あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part218

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1名無しさん@お腹いっぱい。
もしもゼロの使い魔のルイズが召喚したのがサイトではなかったら?そんなifを語るスレ。

(前スレ)
あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part216(実質part217)
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1235799602/

まとめwiki
http://www35.atwiki.jp/anozero/
避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/9616/

     _             ■ 注意事項よ! ちゃんと聞きなさいよね! ■
    〃 ` ヽ  .   ・ここはあの作品の人物がゼロ魔の世界にやってくるifを語るスレッドよ!
    l lf小从} l /    ・雑談、SS、共に書き込む前のリロードは忘れないでよ!ただでさえ勢いが速いんだから!
   ノハ{*゚ヮ゚ノハ/,.   ・投下をする前には、必ず投下予告をしなさいよ!投下終了の宣言も忘れちゃだめなんだからね!
  ((/} )犬({つ'     ちゃんと空気を読まないと、ひどいんだからね!
   / '"/_jl〉` j,    ・ 投下してるの? し、支援してあげてもいいんだからね!
   ヽ_/ィヘ_)〜′    ・興味のないSS? そんなもの、「スルー」の魔法を使えばいいじゃない!
             ・まとめの更新は気づいた人がやらなきゃダメなんだからね!

     _
     〃  ^ヽ      ・議論や、荒らしへの反応は、避難所でやるの。約束よ?
    J{  ハ从{_,    ・クロス元が18禁作品でも、SSの内容が非18禁なら本スレでいいわよ、でも
    ノルノー゚ノjし     内容が18禁ならエロパロ板ゼロ魔スレで投下してね?
   /く{ {丈} }つ    ・クロス元がTYPE-MOON作品のSSは、本スレでも避難所でもルイズの『錬金』のように危険よ。やめておいてね。
   l く/_jlム! |     ・作品を初投下する時は元ネタの記載も忘れずにね。wikiに登録されづらいわ。
   レ-ヘじフ〜l      ・作者も読者も閲覧には専用ブラウザの使用を推奨するわ。負荷軽減に協力してね。

.   ,ィ =个=、      ・お互いを尊重して下さいね。クロスで一方的なのはダメです。
   〈_/´ ̄ `ヽ      ・1レスの限界最大文字数は、全角文字なら2048文字分(4096Bytes)。これ以上は投下出来ません。
    { {_jイ」/j」j〉     ・行数は最大60行で、一行につき全角で128文字までですって。
    ヽl| ゚ヮ゚ノj|      ・不要な荒れを防ぐために、sage進行でお願いしますね。
   ⊂j{不}lつ      ・次スレは>>950か480KBからお願いします。テンプレはwikiの左メニューを参照して下さい。
   く7 {_}ハ>      ・重複防止のため、次スレを立てる時は現行スレにその旨を宣言して下さいね。
    ‘ーrtァー’     ・クロス先に姉妹スレがある作品については、そちらへ投下して盛り上げてあげると喜ばれますよ。
               姉妹スレについては、まとめwikiのリンクを見て下さいね。
              ・一行目改行、且つ22行以上の長文は、エラー表示無しで異次元に消えます。
              SS文面の区切りが良いからと、最初に改行いれるとマズイです。
              レイアウト上一行目に改行入れる時はスペースを入れて改行しましょう。
2名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 21:26:00 ID:l4fMl+/+
乙です
3名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 21:53:46 ID:uFTrc0fb
>1乙!
4ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:17:45 ID:HbwwEfTH
こんばんはー、作者さまからの依頼で代理に来ましたー。
25分から投下を行いますー。
5ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:25:27 ID:HbwwEfTH
 724 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕1/7 ◆ICfirDiULM 2009/03/02(月) 22:22:16 ID:6yeD0iQw

申し訳ないです、また規制がかかって書き込めなくなってしまいました。
どなたか、お優しい方、いらっしゃいましたら代理をお願いいたします。
以下、内容です
---------------------
「いい季節ですよね!今なら、丁度タルブの『猫祭り』の季節ですし!」
爽やかな朝、初夏の風が、街道沿いを吹きぬけていた。
ルイズおねえちゃんの授業も、王室の結婚式がもうすぐっていうことで、ほとんどがお休みになったみたい。
……その代り、「宿題多すぎ!」ってルイズおねえちゃんが叫んでたなぁ……学生さんって、ホント大変だ。
「……猫?なんで、猫祭りなの?」
「えぇと、元々はワイン蔵を荒らすネズミ退治の猫を慰労するお祭りだったらしいんですけど、
 今はみんなで猫の仮装をしたり、お酒を飲んで夏の到来を祝う祭りなんです」
なんか、とっても楽しそうなイベントだなって思う。
でも……
「ギーシュ〜!もうちょっと笑顔になりなさいよ!暗い顔してると、幸せが逃げるわよ?」
……キュルケおねえちゃんはとっても嬉しそうだけど、
ギーシュが、モットおじさんのところから帰ってきてずっと暗いままなんだ。
「――放っておいてくれ、頼む」
「ぎ、ギーシュ?私はあなたの味方だから、ね?例え女装したりしても……」
「あぁっ!?もう、言わないでくれぇぇぇ……」
なんか、とっても酷い目にでもあったのかなぁ……?
「そういえばほら、アニエスってどうなったの?例の鎧の……」
キュルケおねえちゃんが、ふと思い出したよう言う。
そっか、キュルケおねえちゃんも、あの夜はモットおじさんの所に行ったから知らないんだ。
「あぁ、鎧の姉ちゃんなら――」
「……『自分を見つめ直す』って書き置きだけを残して消えちゃったんだ……」
デルフの言葉を引き継ぐ。
アニエス先生は、あの夜、夕食をもっていってあげたら、いつの間にかいなくなってたんだ。
どこに、行ったんだろう……?“ブレイヴ・ブレイク”って病気、治ったのかなぁ……?
「う〜ん、これだと締らないし――」
ルイズおねえちゃんは、相変わらず白い本を持って、うんうん唸っている。
「ルイズ〜?あんたまだ詔できてないの?結婚式って、あと1週間ちょっとでしょ?」
「わ、分かってるわよ!あ、後はツメなのよ、ツメ!」
……このお宝探しが、いい気分転換になればいいなぁ……

「あ、タルブが見えてきました!」
遠くに、白い壁の家がいくつか重なるように見えてくる。
あれが、タルブなんだ。綺麗でのどかそうな村だなって思ったところに……
「クェー!」
「……え?」
……どこかで、聞いたことがあるような声が聞こえてきたんだ。


ゼロの黒魔道士
〜第三十六幕〜 タルブ・de・○○


タルブの村は、丁度ダリの村を大きくしたような感じだけど、
雰囲気はずっと明るかった。多分、大人の人たちがちゃんと働いているし、
子供たちも外で元気に遊んでるからだと思うだ。
『猫祭り』の準備なのか、あちらこちらに猫のぬいぐるみや、猫の置物が置いてあった。
……『猫ワイン』って、猫が入ってるわけじゃないよねぇ?
「で、シエスタ、この地図の×印なんだけど――」
「クェー!」
キュルケおねえちゃんの質問は、大きな声で遮られちゃったんだ。
「さっきから聞こえるけど、何の音?」
ルイズおねえちゃんが不思議そうな顔をする。
ボクの予想が正しければ、この声って……
「あぁ、この声は、そこの厩舎ですね。見てみます?おもしろいですよ?」
6ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:28:15 ID:HbwwEfTH
 725 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕2/7 ◆ICfirDiULM sage 2009/03/02(月) 22:22:51 ID:6yeD0iQw

「な、何なのよ、これ!?」
ルイズおねえちゃんは驚いていたけど、ボクはもっと驚いていたんだ。
その生き物の姿は、ボクが知ってるものより、ずっとくすんだ色をしていたんだ。
「クェーッ!」
でも、その声も、その臭いも、そのクチバシも、そのケヅメも、その大きさも……
「クェ〜!」
どこからどう見ても、その生き物は……
「ちょ、チョコボっ!?」
「あら、ビビさん、御存じなんですか?」
ボクの知ってる、普通のチョコボは黄色い。卵の黄身と同じぐらいの鮮やかな黄色だ。
でも、ここ、タルブの馬小屋のようなところ(多分、チョコボ舎かな?)のチョコボは、
色がくすんだ白、ミルクを入れすぎた紅茶みたいな色をしていた。
でも、この鳥は、間違いなくチョコボだ。
人が乗ったり、土を掘ったりする、あのチョコボだ。
しかも、何羽もいる……
「な、何なのよ、このおっきな鳥!?」
「――すごい匂いだね、これは」
他のみんなはルイズおねえちゃんみたいにおっかなびっくりしてたり、
ギーシュみたいにチョコボ独特のにおいに鼻をつまんだりしている。
「タルブ名物『ショコボ』です。畑を耕すときとか、荷物を運ぶのに使うんですよ?」
「え、『ショコボ』……?チョコボじゃないの?」
なんとなく、発音が違う気がしたんだ。
「えぇ、『ショコボ』……あら?ビビさんの発音、私のひいおじいちゃんと同じような言い方ですね?」
「ひいおじいちゃん……?って、いたたたたたたた!?」
横を向いた瞬間に、チョコボが、ボクの帽子をつついてきたんだ。それはワラとかの餌じゃないのに……
「あらあら、ビビさん、気に入られたみたいですわね?」
そんな気に入られ方しなくてもいいんだけどなぁ……
「や、やめ、やめてててててて!?」
チョコボの嘴って、地面を掘ったりするから結構鋭い。
それに、首の力もものすごく強いんだ。あと、足も速い。
……襲われたら、かないそうにないなってふと思った。
「ハハハ、僕のライバルも鳥相手には形なしか!」
ギーシュがケラケラ笑ってる。うん、元気になったみたいで良かったけど……
ちょっと、その笑い方はムッとするなぁ……
「いいかい、鳥っていうのは、こうやって首の下を……でっ!?」
チョコボを得意気になでようとしたギーシュは、おもいっきり頭の上にケヅメが振り下ろされた。
……チョコボって、すっごい器用だなぁ……
「フフッ、ミスタ・グラモンも気に入られたみたいですね」
シエスタがクスクス笑う。ボクも、つられてちょっと笑った。
「ギーシュ〜、なさけないわねぇ〜!ところで――荷物ぐらい置きたいんだけど?」
ルイズおねえちゃんも久々に笑ったみたいだ。うん、良かった。いい気分転換になったみたいで。
「あ!そうですね!それじゃぁ、私の家に向かいますか」
「いたたたたたたたたた、髪の毛に絡まる!?絡まってる!?」
「じ、じっとしてなさいよギーシュ!今取るから――」
モンモランシーおねえちゃんがギーシュの頭からケヅメを取り除く間、
そのチョコボはうれしそうに「クェーッ!」と鳴いていた。
……流石に、ちょっと痛そうだから、ボクも手伝ったけど、
ギーシュの髪って、ちょっと癖があるのか、チョコボのケヅメにうまいこと絡まってて……
「いだだだ!?抜ける抜ける抜ける!?」
……長い時間を費やして取れたけど、あとちょっとで、
コルベール先生みたいになっちゃってたかもしれないなぁと思ったんだ。


7ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:31:13 ID:HbwwEfTH
 726 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕3/7 ◆ICfirDiULM sage 2009/03/02(月) 22:23:26 ID:6yeD0iQw

シエスタの実家は、風車が目立つちょっと大きめのお家だった。
風車って言ったけど、普通の板みたいな大きな羽が縦にゆっくり回るものだけじゃなくて、
お椀みたいな小さい羽が横にグルグルと素早く回っているものや、
お花みたいな形で一が通り過ぎるたびに回るもの、
風じゃなくて、実際は脇を流れる川の水車の動力で回っている偽物の風車もあって、
なんか家全体までグルグル回っているような印象を受けた。
「ひいおじいちゃんが大好きだったんですよ、風車」
……大好きって言うにしても、程がある気がするなぁ……

「ただいま帰りましたー!」
「まぁまぁまぁ!?貴族の方々まで!?粗末なあばら家にわざわざお越しいただくとは――」
シエスタのお母さんかな?シエスタより少し背が低くて、ちょっとふっくらした感じの女の人が出迎えてくれた。
そのお家の中は、外よりも、もっとすごかった。
あちこちに、木で作った馬車の模型や、歯車の組み合わさった鉄の塊が転がっていて、、
ガラスの筒の中では色とりどりの球体が浮かんだり沈んだりしている。
「――あばら家、っていうより――何かの研究室みたいな雰囲気ですわね」
モンモランシーおねえちゃんが、一瞬『物置』って言いそうになったのが分かった。
でも、これだけゴチャゴチャとよく分からない物が並んでるって、確かに物置っぽいけど、
なんとなく、ワクワクしないかなぁ?キュルケおねえちゃんじゃないけど、お宝の山って感じで。

「大体が、ひいおじいちゃんの発明品なんです」
シエスタがお茶を入れるのか、ヤカンを火にかける。
そしたら、そのヤカンがクルクルと回りだして……
「え?どういう仕組みなんだい?」
ギーシュも不思議に思ったのか、大きめのテーブルにつきながら聞いたんだ。
「あぁ、これもひいおじいちゃんの発明で――ほら、上に風車の羽がありますよね?」
かまどの上の方に、外にあった大きな風車を、ずっと小さくして横倒しにしたものがあった。
そこから、軸が上に伸びて、歯車を伝って、かまどの下の方にクルクルという動きが伝わってる。
「なるほど、湯気を利用した動力ということか」
「そうなんです、これで、まんべんなく熱が伝わるという仕組みなんですよ!」
「ふむ、おもしろいね!肉を焼くときも使えるのかな?」
ギーシュは素直に感心してるけど、おねえちゃん達はちょっと退屈そう。
……うーん、男の子と、女の子の差、なのかなぁ?

「えーと、ところで、シエスタ?この地図なんだけど」
「え?あぁ、はいはい、その紙、ですね?」
キュルケおねえちゃんは、早く×印のついている場所に案内して欲しくてたまらないらしい。
「で、この地図のこの印のところって、結局この村のどこに――」
「そんな場所、存在しませんよ?」
「……え?」
ボクは、いや、他のおねえちゃん達も、耳を疑ったんだ。
「ほら、さっき厩舎にショコボがたくさんいましたよね?あの子たち、畑を耕すときにがんばってもらうんですけど、
 そのとき、地面から色々見つけちゃうんですけど、こういった紙もよく見つけて……ほら!」
……今、気づいたんだ。それは、おねえちゃん達や、ギーシュも同じだったみたい。
部屋の壁一面が、キュルケおねえちゃんの持っている地図とほとんど同じもので埋め尽くされているってことに……
「ちょっとした壁紙にしたりすると、味のある模様なのでお土産として売ってるんです。タルブの密かな名産ってところですね。
 ショコボの落書きっていうことで、『ショコ・グラフ』という名前で……」
キュルケおねえちゃんの笑顔が、貼りついたみたいに引きつっていた。
「――ま、待ちなさいよ?あなた、この地図は『タルブの』って……」
「?えぇ、ですから、その紙が『タルブの』名産品と申したつもりでしたが……あの、何か不都合が?」
お茶っ葉を探しながら、シエスタが首をかしげる。
……そっか、『タルブの“描かれた地図”』じゃなくて、『タルブの“お土産”』なのかぁ……
なんか、言葉って難しいなぁって思ったんだ。
8ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:34:11 ID:HbwwEfTH
 727 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕4/7 ◆ICfirDiULM sage 2009/03/02(月) 22:24:12 ID:6yeD0iQw

「それじゃぁ、この地図って……」
ルイズおねえちゃんが、気の毒そうな表情になる。
「むかーし、貴族様方に調べてもらったんですがね?いやまさか大切な紙だったら大変ですし」
シエスタのお母さんが、カップを出すのを手伝いながらしゃべる。
シエスタと、シエスタのお母さんは、キュルケおねえちゃんの事情には全然気付いてないみたいだ。
「その結果、『こんな場所はハルケギニアではありえない』ってことで、大昔の落書きってことになったみたいですね」
コポコポと、熱いお湯がお茶っ葉の上に注がれる。
お茶の葉が、その熱でふにゃふにゃになるみたいに、キュルケおねえちゃんの体から力が抜けていくのが分かった。
「そ、そんな〜……」
「あー――えー、そのー……」
ギーシュが、かける言葉につまっている。
「何というか、古物商って、あこぎねぇ……」
ルイズおねえちゃんも、かぶりをふる。
流石に、壁紙と、お宝の地図だと、値段もすごく違うはずだよね?
……なんて言ったらいいんだろう……
「――御愁傷様、ね」
モンモランシーおねえちゃんの言葉って、大抵鋭くて、的を射てると思うんだ……
「高かったのにぃぃぃぃぃ〜!!!」
キュルケおねえちゃんは、テーブルにへにゃ〜ってつっぷしちゃった。
なんか、ものすごく疲れきった感じがする。

「……あ、シエスタ?シエスタの、ひいおじいちゃんって……」
なんとなく、話を別なところに持っていった方がいいかなって思って、シエスタのひいおじいちゃんのことを聞くことにしたんだ。
「あ、私のひいおじいちゃんですか?」
『ひいおじいちゃん』って言うときの、シエスタの顔がちょっと誇らしげだった。
「この子、ひいじいさまっ子て言えばいいんですかね、小さいときに死んじまったってのに、ずっと好きだったみたいでねぇ」
シエスタのお母さんがそう苦笑しながら、お茶のカップを配る。
お茶は、ミントの香りが強い、ハーブティーだった。とってもすっきりした香りで、飲みやすい。
「だって、ひいおじいちゃん、色々作ってくれて、とっても楽しかったんだもの!聞いたこと無い話してくれるし!」
なんか、小さい子に戻ったみたいな口調になるシエスタが、ちょっと可愛らしかった。
「まったく、この子ったら――ひいじいさまはね、元々はこの村の者じゃないんですよ」
「あ、そうなんだ……?」
「大昔に、ショコボにまたがってこの村にやってきたそうでしてね。
 あんな大きな鳥は見たこと無いってことで村中大騒ぎになったと聞いております」
あれ?でも、そうすると、チョコボはそのときからずっと生きているってこと?
「あの、じゃぁ……今いるチョコボって……」
「あぁ、今のショコボは、ちょっと貴族様に頼んでね、何しろ役に立つ鳥だもんですから。
 南方の方に住むオストリ鳥っていう大きな鳥と交配させた子孫なんです」
あぁ、だから普通のチョコボとは違う薄茶色なんだ。
「あ、そうそう!ビビさんのショコボの言い方、ひいおじいちゃんと似てない、お母さん?」
「あら?そういえばそうねぇ?もしかして、ご同郷なのかしら?」
そういえば、ボクはロバ・アル・カリイエってところから来たことになってたっけ。
……うーん、どうしよう。そっちの方の話をされたら、とてもじゃないけど話をあわせられないなぁ……
「あ、ならひいじいさまの手帳、読めなさるかもねぇ?あの訳分からないこと書いてある手帳」
どうしよう、今更違うって言ってもしょうがないし……
「あぁ、あったあった!時計の所に隠してたんだよね?」
シエスタが、時計(って言っても、歯車がむき出しで、文字盤が無かったから、時計にはとても見えなかった)の針を、
無理やり逆回転させると、カチッと小さな音がして、歯車の一部が外れた。
「これなんですけど、ビビさん、読めます?方言なのかなって最初は思ったんですけど、綴りや文法がところどころ変で……」
どうしようって思ったけど、そのあちこち黄ばんだ手帳を見せてもらったんだ。
表紙は、真っ赤な皮でできている手帳だった。あちこちについている焦げ痕は、ロウソクでつけちゃったのかなぁ?
読めなかったらどうやってごまかそうって思いながら表紙をめくったんだ。
そしたら、聞き覚えのある地名が、そこに書き記されていたんだ。
「……『リンドブルム大公、シド・ファブール8世を尊敬して』……え!?」
リンドブルムって……あの!?


9ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:38:23 ID:HbwwEfTH
 728 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕5/7 ◆ICfirDiULM sage 2009/03/02(月) 22:24:45 ID:6yeD0iQw

手帳を読み進めていくと、やっぱりあのリンドブルムだったんだ。
飛空挺の国、大きなお城のある街並み、人がいっぱいで目が回った、あのリンドブルムだ。
シエスタのひいおじいちゃんの名前は、『シド・ランデル』。
「え、ビビの故郷って、平民でも苗字があるの?」
ルイズおねえちゃんが口をはさんだ。
「う、うん……めったに使わないけど……」
ともかく、シド・ランデルさんは、リンドブルムの工業区で生まれたらしい。
……アレクサンドリアの侵攻で、つぶれてしまった工業区のことを思い出すと、
ちょっといたたまれない気持ちになっちゃったんだ。
少しだけ、そうした気持ちになりながら、先を読む。
そのときの大公、シド・ファブール8世にあやかって名前をつけてもらったらしい。
(ボク達を色々世話してくれた、カエルになったりブリ虫になった人は確か9世だから、そのお父さん、かな?)
ともかく、ランデルの方のシドさんは、そのときの内戦を憂いたリンドブルム大公に共感し、飛空挺の開発に携わったんだって。
手帳の最初は、そうした自分の人生を振り返り、飛空挺を作るにあたっての心意気からはじまっていた。
曰く、『技術者たるもの、常に新しきことを目指せ!』とか、
曰く、『技術者たるもの、完成図を思い描け!』とか書いてある。
汚い字で、技術者っぽくてそっけない文章だけど、熱意がすごく伝わってくるな、と思うんだ。

「やっぱり、ビビさんと同郷だったのですね?文法がおかしくて私たちでは意味が分からなかったのに……」
そういえば、ボクがこっちの本を読もうとしたときも、文法や綴りが違うなって思ったっけ。
きっと、ちょっとずつズレてるんだと思う。
手帳は、いくつもの数式やアイディアのラフ・スケッチが続いた。この辺はぜんぜん分からない。
ところどころに、『もっと強度が?』とか『要確認!』といった走り書きが飛び出してくる。
手帳の1/3まで来たところで、箇条書きのまとめが書いてあった。
『霧機関』っていうものの完成と、その問題点について、だ。
「『霧機関』って何だい?」
「えぇと……ボクもあまり詳しくないんだけれど……」
ギーシュの質問に、断りをいれてから答えようとしてがんばる。
っていっても、詳しい仕組みとかは全然知らなかったんだ。
そもそも霧っていうのが、魂が星を循環するときに発生する副産物ってことぐらいしか知らなくて、
(ボクが霧で作られてるってことは、あんまり言いふらしたくなかったし)
「えっと……霧は、強力な魔力をもった煙、かなぁ……?」
このぐらいの説明しかできなかったんだ。
「ということは、風石の代わりに、その霧というものを使って船を飛ばすということか」
ギーシュはこうした機械の仕組みとかには頭がよく回ってくれるみたいで助かるんだ。
「で、えーと……ランデルさんの書いている問題点は……」
『霧機関』は、ボク達が旅をしたおよそ50年ぐらい前からずっと使われてきたものだった。
でも、ランデルさんは、その霧機関に問題点を見つけていたみたいだ。
霧の存在する低高度でしか使用ができないこと、
(山地を越えることが難しいって書いてある。だから、南ゲートが開発されたのかなぁ?)
霧の大陸の外、例えば外洋には出れない可能性があることが書かれてあった。
その問題点を解決するヒントを探しに旅に出て……
「チョコボに乗ってたときに、霧に飲み込まれた……?」
そこが手帳の丁度半分まできたところで、数式や絵じゃない、文章の続くページが始まっていた。
ランデルさんは、深い霧の中、目を思わずつぶっちゃって、次に開いたときにはまったく霧の無い、青空の下にいたらしい。
「『植物:既知の生態系とは異なる。 動物:同種のものもわずかながらいるが、植物ほぼ同じく。
  結論:霧の大陸では無いと推察される』……なんか、すっごく淡々とした書き方だなぁ……」
実際は、もっと驚いたんじゃないかと思うんだけど、民家を探してとにかくチョコボを走らせたらしい。
そうしてたどり着いたのが……
「それが、この村ってわけなんですね!あー、なんかひいおじいちゃんのことが分かってうれしいです!」
シエスタがにっこり笑った。
10ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:41:54 ID:HbwwEfTH
 729 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕6/7 ◆ICfirDiULM sage 2009/03/02(月) 22:25:23 ID:6yeD0iQw

タルブにたどり着いたランデルさんは、帰り道も分からないし、この村に住む決心をしたって書いてあった。
何より、『ここの技術の無さは逆に自分を刺激する』って書いてある。
技術者魂ってことなのかなぁ……?なんか、尊敬してしまうんだ。
あとの手帳は、風車の設計図メモや、ちょっとした日記が続いていた。
おもしろかったのは、シエスタのひいおばあちゃんへの告白をしようと考えたらしいところのメモで、
「『ラブレター作戦:問題点→当方に文才なし。 代筆の可能性?→誠意が伝わらない!
  プレゼント作戦:問題点→彼女の好みは? 誰かに聞く→誰に?誰にだ!?』……だって」
「なんか、いつの時代も同じだねぇ」
ギーシュが苦笑する。
なんか、いつの時代も恋する人って大変なんだなぁと思って、ボクもちょっと笑った。



お昼ごはんまで、こうやってまったりとシド・ランデルさんの手帳を読んだり、
ランデルさんの発明品をシエスタに説明してもらったり、
ワイン蔵を見学しながらすごしたんだ。平和な旅って感じで、本当いいと思う。
……1人を除いて、だけど……
「あの、古物商め〜……」
キュルケおねえちゃんは、シエスタの家で、ずっと『猫ワイン』を沢山飲んでいたみたい……
あんまり、飲みすぎると、体に悪いと思うんだけどなぁ……

ピコン
ATE 〜歌劇を見ながら〜

その日の昼ごろ、ゲルマニアの劇団によるトリスタニアでの初舞台が行われていた。
タニアリージュ・ロワイヤル座を汚す行為であるとの指摘もあったが、
この度の婚姻による文化交流の一環ということと、ゲルマニアで一番人気の劇団であるということで、
無理やり反対派をおさえての開幕となったわけだ。トリステインの目の肥えた客は受け付けないのではと考えられたが、
怖いもの見たさという奇特な客がそれなりいたのか、客席はほどほどに埋まっていた。
「♪愛しの 貴方は 遠いところへ?♪」
主演女優の歌声が舞台から響く。なるほど、舞台映えのする美人だ。
「♪色あせぬ 永久の愛 誓ったばかりに♪」
しかし、ありきたりの美人だ。この程度ならば、この間、貴族警護役で雇った女騎士と同程度ではないか。
そう高等法院長であるリッシュモンは、眠たげな表情で舞台を眺めながら思っていた。
「ありきたり、といえばありきたりですな。内容を含め」
どこで考えが漏れたのか、横に座った男がそう呟く。そう、そのとおり実にありきたりな内容だった。
だが、内容はどちらかというと単調だ。亡国の姫と、それを巡る男たちの話。
「――確かに、これが人気舞台となった理由がはかりかねるな」
単調な上に不謹慎な内容であるなとリッシュモンは思っていた。
何しろ、一人の男は亡国の戦士であり、もう一人の男は対立国の王子だ。
どことなく、今回の婚姻のあてつけと思われてもしょうがない。
しかし、このような風刺的な演目を行うのも、ゲルマニアらしいと言えばらしいか。
「あぁ、それには事情があるらしいですよ。なんでも、ヴィンドボナの講演でハプニングがあったとか」
「ハプニング?」
少々、興味が魅かれた。舞台では、主演女優が花束を投げ、消えた男に再び愛を誓うという名場面だったが、
男の話の方がよっぽどおもしろそうだ。
「そう、ゲルマニアで公演中に、クラーケンの仲間らしき巨大なタコが演劇中に乱入したそうでしてね。隣の見世物小屋から逃げだしたとか」
何とも間抜けな話だ。見世物小屋の管理体制はどうなっていたというのだ。
これだからゲルマニアは、と愛国心をあまり持ち合わせていないリッシュモンでも呟いてしまう。
「ほう?それで、どうなった?」
「団長以下、役者のアドリブで乗り切ったそうで。まぁ、そういった大道芸は得意なのでしょう」
そんなことで人気が出る舞台なのだ、ゲルマニアの文化程度が知れようというものだ。
「ゲルマニアらしい、といえばらしいことだ」
ふん、と鼻をならすリッシュモン。これだからゲルマニアとの連合は反対だったのだ。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 22:43:54 ID:8r5UWTZJ
まさかそのタコって…!?
支援
12ゼロの黒魔導師代理:2009/03/03(火) 22:44:34 ID:HbwwEfTH
 730 代理希望:ゼロの黒魔道士 第36幕7/7 ◆ICfirDiULM sage 2009/03/02(月) 22:26:09 ID:6yeD0iQw

「えぇ、我々のように念いりな脚本は書けぬ分、そうしたところで人気獲得に走るようですな」
ピクリ、とリッシュモンの肩が動く。
目は舞台の上、姫と悪役の王子との優雅なダンスシーンに注がれてはいるが、
頭は完全に男との話に集中していた。
「脚本、か。そういえば、次回の演目は?」
もちろん、客席のマナーとして小声だ。
いくらルール破りが得意なリッシュモンとて、そこまでルールを破る気はない。見えるところでは、だが。
「明日の朝、ですな」
話し相手の男がこともなげに答える。舞台上の俳優よりも、実に演技が上手いものだ。
新進気鋭の舞台監督として十分通用する見た目と受け答えだ。しかし、明日とは。
「急だな」
リッシュモンの頭では、算盤が弾かれていた。もちろん、文字どおりの舞台興行収益などではない。
考えているのは、今回の“舞台”により、どう情報を受け私すれば儲かるかという皮算用だ。
「客と役者が揃えば、早いに越したことは無いんですよ。いつ台本が他に洩れるとも限りませんのでね」
肩をすくめる様が、実に芸術家らしい動きだった。
この男は、このような職に就かず俳優という道もあったのではないかと思われた。
「ふむ、それなりに、趣向を凝らした舞台なのかな?」
リッシュモンも舞台好きの貴族としての演技を続ける。伊達に綱渡りは続けていない。
老獪な役者のみが可能な自然な演技だった。
「それはもう。こちらもフルキャストで臨みますからね」
「期待しよう。特等席から見させてもらうよ」
とはいえ、役者は本職ではない。二重の意味をもたせたやりとりは続ければ続けるほど苦しくなる。
「えぇ、それでは。私は舞台の準備がありますので、この辺りで……」
それを見計らったのか、男が中座しようとする。正直、助かったとリッシュモンは考えた。
「ふむ、分かった。演目表はいつものとおりでいいのだな?」
舞台上では、死んだと思われていた戦士が、必死に姫の元へ馳せ参じる場面で、
他の客はその見せ場に釘付けになり、二人の男の密談には気づいていなかった。
「えぇ、いつものとおりで」
演目表は、会議録のこと。それはトリステインの閣僚会議でなされる国家機密である。
だが、リッシュモンにとっては、それは豊かな老後のための安チケットでしかなかった。
「♪命 尽き果てようとも 離しはしない♪」
「♪決闘だ!♪」
決闘、か。くだらないことだ、とリッシュモンはそう思う。
決闘など、愚者のやることだ。賢者は、決闘を観劇しながら、懐を温めるのだ。
舞台上の俳優に、マザリーニ枢機卿と、クロムウェルの顔を重ねつつ、リッシュモンはニヤリと狡猾な笑みを浮かべた。
---------------
以上です。
ちょっと解説:「猫祭り」→ベルギーのイーベル地方で3年に1回、5月に行われる大規模な祭り(実在)
聞きかじって、おもしろそうなので、ちょっと使わせていただきました。
毎度ですが、他FFシリーズからの小ネタが多くてすいません、内輪受けに頼ってしまって……
解説とかあった方がいいですかね?>小ネタ
お目汚し失礼いたしました。

以上、代理お願いできますでしょうか?よろしくお願いいたします。
13名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/03(火) 23:18:06 ID:stP+u/Mr
投下代理おつさまです〜
14名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 00:07:59 ID:kQfUfaRG
15名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 04:12:38 ID:E6EAkBWG
                      __
                 _, '"´      `丶、
                /            \
                  / ,' /  / /  ヽ   `ヽヽ
               l l j __ // ,イ   、ハヽ   }! ハ
               l l 「 j_从7ヽハ  !七大 ` } リ }/
                | l Vf゙i圷/ jl ノィアト、ヘ// /
                  j l  l  V_:ソ  ´  V:リ /jイノ
               ,' ハ ヘ.       '  ` ,'  l !    >>1乙、使い魔の癖にやるじゃない
                / / l  ヽ   ー ‐  .厶 |ハ
                //' ∧  弋ト 、 __ , r<7  l ヽ
          / / / ∧   Vー、 Kヽ{   ヽ  ヽ
         /  /./  /¨}   ',__∧_j_l::::ハ   \ }/
         ,′  l {  /:::/   /::::ヾ ☆Y:::ハ    X
         {   V r'::::::/   /::::::::::\__j:::::入xぅ/  \
         ヽ  l  { :::/   /::::::::::::::::::V://∠     ',
          }  ! j/  /:!::::::::::::::::::∧V _二}:ヽ   /
          /  /  {   〈:::::::l:::::::::::::::/:| j/ -ーソ:::ノ   /
         / /  |ヽ  \:::l:::::::::::/∠/j  rテ':〃  ( ヽ   ,
.      / /  、__jノ   ∧{::::::/ ,/ {  _/:::ハ   `ー彡
      /  〃  、__ >   /::;>'´   /! ∨ヘ::::ヾ::\   < _
      ヽ {{    =ァ 彡<::/     { >く{ ヽ:::::ヽ:::::ユ=―'´
16名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:23:55 ID:7/9I054z
そういえば思ったのだがエルフは系統魔法は使えるのだろか
あ、「メイジの血筋」でないと駄目なんだったな

・・・・・・・と考えた時、ひょっとしてハーフエルフって人間側によっては
先住(精霊)魔法と系統魔法の両方使えるのではないかと考えちゃったりしちゃったりして
スゲェなテファ。
精霊魔法に系統魔法に虚無、おまけに革命まで装備

ひょっとしてムテキ?
17名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:32:59 ID:SMx+kv0g
ははは、貧乳スキーな俺には通用……。
うん、通用しないはず……、だ。
18名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:34:38 ID:rdxIqdRq
虚無には忘却のように精神に関与するものがある。
つまり、貧乳属性を巨乳属性に変化させる事など朝飯前に違いない。
19名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:41:59 ID:Yep2cK+0
>>17
君はアレがなぜ「革命」と言われているか理解していないようだな。
革命とはパラダイムシフトである。それは価値観の変化をもたらすのだ。
いくら君が虚乳好きであろうとも、それを見た瞬間「おっぱおマンセー」と叫んでしまう。

この事が真の「バストレボリューション」なんだ。
20名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:42:23 ID:7DhyKNcT
虚無と系統は一緒に使えないだろ……
21名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:52:51 ID:zMA415Bj
>>16
今のところ虚無覚醒の前提条件は系統魔法が使えない事、だょ。
ロマリアがガリア王の次の虚無の担い手探しの時の条件も、魔法が使えない事だった。
22名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:57:32 ID:ZnYxtChD
戦地調停師のミラルキラルに是非アルビオンを調停してもらいましょう
23名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 11:58:29 ID:zMA415Bj
>>21
おっと、その条件だけだと平民も含まれちゃうね。
アルビオン、ガリア、トリステインの王族の血を継いだ上で系統魔法が使えない事、やね。
ただロマリアの虚無の条件が良くわからない。

ロマリアの建国者って血族じゃなくて弟子じゃなかったっけ?
24名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 12:49:01 ID:7DhyKNcT
魔法が使えないじゃなくて系統魔法が使えないだよ
コモンがたまに成功したりとか、何らかの失敗魔法が発動したりはするから
25使い魔人生綺談:2009/03/04(水) 17:30:44 ID:SMx+kv0g
17時35分より投下を開始させていただきます。
26使い魔人生綺談:2009/03/04(水) 17:35:13 ID:SMx+kv0g
   使い魔人生綺談-04


「ねえ、ニコ……。一つ聞きたい事があるんだけど」
「んー、なんじゃ? 神妙そうな顔して」

 ルイズは図書館より出た玄関口で、その建物を見上げながら
ニコに問いかけていた。
 その建物は緑色の瓦で屋根が覆われ、大小二棟が半ば
くっ付いた白い外壁の屋敷であった。
 トリステインでも中級貴族であれば、これくらいは構えて
いるであろかといった規模である。
 しかし、

「さっき居た館内の大きさよりも、建物が小さいってどういう訳なの?」

 さっきまで中に居た図書館が収まっているとは思えない大きさであった。

「ああ、それか……。さっき幾つか扉を通ったじゃろ? 
あれはわしが呪術公式を施したドアウェイ・システムなんじゃ」
「んーと、つまりあの図書館そのものは、この屋敷とは別の場所に存在するって事?」

 ルイズは首を傾げつつ考えを述べる。その横でもオスマンや
ロングビルも、ニコの言う事を理解しようと思案していた。

「うんにゃ、図書館そのものはこの屋敷の中に収まっておるよ」
「え、だって最初に見た書庫でさえこの屋敷より大きかったじゃない……」
「ふむ、憶測じゃが、魔法による空間拡張といったところですかな?」

 ルイズはニコの言葉に疑問を深めるのであったが、その横で
オスマンが考えを述べる。

「ワシらの世界に有るマジックアイテムに、見た目よりも何倍も
中が広くなった魔法のチェストがありましてな。
ミス・アージェントの図書館も、その様に拡張された空間を
ドアウェイ・システムというので繋いでいるのではないですかな?」

 オスマンがハルケギニアの魔法の技術に照らし合わせて推論を述べた。

「まあ、当たらずとも遠からず、と言ったところですかの。
正確には、書庫としての空間そのものを造り出し、内部を
そのままにして外部の客観的容量を圧縮。
それをドアウェイ・システムで連結しているといったところですか」

 ニコはそう説明する。まあ、実のところ、ニコは図書館内を
かなりいい加減に構築している。構築中に設計資料の紛失、
関係者などが帰路を失いそのまま定住し子孫まで居る、
なんてことも“ざら”である。
 館内の安全なルートを発見したりすれば学術ボーナスが
もらえたり、ダンジョン営業許可証が発行されていたりするのだから、
そのカオスぶりは言わずもがなであろう。

「ほほぅ……、空間を造り出す、ですか。興味深いですな」
27使い魔人生綺談:2009/03/04(水) 17:37:16 ID:SMx+kv0g
 オスマンはメインランドの魔法の特異性に感嘆し声を洩らす。

「よろしければ、今度、関連書籍をお貸しいたしますが?」
「よろしいので? 普通は秘匿でもするものだと思いますが?」

 ニコの申し出にオスマンが疑問を呈する。
 しかし、ニコの答えはあっさりとしたものであった。

「いえ、図書館は本や資料を貸し出すのが務めですからな。
いくら知識を蓄えても、利用する者が居なければ意味が
ないですからの。まあ、危険な物は流石に貸し出せませんが」

 ニコは微笑みながらそう言った。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 図書館のある高台より降りてきた一行は、月の出町内を歩いていた。
ルイズは時折擦れ違う長い耳の者の姿にエルフを想起して
おっかなびっくりしつつ歩いている。

「ミス・アージェントお聞きしたいのですが、エル……、いや、
長耳族でしたっけ。そういった者達や人間の間には軋轢や
差別などはあるのですか?」
「おお、それはワシも聞いてみたかったですな。恥ずかしながら
ハルケギニアでは、種族間の軋轢が大きなものでしてな。
ミス・アージェントをエルフと間違えた際に敵意を向けて
しまったのも、そういった訳があるのですじゃ」

 ロングビルとオスマンがニコへと質問をする。

「基本、大きな軋轢や、あからさまな差別などは無いですな。
人間、長耳族、水棲人、妖怪に機械人……」

 ニコは様々な種族を挙げて指折り数える。

「とまあ、種類なら動物園並みですな。まあ、ハルケギニアも
おそらく同じかと思いますが、同じ種族とて憎しみ争い、
戦争となる事とは間々ありますな」
「そういったところは、世界が違っても変わりませんなぁ……」

 ニコとオスマンはそう言いながら、どこか乾いた笑い声を上げるのであった。
28使い魔人生綺談:2009/03/04(水) 17:39:17 ID:SMx+kv0g
「ねえ、ニコ。あれは何? ゴーレムかガーゴイルなの?」

 そう言ってルイズが指さした方向には人影があった。
 襟元から覗く首から頭部全体を金属で覆われ、目の存在するべき場所に
硝子が嵌め込まれている。しかも頭部だけでなく、露出している
肌は全てが金属の鈍い輝きを放っている。ハルケギニアの常識に
照らし合わせればゴーレムかガーゴイルに分類されるであろうものであった。

「ああ、あれが機械人じゃよ」
「機械……、人?」
「体が機械……、カラクリで作られ、人の人格が移植されておる。
言っておくが、メインランドでは人と同列として扱われておるぞ。
……ああ、ちなみにショーシャも機械人じゃぞ」
「え? だって……」

 ルイズは歩いていた機械人をもう一度見て、そしてショーシャの姿を思い出す。

「……あのメイドは、あんな鉄の体なんてしてなかったわよ?」
「機械人といっても、その体を構成する材料も様々じゃからなぁ。
ショーシャは有機系体殻じゃから、見かけは人間と変わらないし、
時には風邪もひく事もあるぞ」
「はあ……、もう何と言うか、何でも有りね、メインランドって……」

 ルイズは自分の常識と理解を超えたメインランドという
世界に溜め息をつくしかなかった。

 ニコを先頭として歩く一行は少し開けた通りへと出る。
 そこは多くの人にて活気づき、少し見上げると看板や
“のぼり”が目に入る。それらには、名代あんも焼き、
まくら銀行、おしよせる毛物の香りイタチせんべい、
マダムお六のいちぢく占い、などとか書かれてはいるが、
ハルケギニアから来たルイズらには読めないものであった。

「ねえねえ、ニコ。さっきから気になっているのだけど、
あの空を飛んでいる鉄の魚は何なの?」

 ルイズが上空を指さしニコに問う。
 ルイズの指す先には、全長が二十メートルほどで魚を思わせる
シルエットを持ち、尾鰭の様な突起があり。魚眼に似た硝子状の
物を、本物の魚と同じ位置に備えた物体が飛行していた。
 側面には(有)月の出航測と書かれていたりするが、
それを読めないルイズには、模様か何かにしか見えない。

「あれはメインランドにおける一般的な船舶じゃよ」
「船舶? え、じゃああれがメインランドのフネなの?」

 ハルケギニアにおけるフネ(ハルケギニアでは空中船舶全般を“フネ”と表す)は、
水上船とほぼ変わらぬ形状の木造の船体に、幌を張ったマストが
立ち、小翼を備えたものである。
 ルイズの知るフネとは似ても似つかない。

「ふむ、どうやらハルケギニアにも空中船舶があるのじゃな。
メインランドの地表の多くは雲海に覆われておる」

 今、ルイズらの居る月の出町二丁目は、その雲海に突き出た
瓢箪型の島の上に築かれている。島の外縁部が切り立った崖に
なっており、その下は厚い雲に覆われ見えない。
 ニコは視線を雲海へと向ける。ルイズは釣られる様に向いた
先に見た光景に、ハルケギニアの空中大陸アルビオンを思い出した。
29使い魔人生綺談:2009/03/04(水) 17:41:19 ID:SMx+kv0g
「なので生活を支える足として、あの様な空中船舶が主流になっておる……。
っと、着いたようじゃな。ここじゃ」

 と、ニコが話を切り上げ、一軒の店らしき前に立ち止まる。
 ニコが向かう先には赤い暖簾が掛かっており、白字で
『定食・上海亭』と書かれている。
 店の中からは食欲をそそるにおいが漂い、一行の空腹の胃を刺激する。
サトウなどは店の引き戸が開いたら、突撃でもしそうである。

「店長ぉー。アダルト二人にチビ二人、猫一体じゃ。席は空いておるか?」
「おう、ニコさんかい。奥の席が空いてるぜ」

 ニコが引き戸を開けて入店しながらカウンターの奥にいる
店長に問いかけると、すぐさまそう答えが返ってくる。
 店内は半分ほどの席が埋まっているが、丁度四人と一匹が
座れるテーブル席が空いている様であった。
 ルイズは大衆食堂然とした店内の様子に、何で貴族の私が、
と思ったが、空腹には勝てず、大人しく席へと向かう。

「お? メイウルフにお六。お主らも今日はここか?」

 と、席に向かう途中にて、ニコがカウンター席に座る二人の女性に声をかけた。

「あ、師匠……。ええ、そうですが、そちらの人達は
見かけない人ですが誰です? お客さんですか?」

 そう答えたのは、薄い赤紫色の髪をセミロングにした
二十歳前後と思われる長耳族の女性であった。

「こんにちは、ニコ館長。それと、お兄様」

 その隣に座るのは黒髪を腰まで伸ばした同い年ぐらいの女性で、
長耳族と思われる耳を持つが、その手はサトウの前足に似た肉球を
備えたものであった。そして瞳の中の瞳孔は、猫を思わせる縦長の
ものであった。お兄様、とサトウに向けて言ったので、その関係者なのかも知れない。

「ああ、こちらの方々はわしのお客さんじゃ。
まあ、色々とあってな………」

 と、そこでニコは思案顔になる。そしてビシっと
薄い赤紫色の髪の長耳族の女性を指差し、

「そうじゃ、メイウルフ。お主、使い魔をやれ」

 と、言い放った。
30名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 17:43:41 ID:SMx+kv0g
 以上です。

 やっとこさ、使い魔候補を出せました。

 メインランド側でのお話は、次回にて終わります。


 避難所に書いてあったのですが、拙作は編集がしづらいとの意見がありました。

 文章と途中で切るのは、横に長くなり過ぎないようにして、読みやすくする
つもりだったのですが、wiki編集に支障をきたしてるとは思いませんでした。


 一応、文章を途中で切らないでおいたものを置いておきますので、ご活用ください。

ttp://kissho.xii.jp/1/src/1jyou67189.zip.html

31名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:00:55 ID:RDEMI/VC
ギーシュが機械材料学とか材料力学とか運動学とか工業力学
をマスターしたらワルキューレがかなり強くなりそうだな
化学も知っておいたほうがいい(材料学的な意味で
とふと思った

・・・適任者は居るだろうか
32名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:10:14 ID:aQ7sHLU+
>>31
いわゆる「博士」キャラ?
ロボ作ったり、バリヤ作ったり、変身スーツ作ったり、秘密基地作ったりできる、万能博士。
コルベールとの相性もばっちり。
33名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:11:26 ID:HOPGkHCF
>>31
エンタープライズ号の艦隊士官とか
34名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:14:47 ID:Hx5BLBM9
ディスティ・ノヴァ教授?
35名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:15:00 ID:/kGeA8+N
>30
乙です
なんかハルケ側よりトンデモ世界な気がするぜ
図書館がダンジョンってーと宵闇の美津里さん家を思い出す
36名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:20:13 ID:yXMC7fDh
>33
艦隊の誓いがあるから召喚されたとしても協力しないようにすると思う
37名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:25:23 ID:tbisjPW8
オタコンとか
ファンタジー世界に大興奮
38魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:28:27 ID:0dKUYOjq
作者様が
>規制に巻き込まれてしまって、本スレに投下できないのです。
とのことです。
問題なければ5分後投下開始します。
39名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:31:36 ID:RDEMI/VC
支援
40名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:32:10 ID:Hu4NlLEO
>>36
悪魔艦長なら……
41魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:33:25 ID:0dKUYOjq
それは炎のような男だった。
烈火のごとく燃え上がり。
火花のように火を飛ばし。
業火のごとくあらゆる全てを焼き尽くす。
それは何も見えていない――否、1つだけ見えている。
それは手段を選ばない――否、己の感情を抑えきれないだけだ。
それは前にしか進まない――否、己にそれを強いているのだ。
だから男は目に炎を宿し、行動に火を入れ、進む道を焼き尽くす。
男は手に獲物を取る。ひどく冷たく、ひどく硬く、ひどく懐かしく手に馴染む。
静かな微笑み。
男はその獲物を手に、大きく胸を張り、顔を上げ、己の存在を訴える。
手が踊る。それは獲物を自在に操り。
それは気高く、神々しく――
42名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:34:16 ID:SMx+kv0g
しえん
43名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:35:58 ID:RDEMI/VC
まぁハルケギニアにとってはどの学問もオーバーテクノロジーな気もする

でも青銅とか真鍮があるあたりある程度は機械材料学は進んでるんだろうか
錬金とかあるあたり進んでるんだろうな
こっちの世界でも錬金術は化学の発展につながったし
44魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:36:07 ID:0dKUYOjq
「ぷぎゃーっはっはっはっ! 全世界9000億のファンの皆様お待たせしました。
我輩が世紀の超々々々々々天才科学者。
ドクタァァァアア!! ウエェェェエエストッッ!!」

――見間違うことの無いキ○ガ○だった。
神速の指捌きを持って不協和音となったエレキギターが騒ぐ。
「現れよ、我輩の最高傑作! 人造人間エェェルザァァ!!」
――ジャッジャカジャンージャーン!
過剰な音楽と共に背後から吹き上がるスモーク。
「可憐で優雅でちょっといじらしいメインヒロイン、エルザだロボ!」
そこから自画自賛の名乗りで、どこか作り物めいた少女――エルザが現れる。
クリンクリンと可愛らしくお尻を回す白衣の○チ○イ――ウエスト。
「彼女を作ったことは神への冒涜……この頭脳は罪! この知力は業! ……
ならばこの身に背負うは神々の原罪!」
手に持ったギターが悲しみの旋律を奏で。
「ああ、我輩の頭脳が、全世界に無駄に存在する凡人どもに罪を背負わせてし
まったのか。だが我輩も人間、人間が罪を犯したのなら、人間全体に罪が及ぶ
のも当然のこと……それはまるで禁断の果実を口にしたアダムとイヴ。……な
らば我輩こそが全ての始まりにして終わりなのであるか!」
大仰な仕草で項垂れながらも手の動きは止まらず。逆に陰鬱としたメロディー
が徐々にトーンを上げていく。
「だが、だがだがだがだがだがだがだが! だがっ!!」
急にトーンが上がり、その顔を上げ。未だに回していた腰がピタッと止まる。
「いっそ責任を取って腹をかっさばいてくれよう!」
ガバっと服をはだけさせた。
6つ割れた腹筋が逞しく、チョコンとある窪み。
「チャームポイントは、お・へ・そ♪ キラ☆」
どこともしれない画面へ向かって星を飛ばす。
「博士きもいロボ」
ボクッ――
「ぎゃばっ!?」
トンファーのような銃にぶっ飛ばされてウエストは頭から着地した。
死にかけたゴキブリのごとく足がピクピク震えているが、ギターから手を離さ
ないのはさすがと言うべきか。
「博士ぇ、死んだロボ?」
つんつんとエルザが爪先でウエストを蹴ると。
「原罪がなんぼのものであーる!」
突如ブレイクダンスのごとく回転し始める。
「だからと言って連帯責任なのだからしょうがない。1人はみんなのために、
みんなは我輩のために! ここは宇宙船地球号……ならば我輩はこの知をもっ
て、すべからず人類を真っ赤に燃える太陽へと導こうではないか! 面舵いっ
ぱい! 碇を上げろ! なにをやっているぐずぐずするな! 敵は待ってはく
れないのである!」
首に力を溜めると跳ねるように飛び、着地。
「なにぃ! 敵からの攻撃だとっ!? 弾幕を張れ! 主砲を用意しろ……弾
幕薄いぞ、なにやってんの! ……な、なんだあの機体はっ! ぎゃーっ!
ちょ、直撃っ!?」
崩れ落ちるように膝を突く(禁止ワード)。
その姿はもう、馬鹿と天才は紙一重。ではなく、馬鹿+天才=××××である。
「だが、我輩は諦めない。そう、科学とは挫折とともにあるのだから!」
立ち上がるウエスト。
「アイム・ロックンロール!」
奇妙なノリと共に猛烈にエレキギターを弾きだした時。
「了解、主砲を用意するロボ!」
エルザはどこからともなく巨大な砲身を持ち出し構えた。
「あれれぇ? それはなんでこっちを向いているのであるか? なんだか我輩
が設定した安全出力を軽くオーバーしているみたいだけどぉ?」
45名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:38:02 ID:tydOk2at
支援を、支援をはじめましょう
雑談を入れて、投下を遮りながら、
ゆっくりと一つ一つ風変わりなAAを打ち込んで、
歪んだスレッドの、物語を育みましょう
46名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:38:47 ID:SMx+kv0g
四円
47魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:39:06 ID:0dKUYOjq
「出力120%『我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)』――ファイア!」
引き金が引かれた。

「うわぁぁぁあああいーーーっっ!!」

奇妙な旋律と共に世界に光が満ちる。



「――なんなのよ一体っ!?」
理不尽な○○○○を無理やり見せられたの如く、ルイズはベッドから跳ね起き
た。
「……っはぁ……っはぁ……っはぁ」
ひどく息が切れる。額を冷や汗が伝う。体中を悪寒が奔る。
「むにゃ……うるさいぞ……」
声に目を向けると、そこにはゼリーのベッドで寝るアルの姿がある。
激しい動悸が五月蝿かった。
内容は忘れたが、極上の悪夢を見た気がする。
それはもう、言語では表現してはいけないような典型的な――
――思考停止、思考閉鎖、情報隔離――
これ以上は考えてはいけない。
ひどく馬鹿馬鹿しいようだが、ルイズは真剣だった。
顔を青くしてルイズは布団へと潜り込む。
「忘れなさいルイズ……そうよ、あれはただの夢なのよ……寝て全てを忘れる
のよ」
ぶつぶつと呟く言葉は心細い。
もう恐怖は心に刻み付けられてしまったのだ。
朝はまだ遠い。
しばらく眠れそうになかった。



変な時間に一度起きたせいか、こびり付く眠気を払いながらルイズは宣言した。
「今日は街に行くわよ」
目の前に用意された朝食にはまだ手をつけていない。
「まあ、そうなのですか?」
「てけり・り?」
給仕をしていたシエスタと、謎の肉塊を咀嚼するダンセイニはそれに反応する。
「ふぐふぐふぐ」
「ルイズさん、体のほうは大丈夫なのですか?」
心配そうな声に、手を軽く握ってみる。
多少動かし辛いが問題は無い。
「ええ、大丈夫よ」
「そうですか。ですが無理はなさらないように」
「わかっているわ」
ふふ、と笑うシエスタにルイズはぷいっと顔を背け、更にシエスタの笑みが深
くなる。
「がふがふがふ」
「それで、街へはなにをしに?」
「ええ、それはね……」
「むぐむぐむぐ」
ルイズは、一心不乱に食べるアルへと指差した。
「さっきからあんた少しは話を聞こうとしなさいよ!」
いきなり話を振られたアルは口の中の物を咀嚼すると。
「むぐ? んぐんぐ――で、なんだ小娘」
ルイズは口元をヒクつかせる。
「ほんっっっっとに何も聞いてないのねっ!」
最近沸点の低いことで定評のあるルイズの、ちっぽけな堪忍袋の尾は限界に近
かった。
48名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:40:59 ID:SMx+kv0g
しえん
49魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:42:12 ID:0dKUYOjq
ため息を吐きながらアルはルイズへと向き直る。
「やれやれ、汝は少し忍耐というものを身に付けろ」
「ルイズさん、はい落ち着いて」
ぐーを作って拳を振り上げるルイズをシエスタが押しとどめる。
数分間の葛藤の末、なんとか矛を収めたルイズはすでに青息吐息であった。
ぐったりとするルイズへ、アルは怪訝な目を向ける。
「……なにを遊んでおる」
「――きぃぃぃいいいっ!!」
「はい、どうどうどう」
「わたしは馬じゃないわよ!」
叫ぶルイズをシエスタは軽くスルーした。
「アルさん、今日ルイズさんは街に行くそうです」
「ふむ、街とな?」
ようやく食いついてきたアル。そして息切れを起こすルイズ。
「して、なにをしに行くのだ?」
ルイズは息を整える。
「はあ……はあ……剣よ……」
「剣? ……ああ、昨晩のあれか」
ふむアルは呟き。
「だがいいのか?」
「なにがよ」
憮然と応えるルイズにアルは続ける。
「汝は決闘の時に言っていたではないか。メイジは杖がどうたらと」
「ええ、だから剣を杖にするの」
「? なにを言っておるのだ汝は」
首を傾げるアルにルイズは指を立てる。
「杖ってのはね。対象物と契約することで初めてそれは杖になるの。……そう
ね」
軽く周囲を見渡し、不意にスプーンを手に取り。
「たとえばこのスプーンと契約を結べば、このスプーンは新しい杖になるって
わけ」
契約はめんどくさい手順が必要だけど、とルイズは呟くと再びアルへと視線を
戻す。
「わたしの杖は折れちゃったし。それに剣を杖になんて、騎士や軍人には珍し
いことではないわ」
「なるほどな」
「というわけで、これを食べ終わったら街へ行くわよ。ついでにアル、あんた
を案内してあげるわ」
「ふむ、この世界の文化レベルを見るのもまた一興か」
うむうむと頷くアル。
「また偉そうに!」
「偉そうではない。妾は偉いのだ」
「なんですって!」
ぎゃーすかと言い争う2人を脇に。
「2人でお出かけですか」
「てけり・り」
「そうなると……お弁当必要ですかね。マルトーさんにお願いしてみましょう
か」
「てけり・り!」
メイドと人外はのほほんとしていた。



「……………………」
ベッドの上でキュルケはボケーとしていた。
昨日はルイズの手前虚勢を張っていたが、ベッドに入った瞬間に熟睡してしま
った。
「ふあぁっ」
50魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:45:06 ID:0dKUYOjq
窓から入る太陽の位置からもう昼に近い。睡眠時間は十分なはずなのだが、い
かんせんまだ寝足りない気がした。
ぼさぼさになった頭をかく。
トロンと下がった目尻に肩紐がずり落ちたベビードール。寝起き特有の気だる
さと相成って普段とは別の色気が漂っている。
(ええっと……今日は、虚無の日で……ザバーニとは……昨日だっけ? バー
ニィは……今日はパス……)
ぼんやりとした思考の中、キュルケは今日の予定を確認した。
特に予定は無いことがわかると、ぽてんと横になる。
「んー……なんでこんなに眠いんだろう」
フレイムは寮の傍にある使い魔たちの小屋にいるため、聞かせる相手もいない
言葉。
枕に頭を乗せながら、昨日のことを思い出した
「ああ……そうか。昨日までルイズの……」
頭に浮かぶは2日間も死んだように眠る寝顔と、起きてから震える指先を隠す
動作。
あの時には病み上がりということで問い詰めなかったが。
思い出したからには寝ている暇はない。
むくりと体を起こす。
「っん」
腕を後ろ手に組んで伸ばすと、肩と背中からパキパキと音が鳴った。
「――よしっ」
ベッドから跳ねるように立ち上がると、クローゼットに手をかける。
もちろん目的は。
「ふふふ……待ってなさいよルイズ」

着替え自体は5分とかからなかった。
化粧も普段から薄いために時間はかからない。
キュルケはさっさと準備を済ますとルイズの部屋の前に行き、扉をノック。
コンコン――
「ルイズー、あたしよー」
…………。
返事はない。
ノブに手をかける。ガチャガチャと侵入者を拒まれる。
それに対してキュルケは胸元に指を滑り込ませると。
「『アン・ロック』」
杖を取り出しあっさりと鍵を開けた。
一応、寮内……というか実技授業以外では無断での『アン・ロック』は禁止さ
れているのだが。
当然キュルケにそんなことを気にすることは無い。
「はあい、ルイズ……って」
軽く規則違反したにしては陽気な挨拶をするが、応える声は無く。
「……あら?」
そもそもが部屋に誰もいなかった。
「本当にいなかったのね」
拍子抜けとばかりに呟くキュルケ。
「どこいったのかしら?」
朝(実質昼に近いが)から予定が崩れそうになり、どうしようと考えたとき。
「あ、キュルケさん」
後ろから声がかかった。
振り返るとそこには洗濯籠を抱えたシエスタがいる。
「あらあら。ルイズさん鍵を閉め忘れたんですね」
「そうみたい。まったく無用心だこと」
魔法で勝手に空けたなど馬鹿正直に話さず同意するキュルケ。
くすくすとシエスタはキュルケへと笑いかける。
「キュルケさんはルイズさんへなにかご用ですか?」
「まあ、そんなものね」
頷くキュルケ。
「ルイズさんなら、アルさんとついさっき街へ出かけましたよ」
51魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:48:06 ID:0dKUYOjq
「街へ?」
「ええ、なんでも剣を買うだとか」
「剣……ねぇ」
片眉を跳ね上げ腕を組む。その豊満な胸が押し出された。
考え込むキュルケを前にしてシエスタは籠を抱えなおす。
「では、私は仕事がありますので」
「そう? ありがとう」
そしてシエスタは去り際に顔だけ覗かせると。
「ずいぶんと熱心にルイズさんを心配なさるんですね」
にこやかに言う。
「なっ!?」
言葉を失うキュルケを見て、含むように笑いシエスタは顔を引っ込めた。
「なんなのよまったく……」
残されたキュルケはぶつくさと呟くと、髪を掻き揚げた。
「まあいいわ。さて、ルイズは街にねぇ」
今から馬で追おうにも。寮を出て、馬小屋へ馬を借り入れるとなると時間がか
かる。
それではルイズに大きく遅れてしまう。
と、キュルケはぽんと手を叩く。
「なら、あの子に手伝ってもらいましょうか」
そう言うが早いか、キュルケはさっさと部屋を出た。
向かう先はルイズの部屋から自分の部屋を挟み反対側。
頼れる親友のところであった。



じりじりと火が蝋燭を炙り溶かし、その命を削ってゆく。
拙い灯火は全てを照らすことはかなわない。
それは逆に物の一面だけを照らすことで、より一層そのものの影を色濃く浮き
立たせる。
べっとりと粘りつくような影が囲う灯りの周囲。それこそ影のように佇む姿が
ある。
もしこの場で他の人がいたならば、精巧な人形だと思っただろう。
「…………」
だが人形とは違い、時たま手元にある本を捲り、わずかな息遣いが漏れる。
そしてそれにゆらりゆらりと纏わりつく少女がいた。
ぴちゃり――
濡れた音が響く。
「ん……」
その少女は首筋へと顔を――口を付けゆっくりと動く。
ちゅく……――
口が動くたびに相手から息が漏れる。
「……ふ、くっ……」
吸い付く口端から一筋の血が伝う。
ちゃぷ――
少女はそれを目ざとく見つけると舌を伸ばし舐め取った。
顔には愉悦が浮かび、その目は淫猥に光る。
そして再び首筋へ口を近づけて――
「終わり」
ぐいっと頭を押さえられた。
「あーうー、もっともっとー」
くすぐったさをひたすら我慢する時間が終わり。ジタバタと暴れる少女をよそ
にタバサは読んでいた本を置くと、杖を手に取る。
それを薄く血の流れる首筋へと向け、短い詠唱が流れた。
すると傷は消えていき、少女――エルザはそれを恨めし気に眺める。
「まだ足りないよおねえちゃん!」
不満げに言う少女。
傷も塞がり、杖を置くとタバサは再び本を手に取った。
「あなたの説明なら、これであと半年は持つ」
「半年も待てないよ!」
52魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:51:19 ID:0dKUYOjq
少女が叫び、その口から長い犬歯が覗く。
その犬歯の長さは人とは思えないほどの長さを持ち。判る者なら判るだろう。
日光を遮られた部屋、血を吸う行為、長い犬歯。
少女は吸血鬼である。
人狩人(マンハンター)、夜の狩人と呼ばれる恐るべき存在。
人間の天敵とも言える少女は、とある事情からタバサの元へと住み着くことと
なった。
「我慢はできるけどお腹はすくの!」
「そう……でもこれ以上はまた来週」
「食事は一週間に一回、しかも少しだけなんておうぼうだーおうぼうだー!」
ぷーと膨れっ面になった少女――エルザはじたばたとベッドに飛び乗り暴れだ
した。
「…………」
タバサは活字へ意識を向けることで黙殺する。
「うーうーうー」
エルザが唸るが、それもしかたない。
吸血鬼はその名の通り、血を糧として生きる者である。
血については一応動物だろうが人だろうが種別は問わないが、やはり人の血を
好むようである。
1回の吸血で数ヶ月は飲食が無くても生きていけるらしく、吸う量も死ぬよう
なものではないのだが。
問題は今、唯一血を吸える相手がタバサだということであった。
お世辞にもタバサは大柄とは言えず、むしろ小柄の部類に入る。そうすると必
然的に血の吸える量も限られてくる。
他の人を襲うという案もあるが。ここは魔法学院。
もしそれがばれたのならば魔女狩りならぬ、吸血鬼狩りが始まるだろう。
いくら人狩人と言われる吸血鬼だろうと、メイジの集団には敵うまい。
本来なら文句も言えず必要量以上は与えられず、数ヶ月断食(断飲?)させら
れているものを、週1回血を与えるのはタバサの温情ほかならない。
そのはずなのだが。
「飲みたいよー飲みたいよー、もっと飲みたいよー」
エサを求めるヒナのごとく騒ぐ少女をどうするのか。
「…………」
とりあえずタバサは、このまま黙殺することにした。
「ぶーぶーぶーぶー」
若干騒がしくなってきた部屋に。
コンコン――
緊張が走る。
「――っ」
息を呑むエルザ。
タバサも手を止める。
この部屋に訪れる者は少なく限られるが。もし他人にエルザのことがばれたな
ら、エルザがメイジ総動員で殺されることは確実であり、自分ももしかしたら
グールとして殺されるかもしれない。
「…………」
常に最悪を想定し、タバサは杖を取ると。
『タバサー、いないのー?』
その声が響くと同時に、ガチャリと閉めたはずの鍵が開いた。
有無を言わせず扉が開き。
「はあい、タバサ」
遠慮なくキュルケが部屋に入ってきた。
「やだ、なんで昼真っからこんなに部屋を暗くしてるのタバサ」
ズカズカと入ってくるキュルケを見ると、タバサは無言で読書に戻る。
……現状放棄とも言うが。
硬直するエルザにキュルケが微笑みかける。
「タバサ、あなたの知り合い?」
「……親戚」
「そう」
金髪の少女はどう見てもタバサの親戚とは思えないが、キュルケはなにか訳が
あるのだと深くは突っ込まないことにした。
53魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:54:10 ID:0dKUYOjq
「こんにちは可愛らしいおちびさん。あたしはキュルケ、タバサの親友よ」
「……っ」
エルザはおろおろとした後、タバサを見る。するとタバサは軽く頷き、それを
見てエルザは口を開いた。
「えっと、エルザといいます」
ぺこりと可愛らしくお辞儀をするエルザに、キュルケは笑みを深くし再びタバ
サへと向き直る。
「ねえタバサ。お願いがあるんだけど」
「……なに?」
本から顔を上げずにタバサは問うた。
話がわかるとばかりにキュルケは言う。
「なんかねぇ、ルイズたちが街へ行くみたいなんだけど。あなたの風竜に乗せ
てくれないかしら」
直球と言えば直球な物言い。
「今から?」
「そう今すぐ」
即座に帰ってきた返事に、タバサはパタリと本を閉じると杖を手に取る。
「さすがタバサ。話がわかるわね……って、この子はどうするの?」
そのまま出て行こうとするタバサにキュルケはエルザを指した。
ぴたりとタバサが停止する。
エルザは吸血鬼。直射日光には当たったことは無いが、当たればただではすま
ないと聞いている。
「…………」
どう切り抜けようかと考えていると。
「うん、わたしもいく!」
エルザが元気よく手を上げた。
「……大丈夫?」
思わず声をかけるタバサに、エルザは頷くと。
「おねえちゃんお洋服かしてね」
クローゼットを漁り始めた。
「あら、おめかしかしら」
「…………」
キュルケはのん気に呟き、タバサは本人が大丈夫ならいいかと思った。



