【IF系】もしゼロの使い魔の○○が××だったら24
ワルド召喚っていままであったっけ?
>>1乙です
>>3虚無と烈風では一応ワルドが教皇に召喚されて、全力で逃亡中だよ。
もしもアンリエッタが(CV:大竹みゆ)で殺意に溢れていたら
前スレ988
それサイトという名の字伏じゃね?
イザベラとシャルロットが超の付くシスコンだったら
イザベラは一人っ子だし、シャルロットは生まれてすぐに離されちゃってるからあまり変わらないだろうね
>>9 従姉妹間じゃシスコンじゃなくてカズコンか。
イザベラ「キングカズは」
シャルロット「神だと思ってる」
俺は室伏に見えた
サイトがハンマー投げて戦うのか?
ふつうに強そうで困る
つまり、こういうことだな?
右腕:ハンマー投げ
左腕:水泳
頭脳:将棋
語憚:野球
さらに言うと
右腕:ハンマー投げ→室伏
左腕:水泳→北島
頭脳:将棋→羽生
語憚:野球→ミスターさん
記すことすら憚られる背番号51番
砲丸投げの記録で貴族としてのランクが決まるハルケギニア
陸と空だけの砲丸投げだけじゃ不公平だ!
水中の水泳、頭脳の将棋、総合の野球も入れてくれよ!
総合ってのはちょっと違うか・・・
それに憚られてるんだし、野球は入れなくていいや!
エヴァSSの「大和撫子アスカちゃん」および「よわよわアスカちゃん」を読んでて思いついたIF。
もし、ルイズが内気でやさしくお淑やかで小動物ちっくな娘だったら。
・ルイズ
基本的には、頭もよく、努力家だが、魔法が使えないのは原作同様。ただし、爆発ではなく「煙」が出る。
魔法が使えないコンプレックスから、必要以上に丁寧で控えめで人当たりがよく、謙虚。
カトレアと同様、動物好きだが、それ以上に園芸(とくに花を育てる事)が好き。
少女趣味(おとめちっく)な性格ゆえか、原作とは逆に料理裁縫その他が得意。
・キュルケ
家同士では対立しているはずだが、なぜかルイズは「キュルケちゃん」と呼んで懐き、調子の狂うキュルケ。
学院では、以前からの唯一の顔見知り(ルイズいわく「お友達」)ということでさらに頼りされ、本人も満更ではなく、世話を焼いている。引っ込み思案なルイズを引っ張る役目。
・タバサ
原作とは逆に、必要以上に雄弁で明るく、一見社交的だが、それは本当の自分を偽る仮面。ふとした契機から、本当の自分を見抜いたルイズを警戒しつつ、徐々に打ち解けていく。
・才人
ルイズの控えめな愛らしさに萌え、さらに「お兄ちゃん」と呼ばれたことで「心の妹」に決定。全力をもってルイズを守ろうとする。
……とか。ちなみに、このルイズのイメージは、某S団のマスコットメイド。いや、胸はないけどね。
あの環境下でルイズが以下にそういう性格になったかが問題になるなぁ。
まあそれも含めて、if、なのかな。
魔法学院ならぬトリステイン職業訓練校
>>23 実家にいるころから叱られすぎて
もう必要以上に叱られたくないという防衛本能(怯え?)がプライドを上回ってそうなった、とか
だとすると、誰からも愛されたいという願望からか。それはそれできっつい話になりそうだなぁ…。
願望までは考えてなかったけど、それはそれでシリアス展開もできるんじゃないかと愚考してみたり
陰もなく、あくまでコメディで
>>22みたいな性格に仕上げるのも…う〜ん、難しいような
ああ、ごめんごめん。あんまり暗いのはダメだよなw
ルイズ魔法の練習→爆発がルイズに直撃→衝撃で性格が一変
でどうだろうか?コメディならある程度強引な展開も許されると思うし。
>>22見たいな性格になって、何故か泣きながらエレ姉様が元に戻そうと奮闘したりとか。
や、ダメってことじゃないんよ
>>26を見てぼんやり考えたのも、ルイズがいずれ自分の内面と向き合う展開って程度だし
そう暗くはないかな…、こんなん書く技量ないけどw
ギャグコメならそれもアリかあ
で、奮闘するも戻らずそのまま学院へ(心配した家族が誰か同伴でもして)
魔法が使えなくても、可愛らしい小動物系ならもてるだろうなぁ、ルイズ。
…カリンちゃんが同伴したら、変な男が寄らないように毎日がカッタートルネードなんだろうなぁ。
カリンちゃん同伴はいいよなあ
前スレで出てた妄想にいまだにときめいてるよw
銀の鏡に触れた瞬間、異世界ハルケギニアに飛ばされたサイト。
そこには聖女のような少女ルイズがいた。ルイズは初めての魔法の成功に喜び、
サイトを歓迎する。その愛おしい姿にサイトは一目惚れ!
ハルケギニアに住むことを決意したサイト。しかし彼はまだ知らない。
ルイズが好きな貴族は沢山いること。そして、最強にして最凶のツンデレ母カリーヌが彼の前に立ちふさがること。
彼は身分を越え世界を超え、命賭けの恋を実らせることが出来るのか――?
…あれ、これなんてラノベ?俺も書く技量と暇ないけど…。
と書き忘れた。前スレのあれもいいよね。あのネタも誰か使ってくれないかなぁ…。
>>32 >最強にして最凶のツンデレ母カリーヌが彼の前に立ちふさがること。
これさ
ただ立ちふさがるだけじゃなく、
気に入ったサイトを娘の旦那兼ヴァリエール一門の後取りとして
相応しくなるようビシバシ鍛え試練科すデレツンなサド母
にすると更にワロスワロスになる希ガス
>32
やべぇ、それ、すごく見たい希ガス。
>22
他の人
・公爵
全力で親馬鹿(とくに末娘を溺愛)……あれ、あんまり本編と変わらない?
・カリン様
厳しくしようとしつつ、つい末娘には甘い顔をしてしまう(とくに「お母様だいすき〜」とか言われると)
・エレオノール
全力でルイズを猫可愛がり。末妹のためなら、アカデミー長だってブン殴ってみせらぁ!なダメ姉。
かなりの過保護で、ルイズに悪い虫がつかないよう、いろいろ学院に顔を出して牽制。
「え、結婚? そんなのあとあと! ルイズが嫁いでからよ!」
・カトレア
本編と変わらず仲良し。ただし、ルイズを着せ替え人形にして遊ぶのだけは、本人はちょっと勘弁してほしい。
・公爵家使用人たち
その大半が「ルイズ様親衛隊」もしくは「ルイズ様を見守る会」に加入済。ルイズ様のためなら火の中水の中
・学友たち
魔法が使えないと馬鹿にする者はごく少数。「可愛いは正義!」を合言葉に、多数の男子と一部の女子が
退屈な学生生活の潤い・マスコットとしてルイズを愛でている。
・マルコメ
ロリコン紳士に開眼、最初(ひとめみたとき)からクライマックス
・ワルド
才人と壮絶な義兄争いをする。「僕がいちばんルイズの”兄”にふさわしいんだぁ!」
……こんな感じ?
親衛隊はやりすぎかもな
爆発してもみんなにこやかに見守る程度で。逆にプレッシャーかもしれんけど
ルイ厨きも
もしモット伯がむちゃくちゃ強かったら
戦う立場じゃないから意味ねえなあ
>>34-35 希ガスなんて言ってるの初めて見た
ちなみにワロスワロスってのは何?
>>36 周囲がにこやかだと、少なくとも原作ルイズの性格は形成されないだろうなぁ。
原作ルイズの性格は、周囲の攻撃に対して「負けてたまるか」ってな感じの反骨心から成り立ってるものだろうし。遺伝もありそうだけど。
周囲の反応に合わせて、ルイズも表面上はにこやかで模範的な優等生だが、内心ではプレッシャーやらなんやらで屈折してる、とかそんな感じか?
または周囲の対応に甘えてグダグタになってるか、プレッシャーに負けて心が折れてるか。
原作より面倒くさい性格になってそうだなぁ。
というか、外面優等生で内面屈折って、そりゃシャルルのキャラか。
カトレアの影響が強い+馬鹿にされ過ぎて悟ってマイペースルイズ
いつもぽよよーんとしてるところに学院に隠れファン多数
無敵のルイズと書いてゼロのルイズ
魔法が出来ないどころか爆発を起こしたりするけれど、
愛らしい容姿と性格で敵を作らないことからそう呼ばれる
とか?
精神的に追い込まれて、というのだと二重人格にするというのもありかも。
原作のルイズが一応主人格で、今まで上がった事が原因で、カトレアのような人格が形成されて、
まるでエレオノールとカトレアが共生しているような奇妙な状態に。
これで昼は聖女のルイズ、夜はツンデレルイズになったりして、サイト大混乱とか。
どうでもいいだろうけど、敵を作らないから無敵ってのは青の炎って小説のパクりね
ごめん、途中で書き込んだ
俺がそっからパクったってだけで、他意はないからね
実は幼少時アカデミーの実験台にされて
二つの頭脳を持ったルイズ
ある時爆発の衝撃でスイッチが入って無力なツンデレから狂暴で冴えるルイズに
156のルイズか・・・
敵を作らないから無敵ってのは宮本武蔵か塚原卜伝じゃね
50 :
35:2010/04/21(水) 10:20:40 ID:h3nKmvBm
>22からの流れで、ちょっとだけ書いてみた。
-----------------------
「ご、ゴメンなさい、ゴメンなさい、ゴメンなさい……」
目の前でペコペコ頭を下げている女の子を見たときの才人の脳裏に浮かんだ第一印象は、「ふわぁ、美少女って、いるところにはいるモンなんだなぁ」という場違いな感想だった。
高校2年に進級したばかりの彼より2、3歳くらい年下だろうか。
日本で言えば中学生相当だけあって、まだ色っぽいとかそういった形容はまったく当てはまらないが、アイドルなんかメじゃない整った美貌と、思わず保護してやりたくなるような可憐な雰囲気を、目の前の少女は持っていた。
髪や瞳の色からして、日本人ではなさそうだが……。
「て言うか、ココどこだァ!?」
──少しだけ時間を遡ろう。
「我が名は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」
桜色(と言っても、この地にはそのサクラという木自体が存在しないのだが)の髪をした少女が、真剣な目で呪文を唱えている。
ここは王立トリステイン魔法学院。この学院では、春に2年生になった生徒達によって「使い魔召喚の儀」が行われるのが常で、少女もまたそれに参加しているのだ。
「……い、五つの力をつかさどるペンタゴン。我のさだめに従いし、使い魔をしょうかんせよ」
ただ、真剣なのは確かなのだが、どこかおっかなビックリに見えるのは、心なしか少女の腰が引けているからかもしれない。
51 :
よわよわルイズ:2010/04/21(水) 10:21:21 ID:h3nKmvBm
詠唱が終わるとともに一拍の空白があり……。
──ボフッ! モクモクモク……
少女の杖の先から、軽い破裂音とともに白い煙が立ち上る。
途端に少女の顔が哀しげに歪み、杖をとり落とす。
「ふぇえん、コルベールせんせぇ、やっぱり、わたしに召喚なんて無理ですよぅ……」
パッと見、13、4歳くらいの線の細い美少女(実際は16歳だ)が、うるうると涙目になって懇願する光景は、男の庇護欲を刺激してやまないが、個人的な感慨を抑えて教師としての責務を全うする程度には、コルベールは教師として立派であった。
「あ〜、しかしですね、ミス・ヴァリエール。この春の儀式で、使い魔を召喚できないと、誠に遺憾ですが君は……」
「クスン……いいんです。ドジでオミソで半人前以下のわたしが、立派なメイジになるなんて、所詮無理だったんです」
ショボンと肩を落とした少女──ルイズは完全にやる気を喪失しているようだ。
コルベールとしても、真面目で座学の成績がよい彼女を落第させるのは気が進まなかったが、しかし学院の規則を曲げるわけにはいくまい。
「そうですか……」
儀式の打ち切りを告げようとした彼を押しのけるようにして、長身の少女(というにはやや色気がかち過ぎている女性)が、ルイズの肩を掴む。
「あきらめちゃダメよ、ルイズ! 大丈夫、貴女だってきっと使い魔を召喚できるわ!」
「キュルケちゃん……」
親友の真摯な励ましに、少しだけやる気と勇気を取り戻すルイズ。
「そうだ! 僕達も応援してるぞ!」
「頑張って、ルイズちゃん!」
「一度や二度の失敗がなんだ!」
「信じることが力になるのよ!」
その他の生徒達も口ぐちにルイズを激励してくれる。
52 :
よわよわルイズ:2010/04/21(水) 10:23:48 ID:h3nKmvBm
学友たちの暖かい言葉に、ルイズは(それでも多少自信なさげだったが)キッとせいいっぱい気合いの入った(しかし傍目から見ると、なんとも可愛らしい)目つきになって、ギュッと両手の拳を胸の前で握りしめる。
「わかった! もう一度、やってみるね!」
先ほど落とした杖を拾い上げ、背筋をピンと伸ばして立つルイズの姿に、周囲から拍手が巻き起こるのだった。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
トリステインの重鎮、ヴァリエール公爵の末娘であり、この春、魔法学院の2年生に進級したばかりの少女だ。
母親譲りの見事なストロベリーブロンド、やはり母方からの遺伝かスラリとした体型、そしてこればかりは両親に似ず、小柄な身長を備えた彼女は、一見したところ(やや胸が寂しい点を覗いて)非の打ちどころのない美少女に見えた。
また、性格に関しても貴族の子女にふさわしく淑やかで上品。物腰も優雅で、身分の上下に関わらず、わけ隔てなく優しく接するとあって、すぐ上の姉カトレアと並び「ヴァリエール家の双璧」と称され、家の内外にシンパが多い。
(え? 長女? ……お察し戴きたい)
ただし、彼女にはひとつだけ重大な欠点があった。
王家にも連なる大貴族の娘の割に押しが弱いことか? あるいは、歳の割に心身ともやや幼く甘えん坊なことか?
いや、その程度は周囲の支えがあれば問題ではない。実際、味方が多く、敵が極めて少ない点で、むしろそれは美点にも転じられる。
貴族の割に、自ら料理や裁縫をすることを好む事か?
いや、淑女の嗜みとしてそれらは身に着けて然るべきスキルではあるし、男性から見れば「家庭的」で理想の結婚相手と言えるだろう。
好きな園芸に没頭すると時間を忘れてしまうことか?
いや、それもあくまで趣味と呼べる程度のものだし、彼女の育てた薔薇や胡蝶蘭は王宮(幼馴染の王女に献上したのだ)でさえ話題になる程で、立派な特技と言えるだろう。
ルイズの欠点は唯一つ。
彼女は……貴族にはあるまじきことに、魔法が極めて下手だったのだ。
成功確率はおおよそ0.01パーセント弱。しかも数少ない成功例もすべて簡単なコモンマジックだ。
末の娘の数少ない、されど大きな「短所」を家族は多いに嘆き悲しんだ。
無論、それだからと言って彼女に注ぐ愛情が減少したわけではないが、それでもルイズ自身が、自らのことを密かに「できそこない」「ポンコツ」と卑下することを止めるまでには至らなかった。
実のところ、彼女の謙虚で腰の低い性格も、「自分が魔法の使えない貴族である」というコンプレックスに根ざしているものなのかもしれない。
53 :
よわよわルイズ:2010/04/21(水) 10:25:19 ID:h3nKmvBm
閑話休題。
それでも、年頃になったルイズは魔法学院へと入学し、1年間、この学院で様々な知識を学んできた。真面目で勉強熱心なルイズは教師陣のウケも良かったが、それだけに魔法実技の成績の低さが惜しまれた。
そして……今、まさに彼女は試練の場に立っているのだ。
「(えーっと)こ、この世界のどこかにいる、わたしの使い魔さーん!
ドラゴンとかグリフォンとかそんな大それた大物じゃなくて結構です……あ、でも小鳥さんとか子猫ちゃんだと嬉しいかも……い、いえ、何でもないです。わたしは心より求め、訴えます。我が導きに、応えてくださーーーい!」
(でも、できれば優しくて頼りになるといいなぁ)
……謙虚なのか、贅沢なのかわからない召喚の呪文である。
しかし、それでも、発動するのが「ゼロ魔」世界のお約束。
──パンッ!
クラッカーを鳴らすような炸裂音と、一瞬の閃光とともに、そこには彼女達と同年代くらいの見慣れぬ服装をした少年が、キョトンとした顔をして尻もちをついていたのだった。
-to be cotinued ?-
────────────────
以上。ルイズの声が、くぎゅうでなくポンコツさん(み○るちゃん)に聞こえるのは仕様です。お目汚し失礼。
54 :
53:2010/04/21(水) 13:17:45 ID:vrWwLm+z
ところで、このルイズの二つ名は何が適切かな?
まさか「ゼロ」とは呼ばれない気がするし……。趣味の園芸から「花のルイズ」とか?
何にかいいのを思いついた方、教えてもらえると助かりマス。
二つ名は偽のルイズでお願いします
>>53-55でIDが変わってるから本人が言ってるんだか、他の人が言ってるんだか分からねえw
57 :
54:2010/04/21(水) 15:56:32 ID:vrWwLm+z
54は、一応50-53を書いた本人です。別PCからの書き込みでID変わって申し訳ない。
55は、「こんなの(俺の)ルイズぢゃねぇ!」という意味なんでしょうか?
希ガスとかぢゃねぇとか気持ち悪いです
魔法が使えないのでそれ以外の方法でメイジに対抗するため
落とし穴を掘ったり戦闘フィールドに火薬やネットを仕掛けるトラップ職人ルイズ
60 :
54:2010/04/21(水) 19:21:23 ID:h3nKmvBm
>58
了解。当分ROMに戻ります。では。
>>54 いや気にしなくて良いよ。多分適当に煽っているだけだし。とりあえずGJです。
強いて言うなら、学徒全員に愛されているのはちょっとなぁと思ってしまった。
やっぱり味方はキュルケだけにして、そこから育む友情、というほうがいいかなぁと
思ってしまった。でもルイズかわいいよルイズ。
確かに生徒全員ってのは無いと思うわ
俺はこのルイズ普通にイラっとしたし、実際に居たら更にイラっとすると思うw
ちなみに希ガスの人たちは、どっから来たの?
そういうの使う人が今までいなかったから、ちょっと興味があってさ
今でも普通に使ってる板とかスレとかあんの?
1人じゃなくて複数人ってのも不思議な感じ
63 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/21(水) 21:29:03 ID:wcAM4YT4
普通にモンモンとかギーシュになるかな?>対立キャラ
ただ原作みたいにゼロ呼ばわりして嘲笑なんかしたら、とんでもない悪人に見えてしまうかもしれないw
ルイズの失敗魔法が爆発ではなく、テファみたいな他者の記憶操作だったら
失敗するけど、誰も覚えていないと。
怖いぞ。
>>62 34だがここの初代スレからいる希ガス
昭和の番組語るスレのネタふりが尾を引いてる希ガス
学院でも話下手で大人しいから、害はないけどいてもいなくても良い存在みたいになってるとか?
それだとタバサと被ってるんだよなぁ……。
園芸関係で土のメイジでギーシュと仲が良いとか、かなぁ。それでモンモンに目を付けられているとか。
>>70 園芸そのものよりというよりも、園芸に使う土の関係で相談とかしているとか。
なるほど、土系統のメイジなら誰でも良いようなことだったから
とりあえず軟派で女の子の頼みなら聞いてくれそうな奴に聞いたとかそんな感じか
勉強熱心な性格はそのままに園芸が趣味とくれば知識は十二分にありそうだし、
実家は広いから弄りまくってそうだし、ギーシュなら便利に使えそうだしで完璧だな
いっそルイズは動物によく好かれる性質でそのノリで使い魔に懐かれて周囲も憎むに憎めなくなるとか
それはカトレアさんでは。
ルイズを全否定してダレ此の人状態にするぐらいなら
もしもルイズとカトレアの立場が入れ替わったら、でいいじゃんなぁ
ツンデレじゃないルイズはルイズじゃないとMの才人が訴えています
逆に考えるんだ、才人もMからSにしちゃえば・・・
おもろ顔が小動物系美少女を肉体的に責めるって画的にも心情的にもキツイ・・・
子供の頃エレ姉さまのお仕事見学で実験に巻き込まれた事故で
オーク鬼と融合しちゃったルイズ
またお前かオークマニア
誰得野郎は無視で
……こいつオークなんじゃね?
とりあえず
>>54氏のは続くのであれば続いて欲しいなぁ……。
もしキュルケとルイズが同時期に家を飛び出し、仲良く出会って平民になったら。
キュルケは老伯爵と結婚させられるのを嫌って、ルイズは失敗魔法で叱られるのを嫌って。
あてもなく彷徨っている二人が天文学的な確率でばったりと出会って、喧嘩をしながらも魅惑の妖精亭でバイトしたり、
傭兵として戦ったり、お互い違う目的の旅を一緒に続けるドタバタ冒険譚、みたいな。
タバサも入れて「俺たちの旅」のノリで何でも屋を
タバサのんきに旅なんかしてたらママン殺されちゃうだろ
何でも屋への依頼の中に、イザベラからの命令書紛れさせておけばオケ。
家族見捨てて逃げたシャルロットルートなんじゃない?
最初のキメラ退治は困難なミッション渡して投げ出させるように仕向けてる風に見えるし
事実、単独ではクリアー不可能だった
タバサがピンチになるとまてい!!とかいって高いところから助けにくるイザベラ
ハルケ版トゥモローリサーチってのは見てみたい
月に一度の贅沢で鍋を囲むルイズ達
>>87 覆面の謎(笑)のメイジとしてタバサのピンチに駆けつけるイザベラ
こうですね
謎(笑)なのは自分では完璧な変装なつもりだから
なんというエレーヌラブすぎるイザベラ
しかしどうやってピンチから救うんだろ?
説明しよう!
デコッパチプリンセス・イザベラちゃんは魔法は苦手だし、体術も問題外だ
しかし!
マジカルステッキ(という体のナイフ)『地下水』に体を乗っ取られることで
手練れのメイジへと早変わりするのだ!
乗っ取られ系ヒーローでいけるはず
地下水がおちゃめな性格だったら
イザベラを則ってシャルロットや家臣に優しくしたりサイトを誘惑したり
そして後イザベラの反応を楽しむ
だんだんシャルロットたちから信頼されるようになってまんざらでもないイザベラ様
暴れん坊公爵令嬢
その昔、「暴れん坊プリンセス」というゲームが……いえ、なんでもないです。
ジョゼフが暴れん坊陛下として憂さ晴らししてればよかったのに
北花壇騎士“イリーガル”としてシャルルを支えるジョゼフが頭に浮かんできた
ルイズが地下水召喚するとか……
烈風の騎士姫シリーズ読んで、剣を持ったルイズとかも良いよね。
デルフを扱うルイズなら結構あるな。
ここの武器屋ルイズもそうだし。
でも地下水をメインに扱うものはさすがに見たことない。
地下水じゃ操られちゃうからな
地下水の相方はイザベラさまだしな
じゃあオプションでイザベラ様もセット召喚で
地下水がメインでイザベラ様はオプションかい。
ルイズのところにイザベラ様が来ると、両方癇癪持ちだしえらい騒々しいことになりそうだ。
あと、タバサとの距離感が難しそう。
タバサがいないと本気で殺し合いはじめる状況になりそうだな
イザ・ルイ「「キャラが被ってるのよ!!」」
呼ばれたのが地下水でイザベラさまは巻き込まれただけとすると、はたから見ると盛大な誘拐事件になりそうだなw
そして、ガリアの裏をガチで知ってる地下水を他国の公爵家になんぞ握られると大惨事と、使い魔にするの反対しそうだw
もしも聖地にラノベがあったら
ル「ねえサイト、こんな物が聖地から見つかったらしいの」
サ「なになに、これ日本語じゃないか…烈風の騎士姫…?ラノベか?」
ル「サイトの国の物語なのね、呼んで聞かせてちょうだい」
サ「えーなになに、『…少女が走っていた。年の頃は…』」
ル「…これって…ひょっとして、おおお、お母様…?」
サ「『……サンドリオンの指の動き…自分の胸の上を澱みなく流れていった……』」
ル「まあ!お父様にお母様ったら!まあ!」
サ「『……おわり』」
ル「へえええ、お父様ったら、そうなんだぁ」
サ「……」
ル「へえええ、あのお母様がねぇ…」
サ「……」
ル「こここ、これをネタに脅は、じゃなくてお願いすればきっとお父様とお母様も私たちを認めて…」
サ「……」
ル「どうしたのさっきからボーッとしちゃって?」
サ「かりんちゃんかわいい」
ル「え?」
こんにちわ。一月ぐらいぶりです。
第10話のほう完成しましたので、5分後ぐらいに投稿したいと思います。
昼時のトリステイン・ゲルマニア国境付近の街道。人通りの少ないその道を、3台の馬車が走っていた。
そして其の周りには大勢の護衛も付いていることから、相当高貴なものが乗っているのだろうと想像できる。
前の二台は豪華で頑丈そうな作りをしている、いかにも貴族が乗るような煌びやかな馬車だった。
後ろの一台は従者が乗っているのだろう。大きさでは前の二台には勝るものの、地味な馬車だった。
最前列の馬車にはラ・ヴァリエール公爵と、彼がもっとも信頼する執事ジェロームが乗っている。
彼らの会話は聞こえてこないが、どうやら段取りなどの確認をしているようだ。
一台飛ばして、後列の馬車には彼らの従者達が乗っているようだ。彼らの荷物などを管理しているのもここらしい。
そして中央に戻る。ここにはルイズ、エレオノール、そしてアニエスが乗り合わせている。
ルイズは足をぶらぶらと揺らして、鼻歌混じりにパーティを楽しみにしているようだった。
その姿は、表情に平民の頃の無邪気さを残しながらも、バレッタで纏め上げられた長いブロンド髪、
胸元が開いた淡い桃色に染められたドレス、肱元まで伸びた手袋は幼く可愛らしさを残すルイズに貴族としての高貴さを加えていた。
一方エレオノールも、流石ラ・ヴァリエール家を支えてきた一女子と言うべきか、
平然としていれば、大人としての魅力を存分に引き出している美しいドレスを身に纏っている。
さて、残るアニエスだったが。何故か彼女はずっとフード付きのマントで全身を隠して、ずっと喋ろうとしなかった。
エレオノールもそんな彼女に苛立ちつつも、ひと時は黙って見逃していたが、終に業を煮やして、マントを剥がそうとアニエスに掴みかかった。
「あ、何をするのです、姉上! 殺生な!」
アニエスは必死に抵抗する。だが、その力も何処か弱弱しく、エレオノールにすら負けそうになっている。
フードから覗く顔もどこか恥ずかしそうな表情だ。
「ええい、やかましい! もうすぐ到着するのよ!?」
「お、お願いします! も、もう少しだけご勘弁を!」
「や、か、ま、し、い! こちとら2日も徹夜して疲れてるのよ! 大人しくなさい!」
しかし、エレオノールは構わずにマントを剥がした。すると、アニエスの全身が出てきて、ルイズは思わず、わっと顔を赤らめた。
露出は少ない。というのも、アニエスの体は古傷だらけ(古傷に関しては水の系統魔法で治せるが、当人の希望で残している)なので、
露出が多いとそれが目立ってしまうのだ。それがかえって普段絶対に見ることが出来ない、何と言うか、清楚な雰囲気を出していた。
スカートの丈もそれなりに短く、黒を基調とした動きやすそうなドレスであったが、短い髪を綺麗に纏められ、綺麗なネックレスにイヤリング。
化粧も施され、それらのお陰で十分にアニエスを傭兵から貴族の令嬢にへと変貌させていた。
そんな珍しい姉の姿に、ルイズも思わず感嘆のため息をついてしまう。
「う、うぅ……。こんな姿を昔の同僚に見られたらどうしよう……」
アニエスは恥ずかしさの余りに目に涙を浮かべてうつ伏した。これも珍しい光景だ。本当に女の子らしくする事などない彼女にとって、
これ以上恥ずかしいこともないのだろう。だがその仕草もまた乙女らしい。
「まあいいじゃない、お姉ちゃん。すっごく綺麗だよ!」
「……そうか? お姉ちゃんはすっごく恥ずかしいな……」
ルイズが励ましても、アニエスは全く立ち直ることなく、顔を耳まで真っ赤にして、ただうつろな目で窓の外を見ていた。
と、ルイズは胸元のネックレスに気が付き、気を紛らわせるためにもアニエスにそれについて尋ねた。
「ネックレス、綺麗だね」
その言葉に反応し、アニエスは窓からルイズに視点を移しながら、ネックレスを軽く持ち上げた。
「あ、うん……、そうだな。姉上からもらったんだ。これで女性らしくしたほうが良いって」
「へぇ〜」
「な、なによ」
「ううん、仲良くなってなによりかな、って」
「……まあ、そうね。それよりルイズ、その髪飾りと指輪はどうしたのよ?」
と、今度はエレオノールがたずねる。するとルイズは待っていましたとばかりに、満面の笑顔を見せながら、
エレオノールに髪飾りと指輪を見せ付けた。
「へへ、いいでしょ。これ、全部友達にもらったものなの。無理言って今日つけてきちゃった」
「ふうん……まあ、いいんじゃない?」
と、興味が薄れたのか、それとも言葉に困ったのか。エレオノールはそれ以上なにも言ってくることがなかった。
その反応が不満なのか、ルイズは唇を尖らせていたが、前方に見える光を見つけて、指差しながらエレオノールにたずねた。
「あれ?」
「そう。今回のパーティの会場ね。ラグドリアンの湖よりも小さな湖だけど、それでも十分綺麗な場所だわ」
と、エレオノールがまるで自分のことのように誇らしげに言った。しかし、そう言うだけあって、
確かに綺麗な湖に見える。日差しを浴びた湖の水は光を反射させ、それがまるで夜空に光る星のようにも見えた。
馬車はその湖畔の道を走り、湖に沿って前進していく。そして、屋敷の近く、すでに沢山の馬車が止められている場所に辿り着くと、
馬車の扉が開いた。
「到着いたしました。では参りましょう」
「わあ、緊張するなぁ」
まずルイズが従者の手を取りながら、言葉とは裏腹にうきうきとした表情で馬車から降りる。
続いてエレオノールが黙って、慣れた様子で降りていく。
「さあさアニエス様」
「う、うん」
と、最後にアニエスが、アネットの手を取って馬車から、緊張からかぎこちない動きで恐る恐る降りようとする。
だが、まだはきなれていないハイヒールと緊張のせいでバランスを崩し、足を踏み外した。
「うわ!」
何とか手摺に掴まって踏ん張るが、もはやそれは無様以外でもなんでもない。アニエスは
乾いた笑みを浮かべながら、もうどうにでもなれ、と心の中で叫びしかなかった。
「で、では気を取り直して参りましょう」
「うん……」
まるで気力がないような、おびえた子供のような声を出しながら、アネットにエスコートされて、
ルイズ達の後をついていった。
第10話
「しっかし、すごいなここは」
アニエスは煌びやかな祝賀会が行われているホールを見ながらそうつぶやく。
パーティ自体は屋敷の二階の広いホールで行われていた。どうやらここはこの祝賀会のためだけに作られた特別な屋敷であるようだ。
飾りつけなど、素人であるアニエスが見ても煌びやかで、とても華やかだった。
アニエスは料理を盛った皿を右手に、またワインが注がれたグラスを左手に持ちながら、一人呆然とホールを眺めていた。
と、あ、そうかデルフ置いてきたんだった、と不意にアニエスは口にワインを運びながら、顔を赤らめながら気を改める。
さすがに貴族のパーティの中に武器を持ち込むわけには行かないので、デルフは馬車の中で留守番中である。
「俺も連れて行けぇ!」
と五月蝿く言っていたが、エレオノールにアカデミーで解体するぞと脅され、今は大人しくしているはずだ。
さて、パーティ会場に着いたラ・ヴァリエール家はというと、いきなり多くの貴族達に出迎えられ、一人一人が公爵に挨拶をしていった。
そこで自然とルイズとアニエスのほうにも注目が集まる。そこでラ・ヴァリエール公爵は彼らに二人を紹介したのだった。
彼らはルイズの帰還をまるで自分のことのように喜び、そしてアニエスを出迎えてくれた。
しかし、悲しいかな、アニエスは気が付いてしまった。その中の殆どは心から自分を迎え入れてくれない者達だ。
アニエスの正体は、一部の者を除いてフォンティーヌ生まれのメイジの子孫ということになっている。
数百年前に没落し、平民と交わっているから血筋が薄く魔法は使えないものの、メイジの血は入っている。
その血筋をラ・ヴァリエールが保証した上で、ルイズを育てカリーヌやカトレアの命を救ったアニエスを養子に迎えた。
これが世間に流れているアニエスの正体であった。勿論全て嘘であり、公爵が貴族たちを認めさせるための方便であった。
だが魔法を使えぬものなど貴族に相応しくないという考えを持つトリステインの貴族たちにとってはアニエスなど認めたくない存在なのだろう。
だからアニエスは一気に緊張が解け、仮面を被り、嘘の自分を演じることでその場をやり過ごした。
こういうとき魅惑の妖精亭でウェイターをやっていて正解だったと、心の中でジェシカとスカロンに感謝する。
しかし、心の中の何処かでは、自分が歓迎されることも少し期待していたのかもしれない。
だから、緊張していたのだろう。公爵から忠告されていたというのに、アニエスは自嘲気味に笑う。
とはいえ、アニエスの容姿というのは全体的に整っており、凛としたその姿に純粋に惚れる者も、
特に金さえあれば平民も貴族になれるゲルマニアの貴族たちの中には多くいた。
そういう者達からダンスのパートナーの誘いがあったが、アニエスは全て断り、片隅で食事をすることに集中することにしていた。
別にダンスのパートナーが嫌だったわけではなく、踊りに自信がなかっただけなのだが、この場ではそれは置いておこう。
「余裕ねぇ、あんた……」
と、何処か打ちひしがれたような表情のエレオノールがアニエスの下へと歩いてきた。
何となく、予想はついていたが、アニエスはとりあえずその訳を尋ねてみる。
「あの、良き殿方は見つかりましたか?」
「男なんて皆死ねば良いのに……」
「それ、お父様も死にますが」
「野暮なツッコミしないの!」
どうやら予想通りだったようだ。アニエスはとりあえず料理をおいて、グラスにワインを注ぐと、黙ってエレオノールに手渡した。
エレオノールは自棄になりながら、一気にそのワインを飲み干してしまった。
先ほどからずっと飲んでいるのだろうか、心なしか、顔が赤くなっている。
「まあ次がありますから」
「それにしたって私のダンスの誘い全員断るってどういうことよ! もう、いいわ!アニエス、私と踊りなさい!」
「え、えええ!?」
「冗談よ……女同士で踊ってどうするのよ。もう一杯」
「お体に障りますよ」
「いいのよ。どうせ誰も相手にしてくれないし」
何時も強気なエレオノールが卑屈になっている辺り、かなり重症のようだ。
アニエスはエレオノールのグラスにワインを注ぎ、自分のグラスにも注ぐと、エレオノールのグラスに近づけた。
エレオノールはアニエスの意図を理解したのか。
「……かんぱーい」
「乾杯」
チンっ、と小粋なガラスがぶつかる音を立てた後、アニエスとエレオノールはワインを一気に飲み干した。
「そういえばルイズは?」
「お父様と一緒にツェルプストーに挨拶……。全く、なにがツェルプストーよ……。胸がでかいからって偉そうに……」
「姉上、怒りの矛先がよくわかりません」
「貴女も大きいわよね、意外と!」
「勘弁してください……。ほら、このハム美味しいですよ」
酔いが回ってきたのか、エレオノールの言動も怪しくなり、アニエスは溜まらず、食べ物で釣って彼女を落ち着かせようとした。
すると、意外にも素直にエレオノールはアニエスが差し出したハムを口の中に入れてしまった。
「ルイズもルイズよ。あんなツェルプストーの小娘と仲良くして……なぁにが…、なぁにが楽しいんだが……」
「誰が小娘ですって?」
「そりゃあ、キュルケとかいう……」
酔っ払ったエレオノールは不意に声がしたほうをきっとにらみつけながら振り返った。
すると、そこには褐色の肌に豊満な体を持つ少女が立っていた。その隣にはルイズが立っている。
身長は年並み以上のものを持つルイズのほうが勝っているが、不思議と大人の女性を思わせるような、そんな雰囲気を持っている少女だった。
何より胸がでかい。なるほど、エレオノールが嫉妬するわけである。
「……出たわね、小娘」
エレオノールは怯むことなく、その少女の前に立つと、腰に手を当てて、少女を見下ろす。
少女もエレオノールにおびえることなく、余裕の表情で見つめていた。
「お初にお目にかかりますわ、エレオノール様。私、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します。
どうぞよろしく、お見知りおきを」
スカートの裾を軽く掴み、外見とは裏腹に、上品に挨拶をする少女キュルケ。
それに対し、酷く酔っ払っているエレオノールは自分のことを敬っているのかと思い込み、単純に笑みを浮かべて名乗り返した。
「あらあらこれはご丁寧に。私はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール」
「ええ、ご存知です。ラ・ヴァリエールの中でも、沢山の男と恋をしては別れたという随一の強者、だとか。羨ましいですわぁ、
そんな多くの出会いに恵まれるなんて、さぞかし恋愛経験には自信があるのでしょうね?」
「おほほほ! それはそれはどうも! 何でも聞いてみなさいな!」
もはやここまで来ると怖い者なしである。キュルケの皮肉にも気が付かず、上機嫌に笑って、彼女の背中を叩いた。
そんなエレオノールに対し、キュルケは呆れた表情で彼女を指差しながら、隣にいたルイズに尋ねる。
「……あんたのお姉さんいつもこんなの?」
「いや、違うと思う……。ていうか、あんまりエレ姉弄ってあげないでね」
ルイズは苦笑しながら首を横に振りつつ、キュルケを諌めた。自分も弄ってはいるものの、
先ほどのキュルケの言葉では、ほっぺをつねられるどころか魔法で吹き飛ばされないからだ。
「貴女がキュルケ嬢か?」
と、そこにアニエスが割り込んでくる形でキュルケの前に立った。エレオノールは笑いすぎたのか、
机に伏しながら咳き込んでいる。いまだかつて見たことのない姉の姿に苦笑しつつ、アニエスも名乗った。
「アニエス・ミラン・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。よろしく」
「あら、貴女が噂のルイズのお姉さん? 始めまして、キュルケよ」
笑みを浮かべながらアニエスは手を差し伸べ、キュルケはその手を握る。
その瞬間、アニエスはキュルケが火のメイジだと感触で判別できた。そして少しだけ複雑な気分になる。
ルイズの初めての貴族の友達が火のメイジ。これほど、アニエスにとって複雑な事はないだろう。
だが、アニエスはルイズの幸せを思って、それ以上私怨ははさまないことにした。
アニエスは握手をしながら笑みを見せて、キュルケにたずねる。
「噂って?」
「貴女、とてもお強いんですって?」
「まあ、強いかはどうかは知らないが、それなりに腕は立つつもりだ」
「ふうん……」
キュルケはアニエスの周りを歩き、まるで鑑定するかのように見て回った。アニエスは戸惑ったような表情を浮かべつつ、
キュルケが前に戻ってくるのを待つ。そしてキュルケが何か思いついたように笑みを浮かべると、ルイズのほうを向いて、
悪戯っぽい笑顔を見せた。
「このお姉さん、私にくれない?」
「な!?」
「ええっ!?」
キュルケの衝撃の言葉に、ルイズとアニエスが驚愕して声を上げる。その声に周りが驚いて彼女たちのほうを向くが、
キュルケが笑って誤魔化しているのを見て、再び平静に戻る。
「冗談よ。でも惜しいわねぇ……。もし貴女がゲルマニアにいれば、私が取り立てていたのに。貴女のような人、放っておかないわ」
「……まあ気持ちだけ受け取らせてもらうよ。私は妹と離れるつもりはない」
「わ、渡さないよ! お姉ちゃんは絶対!」
アニエスはそんなキュルケに対し、呆れつつやんわりと断るものの、ルイズはまだ本気だとキュルケを怪しんでいるのか、
アニエスの前に出て、両手を広げて、まるでキュルケがアニエスに近づかないように立ちふさがった。
そんなムキになっているルイズがおかしかったのか、キュルケは腹を抱えて笑い出した。
「あはは! だから冗談だって、ルイズ。本当面白いわねぇ、ヴァリエール家の人間って。ムキになるとわかりやすいんだもの」
「フーッ!」
「もう、そんなに逆立たないの。そんな顔をしていたら、本当にお姉さん取っちゃうわよ?」
「ダメーッ!」
「ほらルイズ、落ち着くんだ。お姉ちゃんは何処にも行かないから、な?」
「むむむ……」
キュルケにからかわれて、ルイズは今にも噛み付きそうな勢いだったが、アニエスが頭を撫でて宥めると、何とか落ち着きを取り戻す。
しかし、まだ油断できないと思っているのか、不安そうに、かつ威嚇しているような目つきでキュルケのほうをじっと見つめている。
そんなルイズに、まだ目覚めぬ母性本能をくすぐられたのか、キュルケは満面の笑みでルイズを抱きしめた。
「ほんっと可愛いわねぇ、もう! 貴女みたいな子には初めて会ったわよ。いいわ、貴女も気に入った。
ねぇ、ルイズ、ヴァリエールとかツェルプストーとか関係なしに、友達になってくださらない?」
「え、あ、うん……。私は元からそのつもりだけど……」
「あっはっは! ごめんなさい、そうよね! うふふ」
突然の展開に頭が付いていけないのか、ルイズはしどろもどろになってしまうが、そんな彼女の様子が益々気に入ったのか、
キュルケはもっときつく抱きしめた。そんな様子の二人に、アニエスは微笑みながら言った。
「よかったな、ルイズ」
「え、な、なにが?」
「友達、出来たな」
「あ……。う、うん!」
はじめは戸惑っていたルイズも、次第に笑顔を見せて、大きく頷いた。その笑顔は何の混じり気もない、
純粋に友達が出来たことを喜ぶものである。アニエスもまるで自分のことのように笑みを浮かべる。
今日は本当にここに来てよかった。そう心から思える。
「じゃあ、二人はお父様のところへ戻りなさい。私はエレオノール姉様を休ませてくるから」
「うん、わかった。じゃあキュルケ行こう?」
「ええ、いいわよ。アニエスのお姉さん、そこの独身貴族様によろしくね?」
「はいはい」
キュルケの皮肉口を全く相手せず、アニエスはテーブルにワインビンを抱えながら幸せそうに眠るエレオノールを抱きかかえると、
外のほうへと歩いていった。よほど溜まるものがあったんだろうなぁ、と苦笑しつつ、誰にも見られないようこっそりと、使用人口から外に出て行く。
しかし、その姿を見つけたものがいた。外に待機していた衛士、彼は眉をひそめながら、アニエスの後をこっそりと追いかけていった。
「ううん……」
「ほら姉上、起きてください」
「うるしゃいうるしゃい……」
「そんな言い方したって、私は可愛いなんて思いませんよ、多分」
アニエスは馬車へとエレオノールを抱えて連れて行くと、ひとまず中で座らせる。そして落ち着いたところを見て、
再び外へ出て、従者に見張りを頼もうとする。すると、エレオノールはアニエスのドレスの裾をつかみ、引きとめようとする。
「すぅ……すぅ……」
無意識の内にやっていたのだろう。掴む力は弱く、とうのエレオノールは寝息を立てて眠っていた。
本来アカデミーで行うはずだった研究を実家に持ち込み、日々眠れぬ時を過ごし、多忙の中で社交もこなすというのは大変なことだろう。
エレオノールがアカデミーで研究に没頭しているのは、カトレアの病を治すためだ。原因不明の病を治し、
カトレアを普通の生活に戻してあげたいとずっと願って研究を続けていた。
カトレアの病が治り、研究を急ぐ必要はなくなったものの、何時再発するか分からない上に、
ウンディーネの水芙蓉ももう存在しないのだから実質治療法がないカトレアの病についての研究を今も続けている。
もしかしたら、同じ病に苦しんでいる人もいるかもしれない。そういう人間たちのためにも、
治療法を見つけようと研究を続けているエレオノールだが、アカデミーで研究をする、というのはその分の働きも必要になるわけで。
実家にいる今も、仕事が溜まらない様に忙しい日々はそのままなのだ。その上でルイズの世話もしているのだから彼女の心労と言うのは自ずと理解できる。
アニエスは暫くの間、エレオノールの隣に座り、彼女が落ち着くまでゆっくりと待つ。
そしてエレオノールの寝息が落ち着いたところで、微笑みながら静かに彼女の手を離してやり、
彼女の膝元へと置くと、ゆっくりと降車する。そして、ふっと安心したように笑って歩き出した。
「何してんだお前」
「わぁあ……!!」
と、死角から突然声を掛けられ、その方向を見たアニエスは思わず叫びそうになる。
それを何とか自分で自分の口を塞いで抑えるが、その様子を見て、衛士は呆れたような表情になる。
アニエスは動揺したまま彼に詰め寄った。
「ななななな、ななんんでおまえが!」
「いいから落ち着けって」
「どうかなさいましたか!? き、貴様何をしているか!」
と、騒ぎを聞きつけたラ・ヴァリエール家の従者が飛んできた。騒ぎになってはまずい、
とアニエスはとっさに衛士から離れ、慌てて誤魔化し始めた。
「い、いやなんでもない。それより、ほら、姉上が眠ってしまったのでここで寝かせているから、見張っておいてくれないか?」
「は、はあ、確かに」
「私は彼と話があるからな、頼むぞ!」
と、強引に話を進め、アニエスは衛士を連れてその場を離れていく。従者は呆然としたまま、その場に取り残されてしまった。
そして人目が付かないところへ衛士を連れて行くと、アニエスは顔を真っ赤にしながら彼に詰め寄る。
「何でお前がいるんだ、ダン!」
「な、何でつったって、仕事だよ仕事! お前こそ、な、なんだぷぷ、その可愛ら」
「うわあああ! 言うな、笑うなぁ!」
「うわあ!」
アニエスの王都警備兵時代の同僚、衛士ダンが普段見慣れぬ格好のアニエスを茶化そうとしたが、
その前にアニエスが狂乱したように叫び散らしながら、彼を投げ飛ばした。幾らデルフを扱えるアニエスであっても、
鎧を着た大男を数メイル投げられるわけがないが、そこは恥ずかしさと怒りのあまりに出てきた馬鹿力というやつだろう。
「ああああ、もうダメだ。昔の同僚に見られた。死んでしまいたい、死んでしまいたい……」
「いや、俺が死にそう……」
アニエスは顔を両手で覆いながら、その場に蹲ってしまった。それでもわかるぐらいに、耳まで真っ赤になっていた。
「わ、悪かったよ。その、似合ってるじゃねぇか!」
「う、うう……本当か? 本当にそう思ってるか?」
「お、おう! すげぇ美人だ! ま、まるで別人だぜ、うん」
「そ、そうか? 本当か?」
「だぁあもう! 本当だっつの! なんなら今ここで襲ってやろうか!?」
「!? や、やめろ、そんなことしたら……あっ!?」
興奮して、まるで正気を失ったような事を口走るダンに対し、アニエスはとっさに剣を握ろうとしたが、
背中にあるはずだったデルフがなく、その手は空を握るだけだった。
そういえば置いてきたんだった、とアニエスはがっくりと項垂れてしまう。
「もう、好きにしろ……」
「……変わったな、お前」
まるで少女のように、しおらしく俯いているアニエスを見て、さすがのダンも困惑の色を隠せなかった。
そんなダンの言葉に、アニエスは首をかしげる。
「変わった……?」
「ああ。前はほら、今みたいにからかってムキになるのは同じだけど、その……近寄りがたいとこもあったんだよ。
何者も寄せ付けない、刃みてぇな冷たさって言うかさ。でもよ、今は何か違う。柔らかくなったって言うかな」
「私が、柔らかくなった……?」
「ああ。それに、お前何時も剣を持ち歩いていただろ? 剣を持ってないときとか、何処か落ち着かない様子だったのに、
今はそうでもなさそうじゃねぇか」
「……言われて見れば、そうだな」
「お前、昔はもっと酷かったんだろ? もしかしたら、ルイズちゃんや公爵家の皆々様方のおかげかもな」
「ルイズや家族の、お陰……か」
アニエスはダンの言葉を聞いて、改めて思い返す。確かに昔の自分は何者も寄せ付けていない、
そんな雰囲気を出していたと思う。それが自覚していないうちになくなっていったらしい。
ダンとも、他の同僚とも、少なからず会話をするようになったし、今も多くの人々と交流をするようになった。
復讐のため生きてきて、そんな煩わしいもの、とずっと思っていたのに。今はそれを望んでいる自分がいる。
どちらが、本当の自分なのだろうか。ルイズのために、と思って無理に付き合っているのか、それとも。
アニエスにはよくわからなかった。
「……」
「どした?」
「いや……なんでもない」
「そうか……。じゃあ、俺もあんまりさぼってと怒られるからよ、戻るわ」
「ああすまない、引き止めて」
「いいってことよ。それより、もっと自信持っていけよ。笑うと可愛いんだからよ」
「……っ!!」
ダンの言葉に全身を真っ赤にさせたアニエスの拳がダンの顎に入り、彼は数秒間、空を飛ぶことになったのだった。
ルイズとキュルケがアニエスと別れた後。彼女たちは自分の父親の元へは戻らず、こっそりと外へと出て行ったのだった。
二人の父親からは、外へは絶対に出ないこと、と釘を刺されていたが、歳相応の好奇心のほうが勝ったようだ。
と行っても、この辺りは警備も万全だし、初めて訪れたルイズとは違い、キュルケのほうは土地勘もあったから、
それで大丈夫と思っていたのかもしれない。
ともかく、ルイズ達は外に出て、誰にも邪魔されない場所でたわいのない話をしようと思っていたのだった。
そこで彼女たちは屋敷から少し離れた場所、湖の畔へと来ていた。
「う〜ん、気持ちいい!」
キュルケは固まった体をほぐすように腕を上げながら背伸びをする。そんな彼女に、少し不安そうな表情でルイズが言った。
「だ、大丈夫かなぁ。抜け出してきて」
「大丈夫よ。ここは滅多に亜人とか獣も出ないし、警備も万全なはずだし、大丈夫でしょ。それよりも! 貴女のこと、聞かせてちょうだいな」
「私の事?」
ルイズは首をかしげる。キュルケは少し悪戯っぽい笑顔を見せながらルイズに近づいた。
「そう、貴女のこと。まず貴女は何系統なの? 因みに私は火のライン。もう少し練習すれば、
トライアングルにも行けるって言われたけど。今はライン」
「ら、ライン? あ、ええっと……私は……」
「あら……。貴女ぐらいの年だったら、これぐらいの知識、当然だと思うんだけど?」
まるでメイジの知識がない様に見えるルイズに、さすがのキュルケも訝る表情で彼女を見つめた。
そんな彼女に対し、ルイズは慌てて説明した。
「あ、あのね。これあんまり言っちゃいけないって言われてるんだけど……。私昔、家族と離れ離れになって、
その時にアニエスお姉ちゃんに助けてもらったんだ。家に戻ったのも最近で、魔法の勉強も最近始めたの。だからまだ自分のこと、よくわかってないんだ。
だから、ドットとかラインとかもまだね」
「あら、そんな過去があったのね。……ああ、なるほど、だから貴女、あんまりヴァリエールっぽくないのね、納得したわ。
あ、でもさっきのお姉さんの時の態度はらしかったわね」
キュルケは思い出したように笑い出す。ルイズは一瞬思い出せずにきょとんとしていたが、
すぐに先ほど、キュルケがアニエスをくれと言ったことを思い出して慌てて腕を振りながら詰め寄った。
「お、お姉ちゃんはあげないよ!」
「そんなに慌てなくても、取らないわよ。今のところはね」
口元を抑え、キュルケは真意が捉えられないような笑みでルイズを困らせる。それでムキになるルイズが、何とも面白い。
キュルケは純粋に彼女のことが気に入っていた。ルイズ自身も、ムキになりながらもこの貴族のようでさっぱりとしたキュルケが好きに
思えてきた。何となく、他の貴族達は体面を気にしていたりと、近づき難かったから。
「それで。さっきアニエスのお姉さんに助けてもらったって言ってたけど。そのときの事は?」
「あ、うん。ええっと、何処まで言っていいのかなぁ……。まあいいか、キュルケはもう友達だし。でも内緒だよ?」
「……? ええ、私は義理堅いから、約束は守るわよ」
「よかった」
キュルケの言葉に、ルイズは先ほどと打って変わって、少し顔を赤らめながら、安心したような表情を浮かべる。
その表情は少しどこか大人びていて、キュルケは思わず心がきゅんと鳴ったのを感じた。
が、顔を横に振って、ペースを奪われまいと気を引き締める。ツェルプストーの女が、心を奪う事はしても、こんな簡単に心を奪われてはいけないのだ。
「……? どうかした?」
「い、いやなんでもないわ。それよりもほら」
「う、うん」
強引に催促され、適当に座れる場所を探し、そこに腰を下ろしてルイズは過去の自分の事を話し始める。キュルケもその隣に座り、耳を傾けた。
自分と母親が盗賊に襲われ、自分だけ攫われたこと。盗賊に幽閉されていた自分をアニエスが助けてくれたこと。
本当の姉妹当然に暮らしていたこと。そして、アニエスが本当の家族になったこと。話せる事は全てキュルケに教えた。
始めは思わぬ波乱な人生に心を躍らせながら聞いていたキュルケも、アニエスとルイズの姉妹愛にほほえましく思えたのか、優しい表情へと変わっていく。
「仲が良い姉妹ねぇ……」
「キュルケは一人っ子?」
「ううん、私は末っ子。この家系にあの父親でしょう? だから、うち子沢山なのよ」
ゲルマニアの人々は恋に対して積極的である事がよく言われている。これはトリステインの人々と全く逆であり、
それがよく二国の諍いに繋がるといわれているぐらいだ。
特にツェルプストー家は炎のメイジらしく、情熱的な愛を好んでおり、平民であろうがなんだろうが、
恋に落ちればとことんアプローチをし、そして炎のように愛し合う。それゆえにキュルケの父親には愛人が沢山いたし、
そこから生まれた子供も多くいた。キュルケはそんな家系の正妻の三女として生まれた。一番遅く生まれた故に、愛情も込められていた。
特に頼れる姉達には恋の指南を受けるなどをして尊敬もしている。そんな姉に憧れて、自分もそういう人物になりたいと常々思っていた。
だからだろうか。ルイズのような年下の、それも守ってあげたいという気持ちがくすぐられるような子には、何となくお姉さん面したいと思ってしまうのだ。
実際に、今のキュルケはルイズの事をまるで妹のように接していた。
「そうなんだ。私も末っ子だよ」
「知ってる。有名だもの、特にあのお姉さんは」
「アニエスお姉ちゃん?」
「ううん、あなたの言うエレ姉のことよ。ああ、エレ姉って呼びやすいから、私も使わせてもらうわね。
あの人、彼氏が出来ないことで有名だから」
エレオノールのことを思い出してみて、ルイズは思わず吹いてしまい、そのまま笑った。
「あっはっは! そうだったんだ」
「でも大変よね、娘三人で跡継ぎがいないんだしねぇ。あ、そうだ。よかったら、私が恋愛指南でもしてあげようか?」
「え、でもなぁ」
ルイズはキュルケの体を見つめる。確かに自分よりも大人っぽいからだが、それでも子供らしさと言うのはまだ抜けていない。
とても大人の恋愛が出来ている年頃とは思えなかったのだ。
「あ、何その疑ってる目は! ふふん、私はこの魅惑の体で何人もの男を落としたのよ?
……そりゃさすがに肉体関係までは行かなかったけど」
「そりゃ肉体関係まで言ったら怖くない? 12歳でしょ? まだ」
「ふふん、恋に年齢など関係ないわ」
キュルケは大きな胸を張り、自慢そうに言う。一方のルイズは実感が湧かないのか、首をかしげていた。
「そうなのかなぁ……」
「そうよ。貴女も情熱な恋をすれば、私みたいに魅力的な体になれるわよ」
「背は私のほうが勝ってるけどね!」
「ムッ」
ルイズはキュルケよりも随分と控えめな胸を、先ほどの彼女と同じように張ってみせる。確かにお互い立ち上がると、ルイズのほうが背が高い。
キュルケの悩み、それは背の低さである。
他の姉と違い、ここだけは歳相応、いやそれよりも少し低めの身長のせいで、よく子ども扱いされる。それが許せなかった。
だからこそ、今背を高くする秘薬や運動を試しているが、残念ながら余り効果が出ていない。
さてここでルイズは少し調子付いて、少しキュルケをからかうことにした。
「やーい、キュルケのおチビー」
「ムキー! その言葉、覚えてなさいよぉ! ずぇったい、あんたより大きくなるんだから!」
コンプレックスを弄くられたのに流石のキュルケもカッと血が上ったか、
先ほどの大人の態度とは打って変わって、ただの小娘のようにムキになって怒り始めた。
そんな一見すると可愛らしいキュルケの姿にルイズは面白がって笑っていた。
因みに、こうしてからかった事を後々にルイズは大後悔するわけだが、それは未来の話。
「もう……貴女といると調子狂うわ」
はっと気が付き、キュルケは苦汁を舐められたような表情を浮かべつつ、再び腰を下ろした。ルイズも笑みを浮かべながら座る。
「えへへ。……そうだ。キュルケに聞きたいんだけど……。これもあまり外の人に言っちゃダメなんだけどね」
「何? もう何でも聞きなさいな」
「魔法のことなんだけど……。何でも爆発しちゃう魔法って、聞いたことがある?」
「……何のこと? そりゃあ火の系統なら爆発ぐらい起こせるけど、何でもって?」
キュルケは首をかしげながら、自分なりに答えてみせるも、やはりしっくりとこないらしい。
ルイズに聞き返すと、彼女は少し黙った後、決心したようにキュルケに言った。
「……実際に見てもらったほうがいいかもしれない。でも、笑わないでね?」
「大丈夫よ、約束する」
真直ぐなキュルケの言葉に安心し、ルイズは立ち上がると辺りを見渡す。そして、十分キュルケから距離がある場所に
丁度良い大きさの石と岩を見つけると、石を拾い上げ、岩の上に置いた。そして、ルイズは十分距離を取り、杖を取り出す。
ゆっくりと深呼吸し、気持ちを落ち着かせると、ゆっくりとコモンマジックを唱えた。
「レビテーション」
すると、浮かび上がるはずの石はボンッ、と軽く爆発し粉々に砕けてしまった。
突然のことにキュルケは一瞬呆然としてしまい、何が起こったのか理解が出来なかった。
「こんな感じなんだけど……」
「な、何が起こったの?」
「私にもよくわかってないの。エレ姉が一生懸命原因を探っているみたいなんだけど……。
あ、でもこれでも上達したほうなんだよ。前までは変なところも爆発させてたし……。
エレ姉にあなたは落ち着きがないから、ある程度は習うより慣れたほうが上達するって言われたから、そのお陰だね」
「へ、へぇ……」
キュルケは無理に笑顔を作りつつも、思わず息を飲んで、目の前で起こったことに驚愕する。
12年、短い年月しか生きていないが、それでもあのようにコモンマジックが爆発することなど見たことも聞いたこともないのだ。
しかし、だからこそキュルケは思わず笑みがこぼれてしまった。
もし、キュルケが又聞きで「ラ・ヴァリエール家の三女は魔法が使えない」と知っているだけであれば、それほど興味など湧かなかっただろう。
しかし、魔法を目の前にすれば、ルイズが只者ではないということを何となくだが感じることが出来る。
今は魔法が使えないただの小娘かもしれない。だけど、いつかは自分のライバルに相応しい、
いやもっと偉大なメイジになりうるのでは……。そうとまで思えてきた。
キュルケの行動指針、それは自分が興味を持ったことにはとことん付き合い、そして育んでいく事。
ルイズとのこの出会いはキュルケにとって、最高の出会いだった。
「これは面白いわね……!」
「へ?」
「ああ、いやこっちの話よ。それよりも、そんな魔法見たことないわ。でも、魔法は発動しているみたいじゃない。自信を持って良いわよ」
「え、そうかなぁ。えへへ……」
キュルケにほめられ、ルイズは頬を赤らめながら笑みを浮かべた。
「実はね、何か私ラ・ヴァリエール家の娘じゃないんじゃないかって、噂されてるんだって。
アニエスお姉ちゃんの連れてきた子は、ルイズのお嬢様に似た偽者なんじゃないかって。そんな事ないのに、お姉ちゃんは何も悪くないのに……」
「……ルイズ」
「だからね、私今頑張って魔法練習してるんだ。勿論、私がラ・ヴァリエールのルイズだって証明するためでもあるんだけど、
いつかすごい魔法を使って、それでお姉ちゃんみたいに強くなって、いろんな人を守りたいんだ」
「そう……」
つらいことなのだろうに、そんなことを思わせない強い意志でルイズは杖を掲げる。
それは貴族、というよりも勇者に憧れた少女のように輝かしい。
そんなルイズにキュルケは優しく微笑みながら思いついたように冗談を言ってみる。
「もしかしたら、虚無かもしれないわね、あなた。変わった魔法だし」
「虚無? えっと、あの伝説の?」
ルイズは以前エレオノールがした講義について思い出す。確か、魔法の四系統火、水、土、風のどれにも属さない、伝説といわれる系統。
それが虚無。しかし、ルイズにとってはそんなものが自分に扱えるとは露も思っておらず、苦笑しながら言った。
「まっさかぁ」
「まあ私はそうだと露とも思ってないんだけど。適当に言っただけだし。
どちらかといえば、制御不能で不器用な失敗魔法、ってところかしらね」
「あ、ひどい!」
「おほほ、悔しかったらいつか私にちゃんとした魔法を見せてみなさいな」
「見てなさいよー!」
喧嘩口な割りに、二人とも表情は楽しげだった。いつか魔法が使えるようになったら、
キュルケにも見せてびっくりさせてやろう。ルイズはそう決心を固めていた。
「ふぅ……こんなに沢山楽しくしゃべったの久しぶり。のど渇いちゃったわね」
「確かにね。……あ、あそこに果物が出来てる。あれ食べられるよ」
ルイズが指差した先には、一本の大木。そこには果物がなっていた。少し見た目は悪いが、
王都の近くにも生えているもので、ルイズはよくそれを取っていたことがあった。みずみずしく、甘いのが特徴だ。
「へぇ、本当に? じゃあ」
ルイズの言葉に興味を示したのか、そう言ってキュルケは杖を取り出し、自分にレビテーションの魔法を唱えると、
空に浮かび上がって果実を二つもぎ取った。そして再び地面に降り立ち、ルイズに一つ差し出す。
だが、ルイズは首を横に振り、その場でハイヒールを脱ぐと、助走をつけて木に飛びあがり、
幹を蹴って枝に掴まると、そのまま上って直接もぎ取り、そして飛び降りて得意顔をした。
「……器用と言うか、まるでお猿さんね、あなた……」
「せ、せめて男っぽいとか言って。お猿さんって何か嫌」
流石のキュルケも呆れ顔になった。ルイズも複雑そうな表情を浮かべる。
ルイズはお転婆に育ち、魅惑の妖精亭にいた時でもよく壁登りなどが得意だった。
そのたびにジェシカには呆れられ、スカロンやアニエスに見つかっては説教を喰らっていた。
その身軽さは今でも変わらず、よく敷地内の木に登っては使用人たちを困らせている。
本人してはなんら問題ないことなのだが、さすがにカリーヌに叱られた時にはルイズも懲りそうになった。
「さあ食べようよ。……うん、おいしい」
ハイヒールを履きなおしたルイズが美味しそうに果物をほおばるのを見て、キュルケも恐る恐る一口齧ってみる。
すると、見た目と裏腹に、かじった瞬間に仄かな甘味のする果汁が口中に広がり、素朴だが渇ききった喉の体には最高の味だ。
キュルケは二口目をがぶりと、作法も気にせずに思い切りいく。
「これは美味しいわね。今度うちで栽培してもらおうかしら」
「一日に何度も食べると飽きるけどねー。たまに食べるとおいしいなぁ」
「それもそうね」
こういうものはたまに食べるからこそ美味しい。同意だ。キュルケは納得したように頷いた。ルイズは果実を食べながら、静かに呟く。
「今日は、本当に楽しかった。キュルケにも出会えたし」
「ふふ、私もよ」
「本当は不安だったんだ。私、貴族って怖い人ばっかりだと思ってたから」
「まあ、そういう奴らもいるわよね」
「今日のパーティでもね、私を変な目で見てきたり、アニエスお姉ちゃんを見下したような目をしている人がいた。
ずっと嫌だなぁって。これだったら、やっぱり平民のままでいればよかったって、ちょっと思っちゃったの。でも、今日キュルケに会えた」
「……ねぇ、色々とさ、聞かせてもらった上で言うのも何なんだけど。初めて会った時も私にまるで警戒心なく接してくれたけど、
何で私をそうまで信頼してくれてんの? 私、貴女を見下しているかもしれないわよ?」
「うーん……」
ルイズは少し考え込んだ後、キュルケの目を指した。
「だって良い人だって言ってる目してるよ。それに、嘘がつけないって」
「え?」
「人は目を見ればどういう人か分かるんだ」
これ、ジェシカの受け売りなんだけどね、と付け足してルイズは微笑む。
キュルケの見たルイズの姿は純朴な少女のそれではなく、大人の雰囲気を持ち、優しげな
女性の姿だった。後に分かったことだが、これはカトレアの姿のようなものだったらしい。
これは余談。
とにかく、キュルケはその姿を見て、思わず顔を赤らめてしまった。そしてらしくない、と自嘲しながら、徐にルイズを指差した。
「ルイズ!」
「は、はい!」
「ツェルプストーのキュルケとして宣戦布告するわ。
……5年よ。5年以内に、貴女の全てを追い抜くぐらいの良い女になって見せる。それまで、別の誰かに負けたりとかしないでよ!」
何とも少女らしい宣戦布告だった。ルイズは一瞬何が何だかと呆然としてしまったが、キュルケの目をじっと見つめた。
彼女が見るキュルケの目には嫌らしさや悪意など全くない。どちらかといえば、自分のペースを乱されて、何となく誤魔化したかっただけなのかもしれない。
「え、えーと」
「だから貴女も、私が宿敵と認めるに値する女になりなさい。いい事?」
「……うん、約束する。私、強くなるよ。誰にも負けない、強い貴族に。それでキュルケもお姉ちゃんも、皆を悪い人から守るんだから!」
「わ、私は守んなくて良いの!」
「え? でも……」
「そういうもんなの!」
またがらにもなくムキになったキュルケは急に冷静になって、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「……もう、貴女といるとペース崩されて嫌だわ。何か、子供っぽい自分が出てくるみたいで」
「いいじゃない、お互いまだ子供でしょ?」
「12歳って言ったらね、もう大人なのよ!」
「え、そうなの?」
「そうなの! もう、本当……。でも、嫌いじゃないわ、こういうの」
「?」
「なんでもない! さ、戻りましょ!」
「うん」
「……はっ!」
「あ、やっと起きた」
夕暮れ時、酔いから目覚めたエレオノールが辺りを見渡すと、もう祝賀会会場の湖は見えない、
街道にまで辿り着いていた。一瞬何事かと辺りを見渡していたエレオノールだったが、ようやく自分の状況を思い出し、がっくりと項垂れた。
「……今年もダメだったわ。ああもう、何であそこで!」
「しーっ! アニエスお姉ちゃんも寝てるから、静かに!」
『その通りだぜ、姉ちゃんよ』
祝賀会のことを思い出し、叫び散らして気を紛らわそうとしたエレオノールを、ルイズと、何故か馬車にいるデルフによって諌められた。
隣を見ると、窓際でデルフを大事そうに抱えながら、アニエスが眠っていた。
「何か突然デルフを持ちたくなったんだって。どうしたのかなぁ?」
「し、知らないわよ。そんなの……」
『パーティで貴族のぼっちゃんども相手するのに疲れて、傭兵の時の自分を思い出してぇんじゃねぇの?』
「ふぅん……」
ルイズはアニエスの顔を覗き込む。よほど疲れているのか、これだけ騒いでもアニエスが目を覚ます事はない。
寝顔は何処か、不安そうな表情だ。
「あ、そうだ。お父さんからね、エレ姉が好きな人を見つけたって。今日会えなくて残念だった〜って言ってたよ」
「え!? そ、それは何と言う殿方!?」
「え〜っと……ば、ばぁ〜…」
『バーガンディ伯爵、だろ? 俺っちにも聞こえてたぜ』
「そう、それ。結構良い人っぽかったよ。よかったね、エレ姉」
「まぁ……あのミスタ・バーガンディが……。どうしよう、ルイズ。私、失礼なこと言わなかったかしら。
ああもう! 何で声をお掛けくださらなかったのかしら!?」
「言うも何も、ずっと寝てたんでしょ? アニエスお姉ちゃんにお姫様だっこされて」
「おひめ!?」
「私見たもんねー」
エレオノールはにやにやと笑うルイズの言葉を聞いて、恐る恐るアニエスの顔を見つめる。
そして、酔っ払っていた時の記憶がぼんやりと思い出され、アニエスの心配そうに顔を見つめてくる姿を思い出した瞬間、
ボンッ!と爆発したように一気に顔を赤らめると、背もたれに倒れこんだ。
「何たる不覚……。もうこれは私の威厳終わった……。恥ずかしいことをするなって言った私が恥ずかしいことをしたって、どんな墓穴」
「ねぇねぇ、それよりもさ」
「それよりもって何!?」
「だって気にしたって仕方ないじゃん。終わったんだし。というか、威厳ってあったっけ?」
「うぐっ……。な、何よ……」
「人一倍泣き虫で優しいくせにー」
「だ、誰から聞いたの、それ」
「ちぃお姉ちゃんから」
「ちぃ……? あ、あの子か!」
「あ、でも泣き虫は私が付け足したんだけどね」
「お前か!」
「いびゃい!!」
『これだけ騒がれて、よく起きないねぇ、相棒はよ』
ルイズが余計な一言を言ってしまったためにエレオノールの制裁を受けてしまうも、アニエスは依然として寝息を立てていた。
暫く制裁を与えた後、エレオノールは顔を赤くしたまま、どかっと腰を下ろして乱暴に聞く。
「で、何よ」
「いつつ……あのね。今日友達が出来たよ」
赤くなったほっぺを摩りながら、ルイズは嬉しそうに言った。
「キュルケって子。ツェルプストーの子だけど、とても良い子だった。私の魔法見せても
バカにしなかったし……。宿敵認定もされちゃった」
「あんた」
ツェルプストーの子と仲良くしてるんじゃないわよ、とか、人に魔法を勝手に見せてるんじゃない、
と叱ってやりたかったエレオノールはその口を紡ぐ。とても嬉しそうにルイズが笑っているからだ。
エレオノールは怒る気をなくし、代わりにルイズの頭を撫でてやった。彼女も始めての友達が出来たことを、とやかく言うほど人が悪くはない。
「……よかったわね」
「えへへ……。それでね、キュルケが私の魔法を見てね、もしかしたら虚無じゃないの?って言ったの。
あ、勿論冗談だって言ってたけどね」
「あんたねぇ、それ馬鹿にされてるのよ? きっと。……それに貴女が虚無? ありえないわね」
「だから冗談だって言ってたんだよー。でも、嬉しかったなぁ……」
「虚無、ねぇ……ありえないわよねぇ……」
「デルフはどう思うー?」
『あん? 俺か? あー……よくわかんねぇや。でも、虚無でも良いことなんざねぇぞ?きっとよ』
「そうかなぁ」
と、無邪気に笑うルイズの横で、エレオノールはそう呟きながらも思いにふける。
魔法が爆発してしまうというという変わった事例に対し、もしかしたらと思う反面、もはや伝説である虚無の存在を信じられずにいる。
そして興味が湧いてくる自分もいる。だからこそ、これを機会に虚無のことを調べてみようか、とエレオノールは考えて、それ以上の事は何も考えなかった。
今はただ、自分に何故か好意を抱いてくれたというバーガンディ伯爵に思いを馳せるだけだった。
――――――――――――――――――――
「ミス・アニエスに連れられた時のミス・エレオノールのあの寝顔……守ってあげたいと思いましたぞ。
よければ今度お食事をしたいのですが、どうでしょうか?」
「えっ?……バーガンディ君、後悔しないように」
「え?」
「あ、いやなんでもないぞ! 娘をよろしくな、あっはっは!」
「あ、はい」
本当はギーシュとか出したり、アニエスを狙う暗殺者とか出そうと思ったんですが、詰め込みすぎて無理でした。
キュルケの過去とか家族構成とか捏造しっちゃったけど大丈夫かな……。
あとエレオノールをマダオに書きすぎた気がします。アニエスの身分の捏造話も後付けで申し訳ないです。
ここまできたら突き抜けたいと思います。あと書き方を変えてみました。如何でしょうか?
