あの作品のキャラがルイズに召喚されました part259

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら? そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました part258
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1256123513/
まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃  `ヽ   .  ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!
     _       
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/06(金) 21:12:35 ID:SbVfWXeZ
テンプレ以上

スレ立て終了
3名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/06(金) 21:15:21 ID:hwTg3gzU
4名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/06(金) 21:15:44 ID:KeGLiFt1
>>1
5名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/06(金) 21:24:11 ID:kk1MiQSK
乙です
6カオスヒーローが使い魔:2009/11/07(土) 03:13:37 ID:0JSZKVjt
不覚にも前スレ512k超えてしまったのでこちらに続きを。申し訳ありません。

最後に残されたルイズは教室で掃除。他の生徒はとっくに食堂に行って昼食をとっている。
魔人は手伝うわけでもなく、一人で掃除しているルイズを見ていた。
「ちょっと、見てないで手伝ってよ」
「ごめんだね」
「じゃあ何でここにいるのよ!笑いに来たなら消えてちょうだい!」
それでも魔人は立っていた。
「俺のいた世界にメギドって魔法がある」
はぁ?何言ってんの?ルイズが首をかしげる。
「最強の攻撃魔法だ。あれを喰らって平気な奴はまずいねぇ。上位の悪魔でも無傷じゃすまねぇな」
「何の話をしているのよ?」
「おまえ、魔法が使えないと思っているようだが、しっかり使ってるぜ。それもかなり上級な魔法をな」
魔人がコツコツとルイズに歩み寄ってくる。
「それに俺を召喚したのはお前だろ?2つも使えてるんじゃねぇか。ゼロじゃないぜ」
ルイズはようやく気がついた。魔人は自分を励ましてくれているんだ。な、何よ。意外といい奴じゃないっ。
「だ、だったら使い魔の契約してよ」
「それとこれとは話が違うな」
この流れだったら契約してるれると思ったのに!やっぱり嫌な奴よこいつは!
「それと、お前ら勘違いしてるようだから言っておくぜ。俺は仲魔に危害を加えるつもりはねーよ」
それを聞いてルイズは疑問が解けた。どうして契約を拒否するのか。どうして学院に残ってくれているのか。
はじめてあった時のあの殺気を今はもう、何故出さないのか。その気になればここを飛び出してもとの世界に
帰る方法を自力で探しに行ったり出来る筈なのに。

仲魔だったのだ。召喚し、一緒についてきてくれたあの時から。彼はもう私の仲魔になっていたのだ。仲魔とは
対等な関係。主従の関係じゃない。そうか、そういう事だったんだ。
「少し、アンタのことがわかった気がする」
「そうか。ならお喋りはここまでだな。早く掃除しないと飯の時間がなくなるぜ」
「わかってるわよ」
そういって掃除の続きを開始する。
「ねぇ」と言いながらも手を止めないルイズ。
「なんだ」
「カオスヒーローって名前じゃ長くて呼びにくいわ。カオスって呼んでもいい?」
「好きにしろよ」
どっちみち、彼の本名ではないのだ。
「それじゃ、カオス。このゴミを捨てたら食堂に行くわよ」
「やれやれ、やっとか。廊下の向こうにいる奴らも腹ペコだってよ」
「え?」
誰かいたの?全然気がつかなかった!走ってドアを勢いよくあけるとそこに立っていたのは意外な人物だった。
「キュルケ?アンタ何してるのよ・・・。それに、タバサ?」
キュルケにはしょっちゅう絡まれているが、タバサと話したことはほとんどない。そんな二人が何のようだろう。

「あらルイズ、まだ終わってなかったの?まったく、遅いわね〜。だから成長も遅いのよ」
「何ですってー!」
二人がいつもの様にいがみあう。そんな二人を尻目に青い髪にメガネをかけた少女タバサがカオスに近寄ってきた。
「何のようだ?」
「・・・あなた強い。憧れる。私も強くなりたい」
それを聞くとクククと笑いながら
「悪魔に魂でも売るんだな」
とだけ答えた。

今日はここまでです。色々とご迷惑をかけてしまいました。悪魔に体をのっとられたようです。
7名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 03:37:55 ID:rlq5hiuK


とりあえず専ブラ入れような。

入れているなら設定見直しておいた方が良い。
容量警告機能がついていると思うんで。
8名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 04:00:19 ID:FY//bl1C
>>1
鋼の人はまだか? 血と汗と涙を流す日々はつらいぜ
9名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 06:52:17 ID:wxPo2HEy
更新乙でした。
見事なまでの傍若無人ぶりは流石カオスヒーロー。
おマチさんも相手の実力の片鱗を見たから迂闊な行動は出来なくなるかな?
10名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 07:10:19 ID:YDMJRGNl
乙。
まぁドンマイ。次気をつければいいさ。
話は面白いのでwktkしつつ正座待機。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 08:41:05 ID:5dhj4Wn9
乙乙

そうか……仲魔、仲魔だったんだなぁ
12名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 16:21:07 ID:eiVGtWgn
規制はあとどんだけあるんだろう…
13名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 16:53:57 ID:WOS0oS3B
マイナーなギャルゲーSS祭りを開催したいです。
マイナーなギャルゲーSS祭り!

1. SS祭り規定
自分の個人サイトに未発表の初恋ばれんたいん スペシャル、エーベルージュ、センチメンタルグラフティ2、canvas 百合奈・瑠璃子のSSを掲載して下さい。(それぞれの作品20本)
EX)
初恋ばれんたいん スペシャル 20本
エーベルージュ 20本
センチメンタルグラフティ2 20本
canvas 百合奈・瑠璃子 20本
ダーク、18禁、クロスオーバー、オリキャラ禁止
プレーンテキストで20KB以下禁止、20KB〜45KB以内

2. 日程
SS祭り期間 2009/11/07〜2011/11/07
SS祭り結果・賞金発表 2011/11/08

3. 賞金
私が個人的に最高と思う最優秀SSサイト管理人に賞金10万円を授与します。
14名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 16:54:39 ID:WOS0oS3B
(1) 初恋ばれんたいん スペシャル
初恋ばれんたいん スペシャル PS版は あまりのテンポの悪さ,ロードは遅い(パラメーターが上がる度に、
いちいち読み込みに行くらしい・・・)のせいで、悪評が集中しました。ですが 初恋ばれんたいん スペシャル PC版は
テンポ,ロード問題が改善して 快適です。(初恋ばれんたいん スペシャル PC版 プレイをお勧めします!)
初恋ばれんたいん スペシャルは ゲームシステム的にはどうしようもない欠陥品だけど。
初恋ばれんたいん スペシャル のキャラ設定とか、イベント、ストーリーに素晴らしいだけにとても惜しいと思います。

(2) エーベルージュ
科学と魔法が共存する異世界を舞台にしたトリフェルズ魔法学園の初等部に入学するところからスタートする。
前半は初等部で2年間、後半は高等部で3年間の学園生活を送り卒業するまでとなる。
(音声、イベントが追加された PS,SS版 プレイをおすすめします。)

(3) センチメンタルグラフティ2
前作『センチメンタルグラフティ1』の主人公が交通事故で死亡したという設定で
センチメンタルグラフティ2の主人公と前作 センチメンタルグラフティ1の12人のヒロインたちとの感動的な話です
前作(センチメンタルグラフティ1)がなければ センチメンタルグラフティ2は『ONE〜輝く季節へ〜』の茜シナリオを
を軽くしのぐ名作なのではないかと思っております。 (システムはクソ、シナリオ回想モードプレイをおすすめします。)

(4) canvas 百合奈・瑠璃子シナリオ
個人的には 「呪い」 と「花言葉」 を組み合わせた百合奈 シナリオは Canvas 最高と思います。
15名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 19:09:12 ID:JVrlGBKD
書き込めるかな?
16ゼロの戦闘妖精:2009/11/07(土) 19:20:50 ID:knj3dS0g
ご無沙汰しております。
『ワル平犯科帳』こと『ゼロの戦闘妖精』です。
他に投下する方がいらっしゃらなければ、五分後より開始します。
17Misson 07 1/9:2009/11/07(土) 19:25:49 ID:knj3dS0g
Misson 07「全系統使用不可」(後編)

その夜 魔法衛士隊 グリフォン隊隊舎は物々しい空気に包まれていた。
十数機の大型投光器が照らし出す空には、監視役の隊員が多数飛び回っている。
高度500メイルに8騎。火の系統も併せ持つ者は 浮遊式のライティングの術を使い 侵入者に備えているが、これは囮である。
ライティングの光も届かぬ 高度1500メイル、こちらの8騎こそが本命。闇に潜み、獲物を待っている。
もちろん、地上にも多数の隊員が待機している。
体制は万全の筈だった……普通の相手なら。

漆黒の大地に キラキラと輝く小さな点。
高度一万メイルから ルイズが見たグリフォン隊隊舎だった。
(ちょっと、上がり過ぎたわね。
 雪風、上段の部隊に高度を合わせて 南側からアプローチ。
 グリフォンを気絶させて、撃墜。可能な限り負傷させないこと。
 グリフォンも、もちろん人間も。
 出来る?)
雪風は、昼間の黒ワイバーンの件のデータから、グリフォンへの攻撃をシュミレートする。
《No problem.》

魔法衛士隊員の乗騎のうち、そのほとんどは『使い魔』ではない。捕獲した野生種か、育成獣舎で繁殖させたものである。
しかし 隊員と乗騎の繋がりは、生半可なメイジと使い魔の『絆』よりも よっぽど深く強い。
ゆえに グリフォン隊の隊員にとって 愛騎は既に自分の身体の一部も同然である。
その愛騎が、今夜は妙に暴れる。何かを嫌がるように抵抗する。
騎士には判らなかった。幻獣が その鋭敏な感覚で、雪風のレーダー波に反応していたという事に。
そして 人間にも感じ取れるもの、重低音と高音の入り混じった ジェット機特有の飛翔音に気付いた時点では、既に遅すぎた。

暗闇の空 迫り来る轟音、想像を超えた何かの強襲。何一つ対応することも出来なかった。
自分の直近 わずか1〜2メイル先を駆け抜ける 巨大な黒い影。そして 風塊。
竜巻のような方向性すらない 無秩序な暴風が、幻獣と騎士を翻弄する。
人間の方はグリフォンにしがみついて かろうじて無事だったが、支えとなるものの無い獣は 頭部を激しく揺すぶられ、意識を失い落下していった。
「えぇい、こちらを先に襲うとは!」
高高度の襲撃班は、謎の敵により一瞬で4騎を落とされていた。
「副長、いっ今のは?」
残った隊員は 班の指揮官であるサジマ副長に問う。
「判らん。だが、敵だ!
 先に発見された以上、闇に隠れるのは もはや無意味。
 各騎 ライティング、可能な限り広域を照らせ! 囮班と合流するぞ。」
先ほどの攻撃を考えれば、密集した場合 一撃で全滅する可能性もあった。だが あえて副長が合流を選んだのは、ベテランの直感(一対一では、アレには勝てない)だった。
まだ その姿さえ拝んでいない相手に対して 即座にその判断を下せたのは、多くの実戦経験の為せる業か。しかし…
18Misson 07 2/9:2009/11/07(土) 19:28:06 ID:knj3dS0g
高度1000メイル付近。降下した襲撃班4騎と 上昇した囮班6騎が合流する。
「落下した4名は、こちらの2騎が付き添って地上へ降ろしました。
 一体何があったんです!」
「襲撃を受けた。敵は1騎だが 恐ろしく速い!
 風を纏っての体当たり いや、脇をすり抜けていっただけで あのザマだ。」
「そっ それは…」
「サジマ様。して、相手の姿は?」
「ユーゴか。うむ、闇の中 それも一瞬の事ゆえ、不覚にも何も見えなんだ。すまん。」
「実は 私、あのモノの鳴き声と言うか 音に聞き覚えが…」
「なにっ、よし ユーゴ、お前は攻撃に加わらんで良い。だが絶対に落とされるな!
 敵の正体を見定め、御頭に報告するのだ。」
「はっ!」 
「他の者は、魔法攻撃 準備!
 目で追おうとするな、音を聞け。進路の先を読め。
 私の合図で 一斉に放て、一撃したら 即座に次の呪文を唱えよ。
 仕留めるまで 何発でも撃つぞ!」
『『『了解!』』』

遠ざかっていった音が、再び迫ってくる。雪風のセカンドアタック。
「総員、撃てぇぇぇ!」
まだ姿は見えなかったが、次の攻撃の詠唱にかかる時間を考慮して 早めに初弾が放たれる。
前方の闇に向かって飛んでいく エアハンマー・エアカッター 計9発の攻撃魔法。
手応えは…無し!
「来るぞっ。
 耐えろ、詠唱も止めるな。すれ違いざまに もう一撃だ!」
無理は承知で そう命ずる。
照明の届く範囲に 巨鳥とも飛竜ともつかない黒い影を見たと思った瞬間、それは 隊員達の間を駆け抜けていった。
吹き荒れる乱気流、今度は不意打ちではない。にもかかわらず また2騎が飛行不能となった。
「逃すな、撃てぇ!」
姿は捉えた、もう外さない!
放たれたのは、不可視の風魔法7発。見えぬ攻撃 避けられるものではない!だが・・・
「馬鹿なっ。」
すべて 外れた。いや 避けられた。
剣術の達人が 相手の剣筋を見切って動く様に、最小限の動きで全弾回避された。
「あやつ、化物か!?」
『部隊の知恵袋』と呼ばれるサジマ副長でさえ このような相手と出会った記憶は無かった。
19Misson 07 3/9:2009/11/07(土) 19:30:44 ID:knj3dS0g
そもそも 風系統のメイジによって構成されたグリフォン隊が 雪風と戦う事自体が不運なのだ。
雪風の装備する『空間受動レーダー』は、大気の流れを精密に把握する 即ち「風を読む」装置である。
その機能と ルイズの魔法知識を合わせれば、風の攻撃魔法は ほぼ確実に回避可能だった。
そして、
「アレは、昼間のアイツだぁ〜。 間違いない!」
攻撃隊から やや離れた位置で偵察任務についていたユーゴ隊員は、隊長への報告のため 即座に降下していった。

「えぇいっ、上は一体 どうなっておるのだ!」地上で苛立つワルド隊長。
飛行不能の自騎をフライやレビテーションで支えながら 次々と降下してくる隊員達。
だが 彼らの証言からは、
「黒い影が・・・」
「凄まじい速さで・・・」
「暴風に巻き込まれて・・・」
と、相手の正体が さっぱり見えてこない。
(ぬかった。上空部隊に『偏在』を仕込んでおくべきだったか。)
今晩 攻めてくるのは、ルイズとその使い魔の筈だ。この惨状は、その使い魔によるものなのか?
ひょっとしたら 昼間の盗賊団が、捕われた仲間を奪還に来たのでは?
いや それは無い。裏の情報屋や吟遊詩人に金を渡して 市中には、『賊は全員殺された』と偽情報を流してある。
ならば・・・

「御頭〜ぁ!」
そこに 墜落するかのような勢いで降りてきた一騎。乗員は、グリフォンが着地するのを待てずに フライでワルドの元へ。
「ユーゴか、どうした!」
「ヤツです、奴が来ました!例の『奇妙なガーゴイル』です!!」
「やはり そうか!」
「まったく、これから 世間知らずのお嬢様にお灸を据えてやろうって時に、盗賊の残党が襲ってくるとは・・・」
「それは違うぞ、ユーゴ。
 あれこそが、ルイズの言っていた使い魔『雪風』だ。」
「へっ?」
「貴様も自分で言っていただろう。『賊の一味にしては、行動が妙だった』と。
 事件の現場には 彼女も居たのだ。それをもっと考えるべきだった。」
「あの〜、どういうことでしょうか?」
「黒ワイバーンの逃げ足の速さを見て ルイズは、貴様では追いつけないと思ったのだろう。
 だから、自分の使い魔に賊の足止めをさせたのだ。」
「なんと!」
ワルドは、地上部隊全員に号令を発する。
「上空で暴れているのが ヴァリエール嬢の使い魔『雪風』である。
 これは ワイバーン如きは歯牙にもかけぬ程の強敵と判明した。
 よって 部隊総懸かりで当たる。
 全騎、上がれぇ!」
20Misson 07 4/9:2009/11/07(土) 19:34:20 ID:knj3dS0g
何回目かのアタックを終えて グリフォン隊と距離をとったところで デルフリンガーが言った。
〔なぁ嬢ちゃん、こうやってチマチマ攻めて、最後の一騎まで落としちまうつもりなのかい?〕
(まぁ 今回のルールから言えば、その必要は無いんだけどね。
 どうせなら 出来るだけ多くの先輩騎士に、雪風の力を実体験してほしいのよ。後々 その方が動きやすいでしょ。
 それで 次のアタックだけど、何発かワザと避け損なうからね。デルフ、ヤれる?)
〔やっと出番か 任せとけ。待ちくたびれちまったぜ!〕
そこに 雪風が割って入る。
《マスター:報告
 地上より 32個の飛行物体が上昇中。グリフォン及び騎士と確認。》
(雪風、デルフ、本隊が来たわ。気合入れてかかりなさい!)
〔応よ!〕 
《マスター:要請
 「気合」=不明。要 詳細入力》
(あのねぇ雪風、こういう時は 空気読みなさいよ!
 『気合』は、後で説明してあげるから!!)
《マスター:報告
 空気読む=空間受動レーダー 正常作動中》
(…もう いいわ。
 雪風 先ほどの指示 撤回して。)
《R.D.Y》
〔…相棒よぉ…〕

グリフォン隊 地上班が合流したとき 残っていた上空班は僅か3騎だった。
「サジマ、どうだ戦況は?」
その状態で かろうじて部下を守ってきた副長は、隊長の問いかけに、
「はっ。
 敵は 一撃離脱の戦法を執り、乱気流にて騎獣を撃墜しております。
 そのため ライティングの届く範囲に留まるは ほんの一瞬。狙い撃つは困難。
 また こちらが闇に隠れても 変わらず攻撃されることから、相当に夜目が利くものと思われます。
 音を頼りに 先読みで魔法を放てども、あたかも風が見えるかの如く回避するのです。
 最早、打つ手が思い浮かびません。」
「ならば 避ける隙間も無い程の飽和攻撃、これしかあるまい。
 少々 騎数が足らんかもしれんがな。」

《マスター:警告
 一騎の騎士の周囲に、高圧電荷の発生を確認。小規模の雷雲と推測》
(ライトニング・クラウドね。デルフ、あれにするわ!)
〔へっ しょっぱなから キツいのを選んでくれるぜ。〕
21Misson 07 5/9:2009/11/07(土) 19:38:24 ID:knj3dS0g
雪風が飛行速度を敢えて一定にしているため 上空部隊はその速度に慣れてきていた。
サジマ副長が、方向とタイミングを計って全隊員で放った 魔法の一斉攻撃が雪風を襲う。
その全てを回避し 脅威の機動性を見せつける雪風。
だが 部隊の中でただ一人、ワルド隊長は同時攻撃に参加しなかった。
部下達の攻撃が避けられる事を前提に、回避終了後の雪風の位置を見切ろうとしていたのだ。
その目論見は成功し、まさに今 必殺の雷を放とうとする瞬間、雪風は90度右ロールし 機体下面を向けた。
(何だ?)訝しがるワルド。それでも 魔法発動は止めない。
「如何に素早くとも、雷撃をかわす事は出来まい!」

確かに その一撃は雪風に届いた。いや 正確には『吸い込まれた』。
雪風が吊り下げていた一本の剣、雷はそれに当たった。むしろ剣に引き寄せられた。
それだけだった。落雷の轟音も無く、雪風が壊れる事も 爆発が起きる事も無かった。
ワルドは その剣が、ルイズが見せた魔法剣『デルフリンガー』だったことを思い出す。
「魔法吸収・・・だと!?」

高速で容易に姿を捉えさせず、並大抵の魔法は避け切り、回避できなければ吸収する。三段構えの防御体制。
(ルイズが『空戦無敵』と言い切った 自信の元はコレか!)
副長のセリフではないが、確かに 空中では「打つ手が無い」。
「全騎 地上に降下するぞ!
 ルイズも、練兵場に剣を突き立てる為 あのバケモノから降りねばならん。
 いささか卑怯だが、そこを押さえる。」
次々と降下する隊員達から離れ、副長がワルドに問いかけた。
「御頭、この一戦は 確か『入隊試験』でしたな。
 既に ヴァリエール嬢の実力の程は判りました。もう よろしいのでは?」
眉間に皺を寄せ 口元を歪めるワルド隊長。だが、
「そうはいかん。グリフォン隊の、いや オトコの面子というものが…」
「なるほど。結婚前から『尻に敷かれる』ワケにはいかない と、
 ですが 御頭。」
「なんだ。」
「妻帯者としての経験から言わせていただければ、
 それは、『無駄な抵抗』ってもんですよ。」
ワルド隊長、ニガ虫を千匹位 まとめて噛み潰したような表情で降下していった。

〔おい嬢ちゃん、あいつら皆 降りてっちまったぜ?〕
(さすが隊長、判断が早いわね。でも、それも予想のウチよ。
 雪風 『精密爆撃モード』、投下目標 練兵場 中央。)
《ターゲット、ロック完了》
(投下タイミング その他、任せるわ。)
《R.D.Y. カウントダウン 30、29、・・・》
〔ちょっと待て嬢ちゃん、何だよ『爆撃』ってのは?〕
(さあデルフ、後は貴方が「グサッ」っと地面に突き刺されば 私達の勝ちよ!)
〔相棒ぉ〜 まさかたぁ思うが、俺をこの高さから おっ放り出そうってんじゃ・・・〕
《20、19、18、・・・》
〔なぁ、冗談だろ?〕
(デルフ。確か 格好良く『ビシッと決めて』くれるんだったわよね?)
〔いくら俺が丈夫だからって、限度ってもんが!〕
《12、11、10、・・・》
〔ほら、俺って 空とべねぇし・・・〕
《7、6、5、・・・》
〔イヤだ〜、死にたくねぇ〜!〕
《2、1、0 》
〔うわァァァァァァァァァ・・・・・・〕(いってらっしゃ〜い。)
22Misson 07 6/9:2009/11/07(土) 19:43:29 ID:knj3dS0g
空の怪物が、着陸したところを攻撃する。その瞬間を待っていたグリフォン隊員の頭上から 降ってきたのは、
「欠ける折れる壊れる死んじまうぅぅぅ〜〜〜
 たぁーすけぇてぇぇぇえぇ〜〜〜」
という 情けない悲鳴と、『ドス〜ン』という落下音だった。
墜落に伴い 濛々と上がる土埃。それが晴れると…
一本の剣が 大地に深々と突き刺さっていた!
「ウウウゥゥゥ…
 ヒデーよ嬢ちゃん、ヒデーよ 相棒ぅ。
 なにも 落っことすこたぁ ネーじゃねーか。
 作りモンの かりそめの命たぁいえ、生まれてこの方六千年、こんなヒデー扱いされたこたぁネーよォ(泣)!」
そのころ、雪風のコクピットでは、
《着弾 確認》
(デルフ〜、生きてるぅ?
 今夜は もう遅いから、私達は帰って寝るわ。「明日 また来る」って、ワルド隊長に伝えといて。じゃぁね〜)
「うぉーい!置いてきぼりかよー(涙・泪)!」
さめざめと泣くインテリジェンスソードに、グリフォン隊隊員全員から 深い同情が集まった。

「完敗…ですな。」
肩をすくめて笑う サジマ副長。
「ああ、やられたよ。
 だが、あれが我が部隊の戦力になるかと思えば、それはそれで楽しみでもあるな。
 とはいえ、今夜は酒でも飲まんと 寝られそうも無いぞ。」
嬉しさ半分、悔しさ半分、その他少々といったところの ワルド隊長。
「どうです、あの『デルフリンガー』とか言う剣の事情聴取を肴に、ちょいと一杯などというのは?」
「おっ、いいですなぁ〜。御頭、ぜひ私も ご相伴に預からせていただきたく…」
「私も。」「自分も。」「俺も。」「拙者も。」
地獄耳揃いの隊員達が、我も我もと集まって来る。
「よーし、
 誰か、そこのデルフリンガー殿を引っこ抜いて 会議室までお連れしろ!
 それと、倉庫から酒樽持って来い!!」
『了解!!!』
かくして始まる、ヤケ酒の宴…。

翌日の放課後、ルイズと雪風は 再びグリフォン隊舎を目指していた。
デルフリンガー経由で「これから行きます」と連絡しておいたので、迎撃される事はなかったが、
練兵場の 昨晩デルフが刺さっていた辺りに着陸すると、待ち構えていた大勢の隊員達に取り囲まれてしまった。
(やだっ、昨日ので そんなに恨まれちゃったの!?)
ルイズは身構えたが…
「ヒューヒュー」「ドンドン」「ワーワー」「パフッパフッ」「イエェーイ」!!!
一斉に鳴らされる口笛や鐘 太鼓、喇叭に法螺貝、パーティ用のクラッカー。
後ろの方には『歓迎 ルイズ&ユキカゼ』の横断幕まで掲げられている。
安堵したルイズ、思わず 脱力。
「とっ とりあえず 受け入れてもらえたみたいだけど。
 …どーいう人達なのよ、ここの隊員って!」 
23名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 19:44:06 ID:xskI7gTd
支援
24Misson 07 7/9:2009/11/07(土) 19:45:44 ID:knj3dS0g
キャノピを開けて シートから立ち上がり、ヘルメットを脱ぐ。ピンクブロンドのロングヘアが零れ落ちると ギャラリーから再び歓声が湧き上がった。
「皆様、お怪我はございませんか? 昨夜は どうもすみませんでした!」
ルイズの第一声は、謝罪の言葉だった。
隊員の一人が それに応えて、
「お嬢さん、気にしなさんな。
 俺達ぁ、バカな政治屋とクソ生意気なガキは大っ嫌いだが、強いヤツには敬意を表するぜ。
 ましてや それが、キレーなネーちゃんなら 大歓迎さ!」
「右に同じ〜。」「うむ 同意する。」「もっちろん。」「異議な〜し!」… 
「まずは、貴女の大事な戦友、デルフリンガーをお返しする。」
手渡されたソレは、何故か酒臭かった。
「おうっ 嬢ちゃん(ヒック!)。こかぁ〜 イ〜イ所だぜ。(ヒック!)
 み〜んな 気のイイ奴ばっかりさね。(ヒック!)」 
「アンタ 酔っ払ってるの!?ていうか、なんで剣のくせに酒なんか飲めるのよ!」
「そりゃあもう、俺ぁ 魔法だって飲み込んじまえるんだぜ(ヒック!)。酒ぐらい 飲めて当然よォ!」
「すまないルイズ。
 彼から事情を聞く時に、緊張を解そうと軽い気持ちで酒を薦めたら これが結構いけるクチでね。
 ついつい飲ませすぎてしまったよ。」
やや遅れて登場したワルド隊長。
そう言う彼も、徹夜で飲み明かした酒を抜くため、昼過ぎから先程までランニングを続け 風呂で汗を落としたばかりだったりする。
「ところで、ワルド様。入隊試験の判定は? 結果を教えていただけますか。」
「うん。おめでとうルイズ。合格だよ。
 とりあえずは『騎士見習い』だけど、今日から君も グリフォン隊の一員だ。それでイイね?」
「はい、ありがとうございます!」
ルイズは、荒くれ揃いの隊員達すら ほれ込んでしまうような、晴れ晴れとした笑顔で即答した。

「さて、君の入隊祝いに 今夜は美味いモノでもご馳走しようと思うんだが、少々帰りが遅くなっても大丈夫かい?」 
「ご心配はいりません。手は打ってあります。」
以前の『フーケ捜索隊』の件で 各種特別許可を取り付けたのは、こういう場合の為でもある。
ルイズ本人の承諾は得られたが、隊員達からブーイングの嵐が起こった。
「くわぁ〜 またしても一人、女性が御頭の毒牙に!」
「『ロリコン』の噂に根拠を与えて どーすんですか!?」
「まったく、オンナを落とす早さも『閃光』のワルドって シャレになんないッス。」
「御頭、商売女や有閑マダムはともかく『幼女』はマズイ!!」
最後の一人が、ルイズの中の地雷を踏んだ。
「誰が『幼女』ですってぇ〜!!!」
得意の失敗魔法が、不用意な発言者に炸裂。巻添えを食らって 周りの数名も吹っ飛ばされる。
それでもまだご立腹のルイズ。ワルドの手を引いて
「さっ 行きましょ、隊長。」
「お、おい ルイズ!」
グリフォン厩舎の方へ去っていった。
25Misson 07 8/9:2009/11/07(土) 19:48:48 ID:knj3dS0g
ルイズとワルド そして爆発の土煙が消えた練兵場で、吹き飛ばされた隊員達が起き上がる。
あれくらいで怪我をするようでは、グリフォン隊の激務は勤まらない。
「いや〜参った参った。あれが『ヴァリエール嬢の失敗魔法』か。」
「まぁ、あの娘は怒らせない方がイイってこった。」
「あれで『ゼロ』だなんて、魔法学院のガキどもは 見る目が無ぇよ。」
「発動は早いし 威力もそこそこ、攻撃魔法としちゃあ充分だと思うがなぁ。」
「でも、真っ当な貴族って奴等は それを認めない…」
彼等の胸中に ある思いが広がってゆく。
他人と少し違うだけ、常識と言うツマラナイ規準に収まらなかっただけで、認められなかった自分。
それは、隊員の誰もが経験してきた 過去。
「結局 あの嬢ちゃんも、来るべくして此処に来ちまったんだな。」
「それが 良かったのか、悪かったのか。」
「そいつは、誰にも判らんさ。」
なにせ、此処は『魔法愚連隊』
心優しき はみ出し者の 吹き溜り。

トリスタニア郊外の とある一軒家。
ここは、ビストロ『ゴ・テーツ』
闘鶏という賭博に使われる特別な鶏、『軍鶏』を使ったシチューが名物の 隠れた名店である。
そして、ワルド隊長以下 グリフォン隊御用達の店でもあった。
店の最深部 とっておきの部屋。差し向かいでナベをつつく ワルドとルイズの姿があった。
「そうすると、雪風の主な攻撃方法は、あの乱気流じゃなく、内臓式の連発銃か。」
「はい。銃の口径は2サントですが、威力は戦艦の大砲と同等か それ以上だと思ってください。
 発射する弾数が違います。一分間に数千発ですから。」
「それは凄いな!」
「逆に それが弱点にもなります。」
「何故だい?」
「あっという間に 弾切れするからです。」
「そうか。そういうことか。」
「召喚の際に雪風が装備していた弾丸も、既に半分程使ってしまいました。
 他に『ミサイル』というのも数発装備していますが、これらを撃ち尽くした後、補給のアテはありません。」
「トリステインで それを作る事は出来ないのかい?」
「難しいでしょうね。弾丸一つにしても、こちらの物は精度が低すぎます。
 雪風の銃は、強力な武器であると同時に オルゴールや懐中時計と同様の精密機械です。
 十分の一 いえ百分の一サントの誤差で、弾詰まり 最悪で破裂の危険性が生じます。
 それだけの精度のものを 大量生産しなければならないのです。
 こういったことは、メイジの錬金よりも 平民の職人を育てる方が有効ですが、時間が掛かります。」
「では、どうする?
 君の事だ。何も腹案が無いとは思えないが。」
「お見通しですか。
 実は 運用方法についてなのですが、雪風は 攻撃力もさることながら、本来の用途は『偵察機』です。
 大砲も魔法も届かぬ 空の高みから、兵士一人一人の動きを把握し、物陰に潜む伏兵すら発見する『索敵能力』。
 それに、隊長の魔法を組み合わせれば…」
「面白いな。
 似たような事を考えて 試してはいるんだが、中々上手くいかなくてね。」
そこに 店のオーナーシェフ、サンジが グリフォン隊員一名を連れて顔を出す。
「ワルド様、部隊の方が『火急の用事』とのことで参られました。」
「うむ。どうした、何があった?」
「はっ。昨日の黒ワイバーン一味の者、ようやっとアジトの場所を白状いたしました。」
「でかした!よし、すぐ出場するぞ!!」
「既にサジマ様が、夜襲の準備を整えておいでです。」
「丁度いい。 ルイズ 君の提案、さっそく試させて貰うよ。」
26Misson 07 9/9:2009/11/07(土) 19:51:52 ID:knj3dS0g
それは、久方ぶりの大捕物であったが、たった半刻程で終了してしまった。
一味の者は ほぼ全員捕縛、部隊員に大きな負傷者ゼロの大勝利だった。
この結果を生んだのは、もちろん 雪風の参入だ。
ワルド隊長は ルイズと共に雪風に搭乗、風魔法で四体の分身『遍在』を作ると 各分隊に配属した。
そして 作戦開始。
森林地帯の奥深くに存在した 賊のアジトを、気付かれぬよう高高度から偵察し、人数や幻獣の数を把握する。
突入部隊に追い立てられ、散り散りに逃げる盗賊。その方向は全て 雪風に把握されていた。
情報は雪風からルイズへ、そしてワルドへと伝えられ、周辺配備の各分隊員は 遍在ワルドの指示により、確実・迅速・効率的に賊を捕えることが出来た。
「口を開けて待ってりゃ、相手の方から飛び込んで来てくれる様なモンだった。」と 後に隊員達は語っている。
それでも 盗賊は必死に逃走した。グリフォン隊を引き付け 少しでもアジトから遠ざけるために。そこに残った頭目と 最大最速の黒ワイバーンを逃がすために。
だか、それも雪風に察知さていた。
黒ワイバーンは、飛び立ってすぐに 二十o機関砲の餌食となって撃墜、頭目も地上部隊に追い詰められて 自害した。 
 
「『遍在』を使った分隊間の連携ってのは、以前から試みてたんだが、そこに雪風という『天の目』が加わるだけで、こうも変わるとは…
 ルイズ、やっぱり君はスゴイよ!」
「いえ、全ては雪風の力です。
 それよりも 今回の方式を、トリステインの全軍に導入できるとしたら、どう思われますか?」
「何だってぇ?」
「雪風の世界には、遍在を使わずとも 遠方の人間に指示を出せる『無線機』という機械があります。
 魔法学院の教師に、機械工作を得意とする方がいらっしゃるので、現在 製作を依頼しているのですが それが出来れば…」
「間違いなく ハルケギニアにおける戦争の歴史に、革命が起きるな!」
「ええ。来るべき戦争、避けられない脅威に対して、短時間で効果を上げられる方法の一つです。」
「戦争か。君もそう思っているんだね。
 レコンキスタの矛先が、次に向かうのはトリステインだと。」
「女子供でも、簡単に理解できる『事実』です。」
「フフフ…ハハハハハ、すごい 凄いよルイズ。 
 君が『見習い騎士』だなんて もったいない。一日でも早く 正式な騎士に 僕の右腕になってくれ!
 「辛い」とか「辞めたい」とか言い出しても、絶対逃がさないからね。」
「入隊をお願いした時、いえ その前から覚悟は出来ています。
 でも その為には、隊長に一肌脱いで頂かなければならないんですが?」
「ん?なんだい。」
「実は、実家には 入隊の事、何も言ってないんです!
 だから、次の虚無の曜日 ウチに来て 家族を、特にお父様とお母様を説得してください!!」
「なっ、なんだってぇ〜!!!
 はっ『謀ったな』、ルイズゥ〜!!!!」
顔面蒼白のワルドに、ルイズは、
「だって そんな恐ろしい事、私一人じゃ とても出来ないモン。
 『絶対に逃がさない』んでしょ。ねっ、た・い・ちょ!」 
 
余談
後日 雪風のコクピットで、『デルフリンガー爆撃』の記録データを見て、武器屋の主人は 呼吸困難になる程笑い転げていた。

              〈続く〉
27ゼロの戦闘妖精:2009/11/07(土) 19:53:17 ID:knj3dS0g
終わりです。
今回は、戦闘シーンが多いので 雪風も機嫌が良さそうです。
(なにせ、『トリオ漫才』までやってくれましたから)
グリフォン隊は、書いてて楽しいんですが、読み手の方にも楽しんでもらえてるでしょうか?
(でも この後は、隊長以外あまり登場予定無いんだよな〜)
鬼平ネタは、どのくらいの方が判ってくださるか 心配です。
オーナーシェフは、某海賊船のコックではありません。
(前の『兎忠』は、判った人がいたみたいですが)

次ですが、
当初の予定では『品評会〜手紙回収ミッション』でしたが、ひょっとしたら
『ワルド隊長のヴァリエール邸訪問』になるかもしれません。
(まだ決めかねてます…)
28名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 19:57:40 ID:6TIMJ9P2
乙!

ワルドの未来に合掌
29名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 20:05:56 ID:QTFgFvQb
乙ッ!
30ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:23:56 ID:T9TqMvZF
戦闘妖精様、乙でございました。
クロス元がちゃうから当たり前とはいえ、私では書けそうもないバトル描写、勉強になります。

さて、規制の冬が続いております。
せめて花あればと、駄文投下をしようかと思うわけで、よろしいでしょうか?
よろしければ20:30頃より失礼いたします。
31ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:30:48 ID:T9TqMvZF
投下開始でございます

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船の中央部。カジノって言うらしいその場所は、
色々なゲームの台が置いてあって普段はにぎやかなんだろうなって感じがした。
って言っても、今は人数が少ないから全然静かなんだけどね……
「え!?ギーシュ!?」
その部屋に入ってくるなり、ルイズおねえちゃんは驚いた顔を見せた。
……そうだよね。
さっきまでウェールズ皇子と話してて、ギーシュがいることを知らなかったんだもん。
「……や、やぁ、ルイズ……はふぅ……ホットワインが美味しい……」
そういうギーシュは、暖めたワインを木のマグでチビチビ飲んで凍えていた。
……船の翼に飛び移るなんて、無茶するなぁ……ボクには、出来そうもないや。

「――さてと、それでは始めようか」
ルイズおねえちゃんの姿を確認して、クジャが部屋の中央に躍り出た。
まるで、前口上を言うために舞台に出てきた劇の団長さんみたいだなって、思ってしまった。
「……何を?」
「『真実』のお披露目さ!舞台の幕を開けようじゃないか!」
ボクの質問に、相変わらずの調子でクジャが言う。
……さっきボクの前で見せた弱い姿はもう見せないつもりなのかなぁ。
……あまりにも変わり身が早すぎて、どれが本当の姿か分からなくなりそうだ。

「――ビビ、こいつ、信用できるの?」
「……話を聞くだけなら、大丈夫。騙されないように気を付ければ……」
ルイズおねえちゃんも疑う。
だから、ボクもそれに合わせて身構える。
絶対に騙されない。そう思いながら、クジャを睨む。
やっぱり、こいつは信用しきれないから……

「やれやれ。信用されてないな僕も――
 しょうがない。本当は最後の最後でお披露目するつもりだったけど」
ボク達の方に向き直って、クジャが改める。

「名を!今宵までの舞台、その黒幕の名を!最初に伝えよう」
「黒幕?」
眉をしかめたくなる。クジャの動作の一つ一つが芝居がかっていて、
何となく真剣に聞いてていいのか、騙されているだけなのか分からなくなる。

「そう!アルビオンの内乱に始まり、ガリアの姫君の誘拐劇、さらに今宵の2人のウェールズ皇子の事件と続いた物語……いや」
そんなボクの考えていることなんてお構いなしに、クジャは続ける。
芝居がかったような大きな手振りで、体丸ごとを使ってセリフを続ける。
「これは6000年の永きに渡る大長編!舞台で踊るは世界そのもの!」

「――胡散臭いわ」
ルイズおねえちゃんが、ふんっと鼻を鳴らした。
やっぱり、ルイズおねえちゃんもそう思うんだよね?胡散臭いって……
「これは失礼を、虚無のお姫様。しかし、これは誇大妄想でもなんでも無いんです」
ルイズおねえちゃんに丁寧にお辞儀するクジャ。
背が高いせいか、やたらとその動作がピシッと決まっている。
「……虚無のお姫様?ルイズ、君、虚無って……」
あ……そういえば、ギーシュは知らないんだっけ。ルイズおねえちゃんが、『虚無の使い手』ってこと……
「え!?あ、えー、あーそそそれはそのあのー……」
ルイズおねえちゃんが慌てる。
お姫様に秘密って言われているから、どうしようか困ってるんだと思う……
32ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:31:51 ID:T9TqMvZF
「……お前じゃないとしたら、他に誰がいるの?」
話をそらすためと、単純に疑問に思って、クジャに聞く。
タバサおねえちゃんをあんな目に合わせたり、アルビオンで戦争があったことの黒幕がいるっていうなら、
その名前を教えて欲しかった。
……許せないから。
嘘、偽りなく、その名前を教えて欲しかったんだ。
「かつてハルケギニアにおいて、最も偉大な力を持とうとし、その身を滅ぼした人物――」
クジャは、ゆっくりともったいぶるように、ワザとボク達に背を向けて歩き始めた。
「その名は、偉大なる始祖――」
「ちょ、ちょっと待ってよ!?クジャって言ったっけ!?
 あんた、他所から来たからかもしれないけど何トンデモなこと言っちゃってるのよ!?」
ルイズおねえちゃんが、クジャのセリフの途中で声を荒げる。
その声に、クジャが『計画通り』っていう笑顔で、こっちに振り向いたんだ。
……なんか、その笑顔には寒気がする。

「何か失言でもしたかな?」
「あ、あんたねぇ……始祖ブリミルが黒幕?だかなんだか知らないけれど、悪役にしようっていうの!?」
ルイズおねえちゃんが睨む。クジャの顔を、視線で殺してしまいそうなくらいに。
……始祖ブリミル……なんか、ずっと前に聞いたことある気がするなぁ。
ルイズおねえちゃんかタバサおねえちゃんが教えてくれたんだっけ?
この世界に魔法をもたらした、すっごいメイジだって……

「ふふふ……なるほど。この地の始祖信仰は思った以上に根強いね。まさに黒幕の描いた脚本通りに……」
ルイズおねえちゃんの言葉に満足したように、指を振りながら楽しげにクジャが言う。
「えーとー、クジャさん?話が見えてこないですけど?」
ギーシュが聞く。確かに、話がまったく見えてこないや。
……やっぱり、騙そうとしてるのかなぁ。

「それでは、ご紹介しよう……当地で最も偉大なるメイジ、『始祖』ブリミル」
クジャが、一言一言、強弱をはっきりさせながらセリフを言っていく。
完全に、クジャの一人芝居に見えてきた。
「――その英知と偉業を後世に伝えることで、その力を利用した者……」
じっくりと、言葉の意味が頭に浸みこむのを待つように、クジャが言葉をそこで切った。

「初代ロマリア王にしてブリミルの教えの最初の伝道者、フォルサテ。それこそが黒幕の名さ」
最後はあっけなく。静かに、そしてはっきりとその名前を言ってセリフを締めくくった。
……フォルサテ、それが悪い人の名前か。


ゼロの黒魔道士
〜第六十二幕〜 明かされた真実


「フォルサテ……?」
でも、ボクはハルケギニアに来て間もないから、全然その名前には心当たりが無かったんだ。
静まりかえった部屋の中で、どんなヤツなんだろうと、考えるだけだった。
「――ま、待ちなさいよ!あんたどこまで異端発言ぶちかます気!?」
静けさを破ったのは、ルイズおねえちゃん。
顔を真っ白にしながら、さっきと同じぐらい怒っていた。

「何故、そう思うのかな?」
クジャはそれを平然と受け止める。
心なしか、少し笑っているみたいだ。
「あ、あのねぇ……良い?私だって目茶苦茶に信仰心が厚いってわけでも無いけど、
 始祖の成した偉業、それからその教えを後世に伝えたフォルサテには少しぐらい敬意を……」
……フォルサテって、そんな人なんだ……
え?あれ?すっごく偉い人の話を伝えた人が、悪い人?
……どういうことなのか、ボクにはさっぱりだった。
33ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:32:52 ID:T9TqMvZF
「なるほど、なるほど……では……ギーシュ君、だったかな?」
クジャはルイズおねえちゃんの言葉に一々うなずきながら、急にギーシュに話を振った。
「は、はいっ!?僕ですか!?」
ギーシュも、突然のことに、暖かいワインの入ったマグを落としそうなぐらい驚いた。
「始祖ブリミル、彼の成した偉業とは?」
「えっと……主に四系列に分けられる魔法の確立と、対エルフ戦に対する武勲、あとは数々の奇跡が……」
ギーシュが全く考えもせずに、スラスラと答えるっていうことは、
ブリミルって人の話はそれだけ有名ってことなんだろうなって思うんだ。
ますます、なんでフォルサテって人が悪いってことに繋がるのか理解できなかった。

「四系列、元来は『虚無』を含めての五系列であったことはおこうか。本筋じゃぁない……
 ――ふふ、『虚無』は伝説だからね!偉業に含めるか怪しいからしょうがないさ!――
 この地に伝わるブリミル教、そのままの素直な解答に感謝するよ」
「あ、はぁ……どうも……」
『虚無』って、やっぱり伝説なんだなぁって、改めて思うんだ。
……あんなにすごい爆発を起こしたり、増えたエルフを一瞬で消したりするんだもん、やっぱり伝説、だよね。

「さて、引き続き、ギーシュ君」
「ふぇ!?」
連続で指されて、ギーシュは2度びっくりしていた。
「ブリミルの生涯……生まれてから死ぬまでの物語は?」
「は、はい!?」
「ブリミルは今、この世にはいない。何しろ6000年というカビも枯れ果てるような大昔の人さ!
 それなのに、その名が伝わるほどの大偉人。ならば、その生き様、死に様は君達の知るところでは無いのかな?」
「む?むむむ?ん〜……んん?」
ギーシュは腕を組んで考え込んだっきりだ。
それだけ大昔の人なら、どうやって死んだか、とか忘れられてしまうんじゃないかなぁ……寂しい話だけど。
「そんなもん、伝わってないわよ!」
ルイズおねえちゃんがギーシュの代わりに答える。
「ほう?」
「始祖はその御顔すら今には伝わって無いけど、その御偉業はあまねく……」
顔も伝わって無いんだ……似顔絵とか、無いのかなぁ?
「なるほど、まさしく『神』同然の扱いか。舞台には顔は出さず声だけで十分だったわけだ……
 それじゃ気付かなかったのも無理は無いのかな。――どう思う、ビビ君?」
「……何が言いたいの?」
どう思う、と言われても、困ってしまう。
神様みたいな扱われ方をしているほど、ブリミルが偉いってことしか分からないんだけど……

「――英雄譚であれ、神話であれ、かつて地上に存在した者で今は亡き者ならば……
 それがどんな世界のどんな役であれ、必ず『生と死の物語』がつきまとうはずなのさ。
 人々はそれに涙し、喝采を送る物だからね!ましてや宗教として崇められる人物だ。
 その死はまさしく一大事件だろう?厚手のハンカチが必要な悲劇じゃないか」
なんとなく、分からなくも無い。
お芝居でも、誰かが死んでしまったら悲しいし、心に残る。
……命っていうのは、それだけで物語なんだなぁって思うんだ。
確かに、それだけ偉い人の死だったら、誰かが覚えていたりしても良さそうだなぁって思う。

「――僕がこの世界に来て、最初の使命は『ブリミルの化けの皮を剥ぐこと』……
 僕に似た男に頼まれてね。互いに異端と呼ばれても構わなかったのが幸いしてね!
 最初の疑問は、『何故ブリミルの死の有り様が伝わっていないか』だったのさ」
クジャに似た男……クジャを召喚したっていう人かな?
似てるってことは、クジャみたいなのがもう1人いるってこと?
……なんか、急に背筋が寒くなってしまう。

「――かつて、英雄と伝えられたならば、例え迫害されても普通に天寿を全うしても、
 その『死』は劇のクライマックス!僕が伝道者ならばこんな素晴らしいイベントは逃さないよ!」
クジャなら、確かに利用しそうだと思ってしまった。
……ガイアで、ダガーおねえちゃんのお母さんをそそのかしたのも、
ダガーおねえちゃんのお父さんの死につけこんでそうしたって、聞いた。
……悪い人の考え方なんだろうな、って思ってしまうんだ。誰かが死んだことを利用するなんて。
34ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:33:47 ID:T9TqMvZF
「そこから興味を持ってねぇ……調べていったのさ。ロマリアの地下にも潜ったし、『聖地』と呼ばれる墓所も行った。
 で……皆さま、どうぞご覧あれ!これこそがハルケギニアの祖である男の真の物語!」
クジャが大きく腕を振り上げて、恭しくその手をカード台に置いた。
そこには真っ黄色でボロボロの紙の山。
虫には食べられてないみたいだけど、かなり汚れているし、埃にまみれている。

「……本?」
「ただの紙の束じゃない?……随分古そうだけど」
「一般に伝わる伝承によると、始祖ブリミルは3人の子と1人の弟子に、『虚無』の力を与えたことになっている……
 虚無を伝えられた弟子としてフォルサテがいるが……しかし、それ以外にも弟子がいたそうでね」
クジャの言葉を半分ぐらい聞き流して、その紙の山を見る。
表紙みたいなところに、何か文字のようなものが書いてあるけど、ボクには読めそうになかった。
まだ、ハルケギニアの文字を勉強中だけど、その文字ともまた違う気がする。
「……何が書いてあるの……?」
「――読めない」
ギーシュも読めないみたいだ。
……普通のハルケギニアの文字じゃない、のかなぁ?
「ギーシュ、勉強してる?これ、『ゲルモニークの手記』ってしっかり書いてあるじゃない!」
「え、ルイズ、この文字が読めるのか!?」
その言葉に、ギーシュが驚く。
「何驚いてるのよ、普通の文字じゃ……あら?」
ルイズおねえちゃんは、今の今まで普通の文字が書いてあると思っていたみたいだ。
……そう思うぐらいに、すんなり読めてしまうってどういうこと?
「――ふふ。この可憐な姫君が、何故、この古の文字を読めるかは後でじっくり話そう……
 これはね、フォルサテ以外の弟子が書いた驚くべき手記さ。簡素に事実のみを書いてて詩的では無いけどね。
 さて、ここに何が書いてあるか、朗読劇と行こうか。では、読んでもらえるかな?」
クジャがボロボロの本を開く。
開いた中は、案外綺麗だった。
つやつや、とまではいかないけど、傷や埃は全然無い。
ルイズおねえちゃんは、首をかしげながらクジャの開いたページを朗読し始めた。

「……『我が師、ニダベリールのブリミル……4人の従者を引きつれて、ヴァリヤーグとの戦に臨めり。
    敵は数万、野蛮なる甲冑に身を纏いて、5を取り囲む……』」
「ヴァリヤーグ?」
なんか、モンスターみたいな名前だ。
ちょっと、強そうだなって思う。
「蛮族の名だろうね。まぁ野蛮なる集団だったことは間違いないよ。
 ……うん、なかなか美声だねぇ。もう少し感情をこめて、続きをお願いするよ」
クジャに『美声』って誉められたからかどうかは分からないけれども、
ルイズおねえちゃんは姿勢をもう一回ピシッと綺麗に整えて、はっきりと読み始めたんだ。

「……『敵の攻撃は苛烈なれど、神の両手はこれを耐え忍ぶ。盾は我が師を守り、笛は火竜をもって攻めた。
    やがて、神の盾の尽力により、万を超える長耳族の軍勢が加勢に』
 ……って!?え!?長耳って、まさか……」
「今なお恐れらるるエルフ、彼らだろうね。美しいハープの音がよく似合う孤高なる種族……」
「エルフが……味方!?」
ギーシュもルイズおねえちゃんも驚いている。
もちろん、ボクもだ。
エルフと、ハルケギニアの人って、昔から敵同士じゃ無かったの?
35ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:34:52 ID:T9TqMvZF
「ふふふ、おもしろくなってきただろう?だけどまだ見せ場じゃない……さぁ、続きを」
「……『やがて、神の頭脳の策により、残る1人の従者の操りし強大なる兵器が降臨す。
    “虚無”と呼びし我が師の力と恐るべき兵器によりヴァリヤーグを一掃された』……」
そこまでルイズおねえちゃんが読んだところで、クジャがそっと手を伸ばして制止した。
キリが良いところ、ってことみたいだ。
うーん……なんか、物語が分かったような分からなかったような……
「さて、エルフ退治という偉業は、実際はエルフと協調しての『ヴァリヤーグ討伐』であったことは良いかな?
 まやかしという霧がかかったまま、このお芝居の続きを見て欲しく無くてねぇ……」
「え、えっと、クジャさん?これが信じるに足る証拠は?」
ギーシュの疑問はもちろんだ。
これ、全部が全部、クジャの作った物語って疑っても問題無い。
……そうする意味はあんまり無さそうだけど……

「ロマリアの地下に封印されていた。厳重に、幾重にも防衛がしかれてね……
 都合が悪かったんだろうねぇ。ブリミル教を伝えた身としては!舞台裏は防ぎたいものさ!」
……都合が良いとか悪いとかは分からないけど、確かに、表紙がボロボロなのに中がこれだけ綺麗なのは、
ちゃんとした所でずっとずっと保存されていたからなんだろうなって思うんだ。
「まぁこの辺で偉業については良いだろう。じゃぁ次はいよいよブリミルの死に際についてだな。
 一人の男の終幕をご覧に入れましょう……虚無の姫君、次はこちらを読んでくれるかな?」
クジャはそう言って、『ゲルモニークの手記』の最後の方のページまで一気にめくった。

「……『一番弟子のフォルサテは、我が師が知る永遠の命を欲していた。
    私はそれを知りながら、彼を止むるに至らず』……永遠の命ぃ?」
読んでいる最中に、ルイズおねえちゃんが疑問の声を上げたんだ。
永遠の命?命に、永遠ってあるのかなぁ?
……誰かが覚えていてくれる限りって意味の『永遠』以外に……
「あるいは、『虚無』の魔法にそういうものがあったのかもしれないね。さぁ続きを」
さらっとクジャがとんでもないことを言った気がする。
『虚無』の魔法に、永遠の命を与えるものがある?
……ますます、とんでもないなぁ、虚無って……

「……『師からその術を盗むと、フォルサテは我が師を最早必要としなくなった。
    彼はかつてヴァリヤーグとの戦で用いた巨大なる兵器を操り、必要のない者達を滅ぼそうとした。
    この反乱により、神の頭脳と笛は死に、長耳族は我らマギ族を憎むようになった。
    しかしながら、お人よしの我らが師は、未だにフォルサテの謀反には気付いていなかった。
    そのことに、私とフォルサテはつけこんだ。
    神の盾を私が僻地へ連れている間に、フォルサテは我が師と残る従者をその手で』……」
「ずぇえええええ!?な、なんか話がトンデモない方向に……」
今度叫んだのはギーシュだ。
とんでもない。
本当の本気でとんでもない。
フォルサテって人が、ブリミルさんを殺した?
ブリミルさんがすごいってことを伝えたその人が?
……頭が痛くなりそうだった。
36ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:35:45 ID:T9TqMvZF
「……『私、ゲルモニークは懺悔しこれを記す。
    フォルサテの見せた力に目がくらみ、悪事に加担してしまったことを。
    よって、今ここで、フォルサテの肉体を滅ぼす方法を、彼の者を倒す術を彼女に教える』……彼女?」
「神の盾、ガンダールヴのことだね。登場人物は限られている」
……やっと、聞き覚えのある名前が出てきたと思う。
『ガンダールヴ』……ボクに刻まれたルーンの名前。
そっか。さっきから出てくる『神の盾』って、ガンダールヴのことだったんだ……
じゃぁ、他の、全部で4人の従者って、全部『虚無の使い魔』なのかなぁ?
「ぶっ!?ガンダールヴは女性だったのか!?」
ギーシュが驚いている。
うーん、確かに、武器を振り回すってイメージから言うと、なんとなく男の人を想像してしまいやすいかもしれない。
「……そうなの、デルフ?」
そういえば、って気付いて、デルフに聞いてみることにしたんだ。
デルフ、6000年ぐらい前から生きてるって聞くし、もしかしたら知ってるかもしれないって……
「ん?お、おう……ちょーいと曖昧な記憶が……そうだっけ……?」
デルフの声は、珍しいぐらいに小さかった。
何か、戸惑っているみたい。
……そういえば、デルフ、この話が始まってから珍しく無口だ……すぐに口を挟みそうなのに……

「……『夫を失った妻と、その子たちにもすまないことをしたと悔やむ。
    力に目がくらんだ己を悔やむ。そしてフォルサテを、我が師を殺すことに成功した男を悔やむ。
    成すべきことを成し、私はここに自分の罪を償うために自害する。
    英雄を殺した男よ、呪われたまえ!!以上をもって、アンドバリ村のゲルモニークの遺書とする』……」
最後のページまで読み切ったのか、ルイズおねえちゃんが顔を上げた。
その顔には、ギーシュと同じ困惑の表情が浮かんでいる。
……きっと、ボクも似たような顔をしているんだろうな、今……

「ふふふ、なかなかに衝撃的なことを書き連ねてくれただろう?衝撃のまま舞台は閉じ、観客は唖然とするばかり、さ!」
「『妻と、その子』って……えぇ!?」
「始祖ブリミルの愛しき妻子たちだろうねぇ。哀れ、彼らに最後の言葉をかけることなく、その身を散らすは悲劇なりっと……」
ブリミルとガンダールヴが夫婦だったっていうのも気になるけど、それ以上に気になることがあったんだ……
アンドバリ村の、ゲルモニーク……
「……アンドバリ……の指輪……」
偶然じゃないって、そう思ったんだ。

「そう、アンドバリの指輪――元々はフォルサテの命を絶つために作られたものなのさ」
死んだ人を甦らす指輪で、フォルサテを殺す?
どういうことなんだろう?
「……で、でも、そのあと、フォルサテはロマリアの祖となって……」
ギーシュが疑問を口に出す。
確かに、ガンダールヴが倒したんなら、フォルサテはその後にブリミルさんのことを皆に伝えられない……
「ガンダールヴの力をもっても、彼を完全に殺すことはできなかったようだねぇ」
……あれ?でも、もし倒されて無かったんだとしたら……
「……フォルサテって、6000年前の人でしょ?永遠の命ってことは……まだ生きているの?」
長生きしすぎだって思うんだ。
6000年もずっと生き続けるって……どんな気分なんだろう?
「さてさて!我らが黒幕の脚本はねぇ、本当に呆れるぐらい長丁場だったのさ!今からそれを……」


突然、世界が揺れた。
そう錯覚するぐらい、酷い揺れだったんだ。
「わぁ!?」
「きゃっ!?」
「な、なんだなんだ!?」
しっかり頑丈に床にくっついているはずのカード台やルーレット台がひっくり返った。
部屋の中が回転するカードみたいにシャッフルされる。
目が回りそうになりながら、ルイズおねえちゃんが無事なことに安心する。
37ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 20:36:44 ID:T9TqMvZF
「『クジャさん!大変です!前方より計器が振りきれるほどの衝撃波が……』」
部屋につながっていた金属の管から、ウェールズ皇子の声がした。
伝声管って言うんだよね?操縦室に繋がっているのかなぁ……

「――時間、か」
服についた埃をふりはらいながら、大事そうに『ゲルモニークの手記』を持って、クジャが苦々しげに言った。
「ど、どういうこと!?」
時間?何の?
「いよいよ黒幕が正体を見せ、終幕の刻がやってきたのさ!!さぁ、行くよ!」
そう言いながら、クジャが歩きだした。

ふと、窓の外を見る。
夜明け近いけどまだ真っ暗だ。
でも……
なんとなく、空気ごと歪んでいるような、そう思ってしまうほど、不気味な空だったんだ。

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以上でございます。
いわゆる一つの「俺設定ゾーン」突入してしまい、申し訳ないわけで……
広げた風呂敷を畳むのに必死でございます。どうか生温かく思ってくださいませ。
さて、お目汚し失礼いたしました、とお別れのあいさつをすべきですが、
寂しい寂しい規制期間。折り良く11月3日という休みもあり、
幕間劇ではございますがもう1話ほど本日はストックがあります。
また、後ほど、本日中に投下できればと存じます。
では、いったん失礼させていただきます。お目汚し、失礼いたしました。
38ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:34:16 ID:xSy8Wo2z
規制テスト
39ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:35:46 ID:xSy8Wo2z
 黒魔道師の方、乙でした。

 おお、いわゆる終盤の解説ってヤツですね。順調にクライマックスに向かっているようで何よりです。
 ……私の話の終盤なんて、今のペースだと何年先になるのか分かりませんがww

 それでは他にご予約の方がおられなければ、第42話を21:45から投下いたします。
40名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 21:42:43 ID:Z1SEzxlJ
投下前支援
帰ったと同時に希少な姉萌えSSに出会えるとは
41ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:45:00 ID:xSy8Wo2z
「ルイズ……。ちょっと、ルイズ!」
「……んんぅ……ん……?」
 ゆさゆさゆさ、と誰かに身体を揺さぶられてルイズは目を覚ました。
「ぅ……、……ぇぁ……」
 ―――眠い。
 寝たい。
 惰眠を貪っていたい。
 しかし、起こされてしまったからには起きなければならない。
「………………えぇ、と?」
 ぼんやりとした思考と視界で現状を把握しようとする。
 取りあえず部屋の中は真っ暗。
 現在時刻は四時ちょっと過ぎ。
 いくら今が冬で日が落ちるのが早いとは言え、四時ちょっと過ぎでここまで暗いことはありえない。つまり今は午前四時過ぎということか。
 一瞬午後の四時かと思って焦りかけてしまったが、どうやら杞憂だったようだ。
 安心、安心。
「じゃあ、おやすみなさい……」
 ほっとしたルイズは再びベッドの中に潜り込む。
 次の瞬間、
「って、せっかく起こしたのにまた寝てんじゃないわよ!!」
「ひゃぅうっ!?」
 何故か響いてきたキュルケの声と共に、その身体にかぶさっていた布団や毛布がガバッと取り去られた。
「さ、さむっ、さむさむさむさむいいぃぃいいっ!!」
 今は暮れも押しせまって雪もチラつき始めたフレイヤの月である。
 簡単に言えば本格的な冬に入り始めた頃だ。
 そんな季節の午前四時ごろ、暖房も入っていない部屋の中で、就寝中にいきなり毛布と布団が消失してしまえば寒いに決まっていた。
「キュ、キュキュキュルキュルルルケケケ、い、い、い、いきなななりっ、なにっ、すんのよよよょよ!!?」
 寒さでガタガタと激しく震えながら、ルイズは自分からぬくもりを奪い去った赤い髪の女に抗議する。
 一方のキュルケはそんな桃髪の少女に呆れつつ、少々緊迫した面持ちで話を始めた。
「……どうも様子がおかしいの。一番初めに気付いたのはタバサなんだけど、それに合わせてフレイムも何かに警戒してるみたいだし……」
「タバサと、アンタの使い魔が?」
 いきさつはよく知らないが仮にもシュヴァリエの称号を持つメイジと、火竜山脈生まれの高ランクの幻獣。
 前者は積み重ねた戦闘経験から、後者は純粋に野生の力によっていわゆる『勘』が発達している。
 それらが揃って『様子がおかしい』とは……。
「……何かが起こったってこと?」
「もしくは今まさに何かが起こってる最中かもしれないわね。……とにかく早く着替えなさい。一度引いて様子を見るわよ」
「分かったわ」
 軽く頭を振って目を覚ましたルイズは素早く服を着込む。
 そして着終わった直後、ドアの外からタバサが無表情で部屋へと入り込んできた。
 タバサは無言でルイズとキュルケの元へと歩くと、ルイズに向かってポツリと呟く。
「あなたの使い魔がいない」
「え? ……隣の研究室にいるんじゃないの?」
「いなかった」
42名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 21:45:25 ID:RaC3I54B
戦闘妖精→黒魔→ラスボスとな
テンション上がってきたwww支援
43ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:46:30 ID:xSy8Wo2z
「………」
 思いがけない言葉にきょとんとするルイズ。
(……どういうこと?)
 ユーゼスが週に二度、規則正しく虚無の曜日とラーグの曜日にジェットビートルでどこかに出かけていることは知っている。
 どこに出かけているのかは知らないが、それでもその日の内にちゃんと戻って来るのでまあいいか、などと思っていたが……まさか戻って来ていないとは。
「はぁ……監督不行き届きね、ルイズ。こういう時こそユーゼスの出番だっていうのに」
「……っ」
 返す言葉もない。
 エレオノールと何かの話をしていようが、アニエスに鍛えられていようが、ユーゼスはあくまでルイズの使い魔なのだ。
 その『自分の使い魔』が、『完全に自分の知らない行動を取っている』という事実。
 これを認識してしまい、ルイズは軽く打ちのめされつつあった。
 だがルイズが本格的に落ち込むよりも早く、下の階から女子寮の扉が派手に破られる音と、何者かが無遠慮に侵入してくる音が響いてきた。
「!」
「……一旦引く」
「賛成」
 顔を見合わせて一時撤退を決める少女たち。
 いくら何でも、ここまで不透明な状況で『じっと黙って様子を窺う』という行動を選択するような真似はしない。
 三人はルイズの部屋の窓からそれぞれ魔法を使って飛び降り(ルイズは風メイジであるタバサに抱えられながらだったが)、茂みに姿を隠すことにした。
「…………ユーゼス」
 その途中、ルイズは他の二人には聞こえないほどの小声で使い魔の名を呼ぶ。
 ―――誰も応えることのないその呼びかけは、夜明け前の暗闇に消えていった。


