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【警告】
・以下のコテは下記の問題行動のためスレの総意により追放が確定しました。
【作者】スーパーロボット大戦X ◆ByQOpSwBoI
【問題の作品】「スーパーロボット大戦X」「スーパーロボット大戦E」「魔法少女(チェンジ!!)リリカルなのはA'S 次元世界最後の日」
【問題行為】盗作及び誠意の見られない謝罪
【作者】StS+ライダー ◆W2/fRICvcs
【問題の作品】なのはStS+仮面ライダー(第2部)
【問題行為】Wikipediaからの無断盗用
【作者】リリカルスクライド ◆etxgK549B2
【問題行動】盗作擁護発言
【問題行為】盗作の擁護(と見られる発言)及び、その後の自作削除の願いの乱用
【作者】はぴねす!
【問題の作品】はぴねす!
【問題行為】外部サイトからの盗作
【作者】リリカラー劇場=リリカル剣心=リリカルBsts=ビーストなのは
【問題の作品】魔法少女リリカルなのはFullcolor'S
リリカルなのはBeastStrikerS
ビーストなのは
魔法少女リリカルなのはStrikerS−時空剣客浪漫譚−
【問題行為】盗作、該当作品の外部サイト投稿及び誠意のない謝罪(リリカラー劇場)
追放処分後の別名義での投稿(Bsts)(ビーストなのは)
ここってガンダムとのクロスはアリなのかな
ああ、いや、種死じゃなくてファーストの方だけど
6 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/28(月) 12:59:24 ID:4hQRnMcX
>>5 それは・・・・・・シャア板じゃないのかな?
>>1乙
あの・・・落していいんでしょうか?
もし反対意見が出ないなら「マクロスなのは」第5話を1600時をもって投下したいと思います。
>>7 現在、テンプレについての話し合いが行われているはずなので、
それが済むまで待って下さい。
了解です!
それではまた。
>>6 あれ?確かシャア板のが落ちたから種系以外のガンダムこっちに落とせるようになったんじゃなかったか?
>>6 たしか避難所にZクロスが投下されてたと思うが。
もう閉鎖しようぜ。
時間かかりすぎな上に何の進展報告もないんだもの…
投下しても大丈夫だとおもいますよ
話し合いなんて行われてないですし
もうそれでいいんじゃね?
それで様子見て突っ込まれたら修正、意見がなければそれでおkってことで
では前スレに改めて誘導を張っておきます。
19 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/09/30(水) 10:17:41 ID:AMxU8F6Q
次回作ってまだ終ってねーだろw
ちょっと書いたのですが投下してもよいでしょうか?
ミッドチルダは狙われている。今、様々な次元から恐るべき侵略の…魔の手が…。
何時の頃からだろう、ミッドチルダが俗に「次元人」と呼称される異邦人からの侵略を受ける様になったのは。
人類とは姿も考え方も文明形状も全てが異なる様々な次元人。彼等が何故ミッドチルダを狙うのかは分からない。
しかし、彼等が挙ってミッドチルダ侵略を行っているのは確かであった。
この未曾有の事態にミッドチルダ時空管理局は、精鋭を集めた特殊チームを結成。
クロノ=ハラオウンを隊長とし、高町なのは・ユーノ=スクライア・フェイト=T=ハラオウン・八神はやての
合計5人で構成された『リリカル警備隊』である。
そしてリリカル警備隊は現在とある不可解な事件への捜査を開始していた。それは人間が突然消失すると言う物で、
その消失した被害者及び事件の発生した場所も全く関連性の無い物ばかりであり、それがさらなる謎を呼んでいた。
ただ分かっている事は、その人間が消失する際、まるでスパークでも起こしたかの様に白熱すると言う点。
時空管理局はこの事件について、ミッドの科学と常識を超越した次元人の犯行では無いかと考え、
この通りリリカル警備隊の出番となったのであった。
さらに今度はパトロール中の時空管理局の局員が消失する事件が発生。これは明らかに時空管理局に対する
挑戦であり、リリカル警備隊は調査の為になのはとフェイトの二人を現地に派遣し、残りの三人は
局内から敵の行動を監視する事となった。
それから一時、なのはとフェイトの二人はパトロール中の時空管理局員が消失したとされる地点の手前まで
やって来ていたのだが、そこで突然謎の青年の妨害を受けた。
「これ以上進んではいけない。もしこれ以上進むと大変な事になりますよ。」
「どうして私達の邪魔をするの?」
目くらまし目的の閃光魔法の威嚇等も一切通用しない謎の青年は、笑いながらなのはとフェイトの二人の
前に立ちはだかっていた。
「邪魔をするなんてとんでも無い。その逆ですよフェイト隊員。」
「ど…どうして私の名前を?」
「貴女がなのは隊員で、元々教導隊を務めていたのが、現在の状況から急遽前線復帰した事も知っていますよ。」
「貴方は私達に何か用でもあるの?」
なのはとフェイトの二人について、良く知っている様な口で話す謎の青年は不可解極まりないが、
なのはの質問に彼の言葉はこう続いた。
「貴女達の命を助けてあげようと思って、さっきからここで待っていたんです。」
「命を助ける? 貴方が?」
思わず吹き出してしまう二人だったが、青年の表情は真剣だった。
「笑い事ではありません。命が惜しかったらこれから先へ行ってはいけません。」
「命が惜しくてリリカル警備隊の任務は務まらないよ。」
「お止めなさい。罠に落ちる様な物だ。」
命の危険があってなんぼとばかりに、青年の言葉に聞く耳を持たない二人であったが、
そこへ、この一帯を巡回する通常の管理局員のパトロール隊がやって来ていた。
青年は彼等に対しても同様に止めようとするが、彼等もまた聞く耳を持たなかった。
「おい退いた退いた。」
「危ない! 行っちゃいかん!!」
と、その直後だった。何処からか発せられた光がパトロール隊に照射されると同時に
そのパトロール隊が消失したのである。これにはなのはとフェイトの二人も仰天した。
「え!?」
「あれ程言ったのに…。今リリカル警備隊が相手にしているのは恐るべき次元人です。
奴等はミッドチルダを侵略するのに、数年前から実験用の人間の標本を集めていたのです。
だが、今や奴等は次の行動に移ろうとしている。何故だと思いますか?
時空管理局、いや貴女達リリカル警備隊が行動を始めたからです。どんな恐ろしい手段を
使うかもしれません。気を付けて下さい。」
「貴方は一体何者なの?」
やはりこの何事をも知っているかの様な口振りの青年は不可解極まりない。
それについてなのはも質問せずに入られないが、青年は余裕の入った表情を変えずにこう答えた。
「ご覧の通りの風来坊です。」
「名前は?」
「名前? そう…モロボシ=ダンとでもしておきましょう。」
「モロボシ=ダン?」
「危ない!!」
青年の名前はモロボシ=ダン。お前今考えただろ? と突っ込みたくなる様な不可解な名乗り方であったが、
ダンは何かの気配を察し、とっさに三人で岩陰に隠れた。するとどうだろう。突然何も無い空中から
光線の様な物が降り注ぎ、各所で爆発を起こしていたのである。
「何も無い所から光線が!」
「目には見えないけど…何か…何かがいる!」
なのはとフェイトはそれぞれに防御魔法を展開し、光線の直撃を防いでいたが、
その最中、ダンの目には見えていた。空中を飛ぶ不可視の処理を施された時空船の姿が………
敵は不可視であると言う事実を報告する為、なのはとフェイトはダンを連れて管理局に帰還した。
そして時空管理局の会議室において、管理局上層部の数名とリリカル警備隊隊長のクロノによる
会議が行われていた。
「敵は目には見えない何者かか……。彼等は一体何故人間を消しているのだ? 殺害が目的ならば
彼等のテクノロジーならもっと一度に大量にさらう事も出来るだろうに。」
「なのはとフェイトが遭遇した例の不思議な青年の言葉によると、人間標本を集めているとの事です。」
「人間標本?」
「つまり人類の体力・頭脳・心理等を研究する為に…でしょう。」
と、その時だった。時空管理局に謎の通信が入ったと言うのである。それ故に通信室へ向かったのだが…
モニターの向こうに姿を現したのは、まるで昆虫のごときおぞましい姿をした何者かであった。
『時空管理局の諸君に告ぐ。即座に武装解除して我等クール次元人に全面降伏せよ。』
「全面降伏? 時空管理局はこのミッド地上だけでは無いぞ。あらゆる次元の各地に我々の仲間がいるんだ。
人類は容易くミッドチルダを見捨てたりはしない。」
『人類なんて、我々からすれば昆虫の様な物だ。これを見るが良い。』
自分が昆虫の様な姿なのを棚に上げて人類を昆虫呼ばわりするクール次元人だが、次にモニター上に
表示されたのはクール次元人の拠点の中らしき空間の中でまるで無重力のように浮遊する人間の姿。
『出してくれー。』
『助けてくれー。』
そう。これは明らかに人間消失事件の被害者達であり、これらの事件はクール次元人の手による物だったのだ。
『どうだね? 彼等の運命は君達の返事にある。さあ今直ぐに答えるんだ。全面降伏に応じるか?』
クール次元人は明らかに捕らえた人間を人質にして降伏を迫っており、これに関して
通信室に集まっていた管理局上層部とリリカル警備隊の面々も一時沈黙していたが…その結果…
「断る!」
やはり時空管理局は侵略者に屈するわけには行かないとばかりの上層部のこの一言によって
クール次元人の通信は終わった。
「モロボシ=ダンの言った通りだ…。」
「うん…。」
それから間も無くの事だった。突如としてミッド工業地帯が見えない何者かからの攻撃を受けたのは。
相手の姿は見えず、まるで空中から突然光線が放たれた様に見えるそれは次々に工場を爆破して行く。
「とうとう直接攻撃に出たか。このまま行けば次元世界はあっという間に壊滅してしまう。」
「姿が見えない。手も足も出ない…。何か攻撃の手は無いのか?」
「だが拉致された人間が乗っている可能性もある。攻撃は出来ない。我々には彼等を救う義務がある。」
「しかし、このまま放っておくわけにも…。」
この事態をどう収拾するかについて管理局でも意見が割れ、中々良い手が思い付かない。
その間にもクール次元人の不可視型時空船による攻撃は続いていた。
「工場地帯が全滅です。次はクラナガンが攻撃に晒される可能性があります。出動しましょう!」
「待て。冷静に作戦を練るんだ。」
リリカル警備隊もまたこの事態に対し慎重になっていたのだが、ここで何故か堂々と管理局内に
いる事に突っ込まれずにいたモロボシ=ダンに対してユーノが歩み寄っていた。
「ダン。君のミッドがピンチに立たされているんだよ。何か敵を倒す方法は無いのかい?」
時空管理局及びリリカル警備隊に敵の情報を持って来たのはダン本人。ならば事態を
何とかするヒントも持っているのでは無いかとユーノは考えたのだが、ダンはこう答えた。
「一つだけある。敵の時空船を見える様にする事。あの時空船は保護色を使って姿を隠しているんだ。
特殊噴霧装置を利用して、こちらで色を吹き付けるやれば相手の正体が分かるはず。」
こうしてダンの提案により、塗料を含ませた特殊噴霧装置によってクール次元人の
不可視時空船に色を吹き付ける作戦が決行される事になった。そしてダンには臨時隊員の資格が
与えられ、リリカル警備隊と共に時空管理局の時空船アースラに搭乗する事となった。
時空管理局ミッド地上本部から発進して行くアースラ。向かうはクール次元人の不可視時空船。
そして大空を進むアースラに対し、突如として光線が放たれた。クール次元人の攻撃だ。
「目標右十五度。発射用意。発射!」
クロノの命令により、アースラに装備された特殊噴霧装置から大量の塗料がクール次元人の
不可視時空船目掛け噴射された。赤い塗料が彼方此方に撒かれ、そこから真っ赤な時空船が姿を現した。
塗料によって色を吹き付けられた事により、元の不可視が維持出来なくなったのだ。
「攻撃開始!」
これで条件は対等となり、アースラとクール時空船の空中戦が始まった。双方の光線が飛び交い、
その結果クール時空船は撤退を開始、その後をアースラが追う。
クール次元船が逃げた先は岩山の連なる地帯。そして岩山の陰に隠れたクール次元船は
岩山の間を縫う様に飛んでいたアースラ目掛け光線を発射。直撃を受けたアースラは墜落してしまった。
幸い岩山への激突は無く大破は免れたが、アースラが再び飛び上がるには時間が掛かる。
そうしている隙にクール次元船の中から数機の小型戦闘機が出現、一気に畳み掛けるつもりだ。
リリカル警備隊の五人はアースラから脱出し、それぞれの魔法でクール小型戦闘機へ
迎撃を開始するのだが、その中にダンの姿は無かった。
クール戦闘機とリリカル警備隊の空中戦が展開されていた頃、ダンは岩陰に隠れ、
手持ちの荷物の中から小さなカプセル状の物体を手に取っていた。
「ウインダム! 頼むぞ!」
ダンがそのカプセルを放り投げた直後、そこから巨大な何かが姿を現した。
全身を金属のごときボディーで覆った巨大生物。ダンがウインダムと呼んだその巨大生物は
手刀で数機のクール小型戦闘機の内の一機を撃ち落し、さらに額から放たれる光線によってもう一機を落とした。
そして低空飛行に入ったもう一機を追い駆け落としていたのだが、残ったクール戦闘機の内の三機が一つに合体し、
そこから放たれる光線を額に受け、肩膝を付いてしまった。
「ウインダム戻れ!」
ダンの命令によりウインダムがカプセルに戻った後、ダンは赤いメガネ状の物体を目に当てた。
「デュワッ!」
するとどうだろう。ダンの姿が人間とはまた異なる、赤い体と銀のプロテクターを持った戦士へと姿を変えていく。
そう。ダンもまたミッドチルダの人間では無かった。遠い次元の彼方、M78次元から次元軌道図作成の為に
ミッドチルダを訪れていた次元観測員340号であり、ミッドチルダが様々な次元人から狙われている事を
知った彼はミッドチルダを守ろうと決意していたのであった!
「デァー!」
天高く飛び立った赤い戦士は、クール次元船の中へ潜入した。そしてクール次元船の中を探る様に歩いた後、
手近にあった何かの機械を額から放たれるエメリウム光線で破壊。そして背後から現れたクール次元人に対しても…
「デァー!」
頭に装備された次元ブーメラン・アイスラッガーを投げ、その巨大な頭部を両断した。
クール次元人は数秒間の間うごめいていた物の、間も無くして絶命。
残すは次元船内に囚われていた人々を解放するのみ。赤い戦士は人々が囚われている部屋へ向かうが
その扉が開かず、扉の隣の壁に付いていたボタンを押す事によって何とか解放する事に成功した。
赤い戦士によってクール次元人から解放され、クール次元船から散り散りになって逃げ出して行く人々を
リリカル警備隊の面々が救助していたのとほぼ同時、赤い戦士は巨大化し、クール次元船を持ち上げて
天高く飛びあがって行った。
「あっあれは何ですかー!?」
皆が呆然と見詰める中、赤い戦士はクール次元船を持ち上げた状態で天高くミッドチルダの外である
宇宙空間目掛けて飛ん行き、額から放たれる破壊光線・エメリウム光線によって爆破していた。
これにて一連の人間消失事件は解決し、リリカル警備隊もまた管理局内で一息付いていた。
「いや〜今度の事件にあってはならなかったのはあの風来坊だね。」
「まったくだね。」
「そう言えば…彼は一体何処へ行ったのだろう?」
突如として姿を消したダンに皆は疑問に思っていたのだが、そこへ管理局上層部の内の一人が
何者かを連れて現れた。何とそこには管理局の制服に身を包んだダンの姿があるでは無いか。
「皆に改めて紹介しよう。今日からリリカル警備隊の一員となったモロボシ=ダン隊員だ。」
誠に信じ難い事だが、今回の事件を解決する際に大いに役立った功労者である事を
管理局上層部は高く評価し、ダンをリリカル警備隊の一員としてスカウトしていたのであった。
「これでリリカル警備隊も六人になったわけだね。」
「そう言えば今回の事件でもう一人の功労者がいるじゃない。」
「そっか…あの次元人か…。」
突如現れた謎の赤い戦士。彼もまた今回の事件を解決する為には無くてはならない存在だった。
しかし、彼は一体何者だったのだろう?
「せめて名前位聞いておくんだったね。」
「そうだね。ならリリカル警備隊の七人目の隊員と言う事でリリカルセブンと呼ぶのはどうかな?」
「リリカルセブンか…。良いですね!」
「これでリリカル警備隊も磐石だな。」
ユーノの提案により、赤い戦士についてリリカル警備隊七人目の隊員…リリカルセブンと呼称される事となった。
こうして、モロボシ=ダンを加えて新出発する事となったリリカル警備隊。
だが、誰も気付く事は無かった。ダンこそがリリカルセブン本人である事に…
おしまい
リリカルなのはの世界にウルトラセブンが来たららリリカルセブンって名前になるみたいなシャレが
やりたいだけの為に作ったSSでスマソ
でもそもそもウルトラセブンって、ウルトラ兄弟の一員ってのは後付けに過ぎなくて
元々はウルトラ警備隊七人目の隊員という意味を込めて地球人に付けられた名称なんだよね。
ならリリカルなのは世界ならリリカルセブンと呼ばれてもおかしくないと。
>>29 なかなか面白かったです。特に「その名前今考えただろ?」のくだりは最高でした。僕もクロス書きますよ。
乙
クール人にさらわれた被害者のやる気のない悲鳴にくすっとしてしまったw
32 :
NZ:2009/09/30(水) 18:55:42 ID:aRB+uopQ
『リリカルセブン』楽しませてもらいました乙です。
33 :
NZ:2009/09/30(水) 20:11:34 ID:aRB+uopQ
早くロックマンゼロ氏の作品の続き投下されないかなぁ
GJ!
まさかのウルトラセブンw
乙!
原作ネタがちらほらwww
どうもどうも、皆様方お久しぶりでございます。
SMCです。
ちゃんと生きてました、SS書いてました。
という訳でめちゃくちゃ久しぶりにリリカル・ニコラスの投下いきます。
リリカル・ニコラス 第七話「再開」
「ザジ……ザ・ビースト」
まるで内臓から搾り出すような、そんな声でウルフウッドは呻いた。
自分の目の前に立つ女……否、人間の女の形をしたモノの姿に思考が驚愕に染まる。
長い金髪、褐色の肌、タンクトップのシャツにジーンズを纏った肢体は、かつて見た時より成長したのかより凹凸を増していた。
それは人ならざるもの、GUNG−HO−GUNSが一人、ザジ・ザ・ビーストの“端末”。
何故、どうしてこの者がここにいるのか。
疑問を感じると同時にウルフウッドの五体から殺気が迸る。
異常殺人能力者集団、GUNG−HO−GUNSの一人を前にしたのだ、ならばここから始まるのは闘争の宴しかあるまい。
ウルフウッドの肉体から発せられる壮絶な気迫、それにちりちりと空気が焼けるような錯覚すら感じる。
あわやこの場で戦いが始まるかと思われた刹那、ザジ・ザ・ビーストは笑みを浮かべた。
柔らかな、少しの殺気も敵意も孕まぬ微笑で。
そして次いで手を上げる、まるで降参の合図のように。
「おっと、落ち着いて欲しいな。いきなりズドンはごめんこうむりたいね」
本当に敵対する意思は無いのか、ザジの気配には微塵の殺気も感じられなかった。
その様により困惑するウルフウッド。
そしてそれをさらに煽るように、背後から声が掛かった。
先ほどまで懺悔を聞いていた相手、長身にややこけた頬の男が懺悔室から出て二人に向かって口を開いたのだ。
「おい、突然どうした? ザジの知り合いなのか?」
意外な者からの意外な言葉、これにいよいよウルフウッドの混迷は極まる。
「なん、やと? おんどれ、こいつの知り合いなんか?」
△
鮮やかな、燃えるような茜色の夕焼け空を見ながら赤毛の少年は歩いていた。
目指すのは兄貴分の、あのでたらめなやさぐれ牧師のいる礼拝堂。
そろそろ彼が引き受けた告解を聞く時間も終わる頃合だ、迎えに行って一緒に帰ろうと少年は足早に目的地へと向かう。
射し込む西日の眩さに目を細めていると、そこで少年の目に一つの影が映った。
視線を向ければ、教会敷地内の片隅に一人の少女が立っていた。
背丈から年の頃は自分と同じくらいだろうと推察できる。
時節はそう寒くないのにフードを深く被っているのが目に付く。
いや、それだけでなく一人で夕暮れのこんな場所に年端も行かぬ少女がいる事が気がかりだった。
エリオはそこで足を止め、思慮を巡らせる。
ウルフウッドを迎えに行くのは後でも大丈夫だろう。
しかしこの少女が何かしらの問題、道に迷っているとか、何か困っていたら大変だ。
そう判断し、エリオは彼女に声をかける事を決意する。
一歩ずつ近づくにつれて心臓の鼓動が僅かに高鳴るのを感じつつ、少年は少女に第一声を発した。
「あ、あの……」
瞬間、少女が振り返る。
同時に、羽織っていたフードが風に舞って素顔が露になった。
紫色の艶やかな髪を揺らした、赤い、見る者に魅入られる事を強制する妖しい程に美しい瞳の少女。
その眼差しに見つめられ、瞬時にエリオの鼓動が爆発的な勢いで跳ねた。
頬が熱くなっていくのを感じる、きっと今の自分の顔は真っ赤になっているだろう。
カリムやフェイトにシャッハ、エリオの周りの女性は皆美人ばかりだ、でも目の前の少女の美貌は少々違う。
前者が眩い太陽のような、見る者の心を温かくさせる美しさならば……この少女はさながら月、。どこか冷たく、されど美しく魅入られる。
エリオは思わず息を飲み、言葉をなくした。
そんな少年の様子に、少女は無表情のまま不思議そうに首を傾げる。
それはまるで子犬かなにかがするようでもあり、美貌と相まって実に愛らしい。
可愛い少女の様に、数秒間呆けていたエリオは意識を取り戻し、慌てて言葉を紡いだ。
「い、いや! その……こんなところでどうしたのかな? って、さ……」
舌が上手く回らぬ中、少年は少女に問うた。
対する少女の反応は無、エリオの言葉に何も返さず、ただ沈黙を守る。
眉一つ動かさず唇も真一文字に結んで動かぬその様に、少年は懸念を抱いた。
もしかして言葉が通じていないのだろうか? と。
この少女が自分の知らないどこか別次元の世界や国から来たのならば、その可能性は決し低くはない。
そうだったならばどうしようか、エリオは焦る。
だが次の瞬間、その心配は少女の発した言葉に霧散した。
「……礼拝堂」
「え? 今なんて?」
「……礼拝堂、っていうところ……探してる」
礼拝堂、先ほどまで自分が目指していた場所だ、分からない訳がない。
少年は問う。
「礼拝堂に行きたいの?」
コクン、と、少女は首を縦に振って肯いた。
紫の髪がフワリと舞って甘い香りを漂わせ、エリオの胸の鼓動をさらに早める。
高鳴る心臓の音を感じつつ、少年は少女に尋ねた。
「あ、あのさ、実は僕も礼拝堂に行くところなんだ」
「……本当?」
「う、うん。だからさ、その、もし良かったら一緒に来ない?」
一拍の沈黙。
少女は先ほどと同じ無表情のまま、しばしの間思案する。
そして、結論が出たのかコクリと肯き言葉を紡いだ。
「……じゃあ、行く」
「そう、じゃあ一緒に行こう……えっと」
少女の名を言おうとして気付く、そういえばまだお互いの名前なんて知らなかった。
言い淀む少年の様に、少女は彼の内心を察したのか、ポツリと言葉を漏らした。
「……ルーテシア」
「え?」
「……ルーテシア・アルピーノ……わたしのなまえ」
「そ、そう、アルピーノさん、ね……僕はエリオ、エリオ・モンディアルって言うんだ。よろしくね」
言うや、エリオはルーテシアと名乗った少女の手をそっと握る。
触れた少女の手は柔らかく、そして少しひんやりしていて気持ちよかった。
瞬間、自分の手を握られたルーテシアはきょとんとして目を丸くする。
同じ年頃の、それも異性に触れられるのは彼女にとって初めての事だった。
自分より少し硬くて、そして温かい手の感触。
どういう訳か少女の頬は僅かに紅潮し、鮮やかな朱色に染まる。
そんな彼女の変化を知らず、エリオはそっと手を引いた。
「ほら、こっちだよ」
「……うん」
ゆっくりと、後ろの少女の歩幅に合わせて少年は歩き出した。
△
程なくして、二人は目的地に到着した。
厳かな雰囲気を感じさせる神聖な施設、礼拝堂。
礼拝堂の大きな正面の戸の前を見れば、そこには既に先客がいた。
艶やかな金髪を揺らし、たおやかに熟れた肢体を黒い教会法衣に包んだ美女。教会騎士カリム・グラシアである。
近づくこちらの足音に気付いたのか、ふわりと輝く金髪を揺らしてカリムが振り向く。
見知った少年の姿に、美女の顔には柔らかな微笑が浮かんだ。
「あらエリオ君、ごきげんよう」
「あ、はい、騎士カリムごきげんよう」
彼女の笑顔と挨拶に自分も同じものを返し、エリオは軽く一礼する。
と、そこでカリムが不思議そうに首を傾げ、尋ねた。
「ん? そっちの子はどなたかしら?」
「え? ああ、この子は、その……」
自分の少し後ろで立っていた少女、先ほど出会った物静かな女の子、ルーテシアの事を問われた。
彼女の事を何と答えれば良いのか、エリオは僅かに考える。
しかし、少年が返事を言うより先に目の前の女性は含みのある微笑と共にとんでもない事を口走った。
「もしかしてエリオ君のガールフレンド?」
「ガ、ガガ、ガールフレンドッッ!? ち、違いますよ!」
「本当に?」
「本当です!」
どこかからかうようなカリムの笑みと言葉に、エリオは顔を真っ赤に染めて否定の言葉を吐く。
まだまだ青い少年にとって、ガールフレンドなどという甘酸っぱい言葉は果てしなく羞恥心を煽るものだった。
頬を染めて恥ずかしそうな顔をするエリオを、カリムは実に楽しそうな微笑を浮かべている。
どうにもこの生真面目な少年を弄くるのは楽しいらしい。
ただ、エリオの後ろにチョコンと立っていた少女は言葉の意味が良く分からないのか、無表情のままに首を傾げて頭上にクエスチョンマークを掲げる。
そしてエリオの服をちょいちょいと引っ張って、彼に尋ねた。
「……ガールフレンドってなに?」
「え? い、いや、それは、その……」
なんと答えるべきか分からず、少年は頬を朱色に染めてオロオロと慌てる。
と、そこでひょいと顔を覗かせてカリムが口を出した。
「ガールフレンドっていうのはね、男の子と仲の良い女の子の」
「ストップ! ストーップ! 勝手に変な事吹き込まないでください!」
「あらあら? 照れちゃった?」
カリムはどこか悪戯っぽい微笑みを浮かべ、エリオをからかうように言う。
対する少年は羞恥心を煽られ、赤い顔をさらに朱色に染めた。
そして、なんとか流れを変えようと彼は言葉を紡ぐ。
「と、ともかく! 騎士カリムもニコ兄に会いに来たんですよね? 早く入りましょう」
やや強引に言い切るや、エリオはカリムの横をそそくさと歩き、礼拝堂の大きなドアを開けた。
長年使い古された蝶番が、ぎぃ、と軋みを上げてゆっくりと動く。
木製の扉が開いた先には、その場の三者が求めていた相手が揃っていた。
ずらりと並ぶ長椅子と祭壇を持つ礼拝堂、壁際に設置された懺悔室の前に三人の男女がいた。
黒髪に黒スーツの男、この日の懺悔を聴取するべき司祭の代理人。
その男に懺悔を吐いた長身のベルカ騎士。
そして、浅黒い肌に金髪を持つ美女が一人。
「ゼスト、ザジ」
ポツリと、まず普通なら聞き逃してしまいそうな声量で少女、ルーテシアは騎士と美女の名を口にする。
彼女の声に、まず振り向いたのはザジと呼ばれた女性だった。
「ああ、ルー。迎えに来てくれたのかい?」
問いに、少女は小さく頷いて了承の答えを返す。
そのやり取りの傍らで、エリオとカリムもまた自分たちの目的の相手に声をかけた。
ただし、こちらは前者とかなり違う雰囲気で。
「ちょ! ウルフッドさん!」
「ニ、ニコ兄! なに壊してるの!?」
怒りを露に詰め寄る二人。
無理もない。
礼拝堂の床の上には、先ほどウルフウッドが勢い良く蹴飛ばした懺悔室のドアがあったのだから。
問い詰められたウルフウッドは咄嗟に釈明を述べる。
「い、いや落ち着け、これには深い訳が」
「どういう深い訳があったら懺悔室のドアをブチ破るんですか!」
烈火の如く怒ったカリムが顔を怒気で頬を淡く上気させて詰め寄り、ビシっと指を突きつけた。
かつては超異常殺人能力者集団、GUNG−HO−GUNSの一員としてチャペルの二つ名を冠したウルフウッドであるが、どうにもこの女性には頭が上がらない。
支援
ご立腹のカリムに彼は必至に言い訳を並べるが、しかし彼女の怒りは一向に納まることなく、あれやこれやと彼を叱りつけた。
まるで生徒を叱る先生のようで、なんとも微笑ましい光景。
この情景に、ふと笑い声が礼拝堂に響いた。
声の主は褐色の肌の美女、ザジ・ザ・ビーストだった。
「はは、まったく、あのチャペルが形無しとはね。聖王教会の女性はおっかない」
愉快そうにくつくつと笑うザジの言葉に、カリムは自分がみっともない様を見せていると気付いて顔を真っ赤に染めた。
ウルフウッドから一歩身を引くと、彼女は話題を逸らそうと見慣れぬ褐色の女性に話しかける。
「あ、えっと……ウルフウッドさんのお知り合いですか?」
「ん? ああ、まあそんなところだよ。ね?」
「あ? いや、まあ確かにそうやけど……」
ザジ・ザ・ビーストは屈託のない笑顔でウルフウッドに問うた。
求めているのは自分の言葉への了承で、そこには微塵の悪意も感じない。
これに彼はいよいよ混乱する。
相手の意図がまったく読めないのだ。
かつての同胞、同じくGUNG−HO−GUNSに身を置いた異形の者。
それが笑顔で敵意も悪意も殺意もなく、目の前にいる。
確かにザジ・ザ・ビーストという存在は人間に対して明確な敵意を抱く存在ではなかった。
しかし、今目の前にいる彼女は、否、“彼ら”は何かが違う。
以前はあの笑顔の下に、どこか得体の知れない気配を感じたものだ。
ザジ・ザ・ビースト、純然たる“人外”。彼らは人ではない。
惑星ノーマンズランドに移民船によって人間が降り立つ遥か以前から住んでいた、ワムズと呼ばれる蟲系生物の一群である。
高度な知性を持った彼らは人間を端末と称して支配し、利用する。
目の前にいるこの美しい女性は、正しくそうして蟲の走狗と成り果てた人ならざるものなのだ。
それが、今はどうだろうか。
まるで威圧感の欠片もない、本当にただの人間のようだった。
そんな事を思う彼の気持ちなど知る由もなく、傍らのカリムが口を開く。
「あ、でしたらご一緒に孤児院の方に行きませんか? 今丁度、お茶の用意がしてあるんです」
彼女が発したのは、何てことのない善意からの誘いだった。
だが、ウルフウッドからすれば悪魔を我が家に誘い入れるに等しい。
しかし、即座に否定の言葉が出ず、彼が自分の意思を告げるより先に正面の美女が言う。
「ええ、喜んで。良いよねルー?」
了承の意を求めての問い。
問われた少女もまた了承を求めるようにゼストに視線を向け、首を傾げる。
彼が頷けば、ルーテシアもこくんと小さく頷いた。
「うん、良いよ」
△
「ねえねえ、おなまえなんていうの?」
「おうちどこ?」
「どこからきたの?」
「きょうからここにすむの?」
「エリオのおともだち?」
「クッキーたべる?」
「おちゃおいしいよ?」
それは、疑問符を連ねた言葉の嵐だった。
投げ掛けたの孤児院の子供たちで、投げ掛けられたのは紫の長髪を揺らした少女、ルーテシア。
先ほどカリムらに案内されてここに来た彼女は居間に案内され、そこにある大きなテーブルに腰掛けた。
紅茶とクッキーが差し出されたのと、孤児院の子供たちが雪崩れ込むのは同時だった。
年も背丈もバラバラの女の子男の子がいっぱい現れたかと思えば、もう次の瞬間には質問の言葉が溢れた。
初めて見るルーテシアに興味津々の子供たちは、目をキラキラと輝かせて彼女に詰め寄る。
今まで同年代の子供とほとんど接した事のないルーテシアは目をパチクリとさせて唖然とした。
なんて言えば良いか分からず、いつもの無表情でちらりと縋るような視線をゼストに向けた。
テーブルに腰掛けて紅茶を傾けていたゼスとは少女の視線に、ただ静かな微笑を見せるだけだ。
熱気を孕んで自分を取り囲む子供達に、どうしようか、と眉だけを困ったように下げる。
と、そこに助け舟が入った。
「はいはい! 皆があんまりいっぺんに喋るから困っちゃってるじゃないか」
少年が言葉と共に子供たちの間に割って入ってきた。
それは、先ほどルーテシアを礼拝堂に案内してくれた赤毛の少年、エリオだった。
エリオの言葉に、子供らは渋々といった面持ちで、はーい、と答える。
まだ小さいながらも、どうやら彼はリーダーシップを持っているらしい。
質問の嵐から難を逃れたルーテシアは傍にいたエリオの袖を引っ張って、これ以上言葉の洪水に飲まれないように彼の後ろに隠れた。
いきなり女の子に抱き縋られた少年は顔を真っ赤にして慌てる。
が、少女はそんな事などお構いなしで身体を引っ付けた。
まだ凹凸など欠片もない、成熟も知らないなだらかな乙女の肢体の感触。
そして甘やかな髪の香りが一層少年の羞恥心を煽った。
顔を赤くする少年と、無表情に彼に擦り寄る少女。
微笑ましい様に、それを見ていたカリムやシャッハ、そしてゼストは微笑を浮かべた。
部屋の中から、いつの間にかウルフウッドとザジがいなくなった事を知らず。
△
木材の軋む音がする。
孤児院の二階スペースの廊下を、二つの人影が歩いていた。
褐色の肌に金髪の美女、ザジ・ザ・ビーストと、黒のスーツを纏った男、ニコラス・D・ウルフウッドだ。
先を歩くウルフウッドと、彼の後を追うザジ。
両者の間には一定の間隔で距離があり、警戒の色が透けて見える。
ウルフウッドは見えぬからと言って決して油断する事無く、間断なき注意を向けていた。
そして、二人は程なくして一つのドアの前に立つ。
そこには表札が掛かっており、一つの名が記されている。
Nicholas・D・Wolfwood 、と。
ウルフウッドは自室のドアを開くと、後ろのザジに視線で入るよう促す。
「それじゃあ、お邪魔するよ」
まるで警戒心のない声で告げ、彼女は悠々とウルフウッドの自室に入る。
入室するや、物珍しそうに部屋の中をグルリと見渡すザジ。
だがゆっくり見つめる時間はなく、次の瞬間には彼女の身体が揺れた。
動作は倒れる動きであり、その肢体は部屋に置かれたベッドの上に倒れこんだ。
後ろから勢い良く突き倒したウルフウッドが原因で、彼はそのままザジを押し倒し、圧し掛かる。
後ろから両腕を捻り上げられ、組み伏せられる女体。
突然の痛みに彼女の表情が苦しげに歪む。
「い、いきなり酷いなぁ……こんな事を」
して良いのかい? と続けようとした。
が、それより早く後ろの男が告げる。
静かに、だが確かに耳に届く声で。
「黙れ」
まるで地獄の底から響くような声だった。
美女の身体がその気迫に強張り、汗に濡れる。
背後から浴びせられる殺気が生物的な本能の部分で、ザジの肉体を圧倒しているのだ。
ウルフウッドは自分の言葉で彼女が押し黙るとその肩を掴み、転がした。
金の髪が揺れ、ベッドのスプリングが軋み、美女の肉体が仰向けにされる。
そして、その顎先に冷たい鋼鉄が触れた。
それは拳銃。
支援
黒色の鋼で作り上げられた兵器、ウルフウッドがかつての故郷で何度となく人命を屠った得物。
暗いその銃口が今、ザジ・ザ・ビーストの顔に突きつけられた。
「凄いね、いつの間にそれを抜いたのかな?」
「まだそないな事が言えるちゅうのは、随分余裕やな」
どこかふざけたような言葉への返礼は、セイフティを外す動きと殺気を孕んだ視線だった。
だがそれでもザジ・ザ・ビーストの表情には変わりなく、静かに微笑を浮かべて言葉を連ねる。
「いや、別に余裕がある訳じゃないさ。単に冷静なだけだよ。君はこんな場所でそう簡単に人を殺せる人間じゃないだろ?」
「相手が“人間”やったらな」
「はは、厳しい事を言うね」
茶化すような言葉にウルフウッドは語気を強め、牙を剥いて吼えた。
「冗談抜かすな! 正直に目的を言えや!」
向けられる銃口と殺気に冷や汗を流しつつ、それでもなおザジは表情を崩さず、
「目的、ね。別に君に害意を成す気はないんだけど……そうだな、じゃあ、少し“お話”でもしようか。君が消えた後の世界の話だ」
静かに語り始めた。
それはウルフウッドがいなくなった後の、ノーマンズランドの物語だ。
プラントを吸収し続け、人知を超えた力を得たナイブズ。
最後の七大都市オクトヴァーンを最終拠点として集った人類。
ヴァッシュ・ザ・スタンピードと共に戦うリヴィオ。
そして、ナイブズの力を得ようと叛意を剥きだしたザジ・ザ・ビースト。
ナイブズとザジとの戦いは、後者の敗北により締めくくられた。
彼女とワムズの長が斃された事によって。
「ちょい待て、お前あのナイブズを殺ろうとしたんか? それに、長が斃された、て」
「言葉通りの意味だよチャペル、まあ落ち着いて続きを聞きなよ」
告げられた言葉に疑問符を浮かべるウルフウッドを制し、ザジは説明を続ける。
「我々は彼を、ナイブズを危険だと判断してね、蟲で脳を支配して力をそのまま頂こうと思った訳さ。だから叛意を剥いた、たったそれだけの事だよ」
言いながら彼女は、でも、と零して自分の服に手をかける。
タンクトップの裾をめくり上げれば引き締まった下腹部が覗き、そして一つの傷が現れた。
大きな傷だった。
左右水平に刻まれた傷は、それこそ腰をクルリと一回りして付けられている。
「少々彼らを甘く見すぎたみたいでね、手痛い敗北を喫したよ。私はブルーサマーズに身体を真っ二つにされて、長はナイブズの攻撃で消し飛んだ」
その言葉に、ウルフウッドの思考にまた疑問符が生まれた。
ザジの言う言葉が真実ならば、何故彼女は存在しているのか。と。
肉体を両断されたのでさえ生きているのが不思議な程の重症だろうし、何よりワムズの長の死というのが最大の問題だ。
彼らという種族は、詳しい事は分からないが種族の中心となる長の存在があってこそ知識や意識を維持できるのではないか。
ならばその長が亡くなった今、どうして目の前のザジ・ザ・ビーストはこうして以前と同じ意識を持っているのか。
幾つもの疑問が湧きあがり、渦巻く。
が、ウルフウッドがそれらを口にし、問うより先に眼前の美女は言う。
「まあ、本来なら私もそこで長もろとも死ぬ筈だったのだけれどね。ルーのお陰で九死に一生を得たよ」
「ルーて、ルーテシア言うてたあのちっこい嬢ちゃんの事か?」
「ああ、彼女は召還師なのさ」
召喚師、それは魔導師の一種である。
異界より生命体を呼び出し、己の僕として使役するのがその本領。
ウルフウッドもこの世界に来てから、魔導師に関する書物でその事は知っていた。
「つまりお前を召喚獣、いやこの場合は召喚蟲か。そういう具合で呼び出した言うんか?」
「ご明察。どういう訳か、彼女の召喚蟲である私は長はいなくとも以前と同じ知識と知性を失わないで済んでいるんだ。
そして真っ二つになった身体は彼女らの知り合いの“ドクター”に治療してもらってね、今はこの通り五体満足さ」
腹部の傷を撫でつつ、微笑を浮かべて言うザジ。
その表情にも言葉にも虚飾はなく、ウルフウッドの眼から見ても虚偽があるとは思えなかった。
「じゃあ、お前は本当にもうガンホーとは関係あらへん言うんやな」
「まあね。今の私の主はナイブズでも長でもなく、ルーだから」
言葉と共に彼女が見せる笑みは、毒気がないどころかとても愛らしかった。
支援
以前はその一見無邪気な笑みの下に、底知れない人外の気配を感じたものだが。
これがルーテシアという少女の僕となった影響なのか、そこまではウルフウッドにも分からない。
だが、確かにザジ・ザ・ビーストはもう敵でないという事実を彼は認める。
「そうか、ならおんどれの言う事信じたるわ」
「分かってくれて何よりだね。じゃあそのおっかない物を早くどけて欲しいんだけど」
そう言い、彼女は眼前の銃口を指でつつく。
ザジの請いに、ああ、と返事を返しつつウルフウッドは銃を懐に仕舞った。
「これで和解できたかな?」
「お前が変な気を起こさへんならな」
「酷いなぁ、私がそんなに信用できない?」
「今のところは半信半疑や」
口元に苦笑を浮かべ、二人はそう言葉を交わした。
なんとも奇妙な気分だった。
かつての世界では同じくGUNG−HO−GUNSの一員としてナイブズに仕え、そして敵として相対した。
そんな相手とこうして違う世界で巡り会い、鉛の弾でなく言葉を交わすという。
まるで冗談みたいな話だ。
あの砂の星にいた頃は想像もできなかった。
もしここにあの能天気な平和主義者がいれば、戦いもなくかつての敵と平和な場所に生きられる事を喜んだ事だろう。
ふと、彼はそんな事を思った。
そしてそんな時だった、外からばたばたと足音が聞こえてきたのは。
「ニコ兄ー、ここにいるの?」
「ウルフウッドさん、探したんです……よ」
現れたのはエリオとカリム、そしてルーテシアらであった。
ドアを開けた瞬間、カリムは言葉を失い固まる。エリオもまた眼を丸くして硬直していた。
どうしたんやこいつら? とウルフウッドは疑念を抱く。
が、そこで彼は気付いた、今の自分の状態に。
――彼は現在、ベッドの上でザジを思い切り押し倒していた。
おまけに彼女は服をめくってその引き締まった美しい下腹部をこれでもかと見せ付けている。
なんというか……どこからどう見ても情事の最中としか言い様がない。
ウルフウッドは即座に立ち上がるや、否定の言葉を吐く。
「ちょ、ちょい待て! 違うで? 別にやましい事なんてしてへんで!?」
大慌てで釈明するウルフウッド、だがそんな彼にカリムは笑顔で固まった顔のまま氷のように冷たい視線を向ける。
説明すればするだけなんだか怪しいのだろう。
しかもそこに追撃が入る。
ルーテシアが首を傾げ、無垢な瞳で不思議そうに問うた。
「ザジなにしてるの?」
「この場でいきなり押し倒されて無理矢理ベッドに」
「おいこら! 変な事言うなや!!」
「単に事実を言っただけだけど?」
「それがいかんちゅうねんッ!」
声を荒げるウルフウッド、もう涙目である。
そんな彼の様にルーテシアはまた首を傾げ、傍らのゼストに、じゃあおしたおしてなにするの? と聞いていた。
ゼストは顔をしかめて静かに、お前にはまだ早い、と返している。
エリオは何となく意味が分かるのか顔を真っ赤にしていた。
そして、一人カリムは微笑を浮かべていた――額に血管を浮き上がらせて。
「ウルフウッドさん……」
「あ?」
名を呼ばれ、ウルフウッドが振り返る。
すると彼の視線に高速で動くものが映った。
それはカリムが繰り出すロシアンフックの一撃であった。
「このスケベェェェェエエ!!!」
強烈な打撃に、ウルフウッドの体躯が盛大に吹っ飛んだ。
今日も世界は平和だった。
続く。
投下終了。
いやぁ、そのなんだ……待たせてしまって申し訳ない。
他所でもSS書いてたりなんだったりでチマチマ書いてたらこんなに遅くなってしまいました。
とりあえずクロスでの連載、リリニコだけはきちんと書きたいと思います。
リリカル・グレイヴに関しては一度最初から仕切りなおしてみようかなと、考えてたりしてます。
そして支援ありがとうございました。
>>52 お帰りなさい
>リリカル・グレイヴに関しては一度最初から仕切りなおしてみようかな
ガビ〜ン。
続きが気になってずっと待ってたのに…。
GJ!お待ちしてました。本当に乙、と言わせてください。
読者としては欲をいえばグレイヴも長いので続きが気になります。
55 :
NZ:2009/10/02(金) 17:20:05 ID:GdIB4qz5
どなたか、倉庫のトップページの現スレの項を更新してくださると
うれしいのですが・・・お願いします
スルーしとこう
協力性無さすぎだろ
更新はしといた
60 :
NZ:2009/10/03(土) 09:41:14 ID:jz8kD3a9
ありがとうございます
>>60 メール欄に、半角で、sageと入れてくれ。
そうしないとスレが上がって、荒らしに目を付けられたりするから。
あと、荒れるリスクが高いから、コテは外した方が無難だよ。
自衛にもなるし、周りに迷惑をかけないで済む。
二度は言わない。これでわからないなら、半年ROMっててくれ。
なんか落してもいいみたいなんで、1110時から投下しまーす。
こちら、スカルリーダー、進路はクリアだ、突っ込め!
マクロスなのは 第5話『よみがえる翼
午前の模擬戦を終え、食堂で一息いれていたアルトに凶報が届いた。
「午後はあたしと戦え!」
そう殴り込みに来たのは、隊舎内なのに、未だ赤いバリアジャケットに身を包んだ小さな少女。しかし、
アルトは彼女が外見で計れないことを知っている。
設立記念パーティーのとき、食堂での珍騒動。あの時、その身の丈の数十倍は巨大化したハンマーは
なんといったか。そう、確か『グラーフアイゼン』だった。
そしてバルキリーの改修完了時、なのはの砲撃でも一撃では簡単に破れないであろうバトロイド形態
の時のPPBを盛大にぶち抜いたのもコイツだったな・・・・・・
そんな事を思い出していると、もう1人現れた。
「その後、私もお願いするわ。」という女性は、茶色い地上部隊の制服を着用し、腰すら超える金髪の
長髪をストレートにした女性だった。
しかし、その温和な物腰に隠しきれない戦闘意欲が垣間見える。これは彼女がこの六課で、シグナム
と並んでバトルマニア≠ニ呼ばれる所以だろう。
「しかしまだ整備が─────」
「んなん大丈夫だろ? とっとと来い!」
アルトの微々たる抵抗は有無を言わさず却下された。彼はこれを断れない自らの准尉という階級を恨
んだ。
目の前の、頭にのろいうさぎ≠フぬいぐるみを載せた外見年齢12、3歳(実年齢はどういう訳か特秘
となっていた)のヴィータが二等空尉。そして隣のフェイトは、1歳違うだけなのに一等海尉(執務官は称
号)・・・・・・
(世の中不公平だ!)
アルトは心の中で叫んだ。
(*)
今度の模擬戦は全てのハンデが解消され、存分に戦えた。しかし、たまった疲労は確実に彼と機体を
蝕んでいた。
ヴィータとの模擬戦は相討ちに終わり、続くフェイトとの模擬戦は、アルトの撃墜に終わった。
(*)
格納庫へとアルトが機首向けた時、日は傾きかけていた。
VF−25は整備なしで酷使されて機嫌を損ねたのか、右舷エンジンからは異音がする。そして遂に─
────
アルトは突然の浮遊感を感じて驚いた。
警報ががなりたてている。多目的ディスプレイには大きくエンジントラブル≠フ文字。どうやら先ほど
から不調を訴えていた右舷エンジンが止まったらしい。
右舷だけだが、2基の足で空中をホバリングするガウォーク形態だったからたまらない。たちまち姿勢
を崩し、キリモミ落下を始めようとする。アルトは推進モーメントのバランスがとれるためエンジンが片方
だけでも飛べるファイターに可変しようとするが、変形機構も言うことを聞かなかった。
ここは高度1000メートル。下界はすでに陸地のため墜落すれば大破では済まないだろう。
(・・・イジェクト(緊急脱出)しかないのか・・・)
アルトは機体を振り返って確認する。
キリモミ落下の始まった機体を立て直すには高起動スラスターでは荷が重いだろう。
しかしアルトはそこで天命を受けた。翼が白い尾を引いていたのだ。それはアルトに、ここが大気のあ
る天体である事を思い出させた。
(そうか、空気に乗れば・・・)
こうしてアルトはなんとか両翼と残る左舷エンジンを駆使することで着地に成功した。
しかしJAF(レッカー車)などないため、ヴァイスの輸送ヘリを要請。格納庫へと空輸した。
こうして搬入されたバルキリーに即座に点検が行われる。整備員達が一昔前の医療用の内視鏡のよ
うなものと、超音波スキャナーでエンジン部を点検していく。
2時間後、原因の一端が判明した。
右舷エンジンとベクタードノズル(推力偏向ノズル)にはマイクロからミリメートル単位の無数の穴が空
いていたのだ。これは左舷エンジンも同様で、それでも動いてくれたことにアルトはVF−25を撫でてや
りたくなった。
「見たところ小石が原因ですね。午前の模擬戦で空いた穴を午後で悪化させたみたいです。」とは整備
員の言だ。
どうやらそもそもの原因は、午前の模擬戦の時、転換装甲なしのバトロイドで戦闘したことにあるらしい
。
自重が8トンあるため、素の状態の第3世代型エネルギー転換装甲アドバンスド・エネルギー転換装
甲(ASWAG)≠フフレーム(カーボンナノチューブで繊維強化したチタン)では耐えられなかったようだ。
整備員は同様の材料を使った補修材で直すことを提案したが、アルトは待ったをかける。一体形成型
のベクタードノズルは補修材では強度に不安が残るからだ。しかし、そんな規模・設備は技研の方にし
かないらしい。
そこでアルトはその許可を求めるために部隊隊長室に向かうことにした。
(*)
アルトが廊下を歩いていると、途中でバッタリと、ヴィータとフェイトに出くわした。
『さてどう文句を言ってやろうか。』とずっと考えていたアルトだが、予想に反して2人はすぐに頭を下げ
「ごめんなさい、ごめんなさい。」と、ペコペコ謝った。
(・・・なんだ。案外素直な奴らなんだ。)
2人の様子に毒気を抜かれたアルトは、文句を言うのを忘れ、さらりと2人を許して部隊長室への歩を
進めた。
(*)
着いた部屋の表札には『機動六課 部隊隊長室』とある。
そういえばはやてに会うのは2日ぶりだな。と思い出した時、ドアの向こうから声が聞こえた。
『わぁ、リイン、綺麗な朝日≠セねぇ〜』
どことなく上の空に聞こえる声。これははやての声だ。
リインとは、正式名称を「リインフォースU(ツヴァイ)」といい、はやてのユニゾンデバイス(術者と融合
することで、その者の魔法のパフォーマンスを向上させるデバイス。しかし彼女自身もAランク相当の
リンカーコアを持ち、単独の魔法行使も可能。)で、妖精のような小人だ。
アルトは腕時計を見て確認する。
(間違いない。今は午後≠U時だ。)
『はい〜、また仕事が始まるですぅ〜』
今度はリインの声だ。彼女の声もどこか浮いている。アルトは怪訝に思いつつ、扉をノックした。
『はぁ〜い、誰ですかぁ〜?』
リインの声だ。彼女は普段、はやての秘書をしているため、こういう返事は原則的にリインが行うことに
なっていた。
「早乙女アルト准尉です。八神はやて部隊長にお話があります。」
『んがっ、あ、アルト君!? ちょ、ちょっとごめんな。少し待っといてや!』
答えたのはリインでなく、はやてだった。直後内側からは何かが倒れる音や、2人の悲鳴などが聞こえ
た。
しばし(10分)待つと、入室の許可が降りた。
「失礼します。」
アルトは注意深く中に入る。そこはまさに異世界だった。
空気は完全にコーヒーの匂いに占拠され、床には所々書類の山がある。そして極めつけははやての
顔だった。
服はしっかりしているが、気づかなかったのか髪がボサボサで酷く荒れている。また、必死に笑顔を作
っているが、目の下の隈が不気味さすら漂わせていた。リインの姿が見えないが、それで良かった気が
した。
「おはようアルト君。朝、早いんやな。」
「・・・なぁはやて、今日が何曜日かわかるか?」
はやては突然の問いに思案顔になる。
「うん? 確か書類の処理を始めたのが月曜日の朝で、今は日付が変わったから・・・火曜日やな。」
「今は水曜日の午後6時だ!」
どうやら彼女は2日間も貫徹をしていたようだ。その集中力には感服するが、おかげで頭も回らないよ
うで、アルトの突きつけた真実に「え!? ウチ、タイムスリップしてもうたん?」と言っているあたり末期
だ。
しかし、ここではやてをいじめても仕方ないのでアルトは早々に本題に入る。
「バルキリーの本格的な修理をするために、管理局の技研に運び込みたいのだが・・・」
「え?・・・まぁ、ウチはかまへんけど、どうして壊れたん?」
「実は─────」
これまでの経緯を説明すると、はやてはすぐに頭を下げた。
「うちのヴィータがご迷惑をおかけしました。」
「いや、さっき本人達から謝られたからもういいよ。それで機密面から俺も同行したいんだ。」
そう言うと、はやては気の毒そうな顔をした。
「素粒子スキャナーに透視魔法。ミリ波スキャナーにMRI(磁気共鳴映像装置)・・・・・・ウチはよく知ら
んし、他にも色々あると思うけど、たぶんランカちゃんのAMFでも守りきれんで。」
アルトはため息をつくと、「じゃあ、この世界は覗き放題か。機密もあったものじゃないな。」と言うと、そ
こはそれ。
個人情報や機密事項を守るためのプログラムがあり、それは主に施設やデバイスの管轄で、個人情
報はデバイス、機密は施設とデバイスの双方で守るらしい。
「でも今回は、施設の指揮権が向こうにあるから支援は期待出来ん。それにデバイスの防衛プログラ
ムではバルキリーは大きすぎて現状では守りきれんのや。」
そう諭すはやてだったが、アルトが「それでも!」と食い下がると、あっさりと許可が降りた。
そして輸送の手続きを済ませ、アルトは部屋を出た。その後彼女たちは鏡を見たのだろう。結果とし
て、六課の隊舎全てに響く悲鳴が発生したことは、言うまでもない。
(*)
次の日
はやての手配した大型トレーラーに載せられたVF−25は技研へ向かう。しかしそのトレーラーにはア
ルトの姿はなかった。
「昨日は本当にごめんね。」
そう謝りながら自身の愛車を運転するのはフェイトだ。
「あぁ。なんてことはないから安心しろ。」
アルトは答えると前方のトレーラーに視線を注ぐ。幸い、トレーラーにはビニールシートが掛けてあり、
それをバルキリーと思う人間はいないだろう。
ちなみに、フェイトは純粋にアルトを送るために乗せているのではない。もちろん償いの意味もあった
だろうが、彼女のデバイスの改良は今度、大規模なOT・OTM取り入れだった。そこで、設備の大きい
技研で改良及び調整をするためらしかった。
そして2人でそれぞれ自分の世界の事などを話ながら2時間ほど車に揺られていると、ミッドチルダ一
の高さを誇る富士山≠フ麓まで来た。そして時を置かずトレーラーが門の前に到着した。
表札には『時空管理局 地上本部 技術開発研究所』の文字があった。どうやらここらしい。
検問で簡単な確認を済ますと通され、中に入った。
入ってすぐの建物は鉄筋コンクリート製の六課よりも小さいビルで、所々ヒビが入っていた。しかし、労
働争議によって達成された予算拡大の影響か、補修と拡張工事が急ピッチで進んでいた。
VF−25を載せたトレーラーは新設されたらしい格納庫へ入っていき、フェイト達を乗せた車もそれに
続く。
トレーラーはやがて巨大な自動洗車機のような所で停まった。だがアルト達は誘導に従い、格納庫内
を一望出来そうな展望所のような所の下に停車させられた。
「じゃあ帰りも送って行くから、その時は呼んでね。」
フェイトは車を降りたアルトにそう告げると車を発進させ、格納庫から出ていった。
アルトは見上げる。その指揮所は、壁にくっついた箱のように設置されていた。そのためアルトはその
すぐ下のエレベーターに通された。
(*)
エレベーターはゆっくり6メートルほど登って止まる。そしてドアが開くと、白衣を着た研究者が1人、彼
を迎えた。
「・・・!?」
アルトはその顔を見て驚く。その顔は自らの父、早乙女嵐蔵にそっくりだったのだ。
「こんにちは、早乙女アルト君。私はこの技研の所長をしている田所だ。」
しかしやはり他人の空似。嵐蔵の巌のような雰囲気と違って人の良さそうなそれを放っている。
「・・・・・・よろしくお願いします。」
2人は握手を交わす。田所所長は、生粋の技術屋らしい。シワの多い手には無数の傷があった。
「君の境遇は八神部隊長から聞いている。早く君の世界が見つけられる事を祈っているよ。」
「はい、どうも。」
しかしその静かな中、外から歓声が聞こえる。
『デカルチャー! デカルチャー!』と。
アルトの怪訝な顔に気づいたのだろう。田所が窓を開けて1軒の建物を指し示す。
「今所員のほとんどが休憩の許可を受けていて、あそこに集まっている。どうだ?あいつらが戻ってくる
まで検査は始まらないし、君も行くか?」
「・・・ん、あぁ。わかった。」
1人残されても仕方ないので、アルトは所長の後を追った。
(*)
臨時の休憩所となっている大型食堂は歓声と熱気に包まれていた。
皆一様に設置された大型テレビを見ながら声援を送っている。画面の中にはアルトのよく知った、緑色
の髪をした少女がステージ上で歌っていた。
(そうだった、ランカのセカンドライブは今日だったな・・・)
アルトは2日前に見たメールの内容を思い出す。
ランカは六課の一員だが、現在次元世界各国でチャリティーライブを続けていた。
ちなみに、管理局の全予算の25%に登るライブで集まったお金は、7割近くが貧困に喘ぐ次元世界の
救援物資に化けている。
(しかしなんて華(はな)だ・・・)
アルトは思わず生唾を飲み込む。
容姿が、ではない。もちろんそれを否定するわけではないが、もっと、その立ち居振る舞いのほうだ。
ただ舞台に立つだけで、全ての人間の耳目を集めてしまう華=B
彼女の笑顔が光の矢となって放たれる度に血が熱くなるのを感じる。
第25未確認世界でブレイクしていたランカの人気は、この世界でも健在だった。
ランカの歌声は既に全次元宇宙を駆け巡り、超時空シンデレラ≠フ名に恥じぬ人気を叩き出している。
また、彼女によって終結した戦争、紛争も少なくない。
学者達は『フォールド波が人の聴覚に直接作用して、理性に直接的な感動を与えている。』と言う。
だがそれならフォールドスピーカーを使った全ての歌に普遍的に作用されてしまうはずだ。しかしそん
な調査結果は出ていない。つまり科学的にはなかなか説明は難しいのだ。
だがアルトの様な人間には、彼女の歌がなぜこんなにも聴衆を引き付けるかわかった。
彼女の歌には、彼女を支え、愛してくれている世界に対しての無償の愛がありありと感じられるのだ。
それは人々の心の奥で忘れかけている母親の愛を連想させる。そのことが、特に戦場で荒んだ兵士達
の心に響くのだ。
上からの命令で日々人を殺めたり、傷つけたりしている内に彼らは、人間より生体兵器に近くなる。そ
んな彼らに母の愛を思い出させるとどうなるか。
母の愛とは無論、無償の愛であり、よほど偏屈した家庭でない限りそれは自らの存在を許し、生かして
くれるものだ。それを思い出した彼らは、もう戦争などという愚かな事はしないのだと。
(*)
熱狂の中曲が2〜3曲終わると、休憩タイムに入る。この局は国営放送だがCMを流すようだった。
人混みのなか田所とはぐれたアルトは彼を探していると、視界の端に研究員の白衣とは意が異なる茶
色の服を着た女性(ひと)が写った。
「あれ、アルト君も?」
「・・・どうやらそっちもランカ・アタックのようだな。」
「うん。着いて誰もいないから、警備の人に理由を聞いたの。そしたらみんなここだって。」
フェイトは苦笑を浮かべつつ言う。
ランカ・アタック≠ヘ、第25未確認世界のミンメイ・アタック≠ノ相当する。これは彼女らの歌が戦
闘を止め、ほぼ精神攻撃とも取れる事からこの名がついている。
またデカルチャー≠焉A第25未確認世界の言葉だ。これは元々ゼントラーディ(巨人族)の言語で、
『感動』や『驚愕』を意味する。元の世界では陳腐化していたが、ここではランカの持ち込んだ新しい文
化として大ブレイクしていた。
アルトがテレビに向き直ると、丁度CMが変わった。
<このCMは『星間飛行』をBGMにするとより楽しめます。>
──────────
大写しになるVF−25のキャノピー。そしてどこからか流れてきた『星間飛行』と共にそれが開く。
「みんな、抱きしめて。銀河の、果てまでー!」
副操縦席で立ち上がったランカのその常套句が、労働争議中の本部ビルに響き渡った。
直後曲をBGMに、画面が切り替わる。
「テレビの前の皆さんこんにちは。ランカ・リーです。」
ステージ衣装を身に纏ったランカが挨拶した。バックには、時空管理局のエンブレムが躍る。
「時空管理局は、平和を守るという、すっごい大切な仕事をしています!だけど・・・・・・」
声と緑の髪が落ち込むようにシュンとなる。そこでランカの肩に手が置かれた。
彼女は今、隣で着ているような地上部隊の制服ではなく、本局の真っ黒な執務官の服を着ている。
「でも今、管理局の地上部隊は慢性的な人材不足に陥っています。」
そこに今度は陸士部隊の礼服を着て、画面右側から出てきたはやてがフェイトの後を継ぐ。
「地上部隊はランカちゃんのおかげでだいぶ待遇も改善されたで。それに今なら重要なポストもけっこ
う空いとるよ。」
「来たれ勇士達。私達は、あなた達を待っている!」
最後にバリアジャケット姿のなのはが画面上からやってきてレイジングハートをズバッ≠ニこちらに
向けて大見得を切った。
「「みんなのミッド、みんなで守ろう!・・・キラッ☆」」
最後に4人の声が唱和し、同時にやってきたBGMに合わせ、なぜか′めポーズ。そして画面が
また切り替わる。そこにはまた大きく時空管理局のエンブレムが描かれていた。そこにランカの声が重
なる。
「こちらは時空管理局広報です。」
──────────
冒頭の労働争議の映像は、その時撮られたものではない。1週間前に時空管理局広報部から正式に
依頼されてホログラム場で再現したものだ。そのためこのCM撮影は、六課も全面的にバックアップし
ていた。
しかし完成版のそのCMを初めて見たアルトは苦笑した。
ランカは台詞を頭で演じているようだ。多分台本どうりに読んでいるのだろう。これではあまり聴衆の深
層心理には訴えられない。
しかし、他3人の訴えには心がこもっていた。やはりまだ来てから1ヶ月では、日々実感するであろう3
人にかなうものでもなかった。
(思わざれば花なり、思えば花ならざりき・・・・・・か。)
だが、これらの考察はアルトレベルの同業者にしかできるまい。
事実、周囲の人々は、
「いいぞ!ランカちゃん!」
「フェイトさん最高!」
「「デカルチャーッ、デカルチャーッ!」」等々やんや、やんやの大騒ぎだ。
(ん?待てよ・・・「フェイトさん最高!」?)
しかし、彼が気づいた時には遅かった。もっと早く気づくべきだったのだろう。ランカが来る前、管理局の
『3大美少女オーバーSランク魔導士』として名を馳せていた『はやて』、『なのは』と並んで『フェイト』が
いたことに。
振り返るとそこに麗しき金髪の魔導士の姿はなく、奥の方で席に座らせられ、困った顔でペンをサラサ
ラと動かしていた。また、時折シャッターの閃光が彼女を白く包む。
フェイトはアルトと目が合うと、助けて欲しそうな魅惑的な目を送ってくる。しかしアルトは、胸の前で十
字を切って合掌すると、さっと身をひるがえして離脱していく。
不利な体勢になったら推力を生かして戦線離脱!混戦から抜ければなんとでもなる!
それが空戦のセオリーだ。
そんなアルトの戦線離脱に、フェイトは色紙に次々自分の名を書き込んでいく作業と、記念撮影をせ
がんでくる所員たちの要望に応えながら、小さな声で呟いた。
「アルト君の意地悪・・・」
(*)
フェイトの臨時サイン会が終了したのと、CMタイムが終了したのはほぼ同時だった。コンサート会場
に画面が戻り、テレビがその熱気を放射する。
現在コンサートは、首都クラナガンの中央にあるクラナガンドームで開かれている。そこは普段公式野
球に使われるため十二分に広いはずだったが、グランドから客席まで人で埋め尽くされていた。
絶えることのないランカを呼ぶ声。そして彼女が舞台袖から出てくると、それは一気に歓声に変わった。
ランカはその歓声を手を上げるだけで制すると、そのままマイクを空中≠ゥら掴み出し歌い始めた。
<ここより先は『What ’bout my star? @Formo』をBGMにすることを推進します。>
Baby どうしたい 操縦?
