アニメキャラ・バトルロワイアル3rd part14

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649 ◆L5dAG.5wZE

「トレーズ・クシュリナーダ……!?」
「刹那・F・セイエイ……!!」

戦いを駆逐するべく戦場に踊り込んだ刹那・F・セイエイと本多忠勝。
追われていたらしい人物の名はトレーズ・クシュリナーダ。刹那が知る、警戒する名の男。

驚愕する刹那の傍を忠勝が駆け抜ける。
相対するはバーサーカーのサーヴァント、
最強同士の三度目の激突。
止めても無駄かと、刹那はただ一声をかける。

「ホンダム! このトレーラーを!」

打てば響く。
そんな要領で忠勝が足を止めぬままに拳を振るい、横倒しになっていたトレーラーの上部を叩き正常な形へと復帰させる。
その結果を見届けることもなく忠勝は通りの向こう、強敵の待つ地へと恐れもなく踏み込んでいく。

(まだ奴の不死の秘密は解けていないというのに……! だが、こうなれば戦うしかないか……!)

見たところ巨人はやはり全快している様子。
加えて携えるは刹那の胴回りをも軽く上回るほどの太さを持つ柱。
あんなもので殴打されれば骨が折れるどころではない。まさしく粉微塵に砕け散ることだろう。
対抗できるのはこの島の中でもおそらくただ一人――そう、戦国最強の武人しかいない。
それを知っているからこそ、忠勝は刹那に何を言わせる間もなく自ら死地に飛び込んでいったのだ。
だが、敵手に比べ忠勝は消耗が激しい。連戦の疲労もあり、不利は否めないところだ。

ドアハッチを開き、トレーズが地に降り立つ。同時に刹那が突き付ける、サブマシンガンの銃口。
振り向き確認する。割れた窓ガラスから銃が飛び出ていたのだ。
トレーズが身に佩いている刀は無事だったものの、鼻先に銃口があっては抜刀する時間もない。

「……武器を捨てろ」

油断なく構えられた銃口はトレーズを捉えて離さない。
トレーズが鞘ごと刀を取り外し放り捨て、頭上へと両腕を掲げる。

「こんなにも早く君と再開できるとはな。できれば……まだ、出逢いたくはなかったよ」
「俺もだ。言ったはずだな、次に会う時に考えが変わっていなければお前を殺すと。
 この短い時間では……期待するだけ無駄なのだろうな」
「無論だ。私はまだ、敗者となってはいない。だから君が私に教えてくれ……私がいったい何者なのかを!」

トレーズが捨てられた刀へと目をやる。意識がそちらへの警戒に流れた刹那の一瞬の隙をつき、

「ファングッ!」

停止していた機動攻撃端末・GNファングが、トレーズの呼び声に応え呼び戻される。
GN粒子の赤い輝き。収束し、二人のちょうど中間地点へと着弾した。

「くっ……ファングだと!? スローネの……!」
「気を抜くな、刹那・F・セイエイッ!」

爆風に転がった刹那の眼前に、陽光を弾く白刃が滑り込んでくる。
とっさにサブマシンガンを掲げる。
ギィン、と甲高い音を立ててトレーズの刀は押し留められた。
膝立ちのまま歯を食い縛る、刹那。少しでも角度が狂えば銃ごと両断されそうだ。
650名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:15:06 ID:gfYyYlPy
 
651 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:15:13 ID:7s0uCYuF
「トレーズ、貴様!」
「無粋な真似をして済まないな。安心したまえ、君との決闘にあのようなモノは必要ない。
 この刀こそが私の意志、決意だ。さあ……私は選んだ。君も選べ、自らの進むべき道を!」
「……ッ!」

圧し掛かってくるトレーズの圧力に耐えかね、指が引き金を引いた。
でたらめに発射された銃弾がトレーラーの装甲面に跳ね回りあらぬ方向へと飛び去っていく。
トレーズが身を引いた一瞬を見定め刹那は後方に跳んだ。転がりながらも軽機関銃は手放さない。
立ち上がった刹那をトレーズは追撃するでもなく悠然と待っていた。
耳につけていたイヤホンマイクを外し、懐へと入れるトレーズ。

「この状況……たとえ俺を殺したところで、貴様もまたあの化け物に殺されるだけだ。それがわからない訳でもないだろう」
「私にとって死は恐れるべきものではない。だが無為に死ぬことは我慢ならない……。
 私のような人間は、力によって敗れなければならないのだ。それをもたらすのは君であろうと、あの異形の戦士であろうとさして違いはない。
 だが、私は君の理想を知っている。対話こそが、変革を誘発する――君はそう言った」

ヒュン、と刀を一振り。
フェンシングのように、片腕で構えこちらに向ける。

「しかし私の見たところ、君はそれを成すことを自らに任じてはいない。憧れている、と言ってもいい。
 君の知る誰かがそれを成してくれると信じているからこそ、君はその障害となるモノを討ち果たすだけの剣であろうとしている――違うかね?」

その瞳は語らずともこう叫んでいる。
私もまた、君の理想の妨げとなるものだ、と。

「だからこそ、私は君に決闘を申し込む。
 君の理想とする世界に私の居場所はない。私は戦う意志を捨てられない。故に、君と私は同一の世界に在ってはならない存在だ。
 君が君の理想を貫かんとするなら――この私を排除しなければ、先に進むことはできない」
「……トレーズ・クシュリナーダ」

刹那は、男に銃を向ける。
しかし引き金は引かない。まだ言うべきことが、ある。
固く目を閉じる。あの戦いを、全ての始まりの日を思い出すように。

「お前によく似た男を知っている。俺が……ガンダムが歪め、ガンダムとの戦いの中に己の存在意義を見出した男だ」

ガンダム、という言葉を口にしたとき、トレーズの眉が僅か、顰められる。
刹那は構わず続ける。

「その男もまた、今の貴様のように己のエゴに――歪みに呑み込まれ、俺に戦いを挑んできた」
「ほう。それで?」
「俺は……ガンダムには責任がある。世界の憎しみと真っ直ぐ向き合う、受け止めなくてはならないという責任が。
 戦うことが、奴に、そしてお前にとっての救いとなるのかどうかはわからない。だが」

刹那が目を開く。その瞳は、目映いばかりの金色に輝いていた。

「だからこそ、トレーズ・クシュリナーダ。お前の決闘……受けよう。俺がこの先もガンダムであり続けるために」

トレーズが目の錯覚かと注視したときには、もうその瞳は元の煉瓦色に戻っていた。
代わりに浮き出ているのは清冽で迷いなき戦意。
それでいい、とトレーズは刀を握る腕に力を込める。

「……では往くぞ、刹那・F・セイエイ!」
「来い、トレーズ・クシュリナーダ! 貴様という歪み――この俺が狙い撃つッ!」

宣言と共に、二人の男は駆け出した。
652名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:15:22 ID:UiNoN4LK
キタキタキタ!
653名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:15:47 ID:gfYyYlPy
 
654 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:16:18 ID:7s0uCYuF
          ◆



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!」
「…………………………………………………ッ!!」

咆哮し、激突する。
噛み合う斧と鎚がギャりギャリと火花を散らし、震える大気が風を逆巻かせ、吹き抜ける。
両断せんとする戦国最強の大戦斧を、狂戦士の戦鎚が押し留める。
鉄と木という材質の差か、本多忠勝の刃は食い込みはするもののあまりの質量に芯まで到達できず。
バーサーカーが鎚をひねる。ギシギシと食い込んだ刃が軋み、忠勝の剛力との板ばさみに悲鳴を上げた。
このままでは武器を破壊されると見た忠勝は自ら斧を握る手を離す。

「…………………ッ!」

勢い余って体勢の崩れたバーサーカーのがら空きになった腹目掛け、忠勝は巨体を旋回させ渾身の蹴りを放つ。
軸足が舗装された路面を抉り、大地を揺らすほどの衝撃と共にバーサーカーの腹筋へと突き刺さった。
強靭なる筋肉の防壁を、同等以上の硬度を持つ剛脚が侵略する。
たまらず苦悶の声と共に身を折ったバーサーカーの手から鎚が零れ落ち、その超重量故に砕けた大地へ沈み込んだ。
しかし忠勝は獲物を拾うことを選ばず、拳を握り込み伏せる敵手の顔面へと迸らせる。
豪腕が唸り、バーサーカーの頭部が弾かれたように跳ね上がった。
二度、三度、四度――もはや数えることもままならないほどの高回転のラッシュ。
腕のガードの上からでも確かな手応えが伝わってくる。
バーサーカー自身の腕により視界が閉ざされたと看破した忠勝は、踏み込み一撃を放つとともに背のスラスターを点火。
押し込むように巨人の体躯を後退させ、脚を止めず跳躍した。
勢いを活かし、両手を組んだ鉄槌で一気に畳み込まんとする。

「■■■■■■■■■■――!!」

だが大英霊のサーヴァントもまた、いいように弄ばれたままでいる道理なし。
狂気溢れる瞳がギラリと光り、地を這うように身を伏せ振り下ろされた拳をかわし、未だ宙にある忠勝の足を掴み取った。
拮抗は一瞬、大地に足指が食い込むほどにがっしりと立つバーサーカーに軍配が上がる。
空中から引きずり下ろされ、轟音と共に戦国最強の巨体が地へと叩き付けられた。
間髪入れずその上に飛び乗ったバーサーカー、先のお返しとばかり馬乗りの体勢で両腕を振り上げる。
両腕に鈍く残る痛み。それは取りも直さず、この鎧武者が己に匹敵する強者とだいう証左。

わかっていた。それはわかっていたこと。
そして二度に渡る果たし合いで手を抜いたつもりはなく、それでも仕留められなかった。
だからこそ、この三度目の邂逅は天の采配。

真に最強たるべきはどちらか。
この戦にて、それを確かめる!

「■■■■■■■■――!!」
「…………………………!!」

録画した映像を巻き戻すように、先刻とは真逆の光景が繰り広げられる。
バーサーカーの振り下ろす嵐のような鉄拳を、見上げる忠勝の両腕が盾となって受け止める。
一閃、二閃と結果を見届けることなくバーサーカーは拳を撃ち出し続ける。
少々まともに当たったところでこの強敵は下せないことはすでに証明されている。

ならば、どうする? 決まっている――
655名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:16:29 ID:gfYyYlPy
 
656 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:17:16 ID:7s0uCYuF
「■■■■■■■■■■■■――!!」

跡形もなく粉砕してから、ゆっくりと首を改めればいい。
ドドドドドドドド、と速射砲のような拳が生み出す衝突音が連続する。
音が一つ響くたびに舞い上がる噴煙、そして大小様々なコンクリートの破片。

沈み込む。
工事現場のプレス機のように、拳が至る喫水線が深くなる。
殴られ続ける忠勝の身体を中心にゆっくりと小規模なクレーターが形成されていく。
忠勝の腕の装甲が凹み、削られ、形を変えていく様をバーサーカーは観察する。
それでも、一度として急所たる顔面への一撃を許しはしない。
狂化している己と違い、敵は「守」に長けていると睨む大英雄。それでも選ぶのはひたすらに「攻」。
堅牢なる盾が立ち塞がるならば、それを上回る力を以て叩き潰すのみ。

鉄のカーテンのごとき忠勝の豪腕に自らの腕を絡ませ、押し開く。
万力のような力で抵抗されるも、僅かずつだが腕の隙間は広がっていく。
紅い瞳が、見えた。
視線が奴の瞳を捉える。敵手もまた、真っ向から睨み返してくる。

それでこそ、だ。

バーサーカーは大きく身を反らす。

「■■■■■■■■■■■■■――!!」
「…………………ッ!」

そして、反動を乗せた渾身のヘッドバット。
衝突の瞬間、どちらも目を閉じはしなかった。掲げた意地の張り合いは、互角。
衝撃は忠勝の五体を通じて地面へと伝播し、ついに耐久限界を越えた路面が崩壊した。
舞い上がり、積み上げられた瓦礫が雪崩のように崩れ落ち、中心点である二人の姿を覆い隠していく。
飛び出す影は一つ。地に降り立つは狂戦士のサーヴァント。
直後、土砂によって鎧武者の姿は完全に見えなくなった。

眉間から血を流し、拳もまた骨の形が幾分変わるほどに傷めている。
蹴られた腹部は鈍く疼き、だがそれでも、両の足で立っているのはバーサーカーただ一人。

ついに強敵を下した余韻に浸ることはなく、近しい獲物を逃すなと本能が駆りたてる。
辺りを見回し、落とした鎚の位置を確認。鎚に加え斧も手に入る。
さきほど確認した金髪の男と、数刻前に交戦した黒髪の青年を屠るべく足を向けた。

