まった連合皇国であり、宗教庁のある宗教都市ロマリアが、実質的にこの国の首都である。
 その宗教都市ロマリアの外れで、戦闘が行われていた。
 少年とも、青年とも取れる容姿の男が、魔物と対峙していた。
 その男の容姿は一言で表せば美男子であり、金髪と、『月目』と呼ばれる左右で違う色の目が特徴だ。
 しかし、魔物の方の異形さに、人々がいれば目を向けるであろう。
 その姿は、火竜山脈に住まう極楽鳥に、左右からサラマンダーの首を生やし、胴体はサラマンダーの四肢をくっつけたような、
自然ではありえぬ体躯であった。翼も極楽鳥のものに加え、ドラゴンのような羽も一対ある。
 だが、相対する男には微塵も恐怖がない。男は背中にくくりつけてあった大剣を手に取り、正眼に構える。
 すると、男の左手の甲が、嵌めた白手袋越しに輝き……。
 魔物は、サラマンダーの両首から火炎を吐き出し、男を焼き殺そうとした。
 だがそれよりも早く、男は超人的な速度で魔物の後ろに回り、羽、翼、そして後ろ足の腱を一瞬で斬った。
反応することも適わぬ、まさに神速の業であった。
 叫び声を上げる魔物の三首を完全に斬り落とし、男は戦闘を終了させた。
 死体を埋め、身を清めてから、男は宗教都市ロマリアの中心、ロマリア大聖堂へと足を向ける。門をくぐるときも、
誰もこの男を咎めはしない。なぜなら、この男の主人が、この大聖堂の主だから。
 やがて大聖堂の奥、教皇の室にて、男は腰を着けた。
「ジュリオ」
 それがこの男の名前である。ジュリオ・チェーザレ。かつてロマリアに君臨した大王の名から取って付けられた。
 そして、ジュリオの名前を呼んだのは、教皇聖エイジス三十二世ことヴィットーリオ・セレヴァレ。
その美貌はジュリオにも負けない。まだ青年の年であり、この若さで教皇となったのは異例のことである。
「またですか?」
「まただよ。今度は極楽鳥とサラマンダーのがっちゃん。いい加減にしてほしいね」
 ジュリオは孤児院の出身である。そのため、時々口の悪さが目立つが、この教皇はそれを気にしない。
 ロマリアでは秘密裏に連日モンスターの討伐をしていた。ただのモンスターではない。人の手によって生まれた合成獣キメラだ。
「おそらくは、土の国でしょう」
 ヴィットーリオは穏やかに言った。『土の国』とは、宗教国家ロマリアが北に接する大国ガリアである。
「あそこは以前、キメラの研究に熱心だったと聞いています」
「もう止めたんじゃなかったっけ?」
「おそらく再開したのでしょう」
「理由は?」
「虚無」
 ジュリオの問いに、教皇は調子も変えずに言い切った。
「さしずめ『神の頭脳』か『神の右手』か……」
 そう言って、ジュリオは自身の左手を見る。
「『兄弟』が気になりますか?」
「いや……そうだな、多分。ただ、面倒くさい」
「おや、どうしてです?」
「キメラの処理ぐらい、自分でやってほしいよ。『神の左手』はそんなことのためにあるんじゃない」
「よいではありませんか、これも交流だと思って」
「本気か?」
「ええ」
 微笑む教皇に、ジュリオは溜息を吐いた。
「まったく……ご主人様も困ったものだ」
104名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 21:50:09 ID:TZZ9QT7e
メリーさんとお話してたならしょうがないよね、死ぬか生きるかの状況だもの
                                   しえん
105五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:代理:2010/05/03(月) 21:54:39 ID:TZZ9QT7e
 さて、件のガリアであるが、この国は現在『無能王』ジョゼフ一世が玉座にある。ジョゼフは今年で四十五歳であるが、
それを感じさせぬ美丈夫であり、凛々しい顔からは王族の気品を感じられぬこともない。
 だが、世の貴族からは『簒奪者』とも噂されており、『魔法も使えぬ王』と笑われていた。
 ジョゼフには弟のシャルルがいた。小さい頃から魔法の才がないジョゼフと魔法の才に恵まれたシャルルは比べられ、
王の座を頂くのはシャルルだと思う者も多かった。
 しかし、シャルルは毒矢に射られ死亡。兄であるジョゼフが犯人なのは明らかだったが、誰も逆らわず、
むしろ王が無能ならば好きなようにできると、王臣もジョゼフを支持したのだ。それから数年が経ち、現在に至る。
 そのジョゼフは今、王城ヴェルサルテイル宮殿の中心、青いレンガと薔薇色の大理石で組まれたグラン・トロワの玉座で、
女から報告を受けていた。
 女は王の前だというのに臣下の礼を取らず、傍らに立っている。
「トリステインに飛ばしたフクロウによりますと、ワイバーンが森で暴れていたところを、少女二名が撃退したということです」
「あのワイバーンをか?」
「はい。なんでも、『即死呪文』なるもので仕留めたようです」
「『即死呪文』だと?!」
 ジョゼフは、嬉しそうに叫んだ。
「いやはや、世はまだまだ不思議に溢れているな! そんな呪文があったとは!」
 ジョゼフは何が楽しいのか、大笑いしている。その理由は、ジョゼフ本人もわかるまい。
「それで、その少女二名というのは?」
「一人はトリステイン魔法学院の生徒で、もう一人はその生徒の使い魔です」
「なるほど、なるほど! つまりは俺と一緒か!」
「はい。その使い魔の少女の額には、ルーンが確認できたようです」
 その言葉を聞いてジョゼフはいよいよおかしくなり、腹を抱えて盛大に転げまわった。常人には理解できぬ所作である。
「どういたしました?」
「ハハハハハ! いや、なに、これ程嬉しいことはない。『神の頭脳』! まさかこんなときに現れるとはな。
まるでブリミルが引き合わせているようじゃないか?」
「私は、ブリミル教を信仰しておりませんので」
「おお、そうであったな!」
 女はハルケギニアやアルビオンの出身ではない。聖地の向こう、東の世界からジョゼフに『召喚』されてきた。
名はシェフィールドという。
 そして契約のルーンは、右手の甲に。
 そのルーンは『神の右手』ヴィンダールヴ。あらゆる獣を操り、始祖を導いたという。伝説の使い魔だった。
106五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:代理:2010/05/03(月) 21:57:06 ID:TZZ9QT7e
「それで、その『即死呪文』は虚無の魔法なのか?」
「いえ、それが……。今のところは、使い魔の少女のみが使える魔法です」
「どういうことだ?」
「その少女は、系統魔法とも、先住魔法とも異なる魔法を使い、ワイバーンを殺しました。ですから、虚無ではない可能性も……」
「素晴らしい! まだ未知の魔法があったとはな!! ハッハッハッ!!」
 今回の報告は、ジョゼフの大笑いで幕を閉じた。
「それで、いかがいたしましょう」
「そうだな……。駒を増やそう」
 その言葉に、女の口角が上がる。
 現在ジョゼフが行っているのは合成獣キメラの研究である。ジョゼフが王になる以前は盛んに実験していた貴族がいたらしいが、
失敗してキメラに食われ、研究所もキメラに破壊されてしまったらしい。後に、研究所があった森はキメラで溢れてしまい、
王国の派遣する騎士隊でも手を焼いていたそうな。
 だが、ジョゼフがシェフィールドを召喚し、ヴィンダールヴの力を得てからは、キメラの研究を再開させた。
 ヴィンダールヴの力でキメラを操り、さらにキメラの能力を把握して、効率的に合成しているのだ。
「今度は、『あいつ』を使ってみるか」
「御意」
 ジョゼフが指示したものとは、このハルケギニアの『外』からやって来たというモンスター。
 人語を解し、ヴィンダールヴの力を以って洗いざらい情報を吐かせた。結果、キメラの合成技術が飛躍的に進歩した。
 曰く、自分は『邪配合』と呼ばれる秘法で誕生した。
 曰く、『邪配合』とはモンスターのためにモンスターのみが強くなれる秘法である。
 それらを聞いたジョゼフは、『邪配合』をキメラ研究に取り入れるべく、そのモンスターを研究主任に据えた。
 元々キメラの合成は、ベースとなる獣が付け足す獣を取り入れるような方法を用いていたので、
『邪配合』とは相性がよく、ヴィンダールヴの力もあって、短期間で強力なキメラが誕生した。
 そして今、その研究主任であるモンスターをベースに新たなキメラを作ろうというのである。
「邪神がもたらした『邪配合』……実に素晴らしい。『虚無』よりも余程魅力的だ」
 終始楽しそうな様子のジョゼフであったが、その本心を知ることは、当の本人にもできない。

 また、それから数日が経った頃。
 フクロウからの伝書を受け取るワルドの姿があった。
 それは、現在内乱で争っているアルビオンからのものである。その内容は、深く内乱に関わるものであった。
 その手紙を読んだワルドの顔は、無表情。
 そして脳裏をかすめたのは、婚約者ルイズの顔と、その使い魔であるマルモの存在。
 この伝書が、後のワルドの運命を左右し、ハルケギニアとアルビオンの国家の命運をも左右するものであることは、
今は少数の者しか知らない。



以上です。第一部完! といったところ。もうちょっとだけ続くんじゃ。ちゃっちゃとアルビオン編へ行きたいために、
一話に話を詰め込みました。
主人公最強万歳ご都合主義万歳。

久しぶりに原作読んで時系列を確認してみると、
ルイズとワルドの婚約

ワルド子爵領の相続

魔法衛士隊入隊
っぽいので、多分この順番であっていると思います。

きれいなワルド? いいえ、ふつうのワルドです。やっぱり悪が華! 悪がないと主人公が活躍できないんだよ!
とうとうガリア勢の登場。早めに登場させておかないと、アルビオンで絡ませづらい。
それと、マルモは本当は他人の心に敏感です。原作でもそのせいで流浪します。マルモは自分勝手で優しい娘だから、
ときどき少女漫画に登場しそうな『理想の王子様』っぽくなってしまいます。ルイズ視点で。
この作品ではご都合主義のため時々敏感時々鈍感でいきます。
馬の二人乗りのやり方はこれで正しいのかしら? 初乗りで三時間も乗ったサイトは乗馬の才能あると思う。
銀の竪琴の効果範囲ってどこまでなのかわからないけど、この作品では軍用に訓練された幻獣でも引っかかることにしました。
ごめんね、魔法衛士隊。
あと、一箇所だけ池波正太郎みたいな文体になってて自分で吹いた。
昔剣客商売読んでたなあ。
107名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 22:01:37 ID:TZZ9QT7e
ということで代理終了
作者さん乙です
108もう1レスだけあったんじゃ。:2010/05/03(月) 22:02:56 ID:TZZ9QT7e
595 :五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/03(月) 21:59:03 ID:0yBsv/MU
支援&代理の方、ありがとうございます。
さっき気付いたが、帰りのきゃっきゃうふふが書けてないよ!
これもワルドの仕業か!
109名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 23:24:19 ID:wP0TSkWa
ジュリオって「チェーザレ」じゃなくて「チェザーレ」じゃなかったっけ。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 23:26:52 ID:mn7GmrWT
チュザーレでしょ?
111名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 23:27:34 ID:ROJh/flJ
>>109
ですね。
小説版(参考資料:ゼロの使い魔Perfect Bool)、アニメ版(同:ゼロの使い魔 双月の騎士
コンプリート)ともに『ジュリオ・チェザーレ』でした。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 23:41:21 ID:NqlfuiID
そういやジュリオ・チェザーレって、ユリウス・カエサルとかジュリアス・シーザーとかと同じ名前なんだっけ
113名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/03(月) 23:45:21 ID:ROJh/flJ
五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔さん&代理の方乙でした。
(さっき書き忘れてました申し訳ない)

>>112
なんだっけ、ではなくて同じ名前の読み方違いです。
114五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/05/04(火) 00:56:54 ID:hL9vKzAq
>>109
マジか
すまんかった
115名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 01:03:36 ID:XEi82S5a
>>114
いいよ
気にすんなよ
116名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 03:03:45 ID:fl63gvTL
>>112
まあ同じ人物のことだがスペルは違う
117名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 06:45:15 ID:uXjVvAq8
同じ名前でも、国によってスペルや読みに差異が出てくるってことだな
118名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 07:55:56 ID:1uzO8yA8
平賀才人
ヒラガサイト
ひらがさいと
119名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 08:25:56 ID:AbElKBFW
どっちかというと
Louise
ルイズ(Ruizu)
で比べる方がほうが適切なんじゃね
120名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 12:26:22 ID:gqWk/xkg
有名なのはアレクサンダーとイスカンダルとか
121名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 12:27:09 ID:wSYXxxQC
おにいちゃん
お兄様
以下略
122名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 12:34:05 ID:FZsXuWav
犬!
バカ犬!
犬(はぁと)
123名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 12:37:50 ID:jJ2Vv3jh
あぁ、アレか
相良宗介
ソウスキー・セガール
カシム
みたいなモンか
124名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 13:35:37 ID:1uzO8yA8
ノビータとかハルピンみたいなモンか
125名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 15:15:54 ID:aD70fukN
帰ってきたウルトラマン
新ウルトラマン
ウルトラマン2世
本人も知らないうちにつけられていたウルトラマンジャック
126名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 15:50:58 ID:t7PSFy4s
>>123
カシム、カシムと慣れ慣れしいんだよ!
127名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 16:00:43 ID:ufqIdZ/H
宗介がルイズに召喚されて、
かなめがティファに召喚されたシチュでの再会が見たい
宗介が年頃の女の子と寝食共にしてたと知るかなめの反応的な意味で
128名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 16:15:33 ID:J3gvJGGo
かなめがハルケに呼び出されても科学技術のレベルが違いすぎて
囁かれてもブラックテクノロジーを役に立てることも作ることも出来なくてざまあだな
129名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 16:31:45 ID:Ze0BypO7
てか、かなめは家事、炊事も一通り出来るから
ハルケ来てもなんとかなると思うが。
なんだかんだでチートキャラだし。

ならないのは天然どじっこのテッサの方だと思うが、
軍人としてサバイバルの基礎学んでいれば何とかなるかもしれないけど、
そっち方面は学んでいないような気がする。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 16:34:21 ID:VoiYyQ6J
トリックから上田次郎教授を召喚
できても小ネタか
131名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 16:34:45 ID:aq7vLl1B
>>129
君は原作を読んでいるか、アニメを見ているか

学んでいたとしても役立てられないのがテッサたんだよ!!
水中と指揮官としては有能なんですが・・・陸で生身だと・・・ねぇ
132名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 16:48:46 ID:aD70fukN
そういやサイトも間違えられた名前がどんどん広がっていって、歴史の教科書には日本語名とはぜんぜん違う名前が載るんだろうなあ。
「チーム・シーガルのマッツオさん、イタリアの方ですね」
133名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 17:06:10 ID:RNMKKcTZ
>>130
知識も豊富だし喧嘩も強いから才人よりよっぽど役立つだろうな

でもあいつはやっぱり山田とセットで光ると思う
134名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 17:08:58 ID:VoiYyQ6J
とりあえず合言葉を決めておこう・・・ 貧 と 乳 だ

不思議とこの台詞はルイズとでも違和感がないな
何故だ?
135名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 17:17:10 ID:1uzO8yA8
山田はジョゼフに召喚されて手品に磨きを掛ければいい
そして最終話のエンディングでテファに召喚されるのは勿論あの人
136名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 18:26:28 ID:xE2A64GE
ゴッドマーン!
137名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 18:55:42 ID:xzVXP5H0
>>131
水商売の人だしねぇ……
138名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 19:24:46 ID:IYqhnlYR
>>135
矢部謙三か
139名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/04(火) 21:55:23 ID:1uzO8yA8
矢部さんはスピンオフ作品で歴代の部下と一緒にそれぞれが4人の虚無に召喚されます
140名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/05(水) 00:47:55 ID:sPzQIrVH
ミュズが東大なのは容易に想像できる
141名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/05(水) 00:59:21 ID:29mVD5m1
>>128
ハルケの技術レベルより1世紀ぐらい進んだ物なら何とかなりそうじゃね?
設計や必要な材質の組成が頭に入ってれば錬金を駆使してリボルバーや自動車くらいは……
「囁き」には基礎的な知識も含まれてるようだし
142名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/05(水) 01:12:47 ID:fLQT2ln6
えっ、シャネルズ召喚?
143名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/05(水) 12:38:23 ID:2SVTt6BT
チャイルズ召喚に見えた
144名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/05(水) 15:24:50 ID:L8oE5rfY
ムーンチャイルド召喚?

サンダル:出演拒否&制御不能
メタトロン:無難
暴君:制御不能

暴君呼んだらいつぞや大十字紅朔が呼ばれた時と大体同じようなことになりそう
145名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 09:38:28 ID:wI4NiFuR
また書き込み規制?
146名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 09:57:33 ID:3pxphkWU
え、まじ規制?
147名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 17:17:32 ID:zmiRAeJV
携帯完全規制ほか、PCでも大規模規制発生中
148名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 18:37:03 ID:r0nfmzhv
まじで?
149名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 18:41:31 ID:1oGRlZYX
また規制か…
150名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 22:49:11 ID:nXGXsVVG
いきなり途絶えたと思えばまたか。
151名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/06(木) 23:23:35 ID:RUHvrFM4
代理スレに気づくといいんだが
152名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 00:33:43 ID:eWDfrVvA
チャイルド従えたユナ召喚
153名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 07:38:52 ID:nyWvyvjQ
ユナ?
銀河お嬢様伝説?
154名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 16:54:28 ID:mGQ/CIGV
>>151
代理するやつすら規制喰らってるような状況じゃな。
それに今無理して投下しても、誰からも感想をもらえまい。
155ゼロの女帝:2010/05/07(金) 17:14:13 ID:VQyzCORI
はい、20分頃から投下したいと思うのです
宜しいでましょか?
156ゼロの女帝:2010/05/07(金) 17:22:32 ID:VQyzCORI
いっきまーす


第二十七話


キィン!ガキィン!
刃と刃が打ち鳴らされる。
「はぁっ!」
黒髪の少年が小柄な体に合わぬ大きな剣を一閃させると、また一人ガリア正規兵の鎧を纏った男が倒れ付す。

「悪ィな」
少年はそう一言声をかけると、もう後ろも見ずに次の相手へと挑みかかる。

「とゆーか」
金髪のキザっちぃ少年がゴーレムを兵に挑ませながら少年に語りかける。
「メイジが殆どいないんで助かってるといえば助かってるんだが、この兵の数は一体何なんだ」
「しかたないでしょ」
赤髪の扇情的な雰囲気の少女が炎を放ちつつそれに答える。
「王の勅命で処罰されようってんだから警備も相応でしょ。
 ましてかのオルレアン公の娘さんよ?
 話漏れたら反逆罪覚悟で救い出そうとする貴族がいくら出てくることや らっと」
「そ、それにしてもルイズ!セトに一緒に来てもらえばよかったんじゃないの?」
ギーシュに庇われながらのモンモランシーの言葉にかぶりをふるルイズ。
「その意見は魅力的だけどね。
 いつまでも全てセトにおんぶにだっこ、ってワケにはいかないのよ。ヴァリエール家の娘としては。
 できればあたしとサイトだけでなんとかしたかったんだけどね、って食らりゃ!」

彼女の爆裂魔法で、その部屋にいた最後の兵士が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「よし、次いくぞ」
真っ先に駆け込んだサイトの後を追ったルイズは、彼の背中に顔をぶつける。
「ちょっと、立ち止まら・・・な・・・・・・」
ルイズは見た。
続いてやってきたキュルケ、ギーシュ、モンモランシーにッシルフィ(人型)も見た。
階段に腰掛け、本を読む一人の美青年を。
「来たか、蛮人よ」
「エ・・・・・・エルフ・・・・・・」
それは誰の声だったろうか
自分の声なのか ルイズはそんな風に考える
誰かがゴクリを喉を鳴らした音すら聞こえる静寂の中、場の雰囲気を読もうとしない馬鹿が剣を突きつけ声を上げる。
「なんだよおっさん」
「お・・・おっさん・・・このわたしを・・・・これだから蛮人は」ちとダメージうけたみたいだ
「自己紹介もされてないし名前知らないんだからそう呼ぶしかないだろ」
「・・・・・・・ふむ、道理だ。わが名はビダーシャル。ネフテスの一員だ」
「そっか、わりぃんだけど先急ぐんでな、また後で」
「先を急いでるのなら仕方あるまい、とでもいうと思ったか?」
ぱたり、と本を閉じ、立ち上がるビダーシャル。
「気は進まぬがジョゼフとの契約でな。行かせる訳にはいかん」


157ゼロの女帝:2010/05/07(金) 17:24:14 ID:VQyzCORI

「ぐ・・・ぐうううう」
床にへたり込むギーシュ。
作り出したワルキューレは軒並み解除されてしまい、もう殆ど精神力は残っていない。
キュルケも同じ状態で、戦闘力の無いモンモランシーに支えられてかろうじて立っているのがやっとだ。
シルフィード(人型)が生み出す風の刃もはじき返され、彼女自身を傷付けていた。
しかし、それでもサイトは全力を振り絞ってエルフに、いやその前に張られた障壁に切りかかる。
「もうやめるがよい蛮族の少年よ。お前たちの力ではこの壁は決して破れぬ」
「悔しいがその通りだぜ相棒。こいつぁ『反射』っつーえげつない魔法だ」
「へっ 『蛮族』かよ!するってぇっとアンタらエルフってなぁずいぶん高貴なお方らしいな」
「当然だ。お前たちと違って精霊の声を聞き世界の理を知っている」
「たいしたモンだ!必死で母親を守り続けた女の子の心を消し去るのに手ェ貸すくらい高貴なんだな
 エルフって輩は!」
「私が望んで手を貸しているとでも思っているのか」
「どんな言い訳したところで手ェ貸してるのは事実だよ!精霊だか聖地だか知ったこっちゃねーが
 俺の中ではエルフってなぁ好もうが好むまいがンな非道に手を染めるくそったれって決まったよ!」
「でもサイト、アンタがどんなに強くてもエルフよ!一流のメイジが何人集まっても勝てない相手よ!」
「エルフだろーがメイジだか関係ねぇ!いまあいつの後ろでタバサが助けを求めてるんだ!
 なら俺が引いていい理由は無いね!」
「その通りよ」
キュルケが彼女に生み出せる最大の火球を掲げた掌の上に浮かばせていた。
「やめておくがよい、蛮族の娘よ。その炎はお前自身を焼く事となろう」
「アンタはタバサの、あたしの友達の敵。それで十分よ」
「まて嬢ちゃん!おい相棒、おめぇのご主人様の・・・・・」
デルフリンガーの言葉を待たず放たれた巨大な炎は、鏡に跳ね返されるように正確にキュルケにむかって突き進む。
疲労からサイトも彼女をカバー出来ない。恐怖に立ち尽くすキュルケ。
「「キュルケ!」」
サイトの、そしてルイズの絶叫が響く中、その炎はキュルケを包み込む




事は無かった。
「だめよ、もう少し状況を把握して攻撃しなきゃ」
「セ・・・・・セトぉ」
ぺたりと床に座り込むルイズ。
火球をその扇で受け止めていたのは、神木・瀬戸・樹雷その人だった
「ふむ」
周囲を見回すと、すたすたと歩きとある一点で立ち止まる。
懐から出したのは・・・・
158ゼロの女帝:2010/05/07(金) 17:29:03 ID:VQyzCORI
「カッターナイフだ」
「カッターナイフ?」
「わかり易く言うと耐久度と製作コストを下げた使い捨てナイフだよ。俺の世界じゃ文房具だ」
カッターナイフの刃を床の一点に当てると、そのまままっすぐ上に引いていく。
ある程度の高さまで言ったところでくるりと曲げると、再び床にまで線を伸ばす。
「何やってんの?」
「俺にわかるわけ無いだろ。ただ、おそらくあのくそったれエルフの術を破ってるんだろうな」
やがて刃が床にまで届くと、空中を「押す」そぶりをする瀬戸。
「もういいわよ」
「「「「「「ほへ?」」」」」」
ビダーシャルも含めた皆がボケた声を出す中、サイトが彼女が「線」を引いたところに歩いていく。
「ホントだ。ホントにここだけ通路みたいに穴あいてるぞ」
「ウソ・・・・」
「ど、どうやったのね?」
「ンなことどうでもいいよ。はやくタバサ助けに行くぞ」
「待て!行かす訳にはいか   ぐわしっ!
奥に向かおうとするサイトたちを止めようとしたビダーシャルは、背後から伸びた腕によって頭部を鷲掴みにされる。
「・・・・・・・・?・・・・・・・」
恐る恐る振り向いてみると、そこには先ほど自分の『反射』を破った蛮族の女がにっこりと笑っていた。
「ビダーシャルちゃん、っていったわね」
「貴様ごときに、数百の齢を重ねた私がそのような呼び方をされるいわれは無い」
「ふーん、数百歳・・・・・たったその程度?     いけないわね・・・・・・・・・
 ちょっと・・・・・・・・・・・お話しましょうか」


159ゼロの女帝:2010/05/07(金) 17:29:56 ID:VQyzCORI



タバサは、いやシャルロットは双月を見つめていた。
娘である自分におびえ、恐れ疲れて人形を抱きしめて寝入ってしまった母の頭を撫でながら。
自分もこんな風に心を壊されてしまうのか。
自分を友達と呼んでくれたキュルケや見返りを望む事無く慕ってくれたシルフィードを見て恐れ怯えてしまうのか。
そして・・・・・・・・・・ともに幾多の死線を超え、自分に笑いかけてくれた黒髪の少年を見ても罵ってしまうのか。
せめて、せめてもう一度彼の笑顔が見たい。
そう思っていたら、階下で騒ぎが起きる。
風メイジとして鍛えた耳が、剣戟の響きを捉える。
野盗? 正規兵が守るこの城を襲うとは思えない。
亡き父の味方が自分の窮状を知って助けに来てくれた? それにしては情報も行動も早すぎる。
正解であろう答えは既に見出しているが、その回答を否定する。
この城にはエルフが居る。
叔父に協力するエルフが待ち構えている。
いかに彼でも、先住魔法の使い手に勝てるとは思えない。
だから来ないで欲しい、お願いだから。
ぎゅっと、「イーヴァルディの勇者」の絵本を抱きしめる。
もし来たら   もし「彼」が自分を助けてしまったら   もし自分が「彼」に助けられてしまったら


足音が近づいてくる。
木靴が・・・・・・ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ
裸足が・・・・・・ひとつ
そして奇妙な、ハルケギニアではありえない妙に柔らかい足音がひとつ

聞きなれた音だ。

ああ、「彼」が来てしまった。
もし「彼」に助けられてしまったら    もう彼から離れる事が出来なくなってしまうではないか


ドカン!
部屋の扉が大きく揺れる。

おい、ほんとにここかよ  まちがいないのね、ここからおねえさまのにおいがするのね

ああ、あのこが彼を連れてきてくれたのか
学園に戻ったらお肉をたくさんあげるとしよう
キュルケとあと三人にも礼を言わなければいけない
そして・・・・・・そして

バタン!「大丈夫かタバサ!」
打ち破られた扉から飛び込んできた黒髪が、もう涙で見えない・・・・・・
160ゼロの女帝:2010/05/07(金) 17:33:58 ID:VQyzCORI
はい、ここまでです
ルイズ達の靴がどのようなのかわからなかったので特徴付けるために木靴としました。
ちなみにわたしはサイト×タバサ推進派の一員です
ああ、テファやシエスタもいいなぁ
161萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/07(金) 17:37:05 ID:ay2PVGRJ
乙でした。

どうやら規制を免れたようですので、17:45ごろより『ルイズと霧の淑女』の
代理投下を開始します。
162ルイズと霧の淑女 代理:2010/05/07(金) 17:44:17 ID:ay2PVGRJ
うわ名前欄消してなかった(汗
以下、本文です。


ドーンという春の平和で麗らかな午後に似つかわしくない大爆発の音が響く。
ここはトリステイン魔法学園 只今春の恒例行事である2年生の使い魔召還の儀式の真っ最中だ。
とはいえ大爆発が起こるのはいささか物騒すぎる。
本来使い魔の召還の儀式は安全な物のはずなのだが
「たく!またルイズが失敗したぞ!!」
「ゼロのルイズは大人しく落第してろっての!!」
爆風で巻上げられた埃の中で俯くピンクブロンドの少女
『また失敗だった……私は本当にメイジ失格なのかな…』
魔法成功率ゼロのゼロのルイズの仇名は伊達では無い 一般的な魔法に属する使い魔召喚の魔法ですらこのザマだ。
名門貴族の子女にあるまじき落ちこぼれっぷりある。
幸い怪我人は無かったようだが、どうにも周囲の様子がおかしい。
爆風で巻上げられた埃がいつまで経っても晴れない それどころか湿り気さえ帯びている。
『…霧……?』
いつの間にか発生していた濃霧は学園全体を白い闇に包んでいた。
「おい!あれ…何だ?」
生徒の誰かが声を上げ指をさす、その先には城の様な黒い影 先ほどまで何も無いただの平原だった場所だ。
そう、ルイズが召還の儀式を行うまでは。
『あれはきっと私の呼びかけに応えてくれたもの……行かないと!!』
そう考えるより早くルイズは駆け出していた。
初めて成功した魔法 初めて召喚できた使い魔 早くこの目で見たい その欲求が駆け足以上にルイズの胸の鼓動を早くする。
163ルイズと霧の淑女 代理:2010/05/07(金) 17:45:05 ID:ay2PVGRJ
彼女は困惑の中にいた。
いつもの様に静かな海中で思索に耽っていた彼女は、何者からかの呼び声を感知したことまでは記憶にある。
しかし気が付けばいつの間にかその身体は大地に引き上げられていた。
由々しき問題だ、陸上では移動することすらままならない。
量子通信で先ほど会見の約束をした東洋方面巡航第一艦隊旗艦に呼び掛けるが一切返答は無い。
それどころか彼女たちのデータベースにすらアクセス出来ずにいる。
光学センサーに人類の建造物が映る、そしてそこに住むだろう人間たちも。
『状況を打破する必要がある、か』
彼女はその意識体を身体から分離させ、人類に向かわせる。
何、問題は無い 陸の上にあるとはいえ軍事施設でも無い人類の建造物など彼女の主砲をもってすれば一瞬で原子の塵にできるのだから。
ゆっくりと大地を踏みしめる、初めてだが悪くない感触が足の裏に伝わる。
「あ、あの!!」
いつの間にか近づいていた人類の少女の声には聞き覚えがあった、海中で彼女を呼んだ声だ。
164ルイズと霧の淑女 代理:2010/05/07(金) 17:45:47 ID:ay2PVGRJ
『城じゃなくてフネ?』
巨大な建造物のふもとに辿り着いたルイズはその威容に眼を瞠る。
200メイル以上は確実にある鋼鉄製の巨体に、三連の巨大な砲台を幾つか持つその姿は恐らく軍艦だろう。
こんなにも美しく巨大なフネはハルキゲニア中を探しても絶対に見つからない。
艦首に人影が見える。
「あ、あの!!」
思わず声をかける、振り向いたその顔は女性の物。
『綺麗……』
思わず見とれてしまったのには理由がある。
ルイズには三人の憧れの女性がいた。
凛とした気位とそれを支えるに余りある実力の持ち主の上の姉。
病弱だがどんな人でも包み込む穏やかさと包容力を持つ下の姉。
そして一国の主に相応しい気品とカリスマを併せ持つ、ルイズの親友というには余りに畏れ多い少女。
その三人の女性の長所を目の前の女性は全て併せ持っているかの様に思えたからだ。
ゆっくりと女性が近づいてくる。
純白のシルクの上品なドレスに身を包み、流れる様な栗色の長髪には白いリボンのついたカチューシャ 気品溢れる清楚なその出で立ちは何処かの王族の姫君だろうか。
「貴女が私を呼んだのかしら?」
静かだが良く響く、美しい声がボーっと見とれていたルイズの意識を引き戻す。
「は、はい!!その…私の使い魔になって頂けませんか!!」
『なんて畏れ多いことを言ってしまったのだろう この淑女の機嫌を損ねてしまったら、私は一生後悔してしまう』

静寂が周囲を包む 使い魔になって欲しいと言われた彼女は思索の中にいた。
人類は彼女たちの敵だが、その有用性は認めている。
特にその戦術とカンという不思議な感覚には彼女も興味がある。
裏切り者である401は人類をその身体に乗せ、絶対的な実力差のある大戦艦ヒュウガを沈め、つい先日には重巡洋艦タカオを中破させたのは紛れも無い事実だ。
ならば彼女自身が人類を直接学ぶことは、これからの戦争において非常に有利に働くだろう。
「わかりました 貴女に仕えれば良いのですね?」
165名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 17:46:12 ID:VQyzCORI
直後に良作を投下されては我への感想が無くなるではないか

支援
166ルイズと霧の淑女 代理:2010/05/07(金) 17:47:09 ID:ay2PVGRJ
絶対に無理だと思った もう目を合わせる事も、話す事すら許されないだろう相手の口からでたのは意外にも承諾の言葉。
「は、はい?…はい!はい!!」
喜色がルイズの顔に満ち溢れる。
それは自分の使い魔を手に入れたという事実よりも、この女性とずっと一緒にいられる事のほうがもっと喜ばしいからだ。
緊張で胸の鼓動が早鐘のように鳴るが、契約の呪文を何とかとちる事無く詠唱し終わったルイズは儀式の最期の行程へと取りかかる。
使い魔との接吻
勿論ルイズは同性愛者では無いが、目の前の淑女とのキスは望外の喜びである。
目を瞑る淑女にぎこちなく口づけをする ルイズの使い魔の唇は柔らかく甘い物だった。
「これはなに?」
淑女の左手の甲が鈍く光る、それは契約のルーン 彼女とルイズとの間に目に見えない絆が結ばれた何よりの証拠。
「そう、そういえばまだお互い名乗って無かったわね」
契約のルーンを満足そうに眺める彼女の言葉にハッとする
「も、申し遅れました!私はルイズ!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します!!」
「マスタ・ルイズ…いい響きね 私はヤマト『霧の艦隊』総旗艦ヤマト」
ヤマト 聞きなれない異国の響きに魅かれる。
彼女はどんな宮殿で育ったのだろうか 空想の世界に羽を伸ばすルイズは彼女のその正体を知らない。

21世紀初頭 地球人類は温暖化により多くの版図を失った。
時を同じくして第二次世界大戦時の戦艦の幽霊船が世界各地に出没
だがそれは真実の幽霊船では無かった。
霧と共に現れるその謎の戦艦群は実体を持ち、人類に戦争を挑む。
その艦隊の超兵器群により、人類は瞬く間に全ての海洋から駆逐された。
人類の敵『霧の艦隊』その総旗艦こそがルイズの使い魔『ヤマト』である。
167ルイズと霧の淑女 代理:2010/05/07(金) 17:48:43 ID:ay2PVGRJ
以上です。
クロス元は『蒼き鋼のアルペジオ』より『霧の艦隊』総旗艦ヤマトでした。

>>165
あ、済みません。間隔が短かったですか。
次は気をつけます。
168名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 17:50:45 ID:VQyzCORI
>>167
冗談ですから、お気になさらず
良い物がビシバシ投下されるのは良い事です
169名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 18:09:24 ID:mGQ/CIGV
乙でした。宇宙戦艦ヤマト以外にもヤマトってあるんだ。
170ルイズと霧の淑女 代理:2010/05/07(金) 18:18:19 ID:ay2PVGRJ
あ、ちょっと書き方がおかしかったことに気づきました。
クロス元が『蒼き鋼のアルペジオ』で、召喚されたのが『霧の艦隊』総旗艦ヤマト、でした。

誤解を招く書き方をして済みませんでした。
171名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 18:25:35 ID:VQyzCORI
>>169
アオシマの合体巨艦なヤマトにがあるし火葬戦記ものに目を向ければ
スンバラスィ魔改造ヤマトが一杯ありますよ

中でも故中里融司氏の「竜神の艦隊」の大和はスゴいですよ
大和、武蔵、信濃が合体した順番で超巨大戦艦、超巨大空母、超巨大潜水艦に変形するのですから
しかもそのテクノロジー提供したのが恐竜人類って・・・・・・・・
172名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 18:32:54 ID:ay2PVGRJ
>>171
あーあのアルベガス大和ですか(違

個人的にはエヴァネタてんこ盛りだった超弩級空母大和が一番印象に残ってますね>魔改造ヤマト
173名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 18:48:33 ID:VQyzCORI
あと変わったものとしては「世界戦艦大和列伝」
大和級の設計図が世界中に流出し、世界中が大和級を建造するという
「それではみなさんお待ちかね!ヤマトファイト!レディ  GO!」な作品なのですが
オランダのネーデルヤマトこと〈ユトレヒト〉とかはでっかい風車つけてたりして、ねえ・・・もう・・・
174名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 19:14:34 ID:oEcEDFdl
原子力潜水艦やまと
と、書き込まなければいけない気がした
175名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 19:31:06 ID:S5ynD8/M
アレは戦艦とは関係ないだろw
176名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 19:32:34 ID:ORzCDjuF
というか、火葬戦記のヤマトは戦艦ではないことも多い。
にもかかわらず、超ド級と呼ばれることが多い。
177174:2010/05/07(金) 19:35:30 ID:oEcEDFdl
>>175
でも、空を飛ぶよ
178名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 19:39:39 ID:S5ynD8/M
米「絶対に避けられない」
179名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 20:33:33 ID:OUBKsv7k
>>173
リメイクされたコミック版海底軍艦もそんなかんじだったような。
180名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 20:49:46 ID:gv4sQEUt
>>173
あん?Yヤマトがどうしたって?
181名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 21:12:25 ID:Hh/Sjkar
やまと……なでしこ……


よし、コスモビューティだ!
182名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 21:17:00 ID:ORzCDjuF
>>181
呪術砲でも装備しているのか?
183名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/07(金) 23:43:36 ID:8b13Y4yL
大運動会クロスとか、ガンダールヴなくてもいいレベル
184アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 04:59:24 ID:kbhpMk3l
投下します。
185アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:00:39 ID:kbhpMk3l
ルイズ達はアルビオン所属の軍艦『イーグル』号へ招かれた。

変装を解いたウェールズは、船長室の床に転がっていた魔法の杖を腰に下げる。
ルイズはその杖を見て、改めて眼前の人がウェールズ皇太子である確信を得た。
アンリエッタの杖とウェールズの杖は、細かい意匠こそ異なるが、魔力を蓄積する水晶だけは共通しているのだ。

ルイズがごく自然な動作で跪くと、それに習って人修羅もデルフリンガーを床に置いて、ルイズの斜め後ろで跪いた。
ワルドはルイズの傍らで、魔法衛士隊の帽子を脱いで胸に当て、直立している。

「大変、失礼をば致しました…」
空族の変装をしていたとしても、人修羅が皇太子殿下に剣を突きつけた事実は覆らない、ルイズは心底申し訳ない気持ちでウェールズに謝罪した。
対照的に、ウェールズは清々しさを感じる笑顔をルイズに向けた。
「ははは! なに、大使殿に害をなそうとした空族に剣を突きつけたのだ、むしろ彼は賞賛されるべきだろう。 彼は使い魔として召喚されたと言っていたが…」
「は、はい、人修羅は私が召喚した使い魔でございます」
「なるほど!彼のような使い魔を召喚するとは、大使殿は余程のメイジに違いない」
「もったいなきお言葉にございます」
ルイズは申し訳ないやら恥ずかしいやらで、思わず声が震えた。

ちらりと、ウェールズが人修羅の姿を見る。
背負っていた剣を置き、片膝を付いて跪き恭順の意を示しているが、彼がひとたび力を発揮すれば武器など無くともこの船を瞬く間に破壊し尽せるだろう。
(このような戦力が一人でも我が軍に居れば…)
そう思いかけたところで、ウェールズは自分の考えを恥じた。
もはやアルビオン王党派の勢力は、貴族派の十分の一、いや百分の一以下しか無い。
王党派が負ければ、貴族派が次に狙いを付けるのはトリステインであることは間違いないはずだ。
その時、彼はその卓越した力を、どのような形であれ必要とされるだろう、滅び行く国の戦いに巻き込んではいけない。

ウェールズはルイズに視線を戻すと、穏やかな口調で話し始めた。
「言い訳になってしまうが、外国に我々の味方の貴族がいるなどとは、夢にも思わなかった。大使殿に混乱を与えたのは我々の落ち度だ、皇太子として謝罪したい。
君たちに落ち度がない事を明らかにするためにも、我々がどうして空賊風情に身をやつしているのかを話さねばならないだろう」
ルイズは、ほんの少し視線を上げた。

「金持ちの反乱軍には続々と補給物資が送り込まれている。敵の補給路を絶つのは戦の基本…だが、堂々と王軍の軍艦旗を掲げ補給路を断つべく船を動かしても、圧倒的な大群に囲まれてしまうだろう。 空賊を装うのも、いたしかたない。そう思ってくれぬか」
ウェールズは、イタズラっぽく笑って、そう言った。
「何事もなければ帰りの風石を与え解放するつもりだったがね」

話を聞いて、ようやく落ち着いたのか、ルイズは意を決して顔を上げた。
ワルドはルイズの動きに合わせて一歩前に進み、口を開いた。
「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました。私はトリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」
改めてルイズたちを紹介するため、優雅に掌を見せてルイズ達へと視線を促す。
「こちらが、姫殿下より大使の大任を仰せつかった、ラ・ヴァリエール嬢。そしてその使い魔の少年にございます。殿下」
「なるほど。 君たちのように立派な貴族が、私の親衛隊にもう十人もいれば、王党派の惨めな今日を迎えることもなかったろうに」
ウェールズは感慨深そうに呟くと、ワルドからルイズへ視線を戻し声をかけた。
「して、その密書とやらは?」
慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出すと、ルイズは恭しくウェールズへと近寄る。
ルイズは一礼して、手紙をウェールズに手渡した。
186アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:02:37 ID:kbhpMk3l
ウェールズは、その手紙にアンリエッタの花押があるのを確認すると、愛おしそうに花押に接吻して、慎重に封を開いた。
中から便せんを取り出すと、真剣な表情で手紙を読み始めた。

「姫は結婚するのか? あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は」
顔を上げたウエールズは、無言で頭を下げるワルドを見て、肯定の意を汲んだ。
再び手紙に視線を落とすと、最後の一行まで読み切り、手紙に微笑んだ。

読み切った手紙を封に仕舞うと、ウェールズはルイズ達を見て告げる。
「了解した。姫は件の手紙を返して欲しいとこの私に告げている。姫から貰った手紙は私の宝でもあるが、姫の望みは私の望みだ。」

その言葉を聞いて、ルイズは安堵だけでなく、自分が大役を果たしたという喜びを得、表情を輝かせた。
「…しかしながら、今、手元にはないのだ。今日のようなことがあっては申し訳が立たぬので、空賊船に手紙を連れてくるわけにはいかいのだ」
ウェールズは笑って言ったが、ルイズはほんの少し顔が引きつった。
「多少、面倒ではあるが、諸君にはニューカッスルまで足労願いたい」


◇◇◇◇◇


ルイズ達を乗せた『イーグル』号は、浮遊大陸アルビオンの海岸線に添って航行していた。
海岸線と言っても、海に当たるのは海水ではなく、雲海である。視界の塞がれる雲の中を淀みなく進む技は、人修羅を感心させた。
もっとも、人修羅はボルテクス界で高いところから飛び降り死にかけた経験があるので、外は見ても下を見ようとしなかった。

三時間ばかり進むと、大陸から突きだすようにそびえる岬が見えた、その突端には高い城がそびえ立っている。

「ずいぶん城壁がやられてるな」
「…見えるのか?」
人修羅が何気なく呟くと、いつの間にか隣に立っていたウェールズが、不思議そうに声をかけてきた。
「ああ…じゃなくて、はい多少なら見えます」
「はは、無理に口調を正さなくてもいい、先ほど大使殿に聞いたが…君はハルケギニアから遥か離れた東方から召喚に応じたとか」
「そんなところです」
「東方には君のような兵がいるのか、エルフと戦いを繰り広げていると聞いたが、その強さなら納得がいく」
ウェールズは感心したように呟くが、人修羅はどうしたものかと苦笑いを浮かべた。
「ハルケギニアで語られている東方とは違うと思いますが…俺みたいなのは本当に特殊な例ですよ」
「ふむ…」
ウェールズは得心したのか、それ以上は聞いてこなかった。

「ところで、『マリー・ガラント』号の船室に女性が寝ているはずですが」
「ああ、報告はされているよ。意識が朦朧(もうろう)としていると聞いたが」
人修羅の質問に、気さくに答える。
「あの人は本来、ラ・ロシェールで我々を見送るまでが仕事でした。傭兵に追われ怪我をしたので、船に連れてきたのは不本意だったんですが…」
「ふむ…そのあたりの事情は考慮しよう」
「ありがとうございます」
人修羅が礼をすると、かまわないよと言ってウェールズが笑った。
その笑みに裏表は感じない、王子にしてこの人当たりの良さは、アルビオンの気風なのだろうか、それともこの皇太子殿下だけがそうなのか。

「名を伺ってもいいかな。改めて我が『イーグル』号を一人で制圧した君に敬意を示したい」
「…人修羅、ヒトシュラと名乗ってます」
「人修羅、君のような武人と出会えたこと、このウェールズ・テューダー、始祖に感謝しよう」
そう言って、ウェールズは握手を求めてきた。
人修羅は戸惑ったが…誠意を返すべく、その手を握った。

二人の手に、力がこもった。


◇◇◇◇◇◇◇
187アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:03:24 ID:kbhpMk3l
◇◇◇◇◇◇◇


その後しばらくして、甲板で見張りを続けていた人修羅の目に、不思議なものが見えた。
「ん…?」
雲の向こうに何かがある…そう睨んだ人修羅は、目を懲らして雲の向こうを視ると、そこには巨大な船が見える。
それを船員に伝えると、船の見張りに立っていた船員が何かを知らせ、船はアルビオンの大陸下に潜り込むような航路を取り始めた。

ウェールズは後甲板にいたルイズ達に近づくと、岬の突端にある城がニューカッスル城であることを説明した。
目的地が見えているのに、船が大陸の下へと潜り込むのを不思議に思ったルイズは「なぜ、下に潜るのですか?」と質問する、するとウェールズは城の遥か上空を指さした。
遠く離れた岬の突端、その更に上空から巨大な船が降下してくるのが見えた、軍務を経験しているワルドはその巨大さに驚きを隠せなかったが、ルイズは巨大さを確認することはできても実感が沸かないのか目を点にするばかりだった。

「今は叛徒どもの船、かつての本国艦隊旗艦『ロイヤル・ソヴリン』号だ。叛徒が手中に収めてからは『レキシントン』と名前を変えている」

人修羅は目を懲らして船を視る、なるほど旗艦とされるだけあって、その巨大さは目を見張るものがある。
側面に備えられた大砲の数を数えながら、ボルテクス界へと変容する前に見かけた『飛鳥』や、本で見た『クイーン・エリザベス』と比較してどの程度の大きさだろうかと、ついくだらないことを考えてしまう。

「レキシントンとは、やつらが初めて我々から勝利をもぎとった戦地の名だ。よほど名誉に感じているらしいな」

ルイズ達はその巨大さに、禍々しさを感じていた。
長さは、『イーグル』号の優に二倍はあるだろう、帆を何枚もはためかせ、ゆるゆると降下している。
そうかと思うと、ニューカッスルの城めがけて舷側に並んだ砲門を一斉に開いた、数秒送れて、どこどこどこどぉーん…と一斉射撃の振動が伝わってくる。
砲弾は城壁を砕き、煙を出させている。おそらく小さな火災が発生しているのだろう。

ウェールズは微笑を浮かべて言った。
「あの忌々しい艦は、ああやって嫌がらせのように城へと大砲を浴びせるのだ、空からニューカッスルを封鎖している以上、城へは近づくことも出来ない」
人修羅は視線を向けられたので、なるほどと意を込めて頷いた。

「備砲は両舷合わせ、百八門。竜騎兵を積むこともできる。あの艦の反乱から、すべてが始まったんだ……。因縁の艦さ。
さて、我々のフネはあんな化け物を相手にできるわけもないので、雲中を通り、大陸の下からニューカッスルに近づく。そこに我々しか知らない秘密の港があるのだ」

微笑のままそう説明するウェールズの横顔は、語り尽くせない哀愁を帯びている気がした。


◇◇◇◇◇◇◇


視界の塞がれる雲中を通り大陸の下へ移動すると、辺り一面は真っ暗となってしまう。
日が差さぬ上、雲によって視界が塞がれてしまうので、地上からの反射光も一切届かない。
マストに灯された魔法の明かりが唯一の光明で、それだけではとても周囲は見えない。それなのに凹凸のある大陸真下を航行するウェールズ達の技術は、相当なモノだと伺える。
「大陸が頭上にあり日が差さぬ、この通り魔法の明かりすら雲に遮られ、心許ない。頭上の大陸に座礁する危険が高いため、叛徒どもは大陸の下を使おうとはしない」
ウェールズがそう説明すると、人修羅は卓越した彼らの技に尊敬の念を抱いた。
「王立空軍の航海士にとっては、地形図を頼りに、測量と魔法の明かりで航海することなど造作もないことだ。だが…貴族派、あいつらは所詮、空を知らぬ無粋者だよ」
そう言ってウェールズが笑った。

しばらく航行が続くと、急に空間の広がりを感じた、頭上を見上げると、雲の深さが異なる箇所が見えていた。
黒々としたその空間は、まるで地底への穴が天井に空いたかのようである。
人修羅の目には、マストに灯した魔法の明かりが、直径三百メイルほどの巨穴をうっすらと照らしているのが解る。

「すごいな」
人修羅は思わず呟いていた。ルイズもまた、今までに見たことのない空間に、言いしれぬ畏怖を感じている。

「一時停止」
「一時停止、アイ・サー」
掌帆手がウェールズの命令を復唱すると、船員達が迅速に動く。『イーグル』号が裏帆を打ち、帆畳み、船が巨穴の真下で停船した。

「微速上昇」
「微速上昇、アイ・サ!」
『イーグル』号は、ゆっくりと穴に向かって上昇していく。曳航されている『マリー・ガラント』号にもウェールズの部下が乗り込み、船員達に指示を下しているようだ。
188アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:04:10 ID:kbhpMk3l
「まるで空賊ですな。殿下」
神出鬼没、それをよく顕した賞賛の言葉だった。
ワルドの呟きに、ウェールズも小さく頷いた。
「まさに空賊なのだよ。子爵」


穴に沿って上昇を続けると、頭上の雲が晴れて光が現れた、『イーグル』号に乗ったルイズは、自分ごと光に吸い込まれていくような錯覚を覚えた。
眩いばかりの光にさらされたかと思うと、艦は壁一面が淡く輝く不思議な空間に出た。
そこは、壁面が発光性のコケで覆われた鍾乳洞であり、ニューカッスル城へと続く秘密港であった。
『イーグル』号が鍾乳洞の岸壁に近づくと、待ち構えていた者達が艦にもやいの縄を飛ばし、水兵たちはその縄を受け取り艦にゆわえつけた。
艦が岸壁に引き寄せられると、木製のタラップが艦に取り付けられた、車輪とカウンターウェイトのついた木製のタラップは、いかにも重そうな音がしていた。

ルイズ達はウェールズに促され、タラップを降りる、するとそこに、雰囲気こそ違うが重ねた年月はオールド・オスマンにも引けを取らなそうな老メイジが近寄ってきた。
『イーグル』号に続き、鍾乳洞に姿を現した『マリー・ガラント』号を見て、ウェールズへと声をかける。
「ほほ、これはまた、大した戦果ですな。殿下」
その微笑みにウェールズが笑顔を返し、叫ぶような大声を上げた。
「喜べ、パリー。硫黄だ、硫黄!」
すると集まった兵達は、うおおーっと歓声をあげた。パリーと呼ばれた老メイジも同じ気持ちなのか、喜びの声を上げる。
「おお! なんと、硫黄ですと! 火の秘薬ではござらぬか! これで我々の名誉も、守られるというものですな!」

老メイジは、笑顔のまま涙を流していた。
「殿下、先の陛下よりおつかえして六十年になりますが、こんな嬉しい日はありませぬぞ。反乱が起こってから苦渋を舐め続けておりましたが……」
「これだけの硫黄があれば、王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示し、敗北することができるだろう」
ウェールズが笑顔を見せて言葉を続けた。

敗北、その言葉に誰もが笑顔を見せた。
「栄光ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ!」

ルイズは、膝から下の感覚を失ったような気がした、地面に足が付いているのかが解らなくなる程、彼らの言葉にショックを受けた。
ウェールズたちは、心底楽しそうに笑いあっているが、敗北とはつまり、死ぬということだ。

なぜ、彼らは笑っていられるのか。
なぜ彼らは怖くないのだろうか?


