【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.26
>>889 うむ、GJ!
さて、波乱を呼ぶのは夢見る乙女の恋心か、はたまたモテたい漢のしっと団・学園世界支部のしっと心か?!w
なんか恋愛運が絶対無敵って表現に吹いたw
>>891 >モテたい漢のしっと団:×
>モテない漢のしっと団:○
今回のフール=ムールの対照は“女”の子だけなんだから、
野郎が祈願しに行っても何の御利益も無いぜ。
ま、女の子達が恋仲になりたい相手=モテ野郎の為に争って社に向かう様を見てしっとを覚えて
「恋愛格差社会を加速させるこんな儀式なんぞ、ぶっつぶしてくれるわぁっ!!」と、
フール=ムールが頼んでもいないのに勝手に社への途上の障害として暴れ回るかも知れんがw
>>893 それをやると洒落になんない実力の女の子に凄い勢いでフルボッコされそうだけどな。剣とか魔法とか超電磁砲とかで。
しっとマスク3号も「女の嫉妬は鬼より怖い」と言ってたしw
>>892 そういや「絶対無敵」な文句で思い付いたんだが
エルドランシリーズネタってあったっけ?(マテ
しかしNW的には相手によると
フラグ下げる柊力すら退ける程のか
・・・本当に‘全力’の加護か?
>>895 俺が小ネタで名前だけ出した。3作全部。
多分数十m級の魔王とか邪神とか殴ってる。
雷神王結界陣のことですね!わかります!
フリーダムすぎる時代のフリーダムすぎる魔法来た!
マジンガーチームが二つに分かれてて、
女性たちはエンジェルチーム、男はボロットでZチーム、なら考えた。
7時半から投下します。
―――極上生徒会管理棟 執行部
「平和だなあ」
迫る年の瀬。ぼんやりとこたつにあたりつつ、柊は1人ごちる。
「さすがに年末まで色々あってはたまらないでありますよ」
それに答えるノーチェものんべんだらりとしている。
大晦日。1日位は平和な日があっても良い。
そんな気分であった。だが。
「―――ええ!?」
そんな平和は年明けまでに溜まった仕事を片付けるんだと張り切っていた初春の声によって破られる。
「なんだ?今度は何の喧嘩だ!?」
その声に思わず立ち上がった柊に初春が答える。
「いえ、何か起こってるわけじゃないんですけど、何でもF地区にある小さな神社に女の子が集まってて、物凄い不穏な空気が流れてるって…」
困惑しながらも初春は柊たちに内容を伝える。
「は?なんだそりゃ?初詣…にしちゃあまだ昼間だよな?」
「はい、それにいくらなんでも数が多すぎるって話なんですけど、何のためなんですかね?」
初春が首をかしげる。彼女には『神託』は届いていなかったため、理由不明としか思っていなかった。
「う〜ん。一応見に行った方がいいのか?」
「かも知れませんね…」
そんな話をしていた2人に、ノーチェがブラブラと手を振り、言う。
「ああ、それなら問題ないでありますよー」
「なんだ?何か知ってるのか?」
「ええ。知り合いから聞いてきたであります」
柊の問いにノーチェが頷く。
ちなみにノーチェ自身もこの前、『ろんぎぬす』に行ったときに友達の吸血鬼から聞いて来ただけで直接は聞いていなかったりする。
「何でも今年…いえ、まだ来年でありますな。来年、一番最初にそこで初詣した人に物凄い"御利益"があるとかで、それ狙いでありますな」
と言ってもわたくしが欲しい金運はこれっぽっちも上がらないらしいので行く気にもならないのでありますよ、と朗らかに笑う。
「そうか…ならいいけど…」
理由を聞き、邪魔をするのもどうかと思うが、だからと言って放っておいて良いものかと思った柊が首をかしげる。
そしてそれにノーチェは大丈夫でありますよと答えた。理由は…
「『危なそうだから私が行ってくる!何か起こる前に!』とイリヤと美羽が朝から行ったでみたいでありますから」
「そう言えば御坂さんが『黒子の馬鹿を止めるために仕方なく…そう、仕方無くなのよ!?』って言って出かけたみたいなんですが、もしかしてそれなんでしょうか?」
ノーチェのセリフに、出かける間際に貰った電話の内容を思い出した初春も、ノーチェに尋ねる。
「まず間違いなくそうでありましょうな。さつきが言ってた『条件』には一致するでありますから。まあ、それと…」
ノーチェが遠い目をする。思い出すのは執行部が巻き込まれた案件の中でも特に大がかりになった、あの事件。
「下手に刺激すると本気で新春早々『タオル事件』再びの危機でありますからなー…」
「うっ…あ、あれか…」
その時の騒動を思い出した柊の顔が歪む。
あのとき、暴徒と化した学園世界の女生徒たちに柊は倒された。そりゃあもうあっさり倒された。
特技は生死判定ですなんて言ってた頃を思い出させるほどの倒されっぷりだった。