その足を、掴まれる。
地面から突き出した無骨な腕によって。

「…………ッ!」
「■■■■――!?」

もう片方の足を叩き付けるべく、振り上げる。
だが足首を掴んだ腕はそれを待たず、これもまた先刻の再現と言わんばかりに力任せに引っぱられた。
軸足のバランスを崩され、バーサーカーの後頭部が遠心力を乗せて大地へと落下。
だが足を掴む手は離れることなく、その先にある鎧武者の本体が土砂を吹き飛ばしつつ浮上した。
兜は断ち割られ、全身の鎧も見る影なく砕かれて。
しかしその燃え滾る戦意には些かの衰えもなし。
657名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:17:25 ID:gfYyYlPy
 
658名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:18:20 ID:gfYyYlPy
 
659 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:18:35 ID:7s0uCYuF
バーサーカーが捕縛されていない足で忠勝を蹴り付ける。だが、背をついた姿勢で放った蹴りは武者の片腕により容易く弾かれた。
その煽りを受け一瞬身体が泳いだ隙を逃さず、忠勝は両腕でバーサーカーの片足を握り直す。
そして、まるで百姓が畑から野菜を掘り出すように、

「…………!」

引っこ抜いた。
地に伏せていたバーサーカーの身体が180度の弧を描き、忠勝を挟みちょうど反対側の路面へと思い切り叩き付けられた。
総重量300キロを超える空前絶後のハエ叩き。
ゴバッ、といわく形容しがたい衝撃音が鳴り、その最初の栄誉を授かった道路は哀れにも粉々に砕け、粉となって舞い散る。
当然、衝撃を顔面、胸、腹、全身で受けたバーサーカーのダメージたるや想像を絶するものであった。
バーサーカー自身の強固な肉体により命を奪われることはないものの、この場合はそれが逆に悪い結果を生む。
衝撃による耐性を得ることも叶わず、バーサーカーの身体にはダメージだけが残った。
骨がバラバラになるような感覚。痺れた身体は意志が下す命令を拒否し、続く忠勝の行動を妨げることなどできはしない。
反転した忠勝が「バーサーカーを」振りかぶり、再度のジェットコースターダイブを敢行させる。
バーサーカーにできることと言えば、ただ痛みを覚悟することだけ。

「………………………………ッ!!」

鬼神のごとき形相で、戦国最強の武人は辺り一帯の全てを蹂躙し始めた。
倉庫、電柱、建材、土嚢。
ありとあらゆる目に付く物を、例えて言うならまさしく「人柱」そのものでめったやたらに打ち砕いた。
水が湯に変わるほどの時間を経ることもなく、小型の竜巻が荒れ狂ったような惨状が広がっていく。
掴んだ足首からの抵抗が弱まった。
ここが好機と見て取った忠勝は勝負に出んと敵の両足をホールド、スラスターを全開にしてその場で旋回を始める。
暴虐が止んだとなんとか地を掴み反撃に出ようとしたバーサーカー、だが伸ばした手は高速で過ぎていく路面を捉えられず。
路面に忠勝が撃ち込んだ両の足がドリルのように回転し深く突き刺さる、そしてそれ以上の速度でバーサーカーを振り回す。

回る視界。増していくその速度は周囲に何があるのかさえももはや定かではなく。
やがて、バーサーカーの感覚が地が遠くなったことを看破する。
投げられた? いや、そうではない――

浮いているのだ!
あろうことか、自身のみならずバーサーカーを抱えたまま、この戦国最強は高く高く飛翔している!

そしてその上昇の間も回転は止まらない。
あまりの速度で掻き回される空気の層が真空を生み、バーサーカーの肌を浅く切り裂き始めた。
やがて耳から音が消え、静寂の世界に至る――発生した本物の竜巻の中心点。
角度を変え、地面に対しやや斜めになったところで、忠勝は片腕を離し径の範囲を広げた。
安定を捨て遠心力を得る。さらに大きく回り出すバーサーカーの巨体。
回転が最高速度に達したと判断したところで、

「■■■■■■■■■■■■■――!!?」

忠勝が手を離し、空高くバーサーカーが「射出」された。
乱回転するバーサーカーの五体。いかに大英雄といえども翼なき身、空にあっては姿勢を回復させることなど到底不可能だ。
目まぐるしく回る視界の中、鎧武者が何かを拾う姿が見える。
何か――あの、大戦鎚。
身の丈3m近い大巨人がこれまた5mに迫る長大な木柱を地に突き刺した。
腕を組み、落下する獲物を待つ戦国最強。
おおよそ最適の距離にまで近づいたと見るや、鎚を引き抜き両手で構え、反身を引いて大きく後方へ振りかぶる。
ここまでくればバーサーカーにも理解できる。
なんとなれば、一度目の対決ではこの状況から敗北を喫したのだ。
660名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:19:29 ID:gfYyYlPy
 
661 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:19:35 ID:7s0uCYuF
――バーサーカーのサーヴァントが、空中戦に置いて本多忠勝に勝る道理なし。

この後の展開は、つまり――



「………………………………ッッ!」




名付けるならば、バスターホームラン――!

音速を超えた証に歯切れのいい音を空中で鳴らした戦鎚は、衝撃に自ら砕けながらもバーサーカーの頭部を空の彼方まで吹き飛ばすことに成功する。
テコの原理でその場で回転するバーサーカーの首から下。
だが、本多忠勝は止まらない。
半分ほどになった鎚を捨て、今度は斧を引き抜いて身体ごと首なしの骸へとくれてやる。

腹のあたりで真っ二つ。
返す刀で上半身、心臓の位置を狂いなく斬り裂き肉塊が三つに。


だが、それでも本多忠勝は止まらない。


一度目は腹に大穴を空けた。
だが、立ち上がった。

二度目は脳を掻き回し、またその容れ物ごと粉砕した。
だが、立ち上がった。

日の元の国ではついぞ聞かないあやかしの類か、この戦士は何度討ち果たそうとその都度傷を癒し立ち上がってきた。
平和を求める少女を救えず砂を噛む思いで撤退した後、忠勝はずっとこの強敵を屠る方法を考えてきた。
相棒たる青年は倒す方法を見つけるため情報を集めると言った。
しかしそんな余裕はなく、また武人の矜持が許しはしない。
今持てる力のみで、忠勝ただ一人の力でこの業敵を討ち果たさずして何が『戦国最強』か。

忠勝の出した答えは二つ。
どちらも単純にして明快、だが行うは難きこと――他ならぬこの本多忠勝以外には!


一つ、黄泉返るたびに何度でも滅殺すること。
このような争いに首輪をつけ送り出されているということは、奴は決して真なる不死の存在ではないと、相棒と見解が一致している。
だが具体的に何度殺せば限界が訪れるのか、それは定かではない。
だからこそ、この案は保留。

忠勝が選び実行したのは二つ目の案。
過去いずれの場合もこの魔性のモノは欠けた身体を再生して立ち上がってきた。
つまり、人体の一部分でも残してしまえば再生するということ。
であれば話は簡単だ。
662名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:20:11 ID:gfYyYlPy
 
663 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:20:33 ID:7s0uCYuF
すなわち――再生など叶わぬほどに五体全てを斬り刻み打ち砕き、塵も残さず魂までも葬り去る!

「………………………………………………………………………………………………ッッッッ!」

目にも止まらぬとはまさにこのこと。
旋回し回転し舞い踊る大戦斧が、餌を与えられた猟犬のように狂戦士の肉体へ喰らいつく。
顔はない。しかし首はあるので首を刈る。
首を落とさば次は二つに分かれた胴体の内片方、左腕を根元から斬り飛ばす。
それが終われば右腕を。ついでに右胸部をも二つに捌く。
斧を寝かせ、邪魔な肉塊を乗せ空中へ跳ね上げる。
ようやっと爪先が地についたバーサーカーの下半身を、容赦なく蹴りつけた。
目線より少し上、太い足が二本。
その中間を刃が駆け抜け、左と右の生き別れ。
十字に切って、四つに分ける。
頭上で斧を回転。超人ミキサーとでも表現しようか、高速鋭刃が四つから八つ、八つから十六と肉片を量産していく。
落ちてきたバーサーカーの「元」両腕・胴体もまた巻き込まれ、血風が混じる赤茶色い嵐として吹き荒れる。

「…………………………………………ッッ!」

充分なほど細かく砕いた、と確信した忠勝は、戦斧をその形状のままの用途――すなわち軍配、烈風打ち出す大団扇として横薙ぎに振るった。
三度、天へと舞い上がるバーサーカーであったモノ。
斧を放り出し、再び戦鎚を手に今度は忠勝も跳び上がった。

肉塊がそれぞればらばらになって飛び散る前に、一塊りのまま。
豪腕の生み出す再びのフルスイングが、狂戦士の名残りを跡形もなく吹き飛ばす。

頭と身体、それぞれ別の方角に。
見る影もなく、残す影もない完全な消失。
地に降り立った本多忠勝は、今度こその勝利を確信して膝をついた。
とたん、全身至る所から噴き出す蒸気。痛む身体の限界を越えてオーバーヒートした証。
連戦による疲労、征天魔王に刻まれた傷、バーサーカーの豪腕による全身各所のダメージ。
常人ならばとうに死に至ってもおかしくないほどの痛みを背負い、しかし意地と信念で無茶を通したがゆえの失調。
言うことを聞かない身体。だが、忠勝の眼はまだ死んではいない。

こちらは勝利したものの、まだ相棒が戦っている。
忠勝の声は届かないものの、あの金髪の偉丈夫と何事もなく和解したのなら相棒は必ず援護の手を入れてきているはずだからだ。
もちろん忠勝とバーサーカーの戦いに何ら影響を与えることはできないだろうものの、あの青年は忠勝一人に重荷を押し付けることを決して自分に許しはしない。そういう男だ。
そんな相棒だからこそ、共に戦場を駆けるに足るのだが。

とにもかくにも状況を確認するべきかと、忠勝は震える腕を地に落ちた斧へと伸ばす。
664名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:21:15 ID:gfYyYlPy
 
665 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:21:58 ID:7s0uCYuF
だからこそ――下を見ていたからこそ、気付かなかった。


「――――――――――■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」


忠勝目がけ落下する、未だ折れぬ狂戦士の殺意に満ちたその瞳に。
忠勝の背を、超高高度からの落下の勢いを存分に生かしバーサーカーが踏みつける、否、踏み砕く。
背面の推進装置、装甲、そしてその中身をも等しく破壊する重爆の一撃。


「…………ッッ!?」


二度目、そう二度目の土潜りを強制体験させられる忠勝。
その上に傲岸と立つバーサーカー。両腕両足心臓に頭、どこをとっても欠損はなく負傷の色もない。
理解の外にある出来事に忠勝の意識が一瞬オーバーフローする。
そこにバーサーカーの渾身の剛脚。視界が黒に閉ざされる。
忠勝は悟る。己が解釈は間違っていたと。
この敵手は、どう殺そうと再生するのだ。だからこそ再生の途中、傷を癒す最中にも間断なく攻勢をかけ限界点まで一気に殺すべきだった。
それに気づかず気を抜いた自身の不覚――!