では次回も、是非ともよろしくお願いします。
――――――――――――――――――――
投下乙です。
いいなぁ、このキュルケ。
ええ娘や。
勿論、エレ様もルイズもアニエスも。
ルイズ「黙れ奇乳」
もしゼロの使い魔のルイズが巨乳だったら
巨乳ルイズとかキモイです
サイトが
通常状態で顎に届くレベルの巨大な物体を持っていたら
ヌードフェンシングですね
投下乙です。
ルイズがいいキャラだなぁ。このまま歪まずに健やかに育っていただきたい。
あと『結婚できない女』の典型を突っ走るエレ姉さまにもそのままの君でいていただきたい。
しかし、ところどころでヒョイと顔を出して存在感を発揮するダンは名脇役過ぎるな。
エレ姉さんが「結婚したくてもできない」ではなく
「結婚する気がない」タイプの独身貴族だったら
>>129 こんなん?
才人「エレオノールさんて結婚しないの?」
ルイズ「エレ姉さまは『私の夫はアカデミーよ。私は仕事と結婚したの』って言ってるけど」
才人「それって負け惜しみなんじゃ……」
エレ姉の可愛い寝顔見て婚約を決めたんだけど実際に付き合ってみたらお察しだよ、てことになるのかならないのか
寝てるうちについたらできたとか何たる鬼畜
もしも対7万の直前、サイトが代わりに足止めに行くつもりだということにルイズが気づいたら
┣結局サイトが足止めに向かうよ
┃ ┣原作と同じ展開派
┃ ┗サイトを心配してルイズがこっそりついてくるよ
┃ ┣当然だがルイズ死亡するよ派
┃ ┗ルイズ捕まり人質になり、サイトも捕まるよ派
┣ルイズが足止めに向かう
┃ ┣現実は非情である、ルイズ死亡派
┃ ┗ルイズは生き残るよ派
┃ ┣ルイズは足止めに成功した上に逃亡に成功するよ派
┃ ┣ルイズは捕虜になるよ派
┃ ┗さすがは虚無、常識では考えられないことを平然とやってのける。そこに(r派(7万の撃退に成功するよ派)
┣担い手と使い魔は一心同体
┃ ┣トンデモ結論ですべてを捨て二人で愛の逃避行派
┃ ┗ルイズとサイトの二人で足止めに向かうよ派
┃ ┣あえなく二人とも死亡するよ派
┃ ┗虚無はチート。ガンダもチート。ならば二人は7万の戦力に等しいよ派
┃ ┣足止めに成功して逃亡に成功したよ派
┃ ┗足止めどころか撃退に成功。さすがは虚無汚いさすが派
┗なんのためにチェザーレがいたんだよ
┣チェザーレがルイズを強引に逃がすよ派
┗チェザーレが代わりに足止めするよ派
こうですかわかりません!
サイトが死にそうになって感情が爆発し、補充どころか許容量限界突破して溢れ出す超魔力を根こそぎエクスプロージョンに注ぎ込んで全てを滅する派
そして荒野に残されたのはサイトとルイズのみ
7万人のルイズ
>>135 そして瀕死のサイトを救うべく魔王の力を使ってサイトを魔人にして…
ってそりゃ別のピンク髪か
サイトの服がお星様キラキラになるんですね
そんなアホな展開もルドラサウム召喚しちゃえば可能という
一歩間違えりゃ虚無の闇だけどな
ある小説を見てて思いついたIF
もしもサイトが召喚されたのが秋葉原ではなく
ある装置の実験中だったら
防衛省が秘密裏に開発した磁場シールド装置の暴走により
偶然ハルケギニアに繋がり そこから召喚された
日食は空間の揺り戻しによって発生するって事になりそうだな
フィラデルフィア実験乙
もし才人が召喚される時蝿も一緒にゲートをくぐっちゃったら――
蝿がガンダールヴ
昔の映画だと、蝿頭のサイトとサイト頭の蝿がでてくるんだな
せっかくだし蝿の超人にでも変身できるようにしてやれよw
見た目はアレかもだが空飛ぶガンダールヴは強いぞ!
仮面ライダーかよ
しかも怪人じゃねえかw
サモンサーヴァントの銀のカガミを好きなところに召喚出来るように特訓して
色んな生物を何種類もその中に突っ込んでキメラ作りに精を出すマッドなメイジとか
>>148 普通は訓練で何とかなるわけないだろう
そのメイジが虚無ってたら無いとは言いきれんがw
なるほど、ジョゼフか
ギーシュ「本当は素手の方が強いんだが僕はメイジだから手加減して魔法で戦ってあげよう」
な決闘シーン
中の人がAA麻呂なアンリエッタ
トリステイン詰んでる気がちっともしねえ
あれってただのZIP乞食じゃないの?
>>151 刃牙か何かですかw
トリスティン〜開国前の日本間を行き来する事が出来るようになり、地球には存在しない航空戦力で日本や列強をフルボッコするトリスティン。
という逆レッドサン=ゼロ=メイジなんてどうだろうか。
きっとものすげー勢いで地球を見下すんだろうなぁ……
そして飛行機が開発されて殲滅されると。
コッパゲが日本側について実用レベルのエンジンが開発され、飛行機でフネや竜騎士に対抗するのも面白いかも。
コッパゲのエンジン開発って「平民でも扱える便利な力」を求めての事だし、モロにメイジVS平民という戦いになる日本VSトリスティンでは案外日本側につく可能性は高いと思う。
それに航空戦力抜きに単純な国力差を考えると、江戸時代〜幕末の日本の方がトリスティンより圧倒的に上だし、
トリスティンの平民達もトリスティン(メイジ)VS日本(平民)の戦争じゃ、心情的に日本よりになるだろうし、
航空戦力+魔法ありの圧倒的アドバンテージを考慮に入れても割かしバランスのとれた戦記になるかも。
トリスタニアなんぞというド田舎とは比べ物にならないほど発展した江戸の街を見て、ルイズ辺りはどう思うんだろうか?
魔法で産業革命
貴族の金持ちが投資して金持ちがもっと金持ちになる
貴族は全部明治なので魔法がお金に成り代わっただけで貴族の優位性変わらず
化石燃料と違ってメイジが存在する限り使えるエネルギー魔力
その魔力に日本政府が目を付けたら?
開国前の日本の大砲じゃ、大型ゴーレムを破壊できないだろうし。
火縄銃じゃ射程も発射速度もダメダメで、ハルケのマスケットと同レベル。
ついでにいうと日本の侍の殆どは堕落しきって役立たず。
ハルケ側が蹂躙する話は「あの作品が」スレでもないから、ちょっと読んでみたいな。
あれか、開国後は明治時代じゃなくてメイジ時代になるのか
日本側もふぃっくしょんから出せればなあ・・・
牙突でゴーレムを破壊する新撰組と申したか
ゴーレム相手なら不二で怪獣大決戦も捨てがたい
あとは俺の知り限りではエアマスターからも1人っばかし参戦可能か
でも、明治天皇なら日本刀で宇宙戦艦を切り裂けるよ?
【作品が違う】
天人の代わりにメイジが威張ってる銀魂の江戸になってるんじゃないかと
西郷とか次郎長の世代で何とかなっちゃって、糖尿パーマとかの出番が無さそうです・・・
ここクロスじゃないから
遊び場間違ってんぞ
もしもサイトがデスノの月並の頭脳と腹黒さだったら
>>165 「トリステインの神になる!」
スケールが微妙にせせこましいのがサイトクオリティ
もしサイトの能力が他のメイジの体を乗っ取って同化できるものだったら
>>167 モンモンかタバサかキュルケの身体を乗っ取る。
ルイ……ズ……?
もしもルイズが少佐の演説を地でいくウォーモンガーだったら
煽るだけ煽って戦闘出来ません魔法使えません指揮も駄目ですとかマジ無能
戦闘中に後から撃たれるタイプの指揮官じゃね?
あれは「とりあえず戦えればいい」という戦闘狂に
最高の舞台を提供を約束し、かつ実現させたから、
感謝されこそすれ恨まれていないぞ。
というかアレはオンリーワンの個性を持ったキャラだから
あれのようなキャラにするだけでよくてインスパイア、
大抵パクリキャラとしてしか認識されないと思うぞ。
あれだけ無茶苦茶やっても背後から撃たれない。
最終的に「さあ、皆で楽しく玉砕しよう」とか言ってるのに兵たちが喜んで付いてくる。
あの形容不能のカリスマ性と精神性こそ少佐の少佐たる所以だと思うけど。
「抗命は戦争の花だ」とか言ってたから、背後から撃たれることすら楽しんでそうだし。
あれで実は最後の大隊最強の戦力だった、とかなってたら、個人的にはガッカリしてただろうなぁ。
このスレにも初期の頃にいた気がするけど。ジョゼフとの戦争を遊戯として楽しむ魔王アンアン、みたいなのが。
もしも囁くほうの少佐にルイズが影響されたら
囁くほうの少佐って誰?
ゼロ魔世界に居んの、そんな人
少佐「セイバーはぁ、俺のもんだってぇぇいっただろぉぉぉぉ!」
ドク「いいやッ!おれのものだっていってんでしょぉぉぉ!」
大尉「俺、学校の先生になってキャスターさがしてくる。あと殺人鬼にもなる。」
ルイズ「私、かぶき町でチャイナになってくる。あとエレオノールお姉さまと人体錬成(乳肉増量)に失敗して鎧にもなる。」
こんな感じか・・・・・・ゴクリ
177 :
170:2010/05/04(火) 23:00:28 ID:gtWSb/M9
>>171 ちがうっすよ
ルイズに少佐の真似させたって無能なだけじゃんって話で少佐そのものは素晴らしいキャラですよ
カバー裏から考えてみれば、後ろから撃たれるどころか「我々の業界ではご褒美です」とか言い出すよ、きっと
ルイズちゃんとカリンちゃん(永遠の十七歳)の
ドタバタ学園コメディ冒険活劇ファンタジーまだー?
よかった、一月経たずに済んだ。
第11話のほうが完成しましたので、5分後ぐらいに投下したいと思います。
相変わらず話が進まないー。
「よい、しょ……」
ラ・ヴァリエール公爵家の屋敷の傍にある洗濯場。そこに、ハルケギニア人にしては珍しい、
真っ黒な髪を持つ、そばかすが特徴の一人のメイドが懸命にメイド服を洗っていた。彼女の名はシエスタ。
魅惑の妖精亭の看板娘、ジェシカの従姉であり、トリステイン王国のタルブ村の出身である。
「ふぅ……やっと終わった。早く持っていかなきゃ」
洗ったメイド服や執事服が積まれている洗濯籠を腰を据えて持ち上げる。
普段から弟を世話していたりする彼女にとって、これぐらいは持つぐらいならば何ともないが、運ぶには少々骨が折れる。
落とさぬよう崩さぬようシエスタはふらふらと右へ左へ揺れながら、ゆっくりと運んでいく。
「シーエスタ」
「きゃ!?」
と、突然上のほうから声が聞こえてきて、シエスタは思わず転びそうになる。何とか姿勢を保ち、
上を見上げると、傍にあった木の枝にルイズが座り、彼女を見下ろしていた。
「やっほー」
「吃驚したぁ……ルイズ、様じゃないですか」
「やだなぁ、二人きりの時は前みたいに呼んでよぉ」
実を言うと、この二人はジェシカを通じて知り合っている仲だ。ジェシカの里帰りに付いていったり、
逆にシエスタがジェシカの許に来たり。その時に良く遊んだものだ。
「う、うん。で、そこで何してるの? ルイズ」
「サボり中」
シエスタはもう一度こけそうになる。それに対してルイズは悪戯っぽく笑って、まるで反省していない。
「また怒られるよ? エレオノール様に」
「大丈夫大丈夫。今頃、私の事血眼になってあっちのほうを探しているはずだから。それよりも重そうだね、持って行こうか?」
「え? い、いいよ、大丈夫。それにルイズに持たせたら、それこそ私が怒られちゃうよ」
「あ、そっか……。何だか難しい立場になっちゃったね」
ルイズが残念そうに気を落とした表情を浮かべる。昔ならば、こんなに気を遣うことなどなかったのに。
今では平民と貴族、それもメイドとその主人の娘である。ルイズは少し残念だった。
そんな彼女の心情を汲み取ってくれたのか、シエスタは苦笑しながら言った。
「大丈夫。心の中では友達のままだから」
「そう、そうだよね」
「うん」
シエスタはまるで向日葵のような笑顔を見せた。貴族のように上品ではないが、とっつきやすく、
そして何より元気が湧いてくるような笑顔だ。ルイズはこの笑顔が大好きだった。
と、シエスタの笑顔が突然恐ろしいものを見たかのようなものに変わった。
「あ……」
「こら、おチビ! やっと見つけたわよ!」
「げぇ、エレ姉だ」
「全く、勉強サボってそんなところ上って。そんなのじゃ、あんたこの先恥掻くわよ! 恥!」
「ふーんだ、そんなことを言われて素直に勉強をする私ではないのだ」
「何格好付けてわけわからないことを言ってるのよ! さっさと降りてきなさい!」
二人の許に駆け寄ったエレオノールが下から叫び散らすが、ルイズは悪びれた様子もなく、
ただ余裕の表情を浮かべてエレオノールを見下ろしていた。
「そう、あんたがそういう態度取るなら、私も考えがあるけどね」
エレオノールは眉間に皺を寄せながら、そう言って杖を取り出し、フライの魔法でルイズと同じ高さまで上る。
それを待っていたといわんばかりに、ルイズは後ろに倒れこむように木の枝から降りると、一回転して地面に着地し、
今度はエレオノールを見上げる。
「あっ!」
「へへん、フライを使っているときは他のは使えないって聞いたばっかりだもんね! じゃ、てわあ!」
エレオノールはしまった、と焦りの表情を浮かべて、それを見たルイズはそのまま逃げようとしたが、
ふり向いた瞬間、彼女の目の前に突如黒い影が立ちふさがり、驚いて思わず尻餅をついてしまう。
「よっと、確保」
「あ、アニエスお姉ちゃん!」
「いいわよアニエス」
アニエスはルイズを逃げられないよう抱きかかえる。それを見たエレオノールはしてやったりという表情を浮かべている。
どうやら端からこういう手はずだったらしい。
「ず、ずるい! お姉ちゃんまでグルだったなんて……!」
「ルイズが真面目に勉強しないって聞いたからな。ダメだぞ、ちゃんと勉強しないと」
「くっくっく、何時までもあんたに苦渋を舐められるような私ではないわよ。まあ? 私が本気出せばこんなもんよ」
と言いつつも、エレオノールは一矢報いたりと顔をにやけさせているから、わかりやすい。
エレオノールがルイズにレビテーションの魔法を掛けると、さすがにルイズは諦めたのか、
まるで首根っこをつかまれた猫のような格好で大人しくした。
「はわぁ……やっぱり魔法ってすごいなぁ……」
「ん? ああ、貴女、この前ここに来たええっと……名前なんだっけ?」
「タ、タルブ村から来ましたシエスタと申します!」
「ああ、そうそうシエスタね。このじゃじゃ馬を引き止めておいてありがとう」
「あ、いえ、そのどういたしまして?」
シエスタは複雑な表情を浮かべつつ、苦笑しながらエレオノールに頭を下げた。
エレオノールはさほどシエスタに興味を持たず、ルイズのほうを向きなおすと、右手を天に振り上げる。
「全くこのじゃじゃ馬は!」
そして勢い良くその手を振り下げたその瞬間、スパァンと景気の良い音が庭中に響き渡る。
「いったあい!」
「うわ……」
いわゆる尻叩きである。本来なら貴族がこんな叱り方などしないのだが、
エレオノールはアニエスの話を聞き、これが一番効果があるだろうと知ったのだ。
事実、ルイズは今まで叱られた中でも一番応えたのか、涙目になっている。
シエスタも何となくその痛みは知っているし、よく弟たちをしかりつけるためにやっているため、
その気持ちは分かり、思わず声を漏らしてしまった。
「ふふふ、これはいいわね……!」
「姉上、変な物が漏れてますよ」
「鬼、悪魔、人でなし! 乳無いったぁぁああ!」
「誰がハルケギニア伝説の虚無の乳ですって? あんただって似たようなもんでしょうに」
「そこまで言ってないっつの! ああん、もうアニエスお姉ちゃんの馬鹿!」
「何で私まで……。まあいいか、ではそろそろ鍛錬に戻ります」
そう言うと、呆れたアニエスはそそくさとその場を後にしていった。そしてエレオノールもルイズを浮かせたまま、
屋敷のほうへと戻っていこうとしていた。
「あぁん! お姉ちゃんの薄情者ぉ! シエスタ助けてぇ!」
「だまらっしゃい! さあルイズ、勉強よー! おーほっほっほ!」
「いってらっしゃいませー……」
そんな二人をシエスタは軽く手を振って見送る。平民とかそういうのを抜いても、今のエレオノールとはかかわりたくない、
それが正直な気持ちだからだ。
さて、二人が見えなくなったのを見計らって、シエスタは洗濯籠を持って屋敷の使用人口へと向かう。
第11話
彼女がここに来たのはほんの数日前のこと。突然タルブ村に訪れたジェロームというラ・ヴァリエール家の執事に誘われ、
彼女は公爵家のメイド、の見習いとして暮らしている。
彼女が雇われる一週間ほど前。ラ・ヴァリエール家のメイドが数人が高齢による体力の限界を理由に辞職を願いを出した。
勿論すぐに辞めるわけではないが、この人数の空きを埋めるために、使用人たちをまとめている執事のジェロームは
メイドを集めることにしたのだった。
その場合、今までは経験豊富なメイドを雇い、即戦力としてきたが、それでは競争率も高い。
今回はメイド長の要望により、経験がなくとも将来が有望そうな若いメイドも入れて、今のうちに育ててしまおうという方針になった。
そんな話を聞きつけたルイズがジェシカの言葉を思い出し、是非ともとシエスタを推薦したのだった。
そんな事情もあり、始めは家族からの反対もあったものの、当人の希望によりシエスタはラ・ヴァリエール家の新人メイドとして教育を受けることになった。
勿論それは生易しいものではなく、相当厳しいものだが、彼女としては念願のメイド生活を折角手に入れたので、
それについていこうと必死である。
彼女に与えられた任務は、現在正式に雇われている使用人たちの服などの洗濯や彼らが使っている部屋の掃除など、
ひとまず雑務の雑務である。と言っても油断は出来ない。
エプロンドレスや執事の服、どれをとっても一流のものである。流石公爵家とあって、こういうところにも目が行き通っているらしい。
シエスタの着ているのは先輩メイドからのお下がりだが、それでも彼女が来た服の中で一番着心地が良い。
下手をしたら、下級貴族が着る服よりも高いのではないか、とまで錯覚してしまうほどである。
使用人の部屋も綺麗だ。そして彼らの掃除をするのもまた、シエスタ達新人メイドの仕事だ。
「ほら新人、遅れてるわよぉ! どんどん掃除する!」
「は、はぁい!」
監視役のメイドに言われるがままに、シエスタは廊下の掃除を始める。モップを持って、腰を入れて、力強く床を拭く。
「あーダメダメ! そんなに力込めてやっちゃ床が傷つくでしょ? もっと優しく、労わるような感じでかつしっかり腰を入れてやるのよ!」
「は、はい!」
シエスタはメイドの矛盾に突っ込む暇もなく、とにかく一生懸命自分なりに作業をしていく。
何度か怒られはしたが、段々と要領をつかんできたシエスタは何とか午前の掃除作業をこなし終えた。
シエスタは疲れた表情で使用人用の食堂へと向かう。すでにそこには賄い料理が用意され、
使用人たちが各々食事を取っていた。シエスタも自分の分をシェフから貰うと、深く椅子に腰掛け、両手を合わせて。
「いただきます」
と言ってスプーンを手に取り、料理を口に運ぼうとする。すると、隣に誰かが座ってきた。
「なに今の?」
「え? えっと、私の家で食事をする時の言葉……」
「ふぅん……」
座ったのはシエスタと共にここへ来た新人のメイド、リサだった。綺麗なブロンドの髪を後頭部でまとめ、
顔にはシエスタと同じようにそばかすがあり、いかにも田舎から出てきた素朴な少女と言った所だった。
「んじゃ私もいただきます。はあ〜やっとご飯だよぉ」
「そうだね。ここに来てもう何日か経ったけど……。疲れたよね」
「そうだねぇ。ああ、ここの食事だけが楽しみだわぁ」
そう言って彼女はスープを口に運ぶ。シエスタもサラダを口に運ぶ。賄いとはいえ、
シェフたちは味に妥協をせずに作っているため、まるで一流レストランで食事を取っているようだ。
「う〜んおいしい」
「やっぱり働いた後のご飯は美味しいね」
「そうねぇ。それにしても公爵家って変わってるねぇ」
「変わってる?」
シエスタは首をかしげる。リサは続けて言った。
「平民の貴族のこと。えっと?」
「ああ、アニエスさ、まの事?」
「そうそれ。普通平民が貴族になるなんてありえなくない? どんなコネ使ったんだろ?」
事情の知らないリサには想像もできないかもしれない。本来平民が貴族になることなど殆どありえないことなのだから。
なれたとしても、その事実を隠すだろう。例えば妾など。その点、一応事情を知っているシエスタとしては、
これも貴族の優しさなのだろうかぐらいで済んでいるわけだが。
「聞いた話だと、奥様やお嬢様のお命をお救いなされたから貴族になれたって聞いたけど……」
「へぇ、でも元傭兵でしょ? そんな人が貴族なんて、ねぇ。もしかして、旦那様に見初められたとか!?」
「え!? ま、まさかぁ」
これは予想外である。が、しかし、実はそういった物語が書かれた小説をシエスタは読んだことがあったため、
まさか、と一瞬考えてしまった。しかしありえない話ではない。
そんなところへ先輩メイド、アニエスの付きをしているアネットが現れた。
「あらあら、そんなことはないわよ」
「あ、アネット様! ご、ごめんなさい!」
突然現れたアネットに驚いて、二人は慌てて頭を下げる。もしこれがアニエスや上に報告されたら
解雇どころか実家に魔法が飛んでくるかもしれないからだ。だが、アネットは怒りを見せる様子もなく、
二人を軽くこついて注意した。
「まあ噂をするのはここだけでね。外で誰かに聞かれたら叱られるわよ?」
「はい、申し訳ございません……」
「はい、よろしい」
二人の返事に満足そうに笑みを浮かべながら頷くアネット。だがリサは納得していない様子で言った。
「でも、アネット様はアニエス様のことをどう思っているんです?」
「え、私?」
アネットは少し返答に困りつつ、少し考え込んだ後答えた。
「うーん……そうね。始めは嫉妬したかしらね」
アネットの言葉にシエスタは驚いた。リサのほうはそりゃそうだと大きく縦に頷いている。
シエスタも同じ気持ちだったが、アネットがそんな気持ちを素直に口に出したのが驚きだった。
アネットも何時もの表情を少しだけ暗くしながら続ける。
「偶然が重なって、それで偶然貴族になれて裕福な生活をしている。羨ましいし、そんな風な運命を持った彼女に嫉妬してしまったわ」
かつてアネットはメイドでいられた方が気が楽と話したことがある。だが、家を復興させたいという気持ちだってあった。
だからこそ偶然が重なり合って、名を貰ったアニエスが羨ましく思う反面、そんな幸運に恵まれた彼女に嫉妬を感じた。
もし自分がそう言う立場だったら――。
「そうですよねぇ。そういう幸運、私にもあったらなぁ」
「でもね、そうして偶然手に入れたものは全てが幸運だけじゃないわ」
「? えっとつまり、不幸なものもあるってことですか?」
「そう。……貴族の中に平民が混じるのは、それだけで忌わしく思われる。それを想像するのは簡単でしょう?」
まるで自分みたいだと、までは言わなかった。アネットもまたメイジとして生まれた故に
平民からは奇異の目で見られてきた。それとアニエスは一緒だ。力を持てぬだけ、なお性質が悪い。
「だから……」
「はい休憩後十分で終わりよー! 皆準備してー!」
「あ、もうそんな時間ね。ご飯急いで食べなきゃ」
アネットの話は休憩時間の終了を告げると共に途切れてしまった。アネットは普段の表情に戻ると、
急いで食事を済ませ、食器を片付けに行ってしまった。何だか不完全燃焼な二人は複雑な表情を浮かべてお互いの顔を見るも、
再度休憩終了の知らせを聞いて、慌てて食事を済ませて、彼女たちも持ち場へと戻っていった。
「はぁぁ、つっかれたぁ」
午後の彼女たちの役割は雑草抜きである。二人とも農村暮らしで慣れているとはいえ、広い敷地の雑草を抜くのは重労働である。
リサは腰を叩きながら一息つく。
「全くドンだけ広いのよ、ここ……」
「本当だよね。ふぅ……」
流石のシエスタも汗を拭って、疲れた表情で一息を付く。実を言うと研修のために、
何時もよりも広い敷地を任されているのだが、それを彼女達は知らない。
「あーもう! 私もアニエス様みたいに美味しいご飯食べたいー! 綺麗な洋服着たーい! 絶対出世してやるー!」
「もう、またそんなことを」
「アニエスお姉ちゃんと聞いて!」
「う、うわああ!?」
その仕事のつらさに不平不満を叫び散らすリサにシエスタが注意をしようとしたとき、
突然彼女たちの背後の木からルイズが滑り降りてきたのだった。
二人は思わず声を上げて驚き慌てるが、先ほどのこともあって、シエスタがいち早く立ち直ってルイズに詰め寄る。
「お、驚かさないでよ、ルイズ〜!」
「いやぁごめんごめん。でも突然アニエスお姉ちゃんの事が聞こえたからさ」
「ちょ、シエスタ、あんた今お嬢様の事」
「あっ、も、申し訳ございません、ルイズお嬢様!」
「別に気にしないの。それよりもシエスタ、この子は?」
「あ、うん。私の同僚でリサって言うんだけど」
「ど、ども〜」
「そうなんだ、よろしくね、リサ」
「……って午後も勉強じゃなかったっけ?」
「えへへ、エレ姉に蜘蛛投げつけて逃げてきちゃった。こんな大きさの」
「……」
蜘蛛。8本の足を持つその虫は基本的に益虫である。時々毒をもったり、家よりも大きかったりするものがいて、
人に嫌われる対象にもなるが、基本的には人に害する事はない。
が、エレオノールはその蜘蛛が苦手である。どれだけ苦手かといわれると、悲鳴を上げて気絶してしまうほどである。
そんなことをカトレアから聞いていたルイズは、何時も勉強部屋になっている図書室に住み込んでいる蜘蛛をこっそり捕まえて、
そして隙を見てエレ姉に投げつけて、ここまで逃げてきたのだ。
……投げられた蜘蛛は、まるでやれやれと言った様子で、気絶したエレオノールの顔を歩くと、
そのまま何処かへといってしまったが、これは余談。
「全くもう、悪戯が過ぎると後でお母様からも叱られるよ?」
「大丈夫大丈夫。エレ姉はプライド高いから、告げ口とか絶対しないし」
「そういう問題じゃあ……」
「それよりもさ、何話してたの?」
「え? あ、いやその……」
「ひっ!」
「ん?」
話を続けようとしたルイズだったが、リサとシエスタの表情が瞬時に強張ったのを見て、
デシャヴを感じて恐る恐る振りむく。するとそこには、ゆらりと眼鏡を光らせて、不気味に笑うエレオノールの姿があった。
「え、エレ姉……もう復活したの?」
「ふ、ふふふ、そうよね……、今まで貴女を5歳の頃から変わっていないと侮っていた私が悪かったわ……。
まさかこの私に蜘蛛を投げつけられるまでに成長していたとはねぇ……ふふふ、ふふははは!」
「あ、えっと、その」
「喰らいなさい!」
まるで壊れたように高らかと笑うエレオノールに対し、さすがにやり過ぎたとルイズは慌てていたが、
彼女がなにやら右手に握っているのを見て、突然背中に寒気が走る。
あれは危険だ。だが、そう感じたのも遅く、エレオノールは右腕を振りかぶって、怒りに
顔をゆがませながら握っていたものをルイズに投げつけた。
ぴと、とルイズの顔面にそれがぴったりと乗っかる。一瞬事態を把握できなかったルイズ
はそのまま静止していたが、顔に乗ったものの正体が分かるととたんにその場に膝を落としながら、叫ぶ。
「ひ、ひぎゃあああ! か、かかかかカエルぅぅああ!」
「くっくっく……計画通り! 貴女が居なくなる前から嫌いだったカエル……。やはり克服できていなかったわね」
そう、ルイズの顔に張り付いているのは、エレオノールの手のひらぐらい大きなカエルだ
った。勿論無害で大人しいが、カエルが嫌いなルイズにとってこれほどの恐怖はないだろう。べっとりとした感触がなおルイズに恐怖を与える。
しかも、エレオノールが投げつけたこのカエル、あまり動かない習性である。つまり、誰かが取らない限りルイズの顔から離れないのだ。
「シ、シ、シエスタ取ってぇぇ!」
「シエスタ、取っちゃダメよ。取ったら……。そしてそこのメイドも……」
「「は、はいぃ!」」
が、現実は非常である。親友のシエスタもその仲間も、エレオノールの剣幕には逆らうことが出来ず、
遠巻きに見守るぐらいしか出来ない。ごめんなさいルイズ、とシエスタは心の中で謝るものの、大人しく雑草抜きの作業に戻っていた。
「さあてルイズ、どうしてほしいかな〜?」
「と、ととと取って、取ってよエレ姉!!」
「ああん? 聞こえないわねぇ」
「取ってください、エレオノールお姉様!!」
「言葉が足りないんじゃないのぉ?」
「一生懸命勉強します! だ、だ、だ、だから、お願いだから、ああああん!!」
「……よし、いいわよ、ほら」
今までの仕返しといわんばかりに意地悪をするエレオノールに対し、ひたすら懇願し続けるルイズは終に大泣きしてしまった。
それに対し流石に罪悪感を感じたか、エレオノールはルイズの顔からカエルを引っぺがすと、自分の頭の上に乗せた。ルイズは未だに硬直して、
涙を流し、息をひっくひっくと漏らしている。
「ただし、また勉強から逃げるようだったら、今度は背中にこいつを入れるからね。覚悟をし!」
「ふ、ふぁあい」
ルイズも懲り懲りなのか、涙目になりながらふらふらと屋敷のほうへと戻っていく。それを監視するかのように、
エレオノールも満足そうに歩いていった。
因みにこのカエル作戦、エレオノールがアニエスにルイズの苦手なものを訪ねて行ったことで思いついた事である。
アニエスも適当に誤魔化そうかと思っていたが、エレオノールのあまりの剣幕に押し負け、思わず正直に吐いてしまったのだから、
今回の彼女の恐ろしさは並ではなかったのだろう。その後姿を見送って、シエスタとリサはため息をつく。一安心といったところだ。
「しっかし、何時もあんな感じなのかな、あのお二人って?」
「さあ……仲は良さそうだけれど」
「私もやったなぁ、ああいうの。弟にトカゲ投げられて、その仕返しにその日のご飯をトマトだらけにしてやって。懐かしいなぁ」
「ああ、そういえば私もよく弟たちに悪戯されたなぁ……」
「……あれ、意外とエレオノール様って親しみやすいの……?」
「そういうことじゃないと思うよ? た、多分」
何かに目覚めそうになるリサを、やはり同じく目覚めそうになるシエスタは何とか踏みとどまって、彼女に突っ込みを入れることにした。
さて、続いて倉庫の掃除である。これは何個もあるため、リサと別れ、一つずつ担当することになっていた。
倉庫はしばらく放置されていたのか、蜘蛛の巣や埃が溜まっていた。
こういう目に行き届きにくい場所を担当するのも、新しい使用人の役割だ。
なお、物の運び出しは流石に一人では出来ないので、他のメイドたちにも手伝ってもらっていた。あとは掃除だけである。
……運び出したものに、『カリーヌの私物、開けない事』と書かれた箱があったが、とりあえずシエスタは気にしなかった。
「でもこれも故郷でやっていることと変わらないよね」
と、シエスタは腕をまくり、手ぬぐいで口を覆うと、叩きを使ってまずはくもの巣や高いところに溜まった埃などの駆除から始めた。
時々ねずみや蜘蛛の、または……想像もしたくもないものの気配を感じるが、シエスタは特に気にすることなく、いや気にしないふりをして掃除を続ける。
そうしているうちに自分の中の世界に入り込んでしまったのか、鼻歌を歌い始めた。決して美しい、とは言えないが、それでも優しいメロディーだ。
この歌はシエスタの故郷でよく歌われている童歌だった。
「ふん、ふふんふん……ふん、ふん……ふふんふ、あれ?」
そんな調子で掃除を続けてると、足元に何か聞きなれない鳴き声が聞こえてきた。不意に下を向くと、そこには見慣れないリスがいた。
庭に住み着いている野生のリスがここに紛れ込んだのだろうか。シエスタがふとしゃがみ込んで顔を近づけてみると、
リスは突然シエスタの足元にもぐりこみ、そしてスカートの裾にしがみつくと、そのまま駆け上がり、シエスタの肩に乗っかった。
突然の事に驚いたシエスタだったが、その可愛らしさに思わず顔を綻ばせ、リスを撫でようとする。
するとリスはまるでシエスタで遊ぶようにその手から逃れ、反対側に走ったと思えば、顔をシエスタの頬にこすり付けてじゃれ付いてきた。
「あはは! くすぐったぁい」
シエスタは仕事を忘れ、そのリスと戯れた。すると、何処からともなくまた声が聞こえてくる。
それは人の声だった。その声が聞こえてきた瞬間、元気良く動いていたリスは止まり、その方向をじっと見つめていた。
「……?」
シエスタは不思議に思い、とりあえず倉庫の外へと出て行く。そして、裏へと周り、声が聞こえてきたほうへと歩いていくと、
そこには桃色掛かった長いブロンド髪を優雅になびかせ、穏やかな雰囲気を持つ女性が何かを探していた。女性は歳に似合わず杖を突いており、
その周りには蛇であったり、狸であったり、狐であったり、時には小型の竜のようなものまで。様々な動物たちがまるで彼女を守るかのように付き従っていた。
「ジャン! どこにいるの? ジャン!」
「ジャン? あ!」
何で杖を持っているんだろう、とそれにジャンって? とシエスタが首をかしげると、
リスが突然彼女の肩から飛び降り、そしてブロンドの女性の下へと駆け寄っていった。
「ジャン、突然何処かへ行ってしまうから探したのよ? あら……貴女は?」
「あ、は、はじめまして! ご、ご機嫌麗しゅうございます! 奥様!」
この方はきっと、このお屋敷の奥方、カリーヌ様ではないか、とシエスタは早とちりして、慌てて頭を下げながら挨拶をした。
そんな彼女に対し、女性はくすくすと笑って優しく話し掛ける。
「あら、私は夫人ではないわ」
「へっ!?」
「私はカトレア、ラ・ヴァリエール家の次女です。貴女は……最近来た、ルイズのお友達ね?」
「あ、いや、あのその、ももも申し訳ございません!」
貴族に対し、名前を間違えることなど無礼極まりないことである。シエスタは慌てて地面に平伏して必死に謝った。
もしかしたら魔法が飛んでくるかもしれない、ああ、私って何てドジなんだろう。
と、シエスタが心の中でまるでこれから死ぬかのような思いをめぐらせていると、そんな彼女に、魔法の代わりに温かな手が差し伸べられた。
「顔を上げて? 大丈夫、怒ってないから。失敗なんて誰もがすることじゃない」
「は、はいぃ……。ありがとうございます」
「ふふ、優しい子なのね。ジャンが遊んでくれてありがとうって言ってるわよ?」
シエスタが涙目で顔を上げると、その涙をカトレアが優しく拭ってみせる。
こんな貴族など会った事などない、シエスタは若干危うい部分にまで行き届くぐらい、彼女を尊敬し始めた。
「動物達の言葉がお分かりになられるのですか?」
「分かるというか……そうね、心が通じ合っているって言うのかしら? 何となく、語りかけてくることがわかるのよ」
「そ、そうなんですか」
メイジってすごいなぁとシエスタは感心する。
だが、これはメイジの能力と言うよりもカトレアが天性に持ち合わせた才能であるのだが、それはとりあえず今は置いておくことにしよう。
「あ、そうだわ。少しお伺いしたいのだけれど……。この辺りに少し大きめの虎を見かけなかったかしら?」
「虎ですか!? あ、いえ私は倉庫の掃除をしていましたので、虎は……」
「そう……どこへ行ってしまったのかしら?」
「あの、私も一緒に探させていただけませんか?」
カトレアは困ったようにため息をつく。そんな彼女に、シエスタは力になりたいと思い、
捜索の手伝いを願い出る。するとカトレアはぱぁっと表情を明るくし、手を叩いて喜んだ。
「まあ、本当? ではお願いね」
「はい、頑張ります!」
シエスタは気合を入れて、周りを探し始める。大きめな虎という話ではあるから、すぐに見つかるだろう。
掃除を放置することになるが、そもそも主の手助けもメイドの立派な仕事だ。これを果たすことに何の文句があろうか。
別に後で戻ってやれば良いのだ。シエスタはそう心に決める。
「うぅん、どこへ行ったのかしら」
カトレアもシエスタの後を、杖を突きながらゆっくりと歩く。動物達は彼女の先を歩いたり、
かと思ったらシエスタの回りを歩き始めたり。自由に行動していた。
どうしたらこんなに動物に好かれるんだろう? とシエスタは自分の肩に乗っかってきた竜の足を少しくすぐりながら、
カトレアに羨望の視線を送る。カトレアはそんな彼女の気持ちを察してか、にっこりと笑顔で返す。シエスタは思わず顔を真っ赤にして、顔をそらしてしまった。
「あら、どうしたのかしら?」
「い、いいえ何でもありません! ……ってああ!!」
「……? まあ!!」
シエスタは視線の先に何かを見つけて、驚いたように声を上げた。
カトレアもその視線の先を見て、口元を手で覆いながら驚いた。
彼女の目線の先には、カトレアが探していた虎とアニエスが取っ組み合いをしていたのだ。
その側には母カリーヌが厳しい目つきで見守っていた。
「お母様! それにアニエス! 一体何をしているのですか!」
カトレアは普段の穏やかな雰囲気からは想像できないような動揺しきった表情で、二人の許へと駆け寄った。
シエスタもその後を追う。
「ぐぬぉぉぉ!!」
「ガルルル……」
「ん? カトレアですか。そんなに慌てては体に障りますよ」
取っ組み合いをしているアニエスは虎の下敷きになり、必死に引っぺがそうとするが、虎は彼女を離そうとはしない。
やっている事は甘噛みであるが、このサイズの虎の甘噛みは人間にとって致命傷になりかねない。
カトレアはカリーヌの冷静な振る舞いに驚きながらも叫んだ。
「カトレアですか、じゃありません! アニエスに何をやらせているのですか!」
「修行ですよ。……ああ、貴女の虎を勝手に借りたのは申し訳ありませんでしたね」
「そういう問題じゃありません! 危ないでしょう! ロイド、離れなさい!」
カリーヌはそんな彼女に対しても全く動じることなく、当然のように振舞う。
シエスタはカリーヌの額の傷や厳格な表情を見て、緊張が前身を走り、自然と姿勢を延ばしてしまう。
そんな母に呆れながらも、カトレアは虎のロイドに命じると、虎は少し残念そうな表情を浮かべながらアニエスからどき、
カトレアの傍へ歩み寄った。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……お、重かった……」
「もう、アニエスもこんな無茶は断って! 修行と言ったって、怪我をしてはもともこうもないんですから!」
「申し訳ございません……」
「虎に後れを取るようではまだま」
「お母様も!」
「……そこまで言われては仕方ありませんね」
疲れ切った声で謝るアニエスに、普段大人しいカトレアに強く窘めれて、流石のカリーヌも申し訳なさそうに俯いていた。
普段大人しい人を怒らせると怖いんだなぁ、とそばにいたシエスタは改めて思う。
「今度は私のマンティコアでやることにしましょう」
「そう言う問題じゃありません!!」
「え?」
「勘弁してください……」
しかし、何処かずれているカリーヌであった。アニエスは地面に大の字になって息を切らし、そしてカトレアはため息をついて呆れ果てている。
そんな風変わりな場面を見て、貴族ってすごいなぁとシエスタは現実逃避をしているのだった。
「はあぁ、やっと終わった〜」
更に時間が経って、今日の仕事を終えたシエスタは大きくため息をつきながら廊下をふらふらと歩き、
使用人棟へと戻ろうとする。正規のメイドまでは遠い道のりだが、シエスタは諦めない。
「……ぐすっ」
と、先ほどの厳格な雰囲気と打って変わって、涙目のカリーヌが彼女の横を顔を真っ赤にして、ドカドカと靴音を鳴らしながら通り過ぎていった。
あまりの剣幕に、シエスタは十分すぎるほど距離を取ってそれを見送っていったが、何が起こったのだろうか。
そんなことを余所見をしながら考えながら歩いていると、何かに柔らかいものにぶつかってしまった。
「あ、申し訳ございません!」
「ん? ああ、シエスタじゃないか。大丈夫か?」
それが人であるとすぐに気が付いて、シエスタは慌てて頭を何度も下げる。
そんな彼女に対し、ぶつかれた方、アニエスは何ともないような様子でシエスタの心配をした。
「あ、アニエスさ、ま!」
そこでアニエスに気が付き、シエスタは以前のように呼ぼうとしたが、すでに彼女が貴族になったのを思い出し、
寸前で言い直す。そんな彼女に対して、アニエスは困ったように苦笑した。
以前出会った時よりも柔らかくなった。シエスタが何となくそんなことを考えていると、アニエスが思いついたように言った。
「これから暇か?」
「は、はい。仕事が終わったばかりです」
「そうか。お疲れ様」
「ありがとうございます!」
「……その、だ。少しお茶に付き合ってくれないか?」
「え、あ、私がですか!?」
シエスタは驚いた。まさか自分が以前知り合いだったとはいえ、貴族のお茶の相手に選ばれるとは思っていなかったからだ。
そんなシエスタの様子に更に困ったような表情を浮かべながら、アニエスは尋ねる。
「駄目かな?」
「あ、いえその……私でよければ」
「そっか」
シエスタが了承したのを見て、アニエスは安心したような表情を浮かべる。
そんな表情の中に何処か陰りが見えた気がして、シエスタは少しだけ不安になった。
以前会った時は、こんな表情を浮かべる人ではなかった。やはり貴族の生活は疲れるのだろうか。
そんな思いを秘めつつ、シエスタはアニエスについてゆき、彼女の部屋へと招かれた。
そして屋敷の庭を一望できるテーブルで、小さなお茶会が始まった。
「あのぅ……私がやらなくても良いんでしょうか?」
「ん? まあ、見てろって」
先にシエスタを椅子に座らせたアニエスは、仕事をしなくていいのか不安になっているシエスタを押し留めて、
カップに紅茶を入れていく。その手つきは慣れたもので、普段見慣れないアニエスの姿に、
思わずシエスタは驚きながらも感嘆のため息をついた。
「さあ、どうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます、アニエス様」
「昔みたいに、アニエスさんでいいんだぞ」
「す、すいません。アニエスさん」
苦笑しながら席につくアニエスに対し、シエスタは困ったような表情を浮かべながら俯いてしまう。
アニエスも釣られて、少し表情を暗くしながら軽く俯いた。そんな彼女を見て、シエスタは慌てて言った。
「あ、ごめんなさい。私……」
「いや、気にしないでくれ。私の我侭だから。……久々に平民の頃の知り合いと喋れる機会だったから、ついな」
アニエスは少し陰りを見せながら笑って誤魔化す。だが重苦しい空気が辺りを包み込む。
しばらく沈黙したまま、お互い紅茶をゆっくりと飲む。そして、アニエスの紅茶が半分ほど減った時、口を開いた。
「その、なんだ。ここの生活には慣れたか?」
「え、あ、はい。一緒に入った子とも仲良くなれましたし、お仕事は大変だけれど、充実してます。
それに、ルイズちゃんのご家族も面白い方ばかりですし」
シエスタは今日一日のこと思い出してみる。貴族は威張ってばかりで、平民を馬鹿にしたり、傷つけたりする。
そんな怖いイメージが強かったけれど、今日出会えた人々は誰もが変わっていたが優しい人々ばかりだった。
貴族と言う人々を好きになれるのはまだまだ先かもしれない。
それでもラ・ヴァリエールという一見雲の上のような存在だった人々の事は、好きになれそうだった。
「はは、確かに変わってるな。私も始めはもっと厳格な場所だと思っていた。確かに厳しいところだけれど。
でも、エレオノール姉様もカトレアお姉様も、お母様もお父様も皆良い人ばかりだ」
「そうですね、私もそう思います。ルイズちゃんも楽しそうですし」
「そうだな……」
シエスタに賛同するように頷くアニエス。しかし、何処か表情は暗かった。そんな彼女を見て、昼のアネットの事を思い出す。
「アニエスさんは……」
「ん?」
「アニエスさんは、幸せですか?」
シエスタの問いにアニエスは思わず口を閉ざしてしまう。そして少し考え込んだ後、静かに頷いた。
「幸せさ。ルイズも幸せそうだし、私も幸せだよ」
「……その」
「言いたい事は分かるさ。でも私は、私の我侭でここに来たんだ」
あの時。ルイズを置いていくことなどいくらだってできた。でもそれが出来なかった。
ルイズが私から離れたくないと言った。
別れる事だって出来たのに。
母カリーヌは私たちの家族になれば良いと言った。
それだって、断る事だって出来たはずなのに。
寧ろ、断るべきだった。平民が貴族になるなんて、誰から見てもおかしい事だった。
だけど、出来なかった。
私は私自身の幸せを望んでしまった。
ルイズを手放したくない。
温かい家庭に迎え入れて欲しい。
故郷が欲しい。
『おかえりなさい』と言ってもらえる場所が欲しい。
『ただいま』と言える場所が欲しい。
そんな、復讐という殻に包み込み、心の奥底にしまいこんできた願望を全て吐き出してしまった。
「確かにつらい事だって一杯ある。でも、それは私が選んだ道だ。お父様が、お母様が、皆が私に示してくれた道だ」
アニエスは、それでよかったと思っていた。ルイズは笑顔のままで居てくれている。
ここの人々も、皆が皆アニエスを良く思って迎えてくれているわけではないが、それでも。
「だから、私は幸せだ」
たとえ貴族から疎まれようと、たとえ平民から裏切り者だと言われても。今度ははっきりと言える。
それは誰にも否定することが出来ない。
「でも、こうしてシエスタとお茶を飲みたいと思っている。未練たらたらなんだな、きっと」
と、自嘲気味にアニエスは笑う。そんな彼女にシエスタは暫く呆然としていたが、
彼女の強い想いを受け止めると、一気に紅茶を飲み干し、そして立ち上がった。
「あの、今日はありがとうございました」
「あ、ああ。話に付き合ってくれてありがとう」
「また、お茶を飲みに来ても良いですか? 昔、ジェシカと私と、ルイズちゃんとスカロンおじさんと
……アニエスさんで囲んでいた時みたいに」
シエスタは首をかしげながら、アニエスに笑顔を送った。それは彼女たちが魅惑の妖精亭
で一緒にお茶を飲んでいた時に見せていた、純朴な笑顔。
始めは傭兵と言うことで怖がらせていたけれど。そんなアニエスにも懐いてくれた頃の、笑顔だった。
だから、その頃を思い出して。アニエスは少し不器用そうな笑顔を見せて頷いた。
「……うん。何時でもおいで。今度はルイズも一緒にな」
「ありがとうございます! では、お休みなさい、アニエスさん」
「ああ、お休み、シエスタ」
お辞儀をして、部屋を後にするシエスタを見送ると、アニエスはポッドに残った紅茶を自分のカップに入れて、
そしてベランダの柵に近づき、夜空を見上げる。
ダンが言っていたように、私は変わってしまったのかもしれない。
それで幸せだ。だからこそ、過去には決着をつけなければいけない。本当に、心から変わってよかったと思えるように。
ゆっくりと、しかし確実に彼女の中の復讐の意味は変質していった。
おまけ
「エレ姉……」
「あによ……」
「なんで私達、木に引っかかってるんだっけ……」
「知らないわよ……。ただ倉庫に逃げ込んだあんたを追いかけて」
「変な服見つけたんだっけ」
「女性モノ、だったわね、多分」
「けばけばしいフリル付きのシャツに……」
「乗馬パンツ、いやあれはショートパンツね」
「……女性もの、だったよね。しかも小さな女の子の」
「そうよ。あんたがこんなの着るなんて大胆な女の子だよねー、キュルケもこういう風な格好で男誘惑したのかなぁって言ってたんじゃない」
「こんなはしたない格好するなんて、きっとヘンタイか痴女ね!って言ってたじゃん。んで誰のものだろうって探ってたら」
「そしたら母様が居て……」
「……あれ、その先の記憶がない」
「……」
「……」
「夜空が」
「綺麗ね」
一方。
カリーヌは自分の部屋へ行き 2時間眠った……そして……… 目をさましてからしばらくして、
娘たちに昔の自分の格好を馬鹿にされた事を思い出し………泣いた……。
「ヘンタイじゃないもん、男装だもん……」
「カリン、その歳でその喋り方はやめなさい」
「!!」
ジェネレーションギャップって恐ろしいですよねっていう話です。40年前近くで古臭いっていわれたファッションだよ?
そんなの誰が着うわなにあほwyふじこのああカリンちゃんかわいいよカリンちゃん!俺をカッタートルネードで切り刻んでくれー!
何時も皆様感想ありがとうございます。前回のキュルケやエレ姉も概ね好評でよかったです。
というかダンの人気は何なのwノリで作ったキャラって恐ろしい。
ルイズが健やかにこのまま成長できるのか、それは今後のお楽しみに。
シエスタとルイズの話のつもりがシエスタと愉快なヴァリエール家の人たちになってしまいました。
特に事件もなく、だらっとした日常話ばかりになっているので、そろそろてこ入れしたいところ……。
武器屋の人とか来ないかなー。と最後に呟いてみたり。
そしてルイズちゃんとカリンちゃん(永遠の十七歳)の
ドタバタ学園コメディ冒険活劇ファンタジーまだー?
待った!
四十年前で古臭い+三十年後
=大正モダン 昭和レトロちっく 明治アンティーク 江戸サムライっぽい服装
現代ならそれはそれで趣がありそうだな。
ブームというのは一定周期で循環するものらしいから、そのうちまた流行する日も来るさ、カリンちゃん!!
……というか、まだ持ってたんだねぇ、それ。
シエスタはヴァリエール家のメイドになっとるのですか。
ということは、学園には来ないのかな。
というか、この話は学園編まで進むのだろうか。
ルイズが入学しちゃったら、アニエスとの絡みがほとんど無くなりそうな気もするが。
もしも魔法をつかって消費するのが精神力じゃなくカロリーだったら
って考えたが、あの世界の科学レベルだと、「魔法を使う前に甘いものを食べればいい」という経験則が出来上がるだけかも
なんかグラップラー刃牙の第一話の食事シーンを思い出した
>>196 たしか、そのネタ前に出たな<カロリーを消費
貴族は軒並みフードファイターなみに
学院の朝食?残るわけがない
もしも魔法を使う度にオッパイがほんの少し小さくなる世界だったら
使いすぎだろ、ルイズ。
>>199 登場時点で貧乳だと虚無の魔法が使えないので
登場当初はティファニア級なんだけどタルブで一気にしぼんだり
タバサがサイトにキスすると急に大きくなったりするんじゃね?
てことは精神力の残量で大きさが変わるってことかい
男はどーなんの?マリコ最強?
>>200 なんつー特異体質……。サイトは大変だな、いろんな意味で。
ここってあのルイズスレの絵師さんとか見てたりするのかなぁ?
誰か武器屋ルイズとかチェンジのタバサとか誰か描いてくれないかなぁ…。
>>202 武器屋ルイズの場合、原作と違って
ルイズが15歳時点で165サントの長身だから、
絵に描くとかなり違った外見になるかもな。
>>203 その身長だと、やや野性的なエレねーさんみたいなかんじなのかも?
野生的なエレ姉…ごくり。
それは置いておいて、武器屋のルイズは原作のルイズよりも幾分落ち着いた(というより柔らかい)
表情で、かつあの癖っ毛を残した上でセミロング髪感じか。最終話で長い髪って書いてあったから、
伸びてるかも知れんけど。
ifスレのルイズ全員集合と化すると良い具合にカオスになりそうww
もしもキュルケがガチレズだったら
結構イベントが潰れちまう
いや、ルイズLOVEにすればルイズを追い掛け回して必然的に物語に絡んでいけるか
民主党は5/12日に東京都条例改正案方針を出すようだ。なので、都議民主への手紙はそれまでに出さないといけない。
方針が出てからではメール手紙の効果が限られてしまうので、急いで欲しい。
特に出した方がいい人、出さないといけない人を俺なりにピックアップしてみたので参考にして欲しい。
【出す人】
・山口拓 氏(重役)[世田谷 ]
・馬場祐子 氏 [品川区]
・笹本ひさし 氏 [江戸川 区]
上記3人は都議民主内で自民現行案可決を求めている。 特に山口氏は役員なのでPTでも影響力が懸念される。
最低限修正に応じさせ、慎重派に転換させるべく1通でも多く手紙を書いて欲しい!
条例の転載な
一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの児ポ
千葉にも規制の波がやってきた。知事が統一協会系だから怪しいとは思っていたがやかり・・・
意見出せるよ。
(17)有害環境の浄化活動の推進
○ 児童ポルノ、児童を性的に描写したマンガ、キャラクター等の規制に関する条例改正の検討が望まれる。
ギーシュの使い魔がダルシニだったら。
「やれやれ、明日からモンモランシーに増血剤を処方してもらわないといけないな。
メイジとして使い魔を飢えさせるわけにはいかないし、何故かオスマン校長からもよろしく頼まれてしまったし。
はあ……、まさか僕の使い魔が吸血鬼とはね」
「あ、あの…、わたし小食ですから、血は少しで良いです。その代わり汗とか、他の体液をいただければ……、あの、その…」
そして日に日に衰弱していくギーシュと、反対につやつやしていくダルシニ。
ダルシムに見えた
あれかドリル系でアルビオンに穴を掘るのか
それともヨガテレポートで手紙回収しちゃうのか
ダルさんの前で二股とかしたらどうなるんだろう・・・
ザンギュラに故郷へ帰るんだなお前にも家族がいるだろうと諭されて泣き崩れるおマチさんを幻視した
モンモラシーのドリルか。
自分の爆発に巻き込まれたルイズが
赤ハチマキと胴着着て足振り回して空を飛んだり
ツイン団子ヘアーで百列キックしたり
鳥の巣頭になって衝撃波を出すのか
これってクロスネタ、なのかなぁ?