「さすがにあれをもう1回は勘弁だな…色んな意味で」
「ああ、それなんでありますが…」
心底げんなりした表情の柊に、ノーチェがしれっと言う。
「今回の『条件』に一致する女生徒はタオル事件のとき以上でありますから、下手をしたらあの時以上の騒ぎになりますな」
そんな恐ろしい指摘を。
―――F地区 風雷神社の境内
今年最後の12月31日。
「で、なんであなたがいるのかしら?最近また調子に乗ってる泥棒猫のエメレンツィア?」
鷹栖絢子はじと目でその少女の顔を見ていた。最近また私の護にちょっかい出しやがってこの泥棒猫がと目が語っていた。て言うか口に出してた。
「それはこっちの台詞です。ベアトリーチェはもう護から十分愛されているでしょうに。まさかまだ足りないとでも?」
対するエメレンツィアもじと目だった。この色惚けはあんだけいちゃいちゃしてんのにまだ足りないのですかと目が語っていた。て言うか口に出してた。
じと目のにらみ合い。だが、2人とも手を出そうとはしない。
本気でやり過ぎて"鈴"を破壊するようなことになれば、来年1年の恋愛運がふいになるばかりか、この場にいる恋する乙女の怒りを一身に背負うことになる。
流石にそれは色々とまずい。
それはこの場にいる全員の共通認識なのだろう。
その境内にいる少女たち…恐るべき戦闘能力を持つ少女たちも多数いるこの空間では、似たような火花があちこちで散ってはいるものの、誰も手を出そうとはしない。
凄まじい牽制とにらみ合い、熾烈な位置取りを争う乙女たちの静かな戦いは23時59分59秒…31日の終わりまで続いた。
―――F−34地区 矢神高校
「射角、問題なし。風向き、現在は無風。天気予報では明日朝まで変化なしの予定。本日は絶好の狙撃日和…」
そんな、乙女の戦場と化した神社から離れること1km。神社の境にある学園の教室に不法侵入を果たした緋室灯はただじっと時を待っていた。
手にしているのは、使いなれたガンナーズブルーム。中には鈴を破壊しないよう執行委員相良宗介より譲り受けたゴムスタン弾が込められている。
「風雷神は鈴を鳴らした女と言っていた…」
ならば、修羅場となるのが目に見えている場所での"近接戦"よりある程度離れた距離からの鈴の"狙撃"の方が自分に向いている。
強化人間の優れた頭脳はそう、結論をはじき出していた。
「命…」
"決行"まではまだまだ時間がある。それまでの間、過度な緊張による精神消耗を避けるべく、灯は"うまく行ったときのこと"を考える。
最強の恋愛運を手にいれた場合、更なるらぶらぶモードに突入したときの命とのめくるめく愛の日々について。
「…あふぅ」
そのもうそ…思考に顔を真っ赤にして溜息をつく彼女は、知らない。
―――F−54地区 泉坂高校
「わざわざお姉様(オリジナル)を筆頭にした連中と現場でやりあうくらいならば、ここからの狙撃の方が確実である、とミサカ10032号は独白しつつ決行時刻を待ちます」
「最初に思いついたのはこのミサカであるのに真似しやがってこいつら、とミサカ10039号は便乗してきたミサカたちに毒づきつつも狙い続けます」
「その発想はほぼ同時に思いついたことは、ネットワークに伝わった時刻記録から明白である、と万全の狙撃態勢を整えつつミサカ13577号は反論します」
「ネットワーク経由で元の世界に残ったミサカたちから激しい抗議が殺到していることに不安を覚えつつも、ミサカ19090号は狙撃に集中するべくネットワークから思考を遮断します」
冬休みで人気のない学園の、とある教室から"1人"の声が延々と響く。
中では、とある極上生徒会執行委員によく似た、学園への不法侵入を果たした少女が"4人"、ひたすらに時を待っていた。
ごつい軍用ゴーグルをつけ、同じライフルを構えた彼女たちは口々にお互いを罵りながらも、決して対象から目を離さない。
中学生ほどの体格の彼女が持つには大き過ぎるそのライフルの名は…鋼鉄破り(メタルイーターMX)
"学園都市"の技術力を持って作られた、極めて強力な対戦車ライフルである。と言っても込められた弾丸は命中しても鈴を破壊しないように軟性ゴム弾だが。
「…ところで、せっかくなので別の教室から狙ってみるのも悪くないのでは?とミサカ10032号はごく純粋な親切心から、他意無くミサカたちに勧めます」
「ネットワークから思考を遮断してそれではただ単にベストポイントから追い出したいだけでは無いのか?とミサカ10039号は10032号に反論します」
「衣替えの時に1人だけ特別扱いの抜け駆けをした裏切り者の魂胆などお見通しだ馬鹿。とミサカ13577号は吐き捨てます」
「さ、さすがにそれは言いすぎなのではと、ミサカ19090号はこの嫌な空気を打ち消すことを試みます」