ハンドル キュッと握っても─────
彼女のクリアなア・カペラが世界を静寂に引き戻した。しかし、観客は次第にリズムに乗って体を揺ら
す。
少女はスポットライトに照らされながら、歌い続ける。
緑の髪が別の生物の様に躍って、汗の粒がきらきらと宝石のようにきらめく。
そしてそのメロディがサビになる頃には観客は総立ちで跳び跳ねていた。その動きは、クラナガンの地
震計に記録されるほどだったという。
また、待機していた空戦魔導士達がサビ突入と同時にスタントを開始した。
そして魔導士達は2サビ突入寸前のカウントに合わせて技を披露し、ゼロと同時に全方位にパッと散っ
て美しい軌跡で花を添えた。
・・・しかし、聡明な読者ならお気づきだろう。
『なぜランカの歌という超強力AMFのなかで飛べるんだ?』と。
その秘密は、彼女が空中から取り出したマイクにある。
実はこのマイクはシャーリーの作ったデバイスなのだ。このデバイスは、待機中はブレスレット状態な
ので、空中から取り出したように見える。
また、攻撃的な装備はないが、その他の装備は充実している。
バルキリーと同種のフォールドアンプやフロンティア船団の装備していたのと同じオーバーテクノロ
ジー系列の全方位バリアイン・パッシブ・シールド=Bそしてインテリジェントデバイスのため、ランカ
が歌に集中していても防衛機構は全自動運転できる。
中でも特筆すべきなのは『SAMFC(スーパー・アンチ・マギリンク・フィールド・キャンセラー)』と呼ば
れる機構だ。これは、不規則に変化するランカのS(超)AMFの周波数を、体内を流れる電気信号から
推測。推測した周波数を周囲の友軍のデバイスにデータリンクを通して伝え、そのAMFをキャンセル
するという画期的な装備だった。
これにより六課をはじめとする管理局は、対魔法、対魔導兵器戦では強力なアドバンテージがあった。
その後ランカのセカンドコンサートは1時間以上続いたが、誰もが、アルトでさえも時間を忘れて聞き惚
れていた。
支援
(*)
アルトがコンサート終了と同時に時計を見るとすでに3時を回っていた。
周囲の研究員達は、コンサート終了と同時に各自の通常業務に戻っていく。しかしその時誰の顔も、
疲れを感じさせないほど生き生きしていた。
「じゃあ私も戻るね。」
そう告げたフェイトと別れてすぐ、後ろから呼ばれる。
「待たせたね、アルト君。」
さっきの所長・・・のようだった。彼の顔も、20歳は若返ったように見える。
「いやはや、昔を思い出してついサタデー・ナイト・フィーバー≠オてしまったよ。はっはっは・・・」
今日は木曜のはずだが・・・≠ニ思ったアルトにはなんの事かわからなかったが、ともかくフィーバー
の英単語そのままの意味だと理解する事にした。
「・・・さて、これから検査を始めるがいいかな?皆やる気なのでね。」
そう言って彼の見た先には、研究員の一団が陽気にランカのポップスを歌っている。
「それじゃあお願いします。」
アルトはそう言って頭を下げた。
(*)
そうして彼らは指揮所に戻ると、すぐに検査の準備を始めた。
VF−25はトレーラーから降ろされ、先ほどの洗車機の前に駐機された。田所の話によると、あの洗車
機は最近導入した最新鋭スキャナーで、一度に様々な検査が出来るそうだ。
スキャナーが動き出し、VF−25の上を一往復すると、静かに止まった。
洗車してくれないし、外見それだけなのだが、田所の操るデスクトップコンピューターのディスプレイに
は正確なVF−25の3次元図面が出来上がってゆく。なるほど確かに優れ物らしい。
それは一昔前の医療用CTスキャナーのような断面図もあり、田所と研究員達は分担して次々に解析
していった。
その情報は中央に投影された全体図とリンクしており、故障と思われる場所に赤い光が灯る仕組みだ。
しかし、場所はベクタードノズルだけに留まらず、次々に赤く灯っていった。
「・・・問題はベクタードノズルとエンジンだけじゃなさそうだぞ。」
パネルに灯ったキーボードを叩きながら田所が呟く。
どうやら本格的なオーバーホールになりそうだと、アルトは肩を落とした。
(*)
3時間に渡る解析によって256箇所の問題点が挙げられたが、アルトが確認すると半数以上が仕様
だった。しかし、確かに気づかなかったヒビや、故障は大量に見つかった。内部のエンジンファンの破断
などが、見つからなかった典型例だ。もしあの時補修材で妥協していたら危なかったかもしれない。
「それで、修理にはどれぐらいかかりますか?」
田所所長は修理リストを斜め読みすると答える。
「ヒビと撓みは物質操作魔法で生成、矯正したりして修理ができそうだね。ベクタードノズルも部品交換
と電子機器の移植で済みそうだし・・・・・・うーん、明日にはなんとかなるだろうと思う。」
アルトはそのあまりの短さに驚いた。VF−25の交換パーツの揃っているSMSですら、直すには2日
かかるだろうに。
このスピードを実現させるのに物を言ったのは魔法だった。特にアルトがこの世界に来て一番驚いた、
この物質操作魔法≠セ。
これは大気中の元素に干渉して材質変換したそれを固定。そうして任意の場所に任意の材質の物体
を作ることができた。
これはOT・OTMを解析した第25未確認世界にもない技術だった。 また、扱うには適性が必要だが、
デバイスはこの原理が限定的に使われている。
デバイスは普段は携帯時の形態である小さな各種アクセサリーに変型するが、使用する際は杖や銃
に変型する。
これは『(デバイス内にある)構成情報を元に、空気中の元素を固定。それを生成する。』という物質操
作魔法とほぼ同様の手順を踏んでいる。
だがこの構成情報がデバイスの容量を大量に食べるので、なのはのような上級者以外は一段階変型
が基本となる。
ちなみになのはは不要な支援プログラム、例えば「リリカル・マジカル」というパスワード認識機能やリ
ンカーコア出力が低い者が使う魔力コンプレッサーなどを削除。プログラム言語も特殊なものを使用し
て極限までカスタムしてあるため容量が半分近く空く。これによりレイジングハートは多段階変型を実現
していた。しかしシャーリーなど一流のデバイスマスターでなければカスタムされた各種プログラムの
意味が、もはや理解する事ができず、整備士を選ぶのが欠点と言えよう。
このようにデバイスは擬似的な物質操作魔法を使えるが、元素固定は現在ミッドチルダの科学力でも
魔法以外には不可能で、デバイスのみ行える。
なぜデバイスだけか?と言うと、数は多いがデバイスはすでにロストロギア─────いや、ロストテ
クノロジーなのだ。
デバイスの心臓部であるフレーム自体の設計・生産技術は100年前の戦争で焼失しており、今も世界
各地で稼働する自動生産工場に100%依存しているのが現状だった。
リバースエンジニアリング(既に存在する実物からその技術を習得すること)にも限界があり、下手に手
を出して壊れてもいけないので、その生産工場に手が出せていなかった。
余談だが、六課メンバーで実戦的な物質操作魔法が使えるのは、ヴィータだけだ。
閑話休題
「それじゃお願いします。」
「承知した。ところでアドバンスド・エネルギー転換装甲≠ニいうのは、検査によるとチタンとカーボン
の合金のようだが・・・本当にこれだけか?それと、どうして動くんだ?」
彼がいぶかしむのも仕方ない事だ。OT・OTMに理論も知らずに触れた人間は最初はこうなる。
「あぁ、それはだな─────」
アルトは機密という言葉を全て頭から叩き出すと、彼の知りうる全てを公表した。
エネルギー転換装甲とは、反応エンジンで発生する莫大な電力で、無理やり分子間の結合力を増や
し、分子構造を強化するものであること。
しかし結合力を強くした結果ほとんどの場合で分子構造が激変し、性質が変化(例えば鉄が常温で液
体になったりする)してしまうため、いままで発見された合金は少ないことなどを説明する。
「─────このようにOTやOTMは、一端だけ見ると、既存の技術とかわらず、見分けがつかないの
で合理的でないように見える。先ほどの問題点だと思ったら、仕様だったバルキリーがいい例だ。」
アルトがバルキリーを指差す。
「まぁ、つまりOT・OTMは、機械同士が密接にリンク─────例えるなら、生命のような美しい相互
作用を作ることで初めて機能する。そのためこの技術を学ぶ者は、上空から下界を俯瞰する鳥のような
気持ちで望むことが、OT・OTM理解の最短ルートだ。」
アルトは先生のごとく田所達研究員に説明する。最後は美星学園の機械工学科教授の受け売りだっ
たが、この場にはぴったりだった。
そこで質問があったのか、1人の研究員が手を挙げた。アルトは「なんだ?」と彼を当てた。
「VF−0のエネルギー変換¢附bも起動手順は同じですか?」
「あぁ。まったく同じだ。」
統合戦争の初代バルキリー『VF−0』や『SV(スホーイ・ヴァリアブル)シリーズ』に使われた第1世代
型『エネルギー変換¢附b』。
製作が容易だが、今では強度もなく、重く加工しにくいのでほとんど使われない。
そこで安く加工しやすいためVF−1からAVF型(アドバンス・ヴァリアブル・ファイター。VF−19やV
F−22など)まで採用されていた第2世代型『エネルギー転換¢附b(ESA。エネルギー・スイッ
チ・アーマー)』。
そして新開発の試作戦闘機YF−24『エボリューション』(VF−25の原型)で部分的に採用された第3
世代型『アドバンスド・エネルギー転換装甲(ASWAG)』。これは軽く、加工しやすく、エネルギー効率
が4割も向上して更に強度が上がった最新バージョンだ。
しかし製作コストが高いのが難点となっていおり、フロンティア船団のVF−25も、バジュラとの抗争時
はアーマードパックやFASTパックの追加装甲のみに使われていた。なお、アルトの3代目VF−25は
贅沢にもこの装甲に全換装。おかげで重量が1割ほど軽く、ファイター形態でも常時転換装甲が起動
できるなど防御力もさらに向上している。
そしてアルトは現在この3つを超える強度を示す合金は見つかっていないことなどを説明した。
しかし、アルトは説明に夢中で、なぜ研究員が公表していないはずのエネルギー変換装甲や統合戦
争。VF−25以外のバルキリーについて知っているのか?という素朴な疑問が浮かばなかった。
(*)
その後もいろいろ質問が挙がったが、技術的なことばかりでつまらないだろうから、ここは割愛させて
いただこう。
そらそら、支援するぞぉ!
(*)
2時間ほどかけてOT・OTMの講義をし終わると、早速修理が始まった。
最初は比較的単純なベクタードノズルづくりだ。合金の方は、自前でOT・OTMを解析したシャーリーと
いう先駆者のおかげで、魔法を併用したコストのかからない♀ネ単な作り方が確立されていた。
「あのお嬢さんは元気にやっとるかね?」
合金の合成中シャーリーの話が出、田所はアルトに問うた。
彼によればシャーリーことシャリオ・フェニーノは、田所がミッドチルダ防衛アカデミーの臨時教授だっ
た頃の教え子だという。
「まったくいつも『田所教授、田所教授』と呼び出されては、自分の研究の評価とアドバイスをせがむ忙
しいお嬢さんだったよ。」
どうやらシャーリーは昔から人に迷惑をかけることもいとわないタイプらしい。アルトも自身のEXギア
解体事件などを話す。
「ハッハッハ、そうか。彼女は5年前の事故でリンカーコアが8割も小さくなってなぁ。優秀な子だったか
ら、路頭に迷うのは可哀想だと思って、コネで本局の技術部に放り込んだんだが・・・上手くやってるみ
たいだな。」
彼の口元が微笑む。アルトにはそれが孫を心配する祖父のように見えて微笑ましく思った。
その後出来た合金を型に流し込み、鋳造されたベクタードノズルは、応力検査や耐熱検査を経てV
F−25に取り付けられた。そして接地圧計やカメラなどの電子機器を移植。微調整をしているところで
アナウンスが鳴った。
『機動六課からお越しの早乙女アルト准尉。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官がメインゲートで
お待ちです。至急@てください。』
なぜ至急≠ニ強調したかわからなかったが、時計を見ると、既に午後10時を超えていた。
しかしアルトはこの数時間で田所に親近感を抱くに至っていた。彼はアルトの身の上話にも真摯に応
答してくれ、いまだに勘当中の父親の姿を彼に重ねていた。
「田所所長、今日は泊まり込みでもいいですか?」
「ああ、もちろん構わないぞ。この機体を最後に検査するのは操縦者の君だ。それに、君の身の上話
も面白い。ぜひゆっくり話したい。」
アルトはそれを聞き、「じゃあ、お願いします。」と言い残すと、ゲートに駆けていった。それと入れ違い
に1人の研究員が田所の元に走ってくる。
「B棟の試作1号機が完成しました!今彼≠ェ確認してますが、モノになりそうです。あと、試作2号
機もアルトさんのおかげで設計の解析が完了。試作が開始されました。」
研究員は矢継ぎ早に報告する。田所は研究員に渡された資料に目を通しながら、彼に当面の指示を
与え、送りだした。
田所はしばらくうつむく。
(アルト君。君は管理局を信用してOT・OTMを話してくれたのだと思う。しかし私が今やってることを君
は支持してくれるだろうか・・・・・・)
彼は資料を机に放り、窓の外の星空を仰ぎ見る。
放った資料からは1枚の写真が顔を覗かせている。そこには不死鳥の名を冠された戦乙女(ワルキュ
ーレ)の姿があった。
(*)
次の日
昨日、ゲート前で交通渋滞を起こす程のサイン攻めを受けていたフェイトの救出。そしてバルキリーの
修理。続く田所との談笑などでHP(ヒットポイント)のなくなったアルトが、貸し出されたベッドで意識を失
うのに数秒かからなかった。
そんな彼を起こしたのは朝9時に設定されたメサイアのアラームではなく、全域に鳴り響いたけたた
ましい警報だった。
SMSで早朝、希に行われる総員起こし≠ニいう伝統行事をどんなに疲れていようと日々乗り切って
いたアルトは、瞬時に意識を覚醒させた。
時計を見ると、まだ8時を回ったばかりだった。
アルトはすぐに六課の部隊ワッペンを付けた管理局のフライトジャケットを羽織ると、指揮所に向かっ
た。
建物が同じため1分もかからない。そこに着くとすぐに田所から状況が説明された。
ここからそう遠くない所を走っていた輸送用リニアレールが、突然出現したガジェットに強襲を受けたら
しい。
結果、そのリニアレールで輸送中のロストロギアを守っていた陸士部隊と交戦。
陸士部隊はロストロギアを守りつつ後退している。しかし列車の運転権を相手に譲る形になってしまい、
今もなお高速で走行しているため、地上から増援が送れないらしい。
そのため今、要請を受けた六課のスターズ、ライトニング両分隊を乗せたヘリが急行しており、もう到着
するであろうことなどが説明された。
傍受していた無線に声が入る。
『スターズ1、』
『ライトニング1、』
『『エンゲージ(交戦)!』』
『こちらヴァイス、スターズ3,4。ライトニング3,4は無事降下。これより本機は戦闘空域を離脱する。』
『こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!』
開かれている通信回線が、六課の奮闘を克明に伝える。
しかし、ガジェットU型をあらかた掃討したスターズ1とライトニング1─────なのはとフェイトはこ
の世ならざる物を目にすることになった。
『ん?こちらスターズ1。敵新型ガジェットとおぼしき黒い機体を確認。数5。画像データ送ります。』
六課のロングアーチと、この技研に送られた新型ガジェットの画像はU型のエイのような形ではなく、
前進翼と1基の三次元推力偏向ノズルを有した小型機(約10メートルほど)だった。
アルトはその画像を見るなりマイクにかじりついた。
「逃げろ!なのは、フェイト!」
『え?アルト君?』
なのはが応じる。しかし、アルトが説明をするより前に2人はその恐怖を知ることとなった。
『え?ちょっ、マイクロミサイル!?』
『げ、迎撃開始します!』
通信に混じる連続した爆発音。
『ミサイルの魔力爆発を確認!目標を魔導兵器と断定!』
『ディバイン、バスタァーッ! っ!? 当たらない! なんて機動力なの!』
『・・・なのは、援護を。こちらライトニング1、これよりドッグファイトに持ち込む!』
その後2人の通信には要領がなくなった。よほどの混戦なのだろう。
「・・・田所所長、VF−25は?」
「修理は完了した。だが、ガンポッドの弾丸とミサイルの搭載がされていない。戦闘は魔力弾と魔力砲
撃、そして魔力誘導弾だけになるが・・・・・・」
「それだけあればいい。俺は行く!」
アルトはそう宣言しエレベーターに飛び乗った。下降する間にEXギアとしてのバリアジャケットを身に
纏う。
そして扉が開くと同時に飛翔した。果たしてそこには白銀の翼を広げたVF−25の巨体があった。
コックピットに飛び込んでみると既にエンジンは稼動状態にあり、EXギア固定と同時に多目的ディスプ
レイの全面にREADY≠フ文字が躍る。
どうやらエンジンは田所が遠隔操作で起動していたらしい。エンジンファンが空気を切り裂くキーン
という心地よい音を響かせる。どうやら相棒は全快したようだ。
アルトは多目的ディスプレイを擦ると、「行くぞ」と呼びかける。
指揮所では田所をはじめとする研究員達が慣れない敬礼をしていた。アルトは短く答礼すると、スラス
トレバーを45度起こしてガウォーク形態に可変。開いた扉から滑るように外に出る。
「機動六課所属、フロンティア1、出撃します!」
そう通信で言い残し離陸。推進ノズルからアフターバーナーの青白いきらめく粒子(現在VF−25は魔
力を推進剤代わりに使っているため)を残して先を急いだ。
そして1分の後、もう1つのB棟と呼ばれる格納庫から青に塗装された戦乙女が1機、彼を追うように飛
び立ったことをまだアルトは知らなかった。
──────────
次回予告
戦場と化したリニアレール。
機動六課に新型ガジェットの脅威が迫る!
果たして彼らはロストロギアを守りきり、生き残ることができるのか!?
次回マクロスなのは、第6話『蒼天の魔弾』
VF−25に放たれる青白い砲弾。それは彼らに、何をもたらすのか
──────────
投下完了!皆さんの支援に感謝します!
途中「さるさん」にかかりましたが、ある筋の「さる規制は何時00分を回るとリセットされる」という情報
で被害を最小限にできました。この場を借りて感謝します。
シレンヤ氏乙です!!
83 :
一尉:2009/10/03(土) 15:19:07 ID:DSHAaJZo
五輪支援
>>81 GJです!毎回設定その他、凝ってるなぁと感心してしまいます。クロスオーバーの妙ですね。
CMを想像して笑わせてもらいましたw 次回ドッグファイトにも期待してます。
自分も書いてみました。クロス元は『BLASSREITER ブラスレイター』
第一話を20:30くらいを目処に投下したいと思います。20レス超で手間取りそうなので、投下したい方いらっしゃれば後にずらします。
注意:本作品には以下の要素が含まれます。苦手の方はご注意ください。
メインキャラ死亡、鬱展開、暴力描写、半オリキャラ?
皆さんお久しぶりです。私生活が忙しかったもので時間がかかってしまいました。申し訳ありません。
今後は二週間に一度のペースを目指したいですが、今も今度は別の事情で忙しいため確約が出来ないのが現状です(汗)。何とかできるよう頑張りますので、応援よろしくお願いします。
ではリリカル×ライダー第13話を投下したいと思います。
>>84さんが20:30なので自分は早めの18:00頃に投下させていただきます他にご予約の方がいらっしゃったら教えてください。
また今回は今までで一番長いため、さるさんを食らう可能性が高いです。なのでご支援くださると幸いです。
それと申し遅れましたが、シレンヤ氏GJでした!
今後も新人同士、共に頑張りましょう!
すみません、40分くらいに遅れます。
ではそろそろ投下開始します。
心に剣、輝く勇気
確かに閉じ込めて
見えない力、導くよブレイド
眠り目覚めるとき
未来、悲しみが終わる場所
奇跡、切り札は自分だけ。
リリカル×ライダー
第十三話『決闘』
『戦え、剣崎』
突然突き付けられた橘さんからの決闘状。俺は驚きよりも疑問の方が強かった。
もちろんそれを聞き、再度通信を受けるまでに考える時間は山ほどあったのだが。
「どうして……」
『オリジナルが決して越えられなかった壁を、越えるためだ』
通信の向こう側で、苦しげな重低音を響かせる橘さんの声がずしりと自分にのし掛かる。
橘さんが自分を壁と思っていた? 俺の方こそ、あの人は越えられないなと思い、尊敬していたのに。
「俺は、橘さんを越えたなんて思ったことはありません。橘さんは俺にとって頼れる先輩のままです」
『俺はオリジナルとは違う! 奴はそれで妥協出来たかもしれんが、俺はここで立ち止まる訳にはいかない!』
激昂し、表情を歪める橘さん。その怒り方はかつて自らの体がボロボロだということを告白したときに似ている。
かつてライダーシステムには致命的な欠陥があった。それは自らの内に潜む恐怖心を膨れ上がらせ、変身に必要な融合係数を減衰させて体に負担をかけるというものだ。
誰にでも恐怖心はある。俺より長く戦っていた橘さんは膨らむそれに気付かず、結果自らの体を痛め付けていたのだ。
だが橘さんはそれを乗り越えた。俺はそれを見て、この人はやはり凄い人だと思ったものだったことを、最近思い出した。
それを考えれば、この人が偽者であることは明白だ。体がという意味ではない。“心”がだ。それは例え記憶と体が同じでも、境遇が違えば育まれる“心”も違うことを証明している。
「橘さん――いえ、もうひとりの橘さん。その決闘……俺、やります」
ならばこの人とは戦わなければならない。壁を越えられなかった彼と。彼を救わなければ、橘さんにも申し訳が立たない。
『……時間と場所は添付してある』
最後に短く言って、橘さんは通信を切った。
それから数分も橘さんが消えたモニター先をボウと見つめていた時だった。
「――カズマ君」
後ろを向くと、左肩を庇いながらはやてがこちらに向かってきていた。まだ傷が完治した訳ではないらしい。かなり苦しそうだった。
「私はカズマ君の事情や記憶について何も聞かへん」
「なんで……?」
はやての台詞に目を見開く。彼女は冗談などをよく言う陽気な性格だが、やる時はやる人物だ。てっきり問い質してくると思っていたのだ。
「私は部隊長や。知ってしまえば黙ったままではいられへん。六課を守るために、カズマ君を切り捨てなければいかんことになるかもしれん」
はやては右肩を壁に預けながら、今まで見たことないような疲れた表情をしていた。いや、もしかしたらいつもこんな表情で苦しんでいたのかもしれない。単にそれを俺には見せようとしなかっただけで。
それでも、その目はまだ輝きを失ってはいない。
「だから、何も聞かん。私は、カズマ君の味方でありたいから」
そして彼女は僅かだが微笑んだ。この迷惑しかかけない俺に向かって。
それだけで、十分だった。
「近い内に、六課を離れようと思う」
だから、俺は正直に今後の予定を話すことにした。
「六課を?」
「俺がいると迷惑をかけることになるからな。それにあのアン……怪人を解放した奴を捕まえなくちゃいけない。だけどそれに六課を巻き込むつもりもない」
六課は古代遺失物管理部所属の部隊だ。つまりロストロギアの回収と管理が目的であり、アンデッドを倒すことは六課の仕事じゃない。
仮にラウズカードがロストロギアに認定されれば六課も動けるかもしれないが、そうなると俺自身も封印される必要が出てくる。バトルファイトもどうなるか分からない。
どちらにしろ、六課を巻き込みたくなかった。
「――わかった。私は止めんし、少しやけど手助けもしたる。でもなのはちゃんやフェイトちゃん、フォワードメンバーが納得するかは知らんよ?」
悪戯っぽい笑みを浮かべてそんなことを言うはやて。相変わらず辛そうだが、そんなはやてを見てるとこっちも自然と笑えてきた。これが彼女の武器なのかもしれない。
「そう言えば最近……というよりJS事件後からやけど、なのはちゃんの様子が変なんよ。最近は特に」
「なのはが?」
俺の正体を知ってからなら話は別だが、JS事件後からとなると俺にはよく分からない。何せJS事件後のなのはしか知らないからだ。
ただ話に聞いていたなのはは誰よりも強く優しく時に怖い、正義感溢れる少女だったのに対し、実際は冗談を言ったりするような普通の女の子だったことが違いと言えば違いか。とはいえその程度は伝聞と現実のズレでしかない。
ただし、冗談がはやてと違って洒落にならないものだったが。主にヴィータの件とか。
「まぁ、気のせいかもしれへんけど」
はやても釈然としない表情だったが、そう言って話を締め括った。
支援?
・・・
(どうしよう……)
カズマ君を反射的に避けてしまったことを思い出す。
わたしはカズマ君を避けようだなんて思ってもみなかった。少なくともそのはずだった。
かつて任務で色んな次元世界を飛び回っていた時だって怖い外見をした、人ではない知的生命体と会ったことがある。
けれどわたしは彼らと仲良くすることが出来たし、アルバムの中には肩を組んで取った写真もある。それが何だとは言わないけど、少なくとも外見だけで判断するような人間じゃないと思う。
だからカズマ君がアンデッドだからってわたしは恐れたり避けたりはしない、はず。
(なのに……)
理由は、薄々気付いている。わたしが変わった理由は、彼女のことしかない。カズマ君はそれを気付かせるきっかけでしかない。
やっぱり、わたしは戦士であることを辞めるべきなのかもしれない。もうわたしは、かつてのような無償の戦いなど出来ないのだから。
「なのはさん!」
「!?――――ど、どうしたのティアナ?」
こちらに走り込みながら呼び掛けてきたティアナ。いきなりだったので反応が遅れてしまった。普段ならありえない失態だ。
一瞬怪訝な顔をしたティアナは、しかしすぐに表情を切り替えた。
こういった空気の読めるところは助かるなと思う。同時に今はまだ責任ある立場だと自分に再確認させなければ。
「やっぱりここはスカリエッティが最近使っていた隠れ家だったみたいです」
「そっか……何か見つかった?」
「この写真を見てください」
彼女が待機状態であるカードの形になったクロスミラージュの中央にある球体をなぞる。途端、虚空に半透明のモニターが出現する。
「これって……」
それを見て、わたしは目を見開いた。
「似ています、よね」
「――チェンジ、デバイス」
モニターに映っていたもの、液体で満たされたカプセルに浮かんだモノは、チェンジデバイスに酷似したものだった。
もちろん細部は全然違う。あの特徴的なクリスタルが付いていないし、代わりにスライド式のカバーが付いている。
(もしかしたら、チェンジデバイスはここで作られたのかも)
シャーリーが言っていた可能性の一つ。天才にしか出来ないと言っていた彼女が敢えて候補として上げた人物。
それが、ジェイル・スカリエッティだった。
「けどシャーリーさんが作ったデバイスをパクるなんて、スカリエッティも趣味が悪いですね」
ティアナが苦笑気味にそう言う。実際にそういう事例があったのだけど、真面目な彼女なりの必死な冗談なんだと思う。もしかしたら、わたしを気遣ってくれたのかな。
ちなみに彼女の言動が示す通り、フォワードメンバーはカズマ君のことを何も知らない。デバイスも、現れた時のとは違うものと伝えてある。皆そこまで確認はしていないから今のところは問題はなかった。
(カズマ君……)
彼については気掛かりがたくさんある。あの時現れた謎の男性についてもそうだし、アンデッドが六課を襲撃したことも懸念の一つだ。
もしかしたら、アンデッドはカズマ君を狙っているのかもしれない。
(とにかく早くスカリエッティを見つけなきゃ。そしてカズマ君の側にいないと)
そしてスカリエッティの事件を、わたしの最後にするために。
「ティアナ、皆を集めて。わたしははやて部隊長に今の情報を送るから」
「はい!」
元気良く答えてすぐに通信を始めるティアナ。専門的な訓練をする内に前よりも親しくしてくれるようになったのが嬉しい限りだ。
わたしはそんな彼女の後ろ姿を見つめながら、報告のため、はやてちゃんに通信を繋げた。
支援!
・・・
橘さんが指名した場所は、廃墟と化した空港だった。
かつてレリックと呼ばれるロストロギアが暴走し、このようになったのだそうだ。今はそのロストロギアによる汚染などの危険から放置されている。
教えてくれたのは、はやてだった。
『待っていたぞ、剣崎』
何処からか声が響いてくる。広大な滑走路のど真ん中にいるからか、何処から聞こえるのかは分からない。
だが、誰なのかはすぐにわかった。
「橘さん、出てきてください!」
自分の大きな声が滑走路に広がる。
それと間をおいて、ゆらりと唐突に目の前から橘さんは現れた。
「お前を倒し、オリジナルを殺し、俺は自らの存在を証明する」
「橘さんは橘さんです! 貴方は別人です!」
「当たり前だ! だが周りが納得できる証明が必要なんだ!」
醜く表情を歪ませ、腰のポーチから紅い何かを取り出す。中央の特徴的なクリスタルと箱型の形状、それは色違いではあるが、見慣れたものだった。
「チェンジデバイス!?」
「ああ。だがお前が本物のカードを与えられたのに対し」
右手がポケットから引き抜いたのは一枚のカード。
それは粗雑なコピー画のような鍬形虫が描かれたダイヤのカテゴリーエース。
「カードすら俺は偽物なんだよ!」
『Stand by ready, set up.』
そのカードをチェンジデバイスの裏に挿入、電子音声と共に伸びるベルト状のカードが腰に巻き付き、赤いベルトへと変化する。そこまでは俺のと何ら変わりない。
「お前も準備しろ。いいか、カードを使わないなんてことをしたら俺はお前を許さん」
一瞬躊躇したが、覚悟はすでに決めてきたのだ。もう迷わない。
俺もチェンジデバイスを取り出し、スペードのカテゴリーエースを裏面に挿入し、中央のレバーを、構えを解きながら引っ張った。
「変身!」
『Turn up』
バックルの役目をしているチェンジデバイスのクリスタルが輝き、中に埋め込まれたゴールデントライアングルが回転する。魔力とアンデッドのエネルギーが躍動し、瞬く間に力が生み出されていく。
その光から、一枚の蒼いエネルギーフィールドが飛び出す。
「――変身!」
『Drive ignition』
同じく橘さんがチェンジデバイスについているレバーを引っ張る。そして同じようにクリスタルが輝き、そこから発されるのは紅いエネルギーフィールド。
互いに扉のように立ちはだかるエネルギーフィールド――片方は魔力でもう片方はアンデッドの力で編まれたオリハルコンエレメントを、俺達は駆け抜けるように潜る。
「うああぁぁぁぁぁ!」
「おおぉぉぉぉぉっ!」
そして互いに鎧を纏い、拳をぶつけ合った。
「くっ……!」
パワーはこちらの方が上だったらしい。拳の打ち合いに退いたのは橘さんだった。だがそこで引き下がるはずもなく、腰に下げた専用銃を引き抜く。
その銃口が、真っ直ぐこちらに向けられた。
「ぐあっ!」
連続した発砲音。
銃弾を遮蔽物もない場所で避けられるはずもなく、銀色のアーマーに被弾してしまう。
しかし受けてばかりもいられない。アーマーがいつまでもつのか分からない以上、身は守らねばならない。そのための対策は立ててきた。
『Panzerhindernis』
チェンジデバイスから発される電子音声。
ガード態勢を引き金に魔法が発動する。アクショントリガー、魔法発動手段の一つだ。それによって発動されるのは――
「ちっ、防御魔法か!」
展開されるのは多くの面で構成された青い防御壁。それが俺の前面を囲むように生成される。まさに二人の間に出来た“壁”だ。これで橘さんの銃弾は壁で阻まれ、ここまでは届かない。
そう。俺はこの決闘のために、ある準備をしていた。
・・・
「ザフィーラに訓練を?」
「ああ、教わりたいことがあってな」
はやてが疑問符を浮かべるのも無理はない。
確かに彼女は出来る限りの手助けはすると言ったが、まさかその当日に早速要請があるとは思っていなかったのだ。それこそ一時間も経たない内にである。
「でもザフィーラはあの通り重傷やしなぁ」
ザフィーラは以前イーグルアンデッドを迎撃した際に、腹に穴を開けられるという普通なら即死の重傷を負っていた。善戦はしたが相手が悪かったと言うしかないだろう。
ザフィーラ達、ヴォルケンリッターが特殊な体だったから良かったものの、完治には数ヶ月を要するらしかった。
ザフィーラが倒れたことで六課の防衛力は低下しており、カズマは本来なら重要な戦力となるはずである。そのことを思ったのだろう、カズマは僅かに視線を落としていた。
「何を習いたかったん?」
はやてのもっともな疑問に、カズマは即座に答えた。
「防御魔法だ。橘さんは射撃を多用する、それを防ぐには強固な壁がいるんだ」
それを聞いてはやては疑問符を浮かべる。彼女が覚えている限り、カズマは防御魔法を使えたはずだからだ。実際なのはが調べた際も飛行魔法とシールド魔法は使えたのだ。
「シールド魔法じゃダメなん?」
「それだとカバーする面積が足りないんだ」
カズマが思い出す橘は銃型のラウザーを用いるライダーだった。この前見た姿がほとんどその頃と変わらないことから、彼は射撃型だと判断していた。
そして射撃型に接近戦を挑むために、彼はガードを固める必要があった。
「なるほどなぁ。でもそれならフェイトちゃんに習って機動力上げた方がええんやない?」
そう、ガードを固める以外にもその手段はあった。実際そちらの方が効率が良いかもしれない。だが……。
「いや、橘さんなら確実に撃ち落としてくる。それに――」
――今は、フェイトにもなのはにも会いづらい。
カズマの口から後半の台詞が発されることはなかった。彼とてこの前のなのはの変調、そしてフェイトの意外な過去を気にしていないわけではなかった。
そんなときだった。彼にまさかの協力者が現れたのは。
「それならあたしが教えてやるよ!」
現れたのは、ヴィータだった。
・・・
現れた多角形状の青い壁を境に対峙する蒼と紅のライダー。
カズマは橘との距離を詰めるべく、この壁を量産して地形を複雑化させていた。まさしく水晶で出来たジャングルのように。
――本来バリア系は敵の攻撃を正面から受け止めるものなんだ。
カズマはヴィータの教えを反芻しつつ、バリアの生成に集中する。理由は単純、彼は魔法の行使が下手で、且つやっていることが難解だからだ。
三次元的なフィールドに変化した滑走路を、飛行魔法を駆使しつつ滑空し、橘の進路と攻撃を阻害しながら彼に迫る。
――お前の言うバリアは結界に近いが、それはいいか。敵の攻撃を真正面から受け止める壁、それだけだな。
魔法の運用能力が壊滅的なまでに低いカズマだが、防御系は一応使えるレベルにある。それを利用した戦術だった。逆に言えばこのために機動戦術は取れなかったのだが。
問題はバリアの角度だ。
正面から受けることを想定しているため範囲が広い上に固いのが特徴のバリアだが、妙な角度から攻撃を受けると固い故に砕けてしまう可能性が高いのだ。言うなれば柔軟性に欠けていると言ってもいいだろう。
シールド魔法は逆に弾くことで防ぐ手段なのだが、弾くために弾力を重視しているため強度が低い。なのはクラスの使い手なら話は別だが、カズマには無理な話だ。
そのためカズマは角度に注意し、砕けにくいバリアを設置しなければならず、かなり集中して事に当たる必要があった。小刻みな移動も含めると相当頭を酷使する作業だ。
橘はカズマを追い掛けながら銃弾を撃ち込む。だが瞬く間に壁が生成されてそれらは弾かれてしまう。未だどちらも有効打は打ち込めていない。
「剣崎ィ! 貴様、こんな人をバカにするような戦い方をするのか!」
確かにかつてのカズマはこんな戦い方はしなかっただろう。だがそれは同時に彼がかつての己よりも成長した証でもある。
支援
支援
カズマは答えない。
その代わり、彼は拳で答える男だ。
「うあああぁぁぁぁ!」
『――TACKLE』
橘の後ろ、死角となる部分から迫るカズマ。
カードの力が込められたことで光り輝く右肩を橘のアーマーに叩き込む――だが、
『Protection』
それは紅い光によって受け止められた。
「橘さんも魔法を!?」
「お前より俺の方が魔法の腕は上だ!」
バリアを展開する橘の周囲に緋色の光球が幾つも浮かび上がる。
『Blast Fire』
それらは炎弾となってカズマに降り注ぐ――!
「ぐあっ!?」
左手に張ったシールド魔法で弾くが、範囲外の肩や足を容赦なく蹂躙する。その火の雨は、カズマの防御を嘲笑うように次々と有効打を与えていく。
じゅう、という音色。
スーツを貫通して炎がカズマの肉を焼き焦がした音だった。
「がぁ……ぁぁっ!」
「アンデッドだからな、非殺傷など必要ないだろう」
仮面の下で氷のように冷たい表情を浮かべながら、更に橘は一枚のカードを引き抜き、銃のカードリーダーに通す。醒銃型ストレージデバイスがカードに記録されたデータを認識し、既定の魔法を発動する。
『――Ballet』
橘の言うラウズカードを模したモノ、デバイスカードが魔法を発動する。橘の銃を緋色の円環魔法陣が包み込み、その銃口は静かにカズマに向けられた。
「剣崎、この程度なのか」
そう言い、引き金を引いた瞬間、
「アアアァァァァァ!」
剣崎を、蒼色のオーラが包み込んだ。
それは丸まったアルマジロにも似た橘の銃弾ならぬ砲弾を、真正面から受け止める――!
「何っ!?」
「ガアアアァァァッ!」
その砲弾を受け止め、荒々しく叫ぶカズマ。その体は蒼色の光に包み込まれ、神秘的な輝きを放つ。
――防御魔法はバリア、シールドの他にもうひとつある。それがフィールド系だ。
ヴィータが施した秘策。
彼女はカズマに二つの魔法を教え、そして片方については短期間の訓練では扱いきれない彼のためにある手を打っていた。
――お前はバリアジャケットもオート発動だからよくわかってねーんだろうが、フィールド系は意外と扱いが難しいんだ。効果は高いんだがな。
カズマはジョーカーとしての闘争本能に汚染されたまま、ゆらりとブレイラウザーを片手に歩き出す。だらりと下げたまま、まるで幽鬼の如く。
かつてティアナとなのはを震撼させたその姿。それは闘うことしか考えられない狂戦士そのもの。
――まぁ、あたしがシャーリーに頼んで発動は何とかしてやる。ヤバくなったときに凌げるようにしてやるから、頑張るんだぞ。
本能のまま魔法を制御し、オーラを維持する。
その魔力を得るためにチェンジデバイスを侵食し、内部のオルタドライブを構成する三つの疑似リンカーコアを限界以上に稼働させる。
そうして自らを強化したカズマを見て、橘はほくそ笑んだ。
「……ようやくジョーカーとしての力を引き出したか」
カズマはかつて人間だったジョーカーだ。それ故に人間としての人格はしっかりと生きており、ジョーカーとしての本能は、普段は抑えられている。
だが本人の意識が失われるほどの危険な状態の時、本能は自らを守るべく覚醒する。
「ガアアアァァァァァ!」
光り輝く戦士が獣の如く走り出す。
橘はそれを倒すべく、左腕にある“ある物”を起動させる。
「近付くな!」
橘は銃を向け、フラッシュの後に弾丸が疾走する。
しかしカズマにぶつかった直後、それらは尽くが無力化される。正確には、着弾の度に爆発が起きて銃弾を吹き飛ばしているのだが。
更に橘は中空に魔力スフィアを展開し、先の砲弾に形状が似た紅い魔法弾を撃ち込む。どれも凄まじい衝撃をカズマに叩き込む。
だが、カズマは止まらない。
「ちっ」
飛行魔法を起動してカズマから距離を取る。その一連の時間で、橘は準備を整えていた。
「剣崎ィ! こいつを越えてみろ!」
『Absorb Queen』
腕に付けられた機器から片翼のように広がるカードトレイ、そこから引き抜かれたカードが機器の上部カードホルダーを挿入したことで発された電子音声。
そしてもう一枚のカードを脇に付けられたスリットに通す。
『Fusion Jack』
二枚のデバイスカードがオリジナルを模した力を発揮する。
ダイヤのジャックに描かれた汚らしい孔雀の絵、その絵柄から黄金の光が溢れ出し、金色の輝きが羽根を広げる。
その光を受け止めた橘のバリアジャケットは、銀色だったチェストアーマーが金色に染まり、背に孔雀の羽根を象ったオリハルコンウィングが装着される。
そして銃にはディアマンテエッジが銃剣の如く施され、腹の部分には黄金のレリーフが施される。もっとも、絵柄は装甲によって塗り潰され、無惨な姿になってだが。
「ジャックフォーム。今のお前では届かない高みだ」
正確には魔法で再現されただけの偽の力。それを分かっていても、橘は吠えずにはいられない。それほど、この力はオリジナルに近い輝きを放っているのだ。
空を支配する紅い戦士と地を駆ける蒼き野獣。
二人の戦いは、まだまだ決着は着かない。
・・・
(カズマ君……)
はやてちゃんが送ってきた一枚の地図。
何の地図か何一つ記されてはいなかったが、ここで何が起きているかは明らかだった。
第八臨海空港。
わたしが初めてロストロギア、レリックの力を目の当たりにし、スバルを救助した場所であり、はやてちゃんが自らの力不足を痛感し、機動六課を設立するきっかけを作った場所でもある。
今そこで、カズマ君は死闘を繰り広げているのだろう。だけどこんなところにいるわたしには何も出来ない。
けど、今のわたしに何が出来るだろう。何も出来はしないんじゃないだろうか。
「なのはさん!」
元気の良い声が聞こえる。振り向けばスバルがインラインスケート型デバイス、マッハキャリバーで滑りながらこちらに向かっていた。
「こっちも調査終わりました!」
「じゃあここは陸士部隊に引き渡して、次に行こうか」
こんなことを考えていても仕方がない。
今回見つかったチェンジデバイスらしき謎の機器やカード状の機器など、懸念点は少なからずあるのだから。もしかしたら、本格的にスカリエッティは動き出すつもりなのかもしれない。それを未然に防がなければ、また多くの被害者を出してしまう。
「――なのはァ!」
だからわたしは今の仕事に集中して……え?
「ど、どうしたのヴィータちゃん」
「それはこっちの台詞だ! ボーッとしやがって」
小学生みたいな外見でこの言動だから、初対面の人は皆面食らう。可愛らしい顔立ちなのだから、愛想良くしてればいいのに。勿体ない。
それはともかく。
「ご、ごめん。ちょっとね」
「気になるんなら行けばいいじゃねぇか」
誤魔化そうとするが、彼女はまるで全て見透かしているみたいにそう言う。顔を見ようとしてもそっぽを向かれてしまう。
けれどその口調は何処か気恥ずかしそうに感じた。
「昨日はサボったからな。後はあたしに任せな」
「で、でも……」
「グダグダうっせぇ! 昔のお前なら止めても突っ走って行っただろうが!」
はっ、とした。
そうだ。わたしは、本当はそういう性格だった。なのに、どうしてこうなってしまったのか。――いや、理由は分かってる。でも。
「なのは、お前は見届けたいんだろ? あたしにはよく分からねぇけどさ、お前は行くべきなんじゃないか?」
「……うん」
多分、ヴィータちゃんは何も知らない。
それでもわたしをここまで後押ししてくれている。それを無下にするのは、絶対に嫌だ。そのために、カズマ君の戦いをわたしは見届けなければならない。
「わかった、行ってくる」
「ああ、後は任せな」
フォワードメンバー皆が疑問に満ちた視線を送っているが、そこら辺はヴィータちゃんに任せるとしよう。
さぁ、行こうか。彼の元へ。
・・・
「ガァッ!」
橘の銃弾と、数発の魔法弾を受けてカズマが吹き飛ばされる。
すでに彼自身の意識は戻っていた。しかしそれで状況が好転した訳ではない。むしろ混乱したままやられているという最悪の状況だった。
孔雀型のオリハルコンウィングを広げた姿は神々しく、太陽を背にする橘はどこか不死鳥のそれを思わせる。
高い空間制圧能力と銃に強化変身によって装着されたディアマンテエッジを生かした格闘戦能力。
ジョーカーとしてのカズマでさえ圧倒した橘に対し、もはや身を守るオーラを喪失したカズマでは、戦闘継続すら厳しい。
「所詮この程度か、剣崎。最凶のアンデッドの力が聞いて呆れるな」
橘の周囲に緋色の魔力スフィアが浮かび上がる。
確かに橘のパワーや武器の威力、カードの性能は以前より劣化している。偽物なりの性能といったところだろう。
しかしその分を魔法で補っているからか、実力はむしろ増していると思えるほど。やはり本人同様、努力家だということだろう。
(どうする……)
「行け!」
『Blast Fire』
悩む暇はない。バリア魔法を用意する余分な時間も魔力もないので、シールドを素早く展開し、攻撃から逃げるように駆け出す。
橘が主に使用する攻撃魔法はかなり厄介だ。
一発一発が強力な炎弾である上に爆発力も高く、周辺に拡散させれば広域魔法に、一ヶ所に集中させれば一点破壊も出来る優れ物なのだ。
ただし誘導性能はない。だからカズマなら何処に来るかを予測出来れば避けられないわけではない。だが。
「ッ!」
じりり、と肩のアーマーが溶ける。
完全には避け切れない。爆発範囲も広いし、カズマの思考パターンを読み取られれば回避も出来なくなる。
さらに橘は、追撃するべく銃のカードトレイを開いていた。
『――Rapid』
「くそっ!」
『Panzerhindernis』
カズマが持てる魔力を全て費やし、目の前に現れる多角形状の蒼い壁。
それに加速された銃弾が数十撃ち込まれる。
(く、そっ!)
壁にヒビが入る。本来なら砲撃すらも受け止めるバリアにだ。
カズマはマスクの下で冷や汗を流しながら必死でバリアを維持するが、銃弾が突き刺さる度にヒビが広がっていく。
(そうか、強度の弱い箇所を的確に……!)
バリィン、というガラスが割れたような音。
カズマを守っていた壁が砕け、針のように鋭い銃弾が鎧を貫く音だった。
「が、は……っ」
「くくく、はははは! あのオリジナルが越えられない壁をいとも容易く俺は越えた! そうだ、これが俺の力だ!」
カズマの意識が痛みで朦朧としてくる。激しい眠気によりカズマの瞼は塞がれ、全て投げ捨ててしまいたくなる虚脱感に襲われる。
(このまま眠れば、もう――)
『君が戦う理由は、何だね?』
カズマの耳に何か、聞こえてくる。それは老けてはいても芯の通った声。
(でも、どうでもいい。俺は、俺は眠りたい……)
『義務か、使命か、それとも仕事かね』
(……いや、違う。俺はこんなところで眠るために戦いに来たんじゃない。ましてや誰に強制されたわけでもない。俺は――)
『もう一度聞こう。君の戦う理由は、何だね?』
カズマの耳に、今度こそ問いが伝わる。それにカズマは、ゆっくりと立ち上がりながら口を開いた。
「俺は、全ての人を、愛している」
「まだ立ち上がれるのか!?」
橘の声だ。だが、今のカズマにはそんなことはどうでもいい。
「だから俺は、皆を守りたい。そのために戦っている!」
カズマの意識がハッキリとしてくる。マスクの下で目をカッと開き、唇を引き締める。
彼の目の前には銃を構えた橘がいる。黄金の羽根を広げている姿も変わらない。だが僅かに、彼の銃を持つ右手がブレている。
「橘さん、あなたもです。俺は、あなたも救ってみせます!」
「うるさい!」
橘が引き金を引く。途端にマズルフラッシュが光り、カズマの体に鈍痛を響かせる。
それでも、カズマの歩みは止まらない。
そして橘の銃撃を防ぐべくカズマのキックが、橘を吹き飛ばす。
「がっ!」
その隙を突くように、再びヘルメットから音声が流れ出した。
『ふむ、良い答えが聞けたよ。今なら使いこなせるだろう。受け取れ』
「あなたはいったい……」
『君を導く力、ラウズアブゾーバーだ』
ヘルメットから出ていた声が途切れる。それと同時に、カズマの左腕が輝き出す。
『Rauze Absorber,set up.』
チェンジデバイス中央のクリスタルがゴールデントライアングルの回転と共に光を増していき、やがて光は左腕に溢れていく。それは次第に一つの機器へと形を変えていった。
上級アンデッドの力を吸収して更なる力を与える機器、ラウズアブゾーバー。カズマはブレイラウザーから二枚のカードを引き抜き、その一枚を挿入する。
『ABSORB QUEEN』
“吸収”の力を持つカテゴリークイーン。
そしてもう一枚のカードを、ラウズアブゾーバーの端に備えられたスラッシュリーダーに通す。
「お前の信念を貫く力を、俺に貸してくれ!」
『FUSION JACK』
ラウズアブゾーバーを通してカテゴリージャックの力が解放される。それは黄金の鷲となって、自らの体と融合していく。
そのとき、異変は起こった。
「ぐあぁぁぁぁぁ!?」
今までにない、アンデッドの力の流入。それはかつてラウズアブゾーバーを使用したときとは格が違うほどの量へとなっていた。
まるで決壊したダム。際限ない不死生物の力が何のストッパーもなくカズマに流れ込んでくる。
「あぁぁぁぁぁっ!」
「……なるほどな」
今になって立ち上がった橘が、そう呟く。彼の中には一つの確信があった。
「ただでさえ融合係数の高い剣崎がジョーカーになったとき、その融合能力は本人ですら制御出来ないものとなる」
カズマの黄金の光に包まれながら重圧に押し潰されようとしていた。今の彼にとっては、身を守るアーマーですら息苦しい拘束具でしかない。
「オーバーユニゾン。正に制御が出来ない状態か。なるほど、だから伯爵は奴に当初ラウズアブゾーバーを渡さなかったのか」
カズマは優れたアンデッドとの融合能力を持つ。ライダーとしては必須の能力に、彼は天性で恵まれていた。
しかし才能は時として本人を苦しめることもある。強すぎる力は、制御出来ずに暴走する可能性も秘めているのだ。
剣崎は自らを侵食するアンデッドの力に対し、慟哭の雄叫びを上げる。橘はそれを冷たく見つめながら、静かに銃口を向けた。
支援
だがそのとき誰も、小さな妖精の到来に気付いてもいなかった。
「カズマさ――――ん!」
カズマの元に弾丸の如く疾駆する一つの影。
その名は祝福の風、リィンフォース・ツヴァイ。
「リィ……ン――?」
「今行きますぅ!」
彼女はユニゾンデバイス。その役割は相手と融合することでその能力を補助、増加させること。特にはやての大規模攻撃魔法の制御などで力を発揮する。
今カズマが必要としているもの。それは、力を制御する術。
「ユニゾン・イン!」
彼女がカズマの体に解けるようにして消えていく。
そして、光の呪縛は“弾けた”!
「くっ……!」
余りの眩さから目を腕で覆う橘。
その光が収まったとき、そこにカズマは立っていなかった。
「ジャックフォームか!」
仮面を覆う透明なフェイスガードとチェストアーマーを黄金に染め、腹の部分に同じく黄金の鷲のレリーフを施し、背中に輝くような銀のオリハルコンウィングを背負う戦士。
ブレイド・ジャックフォームがそこに誕生した。
「リィン、助かった。もう大丈夫だ」
『はいです!』
ユニゾンデバイスとしての本能が察知したのか、自らの役目が終わったことを悟ってユニゾンを解くリィン。カズマは誰かに頼ったりはしない。ほんの少し誰かに導かれることはあっても、それに依存したりはしないのだ。
今ここに、二人の戦士が向かい合う。互いにカードを引き抜き、自らの必殺を叩き込むため。
『――KICK』
『――Drop』
互いに言葉はいらない。後は無言で語り合うのみ。そう、二人は今、お互いを理解し合っていた。
『――THUNDER』
『――Fire』
だがそれは戦いを決着させるための理解。もはや理解し合っても戦いは止まらない。いやむしろ互いが互いのことを分かるからこそ戦いは加速される。
『――MACK』
『――Gemini』
互いに三枚のカードを通す。それはコンボとなり、互いが持ちうる限りで最強の技へと変化する。
魔力で編まれた技と不死生物の力で出来た業。
臨界点に達した二つの力が、今、激突する。
『LIGHTNING SONIC』
『Burning Divide』
「「あああぁぁぁぁぁ!」」
マッハのカードとオリハルコンウィングによって加速されたカズマは、雷撃を纏った右足を音速の勢いで振るう――!
ジェミニのカードで二人に分裂した橘は、炎撃を纏った両足を二乗の力で叩きつける――!