悠然とバーサーカーは得手の獲物たる大戦斧を拾う。
これがあるなら折れた鎚を使うまでもない。
多少刃毀れがあれど狂戦士が振るうにあたり問題はない。それを確認したバーサーカーの背後で、巨大なものがぶつかり合う音。
振り返ったバーサーカーの期待通り、鎧武者は立ち上がっていた。
そうこなくては――今度はこちらのターンだと、バーサーカーが一歩を踏み出す。
立ち上がれはしたもののダメージは大きく、忠勝は腕を上げることすらもままならない。

にじり寄ってくるバーサーカーに、忠勝ができたことはただ徹底抗戦の意志を秘めた視線を叩き付けることだけ。
そして、



「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!」


腰から上を、叩き切られた。
吹き飛んでいく最強の武人の胴部。倉庫群の一角に叩き付けられ、動かなくなった。
残された脚は見事に大地を噛んだまま、見事にも倒れることなく。どこまであっぱれな男であることか。
もはや首を取る必要はあるまい――己がごとき不死の肉体を持っていない限り、立ち上がることは不可能だとバーサーカーは確信する。
そしてそんな輩ではないと、今までの交戦が物語っている。そんな小細工に頼らず、鍛えた自らの技だけで戦う素晴らしき武士だということは。

だが、結果は結果だ。
勝利したのはバーサーカーのサーヴァント。
敗北したのは戦国最強の武人。

最強証明は成された。
それ以上の時間を浪費することを良しとせず、バーサーカーは次なる獲物を狩るべく斧を担いで駆け出した。
666名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:22:03 ID:gfYyYlPy
 
667名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:22:17 ID:UiNoN4LK
支援
668名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:22:51 ID:gfYyYlPy
 
669 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:23:05 ID:7s0uCYuF
          ◆


予測される敵の進路へ向けて腰だめに構えたサブマシンガンを乱射する。
しかし孤影は巧みに半壊した倉庫や建材の影に滑り込み、開けた射線にその身を晒すことはない。
刹那は腰に差した拳銃の重みを再確認する。接近されれば次も斬撃を防げるという保証はない。

焦りを加速させるのは、遠方から響く破砕音。
忠勝が向かった先だ。今、相棒は単騎であの不死者へと立ち向かっている。
刹那が駆け付けたところで大したことはできないことはわかっている。それでも、何もせず傍観することなどガンダムマイスターの矜持が許さない。
そして、刹那が彼ら人外の武を誇る者達の闘争に一つだけ介入する方法がある。
他でもない、現在交戦中のトレーズが持つGNファングだ。
砲台としては生身の人間に向けるなど想定されていない、桁外れの火力。充分にあの巨人への脅威たり得るはず。
だが当然のこと、トレーズは大人しく抵抗を止める男ではない。であれば力づくで、ファングを奪取するしかないのだ。
一刻も早くこの難敵を突破し、かつ武装を奪う。
中々に困難なミッションプランであると言えた。

視界いっぱいに黒が広がる。
反射的に迎撃した刹那だったが、直後にそれはトレーズが放り出したマントであると理解した。
黒布を貫いた銃弾はその向こうで倉庫の外壁に着弾し甲高い音を立てる。つまり、命中弾はないということ。

「頂く!」
「くっ……!」

正面に気を取られた隙をつき、トレーズは一気に刹那の懐へと飛び込んできた。
閃いた銀光が刹那の首を狙い迸る。
横薙ぎの剣閃を身を転がすことで避ける。そのまま身体を旋回させ、トレーズの足を払うべく水面蹴りを仕掛けた。
が、足に予想された反動はない。
視界の端で飛び上がったトレーズの足刀が跳ね上がり、刹那の顎をかち上げた。
後ろに引っ張られたように弾かれた刹那を追い、トレーズが踏み込もうとしたその鼻先に突き付けられる拳銃。
引き金を引けばその弾丸は確実にトレーズの脳天を貫く、そんな位置。
足を止めたトレーズもまた刀を前に構え、刹那の構える拳銃を鼻先を触れ合わせる。
刃と銃を間に置き、刹那とトレーズの視線が絡み合った。

「俺は、この島で一人の少女と出会った。武力ではなく対話による協調を全世界単位で行い、戦争を根絶するという理想を持った少女だ」
「……リリーナ・ピースクラフト、か。彼女は……放送で名を呼ばれていたな」
「彼女を知っているのか……俺は、護れなかった。手の届くところにいながら、彼女の命を救うことができなかった。
 だが……いや、だからこそ、せめて彼女の遺した理想を成就させてやりたい。
 ガンダムに乗る俺が言うのはおこがましいのかもしれない。所詮俺は破壊者だ……だがな!」

拳銃を握る左腕、指を動かしマガジンを排出。
地に落ちる弾倉が一瞬トレーズの目を引き、間を置かず刹那の足に蹴り上げられる。
トレーズの顔面へ飛ぶマガジン。未だその内に数発の弾丸を残し。
そして、薬室にはまだ一発の弾丸が、残っている。

「そんな俺だからこそ、できることもある!」

マガジンを撃ち砕く。
粉々に散る金属片。飛礫となってトレーズを襲う。
たまらずトレーズが腕を交差させ顔面を覆う。
同時に立ち上がった刹那がサブマシンガンを構え直し、トレーズが気配を頼りに刀を突き出すタイミングはまったく同時。
銃弾がトレーズの左腕に喰らいつき、白刃が刹那の脇腹を深く斬り裂く。
血飛沫が舞い、それでも両者動きを停滞させることはない。
670 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:24:34 ID:7s0uCYuF
「では聞こう、君に一体何ができるというのだ!?」
「世界を歪める者達を駆逐することだ!」

逆手に持ち替えたトレーズの刀が刹那の首を掻き切らんとし、
滑り込ませた刹那のサブマシンガンの銃身の上を火花を散らし滑りゆく。

「武力を用いるのなら、それは完全平和主義とは矛盾しているのではないか!」
「知っているさ!」

トレーズの左足が刹那の右足を踏み抜き、力が緩んだところを身体ごと体当たりする。
刃が刹那の頬を掠め、赤い線を生んだ。

「俺達が世界にとって異物だということはわかっている!」
「ならばどうして君が彼女の理想を継げるなどと言える! 君にその資格があると思うのか!?」

持ち直された刀が沈み、弧を描く。
刹那の掲げたデイパックが両断され、勢いを減じぬままに肩口を斬り裂いた。
しかし斬り抜けることはない。
サブマシンガンの銃身が刀を受け止め、瞬時に巻き付いたショルダーストラップがその自由を奪う。
血に濡れた刀身は著しく摩擦係数を落とし、引き抜くことも叶わない。

「世界は……無意識の悪意に溢れている。誰しもが心の奥底に悪意を潜め、だが気付こうとしない……」
「その通りだ。だからこそ、私のような者が時代の渦中に立たねばならなかった。まさしく人の世の黄昏と言えよう……。
 そして私は私に任じた役割を果たした。残る私もまた……等しく処断されねばならない。世界の憎しみを清算するには罰を受ける者が必要だからだ。
 私を裁く、それが君の成すべきこと。敗者になりたいと望む私に相応しい終焉だ」
「まだだ! まだ貴様の役目は終わってなどいない!」

血を吐く刹那の瞳からはまだ力が失われてはいない。
だからこそトレーズも情けをかけることなど考えず、空いた手で鋼鉄の鞘を抜き青年の頭部へと叩き付けた。
額が割れ、噴き出す血潮。
それでも、視線はトレーズを貫き離さない。

「その役割は……俺達が担う!」
「何……!?」
「俺達ソレスタルビーイングは、対話による世界には不要の存在だ……!」

鞘を掴む刹那の腕は震えていたが、奇しくも左腕を痛めているトレーズの握力と拮抗する。
頭部、肩、脇腹と三か所から激しい出血を被りながらも、一向に気勢が衰えない。

「武力により紛争への介入……確かに一時的に争いは収まるだろう。だが根本的な解決ではない……。
 ガンダムは人の心の悪意までは根絶できないからだ。時が経てば憎しみが再燃し、引き金を引く者が現れるだろう。
 俺達はそんな歪みを駆逐する。誰もが俺達を恐れ、安易に武力で他者を害しようと思わなくなればいい。
 その間に、対話によって憎しみを鎮火する者達が人の心を繋いでくれる。彼女……リリーナ・ドーリアンやマリナ・イスマイールのように」
「憎まれ役を引き受けるというのか? 誰に頼まれた訳でもないだろう」
「そうだ、俺が自らの意志で選んだ道だ……俺達ソレスタルビーイングは存在し続けることに意味があった。
 神ではなく自らの意志で世界と向き合う……それが、存在するということ、生きるということ!」 

刹那を立ち上がらせるのは、自らの信念それのみではない。
ロックオン・ストラトス――ニール・ディランディ。
クリスティナ・シエラとリヒテンダール・ツェーリ、JB・モレノ。
志半ばで散った、ソレスタルビーイングの仲間。彼らの願いを受け継ぎ、今こうして生き長らえている。
671名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:25:10 ID:gfYyYlPy
 
672 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:26:04 ID:7s0uCYuF
「俺達は戦争を根絶し続ける。やがて一つにまとまった世界が俺達を必要としなくなるまで。
 それでいい……俺たちもまた、駆逐されるべき存在だ。世界か変革を迎えるのならば、古き存在である俺たちもまたその役目を終える。
 だが、貴様はそうではない……貴様には、破壊者でしかない俺と違い、やれることがあるだろう!」
「……なんだと、いうのだ」
「わかって……いるはずだ!」

鞘を引く。同時に刀を押さえつける手を緩めた。
右手と左手、選べるのはどちらか一つ。
刹那が鞘を奪い取り、トレーズが刀の自由を取り戻した。
だが刀にはまだサブマシンガンが絡まっている。
刀を大きく振り、戒めを吹き飛ばしたトレーズの目前に、満身創痍の身体を押して刹那が飛び込んできた。
身体ごと独楽のように一回転し、遠心力を乗せた刃が刹那を襲う。

刹那にトレーズのような本格的な剣術の心得はない。
しかし何も問題はない。
何故なら、
幼いころに腕利きの傭兵に仕込まれた体術が、
マイスターとしての戦いの日々の中絶えず研鑽してきた戦闘者としての感覚が、
なによりエクシア、そしてダブルオーと共に幾多の難敵を打ち破ってきた膨大な戦闘経験が、ここにある!

「ここは……俺の距離だッ!」

視てもいないのに白刃の軌跡が予想できた。
この男、トレーズ・クシュリナーダの技量は刹那が記憶する最も手強いモビルスーツパイロットとほぼ同等。
あの男――戦場の修羅、グラハム・エーカーとの四度に渡る戦いは、刹那の中の剣戟戦闘のセンスを極限までに研ぎ澄ませてくれた。
そうとも、あのトランザム同士の激突に比べれば何ほどのこともない――遅すぎるくらいだ!

頭上を瞬間に通り過ぎる光。本来断ち切るはずだった刹那の首はそこにはなく、代わりに刀自身の鞘を斬り割った。
半ばから鋭利な切り口を見せ分かたれた鋼鉄の鞘。長さにして短刀程度。
伸びた刹那の両腕にしっかりと収まり、ナイフのような輝きを見せる。

息つく間もなく刹那が繰り出す左の刺突。刀を持つ右腕の手首へと迫る。
未だ刀の加重が抜けておらず引き戻す時間が足りないと見たトレーズは、あえて負傷した左手を前面に出す。
自然、前方へと放り出された血液が刹那の顔を直撃。反射的に目を閉じたもののその狙いは甘くなる。
刀の重さを利用し腕を下げる。鞘の先端は衣服と肉を多少削り取ったものの、握力に影響を及ぼすほどでもなく。
返す刀での斬撃、だが刹那は攻撃が不発だと見るや即座に一歩を踏み込んだ。
膝が触れ合うほどに接近する。刀が巡る領域の内側に入られ、ならばと手首を逸らし柄での打撃にシフトする。
脇の下の急所に強打を受け、刹那の息が詰まる。
だがここで退いては押し込まれる。それがわかっているからこそ、痛みを無視して更なる攻勢をかけるべく刹那は頭を跳ね上げた。
身長の差から刹那の後頭部はトレーズの顎へと吸い込まれるように衝突。
衝撃は等価――だがダメージは刹那の方が大きい。一瞬くらりと意識が遠のいた。
トレーズの姿が、あのときの「奴」に重なる――四年前、最後の戦いがフラッシュバック。

あのときは、歪みを断ち切ることができなかった。
結果としてあの男は四年もの間ガンダムに、刹那に執着し続け、戦うだけの人生を歩んでしまった。
それを望んだのはあの男。だがそうさせたのは刹那自身。
ガンダムは歪みを駆逐する者。
だが、その歪みが間違ったものだとしたら――正しく変革することができるのだとしたら。
ただ殺すだけでは何も変わらない。だから、

(違う――俺はもう、あのときとは違う!)
673 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:27:40 ID:7s0uCYuF
無意識のまま、右手の短刀を逆手に持ち替え振り下ろす。
トレーズの左大腿部へと突き立ち、飛び出た熱い血によって刹那の意識が覚醒する。
短刀を落とし、腰の刀へと両腕を伸ばす。
踏ん張りが利かないトレーズの身体を肩で突き飛ばした。

「ぐうっ……!」

片足の自由が利かないトレーズは無様に地に転がる。
刹那は奪い取った刀を構えようとし――だが、重みに負けて膝をつく。
全身の痛みは緩慢なものになりつつある。もう、時間がない。

トレーズもまた落ちていたサブマシンガンを拾う。片足立ちになって、銃口を刹那へと向けた。
荒く息を吐くのは両者とも同じ。
だがトレーズには大腿部しか深手と言える傷はなく、身を隠されでもしたらもう刹那に追うだけの力は残っていない。
それを察したか、トレーズは微笑みサブマシンガンの残弾を確認した。
腰の後ろから新たな弾倉を取り出し、装填。暴威の力を呼び戻す。
その整った顔に浮かぶのは恍惚の色。
勝利など求めてはいない。死力を尽くした戦いの果ての敗北――それこそが求めるもの。
だからこそ、トレーズは後退など選びはしない。
刹那の命が尽きる前に決着を付けると、その瞳は物語る。