決行まで、まだまだ時間を残し、教室に険悪な空気が漂い始めていた。そう、いずれこの場が戦場になる、そんな空気だった。
そう緋室灯は、知らない。
神社の鈴を様々な場所から都合"10以上"の銃口がただ静かに、時に騒がしく、その時を待っていたのだと言うことを…
―――とある報道委員の手記
多くの乙女の、様々な思いを乗せて、ただ静かに年末は過ぎていった。そして、12月31日が終わった、そのとき。
学園世界に新年早々新たな騒動が巻き起こった。
その騒動については…あえて語るまい。
*
終わりです。それでは、よいお年を。
ちなみに、このSSには出てきてない人がどうしたか?
それは…誰か書いてください。
賭けをしないか?鈴どころか神社そのものが壊れるのではないか、に?(笑)
灯とか別に必要なくね?と思いつつ、赤面ため息の彼女を妄想して
萌え転がってる俺w
年越しそばを遅めにかっ食らいつつ明けましておめでとうございます。
いろいろ悩んだけど、投下はしてみることにしました。
てなわけで、季節ネタとはまったく関係のないある一人の学園世界における少年の一日のお話、はじまりはじまり。
具体的には1時15分くらいから。
そしてのこり容量が5k切ったら避難所に投下とゆーひどいアクロバティック投下です。ごめんなさい。
学園世界。
ありとあらゆる『学び舎』の集まる、学業と学園生活の世界。
そこは分別なく、区別なく、のべつまくなしの見境なしに学校の集められた世界だ。
世界人口の8割は学生というその世界は退屈とは無縁。
毎日がお祭り騒ぎというキャッチコピーの実に合う、事件だらけのトラブルまみれがこの世界の日常。
これは、学園世界のとある一日の一人の少年にスポットを当てた物語。
***
志村新八という少年は、いわば『普通』を体現したような存在である。
種族、人間。身長、平均的。体重、平均的。頭髪、染めも特別な髪型でもナシ。趣味、最近のアイドルの親衛隊隊長であるがまぁ普通。
髪の色がオレンジだったりする死神代行高校生などと比べたら、裸足で逃げる準備を始めなければならない 属性差(スペック)だ。
すべてにおいて平均的で、『多少常人よりもツッコミ技能が上なんじゃね?』くらいの、いわば刺身のツマのような存在である。
そんな、『普通』の体現者は今―――居住区近くを、追跡者から全力で必死に逃げているところだった。
「いきなり全力疾走とか、なんで僕こんなホットスタートォォォォ!?」
知らんがな。
ていうか意外に余裕だな、全力疾走しながら叫ぶ元気があるとか。
ともかく、新八は今追われているのだった。ものっそ追われているのであった。
先も述べたとおり、志村新八はごくごく平均的な、ちょっとお人よしな少年である。
人からうらみを買うようなことは基本的にない―――つーか存在すら気づかれてないんじゃね? 地味キャラ過ぎて。―――人間なため、彼自身に襲われる心当たりはない。
この学園世界の司法・立法・行政の三権を握る『極上生徒会』直属の警邏機関『保安委員(シェリフスター)』や、連盟越校機関『選抜委員』の厄介になる人間でもない。
その彼が追いかけられているというのは、彼を知る者からみればやはり首を傾げるところであろう。
とまぁそんな人物解説をしている間も、彼は居住区の中の学生寮を乱立させすぎて路地が迷路状になっていることで有名な細い道へと身を投げ出すように逃げ込んだ。
数度角を曲がり、立ち止まって壁に背中をぴたりとつける。
全力疾走の結果上がった息を、口元に手を当てて音を立てないように必死に遮る。
鼓動は逃走中ずっと走っていたことでハイペースにビートを刻み、骨を振動させ耳元で鳴り響いているような錯覚を起こす。
この音が追跡者にも届いているのではないかというありえないはずの妄想さえが恐怖によって補完され、ありそうな気がしてくる。
その妄想を必死に振り捨て、足音を聞き逃さないよう、呼吸を聞き逃さないよう、聴覚に神経を集中させる。
相手だって人間で、新八を追いかけるために走るという手段を使っていたのだ。接近するにはそれなりの音がするはずだ。
これが空を飛んでいたり空間転移で追いかけられていたら本気でお手上げだが、走って追いかけられているならまだ逃げようがある。
澄ませた耳には、足音は聞こえない。
どうやら撒いたようだ、と大きく息をついたその時。
ガラリ、と正面にあった窓が開かれた。
新八の心臓がいきなりの音に一際強く脈打った。
窓に手をかけているのは、さっきまで彼を追いかけていた『人々』と同じ、どこか恍惚とした笑みを浮かべている、名前も知らない詰襟の少年。
少年は焦点の合っていない瞳で周囲を見回した後、新八をひたりとみすえて、一言。
「……見ぃつけたァ」
ホラーァァァ!? 何この状況! なんであの作者ムダにホラー描写にノリノリなんだァァァ!!