「あっけないな」
 アルビオン皇帝クロムウェルの『トリステイン魔法学院の生徒たちを人質にせよ』という命を受け、部下を率いて魔法学院を襲撃したメンヌヴィルは、そう感想を抱く。
 敵の警戒網をくぐり抜け、魔法学院まで辿り着き、見張りに立っていた二人の女兵士を殺して、学院の各塔を制圧し、続いて人質を食堂と思しき場所に集める。
 ここに至るまで、スムーズ過ぎるほどにスムーズな進行だ。
 学院生徒たちは拍子抜けするくらいに抵抗せず、怯えた様子でアッサリとこちらの指示に従い、杖を取り上げる時もビクビクと怯えながら……と、実に従順なものだった。
 遮二無二にでも攻撃してくれれば少しは楽しめただろうに、何となく肩透かしを食らった気分だ。
(一人か二人くらいなら焼くことが出来るかと思ったんだが……まあ、いいか)
 自分はあくまで金で雇われた傭兵である。
 個人的な享楽よりは、取りあえず仕事を優先させねばならない立場にあるのだ。
 そう、『取りあえず』は。
「さて」
 生徒だけでなく教師たちも食堂に集められ、メンヌヴィルはあらためて捕虜となった面々を確認する。
 寝巻きのままの学院の女子生徒が90人ほど、これまた女ばかりの教師たち、そして学院長のオールド・オスマン。
 これだけの貴族に危害が及ぶとなれば、確かに国も動きかねない。
 メンヌヴィルは部下に命じて全員の手をロープで後ろ手に縛ってから、怯える女生徒たちに向かって優しい声で語りかけた。
「なぁに。むやみに立ち上がったり、騒いだり、我らが困るようなことをしなければ、お命を奪うことはありません。ご安心めされい」
44ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:48:29 ID:xSy8Wo2z
(そんな言葉でご安心出来るようなヤツはいないってんだよ、まったく……)
 ミス・ロングビルこと本名マチルダ・オブ・サウスゴータは寝巻き姿で後ろ手に縛られながら、内心で呟きつつ溜息を吐く。
 実は彼女は、いち早くこの襲撃者の存在に気付いていた。
 『とある事情』から、彼女は自分に対して迫る追っ手などの類には敏感なのである。
 そして彼女が本気を出せば、このリーダー格の男はともかくとして、自分が寝泊りしている本塔を襲撃した者たちを倒すことくらいは出来たかも知れない。
 しかし。
(そんなことしたら、また話がややこしくなりかねないからねぇ……)
 自分はあくまで『元貴族の学院長秘書』なのだ。
 決して荒事は得意ではない。
 ……ということになっている。
 ただでさえ自分は過去に『土くれ』のフーケなのではないかという疑惑を(軽くではあるが)かけられていたのだ。
 せっかく定職に就いて収入も安定してきたと言うのに、また疑惑が再燃、いやそうでなくとも『経歴詐称だ』とか言われて職を失ってはたまらない。
 要するにマチルダは『将来的な安定』と『今この場の身の安全』を天秤にかけて前者を取ったのである。
(ま、イザとなったら私だけでも逃げさせてもらうけど……)
 左肩のあたりにくくり付けて仕込んでおいたタクト状の杖を確認する。
 いよいよとなったら口でコレを咥えるなり何なりしてこの杖を取り出し、この場を切り抜ける算段だ。
 そんな状態で詠唱が出来るかどうかは少し怪しいが、まあ自分が得意な『錬金』の魔法は詠唱も短いし、どうにかなる……と思いたい。
 マチルダがそんなことを考えていると、女子生徒の誰かがうめくようにして泣き始めた。
「ぅぅ……うっ、……ぐすっ、ひっく……っ」
「―――静かにしなさい」
 鬱陶しそうに言うメンヌヴィル。
 しかし女子生徒は泣き止まず、むしろ泣き声を大きくする。
「ひくっ……うっ、く……ぅえ、っあ、ぅぁあああんっ」
「……………」
 メンヌヴィルは無言でその女子生徒の近くへ歩いていくと、その手に持っている金属製の杖で女生徒のアゴを持ち上げ、強引に自分の方を向かせた。
「ひっ!?」
「消し炭になりたいか?」
「……!!」
 泣きはらした顔のままでブンブンブン、と首を横に振る女子生徒。
 そして次の瞬間、彼女は無理矢理に泣き声を押し込んだ。
 このようなタイプの人間や状況とはほとんど無縁の人生を送ってきたであろう彼女でも、その言葉が単に自分を黙らせるための方便ではないことを感じ取ったのだろう。
 そのような様子を見かねたのか、オールド・オスマンが傭兵たちに話しかけた。
「あー、君たち」
「何だね?」
「女性に乱暴するのは、よしてくれんかね。察するに君たちはアルビオンの手の者で、人質が欲しいのじゃろう? 我々を何らかの交渉のカードにするつもりなのじゃろう?」
「ほう、どうして分かる」
 なるべく刺激しないようにしているのか、平静な口調で話すオスマン。
「長く生きていれば、そいつがどんな人間で、どこから来て、何を欲しがっているのか分かるようになるものじゃ。……とにかく贅沢はいかん。この老いぼれだけで我慢しなさい」
 傭兵たちはその言葉を聞いてゲラゲラと笑い声を上げた。 
「……おいジジイ、自分の価値を分かってんのか? お前一人だけのために国の大事を曲げるなんてヤツはいねえだろうが。その古ぼけた頭で考えろ」
「……………」
 首をすくめてまた黙るオスマン。
 確かに魔法学院の学院長ともなれば要職であるし、ある意味で国の重鎮と言えなくもないが、貴族の息女90人に教師を含めた数の貴族とではつり合いは取れまい。
 それだけの『量』と一人で、あるいはごく少数でつり合いの取れる価値を持った人間など、もう王族でもおいそれと手を出せないほどの身分の人間になってしまう。
 そんな大貴族はそうそういまい。
45ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:49:40 ID:xSy8Wo2z
 ―――と、マチルダが考えた直後。
「げっ……」
 マチルダのちょうど隣で縛られていた『トリステインでも三本の指に入る名門貴族』で、かつ『この家の動向次第で下手をすると国の動向も決まりかねないほどの影響力を持った家』の長女が、今まさに勢い勇んで立ち上がらんとしている光景が目に飛び込んできた。
(ああもう、何しようとしてるんだい……!)
 マチルダは慌てた。
 このやたらと気位の高い女が次の瞬間に取るであろう行動は、容易に予測が出来る。
 ……冗談じゃない。
 先程の女子生徒を黙らせたやり取りを見るに、あの男の沸点はかなり低そうである。
 こういう相手はうかつに手を出したり話しかけたりしないで、取りあえずやり過ごすべきなのだ。
 と言うか、『自分のすぐ隣』という彼女の位置も不味い。
 正直な話、この女が犯されようが売られようが殺されようが自分には直接は関係ないが、下手をすると自分にそのとばっちりが飛んできかねない。
 火薬庫にたいまつを持って近付こうとしているようなものだ。
 そして一歩でも間違えば大爆発の大惨事となり、自分はその爆発に巻き込まれてしまう可能性が割と高い。
 よって、マチルダはその彼女を止めるべく小声で話しかけた。
「ミス・ヴァリエールっ。ここは大人しくしててくださいっ」
「……止めないでください、ミス・ロングビル。ラ・ヴァリエール公爵家の名前を出せば、もしかしたら人質は私一人で済むかも……」
 気丈に言うエレオノールだったが、その決意の言葉の端々には恐怖が見え隠れしている。
(…………危なっかしすぎて、とても出せたもんじゃないね)
 エレオノールが魔法学院に派遣されてから二ヶ月。
 その間、学院長秘書という立場からマチルダは彼女と何度か話をする機会があり、それを通じてエレオノールがどのような人間なのかも『表面的に』ではあるが分かっていた。
 やたらとプライドが高くて、頭に血が上りやすく、良くも悪くも自分の意見を曲げたりしない。
 ―――以上のことから考えるにエレオノールの『交渉役としての適性』はかなり低く、また変な話だが『人質として適している』とも思えなかった。
 こんな我の強い女が、あんな何をするのか分からない男と衝突でもしたらどうなることか。
 勢いあまって10人くらい殺してしまった、なんてことも考えられなくはない。
 そしてその10人の中に自分が含まれない保証など、どこにもありはしないのだ。
「不用意に刺激したりすれば、生徒たちに危害が及ぶかもしれません。今のところ私たちに危害を加える気もないようですし、ここはじっとしてるのが得策です」
 マチルダは取りあえず『自分の身の安全』を『自分“たち”の身の安全』に置き換えてエレオノールを引き止める。
 しかしエレオノールはまだ納得しなかった。
「っ……、で、でも、何もしていなかったら、それこそどんな扱いをされるか……」
「……仮に公爵家だと名乗り出たって、それで素直に私たちを解放してくれるとは思えません。むしろ『人質の中にはこんな重要人物がいる』ってカードの一つにしかされませんよ、きっと」
「う……」
「それに……もし名乗り出た結果、あなたが殺されるようなことになったら、色々な意味で問題が起きてしまいます。単にあなたが死ぬだけではなく」
「ううぅ……」
「第一、向こうがその申し出を受けたとしても、根本的な解決になってないじゃないですか」
「……………」
 マチルダの言葉を聞いて消沈するエレオノール。
 行動を起こそうとした途端に立て続けて否定的な材料を並べられては、その意志をくじかれてしまうのも無理はない。
 しかも今はかなり切羽詰まったシチュエーションにあるので、色々な意味で思考が短絡的になってもいた。
「……じっとしてるしかないのかしら」
「少なくとも今はそうです」
 こういう時に下手に最善の方法を取ろうとするとかえって失敗することが多く、むしろある程度妥協した方が良い結果を残したりする。
 マチルダは魔法学院に就職する以前の経験から、それを学んでいた。
46名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 21:49:55 ID:Z1SEzxlJ
支援
47ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:51:00 ID:xSy8Wo2z
(……さて、いずれにせよ状況が動くまではこのままか……)
 持久戦になるかねぇ、などと考えつつ周囲を見回すマチルダ。
 他の女子生徒や教師たちはほぼ全員が不安そうに周囲を見回したり俯いたりしており、オスマンは拘束されながらも先頭に立って傭兵たちの相手をしていた。
「ジジイ、これで学院の連中は全部か?」
「そうじゃ。これで全部じゃ」
(取りあえず向こうの相手はあの爺さんで大丈夫だとしても、だ……)
 ここから状況がどう動くかによって、自分の動き方もかなり変わってくる。
 まずはその『状況が動く時』を見極めなければならない。
(ふぅむ)
 あわよくば事前に縄抜けでも出来ないものか、とマチルダは手首に巻かれたロープと格闘を始めた。
 その時。

 ゴォオオ…………ンン

「……何の音だ?」
 炎が燃え上がるのに似たような音……聞く者が聞けばプラーナコンバーターの駆動音と理解出来る音と、何か大きな物が地面に着陸する音とが響いてきた。
 当然、学院の部外者であるメンヌヴィルら襲撃部隊はその音に心当たりなどない。
 傭兵の中の一人が疑問を解消するべくオスマンに詰め寄る。
「おい老いぼれ、この音は何だ?」
「さて? 私もそれなりに長いこと生きてはいるが、この世にあるものを何でもかんでも知っておるという訳ではないのでのう」
 チッ、と舌打ちする傭兵。
 取りあえずは様子を見に行った方がいいのではないか……と傭兵たちが話し合いを始める。
 すると、今度は食堂の外から女の声が聞こえてきた。
「―――食堂にこもった連中! 聞け! 我々は女王陛下の銃士隊だ!!」
 顔を見合わせるメンヌヴィルら傭兵部隊。
「……どうやらセレスタンたちはやられたようだな」
 セレスタン、というのは同じ傭兵部隊の仲間のことなのだろう。
 しかし『仲間がやられた』という事実を間接的に突きつけられたと言うのに、メンヌヴィルたちには全く動揺した素振りがない。
 先程オスマンと話していた傭兵が再び老人へと詰め寄った。
「ジジイ、『これで全部』じゃねえじゃねえか』
「銃士は数には入れとらん」
 魔法学院学院長は、強い睨みの視線を飄々と受け流す。
 一方、メンヌヴィルはニヤリと笑みを浮かべて部下たちに指示を飛ばした。
「ジャン、ルードヴィヒ。裏口から出てさっきの音の出所を調べて来い。表にいる銃士隊とやらに気付かれんようにな。俺はこれから『交渉』を行う」
 命令を受けた二人のメイジが言われた通りに裏から出て行き、メンヌヴィルは入り口へと歩いていく。
(……色々といきなりだねぇ、まったく)
 そんな目まぐるしい様子を黙って見ていたマチルダは、流動的すぎる状況に辟易し始めていた。
 彼女の予想では、状況が動くにしてももう少し穏やかと言うか、ゆっくりとしたものであったのだが……。
(おや?)
 と、ここでかつて自分と同行して『土くれ』のフーケを討伐に向かったメンバーが、揃ってこの場にいないことに気付く。
(とは言え、今回はあの時とは状況が違いすぎるし……)
 毎回そうそう都合よく事が運ぶとは思えない。
 しかし『もしかしたら』という、ある種の期待感のようなものはある。
(一体どうなるのかねぇ)
 いずれにせよ自分にだけは被害が及ばぬよう、信じてもいない始祖ブリミルにそっと祈りを捧げるマチルダ・オブ・サウスゴータであった。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 21:52:14 ID:RaC3I54B
支援
49ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:52:31 ID:xSy8Wo2z
 真夜中の空気の中、ちょうど一リーグほど離れた地点にあるシティオブサウスゴータを見つめながら(と言っても暗闇でほとんど見えないが)ギーシュは緊張に震えていた。
 今、自分がいるのは突撃開始点であり、後ろを振り向けば総勢150人にものぼる兵たちが『自分の号令』を待っている。
 ……泣いても笑っても喚いても、間もなく侵攻が開始される。
 ギーシュはド・ヴィヌイーユ独立大隊の第二中隊を率いる中隊長として、その先頭に立っているのだ。
 だが。
「中隊長殿」
「な、なな、何だっ?」
 彼はすぐ近くに控えている副官のニコラの呼びかけに答えるだけでも、もはやいっぱいいっぱいの状態だった。
 身体と声の両方を小刻みに震わせて、ギーシュは軍曹と会話を行う。
「杖を落っことしてますぜ」
「え? あ、ああ、杖ね。……って、杖? ……杖!?」
 言われて汗まみれの手の中を見てみれば、確かにバラを模した自分の杖がない。
 胸やズボンのポケットの中を探ってみても、ない。
 そして足下に視線を向けて、ようやくバラを模した自分の魔法の杖を発見した。
「わ、わわわっ!」
 うろたえながら杖を拾い、胸ポケットにしまうギーシュ。
 そしてゴホンとわざとらしく咳払いをして威厳を保とうとするが、もともとギーシュは『威厳』などというものは持ち合わせていないので保ちようがなかった。
「中隊長殿」
「な、何だ?」
「……大きなお世話かもしれませんが、小便を垂れといた方が良いですぜ」
「僕を馬鹿にするな、軍曹」
「おや」
 ジロリとニコラを見て、ギーシュは言い放つ。
「もう済ませた」
「そりゃ結構で。……と言っても、そんなガチガチに緊張することはありませんや。敵の大砲は先立っての艦砲射撃でほとんど潰したって言うし、どういうわけだか向こうに配備されてるのは大部分が亜人の部隊だって話じゃないですか」
 軽い調子で言うニコラだったが、ギーシュはとてもそう考えられなかった。
 以前、宝探しに出かけた時にオーク鬼の群れと戦わされた記憶が頭をよぎる。
 確か自分のワルキューレは、あの時メチャクチャに苦戦して……いやむしろほとんど負けていなかったか。
 しかも今回はオーク鬼だけでなく、オグル鬼やトロル鬼までいるとか。
 それらの亜人に共通していることと言えば……。
「あ、亜人は凶暴で、でっかくて……あと力が強くて、身体が固くて……」
「でも、くみしやすい相手ですよ」
 サラリと言ってのける副官。
 そんなニコラの姿を見て、ギーシュは何とも言えない頼もしさを感じた。
 知識やアイディアを提供してくれるユーゼスとは、また違う頼もしさだ。
 それに、この状況で他に頼れる人間もいない。
(よ、よし……)
 現金なもので、頼りになる人間を見つけた途端に心も落ち着いてくる。
 そして落ち着いてくると、疑問を抱く余裕が出てきた。
「でも……一体どこから攻め込めばいいんだ? このサウスゴータって街は周りを高い石壁で囲まれてるし、それに丘の上に建ってるから普通に行くにはやりにくいし」
 そんなギーシュの問いに、ニコラは上空を指差して答える。
「今、『工事』をしてくれますよ」
「え?」
 ニコラが指差した方を見てみると、暗闇で見えにくくはあるが上空に十数隻ほどの戦列艦で編成された艦隊が出現していた。
 ボンヤリとその艦隊を眺めていると、
 ドォォオンッ!! ドンッ!! ドォンッ!! ドドドォォオオンッッ!!!
 戦列艦は一斉に砲撃を開始し、サウスゴータの城壁を破壊していった。
「うわ……」
 思わず感嘆の声を上げるギーシュ。
 無数の砲塔から煙が舞い、轟音が響くたびに城壁の内の何箇所かが崩されていき、それと呼応して周囲の兵士たちから歓声が上がった。
 どうやらあれがニコラが言う所の『工事』とやららしい。
 しかし、単純に城壁を壊しただけではガレキが生産されるだけでどうにもならないのだが……。
50名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 21:53:56 ID:kz7tpsnK
久し振りだから状況が把握できん支援
51ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:54:00 ID:xSy8Wo2z
「ん? アレは……」
 そう思っていると、自陣の中から巨大な土ゴーレムが集団で現れる。
 見たところ、どれもこれも身長20メイルほどの大きさのようだ。
「……トライアングルクラスが作ったゴーレムだな」
 以前に自分も参加させられた『土くれ』のフーケのゴーレム対策会議がギーシュの頭をよぎった。
 確かフーケのゴーレムは30メイル程度だったはずだが、皆それよりも小さいのは単純にフーケの実力が飛び抜けているのか、それとも敢えて20メイルの大きさに統一しているのか。
(この場合は後者かな?)
 大きさがバラバラなゴーレムが同じ集団で動いたとして、統制が取れるとも思えない。
 自分のワルキューレだって手の平くらいの小さいサイズから3メイルほどの大きいサイズまで作れるが、集団で動かす時は全て同じサイズだ。
「ん?」
 ギーシュが何となく得心していると、崩された城壁へと向かって歩いていく土ゴーレムの集団の中に見慣れた紋章が一つあることに気付いた。
「アレは……」
 土ゴーレムは、それぞれ作成者の家の旗を背中に立てている。
 ほとんどの旗は目立つようにラメなどを編みこんでいるため、暗闇の中でも識別が出来た。
 そしてあの旗に描かれているバラと豹でデザインされた紋章は、まさしく自分の家の……グラモン家の紋章だ。
 ということは、
「兄さん! 兄さんのゴーレムだ!!」
 思わず叫びを上げるギーシュ。
 他の家のゴーレムと一緒に侵攻していることから、おそらく王軍に所属している二番目の兄か三番目の兄のどちらかかと思われた。
 やがて、敵も接近してくるゴーレムを迎撃すべく巨大な飛び道具(ニコラの解説によれば『巨大バリスタ』というらしい)を使い、前の方にいたゴーレムの内の何体かが打ち砕かれる。
 しかしそれに対応するかのようにして連合軍から竜騎士が飛来し、その巨大バリスタへとブレスや魔法で攻撃を加えていった。
「に、兄さんの作ったゴーレムは……まだ無事か……」
 戦いの規模が大きすぎて呆気に取られるばかりのギーシュだったが、兄のゴーレムが生き残ってることを確認してほっと胸を撫で下ろす。
 と、そこで隣にいたニコラが興味深そうな顔で質問してきた。
「あのグラモン家のゴーレムにご執心のようですが……中隊長殿はグラモン家にゆかりがおありで?」
「末っ子だ」
「……ほう! ということは元帥のお坊ちゃんで!? こりゃおったまげた!」
 その答えを聞き、ニコラは驚いた様子で中隊長の姿を見つめ直す。
「ですが……何でまたこんな場末の鉄砲大隊なんかに? 父上のお名前を借りれば、近衛の騎士隊だろうが、一流の連隊参謀部だろうが、お望みのままでしょうが!」
 するとギーシュは、グラモン家の旗を背中にひるがえす兄のゴーレムを見ながらポツリと口にした。
「……父の名前を使ったら、僕の手柄にならんじゃないか」
 ポカーンとするニコラ。
 だが、やがてその言葉の意味を飲み込んだのか面白そうに笑って中隊長の肩を叩く。
「はははっ! 気に入りましたよ、坊ちゃん! こりゃあ手柄を立てんことには国には帰れませんなあ!」
「……………」
 そうこうしている内に巨大バリスタは竜騎士隊によって沈黙し、生き残りのゴーレムたちはガレキだらけのサウスゴータの城壁にようやくたどり着いた。
 そしてゴーレムたちは、せっせとそのガレキを取り除き始める。
「何をやってるんだ?」
「入口を作ってるんでさ」
「……『入口』って言うと……や、やっぱり、アレかな」
「そのアレってのがどれなのかはよく分かりませんが、少なくともあの入口は我々が突入するためのものだと思いますぜ」
「………………だよね」
 ここに至って緊張がぶり返してきたのか、ギーシュはまた震えだす。
「震えてますぜ、中隊長殿」
「……む、武者震いと言いたいが……恐いだけだな。うん」
 ニコラは頷いた。
「正直でいいですな。むやみに勇気を奮ったって手柄は立てられねえ。かと言って臆病もんでも困っちまう。……とにかく、任せておいてくだせえ」
「う、うむ」
52ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 21:55:30 ID:xSy8Wo2z
 言われた通りに任せておくことにしたギーシュ。
 そこから先はニコラがテキパキと指揮をしていった。
 まず150人の兵の内、100人の銃兵(ちなみに残りの50人は護衛の短槍隊である)に弾込めを指示する。
 それからギーシュの魔法で火縄に火をつけてもらい、その火を銃兵たちに配る。
 中隊員たちはあまりやる気が感じられず、動作もとても機敏とは言い難かったが、とにかく突撃前の準備は進んでいった。
 そして……。
「中隊長殿、行きますぜ」
「……グ、グラモン中隊前進!」
 震えながらもバラを模した杖を高く掲げて、ギーシュが号令をかける。
 老兵を中心にして構成された中隊はのっそりと、しかしどの隊よりも先んじて動き出した。
 ギーシュは自分の隊だけが突出していることに焦ったが、ニコラが言うには『自分たちの隊は年寄りばっかりなので、早めに出発しておかないと間に合わない』そうである。
 実際、自分の号令に二十秒くらい遅れて他の隊も突撃の号令を出し、先頭を行くグラモン中隊を他の隊が追随するという形になっていた。
 そしてそのままグラモン中隊は真っ先にシティオブサウスゴータの城壁に辿り着き……。
 後から馬で駆けて来た数人の騎士たちに追い抜かれたのだった。
「ああっ、一番槍だったのに!」
 何だかんだ言っても一番槍の栄誉が欲しかったギーシュは、横取りされてたまるかと慌てて城壁の中に飛び込もうとする。
「!」
「うわぁっ!?」
 が、飛び込もうとした瞬間にニコラによって押さえつけられ、更にその直後、
「うっ……!」
「……………」
 ぐしゃ、めしゃ、などという音。
 それが何度か響いたと思ったら、原形をとどめなくなった『さっきまで人間だったもの』や『さっきまで馬だったもの』の残骸が、ギーシュたちのちょうど目の前の地面に飛んで来た。
 凄惨な光景と、生々しい音と、血の臭い。
 トドメに『何か水滴のようなもの』までもがいくつか顔に付着して、一斉にギーシュの五感を刺激する。
「ぁ……」
 『暗闇の中』というシチュエーションが、むしろ状況の酷さを際立たせた。
「っ、う、ぐ……っぅ!!」
 こみ上げる吐き気を必死で抑えるギーシュ。
 ついさっき自分に先んじて城壁の中に突入した騎士たちは、一人残らずオーク鬼が振るう棍棒の餌食になってしまった。
 侵入者を殴り殺したオーク鬼たちはこちらに気付いたのか、のっしのっしとその巨体を城壁の側へと移動させる。
「ぅ……うっ、ぐっ!!!」
 人間の死体。いや、死骸。
 自分もこうなる。
 死ぬ。
 殺される。
 ……オーク鬼に襲われるのはこれが初めてではなかったが、実際に『人の死』を間近で見せ付けられ、それがすぐそばまで迫っていると自覚してしまうと、どうしようもない恐怖感が物凄い勢いでギーシュを侵食していった。
「うぁぁあ!! 撃て!! 撃て、撃てぇえっ!!!」
「駄目だ!! まだ撃つな!!!」
 軽い恐慌状態におちいったギーシュが必死になって叫ぶが、すかさずニコラに止められる。
「ふ……ふく、副長!?」
 ギーシュは半ばパニック状態で自分の副官を見るが、そんな中隊長の状態を考慮しているのかいないのか、ニコラは矢継ぎ早にギーシュに指示を出した。
「中隊長殿! 一番後ろの奴に転ばす呪文を!!」
「え?」
「早く!!」
 判断力が大きく低下しているギーシュは、ニコラの言う通りに『アース・ハンド』の呪文を唱える。
 すると最後尾のオーク鬼が立っているあたりの土が突然盛り上がり、更に腕の形になったかと思うと、その土の腕はオーク鬼の足をつかんで盛大に転ばせた。
53名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 21:58:14 ID:RaC3I54B
支援
54ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:00:10 ID:xSy8Wo2z
「ふぎぃっ!」
 耳障りなオーク鬼の叫び声が聞こえる。
 その次にギーシュの耳に響いたのは、ニコラの射撃命令だった。
「第一小隊! 目標、先頭集団!! てえーーーーーーーーっ!!」
 続いて数十発もの射撃音。
 ギーシュたちを標的と定めて向かっていたオーク鬼の集団、その先頭に位置している数匹のオーク鬼の身体に次々と穴が開いていく。
 そして先頭グループが撃ち倒されたことによって、後続のグループの動きも鈍り……。
「第二小隊! てえーーーーーーーーっ!!」
 その後続のグループも銃弾の雨に襲われる。
 分厚い皮膚と皮下脂肪とが鎧のように身体をガードしているオーク鬼にとって、銃弾の一発や二発、あるいは少しばかりの剣や槍など脅威にはなり得ない。
 それでも、さすがに至近距離かつ数十発の一斉射撃を受けてはひとたまりもなかった。
「ぴぎっ! あぎっ!」
 射撃から生き残ったオーク鬼たちは危険を感じて逃げようとする。
 だが、ただでさえ狭くて身動きの取りにくい城壁の亀裂の中、最後尾のオーク鬼はギーシュが唱えた魔法によって転倒しており、その巨体で道を塞いがれているために後退もままならない。
 体重が人間の五倍もあるオーク鬼が転んだ場合、立ち上がるのにもかなりの労力を必要とするのだ。
「んぐぃぃいいいいいッ!!」
 そんな最後尾のオーク鬼と、前方の同族の死体とに挟まれてモタモタとしている生き残りのオーク鬼たち。
 当然、そんな隙を見逃すニコラではない。
「第三小隊! てえーーーーーーーーっ!!」
 オーク鬼の集団は鉄砲隊の一斉射撃を受け、ばったばったと倒れていく。
 それでもしぶとく何匹かの生き残りは出たが、そんな彼らも短槍隊の突撃を受けて壊滅した。
 かくして、ギーシュの目の前にはオーク鬼の死体が大量生産されることとなったのである。
「す、凄いな……」
「こいつらは単純だからね。敵と見ればまっすぐ襲い掛かってくるんでさ」
 目下のところの安全を確認し、銃兵たちに弾丸を込めさせつつニコラは言う。
 その副官の笑みに、ギーシュはこの上ない頼もしさを感じていた。
「中隊長殿。さ、一番槍ですぜ」
「あ、ああ!」
 騎士たちの死骸に軽く黙祷を捧げ、オーク鬼たちの死体を踏み越えてグラモン中隊は進む。
「この奥にも亜人どもはまだウジャウジャいるって話ですから、気を引き締めて行きましょうや」
「分かった」
 そうしてグラモン中隊が警戒しつつシティオブサウスゴータの内部へと踏み込んでみると、確かにニコラの言葉通りに亜人がウジャウジャと存在していた。
 ……もう少し正確に言うと、オーク鬼やトロル鬼などの亜人が、アルビオンの兵士やメイジと一緒になって自分たちを待ち構えていた。比率としては亜人が6か7に対して、人間が3か4と言ったところか。
 どうやらアルビオン軍は本当に亜人たちと結託しているらしい。
「む、むぅ……」
 殺気立った目を自分たちに向ける亜人交じりのアルビオン軍。
 ギーシュは再びの戦いの予感に身震いし、ニコラは『さてどうしたものか』と考え込む。
 こちらの手駒は、100人の鉄砲隊と50人の短槍隊。加えてドットの土メイジが1人。
 対する敵側は、オーク鬼・トロル鬼・オグル鬼の亜人軍団が少なく見積もって50匹ほどに、アルビオン貴族と兵士たちが合わせて20〜30名ほど。
(……何だかこっちの旗色が悪い気がするが……)
 取りあえず隣にいるニコラの顔を見てみるが、それほど慌てたり切羽詰まったりといった顔はしていない。
 ギーシュは副官が慌てていない様子にホッとしつつ、彼の口からこの場の方針が出されるのを待った。
 果たしてどのような指示が下るのだろう。
 攻撃、突撃、それとも分散、あるいは一時撤退か。
 いやいや、もしかしたらそれより先に敵の攻撃が始まるのかもしれないぞ。
 取りあえず思いつく限りの展開を予想してみるギーシュだが、士官学校で即席の講習を受けただけの自分ではただ考えるだけの『予想』が出来ても、様々な要素から割り出す戦局の『予測』は出来ない。
 ……果たして敵はどう動くのか。
 そしてニコラは自分たちをどう動かすのか。
 緊張感を漂わせつつ、シティオブサウスゴータの街道の真ん中で両軍がにらみ合いを続ける中……。
 『それ』は、唐突に現れた。
55ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:01:30 ID:xSy8Wo2z
 ビキッ……
「ん?」
 ギーシュの耳に、何かにヒビが入るような音が聞こえた。
 亜人が路面の石畳でも強く踏んだのか……と思った次の瞬間。
 ―――ゴッッ!!!
「うわぁ!!?」「っ!?」「な、何だあ!!??」「コイツは……!」「んぎぃぃぃいいいいッッ!?」
 轟音と激しい地響きが、トリステイン・ゲルマニア連合軍もアルビオン軍も問わず、シティオブサウスゴータにいる全ての存在を襲った。
「じ、地震か!?」
「地震って……ここはアルビオンですぜ!?」
 アルビオンでは地震は起こらない。
 これはハルケギニアの多くの人間の共通認識である。
 そもそも地震とは二枚以上の岩盤プレートがぶつかり合ったり引っ張り合ったりした結果に起きるものであって、単一で空中に浮かんでいるアルビオン大陸では起きようがない(人為的に地面を振動させるなどした場合はその限りではないが)。
 ハルケギニアではこのような地震のメカニズムはほとんど解明されていないが、長い歴史の中で『アルビオンでは地震は起こらない』ということは常識として浸透していた。
 第一、浮遊大陸であるアルビオンでそうそう地震など起きようものなら、とっくの昔にこの大陸は崩壊している。
「そんなこと言ったって、実際に地震が起こってるんだから……」
「! ……中隊長殿、アレを!!」
「え?」
 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが響く中でニコラと話そうとしていると、そのニコラが前方を指差した。
 言われてギーシュも前を見てみると、
「な……何だぁ?」
 赤紫色の結晶のようなモノが生えて、シティオブサウスゴータの街道のみならず街のあらゆる部分を侵食している。
 ―――ギーシュだけではなく中隊全員、敵に至るまでが呆然としている中、ニコラが怪訝な顔でギーシュに質問した。
「……中隊長殿、自分は学がないんでよく分からんのですが……。あの赤っぽいのに心当たりはありますかい?」
「いや、僕も知らない……」
 自分たちが今いる地点のすぐそばにも、その『赤紫色の結晶』は出現している。
 危険かもしれないので直接手に取ることはしないが……本当にこんな物体は、見たことも聞いたこともなかった。
 透明度はけっこう高い。
 地面を突き破るように出現したことから、それなりに硬度もあるようだ。
「ガラス? 氷? いや……やっぱり何かの結晶なのか?」
 そう言えば、前に女王陛下の密命でアルビオンに来た時も(あの時のアンリエッタは『姫殿下』だったが)、船から見たアルビオン大陸には青い結晶のようなものがチラホラと見えていた。
 今回の上陸は、いつ敵が襲って来るのか分からないので大陸の様子を見る余裕などなかったが……思い返してみれば、その『青い結晶』と目の前にある『赤紫色の結晶』は、色が違うだけでほとんど同じような、そうでないような……。
(ダメだ、確信が持てない)
 ギーシュはそれほど記憶力が良い方ではないのである。
「え、えぇと……」
 しかしこの結晶の正体が何であれ、ただごとではない様子はひしひしと感じる。
 これから一体どうするべきなのだろうか。
 ……取りあえずニコラの判断を仰ごうとギーシュはまた隣を向こうとする。
 だがそれより早く、今度はもっと強烈な変化が起こった。
 ヴンッ!!
「!!?」「何だっ!?」
 突然、赤い光が発生し、その光の中から異形の存在が出現したのだ。
56名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:02:02 ID:kz7tpsnK
副官はできる子支援
57ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:02:30 ID:xSy8Wo2z
「ほ……骨の、怪物?」
 思わず呟くギーシュだったが、まさにそうとしか表現のしようのない存在だった。
 角ばった白い骨の各所に黄色いツノのような突起物がついた、全長2.5メイルほどの大きさの怪物。
 そんなモノが、いきなり赤い光と共に現れたのだ。
 しかも、その光は一つだけに留まらず……。
「ま、まだ出て来るのか!?」
 次から次へとサウスゴータの街を埋め尽くすほどに出現し、その後に怪物を残しては消えていった。
「…………ざっと見たところ、三ケタは下らん数ですぜ」
「それに、何だか『骨のヤツ』以外にも色々と…………何だアレ、ツタが絡まってるような……」
「あとは一回りほどデカい、紫色の鎧のヤツに……」
「少し小さめの、甲冑に魚のヒレがついたようなヤツ……」
 総数100以上、合計四種類。
 正体不明の怪物の群れを前にして、歴戦の傭兵であるニコラですら困惑や動揺から面食らってしまっている。
 もはやほぼ完全に動きを停止してしまったグラモン中隊だったが、しかしそこで別の陣営が動きを見せた。
「……っ、各隊に伝達! 『アインスト』が現れたぞ!!」
「すぐに機関銃をこっちに持って来い!!」
 ギーシュたちと対峙していたアルビオン軍である。
 彼らは緊張した面持ちで戦闘態勢を整えると、怪物の群れに向かって魔法や剣、槍などで攻撃を開始した。
『グゥゥゥウウウウウウ……!』『ガァァアアアアアァァ……!』『オォォォオオ……!』『…………ァァア!』
 そして怪物たちもまた、アルビオン軍へと襲い掛かっていく。
 骨の怪物は、黄色い爪を巨大化させて。
 ツタの怪物は、身体の中心にある赤い光球から破壊力をともなう光を放出し。
 鎧の怪物は、両腕を浮遊させてそれを敵にぶつけ。
 魚の怪物は、赤い光球から電撃を放つ。
 怪物の群れは人間にも亜人にも関係なく攻撃を加えていた。
 そして襲い掛かられている以上、アルビオン軍も応戦せざるを得ない。
「……凄い光景だな……」
「…………まったくですな」
 ギーシュたちは少し離れた地点でそんな戦いを見ていた。
「しかし、さっきアルビオンの連中が言ってた『アインスト』ってのは何なんだ?」
「察するにあのバケモノたちの呼び名ってところだと思いますが……」
 いずれにせよ、こうまで戦況が変わってしまっては迂闊に手を出すのは得策ではあるまい。そのくらいはギーシュにも分かる。
「軍曹、ここは……」
 撤退するべきなんじゃ、と言いかけたところでギーシュのセリフが中断された。
 否、中断しなければならない状況になってしまった。
「う、うわ、うわわわわっ! こっちにも向かってきたぁ!!?」
「……クソッ、アルビオンの連中だけを攻撃してくれりゃあいいものを……そうそう都合よくはいかんか!」
 中隊に迎撃態勢を取るよう命じるニコラ。
 しかし、敵は正体不明の怪物である。
 それなりの数の戦場を渡り歩いてきたニコラの経験にも、魔法学院で知識を学んだギーシュの知識にもない相手だ。
 どんな習性があって、どんな攻撃が有効なのか、まるで分かりはしない。
「ああもう、こんな時にユーゼスがいてくれたらなあ……」
 いつも沈着冷静で、たまに信じられない発想をするあの銀髪の男ならば……あるいは打開策を見つけられるかもしれない。
 だがここはアルビオンで、今ユーゼスはトリステインにいるはず。
 アンリエッタの密命を受けた時に見せた、あの『一瞬で数百リーグを移動した移動方法』を使えば距離の問題などはないも同然だが、だからと言って都合よくこのタイミングで現れてくれるわけもない。
 この危機は、ギーシュたち自身の力で乗り越えなければならないのだ。
58ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:04:00 ID:xSy8Wo2z
「……ようやく着いたか」
 もうしばらくしたら夜明けという時間帯になって、ユーゼスはトリステイン魔法学院に帰還した。
 この銀髪の男は、夕方前のあたりからつい2時間前に至るまで、延々とエレオノールとの間にあった出来事をカトレアに語り続けていたのである。
 しかも話が終了したのは『語り終わった』からではなく、『カトレアの体力が持たなくなって貧血で倒れた』からだった。
 そしてゼエゼエ言いながら続きを促すカトレアをなだめ、更に寝室まで運んでベッドに寝かせるのに更に30分を費やした。
 ちなみにその際、
「汗も随分とかいているな」
「え、ええ……まあ……。でも、このくらいは……慣れっこですから」
「……冬に汗まみれのままで眠れば余計に体調を崩すぞ。ただでさえ寝不足なのだから、汗のふき取りや着替えくらいはするべきだと思うが」
「そうしたいのは、やまやまなんですけど……。ちょっと、そんな……余裕も、ないみたい……ですし……」
「ふむ」
 という会話があり、
「分かった。それでは私がそれをしよう」
「は……え、ええっ!?」
「何を驚いている。御主人様など、私を召喚したその日には何の躊躇もなく『自分を着替えさせろ』と命じていたぞ」
「………、あの子ったら……」
 そんな掛け合いを経て、 
「それに……お前が私に対して肌を晒すことに、羞恥心を感じるのも今更だろう?」
「え?」
「お前の肌など週に二回の診察で見慣れているし、触り慣れているからな。まあ触れていない部分もそれなりにあるが、要領として大差は……」
「っ……」
「ぐっ―――なけなしの体力を消費してまで、なぜ私の頭を叩く?」
「自分の……胸に、ぜえ、聞いてっ、くださいっ」
 その後も交渉は続き、
「とにかく、身体を拭くから服を脱げ。これが原因で死なれでもしたら目覚めが悪い」
「や……でも、ちょ、ちょっと、それは……」
「? ……ああ、服を脱ぐためにも身体は動かさねばならんか。それにも体力は必要だからな……。では私が脱が―――」
「じっ、自分で……脱ぎます、からっ、大丈夫ですっ!」
「そうか?」
「ええっ、身体も……自分で、拭きますし」
「そこまで言うのならば任せるが……。着替えはそこのクローゼットの中でいいのか?」
「あ、はい。さすがに……立ち上がるのは、無理みたいですので……お願いします」
「…………寝具や下着が数種類あるが、適当でいいか?」
「〜〜〜……っ、は、はい、ユーゼスさんに、お任せ……します。……それと……」
「何だ」
「その……着替えたり、身体を拭いたりしてる間は……むこうを向いててください」
 などという一連のやり取りの末に、結果としてもう30分を消費していた。
 それからカトレアが着替えたことと眠ったことを見届け、夜間ということでスピードを控えめにして飛行を行い、現在に至っている。
 ラ・フォンティーヌの屋敷に寝泊りするという選択肢もあるにはあったのだが、『さすがに朝帰りは不味い』という程度の良識はユーゼスも持ち合わせていたのだった。
59ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:05:30 ID:xSy8Wo2z
 何はともあれ、ユーゼスは早く自分の研究室に戻ろうとする。
 徹夜をしようが朝帰りをしようが、『使い魔として命じられた仕事』がなくなるわけではないのだ。
 差し当たって7時になったら主人を起こさなければならない。
 これが簡単そうに見えて意外に大変な仕事だった。
 特に最近は冷え込みが厳しくなってきたせいで、ルイズがなかなか布団から出ようとしないのである。
「……………」
 ゆっくりとビートルの着陸視点から学院へと歩いていくユーゼス。
 今の時間帯の正門は閉まっているはずなので、火の塔近くの裏口から学院の敷地内に入り込もうとする。
 そこで、ユーゼスは学院の異変に気付いた。
「む?」
 学院本塔の食堂あたりから、明かりが差してきている。
 ……一瞬、調理場の仕込みのせいかとも思ったが、調理場だけから発せられる光にしては随分と大きい。
 つまり今、食堂には明かりが灯っているということになる。
(この時間帯にか?)
 まだ夜明け前、時刻で言うなら五時にもなっていない。
 何かの催し物があるという話も聞いてはいないし、そうなると『通常では有り得ない事態』が起こっているということになるのだが……。
「……それだけではな」
 何かが起こっている可能性は高い。
 しかしそれが具体的に何なのかは分からない。
 どうしたものかと考えながら、ユーゼスは取りあえず警戒しつつ火の塔の前、以前にギーシュと戦ったヴェストリの広場の隅のあたりを進んでいく。
 すると、そこで少々見過ごせない物を見つけた。
「銃士隊?」
 学院内ではもはや見慣れた服装となっている銃士隊の女性が、二人ほど倒れている。
 近寄ってみると、二人とも銃を抱えたままで喉から大量の血を流しており……。
「……死んでいるな」
 肌の色や瞳孔の開き具合からして、間違いなく死亡していた。
 蘇生までのタイムリミットなど、とっくの昔に過ぎ去っている。
 いや、この出血量では蘇生は不可能か。
「……………」
 ひとまず銃士隊の死体を検分するユーゼス。
 本格的な死後硬直はまだ始まっていないが、周囲にこれでもかと言うほど流れ出た血の乾き具合からして、死後三十分以上、一時間以内といったところだろう。
「ふむ」
 二人とも特に服装が乱れているわけでもなければ、喉以外に外傷もない。
 つまり強姦などはされずに速やかに殺されたということになる。
「厄介だな……」
 侵入者か襲撃者が現れたことは、これで決定的になった。
 問題はそれがどのような相手かということだが、銃士隊に首の傷以外の外傷が見られない以上、ある程度のプロフェッショナル意識を持った相手なのだろう。
 襲撃者が女という可能性もあるが、こういう場合は楽観的な考えを持たない方が良い。
「……エレオノールたちは無事か?」
 まず気がかりなのは中にいる人間の安否だ。
 銃士隊隊員がかなりアッサリ殺されたと見られる以上、中にいる誰が殺されても何の不思議もない。
 その上、彼女たちも死体になる前はそれなりの訓練を受けており、まがりなりにもあのアニエスの部下として行動していた。
 つまりガンダールヴが発動していない状態の自分よりは強かったはず。
 それが二人とも激しい戦闘をした形跡もないまま殺されている。
「……………」
 こういう場合は迂闊に動かない方が懸命ではある。
 しかし静観に徹した結果、状況が悪くなるケースも考えられる。
60ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:07:00 ID:xSy8Wo2z
「ひとまず、何かが起こっているらしい食堂の様子を見るべきか?」
 そのようにしてユーゼスが女性二人の血まみれ死体を前に今後の行動について悩んでいると、
「!」
 何者かがこちらに近付いてくる気配を感じた。
 ……なお、本来ユーゼス・ゴッツォに『敵の気配を感じる』などという戦闘技能は備わっていない。
 ではなぜユーゼスが敵の気配を感じ取ったかというと、これはカリーヌ・デジレの訓練によって半ば強制的に叩き込まれた技能なのである。
 もっともユーゼスの持つ『本来の能力』を駆使すれば、『敵の気配を感じる』ことはおろか『現在魔法学院がどのような状況にあるのか』、『敵一人一人の能力や素性』すらも容易に把握が出来るのだが……。
「……………」
 ともあれ、使うつもりのない能力に関して考えても意味がない。
 ユーゼスは音を立てないようにしながらゆっくりと鞭を構え、正体不明の敵と思しき影に向かってそれを放った。
「ぐぅっ!?」
「!! おい、どうした!?」
 暗闇の中で、聞き覚えのない男の声が聞こえてくる。
 今の魔法学院に男はほとんどいない。
 いたとしても、残り少ない男の声くらいならユーゼスも把握はしていた。
 つまりこの先にいるのは学院部外者ということになる。
 ……もし学院関係者だったらどうしようかと思ったが、結果オーライというやつだ。
 そして先ほどの攻撃については、鞭が命中した手応えは感じたが、仕留めるに至ってはいないようだ。
 すぐそばに転がっている二つの死体のように『喉か頭部に当てて相手を即座に殺す』のがベストだったのだが、夜明け前の暗闇では命中精度が大きく下がってしまう。
(早川健ならば、それでも正確に当てただろうな)
 やはりちょっとやそっとの訓練では、あの境地には至れないようだ。分かっていたことではあるが。
(さて……)
 自分の技量不足は納得済みなので構わない。
 ここで優先しなければならないのは、自分のことではなく相手のことだ。
 ……先程聞こえてきた声や気配の数からして、こちらに向かってきた敵はどうやら二人いるらしい。
(いかんな)
 敵が一人であればそれなりに何とか出来る自信はあったのだが、二人となると事情が違ってくる。
 たかが一人から二人になっただけ、と考えてはいけない。
 単独のこちらに対して、向こうの戦力はその倍だ。
 自分の能力が敵のそれを大きく上回っているのならともかく、互角以下の自分にとっては生きるか死ぬかの大問題なのである。
(ギーシュ・ド・グラモンでもいれば、もう少しやりようもあるのだが……)
 彼の操るゴーレムはかなり応用が利くし、何より『手軽に数を揃えられる』という点が評価出来る。
 さすがに敵味方の総数が三ケタを超えるような大規模な戦闘においては意味合いが薄れてしまうが、戦術的にはそれなりに使えるはずだ。
 ……と考えはするものの、現在ギーシュはアルビオンにいる。
 アルビオンまで空間転移してギーシュを連れて戻って来るという手段もあるにはあるが、それには色々と問題がありすぎる。
(いない人間のことを考えても意味がないか……)
 何にせよ、この場は自力で乗り切らねばなるまい。
「……………」
 ユーゼスはオリハルコニウムの剣を鞘から抜き、地面を蹴って二人の敵を襲撃する。
 だが、それとほぼ同時に敵も動き出した。
「む!?」
 土の弾丸と風の刃とが襲いかかってくる。
「!」
 ユーゼスは剣を構えつつ身をひねり、それを回避した。
(……あの訓練がこんな形で役に立つとはな)
 数ヶ月前の自分ならば、おそらく直撃することはないにしても、完璧には避けきれずに多少の怪我は負っていたはずである。
 これもカリーヌとアニエスによる、それぞれのシゴキの成果と言えるだろう。
(何か妙な自己嫌悪を感じるが……)
 しかしそのようにして順調に戦闘技能を身に付けていっている自分が、何だか嫌なような。
 ……いや、無数に存在する並行世界の中で、一つくらいはそのような『ユーゼス・ゴッツォ』がいても構わないとは思う。
 そう思いはするが、それが『このユーゼス・ゴッツォ』となると複雑な心境だった。
61ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:08:30 ID:xSy8Wo2z
 と、そのようなユーゼスの内心の葛藤はさておき。
「おい!」
「……ああ、分かってるよ」
 二人の敵から伝わってくる空気が、明らかに一変する。
 自分たちが放った攻撃は、運やマグレなどの類で避けられるタイミングではない。
 それは他ならぬ自分たち自身が一番よく知っていたからだ。
「ぬかるなよ……」
 ユーゼスから見て右側に立っていた男が一歩前に出て、短い呪文を連続して唱える。
 すると、決して大きくはないが幾重もの風の刃がユーゼスに襲いかかった。
「くっ!」
(理に適った攻撃法だ……!)
 いきなり大きな魔法を使っては放つ時のモーションや詠唱に取られる時間が大きくなるし、何より精神力を大きく消耗してしまう。
 よって男は単純な威力よりもリスクの軽減を優先し、詠唱が短く精神力も節約出来る、小規模な魔法を使ったのだ。
 威力の不足分は数でカバー、というわけである。
 この方法だと威力や数の微調整も利きやすく、まさに『実戦向きの魔法の唱え方』と言える。
「ぬっ……!」
 ユーゼスはその幾重もの風の刃を回避し、僅かにかする程度のものならば無視して、それでも避けきれない分はオリハルコニウムの剣で受けながらどうにかしのいでいく。
(……デルフリンガーがあれば、また違ったか?)
 風の刃をさばきながら、そんなことを考えるユーゼス。
 確かに『魔法を吸収する』というあの剣の能力があれば、もう少しは楽になっていたかも知れない。
 ……だがデルフリンガーは全長がかなり大きいため自分にとっては少々扱いにくく、当然それに比例して重量もかなりある。
 つまりあの剣がデッドウェイトになって、動きの機敏さが損なわれてしまうのだ。
(切れ味に関しては、大して変わらんようだし……)
 ならばむしろ無い方が良いかも知れんな、とユーゼスは結論付ける。
 と、その時。
 風の刃に気を取られていたユーゼスの足元の地面がボコリと波打つようにうねり、直後にユーゼス目掛けて土の弾丸が飛んで来た。
「っ!!」
 即座に身をひねり、可能な限りの脚力を駆使してその場から飛び退くユーゼス。
 そのついでに軽く周囲を見回してみると、脇腹から血を流している男が杖を構えてこちらを睨んでいる光景が視界に映った。
 どうやら最初に鞭で行った先制攻撃は、あの男に当たっていたようだ。
62名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:09:41 ID:kz7tpsnK
支援
63ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:10:00 ID:xSy8Wo2z
「……っ」
 白衣のスソを犠牲にしつつ、風の刃と土の弾丸を回避するユーゼス。
(こちらの見極めが甘かったか……)
 自分としたことが、あの風メイジに気を取られすぎて残りの一人のことを失念していた。
 状況は二対一。
 手負いのメイジと無傷のメイジに、剣と鞭が多少使えるだけの男が戦いを挑んでいる。
(……ガンダールヴの力を引き出せれば、また状況も違ってくるのだろうが……)
 ガンダールヴの性能は『心の震え』―――要するにテンションによって大きく左右されるのだが、あいにくと今の自分ではこの戦況をひっくり返すほどのテンションは持ち得ない。
 例えば絶体絶命の状況下に置かれたとしても、割とすんなり眼前の死を受け入れてしまいそうな気がする。
(さて、どうしたものか……)
 玉砕覚悟で突撃―――却下。まず間違いなく返り討ちにされる。
 現状を維持しつつ隙をうかがう―――却下。そう都合よく隙が見つかるとは思えない。
 持久戦に持ち込む―――却下。体力の削り合いならば、負傷者を抱えているとは言え数で勝る向こうの方に分がある。そもそもこの戦法ではジリジリと押し切られる可能性が非常に高い。
 退却する―――保留。現状においては最も現実的な案ではあるが、逃げ切れるとは限らない。
「……………」
 ほとんど八方塞がりである。
 もうこうなったら、クロスゲート・パラダイム・システムを起動させて逃げることがベストのような気さえしてきた。
 だがそういうわけにもいかない以上、どうにかしなくてはいけない。
(……この際だ、アレを試してみるか)
 ユーゼスは剣を水平に構え、ルーンが光る左手をその刃の腹に当てる。
 そしてそのまま刃に沿って左手を滑らせようとしたが、やろうとした途端にその表情が曇った。
「くっ……ルーンの出力が足りん」
 手本となる物はいくつか知っている。
 やり方の要領も分かっている。
 ……理論的には十分に可能なはずなのだが、しかしそのための力が不足していた。
 現在の自分のテンションでは、自分が思い描いていた通りの『剣とルーンの組み合わせ方』は出来そうにない。
「ぐう……」
 やろうとした途端に失敗してしまった『新しい試み』。
 こうなったら因果律を操作して強制的にルーンの持つ力を引き出してみるか……などとユーゼスは考えるが、しかし。
「今だっ!」
「戦いの最中に考え事とは……!」
 当たり前ではあるが。
 その失敗によって生じた隙を見逃してくれるほど、敵は甘くはなかった。
「!?」
 空気がうごめき、渦を巻いて槍となる。
 地面が盛り上がり、更に硬質化して特大のトゲと化す。
「ちいっ!」
 風と土、二種類の攻撃は互いの間隙を補い合うようにして容赦なくユーゼスに攻めかかる。
(……こうなれば、イチかバチかしかないか?)
 ユーゼスはそれをかなり際どいタイミングながらも回避し、切り抜けていった。
 更に回避の動作と接近の動作を連動させ、少しずつではあるが二人の敵へと近付いていく。
(ここか……!)
 ユーゼスが十分に鞭の間合いに入った、と判断したところで、
「甘ぇっ!!」
「何!?」
 最初に鞭の一撃を受け、脇腹に傷を負った土メイジの男が声を上げてユーゼスをギロリと睨んだ。
 向こうは既に、杖をこちらに向けている。
 こちらは鞭の柄に手をかけている。
 両者の挙動の差は明確だ。
(―――間に合わないな)
 すでに攻撃の動作に入っている以上、回避運動に切り替えるのにもコンマ何秒かが必要となる。
 順調にその切り替えが行われたとしても、このタイミングではおそらく敵の攻撃は避けきれまい。どう少なく見積もろうと身動きが取れなくなる程度のダメージは追うはずだ。
(ここまでか……)
64名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:10:20 ID:6TIMJ9P2
おおお、ラスボス来てた!!

支援
65ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:11:30 ID:xSy8Wo2z
 終わりは意外とあっけなかった。
 ……さて、自分が死んだらどうなるのだろうか。
 また『因果地平の彼方』に飛ばされるのか、それとも今度は本当に『死ぬ』のか。
 いずれにせよ、大した心残りもないので―――
(む?)
 『心残り』というキーワードに対し、ユーゼスの中で何かが引っ掛かった。
 一瞬、誰かの顔が脳裏をよぎる。
 誰の顔なのかはいまいちハッキリとしないが、それでもその『誰か』を原動力として、自分の身体は勝手に『死』に対して抵抗しようとする。
 まさか……。
(…………死にたくない、などと思っているのか? この私が?)
 自分の精神と肉体、両方の動きに驚くユーゼス・ゴッツォ。
 そして、その一連の場面での驚きは『自分のこと』だけには留まらなかった。
 手傷を負った土メイジが、ユーゼスに向けて魔法を放とうとした瞬間。
 全く予期していなかった方向から、巨大な炎のカタマリが現れたのだ。
「!!」「なっ!?」
「うおおぉおっ!!!??」
 炎はユーゼスを狙っていた土メイジを飲み込み、瞬く間に彼を燃やし尽くしていく。
「…………っ」
 標的である銀髪の男への注意も忘れて、呆気に取られる風メイジ。
(チャンス、か!)
 自身に芽生えた『生への執着』にやや困惑しつつ、ユーゼスは手にかけていた鞭をあらためて握り、地面を踏みしめてそれを振るった。
 一撃、二撃、三撃。
 杖を持っていた右手と、前に踏み出していた右脚と、何かを喋ろうと動きかけていた喉。
 いきなり仲間が焼死してしまって動揺している風メイジは、マトモにその三撃を食らった。
 当然の帰結として、彼の命はそこで潰えることになる。
「……ふむ」
 風メイジが仰向けに倒れたことを見届けて、自分の手の中にある鞭を見るユーゼス。
 快傑ズバットこと早川健の攻撃に比べれば児戯にも等しい攻撃ではあるが、彼を知るカリーヌ・デジレに『取りあえず形だけは及第点』というお墨付きを貰った鞭さばき。
 改良の余地はあり過ぎるほどにあるが、ひとまず護身用程度には役に立ってくれたようだ。
「……………」
 と、鞭のことは別にいいとして、この場で気にかけるべきことは他にあった。
 ヴェストリの広場に転がる二つのメイジの死体。
 血まみれで死んでいる風メイジは自分がやったのだから構わないが、その直前に焼死した土メイジは果たして誰がやったのか。
(まだ近くにいるとは思うが……)
 確認するべく周辺を見回そうとするユーゼス。
 しかしそれを実行しようとした矢先に、その土メイジを焼死体に変えた人物は姿を現した。
「無事かね、ゴッツォ君?」
「お前は……」
 長い木の杖を持ち、黒いローブに身を包んだ、禿げた頭の中年教師。
 転がる二つの死体を見ながら、何かの苦痛にでも耐えているような顔をしているジャン・コルベールがユーゼスの前に立っていた。
66ラスボスだった使い魔 ◆Vxqagm.6NNBM :2009/11/07(土) 22:13:00 ID:xSy8Wo2z
 以上です。

 …………どうして私の書く戦闘シーンってのは、ドラクエの戦闘をそのまま文章化したような感じになるのでしょうか。
 『○○のこうげき! △△は ひらりと みをかわした!』みたいな。
 ああ、躍動感とか臨場感を表現する力が欲しいなぁ。

 なお、『アルビオンに地震がない』ってのは、完全に私の自己解釈です。
 私としては浮遊大陸に地震ってかなり危険な気がするんですが……。
 設定スレ向きな話題ですかね、やっぱり。

 それにしてもギーシュパートはほとんどそのまま原作をなぞったままですね……。
 ……いや、ある意味これもテンプレ展開と割り切ればいいか……。

 しかしNEOやりながら『今回の参戦作品で何か話に応用できるかな』とか考えてましたけど、ゼロ魔単体とはともかく、私の話とはなかなか応用しにくいですなぁ。
 強いて言うならリューナイトの魔法剣くらいですけど、ブレイドがある時点でそれも、って感じですし……。
 ま、今更慌てて付け加えるのも何ですがね。

 それでは、支援ありがとうございました。
67名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:17:11 ID:6TIMJ9P2
デルフ涙目支援

後で泣かれるぞー
68名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:17:30 ID:GCm8qVw+
久々乙

Gガンの明鏡止水のシーン!って一瞬思ってしまった
69名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:19:09 ID:YDMJRGNl
ラスボスの人乙です。
…何故だろう。ユーゼス氏ねと思ってしまうのはw
てかここで切るのかwktkせざるを得ないじゃないか正座待機。
70名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:20:03 ID:6TIMJ9P2
乙でした

いつも楽しみにしてます
71名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:21:46 ID:yajL/EeJ
72名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:24:21 ID:QEHZ1AfD
投下乙です。
でもここで切るなんて……ラスボスの人は特級のドSだと思うんだ。
73名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:30:36 ID:QEHZ1AfD
しかしうろたえるカトレア様という大変に珍しい物を引き出しただけでもユーゼスはすごいと思うんだ。
74名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:33:27 ID:VNkKdGrf
雪風の人、黒魔の人、ラスボスの人、皆さん乙です。
投下が一気に来て楽しいなぁ。
75名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:36:21 ID:u/+pqec6
ラスボスの人GJ!
相変わらずのヴァリエールキラーっぷりですねw
ここで終わりとは、なんという焦らしプレイ
76ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:36:56 ID:T9TqMvZF
乙の多さに嫉妬するのも私だ(ハンカチ噛みながら)
いや、乙さんですw
流石に人気あらはる作品はちゃうなぁと思う次第でして、
そんな脇でこっそりと、先ほどお約束していた幕間劇の方を送らせていただこうと思います。
22:45ごろより、お邪魔します。
……に、人気作を挟んだことでちょっとでも読んでもらおうなんて、そんなコスい真似考えてもいないんだからねっ!?
77ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:45:03 ID:T9TqMvZF
幕間劇、投下開始です

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上空、約7000メイル。
ガリアとロマリアの国境に存在する火竜山脈の頂を見下ろす場所。
若き研究者が見渡す限り、全てがあるべき姿に納まる完璧な研究室がそこにはあった。
あえて学術の場にそぐわない物があげるとすれば、部屋の主と漂う香りだろうか。
何と形容すべきか、幻惑的で、そそる様な……

「――論理的じゃないわね。これじゃ報告書の体を成していないわ。
 いいこと?データを出しておきながら、それに対する考察が……」
そんなことをぼんやりと考えていた脳に、目の前の部屋の主の叱咤の声が響く。
先ほどまで書きあげていた報告書をコテンパンに貶されたのだ。
実に微に入り細を穿ち、徹底的のめっためたに、報告書が赤インクで染まっている。

「は、はいっ!直ちにやり直しを……」
「慌ててやってもらっても、貴方のことだから失敗するのがオチでしょ?
 こっちは私がまとめておくから、貴方は環境試験の片づけでもしておいて」
やれやれ、と溜息混じりにかぶりを振ると、それに合わせて流れるブロンドが揺れる。
実に知性的。実に魅力的。女性らしい見事な柔らかさとしなやかさ。
だがその厳しい眼光は、ただただ畏怖の念を若き研究者に与え、
一切の性的印象をお断りだとばかりに切り捨てていた。

「はは、はいっ!そ、それでは……」
「あぁ、だけど3番から26番はまだ見ている最中だから触れないように。
 93番についてはもう飽和しているから処置してもらっても良いわ」
退出間際に、次の指示が的確に飛ぶ。
何百と集めたサンプルの状態を全て覚えているというのか、その鮮やかさに舌を巻いてしまう。
「は、はははいっ!」
若き研究者は思うのだ。
厳しくても、良い師の下についたものだと。

「……全く、実験者の質も下がるばっかりね」
その一方で、師と思われた女研究者は部下の不能ぶりに深く溜息をつくのであった。

 ・
 ・
 ・

「『――以上項目は目標値を満たすが、色質安定せず。合成材料としての使用を検討』
 ……っん〜……副産物ばっかり増えるわねぇ。研究テーマ変えた方が良いかしら?」
ヴァリエール家の長女にしてトリステイン・アカデミーの主席研究員であるエレオノールは大きく伸びをした。
部下の報告書を直す度に、舌打ちとため息が漏れる。
今回の火竜山脈での調査は、大人数を抱えた調査であり暫定的に彼女が団長となっている。
船での調査のため、操船関連の全ての管理・管轄を行う重要な職務だ。
彼女自身、責任者になるのは好むところであり、そうした資質も多く持ち合わせていたものの、
いかんせん、今まで自分が行っていたような実際的な研究を自らの手でできないというのはなかなかに苦しかった。
使い勝手が今一つの若手研究員を何人も抱えると、必然その指導・監督に注力せねばならない。
自らの手を汚さずに済みはするものの、一つ一つがまるっきりなっていないのでこれはこれで大変疲れるのである。
やはり自分は骨の髄まで研究者なのだなとエレオノールはふっと自嘲した。
妹の、カトレアの病状を救う手を求めて学術の門戸を叩いたものの、
それがこうも自分の性格に当てはまるものとは思いもしなかった。
78ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:46:00 ID:T9TqMvZF
「さて……と……」
とは言え、ずっと研究ばかり、いや部下の尻ぬぐいと言った方が適切か。
自分の手と頭をフルに動かせない現場は飽きが来る。
グッと一際大きく伸びをして、エレオノールは立ち上がった。

「ふふ〜ん♪ふふ〜ん♪ふふーんふゆれってるかん〜じょう〜……」
鼻歌まじりに、ポットに汲み置いてある水を注ぐ。
今回の調査で割り当てられた船は、フィールドワークとしては上等な環境で、
研究者1人1人に執務室と大きな実験スペースが当てられている。
特に、団長のエレオノールの居住区には、
特大の本棚とテーブルの他に、小腹を埋めるのに役立つ簡素なキッチンまでついていた。

いくら貴族とはいえ、ずっと研究室にこもるような身では、
常日頃料理を使用人に用意させる贅沢もできないので(使用人を叩き起こす手間も惜しいのだ)、
簡単にお茶を淹れたり、目玉焼きを乗せたパンぐらいならエレオノールも自ら作ることがある。
そんな彼女の少ないレパートリーに、最近新たに加わった食材が存在した。

「ん〜、香りはいいんだけど……やっぱり味ね」
コーヒー、と呼ばれる東方や南方の奇異なる豆の汁。
この火竜山脈へ訪れるきっかけとなった飲み物で、エレオノールはその覚醒効果を気にいっていた。
香りも悪くないのだが……いかんせん、豆を煮出すという紅茶と同じような調理法では味が今一つだ。
「薬としては効きそうだけど、ダメね……ミルクでも足そうかしら?」
あるいは、茶葉と同様に発酵処理でも必要なのだろうか。
このコーヒーというものに可能性を感じるものの、
まだまだそのポテンシャルを引き出しきっていないのではと、
スミレ色の陶器のティーカップで濃いところをすすりながら思う。
エレオノールは研究者らしく、分析的な思考パターンを踏んでいた。

「さてと……どこまで読んだかしらね?」
不味い煮出し豆の汁とミルクをテーブルに置き、椅子をひいて本を開く。
彼女らしからぬことに、その本は研究本や辞典の類ではなく、一編の詩集であった。
同僚には『ちょっと他の教養も身につけようかと』と言い訳はしているものの、
実際はコーヒーと同時期に彼女に出会ったある男性が影響しているということを、彼女自身薄々感づいていた。
最も、彼女の表面部分が必死に否定しているのだが。
魅惑的で不思議な香りのコーヒーと、良く似た不思議な男性。
詩篇や舞台を好む少々気障で美しい男性。
そんな男性のシルエットを頭に浮かぶ端からい払いながら、
エレオノールは詩集の頁をめくった。

今彼女が読んでいるのは、数百年前にクリス・フォン・ミューアと言う夢幻派の詩人が書いた散文詩で、
『異世界の怪しき心をそのままに書いた狂気の作』と歴史学者に評されるものだ。
事実、作者はこの一連の散文を書き終えた後に狂って死んだと伝えられる。
最も、彼が異端的な詩を多く書いたことによる教会の制裁があったという説もあり、
未だ学者たちの議論はつきないのだが。
ともかく、エレオノールが開いたのはそんな散文詩の終盤にあたる部分で、
ある少年と、彼の師の物語のクライマックスである。
幻想的なことに、少年は人間では無い身で、『永遠の命』というものがありながら、
彼の師である『限りある命』に憧れ、あろうことか師に恋をしてしまうというストーリーだ。
今までの頁では、その少年がいかに師を愛しているか、その想いが綴られていたが、
あろうことか、その師が友人と思っていた他の弟子に殺されてしまうという悲劇を迎える。
エレオノールは求めた頁を探し当て、続きを読み始めた。

散文詩の題目は、主人公であり語り部である少年の、その瞳の色から名づけられていた。



ゼロの黒魔道士
〜幕間劇ノ六〜 Le Garcon d'un Oeil Vert
79ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:47:03 ID:T9TqMvZF
『――
 泣けば良いのか 怒れば良いか
 誰が答えを 言うだろう
 
 我を導く 光は既に
 片目と共に 失えり

 叫べども 叫べども
 喘げども 喘げども
 愛しき人は 笑わない

 嘆けども 嘆けども
 喚けども 喚けども
 愛した人は 戻らない

 望んだ物は 刹那でも良く
 ただ君といる 幸せを

 望まぬ物は 永遠に似た
 ただ君のいぬ 苦しみを

 人ならぬ身は 長くを生きる
 人である君は もう死んだ

 嗚呼、嗚呼 何故、何故、何故

 君は信じた 同胞(はらから)の手で
 その腸(はらわた)を 貫かれ

 我は右目の 翡翠と共に
 愛した君を 失えり

 例え双つの 目が無事だとも
 君の笑うは もう見えぬ

 誰が望むか 永久の命を
 死ねぬ我が身が ただ憎い

 冷たい君を 両の腕(かいな)に
 抱いて幾時 涙も涸れて
 
 それでも君は 笑わない
 それでも君は 戻らない

 絶望が 苦痛が 慟哭が 凄愴が 憤怒が
 憎悪が 嫉妬が 怨念が 失意が 後悔が
 我の身体を 貫き満たす 

 我が 僕が 私が 俺が 己が
 余が 朕が 妾が 某が 吾が 
 混沌の海に 飲み込まれる
80ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:48:00 ID:T9TqMvZF
 聞こえてくるは 異界の叫びか
 亡者の声が 手を招く

 名知らぬ者の 嘆きを受けて
 我も名の無き 者と化す

 それでも良いと 我は呟く
 それでも良いと 我は流れる

 君からはもう 呼ばれ無いのだ
 名などがあって 何とする

 絶望の淵 彼の世の境
 闇の底から 呼ぶ声が 

 『我らの嘆き 飲み干すが良い
  我らの怒り 受け取るが良い』

 我は現世の 身体を捨てて
 永久の輪廻に 身を預く

 我は久遠(くおん)の 影となり
 我は苦怨(くおん)の 主となり
 ――



「……『緑の瞳の少年(ル・ギャルソン・ダン・ウイユヴェール)』ねぇ……
 なかなか、切ないわね。愛しい人の死を抱いたまま生き続けるなんて」
区切りの良いところで、エレオノールは頁を閉じた。
それまで文学的趣味は無かったために、恋愛劇は彼女に新鮮な感情を与えていた。
これほどまで強く激しい愛を抱くというのは、どういう感情なのだろうか。
エレオノールはそっと額に本を載せて考える。
苦しいのだろうか、それとも、嬉しいのだろうか。
思えば、エレオノール自身、そこまで恋焦がれるということは無かったように思うのだ。
反故になった縁談とて、ロクに顔も合わせることなく終わってしまったことだし……
と思ったところで、別な顔が思い浮かんだ。
言葉だけの婚約者であった者の顔などではなく、流れるような銀髪の詩や舞台を愛する気障な男の……

「――っいやいやいやいやいやいや、それは無い、それは無いわよエレオノール!?
 断じて無いわっ!うん、まだそんな段階じゃ……いやどういう段階なのよっ!?」
両の手を振り乱し、自分の頭上に浮かんだ妄想を消し去ろうと必死になる。
ただの仕事上の付き合いなのだ。気になどなっていない。いるもんか。
カトレアの『姉さま、もしかして新しい恋をしています?』という言葉がまた浮かんで顔が真っ赤になる。
違う。断じて違う。自分は恋なんてしたりしない。恋に落ちたりなんぞしていない。
焦る。慌てる。取り乱す。
やがて心が何とか平静の容を取り戻し、ぜいぜいと息をつく。
全く、ここがトリステインのアカデミーではなく、船の研究室で良かったと思う。
ルームメイトもいないプライベートスペース。変な姿を晒したりせずに済むのだから……

「あ、あのあのみ、ミス・ヴァリエールっ!?」
「っ!?!?みみみみ、見たのですかっ!?今の!?っていうか何時の間に!?」
何たる失態であろうか。
先ほどの若い研究者の姿が、一人であるはずの部屋に存在した。
何ということだ。これは先ほどの叱責の意趣返しということなのだろうか。
「か、火急の用事でして……いえあのその、は、はいっ!見ましたけども!?」
「わ、わわ忘れなさい!即刻すぐ今直ちにっ!?」
上司として、いや、乙女として全てを忘れるように命令する。
あんな恥ずかしい所を同僚上司その他大勢に知られてなるものかと、
先ほど落ちつけたはずの心が再び焦る。
81ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:49:00 ID:T9TqMvZF
「い、いや忘れようにも……」
「ならばその体ごと忘れ去らせて――」
場合によっては、家名にかけてここで始末した方がよいのではと物騒なことを考えてしまう。
うん、そうだ。火竜山脈は危険な場所だ。若い命が一つ散ったところで……
パニックのあまり、エレオノールの思考は論理や倫理からかけ離れた危険な場所に向かっていた。

「ししし、しかしっ!空が斑の虹に染まるなど前代未聞で忘れようにもっ!?」
「……に、虹?」
ようやっとここで、エレオノールは会話の噛み合わなさに気がついた。
この若い研究者が言っている『見た』は自分の醜態ではないことに、内心安堵の息を漏らす。
「え、えぇ……虹ですが……ほら、窓からも見えますよね?なんとも形容しがたい……」

言われるままに船の丸窓の外を見れば、確かにそれは『虹』であった。
もし、天の蓋を覆い尽くすような『虹』が存在し得ればの話であるが。
「――虹ね。『幸運の帯虹』?いえ、これは空全体に……色相が層を成さず不安定?何と禍々しい……」
例えるなら、油性の溶液を水性界面に広げたような状態。
交わることの無い2種類の溶液が光の斑模様を作りだす。
それは鮮やかでもあり、不安定で儚い色の洪水だ。
その現象は、何度か同僚の水メイジの実験で見たものの、これほどまでに禍々しく蠢くような光を、
エレオノールは見たことが無かった。

