【柊】ナイトウィザードクロスSSスレ【NW!】Vol.15
投下終了です
名前を出さなかった人を省略すると
レイフォン@鋼殻のレギオス
ちゅるやさん@にょろーんちゅるやさん
風子@CLANNAD
味吉陽一@ミスター味っ子
です
後分かっている人は分かっていると思いますが、
この話はTV版機動警察パトレイバー29話「特車二課壊滅す」のパロディで
話の前半の流れや台詞回しがそれと同じになっています
懐かしいwww最高wwwww
報道かー。リオフレード放送部@カオスフレアのナーミア部長は協力してくれるか、報道の権力からの
独立を掲げて敵に回るか微妙だなー。
NWキャラだとコミックの幼馴染の娘とか、PS2版の2年生のクラスメート(もう3年か)とかいるけど、
どいつもこいつもイノセントだな。
蓬莱の放送部に有名キャラって誰かいたかな?
宜しければ20時30分ごろから投下しようと思います。
>>539 保管作業ありがとうございます。
とある世界の騒動日程の二章が、収録漏れしてないでしょうか?
第三章 仔山羊のナミダ _she_can_not_cry_
1
―――はじめに、彼女はごめんなさいと頭を下げた。
現在進行形で、上条当麻は非常に困っている。
その原因は、今すっぽりと上条の両腕の中に納まっている一人の少女であって、
(うわ、なんか、あたって、ふにゃっと、ぐにゃっと)
なんだか、文章で表現してはいけない感触が、胸の辺りに発生しているからだ。
夜空に紅い月が昇った後、気色悪い光と音が乱舞して、気がつけば学園都市最大のアミューズメント街が、そこに居たすべての人々と共に消滅していた。
生存者は、おそらく上条と彼の腕の中に納まっている彼女の二人だけ。
こうなっては、未開の荒野に二人っきりで放り出されたようなもので、心細いのだろう。
当然、上条もこの荒野同然の廃墟で自分以外に無事な者を発見できて、非常に助かっている。
だからといって、
(ナニゆえそんな格好なのですか、あぜるさん!?!)
瓦礫の中で、彼女を見つけたときは、上条自身焦っていたこともあって気付かなかった。
数分前に別れの挨拶を済ませたときには、彼女は間違いなく輝明学園の制服を着ていた筈。紫を基調とした、ハイセンスなセーラー服。
ソレが影も形も見当たらないのは何故なのだろうか!?
一応は、インナーらしき黒い帯を全身に巻きつけているが、それでアゼルのアレやソレが隠れるわけではないし、拘束されているようなその姿は、非常にアレだ。
思春期真っ盛りの健康な男子高校生(かみじょうとうま)には、少々刺激が強すぎる。
そのことに気付いているのかいないのか、彼女――アゼルは顔を上げ、上条の瞳を見つめる。
(う、うわ、何この体勢。え、え、え、え? どーゆー事)
至近距離で、見上げるように見つめられて、思春期脳がオーバーフローを起しそうになるが、
はじめに彼女は、ごめんなさいと頭を下げた。
「い、いや何も考えてません事よ、どこぞの聖人よりエロいだなんて………。
って、え?」
上条は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
ごめんなさい。と、いきなり謝られても、リアクションの選びようが無い。
「この街は、私が―――」
「見つけたぞ魔王。アゼル・イヴリス」
ざくりと、巨大な剣を背中につきたてられたような気がした。
「!?」
泡を食って振り返る。尋常ではない憎悪。まるで相手をズタズタに引きちぎり、それでも尚飽き足らず、更に酷く壊しつくすような。
同じ人間が放っているのかと、信じたく無い、信じてはいけないと、そんな事を思ってしまうほどの、強烈な感情の波。
その中心は、幾人かの男たちだ。軍服のような揃いの衣装と、能面を貼り付けたかのような無表情。
その異様な雰囲気に、上条は咽が干上がっていくのを感じた。
「………」
震える手で、アゼルは上条の右手を握り締める。
「この惨状、貴様の所業である事は既に明白!!
本性を現したな荒廃の魔王!! 此処で大人しく狩られるがいい!!」
ある種の軍事訓練を受けた者特有の動きで、手にした物を構える男たち。
その、杖のような槍のような何かは、強い光を纏い始める。
焼き焦げるように、急速に高まる剣呑な空気。耐え切れず上条は叫んだ。
「ちょっと待ってくれ!! アンタ達は一体何なんだ!! 一体如何言うことなんだよ!?」
「ふん。そういえば貴様、異世界の人間だな。
良かろう、説明してやる」
構えた光はそのままに、男たちのリーダーと思しき者は告げた。
「ソレの名は、アゼル・イヴリス。
裏界の名だたる魔王の中でも、一、二を争う危険性を孕んだ一柱だ」
「………え?」
予想外の科白に、上条は間抜けな声をあげた。
第八世界には、侵魔という悪魔が出没する。
魔王というものがどれくらいのものなのか、上条には解らない。
しかし、夏の海で遭遇した大天使『神の力』は、比較対象にならないだろうか。
もと居たところに戻ると、そのためだけに地球の自転を操作し、全天に展開した魔法陣で半球を焼き払おうとしたあの天使は、見た目、年端も行かない少女の姿をしていた。
この少女も、上条の右手にすがり付いているようなこの子も、そんな怪物だと、そう言うのだろうか?