広大な第八臨海空港の滑走路に、閃光が走った。
・・・
俺達が必殺技をぶつけあって、数刻。ようやく意識が戻り、周りを見回すと橘さんがアーマーに包まれたまま倒れ伏しているのを見つけた。
「……大丈夫、ですか」
我ながら白々しい台詞だなと思いながら橘さんに近付く。俺と違って、橘さんのアーマーからは相当なダメージが見て取れた。ブレストアーマーは大きく抉り取られており、強化変身もすでに解けていた。強化変身については俺も同じだが。
そしてもちろん俺も無傷じゃない。肩の装甲は熱で端が溶けていた。動くことに支障が出るようなダメージは負っていない。
「――剣崎」
手を差し伸ばそうとしていた時だったからか、ビクリと反応してしまう。
仮面により判別が付かなかったが、どうやら意識はあるらしい。
「良かった、無事なんですね?」
「俺は、初めから愚かなことをしていることは分かっていた」
橘さんが俺を無視して話を始める。その独白を聞くため、俺も手を引っ込めた。何故か、聞き逃したら取り返しがつかないような気がしたから。
「伯爵は俺の行動を見透かし、利用していることは知っていた。それでも、俺は止められなかった」
濃い疲労を感じ取れそうな、橘さんの科白。
「なぁ、橘朔也はなぜ強かったと思う?」
「橘さんが強かった、理由……?」
自分にとって、橘さんは最初から強い人だった。何せ先輩だったのだから。そのため、俺にはその質問は答えられなかった。
「奴にはな、守りたいと思える人間と、支えてくれる仲間がいた。だから奴は強くなれたんだ」
それを聞き、橘さんに大切な人がいたことを思い出す。その人は戦いに巻き込まれて命を失っていた。その時を境に、橘さんの雰囲気が変わったのを覚えている。
「俺には、誰もいなかった。冷たいカプセルの中から生まれ、仮初めの過去を持ち、広大な研究所でたった一人だった。俺は――孤独だった」
「橘さん……」
「だから、お前が羨ましかった。何故お前にはたくさんの人間が味方するのか、何故お前は知りもしない他人のためにそこまで戦えるのか、知りたかった」
「今からでも間に合いますよ、橘さん」
そう、人は死ななければいくらでもやり直せる。橘さんは生きている。ならもう一度やり直すことは可能だ。
俺だってたくさんの人間に拒絶され、傷付けられた。それでも、生きているからこうしてやり直すことができる。
「俺が最初の“仲間”です」
「剣、崎……」
俺は橘さんの手を握る。その手はスーツを介してもなお、温かい。そうだ、橘さんは生きている。ならば俺ともう一度――――
そうして引っ張り起こそうとした、その時だった。
爆発が、起きた。
さるさんですかね。
支援は3レス4レスないと効果がないと聞いたことがあるような、ないような。どうなんだろ
108 :
代理投下:2009/10/03(土) 19:50:08 ID:XEqVcqb/
一瞬の光。その後に発生するのは耳をつんざくような何かの炸裂音と、全てを吹き飛ばそうとするような衝撃波の嵐。
重い体を持ち上げ、目を開く。視界に映った数瞬後の光景は、まるで違うものだった。
「橘さん……? 橘さん!」
目の前には、仁王立ちした状態の橘さんがいた。そしてその橘さんが倒れてきたときに、全てを悟った。
その背中は、アーマーすら判別出来ないほど黒く焼き焦げていた。
「橘さん!」
「け……ん、ざき」
ひび割れたマスクから僅かに声が漏れる。その罅から、橘さんが垣間見えた。
「橘さん!? しっかりしてください!」
「カズマさん!」
自分の脇をすり抜けるようにして現れたリィンが必死に回復魔法を発動する。
俺は、呼び掛けることしか出来ない。
「橘さん!」
「はく、しゃくを……さが、せ」
「!?」
伯爵――何度も橘さんの台詞に含まれていた言葉。
しかしその意味を聞き出すことは、とうとう出来なかった。
「ごめんなさい……」
「リィン――?」
「助け、られませんでした……」
橘さんを見つめる。その死は、あまりに唐突なものだった。
救いたかった。助けたかった存在。なのに、何故死んでしまったのか。
「ハッハッハ! 君がオリジナルかね? 会えて嬉しいよ!」
上空からかかる煩わしい甲高い声。余りに不快だったので、俺はその方向に向かって睨み付ける。視界には、四人の男女が写っていた。
「お前が……」
その中央の人物。その顔には見覚えがある。一度だけ見た奴の写真。六課が探す宿敵。
「橘さんを殺したのかぁぁぁぁぁ!」
「五月蝿いね、静かにしてくれないか」
血液が沸騰し、頭に血液が逆流する。怒りが全身を支配し、細胞を過剰に活性化させる。
救えなかった自己嫌悪と、その機会を奪った者への憤怒。それは俺の理性を容赦なく破壊した。
「初対面だ、名乗っておこう。私が、ジェイル・スカリエッティだ」
そう、コイツと戦う理由が、出来た瞬間だった。
・・・
ついに六課に立ち塞がった宿敵、ジェイル・スカリエッティ。彼はカズマに強い興味を示す。その彼は、あるものをカズマの前で使用するのだった。
一方、なのはとフェイトもジェイル・スカリエッティと戦おうとするが、新たな力を得たナンバーズに対し、苦戦を強いられるのだった。
次回『スカリエッティ』
Revive Brave Heart
※ELEMENTS 作詞:藤林聖子
作曲:藤末樹
唄:RIDER CHIPS Featuring Ricky より歌詞の一部を抜粋
372 名前:無名 ◆E7JfOr0Ju2[] 投稿日:2009/10/03(土) 19:41:48 ID:9cjmHxuA
以上で投下終了です。
今回はかなりオリジナルの魔法運用を行っているため、拒否反応を示す方もいらっしゃるかもしれません。そのときは文章の改善などで応えたいと思っています。
また、今回で遂にスカリエッティの登場となりました。次回からは密接に彼がストーリーに関わってきます。お楽しみに。
ではでは、批評、感想、応援コメントお待ちしております。
最後に支援、代理投下してくださった方、ありがとうございました。
>>108 GJです。代理スレを失念してました。代理の方も乙です。
今回は王道ゆえに熱い展開でした。しかし橘さん……
>>106でフラグだと思ってたら。
20:30からだとちょっと間隔短いでしょうか。間を開けて21:30くらいに投下したいと思います。
>>109 投下終了から30分は過ぎてますし、当初の予定通りで良いと思いますよ。
>>110 申し訳ありません。今まで離れていました。これから投下させていただきます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
その日、風が強く吹いていた。
勢いの割に温く湿り――そして死臭を帯びた何とも不快な風。
死を纏う風は戦士たちの頬を撫でる。それでも、彼らはその場を去ることも、顔を覆うことさえ許されなかった。
数度の戦闘を越えてなお、足が竦みそうになる。それでも退けない理由がある。
目の前で異形が蠢く。屍が動き出し、屍の山を築く。
おびただしい量の血が道路を赤に染め、引き千切られ、切り裂かれた腸が壁に叩きつけられていた。
陽光に照らされた街中は静まり返り、遠く響くのは悲鳴とサイレン。陽炎が揺らめく景色の中、一人踊るように身をくねられせるそれは、酷く似つかわしくない存在だった。
悪夢と思いたくなるほどの地獄で唯一、風の運ぶ臭いだけが現実感を繋ぎ止めていた。
惨劇の中心で返り血を浴びて嗤うものは、最早屍ですらなく。
その骨格は金属のようでもあり、甲殻のようでもあった。皮膚は爬虫類のように硬くざらついている。
鎧のような身体でありながら武器は持たず、代わりにあるのは異常な筋肉と鋭い爪。ガラスや鉄片で構成されたそれは血で赤く染まっている。力任せに人体を骨ごと容易く引き裂いたことは想像に難くない。
誰が名付けたかも知らない通称だが、それは正確な表現だった。眼前の醜悪な化け物が元は人であったとはとても信じ難く、信じたくもない。
見る者に無条件で嫌悪と恐怖をもたらす怪物――それはまさしく悪魔だった。
BLASSREITER LYRICAL
第一話 夢の終わり
融合体――それが突如としてミッドチルダを恐怖の渦に陥れた怪物の公称である。
以前から都市伝説として囁かれ、過去の猟奇殺人を調査すると融合体によるものと思しき事件もあったという。しかし、頻繁に出現し白昼堂々と人を襲いだすようになったのはここ数ヶ月のことだ。
デモニアックとも呼ばれる怪物は、その通り悪魔じみた姿をしているが、元は人間の死体である。遺体が突然起き上がり、怪物に変異するのだが、依然としてその原因は不明。
デモナイズする条件、その生態や思考形態etc……融合体に関するほとんどは未だ謎のヴェールに包まれている。
それでも人は戦わなければならなかった。考えるよりも先に、生き残る為に。
では何故融合体と呼ばれるのか。それは彼らについて分かっている数少ない事実の一つに由来する。
彼らは金属等の無機物と融合する能力を持っていた。単に融合するのみではない。車と融合すれば車の性質ごと支配、時には強化してそれを利用する。
或いは電話等からネットワークを介して情報を操ることすら可能かもしれないが、その原理もまた不明。
融合体は生命活動を停止すると同時に消滅する。欠片も残さず塵になってしまい、芳しい調査結果は報告されていない。彼らは拘束することも無力化することも極めて困難な為、未だ彼らを分析することはできていない。
突然変異なのか、それとも誰かが何らかの目的で生み出したものなのか。仕組まれた存在だとするならば、それを生み出した技術こそが悪魔の知恵だと言えるだろう。
ティアナは自室で頬杖を突きながら、融合体に関して自分なりに振り返っていた。事の起こりは、訓練も軌道に乗り、自分自身強くなった実感を得始めていた矢先のこと。
ミッドチルダは、そして管理局は蜂の巣を突いたような騒ぎとなったが、対策は意外にすんなりと講じられた。まるでこうなることを予期していたかのように。
融合体の存在が公になってすぐに地上本部主導で、銃器を始めとする質量兵器を装備した対融合体特殊部隊『XAT(Xenogenesis Assault Team)』が設立。
これに対して、本局や教会に異議を唱える者もいないではなかったが、結局魔導師だけでは到底手が足りないことは確かだったため、なし崩し的に稼働されることになったという。
結果これが功を奏した。ミサイルを搭載したバイクに、自身もマシンガンやライフルで武装。訓練を重ねたXAT隊員は並の武装局員に比べれば、遥かに機動性、火力共に長けていた。
逮捕するでもなく、無力化するでもない。ただ殺し、破壊するだけの相手になら手軽に成果を上げることができる。しかし、これだけの戦力を以てしてもなお、人は死んでいく。
事実、時空管理局の殉職者数はここ数ヶ月で昨年までの平均を大きく上回っている。魔導師でも、最低Bクラス以上でなければ対抗できないのが現状だ。
この異例の事態に驚くほど早く対応した地上本部と対照的に、本局からは未だ応援などは来ていない。大方、この期に及んでつまらないことで議論が続いているのだろうが、その辺りのしがらみはティアナには知る術もなかった。
上層部の事など詳しくは知らない。しかし、現状訓練やレリック事件の捜査も思うようにはかどらず、XATや隊長達と融合体撃退に出動する毎日を送っていると、六課設立の経緯や、地上本部が強硬な手段に出るのも頷けた。
ティアナは何度目かのため息を吐く。疲れているのは体か心か、そのどちらもか。
「ティア……ここにいたんだ」
遠慮がちなノックの後にスバルが姿を見せた。普段はノックなどしないくせに、ここ最近の彼女は随分としおらしい。
「まあね……」
ティアナはそっけなく答えると、視線をスバルから外した。彼女に対して思うところがあるわけではないが、今は沈痛な表情を見る気になれなかった。見ていると暗い気分になってしまいそうだったから。辛いことを思い出してしまいそうになるから。
それも無理からぬことだった。自分を含めて、隊の全員がどこか重い空気を背負い、緊張を隠せないでいる。それでも最近になってようやく元に戻りつつある。
机に立てかけてある写真立てには、ティアナとスバルと、もう一人。自主訓練後に取ったもので、汚れまみれで笑いあう二人を彼は白い歯を見せて笑っている。
一週間前、機動六課で初めての殉職者が出た。それは管理局の融合体に対する認識の甘さを思い知らされる結果となり、隊内にも大きな波紋を生んだ。
ヴァイス・グランセニック――ティアナの自主錬をよく見守って、時にはアドバイスもくれた、兄貴分のような存在。そんな彼は、操縦するヘリごと融合体によって"破壊"された。
まだ融合体と単独で戦うことは危険だと判断された新人フォワード達は、常に4人でフォーメーションを組んでの戦闘を徹底されていた。
しかも、隊長か副隊長が必ず付くことで、確実に融合体を撃破すると共に、なるべく危険を排そうという態勢を取った。
融合体の撃退は本来ならば、古代遺失物管理部である六課の管轄ではない。
しかし、六課が相当の戦力を有していること、本局と地上本部とで板挟みにあること等が原因となり、今ではこちらが主になりつつある。
或いはそれによる精神的、肉体的疲労が原因の一つだったのかもしれない。だが、そんな言い訳で誰も許しはしないだろうし、彼女自身がそれを許さなかった。
融合体との戦闘に際して、トップを務めるのは隊長クラス、もしくはスバルとエリオ。ティアナとキャロがそれに続く。その中でティアナの役割は多い。
例えばトップが攻撃に入る前の牽制、援護。戦局を把握して指示を出すこともあり、特に隊長達が単独で1体抑えていれば、実質ティアナがリーダーになる。
とどめもティアナが担当することが多く、スバルやエリオが引きつけている間に、後方からチャージショットで急所を狙い撃つ。
混戦となれば、スバルやエリオは2体以上を同時に相手取ることもある為、1体に意識を集中はできないからだ。
こと融合体との戦闘において非殺傷設定は使用されない。十分に魔力を込めた魔力弾なら、融合体の身体でも貫く。それ故に、ティアナは一番多く融合体に死を与え、融合体の死を見てきた。
最初の内は融合体の頭を撃ち抜くことに抵抗も覚えたものの、やがてそれも薄らいだ。
これは人ではない。
死体ですらない。
市民を傷つけ、恐怖をまき散らす化物に過ぎない。そう念じることで心の平静を保つことができた。
そして何より、自分が迷うことで仲間や市民が死ぬことになるのだと知っていたから。
その日も同じはずだった。狙った標的を確実に撃てばいいだけ。そう、思っていた。
市街地に現れた3体の融合体。ヴィータが1体を引きつけ、4人が残りと戦う。
エリオが融合体の脇を斬りながら素早く走り抜ける。怯んだ融合体の腕を左手で払い、腹部に全力のリボルバーナックルを叩き込むスバル。
半身をずらしたスバルは融合体の横を抜けつつ、おまけとばかりに後頭部に肘鉄を食らわせた。
スバルはすぐさま次の融合体に標的を変更し、エリオは既にそちらに注力していた。融合体は大きく体勢を崩し、頭をティアナに向けて突き出している。
まるで止めを刺してくれと言わんばかりの姿勢。
魔力弾のチャージは終わっていた。ティアナは慎重に狙いをつけ、引き金に力を掛ける。
そして引こうとした。しかし引けなかった。銃口で発射の時を待っていた光は急激に収束していく。
カタカタと小刻みに震えだすクロスミラージュ。
驚愕に見開かれた眼。
その先には――
「撃たないでくれ……死にたくない……。魔導師なんだろ……どうして俺を殺そうとするんだ」
紛れもなく人間の顔だった。およそ30代の、服装も何もかも何の変哲もない男の顔。瞳から零れる涙は血のように赤い、否、血液にしか見えない。
顔面には神経のように太い線が浮き上がり、その線が赤く光を放つ。
「え……あ……」
漏れるのは言葉にならない喘ぎばかり。全く想定していなかった状況に混乱し、視界が揺らぐ。今のティアナには男の顔を捉えることすらできていない。
「俺はデモニアックなんかじゃない……これは何かの間違いだ……。いやだ……死にたくない……殺さないで……」
だらだらと両目から溢れる血の涙。その瞳は覗き込んでいると、こちらまでおかしくなってしまいそうな、そんな瞳。
「っ……落ち着きなさい!! ゆっくり膝をついて両手を地面に付けて顔を上げて……」
なるべく目を見ないように声を上げる。辛うじて銃口は外さない。
男は壊れた操り人形のような仕草で膝を付くが、その目線は徐々に外れて、どこを見ているのか宙を彷徨いだす。
全身を襲う悪寒と恐怖を堪えて男を促すティアナ。
「ゆっくりよ……悪いけど、拘束させて貰うわ。抵抗しなければ撃たないから……」
いつでも飛び退ける距離と、狙いを外さない距離を保ったまま、ティアナは指示を仰ごうと、ヴィータを見た。
「ヴィータ副隊ちょ――」
瞬間、轟音と共に、近くにあったビルの壁面が大きく凹んだ。ティアナも、ひざまづいた男の視線も、そちらに誘導された。
崩れ落ちる壁面の粉塵の中では、ヴィータのデバイス『グラーフアイゼン』によって、首や関節があらぬ方向に折れ曲がった融合体が、今まさに塵に変わろうとしていた。
まずい――ティアナは誰より早く視線を戻した。
「いやだ……お前達はああやって俺も殺すんだろう! 死にたくない! 死にたくないぃぃぃィィ!!」
案の定、ヴィータの行動に刺激されたようだ。発光する顔の線は一際光を増し、血の涙はそのままに、男は再び融合体の姿に変わった。
「ちぃっ!!」
一瞬の躊躇の末、ティアナは撃った。非殺傷設定で、しかも足を狙って。
しかし、その躊躇が災いしてか、融合体は驚異的な身体能力でそれをかわす。スバルやエリオの攻撃が効いているにも拘らず、最初よりも遥かに速く駆け出した。
「止まりなさい!!」
叫びながら続けざまに撃つが、魔力弾は融合体の足元を抉るのみ。融合体の逃亡を止めることはできない。
「ティアナ! なにやってんだ!!」
ヴィータから叱責が飛ぶ。焦りに突き動かされて追尾弾を放つも、それすら振り切られてしまう。
融合体はあっという間にビルの隙間に消えていった。
「ティアナとキャロはフリードで奴を追え! エリオとスバルはそこのを片付けろ!」
「了解!!」
ヴィータの号令にすぐさま全員が答える。スバルとエリオは既に残った融合体を追い詰めていた。
ティアナは本来の大きさに戻っているフリードに飛び乗り、同時にフリードは空へ舞い上がる。
「野郎……! 封鎖を突破……いや飛び越えやがった!!」
並行して飛ぶヴィータが忌々しげに呟く。
付近一帯は出現と同時に、XATによって封鎖されている。しかし今、目標はビルの壁面を蹴り上がり、ビルの屋上や壁面を縫うように飛び跳ねていた。
発見に手間取ったため、大きく距離は開けられたが、当然走るより速度は落ちる。このままならばすぐに捕捉できるはず。
ティアナもキャロも、おそらくヴィータもそう思っていた。進行方向にそびえる高層ビルの陰から、六課の輸送ヘリが顔を出すまでは。
ティアナらそれを目視した時は、融合体とヘリの距離は間近に迫っていた。
「ヴァイス陸曹、融合体が接近しています! 回避してください!」
ティアナは通信でヘリに呼びかける。その横では、ヴィータがグラーフアイゼンを振りかぶっていた。
「間に合わねぇ! あたしが仕留める!」
赤い魔力弾が数発、ヴィータのハンマーから撃ちだされる。
弾道は弧を描き、それらは融合体が側面に張り付いたと同時に着弾。小さな爆発が起き、ヘリが揺らぐ。
手応えはあったかに見えたが、煙が晴れた時、融合体は未だヘリに張り付いていた。
ヴィータもヘリを壊さないよう威力を抑えたとはいえ、激しい風や攻撃にも耐えて懸命にもがく姿に、ティアナは寒気を覚えた。
機械では決して持たない、生死の淵で生きることを諦めない意志。
もしも人を凌駕した彼ら全てが、そんな強い執念を発揮したなら、自分は生きていられるのだろうか、と。
融合体はそのまま操縦席に近づき、左手で何度かドアを殴る。勿論、そんなことで壊れるはずもない。
しかし、ドアが半ばほどまで凹んだことを確かめると張り付けた手のひらを発光させた。すると、いとも簡単にドアは外れ、操縦席が晒される。
融合したドアごと融合体はヘリに乗り込む。通信は悲鳴や衝撃音で掻き消され、ヘリは大きくバランスを崩す。オートパイロットが作動していなければ、すぐに墜落しているだろう。
中で何が起こっているのか、ティアナには分からない。考えるより先に近づく、ただそれだけを念じていた。ただ、それでも祈らずにはいられなかった。
状況的に一番危険なのはヴァイスだ。ヴァイスがやられれば、墜落は免れない。
だが、ヘリの中にはヴァイスの他にも3名XATの隊員が搭乗している。彼らが融合体を倒してくれれば或いは――。
そんなティアナの願いも空しく、ヘリから一筋の光が壁を貫いた。淡いグリーンの魔力光からしてヴァイスのものだろう。
直後にヘリは急激にバランスを失い、回転しながら落ちていく。
融合体がシステムを乗っ取ったなら、もしくは融合体の撃破に成功したなら墜落はしない。それが意味するのはおそらくは相討ち。
「ヴァイス陸曹……」
名前を呼んでも答えるものはいない。パイロットを失い墜落していくヘリに追いつくこともできず、ヴィータもティアナらも、ただ見ていることしかできなかった。
墜落現場は凄惨の一言だった。
ビルに突っ込み、その一角を押し潰して炎上するヘリ。しかも炎は建物の中にも燃え広がっており、とても生きているものがいるとは思えなかった。
爆発音を聞いてスバル達もすぐに駆けつけたが、その表情は暗く重い。
避難は完了していたようだが、オフィスらしき部屋は爆発に巻き込まれ瓦礫と化していた。
応援部隊と消火を終え、残骸の中を覗き込むと、むせ返るような熱気と異臭が鼻につく。
それだけで吐き気をもよおしそうだったが、ヘリの中は更に酷かった。
黒く焦げた遺体と肉片が散乱していた。遺体が原形をとどめていないのは、爆発の衝撃だけでない何かがヘリで起こったことを容易に想像させる。
先に見たヴィータはエリオとキャロを下がらせ、スバルとティアナもすぐに口を押さえて外に出た。
4人の誰もが瞳に涙を滲ませ、押し黙る。口を開けば、ぬるりとした嫌な空気が口から入りそうだった。
そんな4人を尻目にヴィータはロングアーチに連絡を取っている。その拳は怒りと屈辱と諸々の感情で震え、血が流れそうなほど、固く握られていた。
これがその日起こったことで、ティアナがはっきりと覚えている事の全て。その後のことは全て、処理を担当した部隊から上を通して伝え聞いたことである。
民間人に死傷者はおらず、死者はヴァイスを含む4名だと聞いた。すべての遺体はバラバラにされた上、黒焦げとなっているため、判別はほぼ不可能だという。
その為、遺体は極一部の人間を除いて誰の目にも触れることなく葬儀は行われた。
肉親は妹だけで、はやてが報告に行ったらしいが、詳しいことは聞いていない。
ティアナとキャロによる詳細な報告は新たに発見された事実である。それは、以下のようなものだった。
・融合体が人間の意識を取り戻したこと
・生者が融合体に感染する可能性
・追い詰められた際に見せた驚異的な能力
・各個体による能力の差の有無
これによって融合体の認識を改めざるを得なくなり、隊長達は連日XATと対策会議を行っている。
そのこともあってティアナ達も訓練に割く時間は随分と減った。おそらく連日の出動のせいもある。
スバルの顔を見ていると、随分色々と思いだしてしまった。胸の奥からどろりとした嫌なものが広がっていく。不安や焦燥に近いが、自分でもその正体は分からない。
不意にベッドに腰かけていたスバルがポツリと呟いた。その視線は伏せられ、膝の上のこぶしを見つめている。
「ねぇティア……。ヴァイス陸曹のこと……ティアのせいじゃないよ」
ヴァイスの死の件で、ティアナが処罰を受けたり咎められたりすることはなかった。完全な不測の事態で個人の責任とはできないとのことだ。
だからといって考えずにはいられない。もしもあの時、と。
「なんで……そんなこと……」
自分でも隠せているとは思っていなかった。それでも今まで触れられることはなかった。腫れ物扱いでもそのままでいてほしかった。
「そんなの……見てれば分かるよ」
ようやく元に戻りかけていたというのに。急に頬が熱くなるのを感じた。気づいた時には椅子を蹴って立ち、激昂のままに叫んでいた。
「あんたに……何が分かるって言うのよ!!」
口を吐いて出たのは、そんな月並みの言葉だった。
見透かされたことが我慢ならなかった。慰められることが耐えられなかった。きっと責められていても自分を保てなかったと思う。
自分が押し潰されないよう、ただ強くなるしかないと思っていたのに。
「あんたはあれを見てないからそんなことが言えるのよ! あんなの見たら……」
だが撃っていればヴァイスは死なずに済んだ。
「ご……ごめん」
しゅんとうなだれるスバルをティアナは睨みつけ、荒く息を吐いた。全身を覆う熱は簡単に引かず、チリチリと焼けるような怒りが思考を焼く。
「あんたは……」
強いから――多分言いたかったのはそんな類の言葉だ。だが、二の句を継ぐことができず、ただ答えの出ない問いが頭の中でぐるぐると渦を巻く。
そしてどちらも動くことができないまま数分後、出動を告げるサイレンが鳴り響いた。
思えばそれは最初から不自然なものだったのかもしれない。
複数の場所に次々と出現する融合体。順に散り散りになる隊長達。最後に通報があった融合体は市街地の中心で突然人を襲いだした。
フォワード4人が向かった時、そこはさながら地獄絵図。血と肉に彩られ、悲鳴をバックに悪魔が踊っている。
躊躇う暇も、臆する余裕もない。考える猶予も無かった。ただただ怒りと使命感に支配され、思考を放棄し、戦いに挑んでいく。
すると、それまで無秩序に殺戮を行っていた融合体は、4人を見るや手近なビルに逃げ込んだ。
ロングアーチのスタッフ及び隊長達を中心に、一週間前の事件以降、警戒は厳にしてきた。
通信に応じて、XATをビル周辺の封鎖に配備し、更に2人の隊員が随伴することとなった。
6人は意を決してビルに乗り込む。そこに罠が待っているとも知らず。未だ隊長達を含めた誰もが、相手の実態を全く捉える事が出来ていなかった。
薄暗い空間、冷えた空気にカツンと靴音だけが僅かに響く。何かの会社であろうビルの中には何の気配も感じられない。
ほとんどが同じ間取りになっているらしく、部屋側にはいくつか窓が点在している。外側の窓から入る光は少なく、中と外で明暗を分けていた。
廊下を、先頭からスバル、エリオ、ティアナ、キャロの順に最後尾をXATの二人が務めている。
「何かおかしい……。まるで誘い込まれているような……」
その言葉に最初に反応したのはエリオだった。
「融合体にそんな知恵があるんですか? これまでの例を考えても、単に数の不利に気付いたんじゃ……」
キャロがティアナの意見を支えようとするが、それはXATの二人に遮られた。
「でも、私とティアナさんが見たあの融合体は……」
「人間の意識を取り戻して命乞いしてきたって奴か? 悪いが俺達も何十体も相手にしてきてそんなものは見てないんだぜ?」
「向こうから投降してくるなら楽なもんさ。聞く気はないがね」
「それが本当なら、だろ」
実際ティアナも、あれ以来一度もそんな場面に遭遇していない。信じてもらえないかもしれないとは思っていた。
「そんな……でも私達はほんとに――」
「今更奴らに人格や人権を主張されて堪るかよ。俺達の同僚だって何人も殺られてるんだ」
「さっきの奴だってそうさ。市民を何人殺したか知れない」
それを最後に、どこか険悪な雰囲気が漂いだす。その中で口を開いたのは、これまでずっと黙っていたスバルだった。
「たとえ罠でも、私達は行かなきゃいけないでしょ。逃げ遅れた人がいるかもしれないんだから」
ティアナは自分に言っているのだとすぐに気付いた。どこか口調に棘がある。出動以降、スバルとは一言も口を聞いていない。
どこからともなく融合体が出現し、街は大混乱に陥った。避難できない人間がいても何ら不思議はない。
だというのにこの静けさは何だろう。悲鳴一つ聞こえてこない。それがおかしい。
そう言おうかと思ったが、自室でのやり取りを思い出して口をつぐむ。スバルは何も悪くないと頭では理解しているのに、謝ることができずにいた。
警戒を解くことなく、探索は続く。階段をいくつも上がり、いくつも部屋を調べたが、融合体も逃げ遅れた民間人も発見できなかった。包囲しているXATからも報告は入っていない。
ティアナは視線を感じていた。廊下を歩いている間中、暗く冷たい視線を。
それは徐々に近づき、急速に膨れ上がる。
ガラスの割れる音が響いた。全員が瞬時に音に向き直る。
室内に潜んでいた融合体が窓を突き破ると同時に、キャロ目がけて腕を振り下ろした。
「キャロ!」
いち早く反応したのはエリオ。ソニックムーブで走り出し、勢いを殺さずキャロの身体を抱く。
融合体の腕は空を切り、すかさず射撃を加えるXATの二人とティアナ。二人から蜂の巣にされ、急所を狙った魔力射撃に融合体はその場に倒れ伏した。
一人ならまだしも、これだけ念入りに撃たれれば耐えることはできないだろう。
全員が気を張っていたせいか、奇襲にも問題なく対応することができた。見ると、キャロも咄嗟に防御態勢を取っていた。
「ふぅ、これで終わりだな」
XAT隊員がそう言い、ティアナを除いた全員がほっと息を吐き出した。窮屈なヘルメットを被っていた彼らは一度外して新鮮な空気を取り込む。
ティアナは倒れ伏す融合体を見下ろして思う。あんな殺戮をしたのが元は人間なのか、この融合体が命乞いをしたら自分は撃てるのだろうか、と。
塵になって消えていく身体、それが腕に達した時ティアナは気付いた。
「血が付いてない……?」
ビルに逃げ込んだ融合体は、鋭利な鉄片やガラス片を指に融合させ、爪を形成していた。しかし、この融合体の指にはそんなものは付いていない。
「まさか……!」
二人の隊員は不用意にも部屋の窓すぐ側を歩いている。もう警戒を解き始めていた。エリオやキャロも気を緩め始めている。
ティアナ達は逃げた一匹の獣を狩っているつもりでいた。その認識がそもそも間違いであるなど疑うことなく。それ故に、油断を誘われた。
ここは冷徹で狡猾なハンターの領域であり、狩られているのはこちらだ。
「待って! まだいる!!」
ティアナが声を上げるより早く、窓ガラスが再び破られる。伸びた腕は素早く一人の首を掴んで窓に引き寄せる。その手には血塗られた爪があった。
「畜生、まだいやがったのか!」
もう一人のサブマシンガンが火を噴く。相方を盾にするような姿勢のせいで急所は狙えず、皮膚をいくらか抉るに留まった。人と同じ、赤い血が飛び散るも、堪える様子は無い。
XATの狙撃班は通常アンチマテリアルライフルを使用。マシンガンでは急所を狙わないと足止め程度の効果しかない。
まるで銃撃を意に介していないのか、掴んだ男の右腕を掴み持ち上げる。銃に右手から神経のようなものが伸びて吸いついた。
融合した銃は既に融合体の完全な支配下にあり、それは同じ銃を持つ者に向けて放たれた。
撃たれた男の胸に無数の穴が開き、パッと鮮血が舞う。掴まれた男の首も、尋常でない力に絞められた為か青黒く変色していた。
更に二体の融合体が部屋から飛び出す。それも距離が開いたスバルとティアナ、エリオとキャロの間に割り込む様に。
一体がゆっくりと倒れた男の銃を拾い上げた。あっと言う間に分断され、目の前には三体の融合体。しかも、その内二体に銃を奪われた。
わたしの支援が 宇宙を創る
ほんの1、2秒間に過ぎないが、その場の全ての者の動きが止まった。極限まで張りつめた空気がそうさせた。
弓の弦が引き絞られるように、双方動くタイミングを待っていた。
スバルはティアナに、エリオはキャロに目配せし、互いに無言で頷く。
「散開!!」
号令を掛けたのはやはりティアナ。同時に、二挺の銃が二組目がけて撃ち出された。
スバルとティアナは背後の開いた扉に転がり込み、窓に近いエリオとキャロは手を繋いだまま、外側の窓を身体ごと突き破る。
そして廊下に動く人間はいなくなり、窓のほとんどが割れた一室からは融合体が姿を現した。
「キャロ、フリードを!!」
窓から飛び出しながら、大声で呼びかけるエリオ。キャロはコクリと頷き、
「竜魂召喚!」
キャロの詠唱に合わせて、キャロと共にある白竜フリードリヒが眩い光に包まれ、本来の巨体に戻り、空に翼を広げる。
エリオは右手はキャロと、左手はフリードの翼の付け根を掴んでぶら下がった。
キャロはフリードに跨るなり通信を開く。
「ロングアーチ、こちらライトニング04です! これは罠です、待ち伏せていた融合体は四体、うち一体は撃破。残り三……いえ、ここから見えるだけでも五体は!」
空に滞空するフリードに手を出そうとはしないが、窓から何体かの融合体がこちらを警戒していた。ここからでも、五体はいるのが確認できる。
「こちらロングアーチや! 全員無事なんか!?」
「私とエリオ君はフリードで外に脱出しました。でもティアナさんとスバルさんはまだ中にいます。XATの人達は二人とも……」
通信の相手ははやてだった。声の感じからして相当焦っている。それはキャロの報告を聞いて更に悪化した。
「フェイト隊長が今特急でそっちに向かってる。もう2、3分で着くはずや。他の隊長もみんな向かってる。それまではそこで待機、ええな?」
「でもまだスバルさん達が!」
「これは命令や!! 二人だけで援護に行くことは許さへん。絶対に、や」
その声色は固く強い、絶対の厳命。はいあがってきたエリオも、ゆっくりと首を横に振った。
「了解……」
はやてのいうことも理屈では分かっていても、苛立つ気持ちは抑えられない。
それでも、キャロとエリオに今できることは、一秒でも早くフェイトが来てくれるよう祈ること。少しでも敵を引きつけておくこと。それくらいしかなかった。
室内に文字通り転がり込んだティアナとスバル。入るなり扉を閉め鍵を掛ける。
そこは殺風景で、会議室のような部屋。扉以外は完全な密室だった。
高鳴る心臓を抑えても、なかなか治まってくれない。ティアナはようやく、ほんの少しだが考える余裕ができた。
これは完全な罠だ。誰が何の為に仕掛けたのかは不明だが、それだけは確かだ。奇襲に次ぐ奇襲、分断、誘導、包囲――簡単だが、融合体達が企むには無理がある。
ならば、誰かが操っているのだろうか?ほんの数人罠にはめて倒したところで何の意味があるのか?
いくら考えてもわからない。情報が足りない以上、考えても答えなど出るはずがない。
「答えの出ない問題……か」
「どうしたのティア?」
ティアナは不意に、スバルに怒鳴ったことを思い出した。こんな危機的状況で何を考えてるのか。自分でもおかしくて笑みが零れる。
考えて答えの出ない問いなら、きっと答えを出す為のパーツが足りないのだ。その為には強くなって生きること。
そんなことは自分でも分かっていたのに。
スバルに見透かされた程度で激昂したのが恥ずかしい。お節介なことだが、それも彼女のいいところだと誰より知っている。
「スバル……私あんたに――」
謝らなきゃ――言いかけたところでドアが轟音と共に軋みを上げる。これもヴァイスの時と同じ。このままでは不利な密室で籠城するしかない。
「スバル、話は生きて帰ってから。私に考えがあるの。あんたにしかできない――やれる?」
スバルはきょとんとした表情を見せたが、ティアナの作戦を聞くと自信ありげな笑みを浮かべて頷いた。
ティアナとスバルはその瞬間を逃がさないよう息を整える。スバルはドアに向かって立ち、魔力を溜める。
一撃ごとに変形していくドア。やがてドアが思いの外頑丈だと気付くなり、ドアを叩くことは無くなった。
「来るわよ……」
数秒置いてドアのフレームが発光し、金具ごとガタリと音を立てて外れる。それこそティアナとスバルが待ち望んでいた瞬間。
「ゴー!!」
壁を蹴ってスバルが加速。拳を力の限り振りかぶり、身体ごと一発の弾丸となって叩きつける。
「ディバィィン――」
狭い扉からはドアと融合した者と、それに続いて何体かの融合体が入ろうとしていた。
「バスタァァァァァ!!」
スバルのナックルから光が弾ける。それはまき散らされる凄まじい音と光の爆弾。衝撃はドアを貫いて伝わった。
先頭の者は当然、続いて入ろうとした二体も煽りを食らって吹き飛ばされる。続いて聞こえたのはガラスが割れる音。向かいの窓を突き破って落下したに違いない。
中途半端に籠城するより、最適なタイミングで反撃。それがティアナの狙いだった。下にはXATがいるし、フリードの火力も存分に生かせる。
この高さから落下すれば、すぐには身動きできないだろう。
「行くわよ! スバル!」
ティアナは顔を出して残敵の数を確認する。残りは銃を持った融合体が二体のみ。ディバインバスターに反応しきれていないのか、動きがぎこちない。
二挺を構え、狙いもそこそこに引き金を引く。クロスミラージュから同時に放たれる二つの光弾。待機していた時に十分なチャージは済んでいる。
カートリッジはフルロード。ヴァリアブル・シュートなら融合体の強固な皮膚も貫通できるはず。
ティアナの狙い通り、オレンジ色の弾丸は手前にいた融合体の頭を貫く。些細な防御はものともしない。
もう一つの弾は、ティアナ達から見て奥の融合体目がけて飛翔する。
同時に狙いを付けたためか、照準は僅かにずれて腹部を貫通。それでも吹っ飛ばされて動きを止めた。
ティアナとスバルは部屋の影から出る。見える範囲にはもう敵はいないが、出口から出るのは危険だろう。やはり窓から出るべきだ。
「ちょっと待って!!」
一直線に窓へ向かうティアナとは逆に、スバルは廊下を走りだす。駆け寄る先は、壁にもたれて掛かっているXAT隊員だった。
「ティア、この人……まだ息がある!」
最初に融合体に捕らえられ、首を掴まれた方の男だ。呼吸も弱弱しく這いずる程度の力しか残っていないが、確かに生きていた。
だが、何かがおかしい。
「ね、ティア。この人も一緒に――」
「待って」
有無を言わせぬ口調で、ティアナは男を背負おうとするスバルを手で制する。
だってどう考えてもおかしいではないか。首を握り潰されるほど強く掴まれて。その上、彼の傍を何体もの融合体が通り過ぎて。
融合体が銃を奪った時、ティアナには彼が生きているとは思えなかった。もう一人の銃撃だって効いていなかったのに、融合体は力を緩めない。
そこまで考えて、ティアナは一つの仮説に行きついた。銃撃によって飛び散った融合体の血液。
彼はその飛沫を浴びていないはずがない。
あの時、彼が死んでいたら。或いは生きていたとしても。
もしも――もしも血液が感染源だとしたら?
「いいよ、私が背負うから。ティアは先に行って」
考えていた時間は長くなかった。それでもスバルは、黙り込んだままのティアナを訝しげに一瞥すると、勝手に背負いだした。
このまま行かせてしまっていいのだろうか。しかし、彼が感染していないとすれば、急いで処置しないと危険だろう。
XAT隊員は苦しげに呻き声を上げるが、スバルの為すがままに背負われた。
ティアナは必死に考えを巡らせて、何か決め手となるものを探る。そして、それは見つかった。
背負われた男の顔には、あの日人間が融合体に変異した時と同じ、赤い線が浮き出ていた。
それは悪魔の証。人の身ではありえない事象。
「どうしたの?」
窓の桟に足を掛けたままスバルはティアナを見る。背負った男に浮き出た光の線にも、身体を纏う赤い光にも気付いていない。
男の体に融合体の姿がダブって見えた。もう話している時間は無い。
「この馬鹿スバル!!」
ティアナの身体は勝手に動いていた。背負われた男の肩を掴み、力の限り引き剥がす。
引っ張られるようにスバルも転倒したが、全力で引き剥がした分、男との距離は開いた。
「ティア!?」
理解が追い付かないスバルとは対照的に、男は受け身を取り、四つん這いになった。
支援
黒光りする皮膚。口も目も判別できず、表情も読めない。人型でありながら、後ろには大きな尻尾。完全な融合体だ。
狙いはティアナに向いている。一足飛びの距離で、両者が睨み合う。
獣のようだ、とティアナは思った。長い尻尾も相まって、二足よりも四足の方がバランスが取れている。動きも機敏に違いない。
かなりの接近戦だが、ティアナにも考えがあった。一撃の間合だからこそ、軌道も単純に限られてくる上、敵は獣の構えである。ダガーモードで迎え撃てばいい。
緊張が限界に達し弾ける直前、ティアナは思い出した。思い出してしまった。自身の言葉、その仮説を。
(この距離じゃ血が――!)
ダガーモードで切り裂けば返り血が掛かるのは避けられない。
BJ越しなら大丈夫かもしれないし、そもそも確たる証拠がある訳でもない。だが、その恐怖が迷いを生んだ。
後脚で大きく床を蹴り、融合体が跳びかかる。ティアナにはダガーモードを使うことはできなかった。
両手のクロスミラージュで、できる限りの魔力弾を撃つ。
ろくに狙いも付けず、チャージもできない以上結果は分かっていた。全て融合体の皮膚を貫通することなく弾かれていく。
ティアナに融合体を止める術はもう、無かった。
せめて両腕を顔の前で交差させる。だが融合体の突進力は強く、いとも簡単に跳ね上げられた。一瞬で左腕に首を掴まれ圧迫される。
否、圧迫などというレベルではない。このままでは握り潰される。
振り上げた右腕は顔面を狙っていた。握り潰されるよりこっちの方がまずい。
少しでも勢いを殺す為、後退しようとするティアナ。壁にぶつかっても構わない。無我夢中で身体を引き、跳び退いた時、ふっと体を支えていたものが消えた。
視界がぐるりと回転し空が映る。風が身体を打ち、落ちていく感覚。ティアナはようやく自分が転落したのだと気付いた。
「ティアァァァァ!!」
感覚だけが研ぎ澄まされ、時間が極限まで圧縮される。体の自由とは別に知覚が残った。
スバルが何か叫んでいるが、それももう聞こえない。そして残ったのは視覚と思考。
午後の空は不思議な程美しかった。だというのに、景色を遮る醜く黒い物体は目の前から消えてはくれない。
迫る指の先で何かが光を反射している。透明で煌めいて、それだけは綺麗だと認めていい。それが淡く緑に光って更に輝きを増す。
美しかった。これまでの人生で最高と言ってもいいくらいに。
これが最後に目に映るものなら、それもいいかもしれないとさえ思えた。
空を見つめ、貫かれる瞬間までティアナは目を瞑らなかった。虚ろな瞳で光を刻みつけようとした。
やがてそれも消え、訪れたのは暗闇。一片の光すら見いだせない虚無。
残った思考でティアナは考えていた。
(何だっけ……あの光どこかで見た気がする――)
だが、ティアナにはそれを思い出すことはできなかった。
頭の奥から痛みと熱が爆発した。赤と黒の炎に焙られて、思考すらままならない。
そして、ティアナの世界は消えた。
エリオとキャロは険しい顔で上を見据えていた。落下してきた融合体はXATの手を借りるまでもなく、ブラストフレアでまとめて殲滅した。
フェイトはまだ来ない。あれから二分と経っていないのに、もう随分と待っている気がする。
最後に銃声が聞こえてから数十秒。もう待っていることに耐えられず、フリードを上昇させようとしたその時、
「エリオ君、あれ!!」
キャロの指差す方に影が飛び出た。重なってはいたが、白と黒が光に照らされてはっきりと認識できた。
「フリード!!」
エリオとキャロは同時にフリードの名を呼び、フリードはそれに応えて力強く羽ばたく。
そこから先は、ほんの数秒間にも満たない出来事だった。
融合体は宙に投げ出されても攻撃態勢を崩さず、獰猛な爪をティアナへと振り下ろす。
散乱したガラス片と融合したのだろう――透明で鋭利な爪を。
叫びよりも早く、その爪はティアナの両の目に食い込む。それと、融合体の頭が吹き飛んだのは、ほぼ同時。
ほんの刹那――爪がティアナの目を抉り取るよりも早く、残念ながら突き刺さるよりも遅く。
エリオは見た。融合体の頭を吹き飛ばしたのは淡いライトグリーンの魔力光。収束された魔力の塊。
何の音も気配もなく、この目で見るまでは全く気付かなかった。相当な高出力だが、砲撃ではない。だが威力はそれに匹敵する。
融合体の頭部は完全な消滅だろう。僅かに飛散した血液と肉片は、強いビル風が掻き消した。
「エリオ君!!」
完全に呆気に取られていたエリオは、キャロの声ではっと気が付く。落下するティアナがすぐそこまで来ていた。
「ティアナさん!!」
エリオが手を伸ばしても反応がない。BJを着ていても、受け身もなしに叩きつけられれば重傷は免れない。
やがて地面が迫る。届かないと悟ったエリオは、意を決してフリードの背中から足を蹴り出した。
融合体の残骸から引き離しつつ、ティアナを回転させて自分が下に回る。バリアの要領で身体をガードして、衝撃に備える。
やがて強い衝撃が背中を中心に伝わり、痺れのような痛みとなって全身に走る。エリオは歯を強く食い縛って耐えた。
「〜〜!!」
痛みで声を失うエリオ。が、それも数秒で引いていく。どうやら怪我もなく上手く落ちた。
ティアナにかかる衝撃は殺せたし、"すごく痛い"程度で済んだのだから、よしとしなければ。
痛みが引いてようやく、明滅する視線は自分の上にいるティアナに留まる。その姿にエリオは再び言葉を失った。
「アアアアアアアッ!!」
両手で目を覆い、地面だろうとエリオの上だろうと構わず転げ回るティアナ。口を裂けるかと思う程開き、あらん限りの声を上げて叫んでいる。
きっと落ちる前から、エリオに助けられた時からこうだったのだろう。
赤く染まった指の間からは血が流れ落ち、地面に染みを作っている。
「ティアナさん、大丈夫ですか!? ティアナさん!!」
エリオは跳ね起きてティアナに呼び掛ける。大丈夫なはずがない。咄嗟にそんな言葉しか浮かばない自分が情けなかった。
ティアナは悶え続ける。差し出される手も弾いて、仲間の声も届かない苦しみの中で叫び続ける。
「早くキャロ、治癒魔法を! キャロォ!!」
耳に入っても認識されない声。暴れる身体を地面にどれだけぶつけても痛みが伝わらない。より大きな痛みが意識を塗り潰している。
それでも一つだけティアナは感じていた。自分は何か大切なものを失っている。大切なものが零れ落ちていく、と。
血や涙だけでなく、もっと大きなもの。それは己の夢。そして望み。
ただ、それがどうしようもなく悲しくて、切なくて、彼女はいつまでも声を止めることができなかった。
聖王医療院の手術室の前には、非常に重苦しい空気が漂っていた。
誰もが沈痛な表情。陰鬱な気配。口を開くものはおらず、ただ時だけが過ぎていく。
集った面子は分隊長二人と副隊長のヴィータ。そしてフォワードの三名。報せを聞いて六課の全員がその身を案じたが、何しろ大事件である。
ロングアーチの面々には事後処理や分析が山積し、はやては再び、XATと地上本部とで今後のことを話し合わなければいけなかった。
ティアナは緊急搬送され、そのまま手術へと雪崩れ込んだ。同時に魔法治療も行う為にシャマルも同席している。
最初に現場からフォワードのメンバーとフェイト。続いて残務を終えたなのはとヴィータが飛んできた。
椅子に座ったまま俯き拳を握り締めるエリオ。その隣では、キャロが指を固く組み合わせて祈るようにしていた。
ヴィータはイライラを隠せず、落ち着きなく歩き回っている。
なのはは椅子で背中を丸め、垂れた長い髪の間から垣間見える表情は蒼白。フェイトはその隣でなのはを心配そうに見ている。
スバルはというと、一番酷い。今にも壊れそうな表情で、そこに普段の彼女の活発さは微塵も感じられない。涙を滲ませてただ扉を見つめている。
皆がそれぞれのやり方でティアナを案じ、不安から逃れようとしていた。
どれだけ時間が経っただろう。長く閉ざされた扉が開いた。目に包帯を巻いたティアナが最初に運ばれ、続いてシャマルがマスクを外しながら出てくる。
最初に痛ましい姿のティアナ、次にシャマル。六人の視線が一様に同じ動きをした。
全員の視線を集めたシャマルは、顔を逸らして表情を曇らせる。その重さに耐えられないと言わんばかりに。
「シャマル先生……ティアは……」
スバルの声を受けて、シャマルは大きく息を吸う。そして、全員の目を見て話し出す。
「落下や戦闘による傷は問題ないわ。エリオが上手く庇ってくれたから、一週間程度で完治すると思う。ただ……」
「ただ……?」
「目の方は……余程強い力を受けたのね。眼球を深く損傷してる。視神経も切断されているわ。目を抉られかけたって……」
最後に近づくにつれ、声に力が無くなっていく。決定的な答えを聞くのが怖い、と誰もが感じ始めていた。
「それで……治るんですか?」
問うスバルの声はか細く震えていた。もしかしたら――そんな儚い希望に賭けて。彼女が夢を叶えられるという返事に縋って、スバルはシャマルの目を見つめる。
シャマルは悲しそうに首を振り、スバルの希望を打ち砕いた。
「まだ完全に失明になるとは限らないけど……可能性は低いし、回復したとして重度の障害は残るでしょうね。まともに見えるまで回復することはないわ」
それが決定的な一言となり、スバルは膝から崩れ落ちた。激しい後悔と自責の念が込み上げてくる。
やり場のない感情は嗚咽となって吐き出され、掛ける言葉を持つ者はいなかった。
予告
光を失い、女は救いを求めて手を伸ばす。
女は気付かない。伸ばした手を絡め取ったのは蛇。掴んだものは禁断の果実。
第2話 融け合う絶望
心せよ。瞼の裏に魔物を見たなら、汝もまた魔物となる……
支援ありがとうございました。1レスの限界がいま一つ分からず、中途半端な投稿になって申し訳ありません。以上で終了です。
次回からは原作のキャラも登場。本作では睡眠時間を削って頑張ってもらいます。
ちょっとだけ原作紹介
BLASSREITERとは2008年4月〜9月に放送されたアニメである。
キャッチコピーは「融合せよ 悪魔の力」
近未来のドイツを舞台に『融合体』になってしまった者、融合体と戦う者を描いた群像劇。
原作:GONZO、ニトロプラス
監督:板野一郎
脚本:小林靖子、虚淵玄、他
寝太郎ktkr!
ミッドでXATができるってことはアマンダとかも来てるんだろーか
いきなりブラスレ化フラグが立っちゃった人がチラホラ、惨劇必至の今後に期待
132 :
一尉:2009/10/03(土) 23:57:11 ID:KDZz0qLC
近未来東京
>>130 ついに待ちに待ったブラスレクロスがktkr!!
六課メンバーも融合体になりそうなフラグ立っちゃった人が何人かいますね。
次回から原作キャラも出てくるということで、
起動六課メンバーとの絡みに期待です。
ジョセフは原作みたいに寝てばっかりじゃないことを祈るwww
次回も楽しみに待ってます!!
ブラスレクロス北ああああああ
本編は後半酷いことになったからなあ…
こっちには期待します
ティアナがゲルトの立場に立つのかな
GJ!!です。
こりゃ、面白いとしか言えません。
どうやらヴァイスも融合体になったようで。
スター・ウォーズからR2−D2が来るってクロスを考えてみた
ワケがあって管理局本部にやってきたR2が機動六課をサポートする
ヴィヴィオのお守りや六課のヘリの整備をしたり
ガジェットを操作するコンピューターにアクセスし、ガジェットを全機機能停止させたり
と大活躍するとか レイジングハートと仲良くなったりするとか
スター・ウォーズか・・・・ 懐かしいな
前にも確かスター・ウォーズとのクロスでダース・ベイダーがミッドチルダに
あったんだよな。 話は1話でストップしてるけど・・・
おはようございます
予約がなさそうなのでサクサクと三十話を投下させてもらいます。
…ミッドチルダ全土は戦火に包まれ、各地域にて各主戦力が対峙する中で
二隻の次元船が軌道ポイントへ向かう為に通らなければならないポイントへと先回りしたアースラの船内、
グリフィスが代理を務めている此処司令室に聖王教会対策本部からの一報が届く。
それは先程ドラゴンオーブの砲撃により、ミッド南部アルトセイム地方が消滅したというものである。
この一報はクロノの元にも届いており、歯噛みしながらクラウディアの改装完了を待ちわびていた。
リリカルプロファイル
第三十話 曇天
ドラゴンオーブの砲撃がアルトセイム地方に落ちる少し前、
ミッド南東部の街に存在する隊舎が何者かの襲撃により次々と破壊されていた。
それはセインの手によるものである、強化されたディープダイバーはバリア・フィールドに包まれた場所を突破する事が可能となり
それにより重要箇所及び施設の破壊を円滑に進める事が出来ているのである。
「う〜ん、順調順調!」
そう言いながら時限爆弾を設置して司令室から抜け出し隊舎の外へと出ると時限爆弾を起爆、
司令室を中心に次々と爆発し、また一つ隊舎を破壊した。
すると大地に強烈な振動が走りセインは思わずその場に倒れ込み、振動が収まるまでその場を動く事が出来ないでいた。
その振動がドラゴンオーブの砲撃によるものだというのを後から知り、冷や汗をかくセイン。
…三賢人は本気でこのミッドチルダを破壊するつもりだ…
だが博士達がこのまま黙っているはずがないだろう。
ならば自分に出来る事、それは任務を忠実にこなすだけだ…
そう考えたセインは次の隊舎へと赴くのであった。
一方セッテを不意打ちによって倒され、怒り心頭といった様子のトーレはセレスとクレセントに襲いかかっていた。
トーレはライドインパルスを用いてセレスの目の前に移動すると、その首を狙って右のインパルスブレードを振り抜くが、
セレスはソニックムーブにて後方へ回避、その動きに合わせるようにクレセントがトーレに襲いかかり
右手に持つ刀身を振り下ろすが左のインパルスブレードにて防がれる。
するとセレスが追撃を仕掛けようとしたところ、トーレはクレセントの右手首を掴み、振り払うかのようにセレスに向かって投げ飛ばす。
セレスは迫ってくるクレセントを受け止め難を逃れると、一網打尽とばかりに右のインパルスブレードを巨大化させて振り下ろすが、
二体はトーレの動きに対しソニックムーブにて左右に展開して回避、更にトーレの振り下ろした隙をついてミドルキックにてトーレを蹴り飛ばす。
トーレは体勢を立て直し一つ舌打ちをしていると二体は魔力で出来たナイフを投げ
トーレはとっさにライドインパルスにて回避する、が完全に回避出来ず右肩にナイフが突き刺さっていた。
セレスが投げたナイフはサプライズスロー、クレセントが投げたナイフはマジックロックと言う。
「思っていたよりやる、だが私達二体に勝てるとでも?」
セレスはそう述べる中、未だ肩に突き刺さっているナイフを抜き取り捨てると二体を睨み付けるトーレであるが、
数として、実力としても上と見ている二体は未だに余裕ある表情を浮かべていた。
「オラァオラァ!手が止まってんぞぉ!!」
一方此方はザフィーラとアドニスが戦闘を開始していた、しかし戦況はアドニスが優勢で
アドニスの振り下ろしに合わせて左手に障壁を張り耐えると
左右からの二連撃、更に刀身を肩に構えて振りかぶり、魔力で刀身を覆い一気に振り下ろし
障壁を破壊、更に生じた衝撃により吹き飛ぶザフィーラ、
アドニスはソニックエッジと呼ばれる強力な一撃を打ち出したのである。
「オラァ!さっきまでの威勢はどうしたんだぁ?この飼い犬が!!」
アドニスの挑発に対し目で威嚇をしながら立ち上がるザフィーラであるが、
それを全く気にすることなく、寧ろもっと楽しませろと言った表情を浮かべながら刀身を肩に構え手招きするアドニスであった。
一方エーレンとシグナムの戦いは互いが互いを牽制し合う戦いを繰り広げていた。
エーレンはシグナムの斬撃を一つ一つ丁寧に弾くと両手で構え一気に振り抜く、
だがレヴァンティンにて攻撃を防がれ、今度はエーレンの持つ刀身に魔力が覆い始め勢い良く振り抜くが、
予め魔力が覆い始めるのを見ていたシグナムは、パンツァーガイストを刀身に展開させてなんとか受け止める、
しかしその衝撃までは防げず体をよろめかせ、エーレンは追撃とばかりに振り上げると
それに合わせるように体勢を立て直して時計回りに回転、腰の反動を加えた切り払いがエーレンの胴を狙う。
ところがエーレンはシグナムの攻撃に危機感を感じに刀身を盾にしてシグナムの攻撃を防ぐ、
だがシグナムの攻撃はまだ終わってはいなかった、シグナムはレヴァンティンからカートリッジを一つ消費すると刀身は炎に包まれ、
そしてそのままエーレンを紫電一閃にてビルに向かって吹き飛ばし激突、辺りは土埃が舞っていた。
「……やったか?」
暫く待ち動きがない様子にそんな事を考えていると土埃からエーレンが飛び出してくる。
そして首を押さえ二回ほど鳴らし、体の具合を確かめると刀身を中段にて構え始める。
エーレンの行動にシグナムは一つ舌打ちを鳴らすとレヴァンティンを斜に構えまたもや対峙した。
そしてカノン対オットーとディードの戦いは熾烈を極めていた。
カノンは次々にエクスプロージョンを撃ち出し、地上の街並みが炎に包まれる中で、オットーは右手からレイストームを撃ち出す
だがカノンは縫うように回避してオットーの攻撃もまた街並みを破壊していった。
そしてカノンは足を止めサンダーストームを撃とうとしていたがオットーがバインドによって動きを封じ
オットーのバインドに合わせてディードがツインブレイズにて攻撃を仕掛ける。
しかしカノンは魔力を解放させてバインドを消し去ると目の前にシールドを展開、ディードの攻撃を防ぎ
そしてカノンはシールドを媒介に魔力を放射、ディードをオットーの下へ吹き飛ばすと間髪入れずに詠唱中だったサンダーストームを撃ち抜き、
サンダーストームは二人の身に襲いかかり何度も体を跳ね、撃ち終わると其処には互いの体を支え合う二人の姿があった。
場所は変わり此処はヴァルハラ内に存在する三賢人が滞在する施設、
施設内は広く三賢人の目の前にはモニターが配置されてあり、
其処には戦況が映し出されている中で、ガノッサとその秘書が三賢人のメンテナンスを行っていた。
三賢人の正体とは延命処置が施されたカプセルに浮かぶ脳髄である。
彼等は肉体を捨て脳髄のみを残し過ごして来たのであるが、
施設が百年以上経つ為にメンテナンスが必須となり信頼のある…
…いや彼等にとって都合が良いガノッサを採用しているのである。
「戦況は良好のようだな」
「さようで……」
三賢人の一人が泡を立てながら戦況を見守り、ガノッサは体の良い相槌で答える。
そしてメンテナンスも終了したらしく、作業を終えたガノッサとその秘書は頭を垂れる。
「如何でございますか?」
「……悪くはない」
「それはそれは……後は死の旅路に向かうだけですな」
「なん…だと―――」
三賢人の一人が答える間に杖を向けカプセルを破壊、培養液と共に脳髄は飛び出し更に炎で焼き払う。
ガノッサの突然の行動に、残りの三賢人は驚きを隠せない様子で泡立てながら騒ぎ始める。
「きっ貴様!神である我々に謀反を起こす気か!!」
「元より貴様等についた覚えなどない!!」
そして神である貴様等を倒せば自分は神をも越える存在になれる。
そう説明するともう一つのカプセルを破壊、先程と同様中身が飛び出し
ガノッサは風を巻き起こすと脳髄は挽き肉と化した。
そして最後の一人の前に立つと一言残し杖を向ける。
「ではさらばだ……愚者共」
「ガノッサ!!」
三賢人の言葉を後目にガノッサはカプセルを破壊、飛び出した脳髄を踏みつけてクリーム状になった脳髄を見るや高笑いを浮かべ、
ガノッサの後ろでは、ほくそ笑んでいる秘書がおり、秘書はガノッサに話しかける。
「御苦労様です、ガノッサ」
「ははっ!有り難き幸せに御座いますドゥーエ様」
そう言って膝を付き頭を下げ秘書が伸ばした左手の甲に口付けを交わすガノッサ。
すると秘書は見る見るうちに髪の色が青から霞んだ金色に変わり
服装も戦闘機人と同じ戦闘スーツに変えドゥーエは本来の姿に戻る。
ドゥーエはラグナロク計画開始から今まで裏工作に徹し、更に魅惑の呪〈チャーム〉を掛けて意のままに操っていたガノッサを用いて
三賢人の信頼を買い近付く事に成功、そして先程ヴァルハラの情報も全て把握した為
ガノッサを操り見事に三賢人の暗殺を成し遂げたのである。
後はヴァルハラの情報をドクター達に届けて、このヴァルハラを奪うか破壊するか判断を委ねるだけだ…
そう考えたドゥーエはガノッサを従えその場を後にしようとしたところ、辺りに聞き慣れた声が響き渡る。
「愚かな……本当に我々を消したと思っておるのか……」
「この声はまさか……三賢人!!」
すると天井から三人の魔導師が姿を現す、その姿は黒を基調としたクロークにそれぞれ赤・青・黄色のラインが入っており、
その中で赤いラインが入ったクロークを着た老年の人物ヴォルザが話し始める。
「貴様等が消したその脳髄はただの影武者…本物は此処にある」
そう言って自分の頭を指し不敵な笑みを浮かべる。
三賢人は神になるためには今の延命処置方法では不完全と考え
模索していたところ、戦闘機人の情報、更にはホムンクルスの情報に目を付け
戦闘機人情報はスカリエッティに渡しナンバーズを作成、一方でホムンクルス情報によりサンプルを作成した。
その後、両者の情報を基にエインフェリアを作成し、
最終的には三賢人の遺伝子を使用して戦闘機人のフレーム、ホムンクルスの肉体、エインフェリアに使われているルーン技術
そしてレリックによる安定した魔力の供給、それらが合い重なって作成されたのが今の三賢人の肉体であるという。
「つまりこの体は神に成る為の器……そうだな、“神の器”とでも云うべき代物なのだ」
そう言って次々と高笑いを浮かべている中で苦虫を噛んだ表情で睨み付けるドゥーエ。
迂闊であった…まさか三賢人を出し抜くつもりが出し抜かれるとは…だが此方にはあのガノッサがいる…
そう考えたドゥーエはガノッサに三賢人抹殺を命じる。
「行けガノッサ!今度こそ奴らを地獄に叩き落とすのよ!!」
「よかろう!!」
そう言うと手に持った竜の杖を三賢人に向け炎の渦を撃ち出すが、
黄色の衣を纏った壮年姿の三賢人ダインがバリアを展開させて炎を防ぐ。
すると青い衣を纏った青年姿の三賢人ガレンが冷気を撃ち出しガノッサの手を竜の杖ごと凍り付かせた。
「愚かな…我々に勝てると思っていたのか」
ガレンは不敵な笑みを浮かべながら言葉を口にすると、魔力弾を撃ち抜きガノッサの凍り付いた手を打ち砕く。
更にダインが魔力で形成された槍、フォトンランサーを50発程開させて一斉に発射
フォトンランサーはガノッサの目を貫き、耳をそぎ落とし、のどに突き刺さし全身を切り刻む。
ガノッサは口から大量血を吐き出し、よろめきながら膝を地につけると、全身をバインドによって縛られる。
目の前にはヴォルザが右手の平をかざしており、前には魔力球が加速を始めていた。
「己が無力を噛み締めるがいい……」
「おっおのれぇぇぇ!!」
ガノッサは呪詛のような叫び声を上げながら、ヴォルザのディバインバスターを受け頭部が吹き飛び床に倒れた。
その光景を目の当たりにしたドゥーエではあるが、今この場で逃げることは皆無である。
ならば一分の望みを賭けて三賢人を倒す、そう考えたドゥーエは親指、人差し指、中指の爪を伸ばし始める。
ピアッシングネイルと呼ばれる固有武器でその切れ味は業物と変わらない程である。
そしてドゥーエは自由自在に動き回り牽制しながら三賢人に近づき、ヴォルザの背中を取ると右手を振り上げ一気に振り下ろす。
だがヴォルザはいとも簡単に右手でドゥーエの爪を掴み取った。
「そっそんなバカな!!」
「この程度の硬度では…我等が肉体を傷つける事は出来んぞ!」
そしてヴォルザはドゥーエの顎を左手で掴み空いた右手で直射砲を腹部に発射、ドゥーエは吹き飛ばされ壁に激突した。
ドゥーエが激突した周辺は土煙が舞っていたが、其処から飛び出すように再びヴォルザに迫るドゥーエ、
しかしガレンのバインドにより動きを封じられ更に間髪入れずダインがフォトンランサーを撃ち抜き、爪ごと右手首を切り取られる。
「はぁぅっ!がああああああああ!!!」
「ほう…戦闘機人でも痛みは感じるのか」
ヴォルザは興味深くドゥーエを観察しながらもスティンガーレイを放ち、
ドゥーエの両腿、左肩を撃ち抜きドゥーエはそのまま倒れ込み動けなくなった。
…このままでは確実に殺られる、どうにかしてこの状況を打破出来ないものか…
だが三賢人の実力は自分を大幅に上回っている、正攻法では太刀打ちできない…
ならば“アレ”しかない、数ある魔導師を…あのガノッサすら操れた“アレ”を……
ドゥーエの考えが纏まった瞬間を狙ったかのようにヴォルザはドゥーエの髪を掴み強制的に立たせると
再度じっくりとドゥーエの顔、胸元、下半身、脚などを舐め回すように見つめる。
「……つくづく惜しいな…どうだ、我等の慰め物とならぬか?」
「………どうしようかしらね」
そう言いながら口元がつりあがり妖美な笑みを浮かべると、瞳から一瞬では分からない程の魔力光を放ち、
魔力光はヴォルザの目に入り更に脳への干渉の為に神経を伝う。
その瞬間、ヴォルザはドゥーエを掴んでいた手を離し頭を抑え始め膝をつく、
その姿に魅惑の呪が利いたと床に倒れながらも考えたドゥーエはヴォルザに命じる。
(ヴォルザ……あの二人を消しなさい……)
するとヴォルザは立ち上がり振り返ると二人に向け右手をかざし対峙する。
やはり魅惑の呪が利いたか…そう思ったドゥーエだが、その思いは直ぐに崩れ去る、
ヴォルザは振り返りかざした右手でドゥーエのこめかみ辺りを掴み再び立ち上がらせると、
ヴォルザは驚きにも似た表情を浮かべながら睨みつけた。
「魅惑の呪か……面白い事をしてくれておって」
しかし神の器であるこの肉体は一般的な肉体とは異なり神経系も異なる為、通用しないと説明すると、
ドゥーエは悔しそうな表情でヴォルザの顔を睨みつけ、その表情に対し卑猥な笑みを浮かべ話を続ける。
「それとも…くくくっ…淫らに襲われるのが望みであったか?」
ヴォルザはそう言うと手を離し両腿が撃ち抜かれている為にまともに立てないドゥーエは糸の切れた操り人形のように倒れる。
そして辺りには三賢人の卑猥な笑い声が響き渡る中で、
ドゥーエは不敵な笑みを浮かべヴォルザの問いに答える形で言葉を口にする。
「…ハッ!アンタ達みたいな“作り物”の体じゃ、私を満足させる事なんて出来る訳無いじゃない!!
“作り物”は作り物らしく人形と…木偶とでも情交していな!!」
その言葉と共に唾を吐き捨てドゥーエは不敵な笑みを浮かべると、
その行動に激しい怒りの表情と共に血管を浮かばせたヴォルザが
ドゥーエの腹部、子宮辺りを蹴り飛ばし壁まで追いやる。
その痛みに口から涎を垂らしながら悶絶している中でドゥーエは今の状況を考えていた。
…どうやら自分はここまでのようである、だがドクター達にヴァルハラの情報を伝えなければならない…
本来の作戦は三賢人を抹殺し、その後ヴァルハラの端末を使いドクター達と連絡を取り
ヴァルハラの情報を基に奪うか破壊するか決定してもらうつもりであった。
だが実際は三賢人を抹殺する事が出来ず、寧ろ自分が死に絶えている…
この状況でドクター達に情報を伝える方法、それはかつてレジアスが行った方法を応用した手段である。
だがこの手段は自分の死を意味する、しかし既に死が迫っている以上、選択肢は無い。
…ドゥーエは決意した表情を浮かべると左手をかざし三賢人に中指を立て挑発、
そしてドクターや博士…自分の姉と未だ見ぬ妹達の事を浮かべていると、
ヴォルザが放った魔力の光に包まれ命を散らした……
「己!人形の分際で我等を愚弄するかぁ!!」
ヴォルザは怒りに震えながらドゥーエであった“モノ”に唾を吐き捨て、ダインにドラゴンオーブの充填具合を確認させる
そして既に充填が完了している事を確認したダインはヴォルザに伝えると、
ドラゴンオーブの第四射の為にその場を後にする三賢人であった。
時間は正午、第三射によって巻き上げられた粉塵が気流に乗り、空を曇らすその下、
未だミッドチルダ全土は戦火に包まれ、此処はやてがいる海岸付近も
先の見えない戦いに勤しんでいる中で二つの情報を耳にする。
一つはクロノの旗艦クラウディアの改装作業が終わり、クロノ達は至急ドラゴンオーブの破壊に向かったという。
もう一つは先程海上に向かってドラゴンオーブの第四射が発射されたというものである。
情報を得て暫くすると地上が小さく振動し始める、
どうやら第四射の影響により自軸がズレ始めた兆候のようで、波も荒れ始めて来ていた。
しかしドラゴンオーブには既にクロノ達が向かっている、自分達は自分達が出来る事、
それをするようにと命じた瞬間、はやてに向かって魔力の矢が放たれ、はやてはパンツァーシルトにて矢を防ぐ。
そして矢の来た方向に目を向けると其処にはエインフェリアの一体リリアが見下ろしていた。
「う〜ん、やっぱり部隊長、そう簡単に撃ち取れないか……」
あっけらかんとした表情で言葉を口にするリリア、突然現れたエインフェリアに対し他の隊員達が騒ぎ始める中
目線だけ下ろして引き続き自分達の作業に専念するように一喝するとリリアを見上げる。
「へぇ〜無能とばかり思っていたのに…」
「安い挑発やな…せやけど時間が惜しい、乗ったるからかかってこいや!!」
そう言うとシュベルトクロイツをリリアに向け構えるはやてであった。
時間はドラゴンオーブの第四射が発射される前まで遡る…
シグナムの攻撃を受けきったエーレンは長い刀身を肩に掛け構え始めていた。
「成る程…貴女も炎熱系が得意なようですね」
そう言うとエーレンはシグナム目掛け飛び出し一気に刃を振り下ろす
しかしエーレンの攻撃をレヴァンティンにて防ぐと、
そのまま押し切る形で吹き飛ばし続けて左右の袈裟切り、
更には振り上げ上空に飛ばすとエーレンの刀身が真っ赤に染まり
飛ばされたシグナムよりも高い位置に移動すると一気に振り下ろす。
「奥義!ソウルエボケーション!!」
真っ赤に染まった刀身はシグナムの身に直撃し、更にそのまま地面まで急降下、
地面に直撃すると刀身の熱が辺りに伝わり、その場は炎と熱に支配された。
そんな光景から飛び立つようにエーレンが上空へと上がり周囲を見渡していた。
「燃え尽きたか…」
シグナムの姿が発見出来ない為にそう考えたエーレンはその場から立ち去ろうと背を向けた瞬間
地上の炎が渦を巻き始め、その中心にはエクストラモードを起動させたシグナムが、上空にいるエーレンを睨みつけていた。
「何処へ行く…まだ私は倒れていないぞ!!」
次の瞬間、シグナムの周りで渦巻いている炎が赤い刀身に吸い込まれるかのように集まると、強烈な光を放つ炎の刀身へと変わり、
そしてエーレンのいる位置まで上がり、刃を水平に保ち腹部目掛けて右に振り抜くが刀身で防がれる。
だがシグナムは動じることなく再度攻撃を仕掛け左払い、右袈裟を繰り出すと反撃とばかりにエーレンは切り上げる
しかしシグナムも負けてはおらず左切り上げ、そして突きを繰り出すがその全てを刀身で受け止めるエーレン。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
するとシグナムは気合いを込めエーレンを突き飛ばしレヴァンティンを鞘に戻すと居合いの構えに入りカートリッジを四発消費
飛竜一閃を放ち、エーレンに弧を描いて伸びていくが、刀身を盾にして飛竜一閃を受け止める。
「さっ流石の威力だ…だがこれを受けきれば――」
しかしシグナムの攻撃はまだ終わってはおらず、左手には炎で出来た剣が握られており、
シグナムは振り払うかのような構えを取っていた。
「剣閃烈火!火龍一閃!!」
シグナムが放った火龍一閃はエーレンを中心に飛竜一閃と交差、エーレンは歯を食いしばりながら耐えているが
その衝撃と炎熱は凄まじく後方のビルは砕け燃え始め、エーレンの騎士甲冑もまた溶け出し刀身もひびが入り始めていた。
「…みっ見事だ……」
次の瞬間、刀身は砕け散り溶け出した騎士甲冑と共に満足げな笑顔をしたエーレンはバラバラに砕け消滅した。
そして二匹の竜が通った後は大きく削られ、その前方には刀身に戻したレヴァンティンを握るシグナムが佇み
エクストラモードを解除すると一気に疲れがのしかかる。
どうやら真の姿のレヴァンティンは魔力を消費すればする程、威力が高まるようである。
無論、威力が高まれば肉体に対する負担も高まる為、使いどころを間違えれば昏睡、下手をすれば死ぬ可能性がある。
シグナムは自分の体の具合を確かめ、レヴァンティンを鞘に戻すとその場を後にした。
一方ザフィーラとアドニスの戦いはアドニスが優勢でザフィーラは防戦一方であった。
「オラァ守ってばかりじゃあ!つまんねぇぞ!!」
アドニスは狂気を含んだ笑みを浮かべながらザフィーラのバリアを叩き続けており、
とどめとばかりにアドニスが振りかぶると、それに合わせる形でバックステップ
更にバインドを掛けてアドニスの動きを封じるが力任せに引きちぎり、なお襲いかかる。
「負け犬はぁ!負け犬らしく地べたでも這いずり回ってろ!!」
そう言ってアドニスの持つ刀身に魔力が込められ一気に振り下ろすとザフィーラの障壁を砕く。
だが障壁の先にはもう一枚の障壁が展開されておりアドニスの一撃を防ぐと、八枚の長方形の刃がアドニスの周りを覆う。
すると刃はアドニスの騎士甲冑を斬りつけ始め、流石に後退すると刃はザフィーラの周りを時計回りで取り囲み、
ザフィーラの体から濃い蒼色の魔力が立ち上り、右手の手甲が巨大化させていた。
「てめぇ……」
「ここからが本番だ!!」
だがアドニスは臆すること無くザフィーラに向かって刀身を振り下ろそうとしたが
ザフィーラは刃を操りアドニスの関節一つ一つに合わせ動きを止めさせる。
それでもアドニスは攻撃を仕掛けようと動こうとしたが、刃が深く突き刺さっていく
流石のアドニスでもこの刃が煩わしく感じ魔力を高め始めると、ザフィーラが目の前に現れ右拳を振り抜き甲冑を砕き腹部に突き刺さる。
「ガハッ!!!」
「…貴様が犯した罪、その身で償え!!」
そう言うと次々に拳を振り抜き左頬、右ストレートにて右胸を打ち抜き
更に左ローキックによる脹ら脛、ミドルキックによる脇腹、
最後は後ろ回し蹴りによりみぞうちを蹴り抜き、その一撃により吹き飛び壁にめり込む。
そして刃を自分の周りに移動させると、壁からアドニスが怒りの表情を浮かべながら飛び出し刀身を振り抜く、
しかしザフィーラは刃に自身と同じ蒼色の魔力をたぎらせると四枚並べ大きな長方形の盾に変えてアドニスの一撃を防ぐ。
「くっそぉぉおお!!何で砕けねぇんだぁぁ!!!」
「貴様のような者に我が盾が砕ける訳が無いだろう」
そう言ってアドニスの一撃を跳ね返すと刃を操り八枚の刃がアドニスの身を切り刻んでいく。
甲冑が切り裂かれ砕け散るとアドニスは力無く前のめりで倒れる、
その光景を見たザフィーラは無言のままその場を去ろうと背を向け歩き始める、
すると力尽きたと思われていたアドニスがふらつきながらもゆっくりと立ち上がり
刀身に魔力を帯びて一気に跳躍、ザフィーラの頭上まで上がるとその勢いのまま一気に刃を振り下ろす。
「この俺がぁ!てめぇみてぇな飼い犬に負けるはずがねぇんだぁぁぁ!!!」
鬼気迫る表情を浮かべながら迫るアドニス、するとザフィーラが振り向き三重魔法障壁を展開、
アドニスの一撃は障壁二枚を砕いて止まると刃を操りアドニスの刀身を砕き
更に右拳で地面を打ち鋼の軛にてアドニスを拘束すると、右拳に八枚の刃が一列に並び蒼色の魔力を帯びて一枚の刃へと変わる。
「…人形が行き着く事が出来るか判らぬが……地獄へ落ちろ!!!」
ザフィーラはアドニスに一言告げると右腕に展開されたグリムマリスを振り下ろし
アドニスは真っ二つに切り裂かれると、蓄積されていた魔力に引火したのか爆発
破片いっさい無く消滅したアドニスに背を向けていると、思い出したかのように目線だけを向けて言葉を口にする。
「…それと我は犬ではない、誇り高き守護獣だ!」
そう言って一言訂正すると今度こそその場を去るザフィーラであった。
場所は変わりゆりかご内の管制室ではクアットロがミッドチルダの戦況把握に勤しんでいた。
すると自分の端末に連絡が入ってきた事に気が付き、端末を開くと連絡先はドゥーエである。
「うわぁお、ドゥーエお姉様から…久しぶりねぇ〜、一体何の連絡でしょう?」
久々の姉から連絡に、はやる気持ちを抑えながら確認すると驚愕する。
それはヴァルハラの細かい見取り図と情報にドゥーエの遺書が綴られいた。
【クアットロへ…】
【貴女がこの遺書を読んでいる頃には私はもういなくなっている事でしょう…】
【だから…私の願いを二つ聞いて欲しいの、一つは遺書と共に送られているハズの情報をドクターと博士に届けて活用して欲しい…】
【もう一つは私の事がいたという事を覚えていて欲しいの…】
【長く会えず私の事を忘れ去られていたり、知らない妹達も多いかもしれないけど】
【私はあなた達の成長した姿をモニター越しでも見られて安心したわ】
【私はもういないけど…私の“魂”は貴女達と共にいるから…だから安心してね】
【最後に……私は私の人生を全うしたわ…クアットロもクアットロの人生を満喫してね……】
【それじゃ】
「ドゥーエお姉様……」
端末に記載されている遺書を呼んでいると頬に伝う物を感じ、指で確かめるとそれは自分の涙であった。
…今、自分は泣いている…ドゥーエお姉様がいなくなったから…
…この沸き立つ感情、のどが渇くような気分、胸を締め付けられるような苦しみ…これは悲しみ…
…感情とはその者の行動に左右する、かつての私は感情で行動して過ちを犯した…
私達みたいな兵器には感情なんて不必要なもの、だからオットー達には感情を教えてこなかった。
「でも…ドゥーエお姉様の仇は討ちたいわ…」
悲しみから生まれる感情、憎悪、復讐、報復、そんな感情を胸に秘めながらも、
ドゥーエの願い事の一つでもあるヴァルハラの情報を博士とドクターに伝える為に連絡を取る。
「…そうか、ドゥーエは逝ったのか」
「…はい」
連絡を受けたスカリエッティは少なからずショックを受けている様子があった、
だがドゥーエの行動を無駄にしないようにしようと、感情を押さえ込み情報に目を通す。
ドゥーエの送った情報はヴァルハラの動力源から三賢人の居場所まで事細かく記載されており、
これ程の物ならヴァルハラを内側から制圧し、破壊する事すら可能である。
あとはこの情報を基に誰が進入するべきか顎に手を当て考え込むスカリエッティ。
「さて…誰をヴァルハラに送ろうか」
「私にお任せください、ドゥーエ姉様の仇を―――」
「私が赴くとしましょう」
チンクの言葉を遮るようにレザードが言葉を口にすると、目を見開き驚きの表情を隠せないでいるスカリエッティ。
レザードの言い分はこうだ、この情報が正しければヴァルハラの外装は強固で、多少の攻撃ではびくともしない
故に自らが赴くというものである、しかしレザードの目的はそれだけではなかった。
「この目で確かめてみたいと思いましてね…“人の身”でありながら“神”を名乗る三賢人の姿を……」
眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべながら答えると、スカリエッティは頷き了承するが、
一つだけ条件があるとスカリエッティは述べる。
「ヴァルハラを…一切の破片も残さず破壊してくれ」
「ドゥーエに対する手向け……という訳ですか」
レザードの言葉にスカリエッティは小さく頷くと、レザードは不敵な笑みを浮かべモニターを消す。
そして黒いマントを靡かせながら振り向き、ヴァルハラへと足を運ぶのであった……
支援
以上です、ドゥーエ、アドニス、エーレン、ガノッサ脱落ってな回です。
なんだかんだ拙い文章で三十話……思えば遠くへ来たものだ……
次はスバル組、エリオ組を予定しています。
それではまた。
152 :
一尉:2009/10/04(日) 11:57:52 ID:gPdoJzgT
満州五輪
GJ!