理論的な頭脳で、その正体を見極めようとじっと色彩の動く様を見ていると、突然寒気がした。
自分の心を抉るような、そんな悪寒。
体内から一瞬で熱を奪い去るような、そんな感覚。
「な、何これっ!?」
その衝撃に、身をよじるエレオノール。
あの『虹』は、悪い物だ。理屈では無く、あくまでも直感で、エレオノールはそう悟った。
「で、ででですから、ミス・ヴァリエールをお呼びしようとっ!船長が意見をお求めですからして!?」
「……直ちに原因究明っ!ただの天候の異変かどうかを見極めなさい!」
見極めなくてはならない。
研究者として為すべきことはその一点にある。
ましてや、ここ火竜山脈を調査することが自分達の責務なのだ。
もしかすれば、大発見に繋がるかもしれない。

「ははは、はいぃっ!」
「何だって言うの……この胸騒ぎは……!」
しかし、とエレオノールは思う。
慌てて部屋から走り去る若い研究者を見ながら。
この胸を抉るような、
それこそ、先の『緑の瞳の少年』で言うところの、
『全ての絶望』を感じさせるような感覚は何だというのだろうか、と。


数刻もせぬ内に、火竜山脈上空で起こったこの現象は、ハルケギニア全土を覆う。
そして全ての生きとし生ける者が感じとるのだ。
言葉や、理屈ではなく、本能とも呼べる原始的な感覚で。
名も知らぬ者達の、慟哭と憎悪を……
82ゼロの黒魔道士 ◆ICfirDiULM :2009/11/07(土) 22:49:41 ID:T9TqMvZF
----
以上です。
エレオノール姉さんの、ほどよいデレ加減が分からないorz
やっぱりラブコメは自分向きじゃねぇのかなぁと思ったりするわけで、
じゃぁ何が得意なんだと考えてまた凹むわけで……
こんな感じで最後まで行けるのでしょうか、大変不安です。
さて、今度こそ今日の投下は以上です。
またお会いいたしましょう。
それでは、お目汚し、失礼いたしました。
83名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:53:49 ID:4L03k2HJ
黒魔さん&ラスボスの人乙でした。

クジャ、君のテーマが似合わなくなってきたよクジャ。
しかしゲルモニーク聖典に、ウイユヴェールか……散見出来るタクティクスネタが何か嬉しい。


ラスボスさんの方はアルビオンの戦場にアインスト出現。
なんか両軍共に戦力をズタズタにされそうだなぁ。
84名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 22:54:50 ID:j5mBgcvi
乙乙なんだぜ
85赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:07:57 ID:CH/mPU09
ラスボスの人、黒魔導師の人乙です
…どうしてこうも私の投下前にクオリティ高い作品群が連投されるのか。

さて、遅ればせながら第6話です。
11:10ぐらいに投下しようと思うので、……まあいい。と言う方はそのままお待ち下さい。
86名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 23:09:54 ID:yajL/EeJ
乙でした
87赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:11:17 ID:CH/mPU09
食事を終えた後も、クリストファーは暫くシエスタとの会話を楽しんだ。
楽しむ、とはいっても、殆どクリストファーが質問を投げ掛けるだけだったのだが。
内容は多岐に渡る。
メイジとは何か。
貴族と平民について。
メイジと使い魔の関係。
学院の説明等、その他エトセトラ。
一方的な疑問の大群に、シエスタは不快な素振りも見せずに答えてくれた。
自分に聞きたい事は無いのだろうかと、彼は少し疑問を感じた。例えば、自分の赤目と牙についてとか。
しかし、その問いにもシエスタは笑顔を崩さなかった。
曰く、『そんな事を気にしていたら魔法学院での使用人など務まらない』と。
確かに、此処は今朝方見たフレイムみたいな怪獣が悠々と闊歩しているような世界である。その言い分には素直に納得するしかないだろう。
尤も、クリストファーに遠慮して聞かない、と言う可能性も有ったのだが。

しかし、少なくとも、悪い気分はしなかった。
88赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:12:16 ID:CH/mPU09
・・・


「……あら、もうこんな時間ですわ。そろそろ戻られたほうがよろしいのでは?」

「え、嘘」

食堂の方を見、気付いた様に声を上げるシエスタ。
見れば、ちらほらと扉から生徒が出てきている。

「あらら残念。もうちょっと聞きたい事有ったのに」
「続きは何時でも構いませんよ。知っている限り答えさせて頂きますわ」

肩を竦めて笑うクリストファーに、シエスタも笑顔で応える。

「ありがと。ただ、こんな状況ルイズに見られたら、また怒らせちゃうかも」

笑い混じりに言葉を紡ぐクリストファー。
しかし――その言葉にシエスタの笑顔が、強張る。

「……『また』?」
「ちょっと、色々からかい過ぎちゃってね。あんまり反応が面白かったもんだか……ら………」

この時に於いて、彼はやっとシエスタの雰囲気が変わっていることに気付いた。
彼女の纏っている気勢に気圧され、思わず声が尻すぼみになる。
『仕事』中の彼ならば、この程度の迫力なら難なく吹き飛ばすことが出来るだろうが、彼は先程まで普通の会話を楽しんでいた身であり、あまつさえ気勢の許は先程まで慈愛に満ちた笑顔を浮かべていた彼女だ。
その落差は著しく、彼は思わず額に冷や汗をかいてしまう。

「……クリスさん」
「………えっと、何?」

静かに紡がれる言葉。
そこにさっきまでの楽しげな様子は、無い。

「詳しく教えて頂きますか?」
89赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:12:59 ID:CH/mPU09
・・・


「……全く、そんな子供みたいな」

手を頬に当て、溜息を吐きながら話すシエスタ。
クリストファーは、気まずげに彼女から顔を逸らしている。
構図のみを見れば、悪戯小僧とそれを叱る母親の様だ。

「まぁ、そんなに大それた事ではなかったのは安心ですけれど……。しかし、それが命の恩人に対する態度なのですか?」
「……返す言葉も無いね」

決して声を荒げる訳では無いが、言葉の節々に厳しさを混ぜながらシエスタは続ける。
この世に生を受けて五十余年。クリストファーは初めてまともな『お叱り』と言うものを体験していた。

「先程看護をお手伝いしたと言いましたけれど、中心的にお世話していたのは、他ならぬ彼女なのですよ?」
「う」

――言われてみれば、確かに。
彼が目を覚ましたとき、傍らにはルイズが座っていた。
恐らく、夜間にも献身的に世話をしてくれていたのだろう。それこそ、彼の足を枕にして寝てしまう程に。
暫くの沈黙が続いた後、彼は降参といった様子で両手を挙げた。

「……分かったよ。後でしっかり謝っとくからさ」
「よろしい」
90赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:13:41 ID:CH/mPU09
そう言うと、シエスタの表情はまた柔和な物へと戻った。
そんな彼女の様子を見て、クリストファーは静かに苦笑する。

「友達になった直後に、そんな事言われるなんてねぇ」
「親しき仲にこそ礼儀あり、ですよ?」

清清しい彼女の笑顔に、彼は思わず声を出して笑う。
それは、楽しそうに。それは、嬉しそうに。

「……それじゃ、ご主人様の元に戻るとしようかな」

ひとしきり笑い声を響かせた後、クリストファーは立ち上がり、食堂へ向かおうとする。
その背中に、言葉が投げかけられた。

「クリスさん」
「……えーっと、まだ何かあった?」

冷や汗をかきつつ振り向くクリストファー。
しかし、シエスタはその相貌に先程の様な厳しさをたたえてはいない。
纏っている雰囲気は何処か、暗いものを感じさせる。

「彼女――ミス・ヴァリエールは、本当は心根の優しい方なんです。只、とある事情から周りにも、更には自分にも辛く当たってしまう様で……」

沈痛な面持ちで話し続ける彼女に、クリストファーは思わず笑顔を消す。

「ですから、クリスさんも腹に据えかねることが多々あるかもしれません。ですが――」

「――どうか、彼女を悲しませないであげて下さい。」

言いつつ、シエスタは丁重に頭を下げる。
その直前に彼が見たのは、彼女の顔に浮かぶ楽しさでも怒りでも厳しさでも無い――どちらかと言えば、母親が娘を心配する、そんな表情。
91赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:14:24 ID:CH/mPU09
「それは、さっきの続きかい?」
「いえ、友人としての『お願い』です」

その言葉を最後に、周囲に再び沈黙が流れる。
暫くして、口を開いたのは、クリストファー。

「分かった。まぁ、努力してみるよ」
「……有難うございます」

そういって顔を上げたシエスタの顔には、沈んだ空気など微塵も浮かんでいなかった。
クリストファーは、再び苦笑する。

――ある意味、一番強い友達かもなぁ。

そんな考えが頭に浮かび、彼はその表情をいっそう深くした。
そして苦笑いをいつもの笑みに変えると、踵を返し厨房の出口へと向かう。
その彼の背中を、シエスタは微笑みながら見つめていた。
92赤目の使い魔-06:2009/11/07(土) 23:17:36 ID:CH/mPU09
・・・


「なーんかご機嫌ね。何か良いことでも有った訳?」
「いやいや、小さな友情を見つけただけだよ」

放つ言葉に小さな棘を乗せるルイズだが、それは見事に空を切る。
朝食の後、腹がふくれて落ち着いたお陰もあってか、ルイズは会話に付き合ってくれる様にはなった。
尤も、そのささくれたった機嫌だけは、どうしようもなかったが。
一方的な険悪ムードを孕んだまま、一行は朝食後の授業へと向かう。

「言っとくけど、あんたが本気で反省の色を見せるまでご飯抜きだからね。これ絶対。例外無し。」
「はいはい」

飄々としたクリストファーの態度に、ルイズのこめかみがピキリと鳴る。

――ダメよ。此処で怒ったら負けだわ。

これ以上おちょくられてたまるかと、深呼吸をして気を沈めてから、教室へと足を踏み入れる。
トリステイン魔法学院の教室は広く、石造りであるという点を除けば、大学の講義室を思わせる。
中には既に殆どの生徒が集まっており、遅れてきたルイズ達は必然彼らの視線を集める事となる。
すると、教室の空気が少し変わった。
所々からくすくす笑いが漏れ、その他の者も顔にあからさまな嘲笑を貼り付ける。
ルイズは少し表情を強張らせたが、気にしていないふりをして席に着いた。

クリストファーはといえば、そんな周囲の様子にも気付かず、改めて此処がファンタジーであることを実感していた。
カラス、猫、ふくろう等普通の動物がいると思えば、六本足のトカゲに下半身が蛸の人魚。窓を見れば巨大な蛇が覗いている。
件のフレイムとか言うサラマンダーは、机の下で眠りこけていた。

93名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 23:25:04 ID:wxPo2HEy
投下ラッシュ支援
94名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 23:47:21 ID:saiULW9t
みんな支援
赤眼さんはここで終了?
95名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 23:53:17 ID:T9TqMvZF
代理来てますね>赤眼さん

もののついでで続き投下させていただきまーす。24時ごろから
96名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 23:57:57 ID:T9TqMvZF
代理開始

----
――まるで神話の世界だな。

興味深げにきょろきょろと見渡しながら彼はルイズの隣に座った。
ルイズの眉が釣り上がる。本人としては使い魔は床に座らせておきたい所だったが、言った所でこの男が素直に従うとは思えない。
諦めた様に溜息を吐いたところで、教師らしき人物が教室へと入ってきた。ふくよかな頬と体型をしている妙齢の女性だ。
お喋りに花を咲かせていた生徒達が一斉に自らの席へと戻る。
女性は優しげな微笑を浮かべながら、教室を見回す。そして、ルイズの席に目を留めた。

「あら、ミス・ヴァリエール。貴方の使い魔、目を覚ましたのですね」

我が身の事のように嬉しそうな口ぶりで、ルイズに話し掛ける。
しかし、その言葉は図らずも生徒達が笑い出すきっかけを作る事となった。

「ゼロのルイズ! 幾ら召喚が出来ないからって、その辺の平民に仮装させて連れて来るなよな!」

教室中の笑いを味方につけ、一人の生徒が立ち上がりながら言う。
只でさえ鬱憤が溜まっていたルイズは、その言葉に遂に感情を爆発させた。

「五月蝿い風邪っぴき! 私はちゃんと召喚したわよ! あんたもその場に居たでしょうが!」
「ふん、僕にはお前が爆発の中で涙目になってる様子しか思い出せないな」

教室の笑いが更に大きくなった。
ルイズは唇をきつく結び、衝動に任せるまま杖を抜こうとし――

「そこまでです。ミスタ・マリコルヌ」

そのまま椅子にへたり込んだ。
見れば、マリコルヌも力が抜けたように座っている。口に赤土粘土のオプションをつけて。
周囲の笑っていた面々も、同様に赤土で口に蓋をされていた。

「学友にその様な事を言うのは、貴族はもとより、始祖により生を受けた者としても間違った行為です。貴方たちはそのまま授業を受けなさい。」

厳しい顔のまま教師――シュヴルーズは手に持った小振りな杖を袖口にしまった。

「それでは、授業を始めます」
97名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/07(土) 23:58:59 ID:T9TqMvZF
・・・


授業の内容は、相も変わらず前年度の復習だ。
「火」「水」「風」「土」の四代系統についての概要、そして失われた「虚無」について軽く触れながら、シュヴルーズは淡々と授業を続ける。節々に土系統を擁護する様な言動を挟んでいるが、身内贔屓は彼女個人に限った行為ではないので、わざわざ気にする事も無い
座学『は』基本優秀であるルイズにとって、それらは聞かずとも空で暗唱出来る様な内容だ。必然、途中で飽きが来る。
ふと、横の自らの使い魔を見る。
彼は顔にもう見慣れた笑顔を浮かべながら、興味深そうに授業を聞いていた。
魔法を知らないという彼の言葉を信じるならば、その反応は当然と言えるだろう。

ルイズの目が、クリストファーの赤目と牙を交互に捉える。
先程、あの子豚は彼を「仮装をした平民」だと言った。
それが、あの召喚の場にいた生徒全員の認識だ。彼が質問に答えられる状態でなかった事もあり、それが事実として完全に定着している。
しかしこうして近くで見ると、その目と歯は仮装と言うには、あまりにもしっくり来すぎていた

――コイツ、一体何なのかしら

怒りと驚きで麻痺していた頭が弛緩し、当たり前とも言える疑問が浮かぶ。
考えれば、自分はこの男の事を何も知らないのだ。
もしも彼の赤い眼球、牙が本物ならば、

――亜人?

有り得ない、とは言い切れない。
ルイズは数多くの書物を読んでいるが、決してその方面の分野に明るいわけではない。
噂に聞く東方の出なのか、それとももっと異質な――

「ミス・ヴァリエール!」

そこまで考えが至った所で、ルイズの意識は強制的に現実へと引き戻された。
98名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 00:00:02 ID:KJ2s7OVT
・・・


「ミス・ヴァリエール!」

急に険しい顔をして、シュヴルーズは顔に似合わぬ大きな声を響かせた。
何事か、とクリストファーが横を見ると、ルイズが吃驚した顔で固まっている。

「授業中に余所見とは感心しませんね」
「す、すみません」

どうやら、不注意を見咎められたらしい。ルイズは、普段の彼女からは想像がつかない程恐縮している。
しかし、シュヴルーズの言葉はそこで終わらない。

「丁度いい。それでは、貴方にやって貰いましょうか」

え、と言った表情で、ルイズが再び固まる。おずおずと、シュヴルーズに向かって口を開いた。

「やるって、一体何を……?」
「決まっているでしょう」

そして、シュヴルーズは机の上に転がる石――先程杖から出したものだ――を杖で小突いた。

「練金ですよ、練金」

そして――教室が先の爆笑よりも、激しい喧騒に包まれる。

ある者は机上にある教材を慌てて仕舞い、またある者は羽織っているマントを防空頭巾の如く頭に被せる。
行動こそ様々だが、クリストファーは彼らの根底に、共通した『何か』への恐怖を感じた。

「先生! 止めて下さい! それはあまりにも危険です!」

あの余裕しゃくしゃくだったキュルケでさえ、周囲の意思を代弁するかのように抗議の声を上げる。
一体何をそんなに恐れているのか、とクリストファーは訝る。やる事と言えば只石くれにちょっと魔法をかけるだけ、尚且つそれをするのは先程まで嘲笑の的だったルイズである。

「……分かりました。やります」

結果として、周囲の猛反対は逆に沸点の低い彼女の矜持に火を点ける事となった。腰を上げるルイズを見て、生徒の何人かが声にならない悲鳴を上げる。

教壇に立った彼女に、シュヴルーズは微笑みながら練金の手解きを始めた。彼は初めて、素直に従うルイズというのを見た。
すると、前席の生徒がそそくさと机の下に潜り始めた。
見れば、教室の生徒全てが似た様な回避行動を取っている。
ふと視線を感じて周りを見渡すと、キュルケがクリストファーに『伏せろ』と手振りで示していた。

そうこうしている間に、ルイズは杖を握り締めていた。
短くルーンを唱え、勢いよく杖を振り下ろす。

教室を、光が包んだ。
99名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 00:00:57 ID:T9TqMvZF
その光の意味を察知したクリストファーは、慌てて身体を机の下に滑り込ませる。
同時に、響く爆発。
頭上を駆け抜ける熱風と共に、教具の破壊音、窓ガラスの割れる音が悲鳴混じりに彼の鼓膜を揺さぶる。
顔を上げると、粉塵が立ち込める中見えた光景は、戦地と見紛う程の有様だった。
だが、悲劇はそこで終わらない。

「俺のラッキーが! 俺のラッキーが蛇に食われた!」
「落ち着け! そいつは餌じゃない!」
「誰か、私のフレイムを止めてぇ!」

衝撃により、一時的に野性を取り戻した使い魔達が手当たり次第に暴れ始めた。
火柱が立ち、雷撃が行き交い、教室を更に破壊しつくす。
窓の外にいた大蛇も、教室に入り込んで手が付けられない様になっていた。
正に、阿鼻叫喚の地獄絵図。クリストファーも、余りの惨状に思わず目を丸くする。
そんな中、ルイズが立ち上がった。
ブラウスが破れ、スカートが裂けと惨々たる様子だったが、傍らで目を回しているシュヴルーズに比べれば、意識を保っているだけでも僥倖と言った所か。
ポケットから取り出したハンカチで顔を拭き、教室の惨状を見渡すと、彼女は通る声で言った。

「ちょっと、失敗したみたいね」

瞬間――教室の喧騒が、怒号となり彼女へと投げ掛けられる。
100名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 00:01:42 ID:T9TqMvZF
「何がちょっとだルイズ!」
「だから言ったのよ! あいつにはやらせるなって!」
「もう退学にしてくれよ!」

次々と襲い繰る罵声にも、ルイズは眉一つ動かさない。既に慣れてしまっているのか。それとも、表に出さないだけか。
すると、彼の耳にある生徒の言葉が引っかかった。

「ゼロのルイズ!」
「いつだって、成功の確率ゼロの癖に!」
「この魔法力ゼロ!」

彼の脳裏で、食堂でのやり取りが反芻される。

『よりにもよってあんな『ゼロ』に呼び出されるなんてな』
『……それは、御本人から聞いた方が宜しいかと』

魔法力、成功率共に皆無。
故に――ゼロのルイズ。

「あー、あーあー」

ポンと手を打ち、納得の声を上げる
ルイズの二つ名の意味とシエスタの意図を、彼は同時に理解したのだった。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 00:02:23 ID:KJ2s7OVT
----
以上、代理でした。みんな、さるさんには注意だぜ!お疲れです。
102名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 00:13:41 ID:fO3kR0D3
代理乙です
決闘イベントはいつになるかな
103名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 01:15:29 ID:IuwIAnkY
1年後くらいじゃね
104名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 01:53:30 ID:AHHxnmc3
皆さん乙です!何この嬉しい投下ラッシュ
今夜はたまらねえぜフーハハー
105名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 03:28:01 ID:nwnWggKz
小説、アニメの雪風を完全に忘れて読まないとどうしても雪風に引っ掛かっちゃうなぁ
106名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 04:18:26 ID:0mo1J5TZ
雪風ってもっと無機質なイメージだよな
ジャムの攻撃喰らってる気分になるw
107名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 06:47:01 ID:2vYBGuut
おおう、何やら投下ラッシュ!
皆さん乙、そしてGJです!!

雪風のラストの「た・い・ちょ!」でなんか異様な色っぽさを感じてしまったのですが。
この作品ではワルドルートで確定なんかな。まあサイトがいないとなると、他にカップリングとなり得るのはワルドくらいな気もするけど。
108ゼロの戦闘妖精:2009/11/08(日) 07:44:33 ID:fycN6OyE
>105、106
すいません。「雪風」が甘いってのは、自覚してます…
原作通り 雪風のセリフ?を全て英文にするだけでも、かなり雰囲気が変わるとは思うんですが
そこまで英語力が無いもので。
あと 素人のルイズに雪風を使わせる為、マン・マシン インターフェイスは
大幅にユーザーフレンドリーになっています。
雪風原作に比べ、お笑い要素が多いのは 書き手の嗜好というか指向ですので
修正は難しいかと…
グリフォン隊については…こちらとしても予定外でした。
「鬼平犯科帳」ともクロスしてるんだと思って ご勘弁願います。

実は、「大幅に雪風寄りな」バージョンも 少しずつ書いているんですが、
雪風世界のキャラをゼロ魔キャラに置き換えただけになって、むしろ
クロススレ向きの話になってしまいます。
本編を完結させる事が出来たら 番外編として出すかもしれません。
>107
ルイズの恋愛感覚は 中学生レベルのつもりで書いています。
まぁ「無邪気な小悪魔」ってところですかね。
雪風と相思相愛?になれるのは、深井中尉ぐらいのものだし、
他のキャラにフラグ立てるのも面倒なので、ワルドにしてます。 
109名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 09:07:08 ID:VSCJ2L8A
ここらで一発小ネタでも
問題なければ9:15ごろに投下しようかと思います
110のび太の魔法1/2:2009/11/08(日) 09:16:46 ID:VSCJ2L8A
「早く魔法を使ってみせなさいよ」
野比のび太はさっきの言葉を後悔していた。それは食堂でのささいなルイズとの口論から始まった。
平行世界で数々のキャラとルイズとの間に発生した口論と比べれば、本当にささやかな口論だった。
だが、その中でついのび太は、
「魔法ぐらいなんだい!僕だって魔法の一つくらい使えるやい!」と言ってしまったのである。
勿論、直後に(ムキになって余計な事を言うのが僕の悪いくせだ)と後悔したが、もはや後の祭り。
「へー、じゃあ使ってみなさいよ」
「今日は、その…、ちょっと、体調が「いいから早く使ってみなさい。命令よ!」」
ルイズの地雷を踏んでしまったのだ。気がつくと周囲には人だかりが出来ている。
逃げられない。万事休す。
ルイズにとっても皆のいい見世物になってしまったことは不本意である。
すぐに土下座でもして謝れば許してやらないこともなかったのに、
使い魔が意地っ張りでぐずぐずしているせいで注目を集めてしまった。
これで使い魔が笑いものになればその評価は自分に跳ね返ってくる。
ルイズの機嫌がどんどん悪くなっていくのは当然のことであった。

のび太は打開策を必死に考えていたが、元々そんなアイディアはこの程度のピンチでは浮かばないようにのび太は出来ている。
劇場版のび太補正は世界や友人の命の危機クラスでこそ発揮されるのである。
「どーしたの?うんうん唸ってばかりいないで早く使ってみなさいよ?まさか実は嘘だったなんて言わないでしょうね?」
「嘘なんかじゃない!もし嘘だったら鼻で南京豆噛んでみせる!」
到底フォローできないほどに墓穴を広く深く掘るのび太。
「じゃあやってごらんなさい。私もいつまでも付き合っていられないわ。午後の授業もあるんだから。早くしなさい!」
にらみつけるルイズを前に、のび太は大汗をかいている。
周囲の少年少女も嘲って囃し立てるが、そんなのは耳に入らない。
(何か魔法…何か魔法…僕でも使えそうな魔法…僕でも使えた魔法…)
そんなのあるんかいな。

藁にもすがる、とはこのことだろう。のび太は両手を天にかざし、必死になって唱える。
111のび太の魔法2/2:2009/11/08(日) 09:19:24 ID:VSCJ2L8A
「ちんから…」杖も無しに何をやろうというのだろう。
その奇妙で間抜けな呪文とポーズも手伝ってこれは数日間は物笑いのタネになる。
その間、ルイズもまとめて笑い者にされるわけで、ルイズの怒りボルテージは振り切れそうになるまで上昇しつつあった。
「ほい!」のび太は短い呪文の詠唱を終えると同時に両手を振り下ろした。

……
……………何も起こらない。当たり前である。
誰もがそう思い、周囲は笑いを、ルイズは怒りを爆発させようとしたその瞬間、
「え!きゃ!な、何よこれ!」
ルイズのスカートがそよ風もないのにふわーっと浮き上がった。
「わ、きゃ!きゃ!」あわててルイズはスカートの前を押さえるが後ろが舞い上がる。
後ろを押さえると前が舞い上がる。前後を抑えても左右が舞い上がる。
周囲の少女達からは困惑の、少年達からは驚嘆の声が漏れる。
「…やった…!やったやった!やったぞー!わーい!出来た出来たー!
ばんざいばんざい!ばんざーい!ばんざーい!ばん、ざーーーい!」
のび太はしばらく何が起きたのか理解できなかったが、魔法が成功したことをようやく頭が理解すると、
満面の笑みで両手を挙げて叫びながら小さな円を描くようにぐるぐる回って喜びを爆発させていた。
「な、な、な、ななななな…、何すんのよ!この馬鹿犬!」
ばっちーん!
ようやく魔法の効果が切れ、恥ずかしさと怒りで耳まで真っ赤になって頭から湯気まで出そうなルイズが
のび太の頬に思いっきり手形を付けた。
「今日はアンタ食事抜き!部屋に入るのも禁止!反省してなさい!」
ルイズは使い魔と笑い転げる級友たちを残して足音荒く食堂を出て行った。

ちなみに、のび太の扱いはその日から悪くなるどころかむしろ改善された。
騒ぎの後、のび太はオールド・オスマンに呼び出され、二人だけでしばらく話していた。
その後、オールド・オスマンの老獪な説得と根回しにルイズも反論しきれず、渋々のび太の待遇改善に同意したのである。
また、のび太に幾人か男子生徒の友人が増えて学院生活がより楽しくなったことも記しておく。
翌日からロングビルはオスマンの新手のセクハラに悩まされることとなったのだが、それはまた、別の話。


あとがき
初投稿。ドラえもんより野比のび太召喚。
旧魔界大冒険で、のび太はスカートめくりだけは魔法で成功させた記憶があるので、それで書いてみました。
しかし我ながら古い元ネタだ。
112名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 10:38:40 ID:NXupQztn
小ネタ乙
オスマンを色々弄くることの可能性を再認識
113名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 12:24:36 ID:dEYENEfi
召喚してください、富野です!
114ウルトラ5番目の使い魔:2009/11/08(日) 12:28:56 ID:X7vmOlo+
雪風の人、黒魔の人、ラスボスの人、GJでした。
雪風の人はワルドらしいかっこいいワルド、黒魔の人はエレオノールとりあえず人殺しはダメよ、というか
その姿を見せたら大抵の男はコロリでは? 
ラスボスの人はほぼリストラ確定のデルフに、そのくせ強くないユーゼスが面白かったです。
 
さて皆さんこんにちは、早いものであっというまに一週間経って、日曜日になりましたので私もいつもどうりに
今週のお話を始めたいと思います。
よろしければ、10分後の12:40より、いつもながらよろしくお願いします。
115ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (1/11):2009/11/08(日) 12:41:31 ID:X7vmOlo+
 第73話
 反撃開始! 二人のウルトラマン
 
 円盤生物 ノーバ
 高次元捕食体 ボガール
 ウルトラマンジャスティス 登場!
 
 
 ヤプールの悪辣な罠にかかって、円盤生物ノーバと高次元捕食体ボガールの
挟み撃ちによって、絶体絶命の危機に陥ったウルトラマンA。
 しかし、もはやこれまでかと思われたそのとき、ノーバの作り出した赤い雨の
黒雲を打ち破り、一閃の光がボガールを撃ってエースを救った。
 そして、黒雲を消し去った光芒の中から姿を現した赤い巨人。それは、かつて
超獣サボテンダー、さらにレッサーボガールを倒した、この世界の宇宙を守る戦士。
「グ……キサマハ……」
 ボガールは、以前自分の手下を全滅させ、自らにも手傷を負わせた仇敵の姿を
見て憎憎しげにつぶやいた。しかし、邪悪な者たちにとっては憎らしいものにしか
感じられないだろうが、心ある人間たちにとっては光と希望の象徴と見えた。
「あれはまさか、ティファニアの言っていた」
「もう一人の、ウルトラマン!」
 輝きを取り戻した太陽の下を飛ぶシルフィードの上で、キュルケやロングビルの
驚愕と歓喜のまざった歓声が、空へと吸い込まれていく。
 今こそ、全世界の命運をかけた戦いは新たなラウンドを迎えたのだ!
 
「デュワッ!」
 エースの危機を救ったウルトラマンジャスティスは、右腕を前に突き出す
ファイティングポーズをとって、思いもよらない敵の出現に動揺するノーバと
ボガールを威圧する。
「ハァッ!」
 構えを解き、ジャスティスは二匹の怪獣をめがけて走り出す。当然、二匹は
向かってくる敵を迎え撃とうとしたが、ジャスティスが地を蹴ったと二匹がその目で
認識した瞬間には、ジャスティスは一瞬にしてマッハ3.5の最高地上走行速度にまで
加速し、その姿はすでにボガールの正面にまで達していた。
「速い!」
 距離にしたら1000メイルはあろうかという距離を、常人ならば瞬間移動した
かのようにさえ思ったであろう速度で駆け抜けたジャスティスの俊足には、
『雪風』の異名をとるタバサでさえ驚嘆するしかなかったが、ジャスティスの
攻撃はさらに突風のように二匹に襲い掛かる。
「デヤァッ!」
 ジャスティスのハイキックがボガールの顔面を打ち、無防備だった鼻っ柱に
強烈な一撃を食らったボガールはたまらずに、よろめきながらあおむけに
転ばされ、ついでノーバには左ストレートを打ち込んでひるませた後、
その頭をドッジボールの玉のように掴んで、ボガールに向かって投げつけた。
「ダァァッ!」
 起き上がろうとしていたボガールにノーバが頭から突っ込んで、両者は
鞭やマントを絡ませてもんどりうった。
116ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (2/11):2009/11/08(日) 12:42:53 ID:X7vmOlo+
「すごい……」
 新たなウルトラマンの力も、エースに勝るとも劣らないすさまじさに、
誰もが呆然として見とれた。
 けれど、ジャスティスは絡み合ってなかなか起き上がれないでいる
ボガールとノーバに追撃をかけようとはせずに、力を使い果たし、
ひざを突いてカラータイマーの点滅を消えかけさせているエースに
歩み寄ると、自らもエースのかたわらに片ひざをついて、無言で
エースの右手をとると、エネルギーを光の粒子に変えてエースへと
送り込んでいった。
『ジャスティスアビリティ』
(これは……エネルギーが、回復している)
 巨大化状態すら維持できなくなりかけていたエースのカラータイマーが
青に戻り、同化の影響で疲労感が溜まっていた才人とルイズも楽になってくる。
「あなたは?」
 力を取り戻したエースは、無言で見守っているジャスティスに問いかけたが、
ジャスティスは立ち上がると、構えを取り直して冷静にエースに告げた。
「話は後だ」
「……!」
 見ると、転ばされてもつれ合っていたボガールとノーバがようやく起き上がって、
再びこちらへと叫び声をあげてきている。二匹とも、まだまだ余力があると見え、
むしろ表情を持たないノーバさえ怒りに燃えているという風に鞭と鎌を高々と掲げて、
口からは凶暴化ガスを漏らしている。
 だが、邪悪に対する怒りならばウルトラマンは負けない。
 
「デヤァッ!」
「デュワァッ!」
 
 並んで同時に構えをとったエースとジャスティスは、真正面から二大怪獣を迎え撃つ。
「よっしゃあ、これで二対二よ。いっけぇー!」
 キュルケの叫びがゴングとなったかのように、戦いの最終ラウンドの幕は切って落とされた!
「トォーッ!」
「ドァァッ!」
 エースが空中に飛んでノーバを蹴りつけ、ジャスティスは捕食器官を全開にして
飛び掛ってくるボガールを受け止めると、圧倒的なパワーで地面に叩き付ける!
 対して、まさかこの場にレッサーボガール戦以降、ずっと未確認の存在であった
ウルトラマンジャスティスが乱入してくるとは計算していなかったヤプールは。
「うぬぬ……なにをしている! 二人まとめて早くやっつけてしまえぇー!」
 と、焦って叫ぶが、それこそこれ以上策がないことをエースたちに露呈して
しまうだけの結果となった。確かに、エース一人だけを対象にしたならば、
二十万人の人間を人質同然にしてエースに連戦を強いて消耗させて倒す
ヤプールの作戦は完璧といえたが、他のウルトラマンの救援という事態までは
それに盛り込まれておらず。ナックル星人やババルウ星人、ギロン人や
リフレクト星人なども勝利寸前で大逆転を許している。唯一それを計算に入れて
勝利できたのはヒッポリト星人くらいだ。
117名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 12:43:19 ID:idT3WY42
規制されてるけど
執念のウルトラ支援
118ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (3/11):2009/11/08(日) 12:43:44 ID:X7vmOlo+
 二人のウルトラマンの攻撃を受けて、ダメージを受けた二匹はなおも
持ち前の凶暴性を発揮して逆襲に転じようとするが、それも無駄だった。
 ボガールはエースに向かって波動弾を放つが、エースは体の前で腕を
回転させて作り上げたバリアで身を守る。
『サークルバリア』
 全弾を跳ね返されて、腕を震わせて悔しがるボガールの隣から、ノーバは
もう一度円盤形態になって、高速回転しながらジャスティスに体当たりを
かまそうと突進するが。
「ヌゥンッ!!」
 なんとジャスティスは突撃してきたノーバのマントのすそを真正面から
がっちりと受け止めると、そのまま9万トンの握力を込めて回転を無理矢理に
止めて、たまらず円盤形態を解除したノーバを、まるでハンマー投げの
ひも付き鉄球を振り回すように両腕ですそを掴んだままぶん回し、
さらにそのままパワーに任せて勢いよく地面に何度も頭を叩き付けた! 
 もちろん、エースも受けてばかりではなく、さっきまでのお礼とばかりに
腕を胸の前でクロスさせ、左右に勢いよく開くと同時にカラータイマーから
虹色の光線を発射した!
『タイマーショット!』
 かつて超獣スフィンクスを粉々に粉砕した必殺光線が炸裂し、ボガールは
吹き飛びこそしなかったものの、大爆発によろめいて、体の前半分を
黒焦げにしてひざをついた。
 もはや、形勢は完全に逆転し、シルフィードから見守る面々の顔も
一様に明るく強くほころんでいる。
「やったやったやったぁー! 見たか悪党どもー! あっはっはっはっ!」
「キュルケ……テンション上がりすぎ……」
「隊長、勝てます、勝てますよこれは!」
「ああ、もう大丈夫だ。よぅし、そのまま逃がさぬように一気にたたみかけろ」
「な、なんだか展開についていけなくなってるんですけど……とりあえず
がんばれー!」
「きゅーい!」
 そうだ、ジャスティスと、完全回復したエースがタッグを組んだ以上、
ボガールとノーバといえどももはや敵ではない。
 ジャスティスは連続して叩き付けた末にぼろきれのようになったノーバを
ボガールに向かって投げつけると、エースのそばへとジャンプして
降り立ち、エースと目を合わせてうなずきあって、ボロボロになった
二匹へ向かって、同時にとどめの一撃の体勢に入った。
119ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (4/11):2009/11/08(日) 12:45:48 ID:X7vmOlo+
「ヌゥゥゥ……」
 両腕を上げたジャスティスの眼前にエネルギーが集中し、エースは
体を大きく左にひねる。もうボガールとノーバには回避するだけの
余裕はない。
 
 とどめだ!
 
 ノーバは鞭と鎌をだらりと垂れ下がらせ、ボガールに向かって寄りかかるように
倒れこんでいる。そこへ、二人はありったけの力を込めた一撃を放った!
 
『ビクトリューム光線!!』
『メタリウム光線!!』
 
 金色の光と三原色の美しい輝きが重なり合い、光の奔流となって二匹の
怪獣へと突進し、一瞬のうちに光芒の中へと飲み込みさると、大爆発を
引き起こして消し去った!
 
「やった……勝ったぁ!」
 黒煙が吹き上げて、火の粉が空中ですすに変わりながら消えていく中に、
二匹の姿はどこにもなく、見守っていた者たちの中から歓声があがった。
さらに、見るとノーバのガスにやられていた人々も、その効力が切れたらしく、
凶暴化していた人々は糸が切れたように倒れこんでいる。過去の例から見て、
おそらくは無事であるだろう。
 エースとジャスティスは、少なくともこの場でのヤプールの計画は完全に
崩壊したことを確認すると、互いに目を合わせて、わずかにテレパシーで
語り合った。
(あなたは……?)
(ジャスティス……)
(あなたも、ウルトラマンなのか?)
(そうだ、お前こそ何者だ? この星に逃げ込んだスコーピスの一体を倒したのもお前だな)
(スコーピス、あの砂漠化を進めていた宇宙怪獣か。私の名はウルトラマンA……
何者かと問われれば、話は長くなるが)
(いいだろう、私もお前には聞きたいことがある)
 両者はそれぞれ話したいことが山ほどあったが、このままウルトラマンの姿のままで
ここに居続けると、それだけでエネルギーを消費してしまうので、同時に空を見上げて
飛び立った。
「ショワッ!」
「ショワッチ!」
 二人のウルトラマンは、悲劇的な茶番劇の舞台となった戦場から、シルフィードの背に乗る、
たった五人の目撃者となった少女たちに見送られて、はるかな上空へと飛び去っていった。
 
 そして数分後、エースとジャスティスの姿は、アルビオン上空高度一五〇〇キロの
衛星軌道上にあって、ハルケギニアを見下ろしていた。
(アルビオンが、あんなに小さい)
 ルイズが、高高度からパンケーキのように小さく見えるアルビオンを眺めてつぶやいた。
彼女にとって、宇宙からこの星を眺めるのは二度目になるが、やはり宇宙からの
眺めというものは、地球は青かったと言ったガガーリンのようにちっぽけな人間を
圧倒するものがある。
 が、今はこの青い星の上に立つようにして眼前に浮いている赤い巨人と会話
するほうが重要である。
120ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (5/11):2009/11/08(日) 12:47:39 ID:X7vmOlo+
「ここでなら、気兼ねなく話せるだろう」
 ジャスティスは、自分には地球型の惑星内での時間制限は特にないが、
エースはハルケギニアのような星で活動するときはエネルギーを大量に
消耗するであろうことを、今の戦いから見抜いて、その問題のなくなる場所まで
彼をいざなったのだ。
 エースも、星の影響圏を突破して、変身の時間制限がなくなったことで、
話をするだけの時間が充分にとれたことを、自分の体の状態を確認してうなずき、
ジャスティスに向かって静かに答えた。
「ああ……ジャスティス……いや、先に助けてくれたことを感謝する」
 エースは、ジャスティスに向かって一礼した。通じるかはわからないが、
ウルトラマンとしてより、北斗星司としての人格が彼にそうさせた。
ルイズと才人は、二人のウルトラマンの会話を、じっと息を呑んで見守る。
「礼を言う必要はない。私は、奴を追ってきただけだ」
「奴……ボガールのことか? なぜ、奴を追っているのだ」
「ボガール……それが、奴の名か? 奴は危険だ、放っておけば、奴は
この惑星の生態系に甚大な被害を与えるばかりか、やがては全宇宙規模で
同じことを繰り返すだろう」
 そのジャスティスの洞察は、ボガールの習性を完全に的中させていた。
ボガールはいわばイナゴの大発生にも似た生物災害で、しかも数段悪質で
規模が極めて大きい。
 それは、かつてジャスティス自身が戦った異形生命体サンドロスとも
つながる、己の繁栄だけを欲する、宇宙の調和を乱すものであったために
数ヶ月前から追っていることを、ジャスティスはエースに告げて、今度は
エースにお前はどこから来て、この星で何者が暗躍しているのかを尋ねた。
「私は、この宇宙とは別の次元にある宇宙の、M78星雲の宇宙警備隊に
所属しているウルトラマンの一人だ」
 エースは、難しいことだと思いながらも、ジャスティスに一つずつ事情を
説明し始めた。
 自分は、この世界とは異なる宇宙から、ルイズの召喚魔法で呼ばれたこと、
ヤプールと名乗る異次元空間に潜む悪意の塊のような侵略者がいることと、
その配下の超獣や宇宙人たちなど、ジャスティスはそれらをじっと聞いていたが、
やがてなるほどというふうにうなずいた。
「そうか、この星で起きている異変は、ただの別惑星からの干渉にしては
妙だと思っていたが、別次元からの攻撃だったとはな」
「信用するのか?」
「異次元、平行宇宙からの侵略はありえないことではない」
 軽く言ってのけたジャスティスの言うとおり、こちらの世界でもジャスティスが
関わったものではなくとも、異次元人が他の惑星の侵略を企てた例はある。
「それに、悪いがさっきの戦いは離れた場所から見させてもらっていた。
お前が本当にウルトラマンなのか、確かめたくてな」
「どういうことだ?」
「お前の世界には、ウルトラマンは大勢いるようだが、この世界には私を
含めてもウルトラマンは二人しかいない」
「二人!? 君以外にも、この世界にはウルトラマンがいるのか?」
 エースや才人は、ウルトラマンが二人しかいないというジャスティスの言葉に、
やはりここは別の宇宙なのだということを実感したが、同時にこの世界にも
ウルトラマンはいるのだと知って喜びを覚えた。けれど、ジャスティスは
宇宙のかなたを望んでつぶやいた。
「だが、今はどこの宇宙を飛んでいるのか、私にも見当はつかん」
 そう言われて、エースと才人は落胆したが、ジャスティスがこの星に
やってきたのも、スコーピスがたまたまこちらにやってきたのを追撃
してきたからであり、広い宇宙での偶然の確率を考えると、ジャスティス
だけでもいてくれたことは非常な幸運だったのだ。
121ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (6/11):2009/11/08(日) 12:49:07 ID:X7vmOlo+
 けれどそこで、経過を見守っていたルイズが、エースのテレパシーを
借りてジャスティスに話しかけた。
(だけど、ずっと見ていたのなら、なんでアルビオン軍が衝突しようと
しているのを黙っていたのよ)
「この星の人間か……悪いが、そちらの世界ではともかく、我々ウルトラマンは
宇宙全体の調和と秩序を守ることを使命としている。異種生命体の侵略攻撃
ならばまだしも、同族同士のなわばり争いに干渉する責任はない」
(な、国と国の戦争を、動物の争いみたいに言わないでよ!)
「宇宙全体の視点から見れば、大差はない」
(……っ!)
 ジャスティスの切り捨てるような言い方に、ルイズは激発しかけたが、
そこは才人がおさえた。
(ハルケギニアの人間の責任で起きた戦争を、ウルトラマンに解決して
もらおうなんて、虫が良すぎるんじゃないのか?)
 ウルトラマンは個人としての人間一人一人を愛し、種族としての人類を
守護しようとはするが、その活動単位である国には、なんらの干渉もしないのは、
光の国のウルトラマンたちも一貫している。それは、全宇宙の平和を守るという
大儀のもとに絶対中立を必要とするためで、あくまで一方的な侵略行為は
阻止するが、たとえばミステラー星とアテリア星や、ドロボン星の戦争などの
同格の星間戦争には一切の干渉をおこなっていない。
 どうであれ、ハルケギニアの人間が起こした問題は、どれだけ痛みを
ともなおうが、その人間たちで解決せねばならない。厳しいようだが、
それが責任というもので、責任を守れないような種族は宇宙のどこへ
行っても信用されないだろう。
 もちろん、エースもそれは重々承知しており、怪獣、宇宙人の出現が
なければ、仮にハルケギニア全土が戦火に包まれようとも変身を許すことはない。
「二人とも、過ぎた力を行使する者は、無力な者と同様に争いの火種となる
ことを覚えておいてくれ。それでジャスティス、私はまだこの宇宙がどういう
ところなのか、この星以外ではほとんど知らないのだ」
 エースに問われて、ジャスティスはテレパシーでこの宇宙の概要をエースに
伝えた。それによると、この星……仮にハルケギニア星と呼ぶ星は、エースのいた
宇宙で地球のあった銀河系とほぼ同じ形をした渦状銀河の、地球のある
オリオン腕と呼ばれる場所から銀河系中心部をはさんで反対側にあり、
ほかにもマゼラン星雲、アンドロメダ星雲などもほぼ同じものが存在し、
もちろんその中にある惑星や種族はほとんど別種の進化をたどった、聞いたことも
ないものばかりだが、宇宙地図的にはそっくりであって、ここが並行宇宙で
あることをあらためて納得した。
 だが、その中でも驚いたのは、この宇宙にも地球と呼ばれる星があった
ことであった。
「まさか……そこまで同じとは」
 もちろん、似てはいるけど並行世界の別物であるからGUYSもないし、
日本はあるけど、様相はかなり異種であるらしいから、名前だけは同じの
まったく違う星で、しかもハルケギニア星とは八万光年は離れているから
影響も皆無だが、才人はもしかしたらその地球にも同じ平賀才人という
人間がいて、別の人生を送っているかもしれないと、複雑な思いを抱いた。
122ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (7/11):2009/11/08(日) 12:51:10 ID:X7vmOlo+
「むぅ……ありがとう、だいたいはわかった。それでジャスティス、君は
これからどうするのだ? 私は、彼らといっしょにヤプールの侵略を阻止に向かうが」
「私は、ボガールを追う。ヤプールとやらも、宇宙の調和を乱す存在である以上、
私の敵ではあるが、奴の貪欲さはそれにも増して危険だ」
(ちょ、ちょっと待て、ボガールはさっき倒したんじゃなかったのか!?)
 才人が慌てて、さっきの戦いで爆炎の中にノーバとともに消えたボガールが
生きているのかと問いただすと、ジャスティスは不愉快そうに答えた。
「人間の視力では捉えられなかったのも無理はないが、奴は我々の攻撃が
命中する直前に離脱に成功している。見てみろ」
 すると、エースとジャスティスの間の空間に、ホログラフで今の戦いの
再現映像が映し出され、スローで再生される中で、瀕死のボガールが
メタリウム光線とビクトリューム光線の直撃寸前に、捕食器官でノーバを
飲み込んですぐに背中から皮を残して脱皮し、異次元に逃走する様子が
再現された。この間、わずか0.1秒以下。
(くそっ、なんてしぶとい奴なんだ!)
 才人がじだんだを踏みそうな勢いで吐き捨てた。あのとき爆発したのは、
ボガールの残した抜け殻に過ぎなかったというわけだ。なんという逃げ足の速さ、
さらに脱皮したということは、ボガール自身もパワーアップしているに違いない。
 ホログラフを消すと、ジャスティスはボガールがここ数ヶ月のあいだに、
アルビオンに現住するものから宇宙怪獣までもあちこちで捕食していた
ことを告げると、最後に言った。
「ただし、脱皮したとはいっても奴がパワーアップした自分自身に慣れる
までには時間があるだろうし、かっこうの餌場であるこの星を簡単に
離れるとも思えないが、奴は今でもヤプールの命令に服従してはいない
様子であったから、いずれこの星を離れて別の星を荒らしにまわるだろう。
そうなってしまえば、再び補足するのは困難だ」
 ジャスティスは、ボガールが第二のサンドロスとなる可能性を考え、
まだ不完全なうちにこの星で殲滅しようと決意していた。
 エースは、ジャスティスが行動を別にすると言ったことに、少々の残念を
覚えたが、ボガールも宇宙全体にとって脅威となる生命体であることには
変わりなく、ヤプールと戦っているうちにボガールに漁夫の利を占められる
ことは避けたかったので、そのままうなずいた。
「わかった。ボガールは怪獣を食うたびにパワーを上げていく。注意してくれ」
「言われるまでもない。そういえば、アルビオンという国を旅しているうちに
聞いたことだが、レコン・キスタとやらは首都防衛のためと称して、大量の
空軍戦力を首都近辺に温存しているそうだ」
「空軍戦力? しかし、そんなものがあるならなぜ今の戦いに投入しなかったのだ?」
 アルビオンを含めてハルケギニアの空軍戦力は幻獣を除けば、飛行する
帆船による空中艦隊で、それで頭を抑えられれば陸上兵力はひとたまりも
ないはずであり、クロムウェルがヤプールの傀儡としても、その他の軍人が
納得するとは思えなかった。
「風石の採掘場が王党派陣営に抑えられ、長くは飛べないからと理由付け
られてはいたが本当のところは知らん。だが、ヤプールが人間を利用する
作戦を好んでいる以上、何らかの関係はあると思うがな」
「なるほど、ありがとう」
 あのヤプールが一度作戦を失敗させたからといって、おいそれとあきらめる
とは思えない。だが、次になにかを起こすであろう場所が特定できるのなら、
対策も打ちやすい。
(これで、目的地は決まったな)
(アルビオン首都、ロンディニウム……)
 そこでの計画さえつぶせば、さしものヤプールとて打つ手は残していないだろう。
まだ未知の怪獣、超獣、宇宙人が待ち構えているのに違いないが、アルビオンが
平和を取り戻せば、ヤプールの力の源であるマイナスエネルギーも減少する。
「では、私は行くぞ。ボガールに、これ以上時間を与えるわけにはいかん」
 ジャスティスは振り返り、眼下に見下ろすアルビオンへと戻ろうとしたが、
その前にエースが引きとめた。
「ジャスティス……また共に、戦ってくれるか?」
「……我々は、ウルトラマンだからな」
123ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (8/11):2009/11/08(日) 12:53:57 ID:X7vmOlo+
 そう言い残すと、ジャスティスはまだアルビオンのどこかで怪獣を狙っている
であろうボガールを仕留めるために飛び立ち、エースもまた才人とルイズの
仲間たちの待つ元へと飛んでいった。
 
 
 戦いが終わった後、赤い雨が上がって静けさを取り戻した草原は、戦いに
参加していたキュルケたち以外は貴族から平民まで総勢二十万人が洗脳が
解けた後遺症で、死屍累々と気絶した姿をさらす壮絶な風景となっていた。
 そんな無残な光景を、キュルケたちはシルフィードを少し離れた場所に
着陸させて、濡れた服をはたきながら眺めていたが、やがてロングビルが
憮然としたようにつぶやいた。
「とてもほんの一時間前に、精悍な姿を見せていた軍隊とは思えませんわね」
 眼鏡をくいと右手で持ち上げながら言う彼女の言葉の内には、何年か前まで
自分と自分の一族が誇りを持って仕えていた国家が、その当時想像もできなかった
惨めな姿を目の前にさらしていることへの、悲哀がにじみ出ていた。
 つわものどもが夢の後、地球の古い歌人が残した一文だが、どんなに
権勢をふるって栄えようとも、後世の歴史から見れば一時の夢に過ぎない。
しかも、これはなにもアルビオンに限ったことではなく、条件が揃っていれば
ヤプールがターゲットにしたのはトリステインやゲルマニアなど、アニエスや
キュルケたちの故郷であったかもしれず、他人事とは思えないキュルケは、
目の前の人々をゲルマニアの人々に重ねてため息をついた。
「人間も国も、滅ぶときはあっという間なのね」
「いや、悪いがまだ滅びてもらっては困る」
 アニエスが、キュルケの言葉をさえぎって発した言葉に、一同は注目した。
 彼女によると、このままではヤプールに勝てるうんぬん以前にアルビオンが
無政府状態になるのは避けがたく、そうなればトリステインなどの他国が
調停に乗り出すことになるが、権益などをめぐって争いが起こることは
当たり前で、やっと各国につながり始めた対怪獣防衛網が瓦解してしまう
ことになりかねず、レコン・キスタは論外であるから、ここはなんとしてでも
王党派にアルビオンを再掌握してもらわねばならないのだと。
 が、そのことは皆にもわかったが、実際王党派はこのありさまで、
目を覚ましたとしても、中核となるウェールズが洗脳が解けたとはいっても
操られていたときのようなカリスマ性は望みえるまい。
「まるで、死人の目を覚まさせるような難題ですわね」
「だが、やってもらわねばハルケギニア中がこの騒動のとばっちりを
受けてしまうことになる。まったく、気が重いわ……」
 大きく息を吐き出して、アニエスはアンリエッタ王女から受けた使命に
よって、ウェールズを助けなければならないことに、どうしてこう頼みも
しない面倒な仕事ばかりが舞い込んでくるのかと、憂鬱になりかけたが、
そこへシルフィードの上からミシェルが顔を出した。
「私がいますよ、隊長」
「ふっ、そうだったな。頼りにしているぞ」
 笑顔のはげましに、笑顔で応えたアニエスは、ミシェルの気遣いに
感謝した。これからやるべきことは多く、今は無理でもミシェルや
銃士隊全員の助力を必要とするときはすぐに来るだろう。
 だが、それらのことも、まだヤプールがレコン・キスタを掌握している以上、
近いうちにまた何かを仕掛けてくるはずで、それを撃破できなければ
すべて絵に描いたもちに等しい。
 アニエスはそこまで考えて、これからの行動の優先順位を決めようと
したときに、やっと待っていた二人組の声が聞こえてきた。
「おーい、おーい」
「待ってーっ、まだ行かないでーっ」
「……遅いぞ! さっさと来い」
 ぜいぜいと息を切らしながら才人とルイズがアニエスの怒鳴り声に
迎えられながら走ってくるのを見て、ミシェルが勝ち誇ったように、
「な、無事だったろ」と言ったのには、キュルケやロングビル、ついでに
タバサも、「ああ、やっぱりね」と、そのしぶとさに正直な感服さえ覚えていた。
「今回は、ずいぶん遅かったな」
「すみません、無事だった人を見つけたので、少し話を聞いていたので」
 才人は、ジャスティスから聞いた情報をうまく脚色して皆に説明した。
124ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (9/11):2009/11/08(日) 12:57:59 ID:X7vmOlo+
皆は、この決戦を利用した作戦が失敗した後でも、レコン・キスタに
かなりの戦力が残されているのに不安な様子だったが、とりあえず
それは首都防衛のための固定戦力であろうので、ここにすぐ攻め込んで
くることはないだろうが、たかが帆走戦艦の十隻や二十隻、ヤプールが
その気になれば風石などなくても動かすことは簡単だ。
 アニエスは、それらの情報を総合して、今できる最善の方策を考えて披露した。
「とにかく、その残存した艦隊戦力が問題だな。それさえつぶしてしまえば、
後は首都に残った兵力がせいぜい一万、その程度の数なら今回と
同じ作戦は使えないだろう。残るは、有象無象の反乱貴族のみだ」
「ということは、首都に乗り込んで、アルビオン艦隊をつぶしてしまえば、
もうヤプールにレコン・キスタを操る価値はなくなるってわけか」
「もしくは、ヤプールの傀儡となったクロムウェルを倒せば、あとは
勝ち馬に乗ろうとして集まった雑魚ばかりだから、レコン・キスタは
自壊するだろう。だが問題は、どちらも厳重に警護されている上に、
トリステインからの増援を待つ時間はないから、我々だけで片を
つけなければならんということだ」
 艦隊か、クロムウェルか、どちらかを倒せばヤプールの影をこの大陸から
一掃できる。けれど、人数は少なく難易度は高い。
 けれど、皆が迷う中でルイズの決断は早かった。
「クロムウェルを倒しましょう。あいつを倒すか、ヤプールの傀儡であったことを
暴露すれば、レコン・キスタそのものが消滅するわ」
「だが、艦隊を残しておけば、それをヤプールが別に利用しようと考える
かもしれないぞ」
「その危険性があるのは、トリステインやガリアの艦隊も同じことでしょう。
それに、艦隊をつぶすなら焼き払うしかないけど、そうしたら多くの犠牲者が
出てしまうわ」
 確かに、言われてみればそのとおりで、人的被害を見てみれば、
クロムウェル一人を倒せばすむのに対して、艦隊は乗組員を巻き込んでしまう。
ルイズの口から人命尊重の言葉が出たことは少々驚きだが、彼女もより
広い目で見渡す目が、少しずつ養われていると思うと才人は誇らしくもなった。
「ようし、じゃあこれからロンディニウムに乗り込んで、クロムウェルとかいう
おっさんをぶっ飛ばすか」
 これで今後の方針は決まった。
 やることが決まれば、思考回路が明確にできている才人などは切り替えが
早かった。相手が人間ならともかく、超獣か宇宙人が化けているのだと
したら容赦する必要はない。
 けれど、意気の上がる彼らの意表をつくような言葉がアニエスから発せられた。
「残念だが、私はここに残る」
「え? なんで」
「もうじき、ここの人間たちが目を覚ましたらパニックが起こる。そうさせないためにも、
ウェールズにはさっさと目を覚ましてもらって、向こうで倒れているレコン・キスタの兵も
まとめて全軍を撤退させなくてはならんからな」
「確かに、ですができるんですかそんなこと」
「張り倒してでも目を覚ましてやってもらうさ、それに私にはトリステイン特使
としての立場と、アンリエッタ王女直筆の書簡がある。ウェールズ皇太子と
姫様は昔から親友だったと聞くから、あとはまあなんとかやってみるさ」
 まぁ、アニエスさんの強引さにかかったら、大抵のごり押しは通るだろうなと、
口に出しはしなかったが、才人はなんとかうまくいくのではないかと思った。
もっとも、鬼より怖いアニエスに、ウェールズが女性にトラウマを持たねば
よいのであるが、とても軟弱なとりまきの貴族どもには止められはするまい。
 ともあれ、時間がないのでアニエスは他にやるべきことを順次説明していった。
「ミス・ロングビルは、すまないがいったんトリステインに戻って、ここであった
ことを王女殿下に報告してもらいたい」
「それは、別に構いませんが、ここから王城までは二日はかかりますわよ」
「それは大丈夫だ。今頃トリステイン軍は、ラ・ロシュール近辺に前線を
敷いているだろうから、姫様もそこにいるはずだ。それに、今はアルビオンが
トリステインに再接近する時期、急げば一夜で着けるだろう」
「わかりました。その代わりといってはなんですが、わたくしの故郷が
これ以上荒れないように、しっかり頼みますわね」
125ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (10/11):2009/11/08(日) 13:01:31 ID:X7vmOlo+
「心得た」
 アニエスは強くうなずくと、手持ちの紙に即席で紹介状と、種種の
報告内容を書いてロングビルに手渡した。ロングビルとしては、本当は
すぐにティファニアのところに戻って無事を確かめたかったのだが、
事態がアルビオンはおろかハルケギニア全体の命運にかかってくると
なると有無を言ってはいられなかった。
 そして、アニエスは最期に、才人、ルイズ、キュルケ、タバサ、ミシェルを
見渡して頭を下げた。
「すまん、お前たちには一番危険な仕事をしてもらわねばならん」
 そう、残ったこの五人のみが、今ロンディニウムへ向かって、ヤプールの
陰謀を砕くことができる唯一の希望であった。だが、そのために、軍人
でもない少年少女たちを敵の本拠地に乗り込めと言うのは、死ねと
言っているにも等しいので、ほかに選択肢がないとはいえ、良心に
痛みを覚えずにはいられなかった。
 けれど、彼らには迷いは最初からなかった。
「別に、最初からそのつもりでしたから問題ないですよ」
「そうよ、それに最初に喧嘩を売ってきたのは向こうなんだから、買って
やらなきゃヴァリエールの名が廃るわ」
 才人とルイズに続いて、今度はキュルケとタバサも。
「ま、ここで食い止めなきゃ、ゲルマニアのあたしの故郷も戦火に
巻き込まれちゃうし、第一、ヴァリエールに背を向けるなんて、ご先祖に
顔向けできないわ」
「付き合いだし」
 二人とも、乗りかかった船から下りる気はないようであった。
 最後に、ミシェルに目を向けたアニエスは静かに問いかけた。
「お前はどうする?」
「私は、サイトが行くのならどこへでも」
「本陣では、お前はすでに裏切り者として手配されているはずだ。
生きて帰れないかもしれんぞ」
「私がいなければ、レコン・キスタ内部のことはどうにもならないでしょう? 
それに、私はもう死にはしません」
「わかった。サイト、ミシェルを頼んだぞ」
「はい!」
 強く返事をした才人に満足したアニエスは、ミシェルの同行を許可した。
本来なら、まだ立つことすらままならないミシェルが同行するのは危険
極まりないが、なんとなく才人たちならば立派に守り抜いてくれると
思えていた。
 ちなみに、レコン・キスタ本陣でミシェルが裏切ると思っている者は
この中にいない。それが、信頼というものであった。
 
 そして、善は急げとばかりに、各々はすぐに行動に移すことになった。
「では、武運を祈る」
「無茶はしないでね、生徒の戦死報告なんてつまらない事務を、私の
仕事に入れないでほしいからね」
 アニエスとロングビルを見送り、シルフィードは五人を乗せて、
アルビオンの首都ロンディニウムへ向けて飛び立った。
 
 
 アルビオンから発した波紋は、たちまちのうちにハルケギニア全体を
飲み込み、加速度を増して歴史の津波の下に乗り遅れた者を
押し流そうとしている。平和か、大乱か、いずれになるにしても、
この数日中に決着がつくであろうことは間違いなかった。
 だが、大半の兵力を失ったとはいえ、反乱軍という看板を背負う
レコン・キスタの貴族たちには降伏という選択肢はありえず、
文字通り死に物狂いになって最後の抵抗を試みるであろうし、
そんな余裕をなくした彼らを、ヤプールは嬉々として捨て駒に使うだろう。
 もちろん、兵力に劣るレコン・キスタがどうしたところで勝利者と
なることはないであろうが、混乱と戦火の種を残すことはできる。
ジャスティスとある程度似た意味で、異次元人であるヤプールに
とって人間の国家などというものはどうでもいいものだった。
126ウルトラ5番目の使い魔 第73話 (11/11):2009/11/08(日) 13:03:38 ID:X7vmOlo+
 その証拠に、ヤプールは今回、戦争を利用してハルケギニア壊滅を
画策したわけだが、これまでに、人間を操れば簡単であろうのに、戦争を
作り出そうとしたことは地球の頃から一度もない。それは、ヤプールを
含む大多数の宇宙人にとって、一つの星は一つの星人が所有しているのが
当たり前なのに、別の種族ならばともかく、同種族のあいだで星の中に
狭い枠組みを無数に作って争いをするなどとは、到底理解できない
狭隘な思考だからだ。
 奴の目的は、今も昔も全ての人間を絶望に染めた上で滅ぼすこと、
アルビオンは、たまたまその目的のための道具として適当だったので
選ばれたにすぎない。 
 ヤプールは、どんな心の隙にも忍び込み、どんなものでも利用する。
それに対抗するには強い心を持つしかないが、これまでハルケギニアの
外からの攻撃にさらされたことの無い、この世界の人々にとって、
外惑星からの悪意に満ちた攻撃に対抗するには、あまりにも経験が不足していた。
 
 しかし、心あるものがいる限り、運命はその方向をどうとでも変える。
 
 アルビオンで才人たちと別れたロングビルは、スカボロー港まで王党派から
拝借した上等な馬をぶっとおしで走らせ、アニエスからもらった資金で竜を
借り切ってラ・ロシュールまで直行し、半日でトリステインに戻ることに成功した。
 
 この時期、トリステイン軍はアニエスの言ったとおりに、トリステインに最接近する
アルビオン大陸を眼前に見る、港町ラ・ロシュール近郊の、タルブ村郊外に再建なった
その主力を結集させつつあった。
 現在の総兵力は、一万五千と最盛期にはおよばないものの、港には空軍も艦隊の
出動準備を整えて、陣頭指揮をとるべくやってきたアンリエッタ王女の命令を待っている。
 その本陣へ、夜明けとともにラ・ロシュールから魔法学院の教師で、銃士隊隊長
アニエスの使いと名乗る女性が駆け込んできたとき、アンリエッタはわずか三分で
身なりを整えて、仮司令部のテントにやってきた。
「ロングビルさん、でしたわね。オスマン学院長の秘書さんの」
「はい、学院では殿下にお目にかかっております。ご記憶いただけて光栄ですが、
ことは急を要しますので、ご無礼をお許しください」
 ロングビルはアンリエッタに対して、礼節を正しく守って拝礼した。彼女にとって、
元々こういう作法は貴族であったころに教え込まれて慣れたものだったので、
その気品漂う姿はアンリエッタの心象をよくした。
 だが、ロングビルの口から、昨日アルビオンで起こった決戦の始終が余す
ことなく伝え聞かされると、白磁のような姫の肌から、さらに血の気が引いて
死滅した珊瑚のようになっていった。
「王党派が……壊滅……ウェールズさまも、意識不明」
 よろめいて椅子に崩れ落ちたアンリエッタを責めるのは酷であろう。ワルドによる
暗殺の計画を阻止するためにアニエスを向かわせたとはいえ、これまで王党派が
有利とばかり聞かされていたのに、それが一夜にしてひっくり返されたのだから
ショックを受けるなというほうが無理である。
 それでも、アンリエッタはウェールズの命には別状がないことと、アニエスが
彼の元へ向かって王党派の瓦解を防いでくれているであろうことを聞かされると、
大きく深呼吸をして気を落ち着かせ、猛々しくも音楽性を感じさせる声で、
軍政の腹心であるマザリーニを呼びつけて、あいさつもそこそこに命令を下した。
「すぐに可能な限りの兵力をアルビオンに上げる準備をしなさい。出立は
六時間後、正午をもって艦隊を出港させます!」
 
 続く
127ウルトラ5番目の使い魔 あとがき:2009/11/08(日) 13:05:34 ID:X7vmOlo+
以上です。>>117の方、支援ありがとうございました。
発の、違う世界のウルトラマンの共演、お楽しみいただけたでしょうか。
前回から支援絵をくださる方や、これまで応援してくださった方々にも、少しは報いることができたらうれしいです。
では、次回からはゼロの使い魔世界側もヤプールにやられっぱなしではありませんので行動開始です。
128名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 13:08:14 ID:idT3WY42
ウルトラ乙
129名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 14:02:08 ID:k5c+V1DS
ウル魔の人乙でした。
エースとジャスティスの共闘は燃えまくりました!
やっぱり良いなー、ウルトラマン同士の共闘は
そして何げにルイズが人命尊重の言葉をいってたのも良いですね
成長しているのだなと思いました。
次回が楽しみです。
130名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 16:07:58 ID:ivoRRPEH
ヒーローの共演ってなんでこうも燃えるんだろう
131名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 17:31:51 ID:MS61Qw1j
ちょっと遅いが、赤目の人おつ!
132名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 19:24:24 ID:XI6/cAWl
アニメじゃない!
133名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 21:39:08 ID:G6zTayTD
アニメじゃない!
134名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 21:40:06 ID:2T3aA8K3
本当のことさっ!
135名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 22:14:36 ID:NDq68KVu
本当のことさっ!
136名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/08(日) 22:15:14 ID:7q/EWEca
ちげーよ馬鹿
137名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 00:30:01 ID:B/yf2NO+
アヌス
138名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 00:33:22 ID:JnDJR5TA
アニス・沢渡
139名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 13:36:14 ID:j5y/9ZS9
人間を爆弾に変える術を編み出してしまうんですねわかります
140名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 13:53:03 ID:LzfsjsK6
ボマーみつけた
141お前の使い魔25話:2009/11/09(月) 14:31:07 ID:K0sEZxaE
規制されていないようなら35分頃から25話投下したいと思います
142お前の使い魔25話:2009/11/09(月) 14:35:03 ID:K0sEZxaE
「どこをどう見ても胡散臭い地図だね」

 わたしが、先に席に座ってたタバサとキュルケとギーシュに軽く挨拶し、キュルケの見せる羊皮紙をざっと眺めていると、呆れ顔のギーシュが身もふたもないことを呟いた。

「そりゃあ、魔法屋、情報屋、雑貨屋、露天商……、いろいろ回ってかき集めてきたんだもの」

 それを聞いたわたしは、喉元まで「まがい物に決まってるわ」と出かけたが、ぐっとこらえた。大方、キュルケはわたしに気を使って集めたんだろう。
 はぁと一つ溜め息を付いて、再度羊皮紙の束を眺める。
 廃墟に森に遺跡に洞窟。これでもか! というほどに定番すぎる上、どうにも地図は真新しく、どれもこれもチグハグな感じがする。