そんな上条を他所に、『リーダー』は続ける。
「その力は、周囲のありとあらゆるプラーナを奪いつくし、世界を荒廃させる。
そう、今この場のようにな!」
荒廃した世界。
言いえて妙だ。この『元』第六学区を表現するのに、それ以上の言葉があるだろうか。
この惨状。
この荒涼とした風景を、今上条の右手を握って、震えている女の子が、女の子のカタチをした魔王が、造り上げた。と、
「考えてみろ、少年。
貴様のように規格外の右手があるのなら兎も角、此処にひしめいていた数多の人間が一瞬の内に消え去ってなお、唯一人だけ平然と存在している事実。
それこそが、その女が犯人であると告げているではないか。
理解したか? 幻想殺し。
理解したなら今すぐソレを引き渡せ、ソイツは幾万もの人間を虐殺した怪物なのだ」
上条の右手を握り締めて、弱々しく、俯いて震える彼女が、そんな恐ろしい存在だと。
握られる右手が、汗をかいているのがわる。この大人しそうな女の子が、そんな怪物だというのか。
得体の知れないナニカが、右手から這い上がってくるような気がして、上条は、恐る恐る彼女を見る。
そんな上条の貌を見て、少女はふんわりと微笑んだ、
「全部、本当の事よ」
そして、泣き出しそうな顔で、そう言った。
「え?」
「だから、全部本当のこと。
私は魔王で、荒廃の力でこの街を滅ぼして、一万人以上の人を殺したの」
アゼルは一歩、上条の前に踏み出す。
「言い訳はしません。貴方たちが私を裁くというなら受け入れましょう」
でも、聞いて下さい。と、彼女は続ける。
「いまこの世界に、私とベル以外の魔王が入り込んでいます。その魔王は―――」
その声の、その言葉を遮って、
深緑の光線が迸った。
ストロボフラッシュを間近で見たときのように、圧倒的な光量が、一瞬上条の視覚を掻き混ぜる。
思わず目を瞑った瞬間、抱え込むように引っ張られた。
バランスを崩し、たたらを踏む。はたして、上条は射程をはずれ、光線が頭を掠めるだけに留まった。
遠くで起こった爆発が、ずん。と、足元を震わせる。
「他の魔王だと? 場かも休み休み言え、貴様とベール・ゼファー以外の何者が居るというのだ。
安いぞエミュレイター。
そんな言い訳で、我々がお前たちのような害虫を見逃すとでも思ったのか?」
「貴方たち……」
上条を抱え、自身もその場を跳び退いたアゼルは、男たちを睨み付ける。
「今、上条君ごと撃とうとしたわね……」
「は。当然だろう?
その男の右手が貴様に触れている限り、貴様はあの忌まわしい荒廃の力を使えない。
その様子では、荒廃の力どころか、簡単な魔法や特殊能力の発動すら不可能のようだな。
つまり、今この場をおいて、貴様を斃すチャンスなど無いのだよ。そのためならば、一人や二人の、ましてや異世界人の命など、大した代償では無いさ。
嗚呼――。幻想殺し、上条当麻。
貴様の名は、命をもって世界を救った男として、後々まで語り伝えてやろうじゃないか」
男たちが手にする武器が、次々と光を抱く。
「死ね! エミュレイターども!!」
間髪入れず、放たれる幾筋もの光条。一つ一つが、人間を原子分解するに十分な熱量を伴った一撃。
轟音と共に、次々と突き刺さる光の槍。
衝撃と熱波が荒れ狂い、夜空を紅く焼き焦がした。
「………」
男たちが固唾を呑んで見守る中、着弾の煙幕がゆっくりと晴れる。
光槍の直撃を受けた地面は、ドロドロに赤熱し溶解して、火口のような惨状を曝している。
マトモな生き物ならば、近くに居る事すらできない熱波が渦巻く中に。
はたして、上条とアゼルは影もカタチも存在しなかった。
が、
「仮にも名を持つ魔王が、この程度で消え去る筈は無い!!
逃げたぞ、探せ!!」
『リーダー』の号令で、男たちは四方に散らばった。
「あははは、あはあはは、あはははははは!!
