あの作品のキャラがルイズに召喚されました part271

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?
そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part270
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1268394355/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 19:25:48 ID:+RHp3UQb
乙です
3名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 19:25:50 ID:Bwl70ge3
テンプレ終了
スレ立て完了。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 19:29:14 ID:NfHrcGcB
報告:
設定・考察スレにて議論した結果、以下のことが判明しました。
作者諸氏には設定間違い・世界観の破綻といった突っ込み対策のため、
よく目を通してこれに従ってください。

ラインメイジ:大人のメイジのかなりを占める。数割程度。
少なくとも大人連中でドットが一人でもいたか?

トライアングル:大人のメイジのうち10人〜8人に一人くらいの割合でいる。
スクウェアメイジ:15人にひとりくらい。
・…学徒・新兵
―…正規兵
△…ベテラン
□…エース

上のような条件でトライアングルのフーケが魔法衛士隊(近衛)を蹴散らして
白昼堂々強盗をやったが、何もおかしくない。
巨大ゴーレムなんて明らかに攻城用魔法なんだから、土メイジが同程度のゴーレム作らない限り対抗しようがないからである。
風メイジは最強である。土よりも明らかに強い。


オストラント号で「熟練」のメイジ20人がタイガー戦車を運んだが、
その時に従事したのは全員トライアングルメイジが相当である。
烈風の騎士姫読み直したが、下手すると1カリンでタイガー戦車持ち上がるかもしれん。


マリコルヌがドットで雷魔法を使っている以上、メイジのLVそのものが当てにならない。
△と□の差は、習得できる魔法の差であって、魔法の威力には関係がない。
歴戦のラインメイジ傭兵がむっちゃ強いとか。


ルイズがメイジの人口は一割いない程度、1巻で言っているが、
人口に占めるメイジの割合自体そう大きいものでもない。


他にも色々あるけど、ま、続きは又今度


クラスが上がると掛け合わせる魔法の組み合わせが増える。
また、同程度の魔法を使うときの精神力の消費が減る。

ドットメイジでも精神力が多ければ、強力な単発魔法は打てる。ただし、ドットでは風×風とか風×水とかそういう魔法は使えない。
5名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 19:31:57 ID:+RHp3UQb
初見さんへ
>4 はテンプレではありません
6名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 20:25:44 ID:D5gt8983
>>1乙
7名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 20:40:22 ID:Cr/SZZ/S
>>1


>>1以外のテンプレのようなものは荒らしなのでスルーしてください
8名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:10:29 ID:GDUo/L1q
http://skm.vip2ch.com/-/hirame/hirame083553.jpg

こうゆうオリキャラが活躍するゼロ魔SSをかいているところです
携帯なのでじかんかかりますが楽しみにしててください><
9名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:30:40 ID:Bwl70ge3
マジレスするが、
買いながらの投下は基本的に禁止。
特に数レス使うような奴は。

オリジナルキャラ召喚も禁止。

どうしてもやりたいのなら、
文化カテゴリーの創作文芸板か創作発表板でスレ建ててやってくれ
10名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:34:32 ID:vdw4MgXS
マジレスすると釣りかギャグのつもりじゃないかと思うからスルーしとけ。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:43:58 ID:IMQD39AT
>>4は荒らしのようなものなのでスルーしてください
12名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:47:52 ID:NfHrcGcB
当方にスルーの用意あり。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:50:26 ID:auiKK2wo
>>12
俺はあえて突っ込まんぞ
14名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 21:54:56 ID:5FVr5sK7
とあるのキャラは意外に呼ばれてないな
上条さんだけ?
15名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:00:29 ID:F8+0KWcX
あれ、禁書はスレわかれてなかったっけ?
16名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:06:22 ID:CO+ChQtP
とあるすがりのサラリーマンがどうしたって?
17名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:08:24 ID:XVMArHo5
>>16
それはすごく読みたいぞ。
何故か現状を速攻で理解して、ギーシュやタバサたちに講釈してくれるんだ。
誰か書いてくれんかねぇ
18名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:11:32 ID:FdKmnEfb
>>16
とおりすがりのサラリーマンと読んでしまい、
最強とーちゃん召喚かとw
19名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:14:29 ID:vlt1DlZJ
サラリーマンか、なんかクレしんのひろしを想像した

高槻パパ呼んだら色々台無しになりそうw
勇次郎やセガールを呼ぶ感じ
20名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:15:55 ID:/MIFLUnQ
21名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:16:27 ID:+76aEf3j
基本はサラリーマンが育てたルイズが単独で敵と戦う話になりそう
22名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:22:53 ID:CO+ChQtP
個人的にはアンアンに「そんなものさ、他人から見たらね。」を言ってあげて欲しいんだけど
戦闘班のリーダーと国のリーダーじゃ話は変わってくるよね
23名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:24:56 ID:5S254oKb
サラリーマンと言えば金太郎
24名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:31:41 ID:SaR6Fnw4
>>21
ただ、それをやっちまうとルイズが虚無の魔法を発動させるのに大きな支障が生じかねないけどな。
サラリーマンの教えの代表格たる「水の心」と、ルイズが虚無の魔法を発動させる為の魔力を生み出す為に
必要になると言っていい怒りや嫉妬なんかは明らかに正反対だし。
25名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:35:09 ID:CO+ChQtP
虚無使用時には火の心だけ使えば良いんじゃね?
26名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:35:27 ID:+76aEf3j
そこは明鏡止水が怒りや憎しみを超えた力を生むとかの理屈でw
27名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:37:57 ID:NfHrcGcB
>>24
魔法を使うよりも格闘戦の方が強くなるフラグですね。
28名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 22:40:29 ID:Fj58uDEb
>>14
ロリコンレベル5も召喚されてたはず。
29名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:02:00 ID:e7vlY7jy
パイレーツ・オブ・カリビアンシリーズから
ジャック・スパロウを召喚。
ハルケギニアは航海技術がほとんど発展してなさそうだから
スパロウさん愕然とするだろうな。

プリキュアシリーズのどれかの妖精たちを召喚して
ルイズたちがプリキュアになるってのもいいな。
30萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:04:12 ID:zb3oN14X
お久しぶりです。
私事でしばらく離れざるを得ませんでしたが、進路クリアなら23:20ごろから
第17話の投下を行います。
31名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:12:24 ID:5FVr5sK7
しぇん
32萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:20:29 ID:zb3oN14X
それではいきます。


「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ!」
「……ア…………」
 感極まったルイズは口元に両手を当てたまま言葉が出ない。唐突な、
ある意味この場にもっともふさわしくない人物の来訪。トリステイン王国
第一王女アンリエッタ・ド・トリステイン姫は、そんなルイズに優しく
微笑みかける。
「懐かしいわね、ルイズ!こんな風に再会できるなんて夢のようだわ!
 ああ、ルイズ・フランソワーズ!何年ぶりかしら」
 そう言ってアンリエッタ姫は一歩前に歩み出る。その豊かな胸の前で
感謝の祈りのように合わされた両手を、ルイズは感極まった顔のまま
その手に包み込んだ。
「アンリエッタ姫殿下!」
「ルイズ!」
 久方ぶりの再会に喜ぶ二人。ふがくは顔を上げぬまま無言で視線のみを
そちらに向ける。

(そう言えば、この国の正式な代表は今存在しないんだっけ。
 国王が崩御された後、もう何年も王妃は喪に服したままで、跡継ぎの姫は
この通り……よくこれで政が動いていたものだわ)

 よほどあのマザリーニという枢機卿がやり手なのだろう。年齢の割に
老いさらばえて見えたのは、心労のためか……ふがくは内心で枢機卿に
同情した。
 そうしているうちに、ルイズがはっと気がついたようにアンリエッタ姫の
前で片膝をつき頭を垂れた。その様子にアンリエッタ姫は虚を衝かれたような
顔をする。
「ルイズ……?」
「申し訳ございません。懐かしさのあまりとんだご無礼を……」
 臣下の礼を取るルイズに、アンリエッタ姫は片膝をつくルイズの手を
取って、ルイズが自分の遊び相手として過ごしていた思い出を語る。
その姿にルイズも打ち解け、やがて二人の間に笑みがこぼれた。
 その様子は、未だ面を上げぬふがくにはできすぎた茶番劇のようにしか
見えなかった。だが、ルイズはそんなことに気づきもしない。本来ならば、
何故こんな時間に一国の姫君がこんな場所に忍んでこなければならないのか……
それに違和感を感じなければならないのに。

(こんな立場の人間が、いくら自分に縁があっても疎遠だった臣下の部屋に
昔話をするためだけに来るはずなんてない。きっと裏があるはず……)

 ふがくは考える。そう言えば、昼間キュルケたちが隣国アルビオンの
内戦、そしてトリステインと隣国ゲルマニアの軍事同盟の話をしていた。
そのタイミングでのアンリエッタ姫の行幸、そしてルイズへの非公式な
訪問――あまりにも不自然。ふがくは嫌な予感がしてならなかった。
 そんなときだ。アンリエッタ姫が思い出したように臣下の礼を取ったままの
ふがくに視線を向けたのは。
「あなたは?」
「ご尊顔を拝することができ光栄に存じます。姫殿下。
 私は大日本帝国の鋼の乙女、ふがくと申します。そちらにおられる
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様に召喚され、
使い魔として仕えております」
「『ダイニホンテイコク』?それに『ハガネノオトメ』……?」
 面を上げてそう返答するふがく。アンリエッタ姫は礼にかなった
その諸作に感心すると同時に聞き覚えのない単語に困惑の表情を見せるが、
そこにルイズがフォローに入った。
33萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:22:13 ID:zb3oN14X
「それについてはわたしが。
 『ダイニホンテイコク』は、遙か東方にある、2600年前に天より降臨したと
される『テンノウ』と呼ばれる皇帝の一族が代々治める国だそうです。
 『ハガネノオトメ』とは、ハルケギニアで一番近いものを挙げると
『偽りではない意思を持ったガーゴイル』になるでしょうか。
ご覧いただいておりますようにハルケギニアのガーゴイルとは異なり
見た目は人間そっくりで、ふがく自身もかの国では士官待遇だったとのこと。
 事実、オールド・オスマンより学院内に限りふがくを准貴族として
扱うとされておりますし、わたしもふがくの力には大いに助けられて
おります」
 ルイズなりに理解した大日本帝国の説明を聞いてアンリエッタ姫は
「まぁ」と驚きの声を上げた。そしてふがくを好奇の視線でまじまじと
見つめる。翼を外しているため目に見える違いと言えばその白い髪と
白と青を基調とした東方風の格好、それに脚の車輪だけなのだが、
アンリエッタ姫はその姿をしっかりと目に焼き付けた後で思い出したように
にこやかに微笑む。
「ルイズは昔からどこか変わっていたけれど……相変わらずね。
 かの盗賊『土くれのフーケ』を懲らしめたことを聞いたとき、いったい
どうしたのかと思ったけれど、納得できましたわ」
「ひ、姫様?」
 驚くルイズ。その手をアンリエッタ姫は優しく包み込んだ。
「わたくしがあなたにできることは、こうしてお礼を言うことだけです。
 ルイズ・フランソワーズ、ありがとう。
 本当にあなたが羨ましい。自由って素敵ね」
 そう言ってアンリエッタ姫の表情に翳りが差すのをルイズは見逃さなかった。
「姫様……どうなさったんですか……?」
 心の底から心配している面持ちのルイズを前に、アンリエッタ姫は
背を向けて窓に向かい、その目を閉じて静かに言う。
「結婚するのよ、わたくし……」
 突然のことにルイズは困惑する。月並みな言葉しか出ない状況で、
ルイズの視線はアンリエッタ姫の一挙一動に注がれた。
「実は、ゲルマニアの皇帝へ嫁ぐことになったのです……」
「ゲルマニアですって?あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」
 アンリエッタ姫の言葉に同情しているのか、差別的な言葉を口にする
ルイズ。ふがくは昼間キュルケが言っていたことをそのまま口にする
ルイズに内心不快感を覚え、また風向きが妙な具合になっていることに
危機感を抱いたが……どうすることもできないでいた。
 そのふがくの心情を知ってか知らずか、アンリエッタ姫は大舞台に
上がった女優のような仕草でゆっくりと、静かに言葉を紡ぎ出す。
「そう。でも、仕方ないの。同盟を結ぶためですから。
 アルビオンの叛乱軍が王室を倒し……勝利を収めてしまう前に、わたくしは
トリステインのため、ゲルマニアに身を委ねなければならないのです……」
 歌劇団の主役のような仕草で静かに語るアンリエッタ姫。その様子は
ふがくの嫌な予感を裏付けるものだった。
「……ですが……同盟を望まぬアルビオンの貴族たちが今、婚姻を妨げる
材料を探しているようなのです……」
「え!?……まさか、そのようなものがあるのですか……?」
 ルイズの問いかけをアンリエッタ姫は静かに肯定した。そして罪の
意識に恐れおののくかのように激しくかぶりかぶりする。
「おお!始祖ブリミルよ!この不幸な姫をどうかお救いください!
 ルイズ……わたくし……どうしたら……!」
「言って!姫様!婚姻を妨げる材料って何ですか!?」
 (しまった!)――ふがくが無礼をかまわず声を出そうとしたが間に
合わなかった。アンリエッタ姫は瞳に涙すら浮かべた表情で謝罪の言葉と
ともに本題を口にする。
34萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:24:00 ID:zb3oN14X
「ごめんなさいルイズ!
 『土くれのフーケ』を懲らしめることができたあなたなら……何とか
できるのではないかと……
 ああ……わたくしは……おともだちのあなたに、戦中で危険なアルビオンに
行って欲しいなどと……そんなひどいことを口にしようとしていたのよ……っ!」
 そのまま泣き崩れるアンリエッタ姫。その様子にルイズは勢いに乗ったまま
決定的な言葉を口にした。
「姫様!
 このラ・ヴァリエール家の三女ルイズ・フランソワーズは、姫様の
おともだちであり、まったき理解者です!
 永久に誓った忠誠を忘れたりは致しません!」
「うれしいわ!ルイズ!
 わたくしはあなたの忠誠と友情を一生忘れませんわ!」
「姫殿下!」
 ひしと抱き合うアンリエッタ姫とルイズ。その様子をふがくは内心
歯噛みして見つめるしかなかった。

(……完全にしてやられたわ。
 ルイズの性格じゃ、あんな搦手でこられたら勢いのまま承諾するのは
分かっていたはず。
 しかもこれじゃ正式な命令じゃないからルイズが勝手に内戦状態の国に
後方支援もなしに飛び込むことになる……
 ああ、もう!この姫様、私がいることを見越してこんな茶番劇仕込んで
きてるし!それに……あのバカ、私が気づいてないとでも思ってるのかしら!)

 いらつく感情も含めて決してそれらを言葉に出さず、ふがくはドアに
視線を送る。そうしているうちに二人も落ち着いたのか、アンリエッタ姫が
ルイズのベッドに腰を下ろして本題を話し始めた――

「……手紙……ですか?」
「そうです。これは信頼できるルイズ・フランソワーズ、あなたにしか
お願いできないことなのです……」
 アンリエッタ姫が語り、ルイズが言葉にした、一通の手紙――それは
以前アンリエッタ姫がアルビオンの皇太子ウェールズに宛ててしたためた
ものだという。内容については語ることはできず、しかしそれが叛乱軍の
手に落ちればトリステイン王国は一気に窮地に立たされるもの――それを
聞いたふがくはもはや渋面を隠しきることができなかった。

(……これはどう考えても不義密通の誓書ね。この姫様、自分の不始末を
ルイズに押しつける気だわ。
 おまけに正式な命令書もないただの『お願い』だからどう転んでも
ルイズの勝手な行動になる。たとえルイズがアルビオンで死んでも
この姫様には何の関係もないと言い張れる……そんなことになったら
私まで消されそうね)

 ふがくは考え得る悪い予感にますます眉をひそめる。そして……
この泥沼に喜んで足を踏み入れようとする、扉の向こうの愚か者に意識を
向けた。まだこちらが気づいていないと思っているらしい。
事実、気づいているのは自分だけだろう。ルイズはもちろん、あの姫様も
自分に酔いしれて外のことなど気にもとめていない――いや、これまでのことから
誘っているのかとも思えてきた。そんな中、ふがくは今の自分にできる
最低限度の確認を行うため、最大限の礼を伴ってアンリエッタ姫に声をかけた。
「……畏れながら、姫殿下にご確認致したいことがございます」
「ふがく?」
「……かまいません。何ですか?」
35名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:25:11 ID:lCpeijVQ
支援
36萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:25:46 ID:zb3oN14X
 改めて片膝をつき頭を垂れるふがくに、ルイズは驚き、そしてアンリエッタ姫は
柔らかな笑みを浮かべて言葉を促す。それを聞いたふがくは、まっすぐに
アンリエッタ姫の青い瞳を見つめて言葉を続けた。
「それでは。仮に手紙と我が主ルイズ、どちらかを諦めなければならない
事態に陥った場合、優先すべきは手紙でしょうか?それとも我が主ルイズ
でしょうか?」
「……両方、は無理な場合……ということですか?
あなたがルイズ・フランソワーズのそばにいて、そんなことになると
いうのですか?」
「敵地において手引きもなく、後方支援もない潜入任務の場合……
いえ、どんなときにも最悪の事態は考慮しなければなりません。
 確かに、我が主ルイズだけの場合ならば、姫殿下の望むまま生還することも
叶いましょう。ですが……」
 そう言って、ふがくは黙礼でアンリエッタ姫に非礼をわびてから静かに
扉に移動する。そして――一気に扉を開け放った。
 そこには、しゃがんで聞き耳を立てる姿勢のままのギーシュがいた。
冷めた視線で自分を見下ろすふがくと目が合ったギーシュが何か言おうと
したが、ふがくは有無を言わせずギーシュを部屋に引きずり込み扉を閉める。
「……同行者が二人になった場合、その保証は致しかねます」
「ギーシュ!まさか今の話立ち聞きしてたの!?」
「……いや……薔薇のように麗しい姫様の後をつけて来た……ら……うぐっ!」
 ギーシュがそこまで言った時点で、ふがくがギーシュの頭を問答無用で
床にこすりつける……が、ギーシュはそれをはねのけてアンリエッタ姫の
前に直立不動の姿勢を取り、いつもと違ったきりりとした面持ちでこう言った。
「姫殿下!その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに
仰せつけ下さい!」
「え……?グラモン!?」
 ギーシュの家名を聞いたアンリエッタ姫が思わず聞き返す。
「あなたは……グラモン元帥の家の係累ですか?」
「はい!グラモン家の末っ子です」
 誇らしげに胸を張るギーシュ。その様子にアンリエッタ姫は柔らかに
微笑む。
「お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。
 ギーシュさん、この不幸な姫の力になって下さい」
「は、はいっ!」
 ギーシュは感涙にむせび泣いている。それを横に、ルイズがアンリエッタ姫に
向かい合った。
「では、明日の朝、アルビオンに出発します!」
「ウェールズ皇太子はニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及んでいます。
戦況は、予断を許さぬと……」
「了解しました。
 以前姉たちとアルビオンを旅したことがございます故、地理には明るいかと
存じます」
 そんなの何の役にも立たないわよ、とふがくは思ったが、口には出さない。
こうなった以上、その程度の知識でも最低限方角さえ間違えなかったら
上等と考えるしかない。そんなふがくの気持ちに気づいているのか、
アンリエッタ姫は真剣なまなざしで3人を見る。
「……旅は危険に満ちています。
 アルビオンの叛乱軍があなたたちの目的を知ったら、ありとあらゆる
手段で妨害し、トリステインを危機へと追い込むでしょう。
 ですが――」
 アンリエッタ姫はいったんそこで言葉を切る。何かを抑え込むような
そんな表情をルイズたちに見せた。そしてスカートのポケットから王家の
印を捺した蜜蝋で封じられた手紙を取り出した。アンリエッタ姫は手紙に
視線を落とし、表情を赤らめる。
「――そうなるとわかっていても、わたくしは……
 国を憂いても、やはり……皇太子への手紙に、この一文を書かざるを
得ませんでした」
37萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:27:17 ID:zb3oN14X
「姫様?
 あの……どうかなさいましたか?」
「なっ……なんでもありませんわ!」
 顔を赤らめ挙動の怪しいアンリエッタ姫にルイズが訊ねる。
アンリエッタ姫は一瞬驚いた表情を見せた後、何かの思いを込めるように
手紙をそっと胸に抱く。
「始祖ブリミルよ。この自分勝手な姫をお許し下さい。自分の気持ちに
嘘をつくことはできないのです……」
 (姫様……)――ルイズは手紙を抱いたまま祈るようなアンリエッタ姫の
姿に、その手紙に何が書かれているのか分かったような気がした。
アンリエッタ姫は手紙に祈りを込めた後、それをルイズに手渡した。
「――では、ルイズ。ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡して
下さい。
 すぐに件の手紙を返してくれるでしょう……
 それから、これを……」
 そう言ってアンリエッタ姫がルイズに手渡したのは、透き通った水色に
輝く大粒の宝石がついた指輪だった。
「母君からいただいた『水のルビー』――せめてものお守りです。
 お金が心配なら、売り払って旅の資金にして下さい」
 ルイズが指輪を両手で包み込む。その姿に、アンリエッタ姫は祈りを
捧げるべくその豊かな胸の前で両手を組む。
「この困難な任務には、トリステインの未来がかかっています。
 その水のルビーが、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを
護りますように……」


 双月が静かに大地を照らす。一際高い本塔を中心に五つの塔で囲まれた
トリステイン魔法学院にも、等しく夜は訪れる。
 一部の変わり者以外が安らかな寝息を立てている、そんな時間の女子寮の
廊下を二つの影が歩いて行く。ふがくとギーシュだ。。鋼の乙女ふがくの
機嫌は先ほどからすこぶる悪い。ギーシュは、その取り付く島もないような
彼女に何とか話しかけようと努力を続けていた。

「……あのー。どうしてそんなに不機嫌なのかな?こんな素晴らしい名誉に……」
 ようやくそこまで言葉をつなげたギーシュに、ふがくは深いため息をついた。
「……気楽なものね。アンタ、これからどういうことになるか本当に
分かってるの?」
 ふがくのあきれたような視線に、ギーシュは逆に問いかける。
「もちろんだとも。何が不満なんだい?朝一番に出れば、翌日には
ラ・ロシェールに着く。ルイズがいるなら強行軍は避けたいしね。
 で、その手配、君にお願いしたいんだけど……」
「却下。
 それより多めに見積もって3日分の着替えを正装込みで、それにたぶん
必要ないと思うけど多少の路銀。さっさとまとめて1時間……じゃ無理か。
1時間半後に正門前に集合。もちろん用も済ませてくること。ルイズには
私から言っておくから心配しないで」
「え?それってどういう……」
 ギーシュの提案をきっぱりと拒否するふがく。ギーシュは頭に『?』を
いくつも浮かべたような顔をしているが、ふがくはそれを鮮やかに
スルーした。
「私は食事を取ってくる。この任務、2日以内に終わらせるわよ?いいわね?」
 いっこうに納得できていない顔のギーシュ。そこにふがくが念を押した。
「い・い・わ・ね?」
「……わ、わかった。準備してくるよ」
「遅れたら承知しないからね!……まったく、こうなったらこれ以上
余計な介入される前にここを出ないと……ルイズだけでも大変なのに……」
38萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:30:08 ID:zb3oN14X
 そう言ってギーシュを男子寮に向かわせた足でふがくは食堂に向かう。
もう夕食も終わって時間が経っていたが、厨房にはマルトーとシエスタがいた。
「あれ?ふがくさん?こんな時間にどうしたんですか?」
 ふがくの姿を見つけたシエスタが駆け寄ってくる。
「よかった。誰もいなかったら適当に残り物でも食べるしかないかな?
って思ってたのよ……って、ひょっとしてもう片付けも終わってる?」
「いや。ここのところオールド・オスマンから夜食を頼まれることが
あってな。シエスタが見回りを終えるまでは俺もここにいるよ。
 で、どうした?こんな時間に?」
「ちょっと、ね。急ぎの用があって少し出てくるから腹ごしらえをしようと
思って。冷めたスープでもいいから食べるもの、あるかな?」
 いくらなんでも二人に話すわけにはいかず、ふがくは適当にごまかした。
だが……
「おいおい。冷めたスープじゃ腹の足しにならんだろう?ちょっと待ってな」
 そう言ってマルトーが厨房に立った。シエスタも「ふがくさんにお渡し
したいものがあるのでちょっと待ってて下さいね」と足早に厨房を後にする。
 そして待つこと10数分。テーブルについたふがくの前に一口大のパスタが
添えられた牛肉とタマネギ、マッシュルームの煮込み料理が湯気を立てていた。
「お待ちどうさま。夜食の定番。オールド・オスマンもお気に入りの
牛肉とタマネギとキノコの炒め煮だ」
「……これ、ビーフストロガノフじゃない。すごくおいしそう」
「ああ、そういや元はそういう名前の料理だったな。久しぶりに聞いたよ。
こいつぁ俺が修行中に教わったんだ。さる東方の貴族の夜食の定番って、な」
 そう言ってマルトーが親指を立てる。ふがくはスプーンで一口食べて……
トマトとサワークリームのさわやかな酸味とカリカリに炒められた肉の
うまみに思わず顔をほころばせた。
「そいつぁよかった。……さぁ、時間がないんだろう?慌てず急いで食べな」
 マルトーに勧められるまま皿の上の料理が瞬く間に消えていく。
皿の上がきれいに空っぽになった頃合いに、シエスタも大きな木箱を
持って戻ってきていた。
「何だ、シエスタ?その荷物、ふがくに渡すものだったのか?
『取扱注意』だの『火気厳禁』だの『横倒し厳禁』だの『割れ物注意』だの
注意書きが山ほど貼り付けてあったが……」
 マルトーがあきれたような顔をする。聞けば今日の夕方、定期便ではない
別便で届いた荷物らしい。学院で教師ならとにかく平民に宛てたこんな
大仰な荷物は前代未聞のため、職員の間では――特にコルベールには――
ちょっとした騒ぎになったそうだ。受け取ったシエスタが頑として箱を
開けることを拒否した、というのもそれに一役買ったらしい。
「はい!ひいおばあちゃんに手紙を送って届けてもらったんです。
 最初にお会いしたときにルイズ様とお話しされてましたよね?ですから……」
「……ひょっとして……まさか……?」
 思い当たるのは最初に『アルヴィーズの食堂』に入る前のこと。
そう。あのとき――
「はい。『竜の羽衣』を動かすのに必要な『竜の血』……
ひいおじいちゃんは『揮発油』と、育てのひいおばあちゃんは
『ガソリン』と呼んでいたものです」
「……嘘……ホントに?」
 未だ信じられない表情のふがく。それはそうだ。ルイズはガソリンの
存在すら知らなかった。それが今目の前の木箱の中にあるというのだ。にわかに信じられるものではない。それを見たシエスタは、何かを
思い出すかのようにこう言った。
「ひいおじいちゃんたちが『竜の羽衣』でタルブの村に降りたとき、
もう『竜の血』はほとんど尽きていたそうです。それを育てのひいおばあちゃんから
作り方を聞いた産みのひいおばあちゃんが何年もかけて生成に成功した……
そう聞いています。
 大変だったそうですよ。原料が火石とか特別な木の古い切り株の根からしか
採れない油だとかで。3人で冒険した、って、小さいときによくそのお話を
聞かせてもらいました」

39萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:32:14 ID:zb3oN14X
(……合成石油……そんなものが造れるような大規模な施設が……
いや、そんなものがあったらいくら何でもあのとき空から見えたはず。
だとすると……)

 石炭や松根油から航空用ガソリンを精製する困難さを知るふがくは、
ここが地球ではないことに思い至る――と同時に、それが意味することも
理解した。
「……つまり、シエスタのひいおばあさんはメイジだってことね?」
 ふがくの問いにシエスタは首肯した。そしてふがくにいかにも内緒、と
いう仕草で耳打ちする。
「マルトーさんには以前お願いしてるんですけど、これ、絶対秘密に
して下さいね。もっとも、うちで魔法が使えるのはひいおばあちゃんだけ
なんですけど……」
「そういうこった。この学院でこのことを知っているのはオールド・オスマンと
俺だけ……いや、たった今ふがくも加わったな。タルブの村でも
ミス・エンタープライズはシエスタの家族とは一度も同居したことは
ないそうだから、そういうことで、な」
「マルトーさんって、メイジが嫌いだって思っていたんだけど、意外ね」
 ふがくの疑問にマルトーは即答する。
「俺が嫌いなのは威張り散らす貴族だ。オールド・オスマンや
ミス・エンタープライズのように尊敬できる相手には敬意を払う。
当然だろう?」
「それもそうね……オールド・オスマンが尊敬できるっていうのは
ちょっと疑問だけど」
「そのうち分かるさ。ところで、時間はいいのかい?」
「あ、そうだった。ありがとうマルトーさん。ごちそうさま」
 そう言ってふがくが立ち上がったのと、シエスタが「あっ!」と声を
上げたのは同時だった。ぱしゃりと音を立ててふがくの頭から水をかけられる。
その足下に転がる水差し。さらにその向こうでシエスタが起き上がりながら
鼻を押さえていた。
「す、すびばせん……!」
「おいおい大丈夫か?シエスタ。ふがくも珍しいな。いつもならこんなの
避けるか受け止めるかするだろう……に……?どうした?ふがく?」
 水が髪からしたたり落ちるまま微動だにしないふがくに、マルトーが
怪訝な顔をする。
「……ふがく……さん?もしかして……」
 シエスタも同じだ。いや、こちらはマルトーよりもふがくに起こったことを
理解しているのかもしれない。
「……大丈夫。問題ないわ」
 ようやくそれだけ言葉にするふがく。その様子にシエスタが激しく
首を振る。
「大丈夫じゃないです!今の……私が水差しを持って動こうとしていたこと、
気づいてなかったんですか?」
「……どうってことない。どうせこっちに呼ばれてからまともな整備なんて
一度も受けてないだけだから。飛ぶのに支障はないわ」
「でも!」
 血の気が引くほどの顔をするシエスタ。やっぱり、この娘は気づいて
いるんだ――ふがくは今の自分に起こっていること、つまり内蔵された
電波探信儀がある方向からの接近を探知できなくなっていることに
気づいているのだと理解する。だけど……

(だけど、どうしろって言うのよ。こんなところじゃ機械部品の交換なんて
できやしない。ましてや生体部品の交換なんて……この国の技術力じゃ
私の指一本動かすだけでもあと300年はかかるわよ……)

 ふがくの考えを知ってか知らずか――いや、技術的なことは分からなく
とも、今のふがくの『調子が悪い』のはシエスタの様子から分かる。
そんな二人を前にしたマルトーが、ふがくをいたわるようにこう言った。
「……ふがく。人間だって調子の悪いときはあるんだ。どうしても、
ってことでなけりゃ……」
40萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:34:22 ID:zb3oN14X
「悪いけど、その『どうしても』なの。マルトーさん。心配してくれて
ありがとう。
 シエスタも。ガソリン、ありがたくもらっていくわね。それじゃ」
 それだけ言うと、ふがくは厨房を後にする。ふがくが去った入り口を、
シエスタはマルトーに声をかけられるまでずっと見つめていた――


「……ふがく、わたしは『明日』出発するって言ったわよね……」
 双月が天空高く上る頃。肌寒い風が吹き抜ける学院正門前でルイズが
恨めしそうな声を上げた。
「あのね、なんでわざわざ馬で出なくちゃいけないのよ。私が誰だか
忘れたの?」
 ふがくの機嫌もあまり良くない。理由はギーシュが遅れているから。
明日の朝出かけるつもりで荷造りの終わっていたルイズの荷物を懐に
しまい込み、それでも来ないギーシュにいらだちを隠しきれないでいた。
「まったく……アイツ、約束の時間も守れないようじゃ女の子には
モテないわよ……って、やっと来たわね」
「すまない。遅れてしまっ……た……」
 約束の時間に遅れること5分。ギーシュはそこそこ大きな鞄を一つ
持ってやって来た。とたんに突き刺さる二つの視線。
ギーシュはやや気後れしながらも二人に遅刻を謝罪する。
「私は1時間半後、って言ったわよね?何やってたのよ……ほら、荷物
貸しなさい」
「ああ、ありがとう。
 遅刻は本当に申し訳ない。ぼくの使い魔をどうやって連れて行こうかと
考えていたら遅くなって……」
「ギーシュの使い魔?」
 ふがくに鞄を手渡す一方でギーシュは言う。どのみちラ・ロシェールまで
しか連れて行けないと思っていたんだけど、と残念そうな顔をした。
「ぼくの使い魔、ヴェルダンデはジャイアントモールなんだ。土の中なら
馬並みの速度で移動できるんだけど……」
「今回はラ・ロシェールから空路だから無理、ということね。ギーシュも
ちゃんと考えるじゃない」
「ひどいなルイズ。とはいえその通りだからね。ちゃんとお留守番して
おくように言い聞かせてきたさ。
 それでふがく、いったいこれからどうするつもりなのかな?なんとなく
だけど、嫌な予感がするんだけどね……」
「そうよ。馬の手配もなし、ただわたしたちをこんな夜中に連れ出して
どうする気なの?」
 そろって不満を口にする二人。そんな二人を見てふがくは大きくため息を
ついた。
「……まだ分からないのかしら?私は超重爆撃機型の鋼の乙女。だったら
どうするかは決まってるでしょうが!」
 そう言ってふがくはルイズとギーシュの後ろに回り、軽く浮かび
上がった状態で二人の腰を抱く。
「ひゃぁ!?」
「うおっ!?」
「さぁ、このままアルビオンまで飛ぶわよ!」
 その言葉を合図に、ふがくの6つのプロペラが勢いを増した。さすがに
重量過多なのか、助走を開始する。その中でいきなり抱かれる形になった
二人がやっとの事で声を上げた。
「ちょっと!冗談でしょ?」
「待ってくれ!胸で息が……」
「変なところ触ると振り落とすわよ!」
 そのまま空に舞い上がるふがく。その姿が夜の闇に溶けると、夜空に
突如と赤青白の星が出現する。それら一部始終を部屋の窓から見ていた
者がいた。
41名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:36:32 ID:lCpeijVQ
シーレーン
42萌え萌えゼロ大戦(略) ◆E4H.3ljCaE :2010/03/22(月) 23:37:04 ID:zb3oN14X
「……やれやれ。まったく。あの姫君にも困ったもんじゃ。
 しかし……これで杖は振られた。こうなった以上ワシらにできることは、
もう待つことだけじゃな……」
 オールド・オスマンはそれだけ言うと、窓に背を向けた。

 ――翌朝。学院の正門前で幻獣グリフォンを連れた一人のメイジが
立ち尽くすことになるのだが……ルイズたちはそのことを知るよしも
なかった。



以上です。
不景気で会社がアレだったり低血糖症でこの3ヶ月間半分ひっくり返って
いましたが、何とか復帰できました。
今回のは2回に分けようかとも思ったんですけど、きりがいいのでまとめました。
それでは。これからもよろしくお願いします。
43名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:42:45 ID:lCpeijVQ
>>42

ギーシュは五分前精神ならぬ五分後精神か
ワルドは置いてけぼりwwww
44名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:44:37 ID:e7vlY7jy
乙です。
リアルでなかなか大変な状態のなかでの
復帰、まことにおめでとうございます。

これからも次の更新を楽しみにしてますよ。
45名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:50:15 ID:P0KHOFQd
乙です。
ワルドがどうなるのかと思えば置いてきぼりw
46名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:57:52 ID:S0VUBUJY
ワルドwww
アルビオンへ直接飛んじゃうの他にあったっけ?
雪風もそういう展開だろうけど、あれのワルドは白ワルドだしな。
47名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/22(月) 23:59:23 ID:S0VUBUJY
>>27
このスレには肉体言語なルイズも結構いるけどな。
もっとも、原作でもサイトやギーシュくらいならボコボコにしてるけど。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 02:36:32 ID:nz3V43uy
爆撃乙ー

>>46
絢爛舞踏祭からBALLS呼んだ話のワルドの置いて行かれっぷりは他に類を見ない
49名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 02:58:40 ID:AW/uZ1QZ
>>48
あの見送りに来ていたと勘違いされて、反乱にそのまま参加イベントが潰されて職場放棄で睨まれちゃったワルドね
50名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 04:53:22 ID:hWGc/b52
CardWirthより冥王カナンを召喚
51名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 04:55:39 ID:hWGc/b52
Knight-Bladeよりカイン・グレイウッドを召喚
など、有名なフリーゲームやツクールサンプルゲー(サンプルゲーは一応商業モノのはず)からの召喚などはどうか
52ゼロの戦闘妖精:2010/03/23(火) 05:57:44 ID:JPCnLJnt
萌えゼロさん、乙です!
一方的にライバル視しているこちらとしては、お互いの原作時間軸がほぼ同時なので 凄くテンションUPしてます。
次も 同じ位の時期に投下できたらイイですね。
(ふがくと雪風が 翼を並べてハルケギニアの空を飛べたらなぁ…)
53名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 07:44:46 ID:CUN0RW88
ならば、メイブちゃんを出せば い い ん だ よ !
54名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 10:32:44 ID:oI8iAiDR
>>46
小ネタだけど『ジョゼフと鋼鉄の女神(ミューズ)』で、置いてけ堀どころか手違いで撃墜されたらしい。
55名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 12:20:54 ID:OtDH1ri8
ツクールサンプル花嫁の冠のネコ娘とか
56名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 14:58:19 ID:egNskXHR
平成仮面ライダー物で誰か書いてくれんだろうか
57名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 15:17:31 ID:ZvYvA1x6
逆に一番格好良かったワルドはどれだろう
58名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 16:31:26 ID:hWGc/b52
クイーン・クーの王女様を
59名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 16:51:37 ID:dJWoIpso
>>56
まとめにけっこうある。
 
>>57
ブラックホールクラスターで最高にかっこよく散ったワルド
60名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 17:19:49 ID:sgkfUCRE
たまーに強かったりかっこよかったりするワルドいるよね
61ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:11:24 ID:cmLW51vM
どうも皆さん今晩は、無重力の人です。
地元ではほんの少しですが桜が見れる様になってきました。

これから30話の投稿を18時20分から始めます。
出来るのであれば何卒、支援の方よろしく御願いします
62ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:20:29 ID:cmLW51vM
もうすぐ太陽が沈み、夜の帳が訪れようとしている時間帯の幻想郷
博麗神社の境内には霊夢とルイズ、それに幻想郷の住人もとい霊夢との面識がある者達がちらほらといた。
紅魔館からは館の主とその従者、永遠亭からは薬師とその弟子が境内に集まっていた。
従者と弟子を覗いた薬師と主人の二人は、八雲紫から話があると言われ神社へやってきている。
鴉天狗と魔法の森に住む白黒魔法使いの二人もいるが、彼女らは話に興味があって残っただけで、いわゆる招かれざる客だ。
しかし招かれた客達はその者達に対し何も言わなかった。

「いやぁ〜、異世界人だからどんな姿をしてるかと思えば…普通の人間と変わりは無いんですね」
鴉天狗の文はひとり呟きながら写真機で霊夢とルイズの写真を撮っている。
パシャ、パシャ、という音と共にルイズの身体がビクリと震えている。どうやら少し怯えているようだが無理もない。
何せ気が付いた時には鈴仙や文…そして何よりレミリアといった、ルイズにとって見慣れない存在がこの神社へ来ていたからだ。


今から大体四十分前ぐらい…

ルイズが目を覚ましたとき、兎耳を生やした亜人の少女、鈴仙が枕元にいる事に気づいた。
白い肌に人工的な感じを漂わせる銀髪と真紅の瞳…そして何よりも目立つのがヒョロッとした兎の白い耳。
黒いブレザーと白いプリーツスカウトを身に付けており、ブレザーの左胸部分には白い三日月のバッジを付けている。
「あら、ようやく起きたんですね」
目を覚ましたものの、未だ起きあがっていないルイズに微笑みつつ、鈴仙は声を掛けたがルイズは安心出来なかった。
亜人の中には一部を除いて人とよく似た姿の種族はいるものの、基本的には人間の敵である。
すぐさまルイズは起きあがり杖を手に取ろうとしたのだが、それより先に鈴仙が彼女の肩を掴んだ。
「あぁちょっと待ってください。これから体温を測りますので」
「ちょっ……ちょっと何よこれ?」
そう言って鈴仙は肩を掴んでいない右手に持っている細長い物体の先端をルイズの額に向けた。
「大丈夫ですよ。ちょっと体温を測りたいだけです」
見たこともない物を見てルイズは軽く焦ったが、それを無視して鈴仙は手に持っている物体の真ん中にある小さなボタンを押した。
ルイズは思わず目を瞑ったが、痛みも何も感じないことを確認し恐る恐る目を開けた。

「う〜ん、幻想郷の人間と比べたら若干体温が高いわね…」

目を開けると既に鈴仙はあの変な物体を持っておらず、何かメモをしている。
一体あれは何だったのかとルイズは首を傾げそうになったが、ハッとした顔になると枕元に置いてある杖に手を伸ばそうとした。その時…

「どうやら、もう目を覚ましていたようね」
静かな雰囲気を持つ声と共に知らない女性が入ってきたため、ルイズは思わずそちらの方へ視線を移してしまう。
「あ、お師匠様」
その声を聞いた鈴仙はパッと笑顔を浮かべて立ち上がった。
部屋に入ってきた女性の灰色がかった銀髪は、鈴仙のソレと比べれば大分自然的な美しさを持っていた。
それよりもまず最初にルイズの目に入ったのがその女性の着ている服であった。
良い言い方ならとてもユニーク、悪い言い方ならば酷く奇抜で理解しがたいデザインだ。
服の上半分の右側は赤で左側は青色、下半分はその逆であった。
服全体と、頭に被っている赤十字マークがある青帽子には星座のような刺繍もある。
(一体どうなってるのよレイムの世界のファッションセンスは…民族衣装にしては奇抜すぎるわ)
ハルケギニアにはないユニークな永琳の服を見てルイズは頭を抱えそうになった。

「…体温が少し高いというだけで異常は見受けられません」
「そう。ご苦労様…」
そんなルイズの気を知らず永琳は弟子である鈴仙から報告を聞き終え、ルイズの方へ視線を向ける。
これで今日の朝方、紫に頼まれていた「ルイズの身体に異常が無いか調べる」という仕事は何の問題もなく終わらせることが出来た。
といっても永琳達が神社に来たのはルイズが目を覚ます数時間前である為、事実上結構な時間が掛かったことになる。
鈴仙はともかく永琳としては思ったより時間を掛けたのだから何か面白い物でも見れたらいいなと思っていたが、結局何の異常も無く少しだけ落胆していた。
人間でも妖怪でもない―蓬莱人―の内一人である永琳にとって、外の世界とは違う異世界の人間を調べるという事はちょっとした楽しみなのである。
(後の楽しみといえば…この血液サンプルだけね)
永琳は心の中で呟きつつ、ポケットから小さなカプセルを取り出した。
63ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:25:59 ID:cmLW51vM
カプセルの中身はルイズの血液サンプルで、弟子の鈴仙が直ぐに持ってきてくれたのだ。
ルイズが寝ている間に採血し、尚かつバレないよう止血処置を施したためルイズ本人も気が付いてはいない。
(帰って分析してみたら何が出るのやら…)
永琳はそう思いつつ手に持ったカプセルをポケットに突っ込み、ルイズの方へ身体を向けた。
ルイズはというと上半身だけを起こして鈴仙と永琳をじっと見つめていた。
ある程度の緊張感を孕んだ鳶色の瞳を見て、とりあえず永琳は自分の顔に笑みを浮かべてこう言った。

「そういえば自己紹介がまだでしたわね。私は永遠亭で薬剤師を勤めている八意永琳。そしてこの娘は弟子のウドンゲといいます」


そして時間は今に戻り…

「…そういえば、お前さん大分柔らかくなってないか?」
楽しそうに写真を撮っている文の後ろ姿を眺めつつ、魔理沙は横にいるレミリアに話し掛けた。
「失礼な。私はこう見えても自分の体には自信を持ってるんだけど?」
一方のレミリアは、魔理沙の言った゛柔らかい゛という言葉にムッとした。
妙に可愛い仕草をする吸血鬼を見て魔理沙は軽く笑いつつ言った。
「ハハ…違う違う、性格だよ、性格」
「……?性格ですって」
レミリアはというと魔理沙の言葉にいまいち判らなかったのか首を傾げてみせた。

「あぁ、いつものお前ならあの時の咲夜を止めたりなんかしないだろう?」
魔理沙はそう言いつつ、目を覚ましたルイズが霊夢の所にやってきた時の事を思い出した。



「おはようと言ったら言いのかしら…それとも今晩は?」
「うぅん…多分おはようよ。―――で、貴女は誰?」
「おぉ、こいつが噂の異世界人とやらか?まるで人形みたいじゃないか」
霊夢はようやく起きて自分の所へやってきたルイズの方へと近寄りつつ、冗談気味にそう言った。
一方のルイズはそんな冗談に真面目な答えを言いつつ、霊夢の近くにいた魔理沙へと視線を移した。
もうすぐ夕日が沈む時間帯だというのに未だ暢気にお茶飲んでいた魔理沙はルイズの姿を見て嬉しそうな表情を見せた。

ルイズは魔理沙の服装から一瞬メイジかと思ったが(マントがないので貴族ではないと一目瞭然)命の次に大事な杖すら手に持っていない。
もしかしたら何か特殊な――仕込み杖の類かも知れないと思い、すぐさま魔理沙が手に持っている箒の方へと視線が移った。
しかし、どこからどう見てもタダの箒にしか見えなく、とりあえずルイズは詳しく聞いてみることにした。
「貴女、見たところメイジっぽい服装してるけど杖は持ってないし…とにかく名前を言ってくれないかしら?」
「まぁ自己紹介はするさ。でも先に名前を名乗ってくれないと困るぜ。うっかり先に名前を言って呪われたら大変だからな」
呪いなんて出来ないわよと思いつつ、ルイズは自らの名を名乗った。
「ルイズ――――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
彼女のフルネームを聞いた魔理沙は少しだけ目を丸くしたが、すぐに元の表情に戻った。
「………う〜ん、わかった。とりあえずルイズって呼ばせて貰うぜ」
結局それかい!―――っと、突っ込む気にもならないほど疲れていたルイズはとりあえず魔理沙の言葉に頷いた。
それを了承と受け取った魔理沙もまた頷くと被っていた黒い帽子を取り、自己紹介をした。
「私の名は霧雨魔理沙。見ての通り人間で…普通の魔法使いさ」
うだつの上がらない表情で魔理沙の自己紹介を聞いていたルイズは゛魔法使い゛という言葉にキョトンとした。

「魔法使い?メイジじゃなくて?」
「あぁ、普通のメイジならぬ普通の魔法使いさ」
メイジも魔法使いも同じ意味なのに…と思いつつルイズは不思議そうな顔になって首を傾げた。
そんなルイズを余所に、霊夢はふとある事に気づき魔理沙に話し掛けた。
「そういえば魔理沙、アリスの姿が見あたらないんだけど?」
「え?…あぁそういえばアイツ、今日はパチュリーに聞きたいことがあるって言ってたな」

もったいない奴だぜと呟きつつ魔理沙は空を見上げるた。もうすぐ日が沈む時間帯である。
カーカーと鳴きながら飛んでいく鴉の群れを見つつ、ふと魔理沙は霊夢にこんな事を聞いてみた。
「そういえばさ霊夢…射命丸の奴は何処いったんだよ?」
「文の奴ならちょっと写真機の調整してくるとかいって戻っていったわ」
64名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 18:29:11 ID:YQyH11is
風来のしえん
65ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:30:22 ID:cmLW51vM
魔理沙と同じく沈み行く太陽を見つめつつ、霊夢はその質問に答えた。
「じゃあ永琳と鈴仙はどうした?あいつらなら社務所の中だろ」
その質問には霊夢ではなく、ルイスがご丁寧に答えてくれた。

「あの二人ならすぐ戻ってくるとか言って人里とかいう所に行ったわよ…」
というよりこんな辺鄙な所に人が住んでるのね…と呟きつつルイズもまた夕日を眺めた。
三人で幻想郷の夕日を眺めつつ、魔理沙がポツリと呟いた。
「なぁ霊夢、大丈夫なのか?文と永琳が来たんなら間違いなくアイツもお前の顔を見に来るぜ」
少し心配そうな魔理沙の言葉を聞きながらも、霊夢もまた魔理沙と同じ事を考えていた。
「…多分大丈夫でしょ?紫もなんとか出来たって言ってたし」
面倒くさそうに霊夢は言いつつ、お茶を啜ってたそんな時――彼女は訪れた。

―――今晩は霊夢に魔理沙。それと異世界人

ガラスで出来た鈴の様な綺麗な少女の声が何処からか聞こえてきた。
まずルイズがその声に素早く反応し、立ち上がると辺りを見回し始める。
魔理沙もまた何かを感じ取ってルイズと同じく立ち上がった。
一方の霊夢はというと縁側に座っているもののその眼は鋭くなっていた。
だが社務所から見える範囲にはその声の持ち主の姿は見あたらず、何処にいるのかさえ判らない。

――――随分警戒しているようね。貴方達が思っている程今の私は怒ってはいないわ
       それに今夜は色々と神社で話し合いがあるって。あのスキマ妖怪が言ってたでしょう?

再び何処からか声が聞こえ、ルイズの不安を益々募らせていく
(姿が見えない…一体何処から聞こえてくるというの?)
ルイズは姿の見えない相手に戸惑いつつ、杖を手に取りいつでも詠唱できるよう準備した。
ただ霊夢と魔理沙だけは、特定の部分――陽が当たらず影となっている場所――を凝視していた。
霊夢は目を鋭く光らせ周囲を警戒しており、魔理沙もまた帽子のつばを上げて辺りを見回している。
すると突然、何処からともなく三匹の黒い蝙蝠が飛んできて、境内の真ん中をグルグルと飛び回り始めた。
時間が経っていく内に次第に四匹、五匹、六匹、七匹…と増え始め、蝙蝠の群れが段々と黒い渦となっていく。
その光景を見てルイズはたじろぎながらも、杖を持つ手の力を緩めずいつでも蝙蝠の群れに魔法を放てるよう準備した。

蝙蝠の群れは暫く境内の真ん中で大きな黒い渦を作っていた。
しかし太陽が段々と沈んで行き、神社の境内が薄暗くなったとき――変化が起こった。
「あっ…蝙蝠が…」
ルイズはその光景に目を丸くし驚くが、無理もないであろう。
何せ先程まで大きな渦を作っていた蝙蝠の群れが影と共に瞬時に消え失せてしまったのだから。
一体何が起こったのかとルイズが思った瞬間――自分のすぐ近くから声が聞こえてきた。

「杖を使う魔法使いなんて久しぶりね―――粉々にしたらどれ程怒り狂うのかしら?」

随分と嬉しそうに言いつつ、その声の主である少女はルイズの杖の先端をつついた。
「…っ!?」
ルイズは咄嗟に後ろに下がるとその少女の姿を見て、これでもかと言うぐらいにカッと目を見開く。
そこにいたのは、まるで人形かと見紛うばかりの紅い瞳の可愛い少女がいた。
薄ピンクの可愛いドレスを身に付け、頭には紅いリボンがついたドレスの色と同じナイトキャップを被っている。
そこだけ見れば本当にただの少女であった。―――しかし、ルイズは咄嗟に少女の背中に何かが生えている事に気が付いた。
下手すればルイズの身体幅よりも大きい一対の黒い蝙蝠の羽が生えている。
ルイズはその翼を見て目を見開いたのだ―――この娘、人間じゃない!と。
驚くルイズを見てか、少女はまるで嘲笑うかのように自分の口を三日月の様に歪めた。

口の中には、一目でわかる程度の犬歯が生えていた。
ルイズはそれを見て、一瞬だけ自分の頭の中を閃光が走っていったのに気が付いた。
66ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:36:04 ID:cmLW51vM
翼などは無いが、自分の中の知識が正しければあれ程大きい犬歯を持った亜人はたった一種しかいない。

「吸血――――――

目の前にいる亜人の名前を叫びつつ、ルイズは咄嗟に杖を少女の方に向けて自分の失敗魔法をぶつけようとした。
霊夢と比べれば多少劣るが、それなりにルイズは色々と鍛えている。
座学や簡単なポーションの作り方は勿論、乗馬や杖の早抜きといった事も一通りこなしていた。だというのに…

――――鬼ィ!………ッッ!」
気づけばルイズは―――――
「随分達者な運動神経ね?」
いつの間にか後ろにいた咲夜に杖を持っていた方の手を捻り上げられていた。

捻り上げられた手から伝わってくる鋭い痛みに耐えながらも、ルイズはなんとか後ろを振り向く事できた。
ルイズの手を掴んでいる咲夜は顔に人を小馬鹿にしたような薄い笑みを浮かべていた。
痛みに耐えながらも、ルイズはなんとか口を開いて咲夜を怒鳴りつける。
「なっ…、誰よ貴女は!?は…離し――」
「離したら、お嬢様を傷つけるつもりなんでしょ?全く、手癖の悪い子猫ね」
しかし、言い終わる前に咲夜はルイズの言葉を遮ると、ルイズの手を掴んでいない方の手で小さなナイフを取り出した。
今まで黙っていた魔理沙はナイフを使って何かしようとしている咲夜に、声を荒げた。
「おい、よせよ咲夜…!」
「別に傷ものにしようだなんて思ってないわ。ただ手癖が悪いようだから少しだけ動かなくさせるだけよ」
咲夜は軽い感じで魔理沙にそう言うと、ナイフを逆手に持ち替えた。
それを見た霊夢が今にも身体を動かそうとしたとき、何者かが咲夜を制止した。

「咲夜、そこまでにしておきなさい。どうせ放しても私に害を与えないわ」

その声の主は魔理沙や霊夢でもなく、ルイズの目の前にいた吸血鬼であった。
吸血鬼に制止された咲夜は一瞬だけ考えるような素振りを見せた後、「仰せのままに」と言ってルイズを解放する。
持っていたナイフも瞬時に消え、魔理沙は安堵したかのように溜め息をついた。
解放されて思わず杖を取り落としたルイズを横目で見つつも、霊夢がふと口を開いた。
「どうやら、紫の言ってた事は本当みたいね」
それはルイズに出はなく吸血鬼に対しての言葉であり、吸血鬼もまた言葉で返した。
「あいつの言葉に踊るのは癪だが、そうでもしないと本末転倒さ」
霊夢は吸血鬼の口から出た「そうでもしないと本末転倒」という言葉に眉をしかめた。
「……?どういう事よ、本末転倒って」
「庭を荒らす連中を怒りにまかせて消してしまえば。理不尽にも庭ごと消滅してしまうのよ」
吸血鬼はそう言うとルイズの方へと顔を向け、垂直の瞳孔を持つ紅い瞳がルイズの鳶色の瞳を見つめ始めた。
まるで何かを見定めているかのように、吸血鬼は全神経を自分の目に集結させている。
「……ふぅん?常人よりちょっと上の苦労を積み重ねてるようね…しかし、それでいて決して報われていない…」
自分の瞳を凝視しつつ何かブツブツ独り言を言っている吸血鬼を警戒しつつ、ルイズは取り落としてしまった杖を拾おうとした。
しかし、それよりも先に吸血鬼がその杖を拾い上げてしまい、その両手で弄くり始めた。

「この杖はお前の苦労を知っている。だからどんなに傷つこうがお前の手許にいるのさ」
吸血鬼はそんな事を呟きながら人差し指でルイズの杖をなぞった後、それをルイズの方へと放り投げた。
ルイズは咄嗟にその杖をキャッチしたが、先程と違って吸血鬼の方へと杖を向ける気は失せていた。
自分に顔に向けられている紅い瞳と、小さな身体には不似合いなほどの大きな蝙蝠の羽が威圧感を放っている。
ハルケギニア狡猾な亜人としてのイメージがある吸血鬼のイメージにはそぐわない、吸血鬼であった。
そんなルイズの様子を見て吸血はその顔に笑みを浮かべ、彼女に向かって話し掛けた。


「ようやくわかってくれた様ね?私は貴女に危害は加えないし、貴女は私に危害を加えない
 それは何故か――?…そうなるように運命が進んでいるからよ。まるで分刻みのスケジュールの如く…
   今この時だけは、だれも傷つかないように定められているの。…でも、それは決して誰にもわからない。 
   だけど―――私にはそれがわかるのよ。そしてわかるからこそ操ることも出来る―――


                                         ―――それがこの私、レミリア・スカーレットの能力よ」
67ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:41:21 ID:cmLW51vM
吸血鬼、レミリアは自らの自己紹介を交えつつもそう言った。
ルイズは自己紹介にただただ呆然とするしか無かった。
レミリアは、自分の話を聞いて呆然としている少女に向けて、微笑みを浮かべる。

「ようこそルイズ・フランソワーズ、感謝するわ。わざわざ霊夢を連れて来てくれて。お陰で乗り込む手間が省けたわ」



レミリアが自己紹介をした後、霊夢はルイズにある程度の説明をする事となった。
「まぁ確かにコイツは吸血鬼だけど無闇に人を襲うような事はしないわよ。多分」
とりあえずはその言葉に安心したルイズは、それでも吸血鬼に近づきたくないのか霊夢の後ろにいた。
そして文と永琳達が戻ってくるまでレミリアは睨んでみたり腕を上げるといった何気ない動作でルイズを怖がらせていた。
「どうやら貴女の世界でも吸血鬼は随分と恐ろしい存在なのね」と笑い転げたところで、霊夢に叩かれた。

数分後、自分家へ一時戻っていた文が神社の方へやってきてルイズを撮影し始めた。
それからすぐにして永琳達も神社の方へ戻ってきたのを見てこれは何かあるなと思った魔理沙は神社に残ることにした。
ついでに、どうせならと思って先程話し合いとか何とか言っていたレミリアに聞いてみたところ。
「話し合い?えぇ、あるわよ。霊夢とその側にいるルイズとかいう奴に言いたい事があるらしいわ」
「ふ〜ん、じゃあ何で永琳やお前達までいるんだよ?」
魔理沙の質問に、レミリアは少し不満そうな表情を浮かべつつ、こう言った。
「知らないわよ。アイツはアイツで色々と秘密にしてるし」
レミリアからの返答を聞いた魔理沙は自然と肩を竦めた。



そして時間は今に戻り…

「ホント…ちょっとしたビックリと自己紹介だけで良く済ましたもんだな。この前まではカンカンだったのに」
数日前のレミリアを知っていた魔理沙はつい数十分前までの事を思い出しつつ、そう言った。
異世界に乗り込んでるわーと意気込んでいたレミリアを知っていた魔理沙は、あの時の彼女がどれ程怒っていたのかよく知っていた。

――――あなたは許せるかしら?他人に自分の庭を飾るのに一番大切な物を勝手に奪われ、
                             尚かつその庭を守るレンガに落書きをするような下衆共を

あの言葉を聞いて帰宅した魔理沙は、食事を取るのも忘れて寝てしまった。
しかし、目を瞑ってもあの時のレミリアの顔が瞼の裏に浮かび上がり寝るに寝れなかったのだ。
その時と比べれば大分柔らかくなったなぁ〜と魔理沙は思っていた。
一方のレミリアは納得いかない、と言いたげな顔をしつつこんな事を言った。
「私は弱すぎる奴を徹底的に潰すのは好きじゃないの。やるならもっと大きい奴じゃないと気が済まないわ」
「大きい奴…?」
魔理沙はレミリアの言葉に首を傾げつつも、最近博麗神社に訪れるようになった鬼の事を思い浮かべた。
そんな時、ルイズ達のいる方から元気そうな声が聞こえてきた。
「ほらほらぁ〜、ちゃんと笑顔になってくれないと良い写真になりませんよ?」
「っていうか何よその機械は…?さ、さっきから何か変な音が聞こえてくるんだけどぉ…」
見たこともない写真機に少し怖がっているルイズの姿を見つつ、文は楽しそうに撮影している。
人里から戻ってきていた永琳と鈴仙は社務所の縁側に座りつつ、その様子を眺めていた。

「客寄せパンダ…というのは彼女の事を示すんでしょうね」
写真機のフラッシュとシャッター音に怯えているルイズを見て、鈴仙はポツリと呟いた。
何の感情も見えない瞳でルイズを見ていた永琳は弟子の発言にこう答えた。
「どうかしらねぇ、私にはパンダというより猫みたいな感じがするわ。…アメリカンショートヘア、もしかするとアメリカンカールかしら?」
「種類まで言うんですか…まぁでも確かに、猫耳つけたら似合いそうですね」
真剣そうな永琳に鈴仙は冷や汗を流しつつも、猫という答えにはある程度納得していた。
そんな弟子の言葉に、永琳はその顔に妖しい笑みを浮かべるとこんな事を言った。
68ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:46:15 ID:cmLW51vM
「猫耳ね…本人から許可が取れたら付けてみようかしら?」
永琳の言葉に、鈴仙は首を傾げた。
「…え、なんで許可を貰う必要があるんですか?猫耳といったらあの猫耳バンドでしょ?」
弟子の発言に、永琳は首を振ると自身満々に喋り始めた。

「そんな偽モノじゃあ駄目よ、ちゃんとした猫の耳を自分の耳として使えるように移植して…」
「えぇ!?まさか本物の猫耳をつけようと言うんですか!」

そんな風に各々が神社の境内で過ごしている内にどんどんと辺りは暗くなっていく。
そろそろかがり火でも焚こうかしらと霊夢が思った丁度その時、ふと上空から聞き慣れた女性の声が聞こえてきた。

「――――どうやら、呼んでいた者達は全員来ている様ね」

最初に気が付いた鈴仙がすぐさま空を見上げてみると予想通り、八雲紫が隙間から顔を覗かせていた。
紫に気づいたレミリアは不満そうな表情を浮かべつつ、紫に話し掛ける。
「遅かったわね八雲紫。一体何処で油を売っていたのかしら?それに西行寺の亡霊も来てないわよ」
ついでレミリアは以前紅魔館での話し合いに来ていた幽々子が来てない事を紫に言った。
「幽々子は幽々子で色々とすることがあるのよ―…っと!」
喋りつつも空中に出来た隙間からぬるりと出てきた紫はゆっくりと境内に降り立った。
鈴仙に続いて気づいた他の者達も紫の方へと視線を向け、まず最初に魔理沙が声を掛けた。
「よぉ紫。何か面白そうだから参加させてくれよ」
「あら魔理沙じゃないの。…こうなるなら、貴女も呼んでおくべきだったわね」
魔理沙は愛嬌のある笑顔で手を振りつつも、話し合いの参加を要求した。
一方の紫も笑顔で手を振り魔理沙にそう言った。
次に面倒くさそうな表情の霊夢が紫に話し掛けた。
「何だか…ちょっとした大事になってるんじゃないの?」
霊夢の言葉に、紫はすこし呆れたと言いたげな表情を浮かべつつこう答えた、
「今頃気づくなんて…全く、もう少し危機感を持った方がいいわよ霊夢?」
次に紫はルイズの方へと近寄り、彼女に話し掛ける。

「今晩はルイズ。幻想郷の空気には慣れたかしら?」
「うぅ…郷に入りて郷に従えって言葉は知ってるけど…実を言えば気絶直前だわ」
うだつの上がらないルイズの顔を見て、紫はコロコロと笑った。
「見慣れぬ郷に慣れるのには時間が掛かるものよ。まぁもうすぐ貴女は元の世界に帰るけど」

紫の口から出た「元の世界に帰れる」という言葉を聞き、ハッとした顔になる。
「え?もとの世界って…ハルケギニアに帰れるという事?」
「まぁその前に幾つか教えておきたい事があるわ」
そんなルイズを見て紫は微笑みつつも、こう言った。

「貴女と霊夢…、特に霊夢が今後するべき事と、幻想郷とハルケギニアの運命に関わる大事な話をね」





トリステイン王国首都、トリスタニアのブルドンネ街。

狭い道に老若男女が行き来し、道の端では露店が出ていて商人達が今日も稼ごうと声を張り上げている。
比較的海に近い国のためか魚やムール貝などの海鮮食品が無加工状態で手に入るのだ。
更に塩などはロマリアの次に比較的安価で売られている為。街の人々は調味料に困ったりはしない。
酒場やレストラン、宿屋も街のあちこちにあり他国の名のある貴族達もブルドンネ街に観光目的だけで訪れる事も少なくはない。
そんな街の一角に、大きな噴水が設置された広場があり、この街では公共の場として市民達に愛されていた。
毎日毎日色んな人達がこの広場で休み、街の喧噪や何処からか流れてくるラッパや合唱を聞いて空を仰ぐ。

今日は珍しく人がいないものの、何処からか聞こえてくるバイオリンの繊細な音色に耳を傾けている少女が一人いた。
69ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:50:28 ID:cmLW51vM
「あら、今日はバイオリンの音が聞こえてくるわ」
果物が二、三個入った茶色い袋を両手で抱えながら、シエスタは誰に言うとでもなく呟いた。
彼女は魔法学院で給士として働いている彼女であるが、着ている服はいつものメイド服ではない。
茶色のスカートに木の靴、そして草色の木綿のシャツ。シエスタが実家を出る際に持ってきた私服である。

今日は久々に休みが取れた為、こうして私服姿で街を歩いていた。
お使い以外に滅多に街へ来ることの無いシエスタにとっては、唯一の楽しみでもある。
生まれ故郷が首都から離れた村ということもあって、トリスタニアは娯楽に溢れていた。
それに、チクトンネ街には母方の叔父が店を開いており、袋に入っている果物もその叔父と店の人達にあげるためのものである。
シエスタは早くに店に着きたいなーという一心で広場を通ってチクトンネ街の方へ行こうとしたとき、ふと誰かが声を掛けてきた。
「よぉよぉお嬢ちゃん。なんだか嬉しそうだけどどうしたの?」
やけに軽い感じの声を耳に入れたシエスタが振り返ると、そこにはやけに軽い服装の男が三人もいた。
最近街で流行っている男性向けの黒いシャツを着こなし、真鍮のネックレスを首からぶら下げている。
後の二人も同じような服装ではあるが、誰一人としてマントをつけていない事から貴族ではないようだ。
「えっと…、あなた達はもしかして、私に声を掛けたんですか?」
今まで見たことがない感じの男達に、シエスタは怪訝な顔つきになった。
一方の男達もシエスタの言葉にウンウンと頷くと先頭の一人が口を開いた。

「そぉだよ。…いやぁー実はオレ達新しく出来たカッフェていう店に行こうと思ったんだけれど男三人だとどうにも、ね…?
 だからさー、偶然出会った美しい君と一緒にお茶を飲みたいと思って…あぁお代は勿論僕達が支払うから」

男は長々と喋りつつも流し目を送り、キョトンとしているシエスタの気をなんとか引こうとしている。
しかし、今まで出会ったことのないタイプであった為か、シエスタはその流し目に気づかなかった。
「すいません、ご厚意だけは受け取りますけど何分急いでますので…」
申し訳なくそう言いつつ、自分を口説こうとした男に向かってシエスタは頭を下げた。
ついこの間、モット伯に手を掴まれたシエスタは、見知らぬ異性に対してある程度の警戒心を抱いていた。
早くここから立ち去らなければいけないと思い、シエスタは早足でこの場を立ち去ろうとした。
しかしそんな彼女の手を、男達は突拍子もなくいきなり掴んだ。
「ちょっと待ってよぉ〜。別に誘拐しようなんて気は無いんだってば」
「は、離してください…!」
いきなり手を掴まれたシエスタは襲いかかる不安をはね除けるために手を振り解こうとした。
しかし男は手の力を更に強め、後ろにいた二人がシエスタを周りを囲もうとした。その時―――!

ヒュン――――ガッ!

