【ノーマル】ローゼンメイデンのSSスレ 10【一般】

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707水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 12:29:18 ID:8GA5ES82
[19:43]
[薔薇屋敷、中庭。]

エンジュ「……ここに来るのも、久しぶりだ……」

薔「……前々から、ここを……お父様と、散歩したかった……」

エンジュ「そうだな……二年前に来たときは、昼間だったが、
    ……星が、綺麗だ。」

薔「……いい星空……。」

エンジュ「ああ。まるで、宇宙にいるようだ……
    そこのドアを、入ればいいんだったな。」

薔「……ついてきて」

エンジュ「うむ。」
708水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 12:30:46 ID:8GA5ES82
[19:49]
[薔薇屋敷、大広間。]
 わたしは1年4ヶ月……お父様は1年10ヶ月ぶりに、
足を踏み入れた……薔薇屋敷の、一番大きな部屋……。


ガチャッ ギィィーッ
薔「……この……部屋」

エンジュ「ああ。……思い出すまでもなく……よく憶えている……。
    そう、このあたりだったな……」


トコ……トコ
薔「……手紙を……読むから……」

エンジュ「……うむ。」


薔「……おとうさま」
709水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 12:46:07 ID:8GA5ES82
――――――――――――――――――――

おとうさまへ

 ……わたし、薔薇水晶をつくってくれて ありがとうございます

 前のアリスゲームのとき……わたしのために たくさん 苦労をかけました
ごめんなさい そして ありがとうございます

 真紅に……薔薇乙女に負けないような そんなドールを目指して
お父様の願いを 叶えるために たたかい たたかい きずついて

 わたしは こわれてしまいました
だけど そんなとき お父様は さいごまで
わたしのことを 呼んでくれました

 お父様の 力になりきれなかったこととか
願いが叶えられなくて 悔しかったからなのか
わたしがこわれていくことが 怖かったからなのか
いろいろまざりあってしまって
あのとき流した 涙の意味はわかりません……

 わたしを抱きしめた うでがあたたかくて
わたしも抱きかえそうとしたけど
それも かなわなくて……
710水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:01:19 ID:8GA5ES82


 だけど わたしが完全に消えてしまうまでのあいだ……
わたしが nのフィールドで さまよっているとき……
薔薇屋敷で また起き上がれたとき……

 お父様はずっと わたしを呼んでくれました
声をたよりに またここに戻ってこられました

 ジュンや みっちゃん お姉様たちにも 感謝しても しきれません
お父様には なかなか 言えなかったけど
今日…… 父の日になら お父様に……言えます
711水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:05:08 ID:8GA5ES82



 おとうさま

いつも わたしの名前を
呼んでくれて ありがとうございます

わたしを 7人のお姉様に
逢わせてくれて ありがとうございます

わたしを お姉様たちの 契約者たちに
逢わせてくれて ありがとうございます

そして もういっかい

わたしを つくってくれて
娘にしてくれて
ありがとうございます

おとうさま

これからも よろしく

2004年 6月20日


   薔薇水晶


――――――――――――――――――――
712水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:06:11 ID:8GA5ES82

エンジュ「……手紙、……たしかに……受け取った……ぞ」

エンジュ「こんな……ふつつかものの父親だが……
    よろしく……頼む……! 薔薇水晶……!」ガシッ

薔「おとうさま……! おとうさま…… 大好きです……!」グッ

エンジュ「ありがとうよ……本当にありがとうよ……!
    眼帯……取れてるぞ……。」

薔「ありがとう……お父様」


 よかった……。お父様、とっても喜んでくれた……!

