【ジョジョ】ゼロの奇妙な使い魔【召喚89人目】

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952名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/06(水) 02:31:14 ID:JNcOPWbF
久しぶりまとめ見たらお懐かしい人達のが更新されてたので記念カキコ
953名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/06(水) 07:00:18 ID:MSdsDyAQ
復帰してくれた人達に感謝!
954名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/07(木) 20:59:59 ID:cs/ilBSN
こっち埋めなくてイイのか?
955名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 05:29:55 ID:MJM/JqL/

  ジ      \ 〃 案山子 `ヾ.: ヽY      \
  キ   .  |ノ.  ,r''"´`ヾ;;:、,jレ.:.:::! ハ 武 俺 |
  に  剣.  ! ‘ ,:′_ __ /.:;:;:;;;;| ジ 器 の
  勝  じ   |, .:. :.:;:;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;! キ は   L,,
  て  ゃ   |''¨´      _ __ ,,,|  だ     |二
  ね     /,.-‐''ニ二、.:;jik;;'=zイ \       |.:.:
  ぇ _, イィjレ'∠.''='ニヾゞ;ィイ=''ゞ1|:.:\ __/.:.:.
   ,.、‐'´从ヘi |   ‐''¨:;´  ; i i;;~` ||:::::::ノ::::::::::.:.:.:.:
  '".:.::::::::}i〈Ji |   ,    ゙ <1:;;リ ; ji!:::::::::::.:.:.:.:.:.:.:.:
  .:.:.:.:.:.:.::))、ji !  ;i (、,,,_ _"___,,j /|!:::::::.:.:.:.:.:.,、‐'´
  . : .: .:.ノ ,;',:'i|   ',  、,,  ̄_ ̄7´/.::|!:.:.:.,、‐'´
  ` ー‐レイ .,:;:;l|ト、    `''⌒" , /|.:::||"´
    ノ ,ィイ〃i;i| `ヾ、  .: .:.:::::, / .l::::||
    )  ,ィイ;i1|  ';:、` ー─‐ <;;. |::::||
    ,'  ,:;' ,:;'^||   ';:.    ,;':  |.:::.i|
  ,彳 .:;;' ;:/ ||   ;: :::.: .:.,;'  ト、从、
ノ .: ;:;:;:;/   ||  ,, 、'′.:.:.::;,';;:、 ,′ `''ー-- 、
 ̄`¨`ヾ、   ||    .:.::.:;:;l:;:i!、`ヾ,  \ヽ 1ヽ,,,,_
 ̄ ̄  ̄三三二二ニニ` ー─‐ - ─‐''"´_ノノィ´ ̄
‐''''"´ ̄
956名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 05:31:20 ID:AYkCptnB

    ,.<ヽ白雪姫   l  /  ヘ         号令「攻撃」ッ!
  ,.<   ヽ \     l   / i  ハ        頑丈な小人、戦士の小人、器用な小人、悪戯好きの小人、
   ‐-、`ヽ  \      i  /  ;   ',       潜伏する小人、献身的な小人、無能な小人、計7名ッ!
   -、. \ l    \   ノ-、/  ,'   .i ',
   _ \ l  il.  ノ,ィ   .l、 / i   i ヘ      そのダメージある身体で
  .  `l i nヘ. リ/  l    i ヽ. i.   ;   ヘ.     我が七人の小人の一斉攻撃を受けて
  、 ノ .lリノ ヘ.    i    \V   ,'    ヘ      はたして無事でいられるかなァ
  .i'´ミ、i"   ',   l  _,.、、 )!   /  i'´ `ヽ   ──────‐ッ
  l L..、. ヽ  i __,. - _ニ、>'  \_ノハ⌒ヽ 
  .l  ヽハ.ー-l //r‐r'¨fッ-'    l.    ト、ヽ. ハ
  ..\、l l   !i l Lノ ー'´,.. - 、   ',    ヽ ノ ノ
    V / _入 ,レヽr''ヽ./        ',   .r' / ',
    ..ヽ! l厂ツイ i _,.i    ,..、   ',    V¨\,.ヘ
     ト、 ̄./.L.. -ヲ   , 、. ヽ   ゙、   \.    ', ̄\__
    .  i..ハ、  ¨ヽ  _.//ヽ ',      /  _∧ ノ ハ
      `ヽ.゙、 r‐'_"-‐"::::f´ハ        ! ̄/:::::::::', /  \ _..
        \、 ヽ┘:::::i'´ l.  ',      l/::::::::::::::::::',ヽノ-‐'
       ト、/ ヽ  \:::::_l   ノ!     ,':::::::::::::::::::::::::/::::/::::
       l  < ハ.   Y ソ_.. -' ノ     ,'::::::::::::::::::::::/::::::
    .   L.. -‐ ゙、 ヽ、.. -‐ ¨ ノ   /::::::::::::::>'":::::
    .         ハ ヽ_,. =''"¨´  ./::::>'"::::::::
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              ',   `ン /'"::::::::::
               `T¨´ ̄:::::::::::
957名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 05:32:18 ID:AYkCptnB


        /´〉,、     | ̄|rヘ
   l、 ̄ ̄了〈_ノ<_/(^ーヵ L__」L/   ∧      /~7 /)
    二コ ,|     r三'_」    r--、 (/   /二~|/_/∠/
   /__」           _,,,ニコ〈  〈〉 / ̄ 」    /^ヽ、 /〉
   '´               (__,,,-ー''    ~~ ̄  ャー-、フ /´く//>
                                `ー-、__,|     ''
.    __  __
l l:::::::l : 5 l:::l 2 l::::::::::::::::::::::::::::::::::;;;i:::::::_,/:::::::::::::::_,/     /::::l   / l     .l ̄ ̄ ̄ ̄ l
l l:::__.l :___├l__.:.__l:::::::::::::::::::::::::::::::;;;;:- '::::::::::::::::::::::i'   ,-,_,,...-'::::::::"i i"  i'.    l : 落  l
l l::l :7 l:::l 3 l:::::::::::::::::::::::::::::::,,-'':::::::::::::::::::::::::;-',-'"'-'::::::::::::::::::::::::l l:l /.     .l : ち.   l
.l l:l_:__l:::l___l::::::::::::::::::::::::,,- ''::::::::::::::::::::::::::::::/./::::::::::::::::::::::::::::::::::::l l::l:/.    l : つ  l
..l l:::::::::::::::::::;;;::::::::::::::::::::::::/:l:::::::::::::::::::::::::::: _,,.-''./:::::::::::::::::::::::::ii:::l"'ゝl l:/     l : け  l
...l l:::::::::::::;;;;::::::::::::::::::::::::::/:::l;;:::::::::::::::_,-''"_,,. -''"::::::::::::::::::::::::::::i::l /=/┌‐‐‐‐‐‐ l____.l
  .l l:::::::::;;;:::::::::::::::::::::::::::/::::::l "'-'''"_,,-''"::::::::::::::::::::::::::::::::/"i:::/ /:/ . l : こ 考 心 l   
  l ̄ ̄ ̄ ̄.l:::::::::::::::/:::::::::l  /":::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::/_.._l/ /:/    .l : ん え を .l
  l 落 ¬ 落 l:::::::::::::::i:::::::::::l--'::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::':;;,::::'': ̄l //      l : な る 平 l
  l ち 素 .ち l::::::::::::::::;'i,::::::::l::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::,i'i,'' "     l   .時 ん 静 .l
  l つ 数 つ l::::::::::::::::::;;;i;::::::l:::::::::::::::::::::::::  :::::::::::::::::::;;,:/          l.  ど だ に l
  l .く .'‐ く .l:::::::::::::::::;;;;;;'i.::::l:::::::::::::::::::::;;  l'iY:::::/i:::::::/             l.  う : し l
  l ん を ん l:::::::::::::::::;;;;:::::i,:::l:::::::::::::::;;-'i;; i,i_i,:::i'-,::::/            l  す .: て l
  l だ 数.だ lヽ二''.-::;;;:-''"'i,:::::::::::/  "'"  "  "'                 l  る     l
  l .: .え : .l  i i'‐- -''"~ "''"                             l  か     .l
  l__.て___l  