「宝を隠してるにしては、良くも悪くも目立ちすぎよこれ」
「馬鹿ねルイズ。だから『そこ』に隠すのよ。だって、目印も何も無いところに宝なんて隠さないわ」

 はあさいですか。
 確かに、隠したはいいけど、どこにやったかわかりませんなんて間が抜けてるにもほどがある。

「でも、これだけあるんじゃ、どれから手を付けたらいいか……」

 わたしが適当に一枚掴んだ時、ほのかな光に気がついた。
 光の出所は、わたしの懐の中。つまり……。

「……ダネット?」

 懐から取り出したダネットは、淡い光を放っていた。
 みんなが無言になる中、わたしはそっとダネットを机の上に置く。

「これ……?」

 先ほど、わたしが適当に掴んだ地図をよく見ると、どうやら『竜の羽衣』という宝について書かれているらしい。

「場所は、タルブ村の近くね。タルブってどこら辺なの?」

 横から顔を出して地図を見ていたキュルケがそう言うと、突然、後ろからガチャンと食器の割れる音がした。
 驚いて音の方を見ると、見覚えのある黒髪のメイドが、青い顔をしてこちらを見ていた。

「あんた確か……シエスタだっけ?」
「し、失礼しました! 申し訳有りません!!」

 慌てて謝罪の言葉を口にするシエスタの目は、一点を見つめている。

「あんた、これに見覚えがあるの?」

 わたしはダネットを手に取り、最早、顔色が青から蒼白に変わっていくシエスタに見せながら、有無を言わせぬ口調で尋ねる。

「ひっ! も、申し訳ありません! 申し訳ありません!!」
「わたしが聞きたいのは謝罪の言葉じゃないわよ! 知ってるの? 知らないの? 答えなさい!!」

 思わず、叫ぶように言ってしまったわたしを、キュルケがそっと手で制した。

「落ち着きなさいルイズ。怯えてるわよこの子」

 キュルケの言葉で少し冷静さを取り戻し、シエスタを見てみると、目に涙を溜めながらガタガタと震えていた。
 それほどわたしが怖かったのだろうか。周りを見てみると、同席のギーシュや他の生徒も怯えた目でわたしを見ていた。
143名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 14:36:24 ID:6I6xk2WS
支援
144お前の使い魔25話:2009/11/09(月) 14:37:08 ID:K0sEZxaE
「…………」

 無言で席に座りなおしたわたしを見た後、キュルケがシエスタに尋ねる。

「大丈夫よ。何もしないわ。ただ、もしもあなたがこの石について何かを知っているなら教えて欲しいだけ」

 優しい口調にシエスタの緊張は目に見えてほぐれ、ゆっくりと話し始めた。

「最初は……自分の村の名前を聞いたので、こちらの席を見たのです」
「へえ、きみはタルブ村の出身なのかい?」

 ギーシュの言葉に、シエスタはこくんと頷く。

「それで、机の上にあった『ソレ』に気付いて……」
「『ソレ』って……これ?」

 キュルケがわたしの持つダネットを指差すと、シエスタは再度こくんと頷いた。

「じゃ、じゃあ、あなたはこの石を見たことがあるの?」

 キュルケの言葉に、シエスタは首を縦に振った後、言葉を続けた。

「幼少の頃に一度だけ。ですが、少し前に盗まれたと、家族からの手紙に書いてありまして……」
「盗まれた?」

 それから、詳しい話を聞いてみたが、シエスタも家族からの手紙に少しだけ書いてあっただけだと話し、詳しい事情はわからないと言った。
 どうやら、古くから村の近くの洞窟にあったものらしいのだが、特に言い伝えがあった訳でも、特別な信仰心があるわけでもないとのことだ。

「どうやら、行き先は決まったみたいね。あなた……シエスタだったかしら? 案内を頼んでいい?」
「え? え? え? え?」

 キュルケから肩に手をポンと置かれ、状況が掴めずにおろおろするシエスタを尻目に、わたし達の表情は硬いものになっていた。


 タバサの風竜のお陰で、タルブ村へはその日の内に到着し、シエスタの家族へ事情を聞いてみると、春先ぐらいに奇妙な出来事があり、その時にはもう石は無くなっていたとのことだ。
 先ほども少し触れた通り、特に言い伝えも何も無かったので、いつも石を目にしていた訳ではない為、本当にその時に無くなったとは限らないらしいのだが、何となく、わたしはその奇妙な出来事というのが発端な気がしていた。
 その奇妙な出来事とは、大きな爆発音と、赤い光なのだという。そして、春先という時間。この二つを頭の中で巡らせる。

「……まさかね」
「え? 何か言ったルイズ?」

 わたしの独り言に反応したキュルケに「何でもない」とだけ返し、わたしは目の前に黒々と口を開ける洞窟の中をじっと見つめていた。
 シエスタの家族へ事情を聞いたわたし、タバサ、キュルケ、そしてシエスタの四人(距離が長く、人数が多かった為、ギーシュには辞退してもらった)は、シエスタの案内で、石があったという洞窟の前にいた。
145名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 14:37:17 ID:Q2mkvM8Z
待ってたぜ支援
146お前の使い魔25話:2009/11/09(月) 14:38:56 ID:K0sEZxaE
「この中なのね?」
「は、はい」

 わたしの言葉に、慌てて頷くシエスタ。
 一日でここまで来て、休む間もなく案内させられた為か、シエスタの顔には疲労の色が見える。

「ありがと。ここまででいいわ。ねえタバサ、彼女を村まで送ってもらえるかしら?」

 タバサは頷いて、「すぐ戻る」と言ってシエスタを風竜に乗せて村へと向かって行った。
 タバサを待つ間、キュルケと二人だけという事もあり、何となくお互いに無言になり、しばらく経った後、唐突にキュルケが口を開いた。

「……ねえ」

 無言で顔だけ向けると、そこには複雑な表情をしたキュルケがこちらを見ていた。
 違う、彼女の視線は、わたしの胸の辺り……ダネットを入れている懐の辺りに向いていた。

「もしかして、ダネットってタルブの出身だったりするんじゃないかしら?」
「違うわ」

 わたしは、キュルケの言葉を即座に否定する。
 キュルケは、断言したわたしを不思議そうな顔で見た後、言葉を続けた。

「言い切るってことは、あんたにはわかってるの? ダネットの故郷のこと?」

 返事に困ったわたしは、懐からダネットを取り出して、しばらく思案した後、思い切って言う。

「もしも……もしもよ? もし、ダネットがこことは違う世界の住人だったって言ったら、あんた信じる?」

 わたしの言葉に、少しだけ眉をしかめたキュルケは、何かを考えるような仕草をした後に、自分の考えを否定するように頭を振った後、確かめるように口を開いた。

「……前に、あんたが言ったこと、ずっと引っかかってたの。以前あんたは、三体の巨人がダネットの『世界』を破壊したって言ったわよね?」

 思ったよりも勘の鋭いキュルケに少し驚いた後、わたしはこくりと頷いた。

「『故郷』じゃなくて『世界』……じゃあ、ダネットの『故郷』って……でも、そんなことって……」

 キュルケが言いよどんでいると、シエスタを村に送り届けたタバサが戻ってきた。

「行きましょうキュルケ。多分、答えはこの中にあるわ」

 何を話していたのかと頭を傾げるタバサと、「ちょっとルイズ! 待ちなさい!」と慌てるキュルケを余所目に、わたしは洞窟の中へと入っていった。


 洞窟の中は細い道が続いた後、突如拓けた場所へ通じていた。
 どうやら、山の大きさをそのまま利用したらしく、高い天井は魔法がかけられているのか、うっすらと光り、内部をぼんやりと照らしていた。
 そして、部屋の中心部に、小さな台座が見える。台座の近くまで歩いたわたしは、思わず息を呑んだ。
147お前の使い魔25話:2009/11/09(月) 14:39:57 ID:K0sEZxaE
「これ……」

 台座の中心には、手の平大の窪みがあり、その窪みは見覚えのある形をしていた。

「ねえ、これって……」

 キュルケの言葉に頷いて、わたしは懐からダネットを取り出し、見覚えのある窪み、すなわち緋涙晶であるダネットと同じ形の窪みへそっと置くと、薄っすらとダネットが赤い光を放ち始めた。
 息を呑むわたし達を余所目に、赤い光は強くなり、洞窟の中を煌々と照らした後、萎むように収束していった。

「な……何だったの今の?」

 不思議な光がどんなものかわからず、自分の身に何か起こったんではないかと手や足に触れたり動かしたりしてるキュルケに、わたしが何かを言おうとした時、周りの異変に気が付いた。
 強い光が収まった後も、まるでわたしを心配するかのように淡く輝くダネットを見つめた後、呟く。

「ダネット、あんたはこれをわたしに見せたかったっていうの?」


 まるで、台座を囲むように薄い光を放つ赤い文字が壁の隅々に浮かび上がっていた。
 警戒するような顔でタバサが近付いていき、安全を確かめた後で顔を近づける。
 どうやら、文字を読んでいるようだったが、振り返った後、わたしとキュルケに一言呟いた。

「読めない」

 わたしとキュルケも近付いてみると、そこには今まで見たこともない文字が躍っていた。

「何これ? ルーン文字ですらないじゃない。どこの言葉かしら」
「わからない」

 首を傾げるキュルケに、短く答えるタバサ。
 そんな二人に聞こえるように、わたしは口を動かした。

「プロスト……違うわね。プロデスト大陸……覇王メディスン……」

 驚いた顔でわたしを見る二人。

「ルイズ、あんた読めるの!?」
「なぜ?」

 疑問を投げる二人に、わたしは曖昧な表情を返す。
 自分でも奇妙な感覚だ。何せ、見たことのない文字が理解できるのだから。

「知らないけれど知ってるのよ」

 わたしの返答に、ますます意味がわからないといった表情になる二人。
 仕方なくわたしは言葉を続ける。

「これはダネットの世界の言葉よ。わたしは知らない。でも、わたしの中の誰かさんは知ってるみたいね」

 それを聞いて、表情を硬くする二人とは別に、反応するものがあった。カタカタと刀身を揺らすデルフだ。

「そこまで進んでんのか娘っ子?」
「……」

 デルフの言葉を無言で返した後、わたしは続きを読み始める。
 壁面に書いてある物語は、以前ダネットが話し、わたしが見てきたものとほぼ同じものだった。そう、『ほぼ』である。
 この物語は、最後だけが違っていた。

 封印されたはずの、黒い剣を持つ青年の最後が。
148お前の使い魔25話:2009/11/09(月) 14:43:37 ID:K0sEZxaE
以上で25話終了です。短くて申し訳ないッス

応援してくれた方、心配してくれた方、そして某スレで厳しい批判をくれた方々に感謝を。
応援スレの方にはそちらでお礼をしたいと思います。
それと今後は1話以降の修正もしていきたいと思います。

それでは
149名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 15:22:53 ID:Q2mkvM8Z
乙です
ああ、最後違うのか…
150名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 17:13:31 ID:arADIORQ
乙!
原作知らないけど続きがスゲー気になるぜ…
151名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 19:16:11 ID:FfFg1AfP
更新乙です。
書き続ける事って大切ですよ。
152名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 20:04:24 ID:xg2Ir6tD
>>148
書き手の一人として一言忠告を

細かい誤字や誤変換の修正ならともかくとして
以前書いた文の修正はいつまで経っても終わらなくなることが多いので
一度最後まで書き終えたあとにする方がいいですよ

一日二日の短い期間で一気にやれるなら話は別だけどw
153名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 21:43:01 ID:q0THJ16B
すいません。
前スレにあったデビルマンのSSをまとめサイトに追加しようとして失敗してしまいました。
本文のみとなってしまい、一覧ページなどの作成に失敗してしまっています。

どなたか更新作業の代理をお願いします
154名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 22:01:49 ID:ShRsF4ph
投下おつかれさまです!
諦めずに自分の進みたいように進んでください
155ナイトメイジ:2009/11/09(月) 22:53:25 ID:R5V4diy/
23時から投下させてください
156名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 22:54:40 ID:arADIORQ
事前支援
157ナイトメイジ:2009/11/09(月) 23:02:15 ID:R5V4diy/
Gホーネットを退けたルイズ達は通路のさらに奥へと足を進める。
途中には落とし穴を主力としたいくつものトラップ
──底に剣山がある落とし穴とか、底で火が燃えている落とし穴とか、底でGスネークが口を開けて待ち構えている落とし穴とか──
が仕掛けられていたものの、それらは全てギーシュの尽力により探知され、ルイズ達は怪我を負うこともなかった。
彼がどんなすばらしい貢献を果たしたかはここでは割愛させていただく。とにかく大変活躍していたのは確かだ。
この通路も見かけ自体はなんの変わりもない普通の通路だった。
だからルイズ達はそれまでと同じように進んでいたし、ギーシュの注意も足下にばかり向いていた。もっとも、その注意が役に立っていたかどうかは別だが。
何がきっかけだったのか。
たぶん、この一角に踏み込んだのがきっかけだったのだろう。
突然、前の通路が轟音とともに落ちてきた壁で塞がれた。
音の余韻は後ろからも響いていた。
嫌な予想はよく当たる。既に後ろの通路も壁で閉じられていた。
その途端、通路の壁に、床に、天井に無数の光が走る。
光のあるもは円を描き、あるものは直線に走り、またあるものは無数の文字を書き出し、やがて通路を埋め尽くす魔方陣となる。
そんな中でルイズが左右からキュルケの首に走る緑の風を見つけたのは全くの偶然だった。
偶然ではあったが、ルイズにはそれが危険なものであることを予感した。
ただ、それをキュルケに伝える術をルイズは持たなかった。
緑の風は声よりも速く走り、キュルケの腕を引っ張ろうと差し出した手も間に合いはしない。
そして緑の風は交差し、その後で鮮やかに赤いが吹き上げられた。
「フレイム!」
跳ねた自分の使い魔に突き飛ばされたキュルケが床にへたり込み、その足下にキュルケの代わりに緑の風の交差に晒されたフレイムが半ばまで切られた体を床に落とした。
再び吹いた緑の風がルイズ達の間を駆け抜け、戦闘を歩いていたギーシュの腋をも吹き抜け、その向こうの床に転がる。
ただし、それは緑の風が自信の力で吹いたのではない。
風と一塊になって飛んだ誰かに突き飛ばされていたのだ。


立ち上がった彼に緑の風が吹きつける。
無論、風のように見えたのであって、風そのものではない。
あまりにも早い振りのために視認すら難しいそれは、二丁の鎌だ。
鎌はあるときは横薙ぎに、あるときは頭上より振り下ろされ、またあるときには跳ね返るように戻り無謀にも戦いを挑んだ獲物の命を奪おうとする。
その動きはまさに達人。否、人ならざる技という他はない。
ではあるが鎌を振るう敵の姿を見れば、なるほどこの敵ならば人外の技を操るのも当然という気にもなる。
眼前に立ちはだかるのは、針のように細い体ながら、見上げるほどの岩山よりもなお圧倒的な威圧感を持つ壁。
まるで無数の瞳で見つめるような冷たい視線を持つ敵。
それこそG(ジャイアント)マンティスである。


「フレイムをこんなふうに!やってくれたわね」
キュルケの杖が弧を描き、紅を引いた唇からルーンが紡がれる。
彼女の二つ名は「微熱」ではあるが一度火がつけば心は猛火よりもなお熱く燃えさかる。
それを体現する魔法を持つ彼女は自分の使い魔を切り裂いた報いをGマンティスに与えようと杖を振り下ろした。
が、火花一つ起きない。
杖を二度、三度振るがでるのは空を切る音だけだ。
「どうしたのよ」
「魔法がでないのよ」
そんな馬鹿な。
ルイズも魔法を使おうとする。普段なら失敗の証として爆発が起こるはずだ。
だが、なにも起きない。爆発どころかなにも起きないのだ。
「なんで?」
「ここじゃ無駄ね」
ベルが天井を見上げ、そこに描かれた魔法陣の意味を読み取る。
「封魔陣よ。ここじゃどんな魔法も使えないわ。しかも、コンシールで隠されてたみたいね。まいったわね」
もっとも、ベルはまったくまいった様子はない。
「そうですな……まいりましたな」
それに対しコルベールの焦りがはっきりと目に見える。
「魔法を使えない我々では、あれに勝てそうにありませんぞ」
メイジの力とはすなわち魔法の力である。
それを封じてしまうこの罠はまさにメイジ殺しのための罠と言える。
「なら、彼に任せてみてもいいじゃない」
ベルはその目を単独でGマンティスに立ち向かう「彼」に向けた。
158ナイトメイジ:2009/11/09(月) 23:03:12 ID:R5V4diy/
『生きているかい?』
『死んじゃいねえけどな』
『だけど浅い傷ではないだろう』
『少しくらい千切れてもかまわないんだが……うごけねえ。マヌケすぎたな』
『いや、主人を守った君は既に自分の仕事を果たした。次は僕の番さ』


宿敵、好敵手あるいはライバルと呼ばれるものがある。
だが、誰しもそのような相手に出会えるわけではない。
もし、あなたがそのような者に出会えたならばそれは幸なことなのだろう。
なぜか。
宿敵と出会うことで大きく成長し、
好敵手と戦うことでまた大きく成長し、
ライバルに勝利することでさらに大きく成長するからだ。
ここに男がいる。
彼は今、まさに、この地の底に作られた通路で宿敵と出会った。
故に彼は成長した。
彼は好敵手との戦いを決意する。
彼はまた一つ成長を遂げた。
そして彼はライバルに打ち勝つことを望む。
さらなる高みに登らんとして。
四肢に力を込めるジャンアントモールのヴェルダンデにとって、ここで出会ったGマンティスはそのような相手だったのである。


頭でざくりと音を立てたGマンティスの鎌が毛皮をごっそり削った。
毛皮を赤に染めながらもヴェルダンデは首を振って、鎌を振り払う。
すぐさま二つめの鎌が迫る。
ヴェルダンデは前肢の爪でそれを受け止めた。
ジャイアントモールの爪は地面を掘削し、時には岩盤をもくりぬくような頑強な代物だ。
いかに鋭いGマンティスの鎌といえど受け止めるのに不都合などない。
そしてヴェウダンではもう一方の前肢を突き出す。Gマンティスの腹に当たれば殻を貫けるだろう。
だが、羽を広げたGマンティスが少し下がるだけでそれは届かない。ジャイアントモールの前肢はそこまで長くはないのだ。
距離を取ったGマンティスが再び鎌を振り上げる。
ヴェルダンデは後脚で地面を蹴り、距離を取った。
自分の爪も当たらないが、Gマンティスの鎌も届かない。少し時間を稼ぐなら十分な距離だ。
その時間を使い、ヴェルダンデは使い魔となって取得した知性で考える。
これではジリ貧だ。自分の攻撃は避けられ、敵の鎌で切り裂かれていく。
このままでは出血を強いられていずれ倒れてしまう。
主人を含めた魔法を使えないメイジ達ではこのGマンティスに勝ち目はない。
友のフレイムは動けない。シエスタという人間の女が手当をしているようだが、いくらトカゲでも決着がつく前に回復するとは思えないし、当然魔法での回復も望めない。
ベルという人間の使い魔もだめだ。これは当てにしてはならない種類の存在だ。
この場を切り抜けるにはヴェルダンデ自身が力を尽くすしかないのだ。
勝ち目はないわけではない。
岩を砕く前肢の爪の一撃をくれてやれば確実に倒せる。
そのためにはGマンティスの鎌のついた前肢とジャイアントモールの力はあるが短い前肢の差をどのような方法を使ってでも埋める必要があった。
Gマンティスがふるわせる。
これからそちらに行くと言いたげだ。
ヴェルダンデはもう一度下がることも考えた。が、それはできない。下がればGマンティスの鎌は主人達に届くようになるからだ。
もはや不退転。ヴェルダンデは後脚で床を蹴り、宙に跳ぶ。
砲弾とも見まごう速度のまま、つきだした爪は、しかしあのときと同じ。Gマンティスがわずかに下がるだけで空を切る。
Gマンティスがにやりと笑った。殻でおおわれて変化はのないはずなのに、確かにそう見えたのだ。
なぜか。役割を果たすことなく地面に落ちたヴェルダンデの体はその鎌を振るうに絶好の位置に落ちたからだ。
そして既に振り上げられていた二丁の鎌は地面に這いつくばるヴェルダンデに振り下ろされ、その身を切り刻む──前に、Gマンティスの体は吹き飛び、前方の通路をふさぐ壁に叩きつけられる。
Gマンティが体を起こそうとしたとき、ヴェウダンデの爪が目前に突きつけられていた。


『まさか、あそこで後ろ足の蹴りが来るとはな』
『ジャイアントモールは地中を馬と並ぶ速度で掘り進むことができる。そのための脚が強くないわけないだろ』
『それで最大の武器であるはずの前脚を軸にして体を反転させた蹴りか。してやられたな』
『他に方法が思いつかなかったからね』
159ナイトメイジ:2009/11/09(月) 23:05:04 ID:R5V4diy/
『そうか……俺を倒した男の名を聞きたい』
『ギーシュ・ド・グラモンの使い魔。ジャイアントモールのヴェルダンデ』
『そうか。殺すがいい』
『そうはいかないさ』
『なに?』
『フレイムを切り裂いて、主人を殺そうとした君は殺してしまいたいさ。だけど、聞かないといけないことがある。壁を開ける方法を教えて欲しい。こんなところに僕の主人を閉じ込めたままにしておけないからね』


Gマンティスの鎌が背中の壁をついた。
すると、壁の一部に魔法陣が浮かび上がると、前後の壁が石のかけらを落としながらせり上がる。
塞がれていた通路が姿を現した。
それにヴェルダンデが目を奪われた一瞬、今度はGマンティスが大きく跳び退り、距離を開けた。
細い背にある翼は広げられたまま上下に羽ばたき、その体を浮遊させる。


『気が変わった。ヴェルダンデよ。その顔、名前。確かに覚えた。いずれ再び会おうぞ』
『なにをする気だ?』
『簡単なことよ。再び貴様と戦いたくなった。勝ちたくなったそれだけよ。さらばだ』


緑の風のようにGマンティスが通路を吹き抜ける。
タバサが反射的にルーンを唱えたが、封魔陣の上では魔法は使えるはずもなく、闇の中にGマンティスが消えていくのを見送るだけだった。


『いいだろう。だが、勝つのは次もこの僕だ!』



***********************
今回は主人公がルイズでもベルでもないので文の調子を変えてみました
おかげで長さの割りに時間がかかってしまった
160名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 23:27:54 ID:7TZTCZYt
乙でした
かつてここまでカッコイイヴェルダンデがいただろうか?
161名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 23:35:01 ID:+0OUuUxB
まさかモグラをかっこいいと思う日が来るなんて…乙でした。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/09(月) 23:46:45 ID:0Br4hmqx
乙です。
こんなにカッコいいモグラは仮面ライダーアマゾンのモグラ獣人以来だ。
163名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 00:59:35 ID:uCfBcKnO
人間が聞いたらいつもの声でモグモグ言っているのだろうかw
164名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 01:00:37 ID:7bDxzhI9
いや別にモグラとカマキリなんかどーでもいい話だろ
165名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 01:41:10 ID:NJjKzYgi
>>164
あ?ヴェルダンデさんディスってんなよ
166名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 02:25:46 ID:Io8+3H74
ダメットの人ベルの人乙です!
好きな作品の投下多くて幸せだわー
167TALES OF ZERO 代理:2009/11/10(火) 12:25:16 ID:zxqLjVnx
避難所からの代理投下をしたいと思います
168TALES OF ZERO 代理:2009/11/10(火) 12:27:33 ID:zxqLjVnx
第一話 二人の使い魔


「あんた達…誰?」

トリステイン魔法学院、昨日春の使い魔召還の儀式が行われていた場所で…
サモン・サーヴァントに成功したルイズは、自身が召還した二人に名を尋ねる
才人が答えようとするが、クラースが先に口を開いた
「人に名を尋ねる時は、まず自分から名を名乗るのが礼儀だと思うのだがな、お嬢ちゃん。」
「お、お嬢ちゃんですって!?」
貴族の自分をお嬢ちゃん呼ばわり…クラースのその言葉が、ルイズの神経を刺激する
だが、クラースは別に気にせずにその態度のままだった
「済まないな、何せ私は君の名を知らないものだからな…お嬢ちゃん。」
「ぐぬぬ…ま、まあ良いわ、無礼だけどあんたの一言も一理あるから、名乗ってあげるわよ。」
何とか怒りを押さえ込むと、ルイズはふんっとない胸を張った
「私の名はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ。」
どうだ、とばかりに態々フルネームで名乗るルイズ
彼女は自分に無礼な物言いをした二人が、ヴァリエールの名を聞いて驚くかと思った…
「成る程、ルイズか…私の名はクラース・F・レスター、ユークリッド村で学者をしている者だ。」
「お、俺は平賀才人…。」
が、二人は別に驚きもせずにそれぞれ順番に己の名を名乗る
何よ、ヴァリエールの名を知らないの、何処から来た田舎者よ…と二人の態度に内心呆れる
ついでに、品定めをするように二人を見て…やがて、おもむろに残念そうに溜息を吐いた
「はぁ…成功したと思ったら、何でこんな平民を二人も召還するのよ…しかも、片方は変な刺青してるし。」
「変な刺青だと…これはな、召還術を行う為に必要なペイントであってだな…。」
クラースが自身の文様について力説しようとする、ルイズはそれをスルーする
彼女は不満な表情のまま、コルベールの方へと振り向いた
「ミスタ・コルベール、やり直しを…もう一度召還をさせてください。」
「それは出来んよ、ミス・ヴァリエール…昨日から何度も失敗して、ようやく成功したのに。」
やり直しを求めるルイズだが、コルベールはそれを認めなかった
使い魔を召還した以上、それが何であっても契約しなければならないのがこの儀式の規則である
彼は、このまま二人と契約するようにとの指示を出す
「確かに、人間を…それも二人も召還するとは前例のない事だが、これは規則だからね。」
「でも、平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!!」
それでも、ルイズは納得出来ずに文句を言い続けた
そんな様子を見ながら、才人とクラースは顔を見合わせる
「クラースさん、契約とか召還とか平民とか使い魔とか…どういう事なんですか?」
「流石の私でも、この状況は…それより、一体此処は何処なんだ?」
過去、現在、未来…そのどれを通してみても、こんな所に来たのは初めてだった
クラースが此処は何処か考え込む中、才人はふと空を見上げる
時刻は夕方…夜がもうそこまで迫っており、空には月が二つ輝いていた
「シルヴァラントとテセアラだ……だったら、此処はアセリアなんですよね?」
「うーむ………それを判断する為にも、今は情報が足りんから何とも言えんな。」
此処は何処なのか、何故此処に来たのか…彼等から、聞き出さねばならない
クラースの視線の先にいるルイズとコルベールは、未だ話を続けている
が、コルベールの次の言葉で、会話は一気に終息へ向かった
「いい加減にしなさい、ミス・ヴァリエール…これ以上駄々をこねる様なら、退学処分になりますよ。」
「そ、そんなぁ……」
退学すると言われれば、もう反論出来ない…ルイズは従うしかなかった
話が一応纏まった所で、クラースが「すまないのだが…」と二人に声をかける
「我々は状況を完全に把握出来ていない…出来れば、我々が此処にいる事も踏まえて説明して欲しい。」
「おお、そうですね…いきなり召還されて戸惑っているでしょうから、説明しましょう。」
クラースの申し出を受け入れ、コルベールが説明を始めた
169TALES OF ZERO 代理 2/9:2009/11/10(火) 12:28:56 ID:zxqLjVnx
「……つまり此処はハルケギニア、トリステイン王国にあるトリステイン魔法学院か。」
「そうです、そしてお二人はミス・ヴァリエールの使い魔として、此処に召還されたのです。」
コルベールから大まかな説明を受け、クラースはふむと顎に手を当てる
「ハルケギニア、トリステイン…聞いた事がないな、それに貴族が魔術の教育を受ける学院…。」
ぶつぶつと独り言を続けるクラース…傍には、才人とルイズが並んで立っていた
やがて、クラースは一度思考を中断して、コルベールの方へ向きなおす

「では、此方から質問するが…ユークリッド大陸はご存知か?」
「いえ…聞いた事がありませんな。」
「アルヴァニスタ、ミッドガルドという国に聞き覚えは?」
「それも聞いた事がありません。」
「あの二つの月はシルヴァラントとテセアラか?」
「そんな名ではありませんが?」
「魔術はエルフの血を引く者しか使えないはず…此処にいる生徒達はエルフなのか?」
「そんな!?エルフは東の地に住む、先住魔法の使い手達ですぞ。」

それから色々と二人の会話は続く…才人の隣では、ルイズがぶつくさと文句を言い続けている
「全く…なんで私がこんな平民なんかを使い魔にしなきゃいけないのよ。」
「えっと、その…まああれだ、そう気を落とすなって。」
「誰のせいでそうなったと思ってるのよ!!!」
事情が未だに解らない才人は取りあえずルイズを励ますが、返ってきたのは彼女の怒りの声だった
どうしようか困っていると、クラースとコルベールの話し合いに一区切りがつき始めた
「まさか、此処は…才人君、こっちに…。」
一通り話を聞き終え、思うところがあったクラースは、才人の腕をとる
彼の腕を引っ張って、二人はルイズとコルベールから距離をとり始めた
「ちょ、ちょっと…どうしたんですか、クラースさん!?」
「良いから…少し話がある。」
ある程度彼女達から離れ、クラースは才人の両肩に手を置いて小声で語りかけた
「才人君、落ち着いて聞くんだ…私の予想が正しければ、此処は君の世界ではない。」
「何いってんですか、見れば解りますよ…で、此処はアセリアの何処なんですか?」
未だに才人は、此処がアセリアの何処かだと思っていた
クラースは一瞬迷ったが、敢えて自分が確信した事実を話す
「いや、言葉が足りなかったか…此処は君の世界でも、アセリアでもない。」
「えっ、それってどういう……まさか!?」
そこまで言われて、ようやく鈍い才人でも現状を理解できた

「ああ、どうやら私達はどちらの世界でもない、別世界に来てしまったようだ。」

「ど、どうして!?」
「恐らく、私が開いたゲートと彼女が開いたゲートが重なってしまったのだろう…それに引き寄せられて、この世界に来たらしい。」
どういう原理でそうなったのかは定かではないが、それが一番の可能性である
「帰る方法は!?もう一度、あれをやれば……。」
「あの術を使うのに、特殊な術具を使ったからな…この世界で調達出来るかは解らん。」
それはつまり、もう二度と元の世界に帰れないという最終通告のようなものだった
そんな…と、現状に才人はうな垂れるしかなかった
「俺、もう二度と帰れないのかよ…母さんの飯も食べられない、インターネットも出来ない、一生…」
「いや、それは…」
「ねえ、何時まで二人でこそこそ話してんのよ、契約してあげるから早くこっちに来なさい。」
その時、不満そうに二人を呼ぶルイズの声が聞こえる
ルイズとしては彼等を使い魔にするのは不服だが、進級の為にはしかたないと諦めたのだ
才人は振り返ってルイズを見る…こいつのせいで俺は帰れなくなったんだ

「お前…お前のせいで!!」

才人の中で悲しみが怒りへと変わり、それがルイズへと向けられる
つかつかと彼女の前まで歩み寄ると、その胸倉を両手で掴んだ
170TALES OF ZERO 代理 3/9:2009/11/10(火) 12:30:23 ID:zxqLjVnx
「な、何すんのよ、平民の分際で!?」
「やっと、やっと帰れる筈だったのに…お前が余計な事をしたから!!!」
拳を震わせながら、やり場のない怒りをルイズにぶつける才人
彼の事情など知らないルイズは、逆に怒りの炎に油を注いでしまう
「余計な事って何よ、私だってあんた達なんか呼びたくて呼んだわけじゃないわよ。」
「何だと…こいつ!!」
「ひっ!?」
ルイズの傲慢な態度に怒りを露にした才人は、相手が少女である事を忘れて拳を振り上げた
流石のルイズも、彼の行為に思わず怯える
「よせ、才人君!!」
「止めなさい、君!!」
ルイズに手を挙げようとする才人を止めようと、クラースとコルベールが割って入る
どうにか二人を引き離し、クラースは暴れる才人を押さえつけ、コルベールはルイズを遠ざける
「才人君、落ち着け…此処で暴れた所で、どうにかなるわけではないんだぞ。」
「五月蝿い、大体あんたが召還術なんかで俺を呼んだから、こんな事に…」
もう帰れないと思い込んだ才人は、その怒りをクラースにもぶつける
こうなった全ての原因である、クラースに…

「才人!!!!」

怒りで我を忘れている才人を、クラースは一喝する
その声に思わずたじろぎ、暴れるのを止めた
「才人…君の言う通り、こんな事になってしまった責任は私にある。」
「クラースさん……」
「だが、彼女を傷つけてどうする…彼女に八つ当たりした所で、帰れるわけじゃないんだぞ。」
それに、どうやら彼女はこの国において、随分身分の高い人間のようだ
そんな彼女に手を出しては、二人とも無事では済まなくなるかもしれない
クラースの説得に、才人は怒りを残しつつも、握っていた拳の力を緩める
「……クラースさん、俺達もう帰れないんですか?」
「何、こっちに連れてこられたという事は、逆も有り得るかもしれないだろ?」
正直な所、帰れる方法があるかはクラースには解らない…が、こんな所で骨を埋める気は毛頭無い
才人の不安を取り除くのも含めて、希望を指し示す
「でも…もし、見つからなかったら…。」
「それは探し終えた後で考えるさ…何なら、私がまた帰る方法を編み出してみせる。」
だから、私を信じろ…と、クラースは最初に会った時のように答えた
クラースの言葉に、ようやく才人は落ち着きを取り戻し、ゆっくりと頷く
「はい、解りました…すいません、喚いたりして。」
「それで良い…取りあえずは、我々は異世界にいる以上後ろ盾がないので…。」
チラッと、クラースはルイズ…自分達を召還した少女を見た
彼女も今は落ち着きを取り戻し、此方がどう出るかを不安そうに待っている
「彼女の使い魔…つまり従者となって、しばらく此処にいるしかないな。」
「ええっ、マジっすか!?」
「仕方ないだろ、先程言ったように情報が少ない今、此処から出ても行く宛がないんだからな。」
なら、彼女の使い魔となって、しばらく此処で情報を集めるしかない
「後、我々が異世界から来た事は秘密にしておこう…余計ないざこざを起こしたくはないからな。」
第一、信じてくれるかどうかも解らないしな…と、付け加える
クラースの提案に従い、才人は黙って頷いた

「話は纏まりましたかな?」

結論が出た後、コルベールが二人に答えを求めてきた…彼女の使い魔になるか否かを
「ああ、先ほどは彼が無礼で申し訳なかった…改めて、私達は彼女の使い魔になりたいのだが…。」
「そうですか、それは良かった…では、早速ですが契約を…コントラクト・サーヴァントを行いましょうか。」
「解った…それで、契約とは一体どのように行うのかな?」
異世界の召還術とその契約方法に、クラースは関心を寄せながら尋ねる
コルベールは、二人にコントラクト・サーヴァントについての説明を始めた
171名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 12:31:25 ID:cgDIOJRT
支援
172TALES OF ZERO 代理 4/9:2009/11/10(火) 12:31:49 ID:zxqLjVnx
「……成る程、此方では契約はキスなのか。」
「いや、冷静に納得しいないでくださいよ、クラースさん。」
コントラクト・サーヴァントの方法を聞き、戸惑う才人に反してクラースは冷静だった
使い魔と召喚主が契約する為には、口付けを交わす…つまり、キスをしなければならないらしい
「はい…ですが、二人を同時に召喚とは前例がないので、貴方方のどちらかが代表で彼女と契約してください。」
どちらかがルイズと契約…才人とクラースは顔を見合わせた
しばらくして、クラースはポンと才人の肩を軽く叩く
「才人、此処は君に任せる…君が彼女と契約してくれ。」
「えっ…ええ、何で俺がこいつなんかと!?」
「そうよ、何でこんな無礼者なんかと!!」
クラースの言葉に才人だけでなく、ルイズも反論を唱える
才人にとって、帰還を邪魔した奴…ルイズにとっては、自分に狼藉を働こうとした卑しい平民
お互い、相手への印象は最悪だった
「これでも、私は既婚者だからな…契約の為とはいえ、ミラルドを裏切る事は出来ん。」
以前のクラースなら、然程意見も出さずにルイズと契約を結んだかもしれない
でも…と、ルイズは不服そうにクラースに何か言おうとしたが…
「それとも、私とキスするか?既婚者で30代のおっさんとしたいのか?ん?ん?」
「うっ…わ、解ったわよ、こいつと契約するわ、すれば良いんでしょ!!」
「(クラースさん…大人気ない…。)」
クラースの言い方に彼との契約を諦め、ルイズは才人と契約するべく彼の方を見る
才人もまた、戸惑いの表情でルイズを見ていた
「「………………」」
気まずい空気が才人とルイズの間に流れる
取りあえず、謝った方が良いかな…と、才人はルイズに頭を下げる
「ああ、えっと……さ、さっきは悪かったな、いきなり掴みかかったりして…。」
「ふ、ふん…本当ならあんたなんて手討ちにされても文句は言えないけど…今回だけは特別に許してあげるわ。」
本当ならもっと強気に出る筈のルイズだが、才人の怒りに触れたせいかそれ以上の追求はなかった
彼女は杖を掲げると、コントラクト・サーヴァントを始める

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール……」

「五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

詠唱が終わって杖を才人の額に置くと、ルイズはその顔を両手で掴んだ
最後の仕上げである、口付けを交わす為に
「あんた、感謝しなさいよね…貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから。」
瞳を閉じて、ゆっくりと唇を近づけてくる…それが、何とも可愛らしく見えた
などと考えている内に、二人の唇は重なり…そしてすぐに離れた
「…これで終わり?」
「そうよ、これでコントラクト・サーヴァントは終了…後はあんたの体にルーンが…。」
ルイズが説明しようとすると、突然才人の体が熱くなった…思わず、悲鳴を上げる
「うっ…うああああああ、あ、熱い、熱いって!!」
「才人、どうした!?」
「大丈夫よ、今契約の証のルーンが刻まれているだけだから。」
突然の悲鳴にクラースが驚くが、ルイズはあっさりと説明する
当の本人は、そのあっさりには合わない程苦しんでいるようなのだが…
「そ、そうか、それなら……むっ!?」
そして、異変はクラースにも起こった…才人と同じように体が熱くなったのだ
彼のように悲鳴は上げないが、クラースもその場に蹲る
「ちょ、ちょっと、どうしたのよ!?」
「何だ、体が熱い……これは?」
ふと、自分の手を見る……そこには、見た事もない文様が刻まれていた
同じように苦痛から解放された才人も、自分の左手を見ていた
「クラースさん…これ……。」
そう言って、自分の左手の甲をクラースやルイズ、コルベールに見せる
そこには、クラースのものと同じ文様…ルーンが刻まれていた
173TALES OF ZERO 代理 5/9:2009/11/10(火) 12:33:15 ID:zxqLjVnx
「これは、何とも奇怪な…契約したのは彼なのに、貴方にまで同じルーンが現れるとは。」

先程から予想外の事が何度も起こっているにも関わらず、コルベールは驚いた
二人とも互いの左手の甲を見比べるが、どう見ても刻まれているルーンは同じであった
「何で、クラースさんまでこの変なのが刻まれたんですかね?」
「うむ…恐らくは私と君が『契約』していたから、主である私にもルーンが刻まれてしまったのだろう。」
失敗とはいえ、才人とクラースの間には召還した時から『契約』が交わされていたらしい
理屈は解らないがな…と、クラースはそう推測する
だが、その言葉を聴いて、ルイズは驚きの表情を表した
「契約って…まさかあんた達、メイジと使い魔だったの!?」
「此処で言うそれに我々が当てはまるのかは疑問だが…大雑把に言えばそうなるかな。」
「あんたがメイジ…胡散臭いわね。」
マントもしてないし、杖も持ってない…あるのは奇妙な格好と刺青だけ
信じられないといった口調で、クラースを眺めていた
「だとすれば、異国のメイジですかね…先程の話、それに貴方のその刺青の文様は、このハルケギニアでは見た事もありません。」
学者でもあるコルベールは、クラースのその体中にある文様に興味を抱いていた
その間にも、彼は才人のルーンをスケッチに写している
「それにしても……これは珍しいルーンだな。」
「コルベール教授、このルーンは珍しいものなのか?」
「ええ、少なくとも私は見た事が…いや、覚えがあった気がする…。」
はて、何処だったのかな…とコルベールは記憶の糸を手繰らせてみる
が、どうしても思い出せない
「まあ、此方で調べてみて、詳細が解ればお教えしましょう。」
「そうして頂けるのなら有難い、色々と興味深いしな。」
「では、今日はこれで解散としましょう、もう夜になってしまいましたからね。」
スケッチを閉じると、コルベールは解散の意を伝えてその場から去ろうとする
「おっと、その前に…ミス・ヴァリエール、使い魔召喚おめでとう、これを励みとして今後も精進するのですよ。」
「は、はい。」
コルベールはルイズに励ましの言葉を送るが、当のルイズは前例のない召還の為微妙な気分だった
彼は微笑んだ後、何かの呪文を唱え始めた
すると、クラース達の前で宙に浮かび、学院の方へ飛んでいってしまった
「飛んだ…あれも、魔法なのか?」
「ほう、此処の魔法は便利だな…ああやって自在に空を飛べるのか。」
飛んでいくコルベールを、興味深そうに見る才人とクラース
本当ならもっと驚く筈なのだが、箒で空を飛ぶハーフエルフを知っている為かそれ程驚かない
「あんた達、フライも知らないの?」
「まあ、私がいた所ではあんな魔法は無かったからな。」
フライも知らないなんて…本当にこいつメイジなのかしら?
それとも、本当に遠くから来た異国のメイジか…考えた所で答えは出ない
「まあ、良いわ…取りあえず、私の部屋へ戻るわよ、話はそこでするから。」
そう言って、ルイズは自分の部屋に向かって歩き出した
そんな彼女の行動に、クラースは疑問を抱く
「ん?ルイズ、君はコルベール教授のようにフライとやらで飛ばないのか?」
「あ、あんた達にあわせてあげてんのよ、さっさときなさい!!」
顔を真っ赤にしながら怒ると、ルイズは一人でさっさと先に行ってしまう
道に迷うわけにはいかないと、二人は早足で彼女の後を追いかけた
174TALES OF ZERO 代理 5.5/9:2009/11/10(火) 12:34:34 ID:zxqLjVnx
『異世界ハルケギニア』
クラース「ハルケギニアのトリステイン王国、貴族であるメイジが魔術の教育を受ける学院か…。」
才人「そんで、俺達はこいつの召喚術で使い魔として召喚された、って訳ですね。」
クラース「まあ、今の状況を纏めればそうなるが…タイミングの悪い時に召還されたものだな。」
ルイズ「あんた達の事情は知らないけど、この私の使い魔として召喚されたんだから、光栄に思いなさいよ。」
才人「何が光栄に思いなさい、だよ。こっちの都合無視して拉致っただけじゃねーか。」
ルイズ「仕方ないじゃない、使い魔は私が選べる訳じゃないんだから。」
クラース「何とも大雑把な召喚術だな…まあ、私も人の事は言えないが。」
ルイズ「兎に角、あんた達は私と契約したんだから、平民だろうが異国のメイジだろうが私の使い魔なのよ、解った?」
才人「へいへい、解りましたよ、貴族のお嬢ちゃん。」
ルイズ「お嬢ちゃんって呼ぶな、平民の癖に!!」
才人「いてっ、殴んなよ、この暴力女!!」
ルイズ「何ですって〜〜〜!!!」
クラース「やれやれ…私達はこれからどうなるのだろうな?」

『帰れると思ったのに…』
才人「はぁ…やっと帰れると思ったら、今度は別世界に来るなんて…俺ってついてないよなぁ。」
クラース「すまないな…私が不甲斐ないばかりに、君に辛い想いをさせてしまって」
才人「いや、クラースさんが悪い訳じゃないですよ、あのルイズって女が邪魔したからで…。」
クラース「そのルイズだが…何故別世界にいる我々を彼女は召喚する事が出来たのだろうか?」
才人「さあ、そんなの俺には全然わかんないし…直接本人に聞くしかないんじゃないですか?」
クラース「それしかないか…まあ、別世界の事は隠して、それとなく聞いてみるとするかな。」

『使い魔召喚の儀式』
クラース「ルイズ、この学院では二年生になると使い魔を召喚する儀式を行うのだったな?」
ルイズ「そうよ、召喚した使い魔によって自分の得意な属性が決まって、今後学ぶ分野を特定するのよ。」
才人「ふーん…そう言えば、さっき人間が召喚されるのは例がないとか言ってたけど…。」
ルイズ「普通は、このハルケギニアに住む生き物が召喚されるのよ。人間なんて召喚されたなんて始めてよ、きっと。」
クラース「ハルケギニアの生物だけ…つまり、我々の召喚は異例中の異例という事か…」
才人「なあ、元の世界…じゃない、元の場所に帰れる方法ってないのか?」
ルイズ「ないわよ、そんなの…あったら、さっさとあんた達なんかすぐ送り返してるわよ。」
ルイズ「だから、あんた達はずっと私の使い魔なわけ…解ったら、さっさと行くわよ。」
才人「はいはい……結局、俺達はあいつの使い魔をやるしかないって事か。」
クラース「帰る方法が見つかるまでの辛抱だ…お互い、無茶しない程度にやろう。」

『俺の初めて』
才人「うぅ…俺の初めてのキスを、あんな女にくれてやるなんて…。」
クラース「才人、その歳でファーストキスはまだだったのか?」
才人「自慢じゃないですけど、俺17年間の人生で一度ももてた事ないんですよ。」
クラース「それは気の毒だな…まあ、彼女はアレだが中々の美少女じゃないか。」
才人「だからこっちに連れて来られたのを許せって…冗談じゃないですよ!!」
クラース「まあまあ…もしかしたら、ファーストキスから始まる二人の恋のヒストリーという展開になるかもしれんぞ。」
才人「何ですか、それ?」
クラース「いや、何…言ってみただけだ、気にするな。」

『私の使い魔』
ルイズ「何十回も失敗して、ようやく成功したサモン・サーヴァント……。」
ルイズ「なのに、何であんな平民を二人も召喚しちゃったのよ〜〜〜。」
ルイズ「でも、あいつらメイジと使い魔だって言ってたし…。」
ルイズ「私の事やハルケギニアの事を知らないって言ってたから、余程遠い国から来たのかしら?」
ルイズ「………。」
ルイズ「まあ良いわ、あいつ等無礼だから、後で使い魔の作法について色々と叩き込んでやるんだから。」
175名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 12:36:18 ID:cgDIOJRT
スキットww
支援
176TALES OF ZERO 代理 6/9:2009/11/10(火) 12:36:33 ID:zxqLjVnx
「さて、今日からあんた達は私の使い魔となったわけだけど…。」

その後、ルイズに案内されて、二人は彼女の部屋へとやってきた
彼等の手には、ミラルドが餞別にくれたアップルパイがあり、夜食代わりに食べていた
「つーか、何でお前までミラルドさんのアップルパイ食ってんだよ。」
「あら、使い魔の物は私のものも同然でしょ…それにしても、これ美味しいわね。」
何処のガキ大将の理屈だよ…才人の思いも気にせず、ルイズはアップルパイを頬張る
彼女が食べ終えるのを確認すると、クラースは質問を投げかけた
「それで…私達は君に何をすれば良いのかな?」
「それをこれから説明するわ…まず、使い魔は主人の目となり、耳となる能力を与えられるの。」
再びアップルパイを手にとりながら、ルイズは使い魔の役割について説明を始める
「えっと…どういう事?」
「つまり、私達が見聞きした事が君に全て伝わるというわけだな。」
感覚の共有…それが、契約した使い魔に与えられる能力の一つだ
よく理解できない才人に、クラースが付け加える
「そうよ、その筈…なんだけど、何も見えないし、何も聞こえないわ。」
ルイズの言う通り、彼女は二人と感覚の共有を行う事は出来なかった
使い魔が二人だから、感覚の共有も2倍に…とはいかないらしい
「次に、使い魔は主人の望む物を見つけてくるの…特定の魔法を使う時に使用する触媒とか。」
「魔法の触媒か…私達は此処の土地勘もないし、難しそうだな。」
「それ以前に、俺には魔法の触媒が何なのか全然解んないし。」
「まあ、あんたは平民みたいだから、最初から当てにしてないわ。」
悪びれもなくそう告げるルイズ…先ほどの件のせいか、彼女の才人への風当たりは悪い
どうせ、俺は当てになんないよ…と愚痴る中、ルイズは使い魔の最後の役割を告げた
「最後に…使い魔は主人をその能力で守らなくちゃいけないの。」
「へぇ、だったらクラースさん適任じゃないですか、魔王を倒した勇者だし…いてっ。」
うっかりそんな事を漏らしてしまった才人を、クラースは肘で小突く
疑問を浮かべるルイズだが、別に気にする事もなく話を続ける
「そう言えば、あんたメイジらしいわね…どの系統の魔法が得意なの?」
「此方の魔法が何なのかは知らんが…召還術というのを心得ている。」
「ショーカンジュツ?」
聞きなれない言葉に、ルイズは鸚鵡返しで尋ねる
「ああ、君達のサモン・サーヴァントのように、契約したモノを使役する術だ。」
「サモン・サーヴァントとはどう違うの?」
「君達は一度しか契約出来ないが、私は契約の指輪があれば何度でも契約出来るんだ。」
エルフとドワーフの合作によって生まれたという、契約の指輪
それにより、クラースは精霊だけでなく魔界の住人達とも契約する事が出来た
「何か信じられないわね…じゃあ、そのショーカンジュツとやらをやってみなさいよ。」
「ああ、解った…まずは、契約の指輪を出さないとな。」
そう言いながら、クラースは腰につけている袋に手を差し込んだ
そこには、彼が冒険の中で集めた契約の指輪が入っている
「……ん?」
…筈なのだが、入っている筈の契約の指輪は2つだけだった
一つは、闇の精霊シャドウと契約する時に使用したアメジストの指輪
もう一つは、シルフとの契約に必要なオパールの指輪である
「あれ、他の指輪はどうしたんですか?」
「可笑しいな、他の契約の指輪も此処に入れていたんだが……。」
体中を触ってみて他の契約の指輪を探してみるが、指輪は何処にもなかった
「参ったな…どうやら、此処に来る時に無くしてしまったようだ。」
「ええ、じゃあ召還術は使えないんですか!?」
「いや、オパールだけは残っているから、シルフは召還する事は出来る。」
残念ながら、シャドウとはダオスとの最終決戦後に契約破棄した為、呼び出す事が出来ない
「どうしたのよ、さっさとそのショーカンジュツってのをやって見なさいよ。」
「…まあ、この世界でも召還できるのか確かめなければならんしな。」
とりあえず、シルフを呼び出してみよう…クラースは精霊召還の為の詠唱を始める
聞いた事もない詠唱に、思わず眉を顰めるルイズだが……

「……シルフ!!!」

詠唱を終えてシルフの名を叫ぶと、彼らの目の前に風と共に一人の少女が姿を現した
177TALES OF ZERO 代理 7/9:2009/11/10(火) 12:38:05 ID:zxqLjVnx
『お呼びですか、マスター?』
風と共に現れた少女…シルフは、マスターと呼んだクラースを見つめる
本来なら、クロークを纏った可愛らしい少女の姿がシルフの筈である
だが、今目の前にいる彼女は剣を持ち、羽が生えた妖精のような姿だった
「シルフ…なのか?姿が違うのだが……。」
『恐らく、この世界のマナの性質が違うからでしょう…この姿は以前にしていたものですが』
「成る程…マナがあるという事は、この世界でも魔術や召還術は使えるようだな。」
取りあえずは召還術が使える事に、クラースは安堵する…これで役立たずにはならなくてすんだようだ
「な、何よあれ!?」
「へへん、驚いたろ…あれが、クラースさんが使える召還術なんだぜ。」
驚きのあまり、口が開きっぱなしのルイズに才人は得意げに説明する
そういう才人も、初めて見た時はルイズと似たり寄ったりだったりするのだが
「彼女はシルフ…風を司る、風の精霊だ。」
「風の精霊って…先住魔法?あんたエルフだったの!?」
先住魔法…それはエルフ達が使える、精霊の力を借りた魔法の事だ
「いや…私はれっきとしたただの人間だが?」
「嘘、精霊って言えばエルフが使う力じゃない。」
『彼はエルフではなく、貴方と同じ人間ですよ…お嬢さん。』
自分に向けられたシルフの言葉に、ルイズは驚いて何と言えば良いのか解らなくなった
その間に、クラースは他の精霊達について尋ねる事にする
「シルフ…他の精霊達の契約の指輪が何処かに行ってしまったのだが、何か知らないか?」
『この世界に来る際、指輪が散らばるのが見えました…恐らく、世界中にばらまかれてしまったのでしょう』
「それは厄介だな…契約の指輪がなければ、他の精霊達を召還出来んのだが。」
シルフ以外の四大精霊やそれを統括するマクスウェル、ルナ、オリジン…
それに、魔界の住人達を召還できないのは、今後の事を考えると少しばかり不安である
『時が来れば、貴方の元へ全ての精霊達は集まるでしょう…私達と貴方の間には確かな『契約』が交わされているのですから。』
「そうか…出来れば早くその時が着て欲しいがな。」
シルフの言葉に励まされると、クラースはスッと手を翳した
それが合図である事を知っているシルフは、その姿をクラース達の前から消した
ふぅ、と一息つくと、クラースはルイズの方を振り向く
「…これが私の召還術だ、これで君を守るのには十分かな?」
「す…凄いじゃない、人間なのに先住魔法が使えるなんて…私あんたの事見直したわ!!!」
クラースの召喚術を見て、ルイズははしゃぎまくった
人間なのに先住魔法を使える凄腕のメイジ…ハズレどころか大当たりだ
これで一日遅れを取り戻すどころか、皆を見返す事が出来る
「いや、これは先住魔法などではなく、召喚術だと……。」
「で、あんたは何が出来るの!?」
クラースの話を聞かず、今度は才人に対して期待の眼差しを向ける
彼の使い魔だから、こいつも凄い事が出来るかもと思った、のだが…
「えっと、俺はその…特に何も…。」
しかし、才人は現代社会から呼び出されたタダの高校生である…だから、特殊な力などはない
それを彼に求めるというのは、酷であろう
彼の問いに、先ほどまでテンションが上がっていたルイズは意気消沈した
「なんだ…あんたは唯のオマケなのね。」
「オマケ言うな、これでも掃除とか洗濯は出来るぞ。」
一ヶ月間、ミラルドやユークリッド村の人達に鍛えられたので、一応自信はある
しかし、その言葉が此処での才人の役割を決定付けさせる
「じゃあ、クラースは使い魔として、あんたは召使として私に仕えてもらうわ。」
「ええっ、何で俺がお前の召使なんか……。」
「オマケをタダで養うわけないでしょ、あんたの得意な仕事をやらせてあげるんだから感謝しなさい。」
そう言って、ルイズは残ったアップルパイを手にとって食べる
どう言えば良いのか解らず、才人は情けない声でクラースに助けを求める
「クラースさぁん……。」
「まあ、今は彼女が私達の主人だからな…それに従うしかあるまい。」
元の世界に帰る手段が見つかるまで、衣食住はルイズに頼らなければならない
それを踏まえた上の発言に、才人もまた納得するしかなかった
178名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 12:41:11 ID:cgDIOJRT
長女!長女じゃないか!
179TALES OF ZERO 代理 8/9:2009/11/10(火) 12:41:26 ID:zxqLjVnx
「じゃあ、明日も早いからもう寝るわよ。」

一通り説明やら話し合いやらが終わった後、ルイズはそう言って欠伸をする
時間はサモン・サーヴァントからかなり経っており、これ以上は明日に差し支える
「なあ、俺達は何処で寝れば良いんだよ。」
この部屋にあるベッドは一つ…まさか、三人で川の字になって寝るとは思えない
才人の問いかけにルイズはベッドの傍にある床を、指差した
「……床?」
「ああ、床だな…まあ、考えたらそうなるかな。」
「仕方ないでしょ、ベッドは一つしかないんだから…ほら。」
そう言って、ルイズは二人にお情けの毛布を投げてよこした
だが、二人で使うにはあまりにも小さかった
「おい、ふざけるなよ、これだけ…でぇ!?」
文句を言おうとした才人だが、目の前の光景に言葉を詰まらせる
彼女は男が二人もいるにも関わらず、寝巻きに着替える為に服を脱ぎ始めたのだ
「お、おいちょっと…俺達の前で着替えるなよ!?」
「何で?あんた達は使い魔なんだから、別に関係ないでしょ。」
彼女は二人の事を使い魔としてしか見ておらず、羞恥心などは見せない
才人は両手で顔を多い、クラースは帽子を深く被って見ないようにした
そして、ネグリジェに着替えると、脱いだ下着などを才人に投げてよこした
「それ、明日になったら洗濯しときなさい…お休み。」
そう言ってルイズは指をパチンと鳴らす…すると、ランプの火は消えた
どうやら、これも魔法の一種らしい…彼女はベッドの中に入り、すぐに寝息を立て始める
「俺達の前で着替えるなんて…羞恥心がないのか、こいつ。」
「それが貴族というものさ…さあ、我々も休むとしよう。」
クラースはあまり気にもせず、ゴソゴソと何かを出し始める
何処からか出したそれは、彼が冒険で愛用していた、寝袋であった
「クラースさん…それ、一体何処から?」
「細かい事は気にするな…私は毛布で寝るから、君はこれを使うといい。」
「えっ、良いんですか?」
「君はこういうのには慣れてないだろう?私は野宿とかが多かったから平気だ。」
じゃあ、遠慮なく…と、才人はクラースから寝巻きを受け取り、毛布を彼に差し出す
二人はそれぞれ寝袋と毛布に包まると、床で眠り始める

「(はぁ…やっと帰れると思ったのに、また別の世界に来るなんて。)」

寝袋に包まりながら、才人は心底自分の運命を恨んだ
母さん、俺はまだまだ帰れそうにないよ…と、心の中で母親にそう告げる

「(まあ、クラースさんが何とかしてくれるみたいだし…何時かは帰れるよな。)」

そう考えないと、やっていけない…いや、やってられない
一人だと不安だが、クラースさんならきっと…きっと何とかしてくれる筈だ

「(取りあえず、今日はもう寝よう…明日の事は明日考えればいいか。)」

そして、才人はこれ以上考えるのを止めて、眠る事にした
寝袋の寝心地が良いからか、彼の意識は深い眠りの中へと入っていくのだった
180名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 12:55:38 ID:UHW5AUDz
支援
181名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 13:00:35 ID:zxqLjVnx
「……………。」

才人が完全に寝入って少し経った頃、クラースはゆっくりと起き上がった
クラースはルイズと才人、二人が寝ている事を確認する為、その寝顔を見つめる

「……二人とも、よく眠っているな。」

ルイズは可愛らしい表情で、才人はグーグーと鼾をかいてそれぞれ眠っている
二人が寝入っているのを確認すると、静かに部屋の外へと出た

………………

「やれやれ…まさか、異世界に来るとはな…。」
女子寮の外…そこで夜風にあたるクラースの姿があった
「しかも、召喚されて此処に来るとは…中々体験出来ない事ではあるな。」
召喚術士である自分が、召喚されて異世界に来る…何とも皮肉な事だろうか
「だが…これで、才人の気持ちも少しは解ったかな?」
着の身着のまま、自分がアセリアに召喚してしまった少年…
自分も何度か時を越えたり異世界に渡ったが、あの頃は仲間がいた
今回は共に戦った仲間達はいない…不安にならないと言えば、嘘になる
「アーチェ、そしてミラルド…今頃、心配しているだろうか?」
何せ、儀式の途中で才人と共に消えてしまったのである
また、ミラルドに心配を掛けさせてしまったな…と、クラースは溜息をつくしかなかった
「出来れば、才人の送還も含めて手早く帰る方法を見つけたいが…。」
そこで、クラースの言葉がつまる…彼は今、この世界に興味を抱いていた
そう、この…

「エルフの血を引かずに、魔術を使う事の出来る人間がいる世界…。」

に…
クラースにはかつて、夢があった…人間でも魔術を使えるようにするという夢が
エルフの血を引く者のみがマナを紡ぐ事で行使できる魔術、人間にはそれが出来なかった

「もしかしたら、この世界なら見つかるかもしれない…人間でも魔術が使えるようになる方法が。」

かつて、自分が求めていた夢…そして、今ではもう諦めていた夢
この世界の事を聞き、クラースの中でかつての夢への思いが蘇っていた

「帰る手段を探すのと一緒に、少しばかり探してみるかな?」

それに、無くしてしまった精霊達の宿った契約の指輪も探さなければならない
この世界で生きる為にも、元の世界に帰る為にも彼等の知恵と力は必要不可欠であろうから

「なんにせよ、明日からは新たな一日が始まる…だな。」

クラースは帽子のつばを摘みながら、夜空を見上げる
空には、この世界の二つの月が、寄り添うように輝いていた…
182TALES OF ZERO あとがき 代理:2009/11/10(火) 13:02:43 ID:zxqLjVnx
以上で、今回の投稿は終了です
とりあえず、ハルケギニアにもマナがあって、召還術も普通に使えるという設定にしました
でないと、クラースさん序盤のようにお荷物扱いですから
でも、現在召還術はシルフ以外は使えません、序盤から全部だとパワーバランス崩れますから
それと、精霊達の姿はシンフォニアベースでやらせて頂こうと思います
ファンダム2でも普通に受け入れてましたし、何よりこれから
「ぶるぅあああ」の人や「クレア、クレア、クレア…馬鹿みたい」の人や「ぴょろ〜〜ん」の人と
戦ったりするので、物語の展開上こっちの方が都合が良いからです
では、今日はこの辺で…また次回、お会いしましょう


さる喰らいながらも代理終了
しかし他の使い魔がやばすぎだろうJK
183名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 13:11:11 ID:cgDIOJRT
クラースの人、代理の人、乙でした
最初からオリジンとかプルートなんてチートにも程があるしな
そいつらを使役してる時点で生身でもヤバそうだが
184名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 14:11:37 ID:ZV8DkN2b
乙!
初期から全精霊を使役できたら無敵過ぎるもんねw
しかし精霊そのものが力を貸すんだからエルフの先住魔法より強力というか、属性が揃ってくれば支配権自体を奪えるかも。
そして空きの指輪があるってことは……つまりそういう事ですよね?
そしてスキットの場面で顔の枠だけで揺れたりうろうろしたりするルイズ達が容易に脳内再生されましたw
185名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 14:45:47 ID:+Qp7EGG5
おお精霊がシンフォニアverとはいいファンサービスw
ってシルフってシンフォニアだと三姉妹じゃなかったっけ?
186名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 15:08:42 ID:F14jsuUn
ふと浮かんだけど、ルイズにふられたワルドを「女の心変わりは恐ろしいのぉ〜?」とボコるシンとかハマり過ぎじゃね?w
187名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 15:44:51 ID:VM/0c35s
まあ数ある世界の中には、ヴァリエール三姉妹に惚れられながら平気で「脱げ」とかほざく
超絶朴念仁もいることだし……つかお絵かき掲示板のあの絵は人気ありすぎだろう
188名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 17:00:02 ID:P86B3544
>>186
どちらかというと、ウェールズに対して
南斗獄屠拳!→何本目に死ぬかな〜?→俺を愛していると言ってみろ、のがハマってる気がするw
189名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 17:05:24 ID:7ANA2Nvy
乙です。
「ぶるぅあああ」の人は問答無用で詠唱に割り込んだりしそうだ。


クラースさんは序盤はお荷物じゃ有りませんよ。
序盤の彼は挟み撃ちに対する立派な壁です。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:21:53 ID:lFwisYEF
シン召喚・・・・・・・・・

「トライデントタックル」で七万の兵を避け、避けて指揮官を倒します

「あんたって人わぁ!」  デスティニープランならぬレコン・キスタの新たな理想に救いを求めます




他にどんなシンがいたかな
191名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:37:12 ID:lFwisYEF
>>190
ルイズ「じゃあ使い魔としての契約はしなくていいからこれにサインしてよ」「外泊証明にしちゃ大きい紙だな」

「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ」   ナンかあったらキレて暴走します
192名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:37:46 ID:z8J7k0xj
わたしこそ しんの ゆうしゃだ
193名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:39:19 ID:MCdURy40
>>190
変身の仕方がグロすぎるあの人
194名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:45:18 ID:pLtDtXaV
>>190
「ゼットン星人、オレが相手だ」
195名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:45:34 ID:nNJe4Rvj
>デスティニープランならぬレコン・キスタの新たな理想に救いを求めます
まぁ、確かにあのシンなら現体制を潰す方に乗るかもしれんな
さして変わらんと知って絶望するのだろうが・・・

SO2の漫画版ではラスボスの冷血御曹司みたいな頭の十賢者のパシリとか
エボン=ジュの鎧とか

ティーダ召喚とか面白そうなんだよなぁ
4週目して色々考えるか
196名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 18:49:00 ID:YdFQq5gL
己の血を見て逆上する悪癖がシエスタに付与されるんですな>南斗のシン召喚

そうなったら作者さんが色んな意味でフルボッコされそうだなw
197名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 19:07:21 ID:l2Ys2ogk
シンが召喚されたらハルケギニアに死の螺旋が渦巻くな
198名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 19:13:19 ID:HityTDhL
スキットかwwwwww

いきなり台本形式になったから何事かと思ったwwwww
199名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 19:29:56 ID:dY0pfiWi
>>196
カイジ召喚以来になるなw
200名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 19:35:06 ID:shcjDU3j
>>182
いい意味でろくな奴が出てこねー

つーか乙です。

窓辺のマーガレットは
そのカオスを描写するのに苦労しそうですが頑張って下さい。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 20:02:33 ID:/0H5vdjJ
>>196
シエスタ「いて〜よぉ〜!」
202名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 20:37:33 ID:5CXWuGFA
種死のシンの場合
強者(貴族)が弱者(平民)を虐げるっていう構図が大嫌いだからな。
とてもじゃないが初期のルイズの言うことを素直に聞くとは思えない。
203名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 20:58:30 ID:jbYZCvZk
シンといえばFF10
FF10から召喚されるとしてルイズと相性がよさそうなのってだれだろう
キマリあたりかな
204名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 21:28:04 ID:8FJQ0kjJ
ジェクトもなんだかんだ言いながら面倒見てくれそう
戦闘能力に関しても文句無しのレベルだし

特にDDFF無印版とか
205名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 21:40:03 ID:pLtDtXaV
戦闘力ならサイト未満じゃなきゃ物語の展開になんら支障はないからあまり考える必要はないと思うが
ヤン・ウェンリーみたいに戦闘力皆無で話を作れたらたいしたものなんだ
206名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 21:47:41 ID:yqowqVjT
>>203
いきなり召喚されて使い魔になれとか無理じゃね?