「イィ゛ィッ!」
突如どこからか勢いよく飛んできた小さな物体がシエスタの手を掴んでいた男の後頭部に直撃した。
男は頭を抑えつつその場にヘナヘナと尻もちをついた。
「おっ…オイ、どうしたんだよ!…って、何だコリャ?」
倒れた仲間に驚いた一人が傍へ近寄り、その近くに水色の小さな水晶玉が転がっているのに気がつく。
水晶玉といっても半分ガラス細工のような物であり、所謂゛ビー玉゛と呼ばれる代物である。
その時、彼らの後ろから快活だと思わせる元気な少女の声が耳に入ってきた。

「それが此処でのナンパか。ハッキリ言ってそれだと普通の女は引くぜ?少なくとも私は一発殴りたい気分になる」

若干男っぽい口調のその声を聞き、男達とシエスタは振り返った。
そして一瞬だけ、目の前にいる金髪の少女は、絵本の中から出てきたメイジかと錯覚してしまった。
今だと四十代くらいになる世代のメイジが被っているような黒い帽子に、白と黒を基調としたドレスの上に純白のエプロン。
左手には少女の身長と比べればかなり長い箒を持っている。
そして右手の平にビー玉が数個ほど乗っているのに気づいた男(ビー玉をぶつけられた奴)は、キッと少女を睨んだ。
「おい、この俺にビー玉ぶつけたのは嬢ちゃんの仕業か!」
シエスタとは違い、少し汚い言葉遣いで少女に向かってそう叫んだ。
実はこの男、自分に危害を加える者なら老若男女関係なく平気で殴りかかる性格の持ち主であった。
つまりは、女子供もその気になれば平気で殴ることが出来るひどい人間である。
「あぁそうだぜ。自分に惚れていると思って女を口説く奴は好きじゃないんでね」
しかし、ドスのきいたその言葉に意に介した風もなく少女はそう言った。
70ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 18:56:02 ID:cmLW51vM
ドスのきいた男の言葉に意に介した風もなく少女はそう言った。
その言葉に男が憤り、勢いよく立ち上がり殴りかかろうとした。

「このガk―「ちょっとマリサァ!アンタこんな所にいたのね!」
そんな時、シエスタの背後から誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
今度は何だと思いつつ男達は振り返り、貴族の少女がこっちにもの凄い勢いでやってくる事に気づき驚いた。
一方のシエスタはその貴族とはある程度顔見知りであり、咄嗟に彼女の名前を呼んだ。
「ミス・ヴァリエール!」
「ゲ、やべぇよ…貴族だ!」
シエスタの近くにいた一人がそう言うと他の二人も焦り始めた。
「クソ…と、とりあえず逃げようぜ!」
ビー玉をぶつけられた男がそう言うと、彼の近くにいた仲間がそれに頷いた。
「あぁ。何せ最近の貴族連中はおっかないからな…」
その言葉を締めに、まず最初の一人が真っ先に広場から出て行った。
次いで残りの二人も唖然としているシエスタとの別れを惜しみつつ、先に逃げた仲間の後を追った。
後に残ったのはシエスタと突然やってきたルイズ、そしてマリサと呼ばれた金髪の少女だけであった。
途中からやってきたルイズはゼェゼェと息を切らせつつ、目の前にいる少女に怒鳴った。
「はぁはぁ…ちょっとマリサ!アンタ何かやらかしてたわね!?」
「何言ってるんだよルイズ。あいつらが先に何かやらかしてたのさ」
少女は先程と変わらぬ涼しい表情でそう言い、シエスタの方へと顔を向けた。
「えっ…?わ、私の顔に何か付いてるんですか?」
シエスタは突然自分の顔を見知らぬ少女に見つめられ、キョトンとしてしまう。
そんなシエスタの表情を見てか、少女は微笑んだ。
「いや何、あんなチンピラ連中に絡まれて大丈夫だったかなーって思っただけさ」
少女がそう言ったとき、今度は空から広場にいる三人が既に聞いた事のある声が聞こえてきた。

「あら、騒がしいと思って来てみれば魔理沙とルイズ、それにシエスタもいるじゃないの」

その声を聞いた三人が頭上を見上げると、霊夢が空の上から見つめていた。


午前十時のチクトンネ街は、トリスタニアの繁華街と言って良いほどの賑わいを見せていた。
今日が虚無の曜日と言うこともあり、他国からの観光客の姿も垣間見える
中央広場から少し離れたところにはいかがわしい酒場や賭博場などが密集しており、治安の悪さも伺える。
そんな地域の一角に、「魅惑の妖精亭」という可愛いらしい名前の店があった。
営業時間や客に出す酒や料理等は周りにある酒場とは同じだが、この店には長所が一つだけあった。

「ほっらほら〜!見てよこのキャミソール。一ヶ月前に注文した特注品よぉ〜!」
その体格に似合わない女言葉を使う店長のスカロンが、大きな手で白いキャミソールを手に取り、シエスタ達に見せた。
「わぁ、とっても綺麗ですね!…あ、このマークって店のロゴですよね」
確かに特注品とだけあってか、中々良いデザインのキャミソールだとシエスタは思った。
純白のそれは着る者の魅力を存分に引き出してくれるに違いない。
更によく見てみるとキャミソールの胸元部分には店の刺繍が小さくはいっている。
「良くわかったわねシエスタちゃん。そう、今夜から妖精ちゃん達に着せてみようと思うのよぉ」
スカロンの言うとおり、これ一着だけではなく彼の足下には色違いのキャミソールが何着も入っている箱があった。
ちなみに彼の言う妖精ちゃんとはここで働くウェイトレス――つまりは女の子達の事である。

そう、ここ魅惑の妖精亭の長所は「女の子達がいかがわしい格好で働いている」という事だ。
男なら誰もが目を奪われてしまう服装で可憐な少女がお酒や料理を運んで着てくれたら、まずチップを渡してしまうだろう。
一日たっぷりと働いてきた男達にとって、ここは目を休めるのに絶好の場所であった。

大きな手で白いキャミソールを振り回しているスカロン。
そんな彼の姿をルイズ、霊夢、魔理沙の三人は席に座って眺めていた。
71ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 19:01:19 ID:cmLW51vM

数時間前…魔法学院にあるルイズの部屋
「レイム、今から王宮に参内するから準備をして頂戴」

ドアを開けて部屋に戻ってきたルイズは霊夢にそう言った。
突然のことに霊夢は何が何だかわからない顔になったが、それを気にせずルイズは乗馬用の鞭を手に取った。
その時、部屋の片隅で風呂敷に包んで幻想郷から持ってきた本のタイトルを確認していた魔理沙がルイズの方へと振り向いた。
「王宮だって?やっぱり魔法の世界は凄いぜ。本の中でしか見たことのない王宮があるとはな」
幻想郷ではあまり耳に入れない「王宮」という言葉とその存在に早速興味津々になった魔理沙を見た霊夢は彼女の方へ顔を向けた。
「魔理沙、代わりに行ってきてくれないかしら?私は留守番してるから」
「ん…何だ霊夢?お前随分と嫌そうな顔をしてるな。まぁいつもの事だが…」
霊夢の言葉に魔理沙はそちらの方へ顔を向けると、まず真っ先に霊夢の嫌そうな表情を見ることになった。
「私としちゃあ用事が無いしね。一緒に行くのならアンタの方が速く着くし」
「正にその通りだな。少なくともお前よりは速い」
「レイム!マリサはともかくアンタは絶対私についてきなさい」
魔理沙がそう言った直後、のんびりとイスに座ってお茶を飲んでいる霊夢に少し怒ったルイズが詰め寄ってきた。
「はぁ…?なんでよ」
目の前にいる桃色ブロンド少女の言葉を理解できていない霊夢は首を傾げた。
一方のルイズは、そんな紅白の巫女に溜め息をつき、仕方なく説明し始めた。
その瞳は自信満々に輝いている。もしかしたらルイズは他者に何かを説明する事を楽しんでいるのかも知れない。

「いい?今更だろうけど今の貴女はガンダールヴ。つまりは私の使い魔なのよ。
何であろうと使い魔は主人の命令を聞き、そして主人の顔を立てる役者的存在でもある。
それにユカリも言ってたでしょう?アンタと私は出来るだけ…  
                                                     …って――何処行くのよ!?」

自信満々な表情を浮かべて説明しているルイズは、席を立って部屋を出ようとした霊夢に向かって叫んだ。
一方の霊夢はそんなルイズとは対照的に嫌悪感丸出しの表情でルイズにこう言った。
「くだらないわねぇ。そんなんだからアンタ、友達が一人もいないんじゃないの」
霊夢の心ないその一言に、ルイズは目を見開いて怒鳴った。
「な、何ですってぇ…!?」
「それに紫がなんと言おうと決めるのは私よ。…まぁ、アンタの身に何か起こったら助けに行くかもね」
「おいおい霊夢…」
霊夢はそう言うと魔理沙の制止を振り切り、ドアノブを捻って部屋を出ようとしたが…それは出来なかった。
突如ドアに一本の隙間が現れ、そこから白い手がニュッと出てきた。
それに気づくのが遅かった霊夢は、ドアノブを握っていた手を掴まれ捻り上げられた。
「くっ…!」
「いけないわねぇ霊夢。私は言ったはずよ―――」
捻り上げられた手から伝わってくる痛みに霊夢は軽く呻き、今度は女の声が聞こえてきた隙間を睨み付けた。
両端を赤いリボンで綺麗に装飾した隙間や、先程の声に覚えのあったルイズは、アッと声を上げて後ずさる。
隙間から出ていた手は、すぐに霊夢の手を離し隙間の中へと戻っていった。
しかし一息つく間も無く、今度は隙間から見る物に溜め息をつかせるほどの美貌を持った金髪の美女が出てきた。
知ってのとおり、その女性の名は八雲 紫。幻想郷を創り出した妖怪達の賢者である。

上半身だけ出していた紫は下半身も隙間の中から出し、床に降り立つ。
紫が出てきた隙間は主人の意思に従い消滅する。
「これからしばらくは使い魔として厄介になるんだからお互い仲良くしなさいって」
隙間から出てきた紫は子供を叱る親のような顔でそう言うも、霊夢は納得のいかない表情を浮かべている。
紫は溜め息をつくと次にルイズの方へ近寄り、落ち着き払った声で彼女にこう言った。
「貴女も貴女よ。ちょっとばかし覗いてみたら…全く、掛ける言葉を選びなさいな」
「で…でも」
「でももヘチマも桃もないわ。要はもっと他人に優しい言葉を掛けなさいと言ってるのよ」
反論する暇さえ見せずそう言った紫の表情は真剣であった。
「あ…あぅ…」
紫の真剣そうな表情にルイズは無意識のうちに反論する勇気を失ってしまい、あぅあぅと呻いた。
その姿はまるで、真夜中の路地裏で親とはぐれて寂しそうにうずくまる子猫のようであった。
(ふ〜ん…紫の奴もあんな表情を浮かべられるんだな)
一人置いてけぼりにされていた魔理沙は幻想郷から持ってきた本を整理しつつ紫の真剣そうな表情を珍しそうに見ていた。
72名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 19:03:39 ID:nncJoon5
支援
73ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 19:07:40 ID:cmLW51vM
霊夢はというと肩をすくめつつ溜め息をつくとドアから離れ、先程自分が座っていたイスにもう一度座り直した。
ルイズのあぅあぅという声しか聞こえないこの部屋の空気は、段々と冷めていくかのように見えた…そんな時。
「ぷっ、くく…」
ふと頭上から押し殺すかのような笑い声が聞こえルイズは首を傾げた。
何だと思い頭を上げると、そこには笑いを必死に堪えている紫がいて―――――

「ふふ…うふふ…――――アッハハハハハ!!」

――――――案の定、彼女は笑い始めた。

「 !? 」
突然の事に一番近くにいたルイズは目を見開いて驚いた。
「うぷっ…!ゴホッ…!」
飲みかけであった自分のお茶を口に含んでいた霊夢は思わず吹き出しそうになりながらもなんとか堪えた。
「えっ…?……デッ!?」
魔理沙は手に持っていた本を思わず取り落としてしまい、不幸にもその本の角が右足の小指に直撃した。
他の二人はともかく一番酷い目にあった魔理沙は右足を押さえながらその場に蹲ってしまった。
「ゴホ…ちょっと紫、いきなり何なのよ?ビックリしたじゃない…ゴホ…」
霊夢は咽せながらも未だに笑い続けている紫を睨み付けた。
一方の紫は笑いを堪えながらも、霊夢の質問にそう答えた。
「あははは…イヤ何、ちょっとこの娘の反応があまりにも可愛かったからね…うふふ」
「な…何ですってぇ!」
その答えにルイズは憤ったが、ようやく笑いが収まってきた紫はルイズに言った。
「だって…アハ…私は別に怒ってないのに…フフフ…あんなにしょぼくれてるのを見てつい…ハァ」
「というかさぁっ…イテテ!お前の真剣な表情が…っ!般若に見えたんじゃないのかよ…って、イタタ!」
紫の言葉を聞いた魔理沙は、ジンジンと痛む小指を押さえつつ紫に突っ込んだ。

その後全員が落ち着いてから、紫はルイズに言った。
「まぁ…霊夢が貴女の使い魔になったとしても霊夢は霊夢のままよ。さっきみたいな上から目線の言葉は控えた方が良いわ」
面と向かってそう言われ、ルイズはハッとした顔になった。
今の霊夢は自分の使い魔ではあるがそれでも相手が相手だ、その様な事で自分に懐くわけでもない。
(もしかしたら私、自分がとんでもない存在だと知って自信を持ってたのかも?)
ルイズはそう心の中で呟くと幻想郷に来た際、吸血鬼のレミリアに言われた事を思い出した。

―――今霊夢の左手にはお前達が『伝説』と呼んで崇める使い魔のルーンが刻まれている。
      という事は、貴女にはそれ程の力があるという事じゃないかしら?貴女が気づいていないだけで

運命を操り、そして見る事の出来る彼女の言葉に、ルイズは知らず知らずのうちに自信がでてきたのである。
しかしその事実は結果として、霊夢を単なる使い魔として見てしまいそうになった原因にもなってしまったのだ。
(うぅ…自信過剰という言葉は、正にこういう時の事ね…)
「わ、わかったわ…」
ルイズは渋い顔をしつつも紫の言葉に納得して頷いた。
頷いたルイズを見て紫もまたコクリと頷き、今度は霊夢の方へと顔を向けた。
「貴女も些細な事で機嫌を損ねない事ね。もうちょっと寛容になってみなさい?」
紫の諭すような口調に、とりあえず霊夢は「考えとくわ」と言っておいた。
次に紫は魔理沙の方へ顔を向け、少々厳しい口調で言った。
「全く、人間中で良く霊夢を知ってる貴女ならもっと早くに仲裁ぐらいは出来たんじゃないの?」
「私を信用しすぎてないか?それにお前が直接来たんだからもういいだろう」
笑顔で開き直った魔理沙に紫は溜め息をつくとフッと笑い、パンパンと手を叩いた。
「まぁいいわ。これで話は終わりよ…じゃ、次は貴方達の行きたいところへ行きなさい。何か用事があるんでしょう?」
紫がそう言うとルイズはハッとした顔になり、霊夢の方へと顔を向けた。
霊夢は面倒くさそうな表情を浮かべつつも頷くと、ルイズに言った。
「ま、部屋に閉じこもっててもなんだしね。…だけど命令とかは絶対に御免被るよ?」
彼女の口から出たその言葉に、紫は笑顔を浮かべた。
「ふふ…流石霊夢ね。物分かりが良くて私も助かるわ」
そしてその言葉を了承と受け取ったルイズもまた頷き、今度は魔理沙の方へ顔を向けた。
「ん?何だ、私も連れて行ってくれるのか」
ルイズの鳶色の瞳に見つめられている魔理沙はまだ痛みが残る足を押さえながらも彼女の言葉を持った。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 19:09:57 ID:sgkfUCRE
おっといつの間に支援
75ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 19:15:32 ID:cmLW51vM
そして、ルイズの口から出た言葉は魔理沙を知っている者なら「言うだけ無駄な気がする」と言わすものであった。
「ん〜と……まぁアンタは残っててもいいわよ。別にアンタは使い魔とかじゃなくて居候みたいなもんだしね」
「おいおい、私には冷たいんだな」
てっきり、「一緒に付いてきて」と言われるかと半信半疑で思っていた魔理沙は驚いた振りをしつつ笑顔でこう言った。

「まぁいいや、なら私は一人で行くとするか。ちょっと観光にも行きたいしな」

自信満々にそう言った魔理沙に、ルイズは何を言うかという顔つきになった。
「面白い事言うわね、仮に一人で言っても門前払いが………ん?どうしたのユカリ」
一方の紫はというと、何処に行ってもいつもの白黒ねぇ、と呆れつつ溜め息をついていた。
そんな彼女に気づいたルイズは首を傾げたところ、紫はルイズに言った。
「ルイズ…魔理沙も連れて行ったらどうかしら?魔理沙ならそこら辺をぶらつかせるだけでもいいし」
大妖怪の口から出た言葉を耳に入れたルイズは、怪訝な顔つきになった。
「え?何でよユカリ。余計に一人付いていったって騒がしいだけだわ。それに行くのは王宮よ、粗相があっては困るわ」
ルイズの言葉に紫ではなく霊夢が溜め息をつくと、ルイズに話し掛けた。

「私は別に良いけど。魔理沙が一人で行くとなると粗相どころじゃないわよ」
「レイムまでそんな事言うの?どうせ一人で行ったって門前払いだっていってるに…」
ルイズがそこまで言ったとき、紫が楽しそうにこう呟いた。

「厳重に閉じられた扉を吹き飛ばし、借りていくと言って無断で本を盗むあの魔理沙が、門前払いで済むのかしらねぇ?」
突然そんな事を言ってきた紫にルイズはハァ?と言いたげな顔になった。
そんなルイズ達を見てか、魔理沙は得意気にこんな事を言ってきた。

「人聞き悪いぜ。私は盗んでるんじゃなくてちょっと借りてるだけさ」
魔理沙の口から出たその言葉に、ルイズの身体が一瞬だけ硬直した。
そしてすぐに硬直が解いた後、ゆっくりと首を霊夢の方に動かし「本当なの…?」と質問してみた。

「まぁ大体合ってるわね。あと吹き飛ばすのは門番の方かしら?」
霊夢はあっさりと答えてくれた。


結局、仕方なしにルイズは霊夢と魔理沙の二人を連れて王宮へ行くことにした。
紫もその後用事があるといってスキマを使って幻想郷へと帰って行った。
霊夢は自力で空を飛び、魔理沙は箒の力を借りて飛んで行く。
幻想郷から来た二人の後ろ姿を、馬に乗って追い掛けたらすぐに街へたどり着くことが出来た。
ルイズは霊夢と魔理沙の二人に忠告し、魔理沙には絶対自分たちの側から離れないよう言っていた。
「良い?街の中で目立つような事しないでね。特に変な技とか能力を使うなんて事は、絶対にやめて頂戴」
「変な、とは失礼だな。私は極々普通の魔法をいつも使ってるんだがな」
魔理沙とそんな会話を交えつつ、三人は王宮へ行くため街の大通りへと出た。

しかし結局はそれが失敗となり、魔理沙の姿を大通りで見失ってしまった。
ルイズとしてはそのまま王宮へ行きたかったのだが、下手に放っておいて騒ぎになるのは御免である。
仕方なく霊夢は空から、ルイズは市内を走り回って捜す羽目になってしまった。

結果、ルイズが魔理沙の姿を見つけた時には案の定、街のチンピラ三人に絡んでいた。
その場は貴族であるルイズが乱入したことにより事なきを得たが、更にその後…
魔理沙の傍にいた黒髪の少女が一足遅く飛んできた霊夢の姿を見て嬉しそうにこう言ったのだ。
「あ、レイムさんじゃないですか!」
「やっぱりシエスタだったわね。もしかして魔理沙、アンタが助けたの?」
「あぁ、なんか今にも空を飛びそうな程の軽い連中が絡んでたからな」
霊夢にそう言われ、魔理沙は自信満々にそう答えた。
76名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 19:19:55 ID:YQyH11is
大堂しえん
77ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 19:20:04 ID:cmLW51vM
その後、ルイズは二人を連れてその場から去ろうとしたが、ふとシエスタが三人に声を掛けた。
「あ、待ってくださいミス・ヴァリエール」
「ん?何かしら」
シエスタに呼び止められ、ルイズはシエスタの方へと顔を向けた。
「あの…今から私、チクトンネ街にある叔父の店に行くんです…」
突然何を言うのかと思い、ルイズは首を傾げた。
シエスタは指先をモジモジと弄くりながらも、一呼吸置いてこう言った。

「えっと…だから、そのお店で何かお礼が出来ると思いますので、だから…」

本当のところ、ルイズはすぐにでも王宮へ参内したかった。
しかし、心優しい少女の親切を踏みにじることも出来ず、なし崩し的にそのお店へ行くことになった。


だが…想像して欲しい。
今までこんな街で暮らした事のなさそうな清楚な田舎少女の叔父が経営する店というのを…
大抵の者は、八百屋、雑貨屋、地方の料理を出すリストランテ――
その他諸々と、殆どの者が想像するだろう。

だから、シエスタを少しだけ知っていた霊夢は目を丸くし、ルイズはえーっと少しだけ驚いた。

「紹介します。叔父のスカロンさんです」
自信満々な表情でそう言うシエスタの後ろで、スカロンと呼ばれた男はクネクネと腰を動かした。
「あっらぁ〜、シエスタちゃんを助けてくれたのがこんな素敵な女の子達だなんてぇ〜。…うぅん、トレビアーン♪」
清楚な田舎少女の叔父が女口調で喋っていて、如何わしい店の店長をしているなんて、誰が想像しようか。


「私は霧雨魔理沙。見ての通り普通の魔法使いだ」
「魔法使い…メイジじゃなくて?」
「前半は正解だが、後半はハズレだぜ」
「あっらぁ〜♪随分ユニークなお嬢ちゃんだこと!」
ただ、魔理沙だけは特に気にしてもいないようだ。


そして時間は今に戻り…

スカロンの様な男性に会った事が無い霊夢は嫌そうな目でずっと彼を見つめている。
一方の魔理沙は、霊夢とは逆にスカロンを「面白い人」と認識して面白そうに見つめていた。
二人に挟まれるようにして座っているルイズはそんな二人をじっと見ていた。
「本当、ハルケギニアって変なのが勢揃いね。あんな恥ずかしい服を着せられたら堪らないわ」
スカロンの持っているキャミソールを見つつそう言った紅白巫女に、魔理沙が反応した。
78ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 19:25:11 ID:cmLW51vM
「でも年がら年中そんな恰好してるお前よりかは大分マシだと思うがな」
狙いが正確すぎて的を貫いた魔理沙の突っ込みに、流石のルイズも頷いた。
「そうねぇ。大体私から見てみたらアンタの方が随分おかし……ってイタッ!」
「おっと!」
ルイズは最後まで言いきることができずに霊夢に頭を叩かれた。
同時に魔理沙も攻撃したのだが、咄嗟に避けられてしまっていた。
「っさいわねぇ…。大体、腕は見せてないでしょうに」
そこまで霊夢が言ったとき、後ろから誰かの声が聞こえてきた。
「ハイ、当店自慢のサンドイッチを持ってきたよ」
元気そうな少女の声と共に、軽食を載せたお盆がテーブルの上に置かれた。
チーズ、ハム、そして新鮮なレタスを軽く焼いた食パンで挟んだそれを見て、霊夢は振り返った。
そこにいたのは、少しおとなしめの服を着た太眉の少女が顔に笑顔を浮かべて立っていた。
ストレートの黒髪が窓から差し込んでくる陽の光に当てられ眩しく輝いている。
「あぁ、お金はいらないよ。これはシエスタを助けてくれたお礼さ」
じゃ、ゆっくりしていってね。と最後にそう言って厨房へと戻っていった少女の名はジェシカ。
スカロンの娘であり、シエスタの従妹であった。
シエスタとは正反対の快活な性格で、店で働く他の女の子達のリーダー的存在でもある。
彼女が去った後、テーブルに置かれたサンドイッチを最初に手にしたのは魔理沙であった。
早速一口目を口に入れて咀嚼し飲み込んだ後、「中々美味いな」と言った。
その言葉に釣られてか霊夢もサンドイッチを一つ手に取り、モグモグと食べ始めた。
「うん、簡単だけど良い味してるわね」
霊夢も素直な感想を述べたところで、ようやくルイズもサンドイッチを手に取り一口食べた。
ゆっくりと咀嚼して飲み込んだ後、彼女もまた感想を述べた。

「あ、美味しい…」
79ルイズと無重力巫女さん:2010/03/23(火) 19:33:32 ID:cmLW51vM
これにて、30話の投稿は終了です。
今回は「執筆のペースを出来るだけ上げてみる」という目標で執筆していました。
月末を基点に、これから少しずつペースを縮めていきたいと思います。
支援してくれた方々、大変有り難うございます。

では今日はコレにて。また来月に
ノシ
80名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 21:38:35 ID:yk+MaTgC
無重力の人乙。
夜闇や萌え萌えの人も遅れたけど乙。
>>60姉妹スレだが仮面のとこのワルドがイケメンだ。
81疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:41:02 ID:yk+MaTgC
お、規制解けた。
少々間が空いてしまいましたが、特に不都合が無ければ21:45から四章投下させていただきます。
82名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 21:43:30 ID:2WrvU9mJ
ぽえーん しえんです
83疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:45:43 ID:yk+MaTgC
第四章 そんな笑顔が

   1

「ミセス・シュヴールズからミス・ヴァリエールの教室の片付けの手伝いを、と申しつかりましたメイドのシエスタでございます」
 嵐が過ぎ去ったかのような惨状を見せる教室に入ったシエスタはそう言って、スカートの端を摘まんで、スッとお辞儀をする。顔を上げるとそこには、一人の少女。
 シエスタの身長よりも低い小柄な体躯を持つその少女。腰の辺りまで伸ばした細く艶のある髪は、僅かに桃の色が差し、陶器のような張りと白さを湛えた肌と合わさり、まるで花壇に咲き誇る一輪の花のようだ。
 ほかの学院の生徒たちと同じ黒いマントと白のブラウス、灰色のプリーツスカートといった装飾の少ない制服を着用しているのにも関わらず、まるでルイズの姿に合わせたかのように似合っている。
 学院就きのメイドであるシエスタにとっては見慣れた姿だが、ここまでの美少女は中々いない。
 そんな可憐な姿はシエスタの印象に強く残った。なんというか猫の魅力に近いものを感じたのだ。
「ああ、あなたが先生の言っていたメイドね」
 ミス・ヴァリエール――ルイズがその声を聞き、いくらか和らいだ表情で振り向いた。
「ちょうど良かったわ。シエスタ、そっちを持ってちょうだい」
 見ればルイズは倒れてしまった教室の机の一つを立てようと、机の中央の辺りを持ち力を込めているところだった。
84疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:47:07 ID:yk+MaTgC
 小柄なルイズでは大きな机のバランスを取るような持ち方はできないし、そのような力も足りない。
「あ、はい!」
 傍から見れば小さな子供が重い荷物を持ち上げるようで微笑ましい光景だったが、シエスタはルイズの手伝いをする為にここに呼ばれたのだ。
「では、私はこちらを持ちますので、ミス・ヴァリエールはそちらをお願いできますか?」
「わかったわ。・・・・・・せーの!」
 ルイズの掛け声に合わせて二人は机を起こそうと力を込める。常日頃から女性の身ながらも、それなりに力を使う機会の多いメイドであるシエスタのおかげか、机はなんとか立ち上がった。
 何人かが同時にかける教室の机はかなりの大きさだったが、なんらかの魔法でも掛かっているのか、女性二人の力でもバランスさえ取れれば起こすのはそう難しくはなかった。
「ふぅ、それじゃあ残りの机も起こしてしまいましょう」
 シエスタとルイズは二人で机を運んでいく。手際よく、とは行かなかったが手馴れたシエスタのおかげでなんとか全ての机を運び終える。
 シエスタが新しいガラスを運び、ルイズは雑巾で教室を包んだ煤を磨き落とす。
 掃除などあまりやったことがないであろうルイズの手際は悪く、シエスタは見かねて手伝う。すでにガラスは全て運び終えていた。

85疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:49:17 ID:yk+MaTgC
   2

「一段落付きましたね」
 太陽が上の方まで上がり、影が短くなってきた頃には教室はほぼ片付いていた。
「ええ、あなたのおかげね、シエスタ。ありがと」
「い、いえ、そんな! ミス・ヴァリエールが手伝ってくださったからです」
 貴族であるルイズが平民であるシエスタに対してお礼を言う。そのような状況はなかなか無い。
 ここの生徒はプライドが高く、こういった事は珍しい。
 平民との距離が近い弱小貴族の子供などであればこういった事は時々である。しかし、トリステイン魔法学院は国立ということもあり、通うことのできる貴族はある程度の地位を持った者に限られる。
 少ない例外はゲルマニアからの留学生であるキュルケぐらいだ。ゲルマニアでは財産次第で貴族になることができるので、名門でも平民との距離が近いのかもしれない。
「平民の私にお礼だなんて・・・・・・」
 恐縮してしまったシエスタが発した声は、語尾が掠れててしまい聞き取れないような大きさだった。
 ルイズの実家、ヴァリエール家はトリステイン王国中にその名を轟かせる名門である。領地は広大であり、領主は代々優秀なメイジ。戦争となれば王国の杖として戦い、平時では国境を任せられるほどである。
 そんな名門の生まれであるルイズが、たかが学院のメイドにお礼を言うなど考えられないことだった。

86疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:51:31 ID:yk+MaTgC
「確かに・・・・・・ほんの少し前の私ならこんな事は言わなかったでしょうね」
 ルイズはそう言って、変えたばかりの曇り一つ無いガラスが嵌まった窓に背中を預ける。視線をシエスタから外して窓の外を眺めるルイズは美しかった。
 昼前でも春の日差しはまだ強くはなく、ぽかぽかと気持ちがいい。空気を入れ替えるために開け放った窓からは、爽やかな春風が教室を満たす。微かに花の香りを乗せた風は心地いい。
「私は魔法が使えなかった。家でも使用人からも馬鹿にされ、中には平民との子供じゃないか、なんて言う人間までいたわ」
 当時を思い出しているのか、語るルイズの顔はどこか悲しげで。そんなルイズの顔を見るとシエスタはなんと声をかけていいのかわからない。
 なんだか胸が締め付けられるような、そんな表情をルイズは浮かべていた。
「だからかしら、私は誰を信じていいのかわからなくなった。名門ヴァリエール家の娘、優秀な両親や姉妹、そんな中で私だけが魔法が使えない。
私の唯一の心の支えは『貴族の誇り』って看板だけだった。必死になったわよ。それでも魔法は成功しないの。悔しかったわ、とってもね」
 そう語るルイズの目はどこか暗くて、吸い込まれてしまいそうだ。
 『ゼロ』の噂はシエスタだって知っている。
 魔法の使えない貴族。魔法成功率0%。爆発により備品などを壊し、時折シエスタたち使用人の仕事を増やす。そして本人は悪びれようともせずに平民をほかの貴族と同じように使う。
「『ゼロ』のくせに」そんな嘲りの込められた愚痴を、シエスタも何度か同僚から耳にしたことがあった。
 平民と同じように魔法が使えないのに、貴族の服を着て、貴族の食事を取り、貴族のベッドで眠る。ただヴァリエール家に生まれただけで、と。嫉妬も色濃く込められたそんな呟きを込められた声を聞くと、シエスタは耳を塞いで逃げ出したくなる。

87疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:52:45 ID:yk+MaTgC
 シエスタは見てしまったことがある。ルイズが入学していくらか経った日の夜に、たまたま臨時で入った仕事が長引いてようやく自分の部屋に帰るという時に爆音が聞こえたのだ。
 驚いたそちらに向かってみると一人の少女がいた。月明かりで浮かんだシルエットは杖を持っていたので、すぐに貴族とわかり、声を掛けるのを躊躇った。
 少女は何度も呪文を唱え杖を振った。その度に大小遠近様々な爆発が起きる。時々近くで起こった爆発は、少女の小さな体躯は簡単に吹き飛ばした。
 それでもなお少女は立ち上がり、杖を振り続けた。
 一瞬、雲の切れ間から顔を覗かせた月が照らした少女の頬は濡れていた。
 泣くまいと歯を食いしばりながら杖を振る少女をシエスタは見ていられなくなり、逃げるように自分の部屋に戻った。ルームメイトは既に寝起きを立てていた。
 その日、シエスタは胸が高鳴って眠れなかった。そしてその少女はルイズだ。
 シエスタはルイズの努力を一端とはいえ知っていた。シエスタはルイズの苦しみを一端とはいえ知っていた。だからシエスタはルイズの陰口を言うことはなかった。
 その夜の出来事があってから、数日と間を空けずに学院に『ゼロ』の噂は広がった。

88名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 21:53:07 ID:BJ9QojoR
支援
89疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:54:20 ID:yk+MaTgC
――私はあの時、逃げてしまった。

 シエスタは逃げたのだ。どうして逃げたのかはわからない。だがルイズが必死に努力しているのを見つめ続ける事がシエスタにはできなかった。

「でもね、昨日初めて魔法に成功したわ。私は使い魔を召喚して『力』を手に入れた。私はもう、『ゼロ』じゃない。『ゼロ』なんかじゃ、ないわ」
 自分の左手を見つめながら、ルイズはそう締めくくった。
 その目には先ほどと違い、強い光が宿っていた。気高さを感じるその瞳はまるで大剣か、それとも槍のような鋭い輝きを湛えている。
「以前の私なら平民の名前なんて覚えようともしなかったわね。自分以外はみんな私を笑っているように思えた。けれども今は違う。私は『力』を手に入れたわ。
それからようやくよ。私がちゃんと物事を見れるようになったのはね。だからあなたが初めてよ、シエスタ。・・・・・・いい名前じゃない、可愛らしくてよく似合ってる」
 そういってルイズは笑った。その笑顔はまるで花のようで、でも悪戯好きの猫のようでもあって。
そんな笑顔が、とてもとても素敵だと、シエスタは思った。
「ありがとうございます!」
 自分の笑顔はどんな風になっているかわからなかったが、シエスタも笑っていた。
 胸の奥が熱くなるのをシエスタは感じていた。

90疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:55:20 ID:yk+MaTgC
   3

 二つ名は『炎蛇』。系統は『火』で、クラスはトライアングル。
 『炎蛇』のコルベールはトリステイン魔法学院で二十年も教鞭をとった教師である。その確かな実力と一風変わった授業により生徒にもそれなりに慕われている。
 顔には今まで生きてきた年月を感じさせ、頭は悲しいかな、輝かんばかりに頭皮が自己主張をしている。
 手に持つ大きな杖にも、身を包むローブにも薬品の匂いが染み付いているのはコルベールの変わった気性が原因である。
 コルベールはハルケギニアのメイジには、珍しく魔法ではなく『技術』で人々の生活を支えたいと考えていた。
 火のメイジは基本的に好戦的である。操る熱気がそうするのか、炎のような気質を持つものが多い。
 しかしコルベールは自身の火を敵ではなく、何かを作ることに向けたかった。
 長年、教師をする傍らで常に火を生活に生かすことができないかと考えていた。
 コルベールは人の役に立ちたかったのだ。誰かを傷つけるのではなく、誰かを育てる。それが目指した理想だった。
 そんなコルベールは今、図書館にいた。

 トリステイン魔法学院の図書館は、食堂がある本塔の中にある。
 本棚は人の身長の何倍も高く、膨大な量の本が納められたその光景は見るものを圧巻する。高さはおおよそ三十メイルにも及ぶ本棚が並ぶ、この壮大な光景を見ることができるのはハルケギニアでもなかなか無い。
 この図書館には始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来の歴史が、様々な人間の想いとともに蓄えられている。
 図書館の中の一区画、教師のみが閲覧を許されている『フェニアのライブラリー』にコルベールはいた。
 昨日、ルイズが召喚した『植物の種』。
 あれはコルベールの知識にはないものだった。もちろん専門ではないために、コルベールの知らない植物だと本人も思った。
 使い魔の目録を作る際に、種類がわからないのではなんとも味気無い。それにコルベール自身もルイズの召喚したものがなんなのか知りたかった。
 落ちこぼれと蔑まれてきた生徒がようやく召喚したのだ。少しでも力になってあげたい。

91疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 21:56:46 ID:yk+MaTgC
――しかし種類がわからないのでは、育てるのも大変だろう。水のやり方などになにか手順があったりすれば、枯らしてしまうことになるかもしれない。

 それに珍しいモノ、というものはそういった事情を抜きにしても好奇心を刺激される。
 そうして図書館でルイズの召喚した植物がなんなのか調べていた、のだが。

「この本にも載っていませんか・・・・・・」
 呟きに落胆の色を見せながら、手に持つ図鑑を本棚へと戻す。
 見つからない。
 初めはこんなことになるとは思っていなかった。植物図鑑の類を探せば見つかるだろうと。しかし図鑑には載っていなく、様々な本を探したが結局見つからなかった。
 そうして様々な理由から閲覧が制限されているフェニアのライブラリーにまで手を伸ばした、のだが。
 やはり見つからない。
「もしやミス・ヴァリエールの召喚した植物は新種・・・・・・?」
 そうだとしたら見つからないのは当然であるし、ルイズは偉大な発見者だ。もしかしたら新しい食料や薬になるかもしれない。

――それはそれで喜ばしいのだが・・・・・・ん? 薬?

 彼の目に留まった一冊の本。『エルフの薬草』。どうやらエルフたちの使う薬草にまとめた本のようだ。
 その本を何気無く手に取り、コルベールは一つの考えに至る。

――もしかしてロバ・アル・カリイエの植物では?

 遥か東方の地、ロバ・アル・カリイエ。エルフが支配するその土地には、こちらでは見られない工芸品などがあるという。
最近では『緑茶』と呼ばれる淡い緑色と独特の味わいを持った茶葉などが、少ないが東方からハルケギニアに輸出されている。
 そういった『緑茶』と同じくルイズの召喚した『使い魔』は東方の地のものかもしれない。
 さっそく、手に持つ『エルフの薬草』を開く。
 いくらかページを捲ると、そこにはエルフが使うという『丸薬』が載っていた。

92名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 21:59:58 ID:qFbaoTku
しえん
元ネタ的にもルイズは百合の方向に・・・?
93名無しさん@お腹いっぱい:2010/03/23(火) 22:08:40 ID:TlzcRbpm
>>79
お疲れ様でした。
幻想郷が無能王によってハルゲニアに引き寄せられてるのがばれたって事でしょうかね。
事の真相がばれたらレミリア一行にガリアが狙われそうな悪寒。

世界を渡った魔理沙、そして介入し放題の紫。
ルイズの平穏な学園生活はどうなっちゃうんでしょうかw
9493:2010/03/23(火) 22:12:00 ID:TlzcRbpm
支援。
作者様が書き込み中に割り込んでしまった。申し訳ありません。
95疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:20:14 ID:yk+MaTgC
ああ、さるさんを食らってしまいました。
どなたか代理の方をどうかお願いします。
96名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 22:36:30 ID:IcVMT5fp
これがツッコミ待ちってやつか……。
97疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:39:39 ID:yk+MaTgC
・・・・・・もしかしてもう書き込める?

   4

「ミセス・シュヴールズからミス・ヴァリエールの教室の片付けの手伝いを、と申しつかりましたメイドのシエスタでございます」
 爆発の影響で倒れた机を立て直そうとしている時に背後から声が聞こえた。
 振り向いてみると、そこにはメイド服を着た少女が一人。
 年相応に凹凸のある女性らしい体つきとハルケギニアでは珍しい黒い髪。スカートの端を指で摘まんで、スッとしたお辞儀にはよく手馴れた様子が感じられる。
「ああ、あなたが先生の言っていたメイドね」
 上げた顔は素朴で、野に咲く花のような素朴な雰囲気を漂わせる。カチューシャでまとめた髪と同じ色をした瞳は、メイドの少し変わった顔立ちと調和が取れており、微かな異国の赴きを感じさせた。そばかすもこのメイドの可愛らしさにアクセントを加えている。

――助かったわね。この机、私一人では持ち上がりそうも無いもの。

 自然とルイズの表情も和らぐ。ルイズの小柄な体では教室で使う大きな机は持ち上がらなかったのだ。
「ちょうど良かったわ。シエスタ、そっちを持ってちょうだい」
 一人でなんとか立て直そうと、真ん中の辺りに手を掛けていたのだが当然、ルイズの力では持ち上がらない。
「あ、はい!」

98疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:41:12 ID:yk+MaTgC
・・・・・・お騒がせしました。
私の勘違いというかさるさんがどういうものかわかっていなかったようです。
大変、失礼いたしました。
 ルイズの様子に気づいて慌ててシエスタが机の端を持つ。
「では、私はこちらを持ちますので、ミス・ヴァリエールはそちらをお願いできますか?」
「わかったわ。・・・・・・せーの!」素直にシエスタの指示に従い、ルイズも反対側の机の端を掴む。
 ルイズの掛け声に合わせて二人が力を入れると、机はなんとか立ち上がった。メイドというのはなかなか力があるらしい。
「ふぅ、それじゃあ残りの机も起こしてしまいましょう」
 一息ついて教室を見直す。まだルイズの爆発がなぎ倒した机はたくさんある。
 しかし壊れた机は一つも無い。煤に塗れて汚れてしまっているが、それだっていつもの被害に比べれば格段に少ない。窓ガラスも何枚か割れてしまっているが、ほとんどが無事だ。
 ルイズは僅かに口の端を吊り上げて笑顔を作る。
 ルイズの『失敗魔法』は『ゼロ』などではない。これから試行錯誤を重ねれば、もっと正確な戦力がわかるだろう。
 自分の出来る事を知る。それがルイズの現在の最優先事項だ。情報は金にも勝る価値を持つことがあるのだから。
 他所事を考えながらも手は動かす。ルイズ一人ではびくともしなかった机も、シエスタと二人ならばなんとかなる。ルイズが集中できずに、効率的とは言い難いがそう時間も掛からずに全ての机は元の位置に戻った。
 シエスタが窓ガラスを取り替えるのも慣れたもので、ルイズが考え事をしながら机を拭いている間に全ての窓を取り替えてしまった。
 ようやくルイズも真面目に取り組むのだがどうにも効率は悪い。見かねたシエスタが慣れた手際で机を雑巾で拭う。
 スムーズに掃除をこなす姿を見て、小さな対抗心からルイズも掃除に取り組んだが、やはり本職であるシエスタの仕事は洗練されていた。

99名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 22:41:37 ID:BJ9QojoR
支援
100疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:41:53 ID:yk+MaTgC
   5

「一段落付きましたね」
 気温が上がり、教室を春の温もりが満たし、そろそろ胃袋が空腹を訴え始める頃には教室の掃除は大体終わっていた。
 シエスタがいなければ、こんなに早くは終わらなかった。
「ええ、あなたのおかげね、シエスタ。ありがと」
 気がつけばルイズは感謝の言葉をシエスタに送っていた。
 ルイズは自分でもプライドや気恥ずかしさが先立ってしまい、素直になることができない、という自分の短所は自覚していた。それだけに感謝の気持ちをそのまま伝えられた自分に驚いていた。
「い、いえ、そんな! ミス・ヴァリエールが手伝ってくださったからです」
 驚いた様子で手をバタバタと振る仕草がなんだか可笑しくて、自然とルイズの表情が綻ぶ。
 朱が差したシエスタの頬は可愛らしく、大きく黒い目がくりくりとよく動くのは見ていて飽きない。
 ルイズはそんなシエスタの様子を見て、自分が使用人たちにこんな仕草を見たことが無いことに気づいた。
 ハルケギニアの貴族のほとんどがそうであるように、ルイズも平民が『貴族に仕えて当たり前』と思っていた。
「平民の私にお礼だなんて・・・・・・」
 恐縮して俯いてしまったシエスタの様子を見たら、なんだか心がもやもやした。
「確かに・・・・・・ほんの少し前の私ならこんな事は言わなかったでしょうね」
 自分の心境に変化が起きていることに気付いたルイズは、自分の心を確かめることも兼ねてシエスタと少し話しを聞いてもらおうと思った。独り言のようなものだ。
 シエスタが取り替えたばかりの窓は開け放たれている。空気を入れ替えるためにシエスタがルイズの気付かぬ間にやったのだろう。くすぐたくなるような気持ちのいい春風だ。
「私は魔法が使えなかった。家でも使用人からも馬鹿にされ、中には平民との子供じゃないか、なんて言う人間までいたわ」
101疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:42:47 ID:yk+MaTgC
 まだルイズが幼く屋敷にいた頃だ。
 優秀な二人の姉。英雄と呼ばれた母。強かな父。そんな中でルイズ一人が魔法が使えない。貴族の証明である魔法が、使えない。
 ルイズは魔法を使う度に爆発を起こし、その度に叱られた。『物覚えが悪い』『集中力が足りない』『やる気が無い』。
 そんな風に叱られる度に、ルイズは涙を滲ませた。
 違う、スペルは全部覚えている。
 違う、いつも周りがわからないほど集中している。
 違う、杖を握り締めて、文字通り『必死』に魔法を使おうとしている。
 それなのに魔法は成功しない。
 ある時、屋敷の使用人たちが会話しているのを耳にした。
『ルイズお嬢様はまた失敗したのかい?』『ああ、まただよ。全く掃除するのはこっちだっていうのに』
『やれやれ、困ったもんだね。カトレアお嬢様もエレオノールお嬢様もトライアングルだっていうのに、ルイズお嬢様はゼロのまんまだ』『ゼロ?』
『ドットでもないんだからゼロじゃない? ゼロクラスのメイジだよ』
『はっはっはっ! そりゃあいいや、俺たちもゼロクラスのメイジ様だ!』
 噛んだ唇から血が滴るのを感じて、ルイズは使用人たちの笑い声から逃げた。

――いつか、いつか私は力を手に入れる。貴族として、理想の貴族であるために。ルイズとして力を手に入れる。
102疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:44:23 ID:yk+MaTgC
 幼い日の小さく、強い誓い。この誓いがあったからこそ、ルイズは今まで研鑽を積み重ねてきた。

「だからかしら、私は誰を信じていいのかわからなくなった。名門ヴァリエール家の娘、優秀な両親や姉妹、そんな中で私だけが魔法が使えない。
私の唯一の心の支えは『貴族の誇り』って看板だけだった。必死になったわよ。それでも魔法は成功しないの。悔しかったわ、とってもね」
『貴族』というのはルイズを縛る鎖であり、ルイズを支える柱でもあった。それが正しいことなのか、ルイズにはわからなかったが、正しいと信じないと心が折れそうだった。
「でもね、昨日初めて魔法に成功したわ。私は使い魔を召喚して『力』を手に入れた。私はもう、『ゼロ』じゃない。『ゼロ』なんかじゃ、ないわ」

――私は成功した。私はもう無力じゃない。『ゼロ』では、無い。

 自分の左手を見つめる。手袋は掃除の際に外していた。
 手の甲に確かに刻まれた成功の証。これは『力』の証明だ。

「以前の私なら平民の名前なんて覚えようともしなかったわね。自分以外はみんな私を笑っているように思えた。けれども今は違う。私は『力』を手に入れたわ。
それからようやくよ。私がちゃんと物事を見れるようになったのはね。だからあなたが初めてよ、シエスタ。・・・・・・いい名前ね、可愛らしくてよく似合ってる」
 心地のいい風を感じながら、シエスタの方を振り向く。
 自分の顔がどんな笑顔になっているかはわからなかったけれど、ルイズは久しぶりに気持ちよく笑うことができた。
「ありがとうございます!」
 そういって笑うシエスタの顔は、なんだか気持ちよさそうだ。
 そんな笑顔が、すごく可愛らしいと、ルイズは思った。

――私は変わった。まだまだ問題は山積みだけど、今はとりあえず、この使い魔に感謝しよう。
103疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:48:02 ID:yk+MaTgC
ああ、穴があったら入りたい・・・・・・大変お騒がせしました。
>>96様ご指摘ありがとうございました。
今回は遅れてしまいました。前回と今回の支援ありがとうございます。
しかし結局、ギーシュ出てきて無いし・・・・・・これじゃルイズのP.V.Fが未だに出てこないってorz

それはさておき。今回はシエスタにフラグが立ちました。
ええ、百合ですとも。深見真作品とクロスして百合が出ないなんてありえない。
前スレ辺りの百合の話題で、深見作品がちらりと触れられてましたが
今のところ深見作品とのクロスは私一人ようで。ならば私がせねばなりませんね。
>>92様、ルイズは百合じゃありません、たぶん。
今回の投稿を読んでいただければお分かりかと思いますが、百合はシエスタです。
では次回こそ、ギーシュを出したいと思っています。

では大変失礼しました。代理スレの方の誤爆はあとで削除依頼を出しておきます。
104名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 22:51:03 ID:IcVMT5fp
乙。

別に削除依頼は出さんでいいと思うぞ。
105疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/23(火) 22:53:55 ID:yk+MaTgC
>>104
・・・・・・出してきてしまった。
重ね重ね本当にすみません。今後はこんなことの無いように気をつけます。
こんなものに乙までありがとうございます。
106名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 23:28:22 ID:nJgzoFOd
乙。楽しかった。
107名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 23:29:42 ID:DPWAW2GX
何をどう勘違いしたんだろう……
108名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 23:52:11 ID:byUV5bvU
>>103
お疲れさん。
一つだけ指摘しとくと、ロバ・アル・カリイエはエルフの支配する土地じゃなくて、エルフの支配するサハラの根の向こう側にある土地だ。
109名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/23(火) 23:59:08 ID:pNUFXEJu
その名前見るとどうしてもクトゥルフ物を連想してしまう。
110疾走する魔術師のパラベラム ◆wyhCAjKHg6 :2010/03/24(水) 00:17:20 ID:ef+WNUPG
>>107
一度、投稿しようとしたらさるさんの表示が出まして。
私はてっきりさるさんは一定文字数を超えた投稿を制限するもので、
一度、食らうと長文は書き込めないと勘違いしていたのです。
いや、お恥ずかしい。

>>106>>108
ありがとうございます。
ロバ・アル・カリイエについてはこれも勘違いしていたようですので
wikiの方で修正しておきました。
111名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 01:33:12 ID:kLjHUrpz
立て続けに人気作品が投下されて投下しづらいわ!
というわけで五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔第6話を40分頃に投下します。
まだまだ燃え尽きません。できれば。
112五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/24(水) 01:41:49 ID:kLjHUrpz
  第6夜
  どうする?


 太陽が地上を照りつける中、ルイズとマルモは森の横、ちょうど日陰になる所を歩いていた。
 未だモンスターとは遭遇せず、代わりに見つかったのはアイテム――『薬草』や『魔法の聖水』――である。
「ねえマルモ。ここって本当に異世界なの?」
 マルモは無言で頷く。
 だがルイズには実感が湧かない。確かにここはトリステイン魔法学院ではないが、かといって異世界かどうかもわからない。
 しばらく歩くと、マルモはまたアイテムを発見する。今度は『アモールの水』だった。
ちなみに『薬草』と『アモールの水』は傷を癒す効果があり、『魔法の聖水』は魔法力を回復する効果がある。
 マルモは拾ったアイテムを眺めて、この世界のモンスターのレベルに大体の当たりを付けていた。
おそらくは二十前後、少なくとも十以上。ルイズの緒戦では少々手厳しいかもしれないが、
『賢者の書』で修行してきたマルモにとってはお遊びのレベルである。
 異世界にやってきてからまだ三十分も経っていない。二人は歩くことを続けるが、出現するモンスターはゼロだった。

 一方のキュルケとタバサはというと。
「一体なんなのよここは?!」
 キュルケの杖先から炎球が放たれ、目前の一本角を生やした大ウサギのようなモンスター『アルミラージ』が炎に包まれる。
 だが、モンスターはそれだけではない。
腐った片目がぶらさがる犬『アニマルゾンビ』と宙に浮く短刀『ひとくいサーベル』がタバサに襲い掛かる。
 タバサは『フライ』を唱えて回避し、充分な距離をとる。片目でキュルケの方を確認すると、
彼女のサラマンダーと大ウサギが互いに牽制しあっていた。
 大丈夫だと判断したタバサは迫り来る二体に杖を構える。
「ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ」
 『風』二つと『水』一つが合わさった『氷の矢』が何本も対象に向かう。二体とも回避行動をとるが、
犬には四本の『氷の矢』が突き刺さり、その場に倒れ伏した。短刀にも三本命中したが、あまり効いている様子はない。
 再び呪文を唱えようとしたタバサだったが、詠唱の途中で唐突に脱力感がめぐった。
 何だ、と思うタバサに短刀が突撃してくる。
 タバサは知らぬことだが、『ひとくいサーベル』が魔法力を吸収する呪文マホトラを使ってタバサの精神力を奪ったのだ。
 動揺したタバサの隙を突いて短刀の切っ先が向かうが――、飛来する竜がタバサを口にくわえて助けることによって難を逃れた。
 そして行き場を失った短刀を、竜の尾が叩く。それによって短刀は動かなくなった。
 竜はタバサの使い魔、幼生の風竜シルフィード。幼生といえどもその力は侮れない。
「ありがとう」
 自分の使い魔に礼を言って地上に降りる。キュルケもモンスターを倒したようで、タバサの方に駆け寄ってきた。
「タバサ、大丈夫?」
「平気」
 二人とも特に怪我はない。
「ったく、出先でいきなりモンスターと出くわすなんてね。早いとこあの二人を見つけないとまずいわ」
 キュルケとタバサは、ルイズたちと同じ旅の扉を経由してきたのだが、出現地点が異なっていた。
マルモの設定が『特定の地点』ではなく漠然とした『異世界』としたことでそうなったのだ。
「タバサ、あなたの使い魔で上空から見つけられそう?」
「やってみる」
 二人と一匹はシルフィードに乗り、一気に二百メイルほど上昇する。眼下にはむき出しの大地や湖、森などが広がっている。
 竜の視力は人間とは比べ物にならない。ぐるぐる旋回していると、やがて目標の二人を見つけ、飛んでいった。
113五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/24(水) 01:43:24 ID:kLjHUrpz
 その頃のルイズたちは、適当な岩場を見つけて休憩していた。未だモンスターとは遭遇せず。
 マルモとしては、クリオの経験値を稼ぐことも含めてこの異世界にやってきたのだが、どうにもモンスターと遭遇しない。
 ルイズの方はというと、もう修行のことは忘れて遠足気分だった。
 何せマルモと二人っきりである。メイドもギーシュもいない二人だけの(異)世界。まるで遠乗りをした恋人のようではないか。
 ルイズはちらっとマルモの顔に目を向ける。普段マルモは無表情とはいかないまでも表情があまり変わらない。
だが(ルイズにとって)非常に濃い一日と半日をマルモと過ごし、マルモが何を考えているのか大体見当がつくようになっていた。
 今のマルモの顔は、何か考えている顔だ。きっとモンスターが出なくて悩んでいるのだろう。
わたしのために悩んでいるのね、と思うとルイズは嬉しくなる。あながち外れてはいないのがルイズのある意味恐ろしいところだ。
 そのようにルイズがマルモの顔を眺めていると、不意にマルモがこちらを向いた。突然のことにルイズはどぎまぎしてしまう。
 マルモは杖を持って立ち上がった。
「ど、どうしたの? マルモ」
「ドラゴンが来る」
「へ?」
 マルモの見つめる先に目をやると、確かに上空からドラゴンがこちらに飛んできていた。
「マ、マルモ! いきなりドラゴンなんて無理よ!!」
 ハルケギニアではエルフに次いで強力な生物、それがドラゴンだ。その強さはトライアングルメイジでも敵わない。
「いざというときは助ける」
「今がいざというときよ!」
 マルモのにべもない答えにルイズが突っかかっている間にも、ドラゴンはどんどん接近してきている。
「あーもう! こうなったら自棄よ!」
 と、ルイズは杖を構える。だが、呪文を唱えようとしたその矢先、
「ルイズぅーー!!」
 という声がドラゴンから聞こえてきた。ルイズは驚いて詠唱できなくなった。
「ルイズの知り合い?」
「ドラゴンに知り合いなんていないわよ! というか、あれって韻竜?!」
 ドラゴンが器用にルイズたちのいる岩場の前で着陸すると、二人の人物が確認できた。
「キュルケにタバサ?! どうしてここに?!」
「あなたたちのせいよ」
 キュルケは竜から降りるなりそう言い放った。続いてタバサとキュルケのサラマンダーも降り始める。
「どういうことよ」
「そこのマルモって娘の変な渦に引っ張られてこっちにやってきたのよ。こっちに着いた途端にモンスターに襲われるし……」
 このような言い方ではまるで巻き込まれたかのように思えるが、実際はキュルケの方から首を突っ込んだのである。
 ルイズは冷や汗をかいた。
「こ、ここってやっぱりモンスターが出るの?!」
「はあ? あなた行き先のことも知らないでやってきたの?」
「だ、だって、異世界なんて初めてだし……」
 ルイズが緊張しながらいうと、今まで様子を見ていたタバサがルイズに口を開いた。
「異世界?」
「あ、うん。マルモが言うにはそうらしんだけど」
 タバサはルイズの傍に控えているマルモに興味深そうな目を向けた。
「ここは異世界?」
 マルモは頷く。
「あのねえタバサ、異世界なんてあるわけないでしょ」
 キュルケのハルケギニア的常識の言葉に、タバサは首を振る。
「さっきのモンスターは私の知る限りハルケギニアには棲息していない。たとえここが異世界でなくても
ハルケギニアでない可能性は高い。そしてそんな所に一瞬で移動できる彼女の魔法はとても気になる」
 いつになく饒舌な親友に驚くキュルケであるが、タバサの考えを覆すほどの言葉が浮かばない。
「でもまあ、ここが異世界かどうかなんて大きな問題じゃないわ。先に知るべきなのは、あたしたちが学院に帰れるかどうかよ」
 その言葉にはタバサも頷く。
「大丈夫よね、マルモ?」
「大丈夫」
 ルイズの疑問にすっぱりと答えるマルモ。そして目の前に旅の扉を作り上げる。広場で見たのと同じ青白い渦が回っていた。
「これで学院に帰れる」
 ほっとするキュルケとタバサであるが、旅の扉には入ろうとしなかった。
「これっていつでも出せるの?」
 キュルケはマルモに訊ねた。
 マルモが頷くと、キュルケは口角を上げた。
「出してもらって悪いけれど、今はまだ必要ないわ」
114五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/24(水) 01:45:05 ID:kLjHUrpz
「どういうことよキュルケ」
 ルイズがじっと睨みつける。
「その通りの意味よ。いつでも帰れるんだったら、もうしばらくこっちで冒険してみるのもいいじゃない?」
「なっ」
 ルイズは怒りで顔を赤らめた。せっかく二人だけの(異)世界だったのに、このツェルプストーはそれを邪魔するのか。
「駄目よキュルケ!」
「なにが駄目なのかしら? ひょっとしてデートのお邪魔しちゃった?」
「と、とにかく駄目なものは駄目なの!!」
 キュルケは冗談で言ったのだが、ルイズにとっては的を射ていた。
 埒が明きそうにないので、キュルケは照準をマルモに合わせることにした。
「ミス・マルモ。あたくしたちがいてもよろしくて?」
「マルモ! こんなツェルプストーの言うことなんて聞いちゃ駄目!!」
「…………」
 マルモは悩んでいた。
 現在のパーティはルイズとマルモ、そしてクリオ。一人あたりの経験値を多くしてルイズを早くレベルアップさせるためにも、
パーティ内の数は最小限に留めたい。戦力面でもマルモ一人で充分カバーできる。
 しかし、キュルケとタバサが旅の扉のせいでこの異世界にやってきたのも事実。
「マルモ、悩む必要なんてないのよ。キュルケは帰れるのに帰らないと言っているんだから、マルモの責任はもう果たしたわ」
「『まだ』必要ないとは言ったけれど?」
「同じことよ!」
 ルイズとキュルケは目線で火花を散らしている。タバサはというと、何も口出しせず周囲の地理を観察していた。
「大体どうしてあなたたちはこんな所にきたのよ」
「うっさいわね。あんたには関係ないでしょ」
「あててみましょうか? 『修行』でしょ?」
「ど、どうしてあんたがそれを!?」
「さあ〜、どうしてでしょうね?」
 慌てふためくルイズを、にやにやと飄々とキュルケは楽しむ。昼の食堂でのマルモとルイズの言動を見て半ば鎌をかけたのだが、
見事にルイズが引っかかったので愉快としかいいようがない。
「と、とにかく! わたしたちはわたしたちでやるから、あんたたちはあんたたちでやりなさいよね!」
「つれないわねー」
 男なら胸の一つや二つ押し付ければ済む話だが、生憎とルイズは女である。
「どうする、タバサ?」
 キュルケは傍らのタバサに耳打ちした。そもそもマルモたちを観察しようと決めたのはタバサであって、
キュルケは補助に過ぎない。もっともここまでついてきたのは猫の命でも足りぬ好奇心のせいではあるが。
「要は彼女らの邪魔をしなければいい」
「わかったわ」
 二人だけに聞こえる声で互いに了承したキュルケとタバサは、そろってルイズを向いた。
「ルイズ、あなたたちの邪魔はしないわ。その代わりこっちも好きでやらせてもらうし、
あたしたちが帰りたくなったら帰れるようにしてもらうからね」
「……わかったわよ」
 ずいぶんと偉そうに感じたが、ルイズはマルモとの時間を確保できれば上々なので渋々頷いた。
「それじゃいきましょ、マルモ」
 ルイズが岩場から降りて歩き出すと、マルモとクリオは追従していった。タバサたちは風竜のシルフィードに乗って空に向かう。
上空ならばモンスターに襲われる心配もあまりない。
115名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 01:46:39 ID:n4OiK4/w
支援
116五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/24(水) 01:47:30 ID:kLjHUrpz

 マルモは考えていた。
 さっきのキュルケの言葉からして、この世界にモンスターはいる。けれども、自分のパーティは一回も遭遇していない。
今も野原を歩いてはいるが、モンスターの影は見当たらない。弱敵回避呪文トヘロスでもかかっているかのような状況だ。
 可能性としてはまず三つの原因が考えられる。
 一つ目はこの世界が永らく『平和』であること。邪悪な意思から解き放たれた魔物はむやみに人間を襲わない。
 二つ目はモンスターの絶対数が少ないこと。もしそうであるならば別の世界で修行する必要がある。
 三つ目はクリオの存在。クリオはマスターのマルモでも未だ全容が明らかではない。可能性としては低いが、
クリオの『何か』がモンスターを避けさせているかもしれない。
 いずれにせよ今のマルモには現在の状況は打破しがたい。別の世界に行くにしても、キュルケとタバサを学院に帰してからだ。
 ルイズとクリオのために悩むマルモであったが、ルイズはそんなマルモの横顔を眺めてよだれを滴らせるだけである。

 タバサは考えていた。
 マルモの魔法は今のところ『火』の魔法と『移動』の魔法しか見ていないが、それでも驚異的だ。
 特に移動の魔法は上手く使えば暗殺や誘拐、窃盗など思うがままである。今のマルモに邪心はないが、どうなるかはわからない。
 しかもまだまだ引き出しはありそうだ。一体どんな呪文が使えるのか見当もつかない。
 いきなり「見せて」といって自分の魔法を見せるメイジはあまりいない。逆に警戒される恐れもある。
 さらにはあの『クリオ』とかいうタマゴ。タマゴが自らの意思であんな軽快に動くなどタバサの知る限りあり得ない。
あれもまた『異世界』の生物なのだろうか。
 興味のつきないタバサであるが、結局離れて観察するしかないのであった。

 さて、世界は離れてトリステインの魔法学院。そこの宝物庫の扉の前で女性が一人立っている。
 緑の髪を流して眼鏡をかけるその女は学院ではロングビルと名乗っているが、偽名である。その理由は学院に潜入し、
多くの秘宝が眠るという宝物庫から宝を盗むためだ。
 学院長オスマンが居眠りしている隙に宝物庫の調査をしようとしたのだが、扉は『アンロック』では開かない。
学院長の持つ鍵が必要なのだ。『錬金』を扉にかけてみるも、強力な『固定化』に打ち消されて効果なし。
 ミス・ロングビルが考え込んでいると、階段を上ってくる足音に気付いた。
 杖を折りたたんでポケットにしまうと、コルベールが現れた。
「おや、ミス・ロングビル。ここでなにを?」
 間抜けな声で訊いてきたコルベールに、ミス・ロングビルは愛想のいい笑顔を浮かべた。
「ミスタ・コルベール。宝物庫の目録を作っているのですが……」
 話題はオスマンのクソ爺っぷりから昼食の誘い、そして宝物庫の中のことに及んだ。
「ミスタ・コルベール。『銀の竪琴』はご存知?」
 虚無の曜日の二日前のことである。



以上です。とうとうおマチさん動き出す。
次回こそはギーシュに花を……!
117名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 06:03:48 ID:+Ac8yz9s
相変わらずタバサうぜえ
118名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 07:13:55 ID:A2xdgNEP
ツクールゲーで召喚されそうなキャラなら
knight nightの魔王キーファとか
B.Bライダーのニトス
さいはてホスピタルのハルナなんかもいいかもな
119名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 11:37:59 ID:0jQks8Zo
銀の竪琴か。魔物呼び出して自滅するフーケが目に浮かぶ。
120名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 12:26:10 ID:Gmc2NcGO
ツクールゲーねぇ…
勇者の憂鬱のユウ&ケンとか、シルフェイド幻想譚のスケイルだとか
らんだむダンジョンの鍛冶妖精なんかゼロ魔と絡めると面白そうだとは思うけど
一日で作ったような自作ゲーのオリキャラを召喚、だとか言うような
いかにもな厨の免罪符になりかねないのを考えると厳しいような
121名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 12:27:40 ID:gF/TaeEC
これ……妖精の笛だったら、ゴーレムが寝ちゃってフーケ涙目だったんだろうな……
122名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 13:15:31 ID:Pu6jszuM
フリゲだろうが同人ゲーだろうがSSに使うからにはある程度の質と知名度は要求されるだろう
さすがに三日で作ったような手抜きゲーとかから引っ張ってくるのは許されざると思うが
123名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 13:16:19 ID:jDtAsaxc
死神の笛だったら全員マヒの効果があるんだろうな。いや、あんな見るからにぶっそうな笛、フーケでも盗まんか。
124名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 14:55:04 ID:hS/TUUWn
「剛錬」のアレディが召喚されたら
覇気でガンダールヴのルーンを底上げしそうだな
125名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 17:25:21 ID:2prBO/Lb
フィリップにコルベールと共同で遍在の本体を見破れる透視ガジェットを製作してほしい
126名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 17:30:47 ID:Ifltgw+k
そろそろエル・プサイ・コングルゥのアレから・・・呼んでどうしよう・・・
127名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 17:35:45 ID:sElxpTuf
よしだとフィリップ馬鹿二人
128名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 17:36:06 ID:FFD31uv3
>>122
STARGAZERから、というのは考えたことあるけど、あれは星みるの
世界観だけ借りたSaGaだからねぇ。
クリアできるくらいから誰を呼んでも結局俺装備キャラにしかならないから
却下した。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 18:31:07 ID:JcErcQSe
>>124
たぶんフーケのゴーレムとガチの殴り合いして周りの連中皆ドン引きしそう
でもアレディとフーケだけはテンションダダ上がり状態
130名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:28:59 ID:fbLVygll
>>124
ガンダールヴのルーンが反応するのは基本的に武器だから、アレディの場合は手甲になるのかね?
デルフの出番がなくなるのはまず間違いなさそうだがw
131名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:33:17 ID:G+iGft/v
ファイティングゴッド愚地独歩は素手でも武器を持っているのと同義だから大丈夫
132名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:36:16 ID:kLjHUrpz
>>131
格闘技の大天才「地面は武器」
133名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:42:21 ID:xt8eitPN
>>132
時速80kmで水面に衝突した時の水の硬さはコンクリートに匹敵するとも言ってたっけ?
134瀟洒な使い魔:2010/03/24(水) 20:46:21 ID:ZQnfu/VV
皆様大分お久しぶりです。
今から9話の投稿をしようと思うのですが、
予約などなければ47分辺りから投稿開始したいと思います。
135名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:46:44 ID:kLjHUrpz
>>133
一すくいの水でも立派な武器
砂ならば一層強力
ましてや(略)それは兵器
136名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:47:12 ID:G+iGft/v
正面からの銃撃を一瞬にして回り込む勇次郎って魔法に対してどこまで戦えるんだろ
直線的な攻撃ならどうにでもなるか?
137瀟洒な使い魔 第9話 1/8:2010/03/24(水) 20:51:35 ID:ZQnfu/VV
久しぶりすぎてsage忘れた……失礼しました。
ともあれ、特にないようなので投下開始します。
――――――――――