皆かっこいいです。
154 :
一尉:2009/10/05(月) 08:10:42 ID:T0N3mb4v
浮雲次支援
155 :
5ndatiq:2009/10/05(月) 09:28:34 ID:GW121yLe
Stylishの続きが、投稿されてるみたいな事が、感想板に載ってたんだけど…。
156 :
一尉:2009/10/05(月) 20:44:48 ID:GBhMI19N
鎧屋さん支援
ソースもはっきりしてない情報を鵜呑みにするな
久しぶりの登場です、23:30より投下したいのですがよろしいでしょうか?
今回はヴィヴィオを巡る、高町家とセクター7のトラブルがメインです。
カリムとシャッハは、キャンドルで薄明るく照らされるロマネスク様式に似た装飾の
施された廊下を、身長1メートル弱の小人の修道士の案内で進んでいた。
「ここは…奥の院?」
シャッハが周囲を見回しながら不安そうに言う。
「この場所は法王聖下以外立ち入り禁止では?」
カリムが尋ねると、修道士は頷きながら答えた。
「聖下のご意向です、それ以外はわたくしにも分かりません」
それを最後に黙ったまましばらく歩くと、鎧を思わせる教会騎士団の制服を着た、
弓形のデバイスを持つ上半身女性・下半身蛇の生物と、剣型のデバイスを持つ六つ
腕の生物が門番を努める真紅のカーテンの壁の前で立っている部屋にたどり着く。
「わたくしの案内はここまでです、ここから先は奥の院の使いの者が参ります」
修道士が二人に頭を下げて部屋を出ると、人蛇型生物の門番が空間モニターを開いて
何か操作をする。
するとカーテンが開いた後、重々しい駆動音と共に壁が割れる。
その先にあるのは、ダクトやケーブルが無数に張り巡らされた、同じ教会内とは思え
ないハイテクな設備の数々。
あまりにも異質な光景にカリムとシャッハが息を呑んでいると、通路の奥からセクタ
ー7エージェントを示す黒いスーツを着込んだ、彼女らと同じくらいの身長のバッタを
思わせる大きな目をした、茶褐色の肌色の生物がやって来た。
「カリム・グラシア様とシャッハ・ヌエラ様でございますね」
二人が頷くと、エージェントは付いてくるようジェスチャーで示す。
「では、こちらへどうぞ」
本局ビルNMCCの一角に作られた会議用の広い部屋で、シモンズはJS事件関係者の呼び
出しの状況について報告を受けていた。
「こちらはスプールス、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ両者から承諾は頂き
ました。
準備が整い次第、直ちにミッドチルダへ向かいます」
曇りガラスの間仕切りの向こうでなのは達が食事しているのを横目に、シモンズは報告
に頷いて自分の側の状況をシルに伝えた。
「こっちもOKだ。後は長官及び局長の到着と、第97管理外世界からの報告を待つ」
シモンズがそう言ってモニターを切ると、今度は別の空間モニターが開く。
「こちら第97管理外世界」
そう言ってモニター上に現れたのは、黒いサングラスに黒スーツの五十代後半の白人
男性。
「状況は?」
「実は、“聖王の器”の件で困った事になりまして…」
シモンズの質問に白人エージェントは無表情のまま、“困った事”について報告を
始めた。
「何の前触れもなくいきなり現れてヴィヴィオを連れて行くって、一体どういう
事なんですか!?」
高町士郎が厳しい表情で言うと、桃子も同調して抗議する。
「そうですよ、なのはの大切な娘を一人だけにするなんてとんでもない!」
二人に詰め寄られた黒スーツにサングラスの髭を生やした黒人男性は、両手を
上に挙げながら説明する。
「申し訳ございませんが、これはミッドチルダの国家機密に触れる問題であり、
関係者でないあなた方を同席させる訳にはいかないんですよ」
黒人エージェントの説明に対して士郎がピシャリと反論する。
「ここは管理外世界で我々は日本人だ、あなた方の法を守る義務はこちらには
ありませんな」
士郎に続いて桃子も追い打ちをかけてくる。
「どうしてもヴィヴィオを連れて行くと言うのであれば、なのはをこちらに
呼んで下さい!」
二人の剣幕に黒人エージェントがたじろきかけた時、シモンズと連絡を取って
いた白人エージェントが現れた。
「今、責任者と通信が繋がりましたので、そちらでお話頂けますでしょうか」
エージェントがそう言うと、携帯電話に擬装された次元世界間信端末を士郎に
手渡す。
「もしもし?」
士郎が声をかけると、シモンズの官僚的な声が端末から聞こえてきた。
「初めまして、こちらは元老院議長及び聖王教会法王直属の政府組織、セクター7
エージェントのシーモア・シモンズです」
「初めまして、高町なのはの父の高町士郎です」
互いに形式的な挨拶を済ませると、シモンズは早速本題に入る。
「当方のエージェントからお聞きしましたが、“聖王の器”の身柄を―――」
「あの子は“聖王の器”ではなく、“高町ヴィヴィオ”です」
士郎の指摘に対し、シモンズはヴィヴィオの名前を言い直して話を続ける。
「失礼いたしました。“高町ヴィヴィオ嬢”の身柄をこちらへ引き渡す事を拒否
されているとか?」
シモンズの質問に対して、士郎も負けじと反論する。
「当然でしょう、いきなりやって来てヴィヴィオを連れて行くと言い、説明を
求めたら機密事項のため教えられないと言われて、普通納得できますか!?」
士郎の糾弾に対して、シモンズは突き放すように冷然と回答した。
「申し訳ございませんが、これはミッドチルダの国益、つまり、―――極単位に
及ぶ次元世界の人々の安全に関わる問題―――であり、そちら様の事情は関係
ありません」
シモンズはそこで言葉を切ると、警告の意味を込めてより低い声で言う。
「どうしても拒否するというのであれば、それ相応の手段を取らざるを得ませんが…」
シモンズがそう言うと同時に、二人のエージェントはスーツを開いて拳銃型の
デバイスを示す。
それに対して士郎の目がすっと細められ、シモンズ同様低い声かつゆっくりした
口調で答えた。
「そう言うのであれば、こちらも対抗手段を取るまでです。そちらも、相応の覚悟を
決めて頂きましょうか?」
そう言いながら、裾に収めている寸鉄をそっと手の上に乗せる。
両親の代わりに開店準備をしながら様子を見ていた恭也と美由希も、状況の急変を
見てそれぞれ苦内と棒手裏剣に手をかける。
両者の間で殺気が飛び交い、今にも激突しそうになったその時。
「やめて!」
一触即発の不穏な空気は、少女の突然の叫びにたちまち吹き飛ばされた。
全員が声のした方を振り向くと、ヴィヴィオが息せき切りながら士郎たちのところ
へ駆けて来るところであった。
ヴィヴィオはそのまま士郎の前へ庇うように飛び込むと、エージェントに訴える。
「お願い、一緒に行くから誰も傷付けないで!」
「ヴィヴィオ!?」
「駄目よヴィヴィオ!」
突然の事に士郎は狼狽え、桃子はヴィヴィオの肩に手を掛けてエージェントから
ヴィヴィオを守ろうとする。
「士郎おじさん、桃子おばさんありがとう。でも、私のせいでみんなが争う事になるの
だけは嫌なの」
ヴィヴィオは桃子の手に優しく握り返し、淋しげに微笑みながら言葉を続ける。
「なのはママと戦った時みたいな事はもう絶対に嫌! だからお願い、行かせて!」
ヴィヴィオの切実な叫びに高町家の面々は言葉を失い、エージェントたちもどうした
ものかと考えあぐねていると、凛とした雰囲気の、落ち着いた女性の声がその場を
救った。
「…私が同行しましょう」
「リンディさん?」
美由希がそう言いながら振り向いた先には、買物篭を下げたリンディが入口に立っていた。
「あなたは?」
白人エージェントが尋ねると、リンディは空間モニターを開いて自分の身分証明証を
表示させる。
「時空管理局次元部局執務統括官を務めますリンディ・ハラオウンです。
高町ヴィヴィオの後見人でフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官と、第56機動
部隊司令官クロノ・ハラオウン提督の母でもあります。
わたくしも関係者と考えて頂いて問題はないと思いますが、いかがですか?」
白人エージェントは少し考え込んだ後、口を開いた。
「上と相談しますので、少々お待ち下さい」
報告を受けたシモンズは、こちらに向かっているバナチェクとゲラー長官へ直ちに
連絡を入れる。
長官とバナチェクは少しの間話し合った後、リンディがヴィヴィオの同行者となる
事を了承した。
翠屋手前の通りに停車している黒の1987年式フォード・クラウン・ビクトリアに、
ヴィヴィオとリンディは乗り込もうとしていた。
「リンディさん。ヴィヴィオの事、くれぐれもよろしくお願いします」
見送りに出た士郎が深々と頭を下げると、リンディは頷いて答える。
「分かりました、お孫さんは私が責任を持ってお守りします」
ドアが閉められると、パワーウィンドウが下ろされてヴィヴィオが顔を出す。
「桃子おばさん、また来るからね」
「いつでもいらっしゃい、美味しいお菓子を沢山用意してあげるから」
桃子が答えた後、運転席から白人エージェントがヴィヴィオに声をかけた。
「では、出発します。危険ですので窓を閉めてシートベルトを付けてください」
その言葉に、ヴィヴィオは手を振りながらパワーウィンドウを閉める。
派手なスキール音を立てながら急発進した車が見えなくなると、桃子は不安げな
表情で士郎の方を振り向いて言う。
「本当に大丈夫でしょうか…?」
それに対して、士郎は励ますように笑顔で答えた
「なのはは強く育ってくれた、その娘なんだから心配ないさ」
食事を終え、これからの話についての不安を話し合っていると、シモンズとバナチェク
にゲラー長官、そしてゲンヤ少将にはやて達が入室する。
長官が来た途端、なのは達は一斉に起立して敬礼する、長官はそれに返礼しながら言った。
「ご苦労、楽にしてくれ」
なのは達が席に座ると、ゲラー長官達も空いている席に座る。
「相性がいいのかね?、君たちとは何かと縁があるが…」
苦笑気味にゲラー長官は呟いた後、シモンズが列席の面々に宣言する。
「それでは、JS事件関係者の方々に揃って頂きます」
それと同時に空席の上に次々と空間モニターが名前及び役職名付きで表示される。
聖王教会からカリム達二人。
本局ビルで出動待機状態のティアナとスバル。
クラウディアからはクロノ。
そして、リンディにヴィヴィオ…。
「ママ…」
不安そうなヴィヴィオがモニター映っているのを見た瞬間、なのはは血相を変えて席
を立ち、シモンズに詰め寄る。
「あ、あなた方はヴィヴィオまで巻き込むつもりですか!?」
なのはの抗議に対し、シモンズはそれまで通り何ら臆する事なく答えた。
「“JS事件関係者”に聞いて頂かねばならない事柄…と、申し上げた筈です。
特にあの子は“聖王の器”という事件の中核部分ですから、尚の事こちらの話を聞いて
頂かねばなりません」
言葉に詰まったなのはは怒りも露わにシモンズの顔を睨み付ける、シモンズの方は全く
意にも介さぬ冷厳な表情で、なのはを見返していた。
「高町一佐、まずは彼らの話を聞こう」
ゲラー長官が諭すように言い、心配したヴィータが腕を掴むと、なのはは席に戻る、
だが、怒りに燃える目はずっとシモンズを睨み付けていた。
今回はここまでで終了です。
次で“銀の魔神”の全容を見せます。
お楽しみに!
今回のオリキャラの元ネタ
シル:シル「スピーシーズ 種の起源」
身長1メートル弱の小人の修道士:ウィロー「ウィロー」
ひげを生やした黒人エージェント:J「メン・イン・ブラック」
五十代前半の白人エージェント:K「メン・イン・ブラック」
弓形のデバイスを持つ上半身女性・下半身蛇の生物:メドゥーサ「タイタンの戦い」
剣型のデバイスを持つ六つ腕の生物:女神カーリー「シンドバット 黄金の航海」
バッタを思わせる大きな目をした、茶褐色の肌色の生物:グール「シンドバット 虎の目大冒険」
GJ!
あーーメガトロン様が待ち遠しい!
165 :
一尉:2009/10/06(火) 18:28:43 ID:+6rd588q
もっとやれ支援
メガトロンと言うと千葉トロンを真っ先に思い浮かべる俺がいるw
「打ち上げまだ?」
168 :
一尉:2009/10/07(水) 18:06:17 ID:KfIsvjqV
面白い
続きが読めてうれしいです最後に乙です
時間あるので2330時からマクロスなのは第6話投下しようと思いますが、どうでしょうか?
じゃ時間になったので投下しまーす。
マクロスなのは 第6話 『蒼天の魔弾』
地球環境が破壊されている今日この頃。
その森は広大で、自然保護区にでも指定されているのだろうか? この時代にあって人工物がほとんど
見られない。
だが唯一、明らかに人工物とわかる長い線が山から山へと渡っていた。
その線の上に1羽の小鳥が羽根を休めている。しかし何か危険を感じ取ったようだ。それは線から飛び
立つと空中に退避した。直後、小さくキーンッ≠ニいう空気を切り裂く音と共に静かに鉄の箱が通り過
ぎていく。
鳥は「近所迷惑だ!」とでも言いたげにそれに爆撃≠キると、豊かな緑に包まれた安住の地へと飛翔
していった。
(*)
山間部を時速70キロメートルで走る貨物用リニアレールは戦場と化していた。
10両編成の内運転室を含む前方8両はすでにガジェット達に制圧されているが、陸士部隊は9両目を
最終防衛ラインとしてガジェット達を食い止めていた。
ヘリから飛び降りたティアナ達は、上空に展開するガジェットU型を警戒して10両目に着地。なのは達
の支援砲撃でガジェット達が気を取られている隙に10両目の車両の中に滑り込んだ。
「うっ・・・」
ティアナは床を見てまず、顔をしかめた。
そこには寝かされた陸士達の姿があった。全員出血性の外傷があり、痛々しいところを見ると殺傷設定
で戦闘不能にされたらしい。
「あぁ、増援か!」
最前線の9両目から1人の陸士が仲間に援護を頼み、敵の怯んだ隙にこちらへ走って来た。
「我々は第256陸士部隊、第5小隊所属、第1分隊だ。増援に感謝する。」
どこか・・・いや完璧に非魔法文明の意匠を感じさせるバリアジャケット。質量兵器を忌み嫌うティアナは
あまりいい気はしなかったが、ヘルメットの下に見えた彼の顔からは見捨てられていなかったことへの歓
喜の表情がうかがえた。
また、猫の手も借りたい状況らしい。待ちに待った増援が子供であったことすら気にしていない様子だ。
「機動六課、スターズ、ライトニング分隊です。現状は?」
ティアナの簡潔な一言にすぐ彼は対応し、開いたホロディスプレイを指差しながら説明する。
・現在、運転室を含む前方8両は敵に完全制圧されていること。
・撤退しながら構築した9両目の臨時トーチカが最前線であること。
・9両目で切り離すと電力供給が止まり、電磁気で浮いている車体がレールに激突、大破してしまうので
できないこと。
・敵はT型だけではなく、新型(仮にボールと呼ばれている)が混じっており、逆侵攻はできないこと。
説明を聞くうちに、ティアナ達は素直に陸士部隊の手際に感心した。
もし、訓練でガジェットとの戦闘に中途半端に慣れた自分たちが守っていたとしたら、彼ら陸士部隊のよ
うに臨機応変に行動出来ただろうか。
答えは否だ。おそらく力を過信して突撃、その新型の返り討ちにあっただろう。
特に彼らの造った臨時トーチカの完成度はすごいものがあった。
彼らはリニアレールで唯一大型貨物が集中している9両目に初期の頃から陣地構築を計画。形勢不利
とみるとすぐさまトーチカの構築を始め、撤退中に完成させた。
それは狭い入り口から入ってくるガジェット達に、対応不能なほどの十字砲火(クロスファイア)を行える
ように巧みに計算し、構築されていた。
しかし、それだけでは持ちこたえられなかったろう。従来の@、士部隊の装備なら。
現在予算の問題が解決した陸士部隊は、急ピッチで装備の改変が行われている。
新型デバイスにほぼ全員が乗り換えており、そのデバイスは対AMF戦を想定した設計になっている。
現在彼らの撃ち出すのは魔力砲撃や魔力弾ではなく、フルメタルジャケットの徹甲弾≠セ。
「それは最早質量兵器ではないか?」という反対を押しきって採用されたそれは、バルキリーと同じレー
ルガン型発射方式だ。(この方式は最低のCランク魔導士でも使用でき、うってつけだった。)
兵器のノウハウのなかった管理局が参考にしたのは、第97管理外世界のJSSDF(ジャパン・サーファ
ス・セルフ・ディフェンス・フォース。日本国陸上自衛隊。)の装備だった。そのため使用時形態のそれは
、『89式小銃』と『MINIMI(ミニミ)軽機関銃』に酷似していて、事実そう呼ばれる。
機能もほぼ同じで、配備数は89式小銃の方が多い。なぜなら分隊支援火器と呼ばれるMINIMIはいわ
ゆるマシンガンで、稼動を始めたばかりの弾丸製造工場への負担が大きいからだ。
ちなみにティアナ達は知らなかったが、バリアジャケットも同様にJSSDFの装備を元にしている。
ともかく、彼ら陸士の善戦は彼ら自身のたゆまぬ努力と、新装備によって支えられていた。
「佐藤陸曹!弾を持ってこい!もうすぐ弾切れだ!」
前線からの要請。佐藤と呼ばれたさっきの陸士は、床に転がる弾丸ケースを抱えると敵のレーザーの
雨を掻い潜って前線に届けようと走る。
しかし、一瞬停まった所をレーザーが狙い撃ちした。
展開した魔力障壁もAMF下では敵の集中射には耐えられず貫通。胴体はバリアジャケットの分厚い
防弾チョッキがそれを受け止めたが、リンカーコア出力が低いと薄さに比例してバリアジャケットも弱く
なってしまうため、足に着弾したレーザーが貫通してしまった。
しかし、4人の対応は早かった。
足の速いスバルが倒れる彼を抱き止め、負傷者の待つ10両目へ。エリオが彼の仕事を継ぎ、ケース
を届ける。キャロは応急の治療魔法にティアナはその間の援護射撃。
絶妙な連携で敵を退け、友軍である陸士を救う。この勇気ある組織立った行動が陸士達の若すぎる彼
らに対して抱いていた評価を変えた。
「痛ってぇ!」
「・・・あの、大丈夫ですか?」
足を抑える佐藤に、治療魔法をかけるキャロが呼び掛ける。
「・・・ああ、助かった。ありがとう。」
彼は言うと、八角形をした箱を指差す。
「あれが連中の狙っているロストロギアの入った箱だ。なんとか守ってほしい。」
そうして佐藤はスバルに止血帯を絞めて止血してもらうと、足を引きずりながら再び戦線に復帰した。
ティアナは3人に指示を出すと通信を放つ。
「こちらスターズ4。陸士部隊と合流。これより車内のガジェットの掃討に入ります!」
ティアナはクロスミラージュにカートリッジを装弾すると陸士逹の戦列に加わった。
しえん
(*)
10分後
防戦が続くが、全く突入のタイミングが計れなかった。そのもっとも大きな理由はボールの存在だ。
そのボールは後にガジェットV型≠ニ呼ばれ、強力なAMFと帯のような格闘兵装がある。そのためレ
ーザーを撃つだけのT型と違って数段に戦いにくい相手だった。
おそらくスバルの突貫力でも1体倒したら進撃が止まってしまうだろう。
(なんとかリニアレールを停めなきゃ、みんなが・・・)
リニアレールを停められれば、地上からの増援も期待でき、負傷者の搬送もできる。
ティアナはなのはに支援砲撃の要請をして「わかった。」と、返事が得られた。しかし、例の新型ガジェッ
トに苦戦しているらしい。5分待ってもなのは達は来なかった。
すでに後ろには、防衛していた第1分隊12人のうち7人が寝かされている。時折うめき声がし、彼らの負
傷の大きさを物語った。
それに敵のAMFはランカの超AMFと違い魔法が発動できるが、いちいち干渉して体力を削る。まった
くもって忌々しい限りだった。
「畜生!虫≠フ次は機械かぁ!どうして俺はいつももこうなるんだぁ!俺らはフロンティア≠ナも、
ミッドでも、ただ平和に暮らしたいだけなのに!」
ティアナの隣の陸士が叫ぶ。ティアナには彼の真意は理解できなかったが、極度の緊張で発狂しそうな
のだろうと結論づける。
それがさらに「時間がない!」と彼女を焦らせた。すでに陸士達の生命線である弾丸ケースも残り少な
い。
そうして上を見上げると、取っ手があった。それは整備用のハッチで、大柄な陸士と違って小柄な六課
の4人なら上にあがれそうだ。
ちなみに入った時のハッチは場所が悪く、降りられても登れなかった。
ティアナは即座に判断すると、陸士部隊の隊長を探す。
「隊長は俺だ。」
名乗りをあげたのは、さっき虫≠ニかフロンティア≠ニか訳のわからないことを口走っていた人だっ
た。しかし確かに階級章は部隊で最高位の准陸尉だ。それに思ったよりまともな応答をしていた。
ティアナは意を決し、作戦を話した。
「・・・つまり君らが、上に登って直接運転室を制圧すんだな?」
「はい。それまでここをお願いできますか?」
彼は床の弾丸ケースや自身のマガジンを確認する。
「・・・・・・もって、10分だ。それまでに頼む。」
「了解!」
ティアナは援護を頼むと10両目に戻り、弾丸ケース運びに勤しむスバル、陸士達に治療魔法を行使し
続けるエリオとキャロに指示を出す。
「スバル、このハッチを吹き飛ばして。エリオとキャロも行ける?」
「「はい!」」
2人の元気のよい返事に、破砕音が混じる。
スバルのリボルバーナックルが、上のハッチをロックごと吹き飛ばしたのだ。そこからのぞく青い空。
ティアナは頭を慎重に出す。ガジェットU型はほとんど掃討されたはずだが油断はできない。
果たして打ちもらしが1機飛んでいた。
ティアナはそれを対AMF炸裂弾1発で撃破すると外に躍り出る。暴力的な風が吹き荒れているが前に
進めない程ではない。
そして4人全員の集合を確認するとすぐさま出発した。
上にいても聞こえるタタタッ≠ニいう三点射のスタッカート。それが聞こえている間は、彼ら陸士達の
生存の証だ。
ガジェットも上がって来れないらしく、順調に行軍は続く。
余談だがこの時キャロが鳥のフンに滑って谷底に落ちそうになるというハプニングがあったが、その他
には問題なく、運転室まであと2両に迫っていた。
(*)
しかし、漆黒の邪悪なる翼はすぐそこまで迫っていた。しかし4人にそれに対する効果的な対処法はな
い。
(*)
突然山肌から出てきたのは例の新型空戦ガジェットらしかった。それはアルトがいれば、すぐに統合戦
争で使われた統合軍無人偵察攻撃機「QF2200 ゴースト」だと看破しただろう。
このゴーストは未確認情報だが、統合戦争末期に当時の先行試作人型可変戦闘機、VF−0『フェニッ
クス』のブースターパックとして無理やり装備されたことがあるという。
しかし装備は当時のものより遥かにグレードアップしている。ミサイル数発、12.7mm機銃1挺だった武
装はマイクロミサイルシステムの進歩によって装弾数が数倍にはね上がり、機銃は魔力素粒子ビーム
機銃に換装されている。更に機体下部には20mm3連装ガンポッドが追加装備されていた。
また、運用当時以上の高機動で長時間の飛行を維持していることから推進系もジェットエンジンからバ
ルキリーと同種の熱核タービンに換装されているようだった。
無論そんな考察はティアナ達には行えなかったし、彼女達はガジェットの数倍は大きいその機体に圧倒
されて声もあげられない。
そのゴーストは、マイクロミサイルを乱射すると即座に退避した。
置き土産たるミサイルは、直後到着したなのはの砲撃と、ティアナのとっさの迎撃が食い止める。しかし
、ワンテンポ遅れてやってきたミサイル1発は運悪く撃墜出来ず、4人の足下に着弾した。
恐らく殺傷設定だったミサイルだが、デバイスの緊急展開したシールド(シールド型PPBと魔力障壁)が
破片を防ぐ。しかし、爆発の衝撃までは殺しきれなかった。
結果として着弾地点からリニアレールの前方にティアナ。後方にスバル。そしてエリオとキャロは谷底へ
落ちていった。
ティアナはすぐに立って対応をしようと手を床に付いた。瞬間、彼女を優に越える大きさの影が覆う。
ゴーストだ。おそらくトドメをさしに来たのだろう。迎撃しようにも手の内にクロスミラージュがない。どうや
らさっきの衝撃で落としたらしく、よく見るとゴーストを隔てた車両の上に転がっていた。
視界の端にスバルの姿が写る。彼女は自分の元に駆けつけようと急いでいるが、穴から出てきたガジェ
ットV型に阻まれ間に合いそうもない。
自分の名を叫ぶスバルの悲痛な声が聞こえる。その間にゴーストのセンサーがティアナをロック。その
重たい3砲身の銃口がこちらを向き、回転を始める。
デバイスのない今、殺傷設定の攻撃を受ければ、おそらく即死。彼女の体はバラバラになり、原型が何
かすらわからないだろう。
(・・・痛くなければいいな)
ティアナはそう思い、瞼を閉じた。
しかしそこで彼女はあり得ないものを見た。
大好きだった兄と誰かが肩を取り合って笑っている。あれは─────
(アルト先輩・・・?)
再び瞼を開けると、目の前のゴーストが真横からハンマーで殴られたようにひしゃけている。その打点
とおぼしき場所には見覚えある青白い尾を引いていた。
『(大丈夫かティアナ!?)』
同時に念話が届き、ひしゃけてバランスを崩していたゴーストを純白の機体が殴り飛ばす。
ティアナはしばらく惚けたようにその機体を見つめていると、やっと何が起きたかを理解した。
『(は・・・はい!)』
やっとの思いで返事をするとVF−25は安心したようにファイター形態に可変。
アルトは『(あの機体には気をつけろ。)』と言い残し飛び去った。おそらくなのは達の支援に行ったのだ
ろう。
ティアナは救援に来たスバルが彼女の肩に触れるまで、その後ろ姿を見つめていた。
(*)
そのガジェットは手強かった。
まず機動が読めない。敵はなんらかの慣性制動装置と多数のスラスターを併用して、無人機最大の強
みである機体の耐G性能の限界まで引き出し、大気圏内にもかかわらずほぼ直角の回避運動を行う。
ちなみにこの武装、スラスターを含むオーバーテクノロジー系列の慣性制動システム、そして反応エン
ジンは元の設計にはなかったものであり、スカリエッティの改良の成果だった。
今回のデバイスの改良で多数のOT・OTMを装備したフェイトは、彼ら相手にほぼ互角の戦いを繰り広
げていた。
しかし5対1の戦力差は埋めがたく、なのはが支援砲撃をしなければ、彼女は1分と持たないだろう。
ティアナの砲撃要請を受けていたなのははそのため抜けれず、どうにもならない気持ちにイライラして
いた。
しかし、混戦の中1機のゴーストがリニアレールに向かったときはさすがに対応した。
フェイトは1分持つだろうが、あの4人では10秒持つかどうか・・・・・・
予想どうりリニアレールを襲ったゴーストのミサイル迎撃を支援する。
だが、彼女はここまでしかできなかった。
いつの間にかフェイトと交戦していた4機のうち3機が自分を包囲。徐々に範囲を狭めつつあったからだ
。
スケジュールの関係でまだ大規模なOT・OTM改装の進んでいないレイジングハートには、フェイトやゴ
ーストのような超高速の戦闘機動を行えなかった。また能力限定リミッターがかかっていることも彼女達
の足を引っ張った。
ゴーストから伸びる光の矢。受け止める魔力障壁が不自然に歪んだ。
(これは魔力レーザー? いや、実体弾みたいだね。)
正体を見切ったなのははシールド型PPB(ピンポイントバリア)に切り替える。連続的で強力な物理攻
撃に対して魔力障壁はあまりに脆かった。
なのははカートリッジを2発ロードするとレイジングハートを胸に抱き、突撃体勢をとる。
「レイジングハート!」
自らの呼びかけに、レイジングハート本体の赤い球がわかったように点滅する。そして時を置かず杖の
後方に魔力球が出現、瞬時に自爆して突発的な魔力爆発が起こった。
なのははそれにバインドを掛け、四方に広がろうとする爆圧を後ろに集束させた。それによってSランク
時のストライクフレームに匹敵する莫大な推進力を得たなのははゴーストに突撃する。
これまでの戦い方からなのはが間接攻撃しかできないと認識していたゴーストは、彼女の突然の特攻
に対応が遅れる。
バルキリーのピンポイントバリアパンチの要領でPPBをレイジングハート先端部に集中、ゴーストにそ
れは直撃した。
結果、AMFもPPBSもないゴーストをそれはいとも容易く貫き、続くゼロ距離砲撃によって10メートル
近い巨大な黒鳥を急速に金属部品へと還元した。
しかし、残り2機がカナード翼と三次元推力偏向ノズルを上向き最大角にし、機首を軸に急旋回。おそら
く動きの遅くなったなのはを機銃弾で一気に撃破する腹づもりなのだろう。
なのはは2方向からの同時攻撃には通常バリアでは対応できないと判断。カートリッジのロックをフリー
にしてレイジングハートに命令する。
「リパーシブシールド最大!」
「Alright.」
1週間前、ランカのデバイスと一緒にレイジングハートにかろうじて装備されたOTである薄緑色の全方
位バリアは即座に展開され、機銃弾を容易く弾く。しかし、それと同時にカートリッジが2秒に1発。湯水
のように消費されていった。
元々マクロスフロンティア船団でもバトルフロンティアの大型反応炉を使って無理やり発生させるシール
ドだ。被弾しながらのエネルギー消費は半端ではなかった。
加えてベルカ式カートリッジシステムのカートリッジは、決して魔力の電池のような物ではない。
例えば、リンカーコア出力がBの魔導士がカートリッジを大量に用いれば、なのはクラスの砲撃が放て
るだろうか?
実はそれは出来ない。
それを行えば、魔法を行使する際に発生するフィードバックに魔力ジェネレーターたるリンカーコアが耐
えられないからだ。
これは奇しくも、シャーリーの事故によって証明されている。まだ試作されて間もなく、ノウハウのなかっ
たベルカ式カートリッジシステムは彼女の絶好の研究課題だった。
しかし、無知による大量消費によって彼女のリンカーコアは田所の説明通り8割も小さくなってしまった
のだ。
つまり、ベルカ式カートリッジシステムは有効な手段だが、使用法を誤ると大変な傷痕を残すのだ。
なのははリンカーコア出力がS+のためリンカーコアはこの連続消費に耐えうるが、そのフィードバック
は想像を絶する痛みに還元されて彼女の端正な顔を苦悶の表情に歪ませた。
しかし彼女は朦朧とする意識の中、視界の端にキラリと光る物を捉えた。
「鳥・・・?」
大きく翼を広げたそれは周囲に大量の魔力球を生成、その魔力球は青白い尾を引いて攻撃に夢中の
ゴースト達をぶっ叩いた。
(*)
「間にあったか・・・」
アルトは呟く。
VF−25にはOT『アクティブ・ステルス・システム』の最新バージョンが搭載されており、『隠密接近すれ
ばゴーストのセンサーには探知できないだろう。』と思い試したが、予想どうりの成果をあげてくれた。
アルトは落ちていくゴースト達を見送る。1機は空中分解を起こしてバラバラになっていった。
「大丈夫!?」
親友の危機に、急いで自らに残った1機のゴーストを撃破し、急行してきたフェイトがなのはに問う。
「私は大丈夫・・・・・・それより4人の支援を。」
なのはは山の向こう側に行ってしまったリニアレールの方向を見る。
「うん、わかった。アルト君、なのはをお願い。」
そう言い残し、フェイトはリニアレールへと飛翔していった。
アルトはフェイトを見送ると、毅然と振る舞うなのはを流し見る。
無傷のようだが、かなり無理をしていることがうかがえた。足首に浮かび上がる桜色の羽も小さくなり、
点滅している。
アルトはホバリングするVF−25のキャノピーを開き、エンジン音に負けないぐらい大きな声で呼び掛け
る。
「キツいならなら無理するな!乗れ。」
アルトの舞台で鍛えられたよく通る声に、なのはは微笑みを返す。しかし、突然浮力を失ったように倒れ
ながら半回転し、そのまま頭を下にして自由落下を始めた。
「おいっ・・・」
アルトは慌ててガウォークの腕を展開し、バルキリーの装甲に頭を打たないよう、慎重に彼女を受け止
めた。
「・・・ごめんね・・・カッコ悪いところ、見られちゃったな」
なのははそこに座り込むと、笑顔でアルトに言う。しかし、その笑顔とは対照的に息が上がっている。や
はり相当な無理をしていたらしい。
「・・・・・・大丈夫だ。フェイトは山で隠れて見えなかっただろうし、俺はあいつら─────ゴーストに撃
墜される奴を何人も見てきた。だから初見で撃墜して、尚生きてるお前をカッコ悪いとは思わん。」
アルトは励ますつもりで言ったのだが、当のなのははクスクス笑っている。
「・・・何がおかしい?」
意味がわからず問うアルトに、なのはは暖かい目をして答える。
「いや、優しいんだね。アルトくん≠ヘ。」
アルトは予想外の答えに顔を真っ赤にして押し黙る。それがまた面白いのか、彼女はまだコロコロ笑っ
ていた。
(*)
その後、この事件─────リニアレール攻防戦は、あっけなく終わる。
はやて達の属する後方指揮・支援分隊『ロングアーチ』の報告によると、いままで記述して来なかったが
キャロの持ち竜である『フリードリヒ』が谷底に落ちる間に主人を助けるため覚醒。
その覚醒したフリードリヒの働きによって運転室のガジェット達を掃討した。
その後スターズ分隊が運転室を制圧して列車を停め、今は合流した第256陸士部隊の本隊と共にガジ
ェットの殲滅戦を行っているそうである。
「─────だってさ。俺達が合流する必要はないな。このまま六課に帰投するが、お前はどうする?」
アルトは後ろに座るなのはに呼び掛ける。
彼女は今、魔力の回復を早めるためにバリアジャケットを解除して、元着ていた服に戻っている。どうやら
訓練の真っ最中に出撃命令が下ったようだ。その服は青白の教導服だった。
「うん、六課までお願い。」
「りょう解。」
くだけた調子で言い、アルトはVF−25の機首を六課に向けると、青空を見渡した。
その時、安心したアルトの耳にけたたましいミサイルアラートが入った。
「畜生!」
アルトは反射的に180度ロールし、スラストレバーを絞る。そしてフレアを発射しつつ下降した。
数発のミサイルがフレアに釣られて無益に爆発する。
後ろから来たミサイルはゴーストの物だ。どうやらまだ生きていて、身を潜めていたらしい。
元の機体もそのリフティングボディの形状にある程度のパッシブ・ステルス性は有していたが、これほど
ではなかった。
となれば最低でもYF−21クラスのアクティブ・ステルスシステムを搭載しているようだった。
それを証明するようにゴーストが1機、雲のカーテンから出てくるが、レーダーに映るその機体は全長1
メートルの鳥程度のレーダー反射しかなかった。
そしてその1機は迷わずこちらを追ってくる。
迎撃しようにもVF−25は今、大量に迫るミサイルの回避に専念しており、ひどく遅い。それは高熱源に
なるアフターバーナー使わず、赤外線探知型ミサイルの探知から逃れるためだったが、それが仇となっ
ていた。
迎撃しようにも、ロールしたため頭部対空レーザーは射角に入れない。また、自慢の高機動で逃げよう
にも、EXギアを着けていないなのはは無事では済まないだろう。ベルトに押さえつけられて肋骨を2,3本
持って≠「かれるかもしれない。
そのため速度も上げられず、ゴーストから見ればこちらはのろくさい的だった。
しえん
(仕方ないか・・・・・・すまん、なのは。)と、スラストレバーを押し出そうとした時だった。
前方の森の中から青白い光を放ったものが自ら目掛けて飛んでくる。しかし反射的に避けようとする手
を彼の奥底に眠る何かが止めた。
果たしてそれはVF−25の機首スレスレを擦過していく。
そしてそれは回避運動という名のダンスを踊るミサイル群を目前に、ベルカ式カートリッジシステムのカ
ートリッジ弾を散布し、花火のように自爆した。それは5〜6発のミサイルを道連れにした。
(あれは・・・対空散布弾か?)
対空散布弾とは、第25未確認世界に存在する対地、対空用の弾種でバルキリーやデストロイド(人型
陸戦兵器)から発射される。内部に多数の子爆弾を内蔵していて、主に敵バルキリーなどの近くで本体
から子爆弾が散布され、敵に当たると炸裂。それに被害を与えるものだ。
同様の砲撃があと2回続き、ミサイルは全て撃墜された。
回避の必要のなくなったアルトは、アフターバーナーを焚いてゴーストに肉薄。ハイマニューバ誘導弾
との連携攻撃にゴーストはあっという間に撃墜された。
「5時の方向、30度下よりアンノウン接近!速度500キロ!」
どうやらフェイズドアレイレーダー(三次元レーダーの一種)の見方と使い方を知っているらしいなのは
からの報告。
アルトは通信で所属を訊くように頼むと、いつ狙撃されてもいいように十分なマニューバをとる。
「こちらは時空管理局本局、機動六課所属のフロンティア1とスターズ1です。そちらのIFF(敵味方識別
信号)が発信されていません。ただちにIFFを起動し、通信に応じて下さい。」
その呼び掛けに対する返事は一度で来た。
『ごめんね、まだIFFもらってなかったからさ。・・・それにしてもかわいい声だね。今度お茶でもどうだい
? いい店知ってるんだ。』
なのはは顔を真っ赤にして「ちゃ、茶化さないで下さい!」と怒っていたが、アルトはそれが誰か一瞬で
わかった。しかし到底信じられなかった。
『つれないなぁ・・・わかった。それらしいのがあるから送るよ。そっちの姫≠ノなら、わかるはずだ。』
なのはは「姫?」と首をひねっていたが、アルトの疑心は確信に変わり、IFFによってそれは証明された。
そのIFFはフォールド発信式でこの世界には受信する技術はない。しかし、VF−25はそれを受信した。
多目的ディスプレイに表示される機種、そこは『VF−25G』となっており、所属は『第55次超長距離移
民船団マクロス・フロンティア SMS所属 スカル小隊 スカル2』と認識していた。
前方を見ると、青に塗装された機体。VF−1・・・いや、もっと大型の統合戦争で使われたVF−0『フェ
ニックス』によく似た機体がこちらとすれ違うところだった。
その瞬間コックピットに捉えた姿はまごう事なきかつての友人の姿────────
そして送られてくるダメ押しの通信。
『久しぶりだなアルト姫。シェリルとランカちゃんの次はその子か?』
彼の軽口に「お前には言われたくないぜ、ミシェル!!」と返しながらも、アルトは彼の口から再びその
愛称を聞くことができて、心から嬉しいと思った。
次回予告
VF−0『フェニックス』で現れたミハエル・ブラン。
アルトは彼の無事を喜ぶが・・・
そして明かされる、レジアスの計画とは!?
次回マクロスなのは、第7話『計画』
今、アルトの翼に秘められた意味が明かされる・・・・・・
投下終了です!支援に感謝!
流石ですこれからもガンバッテください
185 :
一尉:2009/10/08(木) 12:24:40 ID:fP1cenZW
万分区支援
GJ!
ゴーストガジェットとは魔導師終わりすぎw
鈍足ですが、シレンヤ氏、乙とGJであります!
しかし、はやくもゴーストとは……スパロボα外伝での苦渋を
思い出します……(無人機の分際で…!)
そしてヒロインはなのはさんなのか!?
次のレジアスの計画の全貌を楽しみにしております!
予算不足でも頑張れレジアス!
皆さまお久しぶりです。
他に予約がないようでしたら、10分後くらいからクウガおかえりの13話を投下しようと思います。
それでは投下を開始します。
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眼が眩むほどに美しい太陽の下。
どこまでも続く蒼穹の中、その翼を悠然と羽ばたかせ上へ上へと飛んでいく。
身に纏うは、白装束。背中から生える翼もまた、美しい純白であった。
大空を羽ばたけば羽ばたくほどに、眼下に見える村も小さくなっていく。
清々しい風が身体を吹き抜け、遥か天に輝く太陽の温もりにまどろみすら覚えてしまう。
今この時だけは、全てを忘れて空を羽ばたいていられる気がした。
それ程までにこの美しい空の心地は良く、彼の心を和ませるようだった。
だが、幸せな時間は長くは続かなかった。
太陽へ近づいていくに連れ、だんだんと熱を感じるようになった。
このままではいけない。高度を下げなければ。
そう思った時には、全てが遅かった。
太陽に憧れて、高く高く飛んだ翼は、その熱に熔かされ、見る間に黒く焼け焦げていった。
狼狽する彼の気持ちを知ってか知らずか、ただの燃え糟になり果てた翼は空に溶けて行く。
翼が無くなっては、この大空を羽ばたくことなど出来はしない。
結果として、彼の身体は重力に引かれ急降下して行く事となった。
そして、その先に待っていたのは――泥沼だ。
腐臭が立ち込め、明らかに致死量を超えたガスが周囲を満たしていた。
彼は沼から這い上がろうと足掻いた。
先程まで自分の居場所だった筈の蒼穹へと手を伸ばし、足掻き、もがき苦しむ。
だが、足掻けば足掻くほどに沼の奥底に沈んだ気味の悪い藻が彼の身体を掴み、それは決して離れようとはしない。
やがて彼の身体は完全に泥沼に沈み、どす黒い淀んだ水は咽喉から体内を侵食して行った。
気づけば身体はおろか、指の先まで泥沼に侵され――その身体は最早、人間の物ではなくなっていた。
「そうか……夢、か……」
今この瞬間、全てを理解した。
彼が今まで見ていたもの全てが、夢幻。
蒼穹を翔けるビジョンも、地へと堕ちて行くビジョンも、全てが彼の心を映し出した夢なのだ。
そこまで理解した彼が、周囲を見渡せば、気づけばそこは泥沼では無くなっていた。
どこまでも続く漆黒の暗闇の中、不意に自分の足元を見やれば、そこには死体が横たわっていた。
それも、ただの一体や二体どころの騒ぎではない。
どこまでもどこまでも、彼の周囲にあるものは死体のみ。
身体がひしゃげた死体。四肢を失った死体。骨の髄まで焼き尽くされた死体。
どれも全て、自分に着いてきた仲間たちの死体であった。
「いや、違う」
不意に呟く。
そうだ。断じて違う。こいつらは仲間などではない。
ある者は自分の力に恐れ、またある者は自分の力の恩恵を受けるため。
ここで死んでいる奴らの内、誰一人として孤独な彼の心を理解しようともしなかった。
ただただ己の利益の為だけに彼の後を着いてきた俗物共の、なれの果ての姿。
この死体の山は全て、そんなどうしようもない屑共を殺して出来上がったものだった。
その言葉自体が、彼の孤独さを表していたのかも知れない。
彼は寂しげな表情を浮かべながら、その言葉を呟いた。
ただ一言だけ。「誰も僕を笑顔には出来なかった」、と。
そこで、彼の夢は終わりを告げた。
EPISODE.013 覚醒
海鳴市、私立聖祥大学附属小学校―――08:22 a.m.
朝の日差しが、登校中の生徒たちを照らしていた。
一人、また一人と教室に入ってくる生徒たちは皆楽しそうな表情を浮かべていて。
これが本当に平和と呼ぶに相応しい光景なのだろう、と高町なのはは思った。
心配そうな表情を浮かべながら、なのはは背後に視線を送った。
そこにいるのは、教室の後方、二人きりで佇む少女たちの姿だ。
一人は八神はやて。一人はアリサ・バニングス。
遡ること一日、二人はちょっとした擦れ違いが理由で喧嘩をしてしまった。
アリサの方は前前から若干の憤りを感じている節はあったようだが。
結果として、火に油を注いでしまったのははやてなのである。
故に、話を付けようとはやてが彼女を連れだしたのだ。
なのはが見守る中、睨み合うこと十数秒。
やがて沈黙を引き裂くように、二人が同時に声を発した。
「「あの……昨日はごめん――!」」
関西弁と、標準語。
若干のイントネーションは違うものの、彼女たちが言いかけた言葉は完全に一致していた。
お互いにぱちくりと目を見合わせる。
どうやらお互いに謝ろうと思っていたとは、思いもよらなかったようである。
「ううん、私が悪いんや。アリサちゃんの気持ち考えたら、それくらいわかることやったのに……」
「はやて……」
「だから、ごめんなアリサちゃん。昨日はあんなこと言ってもうて……」
はやてが深々と頭を下げた。
見かねたなのはが、横から割り込む。それに追随する形で、フェイトもやってくる。
「私たちも、ごめんねアリサちゃん。もうこれからはアリサちゃん達をのけものにするような事はしないよ」
「友達だもんね、私たち。だって隠し事されるのって、もし私でも嫌だと思う。だから、ごめんね」
「なのは……フェイト……」
なのはに続いて、フェイトがアリサの目の前で頭を下げる。
対峙するアリサはというと、どうしていいのか解らずに慌てている様子であった。
それもその筈だろう。アリサもまた、はやて達に謝るつもりでいたのだ。
それをこうも一方的に謝られてしまえば、何と返せばいいのか解らなくなる。
混乱するアリサの肩にぽん、と不意に手が置かれた。
すずかだ。
すずかはただ、アリサに微笑みを浮かべるのみであった。
だが、何を言いたいのかはアリサにも解る。素直になればいい、と。そう言いたいのだろう。
思えばすずかはいつもそうだった。彼女もまた、アリサにとっての良き理解者の一人であり、親友だ。
やっぱり皆、本当は仲良くしていたいのだ。
◆
木々が生い茂る雑木林の中、彼は眼を覚ました。
木にもたれ掛っていた身体を起こし、周囲を見渡す。
「ここは……」
見れば首から足の先まで、全てが白で覆われた衣類に身を包んでいた。
この世界の外見年齢で表現するならば、彼の年齢はまだ十代中ごろ程度だろう。
それ程に幼く、子供染みた表情を彼は浮かべていた。
ふらふらと数歩歩く。その姿は、やはり何処か頼りない子供のようにも見えた。
されど、彼が放つ異様なまでの気迫は、明らかに子供のそれとは訳が違っていた。
彼はやがて足を止め、先程まで自分が見ていた夢の内容を思い出す。
どこまでも続く常闇の地獄絵図。その頂点に君臨するのは、鬼のような姿をした自分自信だ。
だが、だからといって何ということはない。
自分を笑顔に出来ないのであれば、そんな奴を生かしていく意義など無い。
進む先がどこまでも闇ならば、その闇の頂点――究極の闇の道を進むのみ。
ただ、それだけだ。
彼が思い起こすのは、黒の戦士。
黄金に輝く四本角。禍々しく突き出た体中の突起。
身体の隅々から自分と同じ臭いを放つ凄まじき戦士。
されど、燃える様な赤の瞳は、確かな人間の意志を感じさせる。
自分と等しい存在でありながら、自分とは何処かが根本的に違う。そんな矛盾を覚える相手だ。
他の雑魚共等では何百人徒党を組んだところで足りはしない。
そうだ。奴が――クウガが居てくれさえすればそれでいいのだ。
リントの戦士クウガとの決着はまだ着いてはいない。
クウガを連想する彼の表情は、次第に緩んでいった。
「でも……まだ足りないね」
浮かべた小さな笑顔を消し去り、彼はぽつりと吐き捨てた。
足りないのだ、決定的に必要な物が。クウガと決着を着けるために、絶対に必要な物が。
目覚めたばかりの王はまだ、万全ではない。それが足りない事に、彼は僅かな苛立ちを覚えた。
何が足りないのか。彼をの表情を不機嫌たらしめているものは何なのか。
その答えは至って簡単なもの。
単純に“力”が足りないのだ。
今のままでも十分、規格外の力を発揮する事は出来る。
だが、それでもまだ足りない。クウガとの決着は、万全のコンディションで着けなければならない。
究極の闇を齎すもの同士の戦いだ。少しの油断が命取りになりかねない。
彼にこんな事を考えさせた相手は、クウガが初めてだ。
もう少しだけ待ってやろう。今度はお互いの全力を以てぶつかり合い、確実に倒して見せる。
それまでは、力を回復するまでは。クウガとの決着はお預けだ。
そんな事を考え、くすりと口元を吊り上げる。
手の中に転がる金色のかけらをぎゅっと握りしめ、彼はゆっくりと歩きだした。
◆
アリサは、自分の背後で優しい微笑みを浮かべるすずかにやれやれとばかりに小さなため息を落とした。
ふっ、と。自嘲気味に笑みを漏らしながら、目の前の三人に視線を向ける。
やがて、少し恥ずかしそうに目線を泳がせつつも、元気よく言った。
「あー、もう……皆してそんなに謝られたら、私が悪者みたいじゃない。いいから顔を上げてよ」
いつも通りのアリサだ。
いつも通りの表情で、いつも通りの声色で。
頭を下げる三人に顔を上げるように促す。
「そりゃあ私たちには魔法とか無関係だし、なのは達の話もわかるわけないわよ。
まるで魔法が使えない私たちはのけものみたいな、私もちょっと腹が立っちゃうこともあったけど」
言葉を発するアリサの声が、だんだんと小さくなっていく。
「でも」や「その……」などと言った言葉で繋いで、場を持たせる。
次第に何が言いたいのか混乱してきたのだろうか。不意にすずかが、名前を呼んだ。
アリサちゃん、と。それだけで、アリサは何もかもが吹っ切れたような気がした
「と、とにかく! 悪いのははやて達だけじゃなくて、その、えっと……もう、私も悪かったわよ!」
それだけ言うと、少しばかり顔を赤らめて眼前のはやて達から視線を反らした。
何だかんだ言いつつも、やはり気恥ずかしいのだろう。
そんなアリサの心境を察したのか、はやて達三人の表情はいつの間にか明るい笑顔に変わっていた。
「ほな、これで仲直り成立や。今まで通り、この事はもう言いっこなしな?」
元気よく切り出すはやてに、一同は揃って大きく頷いた。
気づけば五人は、つい先日までの笑顔を取り戻していた。
また皆で楽しく笑い合える関係。最も信頼し、共に幸せを噛み締められる、そんな関係。
そうだ、今も昔も、何も変わらない。最初からお互いに距離を取る必要など無かったのだ。
何故なら――
「私たちもこれからは出来るだけアリサちゃんたちにも解るように説明するね?」
「そうだ、魔法の事とか、アリサにももっと解るように――」
「あー、もうそれはいいのよ」
不意にフェイトの言葉が、アリサに遮られた。
何事かと、僅かに眉をしかめる。え?と一言聞き返すフェイトに、アリサは答えた。
「どうせ聞いたってわかんないし、あんたたちにはあんたたちの事情があるんでしょ?
“昨日なにがあった”、とか教えてくれるのは嬉しいけど、私だってもう無理に聞き出そうとはしないわよ」
「アリサちゃん……」
「それに、魔法が使えるとか使えないとか関係ないのよね。だって、それ以前に私たちは……」
――友達だから。
少し照れながら、アリサはそう続けた。
そうだ。魔道師だとか、一般人だとか、そんなものはほんの些細な違いでしかない。
その程度の違いがあったからといって、彼女らの関係は何も変わりはしない。
何故なら彼女たちは……友達なのだから。
◆
時間は流れ、学校へと登校する生徒達もそのほとんどが校舎内に入り終えた頃だった。
登校時間を過ぎた校門の前を通る人間は、そのほとんどがただの通行人だ。
学校に見向きもせずに素通りする者もいれば、家族が通っているのか少し気にかけながら歩いて行く者もいる。
そんな中でも、明らかに不自然な男が一人。
不健康そうな紫色の唇。ぼさついた髪の毛の下、目元には隈が出来ていた。
体中に垣間見えるアクセサリはどれも何処かの国の伝統工芸のようにも見える。
ストリート系のファッションを着こなした男は、自分の長い爪を噛みながら、後者を睨んでいた。
その目的はただ一つ――復讐だ。
男は嬉しそうににやりと口元を吊り上げ、ぽつりと呟いた。
「クウガの仲間のリント、殺すよ……100人」
これにて今回は投下終了です。
まず、最近なかなか投下出来なかった事について。
言い訳にしかなりませんが、8月に入ってから毎日何かと忙しく執筆する時間が無かったというのが一番の理由です。
ちょくちょく書き溜めてはいたのですが、完成させるには至らず、最近また少しだけ余裕が出てきたので時間があるうちに
投下した次第であります。
これからもちょくちょく遅れる可能性はありますが、まずクウガは最初に完結させます。
物語も折り返し地点あたりまでやってきましたので、もうしばらくお付き合い頂けると幸いです。
さて今回の話ですが、クウガの変身能力を手に入れ、本格的に未確認との戦いが始動した前々回に引き続き、
あの怪人も復活し最終話へ向けて物語は進みだした感じの内容です。
ここからは伏線の回収をしていくつもりですので、気長にお待ちください。
それでは
うお、久しぶり
乙
ついに復活しましたかダグバ!
彼の内面描写とは意外な切り口からのスタートでしたが、なかなか良かったですね。今後が楽しみです。
しかしアリサのツンデレは相変わらずだなぁwww
199 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/10(土) 12:36:29 ID:BUMocvIL
久々の更新ですねボクもこの話気に入っています。最後までやってくださいね。
200 :
一尉:2009/10/10(土) 15:25:11 ID:dEhAK0sQ
脆く支援
待ってました!乙!
やっぱダグバは利用されるような存在じゃないよなぁ。バックルを取り戻してからのクウガとの決戦、楽しみだー
そしてジャラジ学校襲来……原作の虐殺を再現するのか、それとも雄介がそれを防ぐのか、こちらも気になるところ
4ヶ月ぶりくらいのお久しぶりです。前回問題を起こしてしまい大変申し訳ございませんでした。
途中でやめてしまった八話を改めて投下し直したいと思っているのですがよろしいでしょうか?
可能であれば21時40分くらいから投下させて頂きたいと考えています。
それでは投下させて頂こうと思います。総容量187kb、レス数60を超えてしまいますのでいつものように分割で。
20レス前後で規制くらって代理の方を出した場合は、気付かれた方、お手数ですがよろしくお願いいたします。
別に……別に、目の前の相手を恨んでいるわけじゃない。
違う出会い方をしていれば、進むべき道が違っていたならばこうはならなかったのかもしれない。
けれど、現実に私と彼はこうして出会い、こうして違う道を歩んできた。
この道は交わらないのかもしれない。同じゴールを目指せないのかもしれない。
差し出した手は取ってもらえず、かける言葉も届いてはくれない。
……けれど、それでも―――
知ってしまった。彼の本当の思いを、悲しみを。
聞いてしまった。少女の儚い願いを、奇跡を願うその祈りを。
……だから、私は諦めない。絶対に諦めきれない。
十年前に手に入れた魔法の力は、今歩むと決めたこの道はこんな時の為にあるのだから。
だからカズマ君、私は君を絶対に――――助けてみせる。
いつだって全力で、一秒でも早く不幸な悲しみを終わらせるその為に………
魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed―――始まります。
魔法少女リリカルなのはs.CRY.ed
第8話 なまえをよんで
遠雷が鳴り響く音が耳へと木霊してくる。
天は厚い雲に覆われ、日の光は隠れ、この大地を闇へと染めていた。
高町なのはは荒れ果て、様相を更なる過酷な形状へと変貌を遂げた眼下の大地を見下ろしながら痛ましげな表情を隠しきれてはいなかった。
「……とりあえず、揺れも収まったみたいだし下に降りようか」
自分が抱きかかえている教え子たるスバル・ナカジマへとそう告げながら、けれど言葉とは裏腹に警戒を崩さぬようにしながらなのははゆっくりと下降していく。
「……何か、四年前を思い出しちゃうよね」
重苦しい沈黙を嫌ったのか、下降していく最中、なのはは己が腕で抱きとめているスバルへと苦笑を向けながらそう告げる。
思い出すのは四年前、ミッドチルダ臨海第8空港で起こった火災事件。
あの時に二人は出会い、こうして気づけば同じ道を歩んでいるのだ。
思い返してみても数奇な縁だとなのはは思う。昔を懐かしむなどと言う年寄り染みた感慨を抱くにはまだまだ早すぎる年齢だと自分自身でも自負しているはずなのに、あの時の事をどうして懐かしく鮮明に思い返してしまったのだろうか。
その理由は、恐らく……
「……スバルは本当に大きくなったね。それに……見違えるほどに強くなった」
炎の中で一人取り残され、泣いているだけだった無力な少女。
民間人の一人として救助しただけだったというのに、気づいてみれば彼女は自分などに物好きにも憧れ、目標として目指してくれていた。
嬉しかった。素直に、そう思うことがなのはには出来た。
戦う以外に能の無い、時よりその事に虚しさに似たものを感じることもあったなのはにとって、それでも自分などに憧れ、価値を見出し付いて来てくれたという事は自分のやってきたことにも少なからずの意味は有ったのだと実感することが出来嬉しかった。
だからこそ、教導官としての仕事にも誇りを持ててこれたし、彼女たちを鍛え上げることにも全力を注げてこれた。
……私は、間違ってはいなかった。
恐らく、その実感と安心が自分は欲しかったのだろうなとなのはは思った。
だがそれもなのは側の思いであり、考えに過ぎない。
今のスバルにとって、なのはの言葉は他の何よりも重く、相応しくなど無かった。
それがスバル自身にも痛いほどに分かっていた。
だからこそ―――
「……違い……ます……ッ……あたしは、強くなんて―――」
―――強くなんて、なれてない!
そう涙と共に激しく頭を振るスバルの様相になのはは驚いた。
あまりにもいつものスバルらしくない様子に、これまでの連絡の途絶していた経緯もある。
……何かがあった。彼女を……あの天真爛漫で力強かったスバルを変えてしまうような何かがあったのだ。
愛弟子の変化を確認すると共に、それを即座になのはは悟った。
彼女はてっきりエマージー・マクスフェルの件を引き摺っているのだとばかり思っていたのだが、それだけではどうやらないようだ。
「……スバル、何かあったの?」
まるで四年前のあの時に立ち戻ってしまったような少女を前に、一瞬戸惑いを見せかけたなのはだったが、即座にそれを押さえ込み、意を決してそう尋ねていた。
救わなければならない、そう思ったから。
今、スバル・ナカジマは高町なのはの助けを必要としている。
本当に自分でいいのか、自分で助けられるのかは分からない。
だがスバルは現実として今自分に助けを求めていて、そして目の前には自分しかいない。
この愛弟子もまた、なのはにとっては大切な存在の一人でもある。見捨てるわけになどいかない。
師として、先達として、そして一人の人間としてそう思ったからこそなのははスバルから今思っていることを聞き出し始めた。
微力だろうとも、彼女の迷いを、立ちはだかった目の前の壁を乗り越えられる一助となる為に………
「……そう、そんなことが」
大地の上へと降りてきてスバルから聞き出したこれまでの経緯と事情、吐いてしまったという嘘と犯してしまったという罪、そして後悔と無力の念。
決して軽々しくなのはも扱うことの出来ない辛いスバルの経験には思うところが色々とあった。
―――君島邦彦。
またしても狂騒の渦中の原因ともなった一人の男の死。
それに直接的にスバルまで関わっていたというのは正直に驚きでもある。
自分を無力な罪人、許されざる嘘つきだと責め続けているスバルの姿はなのはにとっても痛々しすぎる。
彼女は背負ってしまったのだ。一人の人間の人生、その末路に選んだ選択の結果を。
今まで自分が教え込んできた価値観とも相反するからこそ、否定することも無碍にすることも出来ず、彼女は苦しんでいる。
スバル・ナカジマを苦しみに縛り付けている原因の一端となっているのは、間違いなく己なのだろうとなのはは自覚した。
自分が教えた価値観や自論が全て過ちだったとは思わない。だが現実として教え、信じ込ませたものによって教え子が苦しんでいる。
ならば彼女を助けるのは、やはり自分の役目であり責任なのだろう。そう改めてなのはは思い直す。
自分はシャマルのように傷を癒してやることも出来なければ、フェイトのように際限も無く惜しみない愛や優しさを与え続けてやることも出来ない。
だから飾った言葉で筋道を通した弁論で彼女を納得させてやれる自信だってない。
出来るのは、心から思った、魂で感じた、裏打ちの無い建前を排した本音だけだ。
……そんな言葉で、この少女を救うことは出来るのだろうか?
自信が無い……そう正直に思った考えをなのはは慌てて打ち払い否定する。
自信が無いでは済まされない。言い訳で逃げることは許されない。
それはスバルを侮辱し、蔑ろにすることも同じだと思ったからこそ、真っ直ぐに彼女と向き合うことをなのはは決めた。
「……それでも、それでもスバルは無力じゃないよ」
そう出来るだけ優しく告げながら、なのははスバルへと手を伸ばしその頭を優しく撫でる。
「……確かに、君島くんは亡くなって、スバルはその命を救えなかった……そう思っているのかもしれない。けどね、それでもスバルが救い、護ったものはちゃんとあるんだよ」
なのはの告げるその言葉に、スバルは目を見開いて驚きながらその言葉の意味を問いかけてくる。
「……あたしが、護れたもの………?」
「うん。スバルはね―――君島くんが生きた証、貫き通した人生を嘘にはさせなかった。彼がこの大地で生き抜いた意味、カズマ君の相棒としてやり遂げた誇りをちゃんと護ったんだよ」
確かに、命に勝るものは無い。
どんな時でも、最後まで諦めず、生き抜く覚悟を持ち続けることこそが、無茶をせずに無事に乗り切ることが大事だと言うのは変わらない。
「……それでも、無茶を通さなきゃならない場面って言うのは確かにある。君島くんにとって、スバルに望みを託したその時がきっとそうだったんだと思う」
酷い矛盾だ、それを承知の上でなのは自身も今までの言葉とは裏腹にやってきた無茶の数々を思い返して改めてそう思う。
けれど、そんな矛盾もまたあることを、受け入れるべき時があることも必要だとは思っていた。
普通であるならばそれは必要ない。けれどどうしようもない異常を前にした時は、そんな無茶を通す覚悟も必要になる。
……出来れば、スバルたちにはそんな時が無い事を祈りながら、だからこそそうならないことを前提とした覚悟を持った強さを持って欲しかった。
死ぬ事を覚悟することより、生き抜くことを覚悟する方がずっと難しい。
けれど難しくとも、教え子たちにはその覚悟を抱き続けて欲しかったのだ。
「……スバルはね、それを聞き届けた。君島くんの願いを、誇りを嘘にしないために護った……ううん、今だって護り続けてるんだよね」
スバル・ナカジマは君島邦彦という男の人生を背負った。
だからこそ、それが途轍もなく重く感じ、苦しんでいるのだろう。
けれど―――
「……でもね、スバル以外にはもう君島くんの貫いた誇りを、人生の意味を背負うことは出来ない。誰かが支えてくれることは出来る……けど、誰かが代わりに背負うことは出来ないの」
自分自身でも酷い事を言っているとは思う。教え子に十字架を背負わせている事とこれは何ら変わらない事なのだろう。
これでは根本的な救いにはならないのかもしれない。だがそれでも……
「それはスバル自身の背負ったものだから……苦しくても、重たくても、背負うならスバルが背負い続けなきゃならない」
……私が代わりに背負ってあげることも出来ない。
直前まで出かけたその言葉をなのはは無理矢理飲み込んだ。
恨まれるのを覚悟で、失望されるのも承知の上で。
それでも、その言葉を言ってしまえばそれは当人たちへの侮辱になると思ったから。
心を刃で殺し、そうして出来るだけ自然に表面上は平静を保ちながらスバルへと告げる。
「……でもね、スバル。背負い続けることはスバルにしか出来ないけど、無理して背負い続ける事だってないのも確かだよ」
君島邦彦は最後まで生き抜いた。
それをスバルは見届け、証明した。本来ならば、それだけでいい。
その時点だけで、恐らく君島だって満足しているはずだ。
だからこそ、それ以上に続ける必要だって無い。
背負い続けるのが辛いなら、憶えていることが辛いなら。
「忘れてしまう事だって逃げじゃない。許されることだと私は思うよ」
或いは、それを本当は君島だって望んでいたのかもしれない。
ここでスバルが背負ってきたものを降ろしてしまっても、誰も彼女を責めはしない。
……いいや、責める者がいたとしても自分がスバルを護る。
不器用にも、こんな形でしか救いを提示してやれないなのはにとってそれが最低限の責任であるとも思っていた。
だから、辛いなら忘れてしまってもいい。簡単なことでは無いし、後味の悪く思うことになってしまっても、いずれは時間の経過がそれすらも救ってくれる。
だからこそ、選ぶのは自由だ。
「どの選択を選んでも、誰もスバルを責めないし、私だって受け入れる。だから選ぶのはスバルの自由だよ」
背負ったものを背負い続けて、信念を通して苦しみもまた背負うか。
背負ったものを降ろし、忘れてしまい安息を得るか。
その選択を残酷かもしれないが、なのははスバルへと提示する。
それが己に救いを求めてきた者へと正面から向き合う最低限の礼儀として。
背負い続けるのか、それとも降ろしてしまうのか。
どちらを選んでもいいとなのはは言った。
どちらを選ぼうとも自分を責める者はいないと彼女は言った。
でもだからこそスバルはその選択に迷う。
……重い、苦しい、そして何よりも辛くて悲しい。
心に思う正直な本音を前にするならば、救いを求めてしまいたいとすら思う。
けれど、そう思う一方で―――
『……それじゃあ、スバルちゃん。本当にありがとう。それから――――ごめんな』
脳裏に過ぎるのは最後の君島の言葉と彼が浮かべていたその笑み。
思い出すたびに胸の内すら切なくなる彼の最後の姿。
なのはは言った。
自分は護ったのだと、護り続けているのだと。
君島邦彦という男が『生きた証』と人生を貫き通したその誇り。
他の誰でもなく、最後にスバルが願いを聞き入れ、そして受け取ったその意味。
………それを、捨てる?