トリステインの城下町をルイズとアルは歩く。
ルイズの予想外にもアルは馬を乗りこなし……というか一方的に懐かれ。
無事町へと付いたのだが。
休日の賑わいを見せる表通り、声を張り上げる露天市、ごった返す人が雑多な
様子を見せる。
人混みに揉まれ、手にはバスケットを持たされアルは不機嫌だった。
「ええい、狭い、騒がしい! なんなのだ! こんなぎゅうぎゅう詰めに歩き
おって!」
確かにアルのいた世界。それも世界の中心であったアーカムシティと比べたな
らば、中世のようなこの町は余計に狭苦しく感じるだろう。
不機嫌なアルにルイズは呆れたように。
「狭いってことはないでしょう。ここは王都のお膝元よ」
「路地裏辺りと間違っておらぬか? それに、なぜ妾がこれを持たねばならん」
手に持ったバスケットを指し示すアル。
もちろん中身はシエスタから受け取ったお弁当である。
「あら、受け取ったのはあなたじゃない。ならあなたが持つべきでしょう」
「うぬぬぬ……」
唸るアルに先立ってルイズが歩く。
「それにわたしは財布を持ってるの。バスケットなんて持ってたらスリに会っ
たときに確かめられないじゃない」
それにアルは鼻を鳴らし。
「ふん、その時は汝が間抜けだったというだけだ」
「なんですってっ!」
54名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 19:55:18 ID:RDEMI/VC
支援
55魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 19:57:05 ID:0dKUYOjq
人が行き交う往来で言い争う2人を、周囲は迷惑そうにしながらも咎めない。
なにせ、これ見よがしにメイジのマントを付けた見た目麗しき少女に、マント
も杖もないが幻想的な美を持つ少女なのだから。
言い争う2人を避けて通る人々。
それを、ただある者達は見つめニヤリと笑った。

「店はまだなのか」
「もうすぐよ」
ルイズの先導の元、狭い路地裏へ入ったアルは愚痴をもらす。
「これはまた随分と汚い場所だな」
「しょうがないでしょ。メイジがいるのに、武器屋なんて表通りに堂々と構え
ているわけじゃない」
「臭いもひどいぞ」
ぶつぶつと文句をもらすアルにルイズもイライラを募らせていき。
「ああもう! 少しは黙って――」
「静まれ小娘」
開けた口を塞がれた。
「むぐー!」
「黙れと言っている!」
もごもごと口を動かすルイズを無視することにして、アルは耳を澄ませる。
「っぷは! なんなのよ一体!」
なんとか手をどけたルイズが怒るとアルは淡々と事実を述べる。
「ふむ、囲まれている」
「え?」
その意味を問いただそうとした時。
ジャリっと周囲から決して上品ではない部類の男達が出てきた。
見た目からしても粗野な服装。
軍人のような圧迫感はないが、暴力に慣れた者達が発する独特の雰囲気が漂う。
「な、なに?」
口々に下品な笑みを浮かべながら、リーダーと思われる男が前に出た。
「お嬢ちゃん方、ここは俺たちのシマでね。ここを通りたければ通行料を支払
ってもらえないかな?」
「なに言ってるの。ここはトステイン王国の城下町、王家のお膝元よ。この場
所は決してあなた達のものじゃない。通行料なんて払うわけないじゃない」
ルイズは毅然として前に出る。
「それに見て判らない。わたしは貴族よ。貴族に手を出したらどうなるかわか
らないわけじゃないわよね」
だが、ニヤニヤと男達は笑い合うだけ。
その様子にアルは疲れたようなため息を吐く。
「言って判るような連中だと思っているのか?」
そんな言葉は耳に入らず。
「なによあんたたち! 言いたいことがあるならはっきりと」
勝手にヒートアップしていくルイズに。
「んなことはどうでもいいんだよ」
冷たい声が被さる。
「貴族だろうがなんだろうが、今すぐ有り金を出せばいいんだよっ!」
「ひっ!」
初めて晒された脅し慣れた怒号。反射的に竦むルイズ。
だが。
「煩わしいわ下郎、疾く去ね」
不快とばかりにアルが吐き捨てた。
「なんだとぉ……」
「目障りだ。その息の根を鶏のように捻られたくなければ早々に立ち去るがい
い」
「ちょ、ちょっとアル!?」
寒々しい空気が広がる。
「面白い冗談だお嬢ちゃん……」
顔を引きつらせ震えた声で男は言う。
「俺たちは気の長いほうじゃない……だからさっさと」
「何度も言わすな。そのむさ苦しい顔をさっさと引っ込めんか」
56魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:00:04 ID:0dKUYOjq
そうアルが言った時。
ざっ――
「――」
アルの手からバスケットがもぎ取られる。
それはゆっくりと宙を舞い、地面へと叩きつけられた。
グチャリと地面に広がる潰れたサンドイッチ。バスケットの表面にはナイフが
刺さっている。
「いいかげんにしろよ……クソガキ」
ナイフを投げたらしき男がぎらついた目で睨みつける。
「ちょっと、あんたどうするのよ!」
ルイズがアルへと話しかけるが、アルはうつむいている。
そして。
「くくく、くくくくくく」
「え?」
「くはぁーはっはっはっはっはっは――っ!」
突如として笑い出した。
呆気に取られるルイズと男達。
それを前にして、アルは前髪に隠れた双眸を光らせて宣言した。
「よほど死にたいらしいなお前ら。ならば、妾が地獄へ叩き込んでやろう」
「はい?」
男達は油断していた。
たとえメイジであったとしても、数ではこちらが有利であり。よほど腕に覚え
のある者でない限り自分達がやられるわけはないと。
だが、その認識は間違いであった。
アルが手をかざす。
杖も持たず、距離もあるのにどうするのかと思った時。
「地獄で後悔するがいい」
その手が、体が発光し。なんかやばい感じに光が集まり。
「――死ねい!」
発射。
「ぐべらぼげぇーーっ!!」
吹き飛ぶ男。
ものすごい勢いで地面を平行に飛び、壁に激突。
「「「「…………」」」」
一同が沈黙。
ぷすぷすと男から煙が上がる。
そして。
「よくもリーダーを!」
「てめえらやっちまえ!」
訳もわからず襲い掛かる男達。
「全て根こそぎ彼岸の彼方へ送り込んでくれるわ!」
「な、なにしてるのよぉ!」
闘争が始まった。いや、一方的に蹂躙するのを闘争とは言わない。
「はーはっはっはっはっはっは! 叫べ! 逃げ惑え! 命乞いをしろ!」
「うわぁぁあああっ!」
「た、助け――うぎゃぁああ!!」
「母さん……母さぁぁああん!!」
撃ち込まれる魔力弾、吹き飛ぶ人体、響く笑いに、張り上げられる悲鳴と怒号。
それは戦いの名を借りた虐殺(ジェノサイド)だった。
「ふはははははは! さあ、助けを請え、許しを請え……そして死ねぇ!」
「「「ぎゃーーーーっ!?」」」
戦場とかした路地裏にはいくつもの人影が舞う。
ルイズの脳裏に地獄絵図という言葉が浮かぶ。
初めに絡んできた男達は当に地に沈み、爆音と悲鳴を聞いたのか。他の縄張り
の荒くれ者が集まってくる。
「ここか! 俺たちを舐め腐ってるやつらが――」
「隙だらけだ!」
――チュドン!
「ぎゃーーっ!!」
57名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 20:00:12 ID:SMx+kv0g
しえん
58魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:02:50 ID:0dKUYOjq
「はーははははははは! かーかっかっかっかっかっかっ!!」
なんかどうやら収拾のつきそうにない状況の中。ルイズは被害が及ばぬように
身を屈めていると。
「ここですアニエス隊長! ここから爆音と悲鳴が!」
路地の角から声が聞こえた。
ガチャガチャと金属が触れ合う音が響き。
「貴様ら! 王家のお膝元でなにをしている!」
鎧を着た女兵士とその仲間らしき者が現れる。
「衛兵!?」
ルイズの言葉にざわっと周囲が沸く。
だが、そんなことも関係なく。
「またしても新手か!」
「あ、あんたやめな――」
必死に止めようとしたルイズの言葉も言い終わらぬ内に。
――チュドーーン!
「ぐあぁぁあっ!!」
吹き飛ぶ衛兵達。
「他愛も無い」
満足げに言うアルにルイズはつっかかる。
「あんたなにやってんのよ!」
「敵を排除したまでだ」
「敵ってあんたね!」
言い争いに発展しそうな会話は。
「ほ――」
倒れていた女兵士の声で遮られた。
「捕縛しろぉぉおおおっ!!」
一斉に倒れていた衛兵達が起き上がる。
それを見るとアルは不敵に笑い。
「ふふん。お前らごときで妾を捕まえられると思うたか!」
再び光が集まろうとしたとき。
「いつまでやってんのよ!」
ルイズがアルの手を取り走り出す。
「ぬあ! なにをする小娘!」
「なにもこうも逃げるのよ!」
「なぜ逃げねばならぬ!」
「そんなの決まってるでしょう!」
走る2人に背後から声がかかる。
「追えぇっ! 王国の衛兵の誇りにかけて絶対にあの2人を逃がすなぁっ!」
「「「おおぉぉぉおおおおおーーっっ!!」」」
「もうなんなのよーー!!」
ルイズの悲鳴が路地裏に響いた。



「ん?」
雑踏の中、ピタリとキュルケは足を止めた。
「……?」
それを不審そうに見上げるタバサ。
なんでもないわ、と首を振るとその視線は前方に戻る。
そこには跳ねるように雑踏を進む黒い者がいる。
フード付きの黒い長袖の上着に、黒い長ズボン。袖から覗く手は肘まである黒
い手袋で隠され、深く被ったフードは顔を完全に隠している。
どこまでも黒く、そして肌を隠しているその姿は背丈が小さいからまだ許容で
きるものの。本来なら不審者の風貌である。
さらにそれが手にクックベリーパイを持ち、うきうきとフードの奥へと運ぶ姿
はシュールであった。
ときおりすれ違う人々がチラチラと振り返る。
キュルケはさっき買ってやったパイを美味しそう(?)に食べているエルザを
指差すと。
「あの服装、どうにかならないの?」
59魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:04:59 ID:0dKUYOjq
タバサは毒々しい緑のソースの乗ったパイを口に運びながら。
「……問題ない」
簡潔に応える。
「あ、そう」
それ以上追求することをキュルケは放棄すると。
こちらもハムリとエルザと同じパイを食べると空を見上げる。
空は高く、澄み渡る。
「もう、ルイズたちはどこ行ったのかしら」
声は風に乗り。
『まぁぁてぇぇぇえええいっっ!!』
『待てと言われて待つわけないでしょぉぉ!!』
『ええぇい! 煩わしい! 屠ってくれるっっ!!』
『止めてぇぇぇえええっっ!?』
風に乗って聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「あら?」
首を傾げるキュルケ。
「キュルケおねえちゃんどうしたの?」
そこにピョコンとエルザがくっ付いてくる。
服装こそ怪しいがその中でしているであろう顔を思い浮かべてキュルケは笑み
を漏らす。
「なんでもないわ。それじゃ、近くにある武器屋から行きましょうか」
コクリとタバサが頷いた。



「はぁ……はぁ……はぁ……」
ルイズは精魂尽き果てかけていた。
その原因はもちろん。
「なんとまあ、情けないな」
「あんたのせいよ!」
なんとか衛兵は振り切ったようで、後ろには誰もいない。
くたびれて座り込もうにもここは裏路地。
椅子なんてものもない。
そもそもここはどこなのかもわからない。
「ふむ、それで店はどうした?」
そんなアルの惚けたセリフにうんざりとルイズは顔を上げ。
「そんなもの――」
見上げた先に剣のマークの看板があった。
「――あった」
「ふむ、ここか」
なんの偶然か因果か。
どちらもいいが、そこまで今日は尽いていないわけではないとルイズは思う。
「まあいいわ、過程はともかくここまで来たんだから入りましょう」
「うむ」
古ぼけた扉を開けた。

店に入った瞬間、鉄臭さが鼻につく。
古びれた店内に、所狭しと飾られた刀剣たちや、壁際に立てられた甲冑や盾。
物珍しげに見回すルイズに。
「へい、いらっしゃい」
扉の開閉音を聞いたのか奥から主人が出てくる。
気前よさそうな笑顔で出てきた主人は、だがルイズの姿を見ると顔をゆがめた。
「なんの御用で――て、なんですか貴族様。うちは真っ当な店ですぜ、お上に
報告されるようなことはしていません」
不機嫌そうに言う主人。
「客よ」
ルイズは腕を組んで一言で返す。
「へぇー! 貴族様が剣を? 従者にでも持たせるんで?」
「違うわ。わたしが使うの」
ルイズの言葉に主人は驚きの表情を作る。
60魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:06:36 ID:0dKUYOjq
「こりゃおったまげた! 貴族様が剣をお使いに!」
「なにかおかしいの?」
怪訝になって聞くルイズ。
「そりゃ、軍人様や騎士様なら剣を杖にすることはありますけど。杖はメイジ
の命。そのほとんどが特注品で、店売りの剣なんぞお買いになる人なんていや
しないのでさ」
「まあ、それはそうでしょうね。でも、そんな特注品なんて待ってられないの」
「へえ、そうですか」
「適当に見せてくれないかしら」
「わかりやした」
ルイズの言葉に主人は手揉みをして店の奥へと行きながら。
(こりゃいいカモだ)
こっそりと呟いた。
「貴族様に似合う物といえばこれでしょう」
そう言って主人が持ってきたのは刀身の細い剣であった。
「レイピア?」
首を傾げるルイズ。たしかにハンドガードが付いたその剣はレイピアである。
主人は大きく頷くと剣を差し出した。
「へい。これは無名ですが腕のいいメイジが彫金したレイピアで、大きさも貴
族様が持つには丁度いいと思いますぜ」
手に取ってよく見る。斬撃より刺突に重点を置いた刃、細微な彫金がガードに
施され、手に持った感じも良い。
剣を持ちながら、ルイズはぼんやりとルーンが光るのを確認した。
(やっぱり剣が発動条件だったんだわ)
レイピア握っていると体が軽く感じ、初めて手にする剣なのに最適な使い方が
脳裏に浮かぶ。
試しに握ったレイピアを軽く振ってみる。
「ああ、貴族様。店の中で振り回したら危な――」
ビュン――
「へ?」
どうせまともには振れないだろうと高を括っていた主人の鼻先を、剣先が通る。
「……っふ!」
垂直斬り、水平、斜め、跳ね上げ。
刃が風を切り、音は鋭く、軽いとはいえ、まるで小枝を振るうがの如く剣が舞
う。
その剣が動くたびに鋭い風斬り音が響き、主人は呆然と見ている。
「――しっ!」
最後に刺突を放ち、ゆっくりと手を戻した。
剣が発動条件だということはわかった。あとは当初の目的に帰るだけである。
「これはどうかしら、アル?」
後ろへ振り返る。
「そんな細いのよりも、もっと幅広で長いの剣のほうが最適だな」
「あっそう」
ざっくばらんなアルの言葉に。
「それじゃ、返すわ」
ルイズは未だ呆然とする主人へあっさりとレイピアを放った。
「って、あわわわわっ!?」
わたわたと主人は剣をお手玉すると、息を切らせてルイズを睨む。
「な、なにをするんでさ! 剣を投げるなんて危ないっ!」
「なによ。ちゃんと持ち手をそっちに向けて投げたわよ」
しれっと言うルイズに主人が更に口を開こうとするが。
「そういう問題じゃ――」
「いいから、それより幅広で長い剣を持ってきなさい」
「でも貴族様が使うのにはこれぐらいの大きさが――」
「――持ってきなさい」
強くルイズが遮ると、しぶしぶと主人は店の奥へと入っていく。
小さく「これだから貴族は!」と呟きながら。
そして次に主人が持ってきたのは随分と大きな剣であった。
1.5メイルほどある長さに、磨き上げられた刀身はルイズの顔が隠れるほどの
幅がある。各所に散りばめられた宝石が光を放つ。
61名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 20:07:38 ID:SMx+kv0g
試演
62魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:08:39 ID:0dKUYOjq
「これは、かの有名なゲルマニウム鉱石……じゃない、ゲルマニアの錬金魔法
使いシュペー卿が鍛えた業物でさ。これ以上の物はこの店にはありません」
そう言って自慢げに見せる主人。
「へえ……」
その大剣を見てルイズも簡単の声を上げ。
「んな屑鉄なんぞ使えるか」
アルがバッサリと切った。
「な――」
絶句する主人に背を向けると、アルは近くにある刀剣を手に取り始める。
「それを使うぐらいなら、まだ錆びて折れた刃を使う方がまだいい」
それは安売りされている古剣の束である。
がさごそと漁るアルに主人は顔を赤くし。
「こ、この――」
その時、どこからか笑い声が聞こえた。
「ははははははは! 白い娘っ子の言うとおりだ!」
突如聞こえた声に戸惑う中。主人はアルのほうへ向き怒鳴った。
「黙りやがれデル公! それこそ屑鉄にしてやるぞ!」
その声はアルの手に握られたボロボロの剣から発せられていた。
「おう! やれるもんならやってみやがれ! ここらで腐っているのも飽き飽
きしていた頃だ!」
カチカチと鍔が鳴り、剣から声が出る。
「ようし! よく言った! 貴族様に頼んで一切合財を熔かしてやろうじゃね
ぇか!」
「はん! 熔けずに依頼料だけ嵩ませてやってもいいな!」
「んだとぉ!」
「なんだよ!」
口汚く罵りあう主人と剣。
「インテリジェンスソード?」
その名の通り、魔法使いにより知性を持つマジックアイテム。
ベラベラと流暢に喋るそれはアルには及ばないまでもかなり物だと思う。
ルイズが呟くと、主人が申し訳なさそうな顔になる。
「へえ、そうでさあ。大昔に作られた物らしく、見た目はあれですがえらく頑
丈で切れ味もそこそこあります……」
「なんでそれが古剣の束に埋もれているの?」
ボロボロとはいえ。普通、インテリジェントアイテムとなると城が買えるよう
な値段がつくものだが。
「あいつはなにせ口が悪くて……」
主人の顔が苦々しく歪む。
「買っていったお客を怒らせては返品されることを繰り返しているんでさ」
「なよなよの腕で俺を使おうとするからだ!」
「黙りやがれデル公!」
剣が口を挟み、主人が怒鳴り返す。
「デル公じゃね! デリフリンガーつう立派な名前があるんでい!」
「立派過ぎて涙がでるね!」
2人(1人と1本?)の言い争いを見てルイズはうんざりとした顔になり。
「アル、そんな剣なんて早く戻し――」
「よし、これを買うぞ」
「「ええー!?」」
ルイズと主人の声がハモった。
「止めなさいよアル。そんなボロボロの剣」
「そうでさ。買ってまた返品されるなんざ、もううんざりですぜ」
2人の言葉の合間にもアルは繁々とデルフリンガーを見る。
「だが、長さも幅もちょうどいい。それに薄っすらと感じる魔力。これはいい
媒体になる」
「……なんか物騒な言葉があった気がしたが。白い娘っ子、見る目があるじゃ
ねえか!」
「でもアル……」
「これ以上の物はないぞ?」
その言葉にルイズも折れた。
「わかったわ。主人、この剣の値段は?」
63魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:10:35 ID:0dKUYOjq
「へえ……新金貨100で結構です」
剣の相場がわからないルイズは戸惑いなく懐から金貨袋を出すと100枚掴みカ
ウンターに並べる。
「ひい、ふう、みい……はい、ちょうど」
主人は慎重に数えると大事にカウンターの下へと仕舞う。
「これからよろしく頼むぜ白い娘っ子、貴族の娘っ子」
アルに掴まれたまま機嫌よく言うデルフリンガー。
「ああ、いい“物”になってくれよ」
アルはくくくと笑った。
「ほら、早く帰るわよ」



アルとルイズが出て行って暫く経った時。
再び武器屋の扉が開く。
「へいらっしゃい」
ルイズの扱っていたレイピアの手入れをしていた主人が見たのは。
「ここにもいないわね……」
燃えるような赤い髪の色気をむんむん出す女――キュルケ。
「これで、6軒目」
無表情に呟く青い髪の少女――タバサ。
「そろそろ飽きてきたー」
可愛らしい声を出す、少女“だと思われる”者――エルザ。
前者2人は身につけたマントから貴族だとわかるが。問題は最後の1人。
全身黒尽くめ一色で、怪しいにもほどがある。
呆気に取られる主人にキュルケが近づき。
「ご主人。ここに桃色髪の貴族と銀髪の女の子がこなかったかしら?」
それに主人は戸惑いながらも応える。
「え、ええ……少し前に来ましたが」
それを聞くとキュルケは「遅かったか」と呟く。
「それで、その貴族はなにを買ったの?」
「はあ……ボロボロの大剣を……」
「へえ……そんなものを」
ニヤリとキュルケが笑う。
「そう、それじゃご主人。この店のお勧めなんてある?」
主人は改めてキュルケを眺めた。
まるでメロンのような胸に、きゅっとくびれたお腹、肉付きのいい太ももと色
気としては良いが、いかんせん剣を自在に振るうには筋力が足りないだろう。
銀髪の少女に屑鉄と揶揄された自慢の剣を売りつけようとも思ったが、武器屋
の端くれとして不相応な物を勧めるのはいただけない。
主人は手入れをしていたレイピアを差し出す。
「それでしたら、これです」
その見事な彫金の施されたレイピアを見てキュルケは感嘆の声を上げる。
「おいくらかしら?」
「新金貨で1000ってところです」
その答えにキュルケは艶のある声で、主人の耳元で呟いた。
「ちょっと――お高くない?」
3分後。ほくほく顔で武器屋を出るキュルケ。
その手には見事な彫金のレイピア。
「…………」
キュルケについてくる2人は無言、心なしか気の毒そうな表情。
背後の店から啜り泣く声が聞こえるのは……気のせいだろう。
「よし、買い物も安く済んだし。もう少しうろついてから帰りましょうか」
キュルケが宣言するように言い。
「……古本屋」
「パイ屋さん!」
タバサとエルザが口々に返す。
「はいはい。それぐらいならあたしのおごりでいいわよ」
3人は表通りへと歩いていった。
64魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:12:24 ID:0dKUYOjq
昇り始めた月が庭全体を照らす。
淡い光に照らされたそこは、色とりどりの花の鮮やかさと暗い影とが織り成す
昼とは違う顔を見せる。
夕食も終えたルイズとアルは学院の中庭へと出ていた。
「なんでいなんでい。なにをするんでい」
アルの手の中でデルフが騒ぐ。
「アル、大丈夫?」
それをさらりとスルーしてルイズがアルへと話しかける。
「うむ」
アルは大きく頷く。
本当なら部屋でそれをしてもよかったが、できたらすぐにその剣を試したいと
いうルイズの希望の元。剣を振り回せる場所ということで中庭となった。
強い風が吹きつける中、アルが宣言する。
「それでは始めるとするか」
デルフを持ったアルが空いた手で第2指と第5指を立てる印を組む。
「お、おい! なんか嫌な予感バリバリなんだがっ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ声すら次の言霊にかき消される。
「ヴーアの無敵の印において」
その手に火が灯り。
「って、おいおいおいおいっ!」
「力を与えよ、力を与えよ」
火の付いた手が柄から剣先まで滑り、剣全体が炎に包まれ。
「力を与えよ――」
「ぎゃー! あちぃぃぃいいっ!!」
デルフの悲鳴は飲み込まれ、吹き散らされた炎から出てきたのは。
黒光りする幅広の偃月刀。
「ほれ」
あの時のようにアルが偃月刀を放る。
「ん」
今度はしっかりと掴み取る。
ぼんやりとルーンが光った。
あの切羽詰った状況とは違い、この剣の使い方が鮮明に脳裏に浮かぶ。
甦る熱。
ルイズは両手で偃月刀を構え。
「い、いきなりなにしやがんでいっ!!」
「へ?」
「なぬ!?」
慌てて落としそうになった。
「偃月刀が、喋った?」
呆然と呟くアル。予想外の出来事に硬直するルイズに、偃月刀は更に喋り続け
る。
「突然燃やしたと思ったら、こんな変な姿にしやがって!」
そう言うと突如、偃月刀が光に包まれる。
「な、なにー!?」
驚きを顕にするアルを置いて、光が収まった時ルイズの手にあるのは、買った
時と寸分変わらぬボロボロの大剣であった。
「あ、アル! どうなってるのこれ!?」
まさか失敗かとアルへと目を向ける。
「こ、こやつ妾の魔術を無効化(ディスペル)……いや吸収(ドレイン)しお
った」
「な、なんですって?!」
驚愕するルイズにデルフが罵倒を吐く。
「よくも手前ら俺にあんなことしやがったな! 剣には優しくしろと親の教わ
らなかったのかよ!」
「親にそんなこと教わらないわよ!」
「よしそこに直れ! この6000年生きたデルフリンガー様が直々に……って」
そのまま罵倒を続けようとしたデルフの口が止まる。
「貴族の娘っ子お前……もしかして『使い手』か?」
「なによ……その使い手って。ていうかなんなのよあんたは!」
「忘れた」
65魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:14:07 ID:0dKUYOjq
「忘れたって何よ!」
「忘れたもんは忘れたんでい!」
「なんと面妖な……」
言い争うルイズとデルフ。デルフを見て腕を組むアル。
そんな3人を、黒い影が覆う。
「そういえばさっき、さらりと6000年生きたとかっ」
更に追求しようとするルイズに。
「汝、なにやら変だぞ」
「なに―――よ?」
ふと振り返った先に――30メイルもある巨大なゴーレムがいた。



吹き付ける風は冷たくは無いがローブをはためかし邪魔であり。
眩い月光はその姿を鮮明に浮き立たされる。
女は舌打ちをし、眼下にいる桃色の髪と銀の髪を睨む。
計画では、今日は虚無の休日ということで多くの教師達は遠く街へ出かけてい
る。夜の警備当番であるコルベールは時間まで騒音の酷い自身の研究室から出
てこないだろう。
メイジが多く通う魔法学院とはいえども、そのほとんどが実戦を経験したこと
の無いひよっこども。
時と地の利はあったはずなのに、計画の初めにいきなり生徒に見つかってしま
った。
だが、見つかってしまったものはしょうがない。
そう障害にもならないだろう。
「お行き」
2人の存在を無視し、自らを乗せるゴーレムへ指示を出す。
そのゴーレムは2人の少女を跨いで歩くと塔の前で止まる。
女は手に持つ杖を振るう。
それに合わせてゴーレムが腕を大きく振り上げた。
「まずは、小手調べっ!」
勢いづいた土の拳は風を押し退ける音と共に、塔へと迫り――
その壁を紙細工のように粉砕。
「はあ?」
あまりに呆気なく破壊された壁を見て女は拍子抜けした。
調べた時には多重の『固定化』がかかり、その壁自体も分厚く相当苦労するだ
ろうと思っていたのだが。
まるで打ち果てた城壁を、打ち崩すような脆い手応え。
女は困惑するが。
「まあ、結果が全てだね」
考えてわからないことは放棄し、結果だけを優先する。
ゴーレムの腕を伝い女は崩れた壁の中へと入っていった。



「ええっ!?」
塔の壁が破壊されるのを見てルイズは驚嘆の声を上げた。
30メイルのゴーレムがいきなり現れたこともそうだが、突如塔へと攻撃しそれ
を破壊したのだ。
塔自体には宝物庫があることから強力な『固定化』がかかっていることは周知
の事実。その塔の壁が破壊されたのだ。
どれだけ強力なゴーレムか、想像の域を超えている。
「ふむ、随分と派手な遊戯だな」
「んなわけないでしょう!」
冷静にボケるアルにルイズが突っ込んだ。
「おい、貴族の娘っ子。あのでかいのの肩から塔の中へ誰か入っていったぞ」
「なんですって」
わざわざ強固な『固定化』のかかった塔の壁を破壊して中へと侵入する。そう
なると狙いは。
66魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:16:09 ID:0dKUYOjq
「宝物庫!」
「なんだそれは?」
首を傾げるアルを置いてルイズは走り出す。
「おいおい、貴族の娘っ子なにしようってんだ」
デルフの声に。
「当然止めるのよ!」
ルイズは自信満々に答える。
「どうやってだ?」
追いついてきたアルが問う。
「それはもちろん――」
そこではたと気が付く――杖がないことに。
「え、えっと……」
一応“杖候補”となる剣なら手に持っているが。杖としての契約をしてないこ
の剣は、剣以上でも剣以下でもない。
そうしてゴーレムの前で止まる。
改めてその大きさに愕然とし。
「と、ともかく止めるのよっ!」
デルフを振り回した。
「白い娘っ子……」
「なんだボロ剣」
「この貴族の娘っ子はいつもこうなのか?」
「言わずともわかるだろう」
人外2人は揃って諦めた風にため息を吐く。



目当ての物の1つはすぐに見つかった。
それはご丁寧にもオールド・オスマン直筆で『破壊の杖、持ち出し厳禁』と紙
を張られていたからである。
でもまあ、と女は考え、その杖を見てみる。
確かにコルベールの言うとおり言葉では現せられない奇妙な形であった。
そもそも杖であるのかも疑問である。
とりあえず見つけた杖は後で回収するとして、もう1つの宝を探そうとしたと
き。
“……ぃ…………ぇ……”
「誰だいっ!」
咄嗟に杖を構えて周囲を見渡す。
ゴーレムを維持しているから魔法は使えないとはいえ、身の危険が最重要。
その時はゴーレムを解除することもためらわない。
だが、見回せど特に異状は無く。
広がるのは乱雑に物が置かれた空間。
「…………」
幻聴かと思い始めたとき。
“…………る……ぃ……”
「――っ!」
音の先へと振り返る。
そこには詰まれたガラクタとしか思えない品々ばかりだったはずだが。
果たしてそこには。
「これ、は……」
女が目的とする“物”があった。
ただ置かれている書物。埃を被り、古ぼけた本。
だが、その書から流れてくるのは生暖かい空気。頭の片隅で警報が鳴る。あれ
は触れてはならない物であると。
「馬鹿馬鹿しい……」
自分が使うわけではないと。そっと手を伸ばす。
書を掴んだ瞬間、ぞくりと悪寒が体を駆け抜けた。
「……っ!」
その悪寒を振り払うように女は書を懐へと仕舞いこむ。
気分を変えようと女が辺りを見ると、書のあった場所になにかが落ちているこ
とに気が付く。
67魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:18:12 ID:0dKUYOjq
よく目を凝らしてみると、それは結界などに使うルーンが刻まれた木片である
ように見えた。
木片は砕かれ、ある場所を中心として広範囲に落ちている。
まるでなにかに耐え切れず、砕け散ったように。
「……薄気味悪い」
女は胸元から予め文字を書いた紙を取り出し近くの壁へ貼り付けると、『破壊
の杖』を回収し、砕かれた壁からゴーレムへと戻る。
ゴーレムの肩へと登る途中、なにか眼下が騒がしかった。



「どうするのだ? 汝は」
呆れた風のアルにルイズは言葉が詰まる。
「どうするって……つ、捕まえる……」
「汝の魔法は今、失敗すら使えんのにどうやって」
更なる追及にルイズが押される。
「ど、どうやってでもよ!」
「貴族の娘っ子……現実を見ようぜ」
「まったくだな。もっと現実的に考えろ」
非現実(ファンタジー)の存在から現実を追及されるルイズ。ある意味稀有な
体験をしているともいえる。
そんな2人にとうとうルイズの堪忍袋が切れた。
「あー! もう! 捕まえるったら捕まえるのよ!」
吹っ切るようにデルフを強く握り締める。
ルーンが輝きを発した。
「おわ! なにをするんだ貴族の娘っ子!」
大きくデルフを振り被る。視界にあるのは巨大なゴーレム……の足。
「こうするの……よっ!!」
弾ける様に飛び出したルイズは、思いっきりデルフを叩きつけた。



女はゴーレムの足元で騒ぐ2人の少女に目を向ける。
どうやらあの少女達は他の人を呼ばなかったようだ。手柄を独り占めしたいほ
ど強欲なのか、責任感が強いのだろう。
どちらにしろ自分にとって好都合なのだが。
(これ以上騒がれるのは面倒だね)
そう女は考えると杖を構えた。
「せいぜい運がなかったとお思い」
少女たちを踏み潰す指示を出そうとして。
ズズン――
「――っ!?」
衝撃が襲った。



ルイズが振ったデルフは、その刀身を大きくゴーレムへと沈む。
偃月刀のような滑らかな手応えはないが、ズブズブと刀身が進み、勢いよく反
対側へと抜ける。
「どうよ!」
渾身の一撃。
「さすが『使い手』だな……」
デルフが呟いた。
そこにあるのは3分の1まで切り裂かれたゴーレムの足であった。
「これを後2、3回繰り返せば」
そう言い再び構えるルイズにアルが言う。
「おい汝」
「なによ、今忙しいの」
ルイズは再び大きくデルフを振り被り。
「なにやら、雲行きが怪しいぞ」
68魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:20:14 ID:0dKUYOjq
「雲行きって」
ふと視線を感じルイズが視線を上げると。
「…………」
「…………」
こちらを見下ろすフードを被った人影がゴーレムの肩にいた。
その人影が杖らしき物を振る。
それに合わせてゴーレムがこちらへ大きく足を振り上げ――
「貴族の娘っ子危ねえぞ!」
「え、ええっ!?」
「っち。なにをぼやぼやしておる!」
戸惑っているルイズの前に、アルが庇うように飛び出し手を差し出し。
「間に合わんか――」
土の足底が視界を覆い、ルイズが目を瞑る。
「――っ!」
潰れる瞬間を待ち構え。

「もう、なにやってるのよあなたは」
なぜか突然ほほに風を感じた。
ゆっくりと目を開けると。
「きゅる、け?」
「はあい。ようやく会えたわね」
にこやかに笑うキュルケがいた。
ここはどこかと周りを見ると、周囲にはなにもなく吹き付ける風が強い。
今自分のいる場所に違和感を覚えて下を見ると、そこには青い鱗。
「……間一髪」
その声の先に目を向けたルイズは、自分のいる場所を認識した。
「まったくよ、タバサの風竜じゃなきゃ助けられなかったわ」
「きゅいきゅい」
まるでそのことを誇るように、ルイズたちを乗せた風竜が鳴き声を上げた。
予想外のことに呆気に取られるルイズに黒い服を着た金髪の可愛らしい少女が
近寄ってくる。
「危なかったねぇ」
「え、ええ……」
こんな子いたかしらと首を傾げるルイズに、横合いから声がかかる。
「本当に無茶をするものだ」
そこには腕を組むアルがいた。
「あんたも無事だったのね」
「当たり前だ」
踏ん反り返るアル。そこで空気が緩みかける。
「で、どうすんだい。いったい」
デルフの声にキュルケが反応した。
「あら、ルイズ。そのボロ剣ってインテリジェンスソード?」
「誰がボロ剣だ! 6000年を生きるデルフリンガー様だ!」
「とまあ、本人は言ってるけど。まあ、今はいいでしょ」
「そうね」
皆の視線が眼下のゴーレムへと向く。
ゴーレムではさすがに空を舞う風竜には手が出せないのか。肩の人影はこちら
を見上げるばかり。
「あれは?」
キュルケが崩された塔の壁を指す。
「たぶん宝物庫。あのゴーレムを操っているのは賊よ」
「ふうん」
気のない返事でキュルケは返すと、思い出したかのように語りだす。
「まるで、フーケみたいね」
ルイズが聞き返す。
「フーケ?」
「ええ、巷で噂されている。貴族を専門とした盗賊よ。警備の度肝を抜く大胆
な盗みをするってことで有名で。よく巨大なゴーレムをつかうらしいのだけど」
キュルケがゴーレムを見る。
69名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 20:21:02 ID:1O6ijCM9
支援
70名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 20:35:41 ID:SMx+kv0g
さるさん?
71魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:38:40 ID:SMx+kv0g
代理の代理、いきます

「あの大きさ、少なくともトライアングル級ね。もしかしたらスクエアかも」
そうキュルケが言った時、ゴーレムが歩き出した
「ゴーレムが!」
向かう先は学院を囲う高い塀。
「ちょっと、あいつ逃げる気よ! 捕まえなきゃ!」
人にとっては絶壁であっても、巨大なゴーレムは難なく超えるであろう。
「といっても、ねえ?」
ルイズが叫ぶが、キュルケがタバサへと振る。
「無理、重量過多。下手に近づくと避けきれない」
「きゅい〜」
弱弱しく風竜が声を上げる。
自分より大きな獲物を掴んで飛べる風竜だが、それは足で掴んだ状態であり。
背に大勢乗せた状態ではない。
軽いとはいえ、すでにその背には5人も乗っている。
それに相手は倒れた獲物ではなく、30メイルはあるゴーレムだ。鈍った動きで
は落とされかねない。
「うぅ〜〜」
唸るルイズは、眼下で歩いてゆくゴーレムを見て、ふとあることを思い出す。
「アル! あのでっかいゴーレムは使えないの! あんたのでしょ?」
思い出されるのは自身が召喚した白きゴーレム。
もしあのゴーレムさえ使えれば、眼下のゴーレムなど圧倒できるだろう。
そう思いアルへと問いかける。
「無理だ」
「なんッ……で」
迷いの無い返事に思わず声を張り上げようとしたルイズは言葉を途中で飲み込
んだ。
そこにはいつもの自信が満ち溢れた顔は無く。
「……あやつはもう戦えない……いや“戦うことはない”のだ」
置いていかれた子供のような寂しげな顔があった。
「…………」
ルイズその表情の前に何も言えず。
塀を軽く跨いだゴーレムは、遠く森の手前で崩れ去った。
72魔導書が使い魔-06代理:2009/03/04(水) 20:39:33 ID:SMx+kv0g
以上です。
また長いですね……反省してます……でも、この一日をあまり分割したくはなかったのです。

さて、次はようやく第一巻の最大の見せ場である対フーケ戦。
出来る限り、デモベ風に書けるように頑張ります。

代理してくれた方、支援してくれた方、読んでくださった方ありがとうございます。
73名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 20:56:08 ID:s06M0k8T
職人の大半は規制に巻き込まれて・・・
74異世界BASARA:2009/03/04(水) 21:12:59 ID:+z6yXJ/N
魔導書の作者さんGJです!!
自分も続きを投下したいのですが、5分後にいいですか?
75名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:16:06 ID:SMx+kv0g
しえん
76異世界BASARA 1/5:2009/03/04(水) 21:17:45 ID:+z6yXJ/N
拳骨を顔に受けたアルビオン兵が、絶叫しながら吹き飛ぶ。
その巻き添えで、直線上にいた何人もの兵士が同じように吹き飛んでいった。
攻撃を逃れたアルビオン兵士達は、恐る恐るその男を見る。
艦隊の砲弾を槍で弾き飛ばしたこの男は、突如として劣勢のトリステイン軍に味方したのである。
しかし、砲弾を弾いたとはいえたった1人……数で勝るこちらが勝つと誰もが考えていた。
それが間違いであったと気付いたのはすぐだった。

幸村は正に修羅羅刹の如く戦った。
飛んでくる魔法は左手のデルフリンガーで吸い取り、その隙に右手の槍で相手を切り崩す。
さらに、元からの体力とガンダールヴの力によって向上している身体能力……
メイジも兵もまるで歯が立たなかったのだ。

「遠くにいる野郎共は耳の穴かっぽじってよく聞けえええぇぇーー!!」

デルフリンガーの声にアルビオン兵一同は震え上がる。

「近からん者は!目にものを見よ!!!!!」

幸村が槍で敵を吹き飛ばしながら叫んだ。


「ルイズ殿が使い魔の真田幸村!!我此処に在りいいぃぃぃっっ!!!!」
「う、うわあああぁぁぁぁぁーーー!!!」


幸村の名乗りに、何人かの兵士が戦意を喪失して逃げ出した。
それを興奮した様子でルイズは見ている。
「ユ、ユキムラったら凄いじゃない!あいつ等をあんなに沢山……!!」
「ちょっと、凄いのはあなたの使い魔だけじゃないでしょ」
すると、横でルイズに突っかかる者がいた。
炎のように赤い髪をかき上げ、豊満な胸を揺らす女性……キュルケである。
そう、この戦いに駆けつけたのは幸村だけではないのだ。
77異世界BASARA 2/5:2009/03/04(水) 21:21:12 ID:+z6yXJ/N
キュルケは戦場に視線を向けた。
幸村の戦っている場所では兵士が宙を舞っている。
だが、別方向でも同じように人が派手に吹き飛んでいる所があった。
「おおぉぉらおらおらおらああああぁぁぁ!!」
その方向から雄叫びが聞こえたかと思うと、またアルビオンの兵が吹き飛ぶ。
そこに、大きな三叉槍を持った利家がいた。
利家は槍を振り回しながら周りの敵を次々に倒していった。

キュルケ達が忠勝と共に現れたのは、幸村が敵陣に突撃した直後であった。
『遅ればせながらこのキュルケ・アンハルツ・ツェルプストー、ゲルマニアの援軍として加勢させていただきますわ』
忠勝から降りたキュルケはアンリエッタに一礼して言うと、利家に一言「蹴散らしてきなさい」と命じた。
「どうしたどうした!腹でも減ったかぁ!?」
そして今に至る訳である。

「そろそろかしら……ちょっとそこのあなた?」
「へ?は、はい!」
突然声を掛けられたトリステインの兵士は慌てながら返事をした。
「兵糧はまだ余ってるんでしょ?ちょっと持ってきてちょうだい」

(うぅいかん……それがしの方が腹が減ってきたぞ)

槍術を駆使して戦う利家だったが、空腹になってきたのか、動きが鈍くなってきた。
しかし、敵は休む暇を与えず攻めかかってくる。


「トシイエ〜〜!!!!」


その時、遠くからキュルケが手に持った物を振りながら利家を呼んだ。
そして利家が振りかえると同時に、キュルケは持ってた物を勢いよく投げた。


「新しいご飯よぉ〜〜〜!!」
78名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:24:34 ID:NEfdXxTF
アンパンネタで不覚にも支援
79異世界BASARA 3/5:2009/03/04(水) 21:24:37 ID:+z6yXJ/N
「飯だあぁぁーーっ!!」
その瞬間、利家はいつもの数倍の反応速度で飛び上がると、投げられたパンを掴んで口に放り込んだ。
利家はそれをしばらく咀嚼する。
「……よっしゃああぁぁ!元気百倍だーー!!」
これでまた戦える……
腹を満たして勢いを取り戻した利家は、勇猛果敢に戦い始めた。

さらに、空では竜騎士が目の前に存在する恐怖に震えていた。
人間離れした体躯に、見た事がない程巨大な槍……
そして真っ赤に光る眼が自分達を睨みつけている。
本多忠勝である。
「う……うおおぉぉぉーー!!!」
焦った竜騎士の1人が、火竜のブレスをその男に浴びせた。
だがそれをものともせず、忠勝は腕を伸ばし、火竜の首を掴むと一気に骨をへし折った。
そしてその火竜を掴んだまま、槍を一気に突き入れた。
槍は火竜の腹を突き破り、竜騎士にまで届く……空中で血煙が派手に飛び散った。

「……!!…」ヴィィィーーギュルルルル

忠勝は残った火竜の首を投げ捨てると、残った竜騎士達に視線を戻した。


「そうか……彼等も偽善者か……」
幸村達の戦いを見て、松永の苛立ちはさらに増す。
すると、松永は何かを思いついたのか船にいる船員を呼ぶ。
そして伝言を伝えると、吊るされた人質の1人に近づいて行った。
80名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:28:08 ID:Kg7QaQc1
久々にきたら好きな作品が止まってるらしくて涙支援
81異世界BASARA 4/5:2009/03/04(水) 21:29:56 ID:+z6yXJ/N
「母様……母様ぁ……」
船下から女の子の嗚咽が聞こえてくる。
先程、見せしめに落とされた人質の娘である。

「母に会いたいかね?」

ビクッとその子は体を震わせた。
小さいながらもその言葉の意味を理解した。次は自分が落とされる番であると……
「や、やめて……」
震えながら懇願する。しかし、それを聞いた松永の顔は嘲笑うような表情であった。
「やめて?何故止める必要がある?」
持った剣をロープにあてがう。
「母と同じ所に行けるのだよ」
そして、一気に剣を引いて、ロープを切った。


「きゃあああああああぁぁぁぁぁ!!!!」


背後で聞こえた悲鳴に忠勝は振り返る。遠くで、縛られたまま落ちていく子供が目に飛び込んできた。
「…!?……」ギギキゴゴゴ!!!
背中のバーニアを吹かし、一気に加速する。
忠勝は下に先回りすると、そこで落ちてきた子供を受け止めた。
腕の中で抱きとめられた子供は、忠勝を見て怯えたが、自分が助けられたと分かると安堵の笑みを浮かべる。
「…………」ウィィィー、プシュー
忠勝もそれを見て安心したように音を発した。



「今だ。撃て」



その忠勝に向けて、レキシントン号の対艦砲が放たれた。
82異世界BASARA 5/5:2009/03/04(水) 21:32:32 ID:+z6yXJ/N
「!!??」ギュルロロロ!!!!
背中にこれまでにない衝撃を受け、忠勝の体は激しく揺れた。
と、さらに右肩に何かぶつかる。別の艦隊からの砲撃であった。
松永の合図で、一斉砲撃が開始されたのだ。
松永はこれを計算して人質を落としたのである。忠勝……いや、忠勝達の誰かが必ず助けに来ると。

「戦国最強……卿は偽善によって滅びたまえ……」

砲撃を受け、落下していく忠勝を見ながら松永は嗤った。
「忠勝殿!?」
「いかん!忠勝!!」
落下する忠勝は地上の幸村と利家からも見えた。
2人はそれぞれ走り出す。

「うおおおぉぉぉーー!邪魔だどけえぇーーいっ!!」
アルビオン兵を薙ぎ倒しながら幸村は猛進する。
再び空を見上げると、忠勝が黒い煙を上げながら落下していた。
だがまだ間に合う。真下で受け止めることが出来れば……

突然、地を走っていた幸村が空中に舞った。
人を吹き飛ばす程の強風がいきなり吹いたのである。
驚愕した幸村だったが、すぐに確信した。風を操る者……奴だ。

「また私の邪魔をするか!ガンダールヴ!!」

幸村の予感通り、聞き覚えのある声が耳に届いた。

「やはり貴様か!ワルドオォ!!!!!」
83名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:32:40 ID:SMx+kv0g
しえん
84異世界BASARA:2009/03/04(水) 21:37:16 ID:+z6yXJ/N
以上で投下終わりです。
次回はそれぞれの戦い、先ずは幸村対ワルドからいきます。
85ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:41:56 ID:kqWQUjE+
 魔導書の方、代理の方々、乙です。
 やはりと言うか、デルフが偃月刀になりましたな。
 この分だとクトゥグアとイタクァは……魔法万歳なハルケギニアで、銃がどのように扱われるか、って所でしょうか。
 そう言えば、確かアレに使われている火薬って人間が自作出来るんでしたっけ。

 BASARAの方も乙です。
 何と言うか、作品が『熱い』ですな。
 私の作品の主人公なんて全く能動的に動いてくれないし、それに引きずられて登場人物全員が微妙に冷めた感じになっちゃってるので、ちょっと羨ましいですw

 さて、スパロボαやらOG外伝やらZやら無限のフロンティアやらを確認の意味も込めてプレイしていたら、随分と間が空いてしまいましたが、他にご予約の方がおられなければ、21:50から投下を行います。

 それと、どうも今日は回線の調子がよろしくないようなので、投下が途切れ途切れになるかも知れません。
86名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:43:24 ID:SMx+kv0g
しえん

今日は回線規制の嵐が吹いてるそうで。
87名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:44:03 ID:THOmTrS6
まってました支援!
88ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:50:01 ID:kqWQUjE+
 トリステイン王国とガリア王国との国境から南に1000リーグほど離れた位置にある、ガリア王国の王都リュティスの東端。
 そこには、ガリアを統べる王族の人間が暮らすヴェルサルテイルという宮殿が存在している。
 そして、更にその中に存在する、青色の大理石で構成された建築物。
 この美しさと荘厳さと壮麗さを兼ね備えたグラン・トロワの最奥には、現ガリア王、ジョゼフ一世が暮らしていた。
 その自室にて、ジョゼフは黒いローブを着込んだ老人とチェスを指し合っている。
「ふぅ……むぅ……」
「……………」
 時刻はもはや深夜を過ぎていると言うのに、両者は全く疲れた様子も見せずにチェスに興じていた。
 特に老人の方は、チェス盤を前にして『考える素振り』すら見せていない。
「……よし、これでどうだ!」
 不敵な笑みを浮かべつつ、カン、と高らかに音を響かせて盤上の黒の駒を動かすジョゼフ。
 しかし相手をしている黒衣の老人は眉一つ動かさずに白の駒を手に取ると、それを無造作にある一点に移動させる。
「チェックメイト」
 老人はポツリと呟くが、窮地に追い込まれたはずのジョゼフは笑みを崩さない。
「フン、その手は既に考えて……」
 ジョゼフは自分の思惑通りに対局が動いたことに喜色を浮かべながら、駒を手に取り、そして先の先の更に先まで展開を予測し……。
「……ん? いや、ちょっと待て!」
 頭の中でこの対局の『終局図』まで描き終わった時点で、今の今まで自分が抱いていた思惑に致命的な欠点があることに気付き、唐突に慌て始めた。
「『待った』はもう使い果たしているはずじゃが」
「いや、しかし……う、ぐ、ぬ、ぅぅぅうううううう〜〜〜……」
 ジョゼフはその驚異的な頭脳の回転により次から次へと攻め手を考えるが、シミュレーションすればするほど手詰まりであることを思い知ってしまう。
 そしてたっぷり十五分間ほど悩み抜き、百数十通りものパターンの手を頭の中で試した末……。
「…………投了だ」
 肩を落としながら、その言葉を口にした。
「まったく……またこれで全敗記録が更新してしまったか」
 そんなことを言いつつも、ジョゼフの口調に悔しげな色はあまりない。
 ……最近の彼は、『比較的』ではあるが上機嫌であった。
 この目の前にいる老人の正体は、伝説の『虚無』の魔法を操る自分の力ですら及びもつかない……四系統のメイジも虚無もエルフも全てひっくるめた『ハルケギニアの全戦力』を投入したとしても、負けてしまう可能性の方が圧倒的に高いほどの超越的な存在である。
 もはや形容する言葉すら見つからない。
 『怪物』や『バケモノ』などの言葉では、とても表現しきれない。
 『悪魔』などという生易しいレベルではない。
 それでも強いて言うのなら……。
(『神』か? いや、本物の『神』であるのならば、わざわざ人であるこの俺とこのような遊びに興じはすまい……)
 ならば神とは似て非なるモノか、と自分なりにこの存在を形容する言葉の結論に達するジョゼフ。
 ふと現在時刻を確認すると、
「……おお、もうこんな時間か! いやはや、お前とチェスをしているとつい時間を忘れてしまうな! なかなか良い『退屈しのぎ』だ!!」
 退屈しのぎ。
 ジョゼフにとって、老人との対局は娯楽にはならなかった。
 既に老人との対局回数は300回を越えていたが、その中でジョゼフは一度も『楽しみ』を感じていない。
 …………なぜなら彼がチェスの指し合いを『楽しく』感じる相手は、もういないのだから。
「……そもそも人間ごときが、ワシの開明脳の演算処理能力に勝てるわけがないじゃろうに。お前のやっていることは、単なる徒労に過ぎんぞ?」
「そうか? まあ、人間というモノは、無駄と分かっていてもそれに挑んでみたくなるものでな。大体、傷が癒えるまではお前もやることがないのだろう? ならば俺に付き合っても構うまい」
「断る理由はないがな……」
 黒衣の老人―――ブレイン卿と名乗っている人物は、若干呆れたような様子で呟く。
 その本性である『闇黒の叡智』こと『ダークブレイン』は、本来ならばこのように人間のような仕草や動作を見せることなどは決して在り得ない。
 だが、仮の姿とは言え人間の形態を取っていると、思考パターンや行動パターン、細かい挙動に至るまでが人間のようになってしまうのである。
 『至高の想念集積体』、と自分で言うだけあって様々な思念や人格が渦を巻いているのだが、その内包している無数の想念からも少なからず影響を受けている。
 これは『決まった形を持たず、その時々で姿を変える』という、ダークブレインの特質がもたらす弊害であった。
89名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:51:01 ID:aQ7sHLU+
しえn
90ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:51:40 ID:kqWQUjE+
「さぁて、このチェスが取りあえず片付いた所で……それでは『もう少し規模の大きな盤』の方はどうなっている?」
 盤と駒を片付けつつ、ジョゼフはブレイン卿に尋ねる。
 世界の全てを看破し見透かすことの出来る『暗邪眼』にかかれば、ハルケギニアの情勢の把握などは本日の天候を確認することと大差がないからだ。
 使い魔の契約を結んでいるのでジョゼフはブレイン卿と五感を繋ぐことが出来るのだが、人間などを遥かに超越した存在であるダークブレインと感覚を共有することは危険すぎる、とブレイン卿に忠告されてからは自重している。
 ちなみに契約を結んだ当初はブレイン卿の額に使い魔のルーンが刻まれていたが、今は刻まれていない。
 これはブレイン卿がもたらされた『使い魔としての力』……あらゆるマジックアイテムを操る『ミョズニトニルン』の能力を、
『要らん』
 という一言で消し去ってしまったためである。
 なお、『思考の方向を主人やハルケギニアに向ける』というルーンの効果はダークブレイン相手には全く効果がなく、しかし干渉が煩わしいのは確かなのでその部分も消去していた。
 ……と言うより『主人との感覚の接続機能』以外、ルーンの機能は全て消去している。
 ならば使い魔の契約そのものを結ぶ意味があるのかどうか疑問ではあるが、これで両人は納得しているらしい。
 閑話休題。
 先ほど放たれたジョゼフの問いに、ブレイン卿は無感情に答えた。
「……今の所、大した動きは無い。とは言え水面下で着々と戦争の準備は進めているようだし、あと2〜3ヶ月もすれば本格的な戦争が始まるじゃろうな」
「ふむ、2〜3ヶ月か……待ち遠しいな……」
 最初に起こしてみたのは、クロムウェルという男を焚き付けたことによるアルビオンの内乱であったが……ジョゼフはこれに何の面白味も感じなかった。
 何せ一方的過ぎて最初から勝利が決まっていたのだ。今となっては、むしろ圧倒的不利な状況で奮戦したというアルビオン王軍の方に魅力を感じている。
 続いて、そのクロムウェルが征服したアルビオンによるトリステインへの侵攻。これは少しだが興味を引かれた。
 トリステインの『虚無』が目覚めた記念すべき戦いである。どのような担い手なのか、その使い魔はどのような存在なのか、『虚無』をどのようにして使うのか、興味は尽きない。
 そしてそう遠くない将来、アルビオンとトリステインは本格的な戦争を始めようとしている。
 ガリアとしては当面『我関せず』の立場を貫くつもりではあるが、いつでも参戦が出来るように準備はしておくつもりだ。
 なぜなら……。
「ふぅむ、どのタイミングでどちらに仕掛けるのが最も面白いのやら。トリステインか? アルビオンか? あるいは両方か? 消耗戦になりでもしたら観客としては詰まらんしなぁ」
 これは悩みどころだ、と唸るジョゼフ。
「……お前は自分の精神的充足のためだけに、自分が統べる国を戦争に参戦させるのか?」
「それ以外に何がある?」
 今更な質問に対して、ジョゼフは何を言っているんだ、とばかりに疑問の声を上げる。
(…………この男が我らに繋がるゲートを開けたことの理由の一つは、これか)
 無表情にジョゼフを観察しながら、内心でダークブレインとしての思考を行うブレイン卿。
 召喚された直後に既に分かっていたことだが、この男は人間としては致命的な欠陥を抱えている。
 通常、知的生命体が持っている『感情』が無いのだ。
 まるで壊れた機械のように。
 加えて妙なことに、この青髪の男は自分が壊れていることをハッキリと自覚している。
 そして、それを正常に戻そうと足掻いていた。
 痛み、苦しみ、悲しみ、憎しみ、蔑み、妬み、怒りなどのマイナスの感情を得ようと世界を乱し。
 夢、希望、心、勇気、優しさ、善、想い、信頼、絆、友情、願い、愛などのプラスの感情を得ようと愛人をかこい、その彼女に何とかそれらの感情を抱けぬものかと試行錯誤する。
 だが、結果は今のところ全て失敗。
 せいぜいが『面白そうな事象に対して軽い興奮を覚える』程度であった。
 そんなジョゼフなのだから、マイナスの感情をエネルギーとし、プラスの感情を滅ぼし尽くすダークブレインとは『それなりに』相性が良い。
(『因子』だけではなく、ある意味で我らはこの男に召喚されるべくして召喚されたのかも知れぬ……)
91ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:53:00 ID:kqWQUjE+
 そこまで一瞬で思考して、しかしそんな様子は微塵も表に出さずにブレイン卿は会話を続ける。
「そうじゃな、つい失念していた。ワシとしても世界が混乱に包まれるのは望むところじゃし、ここはお前の演出に期待するとしようかの」
 と、ブレイン卿が発したその言葉にジョゼフが反応した。
「演出? ……おお、そうか、『演出』か! そうだな、この戦争の発端は俺が引き起こしたことだし、その後もあのオモチャを操って色々と手を出した! ハハ、何だ、舞台劇の演出家というのはこういう気分なのか! これは良いことに気付いた!!」
 そしてジョゼフは、再びガリア参戦のタイミングについてアレコレと悩み始めた。
「役者はほとんど俺の予想外の動きをするというのが難点ではあるが、それもまた面白い! ……ならば幕引きのタイミングを決めるのも『演出家』の仕事だな!」
 ああでもないこうでもない、と自分の頭の中に入っているガリア艦隊の規模や兵力を整理しつつ、ジョゼフはこの戦争におけるガリアの大まかな方針を決めにかかる。
「トリステインかアルビオンか……いずれにせよ、しばらくは静観だ。まずはこのゲームの途中経過を見て楽しむ。その上で……まあ、どちらにするかはその時に決めるか。
 お前がこの世界のメイジを分析して『造った』デブデダビデとかいう輩にも、逐一あのオモチャの様子を報告してもらうが、それで構わんか?」
「構わん。どの道アレらは使い捨てじゃ」
 アッサリと言うブレイン卿。
「何だ、使い捨てることを前提であの連中を造ったのか? 酷い奴だな、お前は!」
「自分が造った道具を自分がどう使おうと、別に自分の自由じゃろう?」
「おお、確かに」
 噛み合っていないようで噛み合っているジョゼフとブレイン卿。
 そして時刻もいい加減に深夜を過ぎつつあったので、さすがにそろそろ眠くなってきた、とジョゼフは寝室に向かった。
 ちなみにブレイン卿は眠る必要がない、と言うより『眠るという機能』がないのでジョゼフの私室で起き続けている。
「それではお休み、ダークブレイン」
「ああ」
 ドアを開け、部屋の明かりを落として退室するジョゼフ。
 残されたブレイン卿は、暗闇の中で何をするでもなくじっと佇んでいる。
「……………」
 眼を閉じ、沈黙を続けるブレイン卿。
 このままじっと朝まで過ごす、というのが彼の夜の過ごし方だった。
 だが。
「………」
 数十分ほど経過した時点で、ブレイン卿は突然パチリとその眼を見開く。
 召喚されてからハルケギニアの暦で2ヶ月以上が経過しているが、その間この『夜の沈黙』の最中に何らかのアクションを起こすということは今までになかったことである。
「……………」
 ブレイン卿は首をぐるりと北の方向に向け、ポツリと呟いた。
「……因果律が変動している……」
 ―――その言葉の意味を正確に理解が出来る者は、現在のハルケギニアにはブレイン卿を含めて3人しか存在していない。
92名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:53:21 ID:uOIyAuJR
通りすがりの支援だ
93ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:54:23 ID:kqWQUjE+
 トリステインとガリアの国境をまたぐ形で存在している、ラグドリアン湖。
 時刻は既に深夜2時を過ぎていると言うのに、その湖畔の前には総勢9名の男女が集まっていた。
 彼らの目的はただ一つ、水の精霊との交渉である。
「水の精霊よ、もうあなたを襲う者はいなくなったわ。約束通り、あなたの一部をちょうだい」
「……………」
 主な交渉役であるモンモランシーの姿を模している水の精霊は、その言葉に反応して小刻みにブルブルと震える。
 そして自らの身体を切り離し、一同へと飛ばしてきた。
「うわ! うわわっ!」
 ギーシュは慌ててビンを使い、その『水の精霊の涙』を受け止める。
「……ようやくか」
 これで主人が元に戻る目処がついた、と息をつくユーゼス。
 それでは自分たちの当面の目的も果たしたことだし、今度はタバサたちの目的を果たすべく水の精霊に質問を……と口を開きかけたところで、予想していなかった事態が起きた。
「…………因果の糸を操りし者よ。お前に一つ問いがある」
 何と、水の精霊の方から問いかけがあったのである。
「はぁ?」
「インガの糸?」
 無論、いきなり『因果の糸』などと言われても、それが何を意味しているのか分からない人間にとってはただの意味不明な単語だ。
 しかし。
(気付かれるとはな……。精霊の名は伊達ではないということか)
(……ふむ、アレに因果律への干渉が出来るとも思えませんが……。それを察知する程度の能力はあるようですね)
 それを理解してるユーゼス・ゴッツォとシュウ・シラカワの2人は、若干ではあるが水の精霊を警戒し始めた。
 もっとも主に警戒しているのはユーゼスで、シュウの方は興味深げに水の精霊の言動を聞いているだけだったが……。
 ともあれ、知らない振りを貫き通せる相手でもなさそうである。
 ユーゼスは仕方なさそうに一歩前に出て、答えの分かりきっている確認を行った。
 ちなみにユーゼスに張り付いているルイズは会話の内容などはどうでもいいようで、ふにゃっとしながらユーゼスに寄りそっている。
「……その『因果の糸を操りし者』とは、私のことか?」
「そうだ。我はお前に問いがある」
 水の精霊はまた何度もぐねぐねと形を変え、またモンモランシーの姿に落ち着くと、その確認を肯定する。
 さて何を聞かれるのか……とユーゼスが身構えていると、横にいるエレオノールから質問が放たれた。
「ちょっとユーゼス、『インガの糸を操りし』って何よ?」
「……おそらく先ほどミス・ツェルプストーとミス・タバサを治療した方法を、何か特殊な方法だと思っているのだろう。アレはどうもハルケギニアにとっては未知の手段らしいから、それを水の精霊なりに解釈したようだ。
 …………私は魔法も何も使えない、ただの人間だというのにな」
 実際にはこれ以上の『特殊な治療方法』などは存在しないと言っても過言ではないのだが、それを説明するわけにはいかない。
 それにクロスゲート・パラダイム・システムがなければ、自分は本当にただの人間でしかないのである。
「……?」
 だがエレオノールはそのユーゼスの言葉に、妙な引っ掛かりを感じていた。
「水の精霊が注目するような『特殊な方法』で、『未知の手段』……?」
 何だと言うのだろうか、それは。
 傍から見ていた分には『単なる気付け』にしか見えなかったのだが、あの行為のどこにそんな要素があったのだろう?
 いや、それ以前にあの行為は一体何をしていたのだろうか?
 具体的に何をやっていたのかなど、全く聞いていない。
「……………」
 考えれば考えるほど、エレオノールの内心に疑問が湧き出てくる。
 しかしいくら頭の中で考えていてもラチが明かないので、こうなったら直接聞くしかない、と口を開いた。
「ユーゼス、それは……」
「水の精霊よ、お前の問いとやらには答えてやっても構わないが、その代わりに私からも質問を行って構わないだろうか」
「良いだろう。それではまず、お前から問いを放つがいい」
 しかしエレオノールの問いを遮るようにして、ユーゼスは水の精霊との会話を続ける。
「ちょっと! アッサリ私を無視するんじゃ……」
「……今は取りあえず水の精霊とのやり取りが第一だ、ミス・ヴァリエール」
「むぅ……」
 まあ確かに人間とのやり取りと精霊とのやり取りだったら、後者を優先するのが当然ではある。
 当然ではある、のだが……。
(……何よ。私の方を優先してくれたっていいじゃないの、もう)
 だが『当然のこと』や『正論』に対して、全ての人間がアッサリ納得出来るかと言うと、そうでもなかったりするのであった。
94ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:55:45 ID:kqWQUjE+
 そしてユーゼスは、改めて水の精霊に問いかける。
「湖の水かさを増やす理由を教えてもらおう。そして、出来ればそれを止めてもらいたいのだが」
「……………」
 水の精霊はモンモランシーの姿のままで手足を動かし、様々なポーズを取る。どうやら色々と考え込んでいるらしい。
 ちなみにモデルにされているモンモランシー本人の方は、どうにも複雑そうな表情だった。
「……お前とその周りの単なる者たちに話して良いものか、我は悩む。
 しかし、お前たちは我との約束を守った。ならば信用して話しても良いことと思う」
「ふむ」
 わざわざ内心の葛藤まで独白してくれるとは思わなかったが、話してくれる気になったのならば特に問題はない。
 そしてもう何度目になるのか、水の精霊はぐねぐねと形を変えてからモンモランシーの姿に戻り、湖の水かさを増やし続ける理由を話し始めた。
「……数えるのも愚かしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「秘宝だと?」
「そうだ。我が暮らす最も濃き水の底から、その秘宝が盗まれたのは、月が三十ほど交差する前の晩のこと」
 約二年ほど前か、とユーゼスはハルケギニアにおける二つの月の運行周期を思い出しながら水の精霊の話を聞く。だが、同時に疑問も発生してきていた。
「その秘宝とやらが盗まれたことと、水かさを増やすことに何の関連性がある? 人間への意趣返しか?」
「……我はそのような目的は持たない。ただ、秘法を取り返したいと願うだけ。
 ゆっくりと水が浸食すれば、いずれ秘宝に届くだろう。水が全てを覆い尽くすその暁には、我が身体が秘宝のありかを知るだろう」
「成程」
「って、アッサリ納得してるんじゃないわよっ!!」
 後ろで話を聞いていたエレオノールが、いきなり叫び声を上げる。
「ミス・ヴァリエール、お前はこの理屈に納得がいかないのか?」
「いくわけないでしょう! 気が長すぎる上に、放っておいたらトリステインどころかハルケギニア中が水浸しになっちゃうじゃないの!!」
「……そう言えばそうだな」
 割と最近まで過去と未来を行き来したり、時間と空間を超越した空間にいたりしていたので、『気が長い』とかいう感覚が麻痺していたことに気付いた。
 それにハルケギニア中が水浸し……などという事態になってしまっては、自然環境に与える影響は計り知れない。
 ならばここは、この水の精霊の暴挙を止めておくべきだろう。
「では、その秘宝を……私かこの場にいる誰かが見つけて、お前に渡そう。それで構わないか?」
「構わぬ。……秘宝の名は『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪だ」
 出されたその名称に、水メイジであるモンモランシーと、知識量が豊富なエレオノールが反応する。
「それって確か、水系統の伝説のマジックアイテムだったかしら?」
「はい。えっと、偽りの生命を死者に与える、とかいう効果があったはずですけど……」
「その通り。
 ……我には『死』という概念がないゆえ理解が出来ぬが、死を免れることが出来ぬお前たちにはなるほど『生命』を与える力は魅力と思えるのかも知れぬ。
 しかしながら、『アンドバリ』の指輪がもたらすものは偽りの生命。旧き水の力に過ぎぬ。所詮益にはならぬ」
「ほう、お前には『死』という概念がないのか……」
 ウルトラマンたちですら死んだり生き返ったり『生命を持ち運びしたり』すると言うのに、その『生命』すら完全に超越しているとは驚きである。
 いや、そもそも精霊とは、生命体や思念体の範疇に収まる存在ではないのかも知れない。
(……そのような存在であるのならば、因果律の動きを察知しても不思議ではないか)
 何となく納得しつつ、ユーゼスは水の精霊に質問を重ねる。
「その指輪を盗んだ相手の情報は?」
「……風の力を行使して、我の住処にやって来たのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去って行った。
 また、個体の一人は『クロムウェル』と呼ばれていた」
 それを聞いたキュルケが、ぽつりと呟いた。
「アルビオンの新皇帝の名前?」
「可能性はあるが……ふむ。それで、その偽りの生命を与えられた死者とやらは、どうなるのだ?」
「指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があると言うのは、不便なものだな」
「生きている人間に使った場合は?」
「生命についてはそのままで、同じく指輪を使った者に従う」
95ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:57:00 ID:kqWQUjE+
(……効果は『人間の精神』に限定されているが、私の能力に少し似ているな)
 クロスゲート・パラダイム・システムの能力が完全に発揮され、真の意味で因果律を調整することが可能になった場合には、個人の意思や思考すら自在に操作することが可能なはずである。
 もっとも、今のユーゼスが使っているものは不完全な状態のものなので、ユーゼスに出来るのはせいぜい『本人の意思を無視して無理矢理に行動を操作する』程度だが……。
(いずれにせよ、放っておくわけにも行かんか)
 決心したように頷くユーゼスは、水の精霊に向かって了承の意を告げる。
「分かった。その『アンドバリ』の指輪は、奪還してお前に渡そう。引き換えに水かさを増やすことを止めてくれ」
「……良いだろう。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら、水を増やす必要もない」
「では、奪還までの期限は?」
「……お前たちの寿命が尽きるまでで構わぬ」
 ふるふると震えながら、平坦な口調で言う水の精霊。
「また随分と気の長い話ね……」
「……我にとっては、明日も未来もあまり変わらぬ」
 そう言うと水の精霊はぐねぐねと形を変え、やはりモンモランシーの姿に落ち着くとユーゼスに問いを投げかける。
「お前からの問いはこれで終わりか? ならば、因果の糸を操りし者よ。次は我の問いに答えよ」
「良いだろう」
 その問いの内容は、いたってシンプルな物だった。
「お前の目的は何だ?」
「む……」
 そう来たか、とユーゼスは考え込む。
 もっともらしい言葉を並べるのは簡単だが、誤魔化してうやむやにするという手が通用する相手とも思えない。
「……目的らしい目的などは、何もないよ」
 なので、ここは正直に言うことにした。
 だが水の精霊も、それでアッサリと納得は出来ないようである。
「本当か?」
「ここで虚言を弄してどうする」
「…………お前はその意思さえあれば、我をも滅ぼし、世の全てを支配出来るかも知れぬほどの力を持っているはずだ。そうであるのに、お前は何もしないと言うのか?」
(……すぐ近くに事情を知られたくない者たちがいるというのに、口はばかることがないな……)
 水の精霊からすれば自分の事情などは知ったことではないのだろうが、ユーゼスにしてみれば迷惑なことこの上ない内容の会話である。
 なので、否定すべき部分の否定はしておく。
「……過大評価だ。私にそこまでの力はない。
 仮に……あくまで『仮に』ではあるが……私にそのような超絶的な、神の如き力があったとしよう。
 だが、それで世界の支配や滅亡などを行って何になると言うのだ?」
「……………」
「それを成したとしても、結果はせいぜいが私の精神にささやかな満足感を与える程度だろう。『より崇高な存在へと昇華する』ことが目的ならばともかく、そのような下らないことに興味はない。
 ……もっとも、今の私にとっては存在の昇華すら『下らないこと』に過ぎないが……」
 ユーゼスは自重気味に呟き、そして結論の一言を口にする。
「いずれにせよ、私は自分から行動を起こすつもりはない」
「……………」
 水の精霊はユーゼスのその言葉をどう受け取ったのか、沈黙したままでふるふるぐねぐねと変形を繰り返し……。
「…………良いだろう。因果の糸を操りし者よ、お前を信用しよう」
「感謝する、水の精霊」
 やれやれと肩をすくめながら、ユーゼスは水の精霊との会話を終了させたのだった。
96ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:58:33 ID:kqWQUjE+
 そして一同のいる場所に戻るなり、エレオノールが少し怯みながらも話しかけてくる。
「ユーゼス、あなた……何者なの?」
「む?」
 気が付けば、一同は(一部を除いて)まるで得体の知れない者を見るような目をこちらに向けている。
 どうやら水の精霊とあのような会話をしたせいで、余計な警戒心を与えてしまったようだ。
 仕方がないので、何とか誤魔化してみる。
「……どうやら水の精霊は、何かを致命的に勘違いしているようだな」
「勘違いって……。……それじゃあ私からも一つだけ質問させてもらうけど、良いかしら?」
「何だ?」
 エレオノールは考え込みながらも、ユーゼスにその質問をぶつけた。
「あなたは、私の……私たちの敵なの? 味方なの?」
(……ふむ)
 なかなか鋭い質問である。
 『目的』はどうだか知らないが、少なくとも『現在の立ち位置』は明確にしておこう……という腹積もりなのだろうか。
 だが、改めて聞かれると難しい質問だ。
 敵か味方か、など所詮は立場の違いでしかないのだが……。
(……この女が曖昧な返事で納得するとも思えん)
 少々諦めに近い思いを抱きながら、ユーゼスはエレオノールの問いに答える。
「……今の私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの使い魔だ。御主人様が進む道を違えない限り、少なくともお前たちの敵ではない」
(そう、少なくとも今の内はな……)
 内心の呟きを隠しつつ、自分の『現在の立ち位置』を語るユーゼス。
 ―――『味方だ』と断言しないあたりが、ユーゼス・ゴッツォという男の人間性を端的に表していた。
「信じて良いのね?」
「それはそちらが決めることだ、ミス・ヴァリエール」
「……………」
「……………」
 ユーゼスとエレオノールは、無言で視線を交錯させる。
 そのまましばらく見つめ合い……。
「うぅぅぅっ……、や、やっぱり、ユーゼスは、エレオノール姉さまのことが好きなのね……」
「……今の会話の内容で、何をどうしたらその結論に至るのだ、御主人様」
「ああもうっ、ルイズ! いきなり突拍子もないことを言うんじゃありません!!」
 横から聞こえてきたルイズのすすり泣きによって、二人の腹の探り合いは中断されるのであった。
97名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 21:59:34 ID:82/Q2KyS
支援
98ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 21:59:57 ID:kqWQUjE+
 一方で水の精霊は『もう自分の役割は終わった』とばかりに、ごぼごぼと水中に姿を消そうとしていた。
 実際、一同としてはもはや水の精霊に用件などはないので、ただ黙ってその光景を見送っている。
「待って」
 しかしその時、タバサが声を上げて水の精霊を呼び止めた。
「タバサ?」
「め、珍しいわね……」
「どうしたのよ、いきなり?」
「きゅい?」
 ギーシュとモンモランシー、そしてキュルケの三人のみならず、使い魔のシルフィードまでもが驚いてタバサを見る。
 タバサが自分から誰かに話しかけ、しかも呼び止める光景など滅多に見られるものではないからだ。
「水の精霊。わたしからもあなたに一つ聞きたい」
「何だ、単なる者よ?」
 普段は無表情かつ無感情に見えるタバサだったが、この時ばかりは薄くではあるが微妙に感情が見え隠れしていた。
 ……もっともその感情にしても薄すぎるため、余人には何なのか判別が出来なかったが。
「あなたはわたしたちの間で、『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
 ごく薄い感情で問いかけるタバサに対して、水の精霊は無感情に返答する。
「……単なる者よ。我とお前たちとでは存在の根底と、時に対する概念が違う。
 我にとって全は個。個は全。時もまた然り。今も未来も過去も、いずれも我には違いない。いずれも我が存在する時間ゆえ」
「……………」
「ふむ……。ラ・ギアスでも水系の最高位である『聖位』に『刻』の精霊というものの存在が語られていますが、概念的には同じことなのでしょうか」
 シュウは『妙な共通点ですね』などと呟きながら、水の精霊の話に耳を傾けている。
「……故に、お前たちの考えは我には深く理解が出来ぬ。
 しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。我に決まったカタチはない。しかし、我は変わらぬ。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった」
 モンモランシーの姿の水の精霊は、震えながら言葉を発する。
「……変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
 その言葉にタバサは頷いて、目を閉じて手を組む。更にキュルケがその肩にそっと手を置いた。
 どうやら『二人にしか分からない何か』を誓っているらしい。
 また、そんな様子を見たモンモランシーがジトッとした目付きをしながらギーシュを急かす。
「……アンタも誓約しなさいよ、ほら」
「え?」
 いきなり何を誓約すれば……と、本気で分からない様子のギーシュ。
 モンモランシーはベシッと馬鹿の頭を叩きつつ、その意味をわざわざ説明してやった。
「アンタねえ、何のためにわたしが惚れ薬を調合したと思ってるの!」
「あ、ああ。えっと、これから先、ギーシュ・ド・グラモンはモンモランシーを一番目に愛することを……、はぐおっ!?」
 そこまでギーシュが言った時点で、ごく小さめの水の弾丸が彼の腹部にぶつけられる。
「い、いきなり何を!?」
「それじゃ駄目よ! わたし『だけ』を愛するって誓いなさい!! それだとどうせ、二番三番四番五番が出来るんでしょ!? ほら、とっとと言う!!」
「うぅ……」
 また、その様子を見たミス・ロングビルは何かを期待するようにシュウを見ていた。
 ……だが、ある程度『シュウ・シラカワ』という人間と接していたことで、その期待が叶わないことも理解していた。
「……誓っては下さらないのですか?」
 それでも僅かな望みを託して、問いを投げかける。
 ―――その返答は、予想通りのものだった。
「あいにくと『誓約』や『契約』という言葉に良い思い出がありませんのでね。……それに、自らの行動を束縛するような真似をする訳にはいきません」
「そう、ですか……」
 どことなく残念そうに呟くミス・ロングビル。
 シュウはそんな彼女に向かって、諭すように話しかけた。
「それがどのような感情にせよ、あまり私に執着し過ぎないことです。……意識の方向が特定の個人に凝り固まりすぎていると、周囲だけではなく自分すら見えなくなってしまいますからね。
 ……少なくとも自分を見失うような真似はおよしなさい、マチルダ」
「…………はい」
 分かっているのかいないのか、曖昧な返事を返すミス・ロングビル。
 しかし本名を呼ばれたことで、ほんの少しだけではあるが嬉しさを覗かせているようではあった。
99ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 22:00:46 ID:kqWQUjE+
「ユーゼス、誓って」
 不安そうな顔でユーゼスにしがみ付きながら、ルイズはそう言う。
「……………」
 ユーゼスは何度かルイズと水の精霊とで視線を往復させて、そのルイズの懇願に対する自分の答えを口にした。
「……それは出来ない」
「えっ……」
 見る見る内に、ルイズの瞳に涙が溢れていく。
 そして涙声になりながらも、ルイズはその理由を問いかけた。
「祈って……くれないの? わたしに、愛を誓ってくれないの? ……やっぱり、エレオノール姉さまのことが……?」
「理由はいくつかあるが……」
 正気を失っている今の主人に愛を誓ったところで、意味がない。
 こんな実体があるのかどうか分からないモノに何かを誓ったところで、それを貫き通せるとも思えない。
 そもそも誰か特定の個人を愛したことがないので、『愛する』ということがよく分からない。
 しかし、最大の理由は……。
「……『永遠』などという曖昧で無責任なものは、誓えないからだ」
「うぅ……っ、うっ、ぅぅううう…………っ」
 泣き崩れるルイズ。
 抽象的な物言いだったので言葉の意味はあまり理解が出来なかったようだが、それでも『誓いを行わない』という意思だけは伝わったようである。
「……………」
 ユーゼスは声をあげて泣きじゃくるルイズを、ほとんど放置している。
「……はぁ。まったく……」
 それを見かねたエレオノールが、ルイズに駆け寄って頭や肩を撫で始めた。
 しかしルイズは『エレオノールの手は借りない』、とばかりにその手を振り払う。
 やれやれと溜息をついたエレオノールは、さめざめと泣き続ける妹を気にかけながらも、その妹を泣かせた相手に向かって呆れた口調で話しかけた。
「断るにしても、もう少し言いようがあるでしょうに」
「私に向かって、気の利いた言い回しを求められても困るのだがな」
 そんな二人の様子を見て、ますますルイズは泣き叫ぶ。
「うっ……っ、ぅ、ぅわぁぁあああああああああんんんっっ!!」
 その後、二人はルイズをなだめることと、ルイズをその場から動かすことに多大な労力を費やすこととなった。
100ラスボスだった使い魔 ◆nFvNZMla0g :2009/03/04(水) 22:02:10 ID:kqWQUjE+
 以上です。