一時の静寂。
もう、どちらの耳にも本多忠勝とバーサーカーの交戦の音は聞こえない。
目に映るのは、お互いにただ一人の男のみ。

「やはり、私の目に狂いはなかった。君こそが私を敗者へと貶めてくれる者だ」
「……満足か、これが。こんな戦いが……貴様の望む理想なのか」
「いかにも……さあ、もはや言葉はいらない。私を打ち倒し、君は前に進みたまえ。
 自らの意志で戦い、勝者となった君は誰にも勝るほどに尊い。君の輝きを最期に私に焼き付けてくれ」
「そう、か。なら……終わりにしよう。俺にはまだやることが残っている」
「望み通りに……!」

手を、開く。
刹那が、トレーズが同時に武器を放り出し、地に落着すると同時に蹴り出した。
刀と銃が交差し、離れる。
刹那が銃を、トレーズが刀を。
屈み伸ばした手がそれらを掴むのは同時、しかし立ち上がるのは一人だけ。
片足の自由が利かないトレーズは、剣を弓をつがえる様に引き、飛ぶ。

牙を突き刺すように。
射線を避けようともせず、正面から突き進んでくる金の影。
刹那は構えた銃の引き金を――引いた。



銃声が静寂を切り裂いた。


674名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:27:50 ID:gfYyYlPy
   
675 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:28:47 ID:7s0uCYuF
          ◆



「……何故だ。何故……撃たなかった?」

そう問うのは、一人立ち尽くすトレーズ・クシュリナーダ。
見ているのは、膝をつき腹部に刀を生やす黒髪の青年――刹那・F・セイエイ。
刀は右の肺を貫いている。もはやどのような名医だろうと手の施しようがない、致命傷だ。
焦点が定まらず虚ろな刹那の瞳が、トレーズを見上げる。
その瞳に魅入られた時、トレーズは無意識に一歩、後退していた。

「……撃った、さ……」

その手に構えているのはサブマシンガン、ではない。
マガジンを排出し、薬室に残った最後の一発をも既に撃っていたはずの、ワルサーP5。
弾丸は、残っていない。

「トレーズ……貴様は、俺が……殺した。貴様の歪み……狙い撃ったのは、俺だ。だからもう……さっきまでの、お前は……死んだ」
「何を馬鹿な……!」
「聞け……! お前には、まだできることがある……。俺は……破壊者でしか、ないが。貴様は、そうではないはずだ……。
 たとえ、血に濡れていても……その罪を投げ出そうとしない……お前なら――ガ、ハッ!」

激しく咳き込む。吐血の赤も、鮮やかに。
目だけがギラギラと光り、トレーズが耳を閉ざすことを許さない。

「対話による協調……貴様なら、成し遂げられるはずだ。武力を以て戦うことしか……できない、俺と違い。
 政治の場という戦場で、貴様だけの戦いが……あるだろう。だから……戦え、トレーズ!
 人が、戦うことに疲れたと……言うのなら。貴様が全ての……業を背負い、全ての人の、代わりとなって……戦え!」
「私に……生きろというのか?」
「……勝者は、俺のはずだ。強者には……弱者を、正しく支配する義務……が、ある。
 貴様が……言った、こと、だ。だから……」




『刹那・F・セイエイが、トレーズ・クシュリナーダに命じる。リリーナ・ドーリアンの意志を貴様が引き継げ』




「私に、完全平和主義を担えと言うのか……」
「できないとは……言わせない。貴様にはそれだけの……力が、ある、はずだ……」
「フッ……もう、遅いのだよ刹那。私は既に、この島で一人、この手にかけている……。
 池田華菜、カギ爪の男、竹井久、玄霧皐月、加治木ゆみ、中野梓、月詠小萌、兵藤和尊、安藤守、片倉小十郎、プリシラ、千石撫子、御坂美琴。
 誰かまではわからぬが、先ほど呼ばれた死者の内リリーナ姫を除いた十三名……その内の一人は、私によって未来を絶たれたのだ。
 そんな私に、君や彼女と同じ道を往くことなど……」
「勘違い……するな、トレーズ・クシュリナーダ。これは、貴様が背負うべき……義務、だ。
 力がありながら……行動しなかった、貴様への……間違っていると、知りつつ……その道を突き進んだ貴様が、背負うべき……罰だ」
676名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:28:49 ID:gfYyYlPy
 
677 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:29:59 ID:7s0uCYuF
その身に突き刺さった刀を、刹那が逆手に握る。

「が……ぐぅ……っ!」

肉を裂き、骨を削りながらも僅かずつ刀を引き出す。
激痛が神経を焼き、しかし潮が引くように痛みは消えていく――麻痺していく。
破れた血管の押さえが無くなりたちまち路面に紅い花が咲いた。

「君は……」
「……ッ、来る……!」

声をかけようとしたトレーズを遮る刹那。
一瞬遅れてトレーズもその言葉の意味を理解した。
刹那が握ったままの刀を奪い取り、身を翻し虚空へと叩き付ける――甲高い金属音。
叩き落とされたのは、黒く染まった騎士王の剣。

「破れたか……ホンダム」

刹那の言葉が示す通り。
現れたのは戦国最強の武人ではなく、狂戦士のサーヴァント。
忠勝が振るっていたはずの斧を担ぎ、五体のどこにも負傷の色もなく。
いやそれどころか、あれだけの激しい戦闘音が鳴っていたのにどこにもその痕跡がない。
本多忠勝が一矢を報いることもなく蹂躙された? あり得ない。忠勝の武はそんなに生ぬるい物ではないと刹那が一番よく知っている。

(ならば……答えは一つ。奴はやはり……)

再生。
そう、おそらく忠勝はあの化け物を一度確かに撃破したのだろう。ただし、持てる全ての力と引き換えに。
しかし殺し切ることが叶わなかった。
直後に完全な状態まで蘇生、力を使い果たした忠勝を悠々撃破したのであろう――あの斧がその証拠。
そして今、刹那に忠勝の声は届かない。

(すまない……ホンダム。だが……戦ったのだろう? 己の意志で、存在を賭けて……なら、俺も続かなければならないな……)

その手にあるのはイヤホンマイク。
先の交錯の際トレーズの懐から掠め取った、遅すぎた切り札。
耳につけ、聖剣を拾い杖代わりに立つ刹那。

「刹那、ここは私が引き受ける。君は逃げたまえ」
「逆だ……トレーズ。俺が……奴を、倒す。お前が、退くん……だ」
「聞けないな。私の望みは戦場で散ることだと言っただろう」
「それこそ……知ったことじゃ、ない。どのみち……この身体では、逃げ切れ……ない。だから……こう、するんだ……」

おぼつかない足取りで走り出す。転々と血の尾を引いて、泰然と弱った獲物を眺めるバーサーカーの元へ。

「……ファングッ!」

刹那の檄を受け、主の名なきままその身を休めていた牙が宙に躍り出る。
形成する疑似GN粒子の刃。
撃ち出された弾丸のように、一直線にバーサーカーへ向かう。
迫り来る赤い牙。バーサーカーは敵と認識し迎撃の刃を振るう。
678名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:30:43 ID:gfYyYlPy
 
679名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:31:25 ID:gfYyYlPy
 
680名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:31:48 ID:eWjmzqet
支援
681 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:32:06 ID:7s0uCYuF
「いかん……! ファングでは奴に対抗できんぞ!」

それはトレーズ自身が既に通った道。
いかに優れたモビルスーツ操縦技能を持っていようと、口頭命令によるファングの操作には活かしようもない。
単純に誰々を攻撃しろ、と言うだけでは至極単調な機動しかできないのだ。
だからこそトレーズは不用意に接近させず、アウトレンジからの砲撃で敵を寄せ付けまいとしたのだ。

「…………くぅっ!」

バーサーカーが跳び、牙の背後を見下ろせる位置へ。振りかぶった斧、握る右腕の筋肉が膨張する。

「■■■■■■■■――!!」

手斧のように投げ放たれた大戦斧がファングの後背へ突き刺さる。
勢いは止まらず、コンクリートの路面を爆砕した。
着地したバーサーカーが、無手のまま刹那らを捉える。
手負いの、その上魔術師でもない人間二人。武器がなくとも容易く縊り殺せるということだろう。

トレーズが刀を構え応じようとした。逃げて生き長らえるつもりなど微塵もないという横顔。
刹那はそれを認めない。そう、宣言した通り――

「刹那・F・セイエイッ! 目標を……駆逐するッ!」

文字通り血を吐いて。
刹那の、ガンダムマイスターの矜持が暴力の権化へと牙を剥く。

心眼――類い稀なる第六勘にて危機を察知したバーサーカーが、横に跳んだ。
だが身体に遅れて続いた左腕を、飛来したGNファングが斬り裂いた。

「■■■■――!?」
「ファング!? 馬鹿な、あの機動は……!」

驚きの声は敵と、もはや敵でない男から。
巨人の片腕を斬り落としたファングは刹那の傍らへと飛翔し、くるりと転進し再度目標を軌道上に捉える。
敵は肘から落とされた左腕を押さえ、出血を押さえている。

「仕留め……きれなかった、か……!」

一矢報いたとはいえ、刹那の表情に浮かぶのは痛恨の色。
乾坤一擲の奇襲であったが、あまりの反応の速さに必殺の効果を得られなかったのだから。

「■■■■■■■■■■■■■■■■――!!」

怒りの咆哮を上げ、バーサーカーが殺到する。
迎え撃つファング。
地を這うように滑空し、バーサーカーの足元へと連続して粒子ビームを放つ。
跳躍したバーサーカーを傷つけるには至らない。だが濛々と立ち込める土煙が、牙の姿を覆い隠した。
落下しつつもどこから来るか、全方位を警戒するバーサーカー。

その背後からGN粒子の放出を止めたファングが喰らいつく。
背を灼く痛みに呻きを漏らし、続く零距離砲撃にてバーサーカーは叩き落とされた。
瞠目したのは傍観するトレーズだ。
足を負傷したトレーズでは割って入ろうにも無理な話だが、だからこそ今のファングの機動をよく観察することができた。
オートで動くファングには成し得るはずのない動き。
何より刹那は、最初にファングに発した命令以外、次の指令を下してはいないのだから。
682名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:33:14 ID:2xSjYETd

683名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:33:18 ID:gfYyYlPy
 
684名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:33:29 ID:UiNoN4LK
支援
685 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:33:59 ID:7s0uCYuF
「刹那……君は一体……」

トレーズに応えず、刹那はファングの操作に集中する。
そう、操作――脳量子波によるダイレクトコントロール。
ファング、及びそれに類する機能を持つ機動端末を有するモビルスーツは刹那の知る限りおよそ四機。
トリニティチームの次男、ヨハン・トリニティのガンダムスローネツヴァイ。
スローネツヴァイを改修したらしき、アリー・アル・サーシェスが駆るアルケーガンダム。
アニュー・リターナーが用いたイノベイター専用モビルスーツ、ガッデスのGNビームサーベルファング。
そして盟友ロックオン・ストラトスの愛機、ケルディムガンダムに備わるシールドビット、ライフルビット。
これら四機の持つオールレンジ兵器はいくつかの差異がある。


前者二つは最もオーソドックスなタイプと言えるだろう。
ガンダムの演算能力を用いるとはいえ、基本的にはパイロットが指示して動かすタイプ。
もちろん要所要所で捜査を加えたり、プログラムの変更によりパターンを変更することはできる。
しかしやはり即応性に欠けると言わざるを得ず、事実二機のそれは最も多く撃墜されたファングと言えるだろう。

後者二つが少々異なる。そして、この二者もまた同一ではない。
ケルディムのビットは、マイスターに加えサポートユニット・ハロが同乗し制御する物。
これによりマイスター自身は機体操作に集中しながらの同時運用を可能としている。

残る一つ、イノベイターのモビルスーツがこの話の主題。
基本的にイノベイターは脳量子波という特殊な量子波を発生させることができる。
空間認識能力、反射能力の増大、または遠距離関の交信などまさに革新者たるに相応しい力。
これを用いることで機体操作を停止させることなく同時にファングも使用できるという訳だ。


そう、脳量子波とはイノベイターと呼ばれる者全てが持ち得る力。
逆に言うなら強い脳量子波を持つ者こそ、イノベイターと名乗る資格があるということ。


そしてこの場には、人の身から純粋種のイノベイターとして覚醒した者がいる。
名を刹那・F・セイエイ。
ダブルオーガンダムのマイスターにして、ソレスタルビーイングの理想を体現する者。
無意識に手にしていた真なる脳量子波を、死の淵に瀕した今この時に完全に我が物として操っている。