「待ちたまえ。私に害意はない。住処の近所で騒いでいたようだから様子を見に来ただけだ」

タバサと白蓮の前には、1匹のミノタウロスが居た。
先程の人攫いの変装したものではなく、堂々たる2メイル半がある巨体に、
分厚い鉄板のような刃の付いたごつい、と言う言葉では表しきれないような斧を持った本物のミノタウロスだ。
だが、ただのミノタウロスではないようだ。人語を解するとはいえオーク鬼やオグル鬼よりはまし、
というレベルでしかないはずなのがミノタウロスの知能であるはずだが、
このミノタウロスは丁寧な人語を使い、その目には理性の輝きを宿している。

「やはりこんな外見では警戒されてしまうな……む? そちらの少女は怪我をしているな。
 かすり傷のようだが痕が残ってはいけない。少しじっとして居たまえ」

ミノタウロスはそう言ってタバサに斧の先を向けると、野太い声でルーンを呟き始める。
タバサの頬にはさっきのメイジの放った魔法で一筋傷が付いていたが、
斧が淡く輝くと同時に傷は薄れ、やがて消えた。

「……『治癒』」

タバサは目を見開いた。ミノタウロスが魔法、しかも系統魔法を扱ったのだ。
本来、メイジの才能とは血によって受け継がれるもので、
メイジの血が流れていない限りは亜人や平民が呪文を唱えても何も起こらない。
亜人には先住魔法と言う系統魔法とは別種の大系を持つ魔法を使うものも居るが、
ミノタウロスが先住魔法を使ったという話は聞いたこともない。

「確かにこのなりで信用してくれ、というのは難しい話か。だが、重ねて言うが私に害意はない。
 なんであれば杖に誓おう。私は君達に危害を加えるつもりは無い。
 女性に立ち話を強いるのも酷だ、私の住処に着たまえ。茶でも出そう」

そういって、ミノタウロスは片膝を立てて跪く。
その様子に2人は顔を見合わせると、白蓮がこくりと頷いた。


138名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:51:49 ID:Hih0pk4c
>>134
支援はいる?
139瀟洒な使い魔:2010/03/24(水) 20:53:04 ID:ZQnfu/VV
>>138
できれば。何度かさるさん食らったことがあるので支援していただければ助かります。
140瀟洒な使い魔 第9話 2/8:2010/03/24(水) 20:54:43 ID:ZQnfu/VV
「分かりました。ですが、少し時間を頂いても良いですか?
 この者たちを村へと連行しなければいけませんし、エズレ村の方々に説明もしなければなりません」

「……分かった。ならば私は住処で待とう。すぐそこの洞窟が今の私の住処だ。
 事が済んだなら入り口の前で呼んでくれ」

 

瀟洒な使い魔 第8話「牛頭親父とハイカラ住職」



拘束した犯人達を村へ連行しエズレ村の村民に事情を説明した後、
白蓮たちは先程の洞窟の前に立っていた。奥に向けて声をかけると、
内部の空気が押し出されるような風が吹いた後、のっそりとミノタウロスが顔を出した。

「ご足労をかけてしまってすまないな。こんな外見だと満足に街にも出れないのでね」

『着火』で火をつけたたいまつを手渡しながら、ミノタウロスは頭を掻いた。
たいまつを手にその後を追いながら、2人は顔を見合わせる。
なぜこのミノタウロスは系統魔法を使えるのか? 何故こうも紳士的なのか?
10代と言う若年でトライアングルにまで駆け上がったタバサにも理解がしがたく、
この世界の事情に明るくない白蓮に分かるはずもない。
共に首を捻りながら洞窟を歩む事しばし、壁の近くに、石英の結晶がいくつも固まって輝いている箇所があった。
たいまつの放つ光が反射して、きらきらと幻想的に輝いている。
ふと、白蓮はその場所に何かを感じた。思わずそちらに足を向けそうになるが、
ミノタウロスがその行く手を塞ぐ。

「そちらは土がむき出しになっている。足を滑らせてはいらぬ怪我をするぞ」

この洞窟は岩が水の浸食によって形作られた天然の洞窟で、周囲には鋭利に尖った石筍などが列を成している。
確かにここで足を滑らせれば、勢いによっては串刺しになる可能性も高い。
更に奥に進むと開けた場所に出た。ミノタウロス用に作られているのか随分と大きな椅子や机。
部屋の奥には煮えたぎる鍋が載ったかまどや幾つものガラス瓶、秘薬が収まっているであろう袋。
その様はミノタウロスの住処と言うには余りにも文明的で、まるでメイジの研究室のようだった。
驚いた顔で周囲を見回す2人に、ミノタウロスはごふりと一つ笑って話し始める。

「驚いたかね? まるでメイジの研究室のようだろう。
 こういっても信じぬだろうが、私はメイジ、すなわち貴族なのだよ」

そうしてミノタウロスは自分の素性を語りだす。
名はラルカス。10年前にこの洞窟に住み着いたミノタウロスを退治したメイジ本人である。
かつで不治の病に冒され、その残る命での最後の旅の途中に依頼を受け、ミノタウロスを退治した。
そして、その時ラルカスは気付いたのだ。ミノタウロスの体の頑健さに。
元々優れた水系統のメイジであったラルカスは、己の病を治す方法を探した。
旅の目的も、半分ほどは自分の病の治療法を探す旅でも合ったのだ。
そして、ある意味でラルカスの悲願を叶える技術は存在した。ただし、それは禁忌とされるものであった。
脳移植。高度な水の魔法を持ってして、ラルカスの脳を他者の肉体に移植する。それが、彼の見出した病を退ける術。
そして旅の途上で退治したミノタウロスの肉体は、ラルカスの新たな肉体となるに相応しい強靭さを持っていたのだ。

141名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:54:43 ID:czcYoXLh
咲夜さんの人来た!
支援!
142瀟洒な使い魔 第9話 3/8:2010/03/24(水) 20:56:30 ID:ZQnfu/VV
「そして、私はミノタウロスの肉体を持ったメイジとなった。
 この身体は素晴らしい。暗闇は見通せるようになったし、なにより非常に頑強かつ健康だ。
 それに、魔力は脳に由来する為に魔法を使うに当たってはさしたる問題はない。
 頑健な肉体を得た為だろうか、精神もまた成長を遂げたようでね。
 今の私はスクウェアクラスと言っても過言ではないほどの魔力を持っているのだよ。
 生半可な魔法程度なら意に介さない強靭な肉体に、スクウェアクラスの強力な魔法。
 まみえた事はないが、今ならあのトリステインの生ける伝説、烈風カリンにすら引けは取らないと自負している」

自信満々にそう語るラルカスであったが、白蓮にはなぜだかその姿がとても哀しそうに見えた。
死を恐れる気持ちは分かる。白蓮もまた、弟の死から死を恐れ、不老の肉体を持つ『魔法使い』となったからだ。
だからこそ、人を外れた事による苦痛もまた理解できる。
自分はまだ魔法により若返っただけであるから人の世界に溶け込むことはできる。だが、ラルカスは違う。
人と言う肉体を脱ぎ捨て、怪物としての肉体を得た彼にはそれは不可能だ。
いかに人語を解しても、いかに貴族としての誇りを持っていても、彼は人として暮らす事はできない。
だからだろう、ミノタウロスの表情など分からないが、その姿は白蓮にはとても哀しく、辛いものに見えた。

「寂しくない?」

「元より一人身だ。洞窟だろうと城だろうと、大して変わらんよ。
 召使達が病の身を気遣うのも煩わしくてね。かえって一人のほうが気が楽だ」

タバサの呟きにそう答えるラルカスであったが、不意に頭を抱えると蹲る。
何事かと駆け寄る白蓮たちを荒々しく突き放すと、ラルカスは頭を振りながら立ち上がった。

「気にするな、たまにこうして頭痛がするだけだ。本来収まるべきでない脳が収まっている副作用だろう。
 さ、今日のところは帰りたまえ。ご婦人方がこんな獣臭い場には長居するべきではない」

「ええ。研究のお邪魔をしてもいけませんから、お暇させていただきますね。
 それではラルカスさんお元気で。またお会いしましょう」

笑みを絶やさぬまま、白蓮はタバサを連れてその場を後にする。
ただ、その心に引っかかるものがあった。先程、ラルカスに制止された時のことだ。
白蓮があそこに近づいたのは、石英の結晶の輝きが綺麗だったからではない。
あの場所から嫌な気配を感じたのだ。まるで、そう――――――

――――――死体が埋まっているかのような嫌な気配。骸が放つ、死の臭いを。



そして2人は洞窟を出、エズレ村への帰途に付く。
村では村人が総出で出迎え、2人に歓声を浴びせ、逆に人攫いの一団には罵声を浴びせた。
人攫い達は物置小屋に纏めて放り込まれ、主犯格のメイジだけが村長の家へと連行されていた。
尋問をするためだ。白蓮たちが事前に集めた情報では、エズレ村以外の村々でも子供の誘拐が多発している。
その全てがこの人攫いの仕業とするのは早計だが、何らかの手がかりはつかめるかもしれない。
そう思って始められた尋問であったが、結果は芳しくなかった。
この人攫いは10年前エズレ村を襲ったミノタウロスのことを知っており、
それで今回の犯行を思いついたのだという。

「ほんとだ、嘘じゃない。確かに誘拐が多発していると言う噂も知ってるが、
 人攫いの仕業だとしても同業の連中の仕業だろう。それとも、あの―――」
143名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 20:57:18 ID:njrGkbZx
よくわからないけどスリープクラウド撒き散らすだけで終りだろ
144瀟洒な使い魔 第9話 4/8:2010/03/24(水) 20:59:05 ID:ZQnfu/VV
最後まで言い終えることなく、メイジは昏倒した。タバサによって延髄を打ち据えられ、意識を刈り取られたのだ。

「言い逃れは醜い」

そう言って白蓮に目配せをする。口ではそう言っているが、本心はラルカスの存在を秘匿する為だろう。
『ミノタウロスなどいなかった』と言うことにしておいた方が都合がいいし、
何より無駄にエズレ村の住人を怖がらせる必要は無い。
タバサは完全に気絶したのを確認すると、『自害を防ぐ為』として猿轡をし、おもむろに椅子に座る。
そして成り行きを見守らざるを得なかった村長に首を向けると、ぽつりと呟く。

「お腹すいた」

その言葉に真面目な顔をしていた白蓮は思わず吹き出し、村長が妻に食事の支度をするよう部屋の外へ駆け出す。
白蓮が見たタバサの顔は相変わらず感情と言うものが読み切れない無表情であったが、
先程の一言は緊迫した場の空気を弛緩させるための、彼女なりのユーモアであったのかもしれない。



夕食の後、白蓮たちは客間にて一休みしていた。タバサは相変わらず読書に耽り、
地下水は白蓮によって手入れをされ、チェストの上で上機嫌で鼻歌などを歌っている。
だが、当の白蓮の表情は暗い。地下水の手入れをしている時も、そして今も。
俯いて深く考え込むように瞑目し、時折手を組んで何事か呪文のようなものを呟いている。
タバサも地下水も、その呪文は「お経」という祈りの際に唱える呪文だという事は分かっている。
故に訝しがることは無かったが、普段から笑みを絶やさない彼女の沈んだ顔だけは気になっていた。

「よぉ、姐さん」

「ひゃあっ!? な、なんですか、地下水さん」

思案に耽っていたところに声をかけられ、白蓮はびくりと体を震わせた。
地下水は問う。何故そんなに沈んだ顔をしているのかと、もう任務は終わったんだろう? と。
その言葉に白蓮は押し黙り、少しした後、首を横に振った。

確かに任務は終わった。だが、白蓮はそれで安心する事はできなかった。
人攫いのメイジが言っていた『自分たちの犯行ではない子供の誘拐』。
ラルカスの洞窟で感じた『嫌な気配』。それらは白蓮に最悪の展開を予想させる。
しかし、白蓮は動けなかった。彼が人を捨ててまであの肉体を得た理由を、誰よりも理解しているから。

「嫌な予感がするんです。早く手を打たないと、取り返しの付かないことが起きかねない。
 でも、一歩踏み出す事ができない。彼があのような姿になった理由……詳しくは話せませんが、
 死を恐れ、それから逃れようと外法に縋ってしまった気持ちは、私も同じですから」

「だから、彼に彼が犯しているであろう罪を問うことが出来ない」

いつの間にか本を閉じ、こちらを見ているタバサが静かに言う。

「……ええ。だから、迷っています。行くべきか、行かざるべきか。
 誰かに任せてしまうべきか、自分で相対すべきかを」
145名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:01:37 ID:Hih0pk4c
支援
146瀟洒な使い魔 第9話 5/8:2010/03/24(水) 21:02:41 ID:ZQnfu/VV
それきり、部屋を沈黙が包む。白蓮は沈んだ顔で、タバサはいつもの無表情で。
暫く続いた沈黙を破ったのは、チェストの上に置かれたインテリジェンスナイフの一言だった。

「あー、姐さん、あれだよ。俺としてはここで考えてるよりは、動いた方がいいと思うんだ。
 俺は所詮ナイフだ。人間の身体を操った事はあるが、ハナから人間じゃねえ。
 だから所詮人斬り包丁の戯言と思ってくれてもいいけどよ……
 やっぱあれだ、動かないで後悔するよりゃ、動いて後悔する方がいいんじゃねえの?
 こういう言い方は卑怯だと思うけど、動かなかった場合、被害を被るのはこの村だぜ」

その言葉に、白蓮がはっと顔を上げる。タバサもまた僅かに眉を動かし、視線を向ける。
2人の視線が集まっている事を改めて確認すると、地下水は言葉を続けた。

「続けるぜ。こいつは俺の傭兵としてのカンだが、このまま動かなければやべえよ。
 今日姐さんが守ったこの村が、恐らくは真っ先に血の海になる。
 ドミニク婆さんも、ジジも、その親父さんたちも皆死ぬね。
 王都が迅速に動けば少なくともこの村だけで被害は抑えられるかもしれないが、
 まず確実にこの村は滅ぶ」

そこで地下水は一度言葉を置き、「だが」と言って言葉を繋ぐ。

「だが、姐さんが動くとなりゃあ話は別だ。姐さんの経歴はよくしらねえが、
 俺なしでもスクウェアクラス、いやそれ以上の実力を持ってる。
 だから、姐さんがその気になりゃあ、そんな事は起きねえ。
 それにだ、何も殺すの殺さないのって話に発展するとは限らねえさ。
 あの大将だって分かってくれる可能性はないではねえ。
 それにあれだ、姐さん、こういうの得意だろ? 人外相手の説得とかよ。
 エルザんときだってそうだし、俺んときだってそうだ。
 結局よ、俺もエルザもアンタが好きなんだ。お人好しのあんたがな。
 こんな俺達でも人間扱いしてくれるあんただから、俺も力を貸してるんだぜ」

地下水のその言葉に白蓮は一瞬きょとんとした後、顔を赤くしてうろたえ始めた。
タバサと地下水が生暖かく見守る中ひとしきり悶えた後、咳払いを一つして口を開く。

「あ、有難うございます、地下水さん。どういう結果になるにせよ、
 確かにまず私が動かねばいけませんね……では、善は急げです。
 今すぐ行きましょうか」

白蓮は立ち上がると、地下水に手を伸ばす。しかし、ふとその手が杖でさえぎられた。
その杖の主は勿論タバサ。相も変わらずの無表情で白蓮を見つめている。

「タバサちゃん?」

「私も行く」

そう言って杖を退けるタバサ。その表情と言うものが抜け落ちたような、
イザベラに言わせれば『人形のような』表情には、どこか安堵したような色があった。
ともすれば、見落としてしまいそうなほどに僅かなものであったが。

「相手はスクウェアメイジ、そしてミノタウロスの身体を持っている。
 戦闘を考慮する場合、数が多くて困る事は無い」
147瀟洒な使い魔 第9話 6/8:2010/03/24(水) 21:04:29 ID:ZQnfu/VV
「……成程、少し気が逸っていたみたいですね。
 お願いできますか? タバサちゃん」

「当然。それに、これは元々私の受けた任務。最後まで付き合うのは当然の事」

そしてタバサは白蓮に先立って客間を出る。
その頬が僅かに緩んでいた事に気付いたのは地下水だけだったが、
とりあえずは見なかった振りを決め込んだ。
長い間人の間で生き、様々なものを見てきた経験が、何となくそうした方が良いと告げたからだ。
ありていに言ってしまえば、藪をつついて蛇を出す真似が嫌だっただけであるのだが。



「―――今日はもう帰れと、そう言った筈だが」

洞窟の奥の研究室で、ラルカスは鍋をかき回しながら静かに言った。
背を向けているため表情は見えない。もっとも、たとえこちらを向いていたとしても、
ミノタウロスの表情の変化などよく見なければ分かるものではないが。

「少し、お話したいことが出来まして」

白蓮は手に持っていた白い塊をテーブルの上に置く。少々歪な半球を描くそれは、人の頭蓋骨であった。
それも歳若い子供のもので、骨となってからそれほど立っていない。
ラルカスからの返事は無い。先程と同じく、無言で鍋をかき回している。

「このしゃれこうべは、貴方が私を止めた『土がむき出しになって居る場所』で見つけました。
 このほかにも幾つもの骨が見つかっています……それも、子供のものばかりが。
 ラルカスさん、今エズレ村近辺の村で起こっている誘拐事件の犯人は、あなたですね?」

「何故そう思う? 私が他の場で拾ってきたものを埋めていたとは考えないのか?」

背を向けたままで、手を止めずに言うラルカス。その背を見つめたままで、白蓮は言葉を続ける。

「気配が……このしゃれこうべやこの子が埋まっていた場の気配が、貴方からも漂ってきているのです。
 どんな秘薬を使おうとも拭えない、罪と死の気配が」

ラルカスの手が止まり、こちらに身体を向ける。
その巨体が動くだけで洞窟内部の空気がかき回され、2人に獣臭を伴った風が吹く。

「ミノタウロスの意識が残っていたのか、肉体をミノタウロスに変えた為に、
 貴方の心がミノタウロスに近づいていったのか、それは私には分かりません。
 ですが、これだけは分かります。貴方がそうなる可能性を全く考慮していなかった訳ではない事。
 そして……そうまでして生に縋り付く、あなたの死への恐れだけは」

直後、風が渦を巻いた。ラルカスが傍らに置いてあった斧を掴み、白蓮へと突きつけたのだ。
タバサの杖が動きかけるが、それを白蓮は制し、地下水をもテーブルの上に置く。
突きつけられた斧の切先は細かく震えている。恐らくは怒りで。

「貴様に……貴様に何が分かる! 病に冒され、ただ死への秒読みだけを早められた私の、何が!
 分かるまいよ、貴様には! 同情などうんざりだ! 人を捨ててでも生き延びたいなどと、
 貴様は一度でも思った事があるのか! その美しく健康な肉体を持つお前が!」
148瀟洒な使い魔 第9話 7/8:2010/03/24(水) 21:06:47 ID:ZQnfu/VV
怒りに染まったラルカスの脳裏で何かが囁く。

――――そうだ、やってしまえ。知ったようなことを言うこの綺麗な女を。
――――叩き殺して、ばらばらにして、その肉を食ってしまえ。遠慮する事はない。
――――『俺達』はミノタウロスだ。ミノタウロスが人を食って何が悪い?
――――何より、お前だってそうしてきただろう?

そのささやき声はラルカスの心にするりと入り込み、ある欲望を活性化させる。
人としては不自然な欲望だが、その肉体としては日常的に湧き上がる極普通の欲求。
すなわち、目の前の女を殺してその肉を貪り食いたいという、強烈な食欲を。
それに呼応するかのように、ラルカスの瞳が鈍く、赤く輝き始める。

「オオォォォォォォォッ!」

ラルカスは雄叫びを上げると大きく斧を振りかぶり、白蓮めがけて叩き付ける。
だがその一撃が白蓮を捕らえる事は無く、巻き起こった風が髪や服をばたばたとはためかせるに留まる。

「ビャクレン」

「姐さん!」

タバサが杖を構え、地下水が悲痛な声を上げる。だが白蓮はそれをまたも制し、
文字通り身一つでラルカスに相対する。強い視線でラルカスを見つめる白蓮を、
ラルカスの赤く輝く目が見下ろす。栗からは粘性の高い涎をたらし、
その瞳を殺意と食欲でぎらつかせ、ラルカスはまたも斧を振り上げた。

「手出しは無用です。先程も言った様に、私は彼の気持ちが痛いほどに良く分かります。
 ですが、それを形にすることが出来ません。私の外見は人と変わらず、深い傷を負えば死にます。
 だから、この身一つで彼を止める。そうすれば分かってもらえると思うんです。
 私もまた、彼と同じ『人でなし』なのだということを」

「……できるの?」

多分に疑問の色を込めたタバサの問いかけを断ち切る用に、ラルカスの斧がまたも振り下ろされる。
その一撃はやはり白蓮を捕らえることなく、地面に打ち込まれ辺りに石片を撒き散らした。

「出来なければやるなどとは言いません。だから、地下水さんを持って下がっていてください。
 今のところ、ラルカスさんの獲物は私のようですから」

何度目かの斧が白蓮の横を通り過ぎた時、斧は再び振り上げられることなく動きを止める。
ラルカスが戸惑ったような声を上げるが、地面に食い込んだのか斧は微動だにしない。
だが『暗視』の魔法をかけてそれを覗いていたタバサは、違う、と呟いた。
白蓮が、その細腕で斧の柄を掴んでいたのだ。
その身体からは、湯気のように可視可能なほどの魔力が立ち上っており、
地下水とタバサは、白蓮が本気でラルカスと相対する気なのだと知る。

聖白蓮は魔法使いである。
幻想郷の魔法使いというものは各々がオリジナルの魔法を操る為、決まった系統と言うものがほとんど存在しない。
人形を操る、属性を操るなど、魔法使いごとに固有の方式で魔法を行使するのが普通なのだ。
白蓮は元々自分の若返りや延命の為に魔法を学んだ為か、身体能力を強化する魔法に長ける。
スペルカードルールを用いた弾幕戦においては魔力の弾を生み出し操るが、
本来はこういった、己の肉体に直接作用する魔法の方が得意なのである。
ラルカスの斧を押さえた剛力も、そういった魔法の恩恵によるものなのだ。
149瀟洒な使い魔 第9話 8/8:2010/03/24(水) 21:09:14 ID:ZQnfu/VV
斧の柄を握り合い、白蓮とラルカスは至近距離で対峙する。
ミノタウロスの膨らんだ筋肉がミチミチと音をたて、白蓮の細腕から発せられる魔力がゆらめく。
双方の額からじっとりと汗がしたたり、生暖かい鼻息が白蓮の肌をくすぐり、髪を揺らす。
数分か、数秒か、どちらとも判然としない時が過ぎた後、ラルカスが動いた。
その口が動き、ルーンを紡ぎだしたのだ。

―――ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ―――

呪文の完成と同時に、白蓮の周囲に何十本もの氷の矢が生み出される。
呪文自体はタバサの十八番であるウィンディ・アイシクルだが、その数が半端ではない。
スクウェアとトライアングル、その魔力の差が垣間見える一幕である。
だが白蓮は自分を包囲する氷の矢にもひるむことなく、空いているほうの手を一振りする。
すると白蓮を守るように数十を超える光の弾が生み出され、殺到する氷の矢とぶつかり合い、相殺される。

「……まだ、やりますか?」

斧を押さえたまま、白蓮はラルカスを見上げる。

「貴様などに……何が分カる……殺す、コロしテ、オマエヲ、クウ……」

ラルカスの瞳から怒りの色が消えていく。それと同時に、怒りの奥に見え隠れしていた食欲で目がぎらついた。
それを見て、白蓮は悲しげに眉をひそめる。鼻息が荒くなり、口からは粘性の高い涎が垂れ、
斧を押さえる手に、ラルカスが更に力を込めたのを感じる。

「―――――」

その瞳によぎったのは、覚悟か、諦めか。
白蓮は己の肉体を強化している魔法の出力を更に上げ、ラルカスを上回る腕力で斧の柄を思い切り引いた。
ミノタウロスの巨体が大きく前に傾ぎ、白蓮の頭を叩き割らんといった勢いで迫って来る。
それを冷静に見つめ、白蓮は拳を硬く握りこんだ。

直後、タバサと地下水は信じられないものを見る。

どごん、という轟音と共にミノタウロスの巨体が宙を舞い、半回転して背中から床に落ちた。
自分に向かって倒れこんできたラルカスに、白蓮がアッパーカット気味にカウンターを決めたのだ。
顎から突き抜ける衝撃によってラルカスの脳は揺さぶられ、意識が遠のき、
地面に激突したと同時にラルカスの意識は暗転した。

―――人間業じゃなかったね、あれは。つくづく敵に回さなくて良かったって思うぜ。

とは、暫く後に、地下水が後に出会う終生の友との会話の際に言ったセリフである。



150名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:13:11 ID:9YpfXuvZ
支援
151名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:14:06 ID:+Ac8yz9s
しえん
152名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:14:15 ID:3VY1VKAI
私怨
153瀟洒な使い魔 第9話 あとがき:2010/03/24(水) 21:14:48 ID:ZQnfu/VV
というわけで、9話は以上です。白蓮さんの魔法が身体強化系と知ったときから、
ちょっとやってみたかった今回の格闘白蓮さん。
イメージと違いましたら申し訳ありません。

なお、白蓮さんサイドはあとちょっとだけ続くんじゃ……
メイド長サイドをお待ちの方、もう少しお待ち下さい。
最近色々と忙しく、SSに割く時間が中々見つからず、
次回もまたもう少し先になってしまいそうです。
何卒ご了承の程を。

それではまた次回。他の作品の合間にでもお読みいただければ幸いです。
154名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:21:04 ID:9YpfXuvZ
乙でした
なんという自分のイメージどうりの白蓮さん
次も首を長くして待ってます
155名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:24:00 ID:LReuXH41
支援とさるさんには何の関連性も無い
156名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 21:48:53 ID:/Vtq1ghY
乙。待っていました。ほかの職人さんたちも帰ってきて欲しいな。
157名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 22:08:22 ID:rVD8C9hA
>>136
廻し受けでどうにでもなるよ!
158名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 22:16:04 ID:8PUPS/X5
平民、幸福ですか?
幸福であることは平民の義務です。平民は絶対に幸福です。
何故なら貴族は完全であり、平民の幸福を完璧に保障しているからです。
幸福でないと答えるものはミュータントか反逆者です。
159名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 22:17:37 ID:8PUPS/X5
御主人様、幸福ですか?
幸福であることは御主人様の義務です。御主人様は絶対に幸福です。
何故なら使い魔は完全であり、御主人様の幸福を完璧に保障しているからです。
幸福でないと答える御主人様はミュータントか反逆者です。
160Paranoia_zero:2010/03/24(水) 22:23:06 ID:8PUPS/X5
ZAP!ZAP!ZAP!
……次の御主人様はうまくやってくれることでしょう。
161名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 22:41:02 ID:0jQks8Zo
ZIP!ZIP!ZIP!
ZIPをよこすでおじゃる!
162名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 22:47:37 ID:xqL/vNvz
えー。特に支障がなければ、
「ゼロと電流 第三話」を50分くらいに行かせてもらいます。
163ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:50:07 ID:xqL/vNvz
「飛竜三段蹴り!」
「ぐふぁっ!」

 凄まじい威力の蹴り。しかもそれを三連撃である。
 並みの体術でできる技ではない。そしてその攻撃力たるや、いかなるものか。想像するだけでも恐ろしい技である。
 さらに、それだけではない。
 その技を放ったのは美しい女性なのだ。その女性が相手に向かって跳び蹴りを放ったというのに、放った女性のスカートの中が受けた側からは一切見えないのだ。
 つまり、特殊な趣味を持っていない限りは蹴られ損なのである。
 まさに恐るべき体術である。

「ミス・ロングビル……何処でこんな技を」
「女一人生きていれば色々あるものですから。身を守る術の一つや二つ、極めておりますわ。オールド・オスマン」
 
蹴られたのは、魔法学院の院長オスマン。蹴ったのはその秘書ロングビルである。

「どう考えても過剰防衛じゃろ?」
「暇さえあれば人をお尻を触るなど、万死に値します。これに懲りたら、私のお尻を触るのはやめてください」
「それは断る」

 ロングビルはつかつかと歩き、再びオスマンとの距離をとる。

「飛龍……」
「待てっ! わかった、わかったから!」

 戦闘ポーズを止め、椅子に座って書き物を再開するロングビル。

「では、私は仕事を続けますので。そちらもお仕事をお続けください」
「うう……。儂、えらいのに」
「ですから仕事をしてくださいと言っているのです」
「せめてもっと優しく言ってほしいものじゃのう……」
「飛龍……」
「わかったぁああ!」

 半泣き顔になりながら自分の仕事を確認するオスマン。
 と、その表情が途端に変わる。

……おや、何かあったんだね?

 表情の変化に気付いたロングビルが心の中でそう呟いたとき、

「ミス・ロングビル、すまんが大至急ミスタ・コルベールを呼んで来てくれんかね。この時間なら自分の研究室じゃろう」

 何かありましたか、とは聞かず、ロングビルは素直に立ち上がる。
 オスマンの使い魔はネズミである。使い魔であるモードソグニルは、普段は学園の中を走り回っている。ネズミであるが故、学園内のいかなる所にも神出鬼没なのだ。
 そして、異常があると使い魔と主のリンクでオスマンに連絡する。
 それが生徒の間でまことしやかに囁かれている噂だ。

「では、行って参ります」

 ロングビルは学院長室を後にする。
164ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:50:54 ID:xqL/vNvz
 その頃、ヴェストリの広場では……

「なんでこうなったの?」

 ルイズがギーシュのゴーレム、ワルキューレから逃げまどっていた。

 食堂での騒ぎの後、怒りのあまり縦ロールが回転して唸り始めたモンモランシーによって、ギーシュはボコられた。
 去っていく回転縦ロールの姿にようやく自分の過ちに気付いたルイズは、すぐさまギーシュに謝った。そして、二人で回転ドリルの所へ釈明に行ったのだ。さらにその後ろには事態を面白がっているキュルケと、引きずられるようにしているタバサ。
 さて、ギーシュがケティと浮気した、と思いこんでいる電動ドリ……モンモランシーである。そこへギーシュがルイズを連れてノコノコと現れては冷静に話ができるわけもない。
 彼女にしてみれば「この男、今度は違う女連れて来やがった!」てなものである。
 誤解を解くどころかさらに深まるだけなのだ。
 しかし、二人はモンモランシーに追いついた。

「なに? ケティの次はルイズ? 下級生でダメだったら次は同級生?」
「待ちたまえ、モンモランシー。君は大きく誤解している」
「そう、誤解なの」
「そう、誤解なんだ」
「誤解なのね」
「そうだ、誤解なんだよ」
「よくわかったわ」
「わかってくれたかい、愛しい君よ」
「貴方の言葉が信用ならないって事がよくわかったわ!」
「モンモランシー!?」

 すたすたと去っていくモンモランシー。
 残ったのはうちひしがれるギーシュ、そして困ってしまったルイズ。

「……僕は……どうすればいいんだ」
「ギーシュ。こうなったら手は一つよ」
「ルイズ?」

 ルイズは座り込んだギーシュを強引に立たせると、裏手の庭へと引きずり出す。

「どういうつもりだい、ルイズ」
「ギーシュ、その前に一つ確認よ。貴方は今回のことをどう思っているの?」
「……確かに、二股と言われても仕方ないことをした。それはモンモランシーにもケティにも申し訳ないと思っているよ」
「どっちと、仲良くしたいの?」
「モンモランシーだ」

 即答だった。ルイズは答えの内容よりも、即答であったことに満足して頷く。

「だったら、モンモランシーを振り向かせるのよ!」
「それは嬉しい。嬉しいけどどうやって……ん、まさかルイズ、何か君に考えがあるのかい?」
「もっと格好良くなればいいのよ」
「僕が?」
「それはちょっと難しいわ」
「なにげに失礼じゃないかね?」
「それはおいといて。見た目じゃなくて、ワルキューレを強化して、実力をアップするのよ」
「ワルキューレを?」

 普段の言動がアレなのであまり周囲は気付いていないが、こう見えてギーシュの実力は高い。さすがは軍人頻出のグラモン家と言うべきか、戦闘に関して言えばドットのクラスはとうに越えているのだ。
 ドットメイジでゴーレムを七体……それも平々凡々ではなくギーシュオリジナルのワルキューレ……同時操作するだけでかなりの手管なのだ。
 もっともゴーレム操作はグラモン家のお家芸であるからして、ギーシュの兄たちもそれぞれのメイジレベルに似つかわしくないゴーレムを操ってはいるのだが。

「しかしどうやって」
「まあ、見てなさい」

 ザボーガーを呼び出したルイズは、ギーシュの目の前で変形させた。
165ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:52:25 ID:xqL/vNvz
「こ、これは」
「全く同じは無理だとしても、貴方のワルキューレにこんなかんじのことができたらどうなると思う?」
「か、格好良すぎる。ああっ、素晴らしいよルイズ!」
「そう?」
「ああ、素晴らしいアイデアだよ、そしてこのザボーガーも素晴らしい!」
「うふふふふ」
「素晴らしい! そしてかっこいい!」
「うふふふ、ギーシュ、もっと褒めなさい、もっと」
「空前絶後だよ! 驚愕だよ! 驚天動地だよ!」
「うふふふふふふふふふふ、そうね、そうよね、凄いわよね、私、凄いわよね、ザボーガーも凄いわよね」

 張り切るギーシュだが、ふと気付く。

「……ルイズ?」
「うふふふ……なに?」
「ザボーガーは動かないのかい?」

 それは言ってはいけない一言だった。
 目に見えて落ち込むルイズ。

「ルイズ?」
「……足りないの」
「ん?」
「何かが足りないのよ」
「何かって、魔力とか?」
「それが、よくわからないの」
「はあ?」

 事情を説明するルイズ。
 電人ザボーガーを起動させるには“怒りの電流”が必要なのだ。
 ギーシュにも、“電流”の正体はわからない。

「とりあえず、“怒り”はわかるのよね」
「ええ……って、キュルケ? いつの間に。タバサまで」
「何よ。さっきからいたじゃない。気付いてなかったの? まあいいわ。一緒に考えてあげるわよ。私もタバサも興味あるしね」
「何でアンタに」
「いいの? ギーシュは土だけど、私は火、タバサは風よ? 得意な系統の種類は多い方が良いと思わない?」

 確かにキュルケの言うとおりなので、ルイズは納得するしかない。
 そして四人が相談した結果、一つの仮説が生まれる。
 使い魔の主であるルイズが怒ると、何か特別なものが発生するのではないか?
 現にルイズの爆発は、怒れば怒るほど威力が高いような気がする。

「じゃあ試してみましょうか」
「何を」
「貴方を怒らせればいいのよね」
「え」
「あと、使い魔だから、やっぱり主の危機には反応するんじゃないかしら」
「キュルケ?」
「でも私やタバサの魔法だと、ちょっと危なすぎるのよね」
「もしもし、キュルケ?」
「ギーシュ。ワルキューレでよろしく。アレなら手加減もしやすいでしょう?」

 と、言うわけでワルキューレからルイズは逃げ回っているのだ。

166ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:53:18 ID:xqL/vNvz
「ルイズ! 早くザボーガー動かさないと大変なことになるわよ〜」
「さっきから命令してるわよ!」
「あ、危ない」
「ぎにゃあああああああ!」
「頑張りなさい、ルイズ」
「あ、あんたたちねぇ! これってイジメじゃないの!?」
「それは誤解よ」
「どうみても、逃げてる私を追いかけて遊んでるでしょ!」

 ふむ、とキュルケは考える。

「ねえタバサ、ナイフ持ってる?」 タバサが無言で、何の変哲もないナイフを投げる。

「貴女、ナイフ投げも上手いのね」

 ナイフは見事に、ルイズの進行方向の地面に突き刺さっていた。

「ルイズ、そのナイフ使って良いわよ」
「焼け石に水ーーーーっ!!!」

 それでも律儀にナイフを拾うルイズ。
 かといって、何が変わるわけでもない。ただ、ポケットにナイフが入っただけ。
 因みにワルキューレの拳は一発たりとも当たっていない。ワルキューレはルイズのいるすぐ近くの地面を適当に殴っているだけだ。
 ルイズにしてみればそれでも充分に怖いが。

「やっている僕が言うのも何だが、危なくないか?」
「そうかしら?」
「これ」

 タバサが、預かったルイズの荷物を示す。

「兜はここにある。ルイズはこの兜でザボーガーに命令していたはず」
「あら」

 キュルケは兜をタバサから受け取ると、ルイズに声をかけて投げつける。
 ルイズは慌てて受けようとして、顔面をしたたかに打った。

「あ、ごめんなさい」
「……ツェルプストー……いつかゲルマニアに攻め入って滅ぼす」

 鼻血も拭かずにとりあえずヘルメットを被るルイズ。
 その瞬間、ルイズの動きが変わった。いきなり足運びが別人のように迅速になる。
 タバサの視線が厳しくなり、キュルケが感嘆の声を上げる。

「あの兜に何かある」
「……みたいね。でも、召喚したときにコルベール先生が調べたけれど、マジックアイテムじゃなかったのよ?」
「調べたときには、あのルーンは無かった」
「ルーンのせいだって言うの?」
「可能性」
167ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:54:16 ID:xqL/vNvz
 
 頷き、一歩進むタバサ。次に彼女の取った行動に、キュルケは驚く。
 タバサは、風の魔法をルイズに向けて放ったのだ。しかも、ギーシュのように手加減も狙い外しもしていない、正真正銘の攻撃魔法を。
 そして、さらに驚くキュルケ。
 ルイズは、タバサの魔法を避けたのだ。それも、ワルキューレから逃げながら。
 確かに、魔法が使えない代わりに身体を使っているルイズの運動神経は元々悪くない。手加減したワルキューレから逃げ続けているのもわかる。
 しかし、今のはタバサの本気。そして、ギーシュの攻撃は終わっていないのだ。
 仮に魔法が使えたとしても、ドット程度には厳しい状況である。
 ルイズも自分の動きが変わったことを自覚したらしく、反撃に転じようとする。
 直接触れた対象に練金なりの魔法をかければ爆発するのだ。触れる限りにおいては目標から外れる心配もない。
 そしてさらに、三度キュルケは驚愕する。
 ルイズは一つのワルキューレを爆破する。そして、逆の手がポケットのナイフに触れる。
 その瞬間、ルイズはナイフを握りしめた。

 ……わかる! ナイフの使い方がわかる!

 それは、ザボーガーの操作法を知ったときと全く同じ感覚だった。身体に、脳に、全身の神経に手にした武器の使用法が流れ込んでくるのだ。
 それだけではない。ナイフで戦うのに相応しい、いや、それ以上の力が湧き出るのが感じられる。
 今なら、自分はワルキューレと互角以上に戦える。
 ルイズは確信し、突き進む。





 遠見の鏡のなかで、ルイズがワルキューレ最期の一騎を破壊していた。

「どう思うかね、ミスタ・コルベール」

 一部始終をコルベールと共に見ていたオスマンが尋ねる。

「やはり、ガンタールヴなのでしょうか?」
「しかし、ミス・ヴァリエールは使い魔でないぞ?」
「以前にも申し上げたように、あれがガンタールヴの兜だとしたら?」
「被った者に、ガンダールヴの力を与える……か」
「あのゴーレムは、ガンダールヴにとっての騎乗馬だとしたら……」
「辻褄は合うのか……。このことは、他言無用じゃぞ」
「はい」
「さて、あの四人がどうする事やら」
「四人とも、良い子ですよ」
「ふむ……お前さんが言うのなら、そうなのじゃろうな。じゃが、そうでなければ……」
「覚悟はしていますが、考えたくありませんね」

 答えるコルベールの視線は鏡へと向けられている。しかし、その目は何も映してはいなかった。

168ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:55:02 ID:xqL/vNvz
 
 
 呆然と、どちらかというと震えているギーシュ。
 無理もないだろう。
 逃げていただけのルイズがいきなり兜を被ってナイフを握ったかと思うと、瞬く間に七体全てを退けてしまったのだ。

「な、な、な、なんだね、今のは。ルイズ? ルイズぅ!?」
「……凄いのね、あのルーンの力って」
「欲しい……」
「ん? タバサ、何か言った?」
「なんでもない」

 ルイズは三人のやりとりも耳に入らないように、誇らしげに胸を張っている。
 その手には、ボロボロになったタバサのナイフが。

「ふっふーん、これが私の実力よ」

 因みに最初の目的は既に忘れている。

「よし、それじゃあ次の虚無曜日には剣を買いに行くわよ! この私に相応しい、立派な剣を買わなくちゃ!」

 ルイズは嬉しそうにはしゃいでいた。

「ナイフ弁償」

 タバサの、その一言まで。
169ゼロと電流 第三話:2010/03/24(水) 22:55:55 ID:xqL/vNvz
 以上、お粗末様でした

 因みに、冒頭の「飛龍三段蹴り」は別に伏線でも何でもないネタですぜ?

 次回こそ、デルフゲット。
170名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 23:08:01 ID:kLjHUrpz
電流乙
ヘルメット被るルイズはきっと可愛い
そしてタバサが容赦ない(色んな意味で)
171名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/24(水) 23:30:28 ID:qKZJ7Pju
>>169
乙。
読んでて楽しいな。面白いじゃなくて楽しい。
172名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 00:10:28 ID:/HAOFtSm
破壊の杖じゃなくてマシーン・バッハが転がってそう。
フーケ「持ち運べないじゃないのさ!」
ルイズ「チェンジ!ストロング!ザボーガー!!」
173名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 01:56:12 ID:dCUhnUOR
あー、ナム豆鳳凰げんこつのせいで聖帝さまの続きが気になってきた
174名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 06:10:30 ID:lZ1pt3P7
昔ここで書いてて、途中で投げ出したんだが
最近はどんな感じだね
175名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 06:33:13 ID:g7Zf+/Ea
>>174
途中で投げ出したとか、お前最低な人間だな。
完結させるつもりが無いなら書こうとすんな。
まあ、大方数話程書いて満足しちゃったってやつなんだろうけど。
176名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 06:50:25 ID:lZ1pt3P7
>>175
すまん。展開に詰まったまま先延ばししてる内にあぼんした。
177名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 06:59:13 ID:h1A+N7wE
>>176
蒼き流星のTV版や武士沢みたいでもいいから
完結させてみてください
178名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 07:11:32 ID:lZ1pt3P7
わかった。ちょっとがんばってみる
179名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 10:47:15 ID:vmxEGSly
風呂敷をたたむ自信がないと構想はあっても小ネタにしちゃうなぁ
まぁ、そうやって投下した代物が1つ2つ小ネタ保管庫に眠ってるがw
180名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 12:59:28 ID:coee8Xwf
畳む大ネタはちゃんと準備してるんだが、キャラが勝手に動くですよ?
181名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 14:13:22 ID:zhw1Wwnp
>>180
広げた大風呂敷の中にちょっと小さな風呂敷を入れてみる。
その中にさらにもう少し小さい風呂敷を(以下略

最初の目標が遠大になったならもう少し至近の、たたみやすい風呂敷を
用意すればいいと思うよ。
182名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 14:34:38 ID:uTRntRUU
第一部完!
183名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 15:01:53 ID:/HAOFtSm
オレ達の戦いはこれからだ!
184名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 15:03:30 ID:dCUhnUOR
作者都合により休載させていただきます
185名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 15:30:17 ID:sDQNJ5IP
出たな!ゲッタードラゴンッ!!
186名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 15:32:19 ID:JDSYvJ4e
この男坂をよ
187名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 18:01:52 ID:oc+bbC6O
>>180
そりゃあるでしょうな。晩年藤子先生も、ドラえもんはもう自分の手から一人立ちして、自分で世界を広げていっているとおっしゃっていたそうですし。
キャラに魂がこもるってのは、比喩じゃないのかもな。

電流の人、乙
ううむ、なんという熱血系ゼロ魔キャラたち。
にしても、最近の投下の量と質の充実ぶりは祭りに近くなってるな。これで携帯規制が解除されれば
感想もしやすくなるんだがなあ。
188名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 18:12:02 ID:Oy3ZQazX
189名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 18:18:08 ID:/HAOFtSm
ドッコイダー「熱血と聞いてやってきました」
190名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 18:20:54 ID:oc+bbC6O
>>188
こぉーのアカポンタン!
191名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:00:59 ID:8s2vS44L
既出カモだが変なの見つけた
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192名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:03:41 ID:8s2vS44L
アカン、文字化けしとる・・・
ttp://threadic.com/thread/bbs/read.php/baboplus/1269244052//120
193名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:16:45 ID:PPQRytnz
ハングルとか読めない…。
194名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:21:41 ID:7rrJ8R5U
>>136
道理は置いておいて
勇次郎に勝てる奴はいない
195名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:26:10 ID:OtAWeIBk
勇次郎は加速からエクスプロージョン(小)であっさり死ぬよ
196名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:27:32 ID:vF0+Px8u
案外スリープ・クラウドなら麻酔銃の要領でいけるかも
197名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:31:17 ID:dCUhnUOR
魔法を女、子供の護身術扱い
198名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:54:54 ID:h1A+N7wE
>>196
常人なら一週間は起きられない非致死性麻酔液喰らっても
数十秒で復活しそうな気がする

眠りの鐘とやらも効かないと思う
絶対
199名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:56:05 ID:dCUhnUOR
で、勇次郎がギーシュのワルキューレと戦ったどっちが勝つの?
200名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 19:59:27 ID:Qy3tlnbo
サシでアメリカ軍と戦い勝ち続け、ボフォース砲の掃射すらも回避する男だぞ。
しかもそれが16歳かそこらくらいの頃で今はそこからさらに成長している。

既に加速が掛かってる状態の虚無メイジ以外、正面からじゃ相手にならねぇ。
加速掛かっていても、移動前の反射神経を凌駕してくる可能性も大有りだし。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:00:54 ID:CCLvKH1G
パンチ一発で金属製とみられるホテルのドアがグシャグシャにヘシ曲がってた件


それでなくても普通に鋼鉄製とみられるような檻もぶっ壊して出てくるし
202名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:04:09 ID:GNtA4lg5
年々化け物じみていくからなw
203名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:04:33 ID:1V9LTmve
バキ理法則の有る世界だからな……
最初は網からの麻酔銃で対処されてたけど
204名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:19:01 ID:vF0+Px8u
でも実は米軍なら倒せるっぽい勇次郎
205名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:20:37 ID:X3GpNu3/
勇次郎だからという補正で虚無もなんか無効化されそうな気がしそうだ

こういう強そうなオーラのあるキャラを描く事に関しては板垣は凄いよなあ
206名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:22:32 ID:jHMv+TPU
それでもカリンちゃんなら……烈風カリンさまなら何とかしてくれる!!
って風格はあるよね。

勇次郎やセガールや高槻巌や比古清十郎みたいな、作中無敵属性持ち。
207名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:23:28 ID:1V9LTmve
むしろ仲良くなりそうだなカリンと勇次郎
208名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:30:23 ID:sDQNJ5IP
無理だろ。もはや畑が違う
209名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:35:58 ID:RDsJ93e/
死ぬのよ!ゲームをやらない子供なんて! 私の毒ナックルで今すぐあの世へレッツGO!
210名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:38:26 ID:RDsJ93e/
なんか展開がテンプレばっかりなんですけど…
テンプレは手抜きではない! 表現技法だ!
211名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:42:38 ID:TJF6sIA9
ダイナモンドを練金(?)出来るオーガ相手に勝てと言うのか?
無理だろjk
212名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 20:46:05 ID:CwDZazpU
あれか、ルイズが錬金する前にニタァと笑って錬金を披露したり
その後の爆発を見てエフエフするのか
213名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:06:03 ID:dCUhnUOR
でも、7体の武器を持ったワルキューレが相手なら然しもの勇次郎も無事で済むかどうか
214名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:11:17 ID:2D3Uzw6b
ヨルムンガントでも持ってこないと相手にならないよ。
215名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:12:36 ID:KSaBmqdC
>>213
サイトでも回避できた攻撃を勇次郎が回避できないわけがない
216名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:15:25 ID:dCUhnUOR
>>215
あれはガンダ補正があったから
217名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:20:05 ID:KSaBmqdC
>>216
グラップラー時代でも通常の反射神経では防げない攻撃や弓が放たれる瞬間を捉える奴だぞ?
おまけに絶壁から落ちても平気だし
218名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:22:45 ID:1V9LTmve
流石にワルキューレは無いわ……
219名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:23:33 ID:rYXrQwQ6
30mゴーレムでも怪しいのに流石にワルキューレじゃ無理だろ
220名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:27:35 ID:Qy3tlnbo
反射+焼入れのヨルムンガントの装甲なら、さすがに破られないだろうが、

でかいだけの岩ゴーレムじゃ普通にぶっ壊されるだろうなw
221名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:29:34 ID:5m2eEOws
とりあえずギーシュが生きていられるかどうか怪しいことだけは解った
222名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:30:20 ID:vF0+Px8u
まあ勇次郎は補正次第
最悪ならヨルムンガントも壊されかねない
223名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:32:06 ID:HSRe50MS
松尾象を倒してるからなあ。
フーケゴーレムくらいは何とかしそうだ。
224名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:41:20 ID:h1A+N7wE
ヨルムンガントは流石に無理だな
腕力家といえど限界を超してる

そういや一応呼ばれてた一方通行がアレと戦ったらどうなることか
反射VS反射
225名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:46:02 ID:IJIUilbI
勇次郎……作者自身が無かった事にしたいと公言した初期の勇次郎(ドアノブが回らないことに驚いていた頃の)なら、なんとかハルケギニアのメイジでも対抗が可能、かもしれない?
226名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 21:48:56 ID:OtAWeIBk
ジョゼフなら勝てそう
火石とか切り札もあるし
227名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:10:04 ID:yN6/LtVe
勇次郎召喚は理想郷で出ていましたよ?
結構おもろかった。

ビシャータルの反射と加速には苦戦してたね。
ギーシュ?フーケ?ワルド?
相手になりませんよ、どう頑張っても常人レベル内だし。
228名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:15:55 ID:ZOiMx74L
>>224
どうなるもなにも、一方通行圧勝以外有り得ない。
一方通行の反射つうかベクトル操作は上限が無いぞ。
体表に触れた瞬間に威力の過多に関係なくベクトルが反転するんだから。
そもそも劇中での能力初披露がバレットライフルでの狙撃を反射だぞ。
核攻撃でも無傷が謳い文句だからな。
あまりのチート能力に再登場時のイベントで脳に損傷を負って、能力の使用に制限がかかったくらいだぞ。

ティーガーの戦車砲でぶち抜かれるようじゃ話にならない。
229名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:27:34 ID:vmxEGSly
まぁ、敵キャラだったのをメインアクターにすえると
弱体化するなんてのはRPGでもよくあることだからな

正直その状態で一方さんを呼ぶとバッテリ切れ起こして大変な事になる。

かといって脳損傷前の一方さんを呼ぶと
誰かを守るためにすべてをかなぐり捨てるという覚悟が付いていない状態だから
最悪キスしようとしたルイズが接触した瞬間血流操られてグロ画像と化す。
230名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:30:06 ID:qM4Ww4Vu
味方が裏切って敵になると突然HPが跳ね上がったり
敵が味方になってくれると途端にHPが激減するあれですね
231名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:36:56 ID:4aHTVvx3
美琴召喚
コイン持っただけでガンダ発動
超電磁砲初速度UP
しかしコインがさらに早く蒸発して射程が短くなったりして
232名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:39:51 ID:T6KQ1fGu
忍道からゴウ召喚
233名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:39:58 ID:nuv1nq1b
死刑囚ですら殴って自由の女神を壊せたんだから勇次郎だったらヨルムンガンドくらい
234名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:40:28 ID:3JyVrJKM
勇次郎の最大の欠点は、俺ルールに持ち込めない相手にはあっさり裏をかかれるとこ。
猟銃のときしかり、アライジュニアの帰られたときしかり。
基本圧倒的な存在感と、相手の常識を覆す行動で相手を飲むから強い。
ありえないと思いつつ、やるのではと相手が思った瞬間100%勝てる。

なので、ぶっちャけシカトされたり天然系には弱い。

もっともバキ系を出すなら、今の烈海王か花山薫のほうがジュブナイルっぽく書ける。
235名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:40:49 ID:n+vzBLXi
一方さんの能力は強力だが、しかしメンタル的に異世界に放り出されてサバイブできるようにも思えん。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:42:45 ID:9ZrB4kkP
>231
弱体化するのかよw
237名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 22:51:45 ID:CwDZazpU
>>224
なんかARMSのKYみたいに勇次郎が成長を促されそうw

>>231
そこらへんの調整はできないの?
238名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:01:07 ID:MSXEQGZt
コインそのものは蒸発するけど、撃ち出した衝撃波だけでゴーレムが崩壊するとかw
239名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:02:17 ID:Gn63VUNP
ルーンで弱体化すると言えば、鬼哭街の人の続きが待ち遠しいぜ……
240名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:07:03 ID:JDSYvJ4e
勇次郎がルーン刻まれたら己以外の力に頼るなんて惰弱とか言ってブチ切れそうだけど
241名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:10:05 ID:/HAOFtSm
固定化かけたコインを撃ち出せば・・・・・・最悪、後ろにある山が消し飛んだりとかしそうだな。
242名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:13:16 ID:ZOiMx74L
第一宇宙速度を突破してハルケのスペースデブリになる。
243名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:39:22 ID:qM4Ww4Vu
戸愚呂(字あってたっけ)の弟が親指で空気の塊を弾丸にして撃ち出してたよな
244名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/25(木) 23:56:49 ID:n+vzBLXi
>>238
フーケ戦だったらレールガンより電撃のが効くだろ。
しかし、美琴の雷撃見たらワルド涙目だな。
245名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 00:21:35 ID:mIg0XaOE
電撃で思い出すのはGET BACKAERSの雷帝さん。
あの2人(雷帝&邪眼)が召喚されたら良いバランスで話が出来そう。
ただし、ジョゼフの使い魔は赤屍さんで!
246名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 00:23:25 ID:HMwwVFk0
今とある読んでるけど
土御門とかバランス的にいいんでない?
なんか余裕かましてたギーシュが、肘うちで顔面陥没させられたり、足の親指踏み砕かれたりする光景が浮かんだけど
247名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 00:41:58 ID:BCj60oxL
そういや彼は言ってたな
『ラブコメしたいぜい、ラブコメしたいぜい』
248名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 00:55:22 ID:amEHy06/
黒子をルーンで洗脳してルイズとちゅっちゅ
249名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 01:19:39 ID:eSbMk6aJ
>>231
契約自体無理だろ。
どっかの変態テレポーターの日頃から繰り返される熱烈過ぎる求愛行為の所為でそう言う
行為(同姓同士のキスとか)に関しては拒絶反応出るのはほぼ確実だし。
最悪、キスしようとした途端にルイズをあれの同類とみなして電撃とか叩き込んでも決して
不思議じゃない。
逆に言えば、それを受け入れる理由が全く無い。

つーか、幾ら何でもいきなり目の前に現れた怪しすぎる鏡に飛び込むほど迂闊ではない
だろうな、多分。
あの世界の環境や当人の普段の行いを考えると、自分に恨みを持つ他の能力者とかの
罠か何かと疑う可能性の方が圧倒的に高いし。
250名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 01:44:56 ID:e6Zetur9
迂闊とかの問題じゃない
あの鏡は行ってしまう運命の奴は入りたくなったり入ったりしてしまう物語ご都合代物だから
251名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 02:54:34 ID:5EG5osp7
上条さんを追っかけまわしてたら曲がり角を曲がったところで鏡があったりするわけだな
252名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 07:44:52 ID:jA8St2Kz
転移ゲートとなると全身に効果及ぼす魔法だから
そもそも召喚される前に打ち消す可能性もあるんじゃね?
253名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 08:28:10 ID:0TEhkPUn
呼ばれてたけど、腕だけが残されて、腕切断状態で登場
水クスリで癒される
ブレーカーなくなって本人幸せになりました
254名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 08:47:26 ID:C1h7tHEo
例えば治癒魔術とか、全身に及ぶタイプのものは右手に触れなくとも拒絶する。それに黒子がテレポートしようとしてもキャンセルしたので、上条に転移系の力は無効。
ただ、ルイズの力が幻想殺しで無効化できない、もしくは時間がかかるタイプなら転移は可能かも?
255名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 09:32:04 ID:HMwwVFk0
ゲートをただの通り道として捉えれば大丈夫な気がする
ドーナツに触れずに穴をくぐるようにゲートを通過したなら、上条さんの右腕も関係ないと思うんだ
256名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 10:24:25 ID:amEHy06/
一通さんを召喚しようとすると反転して逆召喚されます
257名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 10:29:28 ID:e6Zetur9
ハルケの魔法事態が幻想殺しの対象外な可能性も充分有りえるけどね
そしてカミジョーさんの不幸っぷりだけが残る惨劇
258名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 11:27:35 ID:fWMHcq5X
なんで、>>251から>>252の間に上条さん召喚に話が変わってるんだ?
259名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 11:45:57 ID:0TEhkPUn
御坂の事に着いてだったのを252が勘違いしたんだろうな
後はそれに乗った連中も。まあ俺もですごめんなさい
260名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 12:13:56 ID:swfV6W1/
ストレンジジャーニーのシュバルツバースは一見ヤバそうだけど
ハルケ自体の文明レベルが基本的に中世レベルな上に
ファンタジーな世界でユダヤ・イスラム・キリスト教が無いから
(ブリミル教はいい加減だがこいつ等ほど狂っちゃいないし)
交渉次第では共存できそうだ。
261名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 14:40:59 ID:emW0T30r
スプリガンから朧を召喚
 
「僕の偏在より数が多いなんて!?」
「あなた、もっと技の本質を見極めなさい」
262名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 14:53:45 ID:66jCzBoA
元ネタでジョーカーポジのキャラは
よほど上手くないと単なる蹂躙ものになるような気がするんだが。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 15:10:41 ID:2S71c1+2
師匠とか兄貴ポジションのキャラなら、ルイズ達の成長を促すのを主軸に
戦闘なんかではピンチに颯爽と現れたりするけど、それより前にルイズ達の見せ場を作ったりできる
……はず、別にルイズ達だけで片づけちゃって戦闘には出てこなくたって良いしさ

例えば朧なら才能さえあれば嬉々として育ててくれるよ
仙人になる修行の一環として、強くしてから倒すってのが目的だけどなw
なんかDBの最後の悟空みたいだな
264名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 15:17:52 ID:+LTZ437E
ドラゴンボールならGTの主役トリオを召喚
265名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 15:28:58 ID:amEHy06/
ガンダールブ クリリン
ミョズニトニルン 天津飯
ヴィンダールブ ヤムチャ
憚られる Mrサタン
266名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 16:02:23 ID:XM7eXv7W
額に目がある天津飯のいったいどこにミョズのルーンを刻むんだよ
目の上の部分か? それとも瞳の中とか?
267名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 16:16:50 ID:2S71c1+2
ドラゴンボールGTってクリリン天津飯ヤムチャの三人が主役なのか
268名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 16:24:05 ID:XM7eXv7W
それはもしかしてネタでいってるのか?
269名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 17:33:14 ID:U+fZzmvj
アバン流刀殺法を習うアニエス、しかし空烈斬だけはできなかったがコルベールへの憎しみを捨てたことによって正義の闘気に開眼、
アバンストラッシュでメンヌヴィルを倒す。
というのを、前スレのアバン先生のを呼んで妄想した。
270名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 17:35:44 ID:vG2ljLH9
GT最終回後の悟空召喚なら全く角が立たずにすむな。
悟空も帰りたいとは思わないだろうし。
まああの最終回の理論だと今度はハルケギニアがヤバくなるが。
271名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 17:39:51 ID:2S71c1+2
>>268
いいえ、願望です
272名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 17:42:31 ID:2R0B+gop
某ライダー召喚というか自力で出現考えたが扱いが難しい…
そもそもルイズを助ける理由が無い
273名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 17:45:55 ID:ipITbrX3
DANDAN心魅かれてく この星の希望の欠片
274名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 18:00:44 ID:2S71c1+2
マキシマムパワー!