召喚直後の中庭から教室に戻るシーンでは、空を飛ぶ生徒たちに混じって、グルグル回転しながら飛行する格闘家とか真っ直ぐかっ飛んでいく相撲取りとかがいるんだろうなぁ。
ぐるぐる回転しながら飛ぶ格闘家で真っ先に東方不敗が思い浮かんだ……
ルイズが召喚したのが男装少女のころのカリンちゃん
実はカリンさんは娘が虚無であることや未来に怒おこることが解っていた
無理か、少なくともワルド関係でズレるな
知ってるならそもそも許婚にしないか直々に叩き直しそう
こんばんわ、アニルイの中の人です。
忙しい時に限って筆が進みますよね。今回は短めに、強引なやり方ではありますが、
一気に時系列を動かしたいと思います。
0時20分ごろに投下したいと思います。
甲高い金属音が響き渡る。そのたびに空気が震えているのか、風が吹く。
ラ・ヴァリエール家の鍛錬所で、アニエスとカリーヌの遍在との試合が続いている。
相変わらずアニエスが劣勢ではあるが、それでも半年前とは違い、カリーヌの動きについてきている。
一方のカリーヌもアニエスの動きに満足していた。全盛期に比べればだいぶ鈍ったからだ
ったが、それでも剣の腕、魔法の腕はまだまだ若い者たちには負けないと自負している。
アニエスはその動きについてきていた。若い彼女はまだまだ伸びるだろう。
これで彼女に魔法が使えれば―――。と一瞬ないものねだりをしてしまうが、首を振り、
再びアニエスを見守る。彼女は彼女なりに強くなれば良い。
「ふんっ!」
アニエスは遍在のレイピアを弾くと、大きく後ろに跳んで距離を取る。そして息を整え、再びデルフを構えなおした。
遍在も同じように構えなおす。本体の心が反映されているのか、笑みがこぼれていた。それに釣られ、アニエスも笑う。
そして表情を固め、遍在がアニエスに向かって走る。アニエスも少し遅れて走る。
剣を交わし、何度も何度もぶつかり合う。剣が重なり合い、そのたびに弾かれていく。
アニエスが剣を薙げば、遍在は身を低くしてそれを避けて、アニエスの首筋を狙う。
遍在がレイピアで突けば、アニエスは下がりながらもそれを受け流す。
幾度の打ち合いの果て、遍在のレイピアがアニエスの額を狙った瞬間、アニエスはレイピアを受けると、
素早くレイピアの刃を沿うようにデルフを振り下げる。
火花が散る。遍在は一瞬目を見開き、体勢を反らしてそれを避けようとした。
しかし、アニエスが振り下げるほうが一瞬早く、彼女の頬に傷をつけた。
アニエスは更に切り返し、デルフを振り上げようとする。だがそれを遍在はアニエスの顔に肘打ちをくわえ、
アニエスが後ずさったところを更に蹴り飛ばした。
「ぐあっ! くっ……」
アニエスはあえぎ声を出しながら、なんとか着地し、体勢を整える。その瞬間、遍在が姿を消した。
そしてその代わりに、笑顔のカリーヌが彼女にゆっくりと近づいた。
「今日はここまでにしましょう。アニエス、よくぞここまで強くなりましたね」
「ぶはっ! はぁ、はぁ。……いえ、全てはお母様のお陰です。ありがとうございます」
緊張の糸が解け、今まで止めていた息を一気に吐くと、アニエスはカリーヌに対し一礼する。
そしてデルフを少し遊ぶように振った後、背中の鞘に収めた。
カリーヌは満足そうに笑みを浮かべながらも、腰のバイザーを指差して言った。
「しかし、貴女は銃を使わないのですね。弾などは気にしなくてもいいのですよ?」
「ふふ、意地悪なことを仰る。使わせてくれないのはお母様じゃないですか」
敷地内で銃声もどうだろうとアニエスは遠慮しているのもあったが、
やはり大きな理由としてはカリーヌが使わせてくれないのが大きい。一撃必殺の銃もはずしてしまえば許も子もないから、
アニエスとしては慎重にならざる得なかったのだ。
全てが分かっていたかのようにカリーヌは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「ふふふ、私もそう簡単には負けませぬよ。……うん、そうですね」
カリーヌは少し考え込んだ後に一度頷いた。
「そろそろ次の段階に行きましょう。今度は魔法を使うようにします。その体に各魔法の
特性を体に叩き込み、その対策を練るのです」
「なるほど」
「しかし、その修行も暫くお休みにしましょう。今までの修行で培った事を一度整理してみなさい。
振り返ることもまた修行ですから」
「承知いたしました」
「さあ、ケーキでも食べに戻りましょう」
「はい!」
アニエスは嬉しそうな表情を浮かべ、カリーヌの後を歩いた。以前と比べて大分自然な笑みだった。
第12話
「思ったのですが」
屋敷に戻る道の途中、カリーヌは不意にアニエスに声をかけた。
「アニエスは何故そのインテリジェンスソードを振るうのですか?」
「何故、と言われましても」
突然のカリーヌの問いに、アニエスはどう返答していいのか困った。今まで何も疑問を持たず、
デルフをずっと振ってきたからだ。一番の相棒だともアニエスは思っている。
『おいおい、おっかさんよ。俺は魔剣デルフリンガー様だぜ? 魔法を吸収してしまうなんてよ、
メイジ相手すんにゃ十分すぎると思うぜ?』
「確かに。しかし、少し長すぎる気がしますね」
確かにカリーヌの言うとおり、デルフリンガーは通常の剣に比べて長い。アニエスの身長は女性にしては少し高め、
というぐらいで殆ど自分の身長に等しいデルフリンガーを十分に振るうには確かに物足りなかった。
とはいえ、その不足分を補えるだけの腕が彼女にはあった。
だがこれ以上強くなるには、自分にあった武器を選ぶのも重要になるだろう。それはアニエスにも理解できていた。
「私としては、大体120サントぐらいの……。そうですね、あの衛士が持つぐらいのほうが合っていると思います」
カリーヌが指差す先には巡回中の衛士がいた。こちらに気が付き、槍を片手に敬礼をしている。
その腰には近接戦闘用の剣が差されている。デルフを購入する前まではあれぐらいのものをアニエスも所持していた。
それを見て、アニエスは不意に衛士時代を思い出し、懐かしそうに表情を和らげた。
「懐かしいですね」
「デルフリンガーを振るのも構いませんが、あれぐらいのを振ってみるのもいいかもしれませんよ?」
「……わかりました、考慮に入れておきます」
『おいおい、相棒。そりゃないぜ』
「大丈夫だよ」
「そうだなぁ……私以上にルイズの事を全力で守ってくれる人にお前を譲ろう。それまでは私が振るさ」
『はっは! お前さんらしいぜ』
「ふふ……」
全く譲る気がないアニエスの口ぶりにデルフとカリーヌは思わず笑い声を上げてしまった。
それに釣られてアニエスも軽く笑みを浮かべる。実際、彼女はデルフを手放す時を想像はできなかった。
デルフは自分の最高の相棒だとずっと思っている。
「しかし、アニエス。貴女もそろそろ妹離れしたほうがいいですよ? 少し貴女はルイズ
に依存しているところがありますから。気持ちは、わからなくもないですけどね」
「……ははっ手厳しいですね」
アニエスは腰に手を当てながら、笑って誤魔化した。ルイズの事を大事に思いすぎて、
確かに依存している部分もあると自覚はしていたから、今更それを否定する事はできなかった。
そんな彼女に対し、カリーヌは思い出すように頬に人差し指を当てながら続ける。
「あの子も10歳ですか。まだまだ子供ですが、もう5年も経ったら魔法学院に通わせようと思っています」
「魔法学院」
「あそこでは魔法以外にも、貴族として必要なことを多く学べます。また同年代のほかの貴族たちとの社交の場としてもありますね」
「はあ」
「……もしかしたら、そこでルイズの運命の人に出会うかもしれませんよ?」
「はぁ。はぁ!!?」
何となくカリーヌの言葉を聞いていたアニエスだったが、最後の彼女の言葉を聞いて体中に衝撃が走り、
はっと表情を強張らせてカリーヌを見る。カリーヌは意地悪そうな顔でアニエスに笑いかけていた。
それを見てからかわれているのだと分かり、アニエスは恥ずかしそうに視線をそらして俯いた。
「ほら、こんな調子では身が持ちませんよ、ふふふ」
「……」
「それに、ルイズにはもう許嫁がいますからね!」
「なんですと!?」
アニエスはクールである。どんな事にも動じない女であると自負している。そんな彼女が
全身でどれだけショックであったかを表現している。顔の表情など、まるでこの世の終わりだと言わんばかりだ。
「許嫁だとっ……!?」
「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。彼の領地とは隣同士の関係で、彼の両親とは交流もあったのですよ」
「お母様、許嫁とは……」
「はい?」
「許嫁とは、殴っても良いものなんでしょうか?」
「ダメですよ」
「許嫁……」
「何よ、アニエス。気持ち悪い……」
「姉様、それは酷いですよ。……でもアニエスどうしたの?」
昼食後、アニエスとエレオノール、そしてカトレアは広場の一角でお茶会をしていた。
今日も天気が良く、太陽が照る中での木陰の中でのお茶会は気持ちが良い。
ちなみにそんなお茶会にルイズが居ないのは、レイピアの鍛錬をカリーヌにつけてもらっているからだ。
だがそんな中、アニエスは一人お茶にも手をつけず、一人テーブルに突っ伏し、先ほどからずっとぶつぶつと呟いていたのだった。
彼女を心配したカトレアは顔を覗いてみるが、アニエスの反応はやはりない。
「許嫁って何のことよ?」
「ルイズの……許嫁……」
「ルイズの?」
「ああ、もしかして、ミスタ・ワルドのことでは?」
「ああ、彼ね。懐かしいわね」
カトレアがアニエスの呟きから推定すると、エレオノールは思い出すように眼を瞑る。
5年前、ルイズが別れる前にワルドと彼の両親がここを訪れ、彼らと交流したことを覚えている。
そういえばそのときルイズはワルドにときめき、親同士でルイズの許婚に決めていたのを聞いたが、
半分は冗談だったような気がする。いや冗談だったのだろう。
だが当時はルイズはワルドの事を理想の王子様のように見ており、ワルドも満更ではなかったようだった。
結婚すればラ・ヴァリエール家の、王家の一員となれるのだから、良い事づくめである。
しかし、彼の父が戦死した後、領地を相続したワルドは魔法衛士となるために単身王都へと向かい、その後は会う機会も少なくなっていた。
そんなワルドの名が出てくるのは本当に久しぶりだった。今の彼はグリフォン隊の一員として忙しい日々を送っているらしい。
しかしそんなワルドの事もルイズは全く覚えていないのだから、許婚というのも消えた約束だろう。
「まあルイズも理想の王子様像を覚えてないからねぇ……」
「でも、ミスタ・ワルドは優しいお方ですからね」
「またときめいちゃうかもしれないわねぇ、どうする? お姉ちゃん!」
「うがああ! やめてください! わ、私はルイズが幸せならいいんです!」
からかうエレオノールに対し、アニエスは頭を抱えて、思い切り首を振った。
言葉とは裏腹に、ルイズが結婚する姿を想像したくはないようだ。だがそんな彼女に対し、
ここぞとばかりにエレオノールは意地悪そうな笑みを浮かべて、アニエスの耳元で囁いた。
「王都の教会、正装に身を包むジャン君に連れられて、ウェディング・ドレス姿のルイズ……」
「うわああ!」
「始祖ブリミルの下で祝福を受け、二人は誓いの口づけをする!」
「うおあああ!」
「そしてそんな二人を遠目から見ていたアニエス。そして結婚式が終わり、ルイズがアニエスに近づき一言」
「い、言わないでぇぇ!」
「『アニエスお姉様、私幸せになります』」
「うぼぁ……」
想像しないように声を張り上げてもエレオノールの言葉は続き、そしてとどめのルイズのモノマネでアニエスは完全に撃沈した。
そして何ともタイミングが良く、どこからともなく鐘の音が響いてきた。
アニエスは大粒の涙を流し、それがテーブルに広がっていった。
「るいずぅーおよめさんにいかないでー……おねえちゃんさびしいよー……」
「だ、大丈夫よアニエス! ミスタ・ワルドならちゃんとルイズを幸せにしてくれるわ!」
「カトレア、それとどめさしてるわよ。……全く情けない。ほら、私が作ったスコーンでも食べて元気出しなさいよ」
カトレアにも無意識に心に傷を負わされ、ついに再起不能寸前まで追い込まれたアニエスに、
ついに呆れたエレオノールはテーブルの中心に置かれていたスコーンを一つ取って、
アニエスに差し出す。アニエスは涙で目を赤くし、情けなく鼻水が垂れた顔を上げて、それを貰い、そして口に運んだ。
「……おいひいです」
「そ」
「ほら、顔を拭いて」
「ん……」
「本当子供なのか大人なのか良くわかんないんだから、あんたは……」
カトレアに顔を拭かれているアニエスを見ると、全く普段のクールな彼女からは想像できないぐらい子供っぽい。
そんなアニエスを見つめて、可愛いとエレオノールは思わずくすりと笑ってしまった。
ここに来た当初は何だこの平民はとアニエスを邪険に扱っていたが、付き合っているうちに彼女という存在が純粋に面白く感じてくる。
今では妹扱いしても悪くはないとまで行っていた。
「あれぇ、何か美味しそうな匂いがすると思ったら、スコーンなんて食べてら」
「あら、ルイズじゃないの。それにお母様、お父様まで」
と、そんなところへ訓練を終えたルイズとカリーヌ、そしてたまたま彼女たちと合流した公爵が現れた。
訓練、と言っても運動程度なので、二人は軽い汗をかいているだけだったが。
「もーらい!」
「あ、こらおチビ! 行儀悪いわよ!」
ルイズはスコーンを見つけると、それをひょいっと目にも留まらない動きで取って一口で食べてしまった。
「うーん! おいしい! これ、ちぃお姉ちゃんが作ったの?」
「ううん、エレオノールお姉様が作ったのよ。私はお料理は出来ないから」
「……えっ?」
「な、なによ! スコーンぐらいね、研究の合間にでも作ってるわよ!」
というのは嘘である。本当は交友を深めるためにこっそり従者に習っていたのだが、
それを振舞う機会がなかっただけだった。だがそんなことを正直に話せば恥ずかしいだけなので、
エレオノールは必死に誤魔化した。
「……へ、へぇ……」
ルイズは意外なスキルを持つエレオノールに乾いた笑みを浮かべつつ、味覚おかしくなったかなぁと
さりげなく酷いことを考えながらスコーンをもう一口食べる。やはり普通のスコーンだった。
だが運動後で甘いものを欲しているためか、極上の美味しさだった。
「どれ、私も。ふむ、美味しい」
「私も。おお、美味ではないか。エレオノールも女らしいところがあったのだなぁ……」
そんなルイズの様子に食欲を注がれたのか、カリーヌと公爵もスコーンを一つ手に取ってかぶりつく。
そしてその美味しさに舌鼓を打ち、公爵にいたっては感動すら覚え、
そんな彼に対しエレオノールは顔を真っ赤にして、誤魔化すように腕をぶんぶんと振った。
「お、お父様!!」
「そうそう、今度バーガンディ伯と友誼を深めるために、あちらの領土で食事をすることになった。
その時にでもプレゼントしてはどうだ?」
「え!?」
突然の事にエレオノールの動きが止まる。数ヶ月前のツェルプストーとの祝賀会でバーガンディ伯に見初められたと
聞かれたときから全く進展がなかったが、ここに来て急にその機会が来て、思わずたじろいでしまった。
しかもスコーンをプレゼントとは、エレオノールにとっては恥以外でもなんでもなかった。
「まあ、それは良い考えですね」
「こ、こここんな見栄えのよくないスコーンをですか!? だ、ダメよ、絶対ダメ!」
「エレ姉はわかってない!!」
「!?」
と、そんなエレオノールに対し、ルイズはキッと厳しい表情をしながら彼女を指差した。
突然の事に周りは彼女に注目する。エレオノールも固まったまま、呆然としていた。
「女性からの心を込めたプレゼント……それがどれだけ男性にとってかけがいのない物か……!エレ姉にはわかっていない!
どんなにまずいものでも、どんなに見栄えが悪いものでも! それに魂を込めていれば、美味しいと言ってくれるし、
頑張ったねとほめてくれる! 逆にありふれたもの、高価でも心を込めていないものを渡したところで喜んでくれようか?!
いいや? そんなものただのクソ喰らえだわ!! 薄っぺらい気持ちはすぐに気が付かれ、そして愛想を尽かれるでしょう!
上手く誤魔化したところで、いつかはその軋轢は大きくなる! そう、それがエレ姉だぁぁ!!」
「な、なんですってぇえ!?」
「はぁはぁ……。しかし、そのエレ姉にも名誉挽回、汚名返上の時が来たのよ! さあ、
今こそスコーンを作る時! どんなに形が悪かろうと、どんなに味が悪かろうと! エレ姉
が込めた魂を見せつけ、それでバーガンディ伯を魅力するのよぉぉ!!」
「……ルイズぅ!!」
「エレ姉!!」
何かが間違っているルイズの演説に、何故か酷い感動を覚えたエレオノールは彼女の名前
を叫びながら、おいおいと泣いてルイズを抱いた。ルイズもそんなエレオノールを抱きしめ返す。
「……全く、スカロン店長の真に受けて」
「うふふ、でも間違っていないわ」
そんな二人を、いつの間にか復活していたアニエスが呆れながら笑っていた。カトレアも
普段見ぬエレオノールとルイズに思わず笑みをこぼしていた。いつの間にか公爵とカリーヌを交えて、
手をつないでグルグルと回っていた。
「……半年前まで。皆暗い顔だったわ」
と、カトレアは笑いつつ、昔を思い出す。ルイズが死んでしまっていると思われていた頃。
家の中は誰もが暗かった。だが、今ではそれが嘘のように皆明るさを取り戻していた。ルイズが生きてくれたから。
カトレアは思わず涙をこぼした。
「それが今はね……。こんなにも明るくなってくれた。本当によかったわ」
「ええ」
アニエスも頷く。ルイズの明るい笑顔をずっと見られる。それは嬉しいことだ。いや、それだけじゃない。
今は皆の笑顔を見ることで心が安らいだ。
「ほら、アニエスお姉ちゃんもちぃお姉ちゃんも!」
「え、ええ?! 私もか?」
「いいじゃないの。ほら、行きましょう?」
「お、お姉様……」
カトレアに連れられ、苦笑しながら仕方なくルイズ達の輪に混ざっていく。そして何故か
全員でぐるぐると歌いながら回り始めたのだった。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。それは少ない時間だけでなく、大きな時間だってそうだ。
いつの間にかそれぞれはそれぞれの道を歩み始めては、そしてまた合流していく。それの繰り返しだった。
あれから半年。アニエスとカトレアはフォンティーヌの領地へと戻っていった。
あれから一年。エレオノールは休職を解き、アカデミーへと戻っていった。
あれから二年。ラ・ヴァリエール家に王女アンリエッタがお忍びで訪問し、ルイズとアニエスとの再会を祝った。
あれから三年。家庭教師に対し悪戯が過ぎるとつげ口され、ルイズが烈風に吹き飛ばされた。
あれから四年。アニエスとカリーヌは二人で修行の旅に出て、家族を困らせた。カトレアにこっ酷く叱られ、
二人はシエスタの故郷に伝わる『シェイザ』を2時間に渡ってやらされた。
あれから五年。ルイズは魔法学院に入学させられた。
そして、あれから六年。
トリステイン王国のとある森の中。一人の剣士が剣を抜きながら走る。申し分程度に伸ばし、
後ろで小さなフィッシュボーンにした後ろ髪がその勢いで靡く。
その両側を併走するように、犬頭の亜人、コボルトが剣士の隙をうかがっていた。
剣士が急停止すると、二匹のコボルトは一斉に飛び掛ってくる。剣士はその動きに惑わされることなく、
コボルト達が飛び上がるタイミングをずらしたのを見て、まずは右の攻撃をくぐりぬけると、左から来たコボルトを切り裂く。
切り裂かれたコボルトは血反吐を吐き、自分の得物、恐らく傭兵かなにかから奪ったのだろう、剣を手放す。
剣士はその剣を拾うと、くるりとまるで舞踏のようにその場で回転し、着地した残りのコボルトへ投げつけた。
攻撃をかわされ、丁度着地し振り向いていたコボルトは反応できることなく、眉間に剣を刺され、そのまま大木に突き刺さった。
剣士は一度息を吐くと、腰に差していた銃を抜くと、そのままためらうことなく西の林の茂みを撃った。
すると、木の幹の陰で弓を構えていたコボルトが悲鳴を上げながら倒れ、そのまま絶命した。
「ふぅ……」
「見事ね、アニエス」
剣士アニエスは辺りの気配を読み取り、全てのコボルトを倒したことを確認すると大きく息を吐いた。
そんな彼女の許に、後から付いてきた籠を背負った、腰ぐらいまで伸ばしたブロント髪の女性、エレオノールがやってきた。
あれから6年。アニエスのまだ幼さが残っていた顔はすっかり大人びて、仕草なども大分
貴族らしくなっていた。エレオノールもまた、少し大人の雰囲気をましていた。相変わらず、儚い胸ではあったが。
二人は今、ラ・ロシェールより南に位置する森にいた。この辺りにはコボルトが生息し、
付近の村々の農作物や人々に被害を出していた。アニエス達はこの付近に生える薬草を求めて旅に来ていたのだが、
そのついでにコボルトの退治も行ったのだった。因みにアニエスは現在エレオノールの助手兼護衛をしている。
エレオノールは一応トライアングルメイジではあるが、戦闘は得意ではなく、こういう危険地帯に入るにはアニエス
のような腕利きを連れていかなければならない。
そのため、アニエスを例の事件を調べさせるのにアカデミーの中に入れるために護衛として連れていたのだった。
彼女の上司である評議会議長には嫌な顔をされたが、エレオノールは気にしていない。金も掛からないし、よっぽど下手な傭兵を雇うより
も確実である。
「平民の剣士でも苦戦するコボルトをこうも簡単にねぇ」
「お母様の修行のお陰ですね」
『ありゃあ修行ってもんじゃなかったからなぁ』
アニエスは大剣、デルフリンガーに付いた血を払いながら、自分のかつてカリーヌの下で行っていた修行の事を思い出す。
火竜退治に連れて行かれたり、雪山で遭難しかけたり。思い出せば思い出すほど、娘にするようなことではなかった。
だが、そのお陰でアニエスはまた強くなれた。
「まああなたの場合、もっと女らしくしたほうが良いと思うわよ。剣を振る貴族の女なんて、
ただでさえ野蛮だと思われやすいんだから。軍人にだってそうそう居ないわよ?」
『そうだぜ、相棒。おめぇさんの腕、まるで男みてぇじゃねぇか』
「はは……二人は厳しいなぁ。……さあ、薬草取りましょう」
「そうね」
エレオノールとデルフの厳しい一言に苦笑しつつ、髪をかきあげ、胸元から眼鏡を取り出して掛けると、
アニエスは近くの草むらから薬草を探し始めた。アニエスが掛けている眼鏡はレンズが入っていない伊達である。
エレオノールの助手をする際に少しでも知的な雰囲気を出すために、とエレオノールが与えたものだ。
エレオノールも籠を下ろし、アニエスとは別の場所を探索し始めた。
「まあ、今は姉上の手伝いをするのに忙しいですから。ゆっくり探しますよ。今はそれで十分」
「そうしなさい。あら、珍しい薬草発見。やっぱり探しに来て正解だったわ、うふふ……」
「こっちもです。ああ、それにしてもフォンティーヌが懐かしいなぁ……」
『けっけっけ、あの胸のでかいお姉ちゃんが恋しくなったか?』
「黙りなさい、デルフ。……まあ、そろそろあっちに帰るのも悪くないわね」
「しかし、風石を採りに行くのでは?」
「ああ、そんなのもあったわね……。まあ一度王都へ戻って研究してから、だからその後」
「なるほど。これは、一月はカトレアお姉様の紅茶は飲めないかなぁ……」
「あら、じゃあ私が作ろうか?」
「姉上のは少し濃すぎるんですよ。もっと薄めにしてください」
「お子様は砂糖でも入れてなさい!」
「それにしても……」
「ん?」
「学院に行ったルイズは元気にしているかなぁ……」
「そういえば、順当に行けば、今日は春の使い魔召喚の儀式の日だった気がするけど。……順当に行けばね」
「大丈夫ですよね、きっと」
「ええ。規格外の子だから、きっと変な使い魔でも召喚して困り果ててる頃じゃないの?」
「ははは……」
そんなアニエスが見上げる青空の向こう。良く晴れた空の下。トリステイン魔法学院の女学生寮の屋上で、
彼女らの噂のルイズが盛大にクシャミをしていた。
「ぐすっ、こりゃあアニエス姉さんかエレ姉が噂してるわね……」
鼻を押さえつつ、ルイズは屋上から学院を眺める。こうして授業をサボるのは彼女の日課だった。
あれから6年経ち。ルイズの身長も少しだけ伸びた。といっても子供の頃に伸ばしすぎた
せいか、155サントでぴったりと止まってしまっているが、まだまだ伸びたいと思っている年頃である。
長い桃色掛かったブロント髪は後ろで束ねられている。別に甘美なリボンや綺麗なバレッタをつけているわけでもなく、
ただ紐で無造作に束ねているのはずぼらな彼女らしい。
そんな彼女は、女学生寮の屋上で胡坐を掻き、ひたすら空の向こうを眺めていた。
「やっぱりこんなところに居たのかい」
と、そんな彼女の許へ一人の女性が現れた。真ん中分けした緑髪に知的な眼鏡をしていて、
いかにも頭の良さそうな女性なのにもかかわらず、その仕草や口調はなかなか豪快だ。
彼女は平民のメイジで、ここの学院長の秘書をしている。ルイズとは魅惑の妖精亭で偶然
出会い、セクハラの愚痴を聞いてからの仲だった。
「授業サボってるんじゃないよ。今日は使い魔召喚の日だろう?」
「そうなんだけどさ。まあどうせ私魔法失敗するし、最後でいいでしょ」
「あんたねぇ、最初っから諦めてんじゃないの!」
「あいた!」
遠い目をしながら、どこか達観したようなことを言うルイズの背中をロングビルは思い切り叩いた。
「あんたならすごい使い魔を出せるさ」
「本当?」
「ああ、約束するよ」
「……んじゃ、やってこようかな」
「ああ、お友達も来たようだしね、行ってきな」
「ん? おおう!?」
ロングビルに発破をかけられ、気合十分にその場を立ち上がったルイズだったが、いきなり下から吹いてきた突風にあおられ、
バランスを崩してその場に倒れこむ。目の前には巨大な青い竜が優雅に羽ばたいていた。そしてその背中から見覚えのある二人の影が出てきた。
「はぁい、ルイズ!」
赤髪の少女はキュルケだった。そしてその隣で竜を制御しているのは青い髪の小柄な少女
だった。彼女の名はタバサ。ガリアからの留学生で、何故か家名を持たない無口で不思議な少女である。
「あっぶないでしょ、キュルケ! 落ちたらどうするの!」
「別にあんたなら落ちたって死なないでしょ?」
「死ぬわよ!」
「それよりもほら、さっさと行くわよ! タバサが召喚した風竜、シルフィードに乗ってね!」
「タバサが? すっごいじゃん!」
ルイズがタバサに賞賛の笑顔を向けると、タバサはその無表情な顔を少しだけ綻ばせた、
ように見えた。風竜もどこか誇らしげに鳴いた。
ルイズは少し助走をつけて、タバサの風竜に飛び乗る。そして、ロングビルに手を振ると、
そのまま飛び去っていった。
ロングビルも手を振り、その姿を見送ると、やれやれと首を横に振りながらその場を後にしていった。
「うん、良い風。今日はいい事ありそう」
ルイズは風を浴びながらそう呟く。彼女にとってこの日が、自分の平穏の日々の最後だということをまだ知らない。
それは良くも悪くも、彼女の、いや彼女達の運命を大きく変えるのだった。
そういうわけでキングクリムゾンして一気に6年の月日を流しました。
もっと過去話してもよかったんですけど、それだと何時まで経っても本編にいきそうにない上に
グダグダになりそうだったので……アンリエッタの話などはサイドストーリーとして、本編に
盛り込んだり、番外編として出したりしたいと思います。
ここから暫くアニエスの出番はお休みで、ルイズが主人公となります。なるべく早く合流はするつもりです。
>>215 ワルドがルイズとカリンちゃんを間違えて二人にぶっ飛ばされるフラグですね、わかります。
あー、でもそれだとルイズの男ッ気はワルドしかいなくて
カリンちゃんはカリンちゃんで割と貴族として理想的にふるまえるワルドに悪い印象を抱かないだろうし
つまりワルドは両手に花。レコンキスタとかどうでもいいとか言い出してタナトスの花を愛で初めて……
ワルドもげろ
投下乙&キングクリムゾンッ!!
まあそりゃ仕方ない。普通に学院入学の時間まで話を進めてたら、どれくらいかかるか分からんですしね。
本編時間軸が始まったわけで、話の展開がどう変わるのか、楽しみにしてます。
もしも7万人のアルビオン軍との戦いで
敵に捕虜として捕らえられたサイトが
シェフィールドの魔術により操られルイズの敵になったら
マジカルウェポン☆ガンダールヴか
操りの力とルーンの強制力の狭間で苦しむサイトと申したか
そこでサイトまさかのヤンデレ化ですね、わかります。
ただのDV男と言う気もするけどな
お前が好きだからこんなに殴ってるのになんでわかんねえんだよとか
そこはハリセンかピコピコハンマーでツッ込むとかマイルドに
男ヤンデレって、確かにイメージするとそういう最低男な感じになるなぁ。
男ツンデレは、まだ萌えキャラだとか言われてるのに。
ルイズはルイズで殴られるたびに
「ああ、サイトがこんな風になったのは私のせいでもあるんだ。サイトには私がいなきゃだめなんだ」
みたいな感じで受け入れて……ヒモでDVかw
限りなく最悪の共依存じゃないかソレ。
二人揃って果てしなく破滅まで墜落していく負のスパイラルが見えますぞ。
しかし、ゼロ魔の初期設定から言って、ちょいと捻じ曲げればそんな感じの展開にもっていけそうなのがなんともはや。
IFでもあんまり見たくないなぁ、胃が重くなりそうだ。
どうも、こんばんわ。
第十三話が完成いたしました。もしよろしければ10分後に投下したいと思います。
それではいきたいと思います。
ラ・ヴァリエール公爵家の馬車に揺られながら、シエスタは外の様子をじっと伺い、昨日の晩の事を思い出していた。
「シエスタ」
「はい」
昨晩のラ・ヴァリエール公爵家屋敷、メイド長の執務室。
ここにシエスタは、ラ・ヴァリエール公爵家のメイド達を束ねるメイド長に呼び出されていた。
何かまた粗相を犯してしまったか、と緊張した趣で、彼女は目の前に居るメイド長と対峙していた。
そんなシエスタを鋭い目つきでメイド長が見つめていると、シエスタへ一通の手紙を手渡した。
「これより貴女はトリステイン魔法学院に赴き、ルイズお嬢様のご様子を伺いに行くことを命じます。
これは、母君カリーヌ様からの任命となっています。無事この手紙を届け、お嬢様が使い魔召喚の儀式に
成功しているかどうかを確かめに行くこと」
「はい。しかし、それであれば何時もの手紙にやり取りで使っているフクロウでいいのでは?」
シエスタはほっと胸をなでおろしながら手紙を受け取りながら、メイド長に尋ねた。
「それは私も進言しましたが、それ以上にルイズへの癒しのためでもあると仰っていました。
貴女は、ルイズお嬢様と随分仲が良いみたいね?」
「は、はい」
不適に笑うメイド長に圧されながらも、シエスタは力強く頷いた。学院に旅立つルイズを最後まで見送った平民も
シエスタだった。彼女はルイズと仲が良いことを誇りに思っているし、何より大事にしている。
「そう。ならこの任務は貴女が適任でしょうね」
「手紙を送り届けた後は如何しましょうか?」
「奥様は必要に応じて滞在し、随時様子を教えて欲しいと仰っていました」
「わかりました。頑張ります!」
「ええ、お願いねシエスタ」
そう任務を任され、今こうして馬車に揺られてトリステイン魔法学院に向かっていた。
久しぶりにルイズと会える。去年夏の休暇に会った以来だから、約半年と少しぶりの再会となる。
シエスタは心を躍らせて楽しみにしていた。
使い魔は何を召喚できたのだろうか。魔法が成功しないと聞いていたから、少し心配になっているものの、それでも大丈夫だと彼女は思う。
ルイズならきっとすごい使い魔を召喚できているだろう。そう信じて、彼女は学院へと向かう。
まさか、あんなことが起きるとは露知らずに。
第13話
ルイズは焦っていた。それは春の儀式をサボりかけて、コルベールに叱られたことでも、
先に召喚をしたキュルケがかなり良い使い魔を召喚できたことでもない。
目の前に居る少年の存在だった。
「君、誰……?」
何を言っているんだ、私はと思いつつも、そう呟かざる得ない。ルイズはそんな状況にあった。
春の使い魔召喚の儀式。ここトリステイン魔法学院では、二年への進級試験を兼ねて、メイジのパートナーとなる使い魔を召喚する。
使い魔はメイジの系統を決定付け、専門課程を学ぶに当たっての指標にもなる、らしい。
ルイズはその辺りを曖昧に聞いていたためによくは覚えていないが。
例えば、彼女の前に召喚を行ったキュルケは火を操るトカゲ、サラマンダーを召喚していたから、彼女の系統は『火』と言うことになる。
姉エレオノールは、種類を忘れてしまったが、確か水鳥を召喚して今も相棒にしている。だから『水』と『風』なのだ。
さあ、人間を呼び出した私は何系統なんだろうか。そもそも人間を何で呼び出したのだろう。
ルイズは大粒の汗を大量に流しながら必死に考える。
「いや待て私、落ち着け」
そうルイズは心の中で呟く。
今日は良いことがありそう。そんなことを考えていた矢先にこの事態が起こるとは思わなかった。
それは目の前で、地面に仰向けに寝転がり、呆然とした表情で青空を見つめる少年も同じだった。
格好は、何とも見た事がない奇妙なものだった。青を基調にところどころ白を入れた、フードが取り付けられた服。
黒のズボンに、見たことのないような形だが動きやすそうな靴。そしてハルケギニアには珍しい、シエスタとジェシカと同じような黒の髪。
そしてぱっとしなくて、少し頼りない顔をした男の子。自分と同年代の子だろうか。
何処で流行っているのだろう。もしかしたらゲルマニアのほうだろうか。それか東方のほう? ルイズは必死に頭を回転させるが、
一向にわかる気配がない。こんなことならちゃんと勉強しておけばよかったのだろうかと思ったが、今はそれどころじゃない。
少年も状況を把握し切れていないのか、体を上げ、顔を赤らめながらルイズを見つめ、そして恐る恐る辺りの様子を見ると、口を開いた。
「誰って……。俺は平賀才人」
「ひ、ヒラガサイト? ああ、えっと……それが名前なのね、うん。それでヒラガサイトくん? で、いいのかしら」
「あ、ああ、サイトでいいよ」
「あ、うん。サイトくんは、えっとその」
困った。何を話せば良い。というか、これは単なる人攫いなのではないだろうか。
ルイズは幼少の頃の自分の境遇の記憶が蘇ってきて、次第に顔が青ざめていく。
「お、おい大丈夫かよ」
「あ、う、うん」
「ちょっとルイズ! 何平民なんて召喚してるの?」
少年サイトは様子が可笑しいルイズの顔を覗き込もうとした時、周りを取り巻いていた魔法学院の学生の一人がそう言うと、
辺りから騒がしく笑い声が響き渡った。ルイズは青ざめていた顔を急に赤くすると、誤魔化すように笑った。
「あ、あはは……いや、これはその……」
「平民なんて召喚して、さすがはゼロのルイズよね!」
「普段平民と仲良くしてるから、平民が来たんじゃない?」
「いやあのすばしっこいルイズの事だ。どっかから連れてきたんじゃないのか?」
「ああ、そうに違いない。まるで人攫いだな!」
「ちょ、ち、違うわよ!! 私そんなことしていない!」
しかし、周りの笑い声が大きくなり、ついには人攫いと言う言葉すら上がった。その言葉を聞いてルイズは必死に否定をするように叫び散らした。
冗談じゃない! 私は人攫いなんかじゃない! 私は召喚をしただけだ! ルイズは必死にあたりに叫び散らす。
だが、ルイズの叫び声も虚しく、生徒たちの嘲笑は大きくなるばかりだ。
それどころかサイトは相変わらず状況が分かっていない様子だったが、その言葉に反応して、青ざめた表情でルイズを訝る目を送った。
その目を見て、ルイズはまた顔を青ざめて首を横に振って必死に否定した。
「ち、違う、私人攫いなんか……人攫いなんかじゃない……違うんだから!」
「ミスタ・コルベール、この状況どうにかしなくていいのですか?」
ついに頭を抱えて、ルイズはその場に膝を着いてしまった。
そんな彼女の様子に、今まで黙って見守っていたキュルケが教師であり、この儀式の監督官であるジャン・コルベールに提案した。
コルベールはこの状況をどうしたものか、と眼鏡を抑えながら思案しているところだったが、キュルケの言葉に頷き、学生たちを掻き分けて、
彼らの前に立つと一喝した。
「君たち! 貴族はお互いを尊重するもの。それなのに彼女を人攫い扱いするとは何事だ!」
普段は優しいコルベールからは想像もできないドスが利いたその一言で、周りの生徒たちの笑い声も収まった。
そしてコルベールはルイズの許に歩み寄っていった。
「ミス・ヴァリエール」
コルベールに声を掛けられ、ルイズは不安な表情で目に涙を浮かべながら、彼のほうを向いた。そして必死に弁解をする。
「こ、コルベール先生……私、人攫いなんか……」
その表情は恐怖と後悔で多い尽くされ、今にも泣き出してしまいそうな様子だった。
そんな彼女をコルベールは優しく微笑みながら、頭を撫でて励ましてあげた。
「ああ、わかっているとも。君はただ単に『サモン・サーヴァント』を唱えただけだ。
彼は君の呼び声に応えてこちらに来たはずだ。だから、人攫いじゃない」
「ほ、本当ですか!?」
「……やれやれ、『サモン・サーヴァント』については授業でやったはずだが」
「あ、あはは……」
ルイズは頭を掻いて恥ずかしそうに顔を赤らめながら、内心ではほっと胸をなでおろしていた。
しかし、状況を理解していないサイトがこちらの召喚に応えたとは思い難いのだが。
「とにかく、初めての魔法成功おめでとう、ミス・ヴァリエール。やればできるじゃないか」
「あ……は、はい」
コルベールの言葉に、ルイズは恥ずかしそうに俯く。だが内心ではとても嬉しいのか、涙を浮かべながら笑みをこぼしていた。
そんな彼女の様子に、キュルケやタバサ。そして一部の生徒は安心したように笑みを浮かべていた。
「それでは次に『コントラクト・サーヴァント』だね。これも今の君なら上手くいくだろう」
「え、でも、彼は状況を把握できていないみたいですけど……それに人間ですし……」
ルイズの言葉に、コルベールはサイトをまじまじと見つめる。
「ふむ、確かに。しかし、儀式は続けなければいけない。春の使い魔召喚儀式は神聖なもの。
途中で止める事は何人にも許されない。彼が人間であれ、契約は結ばなければ鳴らないんだ。わかるかい?」
「……はい、理屈は」
「では、『コントラクト・サーヴァント』で契約をしなさい」
「……」
ルイズは申し訳なさそうにサイトのほうを見る。こんな決まりに従うくらいなら留年、いや退学になったほうが良いと思った。
早く彼を元の場所に戻してあげたい。彼にも家族がいるはずなのだから。しかし、今退学になればロングビルの期待を裏切ることになるし、
それに自分の家族をも裏切ることになる。
サイトに対する心配と自分と親しい周りへの想いで板ばさみになったルイズは、コルベールに苦し紛れに言った。
「……せめて事情をちゃんと説明させてあげてからでいいですか?」
「いや、しかし」
「ちゃんと見せに行きますから!」
ルイズは強い意志でコルベールの目を見る。その瞳を見て、コルベールは困ったような表情を浮かべると、
大きくため息をついて、苦笑しながら頷いた。この少女は意志が強い。一度決めたら絶対に曲げない子だ。
だから今は好きにさせてあげよう。優しい子だから、悪いようにはしないはずだ。
「……ふむ、わかった。そこまで言うなら信じよう。さて、じゃあ皆教室に戻るぞ! ミス・ヴァリエールはちゃんと契約してくるんだよ?」
コルベールが号令を出すと、生徒たちは自分の使い魔を連れて、『レビテーション』や『フライ』を使って学院の教室へ戻っていった。
その場に残されたのはルイズとサイトにコルベール、そして何故か残っていたキュルケとタバサだった。
ルイズはコルベールに対し、大きく頭を下げて謝罪した。
「はい……。ごめんなさい、我侭を言ってしまって」
「初めての事だからね、混乱してしまうのは無理もないさ。だから、ゆっくりやればいい。ん? 君たちも戻りなさい」
「いいえ、ミスタ・コルベール。私たちはミス・ヴァリエールを見守らせていただきます。誰かが見ていたほうが良いでしょう?」
コルベールはキュルケとタバサを教室に戻そうと促すが、彼女たちは同時に首を横に振ると、それを拒否した。
「ミスタ・コルベールこそ、生徒たちの監督に戻ったほうが良いのでは?」
「いや、それなら君たちも……。はぁ……仕方ないな、君たちは。わかった。では頼んだよ、ミス・ツェルプストー、ミス・タバサ」
これもいつもの事。コルベールは呆れたように首を横に振ると、ルイズをキュルケ達に任せると、
彼も飛び去っていった。
見たところルイズの呼び出した使い魔は平民であるから、変に暴れたりはしないだろう。
そして彼女たちの根の真面目さも知っていたから、ここは任せていいかもしれない。
むしろ教室に戻った生徒たちがしっかりと世話が出来ているのか、そちらのほうがコルベールとしては心配だった。
さて、キュルケはその後姿を笑顔で見送ると、ルイズのほうを向きなおした。ずっと置いてけぼりになっていたサイトは表情を固めたまま、
生徒たちが飛び去っていった方向を見つめている。ルイズはそんな彼を前かがみになって覗き込んでいた。
「も、もしもーし」
ルイズがサイトの頬をぺちぺち、と軽く叩くと、はっと我に返った彼は急にルイズの肩を掴み、
錯乱したようにガクガクと彼女を前後に振りながら叫び散らした。
「ここ何処だよ!? あいつら何で空飛んでんの!? つーかさっきのおっさんは何だよ!!? 使い魔ってなんだよ!?」
「あわわ、ちょ、ちょっと落ち着いてって!」
「お前ら何もんだよ! 俺をこんなところに連れ込んでどうするつもりだよ!? 俺を早く元に戻せよ!!」
「落ち着け!!」
錯乱したサイトを必死に宥めようとしたルイズだったが、あまりに乱暴に振り回してくるために、
彼女も苛立って落ち着きをなくし、終にサイトを投げ飛ばして地面に叩きつけてしまった。
血迷っていたサイトは上手く受身を取ることができず、ズトン! と地面に叩きつけられ、
肺の中の息が全て抜け出て、背中を押さえながら咳き込んだ。
「あ、あわわ! ごめん、つい……」
「あ〜あ。やっちゃったわね」
「でも自業自得」
「そうね」
ルイズははっと我に返り、慌てて地面に倒れたサイトの体を起こして背中を摩った。
遠めで見守っていたキュルケは笑いを堪えて、タバサは冷たい一言を言い放っている。
「げほっ、ゲホッ、いってぇ……これ夢じゃねぇ……ならドッキリなのか? なあ、そうだって言ってくれよ……」
と、地面に叩きつけられた事でサイトもようやく冷静になったのか、急に落ち込んだように
その場で顔を伏せてしまった。彼はまだ今いる自分の状況を理解できないようだ。
しかし、ルイズは不思議に思う。ハルケギニアの平民であれば、メイジに囲まれれば恐怖するはずだ。
それを物怖じもせずに突っかかってくるのは、やはり彼は遠い国の人なんだろうか。
メイジもいない、魔法も存在しない国。そんな国はどこにも存在していないと思っていた。
ただの御伽噺だとルイズは思いつつ、サイトに尋ねる。
「ドッキリって何?」
「ドッキリって何って……いやそんな事言って、どっかでカメラで俺を撮っていって、皆であざ笑ってるんだろ?
さっきの飛んでいったやつだってワイヤーアクションなんだろ?」
「いやさっきから言ってることがわからないわよ……」
困った。遠い国とか以前に変な人でも呼んでしまったのではないか。
とにかく、ルイズは自分が混乱しそうになるのを必死に我慢して、サイトに再び問いかける。
「とりあえず、さっきのは魔法で飛んでるんだけど、もしかして知らない?」
「ま、魔法!? 何言ってるんだよ、お前!」
「あら、魔法を知らないの?」
と、二人の会話に興味を持ったキュルケが割って入った。サイトは必死に何度も頷く。
どうやら彼も変な意味でルイズたちに危機感を持っているようだ。
「そうね……。なんか見たこともない格好だし……。ねえ、タバサ。この服の材質とかわかる?」
「……知らない。少なくとも、こんな生地は存在しないと思う」
「よねぇ」
キュルケはサイトの服の裾を握って、その感触を確かめる。タバサも同じように確かめていた。
そんな美少女二人、とりわけ大人の魅惑を持つキュルケに近寄られて、サイトは思わず顔を赤らめ、恥ずかしそうにしていた。
「ちょ、まじで恥ずかしいっすけど!?」
「我慢しなさいな。……魔法がない国から来たのかしら?」
「そんな国あったっけ?」
「東方?」
「魔法なんて普通は存在しないだろ! 何言ってるんだよ!」
「ウル・カーノ!」
必死に魔法の存在を否定しようとするサイトに対し、キュルケは突然杖を取り出すと、
『発火』のスペルを唱えてみせる。杖の先から、真っ赤に燃え盛る炎が上がる。それを見てサイトは驚いた。
「う、うわ!」
「これが『発火』の魔法。他にもお見せしたほうが良いかしら?」
「い、いや、いいです……。手品……でもねぇし、どうなってるんだよ、ここは……。というか、お前たち本当に魔法使いだったのかよ……」
「ええ、そうよ」
呆然とするサイトに対し、キュルケは髪を流しながら当たり前のような表情を浮かべる。
「とりあえずさ。覚えていることとか話してみない?」
「お、おう。任しておけ」
何が任しておけなのだろう。ルイズは少しだけ失笑してしまった。
とりあえずサイトは必死にルイズ達へ訴えかけた。だが、ルイズ達は彼の話を半分以上、
いやもしかしたら殆ど理解できなかったかもしれない。ひとまず理解できた事は。
「とりあえず突然自分の目の前に現れた『銀の鏡』に興味を持って、石ころとか何やら入れて、
とりあえず安全そうだったから、今度は自分から突っ込んで行ったと」
「……はい、その通りです」
「普通そういうのに無用心に触る?」
「はいその通りです、すんません」
『あきはばら』や『のーとぱそこん』やらよく分からない単語が出てきたが、
どうやらこちらに来てしまったのは彼の不注意もあるようだ。記憶をたどったことで少しは状況を把握できたサイトは、
その場で何故か『シェイザ』をしながら項垂れていた。
「でも良く分からないことばかりね。服の事もそうだし、まるで異世界から来たみたいだわ」
「異世界……」
使い魔のサラマンダーの背に乗り、その頭を撫でながらキュルケは呟く。そしてその膝の上には、
サイトが『のーとぱそこん』と言って差し出された薄い黒箱が乗せられていた。
そしてキュルケの言葉に反応したタバサが少しだけ憧れのような瞳を見せながら反芻した。
使い魔のサラマンダーの背に乗り、その頭を撫でながらキュルケは呟く。そしてその膝の上には、
サイトが『のーとぱそこん』と言って差し出された薄い黒箱が乗せられていた。
そしてキュルケの言葉に反応したタバサが少しだけ憧れのような瞳を見せながら反芻した。
「……少なくとも俺のいたところではそんな尻尾から火が出るトカゲなんて御伽噺の中の生き物だよ。というか熱くないっすか?
つーか俺のノートパソコン返して欲しいんですけど」
「ふふん、私にとってはこれぐらい涼しいぐらいよ。そしてけち臭いこと言わないの!」
「いや、壊れるって言うか……」
「というかもし本当に異世界だったら戻す方法ないんじゃ……」
青ざめた顔で、ルイズは乾いた笑みを浮かべる。その言葉を聞いてサイトもまた目を見開いて、一気に顔が青ざめていく。
「ど、どうするんだよ……」
「どうするって言ったって……」
「あ、そうだ! さっきの魔法をもう一度唱えれば……」
「無理ね。サモン・サーヴァントは呼び出すためだけの魔法。きっと恐らく貴方の目の前に鏡が出てくるだけよ。
そしてルイズの許に辿り着くだけ。それに、これは神聖な儀式だから、やり直しは利かないのよ」
「そ、そんな馬鹿な……」
「……まあ悩んでも仕方ないじゃない? 来てしまったんだし、貴方の居場所に戻す魔法を探すにしろ、
ここで一生暮らすにしろ。覚悟を決める以外ないでしょ? 貴方が何処に来たかは置いてね」
「……とほほ……」
キュルケの容赦ない言葉にサイトはその場で力なく項垂れてしまう。
しかし、今彼の状況ではそれ以外にないだろう。元々サイトには選択肢など残されていなかったのだ。
「まあ安心しなさいな。他の誰かに呼ばれてたらわからないけど、この子は面倒見がいいから。悪いようにはならないわよ」
「少なくともお腹は空かせないわ。それに、必ずご両親のところに戻してあげる。約束する」
「ああ、ありがとう……」
サイトは無気力に言った。途方もない事になって、色んな事を後悔し始めているのだろう。
ルイズはそんな彼を見て申し訳ない気分にまでなってきた。
「それよりも、契約」
「ああ、そうね」
と、タバサは思い出したように呟き、キュルケもぽんと手のひらを叩いた。
「契約って?」
サイトが尋ねると、ルイズがその内容を思い出すように説明を始めた。
「さっき、コルベール先生」
「あのはげ頭の人?」
「そうそう、その人。その人が『コントラクト・サーヴァント』をしろって言ってたでしょ?」
「そういえばそんな事言ってた気が」
「使い魔召喚の儀式はそれとサモン・サーヴァントを行って初めて成立して、私たちトリステイン魔法学院の学生は二年生になるわけ。
コントラクト・サーヴァントは使い魔と正式に契約を結ぶ、大事な魔法なのよ」
「つまりその、やらないと留年するって事?」
「この子の両親の事を考えると、留年はないわね。恐らく退学させられるわ。この子は公爵家のご令嬢だからね」
サイトは驚いた様子でルイズをじっと見つめる。
「公爵って、もしかして結構偉い人?」
「少なくとも、トリステインの中でも頂点に近いわね。もしかしなくとも」
「そうだったんだ……意外すぎるな」
「な、なによ。自分でも貴族らしくないのはわかってるわよ。偉そうにするの、結構疲れるんだから」
ルイズは恥ずかしそうにする。最近ではやっと貴族らしく振舞うことは出来るが、それでも平民だった頃のほうがずっと気が楽だ。
だから平民を相手にする時や、キュルケやタバサなどの友達に対してはそう言う風に振舞っていた。
まあそんな事情を説明している暇もないので、キュルケは適当に誤魔化して話を進めようとした。
「まあ色々と事情あるのよ。で? 結ぶ、結ばないの?」
「何かそんなセリフ、マンガで見たことがあるな……」
サイトは妙なことを呟きながら考え込む。ルイズとしては結んで欲しいとは思っていた。
そうすれば留年することがないから、家族や友達に迷惑をかけることもない。
しかしそれは自分の願いだ。それを押し付けられるほど、ルイズは身勝手になることはできなかった。
だがそんな彼女の思惑とは裏腹に、サイトは覚悟を決めた様子で大きく頷いた。
「よし、結ぶ」
「え?」
「結ぶって。俺、やっぱりここが別の世界だなんてまだ信じられないけど……。
でも、君たちは見ず知らずの俺を助けてくれようとしているわけだろ? 俺だってそれに応えるだけの男気ぐらいあるさ!」
「でも、そんな無理しなくても……。きっと事情を説明すれば先生たちだってわかってくれるわよ」
「大丈夫だって!」
「とか言って、可愛い女の子と一緒になれるのが嬉しいとかそういう下心じゃないの?」
「そ、そんなわけないし!」
決意の言葉を迷いなく言ったサイトだったが、キュルケに指摘されて明らかに動揺を見せた。どうやら図星のようだ。
ルイズは世間一般的に考えて美人の分類に入る。キュルケほどの色気こそないが、親譲りの綺麗な桃色のブロンドに透き通るような白い肌。
鳶色のくりっとした瞳に人懐こい性格。やや短気で悪戯が過ぎるところが難点だが、それでも彼女は可愛らしい美少女であることには間違いない。
確かに、サイトぐらいの年頃の少年が下心を持っても仕方はない。ルイズもその辺りは承知の上だが、それ以上に、そんなことで簡単に決めてしまったサイトの決意力に呆れていた。
「はぁ……もう、本当にいいの?」
「いいって、さっき言った事は嘘じゃねぇし。使い魔、やってやるよ。こうなったら、この世界の事もっと知ってやるさ」
「……貴方って、本当に好奇心旺盛で能天気なのね」
「わ、悪かったな!」
「ふふ、まあいいけどね。……んじゃ、今日から貴方は私の相棒。使い魔じゃなくてね。よろしく」
「ああ、こちらこそよろしくな。えっと……」
「あ、そっかまだ名前言ってなかったわね」
ルイズは徐に立ち上がると、二歩下がってサイトのほうを向く。そしてそれに合わせるようにキュルケとタバサは傍に寄り、
彼女たちの使い魔であるサラマンダーと風竜シルフィードもサイトの前に立った。
その光景にサイトは一瞬息を呑むも、じっとルイズを見つめた。
「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。二つの名は『微熱』」
「……タバサ。『雪風』のタバサ」
「そしてこの私がルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。……『ゼロ』のルイズよ。よろしくね、異国の殿方」
ルイズは手を差し出す。サイトは恥ずかしそうに頬を掻きながら、その手を握り返した。
「あ、うん。……俺は平賀才人。サイトって呼んでくれ。よろしくな、ルイズ」
一時期は平民として育ち、上手く魔法が使えないけれど、貴族の娘であるルイズ。
地球で普通に育ち、何故か異世界に呼び出されてしまった少年平賀才人。
少年と少女は出会い、そしてまた彼らを取り巻く運命もまたゆっくりと動き出した。
-----------------------------------
「ところで契約ってどうするんだっけ?」
「あんたそんなことも知らないの? 呪文唱えて、口にキッスよ、キッス!」
「口付け」
「え!?」
「え、キッス?」
「わーわー! そりゃいかん! 私ファーストキスなんですけど!?」
「何よ、ファーストキスぐらいすぐに捨てなさいな! ほーら、キース、キース!」
「やんややんや」
「ちょ、なんで二人ではやし立ててるの!? タバサそういう人じゃないでしょ!?」
「お願いします!!」
「君も何で地面に平伏して頼み込んでんのよぉぉ!」
「ソコロフっ!?」
「あ、またやっちゃった……」
どうも、皆様如何お過ごしでしょうか。私は毎日CQCをしたり、ヘリから逃げつつRPGを撃ったり、ホバーに潰されているという充実した日々を送ってます。
すいません、ピースウォーカー面白いですよねって言う話です。皆も買うと良いよ!
今回から原作の時系列に入ってみましたが、視点はルイズに絞ってみました。
原作とは違った、虚無と銃士の「ルイズ」らしさが出ていれば良いのですが……。
あ、因みに皆様が心配しているエレ姉の恋の進展は、もうちょい先で明かしたいと思います。
政治とかの話よりも、冒険譚に出来れば良いなぁ……。
少しキュルケとかのリアクション薄かったかな?
-----------------------------------
>銃士の人
GJ
おつ
おちゅんちゅん
キース、キース! GJでしたw
249 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/05/18(火) 13:10:14 ID:ME8NFRF2
ここ 初めてきたけど気合入ってるね。
残念だけど最近じゃあ気合はいってるのは銃士の人だけじゃね?
永遠の17歳カリンちゃんとかずっとまってるんだけどなー(チラッ
もしシルフィードとタバサの性格が逆だったら
タバサというかシャルロットってさ、素というか父ちゃん死んだり母ちゃん壊れたりする前はシルフィと似たようなもんなの?
イザベラの性格がきゅいきゅい
>>227のサイト操られの変化形
もしサイトが対7万で死亡して操られゾンビになったら
ディスペル撃てばサイトはただの死体になってしまう
ゾンビサイトはゾンビサイトで「ルイズも死ねばずっと一緒にいられる」だの
「綺麗に苦しみも痛くも無く殺してあげる」だの「ルイズのために強くなったその成果を見せてあげる」だの
操られ+ルイズLOVE、というより馬鹿は死んでも直らなかった的なことを呟きつつ近づいてくる
どーする?どーするよ?ルイズ?
というのが頭に浮かんだ。我ながらひどいw
パパンがトラウマ刺激されてサイトを粉砕するよ
いやジョゼフの愛妾のモリエール夫人の方でね?
>>254 大体同じ状況(アンアンさらわれたあとは殺されてゾンビ化して傀儡だろうし)で始末つけた身としては
自分が同じ立場になったからって流されはしないと自分で始末つけて
その後に盛大に凹むんじゃないかなぁ、推定父方の遺伝子的に考えて年単位で
>>250 『気合い』が『入ってねぇ』だとぉ?(ビキィ
?!
嫌なゼロ魔だなw
確かに他の作者さん帰ってこないなぁ…。寂しいなぁ。
ここを見てる人もめっきり減っちゃったしね。
銃士の人の投下に対しても、あまり感想がついてるとは言えないし。
やっぱり、見る人が少ない、感想もつかない、だと、作者さんのモチベーションも上がりにくいんじゃないかね。
上がりにくいというか、目に見えて下がるかと
規制の影響?
確かになぁ。烈風さんの時も目に見えて感想が減ってたしなぁ。
投下後はなるべく感想を書くと、反応があるってわかって、他の人たちも書いてくれるかもね。
過去スレでも色々とネタは眠っているはずなんだよなぁ。
防具屋キュルケとかアニエスがコルベールに拾われたらとか。
>>265 それもあるかもね。昔はもっと人が一杯いた気がする。
そ避難所をもっと活用しても良いと思うんだけど…。
もともと、ネタ的にドン詰まった感があったのか、緩やかな減少傾向にはあった。
そこに規制が来て、一気にガクン、とやられた感じな気がするな。
その辺りは仕方ないよな。地道に人を戻していくしかないよね。どこも過疎ってるし…。
ところで、皆は今まで出てきたSSの中で、どのルイズが一番好き?
俺はニアゼロのルイズが一番好きだな。
どうも、虚無と銃士の人です。
規制など色々とありますが、拙作が少しでもスレの活気を取り戻す機会になれば…
と思います。というわけで十四話を30分から投下したいと思います。
「ここが私の部屋よ」
トリステイン魔法学院の夜。
ルイズはサイトを連れて、女学生寮にある自分の部屋へと彼を連れてきた。本当ならば男子禁制の場所であったが、
彼が使い魔になったということで特別許されることになった。その証拠として彼の左手には使い魔のルーンが刻み込まれている。
このルーンをコルベールに見せたときは、珍しいものだと言われたが、それ以外は何事もなく終わった。
ロングビルに見せに行ったときに大爆笑された時は、流石に怒ったが。その怒り方も可愛らしかった。
寝る場所を別に用意しようとしたが、男子寮も使用人寮も空いておらず、かといって他の使い魔同様に小屋に入れるわけには行かない。
仕方なく、しばらくはルイズの部屋で寝かせることになった。それに、使い魔を召喚した初日は一緒に過ごすのが慣わしなのだ。
「ほぉ……」
初めての女性の部屋だったのだろうか。サイトは部屋中を興味深そうに見回していた。そんな彼の様子に気が付き、
ルイズは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「ちょ、ちょっと。そんなにじろじろと見回さないでよ。汚い部屋なのは仕方ないんだから」
「あ、いやごめん、女の子の部屋なんて初めてだから、つい」
「もう……」
と言ったものの、実際のところは彼女の言葉とは裏腹に質素で物が少ない部屋だ。
家具もベッドも化粧台も、貴族のものにしては安物を使っている。これも数少ない小遣いと合わせて、貯金を増やすためである。
その代わりにマジックアイテムやレイピアを研ぐための研ぎ石。冒険のためのグッズなどが置かれていた。
そんなものを見て、想像と違っていたのか、サイトは苦笑しながら呟いた。
「……男らしい部屋ですね」
「殴っていい?」
「だ、ダメ絶対! 暴力反対!」
「冗談冗談。そのぐらい言われなれてるし。ほらそれよりも、座った座った」
「あ、ありがとう」
サイトはルイズから差し出された椅子に座った。ルイズもそれと向き合うようにベッドの端に腰掛けた。
「……さてと。じゃあ改めて、ようこそハルケギニアへ。これから色々と大変でしょうけど、一緒に頑張りましょう?」
「おう、任しとけ」
サイトは自信満々に応えた。そんな彼にルイズは呆れたように苦笑した。
あ、フライングしてしまった。すいません;
第14話
「すっごい自信。もっと不安になると思うけどなぁ」
「そりゃあ不安だけどさ。あんまり気にしてたら仕方ねぇし。もうこっちの世界を楽しむことにしたよ」
折角のファンタジーだしな、そう呟きサイトは悪戯っぽく笑う。ルイズにはふぁんたじーという言葉が理解できなかったが、
何となく彼の気持ちは理解できた。
「あれね、御伽噺の中に来た気分なのね」
「そうそう、それだよ。魔法だとか月が二つあるとかアニメかマンガの中……あー、御伽噺のような話だと思ってたしな。
実際見れば結構わくわくするな」
「でも現実はそう甘くはないわよ。これから生活もしなきゃいけないし……。特に、私やキュルケ、タバサはいいけれど、他の貴族には気をつけないとね」
「そういやこっちの世界は貴族とか身分の差ってやつがあるんだよな」
ハルケギニアは基本的にメイジが貴族であり、それ以外が平民である。メイジの中にも平民にまで堕ちた者もいるが、基本的にはそう考えて間違いはない。
『貴族は魔法をもってしてその精神を為す』というモットーがあるぐらいであるし、ルイズの姉アニエスも表向きには『メイジの子孫』を名乗っているから、
ゲルマニアのような新興国ではない限り、この習慣は世界共通と言って良いだろう。
「そうね。マントを見に付けている人は大体貴族だと思って良いわ。それ以外は見分けって結構付きにくいんだけど……。
ああ、そうそう。偉そうにしているのが貴族かしらね」
「ははは、わかりやすいんだな」
サイトは思わず失笑してしまった。ルイズも釣られて笑いをこぼす。
「そうでしょ? トリステインはね、魔法絶対主義の国なの。昔からの伝統で、魔法が使えることが一種の能力のようなものを表すの。
だから魔法を使えない人を馬鹿にする人もいるし、平民を苛めたりする人もいる。勿論良い人もいるけれどね」
「へぇ、そうなのか」
「まあそういうわけだから、あまり粗相を起こさないようにね?」
「わかった、気をつけるよ」
サイトはルイズの言葉に大きく頷く。後何を説明するべきか、そう考えていると、サイトのほうから尋ねてきた。
「……ああ、そうそう」
「何?」
「使い魔って何すんの?」
「あぁ、それね。あんまり気にしなくて良いんだけれど。えっと、まず一つは主人の目となり耳となる能力が身につくらしいけど」
「……何も感じねえなぁ」
「まあこの能力あったってお互い見られて困ること、あるでしょ? 例えば着替えとか」
「あ、ああそうだな」
と、同意はしているものの、言葉とは裏腹にサイトの表情は残念だ、といわんばかりのものだ。
契約の時の事もあり、ルイズは彼の本心を見破って、顔を真っ赤にしながら彼に飛びつき、彼のほっぺを引っ張った。
「何で残念そうなのよ! このドスケベ!」
「あだだだだ!! めっしょうもありましぇん!」
「さっきのキスもすっごく嬉しそうだったわよね! ええ、そうよね! ファーストキスって恋の味って言うしね!」
「いででででで!! ごめんなしゃい、もう考えましぇん!」
「もう! 本当かしら……。まあいいわ。後は秘薬を見つけてくるとかかな」
ルイズは訝りながらもベッドに戻り、説明を続けた。聞きなれない単語に、頬を摩りながらサイトは首をかしげている。
「秘薬って?」
「硫黄とかコケとか。魔法の触媒となるものを探してくるの。でもこれも無理よね」
「ああ、この辺の地理は詳しくないからな」
「そうよね。それに学院の外とかは結構危険な場所が多いから、人一人が探しに行くのはどちらにしろ無謀よね。
そういうことだから、外には勝手に出ないこと! 出るときは私と一緒にね」
「わかった」
「後は、主人を守ることなんだけど……。うーん……」
「あ、それ以上は言わないで。傷つくから」
「まあ、私と同年代だしね……」
ルイズとしては別に守ってもらわなくても大丈夫なのだが。むしろ彼女としては、守ってあげたいという気持ちのほうが強い。
そんな気持ちがあったからこそ、進んでサイトを自分が養うとも言ったのだ。つまりは自分を拾ったアニエスと同じになりたいという想いが心の底にあったのだろう。
「とはいえ、何もしないのも暇でしょ?」
「そうだなぁ」
「じゃあマルトーさんのところで働くこと。これがご主人様からの最初の命令と言うことで」
「マルトーさん?」
「ここの食堂の料理長。マルトーさんの料理はとっても美味しいのよ! 残す人がいるけれど、それが信じられないぐらい」
「へぇ……」
「マルトーさんのところで働けば賄いもくれるでしょうから、ご飯にも困らないと思う。
配給の手伝いとか、皿洗いとか荷物運びとかだろうけど……それぐらいだったらできるわよね?」
「まあ大丈夫なんじゃない?」
「はっきりしないわねぇ」
「大丈夫!」
「うん、よろしい!」
あまりはっきりとしないサイトの返事に一抹の不安を感じたルイズだったが、その後は元気良く返事したために気をよくして笑顔を見せた。
基本的にルイズははっきりとした人物は嫌いではない。サイトも少し頼りない雰囲気があったが、彼女なりに彼の事が気に入り始めていた。
「それにしても異世界かぁ……。少し憧れるわね。だって、あんな綺麗な絵を魔法も使わずに見せるなんて」
そう言ってルイズはサイトの鞄を指差した。サイトはノートパソコンを散々弄くり遊ばれ、
もう少しで壊されそうになったのを思い出して苦笑した。
「俺にとっちゃ、魔法って言うほうが信じられないけど……。俺には使えないの?」
「残念。魔法を使うにはメイジの血筋が必要なのよ。だから別世界の貴方は絶対に使えない……はず」
「そうかぁ」
残念そうに呟くサイト。そんな彼にルイズは苦笑して語りかける。
「確かに便利だけどね。魔法がなくたって大丈夫よ」
「いやぁ、折角こういう場所に来たから使ってみたくてさ。ルイズは何か魔法使えないのか?」
「え? あ、いや私はね……」
参ったなぁと、ルイズは少し苦笑しながら思う。彼女は今も魔法が使えないのだ。あれだけ練習して、
最近では爆発の場所をコントロールできるぐらいにはなったが、それだけだ。
とはいえ、彼女としては魔法に執着などあるわけではなく、もっと別の事でその才能を活かしているわけだが。
だから隠していても仕方がない。いつかばれることだ。
「魔法、使えないのよ」
「え、でも俺を呼び出したのは魔法なんだろう?」
「あれが始めて成功したの。それ以外はからっきし。だから『ゼロ』のルイズなのよ。
……ごめんね、こんなのが主人で」
「い、いや気にすんなって! そ、そっかぁ、魔法使えないのかぁ、あははは!」
「……」
しまった、これはまずいとサイトは思ったのか、笑って誤魔化すも、ルイズの表情は暗い。
魔法が使えないことを気にしたことがない。しかし、最近になってはそうもいかなくなった。
魔法が使えなければ周りから馬鹿にされる。それに反発すれば、今度は教師から厄介者扱いされる。
彼女の味方は少ない。もしキュルケがいなければ、タバサがいなければ、ロングビルがいなければ。
ルイズはこんな場所から逃げ出して、家に帰り。そして騎士になる修行をすることだろう。
恐らくそれも叶わないだろうが。それでもこんな場所よりかは幾分マシだ。
さて、サイトもその空気に耐えられなくなったのか、乾いた笑い声で話題を変えた。
「あ、あはは……。そ、そういやさっきのキュルケって子とタバサって子は友達なのか?」
「え? あ、うん。二人とも、大事な友達。ここの子じゃないんだけどね。外国からの留学生なのよ」
「留学生……」
「ここトリステインのほかにも、ゲルマニア、ガリア、ロマリア、アルビオン、そして東方という未開の地があるんだけれど……。
キュルケはゲルマニア、タバサはガリアから来たらしいわ」
「らしい?」
「キュルケは昔からの付き合いだから分かるけれど、タバサはほら、あの子は無口で自分の事喋りたがらないから。
まあ人には秘密があるわけだし、そんなのを無理に聞くのは迷惑でしょ?」
「まあ、そりゃな」
「でも二人とも良い人よ。……キュルケは時々盛っている時があるから、それだけやめてほしいんだけど。私の精神衛生面的に」
「ああ〜、確かにあの体は……」
「そこで私の体と比べんな!!」
「げあ!?」
ルイズの怒りの飛び蹴りがサイトの顔に命中し、地面に叩きつけられた。
ルイズはふんっと鼻を鳴らすと、ブラウスを少しだけ摘まんで、自分の胸を覗き込む。
確かに6年前から胸の大きさが大差で負けていたし、色気でも負けていた。魔法の腕でも。
しかし、その当時から、151サントという、10歳の少女としてはそれなりの身長を持っていた彼女であった。
これに関してはキュルケ、この当時は138サントと年頃にしては低い、の身長を大きく上回っていたが、
ルイズの身長はこれを機会にぴたりと止まってしまった。そしてその代わりに、キュルケは173サントまで一気に伸びたのだという。
酷い話である。
もしも本来の歴史のままであれば、2サントぐらいは縮んだかもしれないのに。余計な挑発をしてしまったことで、余計に背を伸ばしてしまったのだ。
始祖は二物を与えないというが、キュルケにいたっては二物どころかもっと多くのものを与えてしまったんじゃないか。
そしてルイズはこの有様である。
はっきり言えば嫉妬した。羨望を通り越して、彼女の体を妬んだ。普段そういう感情を表さない彼女がはっきりと見せた嫉妬だった。
「キュルケに身長吸われたんじゃないの?」
と、巻髪の友人に言われた時には本気で殴りこみを仕掛けたぐらいだ。結局勝敗は引き分けで終わったが、
それ以来ルイズは好き嫌いをとにかくなくし(といっても一部は未だに克服できないが)、何でも食べて、やっと一年で2サント伸ばすまでにいたったのだ。
焼け石に水である。
「ふんっ! どうせ私はちんちくりんのどチビよ!」
ルイズは涙ぐみながら自虐する。サイトは顔と後頭部を押さえながら立ち上がり怒鳴った。
「いってえなぁ!! 蹴る事はないだろうが!! そ、それを言ったら、タバサって子はどうなるんだよ!」
「……タバサはタバサで、あれは可愛いからいいのよ。中途半端で筋肉質の私なんか……」
「お、俺は好きだなぁ! ご主人のそう言うところ!」
「え、何それ気持ち悪い」
「どうしろってんだよ!」
「ちょっとぉ、あんたたち五月蝿いわよぉ」
と、ぎゃあぎゃあと夜中に騒ぐ二人の下に、少し寝ぼけた様子のキュルケが現れた。
寝巻き姿の彼女は非常に官能的で、その姿を見たサイトは思わず息を呑む。しかしこの騒ぎで目を覚ましてしまったのか、少し不機嫌そうな表情だ。
ルイズは直ぐに謝罪しようと思ったが、何故キュルケが入ってこれたのか、それを考えた瞬間、キュルケを指差しながら注意した。
「アンロック禁止!」
「そりゃあ……こんなに騒がれもしたら私だってアンロックぐらいしたくなるわよ……。お子様は早く寝なさいな」
「うっせー! エレ姉並に胸小さくなっちゃいなさい!」
「誰があんな鉄板になるものですか……とにかくおやすみー」
「良い夢でも見なさいよ、バーカバーカ!」
キュルケは適当にルイズをあしらうと、部屋を後にしていった。そんな彼女の後姿に大人気ない罵声を浴びせながらルイズは見送っていった。
「ああ、もう……なんだか最近エレ姉に似てきて嫌だわ」
「エレ姉って、ルイズのお姉さんか?」
「そうそう。くびれと髪の長さがなければ男に間違えられそうな体型な姉さんよ」
真実ではあるが、見も蓋もなかった。こういう事は本人が居ない時に、言える時に言っておくべきである。
「それって」
「あ、ダメよ! それ以上言わなくてもわかるわ! ふぁ……ああ! 騒いでたら疲れちゃったわ。そろそろ寝ましょう……」
ルイズは思いっきり背伸びをしながら、眠そうに欠伸をした。懐中時計を見れば、もう夜中も少し過ぎたところだ。
明日も授業があるのだから、もう寝たほうが良いだろう。サイトもこの世界に来て疲れを感じているのか、釣られて大きく欠伸をして頷いた。
「そうだな」
「そうね」
「……」
「……」
「……?」
「……ちょっと」
「はい?」
「着替えたいんですが」
「どうぞどうぞ」
「……」
「……はっ!? ご、ごゆっくりぃ!」
始めはルイズの意図が分からず、きょとんとしていたサイトだったが、彼女が不意に立ち上がり、
壁に掛けていたレイピアを抜いた瞬間、やっと意図を解し、飛び上がるように部屋から出て行った。
そんな彼の様子にルイズははぁっとため息を交えながら苦笑すると、レイピアを元に戻してクローゼットからネグリジェを取り出し、制服を脱ぐとそれを椅子に立て掛け、
下着姿を晒した。そしてネグリジェを着ると、ベッドに戻って部屋の外のサイトを呼んだ。
「もういいわよ」
「お、おう……おおう?!」
おそるおそると部屋に戻ったサイトは、双子の月に妖しく照らされたルイズの姿を見て、思わず息を呑んだ。
彼女の肢体は確かに美しかった。すらりと丁度良く締まった体つきは、それだけで女性的な美しさを曝け出している。
いわゆるスレンダー美人という奴だ。ブロンドの髪が光を反射してきらきらと光っている。
そして、眠気のせいか、虚ろな瞳も今では不思議な色気を出していた。
「何よ」
「い、いやなんでもねぇ」
と、そんな体でもコンプレックスを感じているのか、じろじろと見るサイトをルイズは少しだけにらみつける。
サイトはそんなルイズから目をそらし、顔を真っ赤にしながら誤魔化すように言った。
「お、俺は何処で寝れば良いかな!?」
「そこの藁の上、かな。人がくるとは思わなかったから、こんなのしかないけれど……。
毛布やシーツ、枕も貸してあげれるし、申し訳ないけど、一日二日は我慢して?」
「そ、そっか。まあ同じベッドで寝るわけには行かないしな!」
サイトは錯乱したように、シーツの敷かれた藁の上に寝転がると、毛布を全身に被せた。
「おやすみ!」
「ふふっ、おやすみ」
ルイズは恥ずかしそうに毛布にもぐりこんだサイトに苦笑しながら指を鳴らす。
すると、部屋のランプが一瞬にして消え、辺りは暗くなった。それに釣られて、彼女は再び大きく欠伸をすると毛布の中へと入り、
ゆっくりと眼を瞑った。
「えへへ」
少しだけ笑みを浮かべ、ルイズは深い眠りの中へと意識を飛ばした。
いろんなことがありすぎて、少しだけ混乱はしているし、サイトは少しスケベだが悪い人ではない。
それに、異世界の住人なんてすごくドキドキする。やっぱり、良い事があった。そんな風に、今日一日を満足しながら。
「ね、眠れねぇ」
毛布の中にもぐりこんだサイトはぎらぎらと目を見開きながら、そう天井に向かって呟いた。
先ほどから興奮しきりぱなしでどう考えても眠れるはずがない。隣には美少女。はっきり言おう、眠れるわけがない。
突然変な場所に連れてこられ、可憐な少女とであったと思ったらそこは魔法使いが暮らす世界。サイトの世界の常識が通じない異世界。
貴族だとか魔法だとか彼にとっては理解し難いものだったが、そこは母親からも学校の先生からも「ヌケている」といわれる彼だ。
こんなアクシデントに動じず、彼なりに順応しおうとしていた。
ルイズは少し気が荒いところがありそうだが、それでも美少女には変わりない。くりっとした瞳、筋肉質だがすらっとして細い体。素晴らしい!