……と内心新八は叫ぶものの、頭が状況に追いつかずに逃避している場合ではない。
ではないが、あまりの急展開に精神が追いつかない。
追跡を振り切ったと完全に安心したところにパニックホラー系の追っ手の出現だ。屋上からダイブしたような底知れない体を寄せる場所のない焼け付くような不安と恐怖。
頭の回転が止まり、体は完全に硬直した。行動に移るためのラインが両方止まっては、蛇ににらまれたカエルも同然。
このままでは彼もまた、自身の目で見た光景の通りに追跡者たちに捕まってしまうだろう。
そう、このままでは。
「―――捕まりたいのか少年、動けっ!」
理性的な声が響き、それが新八の呪縛を振り切った。
頭はまだフリーズから立ち直ってはいないが、体はその言葉の通り『動いた』。
相手が掴んでいる窓を外側から掴み、雄たけびをあげながら開けられた窓を思い切り力強く閉じる。
詰襟の少年は窓と桟に両手を挟まれてネズミに噛まれた猫のごとくに叫び声を上げる。
相手が見えなくなって、新八はようやく息ができることに気がつく。
しかし、今の騒ぎは『追跡者』たちにも場所を知らせることにもなる。それに気づいて逃げるために足に力を入れようとし。
―――勢いよく開いた近くの建物のドアから伸びた手によって、建物の中に引きずりこまれた。
ばたん。
ドアが閉じる音。それを最後に、路地には静けさが戻った。
……まるでこれまで走っていた人間なんて、本当は存在しなかったかのように。
***
その日、世界はじわじわと侵食されていた。
それまで日常にいた人々が一人、また一人と姿を消し、数刻後には姿を消したその人間が日常を侵食する側へと周る。
その侵食があまりに静かで、異常事態に人々が気づいた時には、多くの人間たちが侵食者に変わっていた。
日常の侵食は止まるところを知らない。
侵食者が増えればその分侵食の効率も上がる。
パズルのピースが欠けるように。日常が最初はゆっくりと、今では加速度的に。雪崩れるようにテンポを上げながら崩れていく。
今ではすでに、世界の変化はカンのいい一般生徒にも感じ取れるほどになっていた。
欠けて崩壊に向かう世界。
崩れ行くその異変をいち早く感じ取った者たちの中には、自衛に走るもの、逃走に走る者。
そして―――対策に動く者たちもまた、存在した。
***
かつこつ。
扉を一枚隔てた先で、複数の足音と、何人かがささやくような声。
やがてそれは波が引くようにまとめて去っていく。
ちらりと懐から取り出した計器を見て、しばらく扉の鍵穴を覗いていた少女は一つため息。
どうやら危機は去ったようだ、と判断した少女は、気を抜いて隣に座っている少年に向けて声をかけた。
「……なんとか危機は抜けたようだぞ、志村」
呼ばれた志村新八は、少女と同じように安堵のため息をついた。
「ふぅ……助かりました。ただ、もうちょっと穏便な連れ去り方してほしかったです。寿命縮みましたよ……」
「はっはっは。危急の事態だ、少し乱暴になったのは許せ」
少女は楽しそうに笑う。その笑みに強ばった心がようやく解けた新八は、少女に話しかけた。
「それにしても、襲われたのは僕だけじゃなかったんですか。氷室さんも奴らに追われてたんですね」
その言葉を向けられた少女―――氷室鐘は、ふむ、と呟いてたずねる。
「その様子だと、なぜ自分が追われていたのかについては心当たりがなさそうだな」
「えぇまぁ……ひょっとして、氷室さんはこの異常事態について何か知ってるんですか?」
新八の目が真剣なものになる。
人間にとって『未知』は恐ろしいものだ。
何も知らないまま追いかけられるよりは、少なくとも何が起きているのかを知りたいと思うのは人間の性だ。
氷室は片目を閉じ、答える。
「そうだな―――今現在、学園世界は異変の只中にある。
先ほど遭遇したような連中が時を追うごとに増えていっている。
理由は簡単。連中に捕まった人間は、残らず気味の悪い笑顔を浮かべて自由意志を失う状態になり、仲間を増やす尖兵となるというシステムらしくてな。
わたしたちもキミを助ける前に襲われ、なんとか逃げおおせて、今は協力体制を作っているところだ」
「わたしたちって……他にも、あいつらに襲われて逃げ切った人たちがいるんですか?」
「あぁ。北高の長門有希嬢と朝比奈高の五十鈴銀之助少年は知っているか?