サイトと違って、どうみても亜人です。本当にありがとうございました
ということでルイズがツンツンしまくるこた無いだろうけど、キマリからすりゃ使い魔になってやる理由も無いしさ。
仮になってくれたとしても、朝食の件でくさい息をお見舞いされるぜ!
207名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 21:50:46 ID:GRo26MyO
>>206
角を折られてから、ブラスカに会うまでの間なら、何とかなるかも。

偶然出会っただけの召喚師の頼みを聞いて、その娘を10年以上守り続けた暇人だぞ、あいつ。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 22:05:31 ID:Ku+JVYoa
>>187
あれのお陰でエレ姉様を好きんなったのも私だ。
209名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 22:21:21 ID:xzynNfeV
小ネタならアルベド呼んで産業発展とかかね、Xの過去なぞりそうだが

>>207
キマリに会ったのはアーロンじゃなかったっけ?
ユウナレスカにボッコにされて死にかけのときの
210名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 22:30:03 ID:IBhkbXvE
白狼もシンだよね
211名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 22:35:06 ID:GRo26MyO
>>209
そうな気もしてきた。
ともあれ、あの時期のキマリは真面目に生きる意味を見失っているから、頼まれれば使い間になりそうだと。
212名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 22:44:34 ID:DSf/+Wi5
シンといえば界王神だろJK
213名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 22:48:11 ID:1KLS4dHo
>>212
インフレしまくってるせいで雑魚に見えるけどあの人フリーザ様を一撃で倒せるんだぜ・・・。
214名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/10(火) 23:03:56 ID:jlqZpcqZ
しんちゃん……
215名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 00:13:00 ID:81KH/wFx
南斗のシン・・意外とマッチしそうだ
216名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 00:50:37 ID:C7D0hXmx
>>215
問題はルイズごときに従うようなタマではないとこだが、どうするかねw
217名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 01:30:35 ID:y6x1lnsK
便利な洗脳パワーが有るじゃない
218ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:34:54 ID:gMzTJVZ4
おひさしぶりです
空いてるようなので40分頃から投下します
219ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:40:20 ID:gMzTJVZ4
 

 遠ざかっていく青髪の少女を、ルイズは呆然と見つめている事しかできなかった。
 そして柊とエリスも、そんなルイズを言葉なく見守っている事しかできない。
 もはや力一杯声を出しても届かない程に離れてしまった小さな背中に、ルイズは隣にいても聞き逃してしまいそうなほど小さな声で、呟く。
「……なんなのよ……ワケわかんない事言って……」
 顔を俯けて、肩を震わせる。
 声を漏らした事で、心の裡に留めていたモノがぼろぼろと零れ出してくる。
 それが一日前のこの場所から始まったことと、回りにほとんど人がいないこともあったのだろう、彼女は誰に言うでもなく叫んだ。
「ワケ分かんない事言わないでよっ!! あの子も、あんた達も、誰も彼も!! 知った風な顔で勝手な事言ってっ!!」
 流れるようなピンクブロンドの髪を苛立たしげにかきむしり、子供のように地面を蹴りつける。
「わたしが何したって言うの!? 禁則を犯したワケじゃない、禁呪を使ったワケじゃない、ただ普通に『サモン・サーヴァント』を使っただけじゃない!
 なのになんでこんな事になるのよ! なんでこんな、なんでわたしだけが、なんっ……!」

 ――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは別に『特別』を望んでいた訳ではない。
 もちろん、物心が付き始め魔法の事を理解しはじめた頃には、子供らしくそんな夢想を抱いていた事はあった。
 だが今となっては、もはや彼女が望んでいるのはこの世界ではごく当たり前の事――メイジらしく普通に魔法を使う事だけだった。
 母のようなスクエアでなくともいい。キュルケのようなトライアングルでなくとも構わない。
 ギーシュのようなドットでも……いや、極論すればドットでさえようやく使える程度の『おちこぼれ』でもよかった。
 『できそこない』――『ゼロ』でさえなければ、どうでもよかったのだ。
 根本的に魔法を使えない平民ならまだしも、メイジの血脈を継ぐ貴族であるなら、それはどれほど譲っても高望みとはいえない願望だった。
 なのに、そんなことでさえ彼女には届き得ない。

「ルイズさん……」
「――あんた達もそう!」
 エリスが小さく漏らすと、ルイズは振り返って二人をにらみつけた。
 今にも零れそうなほどに涙を浮かべた鳶色の瞳は、柊達を見ているようで、その実別のものを見ているような気がする。
「ワケのわからない事ばっかり言って、好き勝手な事ばっかり言って!
 異世界から来た? 元の世界に戻る? だから契約はしない!?
 だったらファー・ジ・アースでも何処でも帰りなさいよ! どっか行って!
 ちゃんと契約してくれる、普通の奴を連れてきてよ!!」
「帰れるもんなら帰ってるっつうんだよ……」
 感情を叩きつけるルイズに柊は小さく溜息を吐き出すことしかできなかった。
 元の世界に帰る方法がないからこそ柊達は学院に留まり、こんな厄介ごとに巻き込まれることになってしまったのだ。
 とはいえ、そんな理屈が今の彼女に通じるはずもなかった。
「だったら今すぐわたしと契約しなさい! あんた達は私の使い魔なんだから! わたしが召喚したんだから!!」
「それは嫌だ」
 胸倉を掴まんとするほどに詰め寄って叫ぶルイズに、柊は断固としてそれを拒絶した。
「……なん……っ」
 にべもなく言い放った――少なくともルイズにはそう見えた――柊の言葉にルイズは絶句し、ややあって呻くように声を上げる。
「なんでそんなに嫌がるのよ……わたしがゼロだから!? わたしが主人としてふさわしくないから!?」
「いや、魔法が使えるの使えないのはどうでもいい」
「どう……っ!?」
 搾り出すように吐いた台詞を切り捨てられ、ルイズは言葉を失ってしまった。
 メイジ――貴族達にとっての象徴であり、寄って立つ精神である魔法。
 平民達にとって畏敬の対象であり、畏怖の対象でもある魔法。
 ハルケギニアに生きる以上魔法はあらゆる意味で切り離せない概念だ。
 それを『どうでもいい』。
 学院の生徒達からも教師からも、貴族にも平民にも、親からでさえも言われ続けてきた魔法の事を、『どうでもいい』と言い切った。
 僅かに息を呑んだルイズの視線を受けて、柊はどこか遠い眼をして言った。
「魔法が使えるってんなら隕石降らせるだの戦艦ブチ抜くだのできる奴知ってっからなあ……」


220ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:43:02 ID:gMzTJVZ4
 

「な、なんなのそれ……また訳のわかんない事言って……!」
「凄ぇ魔法が使えるってのはそれはそれで認めるが、契約するしないとは別の話ってことだよ」
「っ……じゃあ、わたしの何がダメだっていうの!! 魔法が関係ないなら、なんでわたしと契約するのが嫌なの!?」
 柊が契約を拒絶する理由はただ一点だ。
 望まずに召喚されたことに関して不満はないでもないが、彼女にも召喚の魔法にも何ら憤りや不快は感じてはいない。
 登校中に黒服の男に迫られリムジンに押し込められたとか、
 登校中に空から鉄格子が降ってきて閉じ込められ連れ去られたとか、
 登校して靴箱を空けたら腕が伸びてきて引きずり込まれたとか、
 登校すると教室に世界の守護者が優雅に紅茶を飲んでいて連行されたとか、
 登校中に異空間からキャッチャーが伸びてきて捕獲されたとか、
 昼休みエリス達と弁当を食べてたらヘリから伸びたフックに引っ掛けられて連れて行かれたとか、
 卒業式直後にトラクタービームに捉えられ誘拐されたとか、
 これらの拉致っぷりにくらべれば『たまたま開いたゲートに運悪く突っ込んでしまった』などは極めて平和的な分類であり、事故以外の何者でもない。
「……思い返すによくもまあ色々とやってくれるじゃねえかあの女っ!?」
 思わず柊は怒りに震えた拳を手のひらに叩きつけていた。
 何となく別の方向に向きかけた雰囲気にルイズは気勢を殺がれ、ぽかんと彼を見ることしかできなかった。
 彼女の視線に気付いて柊は咳払いすると、改めてルイズに向き直って表情を引き締めた。
「すまねえ、俺が契約しない理由だったな」
 空気に呑まれたまま小さく頷く彼女に、柊はその顔を真っ向からみつめたまま、口を開く。
「わからねえ。……『わからねえ』から、嫌だ」
 真顔で断言されたその言葉の意味を理解できず、ルイズは言葉を失ってしまった。
 柊はそんな彼女に向かって更に言葉を続ける。
「使い魔ってのはメイジにとって大事な存在なんだろ?」
「そ……そうよ。使い魔は一心同体のパートナー。だからわたしは――」
「俺は昨日会ったばっかりのお前のこと、何も知らねえ。
 何も知らない奴のパートナーになって信頼を預けるなんて事はできねえ。……そんな大事な契約って奴をするならなおさらだ」
 心底から信頼を預けられる相手であるなら、パートナーとして力を貸したり助けたりすることに何ら迷いはない。
 というより、使い魔だの契約だのと言った面倒なものさえも柊には必要がなかった。
「ルイズは違うのか? 昨日会ったばっかで、しかも異世界の人間とか訳のわからねえ事ばっかり言う俺達をパートナーとして信頼してくれんのか?」
「そんなの……っ」
 問われてルイズは小さく呟き、視線をそらした。
 そして彼女は身体を震わせて、搾り出すように声を上げる。
「そんなの……できる訳ないじゃない!! わたしだっていやよ、こんなの!!
 凄い力なんて持ってなくったって、ちゃんと契約してちゃんと使い魔になってくれる奴のほうがずっといい!!」
 柊達を喚び出す以前は強大な使い魔が召喚されればいいとも思っていた。
 だが実際にそうなってみれば自分の心に沸くのは満足感ではなく劣等感でしかなかった。
 相手が力を持っていれば持っているほど、魔法一つ満足に使えないゼロの自分が酷く惨めになる。
 『メイジの力量を測るには使い魔を見ろ』などという格言を自信を持って掲げられるほど、彼女は自らに築いたモノが何もなかった。
 それならいっそゼロらしく、毒にも薬にもならないような生物が召喚されていた方がずっと良かった。
「だからって、わたしにどうしろって言うのよ!
 先生達はあんた達を使い魔にしろって言って、でもあんた達は使い魔にはなりたくないって言って……わたしはどうすればいいのよっ!?」
 お互いに契約が嫌だというなら、召喚をやりなおす事もできるのかもしれない。幸いにして立会いのメイジもここにはいない。
 だが、柊達は何度も失敗した上でようやく召喚できた相手なのだ。
 しかも『サモン・サーヴァント』のゲートをくぐってきた相手を目の前にして、他の相手が召喚されるかどうかもわからない。
 それに何より、万が一他の相手を使い魔にできたとしても、教師達を巻き込んでこんな事態になった以上『やっぱり別の使い魔にしました』では通らないだろう。
 結局、ルイズには選択肢などなかったのだ。

221ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:45:37 ID:gMzTJVZ4
 
「……どうしたらいいのよ……」
「……」
 力なくうな垂れた彼女に、柊は答えを返すことができなかった。
 とりあえず『元の世界に戻る方法が見つかるまで』という条件で契約を呑むという方法を思いつかないわけではない。
 だが、後にその方法が見つかったとして契約を解除できるのか、あるいはファー・ジ・アースの技術でそれが解除できるのか判別ができない。
 それに『使い魔との契約』はこの世界では神聖なものであることは既に知っている。
 であれば、そんな一時しのぎで場を誤魔化し、ルイズを誤魔化すなどという事は、柊にとっては普通に契約を拒絶する以上に選択肢としてありえなかった。
「……あの」
 沈黙が降りた二人の間に、おずおずと小さな声が漏れた。
 声の主――今まで沈黙を保っていたエリスは二人の視線を受け止めて、静かに口を開く。
「私と契約するのは、いけませんか?」
「え……」
「エリス!?」
 わずかな驚きと共に、嫌な予感が柊の脳裏を掠める。
 ひどく温厚で献身的な側面のある彼女の事であるから、ルイズを見かねて契約に応じるのかと思ったのだ。
 そんな柊の懸念を察してか、エリスは彼に視線を移してから言葉を続ける。
「私、柊先輩を信頼しています。柊先輩も、私を信頼してくれてる……と思います。
 でも、柊先輩が最初に私の護衛を引き受けたとき、柊先輩は私の事知りませんでしたよね?」
「……いや、そりゃそうだけど……」
 柊がエリスの事を知ったのはアンゼロットによる依頼が始まりだ。
 時間が押しているとの事で一切の詳細を伝えられないまま彼女の保護を命じられ、その任務の達成後そのまま続けて護衛の任を与えられたのである。
 志宝 エリスはその任務の直前に輝明学園に転校してきたということもあって、写真で見せられた容姿以外何一つ知らなかった。
 柊がエリスのことを知り始めたのは彼が彼女や赤羽くれはと同居し始めてからのことだ。
「ちょ、ちょっと待った。それとこれとは――」
「あんまり関係ないのかもしれません。でも、形から入るのもいいんじゃないですか?
 護衛のことだって、私、柊先輩のこと何も知らなかったけどそれでもいいって思ったから受け入れたんです。
 だから……ルイズさんとなら、契約してもいいです」
 柊は完全に納得することはできなかったが、エリスがそう言う以上はもう何も口出しできない。
 柊が契約を拒絶するのも信念とか信条とかそういった大層なものではなく『なんとなく』なのだ。
 賢しらにエリスを諭すことはできなかった。
 エリスはとりあえずは引き下がった形になった柊からルイズに向き直った。
 ルイズにとっては望んでいた状況のはずなのだが、彼女は喜びよりも疑惑と不安の方が勝った表情でエリスを窺っている。
「……本当に、いいの?」
「はい、いいですよ。でも、その代わりに――」
 言いながらエリスはルイズの手を取り、不安に揺れるルイズの瞳を真っ直ぐに見据える。
「貴女のこと、教えてください。魔法が使えるとか使えないとかじゃなくって、いいところもわるいところもひっくるめて『ルイズさん』のことを知りたいんです。
 貴女の使い魔になってよかったって、思わせてください」
「わたしのこと……」 
 エリスを見つめるルイズの視線が僅かに揺れた。
 魔法ではない、自分の何か。
 貴族だという事? ヴァリエール家の生まれだと言う事?
 それは違う。それは確かに自分ではあるが、身に纏っている装束でしかない。
 それがわかっているから、学院で謗りを受けても決して振りかざす事はしなかった。
 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが目の前の少女に見せるべきモノ。
 それを信頼とでも言うのだろうか。
 ……信頼と祝福を刻みに行く、と言っていた青髪の少女を思い出した。
 彼女はきっと、パートナーに示すべきモノを見つけたのだろう。
 しかし今のルイズは、それを見つけることができなかった。
「……大丈夫です。そんな難しいことじゃないですから」
 黙り込んでしまったルイズにエリスは優しく微笑みかけた。
 そして彼女は微笑を称えたまま、信頼を込めた調子で言葉を継いだ。
「――柊先輩だって魔法使い(ウィザード)なのに魔法が使えませんけど、私はちゃんと信頼してますから」
「そこで俺を引き合いに出すのおっ!?」

222ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:48:01 ID:gMzTJVZ4
 

 至って真面目な表情で放ったエリスの言葉に柊が素っ頓狂な声を上げた。
 その声でエリスは我に返り、慌てて柊を振り返って釈明するように手をぶんぶんと振る。
「あ、ああっ!? 違っ、違うんですっ! そういう意味じゃなくってっ!?」
「い、いや、いいんだ……」
 『ウィザード』とは超常的な力を持つ者達の総称の事であって、別に魔法を使えるからウィザードと呼ぶ訳ではない。
 柊も魔法を使えない訳ではなく、装備魔法――『魔装』という新しい魔法形態に転換する際に、その適性の薄さから自分で魔法を刻む事をしなかっただけなのである。
 とはいえ、今ここでエリスにそれを詳しく解説するような場面ではなかった。
「ご、ごめんなさいっ! 私はただ魔法なんて使えなくても大丈夫だって、別に特別なことなんてしなくていいって……!」
「うん、わかった、わかってっから……」
 わたわたと釈明するエリスを柊はどことなく生暖かい表情で宥める。
 そんな二人を、ルイズはじっと見つめていた。

 仕草や態度で二人が互いに信頼し合っているのが見て取れる。
 それが彼女にはひどく眩しかった。
 ルイズがああいう風に付き合える相手は学院には存在しない。
 それどころか、これまで生きてきた中で無条件に心を開けたのは実家にいる姉ただ一人だけだ。
 使い魔が主人と一心同体のパートナーだというなら、自分とエリスもああいう風になれるのだろうか――

「と、とにかく、そういうことです! だから安心してください!」
 誤魔化すようにしてエリスが叫んで、改めてルイズに向かい直った。
 その背後で柊はやはり生暖かい目線で呟く。
「エリス……」
 そういうことってどういうことなのか安心とはなんなのか突っ込みたかったがあえて口を噤んだ。
 ルイズは意気込んで見やってくるエリスをしばし見つめると、一度瞑目して背筋を伸ばした。
「本当にわたしと契約するのね?」
「はい。私はいいです」
 エリスは向けられた鳶色の目線を反らす事なく受け止め、翠色の瞳で応えた。
「……。わかった」
 言ってルイズは自らの杖を取り出し、軽く振った後言霊を紡ぐ。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 謳い上げて彼女はエリスの額に杖を添えた。
 静かに眼を閉じたエリスに、ルイズはそっと顔を寄せて――彼女だけに聞こえるよう、小さく呟いた。
「――そして誓う。我は使い魔に祝福を与うる主とならんことを」
「――」
 契約と誓約の言葉と共に、少女は唇を重ねた。


223ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:50:22 ID:gMzTJVZ4
 

「ルイズさん……」
 契約を終えた後の余韻の中で、エリスはルイズの囁きを反芻して彼女を見やった。
 すると彼女は僅かに頬を染めながら慌てて顔を反らす。
「な、なによ。もう契約はしちゃったんだから。神聖な儀式なんだから、やり直しなんてないし虚偽なんて許されないわよ」
「――」
 何故か怒ったように言うルイズの表情がなんとなく可笑しくて、エリスは思わず笑みを漏らしてしまった。
 するとルイズは眉を吊り上げて更に声を荒らげる。
「なに笑ってるのよ! とにかくこれでアンタは私の使い魔なんだから! 契約した以上ちゃんと使い魔として働いてもらうんだからね!」
「……はい」
 どうにか答える事はできたが、笑いを抑えることができない。
 それが気に食わないのか、ルイズは頬を膨らませて完全にエリスから身体を背けてしまった。
 エリスは肩を怒らせたルイズの背中を少し見やったあと、少し離れて契約を見守っていた柊に向き直る。
「あ、あの……先輩。勝手にこんな事になっちゃって――」
「ん? あー、いや。俺が契約しないのは俺の問題だから、エリスがそうしたいっていうんなら俺がとやかく言う事じゃねえよ」
 どこか申し訳なさそうに言ってくるエリスに軽く返して、柊は腕を組んだ。
「けど、元の世界に戻る方法は探すぞ。俺は向こうに帰るつもりだし、お前がこっちに残るにしてもくれはとかに連絡入れなきゃな」
「……ぁ」
 柊の言葉でエリスの表情が僅かに曇る。
 契約をして使い魔になれば、ルイズと共にこの世界で生きる事になる――ということに今更ながらに気付いたのだろう。
 視線をルイズに向けると、柊の言葉を聴いていたのか彼女もまた複雑そうな表情を浮かべていた。
 使い魔になったとはいえエリスはちゃんとした人間なのだ。
 彼女にも元の世界(だか場所だか)での生活があり、家族や友人がいるのだという事にルイズはようやく気付いた。
 何を言うべきかに窮してルイズは視線だけをさまよわせ、そんな態度を見てエリスも更に表情を曇らせる。
 だが二人の様子とは対照的に軽く声を上げたのは、柊だった。
「そんな深刻になる必要ねえよ。ファー・ジ・アースと連絡が取れればハルケギニアの場所……場所?
 とにかくこの世界の存在がわかるんだから、行き来は難しくても連絡くらいはどうにかなるだろ。海外に移住するのと同じようなもんだ」
「は、はあ……そんなものなんですか……」
「またそんなこと言って……あらかじめ言っとくけど、これからは他の奴にそんな妄言吐かないでよ。本気で頭を疑われかねないから」
「……」
 呆れ顔で嘆息交じりの息を吐き出すルイズを、エリスと柊はまじまじと見やった。
 二つの視線を向けられて彼女は軽く身を引いてから呻くように言う。
「な、なによ」
「いや……俺達の話、ちっとは信じる気になったのか?」
 柊の言葉にルイズはうっと言葉を詰まらせた。
 そして彼女は二・三度何事かを言おうと口を開きかけ、眉根を寄せてそっぽを向いてしまった。
「そりゃ、昨日見せてもらった魔法とか授業の時に見せてもらった奴とかあるし……そ、それに、エリスはわたしの使い魔なんだから、主人のわたしくらいは信じてやらなきゃ可哀想でしょ!」
「現金だな、おい……」
 つい先程までは頭ごなしに否定していたはずなのに、契約した途端に態度を翻したルイズの態度に柊は嘆息した。
 とはいえ、頭ごなしに否定され続けるよりは幾分マシだ。
 ルイズにしてもどちらかといえば信じざるを得なかったものを信用する理由が欲しかっただけなのだろう。
 なんとなくそれを察してエリスは小さく笑みを漏らし――

224名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 01:52:15 ID:pQ8g8EC0
>便利な洗脳パワーが有るじゃない
キスする前に殺されるだろうしもし成功してもルーンの痛みを感じた時点で虐殺開始だ
本編読めば解るがシンはかなり異常な暴力衝動持ちだぜ
ユリアがストッパーだったがそれでもおかしかった
225ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:54:14 ID:gMzTJVZ4
 

「――っ」
 不意に身体に痛みが走って表情を歪め、膝から崩れ落ちた。
「エリス!?」
 唐突にうずくまったエリスに柊は慌てて駆け寄ろうとしたが、それを制したのはルイズだった。
「……使い魔のルーンが刻まれてるのよ。すぐに終わるわ」
「そ、そうなのか」
 ルイズに別段驚いた様子はなかったので異常事態ということはないのだろう、柊は足を止めてエリスを見やった。
 苦しそうに胸に手を当てて震えるエリスを二人は見守る。
 ……が、エリスは顔を俯けたままで一向に震えが収まる気配がない。
「お、おい。本当に大丈夫なのか?」
「ちょ、ちょっと……」
 怪訝そうに柊が声を上げると、ルイズも不安になってエリスに駆け寄った。
 もしかしたら失敗したのかもしれない。
 サモン・サーヴァントも何度も失敗していたし、契約の時にも本来の詠唱にはない余計な文言を含めてしまった。
「エリス、大丈夫なの?」
 ルイズが膝を突いてうずくまったエリスの肩に手を添えると、彼女はそれに応えるようにルイズの腕を掴んだ。
 様子を窺うように俯いたエリスの顔を覗き込む。
 僅かにエリスの顔が持ち上がり、『眼』が合った。

「っ!?」
 ルイズは思わず悲鳴を上げかけ、しかしそれを声にすることができなかった。
 エメラルドのようだったエリスの翠色の瞳。その左眼が青く青く染まっている。
 それは蒼穹の青というより、深海の青。
 引き込まれそうなほどに澄み渡っていて、それでいて引き摺り込まれそうなほどに深い。
 目つきと表情は普段のエリスそのままに、得体が知れないほどに深く冷たい瞳がルイズを貫いている。

「――エ、」
「エリス!」
 割って入るような柊の声で、二人の少女は同時に時間を取り戻した。
 腕を掴むエリスの手の力が抜け、表情が柔らかくなる。
 そして彼女は小さく息を吐くと、ぺたんとその場に座り込んで柊へ顔を向けた。
「先輩……」
「エリス、大丈夫なのか?」
「はい。少し身体……と、頭が痛かっただけで」
「……そっか」
 柊は大きく安堵の息を漏らした。
 それを見届けるとエリスはすぐ傍で固まっているルイズに目を向けた。
「ごめんなさい、心配かけちゃって」
「……いえ、別に……こっちも説明しなかったし……」
 呆然と応えながら、ルイズはエリスをじっと見つめる。
 目の前に映っているエリスの瞳は、いつもと同じ翠色だった。その表情も、今までと何一つ変わらない。
(見間違い? でも……)
「えっと……ちゃんとルーンは刻まれてるの?」
「あ、はい。多分……」
 言いながらエリスは僅かに頬を染め、自分の胸に手を当てた。おそらくはそこに刻まれているのだろう。
 エリスの瞳の事は気になるが、とりあえず契約の儀式が無事に終わったのは確かだ。
「とりあえず、学院に戻りましょう。先生方に報告しないと」
 気を取り直すようにしてルイズは言い、立ち上がった。
 そしてエリスに向かって手を差し出す。
「いくわよ、エリス」
「あ……はい」
 エリスは答えてルイズの手を取り、立ち上がる。
 別になにか特別なことをしたという訳でもなかったが、ルイズは何故かそんなやりとりが嬉しかった。


226ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 01:57:45 ID:gMzTJVZ4
 

 ※ ※ ※


 約一時間後、学院に戻ったルイズ達三人を待っていたのは――特に何事もない、普通の学院だった。
 戻るなり教師達に囲まれて杖を突きつけられる事を危惧していたのだがそのような事はなく、授業中ということもあって学院内はむしろ静かだった。
 というのも、ギトー達は追っ手を出すと騒いでいたが学院全体の授業を中止してまで生徒一人の問題に教師を割くことなどできようはずもなく、
更に集めた教師達も柊がギトー――スクエアメイジの杖を斬った事を知って及び腰になってしまっていたのである。
 無論、ルイズ達が一向に結論を見ない教師達の会議の場に顔を出した時は騒然となった。
 だがルイズが事態を解決した旨をするとその場の全員が安堵の息を漏らした……ただ一名、メイジとしての矜持を傷つけられたギトーを除いて、ではあるが。
 ともかく、ルイズはその場で議長を務めていた(半分眠っていたが)オスマンにその経過を報告すべく学院長室に場所を移したのである。
 そうして今現在。
 ルイズ達は正面の机を挟んで椅子に腰掛けたオールド・オスマン、その脇に侍るトライアングルメイジ(おそらく護衛だろう)のコルベール、
そして入り口の脇に立つ秘書のロングビルに囲まれる形で立ち尽くしていた。
「……では単刀直入に聞こうかの」
 机に両肘を突き、組んだ拳で口元を隠したオスマンが厳かに口を開いた。
 眠そうにしながらも、その奥からは心を覗き見るような鋭さで正面に立つルイズを見据える。
「ちゃんと『コントラクト・サーヴァント』はできたのかね?」
 オスマンの言葉にルイズは僅かに口を結んだ。
 両脇から感じる柊とエリスの視線を感じながら、ルイズは毅然とした口調で返した。
「はい。両方……とまではいきませんが、こちらの少女――エリスをわたしの使い魔にしました」
 はっきりと言い切ったルイズをじっと見つめながらオスマンはふむ、と呟いた。
 彼はちらりと柊に目線を移した後、ルイズに向かって口を開く。
「立会いもなしに契約を行ったことはまあ置くとしよう。じゃが、これだけの騒ぎになった経緯を踏まえれば『契約しました』と言うだけでは収まるまい。それはわかるな?」
「……はい」
「契約を交わして使い魔としたなら、そちらの少女にはその証たるルーンが身体の何処かに刻まれておるはず。それを確認させてもらおう」
 オスマンの言葉にルイズは黙り込んでしまった。
 そんな彼女を見てオスマンは僅かに眉を持ち上げたが、何も言わずにただ彼女の返答を待つ。
 ルイズは顔を俯けて少しの間沈黙すると、覚悟を決めたように顔を挙げ真っ直ぐにオスマンを見据えた。
「わかりました。ただ……」
「ただ?」
 言ってルイズは再び口ごもる。
 努めて気まずそうな表情を浮かべながらエリスに視線をやり、
「その。殿方に見せるには少々憚られる所に刻まれてて……エリスは使い魔とはいえれっきとした人間で、女の子ですし……」
「ほほぅ……!」
 途端、オスマンの眼がぎらりと輝いてその身を乗り出した。
『なんだよその反応はっ!?』
 と反射的に柊はつっこみかけたが、場が場だけにその言葉を必死に飲み込んだ。
 柊の代わりに隣にいたコルベールが冷ややかな調子で言った。
「犯罪ですぞ、オールド・オスマン」
「なぁにを言っとるのかねェ!? わしはただこの学院を預かるものとしての責任をだねえ……!!」
「ミス・ロングビル。お願いできますか?」
「わかりました」
 裏返った声で喚くオスマンを華麗に無視してコルベールが言うと、ロングビルがやはり何事もなかったかのように頷いてエリスを促した。
 エリスは不安そうにルイズと柊を見やる。
 二人が小さく頷くのを見て彼女も頷いて返すと、ロングビルと共に学院長室から退室した。
227ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 02:01:16 ID:gMzTJVZ4
 

「服を脱がなければいけないなら、別室まで案内しますが?」
「え、あ……いえ、そこまで大げさな場所では……」
 部屋を辞してすぐ、尋ねてきたロングビルにエリスはおずおずと返した。
 するとロングビルは廊下を一瞥した後、再びエリスを見て口を開く。
「では、ここでも?」
「えっ……」
 そう言われてエリスは慌てて周囲を見やった。
 人通りは全くないが、それでも廊下のど真ん中である。
 服を脱ぐ訳ではないとはいえ、こんな場所でするのは流石に戸惑う。
 そんなエリスの不安を見て取ったか、ロングビルは軽く笑って彼女に声をかけた。
「ここは塔の最上階ですから、生徒はまず通りませんよ。教師もよほどの用事がなければ来ませんから」
「は、はあ……」
 とりあえず納得する事にしてエリスは大きく深呼吸した。
 眼鏡ごしにじっと見つめてくるロングビルの視線は冷たくはなかったが、これから『それ』を見せる事にはやはり緊張してしまう。
 意を決してエリスはブラウスのボタンをはずすと、服を少しだけはだけて見せた。
「それでは」
 そう言ってロングビルが身を僅かに屈め覗き込むと、彼女の年相応――と言うには少々物足りない程度に隆起した胸元に、ルーンが刻まれているのが確認できた。
 それを見てロングビルの眼が細まる。
 彼女はしばしそのルーンを観察した後、小さく首を傾げた。
「あ……あの……何か変でしたか?」
「……あぁ、お気になさらず。少々見慣れないルーンだったもので」
 ロングビルの様子に不安になったエリスが尋ねると彼女はそう答え、顎に手を添える。
 基本、使い魔に刻まれるルーンはその動物の系統……つまりは主人たるメイジが先天的に相性の良い系統に関するルーンが刻まれる。
 例えばサラマンダーなら火に関する意味合いのルーンが刻まれるし、風竜ならば風に類する意味合いのルーンが……といった具合だ。
 だが、エリスに刻まれたルーンはそれに該当しない見慣れないものだった。
 ルーンには違いないが、蛇がのたくったような文字で形も意味合いも漠然として読み取れない。
 もっともロングビル自身その手の知識が豊富という訳でもないので単に知らないだけなのかもしれない。
 だが、彼女の知識で強いて言うのなら――
「あの……もういいですか?」
「あ、もう結構ですよ」
 エリスの声にロングビルは思考を中断して答えた。
 別に誰か通りかかったという訳ではないが慌てて衣服を正したエリスを見つめながら、ロングビルはふと思い立って彼女に声をかける。
「よかったの?」
「え?」

228ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 02:02:58 ID:gMzTJVZ4
 

 エリスは言われたことの意味がいまいち理解できずに首を傾げてロングビルを見やった。
 すると彼女は普段の冷淡な表情を僅かに崩し、針のような視線でエリスを見据えている。
「契約のこと。流石にあの子が貴女を犬猫のそれと同じように扱うとは思わないけど……それでも、人間が使い魔になるなんて常識ではありえない。……本当に良かったの?」
 エリスは今までと違う態度、今までと違う口調で――しかしはっきりと感情の篭った声で問うてくるロングビルをまじまじと見やった。
 そこでロングビルの方も自分の態度に気付いたのか、眉を顰めて視線をさまよわせ、気まずそうに顔を逸らしてしまう。
 エリスは彼女に投げられた言葉を反芻するように僅かに顔を俯けると、呟くように言った。
「……私、誰かの役に立ちたいんです。『向こう』では世界に生きる皆のために頑張って……頑張ったけど、結局皆や柊先輩達に迷惑どころの話じゃない事をしちゃって」
 『向こう』――ファー・ジ・アースの事など知る由もないロングビルとしては彼女の言葉に眉を潜めるしかなかった。
 だが、相手にというよりは自分に向かって語るような調子にロングビルは口を噤んでエリスを見守る。
「力を失った私には、もう柊先輩や皆の役には立てません。でも、ルイズさんの役には立てるかもしれないんじゃないかって。
 私がこの世界に来た意味があるんじゃないかって。自分でもよくわかりませんけど……たぶん、だから契約したんだと思います」
「そう……ですか」
 話の中身はさっぱりわからなかったが、ともかく彼女なりにちゃんと思うところがあって契約をしたのは確かなようだ。
 エリスの表情を見て取ったロングビルは諦めたように吐息を漏らした。
「貴女がちゃんと決めたというのなら、私からはもう何も。頑張ってくださいね」
「はい。心配してくれてありがとうございます」
 口調と態度を元に戻してそう言ったロングビルにエリスは屈託のない笑みを返し、深く頭を下げた。
 そして様子を窺うように彼女を見上げると、おずおずと尋ねる。
「あの……さっきの口調……」
「……。さっきのが私の素なんですよ。あまり学がありませんので、それらしく見えるように普段は"作って"るんです」
「そ、そうなんですか?」
「そうなんです。恥ずかしいので内緒にしておいて下さいね」
「わかりました」
 くすりと笑みを零すエリスを見て、ロングビルはとりあえずは取り繕えた事に安堵の息を吐き出した。
 端的に言って可愛げなど微塵もない貴族やその卵達に囲まれていたこともあって、エリスの柔らかい物腰に釣られて迂闊にも口を滑らせてしまった。
 顔立ちは全く似ていないが、なんとなく遠い地にいる『あの子』を思い出したのだ。
 だからだろう、柄にもなくあんなことを聞いてしまった。
 それは別に彼女を心配していた訳ではなく、契約を拒絶した柊や自分で契約を選んだエリスを見て――
「身につまされた、ってトコかね」
「はい?」
「いえ、なんでも。とにかくルーンの確認は終わりましたから、部屋に戻りましょう」
 首を傾げたエリスを努めて平静に受け流し、ロングビルは彼女を学院長室に促した。


229ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 02:04:52 ID:gMzTJVZ4
 

 部屋に戻った二人を待ち受けていたのは、四人四種の視線だった。
 自分達に集中してくる眼にエリスは少し萎縮してしまうが、ロングビルは委細構わぬ様子で歩を進め、退室した時と変わらぬ姿勢を保ったオスマンの元へと歩み寄った。
「確認しました。彼女の身体にはちゃんと使い魔のルーンが刻まれています」
「確かかね?」
「はい。少々見慣れない珍しいルーンでしたが……」
「見慣れないルーンですと?」
 ロングビルの言葉を耳にしたコルベールが眼と頭を輝かせて身を乗り出した。
 しかし彼女は至って平静に、しかし僅かに冷たい口調でコルベールに告げる。
「犯罪ですよ、ミスタ・コルベール?」
「な、なァにを言っておるのです!? 私はただ学術的な好奇心からですなあ……!!」
「とにかく、彼女がミス・ヴァリエールの使い魔であることは間違いありません」
「ふむ」
 裏返った声で喚くコルベールを華麗に無視してロングビルが言うと、オスマンは一つ頷いてから改めてルイズ達を見やった。
「まあよかろう。ともかく、キミの『使い魔召喚の儀式』に関してはこれで完了とする」
「おめでとうございます、ミス・ヴァリエール」
「ありがとうございます」
 コルベールから向けられた賛辞の言葉にルイズは恭しく頭を垂れる。
 彼はそんな彼女を喜色も露にして大きく頷くと、次いで隣にいる柊に眼を向けた。
「ときにミス・ヴァリエール。契約を交わした彼女はいいとして、そちらの彼はどうするのです。後ほど使い魔に?」
 話を振られて柊は思わず身を硬くしてしまった。
 集中する視線に軽く首を掻くと、彼はおずおずとコルベールに向かって言う。
「いや、俺は契約はしません。とりあえず元のせ……あー。元いた場所に戻ろうかと」
「元いた場所……そういえば召喚された時に何か言っておりましたな。元の世界がどうとか」
「え、ええと! か、彼等はとても遠い場所……そう、ロバ・アル・カリイエから来たんです!」
 首を捻って自問しかけたコルベールに、ルイズは慌てて口を挟んだ。
「ロバ……何?」
 聞いた事のない単語が出てきて柊が首を傾げると、ルイズがギラリと突き刺すように睨みつけた。
 どうやら黙っていろという事らしい。
 ともあれ、ルイズの言葉でコルベールは納得したらしく大きく頷いた。
「なるほど。あそこはサハラを挟んでいて交流などあってなきのごとしですからな。別の世界と言ってもあながち間違いではないかもしれません」
「と、とにかくそういう事なのでどうにか帰る方法を探してあげようと思います」
 取り繕うようにルイズは身振りを加えて訴えると、オスマンは唸るように声を漏らした。
「ふぅむ……しかし、契約せぬというのであれば彼は部外者、という事になってしまう。
 仮にもここは由緒正しき貴族の子弟を預かる魔法学院……来歴も定かではない平民を置いておくのは少々憚られるが」
「しかしですな、オールド・オスマン」
「無論わしとしてはやぶさかではない。
 だが生徒達は勿論彼等を学院に預けておる諸氏もいい顔をせんじゃろうし、教師達にもあまり受けは良くなかろう。特にスクエアの名を折られた約一名などはな」
「それは……」
 もっともと言えばもっともと言えるオスマンの主張に、コルベールだけではなく柊も返す言葉がなくなってしまった。
 雇われてこの学院にいる者たちは別にして、柊達はこの学院に来てから様々な意味で生徒達から注目を集め、また様々な意味の視線を受けている。
 成り行き上仕方ないとはいえギトーとかいう教師の面目を潰してしまった事もあった。
 見通しが甘かったか……と心中で柊が唸っていると、ルイズがオスマン達に一歩踏み寄った。

230ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 02:07:04 ID:gMzTJVZ4
 

 彼女はオスマン達を真っ直ぐに見つめると、胸を張って毅然と言う。
「彼を喚び出したのはわたしです。契約をしない以上、彼を元の場所に戻すのはわたしが負うべき責任。
 それを放り出すつもりはありません」
「……お前」
 柊はわずかに驚いてルイズに見入った。
 彼女はちらりと彼に視線を返すと、ふんと小さく鼻を鳴らして眼をきった。
 そして自分を見つめてくるオスマンやコルベールの視線を正面から受け、それでもゆるぎない態度で受け止めた。
 コルベールはルイズを見つめて眩しそうに眼を細め、オスマンは満足気に息を吐いた。
「よろしい、ならば彼はキミの預かりとしよう。名目上はそこの彼女とともにミス・ヴァリエールの使い魔という扱いにするが……よろしいかね?」
「……まあ、形だけってんならそれでいいっす」
 向けられたオスマンの視線に柊は頭を掻きながら頷いた。
 形だけであるならばその環境は願ったりといったところなので何も問題はない。
 隣のエリスもしっかりと頷いた。
 そしてルイズは――
「いえ。わたしが使い魔にしたのはエリスですから、ヒイラギは使い魔としては扱いません」
 はっきりとそう言った。
 弛緩した空気が微妙に張り詰めた。
 オスマンの片眉が僅かに持ち上がり、コルベールは息を呑んだ。
 柊とエリスはここにきてのルイズの発言に驚いたように彼女を凝視した。
 ルイズはそれらの視線を動じる事なく受け止め、ピンクブロンドの髪を轟然とかき上げて、言った。

「ですので、ヒイラギはわたしとエリスの――ゲボク、ということで」

「おいコラァ! なんでそこでオトすんだよ!?」
「オトす? 何言ってんの? わたしは正真正銘本気よ?」
「これはアレじゃないのかよ! 俺がお前をちょっと見直して、いい話で終わるんじゃないのかよ!?」
「いい話じゃない。本来なら放逐されるところを面倒見てあげるっていうんだから」
「お前……っ!」
 慌てて食って掛かる柊に、ルイズは聞く耳持たないと顔を背けた。
 二人の様子を見やっていたオスマンが鋭い視線をルイズに向け、厳かに口を開く。
「ゲボク、とな」
「そうです。コイツはゲボク」
「それでよいのかね?」
「いいです」
「じゃあそれで」
「よくねえだろ!! 俺を無視してあっさり認めてんじゃねえよじじぃーっ!?」
 柊が叫ぶとルイズは煩わしそうに顔を顰めた。
「うるっさいわね、アンタわたしと契約しないんでしょ!? でもここには残りたいんでしょ!?
 だったらそれくらい当然じゃない! わたしが主人、エリスが使い魔!」
 彼女は自分とエリスを順繰りに指差し、そして最後にびしりと柊を指差した。
「アンタはその下! ゲボクよ!!」
「ふざけんなーっ!?」

 絶叫が学院長室に響き渡る。
 こうして使い魔とゲボクの新しい生活が始まった。


231ルイズと夜闇の魔法使い ◆73M7D8ljuU :2009/11/11(水) 02:08:33 ID:gMzTJVZ4
今回は以上です
柊の主張をリプレイ的に簡単に言うとこう。
柊:いやいや、ちゃんと"ルイズを守ろう"って気にさせる何かを釘宮さん(誰)が言ってくれれば契約しますよ?(満面の笑顔)
フラグ管理には定評のある柊の中の人でした。でも恋愛フラグだけは勘弁な!

やっぱり柊は脇に近い立場の方が似合うと思います。立派に主人公属性持ってんですけどね
あとゲボクは漢字ではなくてカタカナ。これはテストに出るほど重要(きくたけ的に)

前回投下した時点ではイベント起こして有耶無耶にしてしまい、契約しないまま進める予定で書いてました
でもそれってどうなの? と思って全面改訂。ちゃんと契約して新しく仕切りなおします
・・・改定ついでに色々仕込みましたが


232名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 02:46:25 ID:9SrNF2Kq
おつでした
233名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 02:50:34 ID:sNRVHvg9
待ってました!
エリスの中の人(違)が…!
今後も期待してますー
次あたりで夢でも見るかな?
234名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 06:05:42 ID:leY4TJdo
ぐは、支援できんかった
超乙
235名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 07:36:52 ID:pyQ+wo+n
GJ
柊…(T_T)イ`
お待ちしておりました。次回を正座待機。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 07:58:28 ID:KWoMog9M
夜闇の人乙かつGJです。
そうか、ルイズはプリンセスだったのか!
237名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 09:46:37 ID:6XwrpFmT
GJであります!
蛇っぽいルーンが胸、眼の色が青に……銀色にならなかった分マシと考えたらいいんでしょうか?
238名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 09:49:05 ID:GPadPvRz
乙であります
シャイ○ールのせいでハルケギニアが危険でピンチな予感
239瀟洒な使い魔 代理:2009/11/11(水) 14:20:03 ID:NKoDj5KT
代理いきます
240瀟洒な使い魔 第4話 1/10:2009/11/11(水) 14:20:49 ID:NKoDj5KT
「メイド長! 火の塔の清掃終わりました!」

「メイド長! マルトーさんが昼食の味見お願いしたいそうです!」

「メイド長! ミスタ・クリストフとミスタ・フィオールの使い魔達が喧嘩を始めて手がつけられません!」

――――あれ? 何でこんな事になっているのかしら?

ふと、咲夜はそんな事を考えた。あれからメイドに混じって働きつつルイズの世話を焼くと言う生活を続けていたのだが、
いつの間にか同僚のメイドたちが『メイド長』と呼ぶようになっていた。
マルトーですら『我らがメイド長』などと言うようになり、気がつけばメイド長という呼称が定着してしまった。
普通に仕事してただけなんだけどなぁ、と思いつつ首を捻るも、答えが見つかるわけでもなく。

実の所、紅魔館におけるあらゆる仕事をほぼ一人でこなしてきた咲夜にとって学園で働く程度のことは造作も無い。
その上、基本的に役に立たない紅魔館の妖精メイドとは違い学園のメイドは人並みに働けるため、
咲夜が負うべき仕事は余り多くない。一度1人で全てをこなしてしまって怒られたことがあるくらいである。
元々メイド長と言う立場であれこれ指揮を行っており、その才能を遺憾なく学園でも発揮したための結果であるのだが、
咲夜はそれに気付いていない。咲夜にとって、我侭な主人の世話とメイドとしての仕事は幻想郷でもここでも変わらない。
そのため、いつもどおりに体が動いてしまう為に普通の人間からは『物凄く有能な人間』に見えてしまうのだ。
いつしかメイド長などと呼ばれるようになったのもある種必然と言える。

だが、それに咲夜が気づく事はないだろう。彼女としてはいつも通りに、むしろ手を抜いているくらいであり、
人にあれこれと褒められるような大したことをしているという自覚は全く無い。
そんな、凄く有能であるのにほんのちょっとだけ抜けているところが、咲夜の魅力の一つではあるのだが。



瀟洒な使い魔 第4話「時色マスタースパーク」



「サクヤさん、『土くれ』のフーケって知ってますか?」

いつもの様に厨房で昼食をとっていると、横に控えていたシエスタが話しかけてきた。
『土くれ』のフーケ。貴族のみを狙って盗みを繰り返す怪盗。
あるときは宝物庫の壁を『錬金』の魔法で土に変え、そこから進入。
またある時は30メイルもある巨大なゴーレムを操って力技で壁を破壊して持ち去る。
挑発的なことに、盗みを行った現場には必ず『○○、頂きました』というメッセージカードまで残す。
現れるところには全て土くれが残る為に、付いたあだ名が『土くれ』のフーケ。
その存在は、今ではトリステイン全土の貴族の脅威となっている。

「お、フーケか。知ってるぜ、武器屋の親父が『お陰で武器を買いに来る貴族も増えたし、フーケ様々だぜ』ってよ!
 ま、俺みたいなオンボロ剣にゃあ興味はないだろうが、俺らも気ぃつけたほうがいいんじゃねえか?
 ここの宝物庫にもそういった品はあるんだろ?」

壁に立てかけられたデルフリンガーが言うと、マルトーが肩をすくめて苦笑する。

「ま、お貴族様自慢の『固定化』がガッチリかかってるから、流石のフーケでも難しいだろうがな。
 俺は平民だから詳しい事は門外漢だけどよ」
241瀟洒な使い魔 第4話 2/10:2009/11/11(水) 14:21:34 ID:NKoDj5KT
『固定化』。物質をそのままの状態で、劣化しないようにとどめる魔法。
その度合いは使うメイジによっても変わってくるため、
最上級のメイジであるスクウェアクラスのメイジがかけたものならば大砲でも傷が付かないという話である。

「魔法のことはよく分からないけど、それなら安心していいんじゃないかしら?
 それだけ厳重に魔法がかけてあるなら、その土くれとやらも諦めるでしょう」

そこまで言って、そういえば幻想郷にも似たような泥棒が居たなあ、と言うことを思い出す。
あの泥棒ならこの学園のような宝物庫にはどう対処するだろうか?
主な被害が自分の勤め先であったので、戻ったらアレもそろそろ手を打たないとなぁ、と考えていると、
厨房に緑の髪の女性、ロングビルが入ってくる。

「ミス・イザヨイ。こちらにいらしたんですね」

デルフリンガーを買った次の日オスマンに面会したい旨を伝えたのだが、諸々の事情で忙しかったらしく、
手が空くまでは難しいとの返答が帰って来たのだ。そのため、今日この時まで面会が延びていた。
特に急ぐ事でもないので特に問題はないのが唯一の救いか。

「ええ、昼食の時間でしたから。オールド・オスマンもようやくお手空きになったようで」

「ええ……ほんと、人のスカートの中をのぞく暇があるなら仕事をして欲しいものです」

「本当ですねぇ」

2人揃って溜息をつき、咲夜はデルフリンガーを背負って立ち上がった。
そのままシエスタとマルトーに会釈して厨房を出、学院長室へと向かう。
その途中、咲夜は何とはなしにロングビルに話しかけてみた。

「そういえば、ミス・ロングビル。『土くれ』のフーケってご存知?」

「フーケ、ですか? あの怪盗の。ええ、聞き及んでいます。一応は学院長の秘書ですから、
 そういった情報なども常に耳に入れておく必要がありますからね。
 なんでも、物凄く大きなゴーレムで何もかも打ち壊してしまうのだとか」

その様を想像したのか、ロングビルがぶるりと体を震わせる。
咲夜もギーシュのような小型のゴーレムならともかく、
そんな大型のゴーレムともなれば自分の技では相対するのは難しいな、と考える。
主人であるレミリアやその妹フランドール、レミリアの友人であるパチュリーなどであれば、
あるいはそういった巨大な敵相手でも問題なく撃破できるだろう。が、自分にはそう言った高い火力を持つ攻撃はない。
何か手を打つべきだろうか、とまで考えて、自分は何故真面目に相対する事を考えているのだろうか? と気付く。

襲われる理由はあれど必ず襲うと限ったことではないし、そもそも自分は一介のメイドであり使い魔である。
主人であるルイズに危害が及ばないならば特に戦う理由もないのだ。
それにこの学園には風のスクウェアメイジであるギトーをはじめ多数のメイジが居る。
それに宝物庫には厳重に魔法がかけてあるそうだし、そうそう自分が戦う羽目にはなるまい。
そう思って思考を終わらせる咲夜であったが、なんとなく感じる嫌な予感だけはどうしても拭えなかった。
242瀟洒な使い魔 第4話 3/10:2009/11/11(水) 14:22:19 ID:NKoDj5KT
「ははは、見ていてくれよヴェルダンデ! この僕の新技を!」

新しいゴーレムの使い方を編み出したらしく、自信満々で目の前の使い魔に話しかけているギーシュ。
本塔の窓からその様子を眺めながら、咲夜は先程オスマンと交わした会話の内容を考えていた。
『ガンダールヴ』。どうやらそれが自分の、そして自分の左手に刻まれたルーンの正体らしい。
ハルケギニアに系統魔法をもたらした偉大なメイジ、始祖ブリミル。
その始祖が従えた4人の使い魔のうちの1人、神の盾ガンダールヴ。
あらゆる武器を使いこなし、1人で千人の軍隊にも匹敵する伝説の使い魔。
ナイフやデルフリンガーを握った時に感じたあの感覚、それそのものが『ガンダールヴ』の力なのだそうだ。

デルフリンガーが言っていた『使い手』というのは、すなわちそういうことだったのだろうか?
となると、デルフリンガー自身も何らかの形で始祖に、『ガンダールヴ』に関わっているということなのだろうか。
問うのデルフ自身は『そんなんだった気がしないでもない』と覚えておらず、真相は分からずじまいであった。
どうやら運命と言うのは相当にひねくれているようだ。
縁もゆかりもない異世界に呼びつけた挙句、この世界においては余所者に過ぎない自分に伝説を押し付けるなど。
はぁ、といつかのような何度目とも知れない溜息が漏れる。

「ほんと、にわかには信じがたい内容だったわね……」

「ま、深く考えるこたぁないんじゃねえか? 何がどうなったって相棒は相棒さぁ。
 それ以上でもそれ以下でも、ましてやそれ以外でもありえねえ。
 相棒も俺も、娘っ子も。自分以外の何かには絶対なれねぇもんさ。何があったってな」

咲夜の側に立てかけられたデルフリンガーの言葉に、咲夜ははっとする。
この剣は物忘れが激しいくせに、時折こうして妙に含蓄のある台詞を吐く。
いわれて見れば確かにそうだ。使い魔であろうがなんであろうが、自分は十六夜咲夜。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットに仕えるメイド長なのである。

「そういうものかしら」

「そういうもんさ、何事も突き詰めりゃあ単純に出来てるもんよ」

「ありがと、ちょっと気が楽になったわ」

けらけらと笑いながら言ってのける傍らの剣に、咲夜は溜息を一つ。
苦笑してデルフリンガーを背負い直すと、その場を離れた。



その夜、本塔の外側、5階に当たる高さの場所に、人影が浮いていた。かの『土くれ』のフーケその人である。
フーケは壁面に手を触れたりノックをしたりして感触を確かめるが、ほどなくして溜息を一つ吐く。

「やっぱりあたしの魔法じゃどうしようもないか……仕入れた情報じゃ物理的な衝撃に弱いらしいけど、
 この厚さじゃ弱いもクソもあったもんじゃないじゃないか、このっ!」

げしげしと壁に蹴りを入れるも、それで崩れるほど壁もやわではない。
その内『フライ』への集中が途切れそうになりぐらりとぐらつくが、慌てて態勢を立て直す。
243瀟洒な使い魔 第4話 4/10:2009/11/11(水) 14:23:23 ID:NKoDj5KT
「ゴーレムでも無理そうだね、こりゃ。でも、ここで諦めるってのもこのフーケ様の沽券に関わる。
 こうなりゃ絡め手でいくしかないか……まずはあのハゲを口説き落とすか? いやそれとも……」

フーケがぶつぶつと思案していると、地面の方がなにやら騒がしくなってきた。
慌てて本塔の屋上に退避すると、背の高い赤髪と背の低い桃髪に蒼髪という3人組がやって来て何やら口論を始めた。
ルイズにキュルケ、タバサだ。今にも杖を抜きそうな剣幕に、フーケはこれはまたツェルプストーが怒らせたな、と直感する。

「やれやれ、こいつは今日はやめろってお達しかねぇ……」

諦めの顔と共に天を見上げ、フーケはその日3度目の溜息をついた。



同じ頃、咲夜の部屋のドアが乱暴に叩かれた。まるで軽く蹴っているかのような感じの音だ。
それに、妙に打点が低い。ドアの一番下の辺りを何度もどんどんと叩いている。
こんなノックをする相手を咲夜は知らない。
ルイズはもう少し穏やかに叩くし、キュルケの場合は軽くノックした直後に入ってくる。
シエスタは指の付け根で控えめに叩くし、ロングビルなら声もかける。
まさかキュルケのボーイフレンドが部屋を間違えたか? と思うも、
こんな蹴り飛ばすようなノックはしないだろう。では誰だろう、と思い薄くドアを開けると、
そこには虎ほどの大きさの大きな蜥蜴が居た。キュルケの使い魔、フレイムである。

「あら、フレイム? どうしたの、こんな時間に。キュルケが呼んでるのかしら」

「あーいぼーう。どっか行くなら俺も連れてってくれよー」

その問いにフレイムは顎をしゃくるようにして反転すると、のそのそと歩き出した。
進行方向はキュルケの部屋ではなく、階段の方へと向かっている。
外で呼んでいるのだろうか? キュルケなら『今日は外でおしゃべりしましょ!』と言いかねないが、
それにつき合わされるフレイムも大変そうだなぁ、と咲夜は思う。
フレイムが促すようにこちらを振り向いたので、デルフリンガーを引っつかんで慌てて追いかける。
フレイムの言葉は分からないが、どことなくあせっているような気がする。早く呼んでこないと怒られるのだろうか。

「ほんと使い魔って大変よね。同情するわ、フレイム」

「ま、そいつが普通の使い魔の仕事さ。娘っ子の使い魔やってる相棒よりはマシなんじゃねえの?」

「…………それもそうね。さ、行きましょう。フレイムにも悪いし」

その言葉に振り返ったフレイムは、ありがとよ、とばかりにボッ、と軽く火を噴いた。
244瀟洒な使い魔 第4話 5/10:2009/11/11(水) 14:24:48 ID:NKoDj5KT
咲夜が駆けつけたそこは本塔の根元であった。そこではキュルケとルイズがにらみ合い、
そこから少し離れてタバサが本塔にもたれかかるように座り込み、傍らに置いたカンテラで本を読んでいた。
フレイムが軽く頭を伏せ、目を瞑る。咲夜はなんとなくその意図を理解した。
この呼び出しはフレイムの独断で、要するに『この2人を止めてくれ』と言うことなのだろう。
本当にこの2人には困ったものだ。また溜息が漏れる。

「ほら2人共、またケンカ? 本当に飽きないわねぇ」

「喧嘩するほどなんとやらって奴さ、相棒。この年頃の娘っ子はそういうもんさ。
 キュルケはともかく、娘っ子は無駄にプライド高いからなぁ。ま、キュルケもそれが楽しいんだろうけどよ」

「毎回仲裁する私の身にもなってほしいわ」

「うるさーい! 止めないでサクヤ、今日こそこの発育過多の色ボケに引導を渡してやるのよ!」

ばたばたと羽ばたくように両手を動かして怒りを表現するルイズをあやすように後ろから覆いかぶさって引き離す。
どう考えたところでルイズがキュルケに勝てる道理は無く、上手く失敗魔法が直撃でもしない限りは無理だろう。
しかも命中するまでにどれほどの被害が発生するかわからない。結局困るのはルイズなのである。

「はいはい。立派な貴族になりないんなら安い挑発には乗らないような度量も大切よ?
 キュルケもあんまりルイズを挑発しないでね、仲裁するの私なんだから」

「ごめんなさいねサクヤ。怒ったルイズがあんまりにも可愛らしいもんだから、ついね」

くすくすと意地悪く笑うキュルケ。その様子が癇に障ったのか、突然ルイズがキュルケに杖を向けて詠唱を始めた。
『ファイアーボール』だ。『火』系統の使い手であるキュルケはそう直感し、とっさに横に飛んだ。
失敗魔法であろうとはいえ、直撃すれば気絶するくらいの威力はある。
しかも、ルイズのやる気に呼応するかのように威力が高まるのだ、もしかしたら気絶ではすまないかもしれない。
結果的に言って、その行動は無駄だった。なぜなら、ルイズの失敗魔法が吹き飛ばしたのはキュルケではなく、
タバサの上方、本塔5階の壁であったからだ。厳重に『固定化』をかけてあるはずの壁が、
まるでビスケットのように軽々と吹き飛ぶ。あれを食らったら骨の一本は折れてたろうなぁ、と、
キュルケは冷や汗を垂らした。これからルイズをからかうのは程ほどにしようとも。

「…………」

その場に気まずい沈黙が流れる。吹き飛ばしたのが本塔の壁と言うのもあるが、
吹き飛ばした辺りには運悪く宝物庫の壁がある。いや、あった。
その辺りの壁は1メイルほどの穴が開いており、爆発の凄まじさを否応なしに見せ付けていた。

「ルイズ」

「ひゃ、はいっ!」

底冷えのする咲夜の声に、直立不動の態勢で硬直するルイズ。
咲夜の表情は笑顔だった。ただし、ギーシュをリスのようなほっぺたにした日の。
優しげな笑顔だ。とても魅力的だと思う。しかし、ルイズは恐怖していた。
ギーシュをリスのようなほっぺたにした日の笑顔、すなわち、今咲夜は凄く怒っているという事だ。
リスのように頬を膨らませた自分を想像する暇も無く、その脳天にゲンコツが振り下ろされる。
245瀟洒な使い魔 第4話 6/10:2009/11/11(水) 14:25:30 ID:NKoDj5KT
「〜〜〜〜〜っ!!」

「とりあえずはこの一発で私からの処罰はお終い。タバサ、先生を呼んできて。
 確か今日の担当はシュヴルーズ先生だったわね、丁度良いから穴を塞いで貰いましょう。
 キュルケとルイズはここで待機。あなたたちのせいで壊れたんだから当然よね?」

「ま、ゲンコツ一発で済んだならもうけもんだわな。この後先生さんからのお説教も待ってるわけだが」

デルフリンガーの一言にどんよりとしたオーラを纏う2人。
しかし、そんな3人と1本は不意に腹の底に響くような震動を感じた。まるで、何かがゆっくりと歩いてくるような。
見上げてみれば、学園の外、塀の向こうに30メイルにもならんとする巨大な土人形……ゴーレムが聳え立っていた。
その肩には人影。ローブを被っているようでシルエットは判然としないが、特徴から見て噂の『土くれ』だろう。
何もこのタイミングで来なくても良いのに、と、咲夜は歯噛みした。

「フーケだわ! なんてタイミングで……」

キュルケが目を見張る。確かにタイミングが悪すぎる。どれだけ強力に『固定化』がかけてあろうと、
今はルイズの失敗魔法が吹き飛ばした大穴が開いている。
あのゴーレムの拳をたたきつければ容易く穴の拡張がすんでしまうだろう。

「ああもう、こんなことならタバサを行かせるんじゃなかったわ!」

「落ち着け相棒! どうするよ、逃げるか!?」

「冗談言わないで。戦うわよ。ゴーレムは無理でも、フーケを倒せば止まるでしょう!」

「それでこそ相棒だ! やっちまえー!」

咲夜の手の中に魔法のようにナイフが現れる。今回はギーシュのときとは違い、両手に各3本づつ。
力がみなぎり、体が羽のように軽くなる。『ガンダールヴ』の効果が発揮され始めたようだ。

「キュルケ、ルイズをお願いね」

「了解。無茶しないでね? あなたは大切なお友達なんだから」

「善処しておくわ」

軽く手を振って駆け出す。それに気付いたのか、ゴーレムが塀を突き崩しながら咲夜の方へ歩いてくる。
咲夜はルイズの授業に付き合って覚えた事を思い出す。ゴーレムは大きければ大きいほど不器用で動きが鈍い。
もっとも、フーケは『土』のトライアングルと言う話だ。ゴーレムに使われている土を操って反撃してくるだろう。
気をつけるとしたらそこね、と考えながらナイフを投げるが、ゴーレムによって阻まれる。

「流石にこの距離じゃ阻まれるわね……」

ゴーレムが拳を振り上げ、咲夜目掛けて巨大な拳を振り下ろす。
轟音と共に地面が砕け散るが、そこに咲夜は居ない。紙一重で前に跳び、既にその腕を半ばまで駆け上がっていたからだ。

「悪いけど、手短に片付けさせてもらうわ」

その手の中に、今度は1枚のカードが現れる。それを目前にかざし、咲夜は呟く。
スペルカード。幻想郷における決闘で使われる技、スペルを放つ前に宣言と共に掲げるカードである。
246瀟洒な使い魔 第4話 7/10:2009/11/11(水) 14:26:15 ID:NKoDj5KT
―――時符「プライベートスクウェア」―――

その言葉と共に、咲夜の周囲の動きが突然スローになる。
周囲の時の流れを遅くし、その中で自分のみが通常の速度で動く咲夜のスペル。
咲夜以外の人間には、咲夜が超高速で動いているように見えるだろう。

『時間を操る程度の能力』

それが、只の人間でしかない十六夜咲夜を化け物揃いの紅魔館のメイド長たらしめている能力である。
咲夜はゴーレムの腕を駆け上がり、肩に立っている人影の両腕めがけナイフを投じた。
殺しはしないが、最低限魔法が使えないように腕の腱を狙う。

「よし……っ!?」

ナイフは間違いなく人影に食い込んだが、音がおかしかった。
はっとして目を凝らせば、肩に乗っていたのは人の形をした人形。明るいところで見ればすぐばれる程度のものだが、
夜と言う時間、月光を背にして立っており、さらに距離もあったため気づくのが遅れてしまったのだ。
フーケは『土』系統の魔法を得意とするメイジ。自分の身代わり人形を仕立てるくらいは訳も無いのだろう。
そして、周囲の速度が通常に戻る。『プライベートスクウェア』の効果時間、5秒が経過したのだ。
直後背筋を悪寒が走り、咲夜は空中に飛び上がる。その後を追うようにゴーレムの体から数本の土の槍が伸びた。

(肩に乗っていたのはフェイク、でも今のタイミングは間違いなく目視していないと出来ないもの……
 なら、フーケはどこに……)

咲夜は周囲に目を凝らす。あの状況でゴーレムの上にいた自分を目視できる場所と言うと多くはない。
例えば高所。塔の屋上のような……

「―――そこっ!」

振り向き様にナイフを投げると、一瞬早く本塔の屋上からローブを被った人影が跳ぶ。今度は本物のフーケのようだ。
追撃しようとする咲夜とフーケの間をさえぎるようにゴーレムが腕を伸ばし、フーケを確保する。
咲夜は宝物庫の穴の前に滞空し、隙を伺う。『プライベートスクウェア』はさっき使った。そうすぐには使えない。
ならば、ぶっつけ本番だが試してみるのも良いか。咲夜はナイフを収め、デルフリンガーを抜き放った。

「ようやく使ってくれるか相棒! 俺ぁ頑丈だ、少々乱暴に使ってくれても構わんぜ!」

「なら、遠慮なく」

フーケ目がけて全速で突っ込むが、それをさせじとゴーレムが腕を伸ばす。
―――狙い通り。咲夜は薄く笑みを浮かべると、デルフリンガーを振りかぶり、目にも留まらぬ斬撃を繰り出した。

―――傷符「インスクライブレッドソウル」 ―――

蒼い魔力の尾を引き、デルフリンガーが縦横無尽に空を走る。
咲夜を握りつぶさんとしていたゴーレムの腕が、斬撃の軌道に触れた瞬間、前腕部の中程までが切り刻まれ土に返った。
咲夜の試そうとしていた事。それは、『ガンダールヴの能力と自分のスペルの融合』であった。
本来この『インスクライブレッドソウル』は両手に持ったナイフで繰り出す技であるが、
ガンダールヴの能力と併用すれば、デルフリンガーのような剣でも繰り出す事が可能ではないか?
そう思い試してみたが、見事に成功した。
咲夜の持つスペルは大別して2種。主に能力を用いたスペルと主に自分の技術を用いたスペル。
どうやら、後者のスペルととこのルーンは非常に相性が良いようだ。
これならば射程や範囲を拡張した上位スペルである『ソウルスカルプチュア』でも十分応用が効くだろう。
確かな手応えを感じ、咲夜はくすりと小さく笑う。
247瀟洒な使い魔 第4話 8/10:2009/11/11(水) 14:27:01 ID:NKoDj5KT
「ヒュー! なかなか景気のいい技じゃねえか! っと、相棒! 腕が再生しやがったぞ!」

デルフリンガーがその威力に快哉を挙げ、土煙を破って再生した腕が咲夜へと向かう。
咲夜は接触直前にデルフリンガーを前方に投げると、そのままデルフリンガーの周囲の時間を加速。
それによって威力と速度を増したデルフリンガーは掌を軽々と貫通し、フーケへと向かう。
慌ててフーケが足元の土を使って壁を作り、壁に突き刺さったデルフリンガーの切先がフーケの鼻先1サントで停止する。

「チッ、あと少しだったんだけどな! それにしてもフーケよ、お前さん一つ忘れてねぇか?」

デルフリンガーの意味ありげな言葉に、ローブの奥のフーケの眉がひそめられる。
その言葉の意味にフーケが気付いたのと、一瞬前までフーケがいた場所にキュルケの放った火球が炸裂したのはほぼ同時であった。

「まったく、サクヤだけに見とれてないで、私も忘れないで欲しいわね」

ゴーレムから少し離れた地面で、キュルケが不敵に笑う。
フーケは歯噛みした。このメイドだけでも厄介なのにトライアングル相手じゃ分が悪い。
あの風メイジの小娘が戻ってこないうちに逃げるか……? だが、こんなありえない幸運を逃す手も無い。
こうなったら多少強引にでも押し通る! フーケはゴーレムを動かす。行動は単純、片足を挙げて降ろす。それだけだ。
地響きと共に地面が揺れ、地面に立っていたキュルケとルイズが体勢を崩す。
ラッキーなことにあのメイドもそれに気を取られて一瞬動きが止まる。好機。フーケはゴーレムに新たな指示を送る。

「しまった……!」

「やべぇぞ相棒! フーケの野郎、強引に押し通る気だ!」

ゴーレムの肩口で突き刺さったままのデルフリンガーが吠える。
あのまま攻めていればあるいは捕縛できたかもしれないが、転んだルイズたちに一瞬気をとられたのが失敗だった。
キュルケも呪文を唱えているようだが、それよりはゴーレムのほうが早いだろう。
ゴーレムが腕を振りかぶる。対抗すべくスペルを使おうとするが、その時。
目前で起こった爆発に咲夜の体が塔に叩きつけられ、後を追うようにしてゴーレムの拳が咲夜ごと宝物庫に開いた穴に叩き込まれた。



「あ、あぁ……」

ルイズは呆然としていた。咲夜を援護しようと魔法を唱えたら、いつものように意図とは違う場所で爆発が生じた。
フーケではなく、咲夜を巻き込んで。その直後にゴーレムの拳が叩き込まれ、咲夜は拳と共に宝物庫の中へと消えた。
声が出ない。体が震える。心を喪失感が満たす。自分のせいだ。自分のせいで咲夜が。
いつもこうだ。何かをすれば裏目に出る。それが、よりによって今起こってしまった。
何で自分は魔法を唱えてしまったんだろう。唱えなければあるいは自分で何とかしてしまったかもしれないのに。
咲夜を援護しようと思ったから? 違う。フーケを倒したかったのだ。
フーケを倒し、捕まえられれば私は『ゼロ』のルイズなんて呼ばれなくなる。
それに、悔しかった。さっき咲夜はキュルケに言った、自分の事を頼むと。
その時、思わず自分の頭に血が上った。自分はそんなに信用されていないのかと。
その後にキュルケが咲夜の援護をしたのを見て、思ったのだ。自分にだって出来る。自分は『ゼロ』じゃない。

―――自分は、役立たずではない。
248瀟洒な使い魔 第4話 9/10:2009/11/11(水) 14:28:00 ID:NKoDj5KT
だが結果はどうだ? 自分のせいで咲夜はゴーレムの餌食になり、自分の無様さを思い知っただけだ。
自分の無能さと、それを認めようとしない分不相応なプライド。それがこのような結果を招いてしまった。

―――結局のところ、自分は『ゼロ』なのだ。

そんな思いと共に、過負荷に耐えかねたルイズの意識は一旦闇に落ちる。
薄れ行く視界の端に、銀色に輝く光の束を見たような気がしながら―――



ルイズが意識を手放すより少し前、咲夜は宝物庫の中に居た。
ゴーレムの拳が当たる直前、身体を丸めて宝物庫の穴の中に飛び込んだのだ。
もっとも無傷で済んだわけではなく、右腕と右足があらぬ方向に曲がっている。折れたらしい。
改めて確認してみれば肋骨の辺りも酷く痛む。折れてはいないようだが、ヒビ位は入っているかもしれない。
これでは立つのは無理だろう。宝物の乗っていた台に背を預け、穴のほうを見た。
ゴーレムの腕が抜け、ローブの人影が入ってくる。フーケのようだ。

「今ので生きてるとはねぇ。悪運が強いというか、運が悪いと言うか。
 下手に実力があるってのも考えもんだね」

咲夜はその声に覚えがあった。数日寝床を共にした相手でもあり、昼に軽くとはいえ会話した相手。

「その声……ミス・ロングビル?」

「ご名答。あたしが巷で噂の大泥棒、『土くれ』のフーケさ。
 さっきはヒヤッとしたけど、あんたがご主人様やお友達をスルーできるほど薄情者じゃなくて助かったよ。
 おかげで今こうしてここに踏み込めてる。あのお嬢ちゃんにも感謝しないとね、
 アタシのゴーレムでもブチ壊せない壁に軽々と穴あけてくれてさ」