ここに来たばかりは、家に帰りたい、出会い系サイトからのメールをチェックしたい、ハンバーグが食べたい、と色々と文句を言いたくなったが、
美少女なガールフレンドが出来たと思えば割と、いやとても良いと思えてきた。これも一種の留学だ、国際交流だ。
いささか、使い魔の契約に関しては後悔をしているが。左手に刻まれてしまった文字(ルーンというらしい)は一生消えないだろう。
そして何より熱かった。しかし、そうして良いように自分を思い込ませれば、割といける気がしてきた。彼は単純なのだ。
そしてまた調子が乗りやすい。そして勘違いしやすい。普通だったら見ず知らずの人間に
あんなに優しく出来る人間など、そうそう居るわけではない。それをあんなに献身的にしてくれる。
もしかしたら、ルイズは自分に気があるのではないか。飛躍して、そんなことも考え始めていた。
「ううん……エレ姉……」
ルイズが寝言を呟く。エレ姉とは、先ほど言っていたルイズの姉の事だろう。サイトは忍び寄るように、
ホフク前進でルイズのベッドに近づくと、彼女の顔を覗き込んだ。彼女は幸せそうに眠っている。どうやら良い夢のようだ。
「アニエス姉さん……ちぃ姉さん……。この男の子? えへへ……」
おおっ!? とサイトはルイズの言葉に反応する。このタイミングで男の子、と言われたら自分しかいないだろう。
そしてこのシチュエーションは、もしや。さらにサイトのボルテージは上がり、息を呑んだ。
「……友達だよ。初めての、男の子の友達……」
だがサイトの期待も虚しく、友達宣言が飛び出した。ガーンである。だがそこで更にサイトは良いように考える。
これは恥ずかしがっているのだ。そうだとも。そんな時、ルイズの表情が苦しくなった。
「……だ、ダメだよアニエス姉さん! サイトが死んじゃう! あ、ああ! サイトがバラバラに……」
え、夢の中の俺どうなってるの? ガクリと項垂れるサイト。どうやらスプラッターな夢に変わったようだ。
苦しそうに眠るルイズの布団を直してやると、窓のほうへと近づいていった。
夜空には彼の故郷、地球には存在しない双子の月が彼を照らしていた。
「異世界かぁ」
改めてサイトはそれを思い知らされる。
果たして元の世界に帰れるのだろうか。帰りたいか、と聞かれたら正直に言えば帰りたい。
不安な事だらけなのだ。やはり故郷のほうが良いに決まっている。ここにはインターネットもゲームも何もない。
そして何より、今の自分は孤独なのだ。だが、それを今考えたところで仕方ない。
サイトは毛布の中へと戻ると、静かに眼を瞑った。不安な事は全て忘れよう。
しばらくはこの世界を楽しむしかない。そう思いつつ、彼は自分の母親に心の中で謝罪した。
今日は彼の大好物のハンバーグを用意してくれていたはずだったのだ。
「いやぁ、なかなか悲惨な夢だったわ」
朝が来た。
ルイズはそう呟きながら顎に滴った汗を拭う。最終的に、サイトはエレオノールに改造人間にされ、ルイズと最終決戦をするというとんでもないオチだった。
なんともまあ酷い話である。こんなもの、物語としては三流以下だ。
その改造人間にされたはずのサイトが横にしっかりいる。先ほどの事は夢だが、昨日の事は夢でなかった。
机の上の懐中時計を見ると、まだまだ朝御飯までは時間がありそうだが、運動をするような時間でもない。仕方なくルイズは着替えを始めることにした。
隣で眠るサイトを起こさぬよう、慎重にクローゼットまで歩く。
そしてぶっきら棒に下着を選んで取り出すと、ネグリジェと下着を脱いで、素早く着替える。
そして椅子に立て掛けたブラウスを着ると、スカートを掴む。
「ふぁあ……。あれ、おはよ、うほっ!?」
「!?」
と、そこでサイトが起きてしまった。サイトは目の前の下着丸出しのルイズを見て固まってしまう。
そして、その状態のまま倒れこむと、毛布に包まった。
ルイズも突然の出来事に固まってしまったが、急いでスカートを履いて、何度か深呼吸をして息を整え、そして椅子に座る。
「ふ、ふぁあ……。あれ、おはよう」
「ええ、おはようサイト。良く眠れたかしら?」
そして何事もなかったかのように振舞った。サイトも何事もなく布団から立ち上がった。
二人にとって、何事もなかったほうが幸せなこともある。
「ああ、ばっちりだ!」
「その割には隈ができてるみたいだけど」
「き、気のせいだよ!」
「ふぅん、そう。あ、マント取って」
「ほい」
サイトは椅子に掛けてあったマントをルイズに手渡す。彼女はそれをバサッと勢い良く羽織り、髪を後ろで結ぶ。
そしてマントを翻しながらサイトのほうを向いた。その仕草はまさしく貴族のものだったが、笑顔はなんとも可愛らしい。
「さあ、朝食に行きましょう?」
「お、まじで!」
サイトはぐっと拳を握った。昨日はコルベールという先生のせいで夕食を食べ損なったのだ。
何とか夜食を頂いたが、それでも年頃の男子。物足りないのは仕方がないことだった。
ルイズもまた腹の音を鳴らしながら、ニヘラと笑いながら部屋を出た。
サイトとルイズが部屋を出れば、同じような作りのドアが並んでいる。この一つ一つが女学生が寝泊りする部屋になっている。
そのうちの一つが開かれて、まるで炎のような赤髪の少女、キュルケがその使い魔であるサラマンダーと共に出てきた。
彼女はルイズを見つけるや否や、普段の大人びた彼女からは想像できない、ニパッと無邪気な笑みを浮かべて挨拶した。
「あら、おはようルイズ」
「おはよう、キュルケ」
ルイズも元気良く挨拶を返す。なんやかんやで二人は仲が良い。それは入学時から、いや始めて出会った時から変わらないことだった。
「そしておはよう、サイト」
「あ、ああ、おはよう」
サイトはキュルケを見つめて、一瞬呆けていた。ルイズは唇を尖らして彼の態度を不満そうに見つめる。
彼の視線の先、それはブラウスの一番上と二番目のボタンをはずし、晒しだされた胸の谷間。
ふんだっ、どうせ私は色気なんかありませんようだ、と拗ねた様子で視線をそらした。その先にはサラマンダーがいる。
「……いいわねぇ、あんたのご主人は。あんな色気があってさ」
「何、人の使い魔に愚痴ってんのよ。あんただって可愛いと思うわよ? ま、私のほうが男受けはいいけれどね!」
「ムッキー!」
「おほほほ! それにこのサラマンダー、フレイムもサイトに負けてないわ!
見て、この赤く輝く鱗に鮮やかな炎の尻尾! これは火竜山脈のサラマンダーに違いないわ! サイト、素晴らしいと思わない?」
「いや、すごいと思うけど……すげぇ、改めてみると本当にヒトカゲだよ……立ってないけど。目つきも、いや意外と可愛いな」
サイトはじっと好奇心を含めた目でサラマンダーのフレイムを見つめる。フレイムも興味深そうにサイトを見つめていた。
意思疎通をしているのか、といえばそうではなく、ただ単にサイトはフレイムの炎を怖がっているだけだった。
「昨日も言ったけど、危なくね? 熱くない? 鎖でつなげたりしないの?」
「おほほ、臆病ちゃんねぇ。でも大丈夫。私が命令しない限りは襲ったりしないわ。現にルイズに危害を加えないでしょ?」
サイトがルイズのほう見ると、彼女はフレイムの首に自分の腕を回して抱きついていた。
フレイムは少し嫌がっていたが、そんなルイズに身体をゆだねている。羨ましい奴め。そう心の中でサイトは考えていた。
「確かになぁ。っていうかルイズは怖くないの?」
「私? ちぃ姉さんのところにでっかい虎とか居たからなぁ。今更よ」
平然と言うルイズにサイトは引き気味だったが、彼女にとって火トカゲなど怖いものでもなんでもない。
よっぽど姉カトレアが飼っていた動物や母カリーヌのマンティコアのほうが怖い。一度悪戯を試みた時、本気で追い掛け回された時には
流石に命の危険を感じたものだ。
「……この子の家族構成どうなってるの?」
「動物好きの姉さんがいるのよ。もっとも、その度を越えているとしか思えないけど。ちなみに美人」
「だろうなぁ」
「ルイズよりも背も高くて」
「ほほう」
「清楚で」
「ふんふん」
「儚くて……」
「おおう……」
「私並みに女らしいわ!」
「完璧じゃないか……!」
「あんたらねぇ……」
ルイズは、さりげなく自分をひけらかしにされているのを不満そうにしていたのだった。
「さて、ここがアルヴィーズの食堂よ。と言っても、平民は入ってはいけないって言うルールがあるから、
食事はマルトーさんに頼んでキッチンで取らせてもらうことになるけど」
さて、あの後ルイズとサイトはキュルケと共に魔法学院の本塔にある『アルヴィーズの食堂』に足を運んでいた。当然、朝食をとるためである。
食堂には100人が優に座れるような、豪華な飾りつけのテーブルが3つ並べられ、そこには豪華な料理が並べられている。
そしてそこでは各々生徒たちが自分の席に座っていた。大人びていて、紫色のマントを着けているのは3年生。
初々しく、茶色のマントを着けているのは一年生。そして、二年生のルイズ達は彼らに囲まれた真ん中のテーブルである。
この豪華絢爛な光景に、いや料理の豪勢さにサイトは思わず見とれてしまっていた。
「すげぇ……。って、俺は食べれないのか……」
そう、平民はここでは食事を取る事は許されない。美味しい料理を目の前にして諦めるしかないのだ。
しかし、そんな彼をルイズは優しく励ました。
「まあまあ。マルトーさんの賄い料理は美味しいわよ。大きい声で言えないけれどね、もしかしたら、そっちのほうが力入れてるかも」
「本当か!?」
すると、ぱぁっとサイトは機嫌をよくし、思わず叫んでしまった。その叫び声に周りの生徒たちが何事かと彼らに視線を向けた。
ルイズは慌てて彼の口を塞ぎ、自重させる。マルトーたちの保身のためにも、流石に今の会話を聞かれるわけには行かないのだ。
なんだか支援するのも久しぶり
「しぃー! とにかく、この本塔をぐるっと裏に回れば厨房があるから、そこに行って、マルトーさんか他のコックさん、
メイドさんとかにご飯をくださいってお願いして。私の名前を出せば一発だと思うから」
「む、むがむが」
サイトもうんうんと頷いて理解したようで、辺りも平静に戻ったのでルイズは彼の口から手を離した。
と、キュルケはフレイムの頭を撫でながら言った。
「ああ、そうそう。私のフレイムも連れて行ってくれる? この子もおなかを空かせていると思うから」
「わかった」
「フレイム、そこの冴えないお兄さんに付いていきなさい。食べちゃダメよ?」
「冴えないっていうなぁ〜! ってフレイム、俺の裾を噛むんじゃねぇ!!」
「ぎゅるー」
「いってらっしゃい〜」
反論するサイトの裾を、まるで早く連れて行けと言わんばかりにフレイムは噛んで引っ張ろうとする。
サイトはその強い力に対抗できず、引きずられるように厨房へと連れて行かれた。
そんな彼を苦笑しながら見送りつつ、二人はテーブルに座る。そこにはすでにタバサが座っていた。
相変わらず、無表情だったが、二人は気にせず挨拶をする。
「おはよう、タバサ」
「おはよー」
「おはよう」
タバサは静かに挨拶を返した。これも何時もどおりだ。ルイズは彼女の隣に座って、ニヘラと笑いながら言った。
「朝食、楽しみねぇ」
「そう」
「タバサも楽しみだって、目が言ってるわよ」
「否定はしない」
タバサは素直に頷いた。彼女の楽しみは誰にも邪魔されない読書の時間、そして何よりこの食事の時だった。
彼女は小さな体に見合わず、大食らいだった。表情こそ変わりはしないが、それでも美味しそうにご飯を食べる彼女の事がルイズは気に入っていた。
そして、始祖ブリミルへの祈りが唱和されると、一斉に食事が始まった。ルイズとタバサも自分の皿へ料理を重ねると、勢いよく口に運ぶ。
「こらこら、あんまり急いで食べるのはレディの風上に置けないわよ。もっと落ち着いて食べなさいな。じゃないと、大きくなれないわよ」
「そんなの騙されないわよ!」
ルイズとタバサは女性である。女性であれば、それこそ色気のある体には憧れがある。
特にキュルケは女性として理想、いやそれ以上の身体を持っている。
そんな彼女が大きくなったきっかけ、それは好き嫌いを無くし、よく食べよく寝てよく運動することだった。
そのお陰でキュルケはすこぶる程健康体だから、夜の相手でも何のそのである。どれもこれも、ルイズにだけには負けないというライバル心からだ。
そしてそのライバル心はルイズにも、そしてさりげなくタバサにも宿っていたのだった。
「はぁ、じゃあ私も食べますかね」
そんな二人に呆れつつ、キュルケも食事を始める。二人とは対照的に丁寧な食べ方だ。人間、ほどほどという言葉がある。
キュルケは調子に乗って、下手な男並みに身長を伸ばしすぎたと後悔している部分もあった。
可愛げというものを犠牲にしてしまったのは少し後悔。
少しだけ。
「……ハシバミ草、ちゃんと食べなさいよ」
「ぐっ」
さりげなくハシバミ草のサラダをキュルケの更に移そうとしたルイズを、キュルケが咎める。
その様子はまるで姉妹のようだ。そんな彼女に、更にタバサが残念そうに呟く。
「おいしいのに」
「まさか! こんな苦いものは食べりゃしないわよ!」
「大きくなれないわよぉ」
「うっさい! ハシバミ草なんて食べなくたってね、ちぃ姉さんみたいに大きくなれる、はず!」
強がりを言うルイズだが、根拠がないわけではない。カトレアも女性的には素晴らしい身体を持つが、
彼女は小食だし、何よりハシバミ草を苦手としている。彼女曰く。
「あんなに苦いのは薬だけで十分です」
だそうだ。因みに、ラ・ヴァリエール家ではこのハシバミ草の好みが真っ二つに分かれている。
ハシバミ草を好きだといっているのは公爵とアニエスとエレオノール。
反対に嫌いだと言っているのはカリーヌとカトレア、そしてルイズである。
ひと時は『ハシバミ草論議』なんてものも開かれたぐらいだ。因みに、勝負は付かなかったらしい。
閑話休題。
そんなことで、ルイズはハシバミ草だけは食べることを拒むのだった。
「じゃあ貰う」
「どうぞどうぞ」
「もったいない」
タバサはルイズの皿からハシバミ草のサラダを戴くと、それをすぐに胃の中へと運んでしまった。
ルイズは信じられないという顔をして彼女を見つめていたが、すぐに食事に戻る。
「相変わらずね、あんたたちも」
「あ、モンモランシー。おはよう」
「おはよう、ルイズ」
と、そんな三人の下へ、ルイズの巻髪の友達、『香水』のモンモランシーがやってきた。
モンモランシーは最近出来たルイズの友達である。その切欠はふとしたことで、ルイズが彼女の香水ビンを拾ったことから始まった。
ビンを渡しに部屋を訪れたルイズを、モンモランシーは始め、腫れ物を見るような目で彼女を迎えたが、
ルイズが香水に興味を持ち始め、あまりにモンモランシーを褒め称えたために、気を良くして、彼女のための香水を一つ作ったのだ。
だがそれだけでは終わらなかった。そもそも魅惑の妖精亭で働いていたルイズは、妖精達が使っているものをよく嗅いでいたから、『男を喜ばせる』香水の匂いをよくわかっていた。
男子学生であるギーシュと恋仲であるモンモランシーにそのアドバイスをすると、彼女は試しにそのアドバイス通りに香水を作ってみる。
するとどうだろう。ギーシュは何時も以上に魅惑的だね、素晴らしいよ、さすがは僕の『香水』にモンモランシーだ! と褒めてくれたのだ。
これで更に気をよくしたモンモランシーはさらにルイズと仲良くし、香水作りを手伝ってもらったりしているのだ。
その代わりとして、彼女に自作の秘薬や香水をプレゼントしている。
そうしているうちに、モンモランシーはルイズの事を、魔法に関しては『ゼロ』だが、決して無能ではないと感じ、彼女への評価を改めている。
それに対し、モンモランシーの事はトリステインの貴族にありがちな高慢な性格だが、悪い子ではない。
どちらかといえばエレオノールと同じタイプだと、ルイズは考えていた。
そんなモンモランシーは、少し恥ずかしげに顔を赤らめながら言った。
「まずは使い魔召喚、というより魔法成功おめでとう」
「おー、ありがとう」
ルイズはお礼を言う。が、すぐにモンモランシーは厳しい表情になった。
「でも、相変わらずあんたは『ゼロ』なんだから、調子に乗らないでよ?」
「おおう、厳しいわね」
と、苦笑はするもののルイズには分かっていた。視線をそらすモンモランシーは素直じゃないが、
ちゃんと心の中では祝福してくれているのだ。
「しかし、平民を呼ぶなんてルイズらしいっていうか」
「ふふん、これがただの平民じゃないのよ」
「どういうこと?」
「ふふん、内緒!」
「ちょ、教えなさい! キュルケ!」
「どうしようかしらねぇ。ルイズもこう言ってる事だしねぇ」
「タバサ!」
「秘密」
「な、何よ私だけ仲間はずれにして……ふんっ! いいわよ、そこまで言うのなら!」
三人に意地悪され、モンモランシーは軽く涙目になるが、すぐに強情なふりをして誤魔化した。そんな彼女にルイズは苦笑しながら謝った。
「ごめんごめん。まあ今度ゆっくりと話すからさ」
「……約束よ?」
「うん。あ、そだ。あれは上手くいった?」
「ちょ、ルイズ! こ、こんなところで!」
「あれ?」
と、ルイズの言葉に突然慌てだすモンモランシーに、興味を示したキュルケだったが、ルイズは首を横に振り、そして突然表情を無くすと、声色を変えていった。
「秘密」
「今のタバサの真似?」
「……似てない」
「あれま」
どうやら自信があったようだが、本人からは厳しい評価のようだ。
「ま、まあ上手くいったかって言われたら、いったわね! それだけ、じゃあね!」
そう言い残し、モンモランシーはその場から立ち去っていった。そんな顔を真っ赤な表情を見て、なるほどと呟くキュルケには
もうすでに予想が付いているようだ。
「あの気障男のどこがいいんだかねぇ……」
「本人は気に入ってるんだから、いいんじゃない?」
「悪趣味」
「それはちょっと酷い気がする……」
相変わらず毒舌なタバサに、思わずルイズは突っ込みを入れてしまったのだった。
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もう少しのところでさるさん……。
支援ありがとうございました! これからも頑張って書いていきたいと思います。
これからも仲良し三人娘とその仲間たちをよろしくお願いいたします。
出張のため、次回は少し時間が掛かると思います。
PS
エレ姉の系統間違っちゃった。ごめんなさいごめんなアッー!
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投下乙ですー。
学院内でのルイズの立場は、多少マシになりつつも基本原作準拠に近くなるのか。
まあ、魔法を使えない以上、そうなんだろうけどなぁ。
それでも健やかに育っているルイズはいい子やねぇ。
乙
投下乙ですー
しかしひでぇ夢だwwwww
正夢で良いぞw
乙。
……ひょっとして、決闘イベント無し?
投下乙です。
ルイズパーティにモンモンが加わった!!
まあ、準レギュラーっぽい感じですけど。
魅惑の妖精亭との交流は、まだ続いてるんですかね。
>>268 自分は武器屋ルイズと、上の銃士のルイズの平民ルイズ組ですね。
こういうIFネタでは、原作とのギャップが好きなんで。
健やかに、というよりやたらパワフルに育ってるのが良し。
そこから更に突き抜けちゃったお仕事ルイズも好きだけど。
>>268 >>287 さらに別方向の突き抜け方として「ルイズは悪友を呼ぶ」のヲタルイズを推したい。
いや、最近某所の「109回目」見てて思い出したんで。
もしもデルフ売ってた武器屋の親父がジャパネットたかたの社長だったら
もしもデルフ売ってた武器屋……の近くにあるピエモンの秘薬屋から、某サトミタダシ的な洗脳ソングがエンドレスで流れていたら。
ヒットポイント回復するなら〜
もしもデルフの声も釘宮だったら
せめてデルフは田中天にしてあげて。多分ギャラ安いから。
一部の人にはそれご褒美すぎるだろう、デルフが中の人にのっとられそうだがw
>>290 洗脳される南条くん役は誰だ?ギーシュあたり?
もしも才人が人を笑わせるのが趣味だったら
ルイズにボケてみせたり
タバサを笑わせるために毎日いろんなギャグを考えたり
使い魔お披露目ではピン芸を披露したりする
もしもサイトが人を笑わせないと呼吸障害に陥る病気にかかっていたら
もしサイトがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
≫296
ゾナハ病乙
早くクロス板に行くんだ
もし技の名前を大声で叫ぶのが魔法の出し方だったら
魔法のパワーも音量、発音、発声方式、声のキレ具合で決まる
大塚芳忠的なのがラスボスクラスの声
>>300 加齢とともにパワーダウンしていった納屋吾郎さん的声の元ラスボス
>>299 タバサのキャラが変わりそうだな。
大きな声を出すのが苦手でせいぜいライン止まりのタバサ、
または魔法を使うときだけ性格が変わったようになるタバサ。
タバサは最初からあの性格じゃないし、魔法に必要ならいくらでも大きい声を出すんじゃないかな。
あの性格になった当初は出せないとしても、必要だから出せるように努力するだろうしさ。
>>298 居酒屋ボンバーに雀荘エルボーですね
むしろどこぞの乙女座の聖闘士のように、普段は殆ど声を出さずに力を蓄積し、
魔法発生時に爆発的な威力を引き出すとか。
>>299 挿絵が兎塚エイジから富士原昌幸に変わりそうな予感
……本当は石川賢と言いたかったのは内緒
アレか、ルイズが口をがぼっとあけてそこからエクスプロージョンを放ったりするのか
サイト「ザケルッ!」
あれか、優しい貴族になるのか
>>301 納谷さんか 関係ないけど
そろそろ本格的にやばくなってきたからな
>>305 石川賢だったら汚いセリフも出そうだな
こんなゼロ魔・・・悪くないかも
「火石の炎で焼き尽くしてやろうか? 時空の狭間に吹き飛ばしてやろうか!」
「やってみろ! ジョゼフ・ド・ガリア!!」
ピ キ ! !
ゼロの使い魔 完!
ラストはこうなるわけだな?
>>310 これがホントの「虚無エンド」ってことか…………
「いやぁ、食った食った」
「満足そうね」
さて朝食も済み、ルイズは食堂の入り口でサイトと合流すると、教室へと向かっていった。
キュルケとタバサはすでに先に向かっていった。
「あんなに上手い飯は初めてだよ」
「マルトーさんはトリステインでも随一の料理職人だからね。あれは一度食べたら、暫くは他のものを食べられなくなるわよ」
「はは、だろうなー。それにあの人達、俺が腹減っているのを見て、すぐにご飯用意してくれたんだぜ。
大丈夫か、しっかりしろ! 貴族に苛められたのか! ほら、これでも食って元気でも出しな!って良い人過ぎるだろ」
「あー……。どうだろう、同情されたとか?」
「……それは切ないな」
サイトは厨房に辿り着いた時の事を思い出す。確かにあの時、腹が減りすぎたせいで酷い
顔をしていたかもしれない。そして自分を見る目は同情のそれだった気もしなくはない。そう思うと少し複雑な気分だった。
「さて、ここが教室よ」
「おぉ」
第15話
そうこう歩いているうちにルイズとサイトは教室へと辿り着いていた。階段状に机と椅子が並べられ、一番下で教師が講義を行うような形である。
サイトはその光景に少し驚いた様子だった。
「こういうのは初めて?」
「いや、やっぱり学校の作りは似てるんだなぁって」
二人は中へと入り、ルイズの席へと向かう。
「へぇ……サイト、学校通ってるんだ。サイトの学校もこういう感じ?」
「大学っていう学校がこんな感じかな。もっと専門的な知識とか学びたい人が行く学校。俺はその下の学校に通ってるんだ」
「そうなんだ。サイトの世界にもそういうのあるのね」
「まあなぁ。俺も親から通え通えって言われてさぁ……」
「あはは、私と一緒ね!」
サイトの話に自分を思い浮かべて、思わずルイズは笑った。学院に行けとカリーヌに言われた時、ルイズは大層反発した。
私は騎士になりたい。母の幼き時のように騎士見習いになりたいと主張したが。
「いまどきの騎士はここ、頭もよくないとダメなのよ」
と、エレオノールに言われて。結局跳ね除けられて、ここへと通わされている。
今となっては良い思い出となっているが。とはいえ、今でも騎士になる夢は諦めていない。
とそんな会話をしている彼女たちに、何処からともなく、くすくすと馬鹿にするような笑い声が聞こえてくる。
明らかに馬鹿にしているその笑い声にサイトはむっと表情を顰めるが、ルイズがそれを制止した。
「……」
「あ、気にしなくて良いわよ。堂々としていましょう、堂々と」
「おう」
ルイズは胸を張って教室を進んでいく。サイトもその後を堂々と歩いていった。何の可笑しいことなどないのだ。
笑いたければ笑えば良いじゃないか。私たちは何も悪い事はしていない。
「はぁい、ルイズ。こっちよ。サイトもここ座りなさいな」
「お、キュルケさん、タバサさん」
「キュルケでいいわよ」
「私もタバサでいい」
と、二人を呼ぶ声が下のほうから聞こえてきた。どうやら先に教室へと来ていたキュルケのようだ。
その隣にはタバサが静かに本を読んでいる。キュルケは今まで話していた男たちをどけると、二人の席を作ってあげた。
二人は、その男たちに恨めしそうに見られるも、気にする様子もなく、キュルケが用意した席に腰を下ろした。
席に座ったサイトは落ち着かない様子で辺りを見回している。どうやら他の生徒の使い魔が気になるようだ。
「怖い? でも大丈夫、何にもしないから」
「そ、そうか。あの俺を睨んでる目玉は?」
「バグベアーね」
「そうか、あれがバックベアード様か……! ろ、ロリコンちゃうわ!」
「?」
「い、いやなんでもない。あの蛸人間は?」
「スキュアね」
「へぇ……。あれ、そういやタバサの使い魔は? あのでっかい竜」
「外。入れないから」
「はは、そりゃそうか」
当然といえば当然な事にサイトは軽く笑った。と、下側の教室の扉が開かれ、そこから中年の、ハットをかぶった女性教師が入ってきた。
ふくよかな頬がいかにも人の良さそうな雰囲気を出している。
「いかにもっていうおばさんだな。あの人も魔法使い、いやメイジなのか?」
「当然」
ルイズは小さな声で答える。そろそろ授業を受ける姿勢にしなければ。
女性は教室を見回し、その様子を伺う。そして、満足したような優しい笑みを浮かべて言った。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですね。
このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に様々な使い魔を見られるのがとても楽しみなのですよ」
「ミセス・シュヴルーズ! 一人平民を攫ってきた奴がいます! ゼロのルイ……」
一人のぽっちゃりとした生徒が手を挙げて、態々立ち上がってルイズを指差し、からかおうとしたが、
ルイズはまるで怒り狂ったドラゴンのような目つきでその生徒を睨みつけた。
ルイズは平民で育った時から自由奔放で、ムキになる事はあるが怒る事はあまりなく、お転婆ではあるが割と穏やかな性格だ。
しかし、学院に入ってからは、馬鹿にされまいと少し強気な性格に変わっていた。
寧ろ、こちらのほうが彼女の本来の性格なのだろう。睨みつけるルイズの威圧は、カリーヌから受け継がれたものと言って良い。
そんな目で睨みつけられた生徒はみるみるうちに顔を真っ青にし、身震いしながら席に座りなおした。
「ミスタ・グランドプレ。お友達を『ゼロ』など『人攫い』などと呼ぶものではありません。
彼女の事情はすでにコルベール先生より聞かせていただきました。
それにミス・ヴァリエール。貴方は公爵家の淑女なのですから、そのように怖い顔をしてはいけませんよ」
「は、はい、申し訳ございません」
「はぁい」
「さて、では授業を開始しましょう」
少し不満げだが、二人の返事にとりあえず満足したシュヴルーズは自分の杖をくるりと振る。
すると、いくつものこぶし大の石が机の上に転がった。どうやら彼女の系統は「土」のようだ。ルイズの姉、カトレアと同じである。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズ。これより一年間、皆さんに『土』の系統の魔法について講義させていただきます。
では、まず一年生の時の復習として、ミス・ヴァリエール?」
「ふ、ふぁい!」
突然当てられ、ルイズは緊張したように背筋を伸ばす。彼女は座学は苦手なのだ。
ともかく、動くことが好きな彼女は、魔法以外の身体を動かす授業ではトップクラスであるが、座学に関しては赤点ギリギリなのである。
いつもはキュルケかタバサかロングビルのところに泣き付き、一夜漬けで何とかしてしまう。全く、彼女らしい。
頭の回転は悪くはないので、そういうやり方で済んでしまうのだ。
もっと勉強すれば、座学トップも夢じゃないとロングビルに言われたことがあるが、彼女には勉強する気などさらさらないのである。
「魔法の四系統、答えられますね?」
「は、はい! えっと、土、火、水、風です。あ、あと一応虚無も!」
「はい大正解。四系統だけではなく、失われた魔法、虚無もしっかり含めましたね。よく勉強できていますね」
シュヴルーズは頷きながら、ルイズを軽く褒めた。ルイズは小恥ずかしそうに頭を掻く。
その周りでは、面白くなさそうに生徒たちが顔を顰めていた。
「虚無を含めては魔法は五系統に分かれますが、『土』系統はその中でも重要な役割を担っていると私は思っております。
勿論これは私が土の系統だからというわけではありません。土の魔法は万物の組成を司る重要なもの。
この魔法がなければ、貴重な宝石を作ることも、石から家を建てることも、農作物を収穫するのにも手間が掛かるでしょう。
このように、皆さんの密接に関係しているのです」
実際には、土だけじゃないけどね、とルイズは姉エレオノールの言葉を思い出す。
彼女の得意な系統は「水」であるので、そのことについて熱く講義されたこともある。自分の得意な系統は誇りたくなる。
つまりは、そういうことだ。
講義の最中、ルイズはちらりとサイトを見る。うんうん、なるほど、と頷いていた。どうやら魔法に興味を示しだしたようだ。
「では、今日は皆さんにこの土系統の魔法の初歩、『錬金』の魔法を覚えていただきましょう。ではまず、私めが見本をお見せします」
そう言ってシュヴルーズが杖をくるりと回し、詠唱を始める。そして短いルーンを口ずさむと、石に向かって杖を翳した。
すると、ただの石が光り始め、そしてその光が収まると、石は黄金の輝きを見せていた。
「ご、ゴールドですか!? ミセス・シュヴルーズ!」
その輝きを見て、キュルケが我を失ったように立ち上がった。
だがそんな彼女の期待に裏切るように、シュヴルーズは申し訳なさそうに頭を振った。
「いいえ、ミス・ツェルプストー。これはゴールドではなく、真鍮です。ゴールドはスクウェアクラスでなければ錬成することはできません。
私は、トライアングルですから……」
「なぁんだ……」
がっかりするように椅子に座るキュルケの隣で、サイトはルイズに尋ねた。
「トライアングルって?」
「うーん……。なんて説明すれば良いんだろ? 結構定義曖昧なのよね。使える系統の数とか、合わせられる系統の数とか。
……ああもう、タバサ、解説代わって」
ルイズは説明に困り、隣に居たタバサに説明を代わってもらおうとするが、彼女は本を読んだまま拒否した。
「授業中」
「ちぇ。そう言って、いっつも本読んでるのに」
「こら、ミス・ヴァリエール!」
と、小さな声で雑談をしていた3人だったが、ルイズの動きが大きかったため、彼女だけシュヴルーズに見つかってしまった。
ルイズはまた背筋を伸ばして、愛想笑いをした。
「私語は慎みなさい」
「ご、ごめんなさい……」
「ははっ、怒られてら」
「サイト!」
「こら! ……ふむ。では、丁度良いので、実践をミス・ヴァリエールにお願いいたしましょう」
「あちゃあ……」
シュヴルーズがルイズを指名した瞬間、辺りがざわめく。隣に居たキュルケも頭を抱えてしまった。
わけが分かっていないのはサイトと使い魔達だけだった。ルイズは慌ててシュヴルーズに懇願した。
「シュヴルーズ先生! 私、その……ま、魔法上手く使えないので、できれば別の人にして欲しいかなぁ、なんて」
「そうですとも! ヴァリエールに魔法を使わせると危険です!」
「先生は去年僕たちのクラスを担当をしているから知らないんです!」
思わぬ援護、いや罵倒にルイズは半分ほっとしつつもむっと顔を顰める。
が、これがいけなかった。対抗心を燃やしていると勘違いしたシュヴルーズはルイズを援護するために生徒を叱咤した。
「お黙りなさい! ミス・ヴァリエール、失敗を恐れてはなりません。さあ前に出て。『召喚』が出来た貴女なら、きっとできますよ」
「う、うう……」
「ルイズ、仕方ないわ。骨は拾ってあげる」
「死なないっつの!」
言葉とは裏腹に、そそくさと机の下に隠れるキュルケに対しルイズはやけくそ気味に叫んだ。
そして彼女を皮切りにどんどん生徒たちはキュルケと同じように机の下へと避難していった。
そんな彼らを尻目に、ルイズは教卓へと向かっていく。あそこまで言われては後には引けない。
「ったく、なんでゼロのルイズなんだ!」
「皆避難しろ!」
「ゼロはゼロらしく大人しくしろってんだ!」
「全く、はた迷惑な奴ね」
「さあ、おいで、ラッキー。あんな奴の魔法を浴びたら、どんな悪影響が出るかわからないからね」
横を通り過ぎる度に浴びせられる罵声に、ルイズの眉間の皺が寄る。その様子を背中から
感じ取って、キュルケは乾いた笑みを浮かべた。
「あぁ、今日は一段と爆発が強そうね……あはは」
「え、何々?」
「いいから貴方も中に入りなさいな」
「とても危険」
「へっ?」
サイトも言われるがままに机にもぐりこもうとする。そのとき、振り向いたルイズの表情を見た。
彼女の表情は何処か暗くて、そして不安そうだったが、サイトを見た瞬間、大丈夫だと言わんばかりに笑顔を見せた。
そしてルイズは教卓の前に立った。シュヴルーズは不安そうな彼女の緊張を、実際には違うのだが、ほぐそうと優しい笑みを浮かべる。
それがまたルイズにとっては辛い。
「錬金で何を大げさな……。さあさミス・ヴァリエール。錬成したい金属を心の中で思い描き、杖に込めるのです」
「はい。……あの」
「はい?」
「離れてたほうが良いですよ。危険ですので。お願いしますから離れてください」
「はぁ……。そこまで言われるのでしたら」
シュヴルーズはわけがわからない、と言った表情を浮かべたが、あまりにルイズが真剣な眼差しでぐいぐいと押しながら離れろと言うので、
言うとおりに一歩二歩と気持ち程度に離れた。ルイズはその様子にはぁ、とため息をつくと、どうなってもしりませんよ、と心の中で呟きながら、
目の前の石に見つめた。そしてぶつぶつと辺りに聞こえない小さな声で呟く。
「皆して馬鹿にして」
瞳には恨みを、いや負けん気を込めて。あんなに馬鹿にされて、苛立ちを覚えない人間などいない。
「私は細剣(レイピア)のルイズだっての」
自称だが。レイピアの扱いなら誰にも負けない。
一度起こした決闘騒ぎだって、メイジをレイピアで叩き伏せたこともある。……しこたま怒られたが。
それでもレイピアの扱いには、王国の騎士にだって負けない自信がある。未だに母や姉には一撃も与えた事はないが。
だってあの母の娘、あの姉の妹だもの。片方は血が繋がってないが。
「……シュヴルーズ先生も空気読まないし」
シュヴルーズには罪はないはずだが、無知とは罪である。使い方が間違っているが。
「いいわよ、そこまで言うなら、私の魔法、改めて見せてあげる。これも『復習』だわ」
その言葉と共に、極悪な笑みを浮かべた。まるで物語で出てくるような、悪事を考えている大盗賊のようだ。
そしてルイズは思い浮かべる。金だ、スクウェアでしか作れない金を作ろう。
そして、金を精一杯思い浮かべ、そして石を放り投げ、短いルーンを詠唱し、そして杖を向けた。
「あぁあ、爺の相手も疲れるわ」
ロングビルは晴天の下で背筋を伸ばしていた。
今日も今日とて、年老いた学院長の、使い魔を使ったセクハラから逃れ、突然血走った様子で現れたコルベールのお陰で休憩をすることができた。
こういうときは、普段の猫かぶりもせず、地を出していた。
爺の相手も疲れる、か。だがこの場所での仕事も満更ではないと思えてきた。ある目的のためにこの場所に来たのだが、その目的も忘れてしまいそうになる。
これも魔法が使えないはずなのに、明るさを忘れないあの娘のせいだ。
しかし、そうも行かない。ロングビルは普段の優しい表情からは見せない鋭い眼光を本塔に向けた。
そのときだった。ルイズが講義を受けている教室から、大爆発が起こった。
始めは何事かと驚いたロングビルだったが、慌てふためく生徒たちの声や罵声のおかげで原因が分かり、鋭い眼光も緩くして苦笑した。
「やれやれ、またかい。今日は一段と盛大だわ」
呆れながらもくつくつと笑うロングビル。さて、今日はどういう風に発破を掛けてやろうか。
そう思っていると、少し離れた場所にメイドが腰を抜かしていたのを見つけた。しかし、ここいらでは見慣れない格好である。
学院が支給しているエプロンドレスとはまた違ったデザインだった。しかし、どこかで見覚えはある。
ああ、そうか。あれは去年の冬の休暇の最中、無理やりラ・ヴァリエール家に連れてこられた時の。
そう思い出し、ロングビルは猫かぶりをすると、そのメイドの娘の下に駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
「は、はいぃ。ご親切にありがとうございます」
「貴方は、シエスタさん?」
「あ、あれ!? ろ、ロングビルさん!」
どうやらビンゴだったらしい。しかもルイズと仲が良い、ドジなメイドのシエスタだった。一度見たら忘れられない、綺麗な黒髪だ。
彼女ともラ・ヴァリエールの実家に行った時に出会っていた。だが何故このような場所に? ロングビルは彼女に手を貸しながら尋ねた。
「何故ここに?」
「ルイズの、あ、いえ、お嬢様の様子を探ってこいと言われまして……」
なるほど、心配性の両親らしい。ロングビルは発破を掛けるなら彼女に任せようと思い、ルイズの居場所を教えた。
「ミス・ヴァリエールはあそこよ」
「ひぇ、やっぱり! る、ルイズぅ!」
「……やれやれ」
すると慌てん坊のメイドはパタパタと、敬語を忘れて大事な主人、いや友人の下へと走っていった。
その後姿を見ながら、ロングビルも猫かぶりを忘れてくつくつと意地悪に笑っていた。
ああ、そういえば、あの子の使い魔も一緒に居るんじゃなかったか。こりゃ面白くなった
と、ロングビルも仕事を忘れて、ゆっくりとシエスタの後を追った。
「いやぁ、申し訳ない……」
「魔法成功しないって、こういうことか」
手を立てて、めちゃくちゃになった教室を掃除するサイトに謝罪するルイズ。サイトは呆れながら、昨晩の事を思い出していた。
「そう。私の魔法は全部爆発するの。最近は、場所はコントロールできるようになったけれど、威力まではね」
「しっかしありゃすごかったなぁ……」
あの後はまさしく阿鼻叫喚だった。机は吹き飛び、使い魔達は暴れ周り、涼しい顔をしているルイズには罵声がとんだ。
一瞬防御が遅れたシュヴルーズは煤だらけになって気絶し、医務室へと運ばれていった。
サイトはその様子を、隠れた机の下で呆然と見つめていた。そんな中、他の教師が現れ、ルイズとサイトには教室の修繕が言い任されたのだった。
しかし、とうのルイズは本当に清清しい顔である。なんというか、やり遂げた顔だった。
「実技になるとねぇ、毎回こうなのよ」
「はぁ。しっかし、ルイズ。お前良く進級できたな……。勉強、苦手そうだったしさ」
「ふふん、一夜漬けと一瞬の集中力、そして運動には自信があるわ!」
「なんという体育会系……脳筋だな」
「ノウキン?」
「いや、なんでもねぇ」
エッヘンと無い胸を張るルイズに呆れてものが言えないサイトだったが、ふとルイズの鼻頭に煤がついているのを気が付き、立ち上がった。
「煤ついてんぞー」
「おう、ありがとー」
「ルイズゥゥ! はっ!?」
そんな時だった。ドタバタと走ってきたシエスタがタイミング部屋の中へと入ってきた。
シエスタが見た光景。それは、まるでサイトがルイズに口付けをしようとしているような、
そんな光景。ルイズがまた恥ずかしそうに顔を赤らめて眼を瞑っていたから、また状況は悪い。
そしてそこからのシエスタの行動は早かった。とにかく早かった。何時ものドジっぷりは何処へ消えたのかと言うぐらいだ。
「ルイズのファースト・キスは私が守る!!」
「ぐべらぁ!?」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「いってぇえ……まだくらくらする……」
呪詛のように土下座して誤るシエスタの側で、サイトは地面に座り込みながら頭を抑えていた。
彼の傍には机の折れ端が落ちているから、これで殴られたのだろう。彼の頭にはたんこぶが出来ていた。
「全く、シエスタはあわてんぼうなんだから……」
「ごめんなさい……。わたしったら、早とちりして、罪も無い人を殴り倒してしまうなんて……」
「死ぬかと思った……」
「ごめんなさい……」
シュン、と落ち込むシエスタに思わずサイトも哀れに感じたのだろう、慌てて彼女を励ました。
「い、いやいいって。俺だって誤解されるようなこと、してたようなしてなかったような……」
「いやいやいや、してたでしょ。私が言うのもなんだけど」
「お、おい! そこはフォローしろよ、頼むから!」
「やっぱり、ルイズに……!」
悪乗りするルイズに、サイトは慌てて詰め寄るが、シエスタは再び勘違いからの怒りの炎を滾らせようとする。
サイトは恨めしげにルイズを見つめながら尋ねた。
「ご主人様!? この可愛らしくてご主人様を呼び捨てなメイドさんはどなたですかね!? いやぁ気になるな、俺は気になるぞぉ! うん!」
「ああ、この子? 私の幼馴染で、実家のメイドをしているシエスタっていうの。ちょっとした事情でね、まあ言わば私の親友ってとこ。
ね、シエスタ」
「むむむ……ってへっ!? あ、はい。……始めまして、ルイズの、もといルイズお嬢様のご実家であられます
ラ・ヴァリエール家にて使用人を勤めさせて頂いております、シエスタと申します」
「堅いなぁ、シエスタは」
「だ、だって見ず知らずの人ですし……」
と、残念そうにサイトを見つめながらルイズが紹介すると、シエスタはまるでスイッチが入ったように有耶無耶しく、
スカートの裾をつまみながら一礼し、サイトに自己紹介をした。
その姿はやはり上級貴族で教育を受けているだけはあるようだ。サイトはその可憐さに思わずでれそうになりながらも、自己紹介を返した。
「あー、俺はルイズの使い魔をやってる平賀才人。サイトって呼んでくれ」
「サイトさん、変わったお名前ですね。それに、使い魔。なるほど使い魔をやっておられるのですか。どおりでルイズお嬢様と一緒に。……使い魔?」
納得しかけたシエスタだったが、不意に、行く時にメイド長から渡された『平民でも分かる初歩的な魔法入門(エレオノール著)』の使い魔召喚の内容を思い出す。
使い魔召喚……それは、お互いの口付けで締めくくられる、なんというか、所謂結婚式のようなもの。
それが動物などであればまだいいかもしれない。
さらに正史の通り、ルイズとシエスタの関係がただの仕える平民と従える貴族であればまた別だったかもしれない。
だが、今の彼女はルイズの『無二の親友』である。
「ととととということは、やっぱりルイズのふぁふぁふぁふぁファーストキス奪ったんですか!? 奪ったんですね!?」
「うおっ!? ちょ、シエスタさん!? ぐぇ……」
「ちょ、シエスタぁ!? やめて!」
「許せない……! 貴方を殺して私も死にます! ごめんなさい、ルイズ、先立つ不幸を許して……!」
「ぐぇ……ぐ、ぐるじい……あ、でも胸が、あががが! あれぇ、おじいちゃん? じんだばずじゃ」
「サイト、その先へ行ってはダメ! シエスタもやめてってば!」
「"土弾"!」
「きゃう!?」
と、ルイズが必死に引っぺがそうとしていたシエスタの頭にこぶし大の石がぶつかった。
勢いも大きさもそんなになかったため、頭を回して倒れるだけですんだが、その場を鎮めるのに十分だった。
何事かとルイズが石が飛んできた方向を見ると、そこには教室の入り口から、顔をのぞかせるロングビルとキュルケ、そしてタバサの姿があった。
「はぁい、ルイズ」
「もうすぐ昼食」
「全く、なにやってるですか全く」
三人とも呆れているようだ。ロングビルとキュルケは同じような苦笑を浮かべ、タバサも何処か微笑んでいるようだった。
「あ、うん! サイト大丈夫? シエスタも」
「げほっ、げほっ、まあ何とか」
「はれふれはれ……はっ!? ル、ルイズ私……」
「シエスタ、彼は何にも悪くない。ファーストキスも……の、ノーカンなんだから!」
「のーかん?」
「そう、ノーカン!」
「そ、そうよね! ノーカンよね! うん、私ったら、勘違いしちゃって、恥ずかしい……。
粗相起こしてしまって、申し訳ございません、サイトさん」
「へ? あ、いやその……あは、あはは! あはは……はぁ」
とりあえずは上手く収まったが、なんとも言い換えがたい虚しさが漂い、サイトは思わず項垂れてしまった。
「……強く生きなさい、少年。つらくなったら、何時でも私のところ、来て良いわよ?」
「うん、ありがとう……キュルケは優しいなぁ」
何となく打ちのめされ、キュルケに抱き寄せられるサイトは少し涙目だった。
「こらぁ! 人の相棒に色目使うな、キュルケ!」
「おほほ、これは失礼」
と、そんなキュルケにルイズは食って掛かる。キュルケは悪戯っぽい笑みを浮かべてサイトを放した。そのときのサイトの動作も、何となく力がないようだ。
そんな彼を見て、ロングビルは素の状態を少し曝け出したような笑みを浮かべながら、サイトに言った。
「しっかし情けないですわねぇ。メイド如きに気絶させられたり、首絞められたり」
「ぐっ……お、女の子にはなぁ、手を挙げない主義なんだよ!」
「したって、ねぇ」
「いやいや、シエスタ十分強いし。サイトはこっちに来たばかりだから、仕方ないよ。ね?」
「……」
「あー……うん。とにかくご飯食べに行こう? ね? シエスタの案内、お願いして良い?」
「……おう」
慰めのつもりが全く慰めになっていない。そんな切ない昼時だった。
「先ほどは本当に失礼しました。あんなに取り乱してしまって、その恥ずかしいです」
「いやいいって、気にするなよ」
さて、ルイズ達と別れて。サイトは先ほどの暴走特急メイド、シエスタを連れて、厨房へと向かっていた。
彼女は先ほどの事を恥じてか、顔を真っ赤にしながら、申し訳なさそうに俯いていた。
酷い目にあったとはいえ、可愛らしい少女にそんな態度をとられては才人だって黙っているしかない。悲しい男の性、というやつだ。
「私って昔からあわてんぼうで……あとすぐ周りが見えなくなってしまうんです。屋敷でもよく叱られました。
それが、ああ……。見ず知らず、それもルイズの使い魔さんにまで迷惑を掛けるなんて」
「いやまあ……うん。それよりもさ、シエスタはここのメイドさんじゃないんだろ?どうしてここに?」
「ああ、それはですね。今日からここで一年ほどルイズの監視を兼ねて働くことになっているんです。
転勤の手続きも済ませましたし、これから一年よろしくお願いいたしますね」
「そっかーここで働くのかー」
まずい! このメイドのことだ、ルイズと同じ部屋で寝ているなんて知られたら。
ルイズの貞操は私が守る! → nice boatなんて事になりかねない。
才人は見る見るうちに顔が真っ青になっていくが、そんな彼の心情など露知らないシエスタは心配そうに、サイトの顔を覗き込んできた。
「あの、やはり何処か痛みますか?」
「いいいやなんでもないさ! 元気元気!」
「そ、そうですか。ならいいのですが……」
「はは、ははは……はぁ。ほら、着いたよ」
ああ、これからはこの娘の尻に敷かれるんだなぁ、と切ない気持ちになりながらも、シエスタを伴って厨房の中へと入っていく。
そこでは忙しそうにコックやメイド達が忙しそうに料理を作っていた。才人はシエスタを厨房の片隅にある机に座らせた。
「おっし、ここで待っててくれ」
「はい」
才人は厨房の奥に向かっていく。そして奥で料理をしていた豪快そうな中年の男のコックに話しかけた。
「マルトーさん!」
彼こそがここのコック長を勤めているマルトーだった。マルトーは手元の包丁捌きをそのままに、
才人のほうを見る。その手つきは慣れたもので、手元を見なくても正確に食材を切れている。
それだけでマルトーの腕がどれだけのものかを教えてくれた。
「おおっ、サイトじゃねぇか。遅かったじゃねぇか!」
「いや、すんません。ルイズのやつがちょっと……」
「はっはっは! またなんかやらかしたのか。しゃあねぇな、あの嬢ちゃんは」
「それで、今日はルイズの実家のメイドが来たみたいなんですよ」
「おお? おお、確かシエスタ、っていう子じゃねぇか? 聞いてるぜ」
なるほど、やはり話は通っているようだ。
「こんなところに転勤たぁ大変だなぁ。いけすかねぇ貴族のガキ共相手にしなきゃいけねぇし。まあ、新人同士仲良くしてやれよ」
「はい、わかってます」
「よっし、そこのシチューを持って一緒に食べて来い。そしたら、デザートの配給な」
「わかりました!」
明るく気さくで、そして豪快だ。少し度が過ぎることもあるが、サイトにとって嫌な人ではない。寧ろ好意的に思える。それに見ず知らずの自分に優しくしてくれているのだ。
才人はシエスタと自分の分のシチューをそれぞれ更に盛ると、それを持って彼女の許へと戻った。
するとシエスタが慌しい厨房の中をそわそわしたような様子で眺めていた。才人はそんな彼女に声を掛ける。
「シエスタの事、知ってたみたいだぜ」
「ああ、一応連絡は伝わっていたんですね。よかった」
「それで、この賄いを食べたら早速、デザートの配膳手伝ってくれだってさ」
「わかりました! では、いただきます」
「おう、いただきます」
才人とシエスタは同時に手を合わせて、同じ言葉を呟いてシチューを食べ始めた。
それが、どれだけこの異世界の住民同士、異常なことか、才人はわかっていなかった。
シエスタもシエスタでご飯をさっさと食べることに専念していて、よく聞き取れなかった。
「おいしい! 賄い食でも手を抜かず、一流の味を出す……。マルトーさんは噂どおりの人ですね!」
「そうなのか? ルイズの実家、ええっとなんていうんだっけ?」
「ラ・ヴァリエール公爵家ですか?」
「そうそう、それ! そこでは美味しい飯が出なかったの?」
「まさか! だけど、わがラ・ヴァリエール家のコック長も、マルトーさんの料理に一度だけでも勝ちたいと仰っていた位ですから」
「なるほどなー……」
とすると、マルトーは相当の職人らしい。
才人の中では、一流シェフが、お坊ちゃまやお嬢様が通う高校で働いているようなものかと思った。そりゃ貴族も嫌いになるだろう。
はっきり言って、自分とそう歳が変わらない人間が料理の良し悪しとか、そういうのがはっきりとわかるかと言われれば絶対にNOである。
「ほら、サイトさん手が止まってますよ!」
と、シエスタの皿を見ると、もうすでに彼女の更にシチューは一滴も残されていなかった。才人は一瞬呆然として、慌ててシチューをかき込み始めた。
「あ、あれ? わ、悪い! ハムッ! ハグッ! ハムッ! ムグっ!」
「? あ、水ですね?」
「ムグ、ムグ……プハッ。お、お待たせ」
「ふふっ、サイトさんも慌てん坊さんですね、ふふっ、可愛い」
そんな才人の様子を見て、シエスタはラ・ヴァリエール家のメイドではなく、故郷の村娘らしい、明るい笑みを浮かべていたのだった。
そんな彼女に可愛いと言われて複雑な気分になるものの、満更ではない才人だった。
大きな銀のトレイにデザートが並べられている。それを才人が運び、シエスタがハサミで摘まんで皿に乗せていく。
変わった格好の給士に見ないエプロンドレスのメイドに怪訝そうに見る生徒もいたが、
しがない平民の事など気にしない彼らはすぐに興味を無くし、それぞれの会話に戻る。
「おいっすー」
「あ、サイト。何々、デザートの配給やってんの?」
「そうだよ。さあ、ルイズは何が良い?」
「えっへっへ、クックーベリーパイ」
と、ルイズの許へやって来て、軽い会話をしてデザートを渡してやる。どうやら好きなデザートにありつけたのか、
わかりやすい笑みを浮かべていた。やっぱりこういう表情も可愛いらしいなぁこんちくしょう! 凛としているルイズもいいけど。
もっと俺を頼ってくれれば最高なのに。などとサイトが考えながらトレイを持って、シエスタの後をついていく。
後ろから「うんまー!」というルイズの叫びが聞こえてきた。どうやらお気に召したようだ。
「おい、ギーシュ! お前今誰と付き合っているんだよ!」
「そうだ、ギーシュ! 恋人は一体誰なんだ?」
そんな彼らの前に、金髪の巻髪(というよりは癖毛か)の、けばけばしいフリルを付けたシャツを着た気障なメイジがいた。
胸ポケットにはバラが刺している。わかりやすい奴だ。彼らの周りには友人らしき生徒が、彼を冷やかしている。
だがそんな彼らに対し、ギーシュと呼ばれた気障なメイジは余裕の様子で唇に人差し指を当てて言った。
「付き合う? 僕にそのような特定の女性はいないよ。薔薇は多くの人々を楽しませるために咲くのだからね!」
ナルシストだ。自分の事をバラに例えてやがる。こいつの父親の名前はナルシスで決まりだな、死んでくれ。
と、さりげなくとんでもないことを思っているサイトは、さっさとケーキを置いて、そこを通り過ぎようとした。
が、そんなギーシュ少年のポケットから一つの小壜が落ちるのを、サイトは気づいた。液体に満たされ、ちょっとした細工が施されている。
落し物は落とし物、幾ら気に食わない相手であろうとも、彼はネコババすることも見逃すこともしない。小壜を指差し、ギーシュに話しかけた。
「おい、ポケットから小壜が落ちたぞ」
しかし、ギーシュは会話に夢中になっているのか、はたまた意図的に無視しているのか。才人の声に一瞥すらせず、友人との会話に集中していた。
このまま立ち止まっているわけにもいかないので、才人は小壜を拾い上げ、テーブルに置いてやった。
「落し物だよ、色男君」
するとギーシュは苦々しい表情で才人を見つめると、小壜を彼に押しやった。
「何を言っているんだ君は。これは僕のではないよ」
「いや、お前のポケットから落ちたの見たし」
必死に才人に押し返そうするが、才人は頑として拒否した。何か様子が変だ。そう感じたからである。
すると、彼らを取り巻いていた友人たちの一人が小壜を取り上げ、そしてまじまじと見つめながら言った。
「お、この小壜はもしや『香水』のモンモランシーのものじゃないか?」
「いや、これは違うんだ……」
「おい、モンモランシー! これは君のかい?」
別の生徒が小壜を受け取り、それを掲げて、離れた場所で食事を食べていたモンモランシーに見せ付けた。
モンモランシーは立ち上がり、自信満々に頷いた。
「ええ、そうよ」
「やっぱりそうか!」
「これで決まりだな、ギーシュ!」
「いや、ははは……」
「ギーシュ様……」
と、青くなった顔で乾いた笑みを浮かべるギーシュの許に、茶色のマントを着た少女が近づいてきた。
栗色の髪を持つ可愛らしい少女である。そんな彼女を見た瞬間、ギーシュの顔が更に青くなった。
「や、やあケティ」
無理やり笑顔を作って取り繕うとするギーシュだったが、ケティはぼろぼろと泣き始めた。
「やはりミス・モンモランシと……」
「いやそのだね。誤解だ、ケティ……。僕の心の中には君もしっかり」
「最低です!!」
ケティは手を振り上げ、そしてギーシュの頬を思い切り引っ叩いた。
乾いた音が食堂中に響き渡り、近くに居たサイトも思わず、自分が叩かれたかのように頬を押さえてしまった。
そしてそれだけでは終わらなかった。今度はモンモランシーが彼の許に近づいてきた。
その表情は怒りに狂っているのではなく、まるで水のように清清しい表情なのが逆に怖い。
「ギーシュ? 今のはどういうことかしら?」
「モンモランシー。これは誤解だ。彼女とはただ一緒に、近くの森へ出かけただけで……」
「そう、あの一年生にも手を出してたのね。あんなに私の事、好きだって、愛を叫んでいたくせに」
「う……モンモランシー、そんなに悲しい顔をしないでぐれ。咲き誇る薔薇のような顔を、悲しみでゆがませないでくれ」
抱きしめようとするギーシュの手を振り払い、その代わりにモンモランシーはワインの瓶を掴むと、中身をギーシュの頭上からぶちまけた。
「うそつき!!」
そして捨て台詞を吐くと、怒り狂った表情を浮かべて、ドカドカッと靴音を鳴らしながらその場を去っていった。
ギーシュは暫く呆然としていたが、椅子に座り、ハンカチを取り出すと、それで気障ったらしく顔を拭いた。
「ふっ……。どうやらあのレディたちは薔薇の存在の意味を理解していないようだね……」
うぜぇ。と思わず声を出しそうになった才人だったが、もう相手にしていられないと首を横に振って、
デザート運びを再開しようとした。だが、そんな彼をギーシュは引き止める。
「待ちたまえ。どうしてくれるんだ? 君が壜なんか拾ったせいで、二人のレディの名誉が傷ついてしまった」
「知らん。二股掛けてたお前が悪いんだろ?」
「そうだ、お前が悪い!」
気障ったらしい動作で椅子を回転させて、才人のほうを偉そうに見つめるギーシュに苛立ち、正論を言って返した。
そしてそれに乗っかるかのように友人たちもあおりながら笑った。
その強気な姿勢にギーシュは思わず、うっと表情を顰めた。まさかこんな風に、平民に強気に来られるとは思わなかったのだろう。
だが彼は負けじと顔に赤を差しながら言った。
「いいかい、給士君。君が壜をテーブルの上に置いた時、僕は知らないフリをした。
それぐらい、察して話をあわせてくれても良いんじゃないかい?」
「知らん。どっちにしろ二股なんて掛けてたら何時かバレちまうだろ。俺は仕事で忙しいんだ。それじゃ」
「待ちたまえ! 君、平民が貴族に対しそんな態度を取って、許されると思うのかい?」
「知るかよ。貴族とかいない世界から来たんでね」
「……よろしい、では君に礼儀と言うものを教えてやろう」
「ちょっと待ったぁ!!」
まさに売り言葉に買い言葉。ギーシュは態度が気に食わない才人を手打ちしてやろうと試みて、
才人も才人で売られた喧嘩を買おうとしていた。頼りない、弱いなどと女性陣に言われ続けた彼にとって他にもない挽回のチャンスである!