思う通り、頭の中で描いた軌道そのままにファングが舞い、赤い粒子を撒き散らす。
だが、この土壇場で見出した新たな力も、そのまま難敵に勝利するという結果には直結しない。
少しずつ、少しずつだがバーサーカーの動きが鋭くなっていくのだ。
掠めるように最小限の動きで粒子ビームをやり過ごし、虎視眈々と接近の機会を狙う。
単発の砲撃では足りないのだ。
最初の一撃のように、粒子を先端に集中させ一気に斬り裂かねばこの巨人の分厚い筋肉の壁を突破することができない。
一瞬たりとて足を止めず走り続けるバーサーカー。無尽蔵かとも思えるそのスタミナに、貯蔵するGN粒子の方が先に尽きそうだ。

今度こそ手詰まりかと、刹那は強く唇を噛む。
そして、

「……ッ。行け、ファングッ!」

遂に、勝負に出た。
跳躍していたバーサーカーが、着地に失敗したか電柱へと突っ込んだ。根元から折れ砕け、電線を引き千切りながらその身を横たえていく。
これを隙と見た刹那は躊躇わなかった。
粒子を圧縮し、極光の刃と成して貫き落とすという意思を込め突っ込ませた。
686名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:34:23 ID:gfYyYlPy
 
687名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:35:37 ID:gfYyYlPy
 
688 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:35:40 ID:7s0uCYuF
「■■■■■■■■――――」

だが――届かない。
大英雄の戦感は、この未知の敵の能力、速度を既に見切っていたのである。
バーサーカーが隻腕を伸ばす。掴んだのはたった今巨体の巻き添えになった電信柱。
強度は城で得た槌ほどではないが構わない。ただ一撃だけ保てばいい――あの鎧武者にされたことを、今度はこのバーサーカーが再現する。


「――――■■■■■■■■■■■!!」


迫るファング。
迎え撃ったのは長さにして15mほど、大雑把にもほどがある「鋼鉄のバット」。

「くっ……!」
「むう……!」

耳をつんざくような、凄まじい衝突音。
刹那とトレーズの眼前で、GNファングは遥か遠く倉庫の影へと弾き飛ばされた。

ズン……とバーサーカーが即席の獲物を手放す。
ファングを吹き飛ばした反動か、電柱は半ばから砕け散った。
だがこれで全ての脅威は排除され、もう二人の贄を守る物はない。
重厚な足音を響かせ、バーサーカーが迫る。
刀を構え、今度こそ討ち死にせんとするトレーズ。
そして、

「もう打つ手はない、な。やはりここが私の死に場所のようだ。刹那、君は……」
「いいや……作戦通りだ、トレーズ。俺の……俺達の、勝ちだ」

何度でも押し留めるのは、刹那。
横顔に浮かぶのは――「絶望」ではなく、ひたすらに強く気高き「希望」。

「何を――」
「………………………………………………………………ッッッッ!!」

声なき咆哮が、轟く。
三度振り向いたバーサーカーの顔へ突き刺さる――唯一無二の、拳。

「待っていたぞ……ホンダムッ!」

信頼の色に満ちた刹那の声。
応えるように両の拳を打ち鳴らすのは、破れ去ったはずの鎧武者、本多忠勝。
バーサーカーが愕然と煉獄から舞い戻ってきた武人を見やる。
足を無くし、武器を失おうとも――戦国最強の誇り、未だ折れず。
689名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:36:23 ID:gfYyYlPy
 
690名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:36:41 ID:1RgIwQ8N
 
691 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:36:44 ID:7s0uCYuF
          ◆



腹を真っ二つに裂かれた本多忠勝は、しかしまだ命の灯火を絶やしてはいなかった。

おうとも、「奴」が死の淵から幾度となく立ち上がるのならば、この本多忠勝にできぬ道理などあるはずがない。
まだ破れてはおらぬ。まだ忠勝の槍は折れてはおらぬ!

相棒を追っていったであろう業敵を止めるべく、忠勝は両の腕でめり込んだ倉庫からの脱出を図った。
ええい時間が惜しいとばかり、鉄槌の拳で壁を叩き割り強引に抜け出る。
地に落つ最強。足もない、背の推進装置も使えない。
ならば這ってでも――この両腕が砕け散るまで大地を殴り付け、その反動で跳んでいこうではないか。

漲る覚悟を力に変えて、忠勝は拳を振り上げる。

「…………?」

その時忠勝を照らした、真紅の輝き。
見上げた忠勝の瞳に映る、傷ついた牙の姿。
しばし、無言で見つめ合う。

「…………!」

わかる。これは――声だ。
小さき相棒からの、共に戦おうという呼びかけの声。
言葉に出さずとも思いは伝わる。
遠く離れた地にいる相棒が、この本多忠勝の生存と参戦を信じ、待っている。
カッ、と、忠勝の血でなき血が燃え上がる。
相棒はあの巨人を止められなかった忠勝を不甲斐ないと、役に立たないと思っているのではないか。そんなことを考えていた己の性根に喝を入れる。



待っている。忠勝と共に戦うために、同じ戦場に立つために――あの男が待っている!


「……………………………………………………………………………………………………………………ッッッッ!!」
692名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:37:17 ID:gfYyYlPy
 
693名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:37:40 ID:1RgIwQ8N
  
694 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:37:57 ID:7s0uCYuF
魂の奥底から湧き上がってきた意志が、力が、出口を求めて沸騰する。
拳が地を打つ。舞い上がる、忠勝の足なき身体。
見下ろす眼下にあの牙はいない。どこにいる――決まっている。


武人が戦場を駆けるとき、共にあるものは何だ。

護るべき主と、

背中を預けられる朋友と、

敵を討ち果たす槍と、



――――――そして馬だ!



「…………………………!」



本多忠勝が腰を預けられる馬などかつて一頭たりとていなかった。
だが今は違う――ここには、忠勝が信頼する男が操る馬がいる!
さながら紅い彗星。
戦国最強の鎧武者と、太陽の輝きを名に冠す牙が合一した。
疑似GN粒子の輝きがファングを、そしてファングの上に座す忠勝をも包み込む。




変革の牙に跨って、『戦国最強』最後の出陣が、始まる。

695名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:38:20 ID:1RgIwQ8N
   
696 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:39:05 ID:7s0uCYuF
          ◆



「■■■■■■■■■■■■■■■■――――!!」
「……………………………………………ッッッ!!」


そして、最後の幕が開く。
火蓋を切って落とすは鋼鉄の馬を駆る戦国最強の武人、本多忠勝。
応じるは狂戦士のサーヴァント、真名をヘラクレス。

四度目の、そして最後の果たし合い。
双方どちらも退く気など微塵もなし。
先に進むために、誇りを失わぬために。
この戦士だけはこの手で倒す――お互いがそう思っていると、強く確信する。

バーサーカーが構える斧の殺傷圏内に、恐れることなく忠勝は――忠勝と刹那は、踏み込んでいく。
ファングを両断すべく放たれた斬撃。
忠勝は一向にそれに対処する動きを見せず、ただ握り締めた拳に己の全てを傾けていく。
何故なら、

「■■■■■■■■――!?」

相棒が、かわしてくれると信じているから!
急停止したファング。忠勝の鼻先を戦斧が生じさせた風がくすぐる。
超重武器だからこそ、その軌道は大振りにならざるを得ない。
すなわち、一撃の隙が大きいということ。

「………………………ッッ!!」

急停止から、急加速へ。
一瞬にしてバーサーカーの懐へと潜り込んだ鎧武者は、両の拳を思う様叩き付ける。
一、二、三、四――十、二十、三十四十。
拳の回転は止まらない。
もっと速く、もっと強く! その一念のみで忠勝の拳は天井知らずにその手数を増していく。
たまらず、バーサーカーが後ろに跳んだ。
追えばカウンターの斧投げが来る。そう看破した忠勝はやはり動かない。
これは忠勝の距離ではなく、

「ファングッ!」

相棒の距離だからだ。
バーサーカーを追い、幾条もの光芒が空を駆ける。
バーサーカーがとっさに斧を横に倒し、即席の盾とした。

「■■■■■■■■――!!」

斧の横槍を免れた数本の光がバーサーカーの肌を灼く。だがいずれも決定的なダメージには成り得ない。
距離を取り、睨み合う二人の最強。
697名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:39:06 ID:1RgIwQ8N
 
698名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:39:31 ID:zQqJaQX3
 
699名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:39:36 ID:gfYyYlPy
 
700名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:39:56 ID:1RgIwQ8N
  
701 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:40:17 ID:7s0uCYuF
(いけるか……? いや、もうGN粒子が心許ない。また奴の復活を許せばそれで終わりだ。どうすれば……!?)

歯噛みする刹那。刹那自身、腹部を押さえる手にもう感覚が無くなってきた。
時間がない。誰にとっても。
一瞬、刹那は警戒を怠った。そのとき、バーサーカーが牽制に小石――と言っても、刹那の頭ほどもある――を投擲した。
ファングを操作し、スライドする。その先にいるのは――刹那自身だった。

思考に気を取られるあまり、位置把握が疎かになった。
容易に刹那の頭を砕ける威力の飛礫が迫る。

(しまった……済まん、ホンダム……!)

自身の身ではなく、戦友の身を案じる。
だが、予想された痛み、断絶は訪れなかった。
目を開くと、そこにはトレーズの姿。
石は、刹那の前に割って入ったトレーズが背中で受け止めていた。
ガハッ、と血を吐くトレーズ。膝をつき、倒れ伏す。

「トレーズ……」
「刹那……あれを、使え……」

助け起こそうとした刹那を制し、トレーズが震える指先を持ち上げる。
追って視線を向けた先には、もう動けないはずのトレーラーがあった。

「あれが、なんだ。後輪が、破壊され……て、いる。動かせは……しないぞ」
「違う……あれの、中に……これが、キーだ……」

渡されたのは、一枚のカードキー。
トレーラーの中に入れ――そういうことだろうか。
真意を問い質そうとするが、トレーズはその瞬間意識を失い、くずおれた。

「トレーズ……了解だ、お前を信じる」

トレーズをトレーラーの陰へと引きずり、刹那は剣を頼りに走り出した。
忠勝は未だバーサーカーと交戦中。この分ならしばらくは保つ――だが、本当に少しの間だけだ。
起死回生の一手。
奴を討つ――あるいは、不死の秘密を暴く、この場から退去させる。
刹那も忠勝も、もう残された時間は少ない。放っておいても朽ち果てる身。
ならば、少なくともまだ生きる目のあるトレーズと、まだ見ぬ参加者達のためにこの時間を使う。

トレーラーのハッチを開け、内部に侵入。
小さめの移動基地とでも言うべき車体は今の刹那には広すぎる。しかし、意志の力で足を動かし続けた。
そして辿り着いた、『KMF整備室』。

小型の戦闘メカを整備できる設備、らしい。

(KMF……? ガンダムでは、ない……)

落胆する刹那。ガンダムと言わずとも、そのKMFがあれば状況を打開できたかもしれないのに。
コントロールパネルに背を預け、刹那はとうとう足を止めてしまう。
感じる忠勝の苦境はいよいよ以て熾烈さを増している。

(もうホンダムも限界か……! トレーズ、お前は何を……俺に、託そうとしたんだ……?)
702名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:41:16 ID:gfYyYlPy
 
703名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:41:27 ID:eWjmzqet
どうなるどうなる
704 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:41:52 ID:7s0uCYuF
足が崩れ、手が投げ出される。
押し込まれたタッチパネル――スクリーンに表示される、見慣れない文字。

(これ、は……)

刹那の眼が、見開かれる。
全身に力が戻ってきた。
たとえそれが燃え尽きる直前の蝋燭のような、儚いモノであったとしても。


絶望の中で掴んだ光は、手放さない。


両腕で身体を支え、立ち上がる。
シートに身を預け、猛然とパネルを操作する刹那。
勝手は違えど、こんなものは大筋はどこのものでも大して変わりはない。
数分の逡巡を経て、刹那は目的のデータを参照できた。
目を通し、使えると判断。

あとは実行するだけ。
これが最後のミッションプラン。
得られる戦果は確かなもの、引き換えに支払う対価は刹那自身。
もう、戻れない――仲間達の元へは。


「ライル・ディランディ……アレルヤ・ハプティズム……ティエリア・アーデ……」

トレーラーの上部をオープンに。

「スメラギ・李・ノリエガ……フェルト・グレイス……ラッセ・アイオン……」

向きを調整。外れることなく目標に届くように。

「イアン・ヴァスティ……ミレイナ・ヴァスティ……沙慈・クロスロード……マリー・パーファシー……」

角度、よし。あとはロックを外し、トリガーを引くだけ。
いつの間にか、腹部からの出血は止まっていた。
意識もまるで浮いているかのようにふわふわと現実感がない。
それでも――刹那は、後悔していない。

「みんな……済まない、後は……頼む。俺は……ここまでの、ようだ」

ここにはいない仲間達へ。
かつて自分が託された物を、今度は刹那が仲間達へと託す。
イノベイターの打倒、戦争の根絶――人類の変革。
彼らなら、きっと――

「ロックオン・ストラトス――いや、ニール・ディランディ。俺も……お前のように。誰かの道を……生きていく……世界を、切り拓くぞ……!」

あの男が見ている。
かつて刹那を導き、そして変われと――自分の代わりに変わってくれと、バトンを渡した男が。
705名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:42:08 ID:1RgIwQ8N
 
706名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:42:16 ID:gfYyYlPy
 
707名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:42:49 ID:1RgIwQ8N
  
708名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:42:56 ID:gfYyYlPy
 
709名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:43:19 ID:UiNoN4LK
支援
710 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:43:32 ID:7s0uCYuF









――――やっちまえ、刹那。お前は最高のガンダム馬鹿だ!