理解の出来ない言葉…しかし、船の上で『殺すなら殺せ』と言い放ったルイズにとって、それは決して遠い世界の言葉ではない。
ルイズの身体は、心は、父母の威厳と鉄の意志を知っている。死は身近ではなくてもいずれは意識せねばならない必然である。
その言葉を理解できるという気持ちと、理解できないという気持ちが、ルイズの中でせめぎ合った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ルイズは、ウェールズによって『トリステインからの大使である』と紹介されたため、パリーをはじめとするメイジ達の礼を向けられた。
貴族としての振る舞いを意識しつつも、ルイズの心には戸惑いがあったが…精一杯、大使としての振る舞いをすることが彼らへの礼儀だと結論づけた。

ルイズ達は秘密港からニューカッスル城内へと案内され、ウェールズの居室へと通された。

人修羅は部屋の外に窓を見つけたので、そこで待つことにした。
万が一、空から砲撃があれば『破邪の光弾』で戦艦を打ち落とすつもりでいたからだ。

ウェールズの部屋は城の最上部、天守にあった。そこは執務と執心に必要な最低限のものしか無く、魔法学院の部屋よりも簡素に見えた。
木でできた粗末なベッドに、椅子とテーブルが一組。壁には戦の様子を描いたタペストリーが飾られているだけ。
ウェールズは椅子に腰掛けると、机の引き出しを開き、宝石の散りばめられた小箱を取り出した。
首からネックレスを外すと、その先にぶら下がる小さな鍵を小箱に差し込み、蓋を開ける。
開かれた箱の内側には、幼き日のアンリエッタの肖像画が描かれている。ウェールズがルイズ達の視線に気がつくと、はにかんで言った。
「宝箱でね」
189アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:04:58 ID:kbhpMk3l
箱の中には一通の手紙が入っていた、端がぼろぼろにほつれ、何度も読み返した後が伺える。
ウェールズは手紙を取り出すと、愛おしそうに口づけ、黙読して寂しそうな笑みを浮かべた。
読み終わって手紙を丁寧にたたみ、封筒に入れ、ルイズへと手渡した。
「これが姫からいただいた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」
「ありがとうございます」
ルイズは深々と頭を下げると、その手紙を受け取った。

その様子を見て満足そうにウェールズが頷いた。
「叛徒どもは明日の正午に、攻城を開始するそうだ。君たちは明日の朝出航する『イーグル』号に乗って、トリステインに帰りなさい」
ルイズはウェールズの言葉を聞きながら、手紙をじっと見つめていたが、何かを決心して、に口を開いた。
「殿下…。あの、さきほど、栄光ある敗北とおっしゃいましたが、王軍に勝ち目はないのですか?」
躊躇いつつも問うと、ウェールズは驚くほどあっさりと答えた。
「ないよ。我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つの可能性もありえない。我々にできることは…勇敢な死に様を連中に見せることだけだ」

ルイズは俯く。だがそこで言葉を止めるわけにはいかなかった。
「殿下の…殿下の、討ち死になさる様も、その中には含まれるのですか?」
「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」

廊下で、二人のやりとりを聞いていた人修羅は、ウェールズの声に迷いがないと気づいた。
もう悩み迷う時期はとうの昔に過ぎ去っているのだろう、その覚悟に至るまでどれほどの苦しみがあった事か。
人修羅は自分も似た思いをして、何度もボルテクス界をさ迷い、何度もやりなおして繰り返して………しかし、彼のように王族として諸子の先頭に立つことなどあっただろうか。
いささかも取り乱したところがないウェールズの声は、むしろ清々しさすら感じてしまう。
だからこそ、死なせたくない。
そう思うのはルイズも人修羅も同じだった。


するとルイズが、はっきりした声で言上した。
「失礼をお許しください。殿下。恐れながら、申し上げたいことがございます」
「なんなりと、申してみよ」
「この任務を、わたくしに仰せつけられた際の姫さまは、尋常な様子ではございませんでした。胸を痛め、手紙をしたためる様、まるで恋人を案じるようでございました。
それに、先ほどの小箱の内蓋に、姫さまの肖像が描かれておりました。殿下が手紙に接吻なさった際の物憂げなお顔も、姫様と同じ物憂げな……もしや、姫さまと、ウェールズ皇太子殿下は……」
「きみは、従妹のアンリエッタと、この私が恋仲であったと言いたいのかね?」
「そう想像いたしました。重ねてのご無礼をお許しください。でしたらこの手紙の内容…」
「恋文だよ。きみが想像しているとおりのものさ」

ウェールズの言葉は、廊下にいる人修羅にも聞こえていた。
アンリエッタは、ウェールズに当てた恋文の中で、始祖ブリミルの名に於いて永久の愛を誓っている。
始祖に誓う愛は、婚姻の際の誓いとして守られなければならない、例えそれが手紙であっても、それは変わらない。
ゲルマニアの皇帝と結婚しようとしても、この恋文が有る限り、アンリエッタは重婚の罪を犯すことになってしまう。

「ゲルマニアの皇帝は、重婚を犯した姫との婚約は取り消すかして、大きな貸しを作るか…同盟を反故にするに違いない。トリステインは一国にて、あの恐るべき貴族派に立ち向かわねばならなくなる」
「殿下、亡命なされませ! トリステインに亡命なされませ!」
「それはできない」


人修羅は、ルイズの声からこらえきれぬ悲壮を感じたが…じっと、話が終わるのを待っていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇
190アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:05:58 ID:kbhpMk3l
「ルイズさん、ずいぶん疲れていないか…?」
「私は…平気よ」

平気だと答えるも、誰が見ても平気だとは思えない。ルイズの表情は暗く沈んでいる。
人修羅はこれ以上の言葉が見つからず、ただじっとルイズの脇に立って、パーティが始まる様子を見ていた。

決戦前のパーティに参加して欲しいと告げられたルイズ達は、城のホールに集まって、その様子を見守っていた。
ホールには簡易の玉座が置かれ、玉座にはアルビオン国王ジェームズ一世が腰掛けている、年老いた王の表情は涼やかであった、集まった貴族や臣下を目を細めて見守っているが、どのような心中なのだろうか。明日で自分たちは滅びるというのに。

ニューカッスル城に残った王党派の貴族達は、園遊会のように着飾り、テーブルの上には様々なごちそうが並んでいる。
華やかなパーティを見つめるルイズの瞳は、どこか寂しそうだった。

「華やかだな」
人修羅が呟くと、すぐ側にいたワルドが頷いた。
「終わりだからこそ、ああも明るく振る舞っている。彼らの最も華やかな時間かもしれぬ」

と、そこにウェールズが現れ、貴婦人たちの間から、歓声が飛んだ。
若く凛々しい王子はどこに居ても人気者のようだ、ウェールズは玉座に近づいて、王に何かを耳打ちした。
するとジェームズ一世は、すっくと立ち上がろうとした、しかし高齢のためか、よろけて倒れそうになる。
それを見た貴族達から笑いが漏れた。
「陛下!お倒れになるのはまだ早いですぞ!」
「そうですとも!せめて明日までは、お立ちになってもらわねば我々が困る!」
屈託のないその言葉は、アルビオンという国の飄々とした気風を象徴していた、思わず人修羅の表情にも笑みが浮かんだからだ。
ジェームズ一世も、彼らの軽口に気分を害した風もなく、にかっと人懐こい笑みを浮かべていた。

「あいや各々方、座っていてちと、足が痺れただけじゃ」
そう言って、ジェームズ一世が立ち上がると、ウェールズが身体を支えた。
こほん、と軽く咳をすると、ホールに集まった全員が一斉に直立した、ルイズも、ワルドも同じである。
人修羅はそれに気がつき、皆より遅れて直立の姿勢を取った。

そうして始まったジェームズ一世の演説は、王国の最後を飾るのに相応しいと思えた。

明日、ニューカッスル城に、反乱軍の総攻撃が行われる。
『レコン・キスタ』と名乗る反乱軍は五万の兵力があるとされ、王軍に残された数百の貴族は為す術もなく蹂躙されるだろう。
だからこそ、ジェームズ一世は貴族達に暇を与え、アルビオンを離れるように言った。

だが、一人としてそれを受け入れる者は居なかった。
一瞬の静寂の後、一人の貴族が、大声で王に告げた。
「陛下! 我らはただ一つの命令をお待ちしております!『全軍前へ! 全軍前へ! 全軍前へ!』今宵、うまい酒のせいで、いささか耳が遠くなっております! はて、それ以外の命令が、耳に届きませぬ!」

死ぬ気だ。ルイズはそう思った。

声を上げた貴族の勇ましさに、集まった全員が頷いた。
「おやおや!今の陛下のお言葉は、なにやら異国の呟きに聞こえましたぞ!」
「陛下!耄碌するには早いですぞ!」
老いたるジェームズ一世は、目頭をぬぐい、ばかものどもめ……、と小さく呟いた。
「よかろう!しからば、この王に続くがよい!諸君!今宵はよき日である!重なりし月は、始祖からの祝福の調べである!よく、飲み、食べ、踊り、楽しもうではないか!」
ジェームズ一世が杖を掲げ叫ぶと、ワッと歓声が上がり、辺りは喧騒に包まれた。

ルイズ達は間もなく王党派の貴族達に囲まれた。ルイズ達は、王国最後の客である。かわるがわるルイズたちの元へ来ては、料理を勧め、酒を勧め、冗談を言ってきた。
「大使殿!アルビオンの高地産のワインですぞ!是非試されなされ!お国のものより上等と思いますぞ!」
「なに! いかん! そのようなものをお出ししたのでは、アルビオンの恥と申すもの! このハチミツが塗られた鳥を食してごらんあれ!頬が落ちますぞ!」
悲嘆にくれたようなことは一切言わず、明るく接し、最後にはアルビオン万歳!と大声を上げて去っていくのであった。


ルイズは、耐えられなかった。
明日にも死んでしまう人たちが明るく振る舞っている、その意味を知っているはずなのに理解できない、この場の雰囲気に耐えきれず、そそくさと外に出て行ってしまった。
人修羅は後を追いかけようと思ったが、ワルドがルイズの後を追ったのを見て、余計なことは言わずにそっとしておこうと考え、足を止めた。
191アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:07:59 ID:kbhpMk3l
人修羅が、どうしたものか…と、思案たところで答えは出てこない。
ルイズが一言「反乱軍を殲滅しろ」と命令を下したら、従うべきだろうか。より良い方法で戦争を止める手段はないだろうか。自分に殺すこと以外の何が出来るだろうか……。

人修羅がじっと黙っているのを見て、ウェールズが近寄ってきた。
「楽しんでいてくれるかね」
ウェールズは笑顔でそう言った。
「楽しいと言うか、感動しますね」
「ほう」
「祖父の世代は、故郷が他国に蹂躙され、子孫が奴隷として潰されていくのを恐れ、何人もの兵士が爆弾を背負って敵の中に突っ込んだそうです。俺は話を聞いただけで、その覚悟を目の当たりにしたことはありませんでした」
「なるほど!君の故郷は、慈愛に満ちているのだな、君が微笑を浮かべているのもそのためか」
「びしょう?…あ、もしかして俺、笑っていましたか」
「ああ、慈しむようにも見えた。我々が君たちとの出会いを喜んでくれるようで何よりだ。僕としても、勇敢なる戦士に見送って貰えるのなら、光栄だ」

そう言うとウェールズは、にこりと笑った後、遠くを見るような目で語り始めた。

「……我々の敵である貴族派『レコン・キスタ』は、『聖地』を取り戻すという理想を掲げ、ハルケギニアを統一しようとしている。」
「聖地…確か、今はエルフが居るために、近づけないという、ブリミル教の聖地?」
「そうだ。その聖地奪還の理想を掲げるのはよい。しかし、あやつらはそのために流されるであろう民草の血のことを考えぬ。荒廃するであろう、国土のことを考えぬ」

人修羅は、ウェールズの瞳に怒りを見て取った。
「聖地の奪還は、それ程の命題なのか」
「…ああ、ブリミル教の悲願と言っても良い。だが、このハルケギニアは始祖の降臨により救われた土地だ、内乱で民の血が流されることがあってはならぬ。始祖が救いしハルケギニアの大地と民を疎かにして聖地奪還など…成せるものではない」

「この国が…いや、今までに会った人たちが、好きなんだな」
何気ない人修羅の呟きに、ウェールズが微笑みを浮かべた。
「もちろん!だからこそ、我らは勝てずとも、せめて勇気と名誉の片鱗を貴族派に見せつけ、ハルケギニアの王家たちは弱敵ではないことを示さねばならない。
やつらがそれで、『統一』と『聖地の回復』などという野望を捨てるとも思えぬが、それでも我らは勇気を示さねばならぬ」


死ぬことにこだわる王子を見て、人修羅はある種の確信を得た。
この男は、皮肉にもアンリエッタ王女の手紙で、死ぬ決心が付いたのだろう。
聞き耳を立てるつもりは無いが、ルイズとウェールズの会話は人修羅にも聞こえていた。
手紙には、トリステインへの亡命を望む文面があったに違いない。
それはアンリエッタがまだ少女であることの証だった、ウェールズは、自分のせいでアンリエッタが甘えん坊のままでいることを望まない。
強くなって欲しいとの願いを込めて死んでいくのだろう。

「…そうだな。俺もそうだった。手遅れにならないと大事なものに気がつかない。痛い目に遭わないと危機感を感じなかった。…会うことが出来なくなって、ようやく恩返しをしたいと思えるようになったんだ」
「君に聞いて貰えて良かった。どうかトリステインの従姉妹が、悲しまぬように、今のことは誰にも言わないで欲しい」
「俺が言わなくても、きっと気がつく。綺麗な花が咲くには、たくましい根だって必要だろう、きっと立派に育つさ」
「ありがとう」
「貴方の諸子の先頭に立たんとする姿を見られたこと、光栄に思います」

人修羅とウェールズは、どちらともなく握手をした。

甲板の上での握手よりも、ウェールズの手は温かく、そして雄大に感じた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
192アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:09:45 ID:kbhpMk3l
一方その頃。 ガリアの宮殿 プチ・トロワ。

「ヒーホー、どこいったんだい」
湯浴みを終えたイザベラが自室に戻ると、ヒーホーの姿が見えない。
「ヒーホー、出てらっしゃーい」
探し回るがどこにも居ない。焦り始めたその時、天井から声がした。

「こっちだホー」
頭上からの声に気がついて、イザベラが天井を見ると、器用に氷のアーチが作られていた、ヒーホーはその上に寝転んでイザベラを見下ろしている。

「あ−、またそんな所に氷を張って…ほら下りてらっしゃい」
「イザベラちゃん、ここまで来るホー」
ヒーホーは登ってこいと言うので、仕方なく杖を取り出したが、ヒーホーは首を左右に振った。
「違うホー、スカアハから貰った杖を使うホー」
「ええ、こっちかい? ……ははあ、あんた私を試してるね?」
「ヒーホー」

誤魔化そうとするヒーホーを見て、イザベラが笑う。
「けっこう練習してるんだよ、ほらっ!」
イザベラが手を翳すと、ベッドの上に投げ出されていた杖が引き寄せられ、手の中に収まった。
田舎の衛兵の持つ棒のような、何の飾り気もない木の棒だが、イザベラは自分に新しい可能性をくれるこの杖をたいそう気に入っている。

「さあ、手伝っておくれよ」
そう呟くと、空間をねじるように杖を回転させた。瞬間、室内に風が舞い、イザベラの身体をふわりと浮かせる。
「ほーら捕まえ たっ たたたっ!?」
無駄に高い天井のせいで、イザベラの身体はヒーホーに届く前に落下してしまう。
慌てて杖を捻り空気をかき混ぜ、空気のクッションを作り出しゆっくりと着地した。
「…もう一度!」
「がんばるホー」

◇◆◇

しばらくして、無事ヒーホーを捕まえたイザベラは、ベッドの上でヒーホーを抱き締めていた。
「今日はなんであんな高いところにいたんだい?」
「イザベラちゃんの回りに、エアロスの友達がいるんだホー」
「エアロス?」
「風のセイレイさんだホね!イザベラちゃんが友達になりたいって言ったから、答えてくれたホー」
「へえ…もしかして、それを確かめるためにあんな高いところに居たのかい。あたしには、ヒーホーが怪我しないで居てくれるのが嬉しいんだから、あんまり無茶しないでおくれよ」
「大丈夫だホー」

ヒーホーを撫でながら、イザベラは杖を見る。
「エアロスの友達…風の精霊か、今日はあんたが手伝ってくれたのか」
そう呟くと、柔らかい風が頬を撫でた。
「イザベラちゃんと友達になって、嬉しいって言ってるホ」
「ホントに?」
「イザベラちゃんにだって聞こえるホー」

イザベラは、風に撫でられた頬の感覚を思い出しながら、自分の身体で敏感な部分を見つけ、その感覚を研ぎ澄ましていった。髪の毛、頬、胸、腕、首、様々な箇所が空気を感じている。
それらの感覚を全てつなぎ合わせると…特定の風が舞っているのを理解できるのだった。
ふと、小さな風の渦が、ヒーホーの頭の上にいると気がついた。

「…おまえかい?あたしの友達になってくれるのは」

普段のイザベラしか知らない者には想像が出来ないほど優しい声で呟く。
すると、イザベラがヒーホーを撫でるように、風がイザベラの頬を撫で、身体を優しく包んだ。
「くすぐったい!はは、あははははっ」

閉じられていたイザベラの心に、春を告げるそよ風が優しく吹いていた。
193アクマがこんにちわ:2010/05/08(土) 05:10:38 ID:kbhpMk3l
今回はここまでです。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 06:13:28 ID:hXN/GbDE
おおアクマさん乙でした
こんな時間まで起きてたのは無駄じゃ無かったぜ
195名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 06:51:31 ID:NmH6klS1
おつおつ
196名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 10:24:54 ID:6mBjh/ag
破邪の光弾でそれなら至高の魔弾ならとんでもないんですねわかります
SJだと銃属性にされたからちょいと使いにくいのが…

そのまま帰るのか、無双してしまうのか、はたまた…期待しつつお待ちしております
197名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 10:44:10 ID:Ym23B1yv
相変わらず、イザベラ様が可愛すぎて困る。
影響されかねん。
198名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 10:49:25 ID:AXprHCv9
晩餐が鍛え上げた悪魔をカレハのごとく消し飛ばす威力だからなぁ
ガンダ補正つきの魔弾とか巨大クレーター作れるぜ絶対

アルビオン編も佳境ですな、ルイズや人修羅はどうすることやら
199名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 11:55:01 ID:NteWlA2y
>>198
目からビームでアルビオンがやばい
200名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 12:29:55 ID:DJS4QH0N
晩餐+ガンダ補正でアルビオンがヤバい
201名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 13:55:12 ID:zY02j72P
アルビオンってあの5色ぐらいに分裂するボスか
202名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 14:55:13 ID:jcyX7k++
銀河有数の大規模勢力だが
序盤で話の隅に上がってきてその存在の得体の知れなさにドキドキしてたが
結局主人公たちとは関わることなくいつの間にか執行者に滅ぼされてしまった帝国
203名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 15:36:43 ID:vHcTA9+Z
>>353
殺意で人殺せるレベルじゃねえかwwww
204203:2010/05/08(土) 15:37:23 ID:vHcTA9+Z
すいません誤爆しました
205名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 17:38:25 ID:vlKcTidw
殺意で人殺せるとか久しぶりに聞いたwwww
206名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 17:54:30 ID:K9FR/3fQ
超能力ってやっぱり先住魔法扱いされるのかね
207疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:05:12 ID:FfxNNelc
ちょいと予定を前倒ししての投下です。
問題なければ11:10から投下します。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 23:06:24 ID:zapISg23
人修羅の人、乙です。
かわいいイザベラ様のおかげで、イザベラ管理人を思い出した。職人さん、戻ってきて
下さい(泣)
209名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 23:07:29 ID:YRFJLBkP
>>207
進路クリア、投下よろし
210疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:10:24 ID:FfxNNelc
第八章 波紋が広がる

   0

メイジ/[Meiji]――系統魔法を扱うことができる人間。四の段階に分かれており、それぞれ『ドット』、『ライン』、『トライアングル』、『スクエア』と呼ばれる。スクエアに近づくほど魔力が多く、強力な魔法が使える。

パラベラム/[Parabellum]――自分の殺意や闘志を、銃器の形にして物質化することが可能な特殊能力、およびその能力者。
211疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:12:38 ID:FfxNNelc
   1

 体が微熱を帯びるのをキュルケは感じた。
 食堂でルイズが起こした一連の騒動を見て思ったのは『面白そう』。
 あの『ゼロ』があんな啖呵を切ったのだ。あの『ヴァリエール』があんな喧嘩を売ったのだ。

――ぞくぞくしちゃう。

 キュルケにとってルイズは特別な存在だ。単にヴァリエールだから、というわけではない。
 もちろん、ヴァリエール家だというのも興味を引く一因ではある。だが、それはきっかけに過ぎない。キュルケの興味を引くのは、ルイズのその精神だ。

 魔法が使えない。
 ハルケギニアの貴族という立場において、それは致命的といってもいい。だが、それでもルイズは杖を振るのをやめない。
 初めての授業でルイズの『失敗魔法』を見た時は驚いたものだ。肩透かしを食らった気分でもあった。
 キュルケは飛び出た存在だった。その胸。その身長。その魔法。全てにおいて同年代では比べられる存在すら、なかなか見つからない。
 だからこそ。『ヴァリエール』の存在はキュルケの好奇心を刺激した。退屈な日常に刺激を与えてくれる存在かもしれない、と感じたのだ。
『ゼロ』の意味を知り、キュルケはやや落ち込んだ。だが、それは杞憂だった。
 ルイズは挫けなかった。諦めなかった。
212疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:15:10 ID:FfxNNelc
――面白いじゃない。

 キュルケはそんなルイズのことが嫌いじゃなかった。
 だからこそ、魔法に失敗する度にからかって火に油を注いだのだ。そうすればルイズは燃え上がった。
 使い魔召喚の儀式の時だってそうだ。ルイズならば何かやらかしてくれると思っていた。そしてルイズはその期待に見事に答えて見せた。
 あんなに面白そうな物を召喚したのだ。それも予想を上回るマジックアイテムだという。ルイズが『ゼロ』じゃなくなるのだ。

 こんなにも楽しいことはない。心が昂ぶるのが抑えられない。
 どんな騒動を起こしてくれるのかと思えば、失敗。ルイズの様子は満足気だった。明らかに弱まった爆発の威力を見て、その期待が間違いではないと感じた。
 ルイズは爆発の威力をコントロールしたのだ。面白い、それに『使い魔』を使ったのだ。これだけじゃないだろうと思い、ルイズに誘いをかけてみればこれにも期待通りの反応を示した。
 そしてあの食堂の騒動。
 正直、ギーシュなどはどうでもよかった。
『決闘よ』と、ルイズはそう言い放ったのだ。堂々とその力強い瞳を爛々と輝かせながら。

――まったく、飽きないわね。あの言い方、まるでツェルプストーじゃない。

『恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命』、今のルイズは勢いよく燃える炎のようだ。たまらない。
 キュルケの二つ名は『微熱』、つまりは情熱だ。燃え上がるようなその気性と気位がツェルプストーの誇りと証。
 宿敵ともいえるヴァリエールがあんなにも魅力的な熱を帯びている。負けていられるわけがない。
 親友であるタバサを誘い、ヴェストリの広場に駆けつける。
 そこで見たものは、キュルケを燃え上がらせるのに十全なものだった。
213疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:16:27 ID:FfxNNelc
「『錬金』」
 ルイズがそう唱える。爆発は起きずに、ルイズの『魔法』が何かを形作っていく。閃光が起き、ルイズの右手を鎧のような何かが包み込んだ。
「な、なんなんだ・・・・・・それは?」
 ギーシュの滑稽にも思える問い掛けに、ルイズは右手の巨大な何かを触りながら答えた。
「九〇口径シールド・オブ・ガンダールヴ」それが何を意味するのか、キュルケにはわからなかったが一つ、確かなことがあった。
 ルイズはキュルケの好敵手になったのだ。

 決闘は圧倒的だった。ルイズは『使い魔』によって手に入れた力を使い、ギーシュのゴーレムを打ち破った。
 だが決闘の内容よりも語るべき点がある。
「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ!
 それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」
 その言葉を聞き、体が熱を帯びるのをキュルケは感じた。

――そうよ、それでこそ、よ。

 やはり、ルイズはキュルケの期待に答えてくれた。
 強大な力を手に入れてなお、ルイズは『貴族』だ。力に溺れる事無く、気高く誇り高いその姿はルイズの覚悟の現れだ。
 それでこそ。キュルケはルイズのことを気に入っていたのだ。
214疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:17:54 ID:FfxNNelc
   2

 シエスタはヴェストリの広場にいた。
 他意は無かったとはいえ、この決闘騒ぎの原因に自分が関わっていることぐらいわかっている。本来は逃げ出すべきだったのだろう。
 貴族であるギーシュの興味が逸れたのだ。また同じような騒動になる前にどこか適当なところで、ほとぼりが冷めるのを待つべきだ。
 頭では理解できている。しかし感情が、心がそれを許しはしない。
 食堂でルイズの笑みを見た瞬間から、シエスタは自分の気持ちに気づいてしまった。
 胸の高鳴りは、未だに収まっていない。
 ルイズのことが好きだ。愛している、という紛れも無い恋愛感情。性別など関係無い。
 好きなのだ。どうしようもないくらいに。
 それならば逃げるわけにいかない。

――ミス・ヴァリエールは私を守ろうとしてくださった。それに。

 逃げたくない。もう逃げたくは無い。
 シエスタは一度、逃げた。ルイズの姿を始めてみたあの夜、なぜか胸が閉めつけられるように苦しくなって思わず逃げ出した。今、思えばあれは好きな人が傷つくのが嫌だったからだったのだろう。
 今度は、自分の心の昂ぶりを理解した今ならば。
 シエスタは逃げるわけにはいかないのだ。
 たとえルイズが傷つくことになっても、目を背けるべきではない。たとえ傷つき、血を流したとしてもその瞳の輝きだけは決して衰えないだろう。手出しも口出しも無用。ルイズはそれほどまでに、誇り高い。シエスタはそんなルイズに惹かれたのだ。
215疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:21:10 ID:FfxNNelc
 そして。
 決闘はあっという間に終わってしまった。
 ルイズは自分の『魔法』で、圧倒した。ルイズは傷の一つさえ負わず、心配は杞憂に終わった。
『ゼロ』ではなかった。ルイズはもう『ゼロ』などではなかったのだ。広場には一人の気高い貴族の少女が一人立っている。

「全く、私が何の為に戦ったと思ってるのよ?」
 シエスタにはなんとなく、その答えが分かる気がした。
「違うわよ、私は守るために戦ったの。いい? あんたが謝るべきなのは三人。あのケティ、だっけ? その一年生。あんたが裏切ったモンモランシー。そして、あんたが侮辱したシエスタ」
 トクンと、心臓が大きな音を立てた気がした。

――ああ、やっぱりあの方は。

 ルイズはシエスタを守る為に戦ったのだ。
「ギーシュ、あんたはシエスタに杖を向けたわ。シエスタには何の非も無いにも関わらずにね。あんたは貴族の誇りをシエスタに向けたのよ。ギーシュ・ド・グラモン」
 ルイズはそこで言葉を区切り、一言ずつを噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「『力』は・・・・・・貴族の誇りである杖は、守る為にある。傷つける為では無いわ。私の目指す『貴族』はそんなものでは、決して無い! だから大切な人が傷つこうというのならば、私は守る為に戦うわ!
 それが『力』を持つ者の義務であり、責任よ。・・・・・・貴方はどう思う? 『貴族』を、『力』を、『誇り』を、貴方はどう思う? 『青銅』のギーシュ、ギーシュ・ド・グラモン。考えるのは貴方で、答えを出すのも貴方よ」
 シエスタは、ルイズのその言葉を聞いて自分が間違っていないことを確信した。
 ルイズは素晴らしい人だ。惚れ甲斐のある最高の女性だ。きっと、ハルケギニア中を探したって、あんな女性はいない。
 ルイズの言葉は、ゆっくりとシエスタに沁みこんで行く。それは心地良い熱を持って、シエスタの体を巡った。
 シエスタは祖父の事を思い出す。
 祖父は生涯で一度だけ。たった一度だけ、本当に人を愛したと言っていた。その相手は戦友であり、恩人であり、親友だった、と。
 祖父は戦いの中で死んだと言っていた。あの時、自分は一度死んだ、と。その大切な、大好きな人を助ける為に死んだ、と。どこか誇らしげに、でも悔しそうに、悲しそうに祖父はゆっくりと幼いシエスタ頭を撫でながら語った。
 幼いシエスタには、祖父のそういった愛だとか恋だとかはよく分からなかったが、今なら分かる。
 少し早いリズムを刻む心臓がそれを教えてくれる。体を巡る血潮が熱と共に教えてくれる。なによりも息をするのもつらいほど想いの詰まった胸の奥が教えてくれる。
 これが。今、シエスタの抱く想いこそ、きっと『愛』なのだ。

 ギーシュがシエスタを呼んでいる。返事をしなくては。ルイズが勝ち取ったものを、シエスタは受け取らなければならない。
 わずかに火照った体を震わせ、シエスタはギーシュの言葉に大きな声で返事をした。
216疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:23:30 ID:FfxNNelc
   3

「・・・・・・勝ちましたね」
「うむ」
 オスマンが杖を振り、『遠見の鏡』はその機能を停止させる。
 コルベールとオスマンは、遠見の鏡を通して決闘のほとんどを見ていたのだ。
「ギーシュは一番レベルの低い『ドット』メイジですが、それでも力量は高い方です。青銅製のゴーレムをあれだけの数、それも同時に操れるドットも少ないでしょう。しかし、それあそこまで圧倒するとなるとやはり『使い魔』でしょうか」
「うむ」
 オスマンはコルベールの話を聞いているのかいないのか、ずっと髭を撫でて考え事をしていた。
 コルベールの思考も混乱から抜け出してない。
 あのルイズの『使い魔』。名前は『シールド・オブ・ガンダールヴ』と言ったか。意味はガンダールヴの盾。どこかで聞いた覚えのある名前だ。あとで図書館で調べよう。
 いや、今はそうではない。重要なのはアレが『なんなのか』。
「・・・・・・オールド・オスマン。あれは一体、なんなのでしょうか?」
 初めはギーシュの言うとおり槍かとも思った。しかし、アレはそんな生易しいものではない。おそらく弩やバリスタに近い機構を持った『銃』。それもハルケギニアに出回っているマスケット銃などとは比較にならないほど精密なものだ。
「・・・・・・わからぬ」
 オスマンはしばしの沈黙を保った後、そう告げた。その目から感情は読み取れない。
「オールド・オスマン、私の予想ではアレは――
 オスマンが手を差し出し、コルベールの言葉を遮る。
「ミスタ・コルベール。『わしら』にはあの『使い魔』が何か『見当もつかぬ』」
「オールド・オスマン?」
 コルベールにはオスマンの意図がわからない。オスマンには確かに『アレ』が何かわからないだろう。だが見当ぐらいはつく。
 形は随分と違うが、ルイズは『アレ』からジャベリンを打ち出し、ギーシュのゴーレムを破壊した。そこから大砲、または攻城弩を連想するのはそう難しいことではない。たとえ真相がそれとは違っていても、『見当』くらいはつく。
217名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 23:25:45 ID:T8qYbxXs
ゲェー! ガチレズッ!
218名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 23:27:23 ID:3s1IR9L+
支援
219疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:28:04 ID:FfxNNelc
「のう、ミスタ・コルベール。もしも。もしもの話じゃ。『もしも』、どこかのメイジの少女が、一人で城門を破壊できるかも知れぬほどの魔法を使えるようになったとして。
『もしも』、それが王宮に知れたら。『もしも』、それを聞き、戦争で人が死ぬことで、懐に金貨が入ってくるような人間がそれを聞いたら、少女はどうなると思う?」
「・・・・・・オールド・オスマン。それは」
 オスマンが言わんとしていることが、コルベールには理解できてしまった。
「少女は気高いかもしれぬ。国からの命令とあれば、少女は従うかもしれぬ。
・・・・・・だが、『もしも』そうなってしまった時、少女はどうなる? 自らの魔法で数多の人間の命を屠り、少女の心はどうなってしまうのじゃ? それは、君が知っておるじゃろう」
 人の命は重い。あまりに重くて押し潰されてしまう。それをコルベールはよく知っていた。その苦しみは、まるで炎の蛇に巻きつかれるようだ。焼かれど、焼かれどその炎は決して消えはしない。
 言葉を発することができないコルベールの様子を見て、オスマンは続きを話す。
「のう、ミスタ・コルベール。わしは、わしらにはミス・ヴァリエールが召喚した使い魔について、見当もつかぬ。話はミス・ヴァリエール本人に聞くが、この話はそれでおしまいではいかんかね?」
 コルベールが顔を上げると、そこには優しい光を宿した瞳を持った一人の老人がいた。それは紛れも無く、長い歳月を生きた賢人であり、幼子の心配をする好々爺の姿だった。
「・・・・・・しかし、いつかはその『少女』の力も知られてしまうのでは無いでしょうか?」
 秘密というものは存外、知っているものの多いものだ。
「それでも」
 オスマンは立ち上がり、窓の外を眺める。ちょうどその窓の下はヴェストリの広場だ。
 コルベールも窓の傍に寄る。そこでは、風系統の教師であるギトーに怒られるルイズと観客たちの姿があった。
「それでもせめて、この学院にいる間くらいは。自分の信念を見つけ、その為にどうするか、考えられるほどに成長するまでは。わしら大人は見守ってやれんかのう?」
「・・・・・・ええ、私もそう思います」
 オスマンの言葉にゆっくりとコルベールは頷いた。
220疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/05/08(土) 23:32:04 ID:FfxNNelc
   4

 ルイズは学院長室にいた。
「あー、ミス・ヴァリエール?」
「何でしょう?」
 部屋にはルイズとオールド・オスマンとなぜかコルベールがいた。簡単に今の状況を説明すると、呼び出されたのだ。名指しで。
「自分のしでかした事、わかっておるかのう?」
「ええ。食堂で一騒ぎしたのち、ヴェストリの広場で騒動の中心人物であるミスタ・グラモンと決闘しました」
 ルイズは堂々と言った。もちろん、誇れることでないのだが、嘘をついてもしょうがない。どうせ事情は誰もが知っているのだ。
 まだルイズは知らないが、決闘の結果は波のように学院中に広まった。『あのゼロのルイズが、青銅のギーシュに決闘で勝った』と。
 ルイズは良くも悪くも有名人である。ルイズの実家、ヴァリエール家はハルケギニアでその名を知らぬ貴族はいないほどの名門であるし、『ゼロ』の二つ名は前述の立場もありその特異性から学院では有名な話だ。
 ギーシュもその女癖の悪さから、学年を問わず有名である。影では『好色』の二つ名で呼ばれているとかいないとか。
 そんな二人の決闘が話題にならないはずもなく、半日と経たずに噂は尾ひれをつけてあらゆる人間に伝わっていた。
それもルイズの勝利という結果で終わったのだ。決闘は裏で賭けまで行われたらしく、一部の生徒を除いて何人もの生徒が小遣いを失ったという。
「もちろん、貴族同士の決闘が禁じられているのも知っておるな?」
「存じております」
 決闘はルイズの勝利で終わったが、そんな結果に関係なく決闘自体が禁止されているのだ。あの後、すぐに教師の一人が駆けつけて来て広場の片づけを観客たちに命じた後、ルイズは説教され学院長室に行け、と伝えられた。
というわけでルイズは学院長室に呼び出されたのだった。ちなみにギーシュは魔力を使い切っていたのであの後気絶し、今はモンモランシーに医務室にて介抱を受けている。

――ま、しょうがないわね。

 おそらく何らかの罰を受けるだろう。それは仕方ない。食堂でギーシュに手袋を投げた時からわかっていたことだ。
 それに、そこまで重い罰を受けることもないだろう。禁止されているとはいえ、こういった生徒同士の決闘というのは年に何度か起きるのだ。
確かキュルケも一年の時に決闘騒ぎを起こしていたし、罰といっても何日かの謹慎処分といったところだろう。
「わかっておってあの騒ぎか。まったく・・・・・・話を聞く限り非はミスタ・グラモンの方にあり、本人もそれを認めておるようじゃが、もうちと穏便にできんかったのかのう」
 耳が痛い。確かにちょっとやりすぎた、とはルイズも思っているのだ。これでも一応、反省してるのである。
「まぁ、良いわ。ミス・ヴァリエール、規則に背き、決闘を行ったということで謹慎五日間を言い渡す。入浴以外は基本的に自室で過ごすことじゃ」
「・・・・・・わかりました」
 謹慎五日間。まぁ、妥当だろう。ギーシュもおそらく同じか、少し長いくらいだろう。それよりも、だ。
221名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 23:40:25 ID:BG/2H+Uh
支援
222名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/08(土) 23:52:49 ID:EgWr6wUu
おや?
223代理です:2010/05/09(日) 00:02:17 ID:9CQ/QOIx
598 :疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6:2010/05 /08(土) 23:41:17 ID:QMLh1S7M
ああ、せっかく久しぶりに投下できていたというのにさるさん・・・・・・

どなたか代理投下お願いいたします。

―――

「ところで。ミス・ヴァリエール。君が召喚した使い魔について、いくつか聞きたいことがある」
 来た。
「なんでしょうか?」
 質問が来ることは分かっていた。問題はどう答えるかだが、それも既に考えてある。そうでなければ無計画に《P.V.F》を展開したりしない。
「あの『錬金』。それに使い魔について。そして、その左手のルーン。とりあえずはこの三つじゃな」
 この質問も予想通り。
「・・・・・・杖を振っても?」杖を取り出し、オスマンに訊ねる。オスマンは静かに頷いた。
「『錬金』」ルイズは決闘の時と同じく、ルーンを読み上げる。
 右手を伸ばし、杖を軽く振ってから《P.V.F》を展開する。光の粒子がルイズの右手を包み、半透明の装甲を形成していく。何も無かった空間から生じた装甲は無機質な音を立てて、機関部を形成。
三本の長く優雅な銃身と巨大な盾を併せ持ったルイズの《P.V.F》、シールド・オブ・ガンダールヴだ。
「ほう」
「これが・・・・・・」オスマンは静かに、コルベールは目を見開いて驚いていた。オスマンの落ち着いた態度は生きた年月がそうさせるのかもしれない。大したものだ。
「まず一つ目の答え、これが私の『錬金』で作った特殊な弩、シールド・オブ・ガンダールヴです」
 本当は『錬金』なんて使わないで、展開することができる。もちろん杖もいらない。第一、ルイズが『錬金』を使えば爆発してしまう。決闘の時にわざわざ『錬金』を唱えていたのは、この言い訳に真実味を持たせるためだ。
「ふむ、見事じゃ。それだけ精巧な弩を作り出すとはのう。遠見の鏡で見ていたが相当な威力を誇るようじゃな。その上、連射までできるとは・・・・・・『土』のトライアングルはあるかの」
 遠見の鏡。ルイズも噂では聞いたことがあった。曰く、その鏡には遠見の魔法の力が込められており、魔力を通うわせることで遠く離れた風景を見ることができるという。
 なるほど。それでシールド・オブ・ガンダールヴの性能まで知っていたのか。
224名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 00:03:09 ID:9CQ/QOIx
599 :疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6:2010/05 /08(土) 23:45:35 ID:QMLh1S7M
「ありがとうございます。それでは、二つ目の質問に答えましょう。私の召喚した使い魔は東方のマジックアイテムです。
錠剤といって、ポーションを固形にしたものと考えてください。それを飲むことで、私のこのシールド・オブ・ガンダールヴのような《P.V.F》と呼ばれる武器を作ることができるようになります」
 これが私の用意した言い訳だ。嘘はほとんどついていない。
「ふむ、《P.V.F》というのですか。ミス・ヴァリエール、失礼ですが少し見せてもらっても構いませんか?」
「ええ、どうぞ」
 ルイズがそう返事をするとコルベールは喜んだ様子で調べ始めた。
「ふむ」とか「これがこう動くのか」とか言っているコルベールを尻目に、オスマンは質問を続ける。
「それにしても随分と大きいのう。こんなものよう振り回せるものじゃな?」
 オスマンの言葉には、疑いが感じ取れた。できれば気づかないでいて欲しかったが、それは流石に無理か。
「ええ、本来は相当な重量があるのですが、術者である私はほとんど重さを感じないのです。どうやら《P.V.F》を展開すると、体内の水の流れが活性化するようです。
今の私はかなり力が出せますよ。東方の魔法とは凄いものですね」
 東方の地について知るものは少ない。広大な砂漠を越え、エルフの住む土地を越えなければいけないからだ。誤魔化すのに、これほどいい材料は無い。
「そして、これがマジックアイテムを使った証のルーンです。私はルーンの刻まれた錠剤を飲みましたから」
 これだけは嘘をついていない。この左手のルーンは、ルイズの魔法が成功した証であり、使い魔との絆だ。
「ふむ・・・・・・なるほどのう。・・・・・・わかった。下がってよろしい。ほれ、ミスタ・コルベール、いい加減にせんか」
「あ、すみません。ではミス・ヴァリエール、謹慎期間はおとなしくしているのですよ」

――なんとか誤魔化せたようね。

「はい、失礼します」
 部屋に戻ろう。しばらくは暇だろうが、仕方ない。
「おお、そうじゃ、ミス・ヴァリエール」
 部屋を出ようとしたところで、オスマンに呼び止められた。
「なんでしょう?」
「新しい二つ名を考えねばならんな。もう誰も『ゼロ』とは呼ばんじゃろうて」
 そんなオスマンの言葉を聞いて、胸がカァと熱くなるのを感じた。オスマンは静かに目を細めて微笑んでいるだけだったが、それだけで十分だ。
「・・・・・・ありがとう、ございます」
 やっとのことでそれだけを言うと、ルイズは学院長室を出た。視界が歪んでいるのに気づいて、初めて泣いていることに気づいた。

 ルイズは誰かに『ゼロ』じゃないと言って欲しかったのだ。
225名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 00:04:39 ID:9CQ/QOIx

600 :疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6:2010/05 /08(土) 23:54:09 ID:QMLh1S7M
以上、八章終わりです。
支援してくださった方申し訳ないです・・・・・・orz
それはさておき。
今回は前回のルイズの言葉を中心に波紋が広がっていく感じ。
都合上視点が入り乱れていくためになかなか進めない。ちょっともどかしいですね。
とはいえ、ここでシエスタやキュルケの視点を入れておくべきかと思ったり。空気なキャラはなるべく作りたくないです。
ルイズの二つ名を変えてやりたいんですが、どうしたものか。
なにかいいのはありませんかね? いくつか候補は考えてあるのですが。

あとオスマンはなんだかんだで凄い人だと思うのです。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 00:09:05 ID:RAq1cD75
投下&代理乙
展開は短くても密度が濃いんで読み応えありますなあ。

しかも美味しいネタ振りをw
227アノンの法則:2010/05/09(日) 01:15:06 ID:mb5kjUKf
お久しぶりです
アノンの法則です
他に予定が無いようなら投下させていただきます
228アノンの法則:2010/05/09(日) 01:16:20 ID:mb5kjUKf
一行はラ・ロシェールで一番上等な宿、『女神の杵』亭を今夜の宿と決め、一階の酒場で食事を摂っていた。
キュルケが、隣で鶏肉をほおばっているアノンの腕をつついた。
「ねえ、ダーリン。ギーシュってずいぶん雰囲気変わったと思わない?」
そう言われて向かいの席のギーシュを見ると、ギーシュはワイングラスを手に、なにやら真剣な表情をしている。
「さっき襲撃してきた奴らの尋問のときなんか特に。あんなギーシュ見たこと無いわ」
横で聞いていたタバサも、ハシバミ草のサラダで頬を膨らませたまま、こちらに視線を移した。
「なんでも実家で鍛え直してきたらしいよ。実際、凄く強くなってる」
アノンは嬉しそうに答える。
「多分ギーシュくんは、フーケよりも強くなるんじゃないかなぁ」
「フーケよりぃ?」
キュルケは信じられない、といった風にギーシュを見た。
「ねえ、ギーシュ。さっきから何見てるの?」
「ん? いやね、あそこのご婦人。なかなか美人だと思わないかい?」
キュルケとタバサはアノンを見る。アノンはすっと視線を逸らした。
そこに、『桟橋』へ乗船の交渉に行っていた、ワルドとルイズが帰ってきた。
ワルドは席につくと困ったように、
「アルビオンに渡る船は明後日にならないと、出ないそうだ」
「急ぎの任務なのに……」
仕方が無いこととは言え、ルイズは不満そうだ。
「私はアルビオンに行ったことないからわかんないんだけど、どうして明日は船が出ないの?」
キュルケの問いに、ワルドが答える。
「明日の夜は月が重なるだろう? 『スヴェル』の月夜だ。その翌日の朝、アルビオンが最も、ラ・ロシェールに近づく」
近づく、と言うことは、アルビオン大陸は浮島のようなものなのだろうか、とアノンは一人考える。
「さて、じゃあ今日はもう寝よう。部屋を取った」
ワルドは鍵束を机の上に置いた。
「キュルケとタバサは相部屋だ。そして、ギーシュとアノンが相部屋。……ルイズは僕と同室だ」
ルイズがはっとして、ワルドを見た。
「そんな、ダメよ! まだ、私たち結婚してるわけじゃないじゃない! それに…」
ルイズはちらりとアノンを見る。アノンは特に気にした様子も無く、テーブルの料理をパクついている。 
何か不愉快なものを感じて、ルイズはぷいっと視線を逸らした。
ワルドは、真剣な眼差しでルイズを見つめた。
「大事な話があるんだ。二人きりで話したい」
ルイズは黙って頷いた。
229アノンの法則:2010/05/09(日) 01:18:48 ID:mb5kjUKf
 