しかし、そんな彼らの間にルイズが慌てて割って入ってきた。よほど慌てたのか、口の周りには食べ残しがついているのがなんとも情けない。
そんなルイズは、詰めかかろうとしている才人を背中で押し返しながら、ギーシュに言った。
「ギーシュ! あんた、こんなところで何しようとしているのよ!」
「何って、ああゼロのルイズか。邪魔をしないでくれたまえ。君の失礼極まりない平民の使い魔を、僕が代わりに教育してやろうっていうんだ」
「ルイズ、どいてくれよ。こんな奴には負けやしねぇ」
才人はそれでも食って掛かろうとするが、ルイズの力は思ったよりも強い。こんな小さな身体の何処にこんな力があるのだろうか。
「サイトは黙ってて! ギーシュ、さっきのモンモランシーの顔、見た?」
「は?」
「すっごい悲しそうに泣いてた。悔しそうに、寂しそうに。貴方は知らないかもしれないけれど、
あの香水は何日も掛けてギーシュのために作ったのよ? 材料とかも一緒に探して、危険な場所だって行ったんだから。
それを知らないとか言って」
「うっ……そうだったのか……」
「この男の事、どう思いますかね、キュルケのお嬢さん!」
「最低だと思います」
真っ赤だったギーシュの顔が見る見るうちにまた青くなる。どうやら自分のしでかしたことの重大さにやっと気が付いたようだ。
そこへ更にルイズが追い討ちを掛ける。
「このままだとモンモランシーも、さっきのケティって子も可哀想よ。とにかく、ここは早く謝りに行かないと、一生後悔するわよ?
あんたのところのお父様だって、あんたが女の子を泣かしたと知ったら……」」
「う、うう……そういう事なら仕方がない。君、今日のところは許してあげよう!
しかし、次にこのようなことがあれば、絶対に許さないからな! モンモランシー!! ケティ、僕が悪かった!!」
ギーシュは慌てた様子で捨て台詞を吐くとその場から走り去っていった。
ごく一部、興味本心に後を追った者以外の周りの人間はつまらなそうに各々の席に座り、ルイズとシエスタも大きなため息を吐いた。
ただ一人、才人だけはつまらなそうな表情を浮かべている。
「……どうして止めたんだよ。あんな奴、俺一人でも」
「あのね! 昨日も見せたけど、魔法って結構強力なの。そんなの相手に、何の力も持たない人が勝つなんて難しいんだから」
「そ、そうですよ。もしかしたら、サイトさん殺されちゃうかもしれなかったんですよ? どうして謝らなかったの?」
「下げたくない頭は絶対に下げねぇ。だって今の俺は悪くねぇだろ?」
「う〜ん、その心意気は買うけどさぁ。それにギーシュはあんなのだけど、本当はもっと良い奴なんだって」
魔法がなんだよ。確かに、昨日のキュルケの魔法は驚いたが、だがあんな奴だったら。
見返すチャンスを無くし、そんな悔しい思いが才人の中に宿った。
「さあ、仕事済ませたらさ。午後の授業も付き合ってよ。そしたらゆっくりサイトの世界の事、聞かせてもらうんだから」
「……ああ、わかったよ」
だが、心配してくれている二人の少女の事も才人は無碍にすることができず、ただルイズの無垢な笑顔に応えることしかできなかった。
そして夜。双子の月が妖しく地面を照らす夜。
才人とルイズは昼の事も何とか気を取り直し、楽しくワインを飲みながら談話をしていた。
モンモランシーの事は気に掛かるが、もうこれは三人の問題である。部外者であるルイズや才人が出る幕などないのだ。
因みに、シエスタはというと、ルイズの制服などの洗濯に出ていた。
「俺、ちょっと用足してくるわ」
「いってらっしゃい〜。あんまり遅くならないでね。漏らさないでよ!」
「漏らすか!」
才人は少し催して来たので、ルイズを部屋に残してトイレへ向かった。ここは女子寮、男子トイレなど存在しない。
女子トイレなどに入ればそれこそ変態扱いである。才人は急いで使用人たちが使っている共用トイレへと駆け込む。
間一髪だったようだ。入る時とは対照的に清清しい表情で出てくる。
「おや、君は……」
「あん?」
と、ルイズの部屋へ戻ろうとする時、不意に背後から聞き覚えのある声で話しかけられた。
才人は少し不穏な表情で振り向く。するとそこには昼で二股がばれ、才人に喧嘩を売ろうとしていた貴族の少年、ギーシュが立っていた。
彼を見て、才人は思わずうっ、と息を呑んだ。ひどい顔なのである。
目は晴れ上がっているし、数時間会わなかっただけでなんだかげっそりとやつれているのだ。
何があったのだろうか。いや想像はつくが。
「君は、あの時の平民君か……やあ、奇遇だね……」
「ど、どうしたんだよ……」
「は、はは……ゼロのルイズの言う通りさ。愛しのモンモランシーに謝罪をしに行ったはいいが、
顔どころか口すら聞いてもらえなかったよ……。ケティもあれ以来何処かへと行ってしまって……」
「はぁ」
「ははは、僕は何て最低な男だ。ああ、父上、お許しください……!
私めは、私めの薔薇の棘で、彼女たちを傷つけてしまった……愚かな息子をお許しください」
ギーシュは胸の薔薇を口にくわえながら膝を地面に着き、そして夜空を見上げて懺悔し始めた。
どうやら才人の口調を咎める余裕も、昼の事を追及する余裕も全くないようだ。
そんな様子に才人はもはやついていけない、という風な呆れた表情でギーシュを見つめていた。
と、突然ギーシュが立ち上がったと思うと、才人に尋ねてきた。
「……そうだ平民君。ケティは見なかったかね? 夜には戻っているかと思ってまた部屋を訪ねたのだが、一向に帰ってきていないようなんだ」
「ケティ? ああ、あの栗色の髪の子か? さあ、俺は見てないな」
「本当かい?」
「嘘なんてつくかよ」
「ふむ……。どうしたものか……。学院全体を探したんだが、もしかして外なのか? 夜の外出は危険だというのに」
ギーシュは困ったように考え込んだ。昼の彼とは打って変わった、気障なところなど全くない、少年らしい少年がそこにいる。
そんな彼に、少し考え込んだ様子でいた才人は、溜まらず声を掛けた。目の前に居る困っている人間を放置できるほど彼も冷酷ではない。
「なあ、お前、そのケティって子と近くの森まで出かけたって行ってたよな?」
「あ、ああ。そうだけど?」
「だったらそこにいるんじゃないのか?」
「あそこか……。確かに、あそこはケティとの思い出の場所だ。彼女が向かっていても可笑しくはない」
はっとギーシュも思いついたように言った。
「ありがとう、平民君。君は失礼な奴だが、悪い奴ではないようだ」
「平民平民うるせぇな。俺は平賀才人だ。サイトって呼べ」
「……ではサイト君。この恩は忘れないよ。では」
「待てって、何処行くんだ?」
「僕はケティを探しに行く。止めるんじゃない」
「……俺も連れてけよ。一緒に探しに行く。こんな夜に貴族の坊ちゃん一人じゃあぶねぇだろ」
「言うね、君も。だが丸腰の平民がどうやって僕を助けるんだい?」
気障男に指摘されて、少しカチンと来たが確かにそうだ。この貴族の坊ちゃんと戦うのと、
外に出て捜索に出るのでは大きく違う。使い魔として召喚されてきたあの化け物たちと戦わなければいけないかもしれないのだ。
丸腰では何も出来ないだろう。才人は慌てて言い返そうとするが、何も言い返せなかった。そんな彼に対し、肩をすくめながら薔薇を抜いた。
「やれやれ、貴族に対して、自分の実力以上のものを見せようとする事は嬉しいのだがね。
しかし、僕とヴェルダンデだけでは、確かに危ないかもしれない。一応君にも来てもらおう。それには、これを与えようか」
そう言って優雅に薔薇を振り、一枚の花びらを地面に落とすと、突然それが光り、一本の剣へと変わった。何となく悪趣味な雰囲気だが。
どうやらあの薔薇は杖だったようだ。
「うわっ!」
「ふふ、これは錬金さ。君の主人、ゼロのルイズなんかとは違って、このように一枚の薔薇から剣だって作れるのさ!
もっとも、僕が得意とするのは、こんな野蛮な武器を作ることではないがね」
才人はなんだか色々と馬鹿にされた気分になったが、ひとまずその剣を握り締める。
こんな魔法を使えるなんて、喧嘩をしなくて良かったかもしれないと心の中でルイズに感謝しつつ。
すると、左手のルーンが淡く光った気がした。才人は驚いて剣を放してしまう。
「おや、どうしたんだい?」
「い、いやなんでもない」
何だったんだろう。なんだか少しだけ力が湧いてきたような。もう一度剣を握る。
いや、気のせいじゃない。
身体が軽くなっている。それに、剣が手に馴染んでくれているのだ。剣なんて初めて持つのに。
これならこのギーシュという気障なメイジにだって負けない。何にだって勝ってみせる。才人は余裕の表情をギーシュに向けた。
「……よくわからないが、準備は整ったね。さあ、行こうか!」
ギーシュは高々に薔薇の杖を掲げ、まるで進軍するかのような趣で叫んだ。
そんな大声出したら周りにばれるだろ、と才人は肩をすくめつつ、彼の後を追った。
以上となります。
ギーシュとの決闘イベントは回避されましたが、代わりに冒険イベント発生。
ガンダールブに関してですが、この地点ではまだ才人の気持ちも滾っていないので、原作一巻の半覚醒状態ぐらいです。
うーむ、地味かなぁ。やっぱり大体がテンプレ通りになっているのが原因ですかね。
最近伸び悩んでいるので、何とかこういう風に原作とは違うイベントで挽回したいところです。
後はエレオノールとアニエスの逃避、いや冒険とかも書いてみたいですね。
きっとサイトは花村陽介ポジ。一方ルイズはりせちー混じりの里中千枝ポジ。
そして久しぶりに堕天召喚録カイジを呼んで吹く今日この頃。
おつおつ
ここでケティにフラグが立つんですねわかりますよワハハ
乙。
サイトとギーシュもいい関係になれそうで。
代理の人も乙
バグベアーがベアード様と混同されるのってアニメのデザインのせいだっけ
混同つーより原作の少ない描写的に鈴木土下座衛門(版権のため変名)以外のなにものでもなくね?
バックベアードは水木御大による創作妖怪。
バグベアはイギリスの妖精。
ごっちゃにしている人はとても多い。
1巻確認してみたんだが、サイトが「目玉のお化け」と評しているのをルイズが「バグベアー」と説明してるね。
>>332の言ってるバグベアはゴブリンの一種だから、まったくの別種だな。
>>331 漫画連載時には『ビホルダー』だったのが、版権に引っかかって版権元から苦情が来て、
担当の鈴木氏が土下座したところから、コミックス収録時に『鈴木土下座衛門』って名前に変えられたんだっけか。
つまり、スカイライン(仮)ですね。
レイナールが更新休止か・・・
スレ間違えた・・・
他のスレでシエスタがもし召喚されたら、とかあったけど、
結構原作キャラが呼び出されるifってないよね。烈風ぐらいしか。
もしもキュルケがルイズに、とかもしもアンリエッタがルイズに、とか。
個人的にはアンアンガンダールブ無双とか見てみたいけどw
一種の冒険譚になるし。
ウボァ、名前がそのまま残ってたよぉぉ!
もし学院の食事がすべて自給自足だったら
ギーシュがケティ呼んでモンモン無双が始まるやつがあったよね。
一方その頃、タバサがイザベラを呼ぶんだよ。
【ジョセフはサイトのパソコンだけを呼び出した】
>>340 なにそれすごっく気になる。というか何処かで読んだ記憶があるんだけど、
どこだったかな…?
もしサイトが異世界召喚ものでよくあるように、召喚される前に寝ているときの夢とかで
ハルケギニアのルイズの姿、たとえば幼いころ魔法を使えないことを馬鹿にされて、
泣いているいるところとか、必死に魔法の練習をしているところとかをたびたび見ていたら。
ルイズに対する態度とかだいぶ変わると思う。
その状態で何故かジョゼフに召喚されるw
そしてルイズはジュリオを召喚してコマされる
もしも召喚がドラフト制だったら?
TDN…
もしギーシュが「それは確かに心の友と書いて心友のモンモラシーからもらった香水だが?」
と答えたら?
華麗にお友達宣言されたモンモンが窓から飛び降りる
ギーシュが悪びれずに女を食い捨てる本物のタラシ野郎だったら
nice boat
>>345 8球団競合するきゅいきゅい。
ハズレ1位のフレイム。
ヴェルダンデを一本釣りするギーシュ。
もし召喚自体無くして使い魔は生徒がハルケ中を巡って捕まえて来るルールだったら?
魔法の実地試験を兼ねて
>>352 あれから三十年。
使い魔はまだ……
もう、疲れました。ごめんなさい。
>>352 使い魔ボールを使い、魔法で弱らせた生物をゲット、使い魔にする。
ルイズ「使い魔マスターに私はなる!!」
真っ先にこう浮かんだがこのセリフだとさらに別のものだ
もし虚無の使い魔は全員ガンダだったら
それはそれで熱い展開がみられそうだ
もし虚無の使い魔は全員ガノダだったら?
虚無の使い魔は全員ガンダムだったらに見えた
もし勝者が敗者の習得してる魔法をどれか一つ奪えたら
>>356 4人とも派閥が違って血で血を洗う争いに…。
>>357 四人の虚無が戦って戦って戦い抜いて最後に残ったのが虚無ザ虚無になるんですねわかります
もし魔法の使用に振り付けが必要だったら
カリンちゃんが悪魔的強さになっちゃうな
どうもです。第十六話が完成しましたので、10分後ぐらいに投下したいと思います。
……うあ、寝ようと思ってたのに。寝られないじゃないか。
わくわく
「ぐすっ、ぐすっ……ギーシュ様……」
ケティ・ド・ラ・ロッタは一人、森の中で泣いていた。
制止する衛士を振り払って、先輩であり愛しの人、ギーシュとともに訪れた思い出の場所に訪れていた。
木の葉の間から差し込む光が美しく、目の前に広がる小さな池はその光でピカピカと光っていた。
そう、たった一度だけだった。
しかし、ケティにとって、そのときのギーシュは確かに『薔薇』だったのだ。
入学したばかりで不安だらけだった自分に優しく声を掛けてくれた。
そして、お世辞にも決して容姿端麗とは言えない自分の事を美しいといってくれた。
それだけで、ケティの幼く純朴な心を掴み取るのは簡単だったのだ。
同級生から、グラモン家は確かに名家だが、女癖が悪いからやめたほうが言いと言われた時も憤慨したものだ。
ギーシュ様はそのような人ではないと。
しかし蓋を開けてみれば、自分など彼にとって遊びでしかなかったのかもしれない。だからこそ、彼の事を最低と言って平手打ちにした。
だが、結局は勘違いした自分が悪い。会って一日で、自分を愛してくれていると勘違いをした自分が、全て悪いのだ。
そう自虐的に考えていると、涙は止まらなくなった。
暫く泣き続けていると、ここまで走り続けてきたことや精神的なショックから、彼女は眠りについてしまった。
すぅすぅと寝息を立てて、風に揺られて、まるで海の波のように木の葉が揺れる音に身を委ねて。
彼女が目を覚まして気が付くと、辺りは暗くなっていた。ケティは慌てたように辺りを見回す。
湖面を照らしていた光も、もはや殆どなかった。だが幸いの事に月が彼女を仄かに照らしている。
更に、寝ていたお陰で自然と一体になっていたためか、彼女の周りには危険な生物は来なかった。
そもそも、この場所には、昼には危険な生物は居ない、だから安心して、ケティ。とギーシュが教えてくれていた。
しかし、これからは夜。状況は変わるだろう。
「ああ、どうしよう。授業サボっちゃった……。そ、それよりも早く戻らないと」
夜の森は昼のそれとは違ってとても妖しい。
彼女を照らし見守っている月も、何だか恐ろしく感じられた。
そんな雰囲気に恐怖を感じながらも、ケティは発火の魔法を使って、杖を松明代わりにする。
故郷の父が、野獣や亡霊は炎の光を嫌うから、もしもの事があればそれで振り払いなさいと教えてくれた。
そう、ただ光を照らすだけの『ライト』よりも効果的だった。
ケティは森の中を、来た道をたどって学院へ戻ろうと恐る恐る歩く。
怖くない、怖くないんだから。
そう自分に言い聞かせていたが、野鳥の声が、風が木の葉を揺らす音が、彼女の中の恐怖心を煽る。
そして、震える足を滑らせてしまった。
「きゃあああ!」
悲鳴を上げながら坂を滑り落ちるケティは杖を思わず放してしまう。そして、尻餅をつくと、彼女は小さな尻を摩りながら立ち上がった。
「あいたた……。えっ……つ、杖は? つ、杖!」
取り乱したように辺りを探る。強力な魔法を使えるメイジも、契約した杖がなければただの無力な人間だ。
ケティは汚れることも気にせず、茂みの中を探すが、暗闇では全く見つからない。
そんな最中、何処からか、自分以外の茂みを揺らす音が聞こえてきた。それもかなり大きめな音だ。
ガサガサ、ガサガサガサ!
それはどんどん彼女の元へと近づいてきている。背後からだ。茂みを揺らすだけではない。何か、地響きのような声も聞こえてくる。
ケティは悲鳴を上げそうになる口を押さえつけ、恐怖で涙が流れるのも気にせず、近くの茂みの中へと逃げ込もうとする。
だが、足は正直なのか、がたがたと震えて一歩も動けなかった。
ガサガサガサ、ガサガサガサ! ガサ……。
どんどん音が近づき、大きくなってきたが、突然止んだ。
ケティは訝るように、恐る恐る背後に振り向く。ゆっくりと。何も刺激しないように。
すると、目の前が黒い何かが広がっていた。それは上のほうにまで続いていて、そして。
「ひ、ひあ……、いやああああああ!!」
金色に光る鋭い眼が、ケティを睨みつけていた。
第16話
「ふ、ああ……。ったく、遅いなぁ、サイト。何してるのよ?」
「そうね……」
さて、一方トリステイン魔法学院の一部屋では、部屋主のルイズと従者シエスタが暇そうにサイトの帰りを待っていた。
シエスタは洗濯物を畳みながら、ルイズはベッドの上で足をパタパタしながら欠伸して寝転がっていた。
「まさか、またミスタ・グラモンに喧嘩を売られてしまったとか?」
「ないない。今頃あいつ、モンモランシーやケティって子に散々打ちのめされて、部屋のベッドに顔を埋めながら泣いているはずよ」
「ははは……」
シエスタは心配そうに呟いたが、即答でルイズに否定されて、思わず苦笑してしまった。
と、そんな時、ドアから激しいドンドン、ドンドン! とノック音が聞こえてきた。
夜中に誰だろう。ルイズは不意に立ち上がろうとしたが、シエスタが制止して、ゆっくりと立ち上がって、扉の鍵をはずした。
「ルイズ!!」
「きゃっ!」
すると、乱暴に扉が開かれ、シエスタが驚き、思わずその場で転んでしまった。
だが来訪者はそんな彼女を気にすることなく、焦燥しきった表情でドカドカと慌てて入り込んできた。
「も、モンモランシー、どうしたのそんなに血相を変えて」
「どうしたもこうしてもないの! ギーシュが何処か行っちゃったのよ!」
「お、落ち着いてよ。シエスタ大丈夫?」
「うん何とか……」
「そ、そうね……ごめんなさい」
来訪者は巻髪の少女、モンモランシーだった。ルイズは彼女を宥めながらベッドから起き上がった。
ギーシュが、ということだったが一体全体どういうことなのだろう? 気になったルイズは訊ねた。
「で、ギーシュが?」
「そうなのよ……。あいつ、私のところに泣きついてきて、『モンモランシー、許してくれ』とか『僕が悪かったとか』。
部屋の前で叫んでいたんだけれど、私無視していて、そしたら声がしなくなって……。
私もちょっと悪いかなって、思ってギーシュの部屋に謝りに行ったんだけど、あいつ、部屋にもどこにもいないのよ!
どうしよう、あいつ思いつめて自殺とか……」
説明していくうちに、モンモランシーの表情がドンドンと暗くなっていく。
そんな彼女を落ち着かせるため、明るい表情で言った。
ルイズはギーシュがそんなことで自殺するような男ではないと、母カリーヌから聞いていたギーシュの父親像から想像していたのだ。
「いやいやいや、あいつに限ってそんな事はないでしょ」
「でも……」
「……うん、わかった。私も探すから。ね?」
「うん、ありがとう……」
ルイズの言葉に安心したモンモランシーは感謝の言葉を呟く。普段の癪のある性格とは思えない表情だ。
そんな様子から、彼女にとってどれだけ不安なことか、ルイズにはひしひしと伝わっていた。
「ちょっと、五月蝿いんだけどぉ」
とそんなところに隣部屋からキュルケが顔を出してきた。どうやら男と会う約束をしていたのか、化粧道具を持ったままだった。
そんな彼女を見つけて、ルイズはニパッと笑って告げた。
「ああ、キュルケ。ちょうどいいから貴方も手伝ってね」
「へっ?」
「夜の散歩!」
「はあ?」
なんのこっちゃと状況が飲み込めないキュルケを差し置いて、ルイズはマントを羽織って、念のためにレイピアを持った。
ルイズはまだ知らない。彼らがあんなことになっていることなんて、今の彼女には想像もついていなかったのだ。
「本当にこっちなんだろうな」
「うるさいな、君も。文句があるなら帰りたまえ」
一方森を突き進む才人一行。
暗闇の中、ギーシュが使っている魔法『ライト』と才人の持つカンテラの明かりを頼りに歩いているため、今一方向感覚がつかめていなかった。
こういう森の中、それも夜にくることなど、都会っ子の才人にとっては始めての経験だったため、不安と苛立ちが募っていた。
一方のギーシュもそんな才人に対する苛立ちやケティが本当にここにいるか、方向があっているかという不安があった。
そしてお互いその感情を我慢することが出来ず、歩きながらそれをぶつけ合い、終に立ち止まってにらみ合ってしまう。
「君なぁ、僕が寛大だから許してやっているが、そんな態度を取れば普通手打ちにされるんだぞ。
なんなら今からそうしてあげようか?」
「お、おおやってみろよ。昼の続きをやってもいいぞ!」
「なんだと……?」
険悪なムードが漂い、お互い武器と杖を構えだす。
才人は何故だか分からないが、湧き上がった力を過信し、目の前のメイジを恐れて居なかったし、
そんなことを露知らないギーシュも、平民如き、自分の魔法で叩き伏せられると考えていたから、何時決闘が始まってもおかしくなかった。
しかし、先にそんな空気に折れたのはギーシュだった。彼はまた、トリステイン王国元帥の息子という誇りと余裕があるため、
平民などに簡単に怒るわけにはいかないのだと、昼の事をすっかり忘れながら自分に言い聞かせていた。
「ふっ、やれやれ。今はケティを探しているんだ。そんなことで無駄な体力を使うわけには行かないよ」
「……そうだな。悪かったよ」
「君は素直なのかひねくれているのか、どっちなんだい?」
「さあな……ん?」
ギーシュの余裕そうな言葉にサイトは悪態をつく。が、その瞬間ギーシュの背後の茂みから、何かが動く音が聞こえてきた。
「ん……?」
ギーシュとサイトは訝しげにその音がなる方向を見つめる。
茂みを掻き分けるような音が、一度、二度……そして三度鳴った時、茂みから複数の黒い小さな影が現れた。
「うわっ!」
サイトは驚いて後ろに転んだが、ギーシュは杖をすぐに振って花びらを一枚落とすと、素早く錬金を唱えた。
すると花びらはなんと、人間大の像へと変わり、そして独りでに動いて影を殴りつけた。
小さな影は大きく吹き飛ばされ、残った一匹は奇襲が失敗したことに浮き足立ち、一目散に逃げていった。
「申し遅れたが、僕の二つ名は『青銅』。この忠実なるゴーレム、ワルキューレが僕の手足となって戦ってくれるのさ」
像の姿は鎧を着た女性のような形をしていた。しかし、やはり剣と同じで何処か悪趣味であるのは否めない。
「な、なんじゃそりゃ……」
「知らないのかい? ふむ、まあいい。しかし、あんなゴブリン程度に驚いているようじゃ、この先不安だな……。やっぱり君は帰りたまえ」
「う、うっせえ! 今のはちょっとビックリしただけだ。これからは大丈夫だよ!」
「やれやれ」
小型の妖精ゴブリン相手に後れを取ってしまう才人に対し、純粋に心配していたギーシュは才人の強がりな
言葉に呆れてものが言えなくなってしまった。
彼はそんな才人を置いて、どんどん奥へと進んでいく。才人も慌てて立ち上がり、落とした剣を拾ってギーシュの後を追った。
「しかし、君はどうしてそこまで意固地に僕についてこようとするんだ。ゴブリンに驚くくせに」
「……お前には関係ないだろ」
「もしかして、ルイズのせいなのか?」
ルイズ。その言葉に才人の身体が一瞬強張った。いや、明らかに動揺していた。
「あぐっ……ち、ちげぇよ!」
「やれやれ、図星か。ふふん、君も隅に置けないねぇ。しかし、平民が貴族に恋心を抱くなんて、無謀にも甚だしいよ?」
「う、うるせぇな! そういうことじゃねぇ! ただ……」
「ただ?」
「……女の子に頼りにされないのが、ちょっと悔しいだけだ」
「……」
「な、なんだよ」
「いや、意外と可愛いところあるじゃないか。ただの生意気な平民かと思ったら」
「お、男に可愛いってなぁ!!」
―――――いやあああああ!!
「なっ」
「この声は、ケティ! ケティィ!」
「お、おい!」
また再びくだらない言い争いが始まりそうなったそのときだった。
森の奥のほうから、少女の悲鳴が聞こえてきた。ケティだった。
ギーシュはその声が聞こえてきたほうへと急いで走っていく。才人も慌てて、彼を見失わないように後ろを追いかける。
だが、その足は非常に軽く、あっという間にギーシュを追い抜いてしまった。
「お、おい! 君!」
「待ってられっか!」
才人はギーシュを置いて先行した。息を上げながら、必死に走る。茂みに入る。
まるで短距離走のオリンピック選手か、いや風になったかのような気分だった。
走ることが、こんなにも気持ちの良いことだったなんて。
だが、そんな清清しい気分も、すぐに恐怖のものへと変わった。
走り続け、茂みを抜けた瞬間だった。
「う、うわあ!」
そこには二本足で立ち、何かをくちばしで持ち上げている、ダチョウに似ているが、はるかに巨大な鳥と、
そして服がぼろぼろになったケティの姿だった。表情はぐったりしているが、まだ息はありそうだ。
「た、助けてくださいぃぃ!」
「お、おう! ま、待ってろよ!」
鳥は才人を見つけると、その鋭い眼光でにらみつけた。
――獲物は渡さない。これ以上干渉するな
そう警告している様に、目で語っている。
だが、才人は勇気を振り絞り、震える足を抑えて剣を構え、巨大鳥に戦いを挑んだ。
戦う意思ありと感じた巨大鳥は、くちばしに銜えたケティを振り回し、その勢いで才人のほうへと投げつけた。
うわっ、と才人は悲鳴を上げながら、飛んできたケティを抱きかかえた。
だがその隙に巨大鳥は大きな足で才人をケティ後と蹴り飛ばそうとした。才人は必死に地面を蹴って、
ケティを抱きかかえながら飛んだ。そして地面を転がり、巨大鳥と距離を取る。
どうやらケティは気絶しているようだが、まだ生きているようだ。
「おい! あれだけに先にって の、のわぁ! ク、クリル鳥!」
「クリル鳥ってなんだよ?」
「クリルとは走る、という意味だ。空こそ飛べないが、その足は巨体に似合わず恐ろしく早い。
あいつの長く太い足に蹴られたらひとたまりもないぞ!」
「きょ、巨大版チョコボか……」
「何を言ってるんだ、君は! あんなのに狙われたら、すぐに食べられてしまうぞ! さっさとケティを連れて逃げるんだ!」
ギーシュは震える手を抑えて、薔薇の杖を振るった。そして先ほど出した素手のワルキューレ加えて、更に3体のワルキューレを錬金した。
先ほどの素手の像ではなく、今度は槍、剣、斧を持っていた。
「こここここは僕がくく食い止めよう! 行け、ワルキューレ!」
震える口調だが、毅然とした振る舞いで何とかワルキューレに命令を送る。ワルキューレたちは一斉にクリル鳥に突撃していく。
だがクリル鳥はそんなワルキューレをもろともせず、その立派な足でなぎ払って吹き飛ばしてしまった。
吹き飛ばされたワルキューレは木々にぶつかり、そして砕け散ってしまった。
「なっ……。くっ……ワルキューレ!」
さらに3体のワルキューレを呼び出す。だがそれをクリル鳥は難なく蹂躙し、吹き飛ばした。
生き残った一体も足に掴まれ、ギリギリと踏み潰されそうになる。
その時、吹き飛ばされたワルキューレを踏み台にして飛び込む一つの影がギーシュの目に写った。
まるでそれは、閃光のように突然で、そして速かった。
「おんどらあ!」
「!」
閃光のように飛び込んだ才人は剣を振り上げ、クリル鳥の頭めがけて斬りかかった。
だがクリル鳥が頭を上げたために狙い通りとは行かず、嘴に刃が当たった。
そして、ポキリ、と刀身が折れてしまう。
「んな!?」
才人はそのまま地面に着地し、折れた剣を呆然と見つめていた。
――ピィィィィィィィ!!
だが折れた剣は嘴に刺さっていた。クリル鳥はその痛みに甲高い悲鳴を上げる。
その場で地団駄を踏み、刺さった剣を引っぺがそうと必死に頭を振っていた。
「うわ、とと!」
足元に居た才人は踏み潰されそうになり、急いで転がるようにその場から離れた。
折れた剣を捨て、ケティを看病しているギーシュの元に転がった。
「剣をくれ、剣を!」
手を差し出して、新たな武器をねだる才人。剣がなければ、あの不思議な力は使えない。だがギーシュは首を横に何度も振った。
「む、無茶を言わないでくれ! もう精神力が……」
「精神力ってなんだよ!」
「魔法に使うために必要な力だよ! 君こそ、あの力でクリル鳥を倒せば良いだろ!」
「出ないんだよ、剣がないと!」
こんな状況の中、言い争いをしている二人に、ゆらりとクリル鳥は近づいていく。
その影に気が付き、二人は言い争いをやめて、同時頭上を見上げた。
そこには、目を真っ赤に染め、怒りに満ちたクリル鳥が荒い息遣いに3人を睨みつけていた。
「あ、あわわ……」
才人とギーシュは後ずさりをする。もはや二人に対抗できる手段はない。
かといって、この怒り狂った目の前の怪鳥がこのまま見逃してくれるわけもないだろう。
こんなところで死にたくない。命を惜しむな、名を惜しめ。そう教えられてきたギーシュだったが、
こんな怪鳥に殺されるのはただの無駄死に以外の何者でもない。
才人は後悔した。あの時、ギーシュについていかなければ。いや、少しでもルイズに一言声を掛けていれば……。
ルイズの忠告は正しかった。少しばかり剣を触れるようになったからって、調子に乗って、その結果がこれだ。
折角異世界へこれたのに。折角出会えたのに。
逃げなければ、だが足が震えて動けない。クリル鳥は地面を蹴って、狙いを二人に定めている。このまま突進して押しつぶすつもりだ。
――クァアア!
低い声で雄たけびを上げて、クリル鳥は地響きを鳴らした。
巨大な身体がギーシュとサイト目掛けて突進してくる。その恐怖に才人とギーシュは最後の矜持か、
悲鳴を上げないよう歯を食いしばりながら、眼を瞑り、その時を待った。
その時。その、という言葉は彼らとは別の物を指して、時は来た。
突然、目の前で爆発音が鳴り響き、二人は瞑ってた眼を見開いた。
すると、クリル鳥の巨体の側面に爆発が生じ、またその後からも火の弾が何個も襲い掛かっていた。それがぶつ
かるごとに、クリル鳥の身体が燃え上がる。だがクリル鳥はいまだ両足で踏ん張り、倒れようとはしなかった。
「たあああ!!」
続いて、小さな影もクリル鳥目掛けて飛び込んだ。桃色の髪をなびかせ、クリル鳥の背中に素早く飛び移り、
そして月に照らされ、小さな影、ルイズは光を放つレイピアを刺した。
クリル鳥は痛みに悲鳴を上げ、必死に背中のルイズを振り落とそうと暴れまわる。
「ルイズ!」
「この、大人しく、しなさい! きゃあ!」
ルイズはレイピアを必死に掴んで、振り落とされないように踏ん張るが、クリル鳥が身体を強く揺らした拍子にレイピアが抜けてしまった。
突然の事に身体が反応できず、受身を取れずに地面に叩き落されてしまった。レイピアもその拍子に放してしまう。
「ルイズ……!」
才人はルイズを見て、ドクンと高鳴りがしたのを感じた。なんだろう、この気持ちは。
ルイズが傷ついて、それを見て、許せないという気持ちが一杯になる。
ああ、そうだ。ルイズをこれ以上傷つけはさせない。
燃やされ、傷つき、正気を失ったクリル鳥は闇雲に辺りの木や岩に身体をぶちかます。
そして、未だに身体を起こせないルイズに向かって突進した。
「「「ルイズ!」」」
駆けつけたキュルケの、シエスタの、ギーシュの声が重なる。
才人は走った。叫ぶよりも先にまず身体が動いた。そしてその後に雄たけびを上げ、ルイズが落としたレイピアを拾う。
ギーシュの青銅の剣を握ったときよりもずっと身体が軽い。
レイピアの使い方も分かる。真直ぐ突けばいい。それだけだ。
くるりと手元でレイピアを回して握りなおし、そして両手でしっかり握って、そして地面を強く踏み込んだ。
雄たけびと共に、ルイズに飛び掛りかけたクリル鳥の首を突いた。ずぶりと、レイピアの刃は首をそのまま貫通した。
首を貫かれたクリル鳥はそのまま横に倒れ、口から血を吐きながらゆっくりと動きを止めた。
「はぁ……はぁ……」
着地したサイトはふらっと後ずさりして、そのままへたり込むように地面に座った。そんな彼のもとにギーシュが駆け寄る。
キュルケやシエスタも追いつき、急いでルイズに駆け寄った。
「やった、やったぞ!」
「お、おお……。俺、やったのか?」
「やったんだよ! ははは! 君と言うやつは!」
ギーシュは才人が平民であることを忘れて、まるで友人をたたえるように肩を叩いた。
無我夢中だった才人はいまだ自分がやったことを信じられず、ただ呆然と空を眺めているだけだった。
一方ルイズのほうもシエスタに抱きかかえられ、優しく起こされていた。
「あ、いててて……」
「ルイズ、大丈夫!? 怪我は!? ああもう、あんな無茶して……」
「シエスタ……ごめん」
「はあ〜……疲れた。もう、今度埋め合わせしてよね」
「わかったわ、キュルケ。それよりも!」
ルイズは背中を摩りながら、横で心配そうに見つめているシエスタや呆れているキュルケに謝罪する。
そして思い出したように立ち上がって、シエスタを横目に、ずんずんと強い足取りで才人へと歩み寄った。
才人もそんな彼女に気が付いて、最初は申し訳ない気持ちになったが、次第にクリル鳥からルイズを助けたことに対する喜びに気持ちが一杯になった。
「る、ルイズ! 見たかよ、俺、あの化け物鳥倒しちまった! はははっ! どうだよ、俺もやれば……」
「この大馬鹿!!」
だがそんな調子づいた彼に対して、ルイズは賞賛の言葉ではなく、代わりに脳天に拳骨を食らわした。
ゴツン、と鈍い音が鳴り響き、才人はぎゃん、とまるで犬が悲鳴を上げたような声を出して、頭を抱えながら蹲った。
一方のルイズも、才人の頭が予想外に石頭で、殴った拳を押さえていた。
「な、なにすんだよ!」
才人は立ち上がって抗議するように怒鳴った。だが、そんなのはお構い無しに、涙目になりながらルイズは才人に怒鳴りつけた。
「馬鹿、本当馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿! なかなか帰ってこないと思って、道に迷ったのかなぁって思ってたら、
衛士さん達に聞いたらギーシュと一緒に外に出て!? 危険な夜の森に行って、そんでクリル鳥に襲われてるの!
馬っ鹿じゃないの! 死んだらどうするのよ! 馬鹿! 出かけるときは一言私に言ってって行ったじゃないの!! この馬鹿馬鹿! 馬鹿サイト!」
「ば、馬鹿馬鹿言いすぎだろ! それに俺はお前にそこまで心配……」
「すっごい心配したんだから! 心配したのよぉ……うええ……」
ルイズは我慢できず、才人の胸をぽかぽかと叩きながら、ぼろぼろと涙を流し始めた。
彼女もよもやこんな状況になるとは思っていなかったのだろう。
才人が無事だったことへの安心と彼の身勝手な行動に怒りとで訳が分からなくなってしまったのだ。
「うえ、ちょ、おま、な、泣くことないだろ!」
「あ〜あ、泣かしちゃった。あんたねぇ、男が女を泣かすなんて風上にも置けないわよ?」
「さ、最低ですサイトさん……女の子泣かすなんて……」
「げ、げぇぇ!? 俺の味方無しですかぁ!?」
「うあああん!!」
「あ、う、うえ……す、すんませんでした……」
女の涙とは最大の武器であるとはよく言ったもので。
才人は二人の少女からも非難されて痛まれなくなり、がっくりと項垂れてしまった。だがルイズは泣き止むことがない。
才人はどうしていいのかわからずおろおろしてしまう。元の世界では異性の友達になんて恵まれたことのない彼だ。
それゆえに変な気遣いとかもしなくて済むが、逆にこういうときにどうすればいいのかもわからないのだ。
「ほら抱きしめてあげなさいよ」
そんな彼を見かねたのか、キュルケは助言を与えた。才人は一瞬ドキっと身体を強張らせ、ルイズを見つめた。
そして少し躊躇いながらも、優しくルイズを抱きしめた。
「ひっく……ひっく……」
「ああ〜……うん、よしよし。悪かったよ……」
心の中では、うおお良い匂い、とスケベなことを考えて、自分に湧き上がる余計なものを感じていたが、
それを必死に抑えこんで、ルイズの頭をそっと撫でてやる。
そんな甘い空気を傍目で見ていたギーシュは、すっかり蚊帳の外に出されてしまったことに何となく疎外感を感じつつも、
気絶したままのケティを抱えながら、ふっ、と気障ったらしく笑った。
「ギィィシュゥゥ!」
だが、その背後で、やっとの事で追いついたモンモランシーが息を荒げて、毛を逆立ててギーシュを睨みつけていた。
彼女もまた涙目だった。そんな彼女に気が付き、ギーシュはあわわと全身から汗を流して後ずさりした。
「ひっ! ももももも」
「誰がもももももよぉ! この、馬鹿ギーシュ!!」
「ギャイン!」
だがそんな彼も、モンモランシーに股間を蹴り上げられ、才人以上の悲鳴を上げてその場に倒れたのだった。
「全く、あの時は私が来なかったらどうするつもりだったのよ」
「すんましぇん」
さて、翌日。ルイズはサイトに昼休み中ずっと説教をしていた。
あの事件の後、無事学院に戻った彼女たちだったが、夜の無断外出が教師陣にばれてしまい、
今朝に学院長であるオールド・オスマンの元へと呼び出されしまったのだ。
ひとまず彼女たちは、怪我人も居ることだし、全員無事だったということで、ロングビルの弁護もあってその罪は不問とされたが、
今後勝手な外出は控えるよう、もし破るようであれば親に報告させてもらうと厳重な注意を受けて解放された。
「本当にもう、勝手に外出ちゃだめなんだからね!」
「わかったよ、だからこの話もう無しにしようぜ」
「ダメ! ただでさえ成績不振で教師から目を付けられているのに……。
今日もオスマンのおじいさんが穏便に済ませてくれたからよかったわよ、本当」
だがそれだけで、ルイズの気持ちが収まるわけもなく。こうしてサイトを正座させて、彼是30分は説教をしていたのだった。
ちなみにルイズもルイズで、クリル鳥へ飛び込んだことをシエスタに説教を喰らっているのだから、なんとまあ人の事を言えないのだが、それはさておき。
「……そりゃお前が勉強しないからだろうに」
「なんか言った?」
「いいえなんでもございません!」
「ルイズ!」
と、そんなところへモンモランシーとギーシュが現れた。ルイズが振り向いて彼女たちを見ると、ぎょっと目を見開いた。
「……首輪?」
ギーシュの首には、まるでペットにつけるような首輪が取り付けられて、そしてそこから伸びている紐をモンモランシーが握っていた。
まるで犬と飼い主みたいだ。
「もう不倫しないように縛ってみたのよ。ねぇ、ギーシュ?」
「ははは、勿論さ、モンモランシー。もう僕の大事な部分を潰されたくはないからね!」
「うむむ、私もやろうかしら……」
「それはやめろよな!」
「相変わらず仲が良いわね、あんたたち。……昨日はありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。困った時はお互い様よ」
ルイズは微笑みながら答えた。その素直な笑顔に少しモンモランシーは恥ずかしそうにしていた。
「いやぁ。サイト君、君もなかなかやるじゃないか。見直したよ」
「あん? 男にほめられても嬉しくねぇ」
「き、君はだね……!」
ギーシュも何時もの気障な振る舞いでサイトをほめたが、当の本人の遠慮ない言葉に、思わず拳を握り締めてしまった。
「でね、あとそこの平民にお礼を言いたいってケティ言ってたから、連れてきたのよ」
「俺に?」
「ほら」
と、モンモランシーの背後から、もじもじと恥ずかしそうに顔を赤らめてケティが、そっと前に出た。
サイトも、正座してしびれた足に少し苦悶な表情を浮かべつつ、立ち上がって頭を掻いた。
「あ、あの……ミスタ・グラモンと共に私を助けてくださってありがとうございます、ミスタ……」
「え、あ……いや、あっはっは! た、大した事じゃないって!」
今まで見たことがないほどしおらしくサイトにお礼を言うケティに、彼は思わず鼻の下を伸ばしていた。
そんな先ほどのギーシュの態度とは180度違う彼をルイズはムッと少しだけ顔をしかめた。
また調子に乗ってる。こりゃあもっと説教してやらねばいかんと、考えていた。
だがそんな彼女を尻目に、ケティはサイトに近づき、一つのバスケットを手渡した。
「これ、焼いてみたんです。クッキー。よければ食べてください」
「うお、うおお! い、いいんすか!?」
「私、ミスタ・グラモンに振られてしまったのはショックですけれど、あの時、一瞬だけでしたが、
私を抱きかかえてくれたミスタはかっこよかったです」
「うんうん!」
「私その、ミスタのような……」
「お、俺のような?」
「ミスタのような……」
「う、うん」
いかんいかん、これは調子に乗りすぎる。ルイズはサイトに気づかれないように背後に回り、彼の背中をつねるために手を指し延ばした。
「お兄様がいればいいな、って思いました!」
「へっ!?」
と、そこでルイズの手が止まり、思わず吹きそうになったのを必死に我慢した。
サイトも期待していた言葉と違っていたのか、喜び半分悲しさ半分の複雑な表情で呆然としていた。
「ミスタはとても頼りになりますし、勇敢な兄がいればとても嬉しいです! これからはお兄様と呼んでいいですか?」
「ああ〜……はは、お兄様ね、お兄様……ははは、いいよ」
「嬉しい! 今度またクッキーを作りますから、よかったら味見してくださいね、お兄様! それでは!」
まさかの最後でサルさん・・・・・・!圧倒的っ・・・・・・・圧倒的敗北っ・・・・・!
呆然とするサイトの気持ちなど露知らず、ケティはその小動物的な顔で満面の笑みを見せて、その場から走り去っていった。
今の出来事に、やはり呆然としていたギーシュとモンモランシーだったが、我慢できずに笑い出し、
二人はサイトの肩を叩いてその場から立ち去っていった。
残されたのは、ケティから貰ったクッキーを持って立ち尽くすサイトと、背中で手を組んで、悪戯っぽく笑っているルイズだった。
彼女はサイトの横へと立つと、肘でこつきながら、にやりと笑って言った。
「よかったね、お兄ちゃんだって! 期待してた通りになってよかったね!」
「うがああ! い、言うなぁ!」
「お兄ちゃんだって、頼られてるぅ!」
「う、うっせぇ!」
「お兄ちゃんだからねぇ、手を出しちゃだめだよね! 恋心とかもってのほかだよね!」
「う、うおおお!! お、俺の男心を弄くるんじゃねぇええ!!」
学院中に淡い気持ちを打ちのめされた、哀れな男の叫び声が鳴り響いたのだった。
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ケティ「え、恋愛感情ですかぁ? まさかぁ。平民と貴族ですよ? 小説じゃあるまいし……。
あ! 本当の恋人が出来たら、お兄様に報告しようと思っていますよ!」
ケティ、恐ロシア。残念、ケティ×サイトならず。
ということでフラグクラッシャー天然素材です。サイト君の淡い恋心、いやスケベ心はこうして打ちのめされたとさ。
クリル鳥はオリジナルモンスターということで、でも大体でかいチョコボだと思っていただければと思います。
結局決闘を共闘にしただけじゃね?
次回は久々にエレオノールとアニエスのコンビです。
他の作者さんみたいに、イラストをいただけるぐらいに有名になれたらなぁと、ふと思いましたが、
それには地道に続けていくしかないですよね。今後も頑張っていきたいと思います。
一度の投稿の長さですが、もっと短いほうが良いでしょうか?
あとヴェルダンデ出すの忘れてたウボァー
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乙
乙
ケティ恐ろしい娘!!
乙です!
ケティは天然のフラグクラッシャーやで〜。というかクリル鳥強いな。
ルイズの剣技は、割と常識的な範囲に収まってるのね。もっと小型アニエス化してるのかと思ってた。
世界から魔法が消え去るんだけど今まで魔法に使っていたエネルギーが体に満ちることにより超人と化すメイジ達
天然道士か
メイジの血が混じったけど杖と契約しないまま成長したら天然メイジになって超パワーを得るIF
ルイズが炭鉱勤めのガテン系だったら
爆発魔法は重宝されそうな希ガス
>>381 あっちの地域だと露天掘りじゃなかったっけ?
どのみち爆発魔法が錬金やらジャイアントモールより役に立つとも思えんけど
杖と契約せずに素手で殴った箇所が爆発を起こす格闘型ルイズ
触った物を爆発させる能力を制御して、爆発までの時間調整や条件付けができるようになり、
鼻くそを飛ばして爆発させたり、人間を爆弾にして味方への巻き添えを狙ったり、キュルケの髪の状態を見てリンスを勧めるルイズ
ハルケギニアが、魔法至上主義の世界じゃなくて、通常のファンタジーっぽく「剣と魔法」の世界だったら
「魔法を使えるからメイジなんじゃない、魔法『も』使えるからメイジなんだ」的に
ギーシュですらワルキューレを倒されても、青銅の剣を錬金して立ち向かってくるような世界。
ルイズの劣等感も緩和きるし
ブリミルの記憶を持ち、ハルケで自分探しの旅に出るサイト
もしも作者が福井晴敏だったら
自分がなぜこの世界に来たのか そして何をすべきなのかって事で悩んだり
自分がいた現代の政治がこの世界に役立つかもしれないって考えるサイトや
日食が起きる原因や兵器があまり進歩してない世界の戦場って物を
リアルに描かれそうだ そして「戦国自衛隊1549」と「亡国のイージス」
「ローレライ」と設定がリンクしてる所があるとか 零戦だけではなく
旧海軍の巡洋艦か伊号型潜水艦も出るだろうな 大量破壊兵器とか積んでさ
作戦中のダイスと中年ヘリパイでおk
剣と魔法の世界って、1人で剣も魔法も使うんだな
どっちかだけだと思ってたよ
剣と魔法の世界=一人でどっちも使うは微妙に間違いだろ
あれって、剣(戦士)ありーの魔法ありーのな感じで中には両方使うやつもいるだろうが
全員が全員両方使うわけじゃないだろ
まぁギーシュ、軍人の家系だし両方使ってもおかしくないかもしれないけど 土メイジだし
『スレイヤーズ』世界だと リナを筆頭に両方使うキャラが結構いる。
『Fate』のサーヴァントだって、宝具なんてトンデモ武器を使う時点で 魔法(魔術?)みたいなものだし。
サイトが強そうだという理由で決闘を申し込むギーシュ
メイジには使い魔のトレーナーの義務が課せられ、
定期的に学院で行われる使い魔コロシアムで勝ち抜き、
やがてはガリア主催の世界大会を制するルイズ&サイト
何かしら「全裸で」なハルケギニア人。
剣と魔法の世界って要は剣と魔法がバランス取れてるって言いたいのかな?
ぶっちゃけゼロ魔だと強い人みんな魔法剣士な印象あるけど
>>395 錬金大系自重しろ
ブレイドっていう杖に魔力を付加して武器にするって魔法があるから
それなりに体系化はしているんだろうな。
>>384 今更だがミスター5と吉良吉影と鴉自重
あとリンス違うトリートメントや
リンスとトリートメントの違いはよく知らないけど
>>398 リンス
昔のシャンプーは石鹸同様アルカリ性だったため残留するとキューティクルが開いて髪に悪い
そこで残留シャンプーを酸性溶液で中和してすすぐ(rinse)ために使う薬剤をリンスとよんだのが始まり
ちなみに日本語です
コンディショナー
リンスと違い髪の毛に「残留」してコーティングすることが目的の薬剤
シャンプー自体が中性洗剤の様になった近年から使われているみたい
Wiki先生ありがとう
もし鏡をくぐったのが使い魔売りますと書かれた自販機だったら?
もしもサイトがギーシュの香水を猫婆してたら
もしも才人が幸運だったら
棗ですか
アンアンが巳那一族の出だと言うのはありそうだ
もしもルイズがヤンデレだったら
理想郷にあるね。ヤンデルイズ
もしルイズが病んでたら
カトレアじゃなくてルイズが原因不明の病に犯されている
これじゃサイトさん召喚されなし、トリステインも終了っすね・・・
ルイズならすでに、慢性の無胸病に……
大丈夫。ルイズはCカップあるから。
しかしウエストが細すぎて折れるんじゃなかろうかと思っている。
もし魔法を出すのが杖で無く歌声や楽器だったら
ルイズは音痴の為出せない
故に、魔法は尻から出る
>>400 文字が読めず、コッパゲールが色々試してるうちに使い魔が出てくることが判明
いざルイズが買おうとしたら売り切れ
もしもルイズが最初からデレデレだったら
ルイズ「宇宙の果てのどこかにいる、私の理想のパートナー(恋人的意味で)!強く、美しく、そして生命力に溢れた理想のパートナー(恋人的意味で)! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさいいい男!」
ビッチじゃねーか
キュルケに悪影響受けまくりですが無害です
もしギーシュがおんなのこのキモチを知るために女装してたら?
時代はサイ×ギーですよねってなる
もしエレ姉様がコッパゲばりの発明家だったら
ルイズの為に陰でメイジ養成ギブスとかイケメンホイホイとか夢が広がるかもしれない
そういうことならむしろもう1人の妹の為にやりそう
魔法が使えないルイズもそっちに行くかな
ビッチビッチ ロリロリ デレデレデレ♪
もしアンアンとルイズの中身が幼いときに入れ替わっていたら
カトレアとの入れ替わりは有ったけれどこれは有りそうでなかったはず。
お前、そのレス、過去スレで見たぞ
それはさておき、入れ替わった場合、ルイズはアンリエッタというより王族らしくあらんとして改革でもするんじゃないかしら。
改革というか、規律を正すみたいな感じで
>>422 貴族の何たるか、王の何たるかを重んじて施政に当たろうとするんだが
そのへんをリッシュモンあたりにつけ込まれて
「陛下、税を上げましょう。不埒なアルビオンを膺懲するには軍を整えるべきです」
「陛下、不意打ちはなりませんぞ、王の沽券に関わります」
「陛下、あの指揮官の処刑を。軍律と王命を違えた愚か者には死あるのみです」
「陛下、諸侯軍を送らなかったものに今一度軍命を。兵が足りませぬ」
「陛下、ゲルマニアと断交なさいませ。此度の艦隊全滅はあの成り上がり共の策略に他なりませぬ」
そして
「陛下、譲位の御聖断を。トリステインの名を残す最後の手段です」
こんな未来が見える
もし魔法ではなく麻雀の強さが優劣を決める世界になっていたら。
タコスがたりないじぇ
>>423 うーん、ラ・ヴァリエール家が全力支援しそうだから、ある程度大丈夫だと思うけど、ドロドロしそうだ
>>423 マザリーニはどこ行ったよ
あとちょっと過小評価しすぎ
気が付くと、アニエスは暗い空間にいた。ふわふわと浮いているような、
地面に足が付いているような、そんな不思議な空間だった。
『アニエス、剣は慣れたかしら?』
どこから声が聞こえてくる。
アニエスはゆっくりと振り向いた。そこには、幼き頃の自分と、そして自分を育てた剣士が立っていた。
相変わらず、その頃の自分は仏頂面で、そして剣士は得体の知れない雰囲気を出していた。
確かこれは自分が拾われて、3年ぐらいした時。6歳ぐらいだろう。ルイズもまだ生まれていない時だ。
思えば、この頃から剣をアニエスは振っていた。
よくもまあ、自分の事ながらこの女に付いていったものだ。普通の精神なら逃げ出すだろう。
それぐらい、この頃の自分は復讐心に満たされていたのかもしれない。
幼き頃の自分は剣を握りながら頷いていた。
『そう、好ましいわね』
何が好ましいだ。ニタニタと笑いやがって。
『いつか、私を殺してくれるかしら?』
それが剣士の口癖だった。今となっては、この言葉の意味は良く分からないが。
ただの狂人だった、と考えるのが一番だろう。
だが、それだけではないと大人になった今では何となく考えていた。
何故この女は、私に殺されたいと思ったのだろう。
『いつか、私が殺すんだ』
ビクッ、と身体が強張る。
これは幼きアニエスの声でも、女剣士の声ではない。
いや、女剣士が発した声ではあるが、紛れもなく『今のアニエス』の声だった。
アニエスの声にしても少し違和感を感じずいられない。
この違和感は一体。
記憶の中のアニエスもその声に驚いているようだった。
『ふふ、大人になった貴女の想像真似。似てる?』
『悪趣味だ』
『ありがとう、とても良い褒め言葉だわ』
ふぅ、とため息をつく。だが、アニエスには解せない。
何処かで聞いた声だった。絶対に忘れてはいけない声。誰だっただろう。
まどろみの中、最後に優しい女性の声が聞こえてきた。
―――……なのよ、アニエス
アニエスを呼ぶ声だった。
第17話
「アニエス、起きなさい」
「……姉上」
ガタンガタン、と心地の良く揺れる音が聞こえてくる。
そしてそれと一緒にアニエスの耳には旅の共、姉エレオノールの声も聞こえてきた。
どうやらすっかり寝てしまっていたようだ。最近はずっと旅ばかりだったから、少し疲れたのかもしれない。
エレオノールはアニエスの顔を覘きながら心配そうに見つめていた。
「少しうなされていたけれど、大丈夫?」
「ええ、問題はありません。少し、昔の夢を見ていました」
「故郷の事?」
「いえ、拾われた後の事です。故郷の事は……正直もうよく思い出せませんから」
「そう。……その、ごめんなさい」
余計なことを聞いてしまったと、エレオノールはしゅんと俯きながら謝罪した。
アニエスは気にしていない素振りで顔を横に振った。それに安堵したエレオノールは言葉を続けた。
「……貴女の故郷、か。それにしても、昔のアカデミーも恐ろしいことをしてたのね。
実験部隊もそうだけど、人体実験にキマイラの生成……。こんなことをする金がどこから湧いてきたのかしら。
いくら小国のトリステインが他国に渡り合うためとはいえ、非人道的すぎるわ」
「繁栄には必ず闇がある、とはよく言ったものですね」
アニエスは淡々と言葉を紡ぎながらも、怒りを少しだけ声に交えていた。
アニエスがエレオノールの助手をする理由は、彼女の手伝いをするということだけではなく、
故郷を焼いた部隊の事についても調べる事もあった。
だが調べていくうちに、アカデミーの闇の部分と言うのも、多少ではあるが浮き彫りになってきていた。
他国の強大な力に対抗するべく行われた実験の数々。
グリフォン、ピポグリフ、マンティコアのキマイラの生成実験。
フェイス・チェンジを全身に適応できないかと、人間に風と水の精霊の力を移植する実験。
挙げればまだまだ出てくるが、それでも彼女たちが触れられたのはほんの一握りだろう。
これで金の流れなどを探れれば、本当の主犯を見つけることができただろうが、これ以上干渉するような事があれば二人の命も危ない。
極秘裏の調査は一旦中断され、今に至っていた。あとは何かの伝かコネでも使わなければ無理だろう。
「……すいません、アカデミーに誇りを持つ姉上の前でこのようなことを言うべきではありませんでした」
「いいのよ。私が憧れ誇りに持っているのは、今のアカデミーよ」
「……はい。私も、今はラ・ヴァリエール家が故郷ですから」
アニエスは微笑みながら言った。夢の中の幼い自分からは、考えられないほど柔らかい笑顔だったと思う。
その笑みを見て、エレオノールは思わず顔を背けた。アニエスは中性的な顔立ちだから、油断すると女性に思えなくなるのが怖い。
「それよりもほら、着いたみたいだわ」
エレオノールは誤魔化すように前を指差した。そこには懐かしい城壁が、目の前に広がっていた。
『やれやれ、しばらくぁ俺っちもお役御免かね』
「なんだデルフいたのか」
「デルフいたの?」
『ひでぇ!』
さて、このような漫才や会話をしつつ、気が付けばトリステインの首都トリスタニアに馬車は到着した。
エレオノールが駄賃を御者に払うと、二人と一本は門を通って、とりあえず当てもなく歩きまわった。
昼時ではあるが、不思議と今日は一通りが少なかった。
そんな中でも、貴族のエレオノールとアニエスが歩いてもなんら目立つこともなかった。
今の彼女たちはお忍びのためにマントも身に着けていなかったから、ただの平民と思われても無理はない。
いや、下手にアニエスが動きやすい男物の服を着ているものだから、カップルと思われているのかもしれない。
背はエレオノールのほうが大きいが。
「たまぁにあるのよね、こういう時」
「私も衛士をやっているときはこういう日に遇いましたね。私はこういう時のトリスタニアのほうが好きです。
物静かなほうが風も穏やかですし」
「確かに、あんまり騒がしいのは私もね」
「しかし、騒がしいのが普通の酒場で怒り出したときはびっくりしました、ははは」
「あ、あれはねぇ!」
――ぐぐぅ。
他愛のない会話を続けていると、エレオノールの腹の音が鳴ってしまった。
その乙女にしては大きな音にエレオノールは顔を真っ赤にしてお腹を抑えてみるが、時すでに遅く、
アニエスはくすっと隣で思わず失笑してしまっていた。
「姉を侮辱する無礼な口はこれかしら?」
「いひゃひゃ、ごめんなしゃい」
エレオノールは眼鏡を光らせながら、アニエスの頬っぺたを抓る。
アニエスは両手を空に上げて降参をしているものの、相変わらず顔は笑っていた。
「ジェシキャにょとこりょにでみょいきまひょ」
「もう! ……ジェシカねぇ。まあ、いいんじゃない?」
「あいたた……じゃあ行きましょうか」
やっとのことで解放され、アニエスは軽く頬を摩りながら歩き出す。エレオノールもふんっと鼻息を鳴らしながらその後を歩いていった。
しばらくは他愛のない会話を続けて、街路を歩いていく。
アカデミーの上司のセクハラ発言への愚痴だったり、薬草を何に使おうかと言う話だったり、
今度作る秘薬のテストはどうしようかであったり。
エレオノールが話し手になって、アニエスは聞き手になっている。
エレオノールは癇癪持ちで、性格上問題があるものの、しっかり話を聞けばなかなか面白い人間なのだ。
話を聞ければ、だが。と、そんな彼女たちの前を青髪の剣士が歩いてきた。
フード付きの少し綻びが目立つマントを大きくかぶっていて、顔が良く見えない。
アニエスとエレオノールはその剣士を横目に通り過ぎる。
と、少しだけ歩んだあと、アニエスは不意に足を止めた。
「アニエス?」
エレオノールは訝しげに彼女を見つめる。アニエスは横目に後ろを見ると、
背中のデルフの柄を握り、そして素早く鞘ごと振り抜いた。
「きゃっ!」
近くにいた花売りの少女は悲鳴を上げ、その場に転んだ。アニエスが剣を向けた先には、
先ほどの剣士が同じように剣を向けていたのだ。辺りが一瞬騒然となる。
「いきなり剣を向けるなんて、相変わらず血の気が多い奴だな、ミシェル」
「覚えてもらえて光栄です、アニエス。貴女は大分お変わりのようで」
そんな状況にも掛からず、二人は互いに笑みを浮かべながら、それぞれの得物を仕舞った。
それと同時に、緊張気味に取り巻いていた周りの民衆も、それぞれ文句を言いながら元の生活へと戻っていく。
剣を抜いた青毛の剣士、彼女は6年前、衛士時代にアニエスが会ったミシェルだった。
あのたった一度だけだったが、アニエスはその太刀筋や身のこなしを覚えていた。
だがそのときに比べ、彼女は影が更に深まっているようにも見えた。
「ちょ、ちょっとあんた何よ! いきなり剣なんか抜いて、野蛮な平民ね!」
「落ち着いてください、姉上。大丈夫です、私の知り合いですから」
と、そんなミシェルに、突然の事で驚いていたエレオノールが食って掛かる。
それをアニエスは宥めた。しかし、反応としてはエレオノールのほうが正しいため、
ミシェルは一歩下がって、その大きな身体を曲げて謝罪した。
「申し訳ございません、貴族様。彼女と再び会い見えるとは思ってもいなかったものですから……」
「そういう問題じゃないわよ!」
「しかし、この方を姉上とは。アニエス、貴女は貴族だったのですか?」
「あ、いや。そういうわけじゃないんだ」
ミシェルは顔を上げながら首をかしげる。さてどう説明したものか。
事情を知らないものとしては、アニエスの立場の変わり様は一言や二言では説明しきれない。
そこでアニエスは彼女に一つ提案をした。
「……そうだな、ミシェル。今から時間はあるか? これから姉上と一緒に食事をするんだが、一緒にどうだ?」
「え、ご一緒にですか?」
「ちょっとアニエス」
アニエスの言葉にエレオノールはぎろりと睨みつけるが、アニエスはあくまで涼しい顔をしている。
「いいじゃないですか。色々と積もる話もあるだろうから」
「……わかりました、お付き合いいたします」
ミシェルは頷き、アニエスと渋々とした表情のエレオノールの後に付いて行った。
「いらっしゃぁい! あ、アニ姉にエレ姉じゃない!」
「あんたその呼び方やめろっつったでしょ!」
魅惑の妖精亭に辿り着いた三人は、丁度入り口の付近でトレイを片手に、飲み物を運んでいたジェシカに出迎えられた。
相変わらず店内は色とりどりの派手な格好の娘たちが給仕していて、一見すると如何わしい見せに見えなくもないのだが、店長であるスカロンの方針により、
彼女たちが実際手を出されるような事はない。
そんな中でもアニエスは絶対ルイズを働かそうとはしなかったが。
ジェシカも胸元を大きく見せたドレスを着ているが、それほどきわどくないのは父スカロンの配慮なのだろうか。
そんな店内を見渡して、ミシェルは不安そうにアニエスに尋ねた。
「アニエス……」
「大丈夫、普通の居酒屋だから。昔私はここで暮らしてたんだ。働いてたこともあったんだぞ?」
アニエスが笑顔で答えるが、ジェシカは引きつった笑みを浮かべていた。
「そ、そうですか」
「さあ、座ろう。ジェシカ、酒と飯を頼むよ。オススメで」
「ウィ! 適当に座ってて。貴女は初めて?」
「う、うむ」
「あはは、何かアニ姉に反応そっくり。まあ気楽にしてよね」
ジェシカはトレイの上の飲み物を素早く配り終えると、そのままの足で厨房へと消えていった。
それを見届けたアニエス達は、丁度空いていた4人席に腰掛ける。
周りは男だらけだが、ところどころ女性客の姿も見える。
そう言う趣味か、はたまたここの料理を楽しみにしている人々か。とりあえず繁盛しているようだ。
「ああん、アニエス姐さん久しぶりぃ!」
「お姐様お久しぶりですぅ!」
「おい、ちょっと。暑苦しいからやめろ」
「ぎゃああ! ちょっと、ひっつくんじゃないわよ!」
「そんなそっけない事いわないでくださいよぉ」
「サービスしますからぁ」
と、そんな光景を眺めていると、赤毛の長髪の給仕の少女と茶毛のショートカットの給仕の少女がアニエスとエレオノールに抱きついてきた。
エレオノールは髪の毛を逆立てて、振り払おうとする。だが給仕はエレオノールの首に手を回し、たわわと実った豊満な胸をこれよがしに当ててくる。
エレオノールはその胸の大きさに嫉妬して、その給仕の耳を引っ張り始めた。給仕は悲鳴を上げながらもやめようとはしない。
この二人、実は元々衛士時代のアニエスの後輩なのだが、最近はここで働いていて、客とのトラブルのときに二人に助けられ、
それ以来こんな調子なのだ。
「こぉら! あんたたち、そんな暇があったらさっさと働きなさいよ!」
「ご、ごめんなさいー!」
「すいませんでしたー!」
そんなところへ酒を持ってきたジェシカが叱りつけて、彼女たちを追い返した。二人は慌てて厨房へと戻っていく。
呆れた表情で、ジェシカはトレイのジョッキと料理をアニエスとジェシカの分だけ置いた。
「全くもう」
「はぁ。もうちょっとちゃんと教育しなさいな、ジェシカ」
「うっさいわねぇ。一週間で何十枚もの皿を割ったエレ姉に言われたくないわよ。ルイズだってあんなに割らなかったわよ」
「う、うるさいわね! それをそこで言うんじゃないの!」
「ほら、私たちはあそこにいるロングビルのお姐さんのところ行くわよ!」
「ウガァー! ちょっと放しなさい! こら、小娘ぇ!」
エレオノールはジェシカに袖をつかまれて、引きずられるように連れて行かれた。
そのほうを見ると、なるほど緑髪の眼鏡をかけた女性が一人酒を飲んでいた。
あれは、ルイズが通っている魔法学院の長の秘書を務めているロングビル嬢だろう。
以前、ルイズが故郷帰りしてきた際に連れてきて、交友を深めた。
その時は普段から世話になっているということで、家族総出で祝ったものだ。姉エレオノールとも仲良く、なったと思う。
――おーい、ロングビルのお姐さん。お友達連れてきたわよ。
――お友達って、うわ、負け犬28歳じゃないの。
――負け犬ってなによ! あんただって行き遅れ23歳でしょ! わ、私には伯爵がいるも
の! いるものねー!