ロングビル……フーケは、そういって後ろの大穴を示す。

「ご自慢の投げナイフもそのザマじゃロクに腕も振れないだろ? 何、恥じる事じゃないさ。
 あたし相手にここまでやったってだけでも十分賞賛に値するよ。
 もらう物だけ貰ったらさっさとおさらばするし、そこで見てな」

「生憎と諦めは悪いほうなのよ、コソ泥相手に遅れをとったとあっては私の沽券にも関わるしね。
 それに……打つ手が全く無くなったわけでもない」

その瞬間、フーケは違和感を覚えた。全く動いていないはずなのに、咲夜が遠ざかったのだ。
咲夜は台にもたれかかっており、片足が折れている。そんな事が出来るはずはない。
気のせいか、とも思ったが違う。実際に距離が開いているのだ。どちらも全く動かないままで。

「な……なんだい、こりゃあ!」

驚くフーケを尻目に、距離はぐんぐん離れていく。
実を言えば、これも咲夜の能力の内である。咲夜が操るのは時間だけではなく、空間もその範疇に入る。
部屋の空間を拡張して広くする、といった事は容易い事なのだ。

(とはいえ、これも時間稼ぎにしかならないわね。何か手を打たなければ……)
249瀟洒な使い魔 第4話 10/10:2009/11/11(水) 15:01:20 ID:JbWtngaw
その時、咲夜の手に何かが触れた。背にしている台から落ちた物のようだ。ふとそれを手にとって見る。
それは八角形の箱で、上面に開いた穴を囲むようにして直線で構成された紋様が描かれている。
そして、咲夜はそれを見たことがあった。

「これは……どうしてこんなところに?」

咲夜の記憶にあるソレと同じ物かどうかは分からないが、こんな形状をしているものがそうそうあるとも思えない。
あるいはこれがあれば状況を打開する事が可能かもしれない。それを掴み、穴の開いている方をフーケに向ける。
使ったことはないが、使っているところなら何度も見たことがある。出来ない事はないだろう。
空間の拡張を一旦停止し、ナイフに能力を行使する時の要領でそれに力を込める。
先端から細い光が放射され、軌道上のフーケをすり抜けて外へと向かう。盗賊としての勘か、
突然自分をすり抜けていった光から抜けうとするフーケに、不敵な笑みを向ける。
勿論、フーケの動きに合わせて照準を調整するのは忘れない。

「多分死なないとは思うけど、もしそうなったらごめんなさいね」

そして、光の軌道に沿って閃光が走る。腕ほどの太さの銀色の光はさっきのお返しといわんばかりにフーケに直撃し、
そのまま外へと吹き飛ばす。吹き飛んだフーケは呪文を使う間もなくゴーレムに激突すると、
集中が途切れたのか大量の土砂となって崩れ去るゴーレムに飲み込まれていった。
咲夜が使ったのは、手の中のマジックアイテムを媒介に魔力を収束させて撃つ一種の魔法だ。
最も、咲夜は魔法使いではなく、骨折の激痛に耐えながらであるためか怪我を追わせるほどの威力もない、
スペルとも魔法ともいえないようなお粗末なものであったが。
咲夜の記憶にあるこのマジックアイテムの使い手がやっているようにしてみたが、
気力を振り絞ったためか酷く疲れた。こういった魔力で直接攻撃するタイプのスペルは自分に合わないのだろう。
ヒビの入っていたであろう肋骨がさらにずきずきと痛む。どうやら本格的に折れたようだ。
あの魔法使いのスペルを真似するのも癪だったが、おかげでフーケを撃退できた。
今ばかりはなぜかここにあったこのアイテムとあの魔法使いに感謝しよう。

穴の縁から地面に視線をやると、ミス・シュヴルーズを連れたタバサがようやく戻ってきたところだった。
いや、時間としてはそれほど経っていないのだろう。
懐の懐中時計を開いてみれば、まだここに来てから20分も経っていない。
キュルケは何故か気絶しているルイズを介抱しており、
フーケは崩れ去ったゴーレムを構成していた土の山の一箇所から足が出ている。
崩れた土がクッションになったようで大事は無いようだ。
生き埋め同然の状態だがすぐに助かるだろう。流石に死なれては寝覚めが悪い。

「やれやれ、これでなんとか一件落着、って所ね」

この痛みは流石に耐えがたい、それに、魔法もどきは思ったよりずっと力を消耗するようだ。少し休もう。
穴の縁にもたれかかり、咲夜はそのまま眠るように気を失った。
250瀟洒な使い魔 第4話 あとがき:2009/11/11(水) 15:04:11 ID:JbWtngaw
以上、投下終了です。前回代理投下・収録・レスを下さった方々、有難うございました。
メイド長こんなに弱くないよ! と思われるかもしれませんが、
今回の場合相性が悪いだけ、ということでご了承下さい。
余談ですが、スペル等の描写は主に緋想天などを参考にしています。
それでは、スレ&Wikiの皆さん、重ね重ね有難うございました。
それではまた。
251名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 15:15:40 ID:IHH4g079
作者さん&代理さん乙でしたー

なるほどwwだからこのタイトルなのかwww
252名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 15:28:20 ID:pyQ+wo+n
乙でした。
まぁ咲夜さんだと相性悪そうだしね。
253名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 16:55:59 ID:SAZYWdy3
ヒイロ召喚とか考えてるがこいつは目の前で着替えとかされても全くもって反応なさそうだしツマラナい作品になりそうだ

原作同様にはっちゃけてルイズを人質にして逃げるとかにしようか…
254名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 17:22:52 ID:7MMRUTD+
ウイングで地球に降下する途中で召喚とか?
それならノベンタ将軍が殺されず地球・コロニー間で和平が成立しそうなんだが
255名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 17:42:45 ID:SAZYWdy3
まぁノベンタさんも暗殺されそうではあるな

まぁやるならやはり感情を表にしないマシーンの頃のがいいが
余りにも任務に忠実なキャラだから動かしにくいのが難点

トリステインに転入してきたwとか考えたが無理ありすぎる
256名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 17:48:12 ID:IvYRpfyF
俺はかーなーり強い
257名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 18:17:15 ID:gcCrUVa3
ルイズ「ヒイロォー   はやくあたしを殺しにいらっしゃぁい!」
258名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 18:19:39 ID:lpPghnnj
瀟洒の人と代理投下の人、乙かれさまです!
確かに咲夜さんだとゴーレムのような敵には四苦八苦しそうだな…
259名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 18:41:08 ID:leY4TJdo
精神が成熟した頃のヒイロは割りと書きやすそうではあるが
なんというか無難な展開にしかならなさそうなんだよな
260名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 18:59:12 ID:S+mmCs4k
五飛がいるじゃないか
261名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 19:31:42 ID:sNRVHvg9
ヒイロと聞いてすぐにゲームアーツな気分になった俺は明らかに少数派。

>トリスティンに転入
何故かタバサポジションにいたりするのかw
ちょっと面白そうだw
262名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 21:01:03 ID:KWoMog9M
おくればせながら瀟洒の人と代理の人、乙ですー。
そうだね、咲夜さんにはあの手の大質量攻撃は相性悪いね。
紅魔館組だと近接格闘系の美鈴も相性悪いといえば悪いのかな?
紅寸剄とかでぶち壊す、とかやりそうではあるけど。
263名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 21:56:29 ID:7MMRUTD+
ヴァリアントとシーラックごとマフティーの皆さんを召喚

ガウマンやエメラルダに弄られながらハサのご主人様に勤めるルイズが浮かぶが
連邦もいない世界でどこに付くかがね
264名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 22:05:47 ID:t3s2KKUi
装甲悪鬼村正から

湊斗景明+村正 or 村正

を召喚して、スラッシュダーククロスSSを展開しt(ry
265汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:46:11 ID:TzT7qo/P
代理スレも埋まってきたなぁ。
規制の波はいつ終わるやら。
ってなわけで、22:50ごろから代理行きます。
266汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:50:09 ID:TzT7qo/P
代理開始です
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 二人のダイジュウジ クザクという存在は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって奇妙な存在であった。
 平民と定義するにはちょっと無理があると、数日経ってルイズは思い直していた。

 まずは少年の方のダイジュウジ クザク。
 白銀に薄い藍色を混ぜたような煌めく髪を、腰より長い三つ編みで一纏めにして赤いリボンで留められている。
 瞳の色は碧、目元はパッチリ大きく、それでいて緩みが見えず引き締まっている。
 鼻筋や口元もきれいな形で、輪郭も同様。
 目立つ赤いマントを羽織り、衣服もかなり仕立てが良い物だとわかる。

 ここまで言えばわかると思うけど、ダイジュウジ クザクは『美人』。
 顔だけ見れば中性的と言って良い、だが軟さをまったく感じさせない。
 立ち振る舞いも堂に入り、平民には見えない。
 すごく立派に見えるのだ、貴族と紹介されれば素直に信じるほどに。

 そんなクザクに向けられるのは『熱い視線に黄色い声』。
 紳士的で姿も美しく、異世界のものとは言え礼儀もしっかりと弁えている。
 ギーシュともう一方のクザクとの決闘に、割り込んだ時に見せた力の一端もあって認識はすぐ変貌した。
 駆け巡る噂は『実は高位のメイジ』、『大貴族の子息』、『王族の血を引く子弟』と根も葉もない噂話が飛び交っていた。
 噂はどうあれ、少なくとも美形で強いと言う事が女子生徒の心をくすぐった。

 そんな噂が飛び交えば、事実かどうか気になる者たちも居る。
 そうして噂を確かめようとする者、良い思いを抱いていない者にクザクに手を出した。
 飛び交う噂なんて信じられない、私が呼び出したからどうせ『無能』だろう。
 単純な考えで決闘を突き付けた、だが当のクザクは突き付けた当人の目の前で決闘を断った。

『なぜ汝と決闘を行わなければならぬ』、と。

 尤もだった、決闘を申し込んだ貴族とクザクは初対面。
 話すどころか見た事さえ無い相手と戦わなければならないのか、まったくもって理由が無かった。
 そう返せば相手の貴族は馬鹿にした口調で『怖いのか』と言う。
 ギーシュともう一方のクザクとの決闘を見ていればそんな事は言えなかっただろう、見ていなかった故の言葉。
 挑発と取れる言葉の前にクザクは淡々と返す。

『そう思いたければ思うが良い、汝が何と思おうとも我は我であり変わりはせぬ』

 話は終わり、そう言う様にクザクは踵を返して歩き出す。
 それを見た男子生徒は声を上げて、やっぱり平民だ、逃げたのなんだと言い触らす。
 それでもクザクは僅かにも歩く速度を緩めず、その場から去っていく。
 クザクの姿が完全に見えなくなり、置いてけぼりにされた男子生徒は多少なりとも怒りが表情に浮かんでいた。
 散々喚き扱き下ろした後、その場を後にしようとした男子生徒の前に一人の紅が降りてきた。

『受けましょう、その決闘』

 凄惨な笑みを浮かべて降り立ったのはもう一方の、少女の方であるクザクだった。
 クザクと同じの顔の、瞳は血のように紅く、着る衣服も真紅で彩られたドレス。
 どう言う事か、スカートも赤なのだけど半透明、多少目を凝らせば下着が見えるくらいの半透明。
 どういう神経かわからない全身赤尽くめの少女は、クザクが代わりに決闘を受けようと言い出した。

 笑みを浮かべるクザク……、ええいわかり難い! 赤い方が笑みを浮かべたまま男子生徒を見る。
 赤い方の容姿に一瞬見惚れたのか、ぼけっとしていた男子生徒は我に返り『君に申し込んだんじゃない』と言ったが。

『いいえ、ダイジュウジ クザクに決闘を申し込んだのでしょう? ならば、ダイジュウジ クザクの私が受けて何の問題もありはしないわ』

 さあ、はじめましょう?
 そう言った時には男子生徒の周囲に立ち上がるのは、ゴーレム。
 先日ギーシュとの決闘時に見せた鮮やかな色彩の鉄で出来たゴーレム、それが瞬時に現れ形作って男子生徒の全方位から拳を放った。
 半殺しでは少なく、全殺しには多すぎる、ピクリとも動けないほど男子生徒を殴り痛めつけてゴーレムは土へと還った。
 ……小さな呻き声が微かに聞こえるから、意識はあるんだろうけど……かなり痛そう。
267汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:51:08 ID:TzT7qo/P
『つまんないの』

 顔面が腫れ上がり倒れ伏す男子生徒を見下し、空へと浮かび上がって見えなくなる。
 決闘とは言えない、杖を握る間も無く一方的な攻撃のみで終わった。
 その場に居合わせたギャラリー、赤い方が居なくなってようやく思い出したようにその男子生徒へと駆け寄る。
 ……改めて見ると凄過ぎる、ゴーレムを作り上げてから錬金で変化させるのだが、それが異常に早い。
 知識があるからと言ってこんな簡単に使えるものなのか、ギーシュより凄いちいねえさまが作るゴーレムより断然早い。
 私も魔法が使えるようになったら、あんな風に軽やかに使えるのだろうか。

「とか考えているでしょう?」
「ひあっ!」

 いきなり背後から耳に吐息を掛けられた。
 反射的に耳を押さえながら背を丸め、前に逃げた。

「ちょ、何すんのよ!」
「あら、気持ちが良かったの?」
「んなわけないでしょ!」

 廊下の端から覗いていたにも拘らず、後ろから今さっきまで聞いていた声。
 離れてから振り返れば、クスクスと笑いつついつの間にか居た赤い方。

「何か分かったのかしら?」
「……見てたの分かってたのね」
「わからないものですか、たとえ百万の視線が有っても意図して見るみる視線ならすぐにでも」

 まったく騎士殿はお優しいこと、と宙に浮かんで足組み。
 クザクのほうも分かっているような口ぶり、実際分かってるんだろうけど。

「それでぇ、数日我慢してきてぇ、心境のへんかはぁ、あったのかしらぁ?」

 何も分かっていないでしょう? と如何にも言いたげに馬鹿にした声と笑み。
 『ここは……我慢よ』と何度もそうして耐えてきたクザクの言葉を思い出し、奥歯がギリギリなるように歯を食いしばって赤い奴を見る。

「ふん、あんたになんか教えてやるもんですか」
「……いいわねぇ、その顔。 随分と溜まっているじゃないの」

 顔を逸らす、こんな事言う奴に顔を見られるのが癪に障る。

「言わなくても分かるけどー」

 笑いながら浮かび上がり、窓を潜って外へと出る。
 くるりと身を回して振り返る赤い方、こちらを向いてから指を向ける。

「岐路に立つのは貴女、決めるのも貴女」

 そのまま一気に視界から外れ消える。

「くっうぅー! むかつく!! 何が『決めるのも貴女』よ!!!」

 と地団駄を踏みながら、居なくなった赤い方に向けて届かない唸り声を上げた。
268汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:52:07 ID:TzT7qo/P
「嫌がっていた割には随分と構うではないか」
「女の言葉は本音と建前が完全に分かれているのよ」
「汝が言うとどうも違うような気もするが」

 腕組みして寮の屋根に立つのは九朔、その隣で浮かんでいるのは紅朔。

「……やはり興味はあるか」
「無いと言ったら嘘になるわ」

 母上ですら知り得ないアカシック・レコードへのアクセス方法。
 全ての知識とともに、全ての『夢』が詰まっているモノ。
 『出来るかも』知れないと言うだけで、好からぬ者たちが寄ってくるかもしれんな。

「それで、顛末を知りたいか」
「ただの人間がどこまで至れるか、もしかしたら御父様たちのように成るかもしれないわね」
「……本当に至ると?」
「あれ次第よ」

 視線を下に向ければ主殿が大股で歩いていた。
 随分と我慢で怒りが溜まっているようだ、その内の半分以上は紅朔だろうが。
 お陰で予想以上に早く限界を迎えるかもしれない。

「あの歳で我慢を覚えさせるって、子供よねぇ」
「人の事は言えまい」
「どっちかって言うと癇癪ね……、結局は我慢に行き着くけど」
「どうにかして始祖の遺品を手に入れなければな……」
「盗む?」
「可能であってもやるべきではないだろうが」

 十中八九成功しそうなのがまた性質が悪い。

「地道にやっていくの? その前に破裂しちゃうかも!」

 胸の前においた両手を一気に開き、破裂を表した仕草をして哂う。

「本当にそうなるかもしれんから、あまり挑発はするな」
「なぁーんにもないお子様のままでもいいじゃない、公爵家の血が欲しいって奴らも沢山居るでしょうし」

 この程度いくらでも耐えれないと、力を持ってもすぐ壊れちゃうわよ。
 と足を組み替え、主殿を嘲笑う。

 確かに予想通りの力を持つならば、人でありながら人を通り超えて『神智』を手に入れることになる。
 人が持つには巨大すぎる、不相応としか言えぬ力。
 力に狂いおぼれ、破滅を引き寄せることになりかねない。

「それも一つの未来か」

 主殿の望みに反するが、このまま魔法を使えずに居て。
 どこかに嫁げば多少は影で蔑まれるだろうが、貴族でも上の暮らしで平穏に過ごせていけるだろう。
 そういう点ではこの未来の方が幸せかもしれない。

「でも薄いでしょうねぇ、可能性を告げちゃったしぃ」
「既に一度魔法を成功させておる、……告げるのは早計だったか」
「魔法の味はあまいあまぁーい蜂蜜かしら? それとも砂糖? メープルシロップなんてのもありよねぇ」

 召喚魔法を成功させた時に感じた喜びは、極上の味。
 快楽となってルイズの心を振るわせた、それは心に軛を打ち込んでよりその快楽を求める。
 渇望、乾き切ったスポンジに水滴を落とすように、乾き切ったひび割れた大地に雨が降るように。
 まるで中毒、それを望んで望んで、それしか考えられなくなるような『魔法中毒』。
269汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:53:33 ID:TzT7qo/P
「言い過ぎではないか?」
「魔法に御執心ですもの、今はそうでなくともいずれそうなるかも知れないわよ」
「そうかもしれんがな……」

 我慢と言っても限界がある、紅朔が言うように破裂する前に何らかの発散方法を用意しておかねばならんか。

「……最悪マギウススタイルを使ってもらえばいいかもしれんな」

 とつぶやきながら横目で隣を見る。

「えー、嫌よそんなの」
「汝にも一因がある、それに最悪の場合であるからすぐにはそういう事態にはなりはすまいが」
「絶対嫌よ、何であんなちんちくりんをサポートしなきゃいけないのよ」

 下、視界に映る主殿が左右を見回していた。
 よもや紅朔の声が聞こえたのではなかろうか……。

「ともかくだ、何らかのストレス発散方法を用意しておかなければならん」
「騎士殿が背負って飛び跳ねてあげれば? 絶叫マシンも真っ青な悲鳴を上げるんじゃないかしら」
「逆に溜まるだろうが!」

 はぁーとため息を吐きつつ下を見れば、主殿に近づく少女が一人。
 腰ほどもある赤い髪をなびかせて近寄るのは主殿の学友、ミス・ツェルプストー。
 近づいている事に気が付くやいなや、随分と渋い顔を作る。

「あれも原因でしょう?」

 紅朔の指先はミス・ツェルプストーに向いている。
 何か主殿と話しており、どうにもよさそうではない雰囲気が窺い知れる。

「それもそうだが、紅朔ほどではなかろう」
「あらやだ、随分と優しくしてあげてるのに」

 あれでか。

「本気でやったら壊れちゃうかも」
「………」

 本気かと視線をやれば、アンニュイな表情で肩を竦める紅朔。

「とりあえず今後についても十分に考えなければな」
「それは騎士殿が考えてくださいな、私は関係ございませんので」
「理解しておる、有事の際は手を貸してもらうだろうが」

 主殿が知る世界の知識から見るに、危険と言えるのは亜人や怪物、高位のメイジや人間同士が争う戦争程度だろう。
 無論主殿は全てを知っているわけでもない、継続して情報を集めておかねばならんな。

「お次の行事は何でございましょうかね、怪しい森にはびこる怪物退治? それとも可憐なお姫様の護衛?」
「どこからそんな事に繋がると言うのだ……」
「全てのものはか細い、息を軽く吹きかけただけで切れる糸で繋がっているのよ?」
「縁とは無限に連なる糸か、そうであっても……繋がるかもしれんか」

 腕組みを解き、会話が終わったらしい主殿とミス・ツェルプストーを見る。

「謎を解く手掛かりになるだろう」
「その時は喜んで手を貸しましょう」

 言葉を発さない代わりに怒りの形相でミス・ツェルプストーから離れていく主殿。
 それを見送りながら呟くミス・ツェルプストーの声を拾う。
270汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:54:28 ID:TzT7qo/P
「……なるほど、敵ばかりではないと言う事か」
「ああ、麗しきは友情。 と言うことかしら」
「悪い事ではあるまい」

 軽やかに飛び上がり、屋根から飛び降りる。
 着地点はつい先ほどまで主殿が居た場所の近く、つまりはミス・ツェルプストーの数メートルの目先。
 地面に僅かながらの窪みを作って降り立つ。

「なっ!?」

 いきなり落ちて来た事に驚き、声を上げるミス・ツェルプストー。
 上と我を何度か交互に見る。

「その気遣い、真の感謝を」

 向き直ると同時に一礼、優雅に思いを込めて頭を下げる。

「え? え? なに? ちょっと、まさか……」
「主殿はミス・ツェルプストーにあまり良い感情を持っておられぬ、だが貴女はそれを気にせず声を掛けてくれる」
「……さっきの、き、聞いて……」
「ミス・ツェルプストーには、これからも主殿に気に掛けてもらいたい。 出来れば優しい言葉の一つもあれば尚のこと」

 聞かれたく無かったのであろう、驚きで手を口に当てている顔に朱がさしていた。

『あのルイズが召喚を成功させたんだから、ほかの魔法もきっと使えるようになるわ』
「紅朔! ……それではミス・ツェルプストー、失礼を」

 ミス・ツェルプストーは響いてきた声に驚き、周囲を見渡すが誰も居ない。
 隠れて心の声を代弁している気なのだろう、窘めてもう一度頭を下げて背を向け歩き出す。

「こう言う事について茶化すのは止せ」
『あら、ごめんなさいね。 お詫びはピンクブロンドを口で侮辱して、心の中では褒めてあげる権利を差し上げるから許してね』

 言いながら『ニトクリスの鏡』で周囲の空間に溶け込んでいた紅朔が、九朔の隣に浮かび上がった。
 つまらぬ事で魔術を使うでない、そう言ってもニヤニヤと笑うだけで返事を返さない紅朔。
 どうせミス・ツェルプストーの驚いている表情を見て楽しんでいるだけだろう。
 内心何度目か分からない溜息を吐き、驚いたままのキュルケを放置したままその場を後にした。
271汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:55:29 ID:TzT7qo/P
「……いきなり落ちてくるなんて普通思わないでしょう」

 呟きながらも、姿勢をまっすぐに歩いていくルイズの使い魔を見送る。
 その隣には先日ギーシュと決闘を行った紅い少女。
 どちらも強力な存在だと認識している。
 手だれの一個中隊規模の傭兵を簡単に蹴散らすだろうゴーレム、それを高速で数十と作り上げてなお平然とする紅い少女。
 そのゴーレムの強烈な、ギーシュがそのパンチを顔面に受けていたなら、確実に死んでいただろう攻撃を左手一本で簡単に止めたもう一人の少年。

 正面から対峙して勝てるかどうかと言われれば極めて薄いと判断する。
 紅い少女が作り上げるゴーレムを一体破壊している間に数十のゴーレムが出来上がり、すぐにでも群がられるだろう。
 少年のほうも素早い動きをするゴーレムとギーシュの間に割り込んだ事から、魔法を当てられる自信がない。
 と言うか姿を消す魔法なんて見た事も聞いた事もない、それ以前に魔法を使うための杖すら持っていない。
 まさか先住魔法? でも魔法を跳ね返すとかは聞いたこと有るけど、姿を消すなんてものはこれっぽっちも聞いた事がない。

 思案しながら上、少年が降りてきた寮を見上げる。
 開いている窓はなく、多分屋根から下りてきたんでしょう。
 となると10メイル以上ある高さからフライ無しで降りてきたとしたら、またとんでもない。
 普通足が折れてもまったく不思議じゃないのに、平然としていた様子。

「……本当に、何召喚してるんだか……」

 どっちもどっち、普通ではない使い魔を召喚したルイズは一体何なのか。
 メイジであってもそうやすやすと出来る事ではない。
 そういう意味ではまったくもっておかしな人物たち。
 見た限りでは悪意的、敵意的ではないことにひとまず安心するキュルケであった。





「それで?」
「聞きたい事ははっきりと申せ」
「……キュルケと何話してたのかって事よ」
「余り主殿をいじめないでくれと頼んだだけだ」

 そう言えば主殿は睨んでくる、しっかり見てたのだろう。
 場所は主殿の部屋、椅子に座って問いてくる主殿と、立ったままそれに答える我。
 紅朔はベッドに寝転がってどうでも良さそうにしていた。
 勝手にベッドを使っている事を窘めるのを諦めたのか、主殿は紅朔を相手にしないようにしていた。

「そんな事言ってもキュルケが聞くわけないじゃないの!」
「確かに、聞かぬであろうな」

 むしろ推奨した事になるだろうな。

「だからと言ってむざむざ放っておけと? それこそ見過ごせん」
「え?」

 今はまだそのような時ではないが、いずれ主殿が魔法を使えるようになった時に傍に居る者。
 信頼できる友が居ると居ないとではかなりの差が出るであろう、そういった面で内心心配をしているミス・ツェルプストーなら変わらず友で居られるかもしれん。
272名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 22:55:55 ID:EzZjW50k
>>264
善悪相殺の理から瀕死のウェールズに止めを刺してしまう村正ルイズと、
深い悲しみを超えて絶対の正義に目覚める正宗アンアンの話ですね?
273汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:56:29 ID:TzT7qo/P
「あのままではいかん、聞く聞かないという事より留意させる事に意味がある」
「留意?」
「うむ、ミス・ツェルプストーは婦女子方からあまり人気がないのだろう?」
「人の彼氏取るような奴だし、好かれる訳ないでしょ」
「憎まれ口を叩くのも限度がある、負の感情を纏い過ぎる良くないものも寄ってくる」
「で?」
「一石二鳥、であるな」
「なにそれ」

 どちらにとっても悪くはない話。
 ミス・ツェルプストーに友が居るかどうかわからぬが、対等に付き合える友が居ることは悪くはない。
 本当に対等に見合えるか、それもしっかりと確かめておかねばならないが。

「どういうことよ、いっせきにちょう? なによそれ」
「一粒で二度美味しい」

 ぼそりと呟く紅朔、声に反応して振り向きかけた主殿が、振り向くまいと相当な力を入れて顔を正面へと戻した。
 それを見ていた紅朔は笑い声を漏らす。

「そこまで主殿が気にすることではない」
「気になるでしょ! 私の使い魔があのバカ女と話してるなんて! なに、それとも言えない訳!?」

 と怒りの形相で顔を突き出してくる主殿。

「そうではない、先ほど言った通りあまりいじめないでくれと頼んだだけだ」
「それじゃあキュルケはなんて答えたのよ!」
「言ったであろうが、聞く聞かないより留意させることと。 返事を貰わずに戻ってきたわ」
「……本当でしょうね」
「嘘は付いておらぬ、誓えとあらば誓おう」

 我の言葉に眉をひそませ思案顔。

「……いいわ、信じるけど」

 一息区切り。

「いい!? キュルケと付き合っちゃだめよ! あんな尻軽女と合わせてたら……」

 言葉が出ないのか、歯軋りするように歯を食いしばっていた。

「分かっておる、必要以上に接しはしない」

 如何に長年の因縁があるとは言え、ここまで露骨に嫌悪を表すのも如何なものか。
 少なくともミス・ツェルプストーの気掛かりは、主殿に対して良い効果を上げていなかったようだ。
 どうもここら辺の間柄も気を付けねばならないか。

 これ以上心配事が増えなければ良いのだが、と来る未来に不安が募る九朔であった。
274汝等、虚無の使い魔なり 代理:2009/11/11(水) 22:57:16 ID:TzT7qo/P
以上、代理完了。
お疲れさんでしたっと。
275名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 23:10:17 ID:CylY5Hyt
まとめページの物でモンスターハンターネタって短編しかないけど、
長編になるとした場合ならどーいう形式になるんだろーか
「聖地」が既にモンスター生息地の野生地帯になっていたり
レコン・キスタの侵攻でなくラオシャンロンの進行上にトリステインがあったり
デルフリンガーが強化されて龍属性入ったり
「ブリミル(&使い魔3名)vsアカムトルム」という太古の死闘なんかあったり
276名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 23:11:49 ID:RGWQ1QZC
>>257
そのセリフはウチのルイズが召喚した子が言うであろうセリフだw
277名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 23:23:59 ID:JgUncKzx
MS持込は駄作になる可能性が高いと思うぞ
278名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/11(水) 23:42:42 ID:pyQ+wo+n
九朔の人乙でした。
九朔ガンガレ。超ガンガレ。
279名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 00:38:51 ID:T5lNUS+E
人造人間・・・つ、つよすぐる・・・
280名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 03:26:20 ID:MMW9qEXP
九朔の方、乙です。

ただ説明に終始して、物語がほとんど進んでないような・・・・・・
281名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 09:00:30 ID:OIyHXb0/
遅れたけど夜闇の人乙
柊はガンダールブなしでデルフ使うのかな?
282名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 09:56:51 ID:JVia1/cG
他の虚無は原作通りなのか主八界からくるのか。
…教皇がグィード呼んでたら笑うw
283名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 11:10:28 ID:mnta8hji
ルイーズ・ボルシア
284名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 11:32:38 ID:TcmJNirJ
グィードとヴィットーリオが愛人関係と申すか

「また、あなたに苦労を背負わせてしまいますね」
「何を今更、だなMyスウィート。気にするでなぁい」
「そうでしたね。では、後のことを頼みましたよハニー」
「んっふっふっふっふ、まぁかせたまえ。さあ!正義を成しに行こうではないか!ジュリオ!竜をまわせぇい!」

…あんまり違和感無ぇな
285名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 11:34:50 ID:bm3uUZSo
風呂敷広げて複数キャラ召還すると大概ロクな事にならんだろ

どうせ完結しないんだから好きにすればいいとは思うけどな
286名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 12:44:29 ID:fM+kS4Dp
北斗有情拳で葬られるジョセフってシチュ的に美しくね?
狂気に走りながらも、最期だけは安息の中で絶命する狂王みたいな(破顔拳はアレだが)

ワルド?
ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォ(ry
287名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 12:49:42 ID:SYygcAZ8
有情拳はある意味一番残酷だと思うぞ…
誰もアヘ顔見られながら死にたくはないだろw
288名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 13:32:39 ID:+Vof05/j
>>287
こっちもアヘ顔になって爆裂する男とか見たくねぇ
289名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 13:34:51 ID:4xVoQBBa
ゲキリュウニミオマカセドウカナギッテンショーヒャクレツッナギッペシペシペシペシペシペシ……
290名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 13:38:06 ID:3GwzEpVO
そもそも有情なら殺すなよと来るからな
ケンシロウがチンピラに使った筋力を下げて悪さをできなくさせる技のほうがよっぽど有情な気がする。
そういえばロマリア二人組がいい役の作品ってあったっけ?
出す作品自体が少ない上に、なんか鬼畜同然の極悪人か狂人ばっかりな気がする。
ジョゼフやワルドでさえきれいなのがあるのに…
291名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 14:22:02 ID:SYygcAZ8
日本人は基本的に一神教的な信仰持つ人に軽い忌避感あるからなあ
292名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 14:23:55 ID:qxigOirP
2人とも何考えてるか分からないからな
293名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 15:02:55 ID:r+vAWD60
>>286
北斗有情猛翔破の間違いじゃね?
294名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 15:24:17 ID:Oh5YUq8M
>>282

むしろ魔物使い的に要いのり?……

ガンダールブ・グィード=ボルジア(一応剣も使う
ヴィンダールブ・要いのり(魔物使い
ミョズニトニルン・アルゲル(マジックアイテム=アレ
語ることすらはばかられる…上月永斗(一応柊サーガで出てきたことあったし!

とかいう田中天祭りが頭に浮かんでしまった
295名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 17:06:32 ID:fM+kS4Dp
むぅ?言葉が足りなかったみたいか?

有情破顔拳を食らってアヘ顔タコ踊りしながら絶命するジョセフは嫌だなーと思ったのよ
北斗有情猛翔破だったら一番良い感じに逝きそうだよな(サウザーの最期みたいな感じ)
296名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 17:09:41 ID:hmnT/b52
ルイズとエレに有情拳かまして爆裂前に解除(できるならだが)を繰り返したい
297名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 18:25:26 ID:x4nH83SB
死なずに気持ちよくなりっぱなしになる秘孔ぐらい開発しとけよ北斗め
298名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 18:54:00 ID:kLcdbEt5
>>294
いのり居ないと困る人がいるから
よく似た能力のモハメド・アヴドゥルさんにしよう
299名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 21:15:58 ID:S0NpV0IY
「エレオノール所長、ここからはあなたの役目を果たしてもらう」
「僕たちの苦しみをそのまま味わってのたうち回りながら死んでいく役目がね。じゃあ僕から行くよ、兄さん」
「オルバよ、私の分は残しておいて貰いたいな」
「了解だよ、兄さん」
300名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 21:18:41 ID:hmnT/b52
>>297
原作に出なかっただけであるんじゃないの
人体のありとあらゆる事に精通してる的に考えてw
301名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 21:40:42 ID:rjrWZCbu
>>299
真面目な話、そいつらを召喚したらどうなるのか



…どうしてもジョゼフと3人で腹の探り合いをしながら
悪事を働く姿しか思い浮かばないな。
302名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 21:45:12 ID:HSSsre7w
いや、やはり正道通りルイズに召喚させよう。

シャギア「私の主は凶暴です」
303聖帝軍正規兵:2009/11/12(木) 22:26:42 ID:NUorbtwX
いい感じに、ちにゃ!な話題を切るようでスマンが……

聖帝様が30分からご投下になるぞーーー!規制は消毒だぁーーー!スレを明けろーーーー!
304帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:31:04 ID:NUorbtwX
どんな夜にも必ず朝は訪れる。
腐敗と自由と暴力の真っ只中を生き抜く人々にも。
魔法が世を支配する世界を生きる人々にも。
そして、かつて南斗聖拳最強と呼ばれていた将星の男が居を構える場所にも当然朝は訪れる。

夢の世界の真っ只中の者。日々を生きるための糧を得るために起きだす者。
トリステイン魔法学院はただ一つの例外を除いて何時もどおりの朝を迎えていた。

魔法学院本塔。
先のフーケの襲撃で開いた宝物庫の穴(実際はルイズが開けたようなものだが)は応急的に塞がれ
何時もと変わらぬ様子を見せていたが、そのさらに上の塔の先端部分。

「……朝……か」
ここ最近の一連の騒動の主犯。世紀末非情の帝王こと聖帝サウザーがそこにいた。
もちろん、こんな場所で寝ていたわけでもなく、日の出を拝もうなどという殊勝な気が起きたわけでもない。
水鳥拳の闇闘崖よろしく、丸二日程立ち続けていただけの事である。

どうやら一昨日はフリッグの舞踏会というものが開かれていたようだが、別段興味など無い。
戦勝のためならともかく、舞踏会などという有象無象が集まるような物はサウザーにとって世紀末における紙幣ほどにもどうでもいい事だった。
気になった事と言えば、闇に紛れてあの竜とタバサがあらぬ方向へ飛び去っていった事ぐらいのもの。

あの炎の杖については、なんでも魔法衛士隊が半年程前に村を襲っていた集団を討伐した際の戦利品で
他にも鉄の馬(恐らくバイク)なども持っていたようだが、ほとんどが魔法で跡形も無く壊れてしまったらしい。
その被害たるや尋常な物ではなく、三つある衛士隊のうちの一つであるヒポグリフ隊は保有する
ヒポグリフを殆どが焼き殺され隊員もマトモに動ける隊員も半数以下という有様。
物的被害も大きく、小さな集落だけでも何箇所か灰燼と化したようだ。
モヒカンのバイタリティなら山一つあれば狩りでもして生きていけそうなものだが、そういう風に仕込んだのもサウザーである。
それを聞いたところで罪悪感が一片も沸くような聖帝様ではない。
なにせ省みないのが聖帝たる所以。
逆にそれは元々俺の所有物だという事で、今は丁寧に祭られたオウガイの遺体とは対照的に、サウザーの部屋の中に無造作に打ち捨てられている。

モット伯はと言えば、半恐慌状態だったところにサウザーの闘気を浴びたせいか精神を病んで勅旨を辞任する羽目になったと聞いた。
なんでも、暗闇に絶えられず常に明かりを灯していないと恐怖で発狂してしまうようだ。
夜な夜な、「暗ぁ〜〜い……暗ぁ〜〜〜い!」とかいう叫び声が館から聞こえるらしいが、そんな汚物がどうなろうと知った事ではないし興味も無い。

それに、最近入った情報ではアルビオンとかいう国で内乱が勃発しているとも聞いた。
存外、この世界もただ平穏というわけではらしい。

後、聖帝号(仮)は、依然として仕上げ中である。
完璧に忘れられていたギーシュだが一人寂しく泣きそうな顔で深夜に帰ってきた。
何も文句を言ってこなかったので、文句など一片たりとも無いのだろう。
まぁ、言ったら言ったで良くて嘲笑か、悪ければ『うわらば』するだけだと悟っているというだけの事だが。

兎にも角にも今の聖帝様の前には敵は無く、散々やらかした事を見れば結果は上々というところだ。
ふと、水平線の向こうから一匹の竜が学院に飛んでくるのが見えた。
近づくにつれ小さく青いのが見える事からタバサが戻ってきたと見える。
視線が合った瞬間、竜ががくりと大きく揺れて喚いているあたり、どうやら向こうも気付いてはいたらしい。
もっとも、まさか二日も同じ場所に居るとまでは思っていなかったようだが。

今日は面白い事がありそうだ。
なんとなくそう考えると、サウザーの顔には自然と猛禽類を連想させるような獰猛な笑みが浮かび上がっていた。

第二部
狂乱のアルビオン
第八話『汚物は消毒』
305帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:33:21 ID:NUorbtwX
同時刻。
ルイズは池に浮かぶ小船の中で揺られていた。
もちろん、学院に池があるわけでもなく、ここはルイズの夢の中。
その夢の中のルイズは幼く、小船の中で毛布にくるまっていた。

夢の中の場所はラ・ヴァリエール領地内の屋敷。
その中庭の島にかかる霧の中からつばの広い羽付の帽子を被りマントを羽織った立派な貴族が現れた。
「泣いているのかい?ルイズ」
年は十六歳ぐらいだから現実のルイズと同じぐらいだ。
帽子のせいで顔は見えなかったが、ルイズはすぐにそれが誰だか分かった。
「子爵様、いらしてたの?」
子爵と呼ばれた貴族を見るルイズの顔は少し赤い。
みっともないところを見られてしまったというのもあるが、彼はルイズの憧れの人なのだ。
「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話の事でね」
子爵がそう言うと、幼いルイズがはっきりと分かるぐらい頬を染め俯いた。
「まぁ!いけない人ですわ。子爵様は……」
「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕のことが嫌いかい?」
おどけた調子で子爵が言うと、夢の中のルイズは首を振った。
「いえ、そんなことはありませんわ。でも……。わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」
子爵の言うあの話というのは、子爵とルイズの婚約の話。
このルイズは六歳ぐらいの背格好だが、貴族の世界では幼いうちから婚約者を定めるという事は別段珍しい事ではない。
親に決められたとはいえ、ルイズにとって子爵は晩餐会をよく共にした憧れの相手であった。

ルイズがはにかんで言うと、帽子の下の顔がにっこりと笑い、そっと手を差し伸べてくる。
「子爵様……」
「ミ・レイディ。手を貸してあげよう。ほら、掴まって。もうじき晩餐会が始まるよ」
「でも……わたし、またお母様に叱られて……」
「安心しなさい。僕からご両親にとりなしてあげよう。それと君にプレゼントがあるんだけど、少しの間目を瞑っててくれるかい?」
ルイズが頷いて目を瞑る。
それが三十秒経ち、一分ぐらい経つとボキリ、ボキリと、何かを鳴らす音聞こえてきた

その音に反応して目を開けて視線を上げるとルイズの思考が止まりかける。
「子爵さ……ま……?」
線の細かった子爵の身体が、いつの間にか筋骨隆々になっていて指を鳴らしているのだからその反応は当然とも言える。
恐る恐る視線を上に上げていくと、その顔は子爵のものではなく、胸のあたりにある七つの傷と太い眉毛が特徴的な別人だった。

「あ、あんた……誰……?」
あまりの変貌にルイズが呆然としていると、続けて高慢かつ高圧的でルイズもよく知っている声がどこからか聞こえてきた。
「ふふ……南斗乱れる時、北斗現ると聞く」
それは数多のギャンブラーを尽く葬り去ってきた帝王。
まさに最強という呼び名に相応しい男が胸に七つの傷を持つ男の前に立ちはだかった。
「ふはは……帝王に愛などいらぬ!!」

愛ゆえに愛を捨てた男!!
   サウザー

ブァァァトル!開始ぃぃぃ!!

「はぁ!」
「あたぁ!」
やたらハイテンションな声で闘いの火蓋が切って落とされると、二人同時に蹴りを繰り出す。
ガガガガと、秒間16連打でPushボタンを連打する音が聞こえてくるのは多分幻聴。
とても人間同士の身体のぶつかり合いとは思えない程の音と衝撃がルイズを襲い吹き飛ばした。

306名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 22:33:57 ID:rjrWZCbu
支援
307帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:35:08 ID:NUorbtwX
「あべし!」
まるで経絡秘孔を突かれたヘビー級の元プロボクサーの断末魔のような声がルイズの部屋に響く。
その発生源は当然ながら、この部屋の持ち主であるルイズ本人。
「……うう、なんなのよ、もう」
鼻を押さえながらゾンビのように起き上がり愚痴をこぼす。
ベッドの上から転がり落ちたのだから痛むのは当然の事で、普段やたら寝起きが悪いルイズでもそりゃあ一発で目も覚める。

まだ起きる時間ではないものの、なにやら妙な夢を見たような気がして二度寝をする気にはなれない。
夢の内容を思い出そうとしてみると、何やら急に嫌な予感に襲われて考えるのを止めた。
具体的にどう嫌なのかというと、天井ブチ抜いた後にBonus1で無双モード突入して単発終了っていうぐらい嫌。

仕方なくクローゼットから着替えを取り出しもそもそと着替えを済ませたが、最近は何かにつけて気分が重い。
その原因は主にサウザーだ。
召喚の日から結構な日数が経つが、未だに契約出来る気配が微塵すら無いのである。
青銅を握りつぶすわ、トライアングルを物ともしないわ、勅使を殺しかけるわ、挙句の果てにフーケのゴーレムすらたった一発の蹴りで粉砕する。

『俺を従えさせたくば力で捻じ伏せてみろ』と言われてはいる。
言われてはいるが、今のところルイズに与えられている力は火でもなく、水でもなく、風でもなく、土でもない。
失敗による『爆発』。それによって得ている二つ名は不名誉極まりない『ゼロ』。
サウザーの二つ名とも言える『聖帝』に比べると、何とも情けない限りだ。

「南斗鳳凰拳かぁ……」
二千年の歴史を持つ北斗神拳と対を成す南斗聖拳百八派の頂点。
それを極めるという事には、尋常ならざる修練の他に才能が必要だという事は拳法の事など知らぬルイズでも、いや、ルイズだからこそ理解できる。
努力しただけでは到達出来うる事の無い才能の差。
例えるなら、トキとアミバ。ケンシロウとキム。北斗三兄弟とジャギ。ハート様とスペード、ダイヤ、クラブ。

魔法にしてもそうだ。
小さい頃から二人のよく出来た姉と、物覚えの悪い妹。
召使達からもそう陰口を叩かれ、よく中庭の秘密の場所に隠れていた。
だから、学院に入ってからも人一倍努力してきた。
それでもゼロと嘲られ罵られる。

常人ならとっくに逃げ出しそうなものだが、そうしなかったのは貴族は決して背を向けないという矜持の賜物。

――退かぬ!

公爵家の名を出せば、大抵の事は黙らせる事も可能だったろうが、いつか立派なメイジになって認めさせると決めている。

――媚びぬ!

まして、魔法が使えないからと言って、ヴァリエール家に産まれた事を後悔したりはしない。

――省みぬ!

だが、現実は厳しい。
この前のフーケにしろ、結局のところサウザー一人で倒したようなもので、ますます埋めようの無い才能の差というものを感じてしまっている。

『俺は天才だ!天才は何をしても許されるんだ!』とか『媚びろ〜!媚びろ〜!俺は天才だ!』とか言うより余程マシだが、ルイズには関係無い話。

今でこそ『ゼロ』だが、いつの日か『聖帝』に匹敵するような二つ名を得られるだろうかと思いつつ、食堂へと向かうべくルイズが自室を後にした。

308帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:36:50 ID:NUorbtwX
「で、なんで居るのよ」
朝食を済ませ、ルイズが向かった先は当然の事ながら教室。
その教室の最後尾にサウザーが極めて偉そうにふんぞり返っていたのだから、そう言いたくもなる。
散々好き勝手やっているため、今の今まで授業になんか一度も出ていなかったというのに、さも当然のように机に脚を投げ出し座っている。

「なに、暇潰しに一度ぐらい見ておこうと思っただけよ。光栄に思うがいい」
特に頼まれてもいないというのに、ふてぶてしさ溢れるこの態度。まさにKING。
せめて投げ出した脚だけでもどうにかさせようと一瞬考えたが止めた。

「ほっんと、いい性格してるわね」
最早諦めの境地に達してしまったように小さくルイズが呟く。
人の言うことを素直に聞くようなタマならこんなに苦労はしていない。
「ふん、この俺を前にしてそのような口が利ける貴様も中々のものだがな」
およそ召喚された側の物言いではなく、そのおかげで今では生徒の間ではどっちが主人なのか分からないと言われている程だ。
そんな雰囲気を察したのか、ルイズが周りを一睨み。
その迫力たるや、今にも『俺の名を言ってみろ!』と言わんばかり。
ちょっと興奮している小太りの生徒を除いて、全員が一斉にルイズから視線を逸らすと同時にキュルケとタバサが現れた。

「おお、こわい、こわい」
棒読みだが、どことなくゆっくりな声でキュルケが言うとルイズの傍の席に座る。
「言ってくれるじゃない。それならなんでわざわざわたしの横に座るのよ、ツェルプストー」
「あら、誰もあなたの事だけを言ったわけじゃないわよ。それより、この教室いつもと違うと思わない?」
「違うって、いつもと変わらない……あれ?」
ルイズが一度ぐるりと教室を見渡してみると、何時もと何かが少し違う気がしてきた。
授業が始まらないので相変わらず頬杖付いたサウザーが退屈そうにしている事ではない。
むー、と唸りながらもう一度教室をよく見てみると、そういえばなんだか生徒が前の方に固まっている気がする事に気付いた。

「もしかして、こうなってる原因って……」
「もしかしなくてもよ。おまけに、あたしのフレイムなんて教室に入ろうともしなかったのよ」
言われてみれば、普段居るはずの中小型の使い魔の姿が全く無い。
使い魔とはいえ、元は野生の生物だけにそのあたりの事を感じ取る能力は総じて高い。
まして、使い魔になった獣たちは主人の命令を忠実に聞けるぐらい知能が発達する。
ルイズ自身はあまり気にもとめていなかったが、実はサウザーの周りに使い魔が近付いた事はほとんど無い。
唯一の例外がシルフィードぐらいのものだ。
それでも、あれはサウザーが無理矢理乗ったようなもので、シルフィード本竜はサウザーを避けている。

以前、北斗神拳先代伝承者であるリュウケンがケンシロウとラオウの前に虎を放った事がある。
ケンシロウを見た虎は死を覚悟し、ラオウを見た虎は死を恐怖し襲い掛かかり、どちらが暗殺拳の伝承者に相応しいかを決めたという。
この二人の違いは拳の気質。同じ剛拳でも世紀末恐怖の覇者となった男と、世紀末の救世主となった男の違い。
ならば、世紀末の帝王となった男の拳の気質はと問われれば、これは答えるまでもなく『制圧前進』のただ四文字。
敵は自ずから跪き頭を垂れる。

だが、使い魔は契約した主人以外に平伏す事は決して許されない。
理性とかそういった物ではなく、契約によって魂にまで刻まれた死ぬ時まで解ける事のない呪縛。
命を懸けてでも主人を守る存在。それが使い魔なのである。

下手にサウザーの覇気や闘気に当てられでもしたら、自然と服従してしまうかもしれないし
そうなれば使い魔としての部分がそれを拒否しようとし襲い掛かからないとは言い切れない。
そして、天空を舞う鳳凰には決して敵わない事も知っている。
だから、使い魔達は主人に最悪という時が来るまではサウザーに近付かない。
生徒の間でも、一度でも刃向かえば決して容赦される事はなく、ギーシュのように下僕にされてしまうというのは割と有名な話。
当然、そんな男の周りに誰も座るわけがなく、ぽっかりと開けた空間が完成してしまっていた。

309帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:40:47 ID:NUorbtwX
やたら重っ苦しい雰囲気の中、教室の扉が音を立てて開くと、黒尽くめの陰気な感じのする男が入ってきたので、余計に教室の空気が重くなってしまった。
「では、授業を始める。……だが、その前に、この教室に部外者が居る事について何か説明できる者はいるかね?」
ギトーの言う部外者とは、もちろんサウザーの事である。
対するサウザーはといえば不動の姿勢で文字通り見下しながら、動じる事なくこれまた見下した笑みを浮かべている。
気まずい沈黙が数秒流れると折れたのは教師の方だった。
埒があかないので無視する事に決めたらしい。
「知ってのとおり、私の二つ名は『疾風』。疾風のギトーだ」
ギトーと名乗った教師がある意味嫌な緊張感に包まれた教室を一瞥すると、そのまま言葉を続けた。
「最強の系統を知っているかね?ミス・ツェルプストー」
「虚無じゃないんですか?」
最強と言うからには、伝説とまでなった虚無だろうと当たりをつけてキュルケが答える。
が、どうやら答えは違っていたようで首を横に振られてしまった。

「伝説の話をしているのではない。現実的な答えを聞いているんだ」
いちいち引っかかる言い方だが、ギトーとは比べ物にならないぐらい人を見下し続けていらっしゃる聖帝様を見ているので今日のキュルケは比較的落ち着いている。
「それでしたら、全てを燃やすつくせる炎と情熱を持った火に決まってますわ。ミスタ・ギトー」
ならば破壊に特化した火だろうと答えたが、これも違うようだった。
「残念ながらそうではない。最強の系統は風だ。今からそれを諸君らに教えよう。試しにこの私に君の得意な……」
ギトーが腰に差した杖を引き抜き、その風が最強だという事を教えようとしている途中に
ルイズ達にとっては聞きなれた高笑いが教室を支配しギトーも話を中断せざるを得なくなった。
ジロリとギトーが視線を教室の最後尾に移し言葉を放つ。
「……私の話に何かおかしいところでもあったのかね?」
「俺に手も出ぬようなやつらがどの系統が最強などと言い争う様が滑稽でな。そこの小娘は確か風だったはずだが、俺にまだ傷一つしか付けてはおらぬぞ?」
「ミス・タバサはトライアングルだが、私は違う。私は風のスクウェアだ。
  そこまで言うのなら、特別に君に風が最強たる所以である『遍在』をその身に教えてあげよう。かかってきたまえ」
嘲笑混じりにサウザーが言い放つ横で、ルイズはもう完全に諦めている。
キュルケは肩をすくめて面白そうにそれを眺め、タバサに至っては持ち込んだ本を読み始めているのだから、三人とも心は一つだ。

だが、肝心のサウザーは姿勢を崩さずルイズを指差し、まるで配下であるかのように命じた。
「ふっ、貴様程度の小物が俺に相手をしてもらえるとでも思ったか?お前ぐらいなら南斗爆殺拳のルイズ。こいつ一人で十分だろう」
「はぁ!?」
突然の聖帝様の御指名に困惑の声があがる。
いつの間にか勝手に南斗爆殺拳の伝承者にさせられていた上に、さも当然のように押し付けられたのだからたまったもんではない。

「ルイズ……いつもいつも爆発ばかり起こすと思ってたけど
  それ、魔法じゃなくて南斗聖拳だったのね、納得したわ。『南斗爆殺拳のルイズ』。うん、『ゼロのルイズ』よりは余程いい二つ名じゃない」
その上、やけに納得したようにキュルケが頷くもんだから、さすがのルイズもとうとうキレた。
「ちがーーーう!だいたい何よ南斗爆殺拳って!胡散臭いにも程があるわ!なんでもかんでも南斗って付ければいいってもんじゃないわよ!!」
南斗暗鐘拳や南斗龍神拳とかの色物南斗聖拳は多々あれど、南斗爆殺拳と南斗人間砲弾はその筆頭。
爆殺拳は、火薬に頼って何が拳法だと突っ込まれ、人間砲弾に至っては天(原作者的な意味で)からお叱りを受けた程。
その胡散臭さと言ったら、『命は投げ捨てるもの!(キリッ)』に匹敵するものがある。
とはいえ、ルイズの場合火薬に頼っていないのだからジャッカルよりは南斗爆殺拳の使い手に相応しいかもしれなかったが。

こほん、と咳払い一つ。
「もういいかな?ミス・ヴァリエール」
見ると完全に忘れられていたギトーがイラついたような出している。
サウザーに相手にすらされなかった事が余程頭にきたらしい。
「君の使い魔がそういうのだから、その南斗爆殺拳とやらをやってみてはどうだね?」
「ミスタ・ギトーまで変な事言わないでください。それに……怪我しますよ」
教師という立場からギトーはサウザーがルイズの使い魔になってはいない事を知っている。
310名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 22:42:53 ID:SYygcAZ8
ここで颯爽と支援
311帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:42:56 ID:NUorbtwX
一度、意に反してでも契約させるべきだとオスマンに直談判した事があったが、その時は
『彼がその気になれば、君どころか学院全体から人が居なくなるから止めておきなさい』
と、オスマン直々に特例を出しているという事もあってその場は引き下がったが、やはりそう面白いものではない。
もちろん、サウザーが三人を手玉に取ったところやフーケのゴーレムを粉砕したところを
直接見ていれば考えも変わっているだろうが、残念な事に彼はどれも見ていないのである。

「説明したはずだ、最強の系統は風だと。風は全てを薙ぎ払う。火も、水も、土も、そして君の不完全な魔法も風の前では立つ事すらできないのだから」
ギトーはその不気味な雰囲気や、何かにつけて風について講釈を垂れるのでそれ程人気のある教師ではない。
どこか陰湿さを感じる言葉にルイズもそこまで言うならやってやろうと立ち上がり、狙いを定め、錬金のルーンを短く唱え杖を振る。
振り下ろすと同時にギトーの後ろの黒板が爆発し、爆風を起こしギトーを襲った。
「デル・イル・そんだば!?」
詠唱を終わらせる間も無く後ろから爆風を受けて吹き飛んだギトーが世紀末っぽい悲鳴をあげて吹き飛ぶと床に倒れ動かなくなる。
小刻みに動いているあたり死んではいないらしい。

ギトーは、どんな魔法が飛んできてもウインド・ブレイクやエア・ハンマーなりで吹き飛ばすつもりいでいた。
火球やゴーレムならそれもいいだろうが、所詮失敗魔法という事で甘く見ていた感が否めない。
この場においてルイズの魔法の性質を一番よく知っているのは、皮肉にも魔法の事など大して興味も無いサウザーである。

火球のように飛んでいくのではなく、狙ったところにいきなり爆発が起きる。
そして、その破壊力は並ではない。
南斗鳳凰拳伝承者という常人とは比べ物にならぬ身に相当のダメージを与え、巨大なゴーレムですら傷一つ付ける事の出来ない壁にひびを入れた。
それ程の威力を持ち、しかも詠唱はスクウェア・スペルのようなそれなりに長い詠唱を必要とするものではなく
短いコモンマジック程度の詠唱でも変わらずその威力の爆発が起きるとなれば相当な脅威と言えよう。

ちょっとした惨事であるが、そこに、ただ一つ嘲笑うかのような声が爆発の余韻が残る教室に響く。
もちろん、声の主は聖帝様である。
「くっははは……惜しかったな。俺は人間に直接こいつの魔法をかけるとどうなるのか見てみたかったのだがな」
サウザーの言葉で教室に居た全員がはっとなって青褪めた。
新学期一番の授業でルイズが小石に錬金をかけシュヴルーズをテーレッテーさせたのは記憶に新しい。
その時、錬金をかけられた小石は文字どおり消滅した。
ルイズがやろうと思えば、北斗神拳と同じように肉体を内部から爆破する事ができるかもしれない。
おかげで、他の生徒からは『お、恐ろしい……』とか『これが南斗爆殺拳……』とかのざわめきが起こっている。
まぁ一番恐ろしいのは、そうなる事も十分予想した上でけしかけた聖帝様なのだが。

そしてギトーをFATAL K.Oしたルイズはと言えば……
「……ん?ちょっと間違ったかしら?」
顎先に手をやり首をかしげながら、木人形でも見るかのような目で言い放つ様はまるであの自称天才が乗り移ったかのよう。
いつもならそこでゼロのルイズだのと野次を食らうところだが、サウザーの余計な一言のせいで改めてルイズの爆発の恐ろしさを味わいそんな事を言う者は皆無だった。

唯一生徒の中で落ち着いているのは、キュルケとタバサぐらいで一歩離れたとこから呆れたようにルイズを眺めている。
「あらら、これはもう手遅れね」
その授業からルイズの二つ名が『ゼロ』から『南斗爆殺拳』になったのは言うまでも無く
これについてルイズが頭を悩ませるのは、これからおそよ十秒後の事であった。

312帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!:2009/11/12(木) 22:45:55 ID:NUorbtwX
ヒャッハー!投下した!
実機は打たないけど、ニコ動とか見てると、あれはCR北斗の拳なんじゃなくて
CR南斗鳳凰拳なんじゃないかってぐらい聖帝様が強い。
313名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 22:48:53 ID:vh1Gr5mn
デデデデザタイムオブレトビューションバトーワンデッサイダデステニーバトーワン
314名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 22:51:15 ID:HOZvPIIw
支援が間に合わなかったか

PSPの天の覇王はクソゲーだがアミバ様と聖帝様が使えるので神レベル
315名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 23:02:37 ID:N2hLIYQG
乙。

そう言やサウザーってユリアが南斗の将だって知ってたのかな。
316名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 23:02:56 ID:FqlQZolx
>>275
クロス元の環境にハルケギニアが食われまくるなら、外部でやった方が良いんじゃね?
完全にモンスターハンターinハルケギニアだしねw
下手に尊重するよりも、モンハンメインで好き勝手に掛ける外部の方が面白くなりそう。
となると、ここでは書けなくなる。
317名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 23:44:00 ID:l+GI46Az
無限のフロンティア2きましたね
318名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 23:48:08 ID:FqlQZolx
いいえ、きたのはごばくです
319名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/12(木) 23:54:35 ID:OvNKcrpp
聖帝様乙www

ルイズもついに南斗聖拳の道を歩みだしたかw
この先のルイズが心配だww
320名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 00:07:46 ID:pqjxhFuL
南斗爆殺拳クソワロタ
321名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 00:15:16 ID:sWL9SRUr
投下乙です。サウザー様素敵!!

北斗の拳外伝の『悪の華』を読んだ後に、努力では到底追いつかない才能の差、の例として北斗三兄弟とジャギのことを出されると、色々複雑な思いがわくなぁ。
というか、北斗の拳世界では、各流派のお師匠様が何かしらの形で弟子の精神育成に失敗して、次世代にいらん騒動の種を残してる気がする。
サウザー様もそうだしなぁ。
322名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 05:37:26 ID:WoI6oyd2
聖帝様マジGJ!!
今回も笑わせていただきましたwww
南斗爆殺拳てwwwww
もう聖帝様素敵杉ですwwww
323名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 06:46:48 ID:Ld3ofYqB
>>275
砂漠の方では定期的にエルフがヒャッハー祭りだぁ!とばかりにジエン・モーランに群がってるんですね、わかります
324名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 17:55:11 ID:dJ2umstw
朝から全然書き込みないな…
規制ひどいんだろうが、先日の大規模荒らしのとき以来の過疎っぷり、
しばらくは避難所に頼ることになるかなあ
325名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 19:03:07 ID:90Hy5VcB
11日に尋常じゃないレベルの超大規模規制が着たからな
326名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 19:18:22 ID:9GSvMCJY
まぁ前と違ってゆったりでも動いてるしいいんじゃないかw
327名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 20:13:51 ID:kP/SW6n6
規制でハロウィンに乗じたネタを
ただでさえ乗り遅れたのに完全にタイミングを逸したっホー・・・
328名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 20:33:11 ID:1on6aAQ/
へこむなよ、ジャックランタン
ヒーホーブラザーズかもしれんが
329名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 21:07:10 ID:55OcqcJH
この状態だと反応がなさそうで投下が躊躇われるな。
330名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 21:33:43 ID:dJ2umstw
乙もGJも大半の人がやりたくてもできないからな
331名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 21:35:05 ID:Ma8WSUHh
やっと規制が解けたぜ。支援は俺に任せろ。
332名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 21:50:20 ID:rO7hQgOl
>>316
モンハンの主役はアイテムボックスごとじゃないと辛そうだな。
主役の性格は無口というか喋らない感じにして素材集めはハルケギニアでやればいいにしても装備が問題だったりモンスターが出ないのがなんとも
333名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 22:06:25 ID:NgqSuh3l
ゼロ魔キャラをモンハン世界に行かせた方が面白そうだなんて思って無いよ!
微塵も思って無い!
334名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 22:09:33 ID:NgqSuh3l
上げてしまったのは申し訳ないと思ってるよ!
うぬぼれてました!ホントすいませんでした!!
335名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 22:13:34 ID:ltDulDRe
実はアルビオンはヤマツカミ。
336名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 22:14:13 ID:A9S0tI3E
>>327
どうせ大半の人間はまとめで後から読むんだから問題ない
337名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 22:15:44 ID:NgqSuh3l
それでもここで貰える感想の数やノリは違ってくるだろうけどな
338名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 23:18:07 ID:BS+mVeEj
まとめには感想書きこめないしねー。
そういう機能があってほしいなぁ、という気はする。
過去作品を読んで面白い、と思っても作者さんに伝える場所がないかんね。
最近ゼロの花嫁読んで感動して、感想書きたいなぁ、と強く思った。
339名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 23:23:55 ID:NgqSuh3l
応援スレに感想と共に書き込めば良いじゃないの

そもそもまとめで各SSに感想が書き込めるようになったら管理が大変過ぎるだろ
お絵描き掲示板ですらルールを守れない奴らが居るんだしさ
340名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 23:25:15 ID:sAdbkD+b
んなもん避難所の応援スレいきゃいいだろ
341名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/13(金) 23:26:05 ID:a5+Bqd3m
>>338
避難所行って、そこに立ってるスレをよく見て来い。、
その中に求める物はちゃんとある。
342338:2009/11/14(土) 01:03:45 ID:n5P3EbFJ
マジか。
結構前から見てるのに、全く気づいてませんでした。
ありがとう御座います。
343名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 02:09:50 ID:QUdml+Nv
オーベルシュタインで頭脳戦が見てみたいが、どうもすぐに見限って主を変えそうな気がする。
烈風をも凍らせるであろう絶対零度のキャラはおいしいんだが
344名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 02:26:20 ID:s/QMijvn
ホワイトアルバム、ジェントリー・ウィープス!
345名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 03:56:31 ID:hpnnRVc9
絶対零度…

三式機龍の絶対零度砲アブソリュートゼロとかスーパーX3の冷凍ビームだろうか。
346名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 05:09:17 ID:w2yjO5Dq
絶対零度の数百倍の低温じゃないと効かない神様で対抗だな
347名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 06:19:32 ID:YbmQDGsI
ならば−1000度だか一兆度のビームを出すガンバスターを
348名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 06:46:52 ID:hfYt2zpz
しかしエネルギーゼロ状態からさらに下げるってどんなだろうな
質量でも減らすか?
349名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 07:10:15 ID:F4bmqkA6
キャトフバンディスだっけ?
OVA本編では乗り手が過去視を体験したな。
物理法則を超えた低温で時間が歪んだとか何とか。
350名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 07:57:51 ID:Igt/1zuY
何かの本で、熱力学にはマイナスの絶対温度があるというのを聞いたことがある。

dS=dE/T(エントロピーの変化=エネルギーの変化÷絶対温度)だから、
通常は系にエネルギーを与えるとエントロピーは大きくなる。
逆に系にエネルギーを与えるとエントロピーが小さくなるとしたら、
その系はTがマイナス、つまりマイナスの絶対温度を持つということらしい。
351名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 08:18:42 ID:JNm6GjpX
ハイパーボリア零ドライブ・・・

獣の人はもう帰ってこないのかしら
352名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 11:11:35 ID:3acQjE8h
そういやエルフの反射って温度も遮断できるのか?
できないなら東宝特撮兵器だとプラズマグレネイドとか超低温レーザーとか効くかも
353名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 11:43:11 ID:YU/efSSG
何々だから反射できる反射できないじゃなくて
攻撃だから反射される
以上
354名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 11:43:15 ID:aTaoxOO/
温度変化もだけど周囲の酸素がなくなるような攻撃も通用すると思う
ぱっと思いつくのが燃料気化爆弾だとか火災旋風とかだったけど
355名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:07:29 ID:CWKCOe+1
絶対零度と言うと天外魔境零思い出すな……

>>353
と言うことは周囲一帯に作用する熱量操作タイプとかトラップ系は防げないな

防御系魔法で無敵とかやってたら炎で周囲の温度を上げられて蒸し焼きにされたのも居たし
356名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:10:32 ID:AJMj57qA
それだとコルベールのあの魔法が効くことになるね。
357名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:11:17 ID:YU/efSSG
>>355
防がれないという保証は無い
要するに対象に危害が加えられるって事象が反射されてる可能性が高いってこった
土地その物にかけられてる魔法だから周囲一帯だろうが無効化されたり術者に集中してその現象が起こったりするかもな
罠も直撃前に其の侭粉砕されて終わりとか
358名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:13:59 ID:Db1hxhJY
視覚情報が遮断出来ないなら
見てしまうと発動系は反射無理じゃね?
359名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:14:41 ID:AJMj57qA
>>357
広範囲を守るために反射できなくなり装甲に攻撃が届くようになったヨルムンガント。
その辺りの描写を読み直すのがよろしいかと。
ついでに言うと彼はエルフの仲でもかなり高位のお方だから。
一般エルフが反射をもれなく使えるとか、一般エルフも同じくらい強いとかはありえない。
360名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:17:02 ID:c7Mojm7P
一方通行的なあれだろ
361名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 12:57:22 ID:YU/efSSG
>>359
負荷が許容量を超えれば破られるってだけじゃんあそこ
そしてむしろ土地以外でもパワーダウンするものの契約できてしまう驚愕の事実な辺りだ

>>360
多分一番近いのがそれだよね


まぁあれは素直にディスペルってなさいってこったよ
362名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 13:06:02 ID:dXoF5Fnr
「城壁一帯と契約しやがった」
デルフのその言葉の通り契約を使い反射を得たビダーシャルにサイトは苦戦をしいられた。
しかし6000年の歴史を持つ虚無の力のディスペルと伝説の使い魔の力で見事その反射さえも打ち破ったのだった。

一方ボンバーマンは城壁ごと破壊した。
363名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 13:21:05 ID:F4bmqkA6
>>359が言ってるのは、テファを迎えに行ったときの話しだな。
デルフ曰く、「大量にカウンターを使っているおかげで鎧には刃が届く」
>>361は虎街道でタイガー戦車に撃破された話。

でも、デルフの表現はわかりにくいよな。
どうやら、

 人間大の個人が対象であるカウンターをヨルムンガントのサイズに使用しているので、
 単位面積当たりの防御力が下がってる

ということを言いたいようだけど、何度読んでも「大量に使ってる」はそんな風に読めん。
ノボル先生、もう少し日本語を頑張ってくだしあ
364名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 13:23:40 ID:YgFPiFCX
>>355
黒蟻のおマチさんだな。合掌。
365名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 13:27:15 ID:zAwibTWM
88mmで軽く抜けるんだからメイジでも工夫すれば何とかなる気がするけどな
366名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 13:39:25 ID:5HOladod
>>352
そもそもメカゴジラが相手な時点でビダーシャルはゴジラ以上の強さが要求されるわけだが…
みんなカウンターを過大評価してるみたいだが、プチッで終わりだろ
東宝自衛隊はゴジラ以外はかなり怪獣や侵略者を撃破してるんだぞ
367名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 13:54:56 ID:YU/efSSG
範囲や攻める方向は変えても意味が無いと話してるだけだろ
誰も大火力を防げるとは言ってない
368名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 14:04:29 ID:I02tCZbL
>366
おマチさんの土ゴーレムが ビターシャルを踏んづけたと仮定してみる。
ゴーレムの密度がわからないので 人間と同等として、
30m級の重さは、150センチ・45キロの人間の20の三乗倍で、36トン。
片足立ちで静止してこの重量。ビタさんの上でジャンプでもしようものなら、さらに衝撃力UP。

やっぱり 潰れるよなぁ。
369名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 14:11:46 ID:dXoF5Fnr
エネルギー源は石壁ですから
370名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 14:38:34 ID:yLUZWjI1
>>358
邪眼は月輪に飛ぶよりミネルバを
って既にあったな
371名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 15:22:36 ID:Igt/1zuY
まあ、戦車砲で打ち抜けるからなあ……
372名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 15:46:50 ID:hfYt2zpz
「反射」の胡散臭さには同意するけど、
>>368
例えば素足でビー玉踏み砕けるかい?
373名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 15:48:37 ID:XM+QB+ay
それは素足の強度にも問題があると思う
374名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 16:03:54 ID:3i1DaW9u
土のゴーレムの強度には問題がないみたいな言い方だな
まあともかく続くなら考察スレにでも
375名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 16:26:49 ID:3acQjE8h
>>368
鉄で作ればさらに威力UPだな
つーことはよ、トライアングル以上の土メイジによる質量攻撃作戦は効くかもしれんな
竜などの飛行手段があればエルフの頭上から比較的安全に攻撃できる
376名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 17:11:43 ID:tmZiguRT
誰かティーガーIIの88mmの至近距離でのエネルギーを知らんか?
あれ、確か戦後第2世代戦車にもうっかりすると通用するレベルだったはず。
377名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 17:44:26 ID:dXoF5Fnr
素足→痛いから本気でやれない
作りもの→痛くない
378名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 17:53:19 ID:Jp/xil5l
反射で反射したものを反射で反射出来る状況作ったらどうなるのっと
379名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 17:54:40 ID:c7Mojm7P
ヒント:マホカンタ
380名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 18:31:10 ID:UvU4ZX09
密度の問題です
381名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 18:34:02 ID:5HOladod
そういえばドラクエ関連は良作多いな
ルイズのエクスプロージョンも、恐怖度ではメ……ほどじゃないし
382名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 18:34:22 ID:oeBGEbK2
設定・考察スレに話題を転載しました。
以後はこちらでお願いします。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1256201734/l50
383名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 19:41:31 ID:Xp9OuKs3
>381
良作が多いなら長編の1つぐらい完結させて貰いたいもんだ
384名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 19:48:22 ID:JNm6GjpX
竜王召喚した黒ルイズは一応アレで終わりなんじゃなかったっけ
385名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 20:13:54 ID:Xp9OuKs3
アレはひどい打ち切りにしか見えないから困る
386名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 20:24:44 ID:NoF5ecv7
わたしたちの世界征服はこれからだ!ってことで
387名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 20:35:38 ID:JNm6GjpX
>>385
>>386
ピンときてしまったネタ、題して
『ルイズ伝説』
意味と内容は分かってもらえるかと思う!!