逃げても無駄だエミュレイター共!! 必ず狩り出して、挽肉(ミンチ)にしてやる!」
2
「この悪党」
第八世界、ファー・ジ・アース。
かつては『表界』に在り。しかし世界結界に弾かれたものたち。
彼らの集う世界、『忘却世界』。それらをまとめ呼称する名称、即ち『狭界』。
その狭界の中で、最大勢力である忘却世界は、その名をラビリンスシティと言った。
嘗て金色の魔王が作り上げた、“別荘”にして“庭園”。そこには名のある魔王たちが、各々の領域を創り上げている。
ラビリンスシティの中央にそびえる宮殿。
かつて金色の魔王の居城であり、今は誘惑者エイミーが見出したウィザードを、玉座に戴く城。
その城の一室で、螺旋くれた角を生やした彼女は、扉を開けるなり目前の少女にそう言い放った。
「………。顔を見るなりそれか?」
「褒めてやったんだ。侵魔(私たち)にとって嫌な呼称ではないだろう?」
部屋を横切ると、高級そうなソファに乱雑に腰を下ろす。
迷惑そうな部屋の主の視線を無視して、
「アゼルの力を解放したんだってな」
「ああ。あやつにとって、あの力は無視できるものではないだろう。
自分のものが横取りされる事を、何よりも嫌うやつだ。しかも、それが我に供給されているとなれば、是が非でも妨害しに来るだろうて」
「で? いきなり街中で解放か。一万人以上のプラーナもオマケについてきて、言う事は無いな」
「いや、ソレは思わぬ副産物だ。
アレは服の下に魔殺の帯を巻いていたのでな、密着するほど近くに居るものならば兎も角、あれだけの人間を喰い尽くすとは思ってもみなんだ」
部屋の主は、ぱくりとチョココロネにかじりつきながら、
「何かの要因で魔殺の帯の機能が破壊されていたのだろう。
アレも、今までならばすぐに異常に気付けたのだろうが、力に怯えずに済む様になった分、少々平和ボケしていたようだな」
軽く肩をすくめた。
「まぁ、特に問題はあるまい」
「まぁな」
螺旋くれた角の女性は、この部屋の主たる少女に視線を流して、
「で? 私をこんな所に呼び出したのは何の為だ?」
少女は、不躾な視線を正面から受け止めて、
「なに、少々尋ねたい事があるだけだ。
―――あやつに、情報を流したのは汝か?」
室内の空気が、帯電する。
「どうしてそう思うんだ? それで、私にメリットがあるのか?」
「メリットなどと、汝ら主従の思考回路など、我にはわからんよ。
面白そうだから。の一言で、何をしでかすか予想がつかんのが汝らだろうに」
螺旋くれた角の女性は、その少女の物言いにクスリと笑うと、
「酷い言い種だ。それでは、まるで私たちは単なる愉快犯じゃぁないか」
「そういっておるのだ」
少女は、一言で切り捨てる。
対して彼女は何も答えず、
沈黙が、部屋に落ちた。
「まぁよい。貴様を問い詰めるなど、熔けたチョコレートを、手でつかもうとする様なものだ」
「………。それはアレか? 糠に釘とか、豆腐にかすがいとか、そういう事が言いたいのか?」
「暖簾に腕押し。とも言う。
行ってよいぞ、そして傍観者を気取るが良い」
しっし。と、まるで野良犬でも追い払うかのように手を動かす。
「私は犬か!」
ぞんざいな扱いに文句を言いながら、彼女はその部屋から退出する。
そして、入れ違いにもう一つ、部屋に気配が現れた。
「ヤなことがおこるのです」
「ふむ、汝か。ちょうど良いところに来た。
ラビリンスシティの運営についてだが………」
金色の魔王の居城で、彼の城の真なる主は、今日も多忙に過ごしている。
3
学園世界での揉め事を解決するのは、全学校の代表が集まった極上生徒会の仕事である。
ただ、すべての案件を合議制の会議を通していては、即応力という点でどうしても遅れてしまう。
その欠点を補う為に組織されたのが、些細なすれ違いが拡大する前に潰して回る役職。火種が火事になる前に、消して廻る火消し役。
それが、『生徒会執行委員』であった。
時間は少々前後して、完全下校時刻の『執行委員』の部室。