「ねえ、本当にやるつもりなの? 今は、そんなことしているときじゃないでしょう?」
ルイズがワルドに言った。
「そうだね。でも、貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」
「いいじゃない。ダーリンがスクウェアメイジ相手にどう戦うのか興味あるわ」
「僕も同意見だ」
顔に痣を作っているギーシュが賛同し、タバサもこくこくと頷く。
「あら、ギーシュ。その顔は?」
「今朝方、朝食前に子爵と手合わせした」
「ああ、なるほど」

次の日、ワルドは朝食の席で、アノンに立会いを申し込んだ。
介添え人に指名されたのはルイズ。
手合わせを申し込まれたアノンは喜んでそれを受け、ルイズの制止になど耳を貸さない。
形だけとは言え、介添え人を置くとなれば、決闘だ。
となると、キュルケたちが放って置くはずが無く、結局今は物置と化した練兵場に旅の一行が集まる形となった。
「では、始めようか」
ワルドは腰から、レイピア型の杖剣を引き抜き、フェンシングのように構える。
アノンも背中のデルフリンガーを抜いた。
すでに馴染んだ、ルーンが光り体が軽くなる感覚。
だが、いきなり飛び掛るような真似はせず、形だけの構えでワルドの出方を伺う。
「どうしたね。来ないなら……こちらから行くぞ!」
ワルドが大きく踏み込み、鋭い突きを放った。
(へえ。杖を剣のように使うのか)
杖の切っ先は、真っ直ぐにアノンの眉間に向かう。
(太刀筋も鋭い)
アノンは半歩横に移動、
(突きに迷いが無い)
半身になって体を逸らし、
(うん)
突きをかわす。
(見事だ)
さっきまでアノンの頭があった空間を、ワルドの杖が貫いた。
一撃目をあっさりと避けられ、ワルドは慌ててバックステップを踏んで距離をとる。
(紙一重でかわしただと?)
「避けた…!」
少しでも技を盗もうと、食い入るように二人を見ていたギーシュが思わず声を出した。
「完全に見切っていた。でなければあれを紙一重でかわすのは不可能」
「ああん、さすがダーリン!」
タバサの呟きに、キュルケが嬌声を上げる。
一方、ルイズは気が気ではなかった。
大事な任務の最中だというのに、怪我でもしたらどうするのか。
「あーもう!」
こんなときに手合わせなど始める二人が分からず、ルイズはじだんだを踏んだ。
今度はアノンが一足飛びで距離を詰め、ワルドに斬りかかった。
「うおっ!?」
ワルドは辛うじて杖で受け止める。
これほどまでに早いとは。『風』でなければ対応は至難だ。
しかも、攻撃が重い。頑丈な鉄ごしらえの杖剣が軋み、手がしびれた。
普通の身体能力ではない。人間離れしている。
だが、突出した身体能力などに遅れをとっては、メイジの名が廃る。
“本物”のメイジは、接近戦もこなせてこそなのだ。
230アノンの法則:2010/05/09(日) 01:21:08 ID:mb5kjUKf
再び後ろに飛びずさったワルドは、ゆっくりと息を吐き出し、油断を捨て去る。
ようやく本気になったか、とアノンは身構えた。
「魔法衛士隊のメイジは、ただ魔法を唱えるだけじゃないんだ」
ワルドは羽帽子に手をかけて言った。
「詠唱さえ、戦いに特化されている。杖を構える仕草、突き出す動作……、杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。軍人の基本中の基本さ」
再びアノンが斬りかかる。
ワルドは猛スピードで振るわれた剣を見切り、今度は杖で受け流した。
体勢の崩れたところに、柄じりでの一撃を叩き込むが、アノンは凄まじい身体能力で持って飛び上がり、それをかわしてみせる。
「君は確かに素早い。ただの平民とは…いや、人間とは思えない」
身を捻って着地するアノンを狙い、ワルドは風を裂く音と共に、何発も刺突を繰り出す。
一撃目よりも速く、鋭く、力強い。
「しかし、それだけでは本物のメイジには勝てない」
それでもまだ、アノンの方が速い。だが、的確に避けづらい場所を狙ってくる攻撃が、攻めに転じることを許さない。
ワルドはアノンの“超身体能力”を、卓越した“技”で押さえ込んでいた。
「デル・イル・ソル・ラ・ウィンデ……」
杖が風を切る音の中に、アノンは何かの呟きを聞いた。
「! コレは…」
「相棒! いけねえ! 魔法がくる!」
デルフリンガーが叫んだと同時に、アノンの目の前の空気が跳ねた。
巨大な空気の塊に殴り飛ばされ、宙を舞ったアノンは、積み上げられた樽に突っ込んだ。
派手な音を立てて、樽の山が崩れ落ちる。
「つまり、君ではルイズを守れない」
崩れた樽に埋まったアノンに、ワルドはそう言い放った。
慌ててキュルケたちが、樽を退けてアノンを掘り出しにかかる。
「アノン!」
「待つんだルイズ」
ルイズも駆け寄ろうとしたが、ワルドに止められた。
「こういうとき、男には声をかけないほうがいい」
「でも…!」
「今君に慰められたりなどしたら、それこそ彼は立ち直れなくなる」
ルイズはぐっと黙り込んでしまう。
「とりあえず、そっとしといてやろう」
ワルドがルイズを諭す。
「ダーリン、大丈夫!?」
「あ、待つんだキュルケ! そこを退けたらまた……」
向こうでは、『レビテーション』で樽を退けようとして、さらに崩れてきた樽にキュルケたちがきゃあきゃあ言っている。
ルイズはしばらく躊躇っていたが、やがてワルドに引かれて去っていった。
「自分で出られるよ」
樽山の中から、アノンの声がした。
ガラガラと山を崩しながら、アノンが自力で這い出してきた。
「よく無事だったな」
「ダーリン、怪我は無い?」
「平気だよ」
服の埃を払いながら、アノンは答える。
「しかし、いくら君でも魔法衛士隊隊長の相手は荷が重かったようだな」
「でも、平民であれだけやれれば十分よ」
「けっ! ガキどもが。どこ見てもの言ってやがる!」
いきなり野太い男の声が聞こえた。声の主は、アノンのインテリジェンスソードだ。
その柄は、アノンの手にしっかりと握られていた。
「見ろ、相棒はまだしっかり俺を握ってる。武器を手放さないうちは負けじゃねえ」
アノンは必死に訴えるデルフリンガーを鞘に戻し、柄をぽんぽんと叩く。
「ただ魔法を唱えるだけじゃない、か……。この世界の『魔法』…まだまだ奥が深そうだ」
決闘の結果など気にもせず、アノンは新しいおもちゃを見つけた子どものように、瞳を輝かせて嬉しそうに笑った。
231アノンの法則:2010/05/09(日) 01:23:22 ID:mb5kjUKf
 

その夜、アノンは一人部屋のベランダから、重なり一つになった『スヴェル』の月を見上げて、思考に耽っていた。
ワルド子爵。
相当な腕の持ち主だ。速さだけなら、あの李崩以上。
そこに魔法の力と実戦で鍛えられた技術が加わり、まさに『閃光』の二つ名に相応しい実力だ。
それに、今日の戦いが彼の全力ではない。
デルフが言うには、ワルドは最高クラスのスクウェア・メイジ。
もっと強力な魔法が使えるはずだ。
彼が本気になれば、今日とは比べ物にならない戦闘力を発揮するだろう。
だが、アノンが重要に考えていることは他にあった。
本物のメイジと戦ったことで新たに知った、メイジの戦い方。
すなわち、剣と魔法の併用である。
杖を武器とし、杖で攻撃しつつ詠唱を完成させ、魔法を撃ち込む。
魔法を使うための限定条件、“杖を手に持つ”と“ルーンを唱える”の二つをクリアしながら、攻め手を緩めず、魔法攻撃に繋げられる有効な戦術だ。
ワルドは、それを完全に使いこなしていた。
そして、それは『軍人の基本』と言った。
モット伯の魔法に加えて、更なる魔法の力を得ようと考えていたアノンだったが、今はそれ以上に、魔法を使いこなす技術に興味を持っていた。
「何たそがれてんのよ」
後ろからの声に振り向くと、そこにルイズが立っていた。
「ワルドはスクウェア・メイジよ。負けたって恥じゃないわ」
ぶっきらぼうに言うルイズ。
どうやらアノンが、ワルドに負けたことを気にして、落ち込んでいるのではないかと心配してくれたらしい。
「別に落ち込んでるわけじゃないよ」
アノンは答える。
「ただ、ボクもまだまだだなって思ってただけさ」
「べ、別に心配したわけじゃないわ」
ルイズはぷいっとそっぽを向いた。
「子爵様がいれば、この任務も心配ないね」
アノンの何気ないその言葉に、ルイズは急に不機嫌になった。
「なによ。全部ワルドに任せる気? あんたは私の使い魔でしょ。ちゃんと私を守りなさいよ」
「わかってるよ。でも凄い腕だったし。実際、今回の任務くらい一人でこなせちゃいそうだよね」
なぜだか分からないが、ルイズはアノンのその態度に酷く苛立った。
自分の心配が、空振りに終わったからだろうか。
それとも、アノンが決闘に負けた事を、全く気にしていないからだろうか。
とにかく、ルイズは今のアノンが気に喰わなかった。
「わかったわ。いいわよ。私はワルドに守ってもらうわ」
「?」
ルイズの怒った様な言い方に、アノンは不思議そうな顔で、うん、とだけ答えた。
それがさらにルイズを苛立たせる。
「あの人、頼りがいがあるから、きっと安心ね。別に使い魔のあんたに言うことじゃないけど、言うわ。今、決心したわ。私、ワルドと結婚する」
何かの気持ちを込めてルイズは言ったが、アノンは、一体なんだ、とでも言いたそうだ。
「ワルドと結婚するわ」
もう一度、ルイズは繰り返した。
「ああ、キミたちは婚約してるんだっけ? 別にいいんじゃないかな」
「…!」
特に驚いた様子も無いアノンに、ルイズのプライドは傷ついた。
「あんたなんか一生そこで月でも眺めてればいいのよ!」
そう怒鳴って、ルイズはアノンに背を向けた。
その時、巨大な影がベランダを覆った。
見上げると、月光を遮り、影を作っているのは巨大なゴーレム。
「な、なによこれ!」
「このゴーレムって確か…」
「久しぶりね、お二人さん!」
ゴーレムの肩から、長い髪の人物が二人に向かって言った。
232アノンの法則:2010/05/09(日) 01:25:22 ID:mb5kjUKf
「フーケ!」
ルイズが叫ぶ。
「感激だわ。覚えててくれたのね」
「たしか、牢屋に入れられてたんじゃなかったっけ」
言いながらアノンは背中に手をやり、デルフリンガーを背負っていないことに気がついた。
一人で考え事をしたかったので、あのよく喋る剣は、部屋の中に置いて来ていたのだ。
「親切な人がいてね。私みたいな美人はもっと世の中のために役に立たなくてはいけないって、出してくれたのよ」
嘯くフーケ。その隣に、黒マントを着て、顔を仮面で隠した男が立っている。
(アレがフーケを脱獄させた犯人か?)
黙り込んでいるため、どういった人物なのか分からないが、どうにも不気味な感じだ。
「素敵なバカンスのお礼をしてあげるよッ!」
フーケが叫び、ゴーレムが拳を振り上げた。
「ルイズ!」
「きゃあ!」
アノンはルイズを部屋の中へ突き飛ばし、自分も部屋に転がり込む。
ゴーレムの拳が、ベランダを抉った。
「何事だ、相棒!」
アノンは喚くデルフリンガーを引っつかみ、ルイズを引っ張って一階へと駆け下りる。
しかし、そこもすでに修羅場と化していた。
街中の傭兵たちが、宿を襲撃してきたのだ。狙いはもちろん、ワルドたち。
石のテーブルを倒して盾にし、反撃もしているが多勢に無勢といった状況だ。
破られた店の扉から、フーケのゴーレムの足が見える。
どうやらフーケも店ごと潰すつもりは無いらしい。
アノンたちもテーブルの影に滑り込んだ。
「ギーシュくんがいないね。どこ?」
「え、上にいたんじゃないの?」
アノンの問いに、キュルケが驚いたように言った。
首を振るアノン。ギーシュの姿は夕食の後から見ていなかった。
「では外か。参ったな」
「ただでさえ多勢に無勢だっていうのに、分断されるなんて」
キュルケは忌々しげに外に見えるゴーレムの足を睨んだ。
「あのフーケがいるってことは、アルビオン貴族が後ろにいるということだな。ギーシュ君は最悪、見捨てることになるかもしれん」
ワルドのその言葉に、ルイズが声を上げる。
「そんな!」
「この状況じゃ、探しにもいけないよ」
アノンにそう言われても、ルイズは納得していないようだ。
話している間も、矢は飛んでくる。
キュルケはテーブルの盾から身を乗り出し、反撃の火球を放つも、すぐさま討ち返された矢に、慌てて頭を引っ込める。
「それより、このままじゃいずれ精神力が切れるわ! そしたら連中、一斉に突撃してくるわよ。どうすんのよ!」
「こうするのさ!」
突如、勇ましい声が酒場に響いた。
それと同時に、厨房の方から大きな鍋が、突入を図ろうとしていた傭兵達に向かって投げつけられた。
派手な音と共に、鍋の中にたっぷり入っていた油がぶちまけられる。
「ギーシュ!?」
ルイズたちが声の方を見ると、趣味の悪いシャツを血で汚したギーシュと、鍋を投げたワルキューレが立っていた。
「キュルケ! 炎だ!」
「言われなくても!」
傭兵達が怯んだ隙に、キュルケはテーブルから乗り出し、火球を放った。
火球は撒かれた油に引火し、火の海を作り出す。
「ルイズ! ここは任せろ! 君たちは船へ!」
タバサがこんな時まで読んでいた本を閉じ、自分達を指して、
「囮」
と呟く。
「聞いての通りだ。裏口に回るぞ」
「行くよ、ルイズ」
「え? え? ええ!?」
戸惑うルイズを急かし、ワルドとアノンはテーブルの影から飛び出した。
三人めがけて矢が放たれたが、タバサの風が全て防ぐ。
三人は裏口から、桟橋へと急いだ。
233名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 01:26:31 ID:pv5fkl+y
支援
234アノンの法則:2010/05/09(日) 01:28:32 ID:mb5kjUKf
キュルケの炎をタバサの風が煽り、陣形の崩れた傭兵達に青銅のゴーレムが突進する。
突然のギーシュの参入で、傭兵達は動揺し、形勢は一気に逆転した。
あれだけいた傭兵達は、すでにほとんどが逃走を初めている。
「あんたどこ行ってたのよ」
逃げ出した傭兵達に一仕切り勝ち誇った後、キュルケはギーシュに尋ねた。
戦闘が一段落し、床に座り込んでいたギーシュは顔を上げて答える。
「ちょっとトレーニングさ。そしたら急に宿の方が騒がしくなったからね。急いで戻って来たってわけだ」
「傭兵の中を突っ切ってきたわけ?」
「連中、後ろはまるで気にしてなかったからな。厨房の窓に飛び込むまで、ほとんど無傷で走り抜けられたよ」
「へえー…」
キュルケは意外そうにギーシュを見た。
あの軟派なドットメイジがえらく変わったものだ。
伊達に武門の出ではないということか。
「しかし…傭兵とはいえ、人を殺すというのはあまり気分の良いものじゃないな」
ギーシュは今回初めて、本格的な命のやり取りを経験したのだ。
戦いの興奮が冷めてそれを実感したのか、青い顔で体を震わせた。
「まだ終わっていない」
タバサが二人に言った。
その直後、轟音と共に宿の入り口がなくなった。
「あちゃあ。忘れてたわ。あの業突く張りのお姉さんがいたんだっけ」
ゴーレムの肩ではフーケが、目をつりあげてこちらを睨んでいる。
「どうする?」
「ルイズたちは行ったし、もう戦う意味が無いような気もするが……」
「調子にのるんじゃないよッ! 小娘どもがッ! まとめてつぶしてやるよッ!」
フーケの怒鳴り声が響く。
「……そう簡単には逃がしてくれなさそうよ?」
タバサが、ギーシュを見て言った。
「さっきと同じ。油と炎」
「あの巨大なゴーレムを焼けるだけの油がどこにあるんだね」
「あなたが作る。まずは花びら、それもたくさん」
それでギーシュは、タバサの意図を察する。
「…ああ、了解。今度は相手がゴーレムなだけ気が楽だ」
よっこらしょ、と腰を挙げ、ギーシュは薔薇の杖を振った。
無数の花びらが生まれ、それをタバサが風に乗せてゴーレムへと飛ばす。
花びらが、ゴーレムにまとわりついた。
「うん。あの無骨なゴーレムも、僕の薔薇でずいぶん見栄え良くなったじゃないか」
勝ちが見えたからか、それとももう恐怖が麻痺したか。
ギーシュはあのフーケを前にしているにもかかわらず、なんだかのん気な気分だった。
「なによ。贈り物? 花びらで着飾らせてくれたって、見逃してなんかやらないよ!」
フーケがせせら笑ったが、ギーシュは冷静に『錬金』を唱えた。
ゴーレムの表面に張り付いた花びらが、ぬらりとした油に変わる。
「これは…」
フーケは、敵たちの能力と照らし合わせて、すぐにその目論見に気づいた。
(やばい!)
フーケがゴーレムから飛び降りると同時に、キュルケが『ファイアーボール』を放った。
ゴーレムは一瞬にして炎に包まれる。
燃え盛る炎を振り払おうと、ゴーレムはしばらく暴れていたが、やがて力尽きたように崩れ落ちた。
雇い主の敗北に、わずかに残っていた傭兵達も散り散りになって逃げていく。
「やったわ! 勝ったわ! 私たち!」
ぴょんぴょん跳ねて喜ぶキュルケ。
タバサは座っていつものように、本のページをめくり始める。
逃げ去っていくフーケと傭兵を見送り、ギーシュは大きく息をついて、地面に大の字に寝転んだ。
空には、重なり合った双月が輝いている。
「ルイズたちは無事に船まで行けたのか…?」
今は考えても仕方ない。
ギーシュは襲ってきた疲労に任せて、目を閉じた。
235アノンの法則:2010/05/09(日) 01:29:30 ID:mb5kjUKf
以上です
ではまた
236名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 02:07:54 ID:pxXkIYMS

ギーシュがかっこいい
237名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 09:48:01 ID:VE/EVRY2
乙でしたー


今日は日曜か ウルトラの人は17:00くらいかな?
238名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 15:44:58 ID:Yii1lzR9
♪ まだかなまだかなー   ウルトラの 投下はまだかなー
  どこを描いているのかなー


ってネタ古過ぎっ
239名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 15:52:53 ID:XqPRkn9i
ウルトラさんが来る前に代理投下始めます。

605 名前:ゼロの戦闘妖精[] 投稿日:2010/05/09(日) 14:55:56 ID:3Yrxie0E
   規制かかっちゃいました。どなたか代理 お願いします。
240戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:53:39 ID:XqPRkn9i
Misson 09「伝説のフェニックス」(中編)

アンリエッタから準備の為の時間をもらい ルイズが向かったのはグリフォン隊舎だった。
騎士見習いとは言え 部隊に所属している以上、少しばかり?無茶をするからには 事前に話しておいた方が良いとの判断からだ。
そして ワルド隊長に報告。幸い 今日はまだ『市中見回り(という名目の 盛り場巡り)』に出向いていなかったので、すぐに会う事が出来た。
ところが、姫様のラブレターの件を説明しても、
「なんだ。結局 君の所へお鉢が回ってきたのか。」
と あまり驚いていない様子で、
「隊長、ご存知だったんですか?!」
ルイズの方が逆に驚いた。
「宮廷中枢の主だった者は 殆どが知っているよ。バレてないと思っていたのは、姫様御本人位だろうね。」
溜息をつくルイズ。(そんな事じゃないかと思ってたけど・・・)

アンリエッタ姫とウェールズ皇太子が恋仲であったのは 周知の事実だ。
そして、ゲルマニアとの同盟の為に 政略結婚を纏め上げたマザリーニ枢機卿は、官僚としては極めて有能である。
計画遂行に当たって 危険な書面の存在を見落とすとも思えない。
実のところ 姫の恋文の存在を暴露されても、さほど影響は無いのだ。
戦争中及びその前後においては、真偽不明な怪文書が星の数ほど乱舞する。これもそれらの一つだとして、知らん顔の半兵衛を決め込めばイイ。
もちろん 相手のゲルマニアには、事前に真相を説明しておく必要があるが。とはいえ、なにせ 第四夫人まで娶ろうという皇帝陛下だ。別れた男の事など 気にするとは思

えない。
ただ、役人連中は そうはいかない。トリステインは 同盟において様々な譲歩を強いられるだろう。

そこまでは判る。だが、ルイズは 何か附に落ちないモノを感じていた。
「隊長、以前言ってましたよね。『宮廷じゃ 自分なんて下っ端』って。
 それが いつの間に 『主だった者』にまで出世したんです?」
ワルドは、少しイヤそうな顔で
「ふぅ・・・ ルイズ、君はサラッと言うけど、
 そう言うことって 普通 あまり本人に面と向かっては聞きにくいモンじゃないのかい。
 まぁ 『些細な疑問でも そのままにはしない』ってのは、犯罪捜査の基本だし。しょうがないか。 
 うん、僕がこの話を聞いたのは レコンキスタの工作員からさ。
 あいつら 僕を仲間に引き込もうとして接触してきたんだ。今でも付き合いはあるから 他にもイロイロ聞いてるよ。」
仕返しとばかりに、こちらもサラリと爆弾発言。堂々と、『敵の工作員と連絡を取っている』と宣言。
「なっ なんですってぇ〜!!!
 隊長、まっまさか トリステイン裏切る気なんですかぁ〜!?!」
ワルドの胸の辺りを握って、襲い掛からんばかりに詰め寄るルイズに、ワルドは笑って
「はははっ それこそ『まさか』だよ。僕はあいつらが大っ嫌いだ。
 貴族とは名ばかり、ろくでも無い血筋と地位をひけらかして、威張り散らすような連中の寄り合いになんて 間違ったって参加するもんか!」
「それじゃ どうして?」
「逆工作員、二重間諜ってヤツだよ。
 相手の誘いに乗った振りをして 向こうの情報を探ってたのさ。」
241戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:54:25 ID:XqPRkn9i

「活動対象の国に潜入した工作員がする事の一つは、政府や商人 軍の中に協力者を作ることだよ。
 エサは金だったりオンナだったり 本国での地位だったり、様々だね。
 そんな工作員の目から見て、僕 ジャン=ジャック・フランシス・ド・ワルドがどう映るか?
 魔法衛士隊の隊長というそれなりの役付きで、盗賊団などの地下組織を相手にしていて、その上 遊び人で万年金欠病。 
 自分で言うのもナンだけど、これほど寝返らせ易そうな奴は居ないと思うよ。
 で、相手の誘いに乗った振りをして 大勢には影響の無い情報を流しながら、トリステイン国内のレコンキスタ側諜報組織の全貌を探っていたんだ。
 獅子身中の蟲を一網打尽にする為にね。」
「あっ、隊長が前に言っていた『犯罪組織』って!」
「そういう事。
 こいつ等は 既に国家中枢にまで入り込んでいるから、グウの音も出ないぐらいに証拠を固めてからでないと 手が出せなかったんだ。
 アンリエッタ様の件だけど、
 もし 手紙回収を姫様が誰かに命じられるとして、敵に包囲された城に密かに潜入し 篭城中の総大将に会い もう一度最前線を突破して帰還する。
 そんな事が出来るのは、今のトリステインじゃ 僕も含めて五人いるかどうか。
 となると、候補者の中で一番下っ端の僕が行かされる可能性は かなり高かった。
 雪風の様な 非常識な使い魔が召喚されでもしなければ、アンリエッタ様も君に依頼しようとは思わなかっただろうし。」
そう言いながらもワルドは、
(いや あの姫様ならば、ひょっとしたら…)
と その場合の恐ろしい結末を想像してしまい、全力でそれを頭の中から振り払った。
「で、そこに レコンキスタが目を付けた。
 奴らは 僕にこう命じてきたのさ。
『皇女から手紙回収を指示されたら それを手に入れて、ウェールズ皇太子を暗殺しろ!』ってね。」
「酷い…」
雪風から 戦争についての睡眠学習を受けているルイズだが、暗殺等の不正規戦闘については さほど詳しくない。
非人間的な、それでいて人間以外には為し得ない、ドロドロとした 裏社会の殺し合い。
思わずルイズが洩らした呟きに、
「そうだろうルイズ。
 奴ら 僕の事を『使い捨ての三下』扱いしやがったんだから!」
騙し合いも殺し合いも日常でしかないワルドにとっては、ルイズの感傷など 遥か昔の忘れ去った過去だった。

「念を押すけど
 …本当に大丈夫だろうね?これで、もし君が撃墜されたなんてことになったら、たぶん僕等は死刑じゃ済まないよ。」
「大丈夫です。
 入隊試験の時の事、お忘れですか?レコンキスタなんかに グリフォン隊以上の兵が居るとは思えません。」
「何も判らないうちから そうやって敵を侮ると、痛い目を見るかもしれないぞ。」
「それも大丈夫です。
 ここのところ毎晩、アルビオンまで高高度偵察に飛んでますから。
 配備中の艦艇、武器弾薬の配置、監視体制その他、全て把握済みです。」
別に 今日の事が念頭にあったわけではない。
偵察機としての雪風の根幹プログラムが深層心理に影響を与えるのか、毎晩 前線の状況を確認しなければ、ルイズは熟睡出来なかったのだ。
「あちゃ〜、そうだった。初めから君に任せればよかったんだ!
 なら、人手が足りないってのに わざわざ偵察に隊員を送るなんて事もいらなかったな。」
大袈裟に嘆くワルドに ルイズは
「隊長、そんな事は無いですよ。
 いくら雪風でも、兵士の噂話やボヤキまで 聞き取ることは出来ませんから。」
242戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:55:25 ID:XqPRkn9i

グリフォン隊隊舎から魔法学院に戻り、部屋で留守番のデルフリンガーを専用ラックに装備する。
「デルフ、大体判ってるわよね。
 悪いけど、アルビオンで篭城中の王子様の所へ 先触れとして、また『飛んで』もらうわ。」
あらかじめデルフリンガーには 先程のワルドとの話を 雪風経由で傍受させておいた。
「おう。任せときな。
 こないだ『落っことされた』から もう慣れちまったぜ。」
わざわざ『落とされた』と言いなおすあたり、まだ根に持っているようだ。
「まぁ 相棒の世界の『ばんじぃじゃんぷ』とかいうのと一緒だな。ヒモはついてねぇけど。
 一回やっちまえば中々楽しいモンだぜ。
 それに 今回相棒に乗るのは この国のお姫様なんだろ。
 ありがてぇこっちゃねぇか。しがねぇインテリジェンスソードの俺っちが、なんと姫様の先触れ役をやらせて貰えるってんだからよ!」
おそらく彼の六千年の人生?は、剣士や傭兵達の様な荒くれ者に囲まれて過ごした日々ばかりだったのだろう。
高貴な姫君と接触できるのが よっぽど嬉しいらしい。デルフリンガー、意外とミーハーだったりする。
(デルフったら、姫様と私で 随分扱いが違うじゃない。私だって 一応『公爵令嬢』なのよ!)
ちょっとムッとする ルイズ。
「よかったわね〜、デルフ。
 じゃ、姫様にもデルフの事をよく知ってもらう為に、アルビオンまでの道中 入隊試験でのアンタの活躍でも見てもらいましょうか?」
「…嬢ちゃん あんた、やっぱり性格悪ぃよ。」

学院で給油等を済ませて王城に戻る。掛かった時間は、城を飛び立ってから かっきり半刻。
出掛けに 最初に会った若い近衛兵に話を通しておいたので、今回もモメ事等なく入城できたが、出迎えの兵士(若手の兵ばかり)がやたらと増えていた。
機体から降りたルイズが「何かあったんですか?」と問うと グループのリーダー格らしい騎士が答えて
「いや、別に何か問題があったって訳じゃないんだが・・・
 実は ウチの従兄弟が この『雪風』に乗ったのを えらく自慢していて、何度も話を聞かされてたんだが、
 実物は 聞いた話の何倍もカッコイイな!」
それを皮切りに 他の者からも次々に声が掛かる。
「どうだい、今度コッチにも 体験飛行の割り当てを廻してもらえないかな?」
「時間があるなら、この後すぐにでも!」
「カネの事なら 親のスネ齧りな学生連中よりは 融通がきくんだけど・・・」
何の事は無い、『雪風ファンの集い in近衛隊』だった。
(雪風の噂って、どこまで広がってんのよ〜)ルイズは心の中で叫んだ。
「先の事は何とも言えないけど、今日はダメね。先約があるの。
 今夜は一晩中 アンリエッタ妃殿下の貸し切りよ!」
騎士達から『オオッ〜』と声が上がるが、それは(驚き)よりも(納得)の雰囲気の方が強いようだった。
「まぁ アンリエッタ様じゃ仕方ないか!」
「あの姫様が、こんな面白そうな機械に 乗らないワケがないからなぁ。」
「間違いなく 大喜びされるでしょう。」
(んっ? 姫様と『機械』?)ルイズにとっては 結びつかない言葉だった。
「それって どういう事です?」
近衛騎士達が答えて、
「あぁ アンリエッタ様の趣味でね。数年程前から、高度なマジックアイテムや 複雑な動きをする機械を集めていらっしゃるんだ。
 部屋の中にも いくつか持ち込んでたハズだけど、見なかったかい?」
(そういえば 部屋の隅の方に 何かガラクタみたいなのが転がっていた様な…)
「妙な機械を作っている 魔法学院のナントカって教師の噂を聞いて『一度会って ゆっくり話をしてみたい』とか言ってたしね。」
(コルベール先生、おめでとうございます。意外な所に 貴方のファンが!)
「女性で そういうモノに興味を持つのって 珍しいだろ?」
ルイズが知っている 昔のアンリエッタに、そんな兆候は無かった。
…一体何が 彼女を変えてしまったのだろうか?
243戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:56:15 ID:XqPRkn9i

さて 姫様の部屋に戻ると、
「遅いではありませんか、ルイズ!」と 待ちかねた御様子のアンリエッタ様。
「ひっ 姫様、その御召物は!」
それは 白色ながら見事な光沢を放つ 東方産の『絹』のドレス。
そのままでウェディングドレスにも使えるような 華やかさと高貴さを兼ね備えた一品。
スカートは幾重にも積み重なり まるで堅城の石垣の如く、それでいて たおやかに揺れ動く。
これに勝るドレスは、国中 いやハルケギニア全土を探しても いくつも無いだろう。
「あぁ これですか?
 これは 母が祖母から、祖母はその母から受け継いだと言われる、トリステイン王家の女性に伝えられた『白亜天空のドレス』です。
 非公式の訪問とはいえ トリステインの姫がアルビオンの皇太子に会うのですから、装いにも失礼があってはなりません。
 このドレスは 元々アルビオン王家から送られた物と聞いております。今夜着て行くには、これほど相応しいドレスはないでしょう。」
(そりゃあ 恋人に会える最後の機会になるかもしれないんですから、精一杯の御洒落がしたいのも判りますけど・・・)
ルイズは冷酷に言い放つ。
「姫様。そのドレスはダメです。他の服に着替えてください。」
不満げなアンリエッタ。
「えぇ〜。どうしてなの ルイズ。
 解った、これ スカートの裾を床に引き摺ってしまうからでしょ!後持ちの侍女を連れて行く余裕は無いし。
 大丈夫!レビテーションで裾を持ち上げながら歩けばイイのよ。この『裏技』 お母様に教えていただいたのよ。ほら。」
「そーいう問題じゃありません!
 雪風のコクピットは狭いんです。そんなフリフリドレス、シートに収まりません。
 それに 万一どこか変なレバーやスイッチに引っ掛けて誤作動させたりしたら、雪風がどんな機動をするか 判らないんですよ!!」
(まぁ 後部座席の操縦系統を 初めから遮断しておけばイイだけなんだけど)
ルイズは、機長権限?でアンリエッタを着替えさせた。
だが、ここでも問題が。
二人とも ドレスの着付が苦手だったのだ。
流石に 特別な一着である『白亜天空のドレス』だけは、アンリエッタは 手入れや保存法 着付や補修についてまで しっかりと叩き込まれているが、特別な服過ぎて他の

服に応用が利かなかった。
ルイズは 母親の薫陶の賜物で、自分が着る分にはきちんとした『着付』が出来るが、他人に着せるのは勝手が違うのか 上手くいかない。
これから向かう先のことを考えれば、メイドを呼んで着付けさせるわけにもいかず、二人は悪戦苦闘しながら着替えを完了させた。
貴重な時間を 随分と浪費して。

ルイズには もう一つ出発前にしておかなければならないことがあった。
「レコンキスタの攻撃をかわし 無事にアルビオンのニューカッスル城上空まで辿り着いたとしても、そのまま降下すれば 今度は立て篭もる王党派の兵からの攻撃を受ける

のは必死。
 風の魔法で声を増幅して 堂々と名乗れるのならいいのですが、隠密裏の訪問ゆえ レコンキスタに聞かれる訳には参りません。
 ですから、まずは先触れ役を送りたいと思います。」
「でも どうやって?」
「都合のいい事に、私は お喋りな魔剣・インテリジェンスソードを持っています。
 これを先行投下して、城中の者と話をつけさせるつもりなのですが、その剣に こちらがトリステイン王家のものである事の証を持たせたいのです。
 何か そういった物をお借りできないでしょうか?」 
「それなら これを。」
アンリエッタは自らの手から指輪をはずし、ルイズに手渡した。大粒のルビーが嵌められた その指輪を見て驚くルイズ。
「姫様。こっ これは!」
「えぇ 『水のルビー』です。
 始祖ブリミルより 我が先祖が賜ったとされる、トリステイン王家秘宝の一つ。これなら 証として充分でしょう。」
(てか、充分過ぎますって! 大切なモノなんですから、もっと大事にしましょうよ!!))
そう言おうとしたルイズに
《マスター:報告
 当該指輪より、マスターの魔法発動プロテクト関連の共通パターンを検出。》
(うぇ〜、よりによって こんな時に!
 雪風、その件は一時保留。後で又報告して。)
《RDY》
「どうしました、ルイズ?」
「いえ 何でも。」
244名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 15:58:12 ID:F06OG0hv
アクマの人待ってた。超待ってた。乙!

これはやはりアルビオン王国は放置するルートなのかなー。
245戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:58:26 ID:XqPRkn9i
雪風の駐機位置まで行く間、アンリエッタは想像していた。
品評会の日 頭上を駆け抜けていった影、遠目にしか見えなかった姿、会場を揺るがせた轟音。
要領を得ない噂話、その多くで語られる『今まで 見たことも無いモノ』と言う評価。
膨らんでいく 妄想。
そして、実際に目にしたのは・・・その全てを超えていた!

「これが、『雪風』
 空を飛ぶ為に作られた 異世界の機械…
 なんて奇妙で それでいて美しい造形、美術館に飾っておきたい程だわ!」
機体下部に潜り込んで、
「一体何で出来ているのかしら?
 鉄でも銅でも鉛でもない、私ぐらいのの探知魔法じゃ まったく判らない。」
「この足は、ゴムの車輪!それに この部分が伸縮して、なるほど よく出来た機構ね。
 こんな所に扉があって 中は空っぽ。ひょっとして、この足が収納されるの!」
レヴィテーションで機上に昇り、
「こうして見ると 如何に大きな翼かというのが判るわね。
 それに このガラスのドーム、宮廷出入りの職人が見たら きっと気絶するわ。」興奮気味のアンリエッタに、
(雪風、キャノピ OPEN )《RDY》
ルイズから声が掛かる。
「姫様、そこがコクピット 操縦席です。後の席に座ってください。」
ヘルメットとシートベルトを着用させたところで、それまで消していた後部シートのディスプレイを点灯させる。
闇の中に突然浮かび上がった文字や図形に アンリエッタの興奮は最高潮を向かえる。
「この輝きが、魔法で無いなんて・・・信じられない!!!」
「その光こそが、雪風の意思。
 使い魔との『絆』を持つ私は例外として、姫様が見ていらっしゃる異国の文字や記号が インターフェイス、人間と雪風を繋ぐものなのです。」
 ルイズは 翼下のデルフリンガーに、姫様から預かった指輪を しっかりと括り付ける。
「いいこと デルフ、向こうに着いて『アンリエッタ姫の先触れ』だと言う証を求められたら、この指輪を見せなさい。
 下っ端じゃダメよ。エライ人なら これで判ってくれるわ。」
「ああ、相当の値打ちモンだな こりゃ。・・・って、なんか見覚えがあるような気がすんだけど、これ?」
「そうよ、国宝なんだから! ・・・やっぱり、『虚無』関係のアイテム?」
「う〜ん。確か 何かと対になってたんだよな〜。悪ぃが その先は判んねぇ。
 ま、ドーンと落っこちりゃ ちっとは思い出すだろ。すまねぇが、ちょいと待っててくれ。」
「いいわ。今はそれどころじゃないし。」
ラダーを登って パイロットシートへ。
《フライトチェック、オールグリーン》
(サンキュー 雪風)
そして、
「姫様、お待たせしました。
 アルビオン行き超特急便『雪風』号 只今 出発いたします。」
246戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:59:13 ID:XqPRkn9i

「もう 大丈夫ですよ。」
水平飛行に移行した機内で ルイズはインカム越しに声をかけた。
短距離離陸・急上昇での高Gは、ハルケギニアの如何なる幻獣・乗り物にあっても体験できるものではない。(『烈風』殿の乗騎を除く)
「ハァ ハァ・・・
 速すぎて 身体が潰れるみたいだなんて、凄過ぎる!
 なんて素晴らしい機械なんでしょう!
 あぁルイズ、もし 雪風が貴女の使い魔でなかったとしたら、私は無理矢理にでも奪ってしまっていたかもしれない。」
今の言葉や近衛騎士達の話に散見された アンリエッタの『機械への興味』。ルイズはそれが気になった。
「アンリエッタ様。私は今日 こうして姫様と二人きりになれて、最初は『昔と全然変わってない』って思ったんですけど、やっぱり変わった事もありますよね。
 そのメカフェ・・・機械好きなところとか。」
「そうね。自分でも 変わった趣味だとは思うわ。
 雪風は別として、機械は話し掛けてくれない。答えてもくれない。機械が幾ら沢山あっても 一人ぼっちは一人ぼっち。
 『おともだち』には なってくれない。
 それでもね、機械は人を裏切らない。蔑んだりしない。都合よく利用したりする事も無い。
 私の周りは そんな人達ばかり。
 だったらいっそ、機械に囲まれて暮らしたい。いつからか、そう思うようになったの。
 やっぱり これって変よね。」
何でもないような口調。それでも ルイズには、アンリエッタの思いが判った。
王宮の影で囁かれる、
『可愛いだけの 看板』『かざりもの』『政も戦も 何も知らない小娘』『冠置き台』『錦の御旗の 旗立て』
それは、
『魔法が使えない 貴族』『無能』『ゼロ』『名家の恥さらし』『欠陥品』『出来損ない』『平民以下』『無価値』
自分に対する陰口又は 面と向かっての罵倒に通じるものだから。   

「姫様、
 私に召喚されるよりも以前の事ですが、雪風は パイロットを裏切った事があります。
 正確には『見捨てた』事が。」
「えっ!」
視線を遠い夜空に向けていたアンリエッタが、驚いてルイズを見る。
「元の世界、雪風本来の戦場で 敵の罠に嵌り、パイロットは重症 雪風も破損。
 雪風を信じていたパイロットは、『雪風と共に死ねるなら』と 死を受け入れました。
 しかし 雪風は自らの機体を放棄し、魂を解き放って新たな機体を得 パイロットを置き去りに飛び去ったのです。」
「そんな、どうして?」
「雪風は、戦う機械 兵器として造られました。人造の魂『プログラム』も又 戦う為のもの。
 雪風が従うのは 戦う意思のある者のみ。たとえ 絶体絶命の危機であったとしても、そこで戦いを放棄した者は 容赦なく見捨てられるでしょう。
 そういう意味で、雪風はトリステインという国家を 主と認めるでしょうか?
 遠戚ともいえる王家を救おうともせず、自国の防衛は隣国の兵頼み。敵に擦り寄らんとする者までいる始末。
 ・・・まぁ 仮定の話に過ぎませんが。」
ルイズは アンリエッタに一本目の矢を放った。
それは 意図的な思考の誘導。皇女を利用しようとする宮廷の重臣達と同様の行為。
トリステインを守る為と言ったところで、免罪符には なりはしない。胸が痛む。心が痛い。
(ごめんなさい、姫様!)
黙り込む姫君。
宮中の評価と異なり、アンリエッタは賢い。ルイズの言わんとする事は 容易く理解できるだろう。
だが、ルイズの意図するところにまでは まだ考えは及ばない。
沈黙。コクピット内に響くのは エンジンの振動音。聞こえるのは、自分の呼吸音だけ。
言葉の無いまま 雪風は飛ぶ。多くの学生カップルを魅了した絶景『雲上の星空』も、アンリエッタの目を素通りするばかりだった。
247戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 15:59:59 ID:XqPRkn9i

「ねぇ ルイズ、」
アンリエッタが何かを話そうとした時 コクピットに流れる警告音。
《マスター:報告
 レーダーにレコンキスタ艦隊を補足。艦数11。全艦 ニューカッスル城周辺上空に停泊中。
 180秒後に有効射程入り 更に120秒で交差。》
(来たわね。予定通り 同高度で艦隊をすり抜けるわよ。
 エンジン サイレントモード。Set GUN、Set AAM
 基本は攻撃せずに回避行動。発砲は非常の場合のみ。
 OK?)
《RDY》

「姫様、間も無く到着ですが、その前に 目の前のモニタ画面を見ていて下さい。」
後部シートのモニタ上で レーダー画像が拡大表示される。
「中央が雪風、赤く光る点は 他の飛行物体、この場合はレコンキスタ艦隊です。
 戦列艦が九隻 補給艦二隻で、完全に城を包囲しています。そして」
表示が対地レーダー画像に切り替わる。
「こちらが 地上の兵です。およそ五万人。対する王党派は、五百人〜三百人の間。
 これが 現状です。」
抑揚の無い声で、感情を込めずに伝える。ルイズの放つ 二本目の矢。
「あぁ… ウェールズ様!」
顔面蒼白のアンリエッタ。
王党派の敗色が濃厚だということは聞いていたし 理解もしていた。だから無茶をしてまでウェールズに会いに来た。
それでも 具体的な数字を知っていたわけではない。心の何処かで『ウェールズが死ぬ筈が無い』 そう思っていた。
考えが 甘すぎた。
素人目に見ても 勝ち目は無い。城からの脱出すら 困難だ。
そしてこの動乱は、アルビオン貴族派と過激宗教団体レコンキスタによるクーデターである。
現王家を皆殺しにしなければ、目的は達成できない。王と王子の死体を確認するまで 戦は終わらないだろう。
アンリエッタの心に、絶望が広がっていった。

ルイズは 更に追い討ちをかける。
「間も無く、レコンキスタの戦列艦と擦れ違います。
 闇の中 ほんの一瞬ですから、何も見えないかもしれません。
 それでも 見てください。頭の中に焼き付けてください。
 これが、『敵』です。」
    
月明りを受けながらも 闇よりも暗い巨大な塊。元アルビオン空軍・現レコンキスタの戦艦、その10メイルと離れていない至近距離を雪風は通過する。
アンリエッタも王族であり 式典等で自国の戦艦は見知っている。主砲の発射訓練に立ち会った時など 頼もしく思えた程だった。
だが 今感じているのは 『恐怖』。
見張りの兵は雪風に気付いただろうか? 何時 大砲は此方に向けて火を噴くのか? 竜騎士隊の出撃は?
全ての思いは 『死』を指し示していた。
自分は なんと言う無茶をしたのだろうか。ただ一目 ウェールズ様に御会いしたかった、それだけだったのに。
それすら出来ずに この空で散るのだろうか。
248戦闘妖精 代理:2010/05/09(日) 16:00:44 ID:XqPRkn9i

「姫様 大丈夫、御心配は要りませんよ。
 こんなボロ船に落とされる程 雪風はヤワじゃありません!
 さぁ もうニューカッスル城の上空です。そんな御顔をワールズ様に御見せするつもりですか?」
ルイズは 泣き顔のアンリエッタにハンカチーフを差し出した。
現在 雪風は『サイレントモード』(エンジン等の音を 逆位相の振動で相殺するモード)で飛行中であり 発見された可能性は低い。
とはいえ あまり時間もかけられない。
(デルフ 頼んだわよ。しっかり話 通してきてね!)
〔おう 任せときな。それじゃ、行ってくるぜ!〕
《マスター/デルフリンガー:投下》

固定装置がリリースされ、一振りのインテリジェンスソードが暗い大地へ消えていった。
『うぉおおおお〜!
 待ってな姫さん、すぐ王子様に逢わせてやっからよ〜』
との雄叫びを残して…

        続く

他所のルイズは、学院から速攻でアルビオンに行くのに、ウチのルイズはナカナカ出発してくれません。
予定では 今回のうちでアルビオンから王宮に帰るハズだったのに…
『手紙回収ミッション+α』編、前編 中編 後編の三回じゃ終わりそうにないナァ。
どうしよう。


代理投下終了
249名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:05:34 ID:Yii1lzR9
作者さんと代理さんお疲れ様でありんす
250名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:08:19 ID:KBadcpuf
やっぱ、雪風世界のワルド良いなぁ。
池波大好き人間としては、登場した瞬間から釘付けです。
251名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:19:50 ID:xJw+kW+K
おつおつ。

>ワールズ様
なぜかDr.ワイリー思い出した。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:28:46 ID:VE/EVRY2
乙ぅ
253ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/05/09(日) 16:30:17 ID:QY1DbVkt
皆さんこんにちは、99話投下準備完了しました。
今回はラストなので過去最長となりましたのでいつもより早く開始させていただきます。
また、恐らく00をまたいだとしてもさるさんを喰らうのはまず確実と思われますので、
あらかじめ代理投下をお願いしておきます。
10分おきまして予約等なければ16:40より開始いたします。では。
254萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/09(日) 16:30:52 ID:ydL1skWv
乙です。
やはり振り切れる『速さ』は大きいなぁ……
それにデルフがいい味出してますね。うちのはまだ懐に入ったままですが。
次回も楽しみにしてます。
255名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:33:35 ID:Yii1lzR9
キター!
ウルトラの人事前支援
256名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:35:02 ID:VE/EVRY2
ぬぉ こちらも事前支援

あと雪風代理の人おつ
257名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:35:51 ID:XqPRkn9i
ウルトラ待機
 第99話
 第一部最終回
 ありがとう才人、異世界の思い人
 
 ウルトラマンメビウス
 ウルトラマンヒカリ
 彗星怪獣 ドラコ 登場!
 