 今度は、壊れないから……腕の温もり、感じていられる……
713水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:10:22 ID:8GA5ES82
薔「お父様……」

エンジュ「どうした?」

薔「あと……これを……」サッ ジャラッ

エンジュ「ん……これは、ブレスレットじゃないか。
    もうひとつ、作っていたのか。
    ……はっ、そうか……!」

薔「はい…… お父様……ローゼン『お父様』にも……
  これを、あげたくて。」

エンジュ「そうか……きっと、師匠も喜ぶぞ。
    お前の姉の父親なんだから……父だ。立派な父だ……」
714水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:11:38 ID:8GA5ES82
エンジュ「弟子として、私が……預かろう。」

薔「はい……!」

エンジュ「……渡すときは、一緒に渡そうか。」

薔「一緒に……。お願い……!
  ……さて…… もう少しだけ……お散歩して、帰りますか」

エンジュ「そうしようか。 私もじっくりと、ここを見たかったのでな……。
    今度は、雪華綺晶たちも連れてこようか。」
薔「もちろん……♪」


 三日月が輝く……夜の薔薇屋敷を散歩して……
楽しい時を、過ごせた……お父様、本当に……ありがとう……!

 水銀燈とめぐも……うまくいったはず……
 水銀燈の、お姉様たちの思い……言葉、感謝……
ローゼンお父様に、届くのを祈って……
715水銀燈と薔薇水晶の贈物 3 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:14:58 ID:8GA5ES82
[21:01]
[Enju Doll、エンジュの部屋]

パカッ
薔「すぅ……すぅ……」

エンジュ「……よく眠ってるな……私の作った鞄、寝心地は、いいようだな……。
    そうか……もう、2年になるのか……。」

エンジュ「あのときは白崎もいて……どうしているだろうか、ヤツは……
    しっかり反省したら、またここに来ればいいが……」

エンジュ「……私とて、反省しきれたわけではない……
    しっかり、返していかねば……」

エンジュ「愛する娘のために……娘たちのために……
    今日はありがとうな、……薔薇水晶。」

薔「……おとう……さま…… すぅ……すぅ……」

エンジュ「……ふふっ さて……少し早いが、私も床に就かせてもらうか……
    おやすみ、薔薇水晶……。」
パカッ



                 【第4話に続く】
716水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:16:48 ID:8GA5ES82
【第4話 父へ……】

[2004/06/20 22:11]
[めぐの部屋。]
めぐ「……すぅ……すぅ……」

 めぐったら……気持ち良さそうに眠ってるわね。
さ……日付が変わらないうちに、手紙を書きましょうか……
717水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:18:32 ID:8GA5ES82
――――――――――――――――――――

お父様へ


 お父様……突然のお手紙、お許しください……



 まだ、お父様に逢うことをあきらめたわけではありません。
私は、私たちは……アリスとなり、お父様に逢いたいのです。

 最近、やっと、x時間よりも上の単位を使えるようになりました。
真紅とお茶のことで喧嘩したのが119年前、
真紅と契約者の絆のことで言い争ったのが69年前、
真紅と一番派手に戦ったのも69年前。

 この時代に降り立ったのが2年と2ヶ月前。
そして真紅が、真紅たちが、運命を変えて、あのゲーム以外の方法で、
アリスを目指すようになってから……1年と4ヶ月が経とうとしています。

 ……この時代の契約者たちのおかげです。特に……
私の契約者・柿崎めぐと、翠星石と真紅の契約者・桜田ジュン……
私も、独りではなくなったのです。
718水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:19:46 ID:8GA5ES82


 前の時代の最中から、この世界には「父の日」という日が存在し
この日は薔薇の花を添えて父親に感謝の意を送るという習わしがあるのです。
今私がいる国・日本では……第3日曜日が父の日で
今年は……今日、6月20日が父の日に当たります。

 金糸雀は、前よりもしっかりものになりました。ヴァイオリン、とても上手です。
翠星石は、人になつくようになりました。料理の腕も、上がっています。
蒼星石は、人に悩みを話せるようになりました。真面目なところは、変わりありません。