(……ああ。最高の褒め言葉だ!)


拳を固め、パネルに叩き付ける。
叫ぶ――これが刹那の、忠勝の、命を賭けた乾坤一擲の一撃!




















「舞い上がれ――――飛翔滑走翼ッ!!」






711名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:44:10 ID:gfYyYlPy
 
712名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:44:12 ID:1RgIwQ8N
 
713名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:44:22 ID:zQqJaQX3
 
714 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:44:46 ID:7s0uCYuF
          ◆



バーサーカーの蹴りが、ガードした右腕を砕きつつ忠勝をファングごと吹き飛ばした。
機動性は勝っても、やはり地に着く足がなければその膂力を完全に発揮することはできない。
右腕が肘の上あたりまで完全に破砕された。
ファングが吐き出すGN粒子はもはや枯渇寸前。
意志だけは折れぬと、忠勝はにじり寄る宿敵を睨め上げた。

決着の刻――おそらく向こうもそう思っているはず。
忠勝に許された時間もそろそろ尽きる。
ならばせめて、その身に消えぬ傷を残すまで。
悲壮な決意を固める忠勝の視界に、新たな光が飛び込んだ。

相棒が乗り込んだらしい鉄の車。できればそれで逃げてくれればと思っていたのだが――やはり、相棒はそんなタマではなかったらしい。

射出された、鋼鉄の翼。
名を飛翔滑走翼――黒の騎士団の技術顧問ラクシャータが完成させた、日本製のKMF飛行ユニット。
天高く舞い、呼応するようにファングが飛び出した。
先を往く飛翔滑走翼の後方、空いた空洞のような内面が見える。
忠勝はすぐさま理解した。そして、

「…………………ッ!!」

躊躇いなどなく、応じる。
見せてやる――あの戦士に。何度甦ろうとも決して孤独から抜け出すこと叶わない、あの寂しき大英雄に!

これこそが、友愛などという曖昧な慣れ合いを超越した、戦場で結ばれた固き絆の具現。
頭から棺へと突っ込む。
翼から杭が放たれる。本来ならそれは対応するプラグを備えたナイトメアフレームにのみ連結されるべきもの。
だが当然のこと本多忠勝はKMFではない。接続などできるはずもない――


「………………………………………………ッッ!!」


――否!
無理を通せば道理は消し飛ぶ!
ここにあるのは忠勝ただ一人の意地だけでなく、戦争根絶という途方もない夢物語を現実に成そうとする男の意志が共にある。
ならばこそ――不可能など、ない!

既に砕かれていた忠勝の背面装甲を、飛翔滑走翼から伸ばされた管が突き破る。
激痛――何ほどのものか。痛みなどいくらでも喰らってやる。
だから力を寄越せ――今、この場で! 奴を討ち果たす力を!

強引に接続が完了し、忠勝の強靭なる精神がプログラムなどという小賢しい物を全て塗り潰し我が物と変えていく。
元より備えた手足のごとく――翼の隅々まで知覚の指が拡がった。
715名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:44:52 ID:gfYyYlPy
 
716名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:45:44 ID:gfYyYlPy
 
717名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:45:57 ID:1RgIwQ8N
 
718 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:46:10 ID:7s0uCYuF

――続けて徹甲砲撃右腕部、行くぞホンダム!
――応!

聞こえないはずの刹那の声が聞こえる。
音にならないはずの忠勝の声が応じる。

トレーラーから再度昇ってくる光。
外見は単なるロケット。しかし、飛翔する忠勝の傍らで自ら弾け、その真なる姿を露わにする。
鋭い五指を備えた機械仕掛けの腕。
紅く染め抜かれた、ただ破壊の身を成す紅蓮の爪。
連結――またも激痛。だがそれはもう味わった。主なき右腕はすぐに忠勝の支配下に収まった。
棺が、外装がパージされる。

カラクリカギ爪、二対のフロート。牙を模す馬に跨り、その眼光は同じく真紅。
翼が輝き、掲げた右腕から灼熱の咆哮が迸る。
眼下の敵に、告げる。
もはや忠勝は単なる戦国最強ではない。
呼ぶならば
そう、名付けるならば――





――――――GNホンダム可翔式!






天から一気に駆け下る。狙うは憎き怨敵バーサーカーの首ただ一つ!
カギ爪を叩き付ける。バーサーカーが薙いだ大戦斧と激突し、烈風を巻き起こした。
忠勝は既にこの腕に宿る真なる力を理解している。
己の意志一つで解き放たれるこの力なら、この状況から奴を――

「待て、ホンダム!」

だが、決定的な一撃が放たれる前に、姿を現した相棒が制止の声を上げた。
何故だ、今が好機なのだぞ、と無言の内に問いかける。
刹那は漆黒の剣で身を支えたまま、

「この場でそいつを……倒しても、また再生されては……意味がない。だから――ホンダム! 俺に……お前の命をくれッ!」

決意の火。
刹那の瞳にそれを見て取った忠勝は、もはや聞くことなどないと悟る。
ただ、告げるだけだ。

――応!
719名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:46:30 ID:gfYyYlPy
 
720名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:46:58 ID:1RgIwQ8N
 
721名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:46:58 ID:eWjmzqet
支援
722名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:47:15 ID:gfYyYlPy
 
723名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:47:29 ID:zQqJaQX3
724名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:47:59 ID:gfYyYlPy
GNC可翔式
725 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:48:06 ID:7s0uCYuF
ただ、同意の意志を。
全てお前に任せる、指示をくれ――全幅の信頼と共に、ただそれだけを。
忠勝とてわかっている。もはや己も相棒ももう長くはないことを。
であれば、本懐を遂げるために必要だと相棒が言うのなら――聞かぬ道理がどこにあろうか。

無言の信頼を受け取った刹那は、未だ鍔迫り合いを続ける忠勝に走り寄り、その左手に飛び乗った。
バーサーカーとて隻腕。
また徹甲砲撃右腕部はあくまで爪であるため、忠勝は左腕を添える必要がなかった。
拮抗する両者。
その間隙を突き、刹那は忠勝の腕を蹴って、構える剣をバーサーカーの右腕へと突き刺した。
ずぶり――と、剣が肉に沈む感触。
墜ちたとはいえそれでも聖剣、バーサーカーの肉体を易々と傷つける。
力が緩み、戦斧が零れ落ちた。
その隙を逃さず、忠勝は右の爪をバーサーカーの顔面へと叩き付けた。
二指が、狂戦士の眼を貫く。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――!!」

激痛に暴れるバーサーカー、その刹那が掴まったままの右腕と忠勝の唯一残ったオリジナルと言える左腕が組み合った。
刹那が叫ぶ。

「飛べ、ホンダム! こいつを彼方の地へ追いやるんだ!」

忠勝の背の飛翔滑走翼が輝く。
同時にファングが残る全てのGN粒子を放出し、推進力へと変換した。
二つの巨獣が空に舞う。
一瞬の拮抗を経て、翼と牙が重力に勝った。
銃弾をも凌駕する速度で、三者は倉庫群から飛び離れていった。


726名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:48:51 ID:gfYyYlPy
 
727名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:49:03 ID:e80mUBR9
 
728名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:49:22 ID:zQqJaQX3
729名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:49:54 ID:gfYyYlPy
 
730名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:49:58 ID:e80mUBR9
 
731 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:50:28 ID:7s0uCYuF
          ◆



空を見上げるものがいる。
荒い息をつき、ここまで走り通しだった身体を休めるために座り込んでいた『ソレ』は目撃した。
空を裂く、紅い彗星を。
まだ昼間だ。星が見える道理などない。
にも関わらず、その星は見る間に『ソレ』の頭上を飛び去り西へと飛び去っていく。
いや、星にしては低い、低すぎる。
手の届く――訳はない物の、それでも小さめの城と同じくらいの高さだろうか。
そんな硬度を流れる星などあるはずがない。


しかし、思い出すことがあった。

それは主の生涯の宿敵。

赤い炎のような武者姿。
虎を思わせる激しい闘気。

懐かしいとさえ思える。あの男と剣を交えるとき、主はいつも楽しげに笑っていた。
主が楽しいと『ソレ』も楽しかった。
だからあの男は嫌いではなかった。どうせ最後に勝つのは主だと信じていたから。

でも、あの男を連れていけば……そう、きっと主は喜んでくれるだろう。
あてもなく主を探すより、一時なりともあの素晴らしい武者ぶりを見せる男に駆られ戦場を駆ける――何とも心躍ることではないか。



『ソレ』は反転し、紅い星を追って走り出した。


往く先は南――人の言葉で言うなら、『太陽光発電所』。

732名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:50:41 ID:gfYyYlPy
 
733名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:50:41 ID:e80mUBR9
 
734名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:51:12 ID:zQqJaQX3
735 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:51:20 ID:7s0uCYuF
          ◆



船が見える。
数時間前、初めて刹那と忠勝がその言の刃を交えたところ。
行くときは時間がかかったが、戻るときはあっけないものだ――刹那はそんなことを考えていた。

バーサーカーの不死の宝具、十二の試練(ゴッド・ハンド)は死して初めてその効力を発揮する。
この場合で言えば、忠勝により潰された眼球のさらに奥、脳を掻き回されていれ即座に発動し、失った腕も再生させ逆襲に転じたことだろう。
だが、それは起こり得ないifでしかない。
小さき人間の助言により、宿敵は己の命を絶つのではなく、ただこの身の自由を奪うことだけに腐心しているのだから。

視界は閉ざされ、足は空を切るばかり。
残された右腕は騎士王の剣によって貫かれ、その上で戦国最強の豪腕に捕縛されている。
手詰まりなのだ。なにか、状況を動かすきっかけでもない限りは。
しかしバーサーカーはそれが遠くない内に訪れるものと確信している。
ヘラクレスの嗅覚は、この敵対する二者の命の輝きが刻一刻と小さくなっていくのを感知しているからだ。
どこに連れて行かれようと、たとえ深海だろうと溶岩流の只中であろうとバーサーカーを殺し切ることは不可能だ。
ならば今は待ちの一手。
何を仕掛けてこようとも、全て受け止め乗り越える。
そう決意するバーサーカーの耳に、当の人間の声が届く。

「そう言えば、名乗っていなかったな……俺は刹那・F・セイエイ。
 こっちはホンダム……いや、本多忠勝という。お前の名を、教えてくれないか?」

何を言われているか、狂化したバーサーカーには理解できない。
ただ、言葉が耳を通り抜けていくだけ。
しかしせめてもの抵抗として、

「■■■■■■■■―!」

威嚇、にもならないが。
屈してはいないと、止めを刺せと純粋なる戦意を叩き付ける。
物理的圧力さえ伴うような咆哮を至近で受けた刹那は、しかし揺らがず、

「話すことすら、できないのか……お前はまるで、俺だ」

風に揺れる柳のように、その意思を受け流す。
ひどく穏やかな瞳で忠勝を一瞥し、口を開く。

「戦うだけの人生……俺はずっと、戦ってきた。お前も、そして忠勝も……そうなのだろう?」
「…………」

忠勝はもう意を返さない。それを刹那が望んでいる訳ではないと知っているから。
だから、この狂戦士を押さえつけ、かの地へと到達することだけを己に課す。

「闘うことだけが俺の生きる証だった。だが、戦うということは……武器を持って敵を討つことだけが、戦いではない。
 己にできるそれぞれの方法で、己の意志を貫くこと。それこそが本当の戦いなのだと……そう、気付かせてくれた人がいる」

胸に去来するのは、あの人の姿。
かつて刹那の国を焼いた――しかし、それでも。
戦争を根絶する、その一点に置いて刹那と同じ未来を見ている人――
736名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:51:25 ID:gfYyYlPy
 