 
「金色の、ウルトラマン……」
 さんさんとした太陽に照らされる真夏の草原に、もう一つの太陽が出現したかの
ような光芒がきらめき、漆黒の魔獣を塗りつぶすかと思えるほどに圧する。
その中心にいるのは、カラータイマーを満ち満ちたパワーを示す青に染め、
幻ではないことを誇示するように力強く大地を踏みしめる、雄雄しく気高い光の戦士。
 
「テェーイ!」
 
 右腕を高く天に掲げ、あふれんばかりの力をまとって立ち上がった彼の名を、
知らぬものはなし、呼ばぬものはなし。
 
「ウルトラマンA!」
 
 GUYSが。
 
「エース兄さん!」
「ウルトラマンA……」
 
 メビウスが、ヒカリが。
 
「ウルトラマンA……生き返ったんだ!」
「奇跡……!?」
 
 キュルケが、タバサが、希望の到来に表情を輝かせる。
 
 
『ウルトラマンA・グリッターバージョン』
 
 
 その姿は、かつて一つの異世界を滅ぼそうと企んだ謎の暗黒卿・黒い影法師との
戦いの終幕に、ウルトラマン、セブン、ジャック、メビウスと、ティガ、ダイナ、ガイアを
合わせた超ウルトラ八兄弟が人々の未来を信じる思いを受け取って、超パワーアップを
とげた奇跡の形態と同じ。
 そして、その圧倒的なまでに強大な光の力の誕生に、闇の化身であるヤプールは
驚きとまどい、ありえない現象に抗議するように叫ぶ。
 
「ウルトラマンA、なぜだ、なぜ蘇った! 貴様のエネルギーは完全に尽きていたはず!」
「ヤプールよ、お前が我々への怨念を糧に強大になっていくとしたら、我らもまた
その闇に負けないように強くなる。貴様にはわかるまい、真に人と人とが互いを
思いあい、愛し合ったときに生まれる力はな!」
 
 うろたえるヤプールに毅然と言い放ったエースに、もはや先程までの弱弱しさは
微塵も残ってはいなかった。まっすぐに前を見据え、立ちはだかる闇におびえずに、
猛き姿はまさしく勇者。いや、勇者たちと呼ぶべきだろう。エースのオーラの
その中にいる、まぎれもない彼らの勇姿を彼らの友は見た。
 
「あれは……ルイズ!」
「それに……サイト」
 
 幻影か、実際そうなのであろうがキュルケとタバサには確かに、金色の
輝きの中でエースに重なり合うようにして、二人の姿が見えていた。
「生きて、生きていたのね……」
 涙が、そのつぶやきとともにキュルケのほおをつたった。タバサも、口元に
明らかな喜色を浮かべて、意味不明に大騒ぎしているシルフィードをなだめながら
ぎゅっと杖を握っている。
 二人とも、いつもはルイズや才人とは一定の距離をとっているようにも見えるが、
見方を変えればそれは決して馴れ合いの関係ではなく、それぞれの踏み込んでいい
領域をわきまえているからこその、本当の信頼関係といえるかもしれない。
「本当に、あなたたちといっしょにいると心臓がいくつあっても足りないわ……
ねえタバサ!」
「心配する……こっちの身にもなってほしい」
 今度ばかりはタバサも魂を抜かれてしまったように、腰を抜かしてキュルケに
寄りかかった。シルフィードはといえば、興奮しすぎで飛び方が不安定で、
この二人でなければ振り落とされているところだ。
 ともかく、何が起こったについてはこれっぽっちもわからないが、ただ一つ
わかることは、あの二人が過去最高のとんでもない奇跡を引き起こした
ことだけは確かだ。
260名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:42:58 ID:xJw+kW+K
紫煙
 いや、もう一つだけ、キュルケには直感できていることがあった。それは、
この奇跡を呼び起こしたであろう原動力がなんだったのか、彼女からしてみれば、
長い間やきもきさせられていた、最初からわかりきっていたあの答えを……
 
 
 あのとき、ドラコの足下にその命を踏みにじられたはずのルイズと才人は、
その命が尽き、闇に消えていく意識の中から暖かな光に掬い上げられて、
肉体のくびきを離れ、時間すら超越した不思議な空間で再会を果たし、
裸になった心で向かい合っていた。
「ルイズ」
「サイト」
 互いに相手の名だけを呼び合い、二人はどちらからともなく歩み寄って抱き合った。
 ここにやってくるのは、ベロクロンによって命を奪われて、はじめてエースと
出会ったとき以来。ただし、あのときは恐らく仮死状態でガンダールヴのルーンも
残っていたのに、今度は二人とも完全に命を失ってしまった。
「わりい、おれのせいで」
「もう、そんなこと言わないで……もう一度、あなたと会えただけで充分よ」
 それぞれの犯した過ちも、葛藤も、魂で触れ合った二人はすべて許容して、
誇りも名誉も命さえ失ったことすら気にも止めずに再会を喜び合い、そして相手の
すべてを受け入れることのできた二人には、もう余計な前置きの言葉は必要ではなかった。
「好きだ」
「好きよ」
 同時に、なんの迷いも戸惑いもなくつむがれた思いが、直接相手の心に染み渡っていく。
”おれはルイズが好きだ”
”わたしは、サイトが好き”
 ずっと言いたかった言葉と、聞きたかった言葉が今ここにあった。
 思えば、あの召喚の日の一言から始まって、今日までの日々は二人にとって
とても長かった。
「あんた誰?」
「誰って……俺は平賀才人」
 本来、絶対ありえるはずもない時空を超えた出会い、しかしそれから始まった
戦いと冒険の日々の中で、時にぶつかり、憎みあい、笑いあい、助け合い、
喜び合い……そうして常にいっしょにいるうちに、かけがえのないものが
二人の心の中に作り上げられていった。
「おれ、バカだったよ。ずっと前から、お前への気持ちには気づいてたはずなのに、
お前がおれなんかを好きなはずがないって、思い込んでた……いいや、振られる
のが怖くて、そう思い込もうとしてたんだ」
「サイト、それはわたしもよ。本当は、あなたのことが誰よりも一番好き。だから、
誰にもあなたを渡したくない。それなのに、くだらないものに囚われて、本当の
気持ちを言い出せなかった。とことんバカよね、あなたを失ってみて、ようやく
素直になれたわ」
 二人とも、言いたいことは山ほどあった。この半年で築き上げてきたものは、
大小美醜問わずに、いっぱい過ぎるほどある。けれど、二人とも心の壁を
取り払って裸で向かい合った今なら、もうこれ以上はいらない。
「サイト、一つだけ約束して」
「なんだ?」
「ずっといっしょにいて、ほかの女の子に目移りしても、どんなやっかいごとを
持ち込んできてもいい。元の世界に帰らなきゃいけないなら、いつかわたしも
連れて行って……もう二度とわたしを一人ぼっちにしないで」
「約束する」
 間髪も入れずに返ってきた返事に、ルイズは心から満たされた気がした。
いつもなら本気を疑うところだが、ここでなら才人の本当の気持ちが偽りなく
感じることができる。
 二人はなんだかとても切ない気持ちになって、もう一度強く抱き合った。
「ルイズ……」
「サイト、わたし……今、幸せよ」
「おれもだ……」
 体温ではなく、互いを思いあう温かい心が触れ合って、才人とルイズは生まれて
はじめて感じる、この上ない幸福感に包まれた。
 
 だが、そんな彼らを突然夜闇の吹雪のような猛烈な冷気と悪寒が襲った。
「……っ!」
「この、気配は!」
 白い紙を黒いインクにつけたような、一点の光さえ射さないどす黒い暗黒の意思、
欲望、嫉妬、恐怖、破壊、怨念、憎悪、ありとあらゆる負の感情を混ぜ合わせた
とてつもないマイナスエネルギーの波動、それが自分たちを狙ってありえないほどの
悪意と殺気を撒き散らしながらやってくる。
 こんな、邪悪な気配をもつものはほかに考えられない。
「ヤプール!」
「そうか……そうね、まだ……終わってなかったのよね」
 二人は、まだこの世にやらねばならないことが残っていることを思い出した。
 あの日に誓った、この世界に破滅をもたらし、ありとあらゆるものから未来と幸せを
奪おうとする邪悪なものたちから、この世界を守るという使命。
 それはなにも、我が身を捨てて人々のために尽くすという崇高な自己犠牲の
精神からではない。単純に、好きだからだ、空が、海が、山が、街並みが、そこに
暮らす人々や、共に歩む友たちが、愛する人がいるこの世界が好きだから。
 本当に守りたいものを見つけた今なら、何もかもが愛しく思える。人は一人だけでは
生きられないように、二人だけでも幸せをつかむことはできない。人は人の間に
いるからこそ人間となる。人は人から救われるだけでなく、人を救うことでも救われる。
それが生きるためだけに生きる動物と、人間の違うところだ。
 守りたい、戦いたいと二人は思った。
 家族……ルイズの心に、母カリーヌや姉たちの顔が浮かぶ。
 友……ギーシュやシエスタたち学院の仲間たち、ルイズが信じるアンリエッタ王女、
才人を認めてくれたアニエスや心を通わせられたミシェル。
 オスマンやコルベールら恩師、スカロンとジェシカの親子、ロングビルとティファニア、
子供たちに、いつでもなんだかんだで力を貸してくれたキュルケにタバサ。
 彼らを守りたい、彼らのいる世界でこそ生きていたい。
 
 そのとき、二人を包んでいた光の空間が収縮し、やがて光の中から一人の
初老に見える、茶色いジャケットを着た男性が二人の前に現れた。
「出したようだね、君たちなりの答えを」
「あなたは……?」
「僕の名は北斗星司、かつて君たちのようにウルトラマンAの力をさずかって、
今はエースと一心となって戦っている者だ」
「と、いうことは……あなたは、ウルトラマンAそのものってこと?」
「そういうことだな」
 二人は肉体はないはずなのに、その瞬間飛び上がるようにして驚いた。
これまでウルトラマンAとは何度も会話をしたり、精神世界で会っていたりしたが、
エースの人間体と、仮の姿とはいえ会うのはこれが初めてだったからだ。
 今、エース、北斗星司はかつてのテンペラー星人との戦いのときに、兄弟たちと
いっしょに地球に再訪したときと同じ、背中にウルトラ文字でエースと書かれた
茶色いジャケットに身を包んで、そんな二人を温かく見守っていたが、やがて
二人の決断を賞賛するように、ゆっくりと語り始めた。
「僕も、かつて君たちのように大切な仲間との別れを経験した。一度目は
共に戦ってきたパートナーと、もう一度は地球人北斗星司としての自分に」
 才人とルイズの心に、直接イメージとして、月星人であった南夕子と、
ウルトラマンAとしての正体を明かしてTACの仲間たちと別れ、地球人としての
自分を捨てたときの北斗の記憶が流れ込んできた。
「北斗さん……」
「君たちは、昔の僕らによく似ていた。だからあえて、君たちの判断を鈍らせ
ないようにと、助言は控えていたのだが、やはり君たちは僕が見込んだ
とおりの人間だったよ」
「でも、あなたは使命のために自分を捨ててまで戦ったのに、わたしたちは
結局自分たちを優先して……」
「ルイズくん、それは違うよ。確かに、僕と君たちの境遇は似ていたかもしれないし、
僕もかつての決断を後悔したことはない。でもね、正しい答えというのは
一つじゃないんだ。僕らウルトラマンは大きな力を持つが、決して神じゃない。
どんなに望んでも、救えない命もあるし、届かない願いもある。そのなかで
一生懸命あがいて、生きていくことこそが大切で、その結果が選ばなかった
選択肢と比べて、正しかったか間違っていたかなんて、誰にもわかりはしないんだ」
 あのとき、ああしていれば、こうしていれば今はもっとよかったはずに違いないと
考えるのは、逃れがたい人間の性だろう。けれども、絶対の正解が用意された
数式などと違って、無数に絡まりあう人間の選択に絶対の正解などはない。
たとえば、車にひかれそうな子供を身を張って助けるか否かで、助けたら
自分がひかれて自分の家族が悲しむ、かといって助けなかったら自分の
家族は悲しまないが、子供の家族が悲しむ。この世は、そんなどうしようもない
矛盾でできているのだ。
「だから君たちは、自分の選択に負い目を感じることなんかはない。僕が
君たちの前にやってきたのは、ウルトラマンとしてではなくて、人間として
一言だけ君たちに言っておきたいことがあったからさ」
「人間として……?」
 微笑してうなずいた北斗は、二人に歩み寄ると、才人とルイズ、二人の肩を
がっしりと父親のようにつかんで言った。
「今の気持ちを忘れるな、これからも、がんばれよ」
 その一言で、二人は心から救われた気がした。自分たちの出した答えを、
誰かに認めてもらえたということが、二人だけの孤独から人間になれたように
思えた。
「はい……忘れません、絶対に!」
「わたしも、忘れるものですか」
 二人の答えに、北斗は今度は満面の笑みを浮かべて笑ってくれた。
 だが、同時に二人は北斗が「がんばれよ」と言った意味も噛み締めていた。
 がんばれよということは、これから二人でなすべきことを指している。
 そうだ、幸福な未来とは、天国に用意されているのではない、二人で
がんばって、この世でこそ作り出して、そうして味わうべきものなのだ。
 だからこそ、二人は願うのだ。
”力がほしい、未来を守って、いつかそれを見つけるために、戦う力が!”
 だからこそ、二人は叫んで呼ぶのだ。
 
「もう一度、力を貸して! みんなを守る力を……エース!」
 
 迷いのないその言葉に、北斗は満足したようにうなずくと、また光となって消えた。
 そして、現実世界へ開かれた先の光景を二人は見た。
 勝ち誇り、さらにその魔手をメビウスとヒカリに向けようとしているドラコの姿、
そのドラコを陰から操り、二人が愛するすべてのものを踏みにじろうとしている
ヤプールの邪悪な意思を。
 ふつふつと、二人の心に闘志が湧いてくる。
 負けない、こんな奴に負けて終わるわけにはいかない!
 そう思ったとき、二人の右手に輝きが灯り、中指に銀色のウルトラリングが現れた。
「ルイズ」
「サイト」
 いつものように、これまでのように、二人は互いの名前を呼び合うと、一度
右手を大きく後ろにそらして構えて、目と目を合わせるのと同時に、鏡に
映したように完璧な呼吸で手をつないだ!
 
「ウルトラ・ターッチ!」
 
 正義の光が二人を中心に輝き、この瞬間才人とルイズは再びウルトラマンAと
一心同体となって生命を復活させ、二人の心から生まれた限りないパワーを
受けたエースは、邪悪を弾き飛ばし、現実世界に新たな勇姿を現す。
 
「サイト」
「ん?」
「生き延びましょう。そして、勝ちましょう。あんたには、まだまだ言いたいことは
百や千じゃ足りないほどあるんですから!」
「合点! 万でも億でも聞いてやる。なんたって、おれとお前は?」
265名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:46:37 ID:Pbt1mxq6
久しぶりのウルトラ支援
266名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:47:14 ID:3s/HN0CL
お婆ちゃんが言っていた、スレに投下があるなら支援しろ、と
 二人は手をつなぎ、心をつなぎ、未来をつなぐために、笑いあっていっしょに夢見た
その言葉をつむぐ。
 
「恋人だから!」
 
 すべてのくびきを解き放ち、自由の空の下で二人は立つ。
 もうどんな鎖も二人を縛ることはできない。
 何者も、笑わば笑え! 怒らば怒れ! 邪魔するならばぶっ潰す!
 ルイズが好き、サイトが好き、そして愛する人のいるこの世界が好き。
 何よりも尊い心の光を満たし、二人の絆が輝き光る。
 その強き意志を背に受けて、ウルトラマンAはここに蘇った!
 
〔いくぞ! 二人とも〕
〔おおっ!〕
〔ええっ!〕
 
 いざ、光と闇の決戦のとき。グリッターエースはヤプールの怨念の結晶と化した
ドラコへと挑みかかっていく。
「おのれぇ! どこまでも我らの前に立ちはだかるというかウルトラマンAめ! 
ならば何度でも地獄に落としてくれる。ゆけぇー! 闇の力の強大さを思い知らせるのだぁーっ!」
 ヤプールも、エースへの怨念を最大限にたぎらせて勝負を受けてたった。
純粋悪であるヤプールにとって、人間の光の力は決して認められないものなのだ。
なればこそ、こちらも全力で迎え撃つのみ。高速でドラコの懐に飛び込んだエースの
中段からのチョップが、ドラコの腹に突き刺さる。
「デヤァッ!」
 巨木に突き刺さる鉄の斧のごとく、恐るべき破壊力を秘めた一撃が叩き込まれ、
ドラコの体がくの字の曲がって大きく後退し、間髪いれずに追撃で打ち込まれた
ストレートキックが、これまで一切の攻撃を寄せ付けなかった奴の外骨格をも
ゴムのようにへこませて炸裂し、苦悶の叫びが奴の口から漏れる。
「ヘヤッ!」
 むろん、それで終わりではなく、頭一つ自分より巨大なドラコの首根っこを
掴むと、背負い投げの要領で投げ飛ばし、巨体が紙のように宙を舞う。
その驚愕無比の光景には、誰一人として目を離すことができない。
「すっげぇ!」
「なんて、強さなの!」
 ジョージとマリナが、計算上メテオールの攻撃にも耐えると算定されていた
ドラコに、やすやすとダメージを与えだしたエースにコクピットの中でガッツポーズをとり、
カメラを通して戦いを見守っていた地球のフェニックスネストでも、今トリヤマ補佐官を
はじめとして、新人隊員たちによる大歓声があがっている。
「イャァッ!」
 起き上がってきたドラコが体勢を立て直す前に、エースは奴の巨大な腕を
掴んで、バランスを崩させて下手投げを喰らわせた。激震轟き、学院の壁から
レンガがこぼれ、教室の机にほこりが舞い散る。
 エースは兄弟の中ではウルトラマンと並んで戦闘では投げ技を多用する。
相手が重量級であればあるほど、投げられたときにその衝撃は増すからだ。
「すごい、すごいです。エース兄さん!」
「俺たちがあれほど苦戦した相手を、これが……ウルトラマンAだけが持つ力か」
268名無しさん@支援いっぱい:2010/05/09(日) 16:48:21 ID:Z8WzorMs
 
 メビウスが無邪気に、ヒカリが感嘆したようにつぶやく。ウルトラ戦士に数いれど、
二人以上で変身をしたものは、特別な数件を除いては後にも先にもエースしかいない。
かつて、北斗星司と南夕子に分離していたときは、サボテンダーのとげにエースが
刺されたとき北斗の腕に傷が付き、ドラゴリーとメトロン星人Jrとの戦いでエース
バリアーを使ってエネルギーを浪費しすぎてしまったときには、南が重体に陥って
しまった例から、肉体は北斗、エネルギーは南と分割されていたが、もしもリスクを
分割するのではなく、二人からその力を存分に引き出すことができたら……
それは、遠い世界で邪神を滅ぼした希望の光のように、誰にも想像もつかない
新たなウルトラ戦士の姿なのかもしれない。
 そんな、とてつもない奇跡を生み出して、今もなお戦い続ける才人とルイズに、
キュルケは胸をこの上なく熱くしていた。
「いったい、今度はどんな奇跡を起こしたんだか……というか、あの二人ようやく……」
 そのときキュルケは、なんとなく出来の悪い娘がやっと嫁に行った母親か姉の
ような気持ちにとらわれた。よくもまあ、紆余曲折というにもまどろっこしすぎる
過程を経たが、どうやら無事に元の鞘に納まったらしい。
 ただ、タバサはキュルケの言う意味がわからないらしく「ようやく……なに?」と、
怪訝な表情をしている。
「そうね、この件に関してはあの二人があなたの先輩になっちゃったわね。でも、
あなたにも必ずいつかわかる日が来るわ。そのときは、この『微熱』のキュルケ様が、
手取り足取りレクチャーしてあげるからね」
 さらに目を白黒させるタバサに、キュルケはまだ当分自分のやることはなくならないなと、
期待を浮かばせた笑みを浮かべると、大きく息を吸い込んで、明るい未来を呼び寄せる
かのように、シルフィードといっしょに声の限りに叫んだ。
「よーし、ぶっ飛ばせぇーっ!」
 
 高く響くその声に応え、グリッターエースの猛攻は才人とルイズの闘志をそのまま
現出させているかのように続く。
「ダアッ!」
 助走をつけての跳び蹴りが正面から決まり、ドラコは翼を広げてこらえようとするものの、
それに耐えられないくらい巨体が激しく後退する。まさしくもって、段違いの攻撃力。
さらにグリッターパンチ、グリッターチョップが次々と決まって、外骨格をへこませて
ドラコの体内にダメージを蓄積させていく。
「いける、勝てますよ、これは!」
 テッペイの叫んだとおり、グリッター化したエースの威力はドラコの防御力を
完全に凌駕していた。だが、エースが光の鎧をまとうなら、ドラコにも闇の剣がある。
これまで一方的にやられるだけだったドラコは、グドンを一撃で抹殺した両腕の鎌を
振り上げると、二刀流でエースに反撃をかけてきた。
「ヘアッ!?」
 間一髪、後ろに跳んでかわしたエースは構えを取り直して、両腕を広げて
威嚇してくるドラコを睨み返した。直接食らったからわかるが、やはりあの鎌だけは
危険だ。ヤプールのマイナスエネルギーを物質にまで凝縮させたといっても
過言ではない密度を持っており、グリッター化した今でもあれだけは防げないだろう。
270名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:49:53 ID:XqPRkn9i
支援
 ドラコは、接近戦における絶対的なアドバンテージを確保し、攻撃を食らっても
致命的なまでのダメージは受けないと余裕を持ったのか、にじりよるように向かってくる。
しかし、才人は完全無欠に見えたドラコの外骨格に一点だけ、蟻の一穴が存在
することを知っていた。
〔エース! 肩だ、奴の右肩におれの刺したナイフがまだ残ってる!〕
 黒色のドラコの皮膚にただ一点、銀色の輝きがとどまってその存在を誇示している。
あのとき、ルイズを助けるために才人が決死の覚悟で突き刺した一本のナイフが、
無敵の装甲に唯一の汚点を刻み込んでいたのだ。あそこならば、攻撃が効く!
「デュワッ!」
 狙うは一点、しかし本当に蟻の一穴に等しい一本のナイフを狙うには、いくら
ピンポイントで光線技を集中させても無理だ。けれど、金属製のナイフに、一つだけ
確実に攻撃を命中させる方法がある。エースは全身に流れるエネルギーを
高圧電流に変換すると、カラータイマーから天空へと向かって一気に放出した。
 
『タイマーボルト!』
 
 上空に立ち上った超電撃は、一瞬にして高度数万メートルにまで達すると、
電離圏のプラズマエネルギーをも吸収して、再び邪悪を砕く雷神の槌となって
舞い降り、ドラコの肩に刺さったナイフめがけて落雷した!
「やった!」
 雷鳴轟音天地を揺るがし、天の怒りの直撃を受けたドラコは体内へと直接
送り込まれた大都市数個分にも匹敵する莫大すぎる電撃を受けて揺らぎ、
口から、鎌のすきまから、さらに全身に卵の殻がひび割れるように生じた
無数の亀裂から白煙を上げて動きが止まった。
「効いた! 効いてるわよ!」
 ライトニングクラウドに換算したら、数千人分に匹敵するのではと思われた
今の雷撃に、キュルケは興奮して叫び、また、タバサはこの戦法にデジャヴを
感じていた。
「今の攻撃……もしかして」
 疑う余地もない。強固な敵の外皮を避けて体内を直接攻撃するこの戦法は、
ついさっきキュルケとのコンビで自分がエレドータスを倒したあの戦法に
相違なかった。
 ドラコは大ダメージを受けて、目の赤い輝きを鈍らせ、翼は力なく垂れ下がっている。
そう、キュルケとタバサの奮闘も、ルイズを救うためにたった一本のナイフで
立ち向かっていった才人の勇気も、何一つとして無駄なものはなかった。
どれも、誰が欠けていても今のこの状況はない。たとえ相手が凶悪強大な
大怪獣とても、大鬼を退治した一寸法師のように知恵と勇気をもってして
立ち向かえば、必ず光明は射す。
 
 さあ、これが最後の一撃だ。
 
 その身に込められた光の力を一つに集めて、ウルトラマンAの体が最大の
輝きを放つ。
〔いくぞ二人とも、この一撃に、君たちのこれまでにつちかってきた全ての
思いを込めるんだ〕
〔はい! さあて、じゃあやろうかルイズ〕
〔そうね、わたしたちの力、見せてやりましょう〕
272名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 16:54:42 ID:7Oromdes
しえん
273名無しさん@支援いっぱい:2010/05/09(日) 16:54:51 ID:Z8WzorMs
 
 とびっきりの笑顔をあわせ、才人とルイズはお互いへの信頼と、未来への
希望、この世界の愛すべき人々への思いを全て光のエネルギーに変えて
エースに渡していった。
「ヌウゥッン!」
 ストリウム光線を発射する際のタロウのようにエースの体がさらに輝きを
増していき、凝縮されたパワーが腕に集まっていく。
 だが、パワーを集めるこの一瞬が無防備になることを悟ったドラコは
両腕の鎌をひらめかせると、投てき可能なそれを二本同時にエースに
向かって投げつけてきた。
「危ないっ!」
 今、あれをまともに食らえばグリッター化した体を持つエースといえども
やられてしまい、エースが倒されれば、もうこちら側にドラコを倒す術は
なくなってしまう。だが、ドラコの執念を込めて宙を飛んだ二本の鎌は、
エースに届く前に放たれた二筋の光束によって妨げられた。
『メビュームシュート!』
『ナイトシュート!』
 空中で爆発が二つ起こり、闇の鎌は粉々に砕け散って風に舞い散る。
兄が限界を超えて戦っているのに傍観しているわけにはいかないと、
自らもカラータイマーの示す限界を振り切って放ったメビウスとヒカリの
必殺光線が、その危機を救ったのだ。
 ドラコは、いやヤプールは横合いからの思わぬ邪魔に焦り、さらなる
一撃を加えようと、ドラコに新しい鎌を用意させる。大丈夫だ、ウルトラマンAが
エネルギーを収束しきるには、あと数秒必要だろう。メビウスとヒカリは
今の攻撃でエネルギーを使いきり、もう邪魔はない。この勝負は我らの
勝ちだとヤプールは確信した。
 しかし、ヤプールにはなくてウルトラマンにはあるもの、それはピンチの
ときに助けに来てくれる仲間の存在である。
「メテオール解禁!」
 ガンフェニックストライカー形態に合体し、カナードウィングを展開して
金色の光に包まれたGUYSの翼が、今度はおれたちの番だと天を駆ける。
「いくぞみんな、俺たちGUYSの誇りを、やつらに見せてやれ!」
「G・I・G!」
 リュウ隊長の叫びに呼応するかのように、ジョージ、マリナ、テッペイが
ガンフェニックストライカーと同じように心を一つにして吼える。自分たちより
ずっと若い子供たちが勇気を振り絞って起こしたこの奇跡、大人がぼさっと
見ていてどうするか!
 フェニックスネストでもサコミズ総監が、ミサキ女史が、トリヤマ補佐官と
マル秘書や新人隊員たちも、誰一人目を離す者はおらず、誰もがGUYSと
ウルトラマンの勝利を信じ、応援の言葉が尽きることはない。
「いっちゃえー! リュウさん」
「がんばって、リュウ隊長!」
 リムを肩に乗せたコノミが、手に汗握らせたカナタが叫ぶ。
 彼らの期待に応えない理由はリュウにはない。ガンフェニックストライカーは
燃え上がり、GUYSの誇りを込めた一撃を、最強の不死鳥に変えて解き放った。
「エースの道を切り開け! インビンシブルフェニックス・パワーマキシマム!」
 インペライザーをすら一撃で蒸発させた、GUYS最強の一撃がドラコを撃ち、
赤き不死鳥の炎の翼が邪悪の魔獣を包み込んでいく。
「いまだ、いけえぇぇーっ!」
 炎に包まれて動きの止まったドラコの姿にリュウが叫ぶ。
 その瞬間、才人とルイズのすべての思いをエネルギーに変えたエースは、
ゆっくりと上半身を左にひねると、腰のばねを使って瞬間的に引き戻し、
赤熱化した両腕をL字に組むと、彼の代名詞とも呼べる必殺光線を極大化した
最大・最強の一撃を撃ち放った!
 
 
『グリッター・メタリウム光線!』
 
 
 金色をまとった虹色の光芒が天界の浄火の中でもだえ苦しむ悪魔に
突き刺さり、怒涛の奔流となって吸い込まれていく。
「デャァァーッ!」
 すべてを込めた正義の光に貫かれ、ドラコの全身にはいったひび割れが
拡大し、そこから光が漏れ出していく。それなのに、なんと奴は崩れ始めた
体でなおも鎌を繰り出そうともがいている。
 恐るべき奴だ、これだけの攻撃を受けてなお動けるというのか!? 執念、
その一言が持つ底知れぬ力が、人間たちを戦慄させた。
 だが、ウルトラマンAは負けずにグリッター・メタリウム光線を撃ち続ける。
 タバサの知恵、キュルケとシルフィードの勇気。
 メビウスとヒカリの闘志、GUYSの誇り。
 才人とルイズの愛。
 そして、ここまで自分たちを連れてきてくれた大勢の人たちに支えられ、
決壊したダムからほとばしる大洪水のように、ドラコに巣食う闇の力を
すべて焼き尽くそうと、光は輝き、轟き穿つ!
 
「消えろヤプール! 人間は、決してお前などに負けはしない!」
「おぉのれぇ覚えていろぉーウルトラマンAめ! 我らの復讐はまだ始まったばかり
だということを! いずれ必ずこの世界の人間どもごと滅ぼしてくれるからなぁーっ!」
 
 その瞬間、ヤプールの怨念に満ちた叫びとドラコの断末魔がこだまし、
闇の力が生み出した最強の魔獣は、光の中へと溶け込んでいくように
崩壊して、ついで混在した光と闇の力の融合によって生まれた強大な
エネルギーの解放によって、天地を揺るがす大爆発を起こして、塵一つも
残さずに消し飛び、超衝撃波が全方位に向けて解き放たれた!
 
「うぁぁっ!?」
 
 猛烈な粉塵が周囲に広がり、半壊していた学院の城壁は崩れ落ち、
窓ガラスは叩き割れ、突風にあおられて何も見えなくなったことで、
シルフィードは木の葉のようにもまれて、はるか上空まで飛ばされた。
「やっ……た?」
「の……ね?」
 白煙がたなびき、ようやく体勢を立て直したシルフィードは学院を
見下ろせる高度で、ホバリングしているガンフェニックスと並んで、
煙に覆いつくされた地上を見つめていた。
 
”勝った……のか?”
 
 キュルケたちも、リュウたちも息を呑んで、濃霧のような白煙に包まれて
何も見えない地上の、戦いの結末がどうなったのかを見守った。あの瞬間、
ドラコが吹き飛んだのは瞬間的に見えたが……あの爆発に巻き込まれて、
まさか……
 そのとき一陣の風が吹き、煙を吹き払った。
「あれは!」
「あっ!」
「おっしゃあ!」
 瞬間、今度こそ誰にもはばかることのない、完全全員参加の大歓声が
青空に響き渡った。
 
「シュワッ!」
 
 大地にしっかりと足を踏みしめて、ウルトラマンAが元通りの銀色の
巨体を悠然と煙の中から現したとき、長きにわたるハルケギニアでの
ヤプールとの戦いは、その第一幕においてウルトラ戦士たちの完全勝利に
終わったのだった。
「エース兄さん」
「やったな、さすがは栄光のウルトラ兄弟だ」
 メビウスも、ヒカリももちろん無事だ。学院も、校門側の外壁が大破してるが
校舎や寮など主要施設は問題ない。
 これで、溜め込んだマイナスエネルギーを使い切ったヤプールは当分の間
大規模な行動を起こすことはできないだろう。むろん、配下の宇宙人を使った
破壊工作の可能性はあるが、今回のドラコのような強力な怪獣や超獣は、
一ヶ月か二ヶ月か、作り出すことは不可能に違いない。
〔終わったんだな、これで〕
〔ああ、見事だった。君たちの絆が、ヤプールの邪悪な意思を打ち砕いたんだ〕
〔わたしたちが、そう……わたしたちが勝ったんだ!〕
 かりそめのものとはいえ、平和を自分たちの手で守り抜いたという実感が、
爽快な達成感となって才人とルイズの胸を吹き抜けていった。
 
 だが、勝利は同時に別れのときでもあった。
 
「リュウさん! ゲート封鎖まであと六分です。急がないと間に合わなくなります!」
「よし、進路反転一八〇度! いくぞ!」
 タイムリミットの迫る中で、勝利を見届けたGUYSはガンフェニックスを全速で
飛ばして、ハルケギニアの空に別れを告げていった。
「エース兄さん……」
「急げメビウス、間に合わなくなるぞ」
 エースは、よろめきながら立ち上がったメビウスにエネルギーを与えて回復させると、
早くガンフェニックスの後を追うようにうながした。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:02:38 ID:XqPRkn9i
支援
「兄さん」
「心配するな、この世界のことは私にまかせろ。お前には、お前にしかできない
使命があるだろう」
 エースには、なぜガンフェニックスが振り返りもせずに飛び去っていったのか、
リュウたちの心のうちを知っていた。
「ふっ、本当に心配はいらないぞ。今の私は、これまでよりも強いし、何よりも
一人ではない」
 そうだ、迷いを断ち切った才人とルイズがいる限り、エースが力を失うことは
もう二度とないに違いない。それがわかっているから、リュウも声をかけることを
一考だにしなかったのだ。
「兄さん……はい、わかりました!」
「うむ、頼んだぞ。三ヵ月後、必ずまた迎えに来い」
「必ず……必ずまたやってきます! ヒカリも、お元気で」
「ああ、任せておけ。さあ、急げ!」
「G・I・G! ショワッチ!」
 この世界の命運をエースとヒカリにゆだね、メビウスは地球へ、光の国へと
帰還するために、ガンフェニックスのあとを追って飛び立っていった。
 
 戦いは終わった。
 
「ヘアッ!」
「デュワッ!」
 全てが終わり、役目を果たしたエースとヒカリは、メビウスを見送ると
光の輪の中で体を収縮し、変身を解除した。
「ふぅ……終わったな」
 やたらとだだっ広い学院の前の草原の、学院正門前で人間の姿に戻った
才人は、平穏を取り戻した空を見渡して、大きく深呼吸をすると満足したように
つぶやいた。
 考えてみれば、この世界で初めて変身して戦ったのもこの学院前だった。
ベロクロンに破壊される寸前だった学院を守るために最初の変身をして、
いままた同じ理由で戦って、ここを守りぬけた。
 けれど、ルイズにとってはそんなことよりも、今手に入れたささやかな幸せの
ほうが大切だった。
「サイト……」
「おっ……ただいま、ルイズ」
 何気なくルイズの呼びかけに反応した才人は、胸の中に飛び込んできた彼女の
体を最初は優しく、やがて強く抱きしめた。
「サイト……わたし、わたし……」
「もう何も言うな、おれは全部ひっくるめて受け入れるつもりで、ここに残ったんだ」
 地球への未練は、そりゃ山のようにあるが、それでも守りたいものがあることを
才人はようやくと理解したのだった。
「サイト……」
「ん?」
「ありがとう」
「なんだ、柄でもねえな。そんな腰の低いご主人様がいるかよ……おっと、もう
使い魔のルーンはないんだっけか」
 蘇生したとはいえ、一度なくしたガンダールヴのルーンは消えたままだった。
できた当時はうっとおしくて仕方がなかったが、無ければ無いで妙な喪失感が
残っていた。メイジと使い魔、それがこれまでの二人の関係で、あのルーンこそが
それの証明であったのに。
 けれどもう一度契約すればいいかと言うと、ルイズは迷わずにかぶりを振った。
「そんなもの、なくていいわよ。あんたは使い魔で、わたしは主人、そう言って
ずっと自分をごまかしてきたんだもの」
「でも、あれがないとおれはほんとにただの平民になっちまうぜ。それなりに
強かったのも、ガンダールヴのおかげだったんだし……」
「だったら、自分で鍛えるなりなんなり考えなさいよ。ともかく、ガンダールヴ
目当てで、あんたとその……するなんて、冗談じゃないわ!」
「あん? なんだって」
「だ、だからあ……もう、き、今日だけだからね!」
「なにを? ぬ、うぐっ!?」
 よく聞こえなかったので、才人は腰を落としてルイズの顔を覗き込もうとしたところで、
ルイズの両手で頭をつかまれて、そのまま唇にルイズの唇を押し当てられた。
「!? う、ぅ……う?」
「ひ、ひいから、ひょっと、だまってなはい!」
 パニックに陥っている才人の頭を力づくで押さえ込んで、ルイズはそのまま
たっぷり五秒ほど口づけをして、やっと才人を離した。
「なっ、ななな! お前、急に何を!」
「ううう、うるさいうるさいうるさい! この鈍感、大バカ犬! 使い魔の契約を
するってことは、それはそのままあたしとキスするってことじゃない! それを
なんでもなさそうに、再契約すりゃいいじゃないかって、バカバカバカ!」
「あっ! ご、ごめん」
 才人は言われてようやく、使い魔の契約にはメイジと使い魔の口付けが
必要であることを思い出した。まったくバカもここに極まれり、これが相手が
動物や幻獣とかなら特に問題はないが、ルイズも才人を男性と意識するように
なったからにはそれは特別な意味を持つ、才人は地球でなんで自分が
一度たりともバレンタインでチョコをもらったことがなかったのかという理由を、
やっとこさ理解した。
「でも……これで、あげたからね」
「え? なにを?」
「こ、この……わ、わたしの……ファーストキスに決まってるじゃない!」
「い、ええーっ!」
「最初の使い魔の契約のときは、ノーカンよノーカン! ちっとはムードってものを
考えなさいよね!」
 そう言われると、ルイズのはじめてをもらったという実感が湧いてきて、
いまさらながら才人は顔をおおいに赤らめた。本当にどこまでもなさけの無い
男である。しかも、ルイズはそんな才人のふがいなさにさらに怒りをつのらせたのか、
これまでずっと溜めに溜めてきたうっぷんをここぞとばかりに吐き出していった。
「ほんとに、あんたって、あんたって、どこまでわたしを怒らせれば気がすむのよ! 
わたしの気も知らないで、ほかの女の子とイチャイチャしたり、人をほっぽって
どっかに行っちゃったり、あげくの果てに女の子にとってファーストキスが
どれだけ大切なものかも知らないで、バカーッ!」
 しだいに涙目になりながらまくしたてるルイズを前にして、けれど才人は今度こそ
女心に対する選択を誤らなかった。感情の塊となったルイズに弁明を講じたりはせず、
彼女の体を強引に引き寄せて、困惑と抗議の声がその桜色の唇から漏れ出す前に、
自らの唇を使って封じたのである。
「ぅ!? うぅーっ!」
 暴れるルイズを、今度は才人が押さえる番だった。左手でルイズの華奢な体を、
右手で最高級のビロードのように滑らかな彼女の髪を押さえて、互いの唇の
感触を味わい続けて、一秒、二秒と長くて熱い時間が過ぎていく中で、しだいに
ルイズの体から力が抜けていった。
 そうして、たっぷり十秒ほど一つになった感触を味わったあとで、静かに力を抜いて
ルイズを離した才人は、そのとび色の瞳をじっと見つめると、胸を張って言った。
「セカンドキス、一回目は誓いだけど、二回目はその履行だ。これからは、
おれがおれの力でお前を守る。お前は……おれだけのものだからな!」
「サイト……ばか」
 ルイズは涙をぬぐって、才人の胸に顔をうずめた。やっと、望んでいたものを
得られた幸福感、満たされていく温かさが、ルイズの顔を赤ん坊のように、
純粋で優しいものに変えていた。
 と、二人の世界にひたっていたそこで、空の上から底抜けに軽く明るい声が響いてきた。
「ヒューヒュー、お熱いじゃない、お二人さん!」
 はっとして空を見上げると、そこにはシルフィードが急速に降下してきていて、
慌てて離れた二人の前に下りたその背から、キュルケとタバサが笑いながら降りてきた。
「キ、キュルケ、こ、これは」
「あ、一部始終見てたから、無駄な抵抗しないでね。ともかく、おめでとうね。
結婚式にはちゃんと呼んでね。それから、子作りは二〇を超えてからしたほうが
いいわよ。あとで苦労するからね」
 言葉にならない悲鳴をあごをけいれんさせて、顔を真っ赤にして叫ぶ二人に、
キュルケは過去最大の笑みを浮かべて祝福するのだった。
「よ、よりにもって、ツェルプストーなんかに見られてたなんてぇー!」
「なーによ、あたしじゃ仲人に不足だっていうの? もう気持ちを隠さないんじゃ
なかったの? でも、まあいいわ。ルイズ、サイト……いえ、ウルトラマンA」
「えっ……!?」
 絶句して、赤から一転して二人は顔を青ざめさせた。そうだ、一部始終を
見ていたということは、ドラコに二人まとめて踏み潰されたときから、変身解除の
ときまで、つまりこれまで守り抜いてきた二人の秘密がばれたということになる。
けれどそんな二人にキュルケは表情を引き締めると、軽く深呼吸をしてから声をかけた。
「心配しなくても、誰にも言いはしないわよ。わたしたちはこれでも口は堅いんだから、
でも、正直驚いたわ」
「ごめん、今まで黙ってて……」
「いいわよ、込み入った事情は聞かないけど、あなたたちはあなたたちで
変わらないじゃない。けど、これまでずっと二人だけで戦ってたのね。それに
引き換えあたしなんか、あなたたちを守ってあげてるつもりが、いつも守られて
たのはこっちだったのよね。まったく、いい道化だわ」
「そんな、二人には何度も助けてもらったし、おれたちほんと感謝してるんだぜ。
なあルイズ」
「う……まあ、山のように借りができちゃってるってのは自覚してるわよ。けどね、
ツェルプストーの女なんかに神妙面されたら、気分悪いからやめてよね」
 才人もルイズも、英雄面なんかする気はなかったし、こうして特別扱いされて、
友達が友達でなくなっていくのが怖かった。しかしキュルケはそんな二人の焦った
顔を見ると、一転して破顔して、二人の肩を何度も叩いた。
281名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:05:36 ID:xJw+kW+K
風来の支援
282名無しさん@支援いっぱい:2010/05/09(日) 17:06:09 ID:Z8WzorMs
「あっはっはっ、なーんてね。やっぱり、あなたたちはあなたたちだったわね。
ねえタバサ」
「下手な芝居……でも、ほっとした」
 どうやら二人も、二人の姿が偽ったもので、本当の人格は違うものではないのかと
心配していたようだが、それが違っているとわかると、とたんに安心したようだった。
「お、脅かすなよ、もう」
「ごめんごめん。でも、サイトも思い切ったものね。これで、次に帰れるチャンスは
早くて三ヵ月後ね。お母様方、大丈夫?」
「……」
 確かに、覚悟を決めたとはいえ、才人にとってそれだけは気がかりだった。
三ヶ月といえばあっという間に思えるが、息子を失った悲しみにふるえる両親に
とって、それははるかに長い時間に違いない。もしも、失望のあまりにはやまった
行為に走られたらと思うと、才人の肝は冷えた。
 と、そこへウルトラマンヒカリ=セリザワがやってきて、才人に話しかけた。
「優柔不断も、少しは治ったようだな。今度は、握った手を二度と離すんじゃないぞ」
「あ、はい!」
 セリザワの無骨な祝福に触れて、才人とルイズはまた顔を赤くした。けれど、
両親を忘れるということができるはずがない才人の心のしこりも、同時に
察していたセリザワは、リュウから受け取っていた二つのアタッシュケースのうちの、
開けないでおいた一つを才人に投げてよこした。
「受け取れ」
「うわっ!? な、なんですか?」
 慌てて、そのジュラルミン製のアタッシュケースを、ケースの重みによろめきながらも
受け取った才人は、いきなりなんですかとセリザワに尋ねようとしたが、「いいから
開けてみろ、鍵はかかっていない」というセリザワの言葉に、恐る恐る止め具を
外して、ふたを開けてみた。
「っ! これは」
 そこに入っていたものを見て才人は目を見開いた。
 ケースのスペースに所狭しと収められていたのは、GUYSメモリーディスプレイに、
背中にGUYSの翼のエンブレムが描かれた隊員服、しかもメモリーディスプレイには
白い文字で、平賀才人と刻まれているではないか。
「セリザワさん、これは!?」
「見てのとおり、お前のものだ。手にとってみろ」
「は、はい……」
 心臓の鼓動を抑えながら、才人は自分の名前が掘り込まれたメモリーディスプレイを
ケースから取り出した。その重量感と、金属とプラスチックの質感は間違いなく
本物で、思わず喉を鳴らしてつばを飲み込んだ。
 すると、いきなり無線受信を示すアラームが鳴り出し、慌ててそれらしいスイッチを
押すと、そこにリュウ隊長の顔が映し出された。
「よお、俺たちは今ゲートを通ってるところだ。やっぱり残ったんだな」
「ええ、申し訳ありません……」
「謝る必要なんかねえよ。お前、自分の選択に後悔してねえんだろ? 顔を
見ればわかるぜ。なあ、みんな」
「ああ、男らしく精悍な顔つきになった。あのとき、ガンローダーから飛び出ていった
ときは見事だったぜ、アミーゴ」
「がんばりましたね。ウルトラマンAが、君たちを選んだわけもわかります」
「サイトくん、きっちり男の責任はとらなくちゃだめよ。女の子を不幸にする
男なんて、最低だからね」
 リュウに続いて、ジョージ、テッペイ、マリナもディスプレイに現れて、それぞれ
才人の選択を認めて、激励してくれた。そして、彼らの後ろからは、損傷を負った
ガンフェニックストライカーを後押しするメビウスが、同じように無言でうなずき、
才人は彼らの優しさに目じりが熱くなるのを感じた。
「ありがとうございます。それで、ひとつだけお願いがあるんですが……」
「わかってる、ご両親のことだろう?」
 才人は黙ってうなずいた。
「そう言うと思ったよ。けどな、一時をしのいだとしても、また三ヵ月後に同じことを
しなければならねえぜ。いつまでも、お袋さんたちをほっとくわけには」
「はい……」
 そう、結論を先送りにしても、いつか地球に戻らなければならないことには
変わりなく、あくまで一般人である才人は、ヤプールとの戦いが終わったとしたら、
必ず地球に永住しなければならないだろう。だけれど、才人のそんな苦悩を見抜いた
リュウは不敵に笑ってのけた。
「ふっふっふ、おい、なんのためにお前にそいつをわざわざ用意していったと
思ってるんだ? 中身をよーく見てみろ」
「えっ……これは」
 才人は言われて、GUYSジャケットの下をまさぐって、そこから出てきたものを
見て二度びっくりした。
「『よくわかるGUYSライセンス試験過去問題500』『地球のために、地球防衛軍
入隊への道』『新訳、宇宙の中の地球人』……それに、航空機操作シミュレーションソフト!?」
 なんと、それらの参考書や資料集、ほかにも才人のパソコンで使える防衛軍
戦闘機のシミュレーションソフトや外付けジョイスティック、予備バッテリーや
ソーラー充電器までもが備え付けられていたのだ。
「ふふふ、一般人じゃあ無理なら、問題なく二つの世界を行き来できる資格と
立場を持てばいいだろ? お前も、聞けばもうすぐ十八歳、GUYSライセンスを
持つには文句のない年齢だ」
「てことは……おれに、GUYSに入れと?」
「ほかに何があるってんだ? 俺たちだって、お前とたいして変わらない歳のときに
試験を受けたんだ。無理難題は言ってねえぞ。それとも、俺たちの仲間になるのは嫌か?」
「そ、そんな! とんでもないです。おれは……」
 嫌なはずはなかった。小さいころからウルトラマンに憧れ、親や友達から
怪獣バカと言われながらも、怪獣図鑑を読み漁ってきた才人にとって、GUYSは
憧れの職業No.1であった。しかし、両親からは危険な職業だし、お前みたいな
軟弱な奴がつとまるはずはないと反対されてきて、なかばあきらめていた。
あきらめていた、そのときまでは。
「なります! GUYSライセンス試験、受けさせてください!」
 今、その眠っていた情熱に火がついた。正式な地球防衛軍の隊員になれば、
任務をおびて二つの世界を自由に行き来することもできるだろう。そうなれば、
その任務はハルケギニアで長期滞在していた自分こそがふさわしいに違いない。
「よく言った! ただし、試験は三ヵ月後にきっちりおこなうから、間違っても
落第すんじゃねえぞ!」
「あっ、はいっ! いえ、G・I・G!」
 下手な敬礼をしながら、慌てて答える未来の後輩に、リュウだけでなくジョージたちも
それぞれのコクピットで失笑を禁じえなかった。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:08:25 ID:OnEuDz12
おお、予想&期待通りの展開! 支援
286名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:08:48 ID:7Oromdes
支援
「頑張れよ。じゃあ、CREW GUYS JAPAN隊長として、三ヶ月間、平賀才人を
GUYS特別隊員として認め、メモリーディスプレイ一式を貸与するものとする。
それまでのあいだ、ウルトラマンとともに世界の平和を守ることに勤め、
正隊員となる研鑽を怠らないこと、この二点を命令する。わかったか!」
「G・I・G!」
 そのころ、フェニックスネストではコノミやカナタたちが後輩ができたことに喜び、
サコミズ総監が、時代の流れが移り変わっていくものを感じていた。ウルトラ
兄弟からメビウスへ、セリザワからサコミズ、リュウからカナタへ、そして今度は
才人が未来の宇宙の平和を背負って立つことになるのかもしれない。
「それじゃあ、またな。ご両親のことは任せておけ、まあなんとか説得しておくぜ」
「よろしく……お願いします」
 言ってしまえば、自分の代わりに両親に叱られてくれと言っているようなものだから、
心苦しいが才人はせめて頭を下げて頼み込んだ。ただし、リュウが説得にあたると
いうことについてはマリナやジョージの大反対を呼び、結局サコミズ総監やミライも
同伴するということにはなった。どうやら、リュウが隊長として全幅の信頼を
寄せられるようになるには、まだまだ経験と実績が必要らしい。
「じゃあ今度こそ、元気でな。また会おうぜ」
 最後に、通信はリュウ隊長以下、GUYSクルー全員とウルトラマンメビウスの
GOサインで、切れて終わった。
「おれが……GUYSに……」
 通信が切れたあとで、才人は春の夢を見ていたときのように呆けて空を見上げていた。
彼にとって、あこがれはしてきたが手の届かないものとあきらめていた夢が、
今手の届く場所にある。小さいころからなりたいと思っていたウルトラマンと
いっしょに戦える仕事が……
 そして、話を横から聞いていたルイズたちも、才人が向こうとこちらを自由に
行き来することができるようになるかもしれないということに、快哉を叫んでいた。
「やったじゃない! なんだかわからないけど、ようするに竜騎士隊に入れるような
ものでしょう! シュヴァリエなんて目じゃないじゃない」
「ほんと!? そりゃとんでもない出世じゃない、サイトって、やっぱりすごい奴だったのね!」
 あながち当たらずとも遠からずなルイズとキュルケの喜びように、照れくさい
感じを味わいながらも才人はうれしく思った。
 けれど、道は決して平坦ではない。GUYSライセンスは一六歳になれば誰でも
取得できる免許だが、数年前の怪獣頻出期から二十五年経って就職に有利な
資格としてしか思われていなかったころと違って、怪獣の出現が当然のように
なった今では合格基準も跳ね上がっており、しかも受験勉強の期間は三ヶ月しかない。
なのに、今の才人は中学高校の期末試験などとは比較にならないほどの
やる気に燃えていた。
「ふっ……やってやろうじゃあねえかあ!」
 ケースの中のGUYSメモリーディスプレイや隊員服を見れば見るほど、エネルギーが
心の中に満ち満ちてくる。そこにはトライガーショットなど武器こそ入っていないが、
GUYSの隊員として必要なものがそろっており、合格したら晴れてそれらは
自分のものになる上に、なによりルイズとも両親とも別れる必要はなくなるのだ。
 そうして、いつかはルイズを連れて家に紹介しに行こう。そのときに、両親は
喜んでくれるだろうか? 才人は時計を見下ろして時刻を確認した。もうゲートは
人間が通れるほどの大きさではなくなっているだろうが、完全に閉じてしまうまでには
あと一〇分ほどは猶予があるだろう。
「……やっておくか」
 少し考えると、持ち帰る予定だった荷物を詰めていたリュックから、才人は自分の
ノートパソコンを取り出した。リュック自体はドラコに振り落とされたときに才人と
いっしょに叩きつけられたが、運がいいのか悪いのか、こちらは開かないままだった
パラシュートがクッションになって無傷ですんでいた。彼は切れていたバッテリーを
アタッシュケースから取り出した新品に交換して電源を入れると、タッチマウスを使って
急いでメインメニューからクリックを繰り返して、やがて思い出すようにキーボードを
叩いていった。
「サイト、なにやってるの?」
「わり、ちょっとだけ話しかけないでくれ」
 覗き込んでくるルイズたちにはかまわずに、才人は画面の右下に表示された
時刻を気にしながら、額に汗を浮かべながらキータッチを続けて、やがて
画面いっぱいにテキストが埋まったのを確認すると、大きく息を吸い込んで
エンターキーを叩いた。
「送信確認……完了」
 そう才人がつぶやいた瞬間、画面に「ネットワーク回線が切断されました」と
警告メッセージが表示されて、彼はパソコンをシャットダウンすると、折りたたんで
リュックの中にしまった。
「サイト?」
「ああ、心配ない。こっちのことだ」
 小さいが、自分にできることはすべてやった。あとは、これからの未来を見据えて
歩き出していく番だ。と、その前に……
「さーて、と……暴れるだけ暴れたら腹減ったな、昼メシにすっか」
 振り返って背伸びをし、緊張を吐き出すようにのんきに言った言葉が、抗議の
台詞よりも早く一同の腹の虫を鳴らさせた。
「そういえば、くったびれたわねえ」
「あれだけやれば当然よ。ちょっと早いけど、ランチにしましょうか」
 時計を見てみれば、なんとまだ午前十時にすらなっていなかった。GUYSの
到着が九時だったことを考えると……驚いたことに、あれから一時間も経ってない。
だが、ルイズたちが貴族にあるまじきくらいにでっかい腹のなる音に苦笑して、
学院に向かって歩き出そうとしたとき、どこからともなくよく聞きなれた低い男の
声が軽快な金属音とともに響いてきた。
「おーい相棒! 俺のことを忘れちゃいねえかぁー!?」
「んっ!? あ、デルフ!」
 見ると、ちょっと離れた場所にデルフリンガーが突き刺さっていたので、才人は
慌てて駆け寄ると、埋もれかかっていたところから引っこ抜いた。
「ふぃー、危なかったぜ、娘っこときたら、俺っちをほっといて変身すんだからな。
おかげで吹き飛ばされるわ、生き埋めにされかかるわ、ほんと死ぬかと思ったぜ」
「あ、ご、ごめん忘れてた」
「やーれやれ……こりゃほんと、娘っこに預けられたまんまだったらどうなってた
ことか、やっぱり相棒の手元が一番だぜ」
「ああ、またよろしく頼むぜ、相棒」
 才人は微笑を浮かべてデルフを背負うと皮ベルトを締めた。この重さがしっくりと
くるのも、なにか懐かしいものだ。
 もっともあらためて周りを見渡してみたら……
289名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:12:03 ID:xJw+kW+K
支援の絆
「しっかし、こりゃギーシュたちが戻ってきたら腰を抜かすかもしれないな……」
 戦場跡となった学院は、外壁は倒壊し、草原は掘り返されてクレーターだらけで、
さらに怪獣の死骸まで転がっているとんでもない状態だった。才人は、これは
オスマン学院長が脳溢血でもおこさなければいいがと思った。
「まあ、校舎は無事だし、授業に支障はないからなんとかなるんじゃない」
「お前はずいぶんお気楽だなあ」
「今のわたしは、もう校舎なんかどーでもいいのよ。もっと大切なもの、見つけたからね」
 心から幸せそうなルイズの顔を見ると、才人も自然と幸せな気持ちになれた。
「ま、世の中なるようになるか。ところで、夏休みはあと半分も残ってるけど、
これからどうする?」
「そうね、わたしの実家に帰りましょう。お母さまやお姉さまも、この時期は
いったんは帰省してるはずだから、顔を見せにいかないとね」
「ルイズの実家か、けどあの怖そうな人たちがいるのか」
 才人は以前見たカリーヌとエレオノールの威圧感を思い出して憂鬱になったが、
ルイズは軽く笑うと胸を張った。
「なによ、あんたわたしのこと好きなんでしょ。だったら、いずれヴァリエールの
血に連なる者になるって事よ。遅かれ早かれあんたのことは紹介しなきゃ
ならないんだから覚悟なさい」
「へぇーい」
 前途多難、せっかく生き返ったのに、早くもまた命の心配をしなければならないとは、
しかしルイズの言うとおりに、いつかはしなければいけないことなら、仕方がない。
まあ、いきなり娘さんをくださいと言いに行くわけではないし、とりあえずは顔見せか。
「よし、じゃあ明日さっそく出発するか。ところで、キュルケやタバサはどうするんだ?」
「心配しなくても、せっかくの婚前旅行を邪魔する気はないわよ。わたしも、一度
実家に帰ることにするわ。ちょっと疲れちゃった」
「わたしは……ガリアに、会いたい人がいるから」
 二人とも、新学期までの一時の別れを告げて、これで山あり谷あり、いろいろあった
夏休みの旅行は、本当の意味で終わったのだった。
「いよっーし! それだったら今晩は盛大に宴会やろうぜ、食堂の食い物がなくなる
くらいにな、酒の肴の思い出話も売るほどあるし、学院長や、セリザワさんも
いっしょにどうです?」
「まあ、たまにはいいだろう。ご相伴にあずかろう」
「おっ! そりゃいいわね、にぎやかなのは大好きよ。タバサも、今日は付き合いなさいよ」
「……まあ、いいか」
「きゅいーっ、お姉さま、それでいいのね。お祭りを蹴るなんて、竜でも一番やっちゃ
いけないことなのね」
「はぁ、あなたたち、もっと貴族のつつしみというものを……ま、いっか」
「よっしゃあ、じゃあ善は急げだ。今日は、魔法学院はおれたちだけのものだぜぇ!」
「おおーっ!」
 