滑らかに、十本の指がキーボードの上を滑ると、ディスプレイの上に次々とウィンドウが開いて消えて、必要な情報だけがピックアップされていく。
その様子は、まるで一流のピアニストの演奏を見ているようで、柊蓮司は純粋に感嘆の声をあげた。
(尤も、一流のピアニストなんぞ見たことは無いので、あくまでそんな気がするだけだが)
「すげぇな、初春」
「いやー、そんなこと無いですよ。風紀委員(ジャッジメント)やろうと思ったら、コレぐらいは必須スキルですから」
飴を転がすような、甘ったるい声で無駄話をしながらも、コンソールを操る指は一時も留まる事はない。
初春飾利という名の彼女は、幾つもの季節の花を頭に飾った、遠目には花瓶を乗っけているようにも見える女子中学生である。
現在、執行委員の部室には彼女と柊、そして御坂美琴の三人しかいない。残りのメンバーはみな、本日の業務を終えて『家』に帰ってしまっている。
彼らが残っている理由は一つ。本日午後に発生したデーモン群発事件の調査であった。
「でました」
後ろの方で、「柊、あんたこんな事もできないわけ?」「喧しい、情報収集は苦手なんだよ!」などと戯れているH&Mコンビを他所に、初春は目的の情報をディスプレイに投影した。
学園世界には0-Phoneの霊界経路を応用した防犯カメラが多数設置され、そのカメラがカバーしている領域は、広範囲にわたる。
『プライベート』な空間や、いまだ探索が済んでいない不明領域を除いて、極上生徒会の管理領域内で映像に残らない場所はない。と、言っても過言ではない。
初春の作業は、それらの映像を呼び出すもので、どれどれ、と他の二人が覗き込んでくる。
ウィンドウには、数時間前に柊と美琴が蹴散らしたデーモンたちの映像が映っていた。
「相良さんに協力してもらって、レーダーの反応から、デーモンたちの進路を予測。
進路上の防犯カメラの映像を複数呼び出してありますけど、此方の監視網に引っかかったのはほんの短い間ですからね、大した情報は無さそうです」
初春がそう言って、少々残念そうな顔をする。
そこで画面を食い入るように見ていた美琴が、その一点を指差した。
「ねぇ、初春さん。ここ、拡大してくれない?」
美琴が指差したのは、デーモンの集団、その中央付近だった。
キーボードの上を指が走り、画像が拡大される。少々荒くなった静止画をみて、
「何だこれ? 棒か?
美琴。お前こんなの持った奴と戦った覚え、あるか?」
「………。いや、記憶に無いわね。こんな目立つもの見逃すとは思えないから、まず間違いないと思うけど」
「そうだよな、俺も覚えが無い。
初春、これ別の角度で映ってる奴は無いのか?」
柊の要請に、再び初春がキーを叩く。
「在りました。ドンピシャです」
ディスプレイに映像が再生される。
群を右斜め上から撮影しているその映像には、長い棒状の何かを捧げ持つようにして歩を進めるデーモンの姿があった。
「このデーモン、ちょうど群の中央辺りにいますね。
この隊列が変わっていないのなら、戦闘開始後、すぐに後ろに下げられた個体の一つとみて、まず間違いないでしょう」
初春が結論付けて、三人は顔を見合わせた。
「つまり、あのデーモンたちは、この棒みたいなのを運んでた、ってこと?」
「そう、なるな。
問題なのは、この棒みたいなヤツが一体何なのかって事だ」
「侵魔が群の大半を犠牲にしてまで、守らなければならないもの……ですよね」
う〜ん。と、三人で首を傾げる。
「なんか強力な武器、とか……は、違うわよねぇ」
「だろうな。そんなもんがあるならわざわざ逃げたりしねぇよ。
もしかしたら、使えなかっただけって可能性も在るけど」
「それは、発動に何か条件があるとかですか?」
「使うだけの魔力が足らなかったとか……。
駄目だな、情報が無さ過ぎて推測すら出来ねぇ。
そうだ、初春、ちょっといいか?」
何かを思いついたのか、伸ばされた柊の指が、とあるURLを打ち込んだ。
「なんですこのページ? データベースですか?」
「なになに?
? ちょ、超時空、多次元機甲、特務武装、黄金天翼神聖魔法騎士団?