958名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 07:11:07 ID:kQNTqtnq
>>956
ちょっと待てwwwなぜwww白雪姫wwwwwwww
959名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 09:11:47 ID:IqN7wyl4
>>954
勘違いしてる奴が多いが
別に埋める必要は無い
書き込みが無ければ自然と埋まる
むしろ負荷が掛かる埋めの方が止めてくれといわれてる
960名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 14:02:41 ID:40LLImnl
某スレのネタなんだが、

320 名前:名無しさん必死だな[sage] 投稿日:2010/01/07(木) 22:38:23 ID:KibZsrnF0
「あとよォ・・・『買いですか?』なんて言わないんだぜ、俺達の世界じゃ・・・・・

 なぜなら『買いですか?』って思った時にはすでに行動は終っているからだッ!!
 『お迎えした!』なら使っていいッ!! 
 いいか、こうやるんだッッ!! 」

  ダン! ダン! ダン! (DSとラブプラスを3セットレジに置きながら)

「よしッ! 『お迎えした!! 』」



レジでDSとラブプラス3セットをレジに出すプロシュート兄貴の姿を想像して炒飯噴出しそうになったw
961名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 15:30:38 ID:0RUSgFZc
>>959
埋めが止めてくれと言われるのって
姉妹スレみたいに一気にAA連貼り奴が居るからじゃねぇの?

今までは前スレに文字でそれ相応の書き込みがあって埋まってることが多かったんだしよ
962名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 16:19:52 ID:Ab6Pdh7/
投下するなら埋めを兼ねてこっちの方がいいのかな?
963ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:23:27 ID:Ab6Pdh7/
どっちも一緒か、それじゃあ25分から投下します。
964ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:24:58 ID:Ab6Pdh7/
「随分と遅くなりましたね。それにその傷は……」
「ちょっとした手違いだ。余計な手間を取らされたが解決した」
騎士の問いに答えてワルドが剣を投げ捨てる。
放り投げられた剣は弧を描いて地面に突き刺さった。
騎士とイザベラには知る由も無いが、刃に返り血を帯びたそれは紛れもなく才人の剣だった。
背後のルイズとアンリエッタ、そしてやや離れた場所からイザベラがワルドを睨む。
状況は悪化の一途を辿っている。仮にこの場に他の衛士隊が駆けつけたとしても、
アンリエッタを人質に取られている限り手出しできない。
それどころかシルフィードのように人質を奪い返すよう命令されるかもしれない。
イザベラの頬を冷たい汗が伝う。時間稼ぎは失敗に終わった。
あの平民が救援を呼ぶの待っていても意味は無い。
いや、それどころか助けを求めたのがワルドだったら?
自分の無策がみすみす彼を死地へと送り込んでしまったとしたら?
ぎりと奥歯を噛み締めてイザベラは己への怒りを押し殺す。

緊張と歓喜、その両方から来る震えを堪えて騎士はワルドに歩み寄る。
ジョゼフにより頓挫させられたと思った計画は思いもよらぬ運命の悪戯から、
アンリエッタ姫とシャルロット姫の確保という最大の目的を達成した。
しかし彼はまだ不安を拭い去れずにいた。一度はシャルロット姫の偽物を掴まされた。
ならば、このアンリエッタが本物でない可能性も十分に有り得る。
真偽を確かめるべく騎士はディティクト・マジックをアンリエッタに向けた。
辺りに輝く光の粒子。しかし、そこに魔法の反応を示す物は存在しない。
それはアンリエッタが偽物でない確かな証明となった。
確認を終えると騎士はにこりと笑みを浮かべてアンリエッタに語りかける。
「お会いできて光栄です。アンリエッタ姫殿下」
「貴方は…! このような真似をして一体なにを考えているのですか!? 
四国全てで戦乱を巻き起こしたいとでもお考えなのですか!」
「いえ、逆ですよ。これから起こるであろう戦いを避けたいが為。それに必要な犠牲なのです」
貴女も含めて、と付け加えて騎士は彼女から離れた。

次に隣で同じ様に拘束されているルイズへと視線を向ける。
服装からして魔法学院の生徒である事は分かるが、
何故連れてきたのかと騎士は目線でワルドに問いかける。
「彼女はラ・ヴァリエール公爵の三女で姫殿下とも親しい間柄にある。
もし危害を及ぼせば“舌を噛んで自害する”と姫殿下が仰ったのでご同行を願った」
なるほど、と騎士はワルドの言葉に了解を示した。
姫殿下に死なれるのは確かにマズイが、かといって少女を見逃せば人を呼ばれるだけだ。
なら、ほとぼりが冷めるまで彼女の身を預かり、事が済んでから解放すればいい。
最初から捨て駒として送り込まれたイザベラとは違い、彼女は巻き込まれたに過ぎない。
必要な犠牲は厭わないが、それ以上の無駄な血を流すのは騎士の矜持に反する。
それにラ・ヴァリエール家を敵に回せば、さらに厄介な事態になると彼の目には見えていた。
騎士がルイズの表情を窺う。常ならば美しいであろう容貌は、怒りに顔を歪ませて台無しになっていた。
「ワルド。私は二度と貴方を信用しないわ」
呪いを口から吐き出すように声を搾り出すルイズにワルドは背を向けた。
騎士の目にはそれが自身の罪悪感から逃れるかのように映った。
965ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:26:31 ID:Ab6Pdh7/
そして最後に残された一人、ワルドと同行してきた装束の男に騎士は目を向ける。
着ているのは襲撃時に着ていた物だが、既に一着奪われたとの情報もある。
その腹部には切り裂かれたような血痕が染みのように広がっている。
手傷を負っているのか、あるいは殺して奪った物か。
それを確かめるべく騎士は装束の男に問いかける。
「所属と名前を」
「…………」
男は苦しげに吐息を洩らすだけで返答はない。
傷口を手で押さえてその身を捩らせる。
騎士の杖が動くその直前、男は顔を覆う布を下げて素顔を晒した。
そこに現れた部下の顔を見て騎士は胸を撫でおろして杖を引く。
「無事で何よりです。早く手当てを」
再会の感動を分かち合う間も惜しいとばかりに騎士は水メイジの部下を呼びつけた。
傷付いた男もよろよろと歩み、やがてワルドが投げ捨てた剣を杖代わりに立ち止まる。
その様子を見ていた水メイジが慌てて彼の下へと駆け寄る。
歩くのもままならず一言も声を発さない彼の容態に危機感を覚えたのだ。
「大丈夫か? しっかりしろ! どこをやられた?」
声をかけたのは患部を知る為だけではない、男の意識を途絶えさせない為だ。
もしも気絶すれば出血や脈拍は低下し、そのまま死を迎える事になる。
男は震える手を必死に伸ばし、そして人差し指を立てた。
「どうした? 何を言いたいんだ?」
水メイジにはなにを意味しているのか理解できなかった。
当然だ。これは彼に向けて送ったメッセージではない。
かといって混濁する意識がやらせた無意味な行動でもない。
そして、それは明確に伝えるべき相手へと伝わっていた。