 ス、ストーリー的に全然進んでねぇ……。
 ……極端な話、今回は『一同は水の精霊から身体の一部を分けてもらった』の一言だけで済んでしまうんですが、それが何故こんなにも長くなってしまうのでしょう。
 何かこう、私って書いてる内にあっちこっちに思考が逸れたりするんですよね。
 まあ、プロットの初期段階では『ビートルに水の精霊と契約させて魔装機神と同レベルに格上げだ、ヒャハハー』なんて考えてたりもしてたんですが。
 ……取りあえず、それはやらんで正解だった、と確信しております。

 つーか、ダークブレインも出来ないことはかなり少ないはずなんですが、ユーゼスやシュウと違って敵キャラだと「おお、すげー」で済んでしまうのは不思議ですな。
 ……まあ、これは敵キャラだから『乗り越える楽しさ』みたいなのがあるんでしょうけど。敵は強大なら強大なほど……ってヤツでしょうか。
 味方キャラだと少しでも間違えば単なる蹂躙や無双で終わってしまいますし……、ああもうホントに『さじ加減』って難しい。
 …………しかし、この面々に比べるとヴァールシャイン(アインスト)ってかなり小物なような…………。

 ま、ともかく。
 次回はとうとう、『この人があんな風になっちゃうなんて、この時点では思ってもみませんでした』な頃のアン様を本格的に描写する時です。
 …………どうしよっかなぁ。

 それでは、支援ありがとうございました。
101名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:02:21 ID:CBsIgrE0
支援を行う!!
102名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:03:29 ID:G3hdSBeo
それはそれで見たかったような……乙です!
103名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:08:24 ID:iSMSD8gv
しかし今回の話を読むとダークブレインも特に目的がないというか、自分を召喚した人間のお守りに徹してるって感じがする
そういうところはユーゼスと似てなくもないよーな
104名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:29:19 ID:1tNAdvOf
……超闘士激伝に登場した、人型に変形したビートルを思い出したw
105名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:30:12 ID:I0scwEOm
魔導書さん、婆娑羅さん、ラスボスさん乙

・・・・・とりあえずルイスはSUNチェックには成功できたみたいですね。
って邪神クラスかよ、アレは。
106名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:33:58 ID:RDEMI/VC
ラスボス乙

水系聖位「刻」とか懐かしい
魔装機神LOEでしか出てないよな、これ

風系聖位「空」
火系聖位「光」
地系聖位「闇」

だったっけ
107名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 22:51:40 ID:B/Gmm6+W
GJ
108虚無と賢女の人:2009/03/04(水) 22:53:35 ID:tydOk2at
魔導書の人、BASARAの人、ラスボスの人おつつさまです〜。

では、他に予約なければ、23:00から投下します。
109虚無と賢女06話 1/12:2009/03/04(水) 23:00:34 ID:tydOk2at
投下開始しますー。



悲鳴と同時に弾かれるように外に飛び出すタバサとエレアノール、一瞬遅れたキュルケは外に飛び出す前に、景気のいい音と
共に小屋の屋根が吹き飛ぶのを目の当たりにした。青く広がる空と、それをバックにして立っている巨大な影。

「ゴーレム!!」

キュルケの悲鳴。それと同時にタバサが杖を振って、唱えていた魔法を解き放つ。巨大な竜巻が舞い上がり、ゴーレムへと
ぶつかって行く―――が、その質量を押し切るほどの力はない。続いてキュルケも炎の魔法を放ち、ゴーレムを火達磨にするが
目に見えた効果はほとんど無かった。

「無理よ、こんなの!!」
「退却」

キュルケとタバサは一目散に逃げ出す。エレアノールはそれを横目で見ながら、ルイズの姿を探す。先にルイズに気付いたのは
デルフリンガーであった。

「おいおい相棒、娘っ子が無茶してやがるぜ!」

エレアノールから見てゴーレムの向こう側で、ルイズは呪文を唱え杖を振っていた。―――爆発、ゴーレムの背中が弾けるが、
その大きさから見て微々たるもの。だが、ゴーレムが背後のルイズに注意を向けるには十分であった。

「ご主人様!! 逃げてください!!」
「いやよ!」

再び杖を振って魔法を放つ―――爆発。

「ご主人様!!」
「いやよ! フーケを捕まえなきゃダメじゃない!!」

ゴーレムは逃げ出したキュルケたち、正面に立つエレアノール、そして背後で失敗魔法を放ち続けるルイズのどれから相手に
しようか迷っているようにも見えた。
―――爆発。その間にもルイズの魔法はゴーレムの表皮を削り続けるが、その都度、土が盛り上がって再生する。しかし、
ゴーレムは自分にダメージを与え続けるルイズから相手にすることを決めたのか、ゆっくりとした動作で後ろを向き始める。

「―――!! ルイズッ!!」

エレアノールが地を蹴りルイズの元へと走る―――が、ゴーレムを迂回する分だけ出遅れる。

「私は貴族よ。魔法が使える者を貴族と呼ぶんじゃない! 敵に後ろを見せないものを貴族と呼ぶのよ! それに―――」

―――爆発。ゴーレムの行動を僅かに遅らせる程度でしかない。だが……この局面では僅かな時間が、貴重な時間となる。

「―――それに! 私は貴女に相応しいメイジだと! 貴女の立派な主だって証明しないといけないじゃない!!」

ゴーレムが足を高く上げ、ルイズ目掛けて踏みつけるように落とす。視界一杯に広がるゴーレムの足にルイズは硬く目を閉じた。
しかし、僅かの差で横から飛び込んできたエレアノールがルイズを抱きかかえ、一気に走り抜けた。同時にエレアノールは
その場にアイスを数個展開し、ゴーレムが踏み込むと同時に起動させる。キィンという音と共に数メイルほどの氷塊が生まれ、
ゴーレムの片足を包み込む。
その足止めが効力を発揮している間にエレアノールは十分な距離を走り、そこでルイズを降ろす。呆然とするルイズに、
エレアノールはその頬を平手で叩いた。

「ルイズ! 何で逃げなかったのですか!!」
「え……え、だって……だって……」

ルイズの目から涙がぼろぼろとこぼれだす。エレアノールは硬く引き締めていた表情を、フっと和らげて微笑みを浮かべる。
110名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 23:02:26 ID:82/Q2KyS
支援
111虚無と賢女06話 2/12:2009/03/04(水) 23:02:44 ID:tydOk2at
「誇りをもって命を賭すのと、虚栄のために無謀なことに挑むのは別物です。それに……、ご主人様は気高き誇りを既に
お持ちじゃありませんか。何人にも折ることの出来なかった、決して諦めず投げ出さなかった誇りを……」

スっと立ち上がると背後に顔を向ける。エレアノールの視線の先には足を覆っていた氷塊を砕いて、体勢を立て直しつつある
ゴーレムの姿があった。

「私には、それがとても眩しく思えるのですよ……お仕えするに値するほどに」

―――それは憧憬の声―――

「エレアノール……貴女……」

エレアノールの背中越しに聞こえてきたのは、かつて夢の中で聞いた昏い声。それと同じものを含んでいた。

「―――あのゴーレムは私が相手をします。ご主人様は安全な場所へ」
「エレアノールッ!!」

エレアノールはデルフリンガーを握り直すと、ゴーレムに向かって駆け出した。ルイズは悲鳴にも似た叫びを上げてその後を
追おうとしたが、目の前にタバサが跨ったシルフィードが舞い降りて立ち止まる。

「乗って」
「でも、エレアノールが!」
「わかってる。でも、貴女が先」

ルイズは渋々とタバサの手を取り、シルフィードの背中へと引っ張りあげてもらう。ルイズがしっかりと跨ったことを確認する
と、タバサはシルフィードへ指示を与える。

「キュルケとエレアノールとロングビル、ゴーレムの隙があり次第順次回収」
「きゅいきゅい!!」

シルフィードは翼を大きく広げ、空へと舞い上がった。





ぶんッ―――重々しい音と風圧がエレアノールのすぐ脇を通り抜け、一瞬後には地面を揺らす衝撃となって響きわたる。それ
を引き起こしたゴーレムの拳は、一メイルほどの大穴を地面に作ってめり込んでいた。それが引き上げられようとする瞬間、
周囲にアイスが次々と設置されて即座に起動する。凍結し、ゴーレムの右手を地面へと縛りつける。

「えい!!」

地面から跳び、ゴーレムの左肩から胸にかけて斬りつける。残された左手を振り回してくるが、それをゴーレムの身体を蹴った
反動で距離を稼いで避ける。

「やるな、相棒。でも見てみな、斬ったところがまた再生してやがるぜ」
「そのようですね」

大きく斬り裂かれていた箇所が、徐々にくっ付き元通りになる。

「向こうの再生力がどれほどかは分かりませんが、このままでは消耗戦に持ち込まれると厄介です」
「あの手のゴーレムは術者のメイジを叩けばいいんだが、隠れたまま出てこねーみたいだな」

ガキンっと右手の氷塊を砕いてゴーレムが立ち上がる。

「そういや相棒はさっきから氷で凍らせてるみてーだが、あれで一気に全身を凍らせるのは出来ねーのか?」
「これだけ大きいと無理です―――ね!!」
112虚無と賢女06話 3/12:2009/03/04(水) 23:04:54 ID:tydOk2at
地を駆けて、立ち上がったゴーレムの足の間を一気に走り抜ける。同時に右足を斬りつけて、左足にアイスを設置する。潜り
抜けると同時にアイスを起動させ左足を氷で止め、残った右足が再生しきる前に完全に両断しようと振り返って斬りつける。
―――ガキィィィンッ

「ッ!?」
「いでででででッ!?」

今までの土とは違う手ごたえと衝撃に、デルフリンガーを握る手が痺れる。先ほどまで土だったゴーレムの右足が、鉄へと
変わっていた。

「お、おでれーた、相棒の攻撃を読んで鉄に錬金して防いだぜ」

左足を拘束していた氷塊もあっさりと砕け散って、ゴーレムは自由を取り戻す。

「それに氷を砕くコツも掴んできたみたいですね―――!!」

ビュンという風斬り音を響かせ殴りかかってくるゴーレムの拳を、後ろに跳んで避けて距離を取る。しかし、歩幅の違いから
すぐに距離は詰められる。

「相棒! 右から来るぜ!」
「分かってますッ!」

ゴーレムの拳を紙一重でかわし、逆に連続して斬撃を叩き込む。一瞬、ゴーレムの左腕は崩れかけるが、すぐに再生する。
ギーシュの青銅ゴーレムと違い、圧倒的な質量と再生能力を誇るフーケの土ゴーレムに、エレアノールは決め手に欠けていた。
ルーンの効果による身体能力の向上もゴーレムからの致命的な一撃を回避するには有効だが、逆に致命的な一撃をゴーレムに
与えるには力不足であった。

(正直、これは攻め切れませんね……)

エレアノールの顔に焦りの色が浮かび始めた。





ゴーレムとエレアノールの戦いにロングビル―――フーケは、顔に驚きの表情を浮かべたまま見入っていた。当初の予定
通り、四人をゴーレムに襲わせ『雷の宝珠』を使わせるつもりだったのだが、エレアノールの予想外の健闘にその目論見は
崩れつつあった。

「―――何なんだよ、まったく。あの女は!?」

ゴーレムの足に『錬金』をかけ終えて、小声でぼやく。本当は殴りつける腕に錬金をかけるはずだったが、エレアノールの
動きに反射的に足にかけて辛うじて防ぐことができた―――もし、土のままでは両断されて倒れていただろう。

「それにしても、さっきから氷漬けにされるのが厄介だねぇ」

先ほどからゴーレムの拳や足にまとわりつく氷塊に眉をひそませる。最初は空からタバサが魔法をかけてるのかと思ったが、
それにしてはエレアノールの攻撃とのタイミングが合いすぎる。無論、エレアノール自身がそれを行っているのなら説明が
つくが、そうだとすれば杖も呪文詠唱もなしに氷塊を生み出していることになる。

「つくづく謎の多い使い魔だね―――チッ!」

ぼやいている間に左腕の三箇所に深い斬撃を入れられ、崩れ落ちようとしていた。慌てて再生させるために精神を集中させて、
それらをつなげ直し―――消耗した精神力に軽いめまいを覚える。

(このままじゃジリ貧だねぇ……)

フーケの顔にもまた、焦りの色が浮かんでいた。
113虚無と賢女06話 4/12:2009/03/04(水) 23:07:18 ID:tydOk2at
上空からルイズはエレアノールとゴーレムの戦いを、ハラハラしながら見つめていた。ちょうど、木々の間から『フライ』で
飛び上がって合流してきたキュルケも、落ち着きのない眼差しで眼下に視線を向けていた。
彼女たちが見守るエレアノールの戦いは、ギーシュとの決闘の時に見せた疾さでゴーレムを翻弄しているようにも見えたが、
斬りつける端からゴーレムは再生し、決め手に欠けているのは一目瞭然であった。
そしてタバサは二人と違い、戦いそのものより時折ゴーレムの行動を阻害する氷塊を注意を払っていた。氷塊を生み出している
のは状況から見てエレアノールの仕業、なのに杖も持たなければも詠唱すらもしている様子がないと―――タバサの思考に
それらの信じがたい事実が深く刻まれる。

「タバサ! お願い、エレアノールを助けて!!」
「近寄れない、今は注意を引くのが精一杯」

シルフィードは何度かゴーレムの間合いギリギリを飛んでいるが、ゴーレムの方はそれをほぼ無視してエレアノールに
攻撃を加え続けていた。上空から援護するしようにも、タバサの『エア・ハンマー』程度ではゴーレムの表皮を
軽く削る程度、トライアングルスペルの『エア・ストーム』は至近距離にいるエレアノールを巻き込みかねない。
それでも注意を可能な限り引くために、タバサは『エア・ハンマー』を唱えて放つ。後ろではルイズが同じように杖を振って、
魔法を放つ。タバサの『エア・ハンマー』は狙い通り正確にゴーレムの頭へ、ルイズの『爆発』はゴーレムの胸に炸裂する。

「効果なし。これ以上は精神力を消費しすぎる」
「だからって、何もしないわけにはいかないでしょ!!」

ルイズの叫びにシルフィードに乗り終えたキュルケが頷いて、杖を振って火球をゴーレムへと叩きつける。

「そうね、こればかりは同意するわ」

火球を受けてもビクともしないゴーレムに、ルイズが再び杖を振って魔法を放つ。―――爆発、ゴーレムの肩が弾け飛ぶ。
先ほどまでと変わらない威力であったが、今度の攻撃に対してゴーレムは上空に顔を向けると、右手の手のひらに土の塊
―――恐らくは自身の身体の一部―――を生み出し、それを三人目掛けて投げつけてきた。空中でそれらは砂礫になり、
弾幕となってシルフィードへと襲い掛かる。

「避けて」
「きゃあぁぁぁ!?」

緊急回避のために大きく翼を羽ばたかせるシルフィード。しかし、砂礫は容赦なく襲い掛かった。

「きゅい〜〜〜!?」

一際大きな塊がシルフィードの頭と翼に当たり、地面へと墜ち始める。キュルケがとっさに『レビテーション』を唱え、
ルイズを抱きかかえて宙に舞う。ほぼ同時にタバサも宙に舞い、辛うじて墜落するシルフィードから飛び出し、何とか三人とも
着地に成功する。
先に墜ちたシルフィードは何とか起き上がろうとしているが、墜落のダメージが大きいのかその場で悶えていた。

(退却の選択肢が削れた)

森の中を散開して逃げる手も残されているが、下手すれば遭難する―――『フライ』の使えないエレアノールはほぼ確実に。
タバサは杖を握り締め、エレアノールとゴーレムの戦いを見つめた。

「エレアノール……」

そしてルイズは、戦いを思いつめた表情で見つめていた。
114虚無と賢女06話 5/12:2009/03/04(水) 23:09:38 ID:tydOk2at
エレアノールは何度目―――二十何度目になる斬撃をゴーレムの胴体に入れ、そしてまったく同じようにしぶとく再生を続ける
ゴーレムにため息をつく。

「これほどとは……、厄介ですね」
「あー、でも再生にも精神力使うから、このままいけば勝てるじゃね?」

デルフリンガーの言葉どおり、最初に比べてゴーレムの再生速度も明らかに遅くなっているが、状況は決して楽観できるもの
ではない。フーケが次の一手を打って状況を打開しようとする前に決着をつける必要がある、とエレアノールは考えていた。
ブゥン、と風切り音と共に視界に広がるゴーレムの拳をバックステップで回避―――しかし、先ほどのゴーレムの攻撃で地面に
降りてきたルイズたちに攻撃の矛先が向かないように、最低限の距離に留める。

(仕方ありません。何とか両足を断って、撤退するための時間を稼ぎ―――)
「『雷の宝珠』! 私に応えて!!」

エレアノールの思考を中断させたのはルイズの必死の叫び。振り向くといつの間にか『雷の宝珠』―――トラップカプセルを
掲げていた。エレアノールのために何か出来ることを、と考えた上でタバサから強引に受け取っての行動。だが、トラップ
カプセルはルイズに応えない―――魔法との相性の悪さゆえに。

「お願いッ!! お願いだから!!」
「ご主人様! 早く逃げて―――あッ!!」

エレアノールはルイズが掲げているトラップカプセルを見て気付く。自分が使っているアイスのトラップカプセルでは、
膨大な質量のゴーレムの足止めにも使えない―――だが、攻撃力に優れたサンダーのトラップカプセルなら?

「ご主人様、それをこちらに! 『雷の宝珠』を!!」
「え? ……ええ、分かったわ!」

ルイズから投げられたトラップカプセルをエレアノールは地を蹴って跳び―――その直後、ゴーレムの一撃が彼女の立っていた
場所に叩きつけられる―――空中で受け取り握り締めた。振り返りながら着地し、ゴーレムへとトラップカプセルを向ける。

「これで―――」

左手のルーンが一際大きく光り輝き、ゴーレムの足元に八個のトラップが設置される。

「―――終わらせて頂きます!!」

そして起動。―――眩い雷光と轟く雷鳴がゴーレムを包み込み、弾けた。

「おでれーた、すっげぇ雷撃だぜ」

デルフリンガーの呆気に取られた声が、雷鳴が消え去った後の静けさの中に深く響いた。雷撃の真っ只中にあったゴーレムは
全身からブスブスと焦げ臭い煙を上げており、徐々に崩れつつあった。
ルイズはその様子を呆然と見つめていたが、ゴーレムが完全にただの土の塊になると安心して放心したのかその場に崩れる
ように座り込んだ。タバサはゴーレムの最後を見届けると、「きゅい〜〜〜」と痛みに耐えているシルフィードの元へと
向かい、キュルケも驚きと喜びの表情を浮かべてエレアノールの元へと駆け寄る。

「お疲れ様、エレアノール! ギーシュの時もそうだったけど、貴女には本当に驚かされるわね!」
「いえ、それほどでも……。それより、ゴーレムを操っていたフーケは?」

その言葉にキュルケは首を振る。フーケを探していたが見つからなかった、と。

「そうですか……。あと、ミス・ロングビルは見かけられませんでしたか?」
「そういえばどうしたのかしら―――あ、いたわよ。どうやら無事みたいね」

辺りを見回していたキュルケが、ある一方へと指差した先に森の中から歩いてくるロングビルの姿があった。

「皆さん! ご無事ですか!?」
「ミス・ロングビル! 今までどうしてたのかしら?」

キュルケの問いかけに、ロングビルは顔を伏せる。
115虚無と賢女06話 6/12:2009/03/04(水) 23:11:42 ID:tydOk2at
「申し訳ありません。森の中で突然当身を入れられて、つい先ほど、気付いたばかりなのです……」
「じゃあ、そっちもフーケに襲われてたってこと?」
「恐らくは……、黒いローブも着込んでいたみたいですし」

ロングビルはキュルケとの問答を切り上げると、エレアノールに顔を向ける。

「それにしてもミス・エレアノール、貴女は『雷の宝珠』を扱えたのですね?」
「ええ……、私も同じものを持ってますし」

デルフを地面に突き刺し、空いた手で服の中から手持ちのトラップカプセルを取り出す。『雷の宝珠』と寸分違わぬ見た目の
それに、ロングビルと近くにいたキュルケ、そして放心状態から立ち直って寄ってきていたルイズが目を丸くする。

「ええええ〜〜〜!? な、何で貴女がこれを持ってるのよ!?」

ルイズの叫び声は、静けさを取り戻しつつあった森に強く響いた。キュルケはその叫び声の大きさに顔をしかめ、ロングビルは
口をパクパクさせながらエレアノールのトラップカプセルに見入っていた。

「これは知り合いの学者さんが作った魔法を応用したトラップカプセルというものです。中に決まった種類のトラップ、魔法
仕掛けのカラクリが入ってまして、こういう感じに―――」

手近な地面に設置するように操作する。パシュっという軽い音と共に、なだらかな起伏をもった板状のアイスが設置された。

「望んだ場所を決めて設置して、好きなタイミングで起動させるように考えれば、それを読み取ってくれるのですよ」

キィンという音と共にアイスが起動し、先ほどのゴーレムに対して使ったときよりも小さめの氷塊を生み出す。

「では、先ほどの『雷の宝珠』も同じ方法で使えるのですか?」
「……ええ、その通りですよ」

ロングビルの言葉にエレアノールは頷いて同意する。

「なるほど……。あの、その正体が何であれ学院の秘宝であることは間違いありません。『雷の宝珠』をこちらに……あと、
見比べてみたいので貴女のトラップカプセルもお借りしてもいいですか?」
「構いませんよ」

手を伸ばしてきたロングビルに、『雷の宝珠』とトラップカプセルを手渡す。

「―――でも、魔法そのものとは相性が悪くて、メイジには使えないものらしいです」
「ッ!?」

エレアノールの言葉にロングビルの表情が固まった。二つのトラップカプセルを持つ手も、僅かながら震えている。

「それじゃあ、あたしたちには使えないの? ミス・ロングビルの次に試してみようと思ったのに」

キュルケがトラップカプセルを見ながら残念そうに呟く。

「作成した学者さんも言ってましたし、先ほどもご主人様が使えなかったので間違いないですね。……ミス・ロングビルも、
『今までに一度くらい』は試されたことはありませんか?」

エレアノールは微笑みながら、自然な動作でデルフリンガーの柄に手をかけて、僅かながら重心を移動させる―――引き抜いて
いつでも斬りかかれるように。キュルケやルイズは気付いていないが、目の前のロングビルはそれに気付いて瞳に動揺の色を
浮かべていた。

「それではミス・ロングビル、そろそろ私のトラップカプセルを返して頂けますか? 学院に戻るまで、フーケが再び
襲ってこないとも限りませんし、迎え撃つにしてもトラップカプセルがある方が有利なので」
「そうね。タバサのシルフィードも回復したみたいだし、そろそろ戻るべきよね」

ルイズの視線の先では、タバサの回復魔法で痛みが治まったシルフィードが「きゅいきゅい♪」と元気に鳴いていた。
エレアノールも横目で見ながら、ロングビルから自分のトラップカプセルを受け取り、服に仕舞い込む。
116虚無と賢女06話 7/12:2009/03/04(水) 23:14:13 ID:tydOk2at
「それじゃあ帰りましょ。……でも、シルフィードもいるのに帰りも馬車なのは嫌よねぇ」

キュルケのもっともな言葉に、シルフィードの治療を終えて歩み寄ってきたタバサが口を開いた。

「上空の偵察役と地上の馬車役、二手に分かれればいい」





馬車はゴトゴトと音を立てて学院への帰路を順調に進んでいた。
馬車の上には御者のロングビルとデルフリンガーを抱えたエレアノールの二人、残りの三人はシルフィードに乗って上空を
優雅に学院への帰路を辿っていた。

「ねぇ……」

ロングビル―――フーケが前を見たまま、エレアノールに話しかけたのは道のりの半分を終えた辺りであった。

「あんた、いつから気付いていたんだい?」
「確信はもてませんでしたが……気付いたのは、あの廃屋の中で『雷の宝珠』を見つけた時ですね。―――違和感は、
宝物庫で貴女が伝えてきた目撃情報を聞いたときからずっとありました」

鞘から若干刀身を覗かせているデルフリンガーが、興味深そうにカチャカチャと鍔を鳴らす。

「へぇ……? あたしが持ってきた証言のどこがおかしかったのだって?」
「どこがというより、一通り全部ですね。昼間でも暗い森の中で黒ずくめの男を目撃したという農民。そんな深夜に真っ暗な
森で黒ずくめの人など見えるものじゃありませんし、目撃者が灯りを持っていたのならフーケも気付いているはずです」
「ああ、言われてみればそのとおりだね……やれやれ」

淡々と話すエレアノールに、フーケは苦笑しながら肩を揺らす。

「その目撃者が貴女の聞き込みに応じる―――朝から聞き込みを開始したのであれば、少なくとも学院の近くまで目撃者が
来ていたことになりますけど、馬で四時間以上もかかるほどに距離が離れているのであれば、偶然にしても出来すぎてます。
……もちろん、目撃者がフーケかその協力者で誤った情報を貴女に伝えた、と言い逃れできますけど」
「ははは……、言い逃れさせる気があるのかい?」

苦笑を通り越した、明るい―――しかしどこか空虚な笑い声。

「農民が真実フーケの目撃情報を知らせたものと考えるにしては、不自然なほどの偶然の連続。一方で誤った情報を掴まされた
としたら、『雷の宝珠』があの場所にあること自体がありえません。……しかし、実際に置いてあった以上、フーケには何かの
『目的』で置いておく必要があったのと、私たちが回収してもそれを取り戻す『手段』を持っていたということです」

一呼吸言葉を置いて、エレアノールはフーケの様子を伺う。笑い声は収まっていたが自分のミスに呆れているかのように、
押し殺した含み笑いで肩を震わしている。

「―――その『手段』は、メンバーの中にフーケかその協力者がいるだけで容易に達成できますしね」
「それであたしが怪しいって……わけか」
「ええ、それにあの時、あわよくば私のトラップカプセルも盗ろうと考えたのでしょう?」

フーケは肩を竦めて聞こえるようにため息をついた。そして自嘲気味な笑い声を交えて答えてくる。

「やれやれ、欲張りすぎたって話だね……。ああ、目的は『雷の宝珠』の使い方だよ。売り払うにしろ使うにしろ、使用方法が
わからなきゃ価値もつかないし意味がないだろ? ゴーレムで襲えば、使い方を知ってる奴が対抗するために使うと踏んでいた
の……だけどねぇ」

ガタンゴトン、と大き目の石を車輪が轢いて、馬車が大きく揺れる。その揺れに合わせるように、フーケは肩を落とした。
117虚無と賢女06話 8/12:2009/03/04(水) 23:16:48 ID:tydOk2at
「それで……あたしをどうしようって言うんだい? このまま学院に連れて帰って、オールド・オスマンのセクハラ爺に突き
出す気かい?」
「……貴女は何で貴族ばかりを狙われるのです? 確かに見返りは大きいですが、危険も相応に大きいですよね?」

自分の命運をかけた問いかけ―――答え次第では全力で逃げることも想定していた―――に、問いかけで返されてフーケは
肩透かしを食らった気分になる。

「……あたしは貴族が嫌いなんだよ。偉そうに振舞っているくせに、自分の欲望に忠実な自制心のないケダモノじゃないか。
それに、見返りの大きいというのも大切なんだよ。倉に貯めこまれているより、もっと有益に使われるべきなんだし」
「そうですか……」

エレアノールは相槌をうつと、そのまま黙り込む。ゴトゴトという馬車の車輪の音が大きく響いた。その沈黙にフーケは
最初は我慢していたが、すぐに気になるように後ろを振り向く。

「……黙ってられたら気になるじゃないか、何とか言って欲しいもんだね」
「いえ、ちょっと知り合いを思い出していたもので……失礼しました」

どこか慈しむような微笑みを浮かべてエレアノールは頭を下げる。

「念のために聞きますが、『雷の宝珠』や私のトラップカプセルはまだ狙っておられるのですか?」
「メイジには使えないのだろ? その手の盗品を裏で買い取ってくれそうな貴族様はメイジばかり。でも、使えもしなければ、
平民の反抗するための牙になりそうな厄介な秘宝を、欲しがるわけがないじゃないか。安く買い叩かれるのがオチだね」

言葉の最後に、貴族に恨みを持つ平民に渡すのも一興かもね、と愉快そうに付け加える。

「……じゃあ、もう私たちに手出ししないというのであれば、何も言いませんよ。私たちは『土くれ』のフーケを追撃して
取り逃がしたが、辛うじて『雷の宝珠』を取り戻した。それだけのことです」
「気前がいいねぇ―――で、何が望みだい? それだけ羽振りがいいこと言うからには、交換条件で何かあるんだろ?」
「察しがいいですね。……貴女がもつ情報網で調べて欲しいことがあります」
「調べて欲しいこと?」

フーケの声色に好奇心が混じる。エレアノールは一息深呼吸すると、トラップカプセルを手にとって見つめる。

「このトラップカプセルは私の世界―――遠い故郷の産物です。『雷の宝珠』に関してはオールド・オスマンに後でお聞き
しますが、それ以外にも帰るための手がかりが必要なのです。貴女には、変わった噂や事件……そういったことを調べて
教えてもらいたいのです」
「へぇ……、てっきりヴァリエールのお嬢ちゃんに仕え続けるのかと思っていたけど、里心でもわいたのかい?」
「それをお答えする必要はありますか?」

フーケはエレアノールの答えに、呆れたように肩をすくめる。

「つれないねぇ……。ま、いきなり拉致紛いの召喚で使い魔にされたら、普通なら激怒するだろ? それなのに、あんたは
嫌な顔を一つせずに忠実に従ってる。はっきり言って信じられないよ―――あんたみたいな名家、しかもかなりの上級貴族の
出自の者だとね。正直、今さらって感じはあるね」
「私が上級貴族と? その根拠は?」
「雰囲気に物腰。……メイジじゃないのが不思議だけど、言い換えればメイジじゃないこと以外は、貴族としての教養を
まともに受けてるように見えるねぇ」

エレアノールはその言葉を聞いて深く考え込む。しばしの間、馬車の音が再び大きく響いたが、今度はフーケも急かすことは
しなかった。

「……別に私は強引に連れてこられたとは思っておりませんよ。気がついたら使い魔になっていたというのは少々呆れました
が、ご主人様も良い方ですから不満はありません―――正直なところ、帰れたとしてもまたお仕えするために戻ってくるかも
しれませんし、ね」

言葉を区切り、感慨深げにふぅ、と息をつく。
118虚無と賢女06話 9/12:2009/03/04(水) 23:19:13 ID:tydOk2at
「……それに、私も貴族としての名を剥奪された、みたいなものです」
「へぇ……」

フーケはどこか親近感―――同じ境遇の者へ向ける好意の感情―――を秘めた視線をエレアノールに向ける。

「―――話は飛びましたが、今言ったことを調べていただけますか?」

ゴトゴトと馬車は順調に学院への帰路を進んでいた―――

「いいさ、その条件を飲んでやるよ! 正体を知られた以上、あんたに命を握られているに等しいからね。投獄されて
処刑されるのに比べれば、その条件なら天国みたいなものさね!」
「よろしくお願いします、ミス・ロングビル―――いえ、フーケとお呼びするべきですか?」
「人前じゃロングビルって呼んでもらいたいね。本名も別にあるが……教える気はないよ」

―――その馬車の上で大貴族の令嬢に仕える使い魔と、貴族専門の大盗賊との間に紳士協定に等しい盟約がその時、結ばれた。

「やれやれ、相棒はお優しいねぇ」
「このことは秘密ですよ、デルフ」
「わかってら! おれっちだって空気くらい読める!」

一人、会話に入れなかったデルフリンガーは、少々寂しそうに鍔を鳴らしていた。





タバサは二人の会話を聞いていた。正確には、風の魔法を使ってシルフィードに二人の声が届くようにして、聴覚を同調させる
ことで聞いていた。ロングビルの正体とその目的、そしてエレアノールがそれを見逃すことも全て。しかし、タバサはそれ以上
に重要なことを聞き逃さなかった。

(『私の世界』……言い直していたけど、確かにそう言った)

その言葉がもつ意味を考える。後ろで軽い口喧嘩を始めているルイズとキュルケの声が、雑音として響くが思考を妨げるほど
でもない。

(つまり彼女はここを『別の世界』として考えている)

思考を一つ一つ進めて解を求める。聖地の向こう―――ロバ・アル・カリイエのことを最初に考えるが、それはあくまで
『東の世界』であって『別の世界』ではない。次いで思い浮かべたのは、文字通りの『異世界』、子供向けの寓話や小説で
まれに出てくる概念だった。

(ありえない……、本当に『ありえない』ことばかり)

眼下に広がる草原、その中で学園への帰路を順調に進む馬車を視界に捉える。エレアノールとフーケの会話は歓談へと変わり
つつあったが、タバサはそれらの言葉も逃さないように一言一言を脳裏に刻みはじめた。





学院に帰還した五人の報告にオスマンは顔を綻ばせてそれを讃えて、エレアノールとフーケを除く三人に爵位と勲章の授与申請
を、フーケに金一封の進呈を約束する。エレアノールにも金一封を渡そうとしたが、それを丁重に断って話したいことがあると
申し出て学院長室に残った。ルイズは残ろうとしたが、エレアノールの申し訳なさそうな顔とオスマンの退室を進める言葉に、
他の三人と一緒に渋々と部屋から出て行った。

「さて、話したいこととは何じゃね? もしやわしの側に仕えたいと申されるのかのぉ? それならば、次席秘書として
ミス・ロングビルと共に―――」
「いえ、そのようなことではなくて、『雷の宝珠』についてお伺いしたいことがあります」
119名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 23:21:19 ID:yOq0f1+N
私怨
120虚無と賢女06話 10/12:2009/03/04(水) 23:21:31 ID:tydOk2at
エレアノールに一言であっさりと否定され、オスマンは明らかに残念そうな顔をする。しかし、一瞬後には元の表情へと取り
繕い直す。

「あの『雷の宝珠』は私が居た世界の道具―――トラップカプセルという道具です。私も同じものを持っています」
「ふむ……、確かに『雷の宝珠』と同じものじゃの」

エレアノールの差し出したトラップカプセルに、目を細めて頷く。

「それで『雷の宝珠』をどこで入手されたのでしょうか? 少なくとも、こちらの世界では手に入らないはずです」
「『私の居た世界』に『こちらの世界』か……、なるほどのぉ」

エレアノールの『世界』を故意に使った推し量るための言い回しに、オスマンは何やら納得するように頷く。

「いや、ミス・エレアノールの言葉で合点がいった。それの持ち主も同じようなことを言っておった」

オスマンは懐かしさと、そして軽い後悔が混じった表情を浮かべて、三十年前に『雷の宝珠』を入手した経緯を話し出した。
―――森でワイバーンに襲われたときに一人の男性に『雷の宝珠』で救ってもらったこと、そして瀕死の重傷を負っていた
男性は看護の甲斐なく亡くなったこと、そして形見として『雷の宝珠』と彼が所持していた幾つかの物品を持っていることを。

「彼はベッドの上でうわごとを死ぬまで繰り返しておったの。『ここはどこだ? 何故、時の航路図が使えない?』とな。
……『時の航路図』とやらは、これのことかの?」

机の引き出しから取り出された金色に鈍く光る、一見すると幾つかの時計が組み合わさったようなアイテムに、エレアノールは
息を呑む。

「……ええ、それは確かに『時の航路図』です。私たちの間では移動用のアイテムとして使っていました。もちろん、制限は
ありますが。少し、お借りしてもよろしいでしょうか?」

時の航路図。遺跡と地上を瞬時に移動でき、また既に入ったことのある遺跡ならば自由に移動できる冒険者の必須アイテム。
震える手で時の航路図を受け取り、移動したいと思うだけで起動するその機能を試す。
―――しかし、何も起こらない。

「どうじゃの?」
「……やはり、壊れてるみたいですね」

元の持ち主の言葉から薄々予想はついていたが、期待が打ち砕かれてエレアノールはため息をつく。遺跡の中では時の航路図が
使えない場所もあるため、本当に壊れているかどうかは分からなかったが、少なくとも役に立たないことには変わりなかった。
時の航路図をオスマンへと返し、自分と同じ異邦人の詳細を知るための疑問を投げかける。

「それでその男性はこちらにどのようにして来たとか、何か言っておりませんでしたか?」
「ふぅむ……、意識が朦朧としておったからのぉ。わしも聞いてみたのじゃが、あまり要領を得なかった。他に言っておった
ことと言えば『俺は早くバルデスさんの仇を取るんだ』とか言っておったが」
「―――ッ!? それは、確かに言っておられたのですか?」
「ああ、そうじゃ。間違いなく言っておったのじゃが……それがどうかしたのかの?」
「いえ……、何でもありません」

震える声を隠し切れないエレアノールに、オスマンは怪訝な顔をする。

(私と同時期の誰かが、『三十年前』のこちらの世界迷い込んだということになるのでしょうけど……)

遺跡―――精神世界アスラ・ファエルの時空が乱れているのは、冒険者の間では周知の事実であった。ある遺跡の階層では、
一日を過ごしても地上では一瞬のことであったり、逆に地上での一ヶ月が僅か十数分で過ぎ去る階層もある。同時に同じ階層
に多くの冒険者が入っても、並列する別々の時間軸に分かれてお互いに会うこともなかった事例。そして、数日前に行方不明に
なった冒険者が死後数ヶ月を経過した状態で発見されて、その後に遺跡に入った者が行方不明になる前の『生きていたときの
冒険者』と出会っていた事例すらあった。
121名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/04(水) 23:27:11 ID:3blpldbI
支援 
122代理 虚無と賢女06話 11/12:2009/03/04(水) 23:54:10 ID:DQne8aaj
「何やら考え込んでいるようじゃが、話は以上かの?」
「え? はい、色々とありがとうございました」

エレアノールは礼を述べると、学院長室を後にしようとし―――

「ところで、ミス・エレアノール。その左手のルーンについて知りたいことはないのじゃろうか?」

老練さと威厳さ、そしてどこか愛嬌を感じさせるオスマンの声色に、エレアノールは目を瞬かせた。





ルイズは学院の着付け部屋の前で、まだ終わってないエレアノールを待っていた。先ほどまでにぎわっていた生徒と教師は
既に舞踏会会場へと立ち去っており、着付けを手伝っていたメイドたちもほとんどが会場での他の仕事のためにこの場を後に
していた。
辛抱強く待っていたルイズであったが、我慢の限界が近づいたのか着付け室を覗こうと思い出したとき、ちょうどそれを
見計らったようにドアが開いた。

「お待たせしました、ご主人様」
「遅かったじゃないのよ!」

口では文句を言いつつも、ルイズはエレアノールの美しさに目を見張っていた。長い黒髪をフィッシュボーンにまとめ上げて
銀細工の髪飾りのアクセント、青いドレスは引き締まった身体のラインを美しく見せ、麗しい雰囲気を引き立てていた。自分の
見立ての正しさを誇りつつ、ルイズは表情を取り繕い腕組みをする。

「なかなか似合ってるじゃない。私の従者として合格よ」
「ありがとうございます、ご主人様も似合っておられますよ」

ルイズの可憐な高貴さを引き立てる衣装へのエレアノールの褒め言葉にに、「当然じゃない」と言い、顔を背ける。それは
照れ隠しの動作だと見え見えであった。

「……あ、あと、もう『ご主人様』って言わなくていいからね! 特別に、『ルイズ』って名前で呼ぶことを許してあげるん
だから!」
「よろしいのですか?」
「貴女は態度もいいし、それくらい構わないわよ。それに……『雷の宝珠』奪還の立役者に、せめて私から報奨を与えないと
不公平じゃない!」

ルイズの態度にエレアノールは微笑みを浮かべて頷く。

「では、ルイズ様。そのようにいたします」
「じゃあ、早く行くわよ。 『フリッグの舞踏会』はもう始まってるのよ」

照れた表情を見せまいと先を歩き出すルイズの背中を見ながら、エレアノールは胸中で呟く。

(その真っ直ぐな心があるのなら大丈夫でしょうね。……いつかは貴女も気付くでしょう)

かしずかれ傲慢に他を見下して腐敗する貴族と、それに苦しめられている平民。魔法の使えないと嘲笑されているルイズは、
皮肉なことに見下される苦しみを知っている稀有な貴族であった。それゆえに、貴族社会に一石を投じる存在になりえる
可能性を秘めているとエレアノールは感じていた。

(貴女ならきっと大丈夫です……、そのことを祈ります)
「ちょっと! 早くついてきなさいよ!」
「はい、ただいま行きます!」

廊下の端から呼びかけるルイズに、エレアノールはドレスの裾を摘んで小走りで追いかけた。
123代理 虚無と賢女06話 12/12:2009/03/04(水) 23:54:49 ID:DQne8aaj
同時刻、女子寮のルイズの部屋。

「そりゃあ、おれっちは錆が浮いてて見栄え悪いけどよぉ。置いていくなんて酷すぎじゃね?」

まったく人気のない寮の静けさが、デルフリンガーの孤独感を一層かき立てていた。静けさゆえに、遠くから聞こえてくる
パーティの歓談が、孤独感をかき立てるように室内に響いてくる。

「せめて会場の外に置いておくとか気を利かせてくれよ、相棒ぅ」

―――それは悲哀の声。
間違いなく、確かに、一点の曇りも、誰もが疑う道理の全くない悲哀の声ではあったのだが、窓から差し込む月光と室内の
家具だけがそれを聞いていた。無論、聞いていたが何か特別な変わったことがあるわけでもなかった。





以上で今回の投下を終えます〜。
さて、次はアルビオン編なのですが、その前に幕間的な話を入れる予定です。
しかし……ニューカッスル城攻防戦にエレアノールが居たら、
王党派が素で勝ちそうなのですよねー……(しみじみ
124名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:03:02 ID:75lN+wJh
草民突撃の影響が凄いな
125名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:19:33 ID:iIqFnWM/
>>124
kwsk
126重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理:2009/03/05(木) 00:19:43 ID:EK/MStV+
>dion軍の巻き込まれ規制で投下できないので、どなたか代理お願いします。
問題がなければ5分後から投下します。
127重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理1/8:2009/03/05(木) 00:24:49 ID:EK/MStV+
 まだ日も昇らぬ暗がりの中、学院裏門にルイズとライデン、ギーシュが立っていた。アルビオンへと向かう
ために準備をしている最中なのだが、ルイズは特別何かをするわけでもなかった。一方のギーシュは自らの足
とするために馬へ鞍を取り付けている。そしてライデンはというと、相変わらずルイズの背後に控えて微動だ
にしなかった。
 先日の決闘騒ぎのために、二人の間に流れる空気は非常に気まずいものだった。じきに現れるはずのワルド
を待つ間、どうにも時間を持て余してしまう。流石に沈黙に耐え切れなくなったのか、ギーシュが口を開く。

「あー……、その、使用人の彼女に伝えてくれたかい?」
「! ちゃんと伝えたわよ」
「そうか、ありがとう」

 そこでまたして空気がも静寂に支配される。出発の準備は整い、することがなくなってしまったため、尚更
耐え難い雰囲気になっていた。時間を持て余したギーシュが何となしに足で地面を叩く。すると地面がおもむ
ろに盛り上がり、中から茶褐色の体毛に覆われた巨大なモグラが姿を現した。ギーシュは思い切り抱きつくと、
巨大モグラの毛皮に顔をうずめる。

「はぁー……、ごめんよヴェルダンデ。今から僕達はアルビオンに行かなきゃならないんだ。お前にはちょっと
大変な旅になるかもしれない」
「ギーシュ。あんたまさかそのジャイアントモールを連れて行く気じゃないでしょうね。私たちはアルビオン
へ行くのよ」
「君だってあのゴーレムを連れて行く気満々じゃないか。それならヴェルダンデも……」
「ライデンよ。ああ見えて結構素早いの、あんたも知ってるでしょ?」
「それを言うならヴェルダンデだって地面を掘り進むの中々に早いんだよ」

 二人がああだこうだと話し合っていると、巨大モグラは何を嗅ぎつけたか鼻をひく付かせた。のそのそと
地面を這いながらルイズに近付く。ギーシュを言い合っているルイズは忍び寄る影に気付いてはいないよう
だった。これ幸いとばかりに巨大モグラがルイズにのしかかろうとした所で、何物かにむんずと掴まれる。
 巨大モグラの行進を妨げたのは真紅のゴーレム、ライデンであった。巨大モグラといえども2.5メイルの
ライデンの前では可愛らしいものだった。ルイズは、そこでようやくきゅうきゅうという鳴き声を上げじた
ばたと逃げようとするモグラに気が付いた。何事かという視線を向ける。

「ヴェルダンデは宝石が大好物なんだ。君が付けている『水のルビー』が気になったんじゃないかな。で、
どうでもいいからヴェルダンデを放しておくれよ」

 ルイズはライデンに放すよう命令する。開放されたモグラは主人であるギーシュにすりより、丸まってし
まった。よしよしとギーシュが撫でていると、何やら翼が風を打つ音が聞こえ始めた。二人が顔を上げると、
翼を生やした幻獣のグリフォンが降りてくる。その背中には長身の男性を乗せていた。羽帽子を被り、口ひげ
を生やした男性はグリフォンから降りると、厳しい表情を貼り付けながら告げた。
128重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理2/8:2009/03/05(木) 00:27:09 ID:EK/MStV+
「姫殿下よりこの任務を承った魔法衛士隊が一角、グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・ワルド子爵だ。
同行者はラ・ヴァリエール嬢だけのはずなのだが……、君は?」
「は、はいっ。僕はこの度極秘任務の一員に加えていただいたギーシュ・ド・グラモンです!」

 ワルドは緊張した様子で敬礼をするギーシュをしばし眺めていたが、にやりと破顔すると手を差し出した。

「なるほどグラモン元帥のご子息か。君もまた国を思う貴族というわけだね。志を同じくする者が増えるのは
嬉しい限りだ。よろしく頼むよギーシュ君」
「よ、よろしくお願いします!」

 貴族の子弟にとって憧れの的であるワルドに握手を求められ、緊張しながらもギーシュはそれに応えた。
 一人感動するギーシュを置いておき、ワルドはルイズの元へ向かうと思い切り抱きしめた。突然抱きしめられ、
混乱しているルイズは挨拶することもできず、そのまま抱きかかえられてしまった。

「ワ、ワルドさま!?」
「ああ、久し振りだなルイズ、僕のルイズ! 元気にしていたかい? 相変わらず羽のように軽いんだな君は!」
「あ、あの、お久し振りです……」

 借りてきた猫のようになっているルイズを、物静かに眺めるライデンに気が付いたワルドはルイズを降ろして
ライデンに歩み寄ると、こんこんと鎧を叩いた。ルイズがライデンは自分の使い魔であると説明すると、更に気分
を良くしたようで大仰な手振りを交えながら感嘆の声を上げる。

「すごいじゃないかルイズ! こんな精緻なゴーレムを召喚したメイジは誰一人としていないよ!」

 それまで纏っていた高貴な雰囲気をかなぐり捨てたワルドに、ギーシュは思わずあんぐりと大口を開けて驚く
ことになった。今まで自分が抱いていたワルドのイメージが少しばかり崩れてしまう。ワルドの台詞からこてん
ぱんにのされた決闘を思い出し少しばかり顔をしかめたが、とにかく二人を置いて盛り上がっているワルドを
落ち着かせなければならない。

「あの、子爵は彼女とどういった関係なんですか?」
「おっとすまないね。10年ぶりに会ったせいかつい周りが見えなくなってしまったよ。彼女は僕の婚約者さ」

 ワルドの答えに、ギーシュは更に驚いてしまう。一員となるだけでも大変な努力と才能が必要とされる魔法
衛士隊。その中でも最も誉れ高いと評判のグリフォン隊隊長が、このお世辞にも優秀とは呼べない少女の婚約者
とは。つい数時間前の王女との会話といい、流石に大公爵の娘だけはある、ともじもじするルイズを眺めて認識
を新たにすることとなった。

「さあ時間は余りない。そろそろ出発するとしよう」

 そう、自分達に与えられた時間は多くはないのだ。ワルドの言葉にルイズとギーシュはさっと顔を引き締めた。
129名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:28:24 ID:iIqFnWM/
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130重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理3/8:2009/03/05(木) 00:29:06 ID:EK/MStV+
 使用人達がそろそろ起きてくるだろう時間、学院長室の中でアンリエッタは不安な表情を隠さずにいた。遠き
アルビオンに向けて出発する一行が見えなくなるまで眺めると、胸の前で手を組み、始祖ブリミルへと祈りの言葉
を捧げる。

「やはり、ご不安ですかな?」

 それまで豪奢な机に書物を広げ、溜まっていた決済書類を片付けていたオスマンが尋ねる。先日のフーケ騒動の
影響で体調を崩したロングビルが中期休暇を取っているために、学院長室には様々な本が積み上げられ床はうっす
らと埃に覆われている。結果オスマンが本を置く度に溜まった埃が舞い上がり、書類を書く隙間を見つけるのも苦労
する有様であった。流石に客を迎えるための一角は掃除しているが、雑然とした雰囲気はごまかし様がなかった。
 ランタンに灯された火に照らされたアンリエッタの顔は、陰影も相まって余計に憂いが深そうに見えた。窓を閉
じるとオスマンを見やる。

「学院長はどう思われますか? 自らの学院の生徒をこのように危険な任務につかせることを」
「当然不安はありますな。ですが姫殿下のご命令とあらば断る訳にもいきますまい」

 オスマンの答えにアンリエッタは俯いてしまう。実際そのように思われて当然なのだが、こうもはっきりと自ら
の命令と言われてしまうと罪悪感が湧く。自分はオスマンに何の不安もないと、気に病む必要はないと言って貰い
たかったのだろうか。なんとも愚かしいことだ。かつての親友を死地へと送り出したのは紛れもない自分だというのに。
 そんなアンリエッタの内心を見透かすかのようにオスマンは口髭を揺らしながら話を続ける。

「まあワルド子爵もおりますし、何よりヴァリエールの使い魔がおりますでな。
わしとしては案外上手くいくと考えておるのですよ」
「ルイズの使い魔……、あの赤いゴーレムですか? 見慣れない装飾だとは思いましたが……」

 こっそりと部屋を訪れた時も、先程出発を見送った時も、ルイズの傍には常にあのゴーレムがいた。確かに得体の
知れないゴーレムではあると感じたが、それだけでは実力を測れるはずもない。オスマンが大丈夫だと考える根拠が
気になった。

「一週間と少し前に、この任務についたヴァリエールとグラモンが決闘しましてな。あの赤いゴーレムとグラモンの
青銅のゴーレム7体を戦わせおったのです。……ああ、私闘禁止云々は置いておいて下され」

 その後、赤いゴーレムことライデンが7体のワルキューレを瞬く間に倒してしまったこと、あの使い魔ならばルイズ
一人くらいなら簡単に守りきれるだろうことを話した。しかしアンリエッタの顔は優れない。

「たとえあのゴーレムが強力だとしても、成功を保証するものではないのではありませんか? この任務が失敗すれば
トリステインの未来が危ういのですよ」
「そうお思いになるのなら、失敗した場合を想定して動きなさるべきではないですかな? 仮に失敗したとして、
結果トリステインが蹂躙されるがままにしていては彼らが報われませんぞ」
「……そうですね、ごめんなさい」

 そう、最早犀は投げられたのだ。最良の目が出るか最悪の目が出るか、それを人間が知ることなどできない。果たし
て今自分にできることがあるのだろうか。鳥篭の中で飼われている無力な自分に。オスマンの言葉はアンリエッタに
とって痛い点を突いていた。
 実の所、オスマンが楽観的な態度を取っているのにはもう一つ理由があったのだが、この時点でそれをアンリエッタ
が知ることはなかった。
131重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理4/8:2009/03/05(木) 00:30:07 ID:EK/MStV+
 学院を出発してから、正午をとうに過ぎ日が傾き始めた現在までワルドはグリフォンの速度を緩めることはなかった。
一刻を争う任務のため、僅かな時間の浪費も惜しかったのだ。ワルドはふと25メイル下の大地を疾駆している赤い
ゴーレムを見やった。

「全く驚いたな。君の使い魔がここまで速いとは」

 そう、ルイズの使い魔であるライデンは左肩にギーシュとその使い魔ヴェルダンデを纏めて抱えているにも拘らず、
風竜、飛竜に次ぐ速度を誇るグリフォンに一歩も遅れずに追随しているのだ。しかも走っているのではなく、地面を
滑るように移動している。博識なワルドとしても、このようなゴーレムを目にするのは初めてだった。

「やはり君は素晴らしい才能を持っているんだね。あのようなゴーレムを使い魔としたのが何よりの証拠さ」
「……あの、ワルド。あなた、どうして姫様にわたしが優秀だなんて言ったの? わたし、全然魔法使えないのに……」

 これまでの道程中、ワルドに抱かれる格好でグリフォンに跨っていたルイズは、任務を言い渡された時から気に
掛かっていた疑問を口にする。ワルドはこれからの任務への不安など少しも持っていないといった笑顔で答える。

「さっきも言ったろう? 使い魔は主人の鏡なんだ。それでなくても僕は君が素晴らしい才能を秘めていることを知っている」
「でも、わたしたち10年間も会ってなかったのよ。なのに突然わたしを指名するなんて……おかしいわ」
「いいや、おかしくなんてないよ。この10年間、一度たりとも君を忘れたことなんてなかったんだからね」

 ワルドの口調に何か含むものを感じたものの、ルイズはそれを上手く説明できなかった。笑顔と一途な言葉に何
となく誤魔化されてしまう。

「……なんでわたしなの? あなたならもっと良い人がいくらでもいるはずじゃない」
「酷いな。いつか君を迎えに行く為に僕は出世したのに」

 ワルドの言葉は脳髄を溶かすほどに甘い。しかし甘い蜜の先には罠が仕掛けられていることもあるのだ。食虫植物
のように。どうあってもワルドは自分を振り向かせたいらしい。女性として世間的にも認められている男に、これほど
熱心に口説かれるのは名誉なことであるのは間違いない。しかし、己の脳内の何かが決して信用するなと警告を発して
いる。これまで不遇の人生を歩んできたルイズの感覚が、どうしても目の前の男を受け入れることはできないと拒絶
している。
 むっつりと黙りこくってしまったルイズを見て、ワルドは頬をかきながら少しばかり困った声を出した。