 青空に若者たちの元気よい声が響き渡り、暖かな風に背を押されて彼らは
学び舎へと駆けていく。
 未来のCREW GUYS隊員、平賀才人、その手の中のノートパソコンには、
彼のこれからの未来への架け橋と、彼の故郷と家族へ愛情のすべてを込めて当てた
メールが、決して消えないように記録されている。
 
”母さんへ。
 驚くと思うけど、才人です。黙って家を出て、ほんとにごめんなさい。いや、
 ほんとは黙って出たわけじゃないけど、詳しく言うと長くなりすぎるし、時間が
 ないんでそういうことにしておきます。とにかく、ごめんなさい。
 メール、ありがとう。
 心配してくれてありがとう。ハンバーグ、食べたかったです。
 おれは無事です。
 無事ですから、安心してください。
 おれは今、地球とは別の次元にある星にいます。
 うそだと思うだろうけど、本当のことです。
 友達も大勢います。宇宙人、になるのかもしれないけど、みんないい奴ばっかりです。
 だけど、ここは異次元人ヤプールに狙われていて、今大変なことになっています。
 そして、おれの力が必要なんです。
 だから、まだ帰れません。
 でも、いつか帰ります。
 お土産を持って帰ります。
 だから、心配しないでもう少しだけ待っていてください。
 父さんやみんなに、よろしく伝えてください。
 とりとめなくてごめんなさい、あと数分しかないもんで。
 母さんありがとう。
 ほんとに、ありがとう。
 あ、それからおれ、将来なりたいものが決まりました。おれ、地球に帰ったら
 GUYSライセンスをとって、将来は地球や宇宙の平和を守る仕事につきたいです。
 それと……ガールフレンドができました。ちょっとキツいけど、けっこうかわいいから、
 今度紹介しますね。
 じゃあ、さようなら。
 けっこう大変だけど、おれは幸せです。
 それでは、また。平賀才人”
 
 
 ウルトラ5番目の使い魔 It is not the End
292名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:23:46 ID:F06OG0hv
さらに戦闘妖精まで来たか・・・ 乙です。代理の人も乙。
しかし、GW明けに久々の収穫じゃよー。
以上をもちまして、アルビオン編を完全に終了させていただきます。今回も熱い支援の数々、
ありがとうございました。そして、2008年から今年まで長いあいだ支援、応援を続けて、
連載を支えていただきました読者の方々に、ここに心からのお礼を申し上げさせていただきます。
 
ですが、これまで皆様に支えられ、週間連載を続けてまいりましたが、申し訳ないのですが、
ウルトラ5番目の使い魔は、この99話をもちまして一時連載を休止させていただくことにいたしました。
作中におきましては、まだまだ中途半端で、伏線の回収もほとんどなしえていないことを
心苦しく思いますが、アルビオン編の幕に向けて駆け足でやってきましたので、このままの
ペースで続けても内容が練りきれず、作風にも乱れが出てくると感じましたので、休養と
プロットの練り直しのためにしばらくおやすみさせていただきます。
なお、モチベーションに関しましては問題なく、カトレアと才人の顔合わせもしたいし、
ミシェルの才人への思いやリッシュモンとの決着、新学期に学院にやってきたリュリュや、
エレオノールの怪しげな研究、魅惑の妖精亭に居候してる変な三人組や、旅立ったジュリの
その後にアスカの行方、それにまだ見ぬウルトラマンや怪獣たち、そしてついに動き出す
ジョゼフとの対決やロマリアの陰謀など、書きたいことは山盛りなので、それらのブロックを
どうピラミッドに組み立てていくのか、それを考えたいと思っています。
 
休養期間はおよそ一ヶ月ほどと考えてまして、6/20には帰ってきたいと考えています。
そのときにはこれまでの長期ストーリーからは一線を隔して、また新しいウルトラの風を
ゼロの使い魔の世界に吹かせたいと思っていますので、それまでこのスレが変わらず
盛況でありますように。
それでは、もう一度だけ、これまでどうもありがとうございました。
294名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:27:04 ID:XqPRkn9i
ウルトラさん、代理さん乙。

再開を楽しみにしています。
295名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:27:41 ID:Pbt1mxq6
ウルトラ乙
存分に作品を練り上げてくだされ
帰ってくる日を楽しみに待ってるぜ
296代理投下終わり。:2010/05/09(日) 17:28:46 ID:xJw+kW+K
ご帰還お持ちしておりまふ。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 17:53:14 ID:sSpQd4bd
正直長すぎてダレてるから、適当なとこで終わらせたほうがいいよ
298名無しさん@お腹いっぱい:2010/05/09(日) 18:00:21 ID:2r3GxLUa
ウルトラの人、代理さん乙でした。
第1部完結おめでとうございます。
再開を心待ちにしています。
299名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 18:11:58 ID:ZAJjXuHf
第一部完

スラムダンクを思い出す
300名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 18:25:35 ID:kDW2Pqjf
 ウルトラ5番目の作者さん、お疲れ様でした。
 物語中の三カ月後は、左手にデルフ、右手にトライガーで武装した才人が見れるのでしょうか?
 素晴らしかった第一部、どうもありがとうございました。第二部も頑張ってください。
301名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 18:47:09 ID:KBadcpuf
第2部6/20
よし、覚えた。
待ちますよ。
302名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 18:51:36 ID:AiJ+uXEF
第一部終了おめでとうございます。
そして、お疲れ様でした。

執筆が滞っている駄文書きには、週1でこれほどの熱さと密度の
ストーリーを投下できるその文才と創造力には本当に舌を巻かれます。

再開を楽しみにしております。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 19:05:26 ID:7du+tb8l
ウルトラの人、お疲れさまでした。
第2部の開始をお待ちしています。
304名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 19:45:27 ID:5nUV7eau
お疲れ様でした
光の国に帰ってゆっくり休養を取ってくださいね
305名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 20:14:07 ID:0PfpR+XY
ウルトラの人、お疲れ様でした。
読了いたしまして、目元がウルウルしてます。

目、目から汗が出ているだけなんだからねっ
306名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 22:00:26 ID:jDCgEiv5
ウルトラの人GJっす
ウルトラの母のもとでしっかり休んできてください。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/09(日) 22:28:01 ID:KBadcpuf
余韻に浸っているところ切って申し訳ないですが。
特に問題なければ40分ほどより、ザボーガー行きます。
308ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:40:14 ID:KBadcpuf
 気がつくと夜明け前。
 横にはギーシュ。前にはタバサとキュルケ。そのさらに前にはシルフィード。そして後ろにいるのは姫殿下と学院長。肩に乗っているのはロビン。
 いつの間に?
 いや、意識はしっかりあったし休憩もしっかり取った。別に意識を失っていたわけでも自我を失っていたわけでもない。
 それにしても、どうしてこんなことに。
 モンモランシーはじっくり考える。

「ルイズが行方不明!?」
「部屋にいるんじゃなかったんですか」

 学院長の説明に、最初に声を上げたのはキュルケである。
 次いで、ギーシュ。
 タバサは無言のままで、モンモランシーの場合は声にならない驚き。

「何処へ行ったんですか? まさか、実家に帰ったとか」
「行き先の想像はついておる。おそらくは……アルビオン」
「ああ、アルビオン……って、あのアルビオンですか!? 戦時下じゃないんですか、あそこ」
「明らかに戦時下じゃな」
「なんでそんな」
「先夜にあったことじゃが、これは当事者に話を聞こうとするかね」

 姫殿下が、ルイズの部屋で起きた状況を説明する。ただし、手紙云々は省略。ただ、個人的に必要なものがアルビオンにある、
とルイズに話しただけだと。
 秘密にするのはどうかと、アンリエッタは少し考えていたのだが、オスマンとマザリーニは異口同音に隠せと進言したのだ。
 確かに、手紙のことをこの四人に話したところで事態に変わりがあるわけではない。不必要な情報を知らせないのも嗜みだ。

「それで、ルイズは先走ったということですか」
「はい。私の言い方が悪かったのです。幼馴染みであることに甘えて、愚痴をこぼしてしまった私の浅はかさが」
「いえ」

 ギーシュが身を乗り出していた。

「姫殿下のお気持ちは重々お察しいたします。しかし、幼い頃からの親しき友であるミス・ヴァリエールに対して多少なり胸襟を開いたことなど、
責められるようなことではないと自分は考えます。この場合、まことに言いにくいのですが、責は姫殿下ではなく、
無闇と先走ったミス・ヴァリエールにあると」
309ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:41:01 ID:KBadcpuf
 なんだ、このいっぱしな物言いは。
 オスマンは微笑ましげにそれを見、モンモランシーはやや呆れている。
 そしてキュルケは考えている。
 ルイズの行き先は既にわかっていた。ならば、自分たちが呼ばれたのは後先考えずに飛び出したルイスの心情を補足するためか。
 しかし、だ。ギーシュとの決闘で自信を失ったルイズが短絡的に貴族の誉れを求め、姫殿下の望みを叶えようと飛び出した。
それだけの事なら自分たちの証言による補足など不要だ。おそらく、それらに関してはとうに学院長が把握しているだろう。
 それだけの訳がない。
 ルイズを追うため、か。
 勿論、追うだけなら自分たちである必要はない。正規兵のほうが確かだろう。
 だが、正規兵を使うわけにはいかない事情がある、とキュルケは見抜いていた。
 この出来事自体、公にするわけにはいかないのだろう。
 今のトリステインの情勢はキュルケも知っている。そして、ルイズの実家が王家に迫るほどの名門である事も。
 今の王家がヴァリエールに離反されればおしまいだ。そして、万が一ルイズが、アンリエッタに命じられたアルビオン行きで命を落とせば、
離反の可能性が出てくる。少なくとも、離反しても不思議はないと言う雰囲気が周囲にできあがるだろう。
 反アンリエッタ陣営にはこの上ない追い風だ。そうなった場合、ゲルマニア皇帝とてアンリエッタとの縁談をこれ以上進めるかどうか。
 しかし、ルイズを追うのが学園の友人たちならば?
 このアルビオン行きは、友人間のいざこざの末によるものという見方も出てくるだろう。いや、そう見えるように枢機卿が全力を傾けるだろう。
 姫殿下は、自分たちにルイズを追わせようとしている。
 キュルケはタバサを見下ろした。タバサもちょうどキュルケを見上げるところだった。

「シルフィードは四人なら大丈夫よね。フレイムたちも計算に入れて良いのかしら?」
「ラ・ロシェールで追いつける」
「だけどザボーガーの速度は……ああ、この月だと、まだ船が出ないか」
「足止めされているなら追いつける」
「それなら、答えは一つね」

 トリステインの王族に命じられ、政治的に重要な娘を追う?
 ゲルマニアのツェルプストーともあろう者が? 
 否。
 自らの意思で、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーは自分の友人を追うのだ。
決して、トリステイン王女からの依頼などではない。それは明確なる自分の意思で。
 誰のためでもなく、自分のために。

「学院長」

 キュルケは一歩、前に出た。ただし、姫殿下の方角ではなく、オールド・オスマンの方向へ。
310ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:41:52 ID:KBadcpuf
「私とタバサは、ミス・ヴァリエールを連れ戻します」
「ほう?」
「ミス・ヴァリエールはミスタ・グラモンに決闘で負かされた事によって、自尊心を傷つけられ、学院を飛び出ていったのでしょう。
その決闘自体にも、私たちが無関係とは思えません。それなら彼女を追うのは、事件の当事者であり友人でもある私たちの役目ですわ」
「横から失礼します。ミス・ツェルプストー、でしたか」

 姫殿下の後ろに控えていた銃士が、突然声をかけた。

「ミス・ヴァリエールが突然出て行かれたのは、その決闘が原因だと仰るのですか?」
「ええ。他の原因など、何一つ思い当たりませんわ」
「なるほど」

 アニエスは、そのままアンリエッタに向き直り、膝をつく。

「恐れながら申し上げます。我ら銃士隊の調査にても、ミス・ヴァリエール出奔の動機はわかりませんでした。
しかしながら、学院内のご学友とのトラブルが原因だとすれば、我ら、いや、姫殿下には全くの関係ない事と思われます」
「アニエスと言ったかの。それはさすがに言い過ぎじゃろう」

 オスマンの言葉に、キュルケとアニエスは似たような表情になる。
 驚愕に、やや混じった不信。
 ギーシュとモンモランシーは、互いに顔を合わせて既に理解を放棄している。ある意味、流れに任せている状態だ。
 タバサは何を悟ったのか、面白そうにオスマンを見ている。

「学院長?」
「ミス・ヴァリエールは姫殿下の幼き日からの友。それをここに来て無関係と言い張るとは、如何に公私の区別とはいえ、
情が強すぎるというものじゃろう。形はどうであれ、心配せぬ方がどうかしておるわい」

 キュルケが発言するまでの会話は、これで全てなかった事になる。
 ルイズを追うのは友人。
 ルイズが出て行った理由は友人間のつまらないトラブル。
 いくら娘を可愛がっている両親とはいえ、横やりを入れるにはあまりにもつまらない理由。

 その翌朝。
 モンモランシーは回想から抜けると、もう一度メンバーを確認する。
 ルイスが暴力的に反抗する事はまずないだろう。必要なのは話し合い。姫殿下がルイズの行動を望んでいないとわからせる事。
 説得は、同じトリステイン貴族であるギーシュとモンモランシーの役目だ。
 ギーシュは、方向性こそ違うがある意味ではヴァリエール当主と肩を並べる事もできるグラモン元帥の息子。
モンモランシーの実家とて、本来ならそれに並んでいておかしくない格の持ち主である。

「ヴェルダンデはラ・ロシェールまで地面を潜っていくよ。望むなら、フレイムはその後ろについて行けばいい」

 シルフィードに乗るのは四人、そしてモンモランシーの使い魔ロビン。ロビンはカエルなので、重量的には誤差範囲だ。
 モンモランシーとしては、ロビンに休んでいてもらっても良いのだが、朝、目を覚ますとロビンは自分から荷物の横に侍っていた。
どうやら、連れて行って欲しいらしい。
 そんな健気なことをされて、連れて行かない彼女ではないのだ。
311ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:42:48 ID:KBadcpuf
「良いか。お主らはくれぐれもアルビオンに関わってはならんぞ。それでは本末転倒じゃからな」
「わかっています。ロクに準備もせずになし崩しの実戦参加など、父上に知られれば大目玉ですから」
「アルビオンとトリステインの間に入り込む気はありませんわ」
「ルイズを連れ戻すだけ」
「三人を全力で引き留めます」
「うむ。頼むぞ、ミス・モンモランシ。こう見えて三人とも突っ走りかねんからな」
「はい」
「きゅい」
「うむ。シルフィードもな。お前さんのご主人様と友達を、ちゃんと守ってやるのじゃぞ」
「きゅいきゅい」

 シルフィードが飛び上がる。
 そして、ラ・ロシェールへ向けて大きく羽ばたいた。
 それを見ている別の集団。

「あれは……ミス・タバサの使い魔ですね」
「なんだ、朝っぱらからお出かけかい。ああ、そういやぁ、今日から食数減らすように言われてたな。なんだってんだ? こんな時期に」

 学園行事予定は使用人たちも心得ている。この時期に学生たちがまとまって出て行く行事など無いはずだった。

「貴族の方々のなさる事は私たちにはわかりませんよ」
「はっ、ちげえねえ」

 シエスタの言葉に笑って応えるのは、出て行ったのが「貴族の中でもかなりマシ」な一団である事を後で知り、
だったら弁当の一つでも作ってやったのに、と呟く事になるマルトーである。

「それじゃあ、私もそろそろ出発します」
「おう。気ぃつけてな、土産のワイン、楽しみにしてるぜ」
「はい。今年は当たり年と聞きましたから、良いのができていると思いますよ」

 シエスタは食材を運んできた荷馬車に便乗し、街へ向かう。
 今日から少しの間、故郷に帰るのだ。そして戻ってくるときはタルブや各地の名産を積んだ荷馬車にまた便乗してくる事になっている。

「行ってきます、マルトーさん」
「おう、元気な顔見せてやれよぉ」

 途中の街でお土産を買って、家族に元気な姿を見せて。
 シエスタは村での過ごし方をもう決めている。
 それから、ミス・ヴァリエールのために、もう少し村の秘密を明かしても良いかどうか、お父さんに聞いてみなければならない。
 とりあえず、ゲンお爺ちゃんが「シャシン」と呼んでいた綺麗な絵。そして、ザボーガーのような「おうとばい」がタルブの村に残っている事。
 マシンホーク。
 そういえば、マシンホークに乗るのも久しぶりになる。
 シエスタは、故郷でマシンホークと再会することを楽しみにしていた。
 シルフィードを見上げて手を振る彼女はまだ知らない。
 結局彼女は、その休暇の殆どをマシンホークと共にアルビオンで過ごす事になってしまうのだと。
312ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:43:36 ID:KBadcpuf
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 最初の一言は、

「どうしてこんな所に?」

 それに対しては、

「任務だよ。枢機卿に直接受けた極秘任務さ」

 ワルドは、入るよ、と一言告げ、提げていた紙袋を差し出す。

「この宿で一番のワインと肴だ。まずは、再会を祝して一杯どうかな? 僕の可愛いルイズ」

 拒む理由はない、戯れとはいえ、親同士の決めた婚約者である事に変わりはない。
 しかし、そもそも、前にワルドと会ったのはいつなのか、とルイズは考える。考えなければわからないほどの以前なのだ。
 それが、婚約者といえるのか。

「お待ちください。部屋が散らかっていますから」
「待てば、入らしてもらえるのかな? それとも、酒場に戻ろうか?」
「すぐ済みますわ。戸を閉めて、待ってください」

 ルイズは戸を閉めると、小さい声でザボーガーにマシン形態に戻るように言いつける。
 最初にノックがあったとき、ルイズはボーイがチップ稼ぎに細仕事でも請負に来たのかと思っていた。だから、部屋は片付けていない。
 しかし、そこにいたのは何故かワルドだった。幼い頃、親が勝手に決めた婚約者であり、それを差し引いたとしても幼い頃からの知り合いだ。
 知らぬ仲ではない。無視をするわけにはいかない。
 デルフリンガーに口をきかないように言い聞かせると、敢えて剥き出しのままで窓の外に置く。そこからは中が見える。
何かあれば、デルフリンガーが外に向かって叫ぶというわけだ。
 そして、ルイズはワルドを再び招き入れた。

「改めて。久しぶりだね。僕の可愛いルイズ」
「本当に、お久しぶりです。ワルド様」
「ふむ。これは手痛い。君を放っておいたようで済まなかったと、最初に詫びるべきだったな」
「ええ。何事もなかったようになんて、酷すぎるとは思いませんか?」
313ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:44:24 ID:KBadcpuf
 甘えているな、とルイズは思う。
 ちい姉さまへの甘えとは違う。お父様への甘えとも違う。無論に、エレ姉さまやお母さまとも違う。
 だれにもこんな甘え方を自分はした事がない。
 どこか我が侭で、それでいて媚びるような言葉。
 なんだろう、この感覚は。
 キュルケやモンモランシーがいれば、その疑問にはすぐ答えが出ただろう。しかし、ルイズ一人でわかるような問題ではなかった。

「そうだな、僕は詫びるべきだ。済まなかった、ルイズ」

 そして、ワルドはルイズの手を取った。
 取られるまま、逆らわないルイズ。

「ヴァリエールに相応しい地位を手に入れようとしていた、僕の無様な足掻きだよ。笑ってくれ」
「殿方の努力を笑う傲慢さなど、私は持っていませんから」
「そんな君だからこそ、僕は君に相応しい自分であろうとするのさ」

 ワルドは告げる。
 おのれが、マザリーニ枢機卿によってアルビオンに派遣されようとしているのだと。
 
「君は、姫殿下のためにアルビオンへ行こうというのだろう。しかし、既に僕がその任務を極秘裏に受けているのだよ」
「でも、姫殿下はそんな事……」
「これは枢機卿、あるいは僕の独断で動いた事になっている。事が発覚した場合、姫殿下に累が及ばないようにね」
 
 つまりは、今のルイズと同じなのだ。違うのは、ルイズが本当に独断で動いているのに対して、ワルドが密命を受けている事。

「だから、この任務は姫殿下すら知らない」

 だから、ルイスは学院に戻ればいい。後の任務は、ワルドのもの。いや、元々ワルドのものだった。

「ワルド様は一つ勘違いをしています」
「ほう?」
「私は姫殿下のためだけにアルビオンへ行くのではありません」
「と言うと?」
「自分のためです。自分の、貴族としてのあり方を見直すためです」
314ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:45:12 ID:KBadcpuf
 ルイズが語る物語をワルドは黙って聞く。
 自分が嫌っていた類の貴族。その嫌な貴族に、自分はなりかけていた。そして、それに気付かなかった。
 力を得た事で、自分のやるべきことを見失っていた。

「だから、私は力を正しい事に使いたい。姫殿下のために動く事がそれだと思ったの」
「なるほど。君は理想のトリステイン貴族であろうとしているのか」
「はい。だから私は、力を正しく使うため、アルビオンへ行きます」
「君に、それだけの力があるということか」
「私の使い魔には、それが可能です」

 力を正しく使う事は、力に溺れる事とは違う。
 例え、ワルドが反対しようとも。同じ任務であろうとも。
 自分はアルビオンへ行く。誰のためでもない、自分の誇りを取り戻すために。

「では、僕はあくまで反対するよ。勇気と無謀は違う。君がこれからやろうとしているのは、ただの自殺だ」
「ワルド様は、ザボーガーの力を知りません。今の私の力も」
「そうか」

 ワインの瓶が袋に戻される。

「そういうわけなら、今夜は酒を控えよう」

 立ち上がり、ワルドは杖を掲げる。

「僕は、君の使い魔に決闘を申し込む。もし僕にあっさり負けるようなら、諦めて学院に戻ってもらう」
315ゼロと電流 第十二話:2010/05/09(日) 22:46:28 ID:KBadcpuf
以上、第十二話でした。

 おまけ・マシンホークについて

 電人ザボーガー第1部(Σ団編)にて登場した、大門のライバルキャラ秋月玄の愛車。
 スペックなどは不明だが、マシンザボーガーと同等に戦えるマシン。
 作品内で変形はしないが、変形の設定資料、デザインは存在していたため、本作では変形可能とする。
 作品内では退場しただけで、秋月共々破壊も死亡も無し。
316名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/10(月) 11:18:08 ID:TFtbrDK3
お?書き込める。乙でした。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/10(月) 23:20:49 ID:K2101+Fg
聖帝の人まだー?
318名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/10(月) 23:28:25 ID:aMyP5976
319ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 02:40:28 ID:nTIm6tA6
空いているというかなんか完全に止まっている・・・
ともかく、50分ごろから投下します
320名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 02:47:44 ID:nTIm6tA6
 

 柊がフーケを捕らえた夜が明け、日が巡り、再び夜が訪れて。
 生徒教員を問わず学院のほぼ全員がアルヴィーズの食堂の上階にあるダンスホールに集まっていた。
 新入生の歓待を兼ねた毎年恒例のパーティ『フリッグの舞踏会』が行われるためである。
 フーケのゴーレムによってつけられた(という事になっている)本塔の亀裂はダンスホールの内壁にまで及んでいたが、教員達の応急処置によってとりあえずは元の景観を取り戻していた。
 その応急処置や捕らえたフーケの処置などのせいでその日の授業は完全に休講となってしまった訳だが、仮に授業が行われていたとしても実質はないのと同じだっただろう。
 なぜならその日の生徒達の関心は夜に行われるフリッグの舞踏会と、トリスタニアで噂の"土くれ"のフーケを捕らえた事に向いてしまっていたからだ。

 そんなフリッグの舞踏会の最中、柊はホールから通じるバルコニーにいた。
 はっきり言って場違いすぎて中に入っていけないのである。
 というかむしろ柊としては部屋に戻って寝ていたいぐらいなのだが、ルイズから参加するよう厳命されてしまったのでしぶしぶながらここに居残っているのだ。
 柊は柵に背を預けてきらびやかなホールをぼんやりと眺めつつ、軽くワインをあおって僅かに眉を顰める。
 未成年だから、という訳ではないがワインはあまり好きではない。
「……はー」
 柊は舞踏会が始まってから何度目になるかわからない溜息を吐き出した。
 別段早いペースで飲んだ訳ではないのにワインの瓶はもう空になりかけていた。
 ここに避難してくる前に適当に持ってきた食事も既になくなってしまっている。
 なんだか果てしなく面倒になってきたのでそろそろ部屋に戻ろうか、と考えていると、ホールから一人の少女が柊に向かって歩いてきた。
 見覚えのない姿に柊は小さく首を傾げ……その相手に気付いて眼を丸めた。
 パーティドレスを纏ったエリスだった。
「柊先輩、ここにいたんですね」
 若草色のドレスを身に着けたエリスは少し恥ずかしそうに俯きながら柊の元まで歩み寄る。
 他の女生徒達のようにきらびやかではないが、清楚で落ち着いたその衣装はエリスにとてもよく似合っている。
 香水でもつけているのだろう、夜風に乗って仄かな香りが柊の鼻腔をくすぐった。
「似合ってるじゃねえか。可愛い可愛い」
「……!」
 軽く笑いながら柊が言うと、エリスが頬を朱に染めて顔を綻ばせた。
 正に花を咲かせたような、というべき満面の喜び具合だ。
「それ、ルイズが見繕った奴か?」
「はい。普段着だけじゃなくてこんなのまで用意してくれてるなんて……」
 トリスタニアへ買物に行った後、ルイズが月衣に入れておくように行っていた二つの衣装箱。
 それがどうやらフリッグの舞踏会で着るためのドレスであったらしい。
 エリスは感動した面持ちでドレスの裾を小さくつまみ、柊の前でくるりと回って見せた。
 まあ元の世界ではまず着る機会はない服だし、女の子としては憧れだったりするのだろう。
 柊にはいまいち理解できない感情だが。
「エリスに対してはそれなりに甲斐性あんのな……」
 溜息混じりに柊は小さく漏らした。
 まあこれで柊に対して舞踏会の衣装を買ってくれても非常に困るだけなのだが、せめて別の方面でいくらか待遇を改善して欲しいところだった。
「ルイズはまだ捕まってんのか?」
「はい。私はおまけだったからなんとか抜けられましたけど……」
 苦笑しながらホールに眼を送るエリスに釣られ、柊もそちらに目線をやった。
 見ればホールの中の一角に人だかりができている。
 あの中心にルイズがいるのだろうが、ここからでは小柄な彼女の姿は全く見えなかった。

321名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 02:49:36 ID:vY+5fJTG
とりあえず支援
322ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 02:50:11 ID:nTIm6tA6
 

「まあ今日の主役はアイツだからな」
「真の主役は君じゃないのかい?」
 柊の呟きに応えるように姿を現したのはギーシュだった。
 普段にもまして派手な衣装を纏って登場した彼は、ワイングラスを片手に柊に向かって軽く掲げてみせる。
「学院長の話だとルイズの手柄みたくなってるけど、フーケを倒したのは君なんだろう?」
「……『捕まえた』のはアイツだ。俺はちっと手伝っただけだからな」

 あの後フーケはエリスとギーシュが連れてきた衛兵達によって捕縛され、明くる朝に知らせを受けおっとり刀で集まったオスマンにルイズ達は事の顛末を報告することになった。
 いつの間にか本塔につけられていた巨大な亀裂に関してはオスマン達にも心当たりがなかったが、話の流れでフーケがやったという事に納まってしまった。
 ともかく、報告を受けた二人は一様にフーケの正体に驚きを露にし、次いで彼女達の功績を称えた。
 彼等はルイズにシュヴァリエの叙勲を薦めた。
 平民である柊には何もないという事で彼女は少し渋ったが、当の柊がそれで構わないと言った。
 ルイズがいなければ捕まえる事もできなかった、とも。
 本人にそう言われてはルイズとしては承諾するしかなかった。
 こうして彼女は今行われているフリッグの舞踏会の主役として盛大に祝われる事になったのである。

「自らの功を誇らない、か……フッ、流石は僕がライバルと認めた男だよ」
「勝手にライバルにしてんじゃねえよ」
 髪を掻きあげながらのたまうギーシュに柊は嘆息交じりに漏らす。
 ふと眼をやれば、エリスは僅かに肩を落として俯いていた。
 柊の視線に気付いたのか、彼女はどこか乾いた笑みを浮かべた後、表情を曇らせる。
「その……ロングビル先生がフーケっていう盗賊だったなんて……」
 囁くように漏らした彼女の言葉に柊とギーシュは気まずくなって顔を見合わせてしまった。
 彼等にとってはそうでもないが、エリスにとってフーケ――ロングビルは何かと世話になっていた人物なのだ。
「……。まあ何か事情があるのかもしれねえけど……だからって盗賊やっていいって事にはならないだろ」
「それは……そうですけど」
「うぅむ……やっぱり衛兵達を連れてきたのはまずかったかな」
 ギーシュが眉を寄せて唸るように言った。
 フーケの捕縛に立ち会ったのが柊達だけであったのなら、彼女が意識を取り戻した後で事情を聞いてその内容如何では逃がすという手もあったかもしれない。
 今回の件に限って言えばフーケは宝物庫を襲撃したものの何一つ奪えはしなかったし、トリスタニアを色々騒がせていた前科があるとはいえそこまで躍起になって捕縛する義理もないからだ。
 皮肉にも衛兵達を連れてきてしまったエリス自身が、フーケの身柄を拘束する原因となってしまったのである。
 現在フーケは杖を取り上げられ、本塔の一室にて監禁されている。
 既に王都に報告がなされているので数日の内には衛士隊が来て連行されるだろう。
 エリスはフーケと話をしたがったが……フーケ自身が頑として彼女との面会を拒絶した。
 話すどころか、眼を合わせる事すらしなかったのだ。
「僕が余計な事をしなければどうにかなってたかもしれないな。申し訳ない、ミス・シホウ」
「あ、いえ。謝る必要なんてないです。私もギーシュさんも知りませんでしたし、やっぱり物を盗むのは悪いことですから」
「……?」
 神妙な顔をして頭を下げるギーシュと、慌てて顔を上げさせようとしているエリス。
 二人の奇妙なやり取りに柊は首を捻ってしまった。
 するとエリスがそれに気付き、柊に向かって説明した。
 あの後、柊に言われてギーシュと合流し夜詰めの衛兵の所に向かったエリスだったが、説明しても話をまともに聞いてくれなかったらしい。
 信じていないというよりは信じたくないという事なかれ主義だったわけだが、その時に一喝して衛兵達を動かしたのがギーシュだったそうだ。
「ギーシュさんがいてくれたおかげで助かりました」
「……マジで?」


323ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 02:52:45 ID:nTIm6tA6


 説明を受けてやや半信半疑の表情を浮かべた柊だったが、当のエリスが真面目に頷いているので本当なのだろう。
 改めてまじまじとギーシュを見やると、彼はふふんと自慢げに鼻を鳴らして髪をかきあげた。
「まあね? 僕はやる時はやると評判だからね? 思いつく限りの美辞麗句で称えてくれても一向に構わないよ?」
「あぁそう。そいつはどうも」
 うさんくささが満載なので柊は半目でそう返しただけだったが、エリスは律儀にギーシュに向かって頭を下げた。
「えっと……美辞麗句は思いつきませんけど、すごく嬉しかったです。ありがとうございます」
 するとギーシュは僅かに眼を丸めてしばしエリスを見つめると、顔を上げた彼女に向かって満面の笑みを浮かべて恭しく手を差し出した。
「それじゃ見返りという訳ではないけど、僕と一曲踊っていただけませんか、レディ?」
「え、えっ」
 やや芝居がかった動作とはいえ、実際にそうされると女の子としてはまんざらでもないのだろう。
 差し出された手を見てエリスは僅かに頬を赤らめた。
 対応に困って彼女は柊に目線をやったが、柊はむしろ愉しそうな目線で彼女を見ていた。
 なんだか釈然としないものを感じてエリスは小さく口を尖らせたが、当然というべきか柊がそれに気付いた風もない。
 無下に断ることなどできようはずもないエリスはおずおずとギーシュに手を伸ばし――はっとして顔を俯けた。
 同時に柊も「うっ」と声を漏らす。
「……?」
 いつまで経っても反応がないエリスにギーシュが顔をあげると、彼女は申し訳なさそうに視線をさ迷わせていた。
「あ、あの……」
「なんだい? 僕は平民だの貴族だのとささいな事を気にするような狭量な男じゃないよ? 庭園に咲き誇る薔薇も美しいが、野に咲く清楚な花も可憐でまた違った美しさだからね」
 決まったと言わんばかりに得意げな顔で言うギーシュに、エリスはますます気まずそうな表情を浮かべて呟くように語り掛けた。
「そ、その。ギーシュさん」
「んん?」
「後ろ……」
「後ろ?」
 怪訝そうに後ろを振り向くギーシュ。
 そこには、

「……随分とお盛んなことね、ギーシュ」

 腕を組み轟然と仁王立つ、怒髪天(髪のドリルが天を衝くさま)のモンモランシーがいた。

「げえっ! モンモランシーッ!!」
 一瞬に顔を蒼白にして戦慄の叫びを上げるギーシュ。
 対照的にモンモランシーは底冷えした空気を纏ってギーシュを睨みつけている。
 彼女の怒気に当てられているのか、ワインの瓶が怯えるようにカタカタと鳴り響いている。
「ちょ、ちょっと待った! ウェイトウェイト! 落ち着いてくれモンモランシー!」
「下級生に飽き足らず平民……かつ給仕……かつ他人の使い魔にまで手を出すなんて……」
「ち、違うんだ! これには海より深い事情があって……っ!」
 もはや聞く耳を持っていないのか、モンモランシーは静かに……しかし力強く一歩踏みよった。
 ひっと悲鳴を上げてギーシュが後ずさる。
 しかしすぐに柵にぶちあたり、彼は恐怖におののいて声を絞り出した。
「話し合おう! そそそそうだ、僕がヴェルダンデと会った時の話をしてあげようじゃないか! あれはそう――!」
「あんたが使い魔と会ったのは儀式の時でしょうがー!!」
 モンモランシーがどこからともなく取り出した杖を振るった。
 ギーシュの絶叫が夜空に響き渡った。



 ※ ※ ※


324名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 02:53:28 ID:vY+5fJTG
支援
325ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 02:55:15 ID:nTIm6tA6
 

 全身ずぶ濡れになり水死体っぽい感じになったギーシュの首根っこを掴んだモンモランシーがホールに引き上げていくと、入れ替わりにルイズがバルコニーに顔を出した。
 長いピンクブロンドの髪をバレッタで束ね、白いドレスを着こなしている彼女は流石に大貴族の令嬢に相応しい姿といえる。
「……なにしてんの?」
 そんな彼女はギーシュ達を半眼で見送った後、バルコニーに立ち尽くしている柊とエリスを見やった。
 互いに顔を見合わせてから気まずそうに苦笑を浮かべる二人をルイズは訝しげに首を捻り、そして小さく息を漏らす。
「随分と疲れてんな」
「……うんざり。普段ゼロだなんだと言ってたくせに手の平返したように擦り寄ってきて……態度が変わらないだけキュルケの方がまだましね」
 それはそれでいらつくけど、と唇を尖らせるルイズを見てエリスは思わず微笑を零してしまった。
 ルイズもキュルケもお互いにいがみあっているようだが、なんだかんだ言ってそこまで険悪でもないようだ。
「それで、あんた達はこんなトコでなにしてんの?」
「なにしてるも何も、俺にこんなトコで何しろってんだよ」
 改めて尋ねてきたルイズに柊は大いに眉を顰めて溜息を吐き出す。
 そんな彼の態度にルイズは僅かに眉を上げたが、特に何も言わずにじっと上から下まで柊を観察した。
 柊はじっと自分を見つめてくる彼女の視線に居心地の悪さを感じたが、眼を合わせると不意にルイズ表情を曇らせ視線をさ迷わせる。
 訝しげに柊が首を傾げると、彼女は何度か深呼吸した後意を決したように口を開く。
「……だったら、」
「じゃ、じゃあ私と踊りませんかっ!」
「!?」
 横から割って入るように叫んだエリスにルイズは愕然とした表情を浮かべてエリスを見やった。
 しかし当のエリスはルイズの視線に気付く事なく、意気込んだ様子で拳を握り柊に詰め寄った。
「エ、エリス?」
「わ、私こんなドレス着るのも初めてで、こんな舞踏会に参加するのも初めてで……。ひ、柊先輩も初めてですよね? くれはさんだって、こんなのしたことないですよね?」
「ま、まあそりゃ俺は初めてだしくれはも……くれはが何か関係あるのか?」
「え、あっ、関係ないです! ちょっと聞いてみただけです!!」
 首を捻る柊にエリスは慌てて手を振りながら、心の中で小さく快哉をあげた。
 日常生活的には一般市民であるくれはもエリスも、当然ながらドレスを着こんで舞踏会なんて機会は今までもこれからもまずないだろう。
 御伽噺や物語のようにドレスを纏い、憧れの騎士とダンスを踊る。
 他の誰もやることが出来ない、こんなファンタジー世界にいる自分と柊だけができる行為。
 つまり今のこの状況は千載一遇のチャンスだった。
「せ、せっかくですから踊っていきませんか。少しだけでいいですから……」
 努めて平静を装い――もっとも顔は既に紅く染まっていたが――エリスが提案すると、柊は複雑そうな表情を浮かべて頭をかいた。
「でもよ、服もコレだし、ダンスなんて体育祭でフォークダンスぐらいしかやったことねえし……」
「大丈夫です! 舞踏会の前に少しルイズさんに教わりましたけど、私も似たようなものですから! 二人一緒なら失敗しても恥ずかしくないです! 一緒なら! 一緒に……!」
 無意識にやたらと『一緒』を強調したエリスに気圧されるように柊は一歩後ずさり、少しばかり視線を彷徨わせた後諦めたように溜息をついた。
 必死に頼み込んでくるエリスを無碍に出来ようはずもなかった。
 何故なら彼女は――可愛い『後輩』であるからして。
「……足踏んづけても知らねえぞ?」
「……! ぜ、全然大丈夫ですっ!!」
 ぶっきらぼうに言い放つ柊に、しかしエリスは小躍りでも始めんばかりに破顔して答えた。
 柊先輩と私の初体験。超ステキ。
 しかし今宵の彼女に訪れた衝撃はそれだけではなかった。
 見れば柊は非常に難しい顔をしてエリスを見やっているのである。
 はしゃぎすぎたのかと顔を紅くして姿勢をただし、恐る恐る上目遣いで柊を窺う。
 彼は少しの間何事かを考えると、意を決するように頭を振ってから僅かに頬を染め、エリスから顔を背けて彼女に手を差し出したのだ。


326ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 02:57:54 ID:nTIm6tA6
 

「えっ……」
「……流石に口上は勘弁してくれ」
 ぽかんとして差し出された手を見やるエリスに眼を合わせないまま、柊はやや固い口調でそう言った。
 柊は社交界のマナーなど知らないも同然だったが、以前ラース=フェリアにいた時に背を預けて共に闘った騎士から夜話でその手を話を聞かされたことがあった。
 それはその騎士の言うところの『とある貴婦人とのアバンチュール』であったそうなのだが、まさかそれを模倣する羽目になるとは夢にも思わなかった。
 しかしこの状況で参考にできそうな例がそれしかなかったのである。
 なんという屈辱。なんという羞恥プレー。
 やってしまった後で柊は死にたくなった。
 一方でエリスはというと、
「……はぁぅっ……!」
 たっぷりと一分間それを凝視した後、柊の行為の意味を悟ってずざっと後ずさり呻き声を上げた。
 これはいわゆるエスコートという奴なのだろう。
 『私と踊ってくださいませんか、レディ』と柊が言っているような気がした。もちろんエリスの幻聴だが。
 エリスは死にたくなった。
 嬉しすぎて死んでしまいそうだ。
 ハルケギニアに召喚されてよかった、と心の底から思った。
 なんならこのまま自分の物語(セッション)が終了してしまっても一向に構わないぐらいだ。
 彼女はわなわなと身体を震わせ、恐る恐る差し出された柊の手に自分の手を重ね――