「どうやらアタシはここで終わりのようだな、ええ?」
その最中、突如イザベラが下品な大声を張り上げた。
顔に哄笑を浮かべ、ケタケタと狂ったように語り始める。
それを見て騎士は僅かに戸惑うも努めて冷静に振る舞いながら答える。
「ようやくご理解いただけましたか」
「ああ――だけど1人じゃ死なないよ。アンタらにも絶望ってヤツを刻み込んでやるよ」
イザベラの視線にドス黒い感情が混じる。
直後、テファの喉下に突きつけたナイフを反転させて逆手に持ち替える。
そして狙いを定めてナイフを頭上へと掲げた。
木々の間から洩れる陽射しが反射し刃を鈍く光らせる。
耐え切れずに悲鳴を上げる少女に取り囲む兵士達もざわめき立つ。
「テファ――――!!」
「早まるな! 人質は返せないが貴女の命の保証はする! 
だからそのナイフを今すぐ下ろすんだ!」
制止を図る彼等を一瞥し、それを鼻で笑いながらイザベラは答えた。
「いやだね」
寸分違わず心臓へと振り下ろされる冷たい刃先。
しかし、それは振り下ろされる事なく巨大な何かに阻まれた。
「そんな事しちゃダメなのね!!」
遮ったのは蒼い鱗に覆われた風竜の巨大な腕。
幼竜とはいえ竜。人が力を比べられるような相手ではない。
シルフィードに弾かれたナイフがイザベラの手を離れて宙を舞う。
騎士が、マチルダが、セレスタンが、衛士達が、ティファニアが、
この場にいる大勢の人間が刃の行方を目で追った刹那の間。
生み出された空白の時間の中でイザベラは唇の端を釣り上げて笑った。
そして彼女は短く告げた―――“行け”と。
966ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:27:51 ID:Ab6Pdh7/

アンリエッタ達を縛り上げていたロープがするりと解ける。
しかしイザベラに気を取られていた兵士達はそれに気付かない。
「姫様!」
「ええ!」
ルイズに続き、スカートをたくし上げたあられもない姿でアンリエッタも逃げる。
ようやく二人に気付いた兵士達も戸惑いながらもその後を追う。
女子供と鍛えられた騎士の差は歴然。
1メイルも進めずに終わるはずだった逃亡劇は追跡者達の死をもって終わりを告げる。
飛び出した影が喉を裂き、頭蓋を穿ち、最小の動作で次々と追っ手を葬る。
桜吹雪のように舞い散る血飛沫の中、ワルド子爵は杖にこびり付いた返り血を風で振り払う。
「グリフォン隊! 全員その場を動くなッ!」
困惑する衛士達に裂帛の気勢で彼は命令を下した。
びくりと誰もが足元を縫い止められたかのように硬直する。
それは彼が隊長だからだけではない。誰よりもワルドの強さを知るが故に動けないのだ。
「な……」
負傷した仲間を看ていた兵士が思わず声を上げる。
突然、反旗を翻したワルド子爵に傷の手当てを忘れてそちらを見やる。
その視線が外れた直後、荒く苦しげに震えていた呼吸が収まる。
ひとつ深呼吸すると男は纏っていた装束をよそ見していた仲間へと投げつける。
視界を塞がれた相手を置き去りに、その男はセレスタンへと走り出す。

「はん……!」
自分に向かってくる相手に気付き、セレスタンは顎をしゃくり上げた。
イザベラの人質殺害未遂、王女の逃亡、そしてワルドの反逆。
これが人質奪還までの陽動だとすれば実に良く出来た連携だ。
どうやって連絡の取れない相手と決行のタイミングを合わせたのか、
疑問は尽きないがそれは後で聞き出せばいい。
惜しむらくは最後の詰めを誤った事、それに尽きる。
奇襲を仕掛けてきたのは見た事もない服を着た平民らしき少年。
見れば、魔力で作られた偽りの顔が剥がれ落ちて幼い顔つきが露になっていた。
その動きは鈍く、百戦錬磨の傭兵であるセレスタンから見れば児戯にも等しい。
彼の腕前ならば近付く間に三度焼き払ってもお釣りが来る。
だからこそ容易に対処できると彼は焦りさえも見せなかった。
少年が2メイル進む間に得意とする火球のルーンの詠唱を終える。彼我の距離は未だ10メイルはある。     
素手では敵わないと分かっているのか、少年が地面に突き立てられた剣を引き抜く。
だが、それは愚かな選択だ。剣を持てばさらに足は遅れる。
僅かにでも可能性を期待するなら素手で飛びかかるべきだった。
そうすれば最悪、王女を助ける事だけは出来たかもしれない。
いや、それも並のメイジが相手ならばの話だ。俺では勝手が違いすぎる。
無謀な作戦に従事させられた少年への憐憫を浮かべながらセレスタンは杖を向けた。
直後、少年へと向けた杖は大きく弾かれた。
「遅いッ!」
剣を横薙ぎに払いながら平賀才人は叫んだ。
シャルロットに突き付けていた杖を才人に向け直す。
たったそれだけの動作の合間に彼は既にセレスタンの懐に飛び込んでいた。
剣を手に取った瞬間、才人はガンダールヴ本来の動きを取り戻した。
「な……!?」
その瞬時の加速に対応しきれずセレスタンは驚愕の声を洩らす。
最初からその動きで迫ってきていれば彼も油断はしなかっただろう。
だが実力を読み違えた彼に反撃を試みる余力はなかった。
続けざまに斬りつけられる一撃を辛うじて杖で防ぐ。
走る腕の痺れを堪えながらたたらを踏むように後退する。
967ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:28:45 ID:Ab6Pdh7/

スローモーションのようだと才人は思った。
まるで手に取るようにセレスタンの動きが見える。
不意を突いたのもあるだろう。だが、それ以上に才人の眼は敵の動きを追えている。
それも当然。いくら腕が立とうとも傭兵では“閃光”の二つ名を持つワルドの動きとは比較にならない。
トリステイン最強の衛士と名高いワルドと比肩できるのは世界でも数えるほどしかいない。
ワルドとの戦いの中、才人は本人も知らぬ間に異常な速度で経験値を積み上げていた。
勝てる、そう確信した彼の目の前でセレスタンは賭けに出た。

トンと軽く突き飛ばされるシャルロットの背中。
崩れ落ちる身体が才人の行く手を遮る。
その合間に再び詠唱される火の魔法。
セレスタンにとって人質を手放すのは苦渋の決断だった。
だが人質を抱えたまま勝てる相手ではない。
いや、仮に万全の体勢を整えようとも正面から打ち勝てるとは思えない。
こいつは平民だ。だが、ただの平民じゃない。化け物だ。
ならば勝てるだけの策を練るだけの事だ。相手が誰であろうといつも通りでいい。
そうしてセレスタンは少女を突き飛ばした。
たとえ罠であろうとも兵士ならば王女を助けずにはいられない。
人質が倒れるのを見逃して斬りかかってくるなど有り得ない。
僅かにでも怪我を負う可能性があるなら無謀な真似はできない。
怪我をさせまいと抱きかかえた瞬間、それが致命的な隙となる。
動きが止まり斬りつける事も出来ずに両腕が塞がる。
問題は上手く人質を傷付けずに男だけを焼き殺せるかだが、
最悪、お姫様には火傷ぐらいは覚悟してもらうとしよう。
才人が踏み込む。倒れかかったシャルロットを支えようと腕を伸ばす。
セレスタンがいやらしい笑みを浮かべる。詠唱の終わった杖を才人に突きつける。
だが才人は止まらなかった。片腕でシャルロットを抱きかかえたまま、さらに踏み込む。
セレスタンの表情が驚愕で歪む。自ら王女を危険に晒すなど彼には考えもしない。
シャルロットを抱えても尚、才人の追足は落ちず後退したセレスタンに喰らいつく。
そしてもう一方の腕、剣を握り締めた腕が大きく弧を描く。
「ぎぃぃいああああああああ!!」
鮮血が舞う。のたうつようにセレスタンは絶叫しながら転げ回る。
セレスタンの理解の外から振るわれた剣は杖を持った彼の手ごと肘から先を両断していた。
勝敗を分けたのは才人の無知。自分の腕に収まった少女が誰かを彼は知らなかった。