「まあいい機会だ。一緒に旅をする間にもっとたくさん昔話をしよう。きっとあの頃の気持ちを思い出してくれるさ」

 自分が6歳のころに両親が勝手に決めた婚約話。確かにあの頃はワルドと結婚するというのは嬉しかった。だがそれ
は遠い記憶の彼方にあり、現在の感情ではない。突然現れて婚約者だ、と宣言されても簡単に頷けるわけもなかった。
自分の心に纏わりつくこのワルドへのかすかな不信感が、尚更邪魔をする。本当に言われるままに結婚してよいのだろうか
132重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理5/8:2009/03/05(木) 00:32:36 ID:EK/MStV+
 自らの使い魔であるヴェルダンデと纏めて、空箱を運ぶかのように軽々と持ち上げられているギーシュは複雑な
気分になっていた。あの決闘の後、完膚なきまでにワルキューレを倒したライデンに追い付くため、特訓をしてい
たのだが余り実り多いとは言えなかった。単体による戦闘能力の向上と最低限の連携を維持を目的に、錬金する
ワルキューレの数を7体から3体まで減らしているものの、眼下で大地を疾走する赤いゴーレムに勝てそうもない。
膂力・硬度・速度においてワルキューレの遥か上を行き、何より具体的な命令無しで自律行動するゴーレムは、
ギーシュがこれまでの人生で見てきたいかなる『土』のメイジであっても作れないだろう。そもそもゴーレムは
主人が創り出して使役するもので、使い魔としては異端なのだ。厳密にはゴーレムではなく、アルヴィーズのよ
うなマジックアイテムの類なのかもしれない。とそこまで考えた所で苦しそうに鳴くヴェルダンデに気付いた。

「ごめんよヴェルダンデ。多分夜までには着くからもう少し我慢しておくれ」

 出発する際、ワルドにヴェルダンデの随行を嘆願した時、やはり渋い顔をされ、流石に諦めざるを得ない状況
となった。だが肩を落としながら巨大モグラを置いていこうと決心した所で、意外な所から援護された。それほど
までに連れて行きたいのなら、ライデンに担がせればいいとルイズが言ったのだ。その後、この巨大モグラを運ば
せるなら主人も纏めて運ばせようという話になり、現在に至るというわけであった。

「姫殿下に認められたらモンモランシーとケティも許してくれるかなぁ……」

 シエスタの行動により、手酷く二人に振られた後も中々仲直りができずにいた。何とか話しかけて謝ろうとして
いるのだが、毎度先方に逃げられてしまい、実現には至っていない。この任務を終えたら真っ先に二人の元へ行こう。
自らの不貞のため、元の鞘に収まることは難しいだろうが、それでもこの想いを伝えたかった。ギーシュは決意する。
 すでに日は沈みつつあり、この調子ならば本当に本格的な夜を迎える前にラ・ロシェールに着きそうであった。




 日が沈んで幾ばくもなく、一向は切り立った峡谷に挟まれたラ・ロシェールの玄関口へと到着した。よもや馬で
二日はかかる距離を一日で到達してしまうとは、いかにグリフォンに乗っているといえども相当な強行軍であった。
ルイズが眼下を見下ろすと、ライデンも同じく谷へと入っている。前方には一枚岩から削りだされた街の明かりが
煌々と輝いており、とりあえず一安心だとルイズが安堵しようとしたその時、頭上の崖から何本もの松明が投げ込
まれ、次いで矢の嵐が降り注いだ。

「きゃあぁぁぁっ!」
「くっ、山賊か!? おのれっ」
133名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:34:18 ID:iIqFnWM/
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134重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理6/8:2009/03/05(木) 00:34:45 ID:EK/MStV+
 ワルドが杖を引き抜き、応戦しようと呪文を唱えようとしたその時、余りにも予想外の事態となる。
 地上にて同じように奇襲を受けたライデンが、抱えていたギーシュ達を放り出すと、背中から輝く光を撒き散ら
しながら猛然と上昇してきたのだ。瞬く間にワルドとルイズの乗るグリフォンを追い抜いて崖の上に飛び出すと、
手にした巨大な棍棒を賊へと向け、凄まじい勢いで光弾の雨を降らせる。崖上からはもうもうと爆炎があがり、
ラ・ロシェールに激震が走り重々しい爆発音が響き渡った。
 慌ててワルドが崖の上にグリフォンを上昇させると、賊がいたであろう場所は完全に煙に包まれ何も見えない
状態となっている。その時一陣の強風が吹き、すうっと煙が流れていった。煙が晴れると、そこにはライデンと
いくつもの盆状に削られた大地以外に何もなかった。ワルドとルイズが言葉を失っている所に、翼が空気を打つ
音と共に青い風竜が降りてくる。

「ちょ、ちょっとルイズ、今の何よ!? 助けようとしたらあんたの使い魔が倒しちゃったじゃない!」
「ゴーレムが魔法……初めて見た」

 唐突に風竜に乗ったキュルケとタバサが現れたにも関わらず、ルイズは目の前の光景に釘付けとなっていた。

「ルイズ……、君の使い魔は一体……?」
「わたしにも判らない……」

 呆然となったワルドの疑問にルイズとしても答えようがなかった。十数人はいたはずの山賊は血煙となって消滅
した。今しがたライデンが使った魔法は、爆発するという点では己の失敗魔法と同じように見えるが、その破壊力
は比較にならない。しかも単発ではなく連続であの規模の魔法を放てるというのは異常に過ぎる。ゴーレムという
には性質が奇妙だと思っていたが、ライデンはマジックアイテムの一種なのかもしれない。自らの使い魔による戦闘
とすら呼べない一方的な破壊劇を眼にしてルイズは思わず震え上がる。もしもあの力が自分に向けられることがあれ
ば、死んだことにも気付くまい。たとえワルドであっても大差はないだろう。
 一行はとりあえず谷底で地面に延びているギーシュの元へ降り立った。ライデンはこともなげに崖上から飛び降
りると、やはり光を放出しながら着地した。ルイズはギーシュを介抱しつつ、未だ動揺する心を落ち着かせるために、
キュルケに対して文句を言う。

「で、あんたがなんでここにいるのよ?」
「朝ちょっと起きたときに丁度出発するあなたたちを見かけたのよ。しかもグリフォンまでいるとなれば、ただ事
じゃないのは一目瞭然。あたしはタバサを叩き起こしてこっそりついてきたってワケ」

 あっけらかんと答えるキュルケにルイズは思わずこめかみを押さえる。ギーシュといいキュルケといい、どうして
こうも横槍が入るのだろう。
135重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理7/8:2009/03/05(木) 00:36:45 ID:EK/MStV+
「あのねぇ、わたし達はお忍びなのよ? 全く勝手についてきて」
「いいじゃない。旅は道連れ世は情け。面白そうなことに首を突っ込まないなんてツェルプストーの名が泣くわ」

 ますます頭痛が酷くなってくる。少なくともおいそれと任務の内容を話すわけにはいかず、説明無しに帰れと言った
ところでこの女が素直に頷くとも思えない。ルイズが頭を抱えていると、キュルケはワルドに目を付け、すすすと身を寄せる。

「あら、どなたかと思ったらグリフォン隊の隊長さんじゃない。ねぇ、口髭の素敵なあなた、情熱ってご存知?」
「麗しい女性にそう言われるのは光栄だが、これ以上近付かないでくれたまえ。婚約者が誤解しかねないのでね」

 ワルドはキュルケを押しのけると、介抱しているルイズを見やる。状況も弁えずに男とあらば言い寄るキュルケに
文句を言おうとした所でワルドによる婚約者宣言をされ、ルイズは怒っているような恥ずかしがっているような、
複雑な表情を浮かべた。目の前の男が売約済みだと知ると、キュルケは途端に興味を失くした。ツェルプストーの歴史
に則って寝取ってみるのも一興であったが、流石に今それをするのは憚られた。何よりワルドの瞳に冷たい物を感じ
取ったキュルケは、この男に深入りするのは余りよろしくないと判断したのだった。
 介抱の甲斐あって、ようやくギーシュが目を覚ます。まだ事態を飲み込めていない様子だったが、とにかく気付いた
ことを確認すると、一行は宿を取ることにした。強行軍だったこともあり、一旦休みを取らなければならない。爆発
騒ぎに集まってきた野次馬を押しのけて街へと入る。
 キュルケはこそっとルイズに近付くと、耳打ちした。

「ねぇ。あなたの使い魔だけど、あれ何? 魔法使えたの?」
「……知らないわよ。わたしだってライデンが魔法使えるなんて初めて知ったんだから」

 キュルケはふぅんと鼻を鳴らすと、最後尾をのしのしと歩き殿を務めているライデンを見やる。つられてルイズも
振り向くが、当のライデンは相変わらず物言わぬ石像の如きであった。そのときキュルケの傍を歩いていたタバサが呟いた。

「あのゴーレムは異常。あなたは一体何を召喚したの?」

 その言葉にルイズは詰まってしまう。ライデンが一体何者なのか、そんなことは自分が一番知りたい。だが問い詰め
ようにも、ライデンは何も答えることはなく、結局情報は一切手に入らない。己の使い魔は本当にこの世界の産物なの
だろうか。あの図体で空を飛び、強力無比な魔法を行使するなど、まるで神々の創り出した神兵ではないか。
 夜が更けるラ・ロシェールにおいて、ルイズの疑問に対する答えを持つ者は誰一人として存在しなかった。
136重攻の使い魔 第7話『騒乱と疑惑』代理8/8:2009/03/05(木) 00:38:12 ID:EK/MStV+
775 名前:重攻の使い魔 ◆ecegNbNqok[sage] 投稿日:2009/03/04(水) 22:06:51 ID:V3O8kfkU
以上です。今回はバズーカ解禁でした。
137名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:38:14 ID:lUAQf2vl
>>125
ニ、三日前に草民が集団で2ch運営板に糞スレ乱立させたの。
それで全鯖規制が大量に発生。そりゃもう大量にネ
138名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:40:55 ID:iIqFnWM/
ありがとう。
何だってそんな迷惑なことをするかねえ……

>>136
乙です。
139名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 00:44:13 ID:ojDwJ8l7
インターネット全体の低年齢化が著しいということさね。
140名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 01:14:21 ID:OijDStK1
重攻さん乙です。
ライデンが使ったのは実体弾バズーカだな。
グランドボムや肩部レーザーは何時使うか楽しみです。
141名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 02:59:35 ID:TZJqIo+0
>>139
精神的な年齢だな
142名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 03:17:34 ID:c8SOCTaE
重攻の人乙ー
・・・ウェールズさん、船諸共蒸発しなきゃいいけど
143名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 08:45:52 ID:fYCUM7CF
重攻の人乙

ワルド超頑張れ。
レコンキスタ艦隊の運命はお前の双肩にかかってるぞw。
144名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 09:14:17 ID:egnfJSsW
シンクロ召喚!!
145名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 10:05:59 ID:0qkSy1fj
我が魂、レッドデーモンズ・ドラゴン!!
146名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 11:17:55 ID:lJnqGxwp
カードゲームってちょっと離れてると浦島状態になるな。
147名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 11:57:34 ID:Y/VJ4hIr
アクエリアン・エイジとかな。
148名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 12:01:17 ID:VSTWCwQl
遊戯王系で誰かが呼ばれるとしたら十代だと全体攻撃が可能な
ワイルドジャギーマンでワルキューレ一掃しそうだな
149名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 12:01:47 ID:R4UXCQzh
PS2をネットに繋いでないのでカルドセプト、フルコンプ出来ない

にょろーん
150名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 12:19:55 ID:OowcK1Zb
>>149
さあDS版だ
151名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 12:28:33 ID:cd2sRneX
遅ればせながら重攻さん乙
山賊はバズーカを使うに値する驚異とみなしたのかw
ギーシュはまぁ山賊以下なのは仕方がないのかな
152名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 13:47:00 ID:enAK7cFM
戸愚呂弟召喚
フーケのゴーレムを20%で撃退しそう
ワルドが何%まで引き出せるか
153名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:01:47 ID:u2gqS7PY
正直20パーでも大概な事になりそうだよな
ワルドなら60パー位は…
154名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:10:58 ID:b/zZeBtV
フーケのゴーレムとか戸愚呂が戦うって意味じゃヘレンちゃんより弱いだろ多分
ロリコン子爵もせいぜい30が限度じゃない?
魔法の効き具合によっては筋肉操作する必要すら無いかもってレベル
155名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:12:07 ID:enAK7cFM
20%は四聖獣倒した頃の幽助桑原2人がかりでも勝てない強さだったな
ワルドも20%どまりかも
156名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:15:11 ID:Y/VJ4hIr
あとはまあ、戸愚呂弟がデルフを使うかどうか…って、これはあんまり問題ないか。兄貴が変形した剣を使ったりしてたから与えられれば素直に使うだろうし。
というか、デルフは戸愚呂弟の膂力に耐えられるのかという疑問もあるけどなー。
157名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:36:32 ID:f22IbI+b
そういえば、サイトの出自を改編するのはNGになるのかな?
たとえば元いた世界が世紀末救世主な地球とか、
日本民主主義人民共和国とか
158名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:37:08 ID:8YpQzhot
戸愚呂弟の目的って闘いとその裏側に誰かに殺されたいだからジョゼフ召喚の方がらしい。
159157:2009/03/05(木) 14:38:07 ID:f22IbI+b
訂正、サイトを召喚、ただし元いた世界を改編するのは、だ。
160名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:40:29 ID:W+kDMCK/
サイトを九重州中学出身にしたSSを考えたことならある。
極端な万能選手にでもしない限り、ある程度はいいんじゃないのかな。
161名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:40:34 ID:iMOEWdSR
>>157
何度も出てるけど、
その場合はそれっぽい作品とクロスさせちゃった方が早いかと。
完全オリジナルだと改変と言うよりオリキャラになっちゃうし。

あの作品の〜スレだとクロス先にいるサイトが
ルイズ以外に喚ばれたり、巻き込まれていたりはしているな。
162名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:40:47 ID:R4UXCQzh
>>157
もう幾つかあるしいいんでない?
駄目だったらその時皆が指摘してくれるさ
163名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 14:46:03 ID:IjOyxZdG
>>157
来るのが紛れもなくサイトなら、こっちのがいいんでね?

【IF系】もしゼロの使い魔の○○が××だったら10
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1235138415/
164名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:13:12 ID:jHOIiJu4
つーかフーケゴーレムとかワルド以前に戸愚呂弟と戦わされるギーシュの身にもなれw
165名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:17:21 ID:b/zZeBtV
美しい魔闘家ギーシュになるから大丈夫だよ!
166名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:18:05 ID:TZJqIo+0
今さらだがウルトラ五番目の〜は>>163向きじゃないのか?
167名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:20:16 ID:WhIcHd2m
>>163
そっちだとサイトの設定改変で改変した要素が他作品でクロスの要素があった場合こっちに行けと言われるみたいだぞ
「ゼロの使い魔統合スレッド」ってのがあるからそこに投下するのがいいと思う
168名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:38:15 ID:HS2fbjXA
てか5万相手にデコピンだけで無双する戸愚呂弟を幻視したww
169名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:41:36 ID:OPA8I0Ql
でも案外ルイズのエクスプロージョンなら倒せるかも
170名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:46:31 ID:HS2fbjXA
>>165

裏マルコメ
黒レイナール
魔ギムリ
なぜか浮かんだw
171名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:52:34 ID:rY0k7FcH
ONE PIECEよりブルック召喚を誰か書いてくんないかな。
あの世界に行けば、いたるところでパンツ見せろとか言ってくれるだろう。
骨身の手にどうやってルーンを刻むのか?とかガンダールヴの力なんて
最初からいらないんじゃないのか?とか色々と難解な問題があるけど……。
172名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 15:57:47 ID:HS2fbjXA
>>171

問題は…
タバサ涙目
てか多分カトレア以外ビビりまくり。
召喚するならルフィに会う前が吉

だな。
173名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 16:09:06 ID:dGMBeVt6
>>172
実体があるからタバサも平気じゃないか?
他の連中も亜人あつかいで納得するんじゃないかい。
174名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 16:13:07 ID:HS2fbjXA
イヤ…多分例の台詞が出るから…
見た目白骨死体だしw
175名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 16:19:54 ID:HS2fbjXA
sage忘れスマソ
176名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 17:45:58 ID:cd2sRneX
ワンピースだったらチョッパーとか良さそうなんだけどな
もこもこで可愛いし腕利きの医者だし
ちい姉さまとの一緒の場面を想像するだにすっげー和む
177名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 17:56:05 ID:BL02/6KW
麻生首相の本を買ってマスゴミ涙目にしようぜ!
( ´∀`)゜Д゜)・∀・)゜ー゜)´_ゝ`)^ω^)<人員募集中!


本スレ↓
http://takeshima.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1236231824/
178名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 18:08:48 ID:4Mv4DboZ
クロコダイル召喚の人戻ってきてくれないかなあ……と
原作で再登場したのを見ながら思う
179名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 18:17:03 ID:MP7K+qa8
>>178
なん・・・だと・・・・
クロコダイル復活したのかよ、久しぶりにジャンプ読みに行くか

俺もクロコダイルの続きよみてー
180名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 18:24:12 ID:jHOIiJu4
美しき魔闘家ギーシュだと適度な運動と美味い食事で、最終的には戸愚呂弟を超えそうなんだが…w
181171:2009/03/05(木) 18:26:16 ID:rY0k7FcH
よく考えてみたら、ブルックは骨だから唇なんて無かった。
これじゃ最初から契約なんて無理だな。
182名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 18:33:23 ID:IjOyxZdG
バーチャロイドに反射衛星レーザー砲に戦闘機にヘリコに本にPARまで召喚されてるのに何を今更w
183名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 19:26:58 ID:MyKfHuUu
FC版DQ3からオルテガ召喚。
「ルイズが覆面“マント”にパンツ一丁の“メイジ”を召喚したぞー!」
184名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 19:37:33 ID:PSU6da/7
まあオルテガはライデインとか使えるけど、やっぱり学院ではポカパマズで通すのかな。
小説DQ2からガルチラ召喚、祈りの指輪の代わりにアンドバリの指輪を使って…
185名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 19:53:13 ID:MyKfHuUu
オルテガは実はすごい耐性を持っているんだよね。
メラ・ギラ・イオ・火炎以外に完全耐性だから、とりあえずワルド涙目。
体力はボスクラス。攻撃力は上位五本に入るくらい高い。
殺人鬼スタイルにもかかわらず闇ゾーマに次ぐ守備力もある。
魔の島に泳いでたどり着き、ゾーマの祭壇直前まで侵入できるくらいの異常な行動力もある。
ゼロ戦無くてもタルブ戦を何とかできそうだ。
186名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 19:54:29 ID:OAxwtiPc
トルネコが召喚されるも学院が不思議なダンジョンと化してしまい
迷う生徒続出
187名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 20:12:46 ID:xDsiJPX1
そういやトルネコ召喚も更新止まってるな
どうでもいいけど
188名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 20:13:17 ID:pIfHOgp5
迷っても親切なももんじゃに蹴り出してもらえるから問題ないよ!
189名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 20:18:20 ID:kCOT2w6S
>>188
身包み剥がれた上にレベル1にされてからだけどな。
190名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 20:19:43 ID:m+B6cVxW
>>186
それならトルネコさんよりも邪悪な箱が呼ばれた方が…
191名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 20:20:50 ID:iQj8GtJ+
>>185
sfcのオープニングだときちっとした服装してるよな。毛皮?だけど
そのうえ一人という…
元祖勇者は伊達ではないってことだろうか
192名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 20:58:26 ID:93DnrgyD
ベルセルクの人、そろそろ来ないかな。もう三ヶ月経つけど。
193名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 21:31:05 ID:OAxwtiPc
日替わりの人来ないかな
194名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 21:37:11 ID:C5hNgOkN
タバサの冒険の3巻が今月発売されることに、今更気付いた……情報遅すぎるだろ、俺……。
195名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 21:59:03 ID:9F6sfBYi
途中書き捨ても多いからなぁ
作者が続きを執筆する意思のある作品っていまどんぐらいあるんだろうな……?

気が向いたら作者の人顔見せと執筆中宣言してくれませんかね
196名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 22:40:19 ID:OAxwtiPc
一話一話書くんじゃ無くてPVみたいなダイジェスト風味ってのはありなんだろうか
197名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 22:47:43 ID:xDsiJPX1
よくわからんが
保管庫のYES?ナイトメア0みたいなのならいいんじゃね
キッチリ完結してる良作だよなアレは
198名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/05(木) 23:43:38 ID:OAxwtiPc
なんかわかりやすい例が無いかなと思って
まとめの小ネタ見てたらプロアクションリプレイ召喚に盛大に吹いたw

で本題だけど「ゼロの大統領ルイズ変 メタルウルフルイズ」が一番近いかな
199名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:02:17 ID:cC8Oha2s
BALLS召喚した奴で大爆笑した
あれの続き書いて欲しい
200名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:02:29 ID:8bcg6YwF
蒼天航路の人も重要なイベントだけ飛ばし飛ばしだったけどあれはあれで良かったな。
201名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:09:24 ID:a0DY7Wcg
>>172
それだと日に当たったら消えるからスリラーバーグに行く前
黄泉返って50年船で彷徨っている頃で

>>200
原作の方を読めば面白い物が見えるよ
202名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:11:08 ID:Jla2XnOU
…そういえば原作のほうのワルドってどうなってたっけ?
203名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:12:31 ID:GL9NP5Mb
>>202
強すぎたため、そのままフェードアウト。しょうがないね
204名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:15:26 ID:SzHOJt2l
よく分からんが、
飛ばし飛ばしと言えば、「気さくな王女」もいくつかのイベントをイザベラ視点でで飛ばし飛ばししていた。
PVみたいなダイジェストというわけでないけど……。
完結した良作だったし。
205名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:18:43 ID:93i7vThj
投下がないんで小ネタ読んでだんだが、羅将神ミヅキねネタが面白かった
あのまま続かないのが残念だよ
206名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:24:41 ID:sjVSRFXs
書いていてルイズがダース・ベイダー化していく……そりゃあもうギフトや虚無の闇のルイズの如く。
207重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:25:19 ID:ooTyfref
問題が無ければ5分後から代理投下開始します。
208名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:28:27 ID:4jP92c3o
よろしい、それでは支援だ
2091/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:30:06 ID:ooTyfref
 一行はラ・ロシェールで最も高級な宿である『女神の杵』に泊まることとなった。安宿を利用して先程の
山賊騒ぎのような余計な厄介事を抱え込む可能性を少しでも減らすためだ。少なくともこの宿の中では値段
に見合った秩序が保障される。この任務に関わる費用は全てアンリエッタの懐から出ることとなっており、
金銭面での心配はなかった。
 だがルイズとしては友人であり敬うべき殿下から受け取った資金で、飛び込み参加してきたキュルケと
タバサまでこの宿に泊めるのは甚だ不満であった。アンリエッタ直々に参加を認められたギーシュはともかく
何故この二人までも面倒を見なければならないのか。不満は我慢の容量を超え、口を伝って表へと零れ出る。

「あんたたちはどっかの安宿にでも泊まってなさいよ」
「あぁら、こぉんな美女を野獣だらけの安宿に追い出すなんて薄情ねぇ。もしものことがあったらどう責任取るつもり?」
「わたしはあんたがどうなろうと知ったこっちゃないし、色目を使われても何とも思わないわよ」

 タバサはいがみ合う二人をよそに、ロビーに設えられた岩盤削りだしのテーブルで読書に耽っている。
ギーシュはというと、使い魔のヴェルダンデとじゃれ合っていた。アルビオンへの定期便乗船のため、ワルド
が桟橋へと交渉に向かっている間の暇を持て余しているようだった。高級宿のロビーに何やら統一感のない珍妙
な集団がやってきたことで、一向は他の宿泊客の注目を集めていた。
 その中でも最も人目を引いたのは、キュルケの美貌でもなく床の上で転がる巨大モグラでもなく、超然とした
態度で立ち尽くすライデンだった。2・5メイルの長身のため、学院よりは手狭なこの宿では部屋へ入れることは
できない。結果ロビーの置物と化しているのだが、先程のライデンが起こした騒ぎを目撃していた者もいたようで、
遠巻きにひそひそと囁き合う光景がちらほらと見受けられた。
 その時、交渉へ出向いていたワルドが返ってくる。石造りの椅子へ腰を下ろすと、困ったことになったとばかり
に軽く溜息を付いた。

「参ったね。アルビオンへの定期船は明後日にならないと出ないそうだ」
「そんな……、せっかく急いでここまで来たのに……」

 思わぬ場所で足止めを食うこととなり、ルイズは思わず肩を落とす。一刻を争うこの任務は、一日の遅れが致命的
な結果をもたらしかねない。ここで地団駄を踏んだとしても何も変わらないのだが、それでもどうしようもない現実
に腹を立ててしまう。
 落ち込んだと思いきや、不満だらけな表情を見せたりと、せわしないルイズの肩をワルドが優しく叩く。

「仕方がないよ。どちらにせよ今日は休むことになるんだ。明日もう一度船を出せないか交渉してみるよ」

 見回すと、明日出航できないことに疑問を感じて首を傾げるキュルケにタバサが小声で解説しているのが見える。
ギーシュは特に疑問を挟む様子もなく、ふんふんと頷いていた。ワルドは受付から受け取った鍵束をテーブルの上
に置き、部屋割りを決めていく。

「キュルケ君とタバサ君は相部屋。ギーシュ君は一人部屋だ。で、僕とルイズは同室。構わないだろうルイズ?」

 何気なく言い放たれた言葉に、ルイズの反応が一瞬遅れた。そしてはっとなると、勢いよく首を左右に振りながら拒絶する。
2102/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:32:10 ID:ooTyfref
「だだだ駄目よ! わたしたちまだ結婚してるわけじゃないのよ!? なのに同室なんて……」
「別に疚しいことをしようとしているわけではないよ。ただ大事な話があるんだ。できれば二人だけで話をしたい」

 真剣な表情でそう迫られると、ルイズとしても強く拒絶できなかった。誰か助け舟を出してくれる人間がいないかと
周囲を見回すも、にやにやと含み笑いを顔に貼り付けたキュルケと我関せずのタバサ、後はこちらの内心など理解しそ
うもないギーシュしかいなかった。ライデンに頼んでワルドを引き剥がすのも気が引ける。結局部屋割りが変更される
ことはなく、空気に流されるがままにワルドと相部屋となってしまった。




 ラ・ロシェール最高の宿、更にその中でも最高級の部屋だけあり、天蓋付のベッドには相当に値が張ると思われる
秀麗な刺繍が施されたレースのカーテンが取り付けられていた。削りだしで作られた部屋の壁は顔が映るほどに磨き
上げられ、床には腕の立つ職人の手によって編まれた赤い絨毯が敷かれている。
 ワルドは備え付けられているボトルラックから年代物の高級ワインを一本取り出し、ワイングラスを二つ手に取ると、
テーブルへと腰掛けた。ルイズも同じように腰を下ろすと、置かれたグラスにワインが注がれる。深みのある色を湛えた
赤ワインだった。
 ワルドがグラスを掲げ、ルイズもまたそれに答える。二つのグラスはかちんと小気味よい音を立て、注がれたワインが波打つ。

「姫殿下からお預かりした手紙は持っているかい?」

 ルイズは小さく頷くと、手紙の収められたポケットを服の上から押さえた。
 預かった手紙の内容、おそらく自分が予想している通りの内容なのだろう。ウェールズ皇太子へ向けて送られたと
いうのは、きっとそういうことなのだ。自分にはまだそこまで強く想える相手はいない。もしも、アンリエッタが普通
の貴族に生まれていたならば、今頃自由に遊びまわり、望む相手と結ばれていたかもしれない。自分とももっと近しい
関係でいられたかもしれない。ルイズはとりとめのない思索に耽る。
 その沈黙をどう受け取ったか、ワルドは安心させるように優しい声音で話しかける。

「不安なのかい? ウェールズ皇太子から無事に手紙を取り戻せるのかどうかが」
「……ええ、そうね。不安だわ」

 実際には別のことを考えていたのだが、余計な面倒を起こすこともないと、とりあえずルイズは頷く。
 ルイズの返答を聞くと、ワルドは笑顔を交えながら励ますように言う。

「大丈夫だよ。きっと上手くいくさ。なにせ僕がついているんだからね」

 その言葉にルイズは違和感を覚える。本当にワルドがいれば問題ないのだろうか。むしろ強烈な力を見せ付けた
ライデンの前で、グリフォン隊隊長がどれほどの物だと言うのだろう。もしかしたらどうあってもライデンに勝てない
という現実を認めたくないのかもしれない。もとよりライデンを打ち倒せるメイジがいるのかどうか、疑問符が付く所
であった。始祖ブリミルが行使していたという伝説の系統『虚無』ならばどうだろう。倒せないまでも抑止力にはなる
かもしれない。ルイズは神の気まぐれによって授けられた、ライデンという形をした力を持て余していた。
 とりあえず思考を打ち切り、大事な話とやらを切り出すことにする。
2113/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:34:38 ID:ooTyfref
「それで、大事な話って何なの?」
「……覚えているかい? あの日、君の屋敷の中庭にある池で交わした約束……」

 ワルドは遠い記憶を探り出すように、情感を多分に含ませた声で語り始める。ルイズがいつも母親に叱られていた
こと、出来のいい姉と比較されていたこと、悲しくなると池に浮かべられた小船の中で泣いていたこと、どれもが今
のルイズに繋がる余り楽しいとは言えない思い出だった。

「でも僕はそれは間違いだと、ずっと思っていたんだ。確かに君は不器用で失敗ばかりしていたけれど……」
「意地悪なことばっかり言うのね」

 正直ルイズにとって、この手の過去を話題にされるのは不愉快だった。なにせ現在になっても未だ連綿と繋がって
いるのだ。自らの不出来を他人の口から語られるのは気分のいいものではない。
 苛立ちを顔に浮かべたルイズを見て、ワルドは慌てて話を続ける。

「違うんだよルイズ。僕は君を貶めてるわけじゃないんだ。君は失敗ばかりしていると思われがちだが、それこそが
他人にはない特別な力を持っている証なんだ。僕は自分が並みのメイジではないと自負している。だからこそ君が素晴
らしいメイジとなる素質を持っていることが判るんだ」

 余りにも突飛なことを言い出したワルドにルイズは疑わしげな表情を作る。出来損ないの自分を持ち上げるなど、
どうかしている。
 己の話を信用していないルイズに構わず、ワルドは更に捲くし立てる。

「君の使い魔、ライデンと言ったね。あのゴーレムの左拳に刻まれたルーン、あれは始祖ブリミルが使役していたと
言われる伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印なんだ」
「ライデンが伝説の使い魔? そんなこと……」

 そんなことが、もしかしたらあるのかもしれない。ワルキューレを紙屑を扱うかのように蹴散らした決闘、山賊たち
を骨すら残さず消滅させたあの事件、キュルケのサラマンダーだろうがタバサの風竜だろうが、きっと瞬く間に倒して
しまうであろう己の使い魔。まるで神の眷属とも思えるライデンの姿に、ルイズは否定することができなかった。
 動揺する様子を見せるルイズに、ワルドは鋭い視線を向ける。

「君は間違いなく偉大なメイジになる。僕なんて比較にならないほどにね。そう、始祖ブリミルのように歴史に名
を残す、ともすれば君自身が伝説と呼ばれるようになるだろう。僕はそれを確信している」

 今までの価値観の全てが変わってしまったかのような錯覚。自分が始祖ブリミルのようなメイジになる。幼い頃から
無能と蔑まれ、卑屈な精神にならざるを得ない環境で育ってきたルイズにとって、一連の話は余りにも衝撃的だった。
 畳み掛けるかのようにワルドはとどめの言葉を放つ。

「この任務が終わったら結婚しよう。僕は今の地位に甘んじるつもりはない。いずれ真の力に目覚めた君に釣りあう
男になるためにも、一国を、いやハルケギニア全土を動かせる貴族となってみせる」
212名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:35:39 ID:bFO0XukG
しえん
2134/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:36:36 ID:ooTyfref
 余りに唐突な求婚。確かに道中で散々婚約者だと言っていたが、この任務終了と同時に結婚するなど性急すぎる。
思わず拒絶の言葉が口をついて出る。

「そ、そんな急に言われても……。わたし心の準備が……」
「僕にとっては急じゃない。ずっと、ずっと前から君と結婚したいと考えていた」
「で、でも、わたしまだ子供だし……」
「16歳は子供じゃないよ。君は自分のことはもう自分で決められるはずだ。父上にも許しを頂いている」

 ルイズがどれだけ拒絶の口実を作った所で、ワルドは執拗に食い下がってくる。

「確かに10年間も放っておいたことは謝るよ。今更婚約者だなんて言えた義理でないことも分かってる。だがそれでも、
僕には君が必要なんだ。君以外の女性では駄目なんだよ」
「ワルド……」

 常識的に考えれば、これほど情熱的に求愛されれば頷くだろう。文武あらゆる面で優れた男に必要とされるのは、
女にとって最高の幸せに違いない。しかし、ルイズはどうしても首を縦に振ることができなかった。どれだけ求めら
れても、目の前の男を信用しきれないのだ。10年ぶりに再会した男女、幼い頃の婚約を忘れなかった男、一途に女を
思い続けた男、実にドラマティックだ。だが余りにもでき過ぎてはいないか。その後の伝説の使い魔の話や、熱っぽく
語った野心が尚更疑惑に拍車をかける。
 ワルドは黙ってしまったルイズを見て、悲しげな表情を作る。

「僕では駄目なのかい、ルイズ……?」
「わたし……、わたしは……」

 ルイズがどうやっても頷かないのを見ると、ワルドは大げさな手振りを交えて一転して明るい口調になった。

「まあいいさ、今返事をくれとは言わない。何しろ急な話だからね。君が混乱するのも無理はないよ」
「……うん」
「でも僕は諦めはしないよ。この旅できっと君を振り向かせてみせる」

 ふと俯いていた顔を上げた時、ワルドの瞳に狂的な何かを感じ取ったルイズはすぐさまに目を伏せてしまう。どうして、
どうしてこの男はこれほどまでに自分を求めるのだろう。自分に秘められた力とやらが欲しいだけなのではないか。新たな
不信が積み上げられる。

「もう寝よう。疲れただろう?」

 ワルドが自然な動作で口付けを迫ろうとしたが、ルイズはやんわりとそれを拒絶した。やれやれと言わんばかりに肩を
すくめると、ワルドは呟いた。

「急がないよ、僕は」
2145/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:38:44 ID:ooTyfref
 もの静かな洋館。そこに人影はなく、月明かりに照らされたその姿は、どこかしらおぞましい雰囲気を纏っている。空に
浮かぶ月は銀色に輝き、地上を睥睨している。その洋館の玄関口にルイズは立ち尽くしていた。なぜ自分はこんな場所に
いるのだろう。理由などない。強いて言うならば、ここにいるのがその理由なのだ。そこに疑問が挟まれる余地はない。
 洋館の周囲は雑草が茂り、長い間ここに人間が訪れていないことを物語っている。ふと、ルイズはこの館に入らなければ
ならない衝動に駆られた。とにかく入らなければ、そこにはやはり疑問はない。
 長年放置され、さび付いた蝶番が軋みを上げる。どうにか扉を開くと、内部は当然暗闇に支配されていた。しかし、窓の
傍は月明かりが差し込み、宙を舞う埃が光の舞踏祭を広げていた。ルイズは玄関ロビー奥の扉へと向かう。床に散らばった
ガラクタを蹴飛ばすたびに静かな洋館に音が響く。設えられた棚の上には眼球を失くした人形が、虚ろな瞳をルイズへと向
けている。
 その時、どこからか泣き声が聞こえてきた。

「誰が泣いてるのかしら……」

 泣き声に引き寄せられるようにルイズは奥へ奥へと足を進める。しばらくすると暗闇にも目が慣れ、ぼんやりとではあるが
室内を見渡すことができた。足が折れて倒れた椅子。分厚く埃の積もったテーブル。床には皿や鍋などの食器が散らばってい
る。どうやらここは食堂のようだ。
 そしてまたしても件の泣き声が響く。よく聞くと、階上から聞こえてくるようだ。ルイズは食堂を出て、上へと向かう階段
を探す。月光に照らされた廊下をしばらく歩くと、館の端に位置する場所に階段を見つけた。手すりは折れ、所々踏み板が
抜けている。足を挟まないように慎重に二階へと上る。三階へ向かう階段はなかったので、とりあえず廊下伝いに進む。ある
扉を開けると、そこは書斎らしかった。主人を失った多くの書物には埃が積もり、中々帰ってこない主人を健気に待ち続けて
いる様でもあった。
 試しにルイズが一冊取り出してみると、ふわりと埃が舞う。咳き込みながら書物を開くと、そこには見たこともない文字
でなにやら長々と書き連ねられていた。

「なにこれ? どこの言葉かしら」

 適当にページをめくると、いくつか図説が載っているの目に留めた。人間のような人間でないような、いうなれば人形の
絵がそこに描かれている。ここは異国の人形師の屋敷なのだろうか。それきり興味を失くしたルイズは本を閉じると、元の
位置に戻した。扉を開けっ放しにして書斎を出ると、またしても泣き声がした。

「もう、どこにいるのよ」

 階上から響く声に、流石に苛立ちながら階段を探す。こんな奇妙な設計の屋敷に住むなんて、主人も相当な変人だったに
違いない。廊下に散らばる瓦礫を踏み抜き、砕きながら目的の三階へ向かう階段を見つけた。先程の階段と大差ない風化っ
ぷりだったが、気にせず上へと向かう。三階へ上がってみると、水平方向から声が聞こえた。どうやらこの階にいるらしい。
これまではくぐもってよく聞こえなかった声が若干明瞭になる。
2156/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:40:09 ID:ooTyfref
「……るのー? パ……姉様ぁ……」

 耳を澄まして聞く限り、どうやら幼い女の子のようだ。こんな廃屋に少女が一人泣いているのは異常なことであったが、
ルイズは特に疑問に思わない。そういうことになっているのだから、考えるだけ無駄なのだ。廊下を進むと、窓から館を
取り囲む森を見渡すことができた。背の低い木がほとんどだったので、割かし遠くまで見通せるのだが、視界に人間が住
むような建物は一つとして見当たらなかった。
 そうしている内に、少女が泣いているであろう部屋の前に到着した。流石にこの距離となるとはっきりと聞こえる。父親
と姉とはぐれ、泣きじゃくっているらしい。ルイズは錆付き、かつては美しい輝きを放っていたと思われるドアノブを掴み、
静かに扉を開いた。開いた扉から差し込む月の光に照らされ、果たしてそこにいたのは、橙色のワンピースを身につけ、同じ
色の三角帽子をかぶった、見た所10歳かそこらの少女だった。

「パパ、お姉様……お願い、ここから出してよぅ。寂しいよぅ、悲しいよぅ。あたしもお外に出たいよぅ……」

 少女は背を向けているので顔はよく分からない。だがルイズはとにかく慰めなければならないと思った。

「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「ぐすっ、パパたちがね、あたしをここから出してくれないの……」

 はぐれたわけではなく置いていかれたようだ。親とも思えぬ所業にルイズは思わず腹を立てる。この泣きじゃくっている
少女の力になりたい、そう考えると、少女を遊びに誘う。

「それじゃあ、お姉さんとかくれんぼでもする? きっと楽しいよ」
「いなくなったりしない?」
「しないわよ」
「本当……?」

 少女の言葉に、ルイズは何度でも肯定の返事をする。少女はおずおずと振り向いたが、肝心の顔は影になってよく見えなかった。

「かくれんぼして遊んだら、お姉さんと一緒にここから出よう?」
「ほんと!? あたしここから出られるの!?」
「うん、お姉さんと一緒にね。そしてあなたのお父さんやお姉さんを探そうね」
「うんっ!」
「そうだ、お嬢ちゃん、お名前はなんていうの?」
「あたし? あたし――――っていうの!」

 少女は朗らかに笑う。そのはずなのだが、ルイズにはよく分からなかった。何故か少女の顔の部分だけ影になって見る事
ができないのだ。名前の部分もよく聞き取れない。早速少女は壁に顔を当て、数を数え始める。早く隠れなければ。少女に
隠れる旨を伝えると、ルイズは静かな廊下を走り出した。
2167/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:42:09 ID:ooTyfref
 翌朝、ワルドの声でルイズは目を覚ました。何か夢を見ていたが、よく思い出せない。とはいえ夢を思い出せないのはよく
あることなので、大して気にも留めずに身支度をする。運が良ければ今日出発できるかもしれないのだ。
 朝一番でワルドが再び交渉に行ったが、やはり明日にならないと船は出せないと言われたようだった。料金を上乗せして
払うと言っても、風石の予約はいっぱいで、とても余分に使用できる状況ではないとのことらしい。やきもきしながらも、
仕方がないのでロビーでギーシュたちと雑談したり、トランプで遊んでみたり、酒場で軽く一杯することで時間を潰すこととなった。
 明日の予定を話し合っている時、突然玄関から突入してきた傭兵の一団が一行を襲った。ルイズたちは慌ててテーブルの
足を折り盾にして降り注ぐ矢の雨を凌ぐ。

「こうなったら僕が……」
「ライデンっ! あいつらを蹴散らして!」

 ギーシュの言葉を遮り、ルイズが言うが早いか、ライデンが動くのが早いか、とにかくライデンはどこからともなく円盤状
の箱を取り出すと、それを床を滑らすように投擲した。傭兵が一瞬それに気を取られ、自分達の足元に滑ってきた時、もはや
彼らの運命は決定されていた。床を滑る円盤の外殻が崩壊したかと思うと、次の瞬間直視していれば間違いなく失明するで
あろう程の閃光を放ち、大爆発を起こす。もっとも失明したとしてもその後消し炭にされてしまった以上、大差はなかった。

「ほへぇ……」

 ルイズたちはテーブルを盾にしていたので助かったが、顔を出してみるとライデンを挟んで宿の反対側は完全に瓦礫の山
となっていた。当然襲撃してきた傭兵達の姿はなく、向かいの崖まで大きく抉り取られている。いざ雄姿を見せんと飛び出
そうとしたギーシュ、どうやって逃げるか算段を立てていたキュルケとタバサ、任務遂行の危機を感じていたワルドとルイズ
は皆一様に気の抜けた表情をしていた。これだけの大爆発にも関わらず、耳は痺れている程度で済んでいるのはいささか
不思議であった。

「と、とにかく、こうも連続で襲われては狙われているしか思えない。無理にでも出航してもらおう」

 気を取り直したワルドはそう宣言すると、裏口を開いて手招きをする。その通りだ、今船に乗れば流石に追っ手もかかるまい。
一向は急いで裏口を抜け、通用口から船が係留してある桟橋へと向かう。殿を務めているのは、やはりライデンである。
 横目でライデンを見ながら、ふとルイズは疑問に思った。ギーシュとの決闘の時は魔法を使わなかったのに、昨日と今日の
襲撃には迷わず魔法を使っている。この赤い巨人は一体何を基準に行動しているのだろう。人ならぬ身の使い魔の思考を理解
するのは非常に困難な仕事であった。
2178/8重攻の使い魔 第8話『かくれんぼ』代理:2009/03/06(金) 00:46:04 ID:ooTyfref
791 名前:重攻の使い魔 ◆ecegNbNqok[sage] 投稿日:2009/03/05(木) 15:44:09 ID:HnAvYxvQ
以上、少しオーバーキル気味な気もしますね。
とりあえずバズーカに続いてグランドナパーム解禁です。

以上で代理終了です。
もう2作品、代理投下待ち状態です。お手すきの方がいらっしゃいましたらよろしくお願いします。
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/9616/1222096182/796-
代理人がいないようでしたらまた明日代理投下する予定です。
218名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 00:58:06 ID:VhF6I8UD
それでは3分後より代理投下を怪死します。
219ゼロの黒魔道士 第37幕1/6 代理:2009/03/06(金) 01:00:02 ID:VhF6I8UD
タルブ平原は、オレンジ色の宝石が空からこぼれてきたようで、
キラキラと目に優しい光であふれていた。
ラ・ロシェールの岩場には、うっすらと灯りがともりだしたのが分かる。
1つ1つの灯りは儚い感じがするけど、それぞれ家族が囲んだり、酒場で騒いだりしてるのかなぁ。
春草が夏草に変わっていく香りがお昼のミントティーぐらい爽やかで、
胸とお腹をじっくり満たしていく。
風はほとんど穏やかで、ときどき思い出したようにザッと駆け抜ける。
雲のデコボコが、まるで誰かの顔みたいな影を作って、
まるで笑っているみたいに見える。
平和で、どこか幻想的な夕暮れが、ボクの周りをゆっくり流れていたんだ。

ゼロの黒魔道士

〜第三十七幕〜 廻る光

「――なんだ、こんなところにいたのか」
「……あ、ギーシュ」
青草に埋もれるように、仰向けになって空を眺めていたら、ギーシュの金髪がさかさまに見えた。
チョコボに潰された髪の毛はまだ少しだけ変な形になっている。
「今日は、のんびりする日なのかな?」
そう言いながらギーシュが隣に腰掛ける。
そこにたバッタが、慌てて飛びのいて、ボクの鼻先に飛んできた。
「……うん、たまには、ゆっくりしたいかな、って」
思えば、こっちの世界に来てから色々あった。
もちろん、毎日の訓練は大事だけど、こうやってまったりするのも、悪いことじゃぁないと思うんだ。
「ギーシュ〜、お前からも言ってくれや〜!こうまったりしすぎると、また錆びちまいそうだぜ!」
……デルフは、ちょっと不満そうだけど。
ピョーンとバッタが飛び去っていく。おいしい草が見つかるといいなぁ。
「まぁ、ここまで幻想的な夕焼けを見ると、少しはのんびりしたくなるかな」
ギーシュがゴロンと仰向けになる。ちょっと丈の長い草に覆われて、ギーシュの顔が見えなくなる。
「……だよね。こんな夕日を見るの、久しぶりだなぁ……」
オレンジ色から、深い藍色までじんわりとにじみでるグラデーションの中、鳥達が遠いところを飛んでいた。
みんな、お家に帰るところなのかもしれない。
「ビビ君のいたところ、ロバ・アル・カリイエじゃ、夕日も違って見えるのかい?」
あぁ、そっか。ギーシュにはボクの生まれた場所のこと、詳しく教えてなかったんだ。
……ちょっと騙してる感じがして、悪いなぁ……
どうなんだろ、ロバ・アル・カリイエってところでも、夕日は同じに見えるのかなぁ?
う〜ん、やっぱり、世界ってまだまだ広い。
分からないことが沢山あるんだなぁって思った。
少なくとも、ここの夕日は、ボク達の世界の夕日とそこまで違わないと思うんだけど……
「……う〜ん……のんびりした気持ちで、見れなかった、かもしれない」
「それはどうして?」
どうして、かなぁ?旅していたときは、楽しかったけど、こんな夕日をのんびり見てなかった気がする。
「……色々、考えちゃったから、かなぁ……」
なんとなく、そんな気がした。
「ふぅん、例えば?」
さっき飛んで行ったバッタが、ボクのお腹の上に戻ってくる。軽いけど、命の重さをそこに確かに感じるんだ。
「……生きることの意味、なんで争うのかってこと、なんでボクはボクなんだろうってこと、それに……」
色んなことが、頭に浮かんで消えてった、あの時。それでも、みんなと一緒にいたくて、必死だった。
「――君って、ときどき思うんだけど、僕よりずっと大人だね」
「え?……そ、そんなことないよ?」
そんなことはない。絶対ない。まだまだ分からないことだらけなんだ。今言ったことだって、ほとんど答えは出てやしない。
「謙遜はいいさ。そうじゃなきゃ、僕のライバルって呼べやしない」
顔は見えないけど、ギーシュが、ほんのちょっぴり笑ってる気がした。
バッタが、またピョンと飛んでいってしまった。
220ゼロの黒魔道士 第37幕2/6 代理:2009/03/06(金) 01:01:02 ID:VhF6I8UD
「そうか、生きることの意味、か……う〜ん、なかなか答えが出そうにないなぁ」
ギーシュが伸びをしたのか、草がザッとかき分けられる音がする。
こすれた草の香りが、一層強くなって、鼻の奥の方をくすぐった。
「……きっと、1人1人違うんだと思う。皆、自分で答えを出さなきゃいけないんだ」
きっと、そうなんだと思う。1人1人が納得できる答え、それがその人の答えになるんだと思うんだ。
……多分、だけど。
「お、相棒、何かカッコいいじゃねぇの!おれっち、なんか目から汗でも出そうだぜ!目は無ぇけど」
「ちなみに、ビビ君の答えは?」
「……う〜ん、1度は見つけた、と思ってたけど……また今は探してる最中なんだ」
この世界に来たとき、生まれ変わった感じがして、前までの答えじゃ足りないって思うところがどんどん増えてくる。
ほんと、まだまだ分からないことが多すぎるなぁ……
「どんな答え?」
どんな答え、と聞かれると、ちょっと困る。それは、なんとなくぼんやりとしているものだったから。
「……生きるってことは、1人で永遠の命をもったところでしょうがないってこと……」
空のオレンジだった部分が、どんどん濃紺にまで染まっていく。
「……誰かと、助け合うこと、そこではじめて、生きてるって言えるんだと思う」
「それで?肝心の生きる意味は?」
「……まだ、うまく言葉にできないや」
ボクの知識では、表現するには足りないのかもしれない。ボク自身、納得できる答えに辿り着いてないのかもしれない。
かもしれないって言うばっかりで、ボクってホント何も知らないんだなぁ……
「――成長中、ってことかな!僕も君も!きっと、言葉にできるようになるまで成長するんだ!」
「……うん、そうかもね」
ギーシュの、こうやってポジティブなところは素直にうらやましい。
どんなことがあっても、自分で前に進めるっていうのは、なかなか真似できることじゃないなって思う。

「うん――あ〜!こういう旅行はスッキリしていいな!気が晴れるよ」
ギーシュが起き上がる。パラパラッと落ちる草が少しボクの顔にふってきた。
「?……ギーシュも、悩みとかあるの?」
ボクも起き上がりながら、少し伸びをした。ラ・ロシェールの灯りはさっきよりも数が増えて、
ちょっとした星の集まりみたいに見える。
「“も”とは失礼だな、“も”とは――
 まぁ、君の深い悩みとは比べられないけどね。これでも、家名とか貴族とか、背負う荷物を降ろしたくなることもあるのさ」
「……そっか」
みんな、やっぱり大変なんだなぁって思う。ギーシュも笑っているけど、色々考えているんだ。
「――お、そうだビビ君、これ知ってるかい?」
その辺の草をちぎって、ピラリとボクに見せるギーシュ。
「草?」
それは、何の変哲もない草だった。薬草、とかなのかなぁ?
「そうそう、この草をこうやって――」
その草を、口の前までもっていく。そして、息をちょっと吸って、草を口に押しつけて……
『プィ〜♪』
空の高いところまで響きそうな綺麗な音が、フワリ、と広がった。
「あ、すごい!」
草笛って話には聞いたことあるけど、実際にやる人を見るのは初めてだった。
「気晴らしに良い方法でね。君もやってみるかい?」
見よう見まねで、草をちぎって、口の前までもっていく。
『ビィィ゛〜』
「うわ、ちぃと音が汚くね?まぁ口もねぇおれっちが言うことでもねぇけど」
「……うまくいかないや」
……結構、難しいみたいだ。
「ハハ、何事も、練習かな?まぁ、これで1つはライバルに勝ったかな」
う〜ん、何が違うのかなぁ……?
『プィ〜♪ペェ〜♪』
『ビィィィ゛〜ベェェ゛〜』
夕焼けが濃紺に変わっていく空に、ギーシュの綺麗で澄んだ音と、ボクのカエルが鳴くみたいな濁った音が響いていた。
221ゼロの黒魔道士 第37幕3/6 代理 :2009/03/06(金) 01:03:02 ID:VhF6I8UD
ピコン
ATE 〜お姉ちゃん目線〜

「――男の子って、なんかいいですよね。こう、友情っていうのが」
「ん〜、ちょっと子供っぽいけどね〜」
「あんたの使い魔に合わせているのよ、ギーシュは!」
「はいはい、ご馳走様」
木の陰から、ギーシュとビビのやりとりを見ている影が3つ。
シエスタとルイズ、それにモンモランシーである。
そろそろ夕飯であり、折角だから村の酒場でにぎやかにやろうと、
出かけていた2人を探しにきたところ、何やら面白い会話をしていたので、間に入らずに聞いていたのだ。
どこの世界でも共通のことであると思われるのだが、同じ年齢ならば、男の子よりも女の子の方が精神的成長が早い。
そのため女の子というものは、男の子の成長を、いつも母親のような、お姉ちゃんのような視線で暖かく見守るものだ。
だから、3人は、清濁入り混じった草笛の音色を、そっと遠くから、和やかに聞いていた。
「……あ、そうだ、ギーシュ?ボクも、気晴らしの方法、教えようか?」
ビビが、ギーシュのマントを引っ張るのが見えた。
その姿が、またちんまりとしていて、ほんわかとした気分になる3人。
「……古来より伝わる男同士の友情を確認する儀式なんだって」
「あぁ、なるほど!こんな星空の下で並んでするのも、けっこう気持ちいいものかもね!」

チョボッ チョボボッ ジョボボボボボボボボ チョロチョロチョロチョロ
草笛の澄んだ音とは違う、にごった水の音が聞こえた。
「……男の子って……」
「……」
「……」

ちなみに、3人とも、恥ずかしがったは恥ずかしがったものの、
お姉ちゃん目線で、その行為を暖かく見守っていたとか。
---------------

「イヤッフゥゥゥゥ!!」
タルブで一番大きな酒場はすっごく盛り上がっていたんだ。
「猫どもぉぉぉぉ!飲んでるかぁぁぁいっ!!」
「「「「ニャーッ!!!」」」
『猫祭り』、ってこういうことなのかなぁ……
みんな、猫の耳みたいな三角形の飾りが2つついた髪飾りをつけて、ものすごく盛り上がっている。
「おっしゃぁ、楽隊ぃっ!景気良くやってくれ〜っ!」
「ニャゥ〜ンッ!!」
バンジョーの軽やかなリズムから、フィドルがメロディーを奏でだす。
アコーディオンと縦笛がハーモニーを作り、賑やかな音楽が始まる。
ときどき入る合いの手や、音楽に合わせて踊る猫の耳をつけた人達に圧倒されちゃった。
中でも、一番ノリノリで踊っていたのは……
「お!貴族の姉ちゃんもいけてるじゃねぇの!赤髪の色っぽい猫様だぜ〜!」
「にゃふぅ〜ん♪」
「ちょ、ちょっとキュルケ!?」
……キュルケおねえちゃんだったんだ。
お昼からずっと飲んでいたから、すっかりできあがっている。
「あんた達も踊りなさいニャ〜!」
「にゃ、にゃーてあんた……いや、ちょ、ちょっとやめてよっ!?」
「ニャッフゥゥゥゥイ!」
「ルイズおねえちゃんっ!?」
猫に襲われた、って言うのはちょっと違うけど、大勢の猫の格好をした人たちに囲まれて、
担ぎ上げられて、ルイズおねえちゃんも喧騒の輪の中に紛れ込んでいっちゃった……
……えっと、無事、だといいんだけどなぁ……
222ゼロの黒魔道士 第37幕4/6 代理 :2009/03/06(金) 01:03:45 ID:VhF6I8UD
「いぇ〜い!今日は無礼講だぁぁ!そこのチビすけも踊れ〜!」
「……え、ちょ、ちょっと!?」
大きなおじさんが継ぎに目を光らせてみたのはボクだった。
頭の上の猫の耳が、驚くほどに似合っていない。
なんかこう……コーヒーに、レモン……いや、コーヒーにたっぷりの胡椒ぐらい合っていないんだ。
「ニャ〜!」
「ニャオォォン!」
指をわきわきした猫の耳をつけた集団に取り囲まれる。
すっごくこう……不気味だ……
ネズミって、こんな気分なのかなぁ?
「ギ、ギーシュ、た、たすけてぇぇぇ……」
後ろにいたギーシュに、助けを求めたんだけど……
「――ビビ君、ここは、乗っておくといいと思う――にゃぁ」
「にゃぁ!?」
……ギーシュも、すっかり出来上がっていた。
いつの間にか、猫の耳が頭の上に乗っている。
……ちょっと、似合っていたからすぐには気づかなかった。
「にゃーっはっはっはっははぁ〜!生きていることを楽しむんだにゃ〜!」
目がとろ〜んとして、オークでできたマグには、なみなみとワインが注がれている。
ギーシュ、場に飲まれちゃったのかなぁ?
「そうですよ、ビビさんも、ほらこれつけてくださいにゃ?」
うわ、シエスタまですっかり出来上がっている。なんだろう、これって……
「……え、えっとぉ……」
なんか、周りが全部猫まみれなのに、自分だけ違うっていうのも、仲間はずれな感じがしたんだ。
それに、視線が集まってる……猫の瞳がいっぱい集まっている……
だから、ボクは、勇気をふりしぼって言ったんだ。
「……に、にゃぁ?」
……思ったよりは、恥ずかしくないや。
「いやっふぅぅぅい!」
「にゃ〜!!」
「え、ちょ、ちょっとちょっと!?うわっ!?」

盛り上がる酒場の中を、胴上げの要領でポンポンと、音楽に合わせて弾かれながら、
こんな平和が、続くといいなぁって、そう思ったんだ。
……賑やかすぎるのも、ちょっと困るんだけどね。


「――なんか、とんでもないことになってるわね」
……ちなみに、なんだけど……
「愛しのモンモ〜ン♪次は君の番にゃぁ〜!!」
「っ!?や、やめてよ私はぁぁぁぁ……いやぁぁぁぁ!?」
……一番最後まで猫になるのを拒否していたモンモランシーおねえちゃんは、
ギーシュの手によってボクの後すぐに猫にされちゃったらしい。
……それが理由で、シエスタの家に戻ったとき、ギーシュのほっぺたに真っ赤な掌の後がついていたんだと思う。
『お酒を飲んでも飲まれるな』……ちょっと、賢くなった気がするんだ。


ピコン
ATE 〜背徳の旋律〜

アルビオンの酒場にも、そろそろ活気が戻りつつある。
今夜の客は戦地へ赴く軍人がほとんどだ。さぞかし財布が緩んでいるだろう。
末期になるかもしれない酒に、金を惜しむようでは一人前の戦士とは認められない。
そんなカラ元気だけがありあまっている軍人共をあしらう店主もたいしたものだ。
内戦から1ヶ月もせずに、客をさばくだけの酒と杯を用意できることは素直に驚かされる。
商人という人種のしぶとさは呆れるほどだ。
あるいは本当に別人種なのかもしれない。油虫やその仲間の類とすればしっくりする。
そうさ、奴らは所詮虫けらだ。
真の力の前には押しつぶされるしかない、ただのゴミだ。
223ゼロの黒魔道士 第37幕5/6 代理 :2009/03/06(金) 01:04:04 ID:VhF6I8UD
そのような想像を肴に、無愛想な顔で麦酒をあおる男が酒場の隅にいた。
貴族らしく、マントを身につけ、履いている靴も上物ではある。
だがその眼は淀んだドブの底ほどに濁りきっている。
以前の男の眼は、猛禽類のごとく、鋭く獲物をえぐるようなものだったが、
今の眼は全てを引きずり込もうとする闇の淵を思わせた。
綺麗に整えられた髭面の男は、その眼のごとく酒場の底で沈んでいた。

「たまには麦酒も悪くないね。ちょっと水っぽいけれども」
それとは対照的に、酒場の天井まで浮き上がりそうなほど上機嫌な男が、その隣にいた。
髭面の男が、想像の中で何度も何度も踏み潰した、油虫やその仲間の類だ。
「――何故、貴様が隣なんだ」
麦酒の泡底を虚ろに眺めながら、そう呟く。
もう少し酔いがまわって、本音が漏れる段になれば、今の言葉尻に「死ねばいいのに」とでも付け加えただろう。
だがそこまで酔ってはいない。酔えないのだ。確かにここの麦酒は水っぽかった。
「どこも混み合ってるんだよ?仕方ないじゃないか。明日は朝から大舞台だし」
そうした髭の男の思いを知りながら、その銀髪の男が肩をすくめる。
その仕草の1つ1つが癇に障る忌々しいものだった。
「大舞台、か。ふん、貴様にとって、全てが舞台なのだろうな」
理想の1つも理解せぬ武器商人風情が、何が舞台だ。笑わせる。
義手となった左手がうずき、軽く麦酒をあおる。泡が少しだけ蘇る。
「そうだね!人生は舞台、人は役者、言葉は歌。だからこそ今を楽しまなくては!」
このクジャという男、よくも芝居がかった台詞をこうスラスラ並べ立てれるものだ。
「歌うなら余所へ行け。貴様といるだけで反吐が出る」
機嫌は最低高度を順調に航行中、酒の力も上昇気流とはなりそうにない。
せめて明日の作戦が、自分にとって活躍の場ならば高揚もしようが、
飛空挺による物量作戦で自分の存在を誇示するのは困難を極める。
いっそ単騎で村でも襲ってやろうか、確かワインで有名なタルブが近くにあったはずだ。
しかしそれも無意味だ。利を狙った小悪党とみなされるのがオチだ。
そのような屈辱は耐えがたいものだ。
近年の圧倒的な軍事力の前では、個々の武力など無意味になってしまう。
そう、全てを蹂躙する今日の力の前では、英雄譚はありえない。
やはり、力が欲しい。圧倒的な、武力と、権力が。
男の力への渇望は、気の抜けた麦酒では補えそうになかった。

「つれないねぇ。君にぴったりの歌を持ってきたのに、ワルド君」
甘く甲高い声が少しアルコールの入った頭に響く。あぁ、糞っ垂れ。早く消えろ。
「余計な音楽は聞きたくない」
「まぁ、そう言わずに。君のことは買ってるんだよ?」
「ふん、貴様ごとき武器商人に買いたたかれるほど、安くなったつもりはない」
あるいは、そこまで落ちたのかと自問する。だが、諦めたつもりはない。
此度の作戦で機会さえあれば、這い上がってみせるさ。全ては、力のために――

「――剣は、力となりて時代を刻む」
クジャが勝手に謡い始めやがった。なんとも不思議な音色ではある。
東洋風とでも言おうか、周囲の喧騒を覆い隠すような調べ。
耳には、クジャの声だけが朗々と残る。
「――王は、力をもって世界を刻む」
なかなか勇ましい詩である。そうだ、力でもって全てを蹂躙すること、
それこそが望みなのだ。ワルドは詩吟の世界に浸っていた。
「――刻まれ壊れる母なる大地、荒れて崩れて何もなし」
詩の調子が突然変わる。脳裏に描いた威風堂々たる幻想の大地が崩れるのが見える。
何が言いたい。先ほどまで見直していたクジャへの評価が、再び地に落ちる。
「――虚構の神居を建てたとて、崇める民は誰もなし」
あぁ、この野郎。ワルドは悟った。
この男娼野郎は、この俺を裸の王様と呼びたいのだ。
自分が有利な立場にいることから、この俺を無知で無能な愚か者と蔑み、愉悦に浸りたいのだ。
224ゼロの黒魔道士 第37幕6/6 代理 :2009/03/06(金) 01:04:38 ID:VhF6I8UD
「意味は、自分で考えられるかな?」
「うるさい」
その手には乗るものか、虎の威を借る油虫め。
俺は無知でも無ければ、無能でもない。ワルドは気の抜けた麦酒を再びあおった。
「君の目指す先は何かしらないけどね、生きる意味に足る物なのかな?」
「黙れ」
失った左腕がうずく。あぁ、この義手で、俺を虚仮にしたヤツを全て平らげてしまいたい。
ワルドの憤りは、沈む気持ちとは真逆に、ふつふつと湧き上がってきていた。
「理想、と君はいうけれど、その理想の先に君は――」
「殺すぞ!!」
酒場の喧騒が、凍りつく。このワルドの咆哮1つで。結構だ。気分のいいものではないか。
全ては力なのだ。言葉にこめた怒気も、力の1つだ。

「――いいだろう。少々お酒が入っておいでのようだ。こちらもついつい言い過ぎたかもしれない。
 君を見てると、いつかの誰かを思い出しそうでね――」
「いい加減にしないと――」
沈黙の中、2人だけが、ただ2人だけが会話を続けていた。
1人はやれやれといった表情で、1人は怒気を隠さずに。
「はいはい、しょうがないなぁ――気が変わったら、またおしゃべりしよう」
「ふん」
鼻につく態度をとったまま、少し多目の小銭を置いて去る武器商人。
店の扉が閉まると同時に、沈黙がまたゆるやかにもとの喧騒へと戻る。
ワルドは、改めて決意する。此度の作戦で、なんとしてでも武功をあげ、権力を手にしてくれようと。
そこから駆け上がってやるのだ。万物を睥睨する高みまで。
そしてあの厭味な変態野郎を足置き台にでもしてやるのだ。
杯をグッと傾け、決意とともに飲み干すワルド。

だが、彼は気づいていなかった。クジャの真意に。自分の愚かさに。
所詮、彼も雄々しく燃え盛る炎に憧れた、油虫にすぎぬということに。

一方で、彼は気づいてもいた。自分の強みに。
力を求める欲望こそが、自分をさらなる高みへと連れて行くことに。

麦酒の泡が弾けるごとに、明日の朝日が近づいていた。
破滅の使者も、また。
------------------------
以上です。
余計な解説:
本日の題名のネタ元の曲:ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm1912278
            ttp://www.youtube.com/watch?v=N3_B4pPubcY&feature=related
タルブの祭りのイメージってことで。

色々とお目汚し失礼いたしました。


225代理投下してる者:2009/03/06(金) 01:07:27 ID:VhF6I8UD
以上、「ゼロの黒魔道士」を代理投下させていただきました。
作者さん、お疲れ様でした。