>>272
ノ、ノリダー!?
275名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 18:39:06 ID:JE1Lrdyc
ライダーを名乗るのなら「少女が助けを求めている」 それで理由は十分

型月のライダーでないのなら、ね
型月ならそっちのスレにいってくれさい
276名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 18:48:41 ID:l+Bnju7L
>>275
龍騎のライダーなら助けを求めていても応えないやつがいるぜ
277名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 18:50:47 ID:RAglboa4
命の危険とかならともかく
「使い魔になってくれないと留年」なんて利己的な理由では
流石のライダーもノーサンキューじゃないか?
278名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 18:51:06 ID:+LTZ437E
753もだ
279名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:21:55 ID:PSWVhbr8
ここであえて、アポロガイスト(ディケイド版)を
召喚してみるのだ。
もっとも、自由に世界を行き来できるから
あまり意味がなさそうなのだ。

大ショッカーがハルケギニア征服に乗り出せば
話は別かもしれないのだ。
280名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:26:50 ID:l+Bnju7L
むしろ霞のジョーを召喚
ハルケギニアのみなさ〜ん
281名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:29:28 ID:0dCbnAbh
>>279
イタミンガイストなら花嫁探しでしょ
282名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:30:45 ID:SpIDu4f9
>>279
通りすがりのWに一方的にぼっこぼこにされます。
283名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:31:05 ID:1la1Cmar
>>275
もしかしたら処刑ライダーやナイトライダーのことをいってるかもしれん
284名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:35:51 ID:+LTZ437E
空想科学大戦に出てきた仮名ライダーを召喚
食費だけで学院潰れるな
285名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:41:25 ID:qvDgjYRz
唱和ライダー召喚は何度か考えたけど、変身前でも強すぎるからなあ
デルフ使いそうなのがスーパー1とシャドームーンぐらいしかいないし
286名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:46:06 ID:Kak7CIOl
そういえば王蛇召喚されてたな
あれだけやりたい放題かつ楽しそうな人もそうはいないw
287名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 19:54:23 ID:S/edbNpn
まあ敵と戦ってれば満足というある意味幸せな人だし
人間というより野獣に近いのが浅倉
288名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 20:05:39 ID:6V7aRDm1
>281
そこでむしろイタミンを召喚。
289名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 20:06:04 ID:2D93q3lf
>>263
?「甘いぞ!ルイズ!」
?「お前の頭では考えるだけ無駄無駄!ンハハハハハハハ!」
290名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 20:52:45 ID:t0FDAjtZ
昭和ライダーは改造人間だから、ゼロ魔世界で体を保持できるかの問題があると思う。
となると平成ライダー召喚……一部は亜人扱いになるかもしれないけど、装着変身タイプは奪われそうで難しいな。
291名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 20:58:29 ID:PSWVhbr8
カブトってもう召喚されてるのかな?
292名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 21:06:36 ID:qFc9QCXK
>291
NTにカブト召喚ものがある。ただし主役はルイズに召喚された天道ではなく
キュルケに召喚されたオリキャラ化才人(正体はワームでオリジナルのゼクター持ち)だったりするが。
293鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:18:40 ID:aq3wJYxR
随分と時間がかかってしまい、申し訳ありません。
予約は無いようなので投下したいと思います。
294鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:19:28 ID:aq3wJYxR
ここの朝は突き刺さるように肌寒い。
そんな中才人は井戸で水を汲んでいた。
早く終わらせてしまおうと急いで水を井戸から汲み上げている。
そしてついでに自分の顔も洗う。水は凍える様に冷たかったが、おかげで目は完全に覚めた。
そうしながらも才人は先ほどのちょっとした騒動を思い出していた。

皆が起きてからすぐの事だったが、プッロが不機嫌そうな寝起き顔で話しかけてきた。
「おい」
「何ですか?」
「昨夜、あのイカれた話が終わったあともお前の言ってた事が気になってな、横になってる間になんとか理解しようとしたんだが、いくら頭を絞ってもちんぷんかんぷんだ」
「そんな事言われても……」
自分に一体どうしろというのか、と才人が言うと堰を切ったようにプッロは捲くし立てた。
「だいたい何なんだ、ヘイコウセカイってのは。ちょっとずつ違う世界が沢山あるっていったいどう言う事なんだよ。つまり俺と殆ど同じ顔や声の奴が何人もいるって事にもなるのか?そんな事がどうやって有り得るんだ?理屈にあわんし気持ち悪くてかなわん!」
才人が何も言えずにいると、今度はルイズが口を突っ込んできた。
「ええ、今ばかりはあんたに同意するわ。あんた達が来たヨーロッパとかいう場所とハルケギニアがそっくりってだけでも頭がこんがらがったのに、よりいっそう混乱しちゃったじゃない」
「太陽がたくさんある、ってのもどう考えてもありえねえだろ。あんな物が空をびっしり埋め尽くしてるならなんで夜なんて物があるんだ?四六時中晴れてる筈だろ?お前、あれが前に読んだ本とかに書いてあったと言ったよな?その本を書いたのはいったいどんな連中なんだ?」
そう言ってプッロは才人を睨んだ。
どうやらその答えを得られるまでは納得しない様子だ。
だがそんな事を言われても、情報の元になったのは本というよりは漫画やアニメだ。
彼らがアニメはもちろん漫画も知っている筈が無い。
それをどうやって説明すればいいのか才人は考えあぐねた。

そこにそれまで黙っていたウォレヌスが口を出してきた。
「それはもしかして哲学者の類か?」
彼の声は疑わしそうな物だった。
彼も才人が言った事をまるで信じていないのは明らかだった。
なぜそこで哲学が出てくるのか解らなかったがうまく説明するのは難しそうなので、才人は適当にうなずく事にした。
「ええと、そうです」
するとウォレヌスはやはりそうか、と頷いた。
詳しい事は解らないが、彼は哲学という物にあまり好印象を持っていないようだ。
「あんなくだらん屁理屈を延々と捏ね続ける連中の言う事なぞ真に受けない方がいい。お前もだプッロ、足りない頭を使っても混乱するだけだろう」
「は、はあ……」
「ねえ、今のは遠まわしに私の頭が足りないって言ったように聞こえたんだけど?」
ムッとしてそう言ったルイズを尻目に、才人はその場から逃れるように水汲みに出かけたというわけだ。

まさか昨日のあれがこう尾を引くとは思わなかった。
間違った事を言ったつもりは無いが黙っていた方が正解だったかもしれない。
多分、あのせいで自分は彼らに「変な奴」だと思われてる。
取り合えず、“哲学者の屁理屈”はもう真に受けないとは言ったので少しはマシになっただろうが。
これからはあの手の話はしない方が良いだろう。
295鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:20:27 ID:aq3wJYxR
才人は水を汲み終え、井戸に用はなくなった。
寒さでかじかむ手で水桶を抱えながら元来た道を戻り始めるとその途中、廊下を思わぬ人間が歩いているのを見かけた。
長い緑髪の女性だ。昨日会ったばかりなので才人はすぐに彼女が誰なのかを思い出す。
学院長の秘書の、確かロングビルと言う人だ。
朝早いこの時間帯、廊下をうろついてる人間は殆どいない。
何をしてるんだろう、と疑問に思っていると彼女の方から声をかけてきた。
「ミスタ・サイト。ちょうど良かった。今からあなたを呼びにいく所でしたから」
声をかけられるのは予想外だった為、才人は少しびっくりした。
「お、おはようございます。呼びに行くって、どこにですか?」
「学院長の所へです」
「はあ……」

二人の次は俺か、と才人は思った。
理由は見当がつく。恐らくは昨日の話についてだろう。
だが呼ばれるのは構わないにしてもまずはこの水桶を置いてこないといけない。
「とりあえずその前に部屋に戻ってこれを置いてこないと」
才人はそう言って水桶を示すように持ち上げた。
「わかりました。私もついていきましょう。ここの廊下は入り組んでます。道案内をする人間がいないと困ると思いますから」
「ありがとうございます」

ロングビルと共に部屋に戻ると、才人は水桶を置いて三人に事情を説明した。
「――ってわけでちょっと行ってきますよ」
プッロもウォレヌスも大した反応は示さなかったが、ルイズは不満気だ。
「多分昨日の事についてお前さんに聞きたいんだろうな。行って来い」
「ちょっと、それじゃ誰が私を着替えさせるのよ?顔洗いは?」
「今日くらいは自分でやる事だな」
ウォレヌスがどうでもよさそうに言い放つと、ルイズは渋々と頷いた。
残った二人がその様な事をする筈が無いのは彼女も理解しているのだろう。
そして才人達は部屋を出ると学院長室へ向かい始めた。

途中、ずっと黙っているのも気まずいので才人はロングビルに話しかける。
「あの、俺が呼ばれた理由は知ってるんですか?」
「いえ、私は単にあなたを連れてくるようにと言われただけですので」
昨日プッロとウォレヌスを迎えにきた時も同じ事を言っていたな、と才人はうっすらと思い出した。
なら二人が学院長と話した事も知らないのだろうか。
「昨日、学院長がプッロさんやウォレヌスさんと何を話していたかはご存知なんですか?」
「いえ。存じておりません」
「それが何なのか気になりませんか?」
「学院長がそれを伝えなかったという事は、私が知る必要が無いということですから」
ロングビルはきっぱりと言い切った。
結構しっかりした人みたいだな、と才人は思った。
容姿からも知的な印象を受けるし、歩く動作すらがきびきびとしている。
発言も事務的で無駄が無い。いかにも敏腕秘書、という印象だ。
296名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 21:20:58 ID:MN6Ai7I9
支援
297鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:21:37 ID:aq3wJYxR
二人は本塔を登り、やがて学院長室の前に到着した。
ロングビルが懐から鍵を取り出し、ドアを開ける。
「どうぞ」
彼女が言うままに才人は中へ入った。
ロングビルも才人に続き、次は部屋の正面に進んだ。
そこにはまたドアがある。
学院長室は正確に言うなら二部屋に別れていた。
前の秘書室と奥の学院長室だ。
学院長室は秘書室としか繋がっておらず、そこに行く為には秘書室を通らなければいけない。
この事は才人も覚えていた。おそらく、防犯上の理由からだろう。
変な人間が学院長室に入ろうとしても必ず秘書を通らなければいけないからだ。
ロングビルがドアをコンコンと叩く。
「ロングビルです。ミスタ・サイトをお連れしました」
すると学院長の老いた声がドアの向こうから聞こえてきた。
「入りたまえ」

才人が中へ入るのとほぼ同時にオスマンは声をかけてきた。
「おお、きたな。さ、かけたまえ」
その声には待ちかねたかのような響きがある。
予想していなかった事だが、部屋の中にはオスマンの他にもう一人いた。
それは禿かけた頭のメガネをつけた中年男で、オスマンの隣に座っている。
その頭を見て才人はそれが誰なのかを思い出した。
自分が召喚された時にウォレヌス達に一緒に人質にされた教師だ。
名前は確かコルベールといったはずだ。

才人は椅子に腰掛けながら「あなたは確か……」とコルベールに声をかけた。
「どうも。会うのはこれが二度目だね」
コルベールは朗らかに答えた。
「彼も同席しても構わんかね?」
オスマンがそう聞いてきたが、才人としては断る理由は無い。
だがひとつ気になる事があった。
「良いですけど、その前にコルベールさんに聞きたい事が」
「ん?なんだね?」
「昨日ウォレヌスさん達が呼ばれた時もここにいたんですか?」
「ああ、そうだよ」

才人にとっては変に思える事だった。
ほんの数日前に自分の喉に剣を突きたて、人質にした男達と同席するのは結構な度胸が必要ではないのか、と。
「あの……怖くなかったんですか?召喚された時に人質にされたじゃないですか」
なんだそんな事か、と言わんばかりにコルベールはさらりと答えた。
「もちろん多少のわだかまりはあったがね、だが全くの未知の世界についての知識を直接得られるのだからそんな事は気にしていられない。それに君だって人質にされたのは同じだ。そして君は同席どころか彼らと同じ部屋で暮らしている」
言われてみればその通りだ。
人質にされたのは誤解からとはいえ、もっと怯えるのが普通かもしれない。
ただでさえ威圧感がある連中なのだから。
とんでもない事態の連続で感覚が少し麻痺しているのかもしれない――そう考えた所にオスマンが声をかけてきた。
298鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:22:40 ID:aq3wJYxR
「それで傷のほうはどうかね?」
「え?ああ、もうすっかり良くなりましたよ、おかげさまで」
「それはよかった。こんな朝早くから呼び出してすまんのう。だが昨日の後ではどうしても我慢できなくてな、授業が始まる前に話を聞きたかった……なぜ君を呼んだのか解るかね?」
「大体想像はつきます。昨日ウォレヌスさん達と話した事について、ですよね?」
「そうじゃ。その事について君が知っている事が無いかどうか教えて欲しい。どんな小さな事でも構わん」
呼ばれた理由は想像した通りだったが、昨日の問答を繰り返しても意味は無さそうなので才人は何も解らないと答える事にした。
そもそも知っているもなにも、地形はともかく知名に関してはプッロ達がいなければ気づきさえしなかっただろう。

「すみません。俺にもなにがどうなってるのかさっぱりなんです。ウォレヌスさん達と同じ位驚いてますよ」
「ふむ……それは残念じゃ。君なら何か解るんじゃないかと思ったんじゃが……謎は謎のままか」
「ただ……ここの地図を見せて貰ってもいいですか?」
才人はそのヨーロッパにそっくりだというここに地図を自分の目で確かめてみたかった。
正確な形はともかく、彼でもイタリアなどの特徴的な地形は解る。
「構わんよ」
そういうとオスマンは立ち上がり、近くの棚から巻物を取り出すとそれを机の上に広げた。
その古ぼけた地図はウォレヌス達が言ったように、アフリカにあたる部分が存在しない事を除けば確かにヨーロッパに似ていた。
少なくとも才人の目にはそう見えた。
例えば南の方にある長靴状の細長い半島はイタリアと瓜二つだし、その西にある、海を隔てた大きな半島は確かスペインだったはずだ。
そして北西にはイギリスに相当するであろう島が描かれている。ただ地面から浮いているように描画されているのが少し気になるが。
「やっぱり似てるんだな……」
軽いショックを受けて思わず才人はつぶやいた。
やはり、聞くのと実際に見るのでは話が違う。
そして才人は自分がヨーロッパで言えばどこにいるのかが気になった。
それが解った所でどうなるわけでもないが、それを知っていればここにもう少し親近感が出るような気がしたからだ。
「トリステインっていうのはどの辺りにあるんですか?」
「トリステインはここじゃ。この線がトリステインの国境線を表しておる」
オスマンがそう言って指差したのは地図の北西にある小さな国だった。
位置で言えば多分、こちらの世界のオランダやベルギーあたりになるだろう。
はっきり言って、南と東にある二つの隣国と比べると余りにも小さい。

「結構小さいんですね、トリステインって」
「うむ。トリステインはハルケギニアの三王国では一番小さいからの……それよりも一つはっきりさせたいんじゃが。さっき君は地図を“やっぱり似ている”と言った。君が元々ミスタ・ウォレヌス達の故郷について知らなければ出てこない台詞じゃ。実際にそうなのかね?」
「ああ、はい。名前くらいは。距離は凄く離れてますけど」
実際は距離だけでなく時間も相当に離れているが、才人はその事については言わなかった。
話がややこしくなるし、プッロ達の耳には入れたくない。
それに自分がプッロ達の2000年未来の世界から来たと言っても、昨日のルイズの様子を見る限りでは彼らに“未来から来た人間”という概念が理解できるかどうかも怪しい。
だがこの答えだけでも二人は困惑したようで、コルベールが顎に手を当てて不思議そうに呟いた。

「それはおかしい。実は昨日、逆の事をお二人に聞いたんだが、彼らは知らないと答えていたんだ」
「つまり彼らは君の世界を知らないが、君は彼らの世界を知っているという事じゃな。いったい何故なのか説明できるかの?」
才人は前にウォレヌス達に使った言い訳をそのまま繰り返す事にした。
それ以外にうまく説明できる嘘は思いつかない。
「俺の家は商人で、親が若い頃世界中を旅したんです。その時にローマの事を知ったそうです。俺が直接行った事があるわけじゃありません」
実際に行った事はないと答えたのは詳しく聞かれるとボロが出るかもしれないからだ。
それにローマに行った事がない、というのは嘘でもなんでもない。
才人はイタリアはおろか日本の外に出たことすら一度も無いのだから。
299鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:24:07 ID:aq3wJYxR
この説明で二人は納得したようだった。
「ふ〜む、なるほど」
「つまり日本とローマは遠く離れてはいるが陸で繋がっている、という事か」
「いえ、日本は島国です。正確に言えば繋がってるのは日本じゃなくてそのすぐ隣のアジア大陸です」
才人が訂正すると、オスマンが興味深そうに身を乗り出した。
「ワシとしてはその辺りの事を知りたいんじゃが、地理には詳しいのかね?もしそうならぜひ教えてほしい」
「う〜ん、どうなんでしょう。少しは解ると思いますけど」
才人は見栄からこう答えたが、本当は自信なんて無い。
世界地図を描けとか空白の世界地図に国名を書き込めとか言われたら完全にお手上げになる自信がある。

「ではまず聞きたいんじゃが、ニホンはどんな場所なんじゃ?」
さすがに彼にもそれ位は言える。
「え〜と、日本は今いったように島国です。四つの島で出来た列島で、一番北が北海道、その南に本州、四国、九州と続きます。そして九州のずっと南に沖縄って島があってそれも日本の一部です」
コルベールはいま才人が言った事を紙に書きとめると、口を開いた。
「島国……大きさはどれくらいなのかな?」
「小さくは無いですけど、そんなに大きいわけじゃないと思います。人は多いですけど」
「距離で言えばどれ位なのか解るかい?例えば歩いてどれほどかかるのか、など」
「はっきりとした事は解らないですけどたぶん北海道から九州までで一、二ヶ月くらいはかかるんじゃないですかね」
むかしテレビで見た、芸人が日本を徒歩で横断するという企画を思い出しながら才人は答えた。
「なら1000、2000リーグといった所か。そしてニホンのすぐ隣に大陸があって、そこがローマまで続いているとの事じゃが」
「はい。日本のすぐ西には中国っていう大きな国があって、その中国や他の国がある大陸がアジア大陸って呼ばれてます。多分そこはヨーロッパまで続いてるはずです。逆に日本の東の方には太平洋って言うでかい海が広がっていて、それをずっと東にいくとアメリカ大陸が――」
こういう風にして三人の間の応答は続いていき、才人は乏しい地理の知識を総動員してオスマン達の質問に答えていった。
言葉だけでは説明しにくい場合は地図まで書いた。ただその出来はかなり怪しい物だったが。
結局質問が終わるまで小一時間ほどかかった。一応、自分の知識がかなりあやふやである事は伝えたがそれでも二人は満足したようだった。

「そのアジア大陸とローマが繋がっているというのは面白い。ミスタ・ウォレヌスの言うヨーロッパ大陸がハルケギニア大陸に酷似している以上、東方のロバ・アル・カリイエもそちらのアジア大陸と似た地形なのかもしれん。もっとも確かめる術はないがの」
「なんですか?そのロバなんとかって」
思わず聞き返したが、その名前には聞き覚えがあった。確か、自分たちの故郷ではないかとオスマン達が疑っていた場所の筈だ。
「ロバ・アル・カリイエ。ハルケギニアの遥か東にある大陸の名前だよ。ただハルケギニアとの間には、人間と敵対するエルフ達が住む巨大な砂漠が広がってるから交流は殆どない。確かめる術が無いと言うのはそういう事だよ」
コルベールの解説で才人にも合点がいった。ハルケギニアがヨーロッパそっくりならそのずっと東にある大陸がアジアそっくりでもおかしな話ではない。
だとすればこの世界にも日本に相当する場所があるのかな、と才人は疑問に思った。
そしてもしあるとすればそれはどんな場所なのだろう、とも。
こんなファンタジー世界なんだから魔法を使う忍者やら侍やらがいるのかもしれない。

「しかし随分と博識だね、君は」
突如コルベールがそんな事を言い出した。
才人は一瞬耳を疑い、聞き間違いでない事が解ると仰天した。
「博識?おれが?とんでもない!」
自分のどこを取れば博識なんて言葉が出てくるのか検討もつかない。
むしろ、ここに来て以来自分の無知さを何度も思い知らされてるくらいだ。
だがコルベールは至ってまじめに言葉を続けた。
「普通、平民の少年なら自分の町や村の外については王と首都の名前ぐらいしか知らないのが当たり前だ。平民の、しかもその年の子供にしては君は多くの知識を持っている」
「そ、そうですか?」
そう言われても才人は納得出来なかった。
今描いた地図だって大半はうろ覚えで描いた物だ。
学校の成績やら偏差値は平凡その物だし、それだってテストが終われば学んだ事の多くは頭から消えてしまう。
どの分野でも“多くの知識”なんて持っているとはとても言い難い。
300鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:25:21 ID:aq3wJYxR
「それはワシも気になっておった。いったいどこでそういう事を学んだんだね?ご両親が家庭教師でも雇っていたのかね?」
また変な事を聞くんだな、と才人は思った。
そんな事は学校に決まっているじゃないか。
「全部学校で習った事ですけど……」
するとオスマンは困惑した表情で聞き返した。
「学校?いったい何を教える学校なんじゃね、そこは」
「何を教えるって、色々ですよ。国語とか、社会とか、歴史とか、数学とか……」
才人にとっては何でもない事だったがこれも二人を驚かせたようで、コルベールは感心したようにつぶやいた。
「ほう、それは随分と多岐に渡っているね。数学も習うとは……しかしなぜそんな学校に?商人の家業をつぐため、にしては必要の無い事まで習っているようだがね」
なぜ学校に行くのか。当たり前すぎて考えた事すらない質問だったため、答えるのに途惑った。
親が行けというから。行かないと将来が危なさそうだから。
理由はそれ位しか思い浮かばない。
今行ってる高校は進学校でもなんでもない普通の場所で、受験勉強も適当にしただけだ。

「なんでって……そりゃみんながいってるからですよ」
「みんなが?」
「ええ。義務教育は中学までだった筈ですけど、さすがに最低でも高校くらいは出てないと色々とまずいですし」
「義務教育、とはなんだね?」
才人が二人に日本では中学校までは義務で行かなければならない事を簡単に説明すると、二人はこの事に随分と驚く様子を見せた。
「子供が学校に行くのを法で義務付けるとは……考えた事も無い」
「興味深い試みではあります……しかしそんな事をする国が存在するとは驚きですな」
才人はなぜ二人がこうも感心を示しているのかが理解できない。
子供を学校に行かせるのがなぜそんなにおかしいのだろう。
そもそもこの建物からして、貴族専用とはいえ学校だ。
「あの……それってそんなにおかしな事なんですか?ここ自体、学校じゃないですか」
「確かにここは学校だがね、子供を学校に行かせなければならないなんて法は存在しない。それに我々にとって学校と言うのは貴族が魔法や礼節を学ぶ為の場所であって、平民が歴史とか数学を習う為の学校なんて物はハルケギニア中を探しても存在しないだろう」
これで才人はなぜ彼らが不思議がっていたのか理解できた。
要するにここの平民は学校に行かないのだ。
そういえばここで働いてる使用人やメイド達の多くは、シエスタを含めて日本や他の先進国なら学校に行っている年齢の筈だ。
だからこんな自分でも彼らから見れば「平民の子供なのに知識がある」という事になるのだろう。

そこでオスマンが名残惜しそうな声を上げた。
「む、もうこんな時間か。残念じゃが今日はこれでお終いにせねば」
オスマンは壁にかけられた時計を見ていた。
おそらくここに来て一時間半は経っている。
そろそろ授業が始まる時間だ。ルイズ達はとっくに部屋を出ている筈だ。
オスマン達も仕事をしなければいけないのだろう。
「付き合ってくれてありがとう才人君」
「いえ、これ位別にどうって事ないですよ」
「最後に一つ聞きたいのじゃが……学校に行ってたという事は君は読み書きが出来るんじゃね?」
なぜそんな事を?と疑問に思ったが、才人は正直に答えた。
「ええ、出来ますよ。ここの文字は無理だと思いますけど」
「解った。また呼ぶ事になるからその時はまた頼む。それと最後に一つ言っておくが――」
そう言うと、オスマンの目つきが突如鋭い物になった。
その目に見すくめられ、才人は一瞬金縛りにあうような感覚に襲われた。
301鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:26:09 ID:aq3wJYxR
「二度とあんな騒ぎは起こさんでくれよ。君自身の為にも、だ」
オスマンの声には有無を言わさぬ響きがあった。
「さ、騒ぎっていうと?」
それが何を意味してるのか半ば理解しつつも、才人は聞き返した。
「君がグラモン君と起こしたあの決闘ごっこの事じゃ。あまり脅すような事は言いたくないんじゃが、もし同じような事が起こればワシの立場としてはもっと厳しい措置を取らざるをえない。それを覚えていてくれたまえ」
オスマンから冗談を言っているような雰囲気は微塵も感じられない。
言うまでもなく才人は彼の言う“決闘ごっこ”をもう一度起こそうとしている。
だが当然そんな事が言えるわけがない。
厳しい措置というのが何なのかはっきりとは解らないが、歓迎すべき物ではないという事は容易に理解できた。
つとめて平静を装いながら頷くしかなかった。

才人は学院長室から退出すると、ルイズ達の所へ行くか、と歩き始めた。
だがすぐに後ろから「待ってくれ!忘れる所だった」と声が響いてきた。コルベールの声だ。
振り返るとコルベールが自分を追いかけてきている。
彼の両手にはなぜか紙切れとペンが握られていた。
「どうしたんですか?」
「君の左手のルーンだ。それを写させて欲しい」
「ルーン?この模様ですか?」
才人もこれが使い魔の証で、そして自分が彼らの言語を理解できるのもこれのおかげかもしれないという事は知っている。
だがその模様自体については特に考えた事はなかった。

「構いませんけど……なんでですか?」
「全ての使い魔はルーン文字を刻まれるんだ。人間の使い魔のルーンが果たしてどういう意味を持っているのか学院長も私も気になってね」
そういう事なら才人も少しは興味がある。なにせ自分自身の事だ。
「いいですよ」と答えて才人は左手を伸ばした。
それを見てコルベールは手早く紙にスケッチすると、それを見つめて唸った。
「ふむ……興味深いな」
「興味深い?」
「うむ。昨日、ミスタ・ウォレヌスとプッロのも写させて貰ったんだがね、これが実におかしくてね。ルーン文字の形をなしていないんだ……あんな物を見たのは始めてだよ。そして君のルーンも彼らのと同じくルーンになっていない。ただの意味不明な線の集まりだ」
そう言われて才人は自分のルーンを見つめた。確かにただの線の集まりにしか見えない。
子供の落書きのような物だ。もっとも、これが本当にルーン文字とやらでも才人には読めないのだが。
「それは……どういう事なんでしょうか」
「正直言って今はさっぱりだよ。でもこの事は調べてみるから、なにか解ったら教えるよ。ではまた会おう」
そういうとコルベールは去っていた。
この事は気になったが、本職の魔法使いがわからない事を自分が解る筈が無い。
その謎解きは彼に任せておこう。ヨーロッパとハルケギニアの地形が似ている事もそうだ。
ここがパラレルワールドだろうが異次元世界だろうが自分にはどうする事もできない。

だがこの会合はこれで終わりではない。
これから、少なくとも何回か呼ばれる事になる筈だ。
次は何を聞かれるんだろうか、と才人は思った。
“日本の政治体制について教えてくれ”なんて聞かれても自分には答えようが無い。
そう考えながら才人は帰路についた。
302鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/26(金) 21:27:20 ID:aq3wJYxR
以上です。
次話はほぼ100%出来ているので数日後にでも投下したいと思います。
303名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 21:44:02 ID:Kak7CIOl
久しぶりの投下に感激!

オスマンがまた決闘やったら只じゃ済まないよ?と釘を刺していたが
まあそう言うのは至極当然だな
304名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 21:58:18 ID:yllLvB2d
カブト召喚は考えてるんだけど、キャラが濃くて扱いにくいな
小ネタ連作になりそう
305名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:04:10 ID:uvSRAHmv
>>304
カブトボーグ召喚とな
306名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:12:12 ID:ym/AoCrW
鷲の人乙!
数日後の続きを楽しみにしてます。
307名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:14:11 ID:mARLcJmM
仮面ライダーと見せかけてカブタック呼んだらどうなるだろう
308名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:21:38 ID:t0FDAjtZ
ワルドが地獄兄弟の三男になる光景が、目に浮かぶようだ……
309名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:22:31 ID:2S71c1+2
>>290
昭和ライダーって自分や支援者がメンテしてんの?
てっきりメンテ不要かと思ってた
310名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:23:07 ID:ipITbrX3
フィリップがオカマに興味を持ち出したようです
311名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:24:17 ID:390467Pi
>>308
三男の座は既にぼっちゃまがとってるぜ
312名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:25:21 ID:nBrW558l
メンテの事なんて考えてたらメタルヒーローシリーズとか絶対できないな
313名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:27:32 ID:0dCbnAbh
昭和ライダーは自己修復能力が半端じゃないからメンテいらずなはず
必要だとしてスーパー1ぐらい
314名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:30:49 ID:2S71c1+2
フィリップ「くぁwせdrftgyふじこlp;」
ダバディ 「ギーシュ! ラインを下げるな! 上げろ上げろ!」
315名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:39:26 ID:SpIDu4f9
>>313
大丈夫、メンテできなくて変身不能でも赤心少林拳の使い手は素手で怪人倒せるから。
316名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:40:02 ID:+LTZ437E
音也を召喚すると
「フッ、出会った早々俺の魅力に目が眩む気持ちは良く解る。
 だがお前には俺の唇を奪うには早すぎる。何故なら、俺はお子様は趣味じゃないのだ」

チュドーン
317名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:44:30 ID:0dCbnAbh
対象年齢も合わせられるとか言ってなかったっけ?

>>315
玄海老師以外無理だろ
318名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:45:33 ID:IadxqTwZ
ブラックRXならメンテフリー
319名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:48:27 ID:ZNZ9xTGf
ライスピのZXは自己修復可能
ただ彼の場合、バダン打倒後と設定してないとルイズの傍にいない
あとシスコンなのでちぃ姉さまには弱い
320名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:50:43 ID:4vCTrylp
SPIRITS準拠のライダーマンなら自分でメンテできるぜ。
321名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:50:47 ID:LgAn1+4A
原作版だとロクなメンテ受けれなかったせいで中盤で本郷こと一号ライダー死亡だっけ?
322名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:54:09 ID:pv2rCLxv
>>313
真空でも一ヶ月以上活動可能
しかもゼロGゼロ気圧の宇宙空間から1000気圧の深海まで対応可能
内部には小型原子炉あり
ジュピタースーパー1号があればおそらくメンテもできると思う(チェックマシーンも自作だし)
323名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:55:15 ID:NZR5VAY7
今呼ばれてるのだとふがくがそんなフラグ立ってるな...
萌え戦はおちゃらけた上っ面でシリアスやるゲームだからなぁ...
324名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:55:53 ID:ZNZ9xTGf
>>320
メンテに使う道具や部品が入手できないと無理じゃね?
錬金で何とかなるかな?
325名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:57:01 ID:0dCbnAbh
>>319
ライスピのZXはメンテ受けてないせいで性能落ちてたような
326名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 22:59:32 ID:J1CnpGgX
>>321
敵ライダーにやられて、脳髄だけになって、一文字と一心同体となりつねにバックアップしてる

メンテなんて細かいこと気にすんなよ。ライダーは機械じゃないんだぞ
327名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:04:39 ID:SpIDu4f9
>>325
どれだけ衰えようと撃ち続けるのみ
328名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:05:57 ID:pv2rCLxv
>>326
機械入ってないのってアマゾンとブラックぐらいじゃね?
Xなんて大半が機械だろ
329名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:07:37 ID:wauPSG4F
>>326
割と機械の割合は多いと思うけど。人数的にも体の構造的にも。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:07:40 ID:0dCbnAbh
しかし回復力はXがずば抜けてたりする、かなり頑丈だし
331名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:13:29 ID:4vCTrylp
>>324
道具は、どうも複数ハンドの一つで行けるっぽい。
材料は練金だな。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:16:47 ID:4EdscQm1
スーパー1は科学の極みの存在なので魔法関係が一切通用し無いんだぜ
マジで
333名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:18:23 ID:pv2rCLxv
Jだったら精霊と仲良くできそうだな
334名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:18:56 ID:wauPSG4F
仮面ライダーにしては珍しくマトモな公共機関が造ったからな、スーパー1は。
335名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:27:10 ID:SpIDu4f9
スーパー1のラストバトルは閉じ込められて真空状態にされて死亡。
と思ったら、ひょっこり出てきて俺は宇宙開発用サイボーグだから体内に酸素ボンベ内蔵してるから平気だよ。
で、敵から奪った剣で滅多切りだったけ・・・・・・
336名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:28:31 ID:PSWVhbr8
流れをぶった切って、
鳥人戦隊ジェットマンから
ブラックコンドルこと結城凱を召喚。

ふとラディゲかトランザ召喚を考えてみたが、
奴らは「次元戦団バイラム」だから、もし召喚されても
すぐにバイロックが発見するだろうな。
ハルケ侵略に本腰を入れ始めたら、太刀打ちできなさそう。
337名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:33:29 ID:7khajcLs
DQNに刺されて終わった彼か
338名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:33:42 ID:2S71c1+2
白ワルドとルイズの結婚シーンで完結するのが目に浮かびますね
339名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:34:12 ID:pv2rCLxv
>>335
それよりひどいのがストロンガーだからなあ……
「なぜガスが効かなかった?!」
「そんなこと、俺が知るか」
340名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:34:22 ID:4vCTrylp
皆考えることは一緒かwwww
341名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:35:45 ID:TnF4rajw
ボウケンジャーからチーフこと、明石暁を召喚したら……
ちょっとした冒険とか言って、ふらっといなくなっていそうだw
342名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:42:50 ID:2S71c1+2
>>339
見たこと無いけど、確かにそうだよなw
相手のガスが効かなかった理由なんて知らねえよなw

>>340
>>336も本望だろうな
343名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:43:46 ID:3UXdAQCX
シャドームーンをサタンサーベルごと召喚したらというのを妄想したけど
「次期創世王に命令するな」
で終わってしまいそうであきらめた
344名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:45:02 ID:+LTZ437E
カクレンジャー一行を召喚したら楽しそうだな
効果音がアメコミ風になったり
345名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:45:18 ID:pv2rCLxv
>>343
埋葬された後ならいける、多分
346名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:46:22 ID:0dCbnAbh
>>336
トランザなら誰も探しに来ないんじゃね?
廃人になった後に召喚…しても意味無いか
347名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:53:48 ID:SpIDu4f9
>>343
脈絡も無く登場したWに一方的にフルボッコにされて学院にめり込み、その隙に契約でいける・・・・・・
あのシナリオ書いたやつはもう仕事やめたほうがいい。
348名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/26(金) 23:57:08 ID:In8uAWog
>>341
何故かエレオノールと二人で其処等辺掘り返しまくるチーフの姿ががが
ダンプだけなら良いけどボイジャー付きだとハルケギニアがピンチだ!(世界規模で掘り返される的な意味で)
349名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 00:05:02 ID:ydnIChh7
掘り返す → 風石発見 → なんだこry飛んだああああ!?

あれ? むしろハルケギニア救っちゃうんじゃね?
350名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 00:09:14 ID:KVITrm4J
DARKER THAN BLACKの黒が見てみたいかも。
他人には李さん、ルイズの前では黒、みたいな。
351名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 00:38:00 ID:v8s7wZfE
黒さんに関わったらみんな死んでしまう
352名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 00:51:06 ID:j//Lcoqa
アニメにもなった刀語で、刀を全く使えない七花がガンタールブになっても
刀は使えるの?と…
353名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 01:41:00 ID:OZduKV36
ワンピースからフロリアントライアングルで50年彷徨ってた頃のブルック召喚

ガンダールブのルーンで侍・リューマ並に強化されたブルック
紳士なのでルイズの相手もお手のもの

……でも帰還の方法がが思いつかん…
必ず帰んなくちゃいけないし……
354名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 01:44:07 ID:skMkYmvv
ダイレンジャーは生身、武装ともにハイスペックだぜ
355名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 03:35:49 ID:osM1mOay
シャイニングフォースEXAからトウマ召喚とか
うーんなんかルイズと喧嘩しまくりそうな
356名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 03:53:37 ID:WRvjVYWT
とーま、とーま、ボア・ハンコックを召喚して隷属の刻印(ルーン)を刻んでやりたいんだよ。
357名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 04:27:30 ID:i85Ub7mg
>>352
使える使えない以前に、ルーンが有ろうが無かろうが七花に「刀とかを使う」と言う
発想自体決して浮かばないと思うぞ。
ルーンの力に関しちゃ七花自身はおろか、最初の頃は周囲だって知らない訳だし。
ルーンの正体が判ったとしても使う事を拒否しそうだしな。
或いはルーンでも矯正不能だったりして。
ま、あいつはルーンなんざ無視して虚刀流使ってる方が似合ってるとは思う。

つまりどの道デルフは出番が無くて涙目、と。
デルフ自体は七花との掛けあいの相手としては中々面白そうだとは思うけど。
358名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 06:52:31 ID:QmOt8UQq
>>356
うるせぇてめーのダンジョン開始直後死亡率高くてやんなるんだよ!!

というわけで絶対ヒーローからの召喚とか
勢いで考えた・・・け・・・ど
田中に吹っ飛ばされたマケレンノジャーがゲートに突っ込んで
ハルケで特訓する安直なストーリーくらいしか浮かばない
もしくはルイズ逆召喚でピロ彦の後継者にされて〜とか
こっちだと姉妹スレ向きだが
359名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 07:48:55 ID:0BbHQ/Pa
ライダー本人ではなくバトルホッパーを召喚。
燃料補給いらず、破損修理いらず、意思持ち。
360名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 08:54:03 ID:NbWXClK2
>>227
なんてタイトル?
361名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 09:26:24 ID:m/uCGpZr
クレセントノイズのメンバーを召喚してみたい。

4大元素な世界で1人だけ光属性とか通じるものがあると思ったら
扱いの差がひどすぐる
362名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 10:01:23 ID:HK/EGCNL
以前、、頭かした話がwikiに登録されていなくて、投下したかどうかわからなくなった罠
こう言う時はもう一度投下しべきなのか
363名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 10:12:25 ID:I4jqquRJ
デュラハン召喚したのか>頭貸した話
wikiに過去ログ保管庫あるから見に行けば、と言おうとして確認したらいつの間にかなくなっとる
364名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 10:20:15 ID:HK/EGCNL
何という誤字
これは明らかに寝ぼけていた
365名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 12:16:42 ID:2IO3jKV+
シャイニングウィンドも異世界召喚ものだが、なかなか来ないな。
ブレスオブシリーズからならディースが適当かねえ、もっともVの登場シーンでやられると18禁ものだが
366名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 12:42:06 ID:EFfZmQvf
>>332
ライダー含めて機械系は錬金が天敵だと思うよ。
なので対抗策として固定化の魔法をかけてもらうのが王道だと思う。
モノによっては硬化で性能アップも期待できるよね。

一方で機械系で錬金に対抗できそうなのは
バルキリーのエネルギー変換装甲や機神兵団の超伝導装甲みたいに
エネルギーを装甲に流して分子構造を強化する系が有望かも。
367名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 12:55:27 ID:xnZT8o5j
>>366
貴金属は錬金しにくいみたいだし、鉄みたいな普通の金属で出来てるのでもないかぎり大丈夫じゃない?
368名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 12:58:36 ID:NomgQiF6
確かに錬金元の素材が未知だとちゃんとできない可能性はあるな
369名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 13:21:28 ID:DNomaCQw
いや、だからスーパー1は魔法が一切通用しないんだって
本編で魔法使う大幹部と戦った時に豪語してた
魔女参謀だか妖怪王女だったか忘れたが
370名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 13:43:57 ID:nJDnvRFO
>>368
チタンとか錬金効かなさそうだし、プラスチックの類いも効かないだろうな。
371名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 13:49:47 ID:z38H08C/
調合金Zはどうだろう。
372名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 13:59:38 ID:lwsuXjzs
仮面ライダーの皆さんはぶっちゃけ異常スペックチート集団ばっかだから、
設定議論するだけ無駄に近いと思う
呪文詠唱中に踏み込んでパンチ一発だろうし。
RXさんなんて、『その時不思議な事が……』
でどんなピンチも一発逆転だし。
373名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 14:32:19 ID:XC/DMh/2
>361
纏司側が他の使い魔として出るのか、普通に魅入りに来るのかが気になるな。
ジョゼフとかヴィットーリオとか、目を付けられる素質十分そうだしw
374名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 14:58:33 ID:Qt8RFHOd
>>372
さらにぶっちゃけると、クロス作家のさじ加減一つなんだよな。
せいぜい一方蹂躙でなく、両作品に敬意を示した面白いモノが現れることを望むだけだ。
375名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 14:59:39 ID:vx7ufMYt
そもそも仮面ライダーのあの外見で練金が効きそうなんて思いつけるのなんておらんだろ

そんなんやるのは日頃から相手の服に魔法かけて身動きとれなくするとかする某子供先生くらいだよ
376名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 15:46:48 ID:QmOt8UQq
ふと思い出したけど
無限のフロンティアEXCEEDで本当にヴァールシャインが復活したけど
ラスボスさんの話の展開的に別に問題なさそうでよかったよかった
377名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 16:12:10 ID:hzSivCHu
>375
普通にチャイルドマンが思い浮かんで、そんな事したっけと混乱した俺
378名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 16:27:34 ID:9OSORPUv
昭和系でメンテ要りそうにないのは
アマゾン・ブラック・RX・真・ZO(雷に打たれて6年稼働しなくてもOKだったし)・J
こんなとこか
379名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 16:30:15 ID:sUVHkgx8
どいつもこいつもメンテ無しで1年2年戦い続けてるからメンテとかいらんのでしょ
380名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 16:48:11 ID:W0iV3sY2
アギトのG3とかはメンテいるんじゃ?
381名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 16:50:31 ID:CwILZZod
>>374
現在投稿させてもらってる身としては、両方を同時に生かすのって難しいのよね
結局野球の攻守のように交代交代でやるのに落ち着く
382名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 17:05:25 ID:ZKZyBoEz
北斗無双の動画を某所で見ていたら、別にトキでもアルビオン7万を相手に出来るんじゃないかと思った。
マミヤでもジャギでもいいが
383名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 17:47:24 ID:27Sqs5MS
トキは普通にクソルビームで一掃できると思う
384名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 17:49:29 ID:wE4va6fL
テーレッテー
385 ◆dCgZEJGdGE :2010/03/27(土) 18:12:57 ID:YvpKUPPq
それちゃうちゃううどんだから!
386 ◆dCgZEJGdGE :2010/03/27(土) 18:14:22 ID:YvpKUPPq
すまん! 誤爆だ!
387名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 19:03:05 ID:yTqnUp84
ギルティギアやってるやつだけど本当にクソルは有名になったよね
388名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 19:54:40 ID:nx9xeTFF
射撃は苦手なんだがな・・・四の五の言ってられん
389名無しさん@お腹いっぱい:2010/03/27(土) 20:10:43 ID:MQo1uUIl
うみねこキャラでルイズに召喚されるとしたら誰だろうか?
うっかり魔女召喚したら初回エンドになるしなぁ……、無難なトコで楼座?
390名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:30:41 ID:+bqc2sSA
『ミナミの帝王』から萬田銀次郎を召喚。
トリステインでも高利貸をやりそう。
武器屋の件では店主を相当へこませるだろうな。

『白竜』から白川竜也とかも。
391名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:35:02 ID:iSLze280
白龍なら親父や組の連中がいる世界に帰ることをまず優先するだろ
ルイズが使い魔になれと言ったその場で半殺しにして上下関係体に叩き込むぐらいはしそうだ

あとあの作者の絵のルイズは萌えないのは確実だw
392名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:38:31 ID:NXTfY4aQ
スレイヤーズからリナインバースを召喚。


……無理だ。
戦国時代に反復使用可能な歩く原爆が現れるようなもので、話がつながらない。
393名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:39:22 ID:pgdxIySd
無一文人脈無しで金貸しなんざ無理だし
公爵令嬢半殺しとか速攻処刑されるな
394名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:55:51 ID:rH4+cObS
経済的な意味でのっとるのは面白そうだけど
どうやってもルイズさんの物語にならない
395名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:58:31 ID:iSLze280
というかこの世界の経済機構がどういう仕組みなのかわからんし
396名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 20:59:11 ID:z53cxMY5
あの作品のキャラがルイズに召喚されましただから、召喚さえされてしまえば必ずしもルイズの物語にする必要もないと思うが。
397名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:06:59 ID:+bqc2sSA
銀次郎「ワシは・・・この世界の人間やないんやああああーーーーっ!!」
ルイズ「な、何ですってえええええーーーーっ!!?」
次回に続く

みたいなのを想像した。
自分ではこんなもんが限界だorz
398名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:11:54 ID:OeqzSAWb
>>396
>あの作品のキャラがルイズに召喚されましただから、召喚さえされてしまえば必ずしもルイズの物語にする必要もないと思うが。
一方的!レイプ!帰れ!って言われるからダメ
399名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:14:08 ID:+fOKx1iG
未熟な経済機構に近代的な金融市場を打ち立てる物語ですね
400名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:24:25 ID:iLer9sXP
>>392
異世界だし漫画の水竜王の時みたいに制約付ければなんとかいけるんでね?
401名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:24:39 ID:iL90yO0y
ギーシュやモンモランシーの実家は経営が苦しいという。
そこら辺で金融系のキャラを入れたら面白くなるかもしれないけれど、書き手の技量が要求されそうだな。
402名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:32:52 ID:mQQkGXxP
島耕作でも召喚すればいいんじゃねえの
403名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:34:19 ID:Qt8RFHOd
>>402
赤土先生やフーケを落とせと?
404名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:35:23 ID:aJpWgSCV
金融系……オーフェンだな
405名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:35:29 ID:nx9xeTFF
両さんを召喚してインチキ商売に手を出し家族からも勘当される
スーパー貧乏になるギャグなら見たい
406名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:40:47 ID:phFhVUob
>>402
あんなおっさん向けエロゲ主人公召喚したら大変なことになるぞ…もちろん性的な意味で
407名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:45:20 ID:c9/T0Rp1
>>382
『北斗の拳』のトキはケンシロウとユリアを庇って被爆したせいで、
「体が持たないから」という理由で旅にも出れなかった程、持久戦には全く向いてない。
7万も居たらまず間違いなく体力が持たない。

『北斗無双』のトキは『謎の秘孔によって病を克服した』という驚きのifストーリーを一部のモードで採用してるんで、
この状態なら可能性はある。俗に言う健康トキという妄想話を実現したオマケモード。

ちなみに『アーケード版北斗の拳』に出没するジョインジョイントキィは、
「実は健康」なんて設定は一切ないにも関わらず鬼神のごとき強さを誇ってゲームバランスを崩壊させてたw
408名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:47:55 ID:phFhVUob
アーケード版北斗の拳は格げーではなくバスケゲー
409名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:48:43 ID:UZU4FSDE
AC北斗のトキは刹活孔と言い張って激振孔を使う強化アミバ
410名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 21:49:27 ID:pp9VTz2A
>406
ただし、ルイズを除いて。
411名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 22:00:18 ID:CwILZZod
ギーシュがなんて素敵にジャパネスクの守弥を召喚したら……と思ったけど、
あいつ家令だったな。地方の経営とか無理だ
412名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 22:14:15 ID:F9mc3jXv
経済系のキャラを活躍させるには、召喚時点のトリステインが詰み過ぎてるのがなぁ
413名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 22:14:34 ID:btGqHKmZ
>>397
師匠「ワシはこの星の人間ではない!」
ナ、ナンダッテーーー!? な新スパ思い出した

まあ其処等辺は置いといて
ロボ系談義で思ったんだがセイバーマリオネットJから小樽家一向と美剣召喚とか面白そうだと思う
一発ネタかもしれんがギーシュとのワルキューレと戦闘以外で優劣競ってみたりとかさ
414名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 22:38:27 ID:z53cxMY5
>>413
地球に侵略に来る異星人に太刀打ちできないだろうからDGを使おう。
なんかドモン達、めっちゃ強いな。これなら大丈夫かもしれない。
じゃあ後は任せるという超展開をやった師匠か・・・・・・
因みにSRXやズフィルードとかが初登場したのがこれだったな。
隠しステージはゴステロを核にしたDGだったけ。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/27(土) 23:56:57 ID:+fOKx1iG
>>402
使い魔 島耕作ですね
416名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:17:20 ID:36axXSlR
そいえば前スレでアカツキ電光戦記ネタが出てたが
ルイズがアカツキ呼んで髭と教皇がげんしんじん(笑)かミュカレか隊長辺りとして
テファは誰呼べばいいのか?戦車か?
417名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:20:44 ID:JzjnVHuB
>>415
クソッ、ゼロ魔のヒロイン達が
あのヤリチンオヤジにコマされるのが想像出来てしまうw
シエスタ辺りとの間に出来た子供は都合よく事故死するんだろうな
418名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:20:57 ID:Czk0DGCw
ルイズ「立てーーーーーっ!ミカヅキーーーっ!!」
419名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:23:15 ID:AQ55jSsP
>>417
やあ、さすがにあのカンチガイ親父も未成年には手出さないだろ。
むしろエレ姉とかがナデポされかねないw
420名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:25:28 ID:xv9Ufs8k
あの男ならシュヴルーズ先生にすら手を出しそうだから困る。
421名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:29:24 ID:NaT9rctM
いやあの親父が未成年に手を出さないのはあくまで社会倫理を守ってるからであって
つまりそんな物が存在しないハルキゲニアでは(r
422名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:53:28 ID:c2dnK7f7
>>416
同人ゲームってネタにしていいの?
423名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 00:59:46 ID:hNDcGqWF
>>422
いやもうアケ展開してるから
424名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 01:01:04 ID:LFxfaVp1
ヒーロークロスラインから誰か召喚出来ないかな
ジエンドとかレイズマン・ゼロなら普通に出来そうな気はするが・・・。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 01:15:25 ID:M9yHavdi
未来知識持ったスーパーオリ主に転生憑依を商業誌でやったキャプテンオーマイガーが適任かと
426名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 02:12:45 ID:+6lR3aRd
映画だけど「戦国自衛隊1549」から
第三特別実験中隊を召喚したってのはどうかな?

戦車だけじゃなく地対艦誘導弾やMLRSもあるから
ハルケギニアの戦争を根本から覆すだけじゃなく
ハルケギニアがある世界をまるごと変えるって事がおきそうだな
427名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 02:37:23 ID:8LI0sSIu
>>426
中隊全員と契約ってそれもまた面白い画になるな
428名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 02:45:12 ID:gA18jB9W
それは戦国自衛隊全般の元々のテーマと大差ないから舞台が変わるだけになる
429名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 03:04:11 ID:hNDcGqWF
>>426
そのネタは消耗戦仕掛けられて武器弾薬消耗しきって全滅オチがお約束?
430名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 03:35:07 ID:EhXiVQ5v
>>424
ギャラさんとかどうよ
あの人は地味に凄い能力持ってるし、ルイズとのコンビってのも面白そう
あとは「シンソウガクシャ」の硬とか
ブースターのメンテ云々は作中でやってたようにKIAIでやってもらうとか
硬単体でもガンダ補正かかればサイト以上に活躍できそう
しかし、HXLキャラが召喚された場合、
やっぱりミョズはシュライク辺りがベターかね?
まあ無理に各使い魔に当てはめる必要も無いわけだが
431名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 06:27:01 ID:FQCChr80
マンダ召喚ならだいぶ前に見たけどな。なぜか消えてる
ルイズと一緒に金貸しやってた
432名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 06:29:10 ID:zrsZBZu5
死んだはずの初代キャプテンアメリカがハルケギニアの地に!!
433名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 08:10:38 ID:AQ55jSsP
>>432
・しかし偽者だった
・しかしクローンだった
・しかし並行宇宙の同一人物だった
・しかしヴィランの変装だった
・しかし別人の変装だった

アメコミだと普通に超展開があるから困るw
434名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 09:46:03 ID:SwITIIkz
超展開でキン肉マンに勝てるものは無い。
435名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 10:09:26 ID:0FSTHpkn
>>426
似たような話ならすでにある。
地球との定期便ができて、生産設備も設置。鉄道や船便も拡充してロジスティクスに革命が起こり……
って、どこかの国の歴史みたいな話。
436名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 10:19:18 ID:A38oQenY
>>435
そういや自衛隊だけじゃなくて火葬物から物やってきてトリスタニア大発展とかあったなあ
437名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 11:29:15 ID:40zj5WZ6
力を持ちすぎたもの・・・
秩序を乱すもの・・・
ハルケギニアには・・・不要だ
438名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 11:32:57 ID:EOUXYxXu
ランカーACを確認。 ナインボールです

干<梃子摺っているようだな… 尻を貸そう
439名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 11:37:17 ID:YKFnEM+D
>>426
「1549」だと「敵を殺せない」という縛りがあるから
かなり過酷でハードで・・・・・・無意味な戦いになりそうだ
440名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 11:37:29 ID:zrsZBZu5
木こりになった直後のトルフィンを召喚してギーシュ戦で華麗に復活
この場合だとギーシュが死んじゃうか
441名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 11:51:14 ID:X/Dt1JES
あの自棄っぱち状態じゃ、ギーシュみたいな「力を持った素人」相手だとそのまんま殺されそうな予感
タバサとかコルベールとかワの人は絡みにくいかなぁ
442名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 12:10:43 ID:+6lR3aRd
>>439 それは後から第三特別実験中隊を止めるべく
やってきたロメオ隊に課せられた縛りだからな

ハルケギニアを変えようと心に誓った的場一佐が
7万人のアルビオン軍との戦いでAH-1Sや90式戦車
MLRSですぐにアルビオン軍を残滅させそうだな
443名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 12:21:35 ID:wqK1NHk/
でも物量の差で負けるんだな
つうかそうでなくては戦国自衛隊では無い
444名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 12:37:59 ID:YKFnEM+D
>>442
をうっ そういえばそうでした
あとは弾薬が足りなくなる前に強固な足場を固められれば……

>>443
物量というより「世界の修正力」
考えてみると勝手に呼び込んでおいて用が済んだらさっさと死なす修正力ってヒデェな
気に入らん形に進化したらあっさり滅ぼすゲッター線なみに酷い
445名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 13:11:09 ID:b7sGv+DB
七星闘神ガイファードからデスファードこと風間将人召喚。

本編に再登場するまでなにやってたんだか不明なんで、その間ハルケで
過ごしてたとか。時間系列めちゃくちゃになりそうだけど。

んで、ファラーに寄生されてるもんだから、本人の分と合わせてルーンが
2つとか。
446名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 13:20:14 ID:EjVbqCwr
>>395 というかこの世界の経済機構がどういう仕組みなのかわからんし

金銭の貸し借りで超名家を見下せる公爵家(属国)の存在
(金融があるらしい。それを元に権力を握ることも可能らしい)
新聞の発行が数十年前にすでにある
(それだけの識字率と購買力を持つ階層が大量に居て、大量印刷技術と大量製紙技術がある)
その時点で新聞による世論操作がすでに実用化されている。
相場の変動がある(硫黄など)
値切っての購入は一般的らしい。

…概要を示すような記述はさっぱりですね、確かに。
447名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 14:29:31 ID:amOCsP4P
>>392
そんなあなたにオススメのスレが……
スレイヤーズのキャラがルイズに召喚されました Part.2
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1266183425/l50
ドーン!!!
448名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 14:35:17 ID:aiimtKkP
ウルトラの人が来る前に! つまりは前座です。
五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔第7話を40分から投下します。
449五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:40:06 ID:aiimtKkP
  第7夜
  土くれのフーケ


 ルイズとマルモはしばらく森の中や湖のほとりを歩いてみたのだが、相変わらずモンスターとは遭遇しなかった。
キュルケの要請とルイズの体力、そして時間の都合もあって今日は打ち止めになり、マルモの旅の扉で学院に戻ることになった。
「気を落とさないで、マルモ。明日またやりましょう」
「…………」
 学院に帰還したルイズたちは寮の自室に帰ることにした。時刻は夕食前である。
 部屋に入ると、マルモは氷呪文ヒャドと熱呪文ギラで湯を器に張り、クローゼットからタオルを取り出して湯に浸すと、
軽く絞ってルイズに差し出した。
「身体を拭いて」
 ルイズは意味を少し取り違えた。
 わたしがマルモの身体を?
 マルモは『ルイズがルイズの身体を』という意味で言ったのだが、思春期なご主人様は妄想を広げていく。
 お風呂場で互いの身体を洗いっこする。もちろんタオルなどを使わず素手で。全裸で。二人っきりで。全身隈なく。
耳から首筋から脇の窪みからへそから膝の裏からそりゃまあ隅々まで。指の間も忘れずに。
 お互い身体を擦り合わせるのもいいけれど、一方的なのもいい。
使い魔の衛生管理もご主人様の義務。ご主人様の身体を洗うのも使い魔の義務。
「ご主人様の身体を洗いなさい」
 そう言ってマルモを――。
「わかった」
「え?」
 そう言うなり、マルモはルイズの服を脱がせにかかる。マントを外し、タイをほどいてボタンに手をかけたとき、
ルイズは正気に戻った。
 どうやら妄想で言った命令を現実でも口にしていたらしい。
 ルイズは顔を赤らめるが、今更訂正するのももったいないのでされるがままである。
同性だし、使い魔だし、恥ずかしがる必要はない。のであるが、やっぱり恥ずかしいしまだ心の準備が云々。
「ひゃぅ」
 などと思っていると、いつの間にかシャツを脱がされて肩にタオルが当てられていた。
そのまま指先に向かって何度もタオルを滑らせる。自分で拭くのとはまた別の気持ちよさが心地よく、ルイズは身を委ねた。
 続いて脇、横腹、背中と断続的に拭いていき、そのたびにルイズは声を上げそうになる。
 マルモは一旦拭くのを止め、湯を交換することにした。窓の外にヒャドで凍らした湯を捨てる。
 その間にルイズは息を整えていた。そして火照る体を鎮めようとする。だが、逆にルイズの身体はさらに敏感になっていく。
 マルモは新たに湯を用意して作業に戻った。今度は鎖骨に沿ってタオルを当てる。
「あっ」
「熱い?」
「ち、ちがわよ。そうじゃないの」
 気持ちよくて声を上げました、なんて言えるはずもなくルイズはそのまま続けさせた。
 さっきよりも強い快楽の波に耐えながら、ルイズは胸、腹と拭かせていく。マルモの余裕のある態度がさらに羞恥を加速させた。
 そしてマルモがレースの小さな下着に手をかけたとき。
「だ、駄目よマルモ!!」
 ルイズはマルモの手を押さえた。
「そこまではしなくていいから、ね?!」
「わかった」
 あっさりと手を引くマルモにほっとするが、ちょっと後悔もしているルイズである。
 強引にやられていたら、きっと本気で止めようとはしなかった。そんな自分に嫌気が差す。
 悶々としながらも服を着ていくルイズであった。
450五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:41:16 ID:aiimtKkP

 夕食後。マルモとルイズは、ヴェストリの広場にいた。ギーシュの修行のため、彼を待っている最中である。
「お待たせいたしまして申し訳ありません、ミス・マルモ」
 しばらくしてギーシュがやって来た。相変わらずフリルシャツというふざけた格好だが、その態度は普段より真面目である。
本人は美しいと思って着ているようだが。
 ちなみにギーシュはまだ本命のモンモランシーと縒りを戻してはいない。心身ともに鍛えた後、愛をささやくつもりである。
「ギーシュ、そっちが頼んだんだからあんたが先にくるのが筋ってもんでしょ」
 マルモとの時間がギーシュに使われるのが面白くないルイズは、ギーシュには当たりがきつい。
「僕の使い魔が少々腹を空かせていてね、それで心配だったんだ」
「あんたの使い魔?」
「そうさ」
 ギーシュが足で地面を叩くと、ギーシュの横の地面が盛り上がり、茶色の大きな生き物が顔を出した。
 ギーシュは素早く膝をついてその生き物に頬をすり寄せる。
「ヴェルダンデ! ああ! 僕の可愛いヴェルダンデ!」
 モグモグ、とその生き物は鳴いた。
「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
 小さいクマほどの大きさのそれは巨大モグラである。
「そうだ。ああ、ヴェルダンデ、君はいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。どばどばミミズはおいしかったかい?」
 モグモグモグ、とヴェルダンデは嬉しそうに鼻をひくつかせる。
 ルイズは巨大モグラと戯れる少年の図にちょっと身を引いてしまったが、魔物使いのマルモはヴェルダンデの『言葉』の内容が
理解できるので微笑ましいと感じている。
「それじゃヴェルダンデ、いい子で待ってるんだよ」
 モグ、とヴェルダンデは地中に潜った。行き先は知らない。
「それではミス・マルモ。何なりとおっしゃってください。
どんな修行であるともこのギーシュ・ド・グラモン、必ずや成し遂げてみせます」
 マルモの方に向き直ったギーシュはやる気に満ちている。
「修行をする前に、ギーシュ。あなたの目標を聞きたい」
「僕の目標?」
 マルモは頷く。
「どのレベルまで強くなりたい?」
 そう言われてギーシュは悩む。強くなりたいとは思うが、さすがに今の段階で魔法衛士隊クラスまでとはいかない。
そもそも強さは突き詰められないものであるからして、ただ漠然と強くなりたいギーシュにとっては難しい問題である。
「そうですね……。少なくとも、一人の女性は守れるくらいは」
 このときギーシュの頭に浮かんだのはモンモランシーの顔だった。
「あなたがどういう敵を想定しているのかによる」
「うっ」
 マルモに問題点を突かれて唸るギーシュ。もっともな言葉である。
 ちなみにマルモは『魔王』を討つための修行をしていたので、ハルケギニアでは想定もしない強い敵を想定していた。
「つ、土くれのフーケを、追い払えるくらいにはなりたいです!」
 ギーシュは咄嗟に思い浮かんだ名前を言った。
「土くれのフーケ?」
 マルモは首をかしげた。
「ご存知ありませんか?」
「マルモは東方からやって来たのよ、トリステインのことはまだあまり知らないの」
 すかさずサポートをするルイズ。
「そうでしたか。では、ご説明いたします」
 ギーシュは土くれのフーケについて語った。
 神出鬼没の大怪盗であり、年齢性別は不明。その実力は三十メイルものゴーレムを作り出し、集まる魔法衛士を蹴散らすほど。
おそらくは『土』のトライアングルメイジ。狙う獲物は主にマジックアイテム。
 説明してから、ギーシュは後悔していた。魔法衛士でも倒せないフーケが目標となると、修行の厳しさが知れてくる。
 貴族として男として二言はないギーシュであるが、さすがに撤回しようかと思った。
451五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:42:16 ID:aiimtKkP
「わかった。まずはギーシュの実力を測る」
「僕の実力ですか?」
 淡々と進めるマルモに肩を落とすギーシュ。それを無視してマルモは杖を振る。
「モシャス」
「うわっ?!」
 ギーシュの目の前でマルモが煙に包まれると、驚いてギーシュは飛び退った。ルイズはその光景に既視感を覚える。
 やがて煙が晴れると、ギーシュの目の前にギーシュが立っていた。
「こ、これは?!」
「これは変身呪文モシャス。姿も能力もそのまま変身できる」
 ルイズにしたのと同じ説明をして、マルモはギーシュが使える魔法を調べる。
 土系統の『クリエイト・ゴーレム』『錬金』に加えてドットスペルがいくつかとコモンスペルも。
 精神力は多いのか少ないのか、基準がわからないので判断できないが、ルイズよりは確実に少ない。
 マルモはモシャスを解除し、元の姿に戻る。
「大体のことはわかった。修行の内容も決まった」
「はっ、はい! なんなりと!」
「私と戦う」
「……は」
 マルモの言葉にギーシュは呆然とする。
 僕が戦う? ミス・マルモと? なぜ? どうやって?
「マルモ! ギーシュが死んじゃうわよ! さすがに殺しちゃ駄目!」
「まだ全力は出さない。最初のうちはギーシュのレベルに合わせる」
 最初のうちは、ってことはいつかは全力ってことですか? 僕死亡ですか?
「そういえば、マルモの全力ってどれくらいなの?」
 ルイズが尋ねると、マルモは少し困ったように見えた。もっともそれはルイズだけだが。
「……最強の攻撃呪文一つで、ルイズが教室を爆発させたときの数倍」
 ルイズとギーシュは冷や汗を垂らした。あの錬金の授業で負傷流血した人数はおよそ十人。それの数倍となると……。
 ルイズは、マルモを己の母親と姿を重ねた。数々の武功を打ち立て、国士無双と謳われたトリステイン最強の騎士。
マルモはそれに匹敵するかもしれない。
「とにかく今はギーシュの修行を続ける」
 その言葉にギーシュは現実に戻った。
「……一体僕はどうすれば?」
「まずは戦闘に慣れてほしい」
「つまり……戦い続けるってことですか?」
 マルモは何の躊躇もなく頷いた。
「私は最小限の攻撃呪文しか使わない。多少の怪我も私の呪文で治すから安心して」
「し、承知しました!」
「危ないからルイズは離れて」
「ん、わかったわ」
 マルモとギーシュは十メイルほど距離をとり、ルイズは横から観戦する形になった。ちょうど、決闘したときと似ている。
「いつでもいい」
 マルモがそう言うなりギーシュは杖を素早くマルモの足元に向けた。マルモが飛び退くと、
今まで立っていた場所に地面から腕が生える。『土』のドットスペル『アース・ハンド』だ。
「拘束の呪文は搦め手で使った方がいい」
 マルモは火の玉を土の手に飛ばしてぼろぼろにした。
 続けてギーシュは青銅のワルキューレ三体を生成する。それぞれの手には長槍が握られていた。
「行け! ワルキューレ!」
 三方向から槍を手にワルキューレが迫る。現在のマルモとワルキューレとの距離はおよそ五メイル。
 攻撃するゴーレムは同時に術者の盾となり得る。ギーシュも距離を詰めようとしていた。
 その矢先。
「ヒャド」
 マルモから見て右のワルキューレに杖を向けた。ワルキューレの両膝が氷結し、その一体が転倒する。
 弱い氷系呪文はゴーレムにあまり有効ではないが、足止め程度ならできる。
 すかさずマルモは右に跳び出し『メラ』を唱えてギーシュに火の玉を飛ばす。
ギーシュは慌ててもう一体ワルキューレを目の前に作り出して防いだが、その間は他のワルキューレの動きが止まった。
 その隙にマルモは肉薄し――跳躍した。
「なっ」
 その高さはワルキューレの間合いではない。数メイルの高さならマルモは脚力と魔力で造作もなく飛び上がることができる。
 驚いて硬直したギーシュに呪文を唱えるまでもなく、マルモは勢いに任せて杖先をギーシュに叩きつけた。
 勝敗は決した。
452名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 14:42:43 ID:xv9Ufs8k
百合百合支援
453五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:43:36 ID:aiimtKkP

 マルモは一旦休憩を取ることにし、コブのできたギーシュの頭に回復呪文の初歩であるホイミをかける。
 ルイズも二人の傍に寄ってきた。
「まさか本当に最小限の攻撃呪文で勝っちゃうなんてね」
 マルモの勝利を微塵も疑っていなかったルイズではあるが、たった三つの初級の攻撃呪文、
しかも一つはアース・ハンドを処理するするためだけに使われたのを目の当たりにして驚きを隠せなかった。
「ああ……自信を失くすよ」
 マルモに負けたのは二度目であるが、今回は呪文の火力によるものではなく、その運用で敗れた。特別な使い方もなく、
止めは呪文すら使われずに。
 完敗だった。
 ギーシュは敗北の理由を考える。
 経験の差、地力の差、戦いに対する態度、心胆、心根――。挙げようと思えばいくらでも挙げられる。
 それらを踏まえた上で、自分はどうすべきか。どうしたいのか。
「ギーシュ」
 ギーシュが悩んでいると、マルモが口を開いた。
「……なんですか?」
「あなたは筋がいい、光るものを持っている。けれど、今のレベルではそのことには気付けない。
だからあなた自身が磨くのは難しい」
「……はあ」
「だから、今は慣れるだけでいい。戦いの空気の中でわかることもある。経験を積んでいけば自ずと戦い方が身に付く」
「…………そうですか」
「……私の言うことは信用できない?」
「そ、そんなことはありません!」
 ギーシュは身を乗り出して言った。マルモは表情を変えずにギーシュの目を覗き込む。
「……今日の修行はここまで。明日までに今日の内容をよく考えてほしい」
「……わかりました」
 マルモとルイズは女子寮へ、ギーシュは男子寮へと帰っていく。夜も更け、既に入浴の始まっている時間だ。
 部屋に戻ったルイズは、やや不機嫌気味だった。
 確かにギーシュの修行の許可は出した。だが、だからといってあそこまで構う必要があるのかどうか。
 また、マルモの師としての一面を引き出したのがギーシュというのも気に食わない。マルモの一番弟子はわたしなのに。
「……なんであんなこと言ったのよ」
「ルイズ?」
 キッ、と鳶色の瞳がマルモを見据える。
「あんなに長々と、親身になって言う必要なかったんじゃないの?」
「……駄目だった?」
「へ?」
 しょんぼりしたようにマルモが呟いたので、ルイズは拍子抜けしてしまった。
「私の師の言葉」
「私の……って、マルモの師匠ってこと?」
 弱弱しくマルモは頷く。
 実はギーシュにかけた言葉は、もう一人の弟子、つまりマルモの弟弟子(女だから妹弟子?)に対してかけた言葉をほぼそのまま
使ってみただけである。実際にその後は世界を救ったりしているので、当たっていたりするのだが。
 ルイズはにんまりと笑う。
 あれは心からの言葉じゃなかったのね、とルイズは独り合点して頷いた。
 それよりも今は捨てられた小動物のようなものをマルモに感じる。
 普段(とはいっても召喚からまだ二夜目である)とのギャップも相まって、ルイズの色んな所がきゅんきゅんした。
454五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:44:40 ID:aiimtKkP
「よしよし」
 気付いたらルイズはマルモを抱きしめて頭をなでていた。
 やってから、しまった、と思うルイズだが、マルモがされるがままになっているので行為を続ける。
 これで髪をほどいていたらさらさらの感触が味わえるんだろうなあ、でも要求して拒絶されたら嫌だしそもそも今の時点で云々。
 なんかマルモも拒絶してないしこれって最後までいけちゃう云々。
 というかそろそろ理性が云々。
「ルイズ……?」
「あっ、いや、マルモ、なんでもないからね?!」
 ルイズは慌ててマルモから離れる。感情の昂ぶりを察知したマルモはルイズのことを心配したのだが、ルイズは後ろめたさから
曖昧に笑うだけだ。
「大丈夫?」
「だだだだだ大丈夫よ! こう見えてもわたし落ち着きのある方なんだから!!」
 言った本人も無理があると思う言葉をマルモが信じるはずもないが、他人の感情には敏感なマルモはあえて言及せずにおいた。
 ちなみにマルモはルイズが自分を襲おうとしたことにはこれっぽっちも気付いていない。そこだけはブリミルの慈悲である。
「そろそろお風呂」
「え? あ、うん、そうね! そろそろ行かないとまずいわよね!」
 二人して強引に話題を逸らし、なんとか収集をつけた。
 ルイズは殊更早く入浴の準備を整えると、マルモを連れて女子の浴場へと向う。
 もちろん夕食前の妄想を実行する勇気はさしものルイズもなかった。


「お風呂に入ったけど余計に疲れた気がするわ……」
 風呂から出た後、ルイズは溜息を吐いた。
 ルイズたちが入った頃には既に人もまばらであり、せいぜい十人程度しかいなかった。
トリステイン魔法学院の浴場は男女別に全校生徒が入れる程巨大なので、ピークになると五十人以上が一つの浴場に入るのである。
 マルモは貴族ではないが、ルイズが無理やり入れたのである。魔法使えるんだから勝手に貴族と思われているわよ、との弁だ。
 ルイズはずっとマルモの横にいたのだが、全く隠そうとしないマルモにタオルを巻いたりした。
 マルモの肌を流れる湯滴を眺めたりした。
 マルモが髪をかき上げたときに見えたうなじに興奮したりした。
 つまりはフラストレーションが溜まっているのである。タオルを巻く際に中途半端に触ってしまったのも心残りだ。
 そんなルイズにマルモが構おうとすると逆効果になるので、マルモは手を出せないでいる。
「ちょっと夜風に当たりたいわね……」
 身体が必要以上に火照ったルイズは中庭に歩いていった。当然マルモも付いていく。
 二つの月が照らす中庭は充分視界が明けている。ルイズは中庭にいる先客に気付いた。
「キュルケに、タバサ?」
「あら、ルイズじゃない」
 空に浮かぶ二つの月のような、赤い髪と青い髪が揺れていた。二人の傍らには使い魔の風竜と火トカゲが付き添っている。
「あんたたちも夜風に当たりに来たの?」
「そんなところね」
 家同士仲の悪いルイズとキュルケだが、普段から悪口を言い合う程仲良しである。
 二人が会話を進めていくのを尻目に、タバサはマルモの顔をじっと見ていた。マルモは気付いてはいるが、
話すこともないので受け流している。風竜シルフィードと火トカゲのサラマンダーもきゅいきゅいきゅるきゅると会話している。
“昼間頑張ったんだからお肉のボーナスがあってもいい”とか“主人の無事が一番”とか。この場で『言葉』がわかる人間は
マルモだけである。
「それじゃマルモ、部屋に帰るわよ」
「タバサ、あたしたちも行きましょう」
 ちょうど良い具合に身体も冷めたようで、もう中庭に用がなくなった。
 マルモとタバサがそれぞれ頷き、寮に戻ろうとしたその時。
 巨大な『人影』が月の光を遮った。
455五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:46:08 ID:aiimtKkP
「な、なによあれ?!」
「ゴーレム?!」
 本塔の脇に、高さ三十メイルはあろうかというゴーレムが立っていた。日常では見かけられない、圧倒的な巨躯。
 その巨人が、拳を塔の壁にぶつけていた。
 そしてそのゴーレムの肩に乗るは、トリステインに悪名高い大泥棒、土くれのフーケ。黒いローブを目深に被り、
顔を隠している。
 その隠された顔は、いらついていた。
「やっぱりこの程度の攻撃じゃ無理かねえ……」
 フーケは土ゴーレムの打ち付ける拳をトゲ付き鉄球に変えているが、効果はない。さすがは魔法学院といったところか。
「かといって、ここまでやってなにも盗まないというわけにはいかないね……」
 短慮だった、とフーケは後悔した。
 一方のルイズたちは。
「ルイズ! 戻って!」
「駄目よ! ここで賊を捕まえないと貴族の名折れだわ!」
 ゴーレムに単身突撃しようとしているルイズをマルモが止めようとしていた。キュルケとタバサは教師に連絡しに行っている。
 ルイズはマルモの制止を振り切り、杖を振った。
 ゴーレムに『ファイヤーボール』を当てるつもりだったが、代わりに本塔の宝物庫の当たりの壁が爆発してヒビが入る。
 唇を噛むルイズであるが、フーケは好機とばかりにそこに拳を打ち込んだ。狙い通り、壁に穴が開いて宝物庫の中が見えた。
 フーケはほくそ笑んでゴーレムの腕を伝い、宝物庫に侵入する。狙いはただ一つ、『銀の竪琴』。
 それはすぐに見つかった。『銀の竪琴。持ち出し不可』と書かれた鉄プレートの下の、ガラスの箱の中に置かれている。
 その箱ごと手に取り、フーケは壁に向かって杖を振る。すると、壁に文字が刻まれた。
『銀の竪琴、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』

 時は少し戻って、フーケが宝物庫に入った直後。加速呪文ピオリムでルイズに追いついたマルモは、ルイズから杖を奪った。
「なにするのよマルモ!! 返しなさい!! ご主人様の命令よ!」
「駄目」
 ルイズは杖を取り返そうと躍起になるが、体術でマルモに敵うはずもなく、逆にルイズが抑え込まれた。
「マルモ、わたし修行するって言ったじゃない!」
「これは修行じゃない」
 あのゴーレムは明らかにルイズのレベルでは手に負えない。
「早くしないと賊が逃げちゃうわ! 杖を返して!」
「……捕まえればいいの?」
「そうよ! だから……マルモ?」
 マルモの様子が変わり、ルイズは怪訝な顔をする。
「私が捕まえる」
「な、なに言ってるのよ! そんな危ないことさせられるわけないでしょ!!」
 ルイズは自身のプライドとマルモの安全を天秤にかけると、後者に傾いた。
 いくらマルモとはいえ、巨大なゴーレム相手に無事で済むはずがない。ルイズはそう思ったが、その一方でマルモならできる、
という予感もある。
「……本当に、大丈夫なのね?」
 いつもの調子で、コクリとマルモは頷いた。
「わかったわ、マルモ。行ってもいいけど、絶対に死なないでね。命令よ」
「わかった」
 マルモはマントを翻らせてゴーレムの足元に駆け寄る。フーケが盗みに入っている間は待機中だ。
 一瞬の間で、マルモは使うべき呪文を考えていた。これ程の巨体ともなれば、最上級の攻撃呪文を使うしかない。
だが、下手をするとルイズや学院にもダメージを与えかねない。選ぶべき呪文、そしてその使い方は――――。
 それは、ちょうどフーケが宝物庫から出ようとしたときだった。
 マルモはゴーレムの足に手を触れ、呪文を唱える。
「……マヒャド」
 途端にゴーレムは中心まで凍りつき、衝撃で粉々に砕け散る。かつて『賢者の書』で巨岩に対して使ったものと同じ方法。
その巨岩は真っ二つになったが、フーケのゴーレムは土でできていたため、細氷のように破片が宙を舞う。
 ルイズはその光景に見入っていた。正確には、マルモを。月光の反射できらめく氷の中に立つマルモの、なんと神々しいことか。
 もはやルイズの目にはマルモしか映っていなかった。
 そしてフーケの方はというと。
 自分のゴーレムが破壊されたのに一瞬気をとられたが、すぐさま『フライ』を唱えて全速力で学院から離れていた。
「なんなんだいありゃあ……!」
 フーケは自分のゴーレムには自信があった。フーケ自身はトライアングルメイジであるが、スクウェアクラスともやり合えると
思っていた。
 それが、一瞬で粉々だ。誰がやったのかはわからないが、ゴーレムが通用しなかったのは事実。
456五月蠅いゼロの五月蠅くない使い魔:2010/03/28(日) 14:47:22 ID:aiimtKkP
「まあいいさ。盗めるものは盗んだことだし」
 学院から充分離れると、フーケは森の中に入って着地した。葉が茂る森の中では、月明かりがあってもほとんど見えない。
「さて、どんなお宝なのかね」
 ガラスの箱から『銀の竪琴』を取り出すと、妖しく銀色の絃が光った。
 竪琴を見て、フーケはある少女のことを思い出す。妹のような娘のような、愛しい少女。あの娘も、ハープを弾いていた。
「ま、私はからっきしだけどね」
 優しい笑みを浮かべてフーケは絃に手をかける。適当に弾いてみたが、思いの外ちゃんとしたメロディになっていた。
「なかなかいい音色だけど……」
 まさか単なる竪琴ではあるまい。
 つと、茂みが動いた。
「!」
 フーケが素早く振り返ると、そこには犬のような頭をした人影が複数あった。
「……コボルドかい。脅かすんじゃないよ」
 コボルドが四体、目の前に現れていた。平民の戦史でも倒せる亜人であるが、今のフーケは精神力を消耗している。
なるべく無駄遣いは避けたかった。
 コボルドたちが襲いかかると同時にフーケは人間と同じ大きさのゴーレムを二体作り出し、迎撃する。
 爪も牙も届く前にフーケは全てを終わらせた。
「まったく、余計な手間をかけさせやがって」
 コボルドの流した血に獣が寄ってくる可能性がある。コボルドの死体に土を被せて埋めた。
「それじゃ、改めて……」
 『銀の竪琴』をかき鳴らす。美しい旋律が森に響いた。
 するとまたもや茂みが動いた。
「ちっ」
 杖を構えるフーケの前に、狼の群れが現れた。その数、およそ十頭。精神力が残り少ない今、さすがに数が多すぎる。
 フーケは命辛々森を後にした。



以上です。
ルイズが原作のサイト化。役得です。うらやまけしからん。
ヨーロッパの人は同性に裸を見られても平気らしいですが、原作でも恥ずかしがってからおkかなと。
アルビオンから先の展開は簡単に思いつくのに、アルビオンまでの展開が思いつかない今日この頃。どうしよう。

>>452
支援ありがとうございます。
百合百合というか、半百合半レズです。
457名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 14:53:48 ID:xv9Ufs8k
乙。

そういう時は取りあえず原作の流れに身をまかせればいい。
テンプレ展開だからってそれがダメなわけじゃないし、書いてる途中でフッと別の展開が思いつくときもある。
458名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:06:33 ID:aiimtKkP
>>457
ありがとう
キャラやアイテムの登場のタイミングをちゃんと考えないと強引に修正しなくてはならんので……
ルイズとマルモだけでも話が進むから困る
459ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/03/28(日) 15:16:27 ID:DTjv9ovc
乙でした。前座なんてとんでもない、楽しませていただきました。
百合か、いつかやってみようかな……誰と誰がとは言いませんが。しかしルイズって受けですよね。
銀の竪琴はレベル上げには最適だけど、知らないとただの呪いのアイテム。ロングビルさんご愁傷様。
いやあ、私もドラクエはXをたまたま友達から借りてはまりだし、その縁でホークブリザードと
火喰い鳥が大好きになって、戦力不足なのにもかかわらずにドラクエモンスターズでは
終盤まで使って、メドローアを撃ちまくって楽しんだものです。
あと、天地魔闘の構えとかもよく真似して遊んだなあ。

さて皆さんこんにちは、今週もやってくることができました。
今度は先をこされないように、あらかじめ予約を入れておきます。
問題なければ15:50より開始いたしますのでよろしくお願いいたします。
460名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:31:47 ID:xv9Ufs8k
えらく間が空いてるな。
461名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:40:45 ID:vXCQTRee
まぁさるさん対策だろう
462名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:42:10 ID:XYJOYkER
ジャスト0分をまたげば一度解除されるんだっけ?
463名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:44:09 ID:h4ZI/CEV
萌え萌えさんみたいにど真ん中で投下しても一回も引っかからないってのも
あるな>さるさん
条件がまだ分からない…
 第93話
 勇者への手向け
 
 ウルトラマンヒカリ
 えんま怪獣 エンマーゴ 登場!
 