「う、ううん……」
突き飛ばされた衝撃か、それともセレスタンの絶叫か、
眠りの淵にあったシャルロットの意識が緩やかに呼び起こされる。
意識は胡乱のまま自身を包む感触を確かめる。
暖かい、けれどベッドのように柔らかくはない。
それとは別に身体を預けていても安らげる頼もしさを感じる。
シャルロットの瞳が開かれる。そこにあったのは見慣れたベッドの天蓋ではなかった。
代わりに、自分を追ってきた少年の顔が息がかかるほど近くにあった。
思わず振り払おうとした手がピタリと止まる。
傷だらけの身体で息を荒げながらも彼は私を決して放そうとはしなかった。
あのセレスタンに物怖じもせずに見据える真摯な眼差しに息を呑む。
彼は勇者だった。思い描いていたのはちょっと違ったけれど。
絵本に描かれていた姿そのままに守るべき者の盾となっていた。
968ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:29:41 ID:Ab6Pdh7/

一方、ティファニアを奪い返そうとしたマチルダと騎士の足は止まっていた。
両者の顔をまじまじと見つめながらイザベラはしたり顔を浮かべる。
ナイフを失った彼女の手には銃が握られ、ティファニアのこめかみに銃口が突きつけられている。
見た事もない型の代物だが玩具ではない。本物だけが持つ迫力をそれは備えていた。
騎士は自分が出し抜かれた事にようやく気付く。
どうやって調達したかは分からないが彼女は武器を二つ用意していたのだ。
ナイフを命綱と見せかけて囮にして、こちらの注意を惹きつける。
そして一斉に騒ぎを起こして人質を奪還する。
“四国全てで戦乱を巻き起こしたいとでも”
“彼女はラ・ヴァリエール公爵の三女で”
“私は二度と貴方を信用しないわ”
そして、差し出された人差し指。
何故気付かなかったのか、彼女等は決行までの秒読みを言動に含ませていたというのに――。
ティファニアを前にして悔しげに奥歯を噛み締める。
だが彼の眼はまだ諦めてはいなかった。
勝ち誇るイザベラを鋭く深く洞察して隙を窺う。

「双方そこまでだ。杖を引け」

その最中、緊張で張り詰めた森に凛とした声が響く。
皆の視線が集まる中、襤褸と化したアルビオン軍服を着た男が姿を現す。
背後には付き従うようにロングビルと屈強な騎士が続く。
顔に巻かれた包帯を解きながら男は言葉を続けた。

「ウェールズ・テューダーが命じる。争いを止めよ」
額には深く刻まれた傷痕。やつれてこけた頬。憎悪に満ちた瞳。
そのどれもが、かつての彼の面影を感じさせない。
だが、そこには確かにアルビオン王太子ウェールズ・テューダーの顔があった。
969ティータイムは幽霊屋敷で:2010/01/08(金) 16:32:40 ID:Ab6Pdh7/
投下終了。前回から随分と間が空いてしまいしました。
気付いてみれば大復活祭開催中。
これからも楽しみにしています。

970名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 16:37:33 ID:40LLImnl
投下乙です!
フラグをより確実にしている才人はもげるべきだw
971名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 16:38:14 ID:40LLImnl
×より確実にしている
○より確実なものにしている
972名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/08(金) 17:42:47 ID:DqTbLu/7
敵は倒す。フラグも立てる。両方やんなくちゃならないのがヒーローの辛いところだな。投稿乙!!
973名無しさん@お腹いっぱい。:2010/01/09(土) 12:44:15 ID:ZNsJNh4N


ようやく決着か…
974ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/02(火) 19:05:13 ID:WsyRg9Tl

薄霧の中を掻き分けるように現れたウェールズをイザベラが訝しげに見やる。
“コイツは本物なのか?”それが彼女の脳裏に浮かんだ最初の疑惑だった。
顔を合わせた事があるといっても数えられる程度、しかも特別に親しかった訳でもない。
ましてや今の彼は記憶の中にある華やかな姿からは遠く懸け離れていた。
それでもイザベラは直感する、これは間違いなくウェールズ本人だと。
もし偽物ならもう少しまともな……それっぽい偽物を使うだろう。
そして、それを裏付けるように彼を目にしたアルビオンの騎士たちがその場で跪いた。
一同は手にした杖を地面に置き、敵意が無い事を証明している。

「ウェールズ殿下……ご存命であられましたか」
「ああ。代わりに多くの臣下の命を失った」
騎士の問いかけに憎しみの篭った声でウェールズは答えた。
戦死したように見せかけて何処かに落ち延びたのだろう、
しかし、その風体を見れば匿ってくれる相手などいなかったのは一目瞭然だ。
あるいは、誰も信用できず連絡さえ取らなかったのかもしれない。
騎士とウェールズの間にチリチリと火花のような張り詰めた緊張感が流れる。

「君はこれまでアルビオン王国の為、家族も名前も捨てて汚れ仕事を一手に引き受けてくれた」
「誰かがやらねばならない事でした。それが偶々私だっただけです」
「だが誰にでも為せる訳ではない。名誉を求めず、汚名を恐れず、真の騎士にしかできない事だ」
“ああ、そうさ、大した物だ”とイザベラは皮肉を抜きにして賞賛を示す。
連中から受けた仕打ちや損害に目を瞑れば、これだけの手勢で各国を翻弄した手腕には感心さえ覚える。
アルビオン王国にとっても処分するには惜しい存在だ。だからこそウェールズは彼を『説得』するつもりなのだ。

「本来の主が戻った今、もはや無意味な命令に従う必要はない。もう一度、私の為に尽力してくれるな?」
そっと騎士の肩にウェールズは手を置いた。それは彼への信頼の表れだけではない。
跪く騎士の耳元に顔を近づけて誰にも聞こえぬよう小さな声で語りかける。
「この計画の首謀者は誰だ。叔父上だけではあるまい」
あまりにも手際が良すぎる。グリフォン衛士隊の取り込み1つにしても情報漏洩もせずに手回しする。
そんな事をアルビオン単独で出来るとは到底思えなかった。
だからこそウェールズは他の国の関与を疑った。
あるいは計画を頓挫させ、アルビオンを悪役に仕立てる謀略ではないのかと。
躊躇するような素振りをしていた騎士が重々しく口を開く。
「殿下、実は……」

ふとイザベラの視線が騎士の足元に落ちた杖に向けられる。
些細な違和感。それが何か彼女に胸騒ぎにも似た焦燥を掻き立てる。
じくりと痛む首の傷痕に、イザベラはハッと思い起こした。
――――違う。この杖じゃない。
首元に突きつけられた杖を凝視していた彼女だから気付けた。
足元にあるのは、この騎士の杖ではない。恐らくは別の誰かの物。
だったら彼の杖は一体どこに……?
975名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 19:05:47 ID:Cs1GqhH0
しえん
976ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/02(火) 19:06:32 ID:WsyRg9Tl

「離れろ! そいつは杖を隠し持ってるぞ!」
答えを導き出すと同時に張り上げられるイザベラの声。
同時に、騎士は掴んだ砂混じりの土を彼女の銃へと投げつけた。
イザベラが持つ銃はハルケギニアにあるどの銃よりも複雑な仕組みをしている。
ならば砂や土が入れば動作不良を起こすのではないか、
仮にそうでなかったとしても暴発を恐れて銃を撃てなくなる。
彼は武器を封じる事で人質を無効化したのだ。
それを合図にアルビオンの兵士達が弾けるように動き出す。
杖を拾った彼等はワルドと、そして背後のアンリエッタへと向かい、
マチルダはティファニアを盾とするイザベラに踊りかかる。

引鉄に指をかけたままイザベラは逡巡した。
暴発を恐れたのではない。仮に暴発したとしてもこの銃では人は死なない。
どちらにせよ脅しが通じなくなったのなら人質の意味はない。
銃を投げつけるか――ダメだ、悪足掻きと思われるのがオチだ。
撃つか――人質が死んだと激昂されて殺されるかもしれない。
いい作戦が思い浮かぶまでの間、その僅かな時間を稼ぐ為、
恥も外聞もなくイザベラは人質を羽交い絞めにした。
これなら礫も飛ばせないしゴーレムで殴りかかってもこれない。
あと十秒、それだけあれば何とかなる。つーか、ならなかったらアタシが死ぬ。