「ちょっと待ちなさいよあんた達ぃっ!!」

 ようとしたところで、割って入った怒声に遮られた。
 柊とエリスはそこでようやくルイズの存在を思い出した。
「わ、わたしを無視してなにやってんのよ……!!」
 両の拳を力いっぱい握り締め、身体から怒りのオーラを漂わせたルイズが二人を睨みつけながら唸った。
「あ、ごめんなさい」
 さらりとエリスが言った。
 今まで聞いたことのない、正真正銘心ここにあらずなその声色にルイズの眉が思い切り険しくなる。
 怒りの余りルイズは言葉を失って口をぱくぱくさせ、はっとすると大きく息を吸い込んだ。
 二人が見守る中、ルイズは全身の空気を抜くように息を吐き出す。
 怒りの空気も飲み込んで、ルイズは平静を取り戻した顔で改めて二人を見やった。
「しょ、初心者二人が出て行ったところで失敗して恥をかくのが関の山よ。あんた達はわたしの従僕なんだから、公衆の面前でそんな子とさせる訳にはいかないわ」
「え、でも……!」
 その言葉に柊は思わず安堵の表情を浮かべかけ、どうしても引けないエリスは思わず食って掛かろうとした。
 が、ルイズは彼女を無視して、
「……だから、わたしが先に教えてあげる」
 エリスから掠め取るように柊の手をとった。
「あ?」
「あ゛〜〜〜〜!!!」
 言われた意味がわからず首を傾げた柊の脇で、エリスが絶望的な表情を浮かべて悲鳴を上げた。
「ひ、酷いっ! ずるい…っ!!」
「ずるくない! あんたには始まる前に教えてあげたじゃないの! ……ほら行くわよヒイラギ!」
「は? いや……え?」
 訳のわからないまま柊はルイズに引き摺られるようにしてホールに連れて行かれる。
「そんな……っ、なんでぇっ!?」
 涙目のエリスの悲鳴がバルコニーに響き渡った。


 ※ ※ ※


327ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 03:00:47 ID:nTIm6tA6
 

 彼が自身で語ったとおり、柊のダンスはお世辞にもできたものは言えなかった。
 流れる曲と動きはてんでちぐはぐで、何度もルイズの足を踏みかけた。
 ルイズが舞踏会の主役という事もあって二人は注目の的であり、二人の踊りを眺める周囲からはくすくすと笑い声も漏れ聞こえてくる。
 正直柊は逃げ出したかったが手を取って一緒に踊っているルイズを振り払う訳にも行かなかったし、ルイズ自身はそんな柊のダンスや回りの笑い声を気にする風でもなく柊を先導し踊り続けている。
 日本では武の動きは舞に通ずるとされる――だからという訳ではないだろうが、しばらく踊り続けているとようやくといった感じで柊の動きがルイズについていけるようになってきた。
 その頃合を見計らってか、踊りながらルイズは囁くように柊に話しかけた。
「あのさ」
「あん?」
 なんとかついてはいけるが余裕がないも同然の柊はルイズの声に怪訝そうに返した。
「ありがと」
「……何が?」
「フーケのゴーレムに潰されそうになった時、助けてくれた事」
「なんだ……そんなの気にすんな。お前だって助けてくれたろ? おあいこだよ」
「そっか……そうね」
 言ってルイズは僅かに顔を背けた。
 背に回した手を少しだけ寄せて距離を縮める。
 体が触れ合う程ではなかったが、何となくあの時の温かみが感じられたような気がした。
 少しステップを深めて半歩距離を縮める。
「お、おい……っ」
 焦ったような柊の声が聞こえて、ルイズは薄く笑みを浮かべた。
 そのまま彼女は柊の体に――
「ばっ……!」

 ――足を思い切り踏んづけられた。

「っいっったぁあああ!!!」
 走り抜けた激痛に思わずルイズは悲鳴をあげ、同時に周囲からどっと笑い声が上がった。
「わ、悪ぃ! 大丈夫か!?」
「うくっ……こ、このヘタクソ……!」
「急に動きを変えんなよ! 踏んづけても知らねえって言ったろ!」
 蹲って足を押さえるルイズに柊は屈みこんで彼女を覗き込む。
 至近距離に迫った柊の顔を見てルイズは顔を紅く染め、唇を噛んで睨みつけた。
「〜〜……も、もういい! 終わりよ終わり! エリスと交代!」
 柊を押しのけるようにして立ち上がり、足早にエリスの方へと歩き出す。
 目尻の涙を拭うふりをして、彼女は紅潮した頬を必死に押さえつけた。
(わたし……なにしてた?)
 柊に体を寄せようとしていた事を思い出し、顔を更に紅くする。
 誤魔化すようにして頬を擦っていると、歩く先――待ち受けていたエリスがじっとルイズを見つめていた。
 怒ってはいないようだが、ほんの僅かに眉を潜めてルイズを凝視している。
 ルイズはエリスの視線から逃げるように顔を逸らしながら言った。
「こ、交代よ。これだけ笑われればあんた達がなにしたって平気でしょ! もう最悪だわ!!」
「……」
 しかしエリスはすぐには答えなかった。
 沈黙を保ったままじっとルイズを見つめた後、やや低い声色で静かに尋ねた。
「……昨日、何かありました?」


328名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 03:02:25 ID:vY+5fJTG
しえん
329ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 03:02:56 ID:nTIm6tA6
 

「っ!?」
 途端、飛び上がらんばかりにルイズの身体が大きく跳ねた。
 完全に背を向ける形でルイズがエリスの視線から逃げて、叫ぶ。
「なァッ……何もないわよ!」
「……」
 ちょっとだけ上擦ったルイズの声にエリスの眉間の皺が少しだけ増える。
 エリスの声が聞こえたのだろう、ルイズを追って戻ってきた柊が首を傾げて答えた。
「昨日……って、フーケを捕まえただけだぜ?」
「はい。柊先輩がそう答えるのはわかってます」
「そ、そっすか……」
 更に低くなったエリスの声に柊はなんだか怖くなって黙り込んでしまった。
 エリスは返答を待つようにじっとルイズを見つめ続けた。
 それはもう睨んでいるといっても過言ではないような視線だった。
 ルイズはちらちらと背中越しに様子を窺いながら――ややあって耐えかねたように振り返った。
「な、何もないって言ってるでしょ!? 強いて言うならヒイラギが不甲斐なくてフーケにやられかけただけよ!!」
 エリスの雰囲気に飲み込まれないよう語気を強めてルイズが叫ぶ。
 そうやって声を大にした途端、気恥ずかしさやらうしろめたさが全部怒気になってこみあげてしまった。
「あんただってあの時のわたしの顔見たでしょ!? 凄く痛かったんだから! ゲボクのくせに主人も守れない役立たずのおかげで!!」
「な、なにもそこまで……」
 ルイズの剣幕にあっさりと呑まれたエリスが顔を俯けたが、ルイズの方はもう止まらなかった。
「全部全部、あんたのせいよ!」
 次いでルイズは柊を睨みつけ、ドレスの裾をまくって杖を取り出した。
 柊の顔に驚愕が浮かび、やり取りを見物していた周囲の生徒達がざわっと声を上げた。
「ちょ……なんでこんなトコに杖を持ち込んでんだよ!」
「うるさいうるさいうるさい! メイジなんだから杖持ってて当たり前でしょうがー!」
 怒りに任せてルイズが杖を荒々しく振った。
 柊は思わず身構え、生徒達から悲鳴が上がる。
 華やかな舞踏会が一瞬にして混乱の坩堝と化す――
「……?」
「?」
 身構えた柊は眉を潜めて周囲を見渡した。
 予期していた爆発が起こらなかったのだ。
 見たところどこか別の場所が爆発した……という事もない。
 要するに何も起きなかった。
 ルイズは杖を振るった姿勢のまましばし固まっていた。
 怪訝そうに自分の杖を見やると、改めて杖を振った。
 柊は再び僅かに身構えた。
 生徒達も小さく悲鳴を上げた。
 ……が、今度も何も起こらなかった。
「なんで!?」
 ルイズは思わず叫んでいた。
 別に爆発が起こって欲しい訳ではないが、何も起きないとそれはそれで不可解だった。
「ミ、ミス・ヴァリエール! 晴れの舞台で一体何をやっているのです!?」
 生徒達の輪を割ってコルベールがおっとり刀で姿を現した。
 しかしルイズは愕然としたまま自分の杖を凝視している。
「何? どしたの?」
 騒ぎを聞きつけたのか、扇情的な黒のドレスを身に纏ったキュルケも顔を出し心配そうにルイズを見守るエリスの元へ歩み寄る。
 エリスが軽く事情を説明すると、キュルケは顎に指を添えて黙考すると「もしかして……」と呟いた。
 それを継ぐようにしてコルベールがルイズに声をかけた。
「……何の魔法を唱えたのですか?」
「……"ロック"」
 どの道どんな魔法を使っても爆発しか起きないのだ、ルーンを唱えなければならない系統魔法より口語で使えるコモン・スペルの方が手っ取り速く発動できる。
 それを聞いたコルベールは怪訝そうに眉を寄せて言った。
「それは、魔法がちゃんと発動しただけなのではないですか?」


330ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 03:05:34 ID:nTIm6tA6
 

 ルイズははっとして息を呑んだ。
 確かに施錠の魔法である"ロック"が効果を発揮したところで、開けるべき鍵がなければ何も起こりはしない。
 彼女は慌てて周囲を見渡し、ワインや食事が乗せられているテーブルへと走りよった。
 何事かと集まり見守る生徒達の視線を受けながら、ルイズはテーブルの上に置かれているワイングラスを見据え、杖を振った。
「我が意よ、見えざる手となれ」
 口語の詠唱。コモンスペルの"念力"。
 じっとルイズが凝視しているワイングラスが手を触れる事なく揺れ動き――そして浮かび上がった。
「……!」
「ルッ……」

『ルイズの魔法が成功したァーーー!?』

 怒号にも似た生徒達の叫びが響き渡った。
 信じられないとか初めて見たとか好き勝手に騒ぎまくる生徒達の中、ルイズはそんな喧騒が耳に入っていないかのように呪文を呟き、震える手で杖を振るう。
 その度にワイングラスがルイズの意図通りに飛び回る。
 爆発しない。たまたまの成功ではない。ちゃんと魔法が使えている。
「ミス・ヴァリエール……」
 それを見届けたコルベールが優しく彼女の肩に手を置いた。
 しかしルイズはそれに気付いた風もなく声を上げた。
「だ、だったら……」
 テーブルの上に戻ったワイングラスを見据えて、小さく息を吸い込む。
 期待感を込めてその口からルーンの詠唱が零れる。
「イル・アース・デル……!」
 そして杖を振った。
「ごはっ!?」
 背後でルイズを見守っていた柊が爆発した。
 柊の体が吹っ飛んでぐしゃりと床に崩れ落ち、騒いでいた生徒達が一瞬で静まり返った。
 ルイズは叫んだ。
「なんでぇ!?」
「なんでじゃねえだろ、てめえ……っ!」
 柊は拳を震わせて呻いたが、割って入るようにコルベールが声を上げる。
「ま、まあ良いではありませんか、ミス・ヴァリエール!」
 言いながら彼は驚きとも戸惑いともいえない表情を浮かべているルイズの肩に手を置き、更に続ける。
「系統魔法はともかく、コモンスペルはちゃんと使えたのです。これは大きな一歩ですぞ?
 かの"土くれ"のフーケを捕らえ、そして魔法も使えるようになった。このめでたき日になんとも喜ばしいことではないですか!」
 そう言って彼は今だ呆然としているルイズに笑いかけ、そして拍手を送った。
 彼女の事を何も知らない新入生達が訳がわからないままとりあえずコルベールに倣って拍手を始め、次いで彼女の事をしる生徒達もややあってそれに付和雷同する。
 広がった波はホール全体を包み込む万雷の拍手へと変わった。
 吹っ飛ばされた柊もやや複雑な表情を浮かべながらもとりあえず拍手を送った。
 手を叩くエリスの脇で、ただ一人拍手をしないキュルケが小さく嘆息し、
「何よ、コモンスペルが使えるようになっただけじゃない」
 と"嬉しそう"に呟いた。
 そしてその中心にいるルイズは――そこでようやく、自分の置かれた状況を把握した。
 周囲をせわしなく見回し、集まっている視線と向けられる祝福に顔を僅かに紅く染める。
 ドレスの裾をつまみ、貴族の礼に則って恭しく頭を垂れた。
「あ……ありがとうございます」
 顔を俯けて小さく囁いた声は、更に大きくなった拍手にかき消された。


331ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 03:07:36 ID:nTIm6tA6
 

 ※ ※ ※


 そうしてフリッグの舞踏会は近年まれに見る盛況で幕を閉じた。
 生徒達は三々五々ホールを後にし、自室なりどこぞの広場なりで舞踏会の続きを愉しんでいるだろう。
 主役であったルイズは自室に戻った後、ベッドの上でエリスに髪を梳られながら鍵のついた小箱を弄くっていた。
 時折思い出したかのように杖を手に取ると、"アンロック"を使って鍵を開け、"ロック"を使って鍵をかけ直したりする。
 動作自体はまるで玩具を手に入れた子供のようだったが、彼女の浮かべている表情は子供のように晴れやかではなかった。
 たとえ初歩の初歩であるコモンスペルであっても、念願といってもいい魔法が使えるようになったのは確かに嬉しい。
 ……嬉しくはあったが、ルイズは心の底からそれを喜べなかった。
 何故なら、どうして魔法を使えるようになったのかまったくわからないからだ。
 必死に乗り越えようとしてどうにもならなかった壁を、気付いたら越えてしまっていたような心境。
 『乗り越えた』『成し遂げた』という達成感がまるでないのだ。
 きっかけがあったとするなら先日のフーケの宝物庫襲撃の時だろう。
 その直前に中庭で練習をしていた時にはコモンスペルを使えなかった。
 手当たり次第に試しまくって一度として成功しなかったので間違いない。
 そして疲れ果てて休憩していたらエリスが訪れ、いくらばかりかの雑談をした後―――――――フーケが現れた。
 宝物庫を襲ったフーケを追い、巨大なゴーレムに立ち向かった時にも魔法を使って爆発した。
 が、あの時使ったのは"ファイアーボール"……系統魔法なので参考にならない。
 その後柊が現れ、フーケを倒してからは魔法を使う機会は全くなかった。
 つまり、皆目見当が付かない。
 にも拘らず、こうして魔法だけが使えるようになっている。
「なんで?」
 手の中の小箱を見つめながらルイズは呟いた。
 それに答えたのは、後ろで髪を梳かしているエリスだった。
「理由がわからなくても、使えるようになったんだからよかったじゃないですか」
「でも、なんだか気持ち悪いわ」
「それでも皆お祝いしてくれましたよ」
「それは……」
 言われてルイズは思わず黙り込んでしまう。
 場の空気もあっただろうが、それこそたかがコモンスペルを使えたというだけであそこまで派手に祝われるのはもはや体のいい見世物だったような気がする。
 今になって冷静に思い返せばそう感じてしまうのだが、その時の想いと囁いた言葉は決して偽りではなかった。
 正直に言ってしまえば、あの時の祝福は心地よかった。
「……私は、何もできませんでした」
「……?」
 いつの間にか髪を梳く手が止まっている事に気付いて、ルイズは振り返った。
 エリスは手にしていた櫛を握り、僅かに顔を俯かせていた。
「何言ってるの? ちゃんと衛兵達を連れてきてくれたじゃない。あれだって立派な成果だわ」
「あれはギーシュさんが手伝ってくれたおかげです。私だけじゃ全然信じてもらえなかった」
「……そうだったの?」
「はい。ルイズさんを守ったのも、フーケ……先生の事もなんとかしたのは柊先輩だし、私だけ何もできてない……」
 漏らしながら表情を沈ませていくエリスに、ルイズは少し慌てて彼女に向き直り手振りを加えて口を開いた。
「あ、荒事なんてヒイラギに任せてりゃいいのよ。アイツはそれしか能がないんだし、ゲボクなんだし……!」


332名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 03:08:09 ID:vY+5fJTG
支援
333ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 03:09:57 ID:nTIm6tA6
 

「――ルイズさんの使い魔は私ですよね?」
「そっ……」
 思わず声を詰まらせる。
 返すべき言葉を失ってしまったルイズを見て、エリスは自嘲気味に小さく微笑んで口を開いた。
「ルイズさん。契約した時、私に認められるような主になるって約束してくれましたよね?」
「う、うん……」
「……じゃあ、私はルイズさんに認められてる、ちゃんとした使い魔なんでしょうか」
「それは――」
 答えられなかった。
 自分自身の価値すらちゃんと確立できてはいないというのに、そんな事を言われても答えられる訳がない。
 だが、それはかつて自分が彼女に言ったのと同じ言葉なのだ。
 あの時のエリスも、こんな感じだったのだろうか。
「感覚の共有っていうのもできないし、秘薬とかを探すのもできないし、主人の身を守る事もできない。使い魔として何の役にも立てない――」

 ――私、『ゼロの使い魔』ですね。
 
 小さく囁いたエリスのその声に、ルイズも彼女と同じように顔を俯けた。
 お互い真正面に向き合いながら、しかし視線を落として顔を合わせず二人は黙り込んだ。
 どれほどの沈黙が続いただろうか、ルイズがぽつりと漏らした。
「……そうね。貴女も何もできない『ゼロ』ね」
「……」
 その言葉がエリスの胸に刺さり、彼女は僅かに眉を歪め眼を閉じた。
 ……が、その直後顔をがしりと掴まれ、強引に持ち上げられた。
 目の前に、目尻を上げたルイズの顔が――強い意志を秘めた鳶色の瞳があった。
「だから、なに?」
「え……」
「『ゼロ』だから、何なの? 誰かに『ゼロ』だって言われて、自分が『ゼロ』だって認めて、それで終わり?」
 驚きに見開く翠の瞳を真っ向から見据えて、『ゼロ』のルイズは力強く語る。
「わたしは終わらなかったし、終わってない。今までそうやって生きてきたし、これからもこうして生きていくわ。
 わたしは貴族だもの、絶対に逃げない。だから貴女も、顔を上げなさい。
 逃げる事は許さないわ。
 だって……貴女はわたしが選んだ使い魔だもの」
「ルイズさん……」
 ルイズはエリスの顔から手を離し、次いで彼女の手を握った。
 しっかりと握り締めるルイズに応えるようにエリスもまた彼女の手を握り、包みこむ。
「使い魔は主人に相応しい者が召喚される……『ゼロのメイジ』に『ゼロの使い魔』なんてお似合いね。
 でも、これからよ。
 わたしは貴女に認められるメイジになる。貴女はわたしにふさわしい使い魔になりなさい。
 ――二人で一緒に、そうなりましょう」
 ルイズは優しく笑いながらそう言った。
 だからエリスも微笑を浮かべて、答えた。
「……はい。一緒にがんばりましょう」
 ルイズの胸の奥で、何かが小さく波打ったような気がした。
 それは心臓の鼓動だったのか、あるいは別のナニかなのか。
 自分の裡で波打ったソレは身体の中を緩慢と巡っていく。
 その感覚が一体なんなのか――彼女にはわからなかった。

334ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/05/11(火) 03:11:20 ID:nTIm6tA6
今回は以上です。エリス、ヘブン状態! から急転直下
ちなみに現状どちらに分があるかというと、実はルイズです
というのもエリスには既に仲間フラグが立っているのでどんだけ好感度を稼いでも友情エンドにしかいかないんですよ
例えるならステータス画面で頬を染めて微笑んでいてもお友達と言ってくる某菩薩眼の少女のように。京一、ラーメン食いに行こうぜ!(トラウマ)
・・・まあそもそも前提であるフラグ立て自体が天文学的な訳ですが
ともかく、本人達の預かり知らぬ所で色々進行しながら頑張れ女の子、でフーケ編終わり(厳密にはあと一回)。
え、柊? いや柊はPC3ですから・・・
335名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 03:11:58 ID:vY+5fJTG
乙なり
336名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 10:41:07 ID:AbCFMf3T
乙でした♪
エリスは可愛いっすな、やっぱり。
他のNWキャラの出番はあるのだろうか?
まぁ、魔王の誰かはでそうですが。

>え、柊? いや柊はPC3ですから・・・
PC4は誰でしょうね?
337名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 12:50:15 ID:ZecRs1lW
 乙です。
『超ステキ。』がエリスっぽくないような……。『超』ってエリス使わなさそうだし。
 あとルイズは色々ヒドいと思った。空気読まなすぎだろ……。エリスが可哀想すぎる。
 場の空気を読むのも貴族の必須技能なのにな。

 ところで、ずっと気になっていたのですが、保管庫12話の終盤、開始カギ括弧のみの行があるのですが、これは投稿時もそうでしたが、何かしら文章が書けているのでしょうか?
338名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 14:15:31 ID:TEpBJqHb
>>337
『空気を読んだから』ああいうことしたんだろJK。
339337:2010/05/11(火) 14:27:05 ID:kkfOOH/w
>>338
 ……まあ、その可能性もあるわけだけど。
 そうなると、ルイズはマジで最悪だなー。まあ、キュルケほど経験ないから空気読まないのも仕方ないのかもしれないけど。
(そもそも異性に限らず、同性の友達もいないっぽいしな。となると当然、同性の友達の恋人が〜、とかも経験ないわけで。空気読めなくても仕方ないかもしれんが、そういうのは貴族のマナーに含まれないのかね……)
340名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 16:39:04 ID:7JHoicgJ
それを習ってる最中だと思うが。
341名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 17:15:28 ID:DZLUQz91
魔法が爆発するっていうこと、しかも名家の娘なのにっていう重圧から
そういうメンタル方面がマトモにのびているとは思えないしなぁ
342名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 17:22:18 ID:Qh4xjOXR
そもそもあの親は社会性の部分で著しく不安があるしな。
長女の家に対する無頓着さというか、貴族の子女としての自覚のなさを見るに、
そっち系の教育はあんまりやってないんじゃないかと思う。

良く言えば天才の家系、悪く言えば変人の家系というか、
圧倒的な能力で反論を封じることを前提とした家というか。
343名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 17:26:52 ID:R/WcMPkq
貴族の女子が空気を勉強するのって社交場くらいのはずでは?
魔法学校という環境でルイズにそのへんを学べというのは酷な話
344名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 18:05:28 ID:TEpBJqHb
柊にフラグを立てられたルイズがエリスへの嫉妬でああいう事をやっちまったんじゃねーの?

まぁなんというか恋は戦争だからああいうのもありだよ、とけしかけて見る
345名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 18:14:55 ID:MQoZfHN5
>>334
>京一、ラーメン食いに行こうぜ!
一瞬魔人学園の事かとオモタ
ひーちゃん召喚で好き放題オリキャラ路線展開出来るよ!
346名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 19:05:15 ID:VIr3+DTM
オモタも何も、魔人學園そのものだろw
347名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 19:28:49 ID:zbZhZ9Pk
>>317
そういえば北斗無双では変な声になったけどケンとの戦いでいきなり分身してたからアレ使えばワルドも驚きそうだな
348名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 20:21:06 ID:DVQd9KqL
乙です。
くれはの『大好き』発言。アンゼロットの『チュウ』イベントすらある意味超えたかもしれない、『柊から』のエスコート!
主八界史上初の偉業なるかと思われたその時に、起こったインタラプト!エリス嬢が不憫でならない・・・

そして、ルイズ空気読め、と言いたくなるより先に「やっぱり」と思ってしまうのはどうしてだろうか?
正直ヤツを攻略するのは、1週目を『友情エンド』にして2週目で専用ルートに入っても無理な気がしてきた。きっと『親友エンド』とかなる。
3週目なってもあきらめそうにないエリス嬢他、柊SAGAヒロインsの前途は真っ暗だ。

そろそろ『ゼロ魔』屈指のかませ候補・悪度のターン?
スピード系の彼には期待大です。『烈風』が本気出しても《護法剣》ではじける今の柊の相手にはキミしかいない!



あと、結局エリスはあの後、柊と踊れたんでしょうか?忘れられてたら悲惨すぎる。
まあ、後々に『あの時の約束』イベントという手段もあるんで、頑張ってほしいです。
349名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 21:17:58 ID:HpTDMyPQ
夜闇の人、乙でございます
おマチさん精神的に大丈夫かな?

>>348
> 悪度
柊、切り札のアレをまだ見せてないしね
エンダースさんの二の轍を踏みそうだ
350名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 23:04:09 ID:qxuIc7cu
夜闇の人乙、そしてGJ!
前代未聞の柊「から」エスコートキター! と思いきや、新人フラグさんのツンデレっぷりが彼女の夢をイマジンブレイク。
嗚呼、悲しきかなエリス嬢。日常ポジション故フラグを深めるのが難しき立場にてチャンスとも思えるこの場所ですら邪魔が入るとは。
負けるないけいけ後輩ポジション
主従の制約を乗り越えろ
351名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/11(火) 23:39:13 ID:qBdTkvBz
夜闇の人乙です
戦闘は柊の独壇場なのにあくまでメインはルイズとエリスの物語になってるのが良いですね
しかし相変わらずのエリスの不遇さと健気さに涙が……
エリスがんばれ!!!
352名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 01:17:51 ID:3vMTrWYA
ゼロと電流はどんどんルイズヘイトっぽくなってるな。
ルイズ一人が愚かで周りは立派。
アンアンすら魔改造されてアルビオン行きがルイズの勝手な先走りにされてる。
353名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 01:48:17 ID:7sHFD7IJ
その方が話を書きやすいんだろうな
絶対悪を一人設定しておけば、そいつが周りからボロクソにやられるにしても
逆に改心wするとしても、簡単にカタルシスが得られる展開が作れる
354名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 02:30:41 ID:yPqWcRN6
くそう、こんなにイラッときたルイズは久々だぜ…
一番良いとこで待ってましたとばかりに邪魔しおって
355名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 13:09:30 ID:Ne+fwXol
だったらかっこいいルイズや優しいルイズが出てくる作品を読めばいいだろ。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 13:27:33 ID:wgyXAufV
聖人君子なルイズってある意味ヘイトじゃね?
357名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 14:36:38 ID:/TmO7gcl
ヘイトだのなんだのより おっぱいだ!
ルイズのちっぱいがタバサのちっぱいが俺の心を狂わせる!
358名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 14:37:50 ID:1HdaV3xk
っていうかザーフィの言葉を参考にするか柊……w
エリス的にはそれでよかったんだろうけど。
359名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 14:52:10 ID:Ne+fwXol
>>357
エレオノールのは?
360名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 15:07:55 ID:G+/qDgkd
記すことさえはばかられる
361名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 15:13:34 ID:dncxn+VQ
タバサ・・・・・・そういえば双子の妹もちっぱいなんだろか
362名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 15:17:17 ID:/TmO7gcl
>>359
言わせんなよ、恥ずかしい
363名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 15:18:57 ID:wgyXAufV
そこはカバ夫のAAがほしいところ
364名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 16:02:52 ID:Ne+fwXol
>>361
でかかったら正体即バレるだろ
365名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 16:29:27 ID:FLpsLTDH
ルイズが巨乳ハンター召喚すれば問題解決だよ!
366名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 16:32:47 ID:yzq7Zt7q
女は胸より尻だ。尻のでかい女はいいぞ、安産だ
367名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 17:46:46 ID:mzTwryQu
お前ら、聖帝様とか上から、140,90,102の超ナイスバディだぞ。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 18:03:20 ID:dncxn+VQ
南斗水鳥拳のレイなんか身長185cm、体重100kg、バスト132cm、ウエスト92cm、ヒップ106cm、首周り45cm(ウィキペディア)でありながら
マントを上半身にまとうだけで「たまらねえいいオンナだ」とか言われる
369名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 18:25:46 ID:/H5VNOkw
レイはジョセフに謝るべきだ。
370名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 20:04:14 ID:XwR8BSKe
ボロに扮してたシャチさんみたいに膝立ちだったんだよ!
あと、あいつらなら秘孔でちょっとぐらいなら体格程度は変えそうだ……南斗でも簡単なものはあるそうだし。
371名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 20:55:59 ID:97KMG493
>>368
世紀末舐めんな
ババァが巨大なわけない事に気付けるのは限られた人だけだ
372名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 21:05:53 ID:aXRBmp5P
>>358
大丈夫、本家リプレイでも知らない内に着々と同じ道(台詞)を進んでいるから
373名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/12(水) 23:46:54 ID:ab+r4qrl
>>365
巨乳ハンターは小ネタの方で既にある。
374名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 03:22:11 ID:eCzsNrXT
そういえば、聖帝の人もう2ヶ月も来てねえな。
忙しいんだろうか?
375名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 04:13:57 ID:C0UhU+o3
きっと十字陵の建設に忙しいんだよ……。
376名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 07:45:41 ID:a6uUCZzt
>371
巨大な男や馬が普通に存在できる世界なのだから「でかいババアがいてもおかしくない」と思われている可能性も?
377名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 14:41:45 ID:Yf7hTnQ1
>>368
それは南斗水鳥拳の特徴が原因でもあるな
南斗水鳥拳の美しい動きは、男性を魅了する女性の動きが取り入れられているから
陽拳の男拳、陰拳の女拳の二つが合わさって天地合一の南斗水鳥拳になる
だから女性らしさの雰囲気を出すことなんて造作もないんだろう

>>374
一番楽しみにしてるのに・・・
378名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 17:38:46 ID:c9IY6tU/
ユーゼス…
379シュウ:2010/05/13(木) 18:07:28 ID:m7r8dzTp
心配するでない……この投下を、お前たちの命と思えば重くはない……
例え、さるさんにされようとも、この私の魂で40分から投下しきってみせよう……

*今回から大変世紀末らしくなって参りました。
380名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:13:32 ID:o8pWehuC
ヒャッハー!投下だー!
381名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:15:07 ID:m7r8dzTp
さるさん対策に0時跨いだ方がいいかと思って40分からの予約にしたけど、開きすぎてるから20分からに変更。
南斗支援拳と南斗代理拳の使い手の協力を是非。
382名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:19:20 ID:m7r8dzTp
――どうしてこうなった……。

遠いものを見る目でマチルダが天井を見上げると溜息を吐いた。

圧倒的な力で叩き伏せられた後、経絡秘孔という物を突かれ死んだように見せかけられた事は分かる。
その後、有無を言わさずに『新一』とかいうのを突かれて、身の上から何まで、今まで隠し通してきた事を洗いざらい吐かされたのもまだいい。
アルビオンを獲るため、内偵とそれなりに使える手下を集めろという無茶な注文は何とかこなした。
だからと言って、この前まで盗賊やってたような女が何の因果か王女の変装の手伝いをするハメになるなんて事は、一片も想像だにしていなかった。

聖帝様は、それなりの変装はさせていると言っていたが、フード被せるぐらいの事しかしておらず、見る者が見れば一発でバレるようなお粗末な変装だった。
聖帝号の御者をやっていた隊員の惨状を見るに、多分バレても口封じすればいいぐらいにしか思っていないんだろうなぁ、と検討を付けると頭が痛くなってくる。

下手をすれば、トリステインまで相手にしなければならない事になるので、少しは省みて欲しい。
もちろん、退かないし媚びないし省みないのが聖帝の聖帝たる所以なので、その思いが届く事は決してないのだが。

「これでよろしいですか?」
「……あ〜、着替え終わった?」
だるそうな声で首を九十度曲げると、その先にはさっき調達してきたどこにでもある服を着たアンリエッタが立っていた。
自分が騒ぎの渦中になっている事が分かっていないのか、それとも分かっている上で平然としているのか分からないが、どっちにしろ大したタマだとは思う。
恋は盲目とはよく言ったものだと、心底どうでもいい事を頭に浮かべながら指でこっち来て座れと促す。
アンリエッタが椅子に座ると、どうしようかと少し考え、とりあえず簡単にできるポニーテールの形でまとめあげた。

後はと、懐から化粧道具を取り出すと、アンリエッタに軽く化粧を施す。
化粧を施している最中、胸元に目が行くと思わず唸ってしまった。

清楚な顔して、随分な暴れん坊である。
キュルケには劣るものの、あれと違って何も知らない箱入りの正真正銘お姫様でこれなのだから、世の格差という物を感じずにはいられない。
とはいえ、彼女の場合はこれ以上の物を有する妹みたいなハーフエルフをよく知っているだけに、受けた衝撃はルイズあたりよりは遥かに低い。
ちなみに、そのハーフエルフのティファニアですら二番手で、マチルダが見た中で一番大きいのは聖帝様である。(大胸筋的な意味で)
何食って、どう鍛えたらああなるんだろうかと、不思議に思ったが考えるだけ無駄なので止めた。

まぁ、無いよりはある方が使い道がある。
経験上、胸元を少し開いておくだけで、世の男の大半はそっちの方に目が釘付けになって、こっちが多少表情を変えたところであっさり見逃してしまう。
最近では、オスマンやコルベールとかがいい例だろうか。
ふと、視線を上げると、アンリエッタが目を瞑りながら微笑んでるような顔をしているのを見て、自然に額に手が行った。

「この状況を楽しんでるとは、いい度胸してるよ。……ったく」
「そう見えますか?……ふふ、確かにそうかもしれませんね。こんな脱走みたいな事をするなんて子供の頃以来ですもの」
今頃、学院や王宮は王女がかどわかされたってんで大騒ぎだろうに、当の本人はまるで自分の仕掛けたいたずらを眺める子供のような顔をしている。
世間知らずでどこかズレているという点では、ティファニアといい勝負だと思い、また、この問題に付いても考えるのを止めた。
自分一人が悩んだところでどうにかなるわけでもなし、問題になったらなったで聖帝様がどうにかしてくれるだろうという結論に達したのだ。

とりあえず仕上げを済ますと、中々の出来に思わず自画自賛をしてしまった。
自分で化粧をする機会はあっても、人にするという事は今まで無かったために、なんだか絵を描ききった画家のような気分である。
今度戻ったら化粧っ気の全く無いテファにも色々やってみようと、悪戯心と創作意欲がもりもり沸いて出てきた。
惜しむべきは披露する相手が子供ぐらいしか居ないという事だが、それでも先の楽しみが出来た事には違いない。
そんな様子とは対照的に、急にアンリエッタの顔が沈んだ物になった。
383帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:21:37 ID:m7r8dzTp
「……やはり、アルビオンの王家は滅びるしかないのでしょうか」
「当然さ。あんなやつら、出来ることならわたし自身の手で滅ぼしてやりたいぐらいよ」
アルビオンの王家と聞いて、マチルダの顔からはさっきまでの笑みが消えた。
まるで仇でも見るかのように吐き捨てた様に、さすがのアンリエッタも小首を傾げた。

「……アルビオンの王家に何か恨みがあるのですか?」
若干、言葉尻に鋭さを混ぜた風に問われて、マチルダも感情に任せて言わなくてもいい事を言い過ぎた事に気付いた。
このお姫様は、ウェールズ皇太子を助ける為にアルビオンへ向かう。
ここまでやるのだから、後は何だってやるだろう。
こういう、後先考えないで先だけ見て突っ走るタイプが一番危ないし怖いのだ。
もし、ここで本気で杖を抜いてきたら、黙ってやられるわけにはいかない以上応戦するしかない。
かといって、アンリエッタの同行をサウザーが認めている以上、サウザーにも何らかの思惑があるはずで
それをブチ壊したとなれば、もれなく『ひでぶ!』『あべし!』『たわば!』という素敵な断末魔のうちのどれかを選ぶ事になる。
経絡秘孔を突けば人を内側から破壊し、殺す事もできるとも聞いており、今まで散々な事をされただけに嘘とも思えず、指先一つで軽く突かれただけで
『貴様……、もう死んでるな』とか言われたなら、まず間違いなく正気なんて保てない。……正気を保つ時間があればの話だが。
そんな死に方だけは御免被ると悩んだ末に、結局目的地に着けば全部分かることだと思い、話すことに決めた。

「……マチルダ・オブ・サウスゴータ」
「それでは……」
捨てたはずの貴族の名を、秘孔の効果ではなく、今度は自分の意志で思い出すかのように呟く。
それだけで、アンリエッタも大方の事は理解できた。
サウスゴータと言えば、アルビオン有数の観光名所でもあり都市の名前である。
そのシティ・オブ・サウスゴータの名を持つという事は、元はシティ・オブ・サウスゴータ領を有していた貴族だという事は容易に伺える。
恨んでいるという事は、王家に家名を理不尽に奪われた、例え王家に正当な理由があったとしても、少なくとも奪われた方はそう思っているに違いない。

「うちも含めてだけど、あの辺りはジェームス一世の弟のモード大公が治めてたのさ。でも大公が投獄されてね」
モード大公が何らかの事件が原因で投獄された事なら、政治に疎いアンリエッタでもよく知っている。
プリンス・オブ・モード。
アルビオンの財務監督官で、ジェームス一世の弟。
その弟が投獄されたとなれば、いかに緘口令を敷こうが噂はすぐに広がってしまう。
だが、奇妙な事に肝心の投獄された原因についてだけははっきりしていない。
となれば、考えられるのは、アルビオン王家がモード大公を邪魔者とし一方的に排除したか、投獄の原因が余程不名誉な物だったかのどちらか。
事件を思い出しながら、拙いなりに推測すると、その心中を見透かしたかのようにマチルダが続けた。

「色々言われてるけどね。実際はモード大公が一人のエルフを妾にしたのが原因さ。
 それを知った王家は、そのエルフと娘を追放しろと言ってきたけど大公は決して聞き入れなかった。大公が投獄された後も、サウスゴータ家はその母と娘をかくまってたけど、ごらんの有様だよ」
関係者以外は知ることの出来なかった裏事情が暴露された事に、さすがのアンリエッタもこれには驚いた。
大公投獄の原因が一人の妾による物だけなら、実にくだらない内容になるが、その相手がエルフなら話は変わってくる。
エルフと言えば、その地の精霊と契約を結び強力な先住魔法を行使し、熟練のメイジが十人揃って一人のエルフとやっと互角と言われているハルケギニアで最大の敵と呼ばれている種族。
過去幾度と無く聖戦が繰り返され、多大の犠牲を払い、今でこそ砂漠地帯に押し込んでいるものの、未だその脅威は健在である。
その不倶戴天の敵とも呼べるエルフを王家の者が妾にし、あまつさえ子さえもうけていたとなれば普通の貴族なら、その処置も当然だと思うだろう。

しかし、今のアンリエッタに関して言えば普通とは少しばかり異なる。
人間とエルフが結ばれる事が赦されない事なら、王族同士という身分の自分とウェールズも結ばれる事は決して赦されない。
そんな風に考えてしまうのも無理からぬ事で、アンリエッタ個人の感情としてはモード大公の側に傾いていると言ってもよかった。
384帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:22:50 ID:m7r8dzTp
「プリンス・オブ・モードは、自らの地位を捨ててまで、その人を守ろうと……、種族は違ってもお互いを愛していらしたのですね」
羨望を含んだ目で、どこか遠くを見つめながらアンリエッタが言う。
アンリエッタもエルフと聞いて、他の例に漏れず嫌悪感や恐怖を表すかと思っていたマチルダもこれには面食らった。
「……意外ね。エルフと聞いたら、普通のやつは除者にするか、怖がるかのどっちかだと思ってたんだけど」
「今までのわたくしだったら、確かにそうだったかもしれません。ですが……」
「ですが?」
「あの方の姿を見ていると、心が通じ合えれば種族の違いなんて取るに足らない事と思えてしまいますから」
あの方と言われてマチルダも、ああ、と納得した。
巨大なゴーレムをただの飛び蹴り一発でブチ壊し、固定化のかかった壁を素手で打ち抜き
スクウェアが相手でも、本気を見せないまま軽く倒すような漢の姿を目の当たりにすれば、確かに人間とエルフの違いなんて些細な物だと感じてしまうだろう。

というか実際のところ、マチルダにとっても本当に同じ人間という種族なのか甚だ疑問だった。
力はオーク鬼を遥かに上回り、スピードは吸血鬼でも遠く及ばず、空中戦闘力は翼人を凌ぐ。
ロバ・アル・カリイエの人間はみんなそうなのか、それとも南斗聖拳とやらを習得するとああなるのか。
どっちかは分からないが、どちらにしろあんなのがごろごろ居る修羅の国には一歩でも立ち入りたくない。
……というのが、現在の東方への感想である。

とにかく、アンリエッタがエルフという存在に対して偏見を持っていない事で、幾分か気が楽になったのか、軽い感じで続ける。
「ま……、わたしがどうこう出来る問題じゃないし、それを決めるのは聖帝様。下手に口出ししたらどうなるかなんて…………あ、ああ……もう!考えたくもないー!」
言葉途中で生きたまま肉片にされる様でも想像したのか、頭を抱えて振り払うかのように頭を振るう。
アルビオンを獲る以上、サウザーはアルビオン王家もレコン・キスタも纏めて叩き潰すつもりだ。
目の前でアルビオン王家を滅ぼしてくれるというのなら、マチルダも幾分か溜飲が下がる。
だが、アルビオンの王族貴族も皆殺しにするかと言えばそうでもない。

世紀末とはいえ、学が無ければ帝王などやってはいられない。
あくまで世紀末では力と恐怖による支配が最も効率的だっただけで、こういう封建的な秩序が成り立っている場では、また別のやり方が必要になってくる。
ユダのように知略に固執するわけではないが、ラオウのように全て真正面から突っ込んで行く様な無駄な事はしない。
逆らうならともかく、特に敵対もしていないウェールズが生き延びようが死のうがどうでもよく
生かす方に利用価値があるなら積極的に利用するつもりなので、刃向かう=死、という方程式が成り立っている以上、そこに異論を挟む余地なんて一切無かった。
人前で取り乱した事にほんの少し顔を赤らめさせ、落ち着いたところで一度咳払いをすると、中空を見上げるようにしてマチルダが言った。

「そ、それに、上手くやればサウスゴータ領がまた戻ってくる。そうすれば、あの子達の暮らしも、今よりずっと楽になる。だから、今は滅んでいく奴らの事なんかに構ってる暇は無いのさ」
サウザーがアルビオンを平定し、その時まで生き延びていられれば、サウスゴータ地区はマチルダに任せる事が決まっている。
また、レコン・キスタがエルフを敵とし、聖地奪還を目標としているのなら、ハーフエルフというティファニアの存在がレコン・キスタ側にバレた場合、聖戦の為の生贄なんかにされてしまうかもしれない。
危険は大きいが得る物も大きい事と、将来的な敵の存在がマチルダがサウザーに従っている理由だった。
まぁ比重としては、裏切りや歯向かった暁に行われる情け容赦の無い制裁という名の暴力による恐怖の方が大きいのだが、その事はなるべく考えたくないし、口に出せば考えてしまうので絶対に口にしない。
385帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:24:04 ID:m7r8dzTp
「随分と、あの方を信頼しているのですね」
お姫様らしく、その辺りの事情を読めないアンリエッタが、一片の曇りの無い笑みを浮かべて言うと、対照的にマチルダの顔と心には一気に影がかかった。
「いや、そう言われると。ちょっと……ねぇ……?」
信頼しているというよりは、やる事やらないと容赦無く切り捨てられそうだからかなぁ……?と、考え方が段々悪い方悪い方へと向かっていく。
今更ながら、使えないと見なされれば、どこぞの副官のように『お、俺を利用したのか〜〜!?』という具合に、囮にでもされて使い潰されそうな気がしてきたのだ。

「はぁ……、それでは向かいましょうか」
暗い未来が見えてきたので溜息を一つ増やすと、口調を変える。
すると、下の方から食器が割れる音やら、何かが粉砕される破壊音が盛大に聞こえてきた。

「この料理は口に合わぬ。下げい!」
次いで聞こえてきた命令に、料理はおろかテーブルごと強制的に下げさせたという光景が頭に浮かんだ。
二階の部屋の中でも、破壊音に混じって、店主や料理人の悲鳴が聞こえてくるあたり、相当派手にやらかしたと見える。
また溜息のカウントが一つ増え、二度目の修理の為に、今日消耗し回復もしてない精神力をまた使わなきゃならんのかと気が重くなったが
行かないわけにもいかないので、ゆっくりとドアノブに手をかけ扉を開いた。

第拾壱話『力こそ正義』

経過する事、十数時間。

「ふふ……あれか」
数が多少減ったとはいえ、かなりの人数の傭兵を一隻で収容しきれるだけの商船などそうあるはずもなく
補給の関係から数隻でアルビオンへと渡る事になったが、急な事とアルビオンがまだ接近しきっておらず、それだけに桟橋は惨状と呼ぶに相応しい様相になってしまっていた。

可哀想なのは船の持ち主と船員で、特に船長達は今頃揃って船室で頭を抱え込んでいる頃だろうか。
なにせ、真夜中に叩き起こされた上に、いきなり船を出せと言われた。
当然、そんな要求が呑めるはずもなく、サウザーは実に世紀末的にこの問題を解決してみせたのだが、一部始終を抜粋するとこんな具合である。

「ほう、この俺に逆らうというのか。ふっふふふ、その減らず口、どこまで叩けるかな?……ひと〜つ」
と、威圧感たっぷりにサウザーが数を数えると同時に右腕を横薙ぎに振るう。
すると、恐ろしいことに、一本のマストの根元に切れ目が奔ると、さほど大きな音も立てずに船からの分離を果たし、木の枝やらロープを巻き込みながら遥か下へと落ちていった。
支えのロープが何本も持っていかれた事で、船が勢いよく揺れると船室で眠っていた水夫達も何事かと文句を垂れながら甲板に姿を現し始める。
あっけにとられている船長を無視し、サウザーが甲板を歩き、中央マストの根元まで歩を進めると、今度は十字に薙ぐ体勢に入った。

「ま、待ってくれ!この船はわしの宝なんだ!」
まさかの破壊活動により、一瞬正気を失っていた船長がようやく我に返り、必死の思いで懇願しても聖帝様は逆らった物に対する情けなど持ち合わせていない。
「なにぃ〜?聞こえんなぁ!その程度で、この俺の心が動くとでも思っているのか!……ふた〜つ!」
無常にも根元からX印に切り裂かれた中央マストが崩壊し、サウザーが最後のマストを切り裂こうとすると
あまりの惨状に膝を付いた船長が涙を流しながら、悲鳴のような魂の叫びをあげた。
「ふ、船を出します……!何処へなりとお連れいたします!だから、これ以上は船を壊さないでくれぇ〜〜!」
「くははははははは!最初からそうしておれば良かったものを!ふっははははは!」

このスクラップ一歩手前にされた船が『ユリア』という名を付けられていたというのは、特に関係ない話。

哀れな犠牲者はどんどん増え、通常の航海より多く風石と物資を積んだ船が二隻調達できた。
その分、破壊された船と係留地の数は五倍に及び、当分は、ラ・ロシェールの港から船が出る事は無いだろう。

その先頭を進む船の甲板には、聖帝様が物凄く偉そうな姿勢でアルビオンを眺めているところである。
386名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:25:37 ID:c9IY6tU/
支援
387帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:25:40 ID:m7r8dzTp
「聖帝様。ニューカッスルは敵軍に包囲されているはずですが、どう進路を取られますか?」
すっかり、副官のような立場に納まっているマチルダが、確認としてサウザーに問いかける。
どの船も旧式の砲が三門ばかりあるぐらいで、砲撃戦を行うようには造られていない。
アルビオン自体がかなりの高度でそれに合わせて航行している上に、下は海ともなれば全滅は必至である。

「ふむ……、貴様はアルビオンの出だったな。内偵もしていた事だ、先に貴様の考えを聞こう」
人間を辞めている域に達しているサウザーとて、全知全能ではない。
この高度から船諸共落とされてしまえば助かる術は皆無に等しい。
少なくとも、下に陸が見えるようになるまでは砲撃戦のような事は避けねばならないのだ。

「そうですね……、ある程度ニューカッスルに近いスカボローに入港するというのが順当というところですが……」
「……保留付きか。構わぬ、言ってみよ」
「その場合、ニューカッスルにたどり着く為には、五万の包囲を突破しなければならないというのが一つ」
頬杖を付いたまま僅かに鼻を鳴らす。
五万という数は世紀末での聖帝軍と拳王軍の総兵力を合わせた数よりも多い。
また、地理的にもニューカッスル城は岬の先という、包囲しやすい地にあたるために、陣の厚みは相当な物と見ていいだろう。