 
「大変だあ! 怪物が出たぞぉ!」
 真夏の暑すぎるくらいの陽気を受けて、平和そのものであった村に一人の村人の
悲鳴がこだまする。大地震を引き起こし、辺境の村の美しい自然を破壊して暗い
地の底から、血のように真っ赤な目をらんらんと輝かせて這い出してくる巨大な人影。
 
 身の丈五十二メートル、体重四万五千トン
 
 全身を金色の鎧でまとい、王の文字が刻まれた冠を戴くその姿は古代中国の
皇帝の戦装束を思わせ、左手に持った丸い金色の盾には竜の顔の文様が
刻まれて、まるで地獄の釜の蓋のようでもある。
 そして、その大きく裂けた口には人間にはありえない巨大な犬歯がずらりと
並んで、猛虎の頭蓋すら一撃で噛み砕きそうな異様を見せ。とどめに右手に
握られた大剣は鈍く鉄色に輝き、お飾りの宝剣などではなく、数え切れないほどの
無機物と有機物を切り裂いて鍛え上げられてきた殺気を放っている。
 これを、子供が間近で見たなら恐怖のあまり泣き喚き、大人でも気の弱い者は
気を失うか悲鳴をあげて逃げ惑うだろう。それほどに、こいつの発する威圧感は
桁外れであり、見る者に与える絶望感は、同じ人型ながらもかつて才人たちが
戦った土くれのフーケのゴーレムなどとは比較にもならない。
 形容する言葉があるのならば、それは魔神のただ一言。
 天災のように荒れ狂い、人々を苦しめる荒ぶる神。
 かつて、江戸時代の地球にも現れ、江戸の街の四分の三を壊滅させたという
古の大怪獣が、封印を解かれてこのハルケギニアに蘇ったのだ。
 
 
「GUYS・サリーGO!」
「G・I・G!」
 リュウ隊長の号令を受けて、CREW GUYSの翼、ガンフェニックストライカーが
草原から大空へと舞い上がっていく。乗り込むのはガンウィンガーにリュウ、
ガンローダーにセリザワ、ガンブースターにジョージ、彼らによって操られた炎の
翼は空を切り、やがてタルブ村の南から村に向かって巨大な剣を振りかざしながら
歩いてくる、巨大な魔神のような怪獣の前に出た。
「こりゃ驚いたぜ、えんま大王の怪獣じゃねえか!」
「テッペイ、こいつはいったいなんだ?」
「今フェニックスネストのアーカイブドキュメントに検索してます。出ました! 
ドキュメントZATに一件記録を確認、えんま怪獣エンマーゴです!」
 村に、地上からのナビゲートのために残ったテッペイからフェニックスネストを
通して送られてきた怪獣のデータが、ガンフェニックスに届く、先のバキシムと
ブロッケンとの対決はゲートを抜けてすぐの出会い頭のものだったが、今度は
時空を超えての初の本格的な対怪獣作戦だ。
465名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:52:25 ID:EFMSkarH
支援
 東京湾上空のゲートをGUYSオーシャンに任せて、基地に帰還した
フェニックスネストでも、時空を超えて送られてくる怪獣のデータの分析に
余念がない。
「スキャニング完了、ヤプールエネルギーは感知されません」
「ということは、奴はヤプールが送り込んできた怪獣じゃあないってこと?」
「はい、あの世界に元々生息していた怪獣だと思われます。過去のデータとの
照合を始めます。弱点とか、あればいいんですけど」
 今回ここに残ったマリナと、データ分析をしているコノミが話し合っている。
カナタたち新人隊員は、地球でもあとを絶たないいくつかの怪事件の調査の
ために出ていて、頭数はそんなに多くないが、彼らのやる気は満タンだ。
 しかしその前に、ミサキ女史はサコミズ総監に対して、戦闘を開始するに
当たって厳しい表情で、一つの重大な問題を提唱した。
「サコミズ総監、リュウ隊長は他の知的生命体の生息する惑星上において
怪獣に対して攻撃を開始しようとしています。GUYS総監として、この行為を
容認なさいますか?」
 そう、これはGUYSとしてはおそらく初の他の惑星への直接の干渉ということになる。
先のバキシムたちとの戦いは突発的なものだったからやむを得なかったが、
ほかの星のトラブルによそ者である自分たちが勝手に手を出していいのか? 
この判断を誤れば、救命活動を口実とした侵略行為を容認するという、地球の
過去の歴史の汚点を再現することになる。
 サコミズ総監は数秒両手を組んで考え込んでいたが、やがて席から立ち上がると
ディレクションルームの全員から、時空を超えた先のリュウたちにもはっきりと
聞き取れる声で言い放った。
「……過去にウルトラマンが地球を助けてくれたのは、ただ地球とそこに生きる
人たちの平和と幸せを守りたいという、その一心においてのみだった。だから
彼らは戦いが終わればすぐに立ち去り、自分から名乗り出たりもしなかった。
リュウ、GUYS総監として敵怪獣に対して攻撃を許可する。ただし、たとえ勝利
しても一切の見返りを求めず、どれだけの損害を受けても許容しろ。この命令に
例外はなく、その範囲内においてのみの行動を認める!」
「G・I・G!」
 我が意を得たりとばかりにリュウは奮起し、全兵装のロックを解除した。
元より怪獣を倒して英雄面しようなどいった野心は彼らにはない。そんなつまらない
ものよりも、ほんの数時間であったが、共に泣いて笑ったこの星の人たちや、
その人たちの家族や友人を守りたいという使命感が彼らを奮い立たせる。
「村まで、あとおよそ一〇キロだ。奴を人里に入れるわけにはいかねえ、
ここで食い止めるぞ!」
「G・I・G!」
 あまりに突然の怪獣の出現だったために、まだタルブ村には数多くの人間が
残っている。むろん、地球に比べて野盗の集団やオークなどの猛獣の襲撃が
あるハルケギニアの人々なので危機意識は強く、村はずれにまで避難が
始まっている。そしてそんな中で、中心になっているのはレリアとシエスタたち
親子だった。
467名無しさん@支援いっぱい:2010/03/28(日) 15:53:04 ID:PNOu4MZc
 
468名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:53:19 ID:xv9Ufs8k
そらで言わずにわざわざドキュメントを検索するとは、テッペイ君にしては珍しいな。
「さあ、皆さん早く逃げてください。訓練どおりに東の街道へ向かって、急いで!」
「さあみんな、大きい子は小さい子をかばって、転ばないように走るのよ。
大丈夫、お姉ちゃんがついてるからね」
 前にコボルドの大群に襲われたときの教訓から、村をあげての避難訓練を
重ねてきたので、村人たちは迅速に避難用具を持って村の外へと一目散に
走っていき、その先頭に立っているはずの夫のために、一人の取り残しも出さない
ように声を上げるレリアと、村中の子供たちを優しくなだめながら駆けさせていく
シエスタの姿は、最後まで勇敢に生き抜いたGUYS隊員佐々木武雄の血筋と
意志を引き継ぐ者としてふさわしいものだった。だが、人の足と怪獣の歩く速度では
圧倒的な差がある。
 避難完了までにまだ時間がかかると判断したリュウは、ためらわずにエンマーゴの
真正面から攻撃に出た。合体状態のガンフェニックストライカーから、全ビーム砲の
一斉射撃が放たれる。
「喰らえ、バリアントスマッシャー!」
 メテオールを除けばGUYS最強の一撃が一直線にエンマーゴに向かう。しかし、
奴は迫ってくる光線に対して避けるそぶりも見せずに、左手に持った盾をかざして
その攻撃を受け止めてしまった。
「跳ね返しやがった!?」
「なんて硬い盾なんだ」
 バキシムとブロッケンの巨体をも吹っ飛ばした一撃が、軽々とはじき返されて
しまったことにリュウやジョージも驚きを隠せないが、そこへ村の物見やぐらに
登って一部始終を見ていたテッペイの通信が入った。
「リュウさん、エンマーゴの盾は、かつてウルトラマンタロウのストリウム光線を
跳ね返したほどの強度を誇ります。正面からの攻撃では、メテオールでも
通用しないでしょう」
「なんだって! てことはスペシウム弾頭弾でもダメか。なんて奴だ」
 防御力でいえば、恐らくGUYSが戦った中でもトップクラスに入るだろう。下手な
バリヤーを張っているのならまだしも、盾は単純ではあるが隙が少なく防御
しながら移動も攻撃もできる。しかし、それでも離れていれば剣が主武器の
エンマーゴの攻撃を受けないと思っていたら、奴はその鋭く裂けた口から
噴煙のように真っ黒な煙を吹きつけてきた。
「危ねえっ!」
 とっさに回避したガンフェニックスのいた場所を、黒煙は青空を黒く塗りつぶす
ように通り過ぎていった。しかも、回避してそれで安心と思いきや、外れた
黒煙はそのまま村の外の木々に当たると、一瞬で緑に茂っていた植物を
さびた針金のような枯れ木に変え、数ヘクタールを荒野に変えてしまったのだ。
「なんて奴だ! あんなのが暴れまわったらこの村どころか、世界中が地獄に
されちまうぜ」
 リュウがうめいたとおり、エンマーゴは地獄で亡者に責め苦を与える鬼どもの
ように、人間を苦しめる能力をいくつも持っている。その一つがこの黒煙で、
あらゆる植物を枯らし、かつて江戸時代には大変な飢餓をもたらしたという。
「リュウ、やつは必ずここで倒すぞ。もし取り逃しでもしたら大変な被害が出る」
「はい、ですがセリザワ隊長はしばらく手を出さないでください。奴は俺たち、
GUYSの手で止めます。それが、GUYSの魂を貫いていった佐々木先輩への
手向けです」
 セリザワは黙ってうなずき、右腕に現していたナイトブレスを消し去った。
異世界に来ても、その命尽きるまで戦い抜いた一人の戦士に、成長した
GUYSの力を見せてやり、彼の第二の故郷を守りぬく。それが、唯一地球の
ことを心残りにして逝った彼への、ただひとつのはなむけだ。
「しっかし、えんま大王の怪獣とはな。いや、本当に怪獣と呼んでいいのか、あれは?」
 ジョージの疑問ももっともであった。怪獣には、恐竜を大きくしたようなものから、
人間型、動物型や異形型、不定形型と数え切れないほどの分類があるが、
このエンマーゴはその中でもどれにも属さない、超例外的な一体である。
 そもそもが、えんま大王とは一般的には地獄の支配者で、死者の生前の罪を
計って天国か地獄行きかを決める裁判官として知られているが、正式には
『夜摩天』といい、この世で初めて死んだ人間が転じたという、仏教における
正真正銘の神であり、冥府でさまよう子供を鬼から救いにやってきてくれるという
地蔵菩薩と同一の存在ともされる大慈大悲の神様だ。むろん、これには様々な
解釈や地方による差もあるのだが、あくまで恐ろしい顔を見せるのは悪人に
対してであり、決してただ恐ろしいだけの悪鬼羅刹の類ではないのだ。
 しかし、今目の前にいるエンマーゴはそんな慈悲の心などは微塵も感じさせずに、
ただただ見るものに恐怖心を植えつけるように、森森を踏み潰し、あるいは雑草を
刈り取るように手に持った剣で切り払いながら、村へ向かって前進してくる。
というよりも、地球とは似てはいるが本質はまったく違う文化宗教を持つ
ハルケギニアで、なぜエンマーゴが出現するのだ!?
 だが困惑するGUYS隊員たちの元へ、慌てて届いたミライからの入電は彼らを
さらに驚かせるものだった。
「リュウさん、こちらミライです」
「ミライ! お前今までどこで何してたんだ!」
「すみません、ですが緊急事態なんです。あの怪獣が、なんで出現したかが
わかったんです!」
「なんだって!」
 リュウたちはそろって驚いた。GUYSの分析も終わってない状態で、どうして
先にそんなことがわかるのだと。
「あいつは、お地蔵様に封じ込められていたんです」
「……は?」
「だから、奴は守り神のお地蔵様に封じられていたんです。ですけど、それが
盗み出されてしまったから、封印が解かれて暴れだしたんです」
「ミライ、お前寝ぼけてんのか!」
 この忙しいときに、なにをトンチキなことを言い出すんだと、リュウは本気で
怒鳴りあげたが、ミライの声は真剣だった。
「うそじゃありません。エンマーゴは元々地獄に落ちることを恐れる人間の
気持ちが凝り固まって生まれた怪獣です。あいつは、大昔にこの世界に
やってきた浜野真砂衛門という盗賊が、死ぬ前に残した怨念が結晶化
したものだそうなんですが、同じようにやってきた錦田景竜というお侍の
作ったお地蔵様の力で封じられていたんです。これがそのお地蔵様です」
 そうすらすらとしゃべりきって画面を動かし、才人が支えているお地蔵様や、
足元にルイズの爆発で伸びたままで縛り上げられた盗賊たちを見せると、
さすがにリュウもうーんとうなって、さらにテッペイもその説を指示するように
通信に割り込んできた。
「考えられなくはないです。今ドキュメントZATを検索し終えましたが、
以前のエンマーゴも土地に埋められていたお地蔵様の力によって封印
されていたそうです。エンマーゴが人間の精神エネルギーが作り出した
怪獣ならば、人間の精神力で封じ込めることも可能かもしれませんよ」
 この世には、まだ科学では解明できない様々な謎や神秘が満ち溢れている。
それに考えてみれば、エンマーゴは怪獣というよりむしろ妖怪に近い存在だ。
この類の怪獣は、80の戦ったマイナスエネルギー怪獣が代表的だが、
そのほかにも初代ウルトラマンと戦った、交通事故で死んだ少年の魂が
乗り移った高原竜ヒドラや、殺された牛の怨念が人間に乗り移って実体化した
牛神超獣カウラなどが確認されており、怪獣というものが単に巨大なだけの
生物ではないことを示している。
「なるほど、わかんねえけどわかった。しかしミライ、お前そんなことよくわかったな」
「はい、ご本人に教えていただきましたから!」
「……はぁっ!?」
 今度はリュウだけでなく、ジョージやテッペイも怪訝な顔をした。ご本人って、
いったい誰のことを言っているのだ? 今度こそ本当に意味がわからない。
後ろにいる才人とルイズも、どうやって説明したらよいものかと頭を抱えていたが、
仕方なく三人がかりで何度かリュウに怒鳴られながらも説明したことは、
今度はフェニックスネストにいた全員も合わせてびっくり仰天させるに充分だった。
 
「幽霊に、教えてもらっただってえ!?」
 
 そう、彼らに地蔵を取り戻すように要請した謎の声や、エンマーゴのことを
ミライに説明した張本人こそ、地蔵に思念の一部を残して番人にしていた
四百年前の妖怪退治屋、錦田小十郎景竜その人であったのだ。
 彼は、四百年前にこの地に出現したエンマーゴを、その類まれな異能の力を
もって打ち倒し、この地に平和を取り戻させた。しかし、以前別の土地で封印した
タブラのようにこの世から滅するまでにはいたらずに、霊力を込めた地蔵を
作って、地中に封じた奴の上に安置して封印の鍵としていたのだ。
”そのとき、念のためにとわしの思念をこの地蔵に残しておいたのじゃが、
あいにくと普通の生者にはこの世のものではなくなったわしの姿は見えんで
困っておった。この盗人たちの体に乗り移ってもよかったが、あれはあまり
好きではないのでのう。じゃが都合のよいことに、お前たちのような異能の力を持つ
邪な気を持たぬものがやってきてくれて助かったわ。はっはっはっは”
「と、いうことらしいです」
 ざっとミライから景竜の説明を同時通訳されて、リュウやジョージは目の前に
怪獣がいることも忘れて、空いた口がふさがらなかった。それにフェニックスネストでも
ミライの隣に景竜の幽霊がいると言われて、コノミやマリナが悲鳴をあげていた。
「つまりは、ウルトラマンであるミライさん、その力を持つおれたちにのみ、この
おっさんの姿が見えて声も聞けるということらしいですね。全然実感ないけど」
「ていうか、なんで幽霊のくせにこんな偉そうなのよ。幽霊って普通こう……」
 実際、慣れたおかげか今の才人たちには地蔵と重なって、半透明のお侍の姿で
景竜が見えていた。しかし、夜ならともかく真昼間、ついでに言えば足もついて
いるためにまったくと言っていいほど恐怖感はなく、むしろまんまとエンマーゴに
復活されたというのにあまり緊張感がなさそうで、何か聞いてて腹が立つ。
”ふむ、近頃のわっぱは理屈っぽくていかんのう。年長者の言うことは素直に
聞かんか。母上に教わらなかったか?”
「うるさいわよ! だいたいあんたが四百年前にきっちりとどめを刺しとけば、
こんなことにはならなかったんでしょうが!」
”いやあ面目ない。が、今はそれどころではあるまい。あやつを捨て置けば、
このトリステインという小さな国なんぞ、あっという間に滅ぼされるぞ。
つべこべ言わずに手を貸せい”
「と、言ってますがリュウさん」
「ミライ、それほんとーに、その幽霊が言ってるんだろうな?」
 お侍なのだからなのかは知らないが、どうも景竜の言い方はいちいち上から
目線でかんに触った。もっとも、一人で妖怪退治の旅を生涯続けるには
それくらい強い我を持っていなければ勤まらなかったのかもしれないが、
ルイズなどは、これが才人だったらとっくにぶん殴っているところだ、とはいえ
相手が幽霊では殴りようが無いのだが。
 しかし、ミライの言うこととはいってもいまいち半信半疑だったリュウも、
彼のもっとも信頼する人であり、ウルトラマンでもあるセリザワに諭されると
疑いを捨てた。
「リュウ、考えるのはあとにしろ。お前たち地球人の目には見えないだろうが、
俺の目にも、モニターを通してでも精神体が存在しているのがわかる。
それに、お前は隊長だろう!」
 ウルトラマンの視力は、単なる透視能力にとどまらずに、こうした霊的な存在
にも対応することができることがある。実際に、時空を超えたあのティガやダイナの
故郷であるパラレルワールドでも景竜はエンマーゴと同じような、宿那鬼と
いう怪獣を封印しているが、その封印が破られたときにも景竜の霊魂は
ウルトラマンティガであるマドカ・ダイゴにだけは見えていた。また、セリザワは
ヒカリとして行動しているときに三度目に訪れた惑星アーブで、滅ぼされた
アーブの知性体の精神と出会って勇者の鎧アーブギアを託されている。
「はっ……そうですね。悪かったミライ、考えてみたら、お前がそんなふざけた
こと言うわけないもんな」
 リュウはもう一つ、セリザワの言葉に隊長としてのあるべき姿を思い出させられた。
どんなときでも、隊長が一番に隊員を疑ってはいけない。どっしりと構えて、
隊員たちを受け止めてやらねばいけない。隊長とは、いつでも大黒柱のように
構えて、頼れる存在でいなければならない。歴代の防衛チームの隊長たちも、
様々な個性を持っていたが、隊員たちにとって不動の存在で、一番信頼できる
人だったことに違いはない。
 ただし、心構えはともかく本人の性格はそう簡単には変えられない。
「で、そのお地蔵さんとやらが封印なら、もう一度元に戻せば封印できるのか?」
”今のわしでは、もう奴を再封印するのは無理じゃ。だからぬしらちょうどいい、
わしに代わってやつを成敗せい。そうすれば、封印の鍵くらいにはなってやる”
「と、おっしゃってます」
「ふざけるなーっ!」
 無責任というか、図々しいというか、いくら自分に力が残っていないとはいっても
態度がでかいにもほどがある。しかも、どっちにしろ怪獣退治はしなければ
いけないところがなお腹が立つ。
473名無しさん@支援いっぱい:2010/03/28(日) 15:58:26 ID:PNOu4MZc
 
474名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:58:49 ID:Czk0DGCw
 しかも、怒りっぽいのは一人ではなく。
「サイト、離しなさい! もう頭きたから吹き飛ばしてやるわ!」
「やめろって! 腹立つのはわかるから、地蔵を壊したらもう封印できなくなるだろ!」
 杖を振り回すルイズを羽交い絞めにした才人が引きずっていく。はたから普通の
人が見たら、石の人形の前でわめき散らしている変な一団に見えただろうが、
彼らは真剣であった。
 しかし、そうして話しているうちにもエンマーゴは刻一刻とタルブ村へ近づいている。
「くそっ、迷ってる暇はねえか、ともかくわかった! とりあえずそいつを壊されたら
まずいんだったら、適当なところに運んでおいてくれ。それに、村人が近くにいたんじゃ、
どっちみち満足に戦えねえ、こっちはなんとか食い止めてるから、村人の避難を急いでくれ!」
「G・I・G!」
 ミライと、そして才人にも了解を受けたリュウは、村へ向かって驀進するエンマーゴを
止めるために、次の作戦を開始した。
「正面からでだめなら、三方向から攻撃をかける。いくぜ、ガンフェニックス・
スプリッド!」
 
 そして、ガンフェニックスが全力でエンマーゴの前進を阻んでいるあいだに
タルブ村では必死の避難作業が続いていた。
「早く、逃げてください!」
「もたもたしないの、逃げ遅れたら吹っ飛ばすわよ!」
 才人がガンダールヴの力で加速して一軒一軒確認していき、ルイズが遅れている
男の尻を蹴っ飛ばす。ミライがお地蔵様を運んでいったので人手が足りないが、
泣き言を言っても代わりはいない。あと、二人組の盗賊のほうは、ほうっておくわけにも
いかないので村人に引き渡して連れて行ってもらったが、避難完了にはまだ
時間がかかりそうだった。
 それに、こういう災害時には思わぬトラブルもつきものである。
「泥棒だぁーっ! うちの蓄えが盗まれた!」
「ひゃっはっはっ、間抜けどもめ。慌ててるから隙だらけなんだよバーカ」
 そう、村にいるのは何も村人だけではない。たまたま村を通りすがっていた
商人や旅人も多くいて、それらの人々はパニックになって避難の妨げになる
ばかりか、火事場泥棒に転じて、さらに混乱を拡大させつつあった。
「くそっ! あのボケども!」
「待って、この地区にはまだ逃げ遅れてる人がいるわ、わたしたちが
離れたらその人たちはどうなるの!?」
 激情のままにデルフリンガーを抜いて駆け出そうとした才人を、ルイズが
そでを引いて押しとどめた。
「わたしだって腹立たしいわよ。けど、今やるべきことはあいつらを捕まえる
ことじゃないわ。自分に与えられた仕事は何があってもやりとげる、
それが筋ってものでしょう」
 ルイズは杖を握り締め、唇を血が出そうなほどに噛み締めながらも、
才人を止めている。その姿を見て、才人は自分を小さく思うとともに、
やっぱりおれのご主人様はすごいやつだなと思った。トリステイン有数の
大貴族の子女として生まれ、国の名誉を守ることを生涯の使命として
育ってきた彼女にとって、トリステインを汚すああいった輩ははらわたが
煮えくり返るほど憎らしいのに違いないが、それを抑えて逃げ遅れている
農夫たちや老人のために、あえて無視しようとしている。
476名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 15:59:42 ID:xv9Ufs8k
ガンQなんかも妖怪系の怪獣だよな支援
「あっはっはっ! 大量大量、これだけあれば当分遊んで暮らせるぜ」
「待ってくれ、それを持っていかれたら、もう来年の仕事ができなくなってしまう」
「うっせえよ! そんなことより、早く逃げねえと踏み潰されるぜ、ま、おれは
別の道からとんずらさせてもらうけどな」
 あざ笑いながら逃げていく盗賊たちに、才人とルイズは殺してやりたいほどの
怒りを覚えたが、追いかけて捕まえている時間はなく、やつらはどんどん
遠ざかっていく。
 しかし、因果応報、自業自得、世の中悪いことをして簡単に生きていける
ほど甘くはない。村の外に逃げ出そうとした盗賊たちを、空の上から
降り注いできた火炎弾と氷風が、容赦なく叩きのめしたのだ。
『ファイヤーボール!』
『ウェンディアイシクル!』
 炎弾のピンポイント射撃と、無数の氷のナイフが愚か者たちを無慈悲に
地面との接吻と、泥をパートナーにしてのダンスを強いた。
「ぎゃああっ、あちい、あちいぃっ!」
「いでぇ、いでえよおっ」
 盗賊たちは盗んだものを放り出して、地面の上でのたうちまわった。
そして、その上空からさっそうと現れた青い影に乗る、燃えるような赤い髪と
大海のような青い髪は見間違えるはずもない。
「はあい、サイト、ルイズ、あなたたちって、あたしたちがいないと本当にだめねぇ」
「……間に合った」
「キュルケ、タバサ!」
 なんと、飛行機酔いでダウンしていたはずのキュルケが、いまやピンピンした
様子でタバサといっしょにシルフィードに乗って、熟達の奏者よろしく杖を軽快に
振って笑っていたのだ。
「あんたたち、どうして!?」
「あはははっ! こんなおもしろそうなトラブルのときに、このあたしがへばって
寝込んでると思ってるの? 空から見て回って、馬鹿な連中はおおかた
お仕置きして回ったわよ」
 不謹慎な発言ではあるが、キュルケは確かにトラブルになればなるほど
力を発揮するタイプには違いない。それに、火事場泥棒どもが逃げ隠れしようと
しても、北花壇騎士として闇の仕事で慣らしたタバサの目を逃れることはできない。
「サンキュー! 二人とも」
「いいってことよ。こういうお馬鹿たちは一度死ぬような目に合わせないと
治らないしね。それよりも、村の東側の避難は完了したみたいだから、
あなたたちは西側の残りをお願い」
「わかった。ありがとな!」
「ええ、あたしたちは街道の人たちの護衛に当たるわ。さあっ!」
 最後にキュルケは『レビテーション』で、盗賊たちの傍らに転がっていた
盗まれた品物をこちらに飛ばして、北の空へ飛び去っていった。
「ほんと、いざとなるとすげえ頼りになるよな。さあ、これを持って早く
逃げてください」
「あ、ありがとうございます。これで来年の作物の種と肥料を買うことができます」
「ですが、それよりも命あっての物種でしょう。さあ早く」
「いいや、それは違う。わしらはこの村の土地に育てられて、この村に
生かされてきた。だから、わしらは自分のためと同じように、わしらの故郷を
守らんといかん。そのために、この金は絶対必要なんじゃ」
 そう言うと彼は急いで北のほうへと走っていった。だが、才人は彼が
言い残した言葉をしばらく噛み締めていた。故郷、自分を育ててくれた故郷、
おれにとってそれは……
「サイト、なにぼっとしてるの! まだやることはあるのよ!」
「あっ! そ、そうだったな」
 慌てて頭を切り替えると、才人はルイズとともに村の西側へと走っていった。
が、あの農夫の言ったことは、なかなか忘れられそうになかった。
 
 こうして、皆の努力によって避難活動は完了しつつあったが、肝心のエンマーゴの
攻略については難航していた。
「くっそ、なんて頑丈な鎧なんだ!」
 盾ではじかれないように三方向から包囲攻撃を仕掛けたにもかかわらずに、
各機のビームはエンマーゴが全身にまとった鎧にはじき返されて、一切の
ダメージを与えられていなかった。それもそのはず、エンマーゴの鎧はなんと
十万度の高温や五十万トンの圧力にも耐える力を持っており、過去にZATの
スカイホエールによる爆撃にもびくともしていない。
「リュウ、メテオールを使うか?」
「だめだ、今使ったら村人を巻き込む危険がある!」
 メテオールは確かに強力だが制約も大きいし、万能でもない。それにエンマーゴは
意外と頭もよく、ZATが地雷作戦を仕掛けたときでもあっさりと見破って破壊して
しまっている。これではスペシウム弾頭弾を撃っても盾ではじかれるか
切り払われるかしてしまう。が、それよりもメテオールは威力が大きすぎるので、
避難が完了していない村の近くで使うのは危険すぎた。仮にスペシウム弾頭弾の
一発でも流れ弾になったらタルブ村が吹っ飛んでしまう。
「テッペイ、まだ避難は完了しねえのか! やつはもう村の入り口まで来てんだぞ」
「あと少しです。あと少しで、みんな街道に逃げ込めます。そうすれば、村の南の
広場でやつを迎え撃てます。リュウさん、キャプチャーキューブの使用許可を!」
「よし、メテオール解禁、使用制限時間は一分間だ!」
「G・I・G!」
 返礼し、テッペイはトライガーショットをブルーチェンバーにチェンジして、銃口を
エンマーゴに向けて、引き金を引いた。
「サイト、なにあれ! 怪物が光の檻に閉じ込められちゃったわ!?」
 残っている人がいないか、最後の確認をしていた才人とルイズは、エンマーゴを
突然取り囲んだ光の壁を見て、思わず足を止めていた。
「あれは、キャプチャーキューブだな。あらゆる攻撃を通さないバリヤーを張る。
そうか、こういう使い方もあるんだ」
 才人は一軒の家のドアを閉めると、感心したようにつぶやいた。閉じ込められた
エンマーゴは、脱出しようと光の壁に剣を打ち付けたりしているが、跳ね返されて
まったく身動きできなくなっている。キャプチャーキューブはバリヤーであるので、
本来の使用法は防御にあるが、内側の打撃やエネルギーも外に逃がさないために、
かつてメビウスがバードンと戦った際にメビュームシュートの命中に合わせて、
爆発の衝撃が外に漏れないようにしたり、インペライザーのエネルギー弾を中で
乱反射させたり、前のパズズ戦のように自分の攻撃を自分に跳ね返させる手段もあり、
さらにこうすれば一分間だけだが敵の動きを封じる監獄とすることもできるのだ。
 
 そして、GUYSの善戦と、才人とルイズや、空中から見て回ったキュルケたちの
協力もあって村人はほとんどが北の街道に避難を完了した。
「これで全員?」
「うん、みんな行ったよ。けど、このままじゃぶどう畑が……」
 レリアとシエスタは、最後の村人が街道に入ったのを見届けると、キャプチャー
キューブの封印が解け、GUYSの猛攻を受けながらも、前進を続けてくるエンマーゴを
にらみつけた。
 村人は全員避難させたが、まだ村には皆の家々や畑、なにより村の生命線である
ぶどう園が残されている。もちろん命が一番大事なのは当たり前だが、家を破壊
されるのはもちろん、あの黒煙をぶどう園に浴びせられかけでもしたら、タルブ村の
人々はこれからの生きる糧を失ってしまう。レリアは、エンマーゴの進む先に
ちょうどぶどう園があるのをじっと見つめていたが、やがて娘の目を見つめると
有無を言わせぬ強い口調で言った。
「シエスタ、よく聞きなさい。あなたはこれから走っていって、お父さんや弟たちを
守りなさい。いいですね、誰一人犠牲を出してはいけませんよ」
「はい、けれどお母さんは?」
「お母さんは、そうね……自分の村がこんなになってるってのに、のんきに
先にあの世に行ってしまったおじいさんの、代わりを務めなきゃいけないから」
 そう言うと、レリアは娘と生き写しの顔を、二十年前怪獣ギマイラと戦った
ときと同じように強く輝かせると、娘に背を向けて走っていった。
「お母さん、どこに行くの? お母さーん!」
 シエスタが呼んでも、もう母は振り返らない。そして、その行く先には彼女と
祖父との思い出の場所があった。
 
 
 だが、GUYSの必死の防衛線にも関わらず、エンマーゴは自慢の防御力に
ものを言わせてとうとう村へ侵入し、破壊の歓喜に耳につく笑い声を上げて
平和だった村に真っ赤な目を向けた。
 しかし、村の広場に入り、テッペイから全住民の避難が完了したと報告が入ると、
彼らはようやく心置きなく総攻撃に入った。
「いくぞみんな、メテオール解禁!」
「パーミッション・トゥシフト・マニューバ!」
 三機がそれぞれイナーシャル・ウイングを展開し、金色の光に包まれて
マニューバモードへチェンジする。
「ガトリングデトネイター!」
 攻撃用メテオールの装備されていないガンブースターから六条の光線が
発射されて、正面からエンマーゴの盾と火花を散らす。しかしその隙をついて
ガンウィンガーが、奴の背後から狙いを定めた。
「スペシウム弾頭弾、ファイヤー!」
 背中からスペシウム弾頭弾が突き刺さり、通常の兵器とは比べ物に
ならない爆発が起こって、エンマーゴが前のめりに吹っ飛ばされる。しかし、
鎧にはひび一つ入っていない。
480名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:04:34 ID:EFMSkarH
支援
「くそっ、防御力はリフレクト星人以上か!」
「攻撃の手を緩めるな、いくぞ、ブリンガーファン・ターンオン」
 今度はセリザワがガンローダーのブリンガーファンを作動させ、荷電粒子
ハリケーンがエンマーゴに襲い掛かる。これにかかれば、どんなに重い
怪獣でも木の葉のように吹き上げられてしまう。しかし、奴は剣を地面に
突き刺すと、それを支えにしてハリケーンに耐えている。
「なんだと?」
 これまでブリンガーファンで吹き上げられなかった怪獣はいなかっただけに、
セリザワもうめくようにつぶやいた。けれども、吹き上げられなかったとしても
荷電粒子ハリケーンに包まれ続ければ、かなりのダメージはあるはずだ。
リュウたちはそう思ったが、ハリケーンが収まったあと、エンマーゴは
剣と盾を振りかざして、何事もなかったように立ち上がったではないか。
「くそっ! まだ動きやがるのか」
 メテオールの攻撃をこれだけ受けてもなお、エンマーゴにはダメージらしい
ダメージがなかった。さすがはこの世ならざる存在、といってしまえばそれまでだが、
笑い話ではすまされない。リュウは、一機ずつの攻撃では効果がないと、
ガンフェニックストライカーに合体しての一撃にかけた。
「インビンシブルフェニックス・ディスチャージ!」
 炎の不死鳥が正面からエンマーゴを襲い、灼熱のエネルギーが盾で抑えきれ
ないほどに全身を包んで燃え上がる。これならば、鎧を身につけていても
熱が中に浸透してダメージを与えられるだろう。だが、超絶科学メテオールとて
万能でも無敵でもないことを、彼らは再認識させられることになった。
「馬鹿な! 炎を振り払った」
 仏教では、地獄はその苦行に応じて六つに分類され、その中の一つに
亡者が永遠に地獄の炎で焼かれ続けるという焦熱地獄というものがある。
エンマーゴは、その六道地獄を支配する閻魔大王ともあろうものが、この程度の
炎に焼かれるものかと炎を振り払い、マニューバモードの時間が切れて唖然と
見ている彼らの前で、ついに村に侵入すると、まずは物置小屋を一足で踏み潰し、
村一番の高さをほこった風車を、まるでつくしのように切り捨てた。
 むろん、GUYSはあきらめずに通常兵器で攻撃を続けるが、奴の前進は止まらない。
その猛威はもはや天災とすら呼んでよかった。
 しかし、奴は村の家々を破壊しつくそうとはせずに、吸い寄せられるかのように
ある一点にのみ向かっていた。
「あいつ、村のブドウ畑に向かってる!」
 才人たちは、奴の目的が青々と茂るブドウ畑を枯らしつくすことだと知って
愕然とした。あれがやられれば、タルブ村の人々は生き延びたとしても、
生活する術を失う。奴はそれを知って、もっとも村人が苦しむ方法をとろうとしているのだ。
「やろう、行かせてたまるか!」
 怒った才人は、懐からガッツブラスターを取り出して、奴の後頭部に撃ち込んだ。
すると一瞬奴の動きが止まり、こちらのほうを睨んで、口からあの黒煙を吐いてきた。
「ルイズ、危ない!」
「きゃっ!」
 間一髪、飛びのいた先を荒地にして黒煙は二人のそばをすり抜けていった。
しかし、わずかに吸い込んでしまった煙は喉を焼き、目に入った煙は視力を奪った。
「げほっ、げほっ!」
「サイト、どこっ、目が、目が見えないっ!」
 焚き火の煙をまともに浴びてしまったときのように、二人は咳き込み、涙を
流して動けなくなってしまった。それでも、才人はわずかに薄目を開いて照準を
定め、ガッツブラスターをエンマーゴに向かって放ったが、三発、四発目を撃った
ところでとうとうそのときがやってきた。
「弾切れ……ち、畜生っ」
 いくら引き金を引いてもカチリ、カチリというだけで、もう銃口からビームは放たれない。
アスカ・シンからオスマン、そして才人の手に渡ってから、数々の戦いを潜り抜けてきた
この銃も、エネルギー切れという運命からだけは逃れられなかった。
 エンマーゴは、GUYSの攻撃などは意に介さないといわんばかりにブドウ畑へ
向かう。才人の行動を見て、地上からテッペイとミライも援護射撃を加えたが、
やはり黒煙を受けて戦闘不能にされ、才人たちもミライも変身不能にされてしまった。
「ああっ、わしらの畑がやられる……」
 街道の先の、ラ・ロシュールへ続く山道から村を振り返った人々は、精魂込めて
作り上げてきた畑が、悪鬼の手にかかろうとしているのを見て、がっくりとひざを折った。
しかし、あざ笑いながらエンマーゴがその口を開けたとき、その後頭部に爆発が起き、
黒煙を吐こうとしていた奴をよろめかせた。
「今のはバスターブレッド!? ミライかテッペイか?」
 ジョージは、自分の超視力で一瞬だけ見えた光弾の形から、当たったのが
トライガーショットのバスターブレッドだと判断した。しかし、地上から撃てるはずの
二人は黒煙でまだむせていて、とても銃を撃てる状態ではないはず。
 ならば誰が、その疑問は弾道から逆算した先にある、村の外れの寺院のそばにある
墓地に立つ一人の姿を見たときに解かれた。
「あれは……レリアさん!?」
 なんと、そこにはシエスタの母が、祖父の形見のトライガーショットを握り、
毅然とした顔で、大怪獣を睨めつけていたのだ。
「おじいさんの愛したこの村を、お前などの好きにはさせません!」
 ギマイラとの戦いから、眠り続けていた銃口がうなり、顔を狙って放たれた弾丸が
火花を散らす。もちろん、そんな無茶もいいところの行動には、リュウやジョージも
聞こえないことを承知で、やめろ、逃げろと叫ぶが、驚いたことに本来なら、
エンマーゴにはこの程度の銃撃は効かないはずなのに、まるで村を守ろうとする
レリアの気迫に押されているかのように、エンマーゴは必死で顔をガードしているではないか。
「すげえ……」
 ガンフェニックスの攻撃をものともしなかったエンマーゴが、たった一丁の銃と、
か弱い女性一人にひるんでいる。信じられない光景だが、人間の意思の力は
時に常識を超えた力を発揮する。
 しかし、放たれた一発が偶然にもエンマーゴの目元を直撃してしまったことで、
追い込まれていた奴は、逆上して、もうブドウ園などどうでもいいとばかりに、
剣を振りかざしてレリアに襲い掛かった。
「危ない!」
 村の家や街路樹を蹴散らして、走ることで地震すら引き起こしながら、エンマーゴは
たった一人の女性に向かって迫り来る。レリアはそれでも、村のみなの未来のためなら、
きっと祖父もそうしただろうと、胸を張って立ち続けていた。だがそこに、ここで聞こえる
はずのない声が彼女の耳に飛び込んできた。
「お母さーん!」
「シエスタ!? どうしてここに」
「だって、だってお母さん、死ぬ気なんでしょう!」
 愕然として振り返ったとき、目の前には街道に残してきたはずの娘が、息を切らせ
ながら走ってきている姿があって、彼女は顔色を無くした。いけない、怪獣はもう
そこまで来ている、私一人ならともかく、シエスタを巻き込むわけにはいかない。
「馬鹿、逃げるのよ! はっ!?」
 そのときにはすでに遅く、エンマーゴの剣は彼女たちの頭上に来ており、レリアは
とっさに娘の盾になろうと、その身に覆いかぶさった。
 だが、エンマーゴの剣が彼女たちに地獄の判決を下そうとした瞬間、セリザワの右手に
ナイトブレスが輝き、ガンローダーのコクピットから一条の光が飛び立った。
「きゃあっ!」
「……っ」
 レリアは、悲鳴をあげた娘を抱きかかえ、心の中の祖父に娘を守りきれなかった
ことをわびた。しかし、覚悟してもいっこうに痛みも、魂が天に登っていく感覚も無く、
そっと目を開けて見上げてみると……そこには、青く輝く希望……群青に輝く光の巨人が、
エンマーゴとレリアたちのあいだに割り込み、右腕から伸びた光の剣で、邪悪な一刀を
受け止めている姿があったのだ! 
「ウル……トラマン」
 レリアの口は、無意識のうちに懐かしい温かさを持つ、その巨人の名を口ずさんでいた、
そして、自分たちを守って立ち上がるその青いウルトラマンから、彼女はかつて
ウルトラマンダイナを見たときのような、強く、頼もしい声を聞いたような気がした。
 
「佐々木と、あなた方の意思は、俺が引き継ぐ! もうこれ以上、この村を
お前の好きにはさせんぞ!」
 
 今、ナイトビームブレードの一撃でエンマーゴを押し返したウルトラマンヒカリが、
強く輝く正義の剣を右腕に宿し、友と、その愛したすべてを守るために立ち上がった。
 
 続く
484ウルトラ5番目の使い魔 あとがき ◆213pT8BiCc :2010/03/28(日) 16:10:41 ID:DTjv9ovc
今週は以上です。
本当はエンマーゴ対ヒカリ&GUYSの決着はここでつけたかったんですが、書いてるうちに
大きくなりすぎたんできりのいいところで分離することにしました。
しかし、ちょっと思ったのですが、ハルケギニアは異世界にあるとはいえ別の星ですから
GUYSのアーカイブドキュメントには当然レジストコードが記載されることになるんでしょうが、
『ハルケギニア星人』でいいんでしょうかねえ……
485名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:12:24 ID:xv9Ufs8k
乙。

まあ地球人だって他の星の人から見れば『○○宇宙人 チキュウ星人』になるだろうから、いいんじゃないの。
486名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:12:42 ID:Czk0DGCw
おつおつ。3人でフルボッコしなくても、ヒカリだけで勝てそうな気もするね。

ハルケギニアは地方の名前であって星の名前ではないので、暫定的に「ハルケギニア人」とかでいいんでないかい?
487名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:26:50 ID:OV6qXhwG
ウルトラ乙
488名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:30:47 ID:jgKGzmtm
ヒルカワを召喚するゼロ魔見たいかも
489名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:31:21 ID:aP5O47Rb
>>463
基本的には支援不足でしょう
間に支援が来ずに何レスも連投する形になればさるさんの危険性も高いかと
具体的に連続何レスまでなら大丈夫かは不明だが
490ウルトラ5番目の使い魔  ◆213pT8BiCc :2010/03/28(日) 16:31:33 ID:DTjv9ovc
>>485-486
なるほど、確かにそうですね。
考えてみたらハルケギニア星人だと、東方のエルフとかを無視した名前になりますからハルケギニア人が当面いいかもしれません。
 
それから、今回も支援してくださった皆様方もありがとうございました。
では、次回また。
491名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:31:41 ID:Yc40vMiu
てめーらはこれからこの人をたおしにいってくだちぃ

ルイズ星人

すきなもの:さいと
きらいなもの:でかいオッパイ
くちぐせ:「うるちゃいうるちゃい」
とくちょう:みためしょうがくせい

うん、脳に悪いものが沸いてるんだ
許してくれとはいわない
492名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:33:21 ID:S1d9Ccgw
ウルトラ乙
493名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 16:35:20 ID:JTSXicLt
貴方は「いじめられる側にもいじめの原因がある」と思ってませんか
或いは「死刑には凶悪事件の抑止力がある」と思ってませんか
或いは「掲示板で不愉快になったらその原因は発言者にある」と思ってませんか

これらの考えの根っこは、実は同じです(※善悪の話ではありません)

これまで当たり前だと思って、深く考えなかったこと・・・
周りに言われるままに、何の疑問も抱かなかったこと・・・
それらが本当に正しいのか、ちょっと立ち止まって考えてみませんか


いじめに関するよくある勘違い
http://mamono.2ch.net/test/read.cgi/youth/1268212962/

死刑制度に関するよくある勘違い
http://society6.2ch.net/test/read.cgi/court/1268212298/

外界は内界を映し出す鏡だって言ってたようちの嫁も
http://academy6.2ch.net/test/read.cgi/philo/1264845494/
494名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 17:50:29 ID:b7sGv+DB
ウルトラ5番目の作者さん、乙でした。

 今回は剣を持つ相手だけに久々エースがデルフでガンダールヴかと思いましたが、
佐々木隊員のこと考えるとヒカリことセリザワ隊長のがいいですね。

 終盤のレリアたちのくだりで思わず涙出ました、ヒカリかっこよすぎ。
495黒き天使デビルマン:2010/03/28(日) 20:37:16 ID:4T/N5JFY
21時辺りに投稿します。
496名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 20:50:58 ID:DEOfbE8T
駄目。なぜ駄目なのか分からないなら半年ROMれ
497名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 20:56:05 ID:zpXmgLVI
半年以上見てるが駄目な理由が判らない
496が荒らしだって事は判るが
498名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 20:58:12 ID:AwagwRI1
ちょっと前になりすまし荒しが沸いてたからトリップつけろってことじゃね
499黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:02:45 ID:4T/N5JFY
トリップつけました。投稿します。
500黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:03:41 ID:4T/N5JFY
『荒野を渡る老いたカウボーイが、山の尾根で足を止めた。辺りは暗く陰鬱で、強い風に吹かれた砂が延々と舞っていた。
突然、垂れ込める暗雲が激しく割れ、どこからともなく現れた真っ赤に燃えた眼をした牛の大群が凄まじい勢いで夜空を横切っていく。
牛の背中に押しつけられた焼印は未だに熱く燃えたぎり、その力強い蹄は鋼で出来ていた。黒い角をそびやかし、吠える悪魔の牛。
恐怖がカウボーイの身体を雷の如く貫いた。
イッピーアイエー、イッピアイオー、悲痛に満ちた叫び声を轟かせ、牛の群れを馬に跨った不気味なライダー達が追いかける。
イッピーアイエー、イッピアイオー、不気味なライダー達が追いかける。
男達のシャツは汗で黒く濡れ光り、苦痛に表情を歪ませていた。必死で馬を駆り、牛達を捕らえようとするライダー達。
馬が暴れるように鼻から炎を吹き上げた。手綱を握ったライダー達が永遠の大空を駆け抜けていく。
ライダーのひとりがカウボーイに呼びかけた。
あの牛は悪魔の群れだ。地獄からお前自身の魂を救いたければ違う道を行け。
そうでなければ俺達と一緒に来い。そして果てしない幻の空を駆け巡り、悪魔の群れを追いつめるのだ
イッピーアイエー、イッピアイオー、不気味なライダー達が追いかける。イッピーアイエー、イッピアイオー、不気味なライダー達が追いかける』

               ヴォーン・モンロー『Ghost Riders in the sky』

                      『黒き天使デビルマン』

明は怯えた。他の若者達と同様に必死で逃げ道を探す。フロアはデーモンによる一方的な虐殺──血生臭い屠殺場と化した。
明の本能が叫んだ。早くこの場から逃げろと。逃げる──逃げ場などなかった。
背後から現れた髑髏の化け物が明の後頭部を引っ掴む。恐るべき圧迫感──激痛とともに頭蓋骨がミシミシと軋みあげていった。
痛かった。苦しかった。死にたくなかった。こめかみを突き破る激しい苦痛に鼓動が早鐘を打つ。失神しかけながらも痛苦のあまり明は決して意識を失わなかった。
化け物が伸ばした片腕で軽々と明を持ち上げた。首の骨が折れそうだ。化け物が毒々しい紫の粘液に輝く舌で明の首筋を舐め汚す。おぞましかった。
宙吊りにされた明の理性──嫌悪と恐怖の衝撃に跡形もなく吹き飛んだ。身体を粉々に砕かれるようなショックが明の肉体を貫く。
生物としての欲求と本能だけが明を支配した。ふいに何者かが明の身体に侵入し、その細胞と精神に溶け合った。一つの肉体に二つの魂が重なる。
明は胎児へと退行し、暗黒の羊水に身を浮かべた。地獄から湧き出るヘドロのようなどす冥い体液を養分に明の身体が成長していく。
地獄の野獣の如く、虚無の中で雄たけびをあげる。それは産声だった。地獄の産声だ。
明は顔を醜く歪ませ、破壊への欲求に身悶えた。完全なる虚無、暗黒の空間。
一条の光が見えた。明が光へ向かって泳ぐ。光は美樹になった。純白なる穢れなき姿の美樹に。
やっとたどり着いた光──明は手を伸ばすと、禍々しい鷲爪で捉え、思う存分に美樹の裸体を引き裂き、その乳房を食らった。
不気味な音と共に真紅の鮮血が迸り、赤ん坊の泣き声が暗黒の空間を粉砕する。
明は目を覚ました。誕生したのだ。悪魔人間が。この地に、誕生したのだ。
501名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:04:18 ID:0FSTHpkn
>>490
ふと思ったのだけど、地球って、宇宙人から見たら水球だよね。
個体数だって、ヒトより魚の方が絶対に多いだろうし、知的生命かどうかに至っては
恒星間飛行ができるような連中から見りゃ、ヒトも魚も同様に価値のない存在だろうな。

いや、深い意味はないから軽く流してくれ。
502名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:05:46 ID:EFMSkarH
支援
503黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:07:02 ID:4T/N5JFY
凄まじいエネルギーのうなりが五感を駆け巡り、明の感覚が研ぎ澄まされていく。力が熱く漲った。無限とも言える喜悦が訪れた。
原子の炎が吹き上げ、燎原の火の如く明の肉体を焦がしつくす。喜悦は激烈な殺戮への衝動へと変わり、明は口元を歪ませた。
『フフフ……ハハハ……ッ』
ふいに明が笑い始める。狂人の如く笑いながら、明は叫んだ。
『手に入れたぞッ……俺は……悪魔の身体を手に入れたぞッ!』
明の意思が強くメタモルフォーゼを望んだ。
意思に同調した肉体が人からデーモンへと変化する。肥大化する筋肉に伴い、鋼鉄の如く強度を増しながら急激に成長していく骨格。
明に憑依しようとした悪魔の勇者はその力と知識を明に乗っ取られたのだ。
突然の事態に驚き、戸惑うばかりのオスマン。
明は己の頭を掴んでいたデーモンの顔半分を鋭い刃鋼の鉤爪で腕ごと切り飛ばした。血糊が水平に飛び散る。
切り落とされた顔上部の切断面がタイルの上にベチャリと鳴って張り付く。
己に宿った信じ難き力に明は酔いしれた。異常事態に気づいたデーモンの群れが人間達を食らうのを止めた。
──何をするアモンッ、獲物は俺達ではなく人間だぞッ
半漁人に似たデーモンがテレパシーで意識をとばし、アモンの行為を見とがめた。

このデーモンの名は確か、沼地のマクテルだったか。明はアモンの知識から相手の情報を読み取った。
──俺はアモンではない。俺の名は……デビルマンだッ!
明が拳を握り締めた。マクテルが怯む。
──糞ッ、アモンが人間に意識を乗っ取られるとはッ
デビルマンが不敵な笑みを浮かべる。
──乗っ取ったと言って貰おうか。俺は貴様らを地上から抹殺する為に生まれたのだッ
沼地のマクテルがダイヤモンドをも切り裂く水鉄砲を飛ばした。それを合図にデーモン達がデビルマン目掛けて殺到する。
デーモンとデビルマン不動明の最初の戦い──それは戦いとはとうてい呼べぬ代物だった。
一方的に人間達を殺していたデーモン──立場は逆転し、今度はデーモン達がデビルマンの餌食となっていく。
明は沼地のマクテルめがけて飛びかかり、脳天に猿臂を食らわせた。頭骨を叩き割る。マクテルの身体が反動で仰け反った。
横から巌のオーグがデビルマンに体当たりする。デビルマンはオーグを身体ごと受け止めた。猪首を右腕で絡めあげ、肉ごと頚骨を圧し折る。
圧倒的だった。恐るべきは悪魔アモンの肉体と超能力だ。
ちぎれた手足が飛び、転がるデーモンの首の数が増えていく。何人かの人間がデビルマンの巻き添えを食らったが明は気にもしていない様子だった。
デーモンと合体しそこねた哀れな人間達。デーモンに怯え、死を待ち、逃げ惑うだけならばいっそ苦しませずに殺してしまったほうが良い。
明は暴風の化身となり、人間もろともデーモンを虐殺した。血飛沫が噴くほどに明は残虐にデーモンを追い立てる。
折り重なった人間とデーモン達の骸、フロアに散乱する脳漿と臓器、地下ホールには死の匂いが充満し、いつしかそこに立っているのは明だけだった。
504黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:12:03 ID:4T/N5JFY
オスマンの意識が遷移し、年老いたこのメイジは正気を取り戻した。己の頬を叩き、感触を確かめる。あの悪夢はなんだったのか。
目の前にいる少年はただの悪魔ではないのか。オスマンの活性化した脳内でめまぐるしく思考が回転し、次々と疑問が沸く。
「おい、爺様。大丈夫か?年寄りにゃちょいときつかったかな」
「……一体今の夢はなんだったんじゃ。妙に生々しい夢じゃったが」
「あれが旦那のいた世界さ。そして旦那は元は人間だったのさ」
「あの黒ミサ……それが事実だとすれば、アモン殿は悪魔ではなくかつては生身の人間であり、人でありながら強大な悪魔の身体を乗っ取ったと」
「察しがいいな。流石は伊達に歳食っちゃいねえや。亀の甲より歳の甲ってな」
デルフリンガーを通して明はオスマンにかいつまんで説明した。氷山の下に潜み、数百万年の眠りから目覚めた人外の存在の事を。
滅亡した人とデーモンとの激しい闘争を。そして人の心を失わなかったデーモン──デビルマンの歴史を。
勿論、それはデルフリンガーを通してオスマンにわかりやすく説明しているので事実とは違う箇所がいくつかあったが。
デルフリンガーの話が終わると同時にオスマンが椅子から身をゆっくりと起こした。真っ直ぐに明の瞳を見つめ返し、頷いて見せる。
「東の地から来た哀しみの勇者よ……人の身でありながら悪魔となり、人の為に戦い、人の手によって最愛の女性を奪われた魔界の騎士よ……
お主の奥にある底なしの孤独感……その意味がようやくわかったわい。わしに出来る事があればなんでも言ってくれ。微力ながら手を貸そう」
デルフリンガーの講釈では明はロバ・アル・カリイエから召喚された最強の戦士という事になっていた。
デルフリンガーが日本をロバ・アル・カリイエと勘違いしたせいだ。

「旦那は危惧してるんだ、もしかしたらデーモンがこの地上に現れるかもしれねえって。だからこうして明かしたんだぜ」
「ふむ。お主やこの武器がハルケギニアに渡ってきたとなれば悪魔も同様に……何にせよ、用心するに越した事はない。
実はのう。一旦は鎮まったものの、最近、トマス・トルケマダ配下の異端審判官どもの動きがまたぞろ活発化していると聞き及んでおるのじゃ。
一体、何が起こっているのやら……しかし、何故わしにお主の事を明かしてくれたのじゃ。信用してくれたのは嬉しいが、少し腑に落ちん」
ダルフリンガーが声を落としてオスマンに告げた。
「それは旦那が爺様が何かを知っていると、何かを隠していると感じたからさ」
沈黙したオスマンが磨きあげられた机に置かれている水パイプを手に取った。明とオスマンが視線を交わす。
「……あれはもうどのくらい昔だったかのう。わしはかつて、無謀にもワイバーンの群れに突っ込んでいったことがあったんじゃ。
あの頃のわしは天狗になっていた愚か者じゃった。
運良く、本当に運良く幼いワイバーンの一頭を倒したところでわしは魔力も尽きかけてなすすべもなく、
子供を殺されて怒り狂った残りのワイバーンどもに食われる所じゃった」
昔を思い出すようにオスマンが天井を仰いだ。水パイプの吸い口を含み、肺一杯にニコチンを充満させる。
「その時じゃった。わしとワイバーンの間に化け物と異風なる甲冑を身に着けたメイジが乱入してきたのは」
オスマンは記憶を辿りながら回想した。
505名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:13:19 ID:3+ySgVHh
支援
506黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:16:35 ID:4T/N5JFY
大岩に身を潜め、オスマンは三つ巴の戦いを見守った。ワイバーンの巨大な眼球が闖入者を見据える。
餌が二匹転がり込んできた。ワイバーンの眼にはそう映ったのだろう。最初に攻撃を仕掛けたのは群れの中でも一際大きなワイバーンだった。
三十メイルを越す巨躯を誇る獰猛なワイバーンの長だ。甲冑を身に纏ったメイジが突進するワイバーンの硬い鱗で覆われた胸をブラスターで射抜いた。
それでもワイバーンの突進は止まらず、異風のメイジが猛烈な勢いで全身を大岩に叩きつけられる。大岩に亀裂が走った。
大岩に打ちつけられたかのようにだらりと肢体を捻じ曲げ、動かなくなる異風のメイジ。
オスマンが眼の隅で、落ちたブラスターをとらえた。ブラスターを拾い上げ、懐に隠す。
開いた胸から血を流し、ワイバーンは死んだメイジに食らいつき、ひと飲みにした。そして残りの獲物に視線を移した。
獲物──紫の外骨格に峻烈なる棘を纏った化け物。ワイバーンはメイジ同様、化け物にも襲い掛かった。
化け物が跳躍し、ワイバーンの顎門から逃れる。目の前から獲物が消え、ワイバーンは当惑した。眼で獲物を追うが姿は見当たらない。
獲物を見失ったワイバーンは仕方がないとばかりにオスマンを標的に変え、のそりと大岩に近づく。
だが、次の瞬間、右目に激痛が走り、ワイバーンは動きを止めた。破裂した眼球が水晶体を撒き散らす。
化け物が素早い動きでワイバーンの首に飛び移った。オスマンは驚愕に叫び声をあげることすら忘れた。
硬質の鱗を素手で貫き、ワイバーンの表皮を肉もろとも突き破る。鮮血が迸った。首を突き刺されたワイバーンの断末魔の如き唸り声が響く。

長を倒された残りのワイバーンはその場から逃げるように飛び去った。その場で息をする者は化け物とオスマンのみ。
化け物がオスマンの隠れる大岩を見た。亀裂の入った大岩を砕き、近づくとオスマンの首根っこを掴む。オスマンは死を覚悟した。
化け物が口を開き、オスマンを頭ごと食らおうとする。その時、オスマンは懐に隠していたブラスターを掴み、化け物の口にねじ込むと引き金を引いた。
一か八か、乾坤一擲の勝負だった。化け物の口腔内をブラスターの熱線が弾いた。ドウッと崩れ落ちる化け物。
オスマンはブラスターを握り締めたまま、脱兎の如く駆け出した。

「わしは一目散に逃げ帰った。そして部屋の隅で夜が明けるまで待ったんじゃ。冷静さを取り戻してからもう一度、あの場所へいった。
昨日と何も変わらんかったよ。ワイバーンとメイジと化け物の死体が仲良く転がっておったわい。
わしは最初にメイジを調べてみたんじゃが着ていた甲冑は壊れて使い物にならんかった。いくつか珍しい品物を持っていたがの。
それからあの化け物を研究室まで運び込んだのじゃ」
オスマンがデカンタからコブレットにワインを注いだ。半分ほどコブレットのワインを飲み、一息つく。
──デーモンの特徴からすると、恐らくはエビゴニアのカロンだろう。おい、デルフフリンガー。カロンの死体をどうしたのか聞いてみてくれ。
言われたとおりにデルフリンガーがオスマンに尋ねる。
「それで爺様。その化け物はどうしたんだ?」
「うむ、わしも自分なりに色々と調べてみたんじゃがのう。途中でアカデミーの奴等に持っていかれてしもうたわい」
──アカデミー、それはなんだ?
507黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:23:32 ID:4T/N5JFY
──王立魔法研究所のことですよ。旦那。表向きは新しい魔法技術やマジックアイテムを作る事らしいですがね。裏では何をやってるのか……
含むようなデルフリンガーの物言いに明の脳裏に刻まれた忌まわしい記憶が蘇る。
かつての生物化学研究所──そこではデーモンと人間に対して生体実験という名の拷問が行われていた。
──デルフリンガーよ。俺は少し調べたい事がある。もし、字が読めるのなら協力してほしい。
──何でも言って下さいよ、旦那。俺に手伝える事ならなんだってやりやすぜ。
明は図書館の場所をオスマンに尋ねると学長室を後にした。