………嫌だ。
そう、スバルは正直に心の底から思う。
『出来ない』ではない『嫌』なのだ。
心の奥底にあるスバルの中で人間としての最も純粋な部分が、彼を恩人と慕っていたその想いが、それを否定させる。
彼の最後の思いを、その姿を忘れてしまうなど、嘘で誤魔化す以上に我慢ならない。
だってそうだろう。そうしてしまえば、あの時流した涙の意味はどうなる?
最後まで己と共にカズマの前で騙し続けた彼の最後の思いは、意地はどうなる?
捨ててしまえば、忘れてしまえば、それこそそれらを嘘にしてしまうことと何が違うというのだ。
だからこそ……嫌だとスバルは思ったのだ。
確かに心の内は重くて苦しく、そして辛くて悲しいままだ。
救われるなら救われたいとやはり思う。
けれど、この嫌だという思いを否定してまで救われようとは……思えない。
どんなに考えても、後悔し続けるのではないかと考え続けても、思えなかった。
……ああ、そういうことなんだとスバル・ナカジマはふと思った。
……あたしは、君島さんを救いたかったんだ。
改めて思うべきことでもないことを、けれど改めて違う意味で思い返す。
なのはは言ってくれた。自分は無力じゃないと。
護り続けているのだと、確かに救ったものがあるのだと。
そして君島にだって言われた言葉を思い出す。
『……そっか。魔法使いか……やっぱ凄いな、スバルちゃんは』
全然凄くなんてないのに、本当に凄い人からそう言われた。
スバル・ナカジマは高町なのはのようになりたかった。
強く、優しく、どんな状況でも、必ず助けてくれる不屈の魔法使いに。
四年前から抱き続け、今まで目指し続けてきたその憧れ。
けれど君島邦彦を死なせてしまったその時に、もう彼女のようにはなれないのだと、そんな資格は失ったのだと無力感と共に絶望した。
だからこそ、信じてきた道を見失い、迷い、原点へと戻りたかった。
そうして、救いという名のやり直しを望み、憧れの原点へと立ち戻り、その憧れの対象を前に気づかされた。
………だからこそ、もう一度、もう一度だけ憧れの彼女へと訊きたかった。
「……なのはさん」
「うん? なにスバル?」
首を傾げそうこちらを促がしてくる憧れの人へとスバルは勇気を胸にその言葉を、願いを問う。
「あたしは……まだ……まだ、なのはさんみたいに―――――なれますか?」
もう一度、あなたを目指しても良いんでしょうかとスバルはなのはへと尋ねる。
スバルのその問いが思ってもみなかったものだったのか、なのはは驚いたように目を見開きながら、やがて納得と共に一度だけ目を閉じ、そして小さく頷いた。
そしてスバルの胸の前に握った拳を向けながら、当然のような表情を浮かべてはっきりと言ってくれた。
「勿論―――なれるよ。……ううん、それどころかスバルに……スバルたちの胸に不屈の想いがあり続ける限り、いくらだって強くなれるよ。私を……私たちを並び超えていくことがいつかきっと出来る」
それをずっと信じて、待っているのだとなのはは言ってくれた。
その言葉が聞けただけで、もう充分だった。
その言葉だけでも支えになる、彼の最後を背負い続けていけるその支えに。
だから、スバルは決めた。
「なのはさん……あたし、背負い続けます」
ハッキリと彼女を真っ直ぐに見ながら迷うことなくスバルは告げた。
背負うと、背負い続けると。
重くとも、苦しくとも、辛くとも、悲しくとも。
それでも背負い続ける。絶対に投げ出したりしない。
高町なのはに憧れ、彼女を目指し続けるものとして。
君島邦彦が言ってくれた賞賛に応えられるだけの、背負うのに相応しい強さを得るために。
もう二度と、嘘に負けないために、逃げない為に。
スバル・ナカジマはその選択を覚悟を持って選び取った。
ハッキリとした強い決意を込めた瞳と言葉で、スバルはなのはにその選択の答を示して見せた。
なのははそれを誇りを持って受け入れた。
改めて思う……やはりこの娘は本当に強くなった、と。
真っ直ぐに、曲がらずに、力強く……そして何よりも優しく。
……本当に、本当にそれを嬉しく思う。
こんな弟子を持つことが出来たこと。こんな弟子から憧れを抱かれ目標として目指し続けられているということ。
責任を持ってそれを重く受け止めながら―――故にこそ、逃げられないしその期待を裏切るような真似はしたくない。
彼女の師に相応しい……憧れを抱かれたに足る不屈のエースとして、自分はまた行動しなければならない。
だからこそ、再び彼と―――
「ラディカルグッドスピードッ! 脚部限定ッ!」
いきなり甲高いそんな叫びが響いてきたのと直後、岩盤を削るような音を上げながらこの場へと近付いてくる震動。
何事かとハッとなってなのはとスバルがその声が聞こえてきた方向へと振り向いた瞬間だった。
地が爆ぜ、旋風が巻き起こる。視認すらも困難極まる速度で瞬間的に発生したその現象の中から飛び出してきたのは一つの影。
「ふぅ〜、何とか地面がマトモな場所まで到着……っと、あれ? なのかさん、それにヒバルも一緒ですか?」
「……クーガーさん?」
驚いたように目を見開きながら、何とかその突如現れた乱入者―――ストレイト・クーガーの名を呼ぶなのは。
最前の乱闘騒ぎ、その終盤に愛車を駆使して駆けつけた彼の存在は気づいていたが、先の大規模な再隆起現象のゴタゴタに流されてどうなってしまったか分からず、その安否を心配していたところだったのだが……
「無事だったんですね……って、水守さんも!?」
「安心してください。気を失ってるだけですよ。いや〜、それにしても流石にこんな荒地を人二人も背負って最速で駆け抜けるのは、さしもの俺でもきつかった」
そう言って疲れたように息を吐きながら、クーガーはその背負い担いでいた二人の人物……気を失っている桐生水守と橘あすかを地面へと丁寧に降ろした。
彼の状況と言動から察するに、先の非常事態の際、彼が二人を救助してくれたと言う事なのだろう。
空を飛べたなのはなら兎も角、あれだけ激しく揺れ動き、震動も凄まじく危険としか言い様のない状況の中で、咄嗟によく人間二人も救助できたものだと驚愕を抱くと共に、素直に感謝してもいた。
「……ありがとうございます。クーガーさん」
「いえ、みのりさんにしてもコイツにしても死なすわけにもいかないですからね。ホーリーとして当然の事をしただけですよ……ただ」
そう一度区切りながら無念そうな表情で口篭るクーガーの姿を見て、なのははどうしたのだろうと思いながらも、直ぐに違和感に気づいた。
クーガーが助けたのは桐生水守と橘あすかの二人。……だが思い返してみれば、あの場にはもう一人、そうなのはも良く知っている人物が居たはずなのだ。
「―――かなみちゃん!?」
何故直ぐに思い出せなかったのか、その信じられないような己の迂闊さに彼女が居ないという事実と共に顔を青褪めさせながら、なのははあの少女の名を叫んでいた。
「……ええ、あの少女のことでしょう? どうにもカズヤの奴の所に駆け寄ろうとあの瞬間に飛び出していったみたいで、二人を助けるのに精一杯で止める事が出来ませんでした」
俺としたことが速さが足りなかった!
そう悔しげに唸るクーガー。その姿は少女を止められなかったことへの事実に対して己の無力さに苛立ちを抱いているかのようでもあった。
しかしクーガーを責めることは出来ないだろう。むしろ彼はあれだけの事態の中でこれだけの事を良くやってくれたと逆に評価されても然るべき。
一時的な感情に流され、事態を悪化させる引鉄の要因ともなってしまった己とは違うとなのはは思っていた。
「……とりあえず、もうちょっとだけ休んで体力を取り戻したら付近を探して―――」
―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
そう続きを言おうとしていたクーガーであったが、直後に響いたその獣の咆哮のような叫び声に掻き消される。
「―――!? この声は………!?」
「―――カズヤ、でしょうね」
なのはが戦慄と共に呟く答を引き継ぐようにクーガーがその名前(間違っているが)を提示する。
今の叫び声……間違いない、どう考えてもあの咆哮を上げているのは彼だ。
“シェルブリット”のカズマ……この事態を引き起こした張本人の片割れ。
あの光の中へと消えていったと思ったのだが、無事だったのだろうか。
驚きと同時にしかし何処かホッとした安堵も抱きながら、けれどそれでもなのはの胸中を埋め尽くすのは不安であり恐怖だ。
先の叫び……自分や劉鳳と戦っていた時と変わらない、否、あれすらも凌駕するような叫び声。
それに恐らくは此処からかなり離れているはずなのに、それでも肌が粟立つように感じずにはいられない凄まじいプレッシャー。
行き場の無い憤怒、際限のない憎悪……そして、餓えた闘争本能。
間違いなく、未だ健在にカズマはそれを発し続けている。
恐らく、頭を冷やすどころか益々前以上に燃え上がり猛り狂っているのだろう。
「……カズマ君」
「……やれやれ、あの馬鹿も世話を焼かしやがって」
おちおち休んでる暇もありはしない、そんな愚痴を零しながらクーガーは座っていた岩から立ち上がる。
そして真っ直ぐ、先の咆哮が聞こえてきた方角を見据えながら呟く。
「……傷を負った獣は自身の痛みしか見えない――まさに今のアイツを表した言葉だな」
本当に世話を焼かしやがる、溜め息と共に呟かれた言葉はしかし同時にある種の覚悟をも同時に抱いていたことは向けられた視線からなのはもまた感じ取っていた。
「すいません、なのかさん。……どうやら、あの馬鹿をほったらかしにしとくことは出来そうにないんで、ちょっくら行って来ます」
かつて僅かな時間とはいえ共に時を過ごし、この大地での生き方と戦う術を教えた者としての責任が、兄貴分としての弟分を放っておけないその意志をクーガーは止められそうになかった。
だからこそ行って止めてこなければならない。これ以上にあの馬鹿が暴れ回ってはそれこそ色々なものが手遅れになりかねない。この大地の未来を憂う者の一人としても、それは看過できるものではなかった。
「ですから本当に悪いんですが、あの少女の捜索はなのかさんが代わりに――」
「――そんな! 危険すぎます!」
やってくれませんか、その頼みの言葉は結びを終えるその前に割って入ってきたスバルの制止の声に打ち消される。
やれやれと言った様子も顕にしながらこちらを引き止めるように前へと立ち塞がるスバルにクーガーは言い聞かすように言葉をかける。
「おいおいヒバル、俺を甘く見るなよ。こう見えて、俺は結構強いぞ。……それにな、これはアイツの元兄貴分としても俺がやらなきゃならない事なんだよ」
「それでも危険です! いくらクーガーさんでも今のあの人を相手にするなんて」
下手をすれば……否、下手をせずともそれは恐らく命懸け。
先の怒れる復讐の獣と化していたカズマ……あの闘争の悪鬼の如き姿を目にしていれば尚更に。
加え、恐らくは劉鳳の力もあったのだろうが挙句の果てにはこの再隆起現象である。
現状では危険度など未知数……どれ程の強さも安全の目安になどなりはしない。
だからこそ、クーガーの言う実力云々はどうであれ、知り合いを危険地帯の中へと行かすなどそれこそ死にに行かせるようなものだ。
君島の件に一区切りをつけ、新たな決意を抱き直したスバル・ナカジマからすればこの必死な引止めもまた尚更のことである。
しかし少女のそんな危惧はどうであれ、クーガーもまたこればかりは譲れない……否、正確には現状に置いても自分しか適任がいないというのも事実なのだ。
シェリスは負傷、瓜核はシェリスを連れて撤退。残存しているホールドの部隊とてこの一大事にそれどころではないというのが現状であり、そもそもどれだけの部隊を引き連れてこようとも今のあの獣は止められない。
マーティン・ジグマール……彼にしてもこの非常時では動けないのも事実であり、そして何より彼はもう戦わせてはならないことを薄々であれどクーガーもまた気付いていた。
だからこそ自分、この瞬間、この場に置いて、彼を止めるだけの力を有し、そして戦えるのは自分だけだ。
損な役回り、命懸けではあるが文句を言ってもいられなければ、ましてや逃げ出すことなど自分自身が絶対に許しはしない。
ならば――
「――クーガーさん、少し良いですか?」
強引な手法でスバルを退かしてでも行く、その覚悟を固めかけていたクーガーへとしかし次に言葉をかけてきたのは彼女ではなく高町なのはの方であった。
両者の口論を見守っていた彼女が口を開いたことに二人の注意もまた同時にそちらへと向く。
「何です? まさか貴女まで俺に行くなって言う心算じゃないですよね?」
甘い……否、優しすぎるお嬢さんたちは同時に頑固すぎて扱いにもまた困る。そんな辟易とした思いを胸中で抱きかけていたクーガーになのははハッキリとした口調で、その言葉を彼へと向かって告げてきた。
「私が、彼を止めに行きます」
ずっと考えていた。そして思ってもいた。
先の一件、取り返しのつかない事態へと発展してしまったこの現状への後悔と、力ばかりで彼へは決して届きはしなかった告げるべき言葉と伝えたい自分の想い。
まだ、まだ間に合うはずだ。否、間に合わせなければならない。この大地で固めた戦うべき目的と意志にかけてそれを諦めることなど断じて出来ない。
だからこそ、クーガーではなく自分が行く。そう決意を込めてクーガーへと彼女は告げたはずであった。
しかし――
「冗談でしょう? 他の誰よりも貴女だけは行かせるわけにはいきませんよ」
――相手から返ってきたのは、思ってもいなかった強く拒絶の意志を込めたその言葉。
クーガーの返答にそれこそ何故だとその表情にも顕にするなのは、そんな彼女にクーガーは今までにない真剣な口調でその理由を告げてきた。
「まぁハッキリ言ってしまえば―――なのかさん、あの馬鹿に貴女の声は届きません」
そう、決して届きはしないだろう。
その確信に近いモノがクーガーにはあった。だからこそ、なのはの為にも、そしてカズマの為にも、今の彼女を行かせてはならないとクーガーは判断したのだ。
「自分でももう気付いたんじゃないんですか? こうして派手にぶつかり合ってみて分かったでしょう。あの馬鹿には、貴女の伸ばす手を取ろうとする意思がない」
彼女の生き様、貫こうとするその意志を否定するわけでは決してない。クーガー個人の価値観から見ても、彼女の思い、その決意は大変美しくて素晴らしい。
素晴らしいのだが……だからこそ、逆に彼女の目指す理想はこの大地には美しすぎる。
綺麗事……あの反発心を形にしたかのような男に、自らの確信以外を決して信じず、省みることの無いあの男には、きっとそうにしか見えないはずだ。
だからこそ届かない。ただ障害と認識し、振り払うように歯牙にもかけずに進み続ける。そういう男なのだ、カズマというあの男は。
相性と言い換えても良いだろう。高町なのはとカズマ。高潔な理想を掲げる悠久の空を翔る翼持つ彼女と、我が道以外に何も無い、最低最悪の大地の上に君臨するしかない獣とでは相容れるべき妥協点からしても絶望的だ。
振り上げる拳、握り固めるソレしか知らないその手は、差し伸ばされる他者の手を掴むなどということはありえない。
このまま彼女を行かせても、その結果は覆るまい。きっと悲惨な結果、明確な拒絶による血みどろの争いの発展へしか道も無いはずだ。
だからこそ、そんなカズマに拒絶される彼女をクーガーは見たくなかった。そうして命懸けで傷つき、無駄にすらなりかねないリスクを彼女には負わせたくなかったのだ。
「貴女はここにいてください。みのりさんも居ます。今は彼女を守って彼女と一緒にいてください」
今、高町なのはがすべき事。その固めた決意、想いを確実に実現させる為に動くとするならば、関わるべきはカズマではなく桐生水守、そうクーガーは考えていた。
女子供の絵空事、稚拙なまでに青臭く、実現性に乏しい理想だが、その美しさに惚れ込み肩入れすることを決めた身としてはここで彼女には耐える事を選んで欲しかった。
危ない橋を渡るのは、命を懸けるのは男の役目。ここが所謂己自身の正念場だとクーガーもまた覚悟を決めての、それは促がしであり願いでもあったのだ。
しかし――
「それでも……それでも、私に行かせて欲しいんです」
引き下がることも無く、ハッキリと目を逸らすことなく言ってくる彼女の言葉。
その告げる言葉、こちらを見据えるしっかりとした視線。それを見て故にこそクーガーは重い溜め息と共に思ってもいた。
やっぱり、そう言ってくると思ってました……と。
握った拳と握手は出来ない。
それは高町なのはから見て今の自分と彼の現状すらも如実に物語る言葉であった。
それを理解していたからこそクーガーもまた自分にそう言ってきたのだろうというのはなのはもまた分かっていた。
実際、その通りだ。四度に渡る交流の内二度の激突。総計しても己が望む想いがカズマへは繋がっていないこと、逆に亀裂を深めてしまったことは身に染みて理解している。
この想いは言葉は、彼へと届きはしない。差し出した手を彼が取ってくれることもない。
分かっている。……そんなことは今更言われなくとも十二分に承知の上だ。
だがそれでも――
「それでも……それでも、私に行かせて欲しいんです」
無理なものは無理。どんなに頑張ろうとも結果的には不可能。そんなものはこの世の中、探してみればごまんとある。この選択肢が限られた大地の上では尚更に。
だがそれでも、結果的に無理な事が明らかだとしてもそれでもそれは諦めることとは違うと思う。
勝手な言い分だが、自身の確信を否定されるからと恐れていては、諦めていれば、それは何もしないこと、何も出来ないことと何ら変わらない。
そんなものは嫌だ。少なくとも、高町なのはにはそんな賢しらに達観するだけの潔さは自らの内には無かった。
それがジグマールの言うところの若さ、或いは青さそのものであったとしても、それでもそれがあるからこその自分だともまたなのはは思っていた。
それこそ、全ての小賢しい修飾を剥ぎ取って言ってしまえばそれは単なる利己的な願望。
そうしたいから、そうする。
恥も外聞すらもかなぐり捨て、結論だけを言ってしまえばそれだ。
カズマを放っておけない。自分の伝えるべき想い、言葉を伝えたい、手を伸ばしたい。
少女の小さな願い、それを叶えると約束した責任と義務感。そして自身の願望。
大局を捨てる責任放棄も同然だ、だがたとえそうだとしても今目の前で自分に助けを求めてくる人がいた。ならばこそ、それを無碍には出来ない。
自分にとっての原初の決意。始まりの願望。思い出したソレらを無視することは今のなのはには出来なかった。
だから止まれない。ストレイト・クーガーがその不器用な優しさでこの身を護ってくれようとしても、自分自身が納得できない。受け入れられない。
助けるのは自分の役目だ。護るのは自分の役割だ。
度し難いほどに傲慢で稚拙な独善さを自らでも自覚していようが、その最後の一線の部分だけはどうしても他人に譲れそうにない。
本当に……諦めが悪くて我が儘だ。
それでもこの手に望んだ魔法の力がある内は、自らで固めたこの信念を打ち崩さない内にはもう譲れない。譲れないのだ。
「……本当に、頑固なお人だ。貴女は」
しかし桐生水守にも通ずるその輝きに魅せられたからこそ、彼女のやり方に肩入れすると決めたのもまた己だとストレイト・クーガーは認めていた。
そして同時に気付いていた。彼女の示すその決意、信念を垣間見てクーガーは気付いてしまったのだ。
……ああ、この人はもう止まらないんだな。
と。
真っ直ぐにひたむきで、そして尊くも綺麗な理想。
それは荒れくれた無法の大地を生きる為に駆け抜けたクーガーが、その余生の終わりに見てみたいと思っていたものにも或いは通ずる。
この大地には似合わない、そしてありえない、土台無理であるはずの小奇麗な絵空事。
しかし、或いはこの大地にさえ生まれていなければ、自分にもまた触れえたかもしれないそんなifの生き方、可能性。
それを示してくれる、命を懸けてまで為そうとしている彼女を見届けたいとクーガーは思った。
そしてだからこそ、自分の手で出来る限り護ってやりたいとも思ったのだ。
……けれど、それはもう無理らしい。
「……籠の中の鳥は、それでも空へと羽ばたくことを憧れる……か」
あの悠久の空を飛ぶための翼を、己の思いだけで縛り付けておくことなど出来ないし、してはならないことくらいは分かっている。
鳥は空へと還る、いや還さなければならないのが正しい生き方だとも思っていたから。
どうやら、本当に鳥籠としての己の役割もお払い箱らしい。
それは本当に……本心から、惜しいとも思った。
出来ればもう少しでいいから、この最高の戦友と共に戦っていければと思っていたのだが……それも、今ここで終わりということらしい。
「……分かりました」
「クーガーさん!?」
やれやれと頷くクーガーにスバルが信じられないように彼の名を叫んだ後、戸惑うように今度はなのはの方へと慌てて視線を向ける。
クーガーが行くのを思い留まってくれた……それはいい。
だが問題は今度はこっち、次はなのはがカズマの元へ行くなどと言い出したことだ。
まったくもってスバルには訳が分からなかった。そして訳が分からずともそれでもハッキリと直感的に察せられたのはやはり高町なのはもまた行かせてはならないということだ。
それは実力云々だとかそんな問題ではない。ただ本能がなのはを行かせることは危険だと、きっと取り返しのつかないことになると予感していたからだ。
「なのはさん!?」
だからこそ行かせない。行かせるわけにはいかない。そんな思いで慌てて彼女まで駆け寄ってそのバリアジャケットの袖を掴むように飛び立つことを踏み止まらせようとする。
「スバル………」
「行かないでください! 置いてかないでください!……なのはさんッ!」
必死に涙まで滲ませた瞳を向けながら、呼び止める為に言葉を張り上げ嫌だ嫌だと首を振る。
傍から見れば、それは我が儘を示して親を引き止めようとする幼子が起こしそうな光景だったが、それでも今のスバルからしてみれば恥も外聞も何一つ関係なかった。
行かせてはならない。行かせたくはない。その思いしか今のスバルの頭の中には存在していなかったのだから。
漸く取り戻した歩むべき道、その導と言って良い存在がスバル・ナカジマにとっての高町なのはだ。
今彼女の手を離してしまえば、それらが永久に失われてしまうのではないか……そんな嫌な予感が後から次々と沸いて来て仕方が無かった。
だからこそ、必死になってスバルはなのはを呼び止めようとする。行かないでと掴むその手を決して離さずに固く握りこむ。
なのはに傍に居て欲しかった。今度は間違わないように自分を導いて欲しかった。
明確な目指す目標として、その背を自分の目の前で示しておいて欲しかった。
だからこそ、酷い我が儘を承知の上で、彼女が困るだろうことが事前に分かりきっていたとしてもそれでもスバルは繋ぎとめたかったのだ。
だからこそ――
「行かないで……お願いします。……行かないで」
君島邦彦の二の舞はもう二度と御免だ。
掌から失いたくない大切なものを……これ以上、取りこぼしたくはなかった。
そうやって必死に訴えてくるスバルへと、しかしなのはは静かに首を振りながら、優しく彼女を抱きしめた。
「……大丈夫。大丈夫だよ、スバル。私は何処にも行かない。スバルを……皆を置いて行ったりなんかしないよ」
それはまるで幼い子供に言いきかせるような優しさを込めた言葉。
不安で堪らなくて、泣きそうな子供を励まそうとするかのような力強い言葉。
「私はいつでも皆と一緒。いつだってどこだって、同じモノを目指し続けてる限り置き去りにすることなんてないよ」
むしろそれを護りたい、護るからこそ戦っている。戦いへと赴くのだ。
それはこの少女にもしっかりと教えたはずの言葉であり、自分自身にすら常に言いきかせてきた誓いでもある。
「仮に……もし仮に、いつか離れ離れになることがあったとしてもだよ……スバルが私を目指して追いかけてきてくれるなら、きっと直ぐに追いついてくれるよ」
いや、追いつくどころかあっという間に追い越してくれる。
自分が築き上げてきたもの、護り抜いてきたものを更に強固なものとして引き継いでくれる。
自分たちが同じ理想を抱き、同じものを信じ、目指し、護っていく限りはいつだって一緒だ。
陳腐な言い方でこの上ないが、それでも心は繋がっているのだ。
「だから大丈夫。きっとまた私は帰ってくるし、私たちはいつかまた出逢える」
それを信じて、今はこの大地の上を、空を、自分の信念で飛ばして欲しいとなのはは願った。
自分の後を継ぎ、進んで行ってくれる次代を担う若き可能性を護る意味合いを込めても。
今はただ迷わずに、彼の元へと行かせて欲しかった。
言うべき言葉、伝えたい想い、差し伸べたい手。
あの明日を省みない獣に、明日を願う自分はそれを示さなければならない。
これは他の誰でもなく、高町なのはがやらねばならないこと。
由詑かなみの願いを叶えると決意した、不屈の魔法使いが果たさなければならないことだったから。
「私は負けない。スバルが憧れてくれたなのはさんは、誰にも負けない。無敵のエースだからね」
この想いが消えないうちは、誰にだって負けはしない。
支えてくれる者たちが力を貸してくれる自分は、いつだって一人じゃないから。
だから――――大丈夫。
そうスバルへと、自らに課す誓いの意味合いも込めてなのはは微笑みと共に告げた。
「……行っちまったな」
「はい………」
クーガーの言葉に頷きを示して答えながら、彼と同じようにスバルはなのはが飛び立っていった空を見上げていた。
行ってしまった高町なのは。見送ったスバル・ナカジマとストレイト・クーガー。
傍から見ればこれは置いてけぼり……しかし、だからといって何も出来ない訳では無い。
「ならヒバル、俺はあのお嬢ちゃんを探しに行ってくる。お前はみのりさんたちの事を任せたぞ」
「はい……クーガーさんもお気をつけて」
ただ突っ立って待っているだけではない。自分たちには自分たちに出来る事を。
彼女が安心して帰ってこられるそれまでに、果たしておく義務があった。
だからこそ、今はその役割を精一杯に果たそう。
自分を信じて、彼女を信じて。
それが今のスバル・ナカジマにとっての戦いの始まりでもあった。
十年前のあの日、私は運命に出会った。
喫茶『翠屋』を経営する高町家の末っ子の次女……それが私の元々の立場だった。
温かな家庭、優しい両親、立派な兄と姉。
不満なんて一つもないくらいに満たされていて、私は確かに幸せだったと胸を張って言う事が出来ると思う。
……けど、
『なのはちゃんにしか出来ない事、きっとあるよ』
……そう、あれは丁度十年前のあの日、アリサちゃんやすずかちゃんと将来の事を話していた時の事だ。
友達が未来へのヴィジョンを持って夢を語る中、私には何も無かった。
温かな家庭、優しい両親、立派な兄と姉、そして大好きな二人の親友。
何もかもが揃っていて、満たされていた。そこに不満なんて何も無かったし、そんなもの抱くこと自体が贅沢な我が儘なのだと思っていた。
私は幸せだった、満たされていた。それは絶対に間違いないこと。
……けれど、満たされていたけれど、私はそれだけだった。
現在が幸せで、満足で、これ以上は何もいらないとは思っていた。
けれど同時に……これがいつまでも続いてくれるのかどうかという漠然とした不安があったのは事実だ。
浮き彫りになったのは学校の授業、将来何になりたいかというありふれた話の時のことだった。
アリサちゃんもすずかちゃんも、形として見える未来……夢を持っている中で、私だけがそれを持っていなかった。夢や未来を語ることが出来なかった。
振り返ってみれば、あの時くらいの年齢ならば今考えてみても私みたいなのは本当は大して珍しいものでもなかったのだろう。
けれど当時の私にとっては、あの時に一人だけ形とした夢や未来を語れなかった私は二人に置いて行かれたかのような思いを正直に抱いてもいた。
夢や未来を語れる二人がこの上もなく立派に、そして眩しく、羨ましく映るのと同時に、一人だけ取り残されたかのような疎外感や寂しさを抱いてしまっていたのは事実だ。
……そう、あの時の私は、“また”独りぼっちを味わっている気分だったのだ。
お父さん……高町士郎がお母さんと『翠屋』を始める前にやっていた仕事……今の私と似たような危険な仕事に就いていたというのを知ったのは随分と後のことだ。
けれど父がその仕事を引退する切っ掛けともなった原因……最後の仕事で負った命を左右するほどの大怪我。
結果的に父は助かった。けれど重傷であったのも事実であり、長い入院生活で家族の誰もがその父の状態に左右されていた。
母は始めたばかりの『翠屋』を経営していくことに忙しく、兄と姉もまたその手伝いや入院している父の世話などで奔走されざるをえなかった。
当時、唯一人幼かった私だけが何も出来ず、独りで時を過ごす他に無かった。
家族の事を恨んだ事は無いし、恨めるような立場でもない。私はお父さんが助かったこと、生きていたことが本当に嬉しかったし、早く元気になって欲しいともいつも願っていた。家族みんなで本当に幸せに過ごせる日が早く来てくれることを待ち望んでいた。
……けれど、本音を言えば独りぼっちにならざるを得なかったあの時期が、例えようも無く寂しく、辛いと思っていたのもまた事実だ。
結果的に、父のその入院から退院までの間に私を除く家族の絆は一致団結という形で高まり、父が復帰した後はより確かなものとなっていた。
当事者から除外された私だけが、一人だけ奇妙な疎外感(無論、勝手な主観的なものに過ぎないが)を感じて、居づらさを感じていたというのも事実だ。
家族の皆は仲良しで……仲が良すぎて、一人だけ幼くてその苦楽を共には出来なかった私だけが仲間外れ。
被害妄想も甚だしいことなのだが、寂しさと共にそれを感じていたのは事実だった。
だから、私だけが何も無いように感じられていたのだ。
お父さんは家族を護って『翠屋』を経営していくことが出来る。
お母さんはそんなお父さんと同じ道を歩みながら、それを支えていくことが出来た。
お兄ちゃんやお姉ちゃんにしても、それぞれ未来への明確な目標へと向かって努力していた。
誰もが眩しく、家族として誇れるくらい立派で……だからこそ尚更、私には何も無いという事実が浮き彫りにされてしまっていた。
私だけが……私だけが家族の中で何も持っていなかったのだ。
そしてあの時、学校で話題に上がった将来の夢について。同い年のアリサちゃんやすずかちゃんさえも夢や未来のヴィジョンを持てる中で、ここでも私は自分だけが何も持っていないという事実を思い知らされた。
『でも、なのはも喫茶翠屋の二代目じゃないの?』
それも選択肢の一つとしては確かにあったのだろう。
手伝いだってあの頃には出来る様になっていたし、ちゃんと将来真剣に修行すればお母さんの後を継ぐことだって出来たとは思う。
……けれど、それは何かが違うのだとどうしても思えてならなかった。
贅沢な悩みと、聞く人が聞けばそれこそ自分勝手な我が儘だと思われるかもしれない。けれど、『翠屋』を継ぐというのは自分の中では何かが違うと納得出来なかったのだ。
……多分、その理由はあの店が元々私の両親のものだったから、なのだと思う。
元々あの『翠屋』はお父さんとお母さん、二人の夢として始めた、二人のものなのだ。
確かに、親の後を継ぐというのは子供の権利であり、時に義務である場合もある。二人が何も持っていない私の為に、選択肢として残してくれようとしていたというのは分かる。
けれど、それでは違うのだ。私が抱いていた悩みに対して何の解決にもならない。
だって、それこそ贅沢で我が儘だと言われてもしょうがないのかもしれないが、それでも私は他人から与えられたものではなく、私が、私だけが持ち誇れる何かが欲しかった、あって欲しかったのだ。
高町士郎や高町桃子の娘である高町なのはという以上に。
ただの少女である高町なのはだけが持っている何か……当時の私は、それが欲しかったのだと思う。
本当に酷い贅沢で、我が儘だ。けれど、あの時の私は―――
―――それでも、私だけに出来る何かを求め続けていた。
そしてあの時、私はユーノ君に、レイジングハートに、そして魔法の力に出会った。
運命、実に陳腐な表現だと笑われるかもしれない……けれど、私にはあの出会いが始まりであり、今の私という存在の全てなんだと思っている。
成り行き、ただ巻き込まれただけ……始まりは偶然だった、確かにそうかもしれない。けれどこの世界に踏み込み、これから先も進み続けていくことを決めたのは私自身の意志だったというのは確かだ。
この手には魔法の……誰かを救えるだけの力がある。
何も持っておらず、憧れに手を伸ばすことすら出来ないほどに臆病で、無力で独りぼっちでしかなかったはずの私に、そんな力があったのだ。
ジュエルシードの回収をユーノ君に頼まれ、手伝っていた最初の頃はそんな独り善がりの使命感に酔っていなかったかと問われれば否定できないだろう。
実際、中途半端なだけのいい加減な覚悟や使命感で臨んでいたせいで街に大きな被害を齎してしまいかなりのショックを受けた。
だから、私は私の持つ力とそれを本当に扱う理由に明確で曲がらない責任感を持つ事を誓い直した。
それを選んだならばこそ、最後まで責任を持って貫き通すのだと………
そうして改めて誓いを建て直し、ジュエルシードを回収し直しはじめた私たちの前に現れたのがフェイトちゃん………私の生涯最高の親友だ。
訳も分からず状況に流されるままに最初は敵対せざるを得なかった私たちだったが、だからこそ私は彼女が何で戦っているのかを知りたかった。
理解は知ろうとすることから始まる……何よりも私は、彼女の事をもっと知って、そして友達になりたかったからだ。
きっと分かり合える、信じ合うことが出来る、それを最後まで信じ続けたからこそ私はあの想いが通ったのだと思った。
彼女が抱え続けていたもの、それを傍で支えてあげられることの出来るようになりたいと思った。何よりも、決して幸せには見えない、辛そうな彼女を助けたかった。
……だからこそ、ジュエルシードを巡るあの事件。私とフェイトちゃんが友達になれた時、彼女を助け彼女の笑顔を見た時に思ったのだ。
これが本当に、私がやりたかったことなのだと。
これが本当に、私が見たかったものなのだと。
私は、私の魔法の力で―――誰かの笑顔を護りたかったのだ。
「……そしてそれは、きっと今も変わらない」
己に言い聞かすように呟く原点回帰の結論。誰かの笑顔を護る為に、悲しみを吹き飛ばす為にこそあるべき魔法の力。
……そう、その為に自分はこの十年を駆け抜けてきたはずだ。そしてその道にだって、後悔は決して抱いてはいない。
そんな悲しみや後悔を抱いたり抱かせたりするような結末は、絶対に訪れさせなどしないと戦ってきたからだ。
だからこそ今だって―――
「……はやてちゃん、聞こえる?」
先の戦いの影響か、次元にすら干渉する人知を超えた規模のエネルギーが発生した名残が強いのかどうにもロングアーチとの通信が取り辛い。
だが今はそんな文句を言っている場合でもない。是が非でも急ぎ部隊長たる八神はやてに取り次いで聞き入れてもらわねばならない用件があった。
『……なのはちゃんか!? どうなっとるんや、こっちはえらい騒ぎになっとる。皆も無事なんか?』
状況把握より先に仲間の安否を気遣うあたりは彼女らしいと言えばらしい、それは彼女の美徳であり優しさでもあるのだろう。
改めてはやての皆を気遣う優しさを実感しながら、しかし今は一刻を争う事態の為に状況を詳しく説明している暇も無い。
ある種の義務を放棄し権利だけを主張しようとしている自分に改めて隊長失格だと自覚を持ちながら、けれどそこにはあえて触れずに本題だけを切り出す。
「皆の方は色々あったけど何とか大丈夫。……はやてちゃん、詳しく説明している暇も無いけど黙って聞き入れて欲しいお願いがあるの」
なのはがこの時はやてに向かって言ったお願い……それはたった一つ。
六課の部隊長である彼女にしか許可を出せない、けれど今は出してもらう必要があるその要請。
即ち―――
「―――リミッター解除を申請します。八神部隊長」
そうはっきりと、なのはは念話先への彼女へと告げた。
「……リミッター解除って……そんなヤバイ状況になっとるんか? 他の皆は……っていうか『HOLY』の人らかっておるんちゃうんか?」
突如発生した次元震、連絡が取れず混乱した情報が錯綜するロングアーチの最中に唐突にかかってきたなのはからの連絡。
情報が断絶し、情報把握もままならず事態の正確な危険度すらも判断できぬ状況でなのはが申請してきたそのリミッター解除要請。
だがはやてには無論の事ながら二つ返事では即座に答えられない。
理由は主な対象だったJS事件が終了していようと未だ六課という部隊にかかっている保有魔導師ランクの制限は変わっていないこと。隊長クラスのリミッター解除申請にはリスクや制約が大きいという現実。
そして何より………
「……なのはちゃん、無茶しようとしてるんやないやろな?」
親友を案ずる八神はやて自身の心境がそれを躊躇わせる。
状況はただでさえ把握不可能な未知の危険な事態、そんな中で突如連絡を漸くに寄こしてきたかと思えばいきなりのリミッター解除要請。
何よりなのはには未だゆりかご戦の影響だって残っているはずだ。
胸を不安で焦がす彼女の直感が、なのはが途方も無い無謀且つ無茶な行いをしようとしているように思えてならなかった。
下手をすればそれこそ八年前……否、それすら上回る最悪の事態にだってなりかねない。
仮に本当に緊急を要する事態だと言えども、なのはに状況を説明してもらえば何か彼女が無茶を行わずに済む打開策だって自分が編み出せるかもしれない。
故にこそ、はやては此処で安易に状況に流されるわけにはいかなかった。
「……どうなんや? 本当にリミッター解除が必要な事態なんやったらその理由を詳しく教えて欲しいんやけど。何も言わずに聞き入れろかってそれこそ流石に無茶や」
少しでもなのはとの会話を引き伸ばしながら、状況を判断する情報を集めて事態を把握する。そうしようと会話の主導権を握る為に更に言葉を紡ごうとしたその時だった。
『……どうしても助けたい人がいるの。叶えてあげなきゃならない願いがあるの。……その為には全力全開で臨まなきゃならない。……この理由じゃ、駄目かな?』
なのはらしいと言えばらしい答なのだろうが、しかしそれだけではどういう状況かは分からない。彼女が助けたい人とは誰であり、叶えたい願いとは何なのか。
それは本当に限界を超えかねない無茶を代償にしてまでなのはが行わねばならないことなのだろうか。
こんな事を考えるのもいけないことだとは分かるが、それは自分にとってなのはを天秤に掛けてまで聞き入れるに足る価値があるのだろうか。
正直に、なのはの身を案じる思いからはやてはそんな風にすら思っていた。
親友として、部隊長として、なのはを自分なりに護る為にはどうすれば良いのか。
葛藤に胸焦がされるはやてへと次になのはがかけてきた言葉はしかし―――
予想通りにそう簡単には要請は通りそうになかった。
仕方が無いことだ、自分の方が無茶な要求ばかりをしているのだからそれではやてを責め様という心算もなければ道理も無い。
最悪の場合はそれこそ……このままやるしかないということになるが、そうなったらそうなっただ。既に覚悟は固めてある。
それでももう一度、敢えてはやてへとなのはが声をかけたのは……
「……ねえ、はやてちゃん。私たちは機動六課だよね?」
抱いた思いとその決意を、他でもない彼女へと聞いて欲しかったからかもしれない。
唐突な何の前フリも無いその問いかけに念話の向こうの彼女が戸惑いを抱いているのはなのはにも直ぐに察せられた。
脈絡の無い質問、そう捉えられても仕方ない。これから自分が言おうとしていることとて決して整合性の取れた弁論でもない。
それでも今は彼女に……夢と決意を分かち合った親友に己の思っている正直な思いを告げたかった。
「………四年前のあの日、私とフェイトちゃんとはやてちゃん……三人で誓い合った事を覚えてる?」
『………後手に回らんで一秒でも早く動いて事態を解決できる、そんな少数精鋭のエキスパート部隊の設立』
はやての返答になのはもまたそうだよと頷いた。
四年前の臨海空港火災で思い知った現実と歯痒さ、そこからその解決の為に動こうと誓い合った約束。
一秒でも早く苦しみ助けを求めている人々を最速で助けられるようにと願った部隊。
此処はミッドチルダではないし、あの夢に多感で真っ直ぐに抱き続けられた少女の時代の幻想は遙かに遠い。
夢の部隊と信じた六課の設立目的もまた、あの誓いが全ての理由ではなかった。
だがそれでも―――
「私の夢は、想いは……あの時からずっと同じままではやてちゃんに預けたままだよ」
そう、誓い合ったあの日の夢も想いも情熱も、色褪せることも陰る事も無く今だって自分たちの夢の部隊―――この機動六課に捧げて共にある。
だからこそ、その預けた夢、重ねた想いの行方を曲げたくはない。裏切ることは出来ない。
「此処は確かにミッドチルダじゃない。私がしようとしていることだって夢を言い訳にした勝手な自己満足なのかもしれない。……許されるなんて、自分でも思っていない」
ミッドチルダと管理局を護る為の機動六課の方向性を別のモノへと向けてしまっていることだって理解はしている。
だがそれでも―――
「―――それでも、今の私には一秒でも早く、助けてあげたい人たちがいるの」
そう、今この瞬間のこの場所で、目の前にソレは存在している。
そしてソレを助ける……大局を見誤っていると言われても仕方の無い我が儘を通そうとしているのは承知の上。
だがそれでも―――もう、立ち止まれない。
決めたのだ、己の在るべき在り方を。
思い出したのだ、本当に見たかったものが、護りたかったものがなんなのかを。
だからその為に―――進む。
ただ前を見て、上を目指し、迷いや後悔を抱いて立ち止まらぬように。
自分が抱いた譲れない大切な信念、それを握り締めて戦うのだと。
戦って……目の前の壁を超える、と。
機動六課の理念と信念。
親友や仲間達と誓い合った夢や希望。
何よりも高町なのはが高町なのはであるための、その不屈の信念に懸けて。
「……私は私の信念を、この大地で貫き通したい」
勝手な我が儘。理解しろなどと間違っても思わなければ、言える立場でもない。
どこまでも身勝手で馬鹿で傲慢な、どうしようもない己の衝動。
「だから……はやてちゃん、ごめんなさい」
詫びる、心から。形だけのものと言われても仕方が無いが、それでも誠意が欠片でも残っていると言うのなら言わないわけにはいかない。
親友の彼女に。そして彼女を通して仲間の皆へ。
今まで自分を護り続けてきてくれた、この厳しくもそれでも優しい世界へと。
訣別としてではなく、決意の度合いと覚悟の程を、その重さの貴さを自分自身でも忘れない為に。
刻み付けた思いと、その思いをこれから全力全開で通す為に。
「だから私は―――」
『―――もうええ』
行くよ、そう告げようとしたのを遮ってはやてが唐突に言ってきた言葉は、震えていた。
ある種の感情の爆発を、必死に耐えて抑えつけようとし……けれど出来そうに無い。
そんな不安定な危うい均衡を、堤防を決壊させるかのようなはやての悲痛な叫びが響く。
「なのはちゃんは勝手や! いつもいつも、自分だけで決めて自分だけで背負う! 私らの心配なんか聞き入れもせんで無茶ばかりする!」
その癖こちらにそれを助けさせてくれない。
酷い身勝手だ、我が儘だ、そして何より……卑怯で悲しいと思う。
そんなに自分たちは頼りないのか、そんなに自分たちに力を貸されるのが嫌なのか。
和を尊び、それを護ろうと戦っているくせに、この親友はいつも孤独な戦いばかりを続ける。
歯痒い……あまりにも歯痒く、そしてそれ以上に悔しい。
「信じて待ち続けるのが、どれだけ辛いか、待たされる立場がどんだけ悔しいか、なのはちゃんは考えたことがあるんか!?」
その身勝手で傲慢な我が儘を、不可能を可能に変え続ける不屈の強さを信じ続ける裏側で、その信じ続けるということ自体にどれ程の心労があるのか分かっているのだろうか。
「なのはちゃんは矛盾しとる! 他人が無茶することを絶対に許さへん癖して自分だけは無茶ばっか通す!……そんなん自分に甘いんと何処が違うんや!?」
だからこそ、許せない。だからこそ、許さない。
もう二度と、八年前のようなあんなことは繰り返させない。
孤独と無茶に彼女を押し潰させるようなことはさせない。
大切な友達を一人で戦わせ続けるなど絶対に―――絶対に、許さない。
それで万が一の事などあってみろ。
それこそ自分は……自分は―――
「……まだ私、なのはちゃんに助けてもらった恩全部、返しきってへん」
そう、八神はやては高町なのはに大きな、とても大きな恩がある。
自分の命と、そしてそれ以上に大切だとも思う最愛の家族たちの命。
フェイトと共に彼女に助けてもらったその恩とも呼ぶことすらも憚られる大きな事実。
その返済は、まだまだ全然出来てない。
それだけではない、先程になのは自身が言ってくれた自分たちの夢だったこの機動六課という部隊。
この夢の設立の為に支えてくれ、尽力してくれた新たな借りだってある。
全部、全部……まだまだ返済はこれからなのだ。
だから……
「……だから、お願いやから私らを置いて何処かになんか行かんといて……お願いや」
心の底から、或いは縋り付いていると笑われても自分でも仕方が無い事を承知の上で、はやてはそれでもなのはを引き止めようとそう嘆願する。
行かせたくなかった。ここで彼女を行かせてしまったら、それこそ―――
―――それこそ、もう二度と彼女は自分たちの元へは戻ってきてくれないのではないだろうか?
心の底から沸き上がってくるこの嫌な予感を肯定してしまいそうになり、それがはやてには耐えられなかった。
部下の前だとか、部隊長の威厳や責任など……それら全てにすら二の次と放り出して。
それでも、はやてはなのはを行かせたくなどなかった。
しかし―――
「―――ごめん、はやてちゃん」
返答は最初から決まっていた。決まっていたからこそ、その言葉を躊躇うことも無く、自分は告げねばならないと思い、そして告げた。
なのはにとってもはやての言い分は否定できない。ぐうの音が出ないほどに己の矛盾を言い当てられたのは否定できない事実だ。
だから、彼女の言い分やそのぶつけてくれた想いは、なのは自身にとっても凄く嬉しいものでもあったのだ。
けれど―――
「……でもね、はやてちゃん。私はいつでも、自分一人だけで戦ってるなんて思ったことはないよ」
八年前までなら、確かにその過ちは事実であり訓戒と刻み自分でも認めている。
けれど再び空に復帰して以降、確かに相変わらず勝手な無茶は通してきた。けれどそれは必要性に迫われた時だけでもあり、ギリギリまで意識して無茶だってセーブしてきた心算だ。
それに何より………
「私はいつだって、皆の想いと一緒に戦ってきたよ」
孤独な空の戦場、確かに見ようによってはそう見られているとしても仕方が無いのかもしれないと思うことはある。
「だけどいつだって、私を空で支え続けてくれたのは、戦いの中で力を貸してくれていたのは皆だったって思ってる」
確かに自分は皆を守る為に戦ってきた。だが同時に、皆の想いが自分を護ってくれていたからこそ自分はここまでやってこれたのだとも思っている。
限界の先の無茶を出す時でも、不屈の思いすら叩きのめされそうになった時でも。
いつだって絶体絶命の正念場で、最後に自分を支えてそれでも勝利に導いてくれたのは―――
「―――他の誰でもなく、私自身が護りたいと想っていた人たちだったって信じてる」
だからこそ、背負った重さ、重ねた想いは、いつだって裏切らずに自分を護り、支え続けてくれていた。
決して一人ではない、その思いが自分へと力を貸し続けてくれていたのだ。
だからこそ、
「私は一人じゃない。いつだって……いつだって、皆と一緒だよ」
そして一緒だからこそ、一人ではないからこそ、誰にも負けない。負けられないのだ。
その想いを、正直な答えを、言葉に乗せてはやてへと送る。
他の誰よりも強く、フェイトと並んで自分を護り支え続けてくれている彼女に。
そして、
「……それにね、私はもう充分以上にはやてちゃんからは恩返ししてもらってるよ。むしろ、私の方がはやてちゃんたちに恩返ししなきゃいけないくらいだとも思ってる」
これは心からの事実。
教導隊入りの時や、自分が大怪我を負ったあの時、それら以外にも多々ある自分にとって人生で最も大変だった支えを必要とした時期。
それらの時の尽くではやてたち八神家には本当に何度も世話になっている。
『闇の書』事件の時の事を色々と引き摺っているのかもしれないが、あの時のアレが仮に彼女の言う恩だったとしてもそれはもうとっくに倍以上の彼女たちの助けや支えによって返済されている。
それに何よりあれは……
「私はあの時、見返りが欲しくてはやてちゃんを助けたわけじゃないよ」
恩だとか借りだとか、そんなものは一切関係ない。
打算や何かが目的として彼女を……彼女たちを助けようとしたわけではない。
「―――助けたかった。ただ私は……誰にも泣いて欲しくなかったから、皆の笑顔が見たかったから、悲しい結末になんてしたくなかったから……ただそれだけで戦っただけだよ」
それこそあの時も、昔からただ自分の我が儘とも言っていい思いを通そうとしただけ。
自分で思い、自分で選んで、そして戦った。
きっと誰かの為という表裏における反対、その自分の為に戦ってもいた。
だからこそ、
「ありがとう、はやてちゃん。本音をぶつけてくれて」
嬉しかった。この思いもまた自分にとって活力となり、支えとなってくれる。
彼女だけではない、自分と関わる大切な人全ての想いが負けない力となってくれる。
ああ、やっぱり私は一人じゃない。
人間の本質がたとえ孤独であったとしても。完全には心を重ね合わすことも出来ず、本当の意味での理解は出来ないのだとしても。
それを求めて、それに焦がれて、それに手を伸ばし続けることは出来る。
個という絶対の孤独の中で、それでも他者に手を伸ばし続けることは、言葉を投げかけ続けることは、
名前を呼び続けることは―――決して、無駄でも間違いでもない。
だからその為に、その信じた想いを偽らないために―――
「―――行って来ます、みんな」
己の護ると決めた全てのモノへと決意という形に変えて高町なのははそう告げた。
そして高町なのはのその返答に八神はやては―――
「レイジングハート! エクシード―――ドライブ!」
『―――Ignition.』
暗雲覆い遠雷の高鳴るロストグラウンドの空、その上空の一点に存在する白き魔導師が高らかにその命令と共に自身の相棒にして愛杖たる一心同体のデバイスを天を突くように突き上げる。
不屈の名を冠し、十年もの長きに渡る日々、共に戦い続けてきた魔法の杖は主のその命に高らかな受諾の意思を表明する。
瞬間、白き魔導師の全身を覆うのは桜色の閃光。
それが収束し、再び飛び出すように現れた彼女―――高町なのはのその姿は一変していた。
今までの通常状態のバリアジャケット―――アグレッサーモードが『長時間の凡庸的活動』に重きを置いたスタイルだとするならば、こちらはそれとは運用も異なる完全な別物。
エクシードモード。
高町なのはの空戦魔導師としての資質を最大限に活用する為に組み上げられたモードである。
高速機動、省魔力の概念をあえて切り捨てた代償としての絶対的な強度を生み出すことにより、彼女自身が最も得意とするスタイルで最大限に戦えるように想定された姿。
彼女にとっての『完全な戦闘用』としての意志の表れを示すものである。
沈黙の果て、八神はやてが通してくれたリミッター解除の要請を示すように、全身に今度こそ全力の魔力が立ち込めてくる。
……だが出来れば、彼を相手にこのモードは使いたくはなかった。
始まりの出会いはなし崩し的な状況での戦闘。話し合う暇も何も無い慌ただしいものだった。
再びの出会い、彼の本質の一部を知り、この大地の厳しい在り方を突きつけられ、けれどそれでもだからこそ、相互理解の歩み寄りの為に彼と戦うことを自身に禁じた。
けれど先程の大乱闘、かなみの願いを叶える為、そして自分自身の思いからもカズマの暴走を止めたかったからとはいえ、不覚にも状況への焦燥と苛立ちに駆られ、結局は自分が事態悪化の引鉄を引く原因とまでなってしまった。
……そして今、
「……だからこそ、もう間違えない」
止めてみせる。怒りと激情に駆られ、破壊に狂い破滅に進もうとしている彼を。
本当に悲しくて辛くて、泣きたい筈なのに泣けない憐れな獣である彼を。
今度こそ、絶対に必ず―――
「―――救ってみせる」
決意を言葉に乗せてなのはは呟く。不退転の意地として、これしか方法が残っていないというのなら。
危険で荒いとんでもない無茶なやり方だとしても。
振り上げた拳の収める場所を彼が知らないというのなら。
溜め込んだ激情と共に、真正面から全力全開で自分がそれを受け止めよう。
もう一度、今度こそ本当に、彼と向き合ってお話をする為に―――
避けられない対決へと向かって、今不屈の魔法使いは高らかに迷い無く、飛び出した。
胸中で、その救うべき彼の名前を呼び続けながら……
失った。
何もかもを失い、何もかもがどうでもよくなった。
ただ悔しくて、憎くて、収まりが付かなくて、
「劉鳳ォォォオオオオオオオオオ! 何処行きやがったァァアアアアアアアア!?」
その相手を叩き潰すことだけを欲して止まない。
何もかもを失い、掌から零れ落し、そして二度とは自分の元へそれらが戻ってくることも無い。
だから―――もう、いらない。
何もいらない、何も欲しない、何一つ必要とはしない。
求めない、手を伸ばさない、掴み取らない……背負わない。
温かさの素晴らしさを一度は身に刻み、それを護ろうと望んだからこそ。
失敗し、現実に打ちのめされ、手元から奪い取られた喪失感には耐え切れない。
君島邦彦も、由詑かなみも。
どちらも彼にとっては代わりなど無い程に掛け替えのない大切なものだったのだ。
……そう、代わりなど無い。あっていいはずもない。
だからこそ、二度とあの温かな幸福は手元へと戻ってくるはずも無く、永久に失われ、痛みと喪失感と屈辱だけが、十字架として残り背負わさせられる。
……そんなものには、耐え切れない。
だから、逃避先が彼には必要だった。
それでも残るチッポケな己の矜持。生まれ出で、この大地で生き抜いたという自分が生きた証の証明。
何も残さず、何も残せず、無意味で無価値に成り下がっただけの存在として己を終えるなどということは耐えられない。
過程にあった、背負い刻んできたこれまでのものを全否定されるということに我慢ならない。
だからこそ、この上もなくみっともなくて見苦しく、そして情けなかろうとも。
それでも、たとえたった一つであろうともまだ自分が存在しても良いという理由がカズマには必要だった。
それが劉鳳―――憎たらしく、気に入らない、絶対に許すなどということが出来るはずもない、己が己である為に打倒せねばならぬ対象。
もう何もかもを耐え切れずに捨て去り、逃げ出す先が最も気に入らない相手というのも皮肉が過ぎるがそれでもいい。
今更だが支援!
少なくとも、あの男ならば壊れない。失われない。またベクトルはどうであれ純粋な渇望として己同様にこちらを求めている。
己という存在を肯定せんが為の己を否定し、またこちらも否定すべき相手。
もうそれでいい。それで構わない。それだけでも我慢する。
だからいなくなるな。かかって来い。逃げるな。
俺から俺という存在意義を奪うな。
だからさっさと出て来い、劉鳳。
テメエだって俺のことが気にいらねえんだろ? だったら―――
―――もう二人だけのサシのタイマンでそれだけをし続けようじゃねえか。
死んだって構わない。命だって或いは……くれてやらんこともない。
だから出て来い、さっさとかかって来い。
俺の全てをテメエとの喧嘩にくれてやる覚悟は出来てるんだ。
だから―――
「……俺から、俺の前から……居なくなってるんじゃねえよッ!!」
俺が俺であるべき理由を。
俺の拳を振り上げる理由を。
俺から、奪うな!
故に求め続ける。
吼え猛り、暴れ狂い、後も先も関係ない衝動の化身と化して。
カズマはただ、ただ劉鳳だけを求め続ける。
それしか、自分には残っていないと思っていたから。
しかし―――
「―――カズマ君!?」
己のチッポケな名が呼ばれ、カズマは反射的に上空を見上げる。
「かな―――ッ!?」
奪われたはずの、失ったはずの、何よりも愛しかったはずのその声が己の名を呼んできた。
奇跡が己に応えてくれたのか、とらしくもないそんな思いで空を見上げ、そして結果的には落胆によりそれすらも裏切られた。
「……また……テメエかよ……ッ!?」
憎々しい、そんな感情すらも生温いほどの激しい感情を込めた苛烈な視線で睨みあげる。叶うのならば、この睨みだけで呪い殺してしまいたいとすら思うほどに。
それ程に見上げた空の上からこちらを見下ろすその女は目障りだった。
―――高町なのは。
またコイツか、そんな鬱陶しさとしつこさと気に入らなさ、そして何よりも許容しがたき感情が相手の存在を激しく否定し、彼を苛立たせる。
いつもいつもいつもいつもいつも!
こちらの目の前に現れ、鬱陶しい綺麗事を押し付けようとしてくる目障りな相手。
何だというのだ、どんな恨みがあってしつこくこちらに付き纏ってくるのか。
何度立ちはだかって、邪魔をすれば満足するのか。
そして何よりも―――
「カズマ君、もうやめ―――」
「―――うるせえッ!!」
何かを言おうとしてくる相手の言葉を、半ば無理矢理に声を張り上げて掻き消す。
もう聞きたくないのだ、こいつの声は。
もう呼ばれたくないのだ、その声で自分の名前を。
「……何で……ッ……何で……テメエの声はそんなに―――」
―――そんなに、かなみの声に似てやがるんだ!
一方的な言いがかりだが、それでもカズマにはそれが耐え切れない。
そちらが身勝手に奪い、もう二度と取り戻すことも出来ないのかと諦めかけていたというのに。
それに何より……もう彼女だけは傷つけたくないから、背負わないと決めたというのに。
忘れてしまいたいのに、捨て去りたいというのに……ッ!
『カズくん、カズくん……カズくんってば、ちゃんと聞いてるの』
愛しかった、護りたかった、心の底から初めてそう思えたはずの相手だったのに。
お前らが身勝手に奪い取りやがったというのに―――ッ!
「今更……ッ……今更、アイツの事をチラつかせてくるんじゃねえよ!」
汚すな、触れるな、玩ぶな。
そいつはお前らが勝手に触れていいものじゃない。
自分だけの、自分だけの大切な宝物だったというのに。
それを―――
「………返せよ」
睨み上げながら、震える声でカズマはその言葉を叩きつける。
かなみを返せ! 君島を返せ! 俺から奪った俺のモノを全部返せよ!
それが出来ないって言うならさっさと―――
「俺の前から……消えてなくなれぇぇぇええええええええええええ!」
瞬間、咆哮と共に虹色の粒子が辺り一体を覆い、周囲の岩石などを次々に分解していく。
そしてそれを形として再構成……その姿は決まっている。
“シェルブリット”
カズマの、カズマだけの、己が唯一持っていて誇れる自慢の拳。
己の全て、信念を結晶化した誓いの証。
この大地を生き抜くための、カズマが得たたった一つの力。
己の全てをコレに込めて、今はただ只管に気に入らない目の前のこの女を。
立ち塞がってくる強固な壁を。
「気にいらねえんだよぉ! テメエはぁぁぁあああああ!」
己の全身全霊の全てを賭けて、叩き潰す!
以上、投下終了。
とりあえず、前回分までを今日は改めて。内容はほんの若干修正入れてますがほぼそのままです。すいません。
この四ヶ月、この話ばっか延々と修正したり書き直したりしていて、スクライドとなのは1~3期を全話見直したりしてたんですが……やはり自分、キャラを掴みきれてませんか。
特になのはは色々コメなど参考にちゃんと”らしく”書こうとしてるんですが、どうにも上手くいってないみたいです。言い訳は見苦しいので書きませんが、感想・批評等も参考にしたいので率直な感想を頂ければありがたいかと。
相変わらず、長ったらしくてすいません。それでは、また。
****
以上、代理投下終了します。
支援し勝手ながら代理させていただきました。トリーズナー氏、おかえりなさい&GJであります!
乙です
氏が気にしてるほど矛盾はしてないと思います
自身を持って書いてください
相変わらずの素晴らしい文章、GJです!
キャラは前からちゃんと把握出来ていると思ってました。むしろ改変しないからこそクロスが難しいのだろうとすら思ってたり。
ただ視点がなのは→スバル→クーガー→なのは→カズマと目まぐるしく変わっていることが気にはなりました。まぁ、せいぜい読み終わった後にあれ?と思った程度ですから大したことではないですが。
とにかくお帰りなさい。またスレを盛り上げてくださることを願っています。
228 :
一尉:2009/10/11(日) 16:23:41 ID:X0Gx7qhC
お切り支援
こんばんは。他に予約の方が居ないようでしたら、20時40分から昨日の続きの投下予約を。
ではボチボチと。
―――傷を負った獣は、自身の痛みしか理解できない。
問答無用、もはやどんな言葉を呼びかけたとしても相手は応えない。
半ば覚悟の上の出来事だったとはいえ、こうも容赦も無くいきなりに殴りかかられれば高町なのはとて動揺する。
……それに何より、悲しかった。
ただ只管に、激情に駆られるだけの怒れる獣でしかない今の目の前の男の姿が。
高町なのはには、悲しかった。
「聞いてカズマ君! 私は―――」
「喋んなっつってんだろうがッ!」
聞く耳持たない、そんな様子も顕に突き込んで来る相手の拳をプロテクションを発動して受け止める。
今までの比ではない圧力を防御壁越しに激突の瞬間に感じる。事前にこうしてリミッター解除をしていなければ、これだけで勝負がつけられていたかもしれない。
今のカズマは本気だ。本気で、こちらを叩き潰してくる心算だ。
問答無用で叩きつけられてくる肌を焼くような激しい怒気と殺気がそれを証明してもいた。
生存本能を嫌が応にも刺激させられる。このまま行けばこちらもまた危ない。
「シェル……ブリットォォォオオオオオオオオオオ!!」
プロテクションを突破しきれないことを苛立ったように、カズマは雄叫びと同時にその鎧纏う強靭にして鋭利な右腕を更に輝かせる。
右腕の甲が開き、背中のプロペラのようなローターを焼き切らんばかりに激しく回転させていく。
防御壁ごと打ち抜く心算、その自分のお株を奪うような無茶苦茶な力技の行使を察したなのはもまた、レイジングハートの先端に魔力を収束させる。
瞬間、拳の先端から放出される黄金の光のエネルギー波を、なのはもギリギリ発動を間に合わせたディバインバスターで迎え撃つ。
激突する黄金と桜色のエネルギーは暗雲で覆われた空すらも焼くほどの輝きを瞬間的に発生させる。
しかし視界を焼く閃光を潜り抜け雄叫びを発しながら、獣の拳が再び襲い掛かる。
なのははありったけのアクセルシューターを形成、物量を伴った面制圧にてその特攻を仕掛けてくる相手を迎え撃つ。
前後左右、あらゆる角度から防ぎきることもかわしきることも不可能と言わんばかりの勢いで魔力弾が次々にカズマへと向かって直撃していく。
リミッターという枷を外した本気の魔力弾は例え非殺傷設定であろうとその威力はこれまでカズマが散々に食らってきたものの比ではない。
……がたとえ威力が増し受けるダメージが今まで以上になろうとも、今の怒れる獣であるカズマにとって痛みなどというものは既に忘我の彼方に置き去ったものでしかない。
たとえこの身が砕け散ろうとも、諸共にこの拳の一撃を叩き込み相手を粉砕する……彼の思考に存在していたのはそれだけだった。
そしてその反逆の信念は桜色の猛攻を問答無用で被弾しながらも強引に突っ切ることで、遂に眼前の標的にまでそれが迫る。
流石にこの猛攻を潜り抜けて来たことはなのはにとっても驚愕に値する事だったのだろう。その一瞬、驚きに見開かれた彼女の表情はその動きすらも止めていた。
その一瞬を逃すことなく、渾身の一撃を輝きを纏ったシェルブリットへと込めながらカズマは相手へと接近すると同時に叩き込む。
流石にそれでもなのはとて呆然としたままそれを直撃する愚だけは犯さない。咄嗟にプロテクションを展開しながら……されど勢いと威力に押し負けて弾き飛ばされる。
それを逃さずに追撃を敢行するカズマ。いくらでも防御できるのならし続けるがいい、最後にはそれごと打ち砕いてぶっ飛ばす、それしか彼の思考の中にはありはしなかった。
前へ前へ前へ! 攻めろ攻めろ攻めろ!