彼らは逃げ切った後、北高のコンピュータールームに篭って空間を隔離。その後は情報収集と分析を行っている。少なくとも私が知っているのは彼らだけだ」
なるほど、と新八は呟く。
少なくとも、この世界の中に安全圏があることは理解したのだった。
支援します。
「つまり、そこまで行けば安全は確保されるんですね?」
「逆を言うとそこまでたどり着けなければ完全に安心できるとは言いがたいわけだ。
ついでに言うなら、コンピュータールームの前にも北高のすぐ前にも彼らの尖兵が待機していると長門嬢は報告をくれているぞ」
その言葉に起きかけた希望が潰されて、新八はうぅぅ、とうめいた。
氷室は、落ち込んだ新八をはげますように彼の肩を叩く。
「なに。少なくとも奴らはキミがここを出なければ見つけることはできないだろう。
外に出て見つかれば、もう一度逃げおおせることは難しいだろうがな。
センサーのようなものでターゲットをロックしているわけではないのは、今わたしたちがここで隠れられていることで証明済みだろう?」
「ターゲットって……何か、僕らが彼らに狙われる理由のようなものがあるんですか?」
氷室がターゲット、という言葉を持ち出したということは、連中はさらう相手を選別しているということを意味する。
そう直感的に考えた新八がたずねると、氷室は意外なものを見た、といった表情で答える。
「驚いた。キミ―――いや、汝は意外と頭の巡りがいいのだな」
「面と向かっておっきなお世話です。で、なんなんですかその選別の理由って」
「ふむ。連中自身と、汝と私。そしてさっき話に出た銀之助少年と長門嬢。
これらの人物に共通する特徴とは、なんだと思う?」
にやり、と意地の悪い笑みを浮かべながらたずねる氷室に、真面目な新八は特に何か言い返すこともなく素直にそれぞれの顔を思い返してみる。
性別で分けられているわけではない。
学校や区画、成績なんかもバラバラで、趣味嗜好に至っては新八には把握しきれない。
共通点なんてどこにもないじゃないですか、と呟いた彼を見て氷室はやれやれと肩をすくめた。
どこか楽しそうな顔で彼女は答えを口にする。
「答えはな―――『メガネ』だよ」
幕間その1 <三葉ヶ丘高校・上空>
「……行ったか」
「行った、みたいなのはいいんだけどさ」
「安心しろキョーコ。奴らの統制の様子を見る限り、我が『キルゼムオール』の怪人洗脳術の足元にも及ば―――」
ん、と言おうとしたとげとげ頭の少年―――阿久野ジローは、従姉妹のボサボサ頭メガネ少女、渡恭子の右ストレートを頬に受けてがふぅ、と色んなものを吹き出した。
「なんっで。あたしはあんたにお姫様抱っこされながら空を飛ばないといけないのよこの悪の組織バカ―――っ!!」
空中な上お姫様抱っこという実に不安定な体勢ながら、持ち前の異様なまでの身体能力によって生み出される右拳で、危うくジローは意識を飛ばすところだった。
ともあれ、悪の組織なんてもんは打たれ強くなくてはやっていけない。
それは野に咲く花のように。
いつか悪の華を咲かすため、正義の味方に潰されても踏まれても己の美学を貫き続けるのが悪というものだ。そんなこともできないのはただの三下である。
一撃によって完全にバランスを崩したジローは、しかしキョーコからは手を離さない。
空を飛ぶために使っていた、彼の意思どおりに変化する攻防自在の万能型可動アーマー・オートマントは悪の組織業界十指に入る性能を発揮する。
最も手近にある校内の木を捕捉。瞬時にキョーコと自分の分の体重を支えられる幹の位置を判断。
ジローの判断と時を同じくし、オートマントは先端をアーム状に変えて伸び、その幹を掴んでから一気に縮む。
結果、彼ら二人は重力によって地面に叩きつけられることなく、ぶらーんぶらーんと振り子状態で木から吊り下がった。
ふぅ、と安心した後、ジローは腕の中のキョーコに向けて怒鳴る。
「何をするっ!? というか、普通わかるだろうあの状態から明日の矢○並の右ストレートなど受ければどうなるかっ!?」
「あんたに普通とか語って欲しくないってのこの常識知らずっ!!」