ニレの木に背中を寄りかからせ、ルイズはひとりで寂しげに空を見上げていた。明が静かにルイズの肩に手を置く。
ルイズが振り返った。ルイズの表情が晴れる。
「あ、アモン、話は終わったの?」
「旦那が図書館に行きたいらしいんだ。お嬢ちゃんも一緒に来ないかい?」
「図書館?アモン、貴方、字が読めたの?」
「いいや、旦那に人間達の文字は読めねえよ。そもそもが言葉もわからねえんだからな。
俺も文字なら簡単な奴しか知らねえからこうして嬢ちゃんに頼みに来たのさ」
「でも使い魔は図書室に入れないわよ」
「それなら爺様が快く許可してくれたよ」
「ふーん、珍しいわね。杖を取り返したからかしら。じゃあいきましょう」
魔法学院の中央にある本塔までふたりと一振りの剣は足を伸ばした。もっとも、デルフリンガーには伸ばす足などないが。
図書館に入り、ルイズが司書に軽く会釈する。明は図書室の一区画である『フェニアのライブラリー』を探した。
この場所は貴族とはいえ、生徒でも閲覧する事の出来ぬ蔵書を扱っている。明から言わせればだからどうしただ。
『フェニアのライブラリー』を見つけた。明がルイズにこの地の伝承に関する書物を探してくれと頼む。
「いいけど、見るとかなり上の本棚にあるみたいだから私ひとりじゃ取れないわ」
明がルイズの細い身体を抱き上げ、本棚の上へと飛躍した。目当ての本を探し、いくつか目星をつける。
途中で司書に注意されたが、明が牙を剥きだすと態度を一転させ、特別に許可を与えてくれた。
ふたりは時が経つのも忘れ、文献を読み漁った。
二つ折りの書字板や古い巻物にも眼を通し、夜が更けるのもかまわず、黙々と作業を繰り返す。
だが、有力な手がかりとなる情報は結局、見つからずじまいだ。
空腹と疲労の陰りを帯びたルイズ。当たり前だ。読むのは彼女の役目であり、それゆえに一番体力を消耗するのはルイズだ。
気遣い、明は図書館を出ると自室までルイズを抱いて連れて行く。夕食時はとっくに過ぎているだろう。
明はマルトーから分けてもらった干し肉とチーズ、それから小樽に入った林檎酒をふと思い出した。
508名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:27:00 ID:9twu0axu
支援
509名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:29:05 ID:KsTvmrTe
待ってました
支援
510黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:29:44 ID:4T/N5JFY
ギーシュは贅沢な寝具から上体を起こし、辺りを見回した。何のことはない。いつもの自室だった。
昨日まで熱を持ち、痛みに疼いていたはずの傷口を確かめる。傷口は跡形もなく奇麗に消えていた。
開いた窓から春の風が流れ込み、純白のカーテンが地平線に浮かぶ低い太陽を称えるようにたなびいた。太陽の光に手をかざす。
悪い気分ではない。それどころか肉体に力と自信が溢れているのがわかった。こんな感覚は生まれて初めてだ。
あの夢のせいだろうか。自分が巨大なドラゴンになって大空を駆ける夢。
宝を狙う無数の敵を次々と倒していき、莫大な宝石を敷きつめた巣で眠る自分。まるで冒険譚の一節のような、そんな夢だった。
ドットクラスの自分が今ならスクウェアクラスのメイジすら倒せそうだ。ギーシュは本心からそう感じた。
ギーシュはベッドから抜け出ると大きく伸びをした。伸びをした途端、腰に違和感を感じた。首を捻って眼を落とす。
そこにはあるはずのない器官──竜の尾が生えていた。何故、自分の尻の付け根からドラゴンの尻尾が伸びているのか。
それはギーシュ本人にもわからなかった。それでも、ギーシュはわりと冷静だった。
多少は驚いたが混乱する事も悲鳴をあげる事もせず、淡々と自分に生えた尻尾を観察する。
それは今の彼に備わった自信のおかげでもあった。
もしかしたら、自分はまだ夢の中にいるのかもしれない。ギーシュの脳が思索した。
もう一度、ベッドに入り、寝返りを打つ。ギーシュはこれで安心だとばかりにスヤスヤと寝息を立てた。

「おはよう、悪魔さん。好きな人に香水を作ったんだけど少し余っちゃったからあなたにも一瓶あげるわ」
「今日はいい天気じゃのう、アモン殿。質の良い煙草が手に入ってのう。一緒にパイプでも吹かさんか」
「ルイズの使い魔さん、今日の気分はどうですか?昨日、錬金の実験で作ってみたアクセサリーなのですが、少しお分けしますわ」
「おう、悪魔の兄ちゃん。今日も調子がよさそうだな。よかったら火酒を皮袋に詰めていけよ」
「最近、また悪さをする貴族が出始めてね。あたしも現役の盗賊に戻ろうかと思ってるんだ。儲けは折半、手伝ってくれないかい。アモン」
「きゅいきゅい(アモン様、シルフィー、おいしい木の実をいっぱい見つけたのね。一緒に取りにいくのね)」
明がこの学院に召喚され、一ヶ月が経った。今では明──アモンを知らぬ者は誰一人としていない。
学院内の人間達は明に対し、それほど悪い印象を持ってはいなかった。
最初は物珍しいだけの使い魔だった。次にその恐ろしさを思う存分、見せ付けられた。そして彼の人徳に触れる機会を得、今に至る。
明は日常的に使用人達の仕事を手伝った。ほとんどは夕食用の狩りと大樽を持ち上げる等の力仕事だが。
それから学院内の見回りと警備だ。
これも学院の本搭の天辺から見下ろしているだけだったが、時たま、学院の敷地にオーク鬼が入り込む事もあり、明はこれらを退治した。
人々はいつしか、ルイズの使い魔は恐ろしいが有益であり、こちらから手を出さなければ安全だと認識し始めた。
むしろ、スクウェアメイジであるギトーを圧倒し、フーケから杖を奪還したその力と手腕に憧れる者さえ出るほどだった。
本搭の最上部から猛禽類のように眼を光らせ、こちらを見下ろす明の姿はドラゴンよりも頼もしく映り、特にルイズを喜ばせた。
いつものように本搭の天辺から学院の敷地内を巡視する。普段よりも騒がしい。一体、なんだ。
──今日は随分と騒がしいな。祭りか何かか。
──お嬢ちゃんから聞いたんですがね、なんでも王女様がこの学院を訪れるとか。
──なるほど。騒がしいのはそれが原因か。
511名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:32:14 ID:9twu0axu
支援
512黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:34:10 ID:4T/N5JFY
──ねえ、アモン様。シルフィー、川で水浴びがしたいのね。お魚も前みたいにいっぱい食べたいのね。
本搭の周りをクルクルと飛び回るシルフィードが明を誘う。
──いいんじゃないんですか。今日は警備なんざ止めて、竜のお嬢ちゃんと一緒に釣りにでもいきましょうや。
──そうだな。そうするとしよう。
デルフリンガーに同意した明が翼を広げた。小川まで一直線に躍り上がる。シルフィードは子供のようにはしゃぎながら明の背を追った。

初夏に近い陽光、象牙に金の浮き彫り細工を施した豪奢な箱型の馬車が土埃を撒く一本道を進んだ。
馬車の前には厳しい顔をした魔法衛士隊が護衛の為に並んで歩き、一糸乱れぬ歩調で姫を乗せた馬車と衛士達は学院への道を行く。
アンリエッタは馬車窓から外の風景を眺めた。馬車を扱う従僕がアンリエッタの身を気遣うように声をかける。
王女が行幸なされるという事で学院内では食事や催し物などで忙しいと聞いていた。突然の出来事に学院側も面食らっただろう。
アンリエッタは口元をハンカチでおさえ、窓を開けた。
窓がひらいた途端、突風がアンリエッタの大切にしているハンカチをその手から奪い去る。
アンリエッタが馬車から降りた。従僕の制止を無視し、ハンカチを追いかける。
衛士が馬の歩みを止めた。数人の衛士がアンリエッタの後へと続いていく。幸い、ハンカチは近くの川辺の木に引っかかってくれた。
「姫様、ひとりで馬車から降りるのは危のうございます」
年嵩の衛士がアンリエッタを嗜める口調で言った。息を弾ませたアンリエッタが素直に衛士に詫びる。
「申し訳ありません。大事なハンカチが風で飛ばされてしまったもので」
「恐らくはアンリエッタ様の美しさに心奪われた初夏の風がついつい、出来心で悪さをしたのでしょうな」
若い衛士の冗談にアンリエッタが清澄な声でクスクスと静かに笑う。川岸からの涼しげな風音が耳殻に届いた。
「少し疲れました。ここで休憩を取りたいのですが」
「わかりました」
年嵩の衛士が他の衛士に号令をかける。アンリエッタは川端に身を寄せようと砂利に足を踏み入れた。
その時、アンリエッタは見た。一頭の幼い風竜と全裸の若者の姿を。夏の情景。
逞しく張りつめた背中を水で濡らし、若者は竜と戯れた。竜の首筋を抱き上げ、背中をさする。
トリステインでは珍しい若者の黒髪が軽く水滴をしたたらせる。
若やいだ輝きに満ちていた。初夏の太陽がもたらした雲間の幻か。
513名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:36:54 ID:9twu0axu
支援
514黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:40:52 ID:4T/N5JFY
「おいッ、貴様そこで何をしているッ、姫の御前であるぞ、無礼者めッッ」
衛士が声を張り上げ、裸の若者に詰め寄った。風竜が首をうなだれ、怯えるような視線を向けた。若者が静かに衛士を見やる。
「貴様ッ、聞こえているのかッ」
衛士がわめくように言いながら、杖を若者に振り下ろした。微動だにせず、若者は衛士から杖を奪い取る。
「き、貴様ッ」
杖を奪われた衛士が素早く川辺から避難した。タイミングよく残りの衛士が魔法を詠唱しはじめる。
アンリエッタは衛士達を止めようとした。だが、詠唱はすでに終わっていた。
若者に次々と魔法が叩き込まれていく。水面が激しく噴出し、大雨の如く降り注いだ。
あとに残るはドラゴンと若者の無残な亡骸だけだ。そんなものは見たくない。アンリエッタは顔を背けた。
杖を奪われた衛士が若者の骸から杖を奪い返そうと水面の間近まで来る。若者の遺体はどこにも見当たらなかった。
アンリエッタが何気なく空を見上げる。蒼天の頭上──ドラゴンを担ぎ上げた悪魔がこちらを睨んでいた。
「う、上だッ」
悪魔が額から青い光を一閃した。爆風が巻き起こり、岩が吹き飛んだ。悪魔が砂利の上へと着地する。
「先住魔法を使う悪魔だとッ!」
土メイジがゴーレムを作り上げ、悪魔に突撃させた。突撃したゴーレムの動きが途中で止まり、宙へと浮かぶ。
宙へと浮かんだゴーレムが粉々に砕けた。
「お前ら、これ以上、旦那に手出すと命の保障はねえぞ。わかったらさっさと杖をしまえよ」
川端から声がした。若い衛士がその場所に眼を向ける。あるのは錆びた剣が一振りだ。
「俺は忠告したからな。あとは知らねえぞ」
「インテリジェンスソードか。わかった。忠告を聞こう」
「そうだ。人間、素直が一番さ」
若い衛士が杖を仕舞うと他の衛士をそれに習った。
杖を奪われ、ひとり恥をかいた衛士だけは納得できかねぬようだったが、年嵩の衛士が彼を説得していた。
悪魔が剣を拾い上げ、ドラゴンとともに空へと飛び立つ。アンリエッタはその光景を唖然としたまま見上げていた。
515名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:42:34 ID:9twu0axu
支援
516黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2 :2010/03/28(日) 21:46:11 ID:4T/N5JFY
時刻はもう夕闇時だった。明はひらいた窓からルイズの自室にすうっと潜る。
ルイズが常に窓をあけているのは明が部屋の出入りをしやすいようにする為の配慮だ。
部屋に戻るとルイズが化粧台の前で慌しく、身繕いをしていた。世話しなく、櫛で髪をとかし上げる。
落ち着かない様子のルイズにデルフリンガーが声をかける。
「どうしたんだい。なにやら落ち着かないようだが」
「姫殿下がこの学院をお伺いに来てるのよ。きちんと身形を整えておかないと。そうだわ、アモン。貴方も新しい外套を着けておきなさい」
「なるほどな。なんなら身奇麗にする為に身体を洗ってきちゃどうだ?」
「そんな時間ないわよ。でも身体を濡れタオルで拭くくらいはしておこうかしら」
ルイズがいそいそと制服を脱ぐ。桶にぬるま湯を満たすとルイズは首から胸元、そして肩をタオルで拭った。
淡い汗をふき取り、丸い尻を明に向ける。明はルイズの背肌と尻をふいてやった。
アバラ辺りの肌は透けるように薄く、少しの力を加えただけで突き破れてしまいそうだった。
気持ちよさそうに喉を鳴らすルイズ。明は掴みかけた最後の幸せにそっと感謝した。

投稿完了です。
517名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:48:50 ID:9twu0axu
デビルマンの人乙です
518名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 21:56:25 ID:xv9Ufs8k
乙。

アカデミーでデーモンを研究って、嫌な予感しかしないんだが。
519名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 22:41:20 ID:rhImbSJW
地球の二の舞は勘弁してくれ(泣)
520名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 22:52:06 ID:yskSStpp
きっと、ほら、身長計ったり体重量ったり、ごはんをどれくらい食べるかを調べているだけだよ!
そうに決まってる。決まってるじゃないか(泣)
521名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 22:53:13 ID:CaxhCLwq


デビルマンときくと実写版を連想する自分はもう駄目です
522名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/28(日) 22:59:58 ID:UDkOAIKl
あー俺、使い魔になっちゃったよー
523名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 00:15:42 ID:TGev1SsD
遅レス失礼しますが

>>485,>>490
実際、94年のウルトラセブンで「地球星人の大地」ってありましたしね。
524名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 00:20:12 ID:1ZyBdJRw
リリカルルイズの復活まだかなぁ
525名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 00:20:32 ID:WNyTDGKE
前スレで
カズマ「いや、ルイズは綺麗なままだよ」
があったが
明「ルイズ、君だけだ……
  君を守る為に俺は戦う
  このハルキゲニアを君の住めないデーモンの物にはさせないぞ!」
とどっちが鬱だろうか
526名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 00:29:35 ID:SuKekz0w
デビルマンの人乙
明はせめてこっちでは幸せをつかんでもらいたいなぁ
527名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 00:35:00 ID:l62Aw3Nt
特に何もなければ、ゼロと電流第四話、二分後に行きます。
528ゼロと電流 第四話:2010/03/29(月) 00:37:07 ID:l62Aw3Nt
 ルイズの虚無曜日の朝は爽やかに始まった。
 大きく伸びをして外を見ると良い天気。出かけ日和だ。
 夜の内に汲んでおいた水で顔を洗い、服を着て出かける準備を整える。
 数日前まで壁に立たせていたザボーガーはいない。
 ザボーガーがルイズの部屋からいなくなった日、学生寮となっている塔のすぐ外に、小さな馬小屋のようなものが建てられた。そこ

にザボーガーは、マシンザボーガーの形で停められている。
 小屋を建てたのはコルベールである。
 別にルイズが要求したわけではない。コルベール、いや、学園側から言い出したのだ。
 まず最初に、ルイズが依頼した。ザボーガーに固定化の魔法をかけてもらえるように、コルベールに頼んだのである。
 ルイズにとって、ザボーガーの仕組みは謎である。しかし、メットから流れ込んできた感覚と情報から、少なくとも自分たちが思っ

ているようなゴーレムでないことはわかった。
 その構成は、生物と言うよりもアイテムに近いものだとも思える。
 だから、固定化を依頼した。それも、厳重に。できるなら、学園の宝物庫並みにと。
 コルベールが無理ならば他の先生に。それがダメなら外部に依頼してでも。そのためのお金はある。実家から送られてくる仕送りは

、アイテムに固定化の魔法をかけることを生業としている特化系メイジを雇っても充分に足りるだろう。
 しかし、コルベールはあっさりとルイズの依頼に応じた。
 物わかりのいい教師であり、人格的には円満だと言われるコルベールとはいえ、あまりの気軽さにルイズは逆にいぶかしむ。
 個人を、しかもヴァリエール家の娘である自分に対してのみ贔屓したと思われては、教育者としてはいかがなモノだろうか。
 その疑問はすぐに解けた。コルベールは交換条件を出したのだ。

「ザボーガーを調べさせて欲しい」と。

 コルベールは、ザボーガーの変形を見ていた。そして、召喚時にザボーガーがマジックアイテムであるかどうかを調べたのも彼であ

る。結果として、ザボーガーに魔法がかけられていないことは彼が一番よく知っている。
 つまり、ザボーガーの変形や機動には魔法は一切関わっていない、関わっているとすれば未知の魔法である、と断言できるのだ。
 だから調べたい、と。
 ルイズに否はないが、一応の条件を付ける。それは、ザボーガーを観察するのはいくらでも良いが、基本的に動かさないこと。見え

ない位置を見るのにレビテーションをかけたりするのは仕方ないだろう。しかし、勝手に触るのは基本的には却下である。
 コルベールはその条件を呑んだ。
 そして、次に提案されたのが小屋である。
 コルベールがザボーガーを調べるのは必然的に放課後が多い。その殆どが夜だろう。
 教師が女生徒の部屋を毎夜毎夜訪れるというのは拙い。さすがに拙いのだ。
 それに、ルイズが塔内でザボーガーを乗り回すのは周囲にしてみれば危なく、そして五月蠅い。音はまだしも事故の危険はないとル

イズは力説するが、その辺りは事実よりも周囲の印象である。
 ザボーガーは塔の外に置かれることになった。ただし、他の使い魔の溜まり場に置くことはできない。それはコルベールが困る。
 だから、急遽小屋を建てたのである。
 ザボーガーの元いた世界風に言えば、要は「バイク置き場」である。
その「バイク置き場」へ向かおうと、ルイズはドアに手を触れた。
 開かない。
 建て付けが悪くなったのか、と思ったが、押しても引いてもびくともしない。
 
「……ツェルプストー?」

 昨夜を思い出すルイズ。
529ゼロと電流 第四話:2010/03/29(月) 00:39:15 ID:l62Aw3Nt

「明日、城下町まで行くんでしょう?」

 夕食を追え、最近日課になったマシンザボーガーによる学園一周を終えたルイズにキュルケがそう尋ねる。

「行くけど?」
「私も街へ行きたいのよ」
「行けばいいじゃない」
「ザボーガーに乗せてくれない?」
「はあ? ザボーガーは私の使い魔よ」
「タバサのシルフィードだって、私は乗せてもらったわ」

 それとも、ザボーガーには二人乗りはできないのか、とキュルケは嫌みっぽく言う。

「そんなひ弱な使い魔には見えないけれど?」
「ザボーガーの力じゃなくて。私が嫌なの」
「どうして?」
「……貴女ねえ、私がヴァリエールで貴女がツェルプストーだって忘れてない?」

 首を傾げるキュルケ。

「私は、貴女がルイズで私がキュルケだと思ってたけれど?」

 言外に、家など知らないと斬って捨てている。ツェルプストーとてゲルマニアでは押しも押されもせぬ名門だというのに。
 そんなキュルケの言葉に、何故かルイズは赤くなる。

「と、とりあえず駄目なモノはダメ! 街へ行きたいなら、貴女の友達の風竜にでも乗せてもらいなさいよ」
「タバサのシルフィードね。でもあの子に虚無曜日出かけさせるのは割と重労働なのよ」
「そんなの知らないわよ。だったら学園の馬を借りればいいじゃない」
「馬はねえ。確かに楽しいけれど、ここの馬は匂いがきついわ」
「なにそれ、トリステインの馬が嫌なら、ゲルマニアから連れてくればいいじゃない」
「餌が違うのかしら?」
「だったら、大ムカデにでも乗ってきなさい」
「それはお断り」

 キュルケは真顔で即答した。
 使い魔召喚の日、一人が大ムカデを召喚して涙目で契約していたのはキュルケもよく覚えている。
 あれはちょっと……キモい。キュルケは密かにその女生徒に同情していた。
 学園には他にも色々な使い魔がいたが、乗って早いのはダントツにタバサのシルフィードである。
 しかし、ルイズは心密かに自慢していた。
 空こそ飛べないが、スピードならマシンザボーガーは風竜にも負けない。学園のスピードナンバーワンは自分の使い魔ザボーガーなのだと。

 その一連の出来事。
 つまり、今日キュルケはザボーガーに乗ろうと企んでいる。そして、ザボーガー自体は塔前の小屋にあるが、ルイズでなければ動かすことはできない。
 ザボーガーは無視しても、ルイズの身柄を確保すればよいのだ。
 そして開かないドア。
 ルイズは悟った。
 キュルケが外からロックの魔法をかけたのである。アンロックの使えないルイズにはドアを開けることはできない。因みに他人の部屋のドアへ勝手にロックやアンロックをかけるのは校則違反なのだが、キュルケは全く気にしていないだろう。そもそも証拠はない。
 一瞬、ドアを爆破してやろうかと思うルイズ。ドアに触れて練金なりレビテーションなりを唱えれば簡単だ。魔法が失敗して爆発す
る。
 しかし、外側からならまだしも中側である。部屋にも多少の被害は出るだろう。
 少し考えるルイズ。
 ふと思いついて、これだけは部屋に置いてあるヘルメットを被る。
 ヘルメットから伝わってくるザボーガーの性能をよく吟味する。
 よし、可能だ。
 ルイズは、メットのインカムを下ろした。
530ゼロと電流 第四話:2010/03/29(月) 00:40:36 ID:l62Aw3Nt

「ザボーガー、私の部屋まで来なさい。静かにね」

 付け加える。

「塔の外を登ってくるのよ」

 そしてルイズは、慌てるキュルケの顔を想像してほくそ笑むのだった。



「さて」

 楽しげに呟いて、キュルケはルイズの部屋の前に立つ。
 そしてアンロック。

「おはよう、ルイズ」

 いない。
 誰もいない。

「え?」

 窓が開いている。

「あの子、まさか」

 慌てて窓から下を見ると、なんだか桃色のもこもこしたものがマシンザボーガーにしがみついていた。
 そしてマシンザボーガーは、塔の壁面に垂直に立っている。

「……ルイズ?」

 キュルケは何となく猫を思い出した。
 高いところに上がったはいいが、降りられなくなってしまった猫を。
 キュルケは窓から出た。当然、フライの呪文を唱えている。
 ゆっくりと下がり、ルイズの前へ。

「何やってるの? ルイズ」
「……なさい」
「はい?」
「……なさい」
「聞こえないけど」
「下ろしなさいって言ってんのよ!」

 叫び、顔を上げたルイズは体勢を崩し、慌ててザボーガーにしがみつく。

「もしかして、ザボーガーで降りようとしたの?」

 こくり、とルイズは頷いた。

「途中で怖くなって、動けなくなった?」

531ゼロと電流 第四話:2010/03/29(月) 00:42:19 ID:l62Aw3Nt
 こくり
 やってきたザボーガーに乗って窓から出たまでは良かった。気分が高揚していたのだ。
 ところが、途中で我に返ると高さが怖い。
 思わずザボーガーを停めてしまい、それが裏目に出たのだ。

「これくらいの高さ……」

 言いかけて、キュルケは口を閉じる。
 ルイズは魔法を使えない。建物の中にいない限り、この高さに上がってくることはできないのだ。つまり、今日が初体験。
 キュルケは初めてのフライを思い出す。確かに、自分は怯えていたはずだった。いや、誰だって怯えるだろう。ルイズだって例外ではないのだ。
 メイジが高さを恐れないのは、自力で飛べるからだ。
 キュルケはゆっくりとルイズに手を伸ばす。

「動かないでよ、ルイズ」

 背中から手を回し、しっかりと抱き留める。

「ほら、ザボーガーを放しなさい」
「だ、大丈夫?」
「貴女一人くらい平気よ。ザボーガーは自力で降りられるんでしょう?」
「ザボーガー、私が離れてからゆっくりと降りなさい」

 そろそろと壁から離れたキュルケは、ルイズをゆっくりと地面に下ろす。そこではザボーガーが主を待っていた。
 ルイズは、ザボーガーに寄りかかるようにして側に立つ。その視線は、地面に向けられていた。

「……まさか、こんなに高かったなんて。……いつももっと高いところから景色を見てたのに……」

 実際、何もない空をフライで飛ぶよりも、高い木や建物のそばの方が高さを実感できるのは確かだ。
 さらに、ルイズは自分の身を保持していなかった。ザボーガーから滑り落ちればそれでおしまいの体勢だったのだ。ザボーガーはシルフィードやフレイムとは違う。背中に乗る者が落ちないように支えることはできないのだ。
 慰める言葉をキュルケは探せなかった。自分は飛べる者。助けた者。何を言ってもルイズには届かない。
 だから、キュルケはこう言った。

「克服するものが増えたわね」

 魔法がゼロでも座学はトップ。貴族として正しく振る舞うことを心がけ、その誇り高さは誰にも負けない。そのルイズなら、克服で
きないものなどない。
 いや克服してもらわなければ困る。
 そうでなければ、自分の立場がない。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールをライバルと決めたキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーの立場が。
 ヴァリエールとツェルプストーは、国境のそれぞれトリステイン側とゲルマニア側に領地を構えている。いわば隣同士だが、裏を返せば紛争の当事者同士でもある。
 幼い頃の園遊会で引き合わされてから今まで、キュルケはルイズに負けたと思ったことはない。ヴァリエールに負けるなと言われ、その言葉に自分でも納得していた。
 負けたことはない。魔法も使えないゼロに負けるわけがない。とキュルケに近い者は皆が言う。
 違う。とキュルケは言う。
 違う。魔法が使えないから勝っているのだ。
 もし同じ条件なら。
 自分がゼロなら? ルイズが魔法を使えれば?
 自分は、ゼロと呼ばれてもあれだけ頑張ることができるだろうか。周囲の白眼視を無視して自分を高め続けることなどできるだろうか。
532ゼロと電流 第四話:2010/03/29(月) 00:43:15 ID:l62Aw3Nt
 ある意味でキュルケはルイズを尊敬し、同時に恐れていた。ルイズが魔法を使えるようになる日を恐れていた。そうなれば自分など足元にも及ばないのではないだろうか。
 しかし、実際にルイズがサモンサーヴァントを成功させたとき、キュルケが感じたのは恐れではなかった。それは、喜びだった。
 これで、対等に戦える。同じ立場で比べることができる。
 使い魔が喚べたのだ、他の魔法だって時間の問題だろう。
 それに比べれば、高いところが怖いなどなんだというのか。

「そうね」

 果たして、ルイズは顔を上げた。
 キュルケを睨むように見つめる目は、いつものように輝いている。

「これくらい、どうって事無いわよ。どうせいつかは飛べるようになるんだから」
「あら、それっていつかしら? まさか、お婆ちゃんになってから飛ぶなんて言わないわよね?」

 だからキュルケはそう返す。
 そして、ルイズも。

「ふんっ、見てなさい。貴女よりうんと高く早く飛んで、今度は私が貴女を助けてあげるから」

 とりあえず、とルイズは続ける。

「当面の借りは返すわよ」

 ザボーガーに跨ると、キュルケをじっと見つめる。

「乗るの? 乗らないの?」
「ええ。乗ってあげるわ」

 輿に乗る女王のように優雅に、キュルケはザボーガーに跨った。こんな事もあろうかと、スカートの代わりにズボンを穿いている。
 そしてルイズはアクセルをふかすのだった。
 そんな二人の姿が学園から充分に遠ざかったところで、上空から青い竜……シルフィードが舞い降りた。
 その背には、タバサが乗っている。

「追跡」
「わかったのね、お姉さま」
 
 きゅい、と一声啼くと、シルフィードは力強く翼を広げるのだった。
533名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 00:43:50 ID:B6JfRIP2
支援、それは友の手に爪をたてて支えること
534ゼロと電流 第四話:2010/03/29(月) 00:44:19 ID:l62Aw3Nt
以上お粗末様でした。

あれ。デルフはまだか……次こそ、次こそ。
デルフとフーケ姐さんを。
535名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 01:52:08 ID:aZ6bh7Sr
電流の人乙でしたー。
ところどころ改行がおかしくなってるのは、テキストで書式を弄ればなおるアレですね。
なかなか楽しく日常が丁寧に積み重ねられて、読んでてほのぼのとします。
大ムカデを召喚して女の子かー、とか思いつつ次回も愉しみにさせていただきます。
536名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 15:45:59 ID:5AMEizcF
今、無限のフロンティアプレイしていて思ったがアシェンが召喚されたらひどいことになりそうだ
537TALES OF ZERO 作者:2010/03/29(月) 16:45:51 ID:RWGelZhZ
どうも、お久しぶりです
前回の続きを50分頃に投稿しようと思いますので、よろしくお願いします
538TALES OF ZERO 1/14:2010/03/29(月) 16:50:28 ID:RWGelZhZ
第五話 人と翼人と異邦人とハーフエルフ 後編


翌日、村長の村の広間にタバサの姿があった…ブツブツと何やら呪文を唱えている
「何だ、騎士様…朝飯食べてからずっとああしてるぞ?」
「精神統一だってさ…今日、ご友人さんと一緒に翼人退治に行くらしい。」
扉の外では集まっている村人が、ぼそぼそと小声で話し合っていた
これは周囲を欺く為のフェイクなのだが、彼等はそれを知らない
「そう言えば、そのご友人さんはどうしたんだ?」
「あの方も自分の部屋に篭って何かしているらしい…大丈夫かね、本当に。」
昨日の出来事のせいで、二人に対して期待が持てず、不安が募っていた
そんな村人達を他所に、サムは周りを見回しながら誰かを探している
「なぁ、親父…ヨシアを見なかったか?」
父親に尋ねるサム…彼が探しているのは朝から姿が見えないヨシアだった
そのヨシアは翼人達と合流の為、既に村から出ている
「えっ、ヨシア?さぁ、私は見なかったが…。」
父親の返答を聞き、サムは弟の行動を訝しんだ
弟が翼人の女と交流していたのは、自分だけでなく村の誰もが知っている
何かするつもりじゃ…そう考えていた時、突然外からドーンという大きな音が響いた
「な、何だ!?」
サムも村長も、集まっていた村人達も一斉に外の方を向く
始まった…タバサはゆっくりと立ち上がり、これからの芝居を始めようと思った
先程の音が、クラースによる合図だと思ったからだ
タバサが外に出ようとすると、バァンと大きい音と共に扉が開き、男が一人中に入ってくる
「はぁ、はぁ、はぁ……た、大変、大変だぁ!!!」
男が慌てた様子で大変、大変と叫び続ける
彼の尋常じゃない様子に周囲が驚く中、サムが男に駆け寄る
「落ち着け、大変だけじゃなにがあったかわからねぇだろうが!!」
そういって、サムは男の頭に拳を一発叩き込む
鉄拳を受けて我に返った男は、頭を抑えながらようやく本題に入った
「た、大変なんだ…何人もの武装した集団がこの村に襲ってきたんだ!!」
男の言葉に周囲は騒然となる…タバサも意外とばかりに驚く
「なに、それは本当か!?」
「う、嘘じゃねぇよ。あいつ等魔法で火をつけやがって…入り口の方はやられちまってる!!」
その時、再びドーンと大きな音が聞こえた…悲鳴まで聞こえてくる
それによって、周囲がパニックになった…これでは、翼人どころではない
「皆、うろたえるな…女こども年寄りは家にいろ、男どもは俺と一緒について来い!!」
サムは慌てずに指示を出すと、居間に入ってたて掛けてあった斧を手に取る
そして、今度はタバサの方へと歩み寄った
「騎士様、今何者かが村を襲っているらしい…悪いが手を貸していただきたい。」
サムの申し出にタバサは頷いて答える…そして、サムは男達と共に外へと走り出した
彼等が去った後、二階にいたクラースが慌しく降りてくる
「タバサ、一体何があったんだ?大きな音がしたと思ったら、村に火の手が上がっているぞ。」
「緊急事態…武装した集団がこの村を襲っているらしい。」
タバサが事情を説明すると、再びドーンという音が外から聞こえてきた
一刻の猶予もない…タバサは杖を握り締めて、外へ出る
「やれやれ、ようやく解決の糸口が見つかったと思ったらこれか…やるしかないな。」
クラースもまた、魔術書を手にタバサの後を追って外へ出た
539TALES OF ZERO 2/14:2010/03/29(月) 16:52:09 ID:RWGelZhZ
エギンハイム村は凄惨な事態に見舞われた…村の入り口から火の手が上がっている
そんな中を村人達が逃げ惑い、それを武装した男達が追いかける
「はぁ、はぁ、はぁ…ぐわっ!?」
今、逃げていた村人を、男達の一人が斬りつける
背中を切られた村人は、その場に倒れこんだ…背中から血が流れる
「おい、無駄に殺すなよ。」
「解ってるさ、手加減はしている…それに、この方が「恐怖」を刷り込みやすいだろ。」
仲間にそう答えると、男は倒れた村人を見る…地面を這って逃げようとしている
そんな彼を嘲笑うかのように、男は傷ついた背中を踏みつける
「ぐあっ!?」
「勝手に逃げんじゃねぇ、この劣悪種が…これからお前等は俺達の悲願の糧となるんだからよ!!」
ぐりぐりと足で傷口を踏みにじる…村人の悲鳴が周囲に響く
その様子を見て男と、その仲間が残酷な笑みを浮かべる
「もうその辺にしておけ、でないと使い物にならなく…。」
その言葉を終える前に、男の仲間は突然後ろへと吹き飛ばされた
驚いた男が様子を見ると、仲間は仰向けに倒れている
「な、何だ…一体誰が…。」
その時、前の方に気配を感じた…男は即座に持っている剣を構える
彼の視線の先には、杖を構えたタバサの姿があった
「が、ガキだと…お前が…ぐふっ!?」
驚いている間にタバサはスペルを唱え、氷のダーツを数本飛ばした
油断していた事もあり、その身に氷のダーツを受けた男はその場に倒れこむ
「……大丈夫?」
男達を倒した後、タバサは倒れている村人へと駆け寄った
息も絶え絶えの状態だが生きている…タバサは袋から薬を取り出す
「これを…すぐに元気になる。」
タバサは村人に薬を与える…彼の呼吸が若干落ち着いた
早く運ばないと…レビテーションを唱えようとした時、殺気を感じた
「タバサ、伏せてろ…バースト!!」
タバサが立ち上がろうとした時、クラースの声が聞こえ、頭上を光弾が走った
短い悲鳴と共に人が倒れる音が聞こえる
「大丈夫か、タバサ?」
振り返ると、此方に向かって走ってくるクラースの姿があった
光弾が放たれた先には、弓を持った敵が倒れている
「何なんだ、こいつ等は…服装からして、野盗とは違うようだが…心当たりはあるか?」
「ない…こんな服装をした軍団は、ハルケギニアの国にはいない筈。」
倒れた男の服装を見ながら、タバサは答える…その時、サムが仲間を率いて此方にやってきた
「騎士様、ご無事ですか?」
「大丈夫…それより、この人を屋敷に…。」
タバサがそう言うと、仲間が倒れている村人を担いで村長の屋敷へと運んでいく
周囲からは、戦いの音が響き始めている
「今、動ける奴等で戦っているが…昨日の今日だから、満足に戦う事が出来ねぇ。」
「それに相手は中々手強くて…苦戦しています。」
「そうか。なら、私達が援護するしかないな…タバサ、いけるか?」
クラースの言葉に対し、タバサは頷くだけだったがそれだけで十分な返事だった
こうして、クラースはサムと共に、タバサはもう一人と一緒に劣勢を強いられる村人達の援護へ向かった
540TALES OF ZERO 3/14:2010/03/29(月) 16:54:59 ID:RWGelZhZ
「そらよっ!!」
「ぐあっ!?」
燃え盛る民家の前で、謎の男の攻撃を受けて青年は地面に倒れる
敵は一人、それに対して三人で挑んでいるのに刃が相手に届かない
「くそ、何て奴だ…三人がかりでも倒せないなんて。」
「お前等が弱すぎるんだよ、この劣悪種どもが。」
残った二人がたじろぐ中、男は笑みを浮かべながら剣を向ける
そんな中、今度は斧を持った屈強な男が戦いを挑む
「うおおおおおっ!!!!」
一気に接近し、渾身の一撃を放つ…が、相手は簡単にそれを避けた
追撃しようと斧を持ち直そうとするが、男の剣の方が早かった
「ぐわっ!?」
剣は村人の利き腕を切り裂き、彼は痛みから斧から手を離す
煥発いれずに、男は村人に剣を突き刺した…腹部を貫かれ、村人はその場に崩れ落ちる
「あっ、ああ……。」
最後に残った青年は後ろに後ずさった…持っている剣が震えている
相手はそれを見てにゃにやしながら近づくと、青年に向かって剣を振り上げた
青年は思わず目をつぶった…
「ぎゃあっ!?」
「…えっ?」
直後、自分ではなく男の悲鳴が周囲に響いた
恐る恐る青年が目を開けると、足元に男が倒れていた…背中に氷のダーツが刺さっている
驚きながら辺りを見回すと、向こうの方でタバサが杖を構えていた
「あっ…き、騎士様!?」
タバサを見て青年は安堵する…が、タバサは険しい顔のままだ
何となく後ろを振り返ると、敵の集団が此方に向かって来ている事に気付いた
慌てて下がる青年…逆にタバサは前へと歩き出す
「…貴方達は何者?何故この村を襲ってきた?」
疑問を投げかけるタバサ…だが、相手の返答は剣だった
相手がメイジだと知った彼等は、容赦なくタバサに襲い掛かってくる
「はあっ!!」
先頭を切った男の剣撃をタバサは避けながら、素早くスペルを唱えた
氷のダーツが数本飛んでいくが、男はそれを剣で薙ぎ払う
そのまま突進してくる…再び攻撃を避けると、タバサは杖を男の胸にぶつける
「ぐおっ!?」
そのまま零距離からスペルを唱え、風が男を吹き飛ばした
残った男達は一斉に襲い掛かり、二つの剣がタバサ目掛けて振り下ろされる
タバサはフライを唱えると、空高く舞い上がって屋根の上へと足を下ろした
着地と同時にスペルを唱え…氷の嵐が残りの二人を包み込んだ
「………。」
全員倒した事を確認すると、タバサは辺りを見回した…火の海である
村の三分の一が炎に包まれ、黒い煙が辺りを覆っている
「(何故この村は襲撃された…敵の目的は何?)」
只の野盗でない事は確かだ…自分の直感がそう告げている
思考をめぐらせていると、後ろから敵がタバサに向かって忍び寄ってきた
ゆっくりと、音を立てずに近づいて剣を振り上げる…が、振り下ろされる前にタバサが振り向いた
「ぐおっ!?」
彼女の風をその身に受け、男は下へと落ちていった
他に敵がいない事を確認すると、タバサは下に降りる
「騎士様、大丈夫ですか?」
「私は平気…それよりも、傷ついた彼等の手当てを…。」
タバサは持っている薬を幾つか取り出し、村人達に渡す
使い方を説明すると、彼等は倒れている仲間の傷を癒していく
「……まずは敵の殲滅、正体を探るのはその後。」
そう結論付けると、タバサはまだいる敵の所へ向かって歩き出した
541TALES OF ZERO 4/14:2010/03/29(月) 16:55:50 ID:RWGelZhZ
一方、タバサのいる場所から少し離れた所にクラースの姿があった
数人はいる男達相手に、サムや村人と一緒に戦っている
「うわっ!?」
離れた場所からの弓矢を受け、戦っていた村人の一人が倒れる
クラースは遠くにいる弓兵にバーストを放った…放たれた光弾によって相手は倒れる
「ぜぇ、ぜぇ…くそ、きついぜこいつは!!」
向かってきた男を倒し、サムは肩で息をしながら斧を構える
相手が並みの傭兵以上というのに、彼が一番善戦していた
「確かに、これでは拉致があかんな…仕方ない、召喚術を使うか。」
本をペラペラと捲って、クラースは召喚術を行う準備を始めた
周囲に魔方陣が展開し、詠唱を始めようとする
「おい、すまんがこれからとっておきのやつを使う…だから、それまで踏ん張ってくれ。」
「ええっ、とっておきって…一体何をするってんだ?」
サムが尋ねるが、クラースは既に詠唱に入って返答する事はなかった
彼の事を疑っているサムだが…こんな時まで疑う程馬鹿ではない
「…チッ、解ったよ、やってやるぜ!!」
敵が一気に雪崩れ込んでくる…サムは斧を振り上げると、仲間と共に応戦した
激しい戦いの中、クラースは素早く呪文を唱え…詠唱を完成させる
「よし、いくぞ……シルフ!!」
クラースが召喚術を発動すると、シルフ三姉妹が姿を表した
彼女達はサム達をすり抜け、向かってくる敵に攻撃を仕掛ける
「なっ…シルフだと!?」
男の一人が驚く…その直後、彼はユーティスの矢を受けてその場に倒れる
セフィーの剣が、ユーティスの弓が、フィアレスの風が彼等に襲い掛かる
敵は応戦しようと立ち向かうが、善戦空しく敗北する
「す、すげぇ……。」
目の前の光景を、サム達は呆然と見守る…既に目の前の敵は全滅していた
クラースは一息つくと、呆然としている彼等に声を掛ける
「おい、ボーっとしてる場合か…手の空いている者は負傷者を下がらせるんだ。」
その指示を受け、慌てて村人達は負傷者を担いで後退する
シルフ達はその間、敵が来ないよう警戒している
「あ、あんた、あれは一体何なんだ…まるで伝説の妖精みたいだが。」
「説明している場合じゃないんだがな…まあ、新しい魔法だとでも思ってくれ。」
尋ねてくるサムにそう答える…すると今度は、彼は申し訳なさそうに此方を見た
「あの、その…俺あんたの事を疑っていたんだ。俺達の事を裏切るんじゃないかって…すまなかった。」
クラースの力を目の当たりにして、サムは彼に謝罪する
それは、彼が偽りなく自分達と自分達の村を守ろうとしている事を知ったからだ
「謝罪なら後にしろ…それより、村を守るのが先決だ。」
サムの謝罪にぶっきらぼうに答えるクラース…だが、顔は笑みを浮かべている
それに頷くと、サムは斧を手に次の相手を待った
「(それにしても…本当に相手は何者なんだ?シルフの事を知っているとは…)」
倒れた男達を見ながら、クラースは先程の言葉を思い返す
彼女達を見てシルフと言い当てた…なら、彼等は自分達の世界の人間なのだろうか?
「(馬鹿な、そう何度も異邦人と会う筈がない。それに彼等のような軍団は私達の世界にはいなかった筈だ。)」
だが、否定しようにもこの疑問を完全に拭い去る事が出来なかった
しばしの沈黙が続いた後、クラースはシルフに尋ねる
「シルフ、彼等が何者か…君達は知っているのか?」
『そうですね…彼等は…。』
セフィーがそれに答えようとした時、無数の矢が此方に降り注いできた
シルフ達が風で薙ぎ払うと、向こうから新手が姿を現した
「チッ、新手が着たか…詮索は後にするか。」
クラースが手を敵に向かって翳す…シルフ達は風に乗って相手に向かっていった
542TALES OF ZERO 5/14:2010/03/29(月) 16:58:00 ID:RWGelZhZ
クラースとタバサが加勢する事で、村は謎の軍団の襲撃にある程度は持ちこたえていた
それでも敵は多く、手練である事もあって炎は村に広がっていった
「ぐわっ!?」
そんな中、逃げ遅れた一家が敵の攻撃を受けていた
剣で切りつけられ、一人の村人が血を流しながら倒れる
「父さん!!」
倒れた父親に駆け寄る幼い兄妹…昨日、プレセアにトマトを投げつけたあの兄妹だった
男の子が顔を上げると、周囲は数人の男達によって囲まれていた
「全く、手間を掛けさせやがって…よし、捕獲第一号だ、こいつ等を連れていけ。」
その中の一人が指示を出すと、男達の手が子ども達に伸びる
女の子は抵抗も出来ずすぐに捕まってしまったが、男の子は相手に体当たりを仕掛けた
「こいつ…よくも父さんを!!」
自分に出来る最大限の抵抗をするが、すぐに捕まってしまう
それでも諦めず、捕まえた男の腕に噛みついた
「いでっ…このガキ!!」
男は振り払って男の子を地面に叩きつける
剣を振り上げると、男の子に向かって剣を突き刺そうとする
「そんなに死にたいのなら…死ねぇ!!」
そして、剣が振り下ろされる…男の子は目を瞑った
その時、二人の間に誰かが割り込んできた…巨大な斧を振り払い、相手をなぎ倒す
倒れていた男の子が起き上がると、その目に彼女の背が映る
「お、お前……。」
少年の危機を間一髪で救ったのは…斧を構えたプレセアだった
「き、貴様は…何故貴様が此処に!?」
周囲の男達はプレセアを見て驚くが、彼女は構わず戦いを挑んだ
斧を振り回し、反撃の隙を与えずにあっという間に周囲の男達を蹴散らす
「と、止まれ…止まらないと、このガキの命はないぞ!!」
残った一人が捕まえていた女の子の首を締め付けながら、プレセアを脅す
それに対し、動きを止めるプレセア…男はこのまま逃げ出そうとした
「ぐわっ!?」
だが、その前に激痛が走り、男は逃げる事も出来ずにその場に倒れた
男の後ろには、武器を構えるジーニアスの姿があった
「ふぅ、間一髪だったね…大丈夫、プレセア?君達も?」
「私は平気です、ジーニアス…でも、この人が…。」
駆け寄るジーニアスから、プレセアは倒れている村人へと視線を移す
お父さん…と女の子が泣きながら抱きついており、ジーニアスが傷の具合を見る
「…大丈夫、そんなに酷い傷じゃないから、これを食べればすぐに元気になるよ。」
女の子を安心させると、ジーニアスは倒れた村人を介抱する
その間プレセアが周囲を警戒し、男の子は彼女に声を掛けた
「あ、あの…何で…。」
「森から火の手がありましたから…何かあったんだと思って、やってきたんです。」
アイーシャから今回の芝居は聞いていたが、こんな予想外の出来事が起こった
それに、奴等が現れたから…それを確かめる為にも、此処に来たのだ
「そうじゃなくて…何で、助けてくれたんだよ。」
しかし、少年が求めていた答えはそれではなかった
あんな酷い事をしたのに、どうして…プレセアはその瞳を少年に向けながら答える
「……人を助けるのに理由がいるんですか?」
と…それが一番の答えであり、それだけで十分な理由となった
「まぁ、色々といざこざはあったけどさ…誰だって命は一つだからね。」
続いてジーニアスが答える…既に父親の傷は癒えていた
「父さん!!」
少年は父親の元へと駆け寄る…3人は抱き合って互いの無事を喜んだ
その様子を、ジーニアスとプレセアは見守る
「さあ、早く逃げてください…向こうの方なら安全です。」
しばらくして、プレセアが彼等を安全なルートへと誘導した
戸惑いを見せるが、父親は頭を下げると子ども達と共にその道へと向かった
その途中で少年は一度だけ振り返り…やがて、見えなくなった
「……行きましょうか、ジーニアス。」
「うん。」
親子が無事に行った事を確認すると、二人は他の人々を助けに向かった
543TALES OF ZERO 6/14:2010/03/29(月) 16:59:37 ID:RWGelZhZ
「………。」
タバサは杖を構え、敵と対峙していた…今彼女は周囲を囲まれている
互いに相手の出方を伺って牽制し遭う中、最初に動いたのは…タバサだった
『アイス・ストーム』
素早くスペルを唱え、雪風の嵐で周囲の敵を攻撃する
周囲の敵の殆どが飲み込まれていくが、何人かがそれを突破する
「はあっ!!」
迫り来る剣撃…タバサはそれを避け、一人風を操って吹き飛ばす
残りが魔法を使わせまいと、一気に仕掛けてくるが…
「アクアエッジ!!」
その前に、圧縮された水のカッターが男達に襲い掛かる
突然の攻撃に相手は成す術もなく倒れ…タバサは魔法が放たれた方に視線を向ける
「大丈夫、タバサ?」
そこには、剣玉を構えるジーニアスの姿があった…後ろにはプレセアもいる
周りに敵がいない事を確認すると、二人はタバサの下へと駆け寄る
「何故…貴方達が……。」
「村がこんな騒ぎですから…助太刀に来ました。」
彼等が助太刀してくれると知り、タバサは警戒を緩める
その間ジーニアスは、倒れた男達を見つめていた
「それにしても…何でディザイアンが此処にいるんだ?」
「ディザイアン?」
「あ、うん。説明すると長くなるから…簡単に言えば、僕達の世界で僕達が戦っていた相手なんだ。」
聞いた事のない言葉にタバサが疑問を浮かべると、ジーニアスが説明する
ディザイアン…二人の世界において、悪しき存在と言われる者達
その存在には大きな謎が隠されているのだが、それを今説明している余裕はない
「貴方達の世界の…何故?」
「解りません…そもそもディザイアンは、私達が倒した筈です。なのに…。」
復活して、異世界であるハルケギニアに姿を表した
その理由を知る者はこの場にはいない…いるとすれば
「こうなったら、ディザイアン達を捕まえて事情を聞きだすしかないね。」
「ですね…そしてこの村を守る為には、私達が協力して戦わなければいけません。」
そう言って二人はタバサを見つめる…タバサもまた、二人を見返す
「一緒に戦いましょう、貴方とクラースさんと村の皆さんで…この村を守る為に。」
共同戦線を張る…プレセアの言葉に、少しの時間を空けたがタバサはこくりと頷く
それを見て、ジーニアスは笑みを浮かべた…が、急にタバサの顔が険しくなった
二人に向かって杖を構えると、早口でスペルを唱える
「えっ、何を……。」
驚くジーニアス…だが、発動された魔法は自分達の周囲を覆う風となった
直後、その風のシールドに炎がぶつかり、無効化される
「チッ、防がれたか!?」
2人が後ろを振り返ると、杖を持った男…ディザイアンの姿があった
魔術を扱うディザイアンの魔術師、アンクショナーだ…周りには、彼を守る一般兵達の姿もある
「いつの間に…ありがとう、タバサ。君が助けてくれなかったら…。」
「感謝は後で…何よりもまず、彼等の撃退を優先する。」
杖を構えるタバサ…ジーニアスとプレセアも顔を見合わせた後、頷いて武器を構える
「いきます…烈旋斧!!」
術師2人を守るべく、プレセアが前に立ち…持っている斧を振り回した
その攻撃で先頭の三人を吹き飛ばし、その間にジーニアスとタバサがスペルを唱える
「いくよ、タバサ!!」
準備が整うと、ジーニアスは炎を…タバサは嵐を呼び出した
二人の魔法は合わさり、炎の嵐となって全てを飲み込む
「おのれ、劣悪種どもめ…こうなれば我が秘術、とくと見せてやる。」
只一人残ったアンクショナーは杖を突き立てると、それを前に不思議な踊りを始めた
これがディザイアン流の詠唱方法で、この時彼は強力な術を発動しようとしていた
「………。」
そんな中、彼女はスペルを唱えて風の刃・ウィンドブレイクを放つ
その一撃を受けたアンクショナーは、術を発動させることなくその場に倒れる
「隙だらけ。」
倒れたアンクショナーにぽつりと呟くタバサ…この時には、周囲の敵は掃討出来ていた
544TALES OF ZERO 7/14:2010/03/29(月) 17:00:34 ID:RWGelZhZ
「タバサ、無事か?」
全員を倒した後、向こうからクラースがサム達を引き連れてやってきた
ある程度近づくと、プレセアとジーニアスがいる事にも気付く
「お、お前達は…何でお前等が此処に!?」
当然、サムも二人がいる事に気付いて驚きの声をあげる
後ろの仲間達も武器を構えるが、クラースがそれを止める
「待て、この二人は私達の手助けに来たんだ…そうだろ、二人とも?」
クラースの言葉に二人は頷いて答えるが、それでもサム達の警戒心は緩まない
「そんなの信じられるか、こいつ等のせいで昨日は酷い目にあったんだぞ!!」
「それに、翼人どもだって…こんな時に何をするか分かったもんじゃねぇし。」
自分達の行動を棚に上げて、二人や翼人達を非難する村人達
そんな彼等に憤りを感じながらも、ジーニアスは口を開く
「あのさ…折角皆が助けに来てくれるのに、そんな言い草はないんじゃない?」
ジーニアスの言葉にサム達は首を傾げる…意味が分からないらしい
「この街を助けに来たのは私達だけではありません、翼人の皆さんも一緒です。」
「僕達は先に着たんだけど…もうすぐ皆こっちに来る頃だよ。」
翼人達が此処に来る…その言葉に、皆驚いた表情を見せる
それも、自分達を助けに来る為だというのだから
「ば、馬鹿をいうな…翼人どもが俺達を助けにくるわけねぇだろ。」
「嘘じゃないって…ほら、来たよ。」
ジーニアスの言葉に、サムやクラース達は上を見上げる
上空には、翼を生やした人…翼人達が何人も飛んでいるのが見えた
彼等は村中に散らばると、苦戦している村人達を援護していく
「ね、嘘じゃないでしょ。」
「だ、だけどよ…何で奴等、俺達を助けに…。」
「兄さん!!」
その疑問に答える人物の声が聞こえた…自分が知っている弟の声だった
声の方を向くと、ヨシアが此方へやってくる…アイーシャも一緒だ
「ヨシア、お前今まで何処に…それにその翼人の女は…。」
「兄さん、今はそんな場合じゃないよ…翼人の皆と一緒にディザイアンと戦うんだ。」
戸惑う兄に向かって、普段とは違う力強い声でヨシアは呼びかける
「あの翼人達…ヨシアが連れてきたのか?」
「僕だけじゃないよ…アイーシャやこの子達の説得があったから、皆来てくれたんだ。」
「だ、だがな…。」
「あっ…皆さん、怪我をされているんですね。」
それでもまだ戸惑うサムだが、アイーシャはサムの傍へと駆け寄った
そして、精霊の力を使って彼の傷を癒し始める
その様子を呆然と見ているうちに、傷の手当が完了する
「他の皆さんも見せてください…私なら、多少の傷を癒す事が出来ますから。」
アイーシャの言葉に、皆は戸惑った様子で顔を見合わせるだけだった
それでも、彼女は自分から進んで村人達の傷を癒していく
「ジーニアスやプレセアだけじゃなく、翼人達まで来てくれたか…本当、よく来てくれたな。」
精霊の力を争い事に使いたくないといっていたのに…
「それはアイーシャも最後まで迷っていました…けど、皆が本当に理解しあえるのならって。」
共存の道を歩みたいから…敢えて、彼女は自身の信念を曲げたのだ
それを聞き、クラースは軽くヨシアの背を叩く
「良い子じゃないか、本当に…大切にしてやれよ。」
「えっ…は、はい!!」
その言葉にヨシアは頷きながら答えると、アイーシャの元へと駆け寄っていった
それを見送っていると、タバサ達がクラースの元へと歩み寄る
「敵の正体が解った…相手は彼等の世界から来たらしい。」
タバサが、先程二人から聞いた話をクラースに話す
「そうか、やはり敵は異世界の…それも、君達の世界だとは驚きだな。」
「でも、僕達でもどうしてあいつ等が此処にいるのか…目的が何なのか解らないんだ。」
「その辺は、この一件が終わった後に奴等から聞きだすしかないというわけだ。」
折角、流れが此方にのってきたのだ…負けるわけにはいかない
クラース達は今回の一件に決着をつけるべく、動き出した
545TALES OF ZERO 8/14:2010/03/29(月) 17:03:33 ID:RWGelZhZ
「………。」
村の入り口には、ディザイアン達の旗本となる部隊がいた
彼等の中心には、鞭を持ったディザイアンが報告を待っている
ベイリップと呼ばれるこのディザイアンは、この軍団のリーダーであった
「はぁ、はぁ、はぁ……。」
村から一人の兵士が報告に戻ってきた…体中傷だらけである
「ほ、報告します…森より敵援軍が現れました、翼人と呼ばれるこの世界の亜人のようです。」
「そうか…それで、戦況は?」
「はっ、最初は我々が優勢だったのですが…この世界のメイジと翼人達の増援により苦戦しています。」
それに…と、報告はまだ続く
「戦闘の中で、神子の仲間二名を確認しました…あのハーフエルフの魔術師と斧を持った戦士です。」
「何、神子の一味が…奴等もこの世界に来ていたのか?」
報告を聞きリーダーだけでなく、周りにいる者達も驚く
それ程、二人の存在は彼等にとって脅威だからだ
「は、はい、確認されたのはその二名だけですが…後、召喚士の存在も確認されています。」
以上です、と部下の報告を聞いてリーダーは思考する
周りのディザイアン達は、彼の指示が出るのを待った
「つまりは、主戦力であるそいつ等を倒せば良いわけだな…よし。」
彼は自分の考えを纏めると、一歩前へと歩み出る
そして、自分の部下達を見回し、声を上げた
「これより、我等も前線に入る…奴等を倒せばこの村を一気に占拠できる!!」
全軍、前進…の掛け声と共に、残った部隊も投入された

……………

エギンハイム村の攻防戦は、村の中央広場へと舞台は移った
劣勢を強いられる村人達だったが、翼人達の登場によって形勢を逆転させた
村人達の反撃に、ディザイアンは一人、また一人と倒されていく
「ふぅ…やれやれ、何とか持ちなおしたな。」
額の汗を拭いながら、クラースは辺りを見回す
村人達の避難は完了し、ディザイアンも殆ど撃退できた…負傷した者は手当てを受けている
「油断は出来ない…まだ敵はいるはず。」
「そうですね…その確立は極めて高いです。」
タバサとプレセアはそう言いながら武器を構え、相手の出方を待つ
「大丈夫ですか、皆さん。」
後ろでは、今の戦いで負傷した村人を、アイーシャを含めた翼人達が手当てしていた
最初は抵抗感を持つ者もいたが、今はそんな様子は見られない
高い治癒能力を持つ彼女達に、皆感謝していた…その様子をサムは見つめている
「全く、どいつもこいつも翼人どもに甘えやがって…敵じゃなかったのかよ。」
「兄さん、またそんな事を…。」
ヨシアが憎まれ口を叩く兄を諌めようとすると、サムが此方に振り向いた
二人の兄弟は互いに見つめあい…やがて、サムが笑みを漏らした
「解ってるさ、今は翼人がどうのこうの言ってる場合じゃない…村の存亡がかかってるからな。」
自分を含め、村人達にとってこの村は全てだ…村が無くなれば、自分達の居場所はなくなってしまう
その事を考えて…自然と、サムは今の本音を漏らした
「ヨシア…お前が正しかったのかもな。互いに協力し合えば何とかなるもんだ…こんな時とかな。」
「兄さん…。」
サムの言葉に、ヨシアは自分の心が温かくなるのを感じた
ちょっと予定とは違うけど、村人と翼人が理解し合えている事が嬉しかったからだ
そして、兄弟は互いに笑った…今回の騒動で、初めて二人は笑いあえた
「皆さん、来ます。」
だが、その温かな時はプレセアの声によって終わりを告げる
前方から、無数の矢が此方に向かって降り注いできたのだ
その矢はタバサと翼人達によって防がれ、全員無事だった
「敵の増援か…いよいよというわけだな。」
クラースが見据える先には、ベイリップ率いるディザイアン達の姿があった
546TALES OF ZERO 9/14:2010/03/29(月) 17:06:20 ID:RWGelZhZ
村の中央広場は、ディザイアンとクラース達によって二分される状態となっている
中央を境として、両者は対峙しているのだ
「確かに、奴等の姿があるな…ジーニアス・セイジとプレセア・コンバティールと言ったか。」
二人を見てそう呟くと、ベイリップは一人前へと歩き出した
それは、一見無謀にも見える行為に見えた
「あいつ、一人で来るつもりか…皆、矢を射掛けろ!!」
サムの指示に、男達は矢を向かってくるベイリップへと放った
数本の矢が、彼を狙って飛んでいくが……
「ふん!!」
彼は持っている鞭で、その全てをなぎ払った
半分に折られて地面に落ちた矢を見て、サム達は驚く
「あいつ、出来るな…奴がディザイアン達のリーダー格か。」
クラースがそう推察する中、更にベイリップは歩を進める
やがてクラース達の前まで近づくと、その歩みをとめた
「まさか、こんな所で会えるとは思わなんだぞ、神子の仲間達よ…これも因縁か。」
前に出ている四人に聞こえる声で、ベイリップが語りかけてくる
特にジーニアスとプレセアには、憎悪を含んだ瞳で睨んでいた
「貴方達は…何故此処にいるのですか?何故この世界に…。」
「それは此方の台詞だ…まさか、また我等の計画を邪魔しに来たのか?」
「計画…計画ってまさか…。」
ベイリップの言葉に、ジーニアスは嫌な予感を感じた
彼等があの時の残党というのなら、その目的は…
「決まっている、我等の悲願である千年王国の設立…その為に私達は戦っているのだ。」
ジーニアスの予想は的中した、彼等はあの頃…三年前のままだった
全ては終わったというのに……
「そんな、ミトスは…ユグドラシルはもういないんだよ。クルシスだって無くなったんだ、なのに…。」
「黙れ、小僧…例えユグドラシル様が倒れても、裏切り者の四大天使が何と言おうとも、我等の悲願は果たさねばならんのだ!!」
ジーニアスに怒鳴りつけると、ベイリップは鞭を彼に向けて放った
それは威嚇攻撃で、鞭はジーニアスの足元にあった小石を砕いた
「過去の、亡霊……。」
ディザイアン達を見つめながら、プレセアがぽつりと呟いた…その言葉は正しかった
彼等は残党、過去の亡霊なのだ…三年前に終わったあの戦いの…
「ジーニアス、戦いましょう…彼等を放っておくわけにはいきません。」
「うん、分かってる…ミトスを眠らせてあげる為にも…。」
二人の思いは同じだった…武器を構え、戦闘態勢を整える
「詳しい事情は解らんが…乗りかかった船だ、亡霊にはお引取り願おうか。」
クラースもまた構えを取り、タバサも無言で杖を構える
その様子に、ベイリップは鼻で笑う
「貴様らを倒せば、我等の邪魔をする者もいなくなり、計画もはかどるわけだ…全員、攻撃開始!!」
隊長の指示に、待機していたディザイアン達が一斉に攻撃を仕掛ける
それを迎え撃つべく、サムや翼人達も戦い始める…最後の戦いが始まった
「さて…貴様らの相手は私だが…これを使わせてもらおうか。」
ベイリップが鞭を地面に向けて叩くと、どこからともなく三つの物体が姿を現した
風を纏ったそれは、ベイリップを守るように配置につく
「あれはウィンドコア…風を操って使用者を守る人工生命体だよ。」
「行くぞ、我等の悲願の為に!!」
ベイリップの鞭が唸り、ウィンドコアの風がクラース達に襲い掛かった
547TALES OF ZERO 10/14:2010/03/29(月) 17:08:26 ID:RWGelZhZ
四人は攻撃を避けると、二手に分かれてベイリップを攻める事にした
ジーニアスとプレセア、クラースとタバサにである
「いくぞ………バースト!!!」
既に準備を整えていたクラースは、バーストを唱えた
光弾はベイリップ目掛けて放たれるが、ウィンドコアの放つ風によって反らされる
「ラグース・イス・イーサ……。」
「いくよ………フリーズランサー!!!」
続いてタバサとジーニアスが、ウィンディ・アイシクルとフリーズランサーを唱える
氷の槍と矢が飛んでいくが、それもウィンドコアの風によって阻まれてしまう
「駄目だ、あれのせいで僕達の呪文が効かないよ。」
「なら、接近して……。」
プレセアが斧を構えて接近し、ベイリップに向かって切りかかった
だが、ウィンドコアが行く手を遮り、攻撃を押さえ込む
「くっ……ああっ!?」
そして衝撃波を生み出し、プレセアの体を吹き飛ばした
吹き飛ばされたプレセアは空中で体勢を戻すと、地面に着地した
が、衝撃の影響でその場に片膝をつく
「プレセア、大丈夫?」
「大丈夫です…少しダメージを受けただけですから。」
ジーニアスにそう答えると、プレセアはベイリップを見据える
ウィンドコアは主を守り、その中心で彼は笑みを浮かべている
「以前のものより強化されています…中途半端な攻撃では、歯が立ちません。」
「その通りだ…貴様等の攻撃なぞ、こいつの前には手も足も出ないだろう。」
そう言うと、ベイリップは鞭を振ってプレセアを攻撃した
バックステップで避けるが、相手は次々と仕掛けてくる
「そらそらそらそらそら!!!!」
ベイリップは鞭を振るい、ウィンドコアは風を巻き起こす
その鞭とウィンドコアの風によって彼等は苦戦を強いられた
「おりゃあ!!」
一方、他のディザイアン達と戦っているサム達は善戦していた
確かに相手の一人一人の腕は良いが、翼人達がサポートに回っている事によって苦にはならない
サムは向かってきた相手をまた一人、自慢の斧で沈める
「お前等が誰だか知らないが…俺達の村を好きにはさせねぇぜ!!」
倒れたディザイアンに向かってそう言い放つと、苦戦している仲間達の援護に向かった
「………」
そんな彼を、今一人のディザイアンが狙っていた
ポーチャーと呼ばれるディザイアンは、持っているボウガンをサムに向けている
「あ、あれは……。」
それに気付いたのは、近くで戦っていたヨシアだった
兄の様子を伺うと、目の前の敵と戦っていて気付いていない
その間に、ポーチャーはボウガンの引き金を引こうとした
「兄さん、危ない!!」
そう叫んでヨシアがサムの前に出たのと、矢が放たれたのは同時だった
放たれた矢はサム目掛けて飛んでいくが、ヨシアがその間に割り込む
「ヨシア!?」
敵を倒し、振り返った時に見えたのは…胸に矢が突き刺さった弟の姿だった
ヨシアはサムの目の前で、その場に崩れ落ちる
「ヨシア…畜生、この野郎!!」
サムはポーチャーを睨むと、短剣を取り出して投げつけた
その短剣は胸に突き刺さり、相手はその場へ倒れた
「ヨシア、しっかりしろ…ヨシア!!」
サムはヨシアを抱きかかえて彼の名を呼ぶ…が返事は返ってこない
ヨシアが倒れている事に気付いたアイーシャが、彼等に駆け寄ってくる
「ヨシア、ヨシア!!」
彼女もヨシアの名を叫ぶが、それでも彼から返事は返ってこない
その間にも、敵はやってくる…弟を守る為、サムは斧を手に戦った
548TALES OF ZERO 11/14:2010/03/29(月) 17:11:12 ID:RWGelZhZ
「はぁ、はぁ、はぁ…これは随分と厄介な敵だな。」
左腕を抑えながら、クラースはベイリップを見る…抑えた箇所から血が流れている
彼も、彼を守るウィンドコアも健在で、不適な笑みを浮かべている
他の三人を見ると、傷を負っているが何とか立っている
「ジーニアス…上級魔術であれごと一気に倒すというのは無理なのか?」
「出来ない事はないけど…詠唱時間が長いのと、強力すぎて周囲にも被害が出ちゃうからお勧めは出来ないよ。」
周囲では村人と翼人達も戦っている…これだけ混在しては、識別するのも難しい
相手を倒せても、村人まで巻き添えにしては意味がない
「(どうする…どうすれば良い?)」
クラースは思考を回転させる…どうやれば、あの防壁を突破できるのか
要は風をどうにかすれば良いのだが…しばらく考えた後、頭の中にある案が浮かんだ
「そうか…無理に壊さなくても、あれの動きを止めれば良いのか。」
そう叫ぶと、クラースは詠唱に入った…シルフを呼び出すつもりだ
だが、ベイリップはそれを許さない
「召喚術か…そうはさせるか!!」
ウィンドコアが風を発生させ、クラースを吹き飛ばそうとする
迫り来る風…だが、そこへタバサが割り込み、杖を向けた
タバサの風がウィンドコアの風を遮り、クラースを守る
「タバサ、助かる………いくぞ、シルフ!!!」
タバサが守っている間に、クラースは詠唱を終えてシルフを召喚した
三姉妹はベイリップに向かって飛ぶと、三方から彼を囲む
「よし…頼むぞ、シルフ!!」
クラースの意図を理解した彼女達は、風を放った…ウィンドコアも風を発生させ、相殺する
風と風がぶつかり合い、荒れ狂うように周囲に風が吹き荒れる
「無駄だ、いくら風の精霊といえど、この改良されたウィンドコアを破壊する事は出来んぞ!!」
「確かにそいつは厄介だがな…今の状況をよく考えてみろ。」
「何!?」
クラースの言葉に、ベイリップは辺りを見回す
自身を守っていたウィンドコアは、シルフの風を防いでいて身動きが取れない
その為に、死角が生まれてしまった…つまり
「まさか…しまった!?」
「今だ、タバサ、ジーニアス、プレセア…一気に攻めろ!!」
彼がそれに気付いたが遅かった…クラースの言葉に対し、三人の行動は早かった
ジーニアスとタバサは呪文を唱え、プレセアは一気に接近する
舌打ちをすると、ベイリップは鞭を振るって攻撃しようとするが…
「ウィンドカッター!!!」
ジーニアスの風の刃により、鞭はプレセアに当たる直前に切断された
更に、タバサがアイスストームを唱え、氷の嵐が襲い掛かる
何とか耐え切ってみせるが、プレセアはすぐ傍まで来ていた
「これで…終わりです!!」
「ぐはっ!?」
強烈なプレセアの斧が、ベイリップの胸を切り裂く
その一撃で致命傷を受け、彼は血を流しながらその場へと倒れた
周りのウィンドコアも、主が倒れた事で機能を停止させる
「ま、まさか…風で風を抑えつける事で、ウィンドコアの防壁を崩すとは…。」
「風はあんたの専売特許じゃないってわけだ…防壁への過信が仇となったな。」
ベイリップは立ち上がろうとするが、既に戦う力は残っていなかった
顔を上げると、プレセアが此方を見下ろしている
「教えてください…何故、貴方達はこの世界にやってこれたのですか?」
「……フッ、貴様等に話す事など…何もない。」
そう言うと、ベイリップは丸薬を取り出してそれを飲み込んだ
直後、口から大量の血を吐き出す
「貴方、毒を……。」
「ククク、死人に口無し……だが…これは覚えておけ、我等の…悲願は……あ、あの方が…きっと…。」
そこまで言うと、ベイリップはガクリと頭を垂れて動かなくなった
あの方…と、黒幕がいるような言葉だけを残して
549TALES OF ZERO 12/14:2010/03/29(月) 17:18:33 ID:RWGelZhZ
「り、リーダーがやられた……た、退却だ、退却〜〜〜〜!!!!」
リーダーの死に、残っていたディザイアン達は一斉に退却を始める
クラース達も村人達も、体力がもう無かったので、追う事が出来なかった
「何とか終わったな…はぁ〜〜、疲れた。」
安心したクラースはどっこいしょ、とその場に座り込む
「うわっ、オヤジくさ…何か一気に老けた感じだね。」
「五月蝿い、歳を取ると色々大変なんだ。」
ますますオヤジ臭さを出すクラースに、ジーニアスは苦笑する
そんな中、プレセアとタバサが此方に集まってきた
「やったね、プレセア、タバサ…僕達勝ったよ。」
「はい…それに、村の人達と翼人の皆さん…皆の勝利です。」
ジーニアスは笑い、プレセアも微笑んでいた…タバサは普段の表情だが、想いは一緒の筈だ
そんな時、サムが此方へやってきた
「騎士様、それにあんた達と…助かった、お陰で村を守りきる事が出来た。」
「ああ、何とかな…それより、被害の方はどうなんだ?」
「村はあちこち壊されて、怪我人も出たが誰も死んでない…一人を除いて。」
その言葉にクラース達が疑問を抱く…また、サムの表情が暗い事に気付いた
四人が村人達の方を向くと、倒れたヨシアとそれに寄り添うアイーシャの姿が見えた
「ヨシア君が……まさか、彼は!?」
「俺を庇って矢を胸に…馬鹿野郎だ、あいつは。」
「そんな…嘘でしょ!?」
サムの言葉に驚いたジーニアスはヨシアに駆け寄った…クラース達もその後に続く
よく見ると、確かに矢がヨシアの胸に突き刺さっていた…隣でアイーシャが泣いている
「ヨシアさん、そんな…折角、夢が叶ったのに…。」
「ヨシアさん……。」
ジーニアスもプレセアも、ヨシアが死んだ事に胸を痛めた
周りの村人も翼人達も、ヨシアの死に対し黙って喪に服している
「ヨシア、ヨシア……。」
ただ一人、アイーシャだけが彼の名を呼ぶ…その時、彼女の涙の一粒が、ヨシアの顔に落ちた
「ん……んん…。」
直後、ヨシアの体が動いた…アイーシャもサムも、皆が驚いた
そんな中でヨシアが起き上がり、周りを見回す
「あれ、皆、アイーシャも…俺は一体…。」
「よ、ヨシア…お前、大丈夫なのか?」
誰もが思っている疑問を、サムがヨシアにうつける
そう言われてヨシアが体を見ると、胸に矢が刺さっている事に気付いた
「うわっ、矢が刺さってる……でも何で…。」
自分でも疑問に思いながら胸を探ってみると、中から何かを取り出した
それは……
「あっ…それ、私が作った…。」
トンガリマダラトビネズミのペンダントが、矢に突き刺さっていた
これが身代わりとなって、ヨシアを守ったのだろう
「戦いでなくさないよう、胸ポケットの中に入れてたんだっけ…それで助かったのか。」
「ヨシア!!!」
次の瞬間、アイーシャはヨシアに抱きついた…ぎゅっと身体を抱きしめる
「わ、わわ…い、痛いよアイーシャ。」
「この馬鹿野郎、心配かけやがって!!」
今度はサムがヨシアの頭を、軽く殴って地面に座り込んだ
彼の顔は今嬉しいやら悲しいやら、そんな感情が混ざった表情になっている
「やれやれ、なんてベタな展開なんだ…ま、こういうのも嫌いではないがな。」
そんな彼等を微笑みながらクラースは見つめる、ジーニアス達も他の村人や翼人達も同じだ
これで、本当に終わった…誰もがそう思っていたのだが
「うわああああああ、みんな、あ、あれ、あれを!!」
勝利ムード漂う中、一人の村人が突然叫んだ
一体何事かとその叫びを聞いた全員が、彼が指差した方向を見る
彼が指差した先…空の向こうから、青い竜が此方にやってくるのが見えた
550TALES OF ZERO 13/14:2010/03/29(月) 17:20:26 ID:RWGelZhZ
「りゅ、竜だ…竜が出たぞ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
一難去ってまた一難…予想外の展開に村人達はパニックになった
即座にクラース達は飛んでくる竜に向かって、構えをとる
「おいおい、ディザイアンの次は竜か…疲れているんだが、やるしかないな。」
「………。」
三人が何時でも戦えるよう準備する中、タバサだけが杖を構えなかった
そして、三人の間をすり抜けると、前に向かって歩き出す
「お、おい、タバサ…どうするつもりだ!?」
「どうするも何も……よく見て。」
タバサの言葉に、不思議に思いながらクラースは竜を見た
向かってくるのは、青い竜…しかし、何処かで見た事が…
「………あっ、あれはまさか!?」
ようやく、あの竜が誰かクラースは気付いた…イルククゥだ
昨日、二人が飛び降りてから放置状態だったのを思い出す
「きゅいきゅいきゅ〜〜〜〜〜い、見つけたのね!!!」
イルルクゥが大きな声で叫ぶ…誰が見ても物凄く怒っている
「待機とかいってイルククゥを放りっぱなしにするし、ご飯は食べさせてくれないし…許さないのね!!!」
そう言いながら、ブレスを頭上へと吐きかける…それが、村人達を更に混乱させる
その様子をクラースは頬を掻きながら、タバサは無言で見つめている
「あ〜〜…物凄くご立腹のようだな…どうする、タバサ?」
尋ねてみるが、タバサは答えない…最後の最後で、とんでもないオチがついたものである
溜息をつきながら、どう説明するか、どう説得しようか…クラースは考えるのだった