只管に、ただ只管に一心に、視野を狭めて集中、余計なものを視界と思考から全て除外して、相手をぶん殴るというその一点のみに己の全てを注ぎ込む。
今も昔もこれからも、自分はそうありさえすればそれでいい。……ああ、それで良いのだ。
しかし高町なのはとていい様に相手の猛攻ばかりにやられているわけにもいかない。兎にも角にも今の暴走した状態であるこのカズマを止める事、それこそが今の彼女にとっての最優先事項である。
なればこそ、こちらももはや躊躇ってはいられない。迷いは隙を生み、それは致命的なものとなり即敗北に繋がる事を眼前の相手と何度も戦いその身で理解していた。
故に、ここからはこちらも本気、全力全開。こちらもまた持てる全てを以ってしてお相手しよう。
その決意を固めた瞬間、フラッシュムーブを発動。上昇し迫り来る拳をかわす。咆哮を上げながら拳をかわされた事に苛立ったように逃げるなと言った様子で相手も上昇し追いかけてくる。
追ってくる相手へと振り向き、上昇してくるカズマへと向けなのははショートバスターを叩き込む。右腕のシェルブリットでしゃらくさいといった様子で弾きながら、尚も勢いを止めずに接近を続けてくるカズマ。
なのはとてショートバスター程度で今のカズマを如何こう出来るとは最初から思っていない。そのまま続けて再びシューターの弾雨を連続して叩き込んでいく。
しかしそれも温い。そう言うかのように最低限のものだけ弾き飛ばしながら、降りかかってくる魔力弾のことごとくを問答無用の前進にて無視しながらやはり向かってくるカズマに勢いの衰えは無い。
凄まじい、そう正直になのははカズマに対して戦慄と賞賛に近いモノを同時に抱いていた。猪突猛進とてここまで極められ、それが自身の身へと降りかかってくれば流石にゾッともする。
……だがしかし、ここでそれに負けるわけにはいかないのも事実。今のカズマを相手には負けられない、譲れない意地がなのはにもあった。
なのはの次手――チェーンバインド。空中に出現した魔力で編まれた鎖、ユーノ直伝の拘束魔法はカズマへと殺到すると共にその身を雁字搦めに拘束しようとする。
だが……
それすらも物ともしない、自身を縛り付けることなど認めない、許さないと言わんばかりに群がる鎖を強引にカズマは引き千切っていく。
バインドの強度にはこれでも自信があったというのに、凄まじいとしか言い様のない相手の信じ難い馬鹿力には呆れにも近いものを正直、抱かなかったわけでもない。
だがそんなどうでもいいものこそ二の次。引き千切られたとはいえ僅かな間であろうともカズマの動きがそこで一度止まったのも事実。
この好機、逃がすほどに”白い悪魔”とまで畏怖されたエースオブエースは甘くは無い。
「レイジングハート!」
『All right, Strike Flame.』
レイジングハートの穂先に次の瞬間には形成される魔力刃。突撃槍と化したそれの穂先の照準をしっかりと下方のカズマへとブレも無く指し示す。
「A.C.Sドライバーッ!」
『Charge.』
その宣告がなされた瞬間だった。凄まじい加速と魔力による衝撃を付加した槍による突撃が鎖を引き千切った直後のカズマへと迫る。
上から下へ、重力の正しき流れにも従った勢いすらも後押しの味方に加え、シェルブリットで受け止めたカズマを地面へと叩き落すように一気に畳み掛ける。
真正面から押し返すはずの拳が自身ごと地面に向かって押され始めているのをカズマも自覚。同時、抱く屈辱の怒りは今までのものの比ではなく彼を際限なく燃え上がらせる。
「なめ……ん、なぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
こんな奴を相手に己の土俵で負けるわけにはいかない。退いてなどいられない。下がることなど恥辱の極みだ。
そんなものは断じて受け入れられない、それを証明するように押され始め、亀裂が入り始めていたシェルブリットがまるで補強でもされるように再び輝きを増していく。
一気に押し返す……否、そのまま突っ切ってぶっ飛ばす。そう決意しながら拳を前へと押し込もうとしたまさにその瞬間だった。
拮抗を生じさせるレイジングハートよりロードされる三発のカートリッジ。
槍の先端に膨れ上がるように発生する魔力の渦に、カズマの鍛え上げられた戦闘本能が相手が何をしようとしているのかを瞬時に悟る。
しまった、そう思った時には既に遅く。己の認識違いが致命的なミスを犯した事、それを歯噛みする猶予すらカズマには与えられなかった。
……そう、最初から高町なのははこの槍による突撃で勝負を決めようなどとは考えていなかったのだ。
最初からいつだって、勝負を決める切り札は常に磐石のものとして鍛え上げて完成させてきたそれでしかない。
「ブレイク……シューーーートッツ!」
今も昔も高町なのはにとって決して他者に劣らぬ自負を持つその長所。
鍛え抜かれた魔砲の一撃を発射しながら、桜色の閃光がなのはとカズマ、両者を包み込み―――爆発した。
捨て身覚悟の保身無きゼロ距離射撃。
今ではほぼ自身でも禁じ手として封じていたエクセリオンバスターA.C.S。
自らもダメージ覚悟で叩き込んだその一撃は確実にカズマへとダメージを叩き込み、彼を地面まで叩き落した。
だが肩で息をつき、全身に走る激痛に顔を顰めながらも、それでもなのははまだ立ち止まらない。
まだ足りない、彼は立ち上がる。
それが確信として胸にあったからこそ、今度は油断も容赦もせずレイジングハートを眼下のカズマへと向け、新しいカートリッジを叩き込んでのリロード。
全力全開、真っ向からの砲撃で撃ち抜いて……決める!
「ディバィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン」
全弾リロードされたカートリッジを排出し、更に新しいカートリッジをレイジングハートへと勢いよく装填する。
漸くにダメージが抜け切らない様子ではあるが、何とかふらつきながらも立ち上がったカズマへとなのははその瞬間を狙って、膨張する桜色の魔力砲の渦を一気に叩き込む。
「バスタァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
タイミング、そして威力。どちらをとっても防御も回避も不可能。
それどころか現状のカズマでは対応そのものがおぼつかず。
出鱈目と評していい戦艦の砲撃染みた魔砲の光はカズマを包み込み、吹き飛ばした。
視界を焼く桜色の極光。
今まで感じたことも無い程の全身をバラバラに吹き飛ばされたのではと錯覚しかねない衝撃とダメージ。
完膚なきまでの最大出力で撃ち込まれてきた高町なのはの砲撃。
その桜色の魔砲の渦に吹き飛ばされ、地面へと勢いよく叩きつけられながら、手綱を手放しかけた自己の意識を無理矢理に引っ張り込んで維持する。
とはいえ全身に喰らったダメージの影響で指先一つピクリとすら動かせない。思考とて己を保っているとは断言も仕切れない朦朧としたもの。
確実に、もはや戦闘続行が不可能という状態にまで自身が追い込まれた事をカズマは自覚した。
……強い。
先の戦いでも正直に思い、実感したことだがこれはもはや悪魔染みたというレベルですらない。
完全に圧倒され、蹂躙され、そして叩きのめされた。
……負けるのか、そんな弱い考えすら恥も外聞も無く正直に抱きかけ―――
(……冗談じゃ……ッ……ねえ……ッ!!)
―――歯を食い縛ってギリギリで、その弱い考えを無理矢理に振り払う。
負けられない。……そう、負けられないのだ。
もう、絶対に……自分は負けるわけにはいかない。
それがこの女だろうが、劉鳳だろうが、誰であろうが変わりは無い。
当然だ、何故なら―――
(負けるかよ……ッ……負けられるわけ……ねえだろう! なぁ、君島―――ッ!?)
君島邦彦。
その名を背負い、刻み続けている限りは絶対に負けられない。
負けることなど、許されない。
君島はカズマにとって生涯最高で恐らくは最後となる相棒でありダチだ。
彼はチッポケなこんな自分なんかを信じ、その強さに憧れ、希望を抱いて最後には誇りを持って逝ったのだ。
“シェルブリット”のカズマにとって相応しい無二の相棒として………。
ならば、そんな自分がどうして負けられる。膝を屈することが許されるというのだ。
許されるはずが無い、認められるはずが無い。
ここで自分が誰かに負けてしまえば、それはそのままイコールで君島の死すらも敗北と言う形で穢してしまう事になる。
最期まで誇りを持って、確かに勝ち誇って逝ったアイツの、とても満足な打ち立てられた『生きた証』を、一体何処の誰が穢す事が出来るというのだ。
出来るはずが無い、許されていいはずが無い。
だから……だから、絶対に負けられない。負けることは許されない。
“シェルブリット”のカズマである事を選んだ以上。
アイツを置き去りにしてまで進むと決めた道である以上。
死んだって、もはや誰にも負けるわけになどいかないのだ!
だから―――
「………嘘」
気味の悪いデジャヴを体験しているようだ。そう正直に高町なのはは思った。
絶対にもう立ち上がれない、そう自分が確信を抱くほどに非殺傷設定でなければ生命の保障もできかねないレベルと言っていいほどにまで徹底した勢いで自身の全力を叩き込んだはずだ。
だというのに―――
「……負け……ねえ……ッ……負けらん…ねえ……んだよ……ッ!」
ふらつく足取り、辛うじて立っていると言っていいボロボロの状態。
であるにも関わらず、初遭遇によるあの時の戦闘と同じように、再びカズマは立ち上がってきた。
正気の沙汰では無い。命知らずだとか異常なタフさだとかそんなレベルですらない。
あっていいはずがない、否、あってはならない。
駄目だ、もうこれ以上は駄目だ。そうなのははカズマへと思い、叫びだそうとした。
だがソレすら遮るように先んじて、消え入るような掠れた独り言をカズマは呟き続ける。
「……負けるわけには……いかねえ。ここで負けちまったら……俺は―――」
―――ただのクズに戻っちまう。
“シェルブリット”のカズマとしていられなくなる。
駄目だ、それだけは駄目だ。絶対に許容できない。
君島はいない、もう何処にもいない。
背負ったのだ、アイツを。アイツの誇りも信念も、やり遂げた『生きた証』も。
これだけは……もうこれだけは、絶対に誰にも奪わせない。
“カズくん”へは二度と戻れない以上、この生き方を奪われるわけにはいかない。
ただのクズになどもう……戻れない!
だから―――
「負けられねえんだよ! 俺は―――――ッ!?」
決意の咆哮、誓いの雄叫び。
諦めを踏破した反逆の決意。
今この現状で勝てないというのなら、更なる力を欲する。
絶対に負けられない以上、ただ只管に欲し、願い、掴み取る。
力を、勝利を!
その為になら―――
「……いらねえ……もう、何も……いらねえ!」
―――命すら!
その瞬間だった。
カズマの更なる力を欲する、命を代価に差し出すことすら厭わぬ願いに天は応えたのか。
再びの虹色の粒子を発生させ、大地を天を揺るがさんばかりの気合を込めた咆哮を発しながら“シェルブリット”が彼の右腕へと顕現される。
だが駄目だ、これだけでは足りない。
まだ必要、まだまだ力が必要。
そして引っ張ってくるには―――まだまだ力はある。
だから、
「ウォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
貪欲なまでの力を欲する獣の咆哮は、その虹色の輝きを黄金へと変質させ、それだけでなく、
「!? そんなっ!?」
目を見開き驚愕の叫びをなのはが思わず上げてしまったのも無理は無い。
何せ彼女の眼が目撃したのは、今までに見たことの無い信じられぬモノ。
カズマの右腕を覆う“シェルブリット”。それが右腕だけでなくもう一方の左腕にまで現れたからだ。
信じられない光景……更なる形状の変化……否、これは『進化』か。
兎に角、土壇場でカズマは無理矢理に限界の先の力まで引っ張り出してきたのである。
だがそれは………
「駄目だよ、カズマ君! それ以上力を使ったら君の身体が!」
アレは駄目だ。彼自身の身体にとっても危険すぎる。
先の再隆起の時にも感じたが、アレは人間の力で振るうにはあまりにも大きすぎる。
今のカズマの身体では、その負荷に耐え切れるとは思えない。
このままではアルターに逆にカズマ自身の身体が侵食されてしまう。
そんなこと……させるわけには、いかない。
決意を込めて、彼を止めようと動き始めたその瞬間だった。
その輝く両腕をしっかりと握り、拳を固めたカズマが咆哮を発しながら凄まじい勢いで跳躍、こちらへと向かって突撃を敢行してくる。
相手の勢いと発する気迫、そして速度がなのはに回避を間に合わせない。故に彼女が選んだのは自身の頑丈さを信じた防御。
カートリッジロードを用いて形成したプロテクション・パワードが迫るカズマの右拳を受け止める。形状そのものは変わらぬ筈のソレだが、打ち込む事に勢いや威力が確実に上がってきていることをなのはは実感した。
だがそれでもまだ押し負けるわけにはいかない、その意地と魔力を込めて強度を上げた障壁でかろうじて未だその拮抗を維持する。
……そう、右拳だけならばまだ拮抗は辛うじて可能だった。
しかし、今の彼にはもう一方――その驚異的な『進化』にて引き出した左拳が残っている。
なのはとてそれを忘れていたわけでも注意を払っていなかったわけでもない。しかしながら、右の拳だけを受け切るので精一杯であったというだけのこと。
そしてそれは高町なのはの側の都合に過ぎず、相手――カズマには一切の関係が無いこと。
元より眼前のこの女を斃すためだけに引き出してきた力だ。躊躇いや気兼ねなど抱く必要性すらない。
―――故に、
「吹き……飛べぇぇぇえええええええええええええええええええ!」
右の拳に重ね合わせるかのように、もう一方の左の拳もまた雄叫びと同時に障壁へと全力で叩き込む。
黄金の輝きを増す両拳は難攻不落の代名詞であるはずだった桜色の鉄壁に、遂に崩壊の牙を突き立てる。
硝子細工を連想させるように、獣の両腕の打撃はあっけなくなのはのプロテクションを粉砕。それだけでなく貫通した打撃と衝撃はそのまま彼女へと叩き込まれ、弾丸のように吹き飛ばす。
支援
ダンプカーとでも……否、もっと大質量の列車とでも衝突したかのような衝撃を叩き込まれながら、高町なのはは地面へとそのまま粉塵を上げる勢いにて叩き落される。
バリアジャケットを纏っていなければ即死だっただろう。遅れてやってきた痛みと衝撃が全身に走りのた打ち回りたいのを戦士としての鋼の自制心にて押さえ込みながら、レイジングハートを杖に何とか立ち上がる。
同時、数メートルの距離を取ってカズマが危なげもなく着地。両拳を合わせそれを威嚇するように示しながら再びこちらに向かって突撃してくる機を測っている様子であった。
愚図愚図していればすぐさま追撃が来る。それが理解出来ていたからこそ激痛と痺れが走る体に鞭を打ちながらなのははレイジングハートをしっかりと握り直して命じる。
「……レイジングハート、ブラスターモード――――リリース」
レイジングハートはその命に一瞬躊躇うかのような素振りを明滅にて示すが、しかしなのはは有無を言わさぬ気概にてそれを押し通す。
……これ以上の負荷が危険な事は分かっている。レイジングハートの気遣いに感謝を抱いていないわけでもない。
だが今のままでは無理だ。エクシードのままではどうやら届きそうにも無い。
ブラスターは可能な限り使わない。事前にはやてにも約束していたがこの状況ではそんな事を言っている暇すらも無い。
たった一撃の被弾とはいえ、それだけで彼女は身をもって悟っていたのだ。相手の形振り構わぬ尋常ならざるその異常なまでの戦力強化を。
あれはただシェルブリットが左でも打てるようになっただとかそんな単純なレベルではない。根本的な引き出してくる相手の力の量が異常と言っていいまでに増えている。
ふざけたバランスブレイク、理不尽なシーソーゲーム、冗談のようなパワーバランス。
文句ならば幾らでも出てくるだろうが、得意の地力でまさかここまで上回れるとは思っていなかった。
今のカズマは恐らく聖王であったヴィヴィオを力で上回っているだろう。とんでもない状態である。
だからこそ、これ以上先のレベルで戦うためには、彼を止めるためにはもはや保身や出し惜しみ云々と言っていられる場合ではない。
……どうやら、本格的に命を懸ける無茶を行わなければならないらしい。
命を代価に更なる力を引き出す為に、高町なのはもまたこの瞬間、諸刃の剣を引き抜いた。
ユーノ・スクライアは優秀な人間である。
若干十九歳という若さで管理局においても重要な役割を示す機関の一つである『無限書庫』、ここの責任者と呼んでいい司書長の役職に就いているのだからその辺りは察して然るべきものであるともいえる。
加え、人当たりもよく性格も穏やか、知的であり紳士的でもある。
これだけの要素を並べられれば、『こいつ何て完璧超人?』とでも言われて異性からは好意や興味、同性からは羨望や嫉妬を抱かれたり向けられたりしてもおかしくはない。
実際、顕著でこそない水面下での出来事ではあるが、ユーノ・スクライアがそのような感情の対象とされている事実が無いわけでもないのだ。
敵こそ少ない、というより本質が和に近い性分や性格のせいだろうが、嫉妬以上のマイナス方面での感情を向けられることは少ない。
だが逆に、好意……それも思慕に属する類の感情を抱かれているという事実は本人自身が無自覚なだけで多々あったりもする。
こう見えてユーノ・スクライア、隠れた優良物件である。
さて、そんな若きユーノ青年であるが、周りから見たらそれこそ勝ち組と言われても疑いないようにも思えるのだが、実は本人自身はそうは思っていなかったりする。
実の所、ことソッチ方面において彼は己を半ば負け組だとも思いかけており、それこそ内心で悩んでいることも多々あった。
ユーノを悩ませている原因……これは少々彼にとっては根深いものだ。
何せ十年、思えばそんなにも自分はこのある種の病と付き合ってきている。
……そう、世間一般で言うところにある『恋の病』というやつだった。
延々と壁際の棚に並べられた本が支配する広大な円筒形の空間。
しえん
曰く、『世界の記憶を収めた場所』
―――無限書庫。
ユーノ・スクライアはいつものように此処の責任者である司書長として、勤労に励んでいた。
十年前の『闇の書』事件を皮切りに、彼が編み出したある探索魔法が有効に活用された結果として、ユーノは管理局にスカウトされ此処で働くようになった。
勿論、自らの意志で此処に勤めることを決め、見る見るうちに頭角を現し若くして現在の地位に就くようになったのは彼が才能と共にそれを無駄にせず努力を惜しまなかった結果以外の何ものでもない。
此処の仕事がユーノに向いていたこと、これも大きいだろう。遺跡発掘を生業とするスクライア一族にとって探索というのは得意分野だ。それが遺跡だろうと本だろうと変わりはない。
此処の仕事は気に入っているし、充実感だって抱いている。若輩の自分を嫌な顔一つ見せずに立ててくれる優秀で気配りの出来る司書たちにも感謝の念を抱くことは忘れてもいないし、上司として彼らに慕われているという自負は多少なりともある。
現状、仕事においてこの十年、不満と呼べるほどの不満は特にない。殺人的な仕事量に関しては時折逃げ出したくなったりもするが、基本的に責任感が高い故にやり遂げるという使命感も持っていれば、自分も一端の高給取りである以上は仕方のないことだとも思っている。
そう、仕事面に関してユーノは不満を持っていない。ならば次に当然ながら思うプライベートではどうだろうか。
最近ではスクライアの生業である遺跡発掘にも個人的に着手でき、研究論文を学会に発表できそれなりの評価を受けられているという事実は嬉しい。
遺跡発掘も研究も行き詰っているというわけでもなく、これからどんどん興味深いテーマにも着手できるかと思えば心だって躍ってくる。
根っからの学者気質のユーノにとって、そんなプライベートもまた充実した日々だった。
ならば何から何まで順風満帆の道を万進しているように見える彼だが、悩みがないわけではないのだ。
……そう、先にも触れたが彼は大きな悩み……十年来も患っているとある病がここ最近では再燃しかけてもいたのだ。
……そう、恋の病というやつだ。
ユーノ・スクライアは高町なのはの事が好きである。
所謂LikeではなくLoveとしての好きである。
幼なじみである彼女に彼がそんな感情を抱いたのはいったいいつの頃からか。
正確には彼自身も分からない。きっと十年前に出会い、ジュエルシードを巡るあのPT事件からが切っ掛けになっているのは事実なのだろう。
……尤も、ユーノ自身としても彼がそれに気づいたのは実はつい最近になってからの事だったのだが。
実際、ユーノにとってなのはは幼なじみであり、異性としては最も身近と言っても良い友人だった。
ああみえて体育会系な彼女と基本文科系の彼なのだが、話していると色々とウマが合うし楽しい。傍に居るとずっと居て欲しいと時に思うほどに安心感や安らぎも抱く。
同じ幼なじみであるフェイトやはやてにも友情は感じるのだが、なのはに抱くような思いが湧いて来たこともない。
八年前、彼女が再起不能になりかけた大怪我を負ったあの時。ユーノもまた酷く心配し、彼女を案じて自分までもが体調を崩して倒れかねない事態にもなりかけたこともある。
それが好きな女の子の安否を思ってのことだったのだということは今振り返ってみても自覚出来る事なのだが、当時のユーノはそれを罪悪感と責任感から生まれてしまったものだと思っていたのだ。
……そう、なのはが大怪我を負ってしまったのは自分のせい。
自分が傍にいてあげられず、護ることも出来ず、無茶を当たり前のように行おうとする彼女の疲労を気付いても止めることも出来なかった。
……否、そもそもそれ以上に元を糺せばなし崩し的であったとはいえ、自分が彼女と出会いこちらの都合に巻き込んでしまったのが原因だとも思っていた。
その原因であったにも関わらず、肝心な時に彼女を護れなかった。一番の友達であったはずの、自分を助けてくれたはずの、高町なのはを。
それが負い目となり、激務に追われる事も多くなったのも相まってか、彼女が何とか復帰した後にも微妙に距離を取った感じになってしまっていたのは事実だ。
疎遠になったとか仲が悪くなったとか、そう言ったわけではなく、ただ彼女と会うと嬉しく思うのと同時にどこか申し訳なく思う居心地の悪さを抱くようになっていたのだ。
このままではいけないとは思っていた。これでなし崩し的に彼女という存在が遠くなってしまうのではないかと考えれば、それは真剣に危惧すべきことでもあった。
何とかせねば、何とか状況を改善しなければと悩みながらも会う回数も少なくなり段々と時が過ぎていった日々のこと。
状況改善の切っ掛けは、それこそひょんな偶然から転がってきた。
考古学者の端くれとしてもそれなりの評価も貰える様になったある日のこと、オークションに出展される危険性の少ないロストロギアの解説役を頼まれてミッドチルダへと久々に訪れた時のことだった。
まさかそのホテルで護衛任務に就いていたのが他ならぬなのはが所属していた部隊だったのは何たる偶然だろうか。
……否、後からこっそり聞いた話によればあの時に自分にこの話を持ってきたアコース査察官は実ははやてと協力し、手を回してこのような舞台が整うように手配していたのだという。
気の利いた粋な計らい、はやてには感謝してもし足りないことだとは自分でも思っている。
兎に角、あの時は自分も勿論彼女もまた偶然による久方ぶりの再会だと思っていたので、嬉しく思うのと同時に時が過ぎて自分の負い目の感情もそれなりに緩和したのか、思っていた以上に彼女とはすんなり話をすることが出来た。
関係の修復を成功し、直接見るのは実に久しぶりと言って良い彼女の笑顔を見た時に、不意に胸の奥が不規則に激しく、そして熱く高鳴ったのが不思議だった。
恐らくは、それが彼女へと抱いた恋と言う感情なのだろうが、その時には不思議と思えど自覚は出来ないままだった。
次にその感情の正体を知ることになった時、そこで漸く彼女に抱いてきたこの十年間の想いの正体が何だったのかは自分でも理解できるようになった。
ユーノ・スクライアにその感情を理解させる切っ掛けとなったのはある一人の少女だった。
名をヴィヴィオ……そう、後に他ならぬなのはが自分の娘として正式に引き取ったあの少女だ。
『見て見て、ユーノ君。この娘がヴィヴィオ、私の娘だよ』
まだあの公開意見陳述会が行われるよりも前、彼女が一応の責任者としてヴィヴィオの事を預かる事になった時の事だ。
なのはママと呼ばれ、フェイトと共にヴィヴィオに母のように慕われるのが嬉しかったのだろう、久方ぶりの近況報告を交し合った通信での際、なのはは嬉しそうにその少女を自分へと紹介した。
その紹介した時の彼女の言葉にユーノの思考が即座に停止し、胸の奥に物凄い衝撃を受けたことは今でも彼には忘れられないことだった。
私の娘、確かに彼女はそう言ってきて、画面に映っている少女もまた彼女の事をはっきりとママと呼んでいた。
ユーノとて流石にこの歳になってまでまさか赤ん坊をコウノトリが運んでくるのだとかいう戯けた冗談を信じていたわけではない。子供を作るということが男女間でアレをナニしちゃったりするという行為の結果として誕生するのだということも知っている。
女性一人では子供は産めない。無論、体外受精等の例外があるのは知っているが、正直先制攻撃のダメージが強すぎたユーノにそんな考えを抱く余裕も無い。
それどころか容姿からして人種も違うのが明らかだったわけだが、これもまたユーノがそれに気付くだけの余裕がなかった。
ただただその時のユーノは、立ち直るには相当に困難なダメージを受け、ノックダウン寸前だった。
なのはの娘、なのはの子供。つまりなのはが産んだという事。出産するには当然子作りをせねばならず、そして子作りとはアレでナニすることであり、しかもそれは一般的に男性とするもの。
そもそも子作りも出産も愛がなければ普通はしない、なのはが愛も無しに誰かと子作りをするような女性だとも思えない、そもそも生みたいから生んだはずなのだから子供は文字通りその相手との愛の結晶。つまり、なのはにはそんな愛する誰かがいるのだということ。
……そして残念ながら、それが自分でないことだけは明らか。
そこまで思考が思い至ったのと同時に、ユーノ・スクライアはショックで卒倒した。
ショック、そう物凄くショックだった。
今までであれと同じだけのダメージを受けたことのある経験と言えば、それこそあの八年前くらい。
またしても彼女のことで心揺さぶられることになったユーノは、それこそ頭を抱え込んで真剣に悩み……否、悲しがり悔しがった。
そう、悔しかった。それが何故かは分からない……否、分からないままでいたかったのだがもうそういうわけにはいかない。
ふとした切っ掛けで気付いてしまった己の本音をユーノ自身も誤魔化すことが出来なかった。
……要するに、自分は彼女が好きであり、だけどその彼女が自分以外の他の男が好きだったというこの事実を認めたくなかっただけ。
しえん
これでも異性としては最も彼女にとって身近な存在であり、そして幼なじみとして付き合いも長く、重ねた時間や結んだ絆の強さはきっと誰にも負けていないと思っていた。
……何たる驕りだろう。ただ今の関係が気に入っていてそれを壊したくなかったから、ただ気付かぬ振りをしてこれ以上は踏み込む勇気もなく逃げていただけだというのに。
格好をつけるなユーノ・スクライア。お前はただ言い訳を重ねて逃げていただけだ。負い目を理由に彼女と素直に向き合う事を放棄しただけ。
ただ逃げただけ、逃げ続けていただけ、自分の想いにすら嘘を吐き誤魔化し、けれど都合の良い過去からの積み重ねだけを支えにそれで安心を得ようとしただけだ。
その結果がこれ、彼女に想いを伝えるどころか気付いてももらえず、もう自分ではない別の誰かを選んで彼女は先に進んでしまった。
置いていかれた、取り残された……自業自得であり、そして酷く無様だった。
「……そっか、僕は負けたのか………」
正確にはそれにすら劣る。勝ち負けの云々ではなく自分は勝負の舞台にすら立っていない。顔も名前も分からぬ誰かを相手に、否、相手にもしてもらえずに勝負をするまでもなく自分は負けたのだ。
最低で最悪な、後悔以外は残らないような惨めな己の遅すぎる初恋の終焉を理解し、ユーノは一人隠れて悔しく泣き続けた。
「……それが誤解だったって知った時は、それこそ驚く以上に信じられなかったけどね」
苦笑を浮かべた独り言を深夜の誰もいない無限書庫内でユーノは漏らす。
今日も今日とて残業。相変わらず殺人的な過密スケジュールに仕事量。世の労働基準法に違反しているのではないかと思われそうなものだが、そこはクロノと並んでのワーカーホリックである彼の事、責任感と使命感は疲労は訴えても不満は訴えない。
「……なのはたちにも関わってくることだしね」
そう、ユーノが今請け負っている仕事の内容は機動六課が現在従事している任務にも関わってくる調査である。
期日までに資料を探索し纏め上げ、彼女たちにも理解し易い形で情報をフェイトにまで提供しなければならない。
まだ納期に時間はあるのだが、聞く限りでも現状の動向はどうにもキナ臭い事態となっているようであり早目に届けた方が彼女たちにとっても助かるはずだ。
「……こんな形でくらいしか、僕はもうサポート出来そうにもないしね」
探索や防御をはじめとした各種補助魔法のエキスパートと呼んでいいくらいの腕を誇るユーノではあるものの、元々が学者畑の人間であり戦闘は専門外。十年前のあの時のような活躍の方が彼にとっては例外中の例外と言って良い程だった。
それにあの時から比べれば、もはや戦場には一度だって立ってない以上、腕や勘が錆び付いてしまっているのは語るまでもなく明らか。
そもそも九歳の時点で当時素人だったなのはのサポートに回らざるを得なかった時点で、己の力量など誇れるようなものではないとユーノは思っていた。
誰かと争ったりするのも好きではない。戦いという形で他者に自分が勝てると素直に思えたこともあまりない。
……それに正直に告白して、戦闘自体を怖いと思っているのも事実だ。
だからこそ、無限書庫で働くようになって以降、自分の特性を活かせる場に出会い、これが彼女たちを助けられる自分なりのやり方だと思うようになり、その為の努力も惜しまなかった。
此処に世界の全ての知識が眠っているというのなら、そしてその知識が少しでもなのはの戦いの役に立つというのなら、一秒でも早く正確で間違いのない情報を届ける。
同じ空で飛べず、遠くに感じるようにもなってしまった彼女との繋がりとして残る己なりのサポートをずっとユーノは続けてきたし、それはこれからもきっと変わらない。
「だからこそ、早く見つけ出して届けないといけないんだけど……」
現状、探索は上手く行っているとは言えず意気込みだけが空回りをしている感は否めなかった。
ユーノが抱えているのは六課から受けた仕事だけではない。日夜、激務に追われる本局の別部隊から優先度も高い依頼も引っ切り無しに舞い込んでいる。
司書長である彼以外にも優秀な人材は多くいる、が舞い込む案件数と人員数の絶対数を比べてみればそれでも火の車であるのは明らか。
だが司書長としての責任感や使命感は、それら他の依頼どれ一つ取っても決しておざなりにも投げ出すことも出来ないのもまた事実。
だからこそ殺人的仕事量、過密スケジュールの中で、他の仕事も平行しながらこうして深夜にまで及ぶような残業上等な状況がここ数日ずっと続いていた。
よく仕事を手伝ってくれるアルフなどからは、いい加減に休まないと倒れるぞと遂に今日の昼間に苦言を漏らされる始末となったが、苦笑を浮かべて曖昧にそれを誤魔化した。
「……それに確か、ヴィヴィオにも本を探してあげる約束をしてたな」
ふと思い出した大事な約束を取り敢えず忘れない内に済ませておくかと、作業の休憩がてらに現状の探索を中断、別の探索魔法をマルチタスクで併用し探索を掛けながら、お姫様のご所望たる本を見つけ出し、自分名義で借りておく。
明日彼女はやってくるはずだからその時にでも渡そうと思う。きっと喜んでくれるのではないかという少女の笑顔を想像して思わず自分の顔も綻びかける。
いかんいかんと首を振りながらも、しかし自分に衝撃を与え、本当の気持ちを気付かせる原因ともなった少女の事をユーノは嫌っていなかった。
むしろこちらを慕い好意を向けてくれる相手を嫌いになるほどユーノは人間として捻くれてはいない。惚れた女の娘であるというのは対応の距離感が掴み難い事実ではあるが、他意を抱いて接しようとも思えないのも事実。
「……きっと僕は彼女が好きなんだろうね」
無論、妹だとか娘だとかそう言った対象に向けるLikeである。間違ってもLoveを抱くほどにユーノとて剛の者ではない。
そう、これは娘に抱く愛情に近い感情なのではないだろうか。尤も、未だ二十年も生きていない若造たる自分が娘を持つ気持ちというのもおこがましいものなのかもしれないが。
まぁヴィヴィオの方からすればこちらはお友達感覚、良くても親切なお兄さんと言ったところか。
自身のママの真似をして、こちらの事を『ユーノ君』と呼んでくることは微笑ましい姿と見るべきなんだろうが、正直十以上も歳が離れた女の子に君付けされるというのもどうかとは自分でも思っているのだが、この呼称に関しては向こうも頑として譲ってくれない。
こういうところは母親譲り……本当に、血が繋がっていなかろうとも良く似た親子だとユーノは思う。
「……僕が入り込む余地なんて、無いのかな」
出来ればユーノお兄さん、否、ユーノパパと呼ばせたいのが密かな願望だったりするのだが、そもそも彼女の父親に自分が成れそうかと言えば今のところ可能性は限りなく低い。
何せ彼女のママ……なのはに自分の想いを伝えることすら出来ていないのだ。
「……結局、僕は逃げたままなのかな」
仕事の忙しさを言い訳に、彼女の都合もあると考え、今だって碌に会う事すらままならない。
会おうと思えば何とかすれば会う時間だって作れるだろう。この想いを伝えたいと思うなら勇気を持ってその時を逃さずに告げればいい。
だというのに……
「振られるのが怖いから告白も出来ないなんて、本当に情けないな」
今の関係はユーノにとってもある意味ではベストであり、最も居心地がよいものであったというのも事実だ。
一番仲の良い友達の一人、近過ぎず遠過ぎず、適度な距離で互いを支えあうことが許される。
そんな今の状態が心地良すぎるせいで、一歩でも踏み込んでもし今の関係すらも崩してしまうのかと思えば……怖くて、どうしても二の足を踏んでしまう。
分かっている。これがどんなに卑怯で無様で情けないことなのかくらいは。
要するに、自分は我が身がやはり可愛いのだ。振られることで傷つくことを、寄る辺としている安らぎを台無しにしてしまうことが耐えられないのだ。
今のまま、今のままを保っていれば、なのはは傍にいてくれる。ヴィヴィオとだって良好な関係だって作れる。
別に男女の恋愛が全てじゃない。黙して語らず、秘めるだけの愛があったって別に―――
「―――違う、そうじゃない」
自分が考えた思いを否定するように、ユーノは強く首を振った。
そうじゃない、そうじゃないだろう、ユーノ・スクライア。
嘘を吐くな、誤魔化すな、逃げるな。
そんな都合の良い、高潔な考えを維持できるほどに自分は人間出来てはいないだろう。
……そう、そんなもの無理だ。無理に決まっている。
少なくとも、ユーノ・スクライアの高町なのはへと抱く想いとしては適応外だ。
あれだけヴィヴィオの時に痛い経験と共に学んだというのに、今更また同じ徹を踏めるのか。自分を騙しきれるのか。
出来るわけが……ない。
なのはの隣に自分ではない別の男がいて、彼女がその男に自分には見せたこともないような笑みを見せる……それに耐えられるか?
―――否。
ヴィヴィオが自分以外の者に懐いて、その男の事をパパと呼び慕いながら、親子三人仲良く笑う姿を見て自分は耐えられるのか?
―――否。
周りの皆が全員、そのなのは達の事を祝福する中で、自分もまた同じようにおめでとうと祝福の言葉と笑みを本心から贈る事ができるのか? この気持ちに決着すらつけないで!
―――否、断じて否!
「……出来るわけない。出来るわけないじゃないか」
そう、出来るわけない。そんな負け犬になる姿を、それでも残っている自分のチンケななけなしの意地が許そうとなどしない。
決着も付けず、ただ惰性と臆病を理由に逃げ続けておいて潔く身を引くなどと言うことが本当にその場面に遭遇した時に出来るわけがない。
嘘で誤魔化し続けて、依存の対象にして、自分の都合だけで傍に居続けることが彼女への想い?
違う、断じて違う。そんなものはただの自己愛だ。
それでは自分がなのはが好きなのではなくなってしまう。それでは自分が本当に好きなのはなのはが好きな自分であるのと同じだ。
自己満足の捌け口でこの十年すら汚してしまうこと、彼女の側がそれでも疑わずに抱いてくれている信頼を裏切るようなこと……許されて、いいはずがない。
勇気を出せ、ユーノ・スクライア。
意地があるだろう、男の子には。
たとえ振られたとしても、ちゃんと選ばれなかったという勝負を挑んだ上での玉砕と、気付きもせずに逃げてばかりな結果による言い訳と、いったいどちらがマシかなど分かりきったことだろう。
本当に彼女が好きだというのなら、ハッキリと言えるだけの度胸を持て。
これは誰の為でもなく、自分自身が向かい合うべき戦いだ。
だから………
だから―――
僕は―――
「―――ユーノ君」
不意に名を呼ばれたことに気付き、ハッとなって慌ててユーノは背後を振り向いた。
職員は全て帰したはずの無人の無限書庫内で残っている自分以外にこの場所に他の誰かが居る筈が無い。
ましてや、先程の聞きなれたあの声は―――
「…………な…のは………?」
思わず呆然と信じられないような思いも顕に漏らした言葉。凝視する振り返った先に居る相手からユーノは目を逸らせない。
……何で、どうして?
そんな疑問が当然のように浮かぶのは当たり前、幾らなんでもこのタイミングでこの人物の登場はタイミングが良すぎるだろう。
それに彼女は現在あのロストグラウンドと呼ばれる大地に赴いている最中であり、此処に来れるはずなどないではないか。
彼女の事を考えすぎた余り、ヤバイ妄想まで形として見えるようになったのかとユーノは本気で疑いだしてもいた。
……というより、本当に彼女は本物の高町なのはなのだろうか?
そんな疑問が拭えず、彼女を凝視したまま立ち竦むユーノになのははいつものあの彼が最も好きな微笑を浮かべながら言ってきた。
「急にごめん。何だか会いたくなって……来ちゃった」
夢を、夢を見ていました。
それはとても荒々しく、激しく、そして悲しい夢でした。
夢の中のあの人はいつかのようにあの白い女の人と対峙して戦い続けています。
沸き出でる激しい感情……憎悪や憤怒に塗り固められた思いをその拳に込めて叩き込むように。
夢の中のあの人はとても強く、本当はずっと強いはずの白い女の人すら圧倒してその拳を振るい続けています。
きっと女の人は勝てない、わたしにもそれが分かる中ですら、けれどあの人を止める為に必死に手を差し伸べ続けています。
必死にあの人に呼びかけ続けています。
あの人の―――名前を呼んで。
けれどあの人の中にある憎悪や憤怒の感情は、もう収まりがつかなくて。
振り上げた拳を下ろす場所すらも何処にもなくて。
それが自分自身でも分かっているからこそ、もう目の前の女の人以外にそれをぶつけられる相手もいなくて。
悲しい……それがとても悲しくわたしは思います。
あの人がもう止まらない事に対して悲しく。
女の人の言葉が届いてくれないこともまた悲しくて。
やめて、やめて……もう、やめて!
わたしが必死に呼びかけても、それも無駄なだけ。
わたしはただ見るだけの存在、見ていることしか出来ない存在。
本当に無力で、情けなくて、何も出来ない。
止めて……誰か、誰かあの人たちを止めてあげてください。
このままじゃ、このままじゃ、きっとあの人たちは―――
■■くんと■■■さんは―――
誰か、誰かお願いします!
あの二人を、■■くんたちを―――
誰か、止めてあげてください!
……お願いします……お願い……します。
誰か……誰か……お願いだから、二人を―――
黄金の輝きを放つ獣の咆哮が、ロストグラウンドの大地を震わせる。
疾走と共に跳躍、空を翔ける魔法使いへと自身の自慢の拳たるソレを叩きつけんために迎え撃つ魔弾のことごとくを打ち払い、弾き飛ばしながら接敵。憤怒と憎悪、その他諸々の感情を上乗せした破壊の拳を持ってかの敵を粉砕せんと叩き込む。
対する魔導師――高町なのはにとってその直撃は文字通りの戦闘不能へと直結する結末。是が非でもその結末を覆さんとするのは当然の判断。
展開するバリアは黄金の拳の接触と同時に、その表面を爆発させる。
バリアバースト。
バリアの表面を魔力を操作して爆発させることにより対象を弾き飛ばす、攻性の防御魔法。
以前の戦いの際、バリアジャケットバージョンとも言えるリアクティブパージの経験があったとはいえ、相手の対応が受け止めることから弾き飛ばすことへと切り替わったその事実にカズマは忌々しげに舌打ちを吐く。
今更に表面上の見せ掛け程度の爆発に臆す必要も無ければ大したダメージなど負うことも無い。むしろ叩き潰せと自身を急かすこの衝動をこの程度の小細工で凌ぎ切れると思うなとすら感じる。
事実、なのはの心境もまたカズマがそう苛立ち抱き評価を下した通りのものではあるのだが、それでもその小手先の技術で何とか凌ぐのが現状で手一杯であったのは事実だ。
猪突猛進自体は相も変わらずだが、勢い威力とも最前までの比ではなくなれば、手の打ちようすら無くなるほどの脅威となるのも事実、この押され続けている現状がその証明であったこともまた間違いない。
既にブラスター2まで解放しているにも関わらず、発する力の差は刻々とその溝を深めるばかりだ。フルスロットルのギアを踏み続けているのは互いに変わらぬはずなのだが、やはり馬力は向こうとこちらとでは桁違いの差があるらしい。
ブラスタービットがカズマを拘束するようにその周囲を旋回、発生したバインドにて動きを縛るもまるで枷にもならぬように次の瞬間には引き千切ってくる。
だが拘束を破るその一瞬、そこを狙うように叩き込む魔弾の数々……ショートバスター以外では相手の猛攻にバスターでは対応が間に合わないのでこうした戦法を取る他に無い。
しかし小手先の攻撃が通用するような相手でないのは既に何度も戦闘を繰り返し証明済みでもある。これが焼け石に水でしかないのもまたなのはとて承知の上だった。
それでも現状、場を凌ぎきる手段としてこれしかない。迫り来る豪腕の猛攻を必死に潜り抜けながらも、徐々にジリ貧に追い詰められているのは明らかではあった。
何とかしなければならない。百戦錬磨の魔導師としての思考がなのはの中で目まぐるしく対処法の数々を検討していくが実際に有用と判断されるものが一向に出てこない。
……否、出てきてはいるのだがそれが間に合わないのだ。
「がぁぁぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
型も何も無い力任せの大上段からの拳骨に近い打撃を繰り出してくる右拳の側に向かって素早く避ける。反対側に空いた左の豪腕を回避先に受けないための処置だったのだが、しかしなのはの予測を遙かに超えた追撃をカズマは敢行してきた。
振り下ろした右拳がかわされることも、左拳の範囲外である右側に回避することも予想していたのか……否、単純に出鱈目な身体能力に物を言わせたのだろう。
空を切る拳の勢いをそのまま利用しながら体を捻るカズマ。そのまま独楽の様に回転した勢いをつけてリーチを伸ばした左のバックブローが間髪入れずに迫る。
咄嗟に後ろへと飛び前面に障壁を展開するも、しかし圧倒的な物理的破壊力はそれらを物ともせずになのはを吹き飛ばす。
ハンマーで殴られる方がどれ程にマシかと思える激痛と痺れが全身に走っている事実に顔を顰めながらも、即座に態勢を立て直すと共に迎撃態勢を取る。
格闘に関しては生来の運動オンチとも相まってなのはとて所詮は素人に毛の生えた程度の技量と知識しか無い。……が、同じように格闘技など修めていないにも関わらず無茶苦茶な喧嘩殺法を実現できる異常な身体能力が向こうにはある。
加え、どう攻め、どう動けば対象を落とすことが出来るのか、勢いと共に本能的な部分でカズマはそれを理解している。
研ぎ澄まされ、爆発力が増す一方の相手の攻めは段々とこちらの対処や予測を上回ってきているのだ。
二手、三手とその凌ぎきれた範囲を次の激突では一足飛びに超えてくる……まさに戦いの中で成長していく闘争の悪鬼とでもいったところだろうか。
高町なのはが積み上げてきた、研ぎ澄ましてきた戦闘理論、戦いにおける布石や絡め手の数々……小賢しいとばかりにここまで一蹴されてしまえばもはや悔しさすら沸いてこない。
……見事だ。彼は本当に強い。そう素直になのはとて認めている。
だがそれでも―――
「―――それでも、今の君にだけは負けられない!」
命をかなぐり捨て、完全燃焼すらも辞そうとしない、未来など見ずにこの瞬間に果てようとする一匹の獣。
高町なのはにとってそれは絶対に負けるわけにはいかない相手だ。
ましてや少女との約束が、親友の引止めを前にしても止まらなかった、今のなのはの貫こうとしている信念からすればそれは尚更の事。
故に―――
再び迫る豪腕の猛攻。
それをギリギリで掻い潜りながら、忍ばせていたブラスタービットを展開。
クリスタルケージが檻となりカズマを閉じ込めたと同時にフラッシュムーブで瞬時に距離を取る。
次の瞬間には豪腕一閃にてクリスタルケージを粉砕して飛び出てくる獣へと、既にカートリッジロードを済ませたレイジングハートの照準は定まりきっていた。
しかしそれは散々その身で喰らってきた獣からしても既に予想済み。であるにも関わらず、躊躇うことなくそのままその射線上を直進しての突撃をカズマは躊躇わない。
「ディバィィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイン」
不屈にして無敵、己の代名詞とも言えるこの十年の全ての戦いの中で磨き、詰め込んできたものを相棒の魔法の杖、その先端に収束して解き放つ。
「シェルブリットォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ」
意地にして誇り、反逆という己の生き方の全てを詰め込んできた自慢の拳たるその両腕。ソレを以って眼前の壁を完膚なきまでに粉砕する。
どちらにとっても退けはしない、後など無い事を分かりきった一世一代の正念場。
負けるわけにはいかない、眼前のこの相手にだけは!
共通するその想い、信念を用いそれを解き放つ為に―――
「バスタァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「バァァアアアアアアアアアアアアストォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
いつかの邂逅の焼き直しとも言える、桜色と黄金の再激突が始まった。
回避など無い。防御も無い。
注ぎこむは全力、この一撃にありったけの信念と意地を込めて。
迫り来る今まで散々にこちらを蹂躙してきた桜色の極光を前に、カズマは黄金に輝くその自慢の両拳を突き出すように突撃する。
拳どころか全身すらも覆う光の渦の中、激流に問答無用で流されるかのような体験を擬似的に感じながら、それでもカズマは拳を決して下げることなく光の渦を切り裂くように進み続ける。
前へ前へ、只管に前へ。
後も先も、未来も何もかも関係ない。この戦いの先に例え死が待っていたとしてもそんなものすら関係なく。
躊躇すら抱かず、恐れなど無論のことあるはずもなく。進む、ただ只管に進み続ける。
もはやこの道しか無い以上、この道しか残されていない以上、ただその上を駆け抜け続ける。迷うことなく、最速でだ。
いつだって、どんな時でも、誰が相手であろうともそれは変わらなかった。ならば今回だってそれは同じ。
故にこそ―――
「てめぇにだけは………絶対に負けねぇッ!」
こちらにアイツを思い出させる、アイツの面影を纏わりつかせる、アイツの思い出を穢すこの女にだけは!
例え死んだって負けるわけにはいかない。
だからこそ―――
「今日こそ……てめぇを………斃すッ!!」
今この場所で、立ち塞がる壁を粉砕する!
全身全霊の一撃。最大出力を以って繰り出した魔砲の一撃。
だが黄金に自身を輝かせた獣の勢いはそれすらも切り裂かんと徐々に迫ってくる。
最初の激闘、その幕引きとなった最後の一撃をぶつけ合った瞬間がなのはの脳裏に蘇る。
……このままでは、負ける。
直感的にそれを悟った。理屈云々を抜きにした数多の戦場を駆け抜けた彼女の中の本能がその未来を垣間見させたといってもいい。
だがだからといって、否、尚更にこそそれを簡単に受け入れるわけにもいかない。
負けられないのはこちらも同じ。退けないだけの信念が、意地がこちらにもある。
何よりも背負った想いが、なのは自身が彼へと伝えたい言葉がその敗北という現実を引き寄せることを認めようとはしない。
「女の子にだってね―――意地があるんだよ!」
その宣戦布告にも似た叫びと同時、なのははあのゆりかご戦以来禁じてきた最後の封を解き放つ決意を固めた。
無茶を承知で、それが己の信念に反することだとしても……ここで負けてしまっては意味が無い。
今ここで彼に勝たなければ、彼を止められなければ、彼を相手にぶつけてきた今までの己の全てが無となってしまう。
それだけはノゥ! 断じてノゥ! 絶対にノゥだ!
だから―――
「レイジングハート―――ブラスター………3ッ!!」
敗北というその運命に―――反逆する!
体内のリンカーコアが焼ききれんばかりに稼動、濃縮され搾り出されてきたありったけの魔力の全てをレイジングハートへと注ぎ込む。
桜色の極光の渦……それが更なる輝き、その勢いと威力を増して解き放たれていく。
更に勢いを増した極光の猛攻。
問答無用でそれを切り裂き、それを発射している相手までもう少しといった所で、遂にソレに押し返され始める。
激流の中で足を釣って溺れてしまったかのように、吹き飛ばされるようにドンドンと後ろへ後ろへと追い返されていく。
突き出す自慢の拳、その黄金の両腕すら遂には耐え切れないかのように亀裂が走る。
カズマにとっての唯一の拠り所、誇りが今砕かれんとしていた。
その現実、その敗北を認めることなど………ああ、断じて出来るはずなど無い。
喉を裂けよとばかりに咆哮。もはや木々すらざわめかすだろう絶叫に近いそれを腹の底から勢い良く放出しながら、しかしカズマは逆にどんどんと取り入れようとしていた。
此処ではない何処か。明確なイメージが出来るわけでもなければ、理屈だって無論の事ながら説明できない。名称すらも分からない、そんな訳の分からぬ意味不明な空間。
だが其処にはあった。カズマが求めて、欲してやまないそれが、まるで際限など無いと言うほどに莫大に。
―――そう、『向こう側』と呼ばれるその場所にはカズマが求める”力”が確かに存在していた。
チャンネルを繋げるように、さっきも出来たのだからもう一回だって出来るだろう。そんな理屈を前面に押し出しながら無理矢理に引っ張り出そうとする。
命すら惜しまずに貪欲に、体を蝕む痛みや不快感の一切を無視したように只管に。
そう、もっとだ。もっと、もっと、もっと! もっともっともっともっともっともっともっと!
限界など定めるな。例えそんなものが仮に存在したとしても問答無用で叩き潰せばいい。
叩き潰せない壁など存在しないのだ、そう言い張るかのようにもっと上があるだろうと、アイツを超える力があるはずだと。
只管に、ただただ只管に―――引っ張り出す!
大気を震わせるような絶叫を最後の足掻きとでも言うようにカズマが搾り出した次の瞬間だった。
先程のシェルブリットを左腕にも纏った時と同様と思われる虹色の光の収束と、その終了と同時に輝きだす黄金の光。
桜色の極光の中に身を置きながらも、陰る事も無いと言わんばかりに全身よりそれを発し、覆う彼の姿に変化が発生する。
「―――なッ!?」
思わず信じられないと息を呑んだ叫びをなのはが上げたのも無理なきこと。
己が魔砲の砲撃、それに吹き飛ばされようとしていたカズマの全身を突如として覆っていくその変化を目にしてしまったのだから仕方が無い。
押し負けて砕け散ろうとしていた両拳へと纏っていたシェルブリット。それが再生するかのようにその損傷を修復していったかと思えば、今度は腕だけに留まらずに彼の全身へとそれは覆っていくのだ。
その形は猛々しい彼の獣としての性を象徴としたような獅子を模した鎧。弱肉強食の大地において獣の王として君臨する彼の闘争本能を形としたものなのか。
兎も角、あれもまた彼のアルターたる”シェルブリット”。恐らくはこれにて最後と思いたい更なる『進化』を遂げたその姿と言う事だろうか。
どちらにしろ、一目見た瞬間に驚愕と同時になのはの背にそれは戦慄を走らせた。
黄金の獣は猛る様に、その咆哮と共に再び押し返されかけていた勢いの中で、それを巻き返すかのように瞬時に再び魔砲を切り裂きながら進んでくる。
先程までの比では無い勢い、発し叩きつけてくる圧倒的なプレッシャー。
それでも胸に抱く不屈の信念が高町なのはに敗北も撤退も許さじと、ありったけの力を砲撃に込めさせる。
しかし―――
「―――これが!」
勢いは止められない。絶望的とも言っていい、理不尽なまでの侵攻をもって遂に彼女のいるその前まで相手に到達を許してしまう。
「俺の……自慢のッ!」
桜色の砲撃を突っ切り、あの時と同じように眼前へと拳を掲げてみせる獣の姿。
回避も防御ももはや間に合わない。……否、そもそも相手が今繰り出そうとしている一撃を前にすればそれら全てが無駄な行いでしかないことは明らかだろう。
………私、負けちゃったのかな?
やけにスローモーションにも感じられる繰り出される拳が己の身へと到達するまでの刹那の時になのはの脳裏に漠然と過ぎったのはそんな思考だけだった。
「拳だぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
瞬間、その雄叫びと同時に堰き止められるかのように停滞しているかに思われた時間が急速に元へと戻ってくる。
咄嗟に障壁を展開しようと腕を前へと出す。だがそれすら粉砕して障壁を砕き、それどころかそのまま前へと出した腕までもが嫌な音を立てて拉げていくのを呆然と見ているしかなかった。
痛みや熱さを感じる以上に、それら全てを先んじてすっ飛ばした物理的な衝撃が己の身へと叩きつけられ吹き飛ばされるのを感じて、高町なのはの意識は断絶した。
以上、投下終了。
これ以上は区切りのいい場所が長いので今回はこの辺りまでにしておきます。
前回、感想の方色々とありがとうございました。励みになります。
今回、唐突な視点変更が多いので読みづらいかもしれません。その辺りは自身の構成の甘さなので読みづらいと感じた方には申し訳ございません。
今度からはそうならないよう出来るだけ努力させていただきます。
それでは、また。
乙、おもしろかったよ。
読みづらさはあんま感じなかったな。
250 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/11(日) 21:43:56 ID:TZbN6IA1
ワクワクテカテカ、GJ!!!!!!!!!
なんか次回が楽しみです。
251 :
一尉:2009/10/12(月) 12:59:43 ID:XsUlweVw
無音支援
流星のロックマン2のドクターオリヒメ&エンプティーの主従は
プレシアとフェイトと対比させるとなんか居た堪れなくなる。
GJ!!です。
ここで第三段階に行くとは思いませんでした。
確かに、なのははラスボス級の強さであるがw
え!?もうゴキブリット!?
はええなw
他に誰も投下予約されていないようなら、20時40分から続きを投下予約させていただきます。
楽しみにしてた作品だけに連日投下は嬉しい限りだぜ
>>256、ありがとうございます。一応、この話は書き終えているので今日含めて後二回で終わらせます。それではボチボチ、
「……負けちゃったね」
目の前で苦笑と共に告げてくる幼い少女が示したその結果に高町なのはが答えるべき言葉は無かった。
負けた……敗北。確かにその通りかもしれない。
全力全開、全てを出し切って望んだ一撃を持ってしても、不敗を誇った己が無敵の砲撃を用いてすら相手にそれを上回られた。
言い訳はしない。ベストは尽くしたなどと言い逃れる気もない。
自分は負けた。結果的に彼を止めることが出来なかった。
「……悔しいの?」
「……うん。凄く……悔しい」
負けたこと……それもあるが少女の言葉になのはが答えた悔しさとはそれとはむしろ別種のものだ。
彼を止められなかった。暴走し、己も他者も傷つけ続ける彼を止めることが出来なかった。
彼の心を護ってあげられなかった。彼を助けてあげられなかった。
由詑かなみの願いを叶えてあげることが出来なかった。
「……悔しい。うん、凄く………悔しいよ」
少女を前にしてみっともなく涙を流す己の姿を自覚できればこそ、尚更に今の自分は惨めであり無様すぎた。
エースオブエースの称号も、英雄と持て囃されたその功績も。
たった一人の男の子を救うことも出来なければ彼女にとっては何の意味も無かった。
何の為にスバルに大見得を切り、クーガーの庇護の下から飛び出し、はやてを説き伏せてまで彼の元へと向かったのか。
向けたくもない魔法を向けてまで、傷つけたくない相手と争ってまでそれでも戦おうとしたのか。
皆に顔向けも出来なければ、支えてくれていた、護ってくれていた想いまでをも無駄な結果になってしまうではないか。
嫌だ……ああ、そんなのは嫌だ。
それは許容できない。納得できない。
誰かが傷つくのを見るのが嫌だった。
誰かが泣いているのを見るのが辛かった。
そんな人たちに何もしてあげることのできない自分が我慢ならなかった。
だからこそ、だからこそそれらを覆すことの出来る力を手に入れた時、嬉しかったのだ。
―――魔法。
それは子供の頃に憧れた、御伽噺に登場するような都合が良い万能の力でもなかった。
けれど何も出来ない、何も無かった高町なのはにとっては初めて手に入れられた自分を変える事の出来た確かな切っ掛けでもあったのだ。
『なのはちゃんにしか出来ない事、きっとあるよ』
その言葉通りの、己の不確かだった未来を確かなものへと切り開いていくことの出来た力。
自分の想いを通すことの出来る、護りたい人たちを護ることの出来る力。
何処かの誰かの未来を、幸せを、笑顔を護ることが出来るはずの力。
ずっとそう信じて、そうやって使うために戦い続けてきたはずだった。
けれど―――
『まぁハッキリ言ってしまえば―――なのかさん、あの馬鹿に貴女の声は届きません』
結局は、そのクーガーが予期した通りの結果がこれだった。
伸ばした手は届かない。かけるべき言葉も聞いてもらえない。
こういう事態、結果が初めてというわけじゃない。今まで管理局員として戦い続けてきたこの十年、似たようなケースはそれこそ幾らでもあった。
本当にお話をしたいのに、そうすることも出来ない、拒絶を示される。
世界がそんなにも都合が良くないことも、優しさばかりで救いが絶対にあるばかりでないことも分かっている。
自分のやっている事が一方的で、相手からすれば見下すに近い物言いだと反発を受けたことだって何度だってある。
だがそれでも、そうだとしても―――
「……けど、それでも助けてあげたいって思うことは間違ってるのかな」
どうしても見ていて放っておけない。知らぬふりでは済ませられない。
だがたとえそうだとしても、これが他者から見れば偽善に過ぎない鬱陶しいだけの行いだとしても。
大きなお世話、手前勝手な易い自己満足……これらが全て偽善であることくらい分かっている。
「……助けてあげたいんだよ。傷ついてばかりの生き方なんて……そんなの辛すぎるよ」
痛みはいずれは慣れるもの。流した涙もいずれは乾き、感覚だってどんどん鈍くなっていく。
だがたとえそうであったとしても、傷口からは血が流れ続けていく。
それはたとえその流す本人が無自覚であろうとも、きっと痛くて辛いはずなのだ。
それを感じられなくなってしまうことこそ、一番悲しいものだとなのはは思う。
痛むものに痛みを感じられなくなること、苦しいのに、辛いのに、それに耐える事しか出来ない、それしか知らないこと。
それは一番見ていて放っておくことなど出来ないものだ。
そう、かつてフェイト・テスタロッサと出会った時にそう思ったように。
今のカズマは彼女と同じであり、そして同時に過去の自分だ。
誰にも助けてもらえなくて、助けてもらうということも知らずに、ただひとりぼっちで耐えるしかない、そんな子供。
高町なのはに目に映る、怒りに猛る獣の姿と本質はまさにそれだった。
だからこそ―――
「助けてあげたいんだ。彼を、彼らを……カズマ君とかなみちゃんを助けてあげたい」
この大地に自分が来たことの意味の中に、役割としてそれがあると思った。
不屈の魔法使いとしての意地が、信念がそれを貫けと自分に言ってくる。
「じゃあその為に、まだ立ち上がるの?」
少女が疑問も顕に尋ねてくるその言葉になのはは涙を拭き、そしてしっかりと頷いた。
何度振り払われようが、それでも手を伸ばす。
何度でも届かせるように、想いと言葉を投げかける。
何度でも―――そう、彼の名前を呼んで。
「本当にお節介で、大きなお世話な魔法使いだね」
そのなのはの決意に少女―――十年前のかつての自分は呆れたように告げてくる。
なのははそれに苦笑を浮かべながら、ごめんと謝る。
彼女がこの先に駆け抜ける結果、その末路とも言える自分がこれから先を信じている小さな自分の前でいつまでもいじけてはいられない。
だからこそ、今はハッキリと彼女へ向けてなのはは告げる。
「勝手でごめん。―――けど、これがやっぱりわたしだから」
十年前、己で悩み、それでも信じて進むと決めた道。
何処かの誰かの未来と幸せ、そして笑顔を護る魔法使い。
最後まで何度叩きのめされようと、負け続けようと、拒絶されようと、否定されようと、それでも変えられない。変えてはいけないとそう思う。
だから―――
「負けちゃ駄目だよ、未来のわたし」
「うん。私は負けないよ―――絶対に!」
今再び、この翼をもって舞い上がろう。
勝った。遂に、打倒した。
「はは……ははは………はははははははははははっ!」
痛快だ。最高だ。その事実を、歓喜を顕に勝ち鬨の哄笑を示す獣。
散々苦渋を舐めさせられ、虚仮にされ、立ちはだかってきた壁。
それを今この瞬間、遂に打倒してやったのだ。
「……勝った……勝ってやった……なぁ、俺の勝ちだぞ、君島ぁ!」
支援
ちゃんと見ていたか? 俺は護った、護りきったぞ。
お前の生き様を、信念を、俺たちの意地を。
この拳一つで、確かに護りきった。
「これだ、これだよ、この力だ!」
そう、この力だ。この力さえあればいい。
もう何も奪わせない、何も傷つけさせない。
虚仮になどさせない、見下させなどしない、立ちはだかせなどしない。
俺が傷つけ、俺が奪う―――俺だけの力!