引き続き、ゼロの社長の代理投下に入ります。

1時10分より開始します。
226名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 01:10:32 ID:/0mMjGzu
寝ながら支援
227ゼロの社長:2009/03/06(金) 01:10:35 ID:VhF6I8UD
今を遡る事数十年前。
タルブの村に3つの悪魔が呼び出された。
赤い炎の悪魔『神炎皇ウリア』
黄金の雷の悪魔『降雷皇ハモン』
蒼き最強の悪魔『幻魔皇ラビエル』
世界を破滅に導こうとした者が呼び出した3体の悪魔の出現は、タルブを中心に黒い雲を呼び出し、世界を闇に包み込んだ。
村人達は、これが世界の終焉かと思い絶望した。
だがそこへ、不思議な光とともに一人の青年が姿を現した。
青年は幾多の亜人を呼び出し、見たことも無い魔法でその悪魔と悪魔を呼び出したものに向かっていった。
中でも2体の亜人…青年が呼び出す幾多のモンスターと融合を繰り返しそのたびに姿を変える白い亜人の戦いに、村人達は目を奪われた。
3体の悪魔の攻撃を全て受け流し跳ね返す黒い亜人の力に、村人達は助けられた。
一体、また一体と悪魔達が白と黒二人の亜人によって倒される。
そして、その二人が融合した亜人…いや『超人』によって全ての悪魔は倒され、世界に平和が訪れた。
「そして、その青年はタルブの村に英雄として称えられ、末永く平和に暮らしましたとさ…ってあれ?
すみません。退屈だったでしょうか…?」
シエスタが語ったタルブの過去の物語。
シエスタの祖父という、遊城十代のハルキゲニアでの物語。
しかし、聞いていたメンバーの殆ど(タバサだけはやけに興味津々で聞いていた)がほうけた顔をしていた。
「あのねぇ、数十年前とはいえそんな世界が滅びるかもしれない出来事が、
トリステインで伝わっていないわけ無いでしょう。現に私は初耳よ。」
「う〜ん…シエスタ君のおじいさんの年齢からすると…流石に私も生まれていないからねぇ。
オールド・オスマンならもしかすれば…しかし、私もその話は初耳だねぇ。」
ルイズ、コルベールは苦い顔をしていた。
「で、シエスタのおじいちゃんが戦いのときに使っていたカードのうちの1枚が、この『ハネクリボー』なのよね?」
キュルケが、海馬の手元に預けられている『ハネクリボー』のカードを覗き込みながら言った。
「ハネクリボー。俺のまだ見たことの無いカードだが、これに似たカードは良く知っている。」
「じゃあやっぱり、おじいちゃんは瀬人さんと同じ国の出身という…」
「まだ詳しくはわからん。他のカードは残っていないのか?」
そう言いながら海馬はシエスタにハネクリボーのカードを返した。
228ゼロの社長:2009/03/06(金) 01:10:42 ID:VhF6I8UD
シエスタは、メイド服の胸元のポケットにハネクリボーのカードをしまいながら答えた。
「残りのカードは、ユベルさん…あ、さっきのお話の黒い亜人というのが、ユベルさんなんですが。
その人がおじいちゃんから預かっています。今は村から少し離れた山の中に住んでいるので、会おうと思えばいつでも…」
「良し、今から行くぞ。」
そそくさと食堂を飛び出そうとする海馬に、ずっこけながらもブレーキをかけるルイズ。
「ちょっと待ちなさい。そもそもここに集まったのはその話をするためじゃないわ!
ってタバサ、アンタもどこ行こうとしてんのよ。」
見ればタバサまでもが海馬とシエスタの手をつかんで外へ行こうとしている。
「物語の英雄…会いたい。」
「いやあの、どっちかといえばユベルさんは英雄って言うよりも、行き過ぎた恋する乙女って言う感じが…」
わけのわからない事をぶつぶつというシエスタを余所目に、ルイズが主題に戻す。
「そんな事よりも、セトは今度の使い魔品評会をどうにかする事が先でしょう!」
ルイズが怒号を上げながら強引に海馬を席につかせる。
そもそも、フーケの事件やらトリステイン城殴りこみ事件のせいで、そのことをすっかり忘れてしまっていたのはルイズのほうであるのだが
この際誰のせいとかいっている場合ではない。
「良いじゃない、セトに出てもらえば。ただの平民なら兎も角、ギーシュを倒すくらいのドラゴン呼べるんだし、
出して馬鹿にされるような事も無いでしょう?」
「本人が素直に出てくれるなら苦労はしないわよ!」
品評会のことを思い出したルイズは、その場で海馬に出場を頼んだのだが、当然の如く拒否された。
「誰が好き好んで見世物になるものか。タバサのように出場しなければ良いだろう。」
「そう言うわけには行かないわよ!姫様が見にいらっしゃるのよ!」
「だから、あの学芸会のようなくだらん見世物に参加しろというのか。
カエルやモグラと同列に扱われるなど、不快極まりない。」
「うぅ〜…姫様に会わせる顔が無いわ…。」
だれたように机に突っ伏すルイズ。
と、そのルイズに後ろから声がかけられた。
「あら、別にそんな気を張って考えなくてもいいわよ、ルイズ。」
呼ばれてふと振り返ると、見慣れないメイドがいた。
紫がかった髪の毛と大きな瞳、そしてキュルケほどではないが、ルイズでは到底敵わない程度のバストを持った、一言で言うなら可愛いメイドだった。
「ちょっと、メイドが気安く話し掛けてるんじゃないわよ。あぁ、ついでに食堂から何か飲み物を持ってきて頂戴。」
「…はい、かしこまりました〜♪」
何かを考えるように少し間を置いた後そう言うと、そのメイドは食堂のほうへ向かっていった。
と、ふとルイズが周りを見ると、コルベールとシエスタが真っ青な顔をしていた。
「……目がおかしくなったかな?そんな馬鹿な事が…」
「って言うか、アレ…いえあの方って…」
「なによ、どうかしたの?」
と、いうと食堂のほうからガシャーン!という皿が大量に割れる音がした。
と、同時にさっきのメイドが逃げるように走ってくる。
流石に冷静な頭でさっきのメイドを見れば、ルイズもアレが誰か理解できる。
「ひっ…姫様ぁぁぁぁぁぁ!?????」



で、場所が変わってここはルイズの部屋。
「ひ、ひどい騒ぎなってしまったわ…」
「それもルイズがお姫様に飲み物もって来いなんて言うからじゃない。」
「うっさい!って言うか、揃いも揃ってなんで私の部屋に逃げてくるのよ」
アンリエッタが学院に忍び(?)こんで来ていたことがばれてしまい、匿うようにルイズの部屋に案内したのだが、
結局あの場にいたメンバー全員がついてくるという不思議な状況が成立してしまった。
229ゼロの社長:2009/03/06(金) 01:11:24 ID:VhF6I8UD
と、いつもの調子で口喧嘩をはじめかけるが、アンリエッタの前で醜態を晒すまいと冷静を装うルイズ。
「ひ、姫様。汚いところですが、どうぞ…」
「それは部屋に入れる前だろ。」
海馬の的確な突っ込みが入るが無視。
と、それまで後ろにいたコルベールが前に出て跪き、アンリエッタに話し掛けた。
「あの…失礼ながら姫殿下、学院にいらっしゃるのは明日の予定のはずだったと…」
「あなたは…?」
「本学院で火の講義を担当しております、ジャン・コルベールと申します。」
「コルベール教諭、本日私がここに来たのは全くの私用です。
……できれば、人知れずにルイズと瀬人さんにお会いして用事を告げたかったのですが。」
そう言いながら、アンリエッタは窓のほうへと歩いて行く。
そして全員に振り返り、毅然とした姫の顔で告げた。
「私はこれよりウェールズ皇太子よりあるものを返していただきに、アルビオンへと赴きます。
その道中の護衛として、ルイズさんと瀬人さんに付いて来て貰おうと思いここまで来たのです。」
「アルビオンって、戦争の真っ只中じゃない!!」
驚きのあまりキュルケが口を開く。
興味なさげに本を読んでいたタバサでさえも顔を上げていた。
信じられないという表情で、コルベールが立ち上がってアンリエッタに問う。
「気は確かですか姫殿下。今のアルビオンに向かうなど自殺行為。
まして姫殿下だけでなく学生のミス・ヴァリエールと、海馬君を連れて行くなど!」
「確かに、危険なことは承知しています。アルビオンの現状についても、言い方は悪いですが、コルベール教諭よりも存じているつもりです。」
「ならば…」
「おそらくアルビオン王家は滅びるでしょう。そして反乱軍…レコン・キスタの次の目標はこのトリステイン。
国力の乏しいトリステインではレコン・キスタに対抗できる力はありません。
そのためにトリステインは、ゲルマニアとの同盟を結ぶ事にしました。」
「ゲッ…ゲルマニアって、あんな野蛮な成り上がりの国と!?」
「悪かったわね、野蛮で。」
いつもならここで口喧嘩でもはじめるところだが、流石に空気を読んだのかそれ以上二人が続ける事は無かった。
「ゲルマニアが同盟に提示した条件は、私がゲルマニア皇帝に嫁ぐこと。
ですが、ウェールズ皇子の持つ手紙には、その婚姻を妨げる材料となりえるもの。
それがアルビオンの貴族の手に渡れば…」
「同盟は成らず、トリステイン、ゲルマニア両国は独力で自国防衛をしなければならなくなる。
2本の矢でも1本づつなら容易く折れる。」
こくん、とアンリエッタはうなずく。
230ゼロの社長:2009/03/06(金) 01:11:30 ID:VhF6I8UD
「その通りです。そして先ほど、アルビオン王家に対する再度進攻が行われたという連絡が入りました。
事は一刻を争います。一刻も早く、その手紙を手に入れなければなりません。」
「しかし、それは姫様自らや、学生の彼らでなくても。王国の騎士隊の精鋭を使えばすむ事ではありませんか。」
「これは、私の行いが招いた失態です。私の手で手紙を返してもらわなければ意味がありません。
それに…トリステインの中には、すでにレコン・キスタの息のかかっているものが入り込んでいるようです。
そして、先日、療養中のはずのグリフォン隊隊長のワルド子爵が姿を消しました。」
「ワルド子爵が!?」
ルイズは先日自分が黒焦げにした男の事を思い出した。
まさか?と思いたかった。
幼少の頃憧れたあのワルドが国を裏切って敵に回るなど、ルイズには考えられない。
「姫様、それは何かの間違いです!先日だってワルド様は!」
「私も、そうは思いたくありません。ですが彼が行き先も残さずに姿を消し、
そのタイミングでアルビオン軍が進攻を開始する。私には、関わり無い事とは思えません。」
室内を沈黙が包み込む。
その静寂を破ったのは、海馬だった。
「事は一刻を争うのだろう。ならば、こんなところでだらだらとしている場合ではない。
一刻も早くアルビオンに向かい、その手紙を回収してくれば事は済む。」
「私も行くわ。姫様のためなら、私はどんな命であろうと成し遂げて見せます。」
二人の様子を見て、コルベールはストップをかける。
「ダメだ!いくら海馬君が強いデュエリストだろうと、危険には変わりない。
ましてミス・ヴァリエールや姫殿下が行くなど持っての他。」
「私が行かなければ、おそらくウェールズ皇太子は手紙を渡してはくれないでしょう。」
アンリエッタの言葉は嘘だった。
アンリエッタが書いた手紙でも渡せば、ウェールズはきっと手紙を返してくれるだろう。
だが、アンリエッタが戦禍から守りたかったのは手紙だけではなかった。
たぶん、戦争を境にウェールズは帰らぬ人となるであろう。
だからこそ、自分自身で最後に彼に会っておきたいと思った。
姫としてではなく、一人の少女としての淡い気持ち。
姫としては失格だろう。
だがそれでも、自分の思いだけは譲れなかった。
「私もいくわ。トリステインとゲルマニアの同盟が成立しなかったら、ゲルマニアも危険だもの。」
「…………」
無言だがタバサも行く気のようである。
「ミス・ツェルプストー!ミス・タバサまで…」
「コルベール。心配ならば、貴様が付いてきて守ってやればいいだけだ。
もっとも、身を守ってやらねば成らないのは、そこのルイズだけだろうがな。」
「なっ!どういう意味よ!?」
231ゼロの社長:2009/03/06(金) 01:11:34 ID:VhF6I8UD
「…………」
「コルベール教諭、できれば力を貸して下さい。トリステインの人々を戦禍から一人でも救うために、
この作戦は必要不可欠なのです。」
「姫殿下…わかりました。この炎蛇のコルベール。姫様の剣としてお使いください。」
これでここにいるメイジの全員参加が決まった。
しかし、若干一名、この緊張した空気でどうしていいかわからない人物がいた。
シエスタである。
(アレ…?変な空気になってる。ど、どうしよう。平民の私なんかが聞いちゃっていい話じゃないはずなのに
変な緊張感から結局退室する事もできなくて話がどんどん大きくなってるし
あぁ、どうしよう。秘密を聞いたからには打ち首!!!なんてことになったりしたら…)
混乱しているシエスタを尻目に、どんどん話はすすんでいく。
と、アンリエッタがシエスタに目を向ける・
「それでは、出発は今夜です。それと…そこのメイドのあなた。」
「はっ!はい!?」
急に声をかけられ、その上その声の主がアンリエッタだったことで、声がひっくり返りながら返事をするシエスタ。
「あ、そんなに気負わなくっても…えっとお名前は?」
「シッ…シエスタと申します。」
「そう、シエスタ。ひとつ、あなたにお願いしたいことがあるの。」
「…はい?」



日も暮れ夜もふけた頃、トリステイン街中の武器屋の扉を酔っ払いが鼻歌を歌いながらくぐっていく。
「ふ〜んふ♪ふ♪ふ♪ふ〜んふ〜♪ぅお〜いデル公、い〜ま帰ったぞ〜」
その武器屋の店主は店番のデルフリンガーに声をかけた。
店主の言葉に声を返すのは、会計の前に立っている椅子のうえに突き刺さった錆びついた剣。
「もう今更のことだからつっこまねぇけどよぉ、親父。剣の俺をレジにおいて飲みに出かけるのやめたほうが良いぜ?」
「なーにいってんだ。どうせお客なんか稀にしかこねぇし夜ぐらいだいじょうぶだいじょうぶ」
「とは言うがな、まさにお客さんがお待ちだよ。」
「あん?」
振り返ると奥の鎧とかの置き場所に数人、店主の帰りを待っていた。
武器屋という場所には似つかわしくないメイド服の少女が数人に、頭の禿げた背の高い男が一人。
そして店主はその中にルイズと海馬を見つけると、上機嫌に声をかけた。
「おや、この前の旦那とお嬢様じゃねぇですか。いや〜この前はどうもすみませんでしたねぇ。
ついでにあの猫に取られちまった筆とかも取り返してもらっちゃって。」
少し薄い頭を掻きながら、店主が海馬たちに話し掛けると、メイド服の少女の内一人がそれに反応する。
「あ、その件はうちの飼い猫がご迷惑をおかけしました。」
「おぉ、あの猫はお嬢ちゃんの飼い猫だったのかい。いやいや、戻ってくりゃあこっちも文句なんかねぇって。
って…それにしてもお嬢ちゃんの顔、どっかで見たことがあるような…」
「おいおい親父よう、今時そんな口説き文句はねぇだろうよ。」
カチャカチャとデルフリンガーが鍔を鳴らしながらツッコミを入れる。
「ちげぇよデル公!ん〜…酔ってるからか思い出せねぇ。」
などといっている間に、ルイズと海馬が奥のほうにあった兜や剣などを持ってレジのほうに現れた。
「この辺を貰っていくぞ。」
「別にデル公に置いていってもらっても良かったんですがねぇ。しかし、こんな時間に買い物なんて、何かあるんですかい?」
「あんたが知る必要なんて無いわよ!」
そういってドンと金貨の入った袋をレジに置く。
232ゼロの社長:2009/03/06(金) 01:11:39 ID:VhF6I8UD
中身を確かめると店主は笑顔で対応する。
「こいつは失礼しました。ほい、確かに頂戴しました。」
「よし、行くぞ。」
海馬のその一言を合図に、全員が外へ出て行く。
猫の飼い主のメイドの少女が、愛らしい笑顔で手を振ってくるので、店主は鼻の下を伸ばしながら笑顔で返した。
ぞろぞろとその不思議な集団は外に止めていた馬車にのってどこかへ向かっていった。
「ん〜…どっかで見たことがあったんだがなぁ。」
「気のせいだろ。それより、もうとっとと店閉めちまえよ。」



一方その頃のトリステイン城。
「……どうして、こんな事に…」
布団の中にいるアンリエッタはぼそっと愚痴る。
アンリエッタにとっては普段使うベッドではあるが、今その上に寝転がる彼女にとってはそのやわらかさも暖かさも
緊張を生みとてもではないが安らかに眠れるものではなかった。
「でも、姫様の『お願い』を断る事なんかできないし。」
そう、その布団の上にいるアンリエッタはアンリエッタにあらず。
シエスタであった。
アンリエッタのお願いとは、自分が戻るまでの数日自分の代理をしてくれというものだった。
『むっ、無理です無理無理。私が姫様の代わりなんて!』
『大丈夫よ。どうせたいした事はしていないわ。どこかに行くときも、窓の外に向かって笑顔で手を振っていればいいよ。』
『いえいえいえいえ、確かに魔法で顔は変えられても、立ち振る舞いとかでばれてしまいます!』
『なるべく早く戻ります。どうか、私の影武者となってください。』
(安請け合いするんじゃなかった。)
後悔の念でいっぱいになりながら、ベッドの天井を眺めていると、不意におなかの音が鳴るのに気づいた。
(それにしても意外だったなぁ…。お城の料理があんなにも…)
一言で言えば不味かった。
学院で賄いとはいえマルトーが作っている料理を普段から口にしているシエスタでは有るが、
平民である以上そんなに豪華な食事は今までしたことが無かった。
そして実際に口にした宮廷の豪華な料理は、想像とは程遠い味だったのだ。
まず、毒見を行った上に料理場から食卓までに無駄に長い距離があるために酷く冷めている。
しかも人数を考えていないのか大量にある料理の数々。
(あんな量…見てるだけでおなかいっぱいになっちゃう。しかも総じて全てが美味しくないなんて…。
もったいないお化けが出ちゃいますよ。…ダメだ。おなかすいた。)
遠めに見れば美味しそうに見えるのに、冷めて油が浮かんでいたりする料理を思い出す。
流石の不味さに少し吐き気を催したほどだ。
シエスタは緊張と空腹を紛らわせようと、布団を頭から被り強引に眠りにつこうとする。
(いつまで続くのかなぁ…)
シエスタはマルトーの作ってくれた料理や故郷の料理を思い出しながら、見知らぬ天井の部屋で夜を過ごすことになった。
233名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 01:13:27 ID:VhF6I8UD
以上、代理投下でした。
234名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 01:13:32 ID:/0mMjGzu
片田舎の戦いで世界の終焉と言われても支援
235名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 01:21:31 ID:ooTyfref
>>233
代理投下お疲れ様です。
236名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 02:27:29 ID:ZJLNUH6Y
社長代理乙
偉い人の飯がまずいのは、安全上仕方ないんだよなぁw
こういう話を見ると、落語の「目黒の秋刀魚」が思い浮かんでしまう
237名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 02:37:45 ID:gf4s8jMz
>>233お疲れさまです。

重攻の人、ルイズが非常に危険な存在と出くわしてますね…
238名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 02:40:57 ID:ywxO/2Su
料理が冷めてるなら、暖め直せばいいじゃない
冷めてもうまい料理にするとか
239名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 02:44:20 ID:Y/0cJt6x
王族が暖かい料理を食べられるのは火の系統魔法に目覚めたときのみ……とか
240名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 02:52:01 ID:LHX9AtUq
そこらへんの石ころを真鍮に変えることが出来るんだから
適当な材料を料理に練成することだって可能なはずだ!
241名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 03:00:46 ID:fFpLnzIu
>>239
そして王族お抱えの火系統魔法使いor火の宝具が重宝される、と…

アンリエッタの使い魔で戦う料理人召喚とか面白いかもしんない
242名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 03:04:20 ID:4zj0hxRe
裏料理界がなんだって?
243名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 03:38:29 ID:nadYK/UO
戦う料理人?
クッキングファイター好・・・
いや何でもない
244名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 03:43:34 ID:yiQN63+x
戦う料理人か、思い浮かぶキャラは居るがパンしか作れない。
245名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 03:47:32 ID:pmqc5+46
ハイ・ヨーか
246名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 03:52:35 ID:yW/Q6hHf
>>237
あの少女がそんなに危険な存在なのか?
247名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 04:49:26 ID:ULlOvpNN
>>237
今読み直して気付いたが、ガラヤカか…
248名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 05:27:17 ID:RAoAj556
>>240
外伝でそんな話がありましたな。
249名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 06:19:48 ID:2mfHyO+/
「固定化」で化学変化がとまるなら。それをかけて保温すれば問題ないんだけど。
ただ「固定化」された食品は消化が悪そうだ。
250名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 06:57:26 ID:dyVGtFfg
そもそも噛めるの?
噛んだら歯がボロボロになりそうな希ガス。
251名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 07:24:57 ID:gf4s8jMz
>>246ガラヤカっつーバーチャロイドで重攻の使い魔に出てきたのはたぶん自意識(人格)を持ったオリジナル。
詳しく言っちゃうとネタバレになるかもしんないから書かないけど太陽系滅びる程度には危険。
252名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 08:20:28 ID:LbR/o6nh
固定化は化学変化を防ぐ魔法であって
物理的な変形を防ぐ魔法じゃなかった筈
だから噛む分には問題ない
253名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 09:56:05 ID:rMWkSM4b
>>252
独力では宝物庫の壁を壊せなかったフーケさんのゴーレムがアップを始めたようです

原作で強化系魔法を後付け追加するからおかしくなる
254名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 10:15:52 ID:kWfccRpQ
遅くなったけど重攻の人破壊神乙


…VR-011はやば過ぎだろ… 余裕で世界が終わるww






「命が足りない! 腹ペコだ!!」
255名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 10:36:57 ID:KoGIJkG+
戦う料理人・・・・・
さっさっさー ワンゼのラーメン食べてみる?
256名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 10:41:54 ID:iFlOmkvL
この姫様・・・出来る!!!つか男前じゃね!?
257名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 10:58:27 ID:7ggcuEwo
姉妹スレのトニオさんは・・・・ 無理か
258名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 11:04:14 ID:Lv6azDGs
>252
その辺は多分とかその程度の事で断定できない話しだぞ
259名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 11:28:36 ID:uzSJpxCT
>>253
> 原作で強化系魔法を後付け追加するからおかしくなる

固定化で物理的に強化される、って話、原作にあったっけ?
260名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 11:44:40 ID:Nvs43kos
>>259
「硬化」という魔法ならあったが、固定化では物理的な強度は変わらないはず。
錆びないし朽ちないし魔法も効かないけど強度は変わらないから、フーケはゴーレムで壁を壊そうかと思ってたんだし。
261名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 11:48:05 ID:tDwwOPJX
腕を倍の大きさにするとか何か工夫はできなかったのかね、フーケは
262名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 11:52:50 ID:DXMcLwTt
>>261
なんかバランス悪くて扱いにくそうだな
263名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 11:57:08 ID:Lv6azDGs
>260
ちょっと違う
あくまでも固定化の掛かった塔は強い物理的な力に弱いとあるだけで、固定化で強度が変わる変わらないとかの話しは全く無い
264名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 12:30:06 ID:m/DK86A5
>>205
あれ面白いよな。サムスピファンでミヅキ様信者としてはぜひ続きが見てみたい。
サムスピキャラならデルフも大活躍できそうだし、覇王丸やシャルロット辺り召喚されねぇかなぁ。
265名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 12:54:07 ID:NLIjwP5t
>>264
ドゥドゥーの武器破壊がドーピングブレイドで、
一定時間経過すると黒子が新しいデルフを運んでくるんですね、わかります。
266名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 13:07:06 ID:ZOWeARZp
>>264
シャルロットじゃ革命が起きちゃうんじゃw
267名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 13:12:59 ID:x3SaUnPz
サムスピからだったら天草呼ぶべきなんじゃね?
さもなくば色。コントラクト・サーヴァントでバグってルイズ激ラヴになるとかも面白そうだ

…18禁な想像になっちまったんだがどうしてくれようこのmy煩悩
268名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 13:19:03 ID:SZiZL9Rn
ふと思ったんだが某ファミレス4コマのちっちゃいモノ大好き主人公召還とか面白いかもしれない

家事万能、掃除好き、女が相手でなければそれなりに強い


ただ問題は超虚弱体質な二番目の姉が死にかねないのとより小さいタバサに愛が向かいかねない事か
269名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 13:32:09 ID:8AC1EAxC
>>268
ルイズも小さいからコントラクト込みで考えればルイズに傾く……かなあ?

原作において異様に忠誠心の高いキャラを呼んでその忠誠心の向かう先をルイズにすり替えて考えてて思ったんだが
レガートを従えたルイズが見てみたい
270名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 13:35:25 ID:rco1PFAH
レガートはヤバいっつーか例え従順であっても
戦闘シーンやあの狂信っぷり見たらトラウマ確定だろうw
271名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 14:15:58 ID:7WbQZX12
>>267
よし、じゃあ間を取ってナインハルト・ズィーガーを召喚しよう。
王国の騎士団長も勤めたこともあるんだし、大丈夫だろ。
デルフ涙目になるけどwwww
タルブ会戦のときに空から降ってきて、レキシントンを撃墜するズィーガーが見えた。
272名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 14:26:50 ID:1Ce90+km
あの篭手?もなかなか反則武器だが、修理と補給は中世レベルでも出来るようだから問題ないな
白炎と炎対決とか、ミノタウロスとの肉弾戦とか面白そうだ
273名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 14:31:48 ID:G2f3uOKL
ギーシュのゴーレムをソニックブームで真っ二つにして
フーケのゴーレムはサマーソルトでぶっ飛ばす
ワルド?常時溜め最速ソニックブーンで完封余裕でした

ストリートファイターUより待ちガイルを召喚
あ、でも召喚時に座ってたら気を付けてネッ!
274名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 14:41:33 ID:NLIjwP5t
>>273
あら機種依存文字。大丈夫なのかしら。

今でもMaqの人って”U”みたいな文字は表示できませんの?
275名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 14:49:06 ID:3N7VqiaI
今日日そんなことを言うやつがいるとは…ってネタか
276名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 15:47:44 ID:QTeE78EK
社長乙
ここのアンリエッタは行動力あるな、しかし三幻魔対ユベル、立ってるだけでユベル勝てるじゃん。
つか三幻魔ってユベルのデッキに入ってるはずでは?
 
そんで誰とは言わんが、霊使いやピケクラ使いのデュエリストの登場を切に願うこのごろです。
277名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 15:53:53 ID:c/IGWMg2
ライデンは順調に武装解禁してるな… 次はフラグメントクローとバイナリーロータスとどっちが先だろう
それにしてもガラヤカが来るとは予想外だった
278名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 16:14:43 ID:yW/Q6hHf
>>273
海外版スト2から呼ぼうぜ
279名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 16:23:25 ID:LHX9AtUq
ウメハラ召喚とな
280名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 16:28:27 ID:9kHaxeRU
「喉の動き見てから余裕でした」
281名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 16:33:03 ID:B7H++6j3
なんつーか、一巻相当までのルイズのウザさはすごいな
原作ではそこまで思わなかったけど、多作品の性格如何でめっちゃ際立つ

これもクロスの味だなぁ
282名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 16:34:23 ID:m/DK86A5
ウメハラよりはKIだなとか思う俺マジ中野TRF厨。
283名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 16:41:52 ID:bJsZa4Ja
>>282
「俺の動きは人間では捉えることは出来ない!」ことKIスペシャルですね?わかりますん
284名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 17:04:08 ID:gs/aDZxI
>>282
「作業です」言いながら、ワルドをぼこるんですね。
あと、最近だとルイズが失敗したとき煽ったりもしそうです。
285名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 18:19:09 ID:eMZg/5FW
>>270
真性のヤンデレだからな
ルイズが忠誠心の対象になったら
ルイズが心を開ける数少ない存在のカトレアとかアンアンが
嫉妬されて殺されるかもっと恐ろしい目にあわされねんw
286名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 18:28:27 ID:1Ce90+km
>>285
どういう奴か詳しくは知らないが、それだけヤバいと最初の時点で
キュルケ等のルイズをゼロ呼ばわりする連中が皆殺しにされかねんよーな
287名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 18:42:04 ID:dyVGtFfg
レガートってトライガンの?
ルイズ以外が箱に詰め込まれそうw
288名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 18:46:39 ID:SNDVkff+
まあ、棺桶入る前のヤツならまだ話は通じるし。
心臓を自分の手で掘り出さされるくらいで済むさ。
289名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 18:48:27 ID:hHHWd6LN
アリアンロッドからベネット召喚。
「なんで、あんたなんかに従わないといけないんでやんすか」
とでかい口を叩くも、爆発魔法見せられて
「ひィっ!?」
とか言ってビビッて即忠誠を誓うとか。
290名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:12:05 ID:Y6tTB/nG
忠誠心の高いキャラ・・・
森蘭丸とかジェレミア=ゴッドバルトか
ジェレミアならさしずめ『農民の使い魔』かな
291名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:17:21 ID:LHX9AtUq
ヴァニラ・アイスとか


DIO限定かな
292名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:23:55 ID:6VDa92yx
>>290
農民通り越して世界規模の経営者じゃないか
293名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:26:50 ID:GJaabXGT
>>296 >>270

じゃあ、少年時代のレガートなんてどうよ?
ブタ野郎(だっけ?)に犯されてる時にゲートが開いて、その向こうでルイズが
杖を振ったと思ったら町ごと消滅して住民皆殺し
その爆発力に心酔するんだけど、ギニアに来てみるとルイズはゼロのまんま
でも大きな力の流れを感じて、とりあえずルイズの覚醒を待つ、みたいな

モット伯は何となくムカついて…
294名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:38:33 ID:Y6tTB/nG
>>292
マジに?そこまで大きくなってたとは知らなかったぜ
初期から中盤は論外、壊れサイボーグはアレで面白いけれど長期的には無理があるかも
やはり最終回以後が良いだろうね、呼ぶならば
あと忠義の人って言ったら欄丸くらいしか思い浮かばないなぁ

そして超遅レスですが・・・
>>41
エドガーを思い浮かべてたらキ○ガイで噴いたw
295名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:38:51 ID:SZiZL9Rn
忠誠心……MFのライガーとかアニメ版のブルーマウンテン

エクセルとかか
296名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:51:00 ID:EWbNPc9o
忠誠心の高いキャラか…うーん、自分にはなかなか思いつかない。
297名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:51:52 ID:HwA8+jku
忠誠心・・・・・実在の人物だけど松永弾正なんてどーでしょ
あるいは呂布奉先
恋姫のじゃなくて演義の方
298名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:54:12 ID:Y/0cJt6x
両方下克上と裏切りの名手じゃないか
299名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:54:39 ID:aMfdvy9U
>>295
忠誠心ね・・・怪獣だとモスラ?逆に残酷、残虐だとデスギドラ&キングギドラかね
300名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 19:59:43 ID:klD3QXk1
忠誠心が高いキャラか
ブラックラグーンのロベルタとか…
301名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:00:17 ID:EbtlUTTW
忠誠心か・・・
大石内蔵助なんかどうだ?
302名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:03:06 ID:8AC1EAxC
ここまで名前の挙がった忠誠心高い連中をまとめて使い魔にするルイズ
最大の敵は内輪もめとストレス
303名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:07:18 ID:wmIXYXg1
既にあるけど藤木源之助は忠誠心の鬼
304名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:12:31 ID:uztov7Iw
忠誠心か…ピクミンはどうだ?
305名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:13:44 ID:wmIXYXg1
306名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:15:08 ID:+MQAY0pg
忠誠心と聞いたらなぜか「ハイル!イルパラッツォ!」と叫びだしたくなる
307名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:16:40 ID:9kHaxeRU
あんまり忠誠心高いのもアレだろうけど
止まってるけどミゴールのやつなんて「神を復活させてくれ」とか無茶振りもいいところだし
308名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:16:54 ID:DyvuoLJQ
ユニコーンの邪武
それなりの実力・ルックスに加え、乗馬用の鞭にまで対応可能なパーフェクト下僕
309名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:19:35 ID:Lv6azDGs
>308
ルイズが何かサイトの時より酷い何かに目覚めそうだぞ
310名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:21:42 ID:aMfdvy9U
>>306
ナチスの党員でも呼ぶか?

何か、何処かの作品に助かれてた恩義で、主人公に手を貸した人いたような


逆に普段クールだけど、切れると熱いキャラっていた
311名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:23:50 ID:dSMkKhVj
ナチス党員と聞いて真っ先にボー・ブランシェが浮かんだ、ネオナチだけど。
あいつも召還されたら風のスクウェアと勘違いされるんだろうなぁw
312名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:24:06 ID:Tphz1CEa
エクセルサーガの知名度なんてこんなもんさ。
313名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:24:14 ID:+MWTtg7L
>>561-562
フーケの使い魔がスクライドのビフ君なら万事解決
314名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:25:11 ID:LHX9AtUq
ロングパスキター
315名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:28:24 ID:aMfdvy9U
>>304
役に立つのか?・・・それなら円谷作品の宇宙怪獣の方が役立つと思うが

ある意味究極の忠誠キャラ?・・・アーマード・コアシリーズの主人公

316名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:32:52 ID:VqiA2eKK
避難所に代理投下依頼が大量に来ております。
投下しますがよろしいでしょうか?
317名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:33:36 ID:EbtlUTTW
忠義といえばなんといってもハチ公だな
318名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:35:56 ID:+MWTtg7L
虐殺ルートまっしぐらですねわかります
319毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:37:08 ID:VqiA2eKK
『あいつが死んで…俺は心底落ち込んだ。一時期は死のうかとも考えた…』


薄暗いスラム街をジャンガは一人寂しく歩いていく。


『けどよ…結局死ぬ事はできなかった。怖かった…てのもあるが…』


立ち止まり、首に巻いたマフラーを見る。


『あいつは…俺の事を最後まで案じてた。死ぬ最後の瞬間までよ…。
もし…ここで死んだら、その気持ちを裏切っちまうじゃねェか…』


ジャンガの目から涙が零れた。


『だから、俺は生きる事にした…。あいつに言われた生き方…賞金稼ぎを続けてよ…。
で、十年ほど経ったある日の事だ…。いつも通り賞金を受け取りにギルドへ行った時によ…その話を聞いた』


別の光景が広がる。

古めかしい造りだが、ジャンガの住居と比べればそれなりに清掃が行き届いている建物だった。
ジャンガは入り口の正面に在るカウンターへと向かう。
係員と思しき初老の亜人の男と会話を交わし、ジャンガは金を受け取る。
それを懐に入れるとジャンガは店を後にしようとする。

――なぁ、ジャンガ…ちょっといいか?――

――ンだ、急に?――

――お前とは長い付き合いだからな…この面白い話を耳に入れておいてやろうと思ったのさ――

――前置きはいいんだよ…、話すんなら話せ…―

――せっかちな奴だ。…”英雄ナハトゥム”…――

――ナハトゥム〜? 何だ、そりゃ?――

――最近トレジャーハンターの間で飛び交ってる話題さ…。大昔、この大地を治めていた王様ナハトゥム。
その力は今じゃ考えられない位凄い物だったんだそうだ。その力…”ナハトの闇”を引き出す方法が何処かに在るんだとよ――

――…下らねェ。どうせ、どっかのホラ吹きが流した噂話だろうがよ? アホらし…――

――そうかもしれねぇさ…。だがよ…もし本当だったらどうだ? 大昔の英雄様だ…きっとトンでもない力かもしれないぜ?――

ジャンガは暫く何かを考えるように立ち尽くしていたが、そのまま外へと出て行った。


『英雄ナハトゥム……ナハトの闇……。正直、最初は本気になんかしてなかった。
ただ、あっちこっちでそんな話が囁かれていてよ…次第に俺も興味を惹かれるようになった』
320名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:38:38 ID:xCH7bAFI
支援
321毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:39:13 ID:VqiA2eKK
――ナハトの闇ってのはどんな力が有るんだろうな?――

――俺が聞いた話じゃ”夢を自在に操れる”んだとよ――

――俺の方は”時間を超える事が出来る”とかだったぜ?――

――”死んだ奴を生き返らせる”って話もあったな――


『”死んだ者を蘇らせる”……その言葉が俺の耳に入った時、俺の興味は完全にナハトの闇に向いていた。
勿論、噂話は噂話だ……本当かどうかなんて定かじゃねェ…。けどよ…そんな事はどうでもよかった…。
ただ……ただ俺は……あいつにもう一度会いたかった…』


別の光景が映し出される。

ジャンガと金色の毛をした狼と思しき亜人の男と向き合っている。


その男の姿を見たルイズは驚いた。
前に夢の中で見たジャンガと対峙した亜人の少年とよく似ていたからだ。


ジャンガが男を見ながら笑う。

――キキキ…これから宜しく頼むゼ。”金色の死神”――

男もジャンガを見ながら笑う。

――ああ、こちらもな。”毒の爪”――

そうして互いに握手を交わす。


『結局、トレジャーハンターなんてやった事も無かった俺は、直ぐに手詰まりになった。
それで…その当時、バウンティハンターとしてもトレジャーハンターとしても腕の良いと評判だったあいつ…バッツと組む事にした。
――思えば、あいつら親子と会ったのは…これが初めてだったっけよ?』


「バッツって……やっぱり」
あの夢の中でもその名は出ていた。…あの亜人の少年が自分の父だと言っていた名だ。
ルイズの横でタバサは静かに目の前の光景を見つめている。
その脳裏を過ぎるのは以前、自分の実家でジャンガの口から語られた話。
(親子…)


ジャンガはバッツに連れられ、彼が取っている宿と思しき場所へと入る。
そして彼の借りている部屋へと案内された。

――ガンツ! 今帰ったぞ!――

そう言いながらバッツは扉を開ける。
中へと入るや、彼と良く似た亜人の少年が抱き付いてきた。

――親父!――


その少年を見てルイズは目を丸くする。
多少幼かったが、正しく夢の中でジャンガと対峙していた少年だった。
322毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:39:44 ID:VqiA2eKK
人懐っこい笑顔を振りまく少年とバッツを交互に見比べるジャンガ。

――お前…子持ちだったのか?――

――ああ、言い忘れてたな。そうなんだよ……と、ガンツ。まったく…甘えん坊だな――

自分に縋り付いてくる息子に困りながらも、バッツは嬉しそうだ。
それをジャンガは、どこか羨ましそうな表情で見つめていた。


『正直に言う……俺はあいつが子供を持っているって知った時、激しく嫉妬した。
バッツだけじゃない…、たとえ母がいなくても…こんな優しい親を持てた…ガンツ坊やにもだ。
親子の絆を深める二人が…憎らしくも思えた。自分勝手な理屈だけどよ……それでも羨ましかったんだよ。
そうして…俺とバッツとで賞金稼ぎと宝探しの日々が始まった。
東に西に賞金首やら秘宝やら、様々な物を探して旅をした。
次の獲物を決める度に宿を変えたが、決まった家を持たない事に疑問を感じてバッツに聞いた事があった。
そしたらよ…あいつの伴侶が死んじまってからは、ずっとこの生活を続けてるらしい。
旅を続けていれば…母親のいない寂しさも紛れると思ったんだとよ。ま、その辺の事情はあんまり詳しくねェ。
…あまり興味も無かったし、何より…”ナハトの闇”を探す為に利用しているだけだったしな…。
でもよ……それだけだ。”ナハトの闇”が見つかって、俺が使えるようになれば…それで良かったんだ。
いや、寧ろ…あいつとのコンビも悪くないとすら思ってたんだよ』


――なァ、いいのか? 俺がお前のマークなんざ付けてもよ?――

――構わないさ。俺とお前はコンビなんだからよ――

――そうかよ。なら…お言葉に甘えて――

言いながらジャンガは帽子に金色のマークを刻んだ。


『本当に充実した日々だったゼ。――そんな俺の思いに影が差し始めたのは……あの日からだったか?』


別の光景が浮かんだ。

ジャンガがギルドの外で退屈そうに欠伸をしていた。


『それはちょっとした偶然の一致による出来事だった。
その日のギルドは、いつもよりも賞金稼ぎがごった返していてよ…、俺はバッツが用事を済ますのを外で待っていた』


――ん?――

ふと、ジャンガが何かに気が付いたように目を向ける。
視線の先にはジャンガよりも多少は年を食っていそうな二人組みの亜人が、路地裏へと入っていく姿が在った。


『別に無視しても良かったんだがよ……と言うか、男追いかけてもつまらねェ。
だけどよ…虫の知らせとでも言うのか? 何故だか…俺はそいつらが気になった』


ジャンガは二人の後を追うようにして路地裏へと入っていく。
薄暗い道なき道を暫く進むと、二人の男が地面に座り込んで話し込んでいた。
タバコを咥え、懐から取り出した金を数えながら、あーだこーだと話をしている。
どうやら収入の分配を話し合っているようだった。
323毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:40:17 ID:VqiA2eKK
ジャンガはそれを暫く眺めていたが、やがて詰まらなくなったのか…背を向け歩き出した。

――それにしてもよ…最近は稼ぎが悪いな――

――ああ…まったくだ。楽して儲ける事ってできないもんかね?――

そんな男達の会話が聞こえるが、ジャンガは歩き去ろうとする。

――ま〜たあのお偉いさんから仕事が来ないかね? …五年位前のようによ――

ジャンガの足が止まった。

――そうだな…、あの仕事は報酬の割には楽だった。…スラムの一軒家に火を点けるだけだったしよ――


ジャンガの両目が開かれた。――それは事の成り行きを見守っていたルイズとタバサも同様だった。
男達の会話は続く。


――でもよ…何だってあんな事をしなくちゃいけなかったのかね? 仮にも娘だろ?――

――名家のご息女がスラムで男と二人暮し…なんて、世間様に知られたくないんだろうな…――

――ま、そんなもんだろうな。親子の絆ってもんより立場ってのが重要だって事か――

――そうだな。実益とスラムに流れた我侭な子供…比べりゃどっちが重要かなんて誰でも解るしな――

ジャンガの身体が静かに震えだした。

――大体よ…親子の絆だ、愛だ、なんて言ってる奴は今時いないぜ?――

――そうだな。…やっぱり世の中”金”だしな――

――まぁ、あの女の子は気の毒だったけどよ、俺等を儲けさせてくれたんだから、少しは世の役に立ったと言えるんじゃね?――

――そうだよな〜〜ははは――

男達の笑い声が裏路地に響く。
それを静かに聞いていたジャンガは、その足を男達の方へと向けていた。
男達がジャンガに気が付き、驚きの表情を浮かべる。

――な、なんだ? お前?――

――テメェらに仕事を頼んだのは誰だ? 詳しく聞かせろ――

――聞いてやがったのかテメェ!?――

――聞かせろ…二度は言わねェ…――

しかし、男達は口封じの為か、愚かしくもジャンガに襲い掛かった。


…そこで一旦辺りが暗闇に包まれる。――そして別の光景が浮かんだ。

変わらない路地裏。
そこには三つの人影があった。
一人はジャンガ、他の二人は話をしていた男。
324毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:40:59 ID:VqiA2eKK
その男の一人は血塗れで地面に倒れている。
ジャンガの爪から血が滴っているところを見る限り、彼の仕業なのは間違い無い。
その血の滴り続ける爪を構えながら、ジャンガはもう一人の男へ歩み寄る。

――ひ、ひぃ!?――

――もう一度聞くゼ…、テメェらに仕事を頼んだのは誰だ?――

――…わ、解った…。言う…、言うから…助けてくれ…――

男は震えながらジャンガに情報を与える。
粗方聞き終わるや、ジャンガは立ち上がる。
男は、助かった、とでも思ったのか安堵の息を洩らし。――その直後だ。

ズバッ!

――がっ!?――

ジャンガの爪が男の胸を貫いた。
そのまま男は呆気ない最後を遂げた。
ジャンガは男二人を蹴飛ばして完全に死んだ事を確認すると、
詰まらなさそうに鼻を鳴らすや、その場を歩き去ろうとする。

――ん?――

ジャンガは唐突に足を止め、顔を上げる。
そこにはバッツが立っていた。

――ジャンガ…、何処へ行くつもりだ?――

――”何をしてるんだ?”とは聞かねェんだな?――

――ああ……見てたからな。…止めようと思ったが、間に合わなかった――

――そうかい? ま、別に助ける義理なんざ無ェだろ…、気にすんな――

それだけ言うとジャンガはバッツの横を素通りしようとする。
それをバッツは腕を掴んで止める。

――何だってんだよ?――

――ジャンガ……それは止めとけ――

――…何がだよ?――

――復讐をだ――

ジャンガの目付きが冷ややかな物になる。

――…お前には関係無いだろうが――

――確かに直接の関係は無い。だが、無意味な殺しは見過ごせないな――

ジャンガの目付きが更に鋭くなる。

――……無意味だ? 無意味なんかじゃねェ……俺の苦しみ、あいつの無念、それを教えてやる…。
そこに転がってる奴等に仕事頼んだ奴によ!――
325毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:41:20 ID:VqiA2eKK
ジャンガは掴まれた腕を力任せに振り解こうとする。
しかしバッツはジャンガの腕を離さない。

――離せよ……これ以上はテメェでも容赦しねェぞ?――

――…復讐をしたら、お前は満足するのか?――

――当然だ、解りきった事を聞くなよ?――

――そうか…。だが、それは一時の物だ。直ぐに後悔する事になる――

――なんで憎い奴殺した事を後悔するんだよ? 訳が解らねェ…――

――相手がどんなに憎い奴だろうが…殺す事に罪悪感を感じない者はいない――

――奇麗事だな――

――かもしれない。だが、お前は確実に後悔をする――

――何故だよ?――

――一緒に過ごして解った。お前は優しい性格をしている…、それに責任感も強い。…人殺しなど合わない――

――知った風な口を…――

――ジャンガ、お前の過去に何があったか…深くは踏み込まない。だが、賞金稼ぎの仕事と復讐を一緒にするな。
復讐は何も生まない…、悲しみと憎しみ…そして、新しい復讐を生むだけだ――

ジャンガは歯を噛み締める。

――なにより……お前の大事な奴がどう思うかを考えろ――

――……死んだ奴が笑ったり悲しんだりするかよ? 卑怯な言い方だゼ…――

――そうだな…、俺も卑怯な言い方だと思う。だが…それなら解るだろ、復讐を遂げる事が意味の有る事かどうかが――

――チッ…――

舌打ちをするジャンガの肩にバッツは手を置く。

――ジャンガ…復讐の事は忘れろ。俺も今あった事は忘れる。…さぁ、帰ろう――

バッツはジャンガの背を叩くと歩き出した。
その背を見つめながらジャンガは歯を噛み締めた。
そして、静かに呟いた。



――お前に何が解るんだよ……バッツ――



『殺意やら憎悪やら解らねェが…その時、俺は確かにバッツに好ましくない感情を抱いた。
正直…殺してやりたいとも思った…』


ルイズとタバサは最早言葉が無かった。
326毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:42:02 ID:VqiA2eKK
『でもよ……それを否定している自分もいた。なんでかって? …”ナハトの闇”を探すのが難しくなるからさ。
いや、そんな理由抜きで…バッツを殺したくないんだよ。
何故って……俺はあいつの事が気に入ってたからよ。
最初は利用するつもりで近づいただけだった…、だけどよ…いつの間にか相棒として気に入ってたんだ。
バッツだけじゃない…、甘えん坊なガンツ坊やも…嫌いじゃなかった。
だから、殺そうだなんて考えなかった……寧ろ、このままコンビを続けてもいいとさえ思った。…それなのに』


また別の光景が映し出される。

そこは遺跡のような場所だった。
壁には文字のような物や絵のような物が描かれている。
一部の壁や天井は罅が入ったり、壊れたりしており、長い年月が経っている事が解る。
どう言う仕組みなのか解らないが、遺跡の内部は所々から光が漏れており、明るく照らしていた。
その遺跡の中をジャンガとバッツは歩いていた。

――こいつは…いよいよ当たりかもしれねェな?――

ジャンガが辺りをキョロキョロと見回しながら呟く。
その間も、バッツは壁に手を添えながら、描かれた文字やら絵やらを熱心に見ている。

――おい、バッツ何か解ったか?――

ジャンガが声を掛けるも、バッツは答えない。
熱心なその様子にジャンガはため息を一つ吐くと、それっきり口を閉ざした。

途中、ジャンガは一つの黒い玉のような物を見つけて拾ったが、その玉は直ぐに砕けてしまった。

やがて、バッツとジャンガは今までよりも細かく文字と絵が刻まれた一つの大きな石碑を見つけた。

――こいつは…――

ジャンガが呆然とした表情で声を漏らす。
バッツはその内容に目を通していたが、徐々にその表情が青ざめていった。
その様子にジャンガは再び声を掛ける。

――おい…どうしたんだ、バッツ?――

――……ナハトの闇……――

その名前にジャンガの目が見開かれる。

――な、何だって!? ナハトの闇!? バッツ、そう書いてあるのか!?――

――…ああ…――

真っ青な表情で呟くバッツと正反対に、ジャンガは玩具を見つけた子供のような笑顔を浮かべる。

――や、やった! ここが当たりだった…そうだったんだ!!!――

喜ぶジャンガ。自分の捜し求めていた物が見つかったのだから、当然の反応だろう。
――だが、その喜びは束の間の物だった。

――帰るぞジャンガ――

突然、バッツが石碑に背を向けるや、ジャンガにこの場を撤収する事を告げた。
喜びの絶頂から不幸のどん底に叩き落されたジャンガの表情が一瞬で曇る。
そして、バッツの背に向かって怒鳴った。
327毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:42:20 ID:VqiA2eKK
――どう言う事だ、バッツ!?――

――言ったまでの意味だ…、帰るぞ――

――納得が行かねェ! ナハトの闇……ずっと捜し求めていた物がようやく見つかったんだ。
なのに…それを諦めろとでも言うのかよ!?――

――そうだ――

にべも無い返答。
ジャンガは納得しない様子だ。

――何故だ!?――

――過ぎた力だからだ。…これは俺達のような一介の賞金稼ぎが持っていい力じゃない…――

――そんなのは関係無ェ! 俺はこの力が必要だ…、この力で……あいつを…――

――死んだ人間を蘇らせるなんか出来るわけが無い――

――なんで断言できるんだよ!? 大体…テメェも伴侶亡くしてるんじゃねェかよ!?
生き返るんだったら…生き返らせたいとは思わねェのかよ!? 死んだ女には…もう興味も無ェってのかよ!?――

――例え可能だとしても、それは死者に対する冒涜だ――

――バッツ!!?――

――…此処での事は忘れろ。いいな?――

そう言うや、バッツはジャンガに背を向け歩き出した。

――バッツ!!?――

ジャンガは再三叫んだ。
だが、バッツが振り向く事は無かった。


瞬間、世界は暗転した。


『その時の俺には…あいつの言葉の意味、あいつの心理を理解する事は不可能だった…』


暗闇にジャンガの声が木霊する。


『ただただ……目の前を行く、テメェの思いを踏み躙る奴が…赦せなかった…。
それまで溜め込んでいた怒りが…憎しみが…一気に噴出すのを感じた』


――バァァァーーーーーッツゥゥゥーーーーー!!!――


『そして…俺は……』
328毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:42:37 ID:VqiA2eKK
暗闇に光が戻る。

ポタッ、ポタッ、ポタッ

地面に水が滴り落ちる音が響く。
だが、床に落ちるそれは水ではなかった。

何処までも紅い……真紅の液体が床に広がっている。

――ハァ…、ハァ…、ハァ…――

荒い呼吸音が響く。
ジャンガは爪を突き出す格好で息を荒げていた。
その爪の先端は――バッツの背を貫いていた。

――ゴフッ…――

バッツは貫かれた腹から血を流し、口からも大量の血を吐き出した。
ジャンガが爪を引き抜くと、バッツはよろめく様に二・三歩歩き、ジャンガを振り返る。

――…ジャンガ…――

――ハァ…、ハァ…、恨むなよ…バッツ――

バッツは膝を地面につき、苦しそうに血を吐き出す。
そして、ジャンガを見上げる。

――…ああ…恨むもんか…――

――な、何?――

予想外の言葉だったのかジャンガは目を見開く。
当然だろう。死ぬかもしれないような大怪我を負わされたのに、恨まないとはどう言う事か?
訳が解らないと言った表情のジャンガを見ながら、バッツは言葉を続ける。

――……本当は、解っているさ……、大切な者を亡くした者は…どうあっても…その幸せを取り戻したいと願う事は…。
だがな……そう言う悲しみは…人は……乗り越えていかなけりゃ…ならない…んだ……。だから…――

――……――

――だが……よく考えてみれば…そん…なのは……ただの独善だよな…?
お前の気持ちを……他人の俺が…、理解できるはずが…無いんだしよ…。
だから……これは…報いだ……、俺の独りよがりな…考えを…押し付けようとした……な…――

――バ、バッツ!?――

ジャンガはバッツに慌てて駆け寄った。
だが、どう見ても助かりそうにない傷だ。
バッツは息も絶え絶えな状態ながら、言葉を搾り出す。

――ジャンガ………せめて……お前は……真っ当に生きてくれ…。そして…――

そしてバッツは寂しげに笑い――

――…すまねぇな…――

――それだけ伝えると、息を引き取った。

ジャンガは暫く呆然となり、そのままの姿勢で佇んだ。
329毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:43:11 ID:VqiA2eKK
カランッ

突然、静寂を切り裂いて物音が響いた。
慌ててジャンガは顔を上げる。
そして、大きく目を見開いた。

――ガンツ坊や?――

彼の視線の先には呆然と立ち尽くすガンツの姿が在った。


『何も考えられなかった…』


――何で…――

幼いガンツが呟く。

――何でだよ…?――

再度呟く。
ジャンガは何も答えられないまま立ち尽くす。


『俺はあいつを真っ直ぐに見る事が出来なかった…』


――何でなんだよぉぉぉーーーーー!!?――

幼いガンツの絶叫が迸り、再び辺りを暗闇が支配した。


『気が付いたら、俺は走り出していた。…色んな事から逃げたかったのかもしれない。
バッツを殺した事から…、ガンツ坊やか親父を奪った事から…、そして…殺さないと言う誓いを破った弱い自分自身から…。
そして…、それから俺はまた各地を転々とした。賞金稼ぎとして名を轟かせるだけでなく、様々な悪事にも手を染めた。
…もう半ば自棄になってたのかもしれない。恨まれて殺されても構わないと本気で思ってた。
そんな生活を三年ほど続けていた時か? …ジョーカーに会って、ガーレンの野郎に会って……ナハトの闇を引き出そうとしていた』


そこで闇に光が戻る。

広がった光景は、あの遺跡だった。
そこにはジャンガとガンツの姿が在った。

――ああ、いかにも『毒の爪のジャンガ』様だ。で、坊やは何処の何方だい?――

――テメェ…よくもヌケヌケとぉ!!――

一瞬即発の状況だったが、直後にガンツは落とし穴に飲み込まれた。
そして、目の前の光景が掻き消える。


『最初は解らなかった…、完全に忘れていた…』


別の光景が浮かぶ。

対峙するジャンガとガンツの他に青い服装の猫の様な亜人の少年がいた。
しかし、二人は少年の事はそっちのけと言った様子だ。
330毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:43:29 ID:VqiA2eKK
――敵はとらせてもらうぜ! 裏切り者のジャンガ!!――

――敵? その銃…まさか、お前…?――

――こんな所で会えるとはな…、探したぜ、クソやろう!!――

叫びながら手にした銃の引き金を引く。
飛び出す銃弾を、ジャンガは軽やかなステップでかわしていく。

――キキキキキ、なるほどなァ…バッツの息子か。こりゃ…傑作だ!――


『本当に傑作だった…。なんせ…親父を殺した場所で、その息子と再び面逢わせる事になったんだ…。
もう会う事も無いと思ったのによ……どうして逢っちまったんだろうな?』


別の光景に変わる。

周囲が鉄の壁で囲まれ、金網状の橋が通路に掛かり、その下を溶けた鉄らしき物が流れている。
鍛冶屋の設備をそのまま拡大したかのような巨大な空間。
そこにジャンガとガンツはいた。

――キ…いい加減しつこいガキだなァ、よォ?――

――親父の無念を晴らす為なら地獄の果てでも追いかける!!――

ガンツは叫び、銃の引き金を引いた。


ジャンガに向かって怒りと恨みの雑ざった叫びを上げるガンツに、タバサは自分の姿を重ね合わせていた。


ガンツの撃った銃弾はジャンガに当たらない。
嘲り笑いながら余裕でかわし、彼を親父の形見だという大型の拳銃で吹き飛ばすと、その場を去った。
しかし、ガンツは諦めなかった。ジャンガへと必死に追い縋る。

――おいおい、またおめェか?――

――言ったろう、地獄の果てでも追いかけるってな!――

――ッたく、クソガキがッ――


『…殺したくはなかった。親父の命を奪ったんだから、寧ろ殺されるのは俺の方だ…。
だが、俺は死ぬのが怖い。このままやりあえば加減も何もせずに殺してしまうかもしれない…。
今のガンツ坊やに俺を倒す事が出来るとは到底思えなかった……だから』


――しゃあねェ…そのしつこさに免じて、…ほらよ――

ジャンガは手にした銃を宙に放り投げる。
唐突なジャンガのその行動にガンツは呆気に取られる。
その隙をジャンガは見逃さない。一瞬で駆け寄り、ガンツに爪で当身を食らわせた。
苦痛に顔を歪め、ガンツは地面に崩れ落ちる。
それをニヤニヤした笑みを浮かべながら、ジャンガが見下ろす。
手にした銃をガンツに向ける。
331毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:44:02 ID:VqiA2eKK
――毒爪は使わねェ。テメェは大好きな親父の銃に撃たれてくたばるんだ!――

――テ……メ……ェ……――

――地獄で親父と仲良くなァ!!!――


BANG!!!


――キーキキキキキキ…、餞別だァ…こいつはくれてやるゼ――

そう言ってジャンガは動かなくなったガンツに向かって銃を放る。
そして笑いながらその場を去っていった。


『殺さないように…俺はあの時、服から除いていたメダルを狙い撃った。
衝撃で気絶はしたが、命にはまァ別状は無いだろう。
こうして力の差を見せてやれば、あいつは諦めるかもしれない。
楽観視かもしれないが…本格的な殺し合いをするよりは幾分もマシだと思った。
それでもやりあう事になるなら殺されたい……そう思って、あの銃も渡した。
復讐なんて……下らないからよ…』


再び場面は切り替わる。

「ここ…?」
そこはルイズが一度見た場所だった。
ジャンガの言っていた月の世界。
そこにジャンガとガンツは立っていた。


――正念場だな、ジャンガ!――

――カッコつけんじゃねェよ、ガキが!――

二人は殺意を隠そうともしないで罵りあう。
そのまま戦いが始まってもおかしくなかったが、そうはならなかった。

――ぶっ倒す前に、一つ聞いておきたい事がある――

ガンツは静かな口調でジャンガに問いただした。


その会話を聞いてルイズは、あれ? と思った。
以前はこの部分の会話は聞き取れなかったはずなのだ。
なのに、今は鮮明に聞こえてくる。

そんな事を考える間も二人の会話は続く。


――テメェと親父は名コンビと呼ばれたトレジャーハンターだったはずだ。…だが、何故親父を裏切った!?――


『その言葉に、今更ながらこいつは迷いなんかを持ったのか? と俺は心配になった。
これから始まるのは本格的な殺し合い……加減なんか出来るはずが無い。
だから…俺は自分を徹底的な悪役に仕立て上げる事にした。事実をありのままに告げる事で』
332毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:44:25 ID:VqiA2eKK
――裏切ったァ? キキキ…そいつは違うな――

ジャンガはニヤリと笑う。

――バッツは最高のハンターだったからな…、最初から利用するつもりで近づいただけさ。
解るか? ムゥンズ遺跡を調べ”ナハトの闇”を引き出す方法を見つけたのは……ガンツ、おめェの親父なんだゼ?――

ジャンガの言葉にガンツの眉がピクリと動く。

――もっとも…それを利用するのに反対しやがったからな…、ちょいとあの世に行ってもらった訳だ。
腕が良いってのも考え物だよなァ〜〜? キキキキキ!――

――そうかい……――

ガンツの呟きは諦めたような、安堵したような、判断がし辛い感情が含まれているようだった。
しかし、顔を上げたガンツの瞳に迷いなどは無い。在るのは…純粋な怒りだけ。

――それじゃあ、遠慮はいらねぇな。…最初から遠慮なんてしてねぇけどよ!――

――キキキ、くたばりなァーーーッッッ!!!――

ジャンガの叫び声が響き渡り、両者は一斉に飛び出した。


「止めて…」
目の前の戦いを見ながらルイズは呟いた。
「止めてよ…、二人とも…」
届くはずが無い…、止まるはずが無い…、何せこれは過去の事……過ぎ去った出来事の記録。
それでもルイズは言わずにいられなかった。
どうして二人が殺しあわねばならないのだ…?
全ては不幸なすれ違い…、話し合えば解り合えるかもしれないのに…。
その気持ちはタバサも同じだった。
今なら彼が自分に復讐を止めて親を大事にしろと言った、あの時の言葉の全てが理解できる。
だから止めたい……しかし、それは出来ない事。

そして……決着はついた。

結果的にジャンガはガンツに敗れ、命乞いで見逃され、不意打ちを仕掛けて返り討ちにあった。

そこで、目の前の光景が掻き消えた。


『最後の授業のつもりだった……世の中にはどうしようもない奴は大勢居るんだって事を、教えておきたかった。
結果的に、お友達の坊やが割り込んだ所為で手元が狂っちまったがよ…。
まァ…最後にガンツ坊やに信頼できる相手ができたのを見れて良かったかもしれないがな…。
それで俺はクレバスに落ちて……終わりのはずだった。なのによ……』


――『なんだ?』――じゃないわよ!この馬鹿猫ぉぉぉぉぉ!!!――


「え?」
突然、自分の出した物ではない自分の声が響き渡り、ルイズは驚いた。
暗闇に光が戻り、別の光景が広がる。
それはあの日……ジャンガと始めて会話をした時の物だった。
333毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:44:41 ID:VqiA2eKK
『神様ってのは意地が悪いんだな…。いや…悪いのは俺の運か? まァどっちにしろ…俺は生き残った。
召喚だなんて…非常識な物でよ。おまけに…不愉快な事極まりない連中が大勢いるときた。
メイジだか貴族だか知らないが……力の有る連中が無い奴を虐げる…、最悪に不愉快だった』


ギーシュとの決闘の場面が広がる。
ジャンガの爪がギーシュを切り倒し、周囲の生徒達が悲鳴を上げる。


『連中が悲鳴を上げた瞬間……スカッとした。結局殺しそこねた、あいつのクソ親の分も悲鳴を聞けた気がしてよ。
まァ、本当ならこのまま全員血祭りで行くんだが……案外、ここも面白い事が解った』


次いでタバサとの決闘の場面が広がる。


『ガンツ坊やと同じ目を持ったタバサ嬢ちゃん。最初は面白い玩具程度にしか考えなかったなァ…。
でもよ…見ていれば見ているほど、俺やガンツ坊やに良く似ているのが解った。
どこまでも無鉄砲で…人の話を聞かないで…人と関わらないで…一人ぼっちでいて…。
まったくよ……心配掛けさせる奴だった…』


場面は更に移り変わる。

それは夜の学院で、コルベールとジャンガが対峙している物だった。


『バッツに似てると思ったが……その実、俺に似ていたあのオッサン。
”闇に堕ちたとしても、きっかけ一つで人は変われる”…なんて、陳腐な台詞吐いて、俺なんかを必死に諭して…。
おまけに…勝手にくたばりやがって…。ほんとに自分勝手な野郎だった…』


更に別の光景が広がる。

そこに映し出されるのはルイズと過ごした日々。
時にぶつかり、時に励まし、時に虐げられ、時に慰められた。
それらの日々を見てルイズは寂しげな表情を浮かべる。


『シェリーに”見た目”は似ている生意気なクソガキ。見た目以外は性格も体付きも似てない。
見ているだけでイライラする…そんな奴だったのによ、自然と放っておけなくなった。
別に同情だとかそんなんじゃないが……似てなかったのが段々と似てきたのかな?
まったく…、似てないなら最後までそれで通しやがれってんだよ…。中途半端に似やがって…』


目の前の光景が消え失せ、暗闇が支配した。
血の海が広がる中、立ち尽くすジャンガの姿が現れる。
ジャンガは天を仰いだ。


『俺は……ここに来るべくして来たのかな? それとも…本当はあのままクレバスの底でくたばるべきだったのか?』


「違う…」
目に涙を浮かべながらタバサが呟いた。
ルイズもまた同様に泣いていた。
「死ぬべき? 何勝手な事を言ってるのよ…あんた」

しかし、二人の言葉はジャンガには届かない。
334毒の爪の使い魔 第31話後編 代理:2009/03/06(金) 20:45:04 ID:VqiA2eKK
『…まァ…どうでもいいか…。…どの道…これで終わりだしよ…』


ジャンガの身体が血の海に沈み始める。
それを見たルイズとタバサは必死に叫び、手を伸ばす。
だが、届かない……届くはずが無い。

と、ジャンガが寂しげな笑顔を浮かべながら、二人を振り返る。


『あいつらじゃないけどよ……最後の最後で……助けられた気がした…。
ルイズ嬢ちゃん…、タバサ嬢ちゃん…、色々とすまねェな……俺は…もう満足だ……』


完全に沈む瞬間、ジャンガの最後の声が響いた。


『ありがとよ…』


「「ジャンガァァァァァーーーーー!!!?」」


二人の絶叫が何処までも広がる暗闇に木霊した。



以上です。
長かった…、本当に長かった。ジャンガの過去話は以上です。
次回からはまたゼロ魔の本筋に戻ります。
335名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:47:16 ID:VqiA2eKK
引き続き、重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 の代理投下を開始させていただきます。
336名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:48:42 ID:0DN8I8Bk
支援

ヴァルキリーの人帰ってきてほしいな
せめて変態だけでも…!
337重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:51:01 ID:VqiA2eKK
背後で徐々に騒ぎが広まっているのを尻目に、一行は桟橋目指して走り続けていた。宿の主人には申し訳ない、
本当に申し訳ないのだが、元はといえば酒場で襲ってきた暴漢共が悪いのだ。とにかくそういうことにしておい
てでも、今自分達は逃げなければならない。もしも捕まったり、殺されでもしたら元の木阿弥だ。
 ワルドを戦闘とした一行は、建物に挟まれた階段をなだれ込むようにして駆け上がる。余り幅広とは言えない
削り出しの階段を上りながら、ルイズはもしやライデンは通ることが出来ないのではないかと後ろを振り向いたが、
かろうじて通行できているようだった。
 延々と走り続け、ワルドとライデンを除く一行は完全に息が上がっていた。足ががくがくと振るえ、壁を支えに
どうにか階段を上りきる。階段を抜けた先は広い丘の上であり、そこには天を突くかのような巨木が悠然と聳え立っ
ていた。広大な範囲へ四方八方にわたって広げられた枝には、まるで木の実のように幾つもの船が係留されている。

「追っ手の姿は見えるか?」
「はぁっ、はぁっ、いえっ、今の所、それらしい、影は、見えないわ……」

 待ち伏せと奇襲を受けた以上、敵は組織的に行動している可能性が高い。今は先刻の混乱で追撃がないだけかも
しれないのだ。一刻たりとて気を緩めることはできない。
 もう数百年も以前に枯れてしまった大樹をくりぬいて造られた内部は、遥か上方まで完全な吹き抜けとなっている。
ワルドは目当ての階段を見つけると、急かすように手振りをする。とはいえ先程から足の筋肉を酷使しているルイズ
たちにすればもう走れない所まできていたが、そこではたとフライを使えばいいことに気がついた。焦るあまり基本的
なことを失念していたのだ。そのフライが使えないルイズはライデンに抱えてもらおうとしたその時、ワルドが叫んだ。

「まずい、上だ!」

 ルイズ達が声に釣られて、はっと見上げると20メイルほど上空に白い仮面を被った男が浮遊し、あろうことか詠唱
に入っているのが見て取れた。男が黒塗りの杖を頭上に振り上げると、周囲の空気が急速に冷却されていく。仮面の
男がどのような魔法を使おうとしているのか気付いたワルドは全員に警告する。