………………

ディザイアン襲撃から、三日後…広場でヨシアとアイーシャの結婚式が行われた
村がこんな状況なので今は…と言っていた二人に、皆が勧めたのだ
こんな時だからこそ、明るくなるような事を…と
「まあ、色々あったがめでたしめでたし…って事だな。」
遠くから、二人を見つめるクラースとタバサの姿があった
タバサの意で、二人の結婚式を見たららすぐに出発する事になったのだ
手には、アイーシャから受け取った花束がある
「クラースさん、タバサ…もう行っちゃうの?」
「もう…私がすべき事は終わったから。」
ジーニアスの問いに、タバサが答える…傍にはプレセアもいて、二人を見送ろうとしている
「まあ、私もそろそろ帰らないと大変だからな…二人はこれからどうするんだ?」
「しばらく此処にいて、そしたら旅に出るよ…元の世界に帰る方法を探す為に。」
「それに…あのディザイアン達の事も調べたいと思っています。」
結局、彼等がどうやってこの世界に来たのかは謎のままだ
クラースもジーニアスもプレセアも、この世界で何かが起こるのではとの不安を抱えている
「何もなければ…という訳にはいかんだろうからな。次に会う時は互いに成果が出てると良いな。」
「うん、そうだね……じゃあ、元気で。」
ジーニアスが手を差し出し、クラースは握手を交わした…プレセアとも握手を交わす
そして、今度はタバサへと手を差し伸べる
タバサもまた、ゆっくりとジーニアス、プレセアと握手を交わした
そして、タバサとクラースはイルククゥにまたがった…同時に、イルククゥは空へと上昇する
「クラースさん、タバサ…また会おうね!!」
ジーニアスとプレセアが手を振って見送る
村人達もサムも、アイーシャとヨシアもまた手を振って見送った
「さあ、帰るとするか…彼女のご機嫌をなおさないといけないしな」
「そうなのね。約束通り戻ったらたらふくご飯を食べさせるのね。」
荒れ狂うイルククゥを宥める為に使った約束…果たさなければどうなる事やら
二人を乗せて、イルククゥは全速力で王都リュティスへと向かった
551名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 17:21:40 ID:B6JfRIP2
SHIEN
552TALES OF ZERO 14/14:2010/03/29(月) 17:22:54 ID:RWGelZhZ
「やれやれ…ようやく戻ってこれたな。」
王都への報告やら、イルククゥの機嫌を直すやらで帰ってきたのは翌日となった
クラースはタバサと別れて、ルイズの部屋へ戻る所だった
「さて…どう言い訳すれば良いかな?」
彼女の性格を考えれば、怒りを静めるのは難しいだろうが…それでも一応考えてみる
そんな中、女子寮への入り口にさしかかると、見覚えのある人物を見つけた
「ん……才人じゃないか。」
クラースの言うとおり、入り口の傍に才人がいた…ルイズの服を洗濯している
休憩の為に一度立ちあがった時、才人はクラースが帰ってきた事に気付いた
「あっ、クラースさん…今まで何処に行ってたんですか!?」
「よぉ、才人…その様子だと、もう大丈夫のようだな。」
驚く才人にそう答えながら、クラースは歩み寄る…彼の傷はもう完治していた
「はい、まあお蔭様で…ってか、クラースさんがいないから大変だったんですよ。ルイズの奴が…。」
「ルイズが…やはり、怒っているのか?」
予想はしていたが、才人の反応だとそれ以上らしい…クラースは軽く頭を抱える
「そうですよ、目が覚めらあいつに八つ当たりされるわ、飯抜きにされるわ、散々な扱いを…。」
「クラ〜〜〜〜ス〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
自分が受けた仕打ちを語っていると、後ろから恐ろしい叫び声が聞こえた
振り返ると、ルイズが此方に向かって走ってくるのが見えた…鬼の形相で
「ああ、ルイズ…ただいま。」
適当に挨拶してみるが、返ってきたのは彼女の飛び膝蹴りだった
ひょい、っと避けるクラース…代わりに才人がその一撃を受ける
モロにその一撃を受けた才人は、洗濯桶の中に沈んだ
「おいおい、いきなり飛び膝蹴りはないだろ…若い子がはしたない。」
「五月蝿い、あんた外に出るって言って何日も何処に行ってたのよ!!」
「ああ、まぁ、それは…ちょっと、色々あってな。」
タバサとの事を言うわけにはいかず、どう答えれば良いかクラースは考える
その間に、主人を放っておいてとか、使い魔としての自覚がない等、散々な説教を受けた
「悪かった、悪かったルイズ…何も言わずに出掛けてしまって。」
「解ればいいのよ…さあ、約束通り始めるわよ。」
言いたい事を言ってすっきりしたのか、ルイズはクラースの手を取る
始めるというのは、ルイズが魔法を使えるようにする為の勉強である
「今すぐにか?出来れば、少し休ませて欲しいんだが…。」
今回の一件で色々あったので、正直休ませて欲しいクラースなのだが…。
「駄目よ、随分といなかったんだから…今日はぶっ通しでやるわよ、クラース先生。」
「先生?」
「だって、私に教授してくれるなら先生って言った方が良いでしょ?」
解ったなら行くわよ、と強引にクラースを引っ張っていこうとする
「おい、待てコラ!!!」
その時、洗濯桶に沈んでいた才人が立ち上がった…泡だらけである
そのまま噛み付くように、才人は自分を蹴り倒したルイズにせまる
「きゃ、ちょっと…近づかないでよ、服が泡だらけになるじゃない!!」
「お前がそうしたんだろうが、いきなり膝蹴りなんて何すんだよ!!」
「し、仕方ないじゃない、クラース先生が避けてその後ろにいたんだから!!」
「だったら、謝るとかしろよ!!」
「何で私が平民なんかに頭を下げなきゃいけないのよ!!」
ぎゃあぎゃあと、口喧嘩を始める二人…その様子を脇で見るクラース
逃げるなら今のうち…抜き足、差し足、忍び足でこの場を立ち去ろうとする
「あっ、クラース先生、何処にいくのよ!?」
「ぬっ、気付かれたか…悪いルイズ、教えるのは明日からだ。」
が、その前にルイズに気付かれてしまった
構わずクラースは足を速め、その場から逃走を始める
「ねぇ、ちょっと…待ちなさいよ!!」
「おい、お前も待てよ!!」
クラースを追うルイズ、そのルイズを追う才人…三者はこの広い中庭を、フリーランで駆け抜けた

こうして、彼等の日々は本当の意味で始まるのだった
553名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 17:24:26 ID:DZDXDaFD
反転180度!全艦支援!
554名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 17:29:16 ID:Vfa45mBr
>>521さん

人は忘れることで幸せになれる生き物です!
555TALES OF ZERO あとがき:2010/03/29(月) 18:20:22 ID:RWGelZhZ
すいません、家の用事の為にあとがきを書き込むのが遅くなってしまいました
そして、後半の投稿も遅くなってしまい、申し訳ありません
更に、無理に二編にしなくて三編にすべきだったと後悔しています
でも、「反省はしてもいいけど後悔はするな」とスタンが言っていたので、反省して
次を頑張ろうと思います

とりあえず、翼人編が終わって次からは日常編へ
早くデルフと会って、モット伯のイベント、品評会、フーケ戦といった具合に
話を進めていきたいと思っています
では、また次回お会いしましょう
556名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 18:23:05 ID:2pyNZfLE
乙です。
モット伯のイベントありですか。最近はアニメオリジナルイベントは
皆さんパスするので楽しみにしてます。
557名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 20:50:03 ID:jfchDkrP
格ゲー、俺の場合はアルカナハートなんだけど、需要無くたって書いていいよね。
ほかの人は俺が知らない作品書いてるんだし。

558名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 20:56:01 ID:mXhVwAQ2
どんなマイナー作品でも誰かしら知ってる人がいるのがこのスレ
559名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 20:56:52 ID:+BZ/NvGI
アルカナハートはさほどマイナーな部類でもないと思うし
560名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 21:05:03 ID:ty7B0EUO
書くのは自由
でも投下するときは、テキストファイル等に書き溜めた上で事前予告を忘れずに
561名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 21:30:18 ID:jYxg9Z9S
アルカナハートなら俺に需要があるぜ
562名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 21:33:31 ID:EZY68rvj
ルイズそっちのけでサイトといちゃいちゃする最低部類のSSになるんです?
563名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 21:33:39 ID:jfchDkrP
じゃあお前はどんなキャラが好きなんだよっていう。
564名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 21:34:38 ID:jfchDkrP
いっそ最低を突っ切ってルイズも別ゲーの女性キャラ両方とものハーレムエンドで。
565名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 21:45:16 ID:+BZ/NvGI
アルカナハートだから当然女性キャラ召喚で百合っぽい展開だろうと思いきや、
実はミケ召喚で奴がルイズの杖になるというのはどうだ
566名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:01:09 ID:jfchDkrP
ところでワルドとフーケはまじでカップリングされてたりする?
もしそうじゃないなら助かるんだけど。
567名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:06:24 ID:jDiE7hWg
ワルフーはもうセクロスもだいぶこなしてる感じだったな
568名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:08:21 ID:jt0+0tSY
>>566
互いに恋愛感情があるのかどうかはわからんが、ワルドがフーケのヒモなのは確実。
569名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:13:45 ID:jfchDkrP
そうか、ありがとう。
いやまあワルドが女性キャラを召喚してその影響で性格が少しだけましになるっていうのを
妄想したのだけど見事に打ち砕かれたなorz
570名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:26:55 ID:fZ8h6XvF
別に多少の性格改変はありじゃね
571名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:30:16 ID:jDiE7hWg
ロリはサイトに任せて、アダルティなハーレムルートを突き進む綺麗なワルドと聞いて
572名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:36:19 ID:qOQ8e2Qy
>>569
今されてるのは最新刊での話だろ?
召喚時ならどうにでもなるじゃん
学生時代だからフーケにゃ会ってもいない
573名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/29(月) 22:45:39 ID:jfchDkrP
>>571
ワル●●は俺のジャスティスだと言わんばかりに一人の女性に添い遂げるワルドとな!
574ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 02:52:18 ID:kMVWrKri
どうもです。今回は比較的早めにできたした
なんだかあいてるようなので55分頃から投下します
575ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 02:54:26 ID:kMVWrKri
 

『――この世のすべての物質は、小さな粒より為る』

 彼女はそう言って、少女へと歩み寄った。
 少女は鳶色の瞳を大きく見開き、魅入られたように立ち竦む。

『土、水、火、風。
 四の系統はその小さき粒に干渉し、影響を与え、かつ変化せしめる呪文なり』

 言の葉を紡ぐ彼女から、光が零れる。
 夜着の上から鮮やかに浮かぶその光は彼女の全身を満たしなお溢れ出す。

『四の系統が影響を与えし小さな粒は、さらに小さな粒より為る』

 青く青く輝く彼女の左眼。
 そこに追従するように左半身から光が零れだした。
 放たれる光の尾は七筋。
 夜闇を切り裂くような七翼を纏う、悪魔(シャイターン)が其処にいる。

『万物を構成する小さき粒、その根源と為る粒』
 
 彼女はゆっくりと手を差し出した。
 少女の心臓がばくりと跳ね上がり、胸から光となって弾けた。
 少女は自ら纏う光に気付く事なく、誘われるように右手を差し出す。

『それは万物の存在を定義する原初の粒子。すなわち――』

 少女の右手が彼女の左手に触れる。
 少女の右眼が金色に染まり、右半身から七翼が迸る。
 まるで合わせ鏡のように、少女と彼女は向かい合う。
 少女を見て、彼女は嬉しそうに嗤った。
 彼女を見て、少女は嬉しそうに嗤った。

 双月を分かつように、光が夜闇を切り裂いた。



 ※ ※ ※

576ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 02:56:06 ID:kMVWrKri
 

「……あれ?」
 ルイズは小さく声を上げた。
 目の前には首を傾げてこちらを見やるエリスがいる。
 紫の瞳で覗き込んでくる彼女をまじまじと見やって、ルイズも首を傾げた。
「エリス?」
「どうしたんですか?」
「えっと……あれ?」
 ルイズは小さく唸ってからもう一度首を傾げた。
 ……今自分は何をしていたのだったか。
 てんで成果が上がらない魔法の練習をしていたらエリスが来て、色々と話をしていたのは覚えている。
 ファー・ジ・アースに行く方法を見つけて、自分もそこに行って使い魔の件をちゃんと片付けようと約束したのも、覚えている。
 それでそもそもそこへ行く方法を見つけるのが絶望的な事を思い出して――
「それで、えっと……」
「……?」
 そこまで考えた後、ルイズは改めてエリスを上から下まで眺めやった。
 翡翠の瞳で不思議そうに見つめ返してくる事以外に、特に変わったことは何もない。
 ルイズは少しだけ思案した後、エリスの胸元を掴んだ。
「ひゃっ!?」
 驚いて逃げようとするエリスを無視してルイズは彼女の夜着の胸元をはだけ、白い素肌に浮かぶルーンを見やる。
「なっ、何するんですか!?」
「……」
 別に何も変わった事はなかった。
「……白昼夢でも見たのかしら」
「今は夜ですから白昼夢っていうのは……じゃなくて、覗き込まないでくださいっ!」
 エリスは慌ててルイズの手を払い、二・三歩後ずさると胸元を隠しながら呻いた。
 顔を紅くしているエリスをじっと見ながら、ルイズはぽつりと尋ねる。
「……エリスって今何歳だっけ?」
「え……じゅ、十七です。今年十八になりますけど……」
「……わたしより年上だったの?」
「ハルケギニアはファー・ジ・アースより一年が長いですから、換算すると同じくらい……私の方が一つくらい上かもです」
「へえ、そうなんだ」
 ルイズは答えながらなんとなく自分の胸に手を添えた。
 誤差の範囲内……なのだろうか?
 微妙なラインだった。
 そこでルイズはふと思い立ってエリスに眼を向け、語りかける。
「そういえばわたし、エリスの事あんまり知らないのよね。せっかくだから教えてくれない?」
「それは別にいいですけど……だったら、私もルイズさんの事教えてもらっていいですか?」
「……まあ、別にいいけど。あんまり聞いて楽しいものじゃないわよ」
「それでもいいんです」
 どこか嬉しそうにエリスが笑うと、ルイズは応えるように苦笑めいたものを漏らした。
 そして二人は再び隣り合って腰を下ろすと、お互いの事を話し始める。
 深夜の夜気は少し冷たかったが、天上から落ちてくる双月の光はとても柔らかかった。



 ※ ※ ※

577ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 02:58:28 ID:kMVWrKri
 

(なんなんだ、あいつらは……)
 二人の少女が語り合う中庭の片隅、植え込みの中で一人の影がうずくまっていた。
 その影の名はフーケという。トリタニアではかなり名の通っている盗賊だった。
 フーケはその生業にならい、一月ほど前からロングビルの名を騙ってこの場所――魔法学院へと潜入している。
 狙いは『破壊の杖』と呼ばれる秘宝。
 つい先程までいかに宝物庫を破るかを算段していたのだが、日付が変わろうかという頃になってこの場に客が現れたのだ。
 夜闇に映えるピンクブロンドを揺らして訪れた彼女は、どうやら魔法の練習をしているようだった。
 噂には聞いていたが初めて目の当たりにする珍しい現象に、フーケはメイジとして興味に駆られ、しばしその様子を窺っていた。
 そしてやはり噂の通りにいつまで経っても代わり映えしない不毛な光景に飽きが来始めた頃、彼女の使い魔の少女が現れた。
 二人は座り込んで何やら話し始めた。
 深夜の中庭は静謐そのものであったが距離があったため会話の内容はいまいち把握はできなかった。
 が、しばらくは終わりそうになかったのでフーケはこの日の調査は諦めてその場を離れることにした。
 二人に背を向けて立ち去ろうとした、その瞬間。
 全身に氷の杭を打ち付けられたような寒気が走った。
 こみ上げそうになった悲鳴を押さえつけ、フーケは振り返る。
 そして、それを見てしまった。
 光を纏い夜闇を裂く、合わせ鏡のような二人の少女を。
「―――っ」
 その光景を思い出して、フーケは己が身を抱きすくめた。
 ……震えが止まらない。
 肌を撫でる夜気でさえ春風のように感じるほどに、裡から来る寒気が収まらないのだ。
 それは恐怖ではなかった。
 恐怖ならば、フーケはこれまでに幾度となく経験しそれを捻じ伏せ乗り越えてきた。
 だが、今感じているモノは根本的に異なるモノだ。
 神だの伝説の始祖だの、そういった理解の枠を逸脱した存在――至高者(いとたかきもの)を目の当たりにした者が、己の卑小さを思い知らされた瞬間。
 すなわちそれは恐怖ではなく、『畏怖』。
 メイジの中では上位と言っていい『トライアングル』の号を持つフーケが、ドット以下の『ゼロ』とその従僕の少女に畏れを抱いている――
(……ふざけるな……っ)
 フーケは心の中で叫んで、唇を噛んだ。
 彼女は神も始祖も信じない。
 かつては人並みに信仰を持っていた事があるが、それは彼女が『本来の名』を失った時に一緒になくなった。

 ――どれほど祈ってもどれほど願っても、それらは誰一人として救ってはくれなかったから。

「――」
 信仰を失った瞬間の事を思い出して、フーケの身体から震えが取れた。
 噛み切った唇から零れる血を拭い、彼女は大きく深呼吸して手にしていた杖を握り締めた。
 鋭く見据えるのは中庭に座り込み話し続けている二人の少女。
 まるであの神威の時間を切り取ってしまったかのように、何事もなく話し込んでいる。
 フーケは二人の会話には興味はない。興味があるのは別の場所だ。
 視線を上げて聳える塔に眼を凝らす。
 夜の暗闇に溶けるように佇む本塔。その半ばから頂上にかけて巨大な亀裂が走っていた。
 合わせ鏡の少女達が最後に放った空を穿つ光――塔を擦過するように双月へと伸びたソレが、塔の壁面にその痕跡を刻んだのだ。
 音もなく衝撃もなく行われた破壊の傷跡。
 もしもあの光が塔にまともに当たっていたら、おそらくあの塔は半ばから完全に消え去っていただろう。
 光景を目の当たりにしたフーケは確信をもってそう断言できた。
 ともかく、あれだけ巨大な亀裂ならば朝になれば間違いなく発見されてしまう。
 そうなれば学院中が大騒ぎになるだろうし、ただでさえ強固なあの壁が更に輪をかけて強化されてしまう可能性も高い。
 フーケは詠唱を開始した。

578ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 03:00:31 ID:kMVWrKri
 

 ※ ※ ※


「ふぅん、マドレーヌなんか作れるんだ」
「一番得意なのはそれですね。こっちに来てからは普通のも全然作ってないですけど」
「だったら、今度作ってみてよ」
「それは構いませんけど、こっちには向こうで使ってた材料がないと思うからちょっと自信が……」
「材料がないって……こっちのマドレーヌとあっちのマドレーヌは違うものなの?」
「それは……う〜ん?」
 ルイズとエリスが埒もない会話に花を咲かせていると、少しだけ強い風が二人の髪を小さく揺らした。
 深夜の冷たい風にエリスが僅かに身体を震わせると、それを契機にルイズがはたと声を上げる。
「部屋に戻りましょう。結構寒くなってきたし、そろそろ寝ないと明日が……あれ?」
「どうしました?」
「エリス……寒くないの?」
 ルイズは普段着に着替えてここに来ていたのでさほど寒くはなかったが、隣のエリスは夜着一枚だけなのだ。
 彼女がここを訪れたときは上に服を羽織っていたはずなのだが……。
「……あれ?」
 そこでエリスも羽織っていたはずの服がない事に気付いた。
 周りを見やれば、少し離れたところに服が落ちている。
 そんな場所まで行った記憶はないし、そこまで飛ぶほど強い風は吹かなかったはずなのだが。
 エリスが立ち上がって服を拾いに向かうと、ルイズもそれに合わせて立ち上がり腰に付いた土を払う。
 エリスが拾い上げた服を見ながら、ルイズは漏らす。
「それ、貴女がここに着た時の服……買ってあげたのあるじゃない」
「ちょっと羽織るだけだったから、新しいのは流石に……」
「……ちゃんと着てくれるのよね?」
「は、はあ……」
 複雑な表情でエリスははにかんだ。
 何しろルイズが買ってくれた服は一着だけでエリスが今までに買った服の総てを合わせたよりもお高い服なのだ。
 何となく袖を通すのが怖かった。
「まあいいわ。部屋に戻りましょ」
「あ、はい――」
 返しながらエリスはルイズに眼を向け……そして固まった。
 怪訝そうに首を傾げるルイズをよそに、エリスは顔を強張らせたままルイズを――その背後を凝視している。
 視線の方向に気付いてルイズもそちらを見やり、そしてエリスと同じように固まった。
 夜空の星を塗りつぶすように、巨大な影が屹立していた。
「な、なに……?」
「ゴ、ゴーレム……!?」
 掠れた声でルイズが呻く。
 それは30メイルほどもあろうかという、巨大な土くれのゴーレムだった。
 絶句して見上げる二人をよそに、そのゴーレムは地を響かせて歩を進めると本塔の方へと向かう。
「ル、ルイズさん……」
 呆然とエリスは声をかけたが、ルイズはゴーレムを凝視したまま。
 そしてソレが塔へと辿り着き巨大な腕を持ち上げた時、悲鳴を上げた。
「そんな……なんで!?」
 ルイズはそこで異常に気付いた。
 本塔の壁面に、巨大な亀裂が走っている。
 普段は単なる背景でしかないため全然意識したことはなかったが、あんな亀裂はなかったはずだ。
 というか、あったとしたら大騒ぎになっている。
 一体いつの間にあんなものができたのか――『ルイズ』にはわからなかった。
 ルイズのそんな疑問を他所に、ゴーレムは腕を鋼鉄に変えて本塔へと叩き込んだ。
 低い破砕音が響き、壁が壊れる。
 あの位置には確か宝物庫があったはずだ。
 宝物庫の壁を破壊した『土くれ』のゴーレム――
「フーケ!」
 ルイズは叫ぶと、地を蹴って塔へと走り出した。


579名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 03:02:06 ID:++7UNwwQ
よもやこんな夜中にくるとは思わなんだ支援
580ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 03:02:51 ID:kMVWrKri
 

「ルイズさん!」
 エリスは制止しようとしたが、間に合わない。
 駆け出していった彼女を追おうと一歩を踏み出しかけ、踏みとどまった。
 少なくとも穏やかとは程遠い現状、ルイズを止めに行かなければと逸る気持ちもあったが一方でエリスは冷静でもあった。
 ウィザードとしての力は失ったとしても、ウィザードとして世界の危機に臨み闘ってきた経験は失われてはいない。
 エリスは抱いていた自分の服を見やると、僅かに重みを感じるポケットへ手を入れた。



 ※ ※ ※


「な、何事っ!?」
 いきなり響き渡った奇妙な音に飛び上がったのはギーシュだった。
 部屋の片隅にある藁束のベッドから起き上がり、鳴り響く謎の音に彼は慌てて周囲に視線を巡らせる。
「何の音だ!? て、敵襲か!?」
 泡を食うギーシュをよそに、ベッドで眠っていた柊がもぞりと起き上がった。
 決闘の抵当でギーシュのベッドは現在柊が使用しているのだった。
「……まずった。切り替えるの忘れてたわ……」
 寝ぼけ頭をかきながら柊はベッドから降り、椅子にかけているスターイーグルを手繰り寄せた。
 以前0−Phoneの通話を確かめるためにエリスの方はバイブにしてもらっていたが、自分の方はそのままだったのだ。
 世界の壁を越えてこれがかかってくることがない事は既に調査済みだった。
 ゆえにソレがかかってくる相手はこの世界ではただ一人。
「もしもし。どうかしたか、エリス」
『柊先輩っ!』
 あくびをしながら柊は語りかけ、飛び込んできた声に僅かに眉を顰めた。
 経緯をまくし立てるエリスの声を聞きながら、柊は表情を引き締めて歩き出し窓を開け放つ。
 肌を刺す夜気が流れ込む中、柊は暗闇の中を凝視し――小さく舌打ちした。
『柊先輩、私……!』
「わかった、今からそっち行く。エリスは――こっちに来てくれ。男子寮の方だ」
『え、でも……!』
「ギーシュを寄越すから、一緒に警備なりを呼んで来てくれ」
『で、でも! 私……ルイズさんが――』
「エリス!」
 柊は叱咤するように叫んだ。
 彼女の気持ちはわかるが留まらせる事も一緒に戦わせる事もできない。
 何しろ今の彼女はイノセント――闘う力を一切失っているからだ。
 端的に言ってしまって足手纏いにしかならない。
 "そういう"状況下における限りにおいて、柊は冷徹だった。
『……。わかり、ました』
 通話口の向こうで、酷く沈んだ声が響いた。
「すまねえ。頼んだ……ギーシュと代わるぞ」
『……はい』
 柊はO−Phoneを顔から離すと、ぽかんと眺めているギーシュを振り返る。
「ひ、ヒイラギ……大丈夫か? きみ、そっちのケがあったのか?」
 おそるおそる尋ねてくるギーシュを無視して、柊は手にしていたO−Phoneを彼に向かって投げつける。
 慌ててそれを受け取るギーシュを見届けると、柊は再び窓の向こうに聳える塔を睨みつけた。
「これからエリスが来る。合流して人を呼んで本塔の中庭に来てくれ」
「はあ? 一体何を――」
「頼んだぜ、ギーシュ」
「ちょっ……!?」
 ギーシュが問いただす間もなく、柊は窓に足をかけるとそこから身を躍らせて夜闇の中に消えていった。
 訳もわからず一人残されたギーシュの手元、O−Phoneの向こうからエリスの声が響いていた。


581ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 03:05:08 ID:kMVWrKri
 

 ※ ※ ※


「どういうことだ……!?」
 目論見通りに壁を破壊し、宝物庫への侵入を果たしたフーケは愕然と呻いた。
 宝物庫の一角、様々な杖が並べられたその区画。
 目的の『破壊の杖』が置かれているはずのその場所は、空白だった。
 見回してみてもそれらしきモノはどこにもない。
 フーケがこの学院にロングビルとして潜入して以来、『破壊の杖』が外に持ち出されたことは一度もない。
 それ以前に持ち出されていた――その可能性も、ない。
 何故なら日付の変わる前、たった半日を遡った昼間に『破壊の杖』を知るエリス達がオスマンに宝物庫へ案内され、それを確認しているからだ。
 つまり、その時点までは確実に『破壊の杖』は宝物庫にあったのだ。
 オスマンなら柊達に譲り渡すなどという事もしでかしそうではあったが、出てきた時に二人は『何も持っていなかった』。
 聞けば『破壊の杖』は二メイルを越える巨大な代物のはずだ。
 どんな手品師でも隠し持つ事はできない。
 にも拘らず――宝物庫には『破壊の杖』が影も形もなかった。
「くそっ……!」
 フーケは苛立たしげに床を蹴った。
 回りには多くのガラクタに混ざって秘蔵とされる宝がいくつも置かれている。
 だが、彼女の狙いは『破壊の杖』ただ一つ。
 慰みにそれらを戴くのは『土くれのフーケ』としての名折れとも言っていい。
 悠長に探している時間はなかった。
 いずれやってくるであろう警備の兵士や学院の生徒達、教員に至るまでフーケの敵ではないが、この学院には秘宝である『眠りの鐘』がある。
 あれを使われてしまえばよほど力のあるメイジでなければ完全に無力化されてしまう。
 経験したこともない秘宝の効果に耐えられると言ってしまえるほど、フーケは自身を過信してはいなかった。
 フーケは忌々しげに舌打ちすると、踵を返してゴーレムの腕を伝い宝物庫の外に出る。
 退散しようと眼下を見下ろしたとき、暗闇に映える薄桃の髪を見つけた。
 彼女は何事かを喚き、手にしていた杖を振る。
 魔法を使ったのだろう、ゴーレムの胸の辺りが小さな爆発を起こしぼろりと土くれが零れ落ちた。
 だが、それだけ。人間で言うならかすり傷にもならないような損傷だ。
 このサイズのゴーレムならばスクエアクラスの火メイジでないと破壊することは難しいだろう。
 スクエアはおろかドットにも至らない『ゼロ』では、路傍の小石にすら及ばない。
 それでも健気にも――滑稽にも立ちふさがるピンクブロンドの少女を見て、フーケは薄く笑った。
 自分がまだ天運に見放されていない事がわかったからだ。


 ※ ※ ※


582ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 03:07:45 ID:kMVWrKri
 

 視界を覆うわんばかりの巨大な拳が迫ってきた時、ルイズは動くことができなかった。
 『逃げなきゃ』と理屈が叫び、『逃げない』と感情が叫んだ。
 もっともこの矛盾した判断がまったく別種のものだと理解できて、迫る腕を冷静に避けようと思っていたとしても結果は同じだっただろう。
 生まれて初めて経験する逼迫したこの空気に、ルイズの身体は強張ってしまっていたのだ。
 広げられたゴーレムの手にルイズはあっさりと捕まり、次いで持ち上げられた。
 ぐんと視界が変わり遥か高みへと移動する。
 冷たい土くれの手に身体を掴まれたまま、ルイズはこみ上げる恐怖を唇を噛んで持ち応えた。
 お飾り程度に凹凸が浮かぶ巨大なゴーレムの顔。
 その脇、肩口にローブを纏いフードで顔を隠したメイジがいた。
「フーケ……!」
 唾と共に恐怖を飲み込んで、ルイズが叫ぶ。
 しかしフーケはそれに応えず、努めて機械的にルイズに言った。
「……『破壊の杖』はどこだ?」
 相手の目的を察したルイズは目尻を吊り上げ睨みつける。
 ルイズは声質から言って女だろうとは思ったが、口調も声色も違うのでその声の正体に気付かない。
「誰が言うもんですか!!」
 ゴーレムの拘束から逃れようと身を捩りながら、ルイズは吐き捨てるように叫んだ。
 しかしフーケはフードから覗く口元を小さく歪めてみせる。
「……そう。やはり知っているのね」
「っ!!」
 フーケのその表情と自らの失言に気付いて、ルイズは羞恥と屈辱の表情を浮かべた。
 怒りと共に睨みつけてくるルイズの眼光を涼風のように受け止めてフーケは更に言葉を続けた。
「大人しく喋るのなら命だけは助けてやる」
 その台詞でルイズの中の恐怖が弾けとび、怒気が爆発した。
 滅茶苦茶に暴れまわるが、全身を包む土くれの手は微塵も動かない。
 だからルイズは、その怒りを言葉にしてフーケに叩き付けた。
「ふざけるんじゃないわよ! 盗賊なんかに命乞いするぐらいなら、死んだ方がマシよ!!」
 その声にフーケの肩がぴくりと震えた。
 息を荒らげて睨みつけるルイズに、フーケはしばしの沈黙を保ち。
「……そうかい」
 酷く底冷えした声色でそう告げ、手にしていた杖を軽く振った。

 ――普段のフーケならば、こんな小娘の愚にも付かない戯言などを相手にはしなかった。
 遡って論ずるのならば、いくらチャンスが今夜中だとは言え亀裂に気付いた風もない二人が中庭に残っている段階で強引に事を起こしたのも、普段の彼女からすれば軽率だった。
 つまりは、『今』の彼女は普段の彼女ではなかった。
 そしてその事に彼女自身気付いていない。
 あの神威を目の当たりにして挫けかけた心を持ち直した行為。
 信仰を失った瞬間を思い出し、ソレに対する反抗心が気を逸らせた。
 そして今、感情に任せて叫んだ目の前の少女には畏怖も脅威も一切感じない。
 彼女はこんな小娘に畏怖を感じた自分に苛立っていた。
 そして自分を苛立たせた小娘が、許せなかった。
 そんな些細な事を受け流す余裕さえも失っていることに、今の彼女は気付かなかった。


583ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 03:09:27 ID:kMVWrKri
 

「……そうかい」
「――!!」
 冷たく言い放った言葉と共にフーケが杖を振るう。
 同時にルイズの全身を包んでいた土くれの圧迫感が増した。
「だったら、殺してやる。死ぬまで耐えられたら褒めてやるよ」
 フーケの口元に嗜虐的な笑みが浮かぶ。
「ひ、っ……」
 ルイズは悲鳴を抑えようとして、そうする事ができなかった。
 拳で叩き潰されるなり足で踏み潰されるなりしていれば、あるいはルイズは自分なりの気高さを抱いたまま死ねたかもしれない。
 だが、ゆっくりと締め付けられていく感触が否応なく彼女に潰される――『殺される』事を実感させた。
 次第に息苦しさが痛みに取って代わる。
 自分の身体がぎしぎしと軋んでいくのがわかる。
 生まれて初めて経験する死の恐怖が身体を押し潰し、心を締め付ける。
「や、……た、す」
 ほんの僅かに残った矜持で、かろうじて言葉を飲み込んだ。
 だが、その代わりに眼から涙が溢れた。
 滲む視界の先に、フーケがいる。
 フードで顔を隠しているのに、自分を酷く冷たく見つめているのがわかった。
 普段受けている侮蔑や嘲りの表情など比較にならない。
 脅しなんかではなく、本当の本当に『ゼロ』を見る視線。
 生かしておく価値すらゼロ。そんな風に、命を握り潰そうとしている――
「……っ」
 そこでルイズの心が完全に砕けた。
 怯えた表情を露にし、搾り出すように叫んだ。



 ――放たれた《衝撃波》が横合いからゴーレムの腕に炸裂した。
 魔法で形作られた強固で巨大な腕を粉々に打ち砕き、耳をつんざくような破砕音が少女の叫びをかき消した。
 その衝撃でゴーレムの巨体が大きく傾ぐ。
 ルイズを握り締めていた拳が砕けてばらばらと土くれに戻っていき、彼女の身体は中空に投げ出された。
 ルイズは何が起こったのかも認識できない様子で、呆然としていた。
 散っていく土くれの向こうに夜空が覗いている。
 30メイルを落下しながら、彼女はぼんやりと遠ざかっていく夜空に手を伸ばした。
 その手は何も掴むことはできなかったが――代わりに、誰かがルイズの身体を掴んだ。
 身体を縛っていた土くれが冷たかったからだろうか、それとも心を押し潰した恐怖が冷たかったからか。
 その身を包んでくれる誰かの温もりが酷く暖かかった。
「無事か?」
 そんな声で、ルイズはようやく我に返った。
 彼女は自分を抱きかかえる誰かに眼を向ける。

 ――魔剣を携えた夜闇の魔法使い(ナイトウィザード)がそこにいた。

584ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2010/03/30(火) 03:11:35 ID:kMVWrKri
今回は以上。
やろうと思っていた展開を先にカリンちゃんにやられてしまった。くやしい・・・っ!
でも王道だからなあ。王道って大事だよね。作者は王道が大好きです
今更小プロットを修正するのもアレなのでこのまま続行です
585名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 08:08:14 ID:qlDKlVP8
下がる男が来てたー、乙さまです!
90年代のノリなナイトウィザードならば、王道な展開も違和感なく溶け込むからいいですよねー。

それにしても……柊連司は40mサイズの奈落超★魔王との交戦経験あるから、
負けフラグ立て始めたおマチさんの30メイルゴーレムでどれだけ対抗できるのやら(苦笑
586名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 10:55:47 ID:Z1fpxkDJ
下がる男乙です
カッコイイじゃないかPC3
587名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 17:17:57 ID:SFpHhh4N
テイルズの人、熱いバトルに乙です。
そしてがんばれ才人、好きだと言われるその日まで。
588名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 17:36:29 ID:ISkx3wng
匿名希望「ぬううっ 『下がる男』が目立ってるのなら『クランベルの四英雄』の一人たる
     あっしだって負けるワケにはいかんでやんす!」
589名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 17:47:06 ID:Zl4/nn02
ちくしょう!俺のおマチさんがワノレド専用のおマンチンコさんになってしまうとは・・・
590名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 17:58:36 ID:pBtmtf30
ふたなり……だと
591名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 18:05:25 ID:W9OQta5K
モルガン「なん……じゃと……」
592名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 18:21:37 ID:kWK8XTlk
>>590
・セーラーウラヌス
・デビルマンのサタン
・みさくらキャラ
しか思い浮かばない
593名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 18:43:17 ID:SFpHhh4N
心は女、けれど体は雌雄両性体のイトウくん
 
あしゅら男爵ってどうなんだ? 男爵っていうくらいだからやっぱ男メイン?
594名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 19:17:21 ID:8TNJ/bIZ
>>593
あしゅら男爵は半々だね。言葉も中性。
BABELのミラルヴァみたいに単純に男の体を補修するためにつなぎ合わせたのとは
違うし。
595名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 19:18:38 ID:gChBj35e
男爵ってのは爵位の名称であって男だから男爵ってワケじゃないんだが……
まああしゅらさんは確かにどっちかといえば男っぽい感じだけど
596名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 19:21:33 ID:Y1YAzsm/
>>594
男爵というのは公侯伯子男という爵位の名称だから
性別は関係ないんだぜ(まぁ、爵位は皇族除いてほとんど男のものだけど)
玄孫がいても子爵だし、次男でも伯爵なんだぜ
というかそのくらいはゼロ魔読者としては知っていて欲しいんだぜ
597名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 19:23:20 ID:53S/uheB
両性っていうとMAZEのミルを思い出すな
598名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 19:23:47 ID:8TNJ/bIZ
>>596
私?
いや、爵位は知ってるけどどっち寄りかって聞かれたから半々だと答えたんだけど…
599名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 19:38:50 ID:Y1YAzsm/
>>598
安価ミスなんだぜ
>>593あてなんだぜ、すまないんだぜ
600名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 21:20:49 ID:9SIuun7j
オカマ王イワンコフとか
あと噂が本当ならクロコダイル
601名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 21:26:31 ID:kWK8XTlk
そういやサイトってシュヴァリエのままだけど、領地あるんだからもう一つ爵位がないとおかしくない?
もしサイトに子供ができたとして、その子供にド・オルニエールを相続させるとき、
その子供は貴族だけどシュヴァリエは世襲じゃないから別の爵位が必要なはず
602名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 21:29:55 ID:762DRkrM
設定・考察スレでどうぞ
603名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 22:04:43 ID:t7yqwOW5
398 名前:黒き天使デビルマン ◆EtiINLPJa2[sage] 投稿日:2010/03/30(火) 20:25:11 ID:IVOUf/4Q
デビルマン全話削除お願いします
604名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 22:46:14 ID:+LVZF7LF
トリ割れの騙りじゃねえのかそれ
605名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 22:47:15 ID:PzADjInX
いきなり過ぎて信じられないなあ〜
606名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 22:51:46 ID:8TNJ/bIZ
最近妙なの多いからねぇ…設定・考察スレのアレとか。
607名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 23:48:13 ID:0GZiLj+x
まあ、理由も言わずいきなりではどうにもな
もう少し様子見していいんじゃない
608名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/30(火) 23:48:21 ID:QWTaM77a
ってかカリンさまの2巻発売されてたのね
気付かなかった
609名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 00:18:52 ID:ySZxpi25
夜闇の人乙
柊かっこいいけどフラグは立てたと思ったらすぐ壊すんだろうな
610名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 00:29:48 ID:F7ZG4jMK
夜闇の人乙
乙としか言いようがない
611名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 01:23:18 ID:B/P1yj3K
わざわざトリップ付け始めた直後にってあたりが騙り臭すぎるな
612名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 01:42:43 ID:M2UaMJrR
その前のレスでトリップつけろって言われてからつけたのにか?

あとトリップ検索してみたけど、前のウルトラの時みたく引っ掛からない
つまりローマ字だけで構成されいて、トリバレリスト化されてるようなわかりやすいのじゃないんでない?

何か理由があって削除して欲しいと思ったんじゃないのかね
613名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 03:35:42 ID:PkeA1C19
以前に代理スレで依頼してるから、言い出しっぺさんなら本人確認可能じゃね?
614名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 14:18:38 ID:PHAUL3Ti
>>600
噂ってなんのこと?
615名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 14:38:38 ID:f4UMfqWR
>>614
クロコダイルはイワンコフに弱みを握られてるんだけど
それでクロコダイルが元・女って噂があるんだよ。
616名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 14:46:27 ID:ak5KK58D
なん……だと……?
617名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 14:47:19 ID:Y7THx74B
弱み扱いしてるならイワンコフの性格的に違うと思うがな
618名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 15:43:26 ID:f4UMfqWR
まあ、ただの噂だからね。
本当の弱みは本編で語られない限りわからないよ。
619名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 16:21:05 ID:VzCQVOPO
ワンピは公式で性転換ネタがでたからいろいろと想像できるな
仮にイワンコフさんが召喚されたらすごいことになるだろうな
620名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 17:18:49 ID:PHAUL3Ti
>>615
なるほど、どうもありがとう。
 
パッと見、ゼロ魔で性転換自分からされたがるのはスカロンとアニエスというところかな…
カマバッカに染まったサンジはいったいどうなったのか…
621名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 17:26:39 ID:gEByHqbp
マリコルヌ・・・・・・
あとワルドなんかどーだろ
622名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 18:44:29 ID:zyRbgAxs
オスマン!オスマン!
623名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 18:59:48 ID:xsjWoKMT
ルイズとタバサにエンポリオ豊胸ホルモン
コッパゲにエンポリオ増毛ホルモン
オスマンにエンポリオ女ホルモン、おマチさんにエンポリオ男ホルモン
こうですか?解りません

つか規制が一向に解けないんだが・・・一体何時になったら普通に書き込めるようになるのやら・・・
624名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 19:04:38 ID:Zoo0AxbN
>>623
避難所の代理スレに投下してみれば?
あそこは確か練習も兼ねているから大丈夫なハズよぉん
625名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 19:18:12 ID:AglRjmBN
マーキングしておいた作品が全然こなくて死にそう
626鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:36:40 ID:o5i9qzI9
先約は無いようなので今から投下しようと思います。
627名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 19:37:21 ID:MP4mMruH
よし支援するよ
628鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:37:24 ID:o5i9qzI9
時間が時間なのでさすがにみんなもう部屋からは出てるだろうと判断し、才人は厨房へ向かった。
だが到着して解ったのだが、考えていた以上に長くオスマンの部屋にいたのか三人はもう朝食を終わらせた後だという。
才人は急いで朝食をすますと今度は教室へ向かった。
なんとか授業が始まる直前に到着し、ルイズ達の席に座ったがそこで言葉を交わす暇も無く授業が始まった。
相変わらず内容は殆ど理解できないので、適当に聞き流してボーッとしている内にクラスは終わっていた。
後はルイズと別れて昼食を食べに行くわけだが、そこでプッロがルイズを呼び止め、意外な事を言い出した。

「おいお嬢ちゃん」
「なに?」
「今日の昼は俺達と食わないか?」
突然の提案にルイズは面食らう。
そうなったのは才人も一緒だ。
プッロが一体どう言うつもりなのか想像できない。
「……どうしたのよ藪から棒に」
「大した理由はねえよ。3人よりは4人の方が賑やかなんじゃないかと思っただけだ。特にお前さんならな。別に構いませんよね?」
そう言いながらプッロは才人とウォレヌスを見やった。
「俺はOKですけど……」
才人に文句はない。むしろ歓迎したいくらいだ。
いつもは男3人だけで、特に会話も無く黙々と食べているだけだ。
プッロの目的は解らないが、女の子が混じる方が華やかなのは間違いない。
ウォレヌスもどちらでも良い、という風に返事をした。
「私も構わんが、彼女はあまり行きたそうな顔じゃないぞ?」

それを聞いて才人はルイズを見やった。
確かに彼女は眉を吊り上げて不愉快そうな顔になっている。
「そうよ。なんで私が平民達が働くような場所であんた達と食事しなきゃいけないのよ?おまけに汚そうだし……」
彼女は不満げにそう言った。
だが厨房は別に汚れているわけではない。清潔感溢れる、とまでは行かないが才人にとっては十分許容範囲内だ。
ルイズは厨房なんかには行った事も無いのだろうが。
問題はそんな事ではなく、“平民達が働くような場所”で“使い魔と同じ席”で食事する事なのだろう。
「別に汚くはないんだがな。ま、無理にとは言わんが人数が多い方が楽しいと思うぞ。」
プッロのその言葉にルイズは腕を組んで考え込み始めた。
どうしようか迷っているようだったが、やがて答えを決めたようだ。
「……まああんたがどうしてもって言うなら仕方ないわね。使い魔達の健康を管理するのも私の義務だから、何を食べてるのかを見るのも必要だし。うん、一回くらいは行っておいてもいいかもね……感謝しなさいよ」
承諾してもあくまでもルイズは“私がわざわざお前達と同じ席で食事をしてやるのだからありがたく思え”と言う態度だ。
それに「お前は一々そう言う事を言わなきゃ気が済まんのか?」とウォレヌスがうんざりするように言う。
プッロの方は「ああ、感謝させて貰うよ。余りのお慈悲に涙が出そうだ」と茶化すように言い、歩きだそうとする。
だがそこで突然ルイズが言葉を翻した。
「気が変わったわ。やっぱりダメ。あんな場所じゃ食べられない。一人で行かせて貰うわ」
唐突にルイズが見せた拒否に才人は戸惑った。
彼女の表情はつい10秒ほど前とは別物だった。
なにせ怯えさえ浮かんでいる。
629鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:38:17 ID:o5i9qzI9
「今さっき行くと言ったのに一体なんだってんだ?」
プッロがそう言ってもルイズは拒絶を示すかのように首を振るだけだった。
「おい、せめて理由を言え。それも嫌ならお望み通りおいていくぞ。俺は腹が減ってるんでな」
プッロがそう言い捨てると、ルイズは少し迷う素振りを見せ、ぽつりとつぶやいた。
「噂が立っちゃう……」
「は?噂ぁ?」
「そう、厨房なんかで昼食をとったら“ゼロのルイズは魔法が使えないもんだからとうとう平民達とつるみ出した”とかそんな事を言われるに決まってるわ。だから無理!」
「どうでもいいだろ、そんな事」
プッロは呆れたように言ったが、ルイズは「どうでもよくない!」と目を見開いて否定した。
ただでさえクラスの嘲笑の的になっているのだ。その種が増えるのは彼女にとって耐え難い事なのだろう。
実際、他の生徒達がルイズを囃し立てていた様子を思い出すと、彼女の予想はそう間違っていないように感じられた。
だが意外にもそこにウォレヌスが単純な解決策を持ち出してきた。

「なら昼食を持ち出して外で食べればいいだけの話だろう。この学院は広いんだ。食べる場所はいくらでもあるだろうが」
確かにそうすれば何も問題は無い筈だ。
ルイズは「あ……そうか」と呟き、その強張っていた表情も元に戻っていった。
すると取り乱した自分が恥ずかしくなったのか、彼女は顔を少し赤らめた。
「じゃ、じゃあさっさと行くわよ!私もお腹空いてるんだから!」
そしてそう言って1人で勝手に外に出る。少し呆れながら3人はそれを追った。
心の中で才人はウォレヌスに感謝していた。
プッロもそうだがもしルイズを心の底から嫌悪しているならあんな事は言わない筈だ。
前にも感じた事だが、彼らのルイズへの意識は少しだが確かに変わったようだ。

そして4人は厨房へ行く途中、プッロが今朝何が起こったかを聞いてきた。
「そんで、あのジジイに何を聞かれたんだ?」
「あなたが予想していた通りでした。昨日のあの話について何か知らないかとか、あと日本の地理だとかそんな事です――」
そこまで言ったところで才人は最後にコルベールが言っていた事を思い出した。
彼らにも関係する事だから言っておいたほうがいいかもしれない。
「それと一つ気になる事をコルベールさんから聞いたんですけど」
「あのカエサル頭の、変な飾りを目につけた野郎か?あいつがどうした?」
カエサル頭が禿げ頭を意味するのかどうか少し気になったが、才人は構わず続けた。
ちなみに意外にもウォレヌスがプッと軽く吹き出していた。

「俺達の左手にあるこの模様の事です」
才人は手短に本来ルーン文字である筈の使い魔の紋章が、なぜか意味不明な線の塊になっている事を説明した。
だが3人とも要領を得ない顔になるだけだった。
「よく解らねえな。要するに本来は何か文字がある筈なのに、代わりに変な模様があるって事か?」
プッロが自分のルーンをジロジロと眺めながら言う。
「そういう事だと思います。なんでかは解りませんけど」
「元々奴隷の焼印みたいで気に入らなかったが確かに不可解だ。ヴァリエール、お前に何か解らないのか?」
ウォレヌスがルイズに問いかけたが、彼女も首を横に振るだけだった。
「ミスタ・コルベールが解らないのに私に解るわけないでしょ?」
「しかし、これが異常な事であるのは事実なんだろう?」
「忘れてるみたいだけどそもそも人間が、しかも3人も召喚されるって時点で異常なのよ?正直言って何があってもおかしくないと思うわ」
結局、これが何を意味するのかは誰にも解らない。
後はコルベールが何かを発見するのを待つしか無いのだろうが、今のままでも十分トラブルは抱え込んでるのだ。
それが何か面倒な事を意味しない事を才人は祈った。
630鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:39:08 ID:o5i9qzI9
厨房は相変わらずの忙しさだった。
才人達にとってここでの食事はもう殆ど習慣と化していたが、ルイズにとっては始めての光景だ。
少なからず驚いたらしい。
「へぇー、ここがそうなんだ。確かに汚くは無いけど……匂いが凄いわね」
才人はもうだいぶ慣れてしまったが、確かに最初はここの匂いに随分と鼻腔をくすぐられたものだ。
様々な食材が煮られたり蒸されたり炒められる匂いは学院の中ではここしかないだろう。
「それに随分と忙しいのね。まあ魔法抜きで数百人分の食事を作るんだから当たり前だけど――」
そこにそんな感想はどうでもいいと言わんばかりに、プッロが割って入った。
「それよりもう貰いに行ってもいいか?俺は早く食いたいんだ」
この男は食い物に関しては貪欲だとウォレヌスが言っていたのは正しかった。
ここの食事は特にお気に入りになったらしく我慢しきれない様子だ。
彼は返事を聞く事なく、マルトーの方へ歩いていった。
ルイズはせっかちね、と文句をこぼしながらついて行き、才人とウォレヌスもそれにならった。

貴族がわざわざ厨房にまで足を運ぶのはマルトーにとっても珍しい事だったのだろう、彼は目を丸くして彼女を向かえた。
「これは……随分と珍しいですな、貴族の方がここに来るなんて」
「今日はここでこいつらと昼食を取るわ。すぐに用意して頂戴」
ルイズの口調は何かを命令する人間のそれだ。
それが才人は少し気に入らなかった。
一応、料理を作って貰う立場なのにルイズはマルトーを自分の下に見ている。
そういえばルイズが自分達以外の平民とまともに話すのを見るのはこれが始めてだった。
これが貴族と平民の差という奴なのだろうか。
もうちょっとちゃんと頼めと文句を言いたくなったが、才人はそれをすんでの所で飲み込んだ。
そうしなければ彼女の性格を考えるに不機嫌になるだろう。
昼食をぶち壊すような真似はしたくなかった。

マルトーの方は少し困ったようにウォレヌスを見やっていた。
彼女が本気なのかどうか図りかねてるのだろう。
「ああ、確かにそういう事なんだ。すまんが今日は一人分多く用意してくれ」
ウォレヌスの返答にマルトーはうなずくとその場を離れた。
少ししてパイとお粥らしき物が並んだ昼食が用意されると、才人達はトレイごとそれを受け取り外に出た。
ちなみにルイズの分は盛り付けが他に比べてやけに丁寧だった。
これも平民と貴族の差なのだろう。

ルイズの案内で適当な場所はすぐに見つかった。
才人がギーシュの香水を拾い、プッロがつまみ食いをしていたあの場所だ。
椅子やテーブルは揃っているし他の生徒達は食堂にいる時間帯なので他には誰もいない。
騒がしい厨房と比べたら嘘のように静かで、おあつらえと言える場所だった。
「ここなら丁度いいだろう」
「ええ。それにこっちの方が静かでかえって良いかもしれませんね」
そんな事を言いながら食べ始めると、ルイズが驚いたようにつぶやく。
「……味は私達のとあまり変わらないのね」
平民用の食事と貴族の食事に差が無いのが気に入らないのか、その声には僅かに不快感が混じっていた。
「そりゃあ、貴族用の食事の残り物とまかないの組み合わせだからな」
豚肉とキノコらしき物が入ったパイを齧りつつプッロがそう言うと、ルイズは露骨に顔をゆがめた。
「残り物?そんな物が入ってるの?」
「だからどうした?」
「不潔じゃない!」
そうルイズは汚らわしいと言わんばかりに言い切った。
631鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:39:53 ID:o5i9qzI9
確かに自分達の食事には残り物が多い。
なんでも生徒達は一番良い部分しか食べない事が多いとかよく残すとかで、作る量の割には残飯が多いらしい。
だから厨房で働いてる人間は食事ついでにそれを処理しており、要するに自分達もその手伝いをしている事になる。
だが流石に食べかけの物が入っているわけではないし、味に不満などないので才人は気にした事がなかった。
忙しい中わざわざ用意してくれるだけでも文句など言えないだろう。
それが気にならないのはプッロも同じらしい。
「別に腐ってるわけじゃないからいいだろ。お前だって味は変わらないって言ったじゃねえか」
今の言い草からして、彼は現代風に言えば賞味期限が数日切れてても気にしないタイプなのだろう。
「貴族のご令嬢だ。おおかた残り物なんて食べた事が無いんだろう。贅沢な事だな」
ウォレヌスもルイズをやや小馬鹿にするように言う。
結局ルイズは文句を言いつつも食べ続けた。

「……残飯を食べたなんて、お父様とお母様にばれたら大変な事になるわ」
「お父様とお母様ねえ。確かお前の親父はコウシャクなんだろ?コウシャクってのはかなりのお偉いさんらしいじゃないか」
プッロがルイズを見ながら言う。
「もちろん!公爵は爵位じゃ二番目に上なのよ?あんた達なんか口をきく事すら出来ない身分なんだからね」
ルイズは誇らしげにそう言うと、「頭が高い」とでも言わんばかりに三人をねめつけた。
だがプッロやウォレヌスはもちろん、才人も動じない。
だが動じないというよりは、公爵と言うのがどれだけ偉いのかが実感出来ないというほうが正しいか。
実際に領地や城やらを見れば話は別だろうが、肩書きだけではどうも実感できない。
それに正直に言って、目の前のこの少女を見ている限りではとてもそんな風には見えない。

プッロの興味も他に移ったのか「他に家族はいるのか?」と聞き始めた。
「お母様の他には姉が二人。エレオノール姉様とちい、じゃないカトレア姉様」
「二人ともお前みたいなちんちくりんなのか?」
そう言いながらプッロはククッと笑った。
この話題はルイズにとってよっぽど痛い所なのか、彼女はムキになって言い返す。
「うるさいわね!カトレアお姉様はそりゃ凄いのよ!?私もあと何年かすればきっとあの人みたいに――」
「カトレアお姉様は?つまりエレオノールとか言うのはお前と同じなのか?」
「う、うるさい!」
プッロのからかいに一々ムキになるルイズはおかしかったが、そんな事よりも気になる事があった。
今のプッロの質問で思い出したが彼らの家族についてだ。昨日も気になっていた事だし、いい機会だから聞いてみようと才人は考えた。

「まあまあ、からかうのもそれ位に……そういえばプッロさんとウォレヌスさんもご家族はいらっしゃるんですか?」
「家族?」
「ええ。ウォレヌスさんは確か奥さんと子供がいるって言ってましたよね?」
ウォレヌスはきょとんとして答えた。
「ん?確かに妻と娘が二人いるが、なぜ聞く?」
「ただの好奇心ですよ。ルイズのも聞いたんだし。プッロさんはどうなんですか?」
「結婚はしてねえよ。兵隊はしちゃいけないって決まりなんでな」
兵隊が結婚してはいけないと言うルールがなぜあるのかは知らないが、それには特に興味は無い。
「はあ。ご家族はどうなさっているんですか?」
「それは私も気になるな。考えてみればお前が軍に入る前の事については殆ど聞いた事が無い。そもそも肉親は生きてるのか?」
ウォレヌスも知らないというのは意外だった。
相当長い付き合いだという雰囲気だったから、それ位は知っている物だと思っていた。
そしてプッロは質問にあっさりと答える。
632鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:40:48 ID:o5i9qzI9
「親父もおふくろも俺がガキの頃に死んでます。親戚もいるのかいないのかさっぱりですね。いたとしてもくたばってると思いますが」
その瞬間、才人の顔が引きつった。
聞いてはいけない事を聞いてしまった。そんな後悔が頭の中で膨らむ。
そして反射的に謝罪の言葉が口から出た。
「……す、すみません!そんな事を聞いちゃって。ぜんぜん知らなかったんです」
「謝る必要なんかねえよ。俺にとっちゃどうでもいい事だからな」
だがプッロは大して興味もなさそうにそう言い切った。
まるで肩がぶつかった事を謝られた程度の口ぶりだ。
それが才人には信じられなかった。
もし自分がそうなったらどうだろうと考えてみても、まるで検討がつかない。
それだけ両親が存在するという事は当たり前になっているのだ。
だが両親を幼くして亡くすというのが誰にとっても辛い事であろう事は想像できる。
それだけになぜプッロが肉親が全くいない、天涯孤独の身である事をどうでもいいと言い切れるのが理解できなかった。
ルイズも同じような考えなのか、彼女も気まずそうな顔になっている。
だがウォレヌスだけは特に驚いた様子も無く平然としていた。

「ほう、やはり初めて聞く事だな。まあそんな所だろうとは思っていたが……」
「まあ、そう言う事です。それより坊主、お前はどうなんだ?」
突然話を振られて、今のプッロの発言もあって才人は一瞬戸惑った。
「え?あ、はい。父さんも母さんも元気ですよ。兄弟はいません」
「そうか。両親ともに揃ってるのはいい事だな。嫁はどうなんだ?結婚してるのか?」
そう言ったプッロの顔に憂いは一切見られない。
よほど演技がうまくないのであれば、本当にさっきの質問はどうでもいいと思っているようだ。
だがそれよりなぜそんな事を聞くんだろう、と才人はいぶかしんだ。
この年齢で結婚している筈が無いではないか。
「してるわけないじゃないですか。まだ17ですよ俺は」
驚いた事にそこにウォレヌスが「私が結婚したのも17だぞ。妻を娶るには普通の年じゃないか」と割って入ってきた。
どうも彼らの世界では自分くらいの年齢で結婚するのが普通らしい。
そういえば日本も昔はそうだったと聞いた事があるから、歴史全体で見ればそうおかしい事ではないのかもしれない。
だが今の常識で言えばまだ高校も出てないのに結婚するのは普通ありえない事だ。
才人の場合、そもそも恋人だってまだ一回も出来た事が無いのだからそれ以前の問題なのだが。
「ローマじゃそうかもしれませんけど、日本じゃまずありえませんよ。結婚なんて考えた事もないです」
才人がそう言うと、今度はルイズが割り込んできた。
「そういうとこも変な場所なのね、ニホンって。ここでも16、17くらいで結婚するのは当たり前よ?」
こんなの当たり前じゃない、と言う風にルイズは言った。
才人は技術があまり発達していないと結婚が早くなるのか?と不思議に思った。
昔の日本やローマやハルケギニアの共通点といえばそれ位しか思い浮かばない。
だが注目する所は他にあるのに気づいた。

「ちょっと待て……お前確か16だろ?じゃあお前も来年あたりには結婚するのか?」
ルイズは当然だ、と言う表情で答えた。
「多分そうなるでしょうね。まあ、ここを卒業してからだろうけど……」
うまく説明できないが、才人はそれを聞いて何となく嫌な気分になった。
胸のあたりが圧迫される感覚が確かにある。
だがそれについて深く考える前にウォレヌスがとんでもない事を言った。
633鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:41:47 ID:o5i9qzI9
「16でも遅いくらいだ。私が妻を娶った時、彼女は13歳だったんだぞ」
思わず才人は口をポカンと空けてしまった。
13歳で結婚。どう考えたって色々とおかしい。
13歳といえばまだ中学1年生くらいだ。明らかにまだ子供だ。
そんな年齢で結婚するなんてあり得ない。
しかも娘がいると言う事は早ければ14歳で出産する事になる。
どう考えたって犯罪、それでなくともロリコンでは――
「おいどうした?口をアホみたいに開けて」
そこにプッロが怪訝な表情を浮かべながらこちらを覗き込んで来た。
「あっ、は、はい。すみません……ちょ、ちょっと日本じゃ絶対に有り得ないので驚いてたんです」
そう言うと才人は少し落ち着く事が出来た。
考えれば彼は17歳で結婚したと言った。
13歳との年の差は4年しかない。
そこまで異常な事ではないはずだ。多分。
だが逆の立場で考えれば自分と同じ位の年で結婚するどころか父親になってしまうと言う事になる。
やはり明らかに何かがおかしいとしか思えなかった。

続けてプッロが聞く。
「有り得ない?じゃあニホンじゃ何歳くらいで結婚するのが普通なんだ?」
「だいたい、20代半ばくらいですかね」
この答えはさっきの才人ほどではないが、三人を驚かせた。
「兵隊でも無いのに随分と遅いんだな」
「私からすればそっちのほうが有り得ないな」
「こっちなら完全に行き遅れね、そんな歳じゃ」
こうもまとめて同じ反応をされると、おかしいのは自分達のほうではないかという気分になってしまう。