 真紅は、この時代をいいものにしようと、前以上に頑張っています。
雛苺は、とても強くなりました。すぐに癇癪を起こすことも、無くなりました。

 ……あなたの弟子・槐が作り上げた薔薇水晶も、皆に認められ、8番目の姉妹となりました。
さらに……槐は、あの七番目……白薔薇・雪華綺晶の身体を作り上げることに成功したのです。
719水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 13:22:31 ID:8GA5ES82



 もしもお父様がお許しいただけるならば……

 ……8人で、8輪の薔薇を持って、
あなたに、逢いに、行きます……。

 妹たちからも同じように手紙が届くかもしれませんが、
私の黒い薔薇を添えて、この言葉を贈ります。


 ……Ich liebe dich.


            2004. 6.20

           Mercury Lampe

―――――――――――――――――――――
720水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:00:51 ID:8GA5ES82
 この手紙は……鞄の隅の方に、畳んで置いておきましょう……

 ……私も……そろそろ、眠ろうかしら……


…… ……

…… ……
721水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:03:22 ID:8GA5ES82

…… ……

…… ……


銀「…… ここは」

銀「…… あの舞踏会場……?」


 いつものように、お父様と、鏡張りの舞踏会場で踊っている夢。
けど…… いつもと違った……。
それは……


銀「お父……様が …… 笑ってる……」


 もう……怖くない。完全に顔は見えているわけではないけれど……
お父様は……笑っていたわ。 ……涙を、流しながら……。



『手紙 ありがとう』
722水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:04:50 ID:8GA5ES82
[2004/06/21 07:43]
[めぐの部屋。]

銀「おはよう、めぐ。」

めぐ「おはよう、水銀燈♪ いい夢、見た?」

銀「ええ。とっても……いい夢をねぇ。」

めぐ「そっかぁ……水銀燈が嬉しいと、私も嬉しいな。ふふふ。」

銀「……どうしたの? めぐったら、そんなににやついちゃって……」
723水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:07:35 ID:8GA5ES82
めぐ「……私も、夢を見たの。パパと、ママと、おばあちゃんと……遊園地に行く夢。
   私は何故か3歳だった。けど……だんだん大きくなって……
   ……最後は、18歳になった私と、パパ、ママ、おばあちゃん……そして水銀燈。5人で遊んだよ。」

銀「そう……! よかったわねぇ、めぐ……♪」

めぐ「うふふ……じゃ、朝ご飯にしましょうか。」

銀「ええ。めぐの父親の分も、作っておいてあげましょう。
  今日は……真紅たちのことも話すわぁ。」

めぐ「ふふ……たぶん、真紅のことが8割くらい占めると思うな。」

銀「何よぉ。」

めぐ「うふふ……♪」

銀「そうだ、めぐ、朝御飯が終ったら……薔薇水晶のところにでも、行ってみない?」

めぐ「うん、行ってみよっか。」
724水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:09:38 ID:8GA5ES82
 3人での朝御飯……やっぱり、真紅のことをたくさん話したわぁ。


めぐの父「……行ってくるよ。今日は、早く帰るからな。」

めぐ「うん! 行ってらっしゃい!」

銀「行ってらっしゃぁい。」


 めぐのお父様を仕事に送り出して、私たちも出掛けることにした……
今日は、めぐのお父様、早く帰ってこられるそうよ。
725水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:13:03 ID:8GA5ES82
[09:32]
[Enju Doll。]
カランカラーン

エンジュ「いらっしゃいませ。 ……おや、君たちは……」

薔「水銀燈……!」

銀「ごきげんよぉ。」

薔「今日も……めぐと一緒」

めぐ「おはよう、薔薇水晶。 ……とってもいい笑顔…… いいこと、あったんだね。」

薔「ふふ……♪」

エンジュ「ふっ…… 素晴らしい贈り物をもらったよ。」

726水銀燈と薔薇水晶の贈物 4 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:15:25 ID:8GA5ES82
銀「うまく渡せたみたいねぇ。 良かったわぁ。」