「全員逃げろ! 奴が使おうとしているのは……!」
「『ライトニング・クラウド』!」

 ライデンが魔法の棍棒を仮面の男へ向け、迎撃しようとしたが、半瞬の差で間に合わなかった。何かを鞭で打ち付
けるような鋭い音が聞こえたかと思うと、男の周囲から敵を噛み殺さんとばかりに稲妻の竜が伸びる。さしものライ
デンとしても光速の攻撃を回避することはできず、赤い鎧を纏った巨体は超高圧の電流に蹂躙される。
 直撃を受けたライデンは全身を帯電させながら、地面へと膝を突いた。神の使途の如く、強大な力を振るっていた
巨人が初めて敵の攻撃に屈した瞬間であった。

「ライデンっ!」

 ルイズが思わず駆け寄るが、鋼の巨人はクリスタルをせわしなく点滅させ、一向に動き出す気配がなかった。そん
な馬鹿な、この強力な使い魔が打ち倒されるなどと。この困難な任務において最後の頼みの綱であったライデンを失い、
主人であるルイズもその場に崩れる。
338重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:51:30 ID:VqiA2eKK

「くっ、すばしっこいわねぇ!」
「敵はスクウェア・メイジ。私たちでは勝てないかもしれない」

 キュルケやタバサ、ワルドらが魔法で応戦するが、攻撃が敵の体を捉えることはない。ひらりひらりと、寸での所
で回避し続ける男は時折空気の塊を打ち据えてくる。ワルキューレを盾にすることで、どうにか凌いでいたが、一発
が盾をすり抜けワルドたちに直撃した。
 敵の攻撃で一瞬足並みが乱れた隙を、白仮面は目ざとく認識すると、ライデンの傍で呆然としているルイズの背後
に降り立つ。

「ルイズっ!」
「……え? っきゃああぁぁぁっ!!」

 抵抗する間もなくルイズは抱え上げられ、男は空中へと上昇する。

「おのれぇっ! 『エア・ハンマー』!」

 ワルドは高速で詠唱を行い、三連続で圧縮された空気弾を男目掛けて放つ。ルイズを抱えたことで若干動きが鈍った
男は、ワルドの渾身の攻撃を完全に回避しきることができなかった。空気塊の一つに足を取られ、体勢を崩すと思わず
ルイズを手放してしまう。拘束から開放されたものの、空中に投げ出されたルイズは地面へ向けて真っ逆さまに落下していく。

「ワルキューレ、ルイズを受け止めろ!」

 薔薇を振りかぶり、一体のワルキューレに命令を出すと、ワルキューレは装備していた武装を放棄し、落下してくる
ルイズの元へ一目散に駆け寄る。跳躍しながら衝撃を吸収するようにルイズを受け止めると、即座にその場から退却する。
 体勢が崩れたことで、今度は逆に隙を作ってしまった男はキュルケとタバサによる集中攻撃を受け、地面へ墜落する
こととなった。一瞬倒れ伏すものの、即座に起き上がり再び攻撃に移ろうとした所で、残り二体のワルキューレが突進
してくる。練成する数を減らしたことで、個体の膂力・防御力・速度が飛躍的に向上したワルキューレは、とどめを刺す
ことこそできなかったが、連携攻撃により男を転倒させることに成功した。それでもなお立ち上がろうと身を起こした男
の目に映ったのは、先程から詠唱を続けていたワルドの姿だった。周囲の気温が急激に下がっていく。そしてワルドは一切
の躊躇いなしに己が使用できる最大級の魔法を放つ。

「『ライトニング・クラウド』!!」

 先程仮面の男がライデンに膝をつかせた風系統最強の魔法は、相手のそれよりも更に太い雷撃であった。男が身動き
するにも間に合うはずがなく、胴体の中心を打ち抜かれる。身を起こしかけていた男は全身を焦がしながら再度、地面
に倒れ伏すこととなった。

「はぁっ、はぁっ、倒したか……?」
339重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:51:47 ID:VqiA2eKK

 しばらく警戒していたが、男が再び動き出す気配は見られなかった。どうにか突然の襲撃者を倒すことができたが、
こちらも相当に消耗してしまった。これから先、またも不測の事態が発生しないとも限らない。ここでの消耗は一行に
とって痛手となった。しかも最大の攻撃担当であったライデンが機能不全に陥り、任務の成功率はがた落ちしたと
いっても過言ではなかった。

「まさか敵がスクウェア・メイジを投入してくるとはな……。間違いなく反乱軍の一員だろう」

 ルイズは先程と同じように、やはりライデンの傍に座り込んでいた。表情からは感情が抜け落ち、完全に放心している。
そんなルイズにワルドは苦々しい口調で話しかける。

「おそらく、昨日今日の戦いをどこかで眺めていたんだろうな。奴は真っ先に最大の脅威となる君の使い魔を潰しに来た。
あの魔法で先手を打たれた時点で結果は決まっていたんだ。『ライトニング・クラウド』に耐えられる者などいはしない。
残念だが、君の使い魔は……」
「……っ! 子爵、奴が!」

 同じように苦しげな表情をしていたギーシュは、黒焦げとなって転がっている男の異変に気がついた。その場にいた
全員が一斉に振り向くと、男は驚いたことによろめきながらも立ち上がっていたのだ。懐から小さな手の平に収まる程度
の球を取り出すと、こちらに向けて放り投げる。ワルドたちがまずいと考えた瞬間、球は盛大に煙を吐き出し、周囲の
視界は全く効かなくなる。敵の攻撃が来るかと身構えていたが、結局煙が晴れるまで何も起きなかった。そしていつの
間にか、男は姿を消していたのである。

「馬鹿な……。奴は本当に人間なのか……?」

 『カッタートルネード』とならんで風系統魔法の最高位に位置する『ライトニング・クラウド』の直撃を受けて尚も
生きていられる人間が存在するなど信じがたい光景であった。あれだけ常識離れした能力を持っていたライデンですら
一撃の下に倒してしまう魔法なのだ。姿を消した男が人間であるとは思えない。一同はまるで神か悪魔を見たような表情となる。
 しかし、そんな中ルイズだけは相変わらず呆然自失となっていた。ワルドが見やると、左手の薬指にはめられた
『水のルビー』を動かなくなったライデンに押し付けている。

「どうして、どうして直せないのよ……。これで直せなかったら、どうすればいいのよっ……」

 必死でライデン修復を試みる婚約者の姿に、ワルドは悲しげな表情となる。一瞬躊躇ったあと、言いにくそうに話しかけた。

「……ルイズ、君はどうしたい? おそらく君の使い魔が元に戻ることはない、と思う。それに僕達はここに留まって
いるわけにはいかないんだ。動かない以上足手纏いにしかならない。残念だが置いていく他ないと思うが……」
「いや……いやよ……。ライデンはわとたしの使い魔なんだもん……。初めての使い魔なんだもん……。
置いていくなんてやだっ……、うっ、ううぅ……」
340重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:52:05 ID:VqiA2eKK

 遂に泣き出してしまったルイズに、一同は掛ける言葉がなかった。
 たとえ感情を持たない人形であっても、異質な力が少し怖くても、それでもライデンは自分にとって家族以外の初めて
の味方だった。自分が危ない時には真っ先に身を盾にして庇ってくれたのだ。確かにライデンに頼らないメイジになるとも
決心したが、いなくなっても構わないということではない。徐々に点滅の感覚が長くなり、最後には完全に光を失って
しまったライデンの前で、ルイズは泣き崩れた。
 その時、それまで黙っていたタバサが口を開いた。

「あなたがその使い魔を置いていきたくないと言うのなら、シルフィードに運ばせればいい」

 青髪の少女はそう言うと、甲高く指笛を吹いた。すると吹き抜けになった上層部から主人と同じように青い鱗を持った
竜が降下してきた。その口元には、どこに行ったか分からなくなっていた巨大モグラが咥えられていた。苦しげな泣き声
を上げ、じたばたと手足を動かしている。己の使い魔の無事を知ってギーシュは思わず抱きついた。

「ああっ、無事だったんだねヴェルダンデ! どこにいってしまったのかと心配していたんだよ!」

 感激してヴェルダンデに頬ずりしているギーシュは放っておき、キュルケが流石に労わるように声を掛ける。

「ほら、ルイズ。タバサもこう言ってるし、ね。大丈夫よ、きっとライデンを直す方法が見付かるわ」

 実際にはそんな保障はなかった。気休めだとしても、そう言う他になかったのだ。ワルドとキュルケ、タバサの三人で
レビテーションを使い、どうにかライデンをシルフィードの背に載せると、一行は急いで船が係留してある桟橋へと向かう。
未だ力の抜けているルイズはワルキューレに抱えられていた。




 階段を駆け上った先の桟橋として機能している巨大な枝を走り抜けると、そこに停泊していた船へと飛び込む。突然
集団で乗り込んできた闖入者に、それまで甲板で寝こけていた船員が飛び起きる。船員はワルドたちの格好を見て、顔
から血の気を引かせた。

「君、船長を呼んでもらおうか」
「へへへへいっ! 船長、せんちょおー!」

 船員は泡を食ったような勢いで船長室へと飛んでいった。しばらく待っていると、つばの広い帽子を被った初老の男性
を連れて戻ってきた。船長らしい男性は、ワルドの格好を頭からつま先まで一通り眺めると、一応の敬意を払いながらも
胡散臭そうな表情をした。

「して、なんの御用ですかな?」
「女王陛下直属のグリフォン隊隊長のジャン・ジャック・ワルド子爵だ。この船はアルビオンへの定期船なのだろう? 
今すぐに出航してもらいたい。これは女王陛下直々の勅命だ。君達に拒否権は与えられていないことを伝えておこう」
341重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:52:27 ID:VqiA2eKK

 突然無理難題を押し付けられた船長は、勅命だと言われたのも関わらず反論してしまう。

「無茶を言わんで下さい! 今この船にはアルビオンへの最短距離分の風石しか積んでおらんのですよ! 風石の予約は
一杯で、今から新たに風石を確保するなんて無理です!」
「もちろん、こちらとしてもそのことは認識している。僕は風のスクウェアだ。足りない風石の分は僕が補おう。料金は
言い値を払う」
「はぁ……、まあそれなら」

 その後、ワルドから積荷である硫黄の分も上乗せして料金を支払うとの言質を取り、思わぬ商談の成立に気分を良くした
船長は、何事かと甲板に上がってきていた船員達へ矢継早に命令を出していく。気分よく眠っていたところを叩き起こされ
た船員達は、ぶつぶつと文句を零してはいたものの、船長の命令に逆らうこともなく、桟橋に括りつけられている舫い綱を
解き放ち、横静索によじ登り帆を張った。
 繋留が解かれた船は一瞬空中に沈んだかと思いきや、風石の力を如何なく発揮してアルビオンへ向けて出航した。到着
予定は明日の昼過ぎであることを聞くと、ワルドは糸の切れた人形のように壁を背にして座り込んでいるルイズへ足を向ける。
その傍には主人と同じように赤いゴーレムが力無く足を放り出して座らされていた。

「ルイズ……、任務の話なのだが……」

 ワルドの言葉にもルイズは完全に無反応であった。仕方無しに三人固まって難しい顔をしていたギーシュを呼んで、今後
の方策を練ることとする。あまり頼れる人物ではないが、出身がゲルマニアとガリアのキュルケとタバサに秘密任務を話す
訳にはいかない。手招きに気付いたギーシュが小走りに近付いてくる。

「どうしました、子爵?」
「船長から聞いた話だが、ニューカッスル付近に陣を敷いた王軍は攻囲されて苦戦しているらしい」
「……ウェールズ皇太子は無事なのですか?」
「わからんよ。まだ存命ではいるらしいが……」

 二人は同じように苦い表情となる。思っていた以上に戦局は厳しいものだった。本陣付近まで攻め込まれているとなると、
最早一週間ともつまい。更に手紙の回収を行うには分厚い敵陣を突っ切る以外に手段はない。この任務にタバサの風竜を使
うわけにはいかないのだ。非常に困難な局面となることが予想された。

「反乱軍としても一応は無関係のトリステイン貴族に公然と手出しする訳にはいくまい。ただ、間違いなく検問を設けている
だろうな。そこは隙をついて突破する以外に手段はない」

 ワルドの言葉にギーシュは緊張した表情を作る。トリステインの今後の命運を分けるこの任務、最大戦力であったライデン
を失ってしまったのは余りにも痛かった。
 様々な人間の意志が交錯する中、船はアルビオンへ向けて一直線に飛行する。




 「空賊だ!」
342重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:52:41 ID:VqiA2eKK

 夜が明け、下半分が真っ白な雲に覆われたアルビオンを視界に入れたところで、甲板に船員の切羽詰った叫び声が響く。
緊急事態を表す鐘ががらんがらんと打ち鳴らされ、それまで眠っていた船長と船員達が慌てて飛び出してくる。
 ワルドたちの乗る船の右舷上方に位置取る船は、所属する国家の端を掲げておらず、甲板から身を乗り出してこちらを
眺める男達の格好は、どう見ても空賊以外にありえなかった。

「今すぐ逃げろ! 取り舵いっぱぁぁいっ!!」

 船長は船を空賊船から遠ざけようと命令を下すが、時既に遅し。高度を落として並走し始めていた空賊船は定期船の進路
を遮るかのように大砲を放った。
 その後、マストに旗流信号を示す四色の旗が掲げられる。停船しなければ攻撃を行う。敵船の意思表示を受け、船長は一瞬
悩む。今この船にはグリフォン隊の隊長と、数人のメイジが乗船している。助けを期待するかのような視線をワルドへ向けるが、
ワルドはどうしようもないといった身振りをすると、溜息を付きながら告げた。

「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだ。それに彼女達も相当魔力を消耗していてね。あの船に従うしかない」

 これで破産だと頭を抱えて呟くと、観念したのか船長は停船命令を出す。
 空賊船は完全に定期船へと横付けすると、鉤付のロープを渡して次々とこちらへ乗り込んできた。日焼けして粗野な雰囲気
を隠そうともしない男達が拡声器を片手に命令する。

「てめぇら、抵抗すんじゃねぇぞ! もしも逆らってみろ、すぐさま首を切り飛ばしてやる!」

 弓やフリントロック銃で武装した空賊は手馴れた様子で抵抗する船員を拘束していく。ギーシュやキュルケが思わず魔法を
使おうとした時、目の前にすっと手を出されワルドに制止された。

「やめたまえ。いくら平民といえど、あれだけの数を相手に消耗した状態で戦うのは無謀だ。大砲がこちらを狙っていること
も忘れてはいけない。……今はとにかく機を待つんだ」

 突然ずかずかと歩き回り始めた空族たちに、甲板で大人しくしていたグリフォンやヴェルダンデら使い魔が喚き始めた。
空賊の一人が仲間の一人に身振りをすると、その男は杖を取り出し短く呪文を唱える。すると使い魔たちの頭上に小ぶりな
雲が現れ、次の瞬間には纏めて寝息を立て始めてしまった。

「眠りの雲……、メイジまでいるのか」

 抵抗する人間がいなくなったところで、空賊の頭と思わしき男が乗り込んでくる。汗とグリース油で真っ黒に汚れたシャツ
の胸をはだけ、そこから覗いた胸板は逞しく、赤銅色に日焼けしていた。ぼさぼさに乱れた長髪は赤い布で適当に纏められ、
口元は無精髭に覆われている。丁寧に左目は眼帯が巻かれ、まるで作り話に出てくるような男は乗り込むやいなや、船長を
出すように命令する。
343重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:53:00 ID:VqiA2eKK

「ほう、てめぇが船長か。船の名前と積荷を答えろ。嘘をついたらいいことねぇぜ」

 曲刀で頬をなぜられ、震える足を押さえながら何とか立っている船長は正直に白状する。積荷が硫黄であるということ
を聞くと、空族たちは割れんばかりの歓声を上げる。男は船長の帽子を取り上げると、躊躇いなく自分の頭に被せた。

「マリー・ガラント号、いい船だ。全部丸ごと俺達が買った。料金はてめぇらの命だ。異論はねぇな?」

 がくりと船長が崩れ落ちるのを確認した所で、空賊の頭は座らせられている真紅のゴーレムに気付いた。値踏みするか
のように下卑た笑を顔に貼り付けると、悠然とした足取りで近付いていく。

「ほほぅ。こいつは随分と変わったゴーレムだな。どこぞの悪趣味な貴族に売りつけたら結構な値段が付くかも知れねぇ」

 そう言ってライデンに触ろうとした時、隣で座り込んでいたルイズが猛然と立ち上がった。

「わたしの使い魔に触るんじゃないわよっ! あんたらなんかね、ライデンが無事だったら、無事だったらっ……!」

 頭は一瞬驚いたものの、少なくとも美少女といって差し支えないルイズの顔を見ると上機嫌になった。敵意を込めた視線
を向けるルイズの顎を取ると、舌なめずりをした。

「へぇ、随分と別嬪な小娘だな……。お前、俺の嫁にしてやるぜ」
「触るなっ!」

 鋭く頭の手を払うと、銃を向けられるのも構わずに血走った目で睨み付ける。
 頭は面白そうに笑おうとして、はっとした表情になった。その視線はルイズの左薬指にはめられた指輪に集中している。
しばらく考え込み、ふんと鼻を鳴らすと部下へ命令を下す。

「硫黄に加えて貴族様ときたか。おい! てめぇらこいつらも運び込め。あとでたんまりと身代金をふんだくれるぜ! 
それとそこのデカい人形も忘れるなよ!」

 ライデンがメイジの手で空賊船に運び込まれるのを見て、またしてもルイズは抵抗する。空賊に拘束され、身動きが取れ
なくなっても、ルイズは喚き続けた。
 一足先に船長室へと引き上げた頭の顔は、とても空賊とは思えない程に引き締まっていた。
344重攻の使い魔 第9話『勝利の代償』 代理:2009/03/06(金) 20:53:56 ID:VqiA2eKK
以上、ライデン一時退場です。
ワルドさん頑張った。


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以上、代理投下スレより。
345名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 20:56:52 ID:ooTyfref
>>344
激しく乙
346名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 21:00:04 ID:xCH7bAFI
乙です
347名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 21:04:47 ID:gf4s8jMz
>>344乙、しかしあのライデンがたかが雷一発で行動不能ってのも釈然としないなぁ…

それとも夢の中で出てきた幼女のお姉さん(14歳のほう)がチョッカイ出したり幼女の中の人が暴れたりするフラグか?
348名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 21:12:01 ID:A3NSTowg
絶縁処理がされてないような電気機器のカタマリを戦線に投入するはずは無いと思うのだが……
と突っ込もうと思ったがメンテされて無いならそら絶縁切れるか
ともあれノーメンテのライデンがどこまでやってくれるか期待
レーザーまだー?
349名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 21:12:12 ID:wmIXYXg1
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%83%90%E3%82%B5

そろそろタバサ軍団とか作れる数だな
350名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 21:27:48 ID:+VeXCQCm
忠誠心の話題で山中鹿之助が出てなくて絶望した

我に対する七難八苦か…
351名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 21:38:03 ID:Wm6CKcIu
重攻が一気に投下されたな。でも一時退場か。
どのように復活するのか楽しみにします。

で、ルイズが夢(?)の中であった少女ってガラヤカじゃん。
352名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:09:27 ID:uoXCOJ3l
とけない謎を さらりとといて
ルイズに仇なす 者達を
でんでんどろりこ やっけろ
でんでんどろりこ やっけろ
ななつの顔の おじさんの
本当の顔は どれでしょう

 
夢は七色 きれいな虹の
みんな呼んでる 幸せを
でんでんどろりこ もってくる
でんでんどろりこ もってくる
ななつの声の おじさんの
本当の声は どれでしょう
  
353名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:12:04 ID:Gq4A99hD
ジャンガアアアアアアアアアア
超乙
354名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:19:38 ID:RfX8YKLc
七色仮面なんて知ってる人いるわけないだろ・・・
>>352はいくつなんだwwww
355名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:23:08 ID:EbtlUTTW
>>354
七色仮面や少年ジェット、怪傑ハリマオにまぼろし探偵くらい誰でも知ってるだろ。
356名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:24:50 ID:Gq4A99hD
ナショナルキッドとか?
357名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:34:14 ID:w79jNXcg
遅レスだが、ブルックを召喚した場合、コッp……コルベールの反応が気になる

「骸骨なのにアフロ?」
「毛根が強かったのですヨホホホ!」
「…………
 ニア もやしてでも うばいとる」
358名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 22:36:24 ID:TTvGwPqD
魔王まだかな・・・(´・ω・`)
359名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:03:40 ID:HamV8cqX
>>355>>356
流石にスーパージャイアンツは出てこないか・・・
360名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:22:19 ID:vb0Pr6i0
流れを切るように召喚希望キャラを述べる。

ガッシュより清麿召喚。体力それなり知識最大級クラスだから面白そう。
ラスボスさんみたいな展開になるかなあ。
361名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:23:01 ID:vb0Pr6i0
sage忘れた。すみませんorz
362名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:24:40 ID:/uVqN3gg
>>348
ライデンの耐電圧以上に、ワルドが雷の電圧を上げてたのかもね

ところで、ゲーム中で回避できるライデンのビームはホントにレーザーなのかな?
363名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:24:57 ID:LHX9AtUq
呼び出すなら原作終了後だろうけど
そのときの彼はアンサー・トーカーというチート能力を習得してるからなー
364名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:25:46 ID:EmcnyCax
ガッシュから召喚なら恵のが声ネタ的にはいいかも
365名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:28:05 ID:xtkZxI26
アンサートーカーならデュフォー召喚は前にあったな。
366名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:29:22 ID:7me/Hr2W
>>357
そういや毛生え薬作れるような発毛関係の知識・技術もったやつっているっけ?
367名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:31:13 ID:tUHZBdDu
>>363
この模様(ルーン)は何だ?という問いをアッサリ見破って自分がガンダールヴであることを即座に看破し、
ルイズの爆発は何だ?という問いも即座に解決、かなり早い段階で虚無が判明、
ついでにシルフィードが韻竜であることも見破り、

……っていうか、アンサー・トーカーが敵と戦う場合、「どうすれば勝てる?」という問いを自分に投げかければそれで大抵は解決しちゃうのよね。
368名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:32:42 ID:g+zUfZ8X
私的にはゴクドーが召還されて欲しい

「あんた誰よ」
 ルイズの目の前に金髪の男が屈んでいる。その呼びかけに対し男は身体を棚引かせるように動かした。
「俺か?俺はゴクドー」
 ゴクドーはその状態からルイズの足元を見た。次に物色するように手を取った。若い男に急に手を取られルイズの頬に、ほんの少し朱がさした。
「当年とって十六歳」
 男はフッと息を吐くと手を放しルイズの首もとに目をやり、今度は首へ手を伸ばす。
「…え?」
 すると男――ゴクドーはパチリとルイズのマント止めを外し自分の手へ誘い込んだ。
「唯一なにをしても許される冒険者、ゴクドー・ユーコット・キカンスキーさまだ!」
 青い顔をするルイズをよそに、ゴクドーはマント止めをピンと弾き、ニヤリと笑う。
 そしてゴクドーは背を向けると素早く走り去っていく。
「将来歴史のテストに出るぜ、覚えておきな!」
「ふざけるなー!」

 爆発


・・・こんな感じに
369名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:38:44 ID:EbtlUTTW
小ネタでフロストファイブが召喚されているのなら
フロスト警部が召喚されてもいいんじゃないか?


「それ洗濯しといてね」
「こういうセクシーなズロースを穿こうと思ったら、
 嬢ちゃんの場合、おっぱいの嵩上げが必要になりそうだな」
370名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:38:54 ID:3hnYfo79
ゴクドーは確実に即座に逃げ出すな。
追いかけてくるルイズを捕縛して人買いに売り払うところまで見えた。
371名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:41:44 ID:vb0Pr6i0
フロスト警部ってww
んじゃあ『相棒』からあの二人なんてどう?
372名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:42:54 ID:DXMcLwTt
やっぱりいまさらベジータは無理かねぇ
373名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:44:27 ID:D84uiSlK
じゃあバーロー召喚で一話ごとに殺人事件が学院で起こる!
任務中の宿で、船の中でアルビオンの宴で、期間途中で殺人事件が巻き起こる!!
374名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:44:59 ID:+MPutRsd
清麿召喚なら、怒りゲージMAX状態の時の『顔』がどう表現されるかが気になるな。
特にファウード体内の戦いで、ロデュウをボコったときの再現とか。
375名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:51:00 ID:vb0Pr6i0
>>373
死体の山乙ww
376名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:51:00 ID:3hnYfo79
>>372
ベジータがダメならラディッツにすればいいじゃない。
圧倒的なパワーを誇るも、ラ・ロシェールでルイズが尻尾が弱点だと話してしまい、アルビオンではワルドの偏在に尻尾をつかまれてピンチに……。
377名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:54:25 ID:EmcnyCax
バーローで思い出したがヤイバ召喚
最終話までの空白の期間ならどうとでもなる
378名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/06(金) 23:57:03 ID:g+zUfZ8X
>>370 ルイズは案外剣が魔法なだけでルーベットタイプとして上手くいくかもしれんぞwギーシュなんかプリンスの代わりになりそうだし
ただルイズのパンツをマルコリヌに売ったり、モット伯の側についたり、数奇な運命繋がりでワルドとレコンキスタ側に行ったりするかもしれないが
379名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:02:28 ID:uqX79mye
なのはさん25才・・・
380名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:08:33 ID:LFAjmbyZ
魔法戦記ですねわかります
381名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:09:05 ID:bR3J8Emy
>>379
どんな形にせよ色々言いたい事があるのは判るがここで触れる事じゃない。
382379:2009/03/07(土) 00:09:54 ID:uqX79mye
すまん、誤爆した
383名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:11:44 ID:a/kx4K0f
>>371
>んじゃあ『相棒』からあの二人なんてどう?

伊丹刑事と「ヒマか?」の角田課長ですねわかります。
384名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:15:06 ID:exfAO5xy
>>373
小ネタであったぞ
385名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:28:08 ID:9eNiSzsD
伊丹ガンダールヴだったらなかなか強いかもな、あいつ剣道強かったはずだしw
386名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 00:29:28 ID:Vf/sDi3N
>383
せめて、米沢さんで。
387名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 01:14:24 ID:Ic1rJUOH
>>367
回等を得れてもその回答を実践するだけの体力等が必要な訳で
分散させられまくって攻略方法解ってるのにジリジリと削られていくとかやれるんでね?
388名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 01:14:37 ID:7rCKjE7d
昔3人戦で自分(無モス)以外の二人がウィビルブック、というレイプに遭って幾星霜……
ネコブックにおまけのウィビル4積みをするようになって今日、敵はウィビルと無モス

自分がやられるときは泣きそうだったけど、モスマンに殴られても余裕で殴り返す二人掛りウィビルはとても楽しかったです^q^
389名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 01:18:20 ID:Ctzi5AhU
太閤立志伝召喚とか…
390名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 01:35:32 ID:Ic1rJUOH
仏ゾーンからセンジュ君召喚したらセンジュ君大変だろうな
"千の腕で漏れなく救う"千手観音なせいで
魔法を使えない苦しみから、育たない胸から、病弱な姉を、精神が壊れた母を救ってくれと言われちまいそうだし

マンキンVerの超進化した結果で有るダイニチ君ならシャーマン次第では総て解決出来そうだが......
391名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 01:39:23 ID:wN3gLKpn
まぁ清麻を召喚するとなるとルーンはミョズかな
マジックアイテムを駆使したアンサー・トーカーを見せてくれるよ、きっと

ところでルイズがガンダ以外の使い魔を召喚した場合、
本来そのルーンが刻まれるはずだった人物と主人はどうなるんだろう

そういえば虚無のパズルだとルイズが複数の伝説の使い魔召喚してるな
ヴィンタールヴ(アクア)・ミョズニトニルン(ティトォ)
たぶんプリセラもガンダールヴだろう
4人目も恐らくは・・・
ルイズ一人で伝説達成再現できるな!
392名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:16:59 ID:Irv3MKL6
>>391
4人目ってTAPは3人しかいないじゃんよ
4人目誰だよ
あとあのSSの場合、他の虚無の担い手は禁断五大魔持ちになってるっぽいね
1話ラストの描写からして
393名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:24:09 ID:is09y7C+
>>391
なんかマジックパイル使ったら始祖の虚無が完成しそうな気がしてきた
一人足りないけど
394名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:24:54 ID:bjl4UGkN
このスレのSSって書き手によって変化する領域が違って個性的な反面、
どこまでやっちゃっていいものなのかわかりづらいなって思った。
使い魔としてルイズがキャラを召喚するだけであとは原作設定の世界観のままストーリーをなぞるのが基本なのかと思いきや
社長みたいにデュエルがハルケギニアに伝わっているような世界改変物もあるし
自分でも書いてみたいんだが、どこまでやっちゃっていいものなのかと
395名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:28:36 ID:xUy0OKCd
バーチャロンのゲーム中だと1対1のための連射モードになってるから武装かなり低出力なんじゃなかったかな。
ライデンの一般射撃レーザーとか衛星を地上から破壊できるとかどだけな出力かわからん(レーザーは地上だと大気が邪魔して射程落ちまくり)
396名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:33:16 ID:7PXEe46b
俺は>>391の言ってる四人目が何となく分かるぞ
397名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:49:55 ID:I0iVd+wh
>>396
>>396
あ…あー、ひょっとしてアレのことか
記すこと憚られるどころか使い魔ってレベルじゃねーよ!
「人」とか言うから気付かなかった
398名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:50:57 ID:pMgouytB
え?え?
プリセラ居るなら四人目も…って事じゃないの?
399名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:51:33 ID:I0iVd+wh
余分なアンカー付けた
ごめん
400名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 02:54:56 ID:I0iVd+wh
>>398
あ、そっか、よく考えたらそっちの方がずっとありえるな
何度も連カキコごめん
401名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 03:14:02 ID:mc30F9t1
ゴクドー君なんか呼んだら速攻で人買いに売り飛ばされるルイズが容易に想像が付くんだがw
いやヴァリエール家に身代金要求か?
ルーベットならまだしもルイズじゃ売り飛ばされたら色んな意味で洒落にならない気がw
402名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 03:48:17 ID:nNGS9mAg
ゴグドーのような悪人とは逆のいい人を喚ぼう
ムリョウくんとかいいんじゃない?
事情を説明したら言うことを聞いてくれるんじゃないかな
パワーバランスもなんやかんやで何とかなる
403名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 06:40:07 ID:b5xQFQsK
セイギじゃ駄目なの?
妙にムリョウくんに拘る奴がいるけど同一人物?
そんなにムリョウくんが好きなら自分で書けばいいじゃない。
404名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 07:37:18 ID:lgPqv0Pj
>>390
センジュ君か。確かにハルケギニアでは苦労しそうだ。
色々深い悩みを抱えてる奴らが多いし。
読み切りバージョンだと「人の祈りを自らの力に変える」という設定があったので、
そこら辺を上手く使えば読み切り短編で一本書けるかもしれない。
仏ゾーン(仏様の住む世界。読み切りの設定)の仏達から追われている時期にカトレア
に召喚されるとか、母が心を壊してしまった直後のタバサに召喚されるとか。
あるいはイザベラ様に召喚されて彼女の心を解きほぐしていく、という話もあり?
誰か書いてくれないかな。
405名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 09:06:17 ID:JfVxqx2Y
スプライトシュピーゲルから鳳召喚……を考えようとしたが、
特甲の扱いをどうするかで挫折した
鳳が15歳と知って逆ギレするルイズとか、ティファの境遇に自分を重ねる鳳とか
ティファが召喚したサイトは元日本人難民でモリサンの弟子とか、
リヒャルト・トラクルのうっさんに唆されるアンアンとか、
部分的なシーンは頭に浮かぶんだけどな
406名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 10:21:47 ID:prhzc5G+
>>405
ハルケギニアで世界統一ゲームしようぜ!!
407名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 10:30:20 ID:M2r25Glx
ゴクドーとセイギを召還してルーンは2つ合わせると伝説の使い魔の形になる…とかか
しかしゴクドーの魔剣はせいぜいトライアングルクラスだよな
408名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 11:19:41 ID:SiyLMHLi
マリーのアトリエのマリーなら育毛剤『竹林』を作れるな
効果が凄いけど切れるのも早いがw
409名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 11:22:41 ID:fg+XFwXX
>>408
タンパク質の消費激しそうだな
410名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 11:33:48 ID:Ppew+Mu1
突然で悪いんだけど、誰かルイズの魔龍伝っていうSSが載ってるスレ番知らない?
411名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 12:42:23 ID:O9XLQp21
調べりゃ分かるが面倒くさい
自分で調べろ
412名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 13:26:06 ID:DwRh+VVL
>>410
ググレカス
sageろカス
413名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 13:28:38 ID:E9cb9Iaa
>>412
sageろカス
414名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 13:47:12 ID:D0Z0kwC4
まったくもってマイナーだが、聖戦記エルナサーガからエルナ召喚。
世界で一人だけ魔法が使えないから、ルイズと気が合うかも。
もしくはヴァーリ様召喚。使い魔繋がりで。
415名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 13:49:50 ID:tUUnTh2j
>>414

sageろ
416名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 13:54:41 ID:E9cb9Iaa
なんだ急に…実は一人がage荒らししてんのか…?
エルサガ好きとしては悲しいぜ
417名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 13:58:40 ID:wN3gLKpn
アーマード・コアシリーズからコア思想を召喚
虚無を中心(コア)に火・水・土・風・先住・コモンを自由に組み合わせて自分だけのメイジを作れ!
サーヴァント・コア アナザーメイジ

あるいは
突如東方より飛来した謎の特攻兵器の襲来によりハルケギニアは壊滅的な被害を負っていた
トリスティンを始めとした各国同盟に対してレコン・キスタが24時間後に一斉攻撃を開始すると宣告
かくしてメイジとその使い魔の生き残りをかけた戦いが始まった
ー誰もが生きるために戦っているー
サーヴァント・コア ラストメイジ

・・・やっぱダメかな
418名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 14:07:10 ID:HXmtdS58
age
419名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 14:49:53 ID:b5xQFQsK
僕の名はエイジ。このスレは荒らしに狙われている!
420名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 15:00:15 ID:bNtM7gvx
>>417
どうせなら、同じフロムのフレームグライドで。

あれなら、コッパゲでも整備できそう。
421名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 15:12:38 ID:mc30F9t1
>>417
そこは正義の味方アクアビットマンかみんなの兄貴ジャック・O召喚だろ
422名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 15:24:41 ID:wN3gLKpn
>>420
それやったことないんだ・・・

>>421
ジャン・ジャック・O・ワルドというわけですね、わかります
でもワルドがジャック・Oはかっこよすぎるなぁ
423名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 16:35:44 ID:ywv1riIT
>>414
魔精霊で後期狂戦士が作られたら大変だろうな、
魔法耐性、再生能力も高いし
424名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 17:01:42 ID:8R4jH+2s
>>389
柴田勝家とお市の方の隠し子ですね、わかります。
425名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 17:20:07 ID:o8pQW0Vf
>>422クリケット被った変態…じゃなくて偏在ワルドに囲まれて『やらないか』っつ言われるんだな?
426名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 17:39:41 ID:fJmbw651
>>425
ルイズ「悪いな、虚無の担い手として… 撤 退 する!」
427名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 19:07:08 ID:BgAaJWbr
ルイズがミョズとか召喚した場合の配置では、サイトとジョゼフの組み合わせがツボだったな。
ノートPC使ってネットジャンキー・ジョゼフとかw
428ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:22:34 ID:FQBA6tDI
19:30から第12話 出港マリー・ガラント号を投下したいと思います。

7レスを予定しています。
429名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 19:26:18 ID:UQsLKxtU
支援
430ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:30:06 ID:FQBA6tDI
 その夜、ギーシュは泣いた。泣きながら酒を飲んでいた。

「どうしたのかね? 彼は」

 そんなことを聞いてくるワルドに、ルイズたちは呆れる。
 ギーシュが落ち込んでいる理由など、ワルドとの決闘で、一方的に負けてしまったからに決まっているではないか。
 もちろん、学生の身でありドットメイジでしかないギーシュが、魔法衛士隊隊長でありスクウェアメイジであるワルド相手に、勝てるはず
もなく、善戦したかったと考えることすら、身の程知らずと言えるのではあるが、だからと言って笑って流せるほど彼の矜持は安くないし、
自分の後に、彼が一方的にライバル視しているアプトムがワルドと決闘をして引き分けた事もまた、彼の心を落ち込ませるのだ。

「今は、そっとしときましょ」

 そう言って、ルイズが自分も飲もうとワインの入った杯を持ち上げようとした時、玄関から何人ものガラの悪そうな男たちが入ってきた。
 なんだろう? と思って、そちらを見ると男たちは、「いたぞ!」と声を上げて弓を構える。
 これに、即座に対応できたのはワルドとタバサである。二人は、とっさに杖を振るい放たれる矢と男たちを吹き飛ばす。
 けれど、玄関からは後から後から男たちが入ってくるし、外から矢を射掛けて来る者もいる。アプトムが、床とつながっているテーブルの
足を折り、それを倒して盾にするが、一時凌ぎにしかならないだろうことは予測できる。

「すごい数だわ。これって、もしかしなくても……」
「アルビオンの貴族の手の者だろうね」

 キュルケの疑問に、ワルドが答える。

「こうなってみると、この前の賊も、ただの物盗りじゃなかったってことでしょうね」

 今更言っても、しょうがないけどね。と、キュルケは、ぼやく。
 傭兵なのだろう。男たちはメイジとの戦いに慣れているらしい。魔法は強力だが、詠唱の暇なく攻撃を受ければ使いようがないし、弓矢で
の長距離攻撃をしかけてくる相手に届くような魔法を連発していては精神力を消耗して倒しきる前にこちらが先にへばってしまう。
 厄介なことになったなと、アプトムも飛んでくる矢を手掴みで受け止め防ぎながら、考える。
 一緒にいるメイジたちと違い、彼は弓矢の攻撃を脅威に感じないし、その気になれば彼らを一人で制圧できるだけの能力も持っている。だ
が、それは足手纏いがいなければの話だ。なにぶん相手は数が多い。傭兵たちを倒している間に、ルイズの身に何かあれば意味がない。
 獣化すれば、その心配もなく撃退できる能力を発揮できるのだが、その場合は傭兵たちを皆殺しにする必要が出てくるだろう。更に言えば、
こちらの一行には獣化を見せるべきではないだろう者もいる。
 彼は襲撃があることを知っていた。だが、町の入り口であった襲撃くらいのものだろうと楽観し放置してしまい、それが仇となっていた。
 手詰まりなこの状況の中、ワルドが口を開く。

「いいか諸君。このような任務は、半数が目的地にたどり着けば、成功とされる」

 それは、敵の足止めの人員を置いて、他の者は先に行けばいいのだという提案。
 それしかないか。と、アプトムは同意する。その結果、残される者の身が危険に晒されることは理解しているが、それでも、ここで全員を
危険の内において置くよりはマシだろう。
 だから、「任せたぞ」とワルドの肩を叩き、ルイズの手を引いて他の三人にも着いてくるようにと促す。

「ワルドさまを置いて行くの!?」
431名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 19:30:43 ID:NzRdYmdM
支援


シャーマンキングネタで思ったんだけど
死んだウェールズ等と合体したら魔法使えるんだろうか?
432ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:33:28 ID:FQBA6tDI
 ルイズの非難するような問いに、アプトムは黙って頷く。こういう役は、戦場に残されても生還できる実力のある者がかってでるべき役割
である。そしてアプトムの見る限り、ワルドは自分と同じで足手纏いさえいなければ、この包囲から脱出するのは難しくない実力を持ってい
るだろうし、言い出した本人が自分は、残りたくないなどと逃げる事はありえないだろうと彼は考えている。
 そんなわけで、なんだか予定と違うぞとでも言いた気な顔のワルドを置いて行こうとしたところで、タバサが自分が残ると言い出した。
 本人曰く、自分は元々員数外であるというか、そもそも最初からアルビオンに行くつもりなどない。だから、囮になって残るべきは自分で
ある。
 そして、そんなことを言い出したタバサをキュルケが置いて行くことはない。最近ルイズを気に入って心配したりもしている彼女ではある
が、親友と比べてどちらが大切かと問われれば、タバサの方に天秤が傾く。
 そうして、女の子二人を置いて行くわけにはいかないと、ギーシュも残ると言い出して、結局三人が残ることになる。
 この結果に、ワルドが「計画通り」と嫌な笑顔を浮かべていたが、タバサも内心で同じ事を考えていた。

 タバサはアプトムという男を恐れている。人を簡単に殺せる力と心を持ったバケモノを恐れない人間は、そうはいない。
 だから、できるだけ距離を置きたいと思っている彼女だが、親友の方がガンガンあの男に近づいて行ってしまう。だからといって、親友と
距離を取るのも嫌だし、大体そんなことをしたら親友が心配でしかたがない。
 そして、なし崩しに行動を共にすることになっていたアプトムと距離を取る都合のいい機会。これを利用しない手はない。
 多数の傭兵の足止めというのは、危険な行為ではあるが、それでもこの先もアプトムと行動を共にすることに比べれば遥かにマシだ。しか
し、その事を知らないキュルケは、自分を心配して一緒に残ると言ってくれるだろう。そうやって自分と親友の二人をアプトムから引き離す。
それが、彼女の計算。ギーシュが残ることは計算に入ってないが、そちらはどうでもいい。
 そんな内心の思惑を知る者はなく、タバサ、キュルケ、ギーシュの三人は傭兵たちを引きつける囮として宿に残り、ルイズ、アプトム、ワ
ルドの三人は酒場の厨房の通用門から外に出て、桟橋へと走り出した。


 山を登り桟橋に向かった三人は、誰に会うこともなく巨大樹にたどり着く。タバサたちが足止めを引き受けてくれたとはいえ、あれだけの
傭兵がいて一人も追ってこないのはどういうことだ? とアプトムは訝しむが、他の二人は気にせずにずんずん進んでいく。
 実は、あの傭兵たちの目的が一行を分断し、その片方の足止めをすることだなどとはアプトムにも分からない。
 そうして、ワルドがアルビオンに向かう船を見つけ、そこに向かう階段を登り始めた時、アプトムは背後から聞こえる足音に気づいた。
 それは、白い仮面で顔を隠した男であった。仮面の男は、魔法でも使ったのだろう、高く舞い上がり、アプトムとその前を走るルイズの頭
上を跳び越えて前に立つ。
 男の動きに停滞はなく、流れるような動作で振り返りルイズを捕まえようと手を伸ばす。
 突然、目の前に降り立った男に驚くばかりで、まったく反応できなかったルイズが、その男に捕らえられずに済んだのは、すぐ後ろを走っ
ていたアプトムに手を引かれ、その後ろに庇われたからである。
 男に気づいたのだろう、ワルドが振り返り、舌打ちして杖を振る。詠唱した魔法はエア・ハンマー、風の槌に打たれ、男は階段の手すりか
ら零れ落ちる。
 手すりの向こうには何もなく、そこを乗り越えたら遥か下にある地面に落ちていくことになるだろうに、男は自分の体を自分の体を支えよ
うともせずに呪文を唱えた。

「ライトニング・クラウド!?」

 その魔法が何か気づいたルイズが叫ぶが、もう遅い。落下する男の杖が発した雷撃が襲い、アプトムは、それをかろうじて右手で受け止め
苦鳴を上げる。それを見届けると男はニヤリと笑い、そのまま落ちて行き、その姿を消した。

「大丈夫なの?」
433ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:35:16 ID:FQBA6tDI
 普通なら腕で受けたところで死を免れない魔法である。狼狽し尋ねるルイズであるが、アプトムの方はというと、すでに表情に苦痛の色も
なく、魔法を受けた右手を振り「問題ない」と答える。
 獣化していない状態でも常人を遥かに超える耐久力と生命力を持つ彼である。獣化兵をも倒すほど魔法だというのならともかく、人間一人
の命を奪う程度の威力の電撃では生命の危機には遠い。とはいえ、まったくの無傷とはいかず、右腕は所々焼け焦げて酷い有様で、ルイズは
安心することができない。

「今の呪文、ライトニング・クラウドは風系統でもかなり強力な魔法だ。あの男、並のメイジではないな」

 そう言ったワルドは、平然とした顔のアプトムの様子を伺う。

「しかし、本来なら命を奪うほどの呪文なのだが、これもガンダールヴの力かね?」

 そんな問いに、そういえば何故ワルドが、ガンダールヴという言葉を知っているのかとルイズに顔を向けると、彼女は先日ワルドに教えら
れたことを説明し、「アプトムは伝説の使い魔かもしれないんだって」などと、今更なことを言ってくる。
 なるほどとルイズの頭をなでると、ワルドに対しては「そんなところだ」といい加減に答えておく。
 仮面の男は撃退できたようだが、また次の追っ手が来ないとも限らないのだ。ここで、ゆっくり話し込んでいるような時間はないだろう。

「先を急ぐぞ」

 アプトムがそう言うと、ワルドも頷き三人は階段を駆け上がり一本の枝に吊るされた帆船にたどり着いたのだった。




 ワルドが交渉を済ませ出向した、マリー・ガラント号という船の上で、アプトムは焼け焦げた自分の右腕を、動かさないように注意しなが
ら見ていた。

「傷は大丈夫?」

 心配してくるルイズに、さてどう答えたものかとアプトムは考える。
 元々大した傷ではないし、腕を丸ごと失ったとしても新たに生えてくる再生能力を持つ彼である。火傷などとっくに治っている。
 ルイズには、その事を知られても特に問題はないのだが、ワルドには知られるべきではない。相手は、フーケやタバサのように、自分も人
に知られたくない秘密を持っている人間ではない。王家に仕え、自分のような存在の事を報告する義務があるであろう貴族だ。そういう相手
には極力自分の能力は隠す必要がある。
 だから、表面に残っている焦げた皮膚を落とさないように注意しているのだが、その姿はルイズには苦痛を我慢しているように見えている
ことだろう。
 その事を説明してやったほうがいいのだろうとも思うが、ルイズに話せば即座にワルドにも話が伝わる気がしてならない。
 ちなみに、ワルドは現在船を浮かべるために必要な『風石』が、今現在のアルビオンのある位置まで向かうには足りないということで、船
を浮かべる補助をするために船長と共にいる。
 そんなワケで、ちょうどいい言い訳も思いつかず、まあ気にするな。としか言えない。
 その言葉は、心配してくるルイズの気持ちを無碍にするものであったが、アプトムは、それほど他人の感情の機微に敏感な方ではない。
 アプトムが傷を負った時、自分は何もで出来ずにいたと、自身のふがいなさを責めていたルイズは、心配すらさせてくれないのかと臍を噛
む。
 そんな時、二人の元にワルドがやってきた。
 なんだかんだで彼も仕事をしていたようで、船員たちに王党派のいるニューカッスルの情報を聞いてきたらしい。
 そして、結論として貴族派の間を抜けての陣中突破しかないと結論を出した。
 それなら、やはりルイズはどこかに置いてべきではないかとアプトムは思うが、ワルドは、そう思わないらしい。何か考えがあるのか? 
そんなことを思うが、ワルドが何を考えているのかなどアプトムに分かるはずもない。
 何も考えがなかったとしても、ルイズのことだ。また何か理由をつけて追いかけてくる可能性を考えると、連れて行った方がまだしも安全
かもしれない。
 そういえば、ルイズがついてくる時の言い訳に使われたデルフリンガーを忘れてきたなと、今頃になって気づくアプトムであった。
434ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:37:38 ID:FQBA6tDI
 余談だが、宿に残ったキュルケたちも喋る剣のことなど忘却しており、後にアプトムとデルフリンガーは意外な場所で再会することにな
る。




「アルビオンが見えたぞー!」

 そんな船員の声に、陸地がないかと海を見ていたアプトムは、そういえばアルビオンとは空にあるんだったなと上方に眼を向けて、そこに
巨大な大地を発見する。
 そして、視界の端で別の物も発見する。

「右舷上方の雲中より、船が接近してきます!」
「アルビオンの貴族派か? お前たちのために荷を運んでいる船だと、教えてやれ」
「あの船は旗を掲げておりません!」
「してみると、く、空賊か?」
「間違いありません! 内乱の混乱に乗じて、活動が活発になっていると聞き及びますから……」
「逃げろ! 取り舵いっぱい!」

 そんな大騒ぎに、空に出てくる海賊だから空賊なのか? などと緊張感のないことを考えていると、隣で寝ていたルイズが目を覚まし起き
上がってきた。

「うるさいね。なんの騒ぎよ」
「空賊だそうだ」
「ふーん……、って空賊!? まさか反乱軍……、貴族派の軍艦なの!?」

 それは違うだろうと、アプトムは思う。この船が貴族派のために荷を運んでいるという先に聞こえた言葉が嘘でない限り、貴族派がこの船
を襲う理由はない。
 ドゴンッ。という爆音と共に撃ち出された砲弾が、こちらの船をかすめるように飛んできたのを見て、怯えたルイズがアプトムの左腕に抱
きつく。
 一方、甲板では船長が助けを求めるようにワルドを見ているが、こちらは船を浮かばせるために魔法を使ったせいで空賊を相手にできるだ
けの精神力が足りない。
 この状況において、アプトムにはいくつかの選択肢がある。
 獣化して、空賊の船を一気に殲滅してもいいし、ルイズだけを連れて船を降りてもいい。その場合、ワルドはグリフォンがいるからアプト
ムが助けなくても問題ない。他にも、向こうの船に乗り込んで逆に乗っ取ってやってもいい。
 だが、それをやると多くの者に自分の獣化を見られることになるし、ついでに言えば、それは今すぐでなくても出来る。根本的に、アプト
ムはルイズだけを守れればそれでいいのである。抵抗するなら、ルイズに危害を加えられる恐れが出てきてからでも遅くはない。
 任務に関しても、ニューカッスルに向かう方策のない現状では、ここで足止めをくってもさして問題はない。というか、何事もなくアルビ
オンに着いていたら、何の作戦もなく向かおうと言い出すであろうルイズを、ここで足止めすることができて、方策を考える時間をもらえた
のは返ってありがたいかもしれない。
 そういうわけで、アプトムは空賊に対して抵抗しないことにした。
 理由はどうあれ、早々に抵抗をあきらめたのは、船員も同じらしく停船した船に、空賊船から屈強な男たちが乗り移ってくる。
 そうして船は乗っ取られ、船員たちはもちろん、精神力の切れたワルドもさして抵抗することなく捕らえられた。
 アプトムも、幸い右腕を負傷している事になっているので、無抵抗で捕まってもルイズから文句が出ることがなく、空賊にも警戒されずに
済んだ。



435名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 19:37:43 ID:RQbBknY0
また忘れたのかw
まあ使うと逆に都合が悪いからしゃーないかwww支援
436ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:41:13 ID:FQBA6tDI
 空賊に捕らえられた後、船員たちは、かつて自分たちの物だった船の曳航を手伝わされ、役に立たないアプトムたち三人は空賊船の船倉に
閉じ込められていた。
 ワルドとルイズは杖を取り上げられ無力化されていたが、元々武器を持っていないアプトムには関係のないことである。
 デルフリンガーは? という疑問は上がらない。ルイズは、本人に話しかけられない限り、錆びた剣の事を思い出したりしない。アプトム
は、剣に興味がない。ワルドはデルフのことを知らない。

「さて。ちょうどいいから、任務のことについて話し合っておこう」

 そんなことを言い出したアプトムに、ルイズとワルドは怪訝な顔を向ける。任務のことと言っても、空賊に捕まっているこの状況をどうに
かしないと、話し合っても意味がないのではなかろうか。
 だが、ここから脱出することは難しくとも、不可能ではないとアプトムは言う。
 実際は、簡単なのだが、それを言うとルイズが今すぐに脱出しようと言い出しそうなので自重するアプトムである。

「どこに脱出するつもりだね? ここは空の上だよ」
「別に、永遠に空を飛んでいるわけじゃないだろう。この船がどこかに入港したときにでも脱出すればいい」

 確かに。とワルドは頷き、それでどうやって脱出するつもりなのかと尋ねてくるが、それにはアプトムは答えない。今話し合うべきことは
脱出した後、いかにしてニューカッスルに向かうかだ。自分とワルドの二人だけで行くのならともかく、ルイズを連れて陣中突破などと冗談
ではない。
 そんな風に、脱出の方法を口にしないそアプトムにワルドは不審そうな顔をするが、ルイズは何かに気づいたような顔をする。
 彼女の認識では、いまだにアプトムは先住魔法を使う亜人である。ならば、その脱出方法は、ワルドとの決闘にも使わなかった先住魔法を
使ったものに違いない。今ここで口にしたくないと考えるのも、しかたのないことであろう。そんな風にルイズは考えた。
 これは、もちろん誤解である。元々、このハルケギニアの住人でも亜人でもないアプトムには、先住魔法など使えない。
 少し前に、吸血鬼という先住魔法を使う亜人を融合捕食することで、魔法を使う能力は得たのだが、彼には魔法を使うための知識がない。
具体的に言うと呪文を知らない。
 タバサの使い魔である韻竜のシルフィードにでも教えを請えば、すぐにでも魔法を使えるようになるのだろうが、そもそもアプトムはシル
フィードが人語を解することすら知らない。なぜならタバサに消されるのを恐れたデルフリンガーが口をつぐんでいるから。
 まあ、そんな誤解はあったが、ルイズが自重したため、ワルドもそれ以上の追及ができず、三人は脱出した後の事を話し合う。
 彼らの目的地であるニューカッスルの城は、浮遊大陸アルビオンの端から突き出した岬の突端にあるのだという。
 航空戦力のない世界なら防衛に適した城だといえるのだろうが、普通に空に浮かぶ船がある世界では、不便なだけではないだろうか、とい
うか岬で誰かが巨大な土ゴーレムを作って暴れさせたりしたら、地盤が崩れて落ちていったりしないのだろうか、と思ったが、それは今言う
ことでもない。
 問題は、岬を封鎖されてしまっただけで城に向かうことができなくなっている事である。空から行けば、という考えも敵側が空を進む戦艦
を持っている時点で否定される。
 では、どうすればいいのか。ルイズがいなければ話は簡単である。ワルドと二人で強行突破も不可能ではないだろうし、途中で死なれても
アプトムとしては困らない。
 逆に、ワルドがいなくてルイズと二人だけでも、実は簡単に城に行くことができる。彼が、かつて融合捕食で能力を奪った者の中には、地
中を掘り進む事を可能としたものもいる。だが、そのためには獣化が必要になってくるので、ワルドに正体を隠したままでは使えない。
 ここでアプトムは、一度貴族派の中に紛れ込み、金で動く人間を捜し協力者になってもらうことを発案する。
 これに、そう上手くいくものかとワルドは難色を示す。金で動く者がいなければそれまでだし、いたとしても自分たちを突き出して、その
褒美を貰おうと考えるかもしれない。都合よく協力者ができたとしても、それで上手く包囲を抜けられる保証もない。
 まったくその通りであるとアプトムは思うが、これ以外では世闇にまぎれて、こっそり包囲を抜けるという手ぐらいしか思いつかない。
437ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:44:05 ID:FQBA6tDI
 それに、信頼できる協力者を作るという点ではアプトムには自信がある。吸血鬼を融合捕食した彼は、現状では魔法を使うことはできない
が、屍人鬼を作る能力のほうは問題なく使える。ルイズやワルドには教えられない悪しき手段ではあるが、これなら裏切られる心配のない手
駒を用意できるし、ある程度以上の身分の者を屍人鬼にすれば、任務も大分楽になるだろう。
 まあ、他にいい作戦もないかと話が纏まった辺りで、船倉の扉が開き、空賊の男が食事を持って入ってきた。

「相談は終わったかい?」

 その言葉に、聞かれていたのかとルイズは狼狽するが、アプトムは気にしない。彼は、外で立ち聞きしていた者の気配に気づいていたし、
聞かれても問題ないと判断していた。

「お前たち、王党派の奴らに何の用なんだ?」
「そんなこと、あなたに言う必要はないわ」

 ルイズの言葉に、男はニヤリと笑い。そうでもないと答える。

「俺たちは、貴族派の皆さんのおかげで、商売させてもらってるんだ。それで、王党派に味方しようとする酔狂な連中を捕まえる密命を帯び
てるのさ」

 その言葉に、ルイズはハッと顔色を変え、アプトムとワルドは眉を顰める。
 船が襲われた時、船長は、自分たちの船は貴族派のための荷を運んでいると言っていたはずだ。貴族派から密命を帯びるような者が、そん
な船を襲うだろうか?
 そんな疑問はルイズには無縁のものであったらしく、彼女は、それならば、やはりこの船は反乱軍の軍艦なのだなと怒りをぶつける。

「で? おめえらは王党派か? 貴族派なら、きちんと港まで送ってやるよ」

 馬鹿にするような言い草に、カッと頭に血を上らせたルイズは、自分たちは王党派へのトリステイン王国の使者だと言い放つ。
 そんな威勢のいい言葉に、男は「そりゃいいや」と笑い食事を置いて船倉を出て行く。
 そうして、しばらくして三人が食事を済ませた頃、また先ほどの男がやってきた。



「頭がお呼びだ」

 そんな言葉の後、三人は男に連れられある部屋まで案内された。
 その部屋は、ここが空賊船であることを忘れそうになるくらい豪華に飾り立てられており、そこには何人もの男たちがいて、その中心に、
油で汚れたシャツから赤銅色に焼けた肌を覗かせ、ボサボサの黒い髪は赤い布で纏め、無精ひげを生やし、更に眼帯を左目当てた、全身で自
分は海賊であると自己主張しているような男がいた。
 空賊船の船長なのであろう、その男は、ルイズを見てニヤリと笑うと、彼女に名を尋ねた。

「薄汚いアルビオンの反乱軍なんかに名乗る名はないわ!」

 そんなルイズの言葉に、しかし、船長は特に気分を害した様子もなく笑い続けて尋ねる。
438名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 19:45:46 ID:1i7Xqtgi
支援
439ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:46:22 ID:FQBA6tDI
「ほう。では、王党派に会いに行くとか言う話は事実だと?」
「そうよ!」
「なるほど。それで、なんの目的があってあいつらに会いに行くんだ? あんなやつら明日にでも消えちまうぜ」
「あんたらに言う必要なんかないわよ」
「そうかい。けど、このままじゃ、お前ら死んじまうぜ。ここでな。それくらいなら貴族派についたほうがいいぜ。こっちはメイジを欲しが
っている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

 そう言って船長は、アプトムとワルドにも眼を向けるが、二人は特に心を動かした様子は見せず、それどころか、逆に観察してくるよ
うな眼をしていた。

「死んでもイヤよ」

 そう答えてくるルイズに、船長は「どうしてもか?」と尋ね。「どうしてもよ」という答えに、大きく声を上げて笑った。
 そうして、船長は布を巻いた黒髪やひげに手をやり、それを引っ張った。
 黒髪はカツラで、ひげは付けひげだったらしく、更に眼帯も外すと、そこには気品ある一人の若者が現れていた。

「失礼。私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官……、いや、この肩書きはもう意味がなくなっているな。アルビオン王国皇太子ウ
ェールズ・テューダーだ。名を伺ってもいいかな」

 それは、あまりにも予想外の展開で、ルイズはパクパクと口を開きどうすればいいのかと、助けを求めるようにアプトムとワルドを交互に
見やり、二人が嘘ではないだろうと頷くのを見て「えーっ!?」などと驚愕の声を上げた。





 宿で襲撃してきた傭兵たちは、ルイズたちがいなくなって少しすると、あっさりと解散してしまった。
 どうも、後ろで命令していたメイジが解散を命じたらしいのだが、その意図はギーシュには分からない。
 なんにしろ、それならと追いかけようと考えたギーシュだが、桟橋に言ってみると船はもう出てしまっている。ならばと彼が考えたのは、
タバサの使い魔であるシルフィードを使うことであるが、これには当然の如くタバサが難色を示した。
 彼女にしてみれば、せっかくアプトムと距離を取れたのに、何でまた追いかけなくてはならないのかという思いがある。
 キュルケもまた、なんとなくではあるが、タバサがアプトムを忌避していると気づいているので追いかけろとは言わない。それ以前に、ワ
ルドという美丈夫に興味をなくした時点で、キュルケにルイズたちを追わなければいけない理由はなくなっていたのだが。
 そうして八方塞になったギーシュは、次の船を待つことにして一人、港町に残った。
 もちろん、キュルケとタバサは、さっさとシルフィードに乗って帰っていった。
440ゼロと損種実験体:2009/03/07(土) 19:48:06 ID:FQBA6tDI
投下終了。支援に感謝。

実はワルド戦の後、普通にギーシュが穴掘って助けに来ると思って書いてて、どう考えてもタバサが連れて行ってくれないことに気づいて慌てて今回の最後を書き足しました。
441名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 19:51:36 ID:UQsLKxtU

タバサの嫌い方は異常www
442名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 20:33:23 ID:o8pQW0Vf
損種実験体の人乙。

ガイバーの最新巻見たら主人公とヒロインが朝チュンしてておでれーた
443名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:07:54 ID:i8KSOYXt
アプトムの人乙です。
一人追いかけるギューシュがどうなることやら。
そして酷い扱いのデルフ。アプトムにとっては必要無いどころか逆に枷になるからなあ。

>>442
オレも最新刊は読んだが、そっちよりもIIFのスマッシャーのデカさの方がおでれーた 。
444名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:12:28 ID:I0iVd+wh
アプトムの人乙
アプトム味方すくねーw
445虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:34:43 ID:f8a4nHHY
アプトムの人乙です
グール作るとか、アプトムの合理的というかともすれば冷たく思えるほどの考え方がステキ
デルフの扱いに俺涙目w

そしてそもそも未だにデルフが登場してない話を21:40頃から投下させてください。
いやもっと後の方で出す気はあるんですヨ
446名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:37:12 ID:rC7bBtFL
>だから、「任せたぞ」とワルドの肩を叩き、ルイズの手を引いて他の三人にも着いてくるようにと促す。
kusowarota
アプトムの人はなんか真面目な話にしたいのか半ばギャグにしたいのか分からないから困らない
447名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:39:12 ID:Bts01IQp
アプトムの人乙です
最新刊といえばものすごくヒーローっぽい台詞を吐いてましたねアプトムさん
448名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:40:00 ID:XZVwx9q3
乙でした。
タバサのビビりっぷり見てるとアプトムの正体を知らない奴らって
幸せなんだなぁ、とつくづく思ってしまうw
449名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:40:39 ID:wN3gLKpn
>>445
待ってました
支援開始するぜ
450虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:40:40 ID:f8a4nHHY
翌日……、朝食を終え、教室に入っていくと、すぐにクラスメイトたちがルイズを取り囲んだ。
ルイズたちは学院を数日開けていた間に、なにか危険な冒険をして、とんでもない手柄を立てたらしい、ともっぱらの噂であったからだ。
事実、魔法衛士隊の隊長と出発するところを何人かの生徒たちが見ていたのである。
教師の目のある朝食の席では我慢したのだが、何があったのか、クラスメイトたちは聞きたくてうずうずしていたのである。
キュルケとタバサとギーシュは、すでに席についていた。その周りも、やはりクラスメイトの一団が取り囲んでいる。
「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んで一体どこへ行ってたの?」
腕を組んで、そう話しかけたのは香水のモンモランシーであった。
見ると、キュルケは優雅に化粧を直しているし、タバサはじっと本を読んでいる。
タバサはぺらぺらしゃべるような性格じゃないし、キュルケもお調子者ではあったが、何も知らないクラスメイトに自分たちの秘密の冒険を話すほど、口は軽くない。
一方ギーシュは、取り囲まれてちやほやされるのが大好きなので、調子に乗ったらしい。
きみたち、ぼくに聞きたいかね?ぼくが経験した秘密を知りたいかね?困ったウサギちゃんだな!あっはっは!
と呟くなり足を組み、人差し指を立てたので、人壁をかきわけて近付いたルイズに頭をひっぱたかれた。
「何をするんだね!」
「口が軽いと、姫さまに嫌われるわよ。ギーシュ」
アンリエッタを引き合いに出されたので、ギーシュは黙ってしまった。
二人のそんな様子で、ますますクラスメイトたちは「何かある」と思ったらしい。
ふたたびルイズを取り囲んで、やいのやいのやりはじめた。
「ルイズ!ルイズ!いったいなにがあったんだよ!」
「なんでもないわ。ちょっとオスマン氏に頼まれて、王宮までお使いに行ってただけよ。ねえギーシュ、キュルケ、タバサ、そうよね」
キュルケは意味深な笑みを浮かべて、磨いた爪の滓をふっと吹き飛ばした。
ギーシュは頷いた。
タバサはじっと本を読んでいた。
取りつく島がないので、クラスメイトたちはつまらなさそうに、自分の席へと戻っていく。
「どうせ、大したことじゃないよ」
「そうよね、ゼロのルイズだもんね。魔法のできないあの子に、何か大きな手柄が立てられるわけないものね」
「フーケを捕まえたのだって、きっと偶然さ!たまたま禁断の鍵の力を引き出したのさ」
隠し事をするルイズに頭にきたらしく、クラスメイトたちは口々にルイズにイヤミを投げかけた。
ルイズは悔しくて、きゅっと唇を噛み締めたが、そんなイヤミなど聞こえないふうを装って、自分の席に向かった。
「やあ」
ルイズの席には、ティトォがいた。ちょいと手を挙げて、ルイズに挨拶している。
ルイズが来たのを見ると、ティトォは席を詰めて、ルイズの座る場所を作った。
ティトォは、自分たちの使う魔法と違う理でなされる魔法が興味深いらしく、ルイズの取っている授業には欠かさず出席していた。
普通に潜り込んだら、生徒でないティトォは教室からつまみ出されてしまう。
しかしルイズと一緒なら、『ルイズの使い魔』という立場で教室に居座ることができるのであった。
「……授業時間には普通、使い魔を連れないものなのよ」
ルイズは憮然として言った。
なるほど確かに、教室に他の使い魔の姿はなかった。
春の召喚の翌日は、使い魔のお披露目の意味もあって、みんな教室に使い魔を連れてきたものだが、そもそも大型の使い魔は教室には入れないし、使い魔達にとって魔法の講義なんて退屈なものである。
なので、授業時間中は、ほとんどの生徒は使い魔を中庭に放しているのだった。
「それなのにあんたってば、普段は好き勝手そこら中うろついて、ちっともわたしの傍にいないくせに、授業となると顔を出すのね。授業時間くらいしかあんたと顔を合わせてない気がするわ。あべこべよ」
「夜寝る時と朝起きる時は一緒にいるじゃない」
「屁理屈言ってんじゃないわよお〜〜!」
ルイズはティトォの頬を思いっきりつねり上げた。
「あう〜〜……」
451名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:41:49 ID:wN3gLKpn
支援
452虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:42:30 ID:f8a4nHHY
アルビオンから帰ってきてから、なんだかルイズの態度が変わっていた。
なんというか、ずいぶんと気安くなった。
いままでルイズは、ティトォにどこか気後れしたものを感じていた。
見た目は同年代の男の子なのに、不老不死の体を持って、三人の人間の魂を持っていて、なにやらとんでもない秘密を隠している。
そんなティトォは、自分の使い魔だと言うのに、得体が知れなかった。まるでお話の中の登場人物のように思えた。
でも、ニューカッスルの城にルイズを助けに来てくれたこと……、ルイズのことを『友達』だと言ってくれたこと……、
それが嬉しくて、なんだかルイズは、それまで感じていた距離感がぐっと縮まったような気がしていたのだ。
「別に四六時中一緒にいろとは言わないけど!あんたってば、あんまりわたしのことほったらかしすぎじゃないかしら!この!くの!」
「いひゃい、いひゃい。ごめんってば」
ティトォが謝ってもルイズは許さず、さんざんティトォの頬を痛めつけた。教室にミスタ・コルベールが入ってきたので、ようやくティトォは解放された。
授業が始まった。