ウェールズを引き倒して馬乗りになった騎士が彼の首へと杖を突きつける。
しかし、それを寸前で彼は杖で受け止める。互いの魔力の衝突が電流のように迸った。
「何故だ! 何故私に杖を向ける!? 君はアルビオン王国に忠誠を誓ったのではないのか!」
「だからこそです殿下。貴方が生きていれば必ず国は二つに割れる。
ようやく落ち着きを取り戻したアルビオンに貴方の存在は要らぬ波紋を呼ぶのです」
万力で締め付けるかの如く、じりじりと騎士の杖がウェールズの首に迫り来る。
彼が仕えているのは王家ではなく王国そのもの。国を存続させる為ならば誰であろうとも殺せる。
政争の道具として利用されぬように王が内緒で作った妾を腹の子ごと事故死させた事もある。
正しいかどうかではない、誰かがやらねばならない事なのだと彼は確信していた。

「タルカス。ブラフォード。貴方達はワルド子爵の援護を」
「御意」
ロングビルの命を受けて傍に控えてきた騎士二人が駆ける。
杖ではなく剣を抜き、彼等はワルド子爵を抜こうとする兵士達に立ち向かう。
タルカスと呼ばれた巨体の騎士が彼等に鉄板じみた大剣を振り下ろす。
かろうじて避けた兵士の目の前で、叩きつけられた刃が大地を切り裂く。
人の枠を超えた膂力に慄きながらも兵士はタルカスの懐へと飛び込む。
突き刺さった剣は半ばまで地面に喰い込んでいる。
これでは振り上げる事はおろか抜く事さえできない。
力任せの剣技を鼻で笑い飛ばしながら鎧の隙間に杖を差し向ける。
直後。男の身体は舞い上がる土砂と共に両断された。
噴火さながら地面を吹き飛ばしながらタルカスは地盤ごと男を斬り上げていた。

その土砂に紛れてブラフォードと呼ばれた長身の騎士が兵士に組み付く。
だが、それは投げる為でも関節を極める為でもない。
両の手首を掴んで杖を振れないようにするだけの稚拙な動作。
確かに魔法は封じられた。だが騎士の両腕も塞がっている。
これでは如何なる方法を用いても相手を倒す事はできない。
ただの時間稼ぎと察した兵士が腕を振り解こうとした瞬間だった。
ざくん、と何処からともなく飛来した刃が兵士の首を両断した。
飛び散る血飛沫で視界が染まる直前、彼が目にしたのは騎士の髪に結び付けられた一本の剣。
それが彼の命を奪った死神の鎌の正体だった。
977ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/02(火) 19:08:33 ID:WsyRg9Tl

「待ってろ! 今行く!」
サイトが声を上げる。
誰を助けに行けばいいのか分からない乱戦の中、
彼は一目散にルイズの所へ向かおうと駆け出そうとした。
しかしその直後、才人は唐突に背後に引っ張られた。
見れば、青い髪の少女が自分のパーカーをぎゅっと握り締めていた。
あ、と呟く声が形の良い唇から洩れる。
どうしてそんな事をしてしまったのか分からない、そんな様子だった。
戸惑う少女を前に才人は何も言えなかった。
怯えている子に勇気を与える台詞も騙す口車も彼には思いつかない。
一瞬の空白。その僅かな間隙をこの男は逃さなかった。
「ハッ!」
その掛け声に振り返った時には既に手遅れだった。
飛び立つ衛士隊のグリフォンに必死にしかみつきながらセレスタンは残った片腕で手綱を引く。
戦場を逃げ出すセレスタンとそれを見上げる才人の視線が虚空で交わる。
嘲笑と殺意、その両方がない混ぜになった凶悪な笑みを目にした才人の手が震える。
ワルドと比較すれば決して強敵ではなかった。なのに才人の心中には拭いきれない不安が込み上げていた。
そんな彼の手をシャルロットは温めるように握り締めた。

「いちゃついてる場合か! さっさと助けに来い!」
手を繋ぐ才人とシャルロットにイザベラの怒号が飛ぶ。
マチルダの作り出したゴーレム数体が彼女を包囲しつつ距離を狭める、
そんなのっぴきならない状況に追い込まれた彼女にはほとんど余裕などなかった。
ティファニアを巻き込む危険がある以上、彼女が一撃で殺される心配はない。
だけどイザベラには武器もティファニアの首をへし折るだけの腕力もない。
ゴーレムに一斉に飛びかかられたら人質に危害を加える間もなく取り押さえられる。
それをしないのは怪我さえ負わせたくないからだろう。しかし、それもどこまで持つか。
じとりとイザベラは役立たずどもを睨みつける。
だが、そこにあったのは彼女の視線に萎縮する二人の姿ではない。
シャルロット達が驚愕と焦りに満ちた眼差しでこちらを見やる。
いや、違う。見ているのは私じゃなくて、その背後――。
イザベラが振り返るよりも早く彼女の首筋に鈍い衝撃が走った。

ぐるりと歪みながら回る視界の中で彼女は自身の背後に立つゴーレムを見た。
周りを取り囲んでいたのはそちらに注意を向ける囮。背後に作っておいた一体が本命だった。
“ああ、やっぱりこうなったか”地面に崩れ落ちながら彼女は自嘲する。
いくらイザベラが知恵が回ろうとも戦いになれば彼女に勝ち目はない。
ワルドやカステルモールならばこんな見え透いた不意打ちなど受けたりはしない。
羽交い絞めにした腕が解ける。人質を放して倒れる彼女の頭へ追撃が迫る。
刹那。シャルロットの手を振り払って才人が駆ける。
978名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 19:08:40 ID:RFTDbnn2
…ひょっとしてこの二人本物?
979ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/02(火) 19:09:58 ID:WsyRg9Tl

「――――やめてっ!!」
あらん限りの力を振り絞って張り上げられたティファニアの声に、
マチルダに突き付けられた才人の剣と、イザベラに振り下ろされた石の拳が止まる。
はあはあと息を荒げながら瞳に涙を浮かべて見上げる彼女にマチルダはたじろぐ。
後ろめたい自分を見透かされているような気がしてマチルダは声を荒げた。
「下がってなテファ! これはアンタの為でもあるんだ!」
杖を握るマチルダの手は震えていた。そう思わなければ戦えないほどに。
テファを巻き込むまいと心に誓った事を再び思い起こして己を奮い立たせる。
脳裏に浮かぶ幻影を振り払うように頭を振る彼女をイザベラは伏したまま嘲笑する。
「どうした? さっさとやれよ、カステルモールをやった時みたいにな」
その言葉により鮮明になった幻影が彼女の脳裏に悪夢のように纏わり付く。
イザベラの語った言葉の意味を理解したティファニアの表情が急速に蒼褪めていく。
彼女の視線から逃れるように目を逸らしたマチルダが苦しげに歯を食いしばる。
もう引き返すことはできない。なら、このまま突き進むしかない。
言われずとも、と杖を振り上げようとしたマチルダに才人は戸惑いながら告げる。
「えと、カステルモールなら生きてるよ。俺、あの人にフェイスチェンジかけてもらったんだ」
ぴたりと掲げた杖が止まる。それは彼女にとって最後の分岐点だった。
まだ彼女は最後の一線を越えていなかった。しかし、この杖を振り下ろせば……。
迷うマチルダの手にそっとティファニアが寄り添うように手を重ねる。