書き終わって誰も似たようなネタ投下しなかったらそのうち忘れたころに投下するぞ
388名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 21:13:25 ID:10gMIB/p
>>358
つまり白イタチを召喚すればいいと
389名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 21:31:04 ID:KK8/mwQD
>>387

年老いたルイズが仲間達が次々倒れる最終決戦のあらましを孫達に語って聞かせるんですね、わかります。

その後制作された続きでは、ルイズの盾になって死んだマリコヌル以外は生存ENDまで目に見えるようです。
390名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 21:40:59 ID:s/QMijvn
要はアレか
「ロードローラーだ!」
391名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 21:42:59 ID:s/QMijvn
安価付け忘れた
>>375
392名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 21:44:23 ID:RYFd/zYF
>>387
真っ先に思い浮かんだのがキエエエエと奇声をあげて番長になるルイズだった
393鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:14:15 ID:+8JR3trB
誰もいないようなので、今から投下しようと思います。
394鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:19:24 ID:+8JR3trB
20話

才人はいったい何故学院長が二人を呼び出したのかを考えていた。
二人が何か問題を起こして呼び出された、という事が最初に頭に浮かんだがプッロに関してはここ二日は一緒にいたため、それは有り得ないだろうと思った。
ウォレヌスについては解らないが、彼がそのような事をしでかすとは考えにくい。
ルイズも同じ事を考えていたのか、同じ疑問を投げかけてきた。
「ねえ、なんであいつらが呼び出されたのか知ってる?」
「いや、全然解らん」
「プッロが何かやらかしたとか?」
「昨日と今日はあの人とずっと一緒だったけど、問題になるような事は何もしてなかったぞ」
「じゃあいったい何なのかしら……」
ルイズは困惑の表情を浮かべていたが、すぐに机に向き直って勉強を再開した。

ルイズに声をかけたら邪魔になるだろうし、特にする事も無いので才人はごろんと床に仰向けに寝転がった。
最初は二人が呼び出された理由を考えようとしたが、答えが出る筈も無い。
そしてその内に召喚されてからの出来事が脳裏に浮かんできた。
考えるともう召喚されてから、その内の半分は意識が無かったとはいえ、六日程が経つことになる。
そう思うと父と母の事が気になった。今頃は大騒ぎしているはずだ。
息子が壊れたパソコンを受け取りに出て行ったきり一週間近くも戻ってきてないのだから。
彼らからすれば自分は突然、何の痕跡も残さずに蒸発したのだ。
ファンタジーな異世界にいるなんて想像すらしていないだろう。
というよりもする方がおかしい。とっくに警察に通報しているのだろうが、見つかる筈は無い。

才人はその事を考えて胸がチクリと痛んだ。いったいどれだけ心配をかけてるんだろう、と。
もしあの時変な好奇心を出さずに、あの鏡をよけてさっさと家に帰っていればこんな事にはならなかったのだろう。
今更後悔しても意味は無いが、出来る事なら可能な限り早く家に戻って父と母を安心させたかった。
だがそればかりはどうしようもない。もどかしいが学院長達が日本へ戻れる方法を見つけてくれるのを期待するしかないのだ。

家族といえば、ウォレヌス達にも家族はいるのだろうかと才人は思った。
思い出して見れば、確かウォレヌスは妻と娘がいると言っていた筈だ。
だが彼は遠く離れた場所に戦争に行っていた。
だから彼が蒸発した事を家族が知るのはもっと先の話になるに違いない。
プッロの方はどうだろう。正直に言って、あの男が家族を持っている様子を想像できなかった。
多分一人身だろうと想像した。だがそれでも両親や親戚がいる筈だ。

蒸発するのもそうだが、戦争に行く事ほど家族を不安にさせる事はないだろう。
彼らは召喚される前からもずっと家族に心配をかけていた事になる。
考えて見れば自分は彼らがなぜ戦争に行って、誰と戦っているのか殆ど知らない。
(徴兵とかされたんならともかく、そうじゃないんならなんであの人達は戦争に行ったんだろう)
才人は疑念を抱いたが、ただでさえ戦争自体が遠い世界の話だ。
しかも彼らの価値観の多くが自分のそれとはかなり違っているのはもう何度も体感している。
一人で考えるだけで答えを得るのは不可能だった。
395名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 22:20:23 ID:YEj/q3+V
ハルケギニア初の首相、ヨブ・トリューニヒト
396鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:20:26 ID:+8JR3trB
(ルイズの方はどうなのかな)
そこで才人は感心をルイズの方に向けた。記憶が確かなら彼女は公爵の娘だった筈だ。
公爵がかなり偉い人なのは才人にもわかる。
こんな金持ちしかこれなさそうな学校に子供を通わせてる事から考えても、相当に裕福なのは間違い無さそうだ。
そして何より彼女は家族と引き離されてはいない。
学校の寮に住んでるとはいえ、会おうと思えばすぐに家に帰れるのだろう。
もっとも、それを考えても彼女を恨めしく思うつもりにはなれなかった。
自分が今こんな場所にいる原因は彼女にあるが、別に狙ってそうしたわけでも悪意があったわけでもない。
それに彼女が今おかれてる状況を考える彼女が恵まれてるとはとても言えないだろう。
(まあ、少しは申し訳無さそうな素振りを見せてもいいかもしれないけどな)

しばらく経ってから二人がもどってきた。
何かがあったのは彼らの意外そうな、そして少し落胆したかのような表情を見てすぐに判った。
才人は「お帰りなさい」と声をかけたが、ウォレヌスは「……ああ」と投げやりに答えるとドサッ、と床に座り込んでため息をついた。
いったいどうしたんだろう、と才人は不思議に思った。
「あのう、向こうで何があったんですか?」
才人がプッロにそう聞くと、彼は困ったように口を開いた。
「それが……なんと言えばいいのか、どうも変な事になった」
そう言うとプッロも疲れたように床に座った。
そこにルイズが口を挟む。

「変な事?そもそも一体なんの用事だったわけ?」
ウォレヌスは一瞬戸惑うそぶりを見せたが、とつとつと話し始めた。
「……お前が我々を召喚した日の話だ。学院長が我々に“ここで仕事を提供する代わりに、我々の国や世界について教えて欲しい”と言ったのを覚えているか?」
そう言われて才人の記憶が蘇った。
ここ数日のゴタゴタですっかり頭の中から抜け落ちていたが、確かに彼はそのような事を言っていた。
「そういえばそうでしたね。忘れてましたけど」
「まあ忘れてたのは俺達もなんだがな。それがあのジジイが俺達を呼んだ理由だ。そして色々と聞かれたんだよ、俺たちの国についてな」

それでなぜ二人が呼ばれたのかは解った。だが二人が浮かない顔をしている理由がまだ解らない。
ウォレヌスの言う“変な事”に関係しているのだろうが、呼ばれた訳からしても落ち込む様な話しでは無いはずだ。
「それで変な事っていうのはなんだったんですか?」
「順を追って説明する。まず最初にローマやその周辺、要するにヨーロッパ大陸の地理について聞かれた。文化やら制度を知る前に地理を先に知っているほうが想像しやすいというんでな。
 それに答えている途中にガリアという名前を口にしたら彼らがかなり驚く様子を見せた。それでどうしたのか聞くと、ここにも全く同じ名前の国があるという」

全く同じ名前の国?と才人が思うのとほぼ同時に、ルイズがガタッ、と椅子から立ち上がった。
「あるらしいも何も、ガリアはハルケギニア最大の王国よ!じゃあなに、あんた達の世界にもガリアって国があるわけ?」
彼女にとっても思ってもみない事だったのか、その声には驚愕が含まれていた。
「ああ。国というよりは地域の名前だがな。それでお前が隣室の娘――キュルケといったか?――がゲルマニア出身だと言っていた事を思い出した。お前には言わなかったんだが、実はローマの北にもゲルマニアという地域がある」

才人は初日の朝にルイズが忌々しげにキュルケについて話していた事や、その後ウォレヌス達がゲルマニアについて言っていたのを思い出した。
あの時もただの偶然だとは思えなかったが、これではっきりとした。
地域の名前が二つも一致するのは単なる偶然では済まされない筈だ。
ルイズも同じ考えなのか、眉間に皺を寄せて「それは……奇妙な話ね。一箇所ならまだ偶然ですむかもしれないけど……」と呟いた。
397鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:21:44 ID:+8JR3trB
「私もそれが気になってな、彼らにハルケギニアの地図を見せて貰うように頼んだ。すると驚くべき事に私が以前見たヨーロッパ大陸の地図とそっくりだった」
才人は思わず「それ、本当ですか!」と声を上げてしまった。
だがそうするのも無理は無いだろう。
地名だけでなく地形までが同じならこれは間違いなく偶然ではない。何らかの意味がある筈だ。

「そうなんだよ。ハルケギニアと俺達の故郷の地形とか地名はかなり似てるんだ」
「細部は多少異なるがな。だがここにもロマリアという名だがイタリア半島があり、“こちらのガリア”は“我々のガリア”と同じ場所に存在し、ゲルマニアも然り。
 トリステインは位置的に“我々のガリア”のベルガエという場所にあたる。ここの北にあるアルビオンという島も、同じ場所に存在している」
「ただ名前は違うがね。俺たちの故郷じゃアルビオンはブリタンニアっていう名前だった」
「それがなプッロ、実はそうでもない。お前は覚えてないだろうが、原住民どもはブリタンニアをアルビオンと呼んでいた。つまり名前も同じだ。明確に違っているのはアフリカやエジプトが存在せず、小アジアに該当する地域から先が巨大な砂漠になっていた所ぐらいだな」

ルイズは腕を組んで首をかしげた。
これが何を意味するのか考え込んでるようだったが、答えはでないようだ。
「正直、なんていえばいいのか解らないわ。どういう事かしら……」
ウォレヌスも同じなのか、首を振った。
「それは私にも解らん。ただの偶然じゃないのは間違いないだろうがな……学院長らも頭を抱えていた」
そこにプッロが最後に一つ、付け加えた。
「つっても国に関しちゃ同じなのは名前だけで、中身は別物みたいだがね。こっちのガリアは一つの王国らしいが、俺達の方のガリアは何十っていう部族がバラバラに住んでる地域の名前だ。
 そしてこっちのゲルマニアは技術が進んでるらしいが、俺達の方のゲルマニアは野獣みたいな連中が住む森林に覆われた未開地。そして当たり前だがここにローマは存在していない」

プッロの言う事が本当ならさすがに何から何までが同じという事ではないらしい。
アフリカが存在しないというのも気になる。
それでもここまで古代ヨーロッパと共通点があるのなら偶然ではない筈だ。
だが偶然ではないとすればいったいどういう事なのか。
才人は考え込んだ。そもそもここは何なのだ?

ハルケギニアが地球ではない、いわゆる異世界なのは間違いない。だが異世界とは具体的に何を意味するのか。
才人が知る限り、漫画やアニメなどに出てくる異世界にはだいたい三つのパターンがある。
一つ目は異星。そうだとすればここは地球から何千何万光年も離れた惑星で、ルイズ達は宇宙人。そして自分は召喚の魔法によってそこへ瞬間移動した事になる。
二つ目は並行世界の地球。そうならこの星はパワレルワールドの地球で、ハルケギニアはその平行世界のヨーロッパだ。ここがヨーロッパと同じ地形や知名で、なおかつアフリカが存在しないのはそれが理由かもしれない。
三つ目は異次元世界。だがこれは一つ目とそれ程変わらないだろう。
とはいえ答えを知る術はないし、知った所で日本に帰る事は出来ないだろう――とそこまで考えた時、ウォレヌスが残念そうに才人に語りかけてきた。

「そしてもう一つ解ったのが、歩いて帰る事は不可能だという事が解ったわけだ。君にとっても残念な話だろうが……」
いきなり何を言い出すんだ、と才人は首をかしげた。
「歩くって……どういうことですか?」
一体どうすれば歩いて帰れるという発想が浮かぶのかさっぱり解らない。
異世界からどうやって地球に歩いて戻れるというのだろう。
398鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:22:47 ID:+8JR3trB
だがウォレヌスはさも当たり前の事であるかのように答えた。
「最悪の場合、つまりどうやっても帰る方法が見つからない時は何年もかかるが、ずっと西に歩いて帰るという手があるだろう?だがハルケギニアの地図を見る限り西には巨大な海しか存在しない……ヨーロッパと同じくな。徒歩で渡るのは不可能だ」
それを聞いてルイズは目を細めたが、それはウォレヌスの考えが荒唐無稽と考えたからではないようだ。
「あんた達そんな無茶な事考えてたの?仮にハルケギニアとローマが繋がってたとしてもいったい何千リーグあると思ってるのよ。大体仮にも主人を勝手におっぽり出すなんて私が許さないわ」
「最後の手段って奴だよ。元々余程の事が無い限りはするつもりもなかったんだから目くじらたてんな」
「巨船を作って大海を西に渡り、セリカにたどり着いた後はパルティア経由でローマに帰る、のは……流石に馬鹿げているな。
 そんな長距離を補給なしに航海できる船がある筈がない。それにしてもオケアヌスの真ん中にこのような大陸が存在していたとはな……想像もしていなかった」

距離以前の問題だという事が理解できないんだろうか、と才人は思った。
仮にここが同じ宇宙に存在する異星だとしても、下手をすれば何万光年も離れているだろうに。
話をまとめると、どうも彼らはハルケギニアがあくまで地球にある大陸の一つだと思っているようだ。
ルイズは逆に日本やヨーロッパがそうだと思っているのだろう。

これでなぜ彼らが戻ってきた時に落胆していたのかが解った。
大変な苦難と時間をともなっただろうとはいえ、いよいよという時は帰る方法があると彼らは思っていたのだ。
その最後の保険が潰されたのだから少しは落ち込むだろう。これで自分達の力ではどうやっても故郷に帰れないと解ったのだから。
だがここが地球じゃない事ははっきりさせた方がいいだろうと才人は感じた。
そうしなければいつか海を渡ろうとしてとんでもなく馬鹿げた事をやるかもしれない。

「海を渡ったって意味なんてありませんよ。壮大な時間の無駄になります。海の向こうにあなた達の故郷は存在しないんですから」
才人がそう言うと、プッロがきょとんとした顔になった。
「どういう意味だよそりゃ」
「ここが異世界だからですよ!」
「そりゃ知ってるよ。当たり前だろそんな事は」
どうも彼らは“異世界”という言葉をあくまで地球上の別の大陸を指すものとして使っているようだ。
「俺の言う異世界ってのは、ここが地球じゃないって事です。ここが並行世界なのか別の星なのか異次元なのかは知りませんが、ここはどう考えたって地球じゃない」

才人がそう言い終えると十秒ほどの間、沈黙が場を包んだ。
ウォレヌスもプッロもルイズもジッと才人を見つめていた。
「……あんたが今言った事で理解できた物が一つも無いんだけど。地球じゃない?地球じゃないんならここはどこだって言うのよ」
「へいこうせかい?べつのほし?一体何の事だよそりゃ」
ウォレヌスは何も言わなかったが、理解出来なかったのを示すように眉間にしわを寄せていた。
才人はしまった、と感じた。SFの類を全く知らない人間にこんな事を言っても理解できる筈がない。
そして当たり前だが古代にSFなんて物は存在しない。それはハルケギニアも同じだろう。
一体どうしよう、と才人が言葉につまっていると、プッロが奇怪な事を言い出した。

「別の星って言ったよな?星ってのは何千マイルも離れた場所にある、天球の光が漏れてくる穴の事だろ。なんでそれが“ここ”になるんだよ」
あまりにも荒唐無稽なプッロの発言に才人は戸惑った。
明らかにガリレオ以前の天文知識しかない彼らにどうやって説明した物か。
そもそも才人自身、大して宇宙について詳しいわけではない。
彼の知識はSF物のアニメやらテレビの教育番組やら真面目に読んだ事のない教科書やらで構成された断片的な物に過ぎないのだ。
それでも星が天球とやらに開いた穴ではなく、太陽のようなものである事は解っている。
なんとか解りやすく説明しようと、才人は頭を絞った。
399鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:23:37 ID:+8JR3trB
「星は穴なんかじゃありませんよ。え〜と……簡単に言えば巨大な火の球です。太陽みたいな」
プッロは呆けたように頬を掻くと、「……そうなんですか?あんたが前に言った事と違ってるようですが」と確認するようにウォレヌスに尋ねた。
ウォレヌスはすぐに首を横に振った。
「聞いた事もないな。だいたい太陽が無数にあるのならアポロやヤヌスも無数に存在するのか?そんな滅茶苦茶な」
アポロやヤヌスがローマの神々の一つなのは才人も知っていた。
アポロは確か太陽の神だから、その事について話しているのだろうか?
だがそんな事を言われても才人には説明の仕様がない。

そして後を追うようにルイズが痛い所をついてきた。
「ヤヌスやアポロがなんなのかは知らないけど、私も同感よ。あんたのいう事には証拠が何一つ無いじゃない。いきなりそんな事を信じろって言われても無理ね。何か証拠はあるの?星がデカい火の玉だっていう」
それを言われると辛かった。単に常識として知っているだけで、星が実際になんなのかを証明する手段は何一つ持ち合わせていない。
だがどちらにしてもこれは重要な点ではない。自分が言いたいのはここが地球に似た惑星がかもしれない、という事だ。
「正直な話、その事は重要じゃありません。俺が言いたいのは宇宙のどこかに地球と同じような星があるかもしれない、そしてそこがここかもしれないって事です」

再び場に沈黙が訪れた。
それを見て才人はどんよりとした気分になった。まるで自分がとんでもなくおかしな事を言っているかのように感じられる。
実際におかしな事を言っているのは彼らの筈なのに。
やがてゆっくりと、だがはっきりとウォレヌスが首を振った。
「そんな馬鹿げた事がありえるか。地球は一つだ。この世界にこれ以外の地球があるはずが無い」
「地球が二つあるって話じゃありません。地球とは別の似たような星、って事です」
今度はルイズが呆れたように言った。
「なんていうのか……ずいぶんと突飛な発想を持ってるのねあんた。つまり宇宙のどこかに地球に似た別の地球が浮かんでいて、あんた達はそこから召喚されてきたって言いたいの?」
知ってか知らずか、彼女は才人が言いたい事をはっきりと表現してくれた。
才人は強く頷いた。
「ああ、まさにその通りだ。判りやすくまとめてくれたな」

才人がそう言い切ると共に、三人は今度は狐につままれたような顔になった。
(俺ってそんなにおかしい事を言ってるのか?)
なぜ三人ともここまで異星の存在を信じようとしないのかが才人には理解できない。
確かに証明は出来ないが、可能性として受け入れる位はしてくれてもいい筈だ。

「……おい、さっき言ってたヘイコウ世界ってのはなんなんだ。これより更にぶっ飛んだ話なのか?」
そう言ったプッロの顔は疑いに覆われている。
“ぶっ飛んだ話”という言葉からも彼が才人の話を全く信じていないのは明らかだった。
そして並行世界はこれよりもずっと説明するのが難しい。
彼らにはたして理解できるのか、と才人は悩んだ。

「平行世界ってのは……え〜と、一つの世界から分岐してそれに並行して存在する別の世界の事です。パラレルワールドとも言います」
一応解りやすく言ったつもりだが、それでもプッロにはさっぱりだったらしい。
「まるで意味が解らねえよ。分岐ってどういう事だ?並行して存在だぁ?」
「え〜と、そうですね――」
そう言いながらも才人は解りやすい例を考えようとした。
「そうだ、例えばプッロさんのお祖父さんが子供の頃に運悪く病気にかかって死んだとします。そうすれば当然プッロさんは今存在していませんよね?」
「まあそりゃそうだな。っていうか勝手に俺を殺すな」
「仮定の話です。つまりなんらかの理由により、プッロさんのお祖父さんが子供の頃に死んだ世界と病気にかからなかった世界が二つあると考えてみて下さい」
400鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:25:00 ID:+8JR3trB
相変わらず皆は顔に疑問符を浮かべている。
「世界が二つできた、というのはどういう意味だ?さっぱり理解できない」
次はウォレヌスが聞いてきた。才人は精一杯解りやすいように説明しようとした。
「だから分裂したんですよ、世界が。一つの世界ではプッロさんは存在していますが、もう一つの世界では存在していない。
 別の例で言えば俺が召喚された時の事です。もしあの時、俺があの鏡を潜らなかったなら当然俺はここに存在していない。平行世界っていうのはそういう“もしも”の世界なんですよ」
「……それでその世界ってのはどこにあるのよ?」
ルイズがジト目で尋ねてくる。
「別の時間軸だ。だから俺達には決して見る事も行く事も出来ない。でも確実に存在する。そんな世界だ」
そう答えながらも才人は自分で自分の言っている事が怪しく思えてきた。
元々が漫画やアニメの受け売りだ。科学的にこれが正しいのかどうかは全く解らない。
そもそも科学的に並行世界なんて物が本当に存在するのかどうかさえ知らないのだ。

そしてプッロ達は妙に痛い所をついてくる。かえってこういう事を全く知らないからかもしれない。
「別の時間軸だの世界が分裂するってのも訳がわからんし、だいたい見る事が出来ないんならなんでそんなのがあるって解るんだ?」
確かにもっともな疑問だが、才人にはっきりとした答えは無い。
「俺は可能性の話をしてるんです。つまり、ハルケギニアは地球の平行世界かもしれない。もしそうなら地形がヨーロッパそっくりなのも説明できます。もちろん分裂したのはあなたの祖父の時代どころかそれより遥か前でしょうが」

そう言った後も三人は釈然としない表情のままだった。
無理も無い事かもしれないが、こちらの言う事を信じる信じていない以前に概念その物が理解できていないように見える。
それにしても、もどかしい。はっきり言えばここが並行世界なのか異星なのかどうかは問題ではない。
才人が言いたいのは“ここが地球ではない”という事だ。
そしてそれが正しいのは100%解っているのに彼らには中々理解して貰えない。

そして挙句にプッロはこんな事を言い出した。
「なあ坊主、はっきり言っていいか?お前さんの話はイカれてるぜ」
絶対に正しいと信じている事をイカれているといわれて、才人は少し不快になった。
思わず声を荒げる。
「イカれてるって、なんでですか!?」
「だってありえんだろ、そんな事は。別の星だのヘイコウ世界だの、滅茶苦茶にも程がある」
そして才人が何かを言い返せる前にルイズが割って入った。
「そもそもここが地球じゃない、と考える根拠はなんなの?なにかある筈でしょ?それを言って見なさい」
根拠と言われても、そんな物は決まりきっている。
「……そりゃこんな場所は地球に無いからだよ。ハルケギニアなんて召喚されるまでは聞いた事も無かった」
そこにウォレヌスが切り返してきた。
「そう言い切れるのはなぜだ?私だってこんな場所が存在するなど夢にも思っていなかったが、現にこうして存在するじゃないか」
あまりの話の通じ辛さに才人は苛立ちを覚えてきた。
それを何とか飲み込み、才人は答えを紡いだ。
「いいですか、俺の国じゃ地球にある全ての場所は隅々まで知られてるんです、詳細に。それなのにハルケギニアなんて場所はどこにも存在しないんですよ……!」
「単に君達がそう思ってるだけじゃないのか?我々も世界がどのような姿をしているかは知っているつもりだった。ヨーロッパ、アジアとアフリカの三大陸が存在し、その周りは大海オケアヌスで覆われているとな。それがどうだったかは見ての通りだ」

才人は唸った。まさかここまで理解されないとは思ってもみなかった。
とにかく、彼らを納得させるには何か証拠が必要だ。
ここが地球でない事の証拠。余りにも常識的でありすぎてかえって頭に浮かんでこない。
何か無いか、と考えていると才人は窓から差し込んでくる月の光に気付いた。
そう、月だ。ここには月が二つある。それこそここが地球じゃないという確かな証拠ではないか。
月だけではない。夜空を見れば解る。ここが地球でないのなら星座なども違う筈だ。
401鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:26:01 ID:+8JR3trB
「そうだ、お二人とも疑問に思った事は無いんですか?ここにはバカでかい月が二つもあるって!」
「ん、ああ。まあそれは確かに不思議に思った。というか不吉だったな」
「そういえば最初の日は騒いでたわね、月が二つもある!って」
才人は決め手だといわんばかりに一気にまくし立てた。
「それが証拠ですよ!ここが地球なら月は一つしか無いはずでしょ?月だけじゃない、ここが地球じゃないんなら星座とかも全部違うかもしれません」
だが、この決め手も彼らを納得させるには至らなかった。
「……場所が違えば月の大きさや数も変わるのかもしれん。月や太陽は神域だからな。死すべき定めの人間には理解できん事があっても不思議じゃない。はっきりとした証拠とはいえないな」
才人は深くため息をついた。どうにも彼らは納得しそうにない。
神々という便利な道具がある以上、自分が思いつきそうな証拠では彼らを説得するのは難しそうだ。

才人がそう悶々としていると、プッロが彼をジロジロと見つめながら話しかけた。
「なあ坊主、これはお前が全部自分の頭で考えた事なのか?それともお前の国じゃ普通に信じられてる事なのか?」
「……普通かどうかはしりませんけど、俺が考えた事じゃないですよ。今までに読んだ本とかに載ってた事です」
才人がぶっきらぼうに答えると、プッロは感心と呆れが入り混じったような声で言った。
「なんというかまあ、お前さんの国じゃあかなり突拍子もない話があるんだな。外人の連中に奇妙な考えや風習があるってのは今までに身を持って体験したが、お前が言った事はその中でも一番ぶっ飛んでる」
突拍子もない事を言ってるのはあんたらだよ、と才人は言い返しそうになったがそこはこらえた。
これ以上は何を言っても水掛け論にしかならないと悟ったからだ。
それを察したのか、ウォレヌスが話を切り上げたいかのように言った。
「結局は君の言う事のどれかが正しいとしても、帰る方法が無いというのには変わりないんだろう?」
「ええ、まあ。そうなりますね」
「じゃあこれで止めておこう。今の時点ではなぜここと我々の世界がそっくりなのかは解らない。それが結論だ」
プッロ達も頷く。
「同意ですね。これ以上は疲れるだけだ」
「私ももういいわ。あんたの話を聞いてたら頭が少し変になりそうだし」

この話はそれで終わりになった。
ここと古代ヨーロッパの奇妙な類似については結局答えは何も出なかったが、それはまだいい。
極端な話、仮にその謎が解けなくとも故郷に帰る事ができればそれでも構わない。
それよりもここが地球ではないと二人に理解させる事が出来なかったのが、才人には少し不安に思えた。
杞憂かもしれないが、その内故郷に帰ろうとして彼らが何かとてつもなく無駄な事をしそうな気がしてならない。
特にプッロなら竜か何かを強奪して海を渡ろうとする位の事はしてもおかしくない気がする。
とはいえあくまでも最後の手段だと言っていたわけだから、今の所は心配しなくてもいいだろう。
それに彼の性格からすれば多分、ギーシュとの件で片がつくまで帰ろうとはしない筈だ。
だが長い目で見れば、ここが真の意味で異世界だという事を彼らに解らせた方がいい。
それまでになんとかうまく説明出来る方法を考えなきゃな、と才人は思った。
402鷲と虚無 ◆I3um5htGcs :2009/11/14(土) 22:27:35 ID:+8JR3trB
以上です。次話はあらかた出来ている(というか一話になる筈だったのが長くなりすぎて二つにわけた)ので近日中に出来あがると思います。
403名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 22:28:42 ID:68q/zXBk
やれやれ
             もしも次に同じような
             【大規模規制 】 が発生した場合には
              Bちゃんねる・・という掲示板が在ります。
                      ________
             Google 検索 | Bちゃんねる  |
.   ∧__,,∧                 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
   (  ^ω^)    
.   /ヽ○==○    【大規模規制 解除】 【ぬるぽ】
  /  ||_ |    【大規模規制 解除】 【 ヤレヤレ 】
  し' ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_)) ̄(_))
404名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 22:49:06 ID:AWdP84pw
乙でした!
405名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 22:54:40 ID:wTuYOvJ6
テスト
406名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 22:56:14 ID:10gMIB/p
久々に見た気がする
乙なんだぜ
407名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 22:56:35 ID:WFHgYctg
>>403
大規模規制終わったんですか。良かったコレでここも賑わう。
にしても、3ちゃんねるなんてサイトあったんだ。
408カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:00:36 ID:wTuYOvJ6
予約がなく、書き込める状態なら5分後に投下します。
409カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:05:15 ID:wTuYOvJ6
それでは行きます。

やっと片付けが終わっての楽しい昼食である。貴族しか立ち入る事が許されない歴史と伝統のある食堂なのだが、
カオスはそんな事お構い無しに当たり前のようにドカっと座っている。異世界に来ても自由なものである。
「朝は気がつかなかったがまわりにある人形、ありゃひょっとして」
「夜になったら踊る」
カオスの質問にタバサが答える。今度はキュルケが質問してきた。
「ねぇ、今朝フレイムと話してたんでしょ?そうなんでしょ?あなた、他の子達ともしゃべれるんじゃない?」
「どうだろうな」
「ちょっと、二人ともなんでそんなに馴れ馴れしいのよ!」
いつの間にか打ち解けている3人を見てルイズが怒鳴る。
「この人の強さに興味がある」とタバサが即答。
「獣たちと話ができる殿方、そんな素敵な人を放っておくなんて失礼だわ」キュルケが熱っぽく答える。
ムキー!とルイズが唸っていると何やら言い争う声が聞こえてきた。

「申し訳ありません!」
「謝ってすむ問題ではない!」
一人の男子生徒が怒鳴り、メイドがひたすら頭を下げている。
「あれってギーシュのバカじゃない?」
「女性に向かって怒鳴りつけるなんて、男のすることじゃないわね」
男子生徒の名前はギーシュ。家柄も容姿も魔法の実力も中々のものである。だが、非常に女癖が悪いのだ。
メイドが何か失礼な事をしてしまったのだろう。自分の非をひたすら謝罪している。
それでもギーシュの怒鳴り声は止まらない。
「君のせいで二人のレディの名誉が傷ついたんだ、謝っているだけでいいと思っているのかい!?」
それを見ていた周りの生徒が止めに入る。
「おいギーシュ、その辺で許してやれよ」
「元はといえばお前が二股してたのがいけないんだろ?」
「どう見てもお前が悪いぞ」
「シエスタちゃんに八つ当たりするなよ」
「その子は瓶を拾ってお前に届けただけだろ?」
「そうよ、いい子じゃない。むしろ褒めるべきよ」
「アンタの屁理屈で苛めるんじゃないわよ!」
どうやらギャラリーの100%がメイドのシエスタの味方らしい。何でも、ギーシュが落とした小瓶をシエスタが届けた
そうなのだが、それがきっかけで二股がばれたとか。何とも情けない話である。
410カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:06:34 ID:wTuYOvJ6
「うるさい!僕は知らないと言ったんだ!だったらそのままその辺においてくれればいいじゃないか!」
ここまで来た以上、ギーシュも後に引けなくなってきた。
「おい、平民!この責任どうやって取るつもりだ!」
シエスタは目に涙を浮かべオロオロするばかりである。
「はっ!何も出来ない平民にそんな事できるわけなかったね。全く、君達平民が暮らせているのは僕達貴族の
おかげだって事をわかって欲しいものだね!料理に使う道具も、大工用具も、農耕具、裁縫道具だって貴族の魔法で錬金したり
して作っているんだぞ。戦争になれば真っ先に魔法を使えるものが戦線に向かう。君達平民を守るためにね!
あ〜ぁ、それなのに、その苦労をねぎらう事すら出来ないのかい、君達平民は?」
こう言われては平民のシエスタは何も言えることがない。逆らうものなら打ち首だ。
「シエスタ、気にするな」
「そうよ、あんなバカ。貴族の恥さらしよ」
「貴族がみんなあんな奴ばっかりだって思わないでくれよ」
もはやギャラリーは完全にシエスタを助け、ギーシュのバカを敵に回している。
「き、君達!平民の肩を持つと言うのか?!僕がグラモン家の人間だと知った上での事なんだな?!」
とうとう家柄までだしてきた。そういわれると、かなり不味い。グラモン家という家柄に勝てる人間なんて数えるほど
しかいない。
「ふん、わかればいいんだよ」勝ちを確信したギーシュは余裕の笑みをこぼした。

それを見ていたカオスは一人の人間を思い出していた。オザワと呼ばれる一人の人間の事だ。
「・・・嫌な野郎を思い出しちまったぜ。どこの世界にもゲス野郎はいるもんだな」
そういって次の瞬間に、彼は頭に浮かんだ行動を実行していた。

「おいてめぇ、俺はてめぇによく似た人間を知ってるぜ。自分に手出しが出来ないのをいいことに、弱いものを
いたぶる最低のゲス野郎だったな。はっきり言って死んで当然の野郎だった。誰もそいつの事を好きじゃ
なかったしな」
それを見てたルイズは口をポカーンとあけて何もいえなかった。そして我に帰ってカオスを止めようとする。
「いいじゃない。やらせときましょうよ」キュルケがルイズの腕を掴む。
「何言ってんのよ!あいつが暴れたら死人が出るわよ!」
「彼の実力を見るいい機会。ギーシュには生贄になってもらう」
タバサもキュルケに賛成らしい。

ギーシュはいきなり魔人にそんなことを言われたのでビックリしていた。っていうか彼、物凄く怒ってるよ。
彼と戦って勝てるなんてギーシュはこれっぽっちも思っていない。この展開は死につながっていきそうである。
しかし、ここで引けないのがギーシュの悪い癖である。思いっきり見栄を張ってしまうのだ。
「誰かと思えば、ゼロのルイズの使い魔じゃないか。おっとまだ使い魔じゃなかったんだ。召し使いとでも呼べばいいかな?」
「・・・なんだと、もういっぺん言ってみろ」
「何度でもいってやるさ。まったくゼロのルイズは自分が呼んだ奴のしつけも出来ないのか。もう学院を辞めて帰った
ほうがいいんじゃないのか?いい機会だ、僕が君をしつけてあげるよ」
411カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:08:01 ID:wTuYOvJ6
魔人の殺気を味わった事のある生徒達は、急いで食堂から逃げ出した。巻き添えを食らいたくないからだ。それを見た
他の生徒達は不思議そうにしていた。メイドのシエスタは恐怖のあまり立ち尽くす。流す涙すらなくなってしまった。
当のギーシュは余裕の表情だが・・・

(何やってんだ僕はーーーーー!)

と心の中で叫んでいる。

「お前が俺をしつける?ふざけんなよ」
声は静かだが明らかに怒りを含んでいる。その様子を見たルイズたち3人は「ギーシュ死んだな」と思った。

そしてカオスは学院中に響き渡る声で怒鳴りつけた。
「全員表に出ろおぉーーーーーーーー!」
その声は建物が揺れ、人間の身体の芯にまで響く強烈な声だった。
「クソガキが!死ぬほど後悔させてやるぞ!」
「おっと、待ちたまえ!まさかこんな所で暴れようってんじゃないだろうね〜?ここは食堂、食事をする場所だ。
お互いもっと暴れやすいところ―――」
そこから先は喋れなかった。喋る事すら許されない。喋ったとしても食堂の人間には聞こえなかっただろう。目にも
とまらぬ速さ、正に瞬間移動したとしか思えない程の早さでギーシュの側まで移動して、両手でギーシュを頭の上まで
持ち上げると窓の外にぶーん、と投げ飛ばしたのだ。もちろんすごい速度で飛んで行った。
「聞こえてなかったようだな、俺は表に出ろと言ったんだぜ」
飛んで行ったギーシュの所へゆっくり歩いていくカオス。その前にルイズが立ちふさがる。
「ちょ、ちょっと、あいつがバカでも殺しちゃだめよ!平民が貴族を殺したら死刑になるわよ!」
ルイズをにらみ付けカオスが聞き返す。
「じゃあ聞くが、貴族は平民を殺してもいいって言うのか?魔法が使えるって事は何をしても許されるのか?抵抗できない
のをいい事に、さっきのメイドをいたぶるのは全く問題ないって言うんだな?
クソがッ、やっぱりくだらねぇ秩序だぜ」
そういって外に出て行ってしまった。ルイズは「そんなわけないじゃない!」と反論したがそれ以上言い返せなかった。

外ではガラスを突き破った時に負った傷のせいで血まみれになりつつあるギーシュが辛うじて立っていた。
「は、早くなんとかしないと・・・」
このままでは殺されるのは確実だ。考える暇もなく目の前に死を運ぶ悪魔がやってきた。
「立ってるか。気位だけは人一倍ってところだな」
こうなったらやるしかない。ギーシュは覚悟を決めた。
「黙ってやられてたまるか!ワルキューレ!」
ギーシュが懐からバラを取り出しそれを振ると、青銅で造られた一体のゴーレムが現れた。その姿は戦乙女の姿を
再現したのであろう。細部にわたって細かく造られている。まるで彫刻品のようである。
「行け!悪魔を倒すんだ!」
ギーシュが指示を出すと持っていた剣でカオスに斬りかかった。カオスは剣をよけなかった。そのまま袈裟切りに
ワルキューレが剣を振り下ろす。
「やった!斬ったぞ!」
ワルキューレの手元は完全に振り切られている。これでは斬られた方には致命傷になるだろう。

普通の人間だったら。

「おい、今何かしたか?」
平然と答える斬られた筈のカオスがギーシュに問う。
「な、なにがおこった?」
ギーシュはワルキューレの背中越しにカオスを見ているので何が起こったのか、わかっていない。
ギーシュとカオスを追いかけてきたギャラリーにはその訳が一目瞭然だ。
なぜならワルキューレの剣は根元からパッキリ折れているからだ。刃がない剣で相手を切れるわけがない。
カオスは斬られる前に剣を手で払っただけである。それだけで青銅で出来た剣が折れてしまったのだ。
「い、いつ折ったの?」
「・・・見えなかったわ」
「早い」
ルイズは呆然とし、その速さについていけなかったキュルケとタバサは舌を巻く。
412カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:08:47 ID:wTuYOvJ6
「まだだ!まだ終わってないぞ!」威勢だけはいいギーシュ。死を前にしても見栄を張ることを辞めないのは流石である。
今度は3体のワルキューレを作り出した。今度は3体同時のコンビネーションでカオスに挑む。3方向からの同時攻撃。
1体を頂点とした三角形の陣で同時に仕掛ける。だが。
同時攻撃をひらりとかわし、正面から仕掛けてきたワルキューレの頭にポンと右手を置く。
「まったく、のろすぎるぜ」
そういって右手を思いっきり地面に向かって振り下ろす。その圧力に耐えられず、頭から潰され、耳に響く嫌な音を
立てながらペシャンコに潰してしまった。それをみた全員は「あれが人間だったら・・・」と想像して鳥肌を立てる。
もう一体を今度は外壁に向かって思いっきり投げ飛ばした。ギーシュを投げた時とは比べ物にならない力加減だ。
弾丸のように地面と水平に飛んで行ったワルキューレは外壁に衝突。そのまま粉々に砕け散った。
残る最後の一体を今度は空に向かって放り投げた。それは塔にあたり、粉砕した。
「うわああああ!ば、化け物ーーーー!」
残る最後の3体のワルキューレを作り出し、自分の護衛をさせる。しかし作り出した瞬間、真っ赤な炎に包まれて
溶け出してしまった。「あちちち!」と叫びながらギーシュは転がる。
「ま、魔法をつかったぞ!」驚くギャラリー。しかも杖を持っていないのに。それらしい詠唱も聞こえなかった。
「先住魔法!?」
ルイズが目を丸くする。
「さすが魔人・・・。なんでも有りね・・・」
「でもかなり手加減してる」
タバサは冷静に状況を見ている。キュルケは魔人の圧倒的な力に身体が火照ってきた。

「ま、参った!僕が悪かった!降参するから助けてくれ!」
「最後の最後までオザワそっくりだな・・・。無様に命乞い何かしてんじゃねーよ!」
バラの杖を捨て腰を抜かして這い蹲るギーシュを見下すカオス。集まってきたギャラリーに向き直り口を開く。
「いいか、ガキ共!よく聞いておけ!貴族がどんなに偉かろうが、力がなければこの有様だ!家柄や権力なんて所詮
非力な奴が利用するための道具でしかない!最後の最後にモノをいうのは自分の力だという事を腐った脳みそに
叩きつけやがれ!わかったかーーーーーーーー!」
あまりの迫力に全員がシーンとなってしまった。それを見たカオスは
「返事はどうしたぁーーーー!」
とまた怒鳴りつける。返事をしなければやられる!そう直感したギャラリーは
「はぁい!」と学院に入って以来、一番大きく、力のこもった声で返事をした。それを見て「ふん」と満足した様子
のカオス。
ルイズはその様子を見て頭を抱えてしゃがみ込む。キュルケはうっとりした表情でカオスを見つめる。タバサにいたっては
ヒーロー戦隊を見る子供達のように目を輝かせている始末だ。

最後にカオスはギーシュに声をかけた
「おい」
「はい!」
「てめー、さっき戦争になったら最前線に行くとか抜かしてたな。だったらもっと強くなれよ。地位だけで強くなった
と思ってんじゃねーぞ。大体その程度で偉そうしにしてたら犬にも笑われるってもんだぜ」
「・・・はい」
と消え入りそうな声で返事をするギーシュ。
「しかしまぁ、威勢だけは一人前だな。最後の命乞いがなければもっとよかったんだがよ。途中で逃げなかったのは
褒めてやるぜ」
そういってスタスタと食堂の方に歩いていってしまった。
「僕は、今まで何をしていたんだろうな・・・」
今までの行ないを改めて考えさせられたギーシュだった。

食堂に入るなり、さっき苛められていたメイドのシエスタを探すカオス。さっきの野次馬共の中にはいなかったのだ。
テーブルのある広間には誰もいなかったので厨房の方に行って見ると、イスに座ってガタガタふるえているシエスタが
いた。周りのコックや同僚のメイドが励ましているが、シエスタは青ざめたままだ。
カオスはシエスタにまっすぐ近づいて目の前に立つ。周りのコック達はギョッとして思わず離れてしまった。
そんな彼らを尻目にシエスタをジーッと見つめ、色んな角度から様子を見る。そんなカオスに震えながらシエスタが
口を開く。
413カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:09:37 ID:wTuYOvJ6
「な、なにか・・・?」
「さっきの貴族ならもうお前にちょっかいださねーよ。だからそんなに震えないで答えろ」
一拍おいてカオスが訪ねる。
「お前、日本人だな?」
シエスタは何を言っているのかわからなかった。ニホンジン?自分は生まれも育ちもトリステインのタルブ村だ。
「黒い髪、顔つき、肌の色・・・。どれも似てるぜ。多少混じった所もあるみたいだが、それでも今の俺にはわかる」
「いや、あの、おっしゃる意味がさっぱりわかりません」
困惑気味で答える。
「いやーしかし久しぶりに黒い髪を見たぜ。ここの連中はカラルフな色ばっかりでよぉ。目が疲れてしょうがねぇ」
カオスは自然とシエスタの頭を撫でてしまう。本人に全く悪気はない。ただ懐かしくてつい撫でてしまったのだ。
撫でられているシエスタはどうしていいのかわからず、顔が赤くなってきている。

その時強い殺気を感じた。ドアの方を振り返るとなぜかルイズが激怒の表情でにらんでいた。
「なにナンパしてるんじゃ、ボケーーーーー!」
杖を振り回しながら魔法を連発してきた。当然それは爆発する。厨房が爆発で滅茶苦茶になるが、全てを余裕で回避
するカオス。シエスタとコック達は机の下に避難している。まるで地震だ。
「おいおい、その位にしておかないと今日の晩飯が食えなくなるぜ」
その辺にあったパンを手に取り窓から外に脱出するカオス。
「まてこらぁぁぁぁぁ!」
それを追いかけてルイズも外に行ってしまった。
「ったく、なんだったんだよ」
「片付けは俺達がやれってか。これだから貴族は」
「でもあの男の人、食堂で貴族をぶん投げてましたよ」
「マジか!?」
「さっき広場で貴族の坊主をボコボコにしたらしいし」
「いや、俺の聞いた話じゃ貴族全員を秒殺って」
コックとメイドが話しに花を咲かせている中、シエスタは魔人が言っていた「ニホンジン」について、何かひっかかる
ような気がしてならなかった。
414カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:11:06 ID:wTuYOvJ6
食堂でカオスヒーローが暴れだした、と言う報告を受けたオールド・オスマンは即「眠りの鐘」の使用を指示。
効かなかった場合は職員全員で彼に挑まなければならない、と伝えた。
だがしかし、「遠見の鏡」で現場を見たとき、その必要はないかもしれないと思った。
眠りの鐘を発動させるために向かった教師が、彼の投げ飛ばしたギーシュのゴーレムにKOされた時は流石にあせったが、
何故かカメラ目線でカオスがこちらを向き、「黙ってみてろ」と伝えてきたのだ。
見られている事に気がついていたのだ。本来なら腰を抜かすところである。この魔人はどこまで強いのか底が知れない。

一部始終を一緒に見ていたコルベールもこちらを見られたときは、思わず声をもらしてしまった。
「死者がでるかと思いましたが、大丈夫だったようですね」
「彼は意外と優しいところがあるな。きっと弱さを知っているんじゃろう。そうでなければあんな真似はしとらん」
「生徒達にも少し見習って欲しいものですね」
この二人はまだ気がついていない。カオスは二人が考えているような目的で、あんな事をした訳じゃないというのに。
噂をすれば何とやら。カオスが学院長の部屋に窓から飛び込んできた。
「よう、邪魔するぜ」
片手にパン。それをむしゃむしゃしながら呑気に入ってきた。
「クソガキをぶっ殺すかとおもったか?」
「そんな事をすれば、我々は君と全面戦争になるじゃろうな」
「勝負は見えてるがな。まぁ本来なら気に食わない野郎だから、あの世に送ってるところだ」
「お願いですからやめて下さい・・・」
「んなことより、俺が帰る手段はどうだ?何かつかめたか?」
「流石に昨日の今日で成果はでんじゃろう」
「仕事が遅いぜ。俺は一つ掴んだがな」
「ほ、本当ですか!?」
「仕事が速すぎるわい・・・」
「つってもまだ調べる事だらけなんだがな。そういえば学院なんだから図書館なんかはあるんだろ?俺もそこに
行っても問題ないよな?」
「もちろんじゃ。手配しておこう」
「それから歴史的に貴重なものを展示したりする博物館や宝物庫はここにあるか?なかったらある場所を教えろ」
「一応この学院にもそういった場所はある。じゃが、やはり価値のあるものが保管されているんでの。勝手に持ち出され
たり傷でもついたら大事じゃ」
「俺は盗人じゃねぇよ。まぁ必要になるものがあったらじじいに言ってから持っていくけどな」
それじゃ盗人とかわらんだろ、と二人とも苦笑する。
「いいじゃろう。図書館と宝物庫の入出許可はこっちでやっておこう」
「ところで一つ質問があるのですが」
コルベールがさっきから思っていた疑問を聞いてみる。

「いつ、こちらの世界の文字が読めるようになったので?」

それを聞いてカオスは「やべぇ」とだけ答えた。この魔人、やっぱり大事なところは間抜けである。
415カオスヒーローが使い魔:2009/11/14(土) 23:12:22 ID:wTuYOvJ6
今日はここまでです。ありがとうございました。規制中、悪魔に身体をのっとられないようお気をつけて。
416名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 23:22:57 ID:s/QMijvn
乙ですた
417名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 23:30:25 ID:J8TkLPP8
カオスヒーローさん乙です
418名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/14(土) 23:45:42 ID:JNm6GjpX
乙ー
ギーシュ・・・また命を拾ったな、今回も久々に五分くらいの確率で死ぬかと思ったが
そんなことはなかったわだぜ

>規制中、悪魔に身体をのっとられないようお気をつけて
むしろ逆に押さえつけて合体してくるわ!!

・・・デビルマンの人もお待ちしてまーす
419名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 00:20:52 ID:ZefJ9p1P
「地獄におちろ! メイジども!」なんてことにならん事を願っている。
420名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 00:32:47 ID:hA3yQTuc
しかし本当にギーシュはいじりやすいキャラだな
一体今までこのスレで何体のワルキューレが破壊されたことか
421名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 00:37:51 ID:ZefJ9p1P
原作からしてギーシュは主人公サイトの最初のカマセ犬キャラなわけだが、
ギーシュがカマセ犬扱いにならなかった二次創作はどれぐらいあるんだろ。
422名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 00:39:47 ID:CCW3u1vc
でもメイジは実際に力を持ってるから
ワルオの世界の貴族とはちょっと違う罠。

全然関係ないが昔ヨシオとワルオの性格を
「根明なダウナー系」と「根暗なアッパー系」と説明されて妙に納得したっけなぁw
423名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 00:51:00 ID:cyDE1mTI
>>421
かませ犬どころか生贄になっちまった作品なら覚えてる
424名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:00:39 ID:EhKgdZsI
>>421
姉にフラグを立てまくってる鉄骨入り朴念仁のSS
ワルドを倒すという偉業までこなしてる
425名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:05:11 ID:CpEumm0Q
かませ1号がかませV3を倒しただけじゃねえか
426名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:12:36 ID:frf2U0Kb
真っ向からやり合ってぐだぐだになったラスボスとか?
427名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:12:53 ID:itVcxil/
ここってさ、世界樹の迷宮のプレイヤーキャラみたいに
「中身」がオリキャラにならざるを得ないキャラって有りなの?
428名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:14:52 ID:CpEumm0Q
ありっしょ、それを言うならドラクエとかの
「しゃべらない主人公」は全部そうなるし。
429名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:17:20 ID:JwpPQ4fK
素直に性格があるキャラやったほうが無難っしょ
オリキャラは作者の自己投影になりやすい
430名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:17:20 ID:fTRxKe0v
ギーシュの使い魔になったポケモンにズタズタにされたワルドは居たな
431名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:19:13 ID:frf2U0Kb
ただドラクエのように小説版があるならそっちを使った方が無難というヤツだな。
432名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:19:30 ID:Yxk5RM3W
俺はWIZ系はなしじゃないかって思うけどな
ドラクエやらは小説や漫画での補完あるし
オリジナルキャラでやるならそれはそれにふさわしい場所でやるべきだと思うよ

避難所とかはオリ系ダメなの?
433名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:25:55 ID:7c1btpAl
Wizならベニ松の小説辺りから引っ張ってくれば良いだろう。
ハイランス喚んでエルフパニックが見たい。
434名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:31:24 ID:lYtUzXCG
ディーはお腹が出てるから駄目か
435名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:36:07 ID:AyOx9t7U
ディーはナグゾさんに取り込まれちゃうんだっけ?
436名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:45:35 ID:lYtUzXCG
いやハッピーエンドだよ

ハイランスも魔法使えるし、どちらが召喚されても面白そうだ
ロリコン子爵とのイケメンヒゲ兄貴バトルが見られるな
437名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:52:18 ID:MxJdYM9d
>>433
ベニ松の小説から、全盛期の不死王召喚とか
438名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 01:53:24 ID:AY6XA2//
マイノスだったらルイズとも
上手くやっていけるのかな
439名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 03:27:11 ID:wnFLR41J
ここまでシャイニングフォースから誰も喚ばれて無い件。
ドミンゴとかアミーゴとかアーサーとかペン達は十分当たりだと思うのだが。
本編終了後の主人公(3なら台詞アリ)でも面白いかも?
…3だと魔法どころか召喚魔法に必殺技まであるけどねw
440名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 03:46:07 ID:waehIh29
じゃあヨーグルトで。
それかパゾート撃破直後に大急ぎでモンキースーツに着替えたマルス。
441名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 04:07:26 ID:wnFLR41J
>>440

使えねえwでもヨーグルトはルイズ的には当たりだよね。弱すぎて戦闘にはまったく向かないけど。
ガンダ的にはムサシとかハンゾーとかはづき(カオスリング付き)か?
…エルフ呼んでパニックおこすルイズも面白いかも?あの世界普通にエルフいるし。
442名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 04:19:08 ID:8bERAgyp
3終了後のペン一家とか。
443名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 04:25:39 ID:waehIh29
ヒドイ顔のメイリンとかヒドイ顔のアーサーとか。
エルフっても、カズンとサラしか思い付かないや。
西崎さんの小説だとツィッギーがなぜかハーフエルフだったけど
444名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 04:34:39 ID:vRGJKUu5
ふと古代ヨーロッパで思い出したがオデュッセウスなんてまんま召喚された人だな。
古代地中海ネタで書かれた作品のキャラは下手な日本人キャラより適応度が高そうだw
445名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 04:38:05 ID:E7UUl1UZ
>>444
「鷲と虚無」がそれじゃね?
446名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 07:16:01 ID:EbwD1XzW
>>418
>むしろ逆に押さえつけて合体してくるわ!!
よし!ならばメシア教徒と合体だ。
447名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 08:04:59 ID:zsL6vSY1
>>446
合体事故、合体事故、まだ〜?
448名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 09:19:48 ID:nRG2nV0H
ルイズが合体事故を起こし、中身のない動く鎧になりました
449名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 09:42:18 ID:QY9DoFT3
何故スレイヤーズSPに出た、
意志を持つリビングメイルを思い出してしまったんだろう・・・・
450名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:12:41 ID:ESP4xiZE
悪魔かぁ・・・・・・・・北野君帰ってきてくれんモンだろか
451名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:16:13 ID:nRG2nV0H
>>450
お前のID、なんか超能力使えそうだな
452名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:17:41 ID:7c1btpAl
>>446
いや、そこはネコマタとかリリムでしょJK。

あと遅くなったけどカオスヒーローの人乙。
やっぱりLV99は強いな、この後キュルケに迫られてどう反応するか楽しみだw
453名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:30:20 ID:ESP4xiZE
>>451
をを、本当だ
では床屋に行って「あの髪型」にしてもらってくる
454名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:33:25 ID:E7UUl1UZ
超人ロックはうっかりすると009になるから気をつけろよ
455名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:43:28 ID:EbwD1XzW
>>452
いや、実はカオスヒーローが合体する相手にメシア教徒を選んだ事があるんだ。
あん時はおでれーた。「オマエそれ人間」とゲームに突っ込んじゃったし。
456名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:53:57 ID:/YdCCVk9
とっこうたいを選択したことは何度もあるけど…こいつも人間だよな
いいのかそれで
457名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 10:56:33 ID:TYbB5YQa
>>446
ベス(エレガに非ず)とだったらOK
他はごめんこうむる

>>455
属性とレベルで選ばれるんだよね
つまりその時は仲魔にカオスorダーク系がいなくて
一番レベル高かったのがメシア教徒だったと・・・

カオスくん、メガネ拭けw
458名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 12:43:47 ID:9qVnXdHa
帝王(貴族)に逃走はない(のよ)の小ネタが面白すぎるんだけどww
459名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 13:12:50 ID:JQN2FSKL
同意するw
前進制圧とかFatal K.Oとかいちいちツボを刺激してくれてたまらんw
460名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 13:37:04 ID:3tjdaIUz
サガフロの妖魔アセルスで書こうとしたんだが
ルイズのあまりのキャラ崩壊に断念
461名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 13:39:09 ID:YvuSTL5/
どう考えても百合百合してしまうからなw
462名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 15:26:25 ID:KjZQvycU
>>427
ししょー以下ソードマン4人が召喚された小ネタはあったな
はいといいえだけで話を進める主人公とかも見てみたい
463ウルトラ5番目の使い魔:2009/11/15(日) 15:41:01 ID:c2FDYaCb
皆さんこんにちは、今週も問題いなくできあがりましたので、本日分の投下を開始しようと思います。
よろしければ15:50より投下開始します。
464名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 15:45:11 ID:r7ONq/rO
毎週日曜はウルトラの日
全力で支援ダッ!
465ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (1/13):2009/11/15(日) 15:51:21 ID:c2FDYaCb
 第74話
 鳴動する世界
 
 えりまき怪獣 ジラース
 宇宙海獣 レイキュバス 登場!
 
 
 アルビオン王党派とレコン・キスタの決戦が、ヤプールによって利用され、
両軍ともに傀儡となりかける最悪の事態を、二人のウルトラマンと少数の勇敢な
者たちによって回避してから、およそ半日後、タルブに展開したトリステイン軍
本陣では、アルビオンへの上陸を命じたアンリエッタとマザリーニの激論が
交わされていた。

「繰り返して命じます。トリステイン軍はアルビオン王党派と合流して、
レコン・キスタ軍を撃滅します。すぐに準備なさい」
「なんですと! 無茶をおっしゃいますな、艦隊で軍隊をあの空飛ぶ大陸に
渡らせるのに、どれほどの時間と資材がいるとお思いですか?」
 反対意見を述べるマザリーニも、アンリエッタも一歩も引かない。
「全軍でとは言いません。五千、いいえ千もいれば充分です。今必要なのは
トリステイン軍が援軍に来たと、王党派に教えてあげることで、そうすることで
彼らに安心感を与えるのです」
 確かに、トリステインのアンリエッタ王女が、自ら軍を率いて応援に来てくれた
となれば、王党派はウェールズに代わる大義のよりどころを得て、自らこそが
アルビオンの正当な統治者だと再認識して、立ち直ることができるだろう。
「確かに、ですが上陸の理由は他国にはどう説明します。大義名分が
なければ軍は動かせませんぞ」
「大義名分? そのようなものが、それほど必要なのですか。考えている
うちにアルビオンが壊滅したらどうします? 王党派が再建できたという
既成事実さえ作ってしまえば、誰もそんなことは気にしません。」
 マザリーニは返す言葉がなかった。まさかこの少女から、こんな果断な
決断を聞くことになろうとは想像もしなかった。まるで普段とは別人の
ように覇気に満ちているというか、それがなにゆえのことであるのかまでは
わからないが、その判断は強引ではあるが最善といえた。
 ただ、話はそれほど簡単ではなく、マザリーニはそのことを問いただすのを
忘れなかった。
「艦隊の出動準備は整っていますが、食料等の積み込みは不十分です。
補給はどうなさいますか?」
「王党派の補給基地がサウスゴータまでに点在していますから、そこから
頂戴し、到着後は本隊から分けてもらいます。皮肉なものですが、
ヤプールが平民も集めるために食料事情を良くしてくれましたから、
余裕は充分にあるはずです」
「了解しました。ですが、アルビオンに渡りますのは、グリフォン隊を筆頭とします
最精鋭部隊を優先しますが、国に残留する部隊の指揮はどうなさいますか?」
「マンティコア隊のド・ゼッサール殿にお任せします。あの方はカリーヌ殿の
愛弟子ですから信頼できます。あなたはここに残り、彼を補佐してあげて
ください。それから……」
 アンリエッタは、念のために聞き耳がないかとディテクトマジックで盗聴の
可能性を排除した後で、さらに用心深くマザリーニに耳打ちした。
466ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (2/13):2009/11/15(日) 15:53:05 ID:c2FDYaCb
「この混乱に乗じて、国内のレコン・キスタ派の残党や反動勢力が動く
かもしれません。なにしろ、彼らはまだレコン・キスタがすでに乗っ取られて
いることを知らないのですから……筆頭はむろん、あの男ですが、害虫
退治はこの戦の後です。それまで国内の治安維持を第一にお願いします」
「承知しました。ですが、軍の主力をアルビオンに送れば、侵略行為だとして
ゲルマニアやガリアが黙っていますまい」
「その点は心配要りません。ゲルマニアのほうは、今軍を動かせばあの国は
国内を襲う怪獣災害におびえている貴族たちが黙っていません。重工業の
工場が破壊されたら、あの国の経済基盤が麻痺しますからね」
 ゲルマニアは、近代的にとまではいかなくても、製鉄業をはじめとする
重工業が発達しており、多数の工場から生まれる鋼鉄や、高い冶金技術から
生まれる高精度の部品は、兵器その他の需要を生んで、この国に莫大な
財力をもたらしているが、その反面それが急所となって、工場を私有する
有力貴族や大商人の国政への影響力を、皇帝とて無視できない。
 しかも今は、金を生むからと巨大化を続ける工場群も、そのために
焚きだす大量の石炭から生まれる煤煙や排水が、土壌や大気を汚し、
ヤプールのマイナスエネルギーがきっかけとなって目覚めた怪獣たちに
よって次々と破壊され、悲鳴をあげる工場主たちによって、ゲルマニア軍は
それらの怪獣たちの対策のために国内にくぎづけにされるありさまだった。
「しかし、それでかの国々がトリステインに不信感を抱き、共同して
攻めてきたらいかがいたします?」
「マザリーニ、そうやって敵を作るまいと他国の顔色をうかがって
いるから、トリステインは弱国だとあなどられるのです。ましてや
今は、お母様が女王に在位中とはいえ、実権を持っているのは
若輩もいいところのわたくし、これでは軽く見られないほうが
どうかしています。だからこそ、トリステインは必要なときは戦うし、
わたくしは油断ならない相手だと諸国に知らしめ、今後なめられない
ようにしなければ、彼らと対等にわたっていくことはできないでしょう」
 実績を示して、虚名でもいいから、トリステインにはアンリエッタという
あなどれない指導者がいると、諸国に強い印象を与え、対等の立場を
作り上げて国を守り抜く。そうしなければ、いずれトリステインは他国を
恐れるあまり、自ら傀儡へと成り下がり、国民もそんな誇りのない国は
見捨てていって、他国に併呑されるか、アルビオン同様の内戦で滅亡する
未来が待っているだろう。
 マザリーニは、アンリエッタがそこまでを見通して決断したことに、
年寄りから見たら若者の成長速度というものは目にも止まらぬものだと
いうことを痛感し、うやうやしく頭を下げた。
「成長なさいましたな殿下、少し前とは見違えるようです」
「あなたからお褒めの言葉をいただくのは、ずいぶんと久しぶりですわね。
けれども、それは結果が出るまでとっておいていただきましょう。
それよりも、ロングビルさん」
「あ、はいっ」
 それまで精力的に命令を下すアンリエッタの姿に見とれていた
ロングビルは、いきなり声をかけられてびっくりしたが、すぐに
姿勢を整えて、姫殿下の次の言葉を待った。
467ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (3/13):2009/11/15(日) 15:54:37 ID:c2FDYaCb
「もうしわけありませんが、トリステイン軍はアルビオンの地理には
不案内ですので、水先案内をお願いします」
「わかりました。微力をつくしましょう」
 ロングビルは、傀儡に落ちて、上っ面だけ取り繕って実の無かった
ウェールズと違って、この姫君ならば任せても大丈夫であろうと、
信頼を抱き始めていた。
 そうなると、あとは時間との勝負である。すぐさま移動の命令が
全軍に飛び、ラ・ロシュールへ向けての行軍準備が命令される。
兵士たちは、突然の命令に驚くものの、訓練に従って大急ぎで準備を進める。
 その様子を、アンリエッタは先頭に立って督戦していたが、そこへ全身を
鋼鉄の鎧と、鉄仮面で覆い隠した一人の騎士がやってきて、彼女の
隣から話し掛けた。
「まあまあですな。政治の舞台で主導権を握るには、常に先手をとって
相手に対処する余裕と時間を与えないこと、教えたことは忘れていませんでしたか」
「あれだけ厳しく指導されたら、忘れたくても忘れられませんわ。けど、
感謝していますのよ、あなたがグリフォン隊の訓練の合間をぬって、
家庭教師をしてくれなかったら、わたくしはどうしていいかわからずに
ここにとどまり続けていたかもしれません」
「お忘れなさいますな、あなたに教えたことはまだほんの初歩の初歩、
まずは上出来といって差し上げますが、アルビオンの内乱を収めることなど、
凡百の政治家でもできることです。今後、ガリアやゲルマニアと渡り合って
いくには、今のままではいきませんぞ」
 王女に対して一かけらの遠慮もなく、仮面の騎士は厳しい言葉を連ねる。
けれど、アンリエッタも黙っているわけではなく、したたかな反撃を
用意していた。
「お手柔らかに……そういえば、教訓その二は『使えるものは死人でも
墓から引きずり出して使え』でしたわね。ですから、あなたがわたくしの
親衛隊に就任したことは、もろもろの方面から宣伝させていただきました。
銃士隊からの報告ですが、どの国の間諜の方々も色を失って国に帰って
いったそうですわよ」
「……老兵に酷なことをなさる。これでは、当分やめられなくなったではありませんか」
「あら、わたくしは教えを忠実に守っただけですことよ。それに、あなたが
いるというそれだけで、戦争抑止力となります。もちろん何年もかかりますが、
わたくしはこの国を軍事力などによらずして立ち行く国にしたいと思っていますが、
それまで失業はさせませんので」
 にこやかだが目が笑っていない笑顔を向けて、アンリエッタはおしとやかな
お姫様では決してありえない、たくましさというか腹黒さを見せた。
「ならばさっさと平和を取り戻しませんとな、せっかく楽隠居を楽しんでいたというのに、
こんな世の中では、娘の恋人にケチをつけていじめる暇もありませんわ」
 どこまで本気なのかわからないが、仮面の下で笑ったようであったのに、
アンリエッタは気づいていた。
 ともかく、これからアンリエッタが女王の冠を頂くにしても、アルビオンの内戦処理
などは序盤のハードルの一つに過ぎないはずで、ぐずぐずと手間取っている
訳にはいかないのだ。