「その場合、聖帝様はともかく、兵が無事に着いてこられるとは思えません。
 従って兵はスカボローに残しておく事になりますが……、そうすると、貴族派に帰順する兵が後を絶たないでしょう。結局はどちらも兵を失う事になります」
突破に成功しても、せっかく集めた兵が全滅しては意味が無いし、また聖帝という恐怖の対象が離れれば、傭兵という利だけで動く連中が寝返る事は目に見えている。

傭兵が雇われた理由は、あくまで『アルビオンに向かう貴族をラ・ロシェールで足止めする』というもので
それがいつの間にか『アルビオンに乗り込む』に変わっているのだから遅かれ早かれ、逃亡者が出る事は予測済みでそれとなく監視はさせていた。
案の定というか、出航の前に逃亡を企てた者が十数人ばかり出たので、マチルダに捕らえさせ、見せしめも兼ねて自らの手で処刑した。

この俺に一傷でも付ける事が出来たなら許してやろうと告げられ、愚かにもサウザーに向かっていき、鎧ごと寸断された者が六名。
人間があっという間にバラバラにされる様を目の辺りにし、踵を返して逃げ出し後ろから心臓を貫かれた者が五名。
五体倒地し、平伏し命乞いをするも、それすらも虚しく頭を踏み潰された者が三名と、種籾勢なら気絶どころでは済まないような惨劇を見せ付けてやった。
しかも、僅か十秒足らずの出来事である。
気を利かせて、マチルダがアンリエッタを別の場所に連れて行かなければ、一生物のトラウマが付いて回る事になっただろう。

価値観がモヒカンに近い傭兵という連中を使う以上、利益を与えてる以外は恐怖で縛るしか無いのだが、スカボロールートはそれが役に立たない場合である。
となれば、他の道を選ぶ事になる。

「仮に、空からニューカッスルに近付いたとしても、あの付近の制空権は完全に貴族派が抑えています。
  特に、旗艦である『レキシントン』は二百メイルを超える巨大戦艦で砲数百八門。周りを哨戒している竜騎兵の数は不明ですが、これに見付からずの接近は難しいかと」
聞けば、レキシントンは本来アルビオン王立空軍、本国艦隊旗艦で元の名を『ロイヤル・ソヴリン』というらしい。
報告を聞いている途中で、サウザーの目が鋭く光った事にはマチルダも気付いた。
それどころか、これ見よがしに含み笑いまでしているのだから、何か突拍子もない事でも思いついたんだろうという事は馬鹿でも分かる。

「聖帝様には、何か考えがおありのようですが、よろしければ教えていただけませんか?」
「なに。その船が一度所有者を変えたのなら、二度目があっても誰も文句など言うまい」
簡単に言うと、サウザーはレキシントンを気に入ったのだ。
特に、何の因果か、南斗聖拳百八派と同じだけの数の砲門を揃えているというところがいい。
戦艦としても、他に並ぶ物が無いと言われ、南斗百八派を統べる帝王が座するには相応しい。
388帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:27:15 ID:m7r8dzTp
「……レキシントンを制するおつもりですか?お言葉ですが、この船では射程に入る前に……いや、なるほど……、それならば可能かと」
「くははは。そういう事だ」
なにも、砲で戦う必要は無い。
そもそも、商船なのだから軍艦と砲撃して勝てるとはサウザーも思っていないし、敵だって思ってはいない。
地上なら、輸送車を壊して積荷だけ奪えばいいが、下が無い以上積荷を奪うには拿捕するしかない。
無力な商船をいきなり撃沈するような真似をするとも思えず、拿捕するために近付いてくればこちらのもの。
なにせ、乗り込むのはたった一人でいいのだから、偽装もやりやすいというものだ。
少なくとも、このまま何の策も無しに突っ込むよりは遥かに勝算は高い。
そう覚悟を決めるとマチルダが他の船にも伝わるように伝令を出した。


そのレキシントンでは、ニューカッスル城を見据えた多数の砲門が斉射の号令を待っている所だった。

「撃て!」
号令と同時に、一斉に炸裂した火薬が空気を震わし辺りを包む。
鉛の弾が無数に飛び立ち、ニューカッスル城の城壁にぶち当たり一部を崩した。

側舷の一斉射。
優に五十発以上の砲弾がニューカッスルに向け放たれたのだが、命中弾は多くは無い。
城からの反撃で被害を出す事を恐れた艦長が、射程一杯のところからの砲撃を徹底させているためである。
それでも、十分な威嚇と示威行動にはなっているのだから、彼我の戦力差の大きさが見てとれるだろうか。

「砲撃中止。半舷休息」
とりあえず、一定の戦果は挙がったのか、兵の半数に休息を取らせ自らも指令所に戻ると、まだ手にしてもいない栄光に酔いしれる為にワインを一本空けた。
「よろしいのですか?まだ戦闘中ですが」
「ははは、何を言っているのかね。もはや敵に反撃するだけの力は残されてはいない。明日中には決着が付く、戦争など終わったも同然だよ」
酒ではなく、自分の言葉に酔っているような節がある言葉を聞いて、この船の砲術長が適当に相槌を打つと小さく溜息を吐いた。
革命だの、共和制だの大層な事を並べているが、結局のところ、遠いところにいる王様と貴族の首が別の貴族にとって代わるだけで、下級の兵にはどちらに転ぼうが同じ事。
空軍は船や大砲を扱うという専門的な知識が多く要求されるため、陸軍に比べて平民でも出世する事は容易だが、それでも上限はある。
まだ勝ってもいないのに、勝ったような気になっている無能が艦長になっているのだから、叩き上げの連中は皆うんざりしているところだ。

「それにしても、よくここまで耐えたものです。空を抑えられ、補給を絶たれてもまだ抵抗を諦めようとはしない。敵ながら賞賛に値します」
本心は、さっさと降伏してくれ、と思っているのだが、そんな事を大っぴらに言うわけにもいかない。
適当に当たり障りの無い事を言うと、艦長のサー・ジョンストンが笑いながら言った。
「ああ、ニューカッスル城の地下には空洞が開いていて、そこから船が出る事が出来るそうだよ」
「なっ……!?」
大陸の下は日が刺さず、雲に包まれているため視界が利かない事は、空軍の兵なら誰でも知っている事だ。
だが、ニューカッスル城の下にそんな抜け穴があるとは聞いてはいなかった。
「そうか……それでか」
敵をニューカッスルに押し込んでから、こちらの軍事物資を運んだ船が何隻か空賊に襲われ、物資を奪われたというのは報告で見たが、これで合点がいった。
中型の船なら、熟練の航海士が居れば潜り抜けることが出来る。
今、あの城に立てこもっているのは、アルビオン最精鋭。
隠密裏に出撃し、補給艦を襲うなんて事は造作も無い事だろう。

というより、知っていて何の対処も取らなかった上層部に対して、一層の不信感が増した。
水や食料はともかく、アルビオンでは硫黄などの軍事物資は他国からの輸入に頼らざるを得ない。
どれだけの物資が向こうに流れたのか分からないが、せめて中間地点に哨戒の船を配備するなりの対策はあったはずである。
それに、ここまで追い詰めておきながら、逃げられでもしたら一体どうするのかと、非難めいた考えが浮かんだが、それを察したのかジョンストンが言った。
389帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:29:55 ID:m7r8dzTp
「ああ、君が心配してる事は分かっているよ。君には分からないだろうが、彼らが逃げ出すことは決してないのだよ。勝てないなら、せめて意地を見せて死ぬ。それが王族の勤めだと思っているのだからね」
「はぁ、そういう物ですか」
それでも、万が一を想定するのが軍事というものだが、一介の士官が何か言ったところでどうにかなる話でもない。
一つ分かったのは、平民からしてみれば、要は、どっちも馬鹿だという事である。
聖地奪還だのハルケギニア統一だの、そんな夢物語を現実に持ち込み実践する馬鹿と、名誉と意地のために玉砕する馬鹿との戦い。
まぁ、これ以上戦火を拡大させるような事をしないだけ、王党派の方がマシという結論に到っているのだが、到っただけでどうこうする気は全く無い。
これが終わったら軍辞めるかぁ、なんて事を漠然と考え始めると、一人の士官が部屋へ入ってきた。

「報告します。哨戒に出ていた竜騎士がニューカッスルに向かう商船を二隻発見しました」
入ってきたのはジョンストンと一緒にこの船に乗り込み、副長という任に就いたメイジで、平民で砲術長という立場にある自分を随分と嫌っている男だ。
艦長と副長が空軍の事など何も知らないため、実際の指揮は砲術長が取っているという奇妙な事になっているのも原因の一つだろう。
そんな嫌味な視線を意に介する事もなく、率直に意見を述べた。
「この時期に妙ではありませんか?トリステインやゲルマニアからの商船が敗北寸前の王党派に物資を売り込むには危険が高いと思いますが」
自分の意見など無視されるだろう事は分かっているが、建前として言わなければならない。
「大方、物資を高く売りつけようというゲルマニアの欲深い商人だろう。金で貴族の地位を買うやつ等らしいじゃあないか」
罠という懸念を軽く笑い飛ばすと、副長もそれに同意して笑い出した。
どうやら、拿捕をして物資を奪うという結論に到ったらしい。

「それでは、失礼いたします」
もう、何を言っても無駄だと判断すると、どっと疲れがあふれ出してきた。
砲戦を行う事は無いだろうし、やる事が無いなら酒飲んで寝ようと引っ込む事にしたのだった。



「信号を確認。『コチラレコン・キスタ旗艦レキシントン。停船セヨ。シカラザレバ攻撃スル。繰リ返ス停船セヨ』……です」
望遠鏡で手旗信号を読み取った水夫がそう声をあげる。
予定どおり拿捕をにしきたらしいが、船長や水夫などは気が気ではない。
なにせ、ずらりと並んだ黒い砲門がこちらに向けられているのだからその威圧感たるや相応の物である。
もっとも、それ以上に禍々しい威圧感がこの船から放たれているのだから、どうしようもない。

「と、取り舵一杯!商船らしく逃げるふりだ!」
でないと、殺される!という悲鳴は必死に飲み込み船長が指示を出すと、船が進路を変えた。
指示に従わないのなら、次にくるのは威嚇の一撃。
それでも、なら撃沈というのが大方の戦法である。
予定通りというか、レキシントンの砲がいくつか光ると、空気が震え、遅れて砲弾が船の少し横を掠めた。
威嚇とはいえ、マトモに当たればこんな船なぞ木っ端微塵なのだから、冷や汗も出るってものだろう。

「裏帆を打て!停戦だ。もっともらしく慌ててみせろよ!」
それでも一端の空の男だけあって、やるべき仕事やきちんとこなしてみせる。
慣性を殺すかのように、絶妙な位置で停船したのは賞賛に値すべき事だった。

レキシントンの舷側に十数人程の銃や弓を構えた兵達が並び、狙いを定めている。
自分の仕事はここまでだと、諦めたかのような顔で船長がサウザーを見た。

「へ?ちょっと、旦那は……」
さっきまで横に居たはずのサウザーの姿が消えている事に妙な声を出すと、首を振るかのように辺りを見渡す。
サウザーではなく、マチルダが居たので、話が違うと言わんばかりに食ってかかろうとしたが、呆れた様に指をレキシントンの方に向けられ
その先をよく見てみると、レキシントンの甲板の上にサウザーの姿があったのだから、もうかける言葉も無いという具合だった。
390名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:31:29 ID:6voA81Jb
支援
391帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2010/05/13(木) 18:33:02 ID:m7r8dzTp
「ほう。悪くない船だな」
マストを叩きながら、誰に言うわけでもない感想を漏らす。
当代一の戦艦という評は紛れも無く、どことなく風格という物が漂っているのだから、サウザーが気に入るのも無理は無い。

「一体、どこから!?」
当然現れた来訪者に度肝を抜かれたのか、舷側で銃を構えていた兵達が慌ててサウザーを取り囲んだ。

十人ばかりが取り囲むも、いずれも剣、短槍など船上ので白兵戦を想定された武器を持つ兵ばかり。
大方、素手で乗り込み、杖も持たぬ無力な相手だと思い込んでいるのだろうが、それが大きな間違いだと思い知らされるのは、そう遠い事ではない。
もっとも、メイジが混じっていたとしても、結果はかわりないだろうが。

「控えぬか、下郎」
物凄く高圧的な態度と物言いに、周りを取り囲む兵も一瞬たじろいだ。
世紀末を統べようとした二大巨頭の一角が誇る覇者の風格と威圧感。
そんじょそこらの雑兵では、それだけで肝を潰し逃げ出してしまいそうなオーラが辺りを包む。

だが、誰にとっての不幸かは知らないが、サウザーを取り囲む兵は曲がりなりにも精鋭の兵。
元は王立空軍旗艦だけあって、よく仕込まれていると言うべきか。
それ故に、逃げ出さず、武器を向け続けたというのが運の尽き。
北斗の長兄と次兄の足止めをしようとし、ほぼ何もしないうちに全滅した聖帝軍の兵とどこか被るものがある。
じりじりと同時に間合いを詰めたところで、サウザーを中心に突風が巻き起こった。

「はっ!」
全員が間合いに踏み込んできた瞬間、軸足を中心に、コンパスで円を描くように蹴りを放つ。
サウザーが繰り出したのは、回し蹴りのただ一発。
それだけで、時が止まったかのように水兵の動きが止まると、ある者は胴体から、またある者は胸から上が滑るように落ちていった。

「この程度か。小手調べにもならぬな」
泣き別れになった斬り口から同時に血飛沫が吹き出し、辺りを染め上げる。
恐るべきはその斬り口の鋭さ。
これだけの人数を一度の攻撃で同時に倒すという場合、並みの使い手なら後になればなるほど斬り口が粗くなる。
全員を同じ精度を以って一瞬に惨殺できるのは、さすが南斗六聖拳というところだろう。

「ごほっ!な、何が……」
口から大量の血を流しても何人かは意識を失うこと無く、無残に上半身を甲板に転げさせた。
斬り口が比較的下だったために、即死に到らなかった者達だ。
何が起こったのか分からないという表情で、顔だけを僅かに動かすと本来そこに在るべきはずではない物が写った。
「なん……で、あれは、俺の……」
視線の先には、長年に渡って彼を支えてきた腰から下の部分が無造作に転がり、その先からはワイン樽を壊したかのように鮮血が吹き出ている。
信じられないという表情で首を曲げると、同じ事が起こっており、それを見た瞬間自然と涙が流れた。

「か、かあさん……とうさ……ん……」
体中の穴という穴から液体を流しながら、上半身だけで這いずる様にして下半身に近付く。
明日中には総攻撃が終わり、休暇を貰え、土産を持って家に帰るつもりだったのにと、色んな考えが浮かんでいき、最期に死にたくないと思うと、遂には力尽き動かなくなった。

聞くだけで人が目を背けそうな光景だったが、当のサウザーは平然とした物。
そもそも、聖帝サウザーに武器を向けた時点でこうなるべきなのであって、ギーシュやキュルケ達は実にツイていた。
ケンシロウの前に立つモヒカンぐらい死亡率が高いと言えばよく分かるだろう。
それに、サウザーは聖人とか救世主の類の人間ではなく、暴力で世紀末を支配しようとした非情の帝王なのだ。
とはいえ、今わの際に近しい者の名を呼びながら死んでいく兵が多かったのは、先ごろ自分で体験しただけに、あまり気分のいい物ではなかったが。

動かなくなった水兵を一瞥すると、ほんの少し目を閉じた。
少し前なら、そんな想いでさえ下らぬ物だと一笑にしただろうにと、少し自嘲気味に笑う。
392名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:35:34 ID:kXCb5jDR
支援ー
393南斗代理拳!:2010/05/13(木) 18:52:39 ID:6voA81Jb
まだまだ強くならねばならぬ。
まだ、師を、南斗鳳凰拳先代伝承者オウガイを越えてはいない。
あの時、オウガイは『あまりの拳の鋭さにかわすにかわせなかった』と言っていたが
今になって思えば、あの時はオウガイがわざと拳を受けたようにしか思えず、それがずっとどこかでひっかかっていた。

オウガイも同じような試練を経て鳳凰拳を伝承したにも関わらず、自分に向けられた愛情は人並み以上の物だった。
歴代の鳳凰拳の伝承者は等しくこの試練を乗り越え、その哀しみを背負ってきたはずである。
それが、自分の代で大きく変わってしまった。

あの想像を絶する苦しみと哀しみに耐え切れずに、愛と情けを全て捨てた。
鳳凰拳の伝承者達がしてきた事を、ただ一人しなかったのだ。
表には一切出さないが、今では本当に鳳凰拳を伝承しきれているのかと僅かに疑問に思う所がある。
技術は全て受け継いだという自負はあるし、それは万人が認めるところだが、鳳凰拳の伝承者として何かが不足しているような気がする。
そうでなければ、内臓逆位という特殊な身でありながら、拳格では互角と言える北斗神拳に遅れを取るはずが無い。

だが、それを教えてくれる師はもういない。
己の手で掴み取るしかなく、本来その機会は訪れないはずだったが、それを与えてくれたルイズには、それなりに、本当に僅かにだけ感謝はしている。

一瞬の間にそれだけの事を考えると、後ろから飛んでくる物に気付いたのか、持ち前の踏み込みの速さを以ってその場から離れる。
すると、背後で炎が上がり、円のようにして散らばる死体を纏めて焼き払った。

「上……か」
甲板の上を旋回するようにして、いくつもの火竜が羽ばたいている。
ファイアボールかフレイム・ボールだろうが、レキシントンの直接的な戦力としてはあれらが本命なのだろう。
空を飛ぶ竜騎兵を少し眺めると、サウザーの顔には再び鋭い笑みが浮かび、その中の一騎に目星を付け、甲板から跳び立つ。
火竜の成竜というだけあって、大きさはシルフィードとは比べ物にならず、吐くブレスの量も火炎放射器とは比較にはならない。
だが、遅い。
この程度の速度なら、サウザーにとっては止まって見える。

滑空する火竜を捉えると、まず下顎に膝蹴りを叩き込む。
背に乗る騎兵も反応して杖を向けたようだが、すでに手遅れである。
そのままの勢いで火竜と騎士に向け、サウザーが宙返りをするかのように蹴りを繰り出した。

               南斗鳳凰拳
            『天 翔 群 星 脚』

当然というか、サウザーが放った一撃はただの蹴りではない。
それ自体の切れ味もさることながら、特筆すべきは空中という足場の利かない場所から放たれたにも関わらず発生する必殺の威力を伴った衝撃波の刃。
鋼鉄すら切り裂くと自負するだけあって、サウザーにとってみれば闘気を持たぬ火竜の鱗など紙屑同然。

突風に襲われたような感覚を味わった騎士が違和感に気付くまで、ほんの数秒を要した。
ズレている。
何がズレているかと言えば、全てがだ。
レキシントンが、火竜が、空が。
目に映る全ての光景が少しずつ真ん中からズレ始めている。
幸か不幸か、自分が火竜諸共真っ二つに切り裂かれたと自覚し断末魔の悲鳴をあげる前に、油袋に引火したのか爆発が二つに分かれかかった体を包み、彼の意識は虚空へと飛んだ。

南斗全体の特徴として、空中戦に強いというのがある。
六聖拳を筆頭に、強力な流派は総じて鳥類の名を冠している事から理解できるだろう。
流石に、届かない場所まで飛ばれてしまっては無理だが、そうでないなら、たかが十数騎程度は物の数ではない。
394南斗代理拳!:2010/05/13(木) 18:54:00 ID:6voA81Jb
上空で次々と火竜が墜落していく様を眺めて、マチルダは、まだ貴族だった頃に読み聞かせてもらった『イーヴァルディの勇者』のような伝説を目の当たりにしているような気分だった。
いや、この光景は、それすらも凌いでいる。
空中で竜騎兵を切り伏せ、その火竜を足場にして間髪入れずに次の得物を仕留めにかかる。
我ながら銀河万丈……もとい、波乱万丈な人生を送ってきたという自負はあったが、こんな光景を目にする事になるとは誰が考えるものか。

空中で血飛沫が弾け、マストや甲板に血と肉片が雨のように降り注ぎ、その雨から逃れようとレキシントンの甲板を水兵達が必死で逃げ惑う。
アルビオンの誇る精鋭の竜騎士隊が、メイジですらない一人の男に一方的に殺戮されている。

魔法を放とうと一人のメイジが杖を向けるが、火竜やマストを足場にして縦横無尽に中を駆ける様に中々狙いが定まらない。
それでも、なんとか魔法を放とうと呪文を詠唱し終えた瞬間、粘土に鼻と口を塞がれ息が出来なくなってしまった。

突然の事に杖を放り出し、慌てて粘土を剥ぎ取ろうと手を伸ばそうとしたが、剥ぎ取るよりも先に粘土から無数の針が飛び出し頭を貫いた。
目が裏返り両腕が力無くだらりと下がると、悲鳴すら残す事なく頭から倒れる。
ビクンビクン!と痙攣を続け、ピッタリと張り付いた粘土が血を吸い込み、少しずつ赤く染まっていく様はなんともえげつない。

「……いや、これは無いわー」
こんな残虐魔法を仕掛けた本人は、この魔法の発案者の顔を思い出してかなり引いている。
同じ土メイジのよしみで何度か飲み交わした際に、酔っ払ったシュヴルーズが『相手の顔を粘土でふさぎ
その内側を無数の鋭い針に変えて伸ばせば、相手は悲鳴をあげる事もできずに死ぬ』と言った事がある。
普段の温厚な様子から、酔った上での冗談か何かだろうと思っていたのだが、実際にやってみて確信した。

――赤土の赤の由来は、血で染まったどす黒い赤だ。

しかも、使う魔法は初歩中の初歩の錬金が二回。エア・カッターなんか使うより遥かに効率が良い上に、相手の呪文を封じる事が出来き、暗殺にも適している。
一体、あの温和な顔の仮面の下にはどんな素顔が隠されているのだろうかと思ったが、怖くなったので止めた。
「ミス・シュヴルーズ。あなたはそうやって、何人のメイジを殺してきたのですか?」とか聞いたりしたら
いつもの笑みを浮かべたまま、サラっと「百人から先は覚えていません」とか言われそうである。

トリステイン第三の羅将、赤土のシュヴルーズとかいう物騒な考えが浮かび思わず背筋が寒くなったが、それでもメイジ相手に有効な事には変わりはない。
ちょっと複雑な気分だが、手筈通りサウザーが場を混乱させている間に、レキシントンの射線の死角へ入った船から次々と無数のロープが投げ込まれる。
そのロープの先では、傭兵が各々の獲物を構えながら突撃する頃合を見計らっていた。

「竜騎兵は聖帝様が全て片付けた!残るは雑魚ばかりだ、聖帝様に遅れをとるな!」
気を取り直し、副官らしい号令をかけると甲板に向け、無数の矢が撃ち込まれた後、最初の兵がロープを使い飛び移る。
無敵と思われていた竜騎兵が蝿のように落ちていき、いよいよ以ってレキシントンを制圧出来るという事実に直面し、精神が高揚したのか、腹の底から思いっきり叫んだ。
それを皮切りに、他の兵も同じように次々と乗り移っていく。
『ヒャッハー!』という大合唱がその場を支配するまでには、さほど時間はかからなかった。


そんな血みどろの戦況の中、後甲板の一角では高級士官と思われる貴族が部下を急かすようにして脱出用のボートに乗り込もうとしていた。
「い、急げ!何だあの化物は!ここ、こんなところで、わたしが死ぬわけにはいかんのだ!」
虎の子の竜騎兵は全滅。上方に入られた二隻の船からは、次々と兵が乗り移ってきている。
兵の数だけならこちらが圧倒的に優位であるが、この惨状を目にして士気を保てる兵は居ない。

「話が違うぞ!勝ち戦では無かったのか!?」
最早、空軍力など残されていない相手を、圧倒的な力を持つ船でなぶり殺しに手柄を得る。
そうでなければ、軍人でなく政治家であるサー・ジョンストンが最前線の船の艦長という任に付こうとはしなかったはずである。

「早くボートにフライをかけんか!早くしろ!!」
一人先にボートに乗り移ったジョンストンが、フライの魔法をかけない部下を怒鳴りつける。
怒声のような命令を聞いたにも関わらず、呆けたような部下の体に触れようとした瞬間、その体に無数の線が浮かび上がり、文字通り崩れ落ちた。
395南斗代理拳!:2010/05/13(木) 18:55:40 ID:6voA81Jb
「わらっひゃ!」
「えうろぱっ!」
人が二人、細切れの肉片と化した様子を呆然としながら眺めていたが、顔に血飛沫がかかり
その向こうであの男が侮蔑の笑みを浮かべながらこちらを見下している事に気付き尻餅を付いた。

「………ひっ!た、助けて……!」
「ふっ、将が真っ先に逃げ出そうするとはな。これでは程度が知れるというものだ。……ん?」
見下すサウザーの先では、ガタガタ震えている無様な姿の男が、さらに無様に失禁などをしている。
これには、さすがのサウザーも呆れを通り越して笑い出した。
「ふっはっはっはっは、なるほど、貴様は将ではなく汚物か。汚物なら俺が手を下すまでもあるまい」
そう言い残すと、サウザーがボートのロープを全て断ち切る。
支えを失ったボートは、重力に引かれ豆粒ほどの大きさになってしまった。
なんとも形容しがたいような悲鳴を残して。


フライが掛けられず、ただ落下するだけのボートの中では、気が狂ったかのような悲鳴をあげながらジョンストンが喚いているところだった。

「そ、そうだ……!魔法…!今からでもフライをかければ間に合う!」
落下するボートの中で、ジョンストンが懐の杖を掴もうとする。
だが、その指先が杖を掴む事は決して無い。
ジョンストンの指は、サウザーによって全て切断されていたからだ。
それにも気付かぬまま、必死に杖を取り出そうとする姿は哀れでもあり滑稽でもある。
石よりも固くなった水面に叩き付けられ、『うわらば!』という断末魔を残し、ボートごと体を四散させたのはそれから約十秒後の事であった。

将が真っ先に逃げ出だした事もあり、数で勝る貴族派の兵は武器を捨て次々と降伏していく。
メイジなどは抵抗を諦めなかったようだが、マチルダの殺人魔法や数で勝る兵の攻撃、そして、南斗鳳凰拳によって一人また一人と討ち取られていった。

歴戦の者が多いとはいえ、傭兵という平民主力の軍が、メイジが主力の軍の旗艦を制圧したという事実だけでも驚愕に値するのに、一人の死者も出していない。
常識的に考えれば、降伏しているのは攻撃を仕掛けた方なのだが、その常識がたった一人の男によって簡単に打ち砕かれた。

その男が血で塗れた甲板を歩き一つの扉を開ける。
司令所と思われる部屋は結構な造りで、最前線の船とは思えない程である。
机の周りには、軍事行動に関する書類が乱雑に散らばっており、それを処分すらしていない事から、その混乱ぶりが伺えるというものだろう。

奥にある椅子に座りしばらくすると、ところどころに返り血を浴びたマチルダが報告のために入ってきた。
相対するサウザーは、あれだけ大暴れしていたにも関わらず、傷一つ付いていない。

「聖帝様、敵は全て降伏いたしました。こちらも重症者は出ていますが、死者は出ておりません。幸い、アンリエッタ王女が水のメイジですので、負傷者もすぐに戦列に復帰できるかと」
ふむ、と呟くとサウザーが脚を組む。
やはり、軍を維持するには優秀な水のメイジは欠かせないようだとの結論に達した。
と、同時に最も厄介な相手だとも認識した。
大量の秘薬と水のメイジの数が揃っていれば、それだけで軍の進撃速度や再編時の効率が上がる。
軍の損失がどれだけ大きくても、死者の比率に比べて負傷者の数の方が圧倒的に大きい。
無論、自らの前に立ち塞がる敵には等しく死を与えてやるつもりだが、それ以外ではそういうわけにもいかないだろう。

「……将が足りぬな」
ぽつりとそう漏らす。
拳王軍と違って、聖帝軍は多数の南斗聖拳の使い手を有しているだけあって、部隊を率いる将に困ることはなかった。
今はまだいいが、将来的には誰かに第二軍を指揮させるために、スクウェアクラスか、南斗六聖拳に匹敵するぐらいの拳の使い手が欲しい。
前者は少ないなりにも可能性はあるが、後者に至っては可能性は絶望的だし、期待もしていない。
あの仮面の男を逃したのは惜しかったな、などと考えていると、恐る恐るという具合にマチルダが報告を続けた。
396南斗代理拳!:2010/05/13(木) 18:57:11 ID:6voA81Jb
「……それで、捕虜はいかがいたしましょう」

「聖帝サウザーに逆らった者は、女子供といえど降伏すら許さん。皆殺しにしろ!」
……と、少し前ならこう言ったところだが、今は少し違う。

「自ら武器を捨て、この俺に服従を誓う者は、我が軍に加わる事を許す。そうでない者は殺せ」
これだけの巨艦、運用するには熟練の水夫が必要という事もあるが、それでも昔から見ればこの処置は考えられない。
もちろん、その場しのぎで従うような連中の対策も考えてある。

一人が逃げ出そうとしたり逆らった者が出た場合、十人ばかりが無作為に選ばれ処刑されるという物だ。
一種の連座制いうやつで、捕虜同士で監視しあい、こちらで監視する手間が省けるというメリットがある。
ハルケギニアの人間ならその非情さに目を覆いたくなるが、世紀末を知る人間なら、聖帝サウザーに逆らい命があるだけで、それはもう有情と感じるはずである。
マチルダもサウザーが捕虜を皆殺しにすると思っていたクチで、屠殺場のような光景を覚悟していただけに、正直安堵した。
そうでない者は殺せと言われているが、貴族派の連中ならともかく、上が反乱したからそのまま軍務に付いているような一般の水兵は、命を捨ててまで貴族派に忠誠を誓う義理は無い。
一応の不安は解決したが、まだまだ序の口。
各種物資の積み込みと、ニューカッスルへ強襲をかける準備が残っている。

「でも、とりあえずは……甲板の掃除が先かしらね」
甲板に出ると、いの一番にそう呟いた。
目の前に広がる光景は紛れも無い地獄絵図。
形として散らばるのは人か火竜か判別の付かない肉片や、頭から無数の針を生やし奇妙なオブジェと化したメイジの死体ばかり。
そして元からそう塗装されていたかのような一面の赤。
その有様に、思わず魔界でも見てしまったのだろうかと考えると、なんだか『ヴァジュラ!』とでも叫んでしまいそうだ。

幸い下は海で、死体は投げ捨てれば魚が勝手に処分してくれる。
血は錬金でなんとかするしかないが、アンリエッタはこの魔界の光景が見えない場所で治療を続けいるし、見せようものならまず卒倒する。
これは裏街道を歩んできた人間でもかなり刺激的だ。

「あーもう!お前ら、吐くなら外向いて吐け!これ以上、わたしに面倒を押し付けないでよ!」
「ね、姉さん、そんな事言われても、……うぇぇ」
実際、さっきからグロテスクな光景と、血の臭いで吐き出す兵が続出している。
これも処理するのはわたしかと考えると、泣けそうになってきた。
その原因を作った張本人は一人部屋で、ゆったりしながらワイングラスを傾けている頃で、赤は赤でもえらい違いだと不平を漏らしたくもなる。
でも、決して言わないし漏らさない。誰だって命は惜しいのだ。

本名――マチルダ・オブ・サウスゴータ。
年齢――二十三歳。
属性――土。
職業――聖帝軍ナンバー2兼サウザーの副官(暫定)。

彼女の苦労はまだまだ始まったばかりである。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 18:57:44 ID:fV8bordW
支援
398南斗代理拳!:2010/05/13(木) 18:59:06 ID:6voA81Jb
ヒャッハー!投下した!
前の予告と違う?なにぃ〜?聞こえんなぁ〜!





聖帝の方、乙でした。
うーん、スプラッタな光景のはずなのに全然そうは見えない! ふしぎ!


さて、それでは私も今日中に投下……出来るかしら。
399名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 19:04:48 ID:kXCb5jDR
作者氏&代理さん投下乙でした。

なんかもう。
いや、なんかもうw
400名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 19:25:45 ID:G3Yfb2u8
乙ッハー!!

赤土www
401名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 19:28:54 ID:h2qfXdU3
怖ぇよwww
402ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:33:42 ID:6voA81Jb
 まさか南斗の技を使うことになろうとは思っていませんでした。
 ともあれ投下準備が出来たので、他にご予約の方がいないようでしたら20:40より投下を行います。



 前回までのあらすじ
 コッパゲを殺しちゃったアニエスはなんか微妙な感じ、ルイズはタバサに色々とぶちまけたよ。
403ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:40:00 ID:6voA81Jb
 トリステイン女王アンリエッタは王宮の執務室で静かに目を閉じ、膝をついて始祖ブリミルの聖像へと祈りを捧げていた。
 服装は黒いドレスに、黒いベール。
 つい7〜8ヶ月前までの彼女しか知らぬ人間がいきなりこの姿を見せられたら、『これが本当にあの王女と同じ人間なのか』と自分の目を疑うだろう。
 今のアンリエッタの様子から王女時代のあの花のような可憐さを連想することは、それほどに難しかった。
「―――――」
 そうしてアンリエッタが無言で祈っていると、執務室の扉が叩かれる。
「陛下。私です」
 枢機卿マザリーニの声だった。
 ある意味で今、最も聞きたくない声ではあるが、居留守を使ったり追い返したりするわけにもいかない。
 アンリエッタは杖をとり『アンロック』の呪文を唱えようとして……それもまた失礼に当たるのではないかと思い直すと、杖をテーブルに置いてドアまで歩き、マザリーニを迎え入れた。
「……これはこれは、お勤めの最中でございましたか。失礼をいたしました」
「いいのです。……どの道わたくしは明けから宵まで、祈りを捧げております。どの時間にいらしても同じこと」
「……………」
 呆れたような目を主君に対して向けるマザリーニ。
 『アルビオンへの侵攻が始まってから、アンリエッタは昼も夜もなくずっと祈ってばかりいる』。
 王宮でまことしやかに流れている噂であるが、さすがにそれが全部本当だとは思っていなかったようだ。
 おそらく『祈っていてもせいぜい一時間程度だ』とでも考えていたのだろう。
 そんな枢機卿の視線に気付き、アンリエッタは取り繕うようにして告げる。
「……この無力な女王は、祈りを捧げることしか出来ないのです」
「黒に身を包まれて、ですか。陛下は白がお似合いですのに」
「戦です。倒れる将兵は少なくありません。喪に服しているのです」
 マザリーニはよく注意して見なければ分からないほどわずかに肩をすくめ、女王から視線をずらすと、この執務室に来た用件に取り掛かった。
「ご報告いたします」
「……何です?」
「昨日、我が連合軍はシティオブサウスゴータを完全占領いたしました。首都ロンディニウムへの足がかりが、これで確保されたことになります」
「良い知らせですね。ド・ポワチエ将軍には、わたくしの名前で祝辞を送ってください」
「かしこまりました」
 祝辞ひとつで士気が上がったり戦の流れが左右されることは有り得ない。
 アンリエッタもそれくらいは理解しているが、形式というものは大事であるし、何より『ちゃんとそちらに注意は払っている』というアピールは色々な意味で必要なのだ。
「そして、もう一つ」
「……悪い知らせですね」
「その通りです」
 マザリーニはただ淡々と、その報告を読み上げる。
「連合軍は、兵糧の補給を要求しております。すぐに送る必要があるでしょう」
「……たしか計算では、あと三週間はもつはずでしたが」
「シティオブサウスゴータの食糧庫は空っぽでした。アルビオン軍が残らず持ち去って行ったのです。住民たちに、ほどこしをする必要があります」
「…………。敵は、食料に困っているのですか?」
「いいえ。我が軍を困らせるためでありましょう。我々が兵糧を供出することを見越して、住人たちから食糧を取り上げたのです。……要は足止めですな」
「酷いことを……」
「戦ですから」
 さすがにこのようなことをやられたら、トリステイン・ゲルマニア連合軍は自分たちの食糧を住人たちに分け与えざるを得ない。
 アンリエッタの脳裏に一瞬、『住人たちを見捨てる』という案がよぎったが、人道的見地、シティオブサウスゴータを拠点として使っているという現在の状況、戦後の統治……などの理由から、すぐにその案は却下された。
404ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:42:00 ID:6voA81Jb
 そのような姑息な嫌がらせを仕掛けてきたクロムウェルを憎々しく思いながら、アンリエッタは頷く。
「では、手配をお願いします」
「かしこまりました」
 これで話は終わりと判断したのか、アンリエッタはまた祈りに戻ろうとする。
 しかしマザリーニの『悪い知らせ』はまだ終わってはいなかった。
「……しかしながら、そろそろ国庫の心配をしなければなりませぬ」
「国庫の? 財務卿はどうしたのですか?」
「ガリアの大使と会談中です」
「…………ガリア?」
「借金の申し込みです。陛下、戦争には金がかかるのですよ」
 舌打ちしたい衝動を噛み殺し、かぶりを振るアンリエッタ。
 ゲルマニアにも負担させるべきだとも思うが、マザリーニだってそんなことはもう手配しているはずである。
 何せアルビオンに侵攻しているのは『トリステイン・ゲルマニア連合軍』なのだから。
 そして手近な同盟国をこれ以上頼れない……搾り取れないとなれば、この件とあまり関係がなく、なおかつ金のある国に頼るのは当然と言える。
 これがやがて自分の首を絞めることになるのかも知れないが、ともあれ結果として……。
「……勝てば良いのです。そう、勝てば良いの」
 まったくもってその通りである。
 勝ってしまえば何の問題もない。
 トリステインを悩ませるあらゆる懸案事項は即座に解決、民は喜び、ハルケギニアには平和が訪れる。
 まさに良いこと尽くめではないか。
「アルビオンの財布から、返すことにいたしましょう」
「……………」
 一方のマザリーニは無表情である。
 『勝利を大前提にして今後のことを考える』ということがいかに危険なことか実感……とはいかないまでも、少なくとも理解はしているためだ。
 よって、頭に血が上りつつあるこの女王に冷や水を浴びせる意味も込めて、また『悪い知らせ』を告げる。
「その財布が手に入る日なのですが、少し遠ざかることになりそうです」
「……どういうこと?」
 思わず素の口調で問い返すアンリエッタ。
 その表情はあからさまに曇っている。
「敵は休戦を申し込んでまいりました」
「休戦、ですって? 期間は?」
「明後日より、降臨祭の終了までの期間です。降臨祭の間は、戦も休むのが慣例ですからな」
 降臨祭とは、一年の始まりであるヤラの月、第一週の初日から始まるハルケギニア最大のお祭りである。
 この日から10日間ほどはハルケギニアのあちこちで、連日に渡って賑やかな祭事や催し物が行われるのだ。
 また軍の指揮官が『この戦は降臨祭までに終わる』と言っておいて、本当にそれまでに終わった戦争がハルケギニアに一つも存在しないことでも有名である。
 ともあれ、降臨祭が始まるまでにはあと6日間ほどかかる。
 つまり。
「……2週間も休戦するですって!? いけません! 慣例だろうが、そんなことは認められませんわ!!
 それに条約破りの恥知らずとの休戦なんて信用出来ません!! あの恥知らずどもは、魔法学院を襲って子弟を人質に取ろうとしたのよ!!? そんな卑劣な連中と……!!」
 アルビオンによる『魔法学院襲撃事件』は、生徒たちに犠牲者こそ出なかったものの、たまたま派遣されていた銃士隊や教師の何名かに死傷者が出ている。
 また、この件がトリステインそのものに与える影響もいくつかあった。
 第一に『敵はその気になれば、いつでもトリステインの各所を襲撃出来る』という事実。
 これが、トリステイン貴族たちに知られてしまったことである。
 たとえトリステインへの侵入が幸運や偶然に助けられたものだとしても、事実は事実。
 この事実は平民や下級〜中級の貴族たちはもちろんだが、特に国に名だたる有力貴族たちにとっては恐怖でしかなかった。
 何せ、次に狙われるのは自分の屋敷になるかも知れないからだ。
405ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:44:00 ID:6voA81Jb
 問題は『実際に襲撃されるか』ではなく、『襲撃されるかも知れない』という可能性が発生してしまった点にこそある。
 ただでさえアルビオンへの出兵で困窮しているこの状況。
 この上にピンポイントで襲撃を受けたり、あまつさえ捕まって人質にでもされたりしたら、没落どころか家が取り潰されてもおかしくない。
 よってトリステインの貴族たちは爵位や王宮の地位が上になればなるほど、これ以上の出兵や上納金を出し渋り、自分の身を守るという行動に出始めている。
 人間、誰だって自分が可愛いのだ。
 もちろん王宮としても要請は出しているが、この事件を引き合いに出されてはそう強く出れない。
 『自分の身くらい自分で守れ』と言ったところで、その『自分の身』から搾り取っているのは他でもない王宮であり、また王宮から兵を出そうにも、この期に及んでそんな余力があるのなら最初から苦労はしていない。
 第二に『今のアルビオンがなりふり構っていない』ことが判明した、という点である。
 これは貴族も平民も関係なく影響があった。
 と言っても、別に実害があるわけではない。
 敵に対する印象やイメージの問題である。
 失敗に終わったとは言え、アルビオンは『魔法学院を襲撃して、貴族の子弟を人質に取る』という常識外れとも言える策を実行した。
 これにより、トリステイン国中にはアルビオンに対する苦手意識のようなものが薄っすらとではあるが生まれつつあるのだ。
 前述したように、アルビオンは実質トリステインのどこにでも兵を向かわせることが出来る。
 少なくとも魔法学院を襲撃されたトリステインの人間はそう考える。
 すると、自分のいる場所が襲撃されるかはともかくとして、『敵は次にどんな恐ろしいことを仕掛けてくるのか』と国民は不安になってくる。
 貴族とはいえ子供を平気で人質にとって、その際に人殺しまでやった連中なのだから、不安になるのも当然だ。
 その不安は国全体の士気を下げるという効果を生む。
 ―――実際にはアルビオン:トリステイン間の哨戒の甘さや、仮にも拠点とも言える場所の防備がほとんど平民まかせだったことなど挙げればキリがないほどにあるのだが、主だったことはこの二点である。
 ……少なくとも、トリステインを追い詰めるという意味ではクロムウェルの策は成功したと言えるだろう。
 そして、このような男が停戦を呼びかけたところで信用出来るわけがない。
 しかし。
「…………。確かに信用はなりませんが、選択の余地はないかと。
 何にせよ兵糧は運ばねばなりませんし、その間は動けませんから。また、報告にあった『アインスト』とかいう正体不明の怪物がいつまた現れるとも限らないので、その備えも必要でしょう」
 涼しい顔でサラリと正論を言ってのける宰相兼枢機卿。
 そんな『正し過ぎる』腹心の態度を見て、アンリエッタの中に溜まっていた色々なモノが思いがけず噴出する。
「っ、ならばあと一週間でロンディニウムを落としなさいっ!!
 何のためにあれだけの艦隊を!! あれだけの軍勢を付けたと思っているのですか!!
 それに怪物ですって!? そんなものを気にかけている暇があったら、一秒でも早く敵をわたくしの前にひれ伏させる策を考えなさい!! ……ああ、もう! こうなれば無理矢理にでも『虚無』を……!!」
「……………」
 マザリーニはわざと一呼吸置き、激昂しているアンリエッタをなだめるようにして言い聞かせた。
「陛下。兵も将も、そしてあなたがたった今『虚無』と呼んだラ・ヴァリエール嬢も人ですぞ。
 無理をさせるということは、どこかにしわ寄せが来るということ。早く決着をお付けになりたい気持ちは分かりますが……、ここは譲歩なされよ」
「……っ!」
 その言葉に多少冷静になったのか、アンリエッタは目を閉じて頭を強く振り、深めに息をつく。
「―――口が過ぎました。忘れてください。皆、よくやってくれている。そうよね」
「はい。……それでは早速、休戦条件の草案を作成します」
「よしなに」
 報告を終え、休戦の許可を取り付けると、マザリーニは一礼して部屋から退出しようとして……。
「陛下」
「?」
 ドアの前で立ち止まり、振り返ってアンリエッタに話しかけた。
「戦が終わりましたら、黒はお脱ぎなされ。似合いませぬ」
「……………」
「お忘れなさい。永久に喪に服されるのは母君だけで十分です。……その方の復讐を果たそうとしているのならば、なおさら」
「!」
406ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:46:00 ID:6voA81Jb
 扉を閉じて去っていくマザリーニ。
 後に残されたアンリエッタは右手で顔を押さえながら、自分に言い聞かせるようにして呟いた。
「……だって……仕方がないじゃないの。今のわたくしには、それしかないんだから……。それに、初めから……そうよ、初めからルイズが協力してくれていれば、きっとこんなことには……」
 アンリエッタにとって、ウェールズ・テューダーという男は特別な男性だった。
 全てと言っていいだろう。
 少なくとも本人はそう思い込んでいた。
 その『全て』を無くしてしまったのだから、自分がこうして喪に服すのは当然だ。
 ……そして『全て』を奪い、あまつさえ彼の亡骸を利用して自分をかどわかそうとした輩どもに鉄槌を下すのも、また当然のはず。
「……………」
 燃え盛る復讐の炎。
 こうしている間にもあの連中がロンディニウムでのうのうと生きているのかと思うと、気が狂いそうになってくる。
 そして、それゆえに『虚無』を投入出来なかったことが口惜しい。
 アレを最初から使うことが出来ていれば、それこそ降臨祭が終わるまでにクロムウェルを討ち取れていたかも知れないのに。
「……………」
 アニエスからの報告によると、襲撃事件のあった魔法学院は近日中に閉鎖され、残っていた女子生徒たちもそれぞれ実家に戻ることになったという。
 つまりルイズもラ・ヴァリエールに戻るということだ。
 そうなるとますます手が出しにくくなってくる。
「……今のうちに銃士隊を使って、身柄を確保しておけば……」
 マザリーニに聞かれたら、呆れられるどころか三行半すら突きつけられそうなことを口走るアンリエッタ。
 続いて彼女は『どうやったらルイズに自分の命令を聞かせることが出来るか』を自分なりに考え始め、そして数分ほど経過したところで、ふと我に返った。
「…………何を考えているの、わたくしは」
 ちょっと冷静になってみれば、色々と問題があり過ぎる思考だった。
 仮に銃士隊を使って身柄を確保したとして、その後が厄介どころではない。
 ルイズの実家のラ・ヴァリエール家はトリステインでも三本の指に入る大貴族であり、その娘が王宮の手の者に捕らえられたとなれば内乱に発展する危険性がある。
 ヴァリエールが反旗を翻したとなれば、今の王宮に不満を持つ貴族たちがそれに同調するだろう。
 アルビオンと戦争をしている今のトリステインでそんな事態になったら、たとえ両方の戦いに勝利したとしてもこの国は終わりだ。
 いや、それ以前に両方負けるかも知れない。
「そう言えば……」
 以前、ルイズとアルビオンに行くか行かないかで激しく手紙のやり取りをしていたが、その中のルイズの手紙にこんな一文があった。

 ―――『仮にわたしが参戦したとして、それでも負けたらどうなさるおつもりなのです?』―――

 あの時は『敗北を前提にするなんて』と憤ったものだが、時間を置いて振り返ってみればその通りである。
 確かに『虚無』は切り札になり得る。
 だが、切り札だけで勝負が決まるのならこんなに楽なことはない。
 それにこちらが『虚無』を有しているように、アルビオンにだってクロムウェルが言うところの『虚無』らしきものがあるのだ。
 どちらの方が優れているかはともかく、『虚無』を投入したからすぐに決着がつきました、我が方の大勝利です……などということにはなるまい。
 ……どうして戦というモノは、勝つなら勝つ、負けるなら負けるですぐにハッキリと結果が出ないのだろうか。
407名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 20:47:01 ID:m7r8dzTp
南斗支援拳!
408ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:48:00 ID:6voA81Jb
「あ……」
 と、そこまで考えたところで。
 アンリエッタは、自分がルイズのことを『虚無』としてしか認識していないことに気付いた。
「わたくし、は……」
 今でも思い出そうと思えば、いくらでも思い出せる。
 幼少の頃、何度となく一緒に遊んだ。
 一緒に叱られた。
 ルイズの姉のカトレアと三人、同じベッドで眠りについた。
 そうだ、確かその時、カトレアはこんなことを言っていた。

 ―――「恋はね、人の力ではどうにもならない天災のようなモノよ。いくら強力な魔法が扱えたって、地震や洪水に、人間は逆らえないでしょう? それと同じ。自分の心に芽生えた恋心に、勝てる人間なんていやしないわ」―――