「さてと、皆さん」
コルベールはうれしそうに、でんっ!と机の上に妙なものを置いた。
はたしてそれは、妙な物体であった。長い、円筒状の金属の筒に、これまた金属のパイプが伸びている。
パイプは床に置かれたふいごに繋がり、円筒の頂上にはクランクが付いている。そしてクランクは円筒の脇にたてられた車輪に繋がっていた。
そしてさらにさらに、車輪は扉の付いた箱に、歯車を介してくっついている。
ティトォは興味深そうにコルベールの装置を見つめたが、他の生徒達の反応は冷めていた。
ミスタ・コルベールが、またおかしなものを作った、とひそひそ囁く声が聞こえた。
コルベールはおほん、ともったいぶった咳をすると、語りはじめた。
「えー、『火』系統の特徴を、誰かこのわたしに開帳してくれないかね?」
コルベールがそう言うと、教室中の視線がキュルケに集まった。ハルケギニアで『火』と言えば、ゲルマニア貴族である。その中でもツェルプストー家は名門であった。
キュルケは授業中だというのに、爪の手入れを続けていた。ヤスリで磨く爪から視線をはずさず、気だるげに答えた。
「情熱と破壊が『火』の本領ですわ」
「そうとも!」
自身も『炎蛇』の二つ名を持つ、『火』のトライアングルメイジであるコルベールは、にっこりと笑って言った。
「だがしかし、情熱はともかく『火』が司るものか破壊だけでは寂しいと、このコルベールは考えます。破壊するだけじゃない、戦いだけが『火』の見せ場ではない。使いようによっては、『火』はいろんな楽しいことができるのですぞ」
「トリステインの貴族に、『火』の講釈を承る道理がございませんわ」
キュルケはツンとすまして、自信たっぷりに言い放つ。
「で、その妙なカラクリはなんですの?」
キュルケは、きょとんとした表情で、机の上の装置を指差した。
「うふ、うふふ。よくぞ聞いてくれました。これはわたしが発明した装置ですぞ。言ったでしょう、『火』は使いようです。『火』の新しい使い道を示す装置、まさにそのものなのです」
クラスメイトはぽかんとして、その珍しい装置を眺めている。ティトォも興味深そうに、装置に見入っていた。
453虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:43:52 ID:f8a4nHHY
コルベールはにこにこ笑いながら、続けた。
「まず、この『ふいご』で油を気化させる」
コルベールはしゅこっ、しゅこっ、と足でふいごを踏んだ。
「すると、この円筒の中に、気化した油が放り込まれるのですぞ」
慎重な顔で、コルベールは円筒の横に開いた小さな穴に、杖の先端を差し込んだ。
呪文を唱える。すると、断続的な発火音が聞こえ、発火音は、続いて気化した油に引火し、爆発音に変わった。
「ほら!見てごらんなさい!この金属の筒の中では、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」
すると円筒の上にくっついたクランクが動き出し、車輪を回転させた。
回転した車輪は箱に付いた扉を開く。するとギアを介して、ぴょこっ、ぴょこっ、と中からヘビの人形が顔を出した。
「動力はクランクに伝わり車輪を回す!ほら!するとヘビくんが!顔を出してぴょこぴょこご挨拶!面白いですぞ!」
生徒達は、ぼけっと反応薄げにその様子を見守っている。熱心にその様子を見ているのはティトォだけであった。
「で?それがどうしたっていうんですか?」
コルベールは自慢の発明品が、ほとんど無視されているので悲しくなった。
コルベールは、当年とって42歳。物腰やわらかな、人のいい先生である。
しかしどうにも変わり者で、研究と発明を生きがいとしている。
コルベールの授業は、ときどきこうやって、彼の妙ちくりんな発明品のお披露目の場になることが多いのであった。
そしてその発明品のほどんどは、一体何の役に立つのか分からないものばかりである。
生徒達の冷めた目線も気にせず、コルベールはおほんと咳をすると、説明を始めた。
「えー、今は愉快なヘビくんが顔を出すだけですが、たとえばこの装置を貨車に乗せて車輪を回させる。すると馬がいなくても車輪は回るのですぞ!
 たとえば海に浮かんだ船のわきに大きな水車をつけて、この装置を使って回す!すると帆がいりませんぞ!」
「そんなの、魔法で動かせばいいじゃない。何もあんな妙ちきりんな装置を使わなくても……」
ルイズがぽつりと呟く。
「わ、すごい。あれ、『科学』だ」
「『カガク』?」
ルイズはきょとんとした顔をして、横に座るティトォを見る。
ティトォは目を輝かせながら、教壇の上の装置を見ていた。いつもの癖で、トントンと指でこめかみを叩いている。
「そう、物質を使った魔法……、メモリアで研究されてる、最新の技術。……最新っていっても、ぼくの知識は50年くらい前のだけどね」
「物質を使った魔法?なにそれ。あんな装置を使うより、普通に魔法を使った方が手っ取り早いでしょ」
「そんなことないよ。あの装置、今は点火を『火』の魔法に頼ってるけど、もっともっと改良すれば、魔法がなくても動くようになると思うんだ。例えば火打石を利用して、断続的に点火できるようにすれば……」
「なんと!やはり気付く人は気付いておる!そう!この装置は、いずれ魔法がなくても動くようになるのです!」
コルベールは興奮してまくしたてた。しかし生徒たちは「いったいそれがどうしたっていうんだ?」と言わんばかりの表情であった。
なんでもできる便利な魔法を行使するメイジ達は、コルベールの発明のすごさにちっとも気が付いていないのだった。
コルベールの発明品の真価を理解しているのは、教室中見回しても、ティトォだけであった。
「おや!おお、きみはミス・ヴァリエールの使い魔の少年だったな」
コルベールは、彼が確か、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』のルーンを額に浮かび上がらせた少年であることを思い出した。
あの件はオスマン氏が「わしに任せなさい」と言ったので、しばらく忘れていたが……、先ほどの発言と合わせ、ティトォにあらためて興味を抱いた。
「きみはいったい、どこの国の生まれだね?」
身を乗り出して、コルベールはティトォに尋ねる。
ルイズがそんなティトォの肩を小突き、軽く睨んでみせた。
「……余計なこと言うんじゃないの。怪しまれるわよ」
「きみは、いったい、どこの生まれなのだね?うん?」
しかし、コルベールは目を輝かせてティトォに近付いた。
454名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:44:17 ID:OkHVfzSk
シェンヌ
455虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:45:10 ID:f8a4nHHY
隣に座ったルイズが、代わりに答える。
「ミスタ・コルベール。彼は、その……、東方の……、ロバ・アル・カリイエの方からやって来たんです」
コルベールは驚いた顔になった。
「なんと!あの恐るべきエルフたちの住まう地を通って!いや、召喚されたのだから、通らなくてもハルケギニアへはやってこれるか。
 なるほど……、エルフたちの治める砂漠を越えた東方の地では、学問、研究が盛んだときく。きみはそこの生まれだったのか。なるほど」
コルベールは納得したように頷いた。
ティトォは「なにそれ?」といった顔でルイズの方を向いた。ルイズは「わたしに合わせなさい」とでも言うように、目くばせをした。
「そうです。ぼくはその、ロバ・アル・カリイエからやって来たんです」
コルベールはうんうんと頷くと、ふたたび教壇に立ち、教室を見回す。
「さて!では皆さん!誰かこの装置を動かしてみないかね?なあに!簡単ですぞ!円筒に開いたこの穴に、杖を差し込んで『発火』の呪文を断続的に唱えるだけですぞ!」
コルベールは生徒たちに語りかけながら、ふいごを踏んで、ふたたび装置を動かした。爆発音が響き、クランクと歯車が動いて、ヘビの人形がぴょこぴょこと顔を出した。
しかし、誰も手を挙げない。コルベールが自分の装置に対する生徒の興味を惹くために作った『愉快なヘビくん』は、生徒たちにはまったくウケなかったようだ。
コルベールはがっかりして、肩を落とした。すると、モンモランシーが、ルイズを指差した。
「ルイズ、あなた、やってごらんなさいよ」
コルベールの顔が輝いた。
「なんと!ミス・ヴァリエール!この装置に興味があるのかね?」
ルイズは困ったように、首をかしげた。すると、次々と他のクラスメイトたちも騒ぎだした。
「そうだ!ルイズ!やってみろよ!」
「土くれのフーケを捕まえて、何か秘密の手柄を立てたルイズなら、それくらい簡単だろ?」
「どうしたルイズ!もったいぶるなよ!」
ティトォは気付いた。クラスメイトたちは、ルイズに失敗させて恥をかかせようと言うのだ。
隠し事をするルイズに、意地悪をしてやろうというのだろう。最近、派手な手柄を立てているルイズへのやっかみもあるかもしれない。
モンモランシーは挑発を続けた。
「やってごらんなさい。ほら、ルイズ。ゼロのルイズ」
ルイズはカチンときた。ゼロと呼ばれるのだけは、どうにも我慢ならないのである。
ルイズはがばっと立ち上がった。教壇へ向かおうとしたが、ルイズのマントの裾をティトォが掴んで引き止めた。
「やめなよ、ルイズ。みんな、きみが魔法を使えないの知ってて、意地悪言ってるんだよ」
ティトォはルイズを心配して言ったのだが、どうにも言葉がまずかった。ストレートすぎた。
ルイズは目を吊り上げて、きっと鳶色の瞳でティトォを睨みつけた。
「馬鹿にしないでちょうだい。わたしだって、いつも失敗しているわけじゃないのよ。たまに、成功、するわ。たまに、成功、するときが、あるわ」
ルイズは自分に言い聞かせるように、区切って言った。声が震えている。ルイズは完全に怒ると、声が震えるのだった。
こうなったらもうルイズは止められない。ルイズはティトォの手を振りほどいて、コルベールのもとへ向かった。
ルイズが教壇の前に立つと、前列の席の生徒たちが、こそこそと机の下に隠れた。
ニコニコとコルベールが見守る中、ルイズはコルベールがしていたように足でふいごを踏んで、装置の中に気化した油を送り込んだ。
それから、目をつむり、大きく深呼吸すると、おもむろに装置に杖を差し込んだ。
朗々と、かわいらしい鈴のような声で、呪文を詠唱する。
教室中が、ぴきーんと緊張する。
そして期待通りに爆発音が鳴り響いたのだが……、その音はいつもの失敗の爆発に比べ、ずいぶんと小さかった。
おや?と机の下に隠れていた生徒たちが顔を出す。そして、教壇を見て、ぽかんと口を開けた。
なんと、断続的な爆発音とともに、クランクと歯車が動いて、ヘビの人形がぴょこぴょこ動いているではないか!
「うそだろ!ゼロのルイズが成功した!」
教室中がざわざわと騒ぎだす。いつものように魔法を失敗させて、大爆発を起こすルイズをからかってやろうと待ち構えてたのに!
クラスメイトたちはすっかり困惑していた。
コルベールは喜んで、ぽんぽんと手を叩いた。
「お上手!お上手ですぞ、ミス・ヴァリエール!ほうら、見てごらんなさい!愉快なヘビくんがご挨拶!ご挨拶!」
456名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:46:27 ID:OkHVfzSk
夜寝るときと、朝起きるときは一緒支援
457虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:46:31 ID:f8a4nHHY
コルベールはすっかりはしゃいでいたが、ふとおかしなことに気が付いた。
はて。どうも、装置から聞こえる爆発音が大きいような……
見ると、装置は爆発音のたびにがたがたと震えている。クランクや歯車がきしみ、悲鳴を上げていた。
いかん、なぜかは分からないが、考えていたより爆発が大きい。
「あー、その。ミス・ヴァリエール?今回のところはそれくらいで……」
コルベールがあわてて止めに入る。しかし、ルイズは集中して呪文を唱えているので、その声には気付かなかった。
実のところ、ルイズは相変わらず魔法を爆発させていた。小さな爆発を起こして、『発火』の魔法の代わりに油に引火させていたのである。
それによって装置は動いたが、しかし、魔法の爆発と、油の爆発の2倍の爆発に耐えられるようには作られていなかった。
とうとう、装置はぼかーんと景気のいい音を立てて吹っ飛んだ。
部品がそこらじゅう飛び散って、その破片がコルベールの頭を直撃した。コルベールは気絶した。
爆発はいつもよりささやかだったが、ルイズの可愛らしい、清楚な顔は煤まみれになってしまった。
しかしまあ、慣れたもので、ルイズは大騒ぎの教室を意に介したふうもなく、優雅にハンケチを取り出した。そして顔を拭って、言った。
「ミスタ・コルベール。この装置、壊れやすいです」
コルベールは気絶していたので、答えることができなかった。代わりに生徒たちが口々にわめいた。
「お前が壊したんだろ!ルイズ!ゼロのルイズ!」
「もう、いい加減にしてくれよ!」
「なんだ、やっぱりルイズはゼロだったな!何をやっても失敗だ!あっはっは!」
ガラガラ声で笑っているのは、ふとっちょのマリコルヌである。
ルイズはカチンと来た。最初のうちは成功してたじゃないの!『発火』の呪文はできなかったけど、装置は動いたのよ。それって成功ってことじゃない。
装置の小さな歯車がはずれて、教壇をころころ転がる。歯車は教壇から落ちて、カツーンと床を跳ねた。
ルイズは小声で呪文を唱えた。すると、ぽんっ!ととても小さな爆発が起こり、歯車をルイズの頭ほどの高さまではね飛ばした。
続いてルイズが呪文を呟く。ふたたび小さな爆発が起こり、歯車をすっ飛ばした。
歯車は正確にマリコルヌの眉間にぶちあたった。「ぎゃぶ!」と悲鳴を上げ、マリコルヌは気絶した。
「わ!なんだなんだ!」
突然倒れたマリコルヌを見て、クラスメイトたちががやがやと騒ぎだす。
そんなクラスメイトたちにかまわず、ルイズはしげしげと、タクト状の自分の杖を眺めた。
そして、不思議そうな顔で呟いた。
「わたし、爆発が……、制御できるようになってる?」


その後……、
ルイズは罰として教室の掃除を言い渡された。しかし今回は机の煤をはらうだけで済んだので、いつもよりずっと早く終わった。
吹っ飛ばした装置の部品を全部拾ってコルベール返したら、涙目になっていた。ちょっと胸が痛んだ。
そして部屋に戻る途中、ルイズはさっきの『爆発』についてティトォに疑問をぶつけた。
するとティトォは、納得したような顔で言った。
「そっか、そっか。そういえば、そろそろじゃないかと思ってたんだ」
「そろそろって?」
ルイズは怪訝な顔をする。
「ルイズ、きみは以前のきみとはちょっと違う。パワーアップしてるのが、自分でもわかるだろ?
 フーケや夜盗の一味、そしてワルド……。きみはぼくの魔法を受けながら、何度も命をかけた戦いをした。それによって力が目覚めつつあるんだ。ぼくの魔法『ホワイトホワイトフレア』の副作用さ」
「へえ……」
ルイズは感心した声を上げた。回復、治療、強化、魔力の底上げ……。たったひとつの魔法で、ここまでいろいろなことができるものなのだろうか。
「……でも、結局は爆発なのよね」
「ぼくの魔法は、『元からある力』を強化するだけだからねえ」
申し訳なさそうに、ティトォが言った。ルイズはちょっと肩を落とした。
458虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:47:35 ID:f8a4nHHY
そうして話していると、廊下の先から誰かがこちらに向かってきた。
長い黒髪に、漆黒のマントの教師、ミスタ・ギトーであった。
いつぞやの授業の事を根に持っているのか、ギトーは意地の悪そうな目でじろりとルイズを見た。ルイズはすっかり縮こまってしまう。
「ミス・ヴァリエール。オールド・オスマンがお呼びである。すぐに学院長室に向かうように」
ギトーは淡々と告げた。ルイズはきょとんとした顔になる。
「オスマン氏が?」
「そうだ、早くしたまえ」
「は、はい」
ルイズはティトォを連れて、学院長室に向かおうとした。しかし「オホン!」とギトーが咳払いをしたので、ルイズは立ち止まった。
「オールド・オスマンはミス・ヴァリエールをお呼びである」
横目でティトォを見ながら、ギトーは棘のある声で言った。
つまり、使い魔であるティトォがオスマン氏に目通りするなど許されない、と言っているのだ。
オスマン氏はそんな差別するようなことは言わないだろう。なにせ、貴族の名をなくしたミス・ロングビルを秘書にしていたこともある。
しかしギトーは、性根から意地が悪いのだった。
ルイズはムッとしたが、教師に口答えするのはためらわれて、申し訳なさそうにティトォを見た。
ティトォはそんなルイズを見て、「別に気にしないよ。いってらっしゃい」と言った。


さて、ルイズが学院長室に向かったあと、一人残されたティトォは図書館に足を向けた。
趣味で絵を描いたり、ルイズと一緒に授業に出る以外は、大半の時間をここで過ごしている。
最初の頃は、オスマン氏からもらった利用許可証を司書に提出していたが、まあ、あんまり足しげく通うものだからすっかり顔を覚えられて、今では何もなくても入館を許可されていた。
「やあ、いつ見てもすごいなあ」
ティトォは嬉しそうに言った。
図書館で、まず圧倒されるのはその本棚である。三十メイルはあろうかという本棚が、まるで森のように立ち並んでいる。
古びた紙と、インクの匂いが独特な空気を作っている。ティトォはこの空気が好きだった。
ティトォは据え付けのはしごを上って、地上10メイルほどの棚から、一冊の本を取り出した。
それを持って中央の長テーブルにいくと、見知った顔がそこにいた。
青い紙の小さな少女、タバサ。ティトォにハルケギニアの字を教えてくれた子だ。
ティトォはタバサに近付くと、声をかけた。
「やあ、タバサ」
いつものように無視されるかと思ったが、なんとなく挨拶した。ティトォは人がいいのだった。
タバサの前の席に着き、本を広げて読みはじめる。そのとき……
「珍しい」
タバサが声をかけてきた。ちょっと意外で、ティトォは驚く。
「え、なにが?」
「あなたはいつも、学術書ばかり読んでると思ってた」
タバサはティトォの持ってきた本を指差した。それは、ハルケギニアの地理や歴史について書かれた本だった。
ハルケギニアの魔法はティトォにとってもの珍しいものばかりで、とても面白かった。だもんでついつい魔術書や、秘薬の製法なんかの本ばかりを読みあさるようになっていた。
しかし今日、ルイズに東方……、ロバ・アル・カリイエのことを言われて、ティトォは自分がハルケギニアそのものについてまだあまりよく知らないことに気が付いて、こうして勉強することにしたのである。
459虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:49:12 ID:f8a4nHHY
「うん、たまにはね」
ティトォはそう言った。そして、ふとあることに気が付いた。
「そう言えばきみは、図書館にいる時はいつも同じ本を読んでるね」
タバサはきょとんとした。
タバサは机で本を読む時、机に本を置いてページをめくっているので、ティトォに表紙は見えなかったのだが、本の汚れやページ端の小さな傷などで、タバサが読んでいるのが同じ本だと分かった。
タバサはいつも、種々様々な本を読んでいる。しかし図書室にいる時は、決まって同じ本を読んでいるのだ。
「何の本?」
ティトォは興味を惹かれ、尋ねた。
タバサは読んでいた本をぱたんと閉じると、愛しそうにそれを抱きしめた。
「これは、大切な本」
淡々と答えるが、その口調はどこか優しい響きがあった。
「母様との、思い出の本……」
タバサが、ぽつぽつと語りだした。
小さな頃、むずかる自分を寝かしつけるために、母が枕元で本を読んでくれたこと。
その頃、いちばん多く読んでもらった物語……。
「それがこの本。『イーヴァルディの勇者』」
『イーヴァルディの勇者』は、ハルケギニアではいちばんポピュラーな英雄譚である。
勇者イーヴァルディは始祖ブリミルの加護を受け、”剣”と”槍”を用いて龍や悪魔、亜人に怪物、様々な敵を打ち倒す。
メイジ……、貴族が主人公ではないため、主に平民に人気がある作品群だ。
これと言った原点が存在しないため、筋書きや登場人物など、無数のバリエーションに分かれている。
イーヴァルディは女性のこともあったし、男性のこともあった。神の息子だったときもあったし、妻だったこともあった。ただの人だったこともある。それだけいい加減な物語群なのである。
しかし、『イーヴァルディの勇者』はおもしろい。勧善懲悪、単純明快なストーリーは読むものを選ばない。そのために人気があって広く読まれているのだ。
タバサに読書の楽しみを教えてくれたのも、この本であった。
無口なタバサが優しそうな声で語るのを見て、ティトォは、ああ、この本は本当にタバサにとって大切なものなんだな……、と思った。
しかしふと、疑問に思う。
「なんで図書室で?」
タバサの性格なら、そんな大切な本は自分の部屋で静かに堪能したいもののではないだろうか?
タバサはちょっと俯いて、言った。
「この本は、『イーヴァルディの勇者』の物語群の中のひとつ。……でも、三十年前に焚書にされてしまった」
平民向けの物語である『イーヴァルディの勇者』は、ハルケギニアではまともな扱いを受けていないと言っていい。
研究するものは異端だの愚か者だの呼ばれ、神学や文学の表舞台には決して立つことはない。
焚書の憂き目にあったものも多い。
「とっくに絶版になっているから、ハルケギニア中探してももうほとんど残っていない貴重な本。貸し出しも禁止されているから、ここで読むしかない」
タバサは悲しそうに言って、胸に抱いていた本を机の上に置いた。
机に置かれた本の表紙を見て、ティトォの目が大きく見開かれた。
ティトォは、からからになった喉から、なんとか声を絞り出した。
「……タバサ」
「?」
急にティトォの声の調子が変わったので、タバサは不思議に思って、顔を上げた。
ティトォは真剣な顔で、机の上の『イーヴァルディの勇者』を見つめていた。
「……この本、焚書にされたって言ってたね。それはどうして?」
ティトォの変貌に、タバサは少し戸惑って言った。
「不敬とされた」
「不敬?」
ティトォが顔を上げる。
「そう。その本は、始祖ブリミルの伝説をベースとして作られた物語だから」
ティトォは愕然として、ふたたび本に目を落とした。
本の表紙には、豪奢な金文字でタイトルが記されている。
そこにはこのようにあった。
『イーヴァルディの勇者と大魔王デュデュマ』
460虚無のパズル ◆taPEIAkisc :2009/03/07(土) 21:50:22 ID:f8a4nHHY
今回は以上です。途中の支援ありがとうございます。

>>456
違うんだ
そんなつもりで書いたんじゃないんだ
本当です、この澄んだ瞳を見てください
461名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:53:36 ID:8YuNfxB5
デュデュマktkr
乙です
462名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 21:55:06 ID:wN3gLKpn

ようやく副作用が効いてきた
そろそろ存在変換するかな
463名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:00:26 ID:pVQxQl96
基本はいい人なんだけどなあ
464名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:01:12 ID:I0iVd+wh
マテパの人乙
マテパの設定の根本に関わる大魔王来ちゃった!
あと元ネタ読んだときも思ったがティトォの魔法チートだなあ
465名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:05:22 ID:OkHVfzSk

もうイチャイチャしてるようにしか見えない!嫉妬の心が燃え上がる
>460
同衾だとか朝チュンだなんて言ってませんよ ハハッ
466名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:23:04 ID:qXNVs4bT
マテパの人乙です。

コッパゲが求める力の持ち主が目の前にいる事に気づくのはいつになるやら…

デュデュマがここでストレートに出てくるとは思わず吹いたw
467名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:36:06 ID:GkOIJovm
マテパの人乙〜。
ここでもデュデュマは大魔王扱いなのか。
468名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:36:32 ID:uApo6xLX
アプトムの人、乙です。
相変わらずアプトムが真面目すぎて生じる周囲との齟齬に吹くw

>>443
>オレも最新刊は読んだが、そっちよりもIIFのスマッシャーのデカさの方がおでれーた 。

もしルイズがUFのユニットを召喚して、殖装したらあの姿になるのかねぇ。
だとしたら、おっぱいも大きくなるしスタイルもよくなるし、よかったねルイズ!
問題は、コントロールメタルが不完全なせいで殖装解除後はゼン=ラ星人になるってことだ。
469ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 22:51:12 ID:4E7KNdj+
マテパの人乙です。
「三人と吸血鬼退治」後編を投下したいと思います。
23時を予定しております。
よろしくお願いします。
470名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 22:52:41 ID:wN3gLKpn
>>464
ティトォ単体の戦闘力は低いし
直接相手にダメージを与える魔法じゃないから
あまり目立たないけどね

デュデュマが出てきたってことは大精霊もでてくるのかな
フラグは立ってる(ギーシュ、火と風のルビー、デュデュマ)

>>469
ゼロの騎士団も来たw
支援するぜ
471ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:00:36 ID:4E7KNdj+
ゼロの騎士団 PART2 幻魔皇帝 クロムウェル 3 「三人と吸血鬼退治」後編

村で馬を借り受け、ゼータは森の中を疾走していた。
「さて、そろそろだな」
ゼータはタバサの作戦に従い、合流地点に引き返そうとする。
(解っているとはいえ無茶をする。)
ゼータが伝令のふりをして、引き返しタバサと吸血鬼の基に行く作戦は昨日からの決定事項であったが、
それでも、タバサの身を危険にさらす事はゼータにとっては納得のいく事では無かった。
「今行くぞ、タバサ」
「その必要はありませんよ、騎士ゼータ」
突如森の中から自分を呼びとめる声がして、ゼータは馬を止める。
(なぜ私の名前を知っている)
自身の事を知っている者はこの世界にはそう多くない。そして、聞こえてくる声には敵意が含まれていた。

「私の事を忘れてしまいましたか、私は覚えていますよ。騎士ゼータ」

「なっ!なんなんでぇ、アイツはよ!」
現れた物を見て、デルフが驚きの声を上げる。
森の中から、一つ目が浮かび上がりゆっくりとこちらにやってくる。鎧を身につけた赤い騎士が馬に跨っている。
それは、おおよそハルキゲニアには存在しない者であった。
「お前は!バウ、生きていたのか!」
それは、かつてゼータ達と死闘を繰り広げてた、ジオン三魔団の一人である騎士バウであった。
「お久しぶりですね、今はアルガスをクビになって少女の使い魔ですか……羨ましいものですね」
ゼータにバウが、厭味ったらしく皮肉を投げかける。
「だまれ!なぜ貴様がここにいる、それと、私はクビになった訳ではない!」
(昔から、慇懃無礼な奴だったけど相変わらずだな)
ゼータはバウの相手を皮肉る性格を思い出し、敵意をむき出しにする。
「おや、私はその猪の様にただ敵に突っ込むしかない能力に愛想を尽かされたのだと思いましたよ」
「ほう、では私の前に居るのは誰だったかなぁ、
口が達者なだけの魔法に弱いヘタレ騎士のバウはもう倒したしなぁ、貴様は一体誰だろうなぁ」
ゼータはあさっての方向を向きながら、口笛を吹く。
意外な反撃に、それを見たバウは肩を震わせる。
「んな!言うに事欠いて言ってくれますね、魔法に弱いのはあなたも一緒じゃないですか」
自身と同じ弱点を持つゼータに弱点を指摘され、バウも少し声を荒げる。
「あなたこそ、アレックスの背中に居る事だけが取り柄のくせにずいぶん偉くなりましたね、
彼はここには居ないのですよ、私を前に如何して余裕なんか持っていられるのでしょうね?」
バウが、やれやれと言った目つきでゼータを見やる。その仕草が、ゼータの不機嫌を増幅させる。
ゼータとしても、作戦を実行するために急がなければならなかったが、バウを無視するわけにもいかなかった。
「貴様なぞ私一人で充分だ、あの時と違い更に激戦を経験したのだ、貴様には遅れを取らん!貴様を倒して、タバサと合流する」
「やっちまえ、相棒!」
剣を抜き、ゼータがバウに向けて馬を走らせる。慌てずにそれを見てから、バウも剣を抜く。
「相変わらず、優先順位も分からない馬鹿なところは健在ですね、貴方なんかを部下に持ったアレックスを尊敬しますよ」
軽口を叩きながら、バウも馬にけりを入れて、ゼータに向かった。
472ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:01:49 ID:4E7KNdj+
二人が一合目の剣を混じ合わせた頃、タバサはエルザと対峙していた。
「……悪魔?」
(やっぱり……)
タバサが拘束され、苦しそうに呟く。
「そう、人間は私達を悪魔と呼ぶけど、私たちから見ても悪魔に見える物」
(あんな生き物初めて見たんだから……)
それは彼女の目から見ても、悪魔だった。
「村人の血を吸っていたのは私、この村はいろいろと条件が良かったわ。
村にはあまり外に出無い親子が居て、私は村長の娘と言う事で余り疑われない。
親が殺されたって事にすれば、それだけで人間は目が曇る。本当に容易かったわ」
村長についてマゼンダの家に行った時、アレキサンドルは自分の事を快く歓迎した。
彼の周りは敵だらけであり、自分の様な無防備な存在は近づきやすかった。そして、彼を僕にし、噛んだ後を、火傷でごまかす事にした。
タバサはエルザの独白を黙って聞いている。
「けれどね、困った事が起こったの、村長が騎士を呼ぶなんて言いだしたの。
勝てなくはないけど、王国の騎士ともなれば手ごわいわ。それに、私はまだこの村にいたかったの」
彼女は村の女子供を順調に食事して行ったが、逃げると言う事を忘れていた。
村長は密かに、ガリア王国に連絡し騎士を派遣したのだった。食事を終えた次の日に、村長が自分の知らない間に騎士を読んだ事。
「どうしようか迷ったわ、そしたらあの悪魔があらわれたの」
騎士がエルザをおびき寄せようとして、森の中を散策しているのを監視している時にその悪魔と出う。
「その悪魔は凄かったわ、数分と経たずその騎士を倒しちゃった」
「!」
タバサは、未だに見つからない騎士の死体の話を思い出す。
メイジが気付いて、杖を向けた時には手の部分から先は無かった。そして、恐怖の絶叫と最後の断末魔はほぼ同時であった。
「その悪魔は騎士を倒した後、隠れている私に向けてこう言ったわ。ある人間達をおびき寄せてほしいと」
その様子をエルザは隠れながら見ていた。
そして、悪魔は気配を消している自分に気付いたのだ。抵抗しようと思ったが、恐怖とから悪魔の提案を飲む事にした。
「それが、私達をおびき寄せる事……」
「そう、目的は何だか知らないけど、悪魔はあなた達に会いたがっていた。
だから、私は知っていたの、お姉ちゃんがメイジでゼータがガーゴイルじゃないって事に」
事前に来る事を知らされていたが、その悪魔が望む物はすぐに分かった。
なにより、騎士の連れて来たガーゴイルはエルザも初めてで、
窓から見ていたが、ゼータを見てあの悪魔と同類である事はハッキリと解った。
「メイジがもう一人いたのは誤算だった、
それに、どうやって気付いたのか知れないけど、あんなにあっさりアレキサンドルを倒すなんて思わなかったの……」
アレキサンドルを使ってシルフィードをおびき寄せようとしたが、
どういう訳かタバサ達はアレキサンドルがグールである事に気付いてしまった。
「お姉ちゃん、人が生きるのに生物を殺すように私もそれに従っただけなの、従わないとあの悪魔に殺されちゃ」
エルザの言葉が終わる前に、言葉をかき消すような突風が視界と音をかき消す。
それが止んだ後、見上げると上空の青い竜がブレスを吐いた後だった。
473名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:02:30 ID:wN3gLKpn
支援
474ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:03:10 ID:4E7KNdj+
「ラグーズ・ウォータル・イス」
後ろから声が聞こえ、エルザが振り返ると、タバサはいつの間にか自身の杖を持っていた。
力ある言葉を聞き、エルザは身を硬直させる。

「イーサ・ウィンデ」
気付いた時には、彼女の詠唱は終わっていた。
「ウィンディ・アイシクル」
氷の刃が、ほぼゼロ距離で放たれ、避ける間もなくエルザに突き刺さる。


一度だけ地面を跳ねた後、エルザは大地に倒れた。
「お姉さま、遅くなったのね、決して、日差しが心地いいから寝坊したわけでは無いのね」
上空から、元の姿に戻ったシルフィードが言い訳をしながらやってくる。
タバサの元に降り立ったシルフィードを、頭上に杖を落として歓迎する。
「……うそ、本当に寝てた」
それを聞いて、シルフィードは必死に言い訳をするが、タバサは許す気配がない。
タバサとシルフィードを瀕死の状態のエルザが見ていた。
「風竜?今までどこにいたの?」
「きゅい、痛いのね、ごめんなさいなのね。吸血鬼め、よくもお姉さまを酷い目にあわせてくれたのね!」
話の矛先をずらすように、シルフィードがエルザに向きなおり威嚇する。
「韻竜……伝説の竜なんてまだいたんだ……」
タバサはそのひとりごとを聞いた後で、今度はこちらから話す事にする。
「……あなた達が二人いる事は解っていた」
「え!どうして、いつからなの?」
タバサが自分達がの存在に気付いていた事に、エルザは驚きを浮かべる。
「気付いたのは、誰かがアレキサンドルの死体を運んだ時から、最初犯人の候補はあなた達を含めた三人だった」
村長が言った通り、もしも村人のなかに吸血鬼が居たら当の昔に村の住人はグールになっていただろう、だから、部外者の方が犯人の確率は高いとタバサは推測した。
「私達はグールがアレキサンドルで、マゼンダはただの人間だと言う事に気がついた」
この時点では、まだエルザは犯人としては不十分であったが、しかし、彼女はある程度、気が付いていた。
「けど次の日、私達が埋めた死体が運び出されていた。私があなたの所に戻る間に、死体を運び出す事は不可能だった。では、誰がマゼンダを運び出したのか?」
エルザが、アレキサンドルを掘り起こして村に持ち帰るのはほぼ不可能とされた、あの後タバサは一睡もせずにエルザを監視していたがついには彼女は動かなかった。
「あなたは動かない、だからこそもう一人誰かが居るんじゃないかと思った。
そして、ある事に気がついた、どうしてあなたは私が風のメイジだって知っているのか?」
タバサはずっと従者として通していた、そして、シルフィードが風のメイジである事を知っているのは村には居ない筈であった。
「決定的な証拠はなかった、だから罠をかける事にした。
ゼータが居なくなって、私と二人きりになると、あなたは襲ってくるかもしれない……そして、目論見は当たった」
タバサにとってこれは賭けでもあった。
もしゼータの伝令が嘘だと分かれば村の不信感をさらに煽ってしまうし、解決していないのに本当に騎士を呼ぶ訳には行かない。
村もすでに解決の空気が漂っており、ここで下手に油を注ぐような真似は出来なかった。
タバサの話を聞いていたエルザは、その事に納得しつつも自身の命の終わりには、まだ諦めがつかない表情を浮かべる。
「そういう事なのね……ねぇ、たすけて……
私は生きる為に殺したの、それに殺されたくなかったから、あなた達も同じでしょ、生きる為、殺されない為に人を殺す」
「……そう同じ、だからこそ、人の命を守るためにあなたを倒す」
タバサはシルフィードに指示を出して、エルザに土をかぶせる。
「この杖をあなたに……」
その言葉と共に、彼女に向けて最後の詠唱を唱える。
タバサの言葉を聞いて、エルザは自嘲的な顔をしている気がした。
「そう……あなたも同じだったのね……」
土はエルザの最後のベットとなって、炎の音に彼女の声はかき消える。
「行く、ゼータの元に」
彼女は感慨にふける事もなく、自身の友人に向けて指示を出した。
475ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:04:21 ID:4E7KNdj+
「てやぁぁ!」
ゼータの掛け声とともに、デルフが光の軌跡を描く。しかし、その軌跡は乾いた音を奏でる。
バウは上体を反らして避けた後、戻すと同時に、剣を突き出す。
それをゼータは盾で受け止める。
そのまま押し返し、自身も反動で、後ろに下がる。
「今度はこちらからですよ!」
バウは馬を左に走らせながら、右腕の剣でゼータを狙う。それをゼータは左の盾で防ぎながら、バウの空いている腹を狙う。
しかし、バウが馬をゼータの馬に体当たりさせてバランスを崩す。それにより、お互いが距離を置く。
「あの野郎、口の割にはやるじゃねぇか」
バウの技量にデルフが悔しながらも認める。
「だが、早くタバサの元に向かわねばならん」
そう言って、ゼータはもう一度、馬を走らせる。しかし、聞き手の方向とは逆に馬を走らせる。
「愚かですねぇ、方向も分からないのですか」
バウが、ゼータの行動を呆れながら愚弄する。
「私のやることが分からないようでは、お前も落ちた物だな、許せよ」
ゼータはそれに応じながら、馬を反対につける。そして、バウの乗っている馬の首を薙ぐ。
「何だと!」
「騎馬戦では馬を狙うのは有効な手段の一つだ、そんな事も忘れたのか!」
馬が生命を失った事で、バウはバランスを崩し地面に落ちる。ゼータが馬を反対に走らせたのはこれが狙いであった。
バウが倒れたと同時に、上空に風の流れる気配を感じる。
「タバサ、シルフィード!」
「遅いんだよ、馬鹿竜」
自分が行く筈であった援軍の役目を彼女達が果たし、それぞれが異なる反応を見せる。
「きゅい、うるさいのね、ナマクラ。ん、お姉さま何なのね、あれは!青トンガリと似たような奴が居るのね」
「……あれが悪魔」
バウを見て、二人も驚きの表情を上げる。
「悪魔とは酷な事を……エルザを倒しましたか、使い魔とは違い貴女は優秀の様ですね」
「減らず口は其処までだ、エルザは倒され馬も失った以上貴様に勝ち目はない、貴様の後ろに居る者の名前を聞かせてもらおうか」
ゼータが勝利を確信してバウに勧告するが、しかし、それを聞いてバウは突如笑い出した。
それを見て、全員が不審な顔で見合わせる。
「のほほぉ、中々面白い事を言いますね、そのお嬢さんの力も認めましょう……
しかし、あなたは愚かですね、あなたが力をつけたように、私も力をつけたのですよ。ドライセンの様にね!」
その場で立ち上がりバウが飛びあがる。それをタバサ達が見上げる。
「悪魔……」
それから起きた光景を見て、タバサはそれだけ呟いた。最初の変化は背中であった。
翼人種の様な羽が背中から生えた、しかし、彼らのような物では無く赤い血塗られたような羽が現れる。
足にも猛禽類の様な白い爪が生まれる。
それは、ガリアで作られているガーゴイルその物であった。
「これがあの方より頂いた力、新しく生まれ変わった姿ですよ」
バウが嬉しそうに、自身を讃える。その姿は悪魔と呼んでも差し支えなかった。
そして、ゆっくりと地面に降りて剣を握る。
「さて、皆さんを送ってあげましょう。あの老婆の所にね!」
その声と共に、バウが飛翔する。そして、ゼータに目がけて急降下する。
それは、以前のシルフィードとはスピードは変わらないが、威力はけた違いであった。
「このっ!」
ゼータが横に跳んで地面に伏せる。そして、その上を暴嵐が駆け抜け、嵐がやんだ後、森の中に広場が出来る。
しかし、嵐は止まずその勢いのまま、上空に居るシルフィードに向かってくる。
「よけて」
「簡単に言わないでね!」
タバサの指示に悪態をつきながらも、何とか身を捻ってかわすが、風圧でシルフィードの羽根に傷が出来る。
「タバサ!奴は魔法に弱い、旋回する所を狙い撃て」
地上からゼータが指示を飛ばす。詠唱しながらタバサは頷き、ちょうど旋回しようとする所に魔法を放つ。
476ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:05:58 ID:4E7KNdj+
常人ではとても避けきれない様な速さで、氷の槍が殺到する。しかし、バウは余裕な態度を崩さなかった。
「たしかに、私は魔法は苦手でした……ですがね!」
氷の槍を前に、ある物を差し出す。
「私も馬鹿では無いのですよ、そこのお嬢さんに対して、それ相応の対抗策を持ち合わせていますよ」
白い蒸気の中から、バウの声がするがゼータにはそこから見える物に集中していた。
「それは竜の盾!なぜ貴様が持っているんだ!?」
(あれは私が最後まで持っていたはず、なぜ奴が!)
竜の盾――かつて、ドライセンが持っているとされる盾であらゆる攻撃を防ぐと言われた、獅子の斧と同じ三獣の武具。
そして、ゼータがジーク・ジオンとの最終決戦の際に愛用していた物であったが、その竜の盾がバウの手の中にあった。
「見つけたのは偶然ですよ、しかし、この盾の力を知っている物はこの世界には余り居ませんがね」
「どうすんだよ相棒、あれが有るんじゃお嬢ちゃんの魔法も気かねぇぜ!」
デルフが鞘を鳴らして口をは挟む。タバサの魔法が決定打になる筈であったが、竜の盾により、それも困難な物になった。
「乗って、地上では不利」
タバサがシルフィードをゼータの元に近づけ、乗るように促す。シルフィードが何か文句を言う前にゼータが飛び乗る。
「どうしますか、空の上では剣は届きませんよ!」
その声と共に、再び高速でバウが突撃してくる。ゼータはタバサの前に出て盾で防ごうとする。
「甘いですよ!」
しかし、高速で勢いのついたバウの一撃は、ゼータの盾を弾くほどであった。無防備になった腹にバウの爪が繰り出される。
それを避けようとするが、シルフィードに跨っている状態では碌にかわす事が出来ない、ゼータの脇腹に三本の線が刻まれる。
「くっ!」
「離れるのね!」
首を振り、風のブレスをシルフィードが放つが距離を取って回避される。
「ウィンディ・アイシクル」
離れた所を、ゼータの陰に隠れたタバサがバウを狙う。
「無駄ですよ」
それを見越していたのか、タバサの攻撃を盾で防ぐ。
(竜の盾を如何にかしなくては……剣を自由に振るえたら……そうだ!)
ゼータはこの状況で自分が剣をふるう為の手段を思いつく。
「タバサ、シルフィード……」
「無茶なのね!この青トンガリ!」
ゼータの提案に、シルフィードが反対の態度を示す。
「やるしかない、シルフィードお願い」
タバサはそれを聞いて、実行を許可する。この状態での不利は変わらずだったので、現状を打開する事が必要であった。
「お姉さま!……もう、解ったのね」
シルフィードも二人の覚悟に腹をくくる。
「作戦タイムは済みましたか?」
剣を弄びながら、バウが余裕を持った態度で応じる。
バウにしてみれば、この状況は覆る可能性は無く自信の有利な展開にご満悦とも言えた。
「ああ……行くぞ!」
その声と共に、風のブレスを吐きながらシルフィードを全力で突撃させる。そして、バウにめがけて剣を振り下ろす。
「相変わらず馬鹿の一つ覚えですか」
何無く余裕で受け止める。そして、もう一度足の爪で、ゼータを狙おうとするが
「私の方が早いのね」
止まらずに、そのまま駆け抜ける。そして、少し離れた所で急停止する。
「いまなのね!」
「ウィンディ・アイシクル」
タバサが反対に跨った状態で魔法を放つ。
「背後を狙うつもりですか、しかし」
振り向くと同時に盾を出し、その攻撃を防ぐ。
「行くのね、青トンガリ」
「何!」
バウはそこに居る筈の人物が居ない事に気がついて慌てる。
477名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:06:49 ID:wN3gLKpn
支援
478ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:06:54 ID:4E7KNdj+
探すよりも早く、それの方が先にバウの元にやって来た。
「ゼータ乱れ彗星」

バウにとってそれは、太陽より降り注ぐ火球の様であった。バウとシルフィードが重なった時、ゼータはブレスに紛れて、垂直に飛んでいたのだ。
「馬鹿なっ!」
魔法を防ぐのやっとで、ゼータの必殺剣の直撃を受ける。
腕は突きで切り落とされ、羽根には無数の穴が開き、断末魔をあげる事無く、地面に墜落して行った。
「……これは返してもらうぞ」
タバサにフライをかけてもらいながら、自身の愛用の竜の盾を持つ。
「やったのね!」
シルフィードが歓喜の声をあげる。
「駄目、まだ生きている」
タバサは、シルフィードの声に緊張感を保ったまま応える。
墜落したと思ったが、バウは地上数メイルの所で、かろうじて着地する。
「……やりますね、今回は退く事にさせていただきますよ」
満身創痍になりながらも、バウは丁寧な態度を崩さない。
しかし、バウにしてみれば自身の余裕から失態を犯してしまっただけに、内心では余裕がなかった。
「いかにもなセリフだな、2流の貴様には相応しいがな」
嬉しそうな声でゼータが追い打ちをかける。
魔法の苦手な彼にしてみれば、竜の盾が手に入った事もあり、傷口に塗る塩は最高の物と言えた。
「くっ!そう言っていられるのも今の内ですよ、あなたの仲間達はアルビオンで地獄を見るでしょう、
勿論あなた達もお待ちしておりますよ、我が主、オリヴァ―・クロムウェル様が」
その言葉と共に、バウは森の闇に消えて行った。辺りから緊張感が消える。
「オリヴァー・クロムウェル、それが奴らの主か」
聞き慣れない名前を聞いて、ゼータはタバサの方を見る。
「アルビオン反乱軍の主、虚無を使うと言われている」
ゼータに対して、タバサが自信が持つ情報を教える。
「アルビオンにはキュルケ達が居る……心配……」
「そうだな、報告を終えたら、急いでアルビオンに向かおう」
ゼータにしてもバウを逃した事、そして、そのバウの口から出てきた言葉が気にかかる。
次の方針を決めて、いったん村に戻った後、ゼータ達はヴェルサルテイル宮殿へと向かった。
479ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:07:42 ID:4E7KNdj+
「タバサ様がお帰りになられました」
家臣の一人がタバサの帰還を告げる。その報告は主を不快にさせた。
「ふん、帰ってきたようだね」
(吸血鬼を倒して来たって言うのかい、ガーゴイルの奴め)
イザベラはタバサがこんなにも早く任務を終えたのが不満であった。
だが、彼女が吸血鬼を倒してその報告に来た以上応じない訳にはいかない。
「タバサ様をお連れしました」
そこで、連れられてきたタバサの格好を見て、イザベラは機嫌が良くなる。
「御苦労だったね、どうしたんだい、吸血鬼に貞操を奪われそうにでもなったのかい。」
(いい様だね、危険な目にはあったようだね)
タバサの格好は体中が小さな傷だらけで、服も破けてしまったのでシルフィードの分を代わりに着る事にした。
タバサは何も言わずに無言を貫いている。
イザベラの楽しげな顔と笑い声の中、一つの声が響く。
「それが、苦労をして任務をこなした騎士をねぎらう言葉か!」
イザベラの気分をぶち壊すようにその扉が開いた。
その姿を見て、イザベラは真っ先に声を出していた。
「お前は!」
(アレックス!?いや違う)
彼女の使い魔と同じ顔のゼータを見て、イザベラが驚愕する。
「お前は何者だい?」
「私はタバサの使い魔のゼータと申します。我が主はあなたの命で命がけで任務をこなしました。
そして、傷も癒えぬまま、報告に来たと言うのに、愚弄するなど!」
家臣達の青ざめる顔に気にも留めず、ゼータは真ん中を堂々と歩いてくる。
「そいつは、それが任務だからさ、しかし、そのガーゴイルに似て気に入らない奴だね」
自身に対して、意見する存在など、一人しか知らないイザベラにとっては、それがとても屈辱的であった。
(ああ、何て事だ、シャルロット様が……)
家臣達はゼータの行いに、戦々恐々とわが身の様に体を固まらせる。
その場に流れる空気は最悪の一言に尽きた。しかし、一言で風の流れが変わる。
「ただいまイザベラ、お客様かい?」
場の空気をぶち壊すような暢気な声であったが、全員にはその声は神のささやきにも感じられた。
「アレックス帰って来ていたのかい!ちょうどいい、そいつを切っておくれよ!」
金切り声と言う言葉がふさわしい、イザベラの声が場に響く。
しかし、その声に反して、タバサとゼータは固まったままであった。

「おどれーた、相棒にそっくりな奴が他に居るなんて」
「貴方は……」

「……ガンダム」
タバサのつぶやきが、先ほどとは反対の静けさの中に響いた。
480ゼロの騎士団:2009/03/07(土) 23:12:01 ID:4E7KNdj+
「29 騎士バウが襲いかかって来た。」
騎士 バウ
ゼータ達をおびき寄せる。
HP 1700


「30 私の本当の力をお見せしましょう」
悪魔騎士 バウ
真の姿を現す。
HP 2500 (2100+400)

投下終了です。
バウは円卓の騎士に出てくるバウ・ゴイルやバウ・パイア等悪魔的なイメージがあります。
声はSDガンダムでお馴染みの江原正士さんのイメージが強いです。


481名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:17:24 ID:wN3gLKpn

アレックスktkr
482名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:26:53 ID:IDoCzyJ6
乙ー。やっぱり週末は投下ペース早いな。職人さんがたGJ。

で、割と遅レスだが…忠誠心と言えばこういうのはどうだろうか。

「ゼロに従え!」

の命令を忠実に実行するシュナイゼル殿下。
魔法が使えんのがこの世界だと難だが、知略とカリスマは相当なもんだし。


>414
ちょwwヴァーリ様はチート過ぎるwアタマでも両手でもなく胸にルーンが浮かぶぞw
雷撃がそもそもライトニングクラウドどころの規模じゃないし、熱核系呪文あるし…転移するし死なないし。
483名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:39:32 ID:ZdEHFsiW
>>482
ゼロ繋がりでウイングガンダムゼロはどうだろうかと思ったが、
ゼロシステムを使いこなせそうな奴がいないので断念したのを思い出した。
484名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:45:13 ID:Aaksky4S
損傷実験体
……そもそもアプトムに電撃って効いたっけ?
大分昔にエレゲン(発電獣化兵)喰って、電撃と高熱には耐性あった覚えが
485名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:56:08 ID:Xh5xioZK
>>484
獣化してたならばともかく、今回電撃喰らった時は人間形態だからな。
486名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/07(土) 23:57:33 ID:7PXEe46b
マテパの人乙

まさかデュデュマまで出てくるとはw
後は始祖ブリミルを騙るカバデブだけか
487名無しさん@お腹いっぱい:2009/03/07(土) 23:57:48 ID:koraPMWb
ゼロの魔王伝は復活は絶望かも……メンツがあまりにも強烈すぎる……。
488名無しさん@お腹いっぱい:2009/03/08(日) 00:07:42 ID:3+HV3DmB
それに最近は、メフィストは光速でメスを投擲するというチートぶりに磨きがかかっているからなあ……。
489名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:16:48 ID:64mCSZ6c
……理想郷で掲載してるの投下して良いですか?
490名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:20:46 ID:QnIAxaA3
理想郷でやれ。
作者ならそれくらいわかるだろ。
491名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:20:56 ID:rxXrRZTr
>>489
マルチは駄目だけど、向こうを引き払ってこっちに引っ越してくるんなら歓迎しますよ。
492名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:27:21 ID:YrM/Xdh2
>>491
そういう行為も向こうを侮辱するような行為だから
やっちゃいけないような気がするが。
493名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:31:10 ID:LPVMPtqP
今まで理想郷でやってきたんなら、理想郷で続けた方がいいと思うが。

…しかし、たまに思うんだが、ここみたいな2chのSSスレと理想郷の違いって何だ?
494名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:32:00 ID:pFRNi1WF
あっちで批判されたので引っ越しますとかならお断りです。
495名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:32:42 ID:sk9TqWVQ
こっちから出てったのもあるから逆もあっても別に構わん
496名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:34:16 ID:pFRNi1WF
>>493
オリ主だしてタバサとちゅっちゅしたり、ルイズをヘイトしたり、内政(笑)したいなら理想郷でいいんじゃないか?
497名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:37:33 ID:LPVMPtqP
>>496
ある程度以上オリジナル要素を入れても生暖かく見守ってくれるのが理想郷で、しこたま叩かれるのがこっちってことか。
大体分かった、ありがとう。
空いているなら4分後くらいに投下しますね。
499名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:40:29 ID:00alczGT
>>493 

2chのSS   ルイズが使い魔を召喚する事が前提
アルカディア 召喚する者 サイトの設定改変 などが可能 
500名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:41:11 ID:skmH2NMs
>>489
 お前は何を言っているんだ?
501名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:42:13 ID:yriGHUxA
そもそもなぜ理想郷でやってるのをこっちでやろうと思ったんだ
てか感想もらえるのはあっちの方が多いんじゃないの?
502名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:42:38 ID:yriGHUxA
おっと忘れてた
支援
46.新しい二つ名

メイジにとってあだ名や二つ名といった物はとても重要である。
というのも、メイジにとってそれらは己を一言で表す物だからだ。
それだけに不名誉な行動から付いた名はもちろん、
語呂の悪い名を好む者もいない。
当然、それはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにも言えた。

「ゼロ」の名を持つ彼女は『虚無』の系統の使い手である。
虚無とは他の四系統の上位に位置する魔法系統で、
それに目覚めたルイズは四系統のスクウェアクラスの呪文と、
スクウェアに対応する一部の呪文が使える様になった。
今までの爆発の原因は、自身の力が大きすぎてコントロールが出来ていなかったこと。
魔法が使えるようになったルイズはもはやゼロではない。
しかし彼女は、新しいあだ名をまだ決めかねていた。


学院に戻ってから最初の授業での実習で、
ルイズは真っ直ぐに背筋を伸ばして手をあげた。
キュルケとタバサを除き、みんなの顔が真っ青になったが、
いや、これでいいかと思い直す。

「あー……ミス・ヴァリエール。熱心なのは良いことですが」

愉快なヘビ君を用いての退屈な授業に、飽きているからだ。
発火の実習を行おうとしたコルベールは言いにくそうだったが、
ルイズは満面の笑みで、教壇に近づいていく。

「いやなに、君の実力を疑うわけではないが、
 魔法はいつも成功するというわけではない。
 ほら、言うではないか。ドラゴンも火事で死ぬ、と」

ルイズがコルベールの目を見る。
コルベールは、こんな目をした彼女を見たことが無かった。
自信に溢れていて、それでいて威勢だけではない、
何か策のある人間の目だった。

「大丈夫です。成功しましたから」
「おいおい、ゼロのお前が成功するわけないじゃないか」

マリコルヌの声が聞こえたが、ルイズは無視して足でふいごを踏んだ。
気化した油が、円筒の中に送り込まれる。それから目をつむり、大きく深呼吸する。
まだ魔法を使える様になってから日が浅いので、イメージをしっかり頭の中で作らないと、
いつものように爆発してしまうのだ。気持ちを落ち着かせて、おもむろに円筒に杖を差し込んだ。

「ミス・ヴァリエール……おお」

コルベールが祈るようにつぶやいた。

ルイズは朗々と、可愛らしい鈴の音のような声で、呪文を詠唱した。
教室中の全員がぴきーんと緊張する。期待通り、順当に、とはいかなかった。

金属の円筒は爆発せず、杖から出た業火によって溶け始める。
気化した油が炎に引火する事によって爆発が起こる。
それによって溶けかけの円筒が破裂し、かけらが辺りに飛散していく。
生徒の方へ飛び散る円筒のかけらは、キュルケとタバサが前もって準備していた、
レビテーション等の魔法によってその周辺に落ち、固体に戻った。
生徒たちはいつもと違い「あの」爆発が起きない事を不思議がった。
ルイズが発火の魔法を止めると、自身の目の前で燃えていた円筒は冷えて固体に戻る。
もはやそれは円筒と呼べる物ではない。置かれていた机や差し込まれた杖に炎は燃え移っていなかった。
固定化がかかっているからだ。

いつもの様な爆発こそ起きなかったし、発火の呪文は成功した。しかし失敗である。
ルイズは腕を組み、そして呟いた。なんてことはない。
自分のせいではなく、固定化がかかっていない装置が悪いのだ。

「ミスタ・コルベール。この装置、溶けやすいです」
「あ、ああ……そのよう、だね。改良の余地が、あり、そうだ」

誰が発火の呪文で金属が融解すると思うだろうか。
涙を流すコルベールは生徒達に自習を言い渡し、
愉快なヘビ君だった鉄くずと共に、教室を後にした。
もし彼が正気であったなら、ルイズの力について言及するだろう。
しかし今はそれよりも、苦労して作り上げたヘビ君の弔いが先であった。


「やるじゃないあなた。あんなのは壊して正解よ」

自習の名の下に勉学に励む生徒は少ない。ルイズはその少ない方に属しているが、食堂にいた。
真面目に勉強しようとしたところ、キュルケが引っ張ってきたのだ。

「壊したくて壊したんじゃない」

むすっとした顔でルイズはクックベリーパイを食べる。
隣のタバサはハシバミ草のスープをおかわりしていた。
無表情ながら、至福の一時を過ごしているようだ。

「そう?最近ノリが良くなったと思ったのだけれど」
「どういう意味よ」

キュルケはルイズを見ておかしそうに笑っている。
そんな事をされて、ルイズが怒らないはずがない。

「だ、か、ら、なんなのよ!」
「前ならわたしが呼んだって、絶対一緒に来なかったじゃない」

ああ、とルイズは納得した。たしかにそうだ。
以前なら何があっても絶対にキュルケの誘いなんて断っただろう。

「少しばかり余裕ができてきたのかしら?
 だからといって調子にのっていると、私の炎があなたを包み込むかもね」

学院に戻ったキュルケは男遊びをやめて、火の系統の修練に励んでいる。
元々トライアングルであり、優れた素質があるにもかかわらず遊んでいた彼女だったが、
本気を出した事によって、その実力はスクウェアクラスに匹敵するのではないか、
と教師達の間で話題になっている。

「ふんだ。私が勝つんだから」

バチバチと火花が散るテーブルで、タバサはただ黙々と彼女専用のハシバミ料理を堪能している。
母の薬が出来て、イザベラを治せるだろう薬も手に入った。後はそれらを飲ませてどこかへ雲隠れしよう。
叔父のことなど、母の回復の前にはどうでもよくなっているタバサは、無表情で幸せそうに料理をたいらげている。
結局、今日のタバサの注文によって学院に残っていたハシバミ草は全て消費された。
505名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:43:26 ID:LPVMPtqP
>>501
こっちは感想がない時は、見ててちょっと可哀相なくらい全然ないからなw

それはともかくエルダー支援。
ヴェストリの広場は普段は人気の無い場所であり、使い魔のたまり場でもある。
なぜなら、ぽかぽかした晴れの日なら、ひなたぼっこをするのに最適な場所でもあるからだ。
マーティンは最近、考え事が煮詰まると自然とここに足が向く。
ぼーっと空を見上げると、案外ヒントが浮かんでくるものだ。
広場の一角に座り空を見上げる。白い雲が浮かぶ青い空は見慣れた物だが、
いつ見ても美しく感じる。その空から、何か大きい物が近づいてくる。
最近親しくなった風竜だ。

「きゅい。どうしたのね?」
「ああ、シルフィードか」

シルフィードの影に隠れてしまったマーティンは、顔を寄せる龍の頭をなでる。
彼女はマーティンの事を気に入ったらしい。人のいない場所では彼に話しかけるようになった。

「悩み事でね」
「お悩み相談なら任せるのね!シルフィそういうの得意だから!」

自信満々な顔を見て、マーティンはなにか、もの凄い不安に捕らわれた。
そもそも、今の悩み事の内の一つはシルフィードから教わった魔法が使えない事である。
単に自身の魔法力が足りていないだけか、それとも使えない類の物か。
考えたらきりが無いが、専門職メイジというのはそういう事を考えてしまうのだ。

「ああ、えーと……」

話しても大丈夫そうな悩みもあった。

「ルイズのあだ名についてね」
「あの小生意気なののあだ名?なんで?」
「ああ、何でもこの地のメイジにとって、あだ名はとても重要な物らしいんだ」

ふうん、と興味無さげにシルフィードはあくびをした。

「で、彼女は今までゼロという不名誉なあだ名を付けられていたのだけれど、
 それを返上して新しい名前を付けると言い出してね。
 だけどどうにもしっくり来る物が浮かばないらしくて。
 それで、私にも考えて欲しいと言われたんだ」

「なるほど。なら、う〜ん。『ピンクブロンド』なんてどうかしら?」

そのまますぎるよ。とマーティンは苦笑する。

「ならなら、『ちいさい』とかはどう?どう?」
「ありがとうシルフィード。気持ちだけ受け取るよ」

きゅい、とシルフィードは肩を落としてから寝そべった。
ふて寝である。

「ううむ、何が良いのだろうか」

マーティンは昔、伊達男だった。シロディールのメイジとしても優れた召喚師で、
若気の至りで快楽をつかさどる神様の信者にもなって、ブイブイいわせていた。
そんな経験から、派手な名を思いつきはするが、それらはルイズには似合わないと考えている。

「他の人の名を挙げると、微熱や雪風、疾風に炎蛇。確かギーシュ君は青銅だったか。
 よくルイズに突っかかるあの恰幅の良い男子は風上だったかな」
派手すぎず、かといって目立たないわけではなく、しっかりと主張する立派な名。
それでいてルイズに似合っている物。さて、どんな物が良いか。
マーティンがぼーっと考え込んでいると、爆音が響いた。

「うん?」

場所は食堂の方角からで、その音は聞き覚えのある物だった。
ルイズの爆発音である。

「……何が起こったのだろうか」

ルイズは魔法を使えるようになって、自分に自信を持てるようになった。
あんな事があったから調子にのってはいないと思ったのだが、マーティンは心配になり、食堂に向かう事にする。


そろそろ昼食の時間。それは調理場が最も慌ただしくなる頃で、
マルトー達料理人は学生達の料理を作っていた。食堂から爆発音がとどろいたのは、
そんな時である。

「親方、今の音って何でしょうかね?」
「おおかた、貴族のぼっちゃま方がいたずらでもしてるんだろ」

気にせず作れ、とマルトーは怒鳴った。

食堂の方はというと、ひたいに青筋を立てたルイズが腕を組んで立っていた。
その目はまさしく母や長姉譲りの物で、見る者に本能的な恐怖を感じさせる、
恐ろしい気迫を放っている。相対するのはマリコルヌ。
青ざめた顔で平謝りを繰り返しているが、ルイズは怒ったままだ。

「ももも、もう一回、聞くわ。かぜっぴき、今、なんて?」

ルイズの声は震えている。本気で怒ると声が震えるのだ。
そして、そうなったらもう誰にも止められないのだ。

「いいい、いや、わるかった。悪かったルイズ!すまなかった!」

マリコルヌは必至に謝ったが、それはあまりにも遅い。
ルイズの怒りは更に燃え広がり、マリコルヌの近くの床を爆発させる。
マリコルヌはふっとばされ、埃まみれになった。

怒りの魔女はふふふと笑う。だが、それは本来の可愛らしさなどみじんもなく、
例えば獲物を見つけた肉食動物が、今にも獲物に飛びかからんとする時に、
もし感情があれば見せると思われる顔だった。つまり、ふざけんなこのブタ野郎、ということである。

「なにが、わるかったの?」

はいつくばって謝るマリコルヌを見下ろし、ルイズは冷たい視線を送る。
マリコルヌは不思議な高揚感を感じながら、ゆっくりと口を開いた。

「君の事を不快な名で呼んでしまった。謝るよ、たのむから許してくれ」

「そう、そうね。あなたわたしにとんでもないあだなをつけたわね。
つけやがったわね、こ、このブタ。ブタやろう」

ルイズは冷たい視線で男をなじった。マリコルヌは少しばかり顔が赤くなり、
生まれてごめん、ブタごめんと謝り始める。
その様は彼女を尚更腹立たしい気持ちにさせた。
「なんか、プレイの一環って感じよねぇ」

キュルケはそんな姿を椅子に座って眺めている。
マリコルヌが段々恐怖から愉悦の方に変わっていくのが分かる。
気持ち悪いが、そういうのが好きなのもいるらしい。
ルイズはそうした性質があるに違いない、と思った。

「そんなに嫌なのかしら、さっきの名前」

ゼロよりはマシかと思ったけれど、ルイズからしてみればなにかんがえてんのよこのブタ。
ブタやろう。ということらしい。タバサはそんなことにはかまいもせず、
ハシバミ草を食べ続けている。

「『爆魔』のルイズ。そこまで悪くはないと思うのだけれど」

魔法が成功するようになったのだから『ゼロ』の名がダメになった。
なら他にルイズの特徴を、というわけでルイズをいじって遊ぶ連中は、
爆発をよく起こすから爆発魔から語呂を良くして爆魔という名を思いつき、
早速マリコルヌはからかいに来た、というわけである。

「そ、そりゃあ、ゼロと呼ばれるのは本気で嫌だったけれど、
 実際その通りだから、仕方ないわよ。でも、でもね……」

バチバチッとルイズの周りから魔法の稲妻が飛び出ては消えていく。
大きいのが来る、周りにいた人々は確信して食堂の大きな机の下に隠れた。

「魔法が使えるようになったからって、それはあんまりでしょうがぁああああああああああああ!!」

ゼロと爆発は、ルイズの心にとても大きな傷を作った。
いわばトラウマというやつだが、それを名前にされたのだ。怒るのも無理はない。
涙目のルイズの心の叫びが食堂に響き渡ると共に、大きな閃光が杖先より現れる。
マーティンが来た頃には、ほとんど食堂全てが黒こげになっていた。

ふむ、と黒こげになったルイズを見つけて、マーティンは優しい口調でたずねる。

「で、ルイズ。何があったんだい?」
「わたし、悪くないもん。そこのブタが悪いんだもん」

駄々をこねる子供の様に、黒こげになりながらも恍惚とした表情で転がっているふとっちょを指差す。
おそらくちょっかいをかけられたんだろう。マーティンは優しい声で語りかけた。

「しかし、こんなことをする必要は無いよ」

ぷいっとルイズはそっぽを向いた。
ちゃんとした自信を持つと同時に、彼女に本来の性質が戻ったのかもしれない。
年頃の娘にしては少し怒りっぽいとか、そんな性質である。
背伸びをせず、普通に戻ったともいえるのだから悪いことではないが、
だからといってこんなことをして許されるはずもない。

子供を諭すのは大人の役目であり、見習いメイジが不始末をしでかしたのなら、
熟練メイジはちゃんと指導しないといけない。実際のところ、
シロディールのメイジがそんな面倒な事をするわけない。
しかしマーティンはルイズを諭し始めた。マーティンはメイジをやめて随分と経ち、
数年前までは九大神教団の司祭だった。職業柄、人を諭すのは得意な方である。
「ほら、周りを見て」

部屋の中は、雷が10回くらいは落ちたんじゃないかと思わせる惨状だった。
豪華な内装はほとんど跡形もなく破壊され、生徒用の大きな机にも生々しい傷跡が残っている。
中階のロフトには、幸い誰もいない。とはいえ、
結局ルイズは学院長から直々にお叱りを受けるのだが。

「君がしたんだ。大きな力は時に大きな危険をもたらす。責任を持って、それを使わなくてはならないよ」

ルイズが呪文を唱えて杖を振ると、たちまち食堂は元に戻っていく。
錬金の高度な応用だったが、ルイズからすれば精神力を大量に消費する物の方が使いやすかった。

「でも、わたし、謝らないから」

少し涙目のルイズを見てマーティンはやれやれと頭を掻き、どうしたものかと思案する。

「とりあえず涙をふいて。ご飯はもう食べたのかい?」

ハンカチを渡すと、ルイズはちーんと鼻をかむ。
とりあえず彼女が落ち着くまで、マーティンは優しくなだめる事にした。

その後、ルイズの名は敵対する者全てを焦がすという意味で「黒こげのルイズ」と呼ばれたり、
怒ったら手が付けられないという意味で「怒髪天のルイズ」と呼ばれたりするようになる。
ルイズ本人はそれなりに不服だが、マーティンの説得の甲斐もあって、
そこまでひどいかんしゃくを起こしていない。


「大変なことが起こったみたいだね、マリコルヌ」

騒動が終わった後、包帯をグルグルに巻かれたマリコルヌは保健室にいた。
見舞いに来たのは彼とつるんだりつるまなかったりするギーシュである。

「おお、ギーシュじゃないか」
「そうとも、『青銅の』ギーシュ改め『人生バラ色の』ギーシュさ!」

くねくねしたきざったらしい仕草で、ギーシュは格好をつける。
最近良い事続きの彼は、素敵な笑顔でマリコルヌに笑いかけた。
マリコルヌはああとためいきをつき、ギーシュに顔を向ける。

「君が羨ましいよ。両手に花なんだから」

どうやったかは知らないが、モンモランシーとケティは彼の恋人であり、
今も関係が続いている。ギーシュの頭はどちらかといわなくてもゆるい方だが、
それを支えてあげなくちゃ、と彼女たちに思わせたらしい。
モンモランシーが主導権を握っているようだが、
ギーシュは双方を平等に愛しているそうだ。

「はっはっは。それは当然というものだよ。なんたってボクは」

ギーシュはその場できざったらしくポーズを取り、
口にくわえていたバラを手に持つ。二人の彼女が出来てからというもの、
彼の仕草は多少洗練された様に思える。それでもまだくねくねしている。
むしろこのくねくねっぽさが無くなったら、ギーシュでなくなるのかもしれない。
「グラモン家の三男、『人生バラ色の』ギーシュだからネ!」
「ああ、うん。分かった、分かったから」

少しうざったく感じながら、マリコルヌはギーシュを落ち着かせる。

「ところでギーシュ。そのバラは一体どこで買ったんだい?」

ギーシュの持っているバラは、彼がいつも持っているバラの形をした杖ではなく、
本物のバラで、真っ黒だった。ワインレッドとか濃い赤色の黒バラではなく、
純粋に真っ黒なバラである。

よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、ギーシュはもったいぶりながら、
その固定化のかかった黒いバラについて話しはじめた。

「ああ、これかい?素敵だろう、ケティがくれたんだ。アルビオンローズと言ってね。
 ハイランドで咲くとても珍しい品種なのだそうだ」

ボクの魅力を引き立てると思わないかい?と自慢げに語ってからギーシュは部屋を出て行った。
結局こいつはバラを自慢しに来ただけか?マリコルヌはため息を吐く。

「でも、あのルイズに焦がされたとき、なんかこう、凄い何かが体をかけめぐったような……」


これ以降、マリコルヌはルイズを本気で怒らせる事はなくなったが、
からかってルイズを怒らせ、あえて魔法を受けるようになる。
ちゃんとした彼女が出来るまでこれは繰り返され、
ルイズも結構ノリノリでやったとかやらなかったとか。

投下終了。魔法が使えるようになったなら、あだ名も変えなくちゃいけないよね、
なんてお話でした。では、また次の投下まで。
支援ありがとうございました。おやすみなさーい。
511名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:49:31 ID:LPVMPtqP
エルダー乙。

>ちゃんとした彼女が出来るまでこれは繰り返され

……マルコメにちゃんとした彼女が出来る……だと……!?
“ちゃんとした”……!!?
512名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 00:55:54 ID:yriGHUxA
マーティンの人乙です。
クソッ!ブタ野郎羨ましい……!
513名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 01:05:48 ID:EM53qz8B
…これマルコメもギーシュも勝ち組じゃね!?
そしてマーティンとルイズは和む

>>486
ロマリアのあの人がカバデブポジションに収まってるっぽくね?
514名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 01:19:17 ID:yXLZ7RPP
>>485
つまり次の対ワルド戦では獣化して挑むので電撃魔法が効k(ry
515名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 01:32:54 ID:NmRMORZB
乙でs
衆人環視の中でブタにお仕置きとは……ルイズも成長したなぁ

黒いバラとか何か恐いんですが
516名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 02:02:00 ID:hqd8hr+D
>>514
よく分からんけど普通のあのレーザーみたいなので勝てるんでね?
517名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 02:29:34 ID:c6fb1orZ
マーティンの人乙でした!
マルコメの彼女は…原作ではまさに割れ鍋に綴じ蓋ってカップルだったが、こっちもあるいはそうなるんだろうかw


>>497
いや、オリジナル要素とかは関係なくて、ただのマナーの問題だと思うんだが…。
まあいいか。読まないだろうし。
518名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 02:41:44 ID:45lt9UN1
クロスキャラに名前がない場合はどうすればよかですかね?
某芸能事務所の新人Pとか名前が任意のRPGキャラとか
519名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 02:45:15 ID:NForRqs8
ゲームからじゃなく漫画や小説版なんかからの召喚が無難
520名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 02:45:41 ID:aVqMCtim
「ソーサリー・ゼロ」みたくするか
てけとーに名前付けちゃうか
521名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 02:52:34 ID:45lt9UN1
>>519-520
コミカライズやノベライズでクロスさせるのが無難ですか
ない場合でも自分でつけちゃうのには抵抗が
522名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:02:58 ID:c6fb1orZ
いっそ「ああああ」とかにするという手もあるw
523名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:11:56 ID:e7JTGaU1
それなら「もういい」もイケるなw
524名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:22:36 ID:45lt9UN1
ああああですか
下手に考えるよりそっちのほうがいいかも
525名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:24:05 ID:PB3DCbEI
もょもと召喚ですか?
526名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:25:45 ID:9i96kT6S
>>524
ギャグならともかくさすがにそれはw
適当に名前つけちゃっていいんじゃない
527名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:28:03 ID:yP99Ic+f
武道家の「もりそば」召喚ですね、わかります
528名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:29:59 ID:45lt9UN1
>>526
じゃ、じゃあ「うおのめで」で
529名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:38:40 ID:ImGaKGBC
「阿井上男」とか
「牡蛎久家子」とか
530名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:41:40 ID:s8IMhmbU
アニメ版エクセルサーガには当初チョイ役の予定がラスボスまで昇格した強者が居る
主人公であるペドロをプリン漬けにして東京湾に沈めたり幼なじみに顔を変え優しくセクシーな妻を寝取ったり
息子を殺したり足からジェット噴射で空飛び回ったりとやりたい放題だった


なお、最後まで名前は付けられず全編通して"アノ人"と呼ばれていた
531名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:42:56 ID:e7JTGaU1
もう作者の本名でいいじゃん
532名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 03:53:46 ID:PB3DCbEI
むしろ「名乗れない」というネタにしてみたら?
自己紹介しようとしたら必ず邪魔が入るとか
533名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 04:53:57 ID:NForRqs8
「オレは天敗星の……」とか「俺の魔法は超凄い!」見たいな感じか
534名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 05:14:23 ID:5TowK19I
ちょいと古いが、あーるのあさのときしだみたいなもんか
535名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 07:35:31 ID:sHizusOe
理想郷で「大魚と令嬢」の続編が!
536名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 08:13:19 ID:c6fb1orZ
「おまえ」「こいつ」「べるの」
537名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 08:30:21 ID:1BguM3/o
>>535
僕は理想郷の毒差yだ凄いだろう!