――うっさいわね、私は軟弱な男に興味がないだけよ!
――ほら喧嘩しない! さて、その伯爵とのその後、聞かせてもらうわよー。
――ぐひん!
――え、なにその悲鳴、怖いんだけど。
「……仲がよろしいことで。あの方は貴族、でいいんでしょうか?」
ミシェルは訝るように親指で軽くエレオノールを指差しながら言った。アニエスは困ったように笑いながらも頷く。
「まあ一応。最近はかなりフランクになられたと思うが……。
まあ良い人だよ。少し気難しいひとだけどね。昔はもっときつかったよ」
「そうですか。……貴女も」
「ん?」
「貴女も柔らかくなられた」
「……そうかな?」
「そうですよ」
アニエスはミシェルの言葉に苦笑しながら首をかしげた。ミシェルは眼を瞑りながら頷いた。
6年間、決して短くない間にアニエスは変わり、そしてミシェルは変わらなかった。
その差を、何となくアニエスは感じていた。それがいいのか、悪いのか。彼女には判断できない。
「……それにしても本当に何があったのですか? あの貴族の方を姉と呼ぶとは」
「ああ、それについて説明しようか。あの時から少し前の事なんだがな……」
アニエスはミシェルに過去の出来事について説明し始めた。ルイズとの出会い、王都へ来た頃の事。
ルイズの両親に出会ったこと。そして、家族になったこと。どれも今思い返せば信じられないような出来事ばかりだったと思い返す。
「……羨ましいですね。そのような幸運に恵まれるとは」
「ああ、自分でも驚いている。だが、それを今では大事にしているよ」
「……左様ですか」
アニエスの言葉に、ミシェルは何処か複雑そうな表情を浮かべていた。
「……ミシェルは、強くなれたか?」
「私ですか? どうでしょうか。……ただ、私の腕を取り立ててくれた方はいらっしゃいます。
そのお方のために、今は剣を振るってます」
ミシェルはいくらか表情を柔らかくして、笑みを浮かべた。だが、瞳の中には何処か暗い影が写りこんでいた。
「そうか。……でも、昔のままなんだな、その瞳は」
「はい」
「……お互い、何かを秘めて生きているのだろう。それがどういう形であれ、決着が付けばいいな」
アニエスは眼鏡の位置を直しながら、少し重くなった空気を誤魔化すように言った。
ミシェルも複雑な表情のまま頷く。暫くの間、アニエス達のテーブル付近には重苦しい空気と沈黙が続いた。
「お、お料理お待たせしましたぁ」
と、先ほどの茶髪の従業員が料理を運び、恐る恐るテーブルにおいていった。
それを機に、アニエスはふっと苦笑しながら、ジョッキを持った。
「折角の再会なんだ。身分とか何とかというのは無しに、アニエスとミシェルの再会を祝おうじゃないか、な?」
「……そうですね」
ミシェルも倣ってジョッキを持ち、二人は乾杯をした。
それから、料理を食べてその味について語り合ったり、デルフリンガーについて説明したり、
母カリーヌが自分に課した修行の酷さであったり、色々と語った。
気が付けば、一時間ほど喋り続けていた。それに気が付いたジェシカは時計を見て、慌てた表情で言った。
「あっと……。気が付けばこんな時間」
「ん、何か任務か?」
「まあ、そんなところですが……。そうだ、アニエス。お付き合いできませんか?
貴族になられた貴女を汚れ仕事につき合わせるのは気が引けますが……。貴女の腕を見てみたいのです」
「ああ、気にしないでくれ。……どういう仕事なんだ?」
「トリスタニアの下水道にジャイアント・スコーピオンが住み着いたようなんです。危険なので、排除してくれと」
「なるほど、確かに”汚れ”仕事だな。しかし、それを一人で?」
「勿論人を雇うつもりでした。そこでアニエスと会ったんですよ」
「なるほどな」
アニエスは納得したように頷いた。そしておもむろに立ち上がる。
「では早速行くと……。とその前に、姉上達に報告しなきゃな」
さて、少しだけ時間が戻って。エレオノール達のテーブルでは、ロングビルとジェシカが
エレオノールを逃げられないように囲い、彼女を問い詰めていた。
「んで? 伯爵様と別れた原因って?」
「あーうー」
「おら、可愛くいっても誤魔化されないのよ!」
「うーあー」
酒が入っているからだろうか、エレオノールは何時もの凄みというものを出せずに、ジェ
シカやロングビルに良いようにされていた。見れば彼女の顔は真っ赤だ。
「結婚寸前ですとか手紙を送ってたのに」
「で、この有様? あんた本当何があったのさ」
「……木の匂いっていいわね」
エレオノールは誤魔化すために、ついにテーブルに顔を押し付けて、現実逃避を始めた。
正直のところ、彼女にとって人生最大の汚点になるであろう、この事については触れられたくなかった。
だがジェシカ達の追及は止まらない。
「そこ、前の客がゲロったところよ」
「ひやっ!」
「嘘でした。んで、本当に何があったのよ」
「だ、騙したわね……」
どうしても聞きたがる二人に、エレオノールもようやく観念したか、ため息をつきながら、
何時もの高慢な雰囲気をなくし、暗い表情で語り始めた。
「……何時もどおりスコーンを作って、フィリップに食べさせてあげようと思ったのよ。で、部屋に行ったら……」
「部屋に行ったら? 浮気してたの?」
エレオノールは首を横に振る。そして少し言葉に詰まりながら続いた。
「……違うのよ。何時もどおり仕事をしていたわ。で、息抜きしようと言って、テーブルに目を向けたら……は、破廉恥な小説が……」
「破廉恥って……バタフライ夫人の某みたいな?」
「そ、そ、それの男性向けなやつ。フィリップはすぐに隠そうとしたんだけど、私が問い詰めて、酷いこと言って……。
それで喧嘩になっちゃって……」
「なによ。ただの性欲を満たすものじゃないの。あんたがちゃんと処理してやらないから悪いんでしょ?
まあ、机の上に放置しているその伯爵とやらも十分悪いと思うけどね」
「ばばばばば馬鹿言うんじゃないわよ! ここ婚約前の淑女はね、男性に肌を見せないもんなのよ!」
「何綺麗事言ってんだが。ゲルマニアの女みたいに盛れとは言わないけどさ、もっと男の事を考えてやりなよ。
それこそ相手が自分が居なくちゃ駄目なくらいにさ」
「つーかバイトの時に店で出したじゃん。ところでロングビルのお姐さんはアルビオン出身だっけ?」
「ああ、そうさね。まあそこらへんは関係ないけどね。で、別れたと?」
「……別れたというか、私が一方的に突き放して出て行ったというか。出て行きます、仕事に戻りますって言ったきり、会ってないのよ。
母様や父様やカトレアには、取り合ってやるって言われたけど……」
はぁ、と大きくため息を吐くエレオノールには後悔の念がヒシヒシと表情に表れていた。
それを見て、ロングビルはルイズの顔を思い出す。彼女が後悔した時と同じような表情をしているものだから、ぷっと思わず吹いてしまった。
「あ、あによ」
「いや、あんたとルイズってやっぱり姉妹なんだって思ってね。そんなことよりも、
別に脈絡がなくなったわけじゃないみたいじゃないの。さっさと謝りに行ったら?」
「でも……。きっとフィリップは私の事、もう嫌いになっていると思うわよ。その前からも、
いざこざがあったりとかしたし……。その度に母様や父様に仲裁してもらったけれど、今回はもうダメね……はぁ」
更にため息を吐くエレオノールの背中をロングビルは思い切り叩いた。
「あいだ!」
「あんたが現実逃避してるからでしょうが、全く。まるで駄目な女、略してマダオね」
「何よそれ!」
「うっさいマダオ。あんたね、そうやってうじうじ自己嫌悪に走ってるような根暗な女はね、
嫌われて当然なんだよ。もっと素直になんな。あの手紙みたいにさ」
「手紙?」
「あ、あんた、そ、それは言いふらすんじゃないわよ!」
ジェシカは首をかしげた。それに対して、エレオノールは思わず、勢いで椅子を倒しながら立ち上がり、
ロングビルに詰め寄った。だが、ロングビルは全く怯んでいる様子はなく、ニヤニヤと笑いながらジェシカに語り始めた。
「こいつねー。学院長に手紙を送ってたのよ。妹の事について
「わ、わーわーわー!」
「ミスタ・コ、コ……コマンドー?」
「コルベールです! お忘れですか?」
「そう、それじゃ。で、何で君が秘書席に座ってるんじゃ?」
さて、ところ変わってトリステイン学院。
本塔の最上階には、この学院の長であるオールド・オスマンの部屋があった。
そこで暇を持て余しているオスマンは、机に肘をつきながら、何時から伸ばしているのか、長く伸びた髭を揺らしながら、
鼻毛の処理をしていた。
その横目で、何時もはロングビルが座っているはずの秘書席には、何故か学院の教師であり、
ルイズ達の使い魔召喚の儀式の監督を務めたコルベールが座っていた。
「いえ、それがこのような手紙を渡してきて、今日代わりに秘書をやって欲しいと言われまして……」
コルベールは徐に、ポケットから手紙と杖を取り出し、フライの魔法でオスマンに飛ばした。
「何、手紙じゃと?」
オスマンは手紙を受け取り、封を開けてそれを読み始めた。差出人は秘書であるロングビルであった。
――セクハラに疲れました。一日休暇を戴きます。認めなければ王室に訴えさせていただきます。ロングビル
「何じゃ、ミス・ロングビルも軟弱じゃのう。すこーしスカートの中を覗いただけじゃないか。のぅ、モートソグニルや」
手紙の内容を見て、ロングビルが居ない理由が理解できたオスマンは、呆れたように手紙を机に放り、
彼の使い魔である白いネズミ、モートソグニルにナッツを与えた。
モートソグニルはチュウチュウと鳴きながら、そのナッツをカリカリと齧り始めた。
そんな平然としているオスマンに憤ったコルベールが立ち上がりながら食って掛かった。
「そのような事をしていたのですか、この老いぼれ爺め!」
「何じゃと! 乙女のスカートの中身を覗くことが、どれだけ崇高なことか、お前は分かっておらんのかね、コルベール!」
「わかりたくもありません! 全く。今度そのような話を聞いた時は、私から王室へ報告させてもらいます!」
「カーッ! 王室が怖くて学院長が務まるかァー!」
オスマンは目を見開き、威圧感たっぷりに叫び返した。
まるで300年以上生きているといわれる老人とは思えないほどの威圧感だったが、言っている事はまるで駄目なことであった。
コルベールは呆れてそれ以上ものが言えず、秘書席に座った。
そして暫くは平和な時が過ぎていったが、不意にコルベールがオスマンに話しかけた。
「ところで、昨日の生徒の不祥事の件ですが……」
「うむ? あれはもう不問にすることで決着が付いたではないか」
「いえ、その事ではなく、ミス・ヴァリエールの使い魔のことです」
「ああ、平民の使い魔のことかね。そういえば、君は『始祖ブリミルの使い魔達』なんて
古臭い本を持ってきて、彼のルーンについて熱く語っておったの」
「はい。彼のルーンは紛れもなく、始祖の使い魔の一つ『ガンダールヴ』でした。
ただし、偶然の一致、もしくはこの本の絵が間違っているという考えもあります。しかし、そこで昨夜の話です」
「一平民に過ぎぬ彼が、クリル鳥に痛手を与えたばかりか、止めを刺したという話じゃな。
しかも彼は初めて剣を握ったのだという」
「確かにメイジの助けもありましたが、それでもクリル鳥相手に、ただの青年が剣を持っただけで対抗できるわけはありません」
「そこで君の結論は、彼が『ガンダールヴ』だという事じゃったな」
「はい。ガンダールヴはあらゆる武器を操り、敵と対峙した、という話ではありませぬか。
だとすれば、戦いに無縁だった青年が剣を操れるようになったことも納得が出来ます」
「まあ、そう考えるのが妥当じゃ。……そう、手紙で思い出した。コルベール君や、これを読んでみるといい」
オスマンは机の中から一通の手紙を取り出すと、コルベールに向けて飛ばした。コルベールはすでに開けられている手紙を広げて目を通す。
すると、そこには驚くべき内容、そして意外な人物の名が記載されていた。
コルベールは目を見開きながら手紙を凝視した。
「どうじゃ、面白いじゃろう」
「面白いどころでは……! しかし、彼女がですか……。いやはや」
コルベールは驚いた拍子にずれた眼鏡の位置を直す。オスマンは髭を弄りながら、思い出しながら言った。
「彼女も君が教育していたのだったのう」
「はい。あの時は苦労しましたよ。努力家ではありましたが、非常に気が難しい子でした
からな。しかし、ううむ。ミス・ヴァリエールが実技が取れないのにもかかわらず、進級
できたのはこの手紙のせいですかな?」
「ほっほっほ。まあ、可愛い弟子の願いを無下にできんからのう。確かにあの子の魔法は異常じゃ。”普通”の教育では
魔法は使えないじゃろうし、差別せざる得ないじゃろ。それにしては座学も成績が悪くて、そっちを誤魔化すほうが大変じゃがな」
「全くです」
「へ、へくち!」
「あら、可愛いクシャミ」
「う、うるさいわね」
「しっかし、そんな事がねぇ。そうか、ルイズが追試で苦しんでるのも、そういう事なのね。何時も愚痴ってるのよ」
「あの子、本当成績悪いからね。自業自得よ」
再び魅惑の妖精亭。引き続き、エレオノールはロングビルと仕事を忘れて話し込んでいる
ジェシカに囲まれて、根掘り葉掘りロングビルが話した手紙について問い詰められていた。
テーブルに並んでいる料理や酒は粗方消化され、エレオノールも酔いのせいか、大方観念したようだった。
「手紙であんな遣り取りして、家では厳しいような態度を取る。素直じゃないわねぇ。
あんたの妹、カトレアだっけ? あの子みたいに優しくしてやればいいじゃないか」
「カトレア? ああ、あの子ねぇ。いやまあいいのよ。あの子が優しくして、私が厳しくするぐらいが丁度良いのよ」
「へぇ」
ロングビルは感心したように頷いた。エレオノールはぶっきら棒で怒ってばかりの気の難しいな姉のイメージが強いが、
感情表現するのが下手糞なだけで、妹達を大事にする心は誰よりも強かった。
と、そこでエレオノールは一つの疑問点に行き着いた。
「……あれ? なんでそういう役割分担になってるんだっけ?」
「いや私達に聞かれても……」
ジェシカ達は戸惑ったように答えるが、エレオノールは気にせずに頭を抱えて、うーんと唸るように、記憶の中を探った。
少なくとも、ルイズが生まれてからは今のような状態になった気がする。だが、その前は?
「うーん……。最初からそんな感じじゃなかった気がするのよねぇ。あれぇ、思い出せないわねぇ……」
「姉上」
と、そんな彼女たちの元へ、アニエスとジェシカが歩み寄ってきた。エレオノールは記憶を探るのをやめて、彼女を見上げた。
「あら、アニエス。話は終わったの?」
「はい。ただ、これから彼女の仕事を手伝ってこようと思いますので、アカデミーには先に戻ってもらっていいですか?」
「仕事って何よ?」
「下水道にジャイアント・スコーピオンが住み着いたらしいです。その退治に行って参ります」
「ジャイアント・スコーピオンって……あんた達二人で? 魔法も使えないのに危険よ。私も行くわ」
「しかし……」
「戦闘には不向きかもしれないけれど、これでもメイジなのよ? 後、もう少し貴女は姉を頼りなさい」
「よっしゃ、あたしも行くか。ウサ晴らしには丁度いいさね」
エレオノールは立ち上がり、アニエスの肩を抱く。酔っ払っているのか、少し息が酒臭い。
ロングビルも倣って立ち上がり、自分の杖をくるりと放り投げて遊び、やる気を見せていた。
そんな剛毅な二人にアニエスは苦笑してしまった。
「……では一緒に参りますか。ミシェルもいいか?」
「……まあ私は構いませぬが。謝礼は限られていますよ?」
ジェシカは胸元から金の入った袋を取り出し、テーブルに置いた。
ロングビルがそれを開くと、金貨が山積になっている。なるほどジャイアント・スコーピオン退治には十分な謝礼かもしれないが、
大人数ではそれもかすんでしまうだろう。そう思い、アニエスは首を横に振った。
「その事は気にしなくて良いよ。少なくとも私はいらない」
「んじゃ、あんたと私二人で分け合うってことになるね」
「私も別にいいけど。あ、じゃあ私の分はジェシカにあげなさいな。チップ代わり」
「え、いいの? やりぃ、やっぱエレ姉は太っ腹ねぇ」
「って、全部を持ち上げんな!」
エレオノールの言葉に、ジェシカは大喜びに金袋を持ち上げた。それを見たロングビルは
慌ててそれを取り上げて、中身の半分ほどを自分のサイフに入れて、袋をジェシカに渡した。
そんな様子の彼女たちに、ミシェルは呆れてしまった。
「彼女たちは大丈夫なんですか?」
「あはは、まあ大丈夫だ。自慢の姉と友達だかな」
そんなミシェルに、何故か誇らしげにアニエスは胸を張って笑った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
以上です。
久々のアニエス登場、というより大人組の登場。ペルソナ2罰の主人公達みたいに、導く役割に出来れば良いなあ…。
フィリップ=バーガンディ伯爵です。名前はオリジナル。何時までもミスタって言わせるのも
あれだったので適当に名前付けてみました。……名前出てないよね?
敵のバランスとか難しい。特に剣士。何か構想練ってたらチート臭くなった。くせぇえ!
ミシェルとカトレアの過去も少しだけ触れられればと思います。
話の区切り方とか慣れません。本当は一気に行こうかとか迷いましたが、
ここで切ることに。うーん、微妙だったかな?
――――――――――――――――――――――――――――――――
代理終了
虚無と銃士氏、プロバイダが一ヶ月規制確実とか
虚無と銃士氏、代理の方々乙です。
こゆーときに避難所のありがたみがわかったりするw
話の区切りとしてはここがいいと思いますよ
というか、これからの話を想像してたらどこできれと? と思いましたし
にしてもなんだろう。今まで10代組みだったから「何この年増組」って思ってしまうよw
下がジェシカの22歳、上がエレ姐28で別に年増でもないはずなんだけど
規制は本当に勘弁してほしいなぁ。
しかしまあ、銃士の人、代理の人、共々乙です。
なんかフランクだなぁ、エレ姉。
アニエスと打ち解けてるのはいいとしても、完全にジェシカにも遊ばれてるじゃないっすか。
でも、おかげでいい感じのキャラになってますな。本編みたいにツンツンしてるよりは印象良さそうな感じ。
アニエスとルイズが合流するまでは、学生組は原作展開、大人組はオリ展開みたいな感じなのかな。
ミシェルとも絡みなども含めて、楽しみにしてます。
あと、ところどころで、ミシェルとジェシカの名前がごっちゃになってる気がする。
避難所からひっぱて来たー
184 :虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU:2010/06/15(火) 22:03:46 ID:kf1G/8pw0
すいません、一箇所修正が。
――お友達って、うわ、負け犬28歳じゃないの。
というところですが、エレ姉の年齢、27歳でした。
その、あの、本スレの
>>439さん、多分ジェシカ→ミシェルだと思うんですが、
に、逃げるんだァー!
銃士さんも代理の方も乙です。こちらも投下させていただきますね
虚無と烈風―第十話―
「エレオノールがここに来たのは、一年くらい前さ」
イザベラは、ルイズに向かって微笑みながらそう話しかけた。
そういえば、大体その頃に姉が行方不明になったのだったな、と思い出す。
「学院に通っていない私の家庭教師、って名目でよくここに来るようになったんだ。
私は、どうせ父上の愛人なんだろうと思って最初は邪見にしてたんだよ」
「あ……、えっと、そう、なの?」
妙に親しげに話しかけられて、ルイズは戸惑う。
これが、アルビオンを滅ぼそうとしたというあの無能王の娘、なのだろうか。
そんな彼女の戸惑いも知らずに、イザベラは話を続ける。
「私は今よりうんとワガママだったんだ。……グレたくもなるよ。
従妹がいるんだけどね、ソイツはトライアングルクラス。
なのに、私は、一年前はドットっていうのもギリギリなくらいの、
どうしようもない、落ちこぼれだった」
落ちこぼれ、という言葉にルイズはびくりと身を震わせる。
「父上と同じ、『無能』。役立たずな、簒奪者の娘。ずっと、そう呼ばれてた。
目を閉じても、馬鹿にしたような笑顔が見えるし、
耳を塞いでも、嘲りの声が聞こえてきた」
眉をしかめて顔を俯かせて、イザベラは首を横に振った。
パサパサと青い髪が彼女の頬を叩く。
「……辛い、わよね、それって」
ルイズは、その気持ちが解った。
ほんの少し前までは、自分も同じだったのだから。
何をやっても、失敗する『ゼロ』。
先々代の王の覚えもめでたかった父母と違って、魔法の才はないと言われ。
平民混じりだの、拾われッ子だの、あらぬ噂ばかりを立てられた。
「解ってくれるんだね……、エレオノールの、妹」
イザベラは顔を上げて、また、微笑んだ。
「やっぱり、優しい子だ。エレオノールの言ってた通りだよ」
「姉様が、私のことをそんな風に……?」
あの厳しい姉が、自分をそう思っていたのか、と驚く。
「うん。……魔法が出来なくて、スネてた私に、エレオノールは、
よく、お前の話をしてくれたのさ。
失敗ばかりするけど、それでも決して努力をやめない、自慢の妹だ、って」
「……姉様が……」
ルイズの胸の中に温かいものがこみ上げるが、それは、今の状況を考えると、
途端に冷え切ってしまう。そんな姉と、今は敵同士なのだ。
「エレオノールが、一生懸命教えてくれようとするから、私は頑張ったよ。
初めて、グラスの中に水を出せた時、レビテーションで枕を浮かせられた時、
フライで浮かび上がることが出来た時、エレオノールは、喜んでくれた」
嬉しかった、と満面の笑みを見せるイザベラを前に、
ルイズはぎゅっと胸が苦しくなり、顔を俯けた。
多分、自分がガリアに居ることを、既に母は知っているだろう。
そうすれば、きっとここまで文字通り烈風と化して飛んでくるに違いない。
そうなったら……彼女の父親が、無事でいられるとは思えない。
彼女の家族を、傷つけずに済む方法はないだろうか、と考えてしまう。
例えそれが、別の国を滅ぼす手助けをした、男であっても。
自分と同じように姉を慕う彼女を、悲しませたくはなかった。
「でも、ね」
すっ、とイザベラの声が酷く冷たいものに変わる。
弾かれたようにして、ルイズは顔を上げて、小さくひっ、と呻いた。
笑顔を張り付けたままの彼女の、その目が、笑っていない。
ただ虚ろに、ルイズを見つめている。
「ダメなんだ。それじゃあ」
「だ、ダメって、何がよ!」
後じさろうとしたその腕を、予想だにしない程強い力で掴まれた。
「あんたが、いるから。あんたがいるから、私は、あんたの代わりでしかない」
「何それ、ちょっと、どういうことよ!」
「……エレオノールは、怖がりなんだ。父上が、『虚無』だと知って、
それ故に、長年魔法が使えなくて、悩んだことを、知ってしまった」
ぎちぎちと、ルイズの腕にイザベラの指が食いこんでいく。
ルイズは悲鳴をあげそうになったが、イザベラの雰囲気にそれも出来ない。
ただ、小さくかたかたと身を震わせながら、彼女の言葉を聞くばかりだ。
「エレオノールは、怖くなってしまった。あんたが、いつか、
父上と同じように、壊れて、しまうんじゃないか、って」
腕を掴んでいるのと、反対の手がルイズの首にかかる。
反射的に身をよじろうとした彼女の上に、圧し掛かった。
「けど、あんたの居場所からは、遠い。だから、エレオノールは、
私を、あんたの代わりに、可愛がったんだ」
両の手が、ルイズの首をぐっと押さえこむ。
「……だったら、ねえ。あんたが死ねば、あんたへ向けていた分の愛情も、
エレオノールは、私に向けてくれるだろう……?」
そんなことあるわけない、という否定の言葉が、喉へかかった圧力のせいで出て来ない。
「かっ、はっ」
ばたばたと手足をばたつかせるが、イザベラは首にかけた手の力を緩めない。
それどころか、どんどんと強めていく。
「(助けて……、母様、姉様……っ!)」
余りの苦しさに、意識が闇に落ちていく中で、ルイズは心で悲鳴を上げた。
こんなことなら、もっと体を鍛えておくんだった、と後悔しても遅い。
このまま殺される、という恐怖がルイズの体を支配していく。
「ルイズ、ああ、ルイズ、ルイズ!」
左目に映った光景に、カリーヌはうろたえる。
油断していた、と言わざるを得ない。ルイズの『虚無』を利用するために、
ガリアの王は彼女をさらったのだと思っていた。だから、殺されることはないだろう、と。
まさか、こんなことになるとは、思っていなかった。
「どうしたんだ、カリーヌ! ルイズがどうした!」
声をかけてきた夫の体に、縋りつく。
彼女達の居る場所は、プチトロワのすぐ近くの森の中。
ルイズが浚われた直後、今にも飛び出して行きそうなカリーヌを必死で抑え、
きちんと国外への通行許可証を取り、ガリアへと向かったのである。
グラモン家と懇意にしている業者の竜籠に乗って、全速力で。
あまりに近づくと迎撃の可能性もあったため、少し手前で降ろしてもらい、
こうしてひっそりと身を潜ませているのだった。
この場に居るのは、カリーヌと伯爵、そしてワルドである。
ナルシスとバッカスは、もしガリアと戦争になるようなことになった場合、
国に事情を説明する役目を負って、中央に残っている。
「貴方、ルイズが、ルイズがガリアの王女に首を絞められて……ッ!」
「何ですって! くっ、ルイズ!」
婚約者の危機に、ワルドは相棒のグリフィンに跨る。
伯爵の制止の声も聞かずに、プチトロワへと翔けていく。
「わ、私もこうしてはいられません! 行きますよ、貴方!」
走り出そうとしたカリーヌの足がもつれて、傾ぐ。
伯爵はそれを咄嗟に抱き止めた。
「カリーヌ、余り無理をするな! 勇気と無謀は違うんだ!!」
そのまま、ひょいと横抱きに抱きかかえた。
いきなりの行動に困惑する彼女を抱えたまま、マンティコアへと跨った。
「……戦闘で全力を出すことだけを、考えろ。私だって、マンティコアには乗れる」
「あなた……」
そんな状況ではないのに、カリンは頬を薄紅に染めた。
「ひっひ。言うじゃないかえ」
うっかり発生しかけた桃色空間を断ち切るように、しゃがれた笑い声がした。
声の主は、誰あろう二人の乗った老マンティコアである。
「母さんから聞いたあの話を思い出すじゃないかい。騎士見習いの小娘を助けに、
同族との争いを辞さず、突っ込んでいったどこぞのガキンチョをね」
「……今は昔話をしている暇じゃないだろう、ヴナン……、アテナイスの娘よ」
けたけたと笑いながら、ワシの羽を羽ばたかせ、ヴナンが宙に飛び上がる。
「ああそうだね。あの子を、あの子たちを助けたいのは、私も一緒さ!」
かつて、マンティコア隊には一頭のマンティコアが居た。
勝利の女神の名を持つ彼女は、老成した故に言葉を解し、
烈風カリンと共に空を翔けた灰かぶりの騎士の愛騎であった。
そんな彼女には、目に入れても痛くない程可愛がっていた娘がいた。
その娘の前に、ある日現れた召喚の鏡。それを作り出したのは、誰あろうカリンであった。
こうして、その娘は……ヴナンは、烈風カリンの愛騎となり、
あらゆる戦場を、翔けてきたのである。
年老い、言葉を発せるようにはなったものの、カリーヌの娘たちが
驚いてはいけないから、と話すのはカリーヌの前か、
かつてサンドリオンと呼ばれた、伯爵の前においてだけである。
アテナイスと違って子をなさなかったヴナンにしてみれば、
幼い頃から見守ってきたルイズ達は、我が子も同然。
彼女達が害されて、黙っておけるわけがない。
「さあ、見せてやろうじゃないさ、カリン! サンドリオン! 気合入れな!!」
夜の闇を震わせるように、ヴナンの咆哮が辺りに響き渡った。
その咆哮は、半ば意識を失いかけていたルイズの耳にも確かに届く。
「(ヴナンの声……! 母様が、来てくれた!)」
そう思った途端、体中に力が漲る。母が来てくれるまで、何としてでも、耐えねば。
イザベラは、突如聞こえたマンティコアの声に驚き、ほんの少しだけ、力が抜けている。
今しかない、と思った。
「……っ、のぉ……っ!」
手にかかっていた指を引き剥がし、どん、と勢いよく突き飛ばす。
手元に杖がないことに焦ったが、それは目の前の彼女も同じように見える。
普通に逃げれば、多分、彼女よりは足が速い自身がある。
何しろ、こちとら移動の時は全部己の足を使ってきたのだ。
「(魔法を使えないでいてよかった、なんて思うのは、きっと、後にも先にもこれっきりね)」
咳き込みながら、足りなくなった酸素を補給しつつ考える。
視線は、イザベラの後ろにある巨大な扉へ向けている。
あの扉から先へ出て、廊下にあるだろう窓を開ければ、きっとヴナンが気づくはずだ。
そうすれば、逃げられる、と考える最中。ぎぃぃ、と軋む音がして、その扉が開かれた。
そこから姿を見せたのは、誰あろう、エレオノールだ。
「ルイズ!」
城に侵入者が現れたと聞いて、おそらく、母達がルイズを取り戻しに来たのだろう、と考えた。
だが、まだ彼女をジョゼフに会わせていない。
彼は珍しく興味を示して、既にこちらへ来ている。
しかし、この状況ではおちおち話も出来ないだろう。
そのため、彼女を連れてグラントロワへ移動しようと思って、彼女を寝かせた部屋に来た。
扉を開けた途端、起き上がってイザベラを睨みつけているルイズを見て、
エレオノールは、咄嗟に名前を叫んだのだった。
「姉、様……」
このままではまた逃げ損ねる、どうしよう、と焦る彼女は、
予想していなかった言葉をかけられて、思考を停止した。
「ルイズ、あなた、その首……」
「あ……」
両の手で覆い隠してみるが、もう遅い。
エレオノールは、ルイズの首にはっきりと残る指の後を見てしまった。
「イザベラ……、あなた、なの?」
恐怖と怒りの混じった瞳を、イザベラに向けてしまった。
「あ、あは、あははははははは!!」
壊れた人形のように、突如としてイザベラが笑い出す。
「あはは、そう、そうなんだ? エレオノールも、私のこと、そんな目で見るんだね!!」
ばさばさと振り乱した髪の毛の間から、小さな杖が落ちる。
その杖を手にとって、イザベラはまたけたたましく笑った。
「だったら、要らない」
イザベラが呪文を唱える。空気中の水分がかき集められて、巨大な水の塊になる。
「エレオノールなんか、要らない」
それが、端からびきびきと凍りついて、氷塊になる。
「そ、そんな……イザベラは、まだ、ドット、じゃあ」
エレオノールは、茫然としていた。
おそらく、トライアングルレベルと言っても過言ではない魔法だった。
イザベラの顔は、笑顔を張り付けたまま、凍りついている。
「あはは、凄いでしょ、エレオノール!あんたが、魔法を教えてくれたから!
妹の代わりの私でもねえ、こんなに凄い魔法が使えるようになったんだよ!」
その瞳からは、大粒の涙を溢しながら、イザベラが叫ぶ。
「でも、要らない! 要らないから、死んじゃえええええ!!!!!」
その氷塊が、エレオノールへ向けて放たれようとした、瞬間。
がしゃああん、と部屋のガラス窓が割れて、風が吹いた。
風は、見る間に氷塊を砕き、パラパラと床に散らしていく。
ルイズは、エレオノールは、その風を知っていた。
割れたガラス窓の向こう、マンティコアに跨り、杖を構えた姿を、知っていた。
「……私の娘に、危害を加えることは……!」
彼女を中心に、風が渦巻いている。
「何処の王族とて、決して許しはしません!!」
城を震わせる、怒号。身にまとったのは、あらゆるものを切り裂き、吹き飛ばす、烈風。
カリーヌ・デジレ・ド・ラ・ヴァリエール、その人が、怒りに燃える眼差しで、イザベラを睨みつけていた。
以上で投下終了です
また名前欄間違うし、いい加減慣れろよ自分orz
確認してみたらここまで来るのに二年もかかってるしどんだけノロいんだ
夏が終わるまでには、頑張って終わらせますので
今しばらくお付き合いくださいませ
イザベラ……泣
GJです
虚無と銃士の代理投稿行きます
さて、虚無と烈風氏も復活したということで、こちらも投稿していきたいと思います。
今回は短めです。本来ならこのぐらいの長さがいいのでしょうか?
すいません、今回は暴力的な表現の描写があります。
そんなに過激ではありませんが、一応警告と言うことで
「カトレア様……」
「……あ、ああ。ごめんなさい、少し居眠りしてしまったわ」
フォンティーヌ領、領主屋敷。
カトレアはその一室で、うとうとと椅子で頭を揺らしながら、少しばかり夢の中にへと入っていた。
そんな彼女を見つけ、メイドは慌てて声をかけた。
幾ら病気が良い方向に進み、身体が丈夫になったとはいえ、一般人に比べればまだまだ弱い。
風邪を引くだけでもかなりの負担になりかねないからだ。
それに気が付いたカトレアは、すぐに身体を起こし、目を擦って頭を起こすと、何時もの優しい笑顔を見せた。
「お紅茶でもご用意いたしましょうか?」
「ええ、お願い」
カトレアが頷くと、メイドは一礼して部屋を後にした。
それを見送ったあと、一度ため息を吐いてから、窓のほうへと近づく。
その表情は何処か嬉しそうだった。
「……本当に、懐かしい夢だった」
幼い頃、ルイズが攫われる前の頃の夢だった。12年前だから、自分は12歳だったはずだ。
不思議なことに、その夢には幼いアニエスも登場していた。
もちろんその頃の事は知らないから、今の性格で、容姿を幼くした雰囲気で、全てカトレアの想像でしかないのだが。
それでも不自然なことなどなく、姉妹として楽しく遊んでいた。
もしかしたら、これが本当なんじゃないかとすら思えてきて、カトレアは思わず苦笑してしまう。
記憶なんて、案外曖昧なものなのかもしれない。
「そういえば、ルイズが生まれる前の事、あまり思い出せないのよね……」
カトレアはふと思いにふけた。ルイズが生まれる前の事を思い出すなんて事はなかったし、
何故かそれを自分が拒んでいるような、そんな感じもした。
何故だろうか。そんなに嫌な事があったのだろうか。だが、思い出そうとしても全く頭に浮かんでこない。
「カトレア様、お茶が入りましたよ。丁度オヤツの時間ですから、クッキーもどうぞ」
「ふふ、ありがとう」
先ほどのメイドが戻ってきた。トレイにはお洒落なカップとポットが置かれていて、中から良い香りがしてくる。
メイドは優雅にそのポットを持つと、カップに紅茶を注いだ。そして、机の上にクッキーの並んだ皿とカップを置く。
カトレアは椅子に座り、そのカップを持って中をのぞく。そこには自分の顔が浮かび上がっている。
儚そうで、か弱そうな、そんな顔だった。
――考えても無駄かしらね。
カトレアはそう考えながら、紅茶を一口、口に運び、メイドに笑顔を向けながら呟いた。
「おいしい」
「光栄にございます」
カトレアは気がついていなかった。それは紅茶から離した時。
一瞬写った自分の表情は先ほどの顔からは想像もできないような、暗く陰湿な表情であったことなど。
第18話
トリスタニアには、生活排水を流す下水道が張り巡らされている。
下水道は土魔法で作られており、何千年という長い歴史の中、トリスタニアに暮らす人々の生活を支えている。
ただ、この場所に時折ジャイアント・スコーピオンなどの暗闇を好む魔物が紛れ込むことがあった。
それが何故かは諸説あるが、この場所で働く者や施設への被害が拡大するため、時折その退治の依頼が傭兵達に紛れ込んでくる。
勿論、その目的以外の事もあるが。それはさておき。
チクトンネ街の排水溝から中へと入り、アニエス達はジャイアント・スコーピオンが目撃された場所へと向かっていた。
「それにしても酷い臭いだわ……」
ロングビルは鼻を塞ぎながら一番後ろで、ライトの魔法で辺りを照らしている。
チュウ!と照らされたネズミが驚いて鳴き、そそくさと逃げていった。
エレオノールはロングビルの前で、同じようにライトで壁などを照らしていた。
「ここは清浄前の水が流れているようね……。チクトンネ街の排水溝への流れだから、施設もしっかりしてないのかも」
「ひどいわね、それは。ところで、あんたは大丈夫なのかい?」
ロングビルの言葉に、エレオノールは眼鏡を軽く持って、自慢げに言った。
「確かに臭いけど。薬品とかの臭いで慣れているから」
「ああ、一度酷い目に遭ったなぁ……。調合に失敗して、一区画封鎖するぐらいの臭いが充満して二人して死にかけましたっけ」
「あれは酷かったわね……。1週間ぐらい、臭いが残ってた気がするわ。使用人にすら避けられて散々だったわね、あははは」
「そうでしたねぇ、あっはっは」
「あんたたちはアカデミーで何やってるのよ……」
アニエスとエレオノールの思い出話にロングビルが呆れた口を開いていると、
不意にミシェルが立ち止まった。そして、奥を照らすようにカンテラを差す出す。
「あん?」
「どうしたのよ?」
不穏に思ったエレオノールとロングビルも同じようにライトを施した杖をその方向に伸ばした。
「ひっ!」
照らされたものは人間の死体だった。エレオノールは思わず悲鳴を上げて視線をそらし、ロングビルも眉をひそめる。
アニエスは素早くその死体へと近づき、カンテラで照らしてやった。ミシェルもそれに続いて、辺りを警戒しつつ近づいた。
「……死んでるな。傭兵か?」
おぞましい表情で死んでいる男の死体の近くには、彼の得物らしき剣が落ちていた。刃こぼれを起こし、すぐにでも折れそうな状態だ。
外傷自体はそんなに深くはない。しかし、首を掻き毟った傷など、苦しんだ跡があることから、強い毒によって衰弱して死んだと考えられた。
恐らくミシェルとは別に退治を依頼された傭兵がジャイアント・スコーピオンの毒を浴びて、逃げてきたが力尽きたといったところだろう。
アニエスは男に祈りを捧げると、彼が残した血痕を目でたどる。
その先には薄暗い地下道が続いていた。水は流れていない、狭い道だ。
「あっちか……」
「そのようですね」
アニエスとミシェルは立ち上がり、血痕が続く地下通路へと歩いていく。
エレオノール達もその後に続いていった。
狭い、薄暗い地下通路が続く。血の跡はその暗闇の先へと続いていた。
ぴちゃ、ぴちゃと天井から水が垂れてくる。
ところどころで蜘蛛の巣が張っており、そのたびにエレオノールが悲鳴を上げた。
「ぐああ! 蜘蛛いやぁあ!」
「うっさいよ! ……たく。こっちは水が流れてないんだね」
「恐らく人が通るように作られたのだと思うが……」
そんな時、ある音がエレオノールの耳をくすぐった。
それに気が付いた彼女は悲鳴を上げるのをやめて、引き締めた表情になった。
こういうとき、自分が風のメイジであったことを呪いたくなる。蜘蛛と同じように、嫌な音だ。
――カサカサ、カサカサカサ
虫特有の足を擦る音が聞こえてくる。
それはエレオノールにとっても小さな音だったが、確実にこの先から聞こえてきた。
「いるわ。聞こえる、足音が」
「やはりですか。私には聞こえませんが」
「……私もです」
「風のメイジ特有の耳の良さだね」
エレオノールの言葉に三人は気を引き締めて歩き続ける。すると再び死体が見つかった。
通路に寄りかかるように死んでいる死体は、腕の部分が食いちぎられているようだ。
これも先ほどの傭兵の仲間なのだろうか。
「こいつは食われたようだな……。だが、待てよ……」
「どうかしましたか?」
「おかしいな。この傷は明らかに銃創だ。しかも比較的新しいぞ?」
「……? 確かに」
アニエスに言われ、他の者たちも、彼女が指差す場所を見た。
腹部には鎧を貫通して、脇腹にまで達していた。明らかに人間の手によるものである。
「この男が犯罪者か何かじゃないの? 衛士に撃たれたとか」
「で、ここに逃げ込んだらジャイアント・スコーピオンに襲われたってことかい?」
エレオノールの推察にロングビルが付け足すが、今一釈然としない事態に、エレオノールは首をかしげた。
「わからないけど……」
「……わからないが、とにかく進むしかないな」
『しゃあっ、気合入れて行くぜ!』
アニエスが代弁をし、背中のデルフリンガーを抜いた。デルフリンガーも久々の出番に気合が入る。
これだけの状態で事態を把握する事は出来ない。今はひたすら進むしかないのだ。
アニエスの言葉に全員が頷き、各々の杖剣を取り出す。
一歩、また一歩と足を進めていく。そして広い空間へと出た。
そこには壁に血がべっとりと張り付き、ジャイアント・スコーピオンの餌食となったであろう人間の骸骨がところどころに落ちている。
そして、中央には巨大なサソリがいた。大きな鉈、いやそれ以上の大きさを持つ鋏と鎧のような身体を持ち、
長い節くれだった尾からはドロドロと液体が漏れている。ジャイアント・スコーピオンだった。
「で、でっかぁ!」
「な、なによあれ!」
しかし、大きさが通常のものよりも段違いだ。
思わずエレオノールとロングビルは叫んでしまった。
アニエスとミシェルも、声に出していないが、冷や汗をかき、驚きを隠せないでいる。
長生きをしているせいか、それとも魔法か何かの影響で巨大化してしまったのか。通常の2倍はあるだろう。
4人に気が付いたジャイアント・スコーピオンは唸り声代わりに鋏を何度か鳴らして威嚇を行い、
そしてそのまま巨大な足を素早く動かして彼女らに襲い掛かった。
ロングビルとミシェルは大きく右に飛び、アニエスもエレオノールを抱きかかえて飛んだ。
エレオノールは襲い掛かってきたジャイアント・スコーピオンに恐怖を抱いて、涙目になりながらも魔法を詠唱する。
「ラ、ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース!」
氷の槍<<ジャベリン>>をいくつも作り出し、それを打ち出す。
だが巨大な尻尾に振り払われ、簡単に砕け散ってしまった。
アニエスも顔めがけて銃を撃つが、鋏に阻まれ弾かれた。
「くそ、こんなところじゃまともなゴーレムも作れやしないね!」
そう悪態をつきながらもロングビルは土弾の魔法を唱えた。
壁の岩が抉られ、砲弾となる。以前シエスタに向けて撃った土礫よりも、更に大きく硬いものだ。
先ほどのジャベリンと同じく、尻尾で砕こうとしたが全て破壊できず、一発がジャイアント・スコーピオンの身体を直撃した。
ジャイアント・スコーピオンは軽く怯んだが、大きな足で踏ん張った。
お返しといわんばかりに、尻尾の毒針をロングビル向けて突き出した。
「うわっと!」
ロングビルは身体を反らして間一髪それを避ける。毒針はそのまま壁を打ち砕いた。
彼女の背筋に寒気が走る。あれが少しでも当たれば、先ほど見つけた死体のようになっていただろう。
「はああ!!」
だがそれに恐れを見せず、ミシェルは怯んだ隙に背中に飛び乗り、ロングビルを狙った尻尾の節に斬りかかる。
幾ら硬い甲羅に包まれていようと、節の部分は柔らかい。
ミシェルの狙い通り、刃は節に上手く入り、尻尾は斬り飛ばされた。
続けてミシェルは背中へ剣を刺し込もうとする。
だがジャイアント・スコーピオンは器用にも横に転がり、背中にいたミシェルを振り落とした。
ミシェルは吹き飛ばされ、壁にぶつかり、軽い悲鳴を上げながら地面に落ちた。
ジャイアント・スコーピオンは転がった勢いで元の体勢に戻ると、そのままミシェルを鋏で真っ二つにしようと振りかぶった。
だがその鋏を飛び上がったアニエスが、落下の勢いを活かして硬い甲羅ごと斬り落とした、いや叩き割った。
普通ならば剣と人間の腕が持たないが、頑丈なデルフリンガーと鍛えられたアニエスの腕ならばできる荒業だ。
そしてそのままの勢いでアニエスはジャイアント・スコーピオンの顔を斬り裂く。
だが生命力の高いジャイアント・スコーピオンはまだ死なない。
残った左の鋏を振り上げ、アニエス向けて振り落とした。
アニエスは飛び上がり、それを避ける。
ミシェルに対しても足で踏み潰そうとするが、彼女は即座に距離を取って避けた。
『相棒、飛び込んでくるぜ、潜れ!』
「わかっている!」
デルフの指示通り、ジャイアント・スコーピオンは宙を飛び、アニエスを押しつぶそうとしてきた。
アニエスはその巨体を潜り抜ける。
ジャイアント・スコーピオンは振り向きざまに鋏で殴りつけようとした。
その時、その巨体が少しだけ宙を浮いたのをエレオノールは見逃さなかった。
「イル・ウィンデ!」
エレオノールは、ストームの魔法でジャイアント・スコーピオンの身体の下から吹き上げるように竜巻を起こし、ひっくり返そうとした。
母の烈風ほどではないが、彼女もまたその娘であることを象徴するかのように、
強い竜巻がジャイアント・スコーピオンの身体を吹き上げ、そして宙に浮き、反転して地面に落ちた。
「おっと、動くんじゃないよ!」
もがき苦しみながら立ち上がろうとするジャイアント・スコーピオンの身体をアース・バンドの魔法で固定した。
ジャイアント・スコーピオンはそのまま動けなくなる。
土のトライアングルであるロングビルもかなりの実力者だ。
普通ならば多少の時間稼ぎぐらいしか動きを止められないアース・バンドの魔法を強化し、
ジャイアント・スコーピオンの動きを完全に封じるまでに底上げしている。
そしてむき出しになった柔らかい腹にアニエスとミシェルが飛び乗り、それぞれの得物を突き刺した。
鋏をばたばたと動かしてもがくが、段々と衰弱し、そしてピクリとも動かなくなった。
「ふぅ……」
『なんでぇ、案外楽勝だったな。大したことねぇ』
アニエスが額に流れる汗を拭い、デルフについた体液を振るうと、デルフは不満気に呟いた。
どうやらあっさり勝負が付いてしまったことが気に食わないようだ。対称的にアニエスは緊張感から解放され、ため息混じりに肩の力を抜いていた。
「なんだい、情けない」
剣を収めながら礼を言うミシェルに、ロングビルは豪快に笑いながら胸を張った。
それに対して、エレオノールは満身創痍な状態で、応えることすらままならない。どうやら先ほどの酒が今頃になって効いてきたようだ。
そんな彼女をロングビルは呆れた表情で見ていた。
「はぁ……疲れた……!?」
エレオノールはその場に座り込んだ。だが、右手にぬちゃ、と気持ち悪い感触に気が付き、そちらのほうを見た。
3体目の死体がエレオノールを凝視していた。
彼女は悲鳴も上げることすらできず、転がり込むようにアニエスの下へ逃げ込んだ。
アニエスはエレオノールを抱きかかえながら、その死体を見つめる。
「他の骸骨に比べてやはり新しい……。やはり、先ほどの傭兵の仲間かもしれないな」
死体はやはり傭兵のようだ。かなり食い荒らされているが、腐食自体はあまり進んでいないようだ。
アニエス達はその傭兵に死を悼む祈りを捧げると、辺りを見回した。
「この部屋にこんな巨大なサソリがいるのも怪しいな……。どうやってここへ入りこんだ? 侵入した形跡がない」
「確かにおかしいね。小さい奴がここへ紛れ込んで成長したにしても……」
アニエスの言葉にロングビルは頷きながら辺りを見渡す。すると、始めにジャイアント・スコーピオンが居た場所を見る。
そこには一つの通路があった。
「あそこに通路があるね」
「……このジャイアント・スコーピオンはあの通路を守るために配置されていた?」
「餌は人間を与えていたって事? 誰がそんなことを……」
エレオノールが気持ち悪そうに吐き捨てる。辺りに落ちている髑髏の数は異常だ。
これは人為的にここへ放り込んでいたとしか思えないが、それが誰の仕業か、それまでは想像が付かない。
いや、想像もしたくもなかった。
「……」
「ミシェル?」
そんな中、ミシェルが一人塞ぎこむように、死体を見つめているのをアニエスが気が付いた。
アニエスの声にも気が付かず、ジェシカは死体を眺めている。アニエスは彼女に歩み寄り、肩を叩いた。
「大丈夫か?」
「あ、いえ……申し訳ございません。それよりも、これ以上捜索は我々だけでは危険です。
一度上に戻りましょう。ジャイアント・スコーピオンの退治は終わったのですから」
「そうね。こんな気味の悪いところ、早く離れたいわ。あとは王室に報告して解決してもらいましょう」
ミシェルは、はっと我に返り、アニエスに頭を下げつつ、これ以上の探索を中止しようと提案した。
それにエレオノールも賛成し、急かすように言った。
「これ以上は料金の範囲外だからね。あたしも賛成よ」
「……仕方ない。では戻るとしましょうか」
納得していない表情のアニエスだったが、ロングビルも二人に同意したため、仕方なく、彼女たちと一緒に戻っていった。
だが、しばらく歩いてエレオノールが振り向くと、そこにはアニエスとロングビルの姿が無くなっていたのだった。
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以上です。今回はかなり短めに切りました。話的にはもう一話アニエスパートが続きます。
伯爵頑張れよ!という意見が出てますが、本当ですね、はいw
そろそろ主題であるアニエスの復讐話に戻したいと思ってます。
今回は3パート(本当は2パート)に分けましたが、これを一つにまとめるのと、
短くとも分割するのではどっちが良いんでしょうか?
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代理投下終了
虚無と烈風氏も虚無と銃士氏も乙です。
もしトリスティン魔法学校が男子校だったら?
女の子にしか見えない男の子たちがキャッキャウフフするゼロ魔
・・・女子高でいいじゃねえかよ
ギーシュとかキュルケとか子供作ったりできたりして問題になりそうなので性別が一種類しかいない学校へ
もちろんマチルダも男
もしもカリンちゃんが創価学会員だったら
もしもルイズが馬鹿にされすぎて学院内でヤンキーになってたら
授業をバックれてしょっちゅう舎弟のサイトと遊び歩く
フーケを捕まえても仁義で逃がす
よくギーシュやマリコルヌの玉を蹴る
>>456 オスマン「本日は重大なお知らせがあります。我が校は……………………男子校です」
いっそのこと男子校と女子校に分けちまえ
烈風の人も銃士の人も代理の人も乙です。
どれも話が急展開してるなぁ。
烈風については急展開というかクライマックスだけど。
イザベラ様に救いが見えねえ……
もしもルイズが貧乳じゃなかったら?
節子、それルイズちゃう、カトレアや
もしルイズが執拗に金玉をける女だったら?
468 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/06/22(火) 14:24:58 ID:Z/E8R0N/
ギーシュ「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。したがって、青銅のゴーレム『ワルキューレ』(身長57m、体重550トン)がお相手するよ!」
サイト「こいつ絶対ドットじゃねえ!?」
そのゴーレム、五体で合体してとどめが「超電磁スピン」だなきっと。
逆に考えるんだ。
ドットでそのレベルならライン以上だとどんなバケモノを錬金するのか…
そう、考えるんだ。
えっと、ガンバスター?
>>468 とりあえず、そのギーシュの二つ名は超合金とかブリキ(頑丈な合金です)とかではないんかい?
避難所に虚無と銃士さん来てましたんで五分後から代理投下します!
※今回もちょっと残酷表現あり
暗闇の地下道の中。アニエスとロングビルは、エレオノールとミシェルからこっそり離れ、
ジャイアント・スコーピオンの居た場所を更に奥へと進んでいた。
同じような地下通路がずっと続いている。この辺りは整備もされていないのか、ところどころにひび割れやコケが生えていた。
アニエスはカンテラで前を照らしながら、ロングビルに声をかけた。
ちなみに今の彼女は、精神力を温存するためにライトの魔法を使っていない。
「しかし、料金外だったんじゃないのか?」
「いいんだよ。ここからは特別サービスさね」
確かに、彼女は先ほど『これ以上は料金外』と言っていた。だが気にすることなく、先に離れたアニエスの後を追ってきた。
しかも、他の二人をちゃっかり置いてきている辺りが、彼女らしい気遣いに思える。
「余計な心配、掛けたくないんでしょ? まあ、こうやって置いていくほうが心配かけてると思うけどね」
「……全くだな。しかし、乗り気じゃない二人をこれ以上つき合わせるのもと思ったんだ」
「それだったら、普通に家に帰ってから、もう一度自分だけ行けば良いんじゃない?」
「……こういうのは早さが大事なんだ」
「そう言うことにしておいてあげるよ」
冷静を装っているアニエスの言い訳に、ロングビルは苦笑しながらそれ以上突っ込むことをやめた。
冷静で判断力のあるように見えるアニエスだが、天然なところもあった。そこが可愛いのだが。
と、暫く歩いて道が二手に分かれているのに気が付く。
真直ぐと左。どちらに行ったものか。アニエスは腕を組みながら悩んでいた。
「……足跡だ」
「え?」
「ほら、よく見てみな」
ロングビルが地面を指差すところをアニエスが見つめると、そこには僅かに人の足跡が残っていた。
僅かではあるが、大きな男のものだ。
「よく見つけたな」
「まあ、ちょっとしたコツがあるのさ。……この足跡を信じると、左ね」
「左か。よし、行ってみよう」
第19話
ロングビルの言葉を信じ、アニエスは左のほうへカンテラを向けて歩き出す。ロングビルもその後に続いた。
地面を歩く音があたりに響き渡る。とても静かな場所だ。ネズミたちもここには近づかないのか、その気配すら感じられない。
そんな静寂に二人は暫く身を任せていたが、少しして根を挙げたロングビルがアニエスへ背中越しに声をかけた。
「何で奥へ行く気になったんだい?」
「ん? いや、ただ気になっただけさ。こういう中途半端に終わるのは気持ち悪くて仕方ないからな」
「それは同感だけど……」
「ロングビルは何故私についてきてくれたんだ?」
納得していない様子のロングビルにアニエスは逆に質問を返した。彼女とて、アニエスに付いていく義理などないはずなのだから。
「……まあ、あのルイズの姉貴だしね。生徒の親族に、もしものことがあったら大問題でしょ?
だから監督官代わりよ」
「あはは、姉妹一緒にお世話になるとは。ロングビルには本当感謝の言葉がないな。
……ありがとう、これからもルイズをよろしく頼む」
「……あーその事だけどね」
と、アニエスが感謝の意を示すと、ロングビルは突然立ち止まって、申し訳なさそうに頭を掻いた。
アニエスも足を止めて、訝しげにロングビルを見つめた。
「どうかしたのか?」
「……実は、実家に帰ることになってね。故郷のアルビオンがきな臭い事になってきたからさ。
実家にいる妹が心配なんだよ」
「なんだと、そうなのか……。それは残念だが、ううん、確かにアルビオンは最近情勢が不安定だからな」
アニエスの言葉通り、浮遊大陸にある白の国『アルビオン』は情勢が不安定となっている。
レコン・キスタと名乗るアルビオンの貴族達が王政に対し、革命の名の下に叛乱を起こした。
王党派と貴族派と別れた彼の国は、激しい内乱状態にあるらしいという話を、アニエスは新聞で読んでいる。
そして貴族派が優勢であり、今にも王家は倒れそうだという事も、知っていた。
王党派が倒れれば、次の標的はトリステインになるのではという情報もある。彼女にとっても無関係な話ではない。
「故郷の妹を思う気持ちはわかるよ。それなら私に止める権利はないな」
「悪いね。その、散々世話になったのにさ」
「何。さっきも言ったが、世話になったのはこっちのほうさ。貴女は今までルイズの事を
励ましてくれた。感謝の言葉も思いつかないが、何か力になれることがあれば言ってくれ」
「……ありがとう、アニエス」
アニエスは笑みを浮かべ、ロングビルの手を取り、深々と礼を言った。
ロングビルは恥ずかしそうに俯きながら、アニエスに感謝の意を返す。
そして二人は再び捜索へと戻った。
その頃、エレオノールとミシェルは。
「ぜぇぜぇ……あぁもう! あの馬鹿何処行ったのよ!」
「まさか途中でいなくなるとは……。油断していました」
「左か真直ぐか……」
「どちらでしょうか?」
「私がアニエスなら」
「なら?」
「真直ぐだわ! 私に続きなさい! うっぷ、ちょ、ちょっと気持ち悪い……」
「……大丈夫か?」
間違えた方向へと向かっていた。
さてそんな二人を差し置いて、アニエスは地下道の脇にあった扉を開き、部屋の中へと入っていった。
部屋にはランプが壁に設置され、所々に机や椅子、散らかされた食べ物など荒れた様子ではあるが、人が生活していたような跡がある。
奥のほうには木箱も積まれていた。食料でも積み込まれているのだろうか。
「かぁ、こりゃ酷いね。どんな奴が生活してんだか」
「少なくとも野盗の類かそれに近い連中……かもしれないな。
しかし、わざわざあそこにジャイアント・スコーピオンを置いたのは何故だ?」
「ただの野盗、ではなさそうだね。……アニエス」
「何だ? ……承知した」
部屋の中を物色しながら考え込むアニエスとロングビルだったが、ロングビルが何かが近づいてくる音を察し、
アニエスに目で知らせた。アニエスもそれで察し、カンテラの火を消し、足音を立てずに扉の近くへと走った。
そして差していたナイフをロングビルに投げ渡す。ロングビルはそれを受け取り、暗闇に身を潜める。
――しっかし……も……だな
――しかた……か…もらってるんだからよ
少しずつ近づく声。アニエスとロングビルは息を潜めて、それがここへ来るのを待つ。
そして、外から男たちが中へと入ってきた。
「はぁ、早く解放されてえな」
「全くだ……ぐえぁ!」
一人が中に十分入り、後続が部屋に入った瞬間を見計らって、アニエスがその男に対し、溝打ちを食らわした。
男は軽く悲鳴を上げながら、身体をくの字に折らして、膝をつきながら地面に倒れて、泡を拭いて気絶した。
もう一人が慌てて構えようとしたが、ロングビルが密かに後ろを取り、男の口を塞いで膝を落とさせ、ナイフを首筋に当てて無力化した。
「見事だな」
「何、これぐらい出来なきゃ生きていけないわ。さて、正直に答えれば何もしない。騒げば……承知?」
感心するアニエスを尻目に、ロングビルは男への尋問を始めた。男の格好はまるで鉱夫のような格好だった。
男は必死にロングビルの言葉に、縦に首を振った。念のため、アニエスも銃を抜き、男へと向ける。
ロングビルは男の口を解放し、質問した。
「ここで何をしてるの?」
「お、俺はただ、頼まれて、下水道に穴を開けてるだけだ……」
「下水道に穴を? なんでそんなことしてるの?」
「し、しらねぇ……本当だよ! お、お願いだ、助けてくれ……」
男は震える声で必死に答える。
ロングビルにナイフを更に押し当てられ、血が首筋より流れても返答が変わらないところを見れば、どうやら本当に何も知らないらしい。
「金で雇われたのか?」
「あ、ああ、そうだ。大金をくれたからな……。じゃなきゃこんな気味悪い場所で穴なんか掘るかよ!