―――ナニコレ? どっかぶっ飛んでるオカルトサイト?」
「ロンギヌスって言う世界の守護者直属部隊のデータベースだ。
今までに確認されたエミュレイターの情報が記録されてるから、検索かければなんかヒットするかもしれない」
即座に、初春が作業に取り掛かる。が、
「やっぱり駄目です。二メートル以上の棒状のものって条件だけだと、多すぎて特定できません」
あーっ! っと、美琴が短気な声をあげた。
「ねぇ、柊。アンタの知り合いに侵魔の事に詳しいヤツって、居ないの?」
「知り合いねぇ……。奴らのことに詳しいとなれば、『魔術師』。
特に『侵魔召喚師』だろうけど……、知り合いはい(コネクション)ないなぁ」
「あー、もう。肝心なとこで役に立たないわねアンタ!」
「うぉい!! ヒデェ言いがかりだなソレ!! だいたい―――」
売り言葉に買い言葉、柊が続けようとした言葉は、
「「「!?!?!?!?」」」
唐突に、部屋中を照らしだしたレッドランプに遮られる。
初春飾利が、慌てて携帯に手を伸ばす。
極上生徒会から送られてきた情報に眼を通し、一瞬呆然となった彼女は、震える声でこう告げた。
「き、強力な侵魔(エミュレイター)反応を、学園都市内で感知、そして、その後―――、
が、学園都市の第六学区が、しょ、消滅したそうです」
え? と、美琴の表情が強張った。
「学園都市……で? 第六学区が、何ですって!?」
「だ、だから、第六学区が………消滅したそうです」
自分たちが住む街に、突如訪れた災厄に固まる二人。
「初春。他には?」
柊が先を促す。
「確認されたのは魔王級のエミュレイターで、月匣の展開が確認された後、第六学区が消滅した。と」
「魔王級!? ベルか!?」
「いいえ、ベール・ゼファーではなく、アゼル・イヴリスだそうです。
執行委員はただちに集合。協力し、状況把握と事態収拾に努めよ。
それから、アゼル・イヴリスが学園都市の男子高校生を人質にとって逃亡した。と」
そういって、大写しになった映像に、御坂美琴は心臓が止るかと思った。
「アイツ、なんで!?」
ぴょんぴょこ重力を無視したような、非常識な挙動で跳ねる様に走る少女の腕に、抱えられている少年。
初見の印象はきっと、平凡な男子高校生。
唯一の特徴といえば、つんつんに逆立った黒髪くらいのものだろうか、しかし、美琴がその顔を見間違うわけは無かった。
硬直した美琴を他所に、どやどやと足音が近づいてくる。
火急の知らせを受けて、集まってきた執行委員たちだろう。
「あと、それから、もう一つ在ります」
言い出しにくそうに、初春が付け加える。
「本件は、アゼル・イヴリスの殲滅を最優先。人質の少年の生死は不問にする。って」
「―――ッ!?」
潮が引くような音を立てて、頭に血が上ってゆく。
気がつけば美琴は、部屋の壁を思いっきり殴りつけていた。
「ごめん。ちょっとアタマ冷やしてくる」
前髪から放電し、バチバチと音を立てながら、夜のように平坦な声でそう言って、彼女は室外に出た。
その後姿に声が掛かる。
ぐっ―――支援出遅れたんだぜ 支援!
しかし、今日1日でまさかここまで埋まるとは……新スレ必要でヤンスなぁ支援
さるった?
そりゃ支援ナシならそうじゃろ
復帰まであと少しだけどな支援
「美琴。俺たちは、絶対に見捨てないぞ」
ふざけた命令なんぞ聞く気はない。人質は絶対に助け出してみせる。
その上で、ちゃんと全部、片付けるんだ。
その声に―――、
「ありがと、柊」
御坂美琴は、その場から立ち去った。
二分後、美琴の姿は廊下にすえつけられた水飲み場に在った。
顔を洗う。
バシャバシャと水を被って、備え付けの姿見を見れば、顔色は少々赤みを帯びる程度。
冷たい水は、血の上った頭を、ある程度冷ましてくれた。
理不尽な命令に激昂している暇は無い。冷静になれと、自分に言い聞かせる。
御坂美琴は、彼に救われた。美琴だけでなく、彼女の大切な妹達も、ルームメイトも、また。
だからこそ、今度は美琴が彼を救う番だ。第二二学区の時の様に、たった一人で死地に跳び込ませはしない。絶対に。
「よし」
ハンドタオルで水気をふき取った後、ピシャリ。と叩いて、美琴は息を吐く。
そこで、ポケットに入れておいた自分の携帯が震えているのに気がついた。
何気なくディスプレイを見やって、其処に表示される名前に、
「うそ……」
『上条当麻』
それは現在、魔王の人質になっているはずの少年からの電話。
慌てて、通話ボタンを押す。
『もしもし、そちら御坂さんちの美琴さんでせうか? こちら上条さんちの上条さんです。
聞こえますか、もしもーし』
スピーカーから這い出る巫山戯た声は、間違えようも無く本人のものだった。
「……どうなってんのよ、いったい」
支援なの
4
『男たち』は、一つ思い違いをしていた。
幻想殺し(イマジンブレイカー)に触れている以上、アゼル・イヴリスは簡単な魔法も、どんな特殊能力も使用することは出来ない。
ソレは正しい。今のアゼルでは、月匣は愚か月衣すら展開できないし、空間を渡るといったマネも出来ない。
だからといって、素の魔王の身体能力は人間のソレを遥かに凌駕する事に、変わりは無いのだ。