もうこれだけでいい。これさえあれば何も要らない。何も欲しくない。
欲しいものがあるならば、この力で奪い取ればいい。
気に食わない奴がいるなら、この力で叩き潰せばいい。
そう、それが出来る。今の自分にならば造作も無く可能だ。
「だって俺が一番強い……ああ、俺が強えんだよ」
弱肉強食、その理が示すとおりに、王者として君臨してやればそれでいい。
力を持った奴が偉いのだから。勝った奴が一番正しいのだから。
そして自分はそれに全て当て嵌まっているのだから。
だから―――
「………カズ…マ……く…ん………」
その時だった。消え入りそうなほど小さく掠れた、けれど聞き逃すことも出来るはずもない忌まわしい声を耳が拾ったのは。
それこそカズマは信じられぬと言った様子でその視線を、声が聞こえた方向へと向け直した。
「………テメエ……ッ!?」
口汚く罵る言葉も、戦慄く身体を無く、ただただ憎悪に焦がされた感情を握った拳へと溜め込みながら、獣はその相手を睨み据える。
先程、自分が確かに打倒したとそう確信したはずの憎き仇敵のその姿を。
夢を、夢を見ていた気がした。
『マスターッ!?』
「……うん、大丈夫……大丈夫だよ、レイジングハート」
相棒からの気遣う言葉に無理矢理に平気な表情を浮かべようと努めながら、まだやれるとその意志を魔法使いは己が杖へと示した。
「……夢を……夢を、見ていたんだ………」
本当なら口の中から血塊でも吐き出してしまいたい程に、身体に激痛も走っていれば、気分も最悪だが、それでも不思議と紡ぐ言葉をやめられなかった。
「夢の中の私は……昔のわたしと出会ってて、わたしの言った指摘に……情けないけど私は泣き言を漏らしちゃって……」
『………マスター?』
主の要領を得ないその意味の分からぬ呟きに、デバイスは主の身に真剣な危惧をもまた焦りと共に抱いていた。
予想以上の相手の戦力。バリアジャケットやプロテクションを物ともしなかった相手の打撃。左腕はもはや使用どころか見るも無残に破壊され、叩き込まれたダメージもまた即死でもあってもおかしくなかった威力。
今の現状きっと誰が見たとしても、高町なのはの戦闘続行は不可能と断じても良かった。
むしろこうやって、意識を取り戻してかろうじてとはいえ立ち上がっていられる状態の方が奇跡である。
「……でもね……それでも私は、やっぱり諦められなくて、諦めちゃいけないとも思って………」
加えてこの奇妙な言動。正常な判断力が彼女に残っているのかすら、レイジングハートからすれば正直疑わしかった。
だからこそ、主を支えるデバイスとして、彼女の相棒、戦友としてレイジングハートに具申できる案は一つしかなかった。
『……マスター、此処は一度撤退を』
既に勝敗は決した。悔しい……デバイスである己の身がこのような感情を抱くこと自体がおかしく、或いは錯覚なのかもしれないが、それでも今はそれを押し殺してでも選ぶべき選択こそがそれだと判断した。
このままでは主は殺される。無論、そのようなこと断じて許せるはずもない。だからこそ、ここは無念だろうとも再起の可能性を信じて退くべきだ。
此処から先は無茶でもなければ蛮勇でもない。それにも劣る、単なる自殺行為にしかならない。
なのはを死なせるわけにはいかない。主を護るデバイスの責務としてレイジングハートはそれを遵守しなければならなかった。
しかし―――
「……駄目だよ、レイジングハート。……ここは逃げる場面じゃない」
しかしレイジングハートからのその忠言に対しても、高町なのははそれを否定するように首を横に振る。
当然、レイジングハートからすれば受け入れられるはずもない。なのはの無念は承知の上だが、それでも今は撤退以外の選択肢を彼女に取らせるわけにはいかなかった。
だからこそ、説得するために彼女が反論を許さぬよう畳み掛けるレベルの言葉を投げかけようと言葉を発しようとするも―――
「……ここで私が逃げ出したら、今のカズマ君を誰が助けるの?」
『しかし、マスター!』
「……ここで彼を止めなくちゃ、彼はもう、戻ってこれなくなる。永久にひとりぼっちになっちゃう」
そんなものは駄目だ、駄目なのだとなのはは首を振る。
レイジングハートから見れば主のそれは聞き分けのない子供の我が儘も同じ。怒鳴りつけてでも覆さなければならない、度し難い愚者の選択だ。
命を溝に捨てるようなもの……彼女が最も許さないはずの無茶そのもの、否、それにすら劣るものだ。
一心同体を誓った身であれど、これとそれは明らかに別のはずだ。
だからこそそれを何とか覆そうと論破へとかかろうとするも……
「レイジングハート――――――――お願い」
ただ一言、主からのそのたったの一言に、レイジングハートは二の句が告げなかった。
その一言、その言葉はレイジングハートがレイジングハートであるために決して無碍には出来ない、自身のアイデンティティにも関わる言葉でもあったが故に。
……そう、あろうことか主は彼女の願いを叶える魔法の杖を自負するこの身へとその言葉を言ってしまったのだ。
「お願い」と……。
『……卑怯です、マスター。それを言われたら私には返す言葉が無いではありませんか』
不屈の魔法使いの願いを叶える魔法の杖。
それがレイジングハートの自身へと課した本分、その存在意義。
主が願うその未来を、自分の及ぶやり方で手助けをして叶えるのがレイジングハートがこの十年にも及ぶ日々の中で誇りともしてきたこと。
万能ともほど遠い、出来る事に限りがある身であれど、それでもこの少女の為に力を貸し、戦い続けてきたという忠誠の形。
デバイスとして……否、魔法の杖としての誇りがあればこそ、尚更にその一言には逆らえない。
「……うん、ごめんね………レイジングハート」
それを恨み言としてぶつけられたからこそ、告げた本人たる高町なのはもまた理解している。
そしてレイジングハートが断りきれないことを承知の上で、あえてその一言を言ったのだから。
……確かに、これは卑怯であり最低だろう。それを言い訳にする心算はもはやなのはにもない。
だがそれを選んだ責任として、貫き通すことを誓った決意として、撤退を選べない以上は無理矢理にでもこう言うしかなかったのだ。
『……謝るくらいなら、最初から言わないでください』
「……うん、そうだね。……本当に、ごめんなさい。でもそれ以上に―――」
―――ありがとう、私の魔法の杖。
嘘偽り無き感謝を込めて、この共に戦い続けてくれた十年分の想いも上乗せして、高町なのははレイジングハートへと、そう感謝の言葉を告げた。
レイジングハートはそれに言葉を返さない。返さずとも充分だということは自分も……そして主もまた理解をしていたのを知っていたから。
そう、もはや言葉など不要だ。
この十年、言葉などでは言い尽くせないだけのものを互いで積み重ね、駆け抜け続けてきた主従関係だったのだから。
故にこそ、己もまた覚悟を決めようとレイジングハートはその決意を固めた。
この身はデバイス……否、不屈の魔法使いの願いを叶える魔法の杖だ。
たとえ相手が怪物のような格上の相手だろうが一歩も退かない。
この身砕け散るその瞬間まで、ただ只管に主と共に戦い尽くそう。
出来る出来ないではない、やるのだ。
アルターだか何だか知らないが……あまり魔法少女の魔法の杖を舐めてくれるな。
「行くよ、レイジングハート!」
『All right, my master.』
そして―――不屈の想いはこの胸に。
……何故だ、何故倒れない?
圧倒的な力の差を見せつけ、蹂躙と呼んでも過言では無いだけの猛攻を受け、既にボロボロと化しているにも関わらず。
どうして、どうして眼前のこの女は倒れない?
どうして、どうしてそのムカつく眼が絶望や後悔に染まらないのか?
強いのは俺だ、圧倒しているのは俺だ、負けていないのは俺だ。
だというのに……だというのに……
どうして―――
「何で……テメエは倒れねえんだよォォォオオオ!?」
しつこいとかしぶといとか、そんなレベルではない。
甚振って苦しめるとか、そんな考えはとうに捨てて今は殆ど倒す心算で攻撃を叩き込んでいた。
だというのに倒れない。地に叩き落しても直ぐに立ち上がり迫ってくる。
不気味……そう、それはあまりに不気味だった。
「しつけえんだよッ!」
その眼……こちらをまるで憐れんでいるかのようなその眼が気に入らない。
勝手に枠へ嵌めこんだ不幸とこちらを憐れんでいるかのような態度が気に入らない。
何処までいってもどれだけいっても、決して変わらない相手のその姿勢。
お門違いの救世主気取り……ッ!
「舐めんのも……大概にしやがれぇぇぇえええええええッ!」
故に許さない、許してはなるものかと拳を振るう。叩きつける。
この女を、この目の前の壁を、二度と立ち塞がれぬよう、完膚なきまで粉砕する為に。
自慢の拳をただ一心にて叩き込む。
小賢しい障壁など微塵も介さず、どれだけ強固に固めようが杖で防ごうが問答無用の拳の一撃が相手へと直撃―――吹き飛ばす。
白き魔法使いがその身を吹き出す赤へと染めながら倒れていく様を見て、今度こそと獣は己の勝利を確信する。
だが―――
「―――カズマ、くん………」
それでも尚、再び震える体に、マトモとは言い難きボロボロのその身へと鞭打ちながらそれでも女は立ち上がった。
彼の……獣の……己の名を、呼びながら。
他の誰よりも近しい、そして愛しい者だったはずの少女と聞き間違えるほどに酷似したその声で。
名前を……呼んでくる。
「――――――ッ!?」
脳裏に走った姿は、もう傍にはいない大切な誰か。
置き去り、そしてその結果として奪われた一人の少女―――
違う………こいつは、違うッ!
その脳裏に浮かんだ少女と眼前の女を一瞬でも重ね合わしてしまった事実を否定するように、苛立ちと共に尾を振るい眼前の女を叩き飛ばす。
今の“シェルブリット”を纏ったカズマは、その姿通りに繰り出す全ての打撃がシェルブリットクラスの一撃を付加している。
尾の一撃とて決して例外ではない。叩き飛ばされ近くの岩壁にめり込みかねない勢いで叩きつけられながらも、それでも女は間を置くことなく立ち上がる。
ふらつく足元、立っているのが精一杯の、重傷と認識して良いほどに酷い姿を曝しながらそれでも―――
「………カズ…マ……く……ん………」
一歩一歩、遅々とした速度にも関わらず、血反吐を吐きかねない掠れた声でありながらも―――
―――こちらの名前を呼んで、歩み寄り手を差し伸ばしてくるのを決して止めようとはしない。
……何だ、こいつはいったい何だというのだ?
分からない、自他共に馬鹿と認めているはずの自分ですら思わず馬鹿だと叫び出してやりたくなるほどに理解できない。
否、理解したくない。理解してしまえば、理解しようと思ってしまえば、きっと―――
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
訳も分からぬ言語にも成り切っていない母音の羅列を叫び上げる奇声を発しながら、カズマは眼前の女に向かって拳を振りぬこうと殴りかかった。
もはや圧倒的なまで充足感も、気に入らなかったはずの宿敵を圧倒していた時に感じていた満足感も何もありはしなかった。
そんなものを越えて、カズマが眼前の女に対して植え付けられたのは―――恐怖。
そう、前しか見ない。恐れるものなど何も無い。
ノゥとしか言わず、全てのモノに反逆を行うはずの反逆者である自分が抱くにはあまりにも相応しくない感情。
恐怖、そして精神的に押し負けてしまったという敗北感と屈辱。
……そう、屈辱だ。
これをそのままにして置くわけにはいかない。
もう誰にも負けない、奪わせないだけの力を得たはずの自分が。
こんな女を相手にそんなものを抱き続けていい道理などあるはずが無い。
故に、砕く。打ち砕く。
この自慢の拳で、このあってはならない存在を、その肉体ごとすべて……打ち砕く。
それだけがやるべきことだと言う様に、咆哮と呼ぶにも無様な叫びを上げながら。
カズマはその拳を―――
「………どうして……止めるの………?」
眼前スレスレにまで迫った己の視界をほぼ全て覆っていると言っても良い黄金の拳。
直撃すれば、命を落とすことも避けられないであろうことは間違いない、本気のカズマの拳。
けれど、それでもギリギリ届いてはいないその拳。
いつかのような寸止めの再現を前にして、今度はあの時のように問いの言葉を投げかけたのはしかしあの時とは違う人物。
またしても自分の前で拳をピタリと止めたその男に対して、今度はなのはがその問いを投げかけていた。
「……何だよ……何なんだよ……テメエはッ!?」
しかしなのはの言葉に応える様子も見せずに、拳を寸止めしている当人たる男の方が、ただこの事実が信じられないと言ったように激しく苛立ちながら首を振る。
「テメエは何だ!? いったい何がやりてぇ!? どうしてこんなにしつこく、しぶとく、俺に付き纏ってくるんだよ!?」
苛立たしい、度し難いと掛け値なしの憤怒と憎悪を顕にしながら睨みつけ、怒鳴りつけてくる。
その姿は必死なほどに、虚勢を張った張子の虎のように頼りなく映り。
なのはの目から見れば、それはとても辛そうに、苦しそうに、そして何より悲しそうに見えた。
……だから、放っておけない。このままには出来ない。
孤独と後悔と罪の深さに、その闇に彼を落とさせるわけにはいかなかった。
固く握られた眼前の拳。拒絶を示すソレへと彼女は優しく手を乗せる。
握った拳と握手は出来ない。
確かにそれは事実。故にこそ、こちらの手を握ってはもらえない。
ならばこそ、せめて優しく包み込む。慈しむように、もういいと教えてあげるように。
そして、彼女は告げる。
「……カズマ君……もう、良いんだよ」
名前を呼んで、重ねた手にも想いを乗せる。
自分にとっての精一杯、自分に出来る精一杯を。
その想いの全てを、言葉と重ねた掌へと乗せながら。
彼女は彼の―――カズマの名前を呼び続ける。
「……良くねえ……何も……ッ……何も良くなんてねえんだよッ!?」
しかしそれを否定するように、振り払うように、カズマは只管に憎悪の猛りを決して静めようとはしない。
荒々しく重ねてきたその手を振り払う。固めた握り拳は決して解かれることもない。
当たり前だ、何も良くなんて無い。良い筈も無い。
「君島は死んだんだ! テメエらに殺されたんだッ! 俺からアイツを……ダチを……ッ……それにかなみまで、全部、全部奪った分際で何が良いってんだ!?」
そうだ、君島もかなみもその全てを奪われ、帰るべき場所も、背負うべきものも、何もかも、何もかもを奪われてどうして、何が良いと言えるのだ?
言えない……言えるはずなどない。言わせてもいいはずが無い。
だからこそ、だからこその復讐。こちらから奪ったものがどれ程大事だったかを思い知らせ、報いを受けさせてやらずに収まりなどつくはずがない。
これはそういうものだ。そうでなければならない。
“シェルブリット”のカズマとして、君島邦彦の相棒として、カズマが選ばなければならないこと。
―――アイツを置き去りにしてでも、アイツの“カズくん”でなくなってでもしなければならないこと。
そう自分は選んだ、選び取ったのだ。
今更に選ばなかった道を惜しんで、立ち止まってなどいられない。
「……だからもう……遅えんだよ……ッ!」
何もかもが、全て手遅れだ。
そう、もう何もかもが―――
「遅くなんて……ない……ッ!」
しかし怒鳴り散らすカズマのその言葉すら掻き消すほどの勢いを持って、それを上回るかのような気概を見せながらなのはが言葉を発する。
思わぬ彼女の勢いと迫力に、怒り狂っていたはずのカズマですら思わず気圧され、たじろぐ。
だがそんなものも気にした様子も無く、ただ只管にカズマから目を逸らさずに真っ直ぐとその視線を重ね合わせながらなのはは告げる。
「何も……まだ何も手遅れなんかじゃ……ないよ。やり直せる……やり直せないことなんて……絶対に……ッ……絶対に、ありはしないよ!」
そう、まだ手遅れでは無い。
やり直せないことなどない。
全てを失ったと、背負うものも何もかもを無くしたとカズマは言ったが、それは大きな間違いだ。
まだ残っている。カズマには大切なものが、背負っているものがちゃんとある。
護り続けられるものが、まだちゃんと残っている。
「かなみちゃんは……かなみちゃんは、まだ君の事を信じて、戻ってきて欲しいって願って……ちゃんと待ってるんだよ?」
そう、あの少女が由詑かなみが居続ける限り、彼の事を信じて戻る事を待ち続けている限り。
「……カズマ君……まだ君は―――ひとりじゃないんだよ」
そう、決して一人などでは無い。一人きりになどさせない。
傍に信じていてくれる人がいる限り、その人が帰りを待ち続けてくれる限り。
決して、その絆と想いは彼を孤独の底へと落しはしない。
もし落ちかけているというのなら、自分が救う。引っ張り上げて、救い上げる。
そして……彼女の元へと、送り届ける。
振り払われたその手を、再び優しく差し出しながら。
だから―――
だから―――この手を取って、カズマ君。
偽善だ、欺瞞だ、そして茶番だ。
そんなことあるはずがない、そんなことあって良い筈が無い。
そんな道など、もう今更やはり選べるはずなど無い。
馬鹿だ、クズだ、愚かだ、道化だと、嗤い蔑まれようとも。
「……もう、止まれねえよ」
止まれない、止まらない。
止まり方だって分からない。
だったらこの選んだ先を進み続けることしか―――
「だったら―――私が止めるよ」
止めてあげる、止めてみせる。
そしてもう一度、道を選べる選択肢にまで戻してみせる。
絶対に、絶対に!
だから―――
「少しだけ……痛いの、我慢してね」
「―――――ッ!? テメエッ!?」
『Restrict Lock.』
瞬間、なのはが持つ杖―――レイジングハートがそう言葉を発した直後にカズマの四肢を連環の束が次々と拘束し、その場へと彼を縛り付ける。
支援
不意打ちにも等しかったこととも相まって、カズマがその事実に気付き苛立たしげに自らを縛る拘束を力づくで引き千切ろうとした直後には既になのはは上空にまで距離を取り、痛々しい片腕に必死に力を込めながらレイジングハートの切っ先をカズマへと向け終えていた。
レイジングハートを中心に、周りを囲むようにブラスタービットもまたその切っ先を寸ぷん違わず正確に、カズマへと向ける。
収束を始める強大な魔力の渦。
先のディバインバスターすら比では無いほどの、掛け値なしに限界を超えた多方向からの魔力の収束。
自らの体内で駆動するリンカーコアからだけでなく、周囲に満ちている微量な魔力要素すら根こそぎかき集めての尋常でない魔力量。
「……防御を抜いて……一撃で魔力ノックダウン。……いけるね、レイジングハート?」
『いけます。……しかし、これではマスターの方が………』
レイジングハートは気付いていた。
ただでさえ重傷と言って良い負傷を既に負い、ここまでに至るまでの激闘ですらリンカーコアを酷使し続けた。
もう……限界越えだなどと言ったそんなレベルですらない。
この一撃を放とうものなら彼女は―――
「―――大丈夫」
語尾を濁し、明滅を躊躇いの証として見せるレイジングハートに、しかしなのはは穏やかとすら言っていいような笑みを、レイジングハートの不安を払拭させる為に見せる。
「私は大丈夫……大丈夫じゃないのは分かってるけど……大丈夫」
大丈夫だから、そう優しく微笑もうとする彼女の表情と言葉。そこに込められた決意の深さを窺い知れないレイジングハートではない。
だからこそ覚悟を決めて、苦言の全てを押し込んで、無理矢理に押し黙るしかなかった。
きっとそうしなければ見っとも無く無様であろうとも彼女を止めようと喚き立てたはずだから。
けれどそれは出来ない。してはならない。何故ならそれが彼女の『願い』なのだから。
魔法少女の魔法の杖は、彼女の『願い』を叶える義務がある。
今更にそれを反故にはできない。それは彼女への忠誠を裏切るのも同じ。
……だから、止めない。
元よりこの身は彼女と一心同体。ならば最後のその瞬間までただ共に駆け抜けるのみ。
故に―――
『…………All right, my master.』
――今はただ、この言葉をもって彼女の決意を受け止めるのみ。
「やるよ、レイジングハート!」
『Yes,my master.』
眼下のカズマがレストリクトロックを今、力づくで引き千切った。
同時、なのはもまた最大限にまで溜めきったその一撃を解き放つ。
これが最後。正真正銘の全力全開、己の全てを込めた一撃。
「スタァァァァアアアアアアライトォォォオオオオオオ―――」
高町なのはが保有する自身にとっての最強の魔法。
十年前、親友との戦いとの決着に全てを賭けて解き放った己にとっての全ての思いの結晶。
「ブレイカァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
これが私の全てだ、となのはは解き放ったその一撃をカズマへと叩き込んだ。
今までの比ではないレベル。視界を焼くとかそんな規模すら軽く超越した多方から叩き込まれる桜色の極光。
文字通りの空を照らす星の輝きに匹敵する……否、星そのものを叩きつけられているかのような衝撃と圧力が全身へと叩き込まれる。
全身を覆う鎧と化したシェルブリットは本来ならば最強の防御も兼ねた無敵の強度を誇っていたはず。
にも関わらず、先のディバインバスターすら凌駕したはずのシェルブリットの全身に次々と亀裂が走っていく。
圧縮され叩き潰されんばかりの衝撃が、五体をバラバラに消し飛ばされかねない激痛が、次々と無敵であったはずのカズマにレッドアラームをかき鳴らさせる。
やばい、このままだと耐え切れない。
遂に膝を地に着けることになったカズマの脳裏に走ったのは、そんな誤魔化しようもない焦りだった。
これに耐え切れるのか……耐え切れなければ、それは終わり。敗北だ。
………負ける、この俺が?
「ふざ……けん……なぁぁぁあああああああああああああああああああああッッ!」
己を焼き尽くさんばかりに叩き込まれている桜色の極光の中で、カズマは再び雄叫びを上げながら負けじと自らもまた眩いばかりの黄金の輝きを全身から発する。
外部から叩き込まれているこの圧力。全身を覆うこの敵の一撃を弾き飛ばし、否、消し去らんとせんために。
耐えろ、耐えろ、耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ――――ッ!
ここで屈したらすべて終わりだ。負けたら何も残らない。自身の全てが奪われる。
背負った君島の生き様すら……汚される!
そんなことには耐えられない、我慢ならない、認められない。
だから負けない。負けられない。
もう二度と、誰にも絶対に。
「……ましてや……ッ……テメエに、だけは……ッ……なぁぁあああああああああああ!!」
負けられない、この女にだけは負けられない。
なぁ、そうだろ? 君島―――――――ッ!
負けられない、彼にだけは絶対に負けられない。
今の彼にだけには、絶対に、絶対に負けられない。
スターライトブレイカーの多角面からの一撃を直撃しているにも関わらず、カズマは逆に弾き返さんと言わんばかりの黄金の輝きを全身から発しながらその場で耐え凌ごうとしている。
耐え切られ、凌ぎ切られれば、その時点でこちらは敗北。
それが承知の上だったからこそ、なのはは更にリンカーコアを本当に焼き切れんばかりにまで駆動させ、底の底から、文字通りに己の命を燃やし尽くして更に魔力を搾り出す。
当然、そんなことをして人間の体が耐えられるはずもない。
「―――ごふっ!?」
思わず口腔から血が溢れ出し喀血する。ただでさえ全身に負った重傷で身を引き裂かれんばかりの痛みを感じているというのに、それに加えて今度は内部から自分の体がバラバラにされるかのような激痛が全身の隅々にまで駆け抜ける。
……痛い、本当に痛くて、苦しい。
泣き叫んでいいのなら、それこそ恥も外聞も気にせず、プライドすらかなぐり捨ててそうしたいとも思う。
(……でも……ッ……でも……きっと、私よりも……君の方が……ッ!)
きっと、自分などよりもカズマの方がずっと痛くて苦しいはずだ。
彼の心はバラバラにされかねないほどに傷ついている。
それを護ってやれなくて、救ってやれなくて何の魔法か。
だから―――痛みに屈してる暇など自分には無い。
今すべき事は、思うべきことは、きっとそんなことではない。
269 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/12(月) 21:00:54 ID:mr6U0pMZ
これ見終わらないと眠れないぜ
支援
彼を救うために、彼に伝えるべき言葉と思いを届ける為に今は―――
「ブレイクゥゥウウウウウウウウウウウウ―――」
込める、更なる量を。更なる密度で。
魔力を、想いを、願いを、己が伝えたい全てを込めて。
今度こそ……今度こそ、ここで彼を止める為に。
少女との約束を、その願いを叶える為に―――
「シューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーートッッ!!」
己の中の何かが焼き切れるのを感じ取りながら、しかしそれすらも覚悟の上で自分の中の想いの全てを上乗せして。
最後の一撃を押し切る為に彼女はこの一撃に己の全てを注ぎ込んだ。
共鳴現象。
それは強い力、意志を持つ者同士がぶつかり合い『向こう側』に触れることによって起こる現象のことである。
今回のロストグランドで起こったかつての大隆起現象を再現しかねないレベルでの再隆起現象。
これはカズマと劉鳳、二人の強い力と意志があの空間の中でぶつかり合い、共鳴を果たしたからこそ起きた結果でもある。
そう、この地は確かに再び『向こう側』へと繋がった。
今この場所、再隆起が起きた直後たるこの地域は未だ完全には閉じ切っていない『向こう側』の残滓が漏れ出ているいわば入り口に近い場所。
本来ならば現時点では最終進化に至るにはまだほど遠い過程にいるはずであったカズマが急速な進化を果たしたのも、彼がこの地にいたこととまたこの地の『向こう側』への開いた入り口が完全には閉じ切っていなかったことが最大の要因ともなっただろう。
そう、この地はこの瞬間において言えば『向こう側』へと今最も近い場所でもある。
故に『向こう側』を貯蔵庫とするアルター能力の活性化も激しく、そして引き出される力もより大きなものとなる。
尤も、現時点ではカズマの本来ならばまだありえないはずの最終進化は一時的なものに過ぎず、完全に全てを引き出しきるにも未だ遠かった。
故に引き出せたのは本人自身が思っているよりも底には遠い、精々半分を少し超えるくらいを引き出せたかどうかと言った程度だ。
無論、それでも人間が如何こう抗うには度の過ぎた力であるのは事実だが。
そしてカズマが無理矢理に再び閉じかけた直後に『向こう側』の扉を開けようなどとしたものだから当然この場に再び負荷が掛かったのは道理。
加え、不安定にも近いこの場にまったくベクトルの異なる魔法などという異物にも等しい力が凡そ最大規模でいきなり注ぎ込まれればいったいどうなるか?
結論から言えば……とんでもないことになった。
そう、空間が不安定で歪みかけている場所で最上級のエネルギー同士のぶつかり合い。
辺りを覆うほどの大規模な爆発が発生したとしても、それは無理からぬことだった。
暗雲を切り裂くように新生した閃光。
その光と爆発が中心点にいる両者を包んでいき―――
カズマが死ぬw
272 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/12(月) 21:04:57 ID:mr6U0pMZ
熱い戦いだ
劉鳳空気w
以上、投下終了。
ここから先、後20レスくらいありますが区切るにも中途半端なので今回はここまでにさせてください。
次で確実に終わらせますので、もうオチは大方読めておられるとは思いますがもう少しだけお付き合い頂ければ幸いかと。
支援と感想ありがとうございました。そして前回支援していただいた方にお礼を書き忘れていた件、申し訳ありませんでした。
今回執筆中のBGMがprayとかparadise lostとかだったせいか、全体通してもそうですがこの辺りは特に影響受けまくりになっているのを自分で読み返して見ても反省してます。
長々とすいません。それでは、また。
274 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/12(月) 21:10:44 ID:mr6U0pMZ
なん・・・・だと
ちょっなんて生殺しwww
寸止めとかそりゃねーぜww
乙でぺぷ
今のカズマが最終形態の半分ぐらいってことは
モンスター化した無常と同じぐらいかね
GJ!!です。
なのはが底なしに相手の事を考える優しい女だってのは分かるんだけど、
カズマは、手を差し伸べられるというのが嫌なんだろうなぁ。
予定が無いようなので2330時よりマクロスなのは第7話投下したいと愚考する所存ですが、どうでしょうか?
おkだと思います。今回も楽しみに待ってますね
フェイト「なのは、いっつもcocoaのことしか考えてないよね」
なのは「じゃあいっつも私のこと考えてる?」
フェイト「ええそれはもう」
なのは「えっ」
フェイト「えっ」
投下乙でしたー
しかしあれだ、カズマの力が本人にも危険だって分かってるのに戦闘続行、そのたびにさらに力を引き出して……
っていう悪循環だよね、これ。話し合いにならないんじゃしょうがないけども
原作じゃ片眼が開かなくなったけど、この話じゃもっと酷いことになりそうだ
>>280 ありがとうございます。お世辞でもうれしいです!
では時間になったのでそろそろ投下開始します。
マクロスなのは第7話『計画』
アルトは隣を並進するVF−0『フェニックス』に呼び掛ける。
「なぜ生きてるんだミシェル!? 魔法でも死者甦生は無理なはずだぞ!?」
『勝手に殺すな。それともなにか? 死んだ方が良かったのか?』
「いや・・・生きててよかった。」
『・・・へぇ、素直になったなアルト姫。』
「姫はやめろ!もう一度ここで戦死したいか!?」
なにやらよくわからないなのはが後ろでおろおろしている。
「えっと・・・アルトくん、どうなってるの? お友達?」
アルトは振り返り怒鳴る。
「こんなやつ友達なもんか!」
聞こえたミシェルが言い返す。
『はん? 言うじゃないか。それに女の子に怒鳴るとは天下のアルト姫も地に落ちたようだな』
それに怒鳴り返すアルト。スカした言動で翻弄するミシェル。口喧嘩は5分にもおよんだが、なのはは2
人からまったく悪意を感じなかった。
「本当に仲がいいんだね。」
なのはの呟きはどうやら念話に乗ってしまったらしい。2人は同時に否定する。そのユニゾンになのは
はまた笑った。
(*)
なのはの仲裁によってようやく2人は矛を収めたが、アルトはやっと重要な事に気づく。
「そういえばお前、その機体どうした?」
ミシェルはしばし沈黙を守ると一言。
『・・・・・・メイド・イン・ミッドチルダだ。』
「「え!?」」
『・・・・・・細かいことは技研に着いて、田所所長から聞いたほうがいいだろう。』
ミシェルのVF−0はガウォークからファイターに可変、旋回していく。アルトはなのはの了解を得ると、ミ
シェルを追った。
(*)
10分ほど飛行を続けると六課を飛び越し、海上に出た。VF−0が降りる大地は技研から100キロ離れ
たこの海上にあった。下界には海に浮かぶ大きな島が見える。
『こちらは時空管理局地上本部、技術開発研究所のテストパイロット、ミハエル・ブラン一等空尉。管制
塔、着陸許可願います。』
『・・・確認しました。第7滑走路はクリア。着陸OKです。』
続いてVF−0の後についてきたVF−25にも通信が入る。
『管制塔からフロンティア1』
「こちらフロンティア1、どうぞ。」
『路面が通常のアスファルトのため、ファイター形態にて滑走路に進入、ミハエル機に続いて着陸してく
ださい。』
「フロンティア1、了解。」
コールサインで呼んでいるのは、近くを飛ぶ民間機の多いせいだ。
そう、ここは管理局の施設ではなく、民間のミッドチルダ国際空港だ。レーダーを見ると、100を超える
民間の旅客機、次元航行船が写っている。
ちなみに通常のアスファルトやコンクリートの地面だと、ガウォークのエンジン噴射の熱に耐えられずひ
び割れが発生する。
「・・・珍しいのか?」
なのはがさっきからキョロキョロしているのでアルトが聞く。それになのはは目を輝かしながら応える。
「うん。空戦魔導士でも危なくて緊急時以外近づかせてくれなかったの。・・・こんなに飛行機が飛んでる
んだ・・・ほら!あんな大きい飛行機の操縦なんて楽しいんだろうなぁ〜」
オートパイロットの見張り役と酷評される民間機のパイロットからすれば、Sランクで自由に空を飛べる
なのはの方がよっぽど羨ましいに違いない。だが人間、自分に無いものが羨ましくなるものだ。
その後ひっきりなしに離着陸する民間機に混じって無事着陸。そのままバルキリーは格納庫へ運ばれ
、アルト達はリニアレールで技研に向かった。
その道中なぜミシェルは生きているのか?また、なぜこの世界にいるのか?が彼の口から明かされた。
彼の話によると宇宙に放り出されてすぐ、EXギアの緊急装置が作動。すぐに体を風船のようなもので
包み、凍死と窒息の危機から救ったらしい。
また、怪我から意識を失いかけていたミシェルだが、そこにアイランド3から誤作動で切り離された脱出
挺が偶然通りかかり救助されたという。
その後フロンティア市民を乗せたまま漂流していた脱出挺はアイランド3から発生した謎の爆発≠ノ
呑み込まれフォールドしたらしい。─────その爆発がバジュラ殲滅に使ったフォールド爆弾『リトル
・ガール』であることは言うまでもない。─────脱出挺は奇跡的にフォールド空間へと振り落とされ、
乗員達が気づいた時にはこの世界に来ていたという。
「じゃあこの世界には俺たちよりも早く来たのか?」
向かい合わせのミシェルは頷くと話を続ける。
「あぁ、もう8カ月前になるな。・・・ってそうだ!フロンティアは!? クランは!?」
詰め寄るミシェルをアルトは両手で制す。
「待て待て、安心しろ。あれからバジュラとの共存の道が開けたんだ。だから両方とも無事。今ではバジ
ュラの母星に移民した。もう1年になる。」
ミシェルは「そうか・・・よかった・・・」と、胸をなで下ろした。
ちなみにそれぞれの客観時間が違うことはフォールド航法を使うとよくある事なので、まったく気になら
なかった。
「・・・でだ、なんで知らせてくれなかったんだ?」
「技研の仕事がぎっちぎちでな。しかしおまえがランカちゃんと来た時には驚いた。暴動に歌か。まった
く昔の自分を見るようだったぜ。しかも俺達が必死こいて守ったオーバーテクノロジーも全部暴露しやが
って。」
「あ、いや・・・すまない・・・・・・」
罪悪感があったので素直にあやまった。そんな2人の会話に仲裁しながら入り込む。
「まぁミハエル君、あんまりアルトくんを責めないであげて。・・・それで他の人達はどうなったの?」
「俺の親しい友人はミシェルって呼ぶんだ。だからミシェルって呼んでいいよ、なのはちゃん。」
彼のウィンクに頬を赤らめるなのは。
ミッドチルダとフロンティアでは客観時間がずれている。そのためまだミシェルは17〜18歳のはずだ。
一方なのはは資料によれば19歳。年上だ。つまり年上しか狙わないミシェルの射程内ということになる。
しかしクランとのことや、なのはが戦闘職であることから外れるかもしれないが、この8カ月が彼を変え
たかもしれない。
(こいつ(空とベットの撃墜王)に狙われてからでは遅い。)
アルトは一応予防線を張ることにした。なのはに念話で呼びかける。
『(なのは、こいつはやめたほうがいいぞ。)』
『(? どうして?)』
『(実はそいつ・・・ゲイなんだ。)』
「ふぇ!?」
なのははおどろきのあまり素っとんきょうな声をあげた。
「どうしたの? なのはちゃん?」
ミシェルは顔を真っ赤にしたなのはに問う。
「ううん、なんでもない・・・・・・」
「ん? そっか。とりあえず他の人達だよね。民間人は普通にミッドチルダで暮らしてるけど、元新・統合
軍の軍人さんはみんなを守りたいって残らず時空管理局の地上部隊に入局してる。」
不思議なことに、民間人含めてみんながみんな魔力資質があってね。と付け加える。
「ミシェル君も?」
「ああ、大抵Bランクだったんだが、俺はAA+だった。」
「へぇ、そっちの世界に魔法がないのが残念なぐらいだね。」となのはが言った辺りでリニアレールは技
研に1番近い駅に到着した。
(*)
その後研究員の運転する車で技研に戻ると、彼らを出迎えたのは田所だった。アルトは彼に問いただ
したいことが山ほどあったが、田所のたった一言にその気力を挫かれた。
「・・・おかえり」
アルトだからわかる演技でない心からの言葉。父の姿が重なったアルトは少し戸惑いながら「ただいま」
と返した。
(*)
ミシェルは「用事がある。」とか言って田所と研究員達に連れていかれたが、アルトとなのはは応接室に
通された。
しかしどうやら先客があるようだった。
「レ、レジアス中将!?」
なのはは入ると同時にそのおじさんに敬礼する。
「ん? あぁ、高町空尉。君も来ていたか。第256陸士部隊から君達六課の活躍は聞いている。地上部
隊の窮地を救ってくれてありがとう。」
もし予算を増やしたのに陸士部隊が敗北してロストロギアを奪われていれば、地上部隊の存続すら危
うくなる。リニアレール攻防戦はそういう深い意味のある戦いだった。
「いえ、私達は任務を忠実に実行しただけです。」
「それを尊いと言うんだと、私は思う。」
彼はそう言ってなのはの肩を叩き、アルトに向き直る。
「早乙女アルト君、君とランカ君には特に感謝しなければならない。君達と我々は元々関係のない間柄
なのに、以前の襲撃事件や今回のことなど助けてくれてありがとう。」
アルトはその言葉に、以前シグナムに言った事と同じセリフを返す。
「いや、俺たちは偶然あそこにいて、偶然それに対応できる装備があっただけだ。」
「とんでもない!我々が助かったことは事実だよ。精神面でも技術面≠ナも。」
技術が各種オーバーテクノロジーを示していることは明白だったが、そこを強調するところはタヌキだ。
こうしてアルトの反応を試しているのだろう。
すでにアルトは彼がペルソナ(仮面)をかぶっていることを見抜いていた。しかし、以前のフロンティア臨
時大統領、三島レオンのような野心や悪意は感じられない。
彼にあるのははやてと同じような守りたい≠ニいう強い思いだけだ。
おそらく彼のような立場になると否が応でもペルソナを・・・・・・権謀術数にまみれた権力の世界を渡るた
めに、被らなければならないのだろう。
「どういたしまして。」
アルトがそう答えるのと田所が入室するのは同時だった。
邪魔かな?と思ったなのは達は出ていこうとするが、レジアスに呼び止められる。
「丁度いい。君達にも関係ある話だから、聞いていきなさい。」
そう言うレジアスは空いたソファーの席に2人を誘導した。
田所は空中に大型のホロディスプレイを出すと3人とは対面になって説明を始める。
画面には大きく『時空管理局 地上部隊 試作航空中隊についての中間報告』とある。
「今回完成した試作1号機『フェニックス』の実戦テストは無事終了。量産機としてVFー1『バルキリー』
の第1次生産ラインの整備が進んでします。現在は第25未確認世界≠フL.A.I社の研究員より提供
されたVFシリーズの設計図からVF−11『サンダーボルト』が試作2号機として解析が完了。試作が開
始されました。試作機が完成し、テストも順調ならば1ヶ月以内に生産ラインが整備できる予定です。ま
たパイロットの養成は彼ら≠教官に順調に進んでおり、1週間以内に試験小隊が組める予定です。」
ディスプレイに写るVFシリーズの図面は紛う事なきアルトの世界のものだ。しかし随所にVF−25の最
新技術、またはミッドチルダの技術が、フィードバックされている。
2機種のエンジンが初期型の熱核タービンから最新の熱核バーストエンジン(ステージU熱核タービン。
初期型の約2倍の推進力を誇る。)に換装され、装甲が第3世代型の『アドバンスド・エネルギー転換装
甲』になっていた。
また、推進剤のタンクが本来入るべき場所に小さなリアクターが居座っていた。このリアクターは改修し
たVF−25の装備と同じようだ。
VFシリーズの装備群は、基本的に反応炉(熱核タービン)のエネルギーを流用する。しかしそれではま
るっきり質量兵器と同じなため、このリアクターが搭載されたのだ。
これは名称を『Mk.5(マーク、ファイブ) MM(マイクロ・マジカル)リアクター(小型魔力炉)』といい、ミッ
ドチルダにはすでに30年以上前から製作、量産する技術力があった。しかし魔導士が携帯するには大
きすぎ、車両に搭載すると質量兵器に見られかねない。・・・いや、まずこれほどの出力が通常個人レベ
ルの陸戦では必要なかった。
かといって基地や艦船の防衛システムに使うには逆にひ弱で、正規の艦船用や基地用の大型魔力炉
に比べると受注量は少なかった。
そこに目を着けたのがちびダヌキ≠フ異名を持つ八神はやてだった。
彼女は比較的安価でバルキリーに搭載するには十分小型なこの魔力炉を搭載させ、バルキリーの兵
装と推進系を改装したのだ。
この魔力炉は疑似リンカーコア≠ニも呼ばれており「個人の魔力を最大500倍まで増幅する」という
のが本当の機能だ。しかし本物のリンカーコアがないと、使用はおろか起動すら出来ない。
だから誰でも、そしてボタンを押せば使えるような兵器ではない。
つまり「これは魔法≠サのものではないか。」というのが六課側の主張であり、報道機関の協力も
あって$「論からは認められている。
しかし六課自身もこれは質量兵器であり、ランカを守るための希少な戦力であるべきだと考えていた。
「田所所長・・・まさか本気で作ったりしませんよね?」
アルトの問いに田所の表情が陰る。彼は正直なのだ。
しかし、今まで『管理局は質量兵器を使わない』と信じていた。または、信じようとしていたなのはやアル
トには衝撃だった。
「田所所長、君は答えなくていい。私から説明しよう。」
レジアスは立ち上がると、自らの端末を操作してディスプレイに投影する。
56回
上の見出しによると、ミッドチルダでのガジェットの出現回数のようだ。
確か六課はこの回数の半分ぐらい出撃しているはずだ。
六課は新人の研修ばかりやっているように思われがちだが、今回のリニアレール攻防戦以外にも要請
を受けてスクランブルしたことは多い。
目立たないのはほとんどが空戦であり、新人達が実戦に臨むことがなかったためだ。
「現在、六課の善戦で地上の平和が守られているといっても過言ではない。しかし、君達1部隊に地上
の命運を託すわけにもいかないのだ。そこで突破口となるのがアルト君、君のバルキリーだ。」
多少芝居がかったようすで大仰にアルトを指差す。
「俺の?」
「そうだ。バルキリーは改良すれば、魔導兵器として管理局でも採用できるのだ。君が以前襲撃事件の
時バルキリーを使い、その業績から世論はそれを許した。」
マスゴ<~(報道機関)も珍しく比較的ソフトに表現しており、ミッドチルダ市民はVF−25が上空を飛
んでいても不安を覚えず、子供達が手を振っているほどに受け入れられていた。
ちなみに普及の始まったPPBS(ピン・ポイント・バリア・システム)も今では魔法として人々にとらえられ
ており、格闘でもPPBを併用すれば質量兵器を使った攻撃とは見なされない。(VF−25では反応炉で
発生させたものであるが、そんなことはもちろん伏せられている。)
「しかし、質量兵器廃絶の理念に違反するすれすれではないでしょうか?」
なのはがつっこむが、レジアスは悲しい顔をして言う。
「そこまで追い詰められているのだよ、我々は。」
ピッ≠ニいう電子音とともにディスプレイの数字が変わる。12人≠ニ。
(何が12人なのだろう?)
2人は顔を見合わせる。
「この数字は、ガジェットとの戦闘で戦死した数だ。」
それを聞いた2人の顔が強ばり、田所は顔を伏せた。
「しかしそんな報道は─────」
「君は住民にパニックを起こせ。と言うのかね?」
レジアスはそう言ってなのはの反論をねじ伏せた。どうやら厳重な報道管制が行われているようだ。
「戦死したのはほとんどBランク以下の者だ。」
列挙される殉死(戦死)者名簿。右端に書かれた魔導士ランクを見ると、確かにB,Cランクで固まってい
る。しかし1人だけAAランクの魔導士がいた。職種は空戦魔導士。部隊名は『第4空戦魔導士教導隊』。
それはどこかで聞いた部隊名だった。
(確かなのはの─────)
「え?うそ・・・栞!?」
なのははそのAAランクの者の名を叫ぶ。
そう、確かその部隊はなのはの前任地だった。
レジアスはそんな彼女の驚きを予想していたようだ。彼はその宮島栞二等空尉のデータを呼び出す。
「彼女は管理局員の鏡だった。」
レジアスはそう前置きをして話始める。
彼によれば教導隊はその日、海上で学生上がりの見習い空戦魔導士の訓練を行っていたそうだ。
しかしその時、部隊はガジェットU型の奇襲を受けた。教導隊は必死の防衛戦の末撃退は不可能と判
断し、転送魔法による撤退を開始した。
だが、敵の攻撃が激しく、学生を守りながらではとても逃げられなかったという。
「─────そんな時彼女は、全員を逃がすために囮になったんだ。おかげで新人含め部隊はほとん
どが無事に帰還した。だが彼女だけは・・・・・・」
遺体は海上のためか発見されなかったらしい。しかし発見された彼女のデバイスのフライトレコーダー
から、彼女の死亡が確認されたという。
「・・・彼女はフライトレコーダーに最期の遺言を残していた。それがこれだ。」
レジアスは端末を操作してプレーヤーを起動し、再生した。
──────────
・・・・・・みんな、無事に逃げたよね? 私はここまでみたいだけど、きっと仇をとってね。私は空からみ
んなを見守ってるから。
・・・・・・なのはちゃん知ってるよね?この前見た映画で私、「『空からみんなを見守ってる』って言ってみ
たいなぁ。」って言ってたこと。でも、いざそうなってみると、あんまり感慨深くないんだね・・・・・・
声に混じる爆音。それは彼女の後ろに迫る死神の足音のように響く。
・・・・・・もう時間がないみたい。これを聞く人みんなにお願いします。絶対この機械達に私たちの無念
を晴らさしてやってください─────
──────────
そこでプレーヤーが止まった。・・・いや、まだ残っているがレジアスが止めたのだ。
「ど、どうして止めるんですか!?」
なのはが珍しく声を荒げる。
「・・・これ以上聞くのは勧められない。・・・・・・きっと君は後悔する。」
「構いません!お願いします!」
なのはの懇願にレジアスは彼女に再度答えが変わらない事を確認すると、再生を押した。
沈黙。
ただ爆音が響く時間が10秒ほど続くと、微かな声がした。
・・・・・・ぃゃ、いやだよ!わたしまだ死にたくない!なのはちゃん、誰かお願い、助けて!私にはまだ
やりたいことがたくさん残ってるの!私には、私にはぁぁぁーーーーー!
恐らく最終防衛ラインであった全方位バリアを破られたのだろう。直後ガラスが割れるような音とスピー
カーを割らんとする程の断末魔の悲鳴が部屋を包んだ。
そこで今度こそ再生が終わった。
しかしアルトはなのはの顔を窺うことができなかった。彼女はそれほどの負のオーラを放っていた。
「・・・・・・君はガジェットとの戦闘に慣れている。その見解から聞かせてほしい。」
「・・・はい、なんでしょうか?」
なのはが顔を上げ気丈に振る舞う。目に涙を溜めて・・・
「シングルAランクの空戦魔導士部隊の1編隊(3人)と、ガジェットU型の10機編隊が会敵した場合、
どうなると思うか?」
「適切に対応すれば十分ガジェットの撃破は可能であるはずです。」
なのはは空戦魔導士の教導員として自信を持って言う。それぐらいのことは教えてきた自負と誇りがあ
った。
「ではAランクをリーダーに置き、大多数のB,Cランクの魔導士で形成されている現状の部隊ではどうだ?」
「それは・・・・・・」と、なのはは口を濁す。そこで彼女は改めて自分の部隊が恵まれていることを実感した。
隊長格位は自分を含め全員オーバーS。副隊長でもニアSランク。不安の残るフォワード4人組も陸戦
Bランク(魔導士ランクの陸戦能力版)だがリンカーコアはAランク相当。
自らの部隊はすべての点において他の部隊より圧倒的な戦力とサバイバビリティ(生存性)を誇ってい
た。
「すいません・・・」
なのははすでに俯いて喋れない。
「甘いよ、高町空尉。これが現実だ。」
映り変わったディスプレイには予想される損耗率が表示される。
Aランク 25%
Bランク 50%
Cランク 75%
なのはは遂に堪えきれず泣き出し、その数字が的外れでないことを表した。アルトは彼女の背中をさす
りながら呟く。
「これほど逼迫していたのか・・・」
この損耗率ならば、まだ殉職者が12人しか≠「ないというレベルだ。なぜならもし、Aランク1人、Bラ
ンク4人、Cランク5人で1部隊の場合、最悪半数以上が帰還できない。
アルトの驚愕に、レジアスは追い討ちをかける。
「加えて、先ほど六課から報告があった。君達は確か、今回の戦闘で新型空戦ガジェットと遭遇したそ
うだね?」
アルトの顔が真っ青になる。あいつら─────「ゴースト」は能力リミッター付きとはいえ六課が苦戦
した。つまり彼ら、現状の空戦魔導士部隊が会敵した場合など、考えるまでもなかった。
(*)
今、応接室にはアルトとなのはの2人しかいない。それはレジアスが「高町君が落ち着くまで待とう。」と
言って田所を伴い、部屋を出ていったからだ。
あれから15分。なのははまだ嗚咽を漏らしながら涙を流している。
無理もないことだった。彼女が友人をどれほど大切にしているかを、アルトはよく知っている。
そんな彼女がそういう友人の無惨な死を知らされ、今後も死者は増えるというのだ。その心中、察する
に重かった。
アルトは根気よく彼女が落ち着くよう努力したところ、だんだん嗚咽が少なくなってきた。
そしてなのはは訥々と喋り始めた。
「・・・栞とは教導隊の同期だったからよく話したの。生い立ちとか、夢とか・・・。その時の私はみんなを守
れる気でいたの。・・・でも結局私は、自分の見えてる範囲の人達しか・・・いや、誰も救えてなかった・・・
大切な友達だって・・・ほんとダメダメだよね。私なんて─────」
普段の彼女、エース・オブ・エース『高町なのは』からは想像できない弱音の数々。それは彼女がいま
まで1人でため込んでいたものだ。
幼少期から受け継がれているこの、悩みを1人でため込んで処理しようとする悪い癖はいまだに彼女を
束縛していた。
「・・・俺は、そうは思わない。」
アルトは立ち上がると、俯くなのはに昔話を始める。
「あれは、フロンティア船団がバジュラに初めて襲われた時だった─────」
──────────
燃え上がる市街地。
コンサートを開いた歌手(シェリル・ノーム)に、混乱への対応をしないでそそくさと逃げようとしている事
に対する文句を言いに行ったアルトは、彼女のボディガードによって気絶させられていた。
「くそ!統合軍はなにをやってやがる!」
やっと目の覚めたアルトが顔を上げ、野外を見渡すと、その赤い圧倒的な存在があった。
よくみれば防衛出動したらしい統合軍のベアトリーチェ(8輪の装甲偵察車。偵察車とあるが、実際には
105mm速射砲を搭載しているため従来の戦車のように運用される。)があちらで数両大破している。そ
して目の前の怪物(バジュラ)には被弾したらしき弾痕があった。
つまり統合軍は必死に戦ったが、敵が圧倒的だった。
そういうことなのだろう。
逃げられないアルトは統合軍の質の低下を招いた、時の政府に悪態をつき、後退する。
「いやぁぁーっ」
場違いな悲鳴がしたのはその時だった。驚いてそこを見ると、先ほど道案内した緑色の髪をした少女だ
った。ビルの壁面に追い詰められ、腰を抜かしている。
なお悪いことに怪物は彼女に興味を持ったらしく、そちらへと方向を変えた。
(どうする・・・俺は・・・)
逃げるなら絶好のチャンスだ。今怪物の意識は完全にそれている。しかし─────
(見捨てるのか!?)
怯え、すくみ、ただ恐怖するしかない少女を。
だが助けるにも今のEXギアでは、彼女を助けて2人で離陸するだけの推力はなかった。
怪物の頭らしき物に付いた無数の目が、妖しく光る。しかし次の瞬間、その頭を曳光弾混じりの機関砲
弾が殴打した。それを行ったのは純白に赤黒ラインの映えるVF−25Fだった。
『さっさと逃げろ坊主!仕事の邪魔だ!』
そのバルキリーのパイロットのものであろう割れた声がEXギアの無線から届く。
VF−25Fはガウォーク形態に可変するとバジュラを抑え込んだ。
だがアルトは言われた事と正反対の行動に出ていた。先ほどの少女に向かって全速力で走り出したの
だ。
しかし、怪物の爪が抑え込んでいたバルキリーのコックピットを襲い、キャノピーを大破させた。
『負けてたまるかよ!』
パイロットは自衛用のリニアライフルを1挺担ぎ、EXギアで飛翔する。パイロットにもアルトの意図がわ
かっていたのだろう。彼女から数十メートルも離れていなかった怪物を、1区角先まで誘導する。
『やらせるかよ・・・!ここは俺たちの船、フロンティアなんだからよぅ!!』
彼はそう叫んでリニアライフルで4.5mmケースレス弾を怪物に叩き込む。しかし、バルキリーの機関砲
すら効かない相手には全く効果がない。
「やめろ!死んじまうぞ!」
アルトは叫ぶが、パイロットは『・・・うるせぇ!坊主、早くお嬢ちゃん連れて逃げるんだよ!』と、取り合わ
なかった。
──────────
「それでパイロットさんはどうなったの?」
なのはが先を促す。
「あの後、バジュラがパイロット─────ギリアムを掴んで─────」
アルトが広げた手を閉じ、強く握る動作をする。それを見たなのはは痛々しい顔をして背けた。
「・・・だがな、彼は最後の最後まで撃つのをやめなかった。多分彼は守ろうとしたんだ。悪態をつくことし
か出来なかった俺や、怯えることしかできなかったランカを。だから俺は周りの人間・・・いや、目の前の
人間を守ろうとするだけでも尊いと思うんだ。そうでなければ、あのVF−25を遺してくれたギリアムに、
なんと言えばいいかわからない・・・・・・」
悲しそうに握りこぶしを振るわせて語るアルト。その時なのはの脳裏に2週間前の光景がフラッシュバッ
クした。
それはVF−25の魔導兵器への改装が終わって、「ついでに塗装も変えるか?」という話になった時の
ことだ。
アルトはSMSの国籍表示マークはともかく、その純白に赤黒ラインの塗装を断固として譲らなかった。
今思えば、彼の3代目VF−25にも引き継がれたこの塗装は、アルトに掛けられたカース(呪い)なのだ
。ギリアムの意志を継ぎ、人々を守るための・・・・・・
「・・・・・・ありがとう、アルトくん。おかげで元気が出てきた!でも、今日はみっともない所ばっかり見られ
ちゃったな。」
「テヘへ」という笑顔はいつもの彼女のものだった。
その時、計ったかのようにドアが開き、レジアス達が入って来た。
(*)
「それでは続きに入ろうか。この損耗率に憂いた我々は、低ランク魔導士でも運用可能な装備の開発に
着手した。今回リニアレール攻防戦でその実用性を示した新型デバイスもこれに当たる。これは陸士達
の装備だが、空戦魔導士の装備を考えた結果出たのがバルキリーだ。」
ホロディスプレイにバルキリーを使うことの有用性を箇条書きにしたものが示される。
・MMリアクター(擬似リンカーコア)の導入でリンカーコア出力がCクラスならB。BクラスならA。Aクラ
スならSという超絶的な火力になる。(事実、AAランクのアルトのガンポッドから打ち出される最大出力
時の魔力砲撃は、シングルSランクの威力を有している)
・全体的に魔導士ランクが低くできるため、管理局の規定にある『1部隊が持ちうる魔導士ランクの限界
』がほぼ無視できる。
・非魔力資質保有者を整備員や生産工として大量雇用し、非魔力資質保有者の就職氷河期に歯止めを
かける。
・ファイター形態は速度が速い(音速以上)ため、即時展開性が向上し、素早い対応ができる。
・局員の生存性の向上。
それらを見る限り悪いことはないように思えた。
「これらの理由からバルキリーの制作は決定された。わかってくれたか?」
2人は異論なく頷いた。
「我々はこのように公表するつもりだ。あと、彼女の遺言も・・・。これで世論はわかってくれるだろうか?」
レジアスが2人に再び問う。
「レジアス中将の考えは間違ってないと思います。だからみんなにも─────栞にもきっとわかって
もらえると思います。」
なのはの同意にレジアスは「ありがとう。」と礼を言いい、田所に報告を続けるよう促した。
(*)
田所の報告が終わり、4人で修正点などを協議して、一段落したのは昼の12時だった。
「そろそろ私は本部に戻らなければならない。田所所長、バルキリーの開発を急いでくれ。」
レジアスは立ち上がると、田所に向かい合って小さく頭を下げる。
「承りました。」
そのままレジアスはなのは達を振り返ると、深く頭を下げ「ミッドチルダをよろしく頼む。」と言い残し退出
して行った。
アルト達はまだ、彼の言葉の裏に隠された重さには気づいていなかった。
田所は深呼吸をすると、アルト達に向き直って言う。
「さて、アルト君や高町君ももうお昼だろう? 食堂に行くか?」
田所の提案に2人は頷く。
「考えて見れば俺はまだ朝飯前じゃないか!」と悪態をついたアルトに、なのはと田所は一様に笑う。
「じゃあ行こうか。ああ、アルト君。昨日君が作ってくれた料理だがね、料理長にも食わせたらいたく気
に入ったらしくてね。作り方を教えて欲しいと言っていたんだ。」
昨日の料理とは、田所と談笑する時に、小腹が空いたアルトが作ったつまみだった。
「え?アルトくん、料理上手なんだ。私も食べたいなぁ・・・」
なのはが上目遣いに見てくる。アルトは胸を叩き、宣言する。
「いいだろう、みんな俺にまかせとけ!」
「やったぁ!」
─────さっきの重い雰囲気はどこへやら。
2人は田所を加え、食堂へと向かった。
(*)
食堂には、昨日のコンサートの熱気は完全になく、閑散としていた。
やはり研究職。昼の12時と言えど、机や実験施設からなかなか動けるものではないようだ。
そしてアルトは厨房へ、なのはと田所は席で待つことになった。
(*)
「え?この肉使うの?」
まだ若い料理長はアルトの手際の良さに感心しながら訊く。
アルトの作ったつまみとは唐揚げだった。しかしアルトが手に取ったのはミンチになった牛肉。そのため
怪訝に思ったのだろう。
「そう、ここがポイントなんだ。」
そう言ってアルトはもったいぶりながらその秘密の具材を料理長に示す。
「それは・・・!?」
彼は絶句する。
アルトの手に乗ったもの、それは豆腐だった。
<作り方は家業秘密により伏せます。>
「すごい。食感が、肉のそれと同じだ!それどころか柔らかくて美味しい!」
アルトの揚げた団子を食べて料理長は目を見開いて驚く。
「本当かわからないが、俺の世界に昔あったファーストフード店のチキンナゲットとかいうのと同じ作り
方らしいんだ。」
「ふーん。」
料理長は感心しながら、2個目を口に運んだ。
(*)
結局料理長に10個以上持っていかれたが、材料費がかからないため大量生産に向いたこの唐揚げ団
子は、その程度では減らなかった。
(ちょっと作りすぎたな・・・)
しかし、結果としてアルトの反省は無用なものとなった。
(*)
なのは達の座っていた席の周りになぜか20人以上の人が集まり、黒山のひとだかりになっている。
研究員かとも思ったが、着ている服は、技研の正装である白衣やツナギではなく、地上部隊の茶色い制
服だ。
そこからは会話が聞こえてくる。話しているのはなのはと、制服を着た少女だ。
内容から察するに、空戦のアドバイスのようだ。
制服を着た少女が彼女1人しかいないためか、その存在感は群を抜いている。
年の頃は15,6だろうか。幼さを残す顔立ちのなかで、大きな目を見開き、頬を赤く染めている。特に大
きな赤いリボンで後ろに結わえた黒髪は、まるで川のせせらぎのような清らかな印象を与えた。
「よう、アルト姫。」
なのはの対面に座っていたミシェルがこちらに気づいて片手を挙げる。その一言に、周囲の顔がアルト
に集中し、一様に納得した顔になった。
「・・・・・・なんだよ?」
舞台で、聴衆に見られることには慣れていたが、この違った雰囲気に気圧される。
「あぁ、アルトくん。この子達がバルキリーパイロット候補の1期生なんだって。」
なのはの説明に、生徒一同はアルトに敬礼した。
アルトは答礼しようとして両手がふさがっている事に気づく。仕方なく皿を手を差し出すなのはに渡し、答
礼した。
「ミシェル教官からお話は聞き及んでおります。」
生徒のリーダーらしき25歳くらいの青年がアルトに言う。その言葉には敬意の念があるが、何かのスパ
イスが効いている。
「おい、ミシェル。コイツらになにを話した?」
「・・・さあ、ね。」
イタズラっぽい笑み。
(コイツ、いったいなにを吹き込みやがった・・・・・・!)
アルトは胸の内で悪態をついた。
(*)
結局スパイスの中身はわからなかったが、山と積まれた唐揚げはアルト達や昼飯前の生徒達の胃袋
に消えるのに時間はかからなかった。
そうして昼食を済ませると、田所からある提案がされた。
「今日はうちのパイロットの卵の授業を見学するのはどうだろう?」
その提案は、生徒達の大賛成という空気に流され、2人はそれを飲む形になった。
次回予告
1期生達の訓練を見学することになったアルトとなのは。
しかしそこにはマクロス・ギャラクシー出身と名乗る者が・・・
果たして彼は敵か?味方か?
次回マクロスなのは、第8話『新たな翼たち』
管理局の白い悪魔が今降臨する!
ふぅ・・・投下終了です。
ようやく物語も大筋に入れました。これからもよろしくお願いします。
乙でした。マクロス側のキャラが来てどうなるのか楽しみです
のんびり自分のペースで書いてくださいな
>>294 「魔法少女リリカルなのは TRANSFORMERS」作者です、お疲れ様でした。
なのはの苦悩の部分は良かったと思います、これからも頑張ってください。
こちらは、2〜3日中に続きをUPする予定です。
“銀の魔神”こと“破壊大帝メガトロン”が姿を現す予定ですので、もう
しばらくお待ち下さい。
GJ!
そうだよなあ、マクロスプラスのゴーストX-9戦見てたらとてもじゃないが魔導師が勝てるとは思えねえ。
最低限オーバーSでもなけりゃ速さに反応できずレーザーとミサイルで瞬殺されるな。
てか地上本部ってアニメで戦車配備されてたから動力と武器さえ何とかすりゃ別にバルキリーも大丈夫な気がする。
確かに。
自主規制でもしてるのかもしれん。
>>297 そういえば戦闘機人戦のときちらっといましたね・・・あれってやっぱ戦車なんですかね?
>>299 機械のオートスフィアが魔法使ってたんだし、武装にその技術使えって魔法撃てばいいだけの気がする。
301 :
名無しさん@お腹いっぱい。:2009/10/13(火) 13:04:06 ID:vKHw5EZz
>>296 そういえばバンブルの出番はまだですか?
302 :
一尉:2009/10/13(火) 19:35:03 ID:0eeHuPfm
いつも支援
今夜、残りを投下しようかと思ってたんですが……残り容量ギリギリ足りるかどうか微妙に不安なので、次スレ建つまで見直ししながら待っている事にします。
自分の方で建てて来ようかとも考えていたのですが、前のスレでテンプレの問題が確か上がっていて、上のテンプレで良かったのかどうか迷ってしまったので……
見積もりも甘く中途半端に引き伸ばしてしまい本当に申し訳ありません。
>>303 Oh・・・それは残念だ
次スレを楽しみにするよ
>>301 アリサやすずかが話に絡んでくる時ですから…当分出番はないですね、すみません。
まずはデストロン軍団VS管理局になります。
>>305 うおおおお!
デストロンの力が炸裂するぜ!期待せざるを得ない!
308 :
一尉:2009/10/14(水) 08:26:13 ID:4YtqbOi7
三洋支援
書き手のみなさんお疲れ様です。いつもみなさんの作品を、わくわくドキドキしながら読ませていただいています。
どれも面白い作品ばかりで、自分もみなさんに感化されて一筆したいと思っているのですが、自分も作品を投下しても
大丈夫でしょうか?
いいんじゃないすか?
決まりさえ守れば
どうぞ。投下する際はすぐでなければ時間を予告しておくといいですよ。
後、他の予約も確認して。
意外とないものだな
CCさくらとのクロスなどというものは
魔法少女と魔砲少女じゃ絡みにくい
外部に一つだけあったかな<さくらとのクロス
ちょっとキャラが違うかなあと思ったけど、ほどほどに面白かった覚えがある。
ここではジョジョ風味なのはのプロローグ部分でなのはの話を聞いているのが、あるいは…。
>>313 そこは御坂美琴嬢@超電磁砲とベホイミ@新感覚癒し系魔法少女で合わせればあら不思議。
なのはさんがまっとうな魔法少女に見えてきます
そういや新スレってそろそろ立てた方がいいんですか?
んだね
>>310-311 ありがとうございます。
それと質問なのですが、クロスさせられるのはやはりアニメ作品だけなのでしょうか?それとも、ゲーム・漫画
小説・ドラマもOKですか?それによって書く内容が変わってくるので。
いいんじゃないの?
保管庫にも漫画やゲームとクロスしてるのもちらほらあるし
ただあんまりマイナーだと感想が付かないかもね
>>320 ありがとうございます。では、いまから執筆に取り掛かってまいります。
ほい、書いてらっしゃい。楽しみにしているよ
>>318 乙です
>>319 そんなこと当の作者が決めることやがな<クロス作品
ここでお伺い立てないといけない理由なんてないし
そんなこと聞かないと書けないならやめといたら?
叩かれるのがイヤなんだろうけど、内容でそれは決まるよ
耐えられないなら最初から書くな、って話
これから書く、とか言うな。
もう書いてるor書き終わった、なら言って良い
上から目線の奴は自重しろよ
>319
実在人物というケースもあったな。
327 :
314:2009/10/16(金) 06:12:30 ID:owtbTRBM
>>325 このスレの住民は読者様(笑)が多いので仕方がない
名前外し忘れたw
埋め雑談として一つ疑問
最近リメイクSAGA2やってたんだけど、防具にバリアジャケットてのがあった。
説明書きには天才魔導師の魔力を物質化したジャケットと書いてあった。
やっぱこれって………コレ?
魔力とか妖気の物質化自体は良くあるが
名前まで一緒だとなぁ…ここの奴としか思えないよな
埋め雑談として、こちらも……
今日のひるごろ、
黒服の男たちに「地球外生命」として連れて行かれるユーノの姿が思い浮かんだ。
そしてなのはの記憶と証拠を消して去っていく……
ユーノは新型のぬいぐるみとでも記憶を植えつけられるんだな
地球で魔導師がいないのは彼らの仕業だったのか、凄い納得だ
つまり、メンインブラックとリリカルなのはのクロスか……食い合わせ悪くなさそーだな、異次元も宇宙もあんだけ技術格差あれば大差ないし
あの二人組みが無印参戦とかは楽しそうだなー
デストロン航空参謀スタースクリームが機動6課のニューリーダーに就任した!
>>331 フェレット……
魔法少年ルルカルグラヴィオン!