 ―――「それが恋なのかどうなのか、分かる前にわたし逃げ出してしまうの。自信がないのね、多分」―――

 ―――「恋と同じで理屈じゃないの。心に芽生えたものは、恋であれ不安であれ……、自分の力では決して消すことが出来ないのよ」―――

 確かあれは8年か9年くらい前のことだったから、カトレアも16歳くらいの頃だったか。
 今の自分と同年代だとはとても思えない言葉であるし、自分自身に照らし合わせると物凄く耳に痛い話なのだが、ともあれ鮮明に思い出せる。
 それくらい自分には大切な、大切だったはずの記憶。
 そんな記憶にある『おともだち』を、よりにもよって道具か兵器のようにしか見ていないとは。
「…………!」
 少し前の自分なら、たとえルイズが虚無の担い手だと知っていても絶対にそんな風には考えなかったはずだ。
 アンリエッタはそんな自分に身震いし、そしてあの頃とは違いすぎる現状を憂いながら呟く。
「強い目的は、大事な人をも道具に変えてしまう―――いえ、きっと変わってしまったのはわたくしね……」
 ……もはや誰のために流しているのかすら分からないまま、女王の瞳から涙がこぼれ落ちた。
409ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:50:00 ID:6voA81Jb
「乾杯ー」
「乾杯」
 ギーシュとニコラは木で出来たジョッキをつき合わせ、中に入った酒を一気にあおる。
 ここは『魅惑の妖精亭』アルビオン臨時支店。
 トリスタニアにあるはずのギーシュ馴染みの店がなぜアルビオンのシティオブサウスゴータにあるのかと言うと、これは疲弊しつつある軍に対する『慰問隊』の一環であった。
 降臨祭の期間は戦争すらも一時休止というのはハルケギニアの古くからの慣習である。
 実際、アルビオン側からもそれにのっとって休戦の申し入れがあった。
 これには『サウスゴータの住人に配って残り少なくなった兵糧を使い潰させよう』というアルビオン側の思惑が見え隠れしていたのだが、兵たちが疲れ切っていたのも事実なので連合軍側も快く……とまではいかないが受け入れることにした。
 しかし、ここはあくまで敵地。
 決して心の底から安心の出来る場所ではない。
 また、変に気を張ったまま二週間も中途半端に休んでは全体の士気に関わる。
 よって士気向上、あるいは英気を養わせるためにトリステインの人間や料理などを届けよう、というコンセプトのもと、『慰問隊』が編成されたのだ。
 そして、王家とはちょっとした繋がりがある……と言われている『魅惑の妖精亭』もそれに駆り出されたというわけである。
「はあ……うまい。何だか久し振りにマトモな酒を飲んだ気がするなぁ」
「アルビオンの酒は口に合いませんか、中隊長殿?」
「そういうわけじゃないんだが、さすがに麦酒ばっかりだと飽きてくるんだよ」
 この『慰問隊』という試み、割と成功はしていた。
 アルビオンとトリステインでは料理が根本の味付けからして違うし、アルビオン人はワインをほとんど飲まないのに対してトリステイン人はワインをけっこう飲む。
 つまり食生活が全然違うのだが、普段食べ慣れているものが食べられないとなると、誰でも故郷の味に飢えてくる。
 なので、少なくとも『英気を養う』という効果はあるのだった。
「しかし貴族の方と杯を合わせられるなんて、光栄ですな」
「何言ってるんだ、ウチの中隊の最大の功労者は君だろ? 正直な話、この街の解放戦のときには僕なんてほとんど何にもしてなかったじゃないか」
 首からさげた勲章をいじりつつ、ギーシュが複雑そうな顔で言う。
 一応、彼はサウスゴータ解放戦で中隊を率いたことになっているが、実際に中隊を率いていたのはギーシュの隣で酒を飲んでいるニコラである。
 彼の指揮ぶりは少なくともギーシュの目には見事に見えた。
 あのメチャクチャな戦場で情報を次々に取捨選択し、状況判断は素早く、指示は的確、おまけに隊員への気配りも忘れない。
 まさに隊長とはかくあるべしという教本みたいな男。
 そんな感想すら抱いたほどである。
 ……それに比べて、自分がやったことと言えば。
 まず使い魔のヴェルダンデと感覚を繋げて。
 ニコラの指示に従い、ヴェルダンデをアインストや敵兵の足場となっている地面まで移動させて。
 その地面を掘らせて、敵の体勢を崩させただけ。
 まあ、その体勢を崩した敵に中隊で一斉攻撃を浴びせたりしていたのだから、間接的には役に立っていたのだろうが……。
(……僕自身が活躍したわけじゃないんだよなあ)
 精神力がほとんど空っぽだったのだから、仕方なくはある。
 しかしギーシュとしては、もうちょっと華々しく活躍したかった。
「部下の手柄は上司の手柄、ってやつですよ。それに中隊長殿の兄上さまだって、喜んでたんでしょう?」
「そりゃそうだが」
 そしてギーシュが複雑な心境を抱いている最大の理由は、その兄である。
 あの戦いで武勲を立てた、ということでギーシュには白毛精霊勲章という勲章が叙勲されることになったのだが、それをギーシュの首にかけたのは誰あろう、ギーシュの二番目の兄だった。
 兄は本当に喜んでくれた。
 自分はグラモン家の誇りだ、とまで言ってくれた。
 嬉しかった。
 嬉しかった…………が、前述したようにこれは純粋な自分の手柄ではない。
 ギーシュとて副長にオンブにダッコで手に入れた勲章を素直に喜べない、程度のプライドは持ち合わせている。
 だから、喜んでくれる兄に対して申し訳ないような気持ちも抱いていたのだ。
410ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:52:01 ID:6voA81Jb
 しかし。
 素直に喜べないということは、素直じゃなければ喜べるということであって。
 いくらハルケギニアがしょっちゅう戦争やってるとは言え、こんな手柄を立てられるチャンスはそうそうないだろうし。
 正直、次のアルビオン軍との戦いだって手柄を立てられる自信はほとんどない。
 だったら内心のわだかまりはひとまず置いといて、ここは喜んでおくべきかも。
 ちょっとの間だけ喜びを噛み締めるくらい、きっと始祖ブリミルだってお許しになるさ。
「よぉし……!」
 そうと決めると切り替えが早いのが、この少年の長所である。
 ギーシュはジョッキに入った酒をグイッと一気に飲み干すと、途端に陽気になってニコラと話を始めた。
「そうだよな! やっぱり手柄は喜んでおくべきだよな!! いやぁ〜、実は僕もさ、何て言うの? 遠慮? みたいなのがあってね、大っぴらに騒ぐのもどうかなーって思ってたんだけど、まあせっかくだしパーッとやろうか!」
「…………アンタきっと大物になりますぜ、坊ちゃん」
「おお、やっぱりそう思うかね!!」
 わっはっは、と笑うギーシュ。
 ニコラはそんな中隊長を見て、こりゃ変に焚き付けない方がよかったかな、などと思うのだった。
「こんな立派な勲章をもらったんだから、きっと本国の父上や他の兄さんたちも褒めてくれるだろうなぁ。……いや、学院のみんなだって僕を見る目が変わるはずだし、あの滅多に人を褒めたりしないユーゼスからだって褒められるかも知れないぞ。それに……」
「それに、何です?」
「モンモランシーだって僕のことを見直して、認めてくれる!」
「はあ。そのモンモンだかいう方は、中隊長殿の恋人か何かですかい?」
「分かるかね? いやぁ、参ったなぁ! さすがに歴戦のつわものの洞察力は誤魔化せないようだ! ははは!!」
「いや誰でも分かると思いますが」
 ボソッと放ったニコラのツッコミも、酒の回ったギーシュの耳には届いていないようである。
 ギーシュは『ツンと済ましたところが可愛い』だとか『どっちかって言うとやせ型だけど、そこがいいんだ』だとか、延々とモンモランシーの魅力を語り続ける。
 ……が、顔も知らない女の話なんぞ、ハッキリ言って聞いてる方はちっとも面白くない。
 ニコラに出来ることは、せいぜいがニコニコしながら相槌を返すか、
「しかし、どっかで聞いたような名前ですな。……確か、そんな家名の貴族がいたような……」
「彼女の実家のモンモランシ家の長女は、代々『モンモランシー』って名乗るのが伝統なんだそうだよ。そうだ、彼女の系統は『水』でね。二つ名は『香水』って言うんだが……」
 このようにちょっとした疑問を間に挟むくらいだった。
 そしてギーシュはひとしきり(自称)自分の恋人の少女について語り終え、ぐでんぐでんに酔っぱらってテーブルに倒れ伏した。
411ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:54:00 ID:6voA81Jb
 その寝顔には、心地良さそうな笑みが浮かんでいる。
「……ふう」
 気楽なもんだ、などとニコラは思わない。
 この少年はまだ17である。
 それがいきなり中隊長で、成り行きとは言え一番槍、その上に武勲を立てて勲章なんてものまで貰ってしまった。
 おまけに、それが全部初陣でのもの。
 本人が意識しようがしまいが、これはけっこうな重圧になる。
 色々と気負うこともあるはずだ。
「……………」
 もっとも、重圧の出所が自分自身だった場合はまだやりようはあるが、問題は他人から重圧をかけられる場合だ。
 何せ下手に大きな手柄を立ててしまうと、次からの戦ではそれと同等かそれ以上の戦果を求められてしまう。
 少なくとも上層部はそう判断する可能性が高い。
 これでまかり間違って連戦連勝などしたら、『英雄』にまつり上げられて敵からは必要以上に警戒され、味方からは旗印にされて過剰な期待を押し付けられることになるだろう。
 いくら何でも、この少年にそれは酷だ。
 ニコラの見立てでは磨けば光るものは持っているはずだが、磨くのだって時間がかかる。
 たまたま上手くいったからと言って、その『たまたま』を『標準』だと考えてもらっては困るのだ。
 ……しかし、その理屈が通用するようならトリステインという国は今よりもう少しマシな状態になっているはず。
「やれやれ……」
 内心で祖国の批判をしつつ、今後の中隊長の人生について同情を禁じえないニコラ。
 こりゃ次の戦いではほどほどにしとくのがいいのかな……などと考えながら、しかしその『ほどほど』というのがいかに難しいのかを思うと頭が痛くなってくる。
 ―――とは言っても自分だって、ギーシュに一生付き合うってわけでもない。
 どう転んだところでこの戦争が終われば連合軍は解散、次の戦があるまではお役御免になるだろう。
「……まあ、こんなことを考えられる内が華ってことかね」
 このようにアレコレ考えてはみたものの、実際に命のやり取りをする戦場に出たらこんなことを考える余裕はなくなってしまう。
 死ねば終わり。
 命あっての物種。
 貴族はともかく平民の自分にとっては、死んだら名誉も何もないのである。
 だったら今はせいぜいこの場の喧騒を肴に、酒をあおるのが正しい過ごし方というものだろう。
「……………」
 しかし、皆とりとめもないことを気ままに話しているものである。
 少し耳を澄ませるだけでも、本当かどうか疑わしい噂がそこかしこで流れていた。
412ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 20:56:00 ID:6voA81Jb
 ―――曰く。

 アルビオン軍が使っているあのおかしな銃は、どうやらエルフの技術を使って作られているものらしい。

 魔法学院が賊に襲われて人死にが出たが、その賊は平民によって倒された。

 あのアインストという怪物はこのハルケギニアの精霊たちの化身で、おごれる人間たちに天罰を下しに現れた。

 アルビオンのどこかには妖精が棲んでおり、現にその妖精に救われた人間が我が軍にも何人かいる。

 トリステインじゃ、とうとうアンリエッタ女王の圧政に耐えかねて逃げ出す連中が出始めた。

 などなど。
 噂の一つ一つにいちいち反応するほどニコラも過敏ではないが、それでも明るい噂が一つもないのでゲンナリしてしまう。
 と言うか、不穏な噂が多過ぎだ。
 ついこの間までは戦争がたまに起こりはしても、ここまであっちこっちで妙な話が聞こえてくることはなかったはずである。
 今は戦乱の時代なんだから、と一言で済ませるのは簡単だ。
 だが、何と言うか……表現しがたい『何か』が自分のすぐ近くで動いているのが分かっているのに、その姿だけが見えないような、そんな自分でもよく分からない感覚がする。
「……ふにゃ……どぉだぃ、ューゼス……。これできみも……ちょっとはぼくのこと、みなぉした……だろぉ……」
「……………」
 一方、そんなニコラの奇妙な違和感などどこ吹く風、と言わんばかりにギーシュは寝言などを呟いていた。
「ったく……」
 ―――何だかそんな中隊長の寝顔を見ていると、どうにもならないことを何だかんだ考えているのがアホらしくなってくる。
 身の丈に合わない悩みは持つだけ無駄、ということだろうか。
 まあ、確かによく分からない『異変』なんかよりは、今自分が持っているジョッキに残っている酒の量の方が現実的、かつ切実な問題ではある。
「……………」
 のんきに寝息を立てているギーシュを眺めるニコラ。
 こうして見ていると、若過ぎるほどに若い。
 と言うか、まだ大人になりかけの子供にしか見えない。
 ……しかしいくら若いと言っても、仮にも中隊長という立場の人間が酒に酔い潰れてぶっ倒れてるってのはどうだろう。
「今度、酒の飲み方くらいは教えてやるか……」
 そしてニコラは木のジョッキに入った酒を飲み干し、ギーシュをかついで大隊が寝泊りしている天幕へと戻っていくのだった。
413ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:00:05 ID:6voA81Jb
 ロマリア大聖堂。
 祖王である聖フォルサテの名をとって『フォルサテ大聖堂』とも呼ばれ、トリステイン魔法学院を建築する際のモデルともなった建築物である。
 その外観は壮麗かつ雄大で、まさにハルケギニアで広く信仰されているブリミル教の象徴にふさわしいと言えよう。
「……………」
 そんな神聖な建築物の地下深く。
 ある世界においては『ミルトカイル』と呼称される赤や青の結晶が深く根を張る、暗く湿った空間。
 ロマリア教皇、聖エイジス三十二世ことヴィットーリオ・セレヴァレはそこにいた。
 対面には彼が『召喚』した『使い魔』である異形の怪物……ヴァールシャイン・リヒカイトが直立している。
「それでは、あなたの負った傷はほぼ完治したということですか?」
「……そうだ……。……これで我は……十全に力を発揮することが……出来る……」
「何よりの知らせです」
 ヴィットーリオはにっこりと笑い、自身の使い魔が完調に至ったことを祝福する。
 しかし彼のその笑顔も数秒で霧散し、今度は無表情のままで懸案事項について思索を始めた。
「アインストを自由に生み出せるようになったのは喜ぶべきことですが……」
 ……これまで幾度となくアルビオンにアインストの群れを出現させたことにより、どれだけの数を出せばヴァールシャインがどの程度消耗するのかは把握が出来ている。
 ヴィットーリオの分析では、おそらく限界で三千ほど。
 それを超えればヴァールシャインの身体はまた崩壊を始めてしまうだろう。
 まあ、これは構わない。
 無限に生み出すことが出来たら、万が一暴走してしまった際に歯止めが効かなくなってしまう恐れもある。
 自壊させるように命じれば何とかならないでもないが、念のための安全装置は必要だろう。
 むしろ数的な制限を早めに見極めることが出来て僥倖、と捉えるべきか。
 自軍の戦力については『多過ぎる』ということはないし、アインストが三千体もいれば余程のことがない限りは負けることなどあるまい。
 ハルケギニアの国の一つや二つくらいなら簡単に滅ぼせそうである。
 もっとも、滅ぼしたいのはあくまでエルフなのだが。
 さて、問題は。
「そのアインストの制御……ですね。今のままでは生み出しても無差別に破壊や殺戮を行うだけですから」
 そう遠くない将来に自分が始める『聖戦』には、ハルケギニア中の軍事力を総動員させる予定だ。
 無論、その中にはアインストも組み込みたいと考えてはいるのだが、組み込んだ戦力が敵味方の区別なく暴れられては困る。
 常に暴走しっぱなしの力など、いっそのこと無い方がマシだ。
 整然と隊列を組んで……とまでは言わないが、せめてエルフだけを攻撃対象にしてもらわなくては。
「……我らは……人間の識別や選別を行うようには……造られていない。それでも選別を行いたいのならば……我か……あるいは我を通して貴様が……操らねばならない……」
「成程」
 使い魔から懸案事項についての解答を貰い、頷くヴィットーリオ。
「ならば、訓練を積んでいく必要がありますね……」
 ヴァールシャインと感覚を繋ぎ、念でアインストを操作する。
 一朝一夕に出来ることではないだろうが、地道にやっていくしかないだろう。
 ……確かに自分の目的は『聖戦』の発動とその勝利であり、可能な限り速やかにそれを果たす必要があるが、だからと言って焦り過ぎてはいけない。
 磐石の態勢、万全の備えで臨む必要がある。
 何故なら自分の双肩には、このハルケギニアの運命がかかっているのだから。
「……………」
 決意を新たにしたところで、ヴィットーリオはまた別の懸案事項に取り掛かる。
414名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:00:28 ID:kXCb5jDR
支援
415ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:02:30 ID:6voA81Jb
「……しかし、トリステインの『虚無』の担い手がこの戦に参戦しなかった、というのは予想外でしたね」
 ヴィットーリオが思い描いていた展開では、トリステインの『虚無』の担い手はこの戦に参加するはずだった。
 それによって、呪文の一つくらいは覚えてもらう予定だったのだ。
 自分の『記録』のように必ずしも戦闘に利用の出来る『虚無』の呪文を修得してくれるとは限らないが、何もないよりは覚えてくれた方が良いに決まっている。
「ふむ」
 トリステインの『虚無』に目覚めた人間は、九割がた特定している。
 公爵家の三女。
 実際に会ったことこそないものの、得られた情報から分析するに間違いなく戦に参加すると思っていたのだが。
「これは若干、軌道を修正する必要がありますか……」
 この戦にトリステインの『虚無』が参加しないこと自体は、大した問題ではない。
 要は最終的にトリステイン側が勝てば良いのだから、イザとなれば自分が手を出してアインストを出現させればそれで済む。
 トリステイン・ゲルマニア連合軍は戦に勝利し、自分はアインスト操作の訓練にもなり、まさに一石二鳥。
 今アルビオンで行われている戦については、これでいい。
 問題は、トリステインの『虚無』の今後の動向だ。
 確か彼女はアンリエッタ女王と幼少の頃からの付き合いがあり、その願いならば一も二もなく引き受けるという調査結果が出ていたはずだったが、彼女はそれを突っぱねた。
 これではやがて行われる『聖戦』への参加も拒否されてしまうかも知れない。
 アルビオンとの戦を拒否した人間が、『聖戦』に参加する可能性は……『真実』を告げればどうなるかは分からないし、直接話をしたわけでもないので何とも言えないが、決して高くはあるまい。
「トリステインの『虚無』が欠けたまま『聖戦』に臨む、ですか」
 あまり考えたくない事態である。
 だがどうするか。
 素直に説得に応じてくれるくらいなら、最初からアルビオンに向かっているだろう。
 洗脳などしたら『虚無』の力の源である『心の動き』が鈍化してしまうかも知れない。
 殺してしまって別の人間が『虚無』に目覚めてくれるのを期待する、というのも効率的ではない。
 と言うか、これはどうしようもない場合以外は避けたい。
 せっかく『エクスプロージョン』という攻撃用の魔法を覚えてくれているし、次のトリステインの『虚無』がそれを修得してくれるとも限らないのだ。
「……………」
 ならば彼女の説得が出来る誰かを、こちら側に引き込むか。
 しかし女王の命令すら拒否してしまうような人間に対し、誰を味方につければ良いのだろうか?
416ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:04:00 ID:6voA81Jb
「……あの少女が逆らえない、あるいはあの少女にとって多大な影響を与える者……」
 ヴィットーリオは地下室に備え付けられている本棚をあさり、少女についてのあらゆる情報が記載された紙の束を引っ張り出す。
 『虚無』と思しき人間、および『虚無』となり得る可能性のある人間については、生まれや経歴、対人関係、性格などの情報を把握出来るだけ把握していた。
 ハルケギニアに6000年以上の長きに渡って根付いているブリミル教、その力の一端と言えよう。
 だが、その力を持ってしてもアルビオンの『虚無』についての情報はほとんど掴めていなかった。
 その理由はいくつか存在する。
 第一に、アルビオンの『虚無』の担い手たる人物が人里を離れて生活し始めた初期の頃には、本人のあずかり知らぬところで担い手の『保護者』が世話を焼き、自分たちに近付く怪しい人間をとにかく片っ端から排除していること。
 第二に、担い手はその『虚無』を(当人は『虚無』という自覚はないが)駆使して自分の素性がバレそうになるたびにその相手の記憶を消去していること。
 第三に、最近になって担い手に使い魔として召喚された人間が『(本人の尺度では)軽く』情報操作を行っていること。
 と、このような理由でアルビオンの『虚無』の担い手についての情報は漏れにくくなっていたのだ。
 閑話休題。
「…………む、う」
 ヴィットーリオは、少女の情報が記載された紙の束をペラペラとめくって情報を検分しつつ、何か付け入る隙はないかと考えを巡らせる。
 だが、どうにも決定的な人物がいない。
 ……そもそもアンリエッタの要求を拒否している時点で、彼女の性格や対人スタンスは以前のそれとは変容しているはずなのだから、過去の情報にこだわるのは意味がないのかも知れない。
 それでも、何かヒントくらいはないものか……とヴィットーリオは彼女の実家周辺の地図を見つめる。
 近所付き合いというわけでもないにしろ、既知の人間の言葉ならば少しは心を動かされる可能性もあるからだ。
 そして。
「む? これは……」
 公爵家の広大な領地。
 その土地に寄りそうようにして存在する小さな領地に、ブリミル教の若き教皇は目を付けた。
417ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:06:00 ID:6voA81Jb
「……何の用だ、シュウ・シラカワ」
「いえ、特には。強いて言えば、あなたの様子を見に来た……というところでしょうか」
 ユーゼスはいきなりやって来た来訪者へと怪訝な顔で問いかけたが、その来訪者はあくまで涼しい顔のまま答える。
 相変わらず読めない男だ……などと思いつつ、ユーゼスは更に問いを重ねた。
「私の様子を? 何のために?」
「あなた自身はともかく、少なくとも私のいた世界では『ユーゼス・ゴッツォ』と言えば極悪人の代名詞のようなものでしたからね。その同存在であるあなたに注意を払うのは当然でしょう?」
「……確かに」
 仮にこの世界に宇宙刑事や光の巨人が存在していれば、ユーゼスとて干渉はしないまでも動向を見張るくらいはしているはず。
 ましてやそれが自分の手の届く範囲にいるのなら、尚更だ。
 つまりシュウの行動は当然と言えるのだが……。
「いい気分はしないな」
「それはその通りだと思いますが、しかしあなたにだけは言われたくありませんね、ユーゼス・ゴッツォ」
「……………」
 自分の過去の所業を振り返るに、返す言葉が見つからない。
 しかし『表舞台には出ず、裏から色々と手を回してきた』と言うのなら、確かこの男もそうではなかったか。
「ともあれ私はあなたに対して警戒はしていても、特別に危険視しているというわけではありません。……極端な話、あなたが何をたくらんで何をしようとも、私に干渉してこない限りは構いませんし」
 シュウはそこで一端言葉を区切り、目を細めてユーゼスを見る。
 そして『ある事柄』を自覚させるため、あらためて宣言を行った。
「―――もっとも、私に対してわずかでも危害を加えようと言うのならば、その時は容赦しませんが……」
「……分かっているつもりだ」
 ユーゼスとしても、シュウと事を構えるつもりはない。
 この男の存在は、少なくとも自分の手には余るのだ。
 これは別に『絶対に勝てない』という意味ではないし、上手くすれば出し抜くくらいは出来るかも知れない。
 だが、出し抜いたとしても手痛い報復を受けるのは間違いあるまい。
 『周囲から天才と認定されただけの人間』と『本物の天才』との差、とでも言おうか。
 とにかく勝てる確率は、限りなく低い。
 もっとも、シュウ・シラカワとて自分から敵を作るタイプではないようだし、変に利用しようとしたり危害を加えたりしようとしない限り大丈夫だとは思うが。
 さわらぬシュウ・シラカワにタタリなし、というやつである。
「……それで、お前は私の様子を見に来ただけなのか?」
「いえ、本来の用事はこちらの学院に勤めているミス・ロングビルを迎えに来ることでしたからね。あなたに会うのはついでのようなものです」
「ミス・ロングビル? ……ああ、そう言えば以前の一件で親しげに話していたな」
 シュウもこのハルケギニアで活動するための足がかりくらいは持っている、ということだろう。
 それが自分のいる魔法学院の職員だったという点が少々引っ掛かりはするものの、ここは気にしないことにしておく。
「そういうわけですので、ご婦人を待たせないためにも私はこのあたりで失礼させていただきます」
「……………」
 無言でシュウを見送るユーゼス。
 別にこの男に対して執着や因縁があるわけでもないし、それこそ手を出すつもりもないのでアッサリしたものである。
「ああそうだ、『ご婦人』という言葉で思い出しましたが……」
 と、ドアを開けて部屋から出る直前になって、シュウはユーゼスの方を振り向いた。
 その顔には、何かのたくらみ……と言うかイタズラを思いついたような微笑が浮かんでいる。
「……何だ?」
「日頃お世話になっているご婦人には、何かをしてさしあげた方がいいと思いますよ」
「?」
「余計なお世話かも知れませんがね。それでは」
 バタンとドアを閉め、退室するシュウ。
 後に残される形となったユーゼスは、今のシュウの言葉を反芻し……。
「…………何が『余計なお世話』で、そしてそれがなぜ私の周囲にいる女の話に繋がるのだ」
 『それ以前の問題』について思案を巡らせる。
 ―――さしものシュウ・シラカワと言えども、この男の鉄骨入りの鈍感ぶりまでは予測しきれないようであった。
418ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:08:00 ID:6voA81Jb
 翌日。
「ユーゼス、荷物は詰め終わった?」
「完了している。あとは機体に火を入れるだけだな」
「よろしい。それじゃ準備なさい」
「了解した」
 ルイズとユーゼスはラ・ヴァリエールに一時帰郷するべく、発進準備の済んだビートルに荷物を詰め込んでいた。
 なお帰郷の理由は周知の通り、魔法学院が閉鎖されてしまうためである。
「はあ……。まったく、いくら戦の真っ最中とは言え、慌ただしいったらないわね」
 そんな主人と使い魔の様子を、エレオノールは不満そうな顔で眺めていた。
 その不満の理由は、
「……アカデミーに戻ることになってユーゼスとの時間が減るのがそんなに嫌なんですか、姉さま?」
「なっ……! どっ、どうしてそういう話になるのよ!?」
 妹によって限りなく図星に近い指摘をされ、多いにうろたえる11歳年上の姉。
「どうしても何も、わたしはただ見たままを思いついたままに喋ってみただけですけれど?」
「ぬ……、き、貴婦人たるもの、そのような思慮の浅いことは……。……?」
 その時、エレオノールは妹の変化に気付いた。
 ―――おかしい。
 ルイズの雰囲気が違う。
 劇的では決してない。
 だが、『僅か』とか『少し』とか言うほど小さくもない。
「?」
 はて。
 見た目は全く変わっていないはずなのに、何だか、こう、自分の知り得ない未知の要素がプラスされているような。
 そんな気がする。
 それに、こんな風に自分をからかうようなことを言うなんて、これまでのルイズからしてみれば信じられないことだった。
 年が明ける前は何かにつけて自分に張り合ってきたが、今はそれも随分と大人しくなっているようだし。
 いくらユーゼスの影響があるとは言え……いや、むしろユーゼスの影響があるのならこんな風になったりはしない。
「???」
「……どうしました、エレオノール姉さま? わたしの顔に何かついてます?」
「い、いいえ、何も」
 これまでに片思い程度は幾つかあれどマトモな恋愛経験ゼロ(現在進行形が一つあるが)、つまりマトモな失恋経験もゼロな28歳のアカデミー主席研究員はそんな妹にひるみつつ、しかし圧倒はされまいと気を引き締めた。
 ちなみに年が明けたので、ハルケギニアの住人は自動的に年齢が一つプラスされている。
「ん……ゴホン」
 気を取り直し、エレオノールはルイズに向き直ってからいたわるように話しかけた。
「……ルイズ、もういいの?」
「は? ……もういいって、何がです?」
「えぇと……何だかよく分からないけど、ここのところ塞ぎ込んでいたでしょう? 部屋からもほとんど出て来てなかったし、何か余程のことがあったのかと思ってたんだけど」
 遠回しに『あなたのことが心配だったのよ』と伝えてくる長姉に対して、ルイズは苦笑しつつ『結果だけ』を話す。
「ん……、そうですね。自分でも呆れるくらい泣きまくって、言いたいこと言ったら意外にスッキリしちゃいました」
「え? あ、ああ、そう……」
 事の発端も途中経過も全然知らないのでよくは分からないが、とにかく自己解決したらしい。
 もしかしたら雰囲気が変わったのは、その件に関係があるのかも知れないが……。
(う〜ん……)
 何なのだろう。
 あまり深く首を突っ込むことではないとは思うものの、何となく気になってくる。
 女が一晩で劇的に変化する、何か。
(……まさか)
419ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:10:00 ID:6voA81Jb
 ―――いや、いくら何でもそれはない。
 魔法学院には女しかいなかったのだし、第一、男がいたとしてもあのルイズがそう簡単に許すとは思えない。
 ………………許しそうな人物に一人だけ心当たりがないでもないが、ルイズは自分の使い魔さえもシャットアウトしていたのだからそれもないだろう。
 でも、万が一そんなことになっていたら。
 自分は比喩とか冗談とかを抜きにして、その『心当たり』である銀髪の男を殺してしまうかも……。
(って、それはないか)
 個人的な感情を極力殺して見てみても、二人の間にはそういう雰囲気はない。
 そうなっていたら『相手』の方はともかく、ルイズの方の変化がおかしいからだ。
 ルイズの、少なくとも元の性格は分かっている。
 要するに自分の縮小版みたいなものである。
 だったら、もし自分が彼と『そういうこと』に、なっ……たと、……して………………。
「――――――――――っっ!!!!」
 エレオノールの顔が、物凄い勢いで真っ赤になった。
 シミュレーションした自分のリアクションと、ルイズの今の様子を照らし合わせようとしたのだが、その前段階でとんでもないことを考えてしまったためである。
「……っっっ、っ、〜〜〜!!」
 うつむいて顔を押さえるエレオノール。
 と、そこに、様子がおかしいことを察したユーゼスがやって来た。
「どうしたのだ?」
「さあ?」
 ユーゼスの問いに、やれやれと言った感じで答えるルイズ。
「どうせ姉さまのことだから、何か変なことでも考えたんじゃないの?」
「なっ、ナニって!?」
「……何を言っている、エレオノール」
「うぐぐ……!!」
 ナニかを喋れば喋ればほど、考えれば考えるほど墓穴を掘っていきそうな気がする。
(お、落ち着きなさい、エレオノール……)
 すぅ……。
 ……はぁ。
 エレオノールは深呼吸して気を落ち着かせようとし、ついでに自己暗示を試みる。
 まあ待ちなさい、私。
 冷静になるのよ。
 ただ想像しただけでこんなになるんじゃ、いざ実際に……いやいやいや。
 とにかく、私、冷静に。
 私、うろたえないで。
 私、落ち着いて。
 私、自信持って。
 私、余裕たっぷり。
 私、貴族。
 私、名門ラ・ヴァリエール家の長女。
 私、アカデミーの主席研究員。
 ついでに私、綺麗。
 凄く綺麗。
 ハルケギニアで一番綺麗。
 ルイズもカトレアも何のその。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:10:13 ID:kXCb5jDR
聖帝様もユーゼスも、どちらもスーパー自分ペースだけど、どこまでも正反対だよなあ
421名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:11:04 ID:qBrLP1ny
支援
422ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:12:00 ID:6voA81Jb
「……よしっ」
 一体何が『よし』なのか自分でもいまいちよく分からないが、とにかく頷いて気を取り直すエレオノール。
 と、その時。
「あれ?」
 エレオノールはふと何かに気付いて、周囲を見回した。
 だが何もない。
 ……いや、そもそも自分は一体何に気付いたのだろうか。
 首をかしげて今の感覚を思い出そうとするが、そこに妹から声をかけられる。
「姉さま、少しは落ち着いてください」
「…………言うようになったわね、ルイズ」
「おかげさまで」
「エレオノールの様子が安定しないのはいつものことだと思うが」
「うるさいわね」
 まあいい。
 どうせ何か小さい物音が自分にだけ聞こえたとか、あるいは空耳とかだろう。
 気にする必要もあるまい。
「それじゃ二人とも、あとでヴァリエールの屋敷で会いましょう」
「はい。エレオノール姉さまもお気をつけて」
「ええ」
 そしてエレオノールはルイズからユーゼスの方に視線を移し、一瞬、彼と視線を絡ませて。
「待っている」
「ええ、待っていなさい」
「フッ……」
「ふふ……」
 一言ずつの言葉と、少々の笑い声を交わすと、ユーゼスは踵を返してビートルに乗り込んでいく。
 ルイズもそれに付いていく形で乗り込んでいったが、そのときに聞こえた、
「……あ〜……ったく、やってらんないわ……」
 という呟きは何だったのだろう。
 ルイズが乗り終わると乗降口の扉が閉められ、それから10秒もしない内にプラーナコンバーターを動力源としたビートルは飛び立ち、物凄いスピードでラ・ヴァリエールの方角へと消えていった。
 それを見送り終わると、エレオノールは学院の正門前に待たせてある馬車へと足を進める。
「さてと」
 まずはアカデミーに戻って、溜まっているであろう仕事を片付けなくてはならない。
 何せ三ヶ月も空けていたのである。
 仕事の量にもよるが、しばらくは実家に戻れそうになかった。
423名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:12:28 ID:G3Yfb2u8
支援
ヴィットーリオに精神汚染フラグが立ったような
424ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:14:00 ID:6voA81Jb
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<……………………>





<……あれだけ接近している状態でもユーゼス・ゴッツォに気付かれないのであれば、問題はないな……。
 あとはタイミングを見計らって、あの女の意識に接触すればいい……>
425ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/05/13(木) 21:16:00 ID:6voA81Jb
 以上です。

 つなぎ回と言うか、あんまり動きのない回でしたな。
 まあ、次回から色々と動かそうとは思っているのですが。

 それにしてもシラカワ博士に解決出来ない事象って、少なくともスパロボ世界じゃ誰にも解決出来ないような気がしますよね。

 それでは皆様、支援ありがとうございました。
426萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:20:13 ID:e+iyw2dF
お二人とも乙でした。
この後、というのはちょっと勇気がいりますが、30分後の21:50ごろより
21話の投下を行いたいと思います。
427名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:20:51 ID:G3Yfb2u8
ラスボスさん乙
待ちに待ってましたよー

カトレアとユーゼスに迫り来る影
・・・誰だ?!
しかし、アインストと積極的に精神感応とかしてたら
そのうちヴィットーリオが「創造」とか「破壊」とか果ては「噛み砕け」とか言い出しそうw

まぁシュウやユーゼスがいればヴァールシャインくらいならなんとかなるのだろうかな
隠しボスとしての性能のヴェーゼントが出てきたらネオでも倒されてしまうかもしれんが
428名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:22:38 ID:kXCb5jDR
投下乙ー
もひとりの失恋娘の反応が気になるところですが。


あと、爆撃期待
あっちゃもこっちゃも戦争で大変だ
429名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:23:36 ID:qBrLP1ny
ちょっと待った、規制のせいで普通のカキコミがないから既に容量が危険域だ
と言うことで新スレ立ててくる
430名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:26:04 ID:qBrLP1ny
ほい次スレ
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part275
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1273753488/

残り15KB弱なので、足りるようならこちらでも

431萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/05/13(木) 21:28:56 ID:e+iyw2dF
新スレありがとうございます。
テキストファイルで16KBなので次スレに投下しますね。
432名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:50:24 ID:wJbx6Tox
ラスボスの人乙!
なにこの姉さまかわいい
433名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 21:52:39 ID:m+VzlMg9
ラスボスの人乙
エレオノールの方は前にユーゼスが精神干渉を防御したから大丈夫なんだよな
でもカトレアは…
434名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 22:33:52 ID:24VA86Sg
ヒャッハー!
聖帝様は乙だー!
435名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/13(木) 23:36:27 ID:1a6mTkVt
聖帝様は乙です

あのころのジャンプはこれくらいのスプラッタな表現は普通にあったな
としみじみ思うおっさんであった
436名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 08:51:14 ID:MtygIqP/
ルイズに召喚されたのが「ワルド・ワルジェクト・ワルディーノ」とかいう二次的オリジナルはスレチ?
437名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 08:52:49 ID:pzjunevm
カエレ
438名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 10:21:40 ID:tx0UcYWD
しかしヴィットーリオってほぼ全読者から嫌われてない?
原作の方でも路線変更前でも後でも嫌われてる印象があるし。
439名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 10:40:14 ID:8/+AqYJS
俺はヴィットーリオを<評価>したいけどな
嫌だけどコンチクショウやるじゃねーかって
440名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 11:19:15 ID:tx0UcYWD
そうだね。評価出来る様な話にして欲しいよな。”特に”ノボルには。
441名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 11:33:03 ID:TvcAxUkA
>>438
まあ、女性を誑かしては利用してるキャラなんてどんな理由があろうが好かれないんじゃね?
442名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 11:37:09 ID:Ob/GMA//
>>438
手段も目的も外道だからなぁ……。それで本人だけ本気で善を成してるつもりというのが、ラスボスっぽさではなく小物っぽさに繋がっているというか。
んなもんで、ライバルキャラとしてジョセフ以上の魅力がないんだな。倒した時のカタルシスも仲間になった時の驚きもどっちも微妙な感じ。
443名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 11:46:30 ID:tcVY43qa
ラスボスの人乙でしたー。

これは……エレオノールに近づいてるのは、闇脳か……?
とりあえず、洗脳も、更にその洗脳を解くのもスパロボオリの十八番ですからね。

それで「どうも自分はエレオノールに好意を抱いているらしい」ぐらいにでもユの字が自覚してくれればめっけもんでしょうか。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 12:06:20 ID:wwKc84BT
ヴィットーリオこそ中ボスにしてほしかったわ。
ジョゼフは結局狂人で終わってしまったし
狂気を抱えてはいるがハルケだけではない
東方、異世界も支配しようとしている野心家の覇王な
王道ラスボス!って感じになってほしかったが・・
445名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 12:08:13 ID:+ssSbxOZ
ヴィットーリオが敵かどうかもわからんじゃないか

手段を選ばないだけのガチ確信犯って可能性もある
446名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 13:43:47 ID:E4yinmUI
原作の方でもヴィットーリオだけは悪者のままでいて欲しい
ジュリオみたいに内心で葛藤してたりはげんなりだぜ
こっちのヴィットーリオもヴァールシャインを逆に食うぐらいのことを
447名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 14:38:45 ID:GX129kHK
>>446
ジュリオも↓みたいに悪役を貫いて欲しかったな。

「ジョゼットを覚えているか?お前はまだ年端も行かぬ少女まで誑かした!」
「ん〜ああ あの時の娘のことだな あいかわらず甘さがぬけんな〜
たかが娘のひとりやふたり利用したとてそれがなんだというのだ!!
そんなクズどもの想いなど 大隆起の痛みの非ではないわ!!」
448名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 14:41:41 ID:R5gd8+i6
ヴィットーリオって別に悪役じゃなくね?

灰色だよ灰色
449名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 15:21:45 ID:8/+AqYJS
嫌いだから

悪役お前な。って言う心理

ラノベ脳に陥ってるんですよ

ゼロ魔わるくない
450名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 15:27:03 ID:tx0UcYWD
ジョゼフなんかはかなり好きだったんだけどねえ……とことんつまらん死に方をさせてくれたからなノボルが。
451名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 15:36:35 ID:1wLDHkRn
まあ、SSのスレで本編批判とかはほどほどになー。
というかあそこで盛り上げて死んだら、以降の展開がさせにくかったというのはあると思うよ。
自分的にはあそこらはむしろ好きかな。
タバサパパンが実は影で色々と暗躍してたとかの方が、話としては色々と作りやすいしな!
452名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 15:48:48 ID:2B/0vVEI
原作のヴィットーリオの立ち位置や行為からして、悪役以外のパターンが思いつかないってのはあると思うが。


しかしラスボスの人が聖帝様の代理をして、聖帝様がラスボスの人の支援をするか……。
なんかグッとくるな。
453名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 15:51:06 ID:tx0UcYWD
>>451
了解。以後慎みます。

>タバサパパンが実は影で色々と暗躍してたとかの方が、話としては色々と作りやすいしな!

確かに。それのどこが悪い?というか、やってて当然の事で正直ほっとした。
454名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 16:12:30 ID:WQP8zNp9
姫騎士の方のエスターシュ大公もさっさと陰謀暴かれたしなー。
スピーディーな展開は嫌いじゃないぜ。
455名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 18:40:40 ID:feCuucQb
悪役でも、アミバみたいなどうしようもないのから、聖帝様やジャギ様みたいに、色んなのを背負ってるのも居るからな。
しかし、このまま世紀末分増し増しで続けたら、白の国が修羅の国になって、聖帝様がラスボスルートになってしまう……。
456名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 18:40:42 ID:pzjunevm
次スレが立って後は埋めるだけのssスレなんだし、多少羽目を外した議論や考察もアリだとは思うがな。
457名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 18:52:38 ID:oOqcyyee
聖帝の人、乙
まさに世紀末の展開で最後まで一気読みした。てか聖帝様、まだ強くなる気なの!
 
ラスボスの人も乙
ルイズの精神年齢がエレオノールを上回るとは!? 悟りきった感じが出とる。
458名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 20:43:28 ID:NSV9ROyQ
てす
459名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 23:16:32 ID:zuLwWQFr
聖帝とラスボスの人乙!!
聖帝様に付き従う雑魚が、髪型をモヒカンにしそうな勢いなのが笑えるwww
そして、ここでもおマチさん苦労人の相が出ておるぞw

そういえば、代理がラスボスの人とは何か縁でもあるのかな?
確か、以前も聖帝の人の後にすぐラスボスの人が投下したことがあったし・・・。
まさか、知らない間に出来ているのではあるまいな!?
460名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/14(金) 23:29:39 ID:2B/0vVEI
>>459
サウザーと銀髪イングラム顔の二人で、考えてはいけないことを考えかけてしまったではないか。どうしてくれる。
461名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 00:09:54 ID:S15CUfA6
これは聖帝様がラスボス化する流れ
あ、倒す奴いないか。
462名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 00:21:16 ID:5b/KdZh/
これで、今度は魔砲の人と損失実験体の人と魔王伝の人が帰って来てくれたら、
完璧なんだけどなあ。
463名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 00:23:56 ID:bQ+Adoc5
SEED戦記も待ってるんだなこれが
464名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 00:23:56 ID:STJC2vSw
それにしてもここは人気作品とそうでない作品とのリアクション差が激しいな
465名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 01:00:18 ID:HYozLBUT
むしろリアクションがとりやすいから人気作ともいえるわな。
466名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 01:17:08 ID:xi1MYRII
爆熱の復帰を熱烈に願う。
467名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 01:19:57 ID:SiEKOvfz
      ハ,,ハ
     ( ゚ω゚ )  お断りします
    /    \
  ((⊂  )   ノ\つ))
     (_⌒ヽ
      ヽ ヘ }
 ε≡Ξ ノノ `J
468名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 14:28:36 ID:JWg5zz20
ひどい
469名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 18:00:10 ID:ldFHuHOP
>>467
亜人って判断されて普通に契約されそう
470名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 19:24:07 ID:bQ+Adoc5
>>469
ガッカリにも程があるだろw
471名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 19:30:06 ID:bQ+Adoc5
・・・書き込んだばかりだが
ふとこのAAを見てブーンを思い出し
ブーン→フーン→フーン器官→ハヅキ→魔道書召喚→単品じゃ精霊化しないのでダディも
=ハヅキに落第宣告されてキレるルイズ

という光景が
ダディは永く見守ってくれるだろうけどさ
ハヅキとルイズは性格的にソリがあわなそうな
472名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 20:30:58 ID:qYx52Szd
>>471
俺も以前ハヅキ召喚は考えたな。
セラエノ断章召喚して、契約後にルイズの魔力で実体化(艦隊吹き飛ばすエクスプロージョン撃てるんなら
その辺は一応充分ではないかと思った)。
耳が尖ってるので初めはエルフと勘違いされて大騒ぎに、その後精霊と判明してルイズ歓喜。
性格の不一致は特に考えてなかったんで、普通にマギウスになったルイズの成長物として漠然と妄想してた。
473名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 20:34:35 ID:KNgPhE5E
俺的嫁葉月と聞いて
ヤミと帽子と本の旅人の




いやそれは置いといて
AAを召喚するとかってのは物理が許さないかな?w
474名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 20:47:24 ID:bQ+Adoc5
契約すれば精霊化とかご都合的な展開は俺も考えたが
セラエノ精霊化は単純に魔力じゃなくて産みの親だからこそらしい
個人的にハヅキは毒舌萌えなんで
是非ルイズを罵りまくってほしい
まぁそんなわけで一発ネタの域を超えられないのぉ
実際にセラエノに手を出したらダディみたいに目玉抉るほどじゃないにせよ汚染されるか・・?
艦隊ふっとばすエクスプロージョンの魔力を使えば鬼械神召喚は出来るだろうか・・・

・・・風属性なんだしタバサが召喚しても面白いかもしれんですな
そういやここじゃジョゼフが奴にエイボン貰ったりおマチさんが妖蛆にレイプ状態だったりしたっけ・・・
助けてやってくれー
475名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 21:18:28 ID:zuvXcAb/
>>473
> AAを召喚
小ネタでトンファーモナーがいたね

最近の創作じゃなくて英雄譚とかから召喚とかはありなのかなあ
ラストシーンで行方不明になるタイプの
476名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 21:36:59 ID:KNgPhE5E
>小ネタでトンファーモナーがいたね
ををw読みたかったナ

>英雄譚とかから召喚
十分ありでしょう
AA召喚に比べればw
エンキドゥとかガルガンチュア&パンタグリュエルとか
ガルはなんかのアニメに出て来た記憶があるけど
>ラストシーンで行方不明になるタイプ
それはわたしの知識外だなあ


ルイズがエヴァンゲリオン零号機召喚とかも見てみたいwどうなることやら
477名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 22:51:03 ID:5Vhsp/Cr
デモンベインか。

ネクロノミコン機械語写本のリトル・エイダもいいな。
最高の状態のデモンベイン喚び出すか。
478名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 22:53:33 ID:xokPx3oB
>>476
トンファーのならwikiにあるぞ
小ネタの「デルフリンガーの憂鬱」ってやつ
479名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 23:00:30 ID:jLoWYNL3
聖帝さまの流派や奥義の開設欄、いつのまにかルイズが南斗爆殺拳の正等伝承者になってる
480名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 23:23:46 ID:ljJS1OAz
間違いではないw
481名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/15(土) 23:32:04 ID:+T766QpV
CHAOS;HEADから西條 拓巳を召喚とか面白そうだと思ったけど、
召喚できるんだろうか(正体的な意味で)
こんだけ色々召喚されてるのに今更だが
482名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:22:20 ID:dSZt1n3a
>>478
トンファーだけにdだなw
483名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:27:16 ID:dSZt1n3a
>>478
探してみたんだがそれらしきものが見受けられないんですが?
484名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:29:40 ID:/c9hBchW
ジャイアントロボ、もしくは鉄人28号召喚
485名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:34:22 ID:RCRfBtBC
魔法を片っ端から無効化する大怪球フォーグラーを召喚で
486名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:37:13 ID:tFVW5YUo
>>476
> 行方不明
ディートリッヒ・フォン・ベルン(狩猟の最中、謎の黒い馬に拉致される)とか
朝夷奈三郎義秀(安房に亡命後、行方不明)とか
老王とおっさんだが
487名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:38:41 ID:ZCLvnSy/
西条凪か孤門一輝召還
488名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:43:46 ID:F6xUHnxR
>>481
さしずめ「ゼロの誇大妄想狂」ってとこか。
けど、PCもゲームもマンガもアニメもない世界に召喚されて大丈夫なのか、タク。
ゼロ魔が二次元として存在してれば、或いはルイズタソ(;´Д`)ハァハァかもしれんがw

フーケもワルドの正体も知ってるタクだったが、妄想で次第に世界が歪んでいく……とか。
行けそうな気がしないでもない。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:51:02 ID:dSZt1n3a
おーいID:xokPx3oB?
490名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/16(日) 00:53:55 ID:dWI6RDxH
491名無しさん@お腹いっぱい。
>>489
478じゃないが、ページ内検索すりゃあ一発だ