雨のように降り注いだ光の槍をかわし、その足でアゼル・イヴリスは夜の街を駆け抜ける。
飛ぶように、舞うように、矢のように、風のように。
広大な敷地を持つ第二十三学区、陸運の要である第十一学区をこえて、周囲の風景には研究施設が多くを占めるようになってくる。
アゼルは、その中の一つに飛び込んだ。
既に、使う者が居なくなった、空虚な空間で彼女は、はぁ。と溜息をつく。
「大丈夫? 上条君」
「…………」
へんじがない。ただのしかばねのようだ。
他人に抱きかかえられて、夜の散歩と洒落込んだ日には、ブレインとストマックが危険なぐらいにシェイクされるのは、当然といえば当然であって、
「……あの、平気?」
「うぇっぷ………。
アゼルさん。あなたにはこれが平気そうに見えまして? 見えるなら今すぐ眼科へLet’s Go!!」
逃亡してから今まで、よく中身をぶちまけなかったな。と、上条は自分で自分を褒めてやりたい心境だった。まぁ、戻すものなどもう残っていないのだが。
「うぉおお、ふ、ふこうだ………」
グルグルと、脳と胃の労働争議に付き合うこと数分。
数分後、何とか気分が落ち着いた上条は、魔王と呼ばれた少女を見据える。
「―――で? 事情、説明してくれるんだろうな?」
命を狙われた事や、荷物よろしく運ばれたダメージでそれどころでは無かったが、落ち着いた今なら、訊き質せる。
「…………」
しばらく逡詢して、アゼルはぽつぽつと語りだした。
「私の名前は、アゼル・イヴリス。
裏界最強の魔王、ルー・サイファーによって造り出された、最終兵器。
第六学区を消滅させたのは、私の力です―――」
曰く、その力は自分ではコントロールできなくて、今までは創造主が抑えていたが、突如解放された。
曰く、学園世界に別の魔王が入り込んでいて、能力開放はそいつと戦わされる為だった。
曰く、すべてを喰い尽す荒廃の力は、その魔王にとって目障りだから、餌として最適だった。
曰く、力をある程度抑えられるはずの魔殺の帯(今身体に巻いているもの)の機能が何故だか停止していた。
曰く、その所為でほぼ最大出力で荒廃の力が発動し、これだけの被害を出してしまった。
話し終えたアゼルは、何かを堪えるような表情で、ずっと握ったままの右手(イマジンブレイカー)を、更に握り締めて、
「私は、この世界が好き。
人間たちどころか、裏界の侵魔たちからも忌み嫌われていた私が、人間みたいに学校に行って、人間みたいにお喋りして、人間みたいにご飯を食べて、人間みたいにみんなと遊んで、人間みたいに誰かと触れ合えた。
そんな奇跡を、許してくれたこの世界が大好き。其処に住んでるみんなだって大好きなの」
だから、
「この世界を、私は、護りたい。
ここに住んでいるみんなを、私は護りたい」
曇りの無い瞳で、
「だから、これは私の我侭。
ごめんね、こんな事に巻き込んで。
ごめんね、これ以上巻き込もうとして」
魔王と呼ばれる少女は、微笑んだ。
「それでも、私に力を貸して欲しい。
図々しいお願いだっていう事は解ってる。でも―――」
ごめんなさい。
それ以上何も言わず、アゼルはもう一度、頭を下げる。
と、突然。両手で掴んでいた右手を引っ張られ、前のめりにバランスを崩してしまう。
頭からつんのめるように上体が泳げば、ゴチンと、上条の拳が待ち構えていた。
一緒に行こうぜ支援っ!
「いちいち謝るな。
もう、お前一人の問題じゃないんだ―――」
上条の右手を離せば、それだけでもっと大勢の犠牲が出る。
ならば、上条当麻に拒否権など、最初から無いのだ。
「それに、その魔殺の帯ってのが壊れてたのだって、原因になりそうなのは俺の右手しかないじゃねぇか」
握手をした時。月衣を壊した時に、一緒に壊していたのだろう。
それでも、何故か形だけは残っていたようだから、アゼル自身も気付かなかったのだけれど、それだって何時もの不幸の結果だと思えば、頷けるものがある。
「だからお前は、余計な事してくれたなバカヤロウ。って、怒ればいいんだ。
責任取って手伝いやがれこのヤロウ。って、そう言えばいいのさ」
右手(チカラ)が必要なのは、これ以上被害を広げない為。
周りの人間すら気に掛けなければ、そんな必要など無いのだ。
それでも、アゼル・イヴリスは人間を護ろうと、魔法も異能も封じられたとしても、申し訳無さそうに、上条に協力を頼むのだ。
「そんなお前に頭下げられて、断るとでも思ってんのか。
見くびってんじゃねぇよ。ちったぁ、俺を信用しやがれ」
アッシュブロンドの頭を撫でられて、アゼルは、ただ呆然と、呆然と目を見開いていた。
「―――ごめんさい」
ゴチン。と、再びアゼルの頭に、拳が落ちる。
「違うだろ?」
「――――うん。
有難う、上条君。ありがとう……」
アゼルは、俯いて肩を震わせる。
―――始めに、彼女はごめんなさいと頭を下げた。
―――そうして次に、ありがとう。と、微笑んだ。
行間4
第一〇学区の廃墟。
知識があるものならば、『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』に、使用されていた施設だと言うだろう。その、浅からぬ因縁を知らず、
「取り敢えず、だ。
そのもう一人の魔王とか言うのを倒せばいいんだろ?