デストロンって聞くと仮面ライダーのほうが真っ先に浮かぶ
代理投下こっちにするようにと誘導されたのでこっちにしておきます。
とりあえず天元突破リリカルなのはSpiral氏 の分を投下しますので高天氏の方の代理投下はどなたか別の方にお願いします。(連続でやると規制さそうなので)
とりあえず次から投下します。
注意)本ssでは原作とは異なる設定・世界観で進んでいきます。 そういうものが苦手な方はご注意下さい。
また、本ssはまとめwikiに掲載されている「天元突破リリカルなのはSpiral」とはストーリー・設定上の繋がりは一切ありません。
「――― 子供の頃は、毎日毎日、こうやって遺跡を掘るのが僕の仕事だった」
魔力光球の淡い光に照らされながら、ユーノはおもむろに語り始めた。声変わりを忘れたような中性的な声が周囲の壁に反響する。
気がつけば随分と奥まで来てしまった。首の後ろで括った長い髪も、仕事柄最近では日焼けとはすっかり縁遠い色白の顔も、今は土と埃で薄汚れている。
だがユーノの表情に後悔の色はない。カビと埃にまみれたこの息苦しい空気も、一歩先は何も見えないこの暗闇も、彼にとってはかつて慣れ親しんだ懐かしい世界だった。
ユーノ・スクライアに故郷は無い。彼の部族、スクライアは代々遺跡発掘を生業とする放浪の民だった。
帰るべき故郷を持たず、遺跡から遺跡への根なし草。遺跡に見守られながら生を受け、遺跡とともに生き、そして遺跡に見送られてその生涯を終える。
それがスクライアの民として当前の生き方だった。彼らにとって、自らの魂の半分は常に遺跡とともにあるのだ。それは「外の世界」を知り、部族を離れたユーノも同様だった。
ユーノも幼い頃は大人達に交じり遺跡の発掘作業に従事し、その卓越した発掘の才能から弱冠九歳の身で現場責任者に抜擢された過去がある。
部族の中で同じ年頃の子供達と遊んだ思い出は無いが、発掘の成果を持ち帰るたびに大人達から褒められたことはよく覚えている。幼かったユーノはそれだけで満足していた。
発掘の現場を離れ、時空管理局無限書庫司書長という肩書きを得た現在においても、ユーノのその本質は変わっていない。
多忙な職務の合間を縫って趣味の考古学に勤しみ、纏めた研究成果を学会で発表する。自分の研究が認められたとき、ユーノの心はこの上ない充足感で満たされるのだ。
まさに「三つ子の魂百まで」とでも言うべきか。子供の頃から何一つ変わらぬ己の行動原理に、ユーノは自嘲するように唇の端を歪めた。
「他人から褒められるためだけに、お前はこんな穴蔵に潜るのか?」
ユーノの独白を聞き終え、それまで黙っていたもう一人の男が口を開いた。深く被ったフードで顔を隠し、擦り切れたマントで全身を覆っている。見るからに不審な男である。
フードの奥に隠れた男の素顔を、ユーノは知らない。名前も聞いたばかりである。遺跡の入口で偶然出会い、たまたま発掘について来きただけの同行者である。
「勿論、それだけじゃないさ」
同行者の無遠慮な問いに、ユーノは笑って首を振った。勿論、そんな子供じみた優越感のだけに貴重なプライベートの時間を削ってまで過去を掘り返している訳ではない。
考古学は仕事や生い立ちなどの事情を差し引いても興味のある分野であるし、「昨日」から学び、「明日」へ活かせることがこの世界には山のように溢れている。
「それに何より―――宝物を掘り当てることだってあるからね」
どこか恍惚とした笑みを浮かべ、ユーノはひび割れた壁面を指先でなぞった。錆ついた金属特有の冷たくざらついた感触が指先から伝わる。
虚空を浮遊する魔力光球が輝きを増しながらゆっくりと上昇し、暗闇に覆われた空間の全容を淡く照らし出した。
「これは……!」
男の息を呑んだ。鋼鉄の巨人。あるいは巨神と呼ぶべきか。何にせよ、圧倒的な存在感を放つ人型の巨体が、両足を投げ出すような姿で二人の前に鎮座している、
ユーノが触れているのは、壁ではない。まるで巨木のように太く逞しい鋼鉄の脛だった。
「大発見だ」
ユーノの声が興奮に声を震える。その傍で、男も巨人に目を奪われていた。全身の体毛が逆立つのが分かる。胸の奥から湧き上がるこの感情は、戦慄か、それとも歓喜か。
ラガンタイプのふてぶてしい顔。今は色あせているが、かつては鮮やかな真紅であったであろうボディ。そして何より、頭と胴体に二つの顔を持つ特徴的なその姿。
ずっと昔、最強の宿敵であり、そして最高の相棒でもあった因縁深き紅蓮のガンメン。それと瓜二つな鋼鉄の巨人が今、男の前にいた。
細部こそ記憶の中の姿と若干意匠が異なるが、間違いない。こいつは、この機体は―――!
「―――グレンラガン」
鋼鉄の巨人を見上げ、男は唸った。深く被ったフードの奥で、まるで獣のような二つの瞳が爛々と輝いていた。
時空突破グレンラガンStrikerS
第01話「あたしを誰だと思ってる!!」
鋭い岩肌の突き出た丘陵の上空を、一機の大型ヘリコプターが飛んでいる。JF704式ヘリ、時空管理局地上部隊で制式採用された最新型の輸送ヘリである。
新暦75年5月13日。ミッドチルダ東部の遺跡で発掘された古代遺失物(ロストロギア)を運ぶ特別貨物列車が何者かの襲撃を受ける事件が発生した。
通報を受けた管理局は新設された対ロストロギア特殊部隊、通称“機動六課”に出撃を要請、正式稼働後初の緊急出撃(スクランブル)となった。
「それじゃあ、もう一度今回のミッションをおさらいしようか」
緊張に包まれる輸送ヘリのカーゴ室に、機動六課スターズ分隊長、高町なのは一等空尉の声が凛と響く。
輸送列車を追うこのヘリの中では、初任務を前にした前線フォワード部隊の最終ブリーフィングが粛々と行われていた。
今回の任務は二つ。車両を占拠する敵勢力の撃破、そしてロストロギアの確保である。二つの分隊がそれぞれ車両の前後から突入し、中央へ向かうという作戦が立てられた。
なのはは両分隊とは別行動をとり、輸送列車上空でライトニング分隊長フェイト・T・ハラオウン執務官と合流。二人で空の敵の殲滅を担当する。
「―――という訳で、ちょっと出撃てくるけど、皆も頑張ってズバッとやっつけちゃおう。危なくなったらすぐにフォローに駆けつけるから、安心して思いっきり戦ってね」
展開されたメインハッチからカーゴ室を振り返り、なのははそう言って部下を激励する。なのはの言葉に、カーゴ室に残る四人の少年少女達が毅然とした顔で「はい」と返した。
教え子達の頼もしい返事になのはは頷き、メインハッチの外へと勢いよく身体を投げ出した。自由落下による偽りの浮遊感を肌で感じながら、なのはは胸元の宝玉に手をのばす。
「レイジングハート、セットアップ!」
なのはの掛け声とともに胸元の赤い宝玉が眩い光を放ち、金色に輝く三日月状の杖頭に桜色の柄を持つ一本の杖へと姿を変える。
同時になのはの服装も、茶系の色合いを基調とした機動六課の制服から純白の防護服(バリアジャケット)姿に変身していた。
雲を切り裂き、無数の影がなのはに迫る。鳥? 否、洗練された流線形のフォルムを持つそれらの翼は、明らかな金属の輝きを放っている。
ロストロギアを狙い、次元世界のあちこちに出没する所属不明の自律行動型魔導機械、通称“ガジェット・ドローン”。そのU型に分類される飛行タイプの敵だった。
ガジェットU型が撃ち放つレーザー光線の雨を、なのはは右へ左へと軽やかに避ける。そう、なのはは空を飛んでいた。
なのはが杖を銃のように前方へ突き出し、U字状に変形した杖頭の先端に桜色の魔力粒子が収束する。
―――ディバインバスター!
瞬間、収束した魔力の光が弾けた。桜色の光の奔流が轟音とともに虚空を突き抜け、呑み込まれたガジェットU型が一瞬で蒸発消滅した。なのはの十八番の砲撃魔法である。
優れた飛行技能と圧倒的な火力、それこそが空のエース・オブ・エースと名高い空戦魔導師、高町なのはの真骨頂だった。
なのはを警戒し、陣形を立て直そうとするガジェット群を、頭上から飛来した金色の光刃がまとめて切り裂いた。
「フェイトちゃん!」
嬉しそうな声とともに顔を上げるなのはを、片手に漆黒の大鎌を携える黒衣の女性が見下ろしていた。ライトニング分隊の隊長、フェイトである。
「同じ空は久し振りだね、フェイトちゃん」
「うん、なのは」
朗らかな笑顔で声をかけるなのはに、フェイトもはにかんだような微笑を返す。
そのとき、不意なのはとフェイトの顔から笑みが消えた。二人とも真剣な表情を浮かべ、互いに武器(デバイス)を構えて睨み合う。
最初に動いたのはなのはだった。だが動き自体はフェイトの方が速い。
黒い戦斧に変形したデバイスの根元から蒸気が噴き出し、弾丸用に圧縮し密度が高められた無数の魔力光球がフェイトの周囲に顕現する。
なのはの周囲にも同様に、桜色の魔力弾が多数浮遊している。二人の視線が交錯し、次の瞬間、両者の射撃魔法が同時に撃ち放たれた。
「アクセルシューター!」
「プラズマランサー!」
二人の凛とした声とともに、流星のように光の尾を引く桜色の魔力弾がフェイトを襲い、電撃のように鋭い金色の魔力弾がなのはに迫る。
互いが互いを狙って放たれた二人の射撃魔法が、次の瞬間―――――互いの背中に忍び寄るガジェットU型を正確無比に撃ち抜いた。
なのはとフェイト、そして機動六課部隊長である八神はやて二等陸佐を加えた三人は十年来の親友同士である。互いが考えていることは手に取るように分かった。
「腕は錆びついてないみたいだね、なのは。ちょっと安心した」
「当然。わたしを誰だと思ってるの、フェイトちゃん?」
不敵な笑みを交わし、なのはとフェイトは弾かれるように別方向へ飛び去った。敵はまだまだ残っているのだ。どこまでも広がる蒼穹を舞台に、二人のエースの戦いは続く。
その頃、なのは達の奮戦の甲斐もあり、四人の前線フォワード部隊員を乗せた輸送ヘリは安全無事に降下ポイントまで到着していた。
まずはスターズ分隊員、スバル・ナカジマとティアナ・ランスターが先頭車両へと降下する。
続けて部隊最年少であるライトニング分隊員、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエが最終車両に向かって飛び降りた。
「「「「セットアップ!!」」」」
四人の声に合わせてデバイスが起動し、自動的にバリアジャケットも展開・装着される。
先頭車両の屋根の上へ無事に着地し、スバルが初めて身に纏うバリアジャケットを見下ろしながら「あ」と声を上げた。なのはのバリアジャケットにそっくりなのだ。
「皆さんのバリアジャケットのデザインと性能は、各分隊の隊長さんのを参考にしてるですよ。ちょっと癖はありますが高性能です」
見惚れたように自身の姿を眺めるスバルの眼前に、まるで妖精のように小さな少女がふわりと舞い降りた。
リインフォースU。なのはに代わり現場指揮を任された、「祝福の風」の二つ名を持つはやての腹心である。
「スバル! 感激するのは後にしなさい」
すぐ傍に降り立ったティアナの咎めるような声に、スバルはハッと我に返った。
瞬間、スバル達の足元が歪に盛り上がり、触手が生えた楕円形の鋼鉄の塊が屋根を突き破りながら飛び出してきた。ガジェット・ドローン、その最も基本的なT型である。
コード状の触手をうねらせながら襲いかかるガジェットT型に、スバルとティアナの対応は冷静かつ迅速だった。
「ヴァリアブルシュート!」
凛とした声を響かせながらティアナが片手の拳銃型デバイスを構え、迫りくるガジェットT型を狙い橙色の魔力弾を撃ち出した。
瞬間、レーザー射出口も兼ねたガジェットT型正面のセンサー・アイが不気味に明滅し、不可視の膜のようなものが本体を包み込んだ。
Anti Magi-link Field(反魔力結合領域)、略してA.M.F。効果範囲内のあらゆる魔力結合を強制分解し、魔法を無効化するガジェットの特殊能力である。
しかしティアナが放った魔力弾は展開された無効化フィールドを貫通し、ガジェット本体をも撃ち抜いてみせた。風穴を開けられたガジェットT型が無惨に爆破四散する。
不可能を可能に変えたティアナの奇蹟、その秘密は魔力弾の多重弾殻構造にあった。ティアナは攻撃用の弾体を、無効化フィールドで消される膜状バリアで包んだのだ。
フィールドを突き抜けるまでの間だけ外殻が保たせ、本命の弾丸はターゲットに捻じ込む。AAランク技能に匹敵する超高度な「小細工」だった。
立ち昇る黒煙を突き破り、スバルが雄叫びとともに天井の大穴から車両内部へ突入する。殺到する光線の雨を掻い潜り、スバルは浮遊するガジェットの一体を殴りつけた。
籠手に覆われたスバルの右拳が敵の装甲を食い破り、手首のタービンが唸りを上げて猛回転する。雄々しい怒号を轟かせ、スバルは魔力を解放した。
「リボルバーシュート!!」
瞬間、零距離から撃ち出された衝撃波がガジェットを粉砕した。降りかかる破片を左手で払い、スバルは車両内を蠢く残りのガジェット達を見渡す。
ガジェット達はスバルを警戒したように距離をとって取り囲み、瞬くようにセンサー・アイを明滅させる。四方から集中する無機質な視線を毅然と睨み返し、スバルが吼えた。
「遠い背中を追い続け、天の向こうをあたしは目指す! 気合いの炎を心に灯し、魔法の拳で明日を掴む!!」
おもむろに掲げた右手で天井の大穴を、否、その向こうに広がる天空を指さし、まるで演劇の台詞のような芝居がかった口調でスバルは叫ぶ。
「機動六課スターズ隊03、なのはさんの一番弟子、スバル・ナカジマ! 鉄屑ども、あたしを誰だと思ってる!!」
威勢よく啖呵を切ったスバルの胸元で、何かが煌めいた。ドリルだった。ネックレスのように首から架けたチェーンの先端で、金色の小さなドリルが光っているのだ。
―――集中砲火を喰らった。
全方位から容赦なく降り注ぐレーザー光線群が直撃し、スバルの身体が大きく吹っ飛ぶ。バリアジャケットに護られ怪我やダメージはないが、痛いものは痛い。
「こ、んのぉ、馬鹿スバルがぁっ!!」
醜態を晒す相棒にティアナが憤慨したように怒号を上げた。デバイスを二挺拳銃(トゥーハンド)形態に切り替え、自らも車両内に飛び込む。
二挺拳銃を構え、多重弾殻魔力弾を連続発射。マズル・ラッシュを轟かせながら車両内のガジェットを一掃する。
そのとき、撃ち漏らしたガジェットT型が触手をうねらせ、体当たりするようにティアナへ跳びかかった。死角からの完全な不意討ち、迎撃が間に合わない。
しかし次の瞬間、風切り音とともにガジェットの楕円形のボディが大きくひしゃげ、まるで粘土細工のように真ん中から真っ二つに捩じ切られた。
爆砕音とともに立ち籠める黒煙の奥から人影がティアナの前に姿を現す。スバルだった。拳を振り抜いた体勢で制止している。
「危なかったね。ティア」
構えを解き、そう言って無邪気に笑いかけるスバルに、ティアナからの返事は天を突くかの如き怒号だった。
「スバル! アンタ馬鹿ぁ!? 呑気に格好つけてる隙にフルボッコなんて、お馬鹿にも程があるわよこの馬鹿!!」
「三連発で馬鹿って言われた!?」
「四連発よ! そして今から五回目を言ってやろわ。このミッションは一分一秒を争うんだから、へらへら笑ってないでとっとと進め馬鹿スバル!!」
怒鳴るティアナに追い立てられるように、スバルは慌てて走り始めた。列車の停止をリインフォースUに頼み、二人はガジェットを蹴散らしながら車両の中央を目指す。
そして辿り着いた。十三両編成である輸送列車の中央部、重要貨物室。ロストロギアが保管される、今回のミッションの目標地点へ。
扉を攻撃する敵、V型と呼ばれる大型のガジェットを撃破し、二人は重要貨物室の中に足を踏み入れた。ライトニング分隊の二人は、エリオとキャロまだ到着していなかった。
照明が落とされた、薄暗い広間のような空間の殆どを占領するように、巨大な影が横たわっている。周囲の薄闇に二人の目が慣れるにつれ、その全容が少しずつ見えてきた。
スバルとティアナは絶句した。巨大な鋼鉄の巨人が二人の前に鎮座していた。
人の形を忠実に模したシルエットでありながら、その姿はまさに異形。まず第一に、その巨人には顔が二つあった。
左右の側面から牛のような角を生やした頭部の凛々しい顔。そして胴体部分に模られた鬼神のような厳つい第二の顔。まるで顔の化け物である。
だが何よりもスバルとティアナを驚愕せしめたのは、目の前の存在が巨大な人型の機械兵器であるという事実そのものだった。
これまで確認されてきたものとは随分と意匠が異なるが、間違いない。これは、この機体は―――!
「「―――ガンメン!」」
呆然としたような二人の声が、重要貨物室に響き渡った。
―――つづく
以上、投下完了です。
リリカルなのはクロススレ住人の皆様。おひさしぶりです、はじめまして。
去年のちょうど今頃までこの板でお世話になっていた、「天元突破リリカルなのはSpiral」作者です。
今回からトリップをつけることにしました。
本ssは拙作「リリカルなのはSpiral」のリメイクssです。
ただし登場人物や主役機、敵勢力などの諸設定は旧作と大きく異なり、実質的には全くの別作品となります。
諸事情から「リリカルなのはSpiral」の執筆に詰んでしまい、色々と悩んだ結果、この度「グレンラガンStrikerS」という形で再スタートさせて頂くことにしました。
また、リメイク作品の執筆開始にあたり、申し訳ありませんが「リリカルなのはSpiral」の更新は停止させて頂きます。
今度こそ完結を目指して鋭意執筆させて頂くので、またよろしくお願いします。
――――――
以上、代理投下終了。GJ&お帰りなさいです、天元突破リリカルなのはSpiral氏
リメイク版、これから楽しみにさせていただきます。
GJ
グレンラガンはグレパラの奴か
では続きまして高天氏の代理投下をさせて頂いても宜しいでしょうか?
では、次レスより代理投下開始します
はるか昔・・・・・・・とある次元世界
其処は戦場だった、多くの巨大な戦艦『戦船』が飛び交い、休むことなく光学兵器や実弾を目標に向かって放つ。
それは目標を、目標ではない別の物を、目標を中心とした一帯を破壊し、焼き尽くし、粉々に吹き飛ばす。
数多の兵士が相手を殺すために引き金を引き、獲物を振り下ろす、堪えることのない様々な声、叫び、苦しみ、歓喜。
彼らが敵を殺すのは理由がある、友のため、自身の世界のため、恋人のため、家族のため、快楽を得るため、金のため、忠誠を誓う王のため、理由は様々。
そしてそれらを束ねるそれぞれの王自身も、己の力を示すため、世界を征服するために力を振るう。
『一騎当千』の言葉を証明するかの様に、圧倒的な力で数多の軍勢を蹴散らす王
自身に戦闘力は無いものの、高い指揮能力を駆使し、兵を有利に導く王
友軍、敵軍問わず、自らの能力でそれらの屍を自らの駒として戦わせる王
そして、ひときわ巨大な戦船に乗り、その圧倒的な破壊力で敵を蹂躙する王、
それ以外にも、多くの王がその力を振るう。その戦いは果てしなく・・・そして数多の次元世界を巻き込んでも尚続き、終わりは無いかに見えた。
『・・・・愚かだ・・・・』
その惨状を空から見つめている者がいた、そして、見下ろしている大地や空での惨状を見て自然と呟く。
皆がただ戦い殺しあうだけの世界、誰もその行為を疑問には思わず当然の事だと思っている、それを愚かと言わずになんと言うか。
そもそも、『彼』はこの世界の住人ではない。普段はある世界を中心とし、数多の世界を見守っているだけの存在、
もしもそれらの世界に危機が訪れた場合、その原因を排除するのが彼の主な仕事であった。
彼が此処に来た発端は、見守っていたある世界が『次元断層』を引き起こし、崩壊しかけたことが始まりだった。
幸い直ぐに手を打ち、その世界の崩壊を『軽い地震』程度で防ぐことは出来たが、其処は魔法は無論、文化・科学レベルも平均より下の基準、『次元断層』などが起こる事など無かった。
無論、不運や様々な要因が重なり、『次元断層』などの大災害が起こることもあるか、今回のは明らかな人為的な行為。
早速自らの仕事をこなす為、彼は原因であろう世界へと赴いた。
其処で彼が見たのは戦場、何かを救うためでもなければ、何かを守るためでもないただの戦い。
舞台となっている世界は無論、他次元世界の被害すら省みず、己の勝利のみに執着する王達、そしてその王の行為に何の疑問も抱かない兵
その光栄を見た彼は、ただ呆れるだけであった・・・・・・その時である。
『未確認物体・・・・・排除』
幾つのも閃光が突如彼を襲う。それは俗に言う『ビーム』という光学兵器であり、触れた者を一瞬で蒸発させる光。
彼に死を齎すために、その光が一直線に彼に向かう・・・・・そして直撃
激しい爆音と光の花火が空を明るく照らすが、誰も気にする事はしない、そのような光景は此処では日常と化しているから。
『直撃・・・・確認・・・・・逃走形勢・・・無し』
上半身は人間の形をし、、下半身は飛行用のブースターのみという形態の機動兵器は、両腕のビーム発射口を閉じ腕を下ろす。
続けて、後方から銃や剣の様な物を持って近づく人間に状況を報告し、同時に対象の生死の確認を行おうとするが、銃を形をし武器『デバイス』を持った男に止められる。
「もういい、死体が落ちない以上、蒸発した事に間違いはない」
『・・・了解・・・周囲の索敵を開始します・・・・』
「それでいい・・・・戦船の装甲にも風穴を開けるビームだ、障壁を張った形跡が無い以上、間違いなく蒸発だ。
あと死体ではない、形状から何かしらの機動兵器だ、残骸だろ?」
剣の形をしたデバイスを持つ男が、仲間であろう男の間違いを指摘したあと、デバイスにカートリッジを補充し始める。
未だに爆煙が立ち込める空を見ながら、銃のデバイスを持つ男もカートリッジの補充を行う。時間にして数十秒、補充が終った二人はこの場を離れるため後ろを向く。
既に破壊した対象に対する興味を彼らは失った。敵対する輩は沢山いるのだ、未確認であるため興味はあったが壊れてしまえばそれまで、一々付き合ってなどいられない。
本当なら警告などを呼びかけるのだが、相手は自分の部隊に無い機動兵器、攻撃理由はそれだけで十分。
此処では味方以外はすべて敵、機動兵器は無論、人間でも降伏しようが、命乞いをしようが関係ない、敵対する者は殺すか殺されるか、ただそれだけ。
戦場でもある最低限のルールも、此処では意味がいない・・・・当然といえば当然だ、関係の無い次元世界を幾つも巻き込んでいる時点で、そんな価値観は既に無くなっている。
突如現われた敵の機動兵器に驚きはしたか結果は直ぐに破壊、大したことは無かった。拍子抜けした気分に犯されながらも、二人はその場を後にしようとした・・・だが
『・・・警告、対象はせいx・・・』
「ん?どうし」
索敵を終えようとした機動兵器は突如発生したエネルギーを感知、即座にその場を去ろうとする二人に警告をする。
その内の一人は即座に気付き、疑問の言葉を呟きながら振り向く
彼が見たのは黄金色の光、そして迫り来る光
もし喋る余裕があったのなら、彼はこう呟いていただろう・・・・「綺麗だ」と。だかその言葉は無論、彼は疑問の言葉を話しきる事すら出来なかった。
否、自分が死んだことすら理解できなかったかもしれない。
迫りくる光は機動兵器を消し、二人の騎士を消す・・・・・・・否、蒸発させる。だが、それだけでは済まなかった。
放たれた光は消える事無く伸び続ける、そして幾つもの機動兵器と兵を飲み込みながら一つの戦船に直撃、先ほどまで空中要塞の一つであった戦船を大破させた。
戦舟の残骸が煙と炎に包まれながら大地へと落下する中、幾つもの機動兵器と兵、一隻の戦船を無へと返した『彼』が爆煙の中から右手を突き出した状態で無傷で姿を現した。
『やはり・・・・・この世界の・・・・・人間は・・・・・・』
優れた英知を持っていても、結局は互いを滅ぼす事にしか使わない愚か者の集まり。
自分が見守る世界にも人間はいるが、これほどまで愚かではない。否、此処にいるのは人間ではないのかもしれない、ただ戦うだけだの愚かな生き物・・・ならやる事は一つ
今、自分は奴と・・・・・『古代神バロックガン』と同じことをしようとしている。だが、今なら奴の考えもわかる気がする。
すべての人間を消滅させようとした奴の気持ちも分かる気がする
無論、すべての人間が愚かではない。だが、この者達は・・・・この世界の人間は別だ、他者を巻き込み、己の勝利しか考えない愚かな生き物。
このまま奴らを野放しにしても、ただ殺し合い全滅、もしくは誰かが勝利するだけで終る。だかその結果が齎される頃には、一体幾つの命が、世界が犠牲になるだろうか。
なら自分がやる事は一つ、腐った部分は正常な部分が腐る前に取り除くこと。
ゆっくりと腰に下げている鞘から剣を抜く。そして自身が持つ赤き翼を広げ、力を一気に開放した。
空気が振動し、何かを叩いたような轟音が響き渡る、それだけで何時までも続くと思われた戦いはピタリと止まった。
だがそれも一瞬
機動兵器から放たれるビームなどの光学兵器、ミサイル、巨砲などの実弾兵器、騎士や魔術師が放つ白・黒・赤様々な色が入り乱れる攻撃魔法、
それらが下方、そして左右から一斉に彼目掛けて放たれた。
警告も無し、下手をすれば何なのかを確かめずに行われた一斉砲撃、だが攻撃を放った彼らからして見れは当然の行為だった。
こんな彼らでもすべてにおいて共通する事があった、それは『味方以外は排除する』という事。
先ほどの攻撃対象も、自分達の所属する舞台の兵器ではないから排除する、ただそれだけ。
それに目標のあの力、下手をすれば自分達の王に匹敵する力を兼ね備えている、この一斉攻撃でも生ぬるいかもしれない。
だが幸運な事に、他の軍勢も同じ考えを持っていたのだろう、先ほどの一斉攻撃は全員ではないが、結果的にすべての勢力が加わっている、目標の排除は間違いない。
攻撃を放ったほぼ全員がこのような考えを持っていた、中には上手く敵が利用でき、障害物を排除できた事に嫌らしくニヤつく輩もいる。
もしこの中に少しでも冷静さを取り戻している人物がいたら気付いていたかもしれない・・・否、一部の王は気付いていた。
兵や側近は『敵側の機動兵器を倒した』と言っている、確かにあれは自分達の保有する兵ではない、そうなると自分達の敵であることは間違いない。
ならなぜ、すべての勢力が一斉に攻撃をしかけたのだろうか?もし何処かの王が所有する兵であったのなら、攻撃をしない、もしくは阻止する筈だ。それを行った奴がいないと言う事は・・・・・
その王の予感は的中していた・・・・だが、すべてが遅すぎた。
突如爆煙の中から閃光が放たれる。それは軸線上にいる兵を飲み込みながら地上に落下、周囲の兵を多数巻き込み大爆発を起こす、
突然の出来事に光に飲み込まれた兵士、そして爆心地にいた兵士は悲鳴をあげる事も、防ぐ事も出来無かった・・・・否、自身に何が起きたのか理解出来ずに死を迎えた。
爆心地から広がる光に包まれた兵士は、彼らとは違い、恐怖の叫び、必死の逃亡、多重障壁の展開など、己のすべき行為をすることが出来たが全てが無駄に終わり、光に飲まれた。
「・・・な・・・・なんだよ・・・・」
皆の言葉を代弁するかのように、一人の兵が上空の爆煙を見つめながら裏返った声で呟く、デバイスを持つ手は震え、歯も恐怖からかカチカチと音を立てる。
ほぼ全軍の一斉攻撃が効かない、それ所か先ほどより強大な力を感じる。そして一瞬で敵や味方の兵や機動兵器が消失。
此処で初めて彼は・・・否、彼らは後悔した・・・・・『してはいけない事をした』と、そして恐怖した、圧倒的な力の前に。
一斉砲撃の時に発生した爆煙が晴れる。其処にいたのは傷一つない彼・・・・・否『光の騎士』
彼は周囲を見下すかのように見つめた後、一度溜息をつく。そして抜き取った剣を構えると同時に、小さく呟いた。
『愚か者共が』
その力に恐怖し、戦意を喪失した者、勇敢にもその力に抗おうとし、消された者。命令しか聞けない機動兵器は蒸発し、形が残っても鉄屑となって地上にばら撒かれる。
一騎当千を誇っていた王はたいした抵抗も出来ずに斬り捨てられ消滅。
高い指揮能力を駆使し、兵を導いていた王は、兵と自らが乗る戦船諸共大地へと落下し爆散。
屍を自らの駒として戦わせる王は全ての兵を消され戦力を失う。
そして、一際巨大な戦船『ゆりかご』に乗った王は、自ら戦いを挑むも敗北し、ゆりかごと共に地上へと伏した。
その後、永遠に続くかと思われたベルカの戦はその日をもって終焉を迎えた。理由は簡単、戦える者がいなくなったからだ。
生き残った殆どの王が、兵が、光の騎士の力の前に戦意を失った。
その後、生き残った兵や王はそれぞれの道を歩み始めた、力を捨てた者、自ら眠りに入った者、ただの荒地となったベルカの地を捨て、新たな世界に旅立った者。
そして突如現われ戦いを終焉に導いた光の騎士を神と崇める者。
正直彼にはどうでも良い事だった、自分は自分の仕事を行っただけ、崇められる事などをした憶えは無い。
殲滅させなかったのも、戦う戦意を失った事や、愚かさに気付いたから生かしているだけ、決して下僕にするわけでも、奴隷にするわけでもない。
『もし奴なら・・・・・この者達を皆殺しにしていただろうか・・・・』
次元世界を守るのなら、バロックガンの考えの様に、様に此処にいる全員を皆殺しにするのが一番だろう。だか『彼』には出来なかった・・・・人間が好きだからだ。
どんなに愚かな行為をいていても、反省したり、戦意を喪失した人間を殺すことなど彼には出来ない。むしろ二度と同じ過ちを犯して欲しくないと心から願う。
無論、そのように相手の心を弄る事など彼には簡単に出来る。だがそれではただの洗脳だ、生き残ったこの者達の考え出した結果ではない。
彼は人間という種族が好きであると同時に、その可能性にもかけている。再び争いを起こすか、手を取り、平和な時を生きるか。
『賭けだな・・・・所詮神になろうとも、出来ることは限られる・・・・か』
もう、この世界に用は無いと結論付けた彼は跪く王達を一瞥、そして後ろを向き、ゆっくりと天に向かって上昇する。
「お・・・お待ちを!!」
だが、跪く群集の中心にいた王、『聖王』が彼を引き止めた。
彼女は彼にすべての民を治める人物、『王』になって欲しいと願った、今のベルカには指導者が必要、それはこの戦を瞬く間に収めた『彼』しかないと。
だがその聖王の願いに一言も答えず、彼は天に上がる。だが、何かを思いついたのか、ゆっくりと振り向き聖王を真っ直ぐに見つめる、そして彼女にある助言をした。
その言葉を聞いた聖王は深々と頭を下げる事で同意の意思を示す、そして彼女に続くように、周囲の兵が、民が、王が彼に頭を垂れた。
その後、ベルカの王の一人『聖王』は戦後のベルカを見事収めた。死後もその功績から長く進行の対象となり、後の『聖王教会』の誕生に繋がる。
そして同時に、この戦を終焉に導いた彼も聖王同様に信仰の対象となった。
その騎士の名は十二神の1人『黄金神スペリオルドラゴン』
魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第一話
ナイトガンダムがラクロアに帰還してから二年後
ラクロア城・王座の間
スダ・ドアカ・ワールドに存在する数多の王国の内の一つ『ラクロア王国』
二年前に起きた巨人事件の爪跡は既に無くなり、今では以前よりも豊かさと人々の活気に恵まれてる。
その中心に聳え立つラクロア王国のシンボルともいえる城『ラクロア城』その中に存在する王座の間で今、ある儀式が執り行われていた。
王座の間にいるのは5人、戦士ガンキャノンと僧侶ガンタンク、そしてラクロア王国の姫であるフラウ姫、
王座の間に唯一ある椅子に座るのは彼女の父であり、この国の王であるレビル王、
そして、王座の間の入り口から王が座る椅子を繋ぐ赤い絨毯の中心で跪き、真っ直ぐに王を見つめる白き甲冑に身を包んだ一人のガンダム族
「伝説の名を持つ騎士、ガンダムよ・・・その方に、すべての騎士の上に立つ者としてバーサルナイトの照合を与える」
『バーサルナイト』それはスダ・ドアカワールドの騎士に贈られる、最高の名誉ある称号。
『騎士の中の騎士』『最高の騎士』を指し、その照合を得た騎士は、すべての騎士の憧れ、そして目指す存在へとなる。
ちなみにバーサルの称号授与決定権は、歴代のラクロア王、同じバーサルの称号を持つ騎士、そして『神』にある
純白の甲冑に身を包んだガンダムは、一度深々と頭を下げた後、王の宣言に答えた。
「・・・・名前以外、記憶を持たぬ私に・・・・どこの者かも分からぬこの身に、もったいなきご好意の数々・・・・・
その上、バーサルナイトの称号まで・・・・・」
ここに来ても尚、ガンダムはバーサルの称号を受取ってよいのか躊躇ってしまう。
自分はこの国の民ではない、名も分からぬMS族の自分にこの様な栄誉ある称号をいただいてよいのかと?
だがレビル王も決して形だけの無能な王ではない、ガンダムの表情から、彼が何を思っているのか直ぐに理解する。
「なに、その方の修行の賜物じゃ。そして、どこの者であろうと国を救い、国のために尽くしてくれたそなたの行動に偽りは無い。
ガンダムよ、そなたがこの国の者でなかろうと、何処の誰てあろうと関係は無い。そなたはラクロアの・・・否、
スダ・ドアカ・ワールドの勇者となるものじゃ・・・・この称号、受けてもらわねば困る」
『バーサルナイト』の称号を断ろうとした自分を説得するかの様に語りかけるレビル王。
その言葉は王の本心だという事は直ぐに理解できた、だからこそ、ガンダムは内心で湧き上がる感謝と嬉しさを吐き出すかの様に感謝の言葉を述べた。
「ははっ!!謹んで、お受けいたします!!!」
ラクロア王国 城下町
「改めておめでとう、騎士・・・いや、今はバーサルナイト様かな?」
「様つけはよしてくれガンキャノン、どうにも落ち着かないよ」
キャノンの冗談をガンダムは軽く笑って返す。キャノン本人もその気は無いのだろう、軽く笑いながら先ほど出店で購入した串焼きを頬張りはじめた。
今二人が歩いているのはラクロア王国城下町の市場通り、まるで祭りでも行われているかの様な活気が辺りを支配し、市場を、そして国を自然と盛り上げる。
その光景を笑顔で見ながら、ガンダムはつい2年前までは此処が瓦礫の山だった事を思い出した。
自分があの世界から帰還しラクロアに戻った時、そこには繁栄していた王国は無く、瓦礫とけが人、放心したレビル王だけ残されていた。
正にただの荒地となっていたラクロア王国、だがそれも昔の話、僅か2年という歳月で此処まで回復し、以前の活気を取り戻していた。
品を値切る人、世間話をする人、屋台の出し物にはしゃぐ子供達、ふとその子供達を見た瞬間、彼はあの世界の事を思い出す。
「・・・・そうか、もう二年になるのだな・・・・」
必ず戻ると約束してから今年で二年目、時期が過ぎるのは本当に早いと思う。
彼女達は自分を待っていてくれるだろうか?元気でいるだろうか?彼女達の事を考えると、いつも頭に過ぎる思い。
「しかしあの瓦礫だらけだったラクロアも見違えたもんだ・・・・・今では昔以上の大国になってる・・・・あっ食うか?鳥モモの塩焼き」
「いや、遠慮しておくよ。だけどあの荒地を此処まで再建させる・・・・この国の民は本当に強いとい思う。キャノン、君もそう思うだろ」
「ングッ!・・・・其れは同意だ。俺達は戦うとは出来るが、国を潤したり活気づかせることは出来ない。それを行ってくれる民がいるからこそ、
こうして楽しく平和を満喫でき、上手い串焼きを食うことが出来る。俺達は敵から民を、民は俺達に平和で楽しい日常を、それぞれ守り守られて暮らしている・・・だろ?」
慌てて串焼きを喉に流し込みながらも、キャノンは自分なりの考えを述べた。
それはガンダムが思っていることと同じ、守ろうとする人達に助けられてるという事実、それはあの世界でも経験した事。
守ろうとした二人の少女に助けられた、今でもあの光景が目に浮かぶ。
「(・・・ふふっ、未練だな、何かとあの世界の皆に繋げてしまう・・・・・恋しいのだな)」
二人が向かう先は鍛冶屋テムの家である。
今ガンダムが装着している鎧『バーサルアーマー』は数ヶ月、ラクロアを襲ったモンスター『ファントムサザビー』によって破壊された霞の鎧と力の盾を元に作れている。
本来修復不可能といわれている神器を新たな鎧として作り直したのが、ラクロアきっての名鍛冶屋(本人曰く)鍛冶屋のテムである。
本当であったら直ぐにでもお礼を良いに伺いたかったのだが、鎧を貰った後もモンスターやジオン騎士の襲来など色々ゴタゴタがあり、満足にお礼を言えなかった為、こうして彼の家へと赴いていた。
「だけどなぁ、あの飲んだくれに酒なんて、しかも目玉が飛び出るほどの名酒・・・・・・考え直せ、ガンダム!感謝の気持ちは言葉で十分、むしろ友である俺にくれ」
途中から不気味なほどに真面目に尋ねるキャノンを乾いた笑いと共に軽く流しがら、さりげなくテムに渡す名酒を隠す。
その動作に、自分の思いは叶わないと確信したのだろう、わざとらしく舌打ちをした後、交渉決裂の悔しさをぶつけるかの様に残った串焼きにかぶり付いた。
「・・・・・まぁ、酒に関しては後でテムの所で頂くとして諦めよう」
「キャノン・・・意地汚いぞ」
「まぁ言うな、何だかんだで俺もあの飲んだくれのおっさんの腕は認めてる。その酒を丸々飲む権利が十分あることは認めるしかない・・・・ただ俺は毒見をするだけだ」
「・・・・・後で奢るからやめてくれ。まぁテム殿の腕は確かに見事なものだよ、あの神器を新たな鎧として作り直してくれるのだから」
それにはガンダムも心から同意する。
復元不可能なほどに焼け焦げ、砕け散った力の盾と霞の鎧を新たな鎧として作り直した程の腕前、
並の職人には到底出来ない行為だ。
「だがな、今回に限ってはそうでもないぞ。これはテムのおっさんから直接聞いたんだが、
さすがに今回の仕事は行き詰ったらしい、まぁ獲物が三種の神器だからな、だからあの魔道師に助けを借りたそうだ」
「あの魔道師・・・・それは一体?」
キャノンの言う魔道師に対し、心当たりが全く無いガンダムは問いただす。
そんな彼の態度にキャノンは一瞬考える様に沈黙、だが直ぐに納得した様に『ああ』と声をあげながら話し出した。
「そうか、お前は巨人事件後も修行やジオン族討伐などで周囲の村へ行く事が多かったからな、知らないのも無理は無い。俺達が巨人討伐のためにラクロアを離れた後
森でタンクが保護した親子だ。発見当時、親がやたら薄着だったり、子供が裸でやたら大きなガラス容器に入っているという不可思議な状況だったが、
魔道師は瀕死、子供は魂が抜けた状態に酷似した状況だったらしい。だか今では二人とも回復して使い魔の女性と暮らしている・・・・ああ、丁度良い、見て見ろよ」
立ち止まり、キャノンはある方向へと指を刺す。ガンダムは自然と彼が指した方向を見るとそこにあったのは工事現場。
人やMS族が汗だくになりながら、それぞれの仕事を行っている風景、その中に溶け込むように一体の機械人形が動いていた。
人間や並みのMS族では持てない資材を軽々持ち上げる機械、それはつい最近までラクロアには無かった風景。
「あの機械もあの魔道師の作品さ、確か『傀儡兵』というらしい、ラクロアの急速な復興はこいつらのおかげでもあるのさ、
あんな高度な技術を持っている上に魔術師の腕もタンク以上、おっさんが協力を依頼するのも納得がいく」
腕を組み、うんうんと頷きながら納得するキャノンをよそに、工事作業を行う『傀儡兵』をガンダムはただ呆然と見ていた。
当然である、形は多少違えどあの機械は自分はよく知っている。あの世界で敵として表れ、何体も破壊したのだから。
それにキャノンの話からして、この技術を齎したという魔道師にも不審な点がある、もしかしたらあの世界で自分が言われた『次元漂流者』なのかも知れない。
「ん?おーい、何ぼっとしてるんだー?」
キャノンの声で現実に引き戻される、いつの間にか考えることの集中してしまったのだろう。
だから気が付かなかった、自分が今立っているのは店の入り口で
「ありがと〜!おまけしてくれて〜!!」
其処から嬉しそうに出てくる少女の存在に
ドン
「ん?」
「ふにゃ!?」
当然二人は見事にぶつかったが、尻餅をついたのは少女の方、ガンダムは驚きはしたものの直ぐに少女の方へと向き、尻餅をついた少女を起こすべく手を差し伸べるが、
「ああ、ごめんね、だ・・・・い・・・・・」
ガンダムは言葉を出す事ができなかった。手を差し伸べた状態で固まり、まるで幽霊を見るかのような顔で少女を見る。
思考が追いつかない、自分は何を見ているのだろう・・・・・・否、それよりなぜ『彼女』が此処にいるのだろう。
「・・・いたたた・・・ごめんなさい、前を見てなくって・・・・」
お尻を摩りながら少女は謝る、そして顔を上げ、自分がぶつかった人物をはじめて見た。
この顔には見覚えがある・・・・・否、この国に住んでいる住人で彼を知らない方がおかしい、それ程の有名人。
「(うわ〜、初めて見た、確かガンダムさんって言うんだよね)」
話などでは聞いていたが、こうして生で見るのは初めて。確かに他のMS族とは違うし、とても強そうに見える。
自分と同じ位の男の子も「おおきくなったらガンダムみたいな騎士になるんだ!!」と胸を張って自慢していたが、それも今では分かる気がする。
とりあえず、手を差し伸べてくれた事にお礼を言った後、その手を取ろうとするが、どうにも様子がおかしい。
自分の顔を見た瞬間、硬直したかの様に固まり、まるで幽霊を見るかのような瞳で自分を見つめている。
もしかしたらぶつかった事に怒っているのだろうか、そう思い咄嗟にもう一度謝ろうとしようとした瞬間
「・・・フェイト・・・・・フェイトじゃないか!どうして君が!!」
人目も憚らないガンダムの大声によって遮られた。
「あっ!?」
自分でも何をやっているのだろうと思う、転んだ少女を助ける事もせずに大声を出すなんて。
確かに目の前で呆気に取られている少女はフェイト・T・ハラオウンに良く似ている・・・・・・否、瓜二つと言っても良い。
だが彼女が此処にいることなどありえない、冷静に考えれば分かる事だ。それなのに自分は何をしているのだろう。
とりあえずは呆然としている少女を起こし、いきなり大声を出した事について謝るのが今第一にする事、だが
「ごめんね、いきなり大声を(なんで・・・・・」
途中で言葉を遮られる、その声は先ほどの無邪気な声ではなく、歳相応とは思えない冷静な声。
そして飛ぶように起き上がると、抱きつく様にガンダムに詰め寄った。
「どうして!どうして知ってるの!!あった事があるの!!」
突如顔色を変え、言い寄る少女にどうしていいのか分からず言葉を詰まらせてしまう。
何故そのような事を聞くのだろうか?なぜこの少女はフェイトの事を知っているのだろうか?
こちらも色々と聞きたい事はあるが、今は彼女を落ち着かせることが最優先。だが、目に見えて必死な彼女は全く聞く耳を持とうとしない。
そんな状況を見かねたキャノンが、二人の間に割って入ろうとしたその時
「どうしたのですかアリシア?そんな大声を出して!?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた少女『アリシア』はようやく我に返り、後ろを向く。
其処には両腕に買い物袋を抱えた薄茶色の髪の若い女性が不思議そうに二人を見つめ立っていた。
突然のアリシアの大声に驚き、素早く買ったものを袋に入れ外に出た女性『リニス』が見たのは、ガンダムに詰め寄るアリシアの姿だった。
一瞬何事かと思ったが、困惑しているガンダムの表情を見てある程度は理解できた。
アリシアは好奇心が旺盛な子供だ、フェイトと違い、アルフと同じ位活発な元気な少女、
店内や市場の賑わいから、店の中では何を言っているのかは聞き取れなかったが、おそらくこの国で一番の有名人である騎士ガンダムに色々を我侭を、
それこそ『一緒に遊んで』『色々お話を聞かせて』とせがんでいるに違いない。
「(やれやれ・・・・・困ったものです)」
内心でつぶやきながらも、行動力旺盛なアリシアの姿に自然と顔から笑みがこぼれる。
とにかく先ずは困惑している騎士ガンダムを助けるのが優先だろう、
もしこの後、時間があるのなら家に招待するのも良い、自分の主も快く迎えてくれるだろう。
自分の中で今後の行動をある程度固めたリニスは、早速二人の間に割って入ろうとする。だが
「リニス!!ガンダムさん、私を見てフェイトって言った!!フェイトの事知ってるんだよ!!!」
数秒後、ガンダムに詰め寄る人が一人増えた。
テスタロッサ邸
「す・・・すみません・・・・取り乱してしまって・・・・」
「いえ、お気になさらないでください」
その後、キャノンの介入といち早く冷静さを取り戻したリニスによってその場はどうにか収まる事ができた、
だがアリシアは無論、リニスも説明を求める視線でガンダムを見つめる。
そんな二人の気持ちに答えるかの様に、ガンダムはフェイトの事について話す事を申し出た。
彼女達が説明を求めている事、そして何故ラクロアにいる彼女達がフェイトの事を知っているのか、自分自身も知りたかったからだ。
キャノンに説明をした後、ガンダムは二人に連れられ、一軒の家に招かれる。
早速、『アリシア』という少女からフェイトについて色々聞かれたが、ガンダムは知っていることはすべて話した。
元気で暮らしている事、心強い仲間に囲まれている事、持てる力で皆を助けている事。
彼の回答にとても満足したのか、アリシアは終始ご機嫌だった。だが、最後の質問の時には、何かに恐れるように俯いた後、躊躇するかのように声を絞り出しながら尋ねた。
『フェイトやアルフは私を恨んでいないのか』
その質問の意味が正直理解できなかった。だが、フェイトが誰かを憎んだりしている事など無かったし、
そんな素振も見せたことは無い、むしろ他者を恨むとう行為が出来るのかも怪しい。
自己の判断から結論を言うのはどうかと思ったが、彼女の正確や仲間達を思う心を信じ結論を出した、「彼女は誰も恨んでなんかいないよ」と。
その言葉にとても安心したのだろう、アリシアは心からほっとすると椅子に力なく座った。
「そうですか、貴方がフェイトとアルフの師、そしてバルディッシュの製作者なのですね」
「ええ、でも安心しました。あの子達が元気に生きていて、バルディッシュがあの子の力になっていて」
その後、眠そうにするアリシアを寝室まで運んだリニスは、ガンダムとフェイトについての話で盛り上がる。
リニスもフェイトの事を忘れた事は無かったが、もう会えることは無いだろうと諦めていた。
だが、今自分は最近の彼女と行動を共にした騎士から話を聞くことが出来ている。
新たに命を与えられた時、主から今までの経緯を聞いたときは不安で仕方が無かったが、今ではアリシア同様途轍もない安心感に包まれてる気分だった。
話が一区切りつき、リニスがお茶のお代わりを持ってこようとした時、ドアが開く音と共に一人の長い黒髪の妙齢な女性が入ってきた。
「ああ、プレシア、お帰りなさい」
「ただいま、リニス・・・・あら、貴方は・・・・バーサルナイト」
笑顔でリニスに答えたのは、この家の主であり、リニスのマスターであり、アリシアの母親である女性『プレシア・テスタロッサ』
彼女はリニスと席をはさんで座っている意外な客人に少し驚いた表情になる。
そんな彼女をよそに、ガンダムは椅子から立ち上がるとプレシアの目の前で跪き、頭を垂れた。
「はい、申し送れました。私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します。プレシア殿、この鎧の製作に助力をして頂き、誠にありがとうございました」
「顔をあげなさい。いいのよ、そんなに畏まらなくても。私は私が出来ることをやっただけなのだから、でもその言葉は受取って解くわ。あと、ついでになってしまうけど
騎士ガンダム、バーサルナイトの称号授与おめでとう。貴方に相応しい称号よ」
バーサルナイトの称号を祝われた事に、ガンダムは再び頭をさせ、感謝の意を示す。
その時、今まで会話に口出ししなかったリニスが、真面目な顔でプレシアに近づき、ガンダムが此処に来た理由を話し始めた。
その内容に、プレシアは驚きを顔に隠さず表しガンダムを見つめる、そして直ぐに表情を隠すかの様に俯いた。
同じく立っているリニスには分からなかったが、跪いているガンダムにはその表情が見て取れた、
何かに懺悔すかの様な、後悔に満ちた表情に。
今はリニスも席を外し、リビングにはガンダムとプレシアだけになってから約5分、今まで続いた沈黙を最初に破ったのはプレシアだった。
「・・・・・私や・・・・・私達の事・・・・何か聞いている?」
「・・・詳しくは・・・・」
「・・・そう、なら話すわ・・・これは・・・償いきれない私の罪よ・・・・」
リニスから聞いたのは、彼が約2年ほど前、自分達がいた世界に行き、其処でフェイト達と行動を共にしていた事。
行動を共にしていた以上、知っている筈である。フェイトの出生、そしてジュエルシードを巡ったあの事件の事・・・・・そして自分がフェイトに行った仕打ちの事。
今思っても自分はとても残酷な事をしてきた、『最愛の娘を生き返らせるためなら何をしても許される』それを何の疑いもせずに抱いていた。
自らの使い魔を一度消滅させた、なんの躊躇も無く。
フェイトを失敗作と罵り、散々道具として利用した。そしてつるし上げ、彼女が素直な事をいい事に散々痛めつけた。
アルハザードへ行くために次元震を起し、何の関係も無い世界を滅ぼそうとした。
そして、最後まで自分を信じたフェイトの手を掴む事をしなかった・・・彼女を否定したまま。
アリシアの保存ポットと一緒に時空の歪に落ちた後、自分は意識を失った。否、自分の体のことは良く知っている、むしろ死んだだろうと思った。
だが気が付いたときには知らない部屋のベッドで寝かされていた、生き返ったアリシアと共に。
「アリ・・・シア・・・・!!?」
一瞬見間違えかと疑った。だが、アリシアの顔色はよく、規則正しく寝息を立てている。
これが意味する事は一つしかない、アリシアは生き返ったという事。
目覚めた途端、叶える為に必死だった願いが叶ったとこ、そして目覚めたばかりで頭が上手く働かないために、プレシアは軽い混乱に陥った。
その時である、ノックと共に彼女を保護したMS族、僧侶ガンタンクが入ってきたのは。
出された水をゆっくりと飲み、プレシアは自身を落ち着かせる。そしてある程度グラスの水を飲み干した事を確認したタンクは、一度断りを入れた後、
今までの経由を離し始めた。
3日ほど前、自分達が森で倒れていた事、アリシアは魂が抜けた状態、そして自分は瀕死の重傷だった事、そのため保護し、治療を行ったこと、
目覚めたばかりで頭が回らないだろうと思ったタンクが、簡潔にプレシアに説明をする。
『正直信じられない』これがプレシアの感想だった。自分の体は次元世界では最先端の技術を持つミッドチルダの医療技術でも治療は不可能だった。
実際自分でも可能な限り・・・・・それこそ、非合法な方法を使っても不可能だったので嫌でも理解できる。
だが今まで体を蝕んでいた苦痛、激しい痛みを伴う喘息も一切おこらない、あの見たことも無い種族の話が本当だという事だ。
そして生き返ったアリシア、彼は『魂が抜けた状態』と説明していたが、一科学者としてその意見を受け入れる事は出来なかった。
そもそも自分を含めた魔道師が使う魔法は一種の科学の延長、簡単な話、一部のロストロギアなどを除けば人類の英知である『化学』で説明が出来てしまう。
だが、『魂が抜けた状態』というのはプレシアから・・・否、ミッドチルダや加盟している次元世界に住む住人から見れば立派な『オカルト』である。
だが結果としてその『オカルト』により愛娘は生き返り、今は可愛らしく寝息を立てている。
こんな事が出来るとなると・・・・此処は自分が行こうとしたアルハザードではないのか?そもそも、今説明をしてくれている人物?も、科学者であるプレシアでさえ見たことが無い。
自然と備え付けの椅子に座っているタンクに質問をする『此処はアルハザードなのか』と、だが返ってきたのは『違う』という回答。
「此処はラクロア王国という国じゃ、『アルハザード』という国や街は聞いたことが無い・・・・それよりお前さん達は旅の者か?それにしては格好などが不思議じゃが」
その質問にどう答えていいのか考えようとするが、ふとその質問内容に疑問が生まれる。『なぜ彼は自分達の事を知らないのだろうか?』と。
「・・・ごめんなさい、悪いけど先に質問させてくれないかしら?」
「ああ、かまわんが」
「ありがとう、貴方、『時空管理局』『ミッドチルダ』この用語に心当たりは無い?」
「『時空管理局』に『ミッドチルダ』・・・・・すまんな、全く聞いたことが無い、何かの街の名前か?」
「・・・・いいえ、ありがとう・・・・」
これで確定いた、此処が管理局が一切関与していない未発見の世界だという事が。だが、タンクに質問する前に、既に大体は予想が出来ていた。
自分は管理外の世界を次元震で滅ぼそうとした、これは十分極刑に値し、次元世界レベルで指名手配されていてもおかしくは無い。
仮にこの世界が、管理局が接触はぜずにただ監視している世界だったとしても、自分の様な犯罪者を野放しにしておく筈が無い。
その事から、プレシアは本当の事をこの恩人に言っても理解はしてくれないだろうと結論付けた、だから嘘をつくことにした、『旅人である』と。
プレシアはガンダムに包み隠さず話した、この国に来た経由、自分が今まで何を、そしてフェイトに何をしたのかを。
フェイトに対する仕打ち、地球を滅ぼそうとした事を聞かされた時は、ガンダムも怒りを隠す事が出来ず、自然と拳を握り締めプレシアを睨みつける。
だが彼女の表情、心から自分の罪を悔いているその顔を見た瞬間、彼が抱いていた怒りも一瞬で収まった。
「・・・・・一つ、お聞かせ願いたい」
「何・・・かしら」
「今の貴方は過去の出来事をとても悔いている。正直、私も怒りを感じたが、貴方の表情を見てその怒りも薄れた。
だが、先ほどの話を聞く限り、貴方は自らの意思で悪行を行った、そんな人物が過去を悔いる事などしない・・・・何が貴方を変えたのですか?」
真っ直ぐ自分を見つめるガンダムにプレシアは数秒沈黙、そしてゆっくりと自分の手を頬に当てた。
パチッ!!!
アリシアが目覚めた時、最初に行ったのはプレシアに抱きつく事でもなければ、彼女の名前を呼ぶことでもない、力の限りプレシアの頬を叩くことだった。
呆然とするプレシアに対し、アリシアは涙を浮かべ、声を荒げながら、フェイトにした仕打ちや今までの事を尋ねた。
「アリシア・・・何故、何故貴方が知っているの?」
「・・・・・・見てたんだよ、あの研究所の事故の後、私、ずっとお母さんの事を・・・・とても悲しかった・・・・やめてって何度もいった
でも、私を救うためにしてくれたんだよね・・・・・・それでも、フェイトに・・・・アルフに・・・・リニスに・・・・どうしてあんな事を・・・」
プレシアもまた、ただの気まぐれで二人にあの様な仕打ちをしたわけではなかった。あの事故でアリシアも、リニスも死んでしまった。
だから当時の自分は『プロジェクト・フェイト』の技術でアリシアを、使い魔としてリニスを生き返らせようとした。
だが生き返ったのは自分が知るアリシアでもなければリニスでもない。
認めるわけにはいかなかった。今いる二人を認めたら、自分は本物のアリシアを、リニスを否定することになる。
むしろ怖かった、姿が同じでも彼女達は自分が知っている子達ではない、このまま自分の思い出の中で生きるアリシアとリニスに取って代わるのではないかと。
だから二人を邪険に扱った、道具としてしか使わなかった、そうする事で『フェイト=アリシア』『使い魔のリニス=山猫のリニス』という考えを壊せるから。
「・・・・だったら・・・どうして二人を・・・フェイトを『アリシア』としてじゃなくて、一人の女の子として、リニスを『山猫のリニス』としてじゃなくて
一匹の使い魔として接してあげられなかったの・・・・・おかしいよ・・・・そんなの・・・おか・・・しい・・・よ・・・」
涙で顔をくしゃくしゃに汚しながら、アリシアはプレシアに抱きつく。
未だに愛娘に打たれた事にショックを隠すことは出来ないが、自然とアリシアを抱きしめ、心の中で彼女の言葉を繰り返し呟く、そして自問する
なぜ自分はフェイトやリニスを代わりではなく、一人の女の子、一匹の使い魔として見なかったのだろう
なぜアリシアは自分の胸の中で泣いているのだろう
なぜ自分は愛娘にぶたれたのだろう
知らずに自分の瞳からも涙が溢れる、今流れる涙は自分の愚かさから来るものか?愛娘を悲しませたという罪悪感からか?フェイト達に行った懺悔からか・・・・否、その全てだろう。
答えは簡単だった、自分の心の弱さ。自分の心が弱いからアリシアとリニスの死を認められず、フェイトと使い魔のリニスを人や使い魔として見ず、道具として扱った。
結局は自分が原因、何て愚かだったのだろう。
「・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」
今更認めても遅い、自分が心から謝罪する人達は此処にはいないのだから、それでも謝罪の言葉は何時までも部屋に響き渡った。
「では、あのリニス殿は?」
「あの時、契約解除と共に消滅させる筈だったわ、だけど当時の私はまだ何かに使えると思った、だから一種の仮死状態にしてデバイスに閉じ込めていたのよ」
「そうですか・・・・・・最後に一つだけ聞かせてください、今の貴方は、フェイトを愛していますか?」
その質問に、プレシアは体を震わせ言葉を詰まらせる。だが、その表情は今までの嫌悪を表した物ではない。
「・・・・・その質問には・・・答えられないわ・・・いえ、私にはその資格が無い、フェイトを愛する資格なんて(それ以上言うのはよして下さい」
静かだが、明らかに怒りが含まれているその声に、プレシアは言葉を詰まらせた。
声を発したガンダムの表情は明らかに怒っていた。その怒りは先ほど『資格が無い』と言おうとした自分にむけられてる事は直ぐにわかる。
「以前にも、似たような人と会いました。その方は自分の子供達の不安に気付いてあげる事が出来ずに自分自身を攻めていました。自分は『母親失格』とも言いました。
ですが、その考えは間違っている。確かに自分の過ちに気付き、苦しむ事もあるでしょう、ですがそれで自分の価値を、資格があるか無いかを決め付けるのはいけないことです!!
プレシア殿、貴方は今までの行為を恥じてる、そして反省している、そしてあの子に・・・・フェイトに対して申し訳なく思っている・・・・もう答えはでているのではないのですか?」
「けど、フェイトは・・・・・あの子は私の事を・・・・(そんな事は決してありませんよ」
あれだけ酷い事をしたのた、そしてあのこの必死になって伸ばす手を掴まなかったのだ・・・・そんな自分を、あの子が良く思っているわけが無い。
だが、そんなプレシアの不安を、ガンダムは今度は先ほどとは違う、優しい声で否定する。
「・・・・私がこのラクロアに帰る時、あの子はある人の家の養子になりました。そして新たな姓を貰い、名前も変りました『フェイト・テスタロッサ』から
『フェイト・T・ハラオウン』という名に・・・・・途中の『T』が何を指すかわかりますか?」
突然投げかけれた質問に、プレシアは戸惑ってしまうが、直ぐにその答えを導き出す。だが不安が残る、もし間違っていたらという不安が
だが、そんな彼女の不安を消すかのように、ガンダムは直ぐに答えを話した。
「『T』は『Testarossa』の『T』、貴方達親子と一緒の姓です。初めて聞いたとき、疑問に思い尋ねました。どうして旧姓を残すのかと、
そしたらフェイトははっきりと答えました、『絆を失いたくないから』と。もうお分かりですよね、ですから改めて聞きます、フェイトを愛していますか?」
声が出なかった、嗚咽を漏らし涙をただ流す、心に残っていた重たいしこりが一気に抜け落ちた様な開放感、そして今までの不安を包み込むほどの安心感
がプレシアを襲う、まともに声など出ない・・・・・だが、ガンダムの質問には答えたかった、彼に気持ちを伝えるために
呼吸を整え涙を拭く、そしてしっかりとガンダムを見据え、答えた。
「・・・ええ・・・愛してるわ・・・・私の愛娘だもの」
その後、話の区切りを見越したリニスと昼寝から起きたアリシアも加わり、テスタロッサ邸では少し遅めの午後のお茶会が開かれた。
他愛も無い話をしながら紅茶と焼きたてのスコーンを頬張り、至福の一時を過ごす四人。その時である、ドアを叩く音に全員が振り向いたのは
「テスタロッサ殿!いらっしゃいますか!?」
『何かしら』と呟きながら、リニスは立ち上がり玄関へと向かう。扉を開けると、其処にいたのはラクロアの兵であるジムが二人。
だが彼らはリニスの顔を見た瞬間、言葉を詰まらせ、顔を仄かに赤くした。
リニスはその容姿、性格などから人間族、MS族にとても人気がある、当然その中にはテスタロッサ邸を訪れた兵二人も含まれており、
彼らの態度もリニス本人以外からしてみれば納得がいく。
だが彼らもラクロアを守る兵士、多少慌てた後、誤魔化すかの様に敬礼し用件を伝えた。
「お・・・お・・・おやすみ・・・ではく・・・あ〜と・・・」
「落ち着け馬鹿!!失礼しました!リニス殿!!今日もお美しく・・・ではなく、こちらにバーサルナイト様がいらっしゃるとお聞きしたのですか?」
二人の兵の態度に、悪いと思いながらもリニスは少し笑ってしまう。
そして直ぐにガンダムを呼ぼうとするが、リビングにも声が聞こえたのだろう、彼女の後ろからガンダムがゆっくりと歩いてくる。
その姿を見た二人の兵は直ぐに敬礼をする。まるで兵の見本になるほどの立派な敬礼を。
今の二人が感じているのはリニスの時とは違う憧れ、尊敬、信頼、このラクロアで誰もが彼に抱いている感情。彼らは常にそれらをガンダムに対して抱いていた。
「ご苦労様です、どうしました?」
二人の敬礼に対し、ガンダムもまた敬礼で返す、そして直ぐに顔を引き締め、報告を聞こうとする。
彼らがわざわざ出向くとなると、何かあったことは確か、もしジオン族が現われたのか?
最悪の状況も踏まえて彼らの報告を聞こうとするが、結果はガンダムの思っていた事とは逆であり、彼を喜ばせる物であった。
「先ほど、騎士アムロ殿が修行の旅からお帰りになりました、しかも凄い客人を連れて」
「アムロがですか!無事に帰ってきたのですね・・・・それで客人とは」
「はい、バーサルナイト様、貴方にそっくりな方達です。詳しいことはお城で、皆さんがお待ちです」
少し話してから行くといい、ガンダムは先に二人を帰らせえる。
そして改めてバーサルアーマーの御礼を行った後、ガンダムはプレシアの気持ちを知ってから思っていた事を話した。
「プレシア殿・・・・・・あの世界に帰ろうとは・・・・思わないのですか?」
今の彼女は昔とは違う、だからこそ元の世界に、フェイトに会いたいのではないかと思う・・・・・だが、プレシアの回答は『いいえ』だった。
「私はあの世界で多くの罪を犯したわ、だから仮に戻っても捌かれるだけ。無論私にはその覚悟はあるわ、だけどアリシアやリニス、そしてアルフやフェイトが
その巻き添えを受けるのは我慢できない・・・・・ふふっ、臆病者よね。そしてもう一つがこの国を気に入った事かしら」
彼女は誓った、何一つ疑わず自分達を救い、受け入れてくれたこの国の人達を持てる力を使い救おうと。
今でも忘れない、母を救った子供に言われた『ありがとう』という言葉を、忘れていた感謝されるとこの喜びを取り戻した瞬間でもあった。
だが、ガンダムが考えていたことをプレシアもまた考えていた、だからこそ尋ねる。
「貴方は、ジークジオンを倒したらあの世界『地球』に戻るのよね?貴方こそ、この世界に残ろうとは思わなかったの?
俗物的な言い方だけど、貴方は此処では地位も、名誉も、富も思いのまま、中には貴方を崇拝する人もいる、一般的に見ればどちらを取るかは一目瞭然よ」
確かに彼女の言う事は正しい、自分は望んではいないのだが、何度もラクロアの危機を救った自分を『伝説の勇者』と崇拝する者がかなりいる。
現に自分に『様』をつけて呼ぶ人は後を経たない。
そしてバーサルナイトの称号を王から与えられた、金銭に関しても『褒美』と称して金銀財宝を与えられている。
「・・・・・・プレシア殿、確かに貴方の言う事は正しい。ですが私はそられを手放しても共にいたい、守りたい人達がいます。
ですがこのラクロアも、共に戦った仲間も同じ位に大切です。ですから脅かす危機を取り除く、この国の民が平和に暮らせるように。私が旅立つのは、それからです」
真っ直ぐにプレシアを見据えてガンダムは答えた。
ラクロアに平和を、そして必ず帰るという二つの誓いを守る決意が瞳を見るだけで十分なほどに分かる。
その瞳を改めてみてプレシアは思う、「彼になら預けてもいいだろう」と
「・・・リニス・・・あれを持ってきて」
その意味を直ぐに理解したリニスは一瞬躊躇するが、直ぐに部屋の奥へと行き、ある小箱を持って来た。
「・・・プレシア・・・・いいのですか・・・・」
「貴方は私に異見することが出来るわ、それをしないという事は貴方も同じ気持ちなんでしょ?」
軽く微笑みながら、既に答えが出ているであろう問いをリニスに投げかける。
案の定、プレシアと同じ気持ちだったリニスは言葉を詰まられる、そして軽く溜息をついた後、ゆっくりとガンダムへと近づき、その箱を渡した。
不審に思いながらも、その箱を受取り、中身を確認する。
中に入っていたのは少し大きめの宝石だった。
宝石には詳しくは無いが、その輝きは純粋に綺麗だと思う。だが不思議に思ったのはその宝石の中央にある数字、
月村家の書物で見たことがあるが、おそらくローマ数字だろうか?
「・・・この宝石は一体・・・・ただの装飾品とは思えませんし、何かのアイテムでしょうか?」
「それは『ジュエルシード』というロストロギアよ・・・・・是非貴方に持っていて欲しいの」