薔「水銀燈こそ…… 手紙、届くと……」

銀「……ふふ、……届いたわよ、贈り物……♪」



               【水銀燈と薔薇水晶の贈物 完】
72711 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/05(日) 14:29:55 ID:8GA5ES82
 ……以上で、4話にわたった
『水銀燈と薔薇水晶の贈物』
は、完結です。
度重なる規制のため、先にシベリアに投下していた第3〜4話を再び掲載しました。

 『決着』から通算24〜27話目となる今回は
ローゼンメイデンの最大のテーマのひとつに迫ることと、
この話を考え付いたのが6月『父の日』だったことから、
銀、ばらしー、めぐ、ジュンの4人の『父』への思いを描きました。

 第2話と第3話は、どちらも前篇が銀、後篇がばらしーの視点で描いています。

 ……読んでくれた方、ありがとうございます。
では、また。
728名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/05(日) 17:18:19 ID:FazSxhdm
乙乙
やっぱローゼンSSはいいねえ
次回作もきたいしてまつ
729名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/05(日) 20:09:36 ID:3my4yMbr
乙です
トロの敵キャラコンビですね。
利害に基づく関係な2人もなかなか魅力的ですが、全てが片付いたらこんなのもいいですね
730名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/06(月) 00:23:06 ID:+urCeSoa
【完成】ローゼンメイデンにレッツゴー!陰陽師を躍らせたい【原曲版】
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm12005146
731 ◆TEGjuIQ24E :2010/09/06(月) 01:45:42 ID:5PCBuZI3
>>730
ついに完成したんですね!
クオリティの高さももちろん、たくさんのマエストロが助け合い
ひとつの作品を作り上げた……!
なかなかできないことです。本当に素晴らしいです!

職人の皆さんに心から乙!!

>>728>>729
ありがとうございます。
次回作、できれば来月までにお届けできればと……

そう、二期ではそれぞれ『敵』どうしだった2人……
それぞれの正義を胸に……
父のため、愛する人のため、戦った。

『正義の反対は、また別の正義』ということを、ローゼンメイデンから学べたように思います。
732名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/08(水) 06:46:31 ID:Ots22C9d
久しぶりにSS書きたいなぁとおもて数年前に書いた過去の自分の作品を読み返したら
読みにく過ぎてワロタw
また書き直したいなぁ
733名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/15(水) 20:10:31 ID:9GXVDhHF
再チャレンジしてもいいと思うの
734名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/23(木) 23:34:25 ID:Y7YSCnhl
hosh
735名無しさん@お腹いっぱい。:2010/09/25(土) 22:05:53 ID:IVt+pFn+
終わコン
736名無しさん@お腹いっぱい。:2010/10/07(木) 07:59:14 ID:8pCt9RaR
保守
73711 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 07:57:26 ID:saFI0aMc
ども、>>11です。
新作書きあがりましたので投下します。

28【雪華綺晶と金糸雀の晩夏】
73811 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 07:59:46 ID:saFI0aMc
【雪華綺晶と金糸雀の晩夏】

[2004/08/31 13:00]
[草笛家。]

草笛みつ「……よし、更新完了っと! メールしなくちゃ!」

金糸雀「みっちゃーん、今度のお洋服は何かしら?」

みつ「騎士! ナイト様風よ〜!」

金「さすがみっちゃんかしら! ……どうかしら? 雪華綺晶!」

雪華綺晶「白のナイトに黒のナイト…… チェスの駒のようですわ。
      ……みつ様は、本当にドールのお洋服やアクセサリーが
      お好きなんですね……」

みつ「そうねぇ。 今じゃこうやってインターネットショップも開いているし
   いつかは本物のお店を開こうと思ってるのよ!」

金「だから…… 戸棚には、お人形がたくさんあるかしら!
  ……寝るとき ちょっとこわいけど……」

みつ「せっかくだから、きらたんにもコレクションを公開してあげる!」

金(きら……たん……?)