その、お前以外の魔王ってのはどんなヤツなんだ?」
上条当麻は、斃すべき相手の情報を魔王少女に求める。
「名前は、パール・クール。二つ名は『東方王国の女王』。
階級は無いけれど、これは、本人が裏界帝国ではなくて、東方王国という独立勢力のトップだから。
ただ、本人は裏界の最大の実力者に対抗して『超公(プリマ・ヘルツェーゲ)』を自称しているの。
群雄割拠の裏界で、ほぼ唯一の統治機構である裏界帝国に、正面から喧嘩を売って、それでも潰されていない、かなりの実力者よ」
「それって、つまりお前より強いのか?」
「私は、能力が特異なタイプだから。
直接的な戦闘力では、間違いなくパール・クールの方が上だと思う」
この娘も、一瞬で街を壊滅させるような非常識さんだが、相手はもっとぶっ飛んでいるらしい。
「それで、そのパール・クールが、特殊なアイテムを使って、この世界をぶんどろうとしているって、お前の上司は言ってるわけだな?」
「ええ。
『東方王国旗』と言って、彼女の支配地であることを証明するものらしいわ。
直接見たことは無いけれど、二メートルくらいの旗らしいわ。
どう言う効果があるのか解らないけれど、その『旗』を掲げた場所はすべて、パール・クールの持ち物になるそうよ」
かつて、航海に出た冒険家たちが、後の植民地となる地域に、自国の旗を立てていったようなものだろう。
「……なるほど、国権の象徴、支配の証ね。
『使徒十字(クローチェディピエトロ)』みたいなもんか。
ってことは、パールって魔王と戦わずに済ませようと思ったら、ソレを何とかしなくちゃいけないって事だな」
「ええ。そう出来ればいいんだけれど。
まず場所が判らないし、きっとそこを本拠地にしていると思うわ。
他の人間(ひと)たちの協力が得られるなら良かったんだけど。私たちだけで見つけて攻略するのは難しいと思う」
ガンガンいこうぜ(支援的な意味で)
正直、八方塞がりかも知れない。と、少々悲観気味だが、上条はにやっと笑った。
「いんや、そうでも無いぜ。
この世界の学生は、皆、逞しいからな。
なにしろ世界がこんな状態になっちまって、それでもこんなに早く順応しちまうんだから」
ズボンのポケットから傷だらけの携帯電話を取り出して、
「それに、執行委員って連中はさ。いろんな所で起こる揉め事を、無償で解決する御人好しどもだ。
必ず、力になってくれる」
メモリーから呼び出した番号にかける。
果たして、数回のコールの後、回線がつながった。
「もしもし、そちら御坂さんちの美琴さんでせうか? こちら上条さんちの上条さんです。
聞こえますか、もしもーし」
電話の向こうからは、掠れたような少女の声が届く。
『……どうなってんのよ、いったい』
「御坂、御坂。なんか混乱してるとこ悪いけど、ちょっと調べものしてくれねぇかな?」
支援〜
* * *
同時刻。『迷宮』の最深部、『震源』。
「ふぅん。じゃあアゼル・イヴリスの居場所はまだ解らないんだ?」
その部屋の主は、すえつけられたソファに座って、天真爛漫にそう言った。
金の髪を二つに括り、髪留めの紐には銀の鈴が揺れる。
白い小袖と、膝上で断ち切られた緋袴。巫女の神秘さに快活さを付け加えた衣装を纏う、少女。
否、少女のカタチをした災厄の塊。
即ち、魔王『パール・クール』。
「残念ながら。
ですが今、手駒を使って捜索させている所です。あと数刻もしないうちに発見できるでしょう」
「早くしてよね。あたし、待たされるのきらいなんだけど」
「はっ。急がせます」
「で? ベルの方はどうなの? やっぱりアゼルに吸われちゃった?」
楽しそうに、言う。
ライバルとして、敵愾心を燃やしている相手が、飼い犬に噛付かれた。など、最高の笑い話である。
何時に無くご機嫌そうなパールの様子に、彼女は胸を撫で下ろした。
「この世界の中に、ベール・ゼファーの存在は感じられません。
おそらく、アゼル・イヴリスの能力で消滅したものと思われますが、相手はあの蝿の女王。
ひょっこり顔を出すかもしれませんので、手駒には警戒するよう厳命しております」
「そ、手回しがいいのね。
でも減点、人が折角いい気分だったのに、余計な事いうんじゃないの」
パチン、とパールが指を鳴らせば、彼女の身体が吹き飛ばされる。
グシャリ。と、嫌な音を発てて、壁に激突した。
「ま、確かにこの程度でリタイアするようなヤツじゃないわね」
魔王は嗤って、部屋の一点に視線を向ける。
「折角なんだから、試し撃ちの的にぐらいはなりなさいよね、ベル」
視線の先には、風が無いのにも関わらず、はためく『旗』が在った。
仕事前に支援
以上です。支援ありがとうございました。
色々伏線とかを明かした回です。
もう少し残ってますが……残せてるでしょうか?