 その後、アンリエッタの判断はハルケギニア全土で種々の反応を生んだ。
 
 この翌日にゲルマニア皇帝アルブレヒト三世は『トリステイン軍二千が
アルビオンに上陸』の報を聞くに当たって、彼の参謀たちが、
468ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (4/13):2009/11/15(日) 15:56:17 ID:c2FDYaCb
「これはトリステインがアルビオンを併合、あるいは傀儡国家にせんが
ための侵攻、どちらにしてもかの国の領土拡大の意思は明らか、
ただちにトリステインを占領すべし」との進言に対して、トリステインを
屈服させて、その始祖直系の権威を得ようという誘惑を感じたが、
トリステイン国内にはまだ九割以上の軍が残っており、それを撃破
するためにはこちらも全軍を動かさざるを得ず、そんなことは保有する
工場や鉱山が無防備になる貴族や商人が許すわけはなかった。
 実際この日も彼の執務室には「南部の鉱山に見えない怪獣が出現」、
「北部製鉄所の河川から青い怪獣が出現」という報告書と、それらに
対抗するために軍が数個師団を出動させているとの追加報告が
来ており、ここで軍を無理に他に動かせば、それらの貴族や商人は
結託してアルブレヒト三世を退位させようとするだろう。元々、彼は
他国の王のようにハルケギニアの基礎を築いたといわれる始祖ブリミルの
血統というわけではなく、簒奪によって皇帝となったので、ブリミル教徒の
臣下からの忠誠心は無きに等しく、要するに自分たちに儲けさせてくれる
というのが国民からの支持の理由であって、それがなくなったときには
用無しとなった皇帝は即座に捨てられるだろう。
「まさかあの小娘、そこまで読んで兵を動かしたのか……」
 彼は執務机に面杖を突きながら憮然とつぶやいた。直接会ったのは、
半月ほど前の会談のときが最初で最後だが、ゲルマニアのことを
根掘り葉掘り調べていったのはこのときを見越していたのか。
「それで皇帝陛下、いかがいたしましょうか?」
 考え込む皇帝に、彼の摂政が話しかけるまで、皇帝はずっと
娘のような年齢の、隣国の姫の食えない笑顔のことを思い出していた。
「……今は動けん。しばらくは情報収集に専念し、あやつがアルビオンの
領有を宣言しようものなら、改めて経済制裁なり、宣戦布告なりを
すればよい」
「仕方ありませんな。当分基本方針は、国内の安定が第一でまいりますか」
「まったく、どうしてわが国にばかり、こうも怪物が次から次へと出現するのか」
 ぼやいた皇帝は、自らが富を得ようと、鉱石を掘り出すために鉱山を
切り開いたことが地底に眠っていた怪獣を目覚めさせ、水を汚した工場の
排水が怪獣を作り出し、空を汚した工場の煤煙が怪獣を怒らせ、そしてそんな
欲に満ちた心や、劣悪な環境で働かされる平民たちの恨みがマイナス
エネルギーとなって、ヤプールに力を与えていることを知らなかった。
 先の報告書にあった怪獣にしても、山を切り開いたせいで、山間部で
おとなしくしていた透明怪獣ゴルバゴスを怒らせ、精錬のために出た
廃液や魔法薬などを垂れ流しにした工場廃水が、川のただの魚を、
巨大魚怪獣ムルチへと変貌させたのだった。
 これらの件は結局、両方ともかろうじて怪獣を追い返すことには
成功するものの、工場の半分は破壊され、出動した部隊も多数の
死傷者を出し、逃げた怪獣がまたいつ出てくるかわからないために、
別の部隊が臨戦態勢で待機しなければならないという、到底外征
などをしている場合ではないということになって、さらに皇帝を悩ませることになる。
469名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 15:58:16 ID:rIwITaVf
不要かもしれないが
ウルトラ支援!
470ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (5/13):2009/11/15(日) 15:58:56 ID:c2FDYaCb
 数十年前の地球と同じように、自らが壊した自然のバランスに復讐される。
誰を恨みようもない、因果応報の結果であった。しかし、エコロジーの
思想が世界的に広まり、公害怪獣の出現が激減した地球とは違って、
公害の概念すらないハルケギニアで、そのことに人々が気づくまでには
まだまだ多くの痛みが必要であった。
 が、不幸にしてそれを知らない皇帝は、とりあえず目の前の問題を
考えることにした。
「アンリエッタか、籠の鳥との噂はどうやら外れのようらしいな。
あるいは名宰相との噂高いマザリーニの教育あっての代物か、
どのみちしばらくはトリステインから目が離せんな」
 国土、国力、軍事力、すべてにおいて数倍の規模を誇るゲルマニアの
皇帝ともあろう自分が、たかが小娘一人が勝手に振舞うのを
止めることができないのを、彼は忸怩たる思いを抱きながら、
事務的に答える摂政の言葉を聞いていた。
「では、トリステインとはこのまま同盟を強化なさいますか?」
「強いものをわざわざ敵にすることはないからな。それに……
卿も聞いているだろう。今トリステインには、奴がいる」
 戦えば、最終的に勝てるにしても、恐らくは全軍の半数以上が
失われ、そして自分は確実に皇帝の座から下ろされる。彼に
そう確信させるだけの巨大な不安要素が、トリステインにはあった。
 
 そのころガリアでも、会議にはほとんど欠席する『無能』と揶揄
されるジョゼフ王を欠いて、大貴族と軍人たちによるトリステインの
アルビオン侵攻に対する措置を論議していたが、自衛のためにと
先制攻撃を主張する若い貴族や軍人たちはともかく、重鎮を占める
壮齢以上の者たちは、アルブレヒト三世と同じ、たった一つの
情報によって戦意を完全にそがれていた。
「だが……諸君も聞いているであろう。あの『烈風』が、現役に
復帰したというではないか」
 生きた伝説である、ハルケギニア最強の魔法騎士が戻ってきた
という情報は、数十年前にその鬼神のごとき圧倒的な強さを
目にしてきた者たちにとっては、恐怖以外の何者でもなかった。
 もちろん、若い貴族の中には、
「噂に聞く『烈風』とやらが、いかに強くとも、今はとうに現役を
下りた老兵、なにほどのことがありましょうぞ」
 という勇ましい意見も出たが、将軍たちの中でも特に年老いた
白髭の大将はこう言った。
「そなたは、たった一人のメイジが、一個師団を相手にして、自らは
無傷でこれを殲滅することが可能だと思うか?」
「いえ……」
「『烈風』は、それを二個師団を相手にやってのけたのだ」
 全員が絶句し、トリステイン攻撃の案はそのまま流された。
471ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (6/13):2009/11/15(日) 15:59:47 ID:c2FDYaCb
 ちなみにこのとき、ジョゼフは自室に一人でこもり、チェス盤を前に、
チャリジャがハルケギニア各地から集めてきた、珍しい怪獣が
収められた数個のカプセルを前にして、何か面白い使い道は
ないかと思案にふけていたが、トリステイン侵攻は是か非かという
会議の案件について、
「ふむ……そういえば父上が生前、トリステインを落とすには
六個師団の犠牲がいるが、そのうち四個師団は、たった一人の
メイジの精神力を削りきるのに必要だと、俺とシャルルに
言っていたな。伝説の怪物か、俺の指し相手には面白いかも
しれんな」
 そう思い、ほおを歪めたが、そこへチェス盤の上へ置いた
小さな人形から、彼にしか聞こえない声で、女性の声が流れてきた。
「ジョゼフさま、ジョゼフさま……」
「おおミューズ、余のミューズか」
 それは、アルビオンでクロムウェルの表面上の秘書として、
裏では彼を操っているシェフィールドの声だった。そう、ジョゼフは
シェフィールドを介して、クロムウェルやレコン・キスタを裏から
操っていたのだ。
 今から数年前のことだ、水の精霊から強奪したアンドバリの指輪と、
シェフィールドの内部工作によって、アルビオンの不満分子を結集させて
レコン・キスタを作り、そのときはまだ一介の司教に過ぎなかった
クロムウェルを言葉巧みに誘って、最高指導者にすえて、いいように
内乱を発生させていたのだが、それを彼の臣下で知っている者は
誰一人としておらず、またなぜそんなことをするかについても、
シェフィールド以外に知るものはいない。
 ジョゼフは、すっかりトリステインのことなど忘れてシェフィールドの
話に聞き入った。シェフィールド、もっともそれは偽名で、ジョゼフは
彼女を本来の呼び名のミョズニトニルを縮めてミューズと呼んでいるが、
彼女はレコン・キスタ、その指揮官であるクロムウェルが最近
こちらの要求をまともにこなせずに、ひたすら戦争を長引かせている
だけであることを、怒りに震えた声であげつらい、かくなる上は
アンドバリの指輪で操ろうかと言ってきたが、ジョゼフは笑って
それを退けた。
「もうよい。どのみちアルビオンのことは、暇つぶしにはじめた
余興に過ぎんし、そろそろ飽きてきたところだ。そんなものよりも、
集まりつつある新しいおもちゃでどう遊ぶか、それを考えるほうが
幾倍も愉快だ」
「では、アルビオンはもう切り捨てなさいますか?」
「いや……せっかく作ったオペラだ。出来栄えは悪くとも、脚本家が
途中で降りては無責任だし、観客にも失礼であろう。せめて最後は
派手に散らせてやろうか」
 彼はそう言うと、貴下の空軍の艦隊をアルビオンに向かわせようかと
思案し始めた。ここでレコン・キスタを撃ってアンリエッタに恩を売るもよし、
トリステインと戦争に拡大しても、それはそれで面白い。
472ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (7/13):2009/11/15(日) 16:00:36 ID:c2FDYaCb
 だが、ジョゼフもシェフィールドも、自らが脚本を書いていると信じる
あまり、舞台がすでに別の脚本で動かされていることに気づかなかった。
彼らの作った脚本に合わせて踊るはずのクロムウェルは、もはや
彼らの糸の先にはいないことに……
 
 こうして、各国がそれぞれの事情の元に鳴動している中で、
アンリエッタは精鋭二千の兵とともに船上の人となっていた。
結局、大半の兵は置いて越さざるを得なかったが、トリステイン艦隊旗艦、
新鋭高速戦艦『エクレール』の甲板上で、艦首の女神像と見まごう
ばかりの凛々しい姿を見せる王女の姿に、兵たちは自らがこの船に
乗る資格を得れたことを誇りに思った。
「スカボロー港への到着は、あのどれくらい必要ですか?」
「およそ、二時間を見ています」
 航海士官の報告に、アンリエッタは満足そうにうなづいた。だが
それにしても、いくらアルビオンが再接近しているとはいえ、
普通なら七,八時間はかかる行程を恐るべき速さである。
 その理由は、このエクレールはゲルマニアで開発された新鋭戦艦
ランブリング級の三番艦で、次世代型の実験艦として様々な新機軸が
導入されており、高速艦として徹底的な軽量化が推し進められた結果、
なんとマストすらもなく、完全に風石でのみ航行をおこなうために、
これまでの戦艦のなんと三倍もの速度を発揮することに成功して、
今もなんとかこの艦に追随できるのは、兵を分乗させた六隻の
軽駆逐艦のみというありさまであった。
 むろん、欠点も数多くはらんでおり、船体が脆弱で防御力が
皆無に等しく、武装も従来艦の半分以下しか積んでいない、
さらに今後の問題として、風石の消費量が従来艦の五倍という
経理泣かせがついているが、実戦となったら大砲の照準を
合わせる暇もない速度にものを言わせて、敵をかく乱できるものと
期待されていたし、燃費の問題も、今トリスタニアのアカデミーでは
風石の力を数倍の効率で取り出す方法が研究されており、これが
成功すれば、格段に少ない風石で船を動かせるようになる。
 むろん、そんなことは不可能だと断じる者も少なくはなく、確かに
人間ではまだ成功したものはいないが、現実にエルフとの戦争中に、
追い詰められたエルフが小石ほどに小さな風石のかけらで、何十リーグもの
距離を目にも止まらぬ速さで飛んで逃げたという実例も報告されているので、
技術的には可能なはずであり、主任研究員のエレオノール女史以下が、
上層部がそっくり入れ替えられて自由度の増した研究室で、日夜
研究に没頭しているために、実現の日も遠くはないであろう。
 さらに、このエクレールを含む三隻の実験艦の運用実績を参考にして、
まだ青写真はおろか仮称すら決まっていないが、これまでの常識を
超越する、対怪獣用の巨大万能戦艦の建造も計画されているというから、
そのうちの一隻を任されたアンリエッタの責務は重かった。
 もっとも、今アンリエッタに必要なのは、この船の常識外れの
速力のみであったが。
473ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (8/13):2009/11/15(日) 16:01:48 ID:c2FDYaCb
「ウェールズさま、今まいりますから、どうぞご無事で」
 十日ほど前に、ウルトラマンAがバードンやテロチルスと戦った
空間も駆け抜けて、七隻のトリステイン艦隊は、持ちえる風石を
全部使い果たす勢いで走り続ける。
 
 
 
 そのころ、この戦争を犠牲なくして終結させうる唯一の希望は、シルフィードを
一路北上させて、ロンディニウムへと急いでいた。
「これで、この戦争も終わるんだよな」
 山林地帯の上空を飛びながら、才人はこのくだらない争いが、とっとと終わって、
残りの夏休み期間をのんびりと昼寝でもしてすごしたいなと、ため息をついた。
「ほんとに、こんなつまんない戦争はさっさと終わらせて、バカンスの続きと
しゃれこみたいわねえ」
「今回はあんたに同調するわ。こりゃもう戦争なんてものじゃないわ、
頭をなくしたドラゴン同士の醜悪な茶番劇よ」
 キュルケやルイズも、うんざりといった様子で、彼女たちが思い描いていた
戦争の美のかけらも無い戦いに、これ以上つきあいたくないとつぶやいたが、
タバサとミシェルはそんな二人に釘を刺すように告げた。
「戦争なんて、参加してみればそんなもの」
「戦いが終われば、たとえ勝っても、隣にいた誰かがいなくなっている。
どんなにいい奴でも関係なくな。それらは名誉の戦死とたたえられるが、
実際には戦いの勝敗にはなんら関係ない犬死、無駄死にさ」
 戦争の美などは、しょせん血濡れの本性を隠すための厚化粧でしか
ないことを、世の中の暗部と数々の実戦を潜り抜けてきた二人は、
いやというほど思い知っていた。
 戦争を知る者と知らない者、その差は大きい。
 けれど、戦争がくだらないものであればあるほど、さっさと終わらせるに
越したことはない。それで、具体的にどうしようかとルイズに問われると、
才人は簡単に答えた。
「クロムウェルとかいうやつが、ウェールズ同様に操られてるなら、
半殺しにして目を覚まさせる。超獣なり宇宙人なりが成り代わってるなら
ぶっ飛ばす」
「ずいぶんと荒っぽいわね」
「でも、確実だろう」
 なにかすごい作戦案でもあるのかと思ったルイズは苦笑したが、
それが一番の近道であるとも認めていた。どっちにせよぶっ飛ばされる
クロムウェルとやらには気の毒なことだが、レコン・キスタなどという
つまらない組織を作った責任はとってもらわねばならない。
 それが成功すれば、中核を失ったレコン・キスタは自壊して、戦争は
終結することだろう。その後のことは、アンリエッタ王女らが政治的に
解決をなす番であるから自分たちの出る幕ではない。あくまで、
やるべきことはヤプールの影響をこの大陸から排除することで、
国家間の問題などは、それ相応の人々に任せるべきなのだ。
474ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (9/13):2009/11/15(日) 16:02:53 ID:c2FDYaCb
 だが、それにもまだ重要な問題が残っていることをミシェルが指摘した。
「しかし、ロンディニウムにはもう名のある貴族や将軍はたいして
残っていないだろうし、敗戦の混乱もあるだろうから、クロムウェルの
身辺に近づくのは難しくはないだろうが、あそこには恐らくワルドがいる。
あいつが護衛についているとなると、ことは容易ではないぞ」
 奴に刺された脇腹の傷を押さえながら、ミシェルが憎憎しげに
言うのを、ルイズ、そして才人は視線を尖らせて聞いていた。
 ルイズにとってはかつての婚約者であり、幼いころは面倒を
よく見てくれた恩人でもあるが、今は祖国を裏切ったあげくに敵の
走狗に落ちてしまった薄汚い卑劣漢、もう一度会ったら、この手で
引導を渡してやろうと決めていた。
 また、才人もミシェルの話から、ワルドに乗り移ったものの正体に
見当をつけており、恐らくはウルトラマンAの最大の強敵となるで
あろうことを覚悟していた。だがそのためには、まず人間体であるワルドを
追い詰める必要がある。
「今奴は、乗り移られたためかワルドが使えていたスクウェアクラスの魔法を
使うことができない。それでも、グリフォン隊の隊長を任されるほどの体術と
剣技は健在だ。だが、今度は遅れはとらん」
 特に、死線をさまよわされたミシェルは雪辱を晴らしてやると、歯を
食いしばらせながら杖を握り締めた。しかし、また命を投げ捨てかねない
危うさを感じた才人は、無理をしないようにと釘を刺した。
「ミシェルさんが危険を冒さなくても、あのいけすかないヒゲ親父はおれが
ぶっ飛ばして敵を討ってあげますよ。だから、安心して道先案内をお願いします」
「いや、お前の実力では、まだ奴には勝てないだろう」
「魔法が使えないなら、条件は五分ですよ。それに、元々気に入らなかった上に、
ヤプールに操られたにしても、ミシェルさんを殺しかけたなんて許せるわけ
ねえだろ、絶対ギタギタにしてやる」
 血まみれで死に掛けていたミシェルを見たときの絶望感は、いまでも
忘れられない。ミシェルは、才人が自分の子を傷つけられた親のような
純粋な怒りを自分のために燃やしてくれたことに、さらに信頼を深くした。
「サイト……わかった、私の命はお前に預けるよ」
 キュルケはここで、身も心も預けるよ、と言えばよかったのにと思ったが、
それはいくらなんでも過大要求すぎるだろう。もっとも、鈍い才人はそこで、
「はい、全力で守り通しますよ」
 と、言葉どおりに受け取って、女性が自分を預けるという意味に気づきも
しなかったが、そこで例によってルイズが。
「あんたはまずご主人様を命に代えても死守することに専念なさい!」
 などとかんしゃくを起こして、才人の股間を蹴り上げたので、いつもの
ドタバタした雰囲気になって、キュルケ好みのムードは飛んでしまったので、
我関せずと、懐から赤い雨で台無しになってしまった本を取り出して、
はりついたページと格闘しながら読みふけっているタバサの隣に座り込んだ。
475ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (10/13):2009/11/15(日) 16:05:12 ID:c2FDYaCb
 だがそれにしたってつくづく思う。
「まったく、さっさと夏休みの続きを楽しみたいものね」
 トリステイン魔法学院の夏休みは長い。全部が片付いたなら、ルイズから
ティファニア、知っている人たちをみんな集めて、もちろんアニエスやミシェルも
いっしょに、全員そろって盛大に宴でもしたいものだと、キュルケは揺られながら
思うのだった。
 
 しかし、加速を続ける時代の潮流は、次元を超えた先の地球でも、
その勢いを緩めてはいない。
「ロンドン発東京行き、ヨーロッパ航空101便にお乗りのお客様は、
三番ゲートまでお越しください」
 この日、イギリスのロンドン空港に、日本行きの便を待つ一組の男女がいた。
「やっと時間ね。いくわよジョージ、いつまでサイン会やってるのよ」
「おや、もうそんな時間か、すまないねセニョリータたち、この続きは
今度の試合のあとでね」
 一人は、ひきしまった肉体とクールな印象を与えるロングヘアの若い女性。
もう一人は、全世界をにぎわすサッカースペインリーグのトップチームのロゴを
あしらったジャンパーを着た、精悍な長身の男。二人の名は、カザマ・マリナと
イカルガ・ジョージ、日本発の女子プロライダーと、スペインリーグのスーパースターだ。
 だが、彼らにはもう一つの顔がある。すなわち、かつてヒビノ・ミライたちと
共に地球を守るために戦ったCREW GUYS JAPANのメンバーとしての一面だ。
「久しぶりの日本だな。またあいつらに会えるかと思うと、わくわくするぜ」
「あの熱血バカが隊長で、今でもちゃんとやっていけてるのかしら? 
新人隊員たちまでバカが移ってなければいいんだけどね」
 今彼らは、GUYSへと復帰するために、日本へ出発するところだった。
 けれども、GUYSとしての仕事ももちろん大切だが、彼らにも本業の
レースやサッカー、仲間たちにかなえると誓った夢があるので、それを
おろそかにするわけにはいかなかったが、GUYSで鍛え上げた彼らはそれぞれ、
イギリス国際七十二時間耐久ラリー制覇と、スペインリーグ史上最速での
チーム優勝を決めるという快挙を成し遂げ、誰に後ろ指さされることも無く日本に
向かおうとしている。
 すでに日本では、かつてのGUYSメンバーたちが続々と集まってきており、
彼らで全員集合となるはずである。
「だがそれにしても、イギリスで怪獣とやりあうことになるとは思わなかったな」
「ええ、ヤプールの影響が日本以外にも現れはじめたってことかしら」
 実は、彼らは出発直前にGUYS ENGLAND(イングランド)の要請を受けて、
イギリスに出現した怪獣の迎撃に参加していたのだ。
 それは三日前のこと、イギリスのスコットランドにある、世界的に有名な湖、
ネス湖で、一隻の遊覧船が火災を起こして沈没した事故から始まった。
それだけであったら、よくある船舶事故で済ませられていたであろうが、
沈没した船が湖底の地層を押しつぶし、そこで冬眠していた怪獣を
目覚めさせてしまったのだ。
476ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (11/13):2009/11/15(日) 16:06:06 ID:c2FDYaCb
 突如湖面から猛烈な気泡を噴き出して現た、古代の恐竜のような巨大怪獣は、
湖上の船舶や湖岸の町に襲い掛かり、人々は逃げ惑って、通報を受けた
GUYS ENGLANDはただちに出動した。
「ネス湖に怪獣が出現、日本のアーカイブドキュメントSSSPに同種族を
確認、えりまき怪獣ジラースです」
 二足歩行のアロサウルス型のシルエットに、ごつごつとした黒い表皮を
わずかに黄色がかせ、太い腕と、同じく太く長い尻尾、首筋から背中を
通って尾までびっしりと生えた、鋭く大きな背びれ、そしてのどもとに
大きく開いた巨大なえりまき状のひだ。
 かつて、日本の竜ヶ森湖に出現して、初代ウルトラマンと激闘を繰り広げた
古代恐竜の生き残りが怪獣化した、えりまき怪獣ジラースの二代目が
出現したのだ!
 しかし、なぜ日本に出現した怪獣の二代目がイギリスに現れたかというと、
初代も実は元々はネス湖に生息していたものを、恐竜学者の二階堂教授が
日本に連れ帰って、ひっそりと育てていたので、本来の出身地はこのネス湖で、
同族がいたとしてもなんら不思議はなかったのだ。
 眠りを妨げられ、怒り狂うジラースはネス湖周辺の町に甚大な被害を
与えると、そのままロンドン方向へ前進を始めた。
 むろん、それをGUYS ENGLANDが黙ってみているはずもなく、
多数のガンクルセイダー、ガンウィンガーが出撃したが、怪獣の出現に
慣れている日本と違って、エンペラ星人襲来時のインペライザー迎撃以外は
まったく実戦経験のない彼らは、うかつに近づいてはジラースの腕で
叩き落され、慌てて距離をとればジラースの口から放たれる白色熱線で
バタバタと撃墜される始末で、やっとこさメテオール、スペシウム弾頭弾で、
比較的脆弱なえりまきを焼き落としたものの、むしろ身軽になったジラースは、
猛爆撃で黄色い部分が見えなくなったほど黒々となった体をいからせ、
初代に比べて低く轟くような雄たけびをあげて暴れまわる。明らかに、
この二代目は初代以上の強さを持っていた。
 しかも、悪いことは重なるもので、その近海に数ヶ月前に日本でリュウたちと戦った
宇宙海獣レイキュバスまでもが現れたのだ。奴は、ガンフェニックスの攻撃によって
海に追い落とされ、その後GUYSオーシャンの攻撃で消息を絶ち、受けたダメージ
から死んだものと判断されていたが、生きていたのだ。
「最近北海であいついでいる海難事故は、こいつが原因だったのか」
 おそらく日本からベーリング海峡を通って北極海を越えてイギリスまで
やってきたのだろう。その間にエネルギーを蓄えたと見えて、すっかり傷も
治っているレイキュバスに、イギリス海軍も出撃したが、フリゲート艦も
巨大なハサミを振り下ろしてくるレイキュバスの攻撃の前に次々と撃沈され、
戦闘機もレイキュバスの火炎弾の前に全滅した。
 陸と海、同時の怪獣の出現に、未熟なGUYS ENGLANDはなすすべもなく、
そこで、偶然ヨーロッパに滞在していた、経験豊富なGUYA JAPANの
二人にヘルプが出たのである。
477ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (12/13):2009/11/15(日) 16:07:15 ID:c2FDYaCb
「ネッシーが、本当にいたとは思わなかったわね。どうするジョージ」
「二匹と同時に戦っては不利だ。この二匹を戦わせて、一匹になったところで、
ワンオンワンに持ち込もう」
 ジョージが、サッカーでディフェンスを抜くときのテクニックから考えた作戦が
採用されて、ジラースとレイキュバスをぶつける作戦が取られた。
 方法は、すでに時間は夜になっていたので、マリナがバイクのライトに虫が
集まってくることを思い出し、動物が光に向かう走光性という習性を利用して、
照明弾でジラースを海岸線にまで誘導する作戦がとられ、見事海岸で
上陸しかけていたレイキュバスの前に引き出すことに成功、こうして、
えりまき無し怪獣ジラース対大ザリガニ怪獣レイキュバスの戦いが始まった。
 雄たけびをあげて、地上と海上から威嚇しあう二大怪獣、先に仕掛けたのは
ジラースだった。
 岩だらけの海岸線に転がっていた岩石をジラースはサッカーのように、
レイキュバスに向かって蹴っ飛ばした! 
「あの怪獣、うちのチームにほしいぜ」
 ジョージがそんな緊張感のないことを言ったが、レイキュバスもやるもので、
巨大なハサミをラケットのようにして、ジラースに向かって岩を打ち返した。
 驚くジラース、だが負けじとさらに岩を受け止めて投げ返し、レイキュバスは
またまたハサミで岩をはじきとばして、ハサミをバシバシと合わせてジラースを
挑発する。どうやら、こいつもすっかり地球に慣れた様子であった。
 そうなると、ウルトラマンと光線の力比べをしたほどに知能が高くて負けず嫌いな
ジラースのことであるから、さらに岩石を持ち上げて投げつけて、ハサミで
打ち返されてきたら、頭突きでまた打ち返すラリーを繰り返したが、器用にも
レイキュバスはハサミで岩石をはさんでキャッチして、今度は野球のように
振りかぶって第一球を投げた。
 だがジラースは打ち返そうとしたが空振りして、岩石はその後飛んでいって
近辺の町のテレビ塔を破壊した。
「ストライーク、バッターアウッ!」
 誰かがそう言ったのが聞こえたわけではないだろうが、怒ったジラースは
海に飛び込んで水中戦に突入した。昔、ネス湖は海とつながっていて、
ジラースはそのときにやってきた海生爬虫類ではないかという説があったが、
どうやら本当であったようだ。
 戦闘は、ジラースの放った白熱光がレイキュバスの腹を焼いてゴングとなった。
もちろんレイキュバスもそのくらいでまいるはずはなく、海中から大バサミで
ジラースを水中へ引きずり込んで、壮絶な格闘戦になっていった。
「すげえ……」
 上空から見下ろしながら、ジョージとマリナだけでなく、GUYS ENGLANDの
面々も、怪獣同士の大バトルに我を忘れて見入ってしまった。
 戦いはその後、ときたま海面に浮き上がってはぶつかり合う、互角の様相を
挺していたが、ジラースがレイキュバスの左の小ぶりなハサミに噛み付いて、
勢いよく引っこ抜いてしまったことで勝敗が決した。ひるんだレイキュバスに、
ジラースはさらに組み付いて、その怪力にまかせるままに右の大バサミも
もぎとってしまったのだ!
478ウルトラ5番目の使い魔 第74話 (13/13):2009/11/15(日) 16:09:12 ID:c2FDYaCb
 これで、完全に戦意を失ってしまったレイキュバスは、尻に帆かけて沖合いに
逃げ出した。だが、逃がすわけにはいかない。
「今だ! 全機レイキュバスに総攻撃」
 潜水しかけるレイキュバスへ向かって、ありったけのスペシウム弾頭弾が
叩き込まれていき、ダメージが蓄積していたレイキュバスはたまらずに、
一声鳴いた後に、海面に焼きエビになって浮かび上がってきた。
 だが、もう一匹のジラースのほうは、その隙に悠々と海中に姿を消して
しまっていた。もちろん、GUYS ENGLANDは追撃しようとしたが、海中でも
ジラースの動きは相当に素早く、あっという間に深海へと逃げられてしまった。
 画龍点睛を逃したことに、ジョージたちは悔しい思いをしたが、その後は、
GUYSオーシャンの管轄であるから、残念だがあきらめるしかなかった。
 北極海方面に逃げたジラースには、イギリスが誇る最新鋭原子力潜水艦
グローリア三世号が撃滅に向かったというが、その先はもうしばらく経たねば
わからない。
 それでも、二匹の怪獣の脅威からイギリスを守れたことには、イギリス政府より
感謝が送られ、二人はそれを慰めにして日本への帰路に着いた。
「シートベルトをお締めください」
 二人の座席は、機体中央あたりの右に二列、左に二列の座席にはさまれた、
四列になったシートの真ん中の二つであった。
「ふぅ、到着までは四時間ってとこかな」
 ロンドンから東京までが、わずかに四時間。
 この101便はコンコルドを生み出したヨーロッパの航空技術の粋を集めて
作られた画期的な超音速旅客機であり、さらに平和産業に一部開放された
メテオール技術を受けて、超音速で飛んでも衝撃波や騒音をほとんど発生
させないという、新世代の夢の飛行機だった。
 機体が浮き上がっていく心地よい感覚を受けながら、ジョージとマリナは
疲れた体を座席に横たえて、やがて寝息を立て始めた。
 だが101便が発進して三時間ほどが過ぎ、日本海に差し掛かったところで
101便に東京国際空港から緊急連絡が入った。
「トウキョウコントロールより、101便へ、進行方向にイレギュラーの大型
低気圧が発生、高度を上げて回避せよ」
「こちら101便、了解、高度を上げます」
 機長は飛行帽をかぶりなおして気合を入れると、副操縦士に合図して
自動操縦を解除して、進行方向上にあるという大型低気圧を回避するために
操縦桿をぐっと引いた。
「こんな黒雲は、見たことがないな……」
 101便の進路上には、まるで台風のように不気味にうごめく雲海が、
巨大な壁のように立ちふさがっていた。 
 
 一方そのころ、才人たちを乗せたシルフィードは、ロンディニウムまであと数時間
という距離にまで進んでいたが、進行方向に夏場の名物ともいえる巨大な
積乱雲が現れて、行く手をふさいできた。
「どうする、迂回する?」
「時間がないわ。一気に突破しましょう」
 ルイズの判断で、シルフィードは積乱雲の真下へと一気に突入した。
たちまち上空を黒雲が覆い、夜のように周りが薄暗くなっていく。
 しかし、そこで彼らを予想だにしていなかったトラブルが襲った。頭上の
黒雲が突如として生き物のように不自然な渦巻きをはじめ、猛烈な突風とともに
彼らを吸い込み始めたのだ。
「なっ、なんだぁ!?」
「す、吸い込まれる!」
 まるで、地上に出現したブラックホールのような黒雲は、とっさに
逃れようとするシルフィードをどんどん吸い寄せ、ついにはその内部へと
飲み込んでしまった。
 
 
 続く
479ウルトラ5番目の使い魔 あとがき:2009/11/15(日) 16:12:18 ID:c2FDYaCb
今週分は以上です。支援ありがとうございました。>>469さん、不要なんてことないですよ。
今回から世界情勢が緊迫してまいりました。
久々にゲルマニアやガリアのことがちょっと出せましたが、ハルケギニアは自然豊かなので
自然破壊で出てきた怪獣は、ちょっと出しづらいんですよね。ガリアも、はやくイザベラを
再登場させたいです。
それから、カリーヌさまは無理に合わせないほうが無難そうなので、しばらくは11巻までの
イメージでよろしくお願いします。合わせたら合わせたで、次巻以降でさらに泥沼に
なりそうですから……それにしても、タバサ3巻のときもガンQ登場で考えていた話がボツに
なるし、新刊が出るたびに冷や汗ものです。
それでもまだ、今後書きたい話や登場させたい怪獣はいっぱいあるので、ウル魔の世界を
広げていきたいと思います。
では、また来週。
480名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 16:27:25 ID:rIwITaVf
ウルトラ乙
481名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 16:34:44 ID:Xb/D8fMh
ちょ…最後の展開って、まさか遂に…
482名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 16:35:15 ID:7c1btpAl
更新乙でした。
いつもながら文量が凄い!

>>455
そういう事か…
自分が昔プレイした時はモムノフとアッーしてたな、カオスヒーロー…orz
483名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 16:53:30 ID:r7ONq/rO
お疲れ様です

ジラースってばエリマキゴジラだからな、そうそう負けはせんだろう
それにしてもあいかわらず来週が気になる終わり方だぜ
484名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 17:00:47 ID:hXDRU+W8
ウル魔の方乙です!
最後の二つの世界に現れた黒雲、そしてそれにサイト達が吸い込まれた
と言う事は、彼等はもしかしてこの後・・・。
485名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 17:40:10 ID:EM3U3OmD
乙。

この話におけるカリン様は、もはや戦略兵器だな……。
486名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 18:29:50 ID:kVfGoOfU
ウルトラの人、乙です。

>傀儡に落ちて、上っ面だけ取り繕って実の無かった ウェールズと違って
マチルダ容赦ねぇ〜。思わず苦笑いしてしまった…。

それにしても、ジラースって事でゴジラネタが凄いですね。
照明弾の所は『ゴジラの逆襲』だろうし、レイキュバスとの戦いはまんま『南海の大決闘』のVSエビラですな。
いやはや、ウルトラマンも好きですが、ゴジラは更に大好きな自分としてはニヤニヤしっぱなしですよ♪
原作ではジャミラに次いで切ない最後になったジラース。
せっかく鳴き声も見た目も怪獣王属性が入ってる事だし、最後は再び眠りについてほしい。
そうでなくても迫力ある爆死ぐらいであってほしいです。

――それにしても、最後の黒雲をバーキューモンと思ったのは俺だけだろうか?
487名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 18:55:20 ID:ITIY2hXx
>>460
you小ネタで書いちゃいなよ!妖魔のアセルスも見てみたいから陰ながら期待してるよ!
488名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 19:11:31 ID:TYbB5YQa
>妖魔のアセルス
連れ添った恋人を放置して
語り部が愛人に出世した暴君EDのアセルスですか・・・
ルイズに従わないことは明白
魔法学院を第二の針の城にするんかなぁ

いっそ赤カブでも召喚してしまいましょう
オルロワージュを怒らせた凄いカブ
489名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 19:50:59 ID:AVcKIg+4
カオスの人乙
俺、バガブーとならフュージョンしてもいいよ!

>>488
エンディング3種類あるが、どの時点から呼び出したかで色々変わるよね
半妖の方がアイデンティティに悩むルイズのよき友になってくれそうだが
妖魔エンディングだと……確かに針の城化だw
490名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 19:54:05 ID:/mCMnXYE
>>アセルス召喚
かなり昔に手慰みで書いた小ネタがあるのですが、投下してもいいでしょうか?
凄く短いので、拍子抜けされてしまうかもしれませんが。
491名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 20:07:00 ID:oeJj1gQY
>>490
カモン!
492アセルス或いは魅惑の君 1/1:2009/11/15(日) 20:10:29 ID:/mCMnXYE
では、お言葉に甘えて
――

ゼロのルイズが呼び出したのは、一人の少女だった。
緑の美しい髪と、赤い瞳が印象的な彼女は、嘲笑を投げかける観衆を一睨みで黙らせると、
それがさも当然というように、目の前のルイズの唇を奪った。
少女の名を、アセルスという。
またの名を、魅惑の君。

その日、ルイズは初めての恋に落ちた。


夕暮れの太陽が、部屋の中にある何もかもを赤く染めていた。
事情を説明するために案内されたルイズの私室の中で、二人は寝台の縁に並んで座っている。

「なるほど。私は君の使い魔ということか」

その声に不快の気配は無い。
左手に刻まれたルーンを、むしろ楽しげに眺めながらアセルスは呟く。

「あの……お嫌でしたか?」

恐る恐る、といった様子で、ルイズが尋ねる。
喧嘩友達のキュルケが聞いたら、耳を疑うような弱弱しい声音。
そこに透けて見えるのは、この人にだけは絶対に嫌われたくないという想い。

「ああ、いや、退屈しのぎにはちょうど良い。
 ジーナには悪い気がするけど、土産話で我慢してもらう事にするさ」

くつくつと、それがさも楽しい事のように笑う。
笑うと、外見相応の幼さが貌に現れる。
そのさまに見惚れるルイズ。
もしかすると、と思う。
もしかすると、この異世界から来たというあまりにも美しい貴人は、自分と同じくらいの年齢なのかもしれない。
しかし、次の瞬間、ルイズを射抜いた眼差しが、その印象を裏切る。
最高級の紅玉を融かして流し込んだような紅の瞳が、春の日の残光とともに、ルイズの魂をも引き込んでいく。
息が苦しい。部屋の中から、それだけで光が奪われていくようだ。
とくとくと、小さな心臓が刻む鼓動が、ルイズの全身を震わせる。
ルイズは、ある種の確信をもって、アセルスの花唇が紡ぐ言葉を待っている。

「で、仕えるからには勿論対価が貰えると思っていいんだね?」

腕を掴まれる。

「え?」

そのまま寝台に倒れこむ。

「私は安くないよ?」

精々、楽しませてよ、と言って、アセルスの唇がルイズの口を塞いだ。
驚愕に見開かれたルイズの瞳がゆっくりと閉じる。

窓の外の夕陽は、今にも沈もうとしていた。


やがて、僅かな歳月の後に、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールという少女が地上から姿を消し、
針の城に君臨するかの妖魔の君は、また一人寵妃を得ることとなった。
これは要するに、ただそれだけの話。
初恋が、永遠となった、一人の少女の物語。
493名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 20:12:38 ID:/mCMnXYE
お粗末さまでした。
HDDの隅で眠っていた小ネタが陽の目を見られて、良かったです。
ありがとうございました。
494名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 20:40:07 ID:wnFLR41J
乙。
まぁこうなる罠w
495名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 20:46:53 ID:tC3F6YyU
アセルスがルイズをオトしてワルド涙目、って展開も見てみたいw
496名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 21:13:01 ID:AVcKIg+4
乙です
至極当然の流れですねw
497名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 21:33:23 ID:TYbB5YQa
乙、ほぼ予想通りっていうか
妖魔アセルスだとこれっきゃねぇわけでw
しかし・・・自力で帰れるのか、ゲート所持かしら

半妖だったら普通に話が進むのでしょうがねぇ
考えてみたら追っ手の騎士がハルケギニアまで来そうだw
498名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 22:52:18 ID:UAdrvnbL
魔法学院針の城化計画

最初の授業でマリコルヌ下僕化(でも相手にされない)
ギーシュと決闘でシエスタが専属メイドになり
フーケ事件〜舞踏会のあたりで全校生徒のあこがれの的

ここまで妄想した
499カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 22:54:19 ID:5qh7t0GU
こんばんは。予約が無ければ5分後に投下します。
500カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:01:23 ID:5qh7t0GU
それではいきます。

「言葉が通じるんだから文字も読めると思ってたんだけどよ。妙な所でリアリティがでてムカつくぜ」
と愚痴りながらカオスはハルケギニアの文字を勉強し始めた。通訳を頼めばよかったのだが、教師達はそんな暇ではない。
学生共に頭を下げるのはプライドが許さないし、ルイズなんかに言ったら
「私の使い魔になりなさい。そうすれば教えてあげない事もないわ」
と勝ち誇った顔で言うに違いない。
ルイズたちが教室で勉強している間、彼は図書館で黙々と文字を覚えていた。思えば彼の人生で初めての勉強かもしれない。
人間の学生だったころ、成績は優秀な方ではなかったし、途中から悪魔の戦いに巻き込まれそれどころではなかったのも
理由の一つだ。

昨日会ったシエスタ。自分の勘が外れてなければアイツは日本人だ。ってことは、以前にも向こうからこっちに呼ばれた奴が
いるはずだ。もしかしたら何らかの形で記録、伝承されているかもしれない。あとで直接本人から話も聞かないといけないな。
「なんだなんだ、思ったより早く帰れそうじゃねーか」
「どこへ帰る?」
後から声をかけられた。振り向かなくても正体はわかった。
「自分の居場所だ。そんなことよりどうしてここにいるんだよ、タバサだっけか?」
まだ授業は終わっていないはずである。
「ルイズが失敗したから自習になった」
「それで教室抜け出してサボりか。お前はもっと優等生だと思っていたぜ」
自分の本を開き隣に座るタバサ。だが本を読む気配はない。
「どこから来たの?」
「あぁ?そういえば他の連中はしらねーのか。俺はこの世界のモンじゃねえからな。元の世界に帰るんだよ」
「そう」
と素っ気無く返事をする。そうするとまた次の質問が来た。
「どうやったら、悪魔に魂を売れる?」
「ああぁ?何言ってんだてめー?」
「前に言った。強くなるには悪魔に魂売ればいいって」
そういえばそんな事も言った気がするが。普通本気にするか?カオスは呆れていた。
「こっちに悪魔がいればそいつと交渉すればいいだろ。いなかったら黒魔術でもやって魔界から召喚するんだな」
タバサはコクコクと頷き、いい事を聞いた子供のようにしている。
そこで授業終了の鐘が鳴り響いた。
「やれやれ、邪魔が入ったせいで区切りが悪いぜ」
「ごめんなさい」
カオスは立ち上がり食堂へ向かった。その後をタバサがひょこひょこついている。
501カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:02:08 ID:5qh7t0GU
「あ、タバサ。どこ行ってたのよ」
キュルケが寄ってくるが「図書館」とだけ答え、タバサはカオスの後をついていった。その後をさらにキュルケがついていく。
「何だおめーら?金魚のフンじゃねーんだからついてくんな」
うっとおしそうに追い払おうとするカオス。
「あら、いい女二人も捕まえてフン呼ばわりは無いんじゃない?」
まぁいいけどよ、と言ってカオスはそれ以上何も言わなかった。キュルケは、やっぱりこの男は敵対するものには容赦しない
けど、身内には結構優しいのではないかと思い始めていた。

そんな3人をルイズが見つける。仲魔のルイズとしては勝手にいなくなったカオスに対して怒り心頭である。仲魔なんだから
一言くらい言ってくれてもいいじゃない。がルイズの言い分だ。
さらにキュルケとタバサがくっついているのだから、面白いもんじゃない。
「ちょっと、仲魔ほったらかしにして何やってんのよ!」
「勉強だ。それよりまたメギドぶっ放したのか?」
「うるさーい!そんな変な魔法じゃないわよ!」
プンプン怒るルイズを軽くあしらうカオス。キュルケも加わりより一層やかましくなる。タバサは相変わらずだが・・・。
この光景を見た他の生徒達は、「あの魔人、意外といいやつなの?」とキュルケと同じ事を思い初めていた。

食堂につくとイスに座っただけで勝手に料理が運ばれてくる。贅沢な事この上ない。テーブルマナー何か欠片も知らない
カオスは普通にむしゃむしゃ食べ始めるが、他の3人は見事なもので物音一つたてやしない。
「やっぱりここの飯はうめぇぜ!こっちに来て良かったと思うのはこの時だけだ」
「カオス、向こうで何食べてたのよ」
「あぁ?食えるものは何でも食ってたな。食える物にありつける奴はまだマシだ。逆に食われちまう奴もいるくらいだった
からな」
それを聞いて流石に3人ともナイフがとまる。向こうの世界って一体・・・。想像しただけで恐ろしい。
「私、貴族に生まれてよかった」
「珍しいわね、アンタと意見が合うとは思って無かったわ」
ルイズとキュルケの意見が一致した数少ない例である。
「見事な食べっぷりですね。コック長のマルトーさんも惚れ惚れしてましたよ」
メイドのシエスタがやってきてお茶のおかわりを注いでくれた。それをゴキュゴキュと一気に飲み干すと、料理を食べつくす
作業に戻った。
「まるで子供ね・・・」
ルイズは呆れている。こいつ本当にメイジをボコボコにした奴と同一人物なのか・・・。この姿を見ると信じられなくなる。
「あ、そうだ。おいシエスタ。お前の先祖か遠い親戚でちょっと変わった奴はいないか?」
聞こうと思っていた事をついでに質問しておくカオス。だが
「え、いや、変わってると申されても」
聞かれたシエスタはやはり困惑している。
「何でもいいんだよ。訳のわからないことを話していたとか、何だかよくわからない物を持ってたとか」
「ん〜。すいません。ちょっとわからないです」
その返事を聞くとそうかと答え、目の前の料理に目を戻した。

今度はタバサが口を開いた。
「あなたが使える魔法について聞きたい」
ルイズは一瞬顔が引きつった。自分は魔法が使えないのにカオスは使えるんだ。あんな強力な炎の魔法を。どんどん
自分が惨めになっていくのでこの話題は極力触れないようにしていたのだ。
「わりぃが自分の手の内を簡単に明かすほどバカじゃねぇ」
カオスはタバサにこう答えてこの話題を終わらせた。タバサは残念そうにしていたが、すぐにいつもと変わらぬ様子に戻った。
食べ終わったカオスはごっそさん、といって立ち上がるとまた図書館に戻っていった。
「ずいぶん熱心ねぇ。何を勉強してるのかしら?」
「文字。あと帰る手がかり」
「え!!」
ルイズ的には非常に不味い。使い魔の契約もしてないのにホイホイ帰られたら面目丸つぶれである。何よりあんな強い奴、
もう一度召喚できるとは限らないのだ。
502カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:03:21 ID:5qh7t0GU
「帰る前に一度お相手してもらいたいわぁ」
「さかってんじゃないわよ、この色情魔」
「ふふふ、アンタも色気で繋ぎ止めようとしてみたら?あ、お子様には無理だったわね〜」
そしてまた二人の果てしなく続くいい争いが続くのであった。

他のテーブルで生徒達にデザートを配膳していたシエスタ。クックベリーパイを楽しみにしている生徒は多い。人気メニューの
一つだ。そこに珍しくマルトーがやってきた。
「シエスタ、ちょっといいか?」
「マルトーさん?厨房から出るなんて何かあったんですか?」
マルトーの表情は暗い。いつもは豪気な人で、この人がいるから厨房は活気に溢れている。そんなマルトーが暗い顔をしている
なんて、シエスタは初めて見た。
「ちょっと奥で話がある」
そういってマルトーは戻っていった。シエスタも配膳を他のメイドに任せてマルトーの後についていった。

「シエスタ、実は――」
そう切り出したマルトーの横から一人の貴族が割り込んできた。
「貴女が、シエスタですね?」
その貴族は中年の男性。悪名高きモット伯だった。異常なまでの女好きで貴族の権力を言いように利用して、逆らう事の
出来ない平民の「美しい女性」を自分の屋敷に連れて行くのだ。まさに外道ってやつである。だが聞いていた評判とは
全然違う感じの見るからに紳士な印象を受ける。
「初めまして。私はモット伯。突然の訪問ですまないね。だがとても大事な話が君にあるのだよ」
穏やかな口調だが、とても強い意思が込められている。
「私なんかにですか?」
「そうだ。信じてもらえないかもしれないが、君は狙われている」
シエスタの表情が不安に曇る。
「ど、どうして!?誰に狙われてるんですか!?」
オット伯は真剣な表情になり、息をのんでからこう言った。
「落ち着いてよく聞いて。いいかね、私もついこの間までこんな話馬鹿げていると思ったし、信じる根拠なんか何にも
なかった。だがそんな私の目の前で奇跡が起きたのだ。それ以来私はこの事実を真摯に受け止め、行動する事にした」
「何をおっしゃってるのかわかりません。一体私は誰に狙われているのですか!?」
「悪魔だよ、シエスタ。とても邪悪な悪魔が君を狙っている。私は悪魔から君を守るように頼まれたのだ。大丈夫、心配
する事はない。どんなに恐ろしい悪魔でも、我々の前では無力な存在だ」
自分が悪魔に狙われていると聞いてシエスタは顔が真っ青になってしまった。だがマルトー達はそれを信じていなかった。
そういって気に入った女を屋敷に連れて行くのがこいつのやり口なのだと思っているからだ。
「さぁ、ここは危険だ。学院長にも話はついてある。荷物をまとめてすぐにここから離れるのだ」

午後の授業が始まり生徒達は教室で勉強。カオスは図書館で文字と歴史関係の本をあさっていた。とっていも殆んど文字の
読み書きしかしていないのだが。
そこへオールド・オスマンが一人でやってきた。
「何のようだじじい。帰る手段が見つかったか?」
「いや、まだじゃ。今日は君に聞きたい事があってきた」
ただならぬ雰囲気だ。その気配を感じてもカオスはあえて本に目を通しながら答えた。
「何だよ?言ってみろ」
「さっき一人の貴族がやってきた。その貴族は開口一番、わしにこう言ったよ。『この学院に、悪魔がいる』とな。さらに
その悪魔は一人の女性の命を狙っている。危険だから悪魔を討て。それが無理なら女性を私達が保護するとな」
503カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:04:04 ID:5qh7t0GU
「それは、俺のことを言っているのか?」
「心当たりがあるのかね?女性の命を狙うとはどういうことじゃ?」
「確かに俺は悪魔みたいな存在だ。こっちの世界から見たら悪魔そのものだろう。だがよ、女性の命を狙うってのはしらねぇな。
そもそも、俺が狙ったらとっくに奪ってると思うぜ」
「そうじゃろうな。君の実力なら問題なかろう」
「で、その貴族にはなんて答えてやったんだ?」
「ここには悪魔などおらん。女性の保護も必要ないからとっとと帰れ、と言ってやったわい。じゃが・・・」
オールド・オスマンはそこでいったん区切った。
「その貴族は手をかざした。その時奴はこう言った。『悪魔に手をかす愚か者め。神の怒りを思い知れ』とな
そこでわしは意識を失ってしもうた・・・。気がついたときには、女性が貴族の下に行くような手続きが完了しておった。」
神という言葉を聞いた途端、カオスは椅子から立ち上がった。勢いあまって椅子がひっくり返った。
「神だと!?こっちの世界には神らしいものはブリミルだけと言ったよな!?」
「そうじゃ。奴の言った神はどうもブリミルの事を指しているとは思えん。違う存在の事を指しているとわしは
思う。何より貴族は神という言葉ではなく『始祖』という言葉を使うからの」
カオスはオールド・オスマンに詰め寄って胸倉を掴む。
「そいつはどこに行った!?今すぐ教えろ!」
「お、恐らく自分の館に。シエスタもそこに・・・いる」
「クソがッ!」
乱暴に手を離し、開放されたオスマンは咳き込みながら息を吸う。顔が真っ赤になっていた。
「やれやれ、死ぬかと思ったわ。教えてくれんか。なぜ奴は、モット伯はシエスタを連れて行ったんじゃ?奴は女好きで有名じゃが
以前会った時と別人のようじゃった。妾にする気ではなさそうだしの」
「前に言ったろ。手がかりを掴んだって。それを持っていかれちまった」
「なんと!?あの娘が手がかりと申すか!?」
「自分じゃわかってないみたいだが、アイツから俺のいた世界の人間の血筋を感じる。以前にも向こうからこっちに来た奴が
いるみたいだ」
最後に勘だけどな、と付け足した。目を大きく開いて、オールド・オスマンは信じられないようだった。
「ならば君の同胞、という事になるな。モット伯が何のつもりで連れて行ったのかはわからんが、迎えにいってやってくれん
かの?」
「がらじゃねぇが、俺としても手がかりを失いたくねぇ。何より・・・」
カオスは、にたぁと静かに笑い出した。
「まさか神の手先に会えるとはなぁ、ククク・・・。ぶっ潰してやるよ」
その顔は、オールド・オスマンが今まで生きて見てきた中で、どんな人間よりも楽しそうで、嬉しそうで、
邪悪で不気味なものだった。


馬車にのってモット伯の言う「安全な家」にシエスタがついたのは日が暮れてからだった。馬車の中でモット伯は多くを
語らず、「全ては神の導き」だの「神のご加護」といった言葉で煙に巻かれてしまった。
どうにも神と云う者に憑りつかれてるような感じだった。
「さぁ。着きましたよ。ここが私の家です」
貴族の屋敷を見るのは初めてではないが、その広さ、装飾品の数と質、家具や絨毯どれをとっても超一級品なのはシエスタに
もよくわかる。しかも全てに掃除と手入れが施されていて塵一つ、傷一つもない。一体何人いればここまでできるのか。
504カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:04:51 ID:5qh7t0GU
色んな事を考えているシエスタは言葉がでない。そんな様子を見てモット伯は微笑を絶やさない。
「気に入ってもらえたようだね。少し狭いが我慢して頂きたい。なに、悪魔を討つまでの辛抱だ」
悪魔と聞いてシエスタが思い出したように質問する。
「貴族様、教えてください。なぜ私が狙われるのでしょう。私は見ての通りの平民ですし、魔法もお金もありません」
その言葉を聞いてモット伯はふむ、と頷く。
「君は気づいていないようだが、悪魔は君の秘密を知っているようだ。その秘密が悪魔にとって重要らしい」
「秘密?私、何にも秘密なんかありません」
シエスタには全くわからない話だった。一体自分にどんな秘密があるというのだ。
「大丈夫、我々が守っているからね。今はわからなくてもその内わかる」
そこまで話したところで一室に通され「今日はここから出てはいけないよ」とモット伯に言われるとシエスタは椅子に
座り込んでため息をついた。
「私どうなっちゃうんだろ・・・」
抑えていた不安が噴出してくる。悪魔って何?秘密って何?何で私を狙うの?誰か、誰か助けて。

モット伯が自室に戻ると跪き、両手を合わせ大きな声で喋りだす。
「ご指示通り、娘を連れてまいりました」
そういうと部屋中がまぶしい光に包まれる。その輝きは優しくも尊大。見ただけで心が洗われるような感覚だ。
そしてどこからともなく声が聞こえてきた。
「ご苦労でした。しかし油断してはなりません。悪魔は強力です。いずれ此処にやってくるでしょう」
この声が聞こえてきたのは1週間ほど前だった。いつもの様に女達を可愛がっていると急にこの声が聞こえてきたのだ。
この声に自分のことを戒められた時は怒り心頭で聞く耳持たずだった。しかし何度も聞いているうちに一つの奇跡が起こった。
声が「今日は外出するな」と言って来たのだ。その日は王室から大切な任務を受けるので、王都に出向かなければならない日だ。
当然無視して馬車に乗って出発する。しかし馬がいつまでたっても動こうとしない。鞭で叩いても、大声で怒鳴りつけても
石像のように動かない。仕方なく他の馬に跨って行こうとしたら、今度はその馬が動かなくなる。
どうしたものかと悩んでいる時に、伝書鳩からモット伯に知らせが入った。
手紙に目を通すとそこには驚くべき内容が書かれていた。

――反逆者が貴公暗殺を企てている。その実行日は本日也。馬車を狙うため街道沿いに賊を放った模様。急ぎ警戒し、これを
捕らえよ。

すぐさま指示を飛ばし、賊を討ち取ったが馬がすんなり動いていたら自分はただでは済まなかったろう。
それがきっかけとなり、モット伯はこの光の声をすっかり崇める様になってしまった。妾にしていた女達も光に戒められたら
すぐに全員解放した。なので屋敷には男の執事と男の警備兵しか残っていない。
「さぁ。それでは悪魔を打ち倒す準備をしなければなりません」
「ははっ。何なりと申し付けください」
「感謝します。ではあなたの肉体を神にささげなさい。それは悪魔を打ち倒す力となるでしょう」
「えっ、肉体・・・?そ、それはどういう事です?」
「我々はこの世界に不完全なまま来てしまいました。ですから悪魔と戦うためには肉体が必要なのです。あなたの身体に
私が入り込むと言えばわかりやすいでしょう」
「そんな事をしたら私はどうなるのですかっ!?」
「ご安心を。安らかに神のもとに召されるだけです」
505カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:05:35 ID:5qh7t0GU
「ふざけるな!生贄になって死ねというのか!」
「非力なあなただけの力で悪魔に打ち勝つ事は出来ないでしょう。この方法が最善なのですよ」
「冗談じゃないぞ!お前達の方がよっぽど悪魔じゃないか!!」
しばしの静寂。モット伯はその提案を絶対にのむ気は無い。

「この私の言う事が・・・聞けぬというのかっ!」
そしてモット伯はまぶしすぎる光に包まれ意識を失った。部屋の真ん中に倒れたモット伯はピクリとも動かなくなった。


オールド・オスマンからモット伯の屋敷の場所を聞き出したカオスは、途中まで走っていた。車があれば乗っていたが、
こっちの世界には馬しかいない。しかし乗馬なんてやったこともないので、走っていたのだ。ただ走るといっても常人の
速度とは比べ物にならない。それでもオット伯の屋敷に着くころにはやはり夜になってしまった。
屋敷を見回すと至る所に警備兵がいるのがすぐわかった。だがなんら問題はない。
「さてと、まず最優先なのはシエスタの確保か。それから――奴らを掃除する事だな」
カオスは笑いが堪えられない。憎き奴らをこちらの世界で叩きのめす事ができるとは思っても見なかったことだ。
正面から門に近づき硬く閉ざされているのをものともせずに、蹴り飛ばしただけで門は吹っ飛んでしまった。
そのまま真っ直ぐ屋敷の玄関から屋敷の内部に侵入した。玄関ホールには一人の紳士が立っていた。身なりからするに
恐らく貴族だ。となるとモット伯の可能性が高い。
「てめぇがモットか?」
「黙れ、忌々しい悪魔め。ここで息の根を止めてやろう」
カオスの質問には答えす戦闘体制を取るモット。バチバチと電撃がモットの身体から走り出す。やがて白い光の珠に身体が
包まれると、そこにはモット伯はいなかった。かわりに背中から翼がはえた天使がそこにいた。手には槍と盾を持ち、
身体は鎧で武装している。美しい顔立ちだがその表情は険しい。
「てめぇらに会えるとは思っても見なかったぜ。どうやってこっちに来た?」
「答える必要はない。滅びよ悪魔!地獄の業火に焼かれるがいい!」
「ふん、雑魚一匹で俺を倒せると思ってんのかよ!」
天使と魔人の戦いがはじまった。天使が持っていた槍で魔人を薙ぎ払う。それを鞘から抜かずに剣で受け止める。
今度は魔人が右足で蹴りを放つ。天使は盾で受け止めるが盾は足跡の形に凹んでしまった。追撃する魔人。抜刀して
頭から剣を振り下ろす。それを今度は槍で受け止めるが、身体がくの字に折れそうになっていた。さらに力を込めて
剣を振り下ろそうとする。このままでは押しつぶされてしまう。その時天使がニヤッと笑った。
周りから音も立てずに剣がカオス目掛けて振り下ろされる。同時に四本。それを察したカオスは正面の天使の頭上を飛び越え
て回避した。着地した所でまたも剣に襲われる。それを剣で受け止めると同時に、周りを見た。
いつの間に現れたのであろう。玄関ロビーは武装した天使たちですっかり埋め尽くされている。
「ククク、ゴキブリは一匹見たら三十匹いるって言うけどよ。正にその通りだな」
「ほざけ悪魔!神の怒りを思い知れ!」
「上等だ!てめーらまとめてあの世行きだ!」
次々と襲い掛かってくる天使をものともせずに、切り伏せるカオス。真っ二つにされた天使、首がない天使、魔法で燃やされた天使、
2体が槍で串刺しにされているものもある。もはや血の海どころではない。
赤く染まっていない場所などもはや見つからず、最初からこの色だったの
ではないかと思うほどだ。それでも天使は次々と現れてくる。カオスもそれに余裕で立ち向かう。持っていた剣がボロボロ
になってしまったので今度は素手だったり敵の武器を奪って戦った。魔法がくれば天使を盾に、そしてそのまま敵に投げつける。
超高速で繰り広げられる戦いは最早人間の眼で追うことは出来ないだろう。ひと筋の影が走るごとに血しぶきが舞い、天使
達が地に落ちる。圧倒的に有利と思われた天使の軍団は、カオスに一方的に蹴散らされていくのだった。
506カオスヒーローが使い魔:2009/11/15(日) 23:07:09 ID:5qh7t0GU
そしてついに、長い戦いは最後の天使にカオスが止めを刺して決着がついた。
辺りを見回すと死体が文字通り山になっている。何体いるのか数えるのが無理なくらいだ。
「さすがにちょっと疲れたぜ」
と言いつつ深呼吸をする。服のいたるところが切れ、浅い切り傷が見える。だがそれも直ぐに塞がってしまった。
順番が変わってしまったが、シエスタを探さなければならない。餌のつもりで連れ出したのだろうが、無駄だった。天使達も
ここまで力の差があるとは思っていなかったのだろう。
ロビーのドアを開けると外の廊下まで血がつたわっていた。廊下はどす黒く変色し始めている。
「おい、シエスタ。どこにいる。返事をしろ!」
廊下を歩き、部屋を一つずつ探す。しかし見つからない。一人で探すにはこの屋敷は広い。部屋の数も多いのに、その部屋の
広さもバカみたいに広いのだ。
「ったく、めんどくせぇな。おーい!さっさとでて来い!」
テーブルやベットを片っ端からひっくり返し、邪魔なものは放り投げ、窓の向こうに投げ捨てた。
カオスがシエスタのいる部屋に近づくにつれ、物騒な音が大音量になるのだからただの人間であるシエスタにとって、恐怖
以外の何者でもない。部屋の隅で膝を抱えて小さくうずくまる。ガタガタ震えが止まらなかった。
そしてついにカオスがシエスタの部屋にやってきた。
「おーい、シエスタどこにいる?迎えに来てやったぞ」
この声は・・・ミス・ヴァリエールが召喚したカオスヒーローさんだ。
自分の知っている人物が現れた事で安心したシエスタは、クローゼットに隠れているところからのそのそとでて来た。
「カオスヒーローさん!どうしてここ・・・へ」
「やれやれ、呼んでるんだからさっさと出て来いよって、おい!」
シエスタがドサッと倒れる。天使の返り血で染まっているカオスをみて、気を失ってしまったのだ。
「おいおい、何で気絶するんだよ。おい起きろ!目を覚ませ!」
ぺしぺしと頬を叩くがシエスタが目を覚ます事はなかった。不本意ながらカオスはシエスタを背中におぶって学院まで帰る
事になった。
「何で俺がこんな事を・・・」
深いため息をつく。
こうなったのも天使がこいつを連れ出すからだ。天使に対する憎しみが増していく。何故かこっちの世界に
来てからガラでもない事をするはめになっている気がする。そんな事を考えつつ、学院に向かって走るカオスであった。
モット伯の屋敷はカオスが火を放ち全焼した。使用人や警備兵の生き残りはいなかった。全員天使に身体を乗っ取られたのだ。
後日、貴族の屋敷が全焼し生存者ゼロというニュースは国中に広がったが、真相が明らかになることはついになかった。

「しかし奴らはどうやってこっちに来た?俺を追いかけてきたのか?」
この疑問もこの時点ではカオスには解けないままだった。


今日はここまでです。皆さんお疲れ様でした。・・・はやく・・・電源を・・・・きれ・・・
507名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 23:40:42 ID:zEReStJ1
乙ラギダイン
508名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/15(日) 23:49:08 ID:AVcKIg+4
突撃の乙煙

モットさん哀れ……

メガテン系のどれかで、1/256の確率で
起動時に電源を切れって赤文字で出るんだっけ?
509名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 04:26:39 ID:MQIpbL1b
次スレ立ててくる
510名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 04:28:26 ID:MQIpbL1b
次スレ

あの作品のキャラがルイズに召喚されました part260
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1258313265/
511名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 05:55:38 ID:Wy5BYXT7
>>497
妖魔は自力でリージョン移動が出来るとかそんな設定があったような気がする
512名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 08:45:12 ID:/Q4OA34e
500超えたばかりなのにもう限界か。今回は早いな。
513名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 10:38:11 ID:/of47NfF
>>512
規制のせいで雑談が入れなかったからと、作品一つごとが大きかったからだろうな。

裏・解体新書のオルロワージュはヘタレだったがアセルスは熱かったなあ。
人間エンドでレッドも含めてヒーロー、ヒロイン路線で書いてみたいと思うが、今書いてるのを一つは完結させないと…
514名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 21:51:36 ID:p0d4RHG0
test
515名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 22:20:13 ID:i3TZGFMS
規制解けてるかテスト
516名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/16(月) 23:50:34 ID:rCC7fgCa
マハ埋めオン
517名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 05:49:58 ID:81ppi6ii
518名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 12:01:23 ID:zE3OVK4b
てすと
519名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 14:09:28 ID:ogqtqyZS
規制テスト
520名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 14:18:57 ID:iPsNJiz8
規制テスト
作者も読者も迷惑してるし、この規制2ちゃんの人口を減らすだけだと思うがなあ
521名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 15:06:04 ID:r0tvhNdH
気持ちはわかるが、
文句はは自重とかを知らない馬鹿どもに言ってくれ。
522名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 15:07:51 ID:LcSUZ/I9
>>520
減ったほうがいいって考えてるフシもあるね。
最近はガキが多めで調子に乗る馬鹿の際限が無いしな。
523名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 15:16:15 ID:cVDwdEKU
とはいえ規制されて欲しいようなアホに限ってこういう時にも書きこんでたりするんだよな
524名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 17:47:44 ID:OEbf4Mlk
>523
あるある。
525名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 19:08:30 ID:B/vCJiN+
規制の仕方にも問題あるよ。
幾ら削除依頼に突撃されたからといって普通プロバイダ丸ごと規制するか?
526名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 19:17:48 ID:nXdBDbt1
まあ今のところ荒らしの思惑通りだな
今頃笑いが止まらないんじゃねw
527名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 20:36:14 ID:SDfPjaV/
これで、各ユーザーからプロバイダに圧力かけさせて、プロバイダに荒らしをなんとかさせようって発想なのかもだけど
528名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 20:40:27 ID:7S4+kk3J
おれ裏の世界に詳しいからちょっと教えてやるけど実はこの規制には国が絡んでる
政府の連中が2chをつぶそうとしてるんだよ
529名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/17(火) 20:41:42 ID:t2o7l/bd
それは大変だな
病院に行くべき
530ルイズが変態兵器?を召喚しました。:2009/11/18(水) 01:24:02 ID:jS5MHQbb
それは使い魔召喚の儀式の際に起こった出来事である。
この事件に関してわがU,Kは一切の責任を負わない。
事故報告.1 召喚時の暴走事故
ルイズ嬢(仮名)は車輪状の使い魔を召喚したそうだ。
しかし不用意に火気を近づけた?(爆発したか?)によりロケットに点火。
暴走し、教師一名、モグラ一匹を跳ねとばし停止。幸い速度が出ていなかったので、一人と一匹は軽傷で済んだ。
同校では以前にも我が国製粘着爆弾暴発事故が起こっている。

ルイズはイギリス軍が開発した珍兵器?グレート・パンジャンドラムを召喚したようです。        
531名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/18(水) 02:20:11 ID:CUpPyLfP
test
532名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/18(水) 21:08:28 ID:yoLsRMWj
どうなってるの……
533名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/18(水) 21:27:06 ID:+wqbfFNH
みんなルイズに召喚されちまったんだ…・・・
534名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/18(水) 21:27:41 ID:93tq6T44
それはなんてうらやましいんだ
535名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/18(水) 22:28:59 ID:oRCmW0sM
>>525
基本的に見せしめだからね、付帯被害なんざお構いなしだよ
536名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/19(木) 00:18:15 ID:rxkuhHZe
今の内にテスト。
週末には投下してぇなぁ
537名無しさん@お腹いっぱい。:2009/11/19(木) 17:25:26 ID:asVCPsCS
                                          ○________
                               なぎはらえー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
                                              |:l\\\||.:.|l///|  .///
                         __ ィ   ,. -――- 、     |:|:二二二二二二二 !// /
                        /    /          \.   |:l///||.:.|l\\\|/  /
                / ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./  / /   l l l lハ  |:|//:::::||.:.||:::::\\l    /
  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
 __  |\       l/V  _{_____/x|    (_|::::__ノ   }ィ介ーヘ  /  ,.-‐ ' ´           /       ____  ̄ ̄フ ∧  l
  )-ヘ j ̄} /|        /___/xx|       _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___           {     /      `<  /  \|
  {  V  /`7.         /___./xXハ    ( |:::::::::::::::::ハ   >' ____ 二二二二二二>   /   __    〈
.  \_   |/        /___l XX∧     __≧__::::::::/:∧/   `丶、           /     {   {____ハ    }
    |   ヽ        /____|]]∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
    |     ',         {     |]]]>'  __      ∧ l\ \   丶、 ` 、   ∠ -――-  ..____ノ   /
   ノ     }       l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/  V'  \ ヽ    `丶\/                 /
  / ∧   { \      |      .|>' /      // :/ :/ :   ', l   \ ヽ  ,.-――┬      \         /
 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
`ー′   \  `<  | {      /   | /〃   :|/  __V/ ̄| ̄ ̄{_     \_      ` <
        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
         \    ヽ   /`ー「と_し^´ |  |    }  ム-‐'  /     /    \_/  /  /  ヘ    \
           ヽ   _>-ヶ--∧_}   ノ  j   /` 7 ̄ ̄ ̄{      (         ̄ ̄`ー‐^ーく_〉  .ト、_>
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            V     人__/  / | /           ̄{ ̄  >‐ ァ-、    \             〉ー}  j
                {  / ./  ∨      __      ̄ ̄ >-</  / ̄ ̄         廴ノ  '
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538名無しさん@お腹いっぱい。
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                               なぎはらえー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
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  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
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       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
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 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
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