737名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:51:27 ID:e80mUBR9
 
738名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:52:20 ID:gfYyYlPy
 
739 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:52:34 ID:7s0uCYuF
「彼女に出会って、俺は見つけることができた。俺の戦う意味――俺だけの変革を」

刹那でさえ、変われたのだ。
かつて両親を殺し、祖国のためという盲目を抱えたまま飛び込んだ世界の本当の姿――戦争の中で。
ならば、誰だって変われる――トレーズ・クシュリナーダ、奴だってきっと。

「そう、今は……闘うだけの人生じゃない」

見えてきた。
刹那が目を凝らす。
あそこには刹那を待っているモノがある。
ずっと、ずっと共に戦ってきた己の半身。

ガンダムエクシア――その太陽炉が、刹那を待っている。
脳量子波の声に応え、発電所内のGNドライヴが起動する。貯蔵していた圧縮粒子を全面開放――


「そうでない自分がいる……俺は、ここにいる!」


イオリア・シュヘンベルグによってソレスタルビーイングに託された未来への希望。
世界を歪める者達への抑止力たる力。
見開いた眼は、虹色に輝いて。




「――――――――トランザム……!」



光の道が、空に架かる。
紛い物の赤ではない。どこか柔らかな温かさを持つ、淡い緑のGN粒子。
刹那を、己を操る資格持つただ一人のガンダムマイスターを迎え入れるように。
エクシアの太陽炉によって放出されるGN粒子が、発電所を、それどころかG-2エリア全域に拡がっていく。

ファングが、外部からチャージされたGN粒子によって息を吹き返す。
バーサーカーは闇に閉ざされた視界なれど、何かとんでもない事態が起ころうとしていることを察知した。
己に取っては後方、捕縛者にとっては前方。凄まじいエネルギーが渦を巻いて際限なく膨張していく。

もはや機を待っている余裕などないと、バーサーカーが一層の抵抗を開始した。
だが、

「………………!」

忠勝の背の飛翔滑走翼の上部、兵器格納スペースが展開した。
現れたミサイルポッドからいくつもの子機が射出される。

「■■■■■■■■――!?」

バーサーカーの動きが止まる。いや、止められた。
光の道を彩るように滞空した子機――小型の浮遊式ゲフィオンディスターバー、通称ゲフィオンネット。
本来ならKMFに対して用いられるこの兵器がは対人用になど設計されていない。
当然、バーサーカーを阻むことなどできるはずがなかった。
740名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:52:55 ID:e80mUBR9
 
741名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:53:19 ID:gfYyYlPy
 
742 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:53:39 ID:7s0uCYuF
そう、ゲフィオンディスターバーだけならば。

輝く真紅の領域に、深緑の風が流れ込む。
ゲフィオンネットによって形成・隔離された「場」に、GN粒子が満ち満ちる。
対流を開始するGN粒子。
粒子ビームを、そして実体を持つ物質さえも猛烈に対流するGN粒子が押し留める。
小型・低出力なれど、紛れもなくそれはGNフィールドであった。
指向性の強いGNフィールドは、うまく制御すれば個人単位で発動させることも可能。
そしてオリジナルの太陽炉が生むGN粒子は、人体に悪影響を与えることがない。

結果、刹那や忠勝には一切の悪影響がなく、ただバーサーカーのみを目標としたGNフィールド――GNネットが発動した。

どうすることもできず、バーサーカーはこの後予想される大破壊を覚悟する。
もはやこの二者――破壊者達は、自身の命など捨てている。バーサーカーと刺し違える気なのだ。
勝負とあらば、逃げる訳にはいかぬ。
大英雄ヘラクレスは全身に魔力を漲らせ、その時を待つ。



「済まないな……ホンダム。あの魔王……織田信長を、討てずに……」
「…………」

気にするな。
そういう意志を返してくることは知っていた。本多忠勝とは決して物事を他人のせいにする男ではない。
だが、と言い募ろうとした刹那の脳裏に、見知らぬ二人の男の顔が思い浮かんだ。

紅い、烈火撒き散らし双槍掲げる勇猛なる若虎
蒼い、紫電纏いし六爪の刃振るう不遜なる独眼竜。

忠勝の内に強く焼き付く、二人の男の姿。

「彼らなら……そうか、この二人なら必ずあの歪みを駆逐してくれる。そう言うんだな、ホンダム……?」

――応。

「そうか……では、思い残すことはないな。俺達がやるべきはただ一つ……」

極限までGN粒子を圧縮し臨界を迎えた太陽炉が、内側から発電所の上部を吹き飛ばす。
現れた、剥き出しの太陽炉。
呼応するように、忠勝の右腕、紅蓮吐き出す徹甲砲撃右腕部から輻射波動が炸裂する。

「■■■■■■■■■■■■■■――!?」

バーサーカーの全身を灼く痛み。かき集めた魔力が霧散していく。
帝愛グループの手に落ちたガンダムがエクシア一機かは分からない。
もしかしたらOガンダムも……いや、さらに悪くすればダブルオーすらも確保されているのか。
黒幕かもしれないイノベイターに、ツインドライヴは渡せない。
ガンダムマイスターとして、ガンダムの機密は守らねばならない。
だからこそ……

(エクシア……俺の、ガンダム。付き合ってくれ……最後まで)

破壊、しなければならない。
ガンダムを単なる破壊者に貶めさせないために。
ソレスタルビーイングの理念を守るために。
ツインドライヴを永遠に封印するために。
何より――刹那が“ガンダム”であるために。
743名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:53:43 ID:e80mUBR9
 
744名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:54:10 ID:gfYyYlPy
 
745名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:54:19 ID:1RgIwQ8N
746名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:54:56 ID:zQqJaQX3
747名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:54:58 ID:gfYyYlPy
 
748名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:55:04 ID:e80mUBR9
 
749 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:55:19 ID:7s0uCYuF
最後の加速。
目標点――GNドライヴ。
刹那の旅の終着点。
最期はせめて、ガンダムと共に――




「刹那・F・セイエイと本多忠勝、ガンダムエクシアが――」








いいや――ガンダムに、還る。










「――――――――――――――――――――――――未来を切り拓く!」







そして全ては、光の中に消える――……



750名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:55:46 ID:gfYyYlPy
 
751名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:56:06 ID:1RgIwQ8N
752名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:56:10 ID:e80mUBR9
 
753名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:56:14 ID:UiNoN4LK
 
754名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:56:17 ID:zQqJaQX3
755 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:56:19 ID:7s0uCYuF
          ◆



何かが身体を駆け抜けていく感覚。
トレーズは純白に染まった世界で覚醒する。

「む……う、うう……?」

意識が朦朧とする中、目を開いたトレーズの前にいたのはあの巨人だ。

(そうだ、私は……ッ!?)

気を失っていたのか、と腰の刀へ手を伸ばす。
だが、空を切る。
見下ろせば刀などどこにもない。それどころか、トレーズは一糸纏わぬ姿でそこにいた。
そして――

「なんだ……ここはどこだ!?」

そこは、倉庫群などではなかった。
一言で言うなら白い宇宙――そう、宇宙としか表現できないところ。
煌めく粒子がそこかしこに舞い視覚を狂わせる。
何が起こったのか把握できずにいたトレーズの前に、さらにもう一つの異形が飛び込んでくる。
いや、異形ではない。

「刹那・F・セイエイに……本多忠勝?」

下半身に牙の名を冠す鋼鉄の馬。
背に天へ舞い上がる翼。
右腕に全てを斬り砕く鉤爪。
正義成す一念のみを吠え猛るその眼光。
どれほど傷つこうとも矜持失うことなき戦国最強の武人、本多忠勝。

そしてその鎧武者に唯一残されたオリジナルの部分、左腕。
そこに座して全てを統括するはあのガンダムパイロット――トレーズを下した勝利者、刹那・F・セイエイ。

両者は巨人へと挑みかかっていく。
遠く離れた地で起こった出来事を目の当たりにしていると、トレーズは直感した。直感できた。

GN粒子が繋ぐ人の心。
唯一無二たるイノベイターの純粋種、刹那・F・セイエイが解き放った加速粒子はオーロラのように拡がっていく。
彼が、彼らが見た、想った――その全てを、後に続く者達へと託すために。
鮮烈なまでの意志がトレーズの身体を貫く。


武力による戦争の根絶。
戦国乱世を収めんとする三河徳川の旗印。
少女が掲げる完全平和主義。

万象を砕く破壊の巨人。
暗き闇纏う征天魔王。
虚ろな目をした銃使い。
騎士を名乗る少女。
そして、トレーズ自身の姿。
756名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:56:27 ID:e80mUBR9
 
757名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:56:30 ID:gfYyYlPy
 
758名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:57:12 ID:1RgIwQ8N
759名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:57:21 ID:gfYyYlPy
 
760名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:57:32 ID:zQqJaQX3
761名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:57:36 ID:UiNoN4LK
 
762 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:57:50 ID:7s0uCYuF
破壊による再生――再生の破壊。
彼らがこの闘争の庭で貫いた彼ら自身の軌跡が、早送りのようにトレーズの脳裏へと叩き込まれる。

鎧武者に身を預けていた刹那が振り返り、トレーズを見た。
彼は薄く笑み、小さく唇を動かす。


――トレーズ。お前も、変われ。ここで終わる、俺の代わりに――


そう、感じた。
耳から聞こえる言葉ではなく、魂にささやく想いとして。


――お前なら、より良い未来へと人を導けるはずだ。撃つことの痛みを、戦いの悲しみを知っているお前なら――


私にそんなことはできない、そう言おうとした。
だが言葉が出ない。喉が震えない。言葉が出せない。
もどかしくも意志を伝えようとする。そんなトレーズに構わず刹那は、


――俺達が……ソレスタルビーイングが、ガンダムが必要とされない世界を再生しろ。それが、勝者たる俺がお前に下す、たった一つの願い……祈りだ――


そう言い残して、前を向く。
巨人へと一直線に飛び込む二人。受け止められ、しかしじりじりと後退させていく。


――待て――


言葉ではなく、意志が迸った。
通じたのかどうか。振り返らない刹那が血まみれの腕を伸ばす。
指先がゆっくりと折り曲げられる。
親指と人差し指を伸ばした、銃の形。
やがて、人差し指も折り畳まれて、残ったのは天に突き上げられた親指のみ。


――世界を……変えろ。頼んだ、ぞ――


刹那が、忠勝が。
紅く尾を引く流星となって、巨人もろとも宇宙の彼方へと駆け抜けていく。

そして、一際強烈な光。
太陽のごとき、この世全ての悪を浄化せしめる審判の光が満ちていく。
あまりの光量に、トレーズは反射的に目を閉じた。
763名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:57:53 ID:e80mUBR9
 
764名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:58:02 ID:gfYyYlPy
 
765名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:58:43 ID:gfYyYlPy
 
766名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:58:48 ID:e80mUBR9
 
767 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 01:58:48 ID:7s0uCYuF
そして――次に目を開いたとき、そこは無惨に破壊し尽くされた倉庫群の一角だった。
身を起こす。腰にはちゃんと刀があり、衣服も身に付けている。

「なんだ……なんだというのだ、あれは」

トレーラーの影からふらふらと歩み出る。

「……これは……ッ」

トレーズが絶句したのは、様変わりした工業地帯の全容についてだ。
巨人と鎧武者の戦いにより破壊された――そんなレベルではない。
一面が瓦礫の山。遥か遠く、おそらくF-2の孤島すら肉眼で確認できる。
それほどに何もない。一切合切が理不尽なまでに破壊されている。
たとえ彼らといえどここまでの破壊は不可能ではないかと思われた。
これを成そうと思えば、モビルスーツ数十機による徹底的な攻撃が必要だろう。

「一体、何があったというのだ……」

言葉には出したものの。
知っている――トレーズは既に、その答えを得ている。
確信として胸にある。
これをやったのは刹那と忠勝――“ガンダム”を名乗る者達であろうと。
先ほどの白昼夢。否、もはや夢などではない。あれは現実に起こったことだ。
最後の光景で刹那らは巨人を抱え光の中へと溶け消えた。直後、極光が全てを塗り潰した。
どうしたかも、予想がつく。

「……太陽光、発電所。あれの動力炉を暴走させ、自爆したというのか」

一通り検分した限りではOZのモビルスーツ、あるいはガンダムすらも凌駕するほどの破格の高出力を示す謎の動力炉があそこにはあった。
GNドライヴ。確か、そういう名の。
ファングの動力でもあったGN粒子の無限精製炉。内蔵するエネルギーはファングの比ではない。
そこにあの勢いで高エネルギー体が二つ、同時に突っ込んだのだ。さぞ凄まじい爆発が起こったのだろう。
トレーズが無事だったのは単にトレーラーの影に倒れていたからだ。
もう少し場所がずれていたら、今頃は地震に巻き込まれ倒壊した建造物の下敷きになっていただろう。
だがそんなことはどうでもいい。
トレーズの心を支配するのはたった一つの感情。
それは――哀しみ。