「なにおぅっ!? それもこれもキサマがオレ以外の連中に体を狙われているというからわざわざ」
「あんたが狙ってんのはあたしを改造したいって意味でしょうが―――っ!?」
「何を言う!! ファンクラブの会長が謎のメガネ集団に連れ去られ、数刻後に生気を抜かれて謎の笑みを浮かべて帰ってきたのだぞ!?
悪の科学者たるオレにはわかるっ、アレは何者かの洗脳を受けたに違いない!
そしてオレの明晰な頭脳はアレはメガネの人間を集める何者かの陰謀に違いないという答えを弾きだし、オレのものであるキサマに手を出されぬように先手を―――」
「寝ぼけたこと言ってるんじゃないわよこのバカジローっ!!
あんたいったい何度執行委員と選抜委員と209のお世話になれば気が済むんだ―――!!」
今度はみぞおちに肘打ち。
ごはぅっ、と再び謎のうめき声。
実はジローの言ってることはかなり正鵠を射ている。
なのだが、世間知らず+生まれてこのかた悪の組織育ちな経験によってはじき出される普段の行動のすっ飛び方からしてキョーコの信頼はない。
……まぁ、ぎゃーぎゃーとわめきながらもジローがキョーコを離さないあたり、この二人は異常事態下であっても特に問題なさそうなのであった。
解決方向に動くことはなさそうであるが。
―――事態は、こんな時も刻々と進んでいく。
<幕間1・了>
一応次スレも準備しときましたよ。支援
***
「―――つまり、メガネをかけた人が相手の目標になってるってことなんですよね」
氷室により起きようとしている事態についての説明を受けた新八は、頭の中を整理して確認するようにそうたずねた。
彼女はそういうことになるな、とそれを肯定する。
彼女が話したのは以下の通りだ。
・連中はメガネをかけた人間を取り込んでどこかへと連れ込み、洗脳に近いなんらかの処理を行って同じメガネの人間を『仲間』として増やしていっている。
・今のところ襲われて連れ去られていっているのはメガネをかけた人間のみ。
・掛けているメガネの種類は問わない。銀縁・遠視用・モノクル・サングラス・伊達など、ありとあらゆるメガネが狩猟対象。
・メガネを外せば逃げられるというわけではないらしい。
・連中もメガネをかけた人間を超常的な力(探知魔法・人工衛星・千里眼など)で理解しているわけではなく、単に視認した対象を捕獲するために動いている。
・長門も何人かの協力者に連絡をとっているものの、何故か何度やってもうまく情報が収集できない。なんらかの妨害が働いているとの分析結果アリ。
・一応なんとか大量の熱源反応が ロストメモリー(廃ビル群)区域に集合していることが協力者によってわかる。
・連中の人数が増えているということは、そこが本拠の可能性が高い。
話を聞いてからというもの考え込んでいる新八にちらりと視線を送り、氷室は一つ伸びをした。
「まぁ、ともかく見つかりさえしなければいいのだ。
長門嬢が動いているということは、いずれ各部署に通達がいくだろう。奴らに見つからぬように隠れてさえいれば、いずれは過ぎる嵐だ」
長門有希のこの世界での知人たちは、10m級の機動兵器っぽい何かを生身で倒す斬撃バカだの拳撃バカだの戦術兵器級の破壊力な人間兵器だの人間武器庫だのなどなど。
原因さえ解明し、対応策さえ立てられれば、荒事から電子戦まで、これまで世界内で起こってきたありとあらゆる争いを終結に持っていった実績がある連中だ。
それを知っている氷室はそう気楽に言って立ち上がる。
新八は彼女にたずねた。
「氷室さん? どこか行くんですか?」
「ん? なんだ志村。私がどこに行くのかが気になるほど、汝と私は親しい関係だったかな?」
新八がウブな少年であることを見越して言った氷室の言葉は、しかしそれ以前に真面目すぎる人間である新八にはあまり効果をなさない。
「親しいとか親しくないとか、そんなの関係ないでしょう。
外はあんなのがうじゃうじゃいるんです、下手に動かない方がいいって言ったのは氷室さんですよ?」
「……ふむ。
志村、なぜ私はこんなところに都合よくいると思っている?