出口はジャイアント・スコーピオンにふさがれるしよ……」
「そうか。他に雇われた奴は?」
「お、俺を含めて8人だ。平民の土のメイジも1人、いる」
「そうかい。……だってさ、どうしようか?」
「いよいよきな臭くなってきたな。この先は行くべきか、戻るべきか……」
アニエスは眼鏡の位置を直しながら、ロングビルに尋ねた。
ロングビルも考えあぐねているのか、腕を組んで首をかしげながら、うぅんと唸っていた。
と、そんな二人にすがるように、男は震えている口で尋ねた。
「な、なあ……俺はどうなるんだ?」
「さあな。だが無断でトリスタニアの人々の生活を支える下水道に細工をしたんだ。それなりの罰は覚悟することだな」
「そ、そんなぁ……」
「罰、ねぇ」
ロングビルは、アニエスが男に容赦なく言った事を反芻するように言葉を吐きながら眼鏡の位置を直した。
そんな様子に気が付かず、アニエスは少し呆れたような表情で、後悔している男にそれとなくフォローを入れた。
「しかし、過失ということもある。今なら自白して、貰った金を国へ返金し、首謀した者を告げれば罪は軽くなるだろう。
この国にも、それぐらいの容赦はあるだろうさ」
「ほ、本当か?」
「それはお前次第だな。……首謀者は奥か?」
「あ、ああ、そうだ」
「そうか。じゃあお前は早く仲間たちを連れてここを出て、自白することだな。
出口のジャイアント・スコーピオンならもういないから、簡単に出れると思うぞ」
「ほ、本当か!? ああ、良かった。いや、わかった、もうこんなことしねぇよ……」
男は力なく項垂れた。どうやら本当に懲りた様子だったので、ロングビルも拘束を解いてやり、男の背中を押してやった。
男は押されるがままに扉へと歩き、気絶した仲間を肩に背負うと、アニエス達にペコペコとお辞儀して、その場から逃げるように、
彼女達が来た方向へと走り去っていった。
「ねぇ、アニエス……」
「何だ?」
「……罪は誰が罰するの?」
「……どういう意味だ?」
「……正直に言うよ。私は貴族が嫌いだ。あいつらは勝手な罪をでっち上げて、
何の罪もないやつを虐げるじゃないか。あいつらこそ、罰せられるべきじゃないの?」
しえん
辺りに静寂が走る。ロングビルの言葉も一理ある。だからこそ、アニエスは何も答えられなかった。
故郷を焼かれ、その復讐を誓うアニエスも、実権を握り、傲慢の極みを超えた貴族達こそ、本当に粛清されるべきではないかと思っている。
勿論、自分を娘として扱ってくれるラ・ヴァリエール家や、癖があるが決して悪い人間ではないグラモン家など、良い貴族もいるから一概には言えないが
そしてなにより、復讐をする自分にだって、罪はある。
強くなるために多くの人間を殺し、そして踏み台にしてきた自分にも。
いつか自分も罰せられるだろう。しかしそれは誰にだろうか。親か、国か、神か。
「罪は罰せられるべきだ。それがどんな事情があってもだ」
「それを罰するのは誰なんだい? まさか、神様なんて安直なこと言うんじゃないだろうね」
「……」
「……」
「……もし、国が、いや神が罰せないのだとしても、誰かの手でやるしかないさ。それが自分自身の手であってもだ」
「……自分自身、ね。なかなか面白い事を言うじゃないか。自分の罪は、自分で罰する、ね」
「私も、沢山の罪を背負ったと思う。それを罰せられるのは、私自身しかいないんじゃないかと思ってる。
……すまない、上手く言えないな」
「いや、こっちも変なこと聞いて悪かったよ。さ、行こうじゃないか」
一方のエレオノールとミシェルは。
「……行き止まりね」
「そうですね」
まだ迷っていた。
「ところでさ」
先ほどの部屋から出て、更に奥へと向かう二人。そんな中、ロングビルは不意に声をかけた。
アニエスは視線を前方に向けたまま答えた。
「何だ?」
「あたしとエレオノールでさ、行き遅れ同盟なんて勝手に組まれてるの知ってる?」
「ああ、まあ。……正直申し訳ない気持ちだよ」
以前酔ったエレオノールから聞かされた事があった。
ロングビルとエレオノールが初めて出会った頃、結婚できないエレオノールの事をロングビルが茶化し、派手な喧嘩を起こした。
その時は結局決着が付かず、引き分けとなったが、なかなかの魔法の腕を持つロングビルをエレオノールが認め、それ以来仲が良くなったのだ。
お互い20代も超え、貴族の一般的には『行き遅れ』のレッテルが貼られてしまう年代となってしまった。
(アニエスとしてはまだまだ若いと思うのだが、貴族社会は厳しい)
その哀愁を(エレオノールが一方的に)共有しようと組まれたのが、『行き遅れ同盟』というわけである。
なんとも自虐的な名前だったが、アニエスはあえて突っ込む事はしなかった。野暮だからだ。
「それは、まあ別にご勝手に、てな感じなんだけどさ。あたしはあんまり男には興味ないんだけど……。
……あんたも入ってるの知ってる?」
「何!?」
それは全くの初耳だった。確かにアニエスはロングビルと同年代である。
確かに貴族の年齢から考えれば行き遅れ、なのかもしれないが。それにしたって少し酷い気がする。
アニエスは平民上がりだ。彼女が本当の貴族と結ばれることなどないだろうに。
「あいつ、一度ぶん殴ったほうがいいと思うよ」
「検討しておく」
アニエスは呆れたようにため息を吐きながら、項垂れる。どうせまた酔っ払った勢いで言ったに違いない。
そう思い込んでおくことで、苛立ちから逃れることにした。
以前よりもエレオノールの刺々しい雰囲気と言うのはなくなってきた。
だが、傍若無人ぶりは以前よりも増しているような気がした。恐らく、色々と箍が外れてしまったのだろう。
だが、そろそろ制裁を与えてもいい気がしてきた、とアニエスはこっそり感じていたのだった。
と、彼女は不意に足を止めた。
「……まあ、その鬱憤を晴らす丁度いい相手が、この先にいそうだ……」
「……確かにね」
アニエスは目の前の扉を見つめながら、顔をにやけさせる。
扉の奥からは、なにやら下品な笑い声や歌や瓶の割れる音などが聞こえてくる。
どうやら中では宴会が行われているようだ。
先ほどの男の話が正しければ、この先に下水道に穴を開け、道を作ろうとしているものがいるはずだ。
ロングビルも腰に手を当てて、ふっと含み笑いを見せながら答えた。
二人は各々の得物を抜いて、気合十分に臨戦体勢へと入った。
ロングビルは精神力が尽きることを考え、先ほどアニエスから貰ったナイフも抜いておく。
「よし、行くぞ」
アニエスは扉の前に素早く立つと、腰を入れて思い切り蹴り飛ばした。止め具ごと扉は吹き飛んでいった。
それに続いて彼女たちは中へと入っていく。
唖然とした表情で二人を眺めるガラの悪い男たちが十名ほど、アニエス達を見つめていた。
と、よく見ると扉の下敷きになっている男もいたが、気絶しているようだ。
そして奥の方でまるで玉座のような椅子に座った男が、片割れにいる女、いやまだ少女と呼んだほうが良いぐらいの女性を撫でながら眺めていた。
暗くて表情までは見えないが、他の男たちに負けるとも劣らず、偉丈夫そうで、悪人顔に見える。
「な、なんだてめえらは!」
男の一人がやっとのことで我に返り、アニエス達を指差しながら叫ぶ。
彼女たちはお互いの顔をしばらく見つめて、そして同時に名乗った。
「暇な水メイジの助手」「通りすがりの秘書教師」
「ばらばらじゃねぇか!」
「合わせろよ」
「んなもん、無理に決まってるでしょ?」
「ん、んなろぉ……なめてるのか?!」
完全に緊張感のない様子のアニエスとロングビルに苛立った男が得物を抜こうとした。
「待て」
それを玉座の男がゆるりと立ち上がりながら制止する。統率は出来ているようだ。
先ほどの男は渋々得物を収めて後ろへと下がる。玉座の男が一歩前進し、壁に掛けられたランプの光に身体を照らせる。
真っ赤な、炎のような真っ赤な髪だった。手には無骨なスタッフが握られている。どうやらメイジのようだ。
その隣を、娼婦のような格好をした少女が追従し、アニエスを指差しながら言った。
「あいつらだよ。私のスコーピを苛めたの」
「そうかそうか、なかなかの手練れみたいだな。で、こんな辺鄙なところまで何しに来たんだ?」
玉座の男が気だるい様子で、少女を撫でながらアニエスに問う。アニエスは銃を男に向けて言った。
「なに、下水道に不審な穴をあけている連中がいると聞いてな。
トリスタニアの人々の暮らしを支える下水道に悪戯をする不埒者を退治に来た。大人しく連行されろ」
だが男はその銃に臆すことなく、飄々と答えた。
「それはそれは、ご苦労なことだ。しかし、俺たちの計画を邪魔されても困るしなぁ……」
「計画だと?」
「そう、計画だ。俺の崇高な計画……。だが、それをお前たちが知る必要はない……。
全く、番人を倒したところで素直に戻れば良いものを……。悪いが、ここで死んでもらおう」
男が指を鳴らすと、辺りの手下たちが武器を構えてアニエス達のほうを向いた。
構え方を見れば、ただのごろつきではないというのがわかる。恐らく元傭兵や兵士と言ったところか。
男の側にいた少女もゆらりと首を揺らしながら、腰から杖を取り出した。どうやら彼女もメイジのようだ。
見た目は顔が整っていて純朴な少女だが、正常な人間には見えない。
「かかれ!」
玉座の男が叫ぶ。それと同時に手下の3人かが銃を取り出し、即座に撃ってきた。なるほど、先ほどの傭兵の死体は、この男たちにやられたようだ。
アニエスはその場から離れてやりすごし、ロングビルは錬金で壁を作り出して、銃弾を防いだ。
アニエスはお返しと言わんばかりに、銃持ちの1人を射撃する。
そしてホルスターに戻す一連の動作に加えて、腰から投げナイフを取り出して、もう一人へ投擲する。
3人の銃持ちの内、2人はアニエスの攻撃で倒れた。
残る一人も慌てて弾を込めるが、突如飛んできた岩に頭を撃たれ、そのまま倒れた。ロングビルの土弾だ。
アニエスはその正確な狙いに、ひゅうと口笛を鳴らしながら、一旦着地して闘争本能をむき出しに敵の中へと飛び込み、
屈強そうな男の顎を飛び蹴りで潰した。
着地して、続けざまに斬りかかって来た別の男に回し蹴りを溝へぶち込んで吹き飛ばす。
その腰の動きの反動を活かし、左から来た者を、その場で宙返りし、飛び踵落としを脳天に入れる。
まさに大暴れと言う奴だ。
「やるじゃないか」
ロングビルもアニエスの動きのよさに驚いていた。
エレオノールから正体をこっそり聞かされていたが、とても元平民の剣士とは思えないほど軽快な動きだ。力強くもある。
と、余所見をしていたロングビルに一筋の光が襲い掛かってきた。慌ててロングビルが身体を反らしながら後退する。
目の前には二体の、執事とメイドに剣と槍を持たせたゴーレムが現れていた。
「あんたの相手は私だよ、おばさん!」
そんなゴーレムに混じって、まるで舞踏するかのような動きで、陽気に笑ったアンジェラが斬りかかって来た。
だが目は笑っていない。それがこの少女の異常さを現している。
耐え難い嫌悪感を感じつつも、ロングビルはそれを紙一重で避けて、お返しにナイフで切りかかる。
アンジェラは踊るようにくるりと回って下がりながら避けると、代わりにゴーレムが襲い掛かってきた。
「ぐっ、どこぞの薔薇ガキのみたいな悪趣味なゴーレム作って……!」
ロングビルはアンジェラに反撃することが出来ず、ただ避けるしかない。
その彼女にアンジェラは容赦なくゴーレムに攻撃を続けさせていた。
「あはは、可愛いでしょ! この子達は私の忠実な下僕なのよ!
絶対裏切らない、優しくて、強くて、聞き分けの良い鉄の下僕よ! おばさんも私の下僕になってみる?」
「冗談きついんだよ! それにね……」
ロングビルは冷や汗をかきつつ、メイドのゴーレムの槍を潜り抜け、執事のゴーレムの腕を受け流しながら中へ飛び込んだ。
そして杖を当て、錬金の魔法を唱える。すると、ゴーレムは見る見るうちに土くれへと代わり、地面に散らばった。
「なっ! 私の下僕がぁ!」
「外面に拘りすぎて、中がスカスカなのよ。それに、あたしは、おばさんじゃないわ!」
ロングビルは力任せにアンジェラに斬りかかる。アンジェラはステップを踏んで後ろに飛ぶ。
そしてロングビルを睨みつけながら怒鳴り散らした。
「私のスコーピとセバスチャンをよくも壊したな! あんたなんか要らない! 死んじゃえ!」
アンジェラはメイドのゴーレムに命じ、槍をロングビルに振り下げようとする。
だがそのメイドのゴーレムも、横から凄まじい速度で飛んできた槍に串刺しになって壁にぶつかり、粉々になった。
ロングビルもぎょっと驚いた表情で飛んできた方向を見ると、アニエスが一人をデルフリンガーで切り裂いていた。
どうやら彼女が投げたのだろう。
「よくも、よくもよくもよくもよくもぉ!」
怒り狂ったアンジェラは壊れたアルヴィーのように、何度も同じことを叫びながら、目の前にいるロングビルに斬りかかろうとする。
ロングビルはナイフを構えてそれを待ち構える。すでに精神力は切れた。後は自分の肉体で戦うしかない。
なるべくは殺さずに済ませたいが……。
が、突如背筋に寒気が走り、ロングビルはその場から跳んだ。アンジェラの攻撃を避けたとしたら、愚策ともいえるような避け方だったが、
彼女はそんなものを相手にしているわけではなかった。
突然、アンジェラの身体を赤色の光が貫き、彼女の身体が炎で包まれる。
火達磨になったアンジェラはこの世のものとは到底思えない悲鳴を上げ、辺りに響き渡らせた。
ロングビルは転がりながら着地すると、玉座の男を見る。
玉座の男は、スタッフで手のひらを叩きながら、つまらそうな表情で燃え盛るアンジェラを見ていた。
「燃え方がいまいちだな……」
玉座の男が、燃え盛り、悲鳴を上げながらもがき苦しむ土のメイジの少女アンジェラを、
まるで芸術家が、自分の作品に納得しないかのような目で見つめている。
アンジェラは男に助けを求めるようにゆらゆらと近づこうとしたが、もう一発のフレイム・ボールに焼かれ、完全に燃え尽きてしまった。
『あの野郎……味方ごと焼こうとしやがった!』
デルフは冷静に状況を判断したが、その言葉の中には言い知れぬ恐怖感と怒りが混じっていた。
ロングビルと同じように同じように赤い光に襲われたアニエスは激昂し、男を睨みつけながら叫んだ。
「貴様、その少女は仲間だろうが! 何故焼いた、何故そんな目で見ている!」
「このガキを拾ったのは俺だ。それをどう扱おうと俺の勝手だろう? 何故そんなに怒っているんだ?
お前たちに取っちゃ、敵が一人減って嬉しいだろう?」
「外道が……!」
アニエスの瞳が怒りに満ちて赤く光る。だが、男は高笑いして、悦の表情を浮かべた。
「おお、そうだ。俺は外道さ。だが、そんな俺を産んだのはこの国なんだぜ?」
男は腰から壜を取り出し、中に入っている液体を一気に飲み干す。男の顔が先ほど以上に悦に緩んだ。
「……何だと?」
「くふふ、俺はな、昔アカデミーにいたのさ……。俺は所謂"忌み子"だったからな。
幼い頃から実験材料さ。……色々と実験を施され、そして火の実験部隊で一つの村を焼いた」
その言葉を聞いて、アニエスは目を見開いた。そして顔を伏せ、右手に握ったデルフを振るわせていた。
「確か、ダングルテールと言ったか。……あんな寒村を焼いて、何の目的だったかわからんが、そんなことはどうでもいい。
……あの時は良かった……。一番充実していた、生きている気がしたな。人が燃えたときの悲鳴、炎の形……どれも素晴らしかった」
「そうか……。よもや、こんな時に、仇と出会えるとはな……。陽炎の時もそうだったが、いや、私はつくづく運が良いらしい……」
「ん? 何を言っているんだ、お前は。良く聞こえんぞ」
「ふふ、ふふふ……くは、はは、はははは、はっはっはっは!!」
始めは小さく、だがすぐに耐えられなくなったのか、アニエスは高らかに笑った。
よもや偶然。ただのジャイアント・スコーピオンの討伐に来ただけだったのに、故郷の仇討ちが出来る機会が与えられるとは。
アニエスは笑った。ひたすら、ひたすら笑った。
その希有な運命に感謝への歓喜と目の前に居る男が為した事への激怒、そして復讐心。
彼女の中で色んな感情が混ざり合い、それが笑いと言う形であふれ出てきた。
ロングビルは息を呑みながら彼女の様子を見る。そこには、ルイズの優しい姉の顔など、
エレオノールに付き合いながらも幸せそうに生きる妹の姿など、一切なかった。そこにあるのは復讐鬼。
彼女が、いやマチルダ・オブ・サウスゴータが一度味わった感情をむき出しにしている。鬼だった。
男は不審そうにアニエスを見ている。だが、アニエスはそんな彼などお構い無しに笑い、そしてゆっくりと落ち着かせていった。
冷静な表情の中にも、瞳には怒りを表し、そして口元には笑みが含まれていた。
「感謝する」
「あっ?」
「お前が外道でよかった」
アニエスはデルフリンガーを構え、強く足を踏み込む。
「殺すことに躊躇する必要は、なさそうだ!」
アニエスはゆらりと身体を動かし、そしてまるで爆発したかのように急激に速度を上げて走り出した。
突然の動きの切り替えに男は驚き、慌てて詠唱を始めた。
いくらアニエスの動きが早いとはいえ、十分の距離はある。男は火の玉を5つ作り出し、
アニエスへと飛ばした。ライン・スペルである『フレイムボール』にそっくりだが、追尾する様子はない。
その代わり、速度が異常に早かった。早すぎて軌道に残像が浮かんでいる。あれが光に錯覚させた原因だろう。
『さあ、行こうぜ相棒!』
だがアニエスは前進を続けながら避ける。一撃一撃の軌道を先読みして、ギリギリのところで避ける。
そのアニエスをデルフが鼓舞するように叫び、アニエスも頷いた。
『相手の魔法を恐れなさい。魔法は貴女の命を奪うもの。故に、その恐怖から目をそらさず、どうすればいいか、瞬時に判断しなさい』
母カリンとの修行で学んだこと。魔法を恐れずに突っ込むのではない。恐れ、そして目を背けないこと。
勇気だけでは、何者にも勝てないということ。
かつて蛮勇ゆえに命を落としかけたカリンが、『サンドリオン』という男から学んだことだ。
アニエスはその教えを守った。
だが男も魔法の使い方が上手い。まるで精神力が無限大にあるかのように、絶え間なくフレイムボールを作り出し、アニエスに放つ。
それも時間差を置いて、確実に『一撃』を与えるために。アニエスが地面に着地した。その一瞬の隙を男は見逃さない。
――チェックメイトだ
男はそう確信する。そう、アニエスの持つ剣が『普通の剣』であれば。
アニエスはデルフを軽く、前方に回転させるように投げた。
フレイムボールはデルフの刀身にぶつかり、そして吸収される。
陽炎の戦いで明らかになった魔剣デルフリンガーの特殊能力だった。
予想外の出来事に、男は驚愕し慌てふためいた。
「な、な!?」
『ごちそうさん。悪いな、おれっち魔法食べちゃうのよね』
アニエスはデルフが魔法を吸収しきったのを確認してから柄を掴むと、勢いをつけてそのまま呆気に取られていた男へ投げつけた。
デルフは男の杖を指ごと吹き飛ばした。そして吹き飛ばされた勢いで、男も軽く吹き飛びながら倒れる。
「チェックメイトだ」
アニエスはそう呟きながら、男へ素早く近づいて腹を思い切り踏み、拘束する。男は肺の中の息を吐き出し、苦しそうに咳き込んだ。
更に彼女は銃を取り出し、装填して男へと向けた。
前髪で、片目が隠れてしまっている。だがそれが、男の一層彼女への恐怖心を煽った。
何だ、この女は。
「お、お前は……何者だ……」
「ダングルテールの亡霊……とでも言っておこうか」
「く、くっくっく、そうか。お前は、あの焼いた、村の生き残りか……」
男は震える口で笑う。矜持か、それとも。だがアニエスはそんなことを気にする余裕も必要もなかった。
男は震える口で笑う。矜持か、それとも。だがアニエスはそんなことを気にする余裕も必要もなかった。
「そうだ。さあ、吐け。お前達に我が故郷を滅ぼせと命じた者を。その名を言うんだ。そうすれば、最期くらい楽に死なせてやる」
「残念だったな……。俺も、お前と同類だよ……」
「……何だと?」
男は荒く息を吐きながらアニエスに笑いかける。
「あ、あいつは……俺たちを使い捨てにしたんだ……。俺たち、『魔法研究所実験部隊』を、隊長も、いなくなって、必要なくなった俺たちを。
だから、殺してやろうと、あいつの全てを焼き払ってやろうと思ったんだ……」
「その隊長の名は? あいつとは誰だ!」
「へ、へへ……」
「答えろ!」
アニエスは男に掴みかかる。だが、男は笑いかけながら、誰に向けることなく語り始めた。
すでに正気などないようにも見える。
「俺たちは……よ、汚れ仕事を、国のために……。忌み子である俺は、俺は……親に捨てられても、忠を尽くしてきたのに……結局……、結局」
と、突然男の言葉が止まる。そして閉じかけていた目をギン、と命一杯開き、そして続けざまに瞳孔が開いた。
アニエスは思わず後ずさりして、男から距離を離す。
「ぐっううあ、あああああ!! く、クスリが、薬がぁぁ!」
男は顔を覆いながら、苦しそうにもがく。そして男は落ちていた杖を握ると、突如自分の体を焼き始めた。
火達磨となった男は、悦の笑みを浮かべながら、ゆっくりとアニエスへと近づいていく。
「へ、へへ……これだよ、この温かさが……炎だよ……」
「くっ!」
アニエスは銃を構え、男の眉間に打ち込んだ。だが男はまだ止まろうとはしない。デルフは放してしまった。
残る武器であるナイフを構え投げようとする。だがその前に、男の身体がデルフによって貫かれた。
デルフを抜かれた男は力尽きて地面に倒れ、そして跡形もなく燃え尽きた。デルフを刺したのは、ロングビルだった。
「ったく、重い剣だね、こりゃ……」
『そりゃ姉ちゃんの腕力のせいさね』
「……大丈夫かい?」
ロングビルは呆然としているアニエスに声をかけるが、何も答えず彼女はロングビルから目を背け、壁に向かって拳をぶつけた。
「また……。また、何も掴めなかった……!」
「……あんた」
「くそっ! くそ、くそぉ!」
何度も何度も壁に拳をぶつける。たとえ拳から血が出ても、アニエスはやめなかった。
そんな様子をロングビルはただただ眺めるしかない。
「やっと追いついた……って、どういう状況よ、これ!」
それは、エレオノールとミシェルが追いつくまで続けられていた。
「……今回の件は本当に感謝いたします。まさか、あのような連中までいるとは、思いもしませんでしたから」
エレオノール達が地上に戻ると、辺りはすでに夕暮れ時を迎えていた。衛士に通報し、先ほどの男の仲間たちは全員捕縛された。
排水溝の近くで、ミシェルはエレオノール達にお辞儀をした。アニエスは、少し離れた場所で一人考え込むように座り込んでいた。
そんな彼女にミシェルは注意をした。
「ですが、あまり勝手な行動をなさらないよう、お願いいたします。今回は上手くいったからよかったものの。
アニエス、一歩無茶すれば貴女が……」
「もう、いいだろう、その話は……」
散々帰り道にエレオノールとミシェルから聞かされたことだった。
だがそれを聞き入れられるほど、アニエスに余裕はない。
確かに復讐は叶った。だが、根本的な事はまだ終わったわけではない。
しかし、その手掛かりも潰えた。また一から探さなければいけない。
それに、何故か虚しかった。
実験部隊にいたと言った男の哀れな結末。確かに、あの男のやったことは許されない行為だ。断罪すべきだっただろう。
だが、何故こんなにも虚しいのか。
「……まあ後は私がきつく言っておくから。貴女はご主人様に報告に行ったらどうかしら?」
「……しかたありませんね、わかりました。アニエス、また機会があればお会いしましょう」
「待て」
ミシェルはエレオノールの言葉に従うように、一礼してその場を後にしようとする。そんな彼女をアニエスは暗い口調で呼び止めた。
「……お前の任は、本当にあのジャイアント・スコーピオンの討伐、だったのか?」
「……? そうですが」
アニエスの問いにミシェルは迷いなく答えた。アニエスは不審な目でミシェルを見ていたが、
それでも変わらない彼女の瞳に押し負け、再び目を伏せて言った。
「……そうか、ならいいんだ。すまない」
「何があったかはわかりませんが……。アニエス、あまり無茶はしないように。力になれることがあれば、いつでも手を貸しますから」
「ありがとう……」
「では。他の皆様もどうかご壮健に」
ミシェルはアニエスを心配そうに見つめながらも、一礼をしてその場を去った。
その姿が見えなくなったのを見計らって、エレオノールはアニエスの許に歩み寄った。そして、胸元から一つの小瓶を取り出す。
それは男が飲んでいたものと同じものだった。どうやらどさくさに紛れてかすめたらしい。
「……あそこに残されていたこの薬は、どうやら精神力を膨れ上がらせ、一時的に魔法の効果を挙げる秘薬のようね。
そう言う類の薬は麻薬のような効果もあるから、禁薬だけど……」
「そうか、だからあいつは最期に苦しんだんだね。依存症かね」
「薬の効果は使えば使うほど薄くなる上に持続性がなくなる。
……アニエスと戦ったその男も、アカデミーに翻弄された犠牲者なのかもしれないわね。
まあ、そうは置いておいて、アニエス!」
「何です」
名を呼ばれ、アニエスは気だるそうに顔を上げた。その瞬間、エレオノールの拳が脳天に飛んできて、
ゴンッ! と気持ちいい音があたりに響き渡った。
「かっ!? な、何を!?」
アニエスは涙目になりながらエレオノールを睨みつけるが、それ以上の凄みで彼女はアニエスを見下ろし、そしてほっぺをつねり始めた。
「あんたね、勝手に離れて! 心配したのよ! 何でも一人で詰め込みすぎないで、もっと姉を頼りなさい! 家族でしょうが!」
「しゅ、しゅみましぇん……」
「はっは、やっとアニエスも元の調子に戻ったね」
そんな二人にロングビルも安心したように笑った。そして少し肩を回すと、アニエスに尋ねた。
「……あんたも私も、色々と過去に事情があるみたいだね。そこの暢気に生きてる27歳と違って」
「な、何ですって!?」
「ただ、あまり拘り続けるのも駄目よ? 大事なもの、一杯あるみたいだしさ。それまで見失っちゃ、また悲しい目に遭うさね」
「……ありがとう、ロングビル」
『はは、よかったな、相棒。いい仲間に恵まれてよ』
「……本当、そうだな」
アニエスはロングビルの優しい言葉に感謝した。もしこれでエレオノールがいなければ、ロングビルがいなければ。
デルフがいなければ心が折れていたかもしれない。
「いいって。さぁてと、今から学院に戻るのも時間が掛かるし、宿でも取らないと……」
「あら、じゃあ私の屋敷に来れば良いんじゃない。風呂も貸すわよ。そんな泥だらけで帰ったら、変に思われるでしょ?」
「いいのかい? 平民のメイジなんて連れ込むなんて怒られるんじゃないの?」
「昔なら私も気にしてたんだけどね。アニエスが来てから馬鹿らしくなってきて」
「ははは、確かにあんたは『平民如きが!』とか似合いそうだね」
「どういう意味よ、それ。……ほらアニエス、行くわよ!」
「……はい」
催促されて、アニエスは立ち上がり、二人の後を歩いた。
今は、何もかも忘れよう。ただこの優しい姉の許で、ゆっくりとしたい。そう、アニエスは思っていた。
「それにしても……」
「ん? どうかしたのかい? 妹の過去でも思い出した?」
「んー……そっちじゃなくて。あのミシェルって子、何処かで見た事がある気がするのよねぇ。
私がもっと子供の頃に……。ううん、でも他人の空にかもしれないし、意外と記憶って曖昧なのかしら?」
「そうかもねぇ」
三人と別れた後、ミシェルは貴族街にある、とある屋敷へと向かっていた。
そこはミシェルが今世話になっている貴族の屋敷の一つであり、そして今回『ジャイアント・スコーピオン』の討伐を依頼した人間でもある。
ミシェルは警備兵に顔を見せて門をくぐり、屋敷の奥へと進んでいった。
外はすでに日も暮れていて薄暗いせいか、何処となく暗い雰囲気が立ち込めている。
ミシェルがある一室の扉の前に立つと、彼女はノックをした。
「誰だ」
「ミシェルです、閣下」
「おお、そうか。入れ」
中からは、威厳のある、大分歳を食った男の声が聞こえてきた。ミシェルは許しを得て中へと入っていくと、
そこには大きな椅子に腰掛けている貴族の男と、そして窓の近くには背の低い、腰に剣を差した女がいた。
何処となく雰囲気が、誰かに似ているような気がしたが、何かが可笑しいようにも見えた。
ミシェルが訝しげにその女を見ていると、女は不敵な笑みを見せてきた。どことなく胡散臭い女だ。そうミシェルは感じていた。
そんな彼女に、男は諭すように言った。
「そこの女は私の知り合いだ、心配せんでよい」
「そ、そうですか」
「……で、報告があるのだろう?」
「はい。ジャイアント・スコーピオンは退治できました。……また先遣隊の死体も発見できました」
「そうかそうか、それはよかった。それで?」
男は先遣隊の死亡にも全く気にかける事はなかった。
「裏切り者はやはり、トンネルを使った襲撃を試みたようです。
……しかし、予想外の事が。その先にいた『裏切り者』を、雇った者が討ち果たしてしまいました」
「何だと? 奴は何か喋ったか?」
「いえ、彼女は何も気が付いていないようです。何かを話す前に、発狂して死んでしまったと。そう言っておりました」
「ふむ、まあよい。予定とは違うが、裏切り者の討伐は出来たのだからな。で、その討った者の名は?」
「アニエス・ミラン・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ。……昔の知り合いです」
ミシェルがアニエスの名を出した時、女の表情が少し緩み、男は少し歪ませた。
「あの公爵に尻尾を振った平民上がりか……。ふん、ただの平民が貴族を名乗るとは、始祖ブリミルへの冒涜も甚だしい。
まあよい。ご苦労だった、下がってよいぞ」
「はっ!」
「……貴様の父母の仇、まだまだ先になるだろう。だが、確実に功績を積めば、それに近づくことが出来る。
そう、王国という仇にな」
「……はっ」
ミシェルは男に敬礼を送ると、部屋から後にした。女の不審な表情と、そして姿に疑問を感じながら。
「さて、アニエスとかいう平民はお前の弟子だったそうだな?」
「ええ、そうよ。あいつに剣を教えたのは私……ふふ、懐かしいわ」
ミシェルが出て行った後、男は女に尋ねると、女は懐かしそうに呟いた。男は嫌悪感を表情に出しながらも、吐き捨てるように言う。
「ふん、その懐かしさ余り、顔を似せたのか?」
「いいえ、あの子の全てを……貰いたくなったのよ」
そう答えながら、女は明かりが当たる場所へと歩いた。
もしここにミシェルがいたら、自分の感じた違和感を全て拭えただろう。
もしここにアニエスがいたら、この女に怒りを感じていただろう。
そう、そこにはアニエスがいた。口調も仕草も全く違った。だが11年前のアニエスがそこには立っていたのだ。
「どうやら幸せそうな家族を作ったみたいじゃない……。そんな幸せそうなあの子を見ていると、全てを壊してあげたくなるわ」
「貴様。ちゃんと自分の役割を知っているのか?」
「ええ、勿論ですわ、閣下。私の役割は貴方のお手伝いをすること……。でも私のしたい事は好きにやらせていただきますことよ?」
「……ふん」
「ああ、それにしても……この頃のあの子はどす黒い心で満たされていたというのに、
すっかり丸くなって……やっぱり、料理はじっくり、ゆっくり寝かせてね。
ああ、早く壊したい、食べてしまいたい」
女は、アニエスの育て親の"剣士"だった。
-------------------------------------------------------------
まさかの展開、だったんでしょうか。ちょっと急展開過ぎたかなぁ。
幸せな家族を得たアニエスですが、油断すると元の復讐鬼に戻ってしまいます。
カトレアの過去についてはまた後ほど。
最近ちょっと誤字脱字などが目立ってきましたね。申し訳ないです。
前話もご報告ありがとうございました。色々と至らないところがありますが、
なるべく減らしていきたいと思います。
ミシェルの家名、どうしようかなぁ。
次回はルイズ編へと戻ります。
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虚無と銃士氏乙
代理の代理してくれた人も乙
なんかエレ姉さんがいちいちかわいいw
そして、アニエスのお師匠(?)こえぇぇ
>210 名前:虚無と銃士 ◆2DS2gPknuU[sage] 投稿日:2010/06/21(月) 00:56:37 ID:kf1G/8pw0 [36/36]
>以上です。11レスなんで、恐らくサルさん確実…。
>もうこっちで連載してたほうがいいレベルなんだろうか。
0分またげば何とか…
さるったせいで説得力ないよなぁorz
アンジェラって名前、もしかして急に出てきた?
乙
虚無と銃士の代理投稿します
----------------
最近、ここが私の専用スレなんじゃないかと思い始めてしまう。
他のSS書きさんとか来ないかなぁ。
前回ご感想ありがとうございました。これからも可愛いエレ姉を書いていきます。
誰か嫁に貰って(ry
二十話のほうができました。よろしければ代理投稿をお願いします。
「さてと、どうしたもんかね……」
そう呟くのはトリステイン魔法学院学院長の秘書ロングビルである。
彼女は本塔の壁を入念に探るように触りながら、ぐるりと一周歩いていた。
さて、ここで早速彼女正体を明かそう。
彼女は『土くれのフーケ』と呼ばれる、今トリステイン中の貴族を恐怖に陥れている大怪盗であった。
宝石が散りばめられたティアラや王家から賜りし杖、真珠の指輪にヴィンテージワイン。
彼女は多くの貴族から、多くのものを盗んでいった。とりわけマジックアイテムなどを好んで盗むが、基本はなんでもだ。
彼女の武器はその類稀なる力を持った『錬金』の魔法と、30メイルほどの巨大なゴーレムを使った豪快な破壊行為である。
いくら強力な固定化の魔法を使ったとしても、彼女の手にかかれば一瞬にして泥や土くれに変えてしまい、
忍び込むのが不可能なぐらいに警備を固めても、その巨大なゴーレムによって蹂躙される。
そして去り際には『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ』とサインを残していく。
そんな事件が手口も時間もバラバラに続くものだから、魔法衛士達も彼女を捕まえることが出来ず、
彼女に盗めないものは無いと恐れられるようになり、トリステイン中で一躍有名人物となった。
因みに先日の下水道の事件の後、ラ・ヴァリエール家の屋敷にエレオノールに誘われて泊まった時も、こっそりと彼女のペンダントを盗んだ。
友達とはいえ、貴族相手に何も盗まずにいるのは、フーケとしてのプライドが許さなかった。
ただこの時ばかりはサインも残さず、まるでこそ泥のような行為をしてしまったが。
因みに、後の話ではエレオノールは気が付かなかったとのことらしい。
「アニエス、私のペンダント知らない? ほら、あの赤いやつー」
「この前、火竜山脈に行った時になくしたって言ってませんでしたかー?」
「そうだったかしらー?」
「それよりもルイズに会いに行きましょうよー」
「駄目ー」
「け、けちー! うがああ、ルイズに会いたいぃ!」
「うっさいわよ!」
さて、そんな彼女がこんな堅気でない仕事をしているのには訳がある。
故郷アルビオンに残した、血の繋がっていない妹と子供たちへの仕送りのためだった。
故郷の彼女の家は孤児院である。多くの子供たちと、訳があり表に出ることができない妹のために、彼女は大金を稼いでいる。
無論、彼女自身の貴族への恨み晴らしも含んでいるのだが、概ねの理由はそれだ。
そして今回も、この魔法学院の本塔にある宝物『破壊の杖』を戴くために、
オールド・オスマンに気に入られ、秘書にまでなって侵入したのだ。
だが、そんな彼女に大きな壁が立ちはだかった。
「ちっ……こいつは強力な固定化をかけてるね。それに分厚い壁だわ。
こいつは、私のゴーレムでも破壊するのは無理そうね……。さしずめ、あの爺かそれと同等の土のメイジの業だね」
彼女の土のメイジとしての力を使い、壁の状態を探ってみれば、どれだけ強力な魔法が掛けられているかが彼女には手に取るように分かる。
そして、それを打ち破るのにどれだけ骨が折れるか、という事も同時に感じることができる。
「あのコッパゲ。物理衝撃が弱点とか抜かしていたくせに。……これじゃ、私の1年間が無駄になるわ」
第20話
そう、おおよそ1年前。ロングビルとしてこの学院にやって来た。
始めは青二才の生意気な貴族の子息を相手することに嫌気が差していたが、不思議な出会いもあるものだと彼女は思う。
妹と同じく、普通の魔法が使えない少女。だがそんなことも気にかけず、自分らしく生きる少女。
ルイズ・フランソワーズは貴族らしくない貴族だった。
何時ものように王都の貴族の屋敷へ盗みに入り、その帰りのことだった。
彼女は食事を兼ねた一人の祝宴を上げるために、魅惑の妖精亭へと足を運んだ。
なんとも寂しい祝宴ではあるが、孤独に慣れた彼女にとってはなんら問題がない。むしろ、そのほうが良かった。
だがそれを無下に邪魔をする奴がいる。同じように店で酒を飲むガラの悪い傭兵たちが、女一人で酒を飲むフーケに絡んできた。
勿論、彼女にとって、こんな連中をいなすことなど他愛もない。
だが、そんな彼女に助け舟を出したのは、意外な人物だった。
「はいはい、お触り禁止! お客さんに迷惑をかける人は、客として扱わないわよ!」
桃色のキャミソールで接客をするウェイトレスの少女。その少女の顔ははっきりと見たことがあった。
それが、ルイズだった。
ルイズの態度が癪に障ったのか、傭兵の一人が彼女を叩き倒そうとしたが、
彼女は素早く傭兵の腕を掴むと、そのまま後ろにひねり上げてしまった。
悲鳴を上げる傭兵を仲間たちが助けようとしたが、オカマの店長が出てきて、即座に退散していってしまった。
ルイズは威勢のいい言葉でその男たちを追い返すと、辺りから拍手で称えられた。
ちょっとした英雄である。彼女は恥ずかしそうに頭を押さえながら、辺りにペコペコとお辞儀していた。
さて、そんな窮地でもない窮地を助けてもらったとはいえ、魔法学院学院長の秘書を務めている者という立場から言えば、
こういうアルバイトをしているのを見過ごすわけにはいかない。
辺りの騒ぎが収まった後、フーケは彼女を呼びつけて、問い詰めることにした。
最初は接客の態度で、満面の笑みで来たルイズだったが、彼女の正体を知るや否や、
勿論フーケであるということではないが、お盆で顔を隠して必死に誤魔化そうとしていた。
あまりにその仕草が可愛かったため、フーケはとりあえず話し相手になれば黙っておいてやると伝え、彼女を自分の席に座らせた。
フーケの言葉にまだ安心していないのか、何度も家族には内密にと懇願するルイズを落ち着かせつつ、
何故こんなアルバイトしているのか、という質問をした。すると、欲しいものがあるのだと彼女は答えた。
何を、と聞くと、恥ずかしそうにレイピアだと答えた。
何故? その問いにルイズは迷いなく答えた。騎士になるためだ。誰にも負けない騎士になって、大切な人を守りたいと。
普通魔法衛士であっても、武器を使うことを好まない。
この国の貴族は、自らの手で戦う事を恥としている。
だが、彼女は違った。
魔法が使えないというハンディキャップがあるのもあったが、貪欲に強さを求めていたのだ。
面白い娘もいるものだと、その時フーケは彼女を少しだけ気に入った。
彼女もオスマンのセクハラの話だとか、色々と愚痴を聞かせたりして一緒に過ごした。
そうしていると、ルイズも楽しくなってきたのか、フーケの話を感情豊かに聞いていた。まるで育ちの良い平民の娘のように、純粋無垢な表情で。
それからと言うもの、ルイズは無垢にフーケを頼るようになった。
魔法が使えないことの相談やら、追試のために勉強を教えてくれと泣き付いて来たりやら。
そんなルイズに付き合っているうちに、出来の悪いもう一人の妹を相手しているような気になり、フーケも満更ではなくなってしまった。
しかも、彼女を中心に他の生徒とも交流が出来てしまったり、あまつさえ彼女の実家に招待され、盛大に歓迎されてしまったのだ。
「(まあ、ありゃ盛大だったね、うん。まさか長女と殴り合いになるとはおもわなんだ)」
エレオノールと仲良くなったのもその頃である。女の友情と言うには、かなり不純を含んでいるが、まあいいだろう。
「……しかし、あの二人。いやアニエス……か。あの子も結構色んなもの抱えてるみたいだね。
あぁ、やだやだ。思い出してきたら、私が相手にしたガキンちょまで思い出しちゃったよ。……本当、どんな奴を相手にしているんだか」
そう呟きながら、嫌悪感を表情に出し、ずれた眼鏡の位置を直した。
自分が下したわけではないが、あのアンジェラという娘は酷い死に様だった。思わず同情をしてしまう。
そして気になるのはアニエスの過去だった。自分と同じく、復讐に駆られた人間の表情。それを見るのは久しぶりだった。
アニエスのことも、もっと知りたい。しかし、そんな付き合いももう無くなってしまうだろう。
自分はあくまで『土くれのフーケ』である。甘ったるい関係に浸かっていられるような立場ではない。
だからこそ、この仕事でトリステインを離れ、故郷のアルビオンでしばらく身を隠そうと彼女は思っていた。
だが、その矢先にこの始末である。さて、どうしたものか。
「おんどりゃああ!」
と、悩んでいる彼女の耳に、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
フーケはとりあえずロングビルに戻り、本塔を探る作業を中断して、その声が聞こえてくるほうへと歩いていった。
ロングビルがいた場所の丁度反対側。
「おんどりゃああ!」
ルイズは雄たけびとともに、地面を思い切り踏み込んで、目の前に居るサイトに向けて飛び、蹴りを入れようとした。
さわやかな汗を流しながら、貴族らしくない風景だ。
サイトはそんなルイズの動きに翻弄され、今まさに蹴られそうになっていた。
「はあ、相変わらず野蛮な動きだこと」
「無駄が多い。実戦では役に立たない」
「よねぇ」
二人は訓練用の剣を持っている。そんな二人を、木陰でキュルケとタバサが暇そうに見守っていた。
キュルケは自分の爪の手入れをしながら、タバサはルイズから買い与えられた小説を読みながらだから、
二人とも真剣にその訓練を見てはいないようだ。
「見えた!」
「死ね!」
ひらり、とルイズの蹴りの勢いで彼女のスカートがめくれる。
そんな一瞬をサイトは逃さず、ギンッと目を見開いて視界に捕らえようとしていた。
ルイズはとっさにスカートを押さえて、膝を折り、サイトの顔めがけて膝蹴りの一撃を与えた。
サイトはぴぎゃ、と変な悲鳴を挙げながら地面に倒れた。そんな彼らに、更に呆れた表情でキュルケは肩をすくめた。
「サイトもサイトで元気だこと」
「何をしているのですか?」
と、そんなところへロングビルが足を運んできた。
彼女に気が付くと、キュルケは爪の手入れを中断して、恭しく挨拶をしながら説明を加えた。
「あら、御機嫌よう、ミス・ロングビル。見ての通り、貴族と使い魔の暇を持て余したばかりに始めた遊戯ですわ」
「あらあら。またお転婆に遊んでいるのですね、ミス・ヴァリエールは」
「ええ、本当に困ったものですわ」
ロングビルは困ったような笑みを浮かべた。それに釣られてキュルケも笑った。
そんな二人を見て、ルイズは顔を真っ赤にして、サイトを踏んづけながら言った。
「こ、こらぁ! 遊びじゃないわよ! ちゃんとした訓練なの!」
「ふ、踏んづけるんじゃねぇ……!」
「パンツ見た制裁です」
「お、お前が勝手に見せたんだろ? そして見えあいだだだだだ!!」
「そんなに見せたくなければ、ドロワでも履いたら?」
「あれ嫌なのよ。何か私が履くと余計にこどもっぽいから」
サイトはルイズに抗議するが、余計な一言を言ってしまい、かかとでぐりぐりされてしまった。
さて、彼女の言うとおり遊戯ではなく、ルイズとサイトは剣の修行をしていた。
クリル鳥の一件依頼、剣士として才能があるのではないかと踏んだルイズは、サイトに剣の修行をしようと提案した。
サイトも自分の身ぐらい自分で守れるようになりたいと思い、その提案に乗った。
そしてさっそく街に行ってサイト専用の剣を買い与えてやり、格好だけはびっしり決めた。
背中には彼の剣が背負わせている。1メイルぐらいの標準的な長剣だ。
一緒に買い物に来たキュルケやサイト本人はもっと大きい剣がいいだろうと言って、シュペー卿の大剣を薦めていたが、
ルイズが断固として拒否したため、このサイズになった。6年間に同じ剣をアニエスが酷評していたのを彼女が覚えていたのだ。
それにいくらクリル鳥に勝つほど腕が良いとは言え、動きは全く素人のサイトに大剣など扱えるはずがないとルイズは考えていた。
さて、いざ木剣を持って修行という具合になったのは良いが、他人から見ればただのお遊戯にしか見えなかった。
全く仲が良いんだから、と思いつつ、キュルケは二人に呆れながら言った。
「だって二人して型がめちゃくちゃじゃない。剣触った事ない私でさえわかるわよ、ねぇタバサ」
同意を求められ、タバサは本から顔を上げて、そして小さく頷いた。どうやら彼女も同意見のようだ。
キュルケは肩を竦めながら付け加える。
「ルイズは昔と一緒で、まるでお猿さんみたいだし、サイトは力任せに振ってるだけ。というか、ルイズはお母様から習ったとか言ってなかったかしら?」
「うっ……こ、これは私なりのアレンジよ。我流よ!」
「何がアレンジ、よ。型ができていない人ほど、そう言うものよ?」
「へぇ、ルイズの母ちゃんって強いのか?」
「強いを通り越しているわよ、あれは。一度この子への制裁に巻き込まれた時はそりゃ酷い目にあったわ」
そう言ってキュルケは自分の肩を抱きながらぶるぶると震えてみせた。
どうやら思い出すだけでも恐ろしいことだったようだ。
ルイズも思い出したのか、申し訳なさそうな顔でシュン、と項垂れている。
そして何故かロングビルも顔をそらしていた。因みに彼女もエレオノールと一緒に吹き飛ばされた経験がある。
それ以来、真正面からラ・ヴァリエール家に喧嘩を売る事はやめようと心に決めていたのだ。ペンダントは盗んだが。
と、よく分かっていないサイトだったが、そんな彼と同じ心境のタバサが代わりに尋ねた。
「どのぐらい?」
「……ただのウィンドで烈風が起こるくらいかしら」
「すごい」
タバサは珍しく憧れの情を言葉に紡ぎながら言った。
どうやら同じ風のメイジとして、ルイズの母カリーヌの強さに憧れを感じているようだ。
感情の起伏が殆どない彼女にしては珍しい風景だった。その心情は、どこか複雑な気もするが。
そんな彼女の心情はさておき、ルイズは無い胸を張って、まるで自分の事のように言った。
「うちのお母さんはすごいわよ! レイピアの達人だし、なにより風のスクウェアだし!」
「ほほう、それは興味深い話だ」
そんな彼女らに、少し馬鹿にするような声が聞こえてきた。
その声を聴いた瞬間、ルイズの眉がピクッと反応するように釣りあがる。
それにロングビルが気が付き、声がするほうへ振り向いてみると、そこには魔法学院の風のメイジの教師、疾風のギトーが立っていた。
漆黒のマントを纏った不気味な教師で、自尊心が高く、また冷たい雰囲気があるせいか、生徒からは余り人気がない。
実力自体はあると言われており、実際に彼はスクウェア・スペルである『遍在』を使いこなすらしいが、
ルイズ自身も、彼のいちいち気に障る言葉遣いがあまり好きではなかった。
「おや、誰かと思えば、問題児のミス・ヴァリエールと平民の使い魔ではないか。
これはこれは、剣などを無骨な物を振って。まるで平民のようだが?」
「む……。そんな事言って、王国の魔法衛士だって、レイピアを振るっているじゃないですか。
むやみやたら、ただ魔法だけを使えば良いだなんて、古い考えです」
ギトーの早速の憎たらしい言葉に、恐れを知らないルイズは食って掛かった。
他の生徒は自分の威厳に全く屈することの無いルイズに、ギトーは苛立った。
そんな二人を尻目に、こっそりとサイトはキュルケたちの許へと避難し、彼女たちに尋ねた。
「あのおっさんは?」
「ギトーっていう先生よ。風のメイジで実力はあるらしいんだけど、傲慢ちきで、いまいち魅力の無いのが玉に瑕なのよねぇ。
まあトリステイン人によくいる典型的な人、ってところかしらね。私はパスだわ」
「へぇ、そういや、俺の学校にも偉そうにしてる先生とかいたっけ。まあ、あんなんじゃルイズも反発するよなぁ」
サイトは納得したような表情でうんうんと頷いていた。そんな中でもルイズとギトーの言い争いは続く。
「魔法衛士は剣を持っているのではなく、杖を持っているのだよ。それがたまたま剣の形をしているだけなのだ。君の母もそうだろう?
君のように魔法が使えなくて、仕方なしに持っているのとは訳が違う」
「屁理屈じゃないですか! それに……私は立派な騎士になりたいだけです!」
ギトーの心無い言葉にルイズは強く反発した。ルイズだって譲れないものがある。
それは騎士になる夢である。立派な騎士になって、姉アニエスや母カリーヌと肩を並べられるような人間になりたい。そう願っていた。
そんな彼女を助けるように、ロングビルが手を叩きながら割って入った。
「はい、そこまでです。ミスタ・ギトー、大切な生徒をそのような言い草で蔑むのは、教師として失格なのではないでしょうか?」
「おや、ミス・ロングビル。それは誤解と言うもの。私は彼女に現実を教えているだけですぞ。
彼女のように実力を伴わず、不相応な夢を持つよりかはずっといいだろう? つらいだけだと思うがね」
「……じゃあ、試してみます?」
だが、そんなロングビルの言葉にもギトーは全く悪びれることなく、何の疑問も抱かずに反論した。
ルイズはそんなギトーの言葉に怒りを感じ、彼に喧嘩を売った。
その言葉を聞いたギトーは眉をひそめた。何を言っているのか、この小娘は。
すると、ロングビルが珍しく豪快に笑いながら頷いた。
「あはは! なるほど、それはいいですね。ミスタ・ギトーならば、生徒をひねることなど簡単でしょう?」
「む、いやしかし……」
流石のギトーも、急な話の流れに戸惑い、困ったような声を出した。だが、ルイズは更に追い討ちをした。
「あ、怖いんだ。ギトー先生、怖いんだ! それでも教師なの?」
「……後悔するなよ、小娘」
ついにギトーもルイズの挑発に乗ってしまい、顔をにやけさせながら杖を取り出した。どうやらもう戦いは止められないようだ。
そんな様子にロングビルは思わず素を出しながらくっくと笑っているものだから、呆れたようにキュルケが軽く肘で小突きながら尋ねた。
「わざとですね?」
「まあ、そうですね。ちょっと面白そうだから」
「お、おいおい大丈夫なのかよ?」
「いざとなれば私が止めますよ。それよりもサイト君」
「え、なんすか?」
「ミス・ヴァリエールの動き、ちゃんと見ておくといいですよ?」
「へ?」
何のことやらと呆けているサイトに、ロングビルは顎でルイズのほうを差した。
ルイズはレイピアをまるで玩具の様にぐるぐると回して遊びながらギトーと対峙している。
先ほどサイトとの訓練に使ったものではなく、クリル鳥の戦いの時に持ち込んだ『本物』である。武器屋の親父からもお墨付きだ。
ギトーは杖を優雅に構え、それとは対照的に不気味な笑みを浮かべて名乗った。
「では、決闘……は禁じられているから、教育的指導をするとしよう。知ってのとおり、私の名は」
だがその途中で、ルイズは回していたレイピアの柄をしっかりと掴み、素早く飛び込んだ。
そしてギトーの杖を目掛けて斬りかかる。杖さえ斬ってしまえばメイジは魔法を使えないからだ。
「チェストぉ!」
「うお!? こ、小娘! お互いの名乗りぐらいせんか! それが騎士を目指す者のやることか!」
突然の事ながら、風の流れを読んで何とか避けたギトーはお返しと言わんばかりにウィンドの魔法でルイズを吹き飛ばそうとする。
だが、いささか情けない理由ではあるが、母であるカリーヌのウィンドを受け続けたルイズにとって、ギトーのウィンドの発動の速度も威力も恐れるに値しない。
身体をひねり、右足を軸にするように回って風の流れに沿うように動くと、そのままの勢いで裏拳をギトーに打ち込んだ。
彼はその拳を腕で受け止め、後ろへと下がる。彼も自負するだけあって、それなりに実力はあるようだ。
「うっさい! 長いのよ!」
「小娘! 貴様は盗賊かなにかか! 礼儀知らずもいい加減にしろ、うおお!?」
距離が離れて、改めてお互いは罵声を浴びせた。そしてまた斬り合いが始まる。
そんな二人を見て、サイトは驚いたように目を見開いていた。
「は、はぇえ……。ルイズってすごいんだな」
「貴方と遊んでた時も、すばしこっかったでしょ? ただねぇ、単純なのよね」
「単純?」
「よくごらんなさい」
キュルケの言葉を理解できないサイトは、諭すように言葉を続けたロングビルの指差す方へ顔を向けた。
終始ルイズがその素早い動きで懐に入りこみ、ギトーを翻弄して優勢を保っているようだったが、どうしても有効な一撃を与えられていない。
そんなギトーも、必死ではあるが徐々にルイズの動きについていっている。どうやら彼女の動きの流れが分かってきたようだ。
一瞬の隙を突いて、またウィンドの魔法を唱える。
ルイズは反応しきれず、吹き飛ばされたが、すぐに体勢を整えて、また突っ込んでいく。
「はああ!」
「甘い。甘いぞ、小娘!」
ギトーは斬りかかったルイズの細い腕を掴むと、そのまま足を払って倒し、
続けざまにレビテーションの魔法を唱えて彼女の身体を浮かした。こうなるとどうにもならない。
「うわ、ちょ、このぉ! 卑怯だわ!」
「何が卑怯か。勝負ありだな、小娘、ふふふはははは!」
ルイズは空中でばたばたと暴れるが、空を切っているだけでどうすることもできない。
ギトーは余裕そうな素振りを見せて笑いを挙げるが、その足は何故か震えている。
サイトは、ほぇっと呆然とした様子でその成り行きを見つめていた。そんな彼にキュルケは寄り添いながら呟く。
「ああ、負けちゃったわね。まあ予想通りだけど。貴方もそう思ったでしょ?」
「でしょ? と言われてもなぁ……」
「あら、わからなかったかしら?」
「つまりだ。君の主人は、馬鹿正直に私の杖ばかりを狙っていたから、そこを突いたのだよ。
ふふふ、単純な娘だ。そんなことでは騎士にはなれんぞ!」
理解できていないサイトに、何故かギトーが解説した。それを聞いて、暢気にサイトはなるほどと頷く。
確かに思い返せば、ルイズは杖ばかりを狙っていた気がした。彼女の性格が良く出ていると思う。
と、本を読んでいたタバサは不意にギトーの足を指差しながら言った。
「震えている」
「これは武者震いだよ、ミス・タバサ」
それでもギトーは強がりを言った。その横で、ルイズはばたばたと暴れていたせいで疲れて息をあげていたが、
とっさに何かを思いつき、広場の方角のほうを指差しながら叫んだ。
「ああー! あんなところでミス・マッケンジーが水浴びしてる!」
「何だとぉ!?」
「隙あり!」
ギトーは顔を真っ赤にして、ルイズが指差した方向を向いた。
ミス・マッケンジーといえば、学院の新人教師で、素朴だがプロモーションが良い美人として有名である。
そんな油断を見たルイズはしてやったりと目を光らせ、懐の杖を抜くと、ギトー目掛けてレビテーションの魔法を唱えようとした。
「うおっ!?」
だがギトーがルイズの不穏な動きに気が付き、その場に倒れこむように避けたため、ルイズの狙いが反れてしまった。
ルイズのレビテーションは、視線の先にあった本塔の壁に向けられてしまい、そして何時ものように魔法が失敗してしまった。
ボカンッ! と大きな音を立てて、本塔の壁は爆発した。
「あ」
その場の全員が口をあんぐりと開きながら、呆然としてしまった。爆発した周辺を覆っていた煙が晴れると、
なんと本塔の壁にヒビが入っているのだ。ロングビルがあれだけどんな手を講じようか迷っていたぐらいの厚い壁がだ。
と、呆然としていて集中力が切れたのか、ギトーのレビテーションが解かれ、ルイズが地面に落ちた。
ギャン、と悲鳴を上げたルイズだったが、ギトーに掴みかかれ、また空に浮いた。
「き、貴様! 何をするかぁ! あんなものが当たったら死ぬだろう! どうしてくれるんだ、ヒビが入ったぞ、ヒビが!」
「ちょ、ちょっと威力を間違えたんですよ! それに先生が避けるから! だ、だよね、キュルケってああ、いない!?」
焦るルイズとギトーが言い合っている中、キュルケとタバサとサイトは巻き添えなどごめんだと、何処かへと逃げていってしまったようだ。
そこに残されているのは、にっこりと笑顔を見せるロングビル、ただ一人だった。
しかし、その笑顔の背後には、どす黒い、怒りのオーラがふつふつと出ていた。
そのオーラに恐怖を感じたルイズとギトーはお互いの手を取り合って、ぶるぶると震えていた。
「ミス・ヴァリエール?」
「は、はい、姉御! なんでしょうか!」
「だまし討ちなどは、貴族にあるまじき行為ですが、有効な手段でしょう。
しかし、ただでさえ危険な貴方の魔法を人に向けるとは、どういうことでしょうか?」
「は、はい、姉御! レビテーションぐらいだったら人が吹き飛ぶぐらいで済むんじゃないかと思ってました!
それをミスタが避けたので、あんな結果になったわけです、姉御!」
「か、勝手なことを言うんじゃない! あんなもの当たったら、黒焦げになってしまうだろうが! ミス、私は悪くない。悪くないぞぉ!」
「確かに、勝負自体はミスタ・ギトーの勝ちで終了していたでしょう。ええ、それは私も異存はありません。
ですが、始めにミスタが心の無い言葉を言って、ミス・ヴァリエールの反感を買ったのが原因ですよね?」
「い、いや……焚きつけたのはき」
「ここは喧嘩両成敗ということで」
「チョメチョメタイムだ、ゴラァ!」
「「イギャアアアアア!」」
「さて……あーすっきりした」
脳天への拳骨数十発をギトーとルイズにお見舞いしたロングビルは、同じポーズで地面に伏せて目を回している二人を尻目に、
手を叩きながらルイズの魔法によって傷ついた本塔の壁を見つめながら、顔をにやけさせる。
これならば私のゴーレムで破れるかもしれない。そう考えながら。
――――ありがとう、ルイズ。あんたは本当に良い子だね。
心の中でそう感謝をしつつ、ロングビルは壁のヒビを隠すため、錬金の魔法を唱えたのだった。
一方そのころのサイト達はというと。
「クッキー作ったんですけど、あれ、ルイズ様は?」
「ちょっと呼び出し喰らってるわよ。それよりも私にも頂戴な、シエスタ」
「またですか……。はい、どうぞ、ミス・ツェルプストー。ミス・タバサやサイトさんも如何ですか?」
「ん」
「まじで? うおお、すげぇ美味い!」
幸せそうにシエスタのクッキーを食べていたとさ。
以上です。
ルイズにとってもレビテーションの威力が予想外だったみたいです。
ギトーはそれなりに強いんじゃないかなぁと思います。性格が残念ですが。
前回から180度雰囲気を変えて、ほのぼの?させてみました。
チョメチョメタイムは某仮面ゲームのヒロインのセリフより。
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以上、代理投稿でした。
貼り忘れ
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本スレの486さんへ
すいません、アンジェラの名前は突然出してしまいました。
まとめwikiのほうに登録した分はその点含め、色々と修正しておきました。
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これで代理投稿は終わりです。
乙
作者も代理の人も乙
もしルイズの幼少期に両親が離婚していたら……
公爵の浮気(?)が原因でマジ喧嘩。
ついに夫に愛想をつかせたカリーヌは、娘達を連れてヴァリエール領を出てしまう。
しかし今更実家にも戻れず、母と三姉妹は王都で暮らすことに。
傭兵稼業で家族を養うカリーヌ。
平民の子供相手に寺子屋をするエレオノールとカトレア。
早々に平民暮らしに適応し、町の子供達と一緒に遊びまくるルイズ。
時々遊びに来る親戚のおばさま(マリアンヌ)の娘と裏道探検に出掛けたり、
妖精亭の看板娘と縄張り争いをして拳で語り合う心友になったり、
こっそり暮らしぶりをのぞきに来た父に、気づかず、
「おとうさまは、わたしが生まれる前に、酔って馬から落ちて死んだ」
とあっけらかんと語って泣かせたり……。
そんな朝の連ドラ風トリスタニア物語とかどうだろ?
カリンちゃんなら、普通にアンアンとかその母ちゃんの親衛隊とかそんなポジションになれそうだけどな
次女の治療の為にも、そこらへんの強力なコネとかあった方が良いだろうしさ
あー、その方がらしいね
まあ、平民暮らしでのびのびしてるルイズが好きで考えたIfなんで、下町にいる理由さえつけばなんでもいいんだ
とりあえずカリンさまは常に遍在チートで、ルイズ達に近づく不届き者(元夫とか自称婚約者とか)を監視撃退しているイメージ
TSジョゼフがサイトをミョズニトニルンとして召喚とかどんなもんだろう
>>502 カリンちゃん隙が無え…
宮仕えは金の入りがいいけど時間がなさそな感じなんだよな
朝の連ドラなら家族団らんの時間も必要だよね!ね!
それに加えて遍在カリンちゃんの性格はそれぞれ違ったりとか
宮仕えに本体、娘の年齢にもよるけど娘3人に3人から1人、次女の薬探しに可能な限り
と無理をしたせいで、性格までは完璧に出来なくて……みたいな
むしろ必要に応じて遍在が遍在を使って増えていくとか
んで、よんぶんのいちカリンちゃんとか、じゅうろくぶんのいちカリンちゃんとかになって、
だんだん魔力が足りずサイズが小さくなって、それに合わせて外見も若く幼くなっていくとか……どうよ?
`¨ − 、 __ _,. -‐' ¨´
| `Tーて_,_` `ー<^ヽ
| ! `ヽ ヽ ヽ
r / ヽ ヽ _Lj
、 /´ \ \ \_j/ヽ
` ー ヽイ⌒r-、ヽ ヽ__j´ `¨´
 ̄ー┴'^´
これから代理投稿します。
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前回代理投稿してくれた
>>226さんありがとうございました。
また21話ができましたので、よければ代理投稿&読んでいただけると幸いです。
そして本スレの
>>500さん、なにそれすっごく読みたい。
早くメモ帳かワードに本文を書く作業に戻るんだ!
「いたた……ねえ、シエスタ。まだたんこぶ残ってる?」
「だいぶ……。でも、話聞いたよ? 先生方に喧嘩を売るなんて、駄目よルイズ」
日も暮れて、ルイズは自室でシエスタに叩かれた頭を見てもらっていた。
因みにサイトはマルトーの手伝いをしていて、今は不在である。
シエスタがルイズの髪を分けて頭皮を見ていると、脹らみがあるのを見つけた。どうやらたんこぶが残っているようだ。
ルイズは、ロングビルから事情を聞いて駆けつけてきたシエスタに、頭から蒸気を出して気絶しているところを、
ギトーと共に医務室へと連れて行かれたのだった。まあ、大した怪我ではないため、秘薬も使わず、軽い治療で済んだが。
しかし、いくら心無い事を言われたとはいえ、教師を挑発して喧嘩を売ったということは、ラ・ヴァリエール家の沽券にも関わることだ。
シエスタは公爵夫人から世話を任された身として厳しく指導したが、ルイズは不満気に口を尖らせている。
「ぶぅ、だってぇ」
「だっても何もありません! そういう陰口は言わせておけばよいのです。この事はお母様に報告するからね」
「うえぇ!? それはやめて! お願いだから!」
「じゃあ二度とやらないこと。いい?」
「ふぁい」
脅しを入れられて、やっとの事ルイズは自分の非を認めて、シエスタの言葉に頷いた。
シエスタも満足そうに頷いて、ポッドの紅茶をルイズのカップに注いだ。
「ほら、紅茶。落ち着くよ?」
「ありがとう。……うん、おいしい!」
「ふふ、ありがとう」
ルイズは嬉しそうに紅茶を飲み、笑顔を見せた。シエスタの入れる紅茶は何時も美味しい。
魅惑の妖精亭でもよく飲ませてもらっていたが、その時からそれだけは変わらない。
アニエスも彼女の紅茶に関しては絶賛しており、そのときばかりはシエスタに嫉妬したものだ。自分が作った紅茶は何時もと変わらないと言っていたのに。
「姉さんかぁ。そういえば最近会ってないなぁ」
「アニエスさんのこと?」
「そうそう。今頃枕元で泣いてたりして。寂しがり屋だからね。
この前ロングビルさん連れて家に帰ったときもいきなり抱きついてきたし」
「ふふ、そうかも。そろそろ妹離れしなきゃいけないのにね。気持ちはわからなくないけど」
想像は難くない。以前はクールで格好の良い姉だったアニエスも、何だか最近はすっかり丸くなって、すっかり姉馬鹿の駄目扱いだ。
いや、よく考えれば鈍感だったり、不器用だったりして、始めからその気はあったかもしれないが。
手紙によると長姉エレオノールと仲良くやっているみたいだが、今頃妹に会いたいと騒いではエレオノールに突っ込みを受けているんじゃなかろうか、とルイズは苦笑してみせる。
と、シエスタは突然サイトの事を思い出し、顔を青くしながら言った。
「……アニエスさん。サイトさんの事見たら、斬りかかって来るんじゃ……」
「あ、ああ〜……。そ、それは考えてなかったわね。うーん、どうしよう」
と、ルイズも困った表情を浮かべた。サイトは大事な相棒であり友達である。
しかし、アニエスにとってそれで済むのだろうか?