この話題にはもう興味が無いのか、ルイズがウォレヌスを見ながら言う。
「……それにしても、あんたが結婚してたなんて意外だわ」
「意外だと?」
「ええ、なんかあんたのイメージに会わないっていうか」
ルイズはおかしな物を見るような目つきでウォレヌスを見ている。
失礼だとは思ったが、才人も心の中で同意した。
彼らに会ってからまだ大して時間は経っていないが、今までの出来事がかなり濃密だったので彼らの人物についてのイメージはもう固まっている。
結婚している事はともかく、彼のいかにもな“厳格な軍人”と言う雰囲気からは父親のイメージが浮かんでこないのだ。
だがウォレヌス自身はそうは思っていないのか「どういう意味だそれは?孫だっているんだぞ」と心外そうに答えた。
彼に既に孫がいるというのは更に意外だった。
ウォレヌスは青年という程若くは見えないが、中年という程老けているわけでもない。
高く見積もっても30代半ばくらいの筈だ。とても祖父という年齢には見えない。
だが彼が17歳で結婚したというなら、彼の娘も同じ位の年齢で子供を生めば確かに30代後半までには孫が生まれる事になる。
しかしいずれにしても自分の祖父と比べれば遥かに若い事には変わりない。
634鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:42:32 ID:o5i9qzI9
「へ〜、意外だわ。娘さんは何歳なの?」
ルイズも彼の家族に興味を引かれたのか、彼女の声は積極的だった。
「一人は17歳、お前より一つ上だな。もう一人は7つほど下だ」
「名前はなんていうの?」
「妻か?ニオベと言う」
ウォレヌスの言葉はそこで途切れた。
「あの、娘さんの方は……?」
才人がそう聞くと、ウォレヌスはあっけに取られた顔になり、数秒後に答えた。
「あ、ああ。君達には変に聞こえるかもしれんが長女が大ウォレナで次女が小ウォレナだ」
両方とも同じ名前で、頭に大と小。
ウォレヌスが言った通りに随分と変な名づけ方だな、と才人は思った。
ルイズから見てもおかしな事だったようで彼女は「何よそれ?なんで二人とも同じ名前なのよ」と言って眉をひそめた。

なんでもウォレヌスによればローマの女性は親の姓を女性系にした物を名にすると決まっているらしい。
だからウォレヌスの女性系、ウォレナが彼の娘の名前になるというわけだ。
この場合は両者を区別する為長女に大、次女に小をつけるが娘が何人もいた場合は生まれた順に名の末尾に数字をつけるか、あだ名で区別する。
ウォレヌスが妻の名前だけを答えたのは、ハルケギニアでは女性にも別々に名前をつけるというのを失念していたからしい。
「ふーん……いやらしいわね、女だけおざなりにされてるみたいで」
この命名則が気に入らないのか、ルイズは腕を組みながら不快な表情を浮かべていた。
「おざなり?どう言う事だ?」
「だって女は家の名前しか貰えないなんて贔屓されてるみたいじゃない。それに姉妹が皆同じ名前なんてややこしいし何の華も無いわ。なんでそんな風になってるの?」
「さあな……ずっと昔からそうなっているんだ。理由は考えた事がない――」
そこでウォレヌスはいったん言葉を区切り、少ししてから答えた。
「――多分、女は表に出る存在じゃないからだろう」
「どういう意味よ」
「言葉通りだ。男は一家の長であり表に出る存在だ。だが女は家中を守る者で表に出る事は無い。だから個別に名をつける必要はないんだろう」
なんだか随分とアナクロな考え方なんだな、と才人は思った。
まるで明治や大正の人間だ。

ルイズが呆れたように言い放つ。
「随分古臭い考え方なのね、あんた。まるで大昔の貴族みたい。いまどき珍しいわ」
そしてそこに珍しくプッロが相槌を打った。
「この人を古臭いと思ってるのはお前だけじゃないぜ、お嬢ちゃん。気があったな」
フン、とウォレヌスは“だからなんだ”とでも言いたげに鼻を鳴らした。
「それに男は名前が貰えると言ったって20個かそこらしかないんだ。それも“一番目に生まれた奴”“二番目に生まれた奴”みたいな名前ばっかりだ。大した意味はない」
「じゃあウォレヌス、あんたの名前、ルキウスだっけ?も意味があるの?」
「ああ。“輝く者”と言う意味だ」
ウォレヌスがそう言うのを聞いて、才人は自分の左手を見やった。
自分が彼らの言葉を理解できるのはこのルーンの翻訳機能とやらのおかげらしいが、それは名前みたいな固有名詞には働かないらしい。
ウォレヌスの名を無理やり日本語にすれば輝人、にでもなるんだろうか。
そしてウォレヌスは少し疲れたようにため息をつく。
「しかし女一人一人に名前があるだけでなく、これが“古臭い考え方”とは随分おかしい国だなここは。今更言う事じゃないだろうが」
確かにここが“おかしい場所”なのはもう散々確認している。
ウォレヌスもこれ位で驚くのは馬鹿馬鹿しいのだろう。
もっとも才人はまだ慣れる事が出来たわけではないが……
635鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:43:20 ID:o5i9qzI9
やがて最後にルイズが苦しい事を聞いてきた。
「ところでサイト、あんたの名前にも意味はあるの?」
「俺か?俺のは“才能ある人”って意味だ」
「はっきり言って名前負けしてるわね」
「うるせえ」
自分が名前負けしているのを密かに気にしている才人だった。

4人はいったん止まっていた昼食を再会する。
自分と同じ年頃の娘がいると知ったからだろうか、意外にもルイズが積極的にウォレヌスに、彼の家族について話しかけていた。
家族について話すとき、ウォレヌスは驚くほど饒舌になった。
奥さんが料理に塩を入れすぎるだの次女がなぜか殆ど全く喋らないだのと言った他愛もない話を良くした。
家族の事を話すウォレヌスは今まで殆ど見せた事のない笑顔すら浮かべ、うれしそうだった。
それを見て、才人は彼に勝手に厳格な軍人というイメージを作り上げていた為、こう言う面もあったのかと驚いた。
だがそこで一つの疑問が浮かび上がる。
彼らがどんな理由で戦争に行ったのかが彼の別の一面を知った今、なおの事わからなくなった。
だが直接聞くのは不躾な気がして何も言えなかった。

昼休みがそろそろ終わる時間になり、4人は解れる事になった。
前のように、ウォレヌスとルイズが授業に行き才人とプッロは訓練をする。
無論ウォレヌスには秘密なので単にのんびりすると言ったのだが、彼は不満そうだった。
「また行かないのかお前達は?有益な情報があるんだ、出たほうがいいぞ」
プッロは肩をすくめて答えた。
「俺みたいな馬鹿が聞いても解りませんよ。と言うかあなたも今日はここで休んだらどうです?いつもあんな授業に出てちゃ退屈でしょう」
「いや、私は行く。それに退屈ではない。むしろ興味深い」
ウォレヌスがそう返すことを見越してそう提案したのだろう、プッロはそれ以上何も言わなかった。

ウォレヌスとルイズが見えなくなってから、二人はそのまま訓練に行った。
いつもと同じ運動をこなし、汗だらけになった体を井戸水で洗い流す。
そして地面に横たわり、息を荒げながら才人は気になっていた事をプッロに聞いた。
「あの……なんでルイズを昼飯に誘ったんですか?」
「あぁん?奴に言った通りの理由さ。一人増えた方が賑やかそうだと思ったんだ。実際そうなっただろ。まあ、実を言うと他にもあったんだがな」
「それっていったい……?」
「あのガキをぶっ飛ばすのをお嬢ちゃんに協力して貰う以上、もうちょっと親密になったほうがいいと思ってな」
「なるほど」
「それに、あのお嬢ちゃんは聞く所によれば昼食の時はいつも一人でつまらなそうにしてるらしい。だから彼女にとっても悪くないと思ったんだよ。まあ、本人にそう言うと怒りそうだから黙っていたんだが」
意外な答えだった。それをルイズに言わなかったのもそうだ。
才人はてっきりプッロはそう言う気配りとは完全に無縁だと思っていたが、認識を改めなければいけないかもしれない。
それに彼らのルイズの印象に変化が生じたのはやはり間違いないようだ。
636鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2010/03/31(水) 19:44:22 ID:o5i9qzI9
そして才人はもう一つの疑問をぶつけた。
「あとひとつ質問があるんですけど……プッロさん達って軍には自分達から入ったんですか?」
「あぁん?志願したかどうかって事か?俺は志願した。本人に聞いた事はないが、ウォレヌスの奴も間違いなくそうだろう。そもそも内戦が起こる前は基本的にみんな志願兵だったからな」
「そうですか……」
「なんでそんな事を聞くんだ?」
「ちょっと気になっただけです」
その答えで才人は更に考え込んだ。
徴兵されてやむなく、ならとにかくなぜ自分から戦争に?
話を聞く限りでは故郷が侵略された、というわけでもなさそうだし。
なぜ家族を置いて戦争を行ったのかその理由が理解できない。
しかしあまり聞かれたくないデリケートな話な可能性がある。
ずけずけと聞いてしまうのはまずいかもしれない。
そうするにしてももっと未来の方がいいだろう。

そして部屋に戻る途中。才人は前に抱いていた不安を思い出していた。
ウォレヌスに隠し通せるのか、という不安を。
プッロが言うには最低三ヶ月はこれを続けるらしいが、そんなに長い間こんな事を続けていたら流石にバレるのではないだろうか、という思いは強まっていた。
(ハッキリと何をやってるのか言った方がいいんじゃないかな?)
だから才人は思い切ってプッロに聞いてみた。
「プッロさん。こんなこそこそとやってないで、ウォレヌスさんにはっきりと言った方がいいんじゃないですか?」
「それであいつを説得しろって?俺はごめんこうむるな。あいつの頭の固さは軍団、いや軍全体の中でも一番だ」
「でも何時までも隠しておけますか?いつかはバレるでしょう?」
「まあ、隠し通せる可能性は低いだろうな。だがもう既にあいつの命令は無視してるんだ。今バラしてもキレるのは確定してる。
 それにあいつの性格からして、俺がお前を誑かしたと思うだろうから責め苦は全部俺が背負う事になるなら可能な限りバレないようにしたほうがいい」
本当にそれでいいのかな、と才人は思った。
長く隠しておけば隠す程、発覚した時の面倒が増すのではないか。
だがウォレヌスが本気で怒ったらかなり怖そうなのは容易に想像できる。
だからなるべく隠しておきたいというプッロの考えも理解できた。
ウォレヌスの人となりは彼の方がずっと良く知っているのだから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
以上です。次からは月に一回ぐらいのペースで続ける予定です。
637名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 19:47:23 ID:MP4mMruH
投下乙でした
じっくり読んでたら支援出来なかった orz
638名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 19:49:54 ID:Zoo0AxbN
639名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 21:18:34 ID:2ZRHiYlN
乙です。
月一の投下を楽しみに待ってます。
640ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:39:26 ID:VkEg8YDm
 鷲の方、乙でした。
 こういう重厚な話は私の苦手とするジャンルですので、少し羨ましいです。……いや、そもそも私に得意なジャンルってのがあるのかも疑わしいですがww
 元ネタの方は分からないのですが、続きを期待しています。

 それでは他にご予約の方がいないようでしたら、22:45より第47話の投下を行います。

 ……エイプリルフールのネタで何かないかと考えたけど、結局なーんにも思い浮かびませんでした……。
641名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:43:34 ID:VvqZ10pN
事前支援だ!
642ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:45:25 ID:VkEg8YDm
 メンヌヴィル率いる傭兵部隊の襲撃から三日後。
 ユーゼスとエレオノールは、研究室の中で議論をしていた。
 先の事件の影響で授業は全面的に取りやめとなり、生徒および教師は各自部屋にて待機ということになっているのだが、この二人は時間を無為に過ごすことを嫌ったため、だったら研究に当てようということになったのである。
 なお、どのような議論をしているかと言うと。
「だ・か・ら! どうしてあなたはこう、とんでもない魔法の使い方を考えるのよ!?」
「そうか?」
「そうよ! 『人間の身体を干からびさせるポーション』なんて、異端とかどうとかいう以前に、人道的にどうかってレベルの発想じゃないの!!」
「……………」
 今回、ユーゼスが提案した魔法の理論はこうだ。

『人間の身体は、多少の個体差はあれど約60%が水分で出来ている。
 また、その内の20%、つまり体重の12%の水分が失われれば死んでしまう。
 ならば、“発汗や唾液などの過剰分泌を促進させることによって体重の15%(余裕を持たせた数字とした)を失わせるポーション”を作成すれば、確実な殺傷手段となり得るのではないだろうか』

 ユーゼスとしてはなかなか良い発想だと思っていたのだが、どうやらエレオノールはお気に召さなかったらしい。
 どのくらいお気に召さなかったのかと言うと、ユーゼスが書いたレポートを読むのを途中でやめて、そのレポートで頭を叩かれるくらいだった。
 ……ある意味では予測済みの反応でも、実際にこうやられると少しだけ落ち込む。
「技術の発展のためには、ある程度は人の道から外れることも必要だぞ?」
「そんなことまでして発展させたくないわよ、もう!」
 ちなみに、ユーゼスがこのような発想のレポートをエレオノールに読ませるのはこれが初めてではない。
 これまでのやり取りにおいて、ハルケギニアの住人には刺激の強すぎる内容を何度もぶつけていた。
 例えば。

『人体の主な構成元素は炭素、水素、酸素、窒素であるが、ハルケギニアの人間にはこれらの元素を“存在する物”として認識することは難しい。
 ならば人体に含まれている成分の中でも、ハルケギニアの人間が“存在する物”として認識している鉄や硫黄、銅などの元素ならば“錬金”で操作することは理論上可能なはずである。
 これらの体内元素を操作した場合、被験者には貧血や代謝機能の異常などの症状が見られるはずであるが、よければ土メイジであるそちらに協力して欲しい。
 なお、被験者には私を使ってくれて構わない』

 このような内容のレポートをアカデミー宛てに送ったら、添削されて返って来たものには『この馬鹿』と幾分か荒々しい筆跡の文字が書かれていた。
 人体に『錬金』をかけることは可能かどうかの、有意義な実験のはずなのだが。
(倫理観の枷は、そう簡単に抜け出せるものでもないか)
 まあ、自分のように枷から抜け出して突き進んだ結果、一周して落ち着いたというような例もあるのだが、これは稀だろう。
 それに倫理観から抜け出すことが良い結果を生むかと言うと、必ずしもそうではない。
 科学者や研究者からそのような束縛を取り払ったら、大抵の場合ロクな結果にならないということは嫌と言うほど知っている。
 何せ、他でもないユーゼス自身がそうだったのだ。
 ……とは言え、その倫理観によって自分の試みが却下されてしまったことも事実。
 どうしてもやりたいという訳でもなかったので別に構わなくはあるが、目下のところの研究テーマが失われてしまったことになる。
(ふむ)
 ここは立腹中のエレオノールをなだめる意味でも、新たな研究テーマを提案するべきだろう。
643名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:46:24 ID:Zoo0AxbN
おぉっと支援だ!
644ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:47:10 ID:VkEg8YDm
 だが、研究したいことがそんなにポンポンと出て来るわけでもない。
 ユーゼスが何かないものかと首をひねっていると、しびれを切らしたエレオノールが命令口調で喋り始めた。
「まったく……そんな愚にもつかないようなことばっかり考えてないで、もう少しためになることを考えなさい!」
「これも十分ためになることだと思うが」
「もっと他に色々あるでしょう。えーと……例えば『虚無』に関して、とか」
「それに関しては、御主人様の協力が得られないのだから仕方があるまい」
「む……」
 ルイズはメンヌヴィル襲撃の際に受けた精神的ダメージが大きかったのか、あれから三日ほど経つというのに部屋に閉じこもりっぱなしだった。
 二日目あたりでさすがに心配になったエレオノールやユーゼスが部屋に入ろうとしたのだが、『今は放っておいて』だとか『一人にして』などと言われて追い返される始末。
 むしろ自分たちが話しかけるほど、意固地になって部屋から出て来なくなっているような気さえする。
「……かなり酷い沈みようよね……」
「多感な時期だからな。先の事件であのメンヌヴィルという男から受けた仕打ちに、色々と思うことがあるのだろう。……あのミス・ツェルプストーですら塞ぎ込んでいるくらいだ」
「ツェルプストーの小娘はともかくとして。……でも、そんなにトラウマになるような程のことだった? 確かに酷い仕打ちだったとは思うけれど、似たようなことはワルド子爵にもやられてたらしいじゃない?」
「……そう言えば以前、ワルドに魔法で吹き飛ばされていたな」
「それにルイズだって、あの頃から少しは精神的に成長してるはずだし……。
 私が言うのもなんだけど、今まで苦手にしてた私に食ってかかってきたって言うのに、今更ちょっと痛めつけられたくらいで塞ぎ込むかしら?」
 ううん、とエレオノールは眉間にシワを寄せ、親指でこめかみをグリグリこね回す。
 悩みごとや考えごとがあるときの彼女の癖である。
「……………」
 何にせよ『虚無』の担い手であるルイズがあれでは、その研究など出来るはずもない。
 そうなるともう、めぼしい研究対象は無くなってしまうのだった。
「ん〜……、……いちいち妹の悩みごとについてアレコレ考えたり口を挟むのもどうかとは思うけど……」
「ならば放っておけばいいだろう。他に考えることもある」
「『他に』って、だったらあなたは何を考えてたのよ?」
「私の研究対象を何にするか、だ。御主人様の協力が得られない状況では『虚無』の研究は出来ないだろう?」
「はあ……。まったく、あなたって自分が興味を持てないことは、とことん興味ないのね」
「『悩みごと』や『精神状態』などという、どうとでも回答や解釈が可能で、曖昧な案件に対して食指が動かんだけだ」
「……そういうのを『興味がない』って言うのよ、普通は」
 エレオノールはユーゼスの素っ気ない態度に呆れたような素振りを見せながらも、ひとまずはルイズのことを保留し、彼に合わせて元の話題に戻る。
「研究対象ねえ……。やっぱり不明な点も多い『虚無』に関することを優先するべきなんでしょうけど……」
 再び指でこめかみをグリグリするエレオノール。
 そんな彼女を眺めつつ、ユーゼスはあることを考えていた。
(……興味のあるなしで言えば、今のところ最も興味があるのはお前なのだがな)
 実際に口にすればあらぬ誤解を生んでしまいそうなので言いはしないが、割と本心である。
 ユーゼス・ゴッツォはここ最近、と言うか先の襲撃事件以降、やたらとエレオノールを意識することが増えてきているのだ。
 しかもその意識というのが、今までのように『何となく気になる』とかではなく。
 …………端的に表現すると、『メチャクチャにしたくなってくる』のである。
 何だか衝動的にエレオノールの身体を組み伏したくなったり。
 あるいは突発的にエレオノールが魅力的に見えてきたり。
 単純な情欲ではなく、一種の独占欲や征服欲、支配欲とでも言おうか。
 とにかく、そんな感じである。
 おかげで脳内にあるクロスゲート・パラダイム・システムは高頻度で起動することになってしまい、ユーゼスのそんな衝動をリセットし続けている。
 なおクロスゲート・パラダイム・システム、別名『限定因果律操作装置』は本来、そのような使い方をするものでは断じてない。
645ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:49:00 ID:VkEg8YDm
「……………」
 ともあれユーゼスとしては、不可解かつ新鮮な感覚であった。
 何せこの男、今まで女性に対してそのような欲求を感じたことがない。
 強いて言うならカトレアに対してのそれが近いかも知れないが、エレオノールと一緒にいると気分が高揚するのに対して、カトレアと一緒にいた場合は気分が落ち着くような感覚を覚える。
(この姉妹……特にエレオノールには私を引き付ける因子のようなものがあるのだろうか……。しかし御主人様に対してはそのような感覚は全く覚えなかったのだし……。……ふむ)
 ルイズが聞いたら首を絞められても文句が言えないだろうことを、神妙な顔で考えるユーゼス。
 ―――どんな感覚を覚えようとも、やはり根本的なところで変わってはいないのだった。
 そんな感じにユーゼスが自分の感情を持て余しつつ分析などをしていると、
「そうだ、ガンダールヴのことはどうかしら。あれだって一応『虚無』の産物でしょう? それにさっきの話じゃないけど、精神状態にもかなり左右されるらしいじゃない?」
「む?」
 律儀に自分の研究対象について考えてくれていたエレオノールの言葉によって、現実に引き戻される。
 なのでユーゼスも気を取り直し、自分の左手の甲を見ながら思考を軌道修正した。
「……確かにガンダールヴのルーンは持ち主の精神状態や感情に応じて出力を上下させるが、私の精神は割と平坦な場合が多い。よって出力値がどうしても低くなるのだ」
「だったら感情を出すようにすればいいじゃない」
「無茶を言うな。いきなり性格や人格を変えられるわけがあるまい」
「うーん……。だったら精神修行をしてみるとか」
「それは私も考えたし調べもしたが、行為の意味がよく分からない上に抽象的でな。効果のほども不明なので却下した」
「どういう行為をするの?」
「『滝に打たれる』、『ひたすら山の中を歩く』、『断食をする』、あとは『錆びた刀で木を斬る』などだ」
「…………まあ、それは確かにあなた向きじゃないわね」
「そうだろう」
 『意志の強さ』という意味での精神力ならば、ユーゼス・ゴッツォは常人以下のそれしか持ち合わせていない。
 元々からしてあくまでもバード星人の一科学者に過ぎず、また若い頃に精神崩壊状態になりかけたこともあるため、精神構造が頑強だとはお世辞にも言えなかった。
 また、ウルトラマンの神に等しい力を手に入れようとした理由の一つは『何者にも侵害されない確固たる自我を確立すること』であるし、そもそも精神が強かったのなら素顔を隠す仮面など被ったりはしない。
 ちなみに今は色々と吹っ切れているので素顔のままである。
「ところでカタナって何よ?」
「剣のようなものだと思えばいい」
 エレオノールの質問に答えつつ、ユーゼスはこの問題について考える。
 精神を鍛えるのは先の理由で駄目。
 性格改善というのも現実的ではない。
 いっそのこと向精神薬のようなものでも使ってみるかと思ったが、あまり健全とは言えまい。
 と言うか、このあたりは以前にも考えている。
「……………」
 面倒だからもう放っておくか、などと考え始めるユーゼス。
 その時、エレオノールがポツリポツリと自分の考えを呟いた。
「メイジが使う魔法も、感情によって魔力が上がったりするけど……。それもあんまり参考にはならないでしょうしね。他に似たようなものはないかしら?」
「む?」
 他に似たようなもの。
 ……そう言えば、その方面からのアプローチはしていなかったか。
 意志の強さや感情が関連するシステムやエネルギーなどだったら、自分もいくつか心当たりがあった。
 そういうものから、何かガンダールヴのルーンに利用したり応用したり出来るものがあるかも知れない。
 真っ先に思いつくのは、やはりシャイニングガンダムなどに搭載されていた感情フィードバックシステムだ。しかしアレは使いこなすためにそれこそ精神修行をしなければならず、ハッキリ言って使い勝手が悪い。
 ゼロシステムは強靭な精神力を持つ人間でなければ廃人になってしまうため、使い勝手が悪いという以前に危険だ。
 念動力感知増幅装置―――通称T-LINKシステム、およびウラヌスシステム。念動力を持っていなければ意味がない。
 良心回路と自省回路。……人造人間の心というものに興味がなくはないが、今は関係がない。
 DG細胞も制御に人間の精神を必要とするが……自分はウルトラマンの力やクロスゲート・パラダイム・システムを使って制御しているので、今更どうこうする必要もあるまい。
(なかなか『これだ』というものがないな)
646名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:50:06 ID:Y7THx74B
支援するのも私だ
647ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:52:10 ID:VkEg8YDm
 ユーゼスは目を閉じ、脳内のクロスゲート・パラダイム・システムを起動させて『感情』、『意思』、『精神力』などに引っ掛かる存在の検索を始めた。
 研究者の性なのか、知的好奇心に一度火がつくと止められなくなってしまうのだ。
 そしてユーゼスは検索結果を一つ一つ検証していく。
 カルケリア・パルス・ティルゲム。要するにゼ・バルマリィ帝国製のT-LINKシステムなので、念動力がない自分には関係がない。
 覇気と修羅神の神化。……ゴッドガンダムやマスターガンダムが金色に輝いたときのようなものだろうか? 何にせよ、自分が扱える類のものではなさそうだ。
 バイオセンサー、サイコフレーム、その他サイコミュ。ニュータイプ能力がないと使えない。
 エンジェル・ハイロウ。超強力な念波をぶつけて人間を幼児あたりまで退行させることが出来るそうだが、起動に万単位のサイキッカーを必要とするので効率的ではない。
 ターンX。……『サイコミュ的な精神波の流れ』とは一体何なのだろう。
 SEED因子。感情や精神力といったものに関係があるのかないのか不明な点が多過ぎる。これが存在する世界においてすらよく分かっていない。
 ゲッター線。最大限に使えば宇宙を支配することも可能らしいが、本当の意味で使いこなすためにはゲッター線自体に選ばれなければならない。
 ムートロン。力を引き出せるのは古代ムー帝国とやらの血を引く者のみだそうである。
 オーラ力。肥大化しすぎると、暴走して自滅してしまう。これも扱いが難しい。
 エヴァンゲリオンおよびATフィールド。制御が非常に面倒な上に、シンクロし過ぎると人間のカタチが維持出来なくなってしまう。
 ラーゼフォン、ドーレム。エヴァンゲリオンと同じく、パイロットのメンタル面が影響を与え過ぎる。せめて一定の安定性は保証して欲しい。
 ダンクーガ。合体するだけでも多大な精神エネルギーが必要になるため、効率的ではない。
 ビムラー。機械に心を与えることが出来るらしいが、人間の精神と直接的な関連性はないようだ。
 ブレンパワードやグランチャーの持つオーガニック・エナジー。これもパイロット……と言うか、呼びかける人間の感性に左右され過ぎる。
 データウェポン。心に特定の要素を持つ場合、それに引き付けられるらしい。……都合よく自分がその特定の要素を持っているとは限るまい。
 スピリチア。要するに『生きる気力』だが、これをエネルギーとして転用が出来るのはプロトデビルンという存在だけ。
 歌エネルギー。アニマスピリチアと呼ばれる特殊なスピリチアの持ち主でなければ、あまり効果は期待出来ない。
 ラムダ・ドライバ。使い勝手は良いようだが、どうもこれは人型機動兵器を介さなければ使えないようだ。……自分はハルケギニアにそんなものを持ち込むつもりはない。
 オーバーマン。多様なオーバースキルは興味深いが、それを発揮するために必要なオーバーセンスの資質が個々人によって差があり過ぎるのと、資質があり過ぎてもオーバーマンの影響を受け過ぎてしまう。
 ボソンジャンプ。イメージが明確であればあるほど転移の精度が上がるとのことだが、それは感情や精神力うんぬんとはそれほど関係がない。
 ニルヴァーシュ、およびトラパー。扱いがかなりデリケートな上に、絶望病やらスカブコーラルに取り込まれるやらのリスクがある。
 アクエリオン。パイロットが3人揃わないと意味がなく、しかもその3人の息や精神がピッタリ合致しないと能力を十全に発揮することが出来ない。
 テックシステム。……使用者の精神的なエゴが肥大化されるという副作用があるが、システムそのものの制御は精神力でどうにかなる問題ではない。
 フェストゥム。相手の思考を読むことが出来てそれを戦闘に反映させることが出来るという。しかし精神力の強化や感情の操作にはあまり関係あるまい。
648名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:53:03 ID:ri/tz03y
支援
649名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:53:44 ID:URmO/CfT
しぇんー
650ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:53:45 ID:VkEg8YDm
 ムラサメライガーのエヴォルト。これは操縦者の意思に応じて機体性能を変化させるという機能のようだが、操縦者の精神力などは関係があるのだろうか? 詳細が不明。
 オリジナルセブンのヨロイインターフェイスシステム。精神を集中させれば機能が向上するらしいが、言うほど単純なものでもないようである。
 ライジンオー、ガンバルガー、ゴウザウラー、ダイテイオー。これらは子供しか扱えない。
 Gストーン、Jジュエル、ゾンダーメタル、ジェネシックオーラ。使用者の精神力次第では無限に近いエネルギーを引き出せるが、その必要とされる精神力のハードルが高過ぎる。
 ラウドGストーン。これは逆に精神の要素が排除され過ぎている。
 パレッス粒子。精神を極めてリラックスさせる効果があり、ある意味これらのエネルギーの天敵のようなものである。
 イデ。扱いが極めて難しく、何よりエネルギー量が膨大過ぎて制御不能。
「……………」
 他には、剣狼と流星。インサニアウイルスによるラビッドシンドローム。ガイキングの心の炎。守護騎士に搭載されている熱血メーターと血圧メーター。リューと精霊石。アイアンリーガー。獣神ライガー。エスカフローネ―――と、このくらいか。
 何だか最後あたりに変なモノが混ざっていたような気がするが、これで羅列はおおむね終わった。
 そしてユーゼスがこれらから導き出した結論は、
(…………。よく分からん)
 どいつもこいつも参考になるような、ならないような、しかも扱いが一筋縄ではいかないものばかりである。
 もっと安全かつ確実に扱えて、手軽にエネルギーが引き出せるようなものはないのだろうか。
 ―――いや、あるいはそれこそがガンダールヴのルーンなのかも知れない。
 こうして様々なものと比べてみると、精神や視界への干渉などのいくつかの点に目をつぶりさえすれば、むしろ使い勝手が良いような気がしてきた。
 人体や精神に対して明確に有害という程ではない。
 強力過ぎて扱いに困るということもない。
 発動条件・制御方法が分からないというわけでもない。
 使い方を間違えれば自分の身や世界などが破滅するわけでもない。
 このルーン自体が意思をもっているわけでもない。
 特殊な資質を持つ、ごく限られた人間にしか使えないわけでもない。……もっとも、このルーンは一つしか存在しないようだから実質自分にしか使えないのだろうが、とにかくルーンを刻み付けてしまえば誰にでも使える。
 使うのに訓練や習熟を要することもない。
 おまけに『あらゆる武器の使用方法が分かる』というオマケつき。
 精神への影響も、刻まれる過程で無力化させた自分には関係がない。
 視界の占拠については『使い魔』という立場上、仕方がないとしよう。
 ……強いて言うなら効果が『身体強化』のみで莫大なエネルギーを得られるわけではないというのが不満だが、今の自分はそこまで強力な力など必要としていないし、その気になればウルトラマン7〜8人分ほどのエネルギーを使えるのだ。
 それに身体強化の影響で、自分を生体ユニットとしている超神ゼストもパワーアップしている(余程のことがない限り変身する気はないが)。
 まさにいいこと尽くめではないか。
「そういうことならこのルーンは良しとするべきだな」
「……何を一人で納得してるのよ?」
651名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:54:23 ID:3hQhPmTb
緊急支援!
652ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:56:10 ID:VkEg8YDm
 ユーゼスとエレオノールがそんな会話をしている壁一枚向こう側。
「……………」
 朝だと言うのにカーテンを閉め切ってどんよりと暗い部屋の中で、ルイズはベッドの中に潜り込んだまま落ち込んでいた。
『――、―――?』
『――――――、――――――――――』
「…………ぅぅ」
 布団を被って耳を塞いでも、ほんのわずかに隣の部屋の声が聞こえてくる。
 何を話しているのかまでは聞き取れない……と言うか聞き取りたくもないが、何だか親しげというか、楽しげというか。
 難しい言い回しをすれば『喋々喃々(チョウチョウナンナン)』というヤツだ。
「ぅぅううぅぅううぅ…………」
 自分の使い魔と長姉がどんな顔で、どんなことを話して、どんなことをしているのかを考えてしまって、色々とグチャグチャになってくる。
 中途半端に豊かな自分の想像力が、ここまで鬱陶しくなったのは初めてである。
「……はぁ……」
 ここ三日で、ずいぶんと涙を流した。
 隣に聞こえないように枕に顔を押し付けながら、叫び声も上げた。
 なんかもう頭の中がワケ分かんなくなって、軽く暴れたりもした。
 溜息だって、どのくらいついたのか分からない。
 もう幸せだって逃げ放題。
 そもそも幸せって何かしら。
 そんな哲学っぽいことまで考えてしまう体たらくだった。
「って、言うか……」
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、只今絶賛失恋中なのだ。
 傷心なのだ。
 心が苦しいのだ。
 ブロークンハートなのだ。
 そんな自分に対して、隣の部屋のあの二人はせめて話し声を控えめにするとか、もうちょっと配慮してくれたっていいじゃないか。
 ……いや、まあ、ユーゼスもエレオノールも自分が失恋したことなんて、気付いてないだろうけれども。
 配慮されたらされたで、多分もっと傷付きそうな気はするんだけれども。
「…………これから、どうしよう」
 さすがにいつまでもこのまま、というわけにはいかない。
 いや、部屋から外に出るのはいい。
 授業だって出よう。
 この際、戦争しにアルビオンに行けと言われたら行ってもいいくらいの心境だ。
 しかし、そうすると必然的に使い魔であるユーゼスも付いて来ることになってしまう。
 メイジと使い魔は一心同体。
 切っても切り離せない関係。
 その厳然たる事実が、ルイズを打ちのめす。
「ユーゼスと、顔……合わせたくない」
 別に顔も見たくないとか大嫌いとか、そういうわけではないのだが、とにかく今は顔を合わせたくない。
 そりゃあ、いつかはこの心の傷も癒えてユーゼスとまた普通に話せるようになるのかも知れない。
 だが、その『いつか』ってどのくらい先だろう。
 少なくとも今はキツい。
 ……いや、今の時点では一生治らないような気がする。
「…………どうしてこうなっちゃったのかしら」
 思い返そうとして、すぐにやめる。
 そんなことをしたところで、何の意味もない。
 原因が分かって、『あの時ああすれば良かったんじゃないか』と考えて、上手く行ったときのことを空想して、それが何になるというのだろう。
 過去には戻れないし、現実も事実も真実も変わりはしない。
 ユーゼスの心は、自分に向いてはいないのだから。
653ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:57:40 ID:VkEg8YDm
「はぁ……」
 また溜息をつく。
 ……何だかもう、考えるのも面倒になってきた。
 パッと気持ちを切り替えることが出来たらいいのだけれど、そんな服を着替えるように気分を変えられたら誰も苦労なんてしない。
 いっそのこと何も考えないようになれたら、どんなに楽か。
「……………」
 なんてことを考えれば考えるほど、気分はどんどん沈んでくる。
 むしろ考えまいとすればするほどアレコレと色々なことを考えてしまう。
 特殊な水の秘薬を使えば、もう本当に『何も考えられない』ようになるらしいが、さすがにそれは嫌だ。
 そしてふと気付くと、自分の心の大部分がある感情で埋められていることに気付いた。
「…………むなしい」
 一体わたしは何をしているんだろう。
 いや、何もしていない。
 何をすればいいのか分からない。
 何かをしようという気すら起きない。
 って言うか、何もしたくない。
 このままじゃいけない、何かしなくちゃいけないと心のどこかでは分かっているのだが、それを押し潰すくらいの虚しさがそんな焦燥感すらも押し潰していた。
(……いくら虚無の担い手だからって、心の中まで虚無じゃなくてもいいじゃないの)
 そんな笑い話にもならないようなことを思ったところで、ルイズの部屋に軽いノックの音が響く。
 コン、コン
「ん……?」
 誰だろう。
 まだおぼろげに隣の部屋から会話が聞こえてくることからして、ユーゼスやエレオノールでないことは確かなようだが……。
 とにかく、来客には対応するべきだろう。
 いくら落ち込んでいるからと言って、無碍に追い返すような真似をしてはいけない。
 最低限の『礼』は守るべきなのだ。
 ……そう言えばほとんどずっと部屋に閉じこもりっぱなしなので服装が寝巻きのまま、髪はボサボサ、目は泣き腫らしたせいで充血、ついでに部屋は散らかりまくっているが、まあ、色々と整えるのも面倒なのでこのままでいいだろう。
 ルイズはどこかズレた思考のままドアまで歩き、その来客を迎えるべくドアを開ける。
654ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 22:59:40 ID:VkEg8YDm
 そして現れたのは、
「タバサ?」
「……………」
 青いショートカットの髪にメガネをかけた、小柄な少女だった。
「ど……どうしたのよ、いきなり」
「落ち込んでるみたいだから」
「……む」
 確かに落ち込んではいるけど、そんなわざわざ来てもらうほどじゃないのに。
 でも何だか嬉しいような気もする。
 ルイズは何だか申し訳ないような、むず痒いような気分になりながら、しかし生来の気質からタバサに対してつっけんどんな態度を取ってしまう。
「……お、落ち込んでるって言うんなら、キュルケだってそうでしょ? あの火メイジにこっぴどくやられて、何だか沈んでるそうじゃないの」
「……………」
 キュルケの受けたショックは、ルイズのそれとは全く種類が異なっている。
 情熱と破壊こそが『火』の本領。
 よくキュルケが語っており、もはや座右の銘と言ってもいいほどの言葉だ。
 しかし、あの夜、あの男が繰り出した炎は……『破壊』はともかく『情熱』とは程遠いものだった。
 実際に対峙した自分たちだからこそ分かる。
 冷酷さ、狂気、憎悪、そして歓喜などがごちゃ混ぜになった凶悪な炎。
 少なくとも自分の知る『火』のメイジに、あんな男はいない。
 ユーゼスはよくあんなのと真っ正面から戦えたものだ。
「ぅ……」
 そこまで考えたところで『ユーゼスが戦った理由』に連想方式で行き当たってしまい、軽くダメージを受けるルイズ。
 落ち着きなさい。
 思い浮かべてしまったことは仕方ないとして、これ以上考えちゃダメ。
 今は……そう、取りあえずキュルケのことよ。
(とにかく……)
 そんなメンヌヴィルの存在は、『情熱』を信条とするキュルケにとって人生観を根底からひっくり返してしまうほどの衝撃だったのだろう。
 自分には想像することしか出来ないが、ダメージの度合で言うなら自分以上かも知れない。
 そんな状態なんだから、きっと支えが必要なはず。
 ……いや、本音を言えば自分だって支えは欲しいけど。
「わ、わたしは別にどうってことないわ。……ただ、面倒だから閉じこもってただけで、もうそろそろ部屋から出てパーッとトリスタニアにでも出かけようかと思ってたくらいだし。だから、あなたは落ち込んでるキュルケをせいぜい励ますなりしてれば……」
 出かけるつもりなんか実は全くないのだが、口から出まかせで強がりを口にするルイズ。
 するとタバサがポツリと、しかしどこか力強さを感じさせる口調で呟いた。
「キュルケはもちろん心配だけど、あなたのことも心配」
「タバサ……」
655名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 22:59:48 ID:TvrMyQdu
明鏡止水の境地に立って
虚無魔法を使うとどうなるんだろう

支援
656ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 23:01:00 ID:VkEg8YDm
 不覚にも胸が熱くなってしまう。
 普段は無口で、無表情で、無愛想で、何を考えてるのかサッパリ分からないし、たまにフラッとどこかにいなくなったりもするけれど、けっこう友達思いのいい娘じゃないか。
 ルイズがそんな感じにちょっと感動していると、タバサはルイズの横をするりと抜けて部屋の中に入ってきた。
 ……意外に押しの強い一面もあるようだ。
「まあ……いいか」
 ルイズも観念したのか、タバサを追い返すようなことはせずに椅子を差し出した。
 そうしてタバサはその椅子に、対するルイズはベッドに腰掛けて話を始める。
「……それで、何をするのよ?」
「取りあえず、あなたの悩みの聞き役にはなれる」
 相変わらずの平坦な口調でそう言うと、眼鏡越しにルイズをじっと見つめるタバサ。
 一方、ルイズは多少動揺しつつ言葉を返す。
「……でも、いくら聞いてもらったところで解決する問題じゃ……」
「話すだけでも楽になる、らしい」
「…………そうなの?」
「みんな、色々あるから」
「色々?」
「そう。あなたにも色々あるし、わたしにも色々ある。もちろんキュルケにも、あなたの使い魔にも、あなたのお姉さんにも、みんな。……だから、それを実際に言葉にして吐き出すだけでも少しは意味がある」
 何だか、妙に実感のこもった言葉である。
 この青髪の少女がそんなに大きな悩みを抱えているようには見えないが、何かあったのだろうか。
 あるいは、人生相談や告解でも受け付けていたとか。
(って、そんなわけないか)
 いくら何でもこんな十代半ばの女の子が人生相談など受け付けているわけがない。
 ロマリアや祖国の寺院あたりから神官の位でも貰っていれば話は別だが、しかしタバサが告解を聞くようなタイプには見えないし。
 ともあれ、自分の話を聞いてもらいたい気持ちはある。
 色々と吐き出したいことは、ある。
「……いいの? 話しても」
「いい。わたしは聞くだけだから」
 わざわざそう言うくらいなのだから、本当に『聞くだけ』なのだろう。
 でも、何もしてくれなくても……誰かに聞いてもらえるというだけで、取りあえず今よりはマシになるような気がする。
 …………ああ、そうか。
 悩みや罪を告解する人間って、こんな気持ちなのかも知れない。
「そ、それじゃあ……」
 そしてルイズは、ためらいがちにタバサに語った。
 ユーゼスのこと。
 自分のこと。
 エレオノールのこと。
 それぞれの関係。
 二人に対する色んな不満。
 自己嫌悪や自責。
 どうしてこうなっちゃったのかしら。
 そもそもエレオノール姉さまのどこがいいのよ。
 わたしより胸ないじゃないの。
 って言うか、わたしの方が若くて可愛いじゃないの。
 そりゃあ、結果的に姉さまの方がユーゼスと気が合ったんだろうけど。
 だけど……。
 ―――怒りながら、落ち込みながら、泣きながら、延々とタバサに向かって吐き出す。
 ルイズのその独白は、もうすっかり日も落ちた頃、タバサの実家の使いらしい伝書フクロウがクチバシで窓を叩くまで続けられたのだった。
657名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:01:45 ID:Zoo0AxbN
「支援」
658ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 23:02:30 ID:VkEg8YDm
「それでは魔法学院は当面、閉鎖するということで」
「……まあ、しょうがなかろうなぁ」
 オールド・オスマンは渋々といった様子で書簡にサインを書き、判を押す。
 賊に襲撃され、教師に死者まで出てしまったとあっては、いくら何でも通常通りに授業を続けることなど出来ないのだった。
「……………」
 オスマンは目を細め、その『死者』を作り出した張本人の一人を見つめる。
 一方、見つめられた張本人ことアニエス・シュヴァリエ・ド・ミランは、どことなく気の抜けた表情でオスマンに問いかけた。
「……何か、ないのですか」
「は? ……何かって、何かね?」
「私がミスタ・コルベールを殺したことについてです」
「ふむ」
 引き出しから水ギセルを取り出し、口にくわえるオスマン。
 部屋の端の机であれこれと書き物をしているミス・ロングビルからキツめの視線を向けられるが、そこは長年の貫禄で受け流す。
「正直、言いたいことは色々ある」
「ならば……」
「だが、言ってどうなるね?」
「っ……」
「私は仇討ちを決して肯定はせんが、だからと言って安易に否定もせん。……故郷の村を滅ぼされたんなら、やった相手を恨まん方がおかしいわい」
「……………」
「それに彼は君に対して攻撃らしい攻撃を全くしなかったし、恨み言の一つも言わんかったしの。ならば、君に殺されることは―――少なくともミスタ・コルベール本人は納得していたことだったんじゃろう」
 遠くを見つめるような目をしながら、オスマンは目の前のアニエスに言い聞かせるようにして語る。
「加えて言うなら、じゃ。曲がりなりにも君は『女王陛下直属の銃士隊』の隊長じゃろう? そんな相手に対して揉め事を起こしたら、ただでさえ切羽詰まった今のトリステインに余計な火種が生まれかねん」
 王宮を向こうに回せるほど若くもないしな、とオスマンは煙とともに溜息を吐く。
 確かに、今のトリステインは切羽詰まっている。
 国の財政はアルビオンとの戦争費用で火の車、王宮はアンリエッタ女王の独断専行が目に付き、国の各地でその王宮に対する不満が出ていると言うのが現状だった。
 こんな状態で『女王陛下お抱えの近衛騎士が問題を起こした』などと国中の貴族に知れた日には、内憂外患どころの話ではなくなってしまう。
 それだけでトリステインが潰れるとは思えないが、だからと言って軽視も出来まい。
 この国に余計な混乱を招いてしまうことは、オスマンとしても本意ではないのだ。
「ふぅ……」 
 キセルをふかしつつ、オスマンはなおも話を続けた。
「とは言え、あらかじめ君の素性を知っていれば色々と対策の立てようもあったんじゃがな。平民からのし上がってきたシュヴァリエがいるとは聞き知っていたが、さすがに君がダングルテールの出身だとは思わなんだ」
「……傭兵あがりの女兵士の過去を、いちいち詮索する者はいませんでしたから」
「それにいちいち『自分はダングルテール出身です』と吹聴するわけにもいかんかったじゃろうしの。あの一件の関係者ならば、君の出身を聞いただけで警戒心を抱いてもおかしくない」
「…………そういうことです」
 全ては復讐を果たすために。
 だから剣を取り、傭兵になり、今の地位にまで登りつめた。
 だが。
「それで……これからどうするのかね?」
「……これから?」
「そうじゃ。当面の目的である復讐を果たして、君はこれからどうする? 銃士隊を続けるのかの?」
「……………」
 困惑、呆然、放心。
 アニエスはそれらの感情表現がごちゃ混ぜになったような顔をすると、ほんのわずかに震える声でオスマンの質問に答えた。
「それは……。これから、考えます」
「ふむ」
659名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:04:23 ID:Zoo0AxbN
支援
660ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 23:04:30 ID:VkEg8YDm
 眉をひそめ、アニエスを測るような視線を向けた後、オスマンはまた煙を吐き出す。
「それじゃ、辛気臭い話をするのはここまでにしておくか。……数日中には学院を閉鎖させておくから、王宮にもその旨を伝えてくれたまえよ」
「……了解しました。それでは、私はこれで」
「うむ」
 アニエスは若干頼りなげな足取りで学院長室を後にする。
 そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、オスマンは一人ごちた。
「―――叶ってしまった夢は、もう夢じゃないってことかのう」
 魔法学院に来たばかりの彼女は、抜き身の剣がそのまま歩いているような殺伐とした空気を振りまいていたが、今ではその剣が根元からポッキリと折れてしまったような印象を受けた。
 無理もない、とは思う。
 何せ人生最大の目標が驚くほど呆気なく、しかも一気に達成出来てしまったのだから。
 『20年来の復讐』と一口に言ってしまうのは簡単だが、その20年の間にどれだけのことがあって、どれだけの思いをしてきたのか余人には知るすべがない。
 陳腐な言い回しになるが、辛い時、苦しい時、逃げ出したくなる時だってあっただろう。
 しかし、アニエスは『復讐』を心の支えにしてそんな時を乗り越えてきたはずだ。
 ……その心の支えが、無くなってしまったら。
 人生最大の目標を達成し、心の支えとしてきたものを消失してしまった人間は、これからどうするのだろうか。
「憎んでしかるべき相手ではあるが……フッ、教師という職業のクセじゃな。悩みや迷いの中にある若者を見ると、要らぬ世話を焼きたくなってくる」
 自重気味にそう呟くオスマン。
 と、そこに。
「『……フッ』じゃありません。煙草はおやめくださいと、もう数えるのも馬鹿らしくなるほど言っていたはずですが?」
 今まで秘書用の席で黙々と書類仕事をしていたミス・ロングビルこと本名マチルダ・オブ・サウスゴータが羽ペンを振り、『念力』でオスマンの水ギセルを取り上げた。
「…………人がせっかくカッコよく決めようとしとるのに、茶々を入れんでくれんかのぅ」
「カッコよく決めている暇がありましたら書類の一つでも片付けてくださいな、オールド・オスマン」
 空気を読んでいたのかアニエスとの会話には割り込んでこなかったが、そのアニエスがいなくなったので言葉に遠慮がない。
 いや、元々彼女はオスマンに対して遠慮など(特に最近は)ほとんどしていなかったのだが。
「はぁ……。まったく、出会った頃に比べて随分とつまらん女になったなぁ、君は。去年の今あたりは私に尻を触られてもニコニコしとったのに、今じゃ肩にすら触れられん」
「居酒屋の雇われ給仕が上客に対して取る態度と、学院長秘書が学院長に対して取る態度を同列に扱わないでください。……それに、ある程度の事例をこなせばあしらい方も分かってきますわ」
「いや、君の場合はあしらい方って言うか、純粋に隙や容赦がなくなったような気が……」
「だって人は変わっていくものですもの。良くも悪くも」
「……元々の地が出て来ただけな気もするがの」
 ふへぇ、と情けない溜息をつきつつオスマンは物思いにふける。
 おそらくコルベール死亡の件は、事件の際の死傷者として『アルビオンの賊がやった』ことになるだろう。
 先ほども考えたことだが、『女王陛下直属の銃士隊隊長がやった』というのは体裁が悪すぎる。
 アニエスによるコルベール殺害の場面を見ていたのは、自分を除けばあの場面において戦闘に参加していた者のみ。
 他の教師や生徒たちは、解放されると同時に散り散りに食堂から逃げ出したのでその場面を目撃してはいない。
 戦闘に参加していたキュルケとタバサとユーゼスは……まあ、特にコルベールに対して思い入れなどもなかったようだし、自分から進んで言いふらすような真似はするまい。
 仇討ちだということも彼らにはバレているようだし、タバサなどは彼女の素性を考えればむしろ正当性を認めそうだ。
 ユーゼスもコルベールの研究内容になぜか難色を示していたし、キュルケに至っては同じ火メイジでありながら戦争に参加しなかったコルベールを軽蔑すらしていたと聞いている。
 ともあれ、コルベールに好感情を抱いてはいるまい。
 つまり彼女たちが『銃士隊の隊長がコルベールを殺した』などと騒ぎ立てる心配はあまりないわけだ。ゼロではないが。
661ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 23:06:00 ID:VkEg8YDm
(銃士隊の隊員については……さすがにミス・ミランが事情の説明くらいはしておるかの)
 同じ平民同士であるし、全く分かってもらえないということはあるまい。
 何より『故郷を焼いた火メイジへの復讐』という、同情を引く大義名分がある。
 下手をすれば祝福すらされるかも知れない。
 よって、こっちの方面から騒がれる心配もそれほどない。
 ……真面目な隊員だったら上に報告くらいはするだろうが、どこかの段階でもみ消される可能性が高いだろう。
 あとは自分が黙っていれば、この件が王宮に与える影響は多少抑えられる。
(あくまで多少、じゃがな……)
 決定してしまった学院の閉鎖も一応『この戦争が終わるまで』という名目になってはいるが、今の状況ではいつ戦争が終わるのか分かったものではない。
 実家に戻った女子生徒たちのもとへ、召集令状が届かない保証はどこにもないのだ。
 自分と魔法学院はその時のための防波堤になろうとしていたが、さすがに閉鎖されてしまっては手の出しようがない。
 もちろんその召集を突っぱねる貴族もいるだろうが、だったら王宮だって強制的に徴兵するだろう。
 …………いや、今のトリステイン王宮にそこまでの力が残されているだろうか?
 かえって国中の貴族から反感をかってしまうだけでは?
 そもそも、あんな付け焼き刃以下の『軍事教練』しか知らない子供を投入したとして、勝つ見込みはあるのか?
 いや、それ以前に今の戦況はどうなっている?
(―――進退きわまってきたか)
 考えれば考えるほど、不安材料しか出てこない。
 かと言って、そんな様々な不安材料を自分がどうにかすることも出来ない。 
 事態は魔法学院の学院長の裁量や機転でどうにかなる領域を、かなり初期の段階で超えてしまっているのだ。
 この期に及んでオスマンに可能なのは……せいぜい王宮に一石を投じるか、もしくは誰かが投じた一石が王宮に届くのを防ごうとするくらいか。
 ……『防ぐ』と断言出来ないのが何だかなぁ、という感じである。
 ぶっちゃけ、オスマンに政治的な発言力はそんなにない。
 この国を実質的に動かしているのは宰相兼枢機卿のマザリーニ、そして爵位持ちや将軍などの有力貴族であって、国の教育機関の長ではポジション的に弱いのだ。
(ま、国に関するあれやこれやに今更関わる気もないし、物事ってのはなるようにしかならんが)
 ともあれ、ここで考えていても事態は何も変わらない。
 差し当たって目の前の書類仕事でも片付けるかな……などと思いながら、オスマンがのそのそと手を動かそうとすると、
「失礼します」
「ん?」
 ドアが開いて学院教師のミセス・シュヴルーズが姿を現した。
「ミセス・シュヴルーズ。学院長に何か?」
「いえ、ミス・ロングビルにお客様が見えましたので、その呼び出しに」
 いかにも人が良さそうなふくよかな体型の女性教師は、微笑みを浮かべて応対してきたミス・ロングビルにそう告げる。
「客?」
「ええ。ミスタ・シラカワという方が『ミス・ロングビルにご用がある』という旨でお見えになっていますが……」
「シラカワ? ……シュウが?」
「はい」
 やぶから棒に『実家の居候』の名前が出てきたので、思わず質問を質問で返してしまうミス・ロングビル。
 ちなみにシュウ・シラカワは非常に丁寧な物腰やどことなく漂ってくる気品、そして何より形容しがたいプレッシャーのようなもののせいで、ハルケギニアの人間からは初対面で貴族扱いされることが多い。
 実際、エレオノールやルイズなどもシュウを呼ぶ時には『ミスタ』をつけていた。
「外で待たせておくのも何ですので、すでに学院長室の近くまでお通ししていますが……」
「……ああ、はい。ありがとうございます、ミセス・シュヴルーズ」
 そうしてミセス・シュヴルーズは姿を消した。
 これでこの場における自分の役割は終わった、と判断したのだろう。
「それでは学院長。少々席を外しますが、仕事の手は止めないで下さいね」
「分かっとるって。……あーあ、ミス・ロングビルはいいのう。都合よく仕事をサボる口実が出来て」
「そういうセリフは、日頃からきちんと仕事をしてから言ってください」
 席を立ち、学院長室から出て行くミス・ロングビル。
「ったく、いきなり何の用だってんだい、あの男は……」
 唐突に現れた紫髪の男に対して誰にも聞こえないほどの小声で悪態をつきつつ、彼女はミス・ロングビルからマチルダ・オブ・サウスゴータへと切り替えを行う。
 そしてマチルダは学院長室前の廊下に立っていたシュウ・シラカワへと、いかにも不機嫌そうな顔で近付いていくのだった。
662ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 23:07:00 ID:VkEg8YDm
 以上です。

 作中で『感情や精神に関係するもの』をスパロボシリーズで羅列出来るだけしてみましたが、『ダイダルの野望』に出て来るものについては除外しています。
 ま、他にも意図的に除外したものがありますが。

 なお『今回例に挙げたもの』とユーゼスを接触させるつもりは、少なくとも現在のところありません。

 次回は魔法学院以外の場面を書く予定です。

 かつて10回以上クリアした魔装機神のリメイクに何だか複雑な心境を抱いたりしつつ……。
 それでは、支援ありがとうございました。
663名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:08:20 ID:Zoo0AxbN
乙でしたー

あ、容量ヤばくね?
664名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:10:07 ID:Y7THx74B

複雑なのか、ろくに中身弄ってないリメイクらしいけど
665名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:11:45 ID:TvrMyQdu
ラスボス乙

DSで待ちに待った魔装機神の移植(リメイク?)が出るんだよな
燃料になることを期待してます
666名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:12:39 ID:Zoo0AxbN
ラスボスの人ー 区切るエリアを教えてくだしあ!

編集内容は53777バイトあります。50000バイト以下に収めるか複数ページに分割してください。
667ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2010/03/31(水) 23:15:15 ID:VkEg8YDm
>>666
いつもありがとうございます。
ルイズパートの直前でお願いします。
668名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:16:00 ID:Zoo0AxbN
>>667
把握 あとついでに新スレ立ててくる
669名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:20:35 ID:Zoo0AxbN
670名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:21:14 ID:QkZd8EAn
 夜闇の人の最新話、最後の投稿である >583 の後半部分、カギ括弧開始が混入しているけど、話が欠けてるのかな?
 Wiki で読んでて気になったから投稿を確認したんだけど、Wiki への登録時に欠けたではなく、元からカギ括弧だけなのね……。
 それとも、余計なカギ括弧が混入しているだけで、あれで完全なのだろうか……。
671名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:21:53 ID:88HWxTC7

今回の話で仮面ライダーのショッカーライダーの回思い出したわ
「善と悪のライダー達の能力はほぼ互角だが、ただ一つ本物のライダーだけが持っているものがある。
それは、無限の力を生み出す正義の心だ」
ユーゼス肉体が若いせいかお盛んですなwwww
672名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:42:06 ID:CiEZQQHP
ラスボスさん、乙でしたー。
……ユーゼスの旦那、そこは自制しなくても良い所ですぜ。
673名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:42:08 ID:gwg6dQJM
数々の二次創作で散々言われてる事だけど、この時期のトリステインって本当に詰んだ状態なんだよな。
それにしてもいい子だなタバサ……
674名無しさん@お腹いっぱい。:2010/03/31(水) 23:52:16 ID:lAa/p6iM
ラスボスの人GJ!
スパロボの不思議パワーに比べたらガンダールヴはむしろ筋が通ってるよなw
姉ルートに入ったとはいえ、ルイズもスポット当てられててよかった
675名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 00:00:54 ID:SObVmjKc
乙。

でも絶望した! 俺の好きな作品に限って説明が省略されてることに絶望したっ!!
676名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 01:17:51 ID:kkc+EvD5
>>673
ホント、原作はよくもまあこの状態から持ち直せたよなあ。
ぶっちゃけオリジナル主人公召喚とかじゃこの危機乗り越えられないだろう。
677名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 01:22:46 ID:MKmAMwXr
まあ娯楽作品で詰んでる国が主人公の活躍で持ち直すのは珍しくないと箕も蓋も無い事を(r
678名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 01:32:01 ID:mNUwFdzl
>>676
多分アンリエッタは後世で中興の女王とか言われるぜ
何回目かの中興かはわからんが
679名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 02:00:22 ID:BaJkU70q
あー、各社の4月1日ネタがおもしろくて腹筋が辛い
680名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 02:09:55 ID:mNUwFdzl
カネゴンが毎年パワーアップしてるから困る
「カネゴン blog」で検索したら別ブログが引っかかって東方の絵が出たときは驚いたけど
681名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 03:36:53 ID:57/qJwuq
さっきウルトラと怪獣達followしたらガッツ星人からfollow来てワロタ
682名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 04:00:14 ID:T1rIzfMt
>>681
ああ、ガッツ星人には円谷ッターの奴と、それ以前からツイッターをやってた奴の二種類が
いると言う事だから注意な。
683名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 10:27:58 ID:ZQShSxkU
ラスボス見てて思いだしたが
ルイズの実家で使用人達に囲まれた時に
使用人達の武装に刀が明記されてたよな?
684名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 10:35:18 ID:SObVmjKc
才人が日本刀使って丸太斬ってたとき、ギーシュだったかが

「なんだあの剣?」
「サイトの故郷の剣だってさ」

みたいなやりとりもしてたような。
685名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 10:42:31 ID:9V7n+jNU
貴族は魔法以外を『平民の武器』とやや蔑んだように見ている節がありますし、実際にその武器を見た事があってもどんな名前でどんな用途に用いられる物なのか分からない、と言う可能製があるのでは?
686名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 10:43:57 ID:vvIBDT04
厳密にいうと、刀と日本刀は別物だな
刀は、片刃の刃物や反りのある刃物の事を言うし、
剣は両刃の刃物や反りのない刃物の事を言う。


とはいえ、時代がすすむにつれてかなりあいまいになってきたし、
ルーンが翻訳しきれなかったのかもしれん。
687名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 10:47:51 ID:MKmAMwXr
本編で出てきた刀はいわゆるサーベルでしょ
688名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 10:57:58 ID:lIeR42jY
>>686
別に刀と剣って日本語にそこまで厳密な規定は無い
そういう規定を設けてるファンタジー作品も一部存在するだけ

日本刀は作成法に縛り規定があるから刀&剣の大カテゴリーの中に日本刀って小カテゴリーがあるだけ
689名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 11:03:50 ID:pqM43dFH
>>688
舞台が欧州なんだから日本語の定義は関係ないんじゃないのか?
690名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 11:05:16 ID:vvIBDT04
>>688
だから、時代がすすむにつれてあいまいになったんだって。
語源というか大本までさかのぼると、一応違いはあった。

ハルケギニアの言葉に、そのあたりの違いがあるのかも不明だし、
元々は区別されていたけど、今は混同されている言葉のニュアンスが、
どの程度まで伝わっているかなんて、それこそ作者のさじ加減だし。


少なくとも、ユーゼスの言った「錆びた刀」はドモンの持っていたものだろうから、
ユーゼスは「日本刀」をイメージして「刀」といったわけで、
ルーンが気を利かせて、日本刀で翻訳したのかもしれんし。
691名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 11:28:51 ID:pqM43dFH
>>690
大昔の話すぎるぞw
草薙の剣でさえ太刀と呼ばれることがあるんだ
692名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 13:33:55 ID:BaJkU70q
青龍刀も刀ですよね
693名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 14:27:45 ID:so1+Sx7O
七支刀だって刀だよな
694名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 18:25:41 ID:6aLytc1m
>>691
実物の草薙の剣は太刀とは程遠い形状だけどな
695名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 19:08:32 ID:WR+q1ZtI
ガンダールヴの『武器の使い方がわかる』と言う性能って
武器から情報を引き出すサイコメトリー系じゃ説明つかないから
アカシックレコードあたりにアクセスしてるって感じだよね。

そこらへん、研究者なら凄い興味持ちそうだけどどうかしら?
696名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 19:25:45 ID:fu09gYcl
自然万物に精霊が宿っている系の思想で、
「武器の精霊(普通の人間にはアクセスできないだけでナイフ一本にも、ロケットランチャーにだって精霊はいるのだ!)」
から情報を引き出す精霊契約・使役系の効果というのはどうだ?
<ガンダールヴ

ミョズは魔法道具の精霊に対して同じようにする効果、ヴィンは動物の精神支配…といったところか
697名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 19:27:08 ID:C+H2MP7n
対象のかつての使い手の記憶を読み取る、という風だと
本当に優れものでも新品じゃ効果が無いしなぁ
やっぱアカシックレコードへのアクセスと考えていいのだろうな

スパロボならこれもまた無限力の一部ということか

ラスボス乙でした
ラムダドライバは縮小化できればAI搭載のパワードスーツでどうにかならんものか
いやむしろ脳まで機械化したサイボーグに補助AIを付ければ・・・
”向こう側”のユーゼスならそれくらいやりそうだ・・・
698名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 19:41:39 ID:Mg/RAO89
ちょっと聞きたいんだけど、召喚されたキャラがガンダールヴ以外の話って
どんなのがある?できれば参考にしたい。
699名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 19:48:55 ID:vvIBDT04
>>698
ぱっと思いついたのはこれだな。
http://www35.atwiki.jp/anozero/pages/252.html

ミョズ召喚で完結済み
700名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:06:05 ID:bwai9wHg
俺が思い出したのは虚無のパズルだな
ちょっとややこしいがミョズ召喚

続きまだかな
701名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:18:42 ID:X68x03eO
>>696
八百屋さんの神々ってやつか
702名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:23:54 ID:pqM43dFH
>>694
両刃の剣だからね
その時代から剣と刀の使い方ってあいまいだったんだよ
当時はそんなに人の行き交いもなかったから統一されていなかっただろうし
703名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:39:18 ID:n/XqvfDs
>>696
通常精霊は自然にしか存在しないもので
物に宿るとなると八百万の神になるな
まあアラジンでランプの精が出てるから、一概には言えんが
704名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:42:13 ID:WTge0653
現代日本でも刀使ってるのに剣術だしね。
刀術としている流派もあったらしいけど。
一応は大陸では刀と剣では厳密に区分がされていたけど、日本ではそこら適当だったくさい。
あと日本刀という言葉は日本国外で使われてた言葉で、日本国内では普通に刀っていってたっぽい。
かなりどうでもいい話だが、太刀や刀の区別は銘の切り方でしているけど、それだって人によっては適当にしてたそーだ。
705名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:46:48 ID:pqM43dFH
>>703
精霊って言ってもいろいろな考えがあるから、まさに一概には言えないと思うぞ
ゴブリンだって精霊なんだし
706名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 20:59:28 ID:bwai9wHg
連金って核融合でもやってるんだろうか


・・・設定考察スレ行きの話題だな
707名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 21:45:56 ID:LOwkrMiJ
世の中にはタイプライターの霊というものがあってだな……
708名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 21:51:46 ID:WTge0653
>>703
器物の精は大陸からあることはあるので、自然霊には限ってないと思う。
つーてもそこらはあいまいな部分なのであまり気にするようなことではなのかも。
709名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 21:53:01 ID:+ng1TyWf
ブルース・ウィルスとかケネス・マクラミンみたいな精もいるらしいよ……
710名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 22:35:06 ID:vQ7Y5oBw
おい、ブルース・ウィリスですよ
711名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 23:48:58 ID:WTge0653
ハルコンネンの精でウイリス
712名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 23:53:26 ID:O5Mmy3On
ルイズの杖の精霊はきっと「セイルーンのおうぢさま」そっくりに違いない。
713名無しさん@お腹いっぱい。:2010/04/01(木) 23:59:00 ID:j11hv7Sl
代理スレにパラベラムの人来てたんで0時くらいからいきます
714ハルケギニア冒険譚 代理:2010/04/02(金) 00:00:23 ID:RUrW22Mf
世界樹3が発売されたんで記念にブシドー召喚の小ネタ投下します。

・・・・・・嘘です。パラベラムの作者です。 せっかくのエイプリルフールですし。
また規制のようなのでどなたか代理お願いいたします。
715疾走する魔術師のパラベラム 代理:2010/04/02(金) 00:01:02 ID:RUrW22Mf
第五章 それが恋だと気づくのに

   0

ガンダールヴ/ [Gandalfr]――勇猛果敢な神の盾と伝えられる始祖ブリミルの使い魔。詠唱の時間、主人を守るために特化したとされる。あらゆる武器を扱ったと謳われ、左手に大剣を、右手に長槍を掴み戦ったという。
716疾走する魔術師のパラベラム 代理
   1

 片付いた教室を後にして、食堂に向かう。昼食には間に合うだろう。
 シエスタも給仕の仕事があるため、ルイズと一緒に向かう。
 シエスタもルイズに椅子を引いてもらう。
「それでは私は失礼します」
「ええ、助かったわ」
 シエスタがぺこりと頭を下げ、厨房へと消えていった。
 ルイズは少し寂しく感じたが、食欲を満たすことに専念し始める。
 久しぶりに体を使ったので、お腹が減ったのだ。
 今朝とは違い、料理人たちが技の限りを尽くした豪華絢爛な食事をルイズは楽しむことにした。

「ミス・ヴァリエール、デザートにケーキはいかがですか? ガリアの新鮮なフルーツで、マルトーさんが腕によりをかけて作ったものですよ」
 ほどよくお腹がいっぱいになってきたところで、シエスタが声を聞いた。
 振り向けばシエスタが大きな銀のトレイを持って微笑みかけていた。
 トレイの上には真っ白な雪のようなクリームに色とりどりのフルーツを盛り付けたケーキがいくつも乗っている。

――甘いものは別腹ね。

「ベリーは入っているかしら?」ルイズが気取った態度で問いかけて。
「ええ、甘くて大きなのが」シエスタがそれに合わせて、伏せ目で答える。
 視線が交差して、二人とも思わず小さく笑った。
 シエスタは、一番大きなベリーの乗ったケーキをルイズに配る。赤色や緋色の果物で上品に飾られたケーキを、銀のフォークで口へ運ぶ。
 口に入れると、上品な甘さと酸味が口の中に広がった。
 白くふんわりとしたクリームは舌触りも完璧で、それにフルーツの酸味がクリームの甘さに変化を与える。それは心地の良い刺激を舌に届けてくれる。爽やかな酸味が次の一口を誘うようだ。
 大粒で張りのあるベリーを噛めば、甘酸っぱい果汁が飛び出し、スポンジに挟まれた色鮮やかな果物は目にも楽しい。
 トリステイン魔法学院の料理人は、実に有能だ。
「美味しい! 甘くて酸っぱくて絶品ね」
 思わず笑みが浮かんでしまう。それほど美味しいのだ。
「まぁ、コック長が聞けば喜びますわ」