という事ですね
538名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 09:25:41 ID:JcIV2Zky
>>522
そういやかまいたちの夜で犯人を名前を入力するとき「ああああ」にしたことがあったな。
そしたら

「犯人は『ああああ』だ!」
「誰よそれは!」

なんて文章が出てきて大笑いしたっけw
539名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 10:15:46 ID:jLNTCDBX
もう「サイト」でよくね?
540名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 10:18:24 ID:iiJ81wE0
パロディウスから「あいつ」「こいつ」が召喚されました
541名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 10:18:42 ID:ydv8KqDn
FF]のティーダもなまじネームエディット出来るから
本編でずっと「君」「お前」「彼」だったんだよなぁ
・・・なんで変更可能になんてしたんだ
ティーダを召喚かぁ・・・自分で思いついてなんだが、皮肉というかなんというか・・・
542名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 11:09:24 ID:W9FePX06
>>540
シールドがコンドーム型の紙飛行機ごとか?
いろいろな意味でコナミのシューティングでは最強ではあるが。
543名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 11:32:38 ID:AO5rvORw
FFシリーズからクリスタルが
誰か言ったことありそうだな
544名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 11:38:10 ID:LPVMPtqP
名前はともかく、会話についてはアレだ、全ての会話を「はい」と「いいえ」だけにすればいいんだ。

ルイズ「ああもう! あんた、『はい』と『いいえ』しか言えないの!?」
主人公「はい」


……あれ、意外と面白そうだぞ?
545名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 11:49:19 ID:4CqGwbCd
「ゆずってくれ たのむ」
「そう かんけいないね」
「ころしてでも うばいとる」
546名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 11:50:26 ID:i3Pzckkf
スクライドのカズマの『反逆』のように、作者由来ではなくキャラクターの主義主張としてルイズに従わない召喚対象って、どんなのが居たかな……姉妹スレになってしまうが、露伴先生なら
「ああもう、アンタは『はい』か『イエス』で答えればいいのよ!」
「だが断る」
みたいな事をしてくれそうだし。
547名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:00:02 ID:LPVMPtqP
ルイズ「イエスかノーかで答えて! あんた、私のに使い魔になりなさい!!」
カズマ「ノウ!!」
ルイズ「イエスって言いなさいよ!!」
カズマ「絶対にノウ!!! 俺は反逆者(トリーズナー)だぜ? ノーとしか言わない男さ!!」
ルイズ「…ああ、そう! じゃあ力づくでも従ってもらうわ! この場にいる学院の生徒全員と教職員全員!! このメイジの軍団にあんたは勝てるかしら!?」
カズマ「イエス!」
ルイズ「ノーとしか言わないハズ…!?」
548名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:02:49 ID:4CqGwbCd
「ああもう、アンタは『はい』か『イエス』で答えればいいのよ!」
「いイエ」
549名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:10:48 ID:ZSO+Up0V
「ノエス!」
「どっちだ!」
550名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:11:14 ID:jloB+gDz
「できますん!」
551名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:15:56 ID:j/Qpl/C1
はちみつたぬきさん
552名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:17:09 ID:4bqYUizT
>>546
露伴に有利な提案をしてこその「だが断る」だろJK
553名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:18:01 ID:bUoUyh4r
>>548
『はい』か『イエス』といえば下がる男のお決まりのパターンですね

下がる男召喚の長編も読んでみたいなぁ
554名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:23:47 ID:cEfK7c/g
逆についに見つけました!あなたこそ私のご主人さま!
で召喚直後からルイズに忠誠心マックスなのもありか
555名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:31:51 ID:sWmM3OkB
道士郎とか侍や騎士みたいなキャラならなりそうだが
556名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:35:35 ID:V9GdydU6
ブロントさん召喚とな
557名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:40:00 ID:3zLSi7VN
忠誠心と言えばセイクリッドブレイズから天使召喚
もちろんルイズが神で生活しながらあっちの世界を見守り裁定を下すと

無理があるな…
558名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 12:40:59 ID:NForRqs8
カズフサならばあるいは…

いやしかし、タバサの存在が…
559名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 13:00:58 ID:jJHbu+tA
まじめにブロントさん・・・ネ実やらmugenなどのブロントさん像なら
エルヴァーンなので確実に高確率でエルフと思われて恐れらるる
ついげきのホーリーやケアルでさらに誤解は加速した
しかしブロントさんはナイト=FF11のナイトは後衛にダメージが行かないようにする盾役
メイジとのPTではゆいいつぬにの盾で人気者
さすがナイトは格が違った

しかしデルフ涙目

560名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 13:06:43 ID:s9i6MK/d
グラットンなしでデルフ装備ならバランスも壊れない謙虚さ
某陰陽鉄のようにハルケゲニアの語学が崩壊するのは確定的に明らか
561名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:10:04 ID:3BrH4/jZ
このスレ定期的にブロントさんが出るNE!!
562名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:20:48 ID:V9GdydU6
登場人物が全員ブロント語で話すゼロの使い魔を想像した
563名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:27:43 ID:c0nf2AcD
>>544
台詞は「はい」「いいえ」「ありがとう」「すみません」の4つに限定したほうがいいな。



「ガラスの仮面」から北島マヤを召喚。
564ウルトラ5番目の使い魔 第38話:2009/03/08(日) 14:31:59 ID:fyh0u+Du
 ギリギリまで頑張って
 ギリギリまで踏ん張って
 中々書けないピンチの連続、そんなとき
 ウルトラマンがほしいっ!! て状況で小説書いてます。
 さて、今週からはタバサの冒険編に入ります。
 投下開始は15:40からで、またよろしくお願いします。
565名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:35:47 ID:V9GdydU6
キター
支援するぜ
566名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:36:50 ID:V9GdydU6
って15:40か
1時間以上もあるな
567ウルトラ5番目の使い魔 第38話:2009/03/08(日) 14:37:40 ID:fyh0u+Du
>>566
あ、すいません。14:40からの間違いでした。
568名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:39:27 ID:vBOEtuFz
支援と言う光をあなたに
569ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (1/14):2009/03/08(日) 14:42:15 ID:fyh0u+Du
 第38話
 間幕、タバサの冒険
 第二回、タバサと神の鳥 (そのT)
 
 極悪ハンター宇宙人 ムザン星人 登場!
 
 
 ウルトラマンAとヒマラ達との戦いから一夜が明けた、ある空の上でタバサはシルフィードの上でとっていた
仮眠から目覚めた。
「朝……」
 今、タバサとシルフィードは北花壇騎士召喚の書簡に応じて、ガリアの首都リュティスに向かって飛んでいた。
「おはようなのね、お姉さま」
 二人きりになり、遠慮なく話せるようになったシルフィードがさっそく声をかけてくる。
 空は白々と明け、間もなくリュティスに着くだろう。タバサは起きると、さっそく鞄の中から未読の本を取り出して、
一心に読みふけり始めた。
 シルフィードは、そんなタバサの態度にはもう慣れっこで、返事を特に期待せずに自分からしゅべり始めた。
「きゅい、お姉さま、昨日は大変だったのね。まさかこの偉大な韻竜の一族であるシルフィが泥棒されるとは
思っても見なかったのね。けど、宇宙人とはいえものの価値が分かってる奴もいるものなのね、いえいえ、
あんな奴に連れて行かれてたら、今頃檻の中でどうなっていたか。それよりも、お姉さまが真剣にシルフィのために
怒ってくれて、シルフィは感激して涙が出ましたのね」
「あなたはわたしの使い魔。取り戻そうとするのは当たり前」
「いーえ、赤い髪の子や金髪のぼうやのフレイムちゃんやヴェルちゃんはともかく、ほかの使い魔達はほとんど
みんなほっぽりっぱなしだったのね。お姉さまは本当はすっごく熱くて優しい人、それが確かめられただけで
シルフィは幸せです。きゅいっ」
「……」
 その後も好きなように話し続けるシルフィードの話を、タバサはじっと本を読み続けながら聞いていた。
 
 
 イザベラは、プチ・トロワが崩壊して以来、再建がすむまでリュティスの高級ホテルの最上階を借り切って、
仮の住まい兼、北花壇騎士団の本部として利用していた。
 プチ・トロワには当然劣るが、一晩の宿泊費だけでも平民が1年は過ごせるような贅を尽くした一室の、
豪奢なソファーに身を沈めてイザベラはタバサを待っていた。
「よく来たわね、人形娘」
 会って一番、イザベラの言葉はいつも通りのこれだった。
 以前会ったときからしばらく経って、流石に桃色ムードは抜けていたが、だからといってタバサに対する
態度までは早々変わりはしないようだ。こちらも、いつも通りに無表情を顔に貼り付けて、用件だけを
受け取る姿勢で対峙する。
「ふんっ、しばらく会ってないからちっとは変わったかと思えば、相変わらずだね。まあいい、おい今回の
任務は聞いて驚くなよ。なんとあたしの父上、ジョゼフ一世陛下からじきじきにお前を指名してのご用件だ」
「 ! 」
 その名を聞いて、さしものタバサの眉がぴくりと動き、それを見逃さなかったイザベラは愉快そうに言った。
570名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:43:10 ID:V9GdydU6
支援
571ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (2/14):2009/03/08(日) 14:43:26 ID:fyh0u+Du
「へえー、お前でも驚くこともあるんだ。けどまあ、内容はそこまで難しいもんじゃない、あらかじめ伝えた
とおり、エギンハイム村での村人と森に住んでいる翼人、羽根付きの亜人どもだな。こいつらとの間に
起きたいざこざの解決、要は翼人どもを殲滅して来いってことだ。お前の実力なら難しくないだろ、まったく、
なんでこんなのをお前に指名すんのか分からないけど、父上の覚えがめでたくなってきてるってことかもな、
せいぜい頑張ることだね。あはははは」
 一気にまくしたてて、何がおかしいのかイザベラはけらけらと笑った。
「……了解」
 タバサは、これはそんな単純なものじゃないと内心で思ったが、イザベラに言う必要もないので、それを
飲み込んで、正式な命令書を受け取って退室しようとしたが、それをイザベラが呼びとどめた。
「ああ、ちょっと待ちな。おい、ちょっとそこのメイド、さっき見せたあれ持ってきな。あっと、それからついでに
ワインもな、しゃべったら喉渇いちまったよ」
 そうして、メイドに持ってこさせた小箱をタバサに渡させ、メイドの手の盆からワインのグラスを受け取った。
「ありがとよ。下がっていいぜ。さて、そいつだが、お前のことだ、もう何なのかは分かってんだろ?」
 その小箱の中には、手のひらくらいの何の装飾も施されていない人形が一個収められていた。一見すると
出来損ないのガラクタにしか見えないだろうが、タバサの知識の中にある、とあるマジックアイテムの百科事典の
一枚の絵にそれは酷似していた。
「スキルニル……人間の血を利用して、その本人とまったく同じになることのできる魔法人形」
「当たりだ。前にそいつで同じ力の奴同士で戦わせたらどうなるかと思って手に入れたんだが、こんな狭い
ところじゃ使いようもないんでね。プチ・トロワの瓦礫の中から一個だけ無事に取り出せたんだが、もう邪魔だし
お前なら役に立つこともあんだろ、くれてやるから適当に使いな」
「……一応、礼は言っておく」
「けっ、勘違いすんじゃないよ。手に余ったゴミをくれてやっただけさ、人形娘に人形なんて傑作だろ。お前に
礼なんてされるとジンマシンが出るよ、さっさと行くがいいさ」
 イザベラはそう言い捨てると、持っていたワインを一気に飲み干して、あとは視線をそらして片手をひらひらと
させて追い払う仕草を見せた。
 だが、いざタバサが出て行こうとすると、まだ何かあるように呼び止めて、もじもじしながら。
「も、もし……行った先でダイゴって男と会ったら、任務はいいからすぐに伝えなさいよ。理由? んなもの
あたしの権限でに決まってんだろ!! ああ、もうこれ以上言わすな、早く行け!!」
 と、ようやく退室を許された。
 やれやれ、どうやらあの熱はまだくすぶっているらしい。タバサは内心で嘆息しながら、階下へ下りる階段
へと向かおうとしたが、そこであのカステルモールと会って呼び止められた。
「申し訳ありませんシャルロット様、イザベラ様はまたあの調子で、我らもお諫めしようととしているのですが、
中々お聞き入れされず、ご不快な思いをさせてしまって弁解の言葉もありません」
 どうやら、イザベラのお守りは現在彼らがしているようだ。
「別に気にしていない。あなたこそ、大変なようね」
「いえ、我らの苦労など無いようなものです。しかし、あの日以来、イザベラ様にもまだ王族としての見込みも
ありと思い、少しでもよい方向へとしてきたのですが、残念ながら以前に戻ってしまわれたようで……」
572ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (3/14):2009/03/08(日) 14:44:34 ID:fyh0u+Du
 カステルモールは自信を無くしたように、がっくりと肩を落としていたが、タバサは軽くため息をつくと、
一言だけ彼に言っていった。
「以前の彼女なら、メイドに『ありがとう』なんて言わなかった」
「えっ?」
 彼が顔を上げたときには、タバサはすでに階下に消えてしまっていた。
 
 
 そして、任務を受け取ったタバサは引っかかるものを抱えながらも、シルフィードに乗り込んでリュティスの
街を飛び立った。
 しかし、その飛び去る姿を望遠鏡で眺めながら、怪しくほくそえむ男がグラン・トロワのバルコニーの上に
いたことに、さしものタバサも気づくことはできなかった。
「ふふ、行ったか。さて、仕込みはどうなっている?」
 彼が振り返った先には、あの黒尽くめの小男、チャリジャがほくそえみながら立っていた。
「むふふ、上々ですよ。あの狩場を、彼はどうやらいたくお気にいってくれたみたいです。あの星の方々は
私どものお得意様の一つですが、それとこれとは別でありますからね」
「フフ、お前の世界のものは中々に面白いな。あやつがお前に呼ばれて異世界からやってきたとき、
警護のトライアングルメイジを瞬殺してしまったときは少し震えたよ」
 そう言いながらも、彼の口元は怪しく歪んでおり、いたずらを始める前の子供のように楽しげに笑っていた。
アストロモンスの一件以来、この世界にいついてしまったチャリジャは、この男に協力する代わりに、国中
どこへでも行ける手形を出してもらい、あっちへこっちへとハルケギニアに眠った怪獣を求めて奔走していた。
もっとも、壁抜けやテレポートを駆使できるチャリジャに入れない場所などは本来ないのだが、そういうところで
妙に律儀なのであった。
「では、私はまた怪獣を探しに行ってまいります」
 チャリジャは芝居がかったお辞儀をすると、またどこへともなく煙のように消えていった。
 後に残されたその男は、もはや空のかなたに見えなくなったタバサの姿を虚空に見て、これから彼女の身に
起こるであろう惨劇に思いをはせた。
「さて、我が姪よ……お前にこの任務、生きて切り抜けられるかな? 負ければそれまで、だが勝てば……
フフフ、しばらくは退屈しないですみそうだ」
 その男、ガリア王ジョゼフ一世は歪んだ喜びに胸を躍らせながら、王宮の暗がりの中へと消えていった。
 
 
 エギンハイム村はリュティスからシルフィードで飛んでおよそ二時間くらいの場所にある、ゲルマニアと
国境を隣接する人口二百人程度の小さな村ということだった。
 そこの森を村人達が切り開こうとして、森に住んでいる翼人と衝突してしまったということらしい。
573名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:45:19 ID:V9GdydU6
誤字脱字を見つけた場合どうすればいいのかな

支援
574名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:46:07 ID:QM6EhH3N
>>554
来てるぞ。
575ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (4/14):2009/03/08(日) 14:46:49 ID:fyh0u+Du
 もし、この話を才人が聞けば翼人退治など断じて反対しただろう。ザンボラー、シュガロン、ボルケラー、
エンマーゴ、人間のむやみやたらな開発のために現れた怪獣は数多い。
 しかしタバサにとっては現地の事情などは関係なく、与えられた任務をこなさなければならない。いつもの
ようにシルフィードの背で本を読みながら、気がついたときにはエギンハイム村の入り口に着いていたが、
そこには予想もしなかった人物が待っていた。
 
「はーいタバサ、遅かったわね」
「!?」
 なんと、村に続く街道のど真ん中でキュルケがにこにこしながら待っていて、これにはタバサも一瞬自分の
目を信じられずに立ち尽くしてしまった。
 が、人違いなどでは断じてない。あの見事な赤毛と、開けっぴろげな笑顔はキュルケ以外の誰でもない。
「どうしてここに?」
 一応無感情を装って尋ねるが、内心は心臓の鼓動が通常の3倍ほどになっていた。
 対して、キュルケはそんなタバサの動揺を知ってか、してやったりとばかりに実に愉快そうに笑って言った。
「うふふ、実はあたしのフレイムがあなたの手紙をちょっとね。それで、あんたはどうせリュティスを経由して
向かうだろうから、先回りさせてもらったというわけよ。まあ、馬でシルフィードに追いつくのは難しかったから
ほんとはギリギリ先に着いたんだけどね」
 見ると、そばには息を切らせている馬がつながれている。一昼夜かけて先回りしてきたとはたいしたものだが、
任務を抱えているタバサにとっては正直ありがた迷惑である。
 だが、仮に帰れといったところで大人しく聞くような相手ではないことは分かっているし、帰るような相手なら
最初からわざわざこんなところに来たりはしない。こんなことなら、ラグドリアン湖のときに無理にでも断って
おけばよかったかもしれない。
「……今度だけだからね」
 しぶしぶ同行を認めると、キュルケは「勝った」といわんばかりに拳を握ってガッツポーズをとって見せた。
まるで男の子のような仕草であるが、そこからも奇妙な色気を感じるのが彼女のすごいところだ。
「そんじゃ、さっさといきましょーよ。あたしもあんたも成績は問題ないけど、あんまりサボると出席日数が
足りなくなるからね。そりゃ別にいいけど、ヴァリエールの人間を先輩と呼ぶのは不愉快だもんね」
 そのとき、魔法学院の教室でピンク色の髪をした少女がくしゃみをしたかどうかはさだかでない。
 火系統のキュルケのせいで山火事になったら、結局わたしが後始末することになるんだろうなと、タバサは
重苦しい気分を抱えたまま、のしのしと歩くシルフィードを連れて、『エギンハイム村へようこそ』と消えかかった
文字の記された看板の横を通って、ぽつぽつと小さな家の点在する村の中へと入っていった。
 
 しかし、彼女達が村に入った瞬間、どこからか天に向かって一条の光が放たれ、天からその光が無数の粒子と
なって再び舞い降りてきたとき、エギンハイム村とその周辺の森を見えない壁が取り囲んでいたのだった。
 
 
 村に入った二人と一匹は、まず現地の詳しい事情を聞こうと村長の屋敷に向かった。途中村人にシルフィードの
姿を見られて、竜が来たと騒ぎになりかけたが、ガーゴイルだといって騒ぎは治まった。
576ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (5/14):2009/03/08(日) 14:47:41 ID:fyh0u+Du
「領主様に翼人退治のお願いを出しても、ナシのつぶて。すっかりあきらめておりましたが……なんとお二人も、
しかもあんなご立派なガーゴイルまで率いて!! いやもう感激で言葉もありません」
 村長はぺこぺこと頭を下げて、一行をもてなした。
 その喜びようは、タバサはまだしもキュルケがひくほどであったが、傍目から見たら年端もいかない子供にしか
見えない二人に、村人達は疑念の目を向けていた。
 ちょっと耳を澄ませば、どう見ても子供じゃないか、あんなんで大丈夫なのか? などの声が聞こえてくる。
ここで自制を知らない短気な三流メイジなら杖を振るうところだが、脳ある鷹は爪を隠すものだ。二人とも
聞こえないふりをして、村長から情報を得ようと話を続けさせようとするが、村長は話よりも先に食事の準備を
させはじめた。
「ささ、騎士様、少ないながらもおもてなしの用意もいたしました。今日はお体を休めて、明日からでもさっそく
取り掛かっていただきたく存じます」
 なにか、どうも村長の様子がおかしい。待ちに待った騎士が来てくれてうれしいのはわかるが、それにしても
大げさな気がする。また、こんなに早くもてなしの用意ができているのも不自然だ。
 だがそのとき、家の扉が乱暴に開けられ、息を切らせた村の男が部屋の中に飛び込んできた。
「そ、村長!! 大変です、また雇ってきた傭兵メイジが殺されました!!」
 空気が一瞬にして凍りつき、タバサとキュルケの目が鋭く村長とその男に注がれる。
「どういうことか、説明していただきましょうか?」
 
 
 それはタバサたちが到着する数十分前のことだった。村から離れた森の中では、村人に雇われた傭兵のメイジが
案内役の村人を数人連れて、翼人の住むというライカ欅の森の中に足を踏み入れていた。40をとうに超え、
数々の実戦を積んできたと見えるその男は近寄りがたい雰囲気を撒き散らしながら森の奥へと進んでいたが、
あるところで森の奥からとてつもない殺気を感じて立ち止まり、杖を向けた。
「出て来い、そこに隠れているのは分かっている!!」
 だが、返答は森の藪の中から放たれてきた一閃の光の矢だった。彼は優れた動体視力でそれをかわしたが、
その後ろに立っていた木が直撃を浴び、真っ二つにへし折れて森の中に轟音を響かせた。
 村人達がパニックを起こして、右往左往し口々に意味のない言葉を叫ぶが、熟練のメイジはそれを聞き流し、
目の前にいるであろう敵に意識を集中した。
 これが翼人とやらが使う先住魔法か……その男は、充分に用心しながら攻撃の来た方向を見定めて、自身の
系統である風の魔法、『エア・スピアー』を放った。
 うっそうとした木々と草やつたが切り捨てられて宙に舞い上がる。命中したなら人間の胴体くらい簡単に貫く
攻撃が見えない敵に放たれるが、手ごたえはなく逆にまた別の方向から光の矢が襲い掛かってきた。
 敵は一人だな。攻撃をかわしながら、その男は経験からそう判断した。もし複数体いたならば、最初の攻撃で
十字砲火を浴びせてくるか、こちらが攻撃してきたときに別方向から撃つはず、こそこそ隠れながら遠巻きから
狙い撃ちにしようとはセコイ奴だと思ったが、そういうことならばと、彼は『エア・スピアー』の詠唱をしながら、
周辺の気配を感覚を研ぎ澄ませて探した。
 さあこい、撃ってきたならその瞬間特大の『エア・スピアー』で粉砕してくれる。避ける隙は与えない、彼は
己の勝利を確信した。
577ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (6/14):2009/03/08(日) 14:48:23 ID:fyh0u+Du
 けれども、破滅は彼にとって何の前触れもなく訪れた。
 周囲360度全てに注意を払っていたというのに、彼の全身は突然炎に包まれた。
「な、何が!?」
 急速に闇に閉ざされていく意識の中で、彼の目に最後に映ったのは、悲鳴を上げて逃げていく村人達の姿、
そして己の頭上に悠然と浮かんでいる、見たこともない白色の円盤の姿だった。
「グゲゲゲゲゲ……」
 燃え尽きようとしているメイジの死骸に、人間のものとは思えない不気味な笑い声が降りかかったのは、
そのすぐ後のことだった。
 
 
 その話を村人から聞き終わったとき、タバサとキュルケはふぅと息をついた。
「つまり、いつまで経っても王宮が騎士をよこさないから、自分達で流れメイジを雇ったことを悟られまいと、
時間稼ぎをして引きとめようとしたわけね」
 キュルケが言ったことに、村長は冷や汗を浮かべてうなづいた。
 彼は、このことが花壇騎士に知られればきっとお叱りを受けるだろうと思い、慌てて隠そうとした、どうか
このことは内密に、王宮から睨まれたらこんな小さな村、あっというまにつぶされてしまうと必死に訴えた。
「はぁ、別に心配しなくてもそんな告げ口みたいなことしないわよ。それよりもタバサ、そのやられたってメイジ、
聞くところによるとトライアングル程度はありそうだけど、どう思う?」
 トライアングルといえば自分達とほぼ同じ、しかも年を経ていたということは自分達よりも実戦経験は豊富な
はず、それが手もなくやられるとは翼人とはそれほどまでに強いというのか。
 しかし、タバサはどうもひっかかるものを感じていた。
「……そのときの話、もう一度聞かせて」
 念には念という、そのトライアングルメイジの倒されたときの話をもう一度聞きなおし、タバサは不審が確信に
なっていった。
「この中で、そのときに翼人の姿を見た者はいるの?」
「い、いえ。あのときはもう恐ろしくて、じっくり観察している余裕はとても」
 他の者も一様に首を振った。
「じゃあ、翼人達が使うという先住魔法を見たことがある人は?」
 これには数人が手を上げた。
 それによると、翼人達の先住魔法とは、人間のメイジ達の四系統魔法とはまったく違い、自然そのものを
コントロールする、例えば風が吹くと言えば風が吹き、草木が動いて敵をからめとると言えばそのとおりになると
いったふうに、この程度聞いただけでも相当にやっかいなものに聞こえる。なにせほとんど万能に近いのだ。
けれど、話が読めないキュルケはタバサにその意図を尋ねた。
578ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (7/14):2009/03/08(日) 14:49:25 ID:fyh0u+Du
「どういうこと、タバサ」
「先住魔法の実物を見たことはないけど、一応本で読んだことはある。全部がそうとは言えないけど、先住魔法は
自然そのものを操る……けれど、そのメイジを倒した光の矢というのは、むしろわたしたちの魔法に近い。というより……」
 タバサはそこまで言って言葉を切った。人間を一瞬で焼き尽くすほどの光の矢、才人の持っていた破壊の光の
光線みたいだなと、そんなことありえないと思ったからだ。
「そういえば、"また"とも言っていたわね。まさか、これが初めてじゃないんじゃないの?」
「うっ、は、はい」
 村長からさらに聞き出すと、これまでにも3人、今回も合わせれば4人もの傭兵メイジが森の中で焼き殺されて
しまったという。しかも、念のため聞いてみれば、その全てに翼人を見た者は一人もいなかった。
 このときタバサは、まさかこれがジョゼフがわざわざわたしをここに派遣させた理由かと勘ぐった。しかし、まだ
判断するには証拠が足りない。
 タバサは杖を掲げると、有無を言わさない口調で一言言った。
「案内して」
 
 
 翼人達の住まうという森は、エギンハイム村から歩いておよそ30分ほどのところにある、樹齢何百年かになろうという
ライカ檜は天高くそびえ、まるで自分達が小人になってしまったかのようにさえ錯覚できた。
「もう、まもなくでさあ」
 案内役として二人を先導しているのは、村長の息子だという体格のいいサムという男と、その弟だというヨシアという、
兄とは正反対にやせっぽちの少年であった。本当なら、村長はもっと護衛をつけようかと言ってきたのだが、翼人を
相手にして魔法の使えない者では戦力にはならないと断ってきた。それゆえ、彼ら二人も翼人に余計な警戒心を
与えないために武器は携帯していない。
 さらに、今タバサとキュルケはメイジの証であるマントを脱いで、借りてきた粗末なポンチョをかぶって身分を隠していた。
これも当然、メイジが近づけば翼人達が警戒するからだ。先住魔法の使い手と、いきなり真正面から激突するのは
二人の実力でもかなり厳しい。
 なお、杖はキュルケのは懐に隠せるが、タバサのスタッフと呼ばれるタイプの杖は彼女の身の丈以上あるために、
ぼろきれを巻いてごまかしてある。大抵のメイジは杖のデザインにもこだわるからだ。ギーシュはいきすぎだが。
「ところで騎士様、あの竜のガーゴイルは?」
 無言でタバサは杖で空を指した。シルフィードの巨体では森の中では動きづらい。上空からの見張りが今回は精々と
いうところだ。
 そして、彼女達4人は間もなく翼人達の住処だという場所の近くまでやってきていた。
579名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:49:25 ID:V9GdydU6
しえん
580ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (8/14):2009/03/08(日) 14:51:06 ID:fyh0u+Du
 だが、そこでタバサは立ち止まると、道の真ん中にくすぶっている白い灰の塊に目をやった。
「殺されたメイジね」
 今や哀れな燃え滓となってしまった名も知らぬメイジの亡骸を、キュルケは目を細めて見下ろした。
 そのときタバサは研ぎ澄ませた戦士の勘で、周りの様子をうかがっていたが、気配が無いことから、どうやら
このメイジを倒した相手はすでに立ち去った後であると判断して、自分も死体の検分に加わった。と、いっても
ほとんどが燃え尽きて灰となっているために、もはやわずかな服の切れ端さえなければ、これが人間の灰だと
判断することさえ難しいありさまだったが。
「相当な高熱で焼き殺されたみたいね」
 炎の専門家であるキュルケは、灰の様子からそう分析した。骨すらろくに残っていない、やったことはないが
自分が人間を焼いたとしても人の形の炭は残るだろう。
 それを聞いて、タバサはさらに疑念を深くした。
「やっぱりおかしい。森の住人である翼人は炎を嫌うはず……」
 当然、山火事を恐れるからだ。それがこんなスクウェアクラスの炎を森の中で使うか?
 だが、それを見ていたヨシアが耐え切れなくなったのか、口に手を当ててつぶやいた。
「ひどいですね……」
 確かに、もはや見る影もない。元々流れ者の傭兵メイジ、弔う者もいないだろう。けれど、その言葉を聞いたサムは
激昂して怒鳴った。
「ああ、確かにひでぇさ!! あの羽根つきの化け物どもは、俺達の食い扶持をつぶしてくれるだけじゃなくて、人間
なんざ地面を這いずる虫けらみたいに思っちゃいねえ、だからこんな残忍なことができるのさ」
 その吐き捨てるような言葉に、タバサは反応を示さなかったが、キュルケはわずかに眉をしかめた。しかし、
二人よりも激しくその言葉に抵抗を示したのは、弟のヨシアのほうだった。
「兄さん、そんな言い方をしなくても!! あの森に最初から住んでいたのは彼らだし、いきなり矢を射掛けて追い払おうと
したのはぼく達のほうじゃないか」
「あのなあヨシア。空を飛んでるってことは、あいつらは鳥だ、鳥に矢を射掛けて落として何が悪い!?」
「そんな! 翼人は人の言葉も話すし、翼があること以外ぼくらと変わらないじゃないか、同じ森に住む仲間だよ!」
 その言葉がサムの逆鱗に触れたようだった。
「仲間だと、ふざけんな! 仲間ってのは村に住むみんなのことを言うんだ!」
「で、でも……」
「森に住んでりゃ仲間だあ? 甘っちょろいこと言ってんじゃねえ!! てめえは俺の弟だろうが、村長の息子だろうが、
てめえが村のみんなの生活を守らなかったら、いったい誰が守るっていうんだ!!」
 激昂したサムはとうとうヨシアを突き飛ばした。体重差が倍以上あるヨシアはとうてい耐えられずに地面に
転がってしまい、サムはそんな弟を見下ろして何かを察したのか。
「おめえ、まさかまだあの翼人と……」
「……」
 唇を噛み締めたまま返事をしないヨシアに、さらに掴みかかろうとするサムを見て、ついにキュルケが止めに入った。
581名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 14:55:09 ID:V9GdydU6
支援
582ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (9/14):2009/03/08(日) 15:00:37 ID:fyh0u+Du
「はいはい、あなたたちそこまでよ。兄弟げんかはあとにしてちょうだい」
 杖を差し出して見下ろしてくるキュルケに、サムもようやく怒りを収めて手を引いた。貴族の怒りを買うということは、
ハルケギニアではそれだけでも生死に関わることだからだ。
「も、申し訳ありません、お見苦しいところ見せちまいまして。ほらおめえも謝らねえか!!」
 けれどヨシアはうなだれたままで、声を出すことはなかった。そんな弟の態度に、サムはもう一度首根っこを
押さえようとしたが、ヨシアの顔を覗き込んだキュルケがそれを止めさせた。
「ふーん、自分は絶対間違ってないって、そんな目をしてるわね。そりゃ謝れるわけもないか」
 答えないヨシアに、サムは冷や冷やとしていたが、キュルケは柔らかに微笑んで言った。
「平民でも、腹の座った男は嫌いじゃないよ。貴族でも、口先ばっかの男どもよりはね」
「え?」
「なーんでもないよ、ほらさっさと前歩きな。あんたの仕事は道案内だろ」
 背中を押して前に出してやると、キュルケは面白そうに笑った。
 前で待っていたタバサも、早くしろとばかりにこっちを見ている。気を取り直して先導しなおしながら、
サムとヨシアは、キュルケの気さくな態度に、これまで村に来たメイジはいばってばかりいて、何かにつけて杖を
向けて脅かしてきたのにと驚いていた。
 
 けれど、進んだ先で待っていたのは、さらに前に殺された3人のメイジの灰の山で、タバサはその度に
立ち止まってそれを検分していたが、やがてひとつの共通点があることに思い至り、確認のためにサムを
呼んで尋ねた。
「貴族様、何かわかったんで?」
「……彼らの杖は、あなたたちが回収したの?」
 実は、殺されたメイジの遺留物には必ずあるはずの杖がどれ一つとして残っていなかった。一人や二人なら
いっしょに燃え尽きたとも考えられるが、4人全員ともとは思いづらい、第一戦闘を生業とする傭兵メイジの杖は
杖破壊を狙ってこられるのに対処するために、金属製の燃えにくいものを使うことが多いのだ。
 そしてサムの答えはタバサの思っていた通りのものだった。
「へっ? いえ、貴族の旦那方でもやられるようなときには、俺達はもう逃げるのに必死で、そんなことをする奴は
いねえはずですが」
 サムは、杖がないからなんなんだと不思議そうにしていたが、杖はメイジの命、恐らくは犯人が持ち帰った
のだろうが、果たして翼人がそんなことをするだろうか?
 だがそのとき、先を見に行っていたキュルケが声をあげてタバサを呼んできた。
「タバサ、こっちでも一人やられてるわよ!!」
 急いで駆けつけてみると、そこには言われたとおりに、また一人分の灰が横たわっていた。しかし、よく見ると
それは人間のものではない。周囲には無数の羽が散乱し、傍らには長さ2メイル近い翼が一枚落ちている。
583名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:01:31 ID:V9GdydU6
支援
584ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (10/14):2009/03/08(日) 15:01:53 ID:fyh0u+Du
「これは……翼人の死骸だ」
 ヨシアが口元を押さえながらそう言った。
「どういうこと? メイジと翼人が同じ方法で殺されてるなんて」
 キュルケも、そろそろ事の不自然さに気づき始めたみたいだ。翼人への憎しみによって目にフィルターが
かかってしまっているサムはともかく、ヨシアもキュルケに同意してうなづいた。
 しかし話はこれだけでは済まなかった。さらに周りを調べてみたところ、同じような翼人の死骸がいくつも
見つかったからで、さらにそれらの死骸にもメイジ達と同じく、一つの共通点があった。
「……みんな、片方だけ翼がない」
 その翼人の死骸はほとんどが翼だけは焼け残っていたが、どれも右の翼だけ見つからなかったのだ。
 これらのことから導き出される仮説は一つ、しかしタバサがその結論に達したとき、突然頭上からいくつもの
大きな羽音が降りかかってきた。
 
「出た、翼人どもだ!!」
 サムが驚き慌てて後ずさると同時に、彼らの目の前に三人の翼が生えた若い男女が下りてきた。
 その姿は翼があること以外はほぼ人間と同様だが、身につけたものは一枚布を巻きつけただけの極めて
簡素なもので、人間とは文化的に違いがあるのは分かる。
「去れ、人間どもよ」
 開口一番、先頭に立った翼人の男が言った言葉がこれだった。他の者達もほぼ無表情で、無防備に
両手を下げたまま、こちらを見下している。いつでも、やろうと思えば倒せるという自信の現われであった。
 彼らは、こちらが答えずにいると、森の出口のほうを指差してもう一度言った。
「去れ、我らは争いを好まない。それに、精霊の力を貴様らごときに使いたくはない」
 どうやら実力行使に訴えてこないところを見ると、こちらがメイジであることには気づいていないらしい。
偶然森に迷い込んだ旅人とでも見えているのだろうか、この小汚い変装も役に立ったというわけだ。
と、なれば今のうちにその優位を最大限に利用すべきだろう。
「どうする? タバサ」
 キュルケがほかの者には聞こえないように小声でした問いに、タバサは杖を隠すような仕草で答えた。
つまりは、情報を得ることを優先するということらしい。不安要素を抱えたままでは、後の不測の事態に
対処できないかもしれないからだ。
「精霊の力とは、何?」
「お前達に説明してもわかるかどうか、この世の万物には全て精霊の力が宿っている。それらを借りるものだ」
「ここに来るまでに、多くの焼け死んだ死体を見たけど、あれもその力?」
 その瞬間、翼人達の目つきが変わった。
「口に気をつけよ、我らは火を好まぬ。森に生きる我等の生に相反するものだからな。しかし、最近この森に
何者とも知れぬ強い"力"を持った者が入り込み、我等の同胞を無差別に殺戮している。お前達が
そのようなものとは思えぬが、我等の地を汚そうというなら容赦はせぬ」
585ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (11/14):2009/03/08(日) 15:02:32 ID:fyh0u+Du
 やはり……とタバサとキュルケは合点した。何者かはわからないが、ここには村人でも翼人でもない第三者が
潜んでいる。ジョゼフがわざわざタバサを指名してきたのは、その何者かに始末させる気なのか? いや、
ただ暗殺するなら他に方法はいくらでもある。まだ何か、隠された秘密があるのか?
 タバサは翼人を刺激しすぎないようにして、さらに話を引き出そうと考えた。
 けれど、恐怖といらだちで興奮していたサムが、つい二人をけしかける言葉を口にしてしまった。
「貴族様、さっさとあいつらをやってしまってくださいな!!」
「あっ、馬鹿!!」
 キュルケが止めても、もう手遅れだった。翼人たちも貴族と呼ばれる人間達が魔法を使うということは知っている。
それまでの余裕の態度から一転して、身構えて臨戦態勢をとってきた。
 こうなれば、もう隠していても仕方ない、タバサとキュルケも変装を脱ぎ捨てて杖を手にする。
 先手必勝、タバサとキュルケが同時に最速詠唱で攻撃を仕掛けた。
『エア・ハンマー!!』
『ファイヤー・ボール!!』
 どちらも威力は低めだが素早さはある。先住魔法とやらがどれほどかは分からないが、どれだけ強力でも
使う前に倒すことができれば関係ない。
 しかし、二人の読みは甘かった。二人の放った魔法は命中するかと思った瞬間、まるで彼らの体を避ける
かのように軌道を変えると、後ろの巨木の幹に命中して、大木の表皮を少しはがして焦がして終わってしまった。
「空気は蠢きて、我にあだなす風と炎をずらすなり」
 それが翼人が魔法が当たる前にたった一言だけつぶやいた『呪文』であった。
 そして彼らは今度は二人が同時に別の呪文を口ずさんだ。
「我らが契約したる枝は、しなりて伸びて、我に仇なす輩の自由を奪わん」
「枯れし葉は契約に基づき、水に変わる力を得て刃と化す」
 呪文が唱え終わるのと同時に、周囲の木の枝が鞭のように伸びて迫ってき、さらに周りの枯れ葉が舞い上がった
かと思うと、瞬時に手裏剣のように硬く変化して飛んできた。
「これが先住の、森の悪魔たちの魔法……」
 サムは次々に起こる信じられない出来事に放心して、逃げることもできずに突っ立っていた。
 けれどもタバサやキュルケはそうではない。
『ウィンドカッター!!』
『フレイム・ボール!!』
 キュルケの火炎弾がタバサの風で拡散して木の葉を焼き尽くし、風はその勢いのままに近づいてくる枝を
切り払った。
「ぬぅ……」
 翼人たちの口からうめきが漏れた。この二人の若いメイジが見た目以上に強敵であることを見抜いたのだ。
586ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (12/14):2009/03/08(日) 15:03:44 ID:fyh0u+Du
 どちらも、簡単には仕掛けられずににらみ合いが続いた。両者の間合いは10メイル少々、魔法使いにとっては
一足一刀の間合いに等しい。下手に先に手を出せば返しを喰らう恐れがあるからだ。
 緊張と沈黙が続く……だが、その静寂は頭上からの悲鳴のような声で破られた。
「やめて! あなたたち! 森との契約をそんなことに使わないで!」
 思わず空を見上げると、長い亜麻色の髪をした若い女性の翼人が、ゆっくりと降りてきていた。白い一枚布の
衣を緩やかにまとい、翼を広げて降りてくる姿は神話の女神のように神々しく見えた。
「アイーシャさま!」
 翼人たちは、突然のことにうろたえてタバサ達から気を離してしまった。その隙を見逃さずに、タバサは攻撃を
かけようとしたが、いきなり後ろから杖をがっしりと掴まれた。
「お願いです! お願いです! 杖を収めてください」
 ヨシアがそのやせた体のどこから湧いてくるのかと思うほどの力で、タバサの杖を押さえつけていた。
 また、アイーシャと呼ばれた美しい翼人も、大仰な身振りで仲間達に手招きする。
「引いて、引きなさい! 争ってはいけません!」
 その必死の呼びかけに、タバサ達と向かい合っていた翼人達も戦意をそがれ、仕方なく共に顔を見合わせて
いたが、やがて力を抜いて、周辺でざわめていた森の音もやんだ。
 キュルケのほうは、それらの様子を唖然として眺めていたが、ヨシアとアイーシャの懸命ぶりを見て、やれやれと
杖を収めてタバサに言った。
「やめましょう、これ以上続けたらわたし達が悪者になっちゃうわよ」
「……」
 タバサは無言のまま、キュルケがそう言うならばと杖を握っていた力を緩め、それを感じたヨシアもようやく
タバサの杖から手を離した。
 そして、両者共に戦意がなくなったのを確認すると、やっと森に元の静けさが戻ってきた。
 安心したように、ヨシアは翼人の一行を見つめ、アイーシャも切なげにその視線に応え、二人の間に不思議な
空気が流れた。
「なるほど……そういうことだったのね」
 タバサは気づかなかったようだが、キュルケはその二人の雰囲気に、自分のよく知った匂いを感じ取っていた。
「さて君……さっきからどうも翼人の肩を持つと思ったらそういうことだったのね。まったく、大人しそうな顔してて
意外と隅におけないわね。そっちのお嬢さん、あんたのアレでしょ?」
 そのものずばりの図星をキュルケに当てられて、ヨシアは思わず顔を真っ赤にしてうなだれ、聞こえていた
アイーシャもうつむいてしまった。まったく、どこかの主人と使い魔みたく分かりやすいカップルだ。
 けれど、ヨシアは一度大きく深呼吸して気を落ち着かせると、勇気を振り絞るように思い切って言った。
587ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (13/14):2009/03/08(日) 15:04:20 ID:fyh0u+Du
「お願いです! 翼人達に危害を加えるのを……やめてください!」
 そのヨシアの必死の訴えに、サムは怒鳴りつけようとしたがキュルケが手を振って止めさせ、この任務の
責任者であるタバサの顔を見てみたが、タバサは無言で首を振った。
「そんな、どうして!?」
「任務だから」
 短く言い捨てるタバサに、ヨシアはつらそうな顔を向け、翼人達もまた戦闘体勢をとった。
 アイーシャはもう一度止めようとしているが、彼らも仕掛けてくるのでは迎え撃たねばと、もう治まる様子はない。
「キュルケ……」
「わかってる……」
 タバサとキュルケは軽く目配せをすると、それで全てわかったとばかりに呪文の詠唱を始めた。
 ヨシアは二人を止めようとするが、サムが羽交い絞めにして押さえつける。
「やめて! やめてください!」
「おめえはいい加減にしろ! こうなったらもう後戻りできねえんだ!」
 風と炎の力が盛り上がり、力となっていく。
 翼人達も、これが先ほどよりはるかに強力な攻撃だと悟り、万全で迎え撃とうと風の精霊の力を結集させる。
 もはや、この激突を避ける術は何もないかに思われたとき、タバサとキュルケはそれぞれ同時に魔法を放った。
『ウェンディ・アイシクル!!』
『フレイム・ボール』
 巨大な氷雪の嵐と、巨大炎弾が同時に放たれる。タバサの18番と、先ほどより魔力を強く込めたキュルケの
得意技が雪山の火砕流のように、怒涛となって驀進する。
「なに!?」
 しかし、翼人達は自分の目を疑った。攻撃の威力にではない。これだけの威力ならば、苦しくはあるが風の
力で受け流しきることも不可能ではない。
 攻撃は、彼らにではなくその左手の茂みのほうへと撃ち込まれたのだ。
「何のつもりだ!? 人間よ」
 驚いた翼人は思わず自らの敵に問いかけた。
 だが、タバサとキュルケはそれに答えず、切り裂かれ、炎と煙に包まれる森の一角から目を離さない。
588名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:05:53 ID:hqazcPDB
しえん
589名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:07:19 ID:0dQ2DQaR
ウルトラ五番目の支援!リアルタイム遭遇だぁ!
590ウルトラ5番目の使い魔 第38話 (14/14):2009/03/08(日) 15:07:31 ID:fyh0u+Du
「危ない!!」
 そうキュルケが叫び、右と左に飛びのいたとき、彼女達のいた場所を青白い光の矢が走り、その後ろの
木に命中して派手な爆発を起こした。
「ようやく、影でこそこそやってた小心者が出てきたみたいね」
「うん」
 地面に転がりながらも体勢を立て直し、いまだ燃え盛る藪に向かってキュルケは叫ぶ。
「出てきなさい!! そこに隠れてるのはわかってるわよ!!」
 杖を指し、炎が渦巻くなかへ声が吸い込まれていった。
 そして、数呼吸分の間がおかれたとき。
 
「グゲゲゲゲ……」
 
 突然、炎と煙の中から人間のものとは思えない聞き苦しい声が響いたかと思うと、その中から揺らめくように
人影が歩み出てきた。
「なっ、なんだあいつは!?」
 サムとヨシアだけでなく、アイーシャや翼人達も現れたその姿を見て愕然とした。
 まるで肉食昆虫のような顔には横に幾本も伸びた牙が生え、青く瞳のない目は鋭くガラス球のように鈍く光り、
頭の先端にはサソリの尾のような触覚がついている。
 こいつこそ、血も涙もない悪魔のような星の住人と恐れられる、凶悪な宇宙の狩人、極悪ハンター宇宙人、
ムザン星人であった。
 
「ゲゲゲゲゲ!」
 奴は、自分に向かって身構えているタバサとキュルケを見据えると、その頭部の触覚から殺人光線を放った!!
 
 続く
591ウルトラ5番目の使い魔 あとがき:2009/03/08(日) 15:09:48 ID:fyh0u+Du
 今週はここまでです。支援してくださった方々、どうもありがとうございました。
 以前の火竜山脈編に比べて原作よりを強くしてみましたが、いかがでしたでしょうか。
 
 ちょっと今回は長くなりそうです。
 まったく、我夢の1/10でいいから賢くなりたいです。
 
 >>573
 どこか、書き間違えていたのでしょうか?
592名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:13:47 ID:V9GdydU6
>>591
わりと揚げ足取りかもしれない失礼を許してくれ

1/14の『シルフィードは、そんなタバサの態度にはもう慣れっこで』
の行で『しゅべり始めた』ってあるけど正しくは『しゃべり始めた』じゃないのかな
593ウルトラ5番目の使い魔:2009/03/08(日) 15:18:59 ID:fyh0u+Du
>>592
あ、申し訳ありません。
どうも教えていただいてありがとうございました。次回からはもっと念入りに推敲するように心がけます。
今回は自分で修正して登録しておきます。どうもご迷惑おかけしました。
594名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:36:21 ID:vBOEtuFz
ウルトラの人乙でした
今回の話もGJでした、イザベラは以前と余り変わらない様子ですが
まだダイゴの事を覚えていたり
ダバサ曰く「以前の彼女はメイドにありがとうと言わない」等
とても小さいながらも少し変わった部分もあり、今後彼女がどうなるかが楽しみです。
因みに先ほどの歌っていたとうり中々書けない状況ですか?
そんな状況の中本当にご苦労様です、無理をなさらずご自分のペースで。
595名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:37:42 ID:vBOEtuFz
>594
訂正 ダバサではなくタバサでした
596名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 15:47:42 ID:LPVMPtqP
なんだか登場人物の口調に違和感を感じる部分がところどころあるが乙。
597ゼロの魔王伝:2009/03/08(日) 16:27:54 ID:JWDoc2v1
こんにちは、ちょっと短い量ですが、どなたか予定がなければ10分後くらいから投下します。
598名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:34:22 ID:+B7LW0ze
>597
了解

・・・・って480kb越えているじゃないか
ちょっと次スレ立てて来る
599名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:38:42 ID:+B7LW0ze
ERROR!
ERROR:新このホストでは、しばらくスレッドが立てられません。
またの機会にどうぞ。。。

弾かれた orz
誰か代わりお願い。
600名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:41:29 ID:iOkDpUJM
無理だと思うけど試してみるか
601名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:43:47 ID:iOkDpUJM
やっぱり無理だった
602名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:45:06 ID:LPVMPtqP
じゃあ俺がやってみよう
603名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:47:44 ID:LPVMPtqP
ほいよ

あの作品のキャラがルイズに召喚されました Part219
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/anichara/1236498410/
604名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 16:52:58 ID:+B7LW0ze
>>603
605名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 18:25:06 ID:iOkDpUJM
>>603
606名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 20:04:10 ID:e7JTGaU1
>>538
かまいたちと言えば、犬マユゲでいこうの石塚さんのネタが面白かったなあ
主人公の名前を「透と百人の忍」彼女の名前を「真理とヒグマ」にして妄想していたw
607名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 21:41:23 ID:LExPiA6e
よし、犬マユゲでいこうの石塚さんを召喚だ。
608名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 21:47:36 ID:Or3uOI6P
だから実在の人物はだめだと…
609名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 21:53:54 ID:wLeEjJuH
 この場合は「犬マユゲでいこう」という作品の石塚さんを召喚、
ということで考えようによってはありかもね。
610名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 22:13:35 ID:EmchHh5V
犬まゆげならいいんじゃないのかなあ?
ちびまる子からまる子を召喚するようなものだしw
モデルがいる人を出すのをだめというならそもそもルイズが実在の人物なわけで・・・
611名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 22:24:27 ID:4CqGwbCd
アニエスもクロムウェルもカステルモールもマザリーニも実在した人物だしな
612名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 22:43:01 ID:wLeEjJuH
いや、それとは訳が違うと思う。
613名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 22:49:06 ID:ioN30sqP
>>612

いいんじゃね?
それを言ったら生物二匹やBASARAはどうなる。ってなるし…
614名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 22:54:58 ID:wLeEjJuH
>>613
いや、犬マユゲ云々とゼロ魔原作云々じゃまったく訳が違うって言いたいだけなんだけど……
615名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 23:01:46 ID:ioN30sqP
>>614

OK。もちつけ。
とりあえず犬マユゲを読むんだ。
616名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 23:09:25 ID:LExPiA6e
んじゃロボ。
あれなら実在していないから問題無し。
ギューシュ戦等各イベント毎に姿が変わりそうだけど。
617名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/08(日) 23:43:11 ID:e7JTGaU1
アラレちゃんからマシリトはセーフ?
618名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 00:06:09 ID:Ruw8kl7O
>617
“Dr.スランプの”マシリトならセーフ。集英社の重役や元総理のマシリトならアウト。
619名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 00:07:40 ID:Kr/OGIEs
ムダヅモ無き改革から小泉ジュンイチローを召喚するのはアリで現実から小泉元首相を召喚するのはナシ、でいいんだよな?
割とわかりやすいラインだと思うw
620名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 00:33:36 ID:iNtkzodm
おお、ムザン星人か!
昔ティガをリアルタイムで見てたけど
ムザン星人のとこは目の視力回復センターに行ってたせいで
前半15分くらい見れなかったんだよorz
まあGJ!
当然ティガは出るよな??
621名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 00:38:59 ID:O0eOxcxT
はだしのゲンからダグラス=マッカーサーを喚ぶのはアリなのか?
622名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 00:46:35 ID:MWy4qMaH
ゲンのマッカーサーに明確なキャラクター付けなんてねえだろ
623名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 01:02:45 ID:o0Hk3Dpt
DQ村人の小ネタみたいのならいいと思う。
624名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 01:03:11 ID:gW6q5hAw
では、ここで最強ロリコン同盟ベリアル&ネビロスをば
アリスを失った二人だとルイズのことを猫っかわいがりしてくれるはず
625名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 01:18:01 ID:WPB9f1O6
>>624
魔法学院がゾンビの巣窟となるのですね、分かります
626名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 01:20:56 ID:gW6q5hAw
>>625
ルイズのためなら世界だって手にいれちゃいます
だってロリコンだから!
627名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 10:00:16 ID:QIDYfT7G
そろそろ、埋めないか?
628名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 14:10:13 ID:6zJ0SH4L
>>620
ティガは来たけど元の世界に帰ってるぞ。
629名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 14:40:55 ID:A1GE697H
タモリはタル氏作ロボットポンコッツよりノロイダーを召還
630名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 15:11:02 ID:6q7n1+6v
ティガといえば小ネタでティガレックスがいたっけ
631名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 18:48:14 ID:aKa7/FQL
>>627
でも追ってたチャリジャがまた来たから
もう一度来る可能性もあるんじゃないのだろうか

イザベラも喜ぶ
632名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 18:49:16 ID:aKa7/FQL
アンカー間違えた
>>628
633罵蔑痴坊(偽):2009/03/09(月) 20:32:33 ID:Ruw8kl7O
ふむぅ、一連のレスを見て、『くまのプーさん』よりティガーを呼んではどうだろうかと。

「おいおいルイズ、元気出せよ。
 お前はな、なんと言っても世界一の虎であるところのティガー様の主なんだぜ?」
634名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 20:50:35 ID:v4XmfM8i
≫630

あの話はかなり好き
635名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 21:20:06 ID:asOKTDtZ
                                          ○________
                               なぎはらえー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
                                              |:l\\\||.:.|l///|  .///
                         __ ィ   ,. -――- 、     |:|:二二二二二二二 !// /
                        /    /          \.   |:l///||.:.|l\\\|/  /
                / ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./  / /   l l l lハ  |:|//:::::||.:.||:::::\\l    /
  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
 __  |\       l/V  _{_____/x|    (_|::::__ノ   }ィ介ーヘ  /  ,.-‐ ' ´           /       ____  ̄ ̄フ ∧  l
  )-ヘ j ̄} /|        /___/xx|       _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___           {     /      `<  /  \|
  {  V  /`7.         /___./xXハ    ( |:::::::::::::::::ハ   >' ____ 二二二二二二>   /   __    〈
.  \_   |/        /___l XX∧     __≧__::::::::/:∧/   `丶、           /     {   {____ハ    }
    |   ヽ        /____|]]∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
    |     ',         {     |]]]>'  __      ∧ l\ \   丶、 ` 、   ∠ -――-  ..____ノ   /
   ノ     }       l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/  V'  \ ヽ    `丶\/                 /
  / ∧   { \      |      .|>' /      // :/ :/ :   ', l   \ ヽ  ,.-――┬      \         /
 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
`ー′   \  `<  | {      /   | /〃   :|/  __V/ ̄| ̄ ̄{_     \_      ` <
        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
         \    ヽ   /`ー「と_し^´ |  |    }  ム-‐'  /     /    \_/  /  /  ヘ    \
           ヽ   _>-ヶ--∧_}   ノ  j   /` 7 ̄ ̄ ̄{      (         ̄ ̄`ー‐^ーく_〉  .ト、_>
            ', /     人__/   .ィ  {__ノ`ー'    ヽ    人     \__              {  }  |
            V     人__/  / | /           ̄{ ̄  >‐ ァ-、    \             〉ー}  j
                {  / ./  ∨      __      ̄ ̄ >-</  / ̄ ̄         廴ノ  '
      <ヽ__      /し /        < )__ \   _r‐く___/  /    < ) \     {__ノ /
        Y__>一'    /         ___r―、_\ >'   `ー' ,.  ´       >.、 \__ノ    {
     ∠二)―、       `ー‐┐    ∠ ∠_r‐--―      <__       ∠ )__          \_
       ∠)__ノ ̄`‐⌒ヽ__|>      ∠)__r―――-― ..__{>        ∠_廴,. ⌒ー'  ̄ \__{>
636名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 21:20:44 ID:asOKTDtZ
                                          ○________
                               なぎはらえー     |:|\\:::::||.:.||::::://|    /イ
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                         __ ィ   ,. -――- 、     |:|:二二二二二二二 !// /
                        /    /          \.   |:l///||.:.|l\\\|/  /
                / ̄ ̄ ̄ ̄ 7 / / ./  / /   l l l lハ  |:|//:::::||.:.||:::::\\l    /
  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
       \!      |   / 入_.V/|      >-ヘ  \:::∨::∧  ∨ ∠二 -‐ .二二 -‐ ' ´ /        /   / l.  l
 __  |\       l/V  _{_____/x|    (_|::::__ノ   }ィ介ーヘ  /  ,.-‐ ' ´           /       ____  ̄ ̄フ ∧  l
  )-ヘ j ̄} /|        /___/xx|       _Σ___/| | |V::::ノ/ ∠___           {     /      `<  /  \|
  {  V  /`7.         /___./xXハ    ( |:::::::::::::::::ハ   >' ____ 二二二二二二>   /   __    〈
.  \_   |/        /___l XX∧     __≧__::::::::/:∧/   `丶、           /     {   {____ハ    }
    |   ヽ        /____|]]∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
    |     ',         {     |]]]>'  __      ∧ l\ \   丶、 ` 、   ∠ -――-  ..____ノ   /
   ノ     }       l ̄ ̄ ̄.|] >' ,. '  ̄ / .// :/  V'  \ ヽ    `丶\/                 /
  / ∧   { \      |      .|>' /      // :/ :/ :   ', l   \ ヽ  ,.-――┬      \         /
 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
`ー′   \  `<  | {      /   | /〃   :|/  __V/ ̄| ̄ ̄{_     \_      ` <
        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
         \    ヽ   /`ー「と_し^´ |  |    }  ム-‐'  /     /    \_/  /  /  ヘ    \
           ヽ   _>-ヶ--∧_}   ノ  j   /` 7 ̄ ̄ ̄{      (         ̄ ̄`ー‐^ーく_〉  .ト、_>
            ', /     人__/   .ィ  {__ノ`ー'    ヽ    人     \__              {  }  |
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      <ヽ__      /し /        < )__ \   _r‐く___/  /    < ) \     {__ノ /
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637名無しさん@お腹いっぱい。:2009/03/09(月) 21:21:53 ID:asOKTDtZ
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  ト、     ,.    ̄ ̄Τ 弋tァ―   `ー /  l从 |メ|_l  l_.l斗l |ヽ V |:| ̄ ̄ ̄ ̄ フ  ̄ ̄    |                  イ
  ヽ \__∠ -――く  __       .Z¨¨\   N ヒj ∨ ヒソj .l ヽ\|       / /     |                / !
   ヽ  ∠____vvV____ヽ   <   ≧__/ ゝ、t‐┐ ノ .|┐  . \   / /         \           /   l
.    \\_____ivvvvvvvv|   V.    (  (  /Tえハフ{  V   ‐一 '´ /     __. -―=-`      /  / l  l
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    |   ヽ        /____|]]∧  __|__L.∠ ム'  <`丶 、 `丶、       /       \_____/    /
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 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
`ー′   \  `<  | {      /   | /〃   :|/  __V/ ̄| ̄ ̄{_     \_      ` <
        \  `' ┴ヘ     {    .レ__r‐|ィ‐┬、lレ' |    /  ノ`y‐一'  >、_/   / ̄ 7丶、_   丶
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638名無しさん@お腹いっぱい。
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 入ノ. ヽ  く  ヽ______7 ー―∠__    〃  l :/    :l l     \V       ヽ       \    ,.  '´
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