自分に手を出した、いや実際に手を出しかけたが、と勘違いして襲い掛かってくるのではないだろうか。
冷静を装ってきそうな当たりがなんとも性質が悪そうだ。
「……まあ、友達で貫くことにしましょう、うん」
「そ、そうね。きっと大丈夫よね」
「……」
「……」
ルイズとシエスタになんとも言い表せぬ不安が過ぎり、二人は沈黙してしまう。
使い魔と発覚した場合、自分とキスをしたという事実を知った場合。
彼女はあの夢と同じように、笑顔でサイトをバラバラにしてしまうのではないか。その想像した表情になんとも真実味がある。
「……隠しましょう、絶対」
「そうね、そのほうが良いと思う」
とりあえずルイズとシエスタはそう心に決めるのだが、世の中そう上手く行かないのが常であるということは、後々分かることだった。
第21話
「お疲れさまっしたぁ」
「おう、お疲れ!」
才人はマルトーの手伝いを終えて、ルイズの部屋へと向かっていた。
「ふぅい、疲れたぁ」
一日の疲れを表すように、気だるそうに肩を回す彼の手にはマルトーから貰った干し肉が入った袋がある。
最近頑張った分のご褒美だそうだ。よく酒に合うといわれたが、未成年の自分が酒を飲んで良いものかと少しだけ考えてしまう。
しかし、ここが異世界だと思い出して、まあいいかと才人は気楽に考えた。
異世界。始めは不安だった仕事も、段々と慣れてきて、手つきも良くなってきたと褒められた。そのため、彼は少しばかり気を良くしていた。
ここに来て不安ばかり感じてきたが、最近では良いアルバイトのような職業体験みたいになってきた。
まあそれだけでは異世界に来た甲斐というのはないが、地球では見られない色んな生物や人々に触れ合えるのは、彼にとって良い刺激だ。
これでいつでも帰れるような魔法か何かがあれば良いが、と考えてしまうが、ないものねだりしても仕方ない。
だが、それ以上に彼を悩ましている事がある。自分を取り巻く女性陣のことだ。
何と言うか、こう男らしい女性が多すぎるのではないかとつくづく思う。
特に主人であるルイズにいたっては、男らしさを通り越している気がした。
気の強い女の子は嫌いではない。それにルイズは子供らしい体型だがとても可愛らしいし、それに素直で良い子だ。
あれは成長すると美人になるだろう。
だが、頼りになりすぎるのだ。
なんでも一人で全部こなしてしまうし、自分がやろうとしても拒否してルイズがやってしまう。
腰に差している剣を選んだのもルイズだ。
確かに質が良い剣というのは何故か分かったが、何も自分が選んだ剣を全否定しなくてもいいじゃないかと思う。
だが、そんな自分を心配し先導してくれる彼女も悪くはない。寧ろ、あの年頃の少女に心配されて、嬉しく思う自分がいるというか何というか。
あの怪物鳥と戦った時の心配してくれている表情はたまらなかった。不謹慎だが。
「……ああ、そうか。ルイズは出来の良すぎる妹ってところだなぁ」
と、結局色々と思い描いて出た結論はそれだった。
どちらにしろ、当の本人は身分の差を気にしていないとはいえ、恋愛に関しては厳しい家族やメイドがいるらしいし、
それに自分にそういう気を持っているとは思えなかった。
「シエスタも良い娘だけど、第一印象が最悪だったしなぁ……。
あの子の従妹のジェシカは営業の付き合いみたいな雰囲気だったし、タバサって子は……静かすぎて怖くてなぁ。
あ、綾波レイってあんな感じなのか? ん?」
そう思い浮かべているうちに、何かにぐいぐいと引っ張られているのに気が付き、才人は後ろを振り向いてみる。
すると、そこにはサラマンダーのフレイムがいた。
「おぉ、フレイムじゃねぇか。どした? 腹でも減ったか? ほら、干し肉ならあるぞ」
才人はフレイムの頭を撫でながら、マルトーから貰った干し肉をちらつかせるが、
フレイムは頭を横に振り、そしてサイトの服の裾にかぶりついた。
「うお!? お、俺は美味くないぞ!?」
才人は食われるのではないかと身構えるが、フレイムはぐいぐいと裾を引っ張るだけで襲い掛かろうとはしなかった。
どうやら付いて来い、という意思表示らしい。
才人は、そういえばこいつの主人キュルケはナイスボディだったなぁとスケベな事を考えつつ、
フレイムに引っ張られながら彼の後を付いていった。
「お、おい、フレイム、裾を引っ張るなって! 一体何処へって……お前の主人の部屋?」
そうして付いていって着いた先は、キュルケの部屋だった。
ドアが開けっ放しになっていて、フレイムはそれを通って中へ入ってしまった。
そして一度だけ才人に顔を出すと、また部屋の中へと入ってしまった。さっさと中へ入れということなのだろうか。
ううむ、さてどうしたものか。こういう場合、ルイズの許しをもらったほうがいいのかもしれない。
しかし、相手はルイズの友人だし、何か言伝でもあるんじゃないか。そう思い、才人は特に気にすることなく中へと入っていく。
部屋の中は真っ暗だ。
すると十分に足を運んだ瞬間、扉が急に閉まり、そして鍵が閉まる音が鳴った。彼は驚いて、背筋を伸ばしながら身体を強張らせた。
「ふふっ、いらっしゃい」
と、奥からキュルケの官能的な声が才人の耳を刺激する。とてもルイズやタバサと同じ学年の少女とは思えない、大人の声。
彼は思わず息を飲んだ。
そして指を弾く音と共に、辺りのロウソクが一本ずつゆっくりと、才人の側から火を灯していく。どうやらマジックアイテムの一種のようだ。
全てが灯り、奥にいるキュルケの姿が露となると、思わず才人は狼狽してしまった。
「そんなところに突っ立ってないで、いらっしゃいな」
ぼんやりとした幻想的な光に、ベッドに腰掛けたキュルケの悩ましい姿が映し出されている。
ベビードール、というのだろうか。名前は良く分からないが、明らかに才人を誘惑するための下着を着ている。いや、それしか着ていない。
ベビードールがキュルケの豊満な胸によって押し上げられている。艶やかな太ももが曝け出されている。
才人は思わず、おおぅと声を漏らしながら、誘惑されるがまま、手招きするキュルケの許へとふらふらと歩いていく。
しかし、顔などは真っ赤で、動きはガチガチだ。
「座って?」
言われたとおりに才人はキュルケの隣に座った。だが、視線は彼女から反らしている。たまにチラッと見るぐらいだ。
そんな彼の事が可愛く思ってきたのか、キュルケは彼の太ももに指をそっと置いた。そしてすぅっと撫でるように動かした。才人はまたもや声を漏らしてしまう。
もはや彼の頭の中は彼女のことで一杯だ。一端の男としてはここでキュルケを押し倒しにいくべきかと思うが、必死に理性を働かせて我慢する。
「な、何の用っすか?」
「そんなに緊張しなくてもいいわよ……ふふ、可愛い」
緊張した声を出す才人に、キュルケは頬に赤みを含めながら笑みを浮かべて、悩ましげに才人へ近づいた。
だが彼女の言葉に、才人は少しだけ落胆する。
「か、可愛いっすか……」
「ええ、可愛いわ。でも、クリル鳥を倒した時の貴方はとっても格好良かった。ええ、逞しかったわ。まるで伝説のイーヴァルディの勇者のよう……」
「い、イーヴァルディ? あ、でも勇者か。そ、それだったら満更じゃないかなぁうん」
「そうよ。男らしくて、情熱的な人……素敵だわ」
才人は何とか平静を装っているが、もはや心の中は錯乱状態である。手を出せ、押し倒してしまえ! と彼の頭の中で悪魔が暴れている。
だが、一心不乱に手を出してはいけないと、頭の中の悪魔と必死に戦っていた。
それが何故そう思えたかは謎だったが、絶対に手を出してはいけないと思っていた。
「私の二つ名、ご存知かしら?」
「へ!? え、えっとび、『微熱』だっけ……」
「そう、微熱。私はね、松明の様に燃え上がりやすいの。だからね、貴方の活躍を見て、私……」
キュルケは才人の両肩に優しく腕を回し、耳元で呟いた。
「貴方に惚れちゃった」
「え、えええ!?」
突然の言葉に才人は驚いて叫んでしまった。だが、それにも構わずキュルケは身体を寄せてくる。
「本当、突然よね……。恋は突然よ。貴方の事を思って、マドリガルを綴ってみたり。わかる?
マドリガル、恋歌よ! それからフレイムで貴方の事を見ていたり!」
「で、でも何時もは素っ気無い感じだったじゃないか!」
確かに才人の言うとおりだ。これまでキュルケは才人に対して、そのような想いが素振りがあるようにはしてくれなかった。
才人の指摘を受けて、キュルケは涙ぐみながら瞳を逸らす。
「ええ、ごめんなさい……。それはね、恥ずかしかったからなの。あまりに突然だったし、
それに親友の前で告白する気にもなれなかったから。でも、そんなことを気にしてたら駄目だわ。サイト」
「は、はい!」
キュルケは才人の両肩に回していた腕を動かして、彼の頬を両手で包み込む。そして、ゆっくりと押し倒した。
才人も、もはやどうにでもなれと為すがままにされている。と、それと同時に、ドアが蹴破られる音が鳴り響いた。
そしてそこには髪を逆立て、目に怒りの炎を燃え上がらせたピンクの悪魔が立っていた。
「さてと、そろそろ時間かしら?」
「時間?」
ルイズが懐中時計を眺めて、少し悪戯っぽい笑みを浮かべている。
それを見て、シエスタは首をかしげながらも、また要らん悪戯でも考えているのではないかと疑う。
「そんな心配しなくても。今回は危ないことじゃないわよ」
そんなシエスタを見て、ルイズは苦笑しながら抑えた。
だがシエスタは訝しげな表情を変えなかったので、ルイズは苦笑したまま説明した。
「ちょっとサイトを驚かそうかなぁと思って。彼の歓迎会も兼ねてね」
「歓迎会?」
「そそ。キュルケの部屋でワインでも飲みながらね。彼の事を色々と聞こうと思うんだけど。
ちょっとしたサプライズを用意しているのよ。キュルケとタバサを誘ったの。
キュルケなんてノリノリだったわ。私に任せて頂戴! なんて大丈夫かしら?」
「サプライズ?」
「ルイズ」
訳のわからない、という呆けた表情で首をかしげるシエスタだったが、
扉の向こうからノック音と共にタバサの声が聞こえてきたので、気を取り直して扉を開けた。
そしてタバサに一礼して、ルイズへの道を開けた。
「お、来た来た。いらっしゃい、タバサ。サイトには見つかってない?」
ルイズが満面の笑みで迎え入れながら尋ねると、タバサは首を横に振った。それを見て、彼女は満足そうに、更に笑みを深めた。
「わくわくするわね!」
「でもちょっと悪趣味」
「そうかしら?」
タバサの言葉にそう呟くルイズを尻目に、彼女はベッドに腰掛けて本を読み出した。
ルイズはその本を横から覗き込む。それは、昼間も読んでいた、彼女が買ってあげた本だった。
「イーヴァルディの勇者、好きよね。私も好きだわ」
ルイズは微笑みながら言った。タバサもそれに同意するかのように頷いた。
少しばかり、切ない表情を含んでいるような気がして、ルイズは彼女を優しく抱きしめ、頬を寄せた。
「暑苦しい」
しかし悲しいかな、母や次女やキュルケのような包容力とは縁のないルイズにとって、タバサを満足させることはできないらしい。
ルイズはちぇっと不貞腐れながらも離れて、自分もレイピアの手入れを始めた。
ギトーとの一戦で刃こぼれしていないか。それを丁寧に見ている。
シエスタはそわそわと辺りを歩きながら、落ち着かない様子でいた。
「そういえば、この前はありがとうね」
「?」
「スキルニル。面白いものくれて」
ルイズは宝箱の中から一つの人形を取り出して、タバサに見せた。
何のことかと首をかしげていたタバサも、それを見て納得したように頷きながらも、すぐに首を振った。
「気にしてない。寧ろ今まで小説を買ってくれた御礼」
「ふふ、それこそ気にしなくて良いのに。何時も勉強見てもらってるんだしさ」
『お、おい、フレイム、そんなに裾を引っ張るなって!』
「お、来た来た」
と、外から騒がしい声が聞こえてきて、ルイズとタバサはお互いの顔を見合った。
そして暫くして声が聞こえなくなると、その代わりにフレイムが部屋に入ってきた。
なにやらやり遂げた男の顔をしているような気もするが、気のせいだろう。
「さてと、後は準備したこれを……と」
ルイズはスキルニルを箱に戻し、代わりにルイズはベッドの向こう側から一つの看板を取り出す。
そこにはハルケギニアの言葉で『ドッキリ大成功』と書かれていた。
それを見て、シエスタは何となく察した。なるほど、これがサプライズということか。
ルイズはサイトから、予めドッキリについて教えてもらっていた。それを、彼自身に仕掛けてみようというのである。
しかし、一点だけ彼女には気になることがあった。
「サイトさん、ハルケギニアの言葉は読めないんじゃ?」
「あ……。それは迂闊だったわ。ま、まあ口で言えば大丈夫よ、うん」
シエスタの指摘にルイズは焦りながらも誤魔化している。
そんな彼女を見て、タバサはやれやれと呆れながらため息をつくと、本を閉じてフレイムの背中に乗った。
それに続いて、ルイズも背中に乗る。
「シエスタは……流石に乗れないね。火が当たっちゃう」
「わ、私は良いよ、遠慮しておく。こんなヒトカゲに乗るの、怖いよ」
「えぇ、まあいっか。よし、行け行けフレイム!」
遠慮するシエスタを尻目に、ルイズは気合十分にフレイムに号令を送る。
それに答えるように、フレイムは軽く咆哮を挙げた。
そしてノソノソとキュルケの部屋へと向かおうとするが、突然ピクッと動きを止めた。
「おい、フレイム、フ、レ、イ、ムー」
ルイズは背中を叩いて進ませようとするが、フレイムは断固として進もうとはしなかった。
そんな彼の行動を不審に思ったルイズは、まさかと思って飛び上がり、フレイムが制止しようと噛み付くのも避けて、
キュルケの部屋のドアの前に立った。
『マドリガル、恋歌よ! それからフレイムで貴方の事を見ていたり!』
『で、でも何時もは素っ気無い感じだったじゃないか!』
中からは不穏な会話が聞こえてくる。なんというか予定と大分違くはないか?
こんな会話をする以前に、サイトへプレゼントと扉を開けて、自分達が現れるはずなのに。
まさか。ルイズは言い表せぬ不安に、冷や汗を掻いた。
『ええ、ごめんなさい……。それはね、恥ずかしかったからなの。あまりに突然だったし、
それに親友の前で告白する気にもなれなかったから。でも、そんなことを気にしてたら駄目だわ。サイト!』
『は、はい!』
「お、お前らぁ! 何をしてるだぁ!」
ついに我慢が出来なくなったルイズは助走をつけて、扉を思い切り蹴り飛ばした。
金具が吹き飛び、扉がゆらりと倒れていく。
そして、その時彼女が見た光景は、キュルケがサイトを押し倒し、今にもキスしようとしているところだった。
ルイズは、言い表せない怒りを感じ、それが通り越して笑いすら出てきた。
そう、これはキュルケが姉を私にくれと言った時と同じ感情。
嫉妬である。
「ふふ、ふへへ、ふへへへ! な、何をしているんですかね、キュルケさぁん?」
「あら、刺激が強すぎて壊れちゃった? 見ての通り」
だが、そんな怒りのルイズに臆することなく、キュルケはサイトの顎を優しく持ち上げ、そして自分の顔に近づけた。
あと数サントで口付けだというところで、ルイズがキュルケに掴みかかりに跳んだ。
「だぁ、もう許さん! 私から身長ばかりじゃなく、サイトまで奪おうなんて!」
「おぉほっほっほ! あらあら、嫉妬は見苦しいわよ! あと、身長は別に取ってはなくってよ!」
「おわぁ!?」
ルイズとキュルケがベッドの上で取っ組み合いを始めて、サイトはベッドから弾き飛ばされた。
地面に落ちた時にぶつけた尻を摩りながら、逃げるように扉のほうに向かう。
すると、そこには顔を抑えているフレイムと、その上に座ってなにやら看板を持ったタバサ、そして呆れた表情のシエスタがいた。
「い、一体どうなってるんだよ」
サイトはすがるようにタバサとシエスタに尋ねた。
すると、タバサは無表情のまま、シエスタは申し訳なさそうな表情で答えた。
「ドッキリ成功」
「っていうはずだったんです、はい……」
「へっ?」
その言葉に、サイトはやはりよくわかっていない表情で、呆けた声を出しながら首を傾げるしかなかった。
さて、ルイズとキュルケのキャットファイトも、タバサの魔法による制裁で何とか収まりをつけ、サイトの小さな歓迎会は幕を開けた。
キュルケも先ほどのベビードール姿から普段着に着替えて、落ち着いた格好になっている。
だが、そんな歓迎会も、ルイズは不貞腐れた表情で肘杖をつき、サイトにもキュルケにも顔を合わせようとしなかった。
特にキュルケに裏切られたのがよっぽど気に食わないらしい。
「ほら、ルイズ。悪かったわよ。少しからかいが過ぎたわね」
そんな彼女にキュルケも流石に謝罪するが、無言のままムスッとした表情は変わることがない。
「ほ、ほら、もう過ぎたことだしさ、乾杯しようぜ」
険悪なムードに耐えられなくなったか、サイトも取り繕うようにグラスを持った。
タバサとシエスタ(因みに彼女だけ酒ではない)、そしてキュルケもグラスを持ったが、
ルイズだけはまだ不貞腐れて、頑固として持とうとはしなかった。
一度機嫌を悪くすると、とことんへそを曲げ続ける彼女の性格を知っているシエスタは、苦笑しながら頭を撫でた。
「ほら、サイトさんの歓迎会よ? 折角お祝いしてあげるって張り切ってたのに、ルイズがそんな顔をしてたら駄目じゃない」
「……だってキュルケが」
「ミス・ツェルプストーだって驚かせたかっただけ。ついつい、少し度が過ぎただけよ」
シエスタの言葉にキュルケはそっぽを向きながら舌を出している。どうやら本気だった様だ。だがそんな彼女に二人は気が付かない。
「……プレゼントをあげるって、キュルケが言って、それで私たちが出てくるはずだったのに……」
「はいはい。そんな悲しい顔をしていたら、折角の顔が台無しよ? ほら、笑顔笑顔。ね、サイトさん」
「んあ? ……ああ、うん。ほら、ルイズも笑おうぜ。楽しいからさ」
「……本当?」
「おう」
「……わかった」
「じゃあサイトに出会えた事を祝って……乾杯!」
「「「「乾杯!」」」」
サイトが笑顔で答えたので、ルイズも少し顔を赤らめながら頬をかいて、グラスを持った。
そして、全員はグラスをぶつけて、乾杯祝福した。
料理に舌鼓を打ちつつ、ワインを開けていく。
ルイズも酒が入ったことで少しばかり気が良くなってきたのか、笑みを浮かべてきた。
シエスタは料理を分け、空いたグラスにワインを注ぎながら、その様子に満足そうな笑みを浮かべていた。
その側でタバサは料理を次々と平らげていた。全くもってマイペースである。
「しっかし、ルイズとキュルケって仲が良いのか悪いのかよくわからないよなぁ」
と、サイトが正直な疑問を投げかけると、キュルケとルイズはお互い見つめあった。
そこへシエスタがサイトのグラスにワインを注ぎながら言った。
「まあ、喧嘩するほど仲が良いと言いますし」
「あ、なるほど」
シエスタの言葉にサイトは納得したように頷いた。キュルケとルイズもため息をつきながら、懐かしそうに呟いた。
「まあ、最初の出会いはお互いもっと仲良しだったわね。ルイズももっと素直だったし。どちらかといえば私がからかわれる立場?」
「そ、そうだったのか?」
「そうそう。それが今はねぇ……」
「……今でも十分素直だけど?」
「素直じゃないわよ。あ、じゃあサイト私が貰ってもいい?」
「だ、駄目に決まってるでしょうが! ガルル!」
「何で駄目なのよ、お姉さんに言ってみ……ってわ、ちょっと噛み付かないでよ、あいだだだ!!」
「お前ら喧嘩すんなよ! ほら、ルイズ落ち着け、落ち着けー」
「フシューフシュー……」
からかうキュルケの腕に噛み付いたルイズをサイトは必死に宥めながらもとの席に戻す。
だが、ルイズはキュルケを未だに威嚇している。キュルケは噛み付かれた腕を振りながら言う。
「いたた、もう……痕残っちゃっうじゃない。どうして駄目なのよ?」
「どうしてって。サイトは私の相棒だもの」
「……それだけ?」
「ど、どういう意味よ」
「ふふん。そっかぁ、じゃあ相棒の恋愛は別に自由よねぇ?」
「うぐ……それとこれは別よ……ああもう! とにかくだめったらだめ!」
「あらあら独占欲が強いこと。サイトも幸せ者ねぇ」
「そ、そうかな。うお、ルイズ!」
満更でもない表情で頭を掻いているサイトに、ルイズは椅子を寄せて、そして腕を組んで身体を寄せた。
キュルケのように胸はないが、なんというか彼女のか弱い腕が、いや筋肉質なのでか弱くもないのだが、
ともかくサイトに離れてほしくないという意思を精一杯表した。
そんなルイズに、サイトは優しく頭を撫でてやる。やはり彼にとっては妹、というぐらいにしか思えないかもしれない。
と、そんな時だった。グラスの中のワインが、いや部屋全体が大きく揺れだした。
「ちょ、何よ!?」
キュルケは思わずバランスを崩しそうになるが、タバサが支えて何とか姿勢を保つ。ルイズはサイトから離れて、窓から外を眺めた。
「ご、ゴーレム!?」
そこでルイズが見たものは、城とも思えるような巨大なゴーレムが拳を振り上げ、今まさに本塔へと殴りつけようとする姿だった。
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以上です。
ルイズも歳をとって本来の性格が出てきたようです。
本当はフーケ来襲まで行きたかったんですが、予想外にこのイベントが長くなったので一旦切ります。
後2話ぐらいでフーケ編終わりですね。次はまたアニエス編で、少しオリジナルを挟みたいと思います。
さあ、
>>500さんは早く本編を(ry
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いじょ、代理投稿でした。
517 :
500:2010/06/28(月) 08:51:54 ID:6ZyEWGQ+
≫507
やあ、あんたとはいい酒が(ry
≫銃士氏
更新乙です、いつも楽しく読ませてもらっています
このルイズには愉快な姉と友達がいっぱいいて、いいですねー。しっかり学院生活楽しんでる感じがたまらないw
そしてネタの件、レスありがとうございます
そもそも、というかやっぱりというか、この朝ドラネタは銃士氏のSSから妄想しとるんで
(平民ルイズカワイイー、お高くないヴァリエール家イイ→なんかそういう設定のSS他にもないかなー……ごにょごにょ
気に入ってもらえて嬉しいような、恐れ多いような……
え?本編?
……すません、設定しか作れないただの妄想野郎なんで……
つ「だれかこのネタをひろってください」AA略
>>517 世の中には言い出しっぺの法則というものがあってだなぁ……
つまり何が言いたいかというとハイパーがんばれ
お前ら・・・
まあ武器屋の時みたいに、みんなネタ出しするといいんじゃないかな!
>>517 デルフで魔法を喰らい、杖仕様の槍で敵を爆殺する、イーヴァルティの二つ名を持つ傭兵として戦うルイズ。
タイトルは"イーヴァルティのルイズ"とか"虚無の勇者"とか。
頑張ってくれ。
・・・それはそれでやったら良いんじゃねえの?
>>506とか
>>517とは毛色が違いそうだし、設定も違くね?
ルイズ・フランソワーズ・デジレは、王都トリスタニアはチクトンネ街で暮らす少女だ。
両親はかつて貴族階級であったが、彼女が生まれる直前に父親(爵位持ちであったらしいが、ルイズも詳しくは知らない)が事故死。
それをきっかけに没落したとかで、物心つく頃には彼女は今の長屋で、母とふたりの姉とともに暮らしていた。
悲惨といえば悲惨な話である。
だが家族と違い、かつての貴族生活を覚えていないルイズが、自らの境遇を嘆くことはなかった。
快活な少女は屈託なく町の子供らにまじり、ともに遊びときに喧嘩しながら、のびのびと時を過ごした。
むしろ地位というしがらみや重圧のない分、満ち足りた子供時代であったかもしれない。
一方、社会的地位は無くしたもののメイジである一家の暮らしも、決して悪いものではなかった。
凄腕の風使いである母は女だてらに王城で衛士を勤め、腕の良い土メイジである長姉は時折修繕などの仕事を請け負っては町の者に頼りにされている。
また次姉も、生れつき病弱なため働くことはできなかったものの、近所の同じくメイジの血を引く平民の子供達に魔法を教えて親達に感謝されていた。
唯一、そんな彼女らの末っ子であるルイズが、いくつになってもまともに魔法を使えないことを除けば――それはまちがいなく幸せな日々であったと言えよう。
厳格な姉に悪戯を仕掛けたルイズが逃げ出し、まんまとしてやられて激怒したエレオノールがそれを追いかければ、騒がしいとカリーヌがまとめて空高く放り上げ両成敗し、最後にカトレアが笑いながら仲裁に入る。
そんな愉快な日々を送るデジレ家。
ところが一家にある事件が訪れる。
なんと長姉エレオノールが結婚することになったのだ。
お相手はゲルマニアの平民上がりの貴族。商いの関係で訪れたトリスタニアでエレオノールを見初め、半年以上通いつめ口説き落とした。
照れながら母に婚約の報告をするエレオノール。
口煩いながらも面倒見の良かった姉のそんな幸せそうな姿に、ルイズは喜びよりも寂しさを感じてしまう。
やがて新郎に連れられ、ゲルマニアへと旅立つ姉。その馬車を見送りながら、ルイズはついにぼろぼろと涙をこぼす。
それは言うならば、彼女の子供時代の終わりを告げていたのかもしれない――。
けれど、真の事件はその一週間後に起きた。
三人になったデジレ家で、突然母カリーヌが失踪したのである。しかも続けざまにもたらされたのは、幸せな新婚生活を送っているはずの長姉の死の知らせ。
呆然とする姉妹の前に、母の雇い主であるという王妃マリアンヌが現れる。彼女の口から語られる、父の死の真相。母の秘密。
それは、ルイズにある決意をもたらした。
三日後、病いがちなカトレアをマリアンヌに預け、ルイズは姉の死の真相と母の行方を知るために旅に出た。
その背には近所の武器屋で餞別にもらったインテリジェンスソードを背負っている。
――魔法が不得手な彼女が、それでも母のようになりたいとこっそり励んでいた、剣術の修行。
同時に、その手には細い杖を握りしめている。
――棚の奥に仕舞いこんでいたその杖を持って出たのは、彼女なりの願掛け。《いつか必ず魔法を使えるようになる》そんな母との約束を果たしたなら、再び彼女と出会えるのではないかと。
引き留める親友の言葉を振り切り、旅立つ彼女。その視線はかつての母のように鋭く、まっすぐに前を見つめている。
彼女はまだ知らない――平和な日々においてははた迷惑な失敗でしかなかった《爆発》の持つ、真の価値を。
そしてまた、彼女は知らない――幼き日に憧れたある名を、やがて自らが名乗ることになることを。
左手に構えた魔剣はあらゆる魔法を防ぎ、右手の杖より放たれる爆発はあらゆる防御を打ち砕く。
最強の盾と槍を持つ勇者《イーヴァルディ》。
再来せしその英雄は、またの名を虚無の勇者という。
イーヴァルディのルイズ。
己が身に降り懸かるその運命の名を、彼女はまだ知らない……
……
……
ルイズはぽけっと口を開けたまま、見慣れた天井を眺めた。ぱちぱちと瞬きを繰り返してから、ようやくつぶやく。
「……なんだ、夢かぁ」
そう、そこはまちがいなく彼女の家だった。隣には次姉と幼なじみのアンが川の字で寝ている。いつも通りの光景だ。
そして、どうやら自分はずいぶんと妙な夢を見ていたらしい、と彼女は気づく。
「――なーんか、おかしいと思った」
自分が伝説の勇者だなんて、厨○……バカバカしいにもほどがある。
照れ隠しにひとりつぶやくルイズ。
「そりゃそうよねー、エレオノールお姉ちゃんが結婚できるなんて、夢じゃなきゃありえないわ」
あはは、と自らの発言に笑う。そのとき、不意に後ろから呼びかけられた。
「……ルイズ?」
その声になぜか首すじがヒンヤリ。
「へ?」
振り向けば――そこにはドラゴンよりもおそろしい目をした長姉、エレオノールがいた。
「あなた、今、なんて言ったのかしら――?」
「あ」
――あばばば
翌朝、彼女は家の裏でまっしろに燃え尽きているところを発見されることになる――。
ちゃんちゃん。
おれ、頑張った。超がんばった。ハイパー頑張ったので、後は頼む≫523
よくやった! 君の頑張りに俺は敬意を表する!!
もしギーシュがワルキューレ一体一体に個体名をつけていたら?
まじでGJ!つ、続きも行くんだ!
というかいいなこの設定
没落ヴァリエール家で俺も妄想
カリーヌ・デレジは普段はうだつのあがらない衛士を装っているが、実は金銭をもらって弱者の晴らせぬ恨みを晴らす「仕事人」という裏の顔を持っていた
没落したヴァリエール一家を支えるため、カリーヌが女郎屋で働いて、
そこに嘗ての家臣や部下がやってきてねっとりネチネチ責められる話は妄想したことがある。
>>531 >>532 必殺 大好きなんで 乗っからしてもらいます。
オールド・オスマンが『寅の元締』
コルベールが『死神』
職員会議で 「この命、500エキューにて 落札」 とか
エレ姉は 学者つながりで『糸井 貢』(暗闇 仕留人)
カトレアさんは・・・ 動物使いの仕事人って、ゲストキャラには居たかも知れないけど?
あとは シエスタが家政婦?つながり?で『おばさん』(うらごろし)
アニエスが 銃つながりで『土左衛門』(からくり人)あたり。
それとも エレ・カトレアが『せん・りつ』ポジション?
カトレアの体が弱いのは体内に毒を貯めているから
水魔法で体の流れをちょっと操作することにより体内の毒を手先に集め
毒手にすることが出来る……という妄想
もしもカトレアがガリア兄弟の姉だったら……
病弱設定は同じ 髪の毛青
代わりにヴァリエール家はエレオノール・ルイズの二人姉妹
自らの命を顧みず弟たちの仲を危惧するエレ姉萌え
魔法が使えれば治せるかもしれないのに!! と自分に絶望するジョゼフと
魔法が使えるけど治せないじゃないか!! と自分に絶望するシャルル
という電波を受信
カトレアスキーの俺からもひとつ、
もしちい姉様が今にも死にそうなのに決して死なない、ある意味タフ(?)な病人だったら?
朝目覚めた瞬間にまず吐血。洗面器いっぱいに血を吐いた後、すっきりした表情で、
「おはよう。爽やか朝ね」
と何事もなかったように挨拶するカトレア。慣れない動物達がガクブルしてても気にしない
その他、呼吸するように自然に気絶失神したり、三度の食事より頻繁に呼吸停止心停止したり、
その度に家族は慌てるものの、メイドや医者は慣れきっていて淡々と蘇生作業→「あら? すこし向こうに長く居すぎたかしら? ただいま」
発作だけでなく普通なら死亡する事故にあっても、やっぱり何事もなかったように蘇生
ちなみに彼女の血や薬を常人が触れたり服用したりすると、即死するとか
540 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2010/07/01(木) 13:25:55 ID:JeBiML8t
「おお? その香水は、もしや、モンモラシーの香水じゃないのか?」
「そうだ! その鮮やかな紫色は、モンモラシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」
「そいつが、ギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモラシーと付き合っている。そうだな?」
ギーシュ「それは無い………何故なら今まで黙っていたがモンモラシーは女装少年なんだ」
「お尻を使えば男も女も一緒だろ」
ケティ「すいませんギーシュ様………実は私も
長男以外は異性愛者だとお家騒動のもとになるからってそういうふうに育てられちゃって」
ギーシュ「なん・・・だと」
逆に考えるんだ。
ギーシュは胸の無い男装少女だと。
ほら、トリステインにはかつて烈ぷ……グシャッ!!
》543
やっぱ元ネタ有はだめかねぇ……
ルイズの使い魔はなんか憂鬱そうな目をした白い犬、とか
いや、いいんじゃない?うまくアレンジが出来れば。
クロスオーバー先の名前出したり、あからさまじゃなきゃ。
まあ難しいところではあるよなぁ
「君が軽率に香水の瓶なんか拾い上げてくれたせいで、二人の名誉が傷ついた・・・・・・・・だがありがとう。」
パターン2
「君が軽率に香水の瓶なんか拾い上げてくれたせいで、二人の名誉が傷ついた・・・・・・・・・・・だが拾ってくれた君には一割あげよう」
>>もしもカトレアがガリア兄弟の姉だったら……
とりあえずエロ同人は姉弟3Pものが大量生産される
で、生まれるのはイサベラ様か人形娘かどっちかね。
二人ともに決まってるじゃないか
じゃあもしエレ姉の方がガリア兄弟の姉だったら?
……優秀だけど色々とアレな弟達に頭痛めてそうだな
あと、やっぱり嫁き遅れてイザベラの母親代わりしてたり?
虚無と銃士の代理行きます。
「ご、ゴーレム!?」
窓から見えてきたのは、城とも思える巨大なゴーレムが本塔へと向けて拳を振り上げている姿だった。
そして、その拳は真直ぐ本塔へとぶつけられる。その度に地響きと壁が破壊される音が響き渡ってきた。
何故本塔を? あそこには宝庫があると聞いたが。
そこでルイズはある事を思い出した。それは、サイトの剣を買いに行った時、武器屋の店主から聞かされたことだ。
――最近じゃ『土くれのフーケ』なんつう泥棒が貴族達の屋敷を襲いかかってな、
お陰で従者に剣を買わせる奴らが増えてきたんだ。へへ、そのお陰で潤ってるがね。
「そうか、あれが……フーケ! くっ、やらせるものですか!」
「うわ、何あのゴーレム、でっかい……って、ルイズ何処へ行く気よ!」
「待って、ルイズ! まさか、貴女!」
ルイズはキュルケとシエスタの言葉にわき目も振らずに部屋から出て行った。
そして自分の部屋へと入ると、レイピアと杖を持ち出し、そのまま窓から飛び降りた。
木の枝に掴まり、くるりと勢いを殺して地面に着地すると、そのままゴーレムへと向かおうとする。
「ルイズ待ちなさい!」
「待てよ、ルイズ! あんなの一人で行っても無理だ!」
「危険」
そんな彼女をキュルケとサイト、そしてタバサは上から再び制止しようとした。
30メイルにもなろうかという巨大なゴーレムを学生、それも魔法が使えないルイズ一人で止められるような相手ではない。
向かっていくこと自体無謀なのだ。命知らずにも程があった。
「あんな巨大なゴーレムを操れるのなんて、きっと土くれのフーケよ!
もたもたしてたら、ここの宝物が盗まれちゃう! 私が食い止めるから、キュルケ達は先生たちを起こしてきて!」
「ルイズ待って! お願いよ、ルイズ!」
だがその制止も聞かず、ルイズは一瞬振り向いてそのまま走り去っていった。シエスタの懇願にも全く聞き耳持たずだ。
その様子を見て、シエスタは顔を真っ青にしながらキュルケに縋った。
「あ、ああ……ミス・ツェルプストー、どどどどうしましょう!?」
「くっ……あのお馬鹿! シエスタ、落ち着きなさい。貴女は先生、いえ学院長に報告するのよ。
サイト、貴女は私と一緒にルイズを連れ戻しに行くわよ! タバサは使い魔を連れてきて!」
キュルケは素早く指示を送る。タバサは黙って頷き、サイトとシエスタも突然の出来事に戸惑ってはいるようだが、力強く頷いた。
そして各々散って行動し始める。
その間にもルイズはゴーレムに向かっていた。外から見る限りでは、まだ本塔の壁は打ち破れていないようだ。まだ止めようはある。
ルイズには黙って見ていることなど出来ない。貴族は弱き者を守ってこそ貴族だ。そして目の前の脅威を見て、何故背くことなどできるか。
しかしゴーレムをどうやって止めるか、それが問題だ。上ることなどできるはずはない。
ならば盗む瞬間を狙って、そこで食い止めるしかない。メイジさえ倒してしまえばゴーレムも消失するのだから、そこを付くしかない。
そう決めたルイズは息を荒げながら全速力で走る。そして、揺れる本塔の中へと入り、宝庫へと向かっていった。
時々激しい揺れのせいで足がもたついてしまうが、壁に寄りかかってなんとか姿勢を保ち、また走る。
ルイズはやっとの事で宝庫の扉の前までやってくることが出来た。
と、そこであることに気が付く。鍵がないのだ。
宝庫と言うからには、扉には強力な魔法が掛けられているだろう。
向こうからは壁を打ち破る音が聞こえてきた。もう猶予はない。
「……追試でも説教でも、た、退学だけは勘弁してもらいたいけど、何でもやりますから、ごめんなさい! 『アンロック』!」
ルイズは施錠を解除するために、アンロックの魔法を唱えた。勿論成功することなどない。
だが彼女の爆発魔法はドアを破壊することに成功した。爆発による粉塵に咳き込みながらも、彼女は中へと入っていった。
そして目の前にはフードを被った『土くれフーケ』がまさに今、筒状のものを抱えている姿があった。
その姿に、ルイズは杖を向けながら叫んだ。
「止まりなさい!」
第22話
「さあ、開くんだ!」
巨大な土のゴーレムの上で、フーケは高らかに叫ぶ。周りには誰もいない。
衛士も一目散に逃げてしまっている。誰も彼女を邪魔するものはいない。
絶好のチャンスだった。フーケは不敵な笑みを浮かべ、壁の向こう側の宝庫を見つめる。
念願の宝『破壊の杖』はもうすぐそこまでやってきていた。
過失とはいえ、ルイズはよく自分のために働いてくれた。彼女のお陰でやっとのことで仕事を終わらせることが出来る。
そのルイズとも、もうお別れとなるだろう。そう考えると、フーケの心のどこかでちくりと痛むような感触が湧いてきた。
彼女と過ごした日々は楽しかった。それは嘘ではない。
妹ティファニアと会えない事への心の空白を彼女は埋めてくれた。
少し生意気で怖いもの知らずで、妹とは似ても似つかないが。
それに、エレオノールという友も作ってくれた。根無しの自分に、沢山の繋がりをくれた。
だが、それはロングビルとしてはよくても、フーケとしてはよくはない。
「……あくまで私は土くれのフーケだ。甘ったれた空気に入られるような人間じゃない!」
フーケの言葉に連動して、ゴーレムが打ち付ける拳も一層強くなる。
ゴーレムの拳は鉄に作り変えられている。
どんなに強固な壁であろうとも、まして、ひび割れている状態ではひとたまりもないだろう。
それでも何発も耐えているのは流石と言うべきか。ゴーレムの体も悲鳴を上げ始めていた。
だが、そんな我慢比べももう終わりだ。とどめと言わんばかりに渾身の一撃を与えると、壁のヒビが見る見る広がっていき、そして崩れた。
宝庫の中が曝け出される。フーケの笑みは益々深まった。
そしてゴーレムの腕をどかし、レビテーションの魔法でそこまで飛んでいくと、物色しに掛かる。
珍しいマジックアイテム、曰く付きの鏡、珍しい書物。どれもこれも喉から手が出るほど欲しいものばかりだが、彼女の目当ての品ではない。
彼女は様々な杖がかけられている壁に目をやる。その中には、明らかに他の杖とは別格の、見たことのない金属で出来た杖があった。
長さは1メイルほど。鉄のプレートには『破壊の杖 持ち出しを禁ず』と書かれている。これだ。
「これが、破壊の杖……」
フーケはふらふらと引き寄せられるように歩み寄り、それを手に取った。
意外な軽さに彼女は驚いた。杖にしては奇妙な形をしている。どういう宝物なのか。
しかし、今はそれを確かめる時間はない。とりあえずここから離れ、アジトで検分することにしよう。
彼女がそう決めた瞬間、宝庫のドアが爆発する音が聞こえてきた。そして、そこからは聞き覚えのある声が響いてくる。
「止まりなさい!」
それは、今一番聞きたくなかった声だった。そう、扉にはルイズが立っていた。
無鉄砲だと思っていたが、まさかここまで命知らずとは思わなかった。
フーケは歯を食いしばりながら、杖を向けるルイズに身体を向けた。
「この扉が見える? 私の魔法は何でも爆発しちゃうの。貴方にアンロックとか唱えれば、
それだけで吹き飛ばすことができるわ。さあ、その杖を置いて、大人しく投降しなさい!」
ルイズは杖を向けたまま動こうとはしない。なるほど、失敗魔法とはいえ、爆発を受ければひとたまりもない。
それはフーケ自身よくわかっている。
そして、彼女の甘さもわかっていた。
こうしていれば自分が動かないとでも思ったのだろう。爆発魔法をぶつけてさっさと動きを止めてしまえば良いのに。
それが彼女なりの優しさでもあり、そして致命的な弱点でもあった。
「……早く置きなさい!」
ルイズはフーケが動かないことに苛立ったのだろう。思わず声を張り上げた。だがそれが一瞬の隙を生む。
フーケはゴーレムに塔を殴るよう命じた。ゴーレムは腕を振り上げ、塔の上のほうを殴った。
その一撃で塔全体が揺れ、ルイズの体勢も少しだけ崩れた。
フーケはその隙に破壊の杖を放り、ルイズへと詰め寄った。そして杖に錬金をかけ、土くれへと変えてしまう。
「くっ!」
ルイズはレイピアを抜き、フーケに斬りかかった。
フーケは身体をひねってそれを避けると、そのまま腕を掴んでひねり上げようとする。
だがルイズも後ろに下がる事で避けた。そして距離を取って、再びレイピアを構えて対峙する。
フーケがレビテーションを仕掛けようとすると、すぐさま物陰に隠れて身代わりにし、隙を狙って斬りに掛かってくる。
土弾で攻撃しようとすれば、その合間を縫ってきた。
しかし、何時もの無理な攻めをしないあたり、どうやら彼女は時間稼ぎをしているようだ。
だとすれば、もはや彼女の相手をしている必要などない。
フーケは迫ってきたルイズを蹴り飛ばすと、そのまま破壊の杖を持ち、ゴーレムが開いた穴へと向かおうとする。
ルイズは壁に激突し、嗚咽を吐きながら地面に倒れた。
だがそのゴーレムを破壊せんと火の玉がぶつけられ、爆発を起こしていた。上空からも氷の槍の攻撃が来ていた。
ゴーレムは必死に暴れまわり、その襲撃者を追い払おうとしている。だが、風竜の素早い動きに翻弄されるだけだった。
これでは逃げられない。僅かではあるが、ルイズの時間稼ぎが功を成したのだ。
フーケは歯を食いしばり、悔しさを募らせていた。その瞬間だった。
「やああ!」
声に反応し、振り向いた瞬間。
ルイズのレイピアが彼女を襲い掛かり、フードの一部を破いた。
そして彼女の顔が曝け出され、それを見たルイズは驚いたように目を見開いていた。
それもそうだ。土くれのフーケの顔が、自分の知り合いにそっくり、いやそのものなのだから。
「ロングビ……」
フーケは焦って、とっさに彼女の鳩尾に一撃を食らわした。
完全に虚を突かれたルイズは悲鳴を上げることもできず、気絶して、フーケに寄りかかるように倒れた。
「くそっやってしまった……!」
フーケの正体を知るものがいてはならない。本来ならば自分の顔を見た彼女をここで始末するべきである。
ルイズのレイピアを握る。そして、彼女の胸に向かって突き刺そうとした。
だが、フーケにはそれができない。どうしても、できなかった。
「ルイズ!」
そうこうしているうちに、誰かが宝庫へと入ってきた。どうやら、ルイズの使い魔であるサイトとかいう少年のようだ。
フーケは仕方なくルイズを抱え、切れた部分を隠すように大きくフードを被ると、ゴーレムへと飛んでいく。
穴だらけ煤だらけだが、まだ動くようだ。逃げるには十分だ。
「待て、ルイズを返しやがれ!」
サイトは穴までやってくるが、空中を逃げるフーケに手を出す事は出来ない。ルイズもいる。
外にいて、ファイアボールで攻撃を加えていたキュルケも、使い魔である風竜シルフィードで空中から攻撃を加えていたタバサも、
フーケに抱えられているルイズを目の当たりにして、当ててしまうことを恐れて攻撃を中断してしまう。
何とか取り戻そうと風竜を急降下させたタバサだったが、ゴーレムの腕によって阻まれ、思うようには行かない。
そうこうしているうちに、フーケはゴーレムに辿り着いた。
そしてゴーレムは踵を返し、城壁をひょいと跨ぎ越えると、そのまま草原を歩いていった。
肩に乗るフーケの側には、気絶したルイズが横たわっている。
それを見て彼女は頭を抱えてしまった。よりにもよって、学生を、公爵家の娘、それも親友の妹を攫うことになるとは。
こうなればこの国にはいられなくなるだろう。あんな盗賊狩りをした公爵家のことだ。死ぬ物狂いで自分を捕まえようとするはずだろう。
しかし、破壊の杖の詳細もわかっていない。
何もかも上手く行くと思っていたのに、最後の最後で阻まれた。
いっそその原因となったこの娘を殺してやろうかとフーケは自棄になり、彼女の首を絞めたが、力を入れようとしても無理だった。
やはり掴む以上の力は出る事はなかった。何かが彼女を拒んだ。
仕方なく彼女は、彼女を追う風竜から姿を晦ますため、一度攻撃を加えて、風竜を一瞬追い払うと同時にルイズを抱えてゴーレムと離れる。
それと同時にゴーレムを解除し、土くれへと戻す。巨大な土の山が出来あがり、その影に隠れてフーケは風竜の目をやり過ごした。
「あの泥棒は!?」
才人は叫んだ。急いでタバサの風竜に乗り込み、あの巨大な土人形、ゴーレムを追いかけてきたはいいが、
先ほどの攻撃で目を放した隙に泥棒はルイズと共にいなくなってしまった。
二人は地面に降り立ち、土の山の付近を捜したが、痕跡すら残されていなかった。
タバサは静かに首を横に振る。これ以上捜索しても、彼女たちは見つからないだろう。
「くそっ! 俺がもっと早く着いてりゃ……!」
才人は悔しそうに拳を握り、地面にぶつけた。
剣を握り、あの不思議な力で駆けつけてきたのに、間に合わなかった。
自分の目の前でルイズは、あの泥棒に連れ去られてしまったのだ。
「ルイズ……」
タバサも心配そうに呟いた。彼女もシルフィードの上で、ゴーレムに氷の矢や竜巻をぶつけて、懸命に応戦したが、びくともしなかった。
あの巨大なゴーレムを作れる土くれのフーケは、トライアングル以上のメイジだろう。自分と同じ、いやそれ以上の使い手かもしれない。
ひとまず彼らはシルフィードにまたがり、学院へと戻った。学院ではざわざわと騒ぎ始めている。
どうやら寝ていたり、黙り込みを決めていた生徒も騒ぎ始めたようだ。
遅すぎる。もし彼らも協力してフーケのゴーレムを攻撃していれば、何とかなっていたかもしれないのに。
二人は悔しさをかみ締めていた。しかし、後悔したところでルイズは戻ってこない。
「タバサ、サイト!」
と、地面ではキュルケが真っ青になっているシエスタを抱えながら二人を呼んでいた。
傍にはシエスタが呼んだのだろう、学院長オールド・オスマンがいた。シエスタは心配が募る余りに、身体が震えてしまっているようだ。
それをキュルケが優しく抱きかかえて安心させようとしている。
「どうだった?」
キュルケが尋ねる。それにタバサが首を横に振って全てを伝えた。
それを見たシエスタは顔を手で覆い、地面に膝を突いた。
「わ、私のせいです! 私が身を挺してあの子を止めていれば! ああ、ルイズ……!」
「落ち着いて。ルイズはきっと大丈夫。フーケは彼女を始末するような素振りは見せなかった。……いや、出来なかった。
それに、ルイズを止められなかったのはこの場にいた全員の責任」
タバサは彼女を支えながら励ます。シエスタは後悔の涙を流しながら嗚咽を吐きつつ、タバサの言葉に頷き続けた。
「全く、あの子の無鉄砲さも天下一品だわ……。その性格を知ってて、止められなかったのだものね。私にも責任はあるわ。
それに、あの子がいたから、少しだけだけどゴーレムを止めることができたんだし。あともう一息だったのだけれど。
……全く教師は何をやっていたのかしら。ねぇ、どう思われますか? オールド・オスマン?」
「耳が痛いのう……。だが確かにそうじゃな。わしら教師陣が生徒を守るべきじゃった。
だが蓋を開ければ、勇敢に戦ったのはミス・ヴァリエール、ミス・ツェルプストー、そしてミス・タバサ。そしてそこの少年。
なんとも情けない話じゃのう……」
キュルケの皮肉に、オスマンは髭を撫でながら項垂れた様子だ。
彼女の言うとおり、本来こういう状況では生徒を守るべき立場にいる教師が戦うべきだった。
だが、そういう素振りを見せたものなど一人もおらず、結局生徒自身が戦うという始末だ。
これでは教師の面目丸つぶれだろう。
「ともかく。あとは我々に任せて、君達はもう休みなさい。これ以上生徒たちに危険な目にあわせるわけにはいかんしのう」
「お、おい! ルイズを放っておけって言うのかよ!」
オスマンの言葉に才人は焦燥した表情で詰め寄った。だがオスマンは落ち着いた表情で彼を諭すように言った。
「少年。相手は多くの貴族を出し抜いてきた怪盗フーケじゃ。闇夜に乗じて襲い掛かってくるかもしれぬ。
そんな危険な状況では、君たち平民や精神力の切れたメイジでは捜索など無理じゃよ。
まずは冷静になることじゃ。今ギトーやコルベールが近辺の探索に出てくれておる。後は我々に任せるのじゃ。
……まあ頼りにならないというのは否定できぬが。生徒が攫われたのじゃ、我が杖にかけて見つけてみせるよ」
「嫌だ! 俺は探しに行くぞ! あんた達なんか頼ってられっか!」
才人は必死に食い下がり、剣を抜いて外へと向かおうとした。ルイズが危ない状況に引き下がれない思いで一杯なのだ。
だが、そんな彼を引き止めたのは、シエスタの震える手だった。彼女も心配だ。それを押し殺して、彼を説得した。
「サイトさん……。ここはメイジの方々に任せましょう。私たちじゃ、返り討ちになって、
余計に皆様に迷惑になっちゃいます……。悔しいですけど」
「シエスタ……」
「サイトさんまで傷ついたら、もしルイズが無事に戻っても、悲しい顔しちゃいますよ」
シエスタの言葉を聞いて、才人は彼女から顔を背けながら、歯を食いしばる。
キュルケ達は黙って、彼の言葉を待った。
才人は一度瞳を閉じて、迷いを振り切るように首を横に振ると、剣を収めて言った。
「くっ……。わかったよ。爺さん、よろしく頼む」
「ああ、任せなさい。明日には君たちにも報告が出来るじゃろう。それまで、体を休めておきなさい。
……ああ、そうじゃ。君はフーケを間近で目撃したじゃろう? どういう姿だったか覚えておるかのう?」
「姿って……えっと」
才人は首をひねって必死に思い出そうとする。
だが彼が見たのは後姿と抱えていた筒状のものだった。それだけで何も分からない。
いや、そういえば、あの体つきはどう見ても男ではなく女だった気がする。
「女、だったと思う。それに暗くてよく見えなかったけど……筒状の何かを持ち去ってた」
「筒状……か。それは破壊の杖に間違いなかろう。問題は女か……ふむ。てっきり男かと思っておったが、なるほどのう。
先入観とは恐ろしいのう」
才人の言葉にオスマンは頷きながら、指笛を吹いた。すると何処からともなく3匹のハトが飛んでくると、彼の左腕に止まった。
オスマンが魔法のペンで羊皮紙に文字を綴ると、それをハトの足に巻きつけた。
そして彼がハトの頭を軽く指でなぞると、ハト達は一斉に飛び去っていった。
「ひとまず捜索しておる者に伝達した。これで捜索も少しは捗るじゃろう。さあ、君達は戻りなさい」
「……オールド・オスマン。お嬢様、いえ、ル、ルイズを、お、お願いします……お願い……します」
「うむ」
シエスタはオスマンにすがる様に、ルイズの無事を願って手を握った。オスマンも安心さ
せるように優しく背中を叩いてやると、その身体を才人にそっと引渡し、そして自分も捜索に出るため、飛んでいった。
その背中を見送りつつ、キュルケは腰に手を当てながらため息をついた。
「まあ、仕方ないわよね。手掛かりがないんじゃ、私たちも探しようはないわ。
それに精神力ももうないし。サイト一人じゃ勝てる相手じゃないわ。今からは先生たちに任せましょ。
どれだけ頼りになるかは別としてね」
キュルケの言葉にタバサも頷く。あんな強力な魔法を使える二人ですら苦戦したのだ。才人も納得し、引き下がるしかない。
彼らは女性寮に戻る。そして途中でタバサを部屋まで見送り、キュルケと才人とシエスタもルイズの部屋の前へと辿り着いた。
「シエスタ。今日はルイズの部屋で寝ていたら? 使用人の部屋に戻るよりもずっと安心できると思うわよ。
それに、もしかしたら戻ってくるかもしれないし」
「……はい。お気遣いありがとうございます」
「ちょっと待ちなさい。あ、貴女は中へ入っていなさいな」
と、キュルケは部屋に入ろうとしたサイトを引き止めた。
そしてシエスタだけを部屋中へ入れると、ルイズの部屋の扉を閉めて、サイトの耳元で囁いた。
「わかっているでしょうけど。シエスタをしっかり慰めてあげるのよ?」
「へっ? いや、うん、わかった……。でも、どうしてあげりゃいいんだ?」
「んもう、スケベの癖にそういうところには疎いのねぇ、貴方。まあそういうところが可愛くて私は好きだけどね」
「う、うっさいな! こういうことなんて、今までなかったしさ……」
「……優しくしてあげて、そばにいて黙って見守ってあげる。抱きしめてあげたりね。
それだけでいいのよ。あの子を慰められるのは、ずっとルイズと一緒にいた貴方しかいないんだからね?」
「ああ、わかった。アドバイスありがとう。……落ち着いてるんだな?」
「ルイズの事? そうね、私もフーケにはむかついているけど……。
でもあの子がこんなところで死ぬような子じゃないってわかってるから。だって」
「だって?」
「私のライバルですもの」
キュルケは胸を張って、満面の笑みで才人の問いに答えた。不安だってあるだろうに。それを感じさせない強い女の表情だった。
根拠のへったくれもない言葉だったが、不思議と才人は安心感を覚えた。
「それに、貴方のルーンも証拠になるでしょう? 使い魔は一心同体。貴方がそうあること自体が、証拠になってくれているのよ」
「……そうなのか。うん、ありがとう。少し安心したよ」
「いえいえ、どういたしまして。じゃあ、おやすみなさい。ダーリン?」
「ぶっ!?」
「ふふ、冗談よ。おやすみ、サイト」
こんな状況でも、自分を安心させてくれるキュルケに、才人は苦笑しながら頷くと、おやすみ、と一言告げてルイズの部屋へと入っていった。
部屋の中では、ルイズの髪を何時も梳かしている櫛を持って、シエスタが今にも飛び出して探しに言ってしまうのではないかと言うぐらい、
憔悴しきった表情でベッドの上に座っていた。
才人は黙って彼女の隣に座った。
暫くの間、沈黙が続いたが、シエスタが震える声で才人に問いかけた。
「だ、大丈夫、で、すよね。あの子、強いし、優しい子だから……き、きっと大丈夫ですよね」
涙ぐんでいた。今にも崩壊そうな表情で、しかし彼女はまるで誰かを、いや自分を安心させるかのように呟いていた。
そんなシエスタに才人は精一杯優しい声で、安心させようと答えた。
「うん、大丈夫だよ。キュルケも言ってた。私のライバルだから、こんなところで死ぬような奴じゃないって」
「そ、そうですか。そうですよね……」
シエスタは少し無理に笑みを浮かべた。だが心配させまいと無理に作っているその笑顔が逆に痛々しいと思い、才人は沈痛な思いに駆られた。
だが、それを心の奥底に必死に押し込めて、才人は自分の左手を見ながら呟いた。
そこには、ルイズとの契約によって刻まれたルーンがまだ残っている。
「……うん、大丈夫だと思う」
これも根拠などないが、それでもそう感じることが出来た。ルイズはまだ無事だ。そう信じてみることにした。
「……サイトさんは、強いんですね。ミス・ツェルプストーも、ミス・タバサも……」
と、ぽつりぽつりとシエスタは呟いた。俯いていて、才人からは表情は見えないが、悲しい顔をしている。
「私、時々思うんです。ルイズやルイズのお姉様やサイトさんのように剣が使えたら。
メイジのように、魔法が使えたら。ジェシカのように、心が強かったらって……。
でも、私ドジだし、失敗ばかりして……何も、とりえが、うう……ない」
「……そんな事ないと思うよ」
「……ごめんなさい。サイトさんだって心配なのに、私ばかり弱音を吐いて……。う、うう……」
「……」
「う、うう……うああ……! ルイズ、ごめんなさい……ごめんなさい……」
シエスタはついに涙を堪えきれず、大量の涙を流しながら顔を抑えてルイズに謝り続けた。
突然の出来事やルイズを守れなかったことに彼女は混乱しきってしまっている。
才人だって同じだった。勉強はできないけど、頼りになるし、自分に色々と教えてくれる。
でも何処か危なっかしい少女。
ご主人様だからだとか、そういうのを抜きにして。才人にとって彼女はかけがえのない大事な人だ。
その子が目の前で攫われてしまって、彼はフーケに対し、言葉にし難い怒りを覚えていた。
……何故そこまで、ルイズの事をそう思えるのだろう。まだ出会って間もないのに。
だが、才人はそんな思いを胸にしまいこんで。
ただ今は、キュルケに言われた通りに目の前で泣きじゃくるシエスタに胸を貸し、そっと頭を抱きしめてあげた。
彼女が泣き疲れて眠るまで。ずっと。
ルイズが目を覚ますと、そこには見たことがない風景が広がっていた。
かび臭さが鼻を刺激してくる。
顔を起こし、辺りを見渡すと、暗闇のせいでよくは分からないが、そこは何処かの小屋か何かの一室のように思えた。
台に置かれたロウソクの光だけが辺りをぼんやり照らしている。
そんな薄暗い木造建築の部屋の中に、ルイズは一人倒れていた。
ルイズは必死に記憶を呼び起こしながら、身体を起こそうとする。だが、思うように動かなかった。
手と足がまるで縛られているような。いや、実際には縛られているようだった。
ルイズは必死に暴れてみるが、かなりきつく縛られているのかビクともしない。
彼女は縄から抜けることを諦めて、ひとまずもがきながら姿勢を変えて、何とか地面に座るような形にまで体勢を直した。
そしてまた辺りを見渡してみる。
食料庫か何かだろうか。箱が積まれているが、もう殆ど手が付けられていないように見える。
何も入っていない箱や樽のほうが多いようだ。近くには食料を加工するための台がある。
その上には先ほど見たロウソクと鋭利な包丁が置かれていた。
近くには酒が置かれている。まだ中身が入っているようだ。
と、何処からか、梯子を降りるような音が近づいてきた。
ギシ、ギシっとそれはルイズの恐怖心を煽るかのように響き渡り、思わず彼女は息を呑んだ。
自分をこんな目に合わせた人物だろうか。そして、それと同時に彼女の記憶も戻ってきた。
ルイズの目の前に、漆黒のマントを纏い、フードをかぶった人間が立った。
暗闇と黒い格好のせいでよくは見えないが、女性のようだ。しかし、ルイズにはそれが誰かが分かる。ルイズはその女性の名を呼んだ。
「……ロングビルさん……」
「……やっぱり、わかっちゃったんだね。ったく、余計なことして……」
女はフードを剥いだ。そこにはルイズの言葉通り、オスマンの秘書ロングビルの姿があった。
だが何時もの優しい表情も、豪快な雰囲気もなく、ただ冷たい眼でルイズを見下ろしていた。
だが、その冷たい眼の奥には何か、憔悴のような感情も感じられる。
ルイズはわなわなと震えながらも、ロングビルに問いかけた。
「何でこんなことしたの……? 何でロングビルさんがフーケなの!? そんなことする人じゃないでしょ!? どうして……」
「どうして? 決まってるでしょ? 金がほしいからさ。それに、憎い貴族達が慌てふためく顔を見るだけで楽しいのさ」
ロングビルは口元をにやけさせながらルイズに語った。だがルイズはそれを必死に否定するように言った。
「たった、たったそれだけの事のために? 違う、私が知ってるロングビルさんはそんな人じゃない! もっと、もっと優しい人じゃ……」
「五月蝿いんだよ! ルイズ、それはお前が勝手に作り上げた私だ。そんなの私じゃない!
何時も何時も私の後ろにちょこまか付いて私の邪魔ばかり……いい加減ウザったいんだよ!
今回もそうだ。あんたがいなきゃ、この仕事は簡単に終わったはずなんだよ!
弱いくせに、甘ちゃんのくせに出張りやがって……! 本当に……本当に迷惑だわ!
はん。今回だって、格好つけたくて、皆に認められたくて飛び込んできたんだろ? 馬鹿な子だよ、全くさ!」
「ち、違う! 私そんなこと考えてない! ただ、ただ悪い人から皆を……」
「はん。じゃあ今のあんたの状況はどうなんだい? 弱いくせに飛び込んで、掴まって。周りに迷惑ばかりかけている。
皆のためにと口では言っても、あんたは自分の事しか考えていない、あの馬鹿な貴族達と同じだ!」
だが、そのルイズの言葉をまるで受け付けないように、ロングビルは彼女に心のない言葉をぶつけた。
今までの付き合いを全て否定するような言葉を投げつけた。
その言葉を聞いて、ルイズは涙ぐみながら呆然とした表情でロングビルを見る。
今まで見たことのないロングビルの様子への恐怖心と後悔と深い悲しみにルイズは心が一杯だった。
そんな彼女から眼を背けるように、彼女はルイズに背を向けた。
そんな背中に、ルイズは震える声で問いかけた。
「私を……どうするつもり?」
「……あんたは人質だ。公爵の娘を攫うなんて、私の命も危ないけど、ここまでやったんだ。
もう贅沢なことなんて言っていられない。私の仕事が済んだら、アルビオンまで付いてきてもらうからね。
そして、あんたから私の記憶を全て奪わせてもらう。そういう魔法を使える知り合いがいるからね。
……その後は勝手に何処へでも行くが良いさ。もう二度と、あんたと会うこともないだろうね」
「やめてよ、こんなこと……お願いよ……ロングビルさん!」
「その名で呼ぶな! 私は、フーケだ……土くれのフーケなんだよ!」
そう叫んで、ロングビル、いやフーケはその場から足早に去っていった。まるで何かから逃げるかのように。
だが、信じていた、尊敬していた人から心無い言葉を投げつけられたルイズに、そんな彼女の心情を知る余裕などなかった。
彼女は、信じていたものに裏切られたことへの悲しみと、周りに誰もいないことの孤独感と心細さに、ただ泣き喚くしかなかった。
そう、幼少の頃。盗賊たちに攫われて、一人武器庫で泣いていた時のように。
「嫌だ、嫌だよ……お姉ちゃん、サイト……こんなの……こんなの嫌! 嫌よ!」
あの頃を思い出して、ルイズはただただ泣くしかなかった。
そんな彼女の泣き声を、扉越しにフーケは地面に座りながら聞いていた。
そして、ルイズの泣き声から逃れるように耳を塞ぎながら、ぽつりとまるで懺悔のように呟く。
「ごめん、ごめんよ……ルイズ……エレオノール……アニエス……。……罪は、いつか償うから……ごめん……」
そして彼女は、何かを決心したかのような表情で、森小屋を去り、馬を駆って魔法学院へと戻っていった。
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大分ほのぼの路線から離れてきちゃいましたね。
あとまとめwikiが落ちてしまったようですね。本当に管理人さんお疲れ様です。
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以上代理投下終了です。
……よく考えてみれば、最後のレスにいくつか移せば良かったですね……作者様、読者の皆様方申し訳ありません。