キミと会ったのは単なる偶然だが、私の学校である穂群原からも、安全圏である北高からも遠い、『穂群原から廃墟街区へ向かう方向』の間に」
「まさか……調べに行くつもりなんですか? 連中の本拠地を特定するために」
914 :
夜ねこ:2010/01/01(金) 01:40:43 ID:K3UzuMCz
>>912 マジすか。
新年早々ご迷惑をおかけします……。
んじゃ、残り5kから次スレに投下させていただきたいと思います。ホントにありがとうございます。
ってメガネ!?支援
916 :
夜ねこ:2010/01/01(金) 01:45:32 ID:K3UzuMCz
新八の言葉にやれやれ、と肩をすくめて。彼女はなんでもないことのように答えた。
「それ以外の何の理由があるというのだね。
これでも私は報道委員の一員だ。気になったことをそのままにしておく、というのは私の性分上も許さなくてな」
「何考えてるんですかっ! 僕だって―――男子だって逃げ切るのは大変なんですよ、そんなところに女の子一人で大丈夫なわけないでしょう!?」
「心配してくれるのはありがたいが。
一応長門嬢によって連中の視界から逃れるためのルートは随時送られてくる。言うほど危険なわけではないさ。
いずれ突入する人間がいるとしても、彼らのために警備の薄いところを調べてくるのは有意なことだ。
それに―――私は事実を知っているのに、知らぬふりをしたせいで誰かが傷ついてしまっては、報道に携わるものとして失格だろう?」
そう、氷室は笑みさえ浮かべて告げた。
彼女はこの学園世界において報道委員というポストにいる。
その委員会内容は、根本的に世界で起きている事態を広域に知らせることにある。
彼女がそこにいるのは報道委員会『リーダー』アルヴィンの勧誘があったからで、彼の「電波に乗せて世界中に絆や希望を広げていく」という思想に共感を覚えたからだ。
だからこそ、氷室鐘はここで退かない。
己の仕事に誇りを持ち、自分の性格に素直に生きる彼女だからこそ、その進む道を一人の特に関係性のない少年の言葉で変えたりはしない。
氷室の表情を見て、新八はため息をついた。
どうにも自分の周りは頑固な人間ばっかりだ、と内心ぼやく。
悩まなかったわけではない。
けれど自分の身が危うくなることよりなんかよりもずっと、彼自身が彼自身として貫くべき道を見つけてしまったのだから。
「わかりました。このまま放っといて見捨てるわけにもいきませんし、僕もお供します」
新八の言葉に、氷室は目を丸くした。
目の前の少年は彼女の知る限り、いつもいつもパワフルなクラスメイトや自校の教師の巻き起こすトラブルに巻き込まれては痛い目を見る役回りだったはずだ。
その言葉は、厄介なことに巻き込まれることに厭いているはずの少年から出ると思ってもみなかったものだったのだ。
だから彼女はたずねる。自分の事情がどのようなことであるかを十二分に理解しているからには。
「キミは、その言葉がどういうことか理解しているのか?」
「わかってますよ。さっき言ったじゃないですか、僕一人だって逃げ切るのは難しかった。
けどこの異変をなんとかしようとしてる人がいて、僕もそれを知ってしまった。
その人がたった一人で、危ないとわかっているところに向かうと知ってしまったんです。
僕は、バケモノと戦って勝てるほど強くないです。誰かに何かを教えられるほど頭もよくないです。
それでも―――色んな人を助けるために頑張ってる人を一人にしておくような、危険を一人に押しつけて知らんぷりしてるような、卑怯者には絶対になりたくありません」
新八の眼差しは今時の少年の中では珍しいほどひたむきで、まっすぐで。
そして仕方のないことに。氷室鐘は、そういうまっすぐな目をしている人間が大好きだった。
やれやれ、と肩をすくめ。彼女は少年に向けて言った。
「そこまで言われればさすがに悪い気はしないな。
ではこうしよう。私たちの二人の内、必ずどちらかがルートの割り出しと首謀者の発見をやり通す。
片方が捕まっても、必ずもう片方がそれをやり通すのだ、と。そう約束するのなら、連れて行かないこともないぞ?」
新八はそれにこくりと頷いて。
そして―――彼らは歩き出す。危機の終焉の鍵を探し出す、その為に。