「……馬鹿な。君が……敗者となるべき私が生き長らえ、勝者である君が逝ったというのか、刹那・F・セイエイ……!」

膝を、折る。
自身の生存などどうでもいい。
死すべきは彼ではなく、己だったはずなのだ。
なのに。
新たな未来を切り拓くガンダムのパイロットが、失われてしまった。

あの狂戦士。
生きたいと望む参加者全ての脅威を排除するため。彼ら彼女らに襲い来る苦難を、僅かなりとも打ち払わんがために、彼らは往ったのだ。
おそらくは、その中にトレーズも含まれている。
生かされた――敗者として死すべきこの身が、勝者の命を糧に救われた。
768名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:58:58 ID:JpxwWqAq
トレーズめ…
769名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:59:00 ID:e80mUBR9
 
770名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:59:09 ID:zQqJaQX3
771名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:59:34 ID:gfYyYlPy
 
772名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 01:59:38 ID:1RgIwQ8N
773 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 02:00:01 ID:7s0uCYuF
「私に変われと……変革を求めるのか、刹那……」

彼にかけられた言葉。
武力に拠らない世界をと願う、心からの願い。
ピースクラフトの名を継いだ少女から託された平和への祈り。


だがそれは敗北を望むトレーズには重すぎる、呪う約束。


「私、は……」


願いの矢は放たれた。
狙い撃たれ貫かれた、トレーズという人間の芯。
しかし、トレーズがそれを受け止めるかどうかは、まだ確定していない未来の話。
溢れ出る血を止めもせず、拡散していくGN粒子に包まれて。
男は一人、思考の海へと埋没していく……。





【E-4南部/一日目/日中】
【トレーズ・クシュリナーダ@新機動戦記ガンダムW】
[状態]:疲労(大)、左腕に銃創(貫通)、左大腿部に裂傷、右手首に軽い裂傷、背中を打撲
[服装]:軍服
[装備]:片倉小十郎の日本刀 マント
[道具]:基本支給品一式×2、薔薇の入浴剤@現実 一億ペリカの引換券@オリジナル×2、純白のパンツ@現実、千石撫子の支給品0〜2(確認済み)
    千石撫子の首輪、 ゼロの仮面
[思考]
基本:変革……
1:…………
[備考]
※参戦時期はサンクキングダム崩壊以降です。

774名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:00:10 ID:e80mUBR9
 
775名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:00:18 ID:zQqJaQX3
776名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:00:33 ID:1RgIwQ8N
777名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:00:37 ID:UiNoN4LK
 
778名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:00:39 ID:gfYyYlPy
 
779 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 02:01:12 ID:7s0uCYuF
          ◆


ごぼり、と。水面に気泡が浮かぶ。
一瞬ごとにその数は増えていき、やがて泡は影となって外界へとにじみ出る。
砕けた堤防の外壁へ、現れたモノが喰らいつく。

それは、腕だ。
人のものとは思えぬほどに太く、硬い。鉄条を束ねて成したかのような、ひどく無骨で禍々しい、腕。
それがもう一つ増え、大地を掴む。二本の腕が、その本体を引き上げた。

屹立したのはバーサーカーのサーヴァント。
腕、脚、胴、頭。何一つとして欠けるところのない、完全なる姿。

水面から脱し、バーサーカーは振り返る。
そこにはもはや何もない。誰も――いない。
巨大な太陽光発電所は跡形もなく、どころかエリアそのものが消失していた。
爆発の余波は余程凄まじかったようで、現在バーサーカーがいるF-2エリアのみならず見渡す限りの工業地帯ほぼ全土に影響を与えたようだ。
倉庫群は薙ぎ倒され、視界が広く開けている。
地盤にもダメージが大きかったらしく、バーサーカーの見ている先で次々に路面がその身を崩していく。

三度刃を交え、幾度となくこの身を斬り裂いた戦国最強も。
聖剣の真名を解放し人の身でバーサーカーを屠り去った革新者も。
変革の刃、ガンダムエクシアの心臓部たる太陽炉も。

一切合切が、もはやこの地にいかなる残滓も残してはいない。
勝利――そう、バーサーカーは勝利したのだ。
戦国最強とガンダムマイスターの命を賭した一撃は、バーサーカーという歪みを消し去ること敵わず。

破壊による再生は成し遂げられなかった。

だが。
決して、その死は無為ではない。無為であるはずがない――そう、他でもないバーサーカーが誰よりも知悉している。
この身を包む不死の衣、ゴッド・ハンド。
彼ら――彼ら自身の言葉を借りるなら“ガンダム”の一撃は、その防壁を全て駆逐していった。
もはやこれが最後の命。後退はなくなったという訳だ。

バーサーカーを討ち取るには至らなかった。
だが確かに、この身に破壊者達の刃は届いたのだ。

首級は二つ上げた。その内の一つは最強の敵手と認めた武人。戦果は文句のつけようがない。
しかし代償として、全ての装備と堅固なる護りを喪失してしまった。
切り札――神造兵装、星が鍛えたというセイバーの宝具、“約束された勝利の剣”も、また。

あの瞬間。
エクシアのGNドライヴが死に逝く刹那・F・セイエイの意志を受け自ら暴走を開始し、放出されたGN粒子が爆発する寸前。
一手速く、バーサーカーは力の緩んだ刹那の腕を握り潰し聖剣を奪い取り、青年の心臓へと突き刺した。
鋭刃は刹那の身に留まらず後背の本多忠勝の中枢をも撃ち貫いたはずだ。
その瞬間に圧縮されたGN粒子が爆発した。一瞬にして目前の敵が消滅し、バーサーカーもまた同じ末路を辿るはずだった。

だが、そこでバーサーカーは諦めはしなかった。
ありったけの魔力を注ぎ解放し聖剣から放たれた闇は、加速粒子とせめぎ合い、相殺し合った。
が、英霊ヘラクレスの魔力を以てしても二人の破壊者の命の輝きを凌駕するには至らず。
魔力の大河を突き抜け我が身を灼く痛み。あの痛みこそ一瞬とはいえ神代の英霊と宝具を今に在る“ガンダム”が凌駕したという証。
バーサーカーの掌中に残ったのは聖剣の名残り、装飾の施された柄のみ。
そして今、柄は砂となって消えた。
「究極の幻想」は、変革する人の想いによって、砕かれた。
780名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:02:15 ID:gfYyYlPy
 
781 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 02:02:43 ID:7s0uCYuF
生きることが戦いというのなら、確かに勝利者はバーサーカーであろう。
だが武人として威を尽くすことを闘いというなら、これは紛れもなくバーサーカーに取っての敗北――“ガンダム”達の勝利だ。


無手となったバーサーカーは歩き出す。
戦斧に、聖剣に、戦槌に代わる獲物を探さねばならない。
これ以上の敗北は許されない。
さらなる力を、強大無比なる破壊の刃を求め、その眼光は輝きを鈍らせず。

まともに歩けもしない瓦礫の山を跳躍を繰り返し進む。
船着場があった辺りまで来ると、幾艘もの船が座礁しているのが見えた。
興味もなくそれらを眺めていたバーサーカーだったが、きらりと陽光を反射するものに気付く。
近寄り、岩塊に手を突っ込み引っ張り出す。
それは一言で言えば碇だった。停泊した船を港に留めておくための、碇。
しかしその側面は鋭い刃となっている。重量もかなりのもの、あの斧ほどではないとはいえ充分にバーサーカーの剛力に耐えうる逸品。
新たに手に入れた獲物に満足し、意気揚々と走り出すバーサーカー。

十分もしないうちに、その鷹の眼は新たな発見を得る。
瓦礫に埋もれるようにして倒れているのは、数時間前に交戦した征天魔王が駆っていた豪壮な軍馬。
どうやら爆風に煽られたらしい。横倒しになった馬は気を失っているようだった。
近づくと、足音で気付いたか軍馬は新たな主が来たと嘶く。
近づいてくる軍馬。巡る顔がバーサーカーの腰辺りで一度停滞し、次いで向けられたのは敗北と恭順の視線。


真田幸村かと思い追ってきた軍馬だが、当てが外れたようだ。
請われれば誰でもこの背に乗せる気はあったものの、さすがにこの巨漢を乗せられそうにない。
だからせめて自ら頭を垂れ、荷物持ちでもして仕えようとした。


だが。


「■■■■■■■■■――!」


約束された勝利の剣を発動させたバーサーカー。
本来の担い手ではない英霊が無理やりに、しかも歪められた魂のまま全力で用いた結果が今の生存だ。
当然のこと、引き換えにしたものはあった。
すなわち、魔力。霊体を世界に留めるための力。
バーサーカーのクラスにはそれほど必要ではないとはいえ、枯渇すれば現界していることができない。
まだこの舞台を降りる訳にはいかないのだ。何より、戦で果ててこそ武人というもの。
さて、マスターのいない今、魔力を回復させるためにはどうすればいいか。
まず思いつくのは他者の魔力の吸収。
キャスターあたりなら効率の良い吸魔の手管もあろうが、バーサーカーたるこの身では望むべくもなく。
それが敵わないのであれば自力での回復を待つしかない。
そして振り下ろされた錨槍が、狙い違わずその意を遂げる。

ザシュ。重い物が落ちる音と共に激しい水音が路面を叩く。
バーサーカーたる己がマスターに頼らず代謝能力を上昇させるには何が一番効率的か。

決まっている。

喰らうのだ。

新鮮な肉を。生きた栄養を。



すなわち――伊達政宗の愛馬。
782名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:02:57 ID:zQqJaQX3
783名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:03:01 ID:gfYyYlPy
 
784名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:03:06 ID:1RgIwQ8N
785名無しさん@お腹いっぱい。:2009/12/14(月) 02:03:08 ID:e80mUBR9
 
786 ◆L5dAG.5wZE :2009/12/14(月) 02:03:35 ID:7s0uCYuF
断末魔の声もなく、軍馬はその身を横たえた。
首を落とされた馬はビクビクと痙攣している。
碇槍を地に突き刺し腰を下ろしたバーサーカーは、両の手で馬の脚を掴み、引き千切る。
噴き出す血潮。熱い奔流に打たれながら顎を開く。
生のままの肉に喰らいつき、骨を噛み砕く。嚥下するのは命そのもの。


ささやかな食事の時間は過ぎていく。
もう破壊者達に思い煩うことはない。
バーサーカーが往くはマスターへと続くただ一つの道。
修羅の世界、渦巻く闘争の爆心地を真っ直ぐに突っ切るのみ。



自らの肉体が解体されていく音を聞きつつ、虚ろな軍馬の瞳だけが狂戦士を視ている。





【本多忠勝@戦国BASARA  死亡】
【刹那・F・セイエイ@機動戦士ガンダム00  死亡】

【伊達軍の馬@戦国BASARA  ご馳走様】



【F-2東部/一日目/日中】
【バーサーカー@Fate/stay night】
[状態]:魔力消費(大)、狂化、満腹
[服装]:全裸
[装備]:長曾我部元親の碇槍
[道具]:なし
[思考]
基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。
1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、イリヤの元へと戻る。
2:キャスターを捜索し、陣地を整えられる前に撃滅する。
[備考]
※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3は使い切りました。以降は蘇生不可能です。
 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。
  現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works
            おもちゃの兵隊、ドラグノフ、大質量の物体、一定以下の威力の刃物、GN粒子を用いた攻撃、輻射波動、ゲフィオンディスターバー


【長曾我部元親の碇槍@戦国BASARA】
長曾我部軍の総大将・通称アニキ、長曾我部元親の振るう文字通りの碇槍。
元親の身長以上の全長を誇り、碇そのものとしても充分使えそうなほど大きい。
特に変わった能力はない……はずだが、元親はこの碇に乗ってサーフィンするがごとく海面を走っていたりする。



※スローネツヴァイのファング、エクシアの太陽炉、エクスカリバー、他忠勝・バーサーカーの装備は全て消滅。
※武田信玄の軍配斧はE-4に放置されています。
※G-2エリア付近が完全に消滅。また震動で南部工業地帯が崩壊しました。時間の経過と共に地盤も崩れていきます。
※会場に刹那の意識が拡散(トランザム・バーストとほぼ同様)。
※トレーラーは起こされたが走行は不能。
※伊達政宗の馬はバーサーカーに食べられました。
※刹那の装備、荷物はE-4に散乱しています。