「私の為だと言うなら尚更やめて。私、ねえさんのそんなつらそうな表情見たくない」
カランとマチルダの手から杖が零れ落ちる。
戦う理由を失った彼女にはもう抗うだけの力は残されていなかった。
泣き崩れるようにティファニアを抱き締めるマチルダ。
よく状況を呑み込めていないが丸く収まったのだろうと才人がうんうん頷く。
その才人をノロマだのグズだの罵りながらイザベラが助け起こすように命じる。

そんな光景を、森の奥から小さな人形たちが見つめていた。
手には矢を番えたボウガン。その照準はマチルダへと向けられていた。
命拾いしたのはイザベラではなくマチルダの方だった。
もし僅かでも杖を振り下ろす姿勢を見せていれば、
ロングビルの操るアルヴィーは何の躊躇もなく引鉄を引いただろう。
アルヴィー達が照準をマチルダからウェールズに組みつく騎士へと移す。

騎士の目に映るのはウェールズの姿だけだった。
グリフォン隊の指揮権をワルドが取り戻し、残された部下も悉く葬られた。
マチルダはティファニアと共に降参し、未だに戦い続けているのは自分一人。
計画が全て雲散霧消と化した以上、せめてウェールズ殿下だけでも道連れにするつもりだった。
だが、その覚悟は降り注ぐ矢の雨に阻まれる。
騎士の眼を、腕を、喉を、脇腹を、冷たい鉄が貫いていく。
ぐらりと崩れる騎士の身体を押し返してウェールズは逆に馬乗りとなる。
矢に穿たれた眼には、突きつけられた杖もそれを向けるウェールズの姿も映らない。
見えるのはただ心の内にだけ浮かぶ故郷の姿。

「……この計画に黒幕などいませんよ。全ては私たちの暴発、王も誰も関与していません。
マチルダ様もサウスゴータ伯爵の名を使って引き込んだだけの事。……そういう事にできませんか?」
「戯言を!」
ごぶりと血を吐き出しながら弁明する騎士に容赦なくウェールズは杖を突き立てた。
打ち込まれた風の刃は寸分違わず騎士の心臓を貫き、辺りに鮮血を撒き散らした。
隠れ家から出てきたエンポリオに助け起こされながらイザベラはその光景を眼に焼き付けた。
人質を盾に取り、傭兵を捨て駒にし、自分の部下さえ切り捨て、罪なき人間を多く巻き込んだ。
それは人々が想像する騎士とはあまりにも懸け離れた姿。男がこうなったのは必然だったのかもしれない。
人はコイツを外道と思うかもしれない。私もそう思う。そこに変わりはない。
だけど奴が守ろうとしたのは尊い物だった。たとえ謗られようとも、そうしなければならなかった。
奴は奴なりにこの世界を良くしようとした。その悲願を理解しようという気持ちは更々ない。
だけど軽蔑はしないでやる。敵味方に別れようと、それが私に出来る最大の手向けだ……。
980ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/02(火) 19:11:06 ID:WsyRg9Tl

「終わったのですか?」
アンリエッタがウェールズに訊ねるように声をかけた。
ワルドと二人の異様な騎士は彼女達に群がる残敵を掃討し尽くし、
マチルダやグリフォン隊には戦う気力もなく、主犯である騎士もウェールズの手により始末された。
もう彼女達に迫る脅威はここには存在しない。だから終わったのだと彼女は確認を取ろうとした。
「――――いや、まだだ」
杖に付いた血を拭き取りながらウェールズは“最後の敵”へと振り返った。
その視線の先にいたのはマチルダではなくティファニア。
瞳に宿る憎悪を隠す事なくウェールズは彼女の元へと歩み寄る。
そして横薙ぎに自身の杖を一閃させた。
「え?」
何が起きたのかを理解する間もなくティファニアの髪が突風に舞う。
吹き飛ばされたフード、その下からは長く突き出た彼女の耳が現れた。
「エルフ!」
使い魔を除いた、この場にいる全員を代表するようにルイズが叫ぶ。
恐怖と困惑の入り混じった視線が一斉にティファニアへと向けられる。
その眼差しに怯えるように身を縮めた彼女にさらにウェールズは近寄る。
「アルビオン王国を掌握せんが為に父上を謀殺した叔父と、それに手を貸した異教徒との間に生まれた子だ」
怒気を孕ませながらウェールズは吐き捨てるかの如く告げた。
そんな事はないと否定しようとティファニアは声を上げようとした。
だが、ウェールズに一睨みされただけで彼女は恐怖に声を詰まらせた。

「アルビオン王家の血を穢した罪、その命で償ってもらおう」
杖に風を纏わせながら歩むウェールズを誰も止められなかった。
事は彼女等の予想よりも遥かに大きく、他人が口出しできるような状況になかった。
――唯一人、“そんな事は知ったことじゃねえ”とばかりに飛び出したバカを除いては。

「そこをどけ」
行く手を遮る平民にウェールズが冷徹に言い放つ。
「どかねえよ」
殺意を漲らせた相手を前に臆せず才人が答える。
直後。両者の間で激しい火花が舞い散った。
衝突する剣と杖。互いの得物を振りかざして叫ぶ。

「どけと言っているッ!!」
「どかねえっつってんだろッ!!」

静寂を取り戻した森に、譲れぬ男達の咆哮が木霊した――。
981名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/02(火) 19:14:37 ID:RFTDbnn2
シャルロットだけじゃなくて、テファにもフラグ立てるつもりですね、分かります
……MOGERO!!
982ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/02(火) 19:15:12 ID:WsyRg9Tl
以上、投下終了です。
ダラダラ続いていると思われてそうで不安になり、続きが書けなくなってました。
峠は越えた(はず)ので、これからは飽きさせないよう次の舞台へと移っていきます。
983名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 12:49:48 ID:15+hA0eP


ここのロングビルはもしかして……
984名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 12:50:44 ID:15+hA0eP
あ、追伸
次スレができているので皆そっちへ行ってますよ
985名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/03(水) 18:59:28 ID:ta6aTqzI
otu
986名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/04(木) 07:07:12 ID:37zEiHT3
何、このサイト?本当にウザいw
987名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/04(木) 19:47:58 ID:0zE2/O0a
おつです
このスレでは珍しいまともなサイトが久々に見られて嬉しい
988ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/05(金) 18:04:13 ID:GKqcjsFy

アルビオン皇太子ウェールズ・テューダー。
彼の運命を変えたのは、事件発生より少し遡ったある日の事だった。

「……本日、快晴なれど風強し」
アルビオン王国艦隊司令長官ウェールズは船長室で航海日誌を認めていた。
本艦『イーグル』号と僚艦『シャーク』号、『パンサー』号の三隻による哨戒任務は順調であった。
交易港近辺を荒らしまわる空賊の姿は終ぞ見つける事は出来なかったが、その間は交易船が襲われる事も無かった。
だがウェールズの心境としては一戦砲火を交えたかったのが本音である。
海賊を退治するのも重要だが、何よりも尊敬する父・ジェームズ一世の死が彼の心に重く圧し掛かっていた。
戦いになれば一時とはいえ、そうした苦痛を忘れる事もできたのにと嘆息する。

「開いている。入りたまえ」
コンコンとノックする音にウェールズは事務的に答えた。
それに応じて部屋に入ってきたのはアルビオンの重鎮として知られる老賢者バリーだった。
彼はジェームズ一世の忠臣として常に傍らに付き従い宮廷を支え続けてきた功労者で、
本来なら海賊退治に同行するような立場でもなければ歳でもなかった。
バリーの急な申し出を受け入れたウェールズではあったが内心はどうにも落ち着かなかった。
恐らくは父上亡き後のアルビオン王国について相談したい事があるのだろう。
だが、それを聞き遂げるだけの余裕が今の自分にはない。
せめて、この航海の合間だけでも自分をそっとして欲しかった。
老メイジは会釈すると懐から一通の封筒を取り出し、それをウェールズに差し出した。