917 :
夜ねこ:2010/01/01(金) 01:47:09 ID:K3UzuMCz
>>915 うんメガネ。
んでは、以降は次スレに投下させていただきますですー。
そして。本スレでネタ振りを行っておくテスト。
*
休日。
学園が転移して出来たこの世界に、休日出勤などと言うサラリーマン的なものは存在しない(一部教師除く)
毎週1度、所により2度は訪れる休日。学園世界において、その過ごし方は様々である。
学園都市や麻帆良、蓬莱など"学生の遊び場"が充実している学園に遊びに行くもの。
購買で依頼を受けたり、自主的にダンジョンに向かったりして“冒険”に明け暮れるもの。
"研究者の楽園"ザールブルグアカデミーで学業を忘れてひたすら研究に勤しみ、議論を戦わせるもの。
居住区で、出会った異世界の同好の士たちと様々な"同好会活動"を行うもの。
学園海や学園都市で"アルバイト"に精を出すもの。
そして、">930"が選んだ休日の過ごし方は…
*
本当は>1000にする予定でしたが、多分その前に落ちるので。
ああ、容量の問題か
これ埋められないの?
梅得?
AAでも貼ればすぐ埋まるよ
規制が厳しい
規制ウザイ
ねんがんの みつめてナイトをてにいれたぞ!
俺は火魅子伝を手に入れたぞ!! (だからどうした)
埋め埋め。
んじゃ、もらっちゃうよ?
931 :
919:2010/01/09(土) 21:16:15 ID:YIxQsGKr
>>930 OK。時間かかるかも知れんが、いずれ書きあげるよ。
>>931 おおう、こないに早く確認してもらえるとは
よろしくたのんます埋め
埋め草として、こっちに書く。
レネゲイドで思い出したが似たようなのにブギーポップの合成人間とかもいるな。
どうもあれ人間を合成人間化させる(たまに死ぬ)薬があるらしいし。
…統和機構の支配が及ばないから好き勝手に色々やったりしてたりするのかもなあ。
帰ったら何やってても反逆者として処分されそうだし。
,.‐'´  ̄  ̄ ̄` ヽ
/ ヽ
/ / /∧ 「 i i
j { { レ ∨レル∧ノ|l } |
j { { ノ `ヽ j| i | l
{!{人l ● ● ル| |l j 信じているの…
リ仆⊃ 、_,、_, ⊂⊃ィ人{
ノv/⌒l,、 __, イリ从ハ'
/、ヽ/、/ ̄トヾ }`ヽ、-‐‐、
/ヽ、.メ { { 三} } j===}-‐‐`
,.ッ―v―ッ===tz_ ―- .. ゚
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ムイ.从 ノ .≠===八: : : :リ__`ー.)) )人 ), |
{X |人 { :' :' \ ノ`气ミ(ノ乂: :) ハ / ゚
( j八: :ヽ廴:' :' '( |/' j} + ゚
)X: :\: : :.\:' 厂 ̄〕 ゙(.r┘ x +
Y⌒ : :ノ : : :ノ { / 从 ゚
乂 : :(: : : :.(_ 、_,ノ ,イヽハ x
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_/: :/: :ハ: :ヽ メノ>、 " r-‐<ノハノ ≧≦ ミラクル ロマンス――――
 ̄`=ミz__rヘ_ノ\ \_」_) Yツ⌒フ/ ハヽ:\
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彡グ ̄ ノ \  ̄ ̄ ̄ ¨ ¬ …
次スレですよ
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1262277234/
埋め。
にしても1000まで行かなかったスレって結構久しぶりな気がする。
投下が減ってるってことなのかね?
逆に投下が多かった(=レスあたりの容量が大きい)から1000まで行かなかったんじゃないか?
投下が減ってたら普通500kbまでいかないんじゃないのかと思う梅
>>936 いや、このスレじゃなくて1000まで行った今までのスレのこと。このスレは投下多かったと思う。
なんにでも波はあるさ
かもね…と、これで埋め完了かな?