でわ、お付き合い頂きありがとうございました
……にゅえん?
こりゃあ、いよいよ本格的にダブルアーツっぽくなって来てるなぁ
ラブシャッフル展開wktk
>>660 乙ー。
緊迫感バリバリでしたw
使徒十字……は、アレですよね。大覇星祭の時の。
ちゃん様の旗にも攻略の鍵とかあるのかな?
それにしても、かなり禁書読み込んでおられますよね。地理とか。すごいなーと思います。
しかし、今回のアゼル狩りをしようとした方はどなたなのでしょうね?執行部への根回しのできる人間のようですが。
あー次回楽しみ。お待ちしてますー。
620 :
619:2009/03/22(日) 21:21:42 ID:ftemuAPE
アンカミスorz……。
それはともかく。スレ住人の中に、どなたか次スレ立てられる方はいらっしゃいませんかー?
試してみよう・・・
>584
あ〜る君が拾われたようでちと嬉しい。
Q:でも、彼は自炊出来るよ?
A:おかゆライスですが、かまいませんか?
それはさておき、ぢおん体育大学が来ていたら、と言うのを考えた。
江田島とザクで戦った時は押され気味だったが、生身では互角なドズル校長の勇姿が視えた。
……どこのモビルファイターだよ。
学園世界ネタって
ある人が投下した話と別の人が投下した話で矛盾が生じたらそれぞれを平行世界として扱うのかな
矛盾はネタの元がここの精神だと思います
>>624 1、完全に平行世界として扱う
2、その矛盾に関してだけは平行世界として扱う
3、その矛盾を解決する解釈をネタにSSを書く
好きなのを選べ。
要するに、矛盾なんて気にすんな、整合性取れたらいいが、
取れなくたって構うこたぁない。
矛盾はネタのもと、とか言ってもキチンと全部なんとかできるわけでもないんだから、せめて
「なんとかしたい場合は好きに解釈してOK。ただし、回収できない場合は平行世界扱い」とかにすればいいのに
はじめらへんはもうちょっと詰めよう、って言ってた人もいたような気がするけど
結局固める話ナシにここまで来ちゃってる以上、
「矛盾が出たなら別物としてもよい」としないとこれから先同じノリで書こうとした人が書きづらくなると思いませんか?
>>587 なんというか・・・・コメントしにくいなw
とまれ、GJw
>>571 な、なにいいいいいいいいいいいい!?
蒔の字って料理できたのかっ!!(本気で驚いてる
GJ、です。
柊がツンデレっぽくと萌え転がってる俺きめえwwwwww
つか関係ないが。
おまいら支援の間くらいマジメになれんのかw
それはそれとして。
ジャスティスVが
「月よりの使者、ジャスティスレッド!」
「リリカル、マジカル、ジャスティスレッド!」
「考えるな、感じるんだ。ジャスティスレッド!」
「芸術は爆発だ、ジャスティスレッド!」
「ジャスティスレッドの、ジャスティスレッドによる、ジャスティスレッドの為の……」
こんな感じで……
「えー、ジャスティスレッドと申せば、今や、我が国ではあたくし一人で……」
……最早一人もいないじゃないですか……
>>628 マキジはあれで料亭の味が出せる強者設定だぞ?
ところで4レス程度の小ネタが浮かんだんだけど、
1レス目がほぼクロス元からの引用のみになっちまうんだが。
大丈夫だろうか?
とっくに次スレに移行していたのか
>>630 マ ジ デ ィ ス カ
ただの脳筋暴走娘と思ってたのに、そんな萌え設定が・・・・。
きのこ恐るべし。
確か実家が呉服屋だから和関係だけは強い設定だったはず。
蒔寺は骨董品(和物限定)の鑑定も出来るからなぁ。
ホロウではあんまり得意じゃないと言いつつ九谷焼だったかの真贋を見抜いていたし。
『氷室の天地』だと料理勝負のお題、ふろふき大根を完璧に作ってのけた恐ろしい子。
2品目のグラタンは冷凍物をレンジでチンする有様だったけど。