ガラガラッ
雪「わぁ…… ! 全部、みつ様が……!?」

みつ「自慢の、かわいい娘たちだよー!」

カナ「アハハハハ……」
739雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:02:01 ID:saFI0aMc
 8月31日 快晴……

 今日は、みつ様と金糸雀お姉様の所におじゃまさせていただいています……

 みつ様は個人で「Angels Cage」という名のドールサイトを開いていて
ドールの紹介をしたり、服やアクセサリーを販売したりしておられます。
ドールのドレスアップなら、「みっちゃんにオマカセ!」ですね!

 オディール様ももちろんこのサイトはブックマーク済み……
一時はこのサイトに、あのジュン様の手がけた服が展示されていたこともあったそうです。


みつ「……あ! カナぁ、ちょっといいかな?」

金「どうしたかしら? ……何? この手紙……」

みつ「全員応募サービスなんだけど……消印有効が今日までなの。
   だけどみっちゃん、今日は今から東京のほうのお友達の所に行かないといけないから……お願いできる?」
740雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:04:26 ID:saFI0aMc
金「……待ってました! ここはカナの出番かしら!!」

雪「雪華綺晶の出番ですわね♪」

金「雪華綺晶も行くのかしら?」

雪「ええ♪ みつ様のお役にたてるなら……!」

みつ「きゃああああ〜! きらたんありがと〜!!
   歓喜の摩擦熱ぅぅぅ〜!!!」

雪「くすぐったいです……!」


 きらたん…… またしてもあだ名が増えましたわ。
みつ様は本当にフレンドリー……金糸雀お姉様も、さぞかし幸せなのでしょうね。

 みつ様から預かった手紙……お姉様のおやつについているポイントを
50ポイントを集めたすべての人に「A賞」が当たるという企画に応募するものだそうです。
詳しくは分かりませんが……後でお姉様に聞いてみることにしましょう。
741雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:07:45 ID:saFI0aMc
[13:14]
 さあ、みつ様の出発と同時に、私たちも出発です。
金糸雀お姉様の肩掛け鞄……雛苺お姉様のものとお揃いになるように、
ジュン様が作ってくださったそうです。


金「雪華綺晶ー、疲れたらカナに言うかしら! おやつもバッチリ装備してるかしら!」

雪「はい! ありがとうございます♪」

金「さて! 目指すはポスト! 一瞬だけジュンの家の上を通ってみるかしら……♪」

雪「おもしろそうですわね……!」

雪「あっ、ところでお姉様…… 『A賞』とは?」

金「カナもよくわからないかしら…… みっちゃんたら、カナに内緒で
  これを集めてたみたいだから……。 箱の中に応募はがきが印刷されてること、
  この策士にも全然わからなかったかしら。」
742雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:10:53 ID:saFI0aMc
[13:16]
[桜田家]
ジュン「そーか…… あしたから9月なんだっけ」

真紅「また『がっこう』が始まるわね、ジュン。もう『しゅくだい』は済んでいるの?
   去年、企画倒れに終わりそうになって、あわてていたけれど……」

ジュン「大丈夫だよ。夏休みの間も、ちょくちょく学校には行っていたからな。」

紅「そう…… 金糸雀? それと……雪華綺晶も一緒のようね。
  今年は大丈夫だそうよ。」

金「! や、やはり真紅には……バレてしまったかしら……」

雪「さすがですわ、真紅お姉様……♪」


 やはり、真紅お姉様は私たちの気配を敏く感じられましたわね……
金糸雀お姉様の、この家への侵入成功率が1割にも満たない理由にも
納得がいくというものです……

 去年のこの日、真紅お姉様と一緒に、金糸雀お姉様はジュン様の
夏休みの宿題を手伝ったそうです。
743雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:12:06 ID:saFI0aMc
ジュン「なんだ、急いでるのか?」