「これは?」
「亡き陛下の御遺言にございます。自分に何かあった時にはそれを殿下にと……」
ふむ、と少し考えてからウェールズはペーパーナイフで封を開けた。
何故そのような遺言があったのか、彼は僅かに疑念を抱いた。
確かに父の体調が思わしくなかったのは事実だが、それほど酷い病状とも思えなかった。
自分の急死を予見して遺したと考えるのは不自然な上、何故公開せずにバリーに託したのか。
手紙を開いて数分。彼の顔色は蒼褪め、手紙を読むその手は動揺に戦慄いていた。
そこに記されていたのは叔父・モード大公がエルフを妾にし、その間に生まれた子を匿っているという内容だった。
彼と父の知るモード大公は敬虔なブリミル教徒であり、決して異教徒に組みするような人物ではなかった。
彼はエルフに心を操られ、その傀儡としてアルビオン王国を掌握しようとしているのではないか。
あるいは、考えたくない事だが王位を簒奪せんが為に異教徒の力を借りようとしたのかもしれない。
ジェームズ一世はその真意を問い質すべくモード大公に一人で会いに行くらしい。
もしエルフとの間に生まれた子を引き渡すのなら、この事実を隠蔽し彼と妾の罪は問わないつもりだと。
この手紙に記された日付、それは奇しくも父が急死した日と一致していた。

「デタラメだ! 叔父上がそのような事をなさるはずがない!」
「ですが現に陛下は崩御なされました。それも不審な死によるものです」
手紙を投げ返しながら猛るウェールズをバリーは冷静に諭す。
この遺言が偽物だと言い返す事は彼には出来なかった。
そこに記された字は紛れもなく父、ジェームズ一世の手によるものだった。
どさりと椅子に腰を落とし、汗ばんで垂れる髪を掻き上げながらウェールズは乱れた呼吸を整える。
「……叔父上と話がしたい。本当にそんな事をしたのか、真実を確かめたい」
「軽率な真似はお控えください。貴方はアルビオン王国に残された唯一正統な血筋なのです」
のこのこと敵地に出向けばウェールズは暗殺されるとバリーは確信していた。
モード大公の一派にとって今一番の障害はウェールズ殿下のみ。
既に彼は監視下に置かれ、こうして海賊退治の名目で宮廷を離れるまでは接触の機会さえなかったのだ。

「では―――どうすればいい?」
「まずは艦の不調を装い、修理の名目でニューカッスル城へと逃れましょう。
あそこにはまだ陛下の忠臣が多くおります。そこで地盤を固め、この手紙を証拠としモード大公を失脚させます。
公が異教徒と通じている事を知る者はそう多くないはずです。これを目にすれば大多数は我々を支持するでしょう」
989ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/05(金) 18:05:20 ID:GKqcjsFy
バリーの提言にウェールズは苦渋の決断を迫られていた。
それならば国を割らずにこの事態を収束できるかもしれない。
だが、それを実行すればモード大公は王権の簒奪者としてだけではなく、
異教徒に国を譲り渡した売国奴、王家の血筋を穢した大逆の徒として扱われるだろう。
何よりも名誉を重んじる貴族、その中心にある王族としてそのような汚名を負わせたくはない。
父についで敬愛する叔父をそのような形で失うなどウェールズには耐えられない。
ましてや叔父上は異教徒に操られているだけかもしれないのだ。

「失礼します! ウェールズ殿下、ただちに甲板までお越しください!」
ノックもほどほどに船長室の扉を開けて船員が飛び込む。
その尋常ではない海兵の態度を感じ取ったウェールズが席を立つ。
あるいは少しでも決断を遅らせたかっただけなのかもしれない。
自身の懐に手紙をしまい、バリーを連れて船員の先導に従って甲板へと足を運ぶ。
「あれです」
海兵の指差す先をウェールズは凝視する。
そこで彼が目にしたのは無惨な姿を晒す船の残骸だった。
船体には余す所なく砲弾が撃ち込まれた跡があり、
甲板上は全てのマストが叩き折られ、乗組員のものと思われる夥しい血痕が一面に広がっていた。
至近距離からの砲撃でなければ決して生まれない惨状。
それは戦闘というよりも一方的な虐殺が行われた証拠だった。

「空賊の仕業か? この船はどこの国の船だ?」
「それが……これをご覧ください。それが倒れたマストの下敷きに」
そう言うと海兵は一枚の黒い布切れをウェールズに差し出した。
おもむろに受け取った布を広げる。そこに刺繍されたマークはどこの国の物でもなかった。
黒地の白い頭蓋骨と大腿骨で作られた十字と砂時計の絵柄。それは典型的な空賊が使う海賊旗だった。
「仲間割れか、それとも他の空賊との縄張り争いでもあったか」
「しかしながら殿下。空賊船にこんな火力は出せません。これではまるで戦列艦か、あるいは」

直後、甲板上の声を掻き消すような轟音と衝撃が船体に走った。
『イーグル』号の左舷で撃ち込まれた砲弾の煙が燻ぶ。
警戒態勢から戦闘態勢へと移行する船員達にウェールズの檄が飛ぶ。
奇襲に混乱する者はなく全員がそれぞれの持ち場に着いて己が役割を果たす。
「空賊の残党か?」
「いえ、違います。あれは―――軍艦です!」
「………っ!! 何処の艦か確認しろ! 発光信号の準備を!」
望遠鏡で艦影を確認した船員がウェールズに叫ぶ。
乗組員を動揺させぬように平静を装うもウェールズの語気が強まる。
開戦ならば事前に他国より宣戦布告が届くはずだ。
それを警告も無しに発砲してくるとは正気の沙汰ではない。
常軌を逸した敵艦の行動にウェールズの思考が掻き乱される。
やがて敵影を確認していた船員が震えながら口を開く。
「殿下……あれは、他国の軍艦ではありません。
アルビオン王国艦隊所属の戦列艦『ジャガー』号と『ベアー』号です」
「なんだとッ!?」
続けざまに降り注ぐ砲弾が『イーグル』号の船体を削り取っていく。
誤認や誤射などではない。明確な殺意を以って浴びせられる砲撃に艦が悲鳴を上げる。
決断を遅らせる事は死に直結する。事実がどうあれ『イーグル』号が攻撃を受けている事には変わらない。
「くっ……本艦は後退する! 『シャーク』号と『パンサー』号は援護せよ!」
僚艦に攻撃の指示を出してウェールズは操舵士に舵を切るよう伝える。
それに従うかのように僚艦二隻は砲門を開き一斉に砲火を浴びせた。
―――敵艦にではなくウェールズの乗る『イーグル』号へと。

反転しようと速度を落とした『イーグル』号を前後から計四隻の艦が挟撃する。
作業していた乗組員もろとも砲弾がマストを薙ぎ倒す。
艦砲射撃で砕けた船体の破片が散弾のように飛び交って船内を地獄に変える。
風の系統魔法で抵抗を試みたメイジ数人がまとめて肉片と化して飛び散る。
ウェールズは部下達がみすみす殺されていくのを黙って見ている事しか出来なかった。
反撃も撤退もどれも手遅れだ。もはや勝敗は決している、自分達はあの残骸と同じ運命を辿るのだ。
990ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/05(金) 18:07:35 ID:GKqcjsFy

「まさかここまで彼奴等の手が及んでいようとは……このバリー、一生の不覚」
爪が砕けんばかりに欄干を掴むウェールズに老賢者は後悔の念を洩らした。
事ここに到りウェールズも認めざるを得なかった。
アルビオン王国艦隊を統帥できるのは自分と叔父上だけ。
父上の遺言は正しかった。――――だが、それももう遅い。
かくなる上は貴族の名誉を守るべく、この命果てるまで戦うのみ。
決意を固めて軍杖を引き抜こうとするウェールズの手をバリーは抑えた。
「短気はなりませぬ。今は雌伏の時、好機が訪れるまで耐え忍ぶのです」
「何を世迷言を! もはや退路は断たれ、反逆者の手にかかるのを待つばかり。
ならば、せめて一人でも多くの敵を道連れにアルビオンの誇りを見せつけてくれる!」
「確かに『イーグル』号の命運はここまで。ですが一人だけならばまだ望みはあります」
そう告げるとバリーは甲板上に一人の男を呼び出す。
それを目にしたウェールズの顔が驚愕に引きつる。
そこにいたのは服装も髪も顔までも同じ自分の写し身だった。
彼はウェールズに敬礼すると直ちに杖を抜いて鬨の声を上げた。
我こそはウェールズ・テューダー。腕に覚えあれば我が首級を上げてみよ、と。
まるで自分のように兵を鼓舞する彼を見つめるウェールズにバリーは告げる。