金「カナたち特殊部隊は今、超重要任務を遂行中かしら!」

雪「みつ様に頼まれて、手紙を出しに行っているところなのです。」

ジュン「へぇー。 まぁ、上を通って行けばすぐだけど……
    カラスには気をつけろよ、カナのやつ、カラスは苦手みたいだから……」

金「べ、別に苦手ではないかしら! よく邪魔しにくるってだけで……
  ……お気遣い……ありがとかしら……」

雪「では、私たちはこれで…… 学校、頑張ってくださいね♪」

ジュン「ありがとよー! またなー!!」
744雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:13:05 ID:saFI0aMc
[13:31]
 空から町を見下ろすと…… 朝顔の花が目につきますね。
もうお昼ですから、しぼんでしまっていますが……

 お昼まで開いている昼顔、夜にだけ開くヨルガオ……
まるで、太陽と月のよう……


金「どうやら、この時代のこの国の小学生は、朝顔を育てることで
  観察力を磨く…… 庭師のお仕事をするみたいかしら!」

雪「あの、青い植木鉢がそうなのですね。」

金「そういえば、みっちゃんもベランダで育ててるかしら。
  『小学生の時によくやったんだよねー』って……」

雪「そうなのですか…… オディール様も今、朝顔を育てているのです。
  ……あっ、ポストが見えましたわ!」

金「いざ突撃かしらー!」


 私はそのまま…… 金糸雀お姉様は日傘を差して、
郵便ポストのもとへ降下します。 さあ、
後はこの川の上を通って、お手紙を……


「カアー!」
745雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:16:07 ID:saFI0aMc
雪「!」

金「ひえええぇぇぇぇ……!! か、カラスかしらぁ!!
  こっちに突っ込んでくるぅぅぅ」

雪「っ……!!」

カラス「アアァァァ」
ヒュオオォォォ ズバッ


金「危なかったかし…… らぁぁぁ!?
  手紙が…… 葉書がカバンからァァァァ!!」

雪「! なんてこと……!」


 前方からやってきたカラスを、ひらりとかわしたまでは良かったのですが……
身を翻した拍子に、金糸雀お姉様の鞄から、頼まれていた葉書が
するりと飛び出してしまったのです。

 上空20m…… この真下は、小川……
このままでは、葉書が流されてしまう……!


雪「いけませんわ! はああっ」
ゾゾゾゾ……

金「ナイス雪華綺晶ォ! これなら……
  ……届くかしら!?」

雪「……もっと早く……!!」


 力の限り、茨を出しますが……
届くのか届かないのか、かなり微妙なところです。

お願い、届いて……!!
746雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:18:35 ID:saFI0aMc
ヒュウッ
ハシッ


金「!?」

雪「!!」


カラス「……」ニタリ

金「あ…… ありがと かしら……」

雪「まあ!」


 先ほどのカラスが、きりもみ状態で舞い落ちる葉書をくわえて、
見事にキャッチしたのです……!
747雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:21:24 ID:saFI0aMc
カラス「……」ヒューン

金「あ! ままま、待つかしら!!」

雪「…… 大丈夫ですわ、金糸雀お姉様。
  あの方向には、ポストがあります!」


 カラスを追って、私たち2人はポストのほうへ急ぎます。
カラスは前を見据えたまま、ポストに突っ込もうとしていました……


雪「あ、危ないです!!」

金「今度こそ正面衝突かしら! ポストに食べられるかしらぁ!!」

ヒュウッ
カラス「……」
スコン

カラス「カァー」

金「な…… なんという技かしら」

雪「カラスは頭がいいといいますわ。このカラスは、とても利口なのですね♪」

カラス「アホー」

金「んぐぐ…… 口の利き方をもう少しお勉強したほうがいいかしら……!」

雪「金糸雀お姉様、落ち着いてください!」

カラス「…… ……」ニタリ
748雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 08:25:37 ID:saFI0aMc
[14:02]
金「ふう…… ひとまず、任務は完遂かしら。」

雪「あわや大惨事……でしたわね……」

金「まったくかしら。 上を通るときは、気をつけなくては、かしら。」


 ひと悶着ありましたが、なんとか任務完了です。
先ほどのカラスには、感謝ですね。

 再び空中散歩をしながら家路を急いでいると……
あの方が道を歩いていました。


雪「あっ…… 巴様ぁー!」

金「トモエ? あ、本当にいたかしら!」

巴「? あら、雪華綺晶に金糸雀じゃない。こんにちは。」

雪「ごきげんよう♪」

金「その荷物…… 剣道部の帰りかしら?」

巴「うん。 今日は、見学だけどね。大会のすぐ後だから、顔を出しに行ったの。」


 部活動帰りの巴様でした。
高校でも、剣道を続けられているのですね。
749雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:04:18 ID:saFI0aMc
雪「いかがでしたか?」

巴「ふふ…… なんとか優勝できたよ。この調子で、県大会も頑張らないとね。」

雪「おめでとうございます♪」

金「やっぱり、トモエは強いかしら!」

巴「照れるよ……。 そうだ、今から花屋さんに行くけど、一緒に来る?
  お庭の花を増やそうと思って……」

雪「……そうですね。 喜んで!」

金「カナも行くかしら!」

巴「うん、じゃあ、行きましょうか♪」
750雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:05:48 ID:saFI0aMc
[14:45]
 巴様とともに、3人で花屋でお買い物……
巴様は、薔薇の花を買われました。

 手紙を出しに行くときのことを思い出したので、
私とお姉様は、朝顔を見ていました。

 色とりどりの花弁……朝が来るたび開くので、
「明日もさわやかに」……これが朝顔の花言葉のひとつだと、
巴様がつぶやいていました。


巴「ふふ…… 私もねぇ、幼稚園のときに、朝顔を育てたよ。
  初めて花が咲いたときは、嬉しかったなぁ。」

金「巴もかしら……」

巴「もちろん、桜田君もだね。桜田君のはクラスで一番早く花が咲いたから、
  とってもよろこんでた……って、のりさんが教えてくれたよ。」

雪「そうなのですか。 ふふふ…… 幼いころのジュン様は、
  どのような人だったのですか?」

巴「うーん…… 別に、今とあまり変わらないよ。
  お姉さんとも仲が良くて、いつも絵を描いていたの。
  そうだ、それで……すこし不思議な話があるんだけど」

金「ふむふむ……」
751雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:08:02 ID:saFI0aMc
雪「昔からなのですね。」

巴「うん。 それでね、それを着たお人形さんも良く書いてたんだけど、
  それが……真紅と雛苺にそっくりで」

金「!? 本当かしら!? 今、ジュンが満16歳だから
  幼稚園といえば……5歳ぐらいかしら?
  けど、カナがみっちゃんに逢ったのは、ジュンが14歳のとき……」

巴「最初は、良くあるお人形の絵を描いてただけだと思ったの。
  それに、真紅も雛苺も、そんな感じの姿だし……
  だから、私の思い過ごしかもしれないけどね。」

雪「……やはり、運命めいたものだったのかもしれませんわね。
  その時から、すでにマエストロとしての、私たちと逢う運命は
  決まっていたのでしょうか……」

金「なんだか、スケールの大きな話かしら……。」


 ……私も、オディール様とのあいだには、運命めいたものを感じる……
そんなことがあります。 ……オディール様の祖母、コリンヌ様が
同じように契約者だったことも、あるのかもしれません。

 先日、オディール様は新しいロケットをお買い上げなさいました。
その中には…… オディール様と、私の写真が入っています……♪
身に着けられていないときは、コリンヌ様のものと、並べて置いてあります。
752雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:11:14 ID:saFI0aMc
[15:02]
[柏葉家前]
巴「それじゃ、オディールさんによろしくね。」