「万が一の為に用意した影武者でございます。顔はフェイスチェンジにて。
しばらくはあれで時間を稼げましょう。その隙に殿下は脱出を」
「バカな……連中の目は節穴ではないぞ。逃げる小船を見落としたりはせぬ」
「然様で。ですから殿下が脱出してすぐ『イーグル』号の火薬庫に火を放ちます。
爆風と閃光、飛び散る破片がいい目くらましとなりましょう」
「なっ……!?」
ウェールズは我が耳を疑わずにはいられなかった。
船内の火薬に火を放てば軍艦といえどもひとたまりもない。
巻き起こる爆風は乗組員全員を粉微塵に吹き飛ばす。
それも全ては自分一人を逃がす為に囮となって死ぬのだ。
「ダメだ! そんな事を認めるわけには……」
「乗組員の死体が少なければ脱出を疑われます。
それに影武者の死体が残れば追っ手がかかるのは明白。
一人でも捕縛されれば魔法にて殿下の事を白状させられるでしょう。
―――なれば、我等の死に場所は今ここに!」
ドンと枯れ木のような腕でバリーは自身の胸を力強く叩いた。
彼等の話を聞いていた海兵達もそれに続くように胸を叩く。
『イーグル』号の甲板に雨霰と砲弾が降り注ぐ中、彼等は不動の姿勢で立ち続ける。
その揺るぎなき決心を変える事は皇太子であるウェールズにも出来なかった。
込み上げる涙を隠すように軍帽を被り直して彼は口を開いた。

「アルビオン王国艦隊司令長官として命令する!」
身を切られるような想いで彼は声を発した。
それでも自分がやらなければならない事を彼は知っていた。
「『イーグル』号クルー全員、ここで命を捨ててくれ!
無能で無力な私の為に! アルビオン王国の未来の為に!」
すまないと心で詫びながらウェールズは自らの口で非情な任務を伝えきった。
彼を見つめる多くの眼差し。返答はない。ただ、皆一様に彼に敬礼を返すのみ。
隠し切れなくなった涙が甲板に零れ落ちる。そして別れ逝く彼等に敬礼で応えた。
“諸君等はアルビオン王国の誇りである”等と美辞麗句で飾る事さえおこがましい。
彼等はいつも通り任務を果たす。たとえ、その先にあるものが自分達の死であったとしても。
失った物の大きさを噛み締めながらウェールズは一人脱出艇へと乗り込んだ。
991ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/05(金) 18:11:03 ID:GKqcjsFy

「殿下、お達者で」「アルビオン王国をお頼みします」
離れる脱出艇を確認した海兵達がそれぞれ心境を口にする。
そこに悲壮な表情はなく穏やかな笑みさえ浮かんでいる。
その中心に立つバリーが杖を抜きルーンを唱える。
彼等の足元には火薬で引いた線がある。
「さあ、連中にアルビオンの船乗りの意地を見せようぞ」
それに頷き返す屈強な海兵達に満足げな笑みを浮かべてバリーは火を落とした。
着火した瞬間、火薬が激しく燃えながら導火線を辿っていく。
その終点にあるのは火薬を満載した『イーグル』号の火薬庫。
「見るがいい! そして、その目に焼きつけよ!
これは勝利を祝う祝砲ではないぞ! 貴様らへの反撃の狼煙だ!」
バリーが吼えた直後、凄まじい勢いで『イーグル号』は内側から爆砕した。
光と熱と衝撃が暴力じみた勢いで膨張し周囲に広がっていく。

『イーグル』号の最期を見る事は叶わなかった。
光が眩しかったからではない。炎が熱かったからではない。
爆風に吹き飛ばされそうになったからでもない。
もし振り返ってしまえば二度と進めなくなる、そんな気がした。

夜を待ってからウェールズは近くの浅瀬へと上陸した。
脱出艇をロープで牽引して森の中へと引き込む。
そして積荷を下ろすと証拠を残さぬように解体して薪に変えた。
こんな夜更けに街に入れば怪しまれるとウェールズは野宿の支度を整えた。
携帯食糧の干肉を火で炙りながら食す。味もしないそれを噛み締めて飲み下す。
今の彼はまるで死人のようだった。作業する間も何も考えもせず身体の動くままにしただけ。
ウェールズは大切な物を失いすぎた。父も叔父も忠臣も部下も、どれもが掛け替えのない物だった。
胸の中に大きな空洞が空いたような空虚さを覚えながら、彼は生き延びる事を第一に考える。

アルビオンにいるのはマズイ。まずはここを出よう。貨物船にでも潜り込めれば何とかなる。
荷物の中には軍資金も含まれている。これで当面は生活や移動の心配はない。
その時、ふとウェールズは肝心な事を忘れているのに気付いた。
自分の顔は知られすぎている。自国の皇太子を知らぬ国民はそう多くないはずだ。
顔を隠す物を探してウェールズが見つけたのは救急袋の中にあった包帯だった。
だが、これを巻いただけでは変装にはならない。逆に不審がられるだけだ。
しかし幸いにもウェールズの目の前には簡単な解決方法が転がっていた。

「ぐっ!」
焼けた木片の先端を額に突き刺し、そのまま顔をなぞる様に切り裂く。
皮膚を焼く火傷も顔を刻む苦痛も今のウェールズにとっては救いだった。
切り捨ててきた者達に釣り合いが取れるとは思えないが、それでも自分を罰したかった。
彼等を殺したのは敵ではない、私だ。自分の甘さが彼等を犠牲にしてしまったのだ。
捨てろ。非情に徹しろ。情に流されるな。復讐を果たせ。叔父に報いを。
信じていた父と自分を裏切り、同胞に手をかけた簒奪者に死を。
空っぽの心になみなみと憎悪が注ぎ込まれて満ちていく。
二度と私情に流されぬよう、戒めながらより深く木片を刺す。
獣のような雄叫びを上げながら彼は手術を続ける。
深く深く抉られた傷は最愛の人との決別の証でもあった――。
992名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/05(金) 18:12:36 ID:riuXLA+L
何という修羅の道…支援
993ティータイムは幽霊屋敷で:2010/02/05(金) 18:14:00 ID:GKqcjsFy
投下終了です。これで感想がつけば全部埋まるかな。
994名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/05(金) 18:15:19 ID:riuXLA+L
投下乙です
これはひょっとしてジョゼフがウェールズを保護したのか?
後々で駒として使えると思って
995名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/05(金) 21:00:19 ID:zWZJeaTr
投下乙です 。
何でだろう。ウェールズの過去バナがどうしてもウェールズ自身の死亡フラグにみえてしょうがない。
996名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/06(土) 10:11:47 ID:36E7EvAT
投下乙です。
同じくウェールズの死亡フラグに見えて胸騒ぎが。
997名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/06(土) 10:36:55 ID:qB5Hujn9
うめぇ
998名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/06(土) 11:04:46 ID:2k1jM55t
いい加減埋め時だぞジョジョォーーーーッ!!
999名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/06(土) 11:09:00 ID:0IOvglN9
チェーンジゲッター1!
1000名無しさん@お腹いっぱい。:2010/02/06(土) 11:16:57 ID:F3SJ3SzD
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