雪「はい!」

巴「みつさんにもお願いね。今度、雛苺の新しいお着替えを頼もうかな。」

金「オッケー! みっちゃんなら、光の速さで仕上げちゃうかしら!
  トモエも、学校頑張るかしら!」

雪「剣道のほうも、頑張ってくださいね!」

巴「ありがとう、金糸雀、雪華綺晶♪ それに、あの『おまもり』があるから……大丈夫だね。」

雪「うふふ……」


 巴様の、金糸雀お姉様の笑顔…… とてもさわやかですわね。
そう、あの朝顔のように……


金「帰ったら何しようかしら―……」

雪「そうですね…… 少し冒険しましたから、お昼寝しましょうか。」

金「たまにはそれもいいかしら! みっちゃんとシエスタシエスタ……
  ……夢の中でもまさちゅーせっちゅー! されちゃうかしら?」

雪「かもしれませんね♪」
753雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:12:57 ID:saFI0aMc
[20:58]
[草笛家の向い フォッセー家]
オディール「さて、髪も梳かしたし…… 寝る前のティータイムも済んだ……
      朝顔にお水もあげた」

雪「うふふ…… いつもありがとうございます、オディール様。
  ……少し、櫛を貸していただけますか?」

オディール「ええ、いいわよ。 ……? 雪華綺晶?」

雪「今度は私が、髪を梳かしましょう。」

オディール「あらあら…… ありがとう、雪華綺晶。」
サラサラ

オディール「ふふ…… 明日から9月、いい秋にしていきましょうね。」

雪「はい♪」
754雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:16:41 ID:saFI0aMc
 本当の意味で、自由に外に出られるようになって、1年4ヶ月……
幾万時間にもわたる、蜘蛛の巣で這いつくばっていた時間に比べれば、
とてもとても短い期間ですが……

 ――それ以上に、この1年4ヶ月で得たものはとても大きいのです。
オディール様も、他のお姉様がたも、薔薇水晶も……
朝が来るたびに笑っている。夜には、その笑顔を願って。


オディール「この朝顔の花のように……」

雪「明日もさわやかに」

オディール「そろそろ9時、私も眠るから、鞄を閉じるわ。
      ……おやすみなさい、雪華綺晶。」

雪「おやすみなさい、オディール様。良い夢を……。」


金『うきゃぁぁー! ちょっと! また増えてるかしら!!
  ワンケーじゃあ、ひーふーみー…… 50体は狭いかしらぁ!!』

みつ『えへへへ…… かわいいお洋服着てたから……♪
   これと同じもの、作ってあげるね!』

金『…… もう みっちゃんってば』


オディール「…… 草笛さんたら…… 向かいにまで聞こえて……」

雪「……ふふ♪」
755雪華綺晶と金糸雀の晩夏 ◆TEGjuIQ24E :2010/10/15(金) 09:18:40 ID:saFI0aMc
[21:11]
[草笛家。]
金「それじゃ、カナも寝るかしら!」

みつ「明日は晴れるかしら?」

金「夜のニュースの天気予報は、降水確率ゼロ%! 2学期初日は快晴かしら!」

みつ「2学期……なつかしい響きだねー……」

金「新学期に新しい月! だけど、明日を迎えるのは、変わらないかしら?
  ……涼しくなってきてるから、いい朝になるかしら。もうすぐ秋かしらー……」

みつ「この朝顔も、寝覚めよく開くかもね。 ……うん、アレだね、えーと……
   ……花言葉 『からみつく愛』……とは別の……なんだったっけ?」

金「『明日もさわやかに』 かしら!」


 そう…… 明日も さわやかに



                               【雪華綺晶と金糸雀の晩夏 完】
75611 ◆TEGjuIQ24E
 以上で「雪華綺晶と金糸雀の晩夏」は、完結です。12KBの短編でした。
薔薇でない花と絡む話を書いてみたくなったので、これを考え付きました。
何気にRM本編で猛威を振るっていたカラスが初登場です。

 では、次の「紅×蒼」で、また。